いろはのショッピングwith杏子 (キノコ胞子)
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いろはのショッピングwith杏子

ガヤガヤと騒がしい人の流れの中を私は歩く

やちよさんは大学の集中講義、フェリシアちゃんと鶴野ちゃんは万々歳、さなちゃんとういは「こねこのゴロゴロ展」 を見に風見野市に....

そんなこんなで今日は一人でショッピングモールへと来たのです

 

「はぁ……」

 

無意識にため息がでる、別に一人で買い物をするのは初めてじゃない、けど、けど寂しく感じてしまう

みかづき荘に住み始めてからお買い物をするときはいつも誰かと一緒に来てた、たぶんそのせい

 

(そういえばトイレットペーパーが切れかけてたよね、後で買わないと、フェリシアちゃんに頼まれたデカゴンボールのお菓子も買わないと怒られちゃう)

 

歩きながら気になるお店を探す、そして同時に目に入る

 

『この度の神浜大震災による被害復興の為の募金のお願い』

 

そう書かれた容器がお店の入り口等においてある

私達は勝った、伝説の最強、最厄の魔女 ワルプルギスの夜に

だけどその代償はあまりにも大きい

 

「はぁ……」

 

本日二度目のため息、しかも一回目より大きいときた

自然と歩みも重くなり、目線も下がる

 

ドン

 

「あっごめんなさい」

 

人とぶつかっちゃた

 

「あぁこっちこそごめんな」

 

何処か聞き覚えのある声、ふと顔をあげると

 

「佐倉さん?」

 

どうやら向こうも気づいたみたいで

 

「あんたは環いろはか、マギウスの説明会いらいだな」

 

「そうですね」

 

そういえば嫌がる佐倉さんを美樹さんが無理やり引っ張って来てたっけ

 

「お一人ですか?」

 

「まぁね、あんたもかい?」

 

「そうなんです」

 

佐倉さん、見滝原の魔法少女。

 

『頼りになるし、実は照れ屋さんでとっても優しい子なんだよ、機会があったら話してみてよ』

 

まどかちゃんはそう言ってたっけ

確かにミザリーウォーターの時もとても頼りになったし実力は折り紙つき

けど、一対一で面と向かって話すのは恐らく初めて

だからか、少し緊張しちゃうな

 

「佐倉さんはなにをしに来たんですか?」

 

「ん?あぁ少し探し物をね、見滝原にも風見野にもないもんでね」

 

「そうなんですか」

 

『機会があったら話してみてよ』

 

機会です、これはまたとないチャンスです

「あ、あの、よかったらお手伝いしましょうか?」

 

「え?」

 

一瞬たじろぐ、けどまた冷静を装う

 

「いや、いいよ、一人で探すさ」

 

「でも」

 

引いたら負けだ、何にかは分からないが多分私に

 

「二人の方がすぐ見つかりますし、ね?」

 

「いや、でも」

 

「嫌,ですか?」

 

ぐいっと佐倉さんとの距離をつめる

 

「あー、わかったよ」

 

ポリポリと頭をかきながらしぶしぶ了承してくれた

 

「じゃ、さっさっと見つけるぜ」

 

「はい!」

 

「あいつみてぇ」

 

「はい?」

 

「なんでもねぇよ」

 

そういって歩きだしちゃった、何か言った気がするけど気にしないことにした

 

服屋さん、雑貨屋さん、スポーツ雑貨店、枕専門店etc.…いろんなお店が並ぶなかをてくてくと二人出歩く

 

「ところで何を探しているんですか?」

 

「あぁ言ってなかったな、紅茶だよ紅茶」

 

「紅茶ですか…紅茶好きなんですか?」

 

「あ~、まぁそんな感じだよ」

そんなことを話していると食欲が沸く匂いが鼻を通り抜ける

 

「おっちょっと寄ろーぜ」

 

そういってたこ焼き屋さんに近づいて

 

「座って待ってな」

 

「あ、はい」

 

流れるように店先にある二人用のテーブルに誘導されてしまいます

その迅速さ、手慣れた感じから食べることが好きということがひしひしと伝わってきて、なんだかやちよさんみたいだなぁ~なんて思ってると

 

「ほらよ」

 

と目の前に8つのたこ焼きが出てきました

 

「半分こな」

 

と八重歯が特徴的な笑顔で微笑みかけてきます

 

「そんなに食べれないですよ、それにお金も払ってないですし…」

 

「いいんだよ!奢りだよ奢り、それに余った分は食ってやるって」

 

「今日バイトの給料日でな、気分がいいんだよ」

 

「じゃあ、頂きます!」

 

カリッとした衣を歯で破ると中からはトロリとした中身が溢れでてくる、タコの食感も歯応えがあって美味しい!

 

熱々のたこ焼きを私が一つ食べている間に佐倉さんの前からは3つ消えていた

 

「妹さんの調子はどうだい?」

 

「うん、元気だよ。まだまだ初めてのことばかりで大変そうだけど」

 

「そうかい、そりゃあよかった」

 

熱ご冷めて丁度いい温度になったたこ焼きを口に放り込む

 

「今日は一緒じゃないんだな」

 

たこ焼きを飲み込んで答える

 

「うん、風見野市にねこねこのゴロゴロ展があるみたいでそれを見に行ったの」

 

「そうか……妹は大切にしろよ…」

 

「?う、うん」

 

そういった佐倉さんの顔は真剣そのもので

そのルビーのような瞳の奥には悲しみが潜んでいるような気さえした

その正体は何なのか、私にはとてもじゃないが聞けない

 

「ごちそうさま。さ、行こうぜ」

「ごちそうさま。ありがとう」

「いいってことよ」

 

気がつけばたこ焼きを4つ全て食べきれていた、美味しかったおかげかもしれない。今度はういとも来てみようかな

 

「あ、ここ!」

 

と私の目についたのは最近オープンしたケーキ屋さんです

 

「ここ、シュークリームがとっても美味しいって有名なんですよ!」

 

「へーそりゃあ食べるしかないな」

 

「えぇ!また食べるんですか?」

 

「あんたは食わないのかい?」

 

「流石にもう…、そうだみかづき荘の皆に買って帰ろう!ういが食べたいって言ってたから」

 

「いいお姉ちゃんしてるじゃん」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

お土産のシュークリームの箱を片手に、佐倉さんはシュークリームを食べながら、お目当てのお店を探します

 

「おっ!あったあった!」

 

「ここですか」

 

佐倉さんが足を止めたのは

 

『神浜紅茶店』

 

と看板が掲げられたお店の前でした

全体的に木が主に使われていて、店内に流れるジャズとあいまってレトロチックな雰囲気を醸し出してます

しかし、その落ち着いた雰囲気とは裏腹にお店の中にはぱっと見ただけでも10人ほどのお客様がいます、どうやら有名なお店みたいです

 

 

「んー」

 

キョロキョロとと店の中の商品を物色する佐倉さんの後ろをついていくと、しばらくたたないうちに

 

「お!これこれ!」

 

とお目当ての商品が見つかったらしく

 

『当店限定!期間限定!イギリス直輸入』

 

と目立つように装飾された棚に並べられた缶の一つを手に取ります

 

後ろからひょっこっと値段を覗くと

 

「わぁ」

 

とあまりのお値段の高さに声がでると、佐倉さんもお値段に気づいたみたいで

 

「なっ!」

 

と動きが固まります、事前にお値段を調べてはなかったみたいです

 

10秒くらいの静止時間の後にショートパンツのポケットからお財布を取り出して中身を覗くと固まってしまいました

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

「!、あぁ…ただ2,3週間の食事がカップラーメンになるだけさ」

 

額が汗ばみ、手のひらをワナワナさせて視線も泳いでいます

明らかに大丈夫ではないです

 

「他のにしてはどうですか?」

 

「いや、これじゃないとダメだ。被っちまうかもしれないからな」

 

「被る?」

 

「なんでもない、こっちの話さ」

 

お家にあるものとか被ってしまうということでしょうか?真意は分かりませんがこれじゃないとダメらしいです

 

「んーーー」

 

と頭を垂れて暫くうな垂れたあと

 

「しかたねぇか…」

 

と言いレジへと向かって行きます

 

 

「ありがとうございました~」

 

店員さんの明るい挨拶を後ろにお店を後にします

 

来るときに軽かった足取りは重く、重かったお財布は軽くなってしまった佐倉さん

 

「見つかってよかったですね!」

 

「よかった!よかった!」

 

だけど無事買えてほっとはしてるみたいで、よかったです

 

それから今度は私のお買い物にも少し付き合ってもらって

まぁそこまで多くなかったのですぐにすんでしまいましたが、その間にも佐倉さんの好きな食べ物、嫌いなものとか色々なお話をしたりして

 

「今度、みかづき荘に遊びに来て下さい!お菓子たくさんごちそうしますよ」

 

と言うと

 

「あんたお菓子つくれるのか?」

 

「はい、まだまだ練習中ですが」

 

「そりやぁ楽しみだ」

 

となかなか好印象です

 

買い物もあらかた終えて、帰り路につこうとショッピングモールから出ます

 

「そういえば佐倉さんはどこから来たんですか?」

 

「風見野だけど?」

 

「なら駅までご一緒します!」

 

「いいのかい?」

 

「えぇ、どうせですし」

 

さぁ、駅までまたおしゃべりができると思ったのですが…

 

「ありがたいけど、ここでお別れさ」

 

「え?」

 

「帰りに少し寄り道しなきゃいけなくてな」

 

「ならご一緒しますよ?」

 

「ダメだ!これだけは私一人でいく!」

 

会った時よりも強くいわれて怖じけ付いてしまいます

 

「わかったな?」

 

「…はい」

 

「そんなしょぼくれんなって!今日は楽しかったぜ、ありがとな!」

 

「こちらこそありがとうございました!是非、みかづき荘に来て下さいね!」

 

「おう!じゃあな!」

 

と紅茶店の袋片手に手のひらを降りながら駅とは反対側へと去って行きます

 

その後ろ姿をみるとなんだか佐倉さんと仲良くなれたような気がして嬉しく感じて

それにお土産もあるし、みんなの喜ぶ顔を想像しながら、軽い足取りで帰路につきます

 

またお話できたらいいな

 

と思うのでした

 

ー ー ー ー ー

 

「まったく、ちったー時と場所を選べないのか?」

 

ショッピングモールのすぐちかく

ショッピングモールへと続く通りに軒を連ねるビルとビルの間の隙間の奥に佐倉杏子はいた

 

「どうしてこんな臭くて暗い場所を選ぶかね」

 

辺りの薄暗さに見合うようにネズミ、ハエ、ゴキブリ等の住民たちが溢れている

 

「ま、そのお陰であいつにゃ探知出来なかったみたいだし、不幸中の幸いってやつかね」

 

そして隙間の突き当たりには幾何学模様が渦巻く穴、魔女の結界があった

 

「こんな所に食い物をおいちゃ上手いもんも不味くなるからな、まぁあたしのも気が進まないが」

 

そんなことをいいながら本日の戦利品が入った紙袋をなるべく綺麗なところにゆっくりと置く

 

「じゃ、いくか!」

 

眩い真紅の閃光が辺りを包んだ

 



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