銀の蛇と白い猫のお話 (アマゾンの奥地)
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白い猫の独白

 

 私たちを拾ってくれた人は、とても優しい人だった。

 

 あまり喋らない静かな人だけど、静かながらも私たちのことを気にかけてくれた。

 

 

 私たちを育ててくれた人は、すこし冷たい人だった。

 

 精神的な話ではなく物理的な意味で、彼はひんやりと心地が良かった。

 

 夏なんかは、姉さまと一緒に彼にすり寄って甘えたものです。

 

 

 私たちを守ってくれた人は、なんだか暖かい人だった。

 

 あの人のそばにいるだけで、それだけで暖かい。

 

 彼は私にとって陽だまりのような存在でした。

 

 

 私たちを慈しんでくれた人は、ずいぶんと不思議な人だった。

 

 だから、好奇心の強い姉さまが彼の秘密を知りたいと思うのは当然のことだったのかもしれません。

 

「こっそり後をつければバレないにゃ。だって白音も気になるでしょ」

 

 私たちは彼の後をバレないように追いかけました。

 

 普段なら気づかれてしまっていたのでしょうが、その日の彼はどこかおかしかったです。

 

 私も、姉さまもそれが気になってしょうがなかったのです。

 

 

 私をそばに置いてくれた人は、秘密の多い人だった。

 

 彼を追って仄暗い不気味な塔に入りました。

 

 そこは腐敗臭がしました。

 

 『死』の臭いです。

 

 私たちが彼に拾われる前にいたところでは常に隣りあわせだったものでした。

 

 目を凝らしてよく見ると、あちらこちらに大きな鳥かごがぶら下がっていました。

 

 中になにが入っているのかは私には見えませんでした。

 

 ただ姉さまは中身が想像できたようで、なんだかとても怯えた様子でした。

 

「早く■■に追いつくのにゃ.....」

 

 姉さまは私の手を引いてそう言います。

 

 震えながらも、歩く速度はむしろどんどん速くなっていきました。

 

 この時の私たちは、得体の知れない塔にいる恐怖と彼の秘密に触れることのできる楽しみがありました。

 

 

 私を可愛がってくれる人は、恐い人だった。

 

 塔の中心を貫いている螺旋階段を上がっていくなか、ついに私たちは鳥かごの中身を見てしまいました。

 

 そこにあったのは『悪魔』でした。

 

 腐っていて原型をとどめてはいませんでしたが、そこには悪魔が肉塊になって転がされていました。

 

 まるで遊んで殺されたかのようです。

 

 全身を針で刺されているものもあれば、顔面に焼き鏝を押し付けられたものもありました。

 

「白音.....あんまり見ないようにするのにゃ」

 

 姉さまが早くと私を急かします。

 

 私は言われるがままに足を速めました。

 

 ここにいるのが怖かったし、何よりも彼に会って一刻も早く安心したかったから。

 

 

 私が愛した人は、悲しい人だった。

 

 私も姉さまも心のどこかに予感はありました。

 

 この塔の惨状を作り出した人が彼なのではないか、という。

 

 でも信じられなかった。

 

 いや、信じたくなかっただけですね。

 

 あんなにもよくしてくれたあの人が、こんな事をするはずがない。

 

 そう思うようにしました。

 

「ねぇ■■.....」

 

 鳥かごの中に入っていった彼に、姉さまが声をかけました。

 

 ですが姉さまのか細い声は彼に届きません。

 

 彼が鳥かごの中で何をしているのかも、背中に隠れてしまって見えません。

 

 長い間ここにいるのが怖くなったのか、姉さまは強引に彼をこちらに振り向かせました。

 

「ねぇ■■ッ.....!?」

 

 彼の背に隠れていたのは、先ほどまでに何度も見たあの凄惨な死体でした。

 

 死体の周囲には影のような蛇が何匹も群がっていました。

 

 彼の手も赤黒く染まっていて、嫌でも彼がしていたことが分かってしまいます。

 

 彼は嗤っていました。

 

 瞳孔は大きく開き、口は三日月に裂けていました。

 

 普段からは考えられないその顔に、姉さまは恐怖と憎悪を抱いていました。

 

 当然なのかもしれません。

 

 だって自分の信じていた人が、同族を嗤って殺すような人物だったのですから。

 

 私を守るように立った姉さまはとても勇敢でした。

 

 立派な姉だったと思います。

 

 .....私はこんな状況で、姉さまとはまったく違うことを考えていました。

 

 あろうことか私は、あの『悪魔だったモノ』に嫉妬の感情を抱いていたのです。

 

 自分では決して見ることのできなかった彼の新しい一面を『アレ』は見ることが出来た。

 

 それが、どうにも妬ましいと思ったのです。

 

 そこに彼のしたことが良いことだとか悪いことだとかの思考は一切ありませんでした。

 

 独占欲というものは、誰しもが抱いたことのある感情だと思います。

 

 自分が好きなものの一番でありたい。

 

 他の誰よりも自分を見てほしい。

 

 好きな人のすべてを知っていたい。

 

 そう思ってしまうのはいたって正常だと思うのです。

 

 だって『好き』なのだから。

 

 私はただ、自分ではできなかったことをできた『モノ』が羨ましかった。

 

 様々な思考の飛び交うなか、ようやく現状を把握できたであろう彼はどこか諦めたように言いました。

 

「ここから出て行くも残るも好きにするといい。俺が君たちを追うことはない」

 

 言うが早いか、姉さまは私の手を引いて駆け出しました。

 

 まさに脱兎の如くという言葉がぴったりでした。

 

 まあ、私たちは猫なんですけど。

 

 彼は私たちの遠のいていく影を見ているだけで、一向に追いかけては来ません。

 

 それを見捨てられたと思ってしまう私は、もしかしたらどうしようもないのかもしれませんね。

 

 息も絶え絶えになりながら塔を出た私たちは疲れてその場に座り込んでしまいました。

 

「白音.....ここから逃げよう」

 

 姉さまの言っていることを理解するのに、少し時間がかかりました。

 

 逃げる?

 

 あぁ。姉さまは彼のことが恐ろしいのか。

 

 姉さまの言い分は正しいもののように感じられました。

 

 実際、あんな光景を目撃すれば誰だってそうなると思います。

 

 だって人を笑いながら殺すような輩です。

 

 そんな人と生活していたら、いつ自分がそうなるか分かりませんから。

 

「白音.....?どうしたのにゃ。早く立って逃げるのにゃ!!」

 

 けれど何故でしょう。

 

 私はどうしても『彼から逃げる』ということを思いつきすらしませんでした。

 

 私は彼の全てにおいて一番でありたいのです。

 

 彼の頭の中を、私だけで埋め尽くしたい。

 

 私だけを見てほしい。

 

 そんな風に思うのです。

 

「..........姉さま」

 

「どうしたのにゃ。疲れて動けないならお姉ちゃんが」

 

 私を背負ってまでして身を案じてくれるのはありがたいと思っています。

 

 でもそれは余計なお世話というやつですよ、姉さま。

 

「姉さま、聞いてください」

 

 きっとこれは運命だったのでしょう。

 

 互いに求めるものが違って、理想が違って。

 

 違う道を行くことは最初から決まっていたのかもしれません。

 

「私はここに残ります」

 

 でも心配することはありません。

 

 私は私の幸せに、姉さまは姉さまの幸せに向かって歩くだけなのですから。

 

「私は.....彼のことが好きです。心の底から。この命が惜しくないほどに」

 

 だから姉さまは一人で行ってください。

 

 大丈夫ですよ。

 

 別に今生の別れというわけでもありません。

 

 いつでも会えますよ。

 

 彼、私にはとことん甘いですから。

 

「私は彼と一緒にいたいです」

 

「白音は昔から頑固だからにゃぁ。言って聞かないのは知ってるにゃ」

 

 姉さまはお手上げだと言わんばかりに首をふりました。

 

「わかったわ。好きなようにやってみるといいのにゃ」

 

「ありがとうございます姉さま」

 

「それじゃ、また会おうね」

 

「はい。またいつか」

 

 お別れの言葉を言うと、姉さまは何度もこちらを振り返りながら暗闇の中に消えていった。

 

 あぁ。

 

 これからは私一人だけが彼の家族。

 

 そんなことを思うと、つい顔がにやけてしまいます。

 

 私はスキップしながら彼のいる塔に向かっていきました。

 

 

 

 

 

 

「つい先ほど部長が赤龍帝を転生悪魔にしました。どうしますか?」

 

「しばらくは様子を見ておこう。まあ、一応セラには報告しておくさ」

 

「わかりました。監視だけはしておきます。それはそうと.....」

 

「リアス嬢の下僕悪魔をやめることについてだろう。心配するな。そのことについてもセラに話は通してある」

 

「でもあの人のことですからね。本当に大丈夫なんでしょうか」

 

「そんなことを言ってやるな。我らが王だぞ、あんなのでも」

 

「まあいいです。それに、いざとなったら貴方が何とかしてくれるんでしょう?」

 

「近いうちにには戻ってこられるようになるよ。あと少しの辛抱だ」

 

「.....わかりました」

 

 あ、部長に呼ばれてしまいました。

 

 そう大声を出さなくても聞こえているのに。

 

 では、また電話しますね。

 

 

 

「部長待ってください。今行きます!」

 

 

 



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魔王少女との電話

 

 やってはいけないことだと自覚していても、どうしてもやめられない事はある。

 

 あぁ。自分でも解ってはいるんだ。

 

 しかしやめられない。

 

 どうしようもない中毒者の戯言だと思って、気にはしないでくれ。

 

 いくら我慢しなければいけないと押さえつけても、こればっかりは無理なんだ。

 

 一度知ってしまった快感からは一生逃れることはできない。

 

 自分がしていることが、世間一般で言う『悪い事』の部類に入っているのも理解している。

 

 理解しているのだが、俺の身体は理性とは関係なくソレを求める。

 

 鼻に刺さる鉄の匂いが、手に残る肉の感触が。

 

 もう一度と俺の理性を溶かしていく。

 

 セラに頼み込んで、罪を犯して死を待つだけの悪魔たちを集める鳥かごをつくった。

 

 そこでだけは俺の行為は正当化される。

 

 塔に響き渡る悲痛の叫び。

 

 腐敗した肉の悪臭。

 

 『死』を間近に感じさせるソレらは俺にとって絶好の環境だ。

 

 湧き出る多幸感のまま、新鮮な肉に手を付ける。

 

 熱い血しぶきをまき散らしながら生を懇願する肉塊たちが、俺の手によって冷たくなっていく。

 

 あぁ。何度やめなければと思っても。

 

 気がつけばここに足を運んでいる。

 

 こんなことはやめなくては。

 

 これっきりにしなくては。

 

 そう、何度も思った。

 

 しかしもう遅い。

 

 俺にとって殺人は快楽を得るための行為ではない。

 

 殺人は人生なのだ。

 

 そう思ってしまうほどに、俺は終わっているのだ。

 

 いつかだったか、誰かがこんなことを言っていた。

 

 戦争で百人殺せば英雄だが、一人殺した私は犯罪者だ、と。

 

 そうだ。

 

 たとえどんな罪のある者であろうが、殺した時点でそれは罪に他ならない。

 

 たとえ正義の皮をかぶって百人殺そうが、悪意のままに一人殺そうが、それは変わらない。

 

 あぁ。結局のところ、俺は犯罪者に変わりないのだ。

 

 命を奪うことはそれほど重いことなのだ。

 

 ソレに快感を感じてしまう哀れな蛇が俺だった。

 

 ただそれだけの話。

 

 

 

 

 

 

 報告というのは大切なことだ。

 上下間での意思疎通も、横のつながりでの意思疎通も必要不可欠なことだ。

 

 もちろん、何でもかんでも誰かに言えばいいというわけではないが。

 言わなくていいことだってあるだろうし、よけいな情報が多いと、かえって相手が混乱してしまう。

 

 ようは大事なことだけを伝えればいいのだ。

 

「シロからの報告だ。リアス嬢が今代の赤龍帝を眷属にしたらしい」

 

『えぇ~!?リアスちゃんが!?すごいな~☆ねっ、すごいよね☆』

 

 報告は大切なことだ。しかし、それは双方がそう思っていなければ意味を為さない。

 たとえば情報を欲していない人にソレを話しても相手は聞いてくれない。

 相手側に聞く意志がなければ、いつまでたっても情報は伝わらない。

 もしかしたら、報告に一番必要なものは、他者との意思の共有だったのかもしれない。

 

 

 あぁ。いつものことながら面倒だ。

 

 近頃は人間界の生活が災いして機嫌が悪いってのに。

 セラは相変わらずか。

 まあセラに人の気持ちを読み取って考えろ、なんて言っても無駄だろうけど。

 

 .....無視して話を進めようそうしよう。

 

「これで堕天使側が白龍皇を、悪魔側が赤龍帝を所持したということになる。そろそろ動いてもいい頃合いだと思うが」

 

 もしも。もしも仮に電話の相手がシロだったら気分もいくらかは良くなったんだが.....。

 あの娘は今リアス嬢の警護及び監視で忙しいからな。

 

 なるべく早めに片付けて寝よう。

 あんまりストレス貯めると、無関係の人までヤっちまいそうだ。

 

『もうっ!ちょっとは私に構ってくれてもいいんじゃない?せっかく久しぶりに話すんだから』

 

 ハァ。言ってるそばからコレだ。

 こういう輩には関わらないのが一番だ。まあ無視でいいだろう。

 

「そうだなわかった。それで今後のことだが.....」

 

『ちょっと!!ジャックはちょっと私に厳しいよ!私のこともあのネコちゃんみたくもっと甘やかしなさい☆』

 

「なるほど、つまり電話を切れと。そういう事でいいんだな」

 

 あぁ。コイツ、人を無意識のうちに煽ることにかけては世界一だな。

 やはり電話を切ろう。そしてこの受話器を二度と持つものか。

 まったく、なぜ俺はこんな奴の下についてしまったんだ。

 

『あ~!待って待って!!ゴメンちゃんと話すから切らないで!!』

 

「.....次はないぞ」

 

 セラも少しは反省したか.....。

 まあ、習慣になりつつあるこのやり取りを今更やめるなんてことは、たぶん一生できないんだろうが。

 

 いつもの軽口を経て、俺たちは本題へ入ることにした。

 あまり本題を引き延ばすと後が怖いからな。

 

「それで、結局はどうするんだ?俺は動くには絶好の機会だと思うが.....」

 

『動くって、三勢力間で同盟を結ぶってやつ?ジャックはそれに反対じゃなかったっけ』

 

「別に反対してるわけじゃあない。ただ、つまらない世界になったと思うだけだ。まあ気にするな。お前は俺たちの王。お前が命令したことに関しては基本従うさ」

 

『う~ん☆でもなぁ~まだちょっとムリかなぁ~。こっちから同盟を持ち掛けるだけのキッカケってのがないのよ。こればっかりは私たちじゃどうにもならないし☆』

 

 やはり会話は双方が同じ方向を向いてこそだ。

 先ほどまでと違い、話が進んでいるのがよくわかる。

 セラの方も口調自体は変わっていないが、しっかりと話題を前に進めている。

 まあ、本来なら最初からこうなっていても良かったんだが。気にしないことにしよう。

 

「わかってはいるが早々に手は打っておけよ。長引かせてもいいことはなにもない。特にこういうことは尚更だ。早く動かないとそのうち本当に動けなくなるぞ」

 

『大丈夫だよ。その辺はサーゼクスちゃんもしっかり考えてるから☆それよりそっちはどうなのさ。なにか事件とかなかったの?特にコッチ側に情勢が傾くような』

 

「そんなものがあるわけがないだろう。あったら真っ先に報告してる。それにだな、もしも情勢が動くほどの大事件なんて起こってみろ。ココを管理してるのはまだ成人すらしてないような娘たちだ。悲惨なことになるのは目に見えてるだろう」

 

 とは言っても確かにそれぐらいのことはあってくれないと、八方塞がりなのも事実。

 なにかそれなりの大きさの事件が起こってくれればいいんだが。

 

 あぁ、そういえば。シロの報告のなかから使えそうなネタがあったな。

 たしかセラの妹の新しい眷属の話だったか。

 

「あぁ。そういえば一つ思い出した。たしかお前の妹も神器持ちの人間を眷属にしたらしい」

 

 あまり詳しくは聞いていないから、そこまで情報量がないが。

 セラのことだ。気になったら自分でも調べるだろう。

 

『えっ!ソーナちゃんも!?ねえねえどんな子だった?男の子?女の子?』

 

「男だったはずだ。神器はなんだったか.....まあ記憶にないってことはその程度のものなんだろう。あとは気になるならシロに聞け」

 

 まあ聞いてもマトモな答えは返ってこないと思うけど。

 シロは魔王さまのことが嫌いだからな。

 このことに関してはセラもかわいそうだと思わなくもないが。

 

『でもなぁ~あの娘ほとんど私と話してくれないんだよね~。どうしてだろ、どうしてだと思う?』

 

「セラの女王(クイーン)を俺が持ってるのが気に食わないらしい」

 

 あの娘は嫉妬深いからな。

 どうやら俺の身体の中にセラの物が入っているのが我慢ならないんだとか。

 俺としてはそこまで言ってくれて嬉しいんだが、如何せん周囲に迷惑がかかるのが、なぁ。

 

『むっ☆ネコちゃんの嫉妬かぁ~。それなら仕方ないねっ☆』

 

「それ、本人の前で言うなよ」

 

『わかってるって☆貴方のネコちゃんは怒らせると大変だしね~』

 

「本当にわかってるんだろうな.....」

 

 いや、コイツ絶対に分かってない。

 きっとシロに会った瞬間にもうこれでもかというぐらいに煽るんだろうな。

 

 ハァ。

 

『あ!そういえば貴方のネコちゃんだけど、たぶん近いうちに戻ってこれるよ☆』

 

「.....セラにしては珍しく行動が早いな。どうしてだ」

 

 シロにも言われたばかりだったし、こちらとしてはいいタイミングだ。

 しかし、セラが動くにしては些か早すぎる気がする。

 

『いやぁ~タイミングが良くてね☆リアスちゃんに許婚がいるってのは知ってるでしょ?』

 

「知らないな。あいにく人と人の関係を把握するのは苦手なんだ」

 

「なんで知らないのよ.....まあいいわ☆兎に角、リアスちゃんには許婚がいるの」

 

 へぇ。それはおめでたいこと、なのか?

 まあ祝えと言われれば祝うのもやぶさかではない。

 人が幸せになるのは良いことだからな。

 

「それで?俺は祝辞でも送ればいいのか。あーあーセラフォルー・レヴィアタンさまの女王よりご祝辞を.....」

 

『いやいや。そんなことしたらサーゼクスちゃんに怒られちゃうわ☆そもそもリアスちゃんはその婚約を嫌がってるの!』

 

 えぇ。そうなの.....。

 相手によっぽど問題があるんだろうか。

 いやまあ結婚なんて個人の問題が俺なんかに分かるわけはないんだけども。

 

「じゃあなんだ。ご愁傷様とでも言えばいいのか?この度は望まぬ結婚をされたようで、とか言って」

 

『.....なんで貴方ってそう人を煽るのかな』

 

 お前にだけは言われたくない。

 いつも人を煽り倒してるような奴にだけは。

 

「冗談だ気にするな」

 

『ハァ.....まあいいか。それでね、サーゼクスちゃんが妹ちゃんのお願いをなんとかして叶えたいって言ってね、婚約者さんとレーティングゲームをすることになったの』

 

 それは.....いくら魔王といえども職権乱用では。身内に甘すぎると思うんだが。

 相手側も大変だ。

 魔王の血縁であるグレモリー家に嫁ぐチャンスかと思ったら、いきなりお前は嫌だって言われてゲームで今後を決められるんだろう。

 

「婚約者かわいそう。人の都合で勝手にそんな大事なこと決められて.....」

 

『そっち側に肩入れしないでよ☆まあ気持ちはわからなくもないけどさ!』

 

 セラもだけどサーゼクスのシスコンっぷりは相当なモンだな。

 もう少しは自分が魔王だっていう自覚をもってほしい。

 

「で、それがどう繋がるとシロが帰ってくるなんて話になるんだ」

 

『ほら、小猫ちゃんって首輪付きだからホントはリアスちゃんの眷属じゃないじゃない。だからリアスちゃんがレーティングゲームをする時にね、たぶんそれを理由にして帰ってこれるよ☆』

 

 .....案外マトモで驚きを隠せないぞ。

 これを考えたのは本当にセラなのか。実はアジュカ辺りが手を貸してないか。

 まあいいか。

 シロが帰ってくるならそれに越したことはない。

 

「いやーさすが我らがキング。頼りになるなー」

 

『その棒読みは心にくるぞっ☆』

 

「悪いな。感謝しているのは本当だ。ありがとう」

 

『もう☆分かりにくいんだから!まあ、ジャックは私の女王だからね。頑張ったよ!』

 

 今日のセラは機嫌がいいな。

 なんかついでで二、三の頼みを聞いてくれそうなぐらいには。

 

「なあセラ。頑張りついでにもう一つ頼んでもいいか」

 

『いいよいいよ!何でも言ってみて☆』

 

 本当に機嫌がいいんだな。

 これなら俺のストレス解消もできるかもしれない。

 

「人間界に長いこといたせいで溜まってるんだ。はぐれ悪魔かなんかを用意してほしい」

 

 最近は全然だったからな。

 久しぶりにあの肉の感触を味わいたい。

 あんまり長いこと肉から離れると頭がどうにかなりそうだ。

 

「はぐれ悪魔なんてそんなに出るもんじゃないんだけど.....あっ」

 

 受話器越しから書類をゴソゴソと探る音が聞こえる。

 何か問題でもあったのだろうか。

 

「どうした。問題でもあったか」

 

「ううん。ちょうど駒王町にはぐれ悪魔が逃げ込んだって報告がきてて」

 

「それはなんて都合の良い.....で、いいのか?」

 

 ここで駄目だと言われた日には民間の人間が犠牲になるかもしれない。

 期待感がここまで高まった今、何もせずに待機なんてのは俺には到底できないぞ。

 俺は今、とてもヤりたい気分なんだ。

 

「う~ん.....まあ大丈夫か☆好きにして良いよ。下にはコッチで処理したって言っておくから」

 

 こういうところがあるからこそ、俺はセラの女王(クイーン)をしているんだ。

 融通が利くからな。俺もある程度は自由に動けて良い。

 

「じゃあ電話を切るぞ。また何かあったら掛ける」

 

「またね~☆」

 

 さあ久しぶりのご馳走だ。

 

 蛇は静かに笑いながら闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

「部長。先ほどのはぐれ悪魔の件ですが、上で処理をするから私たちが出る必要はない、と」

 

「.....妙ね。朱乃、今までにこんなことは?」

 

「もちろんありませんわ」

 

「.....そう.....」

 

「どうするんですか部長。行くにしてもやめるにしても、一度他の子に伝えないと」

 

「行くわ。こんなこと、怪しすぎるもの。杞憂ならそれに越したことはないけれど、行って確認した方がいいでしょう」

 

「わかりましたわ。では部のみんなにはそのように。あ、イッセーくんはどういたしましょうか」

 

「連れて行くわ。もともと、今日はイッセーに悪魔の駒(イーヴィルピース)の説明をするつもりだったのだから」

 

「そうですか。それでは、イッセーくんも呼んできますわ」

 

「朱乃、頼んだわよ」

 

 

 

「なにも.....起こらなければいいのだけれど」

 

 



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闇に蠢く

 町はずれの廃屋に足を運ぶ男がいた。

 そこは人の立ち寄らない薄気味悪い場所だったが、男はむしろそれを喜んでいるようにさえ思えた。

 人気のない場所は仕事をするにあたって一番都合がいい。

 その仕事が人に見せられないものなのだから尚更だ。

 

 西日の差し込む崩れかけの建物はどこか幻想的な雰囲気を匂わせる。

 昼と夜の境界、現実と非現実の境界だ。

 故に、夕暮れの頃には多くの魔の者が活動を始める時間帯でもあった。

 

 

 覚めぬ興奮のままセラに言われた場所まで来たが、なるほど。

 これは確かに『はぐれ』が好みそうな場所だ。

 薄暗くて人の目が届かない。

 これほど彼ら彼女らにとって好条件な土地はそうそうないだろう。

 と、地形に感心していたらどうやら待ちきれなくなって相手も出てきたようだ。

 

「良イ匂イガするゾ。イいニオイダ。冷たクテ甘い、マるデ洋菓子ノようナ、良イニおい、ダ」

 

 はぐれ悪魔と相対するたびに思うことがある。

 この子たちには俺とよく似たところ、そうでないところがある。

 

「やあバイザー。上から君を処理するように言われてね。心苦しいことではあるが始末させてもらう」

 

 まず俺と彼女らの大きく異なるところだが、それは簡単に言ってしまうと『運』があったか否か、それに尽きる。

 俺も彼女もやっていることはそう変わらない。

 殺しを楽しんで飽きたら捨てる。

 ただ一点、違うところは建前があるかないかに過ぎないんだ。

 

 あぁ、可哀想な子供たち。

 俺のような老害の罪が許され、彼女たちは罰せられるのが俺には哀しい。

 同じ人を殺すことに溺れる者同士、いったいどうしてこうも差がついてしまったのだろうか。

 

 まあ現状をいくら嘆いたところで今は変わらない。

 それに、だ。

 ぐだぐだと寒いことをあれだけ言っておいて、結局俺はその同族を殺したくて仕方がない。

 久しぶりに俺が自由にしてもいい肉なのだ。

 壊れないようにゆっくり楽しまなくてはいけない。

 なんせこれが過ぎたら、次はいつ肉が廻ってくるか分からないのだから。

 

 今回の小鳥ちゃんを見てみると、なんともまあ奇妙な形に変容していた。

 上半身は人間とそう変わらない女性の身体。

 しかし下半身は可愛らしい獣の姿だったのだ。

 両の手に何やら玩具を持って、此方のことを威嚇している。

 まったく、仔犬のようで微笑ましい。

 

「哀れな同胞よ。哀しいことではあるが我が王レヴィアタンの命により君を殺す。どうか恨んでほしい」

 

「こザカしぃぃぃぃ!キサマの小ギ麗ナギんの髪モロトモ、ゼ、ゼンシン残ラず喰らイつくシテやるわぁぁぁ!」

 

 本当に可哀想な子供だ。

 彼女にとって、これはおそらく『勝負』なのだろう。

 自分というはぐれ悪魔を倒しに来た俺と、それを退けようとする彼女自身の。

 しかし哀しいかな。

 これは勝負ではない。

 まして命の駆け引きなんてものは存在すらしていない。

 ただ、これは俺が快楽を得るための行為でしかないのだ。

 

「すまない」

 

 俺がこの子のために出来ることなんていうのは、せいぜいが痛みを感じないように殺してやることぐらいだった。

 握りしめた彼女の心臓から溢れ出る鮮血を浴びて、ひとつ思いだすことがあった。

 そういえば、俺とこの子たちには大きく異なる点があったな、と。

 簡単なことだ。

 俺が『殺し』に求める快楽は肉の感触、血液の暖かさなどの物理的なものであるのに対し、彼女たちが求めたのは恐怖や絶望といった感情的なものだった。

 あの子らの意見を否定するわけではない。

 同じ『殺し』を愛するものとして多様性っても構わないと思うし、そもそも俺のような者は少数派だろう。

 俺は別に彼女たちと違ってサディストではないんだ。

 考えてもみてほしい。

 たとえば外で食事をとる時に店内で音楽が流れていたとする。

 それは料理の味と直接関係があるだろうか。

 いやない。

 もちろん流れる音楽によって気分が大なり小なり変化するとは思う。

 しかし根本的な部分である、『料理の味』が変わることはない。

 殺した人物の感情や背景なんていうものは、俺にとってはその程度の認識でしかないのだ。

 もちろん外見も気にしない。

 だってどうせ中身は同じなんだから。

 

 あぁ言葉もなく散っていったはぐれ悪魔バイザー。

 君のことはよく知らないが、確かに君の血は暖かかった。

 彼女の心臓を握りしめた手から、命そのものが伝わってくる。

 生暖かい肉の壁に腕を埋めて感じることのできるソレこそ、俺が『殺し』に求めていたものだ。

 

 もう少しこの熱を堪能したら、後処理をして帰ろう。

 そう思って彼女の胸に手を刺していたその時、突如として俺の死体は奪い去られた。

 

 

 

 

 

 

 どうも、最近転生悪魔になった兵藤一誠です。

 俺は今、悪魔としての戦いを経験した方がいいとの理由で、部長に連れられてよくわからない場所までやってきました。

 なんでもはぐれ悪魔ってのを討伐するついでだとかなんとか。

 因みにはぐれ悪魔ってのは爵位を持った悪魔の下僕となった者が、主を裏切り、または殺して主なしになったもののことを指すらしい。

 人間の頃とは比べ物にならない悪魔の力。

 その強大さに憑りつかれた者たちが、それを自分の欲望のままに使おうとするらしい。

 で、その邪魔になる主から離れて各地に飛び、そこで悪事を働く。

 それが『はぐれ悪魔』。

 ようは野良犬のようなものらしい。

 野良犬は害を出す。だから見つけしだい主人や、他の悪魔が消滅させる。それが悪魔のルール。

 制約から放たれ、その強大な力を自由に振るうことが出来るようになってしまったものほど恐ろしいものはないんだって。

 オカルト研究部のみんなと来たここにも、そのはぐれ悪魔ってのがいるらしい。

 なんでも、毎晩ここに人間をおびき寄せて食らっているんだと、そう言われた。

 本来なら部長たちがそれを討伐するはずだったんだけど、どうもイレギュラーが起こったみたいで、今回はどうやら様子を見に来ただけらしい。

 「リアス・グレモリーの活動領域内に逃げ込んだはぐれ悪魔を始末してほしい」と、最初はそう依頼が来ていた。

 こういうのも悪魔の仕事だって。

 でも今回はなんかがあって、他の人がやってくれるみたいだ。

 直ぐにもう一度連絡が入ってそう言われた。

 部長はこんなことは初めてだって。だから様子見もかねて一応ここに足を運んだらしい。

 

 そんで今はこうして、はぐれ悪魔がいるという廃屋の近くに身を隠しているところです。

 正直しんどい。

 

「イッセー、本当は戦いが始まってからにしようと思っていたのだけれど、もう少し時間がかかるみたいだから今のうちに下僕の特性について説明しておくことにするわ」

 

「下僕の特性?説明?」

 

 怪訝な俺に部長は続ける。

 

「主となる悪魔は、下僕とする存在に特性を与えるの。.....そうね、悪魔の歴史も少しは知っていた方がいいでしょう。簡単に話すから、頭の片隅にでも入れておきなさい」

 

 部長が教えてくれたのは悪魔の現況の話だった。

 

「いい。大昔、私たち悪魔は天使、堕天使と三つ巴の戦争をしていたわ。みんながみんな大軍勢を率いて、永劫とも思えるほどの間を争いあったの」

 

 まるで人間の歴史を聞いてるみたいだ。

 部長の言葉を木場が拾って続ける。

 

「もう意地になっていたんだろうね。誰も止められなかった、いや止めなかった。その結果、残ったのは疲弊しきった僅かな者たちだけだった。みんな戦争で死んでしまったから」

 

 今度は朱乃さんが口を開く。

 

「純粋な悪魔もうほとんどいなくなってしまった。ですが堕天使、天使とのいざこざが解決したわけではない。被害は互いにありますが、それでもスキを見せればこちらが危うくなるのも事実ですわ」

 

 そして再び部長が語る。

 

「そして悪魔は少数精鋭の部隊をつくることにしたの。ようはあれね。雇える社員が減ったから、募集する人を増やしたの。でも一般人じゃ使えないからこっちから道具を提供する。それが『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』よ」

 

「いーびるぴーす?」

 

 な、なるほど。

 かなりきついけど、何とか話についていけてるぞ。

 

「人間界の『チェス』になぞらえて私たち主人を『(キング)』として、その下に『女王(クイーン)』、『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』、『兵士(ポーン)』の五つの特性を分け与えるためのものよ。この制度ができたのはここ数百年のことなのだけれど、これが意外にも爵位持ちの悪魔に好評でね」

 

「好評?チェスのルールがですか?」

 

「みんな自分の駒が強いって自慢したくてね。下僕たちを駒に見立てて実際にゲームをするようになったの。駒が生きて動く大掛かりなチェス。私たちは『レーティング・ゲーム』と呼んでいるわ」

 

「それが流行ったんですか?」

 

「えぇ流行ったわ。それはもう、悪魔の地位、爵位に影響するほどには。『駒集め』と称して優秀な人材を自分の手駒にするのも流行っているわ。優秀な下僕はステータスになるから」

 

 なるほど。

 そのゲームが強いと悪魔としても立派なわけだ。そりゃあ自慢のもとにもなる。

 .....でも悪魔のゲームの駒として機能してしまう下僕悪魔の人間か。

 複雑だな。俺もいずれそのゲームに駆り出されるんだろうか?

 

「とは言っても私はまだ成熟した悪魔じゃないから公式のゲームには参加できないわ。まあしばらくはイッセーや私の下僕たちがゲームをすることはないわね」

 

「へぇ。じゃあ木場たちもまだゲームに出たことはないのか?」

 

「そうだよ」

 

 俺の質問に木場が頷いた。

 なんていうか、俺の予想してた悪魔の世界とはいろいろと違った。もっとなんかこう、ドス黒くて怖いものをイメージしてたぜ。

 まあ、俺が悪魔のことを知らなすぎるだけなんだろうけど。

 

 それよりも気になることがある。

 俺の駒の役割についてだ。

 

「部長、俺の駒の役割ってなんですか?」

「そうね.....イッセーは」

 

 そこで言葉が止まった。

 少し離れたところにいた小猫ちゃんから合図があったからだ。

 どうやらやっと現れたらしい。

 

「.....部長.....来ました.....」

 

 緊張が走る。

 もし、はぐれ悪魔が自分を退治にきた相手を殺してしまったら。

 そんなことを考えると足が震えた。立っているだけで精一杯だ。仲間がいてくれなきゃあもうとっくに逃げてる。

 

「みんないいわね。こちらのことを気付かせてはダメ。隠れながら後を追うわよ」

 

「「「はい!」」」

 

 俺もみんなの後を追って廃屋内部へと入る。

 今にも壊れてしまいそうなそれは、俺の恐怖を煽っているようだ。

 マジに怖い。

 近くに仲間がいてくれてる今でもこれだ。

 俺が戦うことができる日は、果たして訪れるんだろうか。

 

 

「..........」

 

 不意に部長が足を止めた。

 無言で建物の中心部辺りを凝視している。

 周りのみんなもだ。

 

「ぶちょッ!?」

 

 声を掛けようとすると、木場に口を塞がれた。

 なにをするのかと思い目で訴えかけてみると、人差し指を口元に当てている。

 どうやら声が大きかったらしい。

 

「イッセー、あそこよ」

 

「え、あそこってどこですか.....ッ!」

 

 部長が指差した方に目を向けると、そこには一人の男が立っていた。

 リアス部長と同じかそれ以上に長い銀の髪が、薄暗いこの場所で淡く光っている。

 蛇を思わせる男の目は熱を感じさせず、まるで体温がないかのようだ。

 そこにいる男はとても幻想的で、同性の俺から見ても魅入られるほどの容姿をしていた。

 

 でも、おかしいんだ。

 さっきから寒気が止まらない。

 確かに俺はビビってた。はぐれ悪魔に対して、だ。でも今は違う。

 もっと根本的なところで、俺は恐怖している。

 まるで蛇に睨まれた蛙みたいだ。

 

「哀れな同胞よ。哀しいことではあるが我が王レヴィアタンの命により君を殺す。どうか恨んでほしい」

 

 男が暗がりに向かってそう言った。

 きっと俺の見えていないところにはぐれ悪魔がいるんだろう。

 でも違う。

 俺は、さっきからあの男の人を怖いと思ってるんだ。

 なにもされちゃいない。彼はただはぐれ悪魔を退治にきただけのはずだ。それなのに.....。

 それなのに、声を聞いただけで全身の震えが止まらない。

 背中に氷水をかけられたかのように全身に悪寒が走る。

 俺の首に巻き疲れているような、死が近づいているような、そんな感覚に陥る。

 

「イッセー!しっかりしなさい!」

 

 部長が俺の体を強く揺さぶってくれて、はじめて俺は自分が息をしていないことに気づいた。

 慌てて空気を吸い込む。

 

「.....す、すみません」

 

「気にする必要はないわ。あの方は魔王レヴィアタンさまの女王なのだから恐怖を覚えるのも無理ないわよ」

 

 ま、魔王さまの女王.....。

 魔王さまの側近ってのは、こうも格が違うもんなのか。

 

「部長はあの人のことを知ってるんですか?」

 

「一方的にね。大きな式典なんかで顔を見かけたことがあるだけよ。でも変ね。どうしてたかがはぐれ悪魔に彼ほどの大物が出てきたのかしら」

 

 部長はなにかが引っかかっているようだった。

 でも言われてみれば確かにそうだ。

 だって魔王さまってのは悪魔のなかで一番凄い人なんだろう。

 その一つ下の人だ。

 当然凄い人に決まってる。

 それが、いくら危険だとはいえ一はぐれ悪魔に動くものなんだろうか。

 

「まあここでいくら考えていても仕方ないわね。帰りましょう」

 

 部長の号令で帰ろうとする俺は、一つの違和感に気づいた。

 ん、なんだろう.....何かが足りないような。

 

「部長!小猫ちゃんがいません!」

 

 木場が声を上げた。

 ッそうだ!

 たしかに辺りに小猫ちゃんらしき影がない。

 まさか何かあったんじゃ!!

 

 ズドンッ。

 

 突然、大きなものが落ちたかのような衝撃がこの廃屋全体に響いた。

 

 ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ

 

 続けて、最初よりは少し小さいぐらいの衝撃が何度も俺たちを襲った。

 

「みんな!集まりなさい!!一旦ここを出るわよ!」

 

「でも小猫ちゃんが!」

 

「小猫のことも大事だけど、このままじゃ私たちも危ないわ!だいじょうぶ、小猫はこういったことには強いから一人でもきっと何とかするわ」

 

「さあイッセーくん。早くここを出ましょう」

 

 クソッ。絶対に戻ってきて見つけ出すからな、小猫ちゃん!

 

 俺たちは急いで廃屋を出た。

 

 一体全体どうなってるんだ。

 はぐれ悪魔はあの人が倒したんじゃなかったのかよ。

 

 朱乃さんと部長は何やら相談をしていた。

 

「部長。この件は大公へ報告するべきかと」

 

「.....しばらくは私たちで原因を探しましょう。報告するのはどうしても私の手に負えないと分かった時だけよ」

 

「リアス!あのレヴィアタンさまの女王がいてもこうなったのですよ!もうとっくに私たちの手に負えることではありません!」

 

 なんか、すごく言い合ってるけど大丈夫なんだろうか。

 俺は俺で気になることが多い。

 木場にでも聞いてみるか。

 

「なあ木場、はぐれ悪魔の討伐っていつもこんな感じなのか?」

 

「まさか。毎回これじゃあ命がいくつあっても足りないよ。今回だって、本来ならもっと楽な仕事だったはずだ」

 

 やっぱりそうなのか。

 .....でも、それならどうして今回はイレギュラーが起きたんだろう。

 

「でも小猫ちゃんのことなら心配しなくてもいいと思うよ。彼女、とっても堅いからさ」

 

「おいおい木場!いくら小猫ちゃんが幼女体型だからってそんな言い方ないだろ!」

 

「違うよ.....。ほら、さっき部長が言ってただろ。駒の特性さ」

 

 木場は小猫ちゃんの持っている駒の特性について説明してくれた。

 

「小猫ちゃんに与えられた駒は『戦車(ルーク)』。その特性は大きな力と優れた防御力だ。ちょっとやそっとの攻撃じゃあ彼女にかすり傷も負わせることはできない」

 

「へぇ~小猫ちゃんってすごいんだな。木場はどうなんだ?何の駒の役割を持ってるんだ?」

 

「僕は『騎士(ナイト)さ。特性はスピード。騎士の駒を与えられた者は速度が増すんだ」

 

 いろいろとあるんだな。

 木場はついでと言わんばかりに、他の駒についても教えてくれた。

 

「ちなみに副部長でもある朱乃さんが『女王(クイーン)』だよ。彼女は王の次に強くてね。『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』、『兵士(ポーン)』のすべての力を持っているんだ」

 

 なるほど。

 じゃあ俺は残りの『僧侶(ビショップ)』か『兵士(ポーン)』のどっちかってわけだ。

 俺はいったいどっち.....。

 

「あ!言ってたら小猫ちゃんが戻ってきたみたいだよ」

 

「ホントだ!無事でよかった」

 

 小猫ちゃんが廃屋から出てきた。

 すこし汚れているくらいで、目立った傷は見られなかった。

 やっぱり戦車の特性のおかげなんだろうか。

 

 出てきた小猫ちゃんのそばに部長が駆け寄る。

 

「小猫あなたいった何をしてたの!みんな心配したのよ!」

 

「.....すみません部長。処理しなければいけないはぐれ悪魔(ゴミ)を見つけて.....」

 

「もう.....今回は何もなかったから良かったけど、次からはちゃんと声をかけなさい。でもはぐれ悪魔を見つけて倒したのはお手柄だったわね」

 

 そのやり取りを見て安心した。

 小猫ちゃんは無事ではぐれ悪魔の討伐も終了。なんだ。大団円で終われてよかった。

 

「はい。原型が残らないくらいに潰したので、間違いなく死んだと思います」

 

「じゃあさっきの音はあなたのだったのね。よかった、これで謎も解けたわ。みんなにも大事はないし、今度こそ帰りましょうか」

 

「「「了解!」」」

 

 

 何かが引っかかる。

 

 本当に、小猫ちゃんははぐれ悪魔を見つけたんだろうか。

 魔王さまの一番の駒を持ったあの人が見つけられないものを、果たして小猫ちゃんが見つけられるものなんだろうか。

 

 本当は違うんじゃないか。

 小猫ちゃんは何か違うものを見たんじゃないだろうか。

 なにかもっと別の.....。

 

 いやよそう。

 仲間を疑うなんて良くない。

 きっと俺の勘違いだ。そうに決まってる。

 そもそも、小猫ちゃんが噓をつく理由がないじゃないか。

 

 

 



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動き始める意志たち

 感じたのは喜びだった。

 しばらく見ていなかったギンの顔は、私の理性をかき消すのには充分すぎるほどだった。

 彼に出会えたという事実が私のすべてを支配し、それ以外のことは些事に思えた。部長からの命令も、オカルト研究部の仲間たちのことも、果てはギン自らの頼みですら、私の中から消えていた。

 全身の血が沸騰するような快感だ。

 彼との、一方的ではあるが確かな接触は私に多大な興奮と快感をよぶ。

 彼の胸元に飛び込みたい。

 そんな感情が私の頭を支配する。

 彼はきっと私を暖かく迎え入れて思い切り甘やかしてくれるだろう。

 あぁしかし。

 私の中に僅かに残った理性が、ソレを否定する。

 ソレをしてはいけない。彼はソレを望んでいない。今は耐えなければ。

 すんでのところで何とかとどまった私は無理やりギンを視界から外すと、なんとか部長へ報告に行った。

 

「.....部長.....来ました.....」

 

 私の一言でオカルト研究部のみんなの表情が硬くなった。

 そうだ、それでいい。

 私以外にギンの魅力を知るものは必要ない。

 

 それに.....この人たちはきっと耐えられないだろうから。

 仮とはいえ私の仲間だった人たちだ。

 私とは違って普通の生活をして、普通の恋愛をしていける。

 これまでのことを洗い流して、希望という光に向かって進んでいける、この人たちはそんな人種だ。

 辛いとわかっていて、無理をしてまでその先を歩く必要はない。

 この人たちは選べるのだから。

 一人の仲間として、この人たちに幸せな生き方をしてほしいと思う。

 いくら私でも、それぐらいのことを願うことはできる。

 

 まあギンにさえ関わらなければ、の話だけど。

 

 と、こんなことを考えているうちにオカルト研究部の面々は廃屋の中に入っていった。

 私も追わなければならないと思うと、些か気分が落ち込んでしまう。

 だってそうでしょう。

 好きな人が目の前にいるのに、一声掛けることすらせずに隠れて見ていろなんて言うんだから。

 本当に、ままならない。

 

 

 

 

 

 

 赤龍帝が怯えていた。

 ギンの好奇に当てられて、恐怖していた。

 仕方のないことです。

 赤龍帝はつい先日までは人間だったし、それにギンは赤い竜とすこしばかり遊んだことがあったようですから。

 それにしても、兵藤先輩の感じている恐怖は彼自身のものなのか赤龍帝ゆえのものなのか、はたまた両方なのかもしれませんが。

 まあ兵藤先輩にはかわいそうではありますが、運が悪かったと諦めてもらうことにしましょう。

 

 .....ギンがまた、あの笑顔を向けてる。

 彼がまた、私以外に笑顔を見せている。

 私が一度も得られたことのないその顔を、私以外の誰かが知っている。

 ギンのことを知っているのは私だけ。

 ギンのことを理解しているのは私だけ。

 ギンに触れるのも、ギンに触れられるのも、私だけで充分だ。

 ギンの冷たさを感じるのも、私だけのものだ。

 

 私のものに触れるものに生きる価値はない。

 

 嫉妬はそのまま怒りに転じた。

 彼を汚すはぐれ悪魔(ゴミ)を素早く引きはがし、拳を振りぬく。

 あぁ。

 この世に彼を汚すものは必要ない。

 消えて、消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて。

 カケラも残らなくなるまで。

 その存在を抹消する。

 二度と私のギンに近づくことのないように。

 

 だってあなたが悪いんですよ。

 私のギンの視界に入ったりするから。

 彼をすこしでも愉しませることができたから。

 

 その感情は、すべて私に向けられなければいけないのに。

 

 人のモノを取ったらどうなっているのかぐらい、解っているでしょう。

 お仕置きです。

 死んで、死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで。

 それで許すかどうかは私の気分次第ですけど。

 

「シロ、やめなさい」

 

 肩に手が置かれた。

 ギンの、大きな手だ。

 

「彼女はもう死んでいるし、俺の興味はもう彼女にはない。そんなことより、久しぶりに会った君と話がしたいんだ。シロもそう思ってくれるだろう?」

 

「.....はい///」

 

 ギンが私と話がしたいと言ってくれた。

 それだけでさっきまでの不快感は消え、彼への愛だけが残った。

 

「ほら、おいで」

 

 気が付いた時には、私は彼の胸に飛び込んでいた。

 

「ふにゃぁ~」

 

「シロは可愛い娘だね」

 

「にゃぁ///」

 

 ギンに頭を撫でられて、どうしても顔がにやけてしまう。

 甘く甘くて、脳がとろけてしまいそう。

 好きな人と触れ合える。

 今日はなんて素晴らしい日だろう。

 いろいろとありはしたが、そのおかげで私はこうしてギンの腕の中に納まれていると考えると。

 まあ、悪くなかったと思えてしまう。

 

「にゃぁ.....にゃぁ~♡」

 

 身体をこすりつけて私の匂いをつける。

 この人は私のものなんだと、主張するように。

 他の臭いは私の匂いで上書きする。

 私は彼だけのもの、彼は私だけのもの。

 

「シロ、君は今いるオカルト研究部は好きか?」

 

「嫌いではないです」

 

 質問の意味が分からない。

 オカルト研究部?

 そんなものの話をなぜするのだろうか。

 

「もしもだ。もしもシロが今の生活がいいと言うのなら、君は.....」

 

「そんなことは決してないです!私の居場所は貴方の隣、それ以外のことに興味はありません!!」

 

「そうか.....嬉しいよ」

 

 ギンは、そう言ってもう一度私の頭を撫でた。

 それにしても、私があんな場所に愛着が沸いたと思われているのであれば、少し悲しい。

 私が在るべきはギンの隣であり、それ以外のことは些事であると。

 そう知っているはずなのにそんなことを聞いてくるところが、少し悲しい。

 

 きっと彼は私に普通の幸せを望んでほしいのだろう。

 私にリアス・グレモリーの監視を頼んだときも、おそらく私を他の人たちと触れ合わせたかったからだと思います。

 普通に友達をつくって普通に学校に通って。

 きっと、ギンはそんな生活を私に望んでほしかったんだ。

 でも。

 そうはならなかった。

 私は既にギンがなくては生きていけないのだから。

 

「シロがそう言うならそうなんだろう。あと少しだ。あと少したてば君はリアス・グレモリーの眷属をやめられるようになる」

 

「!本当ですか!?」

 

「勿論だ。だからもう少し頑張ってほしい。サーゼクスとの契約もあと僅かだ」

 

「.....わかりました。ギンがそう言うなら、私はどれだけでも待ちます」

 

「ありがとう。.....行きなさい。リアス嬢が待っているよ」

 

「それではまた」

 

 名残惜しくはある。

 でも、ギンがあと少しと言っていたから。

 私はそれだけで頑張ることができる。

 彼との生活がもうすぐそこまで迫っている。

 その事実があれば、私はどんな相手でも戦える、そんな気がするのだ。

 

「.....すみません部長。今戻りました」

 

 ひとまずは、私を心配しているであろう部長のお説教を聞くところから始めましょうか。

 

 

 

 

 

 

「兄上お願いします!!私は何があっても彼女を、アーシア・アルジェントを救けねばならないのです!!」

 

「ディオドラ。お前はアスタロトを継ぐ者だ。いつまでも一人の人間に執着するな」

 

「しかしッ!!」

 

「二言はない。お前は優秀な悪魔だ。これ以上言わずとも、自分のすべきことは解っているはずだ」

 

「ですが兄上!!」

 

「.....諦めろ。お前はこれから悪魔の世界を背負っていく者の一人なんだ。自分の意思を曲げてでも、優先させなければいけない事もある」

 

「.....わかりました兄上」

 

「ハァ。やっとわかってくれたか。それなら」

 

「私は一人でも、アーシアを探します」

 

「.....なんだと」

 

「兄上、私は救われたのです。悪魔であるこの身を、アーシア・アルジェントに救われた」

 

「だからそういう問題ではないと.....ッ!?」

 

「どれだけの勇気があったのでしょう。聖女である彼女が、悪魔である私を癒すというのは。彼女自身に利することは何一つないあの状況で私の傷を癒すということは、彼女にとってどれだけの意志が必要だったでしょうかッ!!」

 

 俺は今、こいつの魔力に気圧されている、のか?

 いつまでも弟に変わりないのだと、そう思い続けていたあのディオドラの魔力に!?

 

「.....私は行きます。いいえ行かなければならない。行って、そして彼女に貰った命を返さなければ」

 

 吹き荒れる魔力が物語っていた。

 自分は止まらぬのだと。何があっても人間を助けに行くのだと。

 そう、言っていた。

 

「彼女に救われた命を、彼女に返さなければ。そうでないと、私は前に進めないッ!!悪魔の未来もッ!!兄上たちの願いもッ!!胸を張って進むことは出来ない!!」

 

 あぁ。

 俺は見くびっていたんだ。

 いつまでも俺の後ろを付いてくる小さな弟でしかないと。

 ディオドラの成長を、俺は見くびっていたんだ。

 

「私は納得することでしか前へ進めない。彼女に恩を返して初めて、私は自分自身に納得して前に進めるのですッ!!納得は、全てに優先するのだッ!!」

 

 弟への認識を改めなければな。

 ディオドラは。俺の弟は、俺が胸を張って誇れる立派なやつだと。

 

「.....たしか、人間界の情報はセラフォルーが持っていたはずだ。俺の名前を出せば、いくらかは教えてくれるだろう」

 

「兄上!?」

 

 弟があそこまで言ってのけたのだ。

 それを聞いて応援しないなんて者は、兄ではない。

 

「行って来い。なに心配するな、知恵を絞るのは俺の仕事だ。どうにか良い言い訳を考えておくさ」

 

「ッありがとう、ございます!」

 

 飛び込んでくるのも突然なら、飛び出していくのも突然か。

 

 .....大丈夫、お前ならできるさ。

 なんせお前はこの俺の、魔王アジュカ・ベルゼブブの弟なのだから。

 

 

 

 

 

 

「それで、俺にその聖女を探せと」

 

 今日は溜まっていた鬱憤もある程度発散できたし、シロにも会えたしで良い一日になるはずだった。

 だったんだが。

 

「お願いだよぉ~。だってあのアジュカだよ!いつも冷静沈着な彼に頭まで下げられたんだよ!?こっちも何とかしてあげたくなるじゃん」

 

「.....あのアジュカが?」

 

「そう!そうなんだよ!!なんでも弟のためにどうしても力になってやりたいとか言ってきたから、最初は風邪でも引いてるのかと思ったよ☆」

 

 確かにセラが病気を疑うのも無理はない。

 俺たちの知っているアジュカ・ベルゼブブという奴は普段ならそう感情で動いたりしないのだから。

 

「でもね、本気だったよ。本気で弟くんのために頑張ろうとしてた。だから.....」

 

「良いだろう。その聖女とやらを探してやる」

 

 あのアジュカがそこまでするんだ。

 少しぐらい力になってやろうと思うセラの気持ちもわかる。

 

「えっ!?本当にやってくれるの!ありがとう☆」

 

「まあフェニックスの件までの暇つぶしだ。それに、アジュカには俺も世話になったからな」

 

 人のことを想えるのは良いことだ。

 そして、そのために一生懸命になれることも。

 

 俺には.....俺たちにはそんな綺麗なことはできないから。

 それを応援してやりたいと思う。

 

「情報が入り次第連絡する」

 

「あっ!ちょっと待って。連絡するなら私じゃなくて本人にしてあげて」

 

「本人?アジュカにということか?」

 

「ううん。アジュカの弟くんに」

 

 なるほど。

 確かにセラの話が本当なら、直接伝えるぐらいできなければ危ういだろう。

 

「分かったよ。伝えておく」

 

「ありがとう☆さすがは私の女王ね☆」

 

「じゃあな」

 

「それじゃ、またね~☆」

 

 意志を持った者は強い。

 また、それを貫いた者はより強い。

 

 俺はそうはなれないが、そうである者に敬意を表する。

 

 さあ勇者よ、姫を救い出すことができるかな。

 

 

 

 

 

 

 最近の俺はどこかおかしい。

 自分でもよくわからないんだが、どうにも調子が悪いというか。

 なんでもないはずなのに震えるんだ。

 一人で歩いているとき、物音がしたとき。

 他にも色々とあるんだけど、俺はなにかにビビってるんだ。

 

『死んでくれないかな』

 

 夜道を歩くと思い出す。

 俺が死んだあのときのことを。

 あのときの.....夕麻ちゃんのことを。

 彼女の俺を見る目は、まるで虫かなにかを見ているような、そんな目だった。

 

 .....ッ!

 

 俺、一体どうしちまったんだよ。

 こんな、悪い方にばっかり考えて、落ち込んで。

 

 部長が求めてる『俺』は、こんな俺じゃないだろう!

 もっと強くて、甲斐性があって、なんでもできる.....。

 俺は生かされたんだ。

 俺は、俺は.....。

 

「あっれれぇ~?なんでこんなトコに悪魔なんかがいやがるんですかねぇ」

 

「お、お前.....誰だよ」

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 きっとこいつも俺を殺しに来たんだ。

 俺を殺しに。

 

「なぁんで名乗る必要があるんでしょうねぇ。だって.....」

 

 白髪の男だった。

 似ても似つかないはずなのに、この前に見た魔王さまの女王が頭にチラつく。

 

 男は俺のすぐ横までやってきて耳打ちするように言った。

 

「これから死ぬやつに何言っても無駄ってぇモンですよぉ」

 

「ヒッ!?」

 

 に、逃げなきゃ。

 逃げなきゃ死んじまう!

 

 俺は男に背を向けて無様にも走り出した。

 

「鬼ごっこですかぁ~?いいじゃあないの俺もだぁい好きでございますよ!」

 

 クソッ。

 なんで振り切れないんだよ。

 いくら弱いっつっても悪魔の身体能力だぞ!

 

 なんで、どうして俺なんだよ。

 俺がなんかしたってのかよ。

 どうして俺が命なんて狙われなくちゃいけないんだよ。

 おかしいだろ!

 どうして、どうして俺が.....。

 

「なぁんにも見えてないんですね悪魔ちゃん。目の前でございますよ!」

 

 ヒュッ。

 

 右腕すれすれを光の刃が通る。

 腰が抜けちまった。

 おかげで今の一撃は避けられたが、もう次はない。

 

 こんな.....こんなカッコ悪い終わり方で。

 

「アンタ、つまんないね。なんかさぁ最初っから生きるのを諦めてるっていうの?マジメにやってない奴の相手って一番つまんないんだよ」

 

 グサッ。

 

 足に激痛が走る。

 

 切られたんだ。さっきの剣で。

 

「グッ.....がぁぁぁぁぁぁ!!??!?」

 

 痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 痛い。

 もう動けない。

 無理だ。

 やっぱり俺なんかが悪魔になったってなにも変われやしない。

 

「ホントさぁ.....這いずってでも逃げる気概くらい見せたらどうなん?さすがの俺ちゃんも心苦しくなっちまいますってもんですよ」

 

 怖い。

 痛い。

 もう嫌なんだ。

 

 こんなのになんの意味があるってんだ。

 なんでこんな.....。

 

「まあ?これもお仕事ですから?お前を殺さないっていう選択肢は最初からないんでございますけどね?」

 

「兵藤くん!助けに来たよ!」

 

 いきなり魔法陣が展開され、木場が男に向かって飛び出していった。

 それに続くようにオカ研の面々が現れる。

 

 そこからのことはあまり覚えていない。

 気づいたときにはあの男はいなくなっていて、俺はいつの間にかオカルト研究部の部室にいた。

 

 ただ、怖かった。

 死ぬのが怖かったんだ。

 

「イッセー」

 

 部長に名前を呼ばれた。

 あぁ。なんだろう。

 解雇でもされるんだろうか。

 そうだよな。

 こんな、なんにもできない奴のことなんか、持ってても無駄だもんな。

 

「後で話があるわ。残って待っていなさい」

 

「.....はい」

 

 俺の中にあるのは助かった安堵感でも、助けてくれた仲間への感謝でもない。

 

 俺の心にあるのは『恐怖』だけだった。

 

 

 



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『意志』

 

 部長に残るように言われた。

 それが、俺には生の最後通告のように感じた。

 もういらないと、そう言われた気がしたんだ。

 今こうして部長と対面しているだけでも、俺は怖いと思っちまう。

 

「.....イッセー」

 

 部長の慈悲深い声は、今の俺には痛かった。

 こんななんにもできない奴なんかを気に掛けてくれている。

 それが俺の無力を突き付けられているようで。

 

 自分が.....必要ないと言われているみたいで。

 怖かった。

 あぁそうだ怖いんだ。

 だってそうだろう。

 恋人に殺されたと思ったらいきなり悪魔なんかに転生してて。

 それをなんでもないかのように受け入れられる方がどうかしてる。

 だって、ついこの前までは人間だったんだ!

 何の変哲もない、ただ友達とばか笑いしてるだけの人間だったんだ!

 それをいきなり貴方は私の下僕悪魔になりましたなんて言われて、納得しろなんて方がどうかしてる!

 

 これまでとは何もかもが違うんだ。

 

 太陽を見るだけで体が重くなる。

 朝の登校時間なんてたまったもんじゃない。

 身体能力も変わっちまった。

 変わりきってしまった自分の身体を知って、俺はもう人間じゃないんだと再確認した。

 .....寿命だって違う。

 友達はどんどん死んで、でも俺だけは若いままだ。

 

 悪魔の力が何だって言うんだ。

 俺は.....。

 俺はただ普通に生きていたいだけだったのに。

 なんで、こんなことになっちまったんだよ.....。

 

「なんで.....俺ばっかりこんな.....」

 

 一度言葉にしてしまったソレはもう止まらなかった。

 

「なんでだよ!俺は悪魔になりたいなんて言ってねぇんだよ!!」

 

「俺は.....ただみんなと笑って生きていければそれで良かったんだ!」

 

「それなのに.....それなのになんで勝手に悪魔になんてしたんだよ!」

 

「こんな.....勝手に悪魔にしといて.....」

 

「何が助けただよ!こっちはそんなこと一回も頼んじゃいねぇ!」

 

「ふざけんな!俺は.....俺は.....ッ!」

 

 自分の不甲斐なさに涙がこぼれる。

 

 わかってるんだ。

 

 部長が俺を善意で助けてくれたんだってことも。

 こんなことを言うべき相手は、部長なんかじゃないってことも。

 

 全部.....ッ全部わかってんだよ!

 

 でも、それでも俺はこうでもしなきゃ!

 

「俺が.....俺がなにしたって言うんだよ.....教えてくれよ」

 

「ただ生きてるだけでダメなのかよ。普通の幸せを望むことすら、俺はやっちゃいけないのかよ」

 

「なあ教えてくれよ!俺は.....俺はどうすりゃあよかったんだよ!?」

 

「教えろよ.....うぅ.....なんで、俺が」

 

 ただ、怖いんだ。

 死ぬことが。

 裏切られることが。

 

 .....自分が、傷つくことが。

 

 怖いんだよ。

 

 それだけなんだ。

 俺はそれだけのことにビビって動けなくなっちまってる。

 こんな.....情けねぇことで。

 

「.....イッセー!!」

 

 暖かい。

 部長に抱きしめられたんだ。

 

 部長は、泣いていた。

 俺の思いを聞いて、泣いていた。

 

「ごめんなさい。こんな言葉で済ませていいことではないのはわかってる。でも.....私には謝り続けることしかできないから」

 

「.....部長?」

 

「貴方の気持ちに気付くことができなくて、貴方の悩みに気付くことができなくて」

 

 俺は.....。

 

「ごめんなさい。貴方を私の勝手な考えで悪魔にしてしまって、これからの人生を奪ってしまって」

 

 俺は.....こんな。

 

「でも、生きてほしかった。私のエゴかもしれない。貴方はそれを望んでいないかもしれない。でも.....生きてほしかった」

 

 そんなこと言われても.....。

 

「.....俺は.....俺はッ!」

 

 怖いんだ。

 これからのことを想像すると。

 また殺されるかもしれないと思うと。

 足がすくんで動かなくなる。

 

「.....俺は怖いんです部長。怖い。また命を狙われるんじゃないかって!また裏切られるんじゃないかって!そう思うと.....俺は!!」

 

 いつの間にか俺は握り拳をつくっていた。

 怖くて震えて。でもそれを必死に隠そうとして。

 

 そんな震えた手に、もう一つの手が重なった。

 小さな、でも暖かくて安心する手だった。

 

「イッセーは私が助けるわ。大丈夫、イッセーのことは私が支える。裕斗もいる。朱乃も、小猫もいるわ。大丈夫よイッセー。オカルト研究部のみんなは貴方の味方よ」

 

 暖かくて、眩しくて。

 

「いつでも私たちが傍にいるわ。私たちが貴方を守る」

 

「.....俺は、部長の期待には応えられません」

 

「そうかもしれないわね」

 

「俺は!戦闘なんてちっともできやしない!」

 

「知ってるわ」

 

「俺はビビりで.....こんなことでいちいち悩んだりして」

 

「それでも、よ」

 

 そんな人たちとなら、そんな人たちのためなら俺は一緒にいられるんじゃないか、俺も頑張れるんじゃないかって、そう思った。

 

「部長」

 

「なにかしら?」

 

 だからあとちょっとだけ。

 ちょっとだけ、頑張ってみよう。

 こんなどうしようもない俺だけど、あとちょっとだけ。

 

「俺は、頭がいいわけじゃありません」

 

「物覚えは悪いし、運動も大してできるわけじゃない」

 

「.....でも、そんな俺でも.....ここにいて、いいですか.....?」

 

 部長は笑っていた。

 笑って、俺を強く抱きしめてくれた。

 

「もちろんよ。だってあなたは、私のかわいい眷属ですもの!」

 

「うぅ.....う、うわぁぁぁぁぁぁぁん」

 

 俺の目から止めどなく流れる涙。

 それはオカルト研究部に俺の居場所を認めてもらえたことを喜ぶ涙だった。

 

 

 

 

 

 

 泣きはらした俺は、どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。

 俺は部室のソファで寝ていたらしい。

 

 ドドドドドドドドド

 

 なんか、走る音が聞こえる気が。

 

 ドドドドドドドドド

 

 ん?

 その音、なんかこっちに向かってないか?

 

 ドドドドドドドドド

 

 いや間違いなくこっち来てる!?

 ヤバいどうしようえっ俺どうすればいいの!?

 

 バンッ!

 

「リアス・グレモリーがいるというのはここで間違いないだろうかッ!」

 

 なんかよくわかんない人が来た。

 えっと、どうしよう。

 って言うか部長はどこにいっちまったんだ?

 

「そこの君!リアス・グレモリーの所在を知っていたら教えてくれないか?」

 

「え?あ、俺ですか?えっと、ちょっと前まではここにいた、と思うんですけど.....」

 

 うわぁ。

 なんか条件反射で答えちまった。

 よかったのかなぁ。

 でもなんか緊急の用事っぽいし。

 めっちゃソワソワしてるし。

 

「あの.....たぶんもう少ししたら部長も帰ってくると思いますし、ここで待っていたらどうですか?」

 

 つい言っちゃったよ!

 部長がいつ戻ってくるかなんて知らないのに言っちまったよ!!

 でも、なんかこの人も必死そうだったし、仕方ないんだそう仕方ない。

 この人なんか全身傷だらけだし.....。

 

「ありがとう。実は私も少し疲れていたんだ。そう言ってもらえて助かった」

 

「いやいやとんでもないです」

 

 なんか会ったばっかだけど、この人はたぶんいい人だ。

 全身から出るオーラというかなんというかが、すっげぇいい人感を醸し出してるっていうか。

 こんな誰とも分からん俺みたいな奴とも普通に話してくれるし。

 

「すまない、自己紹介が遅れてしまった。私はアスタロト家次期当主のディオドラ・アスタロトだ」

 

「あ、えと。俺は兵藤一誠といいます。リアス・グレモリーさまの眷属悪魔です」

 

「そうか兵藤くんというのか。突然押しかけて来て申し訳なかった」

 

「そんな気にしないでください。俺もたまたまここにいただけなんですから」

 

 この人やっぱいい人だったわ。

 だってどっかの家の当主だってのに、まったくそういった態度をとらないんだから。

 

 .....でもどうしてこんなトコに来たんだろうか。

 雰囲気を見るかぎり世間話をしに来たってわけじゃないだろうし。

 

「もし迷惑じゃなかったら、なんで部長を訪ねに来たのか聞いてもいいっすか?」

 

 こんなに必死そうな人がなんでここに来たのか。

 そりゃあ気になるってもんですよ。

 

「あ!もちろん言いにくいことだったら別にいいんですけど.....」

 

 自分の口から出てしまった言葉を取り消すことはできない。

 会ったばかりの奴に、いきなり踏み込んだことを聞かれて怒っていないだろうか。

 そんな気持ちを込めて付け加えてみたはいいものの、どれぐらいの効果があるのかは分からない。軽い世間話程度に聞き流してくれればいいんだけど。

 

「気を使ってくれてありがとう。.....でもそうだな、もし兵藤くんが良ければ聞いてくれるかい?」

 

「こんな俺でよければ.....」

 

 彼の口から語られたのは、一人の聖女に助けられた悪魔の話だった。

 

 彼は、ディオドラ・アスタロトは人間と友好関係を築きたかったらしい。

 いろんな人と関わって、悪魔は悪いだけの存在なんかじゃないと伝えたかったんだってさ。

 

 もちろん成功ばかりだったわけじゃない。

 むしろ失敗が殆どだ。

 自分のことを悪魔だと知った瞬間に態度が変わる。

 さっきまでの優しい雰囲気はどこへやら、今すぐ出ていけと言われる始末。

 酷いときには聖水を投げつけられることもあったようだ。

 それに関してはディオドラ自身も理解していた。

 理解してそれでも、悪魔に対する認識から変えていかなくてはならない。今生きる悪魔のために、これから生まれるまだ見ぬ子供たちのために、変えていかなくては。

 他の誰でもない自分こそが変えていくのだと、そう思っていた。

 人間に媚びを売るなんてとんでもないと言われたこともある。

 悪魔の恥晒しだとも。

 しかしディオドラはやめなかった。

 悪魔と人間でもきっと分かり合える日が来ると信じていたから。

 なにより自身の兄たちがソレを信じて必死に戦っているのだから、と。

 その意志の強さが伝わったのか、段々と人間も契約に応じてくれるようになって。少しづつだが、確かに成長しているのを実感できた。

 だからこそ。

 その何度かの成功のせいで慢心した。

 きっと大丈夫。話せばわかってくれる。そんな甘い事を、本気にしてしまったのだ。

 もちろん結果は大失敗。

 契約を取ろうと入っていった家は実はエクソシストの家で、気を抜いていたディオドラは滅多打ちにあった。

 たかがエクソシスト一人だ。迎撃することはたやすかった。

 しかし。

 それでは意味がない。

 暴力に訴えてしまえば、これまでの悪魔と何ら変わりない。

 自分が夢見た世界はそんなものではない。

 ディオドラは必死に対話をしようと試みた。

 しかし帰ってくるのは怒号と共に飛んでくる光の刃。

 彼は失意のもと逃げ帰るしかなかった。

 けして浅くはない傷を受け、歩くのもやっとのディオドラがなんとかたどり着いたのは教会だった。

 敵陣のど真ん中に入り込んでしまった彼は半ば諦めていた。

 叶わぬ夢だったのだと。しかし心地良い夢だったと。

 そんな最期を察して過去に想いを馳せている彼の前に、聖女は現れた。

 聖女はあろうことか、ディオドラを癒したのだ。

 彼女自身が持った力で、自らの意志でディオドラを癒したのだ。

 ディオドラは悪魔だ。

 そんな彼を癒してしまえば、聖女がどんな扱いを受けるかなんてことは想像に難くない。

 当たり前だ。敵を助けているのだから。

 自分から離れるようにと、どこかへ行くようにとディオドラも忠告した。

 彼の望みは悪魔と人間の共存であり、自分のために犠牲になるものの存在など到底許せるはずもないのだから。

 しかし。

 聖女は最後まで首を縦には振らなかった。

 怪我の酷いディオドラを見て「絶対に助ける」と、そんなことを言ってのけたのだ。

 衝撃だった。

 これまでに出会ったどの人間とも違う、強い意志を感じた。

 そして彼女のような人を見たからには、自分も頑張らなくてはと思った。

 

 自分を救った聖女が、そのせいで異端判定を受けたと知ったときには、ディオドラはすでに冥界に帰っていた。

 

「私は聖女に命を救われて、今ここにいるんだ」

 

「それは何と言うか.....すごいっすね」

 

 とてもじゃないが、俺には真似できそうもない。

 ディオドラさんも、話に出てきた聖女もだ。

 自分がどうなるか考えたら足がすくんで動かなくなるだろう。

 

「そして彼女は今、命の危機に瀕している」

 

 ディオドラさんの強い口調で続けた。

 

「私を助けたせいで、命の危機に瀕しているんだ。今度は私が助けなくては」

 

 .....強い人だ。

 俺なんかとは違う、強い意志を持った人だと思う。

 

 きっとそんな彼だからこそ聖女にも助けられたんだろう。

 

「その私を助けた聖女が、この駒王町にいるんだ。私は何があっても聖女を救わなくてはならない。しかし、そんな私個人の我儘で他人の管轄区域で勝手なことをするわけにもいかない」

 

 自分のやることに筋を通すことのできるこの人だったから.....。

 

「だから、こうしてリアス・グレモリーに事前に報告に来たんだ」

 

「な、なるほど.....」

 

 この人、こんな状況なのにすっげぇ律儀だな。

 普通こんなことがあったらもっと慌てたりするだろうに。

 

 でも、ひとつ気になることがあった。

 恩を返すということに、どうしてそこまでこだわるのか。

 たとえここで聖女を見捨てていても、ディオドラさん自体にはなんの不利益もないのに。

 

「どうして、ディオドラさんは聖女さんをそんなに助けようとするんですか?」

 

「それはもちろん私が彼女に助けられたから.....」

 

「違う、俺が言ってるのはそういう事じゃない」

 

 あまりにも踏み込み過ぎで、あまりにも失礼な質問だ。

 でもしないわけにはいかなかった。

 

「なんで命を救われた()()のことで、そこまで必死になれるんだ」

 

 俺はなんて最低なやつなんだろうか。

 ディオドラさんは俺が聞いたから話してくれたってのに、俺はそれに文句をつけようとしてる。

 怒って当然だ。

 

「.....確かに、兵藤くんの言うとおりだ。私は『ただ助けたいから』助けるんじゃない」

 

 彼の目は真っ直ぐこちらを見ていた。

 怒ることもなく、ただ自身の強い意志を瞳に込めて。

 

「私は『納得』したいだけなんだ。自分がしてもらったことを、しっかりと自分は返したのだと。私は彼女が助ける価値のある者だったんだと」

 

「でも.....そんなことしなくたって生きていける」

 

「いや、それは違う。私の時間はこの恩を返すまで止まったままだ。どこにも進んじゃあいない。止まった時間ってのは死んでないだけなんだよ」

 

 彼の言葉はまるで俺に語り掛けてくるかのようだった。

 

 止まったままの時間

 

 それが、俺にはあの夜のことを思いださせた。

 夕麻ちゃんに殺されたあの夜のことを。

 

「私は貰った命を返し、そして『納得』して前に進む」

 

 あぁそうだ。

 俺の時間はあの夜に止まって動いちゃいない。

 俺はまだ、悪魔としてのスタートラインにすら立ってはいないんだ。

 

「アーシアを救って、そして自分に胸を張って生きていくんだ」

 

 俺も.....いつかはスタートラインに立てたらいいな。

 ディオドラさんみたいに、自分のやってることに納得して、オカルト研究部みんなと肩を並べて歩きたい。

 だから今はスタートラインに、『ゼロ』に向かって。

 

 そうだ。俺は今マイナスにいる。

 

 でも、いつかきっとみんなと並べると信じてる。

 

 

 

 あぁ。俺はまだマイナスなんだ。『ゼロ』に向かっていきたい。

 

 

 



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閑話 兵藤一誠

 ここまで読み進めていただいた皆様へ、いつもありがとうございます。
 コメントへの返信は出来ておりませんが内容はしっかりと読ませていただいております。
 感想をくださった方々には、ここで深く感謝させていただきます。

 この度は突然の閑話を挟むこととなりまして、誠に申し訳ありません。
 兵藤一誠という人物についてこの作中での悪魔に転生した経緯などを、走書きではあるのですが書かせていただきました。

 ハイスクールD×Dの主人公である兵藤一誠ですが、皆様は彼にどのような感想を抱くでしょうか。
 私は、彼は等身大の人間なのだと思っています。
 彼の言動やその他様々な行為の全ては、彼自身の『意志の弱さ』なのだと。
 彼は話の内容が進めば進むほど、より短絡的に、自分勝手になっていきます。
 おそらく本人でも理解しているのではないでしょうか。
 自分のやっていることが、おおよそ筋の通っていることではないと、解っているのではないでしょうか。
 わかっているからこそ、彼はそれをより大きい「おっぱい」というもので隠そうとするのです。
 すべては自分の欲望のためだと、そう自分に言い訳することによって自分の行動から目を背ける。
 自分のせいで不幸になっている『誰か』から目を背ける。
 彼の言うハーレムも、おっぱいも、すべては人間性を徐々に失っていく自分を必死につなぎとめようとするためのものです。
 彼が罪悪感から逃れるには、自身に酔うしかなかったのです。
 だって、誰も彼を叱ったりしないのだから。
 彼は自分を否定されません。
 彼のやること全ては『善』であり、彼の反対思想を持つものは『悪』となるのです。
 だから止まることが出来なくなった。
 坂を転がりだしたボールが自らでは止まれないように、彼も止まれなくなってしまったのです。
 だから自分に酔いしれる。
 自分は正しい。自分は正義だ。
 そう思い込むことで、自身の重荷から背を向けるのです。
 これはおかしなことではありません。
 誰にだって重荷から目をそむけたくなることはあります。
 彼はただ、それが大きすぎただけ。

 願わくば、兵藤一誠に真の意味での味方が現れますように。
 曲がることあれど、決して折れることがありませんように。


 

 俺は死んだ。

 初めてのデートをしたあの日の夜、俺は確かに死んだはずだった。

 

 

 

 

 

 

 ある日の、学校から帰ってる時のことだった。

 俺は後ろからいきなり声をかけられたんだ。「駒王学園の兵藤くんですよね」って。

 焦ったよ。

 そりゃあもう大いに焦った。

 いきなり声なんてかけられたらさ、そりゃあビックリもする。

 あんまりに驚きすぎたもんで相手の人も驚いてたみたいだ。

 

 すぐに「悪かった」って謝ったよ。

 相手の人も快く謝罪を受け取ってくれた。

 まだその人の顔を見たわけじゃないから確かなことは言えないけど、俺は「優しい人だな」って思った。

 そんで、俺はいつまで後ろ向いてるままじゃあ悪いと思って振り返ったんだ。

 

 美少女がいた。

 

 長いストレートの黒髪、今にも折れてしまいそうな細い体、少し困ったようなその表情さえも、俺には可愛くみえた。

 一目惚れだった。

 彼女の声を聞いた時から、彼女を一目見た時から、俺の心は彼女に奪われていた。

 こう言ってしまうと大げさに聞こえるかもしれないけど、これは「運命の出会い」なんだと思う。

 

 彼女、あぁ天野夕麻ちゃんと言うらしい。

 まあとにかく彼女は俺にどうも伝えたいことがあってきたようだった。

 初めて出会ったはずの人なのに、俺は気が付けば夕麻ちゃんのことを信頼しきっていた。

 こんなご都合主義はなにかおかしいなんてこと、考えもしなかった。

 俺は、俺に出来る最大限の男らしさってやつを見せつけて、「どうしたの?」なんて聞いた。

 夕麻ちゃんとの時間を少しでも長くありたい。

 と、そう思ったんだ。

 

 まあ結果だけ言うと、俺は天野夕麻ちゃんと付き合うことになった。

 なんでも俺のことを前から知っていていつ声を掛けようかと気をうかがっていたそうだ。

 彼女の告白を受けた俺は二つ返事で了承した。

 むしろこっちから頭を下げてお願いしたいぐらいだ。

 人生の絶頂期はここにあり。

 俺は「天にも昇る」という言葉の意味を初めて実感した。

 

 嬉しかったよ。

 

 初めてできた彼女だ。

 見た目もよくてその上性格も良好。

 俺にはもったいないぐらいの、みんなに自慢したくなるような彼女だ。

 勇気を持って告白してくれた夕麻ちゃんに俺も応えたい。

 何をしてあげられるか必死に考えた。

 あんまり回らない頭だけど、それでも俺なりに頑張って考えたんだ。

 どこに連れて行ったら喜んでくれるんだろう、とか。

 なにを食べたいだろう、なにかほしいものはあるんだろうか。

 俺はこの幸せな時間を、大切にしていきたかったんだ。

 

 話をの話題を出すのは夕麻ちゃん、違う学校なのに一緒に帰りたいからと来てくれるのも夕麻ちゃん。

 俺があたふたしてるところに助け舟を出してくれたのも、夕麻ちゃんだった。

 

 だから今度は俺が、俺が夕麻ちゃんになにかをしてあげたい。

 夕麻ちゃんは俺の彼女なんだ。

 いつまでも貰ってばかりじゃいられない。

 俺も、彼女のために何かをしてやりたいんだ。

 夕麻ちゃんは俺なんかよりも全然なんでもできる。

 きっと俺が何かをしても、それは夕麻ちゃんが自分でもできることなんだろう。

 でも。

 それでも俺は何かをしてあげたかった。

 

 これはただのエゴかもしれない。

 彼氏なのに何もしないなんて格好がつかないから、なんて思いだってもちろんあった。

 別に誰かに頼まれたわけじゃない。

 ただ俺が勝手に、何かしなければ彼氏として相応しくないって思っちまってるだけ。

 こんなのは自分の考えを押し付けてるだけだ。

 

 でも、だからって「何もしない」のは違うと思うんだ。

 もちろん彼氏としてって焦ってるのも事実だ。

 でも違うんだ。

 俺は夕麻ちゃんに笑ってほしい。

 俺なんかを選んでくれてよかったって、そう思ってほしい。

 

 だから俺は大切な彼女を、人生初のデートに誘うことにした。

 

 デートに誘うと言ったが、ほぼ間違いなく夕麻ちゃんはOKしてくれると分かっていた。

 これまでの夕麻ちゃんを見ていて思ったことなんだけど、彼女は俺の誘いに否定的なことを言っていた記憶があったから。

 だから、俺が考えるべきは「デートをどうやって成功させるか」だ。

 

 あぁ、もちろん夕麻ちゃんをデートに誘ったときはOKの返事をもらえた。

 恥ずかしさで何度も噛んでしまったけど、夕麻ちゃんは笑って「ありがとう」って言ってくれたよ。

 

 まあいくら意気込んだところで、俺はしっかりとした恋愛経験なんてもんはない。

 世間一般のカップルがどんなことをするかなんて知らないし、そんなリア充の知り合いもいない。

 結局俺に出来るのはそのへんの雑誌を読み漁って、情報を頭に叩き込むことだけだった。

 いやぁ、俺には全く関係ない世界の話だと思ってたからな。

 なんか自分でも似合わない自覚はあるんで、ちょっと恥ずかしかったけど。

 でもこれで夕麻ちゃんが喜んでくれるって思えば俺はいくらでも頑張れる。

 緊張と期待の間で、どんどん時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 待ち合わせ場所に早く到着して待つ。

 か、彼氏だからな。

 これぐらいは当たり前ってもんだ。

 .....でもただ待つだけっていうのも、なかなか勇気がいるな。

 つい不安になっちまう。

 もし来てくれなかったらとか。

 逆に、来たら何を話せばいいのかとか。

 とにかく不安だ。

 やべぇ。なんか怖くなってきちまった。

 俺、ホントに夕麻ちゃんに喜んでもらえるようなことできるだろうか。

 もしかしたらなんかあって喧嘩とかするんじゃねぇか!?

 そんでそのまま喧嘩別れになって、もう全く話もできなくなっちまうんじゃ!?

 あぁ。

 考えれば考えるほど不安になって来た。

 身だしなみは大丈夫だよな。

 変なところはないか。

 臭いとかは?

 ホントに大丈夫か。

 なんかおかしいところがあるんじゃないか。

 あぁ不安だ。

 もしものことを考えると.....。

 

「.....あの.....どうぞ.....」

 

「んあ?あぁ」

 

 おいおい。

 なんか変なチラシもらっちまったぞ。

 こんな状態じゃなかったら間違いなく断ってたぞ、おい。

 っていうかさっきのチラシ配りの娘、なんかどっかで見たことある気がしたんだけど.....。

 誰だったかな、まあ誰でもいいか。

 でも丁度いいっちゃいいかな。

 この変なチラシでも見てとりあえず気を紛らわせよう。

 

 『あなたの願い 叶えます』

 

 ん~なんだこれ。

 いわゆるオカルト系ってやつか。

 なんか魔法陣っぽいもんも書いてあるし。

 こういうの、ホントにあるんだな。

 俺ってこういうの信じてるのなんてただの言わされたサクラだけだと思ってたぜ。

 いや、あのチラシ配ってた娘も実はサクラなのかな?

 なんかこう、入会者一人あたりいくらかもらえるみたいな。

 でもどうやって稼ぐんだろう。

 やっぱり王道だけど壺みたいなのでも売るんだろうか。

 最初は無料、徐々に金額を上げてって、気が付いたらもうやめられないとこまできてるみたいな。

 .....なんか葉っぱみたいだな。

 

 にしても。

 こんなのに引っかかる奴なんているんだろうか。

 まあ、いるからこうして広告なんて配る金があるんだろうけど。

 でもやっぱりすげえよな、そういうのを考える人って。

 だって普通はこんなことうまくいくなんて思わないし、誰も考え付かない。

 それをやろうってんだから、やっぱりそいつは人間としてどうかはともかく、やっぱりすげえ奴なんだとは思う。

 俺がそうなりたいかって聞かれたら、まあ全力で首を横に振るけどな。

 だってやってることはただの詐欺だし。

 でもオカルト系ってそんなに流行るもんなのかねぇ。

 もしかしたら興味本位でって奴らをターゲットにしてるのかもしんないな。

 あぁ怖い怖い。

 そういうのには引っかかりたくないな。

 

「い、イッセーくん!待たせちゃった?」

 

「あ、え、いやぁ。全然待ってないよ全然!!」

 

 夕麻ちゃん!?

 やべぇ声かけてもらうまで気付かなかった。

 いやでも良しとしよう。

 なんか緊張もマシになって来た気がするし!

 

「それじゃあ、行こうか」

 

 俺なりに精一杯格好つけて言う。

 恥ずかしさで心臓が破裂しちまいそうだけど、なんとか顔には出さないように。

 って、伝わっちまってるか。

 だって夕麻ちゃんはいつだって俺のことをお見通しだったからな。

 

 

 

 

 

 

 デートは順調に進んだ。

 不安になることも何度かあったけど、なんとかやり過ごせた、と思う。

 夕麻ちゃんも楽しそうにしてくれた。

 とくに一緒に小物を選んだ時なんかはとっても楽しそうな顔をしていた。

 うん、可愛い。

 昼食も食べに行った。

 まあ俺はビンボー学生なんで、高級レストランなんかは無理で普通のファミレスだけどな。

 でも夕麻ちゃんは美味しそうにご飯を食べていた。

 話も弾んだし、どうやら夕麻ちゃんを喜ばせることは成功したみたいだった。

 ずっと心臓がバクバクいってたけど、俺も楽しかった。

 やっぱり好きな人と過ごすってのは良いもんだな。

 あぁ。

 夕麻ちゃんが俺の彼女になってくれてよかった。

 

 日も暮れてそろそろ帰ろうという時間、夕麻ちゃんが公園に寄りたいと言ってきた。

 俺は二つ返事で「かまわない」と答える。

 公園に背を向けてこちらを覗き込む夕麻ちゃんは、朱く照らされた木々も相まってかわいらしさに磨きがかかってみえた。

 

「.....綺麗だ」

 

 つい口から出ていた。

 無意識だった。自然とそう言ってしまっていた。

 

「ふふっ。ありがと」

 

 夕麻ちゃんは小さく微笑んでいた。

 その笑顔は俺が今まで見たどの笑顔よりも綺麗にみえた。

 

「イッセーくん。一つお願いがあるんだけど.....いいかな?」

 

「あ、あぁ!な、なななにかな!?」

 

 やばい。

 緊張で目まいがしてきた。

 心臓もすげえ音で鳴っていやがる。

 つ、伝わってないよな。

 変だって思われてないか?

 大丈夫、大丈夫だ、俺。

 こんな時のために俺はパリピっぽい雑誌を読んだんじゃないか!

 

「ありがとうイッセーくん。あのね.....」

 

「う、うわぁ!?」

 

 夕麻ちゃんがすぐそこまで来ていた。

 もうちょっと近づけば唇と唇がくっつきそうなぐらいに近い距離だ。

 夕麻ちゃんの唇から目が離せない。

 も、もしかして!?

 俺やっちまうのか!?今日!ここで大人の階段を上るのか!?

 

「イッセーくん。死んでくれないかな」

 

 世界が止まったように感じた。

 脳がフリーズして動かない。夕麻ちゃんがなにを言ったのか、俺の頭は理解できなかった。

 

「ゆ、夕麻ちゃん.....今、なんて.....」

 

「だからねイッセーくん。あなたに死んでほしいの」

 

 夕麻ちゃんの人差し指が俺の唇を撫でる。

 さっきまでは綺麗だと思っていた夕麻ちゃんが、なんだか急に怖くなった。

 俺は夢でも見ているんだろうか。

 それともこれはドッキリ?

 夕麻ちゃんなりのお茶目というやつなんだろうか。

 

「あなた、とってもいい子だったわ。ちょっと優しくしたら私のためにこんなことして。えぇ、嬉しかったわよ。ありがとうイッセーくん」

 

 彼女の指が唇から顎へ。

 さらに首を伝うように進んでいく。

 

「でも退屈でもあったわ。ホントにありきたりなのね。まあ最初から期待はしていなかったから、別に気にしてないわ。落ち込まないでね」

 

 喉仏を通り過ぎ、夕麻ちゃんの指先は俺の左胸部、心臓の辺りで止まった。

 

「それから、あんまりにも初々しいから何度か砂糖を吐きそうになったわ。まるで中学生の妄想みたいだった。あなたはどうだった?楽しい夢は見られた?」

 

 何を言っているのかわからなかった。

 俺と、夕麻ちゃんは恋人で、付き合ってて.....!

 夕麻ちゃんだってあんなに笑ってくれて。

 

「さようなら、私の恋人だった人。あなたとの時間は嫌いじゃなかったわよ」

 

 ぐしゃ

 

 あぁ、なんか.....熱い、な。

 熱、い。

 あぁあ熱い、熱い。

 なんだ。

 おかしいな。

 まだそんな季節じゃないのに。

 あ。

 夕麻ちゃんの手だ。

 でもなんで俺の胸に刺さってるんだろう。

 なんで、なん、で.....。

 

 夕麻ちゃんの白い手が、引き抜かれた。

 

「あ、あぁぁ!!?ガ、ァァァァァァァ!?!?!」

 

 痛い。

 イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ

 

 血だ。

 血が出てる。

 赤い。

 血だ。

 血が出てる。

 赤い。

 血が出てる。

 血が.....。

 

「あなた、どうやら神器(セイクリッド・ギア)持ちだったらしいから処理させてもらったわ。恨むなら自分の不運を恨むのね」

 

 なんだ。

 なんなんだ。

 なんなんだよ一体ッ!?

 

 俺は.....。

 俺はただ夕麻ちゃんに喜んでほしくて.....。

 

 夕麻ちゃんの、笑ってる顔が見たかった、だけで.....。

 

 

 それだ、け.....だったの、に。

 

 

 

 な、んで.....。

 

 

 

 

 死に、た.....くな、い

 

 

 

 

 

 

 あぁ。

 死は様々な境界を曖昧にする。

 本来ならまだ繋がるはずのない俺の精神とも、だ。

 竜を宿した者が、なにもこんなところで息絶えることはない。

 心臓がないのなら俺がくれてやる。

 さあ受け入れろ。

 そして前に進むのだ。

 戦え。

 その命尽きるまで。

 命尽きようとも、魂を燃やせ。

 

 あぁ。

 

 この赤龍帝を宿すものとは、そういう定めにあるのだから。

 




 ここまで読み進めてくださってありがとうございました。
 賛否別れるものだとは思いますが、何卒ご容赦下さい。

 前書きでのの言葉は一個人の他愛ない感想だと忘れてくださると幸いです。

 ただ、私は兵藤一誠を『挑戦者』だと思っています。
 この作中でのイッセーは逃げもするし立ち止まりもする。
 しかし最後には自らの意志で前に進む。
 そんな兵藤一誠を表現したいです。

 まだまだ稚拙な文章ではありますが、これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。


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