僕は医療行為をしたいだけなのだが…… (橆諳髃)
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プロローグ 双方ともに武器を収めよ! +オリ主の設定

風花雪月1週目クリア記念で書きます‼︎

それとあまり作品がなかったので書きたかったのもあります。

まぁともかくご覧になってみてください!










※作者はこれまでにまだ未完結の作品を投稿しています。またタグもほぼほぼ変わらないので他の作品と一緒の様な感じで、似ているな……と思った方々……ごめんなさい。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こんな所で終わるか……)

 

医者を志して何年になるのか……はっきりと覚えていないがこれだけは覚えている。医術の進歩と、目の前にいる僕の患者を救う事……

 

両親は僕が小さい頃に交通事故で他界……以来親戚に身を寄せる。基本的に優しい人達だったんだろうが……その頃の僕はその人達から受ける愛情よりも知識を詰め込んでいた。理由は簡単で、僕が医者になりたかったからだ。

 

交通事故で即死の確率は……打ち所が悪ければ高い。だがそれでも辛うじて生にしがみつく人達もいる。意識を失っても……心臓の鼓動が弱まっても生にすがる人達がいる。

 

僕の両親は、1回心肺停止になったようだが、それでもその後1回だけ……少しの間だけ心臓が動いたと聞いた。それでも数時間後には死んでしまったけれども……僕はそれに感銘を受けた。

 

理由はどうあれ、数時間の間でも生にしがみついたのだ。意識がないのにだ。だからこそ僕は……教えられた。生は……何か強い想いがあればいき続ける事が出来るのだと。

 

だが同時にこうも思った。例え強い想いを持っていたとしても、助ける側にその想いに応えれる程の技術が無ければ救えないのだと……

 

そう思ったと同時に知識を詰め込み、そして親戚に迷惑をかけない程度で名門の高校と大学に入学した。まぁ医療を学べればそれで良いのだが、それでも高等な技術を必要としたかった。だからこそ医療でも名門中の名門に進学し、単位もフル単で卒業して、そこからの研修などで経験を積み漸く医者になった。それから数年して名医ともてはやされる様になった時だ。

 

(まぁ名医とかどうとかどうでも良い話なのだが……)

 

 

 

 

僕は交通事故に遭ってしまった。明日には大事な手術があるのに……

 

(ここで……僕が倒れるわけには……)

 

医者になって良かった事が1つある。それは、患者やその家族からの感謝だ。誰もが何かで、誰かからの感謝を受け取る事があるだろうが、僕はそれが……今まで生きてきて1番良かったと思った。

 

そしてその感謝の積み重ねが、今まで何の変哲も無い人生で単純な色しかなかったはずな僕を変えてくれた。幸せだと……感じた。誰から陰口を言われようと、どんな邪魔をされようとも……手術室が例え僕1人になったとしても……患者やその親族が助けを求める限り、僕は歩みを止める事はない。

 

全ては……医療の進歩と生にすがる人達を救うために……

 

(その……筈だったのに……)

 

僕の体からは血が流れ出ている。どんどん身体が冷たくなっていく。意識も朦朧としていく……

 

(明日……救うと決めた子供がいるのに……)

 

だから……こんな所で終わる訳には行かない。僕は……まだやらなければいけない事があるんだ。だから……

 

「ここで……死ぬ訳には……いかない……!」

 

だが……その強い想いとは裏腹に身体は冷たくなっていく一方だ。僕の命が……灯火が消えていく事が分かる。

 

(どうやら僕は……僕の両親の様な強い想いを持っていなかった様だ)

 

あぁ……こんな中途半端なところで僕は終わるのか……

 

(もし……来世があると言うのなら……今度こそ……)

 

そこで完全に僕の意識は無くなった。

 

 

 

そして僕は死んだと思ったのだが……

 

(何だここは?)

 

以前視界は真っ暗なままだ。だが、僕の身体が動いているのが分かるし、意識もはっきりしている。

 

「あー……」

 

声も出ている……服も着ている感じがするが、この材質は何だ? 僕はあの時ワイシャツを着ていた筈なのに、これは全く感じたことのない材質だ。

 

(とにかく明かりが欲しいな……)

 

そう思っていると目の前に火の玉が現れた。唐突で驚いたが……

 

(……まさか)

 

ふと思った僕は火の玉が消えるように念じると、火の玉は消えた。もう一度火の玉を念じると、また現れた。

 

(……まるでファンタジーだな)

 

それから僕は色々と試した。どれほど大きな火の玉が出るのか? 一緒に出せる数は? 他にも何か出せるのかなどのetc……

 

まぁ結論から言うと……色々と出せる様だ。しかもゲームで見たことのある様な暗黒魔法的な物も……

 

それと色々とやっていてわかった事がある。それはここが、どこまでも続く真っ暗闇で、出口が存在しないという事で……

 

「……まぁ気長に行くか」

 

その時には、今着ている服の材質だとか、自分の今の容姿がどうなっているのかが全く気にならなくなっていた。とりあえずの当面の目標は、この身体で色々とできる様なので、まずは住める環境を整えないとな。

 

(それに色々と、生きていた頃とは違った知識がある様だしな……)

 

それがいつ役に立つのかは分からないが……取り敢えずこの知識をくれた誰かに感謝しつつも、試していこう……

 

「全ては……医療の進歩と、目の前の患者を救うために……」

 

まぁここに患者はいないという突っ込みが飛んで来そうだが……

 

 

 

 

 

〜数年後〜

 

 

 

 

 

 

取り敢えず仮の住まいは何年も前に完成していた。それでもここの空間は依然真っ暗闇のまま……材質としては石畳の様だが……

 

(色んな施設を作ってみるか……)

 

ここ数年で僕の頭の中にいつのまにかあった知識を理解した。どうやらどこかのアニメの知識の様ではあったが、活用出来るものは色々と活用して、これからそれをどう使っていくかの応用も考えてある。まぁそこは暇だから、その時間を有効活用しよう。

 

あぁそれと食生活などについてだが……どうやらこの身体は何ヶ月飲み食いしなくても生きれる身体のようだ。だがそれも味気ないから、何故かこの身体に宿っている能力で動植物をそこらに作った。とりあえずは放逐している。生命を与えたのは、大体野菜類、牛、豚、鶏、魚などなど……後は牛や豚、鶏が飢えないよう植物も定期的に作り出している。魚についてはため池を作り、こちらも飢えないようにプランクトンを多すぎない程度に創り出した。飲料水は魔法で作って容器の中に密封して冷蔵庫に入れている。

 

……なに? 色々と無理があると? ……しかしできているのだからそこら辺の文句は言わせない。

 

後変わったことと言えば、ここ数年で僕が念じる以外にも火の玉が現れたことだ。近づいてみると、どうやら呻き声のようなものが聞こえた。興味本位で言葉をかけてみると、少なからずな会話は可能なようだ。どうやらこの世界で死んでしまった人の魂のようではあるが……だがここに居続けられるのは正直勘弁願いたい。

 

僕は生にしがみつく者たちを助ける事はできても、死者を生き返らせることはできない。

 

(僕は本来カウンセラーではないのだが……)

 

だがここに居続けられても正直困る。だからその者の魂と語らい、来世に生まれ変わるとしたら何をやりたいかなどを聞いて、合っているかは分からないが、来世でやりたい事に対する少々のアドバイスも与えた。

 

するとその魂は満足したのかどこかへ消えてしまった。

 

(ふむ、これで僕の作業を続けることができる……)

 

そう思ったのも束の間で、また魂がここに迷い込んだようだ。

 

「……カウンセリング用のアンドロイドでも作ってみるか」

 

僕のやる事が増えたようだ。

 

 

 

 

 

〜それから数年後〜

 

 

 

カウンセリング体制が整った今日この頃……魂がこの空間に迷い込む事が多くなった。それでも普通に僕が生み出した数人のアンドロイド、カウンセリング隊が上手く魂達と会話しており、ここに迷い込んだ魂達を元の道へと戻して行っている。

 

まぁそんな日常を過ごしていた訳だが、不意に過去とは違う外の様子が気になった。それでどうしたらいいか悩んでいると、また唐突に目の前に渦巻く空間ができた。ブラックホールにも似ているような……

 

試しに手を伸ばしてすぐ引っ込めると、何ともない。それよりもこの空間とは違った空気を感じた。次は顔をその空間の中を覗き込むようにしてみた。

 

「……これは」

 

僕が見たものは、今までいた真っ暗闇の空間ではなく本当に外の世界だった。僕は体もその空間から出してみる。

 

(あぁ……久方振りの外の空気だ)

 

少し辺りを散策する事にした。少しした所に川が流れていた。興味本位で覗いてみると、そこには人の顔が映った……ん? これは誰の顔だ?

 

(髪は長髪の白で、瞳は黄色、肌も白色で、纏っているものも白……ん?)

 

「これは……まさか僕の顔なのか?」

 

実際に肌に触れると、川に映る僕の顔? も、鏡に映し出されたかの様に動いた。

 

「……日本人とは全く違う容姿になっている」

 

というかこの顔どこかで……っ⁉︎

 

(ま、まさか……この身体はアスクレピオスなのか⁉︎)

 

僕が生きていた頃、同僚に勧められてやったF◯Oといった作品がある。その作品に登場したキャラクターと瓜二つなのだ。僕は正直惰性でやっていたに過ぎなかったが、彼が出てきた時は鳥肌がたった。

 

あぁ……僕と同じ様な考え方を持っている。そう感じた。

 

そして僕はそのキャラクターに惚れ込み、育成も最大限行った。勿論信頼度もMax超えてやっていたが……

 

「だが……僕なんかがこの身体を使ってもいいのか?」

 

そう悩んでいた時だ。

 

「お主、ここで何をしておるのじゃ? ひょっとして道に迷ったのかの?」

 

女の子の声が背後からしたので振り向いた。そこには、まるで子供と見間違えるのではと思うくらいの体型をした女の子がいた。長髪で碧髪、瞳も緑色で、実際に見た訳ではないが耳がエルフの様に長かった。

 

「お主……先程わしに対して失礼な事を考えなかったかの?」

 

「いや、そんな事は何も考えていなかったが」

 

「本当かのぉ?」

 

訝しげにこちらを見てくる。この子は俺の考えを読み当てる事が出来るのだろうか?

 

「まぁ良い。取り敢えず道に迷ったのなら放ってはおけぬ。お主よ、着いてこい」

 

そう言われたのがきっかけで、この見かけが子供の様な姿をした女の子、ソティスと知り合った。それからも色んな人を紹介されたが、正直一度で覚えきれる自信がない。

 

まぁ印象的だったのは、ソティスの事を母と呼ぶセイロスという女性や、ネメシスというおじさんや……それからも不思議な力を持った人たちとも人見知りくらいにはなった。

 

そこからちょくちょく、僕が今住んでいる空間とソティス達がいる世界を行ったり来たりしていた。前よりも自分に割ける時間は少なくなってしまったが、何処と無く充実感はあった。

 

因みにあの空間に彷徨う魂達も最近は多くなったが、それでもアンドロイド隊が対処してくれているから僕としては今の生活はキツくない。まぁアンドロイド隊でも対処できない様であれば僕が出るが……

 

 

 

 

〜それからまた数年〜

 

 

 

 

 

ソティス達にあれからも会いにいったりして、世間話とか色々とやってはいたが、どうやら最近キナ臭い事が多いようで……民族争いが多発している様だ。その影響で僕が今住んでいる空間にも数多の魂達が彷徨っていた。正直猫の手も借りたいくらいで……

 

それからというもの全くこの空間から出れてない。だが外の事も気にはなったから、取り敢えず幾らか外の景色を覗ける様な術を複数展開した。

 

それらを展開して数日後……

 

「おいおいおいおい……アイツらは一体何をやっているんだ⁉︎」

 

どこか広い平原で2つの軍が争っていた。1つはセイロスが率いていて、もう一方はネメシスが率いていて既に戦いが勃発。それを機にこちらにも魂がどんどん流れてくる……

 

(はぁ……面倒だが仲介しに行くか)

 

僕はこの空間から外の世界へと出る。そして出て一言……

 

「双方共に武器を収めよ‼︎」

 

 

 

 

side セイロス

 

 

 

 

母ソティスを失った。ネメシスが殺したからだ。復讐の憎悪にかられ軍を動かし、ネメシスを打倒すべく進む。拮抗状態にはあるものの、数では私達が有利ではあったが、ネメシスが戦場に介入してからはまた混沌とかした。

 

私が向かうしかないと思い、ネメシスに向かった。そんな時……

 

「双方共に武器を収めよ‼︎」

 

母ソティスと友人同士であった彼の声が戦場に響いた。その声で、その場にいた私含めて兵士達の手が止まった。

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

どうやら声を挙げて正解だった様だ。僕の声を聞いて戦を止めてくれたのだから。

 

「ソーマ! 何故貴様がここにいる⁉︎ 天上に帰ったのではなかったのか⁉︎」

 

ネメシスが僕に問うてきた。だから僕も返事をしよう。

 

「何を言っている? 僕の住処は天上ではなく辺り真っ暗な空間だ。最近は忙しくてロクにこちらへと来れなかったが……久々にこちらの様子を見ようとしたら大勢で争いあっているじゃあないか。僕の仕事を増やすつもりか?」

 

「な、何を言っている⁉︎」

 

「はぁ……だから、お前達が争いあって、それで死んでいった魂達がどこに行くと思っているんだ? 僕の住処に来ているんだよ。それも大勢な。お前達は僕のやりたい事を邪魔しているんだ。分かったらさっさと争い事なんてやめて和平でもなんでも結んでくれ」

 

「そんな事出来ません! あの者は私の母を殺したのです! 私は母を取り戻す為に、どうしてもこの戦に勝たねばならないのです‼︎」

 

今度はセイロスがそう言ってきた。はぁ〜……面倒くさい……

 

「それでもだ。確かにソティスはネメシスの持つ剣から感じはするが、完全に死んだ訳では無いだろう? ネメシスからその剣と何らかの条件で交換して和平を結べば良いだろう」

 

「ワシはこの剣を手放すつもりはないが?」

 

(……こいつら)

 

「悪いのは全てネメシスです! ソーマ! どうか私達に力添えを‼︎」

 

「ソーマ! 着くのならばワシのところへ来い‼︎」

 

「ふざけないで下さい! ソーマは私達と来るのです‼︎」

 

「そちらこそ! ソーマとは酒を飲みあった仲だぞ‼︎」

 

「ならば私は‼︎」

 

とまぁいつのまにか僕を取り合う始末……

 

「はぁ……分かった」

 

「「えっ⁉︎ じゃあ‼︎」」

 

「喧嘩両成敗だ。お前達は僕を怒らせた。そんなに戦いたいと言うのなら……」

 

僕は持ち手が銀で刃部分が緑のビームでできている鎌を取り出して……

 

「さぁ……戦いたい者から成敗(治療)してやろう」

 

そこからは僕も参加して、介入(治療)行為をしていった。まぁ結果としては僕がどちらともを下したのだけど……

 

「はぁ……面倒な手間をかけさせるな。だがこれで和平をしてくれるよな?」

 

「「……」」

 

「返事が聞こえないのだが? もう1回治療しておくか?」

 

「「いえ、やります……」」

 

「よろしい。では……いやちょっと待ってくれ。少し邪魔が入りそうだな」

 

ここに介入した時には雨が降っていたのだが、今ではすっかり晴れていた。しかし今空を見上げると、こちらに向けて落ちて来るものがある。隕石だ。しかも途轍もなくでかいし、今からここを離れたとしても、被害は甚大だろうし、この地自体住めなくなってしまう可能性がある。

 

だからこそ……

 

「向かい来るもの全て灰とかせ……エクスプロード」

 

向かい来る隕石に対してソーマは呪文を放つ。それは隕石に対しては途轍もなく小さい火種に見えた。しかしそれは隕石と衝突すると、眩い光と熱を地上まで届かせる。セイロスとネメシスでさえも、あまりもの光量に目を覆い隠す程だ。それから隕石は小さく砕かれて広範囲に降り注ぐ。

 

「あまねく空に氷の花を咲かせ……アブソリュート」

 

そう唱えたと同時に空は全て青で覆い尽くされた。細かく砕かれた隕石のかけらも、その中に閉じ込められる。

 

「そして氷の花は砕け散る……」

 

空を覆う青は……盛大に砕けた。そして砕けた青は……まるで雪がその大地に降っているかの様にゆっくりと降り注いだ。

 

「さて……それじゃあ和平の続きと行こうか。これ以上僕に仕事を押し付けないでくれよ?」

 

コクコクッ‼︎

 

ソーマに言われた2人は激しく首を縦に振り、和平を進めたのである……

 

 

 

 

 

 

オリ主の簡単な設定

 

 

オリ主について

 

本名:ソーマ・アスクレイ

偽名時:アスクレピオス

 

容姿:FGOのアスクレピオスと同じ。しかしながらセイロスとネメシスを仲裁した時は髪が金色になっている。偽名を名乗る時は銀髪、本名時で本気の時は金色になる様だ。そして声もFGOのアスクレピオスと同じである。

 

趣味:様々な医療行為を行う、自分の中にある知識を応用する事

 

嫌いな物:カウンセリング(本人はそう言っているが、結局はしてしまう)、争い事(しかし本人の中では争い事を仲裁するのも医療行為として数えられている)

 

今までに見せている技能

・医療行為

・生命を生み出す能力

・兵器を作り出す能力

・テイルズの呪文

 

本人は、死んだ後アスクレピオスの身体になる。その時には既に本名が思い出せないため、本名は何となく前世と同じ響きであるソーマを名乗り、苗字はアスクレピオスから取ってアスクレイと名乗る。

 

しかしながらセイロスとネメシスを仲裁した結果、あまりにも自分の名前が世に出回ってしまったので、申し訳ないと思いつつ偽名でアスクレピオスを名乗る。どうやらオリ主には偽名にまで割けるネーミングセンスがなかった様だ……

 

 

アンドロイド隊

 

主にソーマが拠点としている真っ暗闇の空間に迷い込んでくる死者の魂のカウンセリングをしている。通称カウンセリング隊。主に複数の部門に別れる。

 

 

A2

 

女性型アンドロイド。カウンセリング隊のAグループのリーダーを担う。基本的に老若男女担当するが、相手の魂が調子に乗り過ぎると態度が変わり、最終的には搭載されている剣で脅しをかけて黙らせる。

 

しかし彼女が担当する魂には何故かドMの魂が多く、彼女自身引き気味である。

 

ソーマに対する態度は、一見冷たい態度をとるが、実はソーマに構って欲しいという表れからである。しかし当のソーマ本人はそれに気付かず事務的な会話をする為に、毎回A2は撃沈し、B2に慰められ、9Sにはいじられる為に基本毎回A2が9Sを追いかけ回す結果となっている。そして9Sは……毎回ボロボロになってソーマに治療される。

 

もうそろそろ素直になるべきだと考えながらも中々実行に移せないでいる。

 

 

2B

 

女性型アンドロイドであり、Bグループのリーダーである。大体冷静沈着に判断して意見を言うが、その中には彼女の優しさも現れており、彼女に担当してもらった魂達からは好評である。

 

最近の悩みは、やけに幼少で亡くなった魂を相手にする事で、その魂達から「子供はどうやって作るの?」と質問されるたびにタジタジとなってしまう事である。その度に6Oが途中で入ったりして何とかやり過ごせている。

 

ソーマに対する態度は好意的で、話す時は時折美しい笑顔を見せている。その所を度々A2に見られては、「どうしたらソーマとそんな笑顔で話せる⁉︎」と鬼気迫った様な顔で質問される為に、本人としては大分困っている。

 

 

9S

 

カウンセリング隊唯一の男性型アンドロイド。Sグループのリーダーである。担当の魂は何故かお姉さん気質が多く、毎回おちょくられている。容姿も中学生くらいの為に、中身もまだ子供っぽいところがある。

 

大体A2に絡むのは、魂からおちょくられてしまう事からの腹いせであり、そして絡んだ後は追いかけ回されて最終的にボロボロにされる。その後はお決まりで21Oに運ばれてデボル・ポポルの元で修復作業をしてもらっている。デボル・ポポル部屋の常連である。

 

ソーマに対する態度は弟みたいなもので、ソーマの事を兄として慕っている。

 

 

 

6O

 

カウンセリング隊Oグループのリーダー。主に事務作業などを司る。A2や2Bの補助を行う。大体が2Bの補助に向かっている。A2の所は……結局A2が暴力で解決してるから行かなくても良いやと思っている。

 

ソーマに対する態度は……恋する乙女である。恋しているソーマに対して恋バナを持ちかけたりしている。何故……? そしてソーマに対してお弁当なども作っており物凄い大好きアピールをしているが……当の本人には中々気付いてもらえない……

 

 

 

 

 

21O

 

カウンセリング隊Oグループの副リーダーである。主に9Sの補助を行う。仕事中は私語厳禁で、9Sから振られる会話も「仕事中は私語しないで下さい」と冷たく対応する。しかしながら仕事が終わると何かと9Sを気にかけたりと、9Sの姉の様に振る舞う。

 

A2に絡んだ後でボロボロになった9Sをデボル・ポポルの元へと連れて行く苦労人……

 

ソーマに対する態度は姉的存在であり、いつも働き詰めなソーマを気にかけてよくソーマを誘ってはお茶したりしている。本人としてはもっと親密になりたいと考えている。

 

 

 

デボル・ポポル

 

カウンセリング隊の修復部門のリーダーである。双子のために容姿は似ているが、髪型が違う。主に疲れたり損傷してしまったアンドロイド達を治すための部門にいる。

 

最近の悩みは……暇である事と9Sがしょっちゅう運び込まれる事である。暇である時はよくソーマの元を訪れており、ソーマのやる事を手伝ったりしている。

 

デボルのソーマに対する態度は、気の合った友人と接する様な物である。本人自体もどこかしらの男勝りな性格をしているためか、大体は気の合った親友の様な感じでソーマとつるむ。

 

ポポルのソーマに対する態度は、こちらも6Oと同じく恋する乙女である。ある時にソーマから髪を撫でられた事をキッカケに恋の感情が芽生える。ソーマに対して結構スキンシップをしている。

 

 

 




最初から無茶振りが過ぎるプロローグ……本当に申し訳ありません……

そして次はどう書いていこうか……





《解説》

・エクスプロード

・アブソリュート

どちらともテイルズの呪文。全然本作とは描写は違うが、元を辿ればその呪文である。

次回……オリ主が色々と助ける話……かもしれない。



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本編開幕前
本編開幕前 第1話 いつのまにか黒歴史ができているなんて……


8/12の時点で評価を2人の方々につけていただけると言うのは嬉しい限りです!

☆9 埋まる系グフ様
☆5 ぼるてる様

本当にありがとうございます!

また、こちらの投稿を読んでくださった皆様にも感謝しております! これからも応援よろしくお願いいたします‼︎

一応今回からは、オリ主以外にも他作品のキャラが出ますので、この話を読む前にオリ主の設定を軽く読んでくださった方が分かりやすいと、私自身は思います。

それではどうぞご覧下さい!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕があの戦いを仲裁して何年も過ぎた。正直この真っ暗闇の空間は、時間が経っているのか経っていないのかが曖昧で、僕としてはそちらの方が都合が良かったから良いのだが……

 

そういえばとある日に6Oが「これ見てください! ソーマさんの事が載っていますよ‼︎」と言われてとある資料を見せられた。

 

その時には既に終業時間で偶々他のアンドロイド隊も居合わせていた。そもそもこの空間に時間があるかどうかすらも分かってはいないが、それでもここをブラック企業にするわけには行かない。休息は必要だ。

 

何より僕は医者なのだから、皆のケアも考慮するべきだ。まぁ皆からは休んで欲しいと言われる時もあるが……僕はしっかり休息はとっているぞ?

 

まぁそれはさておいて、その資料を見た時僕は……頭を抱えた。

 

その内容は、まぁこの前仲裁した内容が伝記として記されているものだった。だが問題は中身だ。やれ空からいきなり現れて戦いをやめさせた神だとか。やれセイロスとネメシスの戦いを仲裁した強大な力を持つ戦士だとか。挙げ句の果てに空を覆う程の大地を呪文2つで粉微塵にしたフォドラの守護神だとか……もうキリがない。しかも誰が書いたか知らないが挿絵まで付いてる……

 

(はぁ……これではまるで黒歴史だ)

 

その続きとしてはセイロスとネメシスが無事に和平交渉をしたところが載っていたり、その後にアドラスティア帝国をセイロスの助けで建国されていたりなどなど、至って普通の内容だった。

 

しかしだ……

 

(セイロス教という宗教が出来たと書いてある。これがあるのはまだ分かる。だが……)

 

「何だよこのアスクレイ教って……」

 

どうやらセイロス教会とアスクレイ教会は手を取り合った連合の宗教らしいが……僕はこんな事聞いていないぞ⁉︎

 

「とってもいいじゃないですか! アスクレイ教‼︎ ソーマさんがこの世界で信仰されている証拠です‼︎」

 

それを自分のことの様に嬉しそうに言っている6O。いや、僕はそんな事微塵もされたいと思っていないのだが……

 

「全く……勝手に本人の了承も得ずに宗教のトップに祀り上げるとか、肖像権の侵害だと思うんだが?」

 

「でもアタシらはソーマが有名になる事は嬉しく思うけどな?」

 

「その通り。これはソーマが皆から慕われているからだよ」

 

デボルと2Bがそう言ってくる。本人達は別に悪気があって言ってくるわけでは無いのだろうが……僕はただ単に医療行為をしたかっただけなんだよな……

 

「はぁ……先に部屋に戻る」

 

僕は、これ以上勝手に作られた自分の黒歴史みたいな物で精神を抉られたくなかったから部屋へと戻った。

 

それで暫くしてA2や21O、ポポルが来て僕を慰めに来てくれていた。その時その3人に少し甘えたのは……僕と彼女達だけの秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日が経って、僕は自分の事をしていた。勿論この世界での医術の進歩のために医療用ロボットを作っている時だった。僕宛に着信が入る。

 

『こちら6Oよりソーマさんへ。今大丈夫ですか?』

 

「あぁ、問題ない。ちょうどキリが良かったところだ。どうした?」

 

『はい、実はソーマさんに伝えたい情報が複数ありまして……勿論本業の方で』

 

「……話を聞こう」

 

そして6Oから伝えられた事は、どうやら外の世界で子供が虐待されているとのことだった。

 

僕がこの前設置した、外の世界の様子を見ることが出来る術……今は本当に、心の底から助けを求めている人達を映し出す様に設定している。

 

まずは1つ目のケースから対処していくとしよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

帝国歴1171年

 

 

 

 

暗い牢獄の中、私達兄妹は監禁されていた。理由としては……非人道的な実験。強力な紋章を埋め込む為に私達は親から引き離され、毎日毎日その実験を強要される毎日……

 

既に兄妹のうち3人程正気を失っていた。昔は……あんなに元気だったのに今では見る影もない。

 

それに床を鼠が這い回って……私も発狂しそうだ……

 

(誰か……助けて……)

 

いつもそれだけを願っていた。こんな汚いところから出たい……外に出たい……

 

でも来る日も来る日も誰も助けてくれなかった……

 

(何が神だ! 私達が苦しんでいるのにただ見ているだけの神なんて‼︎)

 

そう憤りを感じていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……これは確かに酷いな」

 

この場にいるはずのない人の声が、目の前から聞こえた。そして……私達は……

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

(……これが同じ人のする事か。まぁ僕は医療行為が出来るだけでも、そいつらには少なからずの……最低限の感謝はしよう)

 

こう思うとクズに思われてしまうかもしれないが、僕はそれで構わない。誰がどう思おうと僕は……目の前の患者を助けるだけなのだから。

 

「正気を失っているのが3人……衰弱している者が2人……重症なのが4人で……軽症は1人だな。おい、そこの白髪の子よ。どうしてこうなったか教えてもらえるか?」

 

「……あ、あなたは?」

 

「質問しているのはこちらだ。早く答えて欲しい。でなければ助けれる命を助ける事が出来ない」

 

「た、助けてくれるの⁉︎」

 

「……人の話を聞いていたか? 分かったのならどうしてこうなったか教えて欲しい」

 

「わ、分かったわ」

 

それでその子供から話を聞いた。どうやら毎日この子達には、強力な紋章を入れ込む為の実験をさせられていたようだ。

 

(それにしても紋章か……確か持っているだけで何らかの恩恵があるという……)

 

しかしながら下らない。そんな事の為に、これからの未来がある子供達を犠牲にするとは……

 

(これはその貴族どもに対してO☆HA☆NA☆SHI(治療)が必要だな)

 

「取り敢えずは分かった。先ずはこの場から移動しようか」

 

「えっ……でもそんなことしたら……」

 

「そこは問題ない。この空間を切り取れ……空間断絶(デコネクション)

 

ソーマと少女達のいる地下牢の部屋全体は切り取られ、別の空間へと繋いで飛ばす。

 

「よし、僕の拠点に映ったな」

 

懐からトランシーバーを取り出すソーマ。そして……

 

「カウンセリング隊は今行なっている業務を一時中断せよ! 各自定位置へと集まれ。集まった者達から報告しろ!」

 

『 Aグループ、全員定位置に着いた』

 

『Bグループも同じく』

 

『こちらSグループ。行けるよ!』

 

『Oグループ配置につきました!』

 

『こちらデボル。準備よし!』

 

『ポポルも大丈夫よ』

 

「よし。これから患者の治療を行う。まずは僕がここに移動させた牢獄をこじ開け侵入」

 

「 Aグループは正気を失っている者を運べ。暴れるようならベルトで手足を固定しても構わん!」

 

「Bグループは衰弱している者達を運べ。運び終えた後に点滴を用意して各自対応しろ!」

 

「Sグループは重傷者をデボルポポルの元へと運べ。すぐに僕が治療をする!」

 

「Oグループは各患者のモニタリングをいつでも出来るようにしろ! 6Oについては準備完了次第こちらに来て軽症者の相手をしろ」

 

「デボルとポポルが担当する修復グループは患者分のベットの用意と医療器具の準備を。すぐに重傷者が運び込まれるから優先順位を間違えるな!」

 

「患者の区別は今僕が送った通りだ。間違えるなよ! そして患者の命がかかっている! 僕が言った事を最低でも2分で行え! 以上行動開始‼︎」

 

『『『了解‼︎』』』

 

ソーマが10秒足らずでそう支持すると、すぐさま地下牢の鉄格子が木っ端微塵に破壊され、そこからカウンセリング隊がストレッチャーなどを持って入ってくる。そして次々と子供達は運ばれていった。

 

「さて、それじゃあ僕は君の症状を見させてもらおう。スキャン」

 

ソーマの瞳が水色に変わり、白髪の少女を見つめた。

 

「あ、あの……」

 

「少し黙っていろ。診察中だ」

 

少女はソーマに言われてシュンとする。

 

「心配するな。何も君を蔑ろにしているわけではない。君を治す為だ。だから少しだけ……静かにしてもらえるか?」

 

「っ! はい‼︎」

 

「元気があってよろしい。さぁ、あと少しで終わるからな」

 

ソーマは少女の状態を見終わると、どこからともなく取り出した医療キットで少女を治療していった。それも数秒で終わる。

 

「これで処置は完了だ。それと後はこれを後で飲むと良い。少しは気分を落ち着かせる効果がある」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「お礼もちゃんと言えるな。君は良い子だ」

 

ソーマは少女の頭を優しく撫でた。それに対して少女は俯いて顔を赤らめていた。

 

「ん? 顔が赤いな。風邪か?」

 

「い、いいえ! な、何でもありません……」

 

「……そうか。あまり無理はしない事だ」

 

「ソーマさーん!」

 

そこへ6Oが駆け寄ってくる。

 

「各自全て準備が整いました!」

 

「分かった。すぐ行く」

 

そしてソーマはその場を後にした。

 

「あの人は一体……」

 

「ふふっ、気になるの?」

 

6Oは少女に笑いながら問いかける。

 

「は、はい……私の目の前に……心の中で助けを求めた時に来てくれましたから」

 

「そうよねぇ。そんな時にあんなイケメンな人が来たら、女の子なら誰だって惚れちゃうわよねぇ」

 

「そ、そんな……私は……」

 

「まぁまぁ。それであの人はね……」

 

 

 

 

「医療の進歩と患者の為ならばどこへでも行く。心の底から助けを求めている人達を真の意味で助けに行く。そんな人達の最後の砦……それこそがソーマ・アスクレイ様よ」

 

「ソーマ……アスクレイ」

 

6Oの口から出たその名を……ソーマに助けてもらった少女、エーデルガルトは心の奥底にまで刻み付けて未来永劫忘れる事はなかった。

 

 

 

 

 

あの後のことだが、全ての処置を1時間で終えた。今は病棟エリアでそれぞれ個室を用意している。

 

軽症だった少女、確かエーデルガルトだったか。彼女も今は病棟エリアの個室に案内している。まぁここは外と違って窓から外の景色さえも見えないから、その暇つぶしにチェスとかのボードゲームを数種類置いてある。勿論、1人でやるのも暇だろうからアンドロイド隊から1人ないし2人に相手してもらっている。

 

しかしながらだ……

 

 

 

 

 

「6O……何で僕の本名を言ってしまったんだ?」

 

「ご、ごごごごめんなさい‼︎ ソーマ様が久々に格好良く指示を出すものですから……その、ついつい昂ぶっちゃって……」

 

「……はぁ。まぁ過ぎたことは仕方がないか。後であの子にも僕に会ったことは秘密にする様に言っておいてくれ。だが万が一のことで外の世界に僕が存在する事が広まってしまえば……面倒だな。外では偽名を使い、衣装も変えるとしよう。それでどうにかバレないはずだ」

 

「ごめんなさい……」

 

「いや、もう良い。僕もそこを徹底していなかったのが悪かった。それと今回の事でエーデルガルト達が急にいなくなった事をそろそろ相手方も気づく事だろう。それに対しての治療をしてくる」

 

「その間にOグループは他の患者のモニタリングの徹底を。何か異常があったら僕に連絡するように。それとエーデルガルトを快く迎えてくれる貴族のピックアップをして欲しい」

 

「分かりました。私達Oグループに任せて下さい。行きますよ? 6O」

 

「わ、わかった! それじゃあソーマさん。また後で報告します‼︎」

 

「あぁ、待っている」

 

そして僕は行動した。

 

 

 

 

 

このような事をした貴族連中を鉄拳制裁(治療)する為に……

 

 

 

 

 

 

side 貴族連中

 

 

 

 

 

「何っ⁉︎ フレスベルグの子供達がいなくなっただと⁉︎ 見張りは何をしていた⁉︎」

 

「そ、それが信じ難い事なのですが……子供達を監禁していた牢獄ごと無くなっていたのです! まるでそこだけ綺麗に削られていたかのように……」

 

「そ、そんな事があるわけなかろう! つくのならもう少しまともな嘘を言え‼︎」

 

「いいや、それは強ち間違いではないな」

 

「なっ⁉︎ だ、誰だ! どこにいる⁉︎」

 

今回の事を主導しているとある貴族の部屋に、その貴族と兵士以外の第3者の声が聞こえた。それに対して驚きを隠せない貴族……すると

 

「ぐっ……」

 

報告に来ていた兵士が倒れた。兵士がどんどん前に倒れていくと同時に貴族は見た。兵士が立っていた背後に……体全体を真っ黒な衣装で装い、顔をそれと同じく真っ暗なフードで被り、口元でさえも真っ黒な布で覆うまるで得体の知れない何かが立っているのを……

 

「き、貴様は何者だ⁉︎」

 

「僕か? そうだな……僕は……」

 

 

 

 

貴様を治療する医者だ

 

 

 

 

 

 

「なんだと⁉︎ わ、私は悪い所は何も⁉︎」

 

「いや、貴様は犯されている……子供達に非道な事を平気で行える神経という病に」

 

「っ⁉︎ ま、まさか子供達を牢ごと攫ったというのはっ⁉︎」

 

「今はそんな事どうでも良い……。さぁ……僕にその平気で悪事を働ける神経とやらを見せてくれ。僕の医療を味あわせてやる

 

「や、やめろ……来るな! わ、私が悪かった! これからは心を入れ替えて生きる、いや生きます‼︎ だからやめてくれぇぇぇ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

その後、ソーマからの粛清(治療)された貴族達は……皆慈善活動に勤しみ、帝国の暮らしを少しは良くしていったという……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ ソーマが黒歴史で部屋に戻った後









「はぁ……」(まさかあんな黒歴史がいつのまにかできていたとは……)

コンコンッ

『ソーマ、私だ。入るぞ』ガチャリ

「…… A2か。僕が許可しないのに勝手に入ってくるんじゃあない」

「良いじゃないか。それに私だけじゃない」

「大丈夫ですかソーマ?」

「私達、ソーマの様子が気になって……」

「様子が気になる……か。見ての通りだ」

「そ、その……デポルも皆も、別にソーマを困らせようとしたわけではないの」

「あぁ、そんな事は分かっているさ。でも、頭で分かっていても心では処理が追いつかなくてな」

「全く、面倒くさい神経を持っているな」

「 A2! そんな事言っちゃダメ‼︎」

「だから……」 A2はソーマを抱き締める。

「っ⁉︎」

「これで……その……面倒な神経もどっかに行くだろ?」

「 A2……ははっ。どうやらその様だ。まぁいきなりで驚いたけど」

「私もっ! その……恥ずかしい

「ん? 何か言ったか?」

「な、何でもない‼︎」

「ところで A2。いつまでそうしているつもりですか? 私もソーマを抱きしめたいのですが?」

「わ、私もソーマを癒してあげたいな」

その後21Oとポポルに順番に抱きしめられたソーマ。それからというもの、ソーマと3人の距離は少し縮んだ。


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第2話 君は……頑張っているよ

新しく評価してくださった方々

☆9 鬼哭王様
☆4 笹ピー様
☆1 ヨグ=ソトース様

ありがとうございます!

「正直序盤でここまで多くの評価を付けられるとは……僕の治療行為がこの世界に普及してきたという事だな。さて……まだまだ見なければならない患者がいるからな。僕はここで失礼しよう」

※と、オリ主は言っていますが、今から行くところは戦闘行為が起こっている地域であり、もはや治療行為でも何でもありません……


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽症だったエーデルガルトの経過観察は良好。体調もだいぶ良くなっている。もうそろそろこちらでピックアップしている引き取り人に預けても良い頃だろう。

 

エーデルガルトの残り9人の兄弟姉妹については、こちらも日毎に体調が良くなっている。重症患者は意識を取り戻していっているし、衰弱している子達も血色が良くなってきた。正気を失っている子達に関しては……どうにか落ち着きを取り戻してはいるが、やはりトラウマが大きい様で思い出す度に取り乱している。経過観察とカウンセリングがまだまだ必要になりそうだ。

 

(だが明らかに良くなっている。この調子でいけば問題はなさそうだ)

 

時折僕はエーデルガルトや他の子達と直接語らったりしている。他の子達……意思疎通が出来るまでに回復した子達はこの環境に安堵を示していて、もうあんな暗い所に戻るのは嫌だと言っていた。

 

正直僕は、ここもあの牢と同じく真っ暗闇の空間だが? と返したが、ここは優しい人達がいっぱいいてずっといたいくらいとその子達は言っている。

 

(まぁ……そう思いたいのならそう思わせておこう)

 

その子達の将来は……その子達が自由に決める事だ。僕は別に口出しする気は無い。

 

そしてエーデルガルトについては……

 

「また来てくれてありがとう。嬉しい」

 

僕が行く度に満面の笑みで迎えてくれる。最初の印象と全く違っていたな。最初会った時は……当然ながら怯えの表情が見て取れた。まぁ周りがあんな貴族連中とその取り巻きなのならば尚更だ。大人にいい感情は持たない事だろう。

 

だが僕に対しては……何故か好印象に思える。これが僕の自己中心的な考えにならない事を祈ろう。

 

「それで、今日はどんなお話をしてくれるの?」

 

「そうだな……ならば僕が行なっている医療の話を「それは昨日聞いたわ。それよりも、もっと貴方の事に関する話を聞かせて?」……自分の事を話すのは苦手だな」

 

「それでもいいの。じゃあこうしましょう? 私が貴方に対して質問するから、貴方はそれに答えるの」

 

「……まぁ、それなら話せそうだ」

 

「じゃあ決まりね。まずは……」

 

そこからエーデルガルトと会話をした。まぁ普通の会話と言うよりも、彼女が僕に質問して、それに対して僕が答えるというものだ。

 

僕としては……僕と会話をしている相手はさぞつまらないだろうと思う。だが彼女は、こんな形式上での会話も楽しく笑いながらしていた。僕としては、僕が逆の立場ならそんな風に笑えない。だが目の前の彼女は……それを諸共せず楽しそうだ。

 

(あぁ……なんだか眩しく感じるな)

 

それは僕には無いものだからか……その時の僕はそう感じた。

 

 

 

 

 

そんな日常を送りながらも僕が医療の進歩について動いている時……

 

『6Oよりソーマさんへ。今大丈夫ですか?』

 

「あぁ、問題ない。どうかしたか?」

 

『外の世界でまた紋章絡みの様です……しかも命に関わるほどの……』

 

「……詳しく話をして欲しい」

 

そして僕は6Oから詳細な話を聞き、現地へと向かった。

 

(彼女とまた話す時の土産話になれば良いのだが……)

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

帝国歴1175年

 

 

 

 

本来紋章は1人につき1つだ。大きさは大小あるが、それでも発言する時は1人につき必ず1つと決まっていると……私は独学で学んだ。

 

ただそんな時……私は思いもよらない事に加担させられた。

 

それは……1人の人間に2つの紋章を入れようとする実験だ。その実験に選ばれたのは……私だった。

 

既に私は1つ紋章を手に入れていたけれど、その実験をしようとした輩は私に無理矢理紋章を埋め込んだのだ。そのために髪は白くなり、寿命もだいぶ縮んでしまった。

 

この事で自分の親には苦労をさせてしまった。まだ10にも満たないけれども、早く大人になって独立しないと……

 

「グッ⁉︎ ゴホッゴホッ……」

 

だけど無理矢理紋章を入れられたせいで体力もない……それに最近激しい咳も出る。

 

(私……大人になりきれずに死んじゃうの?)

 

最悪の考えが頭をよぎった。でも……周りには親しい友達もいないし……話したところで……誰も信じてもらえない。

 

(苦しい……苦しいよ……誰か……)

 

少女の思考が絶望に染まりきろうとしていた時……

 

 

 

 

 

「ふむ……これは確かに珍しい症例だ」

 

 

 

 

 

 

 

いきなり自室で響いた誰かの声に少女は反応し、俯かせていた顔を上げると、そこには……

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、これは急で驚かせてしまったか。それならば謝ろう。それとまずは自己紹介だ。僕の名前はアスクレピオス……ただのしがない医師だ。さぁ……君の症例をもっと詳しく見せてくれ」

 

黒ずくめの衣装を着た何かが……少女の目の前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

「な、何なんですかあなたは⁉︎」

 

「ん? 聞いていなかったか? ならばもう1回言おう。僕はただのしがない医師だ。さぁこれでちゃんと名乗ったのだから今度は君の症状を見せてくれ」

 

「そ、そんな事を聞いているんじゃないんです‼︎ どこから湧いて出たんですかって聞きたいんです‼︎」

 

「……質問の意図が違っていると思うが。だがその質問に答えなければ君を診る事が出来ないのなら素直に答えよう。僕が作り出したこの扉を通って来た」

 

ソーマは少女の目の前で真っ黒な扉を作り出して開ける。その扉の先は……どこまでも真っ暗だった。

 

「さて……これで僕がどうやって来たか分かったな。次は君の番だ。僕に症状を見せてくれ」

 

「うっ……きょ、拒否します!」

 

「何故だ? 僕は君の質問には答えたんだ。ならばその見返りを求めるのは当たり前の事だろ? それになにも僕の目の前に裸になれとは言っていない。ただそこに座ってじっとしていれば診断は済む。どうだ?簡単な事だろう?」

 

「で、でもあなたも……私の事をまじまじと見ては笑うんでしょ! 無理矢理私に紋章を埋め込んだ奴も下卑た笑いを浮かべて笑っていたわ! 私の体を見て……あられもない姿を見て笑っていたわ‼︎ どうせアンタも同じなんだから‼︎」

 

少女はそう叫びながら泣いた。目の前に立つこの黒ずくめの男も……自分に紋章を埋め込んだあの男の様に笑いながら自分を見るのだと……

 

 

 

 

 

 

「僕をそんな輩と一緒にされては困る」

 

「えっ?」

 

少女は目の前に立つ男の凛とした声を聞いた。紋章を無理矢理埋め込んだあの男の下卑た声とは全く比べ物にならないほど……その男の声は、何故だか自然と自分の身体に入り込んで来た。

 

「僕は……苦しんでいる者を笑わない。助けを求めている者を笑わない。心の奥底で必死に耐え忍んでいる君を見て……笑わない」

 

「だって君は……そんな身体にされながらも必死に生きようとしている。誰にも頼れない中……そんな小さな身体で必死に生にしがみついている。僕はそんな人を……笑う事なんて出来ないさ」

 

「……本当?」

 

「あぁ、その事について僕は嘘をつかない。何しろ僕は君に対して敬意さえ少なからず抱いている。僕はそんな君の……少しでもいいから支えになろうと考えている。だから……僕に君の症状を見せてくれ。治すまでとはいかないかもしれないが……それでも君の力になれるはずだから」

 

「……分かった。それなら……見て」

 

ソーマの言葉に……少女は応えた。怖さから未だに身体は震えていたが……それでも耐え忍んでいた。

 

「良い子だ。スキャン……」

 

ソーマの瞳が水色に灯る。その様子を見ていた少女は、その現象に驚いていた。それから数秒でソーマのスキャンは終了した。

 

「ふむ……確かに君には2つの紋章があるな。本来ならば小さい方の紋章を元から持っていた様だが、後から大きな紋章を入れられた痕跡がある。それに君が言った様に無理矢理入れられた形跡もあるな」

 

「そうよ。私はそのせいで……髪も白くなったし寿命も大分削られたわ……」

 

「……よく頑張った」

 

「えっ?」

 

「君は……よく頑張っている。紋章は1人に1つ……詰まる所1人1つの別の命を背負っていると例えてもおかしくない。だが君は……そんな小さな身体で2つ目の大きな命をも背負っている。本来ならばいつ君の体が壊れてもおかしくない」

 

「だが君は……それでも生を諦めようとしていない。それどころか君は親の事にも気を配っているのだろう? だから君は……」

 

ソーマは少女の頭に手を乗せて優しく撫でる。

 

「君は……よく頑張っているよ」

 

「うっ……うぅ……うわぁぁぁぁんっ‼︎」

 

大粒の涙を流しながらソーマに抱きつく少女を、ソーマは顔色変えず、ただただ穏やかな笑みを浮かべて少女の頭を撫でていた。

 

 

 

 

それから数分後、目の当たりを赤く腫らしてはいるが落ち着きを取り戻した少女と、対面するソーマの姿があった。

 

「ご、ごめんなさい……少し取り乱してしまって……」

 

「気にすることはない。まだ10にも満たない子供だ。まだ両親や大人に甘えたとしても文句は言われないだろう」

 

「わ、私を子供扱いしないでください!」

 

「そうか。それはすまなかった。さて、それでは君に渡す処方箋だが……」

 

「しょ、処方箋?」

 

「あぁ、少し言葉が難しかったな。君の症状を和らげる薬の事だ。その大きな紋章が君の体に対して作用している効果を打ち消し、紋章が君の体に与える負担を抑える物だ。取り敢えずは朝晩の食後すぐの1日2回を一節分用意して経過を見よう」

 

「お、お金は……」

 

「お金? そんなものは既にもらっている。君の身体を診察した事がその代わりさ」

 

「そ、そんな! だ、だって風邪をひいた時に貰うお薬もそれなりにするのに……」

 

「僕をそこらの三流の医者と一緒にするな。僕は医療の進歩と患者達のために僕の医療を振るっているんだ。そこらにいる様な……効力が低い癖に高いお金でぼったくる医者達と一色単にされるのは心外だ」

 

「……クスッ、おかしな人」

 

少女は初めてソーマの目の前で笑った。

 

「僕のさっきの台詞で少し笑えるくらいには楽になったか」

 

「えぇ、どうやらその様です」

 

「そうか。では僕はもう行く」

 

「もう……行ってしまうんですか?」

 

「あぁ……僕には、まだ助けを求めている患者がいるからな。また1ヶ月後に遣いをここに送って薬を渡そう。それと……薬の用法と容量はしっかりと守れ? 僕はそこを蔑ろにする患者は嫌いだからな」

 

「分かりました。あなたからもらったお薬……ちゃんと守って使います」

 

「宜しい……では、また会った時は……その時は僕の医療について話そう。気が向いたらな」

 

そう言ってソーマは扉を作ってドアノブを回し中に入る。ドアが閉められると、扉は光を放ちながら少女の前から消えた。

 

「はい……また貴方に会える事を待っています。アスクレピオス先生」

 

彼女……リシテア=ファン=コーデリアは頰を少し赤らめながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

一方のソーマは……

 

 

 

 

 

「はぁ……やはりカウンセリングは嫌いだ」

 

凄く疲れた顔でトボトボ帰り道を歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 僕は君の味方でいよう

新しく評価を付けてくださった読者様

☆10 clover of bookmaker 様
☆9 陸羽値音 様 ボンボン 様 たんぽぽ太郎 様
☆6 Vezasu 様
☆1 逆流王子 様
☆0 Mマキナ 様

評価を付けてくださってありがとうございます! 評価0が付いてしまったのは少々残念ではありますが、やはりそこはそれぞれで好き嫌いはあるでしょうし、私の書き方がワンパターンすぎるのもあってつまらないと思われる方もいると思います。

しかしながらそれでも評価を辛口で付けてくださったということは、幾らかの期待を持ってのことだと思いますので、これからも無理しない程度でやらせていただこうと思います!

では、今回の物語も宜しくお願い致します‼︎

※作者は前向きに捉えてはいるものの……正直ガラスのハートである……


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの少女を訪ねて幾らかたった。初めて会った時名前を聞きそびれてしまったために、次の節薬を届ける時は僕がまた直接向かった。患者の顔と名前を覚える事は、僕にとっては大事な事でもあるからな。それで少女にまた会いに行った。その際少女は喜んでいたが……

 

名前を聞いて幾らか世間話に興じ、キリのいいところで薬を渡して帰ろうと思っていた。僕の中ではそのペースで予定を組んでいたのだが……少女に先手を打たれてしまった。

 

少女の名前はリシテアといって……薬を渡しにいった際あちらから名乗ってきた。そこからは彼女のペースでお茶に誘われ、お菓子も準備されていた。

 

(……準備が良すぎる気がするが)

 

そして彼女に強引に椅子へと座らされ、そこから世間話をした。彼女はどうやら甘党の様で、用意されていた紅茶も果汁入りで苦味よりも甘味が強かった。用意されたお菓子も甘味一色ではあったし……

 

「もしかして……甘い物は苦手でしたか?」

 

リシテアは申し訳なさそうな顔で僕にそう言ってくる。どうやら少し考え事に没頭して手が動いてないところを見て彼女は、僕が甘味が苦手と思ったらしい。

 

確かにこの甘味尽くしは……甘味が苦手な者にとっては地獄だろう。僕も甘味が嫌いなら、今回のお茶会は断ってすぐに薬を渡し去っていたと思う。

 

だが生憎僕は……

 

「いや、甘味は嫌いではない。それに甘い物は脳の働きを良くする効果がある。だから医療に携わる僕にとっては甘味は……大好物でしかない。ただあまりにも一度に多く摂取する事はしないしお勧めもしない。何せそれは薬とかと一緒で、どんなに良い薬でも容量を守らなければ逆に毒になりかねんからな」

 

「そ、そうですか! それなら安心しました。それにしてもやっぱり先生は物知りですね。何でも知っていそうです」

 

「何でもは知らない。それに僕は医療の事ぐらいにしか頭にはないし、世俗の事はからっきし分からない。何なら今何年かも分からないな……ん? 先生? 僕がか?」

 

「今更ですか? 私さっきからずっと先生って呼んでますよ?」

 

「そうか。それは気付かなかったな。それで……何故君は僕の事を先生と呼ぶ?」

 

「そんなの当然です。だって私の事を……助けてくれたんですから」

 

「助けた? 僕はまだ君の症状を完治させてはいない。だからまだ君を完全に助けた訳じゃあないが?」

 

「そ、それでもです! 私がそう思っているんですから!」

 

「そういうものか?」

 

「そういうものです‼︎ 全く……先生はどこか抜けていますね」

 

「まぁ……自分でも医療に現を抜かし過ぎて抜けていると自覚はしているが」

 

「自分でも自覚はしているんですね……まぁでも、そんな先生との会話は楽しいですよ」

 

「そうか……僕は自分で、相手を退屈させているものだとばかり思っているのだが……」

 

「……先生って意外と自分の評価を下に見ているんですね。もうちょっと自分に対しての評価を甘くしても良いんじゃないですかね?」

 

「そうか?」

 

「そうです。だって、この私が先生の事を高く見ているんですよ? だから、先生も自分の事をもっと大事に見た方がいいと思いますよ?」

 

「……まぁ、前向きに考えておくか」

 

「そこは、分かった、の返事が欲しかったですけどね。ふふっ……」

 

とまぁ、彼女との雑談はこんな感じだったな。一節前までと比べて明らかに元気になっているし、最近の体調も良くなったと聞いてる。そして僕は聞く事を大体聞いて薬をまた一節分渡した。

 

彼女の宿す無理矢理埋め込まれた紋章は……今の僕の医療で完全に無くすのは難しい。だが後数年経てば……どうにかなるかもしれない。

 

それにしても……

 

(甘味をいつのまにか取り過ぎていたか……先程偉そうに口に出していたものの、情けない……)

 

リシテアが言っていた様に……ソーマはどこか抜けている様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

次はエーデルガルトの経過観察についてだが、ここ一節ほど機嫌が悪い。どこか体調が悪いわけではないのだが……

 

確か……僕がリシテアの所に行き、その事を土産話として話した時からだろうか? それまで彼女は僕の下らない話を笑顔で聞いていたのだが……その少女の事を話すと急に機嫌が悪くなった。「もうその子の話をするのはやめて!」と怒られた。

 

ただ僕は、いつも僕の下らない話よりかはマシな土産話ができると思っての事でそうしたまでなのだが……

 

その後に6Oからも、「ソーマさんってデリカシーないですよねぇ……気を付けた方が良いですよ?」と言われる始末。6Oの言葉に他のアンドロイド隊の面々からも頷かれる始末……少しでも僕の患者の為を思ってのことだったが……解せぬ。

 

しかしながらエーデルガルトの体調は良好だ。そろそろ外の世界へと返す時が近づいているな。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでエーデルガルトを外の世界へと戻す為の準備を始めている時(僕は勿論医術の進歩のための研究をしているが)着信が入った。

 

『こちら21Oよりソーマへ。今は大丈夫でしょうか?』

 

「あぁ、丁度キリのいい所だ。どうかしたか?」

 

『実は……少々面倒な事が起きてしまって……』

 

「面倒な事? エーデルガルトの体調が急変したのか? もしくはリシテアの方でトラブルか? はたまた……また性懲りも無くどこかで大規模な争い事か?」

 

『いえ、そうではないのですが……』

 

「ふむ。いつもの君ならばすぐ用件を簡単に言ってくるはずだ。確かに僕は医療の進歩とか患者の事以外に関わるなんて事は御免被りたいが、それでも今の面倒ごとをそのままにしてしまった方が更に大変な事が起こる。症状を見過ごして悪化する様にな……。だから僕の事は今気にしなくても良い。早く用件を言って欲しい」

 

『実は……迷い人を発見しまして……』

 

「……迷い人?」

 

『はい……どうやら外の世界からこちらへと迷い込んでしまった様で……今アンドロイド隊に保護する様指示を出しているのですが……』

 

(……面倒な事だったな)

 

それを聞いてソーマは少しうなだれた……

 

 

 

 

 

21Oから迷い人を無事保護したとの報告を受けたソーマは、保護された迷い人のところに向かった。そして保護されている部屋の前に21Oがいた。

 

「こちらに保護された迷い人がいます。男女のペアで所々擦り傷はあります。後は……全体的に覇気がないというか」

 

「分かった。後はこちらでやっておく。仕事に戻ってくれ。また何かあったらすぐ連絡を」

 

「分かりました」

 

僕は迷い人が保護された部屋に入った。部屋の中は少々豪華な応接室と言ったところだ。その応接室の2人がけのソファーに、21Oがさっき報告してくれた様に男女のペアがいた。所々擦り傷が付いていて、纏っている服もどこかボロボロだ。そして2人とも痩せこけていて、ここ何日も食べていない様だ。

 

「待たせた様で申し訳ない。僕はここの管理人をしているアスクレピオスという。そしてただのしがない医者でもある。まぁまずは……あまり症例としては珍しくもなんともなさそうだがその傷の手当てをしよう」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

僕は手早く2人の体をスキャンして怪我をしているところの把握した。擦り傷多数と、男の方が左足首を捻挫しているな。僕は把握して手早く処置をした。

 

「よし、これで処置は終わった」

 

「ほ、本当になんとお礼を申し上げたら良いか……」

 

「お礼は今は良い。僕は当然の事をしたとしか思っていないからな」

 

「それでだ……単刀直入で質問させてもらうが、何故ここに来た? そしてどうやって迷い込んできた?」

 

そこで僕は男女のペアから話を聞いた。元は貴族で紋章持ち。そして1人娘もいる様だ。そして今はその1人娘もとある遠縁の貴族に預けてあると……しかし疑問に思う。

 

「何故君達は1人娘を他の貴族に預けてここにいる? その1人娘が君達に対して何かしたのか?」

 

「……その事情についてもお話しします」

 

そして僕は事情を聞いた。どうやら彼らは抹消された英雄とやらの子孫らしい。

 

英雄というのは、過去の大戦で名前を残した紋章持ちの事だ。伝記で語られている人物は合計11名で、炎の紋章を持っているとされる解放王ネメシスから後の十傑が今語られてる英雄だ。

 

だが英雄は……その伝記などに載っていないだけで後もう1人いたという。それが彼らの末裔だ。

 

(……あぁ、確かもう1人いたな。それらしい奴が)

 

僕はその英雄に心当たりがある。何故か? そいつを治療した事があるからに決まっているだろう? 名前は随分前のことで忘れてしまったが……

 

それで何故その英雄が抹消されたかについては……その紋章が暴走してしまい怪物となってしまったからだ。その怪物は理性を無くし、人々を襲った。だからこそ本来いるはずだった12の英雄は、怪物と化したその英雄を除いて11人となった。まぁ簡単にまとめるとこんな感じだ。

 

そして娘1人を置いて逃げた理由が、彼らはとある紋章学者の標的にされて散々嫌がらせ行為を受けてきた様だ。それが娘の方にも来そうだったから、自分達は失踪扱いにしてとある遠縁の貴族に養子として送り出したと……その様に聞いた。そして失踪中に魔物に襲われて洞窟に逃げ込んだ所ここに来た……と。

 

「なるほど。確かにあなた方はこれまでに散々な目にあってきた様だ。それも途轍もなくしつこく、最早自分達が不幸に陥っているかの様な……そこまで行くのなら、それは確かに同情するに値しようものだ……あぁ、十分同情に値するものだ……

 

 

 

 

 

 

 

だが、解せない点が1つだけある……

 

彼らにとってソーマは温厚な性格に見えていたのだろう。先程まで静かに聞き、そして静かに口を開いていたのが急に一変した。そのソーマの様子に彼らは驚きを隠せない。

 

「僕がどうして解せないと言ったか……分かるか?」

 

「ま、全く……」

 

「そうか。ならば説明してやろう。先に言っておくが……僕は命を蔑ろにする輩を許さない。そして今僕の目の前に、人の命を蔑ろにする存在がいる」

 

「なっ、わ、私達が⁉︎」

 

「そもそも……何故1人娘を1人残して失踪した? その子だってあなた方の辛さは理解している事だろう。間近で見ていたのなら尚更だ。だが……」

 

「話を聞く限りその1人娘も紋章を引き継いでいる事だろう。だからこれはあくまでも予想だが……その子は一生、自分が紋章を持って生まれた事を後悔しながら生きる筈だ。そしてこうも思うだろう……」

 

 

 

 

 

 

自分はこの紋章を持ったが故に不幸なのだと

 

「「っ⁉︎」」

 

「それに……あなた方が行った事は娘を助ける行動でも何でもない。ただの現実逃避だ。そして全ての責任をその子に押し付けただけだ。これで分かっただろう……僕がここまで憤っている理由が。あなた方を解せない理由が」

 

「わ、私達は何てことを……っ⁉︎」

 

「我が愛娘に……責任を全て押し付けて……」

 

「まぁ今更そう思ったところで遅い。賽は投げられたのだから。しかしながらそう悲観することも無い。あなた方は運が良い方だ」

 

「それは……どういう?」

 

「あなた方が途中魔物に殺されていたのならば……この事は誰も知る事なく、その1人娘も生きる事に疲れていた事だろう。最悪の場合自殺を選んでしまうかもしれない」

 

「だが……あなた方は不幸と言いながらも幸運で僕に会った。そしてあなた方の目の前にいる僕は……本当の意味で助けを求めている人達の味方だ。だからここは僕に任せて欲しい」

 

ソーマはそう言って立ち上がると懐からトランシーバーを取り出し、何かを指示していた。

 

「あなた方の体調が戻るまではここに留めておく。その後の衣食住も、あなた方が住んでいた土地から大分離れてしまうかもしれないがこちらで用意の手はずを整えておこう」

 

「よ、宜しいのですか⁉︎」

 

「あなたは私達を嫌っているのではないのですか?」

 

「あぁ、確かに嫌いだ。平気で人の命を蔑ろにしようとしたのだから」

 

「だがそれはそれだ。あなた方はその代わりとして僕に新しい患者を知らせてくれたんだ。それで先程の嫌悪はチャラにしてやるさ。さて……僕にはまだやらなくてはいけない事が山ほどあるのでな。ここで失礼しよう」

 

ソーマは応接室から出る。すると着信が鳴った。

 

『21Oよりソーマへ。ソーマに言われた通り調べ上げました。資料を送ります』

 

着信が鳴り、それを確認するソーマ。ふむ、と頷くと扉の向かい側に飾られてある花瓶から一輪の花を手に取った。

 

「生まれろ……生命よ」

 

すると一輪の花はみるみるうちに姿を変え、1匹の白い蛇になった。

 

「これを……とある少女に送ってくれ」

 

「きゅる!」

 

白い蛇は可愛い声で返事をすると、ソーマから手渡された物をくわえて暗闇の中に消えた。

 

「さて……僕は僕で治療しに行くか」

 

そしてソーマも白い蛇の後を追うように暗闇の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

帝国歴1175年

 

 

 

 

とある日……両親は私を遠縁の貴族に預けた。自分達にはやらなくてはいけない事があって、その間私に構う事が出来ないからだと、そう聞いた。

 

最初私は、数日間だけここにお世話になるのだろうとしか考えておらず、遠縁の親戚もそう思い込んで私に優しく接していた。しかし何日、何週間、そして今日で丁度1ヶ月になった。

 

そして結果的には……両親は失踪してしまった。理由は大体分かっている。何年も前から怪しい紋章学者を名乗る者につけまわされていたからだ。私も紋章を持っているのではと被害に遭いそうになった。それでも両親が何時も側にいて助けてくれたから、私はどうもなかった。

 

でも……多分その紋章絡みで私の両親は失踪したのだと思う。私からその紋章学者を遠ざけて遠縁に預ける事で……私を守ってくれたのだと思う。それには……感謝しないと……

 

 

 

(だけど……寂しい……)

 

私は……両親がいたからこそ、自分が標的にされそうだった時もまだ気丈には振る舞えていた。まだ笑顔でいる事が出来た。それに、やる事が終わったら私の事を迎えに来てくれると……そう思っていたから知らない遠縁の家でも過ごす事が出来た。

 

(でも……もう限界……)

 

遠縁の貴族……今では両親が失踪してから養子として迎えられてはいるけど……私を引き取ってくれた義父は野心家で、少しでも自分が高い位置につきたいが為に何でも利用する。私もその1つだ。数日の間ならばと優しく接してくれていたのがまるで嘘かの様に……

 

それと私には、両親から受け継いだ紋章もある。 これは義父も知っている事で公表するなと言われるくらい。そもそも間近で両親がこの紋章のせいで振り回されたのだ。自分でそんな事なんてしない。

 

「……この紋章さえ無ければ、私は」

 

もっと自由な生活ができて、両親ともこれからも楽しく生活出来たはずなのに……

 

(今の生活が……辛い。こんな紋章なんて捨てて……自由になりたい)

 

「誰か……私を……」

 

 

 

 

 

 

 

助けて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゅるきゅる」

 

「っ⁉︎」

 

 

 

どこからか何かの鳴き声が聞こえた。当然義父も見栄のために動物は飼っているが……こんな鳴き声をした動物なんて私は知らない。

 

「きゅる! きゅる‼︎」

 

「足下から……」

 

足下を見ると、どこまでも白い蛇がいた。どこから迷い込んで来たのか……しかも何か咥え込んでいた。その白い蛇はそれをこちらに突き出してきた。

 

「受け取れ……と言っているのかしら?」

 

「きゅる!」

 

肯定している様に返事をする蛇。私は加えているものを受け取った。それは少し分厚い本だった。その本には元々羽根ペンが付いていて、小さいながらもインクの入れ物も付いていた。興味本位でそれを開くと、本の中身はどこも真っ白で何も書かれていなかった。未だに白い蛇は足下にいるけど、どうして私にこれを渡したのだろう。そう思った時だった。

 

[もうそろそろこの本を受け取った頃合いだと思い、僕は文字をしたためよう]

 

「っ⁉︎」

 

1番最初の空白のページに文字が浮かび上がった。唐突で驚いたけど、本は落とさなかった。

 

[急で驚かしてしまった事は謝ろう]

 

次に浮かび上がったのは謝罪の文字。まるでこちらの様子が見えているかの様だった。

 

[僕は……まぁどこにでもいる様なただの医者だ。それよりも君の名前を教えて欲しい]

 

「名前……でもどうやって……」

 

[この本と一緒に羽根ペンとインクを付けてある。それで空白の所に言いたい内容を書けば僕に分かる仕組みだ。簡単に言えば交換日記というものになるか]

 

「交換日記……」

 

私には……生まれた時からこの紋章を持っているが故に友達がいなかった。そして交換日記というものも……勿論やった事がない。でも興味はあった。相手がその時何を思い、何を感じて文字を綴っていくのか……私もやってみたいと思っていた。

 

私は……まさかこんな形でできるとは思っていなかったし、初めての事で何を書けば良いのか正直分からないけれども、このお医者さんが書いてくれた様に……簡単に書いてみることにした。

 

[わ、私の名前はマリアンヌ。マリアンヌ=フォン=エドマンドです]

 

[マリアンヌと言うのだな。よし、名前は覚えた。それで……何故僕が君にこの本を渡したかというと……君が病気にかかっていると思ったからだ]

 

「病気?」

 

私はこれまで……確かに何回か風邪などを引いた事はあったけれども、それも大した事ではなかったし、それ以外では大きな病気になんてかかった事なんて無かった。だから私は、私が病気にかかっていると言われて疑問に思った。

 

[君は……確かに疑問に思う事だろう。自分は病気にかかっていないと。だが僕は……君の名前を知る前に、既に君の事情は大体把握しているつもりだ]

 

(えっ……わ、私の事情って……まさか……)

 

[君が今思っている通り……僕は君にとある紋章が受け継がれている事を知っている]

 

「っ⁉︎」

 

[だが、僕はこの事を別段誰にも言う事はないし、それで君を恐れる事もない]

 

「っ⁉︎ そ、そんな事……」

 

[僕が嘘を付いていると……多分君は思っている事だろう。まぁそう思われても仕方がない。何せこのやり取りの時点で怪しまれても仕方がないのだから。だがこれだけは……難しいかもしれないが分かって欲しい]

 

[僕は……君にどんな事があったとしても味方になると]

 

「っ‼︎」

 

私の味方になる……確かあの紋章学者の人も、そう言って私の両親に近づいてきた筈だ。だからその言葉を言われても……私は簡単にこの人物を信じる事が出来ないでいた。

 

[ふむ……どうやら信じてもらえない様だ。まぁ僕も急にそう言われて信じるかと言われたら信じない方だが]

 

[まぁそうなると思って、君に少しでも信じて欲しい一心で昔話をしよう]

 

「む、昔話?」

 

[……それって、どんな話ですか?]

 

[そうだな。僕が昔……とある珍しい病を治した時の話をしよう]

 

「珍しい……病」

 

そしてこの本の持ち主であろうお医者さんは綴り出した。内容は……とある紋章を持っていた者が、力の制御が出来ずに暴走してしまって獣になったもいうお話。その獣は力を制御できず人々を襲い続けた。

 

そんな時にこのお医者様が、その獣を治療して人の姿に戻し一件落着した……簡単に纏めるとそういうものだった。

 

でもこれって……

 

(まるで……私が持っている紋章の……)

 

[それから僕は、その者が持つ武器を手放せと言った。それからはその者も獣になる事は無かった。それからというもの、その武器はどこかに大切に保管されていると聞いているな]

 

[……その、まさかその治療したというのは]

 

[気になるか? 確か名前は……凄く昔だから忘れてしまったが、今の書物でいうところの……]

 

 

 

 

 

 

[抹消された英雄……だったかな]

 

「っ⁉︎ う、うそ⁉︎ そ、そんな事って……」

 

[そ、そんな事有り得ません‼︎ だってその抹消された英雄も1000年前のお話です! あなたがもし本当に治療したとしても、あなたは寿命でとっくにこの世界からいなくなっている筈です! だからそんなのデタラメです‼︎]

 

[そう言われてもな……実際に僕は治療したし、そこに嘘などはない。だが君がそう思いたいと言うのなら……それは仕方の無い話だ]

 

(……本当にこの人は……本当の事しか話していないの?)

 

[ふむ……それにしてもその物を治療してから既に1000年も過ぎていたとは……いやはや時代の流れは僕が思っているよりも早いらしい]

 

「そ、そんな……で、でも……」

 

[あ、あなたは一体……]

 

[先も記した通り、僕はただのしがない医者だ。それ以上でもそれ以下でもない]

 

なんだか不思議な気持ちだった。私は人付き合いは、昔から避けていた事もあって苦手だった。だからこんなにすらすらと自分の思いを言えるはずがないのに……

 

(どうして……この人にだったら……)

 

[……あの、今が何年かご存知ですか?]

 

[さぁ、僕は医療にしか興味がなかったからな……だから今が何年かなんて気にしなかったな]

 

そんな答えが返ってきた。だから私は今が何年でなんの節か答えた。

 

[そうなのか……もうそんなに時期が経っていたのか]

 

[あ、あなたはその……どこに住んでいるのですか?]

 

[僕がいる場所か……そうだな。ただただ真っ暗な場所……そうとしか言えない。何せこの空間はどうなっているかも分からないからね。ただ君と話して気付いたが……どうやら僕のいる空間は君がいる空間とは時空列がとても捻じ曲がっている様だ]

 

[そ、そうなんですね……それは……退屈では有りませんか?]

 

それからも本のやり取りは続いた。気が付けば自分から話を振っていて……

 

(私……普通に他の人と話せる)

 

確かにこれは、本でのやり取りだからかもしれない。でも今までの自分だったら必要最低限のことしか話す事はしなかったし、ここまで会話をする事もなかった。

 

[そうか。君は動物と接している事が好きなんだね。なら今回送ったのは……まぁ馬とかではないけど良かったかな?]

 

そう言われて、今は机の上に移動した白い蛇を見てみる。白い蛇は突然見られたからか、「なに?」って顔で顔を傾けて私を見ていた。

 

「ふふっ……かわいい」

 

白い蛇の頭を人撫ですると、まるで擽ったいかのように目を細めていた。

 

[えぇ、あなたが送ってくれた蛇はとても可愛いです]

 

[そうか、それなら良かった。まぁともかくとしては……

 

 

 

 

僕は誰がなんと言おうと君の味方でいる]

 

[っ! はい‼︎]

 

そこからは先程やっていたような単純な会話が続いた。私はいつのまにか……この本の向こう側で話をしてくれる人と話すのが楽しくなっていた。

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……どうやら最初から出向かずにこうしておいて正解だったようだ」

 

最初から出向くのも良かったが……それでは警戒して何も話してくれないと思った。だからこの手段を取ったわけだが……合っていたようだな。今でも相手側……マリアンヌといったな。その子から僕の持っている本に言葉を投げかけてくれるし……

 

(これなら直接対面する日も近いかもしれないな……)

 

経過観察……断じてカウンセリングではない。僕に直接会ってどれほど話せるか……僕としてはこの本に書き込んでる事と同じくらいに話すことができていたら、大体の治療はできている事になる。

 

それにしても……

 

「貴様が今回の病原の元凶だな……自分の益だけ優先して他人を苦しめるとは」

 

「なっ⁉︎ わ、私はただ抹消された英雄が持つとされていた紋章の事を調べたかっただけで……」

 

「だからと言って貴様に何もしていない無害な者達を苦しめる理由にはならない。これは……治療が必要だな」

 

「わ、私に何をするつもりだっ⁉︎」

 

「何を……そうだな。今僕の頭の中で浮かんでいる事としたら……

 

 

 

 

 

 

 

紋章を見るたびに今回の事を思い出させる……というのを治療としてはいいと思うな。よし、今回の治療はそれにしようか」

 

「ま、待ってくれ⁉︎ わ、私が悪かった‼︎ だからそれだけは「さぁ……治療しようか」やめてくれぇっ⁉︎」

 

 

 

 

この日、とある女の子は生きる事に活力を見出し、とある1人の紋章学者は、紋章を見るたび絶望で苛まれたという……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はちょっと書いていてグダグダになってしまい、着地地点もないまま書き上げてしまいました。

それで前、次で本編やりますと言ってたんですが、まだ肝心な事をやっていなかったのでそれと後もう1つくらい書いてから本編に入ろうと思います!

それでは、また次回に!


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第4話 君はこんな所で死ぬべきではない……だから戻って来い!

これまでに新しく評価を付けてくださった読者の方々

☆10 烏丸駅の唐揚げ 様
☆9 豆助 様 架空摂理 様 コレクトマン 様
☆8 桐月ダイ 様
☆3 不知ん様

ありがとうございます!

この作品を書いて約1週間程しか経っていないのにもかかわらず、ここまで評価されたのは初めての経験で凄く嬉しいです‼︎ もう感謝感激といったところでしょうか!

そして今回は……ちょっと無理な構成でやってしまったので、「おや?」と思う方々が多少なりとも出てくるかと思います。まさか僕も最終的にこうなるとは思っていなかったものですから……

面白く無かったら申し訳ありませんが……どうぞ前回までの続きをご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まりあんとの交換日記を通じた治療は良好だ。文章からも生への活力を感じる。また喜怒哀楽も感じて、最初にこれと同じ物を渡したのは僕だが……何故か僕も最近楽しいと感じるようになった。

 

だが問題も発生してしまった。それは……ついつい夢中になり過ぎて周りを疎かにしてしまい、彼女とのやり取りをエーデルガルトに見られた事だ。それを境にエーデルガルトは僕と会う度に不機嫌になってしまい……これでは経過観察も出来ない。

 

そこで僕は彼女に、どうしたら機嫌をよくするのかを聞いた。そしたら……

 

「私もその本が欲しいわ。そしたら……貴方が近くにいなくてもやり取りできるから」

 

ふむ、なるほどそういう事か。エーデルガルトは僕とのやり取りが楽しみで、それで偶々僕が誰かと楽しそうにやり取りしているのを見ていて怒っていたのか……と、僕は簡単にそう思いエーデルガルトにも同じ物を渡した。

 

彼女は嬉々としてそれを受け取り、それからというもの事あるごとにそれでやり取りをした。

 

僕はこれで漸くエーデルガルトも癇癪を起こさずに経過観察をさせてくれるだろう……そんな事を偶々近くにいた6Oに言ったのだが……

 

「はぁ〜……やっぱりソーマさんは女心を分かっていないですね! そんな事しちゃうとエーデルちゃんに嫌われちゃいますよ⁉︎ そうなれば経過観察どころじゃないの分かっていますか⁉︎」

 

と、何故か怒られてしまった。僕が一体何をしたというのか……解せぬ。その後に6Oからデートをしましょうと言われたのだが、どこから聞いていたのか他のアンドロイド隊が6Oに対して猛抗議していた。これにはあたふたするしかない6O。

 

おいおいA2、こんな所で武器を出すんじゃあない。そんな事をしたら……あっ、9Sがボロボロになって吹っ飛んで行った。治療しに行くか……

 

そう思いながらデボル・ポポルの急患治療室へ赴こうとしていると21Oから……

 

「ソーマ、少し気になる情報が……」

 

「ふむ、聞こう」

 

僕は9Sの治療の為に、21Oは9Sの回収の為にほぼほぼ同じ方向に向かいながら気になる情報とやらを聞いた。

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

帝国歴1159年

 

 

 

 

今俺の目の前で子供が生まれた。髪は俺の嫁さん譲りの深い緑色をしていて、瞳の色も嫁さん譲りの女の子だった。俺に似ている要素なんてどこにも無かったが、それでも嬉しかった。こんな俺にも子供が生まれたんだってな……

 

「ジェラルド……生まれてきてくれたわ」

 

「あぁ……よく頑張ったなシトリー」

 

俺たちはその時……とても幸せだった。幸せの絶頂にいると思うくらい……俺の目にも熱い何かが込み上げてくるのを感じた。

 

だが……

 

「じぇ、ジェラルドさん! この子生まれてもう10秒以上は経つのに鳴き声1つあげません! それに意識はあるはずなのに呼吸も!」

 

「なんだって⁉︎」

 

「どうしたのですか?」

 

そこにセイロス聖教会の最高指導者であるレア様が来た。

 

「レア様……さっき生まれた俺の娘が……」

 

「私が見ます。その子をこちらへ」

 

産婆からレア様へとその子が移る。

 

「成る程……分かりました。この子に問題はどこにもありません。ともかくこの件は私に任せて下さい。ジェラルドは心配せずシトリーの様子を見てあげて下さい」

 

そう言ってレア様は部屋を出ていかれた。あぁは言ってもらえたものの……俺には不安しか残らない。

 

「大丈夫よジェラルド……レア様ならきっとあの子を助けてくれるから」

 

「シトリー……」

 

「だから私達もっ⁉︎ うっ⁉︎ くぅっ……」

 

「お、おい……どうしたらシトリー? おい……シトリー! シトリー‼︎」

 

急に苦しみ出すシトリー、それに対して嫁の名前しか呼ぶ事が出来ない俺と……冷静さを失ってあたふたする産婆しかここにはいない。

 

(やっと……やっと俺達にも幸せが訪れたというのに……)

 

俺達の出会いからここに至るまで様々な苦難があった。だがそれをどうにか跳ね除けて……それで漸くここまで来た。ここまで来たっていうのに……

 

(誰か……助けてくれ。誰か俺の嫁さんを……助けてくれ‼︎)

 

藁にもすがる思いで……シトリーの名前を叫びながら頭の中で助けを呼んだ。だが俺は良く知っている。どれだけ祈った所で天上の神々は助けてくれない。

 

(今まで……仕方がないとはいえ俺も人を殺してきた。その天罰が俺に来ずに……嫁さんに降りかかるなんて事……)

 

「誰か……俺への罰は俺が背負う……だから嫁さんの事を誰か……」

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……これは確かに重症だな」

 

俺は、あまりにも必死になり過ぎて気付かなかっただけかもしれないが……嫁さんの傍にいつのまにか全身黒色の衣装を着た男が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

「お、お前一体どこから……」

 

「僕がどこから来たかなんてどうでも良い。今はこの患者の容態が大事だ。スキャン」

 

ジェラルドはソーマがいきなり現れた事に驚くも、ソーマはソーマで患者優先の態度を取っていた。そしてスキャンが終わる。

 

「なるほど……大体分かった」

 

「お、俺の嫁はどこか悪いのか⁉︎」

 

「悪いからこの症状が出ている。しかしこれは病気ではない……どちらかと言えば呪詛の類だ」

 

「呪詛……い、一体……」

 

「それは今から彼女の体の中を見ればわかる事だ」

 

そう言ってソーマは懐からトランシーバーを出し……

 

「皆今執り行っている作業を一時中断せよ! 急患だ。対応1分以内、即時動け!」

 

『『『了解‼︎』』』

 

「さて、僕も準備をしよう。Place defined by evaluation(ここは僕の神聖な場所)

 

唱えた瞬間……部屋が変わった。ジェラルドとシトリーの寝ているベットは透明な何かで隔絶され、先程までの壁も純白な物に変わる。

 

そしてソーマの姿は……全身黒フードで纏っていたものが、どこか動きやすい格好に変わっていた。例えるなら手術ガウンを全体的に黒の装いにし、所々に青く発光するラインが描かれたものだ。そして雑菌が入らない為か黒いガスマスクの様なものも口につけていた。

 

それと同時に空間に穴が空き、そこから手術するための装いを施したアンドロイド隊と治療器具諸々が運び込まれた。

 

「よし、では患者を医療ベットに載せ換えるぞ」

 

「「「1,2,3‼︎」」」

 

シトリーがベットから医療ベットに移される。

 

「次に患者の衣服を割く。胸の部分以外はシートを被せろ。後人工呼吸器を装着させて麻酔の準備だ」

 

「はい!」

 

その準備も数秒かからず終わった。

 

「さぁ……今から君に巣食う病魔を祓おう。だから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「君はゆっくりおやすみ」

 

「うっ……んっ……」

 

シトリーはソーマの語りかけで、まるで子供が子守唄で眠るかのようにゆっくり意識を無くした。

 

「さぁ、それでは胸部を開いて治療をする。また今回はいつものような手術ではない。予想外な事にも対応できるように」

 

「「「はい‼︎」」」

 

「では始めよう。メス」

 

「はい!」

 

それからソーマの手術が始まった。シトリーの胸にメスが入る。そして皮膚が斬り裂かれた。しかし血はそこまで出ていない。そしていとも簡単にシトリーの心臓が見えた。しかし……

 

「こ、これはっ⁉︎」

 

その場にいたアンドロイド隊の1人が驚きのあまり声をあげる。

 

「ふむ……見た時から心臓にタンコブのような腫瘍がある事は分かっていたが……ほぅ、まさかこれ程までに珍しい症状だとはな。僕もこれは初めてかもしれん」

 

ソーマの言う通り、シトリーの心臓には丸い、直径10cm程の腫瘍がくっ付いていた。しかしそれだけに留まらず、その腫瘍はシトリーの心臓に糸のような管を何重にも巻き付いていた。まるで絞め殺しの木みたく、宿主の命を吸い取る様に……

 

「だがまぁ……

 

 

 

 

 

 

そこまで大したことでもない

 

それを見てもソーマは顔色を少しも変えず、手に持っていたメスでシトリーの心臓に巻き付いている管をいとも簡単に切り離した。それも僅か数秒の事である。

 

そして切り離された管はウヨウヨと動き、またシトリーの心臓に巻き付こうとしていた。

 

「往生際が悪い」

 

それもソーマによっていとも簡単に阻止され、シトリーの心臓からその腫瘍も切り離された。そして切り離された腫瘍は宙に浮かぶと、鼓動し始める。それが徐々に強くなっていくと、腫瘍の周りが光を帯び、そして室内を一瞬のうちに光で埋め尽くした。

 

その光量にはアンドロイド隊と透明な窓で仕切られていたジェラルドでさえも手で覆った。

 

光が収まるのを感じると目を覆っていた手を退けた。だが手を退けた先には……

 

 

 

 

 

 

『オ、オォォォォォッ!』

 

先程まで腫瘍が浮かんでいた場所に白い何かが蠢いていた。その白い何かは動き出す。まず前面を何かで覆っていたものが開いていく。それはどうやら羽のようなものだった。前面が露わになっていくと、次に現れたのは頭部らしきもの……全体的に角ばり、目にあたる部分は鋭い。やがて羽が全て開くと、そこにいたのは紛れもなくドラゴンの姿をしたものだった。それは上半身だけしかないものではあったが、体全体から白い霊気の様なものを放出し、まるで自分は神だと言わんばかりの存在感……それを見たソーマは……

 

「……クックッ」

 

俯いて身体を震わせていた。その様子を見たドラゴンも、目の前の存在はパンドラの箱を開けた絶望感故に笑っているのだと感じ、口元をニヤつかせて勝ち誇っt「クッハッハッハッハッハッハッハッ‼︎」……た顔をしていたが、目の前の相手の様子がおかしい事に気付くと怪訝な表情をした。

 

「いやぁ……これは予想していなかった。まさかこんな……こんなにも良い素材が転がっているとはなぁ!久々に胸踊ったぞ‼︎」

 

その顔は絶望でも何でもない。ただ歓喜に満ち溢れた顔をしていた。その表情に段々と何が起こっているのか分からないドラゴンが1匹……

 

「クックックックッ……全く、生きていると何が起こるか分からないものだ。それにしても僕は今日ここに来て本当に良かった! これで今まで以上に医学の進歩に繋がる‼︎」

 

目の前のこの人間は一体何を言っているのか? ドラゴンには全く分からなかった。分からないが……それと同時に身体の中から警告が出されていた。この場からすぐに逃げた方が良いと。

 

その直感に従い、先程勝ち誇ったかの様な顔から一転して焦りの表情で目の前の人間から離れようとすると……

 

 

 

 

 

 

待て、どこへ行こうとする?

 

『っ⁉︎』

 

身体全体にまるで自分と同程度の重りを付けられたと錯覚する様な威圧感がドラゴンを襲う。そしてその威圧を放っている者は……目の前にいる人間だ。この威圧は自分と同じ……いや、それ以上の神格を感じた。

 

「お前という存在は僕にとっては医学の進歩に通じるものだ。易々と逃がす訳がないだろう? だから大人しくしていろ。ホーリーランス」

 

ソーマが唱えると、床から光り輝く鎖が現れる。鎖の先は杭みたいになっていて、杭はドラゴンの両手両腕、羽の両方を貫き、鎖部分はドラゴンが身動きできない様に絡まる。

 

『グ、グォォォッ⁉︎』

 

「そして新鮮な素材は……新鮮なまま素早く運ばないとなぁ? ネガティブゲイト」

 

そして白い上半身だけのドラゴンは……ソーマの唱えた呪文によって白い鎖に繋がれたまま暗闇へと移送された。

 

「た、大変です! 患者の心肺が停止しました‼︎ 呼吸していません‼︎」

 

だが一難去ってまた一難(ソーマにとっては一難でも何でもなかったが)、あの白いドラゴンが完全にシトリーから離れたためであろう。少なくともあのドラゴンは、宿主の命を吸い取りながらも延命させていた様だ。

 

それをソーマが無理矢理引き離した事でシトリーの心臓は止まり、心肺停止になっていた。

 

「……」

 

その光景を見たソーマも、先程までの表情は消えて黙り込んでいt「この事態も想定済みだ」……どうやら考えがあるらしい。

 

「僕は元々この患者を助けに来たんだ。狼狽える必要などない。それに……」

 

 

 

 

 

 

「君達は僕の事を何年何十年と支えてきてくれた。僕はそんな君達がいるからこそ冷静に患者の治療に向き合うことができる。だから君達も……僕を信じてくれ」

 

「っ‼︎ はい‼︎」

 

(そう……あの時とは違う。患者を治療中に……一瞬のうちにして裏切られたあの時とは)

 

昔……僕がこの身体でなかったころだ。とある患者の治療中、主治医がミスをした。当時助手として付いていた僕は、これほどのものだったら直ぐに治せると進言した。しかし……

 

『いや、このまま閉じよう。何、これは大したものではない』

 

一瞬何を言っているか分からなかった。僕がどう言おうと主治医は閉じてこのまま手術を終えようの一点張り。そして僕が余りにもしつこかった為か最終的には僕に責任を取れと言って、他のスタッフも強引に連れ去られ、手術室は僕1人となった。

 

あの時は何とかなり、患者も無事助かった。その患者も無事退院した。結構患者の家族からもお礼を言われたことは覚えている。

 

後から聞いた話によると、あの件についてはいくらか裏があったようで、主治医が何故途中で手術を止めようとしたかについては……僕がその時所属していた病院の院長が過去にその患者の手術をしており、その際にミスがあったからだ。そのミスというのは……患者の患部を手術し終え、開いたところを縫合して元に戻した時だ。

 

院長は患者の患部に、血を止めるためのガーゼと鑷子をそのままの状態で閉じた様だ。だが気付いた時は後の祭りで、患者の体力はもう限界だった。だから院長はそのままにして患者を戻してしまったのだ。

 

それから数年後……その患者が来て、今度は時期院長候補が手術をしたといった感じだな。院長候補は前々から院長を落として自分が院長になる算段を考えついていた様だ。それで今回の事は棚からぼた餅みたく、自分の考えている方向に進みそうだったからこそ、手術を中断した様だ。

 

だが僕にとっては言語道断だ。その時院長候補がその思惑を抱いていたかどうか関わらず、僕は手術を続けた。勿論院長のミスの尻拭いもした様な結果になったが、僕としては患者が助かればそれで構わなかった。

 

結果的にその院長候補はその時の責任を全て負って辞職、院長候補の指示に従ったものは数ヶ月の謹慎、逆に僕は院長候補の代わりとして働かないかと院長に誘われたが……そんな面倒な事をしては患者との時間が無くなってしまうと言って断った。院長はそれを聞いて笑っていたが……

 

まぁそんな昔話はおいておいて……

 

(あんな屑な考えを持った人はここにはいない。だから僕は‼︎)

 

ソーマがシトリーの心臓を優しく掴むと、ゆっくりと……血流を身体全体に行き渡らせるかの様にマッサージをし始める。

 

「僕は……確かに先程のドラゴンを見た時、君の事を忘れて歓喜に陥った。それは深く反省しよう。やはりと言うべきか……僕の頭の中では医術の進歩が最優先で行われるらしい」

 

「だが僕は……ここに来る前に助けを求める声を聞いたんだ。君の旦那さんが……あんな厳つくて泣きそうにない男が、泣きながら助けを求めていたんだ」

 

「それと同時に……君の声も聞こえたんだ」

 

ソーマはシトリーに向けてそう語りながら心臓マッサージを優しく続ける。

 

「君は確かに口にしていないかもしれないが……それでも君の心の声を聞いたよ。『私はまだこんな所で死ねない』と。僕は確かに聞こえた。だから……」

 

「僕もこう言おう。君は……こんな所で死ぬべきではないと」

 

「君は自分の子を産んだだけで満足では無いはずだ。自分の子を優しく抱きしめたいはずだ。君の夫と、子供と、幸を望みたいはずだ」

 

「だから……戻って来い‼︎」

 

そのソーマの呼びかけは……幸を奏したのだろう。シトリーの心臓は自ら鼓動を開始した。それはソーマの手が離れても自ら動いていた。

 

「脈拍の安定を確認……これより開いた箇所は縫合して戻す」

 

そしてソーマの治療は無事に終わり、1人の人間の命が救われた。

 

 

 

 

 

side ジェラルド

 

 

 

 

 

 

 

俺は正直、目の前で何が起こったのか分からなかった。ただいつのまにか黒尽くめの怪しい奴がシトリーの側にいて、そしてそいつがシトリーを助けた。自分でも何を言っているのか分からないが……

 

確かに奴が、何か白い物を見た途端笑い出して俺の嫁さんをほっぽった時は流石に剣の持ち手を持っていた。それでも奴はシトリーを助けてくれたんだ。ちゃんとしたお礼をしたい。

 

「お前の妻……シトリーと言ったか? 彼女ならば僕の薬を投与して数時間は眠ったままだ。それもじきに目を覚ますが……。それとこれは処方箋……彼女の薬だ。用法もしっかりと説明書付きで載せてある。間違いのない様に使え。間違えて使った場合は治りが遅くなるからな」

 

その薬袋が入った物を俺に渡すと、そいつは何事もなかったかの様にその場を後にしようとした。

 

「ま、待ってくれ⁉︎」

 

「……何だ? こう見えて僕は忙しい。次の患者の元に行かなければならないのでな。要件があるならさっさと済ませろ」

 

「……その、何だ。もしあんたが来てくれなかったら……シトリーはきっと助からずに死んでいた。だから……礼を言いたいんだ。それと、助けた分に見合ったもんは今出せないが、今回助けてくれた報酬の分を……」

 

「報酬などいらん。そもそも報酬は既にシトリーから受け取っているし、僕は患者が助かっただけで満足でもあるんだ。だから礼なども本来いらない」

 

そいつは……とても変わった奴だった。他の医者ならば高値の金銭を要求する筈なのに……こいつは礼すらも受け取ろうとしない。

 

(だがそれでは俺も引き下がれん!)

 

「な、なら俺があんたに出来ることはないか⁉︎」

 

何も考えずにそう言った。

 

「……くどい様だが、僕は何かが欲しくて助けた訳じゃあない。患者の求める声を聞いてここに来たまでだ」

 

それでも奴は拒否をする。

 

「……だが、お前はそれでは引かないという事は少なからず理解した」

 

そう言うと、奴は懐から何かを取り出して俺に投げつけてくる。粗雑な投げ方ではなかったから片手でもキャッチできた。

 

「それは僕を呼ぶための合図を出してくれるものだ。1日1回だけ使うことができる。使い方はその1箇所だけ出っ張っている部分を押せば僕が来るようになっている。ただし……強い想いで押さなければ押せないものだ。だから何かにぶつけたとしても壊れないしその反動で押されることもない」

 

「どうして……こんな物を俺に?」

 

「僕に対して何かお礼がしたい様だったからな。いつまでも煩く言われるのは嫌いなんだ。だから渡したまでだ。それともう1つ理由をつけるなら……僕はあまりにも自分の研究に没頭し過ぎて引き籠りがちなんだ。だからそれを変えるための処置だ。あぁ、後もう1つ理由をつけるのなら……」

 

 

 

 

「お前が僕のパトロンになりそうだったからな。そうしたならば、また珍しい症状を僕に見せてくれると思った。これは僕の直感だな。長居し過ぎた。では僕は行くぞ」

 

そう言って奴は部屋から出て行った。

 

「……たく。言いたい事だけ言って行きやがった。だが……」

 

(奴とはまた会えそうな気がする)

 

それと……俺は奴が……いや、俺の嫁さんを救ってくれた相手に対して奴と言うのは失礼だな。あの通りがかりの医者が、とある文献に出てくるあの神に思えた。

 

「ソーマ・アスクレイ……その神に似ている気がするな」

 

まぁ何故そう思ったかは自分でも分からんが、俺の直感がそう言っている。

 

 

 

 

「そういえばもう1人患者がいるはずだが……今どこにいる?」

 

「うぉっ⁉︎ お、驚かせるな……。患者というと……」

 

「僕が感じ取ったのは赤子ぐらいの大きさだが」

 

「そ、それならさっきレア様が連れて行ったな」

 

「そうか。情報提供感謝する」

 

そう言って医者は部屋を出て行った。

 

(たくっ……驚かせてくれる)

 

そして嫁さんの方を見ると、さっきまでの苦しみが嘘だったかの様に安らかな寝息を立てていた。本当にあの医者には感謝しなくてもしきれない。

 

(そういえばアスクレイ教の騎士団長の席が空いていたな……レア様に頼んでそっちに移してもらうことにしようか)

 

ふとこう思ったジェラルドは、レアに自分をアスクレイ騎士団の団長にさせて欲しいと頼むも却下された。しかしながら兼任するのであればという条件の元、ジェラルドはセイロス騎士団とアクスレイ騎士団の団長を兼任したという……

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

side レア

 

 

 

 

 

 

(さっきの神格は一体?)

 

突然感じ取った威圧……自分に向けてのものでは無かったのだろうが、それでも感じ取った。

 

(どこかであの威圧を……っ⁉︎)

 

思い出そうとすると震えが止まらない……こんな感覚に陥ったのは、1000年前のあの時以来だ。

 

「い、いや……まさかそんな……彼が生きていると言うのですか?」

 

そんな訳がない……彼はネメシスと同じ人間の筈だ。そのネメシスも寿命で死んだ。ならば彼も……ネメシスよりも若かったとはいえ同じ人間であるならば死んでいなければおかしい。

 

 

 

 

 

 

 

「そこの女性、少し待ってもらいたい」

 

「っ⁉︎」

 

呼びかけられて後ろを振り向くと、そこには黒尽くめで顔もフードを被り、そして口元も鋭い嘴の様なもので覆っていた者がいた。

 

「あなたがその手に持つ赤子……息をしていないな。早急に手を打たねば死んでしまう。僕に診させて貰えないか?」

 

「あ、あなたがどこのどなたかは知りませんが、この子は私が治します!」

 

「いきなり現れた僕を信じることはできないのかもしれないが、僕は医者だ。さっき命の危機に瀕していた患者を治してきたところでもある。それにその子は既に数分も息をしていない。非常に危険な状態だ。このままでは目の前の命が無くなってしまう。そうなる前に……僕に治療をさせてくれ」

 

「で、ですから! この子は私がt「くどい」っ⁉︎」

 

「ほんの少しで終わる。スキャン」

 

その者の目が青く灯る。どういう原理か分からないが、それを考える間も無く彼の目は元の色に戻り、それと同時に懐から何かを取り出した。あれは……何か赤い液体が入った小瓶?

 

その小瓶の蓋を開けると、それを目の前で小瓶の口を下に向けて赤い液体をこぼし始めた。

 

(な、何をするつもりなのですか⁉︎)

 

そのままでは液体が地面に溢れてしまう。

 

そう思ったのですが、なんとその液体は宙に漂ったまま地面に溢れる事はありませんでした。そして漂っていた液体がいつのまにか突き出していた彼の手元に集まり、球体の様になりました。

 

「動き出せ……生命よ」

 

そう言いながら彼は私が抱いている赤子に球体を入れました。それから1秒と経たずに、赤子は息をし始めて泣き出しました。

 

「よし、これで正常だな。用は済んだ。僕は帰るとしよう」

 

そう言い残してそのものは去って行きました。

 

(あの者は一体?)

 

「しかし……懐かしい感じがしました。1000年前の……あの日々が」

 

私はいつのまにかそう口にしていました。

 

(ですが……いくら考えても答えなど出ませんね)

 

レアはその時考えるのをやめたが……まさか自分の予想が当たっているかなど、数十年後には思いもしなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out




ほんと前回よりも無茶振りになってしまいました。

そもそも自分でも「アスクレイ騎士団って何だよ⁉︎」って思いました。しかしながら書いたものは仕方ないのでこれからもこの設定は続けていこうと思います。

それと今回ジェラルドのお嫁さんの名前をリアと名付けましたが……作中でも名前が謎だったので勝手に付けました。私がただ単にそのルートへ行ってないからこそ、もしかしたら本当の名前が出ているのかもしれませんが……

また、セイロスとレアが同一人物であるという様な設定も、私が1週目しかしてないからな事でこうなっています。何週もしていて本当の事を理解している読者の方々には申し訳ありませんが、どうかこの設定でやらせていただきたいと思います……

〜追加〜

今回オリ主のお母さんとジェラルドを救う物語展開をしましたが、とある読者様の感想に答えたように、この作品自体本作前は時間軸がバラバラの設定で書かせてもらっています。理由としては、1週目では出来なかった支援値会話を2週目でどんどん開けているからです。ですので時間軸バラバラで書いています。ややこしくて申し訳ありませんが、どうかお付き合いお願い致します。


解説

・ホーリーランス

・ネガティブゲイト

どちらともテイルズ作品の呪文。しかし、やはりソーマが使うと効果が物凄く違ってくる。

ホーリーランスは光属性、ネガティブゲイトは闇属性の呪文。しかしホーリーランスには鎖などなく、ネガティブゲイトもどこかにものを移送する呪文ではない。







とまぁここまであとがきも書かせていただきましたが、明日は休みということもあって今から風化雪月してきます!

それではまた次回‼︎


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第5話 この馬鹿っ‼︎

この作品を書くまでに評価して下さった読者の方々

☆10 氷結竜ソフィーナ 様
☆9 ヴァント 様
☆7 タケト 様
☆1 本唯 様 反葉駄目太郎 様 ガム 様 ハーフシャフト 様

評価下さりありがとうございます‼︎

ちょっと最近はF○Oのイベントにかかりっきりでこちらの方などを疎かにしてますが……何とか頑張って書いていきます!

「……作者に治療が必要な様だな」

な、なんか不穏な言葉が聞こえた気が……


 

 

 

 

 

 

シトリーを助けた後、僕は専ら医術の進歩に励んでいた。シトリーに取り憑いていたあのドラゴンを僕の研究室に運び込んで色々と実験をしていたからだ。

 

まぁそんな事をして数ヶ月くらい経っている感覚がするが……

 

『グッ……ゴォ……』

 

そしてドラゴンの様子は……最初の時よりも大分大人しくなった。彼奴も彼奴で生にしがみつくのに必死だったのだろう。最初は暴れていたが、僕が環境を整えると徐々に大人しくなった。今では僕の実験に嫌な顔せず付き合ってくれている。というのも……

 

「さぁ、これが今日の分だ。よく味わうと良い」

 

『ガウッ』

 

何をあげているか? そんなの……魔物から取れる血肉と魔物に埋め込まれた紋章石の一部を与えているだけだが? なに? どこからそんな物を用意できるかだと? まぁ簡単に言ったら魔物もこちらの空間に迷い込んでくることがある。それも結構前からだ。

 

それを見つけ次第倒しているだけだな。見つけた途端、何故か嬉々としてA2が突貫して倒したそれをすぐに僕に見せてくれる。どうやら彼女はカウンセリング能力云々よりも戦闘能力の方が高いようだ

 

(まぁいつも9Sをボロボロにする時大剣を振り回してるからな……)

 

そして魔物を倒して僕の元に持ってきた時に、A2は必ず褒めろという仕草をしてくる。確かに迷い込んだ魔物がこの空間で我が物顔で闊歩するのは、僕としても非常に困るし許し難い。まぁもし魔物が僕の医療の邪魔をすると言うのなら……世界に存在する魔物全て僕が直々に滅ぼすがな?

 

でだ、被害が出ないうちに彼女が対処してくれるから僕もありがたい。だからこそ褒めてはいるが……正直この構図は、僕としては飼い犬が飼い主が投げたボールを拾って、飼い主の元にボールを戻しに来た時にヨシヨシされる……といったものに思えてならない。

 

まぁ頭を撫でているのは事実だが……その時にA2が物凄く嬉しそうにしているのを見ると……何故か僕の中でまだ撫でていたいという思いにもかられる。しかしながら……あまりし過ぎると何故か怒って僕の前から姿を消すが……何故だろうか?

 

それを、またどこから見ていたのか分からないが9Sが覗いていていつのまにかA2にフルボッコにされると……魔物が迷い込むとほぼその繰り返しだな。

 

(だがここにいて……医療以外でも退屈しないというのは事実だな)

 

僕は……いつのまにか最初1人きりでほっぽり出された空間に対して、そして周りにいる個性豊かなアンドロイド達に囲まれたこの時間に……愛着が芽生えていたようだ。

 

話が脱線してしまったが、ともかくそんなこんなで魔物の血肉と紋章石を得ている。

 

だが魔物といえど生物だ。当然死んでしまえば肉も腐る。一応冷凍保存や実際に自分も調理して食べてみたりもしたが……僕の口には合わなかった。それに魔物から取れる肉なども多いからな……あともう少しで冷凍庫の中もいっぱいになるところで、困っていた所に白いドラゴンがまるで時期を見計らっていたかのように現れて今に至る。

 

『グゥルル……』

 

「どうだ? うまいか?」

 

『グゥルグゥル』

 

どうやら喜んでくれているようだ。最初見た時は、まるで神みたくの神々しさを感じたが、今の様子を見るとまるで飼いならされたペットだな。来て数日なのにここまで懐くとは……

 

それに医術の進歩も、このドラゴンのおかげでかなり進んでいる。それも紋章絡みの医療が特に……

 

(これならばリシテアの無理矢理埋め込まれた紋章や縮んだ寿命に対しても早い段階で解決するかもしれん)

 

一瞬そう思いながらも、僕は医術の進歩のために実験をした。

 

しかしながらすぐ後……ソーマに不幸が降りかかる事を、ソーマ自身知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

side A2

 

 

 

 

 

(最近ソーマの様子がおかしい……)

 

確かシトリーって奴を助けたあたりから研究やら実験に没頭していて、顔色とかは普通に大丈夫な癖して偶にふらついて歩いている。

 

(まったく……他の奴の心配して自分の体の事は眼中にないんだから)

 

「少し様子でも見に行ってくるか」

 

私はソーマの部屋に向かった。

 

「ソーマ、いるか?」

 

部屋の前まで来た。大体ソーマがいるかどうかは、扉の掛け札で分かる。今は在室とあるから確実にいる事は分かる。そして声をかけたら直ぐに返事をソーマはしてくれる。

 

だが今日は少し待っても返事が返ってこない……

 

(どうしたんだ? 実験に没頭して聞こえていないのか?)

 

そんな事は一度もないと思うが……まぁ入らせてもらおう。

 

「入るぞ。返事をしないなんてどうし……っ⁉︎」

 

一瞬……私は思考が停止した。何故なら目の前に……ソーマが倒れているからだ。それとアタフタしているソーマがシトリーから回収したドラゴン。

 

「まさか……お前がやったのか!」

 

『グゥル! グゥルッ‼︎』

 

私が大剣をドラゴンに突き付けながら言うと、ドラゴンは必死に違うという意思表示をした。

 

「っ……今はこんな事をしている場合じゃない!」

 

私は倒れているソーマを背負って、デボルとポポルの急患治療室に向かった。

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

僕はどうやら……いつのまにか寝ていたようだ。しかもベットの上で。

 

(だが一体……)

 

「漸くお目覚めかソーマ」

 

「デボル……ここは?」

 

「ここはアンドロイド隊専用の病室だ。まぁここにはほぼアンドロイドしか居ないがな」

 

「……何故僕はここにいる?」

 

「原因は過労によるものだな。何日も寝てなかったんだろ?」

 

「そうなのか? 研究に没頭して気付かなかったな……」

 

「はぁ……私達に無理するなって言ってるくせして自分で気付いてないとか……医者としてどうなんだ?」

 

「それは……何とも言えんな」

 

「まぁ3日間は眠ったままだったんだ。皆すっごく心配したんだから、お小言の1つ2つは覚悟しとけよ?」

 

「そうだな……」

 

それからアンドロイド隊皆に僕が目を覚ました事が物凄い速さで伝わり、順次お見舞いに来てくれた。

 

2BとS9は一緒にお見舞いに来てくれて、体の調子はどうか? とか、あまり無理しないようにと念押しされた。

 

6Oは泣きながら僕の無事を確認して、最後にはデートの約束をさせられた。そうしないと許しません! と泣きながら言われたのから、僕は分かったと頷くしかなかった。

 

21Oは、心配そうな顔になりながらも僕を叱った。研究も良いですが絶対に休息は決まった時間取ってください、と。僕はそれに頷いて、次からは気をつけると約束した。

 

そして……

 

「A2……」

 

「……」

 

最後にA2がお見舞いに来てくれた。そういえばデボルから、ここに運んだのはA2だと聞いた。ならばお礼を言わなければ。

 

「僕の事をここまで運んでくれたらしいな。助かった。礼をi「馬鹿っ‼︎」……」

 

僕は……急に平手で殴られた。正直何故叩かれたのか分からなかったし、叩かれた直後は思考が停止した。

 

「お前……あのままだと死んでいたかもしれないんだぞ⁉︎ どうしていつもいつもそんな無理するんだよ⁉︎」

 

「……僕は無理だとは思っていなかったんだがな」

 

「そんなの頭の中でだろう⁉︎ 私は気付いてた! お前がここ数日偶にふらふらしながら歩いているのを……お前はそんな事気付かなかったろ! お前が何日も飲まず食わずで生きれる事は知ってる……でも空腹と身体の疲れは違うだろ⁉︎ いつもいつも私達にあまり無理するなって言ってるくせに……お前が無理してどうするんだよ⁉︎」

 

「……」

 

僕はそれに対して何も言えず……ただA2から言われる事を黙って聞いていた。何せ正論であるし、医者である僕がいつのまにか蔑ろにしていた事だから……

 

「……すまない」

 

「っ⁉︎ そ、そんな顔されたって許すわけないだろ‼︎」

 

正直僕が今どんな顔をしているかなんて分からない。だが、僕の顔を見ているA2からは、初めて見たって顔で驚きながらも許さないと言われる。

 

(……困ったな。こんな時僕は……どうやって許してもらえば良いのか分からないな)

 

今までは、確かに相手が怒った顔をしている時もそれはそれで困ってはいたが、それでもどうやったら許してくれるかを問えばそれで許してくれた。

 

しかしながら今回は……相手が泣きながら怒っている。A2が涙を流しながら僕を怒る……いや、これは叱ってくれているんだろうな。だからこそ僕は……この時どうやって許してもらえば良いのか分からない。

 

「どうやったら……許してくれるだろうか?」

 

それでも僕の口からは……許しを乞うような、そんな言葉しか出てこない。

 

(こんな事なら……医療の研究ばかりにかまけてばかりではなく、普段からかの子達との付き合いも積極的にしていくべきだったな……)

 

「どうして……そう言うばかりなんだよ。何で許しを乞うぐらいしか言葉に出来ないんだよ!」

 

「……人や、君達との付き合いよりも、医療の進歩にかまけていたからだろうな。だからこそ僕は……相手が怒っている時とかそんな言葉しか出ないのかもしれない」

 

「……なぁ、ソーマにとって私達は何だ? 私達はただ……ソーマの掲げる医術の進歩を手伝う……ただそれだけの関係性しかないのか?」

 

A2からのその問いに……僕は何故か胸が苦しくなった。

 

確かに最初は……この世界でただ医術の進歩をさせたいが為に彼女達を利用していた。ここに迷い込んでくる魂達を彼女達に任せて、僕は医術の進歩に力を注ぐ。ただそれだけしか考えてはいなかった。

 

「私は……ソーマに会っていなかったらあのまま壊れてたか……あの世界を記憶にないまま何回も繰り返していたかもしれない。私達は、ただ人間を繁栄させるための道具でしか自分達の生を見出せなかった。そんな私達をそこから……いつまでも続くような呪縛から解放してくれたのがお前なんだ!」

 

あぁ……確かにそうだったな。最初アンドロイドを作ろうとしたが、知識を持っていても技術がなくて四苦八苦だった。そんな時に、何の因果か彼女達がこの真っ暗闇の世界に迷い込んだ。それも壊れた状態で……

 

だから僕は、患者にいつもやっているようにスキャンをかけて、それで治すべき場所を見つけて処置をした。そこからだったな……彼女達との関係を築いていったのは……

 

「だからお前がもし……もし死んでしまったら私達は……私はどうすればいいんだよ⁉︎」

 

「……そうだな。何も……言えないな。僕が死んでしまった後のことなんて……責任など取れないのだから」

 

「だから、心配をかけて……すまん」

 

「っ⁉︎ この馬鹿‼︎」

 

僕の事を馬鹿と言いながらも……彼女は僕の事を勢いよく抱き締めてくる。僕の背中に手を回して、力を強く入れて僕を抱き締める。そんな力強さを感じるのに……彼女は震えていた。それで、抱き締めた事で決壊したのか嗚咽も聞こえた。

 

僕はそれに対しては……今この瞬間本当に彼女達と積極的に接していない事を後悔していた。正直何と言葉をかけて良いのか分からないのだから……

 

だから僕は……彼女の背中に腕を回して、そしてゆっくりと背中を叩きながら謝る事しか出来なかった。

 

それから数分してA2は泣き疲れたのか眠った。A2はデボルが今A2の部屋まで運んで行っている。

 

「これで分かったよね? 私達が貴方の事をどれだけ心配して、どれだけ想っているかを」

 

「……あぁ。痛い程にな」

 

「本当は……私も貴方の事を平手打ちしてどれだけ心配したか伝えたかったんだけど、でもA2が先にやっちゃったし、ソーマもよく分かった様だから」

 

「あぁ……僕は後悔してる。君達と……これまで積極的に接してこれなかった事を」

 

「でも、今からでも遅くないわ」

 

「……そうか?」

 

「そうよ。だからまずは……」

 

ポポルが僕の頭を少しあげる様に指示をする。何だろうと思うが、ここは素直に従っておこうと頭を上げた。するとポポルはさっきまであった枕をどかして、代わりにそこで俗に言う女の子座りになった。

 

「……何を?」

 

「良いから。私の太ももに頭を乗せて」

 

僕はポポルの意図が分からなかったが……今回迷惑をかけたのもあって従った。

 

「んっ……」

 

「どうした?」

 

「な、なんでもないの……気にしないで」

 

「そうか……」

 

ポポルは何故か顔を赤くしていたが、どこも悪くなさそうだから何も言わなかった。

 

そうやってぼぉっと考えていると、頭をゆっくりと撫でられる。

 

「ふふっ、とにかく貴方はまだ病み上がりなんだから今は休んで。ね?」

 

「……あぁ。そうさせてもらおう」

 

しばらくそうしてやられているが……すぐに睡魔が襲ってきた。それに……

 

(何故だろうな……物凄く心地いい。遠い昔……僕が忘れたはずの感覚が……)

 

「おやすみソーマ。ゆっくり休んでね」

 

そんな声が聞こえて僕は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は風花雪月に登場した人物を助ける回ではありませんでした。期待して下さった読者の皆様……大変申し訳ありません……

次は誰か助ける予定です。まぁ誰を助けるかは……ゆっくり書きながら考えていこうと思います。

それではまた次回お会いしましょう!


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6話 この僕が……引き籠りだと……

今作までに評価を付けてくださった読者の皆様

☆10 白霧 剣 様
☆9 れすぽん 様
☆7 有限少女 様
☆2 トゥ∽ 様
☆1 ロンゴミ星人 様 fv304 様

また短期間のうちにこれだけの評価をして下さったありがとうございます‼︎

それでこれだけ遅れた理由は……まぁ風花雪月の2週目をじっくりやってたのと、FG○のイベントをギリギリまでやっていたからですね……

それと、読者の方からの指摘で『年代を入れて欲しい』との事だったのですが……まだ修正出来てません! 申し訳ないです……

では、今回はソーマが倒れた後の事を書きます! ネタバレにはなりますが……新しいキャラクターが出てくるかも……とだけ言っておきます。

それでは、どうぞご覧下さい。


 

 

 

 

 

 

僕が倒れて目覚めた2日後、漸く元の業務に戻った。アンドロイド隊達からはまだ休むべきだと言われたが……僕としては医療の進歩のために立ち止まるわけにはいかない。という事でまた研究に戻ったのだが……

 

 

 

 

「ソーマ、時間です。ここで休憩にしましょう」

 

「いや、まだいk「ソーマ?」……分かった」

 

「良い子ですね。後でヨシヨシしてあげましょう」

 

 

 

会話から分かると思うが、最低1人僕に見張りがついた。理由は言わずもがな、僕が研究に没頭しすぎないようにだ。

 

(にしてもヨシヨシってなに?)

 

流石に僕もA2にビンタされて、今のやり方ではまた同じ事の繰り返しになりそうだったために時間配分も自分で決めるようにしたが……

 

「これだと前と同じじゃ無いですか⁉︎ ダメです! やっぱり私達がソーマさんの事を見る体制を整えないと‼︎」

 

と、6Oに言われた翌日からこうだ。そして今は21Oが僕の側で見ている。

 

「体調はどうですか?」

 

「あまりいつもと変わらないな」

 

「そうですか。無理をしていないようで何よりです。お茶が入りましたのでこちらをどうぞ。後お菓子もありますから」

 

僕はいつのまにかセッティングされた席に座り、そこで21Oからお茶を振舞われる。

 

こんな事をいつのまに覚えたのかを聞いたら……どうやら外の世界で貴族がお茶などの作法を大事にしているからとかで、それを独学で学んで今に至ると。

 

(にしても……独学にしては美味しいな。それにお菓子も)

 

「あの……どうですか?」

 

「ん? あぁ……美味しいよ。それに用意してくれたお菓子も」

 

「そうですか。お口にあって何よりです」

 

「だが、このお菓子はどこから用意してきたものだ? 流石にこの真っ暗闇の世界に露店などないが……」

 

「お、お菓子は……私が作りました」

 

「そうなのか? しかしながら材料は無いと思うが……」

 

「それもこちらで用意したんです。アンドロイドの中には農耕が好きな者達もいますから……だから頼んで必要な分だけ準備してもらったんです」

 

「い、いつのまに……」

 

「ソーマが研究に何年も没頭している間にです。それも何十年も前から……そこまで優先事項も高くは無いので報告は今更になりましたが……勝手な事だったでしょうか?」

 

少しだけ21Oが申し訳無さそうな顔でそう言ってくる。確かに早い段階で報告して欲しいと思うが、僕もやってしまったからな。強くも言えない。それに……

 

「いや、とても良い事だと思う。僕は他の知識があるにしても、それをするだけのノウハウが無いからな。それを君達が、僕の指示なく自分達の意思で好きにやっている。それはとても喜ばしい事だと僕は思う」

 

「それに、君達がそうしてくれたおかげで僕も久し振りに……こんなゆっくりした時間を過ごせるんだ。褒めることはあれど咎めることなど何もないさ」

 

「な、なんだかホッとしました」

 

「僕がそれぐらいの事で怒るとでも思ったのか? 僕は……患者が薬の用法を間違えて使用したり、命を何も思わずただの物として……そして自分の益だけの為に他者を蔑ろにする存在に対しては怒りを覚えるが、今回の事は寧ろ喜ばしい事だ。だからこのお菓子とお茶を淹れてくれた君に感謝している。それとこの材料を用意した子達にも感謝していたと伝えて欲しい」

 

「それはソーマが直接伝えるべき事です。研究も良いですが、あの子達にも関わってあげて下さい」

 

「……そうだな」

 

「えぇ。ソーマが幾分か素直になった様で私は嬉しいです。そんなソーマにはヨシヨシしてあげます」

 

そして僕は21Oに頭を撫でられた。しかしこれには何の意味があるのだろうか? まぁ何故かこうされていて落ち着くから僕は何言わないが……

 

(それにしても……こうされていてあの時を思い出すな)

 

確か……前世で僕の両親が死んで、その後親戚に預けられて幾日か過ぎた時だったな……

 

「ソーマ? どうかしましたか?」

 

「いや……材料とか用意した子達にどう言葉を投げかけるかを考えていてな」

 

「いつも通りで私は良いと思いますよ? 何しろ皆……貴方に感謝する者達ばかりなのですから」

 

「そうか……なら普通にしようか」

 

「えぇ、そうして下さい。それと……」

 

「ん? なんだ?」

 

「その……ソーマの事を抱き締めても良いですか?」

 

どうして21Oが僕にそうしたいと急に言い出したのか……やはり僕には分からない。これだったらもっと早くに、研究に没頭するだけでなくアンドロイド達ともっと接しておくべきだったな。

 

 

そんな一幕が約数時間前で、僕はアンドロイド隊を皆集めている。理由としては、これからの事を話す為だ。まぁ魔物が最近ここに迷い込む事もあるから、哨戒中のアンドロイド隊はそのまま哨戒に出てもらっているが、後でそれも共有する。

 

「仕事の途中だと言うのに、急な呼び出しですまない。今回僕が皆を集めたのは、これからの事を話す為だ」

 

「これからの事ですか?」

 

「あぁ。僕は、医術の進歩のためにここで医学の研鑽や、それを支える機械などを作ってきたが……思うところがあってな」

 

「思うところ?」

 

「あぁ。今更ながらだが、僕は医術の進歩と言っておきながら、あまり外の世界に発信していないと思ってな。だから思い切って拠点をここから外の世界へと移そうと思っている」

 

「た、確かに今思えば……ソーマさん私達が来た時からここに引き篭もって研究してましたもんね」

 

「引き篭もり……」

 

何故だろう……その言葉を言われるだけで心にグサッとくる物があるな。

 

「そういえば引き篭もりというとこの前とある映像をみましたよ? 何でもとある貴族が自分の子供に対して英才教育をしたものの、それが返って引き篭もりになったってものが」

 

「ほぅ……その話をもう少し詳しく教えてくれて」

 

「え、えぇ。良いですよ」

 

ふむ、カウンセリングは苦手だが……これも医術の進歩のためだと思えば何とかなるだろう。それに最近は引き篭もり気味だったし……

 

(ん? 結局大事な話の途中だったはずなのにまた違う話になったな……)

 

6Oから話を聞いた後でまた大事な話に戻りました……

 

はてさて……今回は誰を治療(救い)に行くのやら……

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

帝国歴1172年

 

 

 

今日も日が沈んで街に明かりが灯る。煙突がある家からは煙が立ち上り、所々で賑やかな笑い声が溢れ出す。

 

そして街の中にある1番大きな屋敷も例外ではなく、各部屋ごとに明かりが灯っていた。

 

しかし他と違うとするならば……とある部屋だけぼんやりと明かりが灯る程度であった。その部屋では……

 

 

 

 

 

「ふっふふっふふーん♪ ふんふんふーん♪」

 

と、なんとも可愛らしい鼻歌を歌いながら少女がなにやらしていた。どうやら糸と針、そして布などを使って何やら作っているようだ。

 

女の子であるならば、イメージとして可愛い人形などを作ったり、そして人形を着飾るために専用の衣服を作るなど……勝手ながらそんな光景を思い浮かべてしまう。

 

「えっへへ! できたぁ〜」

 

縫っていた糸を切って針を置いた少女の手にあったもの……それはとても可愛らしい女の子のにんgy「今日も可愛い食虫花が出来たなぁ〜」……食虫花であった。

 

よくよく部屋を見渡せば、可愛い女の子の人形などどこにもなくその代わりに他の食虫花や動物の縫いぐるみがあった。少女が出来たばかりの食虫花を空いたスペースに飾ろうとした時……

 

キュルルル……

 

「あっ……」

 

多分少女のお腹が鳴ったのだろう……なんとも少女らしいと言えば少女らしいお腹の音だ。

 

(そ、そういえば今日もお昼から引き篭もって何も食べてないんだった……でも今から食べに行くのも遅いし……)

 

「何よりお父さんに会いたくないなぁ〜」

 

そう、この少女はとある問題を抱えていた。それは重度の引き籠りである。その要因になったのは彼女の父親にある。彼女も由緒ある貴族の生まれであるが、何かと父親の教育が厳しかったのもあり今に至る。

 

最初は彼女も父親の想いに応えようとするが、中々成果を出すことが出来ず……それに父親が厳しく叱咤した。時には愛の鞭として手を出したこともあっただろうが、父親としては我が子がちゃんとした貴族として振る舞えるようにである。

 

だがそれがいけなかったのだろう……彼女は引き篭もりになってしまった。そんな姿を見て父親も我が子への興味が無くなったのか、それ以来彼女に対して教育をしなくなった。

 

だからこそ彼女は父親が嫌いであり、いつのまにか人と接するのも苦手となり、数年も引き籠る状態となっていた。

 

「あぁ……でもお腹が減ったなぁ〜……明日の朝まで何も食べないのとかもたないよぉ〜」

 

「そうか。それは確かに辛いな。あまり気休めにはならないかもしれないがこのお菓子を食べると良い」

 

「あっ、それはどうもありがとうございます」

 

彼女はお菓子を受け取って口に入れた。

 

「っ! んん〜っ‼︎ おいしぃ‼︎」

 

「そうか。それは良かった。なにぶんお菓子作りは初めてだったのだが、どうやら美味しく作れていたようだな。まぁ数はまだあるから遠慮なく食べると良い」

 

「あ、あなたは神様ですか〜⁉︎ こ、こんなベルに初対面で優しくしてくれるなんてぇ〜⁉︎」

 

「ん? 神ではないが……まぁ通りすがりだな」

 

「そ、そうなんですかぁ……。でも嬉しいです! このお菓子まだ食べても良いですか?」

 

「勿論。遠慮なく食べると良い」

 

「あ、ありがとうございます‼︎」

 

そして彼女は通りすがりから貰ったお菓子をまた1つ、2つと食べていった。そして3つ目にさしかかろうとした時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、あなた誰ですかぁぁぁぁっ⁉︎」

 

「今更だな」

 

彼女は今の状況に漸く気付いたようだ。

 

「あ、ああああなた、ど、どどどうやってここにぃっ⁉︎ 扉も窓も締め切って誰も入らないようにしてたのにぃ〜っ⁉︎」

 

「どうやって? 普通に僕が作ったドアからだが?」

 

「そそ、そんな事を聞いているんじゃないんですぅ〜っ⁉︎ べ、ベルに何をするつもりかって話ですぅ‼︎」

 

「君がさっき言った質問の意図とまるで違うような気がするが……まぁ良い。単刀直入に言おう。君に(治療という面で)興味があってきた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

「ど、どどどどういう事ですかぁ〜⁉︎ べ、ベルに興味を持ってどうしようっていうんですかぁ〜⁉︎ ま、まさか私のことをとって食おうとかって、そう思ってますよね? いえ、絶対そうですぅ‼︎」

 

「ん? 何故僕が君の事を食べないといけない? まだ会って初対面だろう? 何故そう行き着くんだ?」

 

「初対面だからですよぉ〜⁉︎ ベルの事を誰かから聞いて、その誰かがベルの事を邪魔だと思って消そうとしてるんですぅ〜! そ、それでその依頼を頼まれたのが、い、今ベルの目の前にいるあなたのことなんですぅ! でもベルは食べても美味しくなんてないですっ! だからやめてくださいぃ‼︎」

 

とまぁ、僕の目の前にいる彼女は壮大な早とちりをしていた。

 

(にしてもこれは重症だな……ある意味治療が必要だ)

 

だが彼女はどこか身体が悪い訳ではない。これは僕が苦手とするカウンセリング方面で、心が傷付いている状態だ。

 

(だが僕もいつまでも苦手だからといってそのままにするのはダメだな)

 

「まぁまずは落ち着いて欲しい。自己紹介からしていこうじゃあないか」

 

「じ、自己紹介……ですか?」

 

「そうとも。僕は……そうだな。アスレイ、とでも呼んでくれ」

 

「アスレイさん……ですか? でもそう呼んでくれって事は……偽名なんですか?」

 

「一身上の都合というものだな。僕も本名を名乗りたいところだが……何かとこの名前を出すと面倒だと自分で思っているからね。だが名前がなくては、こうやって会話をする時に困るだろう? だからこの場ではアスレイと、呼んでくれ」

 

「な、なんだかよく分からないけど、わ、分かりました。わ、私はベルナデッタって言いますぅ!」

 

「ベルナデッタか……よし、覚えた。それでベルナデッタ、そもそも君をとって食べるのなら態々お菓子など与えず君を襲うだろう? 現に僕は君に気付かれる事なく近くに来れたのだから」

 

「た、確かに……で、でもでも! ベルが油断したところを……」

 

「それもない。そもそも僕をなんだと思っている? 確かにいきなり現れた時点で100%怪しいと自分でも理解しているが、だが僕は君を害さうと思ってここにいるわけではない。さっきも言っただろう? ベルナデッタ、君に興味があってきたと」

 

「べ、ベルに興味を?」

 

「そうだ。君は見たところ……重度の引き籠りの様だな」

 

「っ! た、確かにそうですけど……」

 

「その原因としては……まぁ人間関係、特に君の親が関わっていると思うが、今回はそれについてをとやかく言いにきたわけじゃあない。少し僕の話でもしてみようと思ってな」

 

「あ、アスレイさんの話をですか?」

 

「あぁ。僕には……この命を賭してでも叶えたい夢があるんだ」

 

「夢……ですか?」

 

「そうだ。だが僕はそれをしようと熱心に研究していたら……いつのまにか引き籠りになっていたんだ。僕はそう信じたくはなかったが、周りの者から口々にそう言われたさ」

 

(まぁそれもさっき言われたばっかりだがな)

 

「あ、アスレイさんがベルと同じ引き籠りですか⁉︎」

 

「あぁ。昔はまだ良かったが……最近だと特別な事以外では全く外に出なくてな。それにこのままだと、ただ研究するばかりで僕の望みも叶えられないと思った」

 

「だからそろそろそんな生活もやめて、僕の夢を叶える準備をしようと考えているんだ。本格的にな」

 

「そ、そうなんですか⁉︎ で、でもそう簡単に引き籠りをやめるなんて……」

 

「僕には……既に外に飛び立つ覚悟は出来ている。後は……今の所を管理できる者を探しているところだ。まぁそれも何とかなるだろう」

 

「そ、そこまで考えているなんて……アスレイさんって凄いですね……。それに比べてベルは引き籠もってばかりで外に出ようなんて」

 

「別に引き籠りを急にやめろとか、そんな事はないと思うが? 人など、いつどのタイミングでどう変わるかなど分からんからな。だからベルナデッタも……無理して変わる必要などない。そんな事をしてしまった方が、逆に心が傷ついてしまう場合もあるからな」

 

「あ、アスレイさん……」

 

「それにベルナデッタは引き籠もってボーッとしている訳じゃあないんだろう? さっきまでそのぬいぐるみを作っていたその集中力は、誰でも真似できるものじゃあない」

 

「えぇっ⁉︎ でもこれは趣味で……」

 

「趣味でもそこまで集中力が続く者など数える程しかいないだろう。それにベルナデッタはいつからやっていたんだ?」

 

「え、えぇっとぉ……お昼過ぎからですかね?」

 

「それはハッキリ言って凄い事だ。誰にでも簡単に真似できるようなものではない。それに貴族とは、お昼を取っていくらかしたらお茶を嗜むというじゃあないか。ベルナデッタはそれをせずに今までやっていたんだろう? なら僕は君の集中力の凄さは驚嘆に値する事だと思っている」

 

「ほ、本当ですかっ⁉︎ で、でもベルはいつもぬいぐるみを作ってばかりでそれ以外の事は……」

 

「何を落ち込む必要がある? 君はもう少し、自信を持った方が良いと感じる」

 

「じ、自信ですか?」

 

「そうだ。君には……確かに不向きな事が多いと僕も思う。だがそれは他の人だって一緒で、誰にだって誰よりも苦手な事が1つ2つあるものだ。だから度々何かで気を落とす必要などないし、それを後ろ向きに考える必要もない。君は……君が思っている以上にできる事があるのだから」

 

「ベルが……思っている以上に?」

 

ベルナデッタはアスレイの言葉で思慮する。それはこれまで父から受けた英才教育についての事で……

 

『何故お前はこんな事が出来ないのだ⁉︎』

 

時には貴族としてできて当然の基礎を叩き込まれるも、何回やっても出来ず叱られ……

 

『違う! そこはこうだ! もう1回‼︎ できなければご飯抜きだ‼︎』

 

時にはとある所作が出来なければご飯抜きと言われ……

 

『何回そこで間違えたら気がすむ‼︎』

 

社交ダンスの練習では何度も同じ箇所を間違えて足や腕を叩かれたり……

 

(……ベルは何も出来ないんだ)

 

何回もそれを経験する内にベルナデッタの自信は無くなり、やがて自分の部屋に籠った。そうした方が……これ以上自分が父親から期待される事も傷つくこともないから。

 

 

 

 

 

 

 

『さっきまでそのぬいぐるみを作っていたその集中力は、誰でも真似できるものじゃあない』

 

だが、不意に現れたアスレイの言葉は……

 

『僕は君の集中力の凄さは驚嘆に値する事だと思っている』

 

初対面でありながらも彼女の傷ついた心を少しずつ癒し……

 

『何を落ち込む必要がある? 君はもう少し、自信を持った方が良いと感じる』

 

彼女の心を叱咤激励し……そして……

 

『君は……君が思っている以上にできる事があるのだから』

 

その言葉で……彼女は、父親からの暴言暴力とも取れる言葉から解放されたような気がした。

 

 

 

「本当に……本当にベルは自信を持っても良いんですか?」

 

ベルナデッタは……瞳に薄っすらと涙を浮かべながらアスレイに問う。そしてアスレイは……

 

 

 

「あぁ。君は自信を持っても良い。ベルナデッタ……君には君にしか出来ないことがあるのだから」

 

「っ⁉︎ うぅぅぅっ……そう、言ってくれるのは……あなたが初めてですよ。ベルの事を……そんな風に言ってくれる人なんて」

 

「そんな事はない。僕はただ君に会うタイミングが早かっただけだ。僕が来なくても、君にそう言ってくれる人はいただろう」

 

「いぃえ……アスレイさんの言った事が例えそうだったとしても……ベルに同じ言葉でそう言ってくれる人なんていません。アスレイさんの言葉だからこそ、ベルは今とても嬉しくて、少しだけですけど……自分に自信を持とうって思えるようになったんです」

 

「だから……ありがとうございますアスレイさん! ベル、少しだけでも変わっていきます‼︎」

 

「あぁ。でも急に変わりすぎる事はしなくても良い。自分なりの自分のペースで良いからな」

 

そう言いながらアスレイはベルナデッタの頭に手を置いて優しく撫でた。

 

「あっ///」

 

急な事でベルナデッタは赤面して俯いてしまう。

 

「どうした? どこか具合が悪いのか?」

 

「い、いぃえいぃえ⁉︎ そ、そ、そんなことないですぅ〜⁉︎」

 

「何故最後が疑問に聞こえるのかは分からないが……にしてもベルナデッタ。髪が乱れているな」

 

「あっ……こ、これは……普段はメイドの人達がやってくれていたんですけど……引き籠りになってからは誰も部屋に入れてなくて……」

 

「ふむ……分かった。ならそこに腰をかけてくれ。専門ではないが僕が髪をといてやろう」

 

「えっ? えぇぇっ⁉︎ そ、そんな! 悪いですよぉ‼︎」

 

「そう言うな。僕がやりたくてやるのだから」

 

「で、でもぉ……」

 

「とにかく、そこに座ってくれ」

 

「わ……分かりました」

 

ベルナデッタを座らせたアスレイは、どこからか取り出した櫛を手にして彼女の髪をときはじめた。しかしながら最初から櫛でとくと髪が傷んでしまう事も考慮して、手櫛で彼女の髪をほぐすようにとかした。

 

「ひっ⁉︎」

 

「どうした? 痛かったか?」

 

「い、いえ……少しくすぐったかったものですから……」

 

「そうか。だがそれもじきに慣れる。少しだけ我慢してくれ」

 

「は、はい……」

 

そして彼女はアスレイのなすがままに髪をとかされる。しかしそれが数分も経てば……

 

(あぁ……気持ちいいなぁ〜)

 

ベルナデッタは目を細めて、初めて経験する至福の時間を過ごした。後ろ髪から段々ととかされていって、最後の仕上げでアスレイは全体を優しく櫛でといていった。

 

「さぁ、これでできたぞ」

 

「あ、ありがとうございました。す、すごく気持ち良かったです///」

 

「そうか。それと鏡で今自分がどうなっているかを見てみると良い」

 

「……っ⁉︎ こ、この鏡に映っているのは本当にベルなんですか⁉︎」

 

「そうとも。これが今の君だ。髪を直しただけでこんなにも違って見えるだろう?」

 

「は、はい!」

 

「やっと……自信がこもった顔付きになったな」

 

「えっ?」

 

「外見を整えるだけでも、普段の在り方というのは変わるものだ。髪型を整えただけでも、なんだか自分に自信がついたと思わないか?」

 

「た、確かに……」

 

アスレイの言葉にベルナデッタは頷いた。

 

「ふむ……そろそろ行く時間か」

 

「えっ? どこかに行っちゃうんですか?」

 

「あぁ、僕にもやらなければいけない事があるからな。だが……」

 

アスレイは懐から何やら取り出してそれをベルナデッタち渡した。

 

「もし……君が何かで挫けそうな時は、それに念ずれば良い。そうしたら……いつでもと言うわけではないが、また君の前に現れよう」

 

「ほ、本当ですか⁉︎」

 

「あぁ。では……またな。それとそこにあるお菓子は全て食べても良いものだ。よく味わって食べると良い」

 

そう言ってアスクレイはベルナデッタの目の前で扉を作りそこに入った。そして入ったと同時にその扉もなくなった。

 

「ほ、本当に目の前に扉を作って行っちゃった……」

 

ベルナデッタは、アスクレイが嘘を言っていないと改めて思った。

 

「でも……とても優しい人だったなぁ。あっ、そうだ! 忘れないうちにアスレイさんを描こうっと‼︎」

 

そう思い立ったベルナデッタは、すぐに髪と筆を取り出して描き始めた。今日の……今まで弱気でいた自分を、少しでも変えてくれたきっかけを作った恩人と出会った記念に。

 

しかしその絵が、まさか伝記として描かれてあったソーマ・アスクレイと似ていると気付くのは……まだ先の話である。

 

 

 

 

 

 

一方のソーマは……

 

「ふむ……医療に関してしか興味のない僕が……まさか他の事も楽しいと思えるとはな」

 

(まぁカウンセリング云々はまだ苦手だが……)

 

カウンセリングは別問題であるが、他の事もたまにはやってみても良いと思ったソーマだった。

 

「ソーマさんおかえりなさい!」

 

「ただいま6O。僕がいない間に何かあったか?」

 

「いいえ、特に何もないですよ。後、巡回中のアンドロイド部隊の皆さんももうすぐ帰ってくるはずです」

 

「わかった。なら僕はそれまで少し休んでおくか」

 

「分かりました。では私がお茶を淹れてあげますね!」

 

「ん? 6Oが僕にか?」

 

「そうですよ? 私だって、見様見真似ですけどそれっぽい形になってるはずです!」

 

「そうか。なら僕は期待して待つとしよう。後は……外に本拠地を移したとしてここの管理をどうするかだな」

 

エーデルガルトについては、既にいくらか送っても大丈夫そうな貴族の有力候補を絞っている段階だ。後もう少しで結果も出てくるだろう。エーデルガルトの兄弟達もその様に手配したが……何故かそれを拒んで僕の元に居たいと言う。1回断ったが、それでもめげずに言うものだから……ならばと言う事で条件付きではあるが、彼らの申し出を承諾した。まぁその条件というのも……僕の医術を世界に広める手伝いをして欲しいというもので、元より彼らもそうするつもりだったようだ。

 

それをしてもらう前に……彼らにはしっかりとした大人になって貰いたい。ヤブ医者の様な者にはなって欲しくないからな。だからこそ、後数年したら外の世界で勉学などを学べる学校というものに通わせようと思う。

 

確かに僕達でも教養などを教える事ができるが……それではダメだ。誰か1人でも頼れる者がいないと後々困ると僕は知っているからな。だからこそこう考えている。

 

『こちら循環部隊より緊急連絡! ソーマ様聞こえますか⁉︎』

 

僕がそう思っているところに、連絡で巡回部隊のリーダーを務めている者から焦っている様な声を聞いた。

 

「どうした? 何か手に負えない様な事でも起きたか?」

 

『い、いえ……そういう訳では無いのですが……ただ』

 

「ただ?」

 

『わ、私達と同じアンドロイドを壊れた状態で発見しました。それも……これは司令官タイプのものであると……』

 

「……分かった。ならば回収次第僕のところへ運んでくれ」

 

「ソーマさん? どうかしたんですか?」

 

「あぁ、巡回中の部隊が壊れたアンドロイドを見つけたと報告してきてな。それも司令官タイプのな」

 

「えっ? そ、それって……」

 

「前の世界にいた上司の可能性がある……か。まぁそれも見たら分かることだろう。ともかくお茶はまた今度にしよう。そのアンドロイドとやらを治療せねばな」

 

ソーマは外の世界から戻った足で、緊急治療室へ歩を進めた。

 

 

 




読んでくださってありがとうございます!

まぁ結果的に風化雪月のキャラクターを出す事になりましたが、まさかこの様な形で出すとは……私自身も思ってませんでしたね。

というよりもまたなんというか……複雑な展開になってしまいました。

しかもまさかの支援関係でいうと、一切無しから支援値Aまで上がるという……会ってそこそこの会話でそんな感じになってますね。まぁ他の話もそんな事になっていると今更ながら思います。

さて、次はいよいよ本腰入れて外に拠点を移す話を書いていきたいと思います。

それではまた!


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7話 新たな仲間(管理職) そしてエーデルガルトのお願い

6話〜7話までの間で評価をして下さった読者様

☆9 むらさき君 様

評価して下さってありがとうございます!

それにしても今月に入ってからは少々ペースが落ちてしまっており、この物語を楽しみに待って下さっている読者の皆様には申し訳ありません。

漸く新しい話をかけましたので、どうかご覧下さい。


 

巡回中のアンドロイド部隊が持ってきた壊れたアンドロイド。それが僕の目の前にある。しかしながら人の形を保ってはいない。手足が千切れ、胴部分も所々欠損がある。

 

これを見てしまえば、誰もが治すことは出来ないと口を揃えて言うだろう……

 

「この程度容易い……」

 

僕には医術の知識の他に、他の知識も持っている。その1つがロボットのメンテナンスが出来る知識だ。それもこの何十年……はたまた何百年と経っているかもしれないが、既にアンドロイド達を何回も診てきた。だからこそ、どれだけ壊れていようが僕には関係ない。

 

(そもそも9Sが頻繁にボロボロにされるのを診てきているからな)

 

場合によっては今の様な状態の9Sも診てきた訳で……こんなのどうって事はない。それにこちらにはデボルとポポルがいる。彼女達ほどアンドロイドなどのメンテナンスが出来る人材もいない。彼女達が補佐してくれているおかげで、僕も迷わずに治すことができる。

 

(……よく今まで9S生きてたな)

 

今更ながらそう思う僕がいるな。よくあれで生きていると思うよ。しかしA2ももう少し加減できないものか……

 

ソーマがそう思いながら目の前のアンドロイドを治していく。デボルポポルも、ソーマの次の動きが分かっているかの様にサポートしていく。そしてそこまでの時間も要さず、目の前のアンドロイドは人の形を取り戻した。

 

「そして今再び命を宿す」

 

ソーマは診察台に横たわるアンドロイドの真上で両手を掲げた。すると、ソーマの近く、台の上に置かれていた何らかの素材がソーマのかざす手に集まりだした。その中には、先日シトリーの手術をした際に捉えた白いドラゴンの血も含まれていた。それらは混ざり、やがて赤い液体ができると、その液体を覆う様に透明な丸い膜が出来た。

 

(これは確かに僕が……アスクレピオス本人が再現した様な真薬ではない。現代よりも少し性能が良いAEDみたいなものだ。そして……僕は目の前のアンドロイドに、この薬がどの程度効くかの効能を確かめる為に利用する様な……そんなクズにも見える)

 

「だが、助けられる命を……僕は見捨てたくない」

 

例えその者が死んで一定時間経っていたとしても……助かる見込みがあるのならば救いたい!

 

倣薬・不要なる冥府の悲嘆(リザレクション・フロートハデス)

 

ソーマは球体をゆっくりと横たわるアンドロイドに近付け、そして浸透させる様に入れ込む。

 

「再び芽吹け、生命よ」

 

完全に入ると、球体を入れた所から体全体にかけて赤い波紋がまるで信号を発信しているかの様にアンドロイドの体を伝わっていく。それが徐々に収まっていった。

 

しかし数秒してもアンドロイドが目覚める気配がない。

 

「し、失敗した……のか?」

 

「……分からない。理論的には……既に目覚めているはずだが」

 

だが薬を投与して既に30秒経っている……

 

(僕は……救えなかったのか)

 

「ソーマ……あまり気を落とさないで。貴方は修復不可能な状態のアンドロイドをここまで元に戻せた時点で凄いの」

 

「しかし……僕の目の前に横たわっているアンドロイドは……君達の世界では上司だと聞いている。君達を救えて、目の前のアンドロイドを救えないというのは……」

 

「私達は……まだ運が良かったのよ。私の場合は……確かに回路が焼き切れていたわ。それでも殆どの部分はまだ生きていて、パーツを取り替えたりメンテナンスを行えばそこから徐々に回復も出来ていたもの。でも司令官の場合は……直接バンカーの爆発と一緒に巻き込まれた。欠損が激しいといっても、人の形を再び取り戻せるくらい揃っているだけでも奇跡的で、さっきも言ったけどあの状態からあそこまで治せた時点で、ソーマは凄いのよ。だから……元気を出して」

 

ポポルが僕に言葉を投げかける。確かに彼女の言う通り、あそこまで壊れていた状態をここまで修復できた時点で凄い事なのかもしれない。あの状態を見た人からは、寧ろ治す方が無理で……無謀にもここまで修復した時点で誰も攻める事なんてしないのかもしれない……

 

(だけど……僕は……)

 

ソーマがポポルの言葉でも顔を上げない。倣薬をアンドロイドに投与して1分経とうとした時だ。

 

ブゥンッ

 

「っ⁉︎」

 

微かな変化に気付いたのは項垂れていたソーマだった。何かが付くような音が聞こえたのだ。ソーマがいきなり顔をあげた事に、デボルとポポルは驚く。

 

「再び……命を宿した」

 

「っ⁉︎ ほ、本当か⁉︎」

 

「な、ならっ!」

 

「彼女をメンテナンスルームへ。まだやる事はある」

 

ソーマはデボルポポルと共に彼女をメンテナンスルームへと運ぶ。彼の信条である……目の前の患者を救う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

バンカーが爆発に巻き込まれた時……私も巻き込まれて砕け散る感覚を覚えた。これが死なのだと悟ったと同時にもう意思はなくなっていた。宇宙でバンカー諸共爆発したのだから、例えパーツが残っていたとしてもそのまま宇宙を彷徨うか、はたまたどこかの惑星の重力に囚われて焼き尽くされるか。

 

(だが何故だ? 爆発して何もかも無くなったと思っていたのに……何故未だにこんな思考ができる?)

 

未だに暗い闇の中であるというのに、思考することができる。壊れたのだから本来こんな些細な事も思考出来るはずもないのに……

 

(っ⁉︎ 指が動く⁉︎)

 

そんな事……出来るはずがないのに。いや、だんだん意識も浮上している気が……

 

君はまだ……生きている。さぁ……瞳を開けてみようか

 

(誰だ? そこにいるのは? 私はこの声に聞き覚えはない。だが……)

 

不思議と私はこの声に従ってみようと思った。そして目を開けると……

 

「ふむ。起きたか……具合はどうだ?」

 

目を開けると、そこには白い長髪の男が立っていた。前髪を交差させ、髪先が目の下に来るように。瞳は黄色いが、どこか淀んでいるような感じが伺える。しかし肌は透き通るように白く、アンドロイドではあるが女性である私ですら嫉妬してしまいそうだ。そして衣服は……これはどう表現すれば良いのか、まるで神が着るような白い衣服を身に纏っていた。

 

「? 僕の声がまだ聞こえていないようだな。まだ少し調整が必要か」

 

「い、いや……聞こえて、いる」

 

「そうか。少したどたどしく聞こえるが……まぁ久し振りに発音するのなら無理はない。話していたら慣れるだろう。僕の手は握れるか?」

 

長い袖から手を出した彼の手も、同じ様に綺麗な手をしていた。私は恐る恐る彼の手を握ると……

 

(温かい……)

 

彼の顔は……見るからに冷たいと感じさせる。だかそれとは裏腹に彼の手は……これまでに感じた事がない程温かい物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

目の前のアンドロイドが起きた。どうやら僕の声も正常に聞こえている様で、手も握れるようだ。

 

「ここ……は?」

 

「ここはメンテナンスルームだ。アンドロイド達の修理、最終調整で使う場所だ」

 

「っ⁉︎ という事は……ここは地球なのか?」

 

「地球……といえばそうなるんだろうな。君の世界では」

 

「ど、どういう事だ?」

 

「そうだな。まずはそこを踏まえて話すとしよう」

 

僕は目の前のアンドロイドに現状を説明した。この世界には人が普通に生活している謂わば人類が繁栄した世界である事を。しかし人同士で争う事も度々あり、それ以外にも魔物も跋扈している世界である事も伝えた。そして今僕たちがいるこの空間は真っ暗闇の世界であり、外との行き来は可能であるが、外の世界とこの空間とでは時間の流れ方が違うという事も。

 

また、アンドロイド達が元いた世界とは違い、文明レベルは何段階も落ちている事も補足した。

 

「成る程……私がいた世界とは随分違うのだな。つまるところ宇宙や宇宙人、それに私達アンドロイドなどの単語も知らないのだな」

 

「そうなる。だがこの空間だけは別だ。僕が一からその機材など組み立てて電気、水道、ガスが普通に通る様にしているからな。後はアンドロイド達に好きにやらせている」

 

「そうか……。どれくらいこちらに我が同胞は来ているのだ?」

 

「そうだな。A2、2B、9S、6O、21O、デボル、ポポル達は代表的か? ともかくその子達との付き合いは長い。他のアンドロイド達は、勿論君達の世界から来た者もいれば、こちらで1から僕が生命を宿した者がいるな」

 

「そんなにも我が同胞がいるのだな……ん? A2もここにいるのか?」

 

「あぁ、いるが? 因みに過去に何があったのかも本人から聞いている。僕は過去君達に何があったとしても……仲裁はしない。面倒ごとは御免だからな」

 

「そう……だな。これは……私達の問題だ。多分あなたが私を治してくれたのだろう。そこまでして貰っているのに、私達の問題を仲裁してほしいというのは烏滸がましい話だ」

 

「当然だ。だが……」

 

「もし仮に君が壊れてしまったとしても……僕が治療してやる。それが僕の仕事だからな」

 

「っ⁉︎ その時は頼りにさせてもらおう。そういえばお礼も、あなたの名前も聞いていないな。できれば名前を教えて貰いたいのだが……」

 

「あぁ……名乗っていなかったな。僕の名前はソーマ。ソーマ・アスクレイという。職業は……しがない医者だな」

 

「ソーマ・アスクレイ……と言うのだな。私は……そうだな。司令官という識別コードしかないからな。ともかくとしてありがとう。私はあなたのおかげで生きていける。にしても……私はバンカーの爆発でパーツも所々欠損したというのに、ほぼ完全体の形で生きている。あなたは優れたアンドロイドなのだな……」

 

「ん? 何を言っている? 僕はアンドロイドではないぞ」

 

「……なに?」

 

「確かに僕はアンドロイドを治せる。だがそれは治療の延長線上だ。さっきも言っただろう? 僕はしがない医者だと。そして僕は……君達が君達の世界で繁栄し守ろうとした……カテゴリー上では人類だが?」

 

「つまりソーマは……人間?」

 

「そうだ。驚いて声も出ないか?」

 

それを聞くと目の前のアンドロイド……一々言うのが面倒だから司令官と呼ぶとしよう。司令官は僕を見たまま動かなくなった。それから約数秒後……

 

「もう1度……手を握っても良いだろうか?」

 

「あぁ、構わない。ただし強く握りすぎるなよ?」

 

差し出した手を……司令官はゆっくりと握った。そして何かを確かめる様に触り始めた。

 

「あぁ……これが……この感触が、この温かさが……人間なのだな」

 

司令官は涙を流しながら呟く。

 

「私は……作られた存在だ。だが私は……私を創造してくれた人間に会ったことがない。それよりもずっと、人類を繁栄させるために地球から機械生命体を追い出すために戦う事しか出来なかった」

 

「……そうか」

 

「だが……私はそれだけだった。今まで部隊の者達にそう命じるだけ命じて……私自身は、何かをした実感がない。命じるだけで自分自身が何かと戦ったこともない」

 

「そんな私が……あなたの手を握って感触を確かめたり、温かさを感じたりする資格など……ないのかもしれない。それでも私は……心というものがあるのなら、まだ触れていたいと思ってしまう。今まで皆に心を持つなと言ってきた私が……」

 

「だから……そんなに泣いているのか?」

 

「はは……滑稽だろう? あの世界では散々に戒めを守らせていた者が……いざ目の前に人間がいて触れ合ってしまうとこうだ。私は今……周りから見たら随分と自分勝手なのだろうな」

 

「……だがそれも、もう守る必要はないだろう?」

 

「えっ……?」

 

「ここはあの世界とは違う。確かにあなたは周りのものに対して、場合によっては他者から見て許されない様な事もしてきたことだろう。それを自分で客観的に見て、今の自分が惨めに感じてる様な……そんな風に捉えているんだと思う」

 

「だが昔は昔、今は今だ。昔をどう思おうと過去が変わるわけでもない。間違いかどうかなど僕には判断が付かないが……今の自分が、それが間違いだったと認識したのなら、僕はそれでいいと思う。それにここは前の世界とは違って、誰もが自由に感情を持っても良い……そんな世界だ」

 

「だから……昔の様な硬い規律に縛られる必要もない。君が……君自身で自由な感情を持って良いのだから」

 

「っ⁉︎ あり……がとう……」

 

司令官は、今まで溜め込んでいたものを全て吐き出すかの様にソーマの目の前で泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

「すまない……恥ずかしいところを見せてしまったな」

 

「なに、気にすることはない。それに……君がそれで恥ずかしいというのなら、僕は既に一生分の恥をこの世界でかいているからな……」

 

「一生分の恥?」

 

「そうだ……思い出すだけで忌々s「失礼しまーす! ソーマさん、司令官の様子は……あっ! 司令官! お目覚めになったんですね‼︎」……」

 

「おぉ……お前は、6Oか。相変わらず元気そうだな」

 

「はい! それもこれもソーマさんに助けられたお陰ですよ! この世界でも信仰されるというのも誰もが納得するくらいです‼︎」

 

「ん? 信仰? どういう事だ?」

 

「興味ありますか司令官?」

 

「まぁ……私もこちらに来たばかりだからな。この世界の情勢について参考になる物ならば是非とも共有してほしいものだ」

 

「……6Oも司令官と積もる話がある事だろうから、僕は一旦席を外そう」

 

ソーマはそう言って立ち上がると、メンテナンスルームを後にした。

 

「急にどうしたというのだ?」

 

「あっ……」

 

「どうかしたか6O?」

 

「い、いえなんでも……」

 

「そうか。それで、その情報とやらを見せて欲しいのだが?」

 

「わ、分かりました……今から司令に送りますね」

 

(そ、そういえば……ソーマさんにとっての禁句だった……うぅ……これからソーマさんにどんな顔で会えばいいの⁉︎)

 

6Oはそう思いながら司令官にソーマの事についての情報を共有した。そして司令官は……

 

(……これがソーマの言っていた一生分の恥か)

 

正直その情報を見て司令官は、ソーマは立派に戦いを止めたと思っている。過去に人類が何回も争いあってきたことは文献にも記録されていたし、争いが終わるのもどちらが敗者になるかを決めるまで続く。

 

それをソーマは、そこまでの犠牲を出さずに争いを終結させたのだ。誰もが真似出来ることではない。

 

しかしそれがソーマにとってはとても嫌な思い出らしい。ソーマ自身は、多分間違った事をしていないと思っているのだろう。ただこれを後世に残そうとした者達が、勝手に尾ひれなどをつけて脚色し、あまつさえ本人の了承もなく宗教のトップの位置に祀り上げているのだ。

 

本人が死んで数年経った後にこの様な宗教を作るのなら……本人としてもあまり文句は無かっただろう。だが現在彼は生きているのだ。そんな彼からすればそれは……目の前で自分の黒歴史を暴露されている心情なのだろう。

 

そしてこの話題が上るだろう事を察知してソーマはメンテナンスルームから退出したのだ。

 

「……とにかくこの世界の情報は少し分かった。ソーマがこの世界での立ち位置がどんなものなのかもな」

 

「はい……」

 

「6O?」

 

「うぅ……また……また私失敗しちゃったぁぁぁぁっ‼︎ これからソーマさんとどう顔を合わせれば良いか分からないよぉぉぉっ‼︎」

 

「い、一旦落ち着くんだ6O! 多分彼も6Oに悪気があってこうなったのではないという事は理解しているはずだ。だから一旦落ち着くんだ!」

 

6Oは数分間司令官に宥められて漸く落ち着いたという……

 

 

 

 

 

 

「少しはこちらの世界がどうなっているかは分かったか?」

 

「あぁ。多少なりともな。それとソーマが言っていた事も……」

 

「そうか……別に僕がいない所でその話をするのは問題ない。6O、だからもう落ち込まなくていい。悪気がないことは、君の性格上理解しているからな」

 

「うぅ……ごめんなさい……」

 

「さて、それはそれで良いとして……体調はもう万全か?」

 

「あぁ、言語機能も十分という程回復したし、身体も動かせる。問題ない」

 

「分かった。それでは皆のところに行こう。最初はフラつくだろうからな。僕の手を握ると良い」

 

「い、良いのか? 私は……いや、私達の重さはアンドロイドでもあるから100kgは優に超えているぞ?」

 

「そんなもの、9Sで充分知っている。あまり心配するな」

 

「そ、そうか……」

 

(9S……一体この世界で何をやっているんだ?)

 

「さぁ、行くぞ」

 

「あ、あぁ……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

司令官はソーマの手を握って立ち上がり、ソーマとともに歩き出した。自らの過去を……自分なりの形で償うと同時に、これからの未来を目の前にいるソーマ(人類)の為に使おうと……

 

 

 

 

 

 

ソーマはアンドロイド隊を呼び寄せた。それは司令官の事を紹介する為にでもあるが、これから拠点を外に移す為の事も踏まえてである。

 

「この中には久々に見る者もいるだろうが紹介しておこう。君達の上司である司令官が目を覚ました。これからは司令官も僕の医術の進歩を進める為に手伝ってもらう事になった。前の世界では上下関係はあったかもしれないが、この中では新参者だ。分からない事も多くあるだろうから、そこは皆で補って欲しい」

 

「皆……中には私が与えてきた命令で辛かった思いをした者達が大勢いると思う。正直中には私を許さない者もいる事は承知している。その上で……どうか私は仲間に入れて欲しい」

 

「司令官……」

 

司令官と初めて会うアンドロイド達は概ね歓迎的で、元の世界で上下関係だったアンドロイド達も、雰囲気が変わった司令官を見て 、司令官に対する見方は変わった者がほとんどだった。

 

しかし……

 

「裏切り者の癖に何を今更……」

 

「A2……」

 

「それは言い過ぎですよA2!」

 

A2のその反応に2Bと9Sが反応した。それをソーマは手で制した。

 

「ソーマ?」

 

「これは……2人の問題でもある。僕達はこの2人の問題に対しては、口を挟むべきではない。でなければ……心までは納得できないだろうからな」

 

「ソーマが……そう言うなら……」

 

ソーマのその一言で、A2と司令官以外は口を閉ざしてその場を見守る。

 

「そう……だな。私は、最初からインプットされていた命令に忠実に、そしてそれだけを守る為に規律を犯したものを遮断する様に命じてきた。それにA2達に下した命も……結果的にはお前達を苦しめてしまった」

 

「そうだ。だが……今更そんな言葉を投げかけた所で私の仲間が戻ってくる事はない! 今更どう言われた所で、お前を許す事などない‼︎」

 

「今更……だな。あぁ……私は、これまでに取り返しもつかないと事を、散々してきた。それも自分の手を汚さず他の者の手で。だからこそ……A2が私を許さない気持ちが、心を持った今ならよく分かる」

 

「だから……その憎悪を吐き出す場所が、私を壊す以外に無いのなら……私を壊せ。私は一切……抵抗しない」

 

司令官は目を閉じて首を垂れる。まるで死罪になった者が、執行を待つかの様に……

 

「っ⁉︎」

 

それを目の前で見ていたA2もこれには驚いた。今まで自分を苦しめていた相手が、自らの首を差し出している状況に……自らの予想を超えていたのだ。だがそれも少しの間で……

 

「なら……今までの私の苦しみを味わえ」

 

そう言ってA2は大剣を呼び出して上段に構えた。そして……

 

「ハァァァァッ‼︎」

 

大剣が司令官に振り下ろされた。その衝撃で部屋全体は衝撃の波に襲われ、土埃が舞った。そして土埃が収まると……

 

 

 

 

 

 

「何故……壊さない? 私が憎いのでは無かったのか?」

 

「……」

 

A2の振り下ろした大剣は……司令官の横の床部分を抉っていた。

 

「私は……今この瞬間でも、お前を壊してやりたいと思っている。そこに嘘偽りはない」

 

「ならば「だが……」?」

 

「私は……ソーマにこの命を救ってもらった。失った仲間に貰った命と……ソーマに宿して貰ったこの命は、今の私の中にある。だからこそ私は……仲間と私を裏切ったお前が憎い! だが私は、お前の事を恨みながらもソーマが悲しむ様なことはしたくない。お前も私と同じでソーマに再び宿してもらった命……それを奪うと言う事は、ソーマを否定してソーマを悲しませる事と同義だ」

 

「だから私は……許しはしないがお前を壊さない」

 

「……そうか。分かった」

 

A2は大剣を消すと、そのまま司令官に背を向けてもといた場所に戻った。

 

「大体の話は済んだ様だな。ではこのまま話を進めるが……僕はこの時を待って、拠点を外の世界に移したいと思う。前にもこの話をしていたとは思うが、その引越し作業とやらを今日から進める」

 

「今日から?」

 

「そうだ。しかしながらこちらも拠点としての機能はそのまま残す。こちらからでないとできないこともあるからな。そして今からこの拠点の指揮を、司令官に任せたい」

 

「わ、私か⁉︎」

 

「そうだ。病み上がりなのは分かっているが、前の世界でもアンドロイド隊の指揮を担当していた実績を持つのなら申し分ない。やってもらえるか?」

 

少し考える素振りを見せる司令官。しかしそれも数秒で……

 

「正直新参者の私がその役職に就いていいものかと思う。それに反対する者も出てくるだろう」

 

「それはないと思うが? 何せ君が考える数秒誰からも反論の声が上がらなかったし、反論があったとしても僕が説得しよう」

 

「……あなたが新参者である私を何故そこまで評価してくれるのだ? 私はまだあなたに何も見せてはいない」

 

「僕の直感だ。それで……やってくれるのか?」

 

「ふぅ……あなたは可笑しな人だ」

 

「僕は何も笑かす様な事はしていないが?」

 

「そういう意味で言ったわけではないさ。まぁ、あなたが私をその職に任命すると言うのなら、喜んで就かせてもらおう」

 

「あぁ、助かる。皆もそれで異論はないな?」

 

「「「はい!」」」

 

「よし、後は外の拠点に連れていく者達も発表しよう」

 

そこからソーマは外の拠点に連れ出す者達を指名していった。その中には勿論のことながらA2、2B、9S、6O、21O、デボル、ポポルも入っていた。

 

「以上。それでは各自準備を始めてくれ。またこちらの拠点でそれぞれ新しくなったグループのリーダーも前リーダーからの引き継ぎをしておく様に。僕からは終わりだ。質問はあるか?」

 

質問の時間を設けるも、誰からもないようだ。

 

「では今から動いて欲しい。予定としては明後日辺りだ。後で質問があるなら直接僕のもとに来て聞いて欲しい。それについては後で共有させてもらう。以上、解散」

 

ソーマはそう言って部屋から出る。それに続いて他のアンドロイド達も部屋から出て行き、各々で準備を始めた。そしてソーマが部屋を出て向かった場所は……

 

 

 

 

 

 

 

side エーデルガルト

 

 

 

 

 

ここに来て一体何年経っただろう。いいえ、多分自分でそう思っているだけで、何ヶ月も経っていないだろう。ここは時間の感覚があやふやだからとソーマが言っていたから本当のことだと思う。

 

それにしてもここにいる間は、とても良いことだらけだった。もう一緒に過ごせないと思った兄弟達ともまた元気な姿で会えたし、いくらか体調が戻った姉妹とで遊んだりもした。

 

ただそれだけして過ごした訳じゃない。勿論これからどうするのかも……他の兄弟は、ソーマに着いて行くと決めていた。彼が助けてくれなければ今ここに自分達がいなかったから、だからその恩返しに彼の手伝いをしたいと、皆そう言っていた。それに……私の事も助けたいからとも。

 

そう、私だけ外の世界に戻るのだ。外の世界では、私達があの牢屋からいなくなって1ヶ月程しか経っていないらしくて……どんな手品を使ったのか分からないけれども。

 

そしてついこの間にソーマからも直接言われた。私を預かってくれる貴族が見つかったと。多分ソーマ達は……この期間の間でフォドラ中の貴族全員を吟味して選んでくれたのだろう。私は文句を言わない事にした。

 

(本当は……私もこのままソーマの下にいたい)

 

彼自身忙しい身で、中々会えなかった。でもそんな中でも彼は時折会いに来てくれたし、私にくれたこの本で毎日会話をした。彼は……本当に自分の事は話したがらず、医療の事ばかりだった。でも私は……その日々でも楽しかった。だから……彼の下を離れたくなかった。

 

でも……そんな事をしてしまえばアドラステアの次の皇帝候補がいなくなってしまう。兄弟達は皆、皇帝は私に継いでほしいようで……この事も散々話し合った。

 

そんな事をベットの中で思い出していると、ドアがノックされた。

 

「僕だ。入っても良いか?」

 

「ソーマ⁉︎ えぇ、良いわ」

 

まさかソーマがこんな時間に来るなんて思っていなくて驚いてしまったけど、嬉しかった。だから私は彼の入室を許可した。

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

「エーデルガルト、体調は……といっても聞くまでもないか」

 

「えぇ。あなたのお陰で凄く元気になったわ。ありがとう」

 

「それが医者の仕事だ。お礼などいらぬさ」

 

「でも本心では凄く嬉しいって思ってるでしょ?」

 

「……さて、どうだかな」

 

「ふふっ、まぁ良いわ。それでこんな時間に何の用かしら? 多分直接会って話すと言う事は余程私にとって大事な事よね?」

 

「そうだ。単刀直入に言おう。3日後……僕達が君を預けても良いと判断した貴族のもとに行ってもらおうと考えている」

 

「3日後……随分と急ね」

 

「あぁ。こちらにも事情がある。僕は対してそう思っていなかったが……この前引き籠りと言われてしまってな」

 

「確か6Oも私にそんな話をしてくれていたわ。貴方が引き籠って研究ばかりしてるって」

 

「6Oめ……また余計な事を」

 

「ふふっ、そんな事を話していた時はとても面白かったわ」

 

「ま、まぁともかくだ。確かにそう言われても仕方がないと思う部分が僕にもあってな。このままでは僕の夢が叶えられないのも確かだ」

 

「だから僕は拠点をここから外に移す事にした」

 

「拠点を……外に?」

 

「そうだ。まぁこの空間は時間などの概念が物凄く捻じ曲がっているからな……外に出たとしても君を助ける前の年代に行ったとしても、何もおかしな事はないだろう」

 

「そう……ここから離れるのね。どこに行くかは決まっているの?」

 

「出来るだけ医者を必要としている地域に行こうとしている。それもお国柄にも、他に比べて貧しく病を患っても中々医者に頼らない様な……その土地に拠点を構えようと思う。まぁ既にどこら辺に行くかは決まっているが。確か北の国……ファーガス神聖王国といったか」

 

「ファーガス……」

 

「アドラステア帝国の北側にある国だったな」

 

「えぇ。元は帝国の一部ではあったけれども、ある戦争で何百年も前に独立したの。土地勘はないけれど」

 

「そうか。でも奇遇だ」

 

「奇遇?」

 

「そう、僕が君を預けたいと決めている貴族もファーガス神聖王国に属するからな」

 

「っ⁉︎ そ、それって……」

 

「亡命という形をとる。僕が傷だらけの君を保護し、それから1ヶ月後にその貴族へと預ける……上手くいけばその算段だ」

 

「……色々と考えてくれているのね」

 

「患者を健康な状態で無事に送り出す……それまでが僕の仕事だからな」

 

「結局はそこに行き着くのね……はぁ」

 

「ため息なんかついてどうした? どこか悪いのか?」

 

「いいえなんでも! 貴方が鈍感なのは今に始まった事ではないし……」

 

「鈍感? 何のことだ?」

 

「何でもないわ! ねぇ、今日ここに来てくれるのは最後なの?」

 

「君を貴族に預けるまでの同伴を除けば最後になるだろう」

 

「そう……1つお願いを言っても良いかしら?」

 

「お願い? まぁ……僕にできるものなら受けても良いが」

 

「えぇ。寧ろ貴方にしか出来ないことなの」

 

「僕にしか出来ないこと?」

 

「そうよ。その……今日は、私と一緒に寝て欲しいの」

 

「……はっ?」

 

「だ、だから! わ、私の隣で……一緒に、寝て」

 

「……ふぅ。まぁどの様な経緯でそのお願いとやらが出来たのかは、僕には見当がつかない」

 

「っ⁉︎ そ、そう……ダメ……なのね」

 

「何を早とちりしている? 僕は君のお願いについてNOと言った覚えはないが?」

 

「だ、だって……」

 

「僕は、あくまで何故君が僕と一緒に寝たいというお願いが出来たのか、考えても分からないと言っただけであって、まだ答えを言ってはいない」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

「その……なんだ。僕は患者である君に全く構うことが出来なかったからな。だからその穴埋めという形でなら……一緒に寝ても良い」

 

「ほ、本当に? 嘘……じゃないわよね⁉︎」

 

「本当だとも。ここで下らない嘘などつかないさ。それに明日も僕には準備しないといけないことが山程ある。だから今日はもう寝るぞ」

 

「っ‼︎ うん‼︎」

 

そしてソーマとエーデルガルトは一緒のベットで眠りについた。ただ、ソーマがいつも身につけている白い衣を脱いで薄着で寝てとエーデルガルトに追加注文され、やむなくソーマもエーデルガルトに言われた通り薄着の状態だ。

 

しかしながらベットに入ったソーマは、エーデルガルトよりも早く眠りにつく。

 

「ふふっ、いつもあんなに無表情なのに……眠ってる時は凄く子供の様な寝顔なのね」

 

一緒のベットに入っているエーデルガルトはクスクス笑う。

 

「それに……普段からは全然想像つかないけど、しっかりと鍛えているのね。ふぁ……また貴方とこうして眠れる日が来ること、楽しみにしているから。おやすみなさい」

 

エーデルガルトはソーマの胸の位置に顔が持ってくる様に抱きついて眠った。

 

「……あぁ、おやすみ。エーデルガルト」

 

エーデルガルトは意識を無くす直前、そう聞こえた気がした。しかしながらあの鈍感なソーマがそんな気遣いなどをする筈が無いと思う。だが……もしそう言ってくれたのならとちょっとだけ考えて幸せな気分に浸れた

 

そんな少しの幸せに浸りながら……自分の髪をゆっくりと撫でられている感覚も感じながら眠りについた。

 

そして実際にそうしているソーマを偶々目撃した6Oは、その証拠を残した。後日他のアンドロイド達から質問されたり責められたりすることを……本人はまだ知らない。




おまけ

ソーマがエーデルガルトと寝た後日

2B「そ、ソーマ……これは一体……」

9S「これって完全にやってるんじゃあ……」

A2「どういう事だソーマ! 説明しろ‼︎」

ソーマ「普通にエーデルガルトと寝ただけだが?」

6O「そんなぁ! じゃあなんで私達とは寝てくれないんですか⁉︎ どうしてエルちゃんだけなんですか⁉︎」

21O「まさか……ソーマがロリコンになるなんて……私の指導が足りませんでした」

ソーマ「一体何を言っているんだ? 僕はエーデルガルトにお願いされて一緒に寝ただけだが?」

デボル「なら私達が頼んだら一緒に寝てくれるんだな?」

ポポル「ソーマと一緒に……ソーマ、今晩私と一緒に寝ましょう!」

デボル「んなっ⁉︎ いぃやソーマ、今日は私と寝るんだよな⁉︎」

2B「ず、ズルイッ! 私もソーマと一緒に寝たい!」

A2「何を勝手に決めている! ここは1番初めに作られた私が最初だろう‼︎」

9S「いやA2……それは関係ないんじゃ……」

A2「お前は黙ってろ‼︎」ガキンッ!

9S「どうしてぇーっ⁉︎」ヒューーン……

ワイワイガヤガヤ……

ソーマ「……」

司令官「ソーマ……お前も色々と大変だな……」

ソーマ「そう言ってくれるのは君だけだよ……はぁ」





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8話  フォドラにて新たな拠点を作る

 

 

 

 

エーデルガルトと一緒に寝た翌日……アンドロイド達から色々と責められたり質問されたり……挙げ句の果てに今度一緒に寝て欲しいと頼まれる始末の今日。

 

(僕と一緒に寝て何が良いのだろうか?)

 

 今までよりもアンドロイド達と接する機会を増やしたソーマであるが、未だに女の子の気持ちが分からない様子……

 

「さて、いよいよ明日か……」

 

 それぞれの進捗状態の報告を受けながら、自分の方でも引越しの準備をする。その日はそれ以外何事もなく過ぎ去り、いよいよ引越しの日を迎えた。

 

「司令官、今から正式にここの管轄を君に任せる。何かあったら僕に知らせるように。特に救いを求めている患者がいた場合はすぐ僕に連絡をして欲しい」

 

「分かった。こちらの事は任せて欲しい」

 

「あぁ。ではな」

 

 そしてソーマ達旅立つ組はソーマの作った扉を通ってフォドラへと向かう。それが全員潜るまで、真っ暗闇の世界に残る組は見送ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 ソーマ達がフォドラに降り立ったその土地は、季節的にも寒い時期に差し掛かっているのかこの葉が少し散らばっていた。木についている葉も、丁度緑と茶色の中間くらいになっている。

 

「ここがソーマが度々来ていたフォドラか」

 

「あぁ、だが僕もこれまでに北の地へといったことはないが」

 

(そもそもこれまでが南側の方面だったからな。この辺りならば近いうちに雪が降るかもしれん)

 

「さて、皆来たところで悪いが早速周囲を探索してもらいたい。近くの村々、地形、ここから比較的近い城やこの地域を納める地域の領主が誰なのかなど……やり方は乱暴なやり方以外であれば許可する。オペレーターも各チーム割り振りをしてある。何かあれば知らせる様に」

 

「デボルとポポルは僕の手伝いをしてほしい。そして僕は僕で、治療に適した地脈を探す。では各自夕方までには帰ってくるように……集合場所は後で赤い閃光を空に放って知らせる。では各々動いてほしい。解散」

 

「「「はい!」」」

 

 アンドロイド達はソーマの指示で散開した。その場に残るのはソーマに手伝いを頼まれたデボルとポポルだ。

 

「それで、私達はどうすれば良い?」

 

「ソーマの頼みなら私、いくらでも頑張るわ」

 

「あぁ、頼りにしてる。僕達はさっき言ったように、治療に適した地脈を探す。といってもここにきた時点で既にある程度は決めてある。こっちだ」

 

 デボルとポポルはソーマに先導されて付いて歩く。そして着いた場所は、フォドラに降り立つ際に開いた扉から北東に300m程歩いた大きな岩場があるところだった。

 

「ここか?」

 

「あぁ、ここだ」

 

「で、でもここってなんだかおかしいわ。周りの木々が既に何年も前に朽ちているように見えるし……」

 

「その通り」

 

「えっ?」

 

「ど、どういう事だ?」

 

「僕の調べでは……ここはおそらく地脈が湧き出る地域だ。だからこの辺り近辺は例え寒い時期であろうと様々な花が咲いていたはずだ」

 

「な、ならどうしてこんなに周りの木々が枯れているんだ?」

 

「それは……そこに陣取っている、まるで大きな岩に擬態している魔物がこの地の地脈を独り占めしているからだ」

 

「あ、あれが魔物なの⁉︎」

 

「うむ。僕らの存在などとっくのとうにお見通しのくせして未だに動かないのは、僕らがここから立ち去る隙を見て襲い、自分の養分にするためだろう。まぁ僕としては、この地にガン細胞の様な存在であるあれがいつまでもこの地に蔓延る事は我慢出来ないからな……」

 

「焔にのまれろ、ファイアーボール」

 

 ソーマが唱えた次の瞬間、岩の上空から大きな火の玉が落ちていき……地上に落ちると岩をもすっぽりと覆う程の火柱を立てた。

 

 

 

 

 

 

『ギギィィィィッ⁉︎』

 

 

 

 

 そしてソーマが言ったとおり、岩だったものはまるで花の様な形になって苦しみだす。

 

「あ、あれは……」

 

「今まで動物型の魔物は見たことあるけど……花の魔物だなんて……」

 

「ほぅ……実際に見ると確かに興味深い。是非とも僕の医療に役立ってもらわねば……」

 

 ここに来てまたソーマの悪い癖が出た。

 

「もぅソーマ……いつもの悪い癖が出ているわ」

 

「ん? あぁ、無意識に出ていたか」

 

「いや、もうそれわざとだろ⁉︎」

 

「わざとではないが……ともかくとしてデボルとポポルは僕のサポートを頼む」

 

「おう!」

 

「分かったわ」

 

 2人が取り出したのは同じ形の剣。黒金色でなんの飾り気のない、ただ敵を殲滅するためだけのものだ。そしてソーマの手元付近には金色の歪な杖が浮かんでいた。またその杖にまとわりつく様に、どこか機械的な蛇の様なものもいつのまにか現れていた。

 

「TYPEフレイム」

 

 ソーマがそう唱えたと同時に、機械的な蛇の装甲が赤色に染まった。

 

「それじゃあまず私達から行くか!」

 

「えぇ、行きましょう」

 

 デボルとポポルが飛び出す。それに反応する魔物は蔓を用いて反撃するが、それはいとも簡単に2人に切り刻まれた。そこからさらに蔓を増やすが、それと同時に2人も速度を上げた。結果的に今の魔物にはなす術がなかった。

 

 だがすぐに魔物も攻め方を変えた。あちらが手数で勝るのならば、こちらは数で勝負すれば良いと……

 

「周りの枯れ木が動いて」

 

「地面からも似た様な奴が多く出てきてるのかよ」

 

 その言葉を聞いてか知らずが、まるで魔物は笑っているかの様に蔦の数を増やし、2人に消しかけた。

 

「まぁでも……」

 

「所詮そんなところよね」

 

 2人がその言葉を吐いたのち、ますます2人の動くスピードがました。それも1秒間に増やした味方の数を何体も屠っている。

 

「これだけ身体を動かしたのは久しぶりだな」

 

「そうね。殆ど9Sとか他のアンドロイド隊の治療、雑務ばかりだったから尚更よね」

 

「あぁ。まぁ今回はソーマのサポート役だから……」

 

「えぇ、この辺で」

 

 魔物からしたら訳のわからない会話をしている2人は、キリがいいのか魔物の近くから離れた。

 

「後は……」

 

「お願いねソーマ」

 

「あぁ。後は僕がやろう」

 

 ソーマが2人とバトンタッチしたと同時に、魔物がいる上空から針が飛ばされた。それは魔物が作り出した眷属にも襲いかかり、花の魔物はもはや針山の様に、多くの針が貫いていた。

 

「仕上げだ」

 

 ソーマが口にした通り、さっきまでソーマの手元に浮遊していた歪な杖が少し大きくなっており、魔物の頭上にあった。それが魔物の中枢目掛けて降ってくる。

 

「用法と用量はしっかり守れ」

 

 魔物が聞こえた言葉はそれが最後だった。大きな杖が魔物の中枢に突き刺さり、その中枢目掛けて、さきほどまで杖に纏わりついていた赤い鉄蛇が地中から魔物に襲いかかり、杖に纏わり付けついでと言わんばかりに魔物を締め上げ食い散らかした。それと同時に赤い火柱が立ち、魔物が作り出した眷属諸共炎で葬り去った。

 

 魔物達が1匹残らず消え去ったのを確認したソーマは、杖と蛇を手元に戻した。そして蛇の口から魔物の核を取り出す。

 

「ふむ……今までに見たことがないな」

 

 そう言いながら目の前に小さな黒い空間を作り出し、手を突っ込んで何かを取り出した。それは溶液に満たされたビーカーで、そこに魔物の核を入れて封をすると、また黒い空間に押し込んだ。

 

「これで一件落着だな」

 

「そうね。それにしても久しぶりに動いたから少し筋肉痛ね」

 

「そうだな。なぁソーマ、後で私達にマッサージしてくれよ」

 

「もぅ、デボルったら……」

 

「それぐらい良いさ。後でしてあげるとも。さて、後はこの地の地脈の流れを元に戻すか」

 

「狂った歯車よ……元の動きに戻れ。リペア」

 

 唱えた直後、ソーマが手を当てる地面から風が吹き出る。それもソーマの長髪を頭上にまで棚引かせるほどのものだ。それも数秒ほどで終わる。

 

「これで地脈は元に戻ったな。後は……」

 

「芽吹け……生命よ」

 

 今度は魔物が元いた所にソーマが新たな命を宿した。それはやがて大きな木となり、そして……

 

「これは……」

 

「きれい……」

 

 ソーマが創りだしたもの……それはピンク色の葉を優雅に散らせる桜であった。それも季節外れだというのに綺麗な満開であった。しかしこれだけではない。桜を中心として、地面にも緑が宿ったのだ。それは徐々に広がりを見せ、ソーマ達がいる一面は草花で溢れたのである。

 

「こんな所だな。さぁ……ここから僕の夢を開花させようか」

 

 そこからはソーマが簡単な小屋などを作る。しかしそれだけではなく、地下にも真っ暗闇の空間と同じ設備を整え、ファドラでの本拠地を作る。

 

 そして後々合流したアンドロイド隊が見た光景は……ソーマがデボルとポポルにマッサージをしている光景だったが為に、またしてもソーマに対して非難が集中したという……






早速入っていく解説

・ファイアーボール
テイルズシリーズでもお馴染みの、字面から誰でも簡単に想像ができる初級呪文。しかしソーマの放つそれは明らかに初級ではないほどの威力である。

・リペア
普通に英語で「直す」という意味。しかし枯渇しかけている地脈でさえあっという間に回復させる。もはやソーマの唱える呪文が狂っている。

・用法と用量はしっかり守れ
F○Oにて、アスクレピオスがextra attackの際に言う台詞




おまけ 〜ソーマが双子に対してマッサージをしていた所を他のアンドロイド隊に見られた際の事〜

A2「ソーマ〜……私達が仕事している間に何イチャイチャしてる〜?」

ソーマ「イチャイチャ? いや、これはれっきとしたマッサージだが?」

6O「嘘です! ならこの2人の表情は何なんですか⁉︎」

 カメラアングルを双子に向けた……

デボル「あぁ……♡」

ポポル「んっ♡」

 カメラアングルを再びソーマ達へ

9S「これは……」

21O「弁解の余地などありません。さぁソーマ、姉である私にもマッサージを要求します」

ソーマ「? いつ僕が21Oの弟になったんだ?」

2B「そ、そんな事より! わ、私達も頑張ったんだから、ソーマは私達にもご褒美を用意するべき」

6O「そうですそうです‼︎ それじゃあソーマさん……私の身体……隅々までほぐしてくださいね♡」

ソーマ「……」

 その場の雰囲気にソーマは黙るしかなかったという……


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9話 R-15 一時の別れ 想いを告げる少女と医者

7話〜9話までに評価を頂いた読者の方々

☆10 屍 累 様 
☆8 零桜紅雅 様 
☆7 アトリエスタ 様
☆3 チルトリノ 様
☆2 *ツバイ* 様
☆1 クドウ 様 妖識 様

沢山の方に付けて頂きました本当にありがとうございます!

最近は何かと日常生活でしたり……他の方の小説などをみたりしては参考に出来る部分を探していたりと、投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。

また少しペースが落ちるかもしれませんが、これからもよろしくお願いいたします!



 

 とりあえずフォドラでの拠点は出来た。それと同時に今日やる事は、エル……もといエーデルガルトを約1ヶ月ぶりにフォドラに還し、そしてファーガス神聖王国に亡命させる事だ。

 

 因みに何故僕が彼女の事をエルと呼ぶ様になったかについては……一緒に寝た翌日にそう呼んでほしいと言われたからだ。断る理由もないから、僕は彼女の事をそう呼ぶ様になった。

 

 そして空白の1ヶ月としては、監禁状態からどうにか逃げ出して傷だらけになっている所を僕が保護した。そこから事情は省くが、後ろ盾がいた方が良いと感じた僕は亡命先を選び、勝手ながら選ばせて貰った貴族には彼女を亡命先として預かって貰いたい。そして彼女が成年近くになり、彼女を引き取りたいという関係者の人がもしいたのなら、その時はまたそちらの判断に任せる……

 

 筋書きとしてはこんな感じだ。ほぼほぼ他力本願ではあるが、これが彼女にとっても良いものだと……僕はそう思う。

 

 という訳でさっき出たばかりの暗闇空間に戻ってきた。そしてエルの元へと行く。

 

 エルの部屋に着くと、既に彼女は全ての準備を終えていた。

 

「忘れ物はないか?」

 

「えぇ。何回も確認したから大丈夫だと思うわ。でも……」

 

「……ここから離れたくない、か?」

 

「えぇ。ここは……今まで過ごしてきた中で1番過ごしやすかったから。それに……」

 

「ん? どうした?」

 

「……いえ、なんでもないの」

 

「そうか。では、行こうか」

 

「その……手を握ってくれないかしら?」

 

「手? 僕の手か?」

 

「あ、当たり前でしょう⁉︎」

 

「そうか……分かった。君を貴族のもとに送り届けるまで、握ったままエスコートしよう」

 

「あ……ありがとう///」

 

 エーデルガルトは顔を少し赤くして僕の手を握る。僕の手を握るエーデルガルトの手は……子供特有の柔らかさを持つものの、穢れを感じさせない綺麗な手だった。

 

 そしてフォドラの地に再び降り立って、貴族の元へとエスコートする。その時にもう1人付けた。そのもう1人が6Oで、理由としてはアンドロイド隊の中でエルに1番懐かれているからだ。道中で何かあった時は僕が戦闘しつつ、6Oにはエルを守ってもらう。まぁ近付く相手は、悪意が無いものを省いて問答無用で葬り去る。

 

 と思っていたものの、道中は何事も無くファーガスの王都に辿り着いた。

 

「ここが王都フェルディアか」

 

「ここが……」

 

 まぁ王都と呼ばれるだけ普通にデカい都市ではある。だがファーガスは北方の地にある為、生活などは裕福でないところが殆どだ。それに……

 

(確か北に国境を越えるとスレンなどの北方民族とも戦争が度々起こっているんだったか……)

 

 それ故にファーガスは、フォドラの中でも紋章の力を1番重要視していると見て良い。その価値観もあってか、特に貴族の子が紋章があるか無いかで家族の愛情を与えられない事もしばしばと……フォドラの風土を調べてくれたアンドロイド隊から報告があったな。

 

(紋章で苦しんでいるのはエルやリシテア、マリアンヌだけではないという事だな)

 

 全く……僕は宗教関連などは、ただでさえ勝手に黒歴史を捏造されて嫌いだというのに……

 

(だが苦しんでいるのなら放ってはおけないな)

 

 僕は医者なのだから。例えそれが僕に与えられた役目(ロール)であったとして、僕がこの世界に来て、僕と同じ人というカテゴリーで初めて出会ったソフィスよりも前……この世界を作ったとされる神がいたとして、そいつの意のままであったとしても僕は医者として生を全うするつもりだ。

 

「ソーマ、何か考え事?」

 

「ん? あぁ、今更だが僕のやる事がこれからも多そうだと思ってな。僕はただ医者として病を治し、その正しい手順と方法を世に広めたいだけなんだがな」

 

「そういえば、ソーマっていつも何かに首を突っ込んでいるイメージがあるわね。病気をただ治療したいって言ってくるくせに、困っている人がいたら放っておけない。ある意味ソーマの言ってる事から離れているわ」

 

「まぁソーマさんってそういう所があるからこそ、他の皆もついて来てくれると思いますね。私達も壊れて動けないところをソーマさんに助けてもらいましたから……私達アンドロイドにまで優しくしてくれて、人として扱ってくれて私凄く嬉しいんです!」

 

「そう……か。僕はただ……自分なりの事をしようとしたまでだ」

 

「でも、だからこそ貴方は好かれるのよね……だから私も貴方のことが大好きなのだけれど

 

「ん? どうかしたか?」

 

「何でもないわ。それより私達が向かっているところはどこかしら?」

 

「確か大まかにしか言っていなかったな。僕たちが向かっているところは、あそこだ」

 

「……えっ? あそこって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして僕たちが来たところは、確かファーガスを取り仕切っているブレーダット家にお邪魔している。ちゃんと事前にアポイントも取っておいた。それも数週間前に遡るだろうか? とにかく帝国側で虐げられていた貴族の娘を保護していること、亡命先を探しており、こちらが調べた限りであなた方の家ならば丁重にして頂けるなどの文言と、それを受けた際の支援金もこちらで幾らか用意する、といったもう受けるだけで破格の条件で候補を選りすぐる。

 

 その中でもエルを大切に扱ってくれそうだと感じたのがブレーダット家である。そして既に細かい話も終えており、もし仮にも引き取り手が現れたのならその際はという話も行った。まぁ話が上手くいきすぎていると思われるだろうが……この事がエルの将来にいいと思ったからこその判断だ。異論は認める気がない。

 

 

 

 

 

 

 それから雑談を挟んでの話し合いも既に佳境を迎えた。別室にて待機させていたエルと6Oを呼んでもらい、エルをブレーダット家に送り出すところだ。

 

「この子が、僕が保護した子だ。名前はエーデルガルト・フォン・フレスベルグ。話を聞く限りでは帝国の皇女だが、1ヶ月前に傷だらけの状態を僕が保護した。十分なケアをしたし、それにこの子は……とても強い子だ。だが子供としてはの意味で言っている。だから……もし誰かがエーデルガルトを迎えにくるその時まで、どうか大切に接して欲しい」

 

「分かりました。アスレイ殿が大切に繋げたこの子の命……大切に致します」

 

 因みにこっちではアスレイで統一している。だから僕の事をソーマと知る人物はアンドロイド隊とエルだけだ。

 

「あぁ。それでは宜しく頼む」

 

 いよいよエルを引き渡す。しかしながらエルは僕の手を離そうとしない。

 

「エル……どうした」

 

「……離れたくない」

 

「エルちゃん……」

 

「もう少しだけ……もう少しだけで良いから……貴方のそばに居させて」

 

「アスレイ殿、私達は少し席を離れましょうか?」

 

「ブレーダット殿?」

 

「見るからにあなたはその子に対して、とてつもない愛情を注いでいた様に見える。私達にその子を引き渡すのもその子の為だという事を十分理解していますが、私達も急いでいる訳ではありません。ですのでもうしばらくその子との時間をお過ごしになられては如何ですか?」

 

「……こちらから無理を言ってしまっている形で申し訳ない。お言葉に甘えても良いだろうか?」

 

「構いません。では、また呼んで頂きたい」

 

 そう言ってブレーダット殿と護衛している人達が部屋から出て行く。

 

「ごめんなさい……また貴方にわがままを言ってしまって……」

 

「いや、良いんだ。気にする事はない。それに」

 

「子供というのは大人に対して少しわがままなくらいが良い。今日エルをここに引き渡す事に変わりはないが、今だけはまだわがままを言っても良いと思っている」

 

「……な、なら……抱き締めてもらっても、良いかしら?」

 

「あぁ。エルが良いと言うまで」

 

 そして僕はエルを抱き締めた。実の娘という訳では無いが、だがブレーダット殿が言った様に、僕もいつのまにかエルに対して愛情を注いでいたのかもしれない。今更ながらも……エルが離れて行くのが少し寂しく思える。

 

 それから何分間……多分1時間にも満たないが抱き締めあっていたが、そろそろ時間だ。部屋にブレーダット殿を呼ぶ。来た所で……いよいよ本当の意味でエルを引き渡す時が来た。

 

 僕はエルの背中を押して送り出す。エルは僕とブレーダット殿の中間辺りまで歩を進める。エルとどんどん離れて行く……距離が開く度に寂しい、そう感じた時だ。

 

「ソーマ……最後のお願い……」

 

 いつのまにかまた僕の所にエルが戻って来て、ブレーダット殿には聞こえないくらいの声で言ってきた。

 

「屈んで……口元のマスクをとってくれないかしら?」

 

 この時の僕の格好は、白いフードを真深く被り、口元も外に出た時は必ずつけている、装飾のマスクをしていた。理由は言わずもがなだが……

 

 僕はエルに言われた通り、屈んでマスクをブレーダット殿達に見えない様に外した。

 

「あ、後は……目を瞑って」

 

「……分かったよ」

 

 僕は言われた通り目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

「っ⁉︎」

 

 

 

 頬の両側を何か温かい物に包まれ、それと同時に口元に何か柔らかい感触と……そして甘い香りがした。

 

 目を開けると、至近距離にエルの顔があり、頬が赤くなっていた。

 

「今生の別れではないけれど……どうしても伝えたかった。私は……貴方のことが好き。大好き! 私が今以上に大人になったら……貴方の想いも聞かせてもらうから。だから……」

 

「また、会いましょう!」

 

「っ……あぁ、また会おう」

 

 僕は……やはりこんな時になんと声をかければ良いのか分からない。気の利いた言葉が出てこなかった。

 

 だが僕のそんな返事にも……目の前の彼女は子供とは思えないほどの美しい笑みを浮かべながら、僕から離れていった。

 

(僕はただ……医療行為をしたかっただけなんだが……)

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな事も……悪くはない」

 

 僕は気付きはしなかったが、後で6Oに聞くと、僕の顔は穏やかな笑みを浮かべていたらしい。

 

 

 




おまけ エルと別れた後のソーマと6Oの会話

6O「ソーマさんって……もしかしてロリコン何ですか?」

ソーマ「はっ? 一体何を言っている?」

6O「だ、だって! エルちゃんにキスされてニヤけてたじゃないですか⁉︎ しかも告白されてましたし……」

ソーマ「……確かに告白は受けた。だか、だからといって僕はロリコンではない。健全な一男子だ」

6O「だ、だったら! わ、私がもしソーマさんに告白したらOKしてくれますか⁉︎」

ソーマ「……はっ?」

6O「だ、だからっ! うぅ〜! どうしてソーマさんはこの気持ちをわかってくれないんですかーっ⁉︎」

ソーマ(そんな事言われてもな……)

 帰り道に困惑するソーマである……


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10話 本拠を移して約10年、いつの間にか知らぬ間に黒歴史を作られる……が本人はまだ知らぬ

9話〜10話の間で評価を付けてくださった読者の方々

☆9 川崎ノラネコ 様

評価してくださってありがとうございます!

少し期間が空きましたが、いよいよ本章に近づいて参りました!

本章が始まるまで物語に関連する全てを事細かには書けないので、今回含めて2話に渡って書き、それが終わったらいよいよ本章に突入したいと思います!

それではご覧下さい!


帝国歴1169年

 

 

 

 

 僕が本拠地を移してからの時間はとてつも早く、10年の歳月は経った。最初は全く知られていない土地の為に、病気や体調不良で来る人ときたら近くの村の人々が殆どだった。今では人口も増加し、少しは活気ある村になったとは思うが、僕がこちらに本拠地を移した10年前は人口にして60人いるくらいの小さな村であり、主にジャガイモなどの野菜を作っていたな。

 

しかしながら、村から来る患者などに話を聞くと、数年前から土壌が悪くなってしまったのか小さな物しか育たない。不揃いでもあるし不作続きだと嘆いていたな……

 

(十中八九あの魔物がここいらの土地の養分を吸っていたからだろうな)

 

 ん? そういえばあの花の魔物の核はどうしたか? あぁ、あれについては久々に胸が躍ったな。まぁシトリーから出てきた白い龍程ではないが……どうやらこの過酷な環境をどうにかして生き抜こうとして魔物が異常発達した痕跡が見て取れた。言うなれば紋章の暴走……みたいなものだな。

 

 何故そう分かったかについては、元であるDNAの配列などが今まで見てきた魔物と同じパターンだったからだ。ただそれだけ……他の理由は面倒だからこの場では語らない。

 

 ともかくとして、これでまた一歩紋章についての研究が進んだ。一昔前にも紋章が暴走して人から魔物になってしまった英雄がいたが、それについては僕が無理やり力でねじ伏せてなんとか人に戻したが、あの時はただ魔物になった英雄が半端ない程の耐久力を持っていたからこそ出来た芸当であり、今の時代にそこまでの力を宿した奴はいないだろう。

 

 だからこそ、もし現代でもそうなってしまった、或いはリシテアの様に無理やり紋章を埋め込まれて被害に遭っている人たちがいるのなら、出来るだけ苦しまない方法で救いたいと思っている。

 

 しかしながら僕が花の魔物を倒してからというもの、徐々に土壌が元に戻ってきたのか、村人達がそう言っていた1年後には不作ではなく、形も元の大きさに戻ったと言っていた。僕も拠点を移してからというもの、研究だけではなく積極的に外へと出て村人達と交流をし、信頼関係を築いて来た。いつも同じ畑を耕して農耕をしている様だったから、いくら土壌が元に戻ってしまったとしても、それではいつか枯れてしまう。

 

 だから僕は村人達にこの様な提案をした。それが放牧をした二毛作、或いは三毛作である。例を挙げるのならば、同じ面積の畑を4つ用意する。そのうちの2つはジャガイモ、その後にまた違った作物を植えて収穫して行く。その他は何も植えずに雑草が生えるのを待つ。ある程度雑草が生えるのを待ったら、後は家畜を導入して簡易的な策を作り放逐をする。

 

 まぁこの方法にしてもとあるアニメを見ていたから覚えていた、というのが正しいのだが、まずはこれで村をいくらか裕福にしていこう。そしてこの方法が良いものならば他の村でも実施して貰う。そうしたならばこの村だけでなく、他のところでも貧しい思いはしないで済むだろう。

 

 そして提案した1年後、この村で貧しい思いをしたもの、餓死したものは出なかった。無事に冬を超えることが出来たのだ。これにより畑を拡張、この村をまずは豊かにしていく。その後はファーガス全土にこの方法を広めていこう。といっても向き不向きあるだろうが……

 

(……ん? 何故僕はこんな事をしている?)

 

 農耕など興味がなかった筈だが……真っ暗闇の空間では確かにアンドロイドで興味のあるものがやっていた。しかしながら僕は作業を手伝ったことなどないし、寧ろ作業している姿を見たことが無い。なのに何故僕はこんな事をしているのか……

 

(まぁ……後でどうとでもなるか)

 

 この考えをほぼ1年間後回しにしながらソーマは村人達との交流をしていったという。

 

 因みにソーマの生み出した三毛作などは、すぐ様近くの村々へと伝播していき、ソーマが本拠地を移した周辺の村々は数年前とは比べ物にならない程活気付き、人口も増えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ここからは10年の間に起きた事を話しておこうと思う。本拠地を移して1年目からはさっき言った様に、近くの村人達との交流をはかっていた。まぁその合間に起きた事と言ったら、近くの大修道院で火災が発生した。本来結構な距離があるのだが……アスクレピオスの能力、つまりサーヴァントの肉体としての能力もあってか確認ができた。

 

 なので僕はすぐ様現地へと向かった。そして救出活動と火災の消火活動に尽力したと記しておこう。被害者は出ていたが、死人が出ていなかった事が救いだ。重傷を負ったものがチラホラといたが、正直言ってリシテアが抱えている様な大事では無いため処置は簡単にできた。

 

 ただそんな事をしている間に久方振りに会う人物もいたな。まず最初に会ったのはジェラルドとシトリーだ。ジェラルドの名前についてはその時に初めて聞いたが……どうやらあれから元気に過ごしていた様で安心だ。本来ならば問診の必要もあるのだが……その時は他に救うべきもの達がいたからな。申し訳ないが後回しにさせてもらった。

 

(まぁ、後でちゃんと問診はしたがな)

 

 それが終わって本拠地に帰ろうとした。しかしながらその途中で意気消沈した女性がいた。どこか怪我をしたのだろうかと思って近づいたのだが、まさかの知人だった。

 

 正直忌まわしい僕の黒歴史の大本を作った張本人の1人であるセイロスだ。ここまで近づかなければ容易に気付きはしなかった。そういえばシトリーを助けた時も会っていたと今更ながらに思うが、あの時はセイロスが抱いていた子供を助けるのが最優先だったから気にも留めなかった。

 

 で、なんで意気消沈したかを聞くと、どうやら火災があった施設はセイロスにとってとても大事な施設だった様だ。話を聞くと……お母様の魂を蘇らせたいとかなんとか……そのために人の子を実験に使っていたと。そして失敗したのならば捨てるか亡き者にしようと考えていた様だが……どうやら僕と関わっていた事が理由で思い留まり、例え実験に失敗したとしてもそのまま育てていた様だ。

 

 正直途中までは胸糞悪い話であったが……医術も正直なところ似た様なところがあるし、僕も最近新薬を患者に試したばかりだ。だから滑稽な事に……僕が人の命をそんな風に使うな! 等とどうこう言える立場ではない。

 

 しかしながら、実験に失敗してもそのままその子達に慈愛が生まれたとセイロスが語った時は……少なくとも僕が関わっていて良かったのだろうと思う。何故なら本来消える定めの命が、僕が何らかで介入した事で救われているのだから。ま、偽善と言われればそれまでだが……

 

 そんな理由もあり、放火の被害に遭った施設はその子達を育て、そしてこの大修道院でシスターとして勤務させていたからこそ、その子達を火事で失ってしまったと思っていた様だ。

 

 だがそのことについては、僕が先ほど救って来たし、重傷者も治して来たと言うと、セイロスは涙を流しながら僕に礼を言ってきた。そして今待ち合わせていたであろうお金を渡そうとしてきたが、僕は断ってその場を後にした。といっても本拠地に帰っただけだが……

 

 それと今セイロスはレアと名乗っているらしい。まぁ、また会う機会があるのならそう呼ぶ事にしよう。

 

 

 

 

 

 それから数節後の事だが……近くの村の人達に農作業の指導をしていたらいきなり呼ばれた感覚がした。これは僕がジェラルドに渡した物の効果だな。村人達に急に仕事が出来たことを伝えると、急いで僕は駆け出す。村人達に見えないところまで来たら、ジェラルドに渡した装置の居場所を把握、すぐさまそこに扉を作って合流した。

 

 因みにこの頃には少なくとも村人達と良好な関係を作っており、これからの農作業で人手が足りないだろうと思ったから、真っ暗闇に所属しているアンドロイド部隊農耕課(僕がいなくなった後本格的に出来たと聞いている)の所から派遣要請をして手伝わせている。だから僕が指導しなくとも上手くやってくれることだろう。

 

(それにしても、やはり運営を司令官に任せて正解だったな)

 

 この世界では、司令官達がいた頃の世界と違って感情を捨てなくても良いからな。だから皆思い思いにやっているのだろうし、司令官も前の所よりも羽を伸ばせている事だろう。

 

 (しかしながら何かを創設するのなら一言相談して欲しかったな……)

 

 当初そんな課が出来たことを定時報告で知ったソーマさんの顔は、少し寂しさを窺わせていたと近くのアンドロイド隊の皆さんは言っていたようです……

 

 その証拠に……

 

「あんな顔のソーマさん……可哀想ですけど凄く可愛いって思ったのは私だけですかね? あぁ〜……唐突に抱きしめたいって思いました‼︎」by6O

 

「フンッ……ソーマも少し軟弱な所があるって事だろ? ……あ、後で慰めにでも行こうかな」byA2

 

 と、こんな声が多数寄せられたのだとか……

 

 

閑話休題

 

 

 それで扉を潜った先には、なんかあたふたしている人数名……そして

 

「おぉ! 来てくれたか‼︎」

 

 ジェラルドが、僕がこれまで見た事ない形相をしながら凄まじい速度で近寄ってきた。

 

「な、なんだ? まずはなんで呼んだかを簡潔に話せ」

 

「そ、そうだな。お前に渡されたこれが本当に使えるか半信半疑だったんでな……本当に来なかったらどうしようかと思っていた。そ、それよりもだ! うちの子供を見てくれて‼︎」

 

 と言われて案内されたのが、ジェラルドの子供のところだった。その子供はベレスといったか。ともかくベレスは簡易的な子供ベットに横たわり、その傍らでシトリーが心配そうに見守っていた。朝起きたらベレスがこうなっていた様だ。そこで僕を呼んだと……呼ばれたからには診察するか。

 

 診察の結果はただ少し風邪をひいているだけだった。だけだったが……

 

「この子はまだ生まれて数ヶ月程しか経っていないはずだが……何故外に連れ出している?」

 

「あぁ、それはだな……」

 

 それで訳を聞くと……シトリーが生まれてこの方修道院以外を知らないというのもあり、子育ても自分の手でしたいから現在この状況という訳らしい。外出許可みたいな物はレアに出した。それも無期限のものらしく、出すのに結構無茶苦茶な事を言った様だ。代わりに毎月、それと何かあった際は必ず手紙を出す様にと……

 

「……全く、許可を出した方もそうだが、ジェラルド……君も馬鹿な類か? 戦えない子供と自分の妻を伴って、しかも話を聞く限り傭兵家業もしてると? 君は頭がおかしいのか?」

 

「最初は何とかなると思ったんだよ! だが俺達は……我が子が熱を出しただけでこの始末だと思い知らされた。そこで何だが……」

 

(……何か面倒ごとの予感が)

 

「俺達の旅に同行してくれないか? 給金は毎月出すぞ! まぁその時の依頼料にもよるがな?」

 

(はぁ……やはり面倒ごとだったか……)

 

「僕には住んでいる所がある。それに近くの村人とも友好を結んでいるし、今回は緊急だと思って駆け付けたんだ。そもそもお金などで僕はなびかんぞ?」

 

「そ、そうか……な、なら毎日じゃなくてもいい! 後……これも頼みたいんだが、ベレスの教育もして欲しいいんだが……」

 

「おい待て、僕は了承してないぞ? それに何故頼み事が増えているんだ?」

 

「そ、そこを何とか頼む! お前にもしもなんかあったら俺達が力の限り助けるのも吝かではない‼︎」

 

「万が一にも無い状態だな……そもそも僕1人でも魔物は簡単に倒せるというのに」

 

「そ、それでもだ! 頼む‼︎ どうか頼む‼︎」

 

「だから……はぁ……断っても無駄な様だな。ホント僕でもどうかしてると思うが、このままだと何も進展がなさそうだからな。その話、受ける事にしよう」

 

「本当か⁉︎ なら、これから宜しく頼むぞ‼︎ えぇっと……名前は何って言うんだったか?」

 

「今更だな。僕の名前はアスクレピオスだ。言いにくかったら別にアスレイと言ってくれて構わない。ほとんどの者が僕の事をそう呼ぶからな」

 

「そうか! ならこれから宜しくな、アスレイ!」

 

 こうして僕は……全く医術とは関係ない事にも首を突っ込む羽目になってしまった……

 

(はぁ……僕はただ医療行為や医術の進歩に貢献したかっただけなのだがな……)

 

「まぁ……ジェラルドにあの装置を渡した時点で遅かれ早かれだったか」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「いぃや。何も言っていないさ。それよりもだ……今からベレスの風邪に効く薬を投薬する。後……僕がベレスに教育云々は少しばかし施すのは承知だが、僕にも仕事がある。僕がいない時のベレスに対する接し方や何かあった時の対処法は、君にみっちりと教えるつもりだ。僕の教えは他の者より厳しめに行うから……覚悟しろよ?」

 

「あ、あぁ……お手柔らかに頼む」

 

 

 

 そんなこんなでソーマはジェラルドと変な関係を結んでしまった。そこからの約10年、これと言った大きな事件は何事もなかったが、小さな小競り合いにはソーマもいつの間にか介入して流れる流血を最小限に留め、紋章によって苦しい思いをしている子供達との対話をしたりなど、どれも表立った行動ではないがソーマに相談した子供達は幾分かスッキリした表情でソーマの元から立ち去り、以後紋章の影響などに負けず前向きな気持ちで未来に向かう子供達が多かったという。

 

 ジェラルドとともに小競り合いに参加する際、何も持たず特攻……他の者の攻撃全てをいなし、防御を突き破る掌底などは一撃でも喰らえば殆どの者が意識を手放す。そして戦いが終われば敵味方関係なく治療行為をしている姿も多く見られた。その姿を見た者は、敵味方関係なく彼の事をこう称賛した。

 

 神掌(しんしょう)……古代、約千年前にあったとされるセイロスとネメシスが多くを巻き込み起こした戦乱を、たった1人で介入して鎮めたとされるソーマ・アスクレイの再来……治らないとみなされた者達をも瞬く間に治す神の手、戦があれば身を挺して止め、怪我や病を負った者達を親身に捧げて癒す姿はまさしくそうであったと見た人々は語る。

 

 そしてこれは本人の意図する事なく独り歩きし、やがて尾ひれはひれがついて後々の黒歴史になってしまう事を……この時ソーマはまだ知らない。

 

 因みにジェラルドにベレスの教育係を任されてしまったソーマは、比較的ベレスと接する機会がジェラルドよりも長かった為に、当の親よりも名前を早く覚えられ、ジェラルドに物凄い嫉妬を買ったとか……

 

 




おまけ ジェラルドに嫉妬されたアスレイ

ジェ「おいアスレイィッ! うちのベレスに何を吹き込んだぁっ⁉︎」

ソーマ「何をって……君が頼んできた通りベレスの教育係をしただけだが?」

ジェ「そんな事を言っているんじゃない!」

ソーマ「一旦落ち着け。何があったんだ?」

ジェ「こんなの落ち着いていられるか⁉︎ どうして親の俺よりも教育係のアスレイの名前を覚えてるんだ⁉︎」

ソーマ「……」

ジェ「『何言ってんだこいつ?』みたいな顔をするなぁ! 俺だってお前が帰った後ベレスと遊んだり寝かしつけているというのにこの差はなんだ⁉︎」

ソーマ「なんだと言われてもな……比較的に僕といる時間の方が総合的に長いからじゃないのか?」

ジェ「なっ……たったそれだけなのか⁉︎」

ソーマ「もし自分の娘に名前を覚えて欲しいのなら、毎晩食事処で仲間と酒を飲む機会を減らす事だな」

ジェ「ぐっは⁉︎ 何故それを⁉︎」

ソーマ「次の日来たら頭が痛いだのなんだの言ってるからだろ? 僕は医者だ。昨日に患者がアルコールを摂取したかどうかなど一目瞭然で分かる。それにリアからも釘を刺す様に言われているからな。分かったのなら生活態度を改める事だ。そして僕よりも自分の娘に時間を割け。それが親の仕事だ」

ジェ「せ、正論かどうかは置いておいて何も反論出来ねぇ……」

 これをソーマに言われたジェラルドは、その日からお酒を控えて娘や嫁に割く時間を増やし、やがてベレスから自分の名前を呼ばれた。その時物凄く泣きながらベレスに抱きついていたと、仲間の傭兵達が証言した。またこの事を機にジェラルドは親バカになってしまったのだとか……



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11話 本拠を移して20年、度々医療行為以外の事柄に首を突っ込んではまた黒歴史を作られる……しかしながら彼が知るのはもう少し先の事

書いていたらいつのまにか15000字手前まで書いていました。ちびちびと書いていってました。

長くて読み難い文章になってしまったかと個人としては思いますが、何卒読み進めて下さったらと……

それでは物語のスタートです!


 

 

 

 

 

帝国歴1179年

 

 僕がフォドラの地に本拠地を移して20年になる。そして……ジェラルド達と行動する事になって20年か……いやはや時代の流れは速いものだな。

 

 ん? 発言がおじさんみたいだ……と? それは仕方ない事だ。何せセイロスとネメシスが争い事したのが約1000年前で、それを僕が止めているからな。だから普通に数えて年は1000歳を超えているぞ? あの真っ暗闇の空間は時間の流れがあやふやだから正直自分がそんなに歳をとっているかどうか分からないが……ともかくとして僕がここに来てそんな月日が経った訳だ。

 

 それと余談だが、こちらに来たアンドロイド隊の面々にも表面上の名前が必要だと思ったために名前を付けておいた。

 

A2→エリシア

2B→シルヴィア

9S→ナインズ

6O→ポーラ

21O→セシル

デボル、ポポルはそのまま

 

 これが今の彼女達の名前だ。決めた時にも異論はなかった様だからな。これで決定している。ん? ナインズはそのままだと? そのままの何が悪い? 分かりやすくて良いじゃあないか。確かに「ナインズだけ捻りがない!」 と9Sが言っていたが、そこは2Bであるシルヴィアが、「私はナインズと言いたいな……」と言ったら覆ってOKになっている事を記しておく。

 

 そしてここ10年……前までうんともすんともしなかった白紙の手記が記し始めた。といってもエルやマリアンヌからだが。後、一節毎に僕が生み出した遣いで薬をリシテアに届けているのだが、その遣い経由でリシテアからも手紙を受け取っている。確か彼女達からしたらこの年代に出会ったのだったか……

 

 エルからは……まぁ、毎日日記のように送られてきた。あれから全く会っていなかったから、彼女としては物凄く寂しい思いをしていると思う。だからこそこの日記を通して、僕との繋がりを確かめているのだと勝手ながら思った。しかしながらそれも約5年前から一節に1、2回になり、僕としては……かなり心配している。文面からはいつもと同じ様な感じで捉えられるが……何かあったのだろう。それを僕はポーラとセシルに随時情報を集める様にと頼んでおいた。

 

 マリアンヌについては、2、3日に1回のペースで手記に記される。

 

(あぁ、そういえばこの時に初めて彼女に会ったな)

 

 理由としては、マリアンヌが両親がどうしているかと聞いてきたからだ。だから僕は試しに、『会ってみるか?』と返した。すると彼女から是非という事で会う日などを決めた。そしてマリアンヌの両親については当初違う大陸などで住居などを決める予定ではあったが……2人とも僕の仕事を手伝いたいと申し出たこともあって、今の本拠地で生活してもらっている。2人とも簡単な医療行為はできるからな。それ以外は僕に知らせる様にと言ってある。

 

 その事を彼女の両親に伝えると、当然ながら最初は迷っていたさ。だがそこを僕が説得した。「置き去りにしてしまったと後悔しているのなら会うべきだ」と。それを子供から恨まれるのは仕方ない。だが何もしないままそのままというのが……どちらともにとっても辛い事だと思っている。その時は会うべきだと感じたんだ。

 

 そこまではいいが……まさか彼女が僕にも一目会いたいと言ってくるとは想像したなかった。どの姿で会えというのか……

 

 ま、そこは腹を括ろう。いつも垂らしている髪をポニーテールにすれば、もしまたどこかで会った時に誤魔化せるだろう。

 

 そして当日、僕はマリアンヌの両親を伴って現在マリアンヌが暮らしている貴族の元を訪れた。僕達を迎え入れてくれたのはマリアンヌを引き取っているエドマンド氏本人で、予想外に快く迎えてくれた。どうやら僕がマリアンヌに白い蛇経由で手記を渡したからというもの、関係は良好な様だ。未だに他の人と話すのは苦手な様だが……それも日に日に改善されると願いたい。

 

 それからいよいよマリアンヌと両親は数年越しに対面した。どちらともに泣きながら抱きしめあっていたよ……

 

(僕も前世で両親が生きていたら……こんな風に抱き締めて貰えただろうか?)

 

 ……いかんな。ここで物思いにふけってしまうのは。そう思った僕は静かにその部屋から退室した。そこからはエドマンド氏の部屋で雑談に興じていたのだが……そこにマリアンヌの両親が来て、娘と話して欲しいと僕に言ってきた。

 

 僕は最初親子水入らずなのだから存分に話し合うと良いと言ったのだが、どうやらそれもマリアンヌ本人から僕と話したいと言ってきた様で……それも僕と2人きりで……

 

(何を考えているか分からんが……)

 

 まぁ良い。本人が希望するのなら、僕とそう無碍には断らんさ。僕はマリアンヌが待っている部屋へと向かった。

 

「お待ちしておりました」

 

 部屋に入ると、マリアンヌが綺麗なお辞儀をしていた。それに対して僕は、貴族の作法など聞きかじった程度にしか知らない為ぎこちなく返していたと思う。それが済んでからは、椅子に向かいあった状態で話をした。手記をいきなり渡されたあの日からどうだったかを主に……それを重ねる毎に僕に興味を持って会ってみたかったと。

 

 それだけだったら良かったのだが……全く今日は本当に予想外な事ばかりだった。

 

「あの……貴方の名前は、なんと呼べば良いのでしょうか?」

 

「名前か……僕はこういう時、通りすがりの医者と名乗っているのだがな」

 

「私は……貴方に救われました。あの日、白くて可愛い蛇が私に手記を渡さなかったら……今も塞ぎ込んでいたと思います。でも、この手記を通した貴方との会話は今の……私の楽しみの1つになりました。それからなんです。もう少し自分の周りを見てみようって思ったのは……だから貴方は私の恩人なんです。そんな恩人の名前を知らないなんて……私は嫌です! 貴方の……名前を教えて欲しいです!」

 

 と、言われてしまった。まさかここまで彼女が前向きにくるとは……

 

(だがここまで言われて名乗らなかったのも、彼女に失礼だな)

 

 そう感じた僕は、彼女に自らの名前を教えた。まぁ偽名だが? ネーミングセンスが足りない脳をフル活用してこう名乗った。

 

「僕の名前はクレイだ。所謂農家の出身だからな。その名前しかない」

 

「クレイ……先生」

 

「ん? 何故後に先生を付ける?」

 

「だって……私を救ってくれた人ですから。それに手記でも自分は医者だって言ったましたから。だから先生ってつけました」

 

「そ、そうか……」

 

「そ、それと……」

 

 彼女は少し言うか言うまいか迷ってソワソワしていたが、意を決してこう言ってきた。

 

「せ、先生の事を抱きしめても良いですか⁉︎」

 

「……は?」

 

「さ、さっき両親と抱き合っていた時につい見えてしまったんです。何故か先生が……微笑ましそうにしていながらもどこか寂しそうな顔をしていたのを」

 

 どうやらあの時物思いにふけっていたところを見られていた様だ。あぁ……穴があったら入りたい。

 

「その……良いですか?」

 

 彼女は……どこで覚えたのかどこか上目遣いで僕を見つめていた。

 

『……な、なら……抱き締めてもらっても良いかしら?』

 

 エルと別れたあの日……彼女を見たらそれを思い出してしまった。勇気を振り絞って、恥じらいがありながらも僕にお願いしてきたその言葉……マリアンヌの今の姿勢が彼女とどこか似通っている様に見えた。これは僕の錯覚かもしれない。しれないが……

 

「君が後悔しないのであれば……な」

 

「っ! で、では……」

 

 マリアンヌが椅子から立ち上がって、座っている僕に近付いてき……そして……

 

「っ⁉︎」

 

 今日何度目の驚きだろう……僕はいきなり視界が黒く染まった。僕の頭を彼女が抱き締めているのは分かるが……僕の顔に伝わるこの温かさと柔らかい感触はなんだ⁉︎ 今まで味わった事がないぞ⁉︎

 

 心の中でテンパる僕を他所に、彼女は何故か僕の頭を撫でてくる。

 

「これは私の勝手な思い込みですけど……貴方も私と同じ様に、両親と、大切な人と離れ離れになったんだと思います。でも貴方は私と違って……弱音を吐かないで、後ろを振り返らないでずっと前を見て生きてきたんだと思います。でも私が両親と涙を流しながら抱きしめ合っていた時の貴方は……これも自分勝手ですけど、家族の温かさを求めていたんじゃないかって……だから」

 

「だから……私では力不足だって分かっています。それでも……少しでも貴方に……温かさを与えたい」

 

「……」

 

 あぁ……なんなんだろうなこの気持ちは。これまで生きてきて初めての感情だ。こんなの……1度も経験した事ないし未知だ。未知だけど……

 

(なんでだろうな……まだこのままでいたい)

 

 あの時のエルも……こんな想いで僕に抱き締められていただろうか? 今となっては本人に聞かなければ分からない。分からないが今は……まだこうしていたいという気持ちがある。

 

 それからは両者ともに無言のままだったが、ソーマはマリアンヌに頭を中心に抱きしめられたまま撫で撫でされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい! ま、まさか私もあんなに長くしていたなんて……」

 

「い、いや……君が謝る事など何もない。僕も……その何というかだな……これをどう表現すれば良いのか分からないのだが、心が和らいだと……そう感じた。だから……謝らないで欲しい。寧ろ僕は……君に感謝している。こんな気持ちを与えてくれた君に」

 

「先生……」

 

「君といつ会えるかなんて分からないが……また機会があるのならば会えるだろう」

 

「もう……先生とは会えないんですか?」

 

「僕にもやらなければならない事がある。この世界での医術の進歩……病気で困っているもの、マリアンヌの様な紋章で困っている人々を僕は救いたい。それが僕だけではなく、多くの志を持ってくれる医者や治療師がいてくれれば……皆何も恐怖することなく平穏に生きていけると、そう思っているから」

 

「……分かりました」

 

 マリアンヌは少し顔を俯かせていた。会えない事は……無いはずだ。だが、それにかまけていると僕は……自分の志を果たせそうにない。前まではこんな事は感じなかったはずなのに……

 

(彼女を……悲しませてしまったな)

 

 そう思って……この時もポンコツな僕は何と声をかけて良いか分からなかった。頭の中で考えて考えて……なんとか彼女に言葉をかけようとした時……

 

「私も……貴方の夢を追いかけます」

 

「……ん?」

 

「今回の様な特別な事がないと会えない……とても悲しいです。私は……貴方との時間を、この手記だけじゃなくてもっと一緒に過ごしたい。でもクレイ先生にも目指すべき道がある」

 

「なら私は……貴方と同じ様な道を進んで、貴方の力になりたい。そして……貴方の側に居たいです」

 

「……どうしてそこまで僕のそばにいたいと?」

 

「……クレイ先生の事が……好きだからです」

 

「僕と君は……今日初めて会ったはずだが……」

 

「確かに今日初めて貴方に会いました。でもそれよりも前からこの手記を通して貴方のことを知っています」

 

「その手記についてだが……本当は僕が書いているんじゃなくて別の人が書いているかもしれない」

 

「さっき話してみて分かります。クレイ先生が私に返事を返してくれているって。手記の中だったら医療の事ばかり書いてくれて、所々ぶっきらぼうで……でも貴方は表面上ではそう表現してるだけで、心のうちは物凄く優しい人だって……今日会ってみて改めて感じたんです。だから手記の返事を書いてくれているのはクレイ先生です」

 

「そして私は……手記の中での会話じゃなくて、貴方の側に一緒にいて色々話したいんです。これまでの事も……これからの事も……」

 

「……僕は、医療にしか興味がない。人を救う事。痛みを和らげる事。いつかは……死の苦しみさえも無くしてしまえる様な、そんな医術を残したいと。それにしか興味がなかった。僕の生きる意味は、与えられた役目はそれしかないのだと考えて生きてきた」

 

「だが僕は……それだけが意味ではないと。医療にかける情熱や時間も大事だが……君の様に、何故か僕には一緒にいようとしてくれる人が多くてな。その人達と関わり合っていると……僕もいつかは……この人達と、勿論君とも笑いながらこの世界を過ごせるのではないかと思っている」

 

「しかしながら……医療の事しか考えてこれなかった今の僕には……今の本気の気持ちに本気で答える事が出来ないと思っている。今答えてしまうと……君の答えを軽々しく踏みにじってしまいそうでな。だから……マリアンヌには悲しい思いをさせて申し訳ないと思っているが、今すぐに答えれそうにない」

 

「……いいえ、謝らないで下さい。貴方の答えが出るまで……私は待てますから」

 

「すまない……」

 

「でも、これからもこの手記を通して貴方との会話をしていっても良いですか?」

 

「あぁ、勿論だとも」

 

「それと……君の進む道は、君が思うほど甘くはない。辛い事が沢山ある。今の生活の方がずっと楽だったと……後悔する事があるかもしれない。それでも……僕の夢を追いかける覚悟はあるか?」

 

「あります。何年かかったとしても……貴方の側に居たいから……」

 

「……そうか。なら僕は、君の夢を応援する事にしよう。僕は、君の本気の気持ちに応えれない臆病者だが……君の夢を馬鹿にはしない」

 

「それだけでも今は嬉しいです。ありがとうございます。では先生、外までお送り致します」

 

「良いのか?」

 

「はい。先生は私の客人でもあるんです。だから最後まで私に貴方のことをお見送りさせて下さい」

 

「分かった」

 

 そして僕達は、エドマンド氏の所にいるマリアンヌの両親を迎えに行き、そこからはエドマンド氏も含めて僕とマリアンヌの両親を送り出してくれた。別れ際にマリアンヌの両親がマリアンヌに何か耳打ちしていたが、そうされた瞬間にマリアンヌは物凄く赤面していた。何を言われたか分からないが……僕は知らない方が良いだろう。僕の勘がそう告げている……

 

(それにしても……彼女が僕と同じ道を進みたい、か。……初めてそんな事言われたな)

 

 しかしながらこれからはそう簡単に会う事はできないだろう。彼女の夢を応援するのならば……本当は僕が彼女に付いて色々教えるべきなんだろうが、何故かここ数年やる事が多いからな。ただ手記でも連絡は取り合える。その時にまた最低限の事は教えれるだろう。

 

 と、本人は思っていますが……意外にも早くマリアンヌさんと対面する事をソーマさんは知りません……

 

 

 

 

 それでリシテアについてだが、結果は良好で、手紙を見る限り体調は良好な様だ。それでも数節に1度は検診するが……そしてその度にお菓子を色々振る舞ってくる。うむ、悪くない。

 

 だがこんな話も聞く。数年前に起こったフリュムの乱……帝国側の政策に反発した貴族が起こしたもので、フリュム家はコーデリア家、リシテアの家と結託して今の同盟に鞍替えしようとした事件だ。だがそれもあえなく失敗し、コーデリア家も帝国の介入を受けて……リシテアも被害に遭った。そしてフリュムが治めていた土地は帝国側で統治をされているが……それは物凄く酷い内容で人々が苦しめられている。それで度々コーデリアの領地にも辛うじて逃げ出した人々がいて、それを保護している。との話を聞いた。

 

(……ポーラとセシルにそこの所を調べさせるか)

 

 その話を聞いたソーマは情報をポーラとセシルに調べさせ、その後統治している貴族の元へ闇夜に紛れて鉄拳制裁……次こんな事を起こしたら(精神的に)血祭りに上げると釘を刺した。

 

 それからと言うもの……徐々にその土地の統治は改善され、今では普通に暮らしやすい街になっている。

 

 また、急に統治していた貴族がそこでの法令を良い方向へ改善した事から、そこにいる人々はこう口にしていた。『アスクレイ教に奉る神、ソーマ・アスクレイが自分達を助けてくれた。大昔に起こった大戦と同じく、人々の苦しみと流血を止めてくれた。神は自分達の苦しみを理解して助けてくれた本当の神である』と。それを機にその街ではセイロス教よりもアスクレイ教の信者が殆どを占めたという……

 

 

 

 

 

 

 

 リシテアからの話を聞いた僕はすぐ行動を起こした訳だが、その後の街は平和そのもので誰もが暮らしやすいと言っていたと聞いた。それで、医療行為についてだが……これまで通り筒がなく行い、各地で紋章で悩んでいる子供達をケアしてきた。だがそもそも僕はカウンセリングは苦手だというのに……

 

(だがそれも……子供達からすれば関係ない事だろう)

 

 何はともあれ、僕が相談に乗って、子供が僕の元を去る時は皆一様にいい顔をしながら帰って行った。

 

 そもそも僕がどこで子供達の相談にのっているのかって? そうだな……僕はジェラルドと行動する様になり、本拠を構えている村周辺とは別にフォドラ中を巡った。その中には……やはり小さな教会や修道院もある。そのため時たま僕は、ジェラルド達が野宿になりそうな時はジェラルドの妻であるしとりーと娘のベレスを伴って近くの教会や修道院を訪れて、各地を巡る旅人として寝床を提供してもらったりしている。紋章で悩まされている者、特に子供が多かったが、そんな時に話を聞くことが多かった。

 

 確か最初は……ファーガスとアドラステアの境目にある小さな教会だった事を覚えている。日も暮れて夜の帳が深くなろうとしていた時、興味本位で僕が教会の中を見学していた時だ。本来なら人が来ないその時間にその子供は現れた。

 

 容姿は金髪の長い髪を持ち、肌は綺麗な白い色をしていた。子供ながらにも唇はぷっくらととしていて艶もあった。普通に見て綺麗な女の子だと感じたし、このまま成長したらべっぴんになる事は間違いない。着ていた服も……貧しさを感じない。どこぞの裕福な家系の子供なんだろうと思った。そう思ったと同時に、僕の直感が感じたんだ。あぁ……この子も何か紋章の事で悩んでいるのでは、と。

 

 その勘が外れたのなら、僕は心の中で物凄く恥ずかしい思いをした事だろう。だが実際には僕の勘通りになったが……

 

 話を聞くと……ジェラルド達と一緒に行動する様になってよく聞く話だった。どこの土地に行こうが……貴族どもは紋章の有無を重視する。僕の目の前で泣きながら話している子供だってそうだ。

 

 父親とは生まれる前に死に別れ、再婚したはいい者の、再婚者も所詮紋章の有無を重視してこの子にはいい思いなどさせていなかった様だ。最初は再婚者との仲もそれなりに良かった様だが……やがて母親と再婚者の間に子供が生まれ、その子に紋章がある事が分かると、母親揃って腫れ物の様に扱われて、それに耐えかねてしまったこの子は今日教会に足を運んだと。

 

 この子としても、この時間に誰かがいる事は考えておらず、この協会が祀っているソーマ像の目の前で今回の事を言って、少しでも自らの中にある重みも軽くしようとしたのだろう。だが予想外な事に僕がいた事で、僕からしたらカウンセリングみたくなってしまった。最後に僕が「辛かったな。よく1人で頑張った」と声をかけたら、さらに泣き出して僕に抱きついてくる始末……僕はこんな時、ベレスと接しているからこんな事にも慣れたと思っていたのだが……やはり苦手なのは苦手な様で……僕はただただ力を入れすぎない程度に抱き締めてその子の背中と頭を撫でてやる事しか出来なかった。

 

 それも数分くらい経って泣き止むと、目元は赤くなっていたが、それでも僕の見立て通り子供とは思えない綺麗な笑みを浮かべていた。まだうっすらと涙が残っていたので、僕は指の腹でそれを拭った。そうすると目の前の少女は途端に頬を赤く染めながら、先程とは違ったぎこちない様な笑みを浮かべていた。

 

 熱でもあるのかと思い僕がおでこに手をやると、今度は驚いていた。ふむ、熱はない様だ。

 

 どこか体調が悪いのかと聞いても、未だに頬を赤くして何でもないと言う。そう言って頬を赤くしたまま少女は僕にお礼を言って教会を後にした。

 

 しかしながら……僕は夜道に子供が1人でいるなどとは危ないと判断し、バレない様に空からコッソリとついて行った。そこ、僕はストーカーではない。言いがかりはやめる様に……

 

 ともかくとして何事もなく少女は自分の家に辿り着いた。着いた家は、僕が予想した通り貴族の家の様だが、少女が帰った途端男の怒鳴り声が聞こえた。確か……役立たずの穀潰し……だったか?

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄拳制裁決定

 

 

 

 

 

 自分勝手など知ったものか。僕は……あの少女の想いを聞いたからには見て見ぬ振りなどできぬさ。

 

「こちらソーマ、応答せよ」

 

『はい、こちらポーラです! どうかしましたかソーマさん?』

 

「大体いつもの様な案件だ。とある貴族の情報が欲しい」

 

『分かりました! では取り急ぎ情報を精査した物を纏めて送りますね! にしてもソーマさんってば、いつも医療の事ばかりしか考えていないって言ってるのに、子供とかが絡むといつも何かしら助けたりしてますよね?』

 

「偶々だ」

 

『偶々じゃないですよぅ〜。こっちだっていつもソーマさんが何の用件でかけてるかちゃんと記録に残しているんですからね? あっ、何でしたら子供達が絡んだ時に情報とか欲しいって言った記録数えましょうか?』

 

「それは勘弁願いたい。正直恥ずかしい」

 

『ふふっ♡ 私は恥ずかしくて悶絶しているソーマさんも可愛いと思いますし……何だったら優しく慰めたいなぁ〜って思いますよ?』

 

『ポーラ何を遊んでいるんですか?』

 

『せ、セシル⁉︎ あっ、いやこれはねっ⁉︎』

 

『ソーマが困っています。余り困らせてはいけません。分かったら情報を集めて送って下さい』

 

『は、は〜い……』

 

 そこでポーラからの通信は一旦切れた。

 

『またポーラが迷惑をかけました』

 

「いや、あの子はあれが自然だからな……悪気があってやってる訳でないことだけは分かっている」

 

『そう言ってくれるとこちらも助かります。それと……』

 

「ん? どうした?」

 

『もしソーマが恥ずかしがって悶絶していたら……私も貴方の事を優しく慰めてあげます。では、私も仕事に戻ります』

 

 そう言ってセシルからも通信が切れた……

 

「……果たしてセシルのはわざとなのか? それとも本当の気遣いからか?」

 

 そこのところを未だ分かっていないソーマだが、今は鉄拳制裁の事だけ考え、情報が来るや否や直ぐに行動に移し……その再婚相手とやらを鉄拳制裁した事は想像にたやすい事だろう。

 

 また、ここ数十年紋章絡みで被害に遭う貴族が急増した。その内容としては……部屋が急に暗くなったかと思えば目の前に黒いフードを被った男が目の前に立っており、自身が今まで何をして来たかを精神的に問い詰められていくというもの……やられた本人としてはたまったものではなく、翌日には悔い改めて自身の行なって来たこととは真逆な事をする様になったと……その貴族に仕えていた使用人や家族が語っていた。

 

 と言っても大体被害にあっていたのは、自身の子供に紋章の有無があるかどうかで子供を、はたまた子供と妻を蔑ろにしていた者達である。言うなれば自業自得であった。

 

 そんな事も分かっているため、紋章の有無で身内を蔑ろにした貴族を精神的に制裁したその謎の人物は、当の本人の知らぬ間に噂となった。

 

『紋章の有無で身内や誰かを傷つけた者共は気を付けよ。傷つけた物事は回り回って自身に返ってくるぞ。その足音は聞こえず、どこまで煌びやかな光を纏う者であれ一瞬にして暗闇に叩き落とされる。その者、黑き羽衣を纏いてその者の目の前に現れ、一瞬にして絶望の淵に叩き込む。人呼んで黑神(こくしん)……全ての黑き感情、侮蔑を許さぬ膺懲(ようちょう)の神である』

 

 その様な噂が飛び交い、身に覚えのある者共は顔を青ざめさせ、しばらくの間震えが止まらなかったという。特にアドラステアの宰相を務めるエーギルという人物だが……彼はソーマに2回に渡って被害を受けていた。

 

 1つ目はエーデルガルトに紋章を埋め込む実験に1枚噛んでいた事件について、もう1つは……つい先日、フリュム家が治めていた土地に無理難題な政策をしていた事である。

 

 その為彼は……膺懲の神と聞くと震えが数時間止まらなかったという……

 

 その逆として、それまで紋章の有無によって虐げられていた者達はこれに対して希望を見出し、黑神の事を別にこう呼んだ。『薄汚い侮蔑さえも取っ払い、全ての者に希望を与えんとする利運(りうん)の人』と。

 

 まぁそれさえも本人は知らないのだが……いや、本人からしたら知りたくもないし勝手に捏造するのはやめてくれと発狂するだろう。

 

 因みにソーマによって制裁を受けた貴族は、翌日には焦燥しており、今までの事を蔑ろにしていた再婚者である妻と娘に詫びていた。しかしながら妻と娘はそれを受けたとしても想いは変わらなかったのか、その日のうちにその貴族の家を出奔。妻子ともに、娘が行ったとされる教会に赴いた。

 

 しかしその時には娘の話を聞いてくれた者はおらず、そこに勤めるシスターに話を聞いてもその様な人物は存在しないという。ただしその日は、娘の話す特徴と合致する人物がこの協会を利用したとシスターは述べていた。

 

 それを聞いた娘は、お礼を言おうとした人物がいない事に残念に思ったが……同時にこうも呟いていたという。

 

 

 

「あぁ……貴方様自ら私の事を助けてくれたのですね。アスクレイ様……」

 

 それを機にまた1人、アスクレイ教の信者がまた増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、そんな話もあって何故か教会などを訪れると紋章絡みの悩みを持った者と接する機会が増えた。また最近の話となると、ファーガスと蛮族の国の国境近くで構えている貴族の下を仕事目的で行った事があった。そこにはとある兄弟がいた。兄は文証を持たずして生まれ、弟は逆に紋章を持って生まれた様だ。だがこの兄弟も紋章絡みで悩んでいるらしい。

 

 兄の方は今までと同じく紋章がない事で弟よりも扱いが酷く、弟は逆に紋章を持つが故に小さい時から周りの女性にチヤホヤされていると。兄の方はこれまでと同じ様な感じであるし、弟の方は逆に恵まれている様に見えるだろう。だが弟の方はいつもこんな事を思っている様だ。紋章だけが目当てで自分の事など誰も見向きしてくれないと……

 

(これはまた珍しい悩みだな……)

 

 そう思った僕は、仕事で何日か滞在する予定もあってその兄弟の話を個別に、本人達の気が済むまで聞いた。そして結論……それぞれに治療と称してこれらのことを施した。

 

 兄に対して:この世界は紋章の有無だけで全ての物事が決まるとは思っていないし、紋章にかまけて何もしないよりも、日々努力を疎かにする事なく何かを極めた者こそ真の人だ。それは紋章を持つ者も同じ事……だからこそ君はその者達よりも己を磨け。そうすれば……例え誰かから紋章の有無を馬鹿にされたとしても、実力で見返す事ができる。それに、そんな事を言う奴はただの阿呆だからな。一々耳を貸す事はない。その一歩として……僕が稽古を付けてやる。近くに何も武器がない時に有効な事だ。僕がいる間に死に物狂いで基礎は習得してもらうぞ?

 

 弟に対して:最初は表面的な付き合いだけで良いだろう。そこから自分の事を、心の底から見てくれる人はいつか絶対に現れる。今君が感じている重荷さえも全て包み込んで溶かしてくれる人が……それまで君は、多くの苦悩を抱えるだろう。だが決して諦めるな。君が君である事を……周りに踊らされる事なく、自分の信念を持って生き抜け。

 

 

 

 と、弟に対しては正直初めての悩みだったから具体案は出なかったが、少しは気が晴れていたと思いたい。そして2人に共通して言ったことは……

 

 君達の中には同じ血が流れている。この世に数少ない血縁だ。それを大事にしろ。紋章で仲が悪い事は予め知っていたが、これを機に2人で話す機会を増やせ。そして時には殴り合いなどの喧嘩をしてスッキリしろ。そうすれば幾分か悩みは晴れるだろうよ。

 

 なんとも医者らしからぬ発言だと思っているが、子供のうちは喧嘩して互いの事を分かり合って認めた方が良い。少なからず僕はそう思っている。

 

 そんな助言らしからぬ事を言って、近くで仕事がある時に寄ったりすると兄弟で殴り合いとかの喧嘩を多く見た。見る限り紋章を持たない兄が大体優勢であるが、紋章を持つ弟も何度倒されても喰ってかかるなど……前みたいな陰湿な空気は無くなっていた。そして最後にはどっちとも倒れ、後は笑い合って語らい合う。まぁ僕の助言で仲が良くなったのなら良いのだがな。

 

 だがここ最近の10年は物騒な事が多かったな。特筆すべきは主に2つ。

 

 1つはダグザ・ブリギット戦役未遂と呼ばれるものだ。それより前にもいくらかあり、どうにか介入しようとしたのだが、殆どが政治の関わるもので容易には干渉が出来なかった。それこそが原因で、エルやリシテアの様な被害者を招いてしまった。僕がもう少し外の事に興味を持っていれば……対処できたかもしれない。だがそうすれば今の時代の流れも変えかねない。僕はエルとリシテアに会い、治療などを施している。介入しようものならばその事実もなくなり、歪みが生じていただろう。そう考えたのなら……安易に介入できなくてもしかたなかったかもな。

 

 さて話を戻そう。そのダグザ・ブリギット戦役未遂とやらは、今から5年前に起きた事だ。ダグザ、ブリギットの両国が同盟を結び、フォドラ南部のアドラステアに侵攻しようと企んだものだ。フォドラの南西……海洋を挟んだ国々がこの地に侵攻してきたのだ。本来ならば多くの血が流れていたと思う。

 

 だが……僕はそんな下らない事で血を流す必要は無いと思っている。

 

 だからこそ……上陸してくる日を見計らって、予測として彼奴らが上陸してくる地域周辺にとある生物を生み出した。そのおかげもあって、戦闘などほぼ無く彼らは去って行ったと聞いている。ん? 何を生み出したかと? それは……まぁリヴァイアサンをだな……生み出してしまったんだ。そんな大それたものを生み出す気はさらさら無かったんだがな……何故だろうな?

 

 だが生み出した数分……多分あれは雌だと思うんだが……じゃれつかれた。といっても頭をこっちに押し付けてくる程度だが……大きさ故にはたからみたら大変驚かれるだろう。それに対して僕は……あぁ、ベレスが時たまねだるあれかと思い頭を撫でる。すると目を細めて凄く嬉しそうにしていた。それが何故か、僕でも何故この感情が湧いたのか分からないが、可愛いと思って数十分程は撫で続けたと思う。

 

 それが終えてから、リヴァイアサンにとある事を指示した。敵意を持ってこの地に踏み入れようとする輩は即座に無効化する様にと。しかしながら人を殺める事は許さない。彼らが諦めて帰るように仕向けて欲しいと。

 

 そしたら彼女は、見た目によらず可愛い泣き声を発して頷き、海の中へと戻って行った。

 

(まっ、侵略しようとする輩どもには容赦していなかったが……)

 

 あれは僕でも一言では言い表せないな。僕とは明らかに態度が違うし、それに目も赤く光ってるし……そもそも海の上を口から火を吐いて文字通り火の海にするのとか凄いなと正直に驚いた。それでも僕が言ったように、誰も殺めず彼らを退散させていた事は……それも良くやったと同時に凄いと思ったな。

 

 これは余談でありますが、一仕事した彼女の頭をソーマさんが優しく撫でており、それを受けた彼女は目をトロンとさせていたと言います……

 

 

 

 

 

 ダグザ・ブリギット戦役未遂は一旦それで終わりだ。後にブリギットから国王の使者という事で、国王の娘が来日……いや、日本ではないから来訪というのか? ともかく、ダグザ・ブリギット戦役未遂の事を謝罪と同時に、これからはアドラステア帝国と良好な関係を結びたいとの事で、確か2、3年前からガルグ=マク大修道院に併設されている士官学校にその使者が通っていると聞いた。うむ、まぁ友好関係が構築されるのならば、僕としては文句などないな。

 

 後もう1つ……これが凄く厄介だった。ダスカーの反乱未遂……これもどうにか平和的に解決させて貰った。

 

 内容としては、ファーガスの国王であるランベールや要人、それを守護する兵士達がダスカーで会談を行う予定であったのだが、突如として何者かがが国王達を急襲……その場にいるもの達を皆殺しにしようとしていたのだ。

 

 この事件の背景には政治的な要因が絡んでいて、正直僕が1番苦手にする部類だ。ただこれは、僕が自ら動いて事前に情報を集める前にある人物から知らされた。

 

『ソーマ、助けて‼︎』

 

 それは……エルからの一言だった。ここ最近は一節に1、2回程しか連絡を取り合っていなかった彼女だが……その一言だけでどれほど緊急な事なのかが分かった。

 

「アンドロイド隊全てに告げる。現時刻より行なっている作業を中断! 本拠地作戦司令室に集まれ!」

 

 そこから僕は皆を召集し、エルが何か危険な事に巻き込まれている事を説明。真っ暗闇の空間で指揮を任せている司令官にもこの事を伝え、何かが起こる前に未然に防ぐ様にアンドロイド隊情報部総出で情報を集めさせた。そこから分かったことと言えば……

 

(闇に蠢く者……か)

 

 どうやら彼らは、僕がセイロスとネメシスの戦いに介入した時からある組織の様で……これまでに起こった内乱などもどうやら彼らが裏で主導していた様だ。

 

 その集めた情報を元に、僕はエルにその組織が関わっているのかを問う。すると彼女は驚いていた様だったが、それなら好都合という事で今回の事を全て教えてくれた。

 

 それを元に僕は直ぐ様対応策等を司令官と共同で打ち出し、それに対してアンドロイド隊を配置。僕はランベール達主要人にバレない様にその時を待つ。

 

 そこからは簡単だ。急襲しようとしたダスカー人を全て捕縛、そこにいた全てのダスカー人に事情聴取をした。といっても僕ではなくアンドロイド隊が全てやって纏めていたが。

 

 纏めたものを見て、それをランベール達に僕から伝えた。

 

 どう伝えたか? 彼らは利用されたに過ぎず、とある組織の口車に乗せられたと。まぁだからと言って罪を許すの事は出来ない。

 

 その為に僕は交換条件を出した。今回の事に加担した者達は王国側で処罰をする。ただし死刑などの極刑はしない。そして他のダスカー人は今の土地を追放……しかしながらダスカーの民はこちらで受け入れる。

 

 僕もこれはご都合的展開だとは思っているが……最近僕が本拠を置いた近くの村々で人手が足りなくなってきている。十数年前まで餓死する者がいた村が、今では誰もが無事に冬を越せる。それに伴い人口増加、農耕面積も大きくなり、僕が今派遣しているアンドロイド隊の農耕課では対処できないところまで来ている。その為に今回の話は僕にもメリットがあると考えた。

 

 しかしながら、未遂とはいえ虐殺の一歩手前まできた今回の事は、流石にこの条件では駄目だろうと感じた。だが予想外な事にランベールがそれで良いと言ってくれたのだ。理由を問うと、今回は誰も被害に合わなかったし、実行したのはダスカー人であれ、影から糸を引く者達が本当の悪であると理解したからだそうだ。僕も今持っている情報を彼らに託し、ダスカー人を受け入れる体制を整える為に帰還した。

 

 それからしばらくして近くの村にダスカー人が越してきて、今では村人達と円滑に交流している様だ。これでダスカーの悲劇未遂はある意味平和的に終わったと言える。

 

にしても……

 

 

 

 

 

 

 

(最近の僕は動き過ぎじゃあないか? この世界でもただ医療行為が出来ればそれで良かったと思っていたんだが……)

 

 何が原因かなんて分からないが……僕は医療行為の道から度々逸れていると感じている。何故なんだ?

 

(だが……全てが全て悪いとは感じない)

 

 これも……僕が幾度と医療行為とは関係なく人と接してきたからだろう。しかしながら負の感情はない。

 

「この生き方も……あまり悪くはないのかもな」

 

 そんな独り言を呟いてソーマは今日も行く。医療(助け)を求める人々の元へと……




いやぁ〜ここまで長かった。次から漸く本章に進む事が出来ます!

これもこれまで皆様の応援ご意見ご感想あってのものです!

本当にありがとうございます‼︎

それではまた本章でお会いしましょう‼︎


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本章突入  黒衣の医者、何故か先生になる
12話 本章突入 再会


ようやっと本章に突入しました! これも皆様の応援だと思っております!

読んでくださってありがとうございます‼︎

それと……1つ謝らなければならない事があります。それは……本作には絶対に出ないであろう物をクロスオーバーとして書き出してます。絶対にその時代にそぐわないとは自分でも考えてはいるのですが、最近発売された新作のゲームにも影響されましたし、これからのシナリオとしてもしこの作品が完結したらなどを考えると……どうしても繋げたくなりました。

言ってる事が分からん! と思う人も多数出るかもしれませんが、取り敢えずとしてはこの作品の完結を目指していく心算です。

まだまだ完結には程々遠いですが、これからも読んでくだされば幸いです‼︎

では、ご覧下さい!


 

 

 

帝国歴1179年

 

 

 今僕はジェラルド達と一緒にとある村で宿を取っていた。明朝にはこの村を出る予定だ。

 

 20年もジェラルド達と行動を共にし、僕自身も見聞を広め、この世界にいる医者や治療師のレベルを測れた良い機会だった。

 

 結論としては中の下だな。魔法を使って傷付いた者達を癒すヒーラー……彼ら彼女らは多少の怪我ならば直ぐに治せる力を持っている。だからこそ戦場でも大いに役立つのだろうが……病気などの知識に対しては少々弱い。

 

 逆に薬などを使って癒す……僕と同じ医者に部類される人達は……ヒーラーよりも病気に対しての知識があり、それなりには薬を処方できる。だがいかんせん中にはヤブ医者もいるからな……これについては瞬時に僕が矯正させてもらった。後は僕が書き溜めた医術に関する書物を、地域ごとに、症例の違いごとに医者達に配布した。これを幾らか使ってこの世界の医療技術が上がれば良いのだが……

 

 あぁ、因みにその書物は変わらない物でできている。焼こうが切り刻もうが傷ひとつ付かない。それに捨てたとしても持ち主の所に戻ってくる。そんな万能な品物だ。売ったら何円の価値になるのだろうな? ま、僕にとっては関係ないことか。

 

 そんな事を考えていると、僕がとっている宿の扉がノックされた。

 

『先生……入っても良いか?』

 

 ノックした人物は……20年ほど前にジェラルドに頼み込まれて色々と教える事になったベレスの声だ。僕は入室を許可する。直ぐ様ベレスが入って来た。

 

 髪色はシトリーと同じ様な深緑色で、所々フワフワと感じるボリュームで肩まで伸ばしている。艶もある。肌の色は肌色よりも白く、どこかしら不健康に見えるだろうが、彼女はちゃんと食べているからな。何故か食事をするとき僕の隣で食べるものだから、いやでも目に入る。瞳の色は薄紫色で、身長は僕の首辺りだな。そして普段身につけている服の色は……誰を真似たか知らないがほぼ黒一色で、下に至ってはショートパンツだ。ストッキングっぽい物を履いているから露出は少なくなっているのだろうが……年頃の女の子がその格好というのは……少々けしからん。

 

 なに? 父親の様な発言をしている、と? まぁ……20年もほぼ一緒だったのならば、その情も湧くのだろう。僕は至って普通の発言しかしていないと思うが……

 

「それで、今夜はどうした? まさかまた一緒に寝てくれと言うのではないだろうな?」

 

「いや、今回はそうじゃないんだ。最近頭痛がすると思ったら眠気が襲ってきて……」

 

「また例の症状だな。まさか僕が処方した薬も効かないとは……苦しい思いをさせている」

 

「いや、先生のせいじゃないと思う。その後意識が途切れる様に眠ると、誰か見知らぬ女の子が立っていて……内容は鮮明に思い出せないが、多分それが原因だと思う」

 

「そうか」

 

「それで……また意識が途切れる前に先生の側に行きたいと思って、そうしたらこの頭痛も和らぐと思う」

 

「……根拠がない。だが、それでベレスの苦しみが少しでも和らぐと言うのなら少しぐらいは尽力しようか」

 

「ありがとう先生、それじゃあお休み」

 

「待て、何故僕の膝に頭を置いて寝る?」

 

「これが1番この頭痛に良いから」

 

「……はぁ。分かった。明日も早いからな。眠ると良い」

 

「ありがとう、先生」

 

 それからベレスは数分とかからずに寝息を立てて眠った。

 

 度々僕の部屋に侵入していつの間にか添い寝されている事が何回もあった。例え鍵をかけようが、魔法で開かない様にしようがいつの間にか突破されて添い寝されている。しかも抱き枕状態で……だから今回は、そんな強引な手段を取らずに添い寝を頼み込んできたのかと思ったが……そうではなかった様だ。それに今回が初めての事ではない。数年前からベレスはこの症状が出始めている。薬を処方しても改善されず、スキャンしても異常は見られなかった。

 

 ただ……原因があるとするならば、ベレスの心臓にぴったりとくっ付いている球の存在……以前僕が、まだベレスが生まれたての頃に処方した擬似蘇生薬と同じ大きさだが、ベレスが二十歳になるまでは全く見受けられなかった。何故急にこんな物が出来たのか……

 

(まだ僕にも知らない領域がある様だな)

 

 そう思いながら僕は、僕から見れば可愛いと思ってしまうベレスの寝顔を見ながら頭を撫でた。親バカ? 放っておけ。

 

 それから僕も数時間後に座りながら眠っていた。まぁベレスを起こさない様にな配慮だが。そこからさらに数時間後にジェラルド達に起こされるまでは、少し安らいだ気持ちで寝ていたと思う。

 

(と言うより、起きたら何故かベレスに膝枕されていたんだが?)

 

 まぁそれは良い。ジェラルドが起こしに来たと言う事はそろそろ出発だ。まだ日が登っていないうちだったが、僕としては持ち歩く物(まぁ荷物になりそうなものは別空間からいつでも取り出せるからな)はないためいつでも出れる。そして、ベレスも準備し終えていざ行こうと思った矢先、誰かが助けを求めてこの村に来ていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side エーデルガルト

 

 私がガルグ・マク大修道院にある士官学校に入って初めての課外活動の日。クラス全ての合同で、今日は朝から晩まで野営をして、それが一通り済んだら修道院に戻る予定だった。ただ、野営が済んでいざ戻ろうとしたとき、賊が現れて私達を襲った。

 

 私と他のクラスの級長、ディミトリとクロードで一部分の賊を引き付けて、残りはセイロス騎士団に任せた。

 

 行幸な事に近くに村があり、さらに傭兵もいた事から私達は助けを求めた。そこであったのが、ジェラルドという傭兵団を纏める男の人と、その娘である女の人、名前はベレスと言ったわ。その2人に助けを求めると、後もう1人出てきた。その人は……

 

(っ⁉︎ まさか……)

 

 エーデルガルドがここ数年、ずっと会いたくて、ずっと側に居たいと思っていた人物が、ジェラルド達にいつもの口調で話しかけていたところだった。

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 ジェラルドと後数人が何か話していた。数は3人……ふむ、見るにガルグ・マクの生徒だな。

 

(ん……あれは……)

 

 その中に見覚えのある風格をした女の子が1人いた。

 

(エル? どうしてこんなところに?)

 

 あぁ、確か野外活動があったのだったか? 6O達からも幾らか話は聞いていた。この村付近でガルグ・マクの生徒達が活動すると……

 

 久しぶりの再会だ。だがここで喜びの表情など出せようものがない。そもそも口元を隠して目元も……死んだ魚の目の様だとジェラルドからいつも言われているから、喜んだとしても外からは分かりにくいだろうよ。

 

 そう思ってエルを見ると……

 

「……」チラッ ニコッ

 

(……僕だと気付いているな)

 

 彼女は僕にしか分からない様に目配せしてきて、これまた僕にしか分からない様な笑みを一瞬浮かべてくる。

 

 そうこうしているうちに賊共がきた。ジェラルドはベレスに、3人の生徒達と迎え撃つ様に指示していた。しかしながら賊の増援がまたやってくる。

 

「アスレイ、お前も手を貸してくれ」

 

「はぁ……僕は医者だぞ?」

 

「そう言いながら先陣を切る奴の台詞じゃねぇよな?」

 

「……分かった」

 

 そう言いながら僕はベレス達の前に出る。

 

「おいおい、武器も持たずに何する気だ⁉︎」

 

 褐色肌の生徒にそう言われるが、問題ない。僕は小さい空間を手元に作って手を突っ込むと、そこから武器を取り出した。その名も……

 

「そ、それは……なんです?」

 

「あ、あれって……武器か?」

 

 褐色生徒と一緒に、金髪イケメンな生徒が言う。まぁそうだろう……何せこれは

 

「デッキブラシ……汚れを落とすのに最適な武器(掃除道具)だ」

 

「いやいや⁉︎ そんなんで戦えるわけないだろう⁉︎」

 

 褐色の子……君は今からツッコミ役だな。

 

「……」

 

 エルはずっと僕の事を見ている様だが……何かを確かめる為だろう。久々に会った手前、格好悪いところは見せられないな……

 

(あぁ……僕は医療行為をしたかっただけなんだがな……)

 

 これまで出会った人達との邂逅で……よもやここまで思考が変わるとは。

 

「へっへぇ‼︎ 死にたくなかったら身ぐるみ全部剥いで差し出せぇ‼︎」

 

 僕に向かって威勢よく飛びかかってくる賊。エル以外の2人が駆け寄ろうとするが、ベレスが手で制して止めてくれた。その時には賊は剣を振り下ろすところだ。

 

「遅い」

 

 剣が届く瞬間に、剣の腹をデッキブラシで弾き、無手になった賊をブラシを持ってない方で掌底を喰らわす。それだけで相手は倒れ伏した。

 

「流石先生だ!」

 

 ベレスは正直な感想でそう言ってくる。まぁこのくらいは序の口だ。

 

「い、今のは……」

 

「一瞬で見えなかった……一体何やったんだあの人⁉︎」

 

 後の2人は僕が何をしたか見えなかった様だ。といっても剣を弾いて掌底喰らわせただけなんだがな……それ以外にない。

 

流石ソーマね

 

 エルが何かボソッといった様だが……今は目の前のやつに集中するか。

 

「おい⁉︎ 何やってやがる⁉︎ 相手を分散させて叩くんだよ! 数ではこっちが上なんだからな‼︎」

 

 頭みたいな奴がそう指示すると、賊共は僕達を分散させた。といっても僕とベレス達をだが。

 

「テメェ! さっきはよくもやってくれやがったな‼︎」

 

「楽には殺さねぇ! 嬲り殺してやるぅ‼︎」

 

 と、僕を囲って思い思いに言っている。が……

 

なぁ……

 

「「「っ⁉︎」」」ゾクッ……

 

「来るのならつべこべ言う前に早く来い。時間の無駄だ」

 

「「「テメェッ‼︎」」」

 

 僕が一言煽ると、賊共は一斉に飛びかかってくる。自分達の被害など考えもしない……目の前にいる獲物を仕留める為だけの行動……

 

(大きな獲物なら別にやっても良いがな)

 

 そう思いながら僕はデッキブラシで賊が持つ全ての獲物を叩き落とす。賊の攻勢が一気に削がれた事を確認した。そして……

 

水塵渦龍槍(すいじんかりゅうそう)

 

「ウワァァッ⁉︎」

 

「なんだぁっ⁉︎」

 

 ソーマがデッキブラシを頭の上でプロペラの様に少し回し、その勢いで地面に突き立てる。同時に莫大な水飛沫が、まるで龍の息吹の如く一斉に飛びかかって来た賊共に襲い掛かる。

 

「縛れ、水錠(すいじょう)

 

 戦意喪失した賊は、手足全て先程の水で出来た枷で拘束された。

 

「す、スゲェ……」

 

「あ、あんな技見たこともない……」

 

 ソーマの技に男子2人は呆気に取られていた。技もそうではあるが、1番の驚きはデッキブラシで複数の敵をいなしてしまった所だろう。

 

「やはり先生は凄い……今の私ではまだ超えることは出来ないな」

 

 ベレスは……僕が幾らかの学問(主に医療)を教えると同時に少々基本的な武術も教えたからか、そこからは自ら修練して今では無手でも相手を無効化出来るまでになった。時折手合わせを頼まれてするのだが、毎回僕に負けている。寸止めだがな? そんなこともあって、ベレスはいつか僕を越えようとしている様だ。正直僕は武術など自衛が出来るくらいで良かったんだがな……世が世だ。それ以外を身に付けないと僕が見る患者が減ってしまいかねん。

 

「凄い……惚れ直してしまったわ」ボソッ

 

 ん? エルが何か言った気がする。まぁ気のせいだろう……僕の勘がそう告げている。どうやらあちらも頭を倒し終わった様だな。後は縄で捕縛するとしよう。

 

 その緊張が切れた瞬間がいけなかったのだろう。頭が急に立ち上がって自分の獲物を振り上げながらエルに向かう。それに遅れながら気づいたエルも腰に差してあった短剣を手に取るが……あまりにもリーチが違い過ぎる。そこにベレスが入って庇おうとするが……あのままではベレスが危ない。

 

 だから僕は詠唱省略でとある呪文を唱えた。唱えたと同時にベレスを中心に時が止まったのは同じタイミングだった。とある呪文を唱えた僕だけが動ける世界……ベレス達も賊共も、時が止まったかの様に動かない中、僕はエルを庇うベレスと頭の持つ武器がベレスの背中に残り数cmの間に入った。そんな中でだが……

 

(この感覚……昔に覚えがあるな)

 

 あれはまだソティスと交流していた時……ザナドの谷で一緒に暮らしていた子供達数人と少し遠出した時だ。1人の子が誤って崖から落ちそうになったのだ。その時の僕はまだ時を止める呪文を習得していなかったのもあり、どうにか生命を創り出して落下を防ごうとしたのだが、その途端に不思議な感覚に陥った。

 

 それはソティスを中心に時が止まり、誰も動かない世界が出来上がった。そして段々と時は巻き戻り、子が落ちる前まで戻る。子が落ちる前にソティスが手を繋ぎ止めたから、結局は子も落ちる事はなかったが……今体験している現象はまさにこれだ。

 

(ソティス……その子の中にいるのか?)

 

 今は微かな気配しか感じられないが、確かにソティスの気配をベレスから感じる。そしてあの時と同じ様にいよいよ時が戻り始めた。僕のかけた呪文はどうやらそれに干渉しない様だから、僕はエルの目の前に立ったままだが……

 

 時が幾らか巻き戻った時、異変を察知したベレスがエルに駆け寄ってくるが、既に僕がいた。ベレスもエルも……そして武器を振り上げながら怒火迫った顔でこちらに向かってくる頭も驚いた事だろう。まぁ振り下ろそうとする武器を急に止めようとしても出来っこないし、そもそもこいつは人を殺める気で振り下ろそうとしている。それに1番厄介そうな僕を処理できると思って、心の中では結果オーライと思っている事だろう事は容易に想像がつく。

 

 正直その程度思われても僕は何ともない。まぁできるのなら凄いね、と……そう思う程度だ。

 

だがエルやベレスを殺めようとした事は許さん

 

 振り下ろされた頭の獲物……鉄製の斧を僕は左手で白刃どりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ベレス

 

 咄嗟に少女を庇ったら、そこで時間が止まった。そしてまたこの空間に来てしまった。目の前には怒りながらこちらに詰め寄ってくる、これまた気を失った時に夢で見る緑髪の少女がいた。どうやらこの少女が外の時を止めているらしい。名前をソティスと言った。

 

 それから時を止めた後どうするかと言うことになり、私が「時を止めれるのなら巻き戻す事もできるのでは?」と提案したら、「そうか! その手があったわ‼︎」と言ってそのまま時を巻き戻した。ソティスはここ最近覚醒して気が付いたらここにいたと……名前もさっき思い出したばかりで、昔の記憶は曖昧だと語っていた。

 

 ただ……何やら私の周りで時折懐かしい雰囲気を感じたとソティスは言っていた。それが何かはまだ分からないが、とにかく安心出来る心地良い雰囲気だと言っていた。ここからは私と視界も共有できるから、その何かも分かると思う。

 

 そしてソティスに時を戻してもらって、ここから先何が起こるかも分かっているから、巻き戻ったと同時に自分の剣を手に取って、襲われそうになっていた少女に駆け寄った。

 

 だけどそこで私は信じられないものを見た。

 

「先生⁉︎」

 

 少女の目の前に先生がいた。あの盗賊との距離も既に近くて、そこに何とか割り込もうとして駆けるも……一瞬動きが止まったせいで後もう少しのところ間に合いそうにない。

 

(このままだと先生が傷つく‼︎)

 

 そう思っている間にも盗賊が斧を先生に振り下ろす。危ない! 避けて‼︎ 咄嗟にあったとしても人は直ぐに反応できない。最悪の行動が頭を過った……

 

 

 

 

 

 

 

 過ったのだが……

 

「なっ⁉︎」

 

 それは誰が発したものだろう……それともこの場の全員が発したかもしれないその光景は……盗賊の攻撃を、ただいつもの呼吸をするかの様に片手で刃の腹部分を掴んで止めている黒フードの男の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も傷付かなくて良かった……今の僕は安堵している。それと同時に……

 

おい貴様……

 

「っ……⁉︎」

 

「僕の患者(大切な人)に対して何をしようとした?」

 

「て、テメェ! この手をはnガハッ⁉︎」

 

「誰が質問以外の答えを出して良いと言った? それとも質問の内容が分からなかったか? ならもう1回聞こう……僕の患者(大切な人)に何をしようとした?

 

「グッ……そ、そこの白髪の女に襲い掛かった……」

 

「そうか……それで? この斧を何故彼女に振るった?」

 

「そ、そんな事きまっt「彼女に手数を負わせて人質にしここから脱する為……か?」なっ⁉︎」

 

「あぁ……貴様の様な思考の奴に、僕は幾度もなく会ってきたからなぁ。その後彼女をどうするつもりだった?」

 

「そ、それは……」

 

「答えられないか? まぁそうだろうなぁ? ここでそんな回答を出したら……いくら貴様でも想像に容易いだろうなぁ?」

 

「お、お前は一体なんなんだぁっ⁉︎」

 

「僕か? 見て分かるだろう? ただの……医者だ」

 

 そう言いながらソーマは斧の刃部分を、手に力を込めて粉砕した。それによって頭の拘束も解けたが……その衝撃で少しだけ後ろに下がった。

 

「おい……何を勝手に離れようとしている?」

 

「ガッ⁉︎」

 

 頭はいつの間にか近いたソーマに掌底を食らっており、身体が宙に浮いていた。

 

「僕が今やっている事は……貴様が先程彼女にしようとした事よりも生温い」

 

 そう言いながらどんどん頭に体術でコンボを決めていく。それが10を超える頃には、ソーマ自身も宙を自由に動きながら頭の身体を360度どこからでも拳、蹴りでコンボを入れていた。もはや人の動きではない……

 

「これで仕上げだ」

 

 最後のダメ出しに頭の腹を正拳突きし、頭の後方で唖然として動かないでいた賊共のはるか後方にある1本の木にぶち当たって止まった。その際頭の身体はボロボロだったが、凄い音を立てて木に衝突したにも関わらず血は一滴も出ていなかった。

 

「さて……大人しく縛についてもらおうか?」

 

「ひ、ヒィィッ⁉︎ た、退散! 退散だぁ‼︎」

 

 賊共は頭を数人で背負って逃げようとした。それを素直に見送るつもりはなかったので、僕はそれよりも早く動こうとしたのだが……そこに邪魔者が現れた。

 

ガショ、ガショ、ガショ……ウィィィィ……

 

 それは……この世界では無いはずの物、所謂ロボットだった。それも、前世で学生時代だった頃、歴史の教材とかに載っていた侍の格好をしていた。しかしながら頭は人間のそれではなく、赤く怪しげに光るライトと、それを囲うだけの装甲で、勿論胴や手足の隅々まで機械で作られていた。片手には刀を持っており、今から僕達を襲うぞと言っている様な物だ。

 

「なんだあれ?」

 

 ジェラルドも目の前にいる存在にそれしか口に出ない。他の者も同様らしい。ただ僕はそこで立ち尽くすのも時間の無駄だと思い、さっさと目の前のロボットを壊す事にした。

 

 その意思を相手側も感じたのか、前に進み始めた僕に向かって刀を振り上げながら接近してくる。僕は無手で相手は刀……当然相手側の方が先に攻撃が届く。ロボットが僕に刀を振り下ろす。あぁ、さっきと同じ状況だな。

 

 だが僕はそれを受け止める事はせずに一歩横にズレて回避、相手の攻撃が地面を抉っているうちに相手の膝裏目掛けて蹴りをかます。するとロボットは、何をされたか分からない、と表情に出せようもないがそう思った事だろう。ロボットの頭が少し空を見上げる形になったところですかさずロボットの頭を掴んで地面に叩きつけた。

 

 その時間僅か数秒……見ている人も何が起こったか分からない事だろう。

 

(それにしてもアンドロイド達とは違う鉄の身体を持った者か……調べるべきだな)

 

 僕はそのロボットを地面に倒したまま黒い空間に仕舞う。そして素早く、真っ暗闇の空間を指揮している司令官に素早く伝達しておいた。

 

 その頃には賊共も遠くに行っていた。今からでも追えるが……またあのへんてこりんなロボットが出てくるかもしれない……そう思うと易々とここから離れる事は出来んな。

 

 そう考えながら僕はベレス達のところに歩いていった。そこから少しベレス達と話していて、途中アロイスという恰幅の良い騎士が来るまで続いた。

 

(しかしながら何故エルはこうも僕の腕に抱き付いている?)

 

 その時は、ベレス含めて他の男子達も視線がこっちに向いていたのは……言うまでもないと言っておこう。エル……頼むからそんなに強く抱きつかないでくれ……色々と当たっている……

 

 かくして、ソーマはエーデルガルトと再会した。これを境に、彼の更に濃い日常が幕を開く事を……誰も知らない。

 

 

 

 




簡単な解説

今話の主な人物達

・フォドラで20年以上時を過ごしたソーマ

本作のオリ主。変わったところはほぼないが……大切な者達が関わると親身に接する様になる。しかしジェラルドの酒癖の悪さについては一切許さず、酔っ払って絡んでくる時は毎回パンクラチオンで寝かせて(気絶させて)いる。

ベレスについてはどことなく親バカ気質となる。人の行為については若干分かってきたものの、唐変木気質は抜け出ない。


・エーデルガルト

ソーマにベタ惚れな少女。いっぱいちゅき。


・ディミトリ

ファーガスの王子。昔父共々助けてくれた恩人を探している。しかし父に聞いてもはぐらかされる毎日。
ソーマと初対面だが、賊達を一瞬で無力化した姿を見てまさかと少し思っている。


・クロード

ツッコミ役。ほぼ確定。


・ベレス

本作の主人公。小さい頃からソーマと共に行動していたため、ソーマの事を本当の父親と思っている反面恋心も抱いている。本人にパンクラチオンを仕込まれている。


武器解説

・デッキブラシ

普通に掃除用具。ソーマが使っていたのも、何も施されていないどこにでもあるデッキブラシ。しかし悲しいかなこの時代にデッキブラシは存在せず、クロードも見た事ないが掃除道具と聞いてツッコミを入れた始末……

尚、本作ではとある作品(テイルズシリーズ)と同じく槍扱いである。


特技解説

水塵渦龍槍(すいじんかりゅうそう)

槍で地面を突き刺し、そこから龍の息吹の如く360度水飛沫が敵を襲う技。しかしながら本家以上に水量は多い。流石デッキブラシである。


他解説

・介入してきたロボット

どこからともなく現れたロボット。他作品から堂々介入して来た。一体どこのハゲチャビンが創り出したのか……。送られる世界や巻き込まれた人からすればいい迷惑である……

山田くんっ! 全部持って行きなさい‼︎

とある黄色い噺家の座布団が万年座布団運びの人に全部持って行かれた……


以上。次回もお楽しみに。


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13話 再会、後に女難あり……

今話までに評価を付けて下さった読者の方々

☆10 ホワイトアクア 様

ありがとうございます! また、先程のご意見ご感想を書いていただきましたので、後程返信を書かせて頂きます!

さて、今回はエルさんを盗賊から救った後……へんてこりんなロボットが介入して本来だったらスルーするはずの出来事をオリジナルで描いております。

戦闘描写を今回も描いておりまして……それが分かりにくかったら非常に申し訳ないです!

そしてサブタイトルについては……見ていけばきっと分かります。ではご覧下さい!


 

 

 

side ディミトリ

 

 俺達は課外活動で外に出ていたが、途中で盗賊に襲われた。その際他のクラスの級長達と一緒に行動して賊の一部をこちらに引き付けた。それから助けを求めた村に傭兵がいたこともあり、彼らの助力で何とかその場を凌ぐ事ができた。

 

(だがこの人達の実力は並大抵の物じゃない……)

 

 1人は女の人で、ベレスさんといった。黒鷲の学級(アドラークラッセ)の級長、エーデルガルトと同じくらい綺麗な人に見えた。だが戦闘で見たのは、敵に対して容赦せず無慈悲に沈めていった事だ。

 

 腰に剣を差してあったが、殆ど自分の拳で敵を鎮圧していた。しかも見るからに敵であろうと生かしている。剣を使ったときでも、敵の攻撃をいなして相手の攻勢を削ぎ、そのところを柄で殴り付けて倒していた。どれだけの鍛錬を積めばあの様に戦えるのだろう……

 

 だがベレスさんの他にもう1人……別次元の人がいた。その人の名前はアスクレピオスといって、全身を黒いフードで纏い、口元も嘴のような被り物で覆っていた。髪色は銀髪で、唯一覗ける目もどこか濁っている感じに思った。何かを諦めている様な……あぁ、これは自分が思った事だから何という事でもないが、ただそう見えてしまった。

 

 しかしそれとは裏腹に戦闘になると彼も全く違った。本来彼は医者の役職らしいのだが……

 

(あんな戦い方……どうやったらできるんだ?)

 

 一瞬で複数の敵の攻勢をいなし、見たこともない技で反撃……終いには時間をかけずに敵を拘束していた。エーデルガルトを狙った賊のリーダーの攻撃も片手で受け止めたかと思えば、受け止めた武器を素手で壊すといった芸当と、人としてはありえない動きでリーダーを撃退した。

 

 その後に出てきた謎の存在も一瞬で片を付けるのも、最初何をやったのか全く分からなかった。

 

(それにあの人が使っていた武器……デッキブラシだったか。俺もあの武器を使えばもっと強くなれるかもしれない……)

 

 そんな事を青獅子の学級(ルーベンクラッセ)の級長であるディミトリは考えていた。しかし悲しいかなデッキブラシはただの掃除道具……ディミトリの思う様に、使ったからといって強くなる訳では無い。ただ掃除が上手くなるだけである……

 

(それにしてもエーデルガルトの様子がおかしい……アスクレピオスがこっちにきて雑談するやいなやすぐに傍に行ったし、それになんかこうくっつき過ぎているような……あなたは一体何者なんだ?)

 

side out

 

 

 

side クロード

 

(いやいや……何だよあれ?)

 

 盗賊達に狙われたから命辛々でここにいた傭兵達に助けを求めたんだが……そこにいた2人が強過ぎた。ベレスさんって人は賊達を片っ端から倒していくし、アスクレピオスって人は何か見た事ない掃除道具で敵を仕留める始末ときた……俺もついついツッコンじまったよ。

 

(しかもあれでお医者様だろ? 俺からしたら逆に死神にしか見えないんだが?)

 

 確か巷で……黑神だっけ? そいつの容姿と目の前にいるお医者様の容姿が酷似してるんだが……まさかね? 

 

「そういえばこの傭兵団の中に神掌って人がいるって聞いたんだが……」

 

「ん? 何だそれは? 僕は全く聞いた事ないな」

 

「そ、そうですか……」

 

 多分だが……本人が知らないだけで絶対この人が神掌だろ……

 

(それとさっきからエーデルガルトがアスクレピオスさんに凄くくっついているんだが……知り合いか?)

 

 だがその場で聞くのをやめた……だって今そんな質問したら、何故かエーデルガルトに追いかけ回されてボロボロになる結末しか見えねぇ……これは自信があるね!

 

 

side out

 

 

 

 

 

 僕達が少しの雑談をしていると、そこにアロイスという現セイロス騎士団の団長が現れた。粗方賊を討伐し終えてこちらに来たのだとか。だがこちらに来たときには既に終わっており、正直アロイス達は何もする事がなかった。

 

 しかしながらそこにジェラルドがいたこともあって、役20年ぶりの再会になる様だ。そんなこんなで話は進み、僕共々ガルグ=マクに案内される事になったのだが……

 

「団長ー‼︎」

 

 そこにセイロス騎士団の兵士が駆け込んできた。何でもアロイスが離れた後に謎の物が他の生徒達と行動していた部隊を急襲したのだとか……怪我人は出ているが何とか持ち堪えている。しかしそれも時間の問題だと言う事で救援要請に来たんだとか。

 

 その時には僕は駆け出してそこに向かっていた。

 

「先生っ⁉︎」

 

「ちょ、おいアスレイっ⁉︎」

 

(先生)‼︎」

 

 後ろでそんな声が聞こえる。因みに3人目に僕の事を師と呼んだのはエルで、さっきからそう呼んで僕にくっついていた。にしても本当に大人になったな、エルは。

 

「いや、今は患者達の元に向かう」

 

 僕は暗がりの森の中を全速力で駆けていく。

 

 

 

 

 

side マリアンヌ

 

 

 それは一瞬の出来事でした。クロードくん達が一部の盗賊達を引き連れてここから離れると、後に残った盗賊達はセイロス騎士団の人達によって一気に鎮圧されました。他の生徒達もこれで助かったと思ったのか、緊張の糸が切れて空気が緩慢としました。

 

 でも……この事は序章に過ぎなかったのかもしれません。

 

 どこからともなく、見たこともない鎧をつけた一団が、私達の帰路を襲ってきたんです。いきなり攻撃された事で陣形は崩れてしまい、怪我人も出ていますが、幸い生徒達に被害は出ていません。逆に戦える生徒も戦闘に参加していたなんとか凌いでいますが……敵をどれだけ倒しても後から出てきます。それに敵の鎧は意外と硬く、数人がかりでやっと倒せます。騎士団の人達も戦いに参加する生徒にも疲弊が見られました。

 

(私も……何かできる事を……)

 

 あの人に会って……私は変わる様に努力しました。全てはあの人の傍にいるために。

 

(もう……あんな悲しそうな顔をさせない為に……)

 

 私は負傷した騎士団の人達の手当てをしていきました。確かに私にも使える攻撃魔法はありますが、同じクラスのリシテアさんが私達に近づく敵を片っ端から倒してくれています。私よりも年下なのに凄いと感じつつも、私もできる事をして行きます。ですが……

 

「しまった⁉︎」

 

 リシテアさんの攻撃を掻い潜って私の所へ一目散に駆けてくる敵……そのまま手に持っている物を私に振りかぶってきました。

 

(せめてこの人だけでも守らないと!)

 

 無意識のうちに私は手当てをしている人を庇いました。あと少しで私に攻撃が当たるでしょう。それもまともに喰らってしまうでしょうから……最悪の場合ここで死んでしまうかもしれません。

 

 昔は……死にたくても自分から命を断つ事ができない臆病者でした。でもあの人と……クレイ先生と会った事で変わった。私は……私の命をあの人の為に使いたいって。だから……

 

(ここで死にたくない……私は……あの人の夢を支えたい!)

 

 そう思ったとしても敵の攻撃は止まらないでしょう。私の身体に敵の刃が当たる……頭に耐えれるように意識を集中させました。

 

 でも……いつまで経っても痛みが来ません。もしかしたら痛みが襲う前に事切れたのかもしれない……恐る恐る目を開けました。でも瞳に映った景色はさっきまでと同じでした。ゆっくりと後ろを振り返るとそこに……

 

 

 

 

 

 

 

貴様……僕の大切な患者()に手を上げようとしたな?

 

 後ろ姿で私を助けてくれた人の顔が見えません。見えないけど……

 

「クレイ先生……来て……くれたんですね……」

 

 自然と私の口からその言葉が出ていました。

 

 

 

side out

 

 

 

 

 生徒達も戦っていた。中にはリシテアやマリアンヌの姿も見て取れた。彼女達もここ数年大きく成長した様だ。その時、リシテアの攻撃を躱して一体マリアンヌに攻撃を仕掛けるロボットが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガン細胞風情がっ‼︎

 

 僕はうちから沸き上がる怒りを感じた。そしてマリアンヌに攻撃しようとした敵の刃を止め、直ぐに頭をかち割って行動不能にした。

 

「クレイ先生……来て……くれたんですね……」

 

 背後からマリアンヌの安心した様な……そんな声が聞こえる。しかしこの姿でよく分かったな……

 

「久しぶりだなマリアンヌ。久方ぶりの再会で僕も話したい事があるが……先ずはこの状況を何とかするか」

 

 僕は一歩踏み出した。それと同時に鎧の類と武器も装備する。一瞬も目も離さなかった人からすれば、ただ一歩踏み出しただけでどんなカラクリだと思うだろう。装備としては、腰あたりにスカートの様なアーマーと、両腰にその上から大きな鞘状の物、そして僕の右手には何も飾り気がないレイピアが持たれていた。

 

 そこからやる事は早かった。まずリシテアが食い止めている敵の頭を一突きし……それだけでロボットは動かなくなる。同様に他のロボット共も頭を一突きした。

 

「あ、アスクレピオス先生っ⁉︎」

 

「やぁリシテア。偶然だな。といっても数節前に会ったばかりだが……ともかく今はこのガン細胞共を蹴散らしに行く。君は後退して怪我人の治療をして欲しい」

 

「で、でもこの数を先生1人だけじゃあ……」

 

「心配はいらない。何せこの地(患者)から(病魔)を駆除するのも医者の務めだからな」

 

「そ、そうなんですね……」

 

「だからここは僕に任せて欲しい」

 

「わ、分かりました。でも怪我だけはしないで下さいね⁉︎ 絶対ですよ⁉︎」

 

「あぁ、分かっている」

 

 そう返事をして僕は近くの奴らから駆除していった。手こずっている騎士団の所にも介入して、騎士団の連中には生徒を守る様にと伝えて後退させた。それは全然で戦っていた生徒達も同様にだ。

 

 そうすると敵の目は必然的にこちらに向かう。状況的に僕VSロボット集団だ。

 

ウィー、ウィー、ウィーン、ウィーン、ガショ、ガショ……

 

 そんな機械音がこちらに近付いてくる。

 

(まぁ……僕の患者に手を出したんだ。この場にいるガン細胞どもも今から駆除される事を分かってこの場にいると見たって誰も文句は言わないだろう)

 

 僕はそう思ったと同時に、直線上にいたロボットの腹をレイピアで貫いた。それも後ろにいた奴事……そして上に振れば奴らの頭が吹き飛ぶ。まずは2体。そこから速さに物を言わせてどんどん敵を貫いては捨てて行く。

 

 そしたら学習したのだろう。腹を貫いたらそれを離さず、僕の動きを封じてきた。後ろから何機か僕を攻撃しようと迫って来る。

 

 だがそれは悪手だ。僕はレイピアのスイッチを入れて持ち手と刀身を分離させた。後ろから敵が振りかぶると同時に空に飛び、僕に当てようとした攻撃は逆にレイピアの刀身を掴んで離さなかったロボットに当たっていた。それを確認した後更にスイッチを押した。すると、ロボットの装甲に突き刺さった刃が爆発し、僕に切りかかってきた1体も巻き込まれた。そして後ろから襲おうとしたもう1体を、僕の踵から迫り出したブレードでロボットの頭を踵落としの要領でカチ割る。

 

 両腰の鞘にはそれぞれ3つずつ穴が開いている。ソーマは左側の鞘のうちの1つの穴に持ち手部分で刃を支える方を差し込んだ。すると自然と鞘はスライドした。スライドが終わると、そこにはさっきと同じレイピアが握られていて、ソーマは次の目標に向けて突き進む。そして遠くの敵に対しては後ろに備え付けられていた銃でロボットを壊し、近くの敵には変わらず突き刺して壊していた。

 

 そんな事をしていると、また敵は学んだのか今度は僕を取り囲む。僕をここから出さずに嬲り倒すのが目的の様だが……正直僕は空をも蹴って飛べる。だからあまり良い方法とは言えない。

 

(まぁ飛ばなくてもこれぐらいなら直ぐ対処は可能だ)

 

 腰の前に備え付けられているアーマーから2つ何か迫り出した。それを持って左右に向く様に構えた。その武器はハンドガンサイズの銃で……

 

「セイフティ解除」

 

 ソーマがボソリというと、どちら共の銃がカチッと音を立てた。次の瞬間、

 

ガンッ! ガンッガンッ‼︎

 

 銃口から次々と弾が発射され。その銃声の数と一緒にロボットは打ち砕かれて機能を停止して行く。銃声が鳴り終わる頃には、そこに立っているロボットは1体もいなかった。

 

「司令官、アンドロイド隊回収部に告げる。これからある座標を送る。壊れてる機械の回収を頼む」

 

『分かった。こちらで手配する』

 

 司令官とそんな会話をして僕は未だに負傷者がいる所に歩いていき、先程の空気など全く関係ないと言わんばかりに、普通に治療をしていった。

 

 しかしながらこの後、ソーマに女難が訪れるという事を……彼自身認識していない……

 




戦闘が終わって負傷者も治療し終えた後の事……

マ「クレイ先生!」

ソ「マリアンヌか。さっきも言ったが久しぶりだな」

マ「はい! あの……先生は何故こちらに?」

ソ「あぁ、その事だが「アスクレピオス先生ー!」ん?」

 ソーマとマリアンヌに近づいて来るリシテア

リ「あれっ? アスクレピオス先生とマリアンヌって知り合いですか?」

ソ「ん? あぁ、患者としてカウンセリングをした。それからの付き合いだな」

マ「でも私……その頃は全てに絶望して塞ぎ込んでいたから……その時にクレイ先生からこの子を経由して交換日記をする事になったの。会ったのは1度だけだけど、それからもこの交換日記で連絡を取り合っているんです」

 ソーマの使いである白い蛇を撫でながらそう言う。

リ「えぇーっ⁉︎ それで交換日記ができるの⁉︎ ずるい⁉︎ 私は一節毎の手紙でのやり取りだったのに‼︎ でも数節に1度は先生の検診で会えたから良いんだけど……」

マ「えっ? 数節に1度? それってどういう……」

リ「そういえばさっきからアスクレピオス先生の事をクレイ先生って呼んでるけど……」

マ・リ「先生……どういう事(ですか)?」

ソ「……僕にも色々とやるべき事があったという事だ」

マ・リ「説明になってない(いません)‼︎ ちゃんと説明して(下さい)‼︎」

ソ「……」

 その後……しどろもどろになりながらもなんとか本人達が納得する形で説明した。

 一方他にソーマと縁がある人達は……

「ヒェェェッ……なんか私達を助けてくれた人が怒られてるぅ〜……あれ? でもあの人……アスレイさんに似ている気が」

「あらあら……私の事を助けてくれた人だわ〜。でも今行くとまた話がこじれそうだから、ゆっくりとした時間に一緒にお茶でもしながらお話ししようかしら〜」

「ん? あれって……あ、アスクレピオスさんっ⁉︎ また何でこんな所に……にしてもあの人の戦い方マジで容赦ねぇぜ……兄貴が愚痴るのもわかる気がするわ〜」



 大体こんな感じの反応でした。

本日の解説

:ガンダム・ヴィダール

「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」2期より
ヴィダールという人物が登場したガンダム・フレームに数えられる機体。

武装

・バーストサーベル
・ヴィダール専用ライフル
・ハンドガン
・脚部ハンターエッジ

より詳しい内容はWikipedia参照……

それでは、次回お楽しみに


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14話 お、お前……死んでいなかったのかっ⁉︎

14話までに評価をしてくださった読者の方々

☆10 お茶の子さいさい 様

評価つけてくださってありがとうございます!

今回のサブタイトルについては誰の発言なのか? まぁ大体昔からのソーマの知り合いですが……

では物語のスタートです!


 マリアンヌとリシテアと再会した。リシテアは数節に1度の検診で済むくらいに体調は良好だったが、マリアンヌについてはあれ以来会っていない。約5年前ではあったものの、あの時よりも大人の女性になっていた。性格も随分変わった様だし……

 

 だがその後彼女達に色々問い詰められて意気消沈……説明し終わった後直ぐ様そこを離れてベレス達と合流した。マリアンヌ達がいた所よりもまだ随分と後ろの方にいたから、このペースで一緒に歩けばガルグ=マクに着くのは日が昇った頃だろうな。

 

(あぁ……しかし疲れたな……)

 

 この時は顔にも出るくらい疲れていたと思う……精神的に。

 

「先生、どうかしたか?」

 

「顔色が悪いわ……何かあったの?」

 

 その様子を見てかベレスとエルが僕を心配してくれる。医者がそん姿を晒してはいけないとは思うのだが……今回は彼女達の配慮が嬉しく思う。

 

「いやぁ〜にしてもアスクレピオスさんってモテモテだねぇ〜。両手に花なんて羨ましいなぁ〜」

 

 それをふざけた感じの口調で言ってくるクロードという生徒(ツッコミ役)。まぁそれが内心本音でない事は、疲れている僕でも直ぐに分かった。この子はどちらかと言えば相手を見定めている目をしている。その笑った顔も実はフェイクで……静かにこの相手が利用できるかを見定めていると感じた。

 

「……」

 

「あなた……何が言いたいの?」

 

 しかしながらこの2人には関係なかった様だ。言うなれば……私の邪魔をするなとでもいう様に……

 

「あ、あははは……ど、どうしたんだいお2人さん? 目が怖いんだけど……」

 

 これには茶化した感じのクロードくんはタジタジになっていた。

 

「からかってやるなクロード。ベレスさんもエーデルガルトもただアスクレピオスさんを心配しているんだ。アスクレピオスさん、疲れている時に悪かった」

 

「いや、ディミトリくんは悪くはない。それにそこのツッコミ役の子も、僕の現状がそう見えてしまったから自然と口に出ただけだろう。僕はそんな事で気にはしない」

 

「そう言ってくれるとありがたいです」

 

「いやホント……俺も悪かったよ。ってツッコミ役って俺のことかっ⁉︎」

 

「あぁ、デッキブラシの件……即席であったが見事なツッコミだった」

 

「そこまだ引きずるの⁉︎ 俺だってちゃんと戦ったぞ⁉︎ なぁ⁉︎」

 

 クロードは必死に皆を問うように見た。しかし誰もクロードに対して首を縦に振らなかったし、目を合わせようともしなかった……あぁ、悲しきかなクロードくん(ツッコミ役)

 

「なんか変な渾名を付けられた気が……」

 

「どうした? 幻聴待ちでも持っているのか? もしなんなら君に合わせた薬を処方しよう」

 

「いや、そんなもの持ってないですしいらないです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで漸くガルグ=マクに辿り着いた。そして僕達は生徒と大人で別れた。生徒達は自分達のクラスに戻り、僕とベレスはジェラルド共々セイロス教の教祖であるレアに案内されていた。

 

「ジェラルド、久しぶりですね。手紙で連絡は取り合っていましたが、約20年ぶりですね」

 

「えぇ。レア様もお変わりないようで」

 

「それを言うならあなたも変わっていませんね。そして隣にいるのは……あなたが毎回手紙に書いている愛娘ですか」

 

「そ、そうです。俺の……自慢の愛娘です」

 

「そうですか。シトリーはどうしていますか?」

 

「リアとは今別行動中で、勿論護衛は付けています。なんかベレスが大きくなると同時にアスクレイ教に入りたいって言って、今も村の近くにある教会で手伝っていると思います。まぁ俺が今ここにいるって情報を貰っている頃合いでしょうから、もう少ししたらここに来ると思います」

 

「分かりました。その時は彼女とゆっくり話したいわ。ベレスさんも遥々来てもらって嬉しいわ」

 

「私も父からあなたの事を聞いています。お会い出来て光栄です」

 

「ふふ、ジェラルドが父と聞いた時はどんな子に育つかと思いましたが、教養も一般以上に備わっていますね。それを教えたのは……あなたかしら?」

 

 レアが僕の事を見る。まぁ僕もレアと20年ぶりの再会だな。

 

「まぁそこの酔っ払い親父に任せてはちゃんとした子に育たないからな」

 

「おい貴様……そこの娘よりも礼儀がなっていない様だな?」

 

 僕が返事をすると、レアの隣についていた男がそう言ってくる。緑髪で、瞳も緑色。そして威厳のある出立だ。

 

「それにその格好はなんだ? 見るからに怪しい……フードとその口につけてある被り物を外せ」

 

「良いのですセテス。彼も……私から見れば古くからの友人ですから」

 

「なっ⁉︎ この者が⁉︎」

 

「えぇ。それにセテスも彼の事は知っているはずよ?」

 

 そう言われたセテスは驚いていた。まぁ確かに昔と比べれば僕は変わっているだろう。まぁ衣装だけだが……

 

 そしてジェラルドはセイロス騎士団並びにアスクレイ騎士団に本日付で復帰、そう言い渡されたジェラルドは迎えに来たアロイスと一緒に出て行った。変わりに2人の男女が入室してきた。男の方はハンネマン、女の方はマヌエラといった。どちらもあの課外活動をしていたクラスの教師をしていた様だが、その時に1人教師が逃げ出して1人足りないのだと言う。

 

 そこで白羽の矢が立ったのがベレスで、3クラスのうち1つを指導する事になった。ふむ、教え子がとうとう人に教える立場に回るのを間近で見ると言うのは……小さい頃から教えて来たものとしては感慨深いものがあるな……

 

(しかしベレスと離れるとなると……寂しいものがあるな)

 

 親の元を巣立つ子供を見送る……その時の親の気持ちがこうなのかもしれない。

 

(……いや、そもそも僕は医療行為をしてそれが世界に伝わって、より良い世界が築き上げられたらそれで良かったんだ。最近の僕はあまりにも多くの人と関わり過ぎて忙しくしていた。というか外から見ても僕は忙しくし過ぎだろう⁉︎)

 

 そう考えると、それがあるべき結果だ。それこそが本来の流れなのだと勝手に思いながら話を聞いていると……

 

「いや……私よりも先生の方が教え方は上手だと思います。だから私ではなくてアスクレピオス先生の方が良いと思います」

 

 とベレスが言った事で……

 

「まぁ! そうなのね! でもそうしたらどうしようかしら?」

 

「ふむ、先生役が4人もいるとな……」

 

「ならこうするのはどうですか? ベレスさんはさっき言った様に3クラスのうちの1クラスを、そしてアスクレピオスさんには日替わりで3クラスの副担任になって貰うのはどうですか?」

 

(……はっ?)

 

「それは良い考えね!」

 

「だがから1人物凄く負担がかかるのではないかね?」

 

「確かにそうだな……」

 

「だが私は先生がいた方が心強い。それに離れ離れになるのは、私は嫌です」

 

(ベレスよ……後半部分が本音だろ?)

 

「だが本人の意向も聞くべきだろう? 私は正直この者を怪しい者としか見てとれない。本人がやると言うなら……やむを得ないが尊重する……」

 

「私は良いと思いますよ。それでアスクレピオスさん……この話を受けてくれますか?」

 

 

 

 

 

ーーーーーこの選択が後の運命を分けるーーーーー

 

・3クラスの副担任になる

・承諾せず、挨拶を終えてこの場を去る

・第3の選択……ジェラルドが兼任しているアスクレイ騎士団の団長となる

 

 

 

 

 

(なんだこの3番目の答えは⁉︎ なるわけないだろう‼︎)

 

 唐突に頭の中に浮かんだ3つの選択肢、その3つ目に対してはツッコミを入れざるを得ない。

 

(まぁ僕もこのままベレスと別れるのも寂しいものがあるし、そうしたとして影から援助していくのもまどろっこしいな……)

 

(なら答えは決まっている)

・3クラスの副担任になる

 

「はぁ……僕は本来医者なんだがな……分かった。いつかは多忙が原因で倒れるかもしれないが……その3クラスの副担任になろう」

 

「ありがとうございます! あなたならきっとそう答えてくれると思っていました!」

 

「そうと決まれば今日は新しく入ってきた先生方の就任パーティーね!」

 

「ベレス先生、それとアスクレピオス先生もよろしく頼むよ!」

 

「先生、これからもよろしくお願いします」

 

 ベレス含めて3人の先生がそう言う。あぁ……僕はただ医療行為をしたかったと……最初はそう思って行動していたのに……

 

(今は士官学校の3クラスの副担任……か。思えば最近は慌しい毎日だが、これが本来の……人としての歩み方なんだろうな……)

 

 ソーマは知らぬうちに少し笑みを浮かべていた。と言ってもフードと口にある被り物で、ソーマが笑っている事に誰も気付いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな話でまとまったのだが、今僕はレア……もといセイロスとセテスと一緒に、セイロスが執務をする部屋に来ていた。

 

「レア……もうそろそろ彼が何者なのか教えてくれ。あの場で私も知っている人物と言われて考えたが……それに当てはまる人物が思い付かないんだ。思いついたとしても……最早この世を去っている」

 

「そうですね。私も最初はそう思っていました。でもそれは違った。ただの勘違いに過ぎなかったという事です」

 

「? それはどう言う……」

 

「アスクレピオス先生……もうそろそろ答え合わせをして貰えませんか? いえ、この場合はソーマさんと言うべきでしょうか?」

 

「なっ⁉︎ そ、ソーマだと⁉︎」

 

「……そうだな。辺りに怪しい気配も感じ取れないし、良いだろう」

 

 そう言いながらソーマはフードと口元に付けてある被り物を外した。

 

「久しぶりだな。セイロス、それにキッホルも。まぁセイロスに至っては約20年ぶりと言うべきか」

 

「えぇ、お久しぶりです。こうしてまたあなたに会えた事を嬉しく思います」

 

 セイロスはニッコリ笑ってそう返していた。そしてセテスはというと……

 

「そ、ソーマ・アスクレイだとぉっ⁉︎ お、お前……死んだのではなかったのかっ⁉︎」

 

 周囲にはセイロスとキッホル、ソーマしかいないものの、大声で驚いていた。

 

「落ち着け。それと声が大きい。周囲に誰もいないとはいえもう少し声の音量を下げろ」

 

「こ、これが落ち着いてなどいられるか‼︎ わ、私はてっきりお前が死んだものだと……それで私のセスリーンがどれほど泣いたか分かっているのか⁉︎」

 

「セスリーン……懐かしいな。あの子は元気でしているか?」

 

「あぁ、たまに休眠する事はあるが大事はない。お前が施してくれた薬のおかげだ」

 

「そうか。それなら良いのだが……」

 

「いや良くない! あの子は……お前がいなくなってずっと泣いていたんだ! 最近は昔と同じ様に笑顔で振る舞っているが……お前がいなくなってからどれだけあの子が悲しんだか」

 

「……待て。何で僕がいなくなるだけでセスリーンがそんなに悲しむ?」

 

「それは……私の口からは言えん! 直接娘から聞け! 今はフレンという名前でこの修道院に住んでいる」

 

「……そうか。まぁ頭の片隅にでもいれt「聞け……絶対に娘から聞け!」……はぁ、分かった」

 

 全く……キッホルは昔と同じで親バカ過ぎる。なに? 僕も親バカではなかったかだと? いや、僕はあそこまで親バカでは無いはずだ。

 

「ふふふっ、こうして話していると……何だか昔を思い出しますね」

 

「ま、まぁ……そうだな」

 

「僕としてはレア達と違う時間軸で過ごしていたからな……自分のやりたい事をやっていたらまぁあっという間に時は過ぎた気がするが」

 

「にしてもソーマ。今までどこにいたんだ? 私はお前が姿を現さなくなったから、てっきり寿命を迎えて死んでしまったのだと思ったが……それと思ったのだが、お前は本当に普通の人間か?」

 

「あぁ……そういえばあの時の対戦でもネメシスが僕の事を死んだと思い込んでいたな。まぁそれはさておいて、僕は昔と同じく元の場所で医学などに勤しんでいただけだが? それと前から言ってる様に僕はただの人間だ。僕がいた時間軸が外より歪んでいるからな……その影響でまだ人としての寿命は尽きていないだけだろう」

 

「そ、そうなのか……」

 

「で? 僕は改めて3クラスの副担任になる訳だが……何をすれば良いんだ?」

 

「そうですね。ではそれぞれのクラスの級長達に挨拶してきて下さい。次にやる事はその後で話します」

 

「分かった。では行ってくる」

 

 ソーマは部屋を出て、それぞれの級長達に挨拶しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

side レア

 

 先程ソーマがクラスの級長達に挨拶するために部屋を出て行った。アロイスやジェラルドから話を聞くと、既にソーマは3人と会っているようです。その際の戦闘も間近で見たのだとか……

 

(……あれは本当に恐ろしいものでした)

 

 約1000年前の戦争……私とネメシス、そしてネメシス側について十傑達との争い。あのまま行けば双方ともに被害が大きく出ていました。

 

 ですがソーマはそこに現れて、私とネメシスを同時に相手しながら下した。私達が本気でやったにも関わらず、彼はまだどこか力を温存していた様に見えました。その後に空から落ちてきた巨大な岩も、たったの呪文2つで跡形もなく消し飛ばす始末……今思い出しただけでも恐ろしい力を秘めた男です。

 

 ですが……

 

(あぁ……あの時からあの目で見つめられてしまうと……こう、感じた事のない感覚が私の胸を締め付けてしまいます)

 

 さっきも何事もないように振る舞っていましたが、彼に見られると……

 

「レア? さっきからぼぉっとしてどうした?」

 

「っ⁉︎ いえ、少し疲れが出てしまったかもしれません」

 

「そうか。なら少し休むと良い。君は無理をしすぎだからな」

 

「分かりました。ではお言葉に甘えて」

 

 レアはセテスに促されて少し休む事にした。

 

(あぁ……彼と久しぶりに会ったからでしょうか? 良い夢が見れそうな気がします)

 

 レアは自室に入るとすぐ様ベットに横になって目を閉じる。久しぶりに良い夢が見れると……そう思いながら……

 

 

 

 

side out

 

 

 

 




3つの選択肢でもし違う選択肢を選んだとしたら……

・承諾せず、挨拶を終えてこの場を去る


 ソーマが副担任にならず本拠地に帰った数日後……エルが直接会いに来てエルの親衛隊、更に婚約を結んで欲しいと迫られる。それが数年にも及んだ為、ソーマは折れて結果的にエルの親衛隊の医療部に配属、さらにエルと婚約を結んだ。その後結婚した……チャンチャン



・第3の選択……ジェラルドが兼任しているアスクレイ騎士団の団長となる


 アスクレイ騎士団の団長になったものの、基本的にこの騎士団は武闘派ではなく信仰派に属する。そのため仕事といっても巡業しかない。しかしソーマが団長になったからというもの……アスクレイ教の信者はさらに増えたと言う。特に紋章絡みで苦しんでいる人達からの入団が多かった……

ヴェァァァッ⁉︎ 俺は……鉄華団団長……オルガ・イツカだぞ……

 なお……どこかの団長の様に凶刃で命を断つ事などなく、そんな事があったとしても逆に返り討ちにしたと言います……








レア、セテス、ソーマが話している時……


(うふふ……お兄様の好きなお花が会ったから摘んできましたわ! お兄様喜んでくれるかしら?)

 とある少女がそう思いながら廊下を進んでいると……

『そ、ソーマ・アスクレイだとぉっ⁉︎ お、お前……死んだのではなかったのかっ⁉︎』

「えっ?」

 お兄様のその声を聞いて……私は一瞬思考が停止しましたわ。だって……だって……

「ソーマお兄様が……生きていらっしゃる?」

 あの時……突然私たちの前から姿を消してしまったソーマお兄様。私は……毎日泣きました。あれだけ強くて、そして同じくらい優しかったお兄様……私の事をいつも気遣って下さったあの優しいお兄様が……突然何も別れを告げずに去ってしまって……

(でも……ソーマお兄様は生きてて下さったんですのね‼︎)

 嬉しい……とても嬉しいですわ! あぁ……そう思っていると涙が出てきました。この様な姿は見せられません! すぐ部屋に戻っておめかししませんと!

 とある少女はそう思いながら去っていく。自分の兄に花を渡す事も忘れて……


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15話 ソーマさんは漸くまた黒歴史を勝手に作られていた事を知る……

15話までに新たに評価してくださった読者の方々

☆9 可愛い=世界 様
☆1 ばんぱいあ 様

 投稿までに長い期間が開いたにも関わらず、ご評価頂きましてありがとうございます!

 投稿スピードはこれまでよりも遅くなりそうですが、それでもちびちびと書いていくつもりです。楽しみにしていただいている読者の皆様には申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いいたします。

それでは本編をご覧下さい!


 

 

 

 

 僕はレアに言われた様に3学級の級長に挨拶をしに来ていた。所々であの場にいた生徒達に呼び止められてお礼を言われたが、僕としては当然の事をしただけだと、そんな事を言ってその場を後にした。

 

 最初に挨拶に来たのは、あのクロードくん(ツッコミ役)の所である。

 

「ねぇ、やっぱり俺の呼び方だけおかしくない?」

 

「ん? どうしたクロードくん(ツッコミ役)? やはり体調が優れないのか? だとしたら僕が触診しよう。さぁ、一緒に救護室まで行こうか?」

 

「いやいやいかねぇよ⁉︎ それと俺どこも悪くないから‼︎」

 

「そうか……それは残念だ」

 

「……なんかこれ以上言うとまた不名誉なあだ名で呼ばれそうだから何も言わねぇ。それでこんな所でお医者様が何してるんだい?」

 

「何をしている、か。何、先程レアさんから頼まれてこの3学級の副担任を受け持つことになった。だからその挨拶と、それぞれの学級に属する生徒達の情報を見に来た」

 

「えっ? オタクが俺らの副担任をするってのかい? それも3学級も?」

 

「全く……僕はただ医療行為をしたいだけだというのに……。まぁ決まった以上文句は言わんさ。そういう事だから、宜しくなツッコミ役くん」

 

「こ、この人もはや俺の事を名前で呼んでくれねぇ……そ、それで俺達の学級の生徒だったよな? それならこれだな」

 

「ふむ、そうか。実際に生徒を見たいから少し借りるぞ」

 

「えっ? まぁ良いけど」

 

「用が済んだら返しにくる。それではな」

 

 そしてソーマはツッコミ役と別れた。

 

「……なんか他にも俺の事をツッコミ役って呼んでる気がする」

 

 気のせいである。

 

 

 

 

 

 

 

 次にソーマが訪れた学級がディミトリの所である。

 

「あっ、アスクレピオスさん! こんな所で何をしてるんですか?」

 

「あぁ、実はかくかくしかじかでな……」

 

「なるほど……あなたが僕達のクラス含めて副担任になるという事ですね」

 

「そういう事だ。そこで早速なのだが、君が所属しているクラスの名簿を貸してほしい。実際にどんな生徒か見てみたいのでな」

 

「分かりました。こちらです」

 

「ありがとう。用が済んだらまた返しに来るからな」

 

「はい! それと……なんですが」

 

「ん? どうかしたか? もしかしてどこか具合が悪いのか? ならすぐに救護室に行こうか」

 

「いえ! 俺は体調はどこも悪くなってないです‼︎ その、これはできればのお願い事なんですが……俺と1戦、模擬戦をしてくれませんか?」

 

「……僕は医者だ。それに見たところ君は武術に優れているな。無駄な筋肉が付いていないように見える。そんな君と、ただの医者である僕が模擬戦をしたところで、結果は見えているだろう?」

 

「そんな事はありません! あの夜……あなたはあの賊共を瞬時に拘束しました。それに後から出た鎧を着込んだ者達もあっという間に倒していたと、クラスの生徒から聞いています」

 

「俺は、確かに幼少から武術の鍛錬などにも勤んできました。そのお陰もあって、今の士官学校の模擬戦でも負けた事は殆どありません。ですが裏を返せば……俺は今の生活にどこか刺激が足りないと感じています」

 

「だからこそ! あの夜出会ったあなたの戦い方が……俺には美しく見えたし、それでいて力強く見えました。あなたと1戦だけでもいい……模擬戦をすれば、俺は今の生活で足りないと感じる何かを掴めるかもしれない‼︎ だから……お願いです! 1戦だけでもいい! 俺と模擬戦をして下さい‼︎」

 

 ディミトリが勢い良く頭を下げてソーマに言う。周りにいる生徒達やこの司祭達は、遠くにいたので何を話しているかは分からないものの、ガルグ=マクのいち生徒が部外者であるソーマに対して勢い良く頭を下げていた事に何事かと思った。

 

 それを感じていたソーマも、ここで断るのは得策ではないと思い……

 

「……分かった。用事が済んだら君の元を訪れるとしよう」

 

「っ‼︎ ありがとうございます‼︎ 先生‼︎」

 

「あくまで暫定的にで、僕はまだ君達の先生になった訳ではない。だからそんなに大きな声で言うものではない」

 

「し、失礼しました。ではまた!」

 

「あぁ、ではな」

 

 そう言ってソーマはディミトリから離れていく。そして次に向かう場所はと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ⁉︎」

 

「っ‼︎」

 

 一瞬瞳を交差させ……

 

ピシッ、ガシッ、グッ、グッ

 

「えっ? えぇっと……師にヒューベルト……一体何をやっているのかしら?」

 

 ソーマが最後に訪れた級長……それは勿論エルのところであった。しかしエルは長身の男子生徒と何やら話し込んでいた。そこにソーマが来たのだが、ソーマとヒューベルトが目を合わせた瞬間、両者は何かを感じ取った。

 

 それから2人はお互いに近付いて謎の動作を息ピッタリに行ったのである。まるで長らく友人をやっているかの様に……

 

「いえ、なにやらこの男を見ると私との感性がどうにも似通っていると言いますか……その様なシンパシーを覚えましてな。そして頭に先程浮かんだ動作をやってみれば、物の見事にあうではありませんか。いやはやこれはなかなか……嬉しいものですね」

 

「そんな事を言われても私知らないのだけど……」

 

「まぁ大半が君と同じ事を言うだろうな」

 

「ところで黒衣が似合うあなたはどなたでしょうか? 確か私達が危ない時にも駆けつけてくれていた様に記憶しているのですが……」

 

「僕の名前はアスクレピオス。ただのしがない医者だ」

 

「なんと! お医者様でしたか! なるほど通りで……して、エーデルガルト様はアスクレピオス殿の事を師と言っていた様ですが?」

 

「えぇ。あなたにも結構話したでしょう? 私を地獄から救ってくれた恩人の事を」

 

「っ⁉︎ すると……あなた様があの⁉︎」

 

「僕がどの様にエルから話されているか分からないが……エルを助けたと言うのは事実だな」

 

「そうでしたか……」

 

 そう言ってヒューベルトはソーマに片膝をついて頭を下げた。

 

「急になにをしている?」

 

 ソーマは内心驚きながらもヒューベルトに問う。

 

「私ごとにはなりますが……我が主人をあの地獄の様な日々から救って頂き感謝しております。私はエーデルガルト様の従者をその時からしていたのですが、未だ未熟で力のなかった私にはどうしようも出来ず……苦渋に満たされておりました」

 

「そんな中、エーデルガルト様含む兄弟の方々も忽然と姿を消したと言われた時は……私の中に絶望が満ち溢れたというもの。ですがそれから数年……エーデルガルト様は帰ってこられた。そして話を聞きました。それはあなたと会ってからの話を何回も」

 

「それで思ったのです。我が主人を救って下さった方に会い、再びエーデルガルト様の従者として仕える事が出来たことに対するお礼をしたいと」

 

「そして、今ここでお礼を申し上げたい。エーデルガルト様を救ってくれた事……感謝していますと」

 

 ヒューベルトのお礼をソーマは最後まで聞いた。そしてソーマは……

 

「僕はただ、僕のやりたい事をしただけだ。それでその子の命を救えたのなら……僕は見返りなど求めない」

 

「だが……君が切にお礼を言っている事は分かる。だから受け取ろう。君からのお礼を」

 

「ありがとうございます」

 

「あぁ。だからもう頭を上げてくれ。それと傅かなくてもいい。分かったのなら普通にしてくれ」

 

「はい」

 

 そう言われてヒューベルトは元の姿勢に戻った。

 

「ヒューベルトが他の人にあんなお礼をするところなんて……見た事ないわね。珍しい物が見れたわ」

 

「え、エーデルガルト様……あまりその様な事を言われるのは」

 

「ふふっ、他の人も見たらとても驚くと思うわ!」

 

「お、お戯れはそこまでに……」

 

「ふふふ……そうね。それで師、私のところに来たという事は、何か用事があるのではないかしら」

 

「そうだった。それでここに来たのはカクカクしかじかでな……」

 

「なるほど……私達の副担任になって欲しいと頼まれたのね? それも3クラスの」

 

「あぁ。僕はただ医療行為がしたいだけだったのだがな……」

 

「ふふっ……貴方の口癖も変わらないわね。まぁともかくとして、これが私達のクラス名簿よ」

 

「ありがとう。用事が済んだらすぐに返しにくる」

 

「分かったわ。あっ、そうだ‼︎」

 

「ん? どうかしたか?」

 

「師ってここの修道院について全然わからない事だらけでしょう? だから……その……」

 

「エーデルガルト様……まさか⁉︎」

 

 エーデルガルトがこれから何を言うのか、ヒューベルトは表情で分かった様である。その時のエーデルガルトの表情は……上目遣いで頬を赤らめていた。

 

「わ、私がここを案内しても……良いかしら?」

 

「……そうだな。僕もここに来るのは初めてだし、案内をお願いできるか?」

 

「っ‼︎ えぇ! 勿論よ‼︎」

 

「では私にはやる事がありますのでここで」

 

「分かったわ。それじゃあ師! 行きましょう‼︎」

 

「わ、分かったから手を引っ張るな⁉︎」

 

 エーデルガルトはソーマの手を取って早歩きで案内をする。ソーマはいきなりの事でエーデルガルトに手を引かれる形となり、前に傾いた姿勢でついていくのであった。

 

 それを見送るヒューベルトは……

 

「あの方でしたら……エーデルガルト様をお任せしても問題はありませんな」

 

 そんな事を……20歳にもならぬ学生が感慨深い様相で呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからソーマはエルに連れられて様々な所を案内されつつ、3クラスの名簿を片手に生徒達の名前と様相を合致させていく。

 

 そんな中リシテアとマリアンヌがソーマに気付き、その際にエーデルガルトが何故ソーマを案内しているのかの一悶着があったが、どうにか折り合いは付けたようで、3人一緒にソーマを案内することになった。

 

 しかしその時もソーマの手を誰が握るのかを、彼女達はガチの目をしながら争い合っていた。それもジャンケンで……

 

 そしてあいこが何十回と続いていき、最終的にはエーデルガルトとマリアンヌがその権利を勝ち取った。1人負けてしまったリシテアは物凄く悔しそうにしていたようだ。

 

 それを待っていたソーマさんは……1人ベンチで日向ぼっこに興じており、その際に集まってきた猫の相手もしていました。その光景を見ていたこの3人は……

 

 

 

 

 

 

 

 

(わ、私も猫の格好をすればあんな風に撫で撫でして貰えるのかしら///)

 

(アスクレピオス先生ってあんな顔も出来るんだ〜……もっと見たいなぁ〜)

 

(あぁ……愛でられている猫も可愛いけど、クレイ先生も物凄く可愛い♡ い、今にでも抱きしめたいわ)

 

 と、この様に思った様です。

 

 一通り修道院内とそれぞれの主要生徒を認識した後、各級長に名簿を返した。それをレアに報告すると、今日の夜はベレスとソーマの新任会を行うとレアが言ってくる。

 

「いや、こんな僕が参加したとしてもなんら面白みに欠けるだろう。だかr「先に言っておくのですが、拒否権はありません。ですから参加しないという選択肢はないものと思って下さい」……はぁ、分かった。参加すれば良いんだな?」

 

「えぇ。それに貴方の活躍はこの20年、私の元にも届いていますから……もし仮に逃げようとしたら暴露してでも参加してもらいます」

 

「……まさかまた僕の黒歴史が捏造されているのか」

 

 こので漸くソーマさんは、ここ20年間でも自らの行いが黒歴史とされている事に知った様です……

 

 そして夜に行われる新任会でも、まさか自分を中心にあんな事態に発展する事を……ソーマさんはまだ知りません。




猫のコスプレをしたエーデルガルトさん……物凄く可愛いと思います‼︎ いやもう本当に! そこら辺ソーマさんはどう思いますか?

「……ノーコメントだ」

視線を晒して答えるソーマさんがいました……


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