夢へ駆けるクライマー (mocomoco2000)
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001

気づいたらわたしは涙を流していた。

ポタリポタリとシーツに染みを作っていく。

どうして泣いているのかは分からない。でもなぜ泣いているのかは分かる。

夢を見たからだ。どんな夢かはもう分からない。悲しい夢だったのか、感動した夢なのか詳しい内容はわたしには分からない。"どうして"泣いているのかはその夢の中に置いてきてしまったから。

でも、もしかしたら。もしかしたらこの身体が覚えているかもしれない。

わたしは立ち上がって寝巻きから着替えて家の扉を開いて――

 

私は扉を閉じて鍵をした。

私は忘れてしまったと思っているが、もしかしたらこの身体が……この指が覚えているかもしれない。

だから思わず飛び出した。忘れてしまった何かを思い出すために、ここではないあの場所へ行こう。

空は雲1つ無い快晴で、夏の陽射しがジリジリと体力を奪っていく。それでも私はひたすら前に進んだ。

 

夏休みで休日だからかとても人が多い。

ジリジリと体力を奪われながらもわたしは進んだ。

コツコツと硬い音を鳴らしながら進む。

 

カラカラと車輪の音を鳴らしながら進む。

 

誰かに声を掛けられるが、わたしは気付かずに進んだ。

 

誰かに声を掛けられたが、私は無視して進んだ。

 

頬を流れる汗を持ってきたハンカチでわたしは拭った。

 

頬を流れる汗を肩で思いっきり私は拭った。

 

目的地に到着してわたしは一気にエスカレーターを駆け上がっていく。

 

ただじっと私は到着するのをエレベーターの中で待つ。

 

肩で息をしながらわたしは確かめるように座って指を置く。

 

冷房の寒さに耐えながら私は確認するようにそれに指を置く。

 

 

さあ、奏でよう。忘れてきた何かを取り戻すために。

 

 

 

 

 

知らないベルが聞こえる。

寝ぼけた頭を無理やり動かそうとするが、何故かボーッとしててきちんと働いてくれなかった。

昨日は友人に頼まれた同人雑誌の数ページか描いていて、終わったのが明け方だった。眠気と疲れでそのままパソコンの前で突っ伏して寝ていたはずなのだが、何故か私はベッドの上で寝ていた。

それもおかしい話である。私の部屋には"ベッドがない"。いや、この言い方だと誤解を招きそうだからちゃんと説明させてもらうと、私の部屋にはベッドは"あるにはある"。

ソファーベッドと呼ばれるソファーがあるのだが、ソファーをベッドに形変えるのが面倒なので、いつもソファーの形のまま寝ている。だから友人が泊まったりしない限りソファーをベッドに変形させる事がない。

だから私が"ベッドで寝てる"なんてありえない。一体どうなってるとベッドを見ようと下を見たら、見たことの無い服を私は着ていた。

 

知らないベルの音が部屋を満たす。

 

私は無意識にベルを止めて、立ち上がって目に付いた姿見の前に立った。

一言で言えば"普通の女の子"。駅前を歩いていたら見かけそうな女の子で、栗色のショートヘアーがよく似合っている人懐っこい表情をした子。身体的にまだ幼く感じるが、少し膨らんでいる胸や壁に掛かっている制服からして中高生と断定。

息をするように少し小さな胸を揉んでみる。

……………。

………………………ちっちゃくても柔らかいモノなのだな。今度"絶壁"やら"まな板""ウォール"って呼ばれてる友人がからかわれていたら擁護しよう。無くても柔らかいんだぞって。いや、変態過ぎるから止めておこう。

というよりこのやけにリアルな夢はいつから醒めるのだろうか?いくらなんでも夢であっても女の子になってるなんて、私はどれだけ欲求不満に陥っているのだろうか?夢というのは己の願望や欲望、思考を整理する場所。そんなところで女の子になってるとか、私はとんでもない変態なのかもしれない。

 

「つぐみー、朝ごはん出来てるわよー。早くきなさーい」

「はーい……………ん?」

 

思わず"聞き覚えのない声"に返事をした。どうやらこの私はつぐみと呼ばれているらしい。それを聞いて私はふと疑問に思う。夢というのは己が記録した情報の集合体のはず。見聞きした情報でないと夢には出てこないのでは?少し頭痛がしてきたが、今は無視。必要な情報を集めていこう。

机の上に充電されている"見たことのない"スマホの電源を入れるがロックがかけられていて開くことが出来ない。いや、何?私はケータイにロックをかけた覚えがないぞ?設定するのが面倒だから基本購入した設定のまま。パスワードなんて知らないから無用の長物と化したスマホをどうするかと考えるが、一応持っておく事に。もしかしたら何かあるかもしれないから。

鞄を漁ってみると予定帳が出てきた。丸っこい女の子らしい字で書かれた今日の予定を見てみると

 

・ホームルームまでに生徒会室にある資料をまとめておく

・放課後までに処理しておく資料は―――――

・ガルジャムに向けての新曲

・生徒会

・終わり次第合流してバンドの練習……………

 

と1日で終えれるのかと思う予定がびっしりと毎日詰まっていた。

予定帳を閉じて、もう1度姿見の前に立つ。やはり映るのは女の子。私ではない。思考がぐるぐる回り、ある1つの解に行き着く。つまり、あれか?私はこれから彼女がすべき事をやらねばならないのか?

 

「つぐみー。今日は生徒会の仕事があるから朝ごはんを早めに作ってって言ってなかった?」

「は?…………えっと……ごめんなさい。すぐ行きまーす」

 

まあ、所詮夢だ。適当にやって目覚めるのを待とう。そう決めて私は寝巻きを脱ぎ捨てるのだった。

 

 

 

 

 

知ってる天井だ。

何故かそう思った。先程まで見ていた夢がすごくリアルだったからだろうか?しかし、その夢がどんなだったのかが覚えていない。全ての閃きを夢特有の曖昧に置き忘れてしまったようだ。欠伸をしながら私は"きちんとされたソファーベッドから身体を起こした"。

 

「?」

 

私はいつの間にソファーベッドをベッドの形態にしたのだろうか?

もしかして夢の中で無意識にやってしまったのだろうか?

寝ぼけた頭を掻きながら壁に掛けてある鏡の前に立って顔を見た。いつもは濃いくまがやけに薄かった。パソコンの横にあるデジタル時計を見ると、[5月28日]と表記されていた。

……………同人雑誌を描いて寝落ちしたのは日を跨いで27日の朝だったはず。つまり私はあれから1日中寝てしまっていたのか?そう結論が頭に浮かぶと背筋が凍るような気分になった。

いつもソファーの上に置いてあるスマホがパソコンの前で充電されていることに怪訝な気持ちになるが、そんな事よりも怒濤の通知が書かれていそうでそちらの方が恐ろしく感じた。

恐る恐る電源を入れると、"通知は全く無かった"。それに私はさらに怪訝な気持ちになる。どういう事だ?あの"お節介な先生"が全く連絡を入れてきていないだと?

不安になるが、時刻が7時半を過ぎていることに気付き慌てて制服に着替える。

どうなってる?一体どうなってるのだ?

 

 

 

「おーす、薦田」

「ん?おう」

「あれ?普通や」

「は?」

 

教室に入って席に座るといつもなら寄ってこない飯原が近づいてきた。学年のオリエンテーションで知り合った、まだ1月程度の付き合いの奴なのだが、何だかんだ気が合うのでよくバカみたいな話をして盛り上がっている。

飯原はニヤニヤした顔で前の席に座ると頬杖してきた。殴りたい。

 

「普通って何だ?」

「え?覚えてないん?昨日のお前変やったで?」

「昨日?私は昨日学校に行ってないぞ?」

「はあ?何言ってんねん。ちゃんと来たわ。あ、でも変やったから覚えとらんのか?」

 

何を言ってるんだ?こいつはと思いながらも気になる事を聞いてみることにした。

 

「なあ、昨日私は1日中寝てたと思うのだが、学校に来てたのか?」

「え?ああ。来てたで。めっちゃ変やったけど」

「変変言い過ぎだ。そんなに変だったのか?」

「ああ。俺らはそう感じた」

「"俺ら"って事は新枝先生もか?」

「いんや。"えだちゃん"は感動してたで。薦田君が真面目になったって。あれも変やと思ったわ。どっか頭ぶつけたんとちゃうかって浅賀と話したもんな」

 

何か嫌な予感がする。夢の中に微睡みながら私は昨日何をやらかしたのだ?不安になりながらも私は飯原に昨日の私について聞いてみることにした。

 

 

 

昨日の薦田?お前本当に頭ぶつけたんか?記憶にない?酔っぱらってたんか?いや、それやったら御幣島が反応するか。まあええ。昨日のお前の事を話せばええんやな?

最初は寝ぼけとんのかと思ったわ。自分の席はどこやとか今日の授業何やとか色々聞いてきたかんな。どしたん?って聞いたけど

 

「ううん。何でもない」

 

の一点張り。疲れとんなら帰ったら?と言っても大丈夫と言ってきてな。そこで変やなって思ってん。やってお前ならしんどかったから勝手に帰るやん?なのに帰れへんって可笑しくないか?自分でもそう思う?やろな。やからどっかで頭をぶつけたんかって思ってん。お、浅賀おはよー。ん?いつもの薦田やん?やろ?昨日のあれどう思った?やっぱ変やったよな。こいつ昨日の事覚えとらんのやって。はあ、ストレス。こいつストレスなんて溜めとるタマか?勝手に授業サボるわ。勝手に音楽室でピアノ弾くわ………俺たちにどんだけ迷惑かけてんねんって思っとるわ。

 

「まあ、要するにさ薦田が別人に見えてんな。面は薦田やのに中身は別の誰か。見た感じめっちゃ女々しかったから女の子でも入ってたんとちゃう?って思ったわ」

 

飯原の話を簡単に浅賀はまとめた。

浅賀はクラスになったのは今年からだが、同じ部活に所属しているから飯原より付き合いが長い。

茶髪で真面目だけどノリが軽い飯原と違って、真面目で知的オーラを放ってる浅賀は女子なのに女子にモテる。そこらの男子よりラブレターを貰っているのではないか?

部室にいたら結構な頻度で知らない誰かが訪れる。その度にジュースを買いに外に出るのだが、酷い時は紙パックの山が出来るくらいジュースを買っていた。いい迷惑である。

 

「つまり、私ではない何者かに見えたと?」

「そそ。誰かに乗り移られたとしか思えない程にはね」

 

浅賀は隣の自分の席に座ると飯原のように頬杖をする。何故だろう。飯原はバカっぽく見えるのに、浅賀がやると色気がある。これが日頃の行いの差か。すると飯原が睨むように目を細めた。

 

「今失礼な事考えたやろ」

「お前は女か」

 

こいつ、本当に変なところで勘が鋭い。

 

「とにかく、今の情報だけじゃ答えは出てけえへん。それなら1限目にある小テストの勉強をした方が有意義やと思うけど?」

「え?あ!?忘れてた!!」

 

飯原は慌てて立ち上がって自分の席に戻っていく。

浅賀はクスリと笑みを溢しながら、

 

「もし、また同じことが起きたら色々探ってみるわ」

 

と言って1限目の用意を始めた。私も出題する項目の確認をと思い、鞄から教科書とノートを取り出すと

 

「ん?」

 

一冊の見覚えの無いノートが出てきた。表紙には名前も何も書いてない。この柄のノートは購買部で売ってたような気がする。誰かの落としたものがたまたま私の鞄に入っていたのかなと思いながら、そのノートを開くのだった。




@mocomoco20000

Twitterやってます。基本fgoで爆死したとかバンドリで爆死したという下らないツイートをしているだけですが、よろしければ、フォローお願いします。
後誤字脱字、批評よろしくお願いします。

投稿時間を見ての通り、深夜テンションで書き上げたモノです。続くかは不明。でもこれ書き続けてみたら面白そうな予感(書いてる側は)。
まあ、プロットも何も無いので続くのでしたらそれなりの時間を置いての投稿になるかと思います。

タイトルは全く思い付かなかったので適当に。
何かよいタイトルを思い付いた方がいれば是非お願いします


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