邪神に挑む者たち (霧島小説チャンネル)
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強襲

このジャンル、他にあるのかな?


~現地時間、午前2時14分~

 

日付が変わり、弱い潮風が吹く中、数隻の500t級護衛艦と3隻の特設巡洋艦に護られながら、1隻の輸送船が悠々と航海を続けていた。

その甲板の上で、1人の男が夜風に当たっていた。

 

「・・・やはり夜の風は気持ちがいいな・・・」

「ここにいたのか。寺田」

寺田「何だ貴様も夜風に当たりに来たか?杉山」

 

この2人は海軍・・・もとい、艦娘たちを指揮し、海路の維持と深海棲艦の撃滅を誓った同期で、南方方面に互いの基地を建設し、多くの作戦を成功に導いて来た闘将だった。

この2人がなぜ輸送船に乗っているのか。それは大本営直々に指令が下ったからだ。

 

『配下の艦娘を連れ、大本営へ出頭せよ。そこで新たな任務を命ず。なおこの指令書は一読の後に焼却せよ』

 

この指示を実行に移し、数日後にやって来た輸送船に乗船。一路日本へと向かっていた。

 

杉山「貴様は相変わらずか」

寺田「俺に用があるのか?」

杉山「まぁな・・・少し疑問に思ったことを貴様と話し合いたいからな」

寺田「皆に聞かれると困るのか?」

杉山「ある意味困る・・・貴様はこの指令をどう思う?」

寺田「どう思うったって・・・仕方ないだろう?確かに急だが」

杉山「それもあるが、なぜわざわざ紙で指示を寄こしたんだ?それになぜ燃やせと?」

寺田「だってよ。機密性の高い書類なんだろ?」

杉山「だがなぜ暗号で寄こさない?ついこの間新型暗号が作られて、深海棲艦に気づかれてないんだぞ?その暗号を使えば一発だ。だが紙に書いたうえで、なぜわざわざ燃やさなければならないんだ?」

 

寺田は確かにと心の中で思った。

確かに新型暗号が出来たのは僅か1ヶ月前のことだ。その短期間で深海棲艦が解読した形跡は見受けられない。

じゃあなぜ暗号ではなく紙なのだ?それに燃やせと言うのはいささか不気味だ。

まるで誰にも知られたくないことが書いてあったかのようなものだった。

だが大本営に呼び出されただけなのに燃やせは不自然だ。

その時寺田は艦娘たちの間で、そして本国で噂になってるいる内容を思い出した。

そしてそれを打ち明ける前に、周囲をぐるりと見渡し、誰もいないことを把握した。

 

杉山「ん?どうした?周りを見渡して」

寺田「誰もいないな・・・実は俺のとこの艦娘、そして本国から来た憲兵が奇妙なことを話してるのを聞いたんだ」

杉山「どんな?」

寺田「・・・艦娘は、自分たちでも深海棲艦でもないおかしな艦がいた。だとか、海底を移動する巨大な何かを見た。もしくはソナーで観測したと・・・」

杉山「深海棲艦でも艦娘でもない艦?海底を移動する巨大な何か・・・」

寺田「川内と神通の報告なんだがな・・・錆びた戦艦だったそうだ」

杉山「錆びた戦艦だと!?」

寺田「まるで幽霊船だったらしい。俺も信じられないが、夜戦のために視野を鍛えている2人なだけに信憑性が高いんだ」

杉山「じゃあ海底の巨大物体ってのは・・・」

寺田「信じたくないが、その錆びた戦艦なのでは?と」

杉山「あり得ん・・・戦艦だけか?」

寺田「いや、巡洋艦や駆逐艦、空母もいたらしい」

杉山「・・・ふむ。憲兵の方は?」

寺田「これも信じられん。夜に不審な者を見たというものだ。カエルのように飛び跳ねて海に飛び込んだらしい」

杉山「気持ち悪い話だ・・・だがそいつらは何を?」

寺田「・・・人に化けて諜報・・・俺はそう考えている」

杉山「なるほど。それなら紙に指示を書いて燃やせと言うのも分かる。相手は人間に化け、海軍の上層部にでも入られたら情報が漏れてしまう。燃やせと言うのは残している資料を見られないためか・・・」

 

沈黙が支配する。

それを突如として破ったのは、輸送船を爆音と共に明るく照らした巨大な炎だった。

驚いて目を向けると、500t級護衛艦を炎が包み込んでいた。

 

見張り員「敵襲だ!!!」

 

見張りの絶叫が響く中、もう1隻の護衛艦も爆発を起こした。

その護衛艦の近くの海面は妖しい紫の光が魚のように移動し、そしてハッキリとは見えないものの、何かがいる気配が漂ってきた。

 

寺田「す、水中に何かいるぞ!」

杉山「誰か!銃持って来い!」

 

寺田も杉山も闘将と言われているのは、提督と言う司令官の役割についているのにも関わらず、それぞれ扱いの得意な艦隊と共に出撃し、現場で直接細かい指揮を行い、多大な戦果を挙げていることに由来する。

それどころか、深海棲艦の艦載機による機銃掃射された際には、機銃を操り、敵機を撃墜している猛者だ。

この場でも現場第一に動く2人は銃を求めて、自らゲストと言う立場を蹴って戦闘員に早変わりした。

騒ぎを聞きつけ、戦闘員に加わろうとしていたのは2人だけでは無かった。

 

伊勢「て、提督!寺田提督!ご無事ですか!?」

長門「寺田提督!指示を!」

加賀「私たちは準備できてるわ」

イク「私たちもなのね!」

鹿島「杉山提督!ご指示を!」

寺田「お前ら・・・やるしかないようだな。杉山」

杉山「だな。全員簡易艤装を展開!この艦の上から迎撃するぞ!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

ぞろぞろと艦内から彼ら指揮下の艦娘が出て来る。

艦娘は自身の乗る艦を、妖精と共に操ることが出来る。

しかし艦娘自身も、かつての艦の記憶としてその身に宿している。それは艦の艤装を人が扱える大きさにした装備として身に纏うことが可能なのだ。

簡易艤装と呼ばれるそれは、艦娘の水上移動を可能にし、限定的な戦闘が可能になり、艦が無い時や陸戦や沿岸警備で使用されている。

今回もそれを利用して、この困難を乗り越えようと考えた。

 

見張り員「お待たせいたしました!こちらをお使いください!」

 

見張り員が銃を2丁、寺田と杉山に渡す。

その銃は九九式改造塹壕小銃と呼ばれる、九九式小銃に九七式軽機関銃で使用するマガジンを取り付け弾数をアップさせた物だ。

しかも今回の銃は、セミオートだけではなくフルオート射撃をも可能にした言わば特別製であった。

無論、89式小銃などの最新鋭小銃も存在するが、上陸してきた深海棲艦への対応に追われたため、旧式の銃も量産体制が整えられ、前線に多数が送り込まれている。それは日本以外の国も当てはまる。

そのため現在の世界各国の軍は、第二次世界大戦の銃から現代の銃までの扱い方を習得する羽目になった。

 

寺田「嬉しいねぇ。何が出て来るのか分からんが、コイツならやれる」

杉山「何でも来いだな」

 

予備マガジンを受け取り、動作確認を行っていると、足の下から突き上げる振動が彼らを揺さぶった。

 

木曾「オイオイオイ・・・何なんだありゃ・・・?」

足柄「まさか・・・そんな・・・」

 

人間は予想外のことが起こると、その事態に目を奪われてしまう。

艦娘も例外ではなく、この2人も驚きに動けないでいた。

寺田も杉山もその方向を見た。他の艦娘もその方向を見た。

彼らの目に飛んできたのは、この世の常識を否定したものだった。

 

周囲の護衛艦もショックから立ち上がり、先程の攻撃が妖しい紫の輝く物体と断定し、爆雷に加えて75㎜砲や機銃を使って光を消しにかかった。その時爆雷が運よく大多数の光を捉え、皆の前にその姿を現した。

500t級護衛艦の爆雷攻撃によって水上に引きずり出された紫の光を漏らすその物体は、日本どころか世界中でも有名な航空機、『零戦21型』だったのだ。

 

赤城「零戦21型!?な、なぜそんなものが水中を!?」

 

赤城が驚愕のあまり、引き絞っていた弓を下してしまう。

赤城だけではなく、艤装の砲や機銃。もしくは銃をそのまま下ろす。

相手は敵なのか?それとも味方なのか?

だが相手の行動は、その答えを瞬時に導き出した。

爆雷攻撃を成功させた護衛艦に向け、四方八方から紫の残光が飛び掛かり、先に撃沈された護衛艦よりも巨大な水柱が立ち昇った。

所謂『体当たり攻撃』だ。

その攻撃は大多数の艦娘相手に、その記憶を呼び起こした。

 

瑞鶴「ッ!?・・・か、神風・・・」

酒匂「そんな・・・あの時の再現じゃ・・・」

千代田「なぜ!?なぜ今行うの!?」

 

トラウマを抉り出され、数人はその場に崩れ落ちる。

だが状況は、その瞬間を見逃さなかった。

 

ザバンッ!!

 

輸送船甲板に水が乗り上げる。

そこにいたのは『異形』そのものだった。

全身を鱗で覆われ、目は大きく飛び出し、口は大きく裂けて鮫のような歯が並び、首筋には魚のエラが付いている。

何人かはグッと腰を曲げて、まるでカエルのような格好でこちらを睨んでいた。

それらは急に飛び掛かって来た。

 

杉山「クソッ!応戦しろ!艦の縁には近寄るな!」ダンッ!ダダダッ!

寺田「喰らえ!」ダダダダッ!

 

流石の2人も立ち直り、銃撃を加える。

艦娘もその姿を見て、装備した艤装をフル活用し、砲で水面付近の敵を予測して薙ぎ払い、機銃で甲板上の中距離の敵を。近距離、至近距離になれば刀や槍に似た艤装を持った艦娘が切り裂き、武術を習得した艦娘が殴打と蹴りを繰り出して迎撃する。

 

大鳳「来るな!」ブゥゥゥゥゥゥン!

摩耶「畜生!どんどん湧いてきやがる!」ダダダダダダダッ!

大和「くっ!主砲三式弾が・・・副砲はそのまま水面を!機銃と高角砲で中距離を薙ぎ払います!」ドンッ!ドンッ!ダダダダッ!

長門「このっ!キリが無い!」バキッ!バシッ!

江風「くンなぁぁぁ!!」ドンッ!ドンッ!

時雨「バラバラに撃たないで!相手を近寄らさないことに重点を置いてやろう」ドンッ!ドンッ!

あきつ丸「くぅぅ!!」ザシュッ!ザシュッ!

天龍「多すぎんだろ!?」ザシュッ!ザシュッ!ダダダダッ!

龍田「天龍ちゃん!気を付けて!」ダダダダッ!ドシュッ!

 

空母組はしきりに艦載機を飛ばし、戦闘機は乗艦してきた敵を攻撃。爆撃機や雷撃機は爆弾を装備し、水中を移動する零戦を狙う。

その他の艦娘はそれまでの経験を生かして薙ぎ払い続ける。

だが敵は、意外なところからもやって来た。

 

比叡「ヒェェェェェ!!う、後ろからも来たぁぁぁ!!」

叢雲「な、何よこいつら!?この服装、船員のじゃない!?」

曙「変異したって言うの!?うわっ!来るなぁぁ!」ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

海の中から来るとばかり思っていた敵は、船内からもやって来た。

それもさっきまで普通の人間として動いていた船員が、である。

そして被害が出始めた。

 

磯波「キャァァァァ!!」ガシッ、バシャン!

吹雪「い、磯波ちゃんが水中に!」

潮「た、助けてぇ!!誰かぁぁぁぁぁ!!」ガシッ、バシャン!

漣「うっしーがさらわれた!?どこから出て来たんですかぁ!?」

カエル男A「グルァァ!」ガシッ

霰「むぐっ!?」

霞「霰!」

カエル男B「オマエハコッチダ!」ガシッ!

霞「うわわっ!?」バシャン!バシャン!

朝潮「霰と霞が!?」

浦風「は、放せ!!」

浜風「浦風!」

浦風「は、浜風ちゃん!後ろじゃ!うわ!」バシャン!

浜風「え?むぐっ!?」バシャン!

大井「北上さん!早く向こうに!」

北上「大井っち!?」

大井「どうか・・・無事でいて!」バシャン!

北上「大井っち!!」

龍田「きゃぁ!し、しmんぐっ!」ガシッ、バシャン!

天龍「龍田ぁ!!」

阿賀野「うわわわわわ!」ガシッ、バシャン!

能代「阿賀野姉ぇ!」

最上「三隈!くそっ、させないよ!」ドンッ!

三隈「あ!もがみん後ろ!」

最上「ッ!?ま、間に合わn」ガシッ、バシャン!

鈴谷「もがみん!」

カエル男C「ツギニ、オマエダ!」ガシッ!

愛宕「んんっ!?」バシャン!

高雄「愛宕!愛宕!!」

鹿島「へ?きゃぁぁぁぁぁぁ!!」ガシッ、バシャン!

榛名「鹿島さん!うわっ!」バシャン!

鳳翔「グッ!?しまっt」バシャン!

寺田「鳳翔さん!?」

蒼龍「くぅぅ!キリが・・・あっ!?」バシャン!

飛龍「あぁ蒼龍!!くそっ!」

カエル男D「オマエモコイ!」バシッ!

葛城「あぐっ!?」バシャン!

天城「しまっ!葛城が!」

ニム「むぐっ!?た、助k」バシャン!

杉山「ニム!!」

カエル男D「シツコイゾ!クタバレ!」バシッ!

あきつ丸「む、無念・・・」バシャン!

まるゆ「あきつ丸殿!!」

 

四方八方から襲われ、多数の艦娘が捕まって海底に引きずり込まれていく。

と、突如人工的な光が輸送艦を照らし、甲板上の異形を真横から鉄の雨が貫いていく。

空からは輸送ヘリが降下し、ロープから最新鋭の装備を着込んだ特殊部隊が逃げようとする異形に銃撃を加え、輸送艦内部に浸透していく。

やっと戦闘が終わり、その場に全員が座り込む。

甲板は青黒い血で汚れ、気が付くと、水中から攻撃を行っていた零戦も消えていた。

 

寺田「はぁ・・・はぁ・・・」

杉山「誰か・・・何人攫われたか分かるか?」

大淀「・・・18人です・・・」

扶桑「な、なんてこと・・・」

寺田「あぁ・・・くそっ!」ドンッ!

 

寺田が甲板を叩く。

各所から『クリア!』の声が上がり、いくつもの死体袋が運び出されていく。

それと入れ違いに、1人の足音が近付いて来た。

 

「・・・君たちが寺田君、杉山君だね」

 

優しげだが威厳のある声がかけられた。

顔を上げた2人や、周りの艦娘も、体に電気が走ったように背筋を伸ばし敬礼する。

 

杉山「や、山本長官!?なぜここに!?」

 

そう・・・この男こそ、鎮守府をまとめ上げる大本営の長、山本五十六である。

雲の上の存在と言うべき男は、海軍帽を取り、深々と頭を下げた。

 

山本「この度は私のわがままで、18人の君たちの仲間が攫われたことを陳謝したい・・・申し訳なかった」

寺田「い、いえそんな・・・」

 

山本は頭を上げない。

周りもどうしようかとアイコンタクトを交わす。

そんな中、杉山だけは立ち上がる。

 

杉山「山本長官。いくら日本近海と言えど、あなたのような人物が出て来る・・・あなたがわがままと言ったのは、あの指令ですね?」

山本「・・・そうだ」

杉山「つまりあなたは、あのカエルみたいな連中のことを知っていた・・・何なんですかあれは?それに水中を移動する零戦・・・説明を要求します」

山本「・・・もとよりそのつもりだ。だがそれを聞けば、君たちはその戦いが終わるまで二度と戻れなくなる道を歩むことになる。それを承知で受けてくれ」

 

二度と戻れなくなる道・・・それが意味することは分からない。だが答えは全員決まっていた。

 

長門「提督。我々はあなた方について行く。だからそちらで決めてくれ」

赤城「同じく」

杉山「・・・寺田」

寺田「分かっている・・・我々は軍人です。すでに覚悟は決めています」

山本「・・・分かった。艦娘たちは私が受け持っている鎮守府に移送しよう。2人はこのヘリに乗ってくれ」

 

山本の招きに、杉山と寺田両名は、配下の艦娘に敬礼し、艦娘から敬礼を返されたところでヘリに乗り、一路大本営へと向かった。

ヘリを降りた2人は、キレイに磨き上げられた大本営廊下を進み、奥の部屋に向かう。

扉の前には2人の衛兵が立っていたが、見事な敬礼を見せるとそのまま道を空けた。

 

山本「誰も来ていないな?」

衛兵A「ハッ!誰も来ておりません!」

山本「よろしい。ここは自動警備装置で警備する。しばらく外してもらっていいぞ」

衛兵B「分かりました」

 

2人が下がるのを見ると、山本は扉の一部を押す。

軽い駆動音と共に、天井からカメラ付きの機銃が6基も廊下を睨みつける。

 

杉山「・・・えらく警戒してますね」

山本「この前士官の1人がやつらに化けていたんだ。気を付けろ。どこに敵がいるか分からんからな」

 

山本が扉を押し開けると、そこには2人の少女がソファーでお茶を飲んでいた。

その少女は、肌が人間とは違い青白く、普通ではなかった。

だが杉山と寺田は何者か知っていた。

 

寺田「ッ!?深海棲艦のレ級にヲ級!?長官!コイツらは一体・・・」

山本「まぁ落ち着きたまえ。とりあえず座って」

レ級「まぁ驚くだろうね」

寺田「意外に流暢だな」

ヲ級「長くここにいたからな・・・」

 

何かあったらしいというのは分かるが、心なしか表情が暗い。それどころか何かに恐れているようにも感じた。

 

山本「さて本題に入るか・・・まず率直に言うとだな。我々は正式に深海棲艦との戦闘を終わらせ、休戦。そして講和することを望んでいる」

寺田「本当でありますか!?」

ヲ級「本当よ・・・最も、私たちも馬鹿にならない被害が出てるから・・・」

杉山「・・・まさか君たちもあのカエルもどきに?」

レ級「!?・・・君たちもかい?」

寺田「18人攫われた・・・長官。あれは」

 

4人の視線が山本を捉える。

少し息を吸って吐き、4人の前にいくつかの資料を渡した。

それはアメリカや日本、中国やヨーロッパ全土のあらゆる海難事故、事件の詳細と報告。そして『機密』とだけしか書かれてないファイルだった。

 

山本「君たちも各国の海難事故は知ってるだろう・・・一例で、アメリカの事故は特筆するべきものだ」

杉山「これは・・・アメリカ海軍が訓練中に実弾魚雷射出、岩礁の一部を吹き飛ばしたものですね?」

山本「そうだ。アメリカ海軍の艦娘、ジョンストンが訓練中に誤発射してしまった事件だ・・・だがそれは意図的なものだよ」

寺田「それはどういう・・・」

山本「・・・同時期、マサチューセッツ州のとある港町に海兵隊が送り込まれた作戦があった。表向きはそこで行われている麻薬取引の一斉摘発。そうなってるはずだな?」

レ級「無線傍受で私たちも知っているよ。でもそれが今回と何が関係してるんだい?」

山本「機密ファイルの1ページ目に、何があったのか写真と共にある。見てくれ」

 

皆その言葉に従ってファイルを開け、1ページ目を見て心臓が止まったかと錯覚した。

写真には、一カ所に集められたあの異形の死体と、それとついでに火を放つ海兵隊員の姿が写っていた。

 

ヲ級「これは・・・」

山本「それが真実だ・・・世界各所、そいつらの摘発が行われている。日本もだ。その写真に写った港町から全てが始まったと言っても過言ではない。町の名は『インスマス』。アメリカ当局は呪われた町と説明した。その写真に写った死体・・・杉山君や寺田君が出会った化け物は、『深きものども』と呼ばれている」

杉山「呪われた?深きものども?」

山本「そうだ。一昔前、世界各地を旅した、オーベット・マーシュと呼ばれる男が、東南アジア島々を巡った際に、地図に無い島に到達。そこで深きものどもと知り合い、インスマスに連れ帰ったのだ。その結果、彼は自らの一族と深きものどもと交接させ、現在に至る」

レ級「いくら何でも・・・反対する者もいたんじゃ・・・」

山本「君なら、自分の最高の案に反対する者がいたらどうする?」

レ級「そりゃ持ちろんねじ伏せる・・・あっ」

山本「反対する者は生贄に、もしくは無理やり交接させられるか溺死させられたらしい。そしてこの深きものどもが目論んでいるのは、彼らが崇める神をこの世に蘇らせることだ」

寺田「その神の名は?」

山本「クトゥルフ・・・そう呼ばれる神だ。宇宙創造の時からいたとされ、かつて地球を支配していた旧支配者と呼ばれる神々の1体だ。旧支配者の中にも対立構造があるらしく、他の支配者と戦っている最中、旧神と呼ばれる存在が現れ、旧支配者全員が追放された。クトゥルフはオーストラリアに近い地点に拠点ごと沈められたと、アメリカから資料を渡されている」

 

機密ファイルに閉じられたプリントから、次々に真実が明らかになっていく。

クトゥルフに仕える者、ダゴンとその妻のハイドラ。それらの下僕、深きものども。

そしてクトゥルフが復活すれば、世界は狂気に満たされ、地球上の生き物のほとんどが死滅し、再び旧支配者がのさばる星となるであろうことも・・・

 

山本「我々は絶滅するのを黙って見ているわけにはいかない。そしてやつらの行動から、我々人類の手でクトゥルフの復活を阻止できるのが判明した」

杉山「その根拠をお聞かせ願いますでしょうか?」

山本「奴らは我々に対して攻撃を仕掛けている。それが事実だ。我々が無力で、復活を止められないなら、奴らは我々を傍観しているだけでいいからな」

ヲ級「なるほど・・・」

 

しかしやはり実感が湧かない。

それどころか今までの常識を1つ残らず否定されたような感覚に囚われるのがオチだった。

 

山本「今の君たちが呆然とするように、私も聞いた当初は耳を疑ったよ」

寺田「では誰から聞いたのですか?」

山本「2人だ。1人はパラオ方面作戦司令官、南月と言う私の親友から・・・もう1人はニミッツ大将・・・今では元帥だったな」

ヲ級「ニミッツ!?水上艦と潜水艦部隊の連携戦術を練り上げた!?」

山本「彼はインスマスの作戦に参加していた。南月とも知り合い、太平洋でもインスマス同様の連中がいることを知り、各国の軍首脳部とコンタクトしている」

杉山「イギリスやドイツ、イタリアにも?」

山本「世界中にいるらしい・・・ほとんど海に面している地域で目撃されているよ」

レ級「・・・どうするんだい?」

山本「それを聞きたいのだ・・・君たちは人類と深海棲艦の垣根を超え、世界と手を組み、邪神と戦う意思はあるかな?」

杉山「我々は先ほど、ここに来る前に申した通りです」

ヲ級「手伝わせてください」

レ級「そうだね・・・深海棲艦ではなく、地球に住む者の1人として」

 

互いに握手を交わしたその時、山本は胸が高まった。

 

山本「では、命令を下す・・・君たちには、地図に無い島に向かってもらう。そこでしばらく・・・もしくは一生を過ごすかもしれん。そこにいる者たちと、新しい力を持って、クトゥルフと復活を狙う者を駆逐せよ」

「「「「ハッ!!」」」」

山本「君たちが揃って、初めて自由な作戦行動が認められる。記念すべき1回目の作戦は、攫われた艦娘と深海棲艦の救出だ・・・行ってこい」

 

4人は再びヘリに乗り、今度は特設巡洋艦に乗艦する。

その手には作戦指示書とデータが纏められたファイルが存在した。

休憩を取っていた艦娘も特設巡洋艦に移動し、現在の状況やこれからすべきことを伝えられた。

最初は深海棲艦に驚いていた面子であったが、内容を聞き、一致団結の意思を示した。

そんな彼女らの思いを乗せ、特設巡洋艦は地図に無い島に向かった。

日本独特の気候が遠のき、東南アジア方面独特の蒸し暑さとスコールが出迎える。

そんな中、島が見えて来た。

雨の中だと言うのに、杉山と寺田は合羽をを羽織って外に出た。

 

杉山「大きいな・・・確かに地図には無かったが・・・」

寺田「なぜこの島は見つからないんだ?これだけ大きいと誰でも発見できそうだが・・・」

杉山「確か資料に、『石を持ってる者しか視認できず、上陸も出来ない』とあったな。

寺田「石って・・・あぁ日本を出発する前に貰った石か」

 

2人はほぼ同時にポケットに手を入れ、中のお守りを一撫でする。

この石は五芒星形の形をした石であり、クトゥルフに敵対する旧支配者、ハスターの力を弱いながら宿しているのだ。

深きものども相手には効果があるが、それ以外のものには効果が無くなるというのも資料にあった。

それでもあの深きものどもの手から逃れられるというのは魅力的だった。

入港すると、そこには他の艦娘が召喚した艦が並んでいた。

自身の乗る艦も、艦娘がその姿を想像すれば、海上に招喚出来るのだ。

だがその艦自体が予想外のものばかりだった。

確かに世界各国の艦娘がいるのは、整備中の艦がドッグに入っているので分かった。

だがその中に、記録に無い艦が存在したのだ。

杉山も寺田も、艦娘の中で最も古くから存在した金剛型姉妹や神風型姉妹も知恵と記憶を振り絞って、艦名を言い当てていった。

 

寺田「ソ連駆逐艦オホトニク、デルズキー。軽巡洋艦クラースヌィイ・クルィーム?アメリカ防護巡洋艦セントルイス・・・デ、デモインもいるのか」

杉山「それにあの潜水艦は伊201・・・U796、U2511、U3511。スルクフとX1潜水艦か?日独英仏の潜水艦がなぜ?」

金剛「それだけじゃないデース。イギリス戦艦ドレッドノート、巡洋戦艦インコンパラブル、軽巡航空戦艦フューリアス。マイナーな上、ペーパープランで消えた戦艦もこの場所にいるネー」

榛名「それだけじゃありません・・・資料でしか見てませんが、あれはドイツ巡洋戦艦マッケンゼンとヨルク。シャルンホルストもですね。あれは多分ソ連戦艦のソヴビエツキ・ソユーズ、インペラトリッサ・マリア、巡洋戦艦ボルジノでしょうか?古いしペーパープランの戦艦が多いようですね」

比叡「ノースカロライナもいますよ!ヒェェェェ!!」

霧島「アメリカ小型戦艦も?ここにはなぜそんな艦ばかりが・・・モ、モンタナも」

神風「あれは・・・高速戦艦レキシントン?じゃあどこかに・・・」

松風「あ、峯風もいるね。夢を見てるみたいだ・・・」

 

 

存在しない島に存在しない艦娘・・・ここは一体どこなんだ・・・?

 

そんな思いを乗せた特設巡洋艦が接岸する。

杉山たちが降りるや否や、衛兵が銃を構える。しかし証である五芒星形の意思を見せると銃を下し、失礼しましたと一声かけて、さぁどうぞと道を譲る。

杉山たちは艦娘たちとレ級、ヲ級に自由行動を言い渡し、自分たちは会議室へ向かう。

道中を案内したのは、潜水艦の艦娘たちだった。

 

ニオ「ようこそ多国籍対クトゥルフ軍秘密基地へ。自分は伊201潜であります。ニオと読んでください」

ヴァルター「グーテンモルゲン、アトミラール。U796潜水艦であります。ヴァルター・・・そう呼んでください」

ヴァイス「同じくグーテンモルゲン。U2511・・・ニオとヴァルターと同じ、高速潜水艦だ。ヴァイスと呼んでくれ」

グラファイト「・・・骨のあるアトミラールだ。いい目をしている。U3511原子力潜水艦だ。あだ名はグラファイト・・・スルクフとXは補給のため不在だ。2人からは申し訳ないと受けている」

杉山「いや構わない。補給は大事だからな・・・それより会議室は?」

ニオ「こちらです。既に会議が始まってる頃です」

寺田「報告ありがとう。すまないが案内を頼む」

ニオ「了解です」

 

ニオたちの案内で、会議室に到着した。

ニオたちも仕事があるようで、そこで別れた。

別れた後で扉を叩いた。

 

『誰だ?』

杉山「日本派遣指揮官杉山、寺田。ただいま参りました」

『入ってくれ』

寺田「失礼します」

 

扉を開け、中に入る。

・・・彼らは息が詰まるかと思った。

 

南月「ようこそ。山本から話を聞いているよ。パラオ方面作戦指揮官の南月だ」

ニミッツ「初めましてミスター杉山、ミスター寺田。ニミッツだ。お互い仲よくしよう」

ルーデル「ドイツ第三帝国からやって来たルーデルだ。さっさと神様を爆撃してやりたいよ」

カニンガム「イギリスからやって来た、アンドルーカニンガムだ。初めまして」

 

南月司令官は想像できた。

だがアメリカのニミッツ元帥、魔王として知られるルーデル、敵泊地航空奇襲戦の達人カニンガム提督がここにいるのは予想外だった。

 

南月「驚きに駆られるのも分かるが、まずは・・・君たちが失った艦娘を取り返すことを考えようか」

寺田「!?・・・既に知っていましたか」

カニンガム「敵も我々のことを薄々感づいてきているらしい。だからその前に戦力を削ぎに来たんだろうな」

杉山「でも相手基地がどこにあるか・・・」

ルーデル「既に分かっている。丁度その基地を爆撃する予定だったからな」

ニミッツ「さぁ席についてくれ。君たちの仲間を救うために、突入作戦を考えようか」

 

 

~???~

 

 

潮の匂いと共に、不快な匂いを吸い込み鳳翔は目を覚ました。

ひんやりとした空間、そして鉄製の棒が縦に幾本も建てられ、硬い岩によって固定されていた。

自然に削り取られた岩の穴を牢屋として使っているのは分かるが、通路は水路のように少し掘り下げられ、水が溜まっている。これが潮の匂いの原因だろう。

 

鳳翔(潮の匂いは分かったけど・・・この匂いはまさか・・・)

 

鳳翔は寺田の率いる鎮守府の空母部隊の中でも最古参で、腕もいい。

それでも機体は旧式なため、第一線を引いて鎮守府の居酒屋を営んでいる。

その関係上、おつまみなどの色々な料理を作るため、この匂いも何が元なのか分かった。

 

鳳翔(魚かしら?・・・しかも生魚が腐敗した・・・)

 

立ち上がろうとして気が付いた。

両腕を前にして、手錠が掛けられていた。そして自分だけではなく攫われた皆がいたこと。

挙句の果てには深海棲艦も捉えられていた。

 

ネ級「起きたかい?」

鳳翔「あなたは・・・」

ネ級「襲う気は無いよ・・・あなたたちも捕まったのね」

鳳翔「ええ・・・彼らは何者か知っていますか?」

ネ級「我々深海棲艦と人類に敵対する旧支配者・・・クトゥルフっていう地球支配を企む神。その下っ端らしいわ」

鳳翔「旧支配者・・・信じられませんが・・・」

ネ級「私も信じられないわ・・・けど既に我々にも被害が無視できない程になってるわ。私も攻撃を受けて、私以外全滅。私はそのままここに連れてこられたの」

鳳翔「そうでしたか・・・」

 

沈黙が支配し、周りの音が鮮明に聞こえる。

こちらに向かって水の中を歩く音がする。

やがて牢屋前にあのカエル男がやって来た。

 

ネ級「深きものどもね」

深きものども「ヨウヤク起キタカ・・・」

鳳翔「くっ・・・ここはどこですか?」

深きものども「ソレハ言エナイ。盗聴サレテ場所ガバレテハ困ルカラナ」

ネ級「それで私たちをどうする気?」

深きものども「サァナ。俺ハオ前ラノ様子ヲ見テコイト言ワレタダケダ・・・マァネ級ハ来イト言ワレタガナ」

ネ級「何をする気だ!?」

深きものども「担当スルヤツニ聞ケ。サァ出ロ」

 

牢屋の戸を開け、無理やりネ級を立たせる。

そのネ級には苦笑が混じっていた。

 

ネ級「あなたは鳳翔ね・・・他の娘たちに言いなさい。『犠牲者は私が最後』だとね」

深きものども「何ダ?知ッテルジャナイカ」

ネ級「うるさいわね。あなたなんか後から血の海に沈めてやるわ」

深きものども「ソノ減ラズ口ガドコマデ続カ楽シミダヨ・・・来イ!」

 

そのまま連れていかれるネ級に、この後はどんな仕打ちが待ってるのか想像し、鳳翔は恐怖を覚えた。

そして繋がれた両手を聖者が祈るように組み、自分たちの提督たちが助けに来てくれることを祈った。




主「作品増えるなぁ」
寺田「後もう1作作るんだろ?頑張れ」
主「意地でも全部完結させてやるか・・・」


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