なんか、ハマーン拾っちまった。 (ローファイト)
しおりを挟む

本編
①名無しの若い女


タイトル通り、ハマーン様を偶然拾った話です。


俺の目の前には、若い女が小さな寝息を立てている。

整った顔立ちの色白の美女だ。

赤みがかった髪はオリエンタルの血が流れているのだろう。

 

この若い女から名前は聞いていない。

かれこれ1か月以上このベッドの上に寝たまま目を覚まさない。

 

ここは個室病室。

俺は街の小さな診療所を経営している。いわゆる町医者って奴だ。

俺の名はエドワード・ヘイガー。

街の連中からはエドの愛称で呼ばれてる。

 

 

今は宇宙世紀0089年2月末

立て続けに起きた戦争がようやく終わり1か月が経った。

グリプス戦役っていうティターンズとエゥーゴの大派閥による地球連邦軍内の世界を巻き込んだ内部抗争、その後にネオ・ジオンとグリプス戦役で勝利をえたエゥーゴとの抗争が始まり、最後はネオ・ジオンが内部分裂し、お互いを潰しあい、お互いの指導者が戦死を以って終わりを告げた。

 

まったく、結局は権力闘争に世界の人々が巻き込まれた感じだ。

まあ、エゥーゴが勝利してよかったけどよ。

ティターンズって奴は、俺ら宇宙移民を人と思ってねーからな。

コロニーに毒ガスまで使いやがった。

やってる事はジオンのザビ家と変わらん。

所詮、地球連邦もジオンも中身は一緒だという事だ。

 

で、ここは新サイド6(旧サイド4)の15番コロニーだ。

といっても、1年戦争でサイド4は壊滅して、戦争終了後に最初に再生されたコロニー群だ。

俺は丁度1年戦争時は地球の連邦軍大学医学部に在学していたから助かったが、両親も妹達も1年戦争時に全員死んだ。遺体すら戻ってこなかった。

そんで、医師免許は取ったが、まあコロニー出身の俺が戻るところはコロニーしかないからな、再建されたこのコロニーに戻ってのんびり町医者をやってるってわけだ。

 

 

話は逸れたが、俺はそのネオ・ジオンとエゥーゴとの戦い、ネオ・ジオンの内部抗争時に、戦時派遣医師団、要するに中立の立場の医者たちが戦争で傷ついた人々や軍人に医療を施すボランティアに参加していた。

ほぼ無理矢理だがな。各コロニーから何人か出す話になっていて、一番若い俺にお鉢が回って来たってことだ。

まあ、コロニーの医師会には逆らえんし、恩を売って置けば何かと優遇してくれるだろうという打算もあったんだけどな。

 

戦時派遣医師団はサイド3の13番コロニーに拠点を置いていたんだけど、そのサイド3も抗争に巻き込まれ、逃げるように皆は各コロニーに戻ってった。

だが、俺だけ何故か最後まで残って残務処理。

そんで、逃げ遅れた俺は、残ってた医療用小型宇宙救護船舶を自分で操縦して脱出したんだけどよ。その船舶になんかモビルスーツの脱出ポッドが突っ込んできて……、航行には影響なかったからそのまま新サイド6に向かったんだけど……

その脱出ポッドにこの若い女が乗ってたんだ。

脱出ポッド自体もボロボロで、中の若い女も結構な怪我をしていて死んでんのかと思ったが、何とか生きてたから、まあ、成り行きで俺の病院に連れ帰って寝かしてやってる。

 

最初は顔も全身もパンパンに腫れて、眼球の水分も随分と持ってかれていた。宇宙空間に直接触れた影響だろう。

まあ、今じゃ綺麗な顔を拝めるように元に戻ったが、意識がまだ戻らない。

酸素欠乏症の影響かとも思ったが、思ったよりも脳へのダメージは極小で済んでいる。

目を覚ませさえすれば、普通に日常生活を送る分には支障は少ないだろう。

 

こんな状態だから、この若い女から名前は聞けていない。

最初は誰なのかと探そうと思い、色々と調べてみた。

身分を証明するものは何も持っていなかった。脱出ポッドは損傷が激しい上に、身に着けていたものは下着とノーマルスーツぐらいだ。

血液から医師会のデータベースなどを調べはしたのだが、載っていなかった。

となると、地球連邦軍の軍人ではない。まあ、ノーマルスーツを見ればネオ・ジオンの人間だとは分かるんだけどな。

俺が新サイド6に戻って、大きな病院にこの若い女を入れようとしたのだが、やめておいた。彼女はネオ・ジオンの人間だからだ。拒否される可能性が高い上に、連邦軍の連中に連れていかれ、まともな医療を受けられない状態で尋問なんてことはよくある事だ。

だから、俺の診療所にこそっと連れ帰った。

俺の病院は元々結構訳ありの人間も治療に来る。まあ、大概元ジオンの人間なんだけどな。

 

最初は顔の腫れがひどく、人相もわからなかったが……今でははっきりわかる。

 

この若い女はハマーン・カーンだ。

 

世界に発信した演説映像でも見たし、いろいろな情報ツールの写真とも一致する。

まあ、影武者って事も在りうるから、確実ではないが。

 

世間では先の戦争末期に戦死したことになっているネオ・ジオンの最高指導者だ。

カリスマ性があり、宇宙移民には人気が高い。

俺から言わせれば、ただの悪人だ。

地球にコロニーを落としやがった。

強化人間や若い少女のクローン兵を作ったとんでもない組織の親玉だ。

最後は内部分裂で同士討ちってか。悪人の最後に相応しいってもんだ。

 

本当は連邦軍に引き渡さなきゃならないが、俺は連邦軍が大っ嫌いだ。

かと言って、ジオンも嫌いだ。

戦争に加担し、広げたこの女も嫌いだ。

 

だが、今はただの怪我人で俺の患者だ。

とりあえずは目が覚めるまではここに置いてやる事だけは決めている。

目が覚めて、元気になりやがったら、文句の一つや二つ言ってやるつもりだ。

 

ベッドの上で静かに寝息を立てるこの若い女の顔を見ているとふと思う。

本当に目の前の彼女が悪の限りを尽くした、あのハマーン・カーンなのだろうかと……

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

②リゼ

 

宇宙世紀0089年3月下旬

 

「リゼ、名無しの彼女の体を拭いて着替えさせてやってくれ」

 

「はーい」

俺はリゼに、未だ個室病室のベッドで寝たままの彼女の世話を言付ける。

 

今日は患者が多い。

この15番コロニーの宇宙港ドックで事故が起きたらしい。

大きな病院に行けばいいものの。

まあ、訳ありな人間がここには結構いるからな。

 

ここ15番コロニーの人口は6万人程度、中心部に街を形成し、主には農業や畜産や食品加工などを担っている片田舎のようなコロニーだ。

農作物はこのコロニーやコロニーの周りに浮かぶプラントでほぼ自動で生産されている。

要するに労働者層の人間が人口の主を占めている。

俺の診療所は街外れにある三階建ての一軒家を改装したものだ。

診療所は基本俺一人で切り盛りしているが、12歳になったばかりのリゼにも手伝ってもらってる。

 

 

午後の診療を終え、俺は夕飯の支度を始める。

リゼも食器を出したりと手伝ってくれる。

「エドお兄ちゃん。お姉ちゃんなかなか起きないね」

「そのうち起きてくるだろうさ」

「綺麗なお姉ちゃんだね」

「……それよりも、学校の宿題は終わったか?」

「まだだよ。お兄ちゃん後で教えてよ」

「夕飯食った後でな」

「はーい」

 

リゼは俺を兄と呼ぶが本当の妹じゃない。

俺の本当の妹達は1年戦争で亡くなっている。下の妹は丁度リゼと同じ年頃で亡くなった。

 

リゼは一年前、俺の診療所に連れてこられた子だった。

しかも、かなり訳ありの子だ。

今はこうして元気良くしているが……彼女はクローン体。誰かのクローンでしかも特殊な遺伝子操作を受けていた。

この子を連れて来た男は、ネオジオンの兵士だったそうだが……、廃棄処分されるこの子を見過ごせなくなり、一緒に脱走してきたらしい。連れて来た男は俺にこの子を託してそれ以降行方知れずだ。

連れてこられたばかりのリゼの腕には識別番号のコードと24番と墨をいれられ書かれていた。

彼女はクローン体でありながら、適性が現れなかったとかで廃棄処分、要するに殺されるところだったらしい。

まじで胸糞悪いにもほどほどにしろってなもんだ。

 

俺はこの子と一緒に持っていた薬物について色々と調べる。

昔の伝手なども使いようやくわかったことは、どうやら強化人間兵。疑似ニュータイプ兵として作られたクローンだったようだ。

リゼと言う名は俺がつけた名で、リゼはここに来た当初自分を24番と番号を名乗っていたのだ。この子を縛り付ける腕の墨の番号はレーザー治療で直ぐに消した。

当時のこの子は今とは違い、無機質で感情など宿っていないかのような様子だったが、今では明るい良い子だ。

クローンの元になった女性の遺伝子が良かったのか、俺の教育が良かった…ってことは無いか。反面教師にはなれる自信はあるけどな。

何だかんだと、ご近所の方々やここに通院してくる皆が可愛がってくれたのが功を奏したのかもしれない。

 

無理矢理成長を促す処理を成されていたため、薬物を多量に摂取しなくては生きていけない体だった。しかも通常の人間に比べ寿命が短い。テロメアが短いのだ。

だが、遺伝子治療でそれを何とか解消することが出来た。

今では、日に薬を数個摂取するだけで済んでいる。

そのうち、薬が要らなくなる日が来ることを願うばかりだ。

 

皮肉なことに、この遺伝子治療、さらに神経や脳神経の修復治療は、一年戦争の時に発展し、現在に至っている。

戦争は無数の死人や傷病人を産むと同時に、医療にとっては絶好のサンプルとなるのだ。

残念ながら戦争が医療を発展させるという旧世代からの理は今も変わってはいない。

人を活かすための医療が、人を死に落とす戦争から生まれるという矛盾について、つい思いを馳せちまう。

 

 

話を戻すが、リゼはネオ・ジオンの被害者だ。

要するにだ。2階の個室で今寝ている彼女(ハマーン)が元凶だということだ。

 

リゼ自身、彼女の顔を見ても誰なのかわからないようだ。

まあ、この強化人間クローン研究に彼女(ハマーン)が直接かかわる事は無かったのかもしれない。

末端がトップの顔を知らないってな事はよくある事だしな。ましては実験動物扱いされていたリゼはな……

 

やっぱ、こいつが目が覚めたら、リゼの代わりに一発頭を叩いてやろうかと思う。

 

 

 




プルシリーズの成りそこなってしまったのがリゼです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ジャンク屋のおっさん

ガンダム戦記シリーズ
サイドストーリーズから参戦


宇宙世紀0089年5月

リゼは地元の中学に通い出し1カ月が経つ。

相変わらず彼女(ハマーン)は寝たままだ。

春眠暁を覚えずとは言うが、いい加減目を覚ましても良いだろう?

既に神経の修復なども終わってるしな。

 

まさか、目覚めたくないとかか?

いいや、もしかして自分自身死んでるものだと錯覚して目覚めないとか?

何れにしろ、こればかりは待つしかない。

 

 

今日は休診日だったが、来客が来る。一応掛りつけの俺のクライアントだ。

「よおエド、今日も見てくれ」

「なぜ休診日に来るんだよ。トラヴィスのおっさん」

この50前のおっさんはトラヴィス・カークランド。

隣の新サイド6の16番コロニーでジャンク屋をやってる怪しいおっさんだ。しかも腐れ縁でもう10年は付き合いがある。

 

「お前と俺の仲じゃないか。あーあ、お前がヒヨッコだった頃に助けてやった恩を忘れたとは言わせないぞ」

 

「……おっさん。助けたのは俺、あんたは怪我してピーピー喚いていただけじゃねーか、しかも俺は医学生で無理矢理戦地の軍医まがいをやらされていただけだ」

俺はそう言いながらもおっさんの診察を始める。

簡単な健康診断だ。

 

「そ、そうだったけ?」

 

「そうだ」

 

「もっと俺を敬えって。医学生といえども、軍大学の学生って事は立派な軍属だろ?当時の俺は中尉で退役だぞ!階級は俺の方が上だっつうの」

 

「……はぁ、俺は一応軍大学卒業後に1年間軍医やってたんだよ。その時の階級は中尉だ」

 

「へっ?マジで?俺と同じ?」

 

トラヴィス・カークランド中尉とは一年戦争時、俺が軍大学医学部2回生時で、戦地の医療班として駆り出された時に出会っていた。

当時のトラヴィス・カークランドは性格はこのままだったが、モビルスーツ隊の隊長として有能な人物で、雰囲気もあった。当時の俺はちょっとかっこいいとも思っていたのだが……退役して、今はただのおっさんだ。

 

俺は医学免許を取り、0083年時に1年間だけ軍医として戦艦に乗っていたことがある。

何故中尉という階級があるかというと……軍大学医学部とはいえ、指揮候補課程もちゃんとクリアし成績はそこそこ優秀だったためと……一年戦争時になんちゃって軍医として戦場に出て軍働きしていたためだ。その時のやらかしがあって……それはおいておこう。

 

「おっさん。前も話しただろ?物忘れ酷くなってないか?体は鍛えてあるな。異常なし!」

 

「おいおい、もっと丁寧に調べてくれよ」

 

「一応、全身検査してやるから検査台に乗れっての」

 

「はぁ、最近の若い連中は年寄りの扱いがなってねーな」

おっさんは服を脱ぎ、患者服に着替え、メディカルチェックマシーン(CT装置のようなもの)の上に乗る。

 

「エド、サイド3に行ったんだよな。そっちには何か情報無いか?」

 

「息子さんヴィンセントという人物については何も無かった。すまん」

トラヴィスのおっさんがここに来る理由がもう一つある。

おっさんは、俺と同じ年頃の一年戦争時にジオン兵として出兵した息子を探しているのだ。

終戦時には生きている事を確認しているらしいが、それ以降足取りがつかめていないらしい。

おっさんの予想では息子さんは一年戦争の後にアクシズに合流したのではないかと……、グリプス戦役にアクシズのネオ・ジオンが介入し、さらには身内同士での同士討ち抗争を演じた先だっての戦争だ。

もしかすると、息子さんはネオ・ジオン陣営に居た可能性があるのだ。

俺がネオ・ジオンの抗争の真っただ中であったサイド3に行った事をおっさんは知っていた。

それにここには訳ありの患者さんが多く訪れる。そう言う情報も来るんじゃないかと、実際に俺にとってどうでもいい情報だが、一部の人間にとって貴重な情報が耳に入る事がある。ここにトラヴィスのおっさんが通う理由は、息子さんの噂や生存情報を求めているという事もあるのだ。

 

「いやいいってことよ」

 

「おっさん。異常なしだ。至って健康だ」

 

「そいつはありがたいな」

 

「……おっさん。無理するなよ」

体つき、長年モビルスーツに乗ってる人間特有の一部の皮膚の硬化。

おっさんは未だモビルスーツに乗っている……もしかすると息子さんを探すために危ない橋を渡っているのかもしれない。

 

「ははっエド。無理なんてしねーよ。また来る」

検診を終えたトラヴィスのおっさんはそう言って、診療所を後にする。

 

トラヴィスのおっさんはあんな感じだが、柔軟な思考を持ちながら義理堅い人間だ。

彼女(ハマーン)の事を話してもいいのかもしれない。

いや、もしかしたら知っている可能性もある。

おっさんは未だに連邦軍時代の伝手を持ってるようだしな。

連邦やネオ・ジオンの残党がここを嗅ぎつけて来た時に、助けになってくれるかもしれない。

 

……俺はベッドの上に寝たままの彼女の顔を見ながら、改めて、なぜこの女をかくまっているのか自分に自問してみるが答えが出ない。

最初は確かに、軍が嫌いで、連邦やネオ・ジオンに引き渡すのは躊躇していたというのはあるが……

 

まあ、何にしろ目を覚ましたら、さんざ小言を言ってやるつもりだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

④おすそ分け

 

宇宙世紀0089年7月上旬

 

「リゼちゃん、はい。おすそ分け」

 

「ありがとう!アンナおばさん」

「アンナさん。何時もすみませんね」

 

「いいのよエド。こんな片田舎にあんたみたいなお医者さんが居てくれてありがたいんだから」

年は30中頃、近所の農家のアンナさんがトマトとオレンジを持ってきてくれた。

旦那さんのボビーさんと5歳と3歳の子供が居る。

ボビーさんとアンナさんは元ジオン兵だ。だが彼女らはサイド3出身ではない。

一年戦争当時、他のサイドから半強制的に徴用され、過酷な現場に送り込まれたという話を聞いている。

 

しかし終戦後、戦争に生き延びた彼女らに連邦や周囲の人間からの風辺りは厳しかった。

負けた国の人間として見られたからだ。

 

彼女らはサイド3出身ではないため、サイド3の人間にも疎まれ、元のコロニーにも居場所がなかった。

それでこの壊滅した旧サイド4に、新しく建造された現在の新サイド6の移民計画に参加し、今に至る。

そんな人たちがこの新サイド6には多く居る。

そして栄えている中心コロニーではなく、この15番コロニーのように片田舎の地方コロニーに移り住む傾向が強い。

やはり、出来るだけ連邦の目は避けたいというのが心情だろう。

 

 

一年戦争で勝った連邦だが、それを鼻に掛けた連中がのさばり、ティターンズのような連中を産んだ。

あの戦争が何で起きたかも原因をちゃんと考えずにだ。

いや、考えた結果なのかもしれない。コロニーの連中は危険だと、地球に住む人間とはもはや別人種だと。

それで過剰な取り締まりやさらには虐殺まで……あいつらは俺らを家畜か何かかと思っているのだろうか?

 

だが、そんな事を思ってる連中は地球に住む人々全員ではない。

多少は優越感を持っていたとしても、そこまで過剰な思想を持つものは、一部だ。いや一部だと思いたい。

だが、そんな連中をのさばらせた連邦という組織は、既に崩壊していると言っていいだろう。

 

ったく。過剰な締め付けは返って反乱を招く。

住民をないがしろにした政権は革命を持って打倒される。

歴史がそれを語っているはずだが、なぜ繰り返す?

連邦の上層部はアホばかりか?

 

いや、頭が回る連中は五万といるが、連邦のお偉いさん方の頭の中は、自分たちの権力闘争に勝つことにしか頭が回っていない。

そんな連中の巣窟だ。

 

まあ、唯の町医者の俺がこんな事をうだうだ思っても仕方がない事だが……

 

「今日はトマトパスタと、オレンジはマーマレードにしようか?」

俺はアンナさんに貰ったトマトとオレンジを台所に持って行く。

 

「うん!リゼも手伝う」

リゼは笑顔だ。

 

この何気ない日常をなぜ、あいつら(お偉いさん)は壊そうとするのだろうか?

多分、日常の生活にしあわせを見いだせないのだろう。

いや、知らないのかもしれない。

だから壊す。

 

俺は台所から天井を見上げ、彼女(ハマーン)が寝ているだろう部屋に顔を向ける。

あんたも知ってるか?日常の幸せって奴を。

知らないってんなら、目が覚めたら、説教垂れた後にさんざ付き合わせてやるよ。

 

 

「お兄ちゃん。後で一緒にお風呂入ろうよ」

 

「……中学に入ったら一人で入るって約束しただろ?」

 

「えー、でも、ジュリアちゃんは何時もお兄ちゃんと入ってるって言ってたよ?」

 

「ジュリアの兄って、デリルの奴か!あいつ20歳だろ?あのシスコンのロリコン野郎!今度俺んとこに治療受けに来たら、超痛い消毒液まみれにしてやる!」

 

「ねー、お兄ちゃん!」

 

「ダメだ」

 

「お兄ちゃんの意地悪!フンだ」

 

「……勘弁してくれ」

デリルめ!余計な事をしやがって!

 

 

 

 





日常ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑤アルビオン

0083からあの人参戦


宇宙世紀0089年8月上旬

俺は新サイド6の中心1番コロニーに来ていた。

新サイド6の医師会の例会だ。

半年に一回、出ないといけない決まりだ。

 

 

「エドワード君、戦時派遣医師団はご苦労だった。現地は酷い状態だと聞いていた。さすが軍務経験者だ。よく生きて帰ってこれた。君を推挙した私の慧眼に狂いは無かった」

このちょび髭のおやじは新サイド6医師会を牛耳ってるリヒター・マルチネスっていう政治屋気取りの医師会のトップだ。

何言ってやがる。脅しに近いやり方をして、半ば強制的に出向させたのはどこの誰だ?あんただろ?しかも、なにさらっと自分の手柄にしてやがる。

 

「まあ、なんとか」

 

「ただ、宇宙救護船舶を壊したのはいただけないな。あれを直すのにいくらかかったと思っているのかね?」

 

「はぁ、まあ保険で賄えたからいいでしょ?それに、新サイド6からは6人の予定が俺1人しか派遣しなかったから、現地でいい面の皮でしたが?」

 

「ふん、まあいい。今後ともがんばりたまえ」

そう言って、このちょび髭おやじは手をしっしっと振り、どっかに行きやがった。

何そのあしらい方、俺は害虫かなにかかよ?くそったれめ。

確かに、宇宙救護船舶はハマーンの脱出ポットが突っ込んできて、結構壊れちまったが、飛べない訳じゃないだろ?確かに結構な大穴空いたが、保険で賄えるじゃねーか!

しかも派遣団俺一人って、現地に着いた時には針の筵だったんだけどな!

どうやら、このちょび髭おやじ、俺の事が相当気にくわないらしい。

俺の若さで軍医上がりというのもそうだが、医者の卵の若い連中が気軽に話しかけてくれるのもその一因らしい。

まあ、一番は俺が反抗的で生意気だというところだろうが……

 

 

俺はコロニー間の定期便までの時間が空いてるため、宇宙港にあるファーストフード店で飯にすることにした。

15番コロニーの定期便は1日1往復しかない。それ程片田舎だってことだ。

 

このファーストフード店からは宇宙が一望できる。

宇宙の暗闇から巨大な戦艦がこちらに向かってくるのが見えた。

「おお?ペガサス級が停泊しに来たって事は、定期検閲か?」

 

ペガサス級強襲揚陸艦。

モビルスーツを運用するための戦艦だ。

今はアーガマ級が主流になりつつあるが、それでもその能力の高さには定評がある。

 

連邦宇宙軍の任務の一つにコロニーの検閲がある。

反乱分子の有無を確認するためだ。

まあ、俺が知ってる当時はかなりずさんだったけどな。

 

俺が0083年に軍医として載っていたのもペガサス級だった。

確かペガサス級7番艦アルビオンだったな。

 

あのデラーズ・フリートの反乱に巻き込まれたんだが……よく生き残れたな俺。

デラーズ・フリートに勝利した連邦軍だったが、アルビオンは艦長と一部の乗員を排除して、ティターンズに組み込まれる事になった。

一部の乗員とは俺の事だ。

地球至上主義、宇宙市民大っ嫌いでゴミくそとしか思っていないティターンズにとって、コロニー出身の俺はお呼びじゃないってことだ。

俺もティターンズなどこっちから願い下げだ。頼まれたって絶対入ってやらん。

あのエリート意識丸出しのハゲ眼鏡の下で働くなんてまっぴらごめんだ。

 

俺はその後直ぐに連邦軍を退役して、一時期他のコロニーに住んでいたが、最終的にこの新サイド6に移住して診療所を開業したってわけだ。

 

俺と一緒にティターンズから排除された連中とは、今もたまに連絡を取り合ってる。

あの人参嫌いとエロ眼鏡は連邦軍に所属したままだ。しかも、グリプス戦役を生き残っていやがる。とっつあん坊やだが、パイロットの腕はエース級だからな彼奴らは。

あいつ等さえよければ、軍なぞやめて新サイド6に就職先を見つけてやるんだけどな。

だが、あいつら奥さんいるしな。しかも子供まで……。

人参嫌いは年上の金髪美人。エロ眼鏡も年上の整備士のゴツイ姉御だ。

年上の姉さん女房か、羨ましいと言えば羨ましいか。

 

 

 

「エド、エドじゃないか?」

俺は後ろから急に声を掛けられる。

 

「モ、モズリー先生?」

振り返ると懐かしい顔がそこにあった。

 

「やっぱり、エドか、こんなところに……なつかしいな」

50過ぎの恰幅のいい中年の俺がモズリー先生と呼んだその人は俺に握手を求める。

この人の名前は、アロイス・モズリー、アルビオンに乗船したもう一人の軍医にして、軍学校時代の講師だった。

俺は正式にはモズリー先生の軍医の研修兼助手としてアルビオンに乗船していたのだ。

 

「先生……死んだんじゃなかったんですか?」

 

「勝手に殺さないでくれ」

 

「アルビオンはティターンズに再編成されたんで、てっきり先のグリプス戦役で死んだものと……」

 

「はっはーー、ティターンズなどとうにやめてしまったさ。あんな血も涙もない所に居られるか……艦長の件もあっただろ」

 

「そ、そうっすか。でもまた会えてうれしいです」

懐かしい顔と会い、しばらく先生と談笑をする。

 

俺はてっきり、アルビオンにそのまま乗っていて、グリプス戦役で艦と一緒に爆散したと思っていた。

だが、モズリー先生は俺がアルビオンから排除された後、直ぐに配置転換を求めたらしい。一度軍学校の講師に戻って、また戦艦に乗って軍医をしているらしい。

戦艦の従軍軍医の方が楽だと。

そんで、さっき停泊したペガサス級に乗っていたそうだ。

艦長の件とは……

アルビオンの当時の艦長、シナプス艦長は、デラーズ・フリートの反乱の際、功績を上げ活躍はしたものの、ティターンズの前身組織に盾突いた行動をとっていた。さらに上司のコーウェン中将が進めていたガンダム計画が破綻し、逆にデラーズ・フリートに利用され、連邦宇宙軍に大ダメージを与えるきっかけとなったため、軍法裁判にかけられ、共に処刑されたのだ。

シナプス艦長の事は良くは知らないが、連邦には珍しく人道派の艦長だったという事は知っている。

ティターンズにとっては邪魔でしかなかったのだろう。

 

「だがもったいない。君ほどの腕前と度胸の有る人間が、町医者など」

 

「軍は性に合わないんですよ」

因みに組織やら、群れるのも苦手なんだよな。

 

「やはり……先のネオ・ジオン抗争は酷いものだったかい?」

先生には先ほど、俺がサイド3で戦時派遣医師団に参加していた事を話していた。

 

「はい、ネオ・ジオンの連中は俺よりも若い連中が殆どです。中には15にも満たない子供も」

 

「……そうか……まあ何かあれば気軽に相談してくれ」

そう言って、モズリー先生と別れる。

先生からはプライベートな連絡先を教えて貰った。

 

 

 

 

俺はしばらくして、定期便で15番コロニーに戻り、診療所兼自宅に帰ると、診療所からリゼが勢いよく飛び出し俺にこう告げる。

 

「お兄ちゃん!お姉ちゃんが寝ながらうーんとあーとか言ってるよ!」

 

……ようやく眠り姫が起きるのか。

 




0083からまさかの人
予想出来ましたか?
というか、皆さん思ってるはず、こいつ誰ってw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑥目覚め

感想ありがとうございます。

今迄が序盤で、ここからが本編です。


 

名無しの彼女、ハマーンが8月中旬頃から覚醒の兆しを見せていた。

呻き声を時々上げるようになったが、まだ目が覚めない。

脳波チェックをしているが、夢を見ている状態と同じだ。

その呻き声は苦しそうであり、表情もつらそうであった。

まったく、どんな夢を見ているのやら……。見るからにいい夢じゃないな。

 

宇宙世紀0089年9月初旬。

外来診療を終え、夕食前にハマーンの定時検診を行いに病室に入る。

ハマーンの病室には癒し系のクラシックを流している。

リラックス効果と覚醒を促す作用がある。

 

顔を覗き込むと、うっすらと目をあけていたのだ。

「おい俺の声が聞こえるか?」

 

ハマーンは小さく口を動かしていたが聞こえない。

俺は口に耳を近づけると……擦れ声を漏らしていた。

「……お前は誰だ」

 

「俺は医者だ。あんた、名前を言えるか?」

 

「………」

俺はハマーンの口元に再び耳を近づけ、発する声を聞こうとするが、返事が返ってこない。

 

「ふう、まあいい。あんたにはまず伝えないといけない事がある。聞いているだけでいい」

 

「………」

ハマーンの唇は僅かに震えていたが声が出ていなかった。

 

「重症状態のあんたを俺の診療所に運んで治療を施した。治療は上手く行ったが意識が戻らなかった。あんたは眠り続けていたんだ」

 

「………」

意識はまだ朦朧としているようだが、ハマーンのうっすらと開いた双眸は、俺の言葉を理解しているような感じがした。

俺は続きを話す。

 

「あんたの体は直ぐには動かない。リハビリが必要だ。リハビリさえちゃんと行えば元通りに体を動かせる。今からも幾つかの検診を行う。まあ、拒否されてもやるがな」

 

「………」

ハマーンは俺の言葉を聞き、目をゆっくりと閉じた。

まるで好きにしろと言わんばかりにだ。

 

ハマーンの口に湿らす程度に少しばかりの白湯を含ませてやってから、何時もの検診を行う。

心電図や脈拍、脳波などは常時確認しているため、眼球の動きなどの簡単なチェックだけだ。

 

「安心しろ。異常無しだ。だが、記憶の混濁などが起きてる可能性がある。自分が誰なのか、過去の記憶を探って、じっくり思い出せばいい。しばらくしたらまた様子を見に来る」

俺は病室を出て静かに扉を閉める。

 

眠り姫のお目覚めってっか?こっからどうするかな。

幸いハマーンは体が動かない。俺達に危害を加えようがない。

本来ある程度の筋量維持のリハビリを寝ている状態でも出来るのだが、それをやらなかった。仮にも彼女は軍人だ。しかも俺がとびっきりの悪人認定してる奴だ。

俺らにいきなり危害を加えない保証はどこにも無いからだ。

拘束具で拘束すればいいだろうと思われるが一応彼女にも人権がある。

というか、俺がそれをしたくなかっただけなんだがな。

 

ゆっくりリハビリをして、時間をかけて自身がやって来た事を振り返る時間を与えたかったという思いがあった。

俺は裁判官でも警察でも軍人でも何でもない。俺に彼女を裁く権利などない。

だが、俺は医者だ。俺なりのやり方で出来る事がこれだった。

この考えも、ただの俺の一人よがりもいい所の最低のやり方だ。

ハマーンが過去を振り返り、自身の過ちに気が付き、懺悔の一つでもさせればいいとな。

その後の事はまだ、考えていない。

脳みその奥底まで腐ってやがったら別の話だ。そのまま連邦軍に突き出せばいい話だ。

軍事裁判なり待っているだろう。

 

ハマーンの覚醒する時間は極わずかだ。一日一時間もない。

脳波データがそれを物語ってる。

そんな感じな状態が1週間続く。

 

宇宙世紀0089年9月中旬

 

ハマーンの意識は随分としっかりとし出していた。

だが、体を起こすこともままならない状態だ。

「私はなぜ生きている」

弱弱しくだが、俺の顔を睨みつけるように目を向ける。

 

「最初に言っただろ?重症のお前さんを俺の診療所に運んで治療したって」

 

「………」

 

「結構酷い状態だったぞ」

 

「……ここはどこだ?」

 

「俺の診療所だって……そうじゃないよな。ここは新サイド6の田舎コロニーだ。おっと自己紹介もまだだったな。俺はエドワード・ヘイガー、しがない町医者であんたの治療を行う者だ」

 

「………」

彼女の視線は俺から天井に移る。

その目からは安堵したかのような印象を受ける。

まあ、大方ここが連邦軍の病院じゃない事が分かったからだろうが……

 

「俺からの質問をするぞ。あんた名前は?」

俺はワザとこの質問をする。

 

「………」

 

「思い出せないか?それとも言えない理由があるのか?」

 

「………」

ハマーンは黙ったままだ。

 

「名前が無いと不便だな。あんたをなんて呼んだらいい」

 

「……好きに呼べ」

 

「じゃあ、ローザってのはどうだ?」

 

「………」

意外と賢い女だ。

今の自分の立場を理解してる。

権力者にありがちな、怒鳴り散らして従わせるような真似はしない。

俺からちょっとづつだが、違和感ない程度に情報を引き出そうともして来る。

 

 

「まあいいか、一応ローザって事で。今日は調子が良さそうだし、いつもとは異なるちょっとした検診を行う。ちょっと手を触るぞ」

俺はそう言ってシーツを半分捲り、彼女の手を取ろうとする。

 

「わ…私に触るな」

 

「おいおい、触るなはないだろ?俺は医者で治療しなきゃならないんだぞ。というかそんなの今更だぞ。あんたを手術したし、検診を今迄だってしてたんだ。今更だぞ?」

 

「くっ……」

ハマーンは思いっきり睨みつけてきた。

少々顔を赤らめていたのは印象的だ。

 

「すまん。わるかった。俺の配慮が足りなかった。年若い女性にいう言葉じゃなかったな。だが検診はさせてくれ。治療やリハビリが出来ない。それと普段の着替えやあんたの体を拭いたり、下の世話は家の妹にやらせていたから安心してくれ、というか妹に会ったら礼でも言ってやってくれ。きっと喜ぶ」

 

「お…お前は……」

更に睨んでくるハマーン。

どうやら、俺は余計な事を言ってしまったようだ。下の世話とかがまずかったか?

だが、この事で分かった事は、年頃の女性並みの羞恥心はあるようだ。

まあ、睨んでくるのはどうかと思うぞ、その辺はお嬢様育ちなのだろう。

 

「悪かったって、そう睨むな。だが、あんたの治療には必要なんだわかってくれ」

 

「………くっ」

ハマーンは目を逸らす。

 

それを了承と取って、彼女の左手を取り、問診を行いながら痛覚などの感覚のチェックを行う。

その後は足の指などにも実施する。

どうやら神経系は大丈夫なようだ。これならばリハビリ次第で元のように戻れるだろう。

だが右足には若干の違和感を感じているようだ。

そりゃそうだ。神経が完全に切れてたからな。

右足については少々時間が掛かるかもしれない。

 

今の所、素直じゃないがこちらのルールに従っている。

体が言う事を聞かないから仕方がない事だが……

生まれながらのエリートによくある高慢ちきに喚いたりしない。

今の自分の立場を理解し、現状での最善を選んでいるのだろう。

やはり賢い女だ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑦リハビリ開始

宇宙世紀0089年10月中旬

 

ハマーンは漸く体を起こせるぐらいに回復する。

しかし、相変わらずツンケンした態度で、名前を名乗らない。

ワザとらしく俺がつけた仮名のローザって思いっきり呼んでやってる。

 

最初にリゼに会わせた時は、流石に目を丸くしていた。

やはり、リゼ…いや、クローン体であるリゼの母体となった人物を知っているようだ。

俺の妹の顔に見覚えでもあるのか?って言ってやったら。

「他人の空似だ」とそっけなく答えやがった。

 

リゼには着替えや体を拭く等を身の回りの世話をやらせているが、大きなトラブルはなかった。

まあ、ハマーンは体がまともに動かせないからな。

 

リゼから様子を聞くと。

リゼの言う事は素直に従うようだが、声を上げて話すことは無い様だ。

頷くぐらいの事のようだ。

まったく、愛想が無い事で…、ちょっとは礼やら褒めたりしろよな。

それでもリゼは、ちゃんとハマーンの世話を焼いている。

 

一応リゼにはそんなハマーンの事を、まだ自分の事をちゃんと思い出せないようだから、根気よく見てあげてくれと頼んだ。

リゼは笑顔で了承してくれた。いい子だ。

 

最近はポツリポツリとだが、ハマーンからリゼに質問をする事がある様だ。

態度はツンケンしてるようだがな。

今は何年何月だとか、ここはどこだとか。

あたりさわりのない情報収集だろうな。

生き残ったハマーンの部下なりが、ここを探し当てて迎えに来ないのをいぶかしく思っているのだろうか?

 

残念ながら、ネオ・ジオン本体は壊滅状態だ。

サイド3も元通り連邦の管理下に戻り、ネオ・ジオンの本拠地だった資源衛星アクシズも連邦に接収されている。

残党は各地に散らばってるようだがな。

そんな状態で、この場所までたどり着くのは無理だろう。

連邦施設に秘密裏に幽閉されてるなんてのは、結構真実味があるかもしれんが。まさか新サイド6の片田舎のここに居るなんて、予想外もいい所だろう。

しかも、既に世間では大々的に死んだことになってる。

あれから10カ月経ってるからな、ハマーンの死を信じず探してる部下もそろそろ諦める頃だろうし、残党兵の中から新たに指導者の椅子にすわった奴がいるだろう。

既に暫定的に代替わりを終わらせているはずだ。

逆に言うと、今更ハマーンが生きて見つかったなんて事になったら、新たな指導者はどう思うだろうか?

ハマーンの事は邪魔でしかないと思うだろう。

よっぽどのハマーン信奉者じゃなけりゃ、普通はそうだ。

逆に生きて見つかったと知れると、暗殺されかねない。

 

一応、ハマーンの事は一年戦争で死んだハズの下の妹が見つかって、看病しているという設定を考えていた。だから下の妹の名前をつけてやった。まあ、結構躊躇はしたんだがな。

悪人に死んだ妹の名前なんてよ。

今の所、わざわざそれを周りに知らせていない。

ハマーン自身、病室から出る事もままならないし。今の所大人しくしている。

 

 

「よお、ローザ!調子はどうだ」

 

「………」

ベッドに上半身を起こし、窓の外の風景を見ているハマーン。

ここから見える風景なんて、農地しかないがな。

挨拶しても相変わらず返事もしないし、目を合わせもしない。

はあ、いい加減ちょっとは、軟化してもいいんじゃないか?

一応俺、あんたを治療してる医者だぜ。

そういう態度を取っているが、俺の治療やリハビリにはちゃんと従うんだよな。

飯も昼食はリゼが学校に行ってるから、俺が口に運んでやってるが、ちゃんと食うしな。

この態度がこいつの素なんだろう。

一体どんな教育を受けたらこうなる?

表情もこう、なんていうか、氷の彫刻みたいに堅いしな。

前途多難だな。

 

「今日もリハビリだ。手の平と足の裏の末端の神経に刺激を与え筋肉を直接ほぐすぞ。全身の電気治療はリゼに帰ってからやってもらう、もうちょっとで自分で飯ぐらい食えるようになる」

 

「………」

 

俺は何時ものように、ハマーンの左手を取り手の平を揉みほぐす。

 

「くっ……」

俺が最初に左手を取ると、ハマーンは俺を睨みつける。

何時もの事だ。いい加減慣れてくれ。

 

「なあ、あんた。身内はいるのか?あんたの帰りを待ってる人ぐらい居るだろう」

俺はハマーンの手の平を揉み解しながら、ワザとこんな質問をする。

素性の分からない患者や記憶があやふやな患者に対してであれば、普通の行為なのだが……俺は既にこいつの素性を知っていてこんな質問をしたのだ。

 

「………」

 

「また、だんまりかよ。……記憶喪失ってわけじゃないんだろ?あんたの態度を見ていればわかる」

 

「貴様には関係ない」

漸く口を開いたらこれだ。

 

「まあ、そうなんだろうが、こちとら医者なんでね、患者の心のケアも仕事の一つなんだよ」

この態度は微妙なんだよな。待ってる身内が本当に居ないかもしれん……だが誰か居てほしいと思ってる?いやそう言う願望だろうか?カウセリングは結構得意な方だが。わかりづらいな。

 

「………」

 

「音楽はこれでいいか?モーツァルトのままで」

かすかに病室に流しているバックミュージックの選曲について聞く。

 

「…ああ」

どうやらモーツァルトが気に入ったようだ。

いや、もっとこうベートーヴェンとかそんな感じのを聞くイメージがあったのだが。

 

「そうか」

そう言えば、ネオ・ジオンについてとか、世界情勢とか一切聞いてこないな。

軍人や軍の上層部だとバレないようにしているのか?

ハマーンってバレてないと思っているのだろうか?

その可能性があるな、意外と俺らのような民間人については疎そうだしな。

お嬢様育ちって感じはする。

その態度は改めろとは今更言わんが、何にしろ、もうちょっとこうあるだろ?

 

「ふっ……」

何故か俺はちょっと笑ってしまった。

 

「何が可笑しい」

ハマーンはやはり俺を睨んでくる。

 

「ちょっとな、なんでもねーよ」

いや、なんていうかな。

あのカリスマの塊みたいな女が、ちょっと抜けてる所があるんじゃないかと思うとな。

俺はそう言いながら、次にハマーンの右手の平をほぐしていく。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑧状況を知る

感想ありがとうございます。


 

11月初旬

個室病室のツンツン患者(ハマーン)はリハビリが進み、自分で飯を食えるぐらい回復した。

病室すぐ横のトイレには何とか手すりと松葉杖を使って行けるようにはなったが、足元はおぼつかない。

リゼがいるときは、トイレまでリゼに手伝ってもらってるが、俺には手伝えとは絶対言わない。

まあ、下の世話はリゼがずっとやってたから今更なのかもしれん。

 

リゼの提案で夕食だけ、ハマーンの病室で俺らもとる事にしてた。

「お姉ちゃん一人は可哀そうだから」ってリゼが言うもんだからな。本当にいい子だ。

ハマーンは嫌そうな顔をしていたが、リゼが懇願するかのようにお願いし「好きにしろ」という言葉を引き出し、今に至る。

相変わらずの氷の彫刻のような表情だが、皆で飯を食うと美味いからな、少しは表情も柔らかくなるだろうことを期待する。

 

 

それと俺はある決断をする。

一つは、近所や近しい知り合いには、ハマーンを一年戦争時に死んだと思っていた下の妹で、さらに重い病気だという設定で、伝えておく。

外に知られるリスクはあるが、ずっと部屋に閉じ込めておくわけには行かないし、リハビリが進めば歩けるようになる。そうなると何れ知られる。

何れ知られるぐらいならば、そう言う設定を浸透させておいた方が皆納得してくれる。

勘のいい連中は気が付くかもしれんが、多分告げ口するような奴は居ないと、信じたい。

はぁ、やっぱあの美人顔は直ぐバレるよな。変装させた方が良いか。

これは後程考えよう。

 

もう一つはハマーンの個室病室にテレビを置く事にした。

ニュースや報道番組で、現在の世界情勢、そしてネオ・ジオンが壊滅した事を知ることになるだろう。

そして、ハマーン自身が戦死した事になってることもだ。

否が応でも、現実を知る事になる。

新サイド6は一応連邦よりのサイドコロニーだから、テレビ番組も連邦の正義を讃え、一方的にネオ・ジオンが悪党扱いされる事が多い。

番組によっては、連邦軍の一部であったティターンズが行って来た悪行など始めから無かったのように、ジオンからネオ・ジオンの数々の悪行をこれ見よがしにアピールして来る。

偏った情報とは言え、テレビはハマーン自身が今置かれてる状況を理解するには十分だろう。

時間はたっぷりある。自身の過去を振り返り、自分が仕出かした所業について考える事が出来るかもしれん。

もしかすれば、今後の自分の身の振り方をも考える事もな。

 

夕飯時はリゼも居る事だし、テレビをつけないようにしてやらないとな。

ニュース番組なんか付けて、ネオ・ジオン特集なんてやっていたら、リゼや俺の居る前では、ハマーンも流石に気まずいだろう。

いや、俺が気まずいだけか。

 

それにだ。

リゼは賢い子だ。この病室でお姉ちゃんと呼んでる相手が、テレビで話題になってる死んだはずのネオ・ジオンの最高指導者ハマーン・カーンだと気が付いているかもしれない。

ただ、それを口にだしたらいけないと思っている可能性もある。

リゼには折見てちゃんと話し合った方が良いとは思っている。

 

 

 

宇宙世紀0089年11月中旬

テレビをハマーンの部屋に添えつけてから、一週間が経った午後2時頃だった。

日課の診断とリハビリに訪れた俺に、珍しくハマーンから声を掛けて来たのだ。

「なぜ私を生かした」

 

「あ~、医者だから?」

俺はワザととぼける。

 

「……何故だ?貴様は分かっているはずだ」

 

「おいおい、貴様って俺は一応あんたの先生だぜ。もう3か月だっつうのに、いいかげんツンケンすんなよな。ドクターエド、エド先生とかって敬意を払って呼んだらどうだ?町の連中はそう呼ばねーけどよ。エドでもいいぞ。あれだ。お兄ちゃんでもいいぜ」

俺はどこまでもおどけてみせる。

 

「ふざけるな!」

ハマーンは威嚇するかのように俺を睨みつける。

 

「わかったよローザ……いや、ハマーン・カーン」

俺は真面目な顔でこう答えてやった。

こうなる事は予想していた。テレビをこの病室に置いた段階でな。

ハマーンは毎日、食い入るようにテレビを見ていた。

自分の置かれている状況も知り、一週間色々と考えたのだろう。

それで俺にこの質問だ。

 

「くっ……貴様、それを知っていて何故私を助けた!何が目的だ!」

 

「だから言っただろ?俺は医者だ。傷ついた奴を見れば助ける」

 

「茶番はいい!」

 

「たまたま、あんたの脱出ポッドが俺が操縦する医療船舶に突っ込んできて、虫の息だったから助けた。それが事実だ」

 

「………」

ハマーンはさらに俺を睨む。

 

「最初は、あんたが誰だか分からなかった。顔がパンパンに腫れてたからな。だがネオ・ジオンの兵士だという事だけは分かっていた。大きな病院に入れれば、あんたはまともな治療も受けられずに連邦の連中に引き渡され尋問されるだろう事は分かっていた。だから俺の診療所で治療したんだ」

 

「……貴様は……ジオンのゆかりの者なのか?」

 

「ちげーよ。ジオンは大っ嫌いだ。この旧サイド4を壊滅させ、俺の両親と妹達を殺した」

 

「ならば、なぜだ!私の事を分かった時点で連邦なりに引き渡さなかった!」

 

「俺は連邦も同じぐらい大っ嫌いなんだよ。あいつらのやり方もな。戦争する奴は全部嫌いなんだよ。戦争を長引かせたハマーン・カーンって悪人もな!」

 

「くっ……」

ハマーンの表情が歪んだ。

 

「言い過ぎた。……だがな俺の心情はそうだ」

 

「なぜ生かした!私はあの時に死ぬべきだった!」

 

「知らねーよ、そんな事。あんたがハマーンだろうが誰だろうが、助かる命を助けた。たまたま拾った命がハマーン・カーンだっただけだ」

 

「私を殺せ……」

 

「なんで医者が自分の患者を殺さなきゃならない。確かに医療には一つの命を助けるためにもう一つの命を諦めなくちゃいけない時もある。だがな今は究極の選択を迫られてる状況じゃねー。だからあんたは、俺の患者である限りは死なせねーよ」

 

「なぜだ?」

 

「俺にもわかんねーよ。ただ、あんたが生きて、自分のやって来た事を振り返る時間は作ってやろうとは思っただけだよ」

 

「くっ……」

ハマーンは苦悶の表情を浮かべていた。

 

「とりあえず、あんたが元気になるまでは俺の患者だ。誰にも引き渡すつもりも無いし、死なせやしねーよ。そんな事をしたらリゼが悲しむしな」

 

「………」

 

「どうしても気にくわねーってんなら、勝手にどこへなりとも行けばいい。もう少しすれば、ちょっとは歩けるようになる。だがな、リゼや俺にちょっとでも何らかの気持ちを持っていてくれるなら、リハビリを終えるまで大人しく俺の患者でいろ。いいな」

俺はそう言って病室を出て行った。

自分自身の心を落ち着かせるためにな。

 

俺自身、頭に血がのぼってるのは分かっていた。

殺せだとふざけやがって。その言葉が一番気にくわなかった。

 

少々落ち着いたところで気が付いたが、わけわからんねー事やら、キザったらしいことを言っちまった。

しかも、結構きつい事を言ったよな。我ながら大人げなかったか?

よく考えたら、ああ見えてハマーンはまだ22歳の小娘同然なんだよな。

大学卒業するかしないかの年だ。

はぁ、何であんなことを言っちまったんだ?ろくに歩くことも出来ない弱った人間にだ。

最低だろ。…マジで無理して出て行ったらどうしようか?

今から、やっぱりさっきの言った事は無しって、訂正したほうがいいか?

ああくそっ!俺もまだまだガキってことかよ!

 

 

 

 





遂にハマーンとエドが言い争いに……
ハマーンの感情は……弱ってる感じで……
エドの感情がちょっと支離滅裂でいっぱいいっぱいな感じで書けていたらいいなと。
自分の感情に翻弄されてる感じですかね。

連続投稿です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑨真夜中の和解

続きです。


ハマーンとの言い合い、というか俺が一方的に喚き散らしてた気がする。

我ながら大人げない対応を取ってしまった。

 

その晩の夕食は、何となく気まずかった。

ハマーンは何時も、表情が硬いし無口だから、いつもと変わらんように見える。

だが、多感な年頃のリゼには何となく空気感でわかったようで、後で俺に「お姉ちゃんと喧嘩でもしたの?」といわれる始末。

 

はあ、12歳のリゼにもこんな事を言わせてる俺は、ダメな大人だ。

 

 

俺はその晩にハマーンに一言詫びでもいれようとしたが、何となく踏ん切りがつかずに診療所の外に出たり入ったりとうろうろしていた。

 

外からふとハマーンが寝ている病室を見上げると、部屋は真っ暗だったが窓が開いていた。

リゼが閉め忘れるはずが無い。だとしたらハマーン自身が開けたのだろう。まだ起きてるんじゃないか?

俺は意を決して診療所の2階のハマーンの病室にノックをする。

「ちょっといいか」

 

「………」

相変わらず返事が無いが、起きてる気配はする。

 

「入るぞ」

そう言って俺は扉を開ける。

 

「………」

ハマーンはベッドから窓の外、夜空を見上げていた。

この15番コロニーは農業や畜産生産目的で作られたコロニーなため、密閉型ではない。

円筒の3面は強化ガラスで覆われており、見上げれば宇宙が何時でも見える。

更に、夜になりコロニー内部の照明が切れると宇宙の星が近く感じられた。

 

「昼間は言い過ぎた。医者が言う言葉じゃなかった。すまない」

俺はハマーンに頭を下げる。

 

「……ふん。上に立つ者として悪評や罵詈雑言は覚悟の上だった……。だがな少々堪えた」

 

「弱ってる人間に言う言葉じゃない。本当はあんたが完治した後に言ってやろうと思っていたんだが、ついな」

 

「……結局お前は言うのだろう。悪人か……面と向かって言われたのは初めてだな」

 

「すまん」

 

「……私は悪人と言われるような所業を重ねて来た自覚はある。ただ戦争に勝利すれば、すべてが正義となると信じていた……だが敗者はただの悪党に成り下がる。私のようにな」

 

「まあ、歴史を振り返りゃそうかもしれんが、俺からすりゃ勝った連邦も悪党の巣窟だぞ」

 

「ふっ、お前はおかしな奴だ」

 

「そうか?普通だと思うぞ?」

 

「そうか、普通か」

 

「話を戻すが、俺は医者失格な発言をしてたんだよ。ちょっと感情的になっちまってな。医者は患者に対して悪人も善人もない。等しく患者の生命を救わないといけないんだよ。だから、すまない」

 

「お前の自論だと、医者とは皆、聖人君子でなくてはならないようだ。だが、私が知ってる医者という人種は全員私と同じく悪党だった」

 

「いやいや、全員っておい。まあ、そんな連中もいるが、ちゃんとしたまともな奴も結構いるぞ」

そうだな。医師会の理事長はあれは悪党、いや小悪党ってところか。

 

「……お前はおかしな奴だが悪党ではないようだ」

 

「そいつはありがとよ。褒められてる気はしないが」

 

「……ありがとうか……私はそんな単純な言葉でも人の裏を読もうとしてしまう。だがお前には悪意が無い」

 

「……多少皮肉ったつもりだったのだが」

 

「そうなのか?」

 

「……今日のあんたはよく話してくれる。いつもこうだと医者としても助かるんだが」

 

「今宵は、星が今迄になく澄んで見える。アステロイドベルトでは毎日見ていたのにだ」

 

「なんだ?星が綺麗に見えたら話してくれるのか?」

 

「そう言う事にしておけヤブ医者」

 

「なんで上から目線なんだよ。……まあ、ちゃんと体が動く様になるまで面倒見てやるさ」

 

「私は悪党なのだろ?いつ裏切るかわからんぞ」

 

「そん時は、心置きなく連邦軍に突き出してやる」

 

「……好きにしろ」

 

「安心しろ。俺の患者で居る限りは、あんたを誰にも引き渡さん」

 

「…………」

ハマーンは窓の外の星々に再び視線を移す。

 

「それにあんたは今、俺の死んだはずの妹、ローザってことになってる」

 

「………」

 

「夜分にすまなかったな。窓は閉めておく。コロニーとはいえ流石に11月のこの時期の設定温度は低い」

俺は病室の窓を閉め、部屋を出て行く。

 

 

翌日から、態度は軟化するものだと思ってたんだが、俺の考えは甘かった。

普段は相変わらず無口でツンケンしてやがる。

 

ただ、たまにこんな感じで会話をする時間が出来た。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑩閑話:下着選び前編

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

番外編です。
今回はメインストーリーと全く関係ないお話を挟んでます。
まあ、日常系のですかね。
休憩話みたいな。


「エド、リゼちゃんのちゃんと選んであげないと」

 

「アンナさん。何?藪から棒に?」

近所のアンナさんがまた野菜のおすそ分けをしてくれたんだが、俺にこんな事を耳打ちする。だが何の事か俺には分からなかった。

リゼの何を選ぶんだ?一応学校に必要なものは全部用意してるし、欲しいものが在れば言う様に言ってる。多少の小遣いも渡してる。

 

「リゼちゃんこの頃、ちょっと膨らんできたでしょ?」

 

「何が?」

膨らむってなんだ?

まさか食いすぎで腹が…いやいや、リゼはどちらかというと線が細いぞ。

 

「胸よ胸!リゼちゃんもそろそろブラジャーが必要よ」

アンナさんに肩を軽くたたかれる。

 

「おっ?」

ブラジャーって、そう言う事か、リゼの乳房が発達したという事か……1年前と見た目あまり変わらない気がするが……

 

「おっ、じゃないわよ。まったくどこか抜けてるんだから。リゼちゃんは何時までも子供じゃないのよ。今からドンドン女性になって行くんだから」

 

「気が付かなかったな。ありがとうアンナさん。リゼが学校から帰ったら一緒に買いに行ってくる」

そうか、リゼもそんな年頃か、そう言えば亡くなった上の妹もそんな時期があったな。

 

「……エドだけでは心配だわ。私がついて行って上げようか?」

 

「大丈夫、大丈夫、これでも医者だぜ」

 

「……気が付かなかったのに?」

アンナさんにジトっとした目で見られる。

確かにそうなんだが、毎日顔を突き合わせているから微妙な違いは気が付き難いというのは、単なるいいわけか。

 

「下着の買い物ぐらい大丈夫だって」

と、アンナさんに言ったものの……この15番コロニーの中心街にあるショッピングセンターに買いに行くつもりだが、俺が選ぶわけじゃない。もちろん下着売り場で店員さんに頼んで選んでもらうんだけなんだけどな。

ちょっとまてよ。子供下着売り場に行けばいいのか?それとも女性下着売り場か?

リゼはもうすぐ13歳だが……どっちなんだ?

 

 

 

一応ハマーンにも声を掛けておく。2時間外出していても大丈夫だろう。

まあ今迄だって、1時間程度なら今迄スーパーやらの買い物で出て行っていたしな。

まだ本人には外出許可を出していない。リハビリは進み、室内程度ならゆっくりだが歩けるようになっが、まだ外には出るには早い。

今ではトイレの補助もいらないし。この頃は一人でシャワーにも入れるようにはなった。

順調に来ている。

 

 

…ん?んん?

 

しまった!……うちにはもう一人女性が居た。

完全に失念していた。

ハマーンもいつまでも患者衣ってわけにもいかんだろう。

リハビリも次の段階にいくと体を結構動かすからな。

下着や寝間着、動きやすい室内着は勿論そのうち近辺の散歩ぐらいは出来るようになるから普段着ぐらいは用意してやるか。

 

ん?そう言えば、その事に文句ひとつ言わなかったな、ハマーン。

 

 

 

リゼが中学校から帰った後、事情を説明してブラジャーを買いに行くことになる。

何故か嬉しそうなリゼ。

たかが下着買うのに何が楽しいんだか……

 

一応ハマーンに一言言ってからリゼと街に出かけた。

 

女性用下着売り場に到着、ジュニア用などもちゃんと置いてあった。

店員さんにお願いして、リゼの下着選びが始まる。

「お兄ちゃんどれがいいかな~」

「好きなのを選んだらいい」

「お兄ちゃん選んでよ~」

「勘弁してくれ……まあ、学校に行って恥ずかしくない奴にしとけよ」

「お兄ちゃんの意地悪!」

「……はぁ」

20代中半の女性店員さんはそんな会話を微笑ましそうに見ていた。

後はこの店員さんに任せよう。

店員さんは親切丁寧に、サイズを図り、ブラジャーの付け方やら選び方などもリゼに教えてくれる。

 

リゼは店員さんに任せて俺はハマーンの下着を買わなくては。

よく考えるとこっちはかなり難易度高いぞ。

本人が居ない上に、大人の女性の下着だ。

まあ、今更だな。

とっとと選んで買って帰ろう。

早速、女性の下着コーナーに踏み入れたのだが…

うーむ。なにこれ?女性用下着って種類がこんなにもあるのかよ?

ブラジャーだけでもこんなに色々あるのか。

カップ?胸のサイズか……

ハマーンの治療初期の頃に身体データを全て測っている。自動診察台がオートで全部データ化させていた。ただ……カップが分からん。アンダーとトップとの差だったか?たしかCかDぐらいか?ちゃんと事前にネットで調べるべきだった。

店員さんに聞くしかないか……

しかし、色々あるな。

あいつはまだ病人だし、窮屈なのは避けた方が良さそうだ。サイズは余裕を持った方がいいか、肌触りもいい奴がいいだろう。

色は……黒か?紫か?レザーとか超ぴったりだが、それは入院患者には流石に不味いか?

ちょっと待てよ。あいつ、ブランド物の高級品しかいらねーとか言いだしそうだぞ。

その時は贅沢言うなと言って有無を言わさずに着させるしかないか。

 

「あの~、彼女さんにプレゼントを選ばれてるのですか?」

俺と同じ年代ぐらいの店員さんが俺に声を掛けて来る。

なんかちょっと言い方にトゲがあるんだが……不審者だと思われたか?

 

「ああ、そう言うのとはちょっと違う。妹だ。あっちで下着を選んでる子の姉の物だ。入院していて下着やらを一式新調しないと行けなくてな。サイズは聞いてるんだが……」

 

「そうですか。では……」

店員さんはちょっとホッとしたような表情した後に、親切丁寧に選ぶのを手伝ってくれた。

やっぱ、女性下着コーナーに男一人ってのは、怪しがられるか。

 

店員さんに勧められてたのは、なんか柔らかい素材のブラ、スポーツブラに近い形状だ。締め付け感などが少ないものらしい。色も無難なホワイトとグレー。

 

次はパンツか……サイズは腰などの大きさのデータからって……まあ、店員さんに聞いた方が早いな。

 

その次は寝間着を選ぶとするか……

ネグリジェとか着てそうなイメージだが……病人だし、シンプルな奴でいいか。

無難に淡いピンクの無地のパジャマとかにするか。

 

ハマーンの寝間着を選んでいると、ブラジャーを選び終えたリゼが、短めのツインテールを揺らしながら俺の元に駆け寄って来る。

「お兄ちゃん!これとこれとこれいい?」

「ああ、全部買い物籠にいれとけ」

「ありがとう!お兄ちゃん!」

「ついでにリゼもパジャマを買うか?」

「うん!」

 

結局、リゼもブラジャー以外にパンツや寝間着、普段着一式を買う事になった。

ハマーンの寝間着を選んでると、リゼがお揃いが良いと言って、リゼは可愛らしいウサギキャラクターデザインが散りばめられているピンクのパジャマを俺に勧めて来るが…俺は丁重に断る。リゼの分はそれでいいとして、流石に22歳のハマーンにそれは無いだろう。

ハマーンの分は俺が最初に目をつけていた、大人し目の淡いピンク地のパジャマに決める。

普段着と室内着は、店員さんに無難な奴を三着選んでもらった。

これで一応大丈夫だろう。

後は、当のハマーンが文句言わなきゃいいがな。

 




明日には、後編を投稿いたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑪閑話:下着選び後編

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。






買い物から帰った後、リゼは買った服を次々と着せ替え、ポーズを取って俺に見せる。

要するにプチファッションショーだな。

下着姿も見せようとしていたが流石に止める。

その後、病室のハマーンの所に、買った服を見せに行ったそうだ

ついでにリゼに今日買ったハマーンの服やら下着も渡してもらえばよかったか。

 

その晩にハマーンにも買ったものを渡しに行く。

 

「なんだこれは?」

ベッドの淵に腰を掛けていたハマーンの横に大きめの紙袋を置いてやると、訝し気に聞いてきた。

 

「リゼがさっき言ってなかったか?服やら下着やらお前の分だ。何時までも、患者衣じゃ不都合だろ?」

 

「私はかまわん」

 

「リハビリも本格化するからな。もう少しすれば、近所に散歩程度、出来るようになる。動きやすい服も必要だし、何より下着は必須だ」

俺はこの個室にある木製の椅子をハマーンの正面に持って行き腰掛ける。

 

「ふん」

相変わらずのツンケン具合だが、もう慣れた。

こいつは人に頭を下げた事が無いのだろう。

礼の言葉は知っていても礼の仕方が分からないのかもしれん。

 

「自分で着替えが出来るようになっただろ?これもリハビリの一環だと思って着るように」

 

「……お前が選んだのか?」

 

「いいや。店員に選んでもらった」

 

「………ならば仕方がない、着てやる」

ハマーンの奴、一瞬不機嫌な顔をするが、俺に含みのある笑みでこんな事を言いやがった。

 

「おい、俺が選んだら着ないつもりだったのかよ」

 

「……ふん」

ツンツンしやがって。

 

 

 

翌日の午後

ハマーンのリハビリを次の段階に移行させる。

この個室病室で出来る簡単なプログラムだが、結構体を動かすことになる。

ハマーンは昨日買ってやったゆったり目の室内着に着替えていた。

 

リハビリの際、ハマーンの体支えたりとサポートを行っていたのだが違和感を感じる。

「ん?……下着付けてないのか?」

 

「バカにするな」

 

「いや……ブラしてないだろそれ」

 

「ふん、私はしない主義だ」

 

「いや、胸張って言う事じゃないだろ?擦れるんじゃないのか?」

ゆったりした室内着だからな。まあ、個人差はあるだろうが……

この様子だとパンツの方はちゃんと履いてるようだ。

 

「ちっ……放っておけ」

 

「お前もしかして、ブラしたことがないとか?」

 

「…………」

だんまりかよ。

このパターンは…図星だったようだな。

マジでか、まあ、世の中ブラをしない女性も確かにいるが…ごく少数だぞ。

 

「はぁ、リゼが昨日店員さんに付け方を教えて貰ってるから、リゼに教えて貰え」

 

「必要ない」

 

「……まあ、人それぞれだけどよ。リハビリするときはつけた方が楽だぞ。それと病室では構わないが……。他人の前や、家の外に出るようになったら着けるようにしろよ。マナーでもあるし、無用なトラブルに巻き込まれる可能性だってある。こののどかな田舎だからって油断はできん。お前さんは結構な美人だからな」

買った普段着は露出が多いわけではない。普通にしていればノーブラでも気づかれにくいだろう。

だが、こう言うマナーは学んだ方が良い。

普通に社会の中で生きていくには、トラブルに巻き込まれるリスクはなるべく減らした方がいいからだ。

 

「…………」

 

「お前が前いた環境ではそれがまかり通っていたが……ここは違う。皆普通に生きている人間ばかりだ」

こいつの場合、お付きの人がいて、着替えやらを全部やって貰ってたとか、ありそうだよな。

きっと、超セレブだったのだろうし。

 

「………考えておこう」

少々間をあけ、ハマーンは答える。

ほう、大分マシな返事じゃねーか。

また、だんまりか文句の一言二言あるかと思ったが……

 

「わかった。リゼが学校から帰ったら言っておく」

ハマーンと少ないながらも言葉を重ねて来て分かった事だが、俺らが一般常識だと思っている事がハマーンに通じない事がある。

こんな些細な事でもそうだ。

ハマーンがどういう風な環境に置かれ、育ってきたのかは分からん。詳しい事情もわからん。

だが、ニュースやらで見れば、16、7歳ぐらいからネオ・ジオンの実質トップをやっていたらしい。

普通の環境ではないのは誰が見たってわかる。

はっきり言って異常だ。

周りの大人は何をやっていたんだ?

今のハマーンを見て、そんな話を聞いてしまえば、16、7歳の子供にそんな重責を押し付けた大人連中に憤りもわく。

確かに旧世代王政時代には、王族は帝王学を学び、若くして王になる事も在った。

だが、ハマーンは違う。家臣の出だ。

飽くまでもネオ・ジオンの王はザビ家の生き残り、その生き残りがほんの子供であるとは聞いているが……

 

ああ、くそ!なんだこの感情は?……ハマーンに同情か?あいつはああ見えて悪党だった…その事実は変わらない。

しかし……

 

 

 

数日後、リゼから申し訳なさそうに……

「お兄ちゃん。お兄ちゃんに買ってもらったね。クマさんのパンツが無いの。無くしちゃったかもしれないの。まだ、履いてないのに。ごめんなさい」

 

「そうか、誰だってミスはある。ちゃんと謝るのは偉い……ん?クマさん?」

どこかで見た事があるような……確か白地のパンツにクマの顔のマスコットが大きくプリントされたのを見たよな。

そういえば……今日洗濯したな。

という事は誰が履いていた……まさか?

 

という事はだ。

そう言う事なのだろう。

ハマーン……気がついてほしいが……、一般庶民は大人でもクマさんパンツを履くものだと認識してしまったのかもしれん。

 

「リゼ……こんど新しいのを買いに行こう」

「本当!ありがとうお兄ちゃん」

 

俺のミスだなそれ、ハマーンに渡した下着や服に、リゼのクマさんパンツが紛れさせていたようだ。

 

……ちょっとクマさんの顔が伸びてたしな。

 

ふぅ、あのクマさんパンツの処遇をどうすべきか、ハマーンにどう説明したらいいのか?

 




閑話終了です。
ちょっとしたギャグテイストでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑫冬空

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

本編にもどります。


宇宙世紀0090年1月午後

新年を迎える。

ハマーンのリハビリは進む。

ゆっくりとした足取りだが今では近所に散歩に出られる程度に回復した。

その際、ご近所やら知り合いには、ハマーンの事を死に別れたはずの下の妹ローザだと説明する。

一年戦争で記憶喪失になり、先の戦役で兵士にさせられ重傷を負い、偶然見つけたという事にした。

ただ、そのままの姿だと直ぐにハマーンだとバレてしまう。

ネオ・ジオンのハマーン・カーンの顔は全世界に広まっているからな。

ハマーンの髪の色は、俺とリゼと同じ色の薄い栗毛色に染めさせた。

髪は随分と伸びたため、頭後ろ右斜め下でまとめ、肩から前に出し括っている。サイドダウンって言う髪型らしい。

その髪型のお陰で、多少柔らかい印象を与えてくれるだろう。たぶん。

それ以上の事はしていない。

メガネやサングラスなんて、余計な事をすれば余計に怪しまれる気がしてならない。

まあ、ハマーンに似ている人程度に思ってもらっても構わない。

逆にその方が後先の事を考えるといいかもしれない。

隠しすぎるとボロが出る可能性が高いからな。

最悪、影武者をさせられていたとでも言っておけばいい、このご近所で誰かにチクるような人は居ない。

それに何だかんだといって、15番コロニーの住人は連邦にもジオンにもいい印象を持っていない連中ばかりだ。

しかし、特徴のある髪の色と髪型を変えるだけで、随分と印象が変わるもんだ。

本人は相変わらず、ツンツンした厳しい顔つきをするがな。

もっと柔らかい表情をすれば、バレる心配は減るはずだ。

だが、リゼの前ではそんなにツンツンしていないらしい。

 

 

今は、ハマーンのリハビリを兼ねて散歩に出かけている。

畑用の貯水池の畔にあるベンチで休憩中だ。

因みに1月だが、畑には農作物がちゃんと植わって育っている。

地球の北半球では冬にあたるが、そこまでコロニーでは再現していない。

季節の移ろいが分かる程度の多少低温設定にはしている。

特に農業が盛んなこのコロニーは、温度管理は重要だ。

この時期は低温帯で育つ野菜などを育てている。

出来るだけ自然に近い形で育て収穫する。

しかも無農薬で遺伝子の操作を行っていないこの15番コロニー産の野菜は、新サイド6では健康志向の強い客層からは名が知られていたりする。

 

「大分、いい感じだな。もうそろそろ退院しても問題無いだろう」

 

「………」

ハマーンは無表情に空を見上げていた。

見上げた先には人工の雲と霧、その隙間から対面の地面と宇宙が見えるだけ。

 

「そのまま、放り出すような真似はしないから安心しろ。以前のように動けるようになるまでには、まだまだ時間が掛かるしな。ただ自分の身の振り方は考えておいた方がいい。自分がどうしたいか、何をしたいかをだ」

 

「………お前はなぜ私を生かした」

 

「またそれか。お前に考える時間をやって、説教垂れてやろうと思っただけだって言ったろ」

 

「今の私には何もない……ただの抜け殻だ」

 

「そうかよ」

 

「私はジオン再興のために尽くし……いや、なぜ私は地球連邦を打倒しジオンの再興などと考えたのか……冷静に考えれば、あの戦力では不可能だろう。何せ人材が乏しかったのだ。グリプス戦役に大幅に戦力がダウンしたと言えども、連邦の地球での戦力は健在だった。あの戦いの後に連邦上層部が混乱している内に休戦協定を結ぶのがベストだったのだろう。グリプス戦役に横やりを入れ、介入したのは千載一遇だった。少なくともサイド3は独立させることはできた可能性は高い」

 

「なんだ?まだジオンの再興とかを考えているのか?」

 

「いいや……」

 

「そうか、そりゃよかった」

 

「何がだ」

 

「お前が、そんな事を考えていやがるなら……お前をあの病室に閉じ込めにゃならないって思っただけだ」

 

「私を連邦軍に突き出すのではないのか?」

ハマーンはフッと口元だけ笑う。

 

「俺は連邦軍も嫌いだ。それは最終手段だ」

俺は憮然と答える。ハマーンの奴が何となく俺を見透かしているようで、何となくむかついた。

 

「ただ……残してきたミネバ様と妹の事だけは気がかりではあるが……今の私にはどうすることも出来ない」

 

「ミネバって、ドズルの忘れ形見か……ん?お前妹居たのかよ」

 

「……あの子、セラーナだけは、ジオンに関わらせたくなかった。私と同じ道を歩ませたくはなかった。私の弱点でもあった。だから遠い場所に送った。もう6年も会っていない。さぞかし私を恨んでいるだろうな」

 

「お前……」

 

「私はこの世にいるだけで害悪しかならない存在だと認識している。今更ネオ・ジオンに戻る気もない上に、既に邪魔者であろう。そうかと言って連邦になどにこの命をくれてやるのも癪に障る。……だがお前の言う様に私は悪党だ。悪党の最後は悲惨な死と決まっている」

 

「死ぬつもりか?折角拾ってやった命を無駄遣いする気かよ。命の使い方は自分次第なんていうがな、その命、もっと有効活用しろよ」

 

「ふぅ、お前は酷な事を言う。悪党に死に場所も与えてくれない」

 

「当面は生きる事を考えたらどうだ?生きていれば妹にも会えるだろ?」

 

「私はこの身をすべてジオン再興に掲げて来た……他の生き方など想像もつかない」

ハマーンは相変わらずの仏頂面の無表情だったが、かすかに表情が動いていた。

 

「はぁ、とりあえずここで考えたらいい。今のお前は俺の妹ローザだからな。前のように体が動けるようにでもなれば、やりたい事も出てくるだろう」

 

「私がここに居るだけでお前にとってリスクだぞ。ネオ・ジオンにとっても、連邦にとっても私が生きていると知れれば、抹殺に来るだろう事は想像に易い」

 

「今更だな。ようは知られなきゃいいだけだ。お前は知らないだろうが一年戦争後に元ジオンの高官やら、連邦のお偉いさんまで、戦争に嫌気をさして、名前を変えてひっそりとこのコロニーに住んでたりするんだぞ。今じゃどう見ても、農家のおっさんだったり、食品工場の工場長だったりしてるけどな」

 

「お前にとって何の得がある……リゼの事もだ。あの子は……」

 

「リゼは俺のせめてもの贖罪のつもりだった。救えなかった妹達の代わりにな……リゼにとってはいい迷惑な話だが。お前は……なんだ?拾っちまったからな。しゃーなしだ」

 

「ふっ、おかしな奴だ」

口元だけで笑うのはやめろよな。

また見透かしてるような顔をしやがる。

 

「ああ、そうかよ」

まあ、しっかり考えて答えを見つけたらいい。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑬一つの節目

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きです。


宇宙世紀0090年1月下旬

ハマーンは一応、退院が出来る状態ではあったが、怪我をする前の状態にまで回復してはいない。

今後もリハビリは必要だ。

だから、この診療所に置いてやってる。

個室病室もそのまま使ってる。

この診療所、滅多に入院患者なんて出ないし、そんな重病だったら大きな病院に移って貰ってるしな。

 

本人は何をしたらいいのか分からないようだ。

まあ、急に人生の目標がなくなったらそうだろう。

しかも、ジオン再興とかって、やばいレベルの物をな……

とりあえず、リハビリも兼ねて家事の手伝いをさせて見たのだが……

 

「お姉ちゃん洗濯機に洗剤を全部入れたらダメだよ。この蓋の目盛り分だけでいいの」

「おい、なんで掃除機が火事になる」

「ジャガイモは皮を剥かないとだよ。お姉ちゃん」

「包丁は投げナイフじゃねー、握り方はこうだ。アブね!俺を刺すつもりか?」

 

ハマーンは超がつく家事オンチだった。

今は13歳になったばかりのリゼが23歳になったばかりのハマーンに家事洗濯から料理まで一通り手ほどきをしている。

生活能力はほぼゼロだ。

やっぱりお嬢様育ちだったようだ。

しかし、文句も言わずにやろうとしてる姿勢はいい傾向だ。

へこたれて引きこもりになられても困るしな。

 

 

ハマーンには一応退院祝いとリゼとハマーンの誕生日祝いと称して、中心街のショッピングセンターに買い物に出かけた。

前は俺が買いに行ったが、今度は自分で服やら下着やらを選ばそうとしたのだが、困ったことにハマーンは自分で服を選んだことすら無い様だ。

また、店員さん頼みになる。

ハマーンと店員と服のサイズやら着心地感などと直接話をする機会があったが「ああ」「そうだ」など、やはりそっけない返事しかできない。

流石に最初の頃を考えれば、まだましか……。

 

その後、レストランで飯を食って帰るが……

ハマーンはレストランの味に不満があるようだ。

家の飯の方が良いらしい。

俺の作った飯がか?リゼの飯も俺が教えたものだし……基本パスタが多いし、レパートリーも多いわけじゃない。

手の込んだものはあまり作らないしな。

俺は昔、忙しい両親に代わって、妹達に飯や弁当も作ってやった。

妹達にとって俺の飯がお袋の味だったようだがな。

 

 

その晩、ハマーンとはある約束をした。

家での生活をするにあたって、簡単な約束事だ。

 

近所とのトラブルを避けるために言動には気をつけろ。

自分の事は自分でしろ、家の手伝いはしてもらう。

ネオ・ジオンやジオンとの関係は金輪際絶て。

これを守れるなら、ここに居ていいと言った。

 

それに、自分がやりたいことが見つかれば、やればいいとも言ってやった。

俺はここでようやく、情報端末機(スマホみたいなもの)を渡す。

今迄、ハマーンの周りにネット環境を置かなかった。

ネオ・ジオンと連絡を取り合う危険性もそうだが、ネットにあふれる不用意な情報をあたえるのは憚れたからだ。

 

 

 

 

宇宙世紀0090年2月3日

そんなある休診日……

「よう、エド。今日も診断たのむわ」

 

「トラヴィスのおっさん!わざわざ休診日に来るなよな!来るなら連絡位よこせ!出かけてたらどうするんだ!」

 

「エドが出かける?出かけても2,3時間だろ?待ってリゼちゃんに相手でもしてもらうし~」

このおっさんは相変わらず図々しい。

 

「リゼも居なかったらどうするつもりだ!」

 

「おっさん外で待ってるし~、どうせ暇だし~」

 

「はぁ、このおっさんに今更文句を言っても始まらねー」

しかし、丁度いい機会かもしれない。

このトラヴィスのおっさんにはハマーンの事を話しておいた方が良いな。

さて、どう説明するか。

 

 

「ただいまーー!あれ?トラヴィスのおじちゃんだ。こんにちは!」

「………」

元気いっぱいのリゼと軽く頭を下げる仏頂面のローザ(ハマーン)がタイミング悪く帰って来る。

リハビリの一環で散歩へと二人で出かけていたのだ。

 

「…………」

トラヴィスは挨拶を返すのも忘れたかのようにハマーンの顔をじっと見ていた。

気づかれたよな。気づいたよなきっと。このおっさん。今でこそこんな感じだが、元連邦軍で一年戦争の中、ジオンのエース部隊と戦いつつ、連邦の暗部に触れながら生き残った男だ。

頭は相当切れる。

しかも、行方知れずの息子さんの件でネオ・ジオンの事はよく調べてるはずだ。

 

「おっさん。こっちは1年戦争で行方不明になった妹のローザだ。最近見つかってやっと退院できたばっかりだ」

 

「あ、ああ、すまん。リゼちゃん相変わらず元気だね。えーっとローザさん。俺は16番コロニーで重機器の中古販売店を営んでるトラヴィスです」

おっさんが敬語?絶対気が付いてるな。

 

「リゼ、ローザ。ちょっとおっさんと出かけて来るわ。ちょっと来いおっさん」

俺はトラヴィスのおっさんを引っ張り、診療所の入口を出る。

 

「行ってらっしゃい。お兄ちゃん!」

「………」

リゼは屈託のない笑顔だったが、ローザはいぶかし気な目をトラヴィスに向け、俺に目を合わせて来た。

 

「ああ、直ぐに戻る」

俺はローザにアイコンタクトを取る。心配するなと……

 

 

俺はトラヴィスのおっさんを強引に引っ張り、畑の真ん中にある池の畔に連れて行く。

ここは、ハマーンとの散歩コースの中継地点でもある。

「エド……お前……あの子はあの女は………」

「俺の妹のローザだ」

「しかし……あれはハマーン・カーンだ。生きていたのか?いや、エドどういうつもりだ」

「おっさんには何れ話すつもりだった」

「確かに、髪型も髪の色も違う。雰囲気もちょっと違う気がする。確かにハマーン・カーンは死んだ。連邦もサイド3もそう断言している。しかし、あの女からは血の匂いがする。戦場の血の匂いがな、おれの勘がそう言っている。あの女はハマーン・カーンだと」

おっさんは口調が何時もと違い真剣そのものだった。しかも珍しく動揺しているのが目に見える。

 

「……そうだ。俺がサイド3に戦時派遣医師団で緊急避難する際に拾った。当時は怪我が酷くて誰が誰だか分からなかった。ネオ・ジオンの軍人だとしかな。だが1カ月経って分かった」

 

「エドお前……どうするつもりだ」

 

「どうもこうもしない。怪我してる奴がいたから治しただけだ」

 

「………いや…しかし」

 

「俺はあいつを治して説教するつもりだった。というか説教は済ませたけどな」

 

「連邦に引き渡す……いや」

 

「連邦に引き渡してどうなる?既に世間に死亡したとお触れを出してしまった後だ。拷問でもして、人知れず処刑するだろう。あんたも連邦のやり方を知ってるだろ?」

プライドが高い連邦の上層部は一度公表した死亡確定を覆さないだろう。

ならば、尋問し必要な情報を吐かせてから、処刑するだろう事は分かり切っている。

しかも俺は口封じのために暗殺者を差し向けられるだろう。最悪、その魔の手はリゼにまで及ぶ。

トラヴィスのおっさんにだって分かってるはずだ。連邦の闇を見て来たおっさんならな。

俺が彼女を拾い治療した段階で、選択肢なんて無かったんだよ。

 

「おっさん。見逃せ……いや、協力してくれ」

 

「エド……なんでお前」

 

「おっさんにとっても悪い話じゃない。彼女ならあんたの息子ヴィンセントの居場所が分かるかもしれない。俺が聞き出す。まあ、一年も前の話にはなるが、それでも追跡はできるだろ?」

俺はトラヴィスのおっさんを説得に掛かる。

やり方は汚いが、ギブアンドテイクだ。

 

「いや……それはありがたいが………エド、お前だよお前はどうするんだ?」

おっさんは息子の事もあるだろうに、俺の事も心配してくれてる。

いつも軽口をたたき合ってるが、この情に厚いトラヴィスという人間を基本的に信頼し尊敬してる。

 

「俺?俺は今までどおりだけど……まあ、おっさんが協力してくれるし大丈夫だろ?」

 

「エド、相変わらず肝っ玉はでかいな。いいだろう。乗ったその話」

動揺が混ざったおっさんの顔は漸く何時のような適当な感じに戻り、ため息を吐きながら了承する。

 

「よろしくなおっさん」

 

「はぁ、お前と出会った時も驚いたが、今日程驚いたことは無かったぞ」

 

「そうか?」

 

「で、本当の所はどうなんだ?ハマーンに惚れたのか?」

おっさんは何時ものいやらしい笑みを浮かべてくる。

 

「アホかおっさん。……治療していくうちに情が湧いたのは確かだ。俺の下の妹が生きていれば、本当にハマーンと同じ年だったんだ。……俺の妹と同じ年なんだよ」

 

「エド……」

 

俺は一年戦争で何もかも失った。

故郷も家族も友人も恋人も………。

だが、残ったものもある。

この体と戦友と言える連中との絆だ。

それに今では15番コロニーが新たな故郷になり、リゼが俺の元に来て……、あいつ(ハマーン)も来た。

あいつは戦争を長引かせた悪党ではあるが、あいつも一年戦争から続く負の連鎖の中で生きて来た被害者でもあった。

戦争は嫌いだ。戦争を起こした連中も嫌いだ。

だが……窓から宇宙の星々を寂しそうに見上げるあいつを誰が憎むことが出来る。

 




トラヴィス・カークランド元連邦軍中尉
地球連邦軍第20機械化混成部隊「スレイブ・レイス」の部隊長。
表向きは新兵器実験部隊だが、裏では連邦軍内で汚職や不法行為を行う友軍を抹殺する部隊だった。さらに言うと、司令官のグレイブの政敵や邪魔な存在をも命令で消していた。
敵対するサイド3の女性と息子を儲けているため、その事でも司令官から脅されていた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑭トラヴィス

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


前回の続きです。


トラヴィスのおっさんと話し合いをしたその日の晩。

俺はハマーンの部屋を訪ねる。

 

「ちょっと聞きたいことがあってな」

 

「なんだ?」

ハマーンは窓の横に椅子を置き、いつのように宇宙(そら)を見上げていた。

 

「できればあまり俺もこの話題には触れたくなかった……」

 

「ふん。ネオ・ジオンの事か?大方昼間の中年の男は元軍人か何かだろう、連邦かジオンか?……私の素性もバレでもしたか?」

 

「流石は察しがいいな。元連邦軍で一年戦争時の特殊部隊出身の中尉。名はトラヴィス・カークランド、凄腕のパイロットだ。……あんたの事も一目で見抜ていたよ」

 

「……その元連邦軍の兵士が私に聞きたいことが……いや、お前は何か取引でもしたのか?」

 

「それも察しがいい。流石元摂政殿だ。安心しろ、トラヴィスは信用できる人物だ」

 

「ふん……本題は何だ?」

 

「彼は生き別れた息子を探している。息子は一年戦争時にジオンの新兵だった。サイド3出身でな……それで現在ネオ・ジオンに居る可能性がある。名はヴィンセント・グライスナー。心当たりは……知っているのか?」

俺がその名を口にするとハマーンの表情が硬くなったの感じる。

 

「その男はよく知っている。パイロットの腕と共に作戦遂行能力に長けた男だ。だが何かに何時も葛藤しているような雰囲気の男だった。……絶対の忠誠を誓うでもないが、軍務には忠実であった」

やはり当たりだったか。

 

「そいつは、どうなった?」

 

「グレミー・トトの反乱の際にも私の側に着き、後方奇襲の備えを任せていた。私が知る限り、その場所では戦闘は行われていない。ならば私が倒れた時点で撤退支援を行ったはずだ」

 

「……生きている可能性が高いんだな」

 

「ああ、奴の隣には死神がついている。片時も離れずにな」

 

「なんだそれは?」

 

「クロエ・クローチェ……強化人間の一種だ」

 

「トラヴィスのおっさんから、その名も聞いたことがある。一緒に居る可能性が高いと言っていた。しかし強化人間とは……」

強化人間には俺はいいイメージを持っていない。

人間を人工的に強化し、飛行中のGに耐えられるようにしたり、反射神経を高めたりと、戦争のための人工強化兵として体をいじられた人たちの事だ。さらには人工的なニュータイプまで……

強化された人間は確かに兵士として強い肉体や感覚を手に入れる事が出来たがその副作用は大きい、寿命が短くなったり、一生薬と通院が必要な体になる。

リゼもその被害者の一人だ。

 

「一年戦争時の連邦の負の遺産というやつだ」

 

「くそっ、人を戦争の道具にしやがって……」

 

「……私も同類だがな。……奴は私の後の新しい指導者に従っている可能性が高い。奴も戦場を捨てられないらしい」

という事はトラヴィスのおっさんの息子は自分から戦争に参加しているという事だよな。

ハマーンとグレミー・トトやらが倒れた今、そこまで義理立てして、ネオ・ジオンに残る必要はなさそうだが。

根っからの軍人って奴なのか?

そんな奴をトラヴィスのおっさんはどう連れ戻すつもりだ?

 

「そいつの居場所はわかるか?」

 

「正確にはわからん……アステロイドベルトか、それともどこかのコロニーに潜伏しているか……何れにしろ後方艦隊に一度は接触しているはずだ」

 

「……すまん。助かった」

 

「あの男と取引するのに必要なのだろう?今の私には必要の無い情報だ」

そう言ってハマーンは再び窓の外の宇宙(そら)を見上げる。

 

「……すまん」

 

 

俺は翌日にトラヴィスのおっさんに連絡を取り、直接会ってこの話をする。

おっさんは、かなり喜んでいた。

 

そこから2週間後、おっさんはふらりと俺の所に現れて……

「ヴィンセントの居場所が分かった。お前の言った通りだ。追跡調査をしたらビンゴだ。クロエも一緒の様だ……。お前のお陰だ」

 

「知らねーな。礼ならローザに言ってやってくれ」

 

「さっき表で会った。礼を言ったが、「私は知らん」ってお前と同じ反応だったぞエド」

 

「……まあ、そう言うだろうな」

 

「似た者兄妹かよ。はぁ、しばらく気楽なジャンク屋家業も閉めにゃならん……もし、俺に何かあって息子が訪ねて来たら……俺の遺産を渡してくれ……エドの分もある」

おっさんはそう言って俺に電子キーを何枚か渡す。

 

「おっさん約束したよな。ローザの事で俺に協力するって、死んでもらっちゃ困るんだが」

折角得たローザの秘密を知る協力者がいなくなるのは困る。

しかも、荒事が得意なおっさんは頼りになるからな。

 

「はっ、お前らしいな。じゃあなエド」

 

「おっさん。死ぬなよ」

 

トラヴィスのおっさんは次の日には店を閉め、姿を消した。

おっさん生き延びて、早くドラ息子を連れ帰って来いよ。

俺も一緒にそのドラ息子に説教たれてやるからさ。

 




連続投稿です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑮カレー

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は日常編です。


宇宙世紀0090年2月中旬

 

「ほう、これをローザが作ったのか?」

午前の診療を終え、居住階の3階リビングに戻ると、ハマーンが昼食の用意をしていた。

テーブルにはコッペパンのサンドとホットミルク。

俺のサンドはハムとスライスオニオンにトマト、たっぷりのマスタードとバター。

ハマーン自身のはオレンジのマーマレードとそれとイチゴジャムにマーガリンをたっぷり塗ったサンドだった。

 

「ふん。この程度のもの造作もない」

さも当然だという感じだが…何言ってんだか。

ちょっと前まで野菜の切り方も知らねー包丁も扱えねー、玉ねぎ切って涙して、催涙ガストラップと勘違いしてた奴が。

 

ハマーンはお気に入りのクマさんマスコットキャラがプリントされた白地に薄茶のフリルが付いたエプロンを脱ぎ、テーブルを挟み昼食を始める。

俺はそのエプロンが買い物籠に入ってた時はリゼのもんだと思ってたよ。

そんなに気に入ったのか?そのクマさんマスコットキャラ。

……あのパンツの事は忘れよう。

 

「じゃあ、ありがたく頂くか……ちゃんと出来てる。うまいな」

おおっ?ハマーンが一人で全部料理したのは初めてだったが、ちゃんとうまく出来てる。

根気よく教えたリゼのお陰だろうな。

 

「当然だ」

何でそんなに自信満々なんだ?

まあ、いいけどよ。

 

「そう言えば朝、学校の出かけ際にリゼが今日遅くなるって言ってたな。なんでも部活の助っ人でラクロスの試合にでるそうだ」

リゼはかなり運動神経がいい。正直言って大人顔負けだ。

遺伝子の主がよかったのか、はたまた強化の結果なのかは分からない。

既にリゼは薬を殆ど必要としない体に戻っている。

成長期だったせいもあるかもしれない。

 

「……そうか」

その返事の仕方は何か分からない事柄が合った時の奴だな。

大方……

 

「ああ、ラクロスってのはサッカーとハンドボールとテニスを混ぜたような球技だ。高校や中学の部活では結構有名なスポーツだと思うぞ」

 

「ふん。学校などという場所に行った事が無い」

ハマーンはミルクを口にしてからそう答える。

 

「……まじか。勉強とかどうしてたんだ?」

 

「我が家は教育係を雇っていた。目の前の私のことなぞ見ず、権力に媚びへつらう虫唾が走る連中だった」

上流階級って学校行かないのが普通なのか?

帝王学とやらを学ぶために、余計な知識や雑音を入れないように、家庭教師オンリーで勉強していたという事なのだろうか?

しかし、家庭教師も大変だろうな。このツンケン娘を相手にするのも。

こいつ、昔っからこんな感じだったんだろうか?

 

「そうか。学校に行った事が無い……か」

学校に行かない弊害という奴か、一般常識がいろいろと欠如してるからな。

一般人の生活とか、現金の扱い方も知らないし。

確かに世の中はカード社会だが、田舎に行けば行くほど、現金ってのは重宝される。

高いもん買うのはカードだが、日常生活程度だったらこの辺は現金が主流だ。

しかも、この辺は農業や畜産が盛んだから、たまに物々交換までしてる。

まあ、こいつの場合根本的に買い物のやり方も知らなかったし。

多分、ジオンというか、身内だけの人間関係で生活が完結していたから、必要性を感じなかったのだろう。

 

んん?ちょっと待てよ。

アステロイドベルトにあった資源衛星アクシズにずっと住んでたんだよな。

そもそも学校とか有ったのだろうか?

いや、アステロイドベルトにコロニーとかの居住施設が有るのか?

逆に俺がそっちの方の常識を知らない。

 

「なんだその目は」

 

「いやなんだ。同じスペースノイドなんだが、俺とあんたの常識が全く違うなと思っただけだ」

 

「ふん当然だ。立場や育ちが違う」

 

「へーへー、どうせ俺は田舎出身の根っからの小市民だっ」

 

「まあいい、私の世界が確かに狭かった事は感じている。だからあの男に……」

 

「んっ?男?」

男って今言ったよな。

 

「……忘れろ」

 

「なんだ?良い奴でも居たのかよ」

 

「忘れろ!」

思いっきり俺を睨みつけてきやがった。

しかも、バターナイフを突きつけてくる。

バターナイフで人は刺せないぞ。

というか図星だったのか?

 

「もう聞かねーよ。っていうかお前がポロって漏らすから……」

 

「………」

ハマーンは尚も無言の圧力を高めてくる。

その男と何かあったのか?ただの恋人同士って感じじゃないよな。笑い話じゃすまない関係か?

この話題はやめておく方が無難そうだな。

 

「ふう、今日の夕飯はカレーにするか」

俺は一息吐いて、ワザとらしく話題を180度変える。

 

「甘口だろうな」

ハマーンはこの話題に乗って来た。

 

「甘口だ。家には甘口派が二人もいるからな。俺はちょっと辛い方が好きなんだが」

どうもこのハマーンお嬢様は辛いものが苦手らしい。

しかも甘いものが滅法好きだ。

要するにおこちゃま舌という事だ。

この前ジャパニーズ寿司バーに食いに行ったら、わさび入り寿司を食べたハマーンは顔を青くしていたな。表情を変えないように我慢していたのが見え見えだ。目に涙をためていたのは黙っておいてやろう。

 

「民主主義に則った結果だ」

何その勝ち誇った顔は、民主主義って3人しかいないだろ?

元独裁者だったのにその口が良く言う。

 

「じゃあ、民主主義に則って、手伝ってもらおうか」

カレーはこの頃のヘイガー家の定番料理だ。

カレーに必要なジャガイモ、玉ねぎと、このコロニーで採れる野菜がメインの料理だ。

しかも、野菜を切って煮込んで、市販のルーを数種類混ぜるだけの簡単な料理だ。

甘さを出すために、リンゴなどの果汁も混ぜたりと、多少味のバリエーションも変えられる。

 

「ふん、致し方がない」

その上から目線な言い方なんとかならんのか?

 

昼飯を摂った後、しばらくしてからカレーの仕込みを始める。

ハマーンが野菜の皮をピーラーで剥き、剥いた野菜を俺が適当な大きさにカットして鍋に放り込み煮込む。

 

何だかんだとハマーンは俺らの日常生活に随分と慣れてきていた。

最初は不器用なのではないかと思うぐらい料理や家事が出来なかったが、今はそれなりにこなせるようになっていた。

口では、嫌そうな言い回しをするが、嫌々やってるようには見えない。

むしろ楽しんでいるかのようだ。

なんというかだ。出来なかった事が出来るようになっていく喜び?みたいな感じだよな。

 

何にしろこのまま日常を過ごしていけば、ジオン再興という重荷を背負ってきた女傑から、ただの女になれる日が来るかも知れない。

 

俺はふと、横で野菜の皮むきに集中するエプロン姿の彼女を見る……

今後の事は今後に考えればいい。

今はこのままでいいんじゃないか。

 

 




あの男とはやはり赤い人の事です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑯閑話:弊害

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


今回は息抜き回です。



宇宙世紀0090年4月上旬

リゼは新学期を迎え、中学2年へと進級した。

背も伸び始め、身体つきや顔つきが女性へと変わり始める。

それでも、まだまだ子供だ。

死んだ上の妹も、そんな時期が在った事をつい思い出しちまった。

上の妹はしっかり者だった。俺はしょっちゅう、だらしないとかデリカシーが無いとか怒られてたっけか。

リゼも家の事もちゃんとやってるし、しっかりしてるんだが、性格が子供っぽいんだよな。どちらかと言えば、性格は下の妹に近い感じがする。

 

ハマーンの方なんだが、日常生活に支障がないレベルまで回復していた。

筋量は少々足りないが、それも直に元のように動けるだろう。

この頃は診療所の方へも顔を出すようになる。

骨折の手術を行う事になって、少々手伝ってもらったのがきっかけだ。

この診療所は普段は忙しいわけじゃない。

一日の患者は30人程度だ。

近所の通院患者が主で、特別に時間をかけなきゃならない患者も少ない。

俺一人でもなんとかやっていける人数だ。

たまに近くで大きな事故があったり、訳ありの病人や怪我人が押し寄せてくることはある。そん時は流石に人手が足りないから、近所のアンナさんとかの主婦の方々に手伝ってもらっていた事もある。

しかし、病院は何もここだけじゃない。

この6万人程度の人口の15番コロニーにも一応総合病院もあるし、耳鼻科や歯科などのポピュラーな個人医院もちゃんとあるからな。

 

ハマーンはどうやら、俺の仕事に興味を持ったようだ。

まあ、流石に怪我の処置とかはやらせられない。

会計程度をやってもらう事がある。

現金の扱いにも慣れるだろうしな。

まあ、相変わらず愛想は悪いが、コミュニケーションが取れないわけではない。

よくドラマとかにあるだろ?おっきな病院の不愛想お局看護婦長とか……、あの程度に思ってもらえば。

かなりの美人だからな、多少ツンケンしていても、おっさんやじいさん連中には受けがいいようだ。

ばあさんとかの長話にも、一応、受け答えはしているようだ。「そうか」「うむ」の二言だけだけどな。

何だかんだと、徐々にだがご近所にも、そう言う性格の妹だと受け入れてもらいつつあると思う。

 

 

 

だが、その弊害もあった。

 

午後の診療も終わる頃。

「……おい、デイブ今日は何の用事だ?」

「何言ってるんだよエド、ここは病院だろ?怪我したんだ」

こいつ昨日も来たぞ、唯の切り傷で、唾つけてろって追い帰したところだぞ。

 

「で……その後ろのパット、お前はなんだ?」

「ちょっと風邪ひいちゃっまったんすよ。ゴホゴホゴホッ」

こいつもだ。なにそのワザとらしい咳は?昨日は腹痛とか言ってた癖に。

お前はバカだから風邪ひかないだろ。

 

「……クリスは何しにきた?」

「私は不治の病なのです。その名も花粉症」

コロニーの環境で花粉症っておい。よく知ってたなそんなの。旧世紀の病状だぞ。

 

「お前ら帰れ!!ここは病人が来る場所だ!!こんな所で油なんぞうってないで、とっとと嫁でも見つけに行って来い!!この童貞やろうども!!」

 

「ひでーな。エド」

「ははっ、誰が童貞だって?」

「暴言の撤回を要求する」

 

「うるせー、営業妨害だ。とっとと帰れ!」

 

この3人は近所の食品工場で働く、若造どもだ。

小太りの男がデイブ26歳。ひょろちいのがパット27歳、インテリ眼鏡がクリス25歳。

俺の心の中では、童貞三連星と呼んでいる。

こいつらはここ連日、この診療所に来やがる。10日程前からそうだ。

病気や怪我なんてしてねーのにだ。

何かと怪我や病気だと喚いて、居座りやがる。

 

「何言ってんだエド?俺らが最後だろ?」

「そうだ。もう他の患者なんていないぜ!」

「その辺の計算は抜かりない。安心しなさいエド」

 

こいつ等わざと午後の診療終了間際に来やがる。

 

「どうでもいい。帰れ!」

俺は待合室でうだうだ言ってるこいつらに一喝してやる。

 

こいつ等の目的は予想がついてる。

 

 

そこに近所に届け物を頼んでおいたローザが帰って来る。

「帰ったぞ」

 

「女王様!!」

「ローザたん!!

「ローザ様!!」

3人は一斉に目をキラキラさせ、ローザの方に振り向く。

 

うぜぇー……

 

「ローザ……こいつらを追い帰せ」

 

「また貴様らか、ここは診療所だ。貴様らのような連中が来ていい場所ではない。早々に立ち去るがいい」

ローザはビシッと奴らに言ってやったのだが……

 

「ありがとうございました!!これで明日も一日頑張れます!!女王様!!」

「ローザたん萌え~、もっと~!もっと罵って~!!」

「そのようなご褒美なお言葉、私のような者に……ありがたき幸せ!!」

こいつ等は確かに不治の病だ。変態と言う名のな!!

ローザがさらに突き刺すような極寒の視線で一睨みをすると……連中は恍惚な顔をしながら帰って行った。

あの食品工場は大丈夫なのか?こんな奴らを量産しやがって。

 

 

「……デリル、お前は帰らないのか?」

 

「ふっ、僕は帰らないさ」

まだ、一人いやがったか。

先ほどの変態共のやり取りに全く興味が無い様子で、待合室で足を組んで新聞を読んでるデリル21歳。

 

「いや、帰れよお前。診療時間は終わりだ。どーせお前もしょうもない理由でここにいるんだろ?このロリコンのシスコンが!!」

 

「……この頃妹のジュリアが冷たいんだよ~。一緒に風呂に入ってくれないし、僕をゴミくずを見るような目で見るんだ。半径3メートル以上近づくなって言うんだよ~」

何故か俺に泣き付いてくるデリル。

まあ、そうだろうな。

実はリゼの友人のこいつの妹のジュリアから相談を受けていた。

兄のデリルの事で悩んでいたのだ。

学校で友人同士の家族の話になると、兄のデリルとジュリアが一緒に風呂に入ったり、ジュリアのベッドに潜り込む事が異常だと、皆に指摘されたとか……

俺はジュリアの話を聞く……それはデリルの数々のセクハラの所業だった。

懇切丁寧にジュリアに説明し、その対処方法を教える。

それでもデリルが執拗な態度をとるようであれば、親に相談するつもりだった。

だが、どうやらうまく行きそうだ。

犯罪に手を染める前になんとかなってよかった。これはお前の為でもあるんだぞデリル。

 

ここで、部活帰りのリゼが帰って来た。

「お兄ちゃん。お姉ちゃんただいま!」

 

「キターーーー!!リゼちゃーーーん!!今日も元気いっぱいだね!!」

 

「ジュリアちゃんのお兄さんこんにちは!」

 

「お兄さんと遊ぼうよ~」

さっきまで涙してたデリルは、今は何ていうかトンデモナイ笑顔だ。

 

「………」

俺は無言でデリルの頭を殴り、無理やり診療所から摘みだす。

こいつはもうダメだ。

 

 

『この頃の若者はなってない』という言葉を大人はよく使うが、まじそれだ。

このコロニーの先行きが不安だ。あんな奴らばかりじゃない事を願うばかりだ。

 

いや、これは平和だという表れなのだろうか?

……いやいやいや、そうじゃないな。

単にあいつ等がおかしいだけだ。

 

何か対策を考えなくては……

 




……そうなりますよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑰自転車

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は日常編です。


宇宙世紀0090年5月上旬

ハマーンとの生活は1年と5カ月が経つ。

実際目が覚めたのが昨年9月だから、実質9カ月ってところか。

リハビリも終わり、ほぼ前のとおり動けるようになっているはずだ。

だが本人はネオ・ジオンに帰るつもりは毛頭ない様だ。

今は、ここでの生活を四苦八苦しながらも過ごしている。

前の生活とは全く違うだろうしな。

だが、嫌そうには見えない。

不愛想で高飛車なところは当初と変わらんが、どこか楽し気な気もする。

一般人の生活は真新しいものだらけなのだろう。

この頃は色々な事を自らやろうとしていた。

 

その一つが自転車だ。

今、新サイド6では空前の自転車ブームだった。

電動スクーター等の便利な乗り物はあるんだが、健康志向色が強い新サイド6の住人にとって、エコで体を動かせ手軽に楽しめる自転車は人気を博している。

交通手段にもなるし、子供から大人まで自ら操作して乗れる乗り物だ。

リゼは中学に自転車通学のため、普通に乗れる。

元々運動神経とバランス感覚が優れてるから直ぐに乗れた。

 

俺は軍大学時代に一応自動二輪やその他の免許を取得してるから、自転車も当然乗れたのだが……

 

ハマーンも運動神経が良さそうな体をしてるし、軍務経験があるから、そうなのだろうと、乗れるものだろうと高を括っていたのだが。

俺の自転車を貸して、乗った途端にそのまま横に倒れた……

 

 

俺は一瞬自分の目を疑い、助け起こすのに時間が要した。

 

モビルスーツのパイロットとしても超一流のハマーン様は自転車に乗れなかったのだ。

 

まさか、初めて乗ったとは思わなかった。

最初から言ってくれればよかったものの……、まあ、子供からお年寄りまで、誰でも乗ってるから当然自分も乗れるものだろうと考えたのだろう。きっと。

 

俺が毎日、休憩時間に見てやっていたが、自転車が乗れるようになるのに5日かかった。

ハマーンの腕とか脚とか磨り傷だらけだ。

 

宇宙空間で自由自在にモビルスーツを動かせるのに、なぜだ?

あれって、宇宙での360度を感じるバランス感覚が必要なんだろ?

モビルスーツが乗れて、なぜチャリが乗れん?

まあ、自転車を動かす筋肉は普段の生活には使わんし……、お嬢様だったハマーンは自転車どころか電動スクーターも乗ったことが無いのだろう。

 

それとだ。練習中に補助の手を放して、慌てふためくハマーンを見れたのは、なんか新鮮だった。

後から、なぜ手を離したかと、少々顔を赤くしてきつく問い詰められたが……、これは練習していく中の課程で必要な処置だからな。

 

今はちゃんと乗れるようになっている。

今度の休暇にでもリゼと3人でチャリで出かけるのもありだな。

 

そんな日常を過ごしていた。

 

 

宇宙世紀0090年5月中頃

その日は休診日で、リゼとハマーンとで、チャリでちょっと遠出をすることになった。

何でも、ここからチャリで30分ぐらいの所に新しい喫茶店が出来たらしい。

そこのウリであるクレープが絶品らしい。

リゼが友達に聞いて、ハマーンと俺を説得したのが始まりだった。

ハマーンは「よかろう」と何時もの調子で答えるが、表情が若干緩んでいた。きっとその絶品クレープを食べて見たかったのだろう。大の甘党だしな。

例によって、民主主義的な決定で行く事になる。……別に反対したわけじゃないんだが。

 

俺達三人でチャリで出かける。

ハマーンとリゼが並走し、その後ろを俺が追いかけ走るスタイルだ。

リゼからハマーンに笑顔で色々話しかける。

ハマーンの答えはそっけないものだが、これはこいつの仕様だ。

だが、表情は柔らかい。

こう見ると、本当の姉妹に見えない事も無い。

髪は染めて、リゼと俺と同じ薄いブラウンにしてるからか……いや、雰囲気か……。

そう言えば、ハマーンにも本当の妹がいるらしいが、6年前にザビ家の政争に巻き込まれないように、どこかに逃がしたらしい。

それから会って無いとか。

その場所はハマーンは知っているはずだが、いずれは会いに行くのだろうか?

いや、死んだハズの人間が会いに行くのは不都合だと、もう二度と会わないつもりだろうか?

何れにしろ今は厳しい。ハマーンを公共の宇宙船などに乗せるわけにいかない。

渡航審査でバレてしまうだろうしな。

出来れば、会わせてやりたいとは思う。

 

 

そんなこんなで目的の喫茶店に着き、その絶品クレープとやらを堪能し、家に帰る。

ただ、こんな事でもリゼは嬉しそうだ。

ハマーンもまんざらでもなさそうだ。相変わらず表情は硬いが、ほんの少し口元が緩んでいた。

 

こういうのは悪くない。

俺もこの二人を見ているだけで、心が和む。

何気ない日常がかけがえのないものだと……。

ネオ・ジオンの指導者にして鉄の女と呼ばれた彼女は、今は自転車に乗り、新緑が芽吹く田畑の中を走っている。

 

俺にはテレビで見たハマーン・カーンという女傑と、今目の前にいるローザと名乗る彼女がとても同じ人物には見えなかった。

 

 

 

 

 

この頃、宇宙のどこかでまた、次なる闘争が始まろうとしていた。

この時の俺には知る由もなかった。

 




次回は多少ストーリーが動きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑱雨の日の来訪者 前編

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回はストーリーモードのシリアス編です。
中編も一緒に投稿します。


宇宙世紀0090年6月上旬

この時期、このコロニーでは計画的に雨をわざわざ降らしていた。

農業が盛んなコロニーとはいえ、別に雨を降らさなくても、直接農園のみに水を撒けばいいだけの話だ。

まあ、風情の問題だったり、地球と同じ環境づくりを再現するための一環だったりする。

流石に雷は再現してはいないが……

 

真夜中に、診療所のドアを叩く音がする。

なんだ?急患か?

おい、ここは中世じゃないんだぞ。インターフォン位押せよな。

目覚めが悪い俺は、インターフォンカメラ越しに入口の様子を見ると……そこにはトラヴィスのおっさんが映っていた。その後ろには人影が見える。

おっさん生きて帰って来たか……後ろの人物は息子か?

俺はホッと息を吐く。

 

「おっさんいつ戻って来た?真夜中になんだ?」

インターフォン越しにおっさんに問いかける。

 

「エド!すまん急患だ!緊急を要するんだ!見てやってくれ!」

おっさんは何時になく真剣な顔をし、慌てている様子だ。

 

「わかったすぐ行く」

 

俺は三階から一階の診療所入口に降りて行くと、二階でパジャマ姿のハマーンと出くわす。

ハマーンもドアの叩く音に気が付いたようだ。

警戒しているのか、その眼光は鋭かった。

「ローザ…大丈夫だ。トラヴィスのおっさんだ。人を連れてる。多分息子だろう。今出くわすのはまずい。部屋で大人しくしてくれ」

「……わかった」

ハマーンは頷き素直に従ってくれた。

トラヴィスのおっさんの息子のヴィンセントは元ハマーンの部下だ。

ひっ迫した状況で、無用ないざこざはさけたいところだ。

焦ってる様子を見るに本当に急患が居るのだろう。

 

俺は一人、診療所の扉を開けると……

「エド!この子を助けてくれ!!頼む!!」

「どういうことだ?」

トラヴィスは俺の両手を掴み、必死に懇願しだした。

 

俺はトラヴィスの後ろを見ると、俺と年齢が近い優男が若い女性を背負っていた。

暗がりで分かりにくいが、意識が無い様に見える。

「とりあえず……中に入れ」

 

奥の診察室に向かい入れ、トラヴィスのおっさんと優男に背負っていた金髪の若い女性を、診察台に乗せるように指示を出す。

「エド!頼む!この子を!」

「落ち着け、おっさん!」

「意識は無し、全身が発熱してる………外傷はなさそうだ。この子の情報と経緯を教えろ」

「……クロエ・クローチェ……昔受けた度重なる人体実験と……特殊な兵器のせいで、体と精神が弱って……俺がもっと前に止めておけば……」

優男は顔をゆがめ悔しそうにそう語った。

 

「あんたがトラヴィスのおっさんのドラ息子のヴィンセントか、という事はこの子は強化人間か?」

「なぜそれをあんたが!」

ヴィンセントは驚きの声を上げる。

俺はその間も、彼女の容態の確認を続けていた。

彼女はコートの下はインナーだけだった。

 

「おっさんに聞いてたんだよ。それよりもこの子が常用してる薬があるはずだ」

「エド、これだ……」

「薬切れではないという事か」

おっさんに何種類かの錠剤が入ったケースを渡された。

 

クロエは重篤な状況だ。とりあえず発熱を抑えない事には始まらないか……

俺は点滴などを行い、発熱を抑える処置を施す。

 

すると、もう一人、赤茶色の髪をした若い女が、診察室に入ってきた。

「あんたも、こいつらの知り合いか」

「そうよ」

「男連中は外に出ろ。俺は必要な処置を施す。あんたはこの子の下着を取って体を拭ってから患者衣に着替えさせてやってくれ。その前にあんたも消毒して、雨に濡れた髪をそこのタオルで拭いておけ」

 

「エド……」

「………」

 

「さっさと出ろよおっさんら……安心しろ。こっからは俺の領分(戦い)だ」

 

俺はこの赤茶髪の若い女と話しながらクロエの処置をする。

そして分かった事は、この子はアンネローゼ・ローゼンハイン26歳モビルスーツのパイロットらしい。

驚くことに半日前まで、こいつらはモビルスーツ戦を行っていたという事だ。

この診療台で寝ているクロエのモビルスーツは破壊され脱出ポットで難を逃れたところをおっさんが助けたらしいのだが……、その直後からこの状態らしい。

強化人間は戦いを強要するような特殊な装置をモビルスーツに載せていたりする。

モビルスーツに乗るだけで肉体だけでなく、かなりの精神負荷がかかる。

状況によっては精神の崩壊や記憶喪失、いろいろな問題が起こる。

度重なる人体実験の影響もあり肉体も限界なのかもしれない。

 

リゼの時にこの辺の資料は裏から手を回し手に入れ、すべて漁った。

 

アンネローゼが彼女を患者衣に着替えさせたところで、俺の方の処置は終わる。

クロエの荒かった呼吸も幾分かマシになって来た。

隣の集中治療室に置いてある上部がガラス張りの人がすっぽり入るメディカルマシーンにクロエを移す。

この装置の中では酸素吸入から栄養補給とあらゆる生命維持のための処置が常時行われる。

俺はメディカルマシーンの設定を行ってから、改めておっさんとヴィンセントを診察室に呼びつける。

 

「あの子の応急処置は終わった。とりあえずはだが、……おっさん全部話せ」

 

おっさんが語った事は……

ネオ・ジオンの残党同士の戦いに、ヴィンセントとクロエ、この赤茶髪のアンネローゼが敵同士で戦っていた所に、トラヴィスのおっさんが介入したそうだ。

ヴィンセントとクロエはハマーン派の新しい指導者の元で、アンネローゼはグレミー派の後継者の元でお互い戦っていたらしい。

トラヴィスのおっさん、もう50だろ?そんな戦闘にモビルスーツで単騎で第三者として乱入して、よく無事だよな。

やはり、このおっさん只者じゃない。実力で言えば、一年戦争の英雄たちにも劣らないはずだ。さらにこのおっさんは駆け引きもうまいし、相当頭が切れる。

こんな超有能なおっさんを手放す連邦軍という組織はアホとしか言いようがない。

もし、おっさんが艦隊を率いるポジションにでもつけて見ろ。デラーズの反乱やグリプス戦役も多少マシになっただろうに。

まあ、おっさんだけじゃねー、俺が知ってるだけで、有能な連中はほぼ、閑職に付けられるか、やめて行った。最悪暗殺なんてケースもあった。

そりゃ、反乱もおこるよな。

 

「でだ。クロエのモビルスーツには強化人間用に何の装置を載せていた?」

俺はここで本題に入る。

 

「HADES……」

ヴィンセントは苦しそうに答える。

HADES?聞いた事が無いな。最新の強化人間用の装置か?

 

「HADESはEXAMシステムの改良版だ……って言ってもわからないか。パイロットの肉体を限界まで……」

おっさんも苦悶の表情で語りだす。

 

「EXAMだと!?」

俺はEXAMシステムの事を知っていた。

というよりもEXAMシステムを搭載されたモビルスーツに載ったパイロットの成れの果てを知っている。そのEXAMの試験運用を行った現地基地で、ちょうど基地に居合わせた俺は、その死亡解剖に付き合わされた。あのマッドサイエンティストにな。

俺もあの狂気のシステムに怒りを覚える。

事情も知らされずに死体解剖に付き合ったが、そのパイロットの死に方が普通じゃない事に疑問を覚え、ちょいっと調べて、奴らのやっている事を知った。

マッドサイエンティストが行ってきた所業をな……胸糞悪いにも程がある。

このシステムは簡単に言うとモビルスーツに圧倒的な性能を付与させるが、敵味方見境なくなる。要するにモビルスーツを狂戦士にするシステムだ。

パイロットは肉体的にも精神的に凄まじい負荷が掛かる。常人が耐えられるような代物じゃない。

このシステムが載ったモビルスーツに搭乗したパイロットはシステムに耐えられず、

まず間違いなく死亡する。

例外的に相性がいいパイロットはそれを乗りこなしていたが、そんなものは偶然でしかない。たしか…ユウ・カジマ中尉だったか。

 

「なぜあんたがEXAMを……、父さんこの人はいったい?」

ヴィンセントは驚きの顔で俺を見やり、となりのトラヴィスに聞く。

 

「心配するな。エドは信頼できる」

 

「おいドラ息子。お前はこのクロエって子の相棒じゃなかったのか?お前も知っていたんだろ?EXAMはパイロットを蝕む事を!しかもこの子は人工的にEXAMに乗れるようにされた子じゃないのか?なぜ今まで乗せた!!なぜ止めなかった!!」

俺はついカッとなって、ヴィンセントの胸倉を掴んでいた。

 

「それは……」

ヴィンセントは項垂れるばかりだ。

 

「エド……それぐらいにしてやってくれ……いろいろあったんだよ。俺らじゃ分からない事情がな」

トラヴィスのおっさんが苦笑いをしながら俺を諭す。

 

「いや……この人の言う通りだ。俺は彼女を止めるべきだった」

ヴィンセントは苦しそうに声を漏らす。

 

「……すまなかった。部外者の俺が立ちいる話じゃなかったな」

俺は胸倉を放す。

 

「エド、クロエはどうなる?……寿命もその……だ」

トラヴィスのおっさんが言いたいことは分かっている。

強化人間は寿命が短い。しかも彼女はここまで疲弊するぐらいにEXAMを使用していた。

 

「おっさん。俺が何とかする。普通に生活できるぐらいには何とかしてやるよ。俺は医者だからな。だが二度とモビルスーツに乗せるな。わかったな」

何とかしてやるよ。幸いリゼの件で強化人間に関する資料は山のようにある。

なんらかの投薬や手術での改造なのか、遺伝子組み換えなのかは分からんが、何とかして見せる。

 

「エド……感謝する」

「………」

おっさんとヴィンセントは頭を下げる。

アンネローゼは複雑な顔をしていた。

 




連続投稿です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑲雨の日の来訪者 中編

続きです。


「おっさん今日は遅い。上の空いてる病室に泊まれよ」

 

「助かる」

おっさんは素直に礼を言ってくる。

 

「……俺はここに」

ヴィンセントはメディカルマシーンの中で眠るクロエの傍に居たい様だ。

 

「ドラ息子は邪魔だ。とっとと寝ろ。その前にだ。アンネローゼさんだっけ、あんた肋骨痛めてるだろ。見ておこう」

ヴィンセントには一喝して、俺はアンネローゼを診察することにする。

クロエの着替えやらをしてる最中、胸の下を庇うような仕草をしていたからな。

大方肋骨にひびでも入っているのだろう。

それにこの子は会話していて思ったのだが、情緒が不安定だ。

新兵にはよくあるが、この子も10年も兵士やっていた。

俺がクロエを治すと言った時、複雑な顔をしていたのも気になる。

 

診察がてらアンネローゼと色々と話した。

肋骨には多少ヒビが入っていたが入院する程度の物じゃない。

それよりも、この子は精神に少々爆弾を抱えている事がわかった。

療養が必要だなこれは……この子もしばらく入院だ。後でトラヴィスやヴィンセントに事情を聞いた方が良いな。

 

「あの、先生……ここに先生以外誰かいますか?その上のほうからプレッシャーを感じて……す、すみません変な事を言っちゃって」

アンネローゼはこんな事を聞いてきた。

 

「ん?プレッシャー?」

 

「あ、あの忘れてください」

 

「いや、妹が二人住んでるが………」

まてよ。強化人間は相手の存在を第六感で認知すると……それはニュータイプも同じか。

この子も強化人間か?情緒不安定なのはそのためか?

プレッシャーってもしかして、ハマーンの事じゃないだろうな。

あいつは普通にしてても人を威圧してくるからな。

というかだ。ハマーンがここに居るとか知ったらどうなるんだろうか?

ヴィンセントとクロエは元部下だし、詳しくは知らんが多分アンネローゼもそうなのだろう。

これは困ったことになりそうだ。

 

「痛み止めとシップ薬だ。シャワーの後に張っておくといい。おっと2階にシャワー室がある一応湯舟も張れる。着替えは……患者衣しかないな。ローザのは……無理そうか。ブラは無い、パンツは簡易の使い捨てを用意する、自由に使ってくれ。服と下着は俺が洗濯しておくから、脱衣所に置いておいてくれ、明日には乾いてるだろう。ベッドは一番手前の病室を使ってくれ」

アンネローゼに今日の寝床について説明をする。

ローザの下着は無理か、この子胸がデカい。ローザは小さくは無いが、この子のほうが二回り以上でかい。

 

「パ、パンツ…その簡易って………その先生が洗濯を?」

 

「そうだが?何か不都合があるか?」

 

「い、いえ。シャワー借ります」

 

俺は一応シャワー室と寝床の病室を案内し、患者衣と簡易パンツとバスタオルなどを渡す。

 

 

彼女がシャワー室に入った後、トラヴィスとヴィンセントと診察室で話をする。

クロエやアンネローゼの件などについて聞こうとしたのだが、ヴィンセントがこれまでの経緯を詳しく語った。

ヴィンセントとアンネローゼは一年戦争時ジオンのマルコシアス大隊という特殊部隊出身でヴィンセントが小隊長でアンネローゼが部隊員だった。

その間に、トラヴィスのおっさんの部隊ともやりあったり、共闘したりしたんだそうだ。

そんで、一年戦争の最終決戦で……HADES搭載のペイルライダーというモビルスーツとヴィンセントの部隊が戦ったのだが……隊は全滅。ヴィンセントも相打ちで辛うじて、ペイルライダーを止める事が出来たが……そこに乗っていた兵士が年端も行かないクロエで……しかも記憶喪失だったらしい。たぶんHADESの影響だろう。

ヴィンセントはクロエと共にアクシズに合流し、ネオ・ジオンの兵士となったらしい。

その間ヴィンセントはクロエとの関係に葛藤があった。自分の隊を全滅させた憎むべき相手でもあるが、それはクロエ自身が望んだことではない。しかも彼女は自分を慕ってくれているという。

アンネローゼはモビルスーツは大破したが生き残り、アクシズとは別のジオン残党と共にしていたらしい。アンネローゼは隊を全滅させたペイルライダーを憎み。その憎しみだけで、今日まで生きて来たと。

しかも、彼女はニュータイプらしいのだ。

さっきプレッシャーがどうのこうのと言っていたのは、まさか、ハマーンの存在を感じたとか……いや、ありえる。ニュータイプ同士はテレパスが出来るみたいな事も文献で見た事がある。ハマーン自身もニュータイプらしいしな。本人はその事には絶対触れないが。

 

話を戻すが、ヴィンセントとクロエはハマーン亡き後、新たにネオ・ジオンやジオンの残党をまとめて指導者となった人物の元で、グレミー派の残党討伐を命令される。

向かった先にはアンネローゼがニュータイプ用モビルスーツで敵として待ち構えていた。

それで、泥沼の戦いとなるが、トラヴィスのおっさんがZⅡに乗って戦場に介入して、アンネローゼを説得したとの事だ。

グレミー派は壊滅。アンネローゼとクロエがほぼ相打ちになって、その脱出ポッドを回収し、戦線を離脱して今に至るそうだ。

まあ、アンネローゼのあの態度、まだクロエに対し思うところがあるのは仕方がないが、トラヴィスのおっさんはどうやってそんなアンネローゼを説得したんだ?人たらしめ。

それにZⅡってなんだよ。Zタイプの後継機か?俺も最近のモビルスーツについては詳しくないが……Zって、エース用の超高級モビルスーツだよな。その後継機をどうやってジャンク屋のおっさんが手に入れたんだよ。まじで。

しかも、単騎で第三者として介入しておいて、よく生きてるなおい。

このおっさん。なんでもありかよ。

普段、調子乗ったただのおっさんだけど、まじ超優秀なんだが。

連邦軍もこんな優秀な人材をよく放出したよな。アホだろ。

 

まあ、アレだ。

愛憎がねじ曲がった結果だな。

こいつ等若者は一年戦争という悪夢に苦しんできたという事だ。

 

今のヴィンセントはクロエに対してのわだかまりは無い様だ。

それよりも愛すべき相手だと認識してるようだ。

問題はアンネローゼか……まあ、何とかなるだろう。

それよりも、クロエが持っていた錠剤の分析から始めるか。

彼女の血液サンプルを取って、遺伝子解析と……モズリー先生にも協力を仰がないといけないかもしれないな。

遺伝子治療がうまく行けば、彼女の寿命も元に戻る可能性がある。これは色々と試さないといけないが……治すと言ってしまった以上やってやるさ。

 

 

ん?んん?忘れていた。

ローザ……ハマーンの件はどうしようか。

これが今一番の問題だ。

何方にしろ、顔を合わすだろうしな。

ふぅ、色々あり過ぎた。

仮眠でも取って明日考えよう。

 




エドのデリカシーの無さは相変わらずです。
エドのEXAMの知識は上辺だけです。真相までは知りません。ちょっと資料を勝手にコピった程度です。
エドのニュータイプに対しての知識は偏ってますし、世間よりちょっと知ってる程度です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑳雨の日の来訪者 後編

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

では続きです。


「ん…朝か……っと。患者の容体はと……」

俺は集中治療室のメディカルマシーンの横に診察台を置いて、そこで仮眠を取っていた。

重篤な状態で運ばれたクロエはメディカルマシーンの中で生命維持治療を受けている状態だ。

仮眠中に、メディカルマシーンが患者の異常を示す警報を鳴らしていないからクロエは大丈夫だろう。

 

俺は気だるい体を起こし、メディカルマシーンの端末でクロエの状態をチェックする。

脈拍も心電も正常値だ。発熱して上がっていた体温は昨日に比べれば随分下がっていた。

ふぅ。一応生命の危機は脱したようだ。

 

時計の針は6時30分過ぎか……今日は俺が朝飯の当番だった。

体が重い。完全に睡眠不足だこりゃ。

 

……ん?

よく見るとヴィンセントが集中治療室の壁にもたれかかって寝ていた。

病室のベッドで寝てりゃいいものの、よっぽどクロエが心配なんだな。

まあ、昨日の話を聞けば、クロエはヴィンセントに好意をもっているようだし、ヴィンセントもまんざらでもない。態度を見れば間違いなく大切に思っているのだろう。

経緯が経緯だけにヴィンセントの方が前に踏み出せない感じだ。

この機会に自分の思いを伝えるこった。

死んじまった相手には何も伝える事なんて出来ない。

クロエは今も生きてるんだからな。それに俺が死なせねー。

 

俺はヴィンセントにシーツを掛けてやろうとすると、目を覚まして、パッと臨戦態勢を取りやがった。

「……なんだ先生か」

俺だと気が付いて、ホッと息を吐くヴィンセント。

流石は現役の軍人だな。

 

「エドでいいぜ。年も近いしな」

「せん…エド、クロエの容態は?」

「安定してる。昨日に比べりゃ随分とよくなった。大丈夫だ安心しろ」

「そうか……」

「彼女、大切なんだな」

「……俺は彼女がこんな状態になってようやくわかった。彼女が大切で掛け替えのない存在だと」

「じゃあ、大事にしてやんな」

「そうする」

ヴィンセントは言葉短く素直にそう言った。

 

若者はそうでなくっちゃな。

ん?何じじ臭い事を言ってんだ俺は。まだ年は30だぞ。そんでこいつは28歳で……

しかし、なんだかこいつが眩しく見える。30と20代はこんなに違うものなのか?

 

「シャワーでも浴びて来い。どうせ昨日からそのままなんだろ?着替えは俺のを貸してやる。その後はもうちょっと寝てろよ。おっさんもまだ寝てるはずだ」

こいつ等の話では一昨日モビルスーツ戦をやってからここまで来るのに一睡もしていないはずだ。もしかすると、2日間ぐらい寝ていないのかもしれん。

おっさんは多分爆睡中だろう。流石に年だろうしな。

 

「ああ、そうさせてもらう……いろいろとありがとうエド先生」

 

「おい、先生呼びに戻ってるぞ」

 

 

 

 

俺は三階の居住スペースに戻ると、ローザがキッチンに入り朝食の用意をしていた。

「おっ、ローザ、なんだ?今日は俺が朝食当番だぞ」

 

「そうか。そうだったかもしれん」

こんなとぼけた言い方だが、ローザは俺に気を使って、代わりに朝食を作ってくれているのだろう。

 

「……ありがとな」

 

「連中はどうした」

 

「ああ、トラヴィスのおっさんは知ってるな。その息子のヴィンセント……」

俺もキッチンに入り朝食の用意を手伝いながら、昨晩の事を簡単に説明する

 

一通り説明を聞いたハマーンは……

「ふん。凡その事情は理解した。だが、アンネローゼ・ローゼンハインという女は知らんな。確かに純粋なニュータイプの気配を感じたが」

ハマーンはどうやら本当にアンネローゼの事は知らない様だ。なぜだ?

それにニュータイプの気配とかさらっと言ってやがるが、やっぱりニュータイプ同士はテレパスとまで行かないが、まじでお互いの存在を感じる事ができるようだ。

アンネローゼの方はプレッシャーとか言っていたが。

 

「ニュータイプの気配か…まあ、それは置いといてだ。彼女はジオンの残党でグレミーに付いたって事は、元は同じ釜の飯を食った仲じゃないのか?」

 

「いや、ジオンの残党は地球や宇宙各所に存在する。一枚岩ではない。グレミーが反乱を起こした際に、どこぞのジオンの残党一派がグレミーに付き従い合流したのだろう」

 

「なにか?ジオン残党同士でもお互いけん制し合ってるって事か?」

 

「ああ、ネオ・ジオンと名乗ってはいたが、元はアクシズ。勢力としては大きくはあったが、宇宙におけるジオン残党の一勢力に過ぎん。ミネバ様の名を冠している事からわかるだろうが、ドズル中将一派だ。特にキシリア派とはそりが合わないのは今も昔も同じだ」

なんだそりゃ?ドズルとキシリアって兄妹だよな。ザビ家同士で争っていたのかよ。

ただでさえ国力の弱いジオンが、内部でいがみ合ってりゃ、ざまーねーわな。

散り散りになったジオン残党は律儀にそれを守っていたってことか?アホらしいにも程がある。

 

「まあいいか。とりあえずだ。クロエはまだ意識が戻らんし、しばらくは安静状態だからいいとして、ヴィンセントには直ぐにバレるだろうし。アンネローゼはヴィンセント達とは一応和解したようだが、いわば敵同士なのだろう?どうしたものか」

 

「ふん。私は既に死んだ人間だ。もはやネオ・ジオンの人間ではない。それに今の私はローザだ。そうなのだろう?」

 

「まあ、ちげーねーけどよ。あいつ等に騒がれるのもな……トラヴィスのおっさんにちょっと言い含めておくか」

 

「私に任せろ。自分の後始末は自分で行う。これも過去の清算だ」

 

「いいのか?」

 

「自分の事は自分でしろと言ったのはどこの誰だ?」

 

「俺だけどよー……流石にこれはな」

 

「いいから任せろ」

自信満々に胸をはるハマーン。

いや、なんか逆に不安なんだが……

 

「わかった。……それとだ。今の二階の部屋から三階に引っ越してくれないか?」

その件はとりあえずハマーンに任せるとして、俺はこんな事を彼女に頼む。

 

「どういうことだ?」

 

「しばらく入院患者が二人増えそうだし、流石にそこに曲がりなりにも家族を置いておくわけにはいかねーだろ?本来あそこは病室だしな。あの部屋を気に入ってるんなら仕方が無いが」

今迄何となくそのままの流れで来たが、2階は本来診療所の病室だ。殆ど使ってなかったがな。

仮にも俺の妹を名乗ってる分だし、この機会に三階の居住スペースに移った方が良いだろうと提案した。

 

「か…かぞ…ぞく……うむ。仕方がないな。気に入っていたのだが致し方ない。窓から宇宙(そら)が見えるのだろうな?」

ん?相変わらず仏頂面だが、ちょっと動揺してるような……何か変な事を俺は言ったか?

 

「どこからでも見えるだろ?まあ、三階に余ってる部屋が二つあるし。好きなのを使えばいい」

 

「ふむ。悪くはない」

で、なんでそこで偉そうなんだ?っと言っても仕方がない。今更だ。

 

「そうか、後で手伝ってやる」

部屋の入れ替えをちょっとは手伝ってやるか。

荷物も衣服程度だから、直ぐに終わるだろう。

 

しばらくして、リゼも起きてきて、朝飯を3人で摂る。

リゼにはトラヴィスのおっさんの知り合いが怪我と病気で今日から二人入院すること、一人は重篤ということ、今2階でおっさんと息子とその知り合いの一人が2階の病室で寝てる事を告げる。

 

リゼは7時半過ぎには学校へと出かけた。

 

俺もクロエの様子を見、クロエの血液と副作用を抑えるために常用していた錠剤をそれぞれの検査機にセットする。

それに、今日は普通に診療日だ。

9時からの午前の診察のために準備をしなきゃならない。

昨晩あんなことがあったとしても、通常どおり開院する。

待ってる患者も居るからな。

まあ、準備と言っても、通院患者の予約のチェックと清掃や昨晩洗浄殺菌しておいた器具のチェックなど、それほど大層な物じゃない。

それに今はローザも手伝ってくれる。

 

それにトラヴィスのおっさんらは午前中は寝てるだろうし……、起きてきても2階で待ってもらう。

診察も13時には午前の部は終わる。

話はその後だ。

ローザ…ハマーンの件もな。

 

それにしてもあいつ、自信満々だったが、どう説明するつもりだ?

 




次回は遂にハマーン様、過去との遭遇ですね。
ハマーン様に秘策あり?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉑来訪者の朝

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きです。
連続投稿になります。


 

午前の診療が終わり、クロエの様子を再びチェックする。

メディカルマシーンの経過情報を見る限りは安定している。

この分だと、しばらくすると目を覚ますかもな。

 

「エドいいか?」

すると、診察室の方からノックの音と共にトラヴィスのおっさんが声をかけて来た。

 

「ああ、いいぞ」

 

トラヴィスのおっさんと息子のヴィンセント、アンネローゼがそろって診療室の方からこの集中治療室に入って来た。

 

「ちょっとは寝れたか?」

その3人に挨拶がてら聞く。

 

「ははっ、二日ぶりだったから爆睡だっての」

「おかげで」

「少しは……」

おっさんは予想通り爆睡してすっきりした顔になってるな、ヴィンセントも少しは寝れたようだ。アンネローゼはあまり寝られなかったような感じだ。やはり精神的な問題があるのか?それともプレッシャーとやらの影響か?

 

「エド先生、クロエの様子は?」

ヴィンセントは早速、メディカルマシーンの中で眠るクロエの様子を見ながら、容態を聞いてきた。

 

「安定してる。この分だと、今日にも目が覚めるかもしれないな」

 

「エド、本当に助かった。この恩は必ず返す」

「エド先生……」

トラヴィスとヴィンセントは再度俺に頭を下げる。

 

「いや、これからだ。まだ治療も始まっていないし、治療方法もまだ分からないからな。手探りで進めていくしかない。正直、治療に何時までかかるか見当も付かない。当分入院生活は余儀なくされる事は間違いない」

 

「……そうか」

「そうですか」

 

「何とかしてやるから、そんな顔するなって」

俺はおっさんと項垂れるヴィンセントに励ますつもりでそう声を掛けた。

 

 

そんな親子二人の横で、やはり複雑そうな顔をするアンネローゼに声を掛ける。

「それとだ。アンネローゼさんもしばらく入院だ」

 

「え?わたし?私もですか?」

アンネローゼは意外そうな顔を俺に向ける。

 

「ああ、あんたは戦いで疲れ切ってる。体も精神もな。しばらく療養が必要だ。歴戦の戦士でも、戦争が終わった途端、精神のバランスを崩して、コテンとあの世行きってこともある。あんたはちょっとその気配がある。しばらくここで入院だ」

戦争が終わった後、生き残った兵士も、精神の異常を起こしたり、体調不良が続き職に就けない人間を何人も見て来た。自殺したり、原因不明の死を遂げたりした奴もいた。

戦争という非日常から日常生活に戻れない人間はかなり多い。

戦いをやり合ってる最中は問題がなくとも、知らず知らずに心に傷を負っているものだ。

それを消化できるか出来ないかは、戦時の経験やそいつの精神力や性格にもよるが、アンネローゼは憎しみを原動力でいままで戦って来た。しかも16歳という多感な少女時代後半からな。憎しみは怒りや悲しみという負の感情の集合体だ。きっと、そんな感情に振り回され毎日を過ごしてきたのだろう。精神の消耗は相当なものだと。

立場は違えどもハマーンもそうだ。僅か16歳ぐらいの小娘がアクシズの摂政として実質トップに立ち、ジオン再興という重荷を背負わされて今まで戦って来た。

そのジオン再興のためと、数々の悪行を成してきたのだ。

心に闇が落ちないわけが無い。

 

「え?ええ?」

アンネローゼは困惑してるようだ。まあ、自覚は全くないようだしな。

 

「安心しろ。治療費やらなんやらはぜーーーんぶ、トラヴィスのおっさんが払ってくれる」

俺はワザとこんな言い方をして説得する。

精神的に病んでいるにもかかわらず自覚が無い手合いには正論(病状)をクドクドと説くよりも、全く別のアプローチから攻めた方が説得しやすい。

入院させりゃ、こっちのものだ。

まあ、やってる事は詐欺師まがいだが、これも本人のためだ。

 

「エドは手厳しいな。まあ、そう言うことだ。金の心配はいらない。アンネローゼ。この先生は若いが信用できる。ここに来るまでに話した通り、俺が知る医者の中で腕はピカ一だ。口は悪いけどな」

トラヴィスのおっさんは俺の話に乗ってきてくれた。

 

「口が悪りーのはお互い様だおっさん。というわけでアンネローゼさんよろしく」

俺はアンネローゼの手を強引に取り握手をする。

 

「え?…その…よろしくお願いします」

とりあえず、説得に成功だな。

精神的な病は自覚症状がないケースが結構ある。

クドクド病状を説明しても納得しないだろう。自分は違うと……

まあ、少々強引だが大丈夫だろう。

 

 

 

さてと、次のステップなんだが……これが一番の問題だ。

いわゆるハマーン問題。

元部下のヴィンセントに、同じジオン系だが敵対勢力だったアンネローゼ。

ハマーンが生きてここに居ると知ったらこの二人はどういう態度をとるか……、俺も予想がつかない。

 

だが、これは避けては通れない。

 

 





次こそが二人との邂逅です。
連続投稿です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉒邂逅

続きです。



今、ハマーンは昼飯の用意をしに行ってる。このトラヴィスのおっさんとヴィンセント、アンネローゼの3人の分もな……

しかし、問題がある。

ヴィンセントとアンネローゼにハマーンである事がバレてしまう事だ。

元部下と敵対勢力の元ジオン残党兵のこの二人にバレると厄介である事は間違いない。

ハマーンは任せろと自信満々だった。

二人を説得するつもりか、それともバレないようにやり過ごすつもりなのか……

少々心配だが、俺が何とか出来そうもないから、任すしかない。

いざとなれば、トラヴィスのおっさんが何とかしてくれると俺は期待していたりする。

 

 

「よし、腹が減っては戦は出来ねーって格言がある位だ。今後の事は、飯を食った後だ。上に妹が用意してる。しばらくロクに食ってなかっただろ?」

俺は意を決して、3人を昼食に誘う。

 

「流石エドっ!腹減ってしかたなかったんだ」

「頂きます」

「ありがとうございます」

 

俺は3人をハマーンが居る三階の居住スペースへと案内する。

三階へと行き際に、トラヴィスのおっさんが神妙な面持ちでコソコソと話しかけてくる。

内容は予想通りだった。

「エド、ローザさんの事はどうするつもりだ?」

「ローザが自分で何とかすると言っていたし…不安だが。そんでおっさんは二人には?」

「俺からは何も話してない」

「まあ、なるようになれだ。いざとなった時はおっさん、助けてくれよな」

「ああ、そのつもりだ」

 

まじで、なるようになるしかない。

最悪俺がローザをおっさんがヴィンセントとアンネローゼを全力で止めるまでだ。

 

俺は嫌な予感がしてならない。

任せろと言ったあの自信満々のローザの不敵な笑みが、俺をどうしようもなく不安に駆り立てる。

やっぱあれだ……

堂々とハマーン・カーンだと名乗りそうで怖い。

そんで居丈高に『我の前にひれ伏せ』とか言って、威圧して強引に、2人を付き従わせようとするんじゃなかろうか?

そんで、ハマーンの威に恐れをなした二人がひれ伏し、その光景に満足そうに頷く。

俺にどうだと言わんばかりに、不敵な笑みを送って来るまで見える……

 

いやいやいや、後々の事を考えれば、そんな事をしないだろう。

ああ見えても賢い女だ。

だが……不安だ。

 

階段を上り、扉を開けるとリビングダイニングだ。

俺が先に入り中の様子を見る……

ローザはキッチンの中だ。……特に変わった様子は無い。

 

その後、3人が入って来た。

 

「客人、昼食を用意している」

ローザはエプロンを脱ぎながら3人に声をかけ、テーブルの席に座るように促す。

……普通だ。言い方と表情は何時もと同じで堅いが……

俺はホッと息を吐く。ちょっと拍子抜け感はあるが、これでいい。

 

「俺の上の妹のローザだ」

俺は初めてローザに会う二人にそう紹介する。

 

「ヴィンセントです。突然押し寄せて申し訳……ありません」

ヴィンセントはローザの顔を見て……一瞬言葉を詰まらせていた。

バレたか?バレるよな。もと上司と部下だし。

 

「アンネローゼです。よろしく」

アンネローゼは普通に挨拶をした。

まあ、直接面識はないわけだし、普通にしていればバレはしないか。

いや、いずれはちゃんと話さないといけないが。

 

「ローザさん、わるいね」

トラヴィスのおっさんは何時もの感じで挨拶をする。

 

「事情はある程度聞いている」

ローザはそう言って、空いてるコップにオレンジジュースを注ぐ。

 

楕円形のダイニングテーブルに俺とローザが並び、対面にヴィンセント、おっさん、アンネローゼが座る。

そして、皆は、俺とローザが料理したサンドイッチとサラダ、ベーコンスクランブルエッグを食していく。

 

しかし、食卓はシンと静まりかえっている。

ローザがしゃべらないのは何時もの事で、二人で食事するときはこんな感じなんだが……何だか気まずい。

 

ヴィンセントの奴は黙々と昼食を食べるローザの顔をチラチラと見ては、疑問顔をしてやがるし。まだ、バレてない様子だが……、気になってるよな。

トラヴィスのおっさんは苦笑してるし……

 

「おいしい。ローザさんが作ったんですか?」

そんな中、アンネローゼが口を開く。

 

「ああ」

だが、ローザの返事は何時ものそっけない物だ。

会話が途切れてしまった。

 

この後も、アンネローゼが話題を振るが、ローザの「ああ」か「いや」で会話が終わってしまう。

 

アンネローゼ、許してやってほしい。

これはこいつの仕様なんだ。

悪気が有るわけじゃない。

 

もしかして、このままいけば、バレずに済むんじゃないか?

ヴィンセントも何か引っかかっているようだが、確証を得られていないようだしな。

 

 

しかし……

皆が食事を終わらせたのを見計らって、ローザはヴィンセントにゆっくりとした口調で話しかける。

「ヴィンセント少佐。もう、貴殿は分かっているのだろう?」

 

「……ということはやはり……ハマーン様でしたか。お言葉をかけられるまで、確証が得られませんでした。1年半以上前、戦死されたと……髪の色や髪型が違っていたのもそうでしたが、貴方の雰囲気が私の知ってるネオ・ジオンを束ねるハマーン・カーン様とあまりにも異なっていたので……生きてらしたのですね」

ヴィンセントは少々緊張した面持ちだが、冷静に努め返答をしていた。

どうやら落ち着いて話せる雰囲気だ。食事を摂った後のこのタイミングが良かったのだろう。今は事の成り行きを見守るのがベストか。

 

「え?……ハマーン・カーンって……どういう事?ヴィンセント隊長」

アンネローゼはハマーンとヴィンセントを交互に見て、困惑気味に聞く。

 

「私は、嘗てハマーン・カーンと名乗っていた女だ」

 

「え?えええ?……それって?」

アンネローゼは慌てて席を立とうとしたが、トラヴィスのおっさんが、肩に手をやり首を振って座るように促していた。

 

「ハマーン様、なぜこのような所に?」

 

「私は1年半前に本来なら宇宙の藻屑となり死んでいた。だが、死の一歩手前でこの男に拾われ……一命をとりとめ、9カ月前に目を覚ましこうして生きている」

 

「9か月間も目を覚まさなかった……いえ、ネオ・ジオンには戻られないのですか?」

 

「……戻るつもりは無い。ハマーン・カーンの役割は終わっている。一年半前にな。今は貴殿の眼鏡にかなう新たな指導者がジオン残党を束ねているのだろう?」

 

「いえ……新たな指導者が立ったとは聞いてはおりましたが、詳しくは知りません。私はユーリー・ハスラー将軍に誘われ、今回のグレミー残党兵討伐隊に参加したまでです」

 

「……ハスラーが従う程の人物か……まさかな…奴は死んだハズだ」

ハマーンは何かを考えているようだった。

 

「………」

 

「話が逸れたな。……ヴィンセント少佐、私の今の名はローザだ。ローザ・ヘイガーだ。そう言う事にしてもらえないだろうか?頼む」

ハマーンは頭を小さく下げる。

……俺はこの時少々驚いた。あのローザ、いやハマーンが人に頭を下げたのだ。

 

「………ハマーン様……いえ、ローザさん。頭をお上げください。それを言うならば私も同じです。いえ、私は逃亡したのです戦場から……逃亡兵は重い罪では?…ですが、私はもう戦場に戻るのはこりごりです。私は私の手の届く者を大切にし、生きていくと決めたのです。だから……お互い様です」

ヴィンセントははにかんだ笑顔でそう答えた。

 

ハマーンはアンネローゼに視線を移す。

自然と皆の視線はアンネローゼへと向かう。

「わ、私だって、もう戦う意味が無いし、もう……復讐とか疲れちゃったのよ。貴方があのハマーン・カーンだって驚いたけど、納得だわ。あのプレッシャーは流石にね。……でも今は先生の妹なのでしょ?」

アンネローゼもこの言い回しだと、了解してくれたのだろう。

 

「そう言う事だ。この男には死なせてもらえない上に、無理矢理妹にさせられたのだがな」

ハマーンはそう言って俺に不敵な笑みを零す。

 

「無理矢理っておい。……まあ、何とかまとまったようだな。というわけで、ヴィンセントとアンネローゼさんも、こいつの事は黙ってやってほしい。というか一蓮托生だ。特にヴィンセント!あんたはネオ・ジオンの佐官だったのだろ?もう、普通に暮らせないぞ!お前さんも名前を変えないとな。まあ、その辺はおっさんが手配してくれるだろうが。それとだ。トラヴィスのおっさんに一生感謝し続けろ!」

話はどうやらついたようだ。

俺はここでようやくこの話に入り、口を出す。

 

そんで、皆同じ仲間(ムジナ)に引きずり込む。

これでここに居る全員、一連托生って事だ。

ヴィンセントもアンネローゼ、下で寝てるクロエも言わば戦場から脱走した逃亡兵だ。

逃亡兵は罪が重い。下手すりゃ銃殺だ。

まあ、今のネオ・ジオンもジオン残党も正規兵じゃないから、そんなものが適用されるかも怪しいがな。

しかし、それよりもだ。

特に佐官だったヴィンセントは連邦にマークされてるだろう。

このまま、何もなかったように生活できるわけが無い。色々と偽装工作が必要となる。

まあ、おっさんの事だ。この辺の事はどうとでも出来るだろう。

何せ、一年戦争では人類の半分も死に、遺体も無い人たちが殆どだ。

誰かに成りすますなんてことは日常茶飯事だ。

名前と戸籍を売買する裏ビジネスみたいなものもあるぐらいだ。

 

ふぅ、何とかまとまったな。

あのハマーンが頭を下げるか……。

この状況下でほぼ最大の出来だな。

やはり賢い女だ。

ただの居丈高しいだけの女じゃない。

 

そんなハマーンが何故、ネオ・ジオンを率いて、地球に対して宣戦布告をし全面戦争へと突き進んだのかが疑問が残る。

あいつ自身も、勝機が無い事を知っていたような口ぶりだった。

 

それはそうとだ。

アンネローゼとクロエが、ローザと打ち解け、友人関係になってくれれば言う事は無い。

あいつ、友達とか今まで居なかっただろうしな。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉓閑話:引っ越し

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は閑話休題
日常編です。


 

宇宙世紀0090年6月上旬

 

ローザの正体バレの件は何とか収まった。

意外にもハマーンは二人に誠実に対応したのだ。

まあ、ハマーン流ではあるが……

 

トラヴィスのおっさんと息子のヴィンセント、それとアンネローゼはこの15番コロニーの中心街へと買い物に出かけた。

クロエとアンネローゼ自身の衣服や下着、入院に必要なものなどもろもろだ。

それに、ヴィンセント達は、身一つで逃げるようにここに来たものだから、身の回りの物を何一つ持っていない。

必要最低限、生活に必要な物を買うのだろう。

 

そのヴィンセントだが、暫く俺の診療所に泊めてほしいと頭を下げた。

まあ、クロエの事もある。病室も空いてるし、特に問題はないが、一応期限を切っている。

精神に爆弾を抱えているアンネローゼの為にもその方が良い。

クロエに遺恨を残してるアンネローゼにとって、ヴィンセントが居る事で暴発することは無いだろう。

 

トラヴィスのおっさんは買い物が終わった後、一度、隣の16番コロニーのジャンク屋兼自宅に戻るらしい。

 

 

3人が出かけている間に、やらなくてはならない事がある。

勿論、クロエの容態のチェックもそうだが……

 

ハマーンの部屋の引っ越しだ。

ハマーンは2階の個室病室を使っていたのだが、このほど入院患者が二人増えるのに、ローザとして家族を名乗っているハマーンをこのまま病室に置いておくのも問題があるとし、三階の居住区に部屋を移す事になった。

 

「ローザ入るぞ」

俺は今引っ越しの手伝いをするために、ローザが使ってる個室病室にノックして入る。

既にローザは俺から受けるリハビリは2カ月前に終わってる。

ようするにローザの部屋に入るのは2カ月ぶりとなる。

 

「お前は待てと言っても、入るだろう」

ローザは、何やら急いで片付けていた様子だ。

 

物も随分増えたな。

前はシンプルで味気ないただの病室だったのだが、随分女性らしくなった。

いや……少女チックになったの間違いか……

大人の女性の落ち着いた感じは受けない。なんかリゼと同じ年代の子の部屋の様相だ。

まあ、なんていうかお嬢様っぽい。

薄いピンク地の生地や白のレースやらが、あちらこちらと。

ガキっぽいわけじゃないんだがな。

 

俺の想像では、黒とか灰色とかレザーとかが似合うと思うんだがな。

意外と乙女チックな趣味があるようだ。

 

 

「重いもんは任せろ。その白の洋服タンスは最近買った奴だろ?中身を出してから、運んでやる」

 

「ふん、せわしい男だ」

ローザはそう言いつつ、先に片付けていた物を持って、三階の新たな自室に持って行く。

俺もベッドのシーツやら枕を持って、三階へ上がる。

三階の部屋のベッドは病室のベッドと異なり、木製のアンティーク調の味があるベッドだ。

俺がこの診療所兼自宅を購入した際に、ついていたものだ。その他にもタンスとかカーテンとかも買った当初のまま置かれている。

この部屋は個室病室に比べれば広い、壁紙も白色というよりもアイボリーか、元々寝室用の部屋だからな。

今迄この部屋は使用してない物置状態だった。物置といってもトイレットペーパーとかストックできる日常品が置いてあっただけだけどな。

それらはもう一つ使用していない空部屋へと既に移し変えている。

 

「カーテンは変えた方がいいだろう。私に相応しい物を購入しよう」

ローザは部屋の中をうろうろとしレイアウトを構想しているようだ。

ローザには診療所の手伝いをしてもらってる代わりに、アルバイト代程度の小遣いを渡している。その範囲でやるのは問題ない。

部屋は言わば自分の城だ。

自分の好きなようにすればいい……ん?あいつはリアルに城みたいなものを持っていたよな。アクシズっていう。

いや、あれは本来ザビ家の忘れ形見のミネバの物か。

 

俺はその間、元の個室病室に戻り、部屋の片づけをやっておいてやろうと、タンスの中の物を整理する。

まあ、アレだ。この頃リゼと買い物に出かける事が多いから、俺の知らないものが結構増えてんな。

髪留めや髪紐も結構種類があるんだな。

俺はタンスからそれらを取り出しビニール袋に移し替える。

次の引き出しは……

 

…………あいつ。相当気に入ってるのな。

しかし、これをどうやって買ってるんだ。

 

俺が引き出しを開けてみたものは。

パンツだった。

クマの顔のマスコットキャラがプリントされたあのパンツだ。

しかも、結構な数とバリエーションがあるんだが……

 

これ、てっきりリゼの物だと思っていた。

洗濯の後に、脱衣所のリゼのブースに放り込んでいたんだが……こいつの物だったのかよ。

 

しかし、まじでどうやって買ってるんだ?

流石に大人の女性用下着の店やコーナーにクマのパンツは売ってないだろう。

多分、子供コーナーやジュニアコーナーしかないんじゃないか?

そこで購入しているのだろうか?

 

ハマーンが堂々と私が履くものだと店員に言って買うだろうか?

きっとこれは子供用だろう。

店員さんはその時、どんな顔をするのだろうか?

 

いや、きっとリゼに買ってもらっているのだろう。

いやいやいや、流石に妹分のリゼに買ってもらうとか……

 

ん?きっと、妹のパンツだとか言って、買っているのだろう。

これならば、俺でも恥ずかしげもなく買える。

多分、そうなのだろう。そうであってほしい。

 

俺はそっと、パンツが入った引き出しを閉める。

見なかった事にするがベストだ。

 

次だ次の引き出しだ。

次はブラジャーか。

しかし数が……

 

「き、貴様は何をやってる!恥を知れ痴れ者!」

ローザが個室病室に戻って来て、いきなり後ろから怒鳴り散らしてきた。

 

「いや、引っ越しの手伝いでタンスの中を整理してやろうと思っただけだが」

 

「……貴様というやつは、当然のように……常識というものが欠如しているようだな!貴様のような奴は一度軍警に厄介になれ!」

ローザはすげー剣幕で俺に迫って来た。

 

「はぁ?何言ってんだ?」

 

「デリカシーのかけらもない。女性の下着に手を付けるとは。それとも私を女として見ていないのか?全く不愉快だ!」

 

「なんだそりゃ?妹や家族の服や下着だろ?しかも、洗濯とかでほぼ毎日手にしてるんだから、今更だろ?」

何言ってるんだこいつは?そんなに顔を赤くして怒る事か?

 

「くっ、……もういい!タンスの中身は私が整理をする。私が良いというまで、部屋に入るな。いいな!」

ローザの奴は俺を睨みつけ、部屋から追い出す。

 

「わかったって、そんなに怒る事じゃねーだろ?」

俺はしぶしぶ個室病室から出て行く。

ん?……そうか。そうだよな。クマのパンツは流石に秘密にしておきたいか……

それで、あんなに怒っていたのか。

クマのパンツを大人の女性が履くのは流石に憚れるものだと理解した上での事だったという事か。うむ。その常識を持った上であれば、問題ないだろう。

まあ、人には知られたくない秘密の一つや二つあるものだ。

 

しかし、昔は上の妹もよく俺に怒鳴っていたっけか?

デリカシーが無いとか……。

しかも、毎回理解に苦しむような理由で……。

 

年頃の女はよくわからん。

リゼも何れそうなるのだろうか?

 





エドはあいかわらずデリカシーが皆無です。
それは、昔からの様です。
多分、下着を布程度にしか思っていないのでしょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉔若者達の一歩

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回はストーリー編です。


宇宙世紀0090年8月上旬

クロエとアンネローゼが入院して2か月が経った。

 

クロエは集中治療室に入ってから2日後に目を覚ます。

記憶の混濁は多少あったが、1年戦争後のヴィンセントと過ごした10年間の記憶は残っていた。

2週間後には一般病室、2階の個室病室に移す事ができたが、今も入院を余儀なくなされている。

クロエが退院できるには、まだ時間が掛かりそうだ。

 

クロエの遺伝子情報や使用していた薬剤を調べ、さらにトラヴィスのおっさんがその昔連邦軍基地からガメてきた資料も参照した。

クロエはオーガスタ研究所で強化処置を施された、初期の強化人間だった。

色々の実験的試みも施され、いろんな薬剤を投与されていた事が、トラヴィスのおっさんが持っていた資料からもわかる。

そこで、オーガスタ研究所をちょちょいと伝手で調べてみれば、出るわ出るわ悪徳の限りを尽くした数々の所業がよ。胸糞悪すぎだろ。

オーガスタ研究所は連邦軍の北米基地オーガスタ基地内部に併設された最古参のニュータイプ研究所だった。

ニュータイプの研究すると同時に、ニュータイプ用のモビルスーツなんてものも独自に開発したり、設計協力もしていたらしい。

更にだ。そのとんでもモビルスーツに適応できる兵士を人工的に作る実験もしていたのだ。

戦災孤児を使った人体実験。

どうやら金で孤児を引き取って、薬物や精神、遺伝子改造など何でもありだ。

オーガスタ研究所はグリプス戦役後、ティターンズに協力していたとあって解体されたが、その実は、今も軍事兵器会社アナハイムエレクトロニクスに接収され、地球支部の研究所として存続している。

見かけ上は研究施設はなくなったが、軍事兵器会社に引き取らせ、やらせてる事は今も変わらないだろう。まじ、くそったれだ。

地球連邦軍はオーガスタを始めとするこの辺の研究所も同じことをやっていたようだ。

 

そして、クロエも一年戦争戦災孤児で、初期の人体実験の被検者だった。

モルモットのように数々の薬物投与を受けてきた戦災孤児の中で生き残ったのがクロエだった。

 

マジでろくでもねー。

ちょっと殴り込みに行きたい気分だ。

 

まあ、そんなろくでもねー資料を基に、クロエの体を修復させるための処置方法を俺は独自に構想を練っていた。

リゼの時に構築した治療のガイドラインが役に立つ、それを元に凡そのプランを練る。

しかし、クロエは25歳、立派な成人女性だ。

リゼはまだ体が未発達とあって、修復スピードが速かったり、遺伝子治療が上手く行きやすかったりしたが、クロエはそううまくはいかないだろう。

 

根気よくやって行くしかねーな。

幸い、資金については、トラヴィスのおっさんが湯水のように渡してくれる。

あのおっさん。一年戦争時に上司が隠していた莫大な金塊やらをパクッていたらしい。

勿論、その上司はそれ以外にも黒黒とした罪状がたんまりあるもんだから、連邦軍内部の別派閥勢力に密告して戦争のどさくさに紛れて殺(やっ)ちゃったみたいだが。

 

あのおっさん。こういう渡り上手というか、場の空気を読む能力というかそう言うのが異様に長けてるんだよな。

未だに、今も連邦の上層部に君臨するお偉いさん方の失脚するぐらいの弱みも握ってるし。

それにZⅡを裏側から入手できるぐらいだ。まじで何でもありだ。

 

 

ちなみにアンネローゼは退院させた。

もっと、時間がかかるのかと思ったが思いのほか良好だった。

もう自暴自棄になったりすることは無いだろう。

だが……

 

「ローザ姉さま、お手伝いすることはありますか?」

 

「ええい邪魔だ。必要ない」

 

何故かローザに付きまとっているのだ。

しかも、アンネローゼの方が3歳年上なのに、ローザを姉呼ばわりして、妹分気取りだ。

さらに、何故か個室病室にそのまま居座っている。

一応、部屋代は払ってくれてるのだがな。

 

今は、この診療所から通って、近所の花屋でバイトをしている。

アンネローゼもかなりの美人でスタイル抜群だから、客も増え売り上げも上がったとか。

花屋の奥さんも喜んでいたがな。

アンネローゼの実家は元々サイド3の裕福な家庭の出身だったらしいが、今はその家は無いらしい。詳しい事は聞いてないが、トラヴィスのおっさんの話だと、サイド3内の政治抗争で失脚して、その後一族は全員亡くなったようだ。

そんな事もあって、一年戦争の部隊が家族のような存在に思っていたようだ。

その部隊も全滅……それで精神に影を落とすことに。

 

「エド先生も何かお手伝いする事ありますか?」

アンネローゼは次に笑顔で俺にも聞いてくる。

 

「アンネローゼ、今日はバイトが休みなんだろ?ゆっくり休め。バイトをやり始めて間もないだろ?休むことも重要だ」

「アンネローゼ、エドにかまうな」

 

まあ、元気になったのは良かったが、これはこれで大変そうだな。

誰かに依存したいという心は人は誰しも持っている。

アンネローゼは少女時代に家族を亡くし、さらに戦場で家族同然の部隊の仲間も亡くした。

その心に闇を落としたまま、今まで戦争の中で生きて来たのだ。

しかも、今は天涯孤独の身だ。トラヴィスのおっさんが後見人になると言っていたがな。

今はこんな感じで依存の対象がローザになっている。

精神的に随分安定してるから、まあいいけどな。

いずれ良い男でも出来ればこれも解決するだろう。

 

何でローザなのかは、多分、入院中の世話はローザが主にやってたし、同じニュータイプだからか?それにローザは基本、年上体質というか女王様気質だから、依存先としてはもってこいだったのかもしれん。

 

 

ヴィンセントは、診療所近くのアパートを借り、クロエの様子を毎日見に来ている。

それと、この街のパン屋とイタリアレストランを掛け持ちでバイトをしている。何でも、将来レストランを開きたいらしい。

母親……要するにトラヴィスのおっさんの良い関係になった人だが、サイド3で食堂をやっていたらしい。笑顔が絶えない地元でも人気店だったとか。

だが、その母親は一年戦争後、しばらくして病気でなくなったとのことだ。

ヴィンセントはその母親の食堂のような温かなレストランにしたいそうだ。

勿論、大切な人(クロエ)と一緒にな。

まじ、切り替えが早いな。

元兵士でこれだけ切り替えが早い人間は多くは無い。

この図太い神経は流石トラヴィスのおっさんの息子といった所か。

因みに、ヴィンセントは同名の戸籍を裏ルートで入手、流石に苗字は異なるがな、それは仕方が無いだろう。

 

トラヴィスのおっさんは16番コロニーでジャンク屋を再開。

週に2、3回この診療所に現れ、アンネローゼやクロエ、ヴィンセントの様子を見にきていた。

そのうち、おっさんもこの15番コロニーに移住しそうだな。

 

この10年間、一年戦争を引きずって来た若者3人は、ようやく平和への道へと進み始めた。

まあ、とりあえず一件落着という事でいいだろう。

 

 

 

 

しかし……、戦争の火種は絶えない事も知った。

ジオンの残党をまとめる新たな指導者か……。

ローザ、いやハマーンは誰かの顔を浮かべ、死んだハズだとそれを否定していた……。

ハマーンが思い浮かべていた人物じゃないようだが、あの話ぶりからすると、なかなかの人物が率いていそうだ。

 

連邦のやり方には俺も腹を据えかねる事がいくつもあるが……、戦争は皆を不幸にする。

今を生きる人間にとって無用な長物だと……。

ローザとなった今のハマーンだったら、それを理解しているだろう。

 

人が人である以上争いや諍いはどうしても起きる。

だが、戦争以外の解決方法はない物だろうか?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉕若者の未来

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は、つなぎ回程度のお話です。


 

宇宙世紀0090年10月中旬

 

クロエがここに運び込まれてから4か月半が経ち、容態は大分回復し、退院出来るほどになった。

ただ、二日に一辺の検診と遺伝子治療は必要だ。

今の所、クロエ用に調整した遺伝子治療が上手く行っている。

だが、何かのはずみで体調が急変する可能性もある。そんな状況だ。

幸いというか、クロエはヴィンセントが借りてるアパートで一緒に住むため、ここから5分と場所は近い。

 

ヴィンセントの奴は入院中のクロエに告白し、結婚まで約束しやがった。

クロエはヴィンセントの事が無条件で好きだしな、なんていうか行き過ぎな位にだ。

俺だったらちょっと引くな。

そんなクロエを愛おしそうに見つめるヴィンセント。

まったく、ごちそうさまだ。

俺も一緒に病室に居るのにだ。毎回勘弁してほしいぜ。

こちとら独身なんだぞ。そのうちに壁を蹴りたくなるからな。

 

これで二人は恋人同士、誰憚る事もなく同棲できるってもんだ。

別に悔しいから、診療所から追い出したわけじゃないぞ。

本当に、クロエの体調はよくなった。

うまく行けばだが、来年の春までには子供を作れるぐらいまで回復するかもしれない。

それにだ。しょっちゅうここに来るトラヴィスのおっさんなんか、既にクロエの事を息子の嫁扱いだ。

退院の際にはこの三人には何度もお礼を言われた。

まあ、悪い気はしないが、さすがに照れくさい。

 

 

アンネローゼは相変わらず、花屋でバイトをしながら診療所の二階の個室病室で下宿中だ。

クロエとの遺恨も大分薄まったように思う。

トラヴィスのおっさんは、アンネローゼと、ヴィンセント、クロエの間に入り楽しく会話をしたり、アンネローゼを誘い飯を食いに行ったりと、フォローも万全だ。

 

 

 

ローザことハマーンはというと。

今俺とリビングでタブレット端末を見ながら、向かい合って勉強をやってる。

「組織再生治療の方法と対処についてだが、組織再生用のメディカルマシーン群により、外部から直接人体に再生を促す直接再生治療法と、必要な生体組織を遺伝子情報から再生し移植する移植再生治療法の主に二つの方法がある」

 

「ふむ。投薬による組織再生もあるが?」

 

「ああ、それは直接再生治療法の一種だ。血液の変異やがん組織による損傷時に使用する方法だな」

 

「ほう」

 

ローザは看護資格を取るため、通信講座を受けていた。

別にこの診療所で手伝いするぐらいならいらないぞとは言ってやったが、本人が資格を取りたいと希望したからだ。

まあ、流石に看護学校に通わすわけには行かない。

それに、この片田舎の15番コロニーにはそんな学校も無い。

都市部とまでとはいかなくとも、せめて30万人規模以上のコロニーじゃないと無いだろう。

通学するには、他のコロニーに行かなくちゃならないのがネックだ。

新サイド6から出るわけではないため、渡航審査は無いが、あまり人口が多い場所へと通わせたくはない。身バレのリスクはなるべく避けたい。

それに現実的に時間的にも金銭的にも厳しい。

そこで通信講座だ。

ここ以外の田舎のコロニーでも資格を取るための学校などはほぼ無い。だから通信講座が発達し、皆利用している。

ローザはそんな通信講座を受けながら、疑問があれば、俺が今のように教えてる感じだ。

元々頭がいいから覚えも速い。ほとんどテキストや通信授業だけで理解してしまうから、俺の出番は少ない。

通常2年の通信カリキュラムを多分1年で終える事が出来るだろう。

下手をすりゃ、医学試験も通るんじゃないか?ペーパーだけだったら。

 

別にずっと診療所の手伝いなんてものをさせるつもりは無い。

本当に自分がやりたいことが見つかれば、やればいいとも言ってやった。

まあ、立場上どうしても制限はかかるがな。

どうやら、他にもあれこれと通信講座を受けるつもりのようだ。

税務資格や不動産資格、経営学やらいろいろと調べていたな。

自身が将来何になりたいのか、模索中なのだろう。

良い傾向だ。

 

 

それとだ。アンネローゼも同じく通信講座を受けている。

なんでも司法試験を受けるって言っていた。弁護士をめざしてるらしい。

かなりの難題だ。最難関資格の一つだからな。

軍に入る前は、元々将来は法律関係の仕事をしたかったらしい。

自分の家を没落に追いやった連中を何とかしたいという思いからだったとか……。

だが、戦争が始まり、高校を卒業せずに学徒兵に志願し、その後軍事訓練養成学校に入り卒業、一応高校卒業扱いということらしいが。

それとだ。16歳でモビルスーツに乗ってやがった。

モビルスーツに乗れるだけの適正があったという事だ。体のバランス感覚や身体能力もさることながら、頭も良くなくっちゃなんねー。特に理系の工学系知識はせめて工学系の大学生並みに要求される。

モビルスーツパイロットは荒くれ者のイメージがあるが、実際奴らは高度な知識を持ってモビルスーツを動かしていやがる。

そもそもモビルスーツは、現代工学の粋を集めた最先端工学技術の塊なんだ。

そんなものを予備知識なしで動かせるなんてことは、ほぼ無い。

直感だけで動かせる奴が居たそうだが、そんなものは例外中の例外だ。

 

アンネローゼも元々頭が良いってのはあるが、工学知識と、司法試験とは全く別物だからな、今からの勉強は大変だろう。

それ以外にも問題はある。

彼女がサイド3出身だという事だ。

ジオン残党として兵士をやっていた事はもみ消す事は出来るが、サイド3出身者というレッテルは消えない。特に司法試験っていう法律に関するジャンルはな。言わなくてもわかるだろうが、テストで合格ラインに達したとしても、落とされるのが落ちだ。

アンネローゼも戸籍を裏ルートで手に入れた方が良いかもしれん。

そうだな、トラヴィスのおっさんに養子にしてもらえばいい。

おっさんは一応、地球出身だからな。それで帳消しになるだろう。

 

それとアンネローゼはよく笑う様になった。

これが本来の彼女なのだろう。

ヴィンセントから聞いたのだが、一年戦争時代のアンネローゼは軍の中に居たにも関わらず、明るく自由奔放な感じの少女だったらしい。上官として度々制するのが大変だったぐらいにな。

 

 

 

「多量出血の際の止血の応急処置はどうやるのだ?……おいエド、聞いてるのか?」

 

「おっと、すまん。ボッとしてた。止血だったな、診療所で教えてやるよ」

俺は考えに耽っていた所に目の前のローザに声をかけられる。

 

「ふむ……」

ローザは俺を訝しげに見ていた。

 

「ちょっと考え事をしてただけだ」

そう言えばローザの奴、この頃俺の事を名前で呼ぶようになった。

今迄は、貴様かお前だったのにな。

俺は自然と苦笑気味に笑みがこぼれていた。

 

さらに目を鋭くして俺を見るローザ。

 

 

こいつ等には新しい未来がある。

ジオン再興やら復讐や愛憎などに囚われ、軍隊という閉鎖された環境で時間を費やしちまった。

回り道をしてしまったが、漸く今、止まっていた自分の時間が動き出したといったところか。

いや、回り道をしたからこそ、今があるのかもしれない。

 

俺やトラヴィスのおっさんのような奴らで、こいつらが未来に進めるように、ちょっと背中を押してやればいい。

 

 

 






エドはもうすぐ31歳。その年にしてはちょっと達観しすぎですね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉖誕生日

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は日常編です。


宇宙世紀0091年1月16日

この日はハマーンの24歳の誕生日だ。

俺があいつを宇宙で拾ってから2年が経つ。

因みにリゼは、誕生日とかも不明だったため、俺のとこに来た日、1月17日を誕生日にしている。一日違いだから、誕生日祝いは去年同様に一緒にすることになる。

今年も街に出て飯食って、また服でも買ってやろうと思ったのだが……

アンネローゼやヴィンセント、クロエとトラヴィスのおっさん達と俺んちで2人の誕生日パーティーを開くことになった。

これを考えたのはアンネローゼだ。

 

イタリアンレストランで修行中の身のヴィンセントが、チキンステーキやポテトサラダ、マカロニグラタンなどのメイン料理を用意してくれた。

俺はサンドイッチを担当。アンネローゼにも手伝わせた。

アンネローゼは元々料理が下手だったが、俺やリゼ、ローザの手伝いをするうちにちょっとはマシになった。

まあ、一緒の家に住んでるからな、飯は大概一緒に食っていたしな。

そんで、クロエが入院中はクロエも一緒だった。当然ヴィンセントもバイトの合間に来やがる。

その後も、しょっちゅう俺んちで飯食ってるからいつもと変わらん。

飯はヴィンセントがバイトのスキルを活かして、ゴージャスにしてくれてるのはありがたいが、腕前はまだまだだ。

因みにトラヴィスのおっさんがケーキと酒を買ってくる係だ。

 

おめでとうの掛け声により始まった誕生日パーティーに、リゼは嬉しそうに、ローザは無表情を装っていたが、皆から顔を背けていた。どうやら気恥しいのだろう。

 

飯の前に、プレゼントを渡す。

アンネローゼからは2人に花束を。バイト先が花屋だからな妥当だろう。

リゼにはピンクのバラとユリの花束、ローザには深紅のバラの花束を渡す。

ヴィンセントとクロエからは、リゼにはリボン。ローザにはシュシュ

トラヴィスのおっさんからは、某有名ショッピングサイトで使える商品カードだ。

トラヴィスのおっさんめ、その手があったか、それならば悩まずに済む。

俺が選ぶわけじゃないし、本人が自分が気に入ったものが買える。

 

俺からは……

 

俺は悩んだ。久々に真剣に悩んだ。

街に一緒に行って、去年と同じで自分で好きな服を選ばせて買ってやろうと思ったのだが、当てが外れた。

この誕生日会の企画は、自分でプレゼントを選ばないといけないからだ。

俺がプレゼントか……

過去に妹達に渡した誕生日プレゼントはことごとく不評もいい所だった。

俺も地球に降りる前までには彼女がいたが、その彼女もいつも苦笑気味だった。

そう、俺にはどうやらプレゼントを選ぶセンスが壊滅的らしい。

 

近所のアンナさんやリゼの友達のジュリアにもそれと無しに聞いてみたが、俺自身が選んで渡す事に意義があるという事らしい。

そう言われてもな。過去に妹や彼女には不評だったんだが……

 

悩んだ末に渡したものは……

「かわいい!ありがとうお兄ちゃん!」

「ふむ。エドにしてはマシな物を選んだな」

ふぅ、どうやら間違いではなかったようだ。

俺が2人に渡したのはアルバム機能が付いたデジタル写真たてだ。

 

リゼは俺の所に来るまでの記憶は非常にあやふやで、思い出す記憶は辛い記憶しかなかったようだ。

だから、これからは過去に振り返ってよかったと思える思い出を沢山作って、写真を撮り残して欲しいと願って、これを贈った。

 

ローザ…ハマーンには、ここに居る連中との絆を感じて欲しいという願いを込めて贈った。

皆との写真を撮り、それを形として残すことにより、人と人との繋がりや絆をより鮮明に感じる事が出来るのではないかというお節介に似た何かだ。

それにハマーンにも家族が居ただろう。今もどこかで生きているだろう実の妹を大切に思っている事は彼女の話からも十分伝わってきた。

いつかはその妹とも一緒に写真を撮る機会を得られるようにと……

 

俺は簡単なメッセージと共に贈った。

メッセージは後で読んでもらう様にしてある。

こんなもん。ここで読まれでもしてみろ、流石の俺も気恥しい。

 

俺はデジタル写真たてとは別に二人にもう一つ誕生日プレゼントを用意していた。

デジタル写真たては俺の一方的な思いで贈ったものだが、本人がどう思うかが分からない。

ハマーンに関しては、余計なお節介だと言われる可能性も十分あった。

 

やはり、本人にこれはと思わせる贈り物をしてみたい。

今迄、連敗続きだったからな。ここいらで逆転しておかないとな。

俺はリサーチにリサーチを重ね、悩み悩んだ末に、リゼには今流行りのゆるキャラ、ウサギのぴょん吉のヌイグルミだ。

リゼの部屋のベッドの上にはヌイグルミが結構ある。

そして、今若者の間で人気のあるウサギのぴょん吉なら、まず間違いないだろう。

リゼはウサギのキャラものも結構好きだしな。

 

そして、ローザには……

「貴様!私がこのような物を着用するとでも思っているのか!……不愉快だ!」

翌日の朝、俺に顔を少々赤らめながらこんな事を言って来た。

 

「気にくわなかったか?」

……そんなはずはないのだが、俺のリサーチに抜かりは無いハズだ。

 

俺が贈ったものは、クマの顔のマスコットキャラがプリントされたパンツだ。

俺は知っている。ハマーンがこのクマのマスコットキャラが気に入っている事を、しかもパンツにまで……

引っ越しの際、見つけてしまったしな。

だが、自分で買うにはなかなかハードルが高いだろう。

だから、俺が買って贈ったのだ。

俺の場合、いつもお世話になってるショッピングセンターの女性下着売り場の店員さんに、妹の分ですと言ったら協力してくれたため、恥かしげもなく買えたのだ。

 

それとだ。流石にクマのパンツだけでは、男と付き合えないだろうと、もし俺に彼女が居てクマのパンツ履いていたら、流石に萎える。

だから普通のパンツもセットしておいた。クマのパンツ5枚に普通のパンツ5枚だ。

結構な値段がしたが、これで当分パンツに困らないだろう。

俺からのささやかな気遣いだ。

 

我ながらベストな選択だと思っていたのだが。

 

 

「ふん……だが、私の誕生日を祝いたいという心根だけは汲んでやろう。致し方が無いがあれは暫く残しておいてやる。仕方なくだ」

ハマーンはそう言って自室に戻る。

 

……流石にクマのパンツはもう履かなくなったのか?

まあ、そうだろうな。24歳であれは厳しい。

普通の年相応のパンツも一緒に贈っておいてよかったか。

 

じゃあ、たまに洗濯に交じってるあれはなんだったんだ?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉗人参嫌いとエロ眼鏡

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

残念ながら今回はハマーン様は出ません。
ご了承ください。
タイトル通り、あの人たち登場です。
ちょっと長めです。


宇宙世紀0091年6月中旬

中学3年に上がったリゼは、ますます身長も伸び、ローザとあまり変わらない程に。

ただ体の線は細いし、性格が子供っぽいままだ。

来年には高校へと進学だ。

高校受験というものはこの15番コロニーに居る限りは必要無い。

都市コロニーや地球の有名高校などに進学するのなら必要だが、このコロニーには高校は二校しかない。

しかも、各種専門職育成のための専門高等学校と、普通校の二校のみ。

専門高等学校は、このコロニーの産業である農業や畜産、さらには機械エンジニア、飲食業やそれこそ美容室まで、いろいろな専門学科がある。高校卒業後に直ぐにでも働けるぐらいの知識や研修も受けられる。

この片田舎の15番コロニーでは専門高等学校の方が人気が高い。

 

因みにリゼは専門高等学校に行きたいと言っていた。

服飾デザイナーになりたいと。

とりあえずその方向で考えている。

もし、違う道に変えたければ、一年次であれば学科も変更できるし、卒業後は大学進学って言う手もある。

リゼは中学の成績はすこぶる良い。

勉強はできるし、運動神経もいい、そして何よりも器用だ。

その気になればなんだって出来そうだ。

 

ローザの方は看護資格の勉強は順調そのものだ。

このまま行くと、9月の試験に合格し、資格を取れるだろう。

 

アンネローゼは司法試験の勉強をしているが、詰め込む知識が多いため、時間がかかる。

順調に行っても試験を受けるのは来年以降になるだろう。

その間は花屋のバイトをしながらの勉強の日々だ。

 

ヴィンセントは相変わらず、パン屋とイタリアンレストランの掛け持ちバイト。

クロエはまだ体調面で不安があるため、バイトなどはしていない。

ローザとアンネローゼに習い、衛生管理師と栄養士の通信講座を始めていた。

将来ヴィンセントが自分の店を持つための助けになりたい一心からだろう。

健気な事だ。

 

俺はというと……

今日は恒例の新サイド6医師会会合の日で、1番コロニーへと出かけていた。

まあ、面倒だが出ないわけにも行かない。

医師会ビルの大ホールで、新サイド6の医者連中が一斉に集まる。

集まると言っても、俺のような個人診療所や町医者程度の連中は殆ど来ない。

最先端医療や高度医療が施術できる総合病院や大学病院の医師が対象となる。

俺は何だかんだと、連邦軍大学医学部出身と元軍医で遺伝子治療や再生医療、外科手術などの最先端医療や高度医療の実績があるため、ここにこうやって半強制的に呼ばれている。

まあ、再生医療や外科手術なんてものは軍医時代や連邦軍大学医学部時代の特殊従軍軍医時代にかなりの施術数をこなしているしな。

まあ、一番は俺が連邦軍大学医学部出身のドクターだというのがでかい。

軍大学医学部出身ってだけで、医学界隈ではエリート扱いを受けるのは確かだ。

その連邦軍大学出身の医者はこの新サイド6には俺を含めて3人のみ。

連邦軍大学出のエリートがわざわざ自ら宇宙に上がる酔狂な奴はほぼ皆無だ。

俺以外の2人の先輩連中は新サイド6の医師会に好待遇で呼ばれたか、権力派閥争いとかの政治的な意図で出向してきたというのが妥当だろう。

更にだ。新サイド6にいる軍大学出身者のなかに実際に軍医経験があるのは俺だけだ。

そんなもんだから、新サイド6医師会の上層部はいちいち生意気な俺に頭を痛めているというか、毛嫌いしている。

かと言って、直接何かをして来るわけでもない。そんな勇気も無いだろう。

それに、軍大学出身の先輩連中も俺には手を出してこないしな。

 

連邦軍大学医学部内でも、連邦軍上層部と同じで、どうでもいい権力争いは日常茶飯事にあった。

だが俺は何処の派閥にも所属していなかった。いや、軍大学内に唯一派閥闘争外の教授がいた。権威権力に全く興味無し、日柄盆栽をいじってニコニコしてる爺さんだった。

何故かそんな爺さん教授に気に入られたお陰で、俺は派閥闘争に巻き込まれなくてすんだ。

モズリー先生もその爺さん教授を師事していたため、あんなに自由奔放な感じだ。

その爺さん教授は腕は天下一品らしく、昔は鬼軍医と言うあだ名が付くぐらい怖い人だったらしい。当時の連邦軍トップ、レビル将軍すらも頭が上がらない人物だったとか。

だから、軍大学の上層部は爺さん教授には手をだせなかった。

俺はその爺さん教授のお陰で今も、自由気ままに医者をやってられるってわけだ。

 

まあ、軍大学出身者は重宝されるのは何も権威や権力だけじゃない。

実際の医療技術はさて置き、知識量は凄まじい。

また、軍大学医学部は、最先端の医療技術が常に研究され、新薬も作られている。

そんな最先端の情報を軍大学医学部出身のドクターはいち早くアクセスが可能だ。

 

まあ、そんなわけで俺のような生意気な若造でも、一応それなりの対応をせざるを得ないって事だ。

 

 

俺は退屈な医師会の会合をテキトーな時間に抜け出して、宇宙港へと向かった。

ある連中と会うためだ。

 

宇宙港にほど近い個室のある和食レストランで待ち合わせてる。

「エド!久しぶり」

「エド~!」

「エド!元気そうだね」

軍服を着た3人が店員に案内され、個室に入り俺に声をかける。

黒髪の大人しそうな東洋人の若造と、金髪眼鏡のニヤケ顔の若造、大柄な女性だ。

 

「小僧共元気だったか?モーラの姉御も相変わらず元気そうだ」

俺は連中にそう挨拶を返す。

連中は7年前俺がアルビオンの軍医だった頃の仲間だ。

黒髪の大人しそうな東洋人の若造は、俺が勝手に人参嫌いとあだ名をつけてるコウ・ウラキ27歳。モビルスーツのパイロットで操縦テクは一流だ。

金髪眼鏡のニヤケ顔の若造は、エロ眼鏡とあだ名をつけてるチャック・キース27歳。

こいつもモビルスーツのパイロットで操縦テクもなかなかのものだ。

そして、俺や若造よりも大柄で褐色の女性は、俺が姉御と呼んでいるモーラ・バシットいや、今はモーラ・キースだったな33歳。チャック・キースとは6年前に結婚した。

モビルスーツ整備士で、当時は整備士連中の姉御的存在……というよりも、アルビオンの若い連中全員の姉御だったな。

この連中は今も北米オークリー基地所属の連邦軍士官だ。

 

「小僧って事は無いだろ?エド。俺はもう子供が二人も居るんだぜ」

キースはそう言いながら、俺の隣に座る。

 

「もうちょっとシャキッとしてくれたらね。エドもそう思わないかい?」

モーラはそう言って、キースの前に座る。

 

「ははっ、エドは相変わらずだね」

ウラキは俺の前に。

 

「ニナはどうした?」

俺はもう一人の友人の名を口にする。

金髪美女のニナ・パープルトン29歳。今はニナ・P・ウラキ。紆余曲折はあったが無事結婚式を上げ、今は目の前のコウ・ウラキの奥さんだ。

元アナハイムエレクトロニクスのエンジニアで妊娠を機に引退していた。

 

「ニナは俺の子とキースの子二人連れて先に月の両親の元に行ってるよ」

ニナは月のアナハイム出身で、ウラキ、キース、モーラは地球出身だ。

 

「おいおい、一人で3人のガキを連れてかよ。……そんで、新サイド6にはどれだけ滞在だ?」

 

「明日には出航して、目的地の月のアナハイムに」

ウラキは真面目に答えてくれる。

 

「忙しいこったで」

 

「エド、それよりもいい人いないのかい?」

モーラの姉御がこんな事を俺に聞いてきた。

 

「姉御、それをここで言うか?この幸せ者連中の中でよ」

 

「どうなんだよ~エド~」

キースもニヤついた顔で姉御の話に乗って来る。

 

「うるせーな。俺みたいな捻くれた者の所に来ようとする奇特な女はいねーよ」

 

「そうかい?私は良い男だと思うけどね。世間の女が見る目が無い」

 

「そう言ってくれるのは姉御だけだって」

 

この後、2時間程度談笑が続く。

ウラキ達は月のアナハイムエレクトロニクスへ新型モビルスーツのテストパイロットとして軍艦に乗り向かっていた。期間は6カ月。

丁度、この新サイド6は月と地球の中間にあるため、補給を兼ねて寄っただけだ。

ウラキ達が宇宙に上がる前に、スケジュールを教えてくれて、ここで待ち合わせをしたというわけだ。

 

ウラキ達が所属していた北米オークリー基地は、先のグリプス戦役ではティターンズにもエゥーゴにも属さなかった。

基地司令官が優柔不断な男だったのが功を奏したらしい。

初めはティターンズに尻尾を振っていたが、いざ抗争が始まると、ウラキ達士官の猛反発もあり、中立の立場を保ったのだとか。

他の基地からすれば規模は小さいし、元々重要な基地じゃなかったから、ティターンズは見逃したんだろうがな。

グリプス戦役から、ネオ・ジオン抗争までに、ティターンズは滅び、エゥーゴが弱体化した中、中立の立場を保っていた北米オークリー基地は戦力を残し、北米に降下したネオジオンやジオン残党軍に対抗し、撃退に成功したことから、連邦軍上層部に高く評価されたらしい。

まあ、ウラキとキースはこう見えてもエース級パイロットだからな。

地上に不慣れなネオ・ジオンや旧式モビルスーツのジオン残党軍連中を撃退できるってもんだ。

特にウラキはデラーズ・フリートの反乱時は、実績を帳消しにされたが、間違いなく一年戦争時の超一流のパイロットと肩を並べるぐらいの功績を上げていた。

 

オークリー基地司令官は鼻高々と言ったところか。

さらに、その実績をもって基地司令官は連邦軍上層部のどこかの有力派閥の傘下に入る事が出来たとか。

 

そんな事があって、ウラキとキースのモビルスーツ隊は、アーガマ級を一隻あてがわれ、アナハイムの新型モビルスーツのテスト部隊として選ばれたのだと。

因みにモーラの今の階級は大尉、ウラキとキースは中尉。それぞれグリプス戦役・ネオジオン抗争時の功績で上がったようだ。

そもそもこの3人、特にウラキはデラーズ・フリートの反乱の際、ティターンズの前身組織の戦術の邪魔をしたとして目をつけられ、閑職に追いやられオークリー基地送りにされたのだ。もちろん昇進など望めない状況だった。

しかし、今はティターンズも壊滅し、ウラキらをとやかく言う連中も居ない。逆に利用しようとするものが現れる可能性もある。いや、もしかすると今のテストパイロットという役目はその一環なのかもしれん。

キース曰く、テストパイロットで新型モビルスーツの開発に貢献すれば、大尉にも上がる可能性が在ると言っていた。ちょい怪しい感じだな。

まじ、やばいんじゃないか?テストパイロットとか言って、ネオ・ジオンの残党とかと戦わされるとかそいうやつじゃないのか?

俺の考えすぎか?

まあ、先のグリプス戦役・ネオ・ジオン抗争で、ティターンズが消滅したのとエゥーゴの弱体化は結構痛いだろう。連邦宇宙軍は大幅に戦力ダウンしてるだろうしな。

宇宙戦闘の経験がある連邦軍のベテランパイロットは不足しているだろうし、いつまでもエース級の腕前のウラキやキースを遊ばせるつもりは無いということなのだろうが。

 

退役軍人とはいえ今の俺は一般人だが……まあ、ちょっと表に出せないような話も混じっていたが、流石に新型モビルスーツや詳しい内情までは話してないし、このぐらいだったら大丈夫なレベルだろう。俺も言いふらしたりしないしな。

 




今回は0083の連中との邂逅

次回から過去との遭遇編予定。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉘女の影

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は繋ぎ回ですね。


小僧共や姉御が元気そうで何よりだ。

任務の合間だから流石に酒を出すわけには行かないが、この面子の顔を見ながら飯を食うだけでも十分だ。

映像通信で顔を合わす事は度々あるが、こうやって直接会うのは7年ぶりとなるからな。

 

「エド、通信で2人目の妹が出来たって言ってたけど、どういう子だい?」

通信で姉御達には一人目のリゼについてはそこそこ突っ込んだ話をしていたが、ハマーンの件は上っ面だけしか話していない。

事が事だったからな。当初はこいつらを巻き込まないように、訳ありの子を引き取った程度しか話していない。

 

「もしかして、また小さい子とかじゃないよねエド。まさかロリコンじゃあるまいし」

ウラキの野郎が真面目な顔して、こんな事を言ってきやがった。

 

「バーカ。ちげえよ」

 

「コウ、そんなわけないだろ?エドは大の巨乳好きなんだぞ!」

キースめ、それはフォローのつもりか?

 

「キース、お前には言われたくないぞ。ふぅ、名前はローザだ。今年24歳になる」

確かにそうだが、モーラの姉御だって結構立派な物を持ってるじゃねーか。

 

「エド、その子成人の女性じゃない。……同じ屋根の下で生活してて大丈夫なのかい?」

モーラの姉御が俺に困惑気味な顔を向けてくる。

俺は何か変な事を言ったか?

 

「何がだ?」

 

「何がってあんた。リゼちゃんだっけ、最初に引き取った子は大丈夫だろうけど。ローザって子、24歳って、あんたが引き取ったのは22歳の時じゃないか。赤の他人の成人女性を妹に引き取ったって……恋人とかじゃないのかい?」

姉御は訝しげに俺にこんな事を聞いてくる。

 

「何言ってんだ?姉御。妹にしたから妹扱いじゃねーか。彼女とかおかしいだろ?」

妹が恋人とかおかしいだろ?何言ってんだか姉御は。そんなもんはその手のぶっとんだ官能小説かラノベだけにしておけ。

 

「エド……その、ローザさんっていう成人の女性と同じ屋根の下に住んでるってことは。その……あー、なんていうか」

ウラキは訳が分からない事をしどろもどろで言ってくる。

 

「成人、成人っていうがな。妹は妹だ。成人だろうが子供だろうが、妹は妹扱いに決まってだろ。何言ってんだお前ら?」

 

「はぁ……たまにエドと会話が成立しないよな」

キースはため息交じりで、残念な物を見るような目を俺に向ける。

 

「偉いお医者様ってのは、こうなのかね」

モーラの姉御も同じくため息を吐く。

 

「まあ、エドだし」

ウラキも続く。

 

「……何お前ら?俺を馬鹿にしてるのか?」

 

「いいや、感心してるのさ」

モーラの姉御、言葉と表情が違うぞ。明らかに呆れた顔をしてるじゃねーか。

ハマーン…、ローザは無理やり妹にしたが、妹は妹だ。

それ以上でもそれ以下でもない。

 

 

「まあ、訳ありってのは間違いないから、落ち着いたら通信ででも話すさ」

俺はウラキ達にそう言ってこの話を終わらそうとする。

 

「面倒見がいい所は変わらないね。……でも相手の子は………」

「モーラ、エドに何言っても無駄だって。このへそ曲がりの頑固で、口汚い医者には」

 

「何とでも言ってろ。…でだ。月からの帰りにはまたこのサイドに寄るのか?」

俺は面倒なこの話題を終わらせ、次の話をウラキに振る。

 

「その予定にはなってるけど。6カ月後だから…また、通信で知らせるよ」

月で新型モビルスーツの6か月間のテスト後に北米に戻るらしいが……まあ、6カ月も後の事だ。ウラキが言う様に予定なんてものは結構変わるものだ。

 

「その時は、リゼちゃんとそのローザって子にも会っておきたいね」

 

「ああ、そうだな」

俺は姉御に曖昧な返事をする。リゼは良いとして、ローザの件は流石に厳しい。あいつ元ネオ・ジオンのハマーン・カーンだしな。こいつらは信頼出来る奴らだが、現役の連邦軍士官だからな。こいつらが受け入れても、それが何かの拍子に他の連邦の連中にバレちまったら。こいつらに迷惑が掛かるかもしれん。

 

「あっ、そういえばエド、あのスレイブ・レイスの元隊長のトラヴィス中尉もエドの知り合いでここのサイドに住んでるんだよね」

ウラキが不意にこんな事を聞いてくる。

 

「トラヴィスのおっさんはそうだな」

 

「今度ここに来た時に会わせてよエド」

 

「なんでだ?連邦内部じゃ、裏切者とか味方殺しのトラヴィスの悪名が広がってるんじゃないのか?」

そう、トラヴィスのおっさんは連邦パイロット界隈では悪名が高い。

あながち間違ってはいない。上の命令で内偵し、暗殺まがいなことまでやらされていたからな。

実際には、その逆の方が多い。本当にあくどい奴は暗殺や捕縛したが、上の都合で濡れ衣を着せられたような連中を暗殺したことにして逃がしていたからな。あのおっさんは情にも厚い。

悪名の噂は、トラヴィスのおっさんに弱みを握られた上層部の誰かが腹いせに流したものだろう。

 

「悪名が本当なら、軍事裁判にかけられてるよ。ちゃんと退役してるんだから、噂は噂。一年戦争で数々の作戦に参加したエースでもあるんだ。きっと色々なモビルスーツに乗ってきたに違いない。会って話を聞きたいじゃないか」

ウラキは相変わらずウラキだった。モビルスーツバカというか、パイロットバカというかなんて言うか。

 

「一応聞いてみてはやるが、期待するなよ」

 

「ありがとうエド」

 

 

3人との楽しい時間を過ごし、次の再会を約束して別れる。

本来なら、この後ウラキとキースを誘って、ちょっと大人な感じの場所へ遊びに誘うのだが……

明日出航という事は、今からだと船に直ぐにでも戻らないといけないだろう。

久々に街で遊ぶチャンスだったんだがな、ニナが居たら注意されること間違いなしだ。ウラキに変な遊びを教えるなと。そのニナが居ない内にと思ったんだが。

モーラの姉御が居るって?大丈夫だ。モーラの姉御はその辺寛容なんだ。

アルビオン時代は落ち込んでるウラキを励ますために、こそっと連れ出すのを見逃してくれたしな。

アルビオン時代は、宇宙港や町に寄った時は、ウラキとキースを誘って、お姉ちゃんが居る店によく行ったな。ついでにモズリー先生も……

 

落ち込んでる時は遊ぶに限るってな。

俺もトラヴィスのおっさんに一年戦争時代に無理矢理連れまわされたものだ。

今となってはいい思い出だがな。

 

ウラキ達と別れた後、街まで出て一人ぶらぶらとする。

この1番コロニーから15番コロニーに戻る宇宙便はもう無い。一日一往復しかないからな。ローザとリゼには予め一泊して帰る事は伝えてある。

トラヴィスのおっさんと一緒だったら、間違いなく歓楽街で一晩中騒いでいたな。

暇が出来ちまった。どうしたものか。適当に飲み屋入ってみるか。

俺は普段酒は全く飲まない。

飲めないわけじゃないが、トラヴィスのおっさんと遊びに行く時か、近所の連中に誘われたり、街の会合とかに出た時ぐらいだ。

まあ、たまには一人酒ってのもいいかもな。

 

そんな時、電話がかかって来る。

「もしもし」

 

『私だ』

私だって誰だよ。

着信表示で分かるし、そんな言い回しするのはローザしかいないんだけどよ。

しかし珍しいな、あいつから俺に電話をかけてくるとは。

診療所は閉めてるが、急患でも来たか?

 

「なんかあったか?」

 

『エドの知り合いだと名乗る女が訪ねてきたが、私の知らない女だ。だがエドに言えばわかると言っている』

ローザとリゼには一応防犯上、俺の知り合いだろうと、ローザとリゼが知らない人物は診療所や家に上げるなとは言ってある。

女?……リゼはまだ部活をやってる時間帯だし、ローザが顔を知らない女か……あの町の界隈でそんな女はいたか?心当たりが無いんだが。

 

「その女の名前は?」

 

『ドリス・ブラントと名乗った』

そう言ってローザはその女が映ってるインターフォンの映像もこっちに送ってきた。

 

ド…ドリスだと!?

インターフォンの画像には、片田舎には似つかわしくないナイトドレスのような胸元が開いた派手なドレスを着た妙齢の美女が映っていた。

ま、間違いない。

なぜあの女が?

や、やばい。

 

「ローザ……そいつは無視していい」

俺は心を落ち着かせようとするが、声が上ずる。

 

『ん?知り合いなのか?』

 

「……いいや、知らない奴だ」

 

『やはり知り合いか』

おい、俺は知らない奴だといったのに、なぜそう判断した。

 

やばい。俺が居ないタイミングでなぜあいつが俺の家に?

あいつは地球に住んでるんじゃないのか?

 




エドにとって厄ネタ到来です。

ドリス・ブラント
PS3ゲームのガンダム外伝サイド・ストーリーズ。
ミッシングリンクに登場する。連邦軍側の美女。
一応オペレーターだが、珍しく清純派じゃないオペレーター。
モビルスーツ乗れるし、潜入できるし、ハッキング出来るし、エロいし、格闘技もできるし。ルパンの不二子ちゃんタイプのオペレーター
トラヴィスのおっさんの昔の仲間。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉙過去を知る女

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


では、続きを。


 

宇宙世紀0091年6月中旬、夕方頃

ローザは3階のキッチンで夕飯の準備をしていた。

エドは医師会の会合と古い友人に会うために1番コロニーに出かけている。

今日は帰らないとローザやリゼ、アンネローゼにも伝えていた。

リゼはまだ学校から帰っていない。

アンネローゼも花屋のバイトだ。

それと、クロエとヴィンセント、夜にはトラヴィスも来ることになっているが、彼らが来るのはもう少し後だろう。

 

そんな時だ。

インターフォンのチャイムが鳴る。

クロエかヴィンセントが来るにしては早いとローザは思いつつインターフォンに出る。

しかし、インターフォンの映像に映っていたのはクロエとヴィンセントではなかった。

ローザが知らない人物だった

 

「今日は診療所は休みだ。急患か?」

 

「こんにちは。診療所に用があるわけじゃないわ。エドに会いに来たの」

片田舎には似つかわしくない胸元が開いた深紅のドレスを着た美女がインターフォンカメラ越しにそう答える。

 

「生憎エドは外出中だ」

 

「そう、なら待たせてくれる?」

 

「ふむ。エドからは客が来ることは聞いていない。それに私は貴方を知らない。出直してくれ」

ローザはエドからは、ローザが知らない人物が来た場合は、仮にエドの知り合いだと名乗っても家に入れるなと言われていた。

 

「ふーん。真面目ねあなた。エドの妹になったローザさん」

 

「なぜ私の名を知っている」

ローザの口調が鋭くなる。

 

「だってエドに聞いていたもの」

インターフォンカメラ越しの美女は妖艶な笑みを湛える。

 

「……名は?」

 

「ドリス・ブラントよ。エドに連絡して聞いてくれたらいいわ。なんならトラヴィスにもね」

 

「………わかった」

ローザはその場でエドに電話をした。

エドにローザが知らない女性の来訪者がエド宛に尋ねて来たのと、その女性のインターフォンカメラの画像と共にドリス・ブラントと名乗っていた事を伝える。

ドリスの名を聞いたエドは知らない人物だと言っていたが、珍しく慌てふためき、動揺していた事に訝しむ。

ローザはドリス・ブラントがエドは知り合いではあるが、エドにとって不都合な人物であると判断をする。

 

そこで、次にトラヴィスに連絡をする。

『ドリスが来てるって?ローザさん本当かい?』

 

「やはり知り合いか。インターフォンの画像を送る確認してくれ」

 

『ドリスだ。何でエドの所に?……ローザさん、エドには連絡したのかい?』

トラヴィスはその画像を見てドリス・ブラント本人だと確認する。

トラヴィスもエドが今日泊りで出かけている事を知っていたため、ローザにエドと連絡をしたのかと聞く。

 

「ああ、知らない人物だとしらばくれていたが、明らかに動揺していた。ドリスとはどういう関係の女なのだ?」

 

『まあ、俺の連邦軍時代の仲間だ。あーー、エドともその時に…うーん。まあ、知り合いというかだな、まあ、そのだ。深くは……うーん。お互い知った仲というかだな』

トラヴィスは奥歯に物が挟まったような物言いをする。

ドリス・ブラント現在35歳。

24歳当時トラヴィスが隊長を務めていた元連邦軍特殊部隊スレイブ・レイスの隊員で、オペレーターを行っていた。

ハッキングから文書偽造まで何でもできる情報操作のプロフェッショナル。

スレイブ・レイスに数々のモビルスーツを偽造文書などで送り届ける事が出来る腕前。

しかも、モビルスーツの操縦も出来、潜入捜査などもお手の物。対人格闘も得意としている。

しかも容姿は妖艶な美女である。

もはや一介の兵士のそれではない。

トラヴィス曰く、どこぞの超一流スパイに匹敵する能力を持っているとの事。

 

「どういう意味だ?知り合いなのは確かなようだが、エドに対して害意はあるのか?」

トラヴィスの言い様に疑問を持つローザ。

 

『害意は無い。今もエドとドリスは連絡を取り合っている仲なのは確かだ。俺も最近通信で話したが、来るような事は言っていなかった。そうだな、エドにとってはちょっとアレだが、ドリスにエドを害する意思は無い。それは俺も保証する」

 

「今も付き合いがあると。ふむ。ならば家に上げても問題ないか……」

 

『大丈夫だ。ただちょっとな…俺も直ぐにそっちに向かう』

 

ローザはトラヴィスの物言いが気になる。

間違いなくエドとトラヴィスの知り合いで、人物としては問題ないらしいが、どうもエドにとって少々不都合な事があるようだ。

 

ローザは思考を巡らせどうした物かと考えていたのだが……

 

インターフォン越しにドリスの声がする。

「ね、知り合いだったでしょ?エドとは11年前からの仲なんだから、昔のエドの事も知ってるわよ。ねぇローザさん。エドの昔の話って気にならない?どうせエドは貴方たちに何も話してないのでしょ?」

ドリスはインターフォン越しのローザを見透かしたような目と口調でこんな事を言って来た。

 

「…………いいだろう」

ローザは間をあけてそう答える。

エドの知り合いであることは確認できた。トラヴィスから家に上げても大丈夫な人物であることも確認済みだ。

エドの過去と聞いて、ローザは興味を示してしまっていた。

ローザやリゼはエドの過去については本人からある程度は聞いていた。

元サイド4出身で、両親と妹二人を一年戦争で故郷のコロニーごと亡くしたこと。

連邦軍大学医学部出身で、一年戦争時は戦場に派遣され、そこでトラヴィスと出会った事。

デラーズの反乱の際は軍医をやっていて軍艦に乗っていた事など、概略程度では聞いていた。

ドリスが言うエドの過去とは一年戦争時の事だろうと……エドにとって知られたくないなんらかの記憶……ドリスは過去のエドの何らかの事情を知っている人物だとローザは判断した。

 

 

ローザはドリスを3階のリビングに案内する。

 

「改めて、ドリス・ブラントよ。よろしく」

 

「ローザ・ヘイガーだ」

 

「ふーん。随分と綺麗にしてるわね。5年前に来た時には男の一人暮らしって感じだったけど」

リビングのソファーに腰を掛けるドリス。

 

キッチンでドリスにコーヒーの用意をするローザは無表情だったが、その言葉に一瞬動作が止まる。

 

「掃除は分担制だ」

ローザはホットコーヒーをドリスに差し出し、自らは自家製ミルクシェーキをテーブルに置きドリスの対面に座る。

 

「ありがと。ちゃんと妹やってるんだ。それにあの鉄の女ハマーン・カーンにコーヒーを入れて貰えるなんて光栄だわ」

 

「………私の名はローザだが?」

ローザは目を細めドリスを見据える。

 

「やっぱり。私の事を知らないという事はエドは何も言ってなかったのね。……私はエドに頼まれて、裏工作をしていたのよ。ハマーン・カーンが生きている可能性がある痕跡を消すためのね」

 

「どういうことだ」

 

「私、こう見えても凄腕ハッカーなんだから、まあ、若かりし頃一回失敗しちゃって、連邦に掴まって、無理矢理兵士やらされたけど。そのおかげでエドやトラヴィスに出会えたから良かったのかもしれないわね」

 

「………」

 

「エドは貴方がハマーン・カーンだと分かった段階で、私に相談したのよ。貴方をかくまう為にはどうすべきかとね。隊長(トラヴィス)には随分後になって知らせたようだけど、まあ、これは親愛の差かしら?」

 

「なぜ、それを知って協力した?」

 

「エドの頼みですもの断れないわ。あの子が初めて私に頭を下げて頼んだのよ。リゼちゃんの時も情報収集を頼まれたけど。貴方の時とは危険度が段違いですものね」

 

「そうか……」

 

「最初は、貴方のためというよりも、リゼちゃんをネオ・ジオンや連邦から守るためにそうしたのだけど、貴方が目覚めてからは、貴方が普通に生活できるようにとも相談されたわ。その時には連邦もジオン残党関係もあなたの死亡を確定させていたから、ちょちょっと情報を操作するだけで楽だったけど」

 

「……なぜ、私にその事を話した」

 

「エドに会いにも来たのだけど、貴方とこうやって二人で話したかったのよ。だからこのタイミングで来たの」

ドリスはワザとローザが1人になるこの日のこの時間帯を狙ってここに来たのだった。

 

「どういうことだ?」

 

「貴方がエドを害する人物かを見極めるためにね。でもこの分だったら大丈夫ね。今の貴方は間違いなくローザ・ヘイガーですもの。……それとエドが貴方とリゼちゃんを守るために、色々として来た事を知ってもらおうとね。エドは絶対言わないけど、特に貴方は知っておくべきよ。エドに拾われたのがどれだけ幸運だったことを」

 

「……言われなくとも分かっている。こう見えても元摂政官だ。今まで疑われる事なく過ごしてこれたのは奇跡だと言わざるを得ない。エドが何かをしていた事は分かっていた。もちろんトラヴィスもな」

 

「そう、なら私から何も言う事は無いわ」

 

この後お互い飲み物に手を付け、沈黙が訪れる。

ドリスは澄ました顔で、ローザは何やら考えに更けていた。

 

暫くして、ローザからドリスに声をかける。

「貴方はエドの何なのだ?エドからは信頼されているようだ」

 

「エドのお姉ちゃん?うーん元カノ?うーんこれも違う気がするわね。まあ、そう言う仲かな?エドは年上の私の事も妹扱いするけどね」

 

「……」

 

「ふふふふふっ、気になる?」

 

「義理とは言え兄の交友関係は妹として知っておくべきだからな」

 

「堅いわね。会ったばかりのエドに似てるわ」

 

この後、ドリスはエドと出会った時の事をローザに語る。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉚エドワード・ヘイガーの過去

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きですね。


エドの過去を知る女、ドリス・ブラントがエドの家に訪れる。

ドリスはローザをハマーン・カーンだと知っていた。

エドはドリスにハマーン・カーンについての情報収集や情報操作を頼んでいたのだ。

始めはリゼを守るために、そして自分の妹となったハマーン……ローザが普通の生活が出来るようにと。

エドがドリスに信頼をよせていた証だ。

 

ドリスはエドの妹ローザとなったハマーンと二人きりで会うために、ハマーンが1人で家にいるタイミングを狙ってエドの家に訪れたのだ。

それはハマーンがエドに害する人物であるかを見極めるために、そしてもう一つの目的は……

ドリスはハマーンに語る。

 

 

 

しばらくして、リゼとアンネローゼが帰宅し、クロエにヴィンセント……最後にトラヴィスが現れる。

「ドリス、なんで連絡もよこさないんだ?」

「隊長(トラヴィス)、久しぶりね。ちょっと老けた?」

「ドリスは……あんまり変わんねーな。何?生き血でも吸ってるのか?」

「ふふふふふっ、若い子のね」

そう言って、ドリスはヴィンセントを妖艶な笑みで見やる。

ヴィンセントは身震いし、クロエは眉を顰めヴィンセントの腕を抱きよせる。

 

「あんま、俺の息子と未来の嫁さんをビビらせないでくれ。しゃれにならない」

「あの隊長がすっかりお父さんやってるなんて」

 

丁度、ローザとアンネローゼが夕飯の支度を終え、ダイニングテーブルに広げる。

自然と何時もの席に、ドリスは不在のエドの席に座り、食事が始まる。

 

「ドリスのお姉ちゃん、お兄ちゃんって昔はどんなだった?」

「お姉ちゃんか、リゼちゃんはいい子ね。そうね。特別に教えちゃう」

「おいおい、ドリス。本人がいないのに、いいのかよ」

「いいじゃない。減る物じゃないし」

リゼがドリスにエドの事を聞こうとし、話始めるドリスをトラヴィスが止めようとしたが、ドリスはウインクを返し、お構いなしに話始める。

ローザは澄ました顔で食事をしていたが、他の皆はドリスの話に興味深々だった。

 

「最初にお姉さんがエドと会ったのは一年戦争中で、エドは20歳だったかな。さっき話した通りトラヴィス隊長の下でオペレーターをやってた頃よ。あの時のエドは可愛かったわ。性格はあのまんまだけど、もうちょっと尖ってたかしら?」

ドリスはエドと出会った頃の事を皆に語りだす。

 

 

 

 

トラヴィスはドリスの話を聞きながら、昔のエドの事を思い起こしていた。

 

 

当時の俺はエドとの1年ぶりの再会だった。最初に会ったときの印象とは随分変わっていた。

俺がエドと最初にあったのはドリスがエドと会う1年ちょっと前、まだ1年戦争が始まる前、宇宙では戦争の機運が高まりつつあったが、地球では宇宙とは裏腹に緩い空気が流れていた。

俺は当時北米のとある基地の基地航空隊の隊長を務めていた。

そんな中、基地を挙げてコロニー内での戦闘を想定した統合訓練を大々的に行った。

これは独立運動を行うジオンに対しての威圧も兼ねていた。

そんな時だ、エドはその訓練に医療サポートスタッフとして連邦軍大学医学部から出向していた。この時エドはたしか19歳だったな。

俺は息子と同じ年頃の真面目そうな青年に何となく声をかけた。

エドが軍大学には珍しくコロニー出身者と知って、余計に親近感がわく。

俺は事あるごとにこの息子と同年代のエドと話をするようになった。

この時、エドは夢に向かって突き進む好青年という感じで、真面目で、人をあまり疑うような事も無い素直過ぎて危なっかしい印象も受けたな。

エドが医者を目指したのは、幼馴染の彼女の難病を治すためだという。

コロニー出身者が地球の、しかも軍大学に入るのは相当難しい。

成績優秀であることもさることながら、それ以外の要素も必要だ。

特にコロニー出身者に対して、軍大学は排他的な組織だ。

一応、平等をアピールするために、各サイドから数人の受け入れをしているが、内部で色々な圧力を受けやめて行く奴も多い。

医学だけを学ぶのであれば、コロニーにも多数医療系大学がある。そこで学んだ方が良いはずだ。精神的にもまだましなはずだ。

その事をエドに聞くと「軍大学は給料も出るし、何よりも最先端の医療を学ぶことが出来る」と、エドはサイド4でも比較的貧しいコロニー出身だったそうだ。

両親は共働きで、妹二人の面倒を見ながら勉学に励んだと……。

エドは周りの圧力に負けずに真剣に勉学に打ち込み、大学在籍2年で既に4回生だ。

かなりの苦労をして来たのだろう。

こんなに真面目に勉学に励む奴が今の軍大学にどれほどいるだろうか?

 

3カ月間の統合訓練を終え、エドと別れる。

 

 

そして……

宇宙世紀0079年1月3日

サイド3ジオン公国が地球連邦に宣戦布告。

ジオンの電撃先制攻撃により……サイド4は壊滅。

エドは故郷や家族、友人、医学を目指す原動力となっていた幼馴染の彼女……すべて失った。

 

 

俺はその頃、サイド3に残した彼女とその息子の行方を捜すために、奔走したが、それがバレ、スパイ容疑がかけられ、連邦軍の高官であるグレイヴの言いなりとなる。

秘匿懲罰部隊スレイブ・レイスの隊長に任命され……そして、味方であるはずの連邦軍内で汚職や不法行為を行う者たちの暗殺・捕縛、そしてグレイヴにとって邪魔者たちを排除してきた。

 

 

0079年7月18日

連邦にもモビルスーツが配備され始めた頃、俺はとある最前線に近い軍の補給キャンプに部隊を駐留させていた時にエドに再会した。

再会したエドは、あの生真面目そうな印象は無く、荒れている印象を持った。

何やら若造の連邦軍兵士と言い合いをし殴り合い。いや、片方は一方的に殴られていたか。

よく見ると、殴られている方がエドだった。あいつはまだ軍に残っていたのだ。

俺はこの瞬間、エドがここに居る理由を勝手に決めつけていた。

エドから全てを奪ったジオンへの復讐のため軍に入ったと……

しかし……

「うるせー!てめぇは、後回しだっていってんだ。そんな傷程度自分で治しやがれ!!こっちの怪我人が重症なんだよ!!

「そいつジオン兵じゃねーか!!そんな奴より、俺の怪我を見やがれ!!」

「ジオン?知らねーな!医者の前じゃ関係ねーんだよ!!」

「なんだてめぇ、連邦軍の軍医じゃないのかよ!!」

「俺は医者だ。てめぇら兵隊が人を殺すのが仕事かもしれねーが、俺は死人を作らねーのが仕事だ!!俺の仕事を邪魔するんじゃねー!!」

「なんだ小僧!!」

エドは数人に囲まれ殴られ、暴行を受けていた。

俺は一瞬頭の中が空になる。……あいつ、こんな時でも医者をやってるのか……。

口と目つきは大分変ったが、中身は変わってない。……こんな狂った戦争のなかでな。

 

俺は出遅れたが、暴行を行う奴らをやんわりと止め……

「よおエド、久しぶりだな」

「痛てててっ、あいつら本気で殴りやがって……ん?おっさん生きてたのか……そうか。後でな、重症人がいるんだ」

エドは俺を見て、一瞬目を丸くしていたが、口元が緩んでいた。

そして、医療テントに足早に消えて行った。

この時たしかエドは20歳だったか。

 

エドは一年戦争が始まった頃から臨時の軍医をやっていた。

しかも最前線を転々としてるらしい。

この後も何度も、軍キャンプでエドと会うことになる。

あいつは最前線で今のように、連邦兵ジオン兵関係なく治療を行っていた。

確かに南極条約の約定では負傷兵の扱いは、ジオン兵も関係なく治療を行う事にはなっている。だが、それがまともに実行されてる所なんてほとんど無い。

だが、エドはそれをやっている。

条約云々の話じゃない。あれはエドの信念だ。

ジオンを憎まないはずがない。エドは自分の身以外すべてをジオンに奪われたのにだ。

だがあいつは、連邦軍の中であってもジオン兵と連邦兵を分け隔てなく治療を施す。

医者としての信念というよりもエド自身の信念だろう。

 

 

 

 

 

ドリスはリゼやアンネローゼ、クロエ達に面白おかしく、エドの当時の話をしていた。

「……で、エドったら、ケンカが弱いくせに、ケンカを吹っかけるような事を言うから、だからしょっちゅうケンカしてボロボロにされていたわよ。そのたびにこのドリスお姉さんが助けてあげたってわけよ」

 

「お兄ちゃん、ケンカ弱いの?」

 

「体は鍛えてるんだけど、センスが壊滅的ね。ちょっと教えてあげようとしたんだけど全然ダメね。タコ踊りみたいになるんだから」

 

「そうなんだ。で、お姉ちゃんはお兄ちゃんの昔の彼女なの?」

リゼはこんな事をドリスに聞いた。

ローザはその言葉に進めていたフォークを一瞬止める。

アンネローゼは興味深々と言った感じだ。

 

「そう聞こえる?そうね。そうかも知れないわね」

ドリスはこんな返事をする。

当時のドリスとエドの関係は、今でいう恋人のような甘い関係では無いことを本人も自覚している。

 

「エドに後で怒られるぞ……」

トラヴィスはため息を吐きながら、エドの過去を話すドリスに忠告する。

 

「大丈夫よ。私とエドの仲なんだから」

ドリスもこの場では深い話はしていない。

ローザには先程、既に自分の思いを託し、ここに来た目的をほぼ達していた。

 




次は多分、ドリスとローザと二人っきりの時のお話が中心ですかね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉛ドリスのお願い。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きです。


夕食後も、リビングのソファーでドリスを中心にエドの話で盛り上がる面々。

ローザとリゼ、クロエは夕食の後片付けを終え、リゼとクロエは輪の中に入り、ローザはダイニングテーブルの椅子に腰を掛け、その様子を澄ました顔で見ていた。

 

 

そんな時だ。

リビングの扉が大きな音と共に開け放たれる。

「ドリス!おまっ!何で黙って来やがった!!」

肩を上下させ、息も切れ切れのエドが帰ってきたのだ。

 

皆は口々にそんなエドに挨拶をする。

 

ドリスはというと……

「えーー、だってエド。私が家に行きたいって言ったら、のらりくらりとかわすでしょ?」

怒鳴るエドに、平然とした表情で言葉を返していた。

 

「そりゃ!お前……」

エドは言い淀む。

 

「えーー、なーに?私がここに来たら不都合な事でもあるのかな~~」

余裕の笑みを見せるドリス。

 

「不都合というかだな……」

 

「別に何もないでしょ?皆、エドの昔話で盛り上がったんだから!!」

 

「お前!!余計な事を言ったんじゃないだろうな!」

 

「余計な事ってなーに?お姉さん分かんなーい」

どうやらドリスの方が一枚も二枚も上手の様だ。

 

「……だから嫌だったんだよ!!」

悪態をつくエド。

 

「まあエド、落ち着け」

トラヴィスは苦笑しながらエドに声をかける。

 

「おっさん!何でドリスを止めねーんだよ!」

 

「止めたさ。止めたけどな。この通りだ」

トラヴィスはおどけたように、首をすくめる。

 

「……はぁ、そうかよ」

ため息を吐き、口をとがらせるエド。

しかし、エドはトラヴィスが本気で止めるような話はしていないと、トラヴィスの態度で理解していた。

 

「それにしてもエド、あの時間帯で1番コロニーからどうやって帰ってこれたんだ?もう定期便は無いだろ?」

 

「農家のマギーさんの運搬船に便乗させてもらったんだ。ふぅ、運が良かったのか悪かったのか……」

エドはトラヴィスにそう応えつつ、自室に服を着替えに行く。

 

ローザはその間に、エドの食事の用意をする。

クロエもそれを見かけ、手伝いにキッチンに。

 

リビングに戻ったエドは、ダイニングテーブルの椅子に座り、ローザとクロエに用意してもらった遅い夕飯を取る。

エドはリビングのソファーで盛り上がるドリス達の話に聞き耳をたて、不貞腐れながら食事を口にする。

 

ドリスはエドが食事を大方終わらせたのを見て、ソファーから立ち、エドの腕を取り、ローザに何かをアピールするかのような態度を取る。

「ローザさん。エドを少し借りるわね」

 

「おい、腕をひっぱるなって!借りるってなんだよ!!」

 

「ほら隊長も行くわよ!これからは大人のじ・か・ん。じゃー飲みに行くわよ!」

ドリスは今度はトラヴィスの腕を引っ張り立ち上がらせる。

 

「ふはっ、俺もかよ。まあ、久々に三人で行くか!そんじゃちょっくら行ってくるわ」

トラヴィスはそう言いながら、エドのもう片方の腕を掴む。

 

「おい、俺は行くって言ってないぞ!」

「いいからいいから」

「エド、今日は朝まで飲むぞ」

エドはドリスとトラヴィスに引きずられながら、リビングの外に連れられ、家から出て行った。

 

 

騒がしかったリビングに静けさが戻る。

その後に、クロエとヴィンセントは食事の礼を言ってからアパートに帰って行った。

リゼはというと風呂に直行する。

 

アンネローゼはダイニングテーブルの椅子に座るローザの正面に座る。

「ローザ姉さん……あのドリスって人。エド先生の元恋人っぽいけど、今もそうだと思う?」

「さーな。私には関係ない」

「関係ないって、気にならないの?」

「フン」

 

 

 

 

ローザは思い浮かべていた。

ドリスがローザと二人きりの時に語った事を……

「ローザさん……エドの事を頼むわね」

 

「どういうことだ?」

 

「わたし、結婚するの……今の彼とね」

脈絡もなくドリスからこんな話が出る。そしてドリスは語りだす。

 

「……」

 

「エドね。ああ見えて、寂しがり屋なの。でも我慢が出来ちゃうのよ。極端に精神が強いのよエド。でもね我慢強いだけで人並みに傷つくし、悩むわ」

 

「……」

 

「エドが一年戦争で家族も故郷もすべて失ったのは知ってるわよね。エドは悲しくて苦しいけど、それを表に出さずに、我慢して肩ひじを張って生きて来たと思うの。あの捻くれた性格は辛い過去を隠すための物なのかもしれない……」

 

「……」

 

「そんなエドだけど、リゼちゃんや貴方に会ってからは、随分といい顔になったと思うわ」

 

「……」

 

「さっきも話したけど、私とエドの関係は、友達か仲の良い姉弟みたいなもの。時には兄のようだったわね。恋人って感じではなかったわ。そんな関係。当の私もよくわからないわ……でも、私はエドに出会えて、大分救われた。だから恩返しをしたかったの。だからエドの頼れる姉のような存在に、家族のような関係になろうと思ったわ。随分と無理があったのだけどね。……でもそれももうおしまい。いえ、必要がなくなったと言った方が良いわね。今はエドの横にはあなた達がいるもの………」

 

「……」

 

「エドがリゼちゃんや貴方を守るために必死だったことは話したわね。その裏返しはエドがあなた達を大切に思っているって事。それと、あなた達に出会えたことで、エド自身が救われたと思うわ。だから、もし貴方やリゼちゃんに何かあったら、きっとエドは今度こそ壊れちゃう。一年戦争ですべてを失って、今またあなた達という新しい家族を失うのはいくら精神の強いエドでも耐えられない」

 

「……」

 

「勝手なお願いなのだけど、このままエドの家族で居てあげて……、貴方がハマーン・カーンだって事は重々わかってる。世界が貴方を欲する時が今後無いとは言えないわ。そんな時でも、エドの家族で居てあげて……」

 

「ふん。私はローザ・ヘイガーだと言ったはずだ」

終始無言でドリスの話を聞いていたローザだったが、漸く発した言葉がこれだった。

 

「その返事が聞きたかった。それが私がここに来た最大の理由……貴方に会いに来てよかったわ」

 

「………」

ローザはドリスとエドはお互い信頼し合ってる事は理解したが、エドとドリスの関係については、何度思い起こしてみても、よくわからなかった。

ただ、自分が知らないエドの事を知るこの年上の女性が発する言葉に……いちいち感情があちらこちらと蠢いていた事は確かだった。

ドリスが語るエドとの関係は明確ではなく、本人すらよくわからないと明言していたぐらいだ。だが、よくわからないが、そう言う関係なのだろうと納得する部分もあった。

 

 

 

 

 

「……ローザ姉さん。聞いてる?」

「ん?なんだ?」

「だから、エド先生とそのドリスさんって、やっぱり大人の関係なのかなって話よ」

「……ふん。私には関係ないと何度も言ってるだろう」

「ふーん。エド先生がドリスさんに取られても良いんだ」

「関係ない」

「じゃあ、エド先生は私が貰ってもいいの?」

「好きにしろ」

「そんな反応面白くなーい」

「何がしたいんだお前は?」

そんなやり取りをするアンネローゼとローザ。

 

 

ローザは再び思いにふける。

今の自分の立場はエドの妹という枠内に収まってはいる。

最初はただ単に、医者と患者の関係だった。しかもエドは警戒すべき人間だったはずだ。

それが、正体を隠すためとはいえ、いつの間にやら妹をやらされ。

遂には家族として接して来るエド。

成り行き上こうなったとはいえ、自分自身とエドの関係はどうだろうと……

改めて考えてみると、あやふやだ。

兄と妹の関係とは名乗ってはいるが、そもそも兄とはどういうものか、理解していない。

医者と患者の関係かと言われれば、今はそうではないとはっきりと答えられる。

勿論男女の関係ではない。

家族なのかと問われれば、血の繋がりは無いが、否定するのは憚られる。

改めて問われると……心が騒めくものがあった。

ただ、ここには贅沢なものは無いが不思議と居心地が良いし、安心感もあった。

先ほどドリスが語った、よくわからないというエドとドリスの関係に、似たものを感じ納得する。

 

『エドの家族で居てほしい』

ドリスのその言葉に即答していた自分。

 

ローザはふと苦笑する。

アクシズでは決して感じ得なかったものだろうと……

 




エドの過去編は次で終わりの予定です。
ああ、閑話をやりたいw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉜再会の酒宴 前

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は前後編です。
長くなったので。
前編は短いです。


俺は急に現れたドリスとトラヴィスのおっさんに無理矢理連れられ、近所の小さなバーでカウンターに並んで座り、グラスに注がれた酒を口にしていた。

 

「エド~、何よ~。まだ怒ってるの?急に来た事~」

 

「もうそれはいい。何時もの事だからな。で、何か重要な事があって来たんだろ?」

それにしても、ドリスの奴、何で急に来た?

突拍子もない行動は何時もの事だが、意味の無いことはしない。

ドリスは見た目派手であばずれ女に見えるが、思慮深く慎重に事を運ぶ女だ。

ドリスの本名はセイネス・イシス。ドリスとは亡くなった友人の名らしい。

ブラント姓は適当らしいが……

今はセイネス・イシスとして、地球で過ごしている。

ドリスの家はそこそこ大きな名家だったらしいが、嫌気がさして15で家を飛び出したとか。

一年戦争後は実家に戻り、家を継いだ兄の脛をかじってると言っていた。

一年戦争時、ドリスは連邦の闇を覗いたハッカーとして、本来終身刑や処刑になってもおかしくない所業を、グレイブにそのネタで脅され、従わされ、トラヴィスのおっさん達と秘匿懲罰部隊をやらされていた。

グレイブはドリスを飼い慣らしてるつもりだったが、全く逆だった。猫を被り、自分たちの有利になるような情報戦を仕掛け、虎視眈々と反撃のチャンスを狙い。トラヴィスのおっさんらとグレイブを打倒したのだ。

一応、戦後には自分やトラヴィスのおっさんらが不利な情報はすべて消したようだが、起点となってる自身については、ドリス・ブラントという人間をこの世から消す事で後追い出来ないようにしたようだ。

その後は実家で傷心のお嬢様を演じて、大人しく過ごしているってわけだ。

 

 

「それは、後々!再会を祝してカンパーーーイ!」

「それ何度目だ?」

「まあ、いいじゃねーかエド、ドリスがこんなに上機嫌なのは珍しい」

 

「隊長~、昔のエドってね。かわいかったのよ~~」

「エドがか?」

「はぁ、ドリス。酒弱いくせに飲み過ぎだ。ペースを落とせって」

 

 

 

ドリスはグラスのカクテルを一気に飲み干しエドの肩にしな垂れる。

そして、あの日の晩の事を思い出していた。

 

 

私はエドの寝こみを襲った。

エドが可愛かったのは確かだけど、あの戦場でがむしゃらに医者の信念を貫くエドを見て……嫉妬心にかられ、嗜虐的な思いでね。

エドは必死に抵抗しようとしたけど、全然ね。

エドは初めてだったようね。

 

それで情事が終わった後、エドは私にこう言ったわ。

「気が済んだか」

と……

 

その後は淡々としたものよ。

何もなかったような振舞。

しかも、怒るわけでもなくね。

 

その時は腹が立ったわ。

自分より年下の若造に見透かされたようで……

確かに、あの時はグレイブにいい様に使われ、自分を見失いかけて、気分が滅入っていたのはたしかだわ。

 

私はグレイブの呪縛から自ら立ち向かう事を決める。

だって、悔しいじゃない。

あんな年下に見透かされて、哀れまれてるかもって思うと。

 

この後もエドとは戦場で何度も顔を合わす事に。

そのたびに私はエドの寝床に黙って潜り込む。

 

 

 

 

 

 

「でも隊長が~、ほんとお父さんやってるなんてね~」

「まあな、あいつには今迄父親らしい事は一切やってなかったからな。その償いだ」

ドリスの問いに、トラヴィスのおっさんは口元を緩めてそう言う。

おっさんは一年戦争からずっと息子のヴィンセントを探していたからな。

今は自分が親父の役割が出来て嬉しいのだろう。

 

「エドも~、お兄ちゃんやっちゃって、リゼちゃんだけでなく~。あのローザちゃんまで手懐けちゃうなんてっ」

「ふう、引き受けちまったからな」

「しかも、本当の妹の名前まであげちゃって~」

「飲み過ぎだぞドリス。……別にな。何となくだ」

 

俺は何故下の妹の名前をハマーンにくれてやったのか?今でもよくわからん。

あの時は何となく口に出たのは、その名だった。

下の妹が生きていればハマーンと同じ年だからという理由だったからだと思うが、だが、それだけで亡くなった妹の名を付けたのか……

なぜ彼奴(ハマーン)を受けいれたのか……。

 

何となく、亡くなった実の妹達や幼馴染の彼女だったらそうしろと言いそうだったから……

俺は今も、亡くなった実の妹達や幼馴染の彼女リーザに助けられてる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉝再会の酒宴 後

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ドリス編これで終わりです。
次は閑話の予定。


一年戦争が始まった宇宙世紀0079年1月3日。それが俺の両親、妹達、リーザの命日だった。

俺はあの日は軍大学が休みで、寮で家族やリーザへの手紙を書いていた。

月1~2回のペースで通信では顔を合わせ話はしていたのだが……前年のクリスマスの通信の時にリーザの提案で手紙のやり取りをすることになった。

何故今の時代で手紙なのかは、理由は教えてくれはしなかった。何故か恥ずかしそうにしていた。

リーザは生まれつき体が弱い。宇宙移民の5千分の1の確率で罹る先天性の遺伝子病だ。

その半数は当時の医療でも治す事が出来たのだが、リーザはその半分から洩れていた。

学校も休みがちで、スポーツは勿論、運動も控えないといけない体だ。大人になるまで生きられる確率も低い。30まで生きられれば御の字だった。

家が隣同士で年が同じだったのもあり、学校に行くのもいつも一緒だった。

俺もどちらかと言えばインドア派だったから、よく一緒に本を読んだり、テレビを見たりしたもんだ。

俺は何時しかリーザの病気を治す事を思い描き、医者を目指す事を決める。

その為に勉強をし、両親や近所の人や市長さんまでが応援してくれて、俺は地球の連邦軍大学医学部に入学することが出来た。

 

1月4日……

俺は故郷に送る手紙を大学内の郵便ポストに入れた後、知った。

ジオンが宣戦布告をし、サイド4を壊滅させたことを……

俺の住んでいた12番コロニーは跡形も無く爆散されたことを……

 

……俺は目を疑った。耳も疑った。

全てを疑った。そんなはずは無いと。

 

ニュースで流れる映像。

軍大学内でも放送される。

ついに、軍大学のお偉いさんに呼ばれ、その真実を突きつけられる。

 

俺はすべてを失い、絶望する。

家族とリーザは俺のすべてだった。

 

俺はどうやって寮の自室に戻ったのかもわからない。

時間感覚もすべてが分からくなかっていた。

 

3日経ち……

俺の部屋にノックがあったようだ。

俺はそれすらも気が付かず、誰かが勝手に扉を開け、何かを置いて行った。

 

俺はふと、その置いていった物を見ると……

それは俺の良く知る人の字で書かれた便せんだった。

 

もしかしたらと…俺は慌てて、その便せんの上を破き、中の手紙を取り出す。

手紙は3通。

両親のもの、妹二人のもの、そしてリーザの物だった。

 

中身は1月2日付けで書かれ、便せんには1月3日の消印が……

それは……コロニーが壊滅したその日に送られたものだった。

一瞬希望の光がさしたと思ったが……また闇へと逆戻りに。

 

だが、俺はその手紙を広げ読むことした。

両親の手紙は、俺を気遣う内容をで、母さんの字で書かれていた。

妹達は、上の妹は、デリカシーの無い兄さんへとあり、女の子の扱い方について書いてあった。下の妹は、お土産リストをひたすら書いていた。

俺は思わず苦笑するが、涙が止まらなかった。

 

リーザからは近状報告から始まり、

『エドに報告があります。今、私は通信教育で看護師資格の勉強をしています。私の病気が治ったら、エドと一緒に世界中で私と同じような病気で困ってる人を助けに行きたいから。って、気が早いかな?

私ね。自分の病気の事をあきらめてたの。でもエドが私の病気を必ず治すって言ってくれたから、私も頑張って生きなきゃって思ったの。エドが帰って来るまでに生きるってきめたの。エドはこんな私に希望をくれた。

こんな私に恋人になろうって言ってくれた。

私はエドに貰ってばかり、エドに恩返しをしたいけど、どうしたらいいかわからない。

でも、私はエドに恩返しするためにも、先ずは生きないとね』

 

俺は焦っていた。

俺が軍大学で医学を修め、リーザの病気の治療方法を見つけるのが先か、リーザの命が尽きるのが先か……。

軍大学医学部では宇宙移民が罹る、しかも5千分の1の確率で罹る先天性の病気に本気で、取り組むわけが無いことは、当時の常識だった。

だから、俺が最高研究機関である軍大学で医学を学び、病気を治すと……

 

リーザの手紙はこう締めくくられていた。

『エドだったら、きっといいお医者さんになれる。コロニーの人や地球の人、サイド3の人もみんなを分け隔てなく治して、笑顔をくれるお医者さんにね。

大好きなエドへ リーザ』

涙を拭い。再度立ち上がる。

俺は漠然と医者になるべきだと。

当時の俺はリーザを助けたい一心で医者を目指した。

だが、そのリーザも亡くなり、守るべき家族も故郷も失った。

俺の中は圧倒的な喪失感のみが支配していた。

俺は今でも最後の彼女の最後の一文が頭によぎる。

これがリーザの最後の願いだと、勝手に受け止め、立ち上がる事が出来た。

 

そして、止まっていた思考も回りだす。

なぜ家族が妹達がリーザが殺されなければならなかったのか……

俺はそこから疑問が沸き上がる。

 

戦場を見に行こう……ただ、そうすれば何かわかるかもしれないと……

 

確かにジオンを憎む強い思いも渦巻いた。

だが、地球連邦軍に対しても怒りはある。宇宙移民を蔑ろにする政策にも、腹に据えかねていたのは確かだ。

それよりも今、世界では何が起きているのか……そして、戦争とはなんなんだと……

 

当時医師免許試験に合格し、後は1年の実地研修を受けるのみで正式な医者を名乗れる状態だった。

それを利用し、軍医志願し、前戦での軍医実地研修を希望する。

医者の道と家族とリーザが殺された理由を探すべく、俺は前戦へと向かった。

 

 

……前線は地獄だった。

飛び交う悲鳴に怨嗟の声。

傷付くのは兵士だけじゃない。そこに住まう人々が大半だ。

そして、死ねばただの屍。

例え生きながらえたとしても、苦しみが待っているかもしれない。

それは連邦兵、ジオン兵、一般市民と区別なくにだ。

 

だが、生きていれば明日への希望へとつながる可能性が残る。

死ねば何も残らない。

俺は、戦場で誰かれ構わず、傷ついた人たちを治療する。

 

俺の心は荒む一方だったのは自覚がある。

だが、リーザが残した最後の言葉が俺を支える。彼女が残した最後の願いだと。

 

そして……一年戦争と呼ばれる人口の半分を消失した戦争は終わりを告げる。

連邦の勝利として……

 

連邦軍は大々的に勝利宣言をし、軍内は沸き上がる。

 

何が、勝利だ!

人がこれだけ亡くなったんだぞ!

ジオンの暴走を抑える事が出来ず、これ程の被害を出しておいて、負け同然だろ!

「勝利した者など何処にいる!誰も彼も傷つけあっただけじゃねーーーか!」

俺は当時、連邦の勝利宣言を聞いた時、そう叫んでいた。

 

俺はこの後、軍大学医学部に戻り、研究を行う事にした。

軍医として、一年戦争を駆け回った俺には、表向きは賞賛の声を向けられる。

俺の希望通りの研究も行いやすくなっていた。

研究を始めて2年半。リーザが患っていた先天性の遺伝子病の治療方法を見つける事ができた。……既にリーザはこの世に居ないが……俺はやるべきだと。

だが、達成感は無く、喪失感のみが残った。

 

そんな俺を見かねて、モズリー先生が軍艦の軍医に誘ってくれた。

その後は、デラーズフリートの反乱に巻き込まれ、ティターンズに嫌気がさして、軍をおさらばし、トラヴィスのおっさんの紹介でここに流れ着いた。

 

俺はリーザが言う、世界の人々を笑顔にできる医者にはなれなかった。

 

俺はこの街で細々と医者をやり始める。

そんな俺をこの街の人は受け入れてくれた。

そして、この街の人々に支えられ、リゼが来てくれて、ハマーンが俺の元に来た。

今では此処が故郷で、あいつらを家族だと思っている。

 

世界の人々を笑顔にできなくても、俺はせめて、この街の連中や、リゼ、ローザや俺に関わった人達だけでも、助けに成ればと思う様になっていた。

 

 

 

 

 

「ねえ、エド聞いてるの?エド、エドったら~」

 

「ん?すまん。ちょっと酔ったかもな。そう言えばドリス。大事な話ってなんだ?」

 

「もういいかな。……私ね。結婚するの」

 

「結婚?どこかの金持ちか?政治家か?連邦軍のお偉いさんか?嫌だったんじゃないのか?そういうのはよ。今まで見合いを散々潰してきたくせに、なぜいまさら?また何時ものジョークか?」

そう、こいつの実家は金持ちの名家だ。

政略結婚のための見合いを、それこそ10や20じゃ足りないぐらいやらされたとか。

 

「兄貴の奴ね。とうとうあきらめて、誰でもいいから結婚しろって」

……ドリスはもうすぐ35歳、四捨五入すれば40だ。家長として兄としても、そりゃ誰でもいいから貰ってくれと言いたくなったのだろう。

 

「マジか……」

 

「ほう、で、ドリスが決めた相手って誰だ?」

 

「郵便配達の子よ」

 

「「はぁ?」」

俺とトラヴィスのおっさんは一斉に変な声を上げた。

 

「24歳の子、私の家に毎日、来てくれる子なんだけど、4カ月前に熱烈なアプローチを受けちゃった」

 

「マジかよ」

 

「おいおいおい、ドリス。その小僧っ子。お前の本性しってるのか?」

おっさんはそんな事を聞く。まあ、俺も聞きたかった事だが。

 

「失礼ね。家では猫被ってるけど、ちゃんと話したわよ。追い払う意味でね。でも余計に付きまとわれちゃって……」

 

「その小僧っ子。とんでもないな」

 

「マジか。そいつマゾじゃねーのか」

俺はさっきからマジかしか言ってねーな。それ程驚いた。

 

「あんた達さっきから、失礼しちゃうわね。……まあ、可愛いかなって思っちゃったのよ」

 

「マジか。世の中には変わり者も居るんだな」

俺がそう言うと、おっさんも頷いていた。

 

「エドや隊長ほどじゃないわよ!ほんと私を何だと思ってるの!」

 

「「ドリスだろ?」」

俺とおっさんの声がまた被る。

 

「で、いつ結婚だ?」

 

「来年の2月に予定してるわ。兄貴が相応しい家を建ててくれるらしいわよ」

……金持ちのやる事はすげーな。ポンと家建てるのかよ。

 

「とりあえず、もう一回乾杯やっとくか?ドリスの結婚を祝してと、奇特な青年の前途を祝してってか?」

おっさんがそう言ってグラスを上げ、俺もそれに続く。

 

「なんか釈然としないわね」

 

「じゃあ、ドリスの結婚を祝して乾杯!」

「「乾杯」」

おっさんが音頭を取り、祝杯を挙げる。

 

 

あのドリスが結婚か……

俺はどうやらドリスが結婚することが素直に嬉しい様だ。

顔が自然とにやけてるのが自分で分かる。

俺とドリスの関係は複雑怪奇だが、やはりしっくりくる間柄は親友ってとこなのだろう。

 

何れローザもリゼも好いた男が出来て、結婚する事になるのだろう。

俺はその時が来たら、今のように素直に祝福できるのだろうか?

俺は今の今迄、2人が結婚するなんて事も想像もしていなかった。

 

 

 

 

翌日、ドリスは地球へと帰って行った。

もうちょっとゆっくりしてもいいんじゃないかと言ったんだが、名残惜しくなるからと言って断ってきた。

 

ドリスは最後にローザに一言、二言何か言っていたが、俺には聞こえなかった。

 




次は閑話。
そう閑話です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉞閑話:合コン

感想ありがとうございます
誤字脱字報告ありがとうございます。

久々の閑話です。
前後編になる予定です。


宇宙世紀0091年10月中旬

今日はローザとリゼ、アンネローゼは、クロエを誘って夕飯を外で食って来るらしい。

アンネローゼ曰く、女子会だそうだ。

そんじゃ、俺は久々に一人で定食屋にでも飯を食いに行くか。

 

すると、ヴィンセントから電話がかかって来て、

「エド先生!緊急事態だ!とりあえず来てくれ!」

そう言われて俺は、慌てて指定されたちょっと雰囲気がいいレストランに向かう。

もしかしたら、クロエが倒れたのかもしれん。

今まで大丈夫だったが、急変はあり得るからな。

 

しかし……

店の前で、店中を必死の形相で覗き込むヴィンセント。

その後ろで苦笑してるトラヴィスのおっさん。

 

「何してんだ。ヴィンセントにおっさん」

 

「エド先生!!なぜ止めなかった!!」

ヴィンセントが俺に気が付き、迫って来る。

 

「はぁ?何の事だ?」

止める?何をだ?

 

「おいおい、もしかして、エドも知らなかったのかよ」

 

「だから何なんだよ!」

 

「エド、ちょっと中見て見ろ」

トラヴィスのおっさんが指さした先の席を、窓越しに見ると……

そこにはアンネローゼ、クロエ、ローザ、リゼが大きなテーブルの片側に並んで座り、対面には男たちが座っていた。

 

「何やってんだ?あいつら」

 

「合コンだよ。合コンだよ!アンネローゼが!!クロエをクロエを!!」

 

「落ち着けヴィンセント。合コンか……なんか、アンネローゼの様子がおかしいと思ったらそう言う事か、多分ローザとリゼは知らねーでついて行った口だな。当然クロエも」

 

「確かにそんな感じだな。クロエも合コンに行ってくるとは言っていたようだが、意味は分かってねーよな」

トラヴィスのおっさんは、焦りまくってるヴィンセントの代弁をする。

 

「クロエが!クロエが!」

 

「落ち着けって。まあ、いいんじゃねーか?リゼはちょっと早いが、あいつらは今迄こんな経験すらしてこなかったんだ」

俺はこの時は別に問題無いだろうと、軽い気持ちだった。

 

「エドの言う通りだ。何事も経験だ。それにだ。クロエがお前以外の男になびくとは到底思えないし、安心しろヴィンセント」

トラヴィスのおっさんは苦笑気味にヴィンセントの肩をポンと叩く。

ヴィンセント、今じゃお前の方がクロエにベタホレじゃないのか?

 

「でもな……少なからず心配なのは確かにある。あいつ等こういうのに慣れてないからな」

 

「そ、そうだよエド先生。ここは様子を見よう!」

 

「しゃーないか。じゃあ、ちょっと位置取りするか」

そう言ってトラヴィスのおっさんは店に入り、店員に何か言って、席を用意してもらっていた。店員はなんか衝立とかも置いてくれて、相手から見えないような席を準備してくれる。

俺達はその席に着く。

向こうからは見えないが、こちらからは向こうの様子がばっちり見える。

おっさん、流石だな。

 

しかし、あいつらが合コンとはな。まあ、ローザとリゼは意味は分かってないだろうが……ったくアンネローゼめ、リゼはちょっと早いだろこういうのは、帰ってからちょっと注意が必要か?

 

「相手は誰だっと」

俺はローザたちの合コンの相手の男の顔を見る。

げっ!あいつはフィリップ・ヒューズ!激不味パン屋の店主じゃねーか。

あいつは確か、一年戦争を生き残った元連邦軍モビルスーツ乗りだ。

 

「おいエド。フィリップ・ヒューズだぞ。しかも隣は現役のエースパイロットのユウ・カジマに、サマナ・フュリスだ。元モルモット小隊勢ぞろいかよ」

トラヴィスのおっさんは俺とヴィンセントに耳打ちする。

そういえばあの雰囲気のある男、どこかで見たことがあると思えば、ユウ・カジマか。EXAM関連でちょいっと資料を調べた時に写真を見た事があるぞ。EXAMを乗りこなした男だ。

しかも、HADESに乗っていたクロエの前に座ってるって……まあ、2人は面識有るわけじゃないが。

 

んん?……リゼの前に座ってるあのニヤケ顔!マクシミリアン・バーガーか!?

一年戦争の時に彼奴に一度出会って、民間のボランティア看護師をナンパしてやがったから、ぶっとい注射を何発か入れてやった奴だ!

だが、パイロットの腕は確かな奴だった。

マジか、元連邦軍パイロットオンパレードかよ!

 

「おい、おっさん。ヤバいぞ。ホワイトディンゴのマクシミリアン・バーガーまで居やがる」

 

「え?ホワイトディンゴ隊にモルモット隊?って一年戦争の連邦のエース部隊じゃないか」

ヴィンセントは目を丸くし驚く。

そりゃそうだ。ホワイトディンゴ隊とモルモット隊と言えば、ジオンにもかなり名が通ってるはずだ。ホワイトディンゴはオーストラリア戦線における連邦の英雄だ。

モルモット隊はそれほど知られていないはずだが、各所で転戦し、ジオンを宇宙へと追いやってる。

 

「ちょっと、まずいな。現役の連邦士官が3人も居やがる。最悪場を壊す算段をしなくっちゃならないか……いや、後で脅すか?」

真顔でおっさんはそんな事を言う。

まじでおっさんならやるからな。

だが、それも致し方が無いだろう。

しかし現役って、フィリップ・ヒューズ以外は未だ現役の連邦軍士官って事かよ。

 

「……ちょっと様子見だな。だが最悪おっさん、それで頼むわ。俺は何をすればいいか教えてくれ」

元エース部隊でさらに現役の連邦軍士官が3人って、なんでそんな奴らと合コンしてるんだよ!

なんとなくだが、フィリップが合コンを誘ったんだろうが、なんでアンネローゼとフィリップが知り合いなんだ?これは流石に無いぞ!

だってそうだろ?

元連邦軍に現役連邦軍士官の彼奴らの目の前に、あのハマーン・カーンが居るんだぞ!

しかもだ。クロエも連邦にとっては消したい過去の負の遺産そのものだ!

アンネローゼも、元ジオンの残党でニュータイプだしな。

バレたらまずすぎだろ!

 

きっとわかってねー。

あいつ等の目の前にいる男どもは、一年戦争の連邦のエース部隊出身者だってことを!

 




というわけで、ここで外伝の方々登場。

機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY 一年戦争
ユウ・カジマ:主人公:EXAM搭載機体ブルーディスティニーを駆り、数々の戦場を生き延びたエースパイロット。寡黙な小隊長(モルモット隊)
フィリップ・ヒューズ:同じくモルモット隊のベテランパイロット隊員でユウとは戦友で腐れ縁。口調に癖があり過ぎるパイロット。一年戦争後はサイド6でパン屋を開業。
(これが今回のネタの元でした)
サマナ・フェリス:内気な基本に忠実なパイロット。2人よりも、年下だと思われる。

機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で… 一年戦争
マクシミリアン・バーガー:オーストラリア戦線で活躍したホワイトディンゴ隊の隊員で、お調子者ではあるが、確実に戦果を挙げられる腕を持つMSパイロット。

次はどうなる事やら。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㉟閑話:合コン自己紹介

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ちょっと空いちゃいました。
最後まで仕上げてからと思ってまして、
一応37話まで下書きしてから35話をアップしました。




ローザとリゼとアンネローゼにクロエは、ちょっとオシャレなレストランに居た。

ここまでだったら、普通に女同士の食事会だ。

俺も、アンネローゼに出掛け際にそう聞いていたしな。

だが、ローザ達は大きなテーブルの片側に並んで座り、同じ人数の男どもが対面に座っていたんだ。

どう見てもこのシチュエーションは合コンだなこりゃ。

アンネローゼの様子がおかしかったのはこういう事か。

ローザもリゼもクロエも合コンの意味も分からず、アンネローゼに連れてこられた口だろう。

まあ、あいつらも年頃の娘だし、しかも皆、青春時代は戦争に明け暮れていた人生だった。

いい経験にもなるだろうしな。

 

この時はあまり問題視していなかった。

 

俺はというと、クロエを心配するヴィンセントに呼ばれ、トラヴィスのおっさんと、アイツらの死角になる席から、ローザ達の様子を覗き見ている。

流石に過保護過ぎるんじゃないかと思うんだがな。

ヴィンセントをほっとくわけにもいかねーし、しぶしぶ、こんな感じで様子を見る事にしたんだ。

 

だが、見に来て良かったと今は思ってる。合コンの相手が悪過ぎたからだ。

よりによって、この連中とは……

 

 

 

合コンは女性陣の自己紹介から始まった。

席の右側から順番に簡単な自己紹介をはじめる。

「リゼ・ヘイガー中学3年生の14歳でーす」

リゼは相変わらず元気いっぱいに自己紹介をする。この頃はますます女らしくなって来た。ちょうど大人と子供の中間っていったところか?だが、リゼの子供っぽい仕草が、まだまだ子供に見せる。

 

「ローザ・ヘイガーだ。24だ」

冷めた鋭い視線を向け上から目線の端的な自己紹介。相変わらずのハマーンクオリティ。

その、合コンらしからぬ自己紹介。どこだろうと誰だろうと、変わらない態度にある意味感服する。

 

「クロエ・クローチェです。…26歳になります。その、よろしくお願いします」

クロエは人と話すのは苦手だったからな、最初はヴィンセントとしか、コミュニケーションが、取れなかったぐらいだ。まあ、よくここまで頑張ったもんだ。クロエは、守って上げたくなるような印象をもたせる金髪美人だ。何処かの令嬢かと言っても通るぐらいな雰囲気を持ってる。

 

「アンネローゼ・ローゼンハインです。に、20代です」

……アンネローゼは、確か29歳だったよな。確かに20代だが、先の3人が若いもんだから、歳は言いにくいのだろう。

だが、グラマラス度では、間違いなくここでは1番だ。

なんていっても胸がデカイ。体育会系の美人顔もあって、男を魅了するには十分過ぎるだろう。

 

 

で……、問題の男性陣の自己紹介だが、女性陣とは逆に左側、要するにアンネローゼの前の奴から順に自己紹介を始める。

「フィリップ・ヒューズ36歳独身の見てのとおりのナイスミドルなのよ。街でパン屋をやってるから、遊びに来て頂~戴。ローゼちゃんの花屋のオーナーとは知り合いでね~。頼んでみるもんだ。こんなに美人さんが集まってくれちゃっておじさん驚いちゃったよぉ。嫁さん常時募集中―。よろしく頼まーね」

この合コンはやはりこいつの仕業だったか。この変な口調の男は新サイド6で1番まずいパン屋のオーナーだ。

何下心満載な自己紹介してんだこいつは……。

こいつ、こう見えても元連邦軍パイロットで、一年戦争を乗り切った奴だ。

 

 

「エド先生、父さん。後でこいつを宇宙に放出していいか?」

「はぁ、やめとけヴィンセント」

早速ヴィンセントは敵意丸出しで、フィリップを睨みつけてる。

 

 

「………」

次はフィリップの隣の席の雰囲気のある男の自己紹介だが……黙ったままだ。

 

「自己紹介ぐらいしろよユウ」

フィリップが呆れたように、黙ったままの男を肘で突っつく。

 

「ユウ・カジマ」

 

「それだけか?……ったく、この男はユウ・カジマ、軍時代の同期だ。あんましゃべんない奴だが、コミュ障ってわけじゃないから安心してくれお嬢さん方。こいつはこう見えて、連邦宇宙軍の中佐殿だぜ」

フィリップが自慢そうにユウ・カジマの代わりに紹介やってやったのはいいけどよ。

この場でまともに自己紹介もできねーような奴がコミュ障じゃねーわけ無いだろ?

 

ユウ・カジマ連邦軍のエースパイロットだ。あのEXAM搭載機体を乗りこなしていた強者だ。

そのユウ・カジマの目の前にHADESを乗りこなしていた元強化人間のクロエが座ってるってシチュエーションはある意味、凄いのかもしれないな。

まあ、お互い面識が有るわけでもないし、ユウ・カジマもまさか目の前の華奢な美女がEXAMの改良版のHADES搭載機のパイロットとは思うまい。

ん?中佐って言ったか?っておい。パイロットで中佐ってどういう事だ?何こいつ。そんなに優秀なのか?下手をすると艦隊持ちだぞ。

こいつはまずい。この年で中佐って事は頭も切れるんじゃないか?

 

「ユウ・カジマは警戒しなくとも大丈夫だ。少なくとも俺が知ってる限りはだが」

トラヴィスのおっさんが、俺の心配を察したように小声で話し出す。

 

「どういうことだ?」

 

「あいつはパイロットとして連邦軍の中で突出した存在だ。正直言って、一対一のモビルスーツ戦いや、一対中隊でも戦いたくない相手だ。連邦の中で、アムロ・レイの次に戦いたくない奴だ。正攻法の戦法を得意とするが、その正攻法の戦術もほぼ一つだ。それが恐ろしく強い。単騎で敵部隊や艦隊に突っ込んで暴れまくって、残りの連中が援護するっていうとんでもない力技だ。敵が包囲陣形や戦略を仕掛けてきても、それ事噛み切っちまう。まさにジョーカーのような奴だ」

なんだそりゃ?普通じゃないぞそれは。モビルスーツ戦のセオリーを逸脱してるんじゃないのか?そんな奴に対しては既存の戦術マニュアルは効果は無いって事か……。おっさんよりMSの技量は上で、さらに戦術キラーってところか。あらゆる戦術を駆使するおっさんとは相性が悪そうだな。

そりゃ、EXAM搭載機に乗れるような奴だ。普通じゃないけどな。あの反射速度にGに耐えられる体に力量を持っているという事か。

 

「……その反面、大きな戦略を読む力や軍略に乏しい。虚実もなきゃ、裏表も全くない。まあ、それを凌駕する圧倒的な個の力を持ってるもんだから、今まで生き残って来れたんだ」

 

「いや、なんでそんな奴が中佐なんだ?」

ただのエースパイロットじゃ部隊長止まりの大尉がいい所だ。

佐官クラスとなると、指揮官に必要な統率力や戦略眼などの能力が必要な上、ある程度のコネや戦術的実績も重要だ。モビルスーツの実績だけではなれるものじゃない。

 

「裏表が全くないんだよ。任務にも忠実だ。正義感は強いため、そこを刺激しないようすりゃ、これほど扱いやすい奴はいない。ラサの石仏(連邦軍の高官)達にとっては、都合のいい番犬ってわけだ。後はその高官どもが奴をコントロールするための参謀を送りつけりゃ、駒として、優秀過ぎる部隊の誕生ってもんだ。グリプス戦役で優秀な奴は結構死んだから、あいつの価値はうなぎ登りだろう」

 

「そう言う事か……」

なるほど、連邦の上層部としては使いやすい人材というわけか、だから権限を与えても問題はない人物だということか。

要するにパイロットバカという事だな。だったら、よっぽどのことが無い限り、ハマーンってバレないか。

 

 

合コンの場では男どもの自己紹介が続く。

「サマナ・フュリスです。33歳です。フィリップさんとユウさんとは一年戦争時は同じ部隊員で、僕は後輩になります。現在連邦軍大尉として、士官学校の教官を行ってます」

 

 

「おっさん、この童顔男はどんな奴だ?士官学校の教官という事はだ。結構優秀なんだろ?」

真面目そうな童顔のこの男について、おっさんに聞く。

 

「そうだな。基本に忠実なタイプで、それで実績を上げて来たモビルスーツ乗りだ。……だが結婚してるはずだがな」

 

「おい、こいつ結婚してんのに合コンしてんのかよ……浮気か?。いや、どうせフィリップに無理矢理付き合わせられたのだろう」

 

「そうだろうな」

おっさんも俺の意見に同意のようだ。

サマナって奴はどう見ても、優等生な真面目タイプだ。

もしかしたら、警戒すべきはこいつなのかもしれない。

 

 

「自分はマクシミリアン・バーガー33歳。連邦宇宙軍大尉です。中佐殿のモビルスーツ隊副隊長を拝命しております。忙しい日々の中この年まで女性とゆっくり話し合う機会もありませんでした。今日、こうして貴女達と出会えた事を幸運に思います」

マクシミリアン……なんかキャラ違うくないか?今はただのイケメン紳士風だが、こいつは確かもっとがっつり女好きですって面だったんだが……。この10年で変わったのか?

……いいや、目が当時のままだ。スケベそうな目だ。あいつ擬態してやがる。

こいつ、がっつり行く気だな。

 

 

「……え?皆さん連邦の士官の方々だったんですか?……フィリップさんも元連邦軍パイロットだったんですね」

アンネローゼがちょっと困惑顔をしてやがる。やはり気が付いてなかったか。

今日会う奴らが連邦軍パイロットだって、知っていたら流石に断っていただろう。

自分たちにとって厄ネタもいい所だからな。

アンネローゼめ、せめて上手く切り上げる方向に持って行くか、無難な対応で終わらせろよ。

 

それにしてもリゼは良いとして、ローザもクロエも顔色一つ変えてないな。

ローザは流石はハマーン・カーンってところか、動揺の色が全くない。

バレない自信があるのだろう。どこからその自信は来るのかはわからんが。

クロエは……天然だから仕方が無いか。

 

 

こうして、奴らの合コンが始まった。

 




次回は本格的に合コン開始です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㊱閑話:奴らの合コンはやばい。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


続きです。
閑話なんで、こんな感じで……
IFではないのですが、ストーリーとはちょっと異なり、ライトな気分で読んで頂ければ助かります。




合コンが始まったが……

会話がとても弾みそうもない。

ローザは初めから話すつもりなどまったく無さそうな面をしてるし。

引っ込み思案のクロエは自分から話すような性格じゃないし。

リゼは出された前菜を美味しそうに食べながら、ローザに話しかけてるし……。

男共も、ユウ・カジマは微動だにせず黙ったままだし。

サマナ・フュリスは、仕方なしに参加してる感じで、愛想笑いしてるだけだ。

マクシミリアン・バーガーは、本性を隠しカッコつけて、自ら話さないスタンスを取ってる。

フィリップの野郎はアンネローゼに話しかけてるが、アンネローゼは相手連中が連邦軍だと知って、警戒してか、相手に会わせて愛想笑いと頷いてるだけだ。

 

 

 

「エドにヴィンセント、心配するような状況にはなりそうもないな。これはこれでいいんじゃないか?」

おっさんが俺とヴィンセントにホッと息を吐きこう言った

 

「たしかにな。案ずるが易しってのはこの事だ」

いい感じに合コンは破綻しそうだな。これなら、早々に飯食って直ぐに終わりって感じだ。

 

 

フィリップの奴がこの状況を見かねて、皆に向かって提案をしだす。

「うーん。お嬢様方はシャイのようだーね。まあ、こっちの男共はシャイというよりも朴念仁だがな。ふぅ、そうだな話題はっと。お嬢様方、特技とか得意なことかあるかな?先ずは端っこのちっちゃなレディーからどうぞ~」

まあ、そうなるだろうな。

幹事の立場からすりゃ、場を盛り上げるには何かをかえねーとな。

しかも、リゼを先鋒に選ぶとは。

こいつ、合コン慣れしてやがる感じがする。

明るいリゼだったら、素直にこの話題に乗ってくれるだろう。

目の前の軍人のおっさん共に気後れなんて全くしてないしな。

 

「はーい。えーっと。スポーツは全部得意です!でも、今はバスケットボールかな~、今度15番コロニー代表に選ばれちゃいました!」

リゼは明るく得意げに、胸を張る。

リゼはスポーツ何でも得意だしな。

まあ、それにこのコロニーには中学校は二校しかないし、選ばれてもおかしくない。

 

「ほぉ、リゼちゃんスポーツ得意なんだ~、そいつは凄い」

フィリップは大げさに驚く。

カジマは漸く反応を示し、大きく頷いていた。

サマナ・フュリスも感嘆の声を上げる。

マクシミリアン・バーガーはまだカッコつけたままだ。

 

「えへへへっ、そうかな?」

リゼも褒められてまんざらでもないようだな。

 

 

「じゃあ、次はローザさんどぞ。んん?そう言えば、リゼちゃんと同じ苗字だけど、姉妹か~な?」

 

「ふん。当然だ。他に何に見える?」

ローザはそんな質問振るフィリップを思いっきり睨む。

なんでそこで睨むんだ?逆に不自然だぞ……。

 

「い、いや~、美人さんなのは一緒なんだけど~。なんていうか雰囲気が余りにも違うっていうか……」

フィリップはタジタジでこんな事をいう。まあ、姉妹を疑ってるわけじゃなくてだな、リゼとローザの性格が余りにも異なるから、気軽に聞いただけなんだと思うが。

 

「貴様には関係ない」

相変わらずのハマーンクオリティ。もうそのまま合コンを破綻させてしまえ。

 

「お姉ちゃんとリゼは仲良しなんだよ」

笑顔でリゼがナイスフォロー。

 

「な、仲良しさんなんだね……じゃあローザさんの得意な事は?」

フィリップめ、めげずによくやる。

 

「………」

ローザは黙ったままだが、どうやらあの口の閉じ方は何か考え事をしてるようだ。

俺かリゼしかわからないちょっとした仕草だ。

 

「お姉ちゃんが一番得意な事でいいんだよ」

リゼの優しいフォロー。

 

 

リゼの言葉に頷き、ローザは腕を組み直し不敵な笑みを浮かべながらこう答えた。

 

 

「ファンネルだ」

 

 

その瞬間、トラヴィスのおっさんとヴィンセントは口に含んでいた飲み物を豪快に吹きこぼす。

合コン中のアンネローゼも、同じ反応だ。

 

ん?……ファンネルってなんだ?

……どこかで聞いたことが……確か強化人間関連の資料で見たことがあるぞ。サイコミュ兵器の一種だったような。

 

……

おいーーーーーー!!お前何言っちゃってんだ!!しかも何そのドヤ顔は!!

何処の世の中に町娘がサイコミュ兵器が得意とかいう奴が居るんだ!!

しかも連邦軍の現役エースパイロット連中の前で!!

ま、まさか……

俺はふと、ローザの席に置かれてるグラスを見る。中の飲み物は既に空だった。

しまった!ワインか!?

やっぱりか!完全に酔ってやがる!

あいつは超酒に弱い。見た目は全く変わらんが、思考が滅茶苦茶になりやがる!

この前なんか、間違って俺が飲んでたカクテルを飲みやがって、「この俗物が!」とか言いながら家中の赤い物を片っ端から壊しまくりやがった!

やばいぞ!こうなったあいつはなかなか酔いが冷めねーぞ!

 

「ファンネルとは、どういうことですか?」

サマナ・フュリスは訝し気にローザを見ていた。

隣のユウ・カジマも、眉毛をピクって動かし、今日初めての反応をしめしている。

明らかに怪しまれてるぞ!

 

や、やばい。どうするおっさん!呆けてる場合じゃないぞ!あいつ、とんでもない爆弾発言しやがって!……おっさん、一層この場に乗り込んで合コンを壊すか?

 

「あは、あははははっ、ネイルファンデの事なんです。田舎なんで、省略して逆読みしちゃうんですよね。よくあるでしょ?」

ナイスフォローだ!アンネローゼ!あいつらが追及する前に、次に回せ!

ローザの奴にこれ以上余計な事を言わすな!!

 

「ネイルファンデーションの事ですか。いいですね。地球でも流行ってますよ。僕のおく……知り合いの女性もこってまして……」

おおっ?何かサマナが納得したぞ。しかも奥さんと言おうとしただろお前、嘘とか擬態とか苦手なようだな。ふう、それにこいつ人が良さそうだし大丈夫だろう。

ユウ・カジマ、お前、微妙に残念そうな顔をしてないか?

怪しんでるんじゃなくて、兵器の話がしたいだけだったりとかか?……こいつはマジで安全そうだ。

 

「ネイルファンデとは、いい趣味だーね。ローザさん。おっさんにも今度ご教授願ったりかなったり」

フィリップの奴は何を言ってやがるんだ?意味が分からん。男はネイルファンデとかしねーだろ!

 

「ファンネルでは不服か?ならばキュべ……」

「じゃ、じゃあ次はクロエお願いね」

ローザが何かを口にしようとしたが、それを遮るように大きな声でアンネローゼが次のクロエに質問を振る。

ローザにはもう、何も言わすな!

 

クロエは指を下唇に当て、思案顔をした後に、可愛らしくこんな事を言ってしまう。

「わたしは……うーん。HADESかな」

 

案の定、ヴィンセントとトラヴィスのおっさんはまたしても飲み物を噴き出す。

 

お前もかクロエ!!兵器から離れろよ!!

しかもHADESが得意ってどういう事だ?あれはシステムだろ?

もう、訳が分からん。こいつの場合相当天然入ってるから仕方が無いか……ヴィンセントお前が何とかしろ!婚約者だろ!!

まあ、HADESなんて知ってる奴はもう連邦にも居ないだろうが。

資料事全部トラヴィスのおっさんが分捕って、連邦には残ってないらしいから、大丈夫だと思うがな。

 

この合コンどう考えてもダメだろ!おい!

 

「あは、あははははっ、そうなんですよ。この子こう見えても、なんかそう言うバーチャルゲームが得意らしくて。私にはわかんないですけど」

おおっ、流石は年長者のアンネローゼ。ナイスフォローだ!

 

 

 

この後、アンネローゼは上手い事話を流し、自分の番には無難にフラワーアレンジメントが得意だと答えて、事なきを得たようだ。

 

 

そんで男連中の番だ。

フィリップはパンを焼くのが得意だと……激マズパン屋が何を言ってやがる。

ユウ・カジマは、ビームライフルが得意だとか……、こいつも大概だな。

サマナ・フュリスは盆栽だと。ジジイかよ。

マクシリアンはキザっぽく楽器演奏が得意だと。まあ、こいつは元々軍楽隊出身だしな。

 

 

ふう、一時はどうなるかと思ったが、何とか乗り切ったな。

相手がバカと真面目君で良かった。

 




ハマーン様どうやら、エドに治療されて復活されてから、お酒が全然だめになった様です。
本人がそう言ってたようですが……
もしかしたら、元からかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㊲閑話:合コンじゃねーな

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

漸く、閑話終わりです。
次からは、ストーリー編なのですが、かなり加速します。


あいつらの合コンは、間違いまくっていた。

そもそも、連邦軍士官と合コンするのが間違ってやがる。

こちとら、元ネオジオンの摂政に、ネオジオンや元ジオンの強化人間、ニュータイプとなんでもござれだ。連邦に発覚したらやばい連中しかいない。

その上、こっちの女連中はアンネローゼ以外、合コンの意味が分かってねーのは、丸わかりだ。

ローザは酒に酔い、まともな思考が出来てねーで、半分ハマーンが出ちまってる。

クロエはそのまんま天然だ。

リゼは誰にでも何処でも要領も愛想も良い。中学3年生でこの場に一番似つかわしくないハズなのに、一番ましに見えるのが不思議だ。

アンネローゼは合コンの相手が連邦軍のエリート士官だったことに、内心冷や汗ものだろう。もはや合コンどころではねー状況に、飛んでも発言を連発しやがるローザとクロエの面倒で一杯一杯だ。

 

男連中もクセが強すぎる連中ばかりだ。

元モルモット隊のパン屋のフィリップはしゃべり方が癖があり過ぎる。性格も難ありだ。

元モルモット隊、一年戦争から今も連邦のエースを張ってるユウ・カジマは無口過ぎる。こいつ、合コンはじまってから、自分の名前とビーム・ライフルしか言ってねー。もしかするとこいつも合コンの意味がわかってねー感じだ。

元ホワイト・ディンゴ隊のマクシミリアン・バーガーは今はカッコつけて渋く演出をしてるが、あいつは根っからのスケベだ。誰かを狙っているのだろう。まさかリゼってことはないだろうな?

唯一真面なのは、元モルモット隊、現士官学校教官のサマナ・フュリスだ。この場に無理矢理連れてこられて、愛想笑いを浮かべてるだけで、まるっきりやる気がねー感じだ。

 

 

奴らの合コンは、始まって10分も経たずしてシラケムードに。

当然の結果だろう。

このまま解散しやがれ!

これ以上はローザとクロエに口を開かせるな!

 

 

ん?フィリップとマクシミリアンが立ち上がったぞ。

……なんだ?女連中に見られないように柱の陰で二人でこそこそと何か話し合ってるようだ。

なんかジャンケンしだしたぞ?

 

マクシミリアンは喜び、フィリップが悔しそうな顔だ。どうやらジャンケンはマクシミリアンが勝った様だ。

そんで席に戻る2人……

 

ん?男連中が席を交換しだしたぞ。

サマナがアンネローゼの前、ユウ・カジマはそのままクロエの前、マクシミリアンがローザの前、フィリップがリゼの前だ。

 

もしかして……マクシミリアンの野郎。ローザ狙いか?

という事はだ、さっきのジャンケン勝負をしていたフィリップもローザ狙いって事か?

おい、さっきまでのやり取りで、何処をどう見て、ローザを狙う気になったんだ?

可笑しいだろ?どう考えても一番避けるべき女だろ?

普通はアンネローゼ一択だろ。リゼはいい子だが、下手すると自分の子供ぐらいの年だ。犯罪の域だ。選択肢からは自然と外れるだろう。ロリコンじゃなきゃな。

クロエは美人だが天然で、雰囲気が合コンのノリじゃない。

ローザはもはや壊滅的だろ?睨んだり、貴様呼ばわりしかしてねーよな!?

 

 

「ローザさん。僕は君に一目会ったときから、興味をそそられていた」

マクシミリアンの奴、キザったらしくいきなりローザを口説き始めたぞ。

 

「貴様!私に話しかけるな!この俗物が!青い目が気に食わん!赤いスカーフと赤いシャツが気に食わん!生理的に受け付けん!」

……マクシミリアン。ご愁傷様だ。いきなり撃沈だな。お前超嫌われてるぞ。

それにしてもローザお前、赤い物に恨みでもあるのか?

 

「…い、いい!」

マクシミリアンの奴、何か恍惚としてるんだが……もしかしてお前マゾか?

 

ん?フィリップの野郎。リゼに話しかけてるぞ。

「リゼちゃん~。お姉ちゃんと仲良しさんなんだね~、お姉ちゃんの好きな物って何か知ってるかな~?」

フィリップの野郎はどうやら、リゼを味方につけ、ローザを如何にかしようとする作戦のようだな。

 

「お姉ちゃんの?うーん。クマちゃん!」

リゼは元気よく答える。

リゼ……それは言ってやるな。

 

「ほ~、それはかわいい趣味だ~ね。ロー…」

フィリップはリゼに相づちを打ちながら、ローザに声をかけようとしていたが……

 

「貴様!リゼが14歳だと知っての所業か!?年端も行かぬ我が妹をどうするつもりだ!!この俗物め!……リゼ、いかんぞ。いい様に使われて捨てられるに決まってる。年上の甘い言葉には気を付けねばならん。特に14歳の今の年齢はいかんのだ」

フィリップは別にリゼを口説くような事は言ってないのだが、ローザは有無も言わせない態度で罵り始め、その後、リゼに言葉優しく諭していた。

……フィリップもこれで撃沈だろう。

しかしローザ。お前14歳の時に何があった?実際に年上の男に騙されたことがあるのか?やけに実体験がこもったような言い回しだぞ。

 

「ローザちゃん~いいね~、おじさんゾクゾクしちゃう」

フィリップ、お前もか!

 

その後、ローザの強烈な罵りをあえて受け続け、恍惚な顔をするマクシミリアンとフィリップ。

連邦軍は兵士じゃなくて、マゾを量産していたのか?

それとも、マゾだから一年戦争を生き残れたのか?

あの凄惨な日々もマゾだから乗り切れたとでもいうのか?

そういえば地元の変態三連星もマゾだったな。

ローザはマゾを引き寄せるのか、それともローザがマゾを量産してるのか。どちらにしろ、ローザに近寄って来る男共はろくでもない奴ばかりだ。

 

横のユウ・カジマはじっとクロエの顔を見てるだけ。

そのクロエは微笑みを浮かべながら、食事をしてるだけ。

 

サマナはもう、ぶっちゃけ自分の奥さんの事で、アンネローゼと最近の女性の流行について世間話をしてやがる。

アンネローゼもその話題にのってる感じだ。

 

………合コンじゃねーなこれ。

 

この分だったら大丈夫だろう。

トラヴィスのおっさんは苦笑気味に、メシの注文し始める。

ヴィンセントはクロエの前のユウ・カジマを睨みっぱなしだ。

 

 

しばらくして

「お姉ちゃん、お兄ちゃんにお土産買って帰ろ」

「そうだな」

リゼはいい子だ。俺の元でよく、こんないい子に育ったのが不思議だ。

 

「りぜちゃん、お兄ちゃんがいるの?」

「ローザさんの弟さんかな?」

フィリップとマクシミリアンは二人の会話を聞いてこんな質問をする。

 

「貴様、私の弟だと?どこをどう見てエドが弟に見える!」

まあ見えないよな。だがローザよ、フィリップとマクシミリアンは俺が兄貴だと知らねーだろ?酔っ払いめ。

 

「違うよ。おじさん達。私とお姉ちゃんのお兄ちゃん」

 

 

「エド……?確か、ローザちゃんとリゼちゃんの苗字はヘイガー……まさか~ね」

「……あ、あのさ~、ローザさんとリゼちゃんのお兄さんは……エドワード・ヘイガーって名前じゃないよね」

フィリップとマクシミリアンはお互い顔を見合わせてから、恐る恐るといった感じでこんな事をローザとリゼに聞いてくる。

 

「うん、お兄ちゃんのお名前はエドワード・ヘイガーだよ。お医者さんなの!」

 

「………」

「………」

リゼからそれを聞いて黙り込むフィリップとマクシミリアン。

……潮時か。

 

 

「よお、マクシミリアン・バーガー、ざっと11年ぶりか?それとパン屋のフィリップさんよ。4年ぶりじゃねーか?術後はどうだ?酒の摂取量は守ってるよな~当然」

俺はフィリップとマクシミリアンの後ろから、二人の肩をポンと軽く叩いてから、挨拶をしてやった。

マクシミリアンの奴には1年戦争の時にさんざ脅してやったし、フィリップも4年前、新サイド6の大学病院に出向して手術を施したクライアントだ。

 

「え、エド!?」

「ドクター・エド!?」

困惑顔のマクシミリアンとフィリップ。

 

「お兄ちゃんだ!」

「さっさと出てくればいいものの」

リゼは俺を見て嬉しそうに、ローザは俺達に気が付いていたのか、酔っ払いの戯言か、こんな事を言ってくる。

 

「なに人の妹口説いちゃってんだ?あんたら?」

 

「あっ、僕用事を思い出した!中佐!自分は明日の準備をしてきますので先に失礼させていただきます」

「しまった。パンの仕込みを忘れていたーな。ユウにサマナ、悪いが先に帰る。後は任せた」

マクシミリアンの野郎は俺の顔を見て、ユウに敬礼してから、そそくさと退出。

フィリップもユウとサマナに声をかけて、逃げるように席を発つ。

根性無しどもめ。

 

この後、一応残ったサマナとユウ・カジマに挨拶して、元連邦軍軍医であることと二人の兄であることを名乗った。

サマナは俺の事を噂程度に知っていたようだ。

どんな噂なんだか。どうせ、ろくでもねーもんだろうがな。

サマナは愛想笑いしながらユウを連れ、俺達に頭を下げこの場を去って行く。

 

こいつ等の何か間違った合コンは終わりを告げる。

 

 

帰った後、アンネローゼにはちょっと説教を。

ローザとリゼには合コンの説明を改めて行う。

ローザは知っていたとかなんとか言っていたが、あの口ぶりは絶対知らなかったな。

 

まあ、何にしろ大事に至らなくて良かったな。

 

 

 

後からトラヴィスのおっさんから聞いたのだが、ユウ・カジマは元ネオジオンの拠点であった小惑星アクシズの防衛戦隊長として着任したそうだ。

マクシミリアンはその部下として、サマナ・フュリスはルナツーで宇宙軍モビルスーツ教官として派遣されたとか。

しかも、月へモビルスーツのテストパイロットとして半年間という期限付きで派遣されてたはずのウラキ達は、滞在延期だと言っていた。

 

また、戦隊規模の宇宙独立遊軍部隊が結成されたとか……

 

きな臭いにも程がある。

エースパイロットのユウ・カジマがアクシズの防衛だと?

ハマーンの後釜になった奴が、近々動くとでもいうのか?

 




逆シャアに近づいてきますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㊳ハマーンが残したもの

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

やっと、ストーリーモードに戻れました。
逆シャアまでカウントダウンに入りました。


宇宙世紀0092年3月上旬

ローザが俺の元に来て3年が経つ。

看護師の資格も取得し、正式に家の診療所で働くことになった。

仏頂面の不愛想なのは相変わらずだが、患者に対してもそれなりに丁寧には対応してるし、近所づきあいはまずまずだ。

最初の頃を思えば、随分とこの生活にも慣れたようだ。

あいつ、炊事洗濯もしたことが無かったし、飯もロクに作れなかったが、今ではどうだ。

俺よりも、堂に入っていやがる。

リゼが懇切丁寧に教えた結果だろうが、元々は器用なのだろう。

 

1月16日にこの家で3回目の誕生日を迎え25歳となったローザ。

俺はその誕生日に間に合わせるつもりで、あるものを準備していたが、間に合わなかった。

まあ、俺としてはサプライズとして、誕生日プレゼントのつもりだったんだが、今日までずれ込んでしまった。

 

リゼは昨日、中学校卒業式を迎え、今日は友達のジャニスの家にクラスメイト大勢で泊まりに行って、家に居ない。

 

2人の夕食を終え、俺はミルクシェーキとコーヒーが入ったマグカップを二つ持ち、ローザに声をかけ、リビングのソファーに腰を掛ける。

「ちょっといいか?」

 

「うむ」

ローザは台所の食器洗浄機のスイッチを押し、クマのキャラクターが入ったお気に入りのエプロンを脱いでから、俺の対面に座る。

俺は持ってきた自家製ホットミルクシェーキの入ったマグカップをローザに渡す。

 

その後に、12インチのタブレット端末をローザに見せるように渡した。

そこには写真が写っている。

 

「こ、これは……どういうことだ」

ローザは食い入るようにタブレットに写る写真を見て、珍しく困惑な声を上げていた。

 

「お前に言えば、反対するからな。すまんが勝手に調べさせてもらった」

 

「……何故だ?………セラーナ…セラーナなのか?」

写真に写ってる若い女性を見る目は揺れ、タブレットを持つ手が震えていた。

 

「そうだ。お前の実の妹だ。今の今迄確証はなかったが……今はレオナ・サンジョウと名乗っている。丁度一年前か、お前に妹の事を聞いた。妹を信頼置ける人物に預け、こっそりアクシズから送り出したと……お前は二度と妹に会わないとも言っていたな」

 

 

丁度一年前の2月頃か……

ハマーンはローザと名乗ってから、1年と数カ月が過ぎていた。

漸くこの生活も慣れだした頃だ。

俺はハマーンに生き別れた妹がいた事を聞いていたが、落ち着いた頃を見計らって再度聞いた。

その時にハマーンは4つ年下の妹セラーナ・カーンについてほんの少し俺に話した。

ハマーンが摂政官となり、アクシズの実質のナンバー1となったのが16歳の頃だそうだ。

丁度0083年デラーズ・フリートの反乱が起きた年だ。

周りは全員政敵で、自分一人の身を守るので精いっぱいだったらしい。

そこで、自分の弱点となるセラーナを、ハマーンがその時、唯一信頼していた人物トウコ・イチジョウという人物に託し、デラーズ・フリートの反乱に乗じて、地球へと逃がしたそうだ。それ以降の消息は分からないと……

詳しい事は語らず、その時は其れだけを語ったのみだった。

 

セラーナの行方について、唯一の手掛かりはトウコ・イチジョウという人物だ。

俺はトウコ・イチジョウなる人物とセラーナの行方について、ドリスに捜索を頼んだのだ。

その時、ドリスは俺に結婚するなんて一言も言ってなかったがな。

それは置いといてだ。あのドリスを持ってしても、捜索に難航し一年かかったようだ。

トウコ・イチジョウなる人物は、極東日本、キョウトシティで今でも力を持つ名家出身だった。だが、一年戦争時に死亡扱いになっており、帰って来た形跡もなかったそうだ。

ドリスはあらゆる情報網と可能性を検証し、ようやく行きついたのがフジコ・サンジョウという人物だった。

名前は日本語では『藤子』と書き、トウコともフジコとも読めるらしい。

トウコ・イチジョウはセラーナを守るために、名前も変えイチジョウ家の遠い分家であるニイガタシティのサンジョウ家の娘養子となったそうだ。

今は、極東日本ニイガタシティでレオナ・サンジョウと名を変えたセラーナは、フジコ・サンジョウと共に穏やかな日々を過ごしてるとの事だ。

 

「セラーナは……お前の望み通り、政治の世界に巻き込まれる事なく、穏やかに過ごしてる。ドリスが調べ、現地に行って、隠し撮りした写真がそれだ。まあ、レオナ・サンジョウは大学でも美人で目立つから有名らしいから、隠し撮りしなくとも、写真は結構あったそうだけどな。だが元々セラーナ自身を知る人物や情報が全く無いことから、誰もお前の妹だと気が付かないだろうだとさ」

フジコ・サンジョウまで行き当たったドリスだが、レオナ・サンジョウが本当にセラーナ・カーンなのか、状況的にはその可能性が非常に高かったが、確証を得られなかった。

セラーナ自身についての情報が無かったからだ。

しかも姉妹だが、あまりハマーンに似てない。

髪の色は今のローザのように染めているかもしれんが、レオナ・サンジョウは穏やかそうな顔立ちだ。似てるのは輪郭ぐらいか?

だが、俺はローザ…ハマーンの反応を見て、それが確証となった。

レオナ・サンジョウはセラーナであると。

 

「……セラーナの痕跡を消すために、私は全てを焼き払った。当時の写真やデータすら残っていないはずだ」

ローザはゆっくりと、さらに声を低くし語りだした。

 

「そうか……」

 

「何故だ。何故こんな事をする!……私は……私は……」

 

「お前、たまにリゼを見て、ふとセラーナの事を思い出してただろ……そういう時は眉を顰めてたぞ」

 

「私はあの子を見捨てたのだぞ!」

 

「いーや、救ったんだろ。この穏やかな顔をみろよ。とても捨てられたと思ってる顔じゃねーぞ。それ、大学の活動写真も見ろよ、どれも笑顔だ」

 

「あの子にとって憎むべき存在の私が死んだからだろう……」

 

「ふぅ、お前をずっと憎んでたのなら、そんな顔をしてねーよ。9年間恨んでいたんなら、今のお前みたいにずっと仏頂面だぜ。きっと」

 

「くっ……」

 

「……いつか会いに行けよ。今はまだ無理かもしれんが、こうしてお前は生きてるし、セラーナも生きてる。それにトウコさん、いや今はフジコさんか、……セラーナをお前の代わりに守ってくれたんだ。礼をちゃんと言っとけよ」

 

「…………」

ローザはタブレット端末を持ったまま、自室に走る。

あいつの目尻には光るものが見えた。

これ以上は野暮だな。

 

 

 

 

後日、語ってくれたが、トウコ・イチジョウはハマーンの教育係だったらしい。

そんで滅法厳しかったそうだ。

ハマーンを特別扱いせず、判断を誤れば厳しく問いただしてきたそうだ。

そんなトウコを始めはハマーンは嫌っていたそうだ。

だが、アクシズをコントロールしてきた父親が亡くなり、ハマーンを政治の道具にしようと近づく輩に対して、トウコは激しく抗議したそうだ。

権力を振りかざす相手だろうと、拳を振り下ろしてくる相手だろうともだ。

ハマーン自身、いろんな人物に裏切られてきたが、最後まで口うるさく厳しく接してくれたのがトウコだったと……。

とんだ女傑だな。そのトウコ・イチジョウって女は。

まさか、そのトウコの影響でハマーンがこんな感じになったんじゃあるまいな?

 

そのトウコ・イチジョウは何でも、一年戦争前、サイド3の友好使節団の一人で留学の呈をなして、サイド3の大学に通っていたらしい。そのホームステイ先がハマーンの家だったらしく、そのまま一年戦争に突入し、流れでアクシズにと。

 

ハマーンは、妹を守るため、最も信用できる人物に託した。

自分の周りに味方が居無くなろうとも……

 

ハマーンにとって、セラーナが唯一の良心だったのだろう。

今は無理だが、何れかは会わせてやりたいとは思う。

お互い生きて、この世界に居るのだから。

 

 

 




終盤まで一気に行きたいところです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㊴結婚

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。






 

宇宙世紀0092年6月中旬

俺は柄にもなくシックなカジュアルスーツを着ている。

そして、横には純白のウエディングドレスを纏ったクロエ、普段化粧をしていないがこの時ばかりは、化粧を施し口紅をしていた。

俺はほんのり顔を赤らめるクロエの腕を取り、小さな教会のバージンロードをエスコートする。

 

今日は結婚式だ。

俺とクロエのじゃねーぞ。

ヴィンセントとクロエのだ。

 

ヴィンセントとクロエがこの15番コロニーに来て丁度2年が経つ。

クロエは強化人間特有の後遺症に悩まされていたが、遺伝子治療が上手く行き、安定している。子供を作っても支障がないぐらいにな。

ヴィンセントも早くも念願のレストランを持つところまで漕ぎつけていた。

こうして、晴れて二人は結婚式を上げる事が出来たって事だ。

 

そんで俺は今日一日、クロエの父親代わりをして、こうしてクロエの腕を引いてる。

クロエには身内が居ない。

クロエの親しい年上の男と言えば、俺かトラヴィスのおっさんぐらいだ。

勿論トラヴィスのおっさんは今回は無しだ。ヴィンセントの親父だからな。

だから、俺がクロエの父親代わりとしてエスコートをする。

 

まさか、俺が父親の立場に立ってエスコートすることになるとはな。

 

参列者は極身内だけだ。

クロエ側には、シックなドレスにベージュのショールを羽織ったローザ、その横にはライトイエローのワンピース姿のリゼ。

ヴィンセント側には、ガチガチに緊張してるスーツ姿のトラヴィスのおっさん。その横にダークブルーのパンツスーツ姿のアンネローゼだ。

 

俺はクロエを祭壇の神父とヴィンセントの下へ連れて行き、席に戻る。

讃美歌が始まり、指輪交換、そして……誓いのキス。

 

何故かグッとくるものがある。

あのクロエがこうして立派に結婚式を上げられるとはな……。

ふと、横の着飾ったローザとリゼを見る。

リゼは何時ものように笑顔で、ローザの表情は珍しく穏やかだ。

この二人も何れ結婚する。その時は俺はこうしてまた、エスコートするのだろう。

俺は涙を見せずに、最後まで笑顔で2人を送る事ができるのだろうか?

 

俺はつい昔の事を思い出してしまった。

死んだ親父やお袋も、本当はこうして妹達を送り出したかったに違いないと。

死んだ妹達には純白のウエディングドレスを着せてやりたかったな。

手の平で思わず目を覆っていた。俺も年をとったという事か……もう枯れてしまったと思っていた涙が目頭に溜まりやがる。

 

ローザはそんな俺の様子に気が付いたのか、すっとハンカチをよこしてくれた。

 

 

この後、昼食を兼ねたプチ結婚パーティーをヴィンセントが働いていたレストランで開く。

その後は、案の定俺んちでいつもの感じでくつろぎタイムだ。

 

「クロエお姉ちゃん!凄く綺麗だったよ」

「ありがとうリゼ」

「いいな~、私も誰かいい人見つけないと」

「これが……結婚か」

 

「エド~!俺の息子が結婚だぜ!!すげーぞ!死んだあいつにも見せてやりたかった!」

「おっさん。飲み過ぎだっつーの」

「はははっ、死んだ母さんには何れ3人で報告に行こう父さん」

「ヴィンセント、とりあえずおめでとさん」

「ありがとうエド先生。これもエド先生のお陰だ」

「それはこの酔っ払いに言ってやれ」

「もちろん。父さんにも感謝してる」

 

リビングでは女連中が騒ぎ、ダイニングテーブルでは男連中だけで騒いでいた。

こうして夜更けまで騒ぎ、新婚夫婦は自宅アパートに帰り、おっさんはリビングのソファーで酔っぱらってそのまま寝やがった。

 

ダイニングテーブルでは俺とアンネローゼが余韻に浸り話していた。

「おっさんよっぽど嬉しかったんだろうな。こんなに酔っぱらったおっさんを見たのは久々だ」

「クロエとヴィンセントも幸せそうだったなー。いいなー、私も早く良い相手見つけて結婚したいな~」

「アンネローゼは人当たりも良いし、美人だから、男の方から寄ってくるだろう?」

「エド先生、何サラッと恥ずかしい事言ってるのよ。そんなの無い無い。ヴィンセント隊長を見てたらね……いい男はいないのよね」

「なんだ?ヴィンセントの事が好きだったのか?」

「そうね昔は憧れ半分、ちょっといいなとは思ってたわよ。でもクロエとベタベタしてるの見るとね」

「千年の夢も冷めたってか?」

「そうじゃないけど。……エド先生。一層私と結婚しちゃう?」

「なに言ってんだバーカ。冗談でもやめておけ、こんなろくでなし」

「そうかな。結構いい男だよエド先生。口が超悪いけど」

「褒めても何も出ねーぞ」

「もう!」

 

「アンネローゼ、風呂が空いたぞ」

一緒に風呂に入っていたローザとリゼがリビングに戻って来る。

 

「はーい、エド先生、一緒に入る?」

「バーカ、さっさと行け」

「つまんないの」

「お前酔っぱらってんのか?」

「べーっだ」

「はぁ」

アンネローゼは、悪戯っぽい顔を向けて、リビングから出て行った。

 

「お兄ちゃんズルいんだ。私とは入らないのに、ローゼお姉ちゃんとはお風呂入るんだ!」

「うんなわけないだろリゼ。もう高校生だろ?もうちょっと察しろよな」

「お兄ちゃんの意地悪」

リゼは今年に入り高校生となったのだが、どうも子供っぽさがまだ抜けない。

体は順調に大人に成長して行ってるのにな。

 

「まあ、アレだ。今日の結婚式はよかった。リゼも将来結婚する時はああいうドレスがいいか?」

「うん!クロエお姉ちゃん凄く素敵だった」

「だな」

「あ!夜スタやってる時間だ」

リゼは話をそこそこに、今売り出し中のアイドルグループがやってる深夜番組を見に行った。

 

 

「で、ローザはどうだったか?」

自家製ミルクシェーキをコップに入れ、俺の対面に座るローザに質問した

 

「結婚式か……私には結婚に良いイメージがない。だが、今日の結婚式は良かったと思う」

 

「結婚にマイナスのイメージとかどんなんだ?」

 

「姉は18歳で政略結婚に行かされた。だが、相手は既に正妻を娶り、姉は愛人扱いだった……本人は幸せだと言っていたが……とてもそうには見えなかった」

まじか、こいつの人生暗雲だらけじゃね?

 

「政略結婚って、なんだそりゃ?いつの時代だ?旧世紀の中世でもあるまいし」

 

「……サイド3……ジオンはある意味縦割り社会だ。貴族社会とかわらん。結婚の自由などない。私もその時はそうなる運命だとな漠然と思ったものだ。とても許容できるものでは無かったがな」

まじでか、ジオン公国恐るべしだな。

 

「そ、そうなのか……。まあ、アレだ。ここではそんな事は無いぞ。好き合った同士が自由に結婚できる。お前も好きな相手でも見つけて、今日のクロエとヴィンセントのような結婚式を上げればいい」

 

「私が結婚か。想像できんな」

 

「お前、昔は好きな奴いたんじゃないのか?」

そういえば、大分前にそんな口ぶりをしていたような。

 

「ふん、あれは私の勘違いだった。憧れが恋愛感情と同様だと思っていたのだ。見事に裏切られたのだがな」

ローザは自嘲気味にこんな事を言う。

まじでお前、どんな人生を送って来たんだ?

お前、まだ25だろ?ここに来る前の21歳まで、どんな人生を歩んだんだ?

まあ、あの年でネオ・ジオンの摂政なんてやってたぐらいの女だ。

普通じゃない普通じゃないとは思っていたが、ここまでとはな。

 

「……過去の事はいいだろ?今のお前はローザで、この新サイド6、15番コロニーの住人だ」

 

「ふっ、確かにそうだったな。私は死ぬべき人間だったが、どこかの誰かのせいでこうして生きる羽目に……責任でもとってもらおうか?」

ローザは俺に不敵な笑みを浮かべる。

 

「はぁ、お前と相性が良さそうな奴探すのは難しいぞ。変な連中は無数に寄って来るが」

 

「ふん」

ローザの奴、なんか急に機嫌が悪くなったぞ。

まあ、いつもの事だ。

 

 

 

とりあえずは、おめでとさん。クロエにヴィンセント。

 






遂に逆シャアに……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㊵新生ネオ・ジオン。そして兄と妹

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

タイトル通りです。
元々、2話分だったのですが、区切る事が出来ず。
1話にまとめました。


宇宙世紀0093年2月27日

ローザが俺の元に来て、4年が経ったこの日、事件が起こった。

 

診療所の昼休憩中に昼食がてらテレビ番組を見ていたのだが……

「………シャア」

ローザはテレビ番組のインタビューを受けるある男を見て、持っていたフォークを床に落とす。

その目の色には動揺の色が濃い。

 

この男はテレビ番組中に地球連邦に対して、事実上の宣戦布告を行ったのだ。

普通であれば、冗談か何かと、笑い飛ばせばいいだろう。

だが、この男が言えばシャレにならん。

こいつは一年戦争のジオン側のエースパイロット、シャア・アズナブル。

グリプス戦役では、クワトロ・バジーナを名乗り、エゥーゴの実質のナンバー2だった男だ。

その実は、宇宙移民の独立運動の祖と呼ばれるジオン・ダイクンの遺児、キャスバル・ダイクンだ。

今、新生ネオ・ジオン総帥を名乗り、連邦軍いや、全世界に対し強烈なメッセージを送ったのだ。

冗談じゃすまされない。

……クワトロ・バジーナはグリプス戦役での死亡説が有力だったのだが、生きてやがったか。

 

「この男が、どの面下げてネオ・ジオンを率いるってんだ。冗談にも程がある」

これが俺の率直な感想だ。

しかもだ。地球連邦に宣戦布告だぞ。この男、まだ戦争がしたりないのかよ。

ふざけんじゃねーぞ。

戦争やりたきゃ、一人でやっておけ!

俺はテレビの向こうのシャアを睨んでいた。

 

「………」

ローザはそれ以降、一言もしゃべらなかった。

午後の診察時も心どこかあらずという感じだ。

 

ハマーンとシャアの間に何かあったのは間違いないだろう。

あいつのこんな動揺っぷりは今迄見た事が無かった。

それ程ショックがデカかったのだろう。

 

暫くはそっとしておいた方が良いか。

 

 

その日の夜、トラヴィスのおっさんとヴィンセントとクロエが家に来る。

だが、ローザは自室から出てきていない。

「やはりシャアだったか。……去年の年末にサイド1のスイート・ウォーターをジオンの残党が占拠したって情報は手に入れていたが……」

どうやら、トラヴィスのおっさんはある程度の情報を持っていたようだ。

まあ、俺達には不安がらせないように話してなかったのだろう。

 

「あの統率力は凄まじいものがある。ロー……ハマーンが亡くなった後、ネオ・ジオンの残党をあっという間にまとめていた。末端には自らの存在すら隠してだ」

ヴィンセントはハマーンが戦死したとされた後の事を語る。

 

「でも、私から言わせてもらえば、今更なのよ。エゥーゴについて、ネオ・ジオンと戦ったんでしょ?でも、カリスマ性は凄いわ。私はあの時、別のジオン残党に身を寄せていたのだけど、残党の長は、シャアがジオンを名乗ったのなら、合流していたって言ってたわよ」

アンネローゼは、シャアに否定的な意見だが、シャアの存在はジオン残党にとって大きな意義があるようだ。

 

「なあ、トラヴィスのおっさん。奴は本気で戦争を起こす気なのか?」

 

「……わからん。だが、アナハイムとグラナダの動きがおかしい。明らかに連邦が発注するモビルスーツ以上の過剰な資材供給を行ってる。モビルスーツやら兵器やらを作らせてるのは間違いない。それでも、物量差は明らかだ」

流石はおっさんだ。そんな情報も手に入れてるとは……。

やっぱ、おっさんは連邦軍の中枢にいるべきだったよ。

そうすれば、シャアに好き勝手にこんな事をさせる事は無かっただろう。

 

「威嚇か?弱腰な連邦軍を見越して、戦力をチラつかせ、サイド3を取り戻しに来たか?」

 

「流石はエド、元軍医で士官候補生上がりだな。普通に考えればそれが妥当だろう。だが……俺の勘では嫌な予感がする……いや、その線は……」

おっさんは勘とか言ってるが、緻密に情報を精査していつも答えを導きだしてる。

不安要素が大きすぎるのだろう。

 

「エド先生。ローザ姉さんは?」

 

「少々ふさぎ込んでるな、ありゃ。……ヴィンセント。シャアは一年戦争後はアクシズに居たのか?」

 

「アクシズに居た。権力闘争の渦中に居たが、しばらくして出て行った。その後に……年端も行かないハマーンが実質の指導者に。噂によれば、それすらもシャアが仕組んだとも」

 

「くそったれだな。シャアって奴は」

年端もいかねー少女(ハマーン)を頭に置いておいて、自分はおさらばってか?

くそっ、あいつの顔面殴ってやりてー。

 

「ふっ、エドの言葉はもっともだが、宇宙移民の中ではザビ家のシンパ。ジオン・ダイクンのシンパは今も多い。そして、シャア自身を崇拝してる奴もな」

 

「けっ、カリスマって奴か」

 

 

 

 

そんな話し合いをした三日後。

 

宇宙世紀0093年3月3日

シャア率いる新生ネオ・ジオンは資源惑星5thルナを占拠し、地球に落とした。

現地球連邦軍本部があるラサに向けてな。

高官どもは逃げ切れたらしいが、避難が間に合わなかった何も罪もない住民の命が消えた。

 

「くそったれ!!人の命を何だと思ってやがる!!くそが!!おっさんの予想的中かよ!!」

そのニュースを見て思わず俺はテーブルに拳を振り下ろしていた。

シャアって奴は人の命を何だと思ってやがる!!

権力者って奴は、人の命を単純な数でしか現さない!確かに戦略的にはそう捉えるのが正解だ!だがよ!お前が狙うべき相手は、連邦軍の上層部の軍人だろ!!一般人じゃねーだろ!!まさか、地球ごと滅ぼすつもりじゃないだろうな!!

おっさんはこの可能性を予想していたのだ。飽くまでも可能性の話だとは言っていたが。

 

 

「………」

ローザは黙って、テレビを注視していた。

この三日、口数は随分減っていたが、ようやく落ち着きは取り戻していた。

しかし、今は苦悶の表情で歪んでいた。

 

 

 

その晩の深夜、俺は自室のベッドの上で横になっていた。

また、戦争が起きる。それを考えると寝つけなかった。

俺の部屋にノックの音が鳴り響く。

ローザが訪ねて来たのだ。

 

「ん?お前も眠れないのか?」

 

「そうだな。……話がある」

 

「ああ良いぜ、俺も丁度眠れなかったからな」

俺は自室の作業机の椅子に座り、ローザにはベッドに腰掛けさせた。

 

「……やらなくてはならない事が出来た」

ローザは躊躇気味に言葉を発した。

 

「………」

俺は嫌な予感がしてならない。

シャアがネオ・ジオンの後釜に就き、連邦に宣戦布告した。

ローザは明らかに困惑していた。

俺はてっきり、何らかの感情を爆発させるのだろうと思っていたのだがな。

 

「明日、家を出る……」

やはりか……。

 

「どこに行くつもりだ?……俺が行かせないと言ったら?」

勝手に家を出ようと思えば出られるハズだが、俺にわざわざ話すのはなぜだ?

ネオ・ジオンに戻るとはとても思えない。

だが、シャアの存在は明らかに、こいつを困惑させてる。

 

「私は……シャアを止めなければならない」

 

「なぜだ。なぜお前がそれを?お前はネオジオンと手を切ったんだろ?後は政治屋と軍人の役目だ」

 

「シャアを…あの男を止められるのは私だけだ」

 

「お前、ネオ・ジオンではなくて、シャアか。話せよ」

 

「シャアは……あの男は地球から人間を排除するつもりだ。その手段は恐らく、隕石落とし。第2、第3の準備をしているだろう」

 

「馬鹿な!そんな事をすれば、人間が住めないどころじゃないぞ。生き物が死に絶え、自然は消滅してしまう。それこそ、元の環境に戻すには何百何千年もかかる」

 

「私は……あの男に13の頃に出会い、憧れていた。優しく接しられたことに舞い上がり、勝手に恋人の真似事までしてみせていた。だが、あの男にとって私は唯の駒に過ぎなかった。

ここに来て、それを痛烈に理解した。あの男は自分以外のものは道具にしか見えていない。人に勝手に理想を押し付け、そして、勝手に絶望する。そんな男だ。

大方、地球人類に絶望したのだろう。自分の思うようにいかなかったという理由でだ。

そして、ここに来るまでの私もあの男と同じだったことを……、あの男がネオ・ジオンを率い、堂々と地球連邦に宣戦布告したのを見て、吐き気がした。これが同族嫌悪というものなのだろう」

 

「………」

なんてこった。こいつが好きだった男とは、あの赤い彗星のシャアだったのか。

しかも、利用されていたのか。

という事はだ。こいつにアクシズを押し付け、立ち去った男というのも、ヴィンセントの話した通り、シャアだろう。

くそったれだな!

 

「だから、今の私はあの男の愚かな思考が読める。あの男は勝手に絶望し、地球上に残る人類を必ず抹殺する。その手立てを既に整えているだろう。行動力はずば抜けた男だ」

 

「……お前がそれを止めると」

 

「私の元を離れたあの男とグリプス戦役で再び出会った。当時の私は愛憎の感情が支配し、あの男を討ったはずだった。何とも後味が悪い感覚があったのだけは覚えている。今となってはあれでよかったと思っていた。あの男は、人として壊れていたが、ずば抜けた能力を持っていた。あの男が生きている限り、地球人類はあの男一人のために翻弄され続けるだろう。……だが、生きていた」

 

「そんな男を、お前は止められるのか!?どうやってだ!?」

シャアは化け物だ。

一説によると、一年戦争時に父親であるジオン・ダイクンを暗殺したとされるザビ家に復讐するために、名を変えシャアとして、ジオン軍を内部から切り崩したという俗説もある。

しかも、パイロットの腕も凄まじいと来た。ニュータイプだろうとも言われている。

さらに、エゥーゴのあの演説だ。そして今回のインタビューに応じるあの堂々とした態度はどうだ。カリスマ性の塊のような男だった。

そんな男が、ジオン残党を集め、地球上にいる人類を抹殺しようとしてる。

お前一人でどうやって止められる!?

 

「今の私であれば、止められる。あの男の考えが読める」

 

「嘘だな。……お前、刺し違えるつもりだろ」

 

「死にに行くつもりは無い。だが、あの男を何としても止めなければならない。地球は人々が住めない星になる。地球にはセラーナがいる。我が命を懸け奴を止めに行く十分な理由になる」

 

「今のお前に何ができる!……焦るのもわかる。悔しいかもしれん。だが今のお前はハマーン・カーンじゃねー!俺の妹のローザだ!」

 

「私はここでの日々を過ごしながらも考えていた。どうすれば私の罪は償えるのか………私は大罪人だ。世界に罪滅ぼしをしなければならない。お前もそう言ったはずだ。私が行って来た数々の罪を償うには今しかない。そして、今あの男を止めなければ………お前も、リゼも……苦しむことになる」

 

「なぜ、お前がやらなくっちゃならない!」

 

「私はかつて、ネオ・ジオン摂政をしていたハマーン・カーンだからだ。最後のけじめを付けさせてくれ」

 

「……行かせるかよ。お前は十分苦しんだじゃねーか!」

 

「……私はこの4年間、平和というものを知った。人々の幸せというものも知った。私の人生の中で、これ程穏やかに過ごしてきた日々は無い。………私には過ぎたるものだった」

 

「まだだ。まだ教えてねーことも、やってねーこともあるだろ!」

 

「エドワード・ヘイガー……貴方は確かに私の兄だった。最初は裏があると、……私を利用するものだと思っていた。また辱めを受けるとも……。だが違った。貴方は私を家族として、一人の人間として扱ってくれた。そして、守ってくれた。安心感をくれた。生きる希望をくれた。私という一人の人間に戻してくれた。十分すぎる物を貴方からもらった。今の私にはその大きすぎる恩を返すすべは持っていない。だが今度は私に返させてくれ」

ローザは穏やかに、時よりみせそうな苦悶の表情を隠そうとしながら、ゆっくりとした口調で俺にこう言った。

 

「恩とか言うな。俺がお前を勝手に妹にしただけだ。妹にしたからにはお前を守る義務がある。それが兄というものだ。俺は一度守れなかった。それをお前らに押し付けたに過ぎん」

 

「そうだとしても、私は幸せというもの感じた」

 

「………お前はどうしても行くのか?」

 

「行かせてくれ。兄さん」

 

「……お前、そこでそれはズルいぞ」

俺は右目から涙を滴らせていた。

初めてか、俺に面と向かって兄と呼んでくれたのは……

もはや、俺にローザの決意を止めれるだけの物を持ってなかった。

後は兄として、こいつを送り出すしかない。

 

「ふっ、私はズルい女だ。ハマーン・カーンなのだからな」

 

「言ってろ……一つ約束してくれ、あの男を、シャアを止める事が出来たら……いや、失敗してもいい。生きてここに戻ってこい」

 

「……約束はしよう。だが妹は兄との約束は忘れてしまうものだ」

 

「屁理屈を……ここは嘘でもはいって言っておけ。だがな、お前が居なくなる事で悲しむ奴が居る事を忘れるなよ。リゼだって、アンネローゼだってそうだ。だから戻ってこい」

 

「わかった」

 

俺はこの2時間後、ローザを宇宙港に送り出す。

前々から、セラーナに会わすためにローザを地球に降ろす方法を考えていたのが功を奏した。

サイドからサイドへの移動は可能だが、地球への降り方がまだだったが……。行先は月らしい。

貨物船舶を使う方法だが、流石にサイド1への直接移動は厳しい検問があるだろうからな。

 

 

別れ際、ローザから強く抱きしめられ、俺はそっと手を添える。

そして遠ざかるローザは、強い意志を目に宿したハマーン・カーンの顔になっていた。

 

 

これで良かったのだろうか?

無理矢理引き留める事も出来たかもしれん。

俺一人では無理だろうが、ヴィンセントやトラヴィスのおっさんに頼んで、軟禁することはできた。

だが、あいつの思いはどうなる。

罪を償いたいという思い。シャアと決着をつけたいという思い。平和を望む心。セラーナを守りたいという思い。俺やリゼ、此処の連中を守りたいという思い。

俺にどれも捨てさせることが出来るものではない。

 

俺はどうすればよかったのか?

 

 

 




次から次へと急展開予定。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㊶やれることはないか?

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は繋ぎ回。
短めです。


俺はローザを宇宙港に送り出し、夜明け頃、家に帰るとアンネローゼが診療所の前に待っていた。

この事を話すと、ビンタを食らった。

自分にも相談しろと、なぜ止めなかったと………、俺はすまんと一言謝る事しかできなかった。

だが、直ぐに許してくれた。

 

リゼには……ローザが急用が出来てしばらく帰ってこれない事を伝えた。

賢い子だ。何となくわかってるのだろう。

「早く戻ってきてほしいね」と、あまり深く聞いてこなかった。

 

トラヴィスのおっさんにも話した。

おっさんは俺を慰めるようなことを言ってくれたが、余計に辛い。

 

俺は無力だ。

こうして妹を…家族同然の女一人を助けてやる事すらできない。

一年戦争時に味わった。自分の無力さを再び痛感した。

 

 

 

その三日後……

シャアが新生ネオ・ジオンの総帥として、世界に向け演説を行った。

『………そしてそのザビ家一党はジオン公国を騙り、地球に独立戦争を仕掛けたのである。

その結果は諸君らが知っている通り、ザビ家の敗北に終わった。それはいい。

しかしその結果、地球連邦政府は増長し、連邦軍の内部は腐敗し、ティターンズのような反連邦政府運動を生み、ザビ家の残党を騙るハマーンの跳梁ともなった。

これが難民を生んだ歴史である』

 

堂々たる演説だった。見る者、聞く者を魅了するだろう。

演説の声、抑揚、内容どれをとっても、非の打ち所がない。

宇宙市民にとって反地球連邦のプロパガンダとしては最高の出来だ。

 

だが、俺の怒りは頂点に達していた。

こいつの裏を知る俺にはとても許容できるもんじゃない。

思わずその場にあったコップを、テレビに映るシャアに投げつけていた。

何がザビ家の残党を騙るハマーンだ!!幼いあいつをてめえが仕向けたんだろうが!!

あいつの青春と未来を奪って置いて、その口が言うか!

連邦軍の内部腐敗解消をエゥーゴで実現できなかったのも、人のせいか!!

「くそが!!」

 

あんな奴の所にローザを行かすんじゃなかった!!

無理矢理でも止めればよかった!!

 

そんな時だ。俺の元に二通のメールが入る。

両方ともセキュリティが厳重だ。

一つは、新サイド6の医師会からだ。

内容は新生ネオ・ジオン軍と地球連邦軍との戦闘に備えての、戦時派遣医師団の募集案内だった。それの添付書類には医師会の会長秘書から、なんか半強制的に出ろって書いてあんな。

 

もう一つは、連邦軍からだ。

軍医復兵の通知だ。

宇宙軍再編に伴い人数不足だと。

知らねーよ!ったくよ!

 

まてよ。

もしかすると、ローザを止めれるかもしれん。

いくらなんでも、いきなりあいつが本丸のサイド1のスイートウォーターコロニーに、入れるわけがない。

それに、シャアと決着をつける前にやる事があると言っていた。

まだ、月の可能性が高いな。うまく行ったとしてもサイド1の連邦の息がかかったコロニーに居るかもしれん。

 

俺は二つのメールを見比べる。

となると……

 

戦時派遣医師団だな。

 

自由がきくし、というか現地さえ行けば好き勝手やってやるしな。

連邦軍の軍医だったらどこに派遣されるかわからん。

戦時派遣医師団だと、派遣先は多分サイド1だろう。

しかも、速攻手続きすれば、医療船無しに、身一つで先に行ってローザの先回りができるかも知れん。

 

リゼの事はアンネローゼに頼んでだ、それとトラヴィスのおっさんにも……

そういえば、アンネローゼの奴、昨日から部屋に帰って無さそうだが……どこ行きやがった?

電話をしてもアンネローゼもトラヴィスのおっさんも出やがらねー。

ヴィンセントはまだ仕事中だよな。

クロエに電話してみたが、ヴィンセントはトラヴィスのおっさんのジャンク屋に行ってるらしい。

 

なんで電話出ねーんだ。おっさんは。

埒が明かねー。

俺は居ても立ってもおられず、診療所を午後から緊急休診として、おっさんのジャンク屋がある16番コロニーに向かった。

 




次回も急展開。

ちょっと先にハマーン様視点かハマーン様の行動をかければなと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㊷幽鬼(レイス)再び

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

展開が目まぐるしく変わってく感じに……



俺はローザを探し、引き留めるために、戦時派遣医師団に参加することに決めた。

心残りなのはリゼの事だ。高校一年生といってもまだ子供だ。

そんなリゼの面倒をトラヴィスのおっさんにも頼んでおこうと、16番コロニーのおっさんのジャンク屋へ向かった。

ジャンク屋と言っても、おっさん一人で経営してるわけじゃねー。

訳あり従業員を何人か雇ってる。

最近は顔を出してないが、人を集めて規模が大きくなったと言ってたな。

しかも、結構金回りがいいらしい。

 

16番コロニーの宇宙作業ドッグに近いおっさんの四階建てビルのジャンク屋を訪ねる。

受付のねーちゃんが、俺を小型宇宙艇に載せて案内してくれる。

何でも、コロニーの周りに浮かぶ小さな農業用プラントの一つを資材や宇宙であつめたジャンク品保管倉庫として借りてて、今そこにいるらしい。

10分程の宇宙移動だった。

 

密閉型プラントの貨物船が泊めれる程度の横着け宇宙ドックに降り、受付のねーちゃんに全面倉庫となってるプラント内に案内される。

 

「おい……まじかよ」

俺は倉庫の中を見て、思わずこんな声が漏れた。

 

「よお、エド。そろそろ来る頃だと思ってたぞ!」

何時もの飄々とした態度の作業着姿のおっさんが俺の方へ歩いてくる。

 

「おっさん!!なんだこりゃーーー!!」

 

「何って、これモビルスーツだけど?」

 

「いやいやいや、俺だって元連邦軍人だ。見りゃわかるっての!」

 

「ヴィンセント達を助けた時のZⅡだ!」

 

「そう言う事を言ってるんじゃねー!!」

 

「こっちの事か、これはヴィンセントが2年前に乗ってたザクの後継機、ギラ・ドーガの初期型指揮官用だ。ちなみにこれが今の新生ネオ・ジオンの主力モビルスーツだぞ。まあ、随分弄ったがな、リゲルグ系の高速機動用ブースターを肩と背面に装備し、背部パックを大型化させビームランチャーを取り付け武装強化してみた。大方、高機動強襲型ギラ・ドーガってところか」

 

「だから、そんな事を聞いてるんじゃね―――!!」

 

「エド先生、こんにちは」

その高機動なんたらってモビルスーツから俺がよく知る男が下りてくる。

 

「いやいやいや!!ヴィンセント!!なんでお前もここに居て、モビルスーツの整備してんだよ!!そんでおっさん、あのどでかいのはなんだ!!

 

「うーん。モビルアーマーだな」

 

「知ってるっての!!だから何でモビルアーマーがこんなところにあるんだよ!!」

 

「拾った」

 

「あほか!!そんなもん拾えるかよ!!」

 

「ここしばらく、彼方此方でジオンの残党やらティターンズの残党やらが、小競り合いがあっただろ?そん時にあいつ等が忘れて行ったか、隠していったかしらねーけど、残してあった物を拾っただけだ」

 

「それって、海賊行為じゃねーのか!?」

 

「どうせほったらかしにされてたんだ。ちょっと拾ってもいいじゃねーか。そのおかげで俺の懐はウハウハだぞ!ちなみに落ちてる場所は全部ドリスに教えて貰った。これはノイエ・ジールⅡ、いかしてるだろ?しかも、戦闘経験が一回もない処女品だ」

このおっさんとんでもねー。戦場のハイエナ行為も甚だしい。

本来こういうジャンク屋は宇宙に漂ってるMS等の兵器の残骸を集めて、使えるパーツを売り出したり、金属の塊に戻して売っぱらうのが仕事だが……

このおっさん。戦場そのもので、そこに残っていた残骸や残していったパーツやMSそのものを集めてやがった。

普通、その戦場空域で勝った方、まあ正式にはその宙域に居座った方が、戦利品を手に入れるためにそんな事をするんだが、連続した作戦行動中は流石に無理だから、安全確認が行われた後に、後方部隊や支援部隊が行うのが通例だ。

……その後に、拾いきれなかったものを回収するなら、まだグレーな気がするが、まさか、後方部隊や支援部隊が来る前にそんなことしていれば、完全に海賊行為だぞ!

 

「そんな事を聞ーてねーよ!!」

 

「何でも、ニュータイプ専用のモビルアーマーだぜ」

 

「だから、そう言う事を聞いてるんじゃね―――!!」

 

「あら?エド先生?なんでこんなところに?」

そのモビルアーマーのコクピットから、一人の女性が下りてくる。

 

「おいーーー、エド先生じゃねーーー!アンネローゼ!!何でお前もここに居るんだよ!!」

 

更にだ……

「隊長~、やっぱ、アナハイムは真っ黒クロスケよ~。新生ネオ・ジオンに多量にモビルスーツを流していたわ。あーあ。しかも4年前から」

倉庫内にあるプレハブ小屋の窓が開き、聞き憶えがある声が響く。

 

「ど…ドドドドリス!!お前何やってんだ!!若い男と結婚して地球の豪邸でイチャコラよろしくやってたんじゃないのか!!」

 

「あー、エドじゃん。新婚旅行よ。ほら、旦那も一緒」

ドリスの横に、柔和な感じの若者が窓から顔を出し、頭を下げる。

 

「ばっかじゃねーーか!これのどこが新婚旅行だ!」

 

「なによ。良いじゃない」

 

「これはどういう事だおっさん!!」

俺は思わずトラヴィスのおっさんの胸倉を掴む。

少なくとも、俺の見た目で稼働できるモビルスーツが5機とモビルアーマー1機がここにある。

コロニー一基を余裕で占拠できる戦力だ。

 

「いや~。調子に乗った金髪オールバック野郎の金玉、蹴っとばしてやろうと思ってな」

おっさんは何時ものお茶らけた顔をしていたが、目が真剣そのものだった。

このおっさん。やばい。切れてやがる。

一年戦争の時もこんな顔をしていやがった事があったが、グレイブっていう上司のお偉いさんの不正を暴いて抹殺しやがったからな。

 

「おい、おっさん!まさか、シャアにケンカ売るつもりじゃないだろうな?」

 

「エド先生。ローザさんを迎えに行くだけだ」

「そう、ローザ姉さんをね。まあ、そのついでに金髪イケメンには痛い目に遭ってもらうけどね」

ヴィンセントとアンネローゼはこんな事を軽口で言ってくる。

いや、ローザの居場所もわからねーだろ?お前ら。まあ、結局シャアの所に行くんだろうけどよ。

 

「本気か!?なんでお前らが?いや、いくら何でも無茶が過ぎるぞ!?冗談だろ!?」

 

「エド先生……俺はエド先生には返しきれない借りがある。俺が出来るのはこれぐらいだ」

「エド、お前のお陰で、息子や息子の嫁とも仲良くやって、孫まで見れそうなんだ。お前には…………まあ、ローザちゃん居ねーと、俺も寂しいしな!それに折角手に入れた、親子水入らずの日々を壊そうとしやがる金髪オールバック野郎にはきっついお仕置きが必要だ」

 

「ちょ、待てよ。お前ら戦場に出れば死ぬかもしれねーんだぞ」

 

「別に~、皆エド先生には感謝してるんだから、私達はこんな事でしか返せないし、これは私達が好きでやってる事よ。それにあのイケメンには腹が立つわ!」

 

「そんなもん。連邦軍に任せておけよ!!所詮相手は寡兵なんだろ!?」

 

「……エド、連邦政府はシャアの討伐に本腰ではないわ。いえ、和平派と討伐派で真っ二つ。でも逃げ腰の連邦政府上層部は和平派が優勢なのよ」

ドリスめ、結婚しても非合法な方法で情報を手に入れてやがるな。

 

「はぁ?隕石落とされただろ?連邦軍本部によーー!?なんじゃそりゃ!?デラーズの反乱にグリプス戦役を忘れたとはいわせねーぞ!?」

 

「連邦政府上層部も戦争に飽き飽きしてるって事だ。頭がそれじゃ、まずいんだがな。シャアの野郎がどうやら、休戦協定を結ぼうと歩み寄ったらしい」

 

「はぁ?うんなわけねーだろ!?ブラフだそんなもん!そんな事をするぐらいなら、挙兵なんてしねーっつーの!」

 

「そうだよな。それが当然の考えだよな。そんな当たり前のことをもちゃんと思考出来ないのが今の連邦軍上層部だ。相変わらず頭ん中はお花畑だってことだ」

トラヴィスのおっさんはやれやれと言った感じだ。

 

「じゃあ、シャアの奴は野放しって事かよ?」

 

「連邦も一枚岩じゃない。討伐派もそうだが、連邦軍上層部にも警戒心が高い連中も居る。そんな連中が危機感を持って、宇宙軍を再編しようとこの数年躍起になっていたが、全体としては微々たるものだった」

なるほど、そんな連中が、いろんな名目を使って、ユウ・カジマやウラキ達を宇宙に留めたのか。という事はハマーン亡き後に、有事が起きる可能性が在ると見ていた?いや、シャアが生きてる事を知ってる奴が居たという事か?

 

「まっ、大丈夫よ。新生ネオ・ジオンと言っても、ティターンズや嘗てのアクシズに比べればまだ戦力は大きくはないわ。私達はただ、そのシャアの艦隊にちょっと通り縋るだけ。敵さんはロンド・ベルの対処で精いっぱいのはずよ。何せロンド・ベルの戦隊長にあのブライト・ノアが就任したのよ。連邦で最も頼りになる戦隊長にして、同時に連邦上層部に最も恐れられてる人物よ。一筋縄では行かないわ。そして……そこにはアムロ・レイも」

ドリスの奴、ブライト・ノアとアムロ・レイって言ったか?

連邦最強の艦長に最強のパイロットじゃねーか!

ブライト・ノアとアムロ・レイのその異常な功績と能力に恐れをなした連邦上層部は、奴らを飼い殺しにしてたって聞いていたが……。今回のシャアの反乱に危機感を募らせてる奴も居るって事か。

 

「ロンド・ベルが頑張ってる所に、ちょろっと手を出すだけ。用事が済んだらトンズラって寸法だ」

トラヴィスのおっさんは簡単にそんな事を言うが、生半可な事じゃない。

だが、おっさんの得意中の得意なシチュエーションだ。相手の隙を突いて、混乱させ、どさくさに紛れて、自分たちの目的を達する。

おっさんだから出来る芸当だ。

 

それにしてもこいつらめちゃくちゃだ!

 




急展開ですね。今回も、
次回も、180度異なる展開になりそうです。

ではでは……
今回のモビルスーツ
ZⅡはゼータの後継機。
変形機構を簡略化することで、モビルスーツそのものの構造を弱体化させることなく変形に対応させることが出来た機体。コストもZに比べれば安い?のかもしれません。

高機動強襲型ギラ・ドーガ
新生ネオ・ジオンの主力モビルスーツをちょっと魔改造。
EX-スペリオールを想像していたのですが、なんかサイコ・ザクっぽいイメージに。

メインディッシュのノイエ・ジールⅡ
アクシズがグリプス戦役時に完成させたが、ニュータイプ不足で結局お蔵入りになった機体。対艦戦闘を想定した大型モビルアーマー。ファンネル付き。

おっさんがどこでこれを拾って来たかを聞くのは野暮ですw

その他にも………
そして、残りのパイロットは……

次回もまた展開が……うーん。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㊸更なる来訪者

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

では、また急展開なんで。



とんでもねーおっさんだ、トラヴィスのおっさんは。

ジャンク屋の倉庫に現役で動くモビルスーツをタンマリため込んでやがった。

ニュータイプ用モビルアーマーまで有りやがる。

しかも、ヴィンセントとアンネローゼ、ドリスまで居やがった。

 

こいつら、シャアの艦隊にちょっかい出しに行くつもりだ。

シャアが気に食わないとかいろいろ言っていたが、ローザのために……

いやいやいや、おかしいだろ?

どうしたらそんな思考になるんだ?

普通、あのカリスマにケンカ売るか?

 

 

「ちょっと待てよ、おっさん!いくら何でもめちゃくちゃだぞ!こんなん連邦にバレたらおっさん達が犯罪者扱いで討伐されるぞ!」

 

「まあ、その辺は大丈夫だって、連邦にはちょっとの間目を瞑って貰える手はずだ」

……このおっさんならあり得る。おっさんは連邦にも元ジオンにもパイプがある。

おっさんになら、貸し借り無しで協力する奴がわんさかいる。

 

「いや、そう言う事じゃなくてだな。ローザのためにか?いくら何でも」

 

「いや、ローザの嬢ちゃんのためってよりも、俺はエドの為なんだがな。お前……一人で行くつもりだっただろう。大方、軍医の徴用か、医師派遣団に入って」

 

「わ、悪いかよ。俺の妹の事だ。兄の俺が何とかするのが筋だ」

おっさんにはバレバレかよ。

 

「まあ、それもあるが……、いい加減俺も静かに暮らしたいんでね。もうそろそろ孫の顔も拝めそうだし。俺、もう54よ?……俺もシャアの奴には怒りを感じるが、お偉いさんの中にも同じ考えの奴がいるってこった。……レイスとしての役目もこれで終わりだ」

 

「おっさん……」

そう言う事かよおっさん。スレイブ・レイスとは一年戦争時、連邦内部の粛清を行うための裏の部隊だった。

そのレイスの役目ということは……今もレイスとして、何らかの活動をしていたのかもしれない。おっさん程の男がこんな片田舎に引きこもってること自体がおかしいとは思っていた。

確かに行方不明のヴィンセントを探すのが第一の目的だったであろう事は間違いない。

だが、それと同時に連邦上層部の誰かから密命を受け、モビルスーツを使った荒事を請け負っていたのかもしれない。いや、おっさんの事だ。対等な取引だろう。自分の目的のために、同調する取引の相手を見つけていたか、または目的のついでに土産ができるような物を材料にし、相手と取引していたのかもしれん。

だが、おっさんとの取引の相手は、直接連邦軍じゃないかもな。おっさんは連邦軍の中でも異端だったからな。連邦政府の政治屋かそれに連なる財団か…、何れにしろバックに大きな何かがおっさんについてる可能性が高い。

そうじゃなきゃ、このモビルスーツが整備出来る倉庫を改造した格納庫なんてものが、コロニー公社にバレないはずが無い。

 

「エド、まあ、そういうこった」

首をすくめるおっさん。

俺の考えを察して、そう言ったのだろう。

 

「食えねーな。おっさんはよ。今も昔も」

俺は苦笑するしかない。

 

「で、エドは大方俺にリゼちゃんを任せるってここに来たんだろ?……エド、お前は残るべきだ。お前は荒事に向いていない。ローザを探しに行ったところで、逆に彼女の足を引っ張るだけになる。彼女の事は俺に任せろ。いいな」

おっさんは、また俺に真剣な眼差しでこう力強く言う。

 

「……だが」

 

「エド……お前に何かあったら、リゼちゃんはどうする?ローザの嬢ちゃんだって、帰って来てお前がいなくなっていたら、それこそどうだ?……大人しくまってろよ。たまには年上の友人の忠告を聞くもんだぞ」

 

「……おっさん、わかった。でもいいのか?ヴィンセントとアンネローゼ巻き込んで」

確かにそうだ。俺がローザを探しまくる事で、逆にローザを窮地に立たせる可能性もある。

それに、俺がもし、ローザの敵に捕まれば……。ここは、おっさんの言う通りだ。

 

「いやー、こいつ等がどうしてもって、聞かなくてな」

 

「エド先生、クロエを頼む。それに俺は早々、クロエを未亡人にするつもりもないし、生まれてくる子供の顔を拝むまでは死にはしないさ」

ヴィンセントはそう言って俺の肩を軽く叩く。

クロエは妊娠5か月だ。発覚してから3カ月が経つ。おっさんとヴィンセントの喜びようはおかしかったがな。

 

「クロエの事は任せてくれ……すまんヴィンセント……ローザを頼む」

 

「エド先生の家って、住みやすいし良いのよね。だから皆で帰って来るからご飯でも作ってまっててよ」

アンネローゼも俺の前まで歩いてきて、こんなことを言ってくる。

 

「アンネローゼ、お前はとっとといい男見つけて、結婚して、出て行きやがれ」

 

「結婚しても、エド先生の家に住もうかな?それともエド先生と結婚する?」

今のアンネローゼには余裕がある。こんな時でも軽口を叩けるほどな。

 

「バカ言ってんじゃねー、……アンネローゼ、生きて帰って来いよ。ローザを頼む」

 

「任されました」

 

俺はその後、プレハブ事務所でパソコンをいじってるドリスに声をかける。

「ドリス……何で、お前まで」

 

「はぁ?シャアが地球に隕石落とそうとしてんのよ!せっかく旦那との愛の巣が出来たってのに!ふざけんじゃないわよ!」

 

「そ、そりゃそうだよな。お前だったらこうするだろうな」

俺はドリスの迫力に身じろぎしていた。

た、確かにそうだ。この女、自分の邪魔をする奴にはとことん容赦ないからな。怖い女だ。

 

その後、皆と少々話し、15番コロニーの自宅へと戻る。

トラヴィスのおっさん達はシャアの動向を探りつつ、近日中に出発するらしい。

握った情報は、ロンド・ベルにも流すそうだ。

シャアとロンド・ベルは何としても直接対決させなきゃならないという事だ。

おっさん曰く、シャアの新生ネオ・ジオン艦隊に真正面から対峙できるのはブライト・ノアだけだと。

優秀な艦長とか指揮官は、一年戦争やグリプス戦役で殆ど戦死しちまったからな、残ってる指揮官級の連中は政治屋軍人だけって感じだ。

そんで、シャアとロンド・ベルが激突してる間に、こそっと裏から、スイートウォーターかシャアの艦隊に近づき、ローザを助けに行くそうだ。

おっさんにはもう一つ、役目があるそうだ。それが、おっさんが受けた取引か依頼だろう。

一応、民間の大型輸送船で偽装し、モビルアーマーとモビルスーツを戦場近くまで運ぶんだと。

パイロットメンバーは、トラヴィスのおっさんとヴィンセント、アンネローゼの他に、元スレイブ・レイスが1人に、なんと元ジオン軍エース部隊のキマイラ隊の隊員夫婦が参加するとか……おっさん。どんな伝手を使えば、そんなとんでもない奴とつながりが出来るんだ?

オペレート兼諜報担当はもちろんドリス、輸送艦とかのサポートメンバーに元連邦軍や元ジオンの残党の従業員を使うそうだ。

……なんか、どこかのスパイ集団かよ。

 

 

家に帰るとクロエが来ていた。

クロエはヴィンセントから状況を聞いていたようだ。

クロエも行きたかったそうだが、ヴィンセントに止められたそうだ。

そりゃそうだ。身重でモビルスーツ乗りまわして戦場行く奴がどこにいる。

ヴィンセントが帰って来るまで、俺の家で預かる事になっていた。

 

 

宇宙世紀0093年3月10日

トラヴィスのおっさんのジャンク屋に行ってから3日経った深夜。

俺の家に来訪者が来る。

最初はローザが諦めて帰って来てくれたと思ったのだが……。

扉の前には、黒服の男と外套を羽織った少女が立っていた。

 

黒服の男……見たことがあると思えば、リゼをここに連れてきてくれた元ネオ・ジオンの人間だった。生きていたのか……

そして、外套の少女は驚きの名を仰々しく名乗った。

「ミネバ・ラオ・ザビである」

 

おい……ジオンの忘れ形見の名じゃねーか。

何で俺ん家に?

 

目の前の年の頃12、3歳ぐらいに見える少女が名乗った名前は、ドズル・ザビの娘、ミネバ・ザビだった。

元、ハマーンの主であり、ネオ・ジオンの本当のトップだ。

本物か?

いや、このタイミングはやはり……。

 

黒服の男は俺に手紙を渡し、ミネバと名乗る少女を残し、暗闇に消えて行った。

とりあえず手紙の封を開けると、便せんに短い文章が書かれていた。

《エドすまない。ミネバ・ラオ・ザビ様をそっちに送った。もはや私が信頼し、ミネバ様を預ける事が出来る人物はエドしかいなかった。巻き込みたくはなかった。だが……エドならば、すまない》

やはり間違いない。ローザの字だ。

あいつ、シャアを倒す前にやる事があるとか言っていたが、この事か?

それに二回もあやまんなって、謝る位なら送り届けるなよ。

しかし、文章からは少々焦りをかんじるな、無茶してくれるなよ。

ミネバは確かに預かった、だからお前も早く帰ってこい。

俺はまだローザが無事だったことにホッと息を吐く。

 

ローザが俺の所に送り届けた少女、ミネバを取り合えず家に上げ、リビングのソファーに座らせる。俺はホットココアを入れ、テーブルに置いてやる。

 

「ミネバ、しばらくお前を預かるエドワード・ヘイガーだ」

 

「其方か?ハマーンにあれ程に良き風を与えたのは、私はハマーンが最初は誰だかわからなかった。別人のように良き風と温かみを感じた」

 

「良き風とか温かみとかわかんねーが、俺は一応彼奴の兄だ」

なんか不思議な子だな?

お姫様だからか?

まあ、最初の頃のハマーンと一緒で一般常識とか無さそうだな。

 

「そうか。確かに、ハマーンは今は兄がいると言っていた」

 

「ふぅ、その仰々しいしゃべり方を如何にかしなくっちゃならねーな、それとその名前だ。ミネバのままはヤバいよな。……なあ、ミネバここではその名前は危険だ。ここに居る時は別の名を名乗った方が良い。なんかあるか?なかったら俺が決めるが……」

 

「………」

 

「はぁ、急には無理か……お姫様の逃避行ってか?オードリーってのはどうだ?まあ、いいや、しばらく考えてくれ」

俺は昔の映画を思い出し、その名を口にしていた。

 

「オードリーで良い。しばらく世話になる」

 

俺は寝てるリゼを起こし、ミネバ…いや、オードリーの世話を頼む。

「わー、なんか目がクリっとしててかわいい。よろしくね。オードリーちゃん」

「……良しなに」

 

今はほぼ客間と成り果てた2階の病室に泊まってるクロエには明日伝えるとするか。

追っ手とかは……まあ、ローザの奴がその辺は配慮してるだろう。

おっさんにも伝えておいた方が無難だな。

 




次はローザにスポット当てた回になりそうです。

エンディングが近づいてきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㊹どこに?

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は繋ぎ回です。



 

宇宙世紀0093年3月10日未明

ミネバを預かり受けたその深夜の内に、トラヴィスのおっさんに連絡を付ける。

ミネバの事もそうだが、やはりローザの事でだ。

俺にミネバ・ザビを託したローザが、2日前にはスイートウォーターに居た事が分かっている。

ローザはスイートウォーターで半軟禁状態だったミネバを奪還し、ここに送り届けたからだ。

 

「おっさん。二日前だが、ローザの足取りが分かった」

 

『どういうことだエド。二日前ってのは?ローザちゃんから直接連絡があったわけじゃなさそうだな』

 

「ああ、実はだ。ミネバ・ザビが俺の家に今いる」

 

『はぁ?ミネバ・ザビだと!?』

珍しくおっさんが素っ頓狂な声を上げていた。

 

「おっさん、声が大きいぞ。ローザの奴だ。ローザがシャアの元で軟禁状態のミネバを奪還し、ついさっき使いの者だろう男が俺の所に送り届けた」

 

『……そ、そうか。ローザちゃんが。それならばあり得るか』

トラヴィスのおっさんは落ち着きを取り戻す。

 

「ああ、ミネバの話だと、ミネバの護衛の連中をローザが説得したらしいぜ。確かジンネマンとか言ったか」

 

『スベロア・ジンネマンか?そうか、あのジンネマンをか……』

 

「知ってるのか?」

どうやらおっさんは、ジンネマンという人物を知ってるらしい。

 

『ジオン残党の一派だ。……シャアとは、思想はあわないだろうとは思うがな。……ふぅ、とりあえずだ。ローザちゃんのお陰で俺のレイスとしての仕事は半分完了だ』

 

「……どういうことだ?」

 

『俺の取引相手の依頼は、シャアの元にミネバ・ザビが存在するかの確認、居たのならば奪還だ。……ふぅ、という事はだ。後はシャアの艦隊か本拠地のスイートウォーターに適当に攻撃してかく乱して、ローザちゃんを探して、連れ帰って来るだけか。一気に難易度が下がったな』

トラヴィスのおっさんから、やれやれと言った感じで俺の問いに答える。

おっさんが受けた依頼の一つは、どうやらミネバ・ザビのシャアの元からの奪還だったようだ。

しかし、俺はそれに違和感を覚える。依頼主が何故、今更シャアの元からミネバを離そうとするのかだ。

シャアがキャスバル・ダイクンを名乗った段階で、ミネバの価値は相当下がったと言っていいだろう。

自分こそが、正当なるジオンの後継者であると宣言したに等しいからだ。

スペースノイドにとって、ザビ家の忘れ形見のミネバとジオン・ダイクンの長子であるシャアとどちらがより価値がある物に見えるか……。間違いなく後者のシャアだ。

シャアの宣言から、スペースノイドの間ではシャアを支持する人間が増え、スイートウォーターに続々と人が集まってる。その事からも明らかだ。

となると、もはやシャアにとって、ミネバは価値がなくなるだけでなく、邪魔者でしかない。

ジオンに二つの頭はいらないからな。

 

となると、おっさんに依頼した人間はなぜそんな依頼を?

ミネバがシャアの元にいるとまずいことがあるのか?

依頼内容はシャアとミネバを同じ場所にさえいなければ問題ないという感じだが……

 

いや、今はそんな事を考えても仕方がない。

ローザの事だ

 

「おっさん。ローザはスイートウォーターに居る。……シャアが襲われたとか倒れたという報道は今のところ聞かない。ローザはまだ事を起こしてないかもしれないな。……早まってくれるなよ」

 

『そうだな。俺やドリスの情報網でもシャアが襲われたって情報はなかった。それどころか奴はぴんぴんしてやがる。しかも奴は連邦と裏取引をして、アクシズを買い取りやがった』

 

「はぁ?なんでそうなる?連邦の上はアホばっかか?」

シャアにアクシズ渡したら何仕出かすか分かったもんじゃない。というか隕石落としに使われるだろ!何で危険人物に刃物を渡す様な真似をする?アホだろ連邦は。金に困ってるわけじゃねーだろ?

 

『連邦のお偉いさんは、その代わりに新生ネオ・ジオンの武装解除と停戦を要求し、それが通ったようだ。交渉が成功したと高官はさぞ鼻高々だろうな。ふぅ』

トラヴィスのおっさんは呆れたようにこういった。

 

「……とことんアホだな連邦は。和平交渉だけでなく、アクシズも渡すのかよ。武装解除に停戦って……素直に従うわけねーだろ!そんなもん律儀に守る奴だったら、5thルナなんてもんを地球に落とさねーよ!」

おっさんもそりゃ呆れるだろ。

連邦の上はご都合主義の妄想癖でもあるのか?

 

『それが今の連邦の半数以上の意思だ。まあ、それを危険視してる討伐派から追加依頼で、ロンド・ベルを補助するためにも、かく乱を行うことになったが。元々シャアの艦隊の尻を蹴っ飛ばすつもりだったから、その辺は問題はないんだがな。どちらかというと問題はローザちゃんの方だよな。スイートウォーターで大人しくしてくれれば、回収しやすいんだが……シャアの艦隊に乗り込んだりしたりして……』

 

「あ、ありえる」

おっさんは俺の懸念ズバリと言う。

 

『とりあえずだ。シャアと連邦の密約では、二日後の3月12日にルナツーに新生ネオ・ジオンの艦隊が向かい武装解除を行う。それと同時に、立会人の元アクシズを受けとる段どりらしいぞ』

 

「明後日じゃねーか」

 

『ローザちゃんはシャアを討つタイミングを見計らってる頃合いだろう。出撃のタイミングでシャアが倒れでもすれば、新生ネオ・ジオンの士気は一気に下がるだろうしな』

 

「……いや、既に捕まってる可能性も」

俺は嫌な想像をしてしまっていた。

あのローザの手紙からは焦りのような物を感じていた。

それに、ミネバを逃がしたとなれば、逃がした人物であるローザは追われる身である可能性が高い。護衛の人間を説得したからと言って、シャア自身を如何にかしたわけじゃないからな。下手をすると、大捕り物となってるかもしれねー。

 

『エド、きっと大丈夫だ。ローザちゃんはあのハマーン・カーンだぞ。そう簡単に如何にかなるもんじゃない。……俺達は今日の内に出発する。先行してスイートウォーターにドリスが夫婦で向かってる。難題だったミネバの件は既に解消されたから。後はエドの所の家出娘を拾って、シャアのケツ穴にビームぶち込んで帰って来るだけだ』

 

「……おっさん。ローザの事を頼む」

俺はおっさんに電話越しに頭を下げる。

 

『任せておけって』

おっさんは何時もの軽い感じで返事をくれた。

 





次こそはハマーン様回にしたい……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㊺番外編:ハマーン再び戦場に

感想ありがとうございます。
徐々に返事を返していければと……
誤字脱字報告ありがとうございます。
いつも助かります。

この番外を入れようよか入れまいか、悩みました。
賛否両論が有ろうかと思いますが、入れることにしました。
しかも長い、普段の3~4倍のボリューム。

で次回が最終回。



ローザは嘗ての思い人であり、新生ネオ・ジオンの総帥として現れたシャア・アズナブルを自らの敵とみなし、シャアの暴挙を止めるべくハマーンに戻り、義兄エドに見送られ新サイド6、15番コロニーを出発する。

エドがハマーンを地球で過ごす妹のセラーナに会わせるべく用意した方法、農業用貨物船経由で月に降り立つことが出来た。

降り立った先は月面都市グラナダ。

 

一年戦争時はキシリア・ザビが拠点としていた月面都市で、ザビ家とは関りが深い場所でもあった。

 

ハマーンは既に嘗ての権威も力も持っていなかった。

伝手も既に消滅してるだろう事も……

ネオ・ジオンの生き残っているだろう元部下も、現在のシャアと自分を天秤にかけた場合、シャアに付くのは火を見るよりも明らかだ。

 

だが、シャアを止める事は、何としてもやり遂げなくてはならなかった。

ネオ・ジオンの事実上のトップとして、数々の大罪を犯してきた自分が唯一、罪滅ぼしが出来る事だと。

シャアを止めなければ、地球へ隕石落としを実行するだろう。

地球で幸せに暮らすセラーナを守るためにも、かけがえのない存在となったエドやリゼ、そして平和に過ごす人々を守るためにも……

 

今のハマーンが実行可能なシャアを止める方法の選択肢は少なかった。

もはや、自分の話等聞く耳を持たないだろう事は分かっている。

話し合いなどは無意味な相手だと。

そんな事で止まるような男であれば、こんな大それた事を仕出かすハズが無い。

シャアを止めるという事は、シャアを亡き者にする。

殺害するしかないのだ。

だが、今のシャアは新生ネオ・ジオンの総帥であり、率いる軍隊のトップである。

真面に正面切って倒すには、それ相応の軍事力が必要となる。

そうかと言って、MS戦や艦隊戦を仕掛けるための軍事力どころか、モビルスーツ一つ持っていない。今の何もないハマーンには、出来ようがなかった。

 

ネオ・ジオン時代に使用していないモビルスーツや試作機などがどこかに残っているだろうが、シャアに接収されているだろう事は明らかだ。

なまじ、MS一機手に入れたところで、一人で新生ネオ・ジオンの勢力に太刀打ち出来るものでもない。

シャアにたどり着けることすら、かなわない可能性もある。

ハマーンに残された選択肢は、その身を使い隙を突いての暗殺、または自爆のみだった。

4年前に死んだハズの身だ。もはやこの身がどうなろうと、躊躇などはなかった。

しかし、エドとの別れ際に言われた「死ぬな」「生きて帰ってこい」という言葉がどうしても耳から離れない。

ハマーンは首を振り、その言葉を振り切ろうとする。

 

シャアを討つ。

 

ハマーンはその前に、やらなくてはならない事があった。

ミネバ・ラオ・ザビの奪還だった。

嘗てハマーンはミネバを丁重には扱っていたが、帝王学を始め数々の教育を施し、自由を与えていなかった。

その事が、ミネバを大人、特にハマーンの顔色を伺い、自分で物事を決められない少女として育ってしまったのだった。

その事を、エドの家族として過ごしたこの4年間、後悔し、心残りだったのだ。

シャアが自分に対して、行った事と同じような事をミネバに強いていたのではないかと。

それに、今のシャアの元に居ては、いい様に利用されるだけだと………そして、用が済めば自分のように捨てられる。

 

ミネバに対して行った行為の懺悔と、今のミネバを昔の自分と重ね、ミネバを解放しなければという思いが強かったのだ。

 

また、ミネバ奪還はシャアに対してダメージを与えるだけでなく。

シャアとの接触の機会を得られる可能性が広がるとも考えていた。

 

だが、肝心のミネバの居場所が分からない。

ハマーンはグリプス戦役終結後にミネバを勉学目的で地球に送っている。

その頃、アクシズに居たミネバは影武者だった。

ハマーンが倒れた後のミネバの消息は掴めていないが、恐らくシャアによって宇宙に引き戻されているだろう事は容易に想像がつく。

ハマーンはシャアの思考を読み解こうとする。

恐らく現在新生ネオ・ジオンの拠点にしているサイド1のスイートウォーターだろうと。

あの男がザビ家派を取り込むための重要人物であるミネバを外に置くとは考えにくい。

万が一外に置くとすれば、サイド3の元ジオンの隠れアジトかと。

 

ハマーンはスイートウォーターに行く事を決意する。

エドに別れ際に渡されたデータには、エドの知り合いで協力してくれそうな人物の名と住所、さらにコロニー間の移動に使える農作物用の貨物船がピックアップされていた。

ハマーンはなるべくエドに迷惑をかけたくない思いが強く、エドの知り合いには協力を仰がなかった。

単独で、何とか農作物用貨物船に同乗し、サイド1ロンデニオンに到着していた。

ロンド・ベルの本拠地ではあるが基地以外は連邦の影響力は弱い。

サイド1は宇宙移民開始時の最初のコロニー群であり、宇宙移民を蔑ろにする政策を打ち出す連邦政府への信頼は薄い。

 

シャアは大々的にサイド1スイートウォーターにて宇宙市民に向け、演説を行い、打倒地球連邦軍を宣言したのだ。

ハマーンはそれを街頭に乱立する空間投影モニターで見ていた。

『……しかしその結果、地球連邦政府は増長し、連邦軍の内部は腐敗し、ティターンズのような反連邦政府運動を生み、ザビ家の残党を騙るハマーンの跳梁ともなった』

その中ではハマーンを否定する内容も含まれていた。

 

以前のハマーンであれば激高していただろう。

だが、今のハマーンは苦笑するにとどまっていた。

演説するシャアが道化に見えていた。

 

この時、シャアは堂々とジオン・ダイクンの息子を名乗る。

ジオン軍の赤い彗星のシャアではなく、宇宙移民独立運動の祖、ジオン・ダイクンの息子、キャスバル・ダイクンとして、壇上に上がったのだ。

 

ハマーンは焦る。

程なくして、シャアは動くと……、キャスバル・ダイクンとして壇上に上がった今、ザビ家の忘れ形見であるミネバの価値は相当下がったと言っていいだろう。

ミネバの身に危機が迫る可能性があると……

 

ハマーンはサイド1のロンデニオンからスイートウォーターコロニーへ、すんなり入る事が出来た。

食料供給を外部から多量に調達せざるを得ない、多くの難民を抱えるコロニーであったため、農業用貨物船内の農作物に対しては随時定期便が何便もある。農業用貨物船についてはチェックもそれほど厳しくはなかった。

ハマーンはノーマルスーツを着込んで、農作物内に紛れ込み潜入に成功したのだった。

 

スイートウォーターで2日間程、情報収集をし、遂にミネバの居場所だろう場所を特定する。

郊外から離れた小さなホテル。そこにはスベロア・ジンネマンの顔が在ったからだ。

ジンネマンはジオン残党の一派の長で、ハマーンが摂政時代のネオ・ジオンには合流こそしてはいなかったが接触はあった。

扱いにくそうな男であったが、筋を通す律義さを持っていた事を覚えていた。

ジンネマンは反連邦の意志が強いが、ザビ家のどの派閥にも属しておらず、ダイクン派でもない。ジオン残党には珍しく、どの派閥にも所属していない稀有な存在だった。

何処の派閥にもしがらみが無いため、ミネバの護衛を任せるならば、これ程適任な人物はいない。

シャアならば、間違いなくこの男をミネバの護衛に付けるはずだと。

ホテルからは客の出入りが無いところを見ると、占拠しているのだろう。

小さなホテルにしては、私服姿だが護衛と思われる人間が入口などに待機している。

 

さらに、ハマーンのニュータイプとしての勘がここにミネバが必ずいると訴えかけていた。

……ハマーンはホテルの入口にジンネマンが顔を出した頃を見測り、堂々とホテルへと歩み寄る。

 

「ミネバ・ラオ・ザビ様にお目通り願いたい」

 

「……シャア総帥の使いの方か?」

 

「私はハマーン・カーン。かつてネオ・ジオンの摂政を務め、ミネバ様の後見人を務めたものだ」

ハマーンはジンネマンに堂々とそう言い放ったのだ。

 

「バカな。ハマーン・カーンは死んだハズだ」

 

「よもや、この顔を忘れたか?スベロア・ジンネマン」

 

「!?……本物なのか?なぜここに来た」

 

「ミネバ様をお迎えに来た」

 

「シャア総帥は知っての事か?」

どうやら、ジンネマンはハマーンをシャアの使いでここに来たと勘違いしたようだ。

 

「シャアにミネバ様を任せてはおけぬ。ミネバ様を奴の傀儡には決してさせん。ミネバ様は……いや、彼女には自由に生きてほしい」

 

「な!?」

ジンネマンは困惑の顔を隠せなかった。

ハマーンはそんなジンネマンを説得にかかり、ミネバと謁見する許可を得る。

 

ミネバは最初にハマーンを見たときには誰だかわからなかったようだった。

ハマーンは確かに髪は伸ばし、色を染め外観は多少の変化があったが、そうではない。

ミネバが嘗てのハマーンに感じた黒く濁ったような感覚を全く感じなかったのだ。

ミネバはハマーンが自らの素直な心情を語るにつれ、目の前の女性がハマーンではあるが、嘗てのハマーンではない事を知る。

 

その様子を見ていたジンネマンは葛藤する。

ジンネマン自身、シャアと接するにつれ、信頼置ける人物に見えなくなっていたのだ。

5thルナの隕石落としが決定的だった。

無差別に一般人を巻き込む所業に……

ハマーンはジンネマンにとある取引を持ち掛ける。

ミネバを逃亡させる代わりに自分をシャアに差し出せと。ミネバを逃亡させた犯人として……。

ハマーンはその時含みを持たせていた。

そして、ミネバをエドの元に送った。

 

 

 

宇宙世紀0093年3月12日

この日、連邦政府との取引で新生ネオ・ジオンはルナツーで艦隊の武装解除を約束していた。

その見返りとして、アクシズを買い取るとして……

 

シャアはスイートウォーターの新生ネオ・ジオンの将兵たちに檄を飛ばす演説を行う。

『アクシズを地球に落とす。これが作戦の真の目的である。

これによって、地球圏の戦争の源である、地球に居続ける人々を粛清する。

諸君!自らの道を拓く為、難民のための政治を手に入れる為に、あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい。

そして私は、父ジオンのもとに召されるであろう』

そう、シャアは武装解除等するつもりはサラサラなかったのだ。

ハマーンやトラヴィスが予想した通り、隕石落としを続行するつもりなのだ。

 

シャアは演説後直ぐに、発進準備を進める旗艦レウルーラに乗り込み、此処でも将兵をねぎらっていた。

行先はアクシズ。

ルナツーには戦艦数機に数合わせの偽装バルーンを進ませ、目くらましをさせる。

 

シャアがブリッジで、とある報告を受ける。

ミネバを誘拐した犯人が見つかり、捕えたと……。

シャアはミネバが誘拐されたことを数日前に報告を受け、ミネバの身辺警備を任せていたジンネマンに必ず奪還し汚名をそそげと命令を下していた。

 

シャアはミネバを誘拐した人物が、死んだと思われていたハマーンだと報告を受け驚きを隠せないでいた。

 

シャアは尋問室に捕らえられているハマーンの元へと行く。

その後ろにはナナイ・ミゲルが続いていた。

シャアは護衛の付き人二人と尋問室に自らが入り、手錠を後ろに拘束され、椅子に座るハマーンを見下げる。

「ひさしいなハマーン。まさか生きていたとはな」

 

「ふん。貴様こそ生きていたとはな。しぶとい奴め」

 

「あの程度の事で倒れるわけにはいかんのでな。私は父の名を継ぎ、この手で人類を導こうとしている身だ」

 

「戯言を」

 

「ハマーン。私の元にこい」

 

「ふっ、いつかの逆か……答えは決まっている。ふざけるな!どうして貴様の元に行かねばならん!」

 

「お前はもう少し賢い女だと思っていたが……、まあいい。ミネバをどこにやった」

 

「貴様がダイクンの名を継いだ時点で、ミネバ様の価値は無かろう。何故こだわる。それとも貴様の復讐とやらのためにミネバ様を害するつもりか?」

 

「くだらんな。私の復讐は既に終わっている。今の私は人類の未来のために立ち上がったのだ」

 

「何を仰々しい事を、人類の未来だと?貴様が引き起こすのは人類の破滅の道ではないか」

 

「連邦政府はこの13年間何も変わっていない。奴らこそ地球の養分を吸い尽くす地を這う虫けら同然だと……、そんな輩をシャア・アズナブルが粛清してやろうというのだ」

 

「貴様とて、その虫と変わらん」

 

「権力に溺れたお前と同じ轍は踏まんよ。……もう一度聞く、ミネバはどこだ?」

 

「地球連邦を滅ぼすと嘯く貴様が何故ミネバ様を欲する?」

 

「それこそお前には関係ない。ハマーン、ミネバはどこだ?お前の目的はなんだ?」

 

「知らんな。知っていても話すわけが無かろう」

 

「ラプラスの箱」

シャアは脈絡もなくハマーンにその一言を言う。

 

「ん………」

 

「やはり知らん様だな。少々痛い目に遭ってもらおう。……ナナイ、この女からミネバ様の居場所を吐かせろ…」

シャアはハマーンに興味が無くなったかのような態度を取り、尋問室の外にいるナナイに振り返り、そう伝える。

 

シャアが振り返った瞬間、ハマーンは手錠を外し、服に仕込んだ超小型の単発銃をシャアに向け発砲する。

そう、ハマーンはワザと捕まっていた。

ジンネマンを使い、身体検査を終わらせた風を装い、ここまでの仕込みを行っていた。

そして、囚われの身の自分の前に直接シャアが現れる事を予想し、このチャンスを待っていたのだ。

 

だが……

シャアはよろけ、壁に手を付いて、踏ん張っていた。

右頬に赤い筋が見えるが、銃弾はシャアには当たらなかったのだ。

護衛の動きが早かった。すぐさまシャアの盾になり、右手の平に弾丸を受け、弾は手を貫通したが、シャアの頭を狙った弾は逸れ、頬をかすめるにとどまった。

ナナイの悲鳴がこだまするが、シャアは手を挙げ無事をアピールし、落ち着かせる。

 

ハマーンはすぐ様護衛の2人に組み敷かれ取り押さえられる。

シャア暗殺の千載一遇のチャンスを逃してしまったのだ。

 

「ハマーン。貴様……」

 

「シャア!貴様は、何故人々の営みを踏み躙る!女一人も救えないお前に、人類を救えると思っているのか!!」

ハマーンは二人の護衛の男に組み敷かれながらシャアに向かって叫ぶ。

 

「ほう、貴様がそれを言うのか……アクシズと運命を共にさせてやりたいが………ナナイ、後のことは任せた」

シャアはハマーンを一瞥して、尋問室を出る。

 

「シャア!!」

 

この後、ハマーンはナナイから短時間だが執拗に尋問を受ける。

それは拷問と言っていいほどに……。

だが、ハマーンは一切口を割らなかった。

 

そして、スイートウォーターから、レウルーラはアクシズに向け出撃を開始する。

すでにルナツーへの偽装艦隊は出撃しており、間もなくルナツーへ接触する。

 

ルナツーは偽装艦隊を見抜けず、さらに奇襲先制攻撃を受け、一時的に新生ネオ・ジオンに占拠される。

少数の艦隊に弱点を突かれたのだ。

油断もいい所だ。

 

これを口火にようやく連邦はシャアが約束を反故し、本気で地球連邦軍に戦争を仕掛けたことを認識したのだ。

連邦上層部は慌てて対応するが、時は既に遅し、アクシズは引き渡しのために既に軍を撤退した後だった。

アクシズは容易に占領され、ルナツーに連邦がため込んでいた、核兵器と燃料をアクシズに運び、アクシズを地球に落とす準備を進める。

 

ロンド・ベルは一歩遅れ、アクシズ宙域に到着。

此処でロンド・ベルはシャアの新生ネオ・ジオンの艦隊と正面衝突することになる。

 

シャアの艦隊はアクシズを稼働させ、アクシズから離れつつ、ロンド・ベルをけん制。

艦隊戦、モビルスーツ戦が入り乱れる乱戦模様が展開する。

 

 

そこに……。

「うわっ、アレに突っ込まないといけないのかよ」

「父さん。今更、怖気づいたのなら下がってくれ」

「ローザちゃんがアレに囚われてるんだよな。ドリスがそう言ってるんなら間違いないし」

「艦隊は撤退気味ね。その後ろから襲えばこちらが有利よ」

「アンネローゼの言う通りなんだけどよー。俺54よ。なんでコクピット乗ってんの?」

「隊長~、頑張って。主力はロンド・ベルが相手をしてるし、月からと周回軌道の連邦軍艦隊が出撃してるの、流石に敵さんも気が付いてるし、ローザさんが乗ってる艦隊の撤退ルートはこれしか無いハズよ。よっぽどの無能じゃない限りね。ちゃちゃっと済ませて、エドの家でパーティーよ」

「ドリス。簡単に言うなよ」

スイートウォーターで潜伏中のドリスと合流して、トラヴィスの偽装輸送船は今、アクシズに向かっていた。

ドリスのハッキングで街の監視カメラを確認し、ローザが新生ネオ・ジオンの艦船に乗らされるところまで確認していたのだ。

 

「まあ、行きますか。スレイブ・レイス!出撃!」

 

偽装輸送船から次々と宙域に灰色に塗装されたモビルスーツと大型コンテナからはモビルアーマーが宙域に放りだされ、そして、一気にレウルーラに向かい、幽鬼共が再び戦場に帰って行った。

 

 

シャアは戦場でアムロを探していた。

シャアの心の奥底ではこの戦争の一番の目的はアムロ・レイとの決着だったのだ。

 

漸く、アムロを見つけたのだが……

「何?レウルーラが襲われているだと?あの宙域に敵艦隊は無かったはずだ?どういうことだ?」

ミノフスキー粒子下では通信もままならないが、シャアのサザビーがレウルーラが何者かに襲われてる様を観測していた。

シャアは焦り、レウルーラに戻るかを一瞬迷う。

だが、クェスのα・アジールが艦隊に戻るのを確認し、再びアムロに意識を集中させたのだった。

 

 

 

 

一方トラヴィス率いる、スレイブ・レイスは……

「モビルスーツが殆ど残ってない艦隊はもろい。全部出しやがって、シャアも必死だったという事か?」

新生ネオ・ジオン艦隊を分断し、艦船のエンジンを吹き飛ばし行動不能にし、レウルーラと数機の艦船のブリッジにライフルを向け、脅しをかけていた。

 

現在レウルーラのブリッジはノイエジールⅡの有線式クローに捕まれてる状態だ。

『お宝を奪いに来た。大人しくしていろ。そうすれば命は助かる』

アンネローゼはレウルーラのブリッジにそう宣言する。

 

レウルーラのブリッジのナナイはこの状況に焦り、艦長に何とかするように強く要請するが……レウルーラの艦長は冷静に両手を上げ降伏のポーズを取っていた。

「……ここは大人しくしておいた方が良い。あれはレイスだ。連邦軍内部の粛清部隊にして数々の味方を討ち、さらに自らの主人さえ粛清した。だが、一年戦争時に敵である私の部隊も助けられた事がある。奴にとって連邦もジオンもない。奴は戦場を自由に操り、粛清という名の元、諸悪の根源を絶つ、まさに幽鬼だった」

艦長はナナイの罵りを受けながらもさらに続けてこう言う。

「現実を見たまえ、主力を全て出したとはいえ、この艦隊がこうも簡単に分断され、抑えられたのだ。たった数機でな。奴らは全員エースだ。キマイラ隊の信号と、マルコシアス隊の信号を確認した。幽鬼が幻獣と魔獣を引きつれ、戦場に戻ってきた……戦場を知らぬ貴公には無理からぬことかもしれんが、我々では抵抗するだけ無駄だろう」

艦長は手を上げたまま深く席に座り、艦内放送で抵抗するなと再度通達する。

 

 

 

ノイエジールⅡの広いコクピットの複座にはドリスが乗っていた。

「ローザさんみーつけた」

ドリスはレウルーラにハッキングをかけ、ローザの居場所を特定し、さらにドリスはレウルーラのコントロールを掌握していた。

ローザが囚われているブロックを完全封鎖した上で、アンネローゼがノイエジールⅡのもう片方の有線式クローで、ローザが囚われているブロックの気密が漏れない程度にレウルーラの装甲に穴をあける。

ドリスはノイエジールⅡから出て、その穴から侵入しローザを無事救出、ノイエジールⅡに戻って行く。

一連の流れは5分もかからなかった。

流石としか言いようがない。

 

 

「何故だ。何故こんな事を……」

ローザはもはや死を覚悟していたのだが、突然大きな揺れに襲われたと感じると、ドリスが目の前に現れ、あっという間に、救出されたのだ。

 

「勝手な行動したローザ姉さんを説教しようと思ってね」

「あららら、随分痛めつけられちゃって。まあ、無事でよかったわ。ちなみに私はエドの為よ。貴方に何かあったら、きっとエド泣いちゃうから」

複座にノーマルスーツを着せられたローザが座らされ、ドリスはその後ろの補助シートに座る。

ドリスがローザを助けた時には、ローザは顔を腫らせ、口や腕等からは血がにじみ出ていたのだ。

どうやら、ナナイから受けた拷問のような尋問を受けた際の怪我の様だ。体中熱を帯び、辛そうだ。

 

「……すまん」

「ここは、ありがとうよ」

頭を下げるローザにドリスはそう微笑み掛ける。

 

「呑気にやってる場合じゃないわね。なんか物凄いでっかいモビルアーマーが来たわ……離脱ってわけにはいかないか……隊長たちには先に撤退してもらって、此処で食い止めなくっちゃ」

アンネローゼはそう言いつつも、目をぎらつかせていた。

 

「アンネローゼ、これはノイエジールⅡだな。私にファンネルを任させろ」

ローザはこんな事をアンネローゼに提案する。

元々ノイエジールⅡは、グリプス戦役時にアクシズで完成させたモビルアーマーだ。

ハマーンだったローザが知っていて当然だ。

 

「でも姉さん、怪我してるでしょ?」

 

「操縦はアンネローゼに任せる。私はファンネルが得意なもんでな。誰にも負けん」

 

「ぷっ、……いいわ。任せる」

アンネローゼはいつかの合コンの事を思い出し、笑いを堪えていた。

 

「何が可笑しい」

 

「何でも無いわ。じゃあ行くわよローザ姉さん」

「まあいい。私の前に立ちはだかった事を後悔するがいい」

「私は見てるだけね。頑張って~」

ノイエジールⅡのコクピットの3人の女傑はそれぞれ言葉を発し、クェスが駆るα・アジールと戦闘状態に突入する。

 

 

 

「なんで、なんで?大佐の帰る所を守ろうとしてるのに、なんで邪魔をするの?」

「甘いな。その程度で私に挑むとは。愚か者め」

クェスのα・アジールの放つファンネルは、悉くノイエジールⅡのファンネルに撃墜されていき、クェスはその不快感をぶつけるように言葉に発し、ローザは余裕の笑みを零していた。

 

「……女か、いや子供だな」

ローザはα・アジールに乗るクェスの意思を感じ、相手が少女であることを悟る。

 

「え?誰?」

そんなローザにクェスも反応する。

 

「シャアに踊らされたか、魅了されたか……何れにしろ放っておくわけにはいかんか、アンネローゼ!」

「はいよっと」

アンネローゼが駆るノイエジールⅡの大型ビームサーベルがα・アジールの右肩から切り裂く。

α・アジールはノイエジールの後継機であり、出力値はノイエジールⅡを上回っていたが、パイロットの技量に明確な差があった。

 

「踊らされた?魅了された?こいつ何を言ってるの?あっ!……うううう……」

ローザの声を感じたクェスだったが、遂にはノイエジールⅡの有線式クローに頭部コクピットごと掴み引っこ抜かれα・アジールは行動不能に陥った。

 

 

 

「連邦軍の援軍がやっときたわね。早くとんずらしないとね。隊長からも撤退信号よ」

ドリスは携帯型の端末を見ながら、α・アジールとの戦闘を終了させた二人に伝える。

 

「まて、まだシャアを倒していない!」

 

「ローザ姉さん……撤退よ。私達の役目は終わり」

アンネローゼはそう言って、ノイエジールⅡの機体をコントロールし、撤退準備を始める。

 

「いや、シャアを……あいつを倒さなければ……アクシズが」

 

「ローザさん。悪いけどアクシズは半分に割れて、片方は地球に落ちるわ……もう止めようがない。それに連邦軍のこれだけの援軍よ。いくらシャアでもこれは逃げられないわ。シャアも今度こそ終わりね。ロンド・ベルの粘りがシャアの撤退を阻止したのよ。それに旗艦はこの通り、行動不能にしたし、撤退可能な敵さんの艦隊は3分の1もないわ。まあ、戦いに勝って、勝負に負けたってとこかしら……」

ドリスは淡々と状況を説明し、ローザを説得しようとする。

 

「くっ、地球にはセラーナが…」

 

「大丈夫、日本に落ちるコースじゃないわ。でも、地球の環境は激変するでしょうね。こっちも旦那を宇宙に上げといてよかったわ」

ドリスは眉を顰めながらも、ローザを諭す。

 

「………」

ローザは項垂れ、地球に落ち行くアクシズを目で追っていた。

 

「ローザ姉さん帰ろ、エド先生が待ってる」

アンネローゼはそう言って、ノイエジールⅡを戦闘宙域から離脱させた。

 

 

 

ノイエジールⅡが偽装輸送船に帰還したころ、地球に落ちかけたアクシズが急に地球から押し戻されるように軌道を変えたのだ。

そこには虹色の輝きが纏っていた。

 

「アクシズが……あの光は何だ……温かい……」

ローザが見た光景は、後世でアクシズ・ショックと呼ばれたサイコフレームによる共振で起こったサイコ・フィールドの光だった。

サイコ・フィールドがアクシズを地球の引力から引きはがしたのだった。

しばらく、この余波は宇宙に広がり続けた。

 




話の都合上、逆シャアの時系列や演説のタイミングやらを改変させてもらってます。

で、次回が最終回。
エドの元に戻って来るローザ。

しかし……エドの家は大変なことに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

㊻ただいまだ(最終話)

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
皆様今迄お付き合いして頂きましてありがとうございました。
漸く、この何となく始めたお話に決着をつけることが出来ました。

今回最終回ですが、一応、番外後日談を1話分用意してます。
(ちょっと先にはなると思いますが)

では、最終回です。



宇宙世紀0093年3月12日夜更け

「お兄ちゃん!なんか空が光ってる」

「おおっ?まじでなんだ?オーロラって奴か?いやいや、まじでどうなってる?」

俺はリゼの大声で窓の外を見ると、コロニーの強化ガラスの外で虹色に輝く何かが見えていた。

まるで、地球を覆うような感じに輝いていた。

 

「温かい、人々の温もり。まだ人々は温かい温もりをこれ程の輝きに」

隣で窓の外を見るミネバはこんな事を言っていた。

さっぱり意味がわからん。

ミネバを預かって二日たったが、やっぱなんか不思議な感じな子だ。

浮世離れしすぎてるって言うかだな。

うーん。預かったのはいいが、どうすべきか。

一応姫様だしな。

 

それよりもだ。

確か、今日がシャアと決着付ける日だとか言ってたよな、トラヴィスのおっさん。

まだ連絡が無い。まあ、戦闘宙域ではミノフスキー粒子とかで無理だろうが。

まさか、この光が関係してるんじゃないだろうな?

 

やはり、落ち着かん。

ローザの奴、無茶せずに、おっさんらに素直に助けられてればいいんだが。

 

 

ミネバは今、リゼの部屋で寝泊まりしてる。

ベッドは隣の空き部屋の奴を持ってきて置いてやった。

最初は、2階のアンネローゼが使ってる部屋の隣にしようかとしたんだが、リゼが同じ部屋でいいって言うもんだから、そうした。

まあ、急に知らんところに連れられて、しかも生活とか激変してるからな、しばらくは年近いリゼに預けた方が無難だろうとそうしてる。

ミネバも嫌がって無さそうだし、大丈夫だろう。

 

 

 

今日も眠れそうにねーな。

3月13日に日付が代わり、5時を回った頃。

診療所扉を叩く音がする。

おい、インターフォンあるだろ?こんなマネすんのは、トラヴィスのおっさんぐらいだ。

俺は慌てて、一階の診療所の扉を開ける。

 

「よお、エド帰ったぞ」

「エド先生へとへと、何か食べる物なーい?」

「エド先生、連れて帰ってきましたよ」

「………」

目の前にはトラヴィスのおっさんとアンネローゼ、ヴィンセントに……そして、ヴィンセントに背負われてるローザが居た。

ヴィンセントはローザを降ろし、ローザはよろよろと俺の元に……

 

「お前…よく」

 

「……ただいまだ」

俺は、しな垂れかかるローザを抱き留める。

 

 

 

ローザは重症ではなかったが、小さな裂傷や腫れ打撲などが全身のあちらこちらにあった。少々熱も出てる。

どう見てもこの怪我は拷問の跡だな、しかも生々しい。……まあ、まだ軽度の部類だ。一年戦争時は凄惨な拷問後の人間を何人も見て来た。傷の具合から女がやったのだろう。

くそっ、何処のどいつがやりやがった。

診療所で処置を施し、痛み止めと、体力回復を促すため無理にでも寝かしつけようと睡眠薬を処方し、3階の自室に寝かしつける。

「……」

ローザは何故か黙ったまま俺の手を放そうとしない。

ローザが寝静まった頃を見計らい、そっと手を外し部屋を出る。

 

俺はトラヴィスのおっさんとヴィンセント、アンネローゼに深く頭を下げる。

「感謝しかない。ありがとう」

3人は照れくさそうにしていた。

俺がローザの処置をしてる間、トラヴィスのおっさんは俺が用意した食い物を食べ、

アンネローゼはシャワーを浴びて来たようだ。ヴィンセントはクロエの様子を見に。

 

おっさんらの話によると、ローザはシャアの艦隊旗艦に拘束されていたとの事だ。

多分そこで、拷問まがいの尋問を受けていたのだろう。

そんで、おっさんらはシャアがロンド・ベルと交戦中に、けん制撤退行動を起こしていた艦隊旗艦を後方から襲い、ローザを奪還したのだとか。

簡単に言っていたが、艦隊から人ひとり救出するなんて芸当は普通出来るもんじゃない。

ローザが何故そんな所にいたかというと、おっさんらがローザから聞いた話だと、ローザは協力者を得て、ミネバを逃がした犯人として、わざと捕まり、シャアとの接触の機会を待って、暗殺を実行しようとしたらしい。

結果は失敗したと……

 

 

「で……この子はなんだ?」

ソファーに寝かせている緑色の髪の少女を指さし、3人に尋ねる。

怪我とかはなさそうだ。

年の頃はミネバとあまり変わらん感じだ。

 

「戦場で拾っちゃった」

アンネローゼが舌を出して答える。

 

「おい、ネコを拾って来たのとわけが違うんだぞ!」

 

「敵だったのよ。この子モビルアーマーに乗って攻撃してきたから、仕方なくコクピットごと引っこ抜いて、……ほっとくわけにも行かないでしょ?」

なに?この子モビルアーマー乗ってたのかよ?どう見ても小学生卒業したてか、中学生ぐらいだぞ。

 

「で……なんで、ここに居るんだ?」

 

「いや~、流石に連邦に引き渡すのもな。だってよ。どうやらモビルアーマー乗って暴れまくってたようだしよ。一応ネオ・ジオンの軍服着てるし~……ぶっちゃけ!エド!こういうの得意だろ!!」

 

「ぶっちゃけ過ぎだおっさん!!俺んちは託児所じゃねーんだぞ!!」

 

「いいじゃん。ローザちゃんをちゃんと連れ帰って来ただろ」

 

「う……それを言われると痛すぎるぞ。あーーわったよ!面倒みてやる。一人も二人も変わらん!!そのかわり、裏工作は任せたぞおっさん!」

 

「流石エド~話が分かる~」

おっさんはふざけた調子でそんな事を言いやがる。

 

「この子の身元はわかるのか?」

 

「今んところ何にもわからん。ネオ・ジオンの関係者だろうがよ。ドリスが明日調べるって言ってたな。今日は疲れたからとかで旦那とホテルに帰った。明日にはここに顔を出すだろうさ」

今回もドリスにもかなり迷惑をかけたな……、今後も迷惑かけると思う……。はぁ、俺はドリスに返しきれない借りがまた出来ちまった。

 

「そうか…ドリスに礼を言わないとな。……そんでシャアはどうなった?」

 

「まだわからん……ネオ・ジオンの艦隊は3分の1は撤退していったが、シャア本人はどうやら最後までモビルスーツを駆り、アクシズに居たようだ。アクシズの落下に巻き込まれたか……運よく助かっても、連邦軍に捕まってるだろう」

 

「アクシズが落下?はぁ?そんなんニュースにもなってないぞ?」

アクシズ落下って事は、地球に落下したって事だよな。そんなん大惨事になってるだろ?ニュースにならないわけが無い。

 

「それもわからん。アクシズは確かに地球に落下していた。だが途中で謎の光と共に、急に引力から押し戻されたんだ。ドリスもわけがわからんと言っていた」

なんだそりゃ?物理法則を余裕で吹っ飛ばす現象は?

まさか、あのオーロラのような光か?そんな事がありえるのか?

おっさんも困惑顔だ。なにかの奇跡とでもいうのか?

 

「何にしろシャアは失敗し、第2、第3の隕石落としは無くなったということか」

とりあえずアクシズの落下は阻止できたという事か、そんでシャアもまだ生死は分からんが、終わりだろうと……

これで、終わりでいいんだよな。

ローザがもう苦しむ必要は無いという事で、いいんだよな。

 

 

この後、緑髪の子を2階の病室に寝かせる。一応鍵をかけておく。

この子を助けた際相当取り乱していたらしく、ドリスが麻酔薬をうって眠らせたらしい。

 

朝になり、リゼやミネバ、クロエが起きてきて、皆で朝食をとる。

リゼにローザが帰って来た事を伝えると、満面の笑顔で部屋で寝てるローザの様子を見に行った。

ミネバは増えた大人達に囲まれた食卓でも、全く動じてなかった。

大人社会で生きて来たミネバにとってどうってことないのだろう。

 

朝食後、トラヴィスのおっさんは後片付けがあるとかで、16番コロニーに帰って行った。

ヴィンセントはクロエと自宅アパートに戻る。

アンネローゼは疲れたから寝るとの事だ。

リゼは今は学校は試験休みだ。ミネバと共に近所に散歩がてら買い物に行くと。

まあ、ミネバは世間に顔バレはしてないから、近所ぐらいなら大丈夫だろう。

何にしろ、ミネバはリゼに相当懐いてる。リゼの前では年相応の笑顔もみせていた。

 

眠り続けている緑髪の女の子の様子を見た後、ローザの様子を見に行く。

俺はベッドの横に椅子を持って行き、寝てるローザの顔を覗き込む。

「……エド」

ローザは目を覚ましていた。

 

「よく戻ったな」

 

「すまなかった」

 

「もう、気が済んだか?」

 

「ああ……」

 

「じゃあ、お前はハマーン・カーンじゃあなく、俺の妹のローザ・ヘイガーでいいんだな」

 

「………」

なんでそこで黙る。

 

「なんだ?もう気が済んだんじゃないのかよ。ハマーンに戻りたいのか?」

 

「いいや……もういい。……ローザ・ヘイガーがいい」

 

「だったら何が不満なんだ?」

こいつのこのしゃべり方は、何かに不満があるときの感じだ。

 

「………」

ローザは黙って俺の服の袖を掴む。

 

「なんなんだ?」

 

「私は怪我人だ……しばらくこうさせてくれ」

ローザは俺の手を掴みこう言った。どこか気恥しそうに。

 

「はぁ?何おまえ?」

何甘えてんだ?……まあいい、こいつにとっても、シャアとの対峙は辛い事だったのだろう。今は好きにさせておくか。

 

「ふん」

ローザは俺の手を掴んだままそっぽを向く。

 

俺はそんなローザの顔を眺めながら思いにふける。

これでいつも通りの日常に戻れる。

こいつと出会って、たった4年とちょっとなのに、随分長い間一緒に居た気分だ。

仏頂面のこいつが居て、リゼの明るい声が響くこの家は、いつの間にか俺にとって当たり前で、掛け替えのない物になっていたんだな。

 

ローザ…戻ってきてくれて……ありがとうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、新サイド6医師会からの戦時派遣医師団の再三の要請を無視し続けたが、なんか秘書課の若いねーちゃんが直接俺んちに現れて、泣いて頼み込んできた。俺が行かないと、理事長に首にされちゃうとかなんとかで……おい、それパワハラだろ。

今回のシャアの起こした反乱の戦地に近いコロニーでは、怪我人を収容したのはいいが医者不足らしい。

俺は明日戦時派遣医師団に出向することに決める。

まあ、ローザも一日寝たら普通に動けるぐらいにはなったし、大丈夫だろう。

 

問題は緑髪の少女だが……名前はクェス・パラヤ。父親は今回シャアと交渉した連邦側の高級官僚だったそうだ。

なぜシャアの側でパイロットをしていたか、本人から聞いても、よくわからんことを言って理解に苦しむ……、だが、どうやら親に反発して家を出た家出娘らしい。反抗期って奴だろう。

しかし、ドリスの情報ではクェスの父、アデナウアー・パラヤは新生ネオ・ジオンのルナツー奇襲で死亡したらしい。

母親はいないらしく、しばらく預かって、親戚を当たるしかないか……。

ローザやアンネローゼ曰く、クェスはニュータイプらしい。

まあ、俺からしたら、唯の駄々っ子にしか見えないんだけどな。

そんなクェスもリゼの前では素直になる。

……リゼパワーすげーな。

まあ、ミネバと同じ年だし、リゼに任せておけば大丈夫だろう。

 

ミネバ、いや今はオードリーか。

オードリーもこのまましばらく預かる事になる。

ローザが自分が面倒をみると息巻いていた。

オードリーにリゼがローザはお姉ちゃんなんだよと教えたら、オードリーがローザ姉さまと言った時には、ローザの顔が超緩んでいたな。

一応様付けはよせよとローザとオードリーに言ったが、元主従だし、しばらくギクシャクしそうだ。

 

それとローザだが妙に甘えてきやがる。何かと俺の手を引こうとする。いや、口調や表情は以前と一緒だし、俺の気のせいかもしれんが……

 

 

 

 

 

宇宙世紀0093年3月15日

戦時派遣医師団出向当日。

おい、なんで俺一人なんだよ。しかも、医師会の小型医療用船舶を自分で操縦して行けだって?

はあ、俺一人だったら、やっぱローザでも連れてくればよかったか?一応看護資格もってるしな。

まあ、ローザは最初は一緒に来たがったが、まだ本人は本調子じゃないし、家に残る様に言った。かなり渋々といった感じだったがな。

オードリーとクェスが家にいるし、流石にリゼ一人に任せるのはまずいだろう。

 

4年と2カ月前か……こうして小型医療用船舶での帰りにハマーンを拾ったのは。

 

俺は医療用船舶をオートで設定して、サイド1方向に向かうが……

途中でデブリ群に進路コースが重なってしまう。

おい、こんな所にデブリ群があるなんて聞いてないし、マップにも載ってないんだが、はぁ、世間で言うアクシズ・ショックの影響か?未だにキラキラ光ったままだし。

 

げっ、マニュアルに戻してコースを避けたのに、なんでデブリがこっちに向かってくんだよ!

「やばっ!?」

俺は舵を切って、大きく避けたんだが、船舶に衝撃が走る。

操縦席に緊急警報が鳴り響く。

おい、ここで俺はお陀仏かよ。

 

そう思っていたが、何とかデブリを抜けることが出来た。

しかし……船舶に大きなダメージが……どうやら、デブリの小隕石が船体にめり込んだらしい。

 

「はぁ、帰るしかないか……」

 

幸い船舶の航行に問題が無いが、中の医療設備やら送り届けるはずの医療物資やらが半分滅茶苦茶に……。保険効くよなこれ……。

俺が悪いんじゃないぞ。オート航行がデブリの中を突っ切ろうとしたのがそもそもの間違いだ。この船舶のAIが悪い!……まあ、航行記録があるから大丈夫だろう。

 

それにしてもだ。隕石突っ込んだままだと、バランサーに影響でるよな。

俺はノーマルスーツに着替え、船舶の倉庫部に突っ込んだ隕石の状況を見に行く。

 

………おい、これ脱出ポッドだよな。

 

俺は嫌な予感しかしなかった。

 

しかもなんで二つなんだよ!!

一つは焦げてて微妙だが、赤っぽい。もう一つは真っ白だ。こっちは焦げてないが……

赤っぽい方はこりゃダメだな。真っ白の方は大丈夫そうだ。

生命維持装置は?

一応二つとも動いてる。

 

はぁ……またかよ!!

か、帰るか。

 




読んて頂まして、ありがとうございました。

番外後日談。
この後のエドとローザのお話と……オードリーやクェス。
トラヴィスやアンネローゼ、ヴィンセントとクロエ。
ちょろっと赤い人と白い人
そんで……ウラキ

あれ?一話で収まるのか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後日談:ラプラスの箱編
番外後日談:ラプラスの箱前編


沢山の感想ありがとうございます。
徐々に返えさせていただきたいと思います。
誤字脱字報告ありがとうございます。

すみません。
その後日談が一話って書きましたが、どうやら前中後になりそうです。
前はローザとエド編
中はレイスの皆やクェスや白い人と赤い人編
後はUC編となりそうです。

いわば完結編!?



宇宙世紀0096年3月10日

オードリーがここに来て3年、地元の中学も無事卒業し、リゼが卒業した高校に入学。そして来月から高校2年に上がる予定だったのだが……

 

「エドおじ様……。わたくしはどうしても、なさなくてはならない事が出来ました。近い内に家を出ようと思います」

オードリーが一階の研究室に訪ねてきて、いきなりこんな事を言い出した。

俺は一瞬デジャブった。口調は全く違うが、3年前のローザとオードリーが被って見えてしまった。

 

「ちょっとまて、ローザに相談したのか?」

 

「いいえ……おじ様、わたくしにはザビ家の血が流れております。ザビ家は宇宙世紀最大の厄災を振るった大罪を犯した一族。一年戦争から今迄続く戦いの軛となりました。わたくしはやり遂げなくてはならないのです。戦いの負の連鎖を止めるために。ザビ家という呪われた血筋のわたくしが唯一、人々に対しての贖罪となりえるでしょう。……同時にわたくし自身二度と戦争がおきてほしくないと願っております」

小難しい事をとうとうと述べるこいつは本当に16歳か?同じ年のクェスと大違いなんだが。

要するにだ。オードリーはどうやら戦争を止めたいらしい。

戦争っておい、そんなもん起きる予兆とか無いぞ。

だが、この子は嘘偽りは言わない。

おふざけでこんな事を言うわけが無い。

何か理由があるはずだ。

 

「オードリーいいか、ザビ家が過去にやって来た事は俺も知ってる。だがなお前が物心つく前の話だ。今のお前には関係ない。お前がザビ家のために贖罪する事なんて無いんだ」

 

「おじ様はお優しい……ですが人類すべてがおじ様のように思っていただけないのです。わたくしは、やはりザビ家の女なのです」

 

「ふぅ、俺にはお前が行かなくっちゃならない理由が今一つ分からない。戦争が起きる可能性があるのか?なまじそうだとしてだ。どうしてお前が止めないといけない?それはお前じゃないと止められないのか?ザビ家と関係があるのか?」

 

「それは……」

 

「確かにお前は特殊な立場だ。その立場が悩みを抱え込んでるんじゃないかとは思ってはいた。俺はお前のいい手本になれるような大人じゃないが、俺はお前を家族だと思ってる。お前の悩みを解決できるかは分からないが、一緒に考えることぐらいは出来る。だから話してくれてもいいんじゃないか?」

 

「……おじ様……わかりました。……ローザ姉さまにも、リゼ姉さまにもお話します」

 

その晩、リビングにヘイガー家、一同に会す。

俺、エドワード・ヘイガー36歳

ローザ・ヘイガー28歳

リゼ・ヘイガー18歳

オードリー・バーン16歳

クェス・ヘイガー16歳

 

とまあ、結構な所帯持ちになったもんだ。

一応関係なんだが。

俺の妹はリゼのみ。実際の戸籍上は養女、ようするに娘になる。

リゼを預かった当初、流石に27歳で10歳ぐらいの子から、お義父さん呼びはきつい物があるから、兄妹としてたんだがな。まあ、関係は今も昔も兄妹だ。飽くまでも戸籍上の話だ。

クェスはそのまんま養女となった。しかも正規の手続きを踏んでな。

クェスの親戚を当たったんだが……、母方とは完全に切れてて、親父の方の親類はとんでもねー連中ばかりで、本人も嫌悪していた。

俺んちに来るかと聞いたら、二つ返事で、俺の事を満面の笑みでパパだとかぬかしやがった。

まあ、クェスとは20も違うし、もう俺もおっさんだし、そのままにしておいた。

俺としては娘というよりも、やっぱ妹扱いだが。

オードリーは義妹になる……ローザの妹として……

ローザは……

そのだ。ローザと俺の関係というか、立場が変わった。

妹では無くなっちまった。ハマーンに戻ったとかじゃねーんだが。

……実に言い難いんだが、そのだ。俺の嫁さん…夫婦となった。

ローザとは実は1年前に結婚した。

なぜそんな事になったかって?

俺は罠にはめられた。

トラヴィスのおっさんから、ドリス、さらにウラキらにもだ。

おれは遠大な罠にかかり……いいや、言い訳だ。

俺はローザに気が付いてやれてなかっただけだ。

彼奴らが鈍感な俺に、色々と根回しをして、ようやく気付かせてくれた。

 

 

 

1年半前、トラヴィスのおっさんやドリス、ウラキの協力を得て、ローザの実の妹セラーナ・カーン。今はレオナ・サンジョウと名乗っているが、念願が叶い、そのセラーナに地球に降りて会いに行くことになったのだ。

俺だけが単に地球に降りるのであれば、大きくは問題無い。

俺も元軍医で一応連邦軍士官だったからな。

流石にセラーナが居る日本に行く理由は相当な物を持って行かないと無理だろうが、まあ、何とかなるだろう。

問題はローザだ。

ローザはあのハマーン・カーンだ。1年半前当時、死亡したとされてから5年以上が経ったとはいえ、その影響力は計り知れない。色々と裏工作が必要だという事だ。

そこでだ。

トラヴィスのおっさんとドリス達が、ローザとセラーナが会えるよう、俺とローザを地球に降りる手立てをなんとか手配してくれたのだ。

だが、そこに一つ問題があった。

俺とローザが戸籍上、夫婦になれば実行可能だというのだ。

地球に降りて日本に行く名目として、俺とローザの新婚旅行で友人のウラキの実家がある日本のトウキョウシティで結婚式を挙げるという事らしい。

確かにスペースノイドが地球に行く理由など、よっぽどの事じゃねーと許可が下りにくい。

俺とローザは新婚旅行という事で地球に降りて、結婚式を友人のウラキの国で行うという名目で許可が下りたのだ。

トラヴィスのおっさんやドリス、さらにウラキやモーラの姉御は言う、その場限りの偽装だと……

ローザをセラーナに会わせたい一心で俺はしぶしぶ了承した。

しかし、俺がサインしたのは偽装書類ではなく、正式な書類だった。それに気が付いたのは後になってからだ。

 

地球に降り、トウキョウシティでウラキ達とドリスに会い。

その後、あいつらに神殿…いや神社とか言うところで、ローザと共に日本時代劇のコスプレをさせられ、新婚旅行を装うためとして本当に結婚式をやらされた。

何の茶番だこれ?兄妹で結婚できるわけ無いだろ?

まあ、ローザはなんか嬉しそうにしていたから、良しとするか。

こいつが嫁に行った時の予行練習と思えばいい。

ローザの奴も、いい男が出来ればいいんだが、付きまとってくる男はろくでもねー奴ばっかりだ。今は26歳か……なんとかしてやらねーとな。

こいつの過去を知って理解してやれる奴はどっかにいねーかな。

と、当時はそんな感じに思ってた。

 

彼奴らが俺達に取ってくれた雰囲気の良いホテルはダブルベッドだったしよ。

いくら、偽装新婚旅行と言えどもやり過ぎじゃねーか?

勿論俺は、ソファーで寝ると言って、そのまんま寝たが、何故か翌日ローザの機嫌が悪い。

……俺はまだ、気が付いていなかった。

 

 

レオナ・サンジョウとローザ・ヘイガー

いや、セラーナとハマーンは、とある山荘で実に11年半ぶりの再会を果たした。

ハマーンは頭を下げ許しを請うが、そんなハマーンを黙って抱きしめるセラーナ。

お互い涙を見せていた。

うれし涙か……こういう涙はいいな。

俺も目頭が熱くなる。

 

しかし、何故か俺はローザに夫だとセラーナに紹介される。

おい、それは偽装の為だろう。

俺は義兄だと言いなおすと、ローザが俺のふとももをつねってきた。

それを見て微笑むセラーナ。

ふぅ、いったいなんなんだ?

 

今後はドリスが作った秘匿回線ソフトと、白い人が作ったセキュリティー機器で、場所は限定されるが、ローザとセラーナは何時でも顔を合わせ、通信が可能となったらしい。

 

そして、再び宇宙に帰る。

 

10日ぶりに、新サイド6、15番コロニーの我が家に帰って来たんだが……

何か、3階と2階が勝手にリフォームされていた。

2階の病室だった部屋割りは、二部屋に減り、後はリゼとオードリーに、クェス、アンネローゼの個室と客室にかわっていた。

なぜアンネローゼの部屋がまだある?お前、半年前に結婚して出て行っただろ?

まあ、結婚しても、半分くらいここで暮らしてるけどな。

……結婚相手、……トラヴィスのおっさんだし55で31の嫁さんか…………しかも微妙に部屋広いし。

まさか、おっさん隠居したらここに住むつもりじゃねーだろーな!!

 

3階は完全リフォームだ。キッチンが新調され、リビングまできれいに。

しかも、俺の部屋は倍に広くなった。机とかは一緒なんだが……化粧台と何故かローザのタンスやらの私物まで押し込んであって、さらにベッドがダブルベッドに……

 

「……リゼ、これどうなってる?」

 

「え?なんのことかな~お兄ちゃん?」

わざとらしくとぼけるリゼ。

髪を伸ばしちょっと前のローザと同じ髪型(サイドテール)だ。

随分と女らしくなったもんだ。

リゼは今は、このコロニー唯一の大学の芸術学部に通いながら、フリーの服飾デザイナーの仕事を家でやってる。中堅どころのアパレルメーカーともう契約してやがる。

別に大学に通う必要は無いんだが、大学がどうしてもって言いやがって、学費タダでと……

まあ、リゼは学業スポーツ共に優秀だからな。

 

「ローザ、…お前何か知ってるな」

 

「ふむ、夫婦だからな。当然だ」

おい、何ちょっと恥ずかしそうに言ってるんだ?

もう夫婦ゴッコは終わっただろ?

 

「何言ってんだ?」

 

「………私と夫婦は嫌か?」

何?おい、急に何だ?え?おい……

今にも、泣きそうな表情のローザに困惑する俺。

こんなローザを見たことが無い。

 

「おい……どういう」

 

「お兄ちゃん!!」

何故かリゼに叱責される俺。

 

「へ?……」

 

この後、リゼにアンネローゼ、クロエに説教を食らう。

さらにオードリーにまで注意を受けるありさま。

そんで追い打ちをかけるように、ご近所の奥様方にも怒られる羽目に。

なぜだ?

 

ローザが俺と結婚したがってる?

どういうことだ?

ちょっとまて。

俺とあいつは、血は繋がってないが、兄妹だぞ。

 

俺はトラヴィスのおっさんの所に逃げ込んだのだが……

「お前……どんだけ鈍感なんだよ。……まあ、そんなんだからドリスの相手も出来たって事なんだろうが……。はっきり言って馬鹿だろ!」

 

「自分の娘みたいな年のアンネローゼと結婚したおっさんには言われたくないぞ!」

確かにトラヴィスのおっさんは渋いおっさんだが、55だぞ。

自分の息子の一つ下の美人ねーちゃんと結婚とか、世の中の親父共が泣いて悔しがるぞ。

 

「流石の俺でも分かったぞ……もう、年貢の収めどころじゃないのか?エド先生」

丁度ここに居た、年下の白い人にまで言われる始末。

白い人ってのは、アレだ。白い脱出ポッドに乗ってた草食系イケメン元エースパイロットの事だ。

まあ、白い人がなぜここに居るかはまた今度という事でだ。

 

「年貢のってよ。何時からだ?いつからそんな事に?」

 

「多分、はじめっからだろ?まあ、明確になったのは間違いなく、シャアの反乱前後だろうがな」

トラヴィスのおっさんは呆れながら答える。

 

「ま、まじか?」

 

「ふうエド、ローザちゃんの結婚相手について、飲みに行った時にポロリとこぼしていただろ。ローザちゃんの過去を知って理解してやれる奴がどこかにいないかと……、そんな奴、お前ぐらいしかこの世の中で居るはずないだろ!?どこにあの子を見てやれる奴がいるんだ!?」

 

「いや、俺とあいつは兄妹だからな」

 

「5年半前まで、赤の他人だっただろ?」

 

「だがな……」

 

「なんだエド、ローザちゃんが嫌いなのか?」

 

「嫌いじゃないぞ」

 

「じゃあ、好きなんだろ」

 

「ああ、そりゃ家族として、飽くまでも妹としてだ」

 

「家族としてだったらいいんだろ?妹も嫁も同じ家族だ。妹が嫁になるだけだ」

 

「おっさん!おかしいだろその理論!」

妹が嫁って、普通にあり得ないし、法律でも禁止されてるぞ!

俺とローザは血縁者じゃないが……

 

「おかしいのはエド!お前だ!ローザちゃんがお前のことが男として好きだって事は、お前以外全員知ってたぞ!」

 

「ま、まじか?」

確かにリゼやアンネローゼ、クロエに、オードリー、さらにご近所のアンナさん筆頭に奥様方までが知ってやがった。というかだな、ご近所さんには俺とローザが本当の兄妹じゃない事がバレていたのか!?

男連中は勿論、しかも付き合いがまだ浅い白い人までも……知ってやがった。

ん?あいつは…やめておこう。

 

「そうだ。後はお前が認めさえすれば万事OKだ。既に婚姻届けだして、書類上は夫婦だしな」

 

「おいーーーー!!おっさん。まさか、この偽装結婚と新婚旅行ってのは!?」

 

「そうだ。お前がニブチンだからな。お前の友人のウラキと相談してだ。全部仕組んだ」

くそっ、おっさんとウラキを一度会わせたからな。ウラキが会いたいって言ってたからよ。あいつら裏でこんな事を。

 

「……ということはだな。俺以外全員周知の事実なのか?」

どうやら、全員協力して、今回の事を仕組んだようだ。

 

「ああそうだ。周りがいい加減うんざりしだしてな。ローザちゃんはローザちゃんなりに、わかりにくいが、ちょくちょくアプローチしてたぞ」

そ、そうか。そういえば急にシュンとなったり、ムスっとなったりしてたな。アレか!?

 

「お…ほぅ」

 

「おほう、じゃねーーー!お前誰か好きな女なんていないだろ?エド!お前ももうすぐ35だろ?丁度いいじゃん。家族が家族のままで、ちょっと妹が嫁になっただけだ」

 

「………いや……そのだな。確かにローザの事は大切な家族だと思ってる。だがよ。女として見るっつうのはだな……」

 

「はぁぁあああああーーーこの馬鹿野郎!!俺が散々遊びを教えてやったのによ!!だいたい、ローザちゃん拾ったのはお前が29歳の頃だろ!!見た目いい女だろ!普通手をだすだろ!!アンネローゼとも3年半も一つ屋根の下で過ごしておいてだ!!アンネローゼも何度かエドを誘ったと言ってたぞ!!どんだけ安全ぱいのひょろっ男だ!!お前は!!」

 

「いや、アンネローゼのは冗談だろ。あいつはどっちかというと、近所の子か友達みたいなもんで……まあ、妹に近い扱いというかだな」

アンネローゼはちょっとわんぱくな感じの妹って感じだ。

 

「かーーーっ!!エド!!世の中の年下の女は全部お前の妹か!!」

遂にはおっさんは俺の胸倉を掴み叫び出す。

 

「だがよ」

 

「まあまあ、急には無理だろう。人には考える時間というのも必要だ」

白い人が仲裁に入ってくれた。いい奴だ。

 

「エド、ちゃんとローザちゃんに向き合ってやれ……。あの子の闇を取り除いたのは、間違いなくお前だ。そして、あの子が背負ってるもんを、一緒になって考えてやれるのもお前だけだ。わかったな」

トラヴィスのおっさんは、漸く落ち着いて椅子に座る。

 

「……ふぅ、ローザと話をするか」

 

 

俺はその晩、ローザと話し合った。

面と向かって結婚したいと言われ、俺は動揺を隠せないでいた。

色々と話し合った結果、少し待って欲しいと頼んだ。

だってそうだろ?急に言われてもな。

女として見れねーというかだな。

 

「仕方がない。私の好きになった男は朴念仁だからな」と了承してくれた。

相変わらずの上から目線だが……これもこいつの何時もの仕様だしな。

 

まあ、部屋は一緒なのはしぶしぶ妥協したが。

とりあえず、ベッドはダブルベッドから、シングル二台に変えてだな……

 

そんで、半年後ようやく俺が決心し、ローザに俺から告白するスタイルで、結婚することに……。

街の教会で皆に祝ってもらった。

俺と並ぶウエディングドレス姿のローザは今迄に無い程の満面の笑顔だ。

この笑顔を見れただけで、結婚してよかったか。

とまあ、これが俺とローザが夫婦となった成り行きだ。

 

おっさんの言う通り、妹から嫁になっただけで、日常はほぼ変わらなかった。

呼び方とかも特にかわってねーし。家の皆も結婚の前後で大きくは変わらない。

当初はクェスが若干、何かよくわからんヤキモチを妬いていたが、今はそうでもない。

後は、俺とローザの部屋がシングルベッド2台からダブルベッド1台に変わったぐらいか。

……ダブルベッドというよりもキングサイズっていうか、お姫様仕様だがな。

 

 

 

話は元に戻す。

オードリーは俺達家族に話し出す。

「『ラプラスの箱』を何としても、心無い人へ渡すわけにはいかないのです」

 

 

 

 

 

 




元々、お話し中にローザとエドを結婚させるつもりは無くて、その後は皆さんのご想像にお任せしようとしていたのですが……
こういうのもありかなと。
SSの後日談のだいご味みたいな。
IFと捉えていただいても構いません。

中後編の投稿はお時間頂きそうです。

因みにエド家のリフォーム代は、トラヴィスのおっさん持ちの結婚祝い。

0096年3月現在
エドワード・ヘイガー36歳
ローザ・ヘイガー29歳(妻:結婚1年目:元ハマーン・カーン)
リザ・ヘイガー19歳(妹:戸籍上は養子娘:元プルシリーズロスト番号24)
オードリー・バーン16歳(ローザの妹:義妹:現在も正式にはミネバ・ラオ・ザビ)
クェス・ヘイガー16歳(養子娘:元クェス・パラヤ)

トラヴィス・カークランド56歳
アンネローゼ・ローゼンハイン32歳(結婚2年目:苗字は変えず)

ヴィンセント・カークランド34歳(実息子だが、苗字はトラヴィスの養子として)
クロエ・カークランド31歳(結婚4年目)
2人の娘と息子が2歳と0歳

白い人32歳
……赤い人きっと36歳

次回はトラヴィスのおっさんや白い人、赤い人、そんでクェスがメインになりそうです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外後日談:ラプラスの箱中編その1

沢山の感想ありがとうございます。
徐々に返していけたらと思っております。
誤字脱字報告ありがとうございます。

……すみません。
中編が長くなっちゃって分割しちゃいます。
今回はラプラスの箱がメインの繋ぎ回。
次回は白い人と赤い人
ボリュームが結構なことに

ラプラスの箱について一緒なのですが。
UCの内容については随分と変更させていただいてます。
また、いろいろとエドの言動には私的意見が含まれておりますので、飽くまでも考え方の一つとして受け取って頂ければ助かります。



宇宙世紀0096年3月10日

突然オードリーが家を出ると言い出し、ヘイガー家では家族会議が始まった。

 

オードリーは家族に話し出す。

「『ラプラスの箱』を何としても、心無い人へ渡すわけにはいかないのです」

 

「……ラプラスの箱ってなんだ?」

まるで聞きなれない言葉だ。

オードリーは、小難しい事や不思議な事を言う子だったが、この言葉は初めて耳にする。

 

「ラプラスってあれでしょオードリー。ラプラスの悪魔の『因果律によって未来は決められてる』っていうあれよね。なんかニュータイプと関係あるのよきっと」

クェス、なんでお前がそんな事を知ってるんだ?

しかも楽し気に目を煌めかしてるんだ。

確かにあったな。

それってよ。西暦時代の物理学で提唱された俗説だろ?量子力学で完全に否定された奴だ。

今も、面白がってオカルトチックな事柄に引き合いにされる事が多い。

超常的な存在が未来を見るとかなんとか、神の存在を肯定するものだとか。

 

「オードリーちゃん。箱って事は中身があるの?」

リゼがそんなクェスを余所にオードリーに肝心な事を聞く。

 

「はい、箱の中身は分かりませんが、連邦政府が転覆するぐらいのものが入っているとザビ家の遺産の中に、極秘資料として残されておりました。おそらく伯父上かおじい様の研究資料だと思われます」

 

「なんだそれは?……いや、ちょっと待てよ。ラプラス……ラプラス事件の事なのかもしれんな。宇宙世紀元年の歴変更セレモニーが行われたラプラスっていう宇宙ステーションが爆破された事件だ」

地球の国々が連邦政府の元統一がなされ始め、人々が地上から宇宙へと移住を開始し、西暦から宇宙世紀へと変わる節目のセレモニーが行われた宇宙ステーションで爆破テロが起こり、当時の連邦政府初代首相を含めお偉方が多数巻き込まれたという事件だ。

 

「エドおじ様の見識の広さには感服いたします。確かに研究資料にもラプラスの爆破事件に関する可能性も示唆されておりました。連邦政府自身があの事件の黒幕である可能性があると……しかし確証は全く無いものでしたが」

オードリーが淡々と語るその内容が本当であれば、確かに連邦政府のあり様に問題視され、諸所から是非を問う声が上がるだろう。

当時の連邦政府は、この爆破テロが連邦政府統一の反対勢力が行ったものだと断定し、反対勢力や反対派の国々を弾圧し、いまの連邦政府を盤石の物にしたという歴史がある。

もし、オードリーが言う、連邦政府自身が爆破テロの首謀者だとしたら、反対派を一掃するための自作自演だったということになるからだ。

……だが、100年前の話だ。

今となっては、今更これが自作自演だったというスクープが報じられたとしても、多少のダメージは受けるだろうが、戦争を起こすまでに至るだろうか?

今、戦争が起きるとすれば、地上の連邦政府と虐げられてきた宇宙移民という構図がどうしても必要となる。

だが、はっきり言ってこれだけでは、今の宇宙移民の戦争を起こすだけの動機づけにはならないだろう。

一年戦争から始まり、シャアの第2次ネオ・ジオン抗争に至るまで、宇宙移民と地球連邦という構図で戦争が起こったが……、宇宙移民にとって利することは何もなかった。それどころか逆に現在に至るまで宇宙移民は苦境を陥らせていた。一部の権力者以外はな。

 

宇宙世紀創始から宇宙移民の大きな問題は、格差と税の問題だ。

地球に住む人類と宇宙移民とは圧倒的な貧富の格差があった。

そして、重い税の取り立てだ。

しかし、それは既に過去の問題だ。

今現在……格差なんてものは殆どないと言っていいだろう。

確かに地球連邦政府への参政権などは無いが、普通に暮らす一般人レベルでは必要ないものだ。

一般人のレベルで言えば、逆に、過酷な地球環境に比べれば、コロニーの方が住みやすい上に、文明的だ。それに一部の特権階級を除けば、宇宙移民の方が金を持ってるケースが多い。

俺から言わせてもらえば、コロニー内……いや、宇宙移民の中での格差社会こそが問題だ。

それは宇宙移民自体が作り上げたものだ。労働階級と支配階級としてな。それがサイド3に如実にあった。その格差社会を地球連邦政府のせいにいい様にすり替えているようにしか俺には見えなかった。

ギレンの演説はもはや道化だ。自国民の不満を連邦政府のせいにしてる様にしか見えない。

自国民は優良種だからと戦争を始め、結局戦争に駆り出され真っ先に死んでいったのは自国民だ。しかも奴らが戦いを最初に吹っかけたのは同じ宇宙移民のコロニーを潰すことだった。俺の故郷のサイド4をな。

サイド4は連邦に対して不満が少ないコロニーだった。何せ連邦には元々期待なんてしてない。自分たちで何とかしようという風潮があったコロニー群だからな。期待なんてしてないから、連邦を頼ろうなんてことも思わない。必然的に地球や連邦に対し不平不満も少ないし、興味も薄かった。

 

それは置いといてだ。

オードリーの伯父と祖父という事はギレンとデギンだろう。

その研究資料を使わなかったという事は、その程度では、連邦の不満を噴出させ、国民を戦争へと煽動する強い動機付けにはならないと考えていたのだろう。

 

「オードリー、その程度の事で、連邦が転覆するとは思えないが……」

 

「わたくしもそう思います。伯父様とおじい様はもっと別なものが隠されていると考えていたようです。そして、ラプラスの箱をビスト財団が持っている事を突き止め、ビスト財団と接触したようです」

 

「おいおい、それは本当か?地球連邦にすら多大な影響力があるって言われてる宇宙に拠点を置く最大の財閥じゃねーか」

ビスト財団、宇宙世紀初期に宇宙移民であったサイアム・ビストが一代で立ち上げた財閥だ。

その影響力は、地球連邦や地球自身のあらゆる企業にも及ぶ、あのアナハイム・エレクトロニクスの親玉でもある。

 

「おじい様は、ビスト財団からはラプラスの箱の中身を聞き出す事は叶いませんでした。しかしビスト財団とザビ家、いえジオン公国は20年前に約定を結びました。宇宙世紀の100年の節目にラプラスの箱をジオン公国に委譲すると……」

 

「……話が見えて来たな。ビスト財団から反連邦の急先鋒であるジオン公国に連邦政府の弱みであるラプラスの箱を渡すと……だが、度重なる戦争と抗争で既にジオン公国は疲弊し、宇宙世紀100年に自治権を放棄し、連邦に組することが決定されてる。すると今のジオン公国にビスト財団からするとラプラスの箱を渡すに値しないことになる。……となるとそのラプラスの箱とやらの委譲先がどうなるかということか」

 

「はい、ビスト財団は戦争の火種となる可能性が在るラプラスの箱を、なぜ反連邦組織に委譲したいのか真意はわかりません。ですが、それらが心無い組織の人間に渡り、戦争の発端となるのは何としても避けるべきです」

 

「で、ザビ家の血を引くオードリーがそのラプラスの箱の委譲を申し出て、他のジオン残党や反連邦組織に渡らないようにしたいのだな」

 

「はい……わたくしは胸騒ぎがしてならないのです。なんとしても他の手に渡るのを避けたいのです。わたくしは早々にビスト財団の現当主であるカ―ディアス・ビストに会いに、財団本部があります新サイド4のインダストリアル7コロニーに向かおうと思っております」

胸騒ぎか……この子が妄想や虚言でこんな事を言う人間ではない。

それに妙に勘の鋭い子だ。ニュータイプであることは間違いない。

ローザもアンネローゼもそう言ってる。

クェスとあいつらもな。

 

「だがオードリー、今のお前では会う事も出来ない可能性もある。会ったとして、知らぬ存ぜぬと追い帰されるかもしれない。それだけだったらまだいい。下手に刺激をして捕まり、殺されることだってある」

どうやらビスト財団、いや初代サイアム・ビストはラプラスの箱を反連邦を掲げる組織に委譲したいらしい。

今のミネバは反連邦の立場じゃない。その真意を聞かれれば、ミネバに渡す可能性は低い。

 

「それは……」

 

「オードリー……俺はお前が行くのは反対だ。そんな危ない話にお前を行かせるわけにはいかない」

 

「おじ様、しかしわたくしは……」

 

「……アレが確か、3年前のあの時にラプラスの箱という言葉を口にしていた。何やら知っているのかもしれん」

此処でようやくローザが話に入ってきたが、顔を顰めていた。

3年前のあの時ということは、間違いなく第二次ネオ・ジオン抗争の時の事だろう。

 

「ローザ。アレってレッドマンの事か?」

ローザは俺がレッドマンと呼ぶ男を名前で呼ばないし、毛嫌いしていた。

 

「………ふん。アレもそのラプラスの箱とやらを探していたのだろう」

 

「そうか、ならちょっと話を聞くか」

 

「この家に呼ぶのか?」

ローザは明らかに不機嫌面をする。

 

「仕方が無いだろう?それとだ。トラヴィスのおっさんとかにも話に加わってもらったほうがいい」

もしかするとトラヴィスのおっさんはこのあたりの話を知ってるかもしれん。

おっさんは裏社会に精通している。

ついでに、白い人も呼ぶか。

 

「おじ様……皆様にご迷惑をおかけするわけには」

 

「オードリー、地球圏の行く末に影響がある話だろ?ましては戦争が起きるかも知れないって話だ。もはや、オードリー個人やザビ家だけの問題じゃない。本来大人達が解決しなければならない問題だ」

 

「……わかりました」

 

俺はトラヴィスのおっさんと白い人とレッドマン……元新生ネオ・ジオン総帥だった奴に連絡する。

 




中編
その1はラプラスの箱の見解
その2は白い人と赤い人
その3はトラヴィスのおっさん
みたいな感じになる予定

後編は一話で終わらせたい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外後日談:ラプラスの箱中編その2アムロ・レイ

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

その2が長くなりすぎて、アムロとレッドマンの話を分けちゃいました。


 

 

俺はトラヴィスのおっさんと白い人、そして赤い人レッドマンに連絡して、オードリーから聞いたラプラスの箱の話を要約して伝えたところ、直ぐにこっちに来ると返事をもらう。

あの言い回しだと、どうやらおっさんと赤い人は何らかの情報を持っているようだ。

 

 

ん?

白い人と赤い人って誰だって?

第2次ネオ・ジオン抗争の3日後に、俺が操縦する医療用小型宇宙船舶に突っ込んできた白と焦げた赤の脱出ポッドに入ってた二人の事だ。

俺はあの日、トラヴィスのおっさんが所有する宇宙プラントの倉庫経由で、こっそり俺の診療所に2人を搬送した。

 

白い人は白い脱出ポッドに入ってたから便宜上そう名付けたが、直ぐに身元が分かった。

トラヴィスのおっさんがその顔を見て、直ぐにわかったそうだ。

その名は俺でも知ってる。

アムロ・レイ……地球連邦軍最強のモビルスーツパイロット。

一年戦争で若干16歳という年齢で、数多の強敵を打倒した生きる伝説だ。

第2次ネオ・ジオン抗争では、最後までシャアの艦隊と交戦していたそうだ。

 

そのアムロなんだが、見たところ意識が無いだけで、外傷等は無い。

俺は、それならば普通に大きな病院に搬送すればいいと思っていたのだが……トラヴィスのおっさんに止められた。

おっさん曰く、アムロ・レイは連邦でも疎まれる存在だと。

ニュータイプの力を余りにも示しすぎたのだそうだ。その凄まじい能力に恐れをなした連邦上層部は一年戦争後直ぐにアムロ・レイを軟禁した。7年も……グリプス戦役ではカラバの一員として、地球で奮戦していたとか。その後も連邦に閑職に追いやられ、今回のシャアの事で、慌てて前線に出したのだと。

連邦上層部は自分たちの都合で、平時は軟禁し、強敵が現れたら最前線送りってか?

マジでくそったれだ。自分とこの兵士ですらそんな扱いだ。しかも連邦の勝利に大きく貢献した奴をだ。

そして今回のこの戦いで、アクシズの半分が地球に落ちかけ、謎の光によって押し戻された現象について、連邦軍の上層部で噂になっていたとか……アムロ・レイが関わっていると……

連邦はアホばっかりだろうと俺はその話を聞いて思った。人一人でどうやってあんな現象を起こすんだと。

しかし、おっさんは首を振る。

連邦上層部はそんな噂が真しやかに囁かれるぐらいアムロ・レイ……いや、ニュータイプを極端に恐れていると、今回の戦いでも、アムロ・レイに十分なモビルスーツを渡していなかったんだと。

……開いた口が塞がらねーとはこの事だ。

そんでだ。おっさん曰く、この意識が無い状態のアムロ・レイを病院に預けた場合、秘密裏に消すか、人体実験送りにされる可能性が在ると言うのだ。

……俺はその話に呆れるしかないが、連邦上層部ならやりかねないと、俺の診療所で匿う事にした。

 

ローザはアムロ・レイとは面識は全くないそうだが、口では「私の方がモビルスーツの扱いは上だ」とか言っていたが、シャアを幾度も追い詰めたその実力は認めていた。

 

クェスはどうやら、この戦いの前にアムロと会ったことがあるようだ。

歯に何か挟まったような言い様に、俺は問い詰めてやったら、とんでもない事実を吐きやがった。

父親と宇宙に上がった際、出会ったのが連邦軍士官のアムロだったそうだ。

憧れを抱いていたアムロに最初は付きまとっていたらしいが、アムロに嫌な女の影があったからって、シャアについて行ったとか……。

なんだそりゃ?

初めて会った大人の人間にホイホイついて行くなんて、普通じゃない。いくらニュータイプだからってな。

クェスとは数日一緒に暮らしていたが、ローザとは違った意味で常識が欠落していた。ローザの場合は仏頂面の居丈高しいが、一般市民の暮らしを知らなかっただけのお嬢様って感じだった。クェスの場合、モラルというか良識が欠如していた。身近に叱ってくれる大人や信頼できる大人が居なかったのだろう。

母親は早くに亡くしたらしく、話に聞くと、父親とも家で一緒に過ごした時間が極端に短かったと。

身の回りの世話をやってくれる使用人は居るが、ほぼ、ほったらかしに近い状態だったようだ。

 

この後、しばらくして正式にクェスを俺の養女としたんだが、結構手が掛かったな。

あれから3年、今ではそこそこの常識をわきまえるようになったクェス。

まあ、ほぼリゼのお陰のようなもんだけどな。

今でも突拍子もない言動や行動はあるし、学校にも何度か呼ばれたが、まあ、やんちゃなわがまま娘の範囲内に何とか収まってる。

 

後だ。アンネローゼが心境を語ってくれた。

一年戦争時に、ガンダムに乗ったアムロに敵として出くわしたそうだ。

アー・バオア・クーでの乱戦の中、何が何だか分からない内に、ガンダムから攻撃を受け、同期の同僚が自分を庇って死んだそうだ。

一年戦争後には、ガンダムのパイロットを恨んでいた事もあったとか。

大人になり、いろんなことを経験した今では、アムロ個人に恨みを抱いていないと……だが、どうしても自分を庇って死んだ同期の同僚を思い出してしまうらしい。

こればかりは、アンネローゼの中で心の整理をしてもらうしかない。

たまたま敵味方で分かれ戦場で出くわしてしまった。

命を懸けた戦いがその場で起きる。殺すか殺されるかのな。

そこには個人の感情などない。敵か味方かだけだ。

 

トラヴィスのおっさんはアムロ・レイのデータも入手していたらしい。

アムロ・レイとの戦いもシミュレートしていたそうだ。

そんな案件も連邦の裏ではあったのだろう。

どう考えても、モビルスーツ戦で倒せるプランを思いつけなかったと言っていた。

アムロを倒すにはモビルスーツに乗る前しかないと……。

データを分析すると、常識では考えられないような精密な射撃に的確な回避、最善の攻撃方法を瞬時に判断し、実行に移していたと。

モビルスーツに乗ったアムロを倒すにはモビルスーツ一個大隊でも無傷で返り討ちにされる可能性が高いとか。どんなバケモンだよ。

目の前に寝ている優男がそんな奴に到底見えないがな。

 

話は戻すが、診療所に運んで精密検査を行ったのだが、アムロ・レイの体には異常は全くなかった。

だが眠り続けた。

脳や神経にも損傷等などの異常は見当たらなかったが、脳波レベルが異様に低かった。理由はさっぱりわからん。

何時目覚めるかわからない状態がずっと続く。

だが、眠り続けて半年後に、何の前触れもなく突然目を覚ました。

丁度、アクシズ・ショックと呼ばれたあの宇宙に煌めく光の帯が完全に消え去ったその日に。

 

アムロ・レイが目覚めた後に、第二次ネオ・ジオン抗争の事の顛末と、ここで匿って療養させていた事情を話すと寂しそうに微笑む。

「俺の役目は終わった」と……。

連邦に戻るつもりは無く、苗字を変え、ここで隠遁生活を始めた。

そりゃそうだ。今回の事でニュータイプ恐怖症、いやアムロ・レイ恐怖症をさらに極限まで高めちまった連邦に戻ったところで、何されるか分かったもんじゃない。

家族とか知り合いとかに連絡はいいのかと聞くと、ほとぼりが冷めた頃に知らせるとの事だった。

まあ、仕方が無いだろう。しばらくは此処で隠れていた方が良いのは確かだ。

変に生存を知り合いに知らせて、連邦に感づかれるって事もある。

アムロは手先が器用で機械物に滅法強い、何でも一人でモビルスーツを修理できるレベルらしい。そんなアムロをトラヴィスのおっさんが放っておくわけがなく。案の定スカウトされ、今は15番コロニーに新しく出したおっさんの会社の支店に勤めている。

まあ、どっちかというと街の電気屋みたいな感じだ。

そんなアムロだが、なんかモビルスーツのジャンクから、農業用全自動メカやらを作っちゃったり、子供用のハロなるコミュニティーロボットを開発したりと、技術開発者としてもかなり優秀らしい。

しかも、ハロは新サイド6で爆発的に人気がでて、全世界で注目されてるとか……、なんか16番コロニーの外周プラントを新たに二つ買い取って、工場増産だとか、トラヴィスのおっさんはウハウハだったな。

それとアムロがここに残る理由の一つには赤い人の存在があった。

 




次はレッドマン編
ほぼ書き終わってる感じですが……長い。
なぜこうなった?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外後日談:ラプラスの箱中編その3キャスバルという男

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

まじで、これでいいのか?
いや……これは無いよな。
今も、自問自答してる今回の話。
後日談だからまあ、ちょっといいかな。
と……そんな話です。
先に謝っておきます。シャアファンの方ごめんなさい。

番外の番外程度に思っておいてください。
ラプラスの箱とは一切関係ない話です。


赤い人とは、焼け焦げていた赤い脱出ポッドに入っていた奴の事だ。

最初見つけた時には脱出ポッドの焦げ具合から、中は電子レンジ状態だろうと最初はもうダメだと思ったのだが、生命維持装置は動き続けていた。

だが、直ぐに応急処置を施さなければならない状態だった。

ノーマルスーツの形状から新生ネオ・ジオンの士官だと分かる。

連邦に引き渡される可能性があるため、例の如く病院に搬送せずに、診療所に運び込んだのだが……。

赤い人は結構酷い状態だった。ローザを助けた時よりもな。

身元が分からないぐらい顔の皮膚がはがれ落ちていた。気道も肺も半分熱でやられていた。

体の方は随分とマシな状態だった。着ていたノーマルスーツが熱から守ってくれたのだろう。

頭部や気道が酷い状態なのはノーマルスーツのヘルメットを外していたからだ。被ってりゃもうちっとましだったのにな。

だが、ノーマルスーツを着ていた体は確かに大丈夫だったのだが、何故か股間だけ重症だった。いや、もうダメだった。

 

診療所に運び込んで、生命維持のための処置を施し、命を取り留める事はできた。

問題はこの赤い人は誰だって事だ。

意識は勿論ない。この顔じゃ、身元もわからんし、新生ネオ・ジオンの士官じゃ、血液採取しても遺伝子情報バンクにも載っていないだろうから照合しようがない。本人の意識が戻らない限り、当分は身元は分からないだろうなと思っていた。

だが……意外なところから直ぐに身元が判明した。

家の妹共からだ。

ローザは集中治療室に運び込んだ重傷の赤い人を一目見て、シャアだと、あの新生ネオ・ジオン総帥のあのシャア・アズナブルだと、強い口調で言い出した。

顔は熱で皮膚が削げ焼け落ち、誰が誰だかわからない状態なのだが、間違いないと断言した。

ローザはニュータイプだ。そして目の前の死にかけの赤い人がシャアならば、真実なのだろう。ニュータイプ同士が、お互いの存在を認識できる能力があるらしい事は知ってる。

 

「……この男をどうする気だ」と俺に強い口調で問いかけるローザ。

俺はその問いかけにいつも通り答える。

治療を施す。

目の前の男が誰だろうが、怪我人や病人を治すのが医者の役目だと……。

俺がそう言うとローザはそれ以上何も言わず、手術の準備を進めてくれる。

俺のやってる事はローザの気持ちを蔑ろにする行為だとは分かっている。

だが俺は、やはり見捨てられない。

目の前の人間はまだ生きている。このまま放置すれば死に至るのは間違いない。

赤い人に緊急手術を施した後、「すまん」とローザに謝ると……

ローザは色んな感情が入り混じった表情を一瞬浮かべた後、大きく息を吐き

「いい……私も嘗て、こうして助けられた」と、俺にそう言ってくれたその目はどこか優し気だった。

 

赤い人に直接接触させていないクェスも1Fの治療室のメディカルマシーンで眠る赤い人がシャアだと言い出した。

それはいいのだが、かなりどうでもよさげにな。

おいクェス、お前、最初はシャアが好きでくっ付いて行ったんじゃないのか?何その変わり身の早さ、最近の子は皆こんな感じでドライなのか?いや、こいつが特別ドライなだけか。

そんでオードリーまでシャアだと。憐みの表情を浮かべてな。

この顔無しの赤い人の素性を、ニュータイプの3人が3人ともシャアだと主張した。

間違いないだろう。

後にトラヴィスのおっさんが赤い人の脱出ポッドを調べ、ドリスの協力を得て、新生ネオ・ジオンのニュータイプ用のモビルスーツサザビーの物だと判明。

赤い脱出ポッドに乗っていた赤い人はその搭乗者のシャアだろうと

 

俺はメディカルマシーンの中で眠るこの男を見ながら思う。

ローザの気持ちを考えると、こいつをあのまま野垂死にさせた方が良かったのかもしれん。

俺だってこいつは生きていてはいけない奴だと思ってる。

だが、今の目の前のこいつは新生ネオ・ジオン総帥シャア・アズナブルではなく、唯の怪我人だ。

俺の性分として、目の前で怪我をしてるこいつを放ってはおけなかった。

 

シャアの治療を始め2か月後、メディカルマシーンの中で意識を覚醒させる。

顔の治療は終わってない上に、意識が朦朧とし、話すことが出来る状態では無かった。

4か月後に、奴の遺伝子から培養した顔や頭皮の皮膚や鼻や耳の再生移植治療が進み、漸く見れる顔になった。

その面の面影に俺も覚えがある。テレビの演説でな。

股間の再生治療は、流石にちょっと時間がかかる。いや、そもそも現在の既存の医療技術では完全再生する方法は確立されていない。

やって出来んことは無いが、成功するかわからん状態だ。

ようやく意思の疎通が出来るほどに回復し、一般病室に移すことが出来たのだが、流石に2階の病室に置くのは憚れる。

アンネローゼが住んでるし、アムロも眠ったままだ。何よりローザの事を思うとな……。

一階の診療所の物置部屋を片付けて、ベッドを置き奴を移した。

 

シャアの世話についてなのだが、俺が率先して行う様にした。

ローザは看護師である自分が当然やるべきだと言ってくれたが、流石にな。

ローザも色々と準備はしてくれるが、せめて直接世話をさせないようにした。

ローザが奴の病室には一人で入らせないようにも気を回し、入る際は必ず俺と一緒にだ。

経緯が経緯だけに無理強いはさせたくないし、俺自身もさせるべきではないと思いもあった。

 

俺はそんな心境のまま治療を進めていく。

 

シャアが話せるようになってから、奴に第2次ネオ・ジオン抗争の事の顛末を話してやった。

だが、奴はまるで他人事のような感覚で聞き、相づちを打っていやがった。

流石にこいつの態度に殴ってやりたい衝動が走ったが、ぐっと我慢する。

まあ、かなり文句は言ってやったがな。

だが、アムロ・レイが生きてる事と、アクシズショックと言われる地球を覆う煌めきが今も輝いている事を話すと……苦悶の表情を浮かべていた。

 

シャアはローザの存在に気が付いていた。多分ハマーン・カーンであることにも気が付いている。

奴もニュータイプだからな。

だが、ローザが直接シャアに話しかける事は無いし、俺が居る前でシャアからわざわざローザに話し掛ける事もしなかった。

奴がなんとか一人で体を起し食事がとれるようになって数日。

俺とローザで奴の病室に入り、何時ものように検診を行う。

勿論俺がベッドで寝ている奴の目の前に立って、各種チェックを行い、ローザは後方で検診データのチェックやらと俺のサポートをしてくれる。

俺が少し席を外し、直ぐに奴の病室に戻ったのだが、ベッドの上のシャアはローザに話しかけていた。

俺は病室に入らず、扉の外から中の会話に聞き耳を立てる。

 

「ハマーン……何故だ」

 

「何故だとは何だ?貴様を助けた事か?それとも私がここに居る事か?それとだ。私の名はローザだ。ハマーンなどと言う名は知らんな」

 

「私をどうするつもりだ」

 

「知らん。私はお前を許せはしないが……だがエドが決めた事だ。どんな悪党だろうが怪我をした人間を放っておけない性分なのでな」

 

「お前は本当にハマーンなのか?……あの医者は何者だ?」

 

「ローザだと言っているだろう。ハマーンという女はもうここには居ない。エドは私の家族…らしい。私を無理矢理妹にした街医者だ。おかしな男だ」

 

「何を言っている?」

 

「ふん。貴様には一生わからない類の話だ。それと貴様に一つ忠告をしておくぞ。エドに手を出してみろ。貴様を私の手で必ず焼き払ってやる」

 

この分だと大丈夫か。

ローザも心では奴を許してはいないだろうが、今は割り切っているようだ。

随分と心の余裕が見える。

 

 

そのうち、シャアがトイレやシャワーに一人で行けるようになると、今度は他の連中とも顔を会わすようになる。

 

クェスは、本当にどうでもよさげに、空気扱いで、ほぼ無視を決め込んでいやがった。

オードリーからは、挨拶の言葉程度かわしていたが、憐みの目を向けられていたな。

アンネローゼからは女の敵のような軽蔑した目で、無言の圧力をかけられていやがった。

出くわすたびにこれだ。

流石のシャアも精神が擦り減っただろう。

自業自得とは言え、これはきついものがあるな。

 

俺は奴が退院する程度に回復したのなら、連邦軍に突き出すつもりだった。

奴は正当な手続きを受け、裁きを受けるべきだと。

 

だがローザとトラヴィスのおっさんは反対する。

ローザはシャアを生かしておくのは危険だと。

連邦軍に突き出せば、オードリー…いや、この場所とミネバの存在を話し、交渉に用いる可能性が高いと、それと自分の、ハマーンの存在もだと……シャアの口八丁で刑の軽減や、最悪条件付きで解放などもあり得ると。

 

トラヴィスのおっさんも連邦軍に突き出したところで、こいつは真面な裁判が行われない可能性が高いと踏んでいた。

それどころかさらに連邦の高官共と交渉し、譲歩を引き出し、宇宙の闇の中に紛れ、また地球に牙を向くだろうと。

流石にそれは無いんじゃないかと、おっさんに言ったのだがな。

第二次ネオ・ジオン抗争終結から数か月経った現在、メディアではシャアの死亡説が有力になりつつあるが、連邦軍からの正式な通達は無い。

だったら、奴を突き出せば、連邦も鼻高々とシャアを捕縛したことを宣言できるだろう。

そして、奴を裁判にかけ処刑になると……

だが、おっさんは俺の言葉を否定する。

おっさん曰く、連邦内部にもシャアの内通者や信奉者がいると。

さらに連邦上層部の穏健派や強硬派の一部には、宇宙に敵が必要だという理念を持った連中がいるらしい。

巨大な地球連邦という組織を形だけでも維持するには、敵が必要だと。

組織に明確な敵が居る事により、意思統一が強固になるのは確かだ。

だが、シャアは野放しにするには危険すぎる男だ。

一年戦争から今迄、大きな戦争や争いには何かしら奴が関わっているのは間違いない。

もし、シャアの処刑が現実になったとして、裁判どころか、人知れず処刑されるのが落ちだそうだ。

 

連邦って言う組織は大きくなりすぎたが故の問題を抱えているって事だ。

連邦の維持という大枠は組織内では統一されているだろうが、思想や方針がバラバラだ。

ティターンズのような連中だけじゃなく、様々な思想の下に連邦の維持をやりくりしている。

俺からすりゃ、もう崩壊しているのと同じだと思うがな。

 

トラヴィスのおっさんも、シャアを人知れず処分をした方がいいと……それはおっさんがやると。シャアと裏でつながっていた裏社会の連中や連邦内の協力者などを吐かせた後にな。それはレイスとしての役目だとも言っていた。

 

俺自身はシャア個人に直接の恨みは無い。

だが、こいつが世界に戦争という厄災をまき散らした極悪人であり、俺もこいつを許せないという気持ちがデカい。

ローザの事を思うと、ボコボコにしてやりたい気持ちでいっぱいだ。

 

しかし、こいつの罪は正当に裁かなければ意味がない。

この時はまだ、こいつの処遇については決まっていなかった。

 

 

シャアを拾ってから半年が経ち、術後も各種再生、移植手術もうまく行き、経過は良好だった。

アムロが目覚める1週間前の話だ。

奴から俺に話しかけて来た。

「なぜ、私を生かした」

 

「俺の前に死にかけたあんたが居ただけだ。極悪人だろうと、医者の前じゃ怪我人は平等だ。ローザも言ってなかったか?俺の性分なんでな」

 

「ハマーンか……ハマーンを助け、変えたのはドクターか?」

 

「今はローザだ。変えたかは知らねーが、今は俺の妹で、この診療所の看護師だ」

 

「……私をどうする気だ」

 

「さーな。俺はあんたに正当な裁きを受けて欲しいんだがな。あんたがやって来た事の罪を償うためにもな。だが、あんたは大物過ぎる。連邦に引き渡したところで、正当な裁きとやらは受けられるのかわからないそうだ」

 

「……連邦は腐ってる」

 

「俺も知ってる。それをあんたも利用してたんじゃないのか?」

 

「政治とはそう言うものだ」

 

「そうかよ。まあ俺の周りの連中は皆あんたの死を望んでいるぞ。あんたのやって来た事はあまりにもでかい。世の中に混乱を巻き起こしたのは確かだ。宇宙移民(スペースノイド)の救済とか言っているが、結局ダメージを受けたのは地球よりも宇宙移民の俺達だ」

 

「多少の犠牲はやむを得ない。なんとしてもやり遂げなければならない事があるのだ」

 

「俺にはいまいちわからん。あんたの事はちょっと調べさせて貰ったが……あんたの本当にやりたかった事ってなんだ?」

 

「人類の行く末を導くためだ」

 

「本当にそうか?…あんたの行動は支離滅裂だ。子供が駄々をこねてる様にしか見えねー」

 

「………」

 

「まあ、あんたがどう思おうが俺の知った事じゃない。ただやって来た事には責任を取らねーとな」

 

「私の死を望むなら、そうするがいい」

 

「俺は医者だって言ってんだろ。俺は人を生かすのが仕事だ。殺す事じゃねー。だが俺個人もあんたのやり方には憤ってる。ここでの治療を終えたら、俺はあんたを放り出すつもりだ。その後の事は知らん。ただ俺の身内や知り合いが黙っちゃいねーがな」

 

「私の命運はドクターに握られているという事か」

 

「どうだか。……なああんた。あんたは本当に何をやりたかったんだ?……言っておくが人類を導くとかそんなんじゃねー、シャア・アズナブルじゃない、キャスバル・レム・ダイクン。あんた自身が何をやりたかった?いや、何になりたかったんだ?」

 

「……何が言いたい?」

俺がキャスバルの名を出すと、こいつの表情が一瞬強張ったように見えた。

 

「キャスバル、お前の本音だよ」

 

「………私……いや俺は……………………」

キャスバル・レム・ダイクンはしばらくの沈黙の後、二言三言、静かにとある言葉を口にした。

 

 

俺は平手打ちで奴の頬を叩く。

1発……

乾いた音が病室に響く。

 

こいつが放った言葉で俺は思い知らされる。

こいつは、子供のまま大人になっちまった。

なまじ出来る奴だからこんな事に……

 

「お前、キャスバルを名乗るのがそんなに怖いのか。……そのためのシャア・アズナブルであり、クワトロ・バジーナか。甘ったれるなよ!」

こいつはシャアを演じ続けて来た。目的のためなら非道な事も辞さない男をな。

今迄やって来た事は、キャスバルではなく、シャアがやったと……。だからこいつはシャアがやって来た事をまるで他人事のようにとらえやがる。

そして、今回の第二次ネオ・ジオン抗争もそうだ。

こいつはダイクンの息子だと大衆に言っておきながら、シャア・アズナブルを名乗った。

キャスバルを名乗らずにな。

こいつは臆病者だ。

シャアという狂気の仮面を被らなければ何もできないな。

いや、そうせざるを得なかったのかもしれない。

復讐のためには、キャスバルのままでは出来なかったのだろう。

 

「……お前に何が分かる」

 

「わからねーよ。だがなこれだけは言っておくぞキャスバル。……シャア・アズナブルはお前だ。キャスバル・レム・ダイクンは戦乱を巻き起こした大罪人だ」

こいつのために、どれだけの人間が苦しんだんだ。

キャスバルの甘ったれた目的のためにだ。

 

「ぐっ………」

 

俺はこの後も、こいつに説教をくれてやった。

だが、こいつにも同情の余地はある。

幼くして父親が死に、内乱に巻き込まれ、色々あったのだろう。

最愛の母親と別れ……そして……こうなっちまった。

だがな、一年戦争から今迄、そんな話はそこら中に転がってる。

しかもだ。こいつ自身のせいで、親を亡くした子供がどれだけいるか。

 

俺はキャスバルの病室を出た後……酷い顔をしていたようだ。

ローザやリゼ、オードリーだけじゃなく、クェスにまで心配された。

 

あの時キャスバルが俺に発した本音の言葉はこうだった。

「母に会いたかった……母と俺達兄妹を否定したこの世の中を許せなかった」

こいつの母親はとうに亡くなってる。

死んだ人間はどうあがいても甦らない。二度と会う事は叶わない。

それが自然の摂理というものだ。

其れなのにだ。まだこいつは母親……いや、母の面影を追いかけていやがる。

キャスバルは子供の頃に味わった絶望から未だ抜け出していなかった。

絶望から復讐へ、シャアという復讐鬼の仮面を被り、復讐という名の狂気をこの世のすべてにぶつけたのだろう。

こいつの復讐は永遠に達することは無いだろう。

復讐の味をしめた人間は、次の復讐へと移行する。

わざわざ適当な難癖付けてな。それが終わりなき復讐劇へとつながる。

こいつはなまじ才能があるから、それが大それた物になる。

 

母の温もりを追い続けるキャスバルと復讐鬼のシャアか。

その相反する感情がこいつの滅茶苦茶な行動の理由か。

 

 

俺はこの頃から病室内では奴の事をキャスバルと本名で呼ぶようになった。

そして、奴の態度が徐々に変わって行った。

 

 

最初は居丈高な感じだったが、退院する頃には、随分と軟化していた……いや、妙に馴れ馴れしい感じだ……。

たまに、妙に奴の視線を感じることもあった。

まあ、何かされるわけでもないが。

 

こいつの処遇について、トラヴィスのおっさんやら、ローザ達と何度か話し合いを重ね、結局、シャアを連邦に引き渡すことをしない方向となった。

退院前、トラヴィスのおっさんには脅され、アムロには罵られ、ローザ達女連中には無言の圧力をかけられと散々な目にあったこいつを、拾ってから8カ月後、俺は退院させた。

 

その際俺はこいつには言ってやった。

自分が今迄やって来た事を、キャスバル・レム・ダイクンとして考えろと。

それと、一般の人々の生活に触れ、人々の思いを感じろとな。

その上で、自首するなり、自殺するなり、何処となり行くなり勝手にしろと。

俺は奴を診療所から放り出す。

だが、トラヴィスのおっさんやアムロ達は、こいつを警戒し保険をかけていた。

キャスバルを15番コロニーからは決して出られないように細工したのだ。

トラヴィスのおっさんとアムロ、ドリスが協力して作った怪しげな首輪を嵌めさせたのだ。

俺には行動を監視するための装置だと言っていたが、怪しいものだ。

まさか、逃げ出したら首輪が作動して首ちょんぱとかないだろうな。

人知れず殺されないだけましか。

まあ、そんな事をしなくても奴は、しばらくここを離れないだろうと言ってやったんだがな。

奴の股間の手術はまだだったし。流石に男のシンボルは置いて行けないだろう。

それに今の奴はもう……。

 

 

その2カ月後に股間の培養が順調に行き、接合が可能となったため、再手術を施してやろうとしたのだが……、「私の大きさではない」とか文句を言いやがって、無いよりはましだろと言ってやったのだが……何故か顔を赤らめ、「ド、ドクターに預かって欲しい」と言われた。

普通に嫌なんだが。

なんでも俺を裏切らないための証だとか……。

いや俺、お前とそんな約束したか?

確かに、しばらくはここに居て、一般人の生活をしろとは言ってやった。

その上で、自分の罪の償いかたを決めろと、猶予を与えてやったのだが……

但し、ネオ・ジオンに戻るなんて選択をしたら、その時はお前の命の保証はしないぞと脅しはした。

俺としては、自分がやって来た事を見つめ直し、自首して、連邦の甘い誘惑を跳ね除け、堂々と正当な裁きを受けて欲しいんだがな。

 

 

だが、奴は退院してこの2年間ちょっと、普通に住人に溶け込み生活をしていた。

俺が紹介した農場で昼を過ごし、夜はバーのバーテンとして働かせた。

その半年後には、バーのバーテン一本に……農場での単純作業は奴には向いてなかったようだ。逆にバーは大繁盛らしい。

シャアはイケメンだから、奴目当ての女性客も多いんだそうだ。

顔を隠すために髪型をオールバックから、もっさりロン毛に変え、グラサン姿だけどな。

あんまり変わらん気がするが……、まあ、新生ネオ・ジオンの総帥がこんなところでバーテンをしてるなんて、誰も思わないだろう。

それに今の奴は、バー茨の園15番コロニー店店長兼バーテンのデニス・レッドマンと名乗っている。

まあ、俺が例の行方不明者名簿から適当にあしらった名前を付けたのだが、我ながら良いセンスだと思うぞ。

だから、対外的には奴はレッドマンの名で通ってる。

 

何回か奴のバーに飲みに様子を見に行ったが、そのたびに俺の飲み代をタダにするとかなんとか言ってきやがる。しかも、他の客ほったらかしで、俺の相手をするもんだから、うっとおしい。

 

家に帰ってローザにその事を話したりすると、何故かめちゃくちゃ心配される。

もう、アレに会うなと……。

しかも俺の体の彼方此方を調べようとしやがる。何を気にしてるんだ?

夫婦になってからは特にな。

 

キャスバルは必要もないのに、週に1度は何故か俺の診療所に現れ、検診を受けに来る。

そのたびにローザの機嫌が悪くなる。

そのうちローザが居ない時間帯を見計らって現れるようになって、それを察知したローザが待ち伏せして追い払うみたいな感じが続いた。

ローザの奴、キャスバルが入院していた時よりも、退院した後の方が毛嫌い度が酷くなってるぞ。なぜだ?入院中、奴と何かあったとか無いはずだが。

 

あの新生ネオ・ジオン総帥の勇ましい姿がどこに行ったのやら。

キャスバルはシャア・アズナブルにはもう戻らないだろう。

こいつ自身3年前のアムロとの戦いで燃え尽きてる。

こいつは俺にそう語った。

あれがシャア・アズナブルとしてのすべてだったような気がすると。

 

だからといって、こいつの罪は消せはしないんだがな。

 

トラヴィスのおっさんやアムロは奴の監視体制だけは、万全を期していた。

今のところネオ・ジオンの人間等とも接触は無い様だ。

大人しいもんだ。

 

彼奴、このままずるずるここで過ごすつもりじゃないだろうな。

なんかこの生活を楽しんでる気配まである。

罪の償いかたを考える時間は確かに与えてやったが、うやむやにするつもりか?

俺の前では必ず何らかの報いはするとは言っていたが……。

報いとかいらねーから、とっとと罪の償い方を考えろってんだ。

 

それとだ。早く股間の手術受けに来いよな

お前の言うビックサイズなんてものは、お前の遺伝子から作れるわけねーだろ。

こんなもんいつまでも診療所の保管冷凍庫に入れておきたくねーんだよ。

ローザにバレて捨てられても、培養してやらねーぞ。

 




一言……なんてこうなった?

…長々とすみませんでした。
次はちゃんとラプラスの箱やります。
モビルスーツでるよ。たぶん。

色々とシャアの偽名を考えてました。
デニス・レッドマン
ベニス・レッドマン
ノーマン・レッドマン
レッドマン・デュランダル
レッドマン・シドウ
最後の方は声ネタかよ。

シャアは多分エドの事を始めて出来た友達だと思ってるハズ。
キャスバルなんて気軽に呼ばれたことないだろうし。
シャアは今迄友達なんていなかったから、接し方が可笑しい。
……………………
ローザさんの苦労が絶えない><



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外後日談:ラプラスの箱中編その4

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

前回の話をちょい消しするためにも、早く投稿します。
やり過ぎた感が半端ないんで。
今回は真面な話です。




夜半にトラヴィスのおっさんとアンネローゼ、アムロ、そしてレッドマンことキャスバルが俺んちに訪れる。

例のラプラスの箱について話し合うためにだ。

 

本来ならそんなきな臭い話に、リゼやクェスを関わらしたくないんだが……、オードリーが関わってる話だ。家族として聞いておくべきだと俺も思うし、本人たちは聞く気満々だった。

 

アムロとレッドマンが軽く挨拶はかわしていたのは印象深い。

トラヴィスのおっさんもレッドマンと社交辞令程度の挨拶。

俺は何時もの感じでキャスバル呼びで挨拶をし、奴も挨拶を返して俺の隣に座ろうとするが、ローザは俺の腕を取り、奴を一睨みし、貴様はあっちだと椅子も何もない俺から一番遠い場所を指す。

いや、あそこだと、話が聞こえねーだろ?

リゼだけは奴と遺恨も何もないため、普通に挨拶をし、ダイニングテーブルに席を用意する。レッドマンおじさんと……。

 

 

オードリーと俺とで、再度ラプラスの箱についての経緯や状況説明を行った。

 

「キャスバル、お前知ってる風だったが」

俺は改めてレッドマンに訪ねる。

 

「確かに私もラプラスの箱を求めていた。知りえた情報も、オードリー嬢とほぼ同じものだ。ザビ家とビスト財団が密約を交わしていた事までは把握していたが、箱の中身までは調べ切れなかった」

レッドマンも詳しい中身までは分からなかったようだ。

……そんなレッドマンを俺の隣でローザが舌打ちをしながら「役立たずめ」と小声で罵っていたが俺はスルーする。

 

「ラプラスの箱にビスト財団か……。エド、実は俺の方では、新生ネオ・ジオンの残党組織でサイド3と裏でつながってる『袖付き』って言う連中がビスト財団に接触することを察知してる」

 

「なんだ?おっさんの裏の仕事に関係してくるのか?」

流石はトラヴィスのおっさんだ。やはり情報を持ってるようだ。

おっさんは表向きはジャンク屋を中心とした会社を経営しているが、その裏ではスレイブ・レイス……民間軍事会社のような事をやっている。

おっさんの表の会社が今は繁盛していて、ジャンク屋だけじゃなく、重機の運搬部門や農機や小型生活ロボットの開発販売部門まで手を広げていたから、年だし、そろそろ裏の仕事を閉めるんじゃないかと思っていたんだが……

 

「直接ってわけじゃねー、その『袖付き』の内部に俺と繋がってる奴がいて、逐一情報を交換していたんだよ。ローザちゃんやオードリーちゃん、レッドマンは知ってる奴だ。スベロア・ジンネマンだ」

ジンネマンの事はローザから聞いたことがある。

しかし、袖付きという残党組織は初めて聞く名だ。

ローザも知らなさそうだな。

 

「ほう、ジンネマンか……残党でサイド3と連携が取れる程の人間がいたとはな。『袖付き』とやらのトップは誰だ?」

レッドマンも『袖付き』について知らない様だ。

 

トラヴィスのおっさんはため息を吐いた後、こう話した。

「ふぅ、先に言っとくけどよー、笑うなよ。『袖付き』のリーダーは新生ネオ・ジオン残党軍や裏界隈では『赤い彗星の再来』と言われる男だ。その名もフル・フロンタル。モビルスーツの腕前もカリスマ性も備えた奴だそうだ。ジンネマンからの情報だと、金髪の偉丈夫で常に仮面を被ってるらしい」

 

その話を聞いて、アムロは小さく噴き出していた。隣でローザも肩を震わせているな。

まあ、俺も吹いてたけどな。

だってよ。フル・フロンタルだぜ?

名前じゃないよな。通名だろきっと。だからといって、そりゃないだろそんな名前、『丸裸』ってよ。

まあ、表裏の無いとか包み隠さずという意味で、真実の人というと通名だろうが、もっとましなのがあっただろ?

赤い彗星のシャアの再来が丸裸ってか?しかも仮面って……ぷっ。

俺は思わずキャスバルを見て、また噴き出す。

いや、俺だけじゃない。アムロもクェスもアンネローゼも噴き出していた。

ローザは我慢できないってな感じで俺の肩に顔を埋め震えてる。

 

「冗談ではない!」

キャスバルはしかめっ面で語気を強めていた。

そりゃそうだ。ぷぷっ

 

「レッドマン…シャア、ふっ、お前の偽物らしいぞ。しかも裸の偽物だ。何とかして来いよ。ふはっ!」

アムロは笑いながらキャスバルにそんな事を言った。

 

「アムロ!貴様!」

 

「キャスバル落ち着けよ。まあ、なんていうかだな。ぷっ……そこはたいして重要じゃない。おっさん続けてくれ」

 

「エド……」

 

「エドの言う通りだ。フル・フロンタルの出自は不明だ。レッドマンやローザちゃんもオードリーちゃんも知らないようだから、3年前の新生ネオ・ジオン以前には居なかったということだ。だがそいつは『赤い彗星の再来』と言われ、『袖付き』っていう新生ネオ・ジオンの残党を率いている」

 

「名前はさて置き、そこそこ出来る奴という事か」

アムロは相づちを打つ。

 

「おっさん。要するにだ。そのフル・フロンタルが率いる『袖付き』っていう残党が、ビスト財団に接触を図ってる。それはラプラスの箱の受け渡しの可能性があるという事だな」

 

「流石エド、話が早い」

 

「トラヴィスおじ様……フル・フロンタルなる方はラプラスの箱を渡すにふさわしい人物なのでしょうか?」

オードリーの表情は真剣そのものだ。

 

「オードリーちゃんもさっき話してくれただろ?ビスト財団は反連邦組織にラプラスの箱を渡す意思があると。実際その通りだろう。サイド3のモナハン・バハロが後ろ盾だろうしな」

 

「モナハン・バハロか……」

ローザがそう呟く。

オードリーとレッドマンもその名前を知ってるようだ。

 

「どういう奴なんだ?」

 

「現在の連邦の監視下であるジオン公国に置いて、力を持ってる政治家だ」

レッドマンが俺にそう答える。

 

「サイド共栄圏……モナハン・バハロの思想はまだ早いのです。その志はわたくしも理解できない事はありません。それを今の連邦とこの戦争が立て続けに起こった現在では、とてもなしえる物ではありません。自然に流れにまかせ、地球一つでは人類が支えきれないという現実が差し迫った段階でなしえると、わたくしは思います」

オードリーは胸に両手を添え、ゆっくりと語る。

サイド共栄圏については、オードリーに後で聞いたが、簡単に言うと、宇宙のサイド間の結束を強くして、経済を宇宙だけで回し、地球に縛られる連邦を経済的に置いてきぼりにして、連邦を弱体化させる方法だそうだ。

ミネバはその思想を強行すると宇宙に生きる人々に対し、連邦は新たな締め付けを起こす。

既にある地球連邦を蚊帳の外に置く方策は現状にはあわない、連邦が自ら変わる様にしなければならないと。

こんな事を16の娘が考えていたとは……この子は、ジオン・ダイクンなんかよりもずっと、地球人類の事を考えてる。

 

連邦も地球経済だけでは立ち行かない事は重々分かってるはずだ。

だから、一年戦争後、直ぐに行ったのはコロニーの再建だった。

宇宙での生産基盤が無いと今の地球の経済は回らないからだ。

それを認め、地球からの政治体制ではなく、宇宙から人類全体を見渡した政策を打ち出すようになれば、こんな戦争なんて起きないだろうに……

 

レッドマン……いや、シャアはやり方は最悪だが、地球を隕石落としで住めなくし、強制的に人類を全て宇宙に上がるという思想は、わからないでもない。

最終的には皆の理想に繋がるからな。

だがな、早急にそれをやると、人の心はどうなる。

人は感情で動く動物だ。

感情を蔑ろにした政策は、優れた物だとしても、いずれ反感を産み混乱を招く。

 

「でだ。小難しい事は置いておいてだ。そのフル・フロンタルだか、モナハン・バハロだかに、ラプラスの箱が渡ったら、まずいって事だよな」

俺は話を進めるために重要な事を聞く。

 

「そうなるな」

「ああ」

「今はまだ」

ローザとレッドマン、オードリーの返事の仕方は違うが意見が一致した。

なんだか、ローザとレッドマンが言うと逆に納得が行くというか……自分たちが過去に同じような事を考えていたからな。

 

「要はだ。その丸裸のレッドマンもどきに、ラプラスの箱が渡る前にビスト財団からオードリーの嬢ちゃんに渡してもらえばいいんだろ?じゃあ、行こうか」

トラヴィスのおっさんは気軽にこんな事をぬかしやがる。

だが、このおっさん。ただのおっさんじゃねー、その言葉がそのまんま現実となっちまう。

 

「マジか、おっさん」

 

「マジもマジ、大マジよ」

 

「おっさんの裏の仕事に関係するのか?」

スレイブ・レイスにビスト財団かその袖付きとやらに関する依頼が来てるってことか?

 

「まあ、そうだな。ちょっと違うが大方同じだ」

 

「トラヴィスおじ様。わたくしを連れて行って頂けませんか?」

オードリーは悲壮感を漂わせ、おっさんに懇願する。

 

「おい、オードリー、そんな事はおっさんらに任せればいいんだよ」

 

「エドおじ様……わたくしは、この眼でどうしても見届けたいのです。お願いいたします」

オードリーは俺の手を握り、上目遣いで懇願する。

うっ………いや、流石にな。どうせおっさんの事だ。荒事になるに決まってる。

そんな所にオードリーを行かすわけには……

 

「エド……私からも頼む。オードリー、いや、ミネバ様の願いをかなえてやってくれないか」

 

ローザも俺の手を握り、頼み込んで来る。

こうなると俺にはどうにもできない。

 

「おい、お前もかよ。おっさんも何とか言ってくれ!」

頼りはおっさんだけだ。

 

「大丈夫だエド。今回は万全だ。オードリーちゃんには危険が無い様にする」

 

「おっさん!!!」

ちょっと待て、おっさんまで何を……

 

「それにだ。俺もオードリーちゃんに出張って貰った方が良いと思う。ビスト財団のサイアム・ビストを説得するのにもな」

 

「おっさん流石にそれは……っておい、サイアム・ビスト?……ビスト財団の創始者か?生きてるのか?もし生きていたとしても余裕で100歳は超えてるぞ」

 

「生きてるらしいぞ」

 

「私も行く……ミネバ様、いや我が妹であるオードリーは私が守る」

 

「ちょっとまて、ローザ。お前も行くつもりかよ!」

俺はオードリーよりもお前の方が心配だぞ。

変に暴走しないかヒヤヒヤするんだが。

 

「ほう、それは心強いね」

 

「おっさん!!何を!!」

 

「エド、負けだな。……大丈夫だ。俺も行く」

 

「アムロ……いやだがな」

 

「私もついて行ってやろう。約束しようエド。悪いようにはしない。それにだ。私の偽物が出回っているのは甚だ不快だ」

レッドマンは立ち上がり、俺に不敵な笑みを向けこう言った。

 

「ふっ、その丸裸のお前の偽物に出くわしたら任せるぞ。レッドマン」

おい、アムロ。いいのかよそいつを再び戦場に出してよ。

 

「アムロ!……まあいい。私だけでも十分だ」

 

「キャスバルお前って……いいのかよ。おっさん」

いや、そもそもお前はこのコロニーから出られないだろ?

 

「いいんじゃねーか。アムロもいるし、レッドマンも戦力としては超一級だ、しかもエドと約束するって言ってるんだから。大丈夫だろう」

おっさん。なにその適当な感じは、いままでかなりレッドマンを警戒していただろ?

まあ、今のキャスバルが何か企てるとか無いのは俺もわかるが……。

そんでローザが俺の横で舌打ちをしていた。

……俺はローザがどさくさに紛れて後ろからレッドマンを撃たないかの方が心配だ。

 

「わたしも行く―――!」

クェスがそこで元気よく手を上げる。

 

「ダメだ!!お前は勉強しろ!!」

 

「パパの意地悪!オードリーが良くて、なんでわたしがダメなの!!」

クェスが俺の腕を引っ張り、頬を膨らませる。

 

「お前……2年の進学ギリギリだっただろ。補習受けないと留年だとか。俺も勉強付き合ってやるから、大人しくしてろ」

因みにオードリーは成績は学年トップだ。何をとっても文句のつけようがない。

まあ、クェスも学校では目立っているが、方向性が違う。

 

「あれ?……あはははは」

クェスは笑って誤魔化してるが……こいつ、部屋の鍵を外からかけておいた方が良いな。

絶対ついて行こうとするはずだ。

 

「ふぅ、わかった。オードリー、学校が始まるまでに戻って来い。学生が本分なんだ。将来だってある。ザビ家の事、けりを付けて来い」

 

「おじ様……ありがとうございます」

オードリーに涙ぐみながら俺の手を取ってお礼を言われた。

 

「ローザ、オードリーの事を頼む。くれぐれも無茶をするなよ」

 

「大丈夫だ。私は……まだエドにしてもらいたいことがある……そのだ。必ず戻ってくる」

何だかローザの奴、顔が若干赤いな。やってもらいたい事ってなんだ?

うーん。結婚式は上げたしな。新婚旅行は前倒しで行ったしな。なんだ?

 

「おっさん。それにアンネローゼ。二人を頼んだ」

 

「まあ、エド。そう心配するな。今回はマジで大丈夫だ。大したことにならないって」

「エド先生。大丈夫大丈夫」

おっさんとアンネローゼはなんか気軽な感じでこんな事を言ってるが、何かあるのか。

 

「エド、俺も頑張らせてもらう。二人の事は任せて貰っていい」

アムロが言うとマジで大丈夫だと思ってしまう。安心感が凄まじいな。

 

「アムロ頼んだ。キャスバルも助かる」

 

「大したことは無い。エドに返しきれない恩がある。足しにでもしてくれ」

キャスバルはキザったらしいが、こういう時は頼りになる。

 

 

俺はリゼとクェスと黙って留守番だ。行くだけ足手まといになる。

俺がついて行くと、身内のローザやオードリーの邪魔をしてしまう事になりそうだ。

それに、入院患者が一人いる。おっさんから預かったのだが、半年経った未だに目を覚ましていない。

 

 

そして、明後日の朝に、例のトラヴィスのおっさんの16番コロニーの秘密プラントから

出発を見送る事になった。

なったのだが……おい。まじかよ。

 




前回はやり過ぎました事をお詫びいたします。

次回はやっぱGジェネっぽい。

因みにデニス・レッドマンは
バスケのスーパースターから文字ってます。
あの人、頭も赤いし、早いし高いし。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外後日談:ラプラスの箱中編その5出発

感想ありがとうございます。
徐々に返せるように頑張ります。
誤字脱字報告ありがとうございます。

それとアンケートに答えていただきありがとうございます。
股間の件修正の合計とそのままでが、凡そ半分……
迷うところです。
もうちょっとオブラートに包んだ感じで書ければと思案中ですが、どうしよう。

今回は兵器回。しかもやり過ぎた。
本編はやり過ぎに注意をしていたのですが、後日談はちょっとはっちゃけてしまいました。




俺は今、16番コロニーのトラヴィスのおっさんの会社に向かってる。

おっさんの協力の元、ローザとオードリーを新サイド4へと送り出すためだ。

なぜそんなところに行かすのかって?

俺はあんまり行かせたくないんだがな。

新サイド4にあるコロニー<インダストリアル7>にはビスト財団の本部がある。

そのビスト財団からラプラスの箱を新生ネオ・ジオンの残党集団『袖付き』に渡らないよう、財団本部に乗り込みオードリーに譲ってもらいに行くためだ。

普通に交渉だけで済めばいいが、ジオン残党集団『袖付き』と一戦交える可能性が十分ある。

そこでトラヴィスのおっさんの裏稼業の民間軍事会社、スレイブ・レイスの出番ってわけだ。

腕利きのパイロットが何人もいるし、アムロも、キャスバルも一緒に行ってくれる。

アムロはおっさんの会社に就職して、既に裏稼業のスレイブ・レイスの方にも顔を出しているようだし、どうやら既にいくつかのミッションもこなしてる様だ。

キャスバルもブランクがあるとはいえ、元はあの『赤い彗星』のシャアだ。

もし荒事になったとしても、これ程頼もしい連中は、宇宙広しといえども居ないだろう。

 

おっさんの会社に到着した後、例によって、事務所から16番コロニー周囲に浮かぶ会社が所有するプラントへと、受付のお姉ちゃんが操縦する小型宇宙船でオードリー、ローザと向かった。

 

今回はリゼとクェスは留守番だ。

クェスは見送りぐらい行きたいと言ったのだが、ついてきたら最後、強引にオードリーについて行ってしまうに決まってる。

リゼには悪いが、クェスの監視役を任せてる。

 

対面に座るオードリーは余裕が無い様に見える。

「オードリー。気負うなよ」

 

「はい、おじ様……大丈夫です」

「私が付いているのだ。大丈夫だエド」

 

「ああ、ローザも無理だけはするな」

 

「分かっている」

 

そんな会話をしながらも、俺達を載せた小型宇宙船が農業用プラントを改造した倉庫に模したモビルスーツ格納庫に到着。

……なんだ?移動時間も前より長かったし、前の農業用倉庫プラントを改造したプラントとは別の場所だよなここ。……前に比べてかなりデカくなってるよな。

しかも、発着場が広くないか?これ……コロニーの発着場に引けを取らないというか……

 

しかも大型宇宙貨物船が接岸していたが……確かコロニー間運送業も3年前から始めたって言ってたが、スゲーなこれ。全長400m以上あるぞ。

 

……ん?……なんだこれ。砲門ついてないか?……

いやいやいや、このご時世だ。自衛のために貨物船にも砲門とかついてるんだろう。

……んん?……ちょっとまて、これよくみりゃ張りぼてじゃないか?

まさか中身は……み、見なかったことにするか………

 

「うむ。貨物船に偽装しているが、これはグワジン…いや、グワンバン級だな。砲の位置から当時未完成だった最後の艦のようだ」

ローザも俺の隣を歩きながらその張りぼての貨物船を見て、どこか懐かしそうにそんな事を言っちまった。

……あーあ、言っちまった。俺はあえて伏せていたのによ!

あのおっさん!何やってるんだ!まじで!!

個人の会社でこんなもん持ってていいのかよ!

というかどうやって手に入れた!!

しかも何でローザの奴、普通にしてるんだ?

グワジンってよ、ジオン系の大型戦艦じゃねーか!

ちょっとは可笑しいとか思わないのかよ!

 

……俺は心の中で悪態を付きながら、受付のねーちゃんに発着場からちょっと離れた事務所のような部屋へと案内される。

 

そこにはおっさんや数人のスタッフが打ち合わせをしていた。

 

「よお、エド来たか、ローザの嬢ちゃんとオードリーの嬢ちゃんもよろしくな」

 

「よお、じゃねーーー!!おっさん!!発着場のアレ!!中身戦艦だろ!!戦争でもする気か!?」

 

「何言ってんだエド。戦艦一隻で戦争できるわけ無いだろ?」

 

「戦艦ってのは否定しないのかよ!どうしてそんなもんがあるんだ!?」

 

「いや~、拾ったというか貰ったというか」

 

「………拾った?貰った?そんなわけねーだろ!」

 

「ヒデーなエド。ローザちゃんが教えてくれたんだよ。もしかしたら、残ってる艦があるかもって。そしたらあったんだよ。だからそのまんま拝借した。コロニーのパーツとかの大型荷物の牽引に使えるかなって」

 

「ローザ、何やってるんだ?」

 

「うむ。今の私には不要なものだ。トラヴィスにも借りがある。まだ残っていたとは思っていなかったがな」

どうやら、ローザの仕業らしい。後で詳しい事を聞いたのだが、ローザがハマーンだった頃、戦いが地上へと移行し、大型戦艦も大気圏突入離脱可能なサダラーン級にシフトしていったため、宇宙専用のグワンバン級最後の艦は未完成のままアステロイドベルトの設備に放置されていたのだそうだ。

 

「経緯は分かった。なんで、砲門とかそのまんまなんだよ!」

 

「かっこいいだろ!メガ粒子砲単装砲3基3門を連装砲3基6門に改造したんだぞ。3年前の戦いで、ネオ・ジオン系の戦艦ジャンクには事をかかないからな。資源もたんまり、強化し放題!!」

 

「そんな事をいってるんじゃねーー!」

 

「世の中物騒だろ?ジオン残党がそのまま宇宙海賊なんて事も実際有るしよ。他のジャンク屋とか民間運搬会社も護衛用のモビルスーツ持ってるこのご時世だ。あの艦だったらコロニーパーツとかの大型荷物も牽引出来るし、しかもだぞ!モビルスーツも18機も搭載出来るスペースがあるんだ」

 

「よ、世の中思ったよりも物騒だな。……だがこんなもん許可下りるのかよ」

 

「へ?降りるわけ無いだろ。だから偽装してんだって。まあ、知られたところで連邦のお偉いさんを丸め込むし」

 

「………なんか、宇宙海賊よりもおっさんの方がたちが悪い気がしてきたぞ」

 

「まあ、金が有ってもなかなか運用が難しいんだが、その辺の詳しい奴を雇ったし、アムロが色々とシステムを簡略化してくれたし」

 

「……もうなんでもいい。まあ、これなら滅多な事で落ちないか」

俺はゲンナリする。

このおっさん、やはりとんでもないおっさんだ。

連邦はこのおっさんを世に放ったのは間違いじゃないのか?

 

「でよ。アムロとキャスバルはどうした?」

キャスバルは先日アムロと一緒に先にこっちに向かったはずだ。

 

「あっちだ」

そう言っておっさんは事務所の奥の扉を開け俺達はついて行く。

 

すると、そこはとてつもない広い空間に……

おい、まじかよ……

 

「おっさん!!!!何やってんだ!!!!!」

 

「何って、モビルスーツとモビルアーマーだぜ!」

おっさんは超得意げな顔だ。

なんかムカツクぞ。

 

そこにモビルスーツが見ただけでずらっと10機以上はある。

しかも……モビルアーマーもなんか増えてないか?

前見た奴も、見るからにパワーアップしてんだが。

 

「やあ、エド」

アムロがモビルスーツから降りてくる。

 

「……アムロ、それってガンダムだよな」

 

「ああ、俺が3年前に乗っていたνガンダムだ。これでレッドマンを倒した。トラヴィス隊長が半壊したこいつを拾ってきてくれて、修理しバージョンアップさせ、さらにアナハイムから試作品段階だったヘビーウェポンシステム(HWS)を調達してくれた」

 

「……そ、そうかキャスバルを倒した機体か……でだ。その隣のデカブツはどことなく見たことがあるんだが……そのだ」

キャスバルを倒したって、……本人もここに居るよな。あいつの心境も複雑だろうな。

しかし、そのとなりのデカブツは俺が13年前アルビオンに乗っていた時……確かウラキが乗っていた。GP-03デンドロビウムっていう化け物兵器に似てるんだが。

 

「ああ、これはオーキスという拠点防衛用の追加装備だったものだ。ガンダムタイプをモビルアーマー化するプランだったそうだが、13年前に凍結したらしいGPシリーズのものを、トラヴィス隊長がどこからか、拾って来たらしい……。流石に兵装が古いため、それを俺が再設計し、最新モデルに改装し再生。EX-Sガンダムの脱着機構とリガズィ系の簡便性と柔軟性を取り入れ、νガンダムとドッキング可能にさせたものだ。元々νガンダムは初代ガンダム同様に多様な兵器群と親和性が高く設計された機体だ。このような事もお手の物だ」

アムロは嬉しそうに説明するが……意味が半分しかわからん。

分かった事は、おっさんがまたとんでもない物を拾って来たという事だけだ。

多分、ドリスとタッグを組んでな!

 

「そ…そうか……んん?ちょっと待て、最新モデルっておい。そんなもんここで出来るのかよ!?」

修理とかだったらわかる。モビルスーツや戦艦のジャンクパーツを使って動かせるようにする程度ならな。

改装と再生って、しかも最新モデルってどうやってだ?

モビルスーツのパーツをアナハイムとかから調達したのか?

 

「ふふふふっ!ふははははっ!よくぞ聞いてくれたエド!」

トラヴィスのおっさんが後ろから俺の肩に手を乗せ、豪快に笑っていた。

 

「どういうことだ!?また、とんでもない裏技か!?」

 

「アレを使ったのか?うむ、それならば納得だ」

ローザは俺の隣でこんな事を言った。

 

「おいローザ、何を知ってる?」

 

「エド、前に話していただろう。アステロイドベルトに取り残されているだろう元アクシズの人員が居る事を……私が死んだことで、その人員は身動きが取れなくなってると」

確かにその話はローザに聞いた。

ローザにその話を聞いて、トラヴィスのおっさんに相談して、その人員とやらの救助を頼んだんだが……

何でも、グリプス戦役時代に地球に侵攻する際アクシズは地球に向かわせたが、一部のプラントとその人員をそのままアステロイドベルトに残していたんだそうだ。

 

後から聞いた話だが、アクシズは独自に兵器開発及び生産できる設備があったそうだ。

これがあったからこそ、アクシズはエウーゴやティターンズと戦争出来るだけの力を曲がりなりにも蓄えることが出来たんだと。

アクシズ、ハマーン率いるネオ・ジオンはアナハイム等の兵器企業に頼らずに、独自にモビルスーツや戦艦を開発、生産し運用をしていた。

その肝がモビルスーツや戦艦等兵器群の『設計支援システム』『自動生産設備』らしい。

ジオンは戦争末期。

もし、戦争に負けても再起を図るために、遠く離れたアステロイドベルトのアクシズに、当時のジオンの技術の粋を集めたその『設計支援システム』『自動生産設備』を設置したとのことだ。

『設計支援システム』はキシリア戦隊キマイラ部隊も同等の物を持っていたと……

確かにおかしいとは思っていた。アクシズの勢力はジオンよりもずっと小規模だ。

それなのにだ。疲弊していたとはいえ地球連邦と渡り合える戦力を整えることができたのだ。

その答えがこの『設計支援システム』『自動生産設備』が存在してたためだと。

さらに、ローザやローザの父、マハラジャ・カーンがアクシズやジオン残党のトップを張れたのはその『設計支援システム』『自動生産設備』の管理権限があったからだとも言っていた。

そのため『設計支援システム』が置かれてる兵器開発プラントは極一部の人間しかその存在は知らされていないと……ハマーンやハマーンの側近などが死んで、人知れずそこで働いてる連中がアステロイドベルトに取り残されていたのだ。

 

「そんでアステロイドベルトまで行って全員救助したって、エドに話しただろ?」

トラヴィスのおっさんはニヤニヤしながら俺に顔を瑞っと寄せてくる。

 

「それも聞いたが、それがどうした」

 

「だから、兵器開発プラントごと、ここに持ってきちゃった」

おっさんは茶目っ気たっぷりにこんな事を言ってくる。

このおっさんならやりかねない。

 

「まさか、俺が今立ってるここがそうか!?」

 

「その通りだ!ついでに、助けた連中全500名は全員俺が雇った!ここスゲーんだぜ。設計の最適化と、パーツ生産まで自動で出来るんだぜ。しかも、食料の自動生産まで出来る設備もあるって優れものだ。どうだビビったかエド!」

ここ最近のおっさんの会社の急激な躍進はそう言う事か!

おっさんにそんなもの渡せば、こうなるよな。

さっきの戦艦の話がまだかわいく見えるレベルだ。

 

「ふむ、道理で見覚えのあるつくりだと思ったぞ」

ローザは普通に頷いてるし。

 

「ローザちゃんには感謝」

 

「今の私には必要のないものだ。連邦や他の者に渡るよりは、トラヴィスに渡った方が良いだろう」

まあ、そうなんだがよ。

確かにそんなとんでもない設備が悪党に渡ったらと思うと、ゾッとする。

 

「まあ、今は大概、自動農業設備やコロニー間小型宇宙船舶開発やハロの生産に使っちゃってるんだけどな」

おっさんはニカっと笑顔を見せる。

確かに兵器を作るよりもよっぽどましな使い道だ。

 

「『設計支援システム』とやらで、ガンダムのモビルアーマー化をやっちまったと……そんで、その隣の見た事も無いデカブツも作ったと」

俺はガンダムのモビルアーマーパーツの隣にデカデカと鎮座する兵器を見上げて聞く。

3年前アンネローゼとローザが乗って暴れたノイエジールⅡというモビルアーマーじゃねー、もう一回りゴツイモビルアーマーがあるんだが。

 

「ああ、これね。β・アジールだ。……クェスの嬢ちゃんが乗ってたモビルアーマーα・アジールの残骸とデータを『設計支援システム』に入れて、アムロが調整してくれたら、出来ちゃった」

できちゃったって、おいおっさん。

モビルアーマーが3機もあるんだが……ここ民間の会社だよな。

俺もウラキのGP-03や敵のノイエ・ジールの戦いをモニターで見たことがあるが、アレ一機でモビルスーツもそうだが、戦艦もバッタバッタ倒してたぞ。

パイロットの力量もあるのだろうがな。

そんなもんが、元連邦の最強エースが乗ったらどうなる?

そのνガンダムのモビルアーマーはアムロが乗るんだろ。

それだけで、戦場一つ食っちまうんじゃないか?

そんな兵器が3機も……

これって、下手をすると、連邦のロンドベルとかの戦力に匹敵するんじゃないか?

 

「もうなんでもありだなおっさん。……それとさっきから気になってたんだが、あの向こうの金ぴかの羽が生えてるみたいなガンダムはなんだ?」

俺はこのゴツイモビルアーマーより、奥にある羽の生えた金ぴかで冗談みたいなド派手なガンダムに面くらった。

 

「アレか?あれね。連邦が開発したガンダムだ。暴走事故を起こして、俺んところに破壊の依頼が来たんだけど、アムロがとっ捕まえてくれてさ。ちなみにこれに乗ってたのが、今エドに診療所で預かって貰ってる眠り姫の連邦兵だったリタ・ベルナル嬢だ」

リタは半年前から確かに俺の診療所で預かってる。経緯もある程度聞いていたが、原因となったモビルスーツを見るのは初めてだ。

しかし、リタは外傷も何もないのに半年も眠り続けている。

まるで、アムロが眠り続けていた時と同じような脳波反応を起こしている。

リタについて、アムロが俺に語った。

リタもニュータイプだとか、乗っていたモビルスーツのサイコフレームの共振作用の可能性が高いと、リタの精神はモビルスーツに取り残されてるとか言っていたが、俺にはさっぱりだ。

 

「しかし、暴走って、大丈夫なのか?」

俺はそもそもの疑問を口にする。

というかだ。連邦に返さなくていいのかよ。

 

「大丈夫だろ。乗るのはレッドマンだし、正式な名称はユニコーンガンダム3号機通名はフェネクスだ」

 

「…………」

おっさん。まさか、キャスバルだったら暴走しても痛まないとかいう事じゃないだろうな?

 

「エド、来てくれたか」

そこに深い藍色のノーマルスーツを着込んだキャスバルがやって来る。

ローザは舌打ちをしながら俺の腕を引っ張り、奴を睨みつけていた。

 

「聞いたぞキャスバル。なんかいわく付きのモビルスーツ当てがわれたってな」

 

「心配してくれてるのか?……この程度どうってことは無い。確かにリタとやらの思念を感じる。だがそれだけだ。私の意思の力で押さえつけて見せよう」

キャスバルは自信満々でそんなことを言ってくる。

 

元赤い彗星のシャアだし、大丈夫か。

 

 

この後、格納庫内を一回りしてから、事務所に戻る。

そんで、作戦会議に俺も何故か参加……

 

戦力は偽装グワンバン級一隻に、サポート艦としてエンドラ級とサラミス改級の二隻らしい……。

戦力はEX-νガンダム(モビルアーマー形態)にアムロ

β・アジールにローザ、緊急時には複座にオードリーを乗せるらしい。

装甲と実弾兵器群等を追加武装し、再生したノイエジールⅡ改にアンネローゼ。複座におっさんが乗り込む。流石におっさんも年だしモビルスーツはもうきついらしい。

ユニコーンガンダム3号機フェネクスにキャスバル。

3号機ってことは1号と2号があるって事だよな。乗ってる奴がとんでもないから、そんなのに出くわしても大丈夫だろう。

そんで元キマイラ隊の夫婦と……あとなんか見たことがある奴がいるんだが……俺、多分一年戦争が終わった後にこいつの手術に立ち会ったぞ。確かウエ……なんとかだ。

元マルコシアス隊に元スレイブ・レイス。

それに地元のコロニーで見た事のある顔ぶれが……あれって、ソーセージ工場のおっさんに、ジャガイモ農家の爺さんまでいるぞ……あれ?バー茨の園のオーナーまで。

因みにヴィンセントは今回誘ってないそうだ。

確かにな。ヴィンセントのレストランは軌道にのって繁盛しだしてるし、クロエのお腹の中には二人目の子がいるしな。

 

結局戦艦3隻、モビルアーマー3機にモビルスーツ13機。

 

 

いやいやいや、可笑しいだろ!?

過剰もいいところだ!

 

これって、ちょっとした作戦戦隊規模はあるよな。

しかも、エースパイロットしかいない部隊っておかしいだろ?

 

二日前、おっさんとアンネローゼが余裕しゃくしゃくで大丈夫だと言っていたのは、こういう事か。

 

袖付きとか言うジオン残党組織の運命が見えたな。

 

 

そして……

「おじ様行ってきます」

オードリーは、この時ばかりはジオン風の正装を纏っていた。

凛とした佇まいに良く似合う。

 

「さっさと戻って来いよ」

俺は軽くオードリーの頭を撫でる。

 

「エド、行ってくる」

 

「ローザ、無理はするな」

俺はオードリー同様に頭を撫でようとするが……

それを避け、俺の頬に軽いキスをし、耳元で囁く。

「帰ったら、この前の話の続きだ。約束だぞ」

 

この前のってなんだ?

約束?

身に覚えが無いぞ。

そういえば、二日前もそんな事を言っていたな。

 

俺は皆の出発を見送り、そして15番コロニーの我が家に帰る。

 

 

 

 

帰ったらクェスが居なかった。

リゼは俺に謝っていたが……

俺達が出かけてすぐ、居なくなってたそうだ。

 

書置きには

【リゼ姉ごめん。パパに謝っておいて】

………

 

あいつ!ついて行ったな!!

帰ったら、説教だけじゃ済まさねーからな。

 




次回、本当の最終回(本当ってなんだ?)のつもりです。
たぶん……バナージ君出るかも?マリーダさんも出るかも?

今回のやりすぎ兵器群
アムロ……νガンダムHWSにデンドロビウム化(CCA-MSV+勝手な要素)
EX-ニューガンダム。
砲身部分はHI-νのハイパー・メガバズーカランチャー。
後はヘビ―ウエポンシステムに武装ラックにフィンファンネル2倍にIフィールド。

ローザ様……β・アジール(CCA-MSV)
本来はα・アジールの次世代機プラン。
ほぼ、人型を成していない。α・アジールを更に洗練された姿をしてる巨大モビルアーマー。
高速機動にファンネルを始めとした兵器群が魅力。

レッドマン……ユニコーンガンダム3号機フェネクス (機動戦士ガンダムNT)
リタを乗をせたまま暴走したまま明後日の方に姿を消したフェネクスを、おっさんが破壊依頼を連邦から受け、アムロと共に捕獲に成功。リタは意識がないままコクピットに……
そのフェネクスを操るのが今回はレッドマン。
リタの精神を抑えることができるのか?

あとノイエジールⅡ改

その他、ガゾウム改とかジムⅢエキスパート仕様とか、ジェガンスナイパーとか……
ゼータプラス改、高機動型ゲルググとかいろいろ考えてましたがそれはお蔵入りで。
ゼーゴックとかロマン機体いいですよね。水陸両用Zゴックとか妄想してました。

リタ・ベルナル連邦軍少尉:機動戦士ガンダムNTに登場(UCの一年後)ニュータイプ
UC0095年フェネクスにテストで乗ったがフェネクス内蔵のNT-Dが暴走し、リタの意思に関係なしに味方の戦艦などを襲う。

後は……そのですね。ウェなんとかさんは…
まだ、完結してない漫画の人です。たぶん。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外後日談:ラプラスの箱後編その1

沢山の感想ありがとうございます。
徐々に返答させていただければと……
誤字脱字報告ありがとうございます。
助かっております。

……最終話と言っていたのですが……また、やらかしてしまいました。
すみません。一話で終わらなかったです。
後、2話程度の予定です。

今回は思いっきりつなぎ回。



 

オードリーとローザを新サイド4にあるビスト財団本部に送り出して1週間が経つ。

まだ、戻ってきたという連絡は無い。

なんにもなければ4、5日、長くても2週間で戻って来ると、トラヴィスのおっさんが言ってたが……。順調ってわけにはいかないようだな。

やはり袖付きとかいうジオン残党集団とカチあったか?

まあ、あの戦力だったら大丈夫だと思うが……

 

 

この1週間、リゼと俺は一日千秋の思いで2人、いや3人の帰りを待っていた。

クェスもだ。俺に黙って勝手について行きやがって。

クェスが家に居ない事が発覚してすぐ、おっさんの会社経由で、クェスがグワンバン級戦艦に忍び込んでいたと連絡があった。

ノーマルスーツを着込んだクェスが食料コンテナに隠れていたと。

食料コンテナって意外と穴だよな。

ローザも3年前そうやって、スイートウォーターコロニーに忍び込んだらしいしな。

今更、引き返すわけにも行かないからクェスをそのまま連れて行くとの事だった。

何れにしろ、帰ったらしこたま説教だ。

 

 

それとだ。

おっさんから診療所で預かってる、半年前から眠ったままのリタ・ベルナルが昨日突然目を覚ました。

なんか、『長い間悪い夢を見てたよう。でも最近、心にいろんな闇を抱えながら今の生活に満足してるおじさんが、私の心に入り込んで来たの。寂しがり屋の癖に強がったりして、自分を素直に表現できない不器用なかんじが、その、ちょっと助けてあげたいって気持ちになって、そう思ったら目が覚めて……』と言ってたな。

……たぶんそれレッドマン、…キャスバルの事だ。

あいつ、甘ったれの癖に虚勢を張り過ぎなんだよ。

リタもやっぱりニュータイプって事だよな。キャスバルの心を大概言い当ててるしよ。

アムロ達の見解だと、リタの精神はユニコーンガンダム3号機フェネクスに囚われてる状態だったと。

そのフェネクスに今乗ってるのはキャスバルだ。

キャスバルの奴も、あのモビルスーツにリタの意思やら思念を感じるとか言ってたし、なんだかんだとリタの精神とコンタクト取って解放してくれたのかもしれないな。

……いや、リタの言い回しだと、ダメンズをほっとけないって感じだったな。

ふぅ、偶然キャスバルのあの性格が功を奏してリタの意識を覚醒させたって感じか。

 

リタは無事意識は取り戻したが、しばらくはここで入院だ。

リタはどうやら、そのフェネクスのNT-Dとかいうニュータイプ用システムに適合させるために、ちょっとした強化処理を施されてるらしい。今のところ目立った副作用はなかったとは言っていたが、モビルスーツが暴走した原因になってるかもしれないし、いずれは何らかの影響が出るかもしれない。

ちゃんと調べて治してやらねーとだ。

何にしろ、リゼやクロエの時に比べれば随分とましな状況だ。

それ程時間はかからないだろう。

 

 

 

 

話を戻すが、リゼには「心配ない、そのうち皆元気に帰って来る」とは言ったものの、俺自身落ち着かない。そもそも待つのは性に合わない。

手持ち無沙汰に、取り合えずトラヴィス一行の行方に関する情報は無いか、ネットでそれっぽい事件や噂などの痕跡を探してみるが、何も見つからない。

 

そんな時だ。ドリスから連絡が入る。

 

「エド~、元気?」

 

「よお、ドリス。加減はいいか?もうそろそろ安定期に入ったんじゃないか?」

 

「そうね~。悪阻とかも無くなったし、大分楽よ」

そう、ドリスは妊娠5カ月目だ。もう40で高齢出産の域だが、今の医療技術ならよっぽどのことが無い限り大丈夫だろう。

40歳と言っても見た目は16年前とほとんど変わらないんだけどな。

今じゃ、俺の方が年上に見えるだろう。

 

「そうか、まあ、養生に越した事は無い」

 

「ありがと。そうね兄貴も旦那も、チヤホヤしてくれるからいい感じよ。それはそうと、隊長たちはインダストリーコロニーに行ったんでしょ」

 

「なんでわかった?」

今回の件、ドリスにはちゃんと話してない。もちろんトラヴィスのおっさんからもだ。トラヴィスのおっさんも断片的な情報だけは教えて貰っていたが、流石に身重の身のドリスに無茶させるわけにはいかないからな。

 

「そりゃ分かるわよ。ビスト財団について色々聞いて来たでしょ?……そうね。目的はラプラスの箱ってとこかしら?」

 

「驚いたなドリス。ラプラスの箱を知ってるのかよ」

 

「このドリスお姉さんを舐めないでよね。まあビスト財団はそのネタで連邦をさんざ強請ってきたしね」

 

「流石ドリスだな。そこまで知ってたのかよ。でよ、ラプラスの箱ってのは相当価値のあるものなんだな。中身が何かわからないが、連邦にとってそれほどの厄ネタが入ってるのか」

 

「大したもんじゃないわよ」

 

「そうか……っておい、ドリス、まさか箱の中身まで知ってるのか?」

その言い回し、まさか……、あのザビ家やキャスバルですらその中身にたどり着けなかった程のネタだぞ。

 

「知ってるも何も、私が18年前に連邦に捕まったのは、ラプラスの箱の内容が記されてる連邦の秘匿バンクにアクセスしたからよ」

 

「はぁ!?……という事は何か?連邦上層部は箱の中身の内容を知ってるってことか?」

 

「今の連中は知らないハズよ。関わった家によっては口伝でつたわってるかもだけど」

 

「どういうことだ」

 

「秘匿バンクにはあるにはあったけど、高度な暗号化されてるからよ。今の連邦の連中じゃ無理ね」

 

「ドリスはどうなんだ?」

 

「解いたわよ。ちょちょいのちょいってね。でも捕まった時には暗号は解けなかったってウソをついたわ。そうしないと内容を吐かされて即殺されてたもの。その後はエドが知ってのとおり、軟禁されてグレイブの為に働かされながら、その暗号を解くように強要されていたのよ」

そういうことか、やっぱりただもんじゃねーなドリスは。

 

「で、内容はなんだったんだ?」

 

「だから大したもんじゃないわよ」

 

「どういうことだ?」

 

「宇宙世紀憲章を記した石碑のオリジナル。それがサイアム・ビストが後生大事に隠しもっていたラプラスの箱の中身の正体ね」

ドリスはどうでもよさげな感じで、皆が必死に探していたラプラスの箱の中身をあっさり俺にバラした。

 

「はぁ?なんだってそんなもんが連邦にとって痛手なんだ?」

今、記念館に飾られてる宇宙世紀憲章の石碑はレプリカって事か、いやしかし、そんなもんで連邦が転覆するとは誰も思わないぞ。

 

「100年前の宇宙世紀改暦セレモニーで起きた爆破事件。ラプラス事件は知ってるわよね。あの時にお披露目したのが宇宙世紀憲章なのよ。そのオリジナルにはレプリカには載っていない条項があったわ。それが第7章……こんな事が書いてあったわ。データで送るわね」

そう言って、俺の携帯端末にドリスからデータが送られてきた。そこにはこう書かれていた。

 

《地球連邦は大きな期待と希望を込めて、人類の未来のため、以下の項目を準備するものとする。

1.地球圏外の生物学的な緊急事態に備え、地球連邦は研究と準備を拡充するものとする。

2.将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、その者達を優先的に政治運営に参画させることとする。》

 

……なるほど、これは確かに連邦としては隠したい内容だな。

特に問題なのはこの2番目だ、宇宙に適応した新人類とはまさにニュータイプの事だととらえることが出来る。

ニュータイプに参政権を与えるともとれる。

もっと、広義にとらえると、何世代も宇宙で代を重ねた宇宙移民は、宇宙に適応した人類とも言える。

だが現在の宇宙移民には基本的に参政権が認められていない。

しかし、この文章では、将来の宇宙移民にも参政権を与えると捉える事もできる。

 

だが50年いや、70年前の宇宙世紀創世期であれば連邦内部を揺るがす程の価値があっただろう。

だが、現在では宇宙移民でも参政権を得られる抜け道は幾つもある。

実際に、サイアム・ビストの親族には連邦議会の議員もいる。

他にも権力や金で、連邦議会の議員になった奴もいる。

それに、独立志向が強いサイドや月は、連邦議会等に興味が無い奴も多い。

こんなもんじゃ連邦の根幹を揺るがすような話じゃないのは明らかだ。

 

「……これじゃあ」

 

「そうよ。これじゃあね。弱いわ。これを発表した所で連邦が瓦解するとは思えないわ」

 

「じゃあなぜこんなものを連邦は恐れ、権力者は欲するんだ?」

 

「箱は箱だからいいのよ。中身を知らせないで、これには怖いものが入ってますって思わせておけば、それだけで、その価値は計り知れないものになるわ」

 

「確かにな……だが、こんなもののためにオードリー達は……」

 

「ジオン残党が手に入れて、箱のままの価値を連邦に見せつけ、うまいこと脅した場合どうなる?サイド3ぐらいは差し出してくるんじゃなくて?」

 

「……そうなるな。何れにしろジオン残党や悪党には渡せないってことか」

 

「そうね。だから逆に、とっととラプラスの箱の中身を開放して、利用価値が無いものにした方が世の中にとっていいわね」

なるほどな。何れにしろ、オードリー達は箱をサイアム・ビストから譲って貰わないといけないという事か。

 

「で、なぜ当時のドリスはラプラスの箱を欲したんだ」

 

「連邦も恐れる情報が入ってるかもしれないって噂を聞きつけてね。それは私こそ、持つのにふさわしいと思ったのよ」

はぁ、やっぱドリスはドリスって事かよ。怖い女だ。

 

 

 

ドリスとの通信を行った後の正午頃……急にテレビがジャックされ、生放送で何かの映像が流れる。そこには、宇宙世紀憲章の石碑が映し出されていた。

姿なき声の主は言う。これはオリジナルの宇宙世紀憲章だと……。

凛とした女性の声は……やはりオードリーか。

そしてオードリーの声は自分の出自、ミネバ・ラオ・ザビだと伝え、真の宇宙世紀憲章とその意味と意義、そして次の世代へとつながる新しい未来を創るために、世界に平和を訴えた。

その声は堂々としながらも温かみを持っていた。

 

オードリー達は成功したんだな。

オードリー達はラプラスの箱にたどり着き、そして中身を知り、この箱の中身の開放こそが、未来への平和の一歩だと信じ、こうして全世界に公表したのだろう。

 

連邦に対してのバッシングは暫くは続くだろうが、戦争とまでは行かないだろう。

連邦内部は荒れるだろうがな。

 

俺はホッと息を吐き、肩を撫でおろす。

一緒にテレビを見ていたリゼもその声の主がオードリーだと分かり、笑みを浮かべていた。

 

オードリーはこれでザビ家の呪縛から解放される。

ミネバ・ラオ・ザビがオードリーだとバレないように工作は必要だがな。

その辺はトラヴィスのおっさんに任せれば大丈夫だろう。

 

 

その日の夜……

俺は案の定眠れなかった。

 

明け方。

家の前に車が数台止まる音が聞こえ、俺は体を起し玄関へと向かった。

きっとローザ達だろう。

俺が玄関に丁度降りると、扉が開き……

 

「エド、起きていたのか……ただいまだ」

ローザは俺が目の前に居たことに若干驚いた顔をした後、ゆっくり俺の胸に額を軽く当ててきた。

 

「これで二度目だな。おかえり」

俺は右手でローザの背中に手を添える。

 

次にオードリーが微笑を湛えながら入って来る。

「エドおじ様、ただいま戻りました」

 

「無事帰ったな。聞いたぞテレビの演説、良かったぞ」

 

「いえ……その、おじ様にはご迷惑を」

 

「迷惑何てものはないぞ。お前が帰ってくれてよかった」

 

「おじ様……」

 

だが……その後ろから見知らぬ少年が続く。

「ん?……」

 

「初めまして、バナージ・リンクスです。」

 

「わたくしの大切なお友達です」

なにぃ?オードリーが……まさか、ボーイフレンドを連れて帰って来るとは、予想外もいい所だ。

ここではオードリーに言い寄って来るガキどもは数知れず、家に来るたびに追い払ってやったが、オードリー自らから連れて来た男は初めてだ。

ちょっと待てよ、こんな時はどうすればいいんだ?

とりあえず深呼吸だ。フー、ハー。

 

「……エドワード・ヘイガーだ。オードリーの義理の兄にあたる。まあ、年が離れてるからおじさん扱いだがな。でだ。オードリーのどこが気に入ったんだ?」

 

「お、おじ様急に何をおしゃってるのですか?」

オードリーは慌てて、俺に抗議をする。

ちょっと顔が赤いな、まんざらでもないって事か。

 

「心です。優しく、そして強い心に魅かれています」

バナージ少年は俺に堂々とこう言った。

……なるほど。やるじゃねーか小僧。

流石はオードリーが認めた奴だ。

俺の納得する答えを持って来やがった。

 

「バナージも、その恥ずかしいわ……おじ様、バナージをしばらく置いていただけませんか?」

オードリーが名前を呼び捨てだと!……落ち着け俺、……まさか、オードリーがこんなに早く、リゼならば既に覚悟はできていたんだが……。

 

「エド、この少年には助けられた。今回の事で巻き込まれ親を亡くした」

ローザもどうやらこのバナージ少年を認めてるようだ。

 

「まあ、アレだ泊っていくといい」

ふう、何とか言えたか。家長の面目が立ったってところか。

ローザも認めていて、オードリー自身も多少なりとも恋心を寄せてるようだ。

それに俺の勘だが、こいつは大丈夫だろう。

だが、家は年頃の女だらけだ。

しかも、2階の病室にはリタもいる。

キャスバルが入院していた1階の病室を使ってもらうか、ちょっと片付けが必要だが……

 

「ありがとうございます」

バナージ少年は礼儀正しく頭を下げる。

 

オードリーはバナージ少年を連れ、先に3階のリビングへと上がる。

ローザもそれに続いた。

 

 

「よう、エド戻ったぞ」

「エド先生ただいま」

トラヴィスのおっさんとアンネローゼと続き、その後にもう一人女性が続く。

一目見てその女性の顔に面を食らった。

表情と雰囲気はまるで違うが、リゼと同じ顔だ。

リゼが明るい陽とすれば、この女性は影がある陰だ。

 

「エド……済まないがこの子もしばらく預かってくれないか」

トラヴィスのおっさんは真剣な顔で俺に頼んできた。

 

「マリーダ。この先生は信用できる人だから、ほら」

アンネローゼはマリーダと呼ぶリゼとよく似た女性を俺の前に来させる。

 

「……マリーダ・クルスです……世話になります」

 

俺は挨拶をするマリーダの顔をまじまじと見てしまった。

見れば見る程リゼに似てる。

おっさんの方へどういうことだとアイコンタクトを取ると、おっさんは苦笑気味に頷いた。

 

ということはこの女性は、クローン体だったリゼの元となった人間か?……年はリゼよりも上に見える。いやそんなはずはない。リゼの元となったエルピー・プルという少女は既に死亡してる。マリーダという子はリゼと同じクローン体だろう。

 

「エドワード・ヘイガー。医者だ。歓迎する」

俺がそう名乗ったのだが、マリーダは医者という言葉に一瞬表情を強張らせていた。

……もしかすると、現役の強化人間兵か……強化人間は医者や研究者から数々のモルモットと同様な扱いを受けることが殆どだ。医者にいいイメージを持っているはずが無い。

だとすると、今も何らかの処置をうけているということか?

 

アンネローゼはマリーダを連れ、先にリビングへと上がって行く。

 

この後、トラヴィスのおっさんに詳しい話を聞いたのだが、マリーダはハマーン派とグレミ―派の派閥間闘争でグレミ―側が投入した強化人間プルシリーズの一人だった。モビルスーツは撃墜され、脱出ポッドで脱出できたのだが、その後は年端も行かないその身で娼婦館に売られ……そこで………くそっ!!胸糞悪すぎだろ!!

2年半前、スベロア・ジンネマンにたまたま救われ、今はジンネマンの部下として働いてるらしい。

リゼの時もそうだったが、プルシリーズというクローン体は成長を促すための処置を施された代わりに寿命が極端に短くなってる。

さらにだ。マリーダには精神制御するための処置も断続的に行っているらしい。いや、行わないと暴走するのだそうだ。

くそが!俺は憤りを抑えるが、グッと我慢をし、淡々とおっさんの話を聞く。

……俺が何とかしてやるよ。いわばリゼと姉妹のようなもんだ。妹の血縁を助けずに兄貴を名乗れるかってんだ。

 

マリーダはこの後直ぐに、皆に朝食を用意するリゼと顔を会わすことになる。

マリーダは驚愕の顔を浮かべていたのだが、リゼはすべてを察していたように、笑顔を向けマリーダを迎える。

リゼは本当にいい子だ。とても俺の元で育ったとは思えないぐらいな。

 

 

 

アムロとキャスバルも遅れて、家に入って来た。

「アムロ、キャスバルありがとな」

俺は二人に礼を言う。

 

「エドには世話になってる。今回はレイスとしての依頼とも重なった。礼なんていらないさ」

「エドには返しきれない借りがある。今回のことなど微々たるものに過ぎない」

アムロとキャスバルはそうは言ってくれたが、俺的には随分と助かってる。

 

皆を3階のリビングに上がらせる。

 

 

 

そんで俺は……

「クェス!」

 

「パ、パパ?……いつからそこに?」

 

「お前の考えなんてお見通しだ。ここの窓から入って来るだろうとは分かっていた」

2階の自室の窓から忍び込むクェスを咎める。

 

「あのね。これはね。オードリーが心配だから、その……」

クェスは慌てた様子でしどろもどろだ。

 

「まあ、無事でよかった」

俺はクェスの頭を軽く撫でてやる。

 

「パパァ!」

クェスは俺に抱き着いてきたが……

 

「だがな、説教の覚悟は出来てるだろうな」

俺は撫でていた頭をそのまま強く締め付けるように握る。

 

「痛たたた、パパ……お、お手柔らかに」

クェスは半分涙目だった。

 

 

この日は皆に朝食を振舞ってから、一旦解散し、翌日事の顛末を聞くことになった。

 





次はこの超終盤で初キャラでるかもです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外後日談:ラプラスの箱後編その2

感想ありがとうございます。
徐々に返させていただきますので、すみません。
誤字脱字報告ありがとうございます。


ようやく、後日談も終了に近づきました。
ラプラス編は結構長かったように思います。
よく考えると、字数的には本編の半分ぐらいあるんじゃないかな?
カウントしてないけど。



ローザ達が帰って来た日の翌日。

昼過ぎに再び主だったメンバーが俺んちに集まる事になっていた。

ラプラスの箱をめぐるいざこざについてと、今後の後始末について話し合うためだとか。

ローザやオードリーやクェスからだいたいのあらましは聞いてるし、俺は正直この件の中身に関してはほぼ部外者だ。

トラヴィスのおっさん達とオードリーとローザが納得する答えが出ていればそれで俺は構わない。おっさんがオードリーに不利になるような事をするとは思えないしな。

別に俺は居なくてもいいように思うがな。

 

 

今日、診療所は休診日だ。

午前中にマリーダの検診を行った。

昨日の血液採取等行って、その結果が出ていた。

やはりリゼと同一遺伝子パターンだった。

要するにクローン体であることは間違いない。

ただ、リゼよりもさらに強化処置を施された痕跡が複数見られる。

リゼは強化人間としての本格的な調整を行う前に、見限られた素体だったからな。

それは、ニュータイプの能力が全く発現しなかったからだろう。

マリーダはさらに精神制御まで……人を物扱いしやがって、くそっ。

これがかなり厄介だ。ほぼ刷り込みに近い。

クロエの時は、記憶喪失という代償だったが……マリーダの場合、それを克服するためにさらに複雑な精神処置を施されていた。

催眠治療も行わないといけないレベルだな。

マリーダが常に持ち歩いてる薬からも、そのヤバさがわかる。

時間が掛かるが、やってやれんことは無い。

 

寿命の方は、後1年遅かったら、取り返しがつかないところまで来ただろう。

今だったら、まだ大丈夫だ。

 

後はだ。体の方も随分と傷ついてる。

成長期にかなり負担がかかっていたのだろう。

おっさんの話からするとな……。

レッドマン…キャスバルの再生治療のデータが役に立つな。

これで、傷ついたマリーダの組織も回復させてやれる。

 

相当時間が掛かる上に、マリーダ自身もつらい思いもするだろう。

だがな、その先の未来には、リゼのような明るい笑顔で笑えるようにしてやるさ。

 

 

俺んちのリビングに一同が会す。

俺とローザ、オードリー、トラヴィスのおっさんにアムロとキャスバル、そしてラプラスの箱の件では参加していなかったヴィンセントも加わった。

クェスは勿論学校に補習を受けに行ってる。3日分をサボってるからな。

学校の先生に、オードリーについて行った一週間を病気で寝込んでると嘘をついて、なんとか難を逃れてはいるが、進級が掛った補習のカリキュラムは崩せないらしいから、その分集中して受けなくっちゃならなくなった。

本人は涙目だったが、そりゃ自業自得って奴だ。

リゼはバナージとマリーダを連れて、近所に買い物に行ってもらった。

バナージとマリーダとそれと入院中のリタの分の日用品や服などをな。

それとリゼとマリーダは服のサイズが違うのだそうだ。クローン体と言っても途中から育った環境が異なるからな。

そう言えば、並んでみれば身長は若干リゼの方が高くて細身だ。

それにバナージは俺のおさがりというわけには行かない。

まだまだ、バナージは少年って感じで、俺の服はダブつくだろう。

それとリタは随分と小柄だ。

同年代と比べて小柄な部類のオードリーよりもな。

それでもリタは確か24歳か………どう見ても高校生ぐらいに見える。

クェスやオードリーと同年代かそれよりも若く見えるぐらいだ。

明らかにリゼやマリーダの方が年上に見える。

 

 

 

「アムロ、キャスバル……それにトラヴィスのおっさん、無事3人を帰してくれて感謝する」

俺は改めて、アムロとキャスバルそれにおっさんに頭を下げる。

 

「エド、言いっこなしだぜ。俺の方の仕事も関わってたしさ。それにやっぱ、オードリーちゃんが居なかったら、サイアムのじじいを説得できなかったしよ」

そして、おっさんらは改めて、今回の事の顛末を語りだす。

 

サイアム・ビストはやはり、袖付きにラプラスの箱を渡すつもりだったらしい。

だが、孫で現当主カーディアス・ビストの妹でアナハイムの社長夫人であり連邦軍に対しても絶大な権力を持つマーサ・ビスト・カーバインが、それを良しとせず、ラプラスの箱の受け渡し阻止を企み、連邦軍特殊部隊エコーズと甥でカーディアス・ビストの息子であるアルベルト・ビストを抱き込んで、ロンド・ベル隊のネェルアーガマに乗せ向かわせたのだそうだ。

 

おっさんらの部隊が到着した時には既に、新サイド4のビスト財団本部があるコロニーインダストリアル7で、ジオン残党袖付きとロンド・ベルのネェルアーガマが火ぶたを切っていたと。

 

おっさんは直前に袖付きのジンネマンから、近々ビスト財団と接触することを知らされ、さらにはロンド・ベルの動きも察知していたのだが、まさかロンド・ベルのネェルアーガマの方が強硬手段に出るとは予想外だったそうだ。

ロンド・ベル隊の提督であるブライト・ノアはもっと冷静な判断が出来ると踏んでいたのだが……マーサ・ビスト・カーバインが連邦軍上層部と特殊部隊エコーズを抱き込んで、強権を発動したようだ。

おっさんは、ドリスが居ればもっと正確な情報を手に入れ、両勢力が戦闘に入る前に止められたと……いや、二つの勢力がビスト財団に向かう前に手を打つことが出来たと嘆いていたな。

 

今回の騒動は要するにだ。

簡単に言えばジオン残党の袖付きにラプラスの箱を渡したいビスト財団本家派と、連邦軍のロンド・ベル隊を使ってそれを阻止したいマーサ・ビスト・カーバインの分家派との争いだ。

ビスト財団のお家騒動に、袖付きもロンド・ベル隊も巻き込まれたってこった。

 

今思えば、オードリーがこのタイミングで、ラプラスの箱を危惧し、俺にこのことを伝えて来たというのは、こうなる事をニュータイプの能力で感じていたのかもしれないな。

当時、オードリー自身胸騒ぎがすると言っていたし、少々焦っていたようにも思う。

もしかすると、ニュータイプとしての能力はアムロやキャスバル、ローザよりも高いのかもしれない。

いや、方向性が違うのかもしれないな。

以前アムロはオードリーを見て俺にこんな事を呟いていたな。「ニュータイプとしては俺は戦闘に特化し過ぎた。彼女はきっと本来あるニュータイプの姿なのだろう」と。

ローザもキャスバルもどっちかというと、アムロ寄りなのだろう。

 

 

話を戻すが、コロニーを巻き込んで、火ぶたを切った両陣営のど真ん中におっさんらが到着。

おっさんとしては、両者を大人しくさせて、現当主のカーディアス・ビストか隠居のサイアム・ビストにオードリーを会わせりゃいい。別に袖付きの壊滅や、はたまたロンド・ベルをぶん殴る必要もないわけだ。

 

そこでだ。ロンド・ベルのネェルアーガマ側に向かって、アムロのνガンダムがモビルスーツの形態で飛び出し、ローザが、オードリーを乗せたβ・アジールで袖付きに向かって飛び込んだらしい。

 

ネェルアーガマ側はアムロのνガンダムを見て、戦闘が一気に止まったらしい。

ローザの方は、オードリーが声をかけると、MSを下げたようだ。

おっさんの息が掛かった袖付きのジンネマン率いるガランシェール隊は戦う気なんて元々ないしな。

それでも暴れてるMSはキャスバルのフェネクスや怖い現スレイブ・レイスのエース部隊が軽くひねって抑えたそうだ。

 

そんな中、バナージが乗ったユニコーンガンダム1号機が現れた。

バナージは実はビスト財団、現当主のカーディアス・ビストの庶子、要するに愛人の子だった。父を知らず離れて暮らしていたと。

だが、戦火の中、カーディアス・ビストはバナージにユニコーンガンダム1号機を託したようだ。

そのユニコーンガンダム1号機はラプラスの箱に至る鍵となっていたと。

 

まあ、ロンド・ベルや特殊部隊のエコーズとやらは……

νガンダムが突然現れたら、そりゃ驚くだろうな。

アムロのνガンダムの実力は敵よりも、味方なら十二分にわかっているだろう。

そのνガンダムが自分たちの前に立ちはだかり、戦いを止めに入って来たんだ。

そりゃ、混乱するよな。

もしかしたら、あのアムロ・レイかもしれないと……

 

しかもだぞ。

グワンバン級戦艦に、ジオン・連邦のモビルスーツ・モビルアーマーの混戦部隊を率いてだぞ。

 

もしかしたら、あのアムロ・レイが自分たちの敵に回ったかもしれない……

 

なんて思いでもすりゃ、そりゃ尻込みもするだろう。

 

3年前アムロを拾って、あいつが寝ている間の事だ。

おっさんは、アムロが乗っていた脱出ポッドのデータの解析を行って、俺にその内容を語るおっさんの顔は引きつっていたし、アンネローゼも顔色が青かった。

ロンド・ベルVS新生ネオ・ジオンの戦いで、アムロのνガンダムは単独で敵の大隊と戦っていたんだと、しかも、すべて撃墜。その後、不利な味方の場所をめぐった後、シャアとの対決。

その間、サイコミュ兵器のMSだとか、エース級パイロットのMSだとかも、出会っていたそうだが、全く問題なく倒していたらしい。

しかも、シャアとの戦いは、消耗したνガンダムでも、とんでもない操縦技術でシャアを圧倒していたそうだ。

おっさん曰く、こんな奴どうやって倒せばいいんだよと。

アンネローゼ曰く、今敵として出会ったら……確実にやられていたと。

一年戦争時よりもさらに凄みをましているらしい。

 

そりゃ、連邦もアムロ恐怖症になるわな。

だが、器のデカい所を見せ、アムロを優遇しとけば、グリプス戦役もその間の戦いも、もっとましな結果になったんじゃないか?

 

まあ、そういうこった。

そんなアムロの良く知るロンド・ベル隊は、よけいに恐怖か焦りか、混乱の坩堝に嵌ったのだろう。

 

ネェルアーガマの方は這う這うの体で撤退していったと言っていたな。

そりゃそうだろうな。

 

 

その後、袖付き側のガランシェール隊はそのまま、おっさんのスレイブ・レイスに合流。

バナージのユニコーンガンダム1号機を回収。

バナージはコロニーを守ろうと行動していたようだ。

 

そんな時にガランシェール隊で働くマリーダと出会ったそうだ。マリーダはサイコミュ搭載のモビルスーツを駆り、その戦いで一機で何機もの相手をしていたようだ。

マリーダと出会ったローザとオードリーは驚いたそうだ。

そりゃ、リゼと同じ顔だもんな。

 

だが、もっと驚いたのはジンネマンの方だったとか。

グワンバン級戦艦の作戦会議室で顔を会わせた面々が、本物のミネバにシャアにハマーンにアムロ、そして元ジオンのエースパイロットどもだもんな。そりゃそうだ。

顔面に汗を滲ませ、暫く声が出なかったそうだ。

おっさんはそれを見て、ニヤついていたとか。

絶対ワザと知らせてなかっただろ、あのおっさんは……。

 

まあ、それをまとめ率いるトラヴィスのおっさんはとんでもねーおっさんだ。

戦場の処刑人とか言われていたが、俺からすりゃ戦場の人たらしだ。

だってよ、一年戦争の時だって、敵対していたハズのジオンの部隊ですりゃ、味方につけたんだぜ。

 

そうして、もう一つの出会いが、オードリーとバナージだ。

どうも、バナージもニュータイプとしての素質は凄まじい物を持ってるとか、しかも真面目で礼儀正しい。自分の心に嘘偽りの無い行動を心がけてるらしいし……絵にかいたような好青年だ。

そりゃ、オードリーと気が合うはずだ。

 

クェスは「バナージは全然面白くないのよ。ちょっと優等生ぶって、ほんとオードリーと似てるわ」と言っていた。

なんだお前、もしかして破天荒な奴とかダメンズとかが好きなのか?

それは俺としては将来が心配だぞ。

 

そのバナージだが両陣営がコロニーを巡って戦闘中に、カーディアス・ビストに命がけでユニコーンガンダム1号機を譲られたのだそうだ。

しかも、そのユニコーンガンダムにラプラスの箱の鍵があると言っていて、ユニコーンガンダムのシステムが示す場所を巡ると、ラプラスの箱にたどり着く仕組みらしい。

どうやら元々、ユニコーンガンダム1号機は袖付きの連中に渡すつもりだったらしい。

だが、寸前で、それがバナージの手に渡った。

そりゃ、アレだ。多分だがカーディアス・ビストは息子に託したのだろう。意図は分からんが……

 

そのカーディアス・ビストは、どうやら、実の妹マーサ・ビスト・カーバインに取り込まれた、実子のアルベルト・ビストに撃たれたと。

……なんだそりゃ?親子で……肉親同士で殺し合いかよ!

俺はそれを聞いた時には頭に血が上り過ぎて、声を上げて悪態をつきそうになったが、ローザが俺の手を握ってくれて抑えてくれた。

 

 

その後、おっさんらはラプラスの箱を求めるためにユニコーンガンダム1号機の示す先を巡るのかと思えば……。

おっさんは、今の状況を整理し、ある事を思いついたようだ。

おっさんが素直に、そんな誰かの思惑に乗るような事はしねーだろうな。

まあ、おっさんは敵や味方の裏をかくことには天才的だからな。いや嫌がらせをさせれば右に出る物がいないと言った方がいいか。

 

そんで部隊を二手に分けたそうだ。

一つは月のアナハイムへ、マーサ・ビスト・カーバインの所へ。

そこにはロンド・ベル提督のブライト・ノアもいたのだそうだ。

おっさんとアムロ、さらにおっさんの会社に取り込んだF・S・Sという元連邦の外郭団体のメンバーとサラミス改級で向かったと……

 

残りは新サイド4宙域で待機。

正確にはインダストリアル7周辺で待機だそうだ。

その指揮官代行はローザに任せたとか……。

おい、それは大丈夫だったのかよ。

 

おっさんらが月に向かってる最中、マーサ・ビスト・カーバインの息のかかった連邦軍の連中がちょっかい掛けて来たらしいが、簡単にいなしたそうだ。

バナージのユニコーンガンダム1号機の練習にもなったとか……

おい、何その余裕ぶりは。

 

 

 

月に向かったおっさんとアムロ達は、マーサ・ビスト・カーバインの説得に向かった。

今回のインダストリアル7での戦闘は、ビスト家の内紛にある。

それを解決した上で、サイアム・ビストにラプラスの箱を譲り受けるという算段だった。

聞こえはいいが、実際はサイアムに恩を売って、素直にラプラスの箱を渡せって、脅しとると言ってるようなもんだ。

 

だが、マーサ・ビスト・カーバインは思った以上に連邦軍に影響力が高いらしく、少々厄介だったようだ。

でだ。

アナハイムの周辺や連邦軍基地に渡りをつけ、マーサの動きを抑えつつ、情報を集め、外堀を埋める作戦に出た。

先ずはマーサにこき使われてるロンド・ベルの説得を先に行った。

勿論、アムロがな。

ブライト・ノアのプライベート通信に声をかけたらしい。

ブライト・ノアの驚きっぷりはいいようもないものだったようだ。

確かに、逃げ帰って来たネェル・アーガマからνガンダムが現れたと聞いてはいたが……こうやって、直に声を聴くのとは大違いなのだろう。

これでロンド・ベルの動きを封じることに成功。

 

さらに、おっさんが取り込んだF・S・Sのメンバーに、ドリスとまでは行かないが凄腕のハッカーが居たらしく。いろんな情報を手に入れたらしい。

マーサと裏で手を握ってる連邦軍官僚を脅したりと、おっさんが大活躍。

マーサの腹の中は真っ黒だった。

アナハイムの躍進はマーサの影響力が多大にあったんだと。

マーサ自身かなり優秀のようだ。死の商人としてな。

そのマーサはコロニーレーザーさえも、用意していたらしい。

マーサにとって最悪の事態に備え、証拠隠滅のためビスト財団本部のインダストリアル7事、焼き払うつもりだったようだ。

とんでもねー、ババアだな。

 

で、おっさんはマーサに会ってこう言ったそうだ。

「よおド腐れババァ、欲にまみれたババァの顔をようやく拝めたが、やっぱ想像通りの面の厚い顔だぜ。で、あんたは今迄金や権力の為に、何人人間を殺してきた?いや、ババァのみみっちい欲のためにこれから何人の罪もない人間を殺すつもりだったんだ?ああぁん!?」

うーむ。おっさん、相当切れてたようだな。

おっさんの嫌いなタイプのドストライクだからな。

自分の手を汚さずに、罪もない人間を巻き込んでまで、自分の欲の為に戦いを起こす様な奴をな。

 

マーサは繋がっていた、おっさんが脅しまくった連邦軍官僚にも見捨てられ、司法局に捕まったそうだ。

 

おっさんが処刑人、幽鬼の異名は伊達じゃないってことだ。

 

 

そんで月での決着をつけたおっさんらがインダストリアル7に戻った頃。

袖付きの親玉のフル・フロンタルがジオン残党部隊を引き連れ、現れたそうだ。

 

残党部隊は大したことはなかったそうだが、フル・フロンタルが乗り込んだネオ・ジオングとかいうモビルアーマーが凄まじい能力を持っていたそうだ。

よくわからんがサイコフレームの共振を利用したサイコシャードとかいうもんで、近づくモビルスーツの武器やらを分解し無効化するらしい。下手するとモビルスーツも分解されるとか。

 

だが……

こっちにはサイコフレーム搭載機と、とんでもニュータイプがずらりと揃ってる。

偽物討伐に燃えるキャスバルのユニコーンガンダム3号機フェネクス

ニュータイプとして潜在能力が高いバナージが駆るユニコーンガンダム1号機

ファンネルが超得意らしいローザのβ・アジール

そして、アムロのEx-νガンダムはオーキスを脱離させ、改造強化されたνガンダムの真の姿をさらしたらしい。

アムロ専用のシステムを組んだ、フルサイコフレームνガンダムらしい。

何がすごいのかわからんが、とんでもなく凄いらしい。

更に、クェスの奴がやらかして、ユニコーンガンダム2号機に……そのだ……何かよくわからんし、知りたくも無いが、月でアルベルト・ビストに譲って貰ったらしい。

いや、後でガンダム代金請求されても払えねーぞ。

 

で……

ネオ・ジオングは……奴らの慈悲の無い攻撃に……そのだ。

あっさりバラバラになったと。

そんでフル・フロンタルは捕えたそうだ。

 

フル・フロンタルは嘆いたそうだ。

「純粋たる自我が存在しない私と仮初の体では勝てるわけが無い」と……

 

いやよくわからんが、そうじゃないだろう。

メンバー見れば誰だって勝てるわけねーだろこれ。

 

フル・フロンタルはシャアに似せて強化された強化人間だった。

それは、サイド3のモナハン・ハバロの差し金だったようだ。

ジオン残党をまとめるにはシャアに匹敵するカリスマが必要だとか。

確かにそうだけどよ。

本物が目の前に居るんだぞ。しかも今じゃバーのバーテン兼店長だけどよ。

 

 

ジオン残党勢力袖付きは解体……。

希望者はおっさんの会社に就職。

最初は下積みからだそうだ。

なんか俺に、下積みさせる農場を紹介してくれとか……。

若い連中が多いらしく、先ずは荒んだ心からケアするそうだ。

 

 

その後は、インダストリアル7宙域にあったメガラニカという要塞のようなコロニー作成用施設で、サイアム・ビストと会ったと。

おっさんは最初からそこにサイアム・ビストがいると踏んでたらしい。

 

そこで、寝たきりのサイアム・ビストと、オードリーとバナージは会見を果した。

2人の後ろには錚々たるメンバーが控えていたが、それをサイアムはどう捉えたか。

会見を終え、ラプラスの箱の中身である宇宙世紀憲章碑の本物をオードリー達に託して、サイアムは自らの役目は終わったと生命維持装置を外し逝ったそうだ。

 

そして、ラプラスの箱を開放し、全世界に放送されたあの宇宙世紀憲章碑とオードリーの演説だ。

あれによって、人々に未来を考えさせる一石を投じただろう。

 

オードリーの話だと、バナージとオードリーはサイアム・ビストの莫大な遺産の一部を受け取ったらしい。

それをどう使うかは本人次第だ。

バナージにとって激動の1週間だっただろう。

考える時間が必要だ。

落ち着くまでここに居ればいい。

 

 

とまあ、これが今回のあらましだ。

 

 

俺はこの話を聞いた後に、おっさんに一言言っちまった。

「おい、おっさん。この戦力って、下手すりゃ、連邦宇宙軍も食っちまうんじゃないか?」

 

おっさんは呆れた顔を俺に向ける。

「うんなわけねーよ。結局ロンド・ベルもネェル・アーガマしか出してねーぐらい本気じゃなかったしよ。連邦宇宙軍の虎の子のユウ・カジマ大佐の部隊は出してねーし。宇宙軍全体と俺達がどんだけの戦力差があるってんだ。俺らが出来るのはせいぜい、こんな小競り合いの後始末程度だぜ」

 

……戦力差ね。

そんな戦力差は奴らの機体と技量で如何にかなっちまうんじゃないか?

俺はそんな疑問を口にしなかった。

 

 

何にしろ、解決出来てよかった。

これで、元の生活に戻れるってんだ。

 

だが、元のようにとは、いかないか。

バナージもしばらく面倒見てやらねーといけねーし。

マリーダは治療に時間が掛かるだろう。

リタもしばらく置いてやらねーと、連邦軍に戻すわけにも行かない。

3人も増えたか……

まあ、何とかなるだろう。

 




ごめんなさい。またやってしまった。

えーとですね。
その今回のνガンダムの魔改造版は…そのカトキハジメ氏バージョンです。
フルサイコフレームバージョンって奴です。
節々が緑色に光る奴です。
NT-Dではないのですが、何かが発動するバージョンです。
たぶん、アムロ専用プログラムで動いてるんでしょう。
サイコシャードよりも上のそのなんですかね。何かが出来るのでしょう。
(アクシズを動かしたり……)

とまあ、あとはクェスさんにバンシィがガガガガガ……
アルベルトさんとクェスの間になにが?
アルベルトさんは裏でクェスに救われ、ロ〇コンに目覚めた設定のつもり。
いや、アルベルトさんをボコって、無理矢理奪ったんじゃないですよきっと……
マリーダさんとの絡みが無いから、こんな事に、ごめんなさいアルベルトさん><
折角マリーダさん生きてるのに。

リディさん……あれ?どこに?……あれあれあれ?

随分と端折ったラプラスの箱編でした。

次回、本当の最終回。
エドにハマーン様の願いが届くのか?
……最終回だと……思います。
自信なし><


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外後日談:ラプラスの箱後編その3 最終話

沢山の感想ありがとうございました。
誤字脱字報告ありがとうございます。
感想はその……徐々に返させていただければと。

ラプラスの箱編……結構長くなっちゃいましたね。
これをラプラス編として、第2章じゃないんですが、そんな感じで章分けしようと思います。

一応、主要な話はこれでお終いです。
今迄お付き合いして頂き有難うございます。

ですが……後日談の後日談というかですね。
元々、本編のとおり、ふんわりというかやんわりとした日常を書きたかったので……ラプラス編ではそれが全くなかったため、ちょっとした日常ものを書き足そうと思います。
既に、2話分は途中まで書いちゃってます。(このラプラス編始まって直ぐに、そっちを先に書いてました)


因みに、前回のアムロ君の結婚相手に誰がいいかのアンケートは現段階で1400以上頂き有難うございます。
結果は
一位ベルトーチカさん35%
二位セイラさん31%
三位チェーンさん20%
四位その他女性10%
五位クェスさん4%
セイラさんが大健闘。
チェーンさんがもっと行くと思ってました。
参考にさせていただきます。

では後日談最終話です。






宇宙世紀0096年4月7日

ラプラスの箱をめぐる抗争から3週間が過ぎ、日常を取り戻していった。

オードリー、それにクェスも何とか高校2年生へと進級を果たした。

そして、バナージも同じ学校へと編入させる。

ビスト財団はバナージの腹違いの兄、アルベルト・ビストが継いだらしいが、バナージとは事件が起きるまで会った事も無い他人同然の関係らしいし、バナージ自身、アルベルトと共にする気が無い。

まあ、それでだ。

俺がバナージの保護者という事で、面倒を見ることとなった。

 

うんで、俺はバナージからはエドおじさんと呼ばれる事に……。

おじさん呼びはオードリーで慣れていたはずだがな。

まあ、なんだ。俺も年をとったという事だ。

 

 

マリーダについては、これから手術や遺伝子治療など数々の施術を施さなければならない。

凡そのプランは練ったのだが、試行錯誤は必要だ。

そうかと言って、ずっとベッドで寝たきりという事も無い、手術を行えばそりゃ、しばらくはベッドの上だが、治療方法はそれだけじゃない。なるべくマリーダの負担が掛かりにくい手順と方法を選ぶつもりだ。

 

……ラプラスの箱をめぐる抗争のしばらく後、トラヴィスのおっさんに案内され、俺の元にスベロア・ジンネマンが訪ねて来た。

勿論マリーダの事だ。

ジンネマンはリビングへと案内するリゼを見て驚いた顔をしていた。

まあ、そうなるわな。遺伝子的には同じだからな。

リゼについてある程度の事情を説明した後、ジンネマンはゆっくりとマリーダを助けた際の事から今までの事を俺に語りだした。

最後にマリーダの事を頼むと頭を下げ金を渡されたが、最初はその金を受け取らなかった。

この男、マリーダの事を娘のように大切なくせに父親と名乗りやがらない。

過去に何かあったのだろう。一年戦争を経験したジオン側の人間だ。俺らには言えないような何かがな。……俺も似たようなもんだ。

マリーダも明らかに、ジンネマンを上司以上の情愛の感情を持っていた。

俺は、マリーダに父と呼ばせ、マリーダを娘だと呼ぶ事を条件にジンネマンから金を受け取る事にした。

マリーダの病室に2人きりにさせ、しばらく話しをさせる。

部屋から出て来たジンネマンの晴れやかな顔を見て、言うまでもない。

……どうやら、うまく行ったようだな。

 

 

リゼとマリーダの関係は良好だった。

 

リゼが便宜上姉、マリーダが妹という立場に収まる。

素体番号順で言えば、マリーダの方が姉となるのだろうが、その方が良いだろう。

それとだ。俺の事はお兄ちゃんと呼ぶようにとマリーダはリゼには言われていたが、難易度が高そうだ。

マリーダは最初は俺の事をドクターエドなんて呼んでいたが、リゼの懸命の努力で、半年後に漸く出た呼び方がエド兄(ニイ)だった。

普通にエドでもいいんだけどな。そこはどうしてもリゼが譲らなかったようだ。

 

リタについては、もうしばらく入院が必要だ。

俺の呼び方は普通にエド先生って呼んでたんだけどな、何故かお兄ちゃん先生にいつの間にか変わって、そのうちにお兄ちゃんになっていた。

まあ、本人がそれでいいって言うんだったらそれでいいんだけどよ。

24歳だが、どう見てもリゼ達と同じぐらいの年に見えちまう。

よく考えれば、ローザと4歳しか違わないはずなんだがな。

 

 

つい1週間前、俺の家に珍しい客が訪れる。

連邦軍最強の艦長と呼び声が高いあのブライト・ノアだ。

プライベートで俺んちに来た。

アムロが俺んちに呼び寄せたんだがな。

アムロがここに居ついている経緯を話すのに、俺もいた方が良いんだと。

俺んちは喫茶店やサロンじゃねーんだぞ。

まあ、俺がアムロを拾ってきちまった責任もあるからな。

ブライト・ノアは俺の嫁さん…ローザを見て細い目を大にしてひん剥いていたな。

しばらく固まっていたのは印象深い。

どうやらブライト・ノアは、グリプス戦役時代にハマーン・カーンと会ったことがあるそうだ。

さらに間が悪いことに、レッドマン…キャスバルまで俺んちに来るもんだから、ブライト・ノア……腰砕けで、ソファーからズレ落ちてたぞ。

 

俺の事を「あなた様はどのような御仁なのですか?」なんて恐縮な感じで聞いてきたが、俺は唯の街医者なんだがな。

こいつ等は元超有名人だが、俺は元連邦軍軍医だったってだけの一般人だ。

 

此処での事は、ブライト・ノアの心の中だけで収めてくれると……。

そう言えば、この事が公になれば、世界がひっくり返るとか大げさな事を言っていたぞ。

 

この後、アムロはブライト・ノアをトラヴィスのおっさんの会社に連れて行ったらしい。

……トラヴィスのおっさんはブライト・ノアと渡りをつけられた事に喜んでいたとか……。

まあ、おっさんならそうだろうな。

 

ブライト・ノアはアムロを連れ戻すつもりで来たようだが、アムロ自身は連邦に戻るつもりは無いそうだ。

今後もここで暮らすつもりだと。

 

 

 

 

 

昼下がり……

俺はローザに散歩に誘われ、ぶらぶらと近所の畑の土手道を歩く。

ローザは俺の手を握り肩を寄せてくる。

歩きながらの会話などは無い。これは何時もの事だ。

ローザは昔から必要最低限の事しか口にしない。まあ、言うならば無口な方だ。

 

暫く歩いたところで、農業用貯水池の畔にあるベンチに並んで座った。

ここは昔、ローザのリハビリがてらの散歩のためによく来た場所だ。

こいつを拾って来て既に7年と3カ月か……。

 

あの頃は今よりも更に無口でいつも仏頂面だったか。しかも俺の事は藪医者呼ばわりだったな。

まあ、仏頂面はあんまり変わってないが、今ではちょっとした表情の動きや仕草で何を考えてるかだいたい分かる。……伊達に7年も一緒に過ごしていない。

最初は患者から妹となって、そして今や夫婦か……。

7年前の俺は想像もしなかったか……いや、1年半前までもそうだったな。

人生何があるかわからんな。

普段は全然意識はしてないが、ローザは嘗てネオ・ジオンを率い鉄の女なんて呼ばれたあのハマーン・カーンだった。

ネオ・ジオンを率い地球連邦に宣戦布告をし、戦火を拡大させた大罪人だ。

そして内紛の末、討たれた。悪党の末路というものだ。

だが、俺にとってはそんな事は今更どうでもいい話だ。

こいつの過去がどうだろうが、今は俺の嫁で大切な家族だ。

過去も一緒に背負ってやるさ。

 

ローザはぼーっと空を見上げながら考え事をしていた俺の手を再び取り、少々緊張した面持ちで話し出す。

「エド……そのだ。聞いて欲しいことがある」

 

「なんだ?改まって……アレか?約束だとか、話の続きだとか、聞いて欲しいことが有るとか無いとか言ってた奴か?俺にはさっぱり心当たりが無いんだが」

今回のラプラスの箱をめぐる紛争に赴く前に、そう言えばそんな事を言ってたな。

 

「結婚を聞き入れてくれこうして夫婦に……私と共に人生を歩んでくれることを選んでくれた。私にとって過ぎたる願いを聞き届けてくれ、今はその幸せをかみしめている……それは何ににも変えられない価値があり、どれだけの贅沢か……だが……もう一つ欲が出てしまった」

 

「そりゃあお互い様ってもんだ。まあ、俺は何もしてないがな。……で、その欲ってなんだ?何かやりたいことが出来たか?それとも何か欲しいものが出来たとかか?」

 

「……そうだ。欲しいものができた」

 

「言ってみろよ。言うだけだったらタダだしな。……俺に出来る範囲だったら協力してやるぞ」

……モビルスーツが欲しいとか言わねーだろうな。

いや、モビルアーマーか。あいつが先般のラプラスの箱紛争で乗ってたのは。

流石にそれは無理だぞ。

トラヴィスのおっさんに頼んでって、それはないか。

 

「ほ、本当だな?」

ローザの表情は明らかに喜色を浮かべていた。

 

「まあ、マジで俺で出来る範囲だぞ。それなら今度の結婚記念に考えておくが」

 

ローザは少々顔を赤らめ、気恥ずかしそうな顔を俺に向けてから俯向き加減になり、そして言葉を途切れ途切れ口にする。

「そのだ。……子供がほしい。……クロエを…クロエの子を見て羨ましく思うのだ。………私もエドの子が欲しい………」

最後は消えてなくなりそうな声であったが、その願いは俺の耳にはちゃんと届いた。

 

 

 

 

 

時は流れ……

 

宇宙世紀0097年11月

リゼの提案で俺達家族全員で街の写真館に写真を撮りに行くことになった。

珍しくきっちり正装してな。

 

そしてカメラの前に皆で並ぶ。

 

俺、エドワード・ヘイガー 37歳

妻、ローザ・ヘイガー 30歳

妹、リゼ・ヘイガー 20歳

義妹、オードリー・バーン 17歳

娘、クェス・ヘイガー 17歳

いつの間にか妹となったリタ・ベルナル 25歳

必然というかそのまんまというか妹となったマリーダ・クルス 19歳

 

甥っ子というかそんな感じになったバナージ・リンクス 18歳

そして、今ローザの腕に抱かれてる幼子ミーナ・ヘイガー3カ月…俺とローザの子だ。

 

ローザはアンティーク調の椅子に座り、腕に抱くミーナに微笑みかける。

俺はそのローザを後ろから支えるように立つ。

俺の右にはクェスが悪戯っぽい笑顔で俺の腕を取り、そのクェスの右にバナージが緊張気味に立っていた。

俺の左に終始笑顔のリゼが、さらにその左にマリーダ。

椅子に座るローザの右にオードリーが中腰でミーナを抱くローザの腕を支える。

ローザの左にはリタが中腰で正面を向く。

 

そんな家族の集合写真が出来上がった。

 

 

 

俺は一年戦争で家族も恋人も何もかも亡くした。

だが、一年戦争の縁でトラヴィスのおっさんやドリスと出会う事ができた。

トラヴィスのおっさんの紹介で俺はこの新サイド6、15番コロニーに移りすみ、リゼに出会い、そしてローザを宇宙で拾った。

その縁がさらに廻りだし、オードリーにクェス。

その後はリタ、マリーダ、バナージとも出会う。

そして、俺とローザの間に生まれたミーナ。

皆、生まれや育ちは違うが、今じゃ俺の大切な家族だ。

 

 

多くの友人や仲間にも恵まれた。

トラヴィスのおっさんとドリスは言うまでもない。

軍医時代にはウラキやキース達に、モズリー先生。

トラヴィスのおっさんの息子のヴィンセント、そしてアンネローゼにクロエ。

アムロとキャスバルは宇宙で拾ったのがきっかけだったな。

このコロニーの連中も俺によくしてくれた。

 

 

そんな連中との何気ない日々は、俺の心を満たしてくれる。

これが幸せというものなのだろう。

 

 

宇宙世紀も100年の節目に近づく。

激動の時代を切り抜け、漸く平和に向かおうとしていた。

いや、嵐の前の静けさなのかもしれない。

 

だが、家族と仲間達がいれば、きっと乗り越えることができる。

俺はそう確信している。

 




ハマーン様には幸せになって欲しいですね。

注釈マリーダとリゼの年の差は、エドがリゼを引き取った日、1月16日を誕生日にしてしまったため。数か月の差が出てしまった。

後日談の件は
一つは、バナージ視点
もう一つは、秘密です。
その他、もうちょっとあればいいなと思いますので、アンケートで希望を募りたいと思います。
よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

蛇足編
ローザ編①ローザの苦節


感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

蛇足編トップバッターは皆さんのアンケートで一番多かったローザ編です。
蛇足編は時系列は前後したりしますのでご了承を。
今回のお話は47話『番外後日談:ラプラスの箱前編』の裏話となります。

蛇足編で見て見たいお話のアンケート結果は……
ローザ様甘々生活見て見たい。 778 / 38%
マリーダさん。この環境に適応できるのか? 389 / 19%
オードリーの学校生活見て見たい 244 / 12%
クェス、パパに甘えたい。 169 / 8%
アムロかキャスバル…… 477 / 23%

アムロとキャスバルが意外と得票が高かったですね。
やはり主人公ってところですか。


宇宙世紀0094年2月

第2次ネオ・ジオン抗争、俗に言うシャアの反乱から一年が過ぎ去る。

新サイド6、15番コロニーの片田舎の教会では結婚式が執り行われていた。

 

トラヴィス・カークランドとアンネローゼ・ローゼンハイン。

2人の年齢はトラヴィス54歳、アンネローゼが30歳と24歳もの差がある年の差夫婦が出来上がった。

アンネローゼは既に両親も親族も亡くなっていたため、エドがアンネローゼの父役となり、バージンロードを歩くことに……

 

 

その光景を最前列の席で見ていたローザは、祝いの席にはそぐわない上に、珍しくもため息を吐いていた。

 

ローザはトラヴィスとアンネローゼの結婚に反対や異論などは無い。

アンネローゼとは同じ屋根の下で3年以上暮らしてきた仲だ。

友達というよりも家族に近い関係だ。

流石に24歳上のトラヴィスと結婚すると聞いた時には、少々口を挟んだのだが、今では祝福する立場だ。

 

だったら、何故ため息を……

 

ローザの目は正装するエドの姿を追い、再びため息を吐く。

 

ローザはシャアの反乱以降、明確にエドを異性として意識し、この1年間、エドにアプローチを続けたのだ。

だが、全く進展しない。

いや、それどころか気づかれもしていない節もある。

 

アンネローゼの手を引いてバージンロードを歩くエドの姿を見ると、ため息の一つや二つ吐きたくもなる。

 

 

 

 

ネオ・ジオンを指揮し、地球連邦に挑んだ鉄の女と呼ばれたあのハマーン・カーンは、エドワード・ヘイガーに恋をしていたのだ。

いや、夫婦になる事を望んでいた。

5年も一緒に暮らしていたのだ。

夫婦になるまでの過程である恋人や彼氏彼女の関係などはとうに通り越した深い関係なのだ。

ただ、それが義理の兄妹という形だが。

 

最初はエドに無理矢理妹にさせられ、渋々その立場に収まっていたローザだったが、そのうち妹の立場も悪くないと思い、エドとの生活を楽しんでいた。

時が経ち、エドに対し、家族として、妹として全幅の信頼を置くまでとなる。

そして、さらにエドと生活を共にするうちに、徐々に心に靄がかかりだす。

それが恋心だと気が付くが、表に出す事はしなかった。

自分はハマーン・カーンだから、大罪人だからと……

 

 

だが、シャアの反乱時に家を出て、囚われの身となり、死を覚悟していた時だ。

牢屋の中で思い出すのは、エドとリゼとのあの家での穏やかな生活の日々だった。

あの家に帰りたい……エドにもう一度会いたいと……

そんな時、エドの親友であるトラヴィスやドリスらが現れ助けられる。

 

その後、無事家に戻り、エドと再会を果たし、エドに抱き留められる。

その安心感と充足感に、ローザは秘めた思いを抑えることが出来なくなる。

 

ずっと一緒に居たい……ずっと触れて居たいと……

 

だが、ローザは自分の思いを表現するすべを知らない。

ましてや、自分に似つかわしくもないこの感情を……。

 

ローザはエドに甘えるようになるのだが……それが不器用過ぎた。

エドの手を握りに行く程度のものだったのだ。

触れていたいという思いが率直に出ているのだが、それではエドには何も伝わらない。

 

エドにとって、ローザは飽くまでも妹なのだ。

妹が手を握って来ても、エドにとって兄妹のコミュニケーションの一つ程度にしか思われないだろう。

 

そして、ローザはさらに気持ちが焦る。

ローザにとって予想外な事態が起こっていた。

嘗て、シャア・アズナブルと呼ばれた男を警戒しているのだ。

シャアはエドに命を助けられ、レッドマンと名を変え、このコロニーで生活をし出していた。

ローザはそのレッドマンがエドに接する態度が最初は気にくわない程度だった。

エドに対して横柄な態度をしめしてるわけでもなく、殺意があるとは到底思えない。

だが妙に馴れ馴れしいのだ。

ある時、診療所の常連の自分より若い女性連中が、エドと接するレッドマンを見て言うのだ。

レッドマンにはエドに秘めたる愛があると……。

ローザはその話に耳を傾けていた。

(奴はエドを狙っているだと?バカな)

ローザは否定してみたものの、ある事を思い出す。

時折見せるレッドマンがエドを見る目が尋常じゃないことに……

ローザが昔読んだ帝王学の本には英雄色を好むというものがあった。

しかも、過去の英傑は男色家が異様に多い事もその時知ったのだ。

レッドマン、いやシャア・アズナブルは間違いなく英傑の一人であろう。

(エドの身が危ない)

エドにそれと無しに、レッドマンに気を付けろと忠告したりしたのだが、全く取り合ってくれないのだ。

ならば、自分が守るしかない。

何よりレッドマンより先にエドと結ばれば、万事解決なのではないかと。

 

ローザはそんな思いを秘めていたのだった。

 

 

ローザはトラヴィスとアンネローゼの結婚式が終わり、本格的に動き出す。

今迄の自分のやり方では、エドに振り向いてくれないどころか、全く気が付かない、埒が明かないと……

 

 

そこでローザは、クロエの所に相談に行く事にした。

クロエはあの堅物のヴィンセントと結ばれ、今は1歳になる子も設けていたのだ。

きっと何らかの参考になるだろうと。

それとなしにヴィンセントとクロエの結婚への経緯を聞く。

 

「えーっと、わたしはずっと彼の後ろについて行って、彼の隣でいつも微笑んでいたの。彼がわたしをどう思おうと彼が好きだから……10年間そうして、そしたら彼がわたしを好きだって、結婚したいって……」

クロエは我が子を腕に抱きながらそうヴィンセントとのなり染めを話す。

 

どうやら、クロエはローザと同じレベルの事をやっていたようだ。

(10年か………ヴィンセントで10年………あの鈍感のエドならば、それでは済まないだろう。それこそ30年や50年、いや一生かかっても不可能だろう)

クロエの話は全く参考にならず、肩を落とすローザ。

 

それに、今エドと接する時間は1年前に比べ減っていたのだ。

クェスとオードリーも共に暮らすようになってから、夕食前後から、エドはクェスとオードリーと接し、コミュニケーションの時間としていたのだ。

特にクェスはエドから離れようとしないのだ。

クェスとオードリーを引き取る際に、エドとローザはある約束事を決めていた。

必然的に嘗てハマーンだったローザがミネバ・ザビであるオードリーを優先的に気を留めてしまうだろうから、エドがクェスを見るようにするという事だった。

最初の内は、エドがクェス、ローザがオードリーという形にはなっていたが、オードリーはエドに懐くクェスを見て、羨ましく思っていたようだ。

オードリーは父の顔も知らずに育った。父親を求めるのも致し方が無いだろう。

結局、エドが二人ともの相手をする事になったのだ。よって、ローザがエドと接する時間は以前に比べ随分と減ってしまったのだ。

それでもクェスとオードリーが中学校に行っている間の、午前から夕方までは仕事のパートナーとしてエドと接しはしている。

だがそれは、飽くまでも診療所の医者と看護師の関係としてだ。

それはそれで充実してはいたのだが……、ローザとしては物足りなく思う。

 

以前に比べエドとの直接の接触が少なくなった上で、今のやり方では、到底願いはかなわないだろうことはローザにも理解できていた。

 

 

次に訪れたのは、アンネローゼの部屋だ。

アンネローゼは結婚したのだが、月の半分ぐらいは、この家の2階に住んでいた。

なんでも、居心地が良いかららしい。

 

アンネローゼにも自分の秘めた思いを語らずに、トラヴィスとアンネローゼの馴れ初めを聞こうとしたのだが……

 

「ふぅ、ローザ姉さん。バレバレよ。エド先生の事が好きなんでしょ」

アンネローゼはため息一つ吐いてから、ローザの悩みをズバリ言い当てたのだ。

 

「な、何の事だ。何故そこでエドが出る。私はただ興味本位で聞いただけだ」

ローザは思いを言い当てられ、動揺を隠しきれていなかった。

 

「はぁ、あのねローザ姉さん。ローザ姉さんがエド先生を兄さんとしてじゃなくて、男性として好きだってことは、知ってるのよ」

 

「何を馬鹿な、私とエドは義理とは言え兄妹だぞ。それにだ。家族としては信頼していてだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「気が付かないと思ってるの?みーんな知ってるわよ。トラヴィスはそうだし、リゼちゃんだって、近所の奥様方もそうよ。あのクロエでも気が付いていたんだから、もしかしたらオードリーやクェスも気が付いてるかもしれないわよ。気が付いていないのはエド先生本人だけなんだから」

 

「な、なな何を……」

 

「ほら、エド先生を落とすんでしょ。だったら素直にならないと。今のままじゃ全然だめよ」

 

「う…うう」

ローザの顔は真っ赤だった。

 

「ほら、エド先生と付き合いたいんでしょ?」

 

「……そ、そうだ」

ローザは真っ赤な顔のまま俯いて、静かに認めた。

 

「素直なのはよろしい。でもね。エド先生は難物よ。私がアプローチしても全然なんだから」

 

「!?」

ローザはアンネローゼがエドにアプローチしていたという話に驚いていた。

 

「そんなに驚く事かしら?まあ、過去の事だから安心して、今はトラヴィス一筋だから」

 

「……」

 

「そうね、エド先生は普通じゃダメよ。私達の事は全くと言って女扱いをしてないんだから。本気で妹扱いよ。だから先ずはローザ姉さんを女だと認めさせないといけないわ。そうね……私に良い案があるわ。これならば鈍感なエド先生もいちころよ」

そう言ってアンネローゼはローザにエドを落とす案を授けたのだ。

 

 

そしてローザはアンネローゼの案を実行すべく機会を伺う。

 

ヘイガー家では、浴室を使う順番が凡そ決まっていた。

最初にクェスかオードリー、次にリゼかローザ、そして最後にエドだった。

普段2階のシャワールームを使ってるアンネローゼもそこそこの頻度で3階の浴室を使用するのだが、それでも最後はエドだった。

 

そして、クェスとオードリーが浴室を使い終わり、リゼに先に入ってもらい、ローザがエドの前に浴室に入る。

脱衣場と浴室に鍵をかける仕様になっているが、普段鍵をかける事は殆ど無い。

一応ノックで確認する程度だ。

 

ここまで言えばわかるだろう。

そう、アンネローゼがローザに授けた案とは……

脱衣場で裸のローザにエドが出くわして、ローザの裸に見とれて女として認識させよう作戦だ。

 

ローザはこの案を聞いた時には、随分と躊躇したのものだ。やはり好きな男でも、いや、好きだと意識した男だからこそ、裸を見られるのが恥ずかしい様だ。

所詮エドも男だ。ローザのモデルのようなバランス良いプロポーションの裸を見たのなら、ドキドキするだろうと。

アンネローゼの説得に応じ、ローザは決意した。

 

ローザは体を丁寧に洗った後、脱衣場でバスタオルを巻き待機する。

エドが脱衣所に入ったら、バスタオルを落とし裸になる作戦だ。

流石に恥ずかしいのかパンツだけは着用していた。

 

打ち合わせ通りアンネローゼがエドに声をかける。

「エド先生、お風呂空いたみたいよ」

 

「そうか?ローザが入ってなかったか?」

 

「もう上がって、自室に戻ったみたい」

 

「そうか」

エドはそう言って、リビングから脱衣場へ向かい、脱衣場の扉を一応ノックをしそのまま入って行く。

 

そして……

エドが脱衣場に入り、ローザは勇気を振り絞って、体を撒いていたバスタオルをワザと落とし、バランスのいい見事なプロポーションの肢体をさらす。

 

しかし、エドの反応は

「ローザ、入っていたのか。返事位しろよな。まあ、いいか」

 

エドは何もなかったかのように、ローザの裸を余所に自分はさっさと服を脱いで、素っ裸になって浴室の扉を開けて入ろうとする。

そんなエドの姿に逆にローザが固まってしまい、声を上げる事も身動き一つもできずにいた。

 

浴室に入り際にエドは……

「おまえ、クマさんパンツはここだけにしておけよな。好きな男の前ではやめておいた方が良いぞ」

そう言って浴室の扉を閉めたのだった。

 

ローザはしばらく身動きが出来ず、浴室の扉を眺めていた。

浴室からエドの鼻歌が聞こえ……

 

ローザが顔を真っ赤にして、自室に逃げ込んだのは言うまでもない。

そして、その日を境に、ローザはクマさんパンツを二度と着用しなかった。

 

結局、アンネローゼ発案のエドに女と見てもらうための、偶然裸を見せつける作戦は失敗した。

 

(女として全く見られていないのか……胸が足りないのか?……それよりもエドの体、その…意外と引き締まっていた……いや、私は何を考えているのだ)

その後しばらく、羞恥心やら、腹立たしいやら、悔しいやらで、エドと真面に話すことが出来ず、気落ちをする日々を過ごす。

 

 

そんなローザに近所の奥様方、アンナさんを筆頭に声をかけた。

「ローザちゃん。この頃元気がないね。何か悩みでもあるのかい。……たぶんだけど。エドの事かい?」

 

「……ああ」

ローザは心ここにあらずという風に生返事をする。

 

そこから、奥様方連中はローザを囲み、あれやこれやと話し合う。

どうやら、アンネローゼが話した通り、近所の奥様方全員が、ローザがエドの事が好きだと周知の事実であったようだ。

 

「男の心をつかむにはまずは胃袋からって、昔から決まってるのよ。エドに美味しい物を料理してあげて、うまいって言わせればいいの。お袋の味っていうのかしら、地味な料理の方が効果が高いわ。エドの好物でそういう物を作ってあげるのよ」

奥様方が出した結論は、美味しい物でエドの男心を鷲掴みにする。いわば餌付け作戦だった。

 

ローザの心に再び希望が湧きあがる。

エドの好物と言えばカレーであった。

今では甘口カレーがヘイガー家の定番となっていたが、以前エドがちょっと辛い方が好きだと言っていたのを思い出す。

 

ローザは早速、晩御飯用にカレーを仕込む。

エドの分だけ、中辛程度の辛さに味付けをする。

 

「どうだ」

夕飯時、少々自慢顔でエドの前に仕込んだ中辛カレーをテーブルに出す。

ローザは個人レストランのオーナーシェフであるヴィンセントに、カレーの中辛のレシピを家庭的にアレンジしたものを教えて貰い、4時間かけて仕込んでいたのだ。

 

「おお?なんか俺のだけカレーの色が違うぞ?」

 

「新たな試みを入れた試作品だ」

 

「俺は試食係かよ。まあいいか、そんじゃ、いただきますっと」

 

「ど、どうだ」

ローザは若干緊張気味に聞く。

 

「うまいな。中辛か。俺好みだな」

エドのこの言葉を聞き、ローザは心の中でガッツポーズをとっていた。

 

だが、エドはその後に意外な言葉を続けた。

「だが、やっぱ、いつものカレーがいいな」

 

「どうしてだ」

ローザの表情が曇る。

 

「いやな。お前が作る超甘口カレーさ、5年も食ってたらそれがこの家のカレーというかだ。それを体が欲しくなるんだよ。だからいつものお前が作る甘口カレーが俺は好きだな」

エドはニカっとした笑顔をローザに向ける。

 

「!?……そ、そうか。い、何時ものでいいのか」

さらにローザにとって予想だにしないエドの言葉に、うれしいやら恥ずかしいやらの感情が沸き上がり、慌てていた。

 

「ん?なんだ、顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」

エドはとどめに、ローザに顔を瑞っと寄せ、右手でローザの左手首を抑え、左手でローザの額に手を当てて、熱を測りだした。

 

「な、何でもない!熱などない!」

ローザはつい、エドの手を振り払ってしまった。

 

結局、奥様方発案のエドの胃袋を掴む作戦は、不発に終わったが、ローザにとって嬉しい誤算となった。

 

 

エドはその後も相変わらずであった。

昔からエドがトラヴィスらと遊びに行って帰って来ると、女の香水の匂いをさせていたのは、度々あった事だったのだが、それすらも焦り、許容できなくなっていたのだ。

時間だけが無残にも進んでいき、一行に進行しないエドとの関係に、激しい焦りを覚え、もはやなりふり構っていられなくなっていた。

 

 

そしてついにはドリスに連絡をつけたのだ。

ローザにとってドリスはエドとの関係において、あまり相談したくない相手であった。

ドリスはエドの昔の女だと認識していたからだ。

だが、唯一エドを落としたと言える人物でもある。

 

ローザとしては恥を忍んで、ドリスに相談したのだ。

 

「あー、やっぱりそうなるわよね。エドは気が付かないわよね。色恋沙汰には恐竜の神経並みに鈍いわよね。ましてや妹と認識されてるあなただと余計にね。わかったわ。ドリスお姉さんがとっておきの方法を教えてあげる」

 

ローザはドリスにその方法を聞いて、流石に躊躇したのだが、ローザは暫く悩んだ末に、それを実行することにする。

こういう強引なやり方は、エドに対して取りたくなかったのだ。

 

ドリスに教えて貰った方法とは、『寝込みを襲え』だ。

ドリスが昔、エド本人に使い成功した方法だ。

エドは体を鍛えているが、戦闘センスは壊滅的なため、コツさえつかめば女の身のローザでも組み敷けると……

 

ローザは機会を待った。

リゼは今日修学旅行で家に帰ってこない。

たまにエドの寝所に潜り込もうとするクェスは同室のオードリーに頼んで見張って貰っている。

 

そして……エドが寝静まった頃を見測り、エドの部屋へと忍び込む。

パジャマは薄手のネグリジェ。

これはアンネローゼのチョイスだ。

その下にはエドが誕生日に買ってくれた大人の下着。

 

一応エドが寝ているベッドの様子を確認する。

クェスはいないようだ。

 

エドが規則正しい寝息を立てて、静かに眠っていた。

ローザは暫くエドの寝顔に見入ってしまった。

普段は少々目つきが悪いエドだが、こうして寝静まった顔を見ると可愛らしいものだと。

 

意を決して、ドリスに教えてもらった先手必須の方法を実行しようとする。

シーツを捲って一気にエドの上に馬乗りになる作戦だ。

緊張感で汗を滲ませる。

ローザはネオ・ジオン時代の最終決戦よりも緊張していた。

 

シーツを剥ぎとろうと、手を掛けたのだが……

 

「何やってんだお前?」

エドの目が開き、ローザを見ていたのだ。

 

ローザはそのまま強引に事を成せばよかったのだが、そこで慌ててしまったのだ。

「な……そ、そのだ」

 

「ん?お前、顔が赤いぞ、しかも冷や汗かいてるのか……おい、大丈夫か!?」

エドはシーツに手を掛けたローザの手を取り、一気に立ち上がる。

 

「い、いやそれはだな」

 

「それはじゃねーー!ちょっとこい!お前無理してんじゃないのか!?」

エドはそう言って、ローザを強引に1階の診療室に連れて行く。

 

「ち、ちがう」

 

エドはローザを診察し……

「体には異常はない。……すまない。お前がそんなに悩んでいたとは……」

エドはローザに謝りだす。

 

「………」

その言葉を聞いて、ローザは分かってくれたとホッと息を吐く。

漸くエドに自分の思いが伝わったと……

 

しかし……

「オードリーやクェスの事で、いや、あいつ…レッドマンの事でか、……ダメだったらダメだと言ってくれ……俺はお前に知らず知らずに負担をかけちまってるかもしれないとは危惧をしていたが、そのままにしちまってた。俺はお前に甘えちまっていた。すまん」

エドはローザに自分の気持ちを吐くが、ローザが思っていた事とは全く異なる内容だった。

ローザが精神的に負担が掛かってるのは主にエドの事なのだが……。

そんなエドの気持ちや気遣いに、自分が行おうとしていたことに恥じる一方で、そんな気遣いができるならなぜ分かってくれないのかと腹立だしいやらと、感情を綯交ぜるローザ。

 

「……ふぅ、別に負担とは思っていない。少々エドの顔を見たくなっただけだ」

ローザは精いっぱいの言葉をエドに掛ける。

 

「そうか、ならばいいんだが」

エドは全く気が付かない。

 

結局、ドリス発案のエドを強引にものにする作戦は失敗する。

 

 

 

もはや、手詰まりなのかと……ローザの顔はますます曇りがちになっていく。

 

だが、そんなローザを見かねて周りの人間が立ち上がった。

そのそうそうたるメンバーは……

トラヴィス・カークランド54歳元連邦軍中尉にて、現在も裏では民間軍事会社スレイブ・レイスとして活動。

ドリス・ブラント38歳元連邦軍軍曹にて、世界を股に掛ける世界一の女ハッカー。

アムロ・レイ30歳元連邦軍大尉。連邦軍最強のパイロットにして、最高峰のニュータイプの一人。

ヴィンセント・カークランド32歳元マルコシアス隊の小隊長にて、ネオ・ジオン時代はその堅実な働きにより少佐まで上りつめた。

アンネローゼ・ローゼンハイン30歳元マルコシアス隊のニュータイプ。

クロエ・カークランド28歳元連邦軍の強化人間、ネオ・ジオン時代は中尉。死神と恐れられた凄腕のパイロット。

コウ・ウラキ現役の連邦軍大尉30歳、モビルスーツの操縦技術は一級品。

モーラ・キース現役連邦軍大尉35歳、現在オークリー基地の整備総長、皆の姉御。

そして、リゼにオードリー。ただクェスだけはまったく気乗りじゃなかった。

その他、数々の協力者が立ち上がり、エド包囲網がここに完成した。

 

 

そして……。

ローザのハマーンとしての実の妹、セラーナと会う事に託けて、エド包囲網作戦が実行される。

 

今のローザには、親身になって付き合ってくれる友人が多数いる。

ネオ・ジオン時代は、本当の意味でハマーンに向き合ってくれた人間はいなかった。

それもこれも、エドのお陰であった。

 

 

流石のエドも、この包囲網から抜け出す事は出来ず、遂にエドが落ちた。

宇宙世紀0095年4月

遂にローザはエドと結ばれる事に……

エドと出会ってから6年と3カ月だった。

 

 

 

宇宙世紀0097年4月現在。

ローザはキングサイズのベッドで並んで静かに寝ているエドの寝顔を眺める。

改めて幸せというものはこういうものだと感じるローザ。

……そっとエドの手を握り、自分も眠りへとつく。

 




次はたぶんバナージ編です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マリーダ編①マリーダの困惑

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今年も最後ですね。
来年も皆様にとって良い年である様に……

さて、早速ですがすみません。
バナージ編と言っていたのですが、急遽マリーダ編に変更いたしました。
バナージ編はマリーダさんやオードリーに関わっちゃうので、最後の方が良いのかなと。

因みにレッドマンの結婚相手についてのアンケートですが……
今のところナナイさん40%越えで他を引き離してます。
2位になぜかエドが……リタよりもエド?
どういうとなのでしょうw





宇宙世紀0096年3月

私は今、とんでもない艦にいる。

マスター(ジンネマン)に同行して、グワンバン級戦艦に乗り継いだのだが、そこにはかつてない程の巨大なニュータイプの力とプレッシャーを感じた。

それはあのフル・フロンタル大佐以上だ。

それが少なくとも3人以上……。

 

一人はローザ殿だ。マスターが頭を下げる程の御仁らしい。

ジオンの真の統領であるミネバ・ラオ・ザビ殿下の姉君だそうだ。

かつて、どこかで感じたような気がするが、それは気のせいだろう。

目の前の方からはその時感じた仄暗い感じは全くしない。それどころか陽の気配を感じる。

さらに、ニュータイプとしても凄まじい力を感じる。

もう一人はレッドマンと名乗る御仁だ。マスターはこの御仁を見た際、大層驚いていた。

いや、ローザ殿の時もそうだが、それこそ声を出せない程だ。

雰囲気がどこかフロンタル大佐と似ているが、この御仁からはそれ以上のとてつもない何かを感じる。

そして……アムロと名乗る御仁。

この方は連邦最強のパイロットあのアムロ・レイだ。

尋常じゃない力を感じる。

3年前の第2次ネオ・ジオン抗争時に亡くなったと聞いていたが、先ずは間違いないだろう。

これ程の力は二人といない。

 

それを束ねるトラヴィス・カークランド殿は、マスターと昵懇の間柄だそうだ。

歴戦の戦士の雰囲気を持ち、どこか鋭いナイフを懐に幾つも隠し持っているようなプレッシャーを感じる。

マスターからはミネバ・ラオ・ザビ様を守る真のナイトだと聞いている。

 

そして……ミネバ・ラオ・ザビ様だ。

此処では偽名を使いオードリーと名乗っているらしい。

心地よい風を感じる。姫様自身もニュータイプだろう。

 

後程会ったクェスという少女は姫様とは気安い関係らしい。

しかも、彼女自身潜在能力を秘めたニュータイプだ。

 

バナージ・リンクスという少年。

あのコロニーで一度は偶然に出会い、その後ユニコーンガンダムで現れ、戦場を駆け巡った少年だ。

彼からもニュータイプとしての凄まじいまでの潜在能力を感じる。

 

 

その他にも、この艦からは力強いニュータイプの力や歴戦の戦士の匂いがそこら中に……蔓延っていた。

 

私はこの艦に居るだけで、心がすり潰されそうになる。

だが、マスターが横についていただいているお陰で、何とか耐えることが出来た。

 

 

ガランシェール隊がもし、この方々と敵対していたとしたらと思うと、ぞっとする話だ。

間違いなく、一瞬で滅んでいた。

私のクシャトリヤでは、まったく歯が立たないだろう。

 

これは袖付きの全勢力をもってしても対峙できるものではない。

確認できた戦力だけでも、大型モビルアーマーは2機はある。

少なくともガンダムタイプが3機以上。ゲルググタイプのカスタマイズ機やギラ・ドーガ系やら、さらには見た事も無い機体が数機見られる。

 

いったい何なのだろうか、ここは。

マスターにそれと無しに聞いてみたが、味方だとしか教えてはくださらない。

いや、マスター自身も私と同じく動揺してるようにも見える。

 

 

 

 

 

そして一週間が過ぎ、すべてが終わった。

いや、一方的に終わらせた。

フル・フロンタル大佐の超巨大モビルアーマーネオジオングは、最新サイコミュ兵器のサイコシャードを搭載し、ニュータイプ能力をいかんなく発揮させ、兵器やモビルスーツを無効化させたのだが……。

 

相手が悪かった。

ローザ殿の巨大モビルアーマーβ・アジールの高速機動からの凄まじい数のアウトレンジファンネル攻撃。

レッドマン殿のユニコーンガンダム3号機はサイコシャードの影響を全く受けつけずに、常人では考えられない反射行動での近接攻撃。

アムロ殿のνガンダムはフルサイコフレームの光を帯びながら、ユニコーンガンダム3号機同様サイコシャードの影響を全く受けずに、中近接からの流れるような攻撃。

更に、ユニコーンガンダム1号機に乗るバナージは、このお三方から鍛えられ、たった1週間でパイロット技術を大幅に向上させ、このお三方について行き、攻撃を行っていた。

更には、ユニコーンガンダム2号機にのるクェスもニュータイプ能力を遺憾なく発揮し、フル・フロンタル大佐が操るネオ・ジオングに確実にダメージを与える。

 

………なんなのだこの光景は。

私は艦の護衛のため後方から、クシャトリヤの中でこの様子を見ていたのだが……。

まさに圧倒的だった。

 

これにまだ、アンネローゼ殿が操るニュータイプ用モビルアーマーノイエ・ジールⅡ改に歴戦の戦士が操るエース用モビルスーツ部隊が控えているのだ。

 

はっきり言って、連邦宇宙軍すらも打倒してしまうのではないかという戦力だ。

 

ネオ・ジオングは1分も経たないうちに、崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

その後私は、マスターにトラヴィス殿やローザ殿について行くように命令される。

何でも、私を蝕んでいる強化の副作用を調整してくれる方の所に連れて行くとの事だ。

私はマスターとは離れたくは無いが、命令とあらば従わざるを得ない。

 

道中、アンネローゼ殿やミネバ様に聞かされたのだが……

私を調整してくれる方は、ミネバ様はおじ様とは仰っていたが、なんでもミネバ様の義理の兄にあたる方らしい。

要するにローザ殿の夫との事だ。

しかも、クェスの父でもあるようだ。

どう見ても、ローザ殿とクェスは年齢的にも容姿も親子には見えない。

私が介入する事ではないな。きっと事情があるのだろう。

 

ミネバ様の話される雰囲気から、随分とそのおじ様とやらに心を許されてる様だ。

 

さらにクェスはミネバ様に「パパに謝るのを手伝って」と、何度も声をかけていた。

ミネバ様は「多少の口添えはするわ。でもおじ様の心配を不意にしたクェスが悪いのですから、素直に謝る方が良いと思うわ」とそうおっしゃって諫めていた。

いったい何について謝らないといけないのかは不明ではあるが、2人の間柄も随分と気安い関係に見える。

 

そこで案内された場所が、ヘイガー診療所というところだった。

見たところ、住宅として大き目ではあるが、病院としては街の病院といったところか。

 

ちょっと待て、ミネバ様はここに住んでいらっしゃるのか?

どう見ても、ジオンの姫君であるミネバ様や姉君であるローザ殿にはそぐわない。

 

そこに中年の男が待ち受けていた。

私はアンネローゼ殿に促され挨拶を交わし、自己紹介を受ける。

「エドワード・ヘイガーだ。医者だ。歓迎する」

 

この方がローザ殿の夫で、ミネバ様が慕う義兄なのだろうか?

どう見ても普通の御仁だ。

 

だが、ローザ殿もミネバ様にも随分と慕われているようだ。

 

私は促され、この診療所の3階の居住スペースに案内される。

そこに待ち受けていた人物に驚きを隠せない。

……私と同じ顔の人物が微笑んでいたのだ。

こういう事か、私を見て、ミネバ様もクェスも「リゼ姉様に似てます」「雰囲気が違うけどリゼ姉そっくりね」と驚いていた。

トラヴィス殿一行も最初に私の顔を見た際に何らかの反応を示していた。

 

……彼女は私の同胞だ。

誰だ?私以外の同胞は7年前の戦いで散ったハズだ。

私と同じく、辛くも生き残っていたのか?

しかし、私達プルシリーズ特有の共鳴反応は無い。それどころか全く力を感じない。

どういうことだ。

 

「私はリゼ・ヘイガー。あなたは?」

 

「……マリーダ・クルス……お前は誰だ?」

 

「リゼよ。あなたとは後でじっくり話す必要があるわ。まずは朝食を用意したから食べてね」

そう微笑むリゼ。私にはその笑顔が眩しかった。

 

この後、ここでそうそうたる御仁達の中で朝食をとることになる。

なんなのだここは?

街の診療所ではないのか?

 

ローザ殿にミネバ様、トラヴィス殿にアンネローゼ殿、レッドマン殿にアムロ殿、リゼに……そして、涙目だったクェスとドクターエドワードが加わり和気あいあいと食事を開始する。

ガランシェール隊でも皆で食事を摂っていたが、それに通じる。

いや、もっと温かみがあるというか、皆、心の底からリラックスしてる様に見える。

 

いったい何なのだここは?

 

 

私は2階の一室をあてがわれる。

とりあえず、ひと眠りすることにする。

マスターはここで私の調整を行う様に言われた。

しかし、何故なのだろう?

ガランシェールにも調整用の設備があるというのにだ。

 

 

ひと眠りし、しばらく経ち、リゼがこの部屋に訪ねて来た。

私も話がしたいと思っていた所だ。

そしてリゼから先に語りだす。

「記憶はあやふやなんだけど、9年前は検体№24と呼ばれてたわ……」

 

「な!?」

24番だと、私達はプルツーを含め12人しかいないはずだ。どういうことだ?

しかも9年前とは?私達が目覚めたのは8年前のはずだ。その1年前に何があった?

 

「………私は多分なんだけど、数ある検体の中で不合格となって、廃棄処分される予定だった」

私たち以外に同胞が居たのか?しかも検体№24という事は少なくとも24体以上居たという事ではないか。

 

「………」

プルツーは成功素体。

私達は予定の基準値に達しなかった粗悪品だった。

それ以外にも……いたというのか。

そうか、リゼにニュータイプ能力が全く感じられないのは、全くの無能力者だったからか。

それで廃棄処分か。

 

「それでね。廃棄処分されるはずだったのだけど、助けてくれた人がいて、エドお兄ちゃんの所に連れてきてくれたの。そしたら、お兄ちゃんがわたしを抱きしめて、今から俺の妹だって」

 

「……」

 

「お薬をいっぱい飲まないと生きていけない弱い体だったけど、お兄ちゃんが治してくれて、今はまったく薬が要らなくなった。それで中学校と高校に行って、今じゃ大学に行きながら、自分のやりたい仕事についてるんだから」

………薬が要らない。という事は調整が要らないのか?バカな。ネオ・ジオンでもそんな技術は存在しない。どういうことだ?

それに一般人として生活しているだと?

なんなのだ?まったくなんなのだ!?

 

「落ち着いて、もう大丈夫だから」

私は取り乱していたようだ。リゼは私を優しく抱きしめてくれていた。

 

「……まったく……なんなのだ」

 

「大丈夫。お兄ちゃんが絶対、マリーダを治してくれる。普通に生きられるようにね」

 

「そんな事は不可能だ!!マスターでさえ無理だった!!普通に生きるとは何だ!!既に私の身は穢れ落ち!!そして朽ち果てるのみだ!!」

私はもがき叫んでいた。このどうしようもない感情はなんなのだ!?

 

「落ち着いて、落ち着いて……大丈夫だから、大丈夫だから……お兄ちゃんは世界一の名医なんだよ。全然そんな風に見えないけどね。マリーダの体も心もきっちり治してくれるから。私もローザお姉ちゃんやオードリーやクェスもここにいるわ」

リゼは私を強く強く抱きしめてくれていた。

 

私はそのリゼの体の温かみを感じながら、そのまま意識を失った。

 

 

数日たって、マスターが私の所に来てくれた。

そして、マスターが……私を娘と呼び、父と呼べと……

私は自然と涙が溢れでる。

 

その後、マスター……父はドクターエドワードに何度も頭を下げていた。

父が語るには、ドクターエドワードは強化人間の治療を数度成功させているらしい。

今も対面の部屋でその治療を行ってる患者もいるとか、私と比べ随分と軽いらしい。

確かに、対面の部屋からニュータイプの力を感じる。

そして……ドクターエドワードは信にたる人物だと。

さらに私の治療は2年以上はかかるらしい。

父と離れ、此処で生活をしなければならない事に、私は気落ちする。

そんな私を見かねて、お前の未来は希望に満ちている。安心しなさい。見舞いには必ず来ると……。

 

 

そして、ここでの私のまったく新しい生活が始まった。

 





マリーダ編は多分前後編の予定。
それではよいお年を……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バナージ編 学校に行く。

明けましておめでとうございます。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます

今回はバナージ編です。
でもギャグ回になってしまいました。
キャスバル編のような事にはなってませんのでご安心を。

前回のアンケート結果です。
ご協力ありがとうございました。
『レッドマンとなったシャアの結婚相手は誰が良いですか?』
リタ・ベルナル 319 / 18%
ナナイ・ミゲル 820 / 45%
リゼ・ヘイガー 97 / 5%
外伝系女性キャラ 173 / 10%
エド(精神的に) 410 / 23%

ナナイさんが圧倒的ですね。
エドさんが2位……
参考にさせていただきます。


オードリーと共にラプラスの箱をサイアム・ビスト…曾祖父から譲り受け、その中身を開放させた。

 

それはオードリーと共に成した達成感と共にオードリーとの別れを意味していた。

オードリーと出会い一緒に過ごしたのはたった1週間だった。

なのに、おれはオードリーに惹かれている。

その気高さに、その心の強さに、そして優しさに……

 

俺はこれからも一緒に居たかった。

だけど、彼女の立場がそうはさせてくれない。

オードリーは唯の少女じゃない。

その正体は一年戦争を引き起こしたジオンの忘れ形見、ミネバ・ラオ・ザビだった。

そして、彼女の周りには俺よりも頼りになる屈強な戦士や大人達が常に付いている。

姉のローザさんを筆頭に、トラヴィスさん、レッドマンさん、アムロさん、そしてクェス。

おれが入る余地などはないだろう。

 

でも……

「バナージ、わたしと行きませんか?」

オードリーのこの一言を聞き、俺は浮かれる思いをグッと抑え、後ろに控えていたローザさんの顔色を伺う。

ローザさんも美人だが、とてもオードリーと姉妹には見えない。

まるで似てない。

だが、ローザさんはオードリーの事を親身になり守ろうとしてる。

オードリーもローザさんに全幅の信頼を寄せ居ていた事は見ればわかる。

ユニコーンガンダムの操縦はローザさんやレッドマンさん、アムロさんに教えて貰い、随分と慣れることが出来た。

 

「うむ。巻き込んでしまった面もある。……いいだろう。但しだ。エドがダメだと言ったのならあきらめろ」

ローザさんはそう言って了承してくれた。

 

「ありがとうございます」

俺はローザさんに頭を下げる。

巻き込んだというのならば俺の方にも非がある。

今回の軍事衝突はビスト財団の内紛が原因でもあった。

俺は今迄知らなかったが、実の父がビスト財団の当主カーディアス・ビストだった。

その父からこの軍事衝突の発端となったラプラスの箱の鍵となるユニコーンガンダムを俺は受け渡される。

その父も、俺の異母兄にあたる人に殺された。

俺自身、何が何だか分からない内に巻き込まれてしまったが、血の繋がりで言えば、これは俺の問題でもあった。

 

ローザさんが言うエドとは誰なのだろう。

たまに、オードリーやローザさん、クェスの会話に出てくるのだけど。

 

「安心してバナージ、エドおじ様なら受け入れてくれるわ」

そう言ってオードリーは笑顔を向けてくれる。

 

エドさんはローザさんの夫で、オードリーの義兄で、さらにクェスの父親らしい。

ローザさんとクェスはどう見ても親子には見えない。

2人の会話も、どちらかというと姉妹のそれだ。

この3人がどういう関係なのかはいまいちわからないけど、信頼し合ってる家族であることは確かだろう。

 

 

俺はオードリーの家に厄介になる事になった。

オードリーの家と言っても、街の診療所を兼ねた一般的な家に比べると多少広いぐらいの家だった。

とても、ジオンの姫様が住むような家には見えない。

家主は医者のエドワード・ヘイガーさんだ。

ローザさんの旦那さんで、ローザさんよりもさらに年上の男の人だった。

オードリーや俺からすれば兄というよりも、おじさんと言った方がいい年齢だろう。

そして、俺よりも二つ年上で、エドワードさんの妹のリゼさん。

一緒にここに来たマリーダさんと顔がそっくりで俺は驚いてしまった。

聞くところによると、生き別れた姉妹だそうだ。

トラヴィスさんの奥さんのアンネローゼさんも元々この家に住んでいたそうだ。

今も、半分住んでいるような物なのだそうだが。

もう一人、入院中のリタ・ベルナルさん、見た目は俺達と同じぐらいに見えるけど、24歳なのだそうだ。

 

後で知ったのだけど、やはりリゼさんもクェスもエドワードさんの血縁者ではなかった。

この家族には血の繋がりなんてものは全く関係が無い様に思う。

何処の家族よりも仲が良く、皆お互いを信頼し合ってる。

 

 

ヘイガー家では、家事全般が当番制だ。

食事の用意のジャガイモの皮むきから、洗濯物、清掃まで、オードリーでさえ、毎日何らかの家事を行ってる。

俺の担当は主に玄関廻りと1Fのシャワールームとトイレの清掃と食事の手伝いだ。

清掃と言っても、家の中の床などの大まかな清掃はハロがやってくれるからそれ程重労働じゃない。

このちょっと大型のハロ、アムロさんが開発したお掃除専用ハロ(ピンク)の試作機だそうだ。

トラヴィスさんの会社で後々販売するのだとか。

 

ようやくヘイガー家での生活に慣れだした頃、俺はオードリーとクェスと同じ高校に通う事となる。

あんなことがあった後だし、もう学校には行けないのではないかと思っていた。

でもエドおじさんは、子供が学校に行くのは当たり前だと言って手配をしてくれていた。

そして、インダストリアル7の学校での成績なども取り寄せてくれて、編入手続きも一緒に来てくれる。

本当に嬉しかった。

 

……エドおじさんは本当に優しい人だ。

こんな俺にも、普通に接してくれて、面倒まで見てくれる。

 

 

 

宇宙世紀0096年4月

ラプラスの箱をめぐる戦いから3週間が経ったその日。

オードリーとクェスと俺は自転車に乗り、15番コロニーの専門高等学校に向かう。

元居たコロニーでは自転車に乗る習慣が無かったため、事前に練習をして、おぼつかない足捌きながら、何とか二人について行った。

 

15番コロニーには普通科高等学校と専門高等学校がある。

以前俺は工業高校に通っていた事もあり、二人が通う専門高等学校の工業科に編入した。

オードリーは経済学科、クェスは芸術科と皆別々のクラスだ。

 

 

全校集会の後、各クラスのホームルームで今年のカリキュラムの説明、クラスメイトの自己紹介へと進む。工業科は他のクラスと異なり2クラスあったため、2年時のクラス分けがあったようだ。

その後、昼休憩となり……

「バナージ、ランチにしませんか?」

まだ、この学校の右も左もわからない俺のために、オードリーがクラスまで迎えに来てくれた。

 

「ありがとう、オードリー」

俺は普通に返事をした。

何故かクラスメイトたちが男女問わず騒めきだす。

 

俺は訝し気に思いながらも、鞄を持ってオードリーについて行く。

この時、俺はまだ知らなかった。

オードリーがこの学校でどういう扱いなのかを……。

 

「クェスは?」

「クェスは場所を獲ってくれてるわ」

そんな何気ない会話をしながら廊下を歩いていたのだけど、周りが騒がしい上に、道行く生徒達からの妙に視線を感じる。

 

中庭の真ん中にある大きな木の下でクェスが待っていた。

「遅いわよ」

「お待たせしたわクェス」

 

「いいわ。どうせバナージがあたふたしてたんでしょ。それとバナージ、オレンジジュース買って来なさい」

 

「オレンジジュース?俺が?」

クェスは当然のように俺に命令する。

俺はまだこの学校の事が全くわからないのにだ。

 

「そうよ!レディーを待たせたんだからそれくらいしなさいよね」

相変わらずクェスは俺に対して厳しい。

 

「わたくしが買っておいたわクェス、もちろんバナージの分も」

そう言ってオードリーはクェスと俺に飲み物を渡してくれた。

 

「ありがとう」

「オードリーは甘い、そんなのは男にやらせればいいのよ。これからは一緒にご飯する時はバナージが飲み物係よ。いいわね」

 

クェスは椅子替わりとなる樹木のレンガ囲いに2人分の敷物を敷き座る。オードリーもクェスの横に綺麗な姿勢で座った。

俺はオードリーの横にそのまま座る。

 

俺は鞄から朝にローザさんから渡された弁当を取り出す。

中身はサンドイッチ2種とハムが入っていた。

 

「バナージ、今日のランチボックスはローザ姉さまとわたくしが作ったものよ」

「今日はローザ姉か~、オレンジマーマレード&イチゴジャムにたっぷりマーガリンダブルサンド、ローザ姉これは絶対外さないわよね。嫌いじゃないけど激甘だから紅茶の方がよかったな~」

「大丈夫、わたくしが作ったものは玉ねぎとレタス、トマトのサンドだから」

「それパパのレシピね。意外と健康志向だもんね」

「ローザ姉さまも、おじ様から教えて貰ったそうよ」

「激甘サンドはローザ姉オリジナルでしょ?」

俺は二人のたわいもない会話を聞きながら、サンドイッチを口にする。

確かに激甘だ。

 

リゼさん、いやリゼ姉さんから聞いた話だと、オードリーとクェスは昔はそれほど仲が良くなかったとか、多分クェスの方が性格的に難しかったのだろう。

今じゃ、仲が良い友達同士に見える。

流石に、顔立ちも性格も全く異なる2人は姉妹には見えないだろう。

オードリーはローザさんの妹で、エドおじさんの娘であるクェスにとって叔母にあたるから、姉妹でもないのか。

 

しかし、なんだろう?

妙に周りの視線を感じる。

同じ中庭で昼食をする生徒達が居てもおかしくないが……。

構図が可笑しい。

何故か俺達を囲むように皆昼食をとっているように見える。

しかも俺達を見てる?いや、何故か俺に対して敵意すら見えるような。

いや、偶然だろう……。

 

だが……

休憩時間も終わりかけ、それぞれのクラスに戻る。

俺はクラスメイト男女問わずに次々と声をかけられるが、それはとても友好的なものじゃなかった。

「……バナージだったっけ。何でも姫様と精霊(シルフ)と一緒に仲良くランチタイムをしてたと噂になってるぞ。姫様とどういう関係だ!!」

「そうだ!!楽し気に話していたのを見たぞ!!」

「そうだぞ!!美少女姉妹と何で一緒にランチが出来るんだ!」

「そうよ。私だって姫様と一緒にランチしたいのに!!」

「精霊様に俺も罵られたいのに!!」

姫様?精霊?……どういうことだ?

美少女姉妹とか……まさか、オードリーとクェスの事か?

姫様ということはオードリーがジオンの姫様ミネバだと周知の事実なのか?

しかし、エドおじさんは周囲の誰にもバレていないと言っていた。どういう事なんだ?

しかも、クェスが精霊とは?確かに可愛いし美少女だと思うけど、精霊ってどういうことだ?

 

「その…姫様と精霊って誰?」

俺は一応確認のため、物凄い剣幕で迫ってくるクラスメイト達に聞いた。

 

「はぁ?何言ってんだ?姫様って言ったらオードリーさんの事だよ!!」

 

「そのオードリーのあだ名が姫様って事?」

 

「貴様―――!!姫様を呼び捨てだと!?」

 

「ご、ごめん。その、このコロニーに来てまだ日が浅いからよくわからないんだ。教えてくれたら助かる」

 

「はぁ?そんな事も知らずに姫様と話してたのか!?このド素人が!いいか!オードリー様のあの美しさに清楚さ、鈴のような声、あの凛とした御姿、近づきがたき高貴なオーラ。お名前の通り伝説のオードリー・ヘップバーンをも凌ぐ程に、もうこれ以上ないって程の姫様なんだよ!!この学校だけじゃなく、このコロニーの連中は彼女を姫様って呼んでるんだ!」

……成る程、オードリーはミネバ・ザビだとバレてるわけじゃないのか。

ただ、その佇まいが皆にそう呼ばせているのか。

 

「それは分かったし納得できた。それでなんでクェスが精霊?」

 

「貴様―――!!精霊様まで呼び捨てに!!」

 

「すまん。その教えて欲しい」

 

「このド素人め!いいか!姫様とはまた違った生々しい美しさ!煌めくようなエメラルドグリーンの御髪!自由奔放にして、健康美溢れたあのスマイル!既に完成されたモデルのようなスタイル!!そして、あの美声で歌を歌う姿はまさにシルフ!!男だったら絶対反応するだろうが!!馬鹿かお前はバカなんだろ!!」

俺は何故か次々と男子生徒達に罵られる。

……確かに、クェスは美人で、スタイルも良い様に思うが……家では、悪戯好きでお転婆な感じの、エドおじさん(お父さん)が大好きな女の子なんだけど。

 

これはまずい。

この学校では、オードリーとクェスはアイドル並みにもてはやされてる。それどころか下手なアイドル何て目じゃない程、崇拝されてる。

 

「わかった。気を付けるよ」

俺はそんな返事をするのがやっとだった。

 

「全然答えになってないぞ!!お前!!なぜ急に来たお前が、あんなにあのお二方と仲が良いんだ!!」

「そうだ!!そうだ!!どういうことだ!!」

「そういえば、学校にも一緒に自転車で来たと見た奴がいたぞ!!」

「どういうことだ!!」

だが、まだクラスメイトの気が収まらない。

まずい。一つ屋根の下で一緒に住んでるなんてとても言えたものじゃない。

言ったら、俺の命が危うい。

 

「……そ、そのだ。俺とオードリー…さんとクェス…さんはその、親とエドおじさんと親類みたいな、……そんなものなんだ」

 

「何―――!!親類だとーーーー!!うらやましーーーーーーーーい!!」

「なんて奴だ!!あの姉妹と親類だと!!」

「あの、目障りなマッドドクターエドワードと知り合いだと!!」

「おのれーーー目の上のたんこぶエドめ!!」

エドおじさん……すごい言われようだ。

何があったんだろうか?

 

「同志達よ!考えて見ろ!!あの鬼畜ドクターエドワードが自分の娘たちに近づく男を許すわけが無い!!」

「そうだ。あの鬼畜のせいで、何人の勇士が破れて逝ったか!!」

「おい、今のカウンターは!?」

「姫様に告白しに行った勇士は奴一人の為にこの3年で今迄208名が犠牲に!!」

「クェス様に告白しに行った勇士は奴の為にこの3年で111名犠牲に!!」

「さらに姫様とクェス様に告白しに行った勇士の内、女王様(ローザ)に出会い、女王様の犬に成り下がった者が76名」

「昨年ご卒業された皆のお姉さまリゼ・ヘイガーお姉さまに懐柔され、お姉さま属性にされたものが52名」

 

「くそーーーー!!エドワード・ヘイガーめ!!女王様をその毒牙にかけておきながら!!」

「リゼお姉様の兄を名乗り!!お姉さま属性満載のリゼお姉様を独占し悪事の限りを!!」

「奴の最大の罪は、女王様とお姉さまと姫様とクェス様と一つ屋根の下で住み、すべてを独占してるという事実だ!!」

「許せ―――ん!!エドワード・ヘイガー!!」

「独占禁止法に抵触するぞ!!エドワード・ヘイガーに裁判を!!」

「打倒!!マッドドクター、エドワード・ヘイガー!!」

「大魔王エドワード・ヘイガー討つべし!!」

 

何故か俺は放っておかれ、クラスメイトは、エドおじさんの悪口を言いながら、教室を出て行った。

 

……俺はどうやら助かったようだ。

エドおじさんのお陰で……。

だが俺はこの学校で、後2年間無事に過ごすことができるのだろうか?

 

 

そんな、学校生活が始まった。

 




因みにオードリーとクェスに告白しようとした勇士たちはエドによって全員追い払われております。

バナージは今後苦労するでしょうね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アムロ・キャスバル・エド男達の挽歌編①

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます

アンケートでローザ編の次に得票が高かった。
アムロ・キャスバル編が登場です。


宇宙世紀0096年5月中旬

今日は診療所が休診日で、俺は久々に家で一人でのんびり過ごしていた。

ローザはこの頃、何かにつけて俺と一緒に過ごしたがるが、今日はアンネローゼと共にクロエの家に出かけてる。

クロエと言えば現在妊娠7か月だ。

2人はそんなクロエの手伝いに行ってるのだろう。

クロエは妊娠もこれで2回目だ。手慣れたもので、そんなに何か困った事でも起きてはいないだろうから、大方話し相手にでもなっているのだろう。

何だかんだと、あの3人は付き合いが長い。

ローザにとっても初めてできた友人だろうしな。

リゼはというと、マリーダを連れて何でもおいしいジェラートが食べられる喫茶店に出かけた。まあ、それに便乗して、クェスとオードリー、そんでバナージもついて行くと。ついでにリタも連れて行ってもらった。

リゼには年下連中の面倒を見てもらうためにも、夕飯もついでに食べてくるように言って、小遣いも渡しておいた。

ついでに、街に遊びに行くだろうしな。

リタは入院する必要は無い程なのだが、立場上俺がしばらく預かる事になり、あの病室もそのまま部屋として使ってもらうことになった。

マリーダは6月に一回目の手術に入る。まあ、今回はその前のいい気晴らしになるだろう。

精神の方は随分と安定し、今のところは暴走の気配はない。

強化調整の呪縛もまだ解けたとは言い難いが、催眠治療は上手く行ってる様だ。

まあ、ちゃんと治すにはやはり、2年はかかる。

だが、一歩一歩徐々に良くなっていくだろう。

 

どうするかな。一人の時は何をやってたんだっけ?

ローザも居ないし、レッドマン所にでも飲みに行くか?

いや、あいつの店は夕方からだしな。

それまで、コーヒーでも飲みながら溜まってた論文でも進めておくとするか。

俺は今迄施術してきた遺伝子治療や再生医療についての論文をまとめ始めていた。

一応、これでも軍大学時代は、遺伝子病の治療方法と特効製剤の開発をしたり、このコロニーに来てからも空いた時間に論文とか書いて、特許を何個か持ってるんだぞ。そのおかげで副収入が入ってきて、生活できるんだけどな。

流石に人数増えたし、ローザにも子供が欲しいってお願いされたしな。もうちょっと収入が欲しい所だ。

まあ、おっさんから、ちょっと前のラプラスの箱の事件で結構儲かったとか言って、お礼だとかで、俺にまとまった金を渡してきやがったけど……。まあ正直助かった。

 

俺はキッチンでコーヒーを入れてから診療所に降り、コンピュータを立ち上げ、論文を進め始めたのだが、インターフォンのチャイムが鳴り響く。

来客だ。

 

インターフォン越しに、来客者の顔を見る。

結構な美人だ。だが俺の知らない女性だった。

年のころはそうだな。アムロと同じくらいか……。

だが、目元が誰かに似てる気がするな。

 

「セイラ・マスと申します。突然訪れまして申し訳ございません。こちらにアムロ…アムロ・レイがお世話になってるとお聞きしまして……」

インターフォン越しの美女は来訪理由を説明した。

おおっ?まさかアムロの昔の恋人か?

そういえば、アムロの奴、知り合いに連絡する決心がついたとか言っていたよな。

ブライト・ノアの時もそうだが、俺んちを待ち合わせの場所にするなよな。

喫茶店やサロンと勘違いしてやがるな、あいつ。

というかだ。俺は何も聞いてないぞ。ん?突然の来訪といっていたなこの美人さん。

 

俺はこの美女を家に上げ、3階のリビングに案内する。

「アムロと待ち合わせでも?」

 

「あの、中々連絡がつかなくて……」

あいつ、結構そう言うところあるよな。

機械をいじり出したら周りが見えないというか、職人気質のエンジニアによくありがちな

感じの奴だ。

 

「じゃあ、アムロに連絡とってみますね。あーっと俺の自己紹介がまだだったな。アムロの友人で、医者をやってるエドワード・ヘイガーです」

一応初対面だから、慣れない敬語をつかって自己紹介をする俺。

相手が美人だからとかじゃないぞ。アムロの昔の彼女かもしれないしな。

ここは年上としてちゃんとした対応をだな。

それにしても、何か気品があるな。オードリーに近い何かだ。

オードリーも大人になると、こんな淑女って感じになるのだろうな。

 

「え?まさか……ドクター・エドワード!医療界の風雲児と言われたあのドクター・エドワードですか、数々の革新的な技術を作り上げたあの?」

美女のセイラさんは急に立ちあがって俺にこんな事を勢いよく聞いてきた。

 

「はぁ?いや、確かにエドワードですが、誰かと勘違いしてませんか?」

何それ、医療界の風雲児って誰だよ。しかもなにその恥ずかしいあだ名は?俺じゃねーなそれ。明らかな勘違いだ。別のエドワードじゃね?結構ある名前だしな。

 

「……そういえば、ドクター・エドワードは一度も表に出てこない謎の天才医療技師とも……賞を受け取りや論文発表会などにも一度も顔を出した事がないとか、お会いできて光栄です」

セイラさんは俺に握手を求めてくる。

俺の話きいてる?しかもそれ俺じゃねーな。そんなの知らねーし。

あったら、医師会から通達あるだろそれ。行け好かねー理事長からだったら、通達なんて無視するけどな。

 

「あの、まあその。とりあえずアムロに連絡とりますんで」

ぶつぶつと何やら呟きながらソファーに座りなおすセイラさんを余所に、コーヒーを用意しながら、アムロに連絡する。

 

 

「おい、アムロ。俺んちにセイラ・マスさんっていう金髪美女がお前を訪ねて来たぞ。どういうことだ」

 

『セイラさんが!?エド、直ぐに行く!……いや、今16番コロニーの本社なんだ。2時間だ。いや1時間半待ってくれ、昼食でも出して待ってもらってくれ』

アムロの奴、めっちゃ嬉しそうなんだが、セイラさんって言ってたな、年上なのか?

もしかして、アムロの奴が一度振られた元カノとかかもな。

1時間半か……まあ、飯でも作って食べて貰ったら丁度いいか。1時間半って彼奴、定期便じゃ無理だろ。おっさんの会社の小型船舶で直接来るつもりだな。

いやもしかしてだ。モビルスーツで来るつもりじゃねーだろーな。

 

 

「アムロが1時間半で来るって言ってました。どうやら今は仕事中らしい。昼も近いんで、昼食でも食べます?今は嫁さんも子供たちも出かけてるんで俺一人なんで」

俺はコーヒーをセイラさんに出しながら、アムロが来ることを伝える。

ん?なんか、あれだな。不倫現場見たいになってるぞこれ。

嫁と子供が居ない家に、目の前の年下美女に昼食を進める夫……おい、これローザにバレたら、まずい奴じゃねーのか。

よく考えればアムロの客だ。アムロが来るし大丈夫か。

 

「え?よろしいのですか?待たせていただく上に、昼食まで出していただけるなんて」

 

「いいですよ。どうせ一人分作る予定でしたから、二人分作るのも手間がかからないし、そんなたいした料理じゃないですし」

 

「では、お言葉に甘えます」

 

俺はそのセイラさんの返事を聞き、台所に入る。

そこでまたもやインターフォンのチャイムが鳴る。

 

ま、まさかローザじゃないだろうな?

夕飯はクロエの所で済ますって言ってたはずだ。

この現場はヤバいかもしれん。

 

俺は恐る恐るインターフォンのカメラ映像を覗く。

『エド、ちょっと暇を持て余してだな。寄ってみたまでだ』

そこにはレッドマンことキャスバルが土産を片手に玄関の前に立っていた。

俺はホッと息を吐く。こいつだったか。

こいつは何故かローザが出かけるときに限って現れることが多い。

まさか、俺んちに盗聴器でもしかけてるんじゃねーだろうな。

 

「ああ、ちょっと来客があってな。診療所で待ってくれるか?」

 

『ああ、良いだろう』

玄関の自動ロックを解除し、キャスバルを診療所の待合室に入れる。

 

俺はセイラさんに席を外す事を伝え、コーヒーを持って診療所に降りて行った。

「キャスバル、来てもらって悪いが、生憎来客だ。折角来たんだし昼飯ぐらい食って行けよ。今から作るから、ここで待っててくれ」

流石に、キャスバルを初対面の人間に会わすわけには行かない。

なんたって、こいつはあのシャア・アズナブルだった奴だからな。

 

「そうか、残念だな。来客か…ローザはいないのか?」

 

「ローザは友人の所に出かけてる。今日は俺一人だったんだけどな」

 

「そうか……まあいい。来客とは私が知ってる人物だろうか?」

何故か一瞬落ち込んだような表情をするキャスバル。

 

「たぶん。知らねーんじゃねーか。アムロの知り合いの美女だ。元カノじゃねーか?」

 

「アムロのか……肝心のアムロはどうした?」

 

「後、1時間半でここに来る。それまで上の美女にも昼食もってな」

 

「ふむ、アムロの元恋人か……なるほど」

 

「なんだ?アムロの元カノに興味でもあるのか?」

 

「いや」

 

「まあ、どうも医療関係の人そうだし、連邦軍って事もないだろう」

こいつは意外と警戒心強いからな、まあ、大丈夫だろうが、念のためにな。

 

「エドの昼食を頂くだけでも良しとしようではないか」

キャスバルはそう言って、待合室の長椅子に深く座り直し、置いてあった雑誌に手を伸ばす。

 

「うんじゃ、待っとけよ」

 

俺はキャスバルにそう言って、セイラさんが待つ3階へ戻り、キッチンに入り昼飯の用意をする。

セイラさんからはアムロについて幾つか質問されるが、本人が来てからのお楽しみだと言って、はぐらかし、話題を世間話へと変える。

アムロが隠遁したここでの3年間の事は、俺から言うわけにも行かないからな。

 

 

だが、俺はこの時知らなかった。

今俺がとんでもない現場の中枢に居る事に。

 




あああっ、これどうしよう?
やっちまった。

因みに前回のアンケート結果です。
アムロのお話は頭で構想を練れましたが、もう片方がまだです。レッドマンのどんなお話が見て見たいですか?
レッドマンの修羅場 503 / 31%
レッドマンVSローザ 366 / 22%
レッドマンとエドのほのぼの話 157 / 10%
レッドマンのレッドマン復活 383 / 23%
レッドマン、シリアス話236 / 14%
意外と得票が割れましたが、修羅場希望がトップ。
まあ、今回のお話である意味レッドマンの修羅場になりそうですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アムロ・キャスバル・エド男達の挽歌編②

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

さて、とりあえず続きをどうぞ。


冷蔵庫に、エビとイカの冷凍があったな。

レトルトライスもあるし、うんじゃ海鮮ピラフで行くか。

俺はキッチンでフライパンを温め始める。

 

今、リビングにはアムロの元カノだと思われる金髪美女のセイラ・マスさんがソファーに座りコーヒーをすすってる。

何でも、アムロの無事を聞いて、地球からわざわざ訪れたのだとか。

今も、アムロの事が好きなのかもしれんな。

あいつ、こんな美人さんを3年間ほったらかしにするなんてよ。

意外と罪作りな奴じゃねーか。

それとだ。料理しながら世間話をしていたんだが、俺と同じ医者の様だ。

あと、確かにセイラさんは美人だが、表情が硬いというか、何となくなんだが影があるというか、そんな印象を受ける。

 

 

海鮮ピラフとブロッコリーのサラダ、ヘイガー家特製ジャガイモポタージュをプレートに乗せて、セイラさんの前に出す。

「美味しそう。ドクターは料理もお上手なのですね」

 

「一人暮らしも長かったもんで。ちょっと診療所の方に友人が来てましてね。そっちにも昼食を持って行きますんで」

俺はそう言って席を外そうとした。

 

「申し訳ございません。私が突然訪問したばかりに、ご迷惑を……ドクターのご友人にもお詫びの言葉でもかけさせてください」

するとセイラさんは立ち上がり、俺に付いて来ようとする。

 

「いや、いいですよ。奴とは気安い関係なんで」

 

「それでは私の気が収まりません。私のせいで、折角のご友人との貴重な時間を奪う真似をしてしまっておりますので、ご友人に一言お詫びを言わせてください」

セイラさんは申し訳なさそうな顔をしていた。

いや、まじでいいんだけど、むしろ会わせたくないんだけどな。

悪意はなさそうなだけに厄介だ。

 

「はぁ、まあ、挨拶ぐらいなら」

意外と頑固なところが有るのかこの人。

まあ、お詫びの挨拶ぐらいなら大丈夫か。

よっぽどの事じゃないと奴がシャアってバレないか。

一目だけだし、なまじ怪しんでも、似てる人って事で誤魔化せば大丈夫だ。

何せ、奴が生きてるなんて信じる方が可笑しいからな。しかもこんな片田舎居るなんてな。

 

俺は奴の分の昼食をプレートに乗せ、階段を降りる。

その後ろにセイラさんが静々と付いてきていた。

 

1階の廊下から、診療所の待合室に入る従業員用の扉を開ける。

「待ったか?昼飯もってきたぞ。それとだ。ちょっとこの人がな……」

「いいや、昼食をご馳走になる身だ。構わんよ。ん?……?……!?」

俺がキャスバルにそう声をかけ、奴が返事をしながら読んでいた雑誌をテーブルに置いて、こっちに顔を向けたんだが……明らかに様子がおかしい。

 

「うそ……キャスバル兄さん!?」

へっ?

 

「ア、 アルテイシアか?」

はぁああ??

 

俺は思わずそう声を上げ、固まったままの二人の顔を交互に見る。

俺の後ろのセイラさんはキャスバルを見て信じられないという表情をしていた。

前のキャスバルもセイラさんを見て、かなり動揺してる顔だ。

 

何だこれ!?

はあああ!?

えええ!?

ま、まさか。こ、こいつ等、知り合いなのか!?

 

 

「エド……すまない。火急の要件を思い出した。ここで失礼する」

キャスバルの奴は、平静を装い、スッと立ち上がり、診療所の出入口の方へスタスタとスリッパの音をたてながら歩き出す。

 

「ま、待ってキャスバル兄さん!!」

セイラさんはキャスバルの方へ駆け寄る。

 

「人違いだ。……私はデニス・レッドマン。それ以上でもそれ以下でもない」

何言ってんだお前。

キャスバル兄さんって本名で呼ばれてるぞ。

兄さんって何、兄妹?

 

「兄さん!逃げないで!」

出入口に向かうキャスバルを追うセイラさん。

 

「違うと言っているのだっ…ぐはっ!!」

キャスバルは追いすがるセイラさんにスリッパのかかとを踏まれ、盛大に前へとコケ、診療所の出入り口のドアノブの手すりに盛大に額を打つ。

 

「あっ……」

セイラさんの声がそう漏れていたが手遅れだ。

キャスバルはそのまま倒れノックダウン。

気を失ったようだ。

結構血が出てるぞ。

 

 

はぁ、俺はキャスバルをそのまま待合室の長椅子に寝かせ額の傷を見て処置を施す。

3針縫ったぞ。

キャスバルはまだ目を覚まさないが大丈夫だろう。軽い脳震盪だ。

 

「度々すみません」

セイラさんは深く俺に頭を下げる。

 

俺はそこで、そもそもの疑問を口にする。

「あのさ、セイラさんはこいつの何なの?」

 

「この人はその………」

 

「ああ、大丈夫だ。こいつがキャスバル・ダイクンだってことは俺は知ってる」

 

「そうですか。……この人は私の実の兄です。私の本当の名はアルテイシア・ソム・ダイクン。この人の実の妹です。……この人は私の生き別れた兄なんです。でもなんで生きて……」

そう言ってセイラは泣き出してしまった。

俺も知ってる。ジオン・ダイクンには二人の子がいた。

一人は目の前のキャスバル・レム・ダイクン。後にシャア・アズナブルと名乗り、世界を混乱に陥れた一人だ。

そして……その妹がアルテイシア・ソム・ダイクン。

キャスバルの奴がたまに、酔った勢いで、幼かった頃の妹のアルテイシアの事を懐かしそうに語りだすことがあった。

まじか…セイラがこいつの実の妹だったのか。

確かに目元とか輪郭の感じとか似てるよな。

二人の顔を見比べれば確かに美男美女兄妹だ。

 

 

「………」

俺はそこにあったティッシュを涙するセイラに黙って渡す。

 

「この人は……兄は大罪人です。死んで当たり前の人なんです。私は3年前兄が死んだと聞いて、心の中ではホッとしていたんです。……同じ父と母を持つ兄なのに……私はそんな冷たい人間なんです。……でも…でも……う…ううう」

俺に語りながら涙を流すセイラに、俺は軽く背中をさする。

まあ、わからんでもないよな。

自分の兄が世界で最も危険視された男で、誰もが知るカリスマで大罪人だ。

しかも、死んだと思っていたのに、生きて目の前に現れりゃあな。

それにだ。キャスバルにしても、実の妹に自分が生きているという事は告げられなかっただろう。

自分が世界にどう思われているか分かってるだろうしな。

自分が生きているだけで、妹に迷惑がかかちまうってな。

 

 

ん?ちょっと待てよ。

セイラがキャスバルの実の妹でだ。

セイラはアムロの元カノ(推測)でアムロを追ってここにやって来た。

キャスバルとアムロが語った話だと。

2人はジオンと連邦軍の兵士として、何度も死闘を演じて来た。

しかも、一年戦争時には、キャスバルの思い人がアムロとの死闘中に、キャスバルを庇って、アムロの手で死んじまったらしい。

 

なんだこれ?

あれ?

 

整理してみよう。

キャスバルとアムロはライバル。殺し合いをしたぐらいのな。

キャスバルにとってアムロは思い人の仇となるわけだ。

まあ、戦争中でその思い人がアムロと戦うキャスバルを庇ったってことは、アムロに非は無いんだけどな。

心情的にはそうなるだろう。

そのアムロの元カノ(推測)がキャスバルの生き別れた目に入れても痛くない可愛い実の妹のセイラだったと。

 

…………

………

……

 

可笑しいだろこれ!?

どういう愛憎関係だこれ!?

何やってんだお前ら!?

 

 

 

そこで、漸くキャスバルが目を覚ます。

「んん………エドか……私はどうなった?」

頭を抑えながら体を起し、足を床に降ろして長椅子に腰を掛ける。

 

「エドかじゃねー!お前は土下座だ。セイラさんに謝れ!!」

 

「ア、アルテイシア……私は…………」

キャスバルは同じ長椅子の端に座っていたセイラに気が付き、動揺を隠せない。

 

「兄さん……。なぜ生きているのですか?」

セイラはスッと立ち上がり、長椅子に腰を掛けるキャスバルの前に立つ。

さっきまで泣いていた目を拭い、キッとした鋭い目つきで見据えていた。

 

「……3年前の戦いで瀕死だった私をエドが助けてくれたのだ」

 

「……貴方は死ぬべきだった。何故今ものうのうと生きているのですか」

セイラはあえてキツイ言葉をキャスバルに投げかける。

セイラは先ほどまで泣いていた。

いろんな思いが一気にあふれ出たのだろう。

あの涙には実の兄が生きていたという、間違いなくうれし涙が含まれていた。

これは儀式だ。

この兄妹には必要な過程なのだろう。

 

「………私は……すまない」

キャスバルは項垂れ、観念したかのように頭を下げる。

 

 

「ふうぅ、俺は邪魔だな。……セイラさん。何かあったら、そこのインターフォンで声をかけてくれ……」

俺は3階に戻るとするか、この場では俺は邪魔者でしかないな。

 

「ドクター…いえエドワード先生。ありがとうございます」

セイラは俺に深く頭を下げる。

俺は軽く手を振って見せる。

 

「キャスバル!実の妹に迷惑をかけっぱなしで、しかもほったらかした罪は俺的に一番重い。頭を床にこすり付けまくって反省しまくれ!!謝りまくれ!!そんで一生罪滅ぼしをしろ!!」

俺はキャスバルに思いっきりこう言ってやった。

何より、実の妹をほったらかしにして、こんなに心配かけさせたのが許せん。

 

「エド……」

 

俺は診療所に2人を残し、居住スペースに戻る。

2人には時間が必要だ。

じっくり話せばいい。

 

いや、待てよ。アムロが来るんだよな。あと40分もないぞ。

これ、アムロに今日は来るなと言っておいた方がいいんじゃねーか。

 

俺は3階に戻り、コーヒーを温めなおしながらアムロに電話をするが、電話がつながらない。

あいつは……

 

そこで、またインターフォンのチャイムが鳴る。

なんだ?アムロの奴もう来たのか?早すぎじゃねーか?

マジでモビルスーツで来たんじゃないだろうな。

だが、今はちょっとヤバ目だぞ。

奴には説明して、帰って貰った方が良いだろう。

 

俺はインターフォンの映像を見て返事をしようとすると……

そこにはアムロは映ってない。

黒髪ショートカットの可愛らしい女性が玄関先に映っていた。

『アムロ……アムロがここに居るって……その、アムロに会わせてください』

 

へっ!?

俺は思わずそんな声が漏れていた。

 




遂に出会ってはいけない人たちが出会ってしまった。
説教モード開始のセイラさん
レッドマンの精神はもつのだろうか?

そこに第2の刺客登場……
さてさて誰なんでしょうか?
ガンダムシリーズを見ている皆さまならばおわかりだと思います。

まだ続きますよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アムロ・キャスバル・エド男達の挽歌編③

沢山の感想ありがとうございます。
なかなか、返信できなくて申し訳ないです。ゆっくりですが徐々に返させていただきます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

というわけで………続きです。


今、診療所では偶然…いや必然だったのかもしれないな。

とある兄妹が随分と久しぶりに邂逅を果たし、顔を合わせ、話をしている。

アムロを訪ねて来たセイラと俺んちに遊びに来たキャスバルだ。

まあ、セイラの一方的な説教になる気がするが……

実はセイラはジオン・ズム・ダイクンの娘だった。

要するにだ。キャスバルの実の妹だ。

キャスバルは姿をくらまして、セイラに20年以上連絡を取ってなかったらしい。

今ようやく、兄妹で膝を付け合わせて、お互いの胸の内をさらけ出してるってところだ。

そこには俺が入る余地なんて無いだろう。

 

それとだ。この状況でアムロが来ても、微妙な感じになるに違い。今日は改めて貰った方が良いだろう。

俺はそう思って、アムロに連絡するが電話が繋がらない。

まあ、宇宙船舶に乗ってるんだったら仕方がないかもしれん。

 

そんな時、またインターフォンのチャイムが鳴る。

なんだ?アムロの奴もう来たのか?早すぎじゃねーか?

マジでモビルスーツで来たんじゃないだろうな。

だが、今はちょっとヤバ目だぞ。

奴には今の状況を説明して、今日の所は帰らせよう。

 

俺はそう思いながら、インターフォンの映像を確認するが、そこに写っていたのはアムロではなく、黒髪ショートカットの可愛らしい感じの女性だった。

年のころはローザよりも下に見える。

その女性の第一声は……

『アムロ……アムロがここに居るって……その、アムロに会わせてください』

切羽詰まった感じだった。

 

何?またアムロ?あいつの知り合いか?自分のマンションじゃなくて何で俺ん家を指定してるんだ?

 

「ここはヘイガー診療所兼ヘイガー家の自宅なんだが」

一応だが確認をとる。

 

『す、すみません。取り乱してしまい。私はチェーン・アギというものです。ここに来ればアムロに会えると……』

またかよ。あいつ、やっぱ今度言っておかねーとな。俺んちは喫茶店やサロンや待合所じゃねーってよ。

 

俺はため息を吐いた後、気を取り直して彼女を3階のリビングに案内する。

その前に、一応セイラに用意した昼食や飲み物は片付けておいた。

セイラは暫く戻ってこないだろうしな。

 

「俺の名はエドワード・ヘイガー。アムロの友人で医者です」

一応きちんとした自己紹介を行い、チェーンさんにソファーに座ってもらう。

 

「改めまして、私はチェーン・アギです。……あのアムロは…アムロはどこなんですか?」

自己紹介をした後、今にも泣きそうな縋るような目で俺に聞いてくる。

なんだ?もしかして、この子もアムロの元カノ?アムロの奴、無害そうな顔して結構な玉なのか?

 

「今はここには居ないが、後でここに来ることにはなってる」

俺は温めておいたコーヒーを注ぎ、チェーンさんの前に置きながら応える。

 

「生きてるんですね!………本当に…生きてた」

遂に涙を流すチェーンさん。

なんだ?元カノとかのレベルじゃなくて、彼女のまま生き別れたのか?

それともアムロはアムロでも名前が一緒の他人の事とか?

 

「失礼ですが、アムロ・レイとはどのような関係ですか」

俺は一応確認のために聞いてみる。

 

「あっ、すみません。そのですね。アムロとは付き合ってるというか……戦いが終わったら正式に恋人同士になる予定だったんです」

涙を拭い恥ずかしそうに説明するチェーンさん。

おいーーー!!モロに前カノ(直前彼女)じゃねーーーーか!!

あいつ何やってんだ!?

いの一番で連絡しとけよ!!

マジでこの3年間何やってんだ彼奴は!!

 

「……そうですか。いやこんな可愛らしい彼女が居たなんて知らなかった。あいつそう言う事は一切言わないんで」

俺は愛想よくするつもりが、何故か棒読みに。

しゃれにならんぞ彼奴!

 

「そんな可愛らしいだなんて……そうなんです。急にメールでここに居る事が告げられて、彼、いつも必要な事しか言わないし、メールも淡々としてて、居ても立ってもいられなくなって、半信半疑のままここに……生きてた。嘘じゃない……本当に生きてた」

おい、あいつ。こんな真面目で可愛らしい彼女を3年もほったらかしにしておきやがって!

あいつにも説教だな!特大のな!!

 

 

そこで、またしてもインターフォンのチャイムが鳴る。

しかも連続で押しやがるからうるさい。

アムロの奴か?それにしても早いな……

あいつ、セイラが来てるって言ったら、超嬉しそうだったもんな。

どうすんだよ。ここに前カノも来てるぞおい。

 

俺は急いでインターフォンの画像を確認するが……。

アムロじゃなかった。

鉢巻きを頭に巻いた若い連中が何人か玄関の前に並んで立っていた。

ちっ、相手しなくていい連中だ。

「クェスとオードリーなら出かけてて居ねーぞ。とっとと帰れ」

俺は連中に素っ気なく応対する。

いつもクェスやオードリーに付きまとってる連中だった。

 

『まて、切らないでくれ。オードリー様とクェス様が居ないのは至極残念ではあるが、今日はそこもとに話があって参った。我々は15番コロニー専門高等学校学生連合の者である。エドワード・ヘイガー殿に直訴する者である』

なにこいつ、ニュータイプか?俺がインターフォン切ろうとすんの何故わかった?

しかも、なにその仰々しい言い回しはよ!

こいつ等こりもせずに!こちとら今はそれどころじゃねーんだよ!

 

「知らねーよ。そんな事よ。学生は学生らしくとっとと家に帰って勉強でもしてろ。それとクェスとオードリーはお前らにはやらん!」

 

 

『まてまてまて、直訴状と血判状を入れておく。よく読むように。それと一つ言っておく。オードリー様とクェス様とリゼお姉様とローザ女王様を独占する、うらやまけしからんエドワード・ヘイガーに不幸あれ!!!!』

 

「…………」

俺はインターフォンのスイッチをおっもいっきり消す。

くそガキどもめ。

あの学校の学長、わが校の自由な校風が優秀な人材を育てるとかぬかしやがって、確かに優秀な奴は結構いるぞ、あのシスコンにロリコンのデリルだって、ああ見えて新サイド6の学生文学賞に受賞したほどだ。その反面、何故こんな連中を量産するんだ?一体どうなってやがる!

自由はいいが自由過ぎるだろ!!

それに彼奴らめ、何がローザ女王様だ!

あいつは見た目そうかもしれんが、中身は結構乙女だぞ!

 

 

「……今のは一体、なんなのですか?」

チェーンさんに聞こえてしまったか。

まあ、インターフォン越しとはいえあんな大きな声でしゃべってりゃ、そりゃ聞こえるよな。

 

「ただの子供の悪戯ですよ。ここはのどかな田舎コロニーですから」

俺はチェーンさんにこう言って誤魔化す。

まあ、あんな感じの連中はけっこういるが、このコロニー殺伐とした雰囲気なんてものは皆無だ。

学生がバカできるってことは、それだけ平和だってことなんだろう。

 

「あの…ヘイガーさん。先ほどクェスとおっしゃってたように聞こえたのですが、もしかしてクェス・パラヤの事でしょうか?」

なんだ?チェーンさんはクェスを知ってるのか?

ロンド・ベル時代のアムロがクェスと一時行動を共にしていたって言ってたし。

もしや、チェーンさんは連邦軍の軍人か?……いや、アムロと同じロンド・ベル所属だったのか?

それはちょっと厄介だぞ。

 

「……もしかして、チェーンさんは軍人さんでしたか?」

 

「何故それを?今は退役して実家に戻ってます。アムロが死亡扱いになって……そのロンド・ベル…軍には居たく無くて……。アムロの死が信じられなくて、どこかで生きてるんじゃないかって、色々と当たったんです。その過程でクェス・パラヤが生きていて、どこかに養子に行ったと知ったんです。でもアムロの事は全く」

まあ、そうだろうな。クェスは正式な手続きをして俺の養子になったからな。

ちょっと調べりゃ分かるだろう。

そうか、既に軍は退役したのか、チェーンさんのこの様子ならばクェスの事を話しても大丈夫だろう。

 

「クェスはここに居ますよ」

 

「えっ……まさか、あの子がアムロをたぶらかして……!」

チェーンさんはそう言いつつ、泣きそうな顔になる。

 

「ちょっ、チェーンさん何を言ってるんですか?」

おい、クェスがアムロをたぶらかせるっておい。

どうしてそんな発想になるんだ?

当時のクェスは13歳で、アムロは29歳だぞ。

無茶言うなよな。

 

「だってそうじゃないですか!恋人同士になるはずだった私を3年も放っておいたんですよ!!アムロはきっと若い子が好きなんだわ。だから……」

おいーーー!!若い子って限度があるだろう!!完全にロリコン認定だからなそれ!あんたアムロをロリコンだって言ってるのと同義だぞ!

しかも、なに子供のクェスと張り合ってんだこの子(チェーン)は!

落ち着け俺。

チェーンさんはアムロに3年間ほったらかしにされて、心が少し荒んでしまってるんだ。

悪いのはアムロだ。

 

「クェスは俺が娘として引き取ったんです。今はクェス・ヘイガー。地元の高校に通ってますよ」

 

「ええ?……」

なぜ身じろぎをするんだこの子は……絶対勘違いしてるだろ!

 

「はぁ、俺は嫁もいるし。妹達とも一緒に住んで、結構な大所帯なんですよ」

 

「あ、あの、すみませんでした」

チェーンさんは顔を赤くしながら謝ってくれた。

分かってくれたか……

それにしてもこの子、ちょっと早とちり過ぎないか?まあ、これも何もかもアムロのせいって事でだ。

 

早くアムロ来いよ。

この子は俺の胃に悪いんだよ。

 

俺は再びアムロに電話をかけるが、うんともすんとも言わない。

 

ちょうどそこにインターフォンのチャイムが鳴る。

やっと来たか!遅いぞアムロ!

俺はサッとインターフォン端末を手に取り、応対しようとする。

…するのだが……

 

そこに映し出されていたのはアムロじゃなかった。

 

『こちらにアムロ・レイがお世話になっているとお聞きしまして、参りました』

目がぱっちりしたセミロングの金髪美女が玄関前に立っていた。

 

 

おいーーーー!またかよーーーーー!

俺はそう心の中で叫んでいた。

 




第二の刺客はチャーミングなチェーン・アギさんでしたw

第三の刺客登場!
ガンダムファンの皆さんなら誰だかお判りでしょう。

エドの精神が徐々に……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アムロ・キャスバル・エド男達の挽歌編④

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ここのガンダム関連の整理をしますと……
初代~ZZアニメ版
逆襲のシャア劇場版
UCはアニメ版
外伝系はゲーム版
(ちょろっと漫画版は愛嬌程度)
セイラさんはアニメ版
チェーンさんは逆シャア劇場版
セミロング金髪美女はアニメ版


今1階の診療所には、アムロの元カノ(推測)でキャスバルの実妹のセイラに、キャスバルが話し合いという名の説教を存分に食らってるはずだ。

セイラを20年以上ほったらかしたキャスバルが悪い。

そんで3階のリビングでは俺の目の前に、アムロの前カノのチェーンって子が暴走気味にアムロを待ち構えている。こっちはこっちで、アムロが3年も放置したせいでこんな感じになってる。もちろんアムロが悪い。

 

元カノ(推測)のセイラと前カノのチェーンが鉢合わせになるのは流石に不味いだろう。

鉢合わせになる前にアムロが来てチェーンをこの家から連れ出してくれれば、何も問題無いハズだ。

今しばらく、セイラとキャスバルの話し合いには時間が掛かるだろうから、きっと大丈夫だ。

そう信じたい。

とにかくだ。なんでもいいからアムロ、早く来てくれ!

 

そして、インターフォンのチャイムが鳴る。

待ってたぞ!遅いぞアムロ!モビルアーマーですっ飛ばして来いよ!

そう思いつつ、インターフォン端末を素早く手に取り、玄関先の映像を確認したんだが……

アムロじゃなかった。

 

玄関先には、目がぱっちりしたセミロングの金髪美女が映っていた。

年のころはローザと同じくらいか。

『こちらにアムロ・レイがお世話になっているとお聞きしまして、参りました』

 

………

 

おいーーー!またかよ!

俺はセミロング金髪美女の用件を聞いて、思わず心の中でそう叫んでいた。

またアムロの何らかの彼女候補なんじゃないだろうな。

やばいぞ。今3階のここには暴走気味の前カノのチェーンが……。

 

俺はチェーンに来客の相手をするからちょっと席を外す事を伝え、1階の玄関に急いで降りて行く。

もし、新たな来訪者のセミロング金髪美女がアムロの何カノだったのなら、3階のチェーンのいる前で対応するのは非常に不味い。ただでさえアムロに3年間ほったらかしにされてネガティブに暴走気味なのによ。洒落にならん。

 

 

1階の玄関を開けると、セミロングヘア―の金髪美女が丁寧に自己紹介と挨拶をしてきた。

「ベルトーチカ・イルマと申します。突然、お邪魔しましてすみません。」

 

「俺はアムロの友人でエドワード・ヘイガーです。この診療所で医者をやってる者です。用向きは……アムロですか」

ベルトーチカさんは落ち着いた雰囲気の大人の女性の様だ。俺も丁寧に努め挨拶を返す。

 

「はい、アムロ・レイがここに居るとお聞きしましたので、会いに参りました」

ハキハキとした言葉でベルトーチカさんは再度、はっきり俺にそう言った。

 

「………失礼ですがベルトーチカさんはアムロとはどういう関係の方ですか?」

俺は嫌な予感がしながらも、聞きたくないが、聞かざるを得なかった。

 

「4年間連れ添った仲です。そう言えばお分かりになって頂けるかしら?」

ベルトーチカさんは最初の物静かそうなイメージと違い、少々悪戯っぽく微笑でいた。

ちょっと待て、4年間連れ添った仲だと。それに意味深な言い回しは何だ?

普通に考えたら、一緒に4年間同じ家に住んでたってことだよな。これってよ。

……まさか。

 

「…………」

おいーーーーーー!!本妻みたいなのが来たぞーーーーー!!

ド本命じゃねーーか!?

どうなってるんだ!?彼奴(アムロ)の女関係は!!

おいっ!これ、俺にどうしろってんだ!

上には前カノ、横の診療所には元カノ(推測)、目の前には本カノかよ!!

 

「あの、どうされましたか?」

ベルトーチカさんは首を傾げて俺を不思議そうに見つめていた。

俺はどうやら一瞬、意識がどこかに飛んでいたようだ。

 

「アムロがこんな美人と連れ添っていたなんて知らなかったな」

俺は咄嗟にこんな事を言ってしまってた。しかも棒読みで……

仕方ねーだろ!こんな状況で、真面でいられる方がおかしいぞ!

 

「美人だなんて、アムロと違ってお口がお上手なんですね」

ベルトーチカさんは逆に茶目っ気たっぷりにそう返してきた。

いや、家族や友人達にいつも朴念仁だとか、神経が恐竜並みとか、デリカシーが無いとかいわれてるんだけど……

 

「はっはっはーそうですかね」

俺は内心の焦りを隠すために笑って誤魔化そうとしたが、乾いた愛想笑いしか出ない。

 

「こちらにアムロは今いるんですか?」

 

「いや、なんというか……ここに来る予定ではあるんですが……」

俺は歯切れ悪く答えるしかなかった。

だってそうだろ?この状況でアムロが来た場合どうなる?

2人だけだったら、何とかなるかもしれんが……3人だぞ!?

どう考えても、この場は乗り切れねーだろ!?

いっそ、アムロをこそっと逃がして、この3人には、これなくなったと伝えた方が良いんじゃないかと思うほどだ。

 

「そう……ですか」

俺の言葉でベルトーチカさんはどこかホッとした顔をしていた。

余裕そうに見えていたが、アムロが生きてるのか本当にここに居るかとかと、内心は余裕がなかったのだろう。

 

 

そんな時だ。隣の診療所から……

『兄さんの軟弱者!』

そんな悲鳴に近い怒声が聞こえて来たと思うと、パンと、叩かれる音がし、さらに女性の嗚咽が混じった泣き声まで聞こえる始末。

セイラが泣きながらキャスバルを叩いたのだろう。

きっと今、診療所はとんでもない修羅場になってるはずだ。

って言ってる場合か!こっちも切り抜けないと修羅場と化するぞ!

どうする?ベルトーチカさんをどうする。玄関のままってわけにはいかねーだろ?どこかで待ってもらうか?

 

「今、何か隣から女性の声が……どなたかいらしてるんですか?」

 

「あっ、ああ、昼ドラを見てたもんで、思いっきりドロっドロっの兄妹ものの奴を……あれ?ネコがテレビのリモコンボリュームを踏んだかな?はっはっは」

俺は訝し気に診療所の方に顔を向けるベルトーチカさんに、苦しい言い訳を。

この状況を説明するのは俺には無理だ。強引に言い訳するしかない!

 

「そうなんですか?」

一応納得してくれたようだ。

 

 

だが……

「あの……アムロ来ましたか?」

いつの間にかチェーンが3階のリビングから降りてきて、階段からこっち(玄関)の様子を伺っていた。

 

や、やばいぞ!ど、どうする俺。

いや、まだ間に合うはずだ。

チェーンとベルトーチカさんはお互いを知らないはずだ。

俺の予想だと、ベルトーチカさんとアムロが付き合っていたのは、チェーンの前だ。

ならば、二人に面識は無いはずだ。

適当な言い訳を考えれば……って、ああっくそっ!!何も思いつかん!

俺はこう言うのは苦手なんだよ!!

俺が頭を抑えて必死に考えていたのだが……

 

「あっ!!」

チェーンは短い叫び声を上げ、俺の先に居る人物に指さしていた。

 

その指さす先のベルトーチカさんもチェーンを見据えていた。

「あら、あなたも来てたの?」

 

な…なんだ?

俺は嫌な予感を抱えながら恐る恐る二人に訪ねた。

「………二人は知り合いなのか?」

もしかして、2人は面識があるのか?そんなはずないよな。

本カノと前カノに面識なんて普通あり得ねーぞ。そうだと言ってくれ!

 

 

「知りませんこんな人」

「一度会った程度よ」

チェーンは明らかに不機嫌な顔をし、ベルトーチカさんは冷静の様で、鋭い目つきでチェーンを見据えたままだ。

 

ああっ!!顔見知りだったのかよ!!

なんでだ!!アムロの奴の女関係ってどうなってるんだ!?

あり得ねーだろ!!どうなったら、本カノと前カノが顔見知りになるんだよ!!

いや……もしかして、過去に一度修羅場ったのか?

おい、俺にこれをどうしろっつうんだ!!

 

 

とりあえず、チェーンとベルトーチカを3階のリビングに上がらせ、ソファーに座ってもらう。

2人は対面に座る。

チェーンは顔を横に向かせながら不機嫌そうにベルトーチカを横目で睨む。

ベルトーチカは足と腕を組み、相変わらず鋭い目つきでチェーンを正面で見据えている。

2人は一言もしゃべらねー。

 

く、空気が重い。

 

俺はキッチンでコーヒーを再び温めながら、アムロに電話をかけるが、出やがらねー!!

もう、これは修羅場回避無理だろ!前言撤回だ。アムロを逃がすなんて以ての外だ!

アムロの奴、早く来やがれ!お前が彼女たちを3年間ほったらかしてにして、しかも関係をあやふやにするからこんな事になってるんだ!

自分で蒔いた種だ!彼女らに釈明して、土下座でも何でもしろってんだ!

 

俺は二人にコーヒーを出すと、チェーンからベルトーチカに明らかに敵意ある態度で話し出す。

「ベルトーチカさんはここに何をしに来たんです?今更!」

 

「もちろん。アムロを連れ戻しにきたのよ。貴方の方こそ、ここに何故いるのかしら?」

 

「何を言ってるんですか!昔の彼女は引っ込んでてください。アムロは私が連れ帰るんです!!」

 

「アムロの葬儀の時にも言ったわよね。私はアムロと別れたわけじゃないわ。彼には宇宙でなさなければならない事があったの。その邪魔にならないようにと私は地球に残ったのよ。

そう、アムロが目的を達成した後は、私の元に戻って来るはずだったのよ」

ベルトーチカは淡々とチェーンに語る。

なるほど、チェーンとベルトーチカはアムロの葬儀の時に会ったのか、そん時も多分こんな話合いをしたんだろうが……流石に葬儀の場では修羅場にはならなかっただろう。既にその対象のアムロが死んでた事になってたしな。

ベルトーチカの主張としては、別れたわけでもなく、今も恋人というわけか。

アムロの奴、そう言えば連邦からの要請があって、キャスバルの奴を倒すために宇宙に上がったと言っていたな。

ということはだ。ベルトーチカが言うアムロの目的というのは……

 

「何を言ってるんです。本妻ヅラしないでください!アムロはシャアを倒した後は、私と恋人同士になって、結婚する予定だったんです!!」

 

「何を言ってるのかしら、この泥棒ネコは……、アムロはシャアを倒した後、地球に戻って私と結婚式を挙げる予定だったのよ!!私は断腸の思いで、シャアとの決着に集中させてあげたくてアムロを宇宙に送り出したのよ!あなたみたいな泥棒ネコが近くに居ただなんて……私もついて行くべきだったわ!」

 

やっぱりかよ!!

そのシャアって人は今も生きてピンピンしてるぞ!しかも、今同じ屋根の下で実の妹に説教を受けてる真っ最中なんだ!

まあ、精神的には半死してるだろうがよ。

おいーー!シャア倒したらベルトーチカの元に戻るっておいーーー!!

アムロめ、そんな約束したのか?ベルトーチカとよ!

しかも、チェーンとはシャアを倒したら恋人になるとか……

これ、キャスバルの命も、危なくねーか?

キャスバル(シャア)が生きて、ここに居るって知られたら、アムロに戻ってもらうために、ベルトーチカとチェーンにあいつ殺されるんじゃねーか?

ま、まずいぞ。

 

「アムロは戦いの前に私にキスをしてくれました!!今は私の事が好きなの!!」

 

「フン。泥棒ネコがよく言うわ。キスぐらい挨拶よ挨拶。アムロと私は全てを知ってる深い仲よ。もちろん体の隅々もね。この意味はわかるわよね?」

 

「それがどうしたんですか!私は今からアムロとそう言う仲になるんです!元カノが未練がましいですよ!今はアムロは私に夢中なんです!!」」

 

「何よ。3年もほったらかしにされておいて!この泥棒ネコ!」

 

「それは貴方も一緒でしょ!!」

 

チェーンとベルトーチカはお互い立ち上がり、睨み合う。

………

 

何故俺はここにいるんだ?

いや、ここは俺ん家だよな……。

何故こんな状態になってるんだ?

いや、俺は何も悪くないはずだ。

何故俺はこんなにも困ってるんだ?

……俺は当事者でも何でもないんだが……

 

………アムロめ!!

彼奴がすべての元凶じゃねーか!

彼奴が彼女らを3年間も放ったらかしにしたからこうなったんじゃねーか!

 

もしかして、3年間放置したのは、あれじゃねーか?

こうなる事がわかっていて、戻りたくても戻れなかったんじゃねーのか?

アムロが連邦に戻りたくない理由って、これが一番の理由じゃねーのか?

 

アムロめ!!

あいつ、仕事は真面目なんだが、私生活が適当過ぎんだよ。

女関係も、ちゃんと清算しとけよな!!

 

というかだ。

さっさとここに来て、この状況を如何にかしろ!!

 




エドは一応、友人の知り合いで初対面って事で、ネコ被ってますが……
どこまで我慢できるか……

アムロにとって
セイラさん……憧れのお姉さん(0079~0080:エドは元カノだと思ってる)
チェーンさん……直前カノ。ほぼ彼女?(0092~0093半年位?)
ベルトーチカさん……同居生活4年(0087~91?)3年~4年と推測
こんな感じです。

アムロ→セイラさんに今も憧れてる。
セイラさん→弟分(アムロ)?が生きてたからいろんな心情で会いに来た?ワンチャンあるかも?
でもシャア発見。修羅場る。
チェーンさん→アムロに会いに来た。
ベルトーチカさん→アムロを連れ戻しに来た。
レッドマン→セイラからもう逃げられない。観念する。
もしかするとチェーンとベルトーチカに殺される可能性有り。

追記

まあ、今回のお話は、チェーンさんとベルトーチカさんは本人の主張なので……実際は不明w


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アムロ・キャスバル・エド男達の挽歌編⑤終幕

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

漸く、修羅場編が終了致しました。
ここまで長くなるとは……




俺の目の前で、若い女二人が視線を交差させ火花を散らしていた。

いや、俺の事でじゃないぞ。俺はモテないし、女と複数人と付き合うなんて器用な真似もできん。

その若い女というのは、アムロの前カノのチェーンと本カノのベルトーチカだ。

2人は思いっきり睨み合って、一触即発の雰囲気だ。

もちろん、この諍いの原因はアムロだ。

2人はアムロの恋人は自分だと主張し合っているのだ。

 

しかも俺ん家で……。

 

彼女らの主張を聞くに、アムロが悪いのだろう。

アムロからも詳細を聞かないといけないような気もするが、まあ、あいつは私生活がホント適当だからな、機械いじり出したら、飯も何日も食わない有様だ。

多分、彼女らに対しても、適当な返事をしたか、女心の裏を読まずに返事をしたのだろう。

……これに関しては俺も言える立場じゃねーけどな。

とりあえずだ。この二人を止められるのはアムロだけだ。

俺が止めたところで解決にはならんだろう。

 

それにしてもだ。

3年も死んだ奴の事を思っていたって事は、よっぽどアムロの事が忘れられなかったのだろう。普通は踏ん切りつけて、次の恋に生きてもいいようなものだがな。

アムロの奴、罪作りなこった。

 

こう言うのは苦手なんだが、アムロにはローザとの結婚の時とかオードリーの事とかで借りがあるからな。

それに、年上の友人ってところを見せておかねーとな。

 

「アムロはもうすぐ来るだろう。それまで落ち着いて待っておけって」

俺はそう言って紅茶とクッキーを2人の前に置く。

 

「すみません」

「取り乱しました」

2人はそう言って再びソファーに腰を下ろす。

 

「ちょっと俺の話を聞いてくれるか?」

アムロが来るまでにちょっとは落ち着かせておく方がいいだろう。

 

「……はい」

「どうぞ」

2人とも渋々という感じで返事をする。

 

「……アムロが3年間、あんた達に連絡しなかった理由は聞いてないが、大体の予想がつく。本当はアムロの口から言わせるつもりだったんだが……。3年前、アムロが乗ったモビルスーツの脱出ポッドを偶然俺が拾った。その後、あいつが目を覚ますまで半年程掛った……。アムロは目を覚まして入院してる時だ。俺にこう言った。

『俺の役目は終わった』と。

聞くところによると、アムロは連邦内部じゃ随分と立場が危ういものだったようだ。連邦に戻ると何をされるか分かったもんじゃない。また、軟禁生活が始まったのかもしれん。それ以上の辛い立場に置かれるかもしれん。だから、すべてを捨てて、此処に隠遁したのだろう。

そんで、身内にも連絡を一切していなかった。親友のブライト・ノアにもつい最近までな。迷惑が掛かると思ったのだろう」

 

「……だからって、……私は……納得できません」

チェーンは涙ぐみ、こう言った

そりゃそうだろ。アムロが戦場で行方不明になる前まで、恋人同士のようなもんだったんだからな。

 

「ヘイガーさん。それでもこれはアムロと私の問題です。本人としっかりと話し合う必要があります」

ベルトーチカははっきりと俺にそう言う。

まあ、そうだろう。俺はこの件に関しては部外者だしな。

ただ、友人として擁護だけはさせてくれ。

 

「そりゃそうだ。俺は飽くまでも部外者だ。アムロと納得できるまで話し合ったらいい。だがアムロの友人として言わせてくれ。

二人ともアムロが好きなのはよくわかった。……だが一方的な押し付けだけはやめてあげてくれ。

アムロだって人の子だ。間違いや気分が乗らない時だってある。

それに今回の事は逆にいい機会だと思わないか?アムロの本音を聞けるだろ?アムロが本当は誰が好きなのかを」

 

「私に決まってます!」

「当然私よ」

 

「そういきり立つなって、アムロも3年間で頭が冷えてるだろう。あいつにとってどんな伴侶が相応しい女性かを……」

 

「……アムロにとって相応しい女性」

チェーンはどうやら懐柔できたようだが……

 

「ヘイガーさん。アムロを助けていただいた事には感謝します。ですが、アムロとの男女の関係については当人同士の問題です」

 

「だから、友人からのお節介だって言っただろ?後はアムロと話せばいい」

ベルトーチカも俺の言葉に納得はいっていないが、さっきに比べれば随分と冷静さを取り戻しているようだ。

ふぅ、何とかうまく行ったようだ。

 

 

 

そこで、インターフォンのチャイムが鳴る。

今度こそ、アムロだろう。

場の空気は幾分か冷やして軽くして置いたぞ。

後はお前が何とかしろ。

だが、またアムロの何カノだったら、俺は家を出るぞ!

 

俺はインターフォンの端末を手に取り画像を見る。

 

…………アレ?

 

確かにアムロだ。

アムロなんだけどよ。

小学生低学年ぐらいの男の子の手を引いてるんだけど……

しかも、となりに優しそうな雰囲気の女性とならんで。

アムロも何か楽し気だし……その女性も微笑んでるし……

 

おい……お前、結婚して…子供まで居たのかよ。

…………これは……予想外だ。

 

いやいやいやいやいや!!

可笑しいだろ!!

おいーーーーー!?

お前、セイラが来てるって喜んでたじゃねーーーか?

年上の元カノじゃないのか?

なんで、子連れでしかも奥さんつれて、のんびり来てんだよ!!

 

しかもだ!!

ベルトーチカと4年も同棲してたんじゃねーーーのか!?

チェーンともキスをした仲じゃねーーのか!?

 

ち……血を見るぞ。おい。

 

 

『エド?…開けてくれ』

インターフォン越しにアムロの声が聞こえる。

どうやら俺は、インターフォン端末の画像を見ながら意識が飛んでいたようだ。

 

「ちょっと待ってろ!!」

俺は全力疾走で、玄関に駆け下り、扉を開ける!!

 

 

「エド、待たせた」

「こんにちは」

アムロは呑気に挨拶をし、隣の優し気な女性も挨拶をする。

 

「こ、こんにちは」

俺は女性と男の子に挨拶を返し……アムロの首根っこを掴み、アムロだけを玄関の中に引きずりこむ。

 

「どどどどど、どいう事だ!!お前結婚して、子供までいたのかよ!!」

俺は額が当たる位にアムロに迫る。

 

「エ…エド、どうしたんだ?」

 

「どうしたんじゃねーーー!!あれは何だ?」

 

「フラウの事か?フラウ・コバヤシは幼馴染で……ああ、俺の子じゃない。友人の子だ。エドの勘違いだ。コロニーの船舶ドッグでバッタリ会って一緒に来た。俺を訪ねてきてくれたらしい。セイラさんとも昔馴染みだ」

 

「…奥さんじゃない。…お前の子供でもない。……幼馴染の友人ってことか?」

 

「そうだ。エドにしては珍しい勘違いをするもんだ」

アムロは苦笑気味に俺にそう答えた。

ふぅ、俺の早とちりだったようだ。

という事はセイラは元カノじゃないのか?セイラも友人関係か?

いや、あのセイラの様子だと、もうちょっと深い仲に見えたんだがな。

だったらあの二人は……?

 

「………じゃあ、チェーンとベルトーチカは?」

 

「何故その名を?……まさか!?……エド、すまない。俺は用事を思い出した。セイラさんには後で連絡する」

焦りだすアムロ。

これはまずい方の奴だな。

しかもキャスバルの奴と同じ反応だ。ニュータイプは皆同じ言い訳をするのか?

 

「アムロ……手遅れだ」

俺はアムロの肩を強く掴む。

 

「「アムロ!」」

階段から勢いよく降りてくるチェーンとベルトーチカ。

 

チェーンはアムロの右腕に抱き着き、ベルトーチカはアムロの左腕を引っ張る。

「アムロ、生きてたのね。さあ、私と帰りましょ」

「アムロ。地球に一緒に戻るわよ」

2人はそう言いつつも、お互いを睨みけん制し合っていた。

 

「ち、チェーン、それにベルトーチカ、君まで……どうしてここに?」

アムロの顔は真っ青だ。そりゃそうだろう。

 

「アムロは私の事が好きなんでしょ?だから帰りましょ?」

「何言ってるのかしら、この泥棒ネコは!?アムロは私が昔も今も好きに決まってるわ」

 

「その、二人とも落ち着いてくれ……エド」

アムロは二人を宥めようとするが、2人はぎゃあぎゃあ言いながら、アムロの腕を引っ張り合い、アムロの言葉が聞こえてないようだ。

アムロは俺にすがるような目を向ける。

 

どうやら俺が先ほど、場を静めたのは無駄だったようだ。

まあ、こうなるわな。

アムロ、こればっかりは俺でもどうしようもない。自分で何とかしろ。

俺はアムロに手を上げ、降参のポーズをし首を横に振って見せる。

 

 

そこで、診療所の従業員用扉が開く。

「少々騒がしい様だが、アムロが来たようだな。アムロ、アルテイシアを任せたぞ………」

両頬を赤く腫らしたキャスバルが、こんな時にとんでもない事を言いながら出てきた。

どんなタイミングだ!最悪だ!!何を?何を任せる気だ!?この状況でだ!?

 

「アムロ?……これは!?」

その後ろにセイラが続いていた。

 

「えっ?誰?え……シャア?……それにこの人は?」

「なぜシャアがここに?だからアムロは戻ってこれなかった!?……セイラ…あ!?アムロがたまにニヤニヤと見てた写真の人ね!!」

チェーンは目を丸くし、ベルトーチカはシャアとセイラを噛みつかんばかりに睨む。

キャスバル、やっぱお前有名人だな。そりゃそうか。

お前、逃げた方が良いぞ。診療所で刃傷沙汰なんて勘弁してくれ……

 

 

更にだ。

玄関の外に置いてけぼりにしていたフラウ・コバヤシ夫人が子供の手を引いて、玄関から子供と共に顔を出していた。

「あの…なにか騒がしいようですが?大丈夫ですか?……アムロ?…セイラさん?」

 

「え?……子供……アムロに子供……そんなーーー!?」

「これはどういう事かしらアムロ!子供まで余所に作って!!」

チェーンとベルトーチカはやっぱりというか勘違いをした。

 

 

………これどうする?

いや、どうしようもないだろ?

 

 

 

 

そこに……

「貴様ら!何をやっている!人の家の玄関先で騒がしいぞ!!」

ローザが何故か帰って来てくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4時間後……

俺は今、バー茨の園のカウンターに座ってる。

隣には、両袖が引きちぎられ、ノースリーブのようになったトレーナーをそのまま着てるアムロ。所々顔にひっかき傷がある。

バーのカウンターの中には両頬を腫らし、頭に包帯を巻いたキャスバルがシェーカーを振っていた。

 

俺はカクテルのグラスを片手にアムロに語り掛ける。

「アムロ、3年間連絡してなかったお前が悪いんだぞ」

 

「まさか、皆が一斉に来るとは思わなかった」

 

「いや、それもそうだが、チェーンとベルトーチカをどうすんだよ」

 

「ベルトーチカとは当時、別れ話を申し込まれたと思っていたのだが……、そうか……、俺の為に身を引いてくれていたのか。チェーンの方はもう俺の事なんて忘れているだろうと思っていたのだがな……」

どうやら、アムロの奴はベルトーチカの言葉通り受け取ったようだ。

チェーンについては、恋人未満って感じな付き合いだったらしく。そこまで惚れられているという認識は無かったようだ。

 

「お前、鈍感なの?」

 

「エドには言われたくない。エドよりはましだという自負はある。だが……そうか。」

 

「で、どうすんだよ?……お前、セイラも好きなんだろ?」

俺の見立てではセイラもまんざらでもないって感じだ。

 

「なる様にしかならない……が、どうしたものか」

頭を抱え本気で悩みだすアムロ。

 

そこに、バーテン姿のキャスバルがカウンター越しに話に入って来る。

「アムロ、語るに落ちたな。お前にアルテイシアを預けるわけにはいかん」

 

「なんだよ。お前も妹のセイラとの話は決着ついたのか?20年もほったらかしにしやがって!」

 

「ついたと言った方が良いだろう。これから私の贖罪の日々が始まる事が決定している」

成る程、一応話の終着点は見えたが、これからという事か。

 

「で、キャスバル、セイラはやっぱアムロに気があるのか?」

 

「ふん。アルテイシアは自分を押し込めるタイプだ。なかなか言い出せんのだよ。アルテイシアの立場を理解できる人間は数少ない。アルテイシアもまんざらでもなさそうだ。今は連邦やジオンにもしがらみもなく、資産も仕事も充実したアムロだったらとは思ってはいたのだがな………、過去の女の清算をしていないとは、これがかつてのライバルの姿だと思うと情けない」

というか、セイラの立場って、8割がたお前のせいじゃないのか?キャスバル。

 

「セイラさんが俺を……本当か?」

嬉しそうな顔をするアムロ。

 

「おい、お前はそこで喜ぶな」

お前はチェーンとベルトーチカを何とかしろ!

 

「そうだぞアムロ。今の情けないお前にアルテイシアを任せておられんよ」

 

「お前に言われたくないぞ!レッドマン……いや、シャア!」

 

「そりゃそうだ。13、4の頃のローザを道具扱いしやがって……なんか腹が立ってきた。一発殴らせろキャスバル」

こいつの場合、女を弄ぶというよりも、政治や戦争に利用していた節があるからな。

 

「エド……もう、それは済んだ話だったはずだ。私にはもう女をどうこうするつもりは無い」

 

「そういえばローザとクェスから聞いたぞ。お前3年前、女が居たそうだな。確かナナイとか言っていたな。その女とはどうなんだ」

ローザに拷問まがいの尋問をやった女だとか。

今となってはその女にどうこう言う気持ちなんてない。

 

「ふっ、男女の関係にもいろいろある。ナナイとはドライな関係だった。私はアムロとは違うのだよ」

 

「そうか。そういえばトラヴィス社長が言っていたが、ジオン残党を併合した際、ニュータイプ研究所の所長も居たそうだ。社長は根っからの人道派で強化人間否定派だが、研究手腕は買ってるそうだ。根性叩き直してから、俺のハロ開発部門の部下に付けると言っていたが……確かナナイ・ミゲルといったか?知ってるか?シャア総帥?」

アムロはワザとらしくそんな事をキャスバルに言った。

 

「………アムロ、今の私はデニス・レッドマンだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「キャスバル。早めに謝っておけよ。アムロの部下になるんだったら、お前と顔を会わす可能性もあるぞ。まあ、ナナイって女の方がお前を忘れてるって事もあるがな」

 

「俺の部下になったら、真っ先にここに連れてきてやるさ」

 

「アムロ!貴様というやつは!」

 

「お前らどっちもどっちだ。とことん女心が分からん連中だ」

 

「エドにだけは言われたくはない」

「エド、自分の胸に手を当てて見ろ」

俺は勢いよくアムロとキャスバルに言い返される。

まあ、そのなんだ。

女心というものを読み解く事は、男にとって永遠のテーマみたいなもんだと……。

 

 

 

結局あの後、ローザが介入し、その場を取り仕切って修羅場は収まった。

流石は俺の嫁、元ネオ・ジオンの鉄の女と呼ばれた摂政官だ。

何でもローザは俺が苦境に陥る嫌な予感がし、様子を見に戻って来たそうだ。

ニュータイプの勘って奴か?

アムロとキャスバルはニュータイプの勘は働かなかったようだがな。

 

チェーンとベルトーチカの2人には、アムロの自宅高級マンションの鍵をそれぞれに渡した。……気が済むまでアムロの家に滞在しろって……おい、二人同時はまずいだろう。

俺はそう思うのだが、ローザがこの裁定を下したのだ。

先に出て行った方が負けだとか……。

セイラにもキャスバルの家の鍵を渡す。暫く、キャスバルの自宅に住むようだ。

彼奴ん家、農業区域の貯水池畔にあるオシャレなロッジみたいだし、兄妹で住んでもまだ広いぐらいだ。

フラウ・コバヤシ夫人は、アムロが手配したホテルにしばらく滞在し、地球に戻るようだ。

2人の養子が既に成人して地球で働いているらしい。

まあ、セイラとフラウ・コバヤシ夫人にはいつでもこの診療所に遊びに来るようには言ってある。

チェーンとベルトーチカはまあ、ケンカしなきゃ別に来てもらっても問題無いが……

 

 

でだ。この4人に連絡したのは……どうやら、ブライト・ノアのようだ。

アムロがブライトと会った際、ブライトにアムロの生存を彼女らに話しておいてもいいかと聞かれ、アムロはOKの返事をしたらしい。

そんでブライトは、アムロにかかわりが深い女性にメールだったり、電話だったりで伝えたとか。

アムロはてっきり話の流れ的に、ブライトの奥さんであるミライと娘のチェーミンの事だと思ったらしい。

 

それはそうと、そもそも何で俺ん家に来るんだ?

しかも何でよりによって同じ日なんだよ?流石におかしいだろ?

 

ふう、とりあえずだ。

何とかまとまったが、アムロもキャスバルもこれからだという事だ。

 




賛否両論あろうとおもいますが、何とか修羅場編が終了。
アムロ君にはもう、爆弾はないですよね。……たぶん

キャスバル君にはナナイさんが………
外伝系を入れちゃうと…不味いような。

セイラさん34歳
ベルトーチカさん28歳
チェーンさん25歳
フラウ夫人32歳
こんな感じかな?間違ってたらごめんなさい。

一応、後3話を脳内で用意してます。
それで一旦終了という事で……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マリーダ編②マリーダが進む道

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


マリーダ編のその2です。


ラプラスの箱をめぐる抗争の後、私はドクター・エドワードの元で、調整…治療を受ける事となった。

ドクター・エドワードは私に丁寧に私の体に現在起こっている症状を説明してくれる。

その際、私の横にはマスター、いや父が付き添ってくれた。

 

私が今迄調整無しでは暴走してきた主な原因は二つ、一つは精神への刷り込み、人為的な依存対象の調整と、ニュータイプ能力の強制的に発現をさせるための精神調整だそうだ。

ただ、精神的刷り込みによる人為的依存対象の調整については、私が父スロベア・ジンネマンと親子関係を築いたことにより、刷り込みは薄まっている状態なのだそうだ。

更に私達プルシリーズはデザインチャイルド、要するに意図的な遺伝子設計操作によって人為的に作られた人間だそうだ。

サイコミュシステム搭載モビルスーツを操縦させるために……

そのため、各種内臓器官や神経系が強化されただけでなく、通常の人間には無い組織も存在するとの事だ。その代償が本来通常の人間であれば十分に生成できるはずの酵素やホルモン物質などが減少し、生命維持に耐えられなくなり、薬によって補っていたと。

私の寿命が短命なのも同じ経緯らしい。

リゼはドクター・エドワードの治療により、それらをすべてクリアし、今は普通の人間と同じように生きている。

ただ、私の場合、それだけではなく、後天的にも強化処置を施された形跡があり、それが複雑に絡み合い困難な状況を招いているとの事だ。

一つ一つはめ間違えたパズルのピースを元に戻していくような作業が必要だと。

私の治療には最低でも2年の歳月がかかるのだそうだ。

 

 

 

宇宙世紀0096年4月初旬

ミネバ様とクェスとバナージは地元の高等学校に通い始めた。

私はというと、リゼと共にヘイガー家の洗濯物を屋上のテラスに干していた。

午前中はドクター・エドワードが診療所で外来診療を行っているため、私はリゼと家事の手伝いをしながら過ごしていることが多い。

 

「このクマちゃんパンツはオードリーの、ウサちゃんパンツは私ので、星の水色縞パンツはクェスの、パンダちゃんパンツはリタさんの、ローザお姉ちゃんはレースパンツ白とピンク、グレーの普通のはマリーダっと」

リゼはそう言いながら、私から受け取ったパンツを干していく。

 

「……なぜ、こうも動物のマスコットが多いのだ?」

私の認識では、こういう物は若年層が履く物だと思うのだが、ミネバ様まで。

私の常識がおかしいのか?巷ではこれが一般的なのだろうか?それともこの15番コロニーの流行りという物なのだろうか?

 

「可愛いし、皆好きなんだよ。ローザお姉ちゃんも2年前まではクマちゃんパンツだったし」

 

「………そうか」

うむ、流石にそれは厳しいのではないか?

 

「バナージはトランクス、お兄ちゃんはボクサーパンツっと」

リゼは次に男性陣の下着を干しだす。

 

「ドクター・エドワードは動物マスコットパンツの事は何も言わないのか?」

私はやはり納得がいかずリゼに聞く。

 

「お兄ちゃん?うーん。普通のも持っておけって、買ってきてくれるんだけど」

 

「そうか……」

リゼの返答を聞いて、どこかホッとする。

私がおかしいのかと思ったのだが、ドクター・エドワードもどうやら私と同じ認識の様だ。

 

「ねえ、マリーダ。そのドクター・エドワードって言うのやめようよ」

 

「では何と呼べばいいのだ?」

 

「お兄ちゃんって呼べばいいよ」

 

「………いや、ドクター・エドワードとは兄妹でも家族でもない」

そう、私とドクター・エドワードは医者と患者の関係だ。

 

「家族だよ。マリーダは私の姉妹だよね。だからエドお兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから、マリーダのお兄ちゃんにもなるのよ」

確かに遺伝子的には私とリゼは姉妹だろう。

だが、流石にその理論は強引過ぎではないだろうか?

 

「それは流石に無理がある。私はまだドクター・エドワードと出会って3週間だ」

 

「また、ドクター・エドワードって言った。お兄ちゃん。ほらお兄ちゃんって言ってみて、それに私とマリーダも出会って3週間よ」

 

「リゼと私とは生まれが一緒なのだ。他人とは思えないが……ドクターは」

私はリゼにはどうやら弱い。ここに来て3週間が経つが、言いくるめられることが殆どだ。

 

「またぁ、お兄ちゃんだよ。それと、オードリーの事はミネバ様じゃなくって、ちゃんとオードリーって呼んであげなくっちゃ」

 

「それこそ無理だ。私はジオンの兵士だ」

 

「元でしょ?……お父さんのジンネマンさんは、今はトラヴィスのおじさんの会社に就職したんだし、ジオンとか関係ないでしょ?」

 

「おかしいとは思わないのか?ミネバ様はジオンの姫君で真の君主なのだぞ」

そうだ。ここの家族は皆おかしい。どうしてミネバ様までが普通に家事洗濯を手伝い。

皆と同じように生活されているのだ?

正当なジオン公国の君主になるべきお人なのだぞ。

ローザ殿もローザ殿だ。義理とは言え姉なのだろう。

こんな暴挙を許していい物なのか?

 

「でも、そのオードリーが良いって言ってるし、オードリーはもうザビ家が継ぐジオンは無くなったって言ってたよ」

 

「ううう……なぜだ。なぜそう平然としてられる」

わからない。ここでは私の常識が通用しないのか?

 

「だって、オードリーは私にとって妹だし、私の事も姉様って、マリーダもオードリーって呼んであげたら、きっとオードリーはマリーダ姉様って呼んでくれるわ」

ミネバ様から姉と呼ばれる?そんな事は………。その、なんだ。なにかこそばゆい。

 

「あ、もうすぐお昼ね。お昼ご飯は何にしようかな。今日は私とマリーダの当番だしね。そういえば、マリーダはナイフを使ってジャガイモの皮を剥くのはうまいよね」

 

「ああ、ガランシェール隊は常に資金不足で困窮状態だったからな。皆で野菜を剥くのを手伝っていた」

 

「へー、そうなんだ。なんかいいね家族みたいで。でも料理の味付けは……これからだね」

 

「食べられれば何でもよかったのだ」

そう、兵士は栄養さえ取れればよかった。味は二の次だ。

家族という概念がどういう物かはわからないが……確かにガランシェールは、この家のように皆が役割分担をし作業をしていた。そこには父がいて、隊の仲間がいた。

この家とは、そういう意味では似ていたのかもしれない。

だが、違いもある。

 

「それじゃ、ヘイガー家のレシピを覚えなくっちゃね。そうだ。近所のシムスさんからとれたて卵のお裾分けを頂いたから、ヘイガー家の甘甘オムライスにしようかな」

リゼは私に笑顔を向ける。

 

リゼは何時も笑顔だ。

この家族は皆、表情は違うが笑顔で溢れている。

そう、この笑顔だ。

ガランシェール隊の皆も笑う事もあったが、どこか寂し気であった。皆、心中に何かを抱えていたような雰囲気であった。

このリゼや家族の笑顔は、私にとって余りにも眩しすぎるのだ。

だが、そう。

悪くはない。悪い気分ではないのだ。

……私もリゼのように何れそんな笑顔で笑えるのだろうか?

 

 

午後からは私の治療が始まる。

検査装置が取り付けられた重厚なベッドに横になり、点滴を受けるのがこの頃の日課だ。

詳しい事は分からないが遺伝子治療の一種らしい。

体に負担が掛からない程度に徐々に徐々に行うとの事だ。

ドクター・エドワードは治療の際、毎日口癖のように私に言う。

「必ず良くなる」と……

 

だが私は生まれてこの方この状態だ。

良くなるという状態がどういう状態なのかは正直わからない。

寿命が延びる事は確かに良くなることだろう。

父と過ごせる時間が多くなることは確かに素晴らしい事だと思う事は出来る。

調整が要らない体。

薬物を摂取しなくていい体。

だが、それらがどのような物なのか想像がつかないのだ。

それよりも、私はモビルスーツを操縦できなくなる事が怖い。

私の体を治療するという事は、そう言う事なのではないかと……

 

私はある時、ドクター・エドワードに恐る恐る訪ねた。

私の治療が完治した後でも、モビルスーツに今迄のように操縦できるのかを……

それはドクターにはっきりと言われた。私の想像通りだった。

サイコミュへの適応は減少する可能性が高い上に、肉体的な各種耐性も落ちるだろうと。

ならば、治療はいらないと私は抗議した。

戦う事だけが私の存在意義だ。モビルスーツが乗れない私には価値が無い。

きっと父も失望する。だから、このままでいいと。

 

すると、ドクター・エドワードは私にこう言った。

「お前の父親は、たかがモビルスーツに乗れない程度でお前を見捨てるような男か?俺にはとてもそんな男には見えなかったぞ」

 

父を思い浮かべてみれば、私がモビルスーツに乗れなくなったとしても、父はきっと私を許し、あの不器用な笑顔を私に向けてくれるだろう。

だが……。

「私が唯一出来る事はモビルスーツに乗って戦う事だ。それが出来なくなり、私自身父の役に立たなくなることが何よりも怖い」

私はモビルスーツを乗る事でしか父の役に立つ事が出来ない、恩返しすらできなくなる。

 

「じゃあ、お前あれか?アムロやレッドマンよりも強いつもりか?あいつ等だって初めからあの強さじゃなかったんだろ?まあ、あいつ等に限っては最初からとんでもなく強かったかもしれんが、今ほどじゃなかったはずだ。

まったく乗れなくなるわけじゃない。今迄の経験や技術はその体と心には残る。

あとな、強化人間ってのは、はじめっから強くするズルをする代わりに、いろんなリスクを産むんだ。もし、お前が前のように乗れなくなったとしてだ。その分寿命が延びたり、薬や調整が必要無くなったりするとさ、それにかけていた時間分強くなる練習ができるだろ?きっと寿命が延びたぶん今のお前より、治療が終わった未来のお前の方がきっと強くなるぜ。それにさ、お前さんはまだ若い。モビルスーツの操縦以外に親父さんの役に立つ事を見つけることだってできる。何もモビルスーツの操縦だけが親父さんの役に立つ方法じゃないだろ?」

 

「……戦う事以外を私は知らない」

 

「そうか?ジャガイモの皮むきとか野菜を切るのとか上手いじゃねーか」

 

「そんなものは誰だって出来る」

 

「……誰だってか。良いこと教えてやる。ローザな、あいつここに来た当初は、ジャガイモの剥き方も知らねーし、洗濯機の使い方も知らなったし、玉ねぎ切れば催涙ガスと勘違いするし、掃除をさせようとしたらよ、どうしたらそうなるか知らんが掃除機から火を吹かしていたぞ。あいつ何一つ家の事が出来なかったんだぞ」

 

「………ふっ」

私はつい口から空気がもれる。

あのローザ殿が慌てふためく姿を思い描くと、ついおかしくなる。ドクターの言い回しのせいだ。

 

「ちょっとは落ち着いたか?……出会ったばかりの彼奴もマリーダと同じような事を言っていた。でもな、あいつ一生懸命やってさ、全部覚えたんだぜ。今じゃ俺よりも料理や家事はずっと上手いぞ。誰だって最初は何もできないもんだよ。確かに上手い下手はあるが、自分が上手くできそうなものを見つければ良いって事だ」

 

…………

私は父の役に立たなくなる自分が怖かった。

そして、唯一の取り柄であるモビルスーツの操縦ができなくなり……何もできない私に戻る事が……父に助けられる前の私に……死ぬことも生きる事も自分で出来ず、ただただ絶望の中、すべてを奪われ続け、生かされてるだけの人形のような私に戻る事が……、何よりも怖かった。

 

「……私は戦う事以外で、何者かになれるのだろうか?」

 

「マリーダはマリーダだ。モビルスーツが乗れようが乗れなくてもな。俺はマリーダがやりたいことをやればいいと思うぞ。親父さんもそう願ってるはずだ」

 

ドクター・エドワードはそう言って、私の頭を軽くなでる。

私は男に触れられる事に極端に嫌悪感を感じていたが……ドクターのその手は嫌ではなかった。

 

私に戦う以外で何か出来る事があるのだろうか?

 

 

ヘイガー家でそういった日々を過ごし、1カ月半が過ぎた5月中頃。

リゼが私を遠方へと連れ出す。

ドクター・エドワードから6月に一回目の手術を施すと聞いている。

その前の息抜きだそうだ。

 

ミネバ様もクェス、バナージ、それにリタも同行することになった。

なんでもジェラートの美味しい喫茶店に行くのだとか。

ジェラート……アイスクリームに似た食べ物だという事は知っているが……。

甘いのだろうか?

 

このコロニーの人々は、自転車を交通手段として使用することが多い。

この人力で動かす乗り物は、電動スクーターや電動車に比べれば遅い上に、載せられる荷物も限られ、しかも体力をも消耗する。

はっきり言って非効率にも程がある。

なぜこの自転車とやらを、わざわざ移動手段として使用しているのか、首を傾げたくなる。

皆は言う。

健康維持と体力維持にもってこいだと……。

体力や健康維持ならば、本格的なトレーニングを行う方がよっぽど効率的だ。

リゼ曰く、自転車に乗ると楽しいのだそうだ。

ミネバ様もリゼと同意見で乗ってみればわかると仰っていた。

私も4月初旬にバナージと共にこの自転車という乗り物の手ほどきを、リゼとミネバ様に受けた。

成る程、確かに徒歩に比べれば早い……だが、それだけだ。

 

 

だが……

自転車に乗り、皆と街中の喫茶店へと出かける。

自転車は飽くまでも移動手段だ。

ただ、それだけの行為のハズだ。

ゆっくりと農道を抜け、対岸の街中まで走る。

ただそれだけの事なのだが、何故か心が揺らめく。

顔や体に受けるゆるやかな風が気持ち良い。

植物や土の匂い、そして街の営みの匂い。

普段から浴びてるコロニーの光のはずなのだが、いつもより温かに感じる。

何なのだ。これは……

そして、隣にはリゼの笑顔が……周りには皆が居る。

それだけで、心が満たされる。

この感情をどう説明すれば良いのか分からない。

 

 

喫茶店に到着し、皆でジェラートを食べる。

私はブドウとメロンのジェラートを頼む。

想像していたよりも果実の甘味が濃厚だ。

食感はアイスとはまた異なるが、これはこれでうまい。

リゼからバニラとチョコレートのジェラートを分けてもらう。

甘い……私はこちらの方が良いかもしれない。

 

思い思いの味のジェラートを頬張る皆は笑顔だ。

ミネバ様もクェスもリタも、バナージでさえ……。

 

この感覚は喜び?楽しみ?よくわからんが心が満ちる。

心に空いた隙間に温かい何かが埋まって行くような感覚だ。

これが充実感?いや安心感というものなのだろうか?

 

 

その後はショッピングモールでの買い物だ。

服を見たり、アクセサリーを見たりとだ。

私には何が良いものか、何が似合うのかが分からない。

今私が着ている服は、リゼが作ってくれたものだ。

「マリーダは落ち着いた大人っぽい女性の服が似合うよね」とリゼはいい、一般の女性が着るような服を着ている。

リゼは服飾デザイナーを職業としている。

さらに、大学にもたまに顔を出している様だ。

戦いしか知らない私にとって、リゼは眩しく映る。

私もリゼのように…ドクターエドワードが言う様に、戦い以外に何時か何かできるのだろうか?

 

「マリーダ。手術が終わったら、水着を買いにこよう。8月には皆でプールに行こうよ」

「私は……」

私は躊躇する。私の体はあちらこちらと傷だらけだ。肌の露出は避けたい……いや、私は何を考えているのだ?……そんな思考は今迄なかったはずだ。

今迄、他人に傷だらけの体を見られたからといって、どうとも思わなかったはずだ。

しかし、私は今そう思ってしまった。

 

「大丈夫。お兄ちゃんが、6月の手術で傷を全部綺麗に治してくれるって」

「……そうなのか……だが」

リゼは私の思考を察したようだ。

 

「皆で遊びに行くと楽しいよ」

……私はまた、心の隙間に何かが埋まって行く感覚に。

 

 

この後、ジャパニーズレストランで夕食をとってから家に帰った。

…家か……

自分の心の中で発したこの言葉に改めて驚く。

私はいつの間にか診療所を兼ねたあの家を、帰るべき家と認識していたのか。

 

 

 

 

6月に入り、私は手術を受け、7月中頃までベッドの上での生活を余儀なくされた。

だが、皆が毎日顔を見せてくれ、優しい言葉をかけてくれる。

 

8月には、リゼに手術の術後祝いだとかで水着を買ってもらい、人生初のプールへと……。

泳ぎ方が分からないため、リゼとバナージに教えて貰った。

同じく泳げないミネバ様……いや、オードリーと共に。

 

9月には、リゼの大学の学祭とやらに連れて行ってもらい。

学内を色々と見回った。

 

10月上旬のとある日の午後、今日も日課の治療を受ける。

何時ものようにベッドの上で点滴を受けながら、ドクター・エドワードと会話をする。

「マリーダ、何かやりたいことが見つかったか?」

 

「……まだ」

私はこう返事はしたが、この頃試してみたいことは色々と出て来た。

 

「時間はたっぷりある。ゆっくり考えたらいい」

 

「だがモビルスーツにも乗れるようにはなっておきたい」

 

「親父さんの為か?」

 

「それもある。……だが、いざと言う時のために」

そう、私には守りたいものが増えてしまったから。

 

「そうか、……なら俺も頑張らねーとな。マリーダが復帰できるようにな」

そう言って私の頭を優しく撫でるドクター……いや。

 

「………その……ありがとうエド兄(にい)」

 

戦う以外に私に出来る事はまだ見つからない。

だが、私が生きる意味は見つかったように思う。

 




あれですね。
アムロとレッドマンの修羅場編の間の、皆のお出かけはこの時ですね。
こっちは、ほのぼの日常編ですがw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ローザ編②ローザの思い。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

初のローザ視点のお話です。
まあ、その甘々です。







ラプラスの箱を巡る戦いの後、私はエドに予てから心に秘めていた思いを言葉にした。

 

「……子供が欲しい」

私が、この言葉を発するのにどれだけ緊張したものか、ラプラスの箱での戦いなど児戯に等しい程に問題にならない。

これ程緊張した事は、エドに結婚申し込み、告白したあの時以来だ。

普段エドと話すのに何も遠慮も気兼ねもいらないのだが、こればかりはどうしてもだ。

 

私はエドワード・ヘイガーに懸想をしている。

それは疑いようがない。

 

今思い起こせば、エドと出会った当初は唯の医者と患者の関係だった。

死ぬはずだったこの身をエドに救われ生き延びることとなった時だ。

当時の私はエドを最大限に警戒していた。

私はネオ・ジオンの摂政官ハマーン・カーン、ジオン再興のためにすべてを捧げて来た人間だ。軍を動かし地球連邦に対し宣誓布告を行い、世界中に戦争という死をまき散らした極悪人でもある。

私を生きながらえさせた理由など、地球連邦に売り渡すか、ネオ・ジオンに身代金でも要求するか、アナハイムや軍事財閥や他のジオン残党との交渉に利用するためだと決まっていると思っていた。何にしろ、あの男(シャア)のように私を利用するに違いないとな。

そして、私はジオン再興に身を捧げた時から女を捨てたのだが、残念ながらこの身は女だ。

辱めを受けるのではないかとも思っていた。

 

だが、全く違っていた。

 

エドは本当に私に説教するだけだった。

その言葉は、私の心中に深く突き刺さったがな。

それ以外は粛々と医者として、重症人の私の治療を施す。

 

その時エドに抱いた印象は変わった医者だという程度だった。

 

エドは私がハマーン・カーンであることなど、全く歯牙にもかけず、唯の患者…一人の人間として接して来るのだ。

私にそのような振舞いを見せたのは、今迄の人生の中でジュドー・アーシタぐらいしか記憶に無い。

 

悪い気分ではなかった。

 

エドと生活するにつれ……私の凍り付いた心が温かな何かに包まれて行く。

私はエドとの生活に心が満たされ、さらに楽しみと喜びという感情まで現れる。

さらに私に安らぎを与え、安心感を与えてくれた。

エドは私を無理矢理妹にしたが、異論はなかった。ここで過ごすにはその立場が実に有効に働いたからだ。

私自身このままこの生活を送れるのであれば、妹扱いだろうが特に問題は無かった。

エドとの生活は居心地が良かったのだ。

始めはそれだけでいいと思っていた。

妹として、エドの近くに居られればそれでいいと。

だが、時が経ち、クロエの結婚を見、それ以上の繋がりが欲しくなった。

 

しかし、その選択はエドにとっては良いものでは無い事は、私には分かっていた。

私はハマーン・カーンであり、大罪人であり、大手を振って表に歩くことも出来ない日蔭者だ。

私はあきらめるしかなかった。

これ以上この思いが大きくならない内に、心の奥底に深く沈めたのだ。

 

だが、第2次ネオ・ジオン抗争時にシャアに囚われた時だ。

私は一時は死を意識した。

そして生還しエドに抱きしめられると、奥底に留めていた思いが溢れ、もはや私自身でも制御が出来なくなったのだ。

エドと寄り添いたい。

エドを独占したい。

エドに抱きしめてもらいたい。

エドと確かな繋がりが欲しい。

私はエドと結婚したいのだと。

 

私なりに、エドをあの手この手で振り向かせようとしたが、すべて失敗に終わる。

色恋沙汰などという感情は数年前に捨てきったと思っていたのだ。

今更、私に何が出来ようか?それに私には今更町娘のような振舞もできようもない。

だが、トラヴィスや周囲の人間の協力により、私は漸くエドに結婚を申し込むことが出来た。

しかし、その時のエドの困惑顔と言えばどうだ。

私のアピールには全く気が付いていなかったのだ。

それも致し方があるまい。

エドにとって私は飽くまでも妹なのだ。

私を女として全く見ていなかったという事だ。

エドには下心という物が無いのだ。欠落してると言っていい。

今でこそ多少でもそう言う目で私を見てほしいと思うのだが、出会った頃にそうであれば、私はここまでエドに信頼を置いていなかっただろう。

エドワード・ヘイガーとはそう言う男だ。

今更ながら厄介な相手に懸想したものだ。

 

エドとの結婚への道のりは長かった。

この時点でようやくスタート地点というところだ。

エドは私が告白すると、しばらく待ってくれと……。

 

その後は、エドと寝室を共にすることとなったが、エドは私には全く手を出そうとしないのだ。

私とて恥ずかしいのだ。アンネローゼに選んでもらった透けたネグリジェはほぼ裸同然だ。

その姿で毎晩ベッドに入りエドが来るのを待っていたのだ。

それなのにだ。エドは普段通り、自分のベッドに潜ると直ぐに寝てしまうのだ。

………流石に女としての自信が砕かれる思いがした。

 

だが、エドは毎週、空いてる時間に私を連れ出してくれ、食事や買い物、映画などを共にしてくれた。

これは世間一般で言うデートという物だという事は理解出来た。

改めて恋人同士が行うデートやらの所業を思うと何故か気恥しくて仕方がない。

普段医者と看護師という立場で共に仕事に従事している時とはまるで異なる。

エドの顔が近づくだけで、私は胸が高鳴るのだ。

だが、そんな後であろうと、夜は別々のベッドでそのまま就寝する。

私がこれ程、心揺らされる思いをしているのにだ。エドはいつも通りなのだ。

 

私はそんな毎日を過ごしてる内に……このままでも良いのではないかと思い出す。

私はエドの傍らにいるだけでいい。

エドの意思を蔑ろにし、無理に結婚するよりは、その方が良い。

私の気持ちを奥深く沈めてしまえば良いだけの話だ。

 

そして半年後のあの日。

 

エドに連れていかれ、あの貯水池の畔のベンチで……

「ローザ……俺と結婚してくれるか?」

まさか、エドから結婚を申し込まれるとは思っても見なかった。

その手には、指輪まで用意していたのだ。

 

「遅い……遅すぎるぞ。……だが許す」

私は思わずエドに抱きついていた。

人生の中でこれ程、よろこびという感情が私を支配したことは無かった。

 

「すまん……待たせたな」

エドはそう言って、私を優しく抱きしめてくれた。

 

アクシズに居た頃の私には考えられない事だ。

あの時は、漠然と体の中心に寒さを感じていた。

それが何だったのか、今ならはっきり理解できる。

今の私に有って、当時の私には無い物。

抱きしめてくれるエドから伝わる体温……、温かな日常、人との温かな絆。

エドは凍り付いた私の心を溶かし、そこに空いた穴に、すべて温かなもので埋めてくれたのだ。

 

 

晴れて夫婦となったのだが、今までとは大きくは変わらない。

ただ、エドのすべてが愛おしい様に思えてならないこと以外は……。

 

私はこれ以上の幸せという物はないと思っていた。

思っていたのだが、また、新たに欲が出る。

幸せを掴むという事は、次の幸せが欲しくなる事なのだろう。

 

クロエの2歳になる子供を抱き上げ、その愛らしさと命の鼓動を聞くと。

私もエドの子供が欲しくなったのだ。

 

ラプラスの事件を解決した後に、エドに子供が欲しいと告白。

 

「そうか、そりゃそうだよな。俺もだ。……俺もお前との子が欲しい」

エドは私が期待していた以上の言葉をくれる。

 

 

そして、1年と3カ月後にミーナが生まれる。

 

私が宇宙(そら)でエドに拾われてから8年半。

私は命を救われ、ミネバ様も救ってくれ、セラーナとも再会を果たさせてくれた。

私を伴侶と選んでくれ、子供まで……。

これ以上ない幸せが今目の前にある。

 

8年半前の私(ハマーン)には、今の私(ローザ)の姿が想像できただろうか?

いや、今の私(ローザ)の姿を見れば間違いなく嘲笑するだろう。

 

だが、それでいい。

8年半前の私(ハマーン)は何も知らない小娘同然だったのだ。

振り返れば、本気でジオン再興を成し遂げようとしていた私(ハマーン)は、肝心の人々の心情を蔑ろにし、武力だけで統治しようとした。その結果、内乱を招き、自滅したのだ。

今の私(ローザ)から見れば、当然の結果だろう。

 

もっと早くにエドに出会っていれば、あのような結果にならなかっただろう。

いや、あの過程があったからこそ、こうしてエドに出会い、結ばれる事が出来たのだ。

 

 

ふと思う事がある。

ベッドから目を覚ませば、あの8年半前の戦争の真っただ中に戻るのではないかと……今のこの生活は全て夢ではないかと。

 

それは今の私にとって何よりの恐怖だ。

 

私は、隣で寝息をたてるエドの寝顔を覗きこみ、エドの腕を抱きしめる。

エドの温もりと鼓動を感じれば、今が現実だと安堵する。

 

私はこの温かな日々が永遠に続く事を願わずにはいられないのだ。

 





次で一度終了いたします。

その後は、思いついたら書いちく予定です。
一応終了後に一話分だけ構想しております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次の世代へ……(最終話)

今迄お付き合いして頂きましてありがとうございます。
今回で最終話です。一応区切りをつけないとズルズルいきそうなので。
何か思いついたら超蛇足編として書き足そうとは思ってます。

感想を沢山いただきありがとうございます。
出来るだけ返させていただこうと思います。(ゆっくりですが)
誤字脱字報告ありがとうございました。非常に助かります。

では、最終話。


宇宙世紀0099年12月初旬

人類が宇宙へと進出し、宇宙世紀と改暦してから100年が経とうとしていた。

来年の初旬には宇宙世紀100年祭とやらが大々的に開かれる。

 

ローザと結婚して4年が過ぎ、ミーナももう2歳と3カ月だ。

そういう俺ももうそろそろ40か、年をとったものだ。

リゼはフリーの服飾デザイナーの仕事をやりながら大学4年に上がった。

クェスはなんと大学に進学した。人類の神秘を研究するとか言っていたが……まあ、好きにしたらいい。

オードリーも大学進学し、法学部に入ったのは良いんだが、もう司法試験に受かりやがった。

来年は、経済学部に学部変更すると言っていたな。

バナージも大学進学し機械工学部へ。この頃はトラヴィスのおっさんの会社…というかアムロの下でバイトに勤しんでいる。何でも大学で学ぶよりも勉強になるらしい。

マリーダは治療を終えることが出来た。

将来的にはトラヴィスのおっさんの会社で働きたいらしい。

まあ、親父のジンネマンとまた一緒に働きたいのだろう。

だが、マリーダは去年から、料理の専門学校に通っている。

お菓子の専門学校だ。やりたいことが出来たのはいいが、意外だったな。

今は専門学校に週3回、トラヴィスのおっさんの裏の仕事、民間軍事会社の方に、週2回顔を出してる。モビルスーツの操縦のリハビリを兼ねてな。

治療は完璧だったんだが、人体負荷系の耐性はどうしても落ちてしまった。

幸い、ニュータイプ能力は維持できた。いや、本人曰く、以前にくらべかなり強くなってるらしい。

おれは、ニュータイプについてはそれほど詳しくはないが、ローザも高まってると言っていたし、そうなのだろう。

リタは結婚して家を出た。

まあ、週に2~3回こっちに顔を出すから、あまり変わらない気がする。

相手は……

 

俺が思いに更けてる内に、俺が乗っていた定期宇宙船舶が新サイド6、1番コロニーのドックに到着する。

 

例の新サイド6医師会の会合に出席するためだ。

一応毎回顔を出してるんだが、いけ好かない理事長の野郎が今回に限ってしつこく出席するように言って来やがった。

まったくなんなんだ?

 

俺はいつも通り会合に出席して、最新医療の研究動向や傾向、医師会の来年度予定についてなど、必要そうなテーマだけ出席して、とっとと帰ろうと途中で退席する。

後半はどうせ、新サイド6医師会のくだらねー自慢話や、賞の授与式だ。そんな物には全く興味がねー。

だが、理事長の野郎が、医師会の本部ビルから出ようとする俺を追いかけて引き留めに来やがった。

何でも、俺に客が来ているそうだ。

なんだ?医師会を通しての俺の客だと?

全く心当たりが無い。

 

いけすかねー理事長だが、ちょっとは顔を立ててやらねーとな。

俺も大人になったという事だ。10年前の俺だったら速攻断ってた。

 

俺は理事長室の応接間に通され、そこには二人の男がソファーに座っていた。

一人は軍服を着てる。連邦軍の軍服の階級章から少佐だという事が分かる。

けっこう良いガタイをしてやがる。

もう一人は、なんかもうアレだ。どうこをどうみても怪しい奴だ。なんて言うかだ、マッドサイエンティストここに極まりみたいな顔をしてやがる。この顔でもし良い奴だったら、俺はこの場で土下座して謝っちまう。

 

理事長はこの二人にペコペコ頭を下げた後、俺を応接間に置いて出て行った。

 

 

「ドクター・ヘイガー。お会いできてまったく光栄。私はティモ・バルシウス。アナハイムと連邦軍との合同研究所の所長を拝命してる身である。ウシ、ウシシシッ」

そのマッドサイエンティストみたいな奴は、変なしゃべり方と怪しい笑い方をしながら俺に握手を求めて来た。

こんな奴とは関わりたくないぞ。明らかに怪しい奴だ。

出来るなら今すぐこの場を去りたい。

 

「で、田舎コロニーのしがない街医者の俺に、お偉い立場の人が何の用ですか?」

 

「君の論文を幾つか拝見しました……アレは素晴らしい!実に素晴らしい!君のお陰で遺伝子治療が20年は進んだと言っていいでしょう……」

 

「はぁ、大げさですね」

 

「ところで、人間の可能性に興味がおありかな?」

バルシウスとかいう怪しいマッド所長はやらしく顔を歪ませこんな事を聞いてくる。

 

「なんのことだか、さっぱりです」

こいつ…なんだ?嫌な予感がするぞ。

 

「ふむ。君の論文を読むにつれ、気が付いたのだよ。君さえいれば、最強の戦士が作れると!ニュータイプを越える。人類史上最強の戦士を!!ウシ、ウシシシシッ!!」

こいつ、まさか強化人間の事を言っているのか?

 

「はぁああ?何言ってんだおっさん!?」

そして俺は気が付いた。

このマッド所長の言葉でな。

アナハイムと連邦の合同研究ってことは、十中八九強化人間の研究のことだろう。

強化人間の研究を行っていたオーガスタ研究所はグリプス戦役後、解体処分となった。しかし、実際はアナハイムがその研究所の後釜に入り、研究は引き継がれていると噂を聞いた。

こいつは、多分そこの人間の元締めだ。

俺の遺伝子治療の論文から、強化人間の治療や機能障害回復に使える事に勘づきやがった。

俺が1年半前学会に提出した遺伝子治療の論文は、もちろんリゼやマリーダの治療の課程で得たデータを元に、初歩的な理論だけ書き綴ったものだった。

突っ込んだ事を書くと、強化人間の治療だけでなく、機能障害を低下させた強化人間を遺伝子レベルで作れてしまう可能性が在るからだ。

 

「ウシ?」

 

「マッドなおっさんよ…あんた…まだ強化人間の研究をしてるのか?」

俺は自然と声が低くなり、マッド所長を睨んでいた。

 

「ウシシシッ、話が早くて助かる。やはり君は頭がいい。さあ!私と行こうではないか、次世代の最強の人類創造のために!!ウッシシシッ!!」

こいつ、やっぱイカレてやがる。

人類創造だと!?不幸な人間をつくってるだけじゃねーか!!俺にその片棒を担げだと!?

ふざけんな!!

 

「………他を当たってくれ、俺は強化人間に興味は無い」

俺は沸騰しそうな頭を何とか冷やし、冷静に言葉を返した。

だが、俺の目はこの腐れ外道の顔を鋭くとらえていた。

 

「人類最高の研究だぞ!研究が成功すれば金や地位も手に入る!!」

 

「………いらねーよ。そんなもん。じゃあな」

俺はまだ冷静でいられる。

席を立ち、この部屋からとっとと出ようとするが……

 

「ウシシシッ!致し方が無いですねー、少々手荒になってしまいますが…少佐殿」

マッド所長がそう声を上げると、今迄沈黙を保っていた軍服の男が、部屋を出ようとする俺の腕を掴み、取り押さえに来やがった。

 

「大人しくしたまえ、地球に無理矢理でもついてきてもらうぞ。ドクター・ヘイガー殿、ウシシシシッ!」

 

「くそったれが!俺は手伝わねーぞ!!」

 

「ウシッ、君は家族がいるようだね。まあ、随分と大家族だそうだ。その家族の為にも大人しくついて来たまえ、ウシシシシッ!」

 

「てめーーー!!俺の家族に手を出してみろ!!!!ぜって――――ゆるさねーーーー!!」

俺は冷静に努めようとしたが、こればっかりは無理だ。俺の思考のすべてが怒りに切り替わってしまう。マッド野郎をこの場で殴り飛ばしたいが、俺が後ろ手に腕をお付きの少佐に抑えられてるため、もがくのが精いっぱいだった。

 

「君が大人しく言う事を聞いてくれたら、一切手を出さないと誓おう。それどころか、研究が成功すれば、金も名誉も与えられ、こんな田舎コロニーに住まわずに、地球で贅沢三昧に暮らせるのだよ。そう、君の大切な家族と一緒にね。きっと家族も喜ぶ。ウシシシシッ!」

 

「ざけんなーーーっ!!」

 

俺はそのまま拘束され、コロニードックに連れ出され、連邦軍のクラップ級戦艦に乗せられた。

くそっ、このまま地球に直行ってわけか!?

最初から俺を無理矢理連れて行くつもりだったのか!!

 

俺は軍艦の一室に監禁される。

そういえば、ローザが俺が出かける前に、嫌な予感がするからついて行くと、心配そうに何度も言っていたな。ニュータイプの勘ってやつだったのだろう。

俺は心配するな大丈夫だと苦笑気味に断った。

ミーナもまだ幼いし、会合は何時もの事だったしな。

………くそっ、結局あいつに心配かけちまった。

何とか脱出できねーか。せめて、トラヴィスのおっさんに連絡をつけられれば……

 

戦艦に乗せられ、6時間が経過しただろうか。まだ、大気圏突入には時間があるはずだが、戦艦が大きく揺れ、艦内にけたたましく警報が鳴り響く。

 

なんだ?

 

最初の揺れから、ずっと艦は揺れまくる。

……戦闘に巻き込まれたか?

この衝撃はそうだ。軍医だった頃16年前のデラーズの紛争の時と同じ感覚だ。

まずい、ジオンの残党か何かに狙われたか?

俺はこのままお陀仏か!?

いや、なんとしても脱出しねーと。

俺はドアを蹴り、破壊しようとするが、びくともしない。

くそっ!

 

10分ぐらい経っただろうか?

何故か扉が開いた。

よし、脱出ポッドを探さねーと。

そう思った矢先に、開いた扉から人影が入って来る。

げっ、まずいぞ。

 

だが……

「エド!!」

俺は人影に強く抱きしめられる。

 

「ロ…ローザか?」

俺はその声や五感でローザだと分かった。

 

「怪我は無いか?どこか痛むところかは無いか?」

ローザは矢継ぎ早に俺に心配そうな顔をしながら聞いてくる。

 

「いや大丈夫だ。なんともない。お前…何故ここに?」

 

「嫌な予感がしていたのだ。トラヴィスに新サイド6周辺や1番コロニー周囲に不穏な動きが無いか、聞いたのだ。そしたら……エドが囚われたと……私は……私は……エドが……」

ローザの目から涙が零れ落ち、再び俺を強く抱きしめる。

 

「すまん。心配かけた。それに助かった」

俺はローザの目から落ちる涙の粒を指ですくう。

 

 

この後、俺はノーマルスーツに着替え、戦艦に空いた穴から、ローザと共に脱出し、β-アジールに乗り込む。

…………

あれだ。どうやらトラヴィスのおっさんらにまた借りが出来たようだ。

クラップ級戦艦の周りには、ユニコーンガンダムが3機、Ex-νガンダム。ノイエジールⅡ改から、その他モビルスーツにZタイプ3機、ガンダムタイプが2機に、ガンダムの化け物みたいなのが1機、シナンジュとかいうモビルスーツに、ゲルググの発展形のようなモビルスーツが5機、ギラドーガの発展形らしきモビルスーツが5機位、何か見た事も無いモビルスーツが4機と、多数が囲んでいた。しかもグワンバン級改やら、戦艦が5隻も……

 

いや、やり過ぎじゃね?

 

ローザが操縦するβ-アジールでグワンバン級に帰還する頃には、クラップ級はそのまま捕縛される。

 

グワンバン級にはいつもの面々が顔をそろえていた。

トラヴィスのおっさんにアンネローゼ、アムロにキャスバル。そして、ヴィンセントまで……

そこには、俺の家族も……クェス、バナージ、マリーダにオードリーまで、さらにリタ……リゼもミーナを連れここに。

 

俺は皆に頭を下げる。

気恥しいような、安堵したような顔を皆していた。

 

俺が拘束された経緯を皆に話すと……

 

「オーガスタ基地と旧オーガスタ研究所か……アレは確か、ブレン少将の管轄だったか」

トラヴィスのおっさんは顎を撫でながら、何かを思い出した様に話し出す。

 

「いずれにしろ許すわけにはいかんな。潰すしかあるまい」

キャスバルはこんな事を言い出す。

 

「そうよ!パパを攫おうなんて!許せるわけが無いわ!!」

クェスは拳を振り上げる。

 

「潰すっておい、俺はこうして無事だしよ」

 

「流石に、正面切ってはまずいよな」

トラヴィスのおっさんは思案顔をしていた。

おっさん、こいつ等を止めてくれ。

下手をすると連邦と戦争になるぞ。

 

「正面では無ければ、問題ないという事だな社長」

アムロ!何言ってんだ?連邦軍にケンカを売るつもりか!?

 

「私はエドが無事であればそれでいい。だが……エドの命の危険にさらした事は許せん」

ローザまで、何言ってやがる。

 

「ちょっと待てって!」

 

「まあ、そのうちな」

トラヴィスのおっさんはそう言ってこの場を収めた。

いや収めたといえるのだろうか?

そのうちっておい。

 

 

俺は無事、我が家に家族と共に帰る事が出来た。

出来たのだが……

 

数日後、新サイド6医師会のあのいけ好かない理事長は失脚した。

不正が発覚したとかだそうだ。賄賂が主だが、黒黒としたものが出るわ出るわで。

 

数週間後、オーガスタ基地及び併設研究所は、実験失敗により、大爆発を起こして、跡形も無く吹き飛んだそうだ。

人的被害は殆ど無かったそうだが……

その後、その責任を取る形で連邦軍ブレン少将は失脚したそうだ。

 

 

…………あいつ等、俺に何も言わないが……。

明らかにトラヴィスのおっさん達がやっただろ!

クェスとバナージとマリーダは3日間家に帰らなかったし!

キャスバルのバーは3日間臨時休業だったしな!

何をした!

基地と研究所がどうやったら跡形も無く吹き飛ぶんだ!?

可笑しいだろ!?

 

バレたら、連邦がこの新サイド6に総攻撃してきてもおかしくないぞ!

 

 

 

 

そんなこんなで、宇宙世紀0100年を迎える。

世間では100周年を祝うお祭りムードが広がっていた。

そして、サイド3のジオン共和国は自治権を手放し、地球連邦に帰順することに……。

ローザやオードリーは思うところがあるだろう。

「ザビ家の役割はもうこの宇宙のどこにもありません」

そう言うオードリーはどこか寂し気でもあり、ホッとしたようでもあった。

 

ヘイガー家では新たに家族が増える事になった。

ローザが妊娠し、今年の夏には2人目が生まれる予定だ。

その他は普段通りの日常が過ぎていく。

 

 

俺の周りの連中は忙しなかった。

新サイド6医師会の理事長は暫くその席は空席だったのだが、新たに温厚そうなどこぞのおっさんが就任した。

それはそれでいいんだが、幹部理事、実質のナンバー2にセイラが何時の間にか就任していたのだ。

……まあ、セイラの実家のマス家ってかなり有力な家柄らしいからな。無いことも無いんだが。

 

トラヴィスおっさんはおっさんで新サイド6のコロニー公社の株を32%取得したんだと。

さらに事業を拡大し、各コロニーのジャンク屋を傘下に収め、おっさんの会社の支店が各サイドや地球のあちこちに出来たとか……

そんで、アナハイムに対抗するために、地球連邦の外郭団体のサナリィとか言う組織にかなりの出資をしたそうだ。

おっさんの会社の人員がかなり出向したとか……アムロはそこの幹部に……。

 

しかも俺はおっさんに、会社の監査役になってくれと頼まれる。

何でも、民間軍事会社の最終意思決定者の一人になってくれと……。

おっさんは引退後の事を考えていた。

民間軍事会社が暴走しないようストッパー役を頼んできたのだ。

俺ならば間違わないと……。

俺は何度も断ったんだが、アンネローゼやヴィンセントやアムロやキャスバルにも頼まれる始末。

遂に俺は折れて引き受けてしまった。一般人の俺に何が出来るんだ?まったく。

 

キャスバルの奴は、ホストクラブとバーを新たなブランド名ナイチンゲールとして、新サイド6のあちらこちらのコロニーに店を立ち上げたのだそうだ。

元ジオン残党兵やらを雇って、強面筋肉ホストクラブだったり、イケメンホストクラブだったり、おっさんを集めたシブメンズバーとか……まじでかなり盛況らしい。

世の中何が当たるかわかったもんじゃないな。

将来は全コロニーに支店をつくるだと。

出資者は勿論、トラヴィスのおっさんなんだけどな。

 

あんまり深く考えると胃に穴が開きそうだ。

俺の周りの奴らって、よく考えると優秀過ぎる奴らばかりだよな。

そのおかげで俺もこうやって楽しくやっていけてる。

あいつらたまに問題も起こすけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年後……

 

わたしはミーナ・ヘイガー8歳、小学3年生です。

お家は診療所をしてます。

お父さんの名前はエドワード・ヘイガーでお医者さん。

お母さんの名前はローザ・ヘイガー看護師さんです。

それと妹が二人と年上のお姉ちゃんが沢山とお兄ちゃんがいます。

 

「ミーナ、気をつけてな」

「ミーナ、何かあったら、私に直ぐに連絡するんだぞ」

「大丈夫だよお母さん。お父さんも行ってきます」

お父さんと一番下の妹のアリスを抱いてるお母さんが見送ってくれます。

毎朝、小学校に行くときは何時も、こんな感じです。

 

わたしには弟や妹のようなお友達もいます。

 

「キャスバルお兄様、急いでください」

「私の赤のランドセルが無いのだよ」

「ミーナお姉さんがお待ちですよ」

「ララァ、私を導いてくれ」

この子達は私の一つ年下の双子の兄妹で、直ぐ近くの家に住んでるレッドマンおじさんの子で、キャスバルくんとララァちゃん。

お家の前までお迎えに行って、いつも一緒に学校に行ってます。

 

「急がなくて大丈夫だよ」

 

しばらくして、2人がお家から出てくる。

「待たせたようだな。ミーナ」

「ミーナお姉さん、おはようございます」

「おはよう。キャスバル君とララァちゃん」

 

2人と合流した後、学校に歩いて向かいます。

その途中の大きなお家のインターフォンを鳴らす。

 

ここはアムロおじさんのお家で、一つ下のアイラちゃんとアベルくんも一緒に学校に行きます。同じ年なのに、双子じゃないそうです。アイラちゃんがお姉さんでアベル君が弟です。

「ミーナ姉さん、キャスバル君にララァさんおはようございます」

「あれ?アベル君は?」

 

「軟弱者は、放っておいて行きましょう」

アイラちゃんはツンとしてそんな事を言っちゃう。

「ふっ、それが良かろう」

「キャスバル兄さん。少しは寛大な心をお持ちになって」

「そうだよ。アイラちゃんもアベル君を待ってあげようよ」

 

「あの軟弱者は、まだ寝てますので気にせずに…」

 

「ええい、埒があかない。私がたたき起こしてやろう!」

「お兄様、私も行きます」

キャスバル君とララァちゃんはアベル君を起しに行っちゃった。

 

アベル君のお家から……

「でたな!キャスバル!僕はまだ眠い」

「フフフッお前が起きないのが悪いのだよ」

「は、速い!通常の三倍だと!?」

「ベッドの性能差が戦いを決しはしない。ん?チィッ堅い!このベッドは化け物か!」

「何をやってるんですか、お兄様、アベルも!」

「ララァちゃん!?……す、直ぐに着替えるから待ってて」

「最初から、そうすればいいのだ。私も鬼ではないのだ。このような所業には至らなかった」

 

………

みんな面白い子ばかりです。

 

しばらくして、髪の毛がぐちゃぐちゃのままのアベル君とキャスバル君、ララァちゃんがお家から出て来る。

 

「アイラ、なんで起こしてくれないんだ。母さんたちは?」

「妹と弟と皆一緒に保育所に行ったわ。何度も起こしたのに起きないあなたが悪い」

アイラちゃん達は兄妹が沢山です。何故かお母さんも……

 

わたしのお家も、年が離れたお姉ちゃんがいっぱいいます。

でも、お母さんは一人だけ。

 

キャスバル君とララァちゃんはキラキラの金髪で、アイラちゃんもキャスバル君達と同じキラキラな金髪です。

アベルくんはくせっ毛の黄色がかった金髪なんだけど、アベル君の下の兄妹は黒髪と茶色の子もいます。

 

そう言えば、わたしとお姉ちゃん達とは髪の色が違います。

わたしと妹達は皆ピンク色です。

お母さんは昔、ピンク色だったそうです。

もしかすると、大人になると髪の色が変わるのかもしれないです。

だったら、クェスお姉ちゃんみたいな綺麗なエメラルドグリーンがいいな。

 

 

こうして、皆で一緒に学校に行きます。

去年までは、クロエおばさんの子のハイネお兄さんがお家は離れてるんだけど、お家まで来てくれて、一緒に連れて行ってくれたんだけど、お兄さんは卒業しちゃったから。

わたしもみんなよりお姉ちゃんだから、みんなを連れて行ってあげないとね。

 

 

 

 

わたしは今日も楽しく元気に学校に通ってます。

 

 

 

 

 

 




皆様ありがとうございました。

あーー、その、誰が誰と結婚したかとかはご想像にお任せでいいですかね。
いや、ほぼバレてるけど。

最終話後、一応、一話は用意してます。
クェス編を。
バナージ編②もやりたいはやりたいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クェス×マフティー編
クェス編【前】


ご無沙汰しております。
前回アナウンスした通り、超番外編のクェス編です。
前後編となりそうです。




~宇宙世紀0105年~

 

 

 

 

「クェス、また来たのか?」

 

「良いじゃない。どうせじいちゃんも暇なんでしょ?」

私はそう言いつつ、広い部屋の片隅に置かれている堅めのソファーに深く腰を沈めた。

 

ここはとある会社の重役室。

 

「暇っちゃー暇だな」

私の目の前に座る60代中頃のこの人は、精悍な顔つきなのに子供っぽい笑顔を向ける。

この人は私の祖父では無いけれど、妹のミーナがそう呼んでるから、私もそう呼んでる。

トラヴィス・カークランド。パパの古くからの親友で、世界有数の企業カークランドコーポレーションを一代で築き、今は一線を退いて、会長となって暇を持て余してるらしい。

 

「なら良いじゃん」

 

「はぁ、クェス。どうせエドに怒られたんだろ。お前さんがここに来る理由なんて、それぐらいだしな。今度は何をやらかしたんだ」

 

「パパに怒られたわけじゃないんだけど。……ミーナって、可愛いじゃない。私の事もお姉ちゃんお姉ちゃんって。私と同じ髪の色になりたいって言うし」

 

「おう、それは同意するよな。俺の孫たちも可愛いが、もう大きくなったし、この頃は会いに来てくれないんだよな。で、それが何の関係があるんだ?」

じいちゃんはちょっと苦笑気味でそう言う。

 

「パパに…私もパパの子が欲しいなって…もちろん冗談よ。冗談で言ったんだから」

 

「はぁ、お前な。冗談が過ぎるぞ。まさかローザちゃんの前で言ったのか?」

 

「うん……」

 

「エドは鈍感の極地だからな、冗談で済ませただろ。きっと、『親子で出来るかー!』てな具合で頭をグリグリされたんだろ?」

 

「うん……」

 

「問題はローザちゃんか……、どうせ微妙な空気になったんだろ」

ローザ姉は、パパの奥さんだけど、私のママじゃない。どっちかと言うと、姉的な存在かな。

 

「うん……」

トラヴィスのじいちゃんは、これだけの会話だけで、さっき家で起きた事を言い当てる。

この人は、表の顔は大企業の元トップなんだけど、裏の顔は民間軍事会社スレイブ・レイスのトップで、一年戦争から、今まで数々の戦場を生き抜いてきた戦士でもあり、あのアムロやレッドマンすら、一目も二目も置く様な凄い人。

戦場の幽鬼、死神と恐れられる程にね。今じゃ全然そんな風には見えないけど、数年前までモビルスーツに乗って前線で指揮を執ってたし。

パパが言うには戦場の人たらし…らしいわ。

 

「お前さんなー、ファザコンが過ぎるぞ。いい加減に父離れしたらどうだ?いい奴居ないのか?お前さんはすげー美人だから、男なんて無数に寄ってくるだろ?」

 

「だって、パパよりいい男何て、どこにもいないしー」

 

 

 

 

私のパパの名前はエドワード・ヘイガー、街の診療所のお医者さん。年は45歳。

私とパパの間には血の繋がりがない。私が13歳の頃にパパの養子になった。

血の繋がりは無いけど、私にとっては大切で、大好きなパパ。

私に居場所と安らぎを与えてくれて、私を大切にしてくれる。

肉親よりもずっと絆を感じられる人。

 

12年前、私は嫌気がさして本当の父親の元を離れ、新生ネオ・ジオン軍総帥シャア・アズナブルの元に走った。

私の本当の母親は幼い時に亡くなって、直ぐに父は別の女の人と再婚、私はその女の人が嫌いだったし、その女の人と一緒にいる父も嫌いだった。

父は年がら年中仕事で家を空け、滅多に顔を合わせる事も無かった。

再婚した女の人も父と行動を共にして、家にはほとんど帰ってこない。

私は家に、お手伝いさん数人と暮らしていた。

そのお手伝いさんも腫れものを扱うような感じで、私に接する。

 

私は家に居るのも嫌になり、度々家出を繰り返していた。

あの日、私は何時ものように学校にも行かずに家出をしたんだけど、父が軍の人間を使って、無理矢理連れ戻しにきて、そのまま宇宙へと上がる事になった。

その時、アムロ・レイ、次にシャア・アズナブルと出会った。

私はシャア・アズナブルのその佇まいや言動に惹かれ、新生ネオ・ジオンに。

私はシャアに父になってもらいたかったのだと思う。

でも、シャアは私を兵士として扱う、ニュータイプの兵士として……。

私はそれでもシャアの役に立とうと、そうすれば私を見てくれると当時は思っていた。

 

ロンド・ベルとの戦いで、私はシャアの為にと大型モビルアーマーαアジールを駆り、作戦を遂行する。

アクシズを地球に落とすために、アクシズを守りつつも、撤退する艦隊の手助けをするという役目だった。

 

私はその時、撤退する艦隊を急襲するスレイブ・レイスと遭遇し、モビルアーマーと戦ったのだけど圧倒的な力の差で敗北。

今考えれば、あのモビルアーマーに載っていたのはアンネローゼさんとローザ姉だった。

 

私は囚われの身となり、次に目が覚めたら、診療所のベッドの上だった。

そこで、パパと出会った。

 

 

パパの第一印象はちょっと目が鋭いおじさんって感じだった。

最初は、私は囚われの身になったと思い、反発し暴れた。

シャア大佐はどこだとか、私をスイートウォーターに帰せと……。

でもパパは……

「お前を帰すわけには行かない。お前を戦争の道具にした奴の所になんてな」

 

私はそれでも反発した。

シャアの理想に共感して、私の意思で戦争に参加したと。

 

「お前はまだ子供だ。子供に戦争を許してる時点で、そいつはダメな大人だ。もっと言えば、戦争となれば、不幸になる子供たちが生まれる現実を分かっていて、戦争を起こすようなそんな奴の所にお前を置いておけねーよ」

 

このままだったら、地球がダメになるから戦争は仕方がないとパパに言った。

 

「……戦争が仕方がないか…、子供にそれを言わせるか……俺達大人の責任だな…すまん。…でもクェス、いいか。戦争が仕方がないと思ってはダメだ」

パパは私に怒るわけでもなく、優しく諭してくれていた。

 

じゃあ、なんで人は戦争をするのと、この当時の私は小生意気にこんな事をパパに聞いた。

 

「戦争や争いというのは利害関係の拗れで起きる。その利害は本来話し合いで済むはずなんだ。だが、人という生き物は感情で支配されている。話し合いで済むはずの利害に何らかの感情が加わっちまう、それが欲望だったり野心だったり、それこそ正義感だったりな、そんな感情がぶつかり合って争いが起きちまうんだ。それは人のサガなのか何なのかは俺もわからん」

 

当時の私はパパが言ってる事が小難しくて理解出来なかったけど、パパは私の質問をちゃんと聞いてくれて、それに答えてくれた。

パパは頭ごなしに、私の言葉を否定しないし、分からない事は分からないと言ってくれる。

今迄会った大人とは全然違ってた。

 

当時の私はいつの間にか、パパと話をするのが楽しみになっていた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、エドが基準かよ。そりゃ無理だぞ。あれ程の男はそうは居ないぞ」

 

「やっぱじいちゃんもそう思う?」

 

「なに目をキラキラさせてんだ?いいか、クェス。お前の親父さんのエドは正直言って特別だ。超鈍感で口汚いが、天然の人たらしだ。俺の事を戦場の人たらしとかエドは言うが、あいつこそ世界一の人たらしさ。よく考えて見ろ。エドの周りに誰がいる?ローザちゃんとレッドマンにアムロって、本来なら直ぐにでも殴り合いや戦争が始まってもおかしくないような間柄だったんだぞ。仲を取り持てるもんじゃねーはずなのによ。今じゃ、あんな感じだ」

ローザ姉は後で知ったけど、元ネオ・ジオンの事実上のトップ、鉄の女ハマーン・カーンだった。中学や高校の教科書にも載ってるぐらいの超がつく有名な人だった。

そのローザ姉は結婚した今もパパの事が大好きで、いい年なのにパパの前では、乙女な感じ。

アムロは元連邦のエースパイロット、レッドマンはあのシャア・アズナブル……。

普通に考えれば、仲良くできるはずが無いのだけど……。

みんな、パパを慕ってる。

 

「じいちゃん。そりゃそうよ。私のパパだもの」

 

 

 

 

私の本当の父親、アデナウアー・パラヤは、私がシャアの元で戦った後に第2次ネオ・ジオン紛争と呼ばれる戦いで、亡くなった。……戦場で私のニュータイプの感覚がそれをうすうす感じさせていた。

 

私は唯一の肉親を亡くしたことになる。

それを聞いた時、大きな不快感を感じた。

悲しみという感情じゃない、何かが私の中に衝撃として走る。

それが何なのかは今もわからない、でも、それも直ぐに収まった。

それと、一緒に宇宙に上がった継母がどうなったかまでは分からなかった。

 

エドのパパは、私の身受け先を親身になって親類縁者を当たってくれたのだけど………。

私は嫌だった。父親の親類縁者は皆、私を見ていなかった。

口では私を引き取って娘のように育てるとか言ってたけど、父親が残していった遺産やコネクションが狙いなのは見え見えだった。

パパもそれを感じていたのだと思う。

私の親類縁者と話し合いを終えたパパは、私にこう言ってくれた。

「お前、俺んちに来るか?……お前をあいつ等の元に行かせるのは辛い。だが、あいつ等(親類縁者)とは手を切って、俺がお前を引き取るとなると……そのためにはお前の親父さんが残した遺産はあいつ等に渡してしまわないと難しいだろう。お前次第だがどうだ?」

 

私は迷わずにこういった。

「うんパパ、よろしくね」

パパは、遺産や地位じゃ無くて、血縁でも何でもない赤の他人の小娘で無知だった当時の私自身を選んでくれた。

私はそれが嬉しかった。

 

私は晴れてパパの養子に入り、クェス・ヘイガーを名乗り、パパとの新しい生活が始まった。

 

ヘイガー家にはとても優しいリゼ姉と、ちょっと怖いけどローザ姉がいた。

パパの妹という事だったのだけど、パパとは全く似てなかった。

後で知ったのだけど、二人ともパパの本当の妹じゃなかった。

パパの本当の妹は一年戦争で亡くなったと……。

リゼ姉は優しくてしっかりもので、本当にパパの妹という感じだった。

ローザ姉は私が最初に出会ってた時から分かっていた。

パパの事が好きなんだって……兄としてじゃなくて、男の人として。

でもパパは全く気が付いてなくて、私がパパにくっ付いてると、羨ましそうにしてるのに、ちょっと優越感を感じてた。

 

そしてあの子がいた。

オードリーが……。

オードリー・バーン。

私より一週間前にヘイガー家に来た子。年は同じ13歳だった。

当時は知らなかったけど、正体はジオンの忘れ形見ミネバ・ラオ・ザビ、正真正銘のお姫様だった。

出会った当初のオードリーの印象は、鼻につく子だと思った。

しゃべり方が仰々しいし、自分で何も出来ない子だった。

最初ははっきり言って嫌いだった。

 

その年の春から、私とオードリーは中学校に通う様になった。

パパにはオードリーと仲良くしろって言われていたけど、学校に行けば、あの子と顔を合わせなくてもいいと思った。

でも、結局同じクラスに……。

私は学校には通ってた事があるし、どんな感じなのかは分かっていたけど、オードリーは学校すら行った事が無かったのか、何をどうしたらいいのかわからない感じだった。

他の生徒や先生との接し方もわからない感じだし、私にすがるような目を向けるもんだから、結局、私が嫌々面倒を見る事に……。

パパに学校でオードリーの面倒を見てるって言ったら、頭を撫でて褒められるし、それはそれでうれしいから、良かったんだけど。

でも、ネックがあった。

勉強についていけなかった。だって、小学校も中学校もサボってばかりだし、勉強嫌いだったし。

オードリーは私と逆に勉強は出来てたし、先生に驚かれるぐらいにね。

オードリーが小テストの結果をパパとローザ姉に見せちゃうから、私も見せる羽目に……。パパに馬鹿の子と思われるのは嫌だったから、テストは捨てちゃったんだけど、結局パパにバレて、怒られた。

怒られた理由は勉強が分からない事を黙っていた事で、テストの成績の事じゃなかった。

パパはその日から毎日、私に付きっ切りで小学校の勉強から教えてくれるようになった。

 

学校から帰ってからは、私がほぼパパを独占していた。

でも、一学期が終わり、二学期に入りオードリーもちょっとは学校に慣れた頃だった。

その頃には、オードリーの事は嫌いではなくなっていた。勉強は出来るけど世話のかかる妹みたいな感じに思っていたのだと思う。

オードリーは前々から、学校から帰ってパパを独占して甘える私を羨ましそうに見ていた事は分かっていた。

「何?オードリー、パパと話したいの?そう言えばいいじゃん」

「………でも」

「パパ、オードリーがパパと話したいんだって」

「……ありがとうクェス」

私は自分でもよくわからないけど、オードリーにシンパシーを感じていたのだと思う。

オードリーも私と一緒で、両親や兄妹は居なかったし……。

一緒に生活をして行く中で、オードリーの心内が少しわかった気がする。

きっと寂しいんだって……。

私もふと、寂しさを感じて、パパのベッドに潜り込むことがあるけど、オードリーはずっと我慢してきたのだとわかったから……。

私も同じだったから。

ローザ姉がオードリーの姉のような存在になろうと努力していたのだけど、なんかちょっと違う。

それにオードリーはニュータイプだった。

私と一緒。たまに心の声が漏れてるし。

学校では聞こえるのは私だけだからいいけど……。

 

 

中学3年になるころには、私とオードリーは仲のいい姉妹みたいな感じになっていた。

私が姉だと主張すると、オードリーが反論してくるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはそうと、俺がいい男紹介してやろうか?」

 

「えー、どうせ、じいちゃんの会社の人でしょ?」

 

「そりゃそうなんだけどよ。エドの妹達で心配なのはお前さんだけなんだよな」

 

「それはどういう意味よ」

 

「リタ嬢はあいつと結婚したし、子供も二人もいるんだ。リゼちゃんもいい奴がいるそうだ。結婚もそろそろだって聞いたぜ。オードリーちゃんはもう将来決まってるだろ。バナージ以外ありえないし。というかもう事実婚じゃね?」

 

「マリーダ姉がいるじゃない!」

 

「マリーダか……うーん。マリーダちゃんはもうちょっと時間がかかるかもな。お前さんは結婚云々よりもだ。何をしでかすか分かったもんじゃないから心配してるんじゃねーか」

 

「何よ!私だけ問題児扱いしないでよ!じいちゃん!」

 

 

 

 

 

 

パパの養子に入って3年後、ラプラスの事件の後に、姉が二人と居候の男の子が増えた。

リタ姉、リタ・ベルナルは元々パパの患者さんだったんだけど、何故かパパの事をお兄ちゃんと呼んで、そのまま居ついちゃった。

相当天然が入った人で、当時24歳だったのに見た目は16歳だった私達とあまり変わらなかった。

しかもニュータイプだし……

その後、何故か彼奴と結婚することに、ローザ姉と一生懸命止めたんだけど、リタ姉のダメンズ好きは宇宙レベルだったようで、そのまま。

双子の子は可愛いからいいけど……

 

マリーダ姉、マリーダ・クルスはリゼ姉と顔立ちがそっくりだけど、リゼ姉を思いっきり暗くした感じの人だった。

リゼ姉は何時も笑顔だけど、マリーダ姉は何時も何かに悩んでる感じだった。

実はリゼ姉もマリーダ姉もクローン人間だったらしくて、リゼ姉は幼い時にパパに助けて貰ったのだけど、マリーダ姉はそのまま強化人間兵にされたとか。

私もあの時にパパの養子になれてたことに今更ながら、幸運と共に感謝したいなと。

でも、今ではちょっと明るい感じになって、リゼ姉に本当にそっくりに、見た目だけだったら、たまに間違えちゃうぐらいにね。

マリーダ姉は今はトラヴィスのじいちゃんの会社の運搬会社部門に勤めてるから、この頃は家に帰って来ることは少ないかな。

 

バナージ、バナージ・リンクスは私達と同じ学年の男の子なんだけど、超真面目で面白みにかける奴。顔立ちはまあまあイケメンだし、オードリーとは相思相愛って感じで、お似合いのカップルね。

バナージもニュータイプで、結構な力を持ってる事は感じる。

同じ学校に通う事になったのだけど、何故かバナージは他の生徒から目の敵にされるてるし、仕方がないから私がよく助け船を出してあげていたわ。

今はトラヴィスのじいちゃんの会社の技術開発部門に勤めてるわね。

 

 

 

 

 

「はぁ、お前さんそんなに美人なんだから、女優でもタレントでもなれるだろうに、歌もうまいんだろ?歌手デビューでもすればいいだろ?」

 

「興味ないわ」

 

「今無職なんだろ?俺んとこの会社だったらいつでも歓迎するって言ってるのによ。あれだけのモビルスーツの操縦技術がありゃ、即戦力どころか、結構な待遇は用意するぜ」

私はたまにモビルスーツに乗らせてもらってるけど、それは飽くまでもストレス解消程度の事なのよ。

 

「嫌よ。それに無職じゃないわ。家事手伝いにベビーシッターだってやってるわ」

 

「それ……お前さんの妹達の世話だろ」

 

「たまに、アルバイトしてるわよ。それで十分よ」

 

「それもレッドマンの店で、たまに歌ってるんだって?大分盛況らしいじゃねーか。プロ顔負けだって言ってたぞ」

 

「私はまだ家に居たいの!」

 

「はぁ、こりゃ親離れするのには時間がかかりそうだな」

トラヴィスのじいちゃんは呆れた顔を私に向ける。

いいじゃない。まだ家に居たって!

パパだって、助かってるって言ってるし!

 

 

 

そんな時、この重役室に電話のベルの音が鳴り響き、じいちゃんはソファーを立って、高級そうなデスクの上にある電話を取る。

「正体が分かったって?………ハサウェイ・ノア……っておいそれ……ちょっとここではまずい、そっちに行く」

 

 

 

宇宙世紀0105年

25歳の夏だった。

 




クェス編
遂にハサウェイ登場か?

後編は閃光のハサウェイ編かな?
閃光のハサウェイを知らない方にもわかるように書くつもりですが……原作通りならないだろうな……

(リタとリゼを混同し間違った部分がありましたので修正いたしました)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クェス編【中】

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


短く行こうと思ったのに……
3話で終わるか心配になってきました。



 

「正体が分かったって?………ハサウェイ・ノア……っておいそれ……ちょっとここではまずい、そっちに行く」

トラヴィスのじいちゃんの電話する声がここまで聞こえてきた。

 

私はじいちゃんがある人物の名前を口にし、記憶の淵からその名を思い出す。

ハサウェイ・ノアって、あのハサウェイ?

私に付きまとってたあの坊やのハサウェイ?

そう、シャアの反乱の際に、ちょっとだけ関わった男の子。

内気そうで、子供っぽいハサウェイの顔を思い出す。

 

「クェス、緊急の用事が出来た。今から会議だ。まあ、此処なら自由に居ても構わないし、俺んちによっても構わないが、ほとぼりが冷めたら家に戻れよ。エドが心配するだろ」

電話を切ったじいちゃんは私にそう言って、重役室を出て行こうとする。

 

「じいちゃん。ハサウェイ・ノアって、ブライト艦長の息子の?何かあったの?」

 

「聞こえてたのか?…お前さん知り合いか?そう言えば誰かに聞いたことがあるな……まあ、大したことはねーよ」

じいちゃんはバツの悪そうな顔をしてそう言って、出て行った。

 

「ちょ、じいちゃんって……大したことないって、思いっきり嘘よね。電話で話してたじいちゃん、顔が真剣だった」

絶対何かあるわよ。

そう言えば、ハサウェイも私と同じ年だったわね。今は何をしてるのかしら?

それにじいちゃんが正体がとか言ってたけど……

ブライト艦長とは家で数回顔を合わせたけど、私の事も話してるハズだし。

どっちにしても子供の頃にちょっと関わっただけの関係だから、別に今更どうってことは無いのだけど……引っかかるわ。

うん?……この騒めく感じ、何?……私、ハサウェイを止めなくっちゃ……

なんで?……今更?……私のけじめ……

よくわからないけど、そんな気がする。

 

 

 

 

私はじいちゃんの後をこっそりついて行く。

エレベーターを3階下に降りてったわ。

私はすかさず隣のエレベーターで3階下に降りる。

右に真っすぐにじいちゃんの後姿が見える。

そこを左に曲がってと……次に右に……

 

「クェス!」

角を曲がると、じいちゃんが待ち構えて、こっちを見据えていた。

 

「わっ、あれ?バレちゃってた?」

 

「ふう、今から大事な会議だ。お前さんは部外者だから、入れないぞ」

 

「ええっ?見学はダメ?」

 

「ふぅ、なんだクェス。ハサウェイ・ノアがそんなに気になるのか?」

 

「気になるわ。本人がというよりも、何をやってるかよ。私のニュータイプの勘が私も行くべきだと言ってるの。私がハサウェイを止めないといけない気がするのよ。何を止めるとかは分からないけど。そんな気がする」

私は訳も分からなく、こんな事をじいちゃんに必死に訴えかけていた。

 

「お前さん…何を知ってる?いや、違うか……ニュータイプの勘って奴か………ちょっと待ってろ………」

じいちゃんはそう言ってからその場で電話をし出した。

 

「…ローゼ。……クェスがな。……………そうか。いや……そうなんだが……わかった」

私は最初はパパに電話をかけるんじゃないかと、ちょっと焦ったのだけど、どうやら奥さんのアンネローゼさんのようね。

アンネローゼさんはパパの四つ下、アムロと同じ歳で、じいちゃんの24歳年下の奥さん。

昔はうちの家に居候してて、今もよく家に遊びに来るわ。

ローザ姉とクロエさんとも仲がいい。

そして、アンネローゼさんはニュータイプ。

 

じいちゃんは電話を切った後、私にため息交じりにこういった。

「ふぅ、ニュータイプの勘がお前さんを突き動かしてるんだろ?お前さんが9年前みたいに、こっそりついて来ても困るしな。話だけは聞かせてやるよ……その後の判断はその時に考えるか……俺の方からもエドに話は通すが、エドには自分で事前に話しておけよ。ちゃんと話せばエドは理解してくれる。何せローザちゃんを嫁にするぐらいの度量があるからな」

9年前とは、私がラプラスの箱の事で、パパに黙って、じいちゃんやオードリー達が乗った戦艦にこっそり忍び込んで、ついて行った時の事で、私はまだ16歳だった。

 

「じいちゃん、ありがとう。今からパパにはちゃんと連絡するね」

そう言って、じいちゃんの情報端末を借りて、その場で電話する。

 

「パパ!しばらく、トラヴィスのじいちゃんの所でバイトするから、よろしくね」

 

『はぁ~?何言ってんだクェス!?おい、おおおい!』

パパの困惑する声が聞こえるがそのままじいちゃんに情報端末を渡す。

 

「クェス、お前さんな~………エド、すまん。ちょっとなクェスを巻き込みそうなんだ。事情は後でクェスと一緒にちゃんと説明しに行くからよ~」

じいちゃんは呆れ顔で情報端末を受け取り、パパと話す。

 

『はぁ、おっさんいつもすまねーな』

 

「いいってことよ」

そう言って、通話をきるじいちゃん。

パパには、じいちゃんとのこの短い話で凡その事は伝わった様ね。

 

「クェス。エドにあんま心配かけんなよな。後で一緒に行ってやるから、エドにはちゃんと謝れよ」

 

「ありがと、じいちゃん」

 

「はぁ……、この件はまだ俺もちゃんと報告も受けてないし、上役だけで話し合いをする。そこそこ時間がかかるだろう。その後に教えてやるから、大人しくさっきの部屋か、俺んちで待ってろよ」

 

「了解いたしましたー」

私はワザとらしく敬礼をして、さっきの部屋に戻る事にした。

 

重役室に戻ろうとしたのだけど、せっかくここに来たんだから……

バナージは本社かな?それともプラントの方かな?

マリーダ姉はこっちに戻ってるかな?

 

本社一階に戻り、受付のリィナさんにマリーダ姉とバナージがここ(本社)にいるか聞いてみる。

リィナさんはサイド1出身で、マリーダ姉と同じ歳の可愛らしい人。

1年後にはサイド1に戻って、じいちゃんの会社の家電部門のシャングリラ支店の支店長になるらしい。

マリーダ姉とは仲がいいよう。

マリーダ姉曰く、勝手になついてくるから仕方がないらしい。

しかも、驚く事にローザ姉の昔の知り合いで、家に遊びに来たこともある。

ローザ姉の昔って、ネオ・ジオンの鉄の女の時代よね。

ネオ・ジオンの関係者なのかもとは思ったのだけど、どうみても、そうは見えないし。

本人に聞いたら、ちょっと変わった関係らしくって、どちらからというとリィナさんのお兄さんと知り合いだったらしい。

という事は、そのお兄さんがネオ・ジオンの関係者なのかもしれないわ。

 

リィナさんが問い合わせてもらったら、マリーダ姉はちょうど火星から戻って来て、本社に居るとの事。バナージは残念ながらプラントの方。

 

マリーダ姉にじいちゃんの部屋に来てもらった。

「マリーダ姉、久しぶり。そこに座って座って」

私は冷蔵庫からマリーダ姉に飲み物を出す。

 

「クェス、会長の執務室を我が物顔で使うのはどうかと思うぞ」

 

「気にしない気にしない。じいちゃんが良いって言ってるし」

 

「……エド兄に、怒られたのか?」

 

「なんでそうなるの?今回は違うわよ」

 

「ふぅ、クェス。そろそろ腰を落ち着けたらどうだ?」

 

「何よ。マリーダ姉まで、私に早く結婚しろって言うの?私よりマリーダ姉の方が心配なんだけど」

 

「ち、違う。私の事はどうでもいい。クェス自分の将来の道筋を決めたらどうだと言う事だ。迷っているのなら、オードリーと一緒にすればいいのではないか?オードリーからは何度も請われてるのだろう?」

 

「………私は、オードリーとは違うわ……あの子みたいに大層な志は無いもの」

私はオードリーから、一緒に仕事をしないかと何度も請われた。

オードリーには夢がある。

争いの無い世界を作ると言う大きな夢が……

そのためにオードリーは大学に籍を置き、外交や経済の研究をしながら、法律事務所を開き始めた。

『クェスは一歩踏み出せない私を後ろからいつも押してくれる。ちょっと強引なところもあるけど、私には丁度いいわ。それに、もし私が間違えたのならクェスが止めてくれるでしょ?』

こう言って、何度も誘われた。

オードリーは5年後、10年後を見据えて動いてる。

オードリーが大統領になればきっといい世界になると思うのだけどね。

でも私は……。

 

「私も大層な志など持っていない。今の生活に十分満足してる。このままずっと続けばいいとも思っている」

 

「私だってそうよ」

 

「そうか?私にはクェスが迷い猫のようにみえるぞ」

 

「猫って、マリーダ姉、例えが下手ね」

確かに私は迷ってる。具体的に何に迷ってるのか自分でもわからない。

オードリーと一緒の世界というのも有りなのかもしれないけど……今の私の中途半端の気持ちではオードリーに申し訳ない気がしてならない。

そうかといって、自分が何がしたいかなんてわからないし。

 

「うむ。エド兄のようにはいかないと言う事か……」

 

「パパだったら、そうね。『将来に迷いがあるってか?ああんっ!?何かやってりゃ、そんなもんそのうち出来るだろ』とかかな?」

 

「ふふっ、そうだな。エド兄は迷う事はあまりない様だ。迷う前に体が動くようだからな。羨ましい限りだ」

 

「ほんと、パパって、いい男だよね」

 

「それは否定はしないが、それを態度で示しすぎるとローザ姉さんが嫉妬するぞ」

 

「それよ!それなのよ!いい年して、まだ乙女なんだからローザ姉は、パパの事になると、パパの娘の私にまでそんな感じなんだから。年々酷くなってるように思うわ」

 

「なるほど、クェスはそれでここに来たのか……ローザ姉さんの欠点だな」

 

「そうなのよ。分かってくれるのはマリーダ姉だけよ。この前もちょっとパパと街にデートしただけで!」

 

「皆、分かってて言わないだけじゃないのか?」

 

「いい年して、嫉妬はみっともないって言ってやって!」

 

「それを私が言うのか?流石に無理だぞ」

 

「やっぱそうだよね。ローザ姉はそれを口では絶対出さないけど、プレッシャーが漏れてるし、本人は気が付いてないわね。やっぱり私が一度きっちり言ってあげないといけないわ………うーん。やっぱりリゼ姉に言ってもらおうかな」

 

「ローザ姉さんはリゼには弱いようだし、その方が良いだろう」

 

「それにしてもパパはパパでローザ姉のプレッシャーとか嫉妬とか全く感じないらしいけど……パパって鈍感を通り越してるわよね。ニュータイプの感応能力とかも全く感じられないみたいだし……。どうなってるのかな?」

 

「うむ。逆説的にだ。あの鈍感力だからこそ、数多のニュータイプとも対等に付き合えるのだろう」

 

「ぷふっ、そうかもね」

ついパパの顔を思い浮かべて、笑ってしまう。

 

そんな会話を楽しんでるとマリーダ姉の社内用の携帯端末に連絡が来る。

「クェス、ミーティングが入った。またあとでな。今日は家に帰るから、待っててくれ」

 

「わかった。待ってるね」

 

 

 

マリーダ姉が重役室を出て行った後、しばらくして、トラヴィスのじいちゃんがスーツ姿のアンネローゼさんを連れて戻って来る。

 

「アンネローゼさん、こんにちは」

「こんにちは、クェス」

「そんじゃ、始めますか」

私はアンネローゼさんと挨拶を交わした後、ソファーに座り、じいちゃんが話し出す。

 

「ハサウェイ・ノアな。地球で連邦軍や連邦政府のお偉いさんを狙ったテロがちょくちょく起きてるってよ。今ニュースとかで盛んに話題になってるだろ?アレに関わってるって話だ」

 





マリーダさん再登場。
ちょい28歳のリィナさん登場。

次はジージェネにはならないつもり。
さて、どうやってハサウェイを止めるのか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クェス編【中】その2

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


やっぱり長くなったです。
閃光のハサウェイについては、かなり私的意見も入って、さらに改変(特に人物)されてますんで、ご了承ください。



じいちゃんは約束通り、ハサウェイについて話してくれた。

「ハサウェイ・ノアな。地球で連邦軍や連邦政府のお偉いさんを狙ったテロがちょくちょく起きてるってよ、今ニュースとかで盛んに話題になってるだろ?アレに関わってるって話だ」

 

「え?反連邦のテロ活動よね。たしかマフティー・ナビーユ・エリン、テロ屋がつけそうないかにも自分たちはインテリですっていうふざけた名前の。ハサウェイが……、でもブライト艦長は連邦の大佐じゃなかったかしら」

 

「そうだ。……しかも、悪いことにだ。そのマフティーのリーダーに祭り上げられてる。組織名であり、そこのリーダーの名でもあるマフティー・ナビーユ・エリンを名乗ってな」

マフティーは地球に住まう特権階級の人々を標的にしてテロを行ってる。

その旗頭にハサウェイが……。

 

「バカじゃない!あんな暗殺まがいな事をやったって意味が無いのに!しかもテロで無関係な人まで巻き込んでおいて!」

マスコミはマフティー・ナビーユ・エリンは腐敗した特権階級の粛清の為に立ちあがったと大々的に騒いでる。

スペースノイドは皆歓迎してるみたいな言い方をして。

でも、スペースノイドの大半は無関心。

いえ、話題性としては関心はあるけど、対岸の火だと思ってる。

オードリーともこの話題が上がるのだけど、マフティーの声明は今を生きるスペースノイドの考え方じゃないと、……私もそう思う。

特権階級の人々は、地球に住んでその権力を振るってるだけ。

時代錯誤も甚だしい振舞。

そんな人間をいくら粛清した所で、地球連邦政府そのものが変わるとはとても思わない。

地球連邦政府そのものが、特権階級の温床なのだから……

シャアは嘗て、地球連邦と地球に住む人々を地球から全て排除しようとした。

それは何故か、地球に住む人々自身が、特別意識を持ってるからだと。

だから地球にしがみ付く。

そんな人々全てを強制的に地球に住めなくするために、隕石落としを決行した。

やりかたは物凄く乱暴だけど、理にはかなっていた。

ただ、その後の事は全くと言って考えていないような振舞。

それでは、宇宙に住む人々も苦境に追いやる結果しか見えない。

 

地球連邦政府は自分達の都合のいいように、地球は豊かで宇宙は貧しいと、地球に住む人間は特別だと、そう言う風に地球に住まう人々をある意味コントロールしてる。

地球選民主義を持つティターンズが台頭した理由はそう言う土壌が元々地球にあったからだと、そう言う風に地球連邦がコントロールしてきたからだと……。

勘違いも甚だしいけど、それが現実。

 

今や、世界経済は宇宙で成り立ってる。

地球はコロニー無くして、経済は回らない。

特に軍事産業や機械産業はもちろん、生活家電や食料まで生活必需品さえも今や宇宙で作られてる。

そのシェアは25年前の一年戦争前とは比べものにならないぐらい宇宙に傾いている。

もはやコロニーで住まう人々は地球を頼らなくても生活が出来ている。

火星との航路が確立して空気や水も宇宙で全て賄える。

鉱物資源はもちろんね。

確かに、スペースノイドは税や生産品を地球連邦に搾取されてるイメージがあるけれども、実際にそれを差し引いても、非合法地球移住者や地球に住む一般市民に比べ豊かになって来てる。

少なくともこの新サイド6では、飢える人は居ないし、皆普通に生活が出来てる。

貧富の差はあるかもしれないけど、それは地球だって同じこと。

資本主義経済で回ってる限りそれは付いて回る話だし。

 

後20年いえ、10年もすれば、宇宙の方が目に見えて豊かになる。

連邦政府も、それを分かってるはずなのに……。

未だに地球にしがみ付いてる。

 

オードリーは懸念していたわ。

その現実に直面した連邦政府や地球に住む人々はどのような行動を移すかと……。

何かしら理由をつけて、軍事力をかざし、コロニーに対しとんでもない締め付けを行ってくるか、最悪いちゃもんつけて、攻撃してくるかもしれない。

それに反発して、コロニー側からも地球連邦に対し攻撃を仕掛けるかもしれない。

そうならないように、地球に住まう人、宇宙に住まう人両方に意識改革を行わないといけないと……

 

 

 

じいちゃんは少々間をおいて話を続ける。

「ふう、まあ体のいい勢いのある若者が祭り上げられたってことだ。要するに踊らされてるんだよハサウェイ・ノアは……。マフティーの実際の指導者は正体不明のクワック・サルヴァーを名乗る人物だ。ふざけた名だ。『ヤブ医者』だぞ。誰かの当てつけだなこりゃ。

連邦政府や連邦軍等の特権階級の連中を暗殺して何になる?最終的に連邦議会をぶっ潰すつもりらしいが、そんな事をして誰が得をする?一般市民にはそれこそ関係ねえ。特にスペースノイドにはな。それを考えれば答えは出る」

 

「じいちゃん。それって……」

 

「命を狙われてるとわかった特権階級の連中は何をする?マフティーを排除するために連邦軍を大々的に動かすだろ。軍が動くとなると何を使う?兵器だな。そうすると儲かるのは軍事産業だよな。ようするにアナハイムだ。アナハイムが噛んでる事はとっくに連邦軍もわかってるぜ。マフティーはアナハイム製のモビルスーツを堂々と使ってるんだぜ。本来連邦軍しか持ってるはずが無いモビルスーツをよ。それなのにアナハイムは今ものうのうとモビルスーツを作ってやがるんだぜ。これは出来レースなんだよ。腐敗した特権階級の粛清とか言ってやがるが、狙われた奴のリストをみりゃ、そりゃもう丸わかりだぜ。ある政治家達にとって都合の悪い奴や、政敵、裏を知り過ぎた奴らばっかりだ」

 

「マフティ―が行ってる事は、要するに政治闘争の片棒を担いでるだけよ。連邦の闇の中に潜った腐れきった連中を喜ばせてるだけの話なわけよ」

アンネローゼさんがじいちゃんの話に補足する。

 

「え?」

 

「アナハイムはな、マフティーにもMS流してるし、そのお陰で連邦軍からも多量発注を頂けるって事だ。アナハイムもウハウハだしよ。アナハイムから裏金が貰える奴もウハウハだって事だ。それ以外にも戦争が起きて副次的に得する奴も連邦政府や連邦軍内にも居るから、そいつらも見て見ぬふりだ」

 

「なによそれ!」

オードリーはそんなとんでもない連中がいる世界に足を踏み入れようとしているの?

 

「最終的には体のいい時期にマフティーに参加してる連中はトカゲのしっぽ切りのように連邦軍に退治されるだろうな。マフティーに参加してるような連中は、非正規地球移住者や連邦政府に不平不満を抱いてる連中ばかりだ。連邦にとって不要な連中さ。そんな連中も一掃できるんだから、連邦政府のド腐れ共にとって一石二鳥ってわけだ。こんな汚ねーやり方をよく考えるこった。政敵も排除出来て、裏金も手に入る。そんであらかじめ決まったシナリオ通りマフティーを倒せば不平不満分子や問題となっていた非正規地球移住者も一掃でき、連邦軍の威光を示す事も出来るってもんだ。連邦にとって一石二鳥どころか三鳥も四鳥ってか?」

じいちゃんは片目を瞑りながら、呆れた口調でそう語ってるけど、開いてる方の目は鋭く一点を見据えていた。

 

「ふざけてるわ!」

 

「まあ、それに一役も二役も買ったのが、マフティーの実質的な指導者『ヤブ医者』クワック・サルヴァーだ。ハサウェイや非正規地球移住者や連邦政府不満分子を取り込んで、将来の地球の為だーとか言って、都合のいいテロリストにしたて上げて、裏では連邦政府の最大の政治団体と手を結び、アナハイムとも太いパイプを持ってる奴だ。中々の曲者だぜ。………これが成功した見返りとして政治家になって大臣なんて話もあるだろうよ。アナハイムからも裏金もたっぷり貰ってるだろうしな」

 

「じいちゃん、そのふざけた名前の奴ってだれよ」

 

「それも調べは付いたてるぜ。ブレン元少将だ。俺らにも責任あるだろうな。5年前に俺らがあいつの管轄のオーガスタ基地とオーガスタ研究所を跡形もなく爆破しちまって、失脚したしな。まさかここまで曲者だとは思ってなかったぜ。テロ屋の指導者の顔と連邦政府とのつなぎ役の顔、二つの顔を見事使い分けてやがる。良い役者になれるんじゃねーか?」

 

「何よ。『ヤブ医者』って通り名はパパに当てつけってわけ?」

 

「そうかも知れないわね。エド先生の奪取に失敗してから、あんなことになったからね」

アンネローゼさんは呆れたようにそう言った。

5年前オーガスタ研究所は最強の強化人間を作るためにパパを攫った。

パパは力ずくで奪還した後、その元凶のオーガスタ研究所とオーガスタ基地を破壊した。

そのせいでブレン少将は失脚したから、根に持ってるかもしれない。

完全に逆恨みじゃない。

 

「後な、アナハイムの裏で操ってんのは、マーサ・ビスト・カーバイン。あのド腐れババァだ。もしかしたら、マフティーにハサウェイを選んだのも、恨みからじゃねーか?あのババァ、捕まった時にブライトに恨み節をぶちまけてたからな」

マーサ・ビスト・カーバイン。

ビスト財閥の一族にして、アナハイム・エレクトロニクスを実質的に運営していた人。

このおばさんはラプラスの箱事変の時に暗躍して、ラプラスの箱をコロニーごと焼き払おうとしたとんでもないおばさん。人の死なんて何とも思ってないとんでもない人だった。

結局、あの時アムロやスレイブ・レイス、ブライト艦長の活躍で、マーサ・ビスト・カーバインは正式に連邦軍に捕まったはずだったのだけど、きっと大金叩いて塀の中から出て来たんだわ。

 

 

 

よーくわかった。

要するにハサウェイは騙されていい様に利用されてるってわけね。

連邦内の政治闘争に巻き込まれてるなんて知らずにね。

ほんとお人好しよね。

本人は、本気で僕が地球を守るんだとか思ってるんじゃない?

なんか、一発叩きたくなってきた。

 

 

「それでじいちゃん、どうするの?当然ぶっ潰すわよね」

 

「怖いこって……大まかなプランも考えてある。まだ練り込みが足りんがな。大きく四つある。マフティーの象徴であるハサウェイの捕縛、クワック・サルヴァーを名乗るブレン元少将の捕縛、アナハイムを裏で操るマーサ・ビスト・カーバインの捕縛だ。その後は、マスコミをつかったプロパガンダで、連邦政府内部の内乱だと、まことしやかに噂を流してけん制ってわけだ。そうすりゃこれらを仕掛けた連邦内部の闇のお偉いさん連中もしばらく大人しくなるだろう」

じいちゃんは簡単にこんな事を言ってるけど、実際はかなり難関なはず。

でも、じいちゃんが言うとこれが現実となる。

これが、数多の難解ミッションを成し遂げて来たスレイブ・レイスの頭領トラヴィス・カークランドの本当の顔。

しかも、今のスレイブ・レイスには優秀なスタッフが揃ってる。

戦略、戦術、情報、交渉、内務のプロ。技術者にMSパイロットと……

 

「明日、午前に作戦会議をするわ。クェスは私の直属の部下という事で参加させるから」

アンネローゼさんはトラヴィスのじいちゃんの会社、カークランド・コーポレーションの現社長。本人は唯のお飾りって言ってたけど、会社の明るい雰囲気は間違いなくアンネローゼさんのお陰だと思う。

 

「アンネローゼさんありがとう」

 

「今からエドにこの事を説明しに行く。エドは今やスレイブ・レイスの最終意思決定者の一人だからな。クェスは精々エドを説得する方法を考えるこった」

 

「えー?じいちゃんも手伝ってくれないの?」

あっ、今から一番の難関が待っていた。

パパ、危ない事をしようとしてると分かったら、きっと許してくれないだろうな。

 

「それは手伝ってやるが、最終的にはお前さんの意思だ」

 

「……パパ、許してくれるかな」

 

「大丈夫だ。ちゃんと自分の意思を伝えればエドは分かってくれる。危険な場所に娘を送りたくないとは絶対思ってるだろうが、クェスはもういい大人だろ?エドはクェスの意思を尊重するだろうさ、そう言う男だ」

 

 

 

こうして15番コロニーの我が家へと、じいちゃんとアンネローゼさん、マリーダ姉とバナージも合流して帰る事に……。

 




さあ、クェスはどうする?
他の連中は?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クェス編【中】その3

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

その、こんな感じに……


「パパ、ごめんね」

私は家に帰って、パパに茶目っ気たっぷりに謝る。

 

「クェス、お前な。……まあ、話が先か。飯の支度手伝ってやってくれ」

パパは半分呆れ顔でそう言って許してくれる。

 

「はーい」

 

 

夕飯はマリーダ姉が戻って来て、久々に家族全員が揃った。

リタ姉も双子の子供を連れて一緒に食卓に。

 

パパとローザ姉、リタ姉、マリーダ姉、オードリーにバナージ。そして、幼い妹達3人に、リタ姉の双子の子、そこにトラヴィスのじいちゃんとアンネローゼさんが加わって、大人数での夕食。数年前までだったらよくあった風景。

この頃みんな忙しいから、こうやって全員というのは中々ないわ。

 

「リタの嬢ちゃん。レッドマンはどうした?」

「えっと、旦那様はサイド1の新店の準備に行ってます。3日後には帰って来ると言ってました」

「そうか……意見を聞きたかったんだが、仕方がないか」

トラヴィスのじいちゃんはリタ姉の旦那のレッドマンについて聞いたんだけど、彼奴は出張らしい。

レッドマンはあのシャア・アズナブルだから、今回のマフティーの件で何か聞きたいことがあったのだと思う。

それに彼奴、リタ姉にぞっこんだし、結婚してからマメになったのか、リタ姉がそうさせたのかわからないけど、毎晩必ず連絡があるらしいから、そん時にリタ姉通じて聞いたら早いんじゃないかな。

 

 

夕飯が終わってしばらくして、アムロが来た。

どうやら、話し合いに参加するためらしい。

 

「……アムロ、お前最近窶れてないか?おっさんの会社でコキ使われてるんじゃないか?」

「そんな事をするわけがない。アムロは週休3日制だぞ。たしかに毎週月とこのコロニーとの往復だが、月のサナリィに週3日、本社に1日と休暇の3日はこっちで過ごさせてるぞ。それに月のサナリィにも週ごとの交代制で嫁の誰かがついて行ってるらしいし、特に問題ないだろう」

「はははっ、仕事の方は社長に配慮してもらってるから問題ないんだが、家のルールで休暇の内の1日は子供たちの為に、後の二日の半日づつはそれぞれ彼女らの為に使う事になってるんだ……もう俺も40過ぎだ。流石にキツイものがある…な……」

アムロは乾いた笑いをしながらそう言いつつ、項垂れていた。

自業自得ね。奥さんが4人ってどういう事よ。子供も6人もいるし……。

嘗ての連邦の英雄も形無しね。

 

「そ、そうか……大変そうだな」

「む、無理するなよ」

パパとじいちゃんはアムロを慰める。

 

 

夕飯も終え、いよいよトラヴィスのじいちゃんとの話し合いが始まる。

リゼ姉とリタ姉は参加せずに、子供部屋で子供たちの世話をしてる。

 

じいちゃんは私に説明してくれたようにマフティーについて、皆に語る。

 

「……相変わらず地球連邦って組織は…まともな奴はいないのか?」

じいちゃんが話し終わった後、一息ついてパパは率直な感想を言った。

 

「エドも知ってるだろ?最初はまともでも、どんどん腐って行くんだ。それでもまともな奴は出世を閉ざされ閑職に追いやられる。ブライト・ノアはまだましな方だ」

 

「ブライトは息子がこんな事になってるって知ってるのか?」

パパはじいちゃんとアムロに、皆が気になってる話しを聞く。

 

「いいや、知らないはずだ。……余談だが、俺やレッドマンの事も、ブライトは子供たちに話していないそうだ。何処で口外するかわからないからという理由でな。まさか、あのハサウェイがそんな事になってるとは……早急に過ぎるぞ」

 

「ああ、ブライトにはまだ話してない。先に話をするべきか……いや、馬鹿息子をとっ捕まえてからの方が良いだろう。ブライトは連邦宇宙軍独立機動艦隊ロンド・ベルの指揮官という立場だ。変に暴走されても困るしな」

じいちゃんの言う事は確かにそうね。ブライト艦長って厳しい感じだし、知っちゃったら責任感じて、自分の手でハサウェイを討伐するとか言いかねないわ。

 

「……そうか。とりあえず話は分かった。まあ、俺がどうのこうのと言える立場じゃないが、地球連邦の腐れ共の自分たちの保身や利益のために、若者が使い捨てられようとしてるのを見て見ぬふりはできねーだろ」

 

「エドならそう言うと思ったぜ。……これで最上位ランク事項の最終決定者全員の了承が得られたって事で、おっぱじめますか」

 

「おっさん、それはいいが、一つ聞いていいか?」

 

「なんだエド」

 

「これに関する依頼が、何処からかあったのか?」

 

「ああ、ちょっと特殊でな、連邦の現役の高官や将軍じゃねー。クライアントになり得る連邦高官は真っ先に暗殺されてたしな。元連邦の将軍が直々に情報のリークと共に依頼というよりも、頭下げて頼んできやがった。今の連邦のありようを憂いてるようだ。まあ、その元将軍様も現役時代は大概だが、まだましな方だった。まあ、依頼があろうがなかろうが、今回は手を出すつもりだったんだがな。アナハイムの連中が、俺んところの関連に圧力をかけてきやがったし、サナリィにもハッキングやスパイ活動が盛んにな……政治屋共が新サイド6に圧力をかけてきやがる。俺らに大人しくしてろよって、警告のつもりだろう。……だがな、こっちは何にもしてねーのに、理不尽な理由で、やられっぱなしってのは性に合わないんでね」

そういうじいちゃんの目が鋭さを増していた。

 

「おっさん。……ほどほどにな」

 

 

 

「そのパパ、ハサウェイを止めたい、私が行かないといけない気がするの。だから、行かせて……」

私は場を見計らって、パパに自分の意思を伝える。

 

「ニュータイプの勘って奴か……クェス、自分で決めた事なんだろ。勿論俺は行かせたくないが、俺には止められない」

 

「パパァ!ありがとう」

私は思わず少々渋い顔をするパパの左腕に抱き着く。

 

「おっさん、クェスの事を頼む」

 

「まあ良いって事よ。正直クェスに出張って貰うと今回に限っては助かる。優秀なパイロットが足りなかったからな。それとエド、今回の作戦にはバナージとマリーダも参加させる予定だ」

 

「マリーダとバナージはもう、自分の仕事を持った立派な大人だ。俺がとやかく言えるもんじゃない。だが……ちゃんと家に帰って来いよ」

 

「エド兄…わかった」

「おじさん、大丈夫だ。クェスの事も任せてほしい」

 

「バナージ、いっちょ前の事を、クェスの事を頼んだ」

「バナージ、クェスの事をお願い。マリーダ姉様も気をつけてください」

パパもオードリーも私の事を何だと思ってるの?

お守りがいる歳じゃないわ。

 

 

 

 

 

翌日、私はマリーダ姉とバナージと共に、じいちゃんの会社の裏の仕事、スレイブ・レイスの本拠地である。新サイド6の16番コロニーにほど近い大きなプラントに向かった。

 

そして、作戦会議が始まる。

高校の教室ぐらいの部屋に40人程集まっていた。

マフティー潰滅作戦と名を討った今回の作戦は3か所で同時進行で行われるとの事。

〇マフティー実行部隊の無力化及びマフティーのリーダー、ハサウェイ・ノアの捕縛作戦。

〇アナハイムに巣くうマーサ・ビスト・カーバインの捕縛作戦

〇地球で隠れてるマフティーの実質的指導者クワック・サルヴァーを名乗るブレン元少将の捕縛作戦。

 

「今回の作戦は連邦軍内部からのバックアップは無い。よって、連邦軍に表向きには悟られないようにする必要がある。連邦軍との戦闘はなるべく避け、ターゲットの捕縛を行ってくれ。但し、アナハイムでは、マーサ・ビスト・カーバインの息がかかった連邦軍部隊とかち合う可能性が高い。宇宙連邦艦隊に気が付かれる前に決着をつける。現在アナハイムに駐留し、アナハイムの犬となり下がった訓練教導部隊との戦闘は……レッドの部隊に任す。適当にいなしてやれ。余裕だろ?バックアップとしてサナリィからアムロ達が睨みを利かせ、他の月面都市の連邦軍艦隊を動けないようにさせるが、タイムリミットはある。マーサの捕縛実行部隊は迅速に頼む。

クワック・サルヴァーことブレン元少将の居所は既に把握し、現地諜報員が既にマークしてる状態だ。奴を捕縛すると同時に、奴がマフティーのターゲットになったと見せかけ、奴の隠れ家を派手に吹き飛ばしてやれ。但し、人死には避けろ。

最後にマフティーの実行部隊の無効化だが……奴らが所有するモビルスーツは最大戦力は40機と見積もっている。常時動かせるのは20機も無いと推測する。所詮は寡兵だ。奴らのやり口は暗殺にテロだ。大規模戦闘経験はほぼ無い。マフティーがアナハイムから受領したガンダムタイプ以外は量産機だ。大したことは無い。連邦に表向きにバレないようにするには地球圏での活動は極端に制限される。よって、少数精鋭で行く。ガランシェールを旗艦とし、別の偽装輸送船と合わせて二編隊。一撃離脱方式でモビルスーツ隊を奇襲、無効化し、さらにリーダーのマフティーを捕えろ。各戦術担当に別れ、細かいプランを確認してくれ。時間との勝負だが、お前らならやれる。以上だ」

皆に今回の作戦の概要を説明するトラヴィスのじいちゃんは、一年戦争から今迄戦い抜いた歴戦の勇士然とした風格が見て取れる。

 

アナハイムのマーサ・ビスト・カーバインの捕縛は、小規模な艦隊戦が予想されてるとの事だった。リーダーのレッド・ウエインラインさんが指揮する元FSSとキマイラ部隊の熟練の隊員で構成されたメンバーがメインに選ばれる。

かなりシビアで困難なミッションみたいね。

 

私はマフティー捕縛実行部隊に組み込まれ、別室の作戦室で詳しい内容の説明を受ける。

ガランシェール隊が主なメンバーとなり、マリーダ姉の養父スベロア・ジンネマンさんが指揮を執る事に……

偽装貨物艦ガランシェールと二回り大きな偽装輸送艦プレアデスの二艦、モビルスーツは6機での編隊で、宇宙から大気圏に一気に突入して、マフティーの実行部隊を叩くとの事。

マフティーの実行部隊は2部隊に分けて奇襲することが多いことから、二艦でそれぞれに対応するらしい。

ということはモビルスーツ3機小隊で最大10機を相手にすることになる。

ガランシェール所属のモビルスーツパイロットとして、マリーダ姉とバナージと私が乗り込む予定。

二人と一緒で良かったわ、お互いこれ以上ないぐらい知った仲だし、きっと上手く行くわ。

モビルスーツ小隊長はバナージ……足手まといだけにはならない様にしないといけないわね。

プレアデスの方のパイロット……あの感じ、絶対ニュータイプよね。ニカってした笑顔で私に手を振って来るわ。なんか軽い感じの男の人ね。年は30前後かしら?どこかで会った事があったかしら?でもこの感じどこかで感じたことがあるわ。どこだったかしら?しかも誰かに似てるような。

あっ、隣の紫っぽい銀髪の女の人に頭を叩かれた。

後でマリーダ姉とバナージに聞いたら、今日初めて会う人達なんだそうよ。ジンネマンさんが教えてくれた情報だと、じいちゃんの会社の木星輸送艦隊の人らしいのだけど……。

じいちゃんは、どこからこんな人達をあつめてくるのだろう?

 

 

とりあえずこれで直接ハサウェイを止められる。

じいちゃんは私の意向を汲んでくれたみたいね。

 

 

この後格納庫に移動し、マリーダ姉の案内の元、とあるデッキまで行くと、ユニコーンガンダム1号機から3号機まで並んでいた。

ところどころ前と違うみたい。

「バナージがユニコーンガンダム1号機改だ。私がユニコーンガンダム2号機バンシィ改に乗る。既に建造されてから10年経っているが、元々当時の技術の粋をつぎ込み究極のニュータイプ専用機として作られたモビルスーツだ。そのままでも現在の最新鋭機とやらに引けを取らんが、マイナーチェンジを繰り返し、ニュータイプ専用機としては未だに最高峰だろう」

マリーダ姉が私にそう言って説明してくれるけど私が乗るのって……

 

「マリーダ姉、私が2号機じゃないの?3号機って、こんなド派手な趣味悪いのに乗りたくないんだけど」

9年前レッドマンが乗ってた金ぴかの趣味の悪いガンダム。

 

「いいや、3号機フェネクスは何故か誰が乗っても全く動かんのだ。試験的にレッドマンとリタ姉に乗って貰ったが、2人が乗ると機嫌よく起動するのだがな」

何それ、もしかしてダメンズの呪いって事?

もし私が乗って動いたら私もダメンズ好きだと言う事かしら?

 

「じゃあ、私は何に乗るの?もしかして!モビルアーマー!?……でも、重力圏内は無理よね」

 

「クェスにはアレに乗ってもらう」

いつの間にかアムロが私の後ろに立って、指さしていた。

 

そこには……

「ちっちゃ!なにこれ?オモチャ?」

そこには小さくて、シンプルな作りの真っ白なガンダムがデッキに立っていた。

今のモビルスーツの中でも小さめのユニコーンと並べても、二回りほど小さいわ。

 

「オモチャは酷いな。これでもサナリィで開発した最新鋭試作機の一つなんだが」

 

「アムロ……どう見ても弱そうなんだけど、これ大丈夫なの?」

 

「ふっ、これはフォーミュラ計画の試作7番機のFX93だ。現在20mを越えるモビルスーツが主流だがこれは全高15.8mにダウンサイズさせたモビルスーツだ。原点に戻りシンプルな作りにはなっているが、技術の粋が込められている。最大出力は24mのνガンダムとほぼ同等だ。さらにこのFX93の最大の特徴はオプションパーツでミノフスキー・クラフトユニットを装着できる」

アムロはそう言って、このちゃちなガンダムの横に置かれてあるスカートみたいなものを指さす。

………なにこれ?ガンダム用のスカート?なんでモビルスーツにスカート?

ミノフスキー・クラフトって何よ?

 

「アムロ……何?アムロってそういう趣味があったの?」

ロボットにスカートって、アムロが遂に現実逃避を……。

 

「どういう意味だ?……マフティーはこのほど、アナハイムの最新鋭機オデュッセウスガンダムの兄弟機を受領したことが判明してる。ミノフスキー・クラフトを搭載した30m級の大型モビルスーツだ。ミノフスキー・クラフトのお陰でモビルスーツ形態のまま重力下の空中を自由自在に飛び回る事が出来る。似たようなコンセプトを持つバイアラン系のモビルスーツと違い、空中を飛ぶではなく浮くことが出来る。ミノフスキー・クラフトを搭載させることにより空中戦持続能力、旋回能力、敏捷性、機動力、どれをとっても従来機とは段違いな空中性能だ。現在の地球大気圏内での空中戦では、無類の強さを発揮するだろう。

だが、ミノフスキー・クラフトタイプのモビルスーツは何もアナハイムの専売特許ではない。

俺も開発に勤しんでいた。連邦からのモビルスーツの小型化依頼と重なったが、やってやれないことは無かった。それを同時進行で開発したのがこのFX93だ」

アムロは窶れてたのに、語りだすと妙に生き生きしだした。

 

「空中を浮いて自由に飛べるんだ。ちょっと楽しそうかも」

 

「テストパイロットは俺がやっていたため、これを使いこなせる者は誰も居ない。どうせいないなら、他のモビルスーツにも慣れていないクェスが丁度いいだろうと。それにオデュッセウスガンダムの兄弟機はハサウェイが乗っているだろう。ハサウェイを止めたいんだろ?FX93なら出来る」

 

「そうね。ありがとうアムロ」

 

「というわけでだ。クェスは今から特訓だ。先ずはシミュレーターからだな」

 

「え?ええ?今から?」

 

「時間が無い」

 

「ちょ、ちょっと待ってマリーダ姉!バナージ!」

私はアムロに引っ張られ、マリーダ姉とバナージに助けを求めたが、苦笑気味に見送られた。

 




RX-104 オデユッセウスガンダム:アナハイム製の連邦MS
RX-104FFペーネロペー:オデッセウスガンダムにフライトユニット(ミノフスキー・クラフト)を装着した姿。全高32.5m
RX-105 Ξガンダムはミノフスキー・クラフト一体型モビルスーツ:アナハイム製のマフティーMS全高28m


フォーミュラ計画モビルスーツ型番宇宙世紀0102年~
(MSの小型化はそれ以前からサナリィでは研究していた)
F5シリーズ - AFV型MS(F50D…ガンタンクR-44:D-50C ロト)
F6シリーズ - 局地戦用格闘型MS
F7シリーズ - 支援用MS(F70キャノンガンダム:F71Gキャノン)
F8シリーズ - 汎用量産型MS
F9シリーズ - 主力MS(F90~F99)
(F90の初号機が111年に完成)
とここまで正史。(間違ってたらごめんなさい)

ここからはサナリーにアムロが入ったり、トラヴィスの会社がMS自動設計製作工房を手に入れたり、FSSを吸収したり、ナナイ他ネオ・ジオン系技術者を取り込んだりとかで、色々あって、モビルスーツ魔改造。
FX9シリーズはアムロが最高峰のモビルスーツを作る目的で開発設計を行った試作モビルスーツの型番。
因みに現在宇宙世紀105年
FX90は初代ガンダムを踏襲したコアブロックシステム。
FX91は内部火器を排除し出来るだけシンプルに設計……これがのちのF90へと。
FX92はZタイプ。
FX93サイコフレーム一部使用ニュータイプ専用にしてオプションパーツ対応タイプでフライトユニットドッキング可能。20年後には独自進化を……
F70の試作機は既にアムロの協力により完成。
アムロに魔改造されたサナリーはシャレにならないです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クェス編【後】

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

早速続きを……


私はアムロに連れられ、サナリィというかアムロが設計開発した新世代型小型モビルスーツFX93のシミュレーター特訓を受けることに……。

 

コクピットが従来のモビルスーツに比べると滅茶苦茶狭い。

ディスプレイは正面にサブモニターみたいのしかないし……。

でも、専用ヘルメットをかぶると、ヘルメット自身がディスプレイの役目をはたして、全方位ディスプレイと変わらない感じになるから、ヘルメットとMS連動システムを稼働させれば狭さも感じなくなり、従来機よりももっとモビルスーツと一体感を感じる。

それと、脳波を読みとるサイコミュを導入してるらしく、サブ思考操作システムでモビルスーツの動きをよりダイレクトにサポートを行ってくれて、細かい動きを表現できる。

ユニコーンガンダムのデストロイモードとまでとは流石に行かないけど、これはこれでいい感じね。

 

このFX93は色々な装備や装甲を換装させる事が出来るらしい。

宇宙ではファンネルや高速移動パーツ等多種多様に用意されているわ。

今回、地球の重力下では、FX93の腰部にこのスカートに似たフライトユニットと両腕に試作ビームシールドを装着。生半可なビームは通さないし、なんでも実弾も防げるらしい。

武装はビーム・サーベルにビーム・ライフルに専用実弾貫通ライフル、フライトユニット前部にガトリング砲、出来るなら使いたくは無いわね。

 

アムロから1日半みっちり、特訓を受けた後、出撃することに……。

 

「マフティーの次のターゲットが判明した。大西洋沿岸のアフリカ方面。予想に反して3か所同時襲撃だ。だが、1か所は明らかに陽動の為の襲撃だ。連邦軍の犬共がその最初の1か所襲撃に救援のため戦隊を動かした隙に、他の2か所を襲撃するのだろう。

1か所は海上基地。1か所は沿岸高級リゾート地だ。

マフティーが操縦するガンダムタイプは恐らく、より困難な海上基地襲撃だろう。

ガランシェールは海上基地方面へ、プレアデスは高級リゾート地方面へ向かってくれ。直ちに出撃だ」

作戦隊長のジンネマンさんが指示をだして、ガランシェールに乗り込む。

 

「クェス、あまり時間が無かったけど、FX93の操縦の方は?」

バナージが私にちょっと心配そうに聞いてくる。

 

「ばっちりってわけじゃないけど、何とかなるんじゃない」

 

「ふむ、頼もしいな。我々のユニコーンガンダムは、専用フルアーマー武装装備、ペルフェクティビリティを改良した大気圏内用の飛行ユニットを装着するが、空中での機動性や俊敏性は、ミノフスキー・クラフトを搭載するマフティーのガンダムタイプやFX93に明らかに劣る。撃墜するのならともかく、捕縛となると難しいだろう。相手のガンダムタイプはクェスに任せることになる」

 

「まかせてよ、マリーダ姉」

ハサウェイにガツンと一発叩きこんでやるんだから。

 

「サポートは任せてくれ、クェスはそのガンダムタイプのみに集中してくれればいい。ただ、クェスが押されて俺が危険が及ぶと判断したら、……ガンダムタイプは…俺が撃墜する」

バナージは真剣な顔で私にそう言う。

 

「そうならないようにするわ」

バナージがもし本気でユニコーンのデストロイドモードを起動させれば、サイコフレームの共振で重力すらも操りかねないわ。

それ程、バナージのニュータイプ能力は高い。

 

 

その後、大気圏突入前までマリーダ姉とバナージと、他愛もない日常会話を楽しんだ。

マリーダ姉はこの二日間で、プレアデスのちょっと軽そうな30歳前後の男性MSパイロットに何度も声をかけられたらしい。

やたら、出身地とか身辺や家族の事を聞いてきて、知り合いに似てるとか言ってくるらしいのよ。ナンパの常套句ね。マリーダ姉も美人だからわからないでもないけど。

あの紫っぽい銀髪の女の人は彼女じゃないのかしら?

もちろんマリーダ姉は袖にしたらいいのだけど。

ニュータイプの男って、女性にだらしがない奴しかいないのかしら。

まともなのって、堅物のバナージぐらいかしら。

やっぱ、パパが良いわね。

 

 

 

そして、大気圏突入直前にFX93に乗り込みコクピットで待機する。

マフティーのモビルスーツが、海上を移動してる所を捕捉したとの事。

大気圏突入後、10分未満で接触するコースを取るらしい。

大気圏突入して、成層圏ギリギリの高度20万(20㎞)でモビルスーツを射出という荒業をするらしくて、コントロールに気をつけろと言われたって……。

まあ、何とかなるんじゃないかな。

 

 

大気圏突入に成功して、ユニコーンガンダム1号機、2号機そして、FX93が格納庫から強制的に射出…というよりも落とされる。

乱気流の衝撃に耐えながら、FX93は重力に従い自由落下していく。

 

『クェス、ガンダムタイプ1機、ベース・ジャバーに乗ったマフティー主力MSメッサー9機を確認。海上を東南に航行中だ』

 

「私の方も確認したわ」

 

『上空から一気に叩く。クェスはガンダムタイプを、マリーダさんは俺とメッサーを』

 

「了解よ」

『了解だ』

 

私はFX93の出力値を一気に上昇させ、眼下のモビルスーツ隊に迫り行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻り。

宇宙世紀0093年3月12日

シャア・アズナブル率いる新生ネオ・ジオンと連邦宇宙軍のロンド・ベルとで、アクシズを巡る大規模な艦隊戦が展開されていた。

ハサウェイ・ノアはロンド・ベル旗艦、父親のブライト・ノアが指揮するラー・カイラムへの密航がバレ、民間人として居住ブロックに押し込められていた。

ハサウェイがそもそも密航した理由は、2、3日共にしただけの少女クェス・パラヤに恋心を抱き、そのクェスがシャアについて行ってしまったことにあった。

シャア率いる新生ネオ・ジオンと対峙するロンド・ベルに潜り込めば、戦場でシャアからクェスを取り戻せると浅はかな思いを描いていたのだ。

そして、戦場が泥沼していくさなか、ハサウェイは戦場にクェス・パラヤの存在を感じ、補給中のジェガンを奪って、戦場に出て行くのであった。

戦場でクェスを探すハサウェイ。

だが……。

ハサウェイは突如として、この戦場でクェスの存在を感じられなくなったのだ。

その理由をハサウェイは懸命に考えるが、答えは一つしか出てこなかった。

それはクェスの死……。

その答えを受け入れる事が出来ずに茫然とするハサウェイを、後から半壊したジェガンで追って来たチェーン・アギにより、ラー・カイラムに連れ戻されるのだった。

 

この戦いはロンド・ベルの勝利によって幕を閉じる。

この時の出来事が、少年ハサウェイに多大な影響を与える。

クェスの死。

地球に落ちるアクシズを敵も味方も無く必死に抑えようとして散っていた人々の地球への思いを知る。

後にアクシズ・ショックと呼ばれるサイコフィールドにより、人々の温もりを投影した光の環を目撃。

そして、英雄アムロの死とシャア・アズナブルの死だった。

 

実際には、クェスはアンネローゼとローザに戦場から連れ去られ、アムロとシャアはエドに拾われるのだが、ハサウェイは知り様もなかった。

 

ハサウェイのモビルスーツを奪った罪は、この戦いで勝利した父親ブライト・ノアの功績と、アクシズ・ショックの真相隠蔽に同意することで、なかった事になるが……ハサウェイ少年の心に闇を落とす結果となる。

 

ハサウェイは、モビルスーツを奪った理由も家族にすら話さず、心に蓋をしたまま、残りの中学生活をサイド1で過ごし、高校に上がる。

 

この頃、クェスは新しい父親、エドワード・ヘイガーの元、愛情たっぷりに育ち、良識を得て、楽しい学園生活を過ごしていた。

また、ニュータイプを神聖視していたクェスだったが、シャアのダメンズぶりやアムロの私生活の雑さ、乙女心全開のツンツンデレのローザの生きざまを見て、ニュータイプを特別視することは無くなった。

 

一方、アムロとシャアはお互いの存在を認めつつ、近所でそれぞれの新しい生活基盤を手に入れ、第二の人生を歩みだしていた。

 

 

しかし、そんなハサウェイに転機が訪れる。

 

宇宙世紀0096年3月

ミネバ・ラオ・ザビによる宇宙世紀憲章の真実と人類の未来についての演説が、全世界に流れたのだ。

ハサウェイはその凛とした声と演説の内容を聞き、希望の光が差し、蓋をしていた心が開き、再び動き出したのだった。

クェスの死を徐々に受け入れ、第二次ネオ・ジオン抗争とは何だったのかと真剣に考えるようになる。そしてシャアの生きざまと英雄アムロの死についても意義を見出そうとしていた。

 

その頃、ラプラスの箱の戦いを終結し、クェスは新しい家族と共に、さらに楽しい毎日を過ごすことになる。

一方、アムロとシャアは、過去の女性関係について清算を迫られていた。

 

 

ハサウェイは大学へと上がり、地球にとって自分は何をすべきかを考え、歴史や政治だけでなく地球環境保全について大いに学ぶことになる。

過去の暗い影は徐々にと払拭されつつあった。

 

その頃、街行く誰もが見惚れる美女へと成長したクェスは、姉妹のように育ったオードリーの影響を受け、大学に進み、自分探しを行っていた。

妹達も生まれ、日常生活では充実した日々を過ごしていた。

 

一方、アムロとシャアは、アムロはなし崩し的に4人の女性と生活をすることになり、子供も出来てしまい全員妻に……。シャアは理想の年下の女性と出会い結婚、極度の愛妻家となる。

 

 

宇宙世紀0102年

ハサウェイは大学を卒業し、地球の為に何をすべきかと答えを見つけるため、植物監査官候補として地球に降りる。

この頃にはクェスの影を追う事も無くなり、アムロとシャアの死をも乗り越えていた。

現地で知り合った非合法地球居住者のケリア・デースと恋人となっている。

そして、クワック・サルヴァーと出会い、地球の環境の悪化と非合法地球居住者の劣悪な扱い、連邦政府の腐りきった特権階級の存在について、大いに知ることになる。

その後、非合法反連邦組織マフティーに恋人ケリアと共に参加する。

マフティーの活動にのめり込むハサウェイは徐々に頭角を現す。

マフティーの思想に染まっていくハサウェイの様子に危機感を持った恋人ケリアは、身を引く形で、ハサウェイの元を離れる。

だが、逆にハサウェイはますますマフティーの非合法活動に力を入れ、遂にはマフティー・ナビーユ・エリンを名乗り、マフティーのカリスマ的リーダーとして、成長を遂げるまでに至っていた。

 

その頃、クェスは大学を卒業したが、自分がやりたいことが見つからず、家で家族と共にのんびり過ごしていた。

オードリーからは一緒に地球の未来のために政治活動をしようと誘われていたが、踏ん切りがつかないでいたのだ。

 

一方、アムロとシャアは子供も生まれ、仕事と私生活共に、充実した日々を過ごしていた。

 

 

 

宇宙世紀0105年7月

ハサウェイは未だに知らない。

クェスが生きている事を……

ハサウェイは未だに知らない。

アムロとシャアが仲良く、第二の人生を歩み、家族と幸せな日々を過ごしている事を……

ハサウェイは知らない。

地球連邦の腐った暗部とクワック・サルヴァーことブレン元少将、マーサ・ビスト・カーバインが結託し、彼らの策略によってマフティーは作られ、手のひらで踊らされている事を……。

 

ハサウェイは運命の出会いと言うべき、敵であるはずのケネス・スレッグ大佐と魅惑の美少女ギギ・アンダルシアの2人と親交を深めていた。

だが、マフティー・ナビーユ・エリンとしての意思を全うすべく、彼らとの関係をも断ち切る。

ハサウェイは、アムロからは英雄の象徴ガンダムを、シャアからは地球の保全という遺志を受け継ぎ、Ξガンダムを駆り、地球の未来のためと信じ、今日も連邦政府要人が滞在する基地の襲撃に向かう。

 

 

だが、ハサウェイは知らない。

嘗ての淡い恋心を抱いた相手が自分を止めるために、頭上まで来ている事に……

 




〇紫銀髪の女性にしりに敷かれてる30代の軽そうな男性ニュータイプパイロットは……マリーダさんに声をかけちゃうのは仕方が無いですよね。(下心は無いよ。たぶん)

〇ペルフェクティビリティを改良した大気圏内用の飛行ユニット
リガズィやZⅡのような飛行形態とモビルスーツフルアーマー形態と簡易変形する装備。
勿論、アムロ先生の魔改造品。
フルアーマー形態でも短時間だったら空中に浮く程度は可能。
飛行形態は……そうですね。ウイングゼロ(EW)みたいな感じかな?鳥さんというよりも始祖鳥とか翼竜のイメージかな。ペルフェクティビリティって尻尾や羽みたいなのもあるし。

〇ハサウェイの来歴や精神面は凡そ原作に沿ってますが、原作よりマシな感じになってます。

次回、遂にクェスとハサウェイが12年半ぶりの邂逅を果たす!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クェス編【後】その2

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きです。



「宇宙からの貨物船か……この進路には定期航路など無かったはずだが、いや正規の信号を発してる。臨時の貨物船か……」

ハサウェイのΞガンダムは、嘗てクワトロ・バジーナが演説を行ったダカールから西海上500キロに位置する海上基地を襲撃すべく、メッサー9機を率い海面ギリギリを航行していたが、進路方向上空に貨物輸送船らしき艦船が大気圏から突入してきた事を、センサーで確認する。

 

 

しかし……

「ミノフスキー粒子を散布だと!?かすかにモビルスーツの反応もある!偽装貨物船か?連邦宇宙軍が痺れを切らして、介入してきたか!?しかし、何故この経路を!?……言ってる場合じゃない……ガウマン!前方に頭上から敵襲だ!俺が先行し対処する!メッサー隊はそのまま、基地に向かってくれ!」

ハサウェイは敵襲と判断し、メッサー隊のガウマンに指示を出し、Ξガンダムを上空へ向け、ミノフスキー粒子が散らばる中心へと向かう。

 

 

「モビルアーマー?いや可変モビルスーツか?それにあの小さいガンダムは?……不味い、可変モビルスーツがメッサー隊に!……させるかーーっ!」

ハサウェイはΞガンダム高感度望遠カメラで上空から高速で降りてくるモビルスーツ小隊を確認したが、そのうちの可変モビルスーツらしき機影が、メッサー隊へと方向転換するのを見て、2機の可変モビルスーツに狙いを定めファンネル・ミサイルを射出した。

ファンネル・ミサイルは名前の通り、サイコミュシステムでハサウェイの意思通りに動き回る小型ミサイル群の事だ。ミノフスキー粒子散布下でも影響を受けずに、狙った相手を、まるで生きているかのようにミサイルが襲い掛かるのだ。

 

だが……。

ファンネル・ミサイルは2機の可変モビルスーツに進む途中で、まるで電池が切れたかのように、動きが止まり落下しだしたのだ。

ハサウェイは、その瞬間、ファンネル・ミサイルがハサウェイの意思から離れて行くのを感じる。

 

「なっ!?」

ハサウェイは驚きを隠せない。

今迄の戦闘でこのような事は一度もなかったからだ。

 

ハサウェイが狙った可変モビルスーツとは、バナージとマリーダが搭乗するユニコーンガンダム1号機2号機、ペルフェクティビリティ型飛行ユニットを装着した姿だったのだ。

そして、NT-Dシステムを起動させデストロイモードに移行したユニコーンガンダム1号機がサイコジャックを行い、ファンネル・ミサイルの制御をハサウェイから奪ったのだ。

相手のファンネル兵器やサイコミュシステム制御の奪取は、ユニコーンガンダムの十八番である。

元々ニュータイプキラーとして設計されたガンダムでもある事はこれらの機能を有してる事からもわかるだろう。

さらに、バナージとハサウェイのニュータイプ能力の差でもある。

バナージの方がニュータイプとしての力が上回っていた結果でもあった。

これが、相手がアムロであればこうもたやすくファンネル・ミサイルの制御を奪えなかっただろう。

 

「ぐっ!?」

ハサウェイが一瞬動きを止めた隙に、小さなガンダムがいつの間にかΞガンダムの懐に入り、何故だか頭部に蹴りを入れてきたのだ。

Ξガンダムの片方の頭部アンテナが大きく曲がり、

まるで、あんたの相手は私だと主張するかのように……。

 

ハサウェイは意識を正面の小型のガンダムに向けてから、振り払うように高速で移動し、ユニコーンガンダムを追おうとする。

「邪魔をするなーーっ!」

 

だが、小型のガンダムはそんなΞガンダムの先回りをし、正面に対峙する。

Ξガンダムは28m、対峙する小型のガンダムは16mに満たない、まるで大人と子供程の体格差だ。

 

「……そこをどかないと言うなら、お前を倒して押し通る!」

ハサウェイは肩部メガ粒子砲を放ち、腕部ミサイルランチャーで狙いを定めながら、小型のガンダムに迫る。

 

小型のガンダムはメガ粒子砲をひらりと避け、ミサイルランチャーを放ちながら迫るΞガンダムから、ガトリング砲でけん制しながら、上空へと後退する。

 

「速い、ミノフスキー・クラフト搭載機だと?しかもこんな小型のモビルスーツが存在するとは……アナハイムが隠していたのか?それとも……」

ハサウェイは、攻撃を縦横無尽に避け続ける小型のガンダムに攻撃をしながら追いすがろうとするが、一定の距離を保ったまま、迫る事が出来ない。

 

そして、ミノフスキー・クラフト搭載モビルスーツ同士のドッグファイトが展開される。

一気に迫って、接近戦で決着をつけたいハサウェイに対し、小型のガンダムはガトリング砲とビームライフルでけん制しつつ、空中を踊る様に回避移動を続ける。

 

「……この感じ、どこかで感じたことがある。誰だ?相手のパイロットは誰だ!?」

ハサウェイはドッグファイトを展開していく最中、相手のパイロットの意思を感じ始める。

 

一方、小型のガンダム、FX93に乗り込んでいるクェスは……

「何よ!地球の重力での実戦は初めてなのよ!ちょっとは手加減しなさいよ!!まだこの子にも十分慣れてないのに!このーーっ!女の子には優しくって習わなかったの!?」

かなり必死に避けていたのだ。

 

「だが、誰であろうと、地球を守るためには……こんな所で止まっているわけには行かないんだーーーーっ!」

ハサウェイは対峙するモビルスーツのパイロットがクェスだとは全く思いもよらず、ファンネル・ミサイルを全弾射出し、小型のガンダムFX93に狙いを定める。

 

「わっ、やばっ、わわっ……あっーーーもう!」

クェスは、迫りくるファンネル・ミサイルを必死に避け続ける。

更に、Ξガンダムからもビームライフルが飛んでくる。

 

明らかにクェスのFX93が押されている。

「あああああっ!!いい加減にしろ!!」

クェスは癇癪を起した様に叫ぶ。

 

「え?……クェス?そんなはずは、もう僕は…俺は乗り切ったはずだ。そんなはずはないんだ!!」

クェスの怒りの魂の雄たけびが、FX93のサイコミュを通し、Ξガンダムのサイコミュが受信しハサウェイに届いたのだ。

その魂の叫びで、一瞬、ファンネル・ミサイルが制御不能に陥り、クェスのFX93のビームシールドとガトリング砲に全て落とされる。

ハサウェイはそんな声にも首を振り……、再び意識を小型のガンダムに持って行こうとする。

 

だが、その隙にFX93はΞガンダムの背後に一気に迫り、肩車のように圧し掛かった。

 

「何をーっ!!」

ハサウェイはΞガンダムの手首に仕込んであるビームサーベルを発振させ、肩に乗ったFX93を切ろうとするが、FX93のビームサーベルに阻まれる。

 

「ハサウェイ!!いい加減にしろって言ってるのよ!!」

 

「お、女?女の人の声……でも、え?……俺を…僕を知ってる?」

その声はモビルスーツ同士の接触による回線で、Ξガンダムのコクピットのハサウェイにまで届く。

 

Ξガンダムの動きが止まった隙に、FX93からノーマルスーツ姿の人影が飛び出し、Ξガンダムのコクピットブロックがあるフレームをガンガンと叩く。

「ここを開けなさい!!ハサウェイ!!」

 

「え……何を?……君は誰?」

ハサウェイは混乱の坩堝に陥り、何故か素直にコクピットブロックを開ける。

 

そして……

その女性がノーマルスーツのヘルメットを外して、エメラルドグリーンのロングヘア―をふぁさっとたなびかせながら、Ξガンダムのコクピットに入って来た。

 

その女性を見上げるハサウェイは、茫然とした顔でそんな感想を漏らす。

「……妖精?……綺麗だ……」

 

「ハサウェイ、久しぶりね。あんた、こんな所で何やってるのよ?」

その妖精は腕を組み、怒りの形相に表情を変え、ハサウェイを睨みつけていた。

 

「え?……ま、まさか、まさか、……クェス……なの?そんな……死んだんじゃ……」

ハサウェイはノーマルスーツのヘルメットを取り、唖然としつつもその目は女性の顔を捉えたままだ。

ハサウェイはその顔立ちに、12年半前に出会い淡い恋心を抱いたクェス・パラヤの面影を重ねていた。

 

「誰が死んだって?散々てこずらせてくれたわね…歯を食いしばれーーーー!」

そして、次にハサウェイの目に映った物は、女性の綺麗な手、では無く拳だった。

ハサウェイはそこで意識が途切れる。

 

クェスの怒りの拳がハサウェイの顔面にめり込み、ハサウェイはそのまま気を失ったのだった。

 




遂にクェスはハサウェイと決着を……

というわけで漸くクェス編も佳境に……
この後の展開は、ここまでお付き合いして頂きました皆さまは、多分お分かりだろうと思います……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クェス編【後】その3

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は繋ぎ要素しかないです。
本番はこの次かな。


ハサウェイとの戦闘を終わらせたのは良いんだけど、ハサウェイが気絶しちゃうものだから、ハサウェイのガンダムが制御不能になって、危うく一緒に墜落するところだったわ。

慌てて、ヘルメットをかぶりながらFX93に戻って、FX93で何とかハサウェイのガンダムを支える事が出来たのだけど、流石に焦ったわ。

 

マリーダ姉とバナージもその後に、直ぐ来てくれて助かったわ。

メッサー隊のMSを乗せて飛ぶ飛行ユニットを全部落として行動不能にしたとか、流石ね。

 

ガランシェールもしばらくして来てくれたんだけど……ハサウェイのガンダムは格納庫入らなかった。

無駄にデカいのよ!あのガンダム。武装も豊富だったし!

仕方が無いから、ハサウェイを引っ張り出してから、FX93でハサウェイのデカいガンダムをホロで包んで、ガランシェールに吊り下げて引っ張る感じになった。

 

それにしても、危なかったわ。

 

ハサウェイのガンダムはパワーと武装の豊富さはFX93より上だったわ。

でも運動性や敏捷性、速度とかの機動力とか武装の精度はFX93の方が数段上回ってて、総合力だとこちらの方が高そうだったけど、ハサウェイは戦い慣れてて、操縦技術は私よりも上だった。

何となく勝っちゃったけど、もう一回やれって言われたら、勝てそうも無いわね。

 

後で聞いたのだけど、実はバナージは自分の役割分を終え、後はマリーダ姉に任せて、こっちの戦いの様子を見ていたらしいの。

やっぱり私の方が押されてて、バナージはずっとハサウェイのガンダムにビームマグナムの照準を合わせていたらしい。

もうちょっと決着が遅かったら、バナージが介入するところだったとか……。

 

何にしても勝ててよかったわ。

 

 

予め決めていた海上の合流ポイントで、もう一隻の偽装輸送艦プレアデスと現地スタッフがサポートの為に用意していた大型タンカー2隻と合流した。

プレアデスの方もあっさり作戦が成功したのだそうよ。

やっぱり、あの軽そうな30前後のパイロット、只者じゃなかったわね。

たしか、ジュドーとか言う名前だったかしら。

鹵獲したハサウェイのガンダムは、プレアデスの方には何とか入った。

 

補給やメッサーのパイロットの捕虜の受け渡しとかの後始末を終わらせた後、予定通りガランシェールとプレアデスはアフリカ大陸の民間宇宙港から、宇宙へととんぼ返りすることに……

民間宇宙港に着いた頃に、クワック・サルヴァーの捕縛部隊が、クワック・サルヴァーの捕縛成功と、マフティーの秘密基地を抑えたとの連絡が入った。

 

そして、その日のうちに宇宙へと……

大気圏を突破し、宇宙に出た頃。

私は格納庫横の倉庫に向かう。

ハサウェイが閉じ込められてる物資用のコンテナの扉に寄りかかる。

扉には中身が確認できる程度の覗き窓が付いてる。

私はコンテナをノックするように叩く。

「ハサウェイ……起きてる?」

 

「…………」

中で人が動く気配はあるけど、返事は無い。

 

私は金属の小窓を縦に開き、中の様子を見る。

小窓から2m程離れた壁際にもたれ掛かるノーマルスーツのままのハサウェイが、こちらを見ていた。

「……君は…本当にあのクェスなのかい?」

 

「そうよ」

あのクェスって、……まあいいわ。

 

「………君は生きていたんだ。そうか……生きて………」

 

「なんで私が死んでた事になってるのよ」

 

「………僕は君を探していたんだ。12年半前のあの戦場で……でも君の気配が消えて………死んだものと」

 

「はぁ?何で私がハサウェイに探されないといけないのよ?」

 

「だって、そうじゃないか!君がシャアについていったから!」

ハサウェイは小窓の傍まで駆け寄って来る。

 

「別にいいじゃない。ハサウェイには関係ないわ」

 

「関係ないって!?」

 

「声を荒げないでよね。確かにシャアに着いて行ったのは失敗だったわ。今の私だったらあの時の私を絶対引き留めていたわね」

 

「だったら!」

 

「もういいじゃない。昔の事なんて」

 

「昔の事だって?…僕は心配したんだ!君が死んだと思ってどんだけ悲しんだか!」

 

「だからなんで、あんたが私の事を心配するのよ。……まあいいわ。それで、あんたは何でテロリストなんてやってるのよ」

 

「………僕の事はいい。君はどこで何をしてたんだい?」

 

「私?私はえーっと、普通に生活してた」

 

「普通って………………じゃあ、君は今更、僕の目の前に現れて、こんな僕を捕まえてどうしようと言うんだよ」

 

「あんた、地球でやんちゃしてるって聞いたから、一発殴ってやろうと思ったのよ。もう殴ったから、私の役目はこれで終わりよ。あー、すっきりした」

 

「……どういうこと?……いや、どういうことだ?君は連邦宇宙軍の人間じゃないのか?上からの命令で僕を捕まえるために来たんじゃないのか?」

 

「違うわよ。何で軍人なんてしないといけないのよ」

 

「軍人じゃない?……そんなわけがないだろ。あの小型のガンダムに可変モビルスーツ、見た事もない物だった。君は連邦宇宙軍の特殊部隊か何かじゃないのか?……いや、まさかネオ・ジオンの残党か?……ミネバ・ザビか……彼女ならテロを起こす僕を邪魔だと思うかもしれない。だが、彼女の掲げる構想は飽くまでも理想論だ。現実にはあり得ない」

 

「まあ、邪魔かもしれないけど、違うわ。私はネオ・ジオンでも連邦でも無いわよ。ただの一般市民よ。今は家で家事手伝い?」

 

「何を言ってるんだクェス!一般人がモビルスーツに乗れるわけ無いだろ!?しかもあんなとんでもないモビルスーツをどこから手に入れたんだ!」

 

「うーん。確かにそうよね。じいちゃんに借りた?」

 

「じいちゃんって誰だよ!君は、身内は誰一人といないはずだ。あの戦争で君の父親は……」

 

「死んだわね。でも今は家族がいるんだから」

 

「……まさか、結婚?」

 

「してないわよ!あんたまで結婚しろって言うつもり!」

 

「……そうじゃないけど………じゃあ、何でクェスは僕の前に現れて、モビルスーツに乗ってまで僕の邪魔をするんだよ?」

 

「だから、殴ってやろうと思ったんだって、言ってるでしょ」

 

「意味が分からない」

 

「はぁ、あのね。あんた父親のブライト艦長に心配かけてるとか思わないの?お母さんだって、妹だっているんでしょ?」

 

「父さんや母さんは関係ない」

 

「何が関係ないよ。関係あるでしょ!親子なんだから!」

 

「僕は……俺は、地球を守りたかった。ただそれだけだ」

 

「はぁ、あんたバカね。親や妹を心配させて何が地球を守りたいよ。大切な人を安心させられないで何が地球を守りたいよ!本当にバカね!」

 

「バカバカ言うなよ!君だって、あの時の事でどれだけ心配させたか、君が死んだと思ってどれだけ悲しんだか!!」

 

「だから、何で私があんたに心配されて、悲しまれないといけないのよ!」

 

「だからいいだろ?……君の言う通りもう12年半前の過去の事だ。……今の俺はまだ死ぬわけにはいかない。仲間も待っている!ここを出してくれ!地球を守らないといけないんだ!地球がもう持たないんだ!」

 

「あーあ、説明するの面倒ね。……ハサウェイ……この12年半に何があったのよ」

 

「色々だ。君が死んだと思って、あの戦争は何のために起きたのかと考えて!それで……」

 

「……まあいいわ。ハサウェイあんた。これから大変よ……覚悟しなさい」

 

私はそう言って、ハサウェイが押し込められてるコンテナを後にした。

ハサウェイ、相当拗らせてるわね。

まったく……。

 

 

数時間後。

新サイド6、16番コロニー外延に浮かぶ、表向きはカークランドコーポレーション所有の倉庫だけど、内情はスレイブ・レイスの秘密基地である大型プラントに戻って来た。

 

後手に手錠をかけらたままのハサウェイはガランシェールの乗組員の2人に連れられて、ガランシェールから降ろされる。

私もそのちょっと後ろに続いて、マリーダ姉と下船していた。

 

「小僧がマフティー・ナビーユ・エリンか……結構な優男だな」

トラヴィスのじいちゃんが宇宙船ドッグで待ち構えてて、連れられるハサウェイに声をかけていた。

 

「あんたは誰だ。ここはどこだ。連邦軍の特殊部隊?いや、ジオンの残党か?」

ハサウェイは乗務員の人に腕を掴まれたまま、じいちゃんを睨みつけていた。

 

「俺の名はトラヴィス・カークランドだ。ここは連邦でもジオンでもねーよ」

 

「トラヴィス・カークランドだと!?……腐った特権階級と結託し、宇宙を私物化した大悪党め!!お前のせいで、非合法地球居住者はマンハンターに捕まれば、殺されるか、強制的に宇宙に強制移送される。宇宙に上がればお前のような奴が人権無視の強制労働を行わせ、甘い汁を吸いつくし、その金でさらに連邦を腐らせる!お前らのような奴は許さない!!」

 

「はぁ?小僧何言っちゃってるんだ?」

 

「大会社を一代で築いた稀代のビジネスマンとかもてはやされてる裏では、強制労働や、自分の敵や気に入らない奴は暗殺までし、弱い人々を虐げて来た大悪党!!ここの基地が全てを物語ってるぞ!!……まさか、クェスもお前がかどわかして!!」

 

「こらハサウェイ、じいちゃんに何言ってるのよ!」

後ろからこのやり取りを聞いていた私は、ハサウェイに頭を殴る勢いで迫ろうとするが、マリーダ姉に止められる。

だって、じいちゃんがそんな事するわけがないじゃない。

大方、クワック・サルヴァーとかいうにニセ医者を名乗る奴が、ハサウェイにそう吹き込んだのだろうけど……

 

「ぷふふふっ、ふはっ!いいね。若いっていいね」

じいちゃんは可笑しそうに笑う。

 

「何が可笑しい!!」

 

「いや、半分はあってるんじゃね?俺はどっちかと言えば小悪党だな。若者が正義を語るのは大いに結構なこった。……しかしな小僧、お前、正義のためだとか言って、何人の関係ねー奴を巻き込んで殺した?」

じいちゃんは最初はおちゃらけた風に話してたんだけど、途中から鋭い目つきで、ハサウェイに凄んでた。

 

「ぐっ……」

 

「テロリストやインテリ革命家ってのは何時だってそうだ。自分らの正義のために、全く関係ねー奴まで、犠牲にしてしまう。それを正義のための尊い犠牲だとか言ってな、自分らで殺したくせによー。正義の為だったら、その場にいた善良な市民も巻き込んでいいのか?女子供もいたんじゃないのか?……もし、その場に自分の恋人や親兄弟が居たら、尊い犠牲だと割り切れるのか?」

 

「必要な犠牲だった!……悪党のお前だって一緒だろうに!」

 

「俺か?悪党には違いないがな、筋は通すぜ。関係ねー奴を巻き込む真似はしたくないんでね。そんな事をすりゃ、いの一番で俺を殴ってくれる奴がいるんでね。そいつだけは裏切りたくねーんだわ。……お前の悲しい所は、そういう奴が傍に居なかったということだ」

トラヴィスのじいちゃんが言ってる『奴』って、多分パパの事ね。

パパとじいちゃんは親子程歳が離れてるけど、ほんと親友って感じなのよね。

 

「………くそっ!俺だって俺だってこんな事をしたくなかった!だが、特権階級や連邦の腐った連中をのさばらせると、その欲で全てを飲み込み、地球まで壊してしまう!!もう、手遅れになってしまう!!」

 

「やりたくなかったと言ったが、何故テロに手を染めた。誰かに言われたからか?命令されたからか?ちゃんと自分で考えて行動したのか?それとも現実逃避で、呈のいい言葉に乗っかって、思考を止めたんじゃないのか?……よく考えて見ろ。お前が、いや、マフティーが起こした数々の事件の結果どうなった?」

じいちゃんはさっきとは違い、諭すようにハサウェイに語り掛ける。

 

「連邦の特権階級の連中は地球の土地を自分達だけで私物化する法案を通すつもりだ。お前のような連邦に尻尾を振る連中を、地球に呼び寄せるだろう。地球の汚染がさらに進むのは目に見えている。だから何としても止めないといけなかったんだ」

ハサウェイは幾分かトーンダウンして、話を続ける。

 

「ふぅ、お前何も見えてないな。かってに私物化すりゃいいだろ?そんなもん」

 

「何を言ってる!!お前のような奴がいるから!!」

 

「俺らからすりゃ、地球にさほど価値はないさ。ゴミ共がゴミ漁りしてる様にしか見えん。おまえ、今の経済圏がどうなってるか知ってるのか?地球の生産力は宇宙の4分の1もないんだぞ。地球の環境はこのまま行ったとしても、100年、いや少なくとも50年は余裕で持つだろう。だがなその前に、連邦が瓦解する。いや、地球に縛られてる限りはとは付くがな。……宇宙の人口と地球の人口の差はどうだ?……すでに人的資源さえも宇宙が2倍も上回ってる。お前が何かしようがしまいが……さほど変わらん。お前が戦乱を起こした方が地球環境に悪いだろうさ」

 

「……そんなのは嘘だ!」

 

「はぁ、ちょっとは頭を冷やせよ」

 

「シャアは既に地球はもたないと知っていたから!だから、隕石を落とし地球を人が住めなくしようとしたんだ!」

 

「じゃあ、住めなくなったらどうする?宇宙に上がるしかないだろ?当時の宇宙には地球人口全員を受け入れるようなキャパシティーは無かった。物資不足や不平不満が蔓延し、それこそ宇宙で第2第3の争いが起こるだろう」

 

「………そんなはずは」

 

「まあいい。今のお前じゃ俺の言葉は届かない。マフティーの真実もな……だから、会わせてやるよ。明後日な。……独房で頭を冷やせ……小僧を連れて行ってくれ」

じいちゃんは疲れたようにそう言って、ガランシェールの乗務員にハサウェイを独房に連れて行くように指示する。

 

「くそっ!!クェス!!君はこのままでいいのか!!クェース!!」

連れていかれるハサウェイは私に向かって叫んでいたけど……。

あーあ。これ相当拗らせてるわよ。

洗脳レベルもいい所ね。

なんか、シャアをリスペクトしてるみたいだけど……今の彼奴を見たらびっくりするんじゃない?

まさか、じいちゃんが明後日会わすのってレッドマン?

 

 

「クェス、ご苦労さん。」

近づく私に、じいちゃんから声を掛けてくれた。

 

「うううん。ありがとね、じいちゃん。ハサウェイはどうなるの?」

 

「悪いようにはしないさ。ただ俺流だけどな」

じいちゃんは顎に手をやりニヤリと……

ぜったいロクでもない事を考えてる。

 

 




次回は皆さんが期待されるアンケートの内容が含まれますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クェス編【最終話】

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

クェス編なんとか終わりました。
短期決戦で書こうと思ったんですが、途中で心が折れて、楽しい物を書いてました。
それが用意してます最後のお話、ジュドー×ハマーン様編 1話完結物です。


家に帰ると、パパが頭を撫でてくれた。

「ただいま!」

「ふぅ、気が済んだか?」

「うん。そうね」

「そりゃよかった」

その日はちょっとパパに甘える。

ローザ姉がため息を交じりだったのは見逃さない。

後で聞くと、リゼ姉にローザ姉は私が留守の間に注意されたみたい。

嫉妬でプレッシャーが漏れてる事を。

マリーダ姉が、私がアムロに訓練を受けてる最中にリゼ姉に相談したらしい。

 

トラヴィスのじいちゃんの話によると、月ではやっぱり艦隊による小競り合いが起きたようだけど、お互い人的被害もなく難なく収めて、マーサ・ビスト・カーバインを捕まえる事に成功したとの事。

クワック・サルヴァーことブレン元少将も捕え、マフティーの秘密基地も抑え、実働部隊のパイロットも捕縛、マフティー・ナビーユ・エリンを名乗るハサウェイも捕まえて、事実上マフティーは壊滅。

後にマフティーの動乱と言われた一連の事件は終止符を打った。

でも、これからが大変らしい。

連邦政府や連邦軍とも、裏から折衝しないといけないらしいし、アナハイムとも話をつけないといけないらしいし、マフティーの構成員の処遇も何とかしないといけないし……じいちゃんは、暫くは忙しくなると言ってたわ。

 

 

私達が家に帰った翌日の夕方に、家にトラヴィスのじいちゃんとアムロと共に奥さんの内、セイラさんとフラウさんとチェーンが家に来た。

それとハサウェイの両親のブライト艦長と奥さんのミライさん、妹のチェーミンも。

そう、ハサウェイの事を伝えるために……。

私もその場に参加させられたけど。

ブライト艦長の動揺ぶりは見てられなかった。

ミライさんは自分の育て方が悪かったと自分を責め、謝るばかり。

チェーミンも泣いてたわ。

 

やっぱ、家族を悲しませたらだめよね。

私もパパに迷惑かけてばかりだから、あまり人の事はいえないかもだけど。

 

その日、ハサウェイの家族は、アムロの御殿に泊まる事になった。

ブライト艦長やミライさんやチェーミンの心のケアは昔馴染みのアムロやアムロの奥さんたちが適任よね。あの家、滅茶苦茶デカいし、寝泊まりするところには困らないわ。

 

 

その翌日の正午。

ハサウェイはここに連れてこられた。

勿論、手錠を嵌められたままね。

 

何で家なのか?

トラヴィスのじいちゃん曰く、こう言うのはエドの家が良いんだよと、訳が分からない理由を言っていたわ。

パパはうんざり顔で、仕方がねーなと了承してたけど……。

 

今日は妹達とリタ姉の子供たちは、アムロの御殿に遊びに行かせ、リタ姉も子供たちの付き添いで……。

リゼ姉は仕事の関係で、新サイド6の1番コロニーに。

マリーダ姉とバナージは、マフティー関連の残務処理で忙しいらしくて、しばらく家を空けるらしい。

家にはパパとローザ姉とオードリーと私。

トラヴィスのじいちゃんとアムロ、セイラさんにチェーン、それとレッドマン、そしてハサウェイの家族が3階のリビングで待機していた。

 

ハサウェイは1階の診療所の待合室にトラヴィスのじいちゃんの会社の人に放り込まれる。

診療所の監視カメラで一部始終が、3階のリビングのテレビに映し出される。

 

今から起こるだろう事を考えると流石にハサウェイに同情する感情が沸き上がる。

 

……なにこれ?

公開修羅場?

私とオードリー、パパもローザ姉も関係ないんじゃない?

 

 

 

まずはじいちゃんが待合室に入るが、ハサウェイは相変わらずじいちゃんに噛みつく。

じいちゃんが一言、二言話した後にブライト艦長が……

 

ハサウェイはいきなりブライト艦長に、グーで顔を殴られ吹き飛ぶ。

そして、倒れたハサウェイの胸倉を掴み上げ、もう一発。

ハサウェイも痛そうだけど、ブライト艦長の方がもっと辛いに違いない。

 

更に、殴ろうとしたところをアムロが入って来て、ブライト艦長を後ろから羽交い絞めにして止める。

 

3階でこの様子を見るミライさんとチェーミンは泣き崩れていた。

 

 

そのハサウェイだが、突然アムロが現れた事に、ブライト艦長が現れた時よりも驚いてかなり動揺してることが分かる。

 

『……アムロさんが……ここに…………生きて………』

 

そこに、レッドマンがグラサンを外しながら登場。

なにカッコつけてんだか。

 

『え?………シャア?……シャア・アズナブル?………え?……どうして?……え?……何が?……どうなって?………』

 

ハサウェイは放心状態ね。

 

 

アムロがブライト艦長を落ち着かせたところで、ハサウェイを起き上がらせ、手錠を外し、椅子に座らせる。

何が何だか分からない様子のハサウェイは瞳孔が見開いたまま、椅子に大人しく座っていた。

トラヴィスのじいちゃんとアムロが、今回のマフティーの件について真実を語りだす。

 

ハサウェイの顔色が見る見る悪くなっていく。

途中で大きく反論してたりしてたけど、直ぐにじいちゃんやアムロに事実を突きつけられて、項垂れていく……。

 

『僕は僕がやって来た事は何だったんだ!?……僕がやっていた事は唯の人殺しだったのか……僕は………罪もない人を殺しまわってていただけなのか……地球の未来は……僕は!!!』

 

ハサウェイは勢いよく立ち上がると同時に糸が切れた人形のように崩れ落ち倒れる。

その様子を見て、パパは勢いよく3階のリビングから1階の待合室に駆け下りて行った。

その後ろにローザ姉もついて行く。

パパはハサウェイの介抱をし、病室のベッドに寝かす。

 

 

3時間程して、丁度私も様子を見に行った時に、病室のベッドの上でハサウェイは目を覚ます。

ベッドの周りにはハサウェイの家族が見守っていた。

「父さん、母さん、チェーミン……ごめんなさい」

 

「………」

「ハサウェイ……いいのよ。私もあなたを分かってあげられなかったから」

「兄さん……」

 

「父さん……僕を父さんの手で連邦に突き出し、軍事裁判にかけて処刑してください。僕がやって来た事は全て間違いだった。悪の片棒を率先して担いできたのは僕だった」

 

「……ハサウェイ、お前を分かってやれなかった俺も父親失格だ。一緒に出頭する。お前の罪も父親の俺の罪だ。……一緒にな。ミライ、すまない。チェーミンの事を頼む」

 

「あなた……ハサウェイ……」

 

こんな事になった後で、家族の絆が強くなるなんて……。

私ももらい泣きしちゃったわ。

何とかしてあげたいけど……

 

 

「ああっ、ちょっと悪いんだけど、それ無しな」

じいちゃんがそんな悲しみの感動の現場に、明るい声で入って来る。

 

「トラヴィスさん、何故止めるんですか。私達親子にはこれしか罪を償う方法は……」

 

「ああ、マフティー・ナビーユ・エリンという奴な。あれ、ブレン元少将に被ってもらう事になったから。ぜーんぶだぜ。その線で連邦の上と話をつけた。だから、ハサウェイ・ノアって奴が、マフティーに参加したなんてものは、何も残らないというか、消滅する」

 

「……いや、それは」

 

「今回の件は、連邦の最大派閥が裏から手をまわして全部やりやがった事だ。こうなった以上、奴らはブレン元少将に全部の罪を擦り付け、事を全部終わらすつもりだ」

 

「だったら、僕が告白して!すべてを!」

 

「だから、小僧は甘ちゃんだっていうんだ。そんなだから騙される。いいか、奴らは連邦の闇をずっと蠢いてきた癌だ。既に連邦とは切っても切れない存在だと言っていい。奴らを全部始末すれば、連邦も瓦解する。今連邦が瓦解すれば、各地で紛争が起き、戦争が起きるだろう。何だかんだと言って、連邦は多数の不満分子を産んだが、それらを曲がりなりにも抑えて来たからな」

 

「トラヴィスさん……私達は何を」

 

「ブライトさんよ。実直なのはいいけどよ。もうちょっと肩の力を抜いたらどうだ?要するにだ。今回の事は法律上は全く罪にならないって事だ」

 

「そんな事が……」

 

「だが、僕は偽物の正義をかざして、人を殺した……その罪は償うべきだ」

 

「確かに法律上の罪は消えたが、人として、お前自身の罪は消えたわけじゃねー。お前が罪を償いたいと言うならば、そのチャンスをやろう。但し、それは今じゃねー。それまで反省しまくってろ」

 

「………マフティーの皆はどうなりますか?」

 

「ああ、そいつらにも別の方法で罪を償わせてやるよ。宇宙では人手は幾つあっても足りねーからな」

じいちゃんの口元がにやりと歪む。

じいちゃん。また何か企んでるわ。

 

「しかし、僕は………」

 

 

 

 

 

1週間後。

マフティーの反乱はブレン元少将とマーサ・ビスト・カーバインが一部の連邦議員と結託して起こした連邦内部反乱だと、正式に報道され、連邦議会はこれを止められなかったという事で、多くの議員がやめさせられ、解散総選挙に追い込まれる。

マフティーは壊滅、構成員は全て捕縛されたと報道される。

 

 

更に半年後。

「クェス!」

「あら、ハサウェイ。元気そうじゃない」

 

家の診療所から出てくるハサウェイが、家に帰る途中の私の元に駆け寄って来る。

ハサウェイは度重なる真実を突きつけられた影響で精神的に参ってしまって、1カ月は酷い状態だったわ。何とか立ち直って、今は様子を見る程度で定期的に通院してる。

 

「そうだね。体も随分となれてきたよ」

 

「ジャガイモ栽培は大変?赤鼻のおじさんは昔からの農法に拘ってるから、全部手作業なんでしょ?」

ハサウェイは更生の一環として、今はジャガイモ農家のオーナーの赤鼻のおじさんの家で住み込みで働いてる。

因みに更生監査員として、ハサウェイの後見人になってるのはパパ。

 

「確かにきついけど、土に触れ、水と空気に触れると心が洗われる気分だよ」

なんか晴れやかな笑顔ね。

 

「夜は茨の園でアルバイトでしょ?」

今は経営者がレッドマンに変わっちゃったけど、バー茨の園でバーテンとしてバイトをしてる。たまにパパが私を連れて行ってくれるわ。

 

「いろんな人が来て、いろんな考えを持ってるんだ。日々勉強になるよ」

元々真面目な奴だから、ちゃんとした環境が有れば、こんなものよね。

真面目過ぎるから、あんなことになっちゃったんだろうけど。

同じ、真面目君のバナージでも、元々の心の持ちようとメンタルの強さが違ってたから、ああはならないでしょうね。

 

「クェス、それでさ。今週末に映画でも……」

 

「却下」

 

「えええ!?なんで?」

 

「パパと出かけるから」

 

「えええ!?クェスってファザコンが過ぎるよ」

 

「あんたに言われたくない」

 

「クェスは好きな人いないって言ってたけど……どんな人が好みなの?」

 

「うーん、そうね。ちょっと目が鋭くて、口汚いけど、優しくて、頼りになって、医者な人」

 

「それ、まんまエド先生じゃないか」

 

「あんた、まさか私をナンパしてるわけじゃないでしょうね。私は過去の女の人とちゃんと清算しない奴とか、女を傷つけたままほったらかしにする男が大嫌いなのよ」

 

「う……っ、いや、多分大丈夫だよ。ギギはケネスと結婚してキュウシュウに居るって、風の便りで聞いたし……」

 

「あんた、マフティーの時代に恋人居たんじゃないの?なんかそんな感じの事を聞いたことがあるんだけど」

 

「ケリアは随分前に、向こうから離れて……」

 

「はぁ?あんたちゃんとその子に確認取ったの?あんたがマフティーなんかやるから、その子は離れたんじゃないの?」

 

「ええ?そうなの?……いや、でも」

 

「確認してきなさい!!」

 

「痛いって、何も頭を叩かなくてもいいじゃないか」

 

ふぅ、ニュータイプって人と人が離れてても意思の疎通が図れるんじゃないの?

ニュータイプの男共は何でこうも、女心が分からない連中ばかりなのかしら。

あのジュドーって人も、ルーさんを大分困らせてるみたいだし。

例外はバナージだけね。パパの教育の賜物よね、やっぱり。

 

ハサウェイはこんな感じで、このコロニーで更生を行ってる。

ブライト艦長は連邦軍を辞めた。

やっぱり、責任を感じてるみたいね。

それで何故だか、このコロニーに引っ越してきたんだけど。

しかも奥さんとレストランを開きたいとかで、ヴィンセントさんのレストランで修行のためにアルバイトしてるわね。

 

それと、マフティーの構成員の殆どがこの新サイド6に。

トラヴィスのじいちゃんの会社の監視の元、更生のための強制労働?をさせられてるみたい。

さらに、非正規地球居住者をドンドンと新サイド6に連れて来てるわ。

なんでも新しい32番コロニーと33番コロニーの住人にするんだとか。

それで、自分たちで作ったコロニーなら愛着が湧くだろうと、コロニー建設現場で働かせてる。

じいちゃんはホクホク顔だったわ。

この人も大概よね……。

 

 

私は……その、オードリーの法律事務所で働くことに……受付兼オードリーの秘書よ。

でも、何か知らないけど、関係ない男共がひっきりなしに来るんだけど、相談料を払うから、話を聞いてくれとか言って、営業妨害も甚だしいわ。

そんな奴らを追い払うのも私の役目ね。

あんまりひどかったら、パパに来てもらおうかしら。

パパだったら、一発であんな奴らを追い払っちゃうんだから。

 

 

 

人類の未来か。

私にはいまいちピンとこないけど。

オードリーならそれに触れる事がきっと出来るわ。

私はとりあえず、このコロニーで今迄通り、パパや家族、妹達が安心して暮らせるようにして行きたいわ。

 

 

 

 




クェス編何とか終わりました。
告知と違い8話も……だめですね。だらだら癖が治らない。

最後の番外はやはり、ハマーン様のお話で締めくくりたいと……
ジュドーとハマーン様のお話を作成してます。
先ほど、ちょろっと告知いたしましたが、こんな感じになります。

****************
とある会社のとある社員寮。
社員寮と言っても、かなり広々としたタワー型マンションの一室。
このタワー型マンション自体がとある会社の社員寮である。

「お兄ちゃんとルーさん、明日友達の家に行くんだけど、一緒に行かない?」

「リィナ、こっちの友達って、俺達も行ってもいいの?」
「リィナの友達って、会社の人?」

「そう、マリーダの家よ。隣の15番コロニーに住んでるんだけど、会社の定期便があるから、それに乗って行こう」
*****************

こんな感じで始まるお話です。しばらく待ってくださいね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終番外編
再会……【前編】


感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

その……すみません。1話と言っていたそばから……複数話に……
次こそ完結を……

というわけで、告知通り、ジュドー×ローザ編


宇宙世紀0105年7月末

マフティーの動乱と言われる戦いが終結して、数日たったある日。

 

新サイド6、16番コロニーに本社を置く新興一流企業のとある社員寮での出来事。

社員寮と言っても、かなり広々としたタワー型マンションの一室だ。

このタワー型マンション自体が会社の社員寮でもある。

 

「お兄ちゃんとルーさん、明日友達の家に行くんだけど、一緒に行かない?」

ちょっとくせっ毛のセミロングの髪の小柄な可愛らしい女性が、同じ髪質で同じ茶色の髪の毛を持つ軽そうな30前後の男性と、それよりも年上に見えるちょっと冷めた雰囲気を持つ紫銀髪のロングヘアの女性に声を掛ける。

この部屋の主である小柄な女性の名前はリィナ・アーシタ(28)。

男性はリィナの兄ジュドー・アーシタ(31)。

紫銀髪のロングヘアの女性はルー・ルカ(33)。因みにジュドーの恋人だ。

ジュドーとルーは16年も連れ添ってるのだが、正式には結婚をしていない。

妹リィナにとってそれは不満でもあったが、当の本人たちは特に気にしていない様子だ。

二人は木星暮らしも長く、木星輸送船団として、地球と木星を往復する日々を送っていたその影響が大きいのかもしれない。

彼らは4年前、一度地球に帰還した際、所属する民間木星輸送船団ごと、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長するカークランド・コーポレーションの傘下に入り、会社が新たに新設した長距離輸送船団に転属、経験値の高い主任クルーとして重宝される。

妹が大学を卒業し、先にカークランド・コーポレーションに就職していた事に兄、ジュドーは驚いたものだ。

因みに、ジュドーの幼馴染らが営んでいたサイド1のジャンク屋は、カークランド・コーポレーションに吸収されていた。

 

「リィナ、こっちの友達なんだろ?俺達も行ってもいいの?」

「リィナの友達って、会社の人?」

 

「そうよ。マリーダっていうの。隣の15番コロニーに住んでて、会社の定期便が頻繁にでてるから、それに乗って行こうよ」

 

「マリーダって、……まさかマリーダ・クルスさんか?スレイブ・レイスの?」

 

「お兄ちゃん会った事があるの?普段は中短距離運搬貨物船部門で働いてるわ」

 

「最近会ったばかりでさ。そのマリーダさんの家に?まじで!行く行く!」

ジュドーとルーは会社の裏の仕事、スレイブ・レイスの仕事でたった3日間だったが、マリーダと同じ戦略チームで作戦に従事していた。

この作戦がジュドーとルーのスレイブ・レイスとしての初めての仕事だった。

 

「ジュドー、がっつかないの。何時まで経っても子供っぽいんだから」

ルーは、目をキラキラさせるジュドーに呆れたように軽く注意する。

 

「それにしてもリィナ、あの子と友達だったのか。俺ももう一度会ってみたいと思ってたところなんだ。偶然にしては出来過ぎてるじゃない?……なあリィナ、マリーダさんって、その……プルやプルツーに似てないか?あの二人が成長したらあんな感じになるんじゃないかと思わずにいられないんだ」

ジュドーは妹のリィナにこんな事を聞く。

マリーダに、嘗て自分を兄のように慕ってくれた少女達、プルやプルツーの面影を見ていたのだ。

だが、それは致し方がない事だろう。

マリーダはプルとプルツーと同じ遺伝子を持つ、ネオ・ジオンのグレミー・トト派に作られたデザインチルドレンの一人だったからだ。

 

「確かに、私もそう思ったわ。初めて顔を合わせた時は流石に面を喰らったわよ。雰囲気的にはプルツーに似てるわね」

ルーもジュドーと同じ意見だった。

 

「私も初めて会った時にそう思った。マリーダのお姉さんもそっくりで、明るい感じよ。そうね。プルが大人になって落ち着いたら、あんな感じに………」

リィナも会社に出勤するマリーダを見かけ、ジュドーと同じくプルやプルツーの面影を見て、声をかけ、友達になるまで付きまとった経緯がある。

 

「あの子達が亡くなって16、17年か………私達も年をとるわけね」

ルーは感慨深そうに口にする。

プルとプルツーは、第一次ネオ・ジオン抗争の際に幼いながらも戦士として戦場を駆け巡り、戦火の中亡くなっていた。

 

「それとね。私が怪我した時にお世話になったセイラさんも近くに住んでるから、挨拶に行こう」

リィナは第一次ネオ・ジオン抗争の最中、傷つき命を落としかけたところをセイラ・マスに救われた経緯がある。

 

「そっか、リィナの命の恩人のセイラさんが……あの人、美人だったよな~」

ジュドーは当時のセイラの凛とした表情を思い浮かべ、ニヤケていた。

 

「ちょっと、ジュドー直ぐ美人に目が行く!……この前の、あの子だって!」

 

「仕方がないんじゃない。あんな美女には滅多にお目に掛かれないんだぜ。確かクェスちゃんとか言ってたかな?」

どうやら、ジュドーは美人に目が無い様だ。

まあ、男であれば、多少なりともそうだろうが、ジュドーは表裏もない能天気ような軽い性格のため、それがストレートに言葉に出てしまうようだ。

しかも、クェスは誰が見ても、見かけは誰もが振り返るような美女そのものだった。

 

「ジュドー!!」

ルーはヤキモチから、ジュドーの頬っぺたを抓る。

 

「いひゃい、いひゃい。抓らなくたっていいだろ!俺が好きなのはルーだけだって」

 

「いつもそうやってはぐらかせて……」

何時もこの二人はこんなやり取りをしているのだろう。

 

「クェス?もしかしてクェス・ヘイガー?」

リィナはクェスとも知り合いだった。

会社では受付係であるリィナは会社に遊びに来るクェスとも面識があった。

マリーダの妹であり、会社の女性陣に人気のあるバナージとも親戚であり、カークランド・コーポレーションの会長の親しい知り合いであることも知っている。

 

「え?リィナ!あの子とも知り合いなのか!」

 

「知り合いも何も、マリーダの妹よ」

 

「えええ!?マジで!?こりゃ、明日は絶対外せない!!」

ジュドーはリィナの言葉を聞き、あの美女のクェスとも会えると思うと、ますます明日が楽しみになっていた。

 

「ジュドーっ!!」

そんなジュドーの態度に、ルーは眉を顰め、その頬を再び抓る。

 

「いひゃい、いひゃい、……俺が愛してやまないのはルーだけです」

ジュドーは涙目でルーにこんな事を言う。

長年連れ添った恋人同士である二人にとって、これは日常的な行為なのだろう。

 

 

こうして翌日に、シュドー、リィナの兄妹とジュドーの恋人ルーは、ヘイガー家へと向かうのであった。

 

だが、リィナはヘイガー家に伺うに当たって、肝心な事をジュドーとルーにワザと知らせていない。

 

 

 

 

 

翌日正午前、ヘイガー家に訪れる3人。

 

「こんにちは、リィナです」

リィナはヘイガー診療所の看板が掲げてある入口から、3m程横にある玄関のインターフォンを鳴らし、声を掛ける。

ジュドーは落ち着かない様子で、ルーは澄ました顔で、リィナの後ろに立っていた。

 

 

『うむ、3階のリビングに上がってくれ』

女性の応対する低い声と共に、カチャッと音をたてて、玄関のオートロックが解除される。

 

「どこかで聞いたことがある声なんだけど?ルーもそう思わないか?……それとこの感じは…どこかで……」

インターフォン越しにその声を聞いたジュドーは何かを感じていた。

 

「そう?私は特に……もしかしてジュドー、私のいないところで女の人と!?」

 

「なんでそうなるかな?」

 

「お兄ちゃんもルーさんもじゃれてないで、行きましょ」

リィナは玄関の扉を開け、2人を促す。

 

玄関から廊下を少し進み、階段で3階へと登って行く3人。

3階の扉を開けると、落ち着いた色のパンツズボンとラフなシャツを着こなす妙齢の女性が待ち構えていた。

「やはりか、久しいなジュドー」

ジュドーにそう声を掛ける。

 

「え?えーっと」

ジュドーは、美女といえるだろう整った顔立ちのその年上の女性に見覚えがあるように感じるが、思い出せない。

 

「ジュドー……」

ルーはルーで、またもや自分の知らない女性と面識があるジュドーをジトっとした目で見ていた。

 

「ふむ、わからぬか。かれこれ16年も経つからな。……これでどうだ」

ジュドー達の目の前の女性は、後ろ髪ひとつ結びをアップさせて止めていたクリップを外して髪を垂らし、左右に流していた前髪も垂らしてそろえる。そして垂らした長い後ろ髪を肩口辺りで折り曲げ、少々おどけて見せた。

 

「!?……ま、まさか……ハマーン?……ハマーンなのか?そんなはずは……あの時、確かに命の灯火が消えたように……」

ジュドーはその姿に雷を受けたような衝撃を受ける。

目の前の女性があのハマーン・カーンだと………。

髪の色は当時と異なり、多少猛々しさと若々しさは鳴りを潜めているが……。その切れ長の目と整った顔立ちに色白の肌、ミステリアスな美貌は衰えていない。

嘗てジュドー自身と幾度も争い、戦いを繰り広げてきた女性であると……。

ジュドーはハマーンに対する悪印象は薄い、それよりも好感を持てる年上の女性だった。

2人は敵対関係ではあったが、ニュータイプ能力で幾度も心と精神をかわし、わかり合えた

ハズだった。だが戦争は無常であった。

二人は最後の戦いを繰り広げる中、ハマーンはあえてジュドーに撃たれたのだ。

それが一種のジュドーの心の枷にもなっていた。

 

「ハマーン?え?どういうこと?リィナ?」

ルーはジュドーのその言葉と、目の前の彼女をの顔を見て、身構えながら、隣のリィナに問いかける。

リィナはそんなルーに微笑み返すだけだった。

 

「ふっ、驚いたか、お前の驚いた顔を見るのもまた一興だったな。そうであろう。あの時は私自身も死んだものと思っていたのだからな、だが、こうして生きながらえている」

 

「ハマーン……生きて、そうか。生きていてくれていたのか……」

ジュドーの目尻には涙が溜まっていた。それは嬉しさの余りだろう。

 

「どういうこと?ハマーン・カーンが何故?生きていたとしても……なぜこんな所に?」

ルーは混乱しそうになっていたが、何とか思考を巡らせ、こんな質問を投げかける。

 

「そこに座れ」

ハマーンはジュドーとルー、リィナにリビングのソファーに座る様に促し、自らはキッチンに入る。

ジュドーはハマーンを目で追いながら、素直にソファーに腰を掛ける。

ルーはどうすればいいか迷いながらも、リィナが笑顔でソファーに座る様に促すため、それに従った。

 

「ジュドーと…ルー・ルカだったか、何を飲む?コーヒーと紅茶にココア、なんでもある。リィナは我が家特製のミルクシェーキが良かったのだったな」

ハマーンはキッチンからジュドー達に声を掛け、何を飲むか聞く。

 

「私は……そのコーヒーで」

ルーは戸惑いながらも応える。

 

ジュドーはハマーンから目を放せないでいる。生きて目の前で動いてるハマーンを無言で目でずっと追っていた。

そんなジュドーの代りにリィナが親しい間柄のように応える。

「お兄ちゃんはココアでいいですよ」

 

 

「リィナ、これはどういう事よ。死んだハズのハマーン・カーンがここにいて、何で私達に飲み物を入れてくれるのよ」

ルーは隣に楽し気に座るリィナに小声で問い詰める。

 

「えーっと、それは本人に聞いた方が良いかな」

 

「リィナ、あんた知ってて私達に黙ってたわね。マリーダさんの家に行くって騙して、此処に連れて来たわね」

ルーは眉間にしわを寄せて、リィナにさらに詰める寄る。

 

「騙してないわ。マリーダの家もここよ」

リィナはしれっとそんな事を言う。

 

「はぁ?どういうことよ」

ルーは額に指をあてて、思考をまとめようとする。

 

「待たせたな」

そんなタイミングで、皆の前のテーブルに静かに飲み物を出していくハマーン。

 

「ありがとうございます」

「……その、ありがとう」

「………」

リィナは笑顔でお礼を言い、ルーは戸惑った表情のまま礼を言うが、ジュドーは言葉が出ずに、じっとハマーンの顔を見つめたままだ。

 

「どうしたジュドー、私の顔に何かついてるのか?」

ハマーンはワザとらしくそんな言い方をし、自らの飲み物をテーブルに置いてから、ジュドーの対面のソファーに腰をゆっくりと下ろす。

 

「ハマーン……生きて、本当に生きてくれていたのか……素直にうれしいよ」

ジュドーの口から漸く出て来た言葉は、心からの言葉だった。

 

「そうか、私もお前とこうして再会出来て、嬉しく思う」

また、ハマーンも同じく、口元を緩めながらジュドーにそう伝える。

 

「お兄ちゃん。今はローザさんよ」

リィナがジュドーにタイミングを見計らって肝心な事を伝える。

 

「え?……名前を変えたのか?」

 

「今は構わん。ハマーンとして最後に言葉を交わしたのはジュドー、お前だったからな」

 

「……そうか……その。今は何を?……今のあんたからは戦いの匂いが全くしない」

 

「ふむ。看護師だ」

 

「へえっ?あのハマーン・カーンが看護師!?…あっ、そのつい」

ルーが驚くのも無理もない。

16年前のハマーン・カーンを知る者であれば、誰もが驚くだろう。

ネオ・ジオンの摂政を務め、さらには自らもモビルスーツを乗り、縦横無尽に戦場を駆け巡り、鉄の女と呼ばれた女傑だったのだ。

 

「かまわん。私もこうなるとは思ってもいなかったのだからな」

 

「そうか……戦いを捨てられたのか。そうか……俺は嬉しいよ。ハマーン」

 

「そうか、喜んでくれるか」

嘗てハマーン・カーンだったローザはジュドーに微笑みかけ、思いもよらない再会にジュドーは目頭を熱くし、嬉しそうにローザを見つめていた。

この二人には、16年という時の隔たりを溶かすのに、多くの言葉はいらなかった。

 




ジュドーがついにローザ様、いや、ハマーン様と邂逅を果たす。
でも、ジュドーにとって衝撃の事実はこれだけじゃいでしょ?
皆さんならお分かりですよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会……【中編】

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

やっぱ伸びました。
次で終わらせたい。


ハマーンとジュドー。

サイド3宙域での決闘から、実に16年半ぶりの邂逅を果たす。

当時はキュベレイとZZで激しい戦闘を繰り広げていたが、今は直に顔を合わせ、静かに言葉を交わし穏やかな時が流れている。

 

ポツリ、ポツリとだが会話を始めた頃。

 

 

誰かが3階の居住スペースに訪れる。

「あ~っと、そういや来客があるって言ってたな」

少々目の鋭い白衣姿の中年の男が、そう言いながらリビングに入って来た。

 

ジュドーとルーとリィナはリビングの扉の方へ顔を向け、リィナは「お邪魔してます」と挨拶をし、中年の男は白衣を脱ぎながら「よお、リィナ」と手を上げて挨拶を返す。

ジュドーとルーはこの初対面の男に会釈する程度で収めたが……

 

ハマーン、いやローザは立ち上がり、その中年の男のそばに歩みより、ジュドーとルーに向かってこう言った。

 

「紹介しよう、私の旦那だ」

「エドワード・ヘイガーだ。街医者をやってる」

 

「はぁ~~!?」

「ええ!?」

ジュドーとルーはハマーンが紹介した人物の存在に大いに驚く。

 

「何を驚いている?私の自慢の旦那だ」

ローザはエドの左腕を抱き寄せ、ジュドーとルーに見せつけるようにし、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「い、いや……その、まいったな。そのハマーンが結婚してるというのは意外というか……」

「そ、そう。イメージにないというか……」

ジュドーとルーがそう言うのはある意味仕方がないのかもしれない。

本人も女を捨てたと豪語する程の女傑だったからだ。

ハマーンに心酔する輩は、今も昔も多数いるが、それは恋愛等とは程遠く、女王様と犬のような関係だった。

 

「なんだ、そんなにおかしいか?」

ローザは憮然とする。

 

「お前言われてるぞ。……まあ、俺もそう思っていた時期もあったんだがな」

「エドに言われると辛いぞ」

「悪かったって」

エドはローザに告白される前までは、妹であったローザの将来を本気で危ぶみ、ローザと添い遂げる事が出来る伴侶はどこかにいないかと真剣に探そうとしていたという過去がある。

そんなエドの言葉に、ローザは上目使いで眉を顰めて見せ、エドはローザの肩に触れ、軽く謝る。

 

「……………」

「………なに、この敗北感」

ジュドーはローザとエドの仲睦ましい姿を見て、呆けたまま。

ルーは何故か、唇を噛んでいた。

 

「お兄ちゃんとルーさん。ほら、自己紹介しないと」

リィナはそんな二人に声を掛ける。

 

「あ、ああ。……ジュドー・アーシタです。ハマ……ローザさんの昔の知り合いです」

「ルー・ルカです。顔は合わせた程度でしたけど。……い、一応、ジュドーの彼女です」

リィナに促され、2人はソファーから立ちあがり、エドに対し自己紹介をし出す。

ジュドーはしどろもどろに、ルーも自己紹介をするのだが、最後の方は自信が無さそうに声が小さくなる。

 

 

「改めて、私はローザ・ヘイガーだ。エドワード・ヘイガーの妻だ。結婚から10年になる」

ローザは改めて、自信満々に二人に自己紹介を行った。

 

「………」

「………10年」

二人はまだ、立ったまま呆けてる。

 

そこに勢いよくリビングの扉が開け放たれ、小さな人影が入って来る。

「お母さん、お父さんただいま!」

「お母たん、おとたん、たたいぁ!」

ピンク色の髪色の、顔立ちがよく似た子供たち、見るからに姉妹なのはわかる。

しかも、どこか誰かの面影が多分にあった。

二人の姉妹は勢いよく、リビングに並んで立ってるエドとローザにしがみ付く。

 

「おかえり」

「おかえり、二人共手は洗ったか?」

エドとローザは二人の姉妹の頭をそれぞれ撫でる。

 

「へ?ほえ?」

「はぇ?へ?」

ジュドーとルーはその様子にまたしても驚き、さっきよりも衝撃を受けたようで、変な声が漏れる。

 

「二人とも、お客さんに挨拶をしなさい」

ローザは腰を落とし、二人の姉妹をジュドーとルーの方を向かせ、言い聞かせる。

 

「ミーナ・ヘイガーです。小学3年生8歳です」

「レオナ・ヘイガー…5ちゃいです。おいたんとおまたんはだ~れ?」

ミーナは礼儀正しくお辞儀と自己紹介をし、レオナもミーナに続いてお辞儀をし、たどたどしく自己紹介をジュドーとルーに向かってする。

 

「……………」

「………」

 

「うむ、私の娘達だ。もう一人下に1歳半になるアリスがいるが、今は寝室で昼寝中だ。後で会わせてやろう」

 

「お兄ちゃん、ルーさん。子供たちがちゃんと挨拶してるのに、返してあげないと」

リィナはまたしても呆けてる二人に、挨拶をするように促す。

 

「あ、ああ……えっーと、ジュドー・アーシタっていうんだ。えーっ、お母さんの友達だ」

「おまたんって…おばさん?…私の事?……う…。ルー・ルカです」

 

「こっちは私のお兄ちゃんで、ルーさんはお兄ちゃんの恋人なのよ」

リィナは二人の子供達に捕捉する。

 

「リィナたんのおにたんが、おいたんで、おいたんのこいーとが、おまたんなの?」

レオナはいまいちわかっていないようで、首を傾げながらリィナに聞きなおす。

どうやら、二人の子供達とリィナは親しいようだ。

 

「もう少ししたら、ご飯にするから二人とも、部屋で遊んでなさい」

「「はーい」」

二人の姉妹は元気よく返事をして、子供部屋へと駆けて行く。

 

「………」

「………」

 

「3人とも昼食はまだだな。今から作るから待っててくれ」

 

「ありがとうございます」

「………」

「………」

 

「俺が作るぞ。折角再会したんだろ。お前は客の相手をしてればいい」

「いや、私が食事を2人に振舞いたいのだ。エドが相手をしてくれ」

「そう言う事なら、まあ、しゃーないか」

 

「………」

「………」

 

「私も手伝いましょうか?」

「リィナは客だ。座っておけ」

「じゃあ、せめてお皿洗いだけでも」

「そうか、頼む」

 

「………」

「………」

 

「リィナとローザから君らの事はあらかた聞いてる。んん?座ったらどうだ?」

エドはソファーに座り、未だ立ったまま呆けてる二人に座るように言う。

 

「そのすみません。余りにも衝撃的だったので……もっと、こう、なんていうか、昔はその、家庭的な事からかけ離れていたと言うか……その、もっと、こう、なんていうか」

「………………」

 

「言いたいことはわかる。あいつと出会った際は、常に上から目線のいかにも女王様って感じだったからな」

 

「随分と感じが変わったと言うか……印象が変わってて、髪型とか髪の色が違ってたというのもあったんですが、最初は誰だかわからなかった」

ジュドーはさっきローザと対面した時の印象をエドに素直に話す。

 

「そうだろうな」

 

「その、ハマ…ローザさんとはどうやって知り合ったんですか?」

 

「それな。多分あいつと君が戦った後だ。俺は戦時医療派遣のために医療船で移動中に、あいつの脱出ポッドを拾ったんだ。かなり重症で、半年以上目覚めなかった」

 

「そうなんですか。……ハマーンと分かって助けたんですか?」

 

「いいや、最初は分からなかった。途中で分かったが、そのままってわけには行かねーだろ?リハビリも含めて、回復までに1年以上かかったな」

 

「どうして、エドワードさんは……」

 

「エドでいいぜ。あいつがやって来た事は俺も許せなかったが、あいつ自身は悪い奴じゃなかったんだ。それが分かったから、最初は身分を隠すために、俺の妹として置いてやったんだ」

 

「妹として……」

「結婚は何故?」

 

ちょうどその会話の途中にローザはエドのために紅茶を置きに来る。

「それは、私から告白したからだ。私がエドに拾われてから5年目にな、私はその前からエドに懸想していたからな。私の旦那は色恋沙汰には鈍感でな。苦労した。気が付いてもらうだけでも1年半、あの手この手を使ったのだが、最終的には友人連中に頼んでようやくだ。そこからも長かった」

 

「ああ、それについては、言い訳のしようがねえよな」

エドは苦笑気味に応える。

 

「………あの、ハマーンが告白?」

「…………なに、この惨敗感」

ジュドーとルーはそれぞれ独り言のように小声でこんな感想を口ずさんでいた。

 

 

そんな会話をしていると、再び3階のリビングの扉が開き、人が入って来る。

「ただいま」

「ただいま戻った」

亜麻色の髪に顔立ちがそっくりな二人の女性が入って来る。

髪型がショートカットの方は姉のリゼ、サイドダウンでまとめている方が妹のマリーダだ。

 

「帰って来たか」

「リゼさんにマリーダ、こんにちは」

「おかえり。頼んでいた、食材は?」

エドとリィナ、ローザはそれぞれ挨拶を返す。

 

「リィナ、もう来てたんだ」

「ローザ姉さん、頼まれたものはこれだ。そこでシムスさんに会って、卵を貰った」

リゼとマリーダはキッチンに持っていた食材を置く。

 

「…………」

「…………」

ジュドーとルーはその二人の姉妹の顔をボーッと眺めていた。

まるで、誰かと誰かの面影をそのまま、この二人に重ねていたようだ。

その誰かというのは、プルとプルツーの事だった。

リゼとマリーダの姉妹が、プルとプルツーが生きて成長すれば、丁度こんな感じになるだろうと思わずにはいられなかったのだ。

 

リゼとマリーダはエドの座るソファーの後ろに立ち、二人に自己紹介をする。

「リゼ・ヘイガーです。リィナのお兄さんのジュドーさんとその恋人のルーさんですね」

「改めて、マリーダ・クルスだ。まさかリィナの兄だったとは、邪険にして済まなかった」

 

「俺の妹達だ。ん?どうした二人とも?」

固まったようにリゼとマリーダの顔を眺める二人に、エドは声を掛ける。

 

「あっ、そのジュドー・アーシタだ。……似てる。やっぱり似てる」

「……ルー・ルカ………似てるわ」

ジュドーとルーは漸く声が出せたというように、名乗るが、それよりも二人が自分達の古い知り合いに似てることに衝撃を受けていた。

 

「似てるって、プルさんって人ですよね。リィナからは聞いてます」

リゼがそんな二人に微笑みながら、その名を口にする。

 

「そ、そうなんだ」

「ええ、そう」

 

「それは似てて当たり前だ。遺伝子上は私達と同じだからな」

マリーダの口から、さらに衝撃的な事実をサラッと出て来たのだ。

 

「やっぱり、…プルとプルツーの……戦場で生き残った姉妹」

「………まさかとは思ってたのだけど、そうなのね」

 

「私はそうだ。あの戦場で唯一生き残った。元プルシリーズと呼ばれる存在だった。だがリゼは違う」

「私はその前に廃棄処分されるはずだった素体。能力が発現しなかったから、処分されるはずだったのを助けられて、エドお兄ちゃんの元に」

マリーダとリゼはジュドー達に真実を告げる。

 

「………そ、そんな事が………プルの姉妹が生きて」

ジュドーはまた、目尻に涙が溜まっていた。

 

「エドワードさん……貴方は?どういう方なんですか?元ネオ・ジオンの研究者?」

ルーはそもそもの質問をする。ハマーンを救い、プルの姉妹たちを救った人物だ。

そう思うのも無理もない。

 

「いいや、俺は唯の街医者だぞ。まあ、昔は連邦軍で軍医やってた事もあったが、もう20年以上ここで医者をやってる」

 

「………」

「………」

二人はリゼとマリーダの過去に、後の言葉が出ないのか、沈黙の間が少々訪れる。

 

そこでリゼはジュドーとルーに感謝の意を述べる。

「私達の姉妹を助けようとしてくれた事に、感謝します」

 

「いや、俺は……救えなかったんだ。あの時の俺は子供で……あの子達を……ごめんな」

「ごめんなさい。私は……何も……」

ジュドーとルーは、戦場で死なせてしまった二人の事を思い出しつつ、今こうやってその姉妹が穏やかに生活をしてる事実を知り、再び後悔の念が沸き上がり、二人に謝った。

 

「まあ、アレだ。人生なんて何があるかわからない。その時々で精一杯やるしかない。君らも精一杯やって来たんだろ?」

 

「……やり様はあったはずだった」

「………」

 

「あー、俺も二度の戦場を経験した。一年戦争とデラーズ・フリートだ。まあ、直接戦ったわけじゃないが、軍医として前線に出ていた。特に一年戦争では、俺も後悔をいっぱいした。あの時にあの医療機器が有ればとか、薬があれば助かった命はもっとあったってな具合にな。今もあの時の事を思い出す事もある。それは仕方がない事じゃないか?あとだ。慰めにも何にもなんねーけど。君らが十数年経っても後悔する程大切に思っていたってのは、その子達にとって救いじゃねーか?」

 

「……だといいですね」

「………」

 

「湿っぽいんのは無しにしようぜ。苦手なんでね。もうそろそろ飯も出来るが……激甘料理は得意か?」

エドはそう言って、話を終わらせる。

 

 

そして、昼食が始まる。

ローザ手製の、激甘オムライスにチキンソテー、ヘイガー家特製ジャガイモスープとサラダ盛りがテーブルに並ぶ。

 

エドにローザ、リゼ、マリーダ。幼い3人の姉妹に、リィナとジュドーとルーが加わり、和気あいあいと食事が進んでいく。

 

「甘っ、だけど美味いなこれ」

「でしょ、ローザさんは何でも甘くしちゃうんだけど、みんな美味しいの。特に甘口カレーは物凄く美味しいのよ」

「…………すべて負けた。何この完膚なきまでの敗北感」

ジュドーとリィナはローザの激甘料理を堪能し、ルーは何故か敗北感を感じていた。

 

 




次はセイラさんでるよ。
という事は…………アムロガールズが……
ジュドー達とは、チェーンさん以外はちょっとは関りがあるかもしれませんね。

その他の方々も出ます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会……【後編】 最終話

感想ありがとうございます。
誤字脱市報告ありがとうございます。

番外編も最終です。
皆様お付き合いして頂きありがとうございます。
今回はほぼ会話の台本形式になってます。
誰が誰の言葉なのかはご想像にお任せします。
先に謝っておきます。
アムロのファミリーネームはごめんなさい。


ジュドーとルー、リィナはローザの激甘オムライスを堪能し、ティータイムの後にヘイガー家から、セイラの家に向かう。

 

「リィナ、ハマーンが生きてるって何時から知ってたんだよ」

ジュドーは道中、リィナに口を尖らせながら聞いていた。

ジュドーにとって、先ほどの出来事は寝耳に水どころの騒ぎではなかったのは確かだ。

 

「2年位前かな?マリーダとやっと友達になれて、家に遊びに行ったら、私もびっくりしたわ。ローザさんも私だと気が付いて驚いてたもの」

リィナは当時の事を思い出し、微笑みながら語る。

 

「ちょうど木星を出発した位か。長距離通信ではそんな話一言も言ってなかったし」

 

「長距離通信は頻繁に出来ないし制限時間があるでしょ。それにお兄ちゃんを驚かせたかったの」

 

「十分驚いたって、滅茶苦茶驚いた。ハマーンが生きてるだけじゃなくって、旦那さんに子供が三人だぞ。プルの姉妹とまで会えるなんてな。みんな幸せそうだったなー」

ジュドーは先ほどのヘイガー家の光景を思い出しながら嬉しそうに語る。

 

「ローザさんが夕飯も用意してくれるらしいから、セイラさんのお家におじゃました後に、何か買って持って行った方が良いわ」

 

「こんなに歓迎されてるなんてな。クェスちゃんにもまだ会ってないし、そういえば、他にも家族がいるんだろ?」

 

「ふふっ、そうね。クェスとバナージとオードリー、リタさん、リタさんの旦那さんのレッドマンさんとその双子の子」

 

「へ~、そんなにー……んん?バナージ……?どこかで聞いた名前だと思ったらスレイブ・レイスにマリーダさんとクェスちゃんと一緒の隊でリーダー張ってた奴か、随分若そうなで真面目そうな奴だった。……でも、あの感じニュータイプだ。かなりのね。久々に凄い力を感じたよ。カミーユさん以来かな、あの感じは」

 

「よくわからないけどそうなの?…バナージも同じ会社の人よ。ローザさん達の親戚らしいわ。クェスとオードリーと同じ年で、マリーダが言ってたのだけど、従姉弟みたいな関係らしいわ」

 

「へ~、ところでオードリーちゃんって…美人?」

 

「すごいわ。お兄ちゃんも会ったらびっくりするんだから」

リィナはワザとらしく大げさにそう言った。

ジュドーも会えば驚く事は間違いないが、別の意味でだ。

 

「そりゃ楽しみだ」

 

「フフフッ、楽しみだね」

 

「それにしても、ハマーンがご飯作ってくれて、それが激甘だったなんて、ビーチャやエルに話したら驚くだろうな」

 

「うーん。どうだろう。ローザさんがハマーンだってことは秘密だし、ビーチャはおしゃべりだから……」

 

「そりゃそうか。ハマーンが生きてたなんて知れたら、それこそ世界がひっくり返っちゃいそうだ。何よりもあの幸せそうな家族を壊したくないよな。この事はしばらく俺達の中で収めておくしかないか、なぁルーって、ルーさん?さっきから一人で何ブツブツ言ってらっしゃる?」

 

「……旦那さんに可愛い子供に家庭的な料理……私、この16年間何やってたんだろう」

その隣ではルーは、何故か落ち込んでいたのだ。

 

 

 

目的地に着いた一行だったが。

「ここがセイラさんのお家」

「でか!?」

「何?高級リゾートホテルじゃないの?」

ジュドーとルーはその広々とした敷地に大きな建物を見て、大いに驚く。

 

「これで驚いてはダメよ。お兄ちゃんとルーさん。お手伝いさんも何人もいるんだから」

「超金持ちじゃん。セイラさん」

「………ジュドー、私達と住む世界が違うわね」

 

リィナがインターフォンで応対すると、お手伝いさんらしき人が、家の中へと案内してくれる。

「すげー、ここ本当に家か?」

「ジュドー、キョロキョロしないの」

 

3人はだだっ広いホール……いや、リビングに通された。

そこには未だ美貌が衰えないセイラが待っていた。

「リィナこんにちは。それにジュドーとルーよく来てくれました」

 

「セイラさん、こんにちは」

「お久しぶりです。セイラさん」

「ご無沙汰してます」

3人はセイラに促され、高級そうなソファーに座る。

 

「飲み物は何が良いかしら?リィナはホットミルクが良かったわね」

「はい」

「何でも……」

「こ、コーヒーで」

すると、お手伝いさんらしき人が頭を下げて、スタスタとリビングから出て行く。

リィナは平然としているが、ジュドーとルーは落ち着かない様子だ。

 

「ジュドーとルーは、今は私の夫と同じ会社の長距離輸送船団に所属したと聞いてます」

「え?セイラさんの旦那さんと同じ会社だったんですか。知らなかった」

「そうだったんですね」

「お兄ちゃん、ルーさん。うちの会社の各種開発責任者で取締役の一人、ハロの開発者でもある人よ」

 

お手伝いさんから飲み物が出され、しばらく会話が進む。

 

と、ここまでは、恩人の超セレブな家に挨拶に行き、世間話を楽しむという常識の範疇だが……。

 

「セイラ奥様、旦那様と奥様方、お子様方が帰宅されました」

「……そう」

お手伝いさんがセイラにそう伝える。

 

「奥様方?」

ルーはお手伝いさんの言葉に訝し気な顔をする。

 

「リィナ、セイラさんの旦那に会った事は?」

「あるわ……そうね。ちょっと驚くかな」

「どういうこと?」

ジュドーは小声で隣のリィナに聞くが、リィナは手で口を抑え、微笑むと言うよりは、含みのある笑いをしながらそう答える。

 

 

すると、温厚そうな男性がリビングに入って来た。

「やあ、リィナと…来客中か……邪魔だったかな?」

「今朝伝えておいたはずよアムロ……致し方が無いわ。こちらに……」

「そういえば、……という事は」

男性はリィナを見つけ挨拶をするが、しまったと言う顔をセイラに向け、セイラは少々呆れた表情をし、アムロと呼ぶ男性を呼び寄せる。

 

「私の夫のアムロです」

「アムロ・エヴィンだ」

セイラに促され、アムロは自己紹介をする。

 

「リィナの兄のジュドー・アーシタです。ん?アムロ?どこかで……」

「ルー・ルカです。……?」

ジュドーもルーもソファーから立ち上がり、自己紹介をするが、アムロの名に聞き憶えがあったようだ。

 

しかし、2人が思い出そうとする間も無く……

 

次々と女性がリビングに入ってくる。

目がパッチリした金髪ロングの美女。

「ベルトーチカです。アムロの妻よ」

 

黒髪ショートカットのキュートな女性…。

「チェーンです。アムロの奥さんです」

 

茶色髪セミロングの家庭的な女性は……。

「フラウです。アムロの幼馴染で女房です」

 

 

「…………」

「…………」

それぞれアムロの伴侶と名乗った3人はアムロの元へ歩む。

ジュドーとルーはその様子を口を大きく開けたままポカンと眺めていた。

 

「全員、アムロさんの奥さんよ。子供も6人いるのよね………最低ね」

リィナは黒々とした笑みを浮かべなら、小声で二人にそう伝える。

 

「はへ?…………」

「つぁ?…………」

ジュドーとルーはそんな声が漏れた後。

暫く、声がでなかったそうな。

 

「………」

「………」

 

 

 

セイラの家を辞した3人は、近所の洋菓子店でお土産を買った後に、エドの家に再び向かう。

「すげー、びっくりした!」

「口を開けすぎて、顎が痛いわ」

ジュドーとルーはお互い顔を見合わせながら、さっきの出来事を振り返っていた。

あの後、ジュドーとルーは思考が停止、又は混乱し、まともに話す事が出来ず、「そうですね」「あっ、はい」と棒読みで返事を返すだけのそういう機械のようになっていた。

 

セイラの旦那はアムロ・エヴィンという人で、さらにセイラ以外に3人の奥さんまでいる。

それで、子供を6人と……。さらに既に成人した連れ子と養子の子もいると……。

 

ジュドーとルーは後になって知る事になる。

セイラの旦那があの伝説のガンダムのパイロット、アムロ・レイだったと言う事に……

さらに、ベルトーチカとは17年前、カラバと行動を共にしていた時に通信越しで話した事があったという事実。

さらにだ。あのハヤトの奥さんがフラウだったという事も後程知る事になる。

 

 

「アムロさん。超金持ちで美女4人と結婚して、子供も沢山って、男の夢を体現したような……」

「ジュドー!それ本気で言ってる?」

「飽くまでも夢だって、そんなのどう考えても無理無理っ、ルーだけで精一杯だし」

「どういう意味よ!」

 

 

「アムロさんはね。女の人をほったらかしにし過ぎて、ああなったの。エド先生はね。鈍感でもローザさんの告白をね、真剣に考えて、ああいう感じになったの。お兄ちゃんはどうする?」

リィナは今度は黒々とした笑みをジュドーに向けていた。

 

「あはっあはははっ……リィナさん?怖いんですけど」

ジュドーは乾いた笑いを上げながら、額から汗がにじみ出るのを感じていた。

そう、これは16年も連れ添っておいて、なかなか結婚に踏んぎれない兄ジュドーに対してのリィナの当てつけ……いや勧告だった。

 

 

ジュドー達はヘイガー家に戻ると。

そこには、昼間には居なかったクェス、オードリー、リタとさらにリタの旦那のレッドマンにその子供達と、ヘイガー家が一同に会していた。

更に、トラヴィスとアンネローゼ夫婦、ハサウェイの事で打ち合わせに来たブライトも同席して、大人数での夕食へと……。

そして、楽しいひと時を過ごす

 

 

16番コロニーに戻り、リィナと別れ、カークランド・コーポレーションの長距離輸送船団用の宿泊施設へ戻るジュドーとルー。

「ブライトさんまでいるのは驚いた」

「それと。トラヴィス会長とアンネローゼ社長もよ。トラヴィス会長とエドワードさんは昔からの親友らしいわ。それにハマーン…ローザさんとアンネローゼさんも友達だそうよ」

ジュドーとルーは今日あった出来事を思い起こしていた。

 

「オードリーって子が、本物のミネバだったんだな」

「驚いたわ。まさかジオンの姫君が、あそこに住んでるとはね。ローザさんの妹という立場だそうよ」

「レッドマン、あれ絶対シャアだ」

「死んでなかったのね……確証はないけど。今度ちゃんと聞いてみるしかないわね」

「それと、セイラさんの旦那のハーレム優男。今思えばあの人、あのアムロ・レイじゃないか?あの人も死んだって聞いてたけど」

「そうね。きっとそうよね」

 

「………」

「………」

 

「なんだったんだろう?あのコロニーは……」

「……ハマーンにシャアにアムロ・レイって、しかもミネバ・ザビまで……絶対可笑しいわよ」

 

「………」

「………」

 

「あのハマーンが生きていてくれて、しかも幸せに暮らしていたのは嬉しかった」

「プルの姉妹がああして笑顔で生活してくれていたのは、私達にとって救いだわ」

 

「………」

「………」

 

「ルー、結婚しよっか」

「私も今同じこと考えてたわ」

 

 

 

 

3か月後

バー茨の園のカウンターに男5人が並びグラスを合わせていた。

今日は扉のドアノブに貸し切りの札が掛かっている。

 

「ジュドー、結婚おめでとさん」

「おめでとう」

「めでたいな。今日は私のおごりだ」

「ジュドー、結婚おめでとう」

エド、アムロ、レッドマンのいつものメンバーに、ブライトが加わり、祝杯を挙げていた

 

「あはははっ、ありがとうございます」

真ん中に座るジュドーは照れ笑いをしながら、返礼する。

ジュドーは先日、新サイド6の16番コロニーの役所にルーと婚姻届けを出しに行ったのだ。

 

「あのやんちゃだったジュドーが結婚か……感慨深いな」

「ブライトさん、泣いちゃってる?大げさだな」

「いや、この頃涙脆くてな」

そんなジュドーとブライトの会話に、カウンター内でシェイカーをたどたどしい手つきで振ってる若いバーテンが声を掛ける。

「父さん年だよ」

「誰のせいだと思ってるんだ!ハサウェイ」

若いバーテンはここで更生の一環としてバイトをしてるハサウェイ・ノアだった。

 

 

「そういえば、ブライトさん軍辞めるんだって?」

「ああ、前から軍を辞めて、レストランでもとは思っていた」

「ブライトさんがレストラン?コックでもするの?」

「何がおかしいジュドー」

「似合わないと思ってさ」

「ミライさんは何て言ってるんだブライト」

「ミライは賛成してくれてる」

「そうか、だったら大丈夫だな」

「コックやるんだったら、トラヴィスのおっさんの息子のヴィンセントが近所で欧風レストラン開いてるぞ。かなり繁盛してて、二つ星レストランだぞ。参考になるんじゃないか?」

「エド先生、紹介してくれないか?」

「いいぜ」

 

 

「それにしてもジュドー、17年も付き合って漸くとは、いささか待たせ過ぎたんじゃないか?」

「アムロさんには言われたくない。結局選べなくて、全員とって、どうなのよ」

「そうだぞアムロ。貴様はアルテイシアの思いを17年も待たせておきながら、他の女ともどういう了見だ」

「その話は終わった話だぞレッドマン」

「はぁ、俺らがジュドーに何か言える立場だと思うか?キャスバルとアムロよ~。こういうのは真面目一直線で速攻結婚したブライトに言わせればいいんじゃないか?」

「でもブライトさんも、昔モテてたよね」

「そうなのか?ブライト」

「そういう時期もあったと言う話だ」

「へ~、結構隅に置けないなブライト。俺だけか、浮名も何にもないって野郎は」

「エドは鈍感なだけじゃないのか?それも恐竜の神経並みの」

「いや~、俺はキャスバルやアムロやジュドーみたいにイケメンじゃねーしな。なぁブライト」

「……エド先生、俺を巻き込まんでくれ」

「エド、それは違うぞ、ブライトはホワイトベースで嫁さんにしたい№1のあのミライさんを射止めたんだぞ。中々のやり手だ」

「やるなブライト」

 

 

「ところでジュドー、住む場所とか決めたのか?」

「いや~、ずっと木星暮らしか木星との往復で、住む場所なんて考えもしなくて、とりあえずは16番コロニーの家族用の社員寮に入ろうかと、会社にはもうOKもらっちゃったし」

「そうか、リィナは1年後にはサイド1に戻るんだろ?寂しくなるな」

「そうなんだよね。でも、元々離れて暮らしていたし、連絡は何時でもとれるし」

「ジュドーは妹離れができてるようだな。いやリィナが兄離れができていると言う事か、エドも見習わなければな」

「俺はシスコンで結構だ。だが、結婚したい奴が現れれば俺は認めるぞ。リゼももうすぐ結婚だしな。それにリタの結婚も俺は文句は一言も言わなかったはずだぞキャスバル」

「そうだったな。ローザとクェスには脅迫じみた事を散々言われたがな」

「それはお前の過去が悪い」

 

 

「それにしてもだ。ジュドーがスレイブ・レイスに加入したのは大きいな、俺ももう年だ前線は流石に厳しいだろう」

「あははっ、アムロさんはまだ若いでしょう」

「そうだぞアムロ。トラヴィスのおっさんなんて、50中頃でもモビルスーツ乗ってたんだぞ」

「あの人は鉄人だ。誰もがマネは出来ないさ。モビルスーツを乗る事は無くなったが、会長は何だかんだと裏の仕事はきっちり仕上げて来る。交渉術や戦略眼も全く曇ってない」

「ふむ、私から言わせてもらえば、全体を見渡せ感じられるバランス感覚が凄まじい。あれ程の傑物を連邦は何故手放したか……いや、連邦では扱いきれなかったということなのだろう」

「エドは付き合いが長いのだろう?」

「おっさんは……そうだな。しがらみが無いんじゃないか?おっさんにとって敵とか味方とかそう言うのは無いんだと思うぜ」

「……ふっ、そう言う事か、私には分からない感覚だな」

「しかし、会長の後は相当難しいが、俺の予想だと多分だが、バナージを押してるんじゃないか?」

「アムロ、確証が有るのか?バナージか……随分と若いが、今のスレイブ・レイスは古強者の曲者ぞろいだ。そうやすやすと受け入れるか」

「キャスバル。あいついい意味でブレないんだよ。母親の教育が良かったんだか……そりゃ、おっさんのように人たらしや海千山千ってわけには行かねーだろうが、俺は結構やると思うぜ」

「私はオードリーが適任だと思うがな」

「いや、オードリーは表舞台に出るつもりだ。堂々と正攻法でな」

「そうか……時は流れるものだな」

「そのうち、キャスバルやアムロの子供が、スレイブ・レイスなり、おっさんの会社に入る事になるかもしれないぞ」

「どうなるかわからんがな」

 

 

「ブライト、連邦を辞めて、今のままロンデニオンに住むってわけには行かないだろ。どうするつもりだ?」

「新サイド6に居住するつもりだ。出来ればこのコロニーにと考えている。既にミライとチェーミンは了承済みだ。ハサウェイの事もある」

「ほう、だったら俺がいい所紹介してやるぜ。ただし、有事には絶対おっさんに引っ張られて、スレイブ・レイスに参加させられることになるぞ。親子で」

「……トラヴィスさんにはハサウェイの事で随分と世話になっている。その時は恩返しのつもりで励むつもりだ」

「まあ、スレイブ・レイスの有事の際の手当って結構な額だから損はないぞ」

「そう言えば、俺とルーの通帳を見たら、とんでもない額が入ってた」

「おっさん商売もうまいから、今回のことも、どっかからか金ヅルを引っ張って来たんだと思うぜ」

「私が各コロニーに出店している夜の店で得た情報も、全てカークランド・コーポレーションに提供している。出資の見返りにだ。そうした情報の価値を何よりも分かってる御仁だ」

「ジュドー、あのおっさん、普段はあんな感じだが、とんでもないおっさんだからな」

「心に留めておきますよ。それを言うなら、エドさんも相当でしょう?」

「何言ってやがる。俺は唯の街医者だ」

「ふっ、この鈍感な医者は、自分の立場が分かっていないようだ」

「アムロの言う通りだ。私が今もこうしてまっとうに生きていることが何よりもの証だろう」

「はぁ?俺はお前らみたいな、びっくり人間じゃねーぞ。一緒にしないでくれ」

「あの鉄の女ハマーンを落とした男が何を言ってる?」

「あんなツンデレたハマーンなんて予想外もいいところだったよ。エドさん」

「ろ、ローザは関係ないだろ?」

 

 

「よお、遅くなった」

「おっさん待ってたぞ」

 

 

こうして男共の夜は更けていく。

 

 

 

 

エドワード・ヘイガーとハマーン・カーンとの出会いから、17年が経とうとしていた。

新サイド6・15番コロニーの片隅にある街の診療所では、仲睦まじい医者と看護師夫婦の姿が今後も見られるだろう。

 




というわけで、最後なのにおさらい。

宇宙世紀0105年7月
エドワード・ヘイガー(45) 
ローザ・ヘイガー(38)(元ハマーン・カーン)妻
リゼ・ヘイガー(28)(元プルシリーズの失敗作ニュータイプ能力は無し)(戸籍上養子だが、立場上妹)
リタ・レッドマン(34)(元リタ・ベルナル)(立場上妹)
オードリー・バーン(25)(元ミネバ・ラオ・ザビ)(立場上義理の妹)
クェス・ヘイガー(25)(元クエス・パラヤ)(養子娘)
マリーダ・クルス(28)(元プルシリーズ)(立場上妹)
バナージ・リンクス(25)(保護対象、立場上親戚)
ミーナ・ヘイガー(8)
レオナ・ヘイガー(5)
アリス・ヘイガー(1半)

トラヴィス・カークランド(65)
アンネローゼ・ローゼンハイン(41)
ヴィンセント・カークランド(43)(元ヴィンセント・グライスナー)
クロエ・カークランド(40)(クロエ・クローチェ)
ドリス・ブラント(49)(結婚して2児の母)

デニス・レッドマン(45)(元シャア・アズナブル)(リタの夫)
キャスバルJr・レッドマン(7)
ララァ・レッドマン(7)

アムロ・エヴィン(41)(元アムロ・レイ)
セイラ・エヴィン(43)(元セイラ・マス)
ベルトーチカ・エヴィン(37)(元ベルトーチカ・イルマ)
チェーン・エヴィン(35)(元チェーン・アギ)
フラウ・エヴィン(41)(元フラウ・コバヤシ)
アイラ・エヴィン(7)(セイラの子)
アベル・エヴィン(7)(ベルトーチカの子)
その他ベルトーチカの子・チェーンの子二人・フラウの子の合計6人
ハヤトとフラウの子は成人して大学に。
養子のレツとキッカはそれぞれ結婚。

ブライト・ノア(45)
ミライ・ノア(44)
ハサウェイ・ノア(25)
チェーミン・ノア(22)

コウ・ウラキ(41)
チャック・キース(41)
モーラ・キース(46)

ジュドー・アーシタ(31)
リィナ・アーシタ(28)
ルー・ルカ(33)


その他
レオナ・サンジョウ(元セラーナ・カーン)
レッド・ウェインライト他FSSメンバー
元キマイラ夫婦
赤鼻さん……近所のジャガイモ農家のオーナーきっとアカハナさん
シムスさん……近所の養鶏場の奥さん。旦那さんは渋いおじさんできっとニュータイプ。
その他いろいろ。



ふう、いろいろ改ざんしまくってますね。

宇宙世紀0122年
レオナ・ヘイガーは大学を卒業し、カークランド・コーポレーションに入社。
憧れのお兄さんキャスバルJrの影響を受け、ユニコーン(元スレイブ・レイス)に加入。類まれなるニュータイプ能力を見込まれ、キャスバルJrから直接指導を受け、アムロが開発した試作モビルスーツFX93の正式ロールアウト機体F93のテストパイロット候補生に……
(というお話は無いです)


では最後に、お付き合いして頂きました皆様、ありがとうございました。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話
閑話 嘗てのカリスマ達の今。


ご無沙汰しております。

なぜかふと思い浮かべてしまったので、閑話として載せる事にしました。
ふと思い浮かべたのは他にもあったのですが、これを……。

しょうもない日常会話のお話です。
本編や番外編のようなテーマに沿った話では全然ない、軽い感じのものです。

宇宙世紀0098年、ラプラスの箱から2年後、エドとローザの子、ミーナが生まれた翌年の話です。
少々短いです。


宇宙世紀0098年2月

新サイド6で起るとある日常の一コマは、本来なら世界があっと驚くような出来事であるが、彼らにとってはほんの些細な出来事であった。

 

 

「アムロ、少々狭いぞ」

「それぐらいがまんしろ、レッドマン」

レッドマンことシャアとアムロはとある4連結農業用船舶の2両目の狭苦しいサブ操舵席に並んで座っていた。

レッドマンは1番コロニーへと、新店をオープンすべく視察に向かうために、アムロも1番コロニー経由で月のサナリィ基地へ、出張に行くために、15番コロニーの宇宙港へとそれぞれ別口で向かったのだが、連絡定期船が故障し運航休止となっていたのだ。

そこにたまたま、農家のマギーさんが通りかかり、農業用船舶に2人は乗せてもらう事になるが、そもそも二人はお互いが1番コロニーへ向かう事など知らず、マギーさんからも別々に声を掛けられたため、農業用船舶2両目サブ操舵室に乗り込んで、漸くお互い顔を合わせたのだ。

 

「アムロ、年長者に対しての口の利き方ではないな」

「何を今さら」

「仮にもアルテイシアと伴侶となった貴様は、私の義理の弟という事になる。義兄を敬うべきではないか、席を詰るべきであろう」

「何を言ってる。敬ってほしければ、それなりの態度でしめせ」

「ふん。態度だと?貴様こそどういう了見だ?アルテイシアだけでなく、他の女とも結婚とは、呆れて物が言えん」

「お前こそ、12も年下のリタ嬢を嫁にしたくせに、年下趣味もいい加減にしろ」

「ふん、それの何が問題がある?私とリタは相思相愛なのだ」

そう、レッドマンとアムロはそれぞれ3か月前に結婚していたのだ。

レッドマンはリタ・ベルナルと結婚。

リタのダメンズ好きがどうやらレッドマンがストライクだったようで、レッドマンはレッドマンで、献身的な年下、しかも女子高生ぐらいに見えるリタがドストライクだった。

ローザやクェスを筆頭に反対されたが、リタの意思は強く、このような夫婦が出来上がったのだ。

レッドマンはリタにベタぼれで、エド曰く、見てられないぐらいのデレ具合だとか。

アムロはレッドマンの実の妹セイラ・マスと結婚したのだが、それ以外にベルトーチカ・イルマとチェーン・アギ、フラウ・ボゥとも同時に結婚することに……。

何故そんな無茶が通ったのかは、端的に言うと、アムロ争奪戦はベルトーチカとチェーンとの争いは収まる気配が全く見せずにいたところ、セイラがこのような形に取りまとめたのだ。

アムロとしてはセイラに全く頭が上がらない。

 

「貴様らうるさいぞ」

そんな二人の言い争いに女性の厳しい声が飛ぶ。

そう、このサブ操舵席に横並びに乗っていたのは、レッドマンとアムロだけじゃなかった。

ローザも乗っていたのだ。

エドは例の如く1番コロニーへ医師会の会合に出かけた。

いつもなら翌日には帰って来るエドだが、1番コロニーの大学病院で知り合いから患者を診てくれと言われ、カルテを見て、直ぐに患者を診断。

エドの診断によると緊急手術が必要だったらしく、3、4日は帰れないとの事だった。

エドの着替えやらの必需品や、手術の立ち会いを行うべく、ローザは8カ月になる娘のミーナをリゼやクロエにお願いし任せ、直ぐに1番コロニーにへ向け出発。

エドは大丈夫だと言ったのだが、ローザとしては、エドの顔を見れない日がそれ程続く事が苦痛で仕方がなく、こうして何かと理由をつけ向かったのだった。

宇宙港に向かうも運悪く定期便がストップし、マギーさんの農業用船舶に乗せてもらうと、何故かこの二人と同席することに……。

マギーさん夫婦は農業用船舶のメイン操舵室に乗り、二両目の三人乗れるのが精いっぱいの長座席があるだけの狭苦しいのサブ操舵室に、三人並んで座るしかなかった。

因みに、右からローザ、真ん中にレッドマン、左にアムロと並んでいる。

 

しかしこの状況、傍から見ればなんらかの奇跡だと思われても致し方が無い様な情景だ。

 

 

「うむ、そうだな」

「ああ、わるかった」

ローザの叱咤に、レッドマンはそれを認め、アムロは謝罪した。

 

「………」

「………」

「………」

暫く、沈黙が訪れる。

 

レッドマンが姿勢を少しずらすと……

「貴様!もっと向こうへ行け!私に少しでも触れて見ろ、唯ではすまさん!」

ローザは不快な顔を全開でレッドマンに怒りをぶつける。

 

「致し方が無いだろう。この状況だ。少しは我慢という言葉を覚えられないのかローザ」

 

「貴様に我慢するなどという言葉は持ち合わせていない!」

 

「一般常識に欠けているなローザ、年長者を敬うべきだ」

 

「貴様が年長者だと?その口がよく言う。年長者らしい態度を示したらどうだ!」

ローザとレッドマンとの攻防は暫く続く。

 

そんなローザとレッドマンの会話を聞いていたアムロだが、笑いながらこんな事をいいだした。

「ぷっ、少しいいか。レッドマンの嫁のリタ嬢は今や誰もが認めるエドの妹分なのだろう?そうであれば、レッドマンはエドの弟分となる。ということはだな、エドの嫁のローザは年下だがお前の姉貴分となるわけだ。お前がローザを敬うべきではないのか?レッドマン」

 

「貴様のような弟などいらん!」

アムロのその言葉に不快度が益々増していくローザ。

 

「エドの弟か実にいい響きだ」

レッドマンはエドの弟分という響きがどうやら気に入ったようだ。

 

「ということはだ。俺もエドやローザの遠い親戚という事になるのだろうか」

アムロはアムロで楽し気に語る。

そう言う事になるのだろう。

エドがレッドマンの兄貴分ならば、レッドマンの義理の弟のアムロは親戚と言ってもいいだろう。

 

「そうか、私とリタで男子をなして、エドの子と結婚となれば、更なる絆が深まるという事ではないか?」

レッドマンは思案顔をしながらこんな事を言ってしまう。

 

「貴様の子だと?ミーナはやらん!」

もちろんローザは思いっきり拒否をする。

 

「リタの子でもある」

すかさず次の言葉を出すレッドマン。

 

「くっ、貴様という奴は!…なぜこんな男をリタは選んだのだ?」

ローザは最後までリタとレッドマンの結婚に反対していたのだが、リタの説得で認める事に……。

 

「ということはだ。俺も子を成して、もしミーナと結ばれれば、正式に親戚という事だな」

アムロはアムロで楽し気である。

 

「勿論、アルテイシアの子がそうなるだろう」

当然だと言わんばかりのレッドマン。

 

「……アムロ、お前は分かっているのか?嫁全てに子をなさなければ、修羅場になるぞ」

どこか楽し気なアムロにローザは、アムロにとってこれ以上ない突き刺さる言葉を投げる。

 

「……そ、それは……そうだな……」

アムロはローザのその言葉にその惨状を思い浮かべたのだろう、深い深い溜息をつく。

 

「語るに落ちたとはこの事だな、アムロ」

レッドマンは勝ち誇ったかのように頷いていた。

 

「…………」

そんな男共に黙って呆れた視線を向けるローザだった。

 

嘗て、ネオ・ジオンの実質上のトップとして女帝とまで言われたカリスマ、ハマーン・カーン。ジオン・ダイクンの息子にして、宇宙移民のカリスマ、シャア・アズナブル。世界最強のパイロット、アムロ・レイ。この3人が並んでこんな身内じみた世間話をしているなど、誰が想像できただろうか?

 




うん、本当に世間話で終わってしまった。

本当は、人物紹介図鑑みたいなのを書いてみたいなと思ったところ……こんな感じに。

この頃のローザはまだレッドマンに遺恨を残し、警戒している時期です。

人間関係がえらい事になってます。

この後にアンケートをいたしますが……

*********************************
宇宙世紀106年7月初旬
カミーユは新サイド6 15番コロニーに到着した。
月で医者をやってるカミーユは、強化処置の副作用で命を落としかけている自分の患者であるあの子を助けるために、遺伝子治療の権威であるドクター・エドワード・ヘイガーに教えを乞うために此処まで来たのだ
ドクター・エドワードは世に出ないで有名であり、誰もがその所在を正確には知らない。
知り合いの伝手や、懸命な検索の結果、このコロニーにヘイガー診療所なる病院の存在を知り、藁をもつかむ思いでここまで来たのだ。

宇宙港から数度ヘイガー診療所に電話を掛けるが何故か繋がらない。
カミーユは直接向かう事にする。

自動タクシーに乗り、街外れのヘイガー診療所の前に立ったのだが……。
おそらく住宅と共用となっているであろう小さな診療所の前で、本当にかの有名な遺伝子治療の権威、ドクター・エドワードの診療所なのだろうかと、不安に思う。
もしかしたら、ヘイガー違いの別の医者の病院ではないかと……。
カミーユは暫く、その小さな診療所の前に立ち尽くしていた。

しかし、カミーユは診療所からは嘗て感じた事もない混沌としたプレッシャーの渦をニュータイプ能力で感じていた。

ここで、間違いないと。

*********************************


もう一つ

*********************************
宇宙世紀0097年12月
リタは晴れてレッドマンと結婚することになり、身内だけの結婚パーティーを開いた。
今の家族であるエド以下姉妹達から祝福を受けるが、以前の唯一身内と言える幼馴染のヨナとミシェルに結婚パーティーに呼ぶどころか告げる事も出来なかった。
リタは正式にはユニコーンガンダム3号機フェネクスと共に行方不明になったままであるからだ。
更には、今のリタの家族とその伴侶も本来生きているはずが無い人間ばかりである。

だが、そんなリタの思いをなんとかかなえてやりたいレッドマンは、エドやトラヴィスに相談し、6カ月後の0098年5月漸く、実現することになるが……。
普通にとは行かない。

トラヴィスと嫁のアンネローゼが考えたとんでもない演出が成される事となった。

*********************************

と、皆さんのアンケートや感想で、出たらいいなという感想が多かった人物について、こんな感じの物を妄想してまして、どうでしょうか?







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 忘れた頃にやって来る。(カミーユ編前)

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

早速ですが、一番アンケートで選択が多かったカミーユ編書きました。
前後編になる予定です。



月面都市アンマン。

アンマンにある最大の病院、アンマン中央大学病院にとある少女が入院していた。

その少女の病状に、所属医の誰もが匙を投げ見放していた。

患者は16歳になる少女。

彼女は既に衰弱しきり、ベッドから立ち上がる事も出来なくなっていた。

病名は無い。

だが、大学病院の医者達は彼女の症状が何に起因しているか気が付いていた。

遺伝子障害……。人為的に強化処置を施した副作用。

そう、彼女は強化人間実験の被害者。

とある研究施設で動物実験のように扱われた試験体だったのだ。

その研究施設は既に何者かによって消滅したが、残された彼女はこの大学病院に運ばれ、2年もずっとベッドの上での生活を余儀なくされていたのだ。

医者にも見放された彼女は、死を待つだけであった。

だが、外部診療でこの大学で週1回出向診療勤務につく若い街医者の彼だけが、彼女を懸命に助けようとした。

 

彼の名はカミーユ・ビダン、年は35歳

そう、グリプス戦役にてZガンダムに搭乗し、数々の功績を残し、最高のニュータイプと謳われたあのカミーユ・ビダンだった。

グリプス戦役後、心が壊れるも、恋人ファ・ユイリィの献身な介護の末、数年後の宇宙世紀0093年に、心を取り戻し、医者としての道に進んでいたのだ。

現在、夫婦となったファ・ユイリィと街外れで小さな病院を営んでいた。

ユイリィとの間に3歳になる子も儲けている。

 

カミーユは何とか、この寝たきりの少女を救うべく、懸命に治療を行っていたのだが、復調の兆しが見えないどころか、悪化の一途をたどっていた。

もう、もって3か月というところだろう。

カミーユは、他の月面都市やコロニーの病院や大学教授等にも治療が出来ないかと掛け合ったが、誰もが救いの手を伸ばしてくれなかったのだ。

それでもカミーユはあきらめきれなかった。

カミーユはどうしても助けたかった。

この少女に、嘗て戦場で出会った少女たちの面影を重ねていたのだ。

 

 

街病院の診療を終え、今日も彼女の治療方法を見つけるべく、コンピュータで医療系データベースをあさっていたカミーユに、ユイリィは心配そうにコーヒーをそっとデスクに置く。

「カミーユ……このままだとあなたが参ってしまうわ」

「そうは言ってられない。彼女には時間が無いんだ」

「カミーユが倒れたら元も子も無いわ。根を詰めすぎるといい考えも浮かばない、リフレッシュも必要よ」

「ああ、すまない。ちょっと焦っていた」

カミーユは疲れ切った表情で、ノート型のコンピュータを閉じ、ユイリィが入れてくれたコーヒー片手に、ふと医療業界会報誌を手にし、掲載されているとある論文に目を通す。

 

「ドクター・エドワードの最新論文と評論家のコラムが掲載されてるわ」

「ああ」

「遺伝子治療の発展はドクター・エドワード無しでは語られない…か、どんな人なのかしら?全く表に出ない人らしいけど、一説には元ジオンの科学者とか」

「どうだろうな」

カミーユはその最新論文を流し見し、最後に執筆者名を再度見る。

エドワード・ヘイガー。

遺伝子治療の第一人者ともいわれる人物で、数々の治療法を独自に編み出し、遺伝子治療は彼のお陰で20年は進んだと評価される程の人物だった。

 

そこで、カミーユはじっとその名を見、何かをひらめいたように立ち上がる。

「ドクター・エドワード……この人なら、あの子を救える方法を!」

「カミーユ?」

 

だが、ドクター・エドワードは、決して表には出ない謎の多い人物で有名だった。

数々の賞を受賞しているが、一度たりとも表舞台に立ったことがないのだ。

通常、論文についての連絡先などが掲載されているはずだが、載ってはいない。

ユイリィが語った様に憶測で元ジオンの科学者だとか、元ニュータイプ研究所の研究者だとか噂が立っているぐらいだ。

 

カミーユは医科大学時代の知り合い等に、ドクター・エドワードに伝手は無いかと方々探し、漸く手に入れた情報が、新サイド6に住んでいるらしいという事だけだった。

カミーユは新サイド6の医師会に問い合わせるも、個人情報保護のためという名目で、拒否されたのだ。

それでもあきらめきれないカミーユは、ネットや色々な情報から、新サイド6、15番コロニーにヘイガー診療所という病院がある事を突き止める。

長距離通信で電話を掛けるも、その電話番号は新サイド6外からの通話が出来ない設定になっていた。

 

カミーユは埒も開かないとし、街病院はユイリィに任せ、一人新サイド6へと向かったのだ。

 

 

 

宇宙世紀106年7月初旬

カミーユは新サイド6 15番コロニーに到着した。

ドクター・エドワードに会うために。

宇宙港から数度ヘイガー診療所に電話を掛けるが何故か繋がらない。

カミーユは直接向かう事にする。

 

自動タクシーに乗り、街外れのヘイガー診療所の前に立ったのだが……。

おそらく住宅と共用となっているであろう小さな診療所の前で、本当にかの有名な遺伝子治療の権威、ドクター・エドワードの診療所なのだろうかと、不安に思う。

もしかしたら、ヘイガー違いの別の医者の病院ではないかと……。

カミーユは暫く、その小さな診療所の前に立ち尽くしていた。

 

しかし、そんなカミーユの不安を打ち消すように、診療所からは陽の気配が渦巻いている様にニュータイプ能力で感じていた。

 

間違いない。ここだと。

 

診療所の患者だろう人達が数人、出入口から出て行くのを見計らい、カミーユは意を決して、扉を開く。

 

スリッパに履き替え、受付へと向かうと、淡いピンク色のナース服を着た女性のシルエットが受付越しに見える。

きっとここの受付のスタッフか看護師だろうと、近づいて声を掛けるカミーユ。

「こんにちは」

 

「すまんが午前の診療は終わりだ」

するとツンとした低い女性の声が返って来る。

カミーユはどこかでこの声を聞いた事があるような気がしたが、ドクター・エドワードに会いたい旨を伝えるために、その看護師に近づき目を合わせようと顔をあげるが……

 

「む…………?」

「ん……どこかで?」

 

お互い目が合うのだが……。

何故かお互い疑問顔で硬直する。

 

しばらくして……

「まさか、お前は……カミーユ・ビダンか!?」

「その顔、その声!?ハマーン・カーン!!!?」

お互い同時に声を上げる。

 

淡いピンク色のナース服姿のローザは目を見開き、私服姿のカミーユは指を差し驚愕し、お互いを見据え、また硬直する。

 

そんな時だ。

診療所の扉が開き、男が声を掛けながら入って来た。

「エド、今度新店がオープンする。是非来てくれまいか、それにだ……」

 

カミーユはその男の声にも聞き憶えがあった。

振り返ってみると……

金髪ダンディなイケメンがサングラスを外しながら、もう一言何かを言おうとして、カミーユと目が合ってしまう。

 

「あっ?」

金髪ダンディなイケメン、レッドマンは手に持っていたサングラスを床に落とし、変な声が漏れ硬直する。

 

「んんん?……………まさか?」

カミーユは何故か鋭い目つきでその男を、目を細めじっと見つめ、遂には気付いた。

レッドマンが誰だという事に……。

 

「………よ、用事があったな後にしよう」

しばらく硬直していたレッドマンは踵を返し、扉に向かおうとする。

 

「そ、そんなはずは?」

カミーユは幽霊を見ているかのような表情で、レッドマンを指さし硬直する。

その指は震え、目は大きく見開かれていた。

 

 

 

そこに診療所の入口が開かれ、聞き憶えがある男の声が……

「エド、ベルトーチカを見てやってくれないか、もしかしたら妊娠しているかもしれない。ん?レッドマン、こんな所で何をやってる?」

その男は金髪美女を引き連れていた。

 

「ん!?ああっ!!!」

カミーユはその男の声の方を向くと、モロに見覚えのある男女の顔がそこにあった。

 

「か…カミーユなのか?」

「あら?カミーユかしら?」

アムロとベルトーチカはそんなカミーユに疑問顔で問いかける。

 

 

そして、間髪入れずに、この待合室と自宅の通用扉から、少々やつれ気味の30前後の男が半泣きで飛び込んで来る。

「エドさん〜、た、助けてー!もう無理だって言うのにルーが!」

 

「んんっ!?んんん?」

カミーユはその男の気配や声に聞き覚えがあった。

 

「あれ、コレどういう状況?………んん?カ、カミーユさんなのか?」

ジュドーは、皆がそろって硬直している状況に目を丸くしながらも、目の前の人物が誰なのかを思い出す。

 

 

そこに更に……カミーユのよく聞き憶えがある声の男が、診療所の入口から……

「エド先生、店に出す料理を試食してくれないか……レッドマン、ローザさんにアムロにベルトーチカ、それにジュドー?何をやっている?……ん?カミーユ…何故ここに?」

そう、現れたのはブライトだった。

 

「どどど、どう言うことだ?!!」

カミーユは周りの一同を見渡す。

そのカミーユの顔は青ざめ、脂汗が全身から吹き出ていた。

 

それもそのはず。

嘗てハマーンだったローザはカミーユにとって、絶対相いれない存在であり嘗ての強敵だった。

カミーユが意識を取り戻した後に、戦死した事を知る。

レッドマンはクワトロ・バジーナとして、グリプス戦役時代、カミーユにとって良き大人であり、兄貴分だった。

カミーユが意識を取り戻した後、シャアとして、ネオ・ジオンの総帥になり、地球連邦に反旗を翻し、さらに地球に隕石を落とし、そして最後にはブライトとアムロに討たれ戦死が確実視された事を知る。

その事を聞いた当初、カミーユはクワトロ・バジーナとネオ・ジオン総帥のシャアの人物像が全く重ならず戸惑う。

そして、その事実を噛みしめ、シャアに対して裏切られたという感情もわき上がるが、それでも兄貴分だったクワトロを憎み切ることが出来ず、得も言われぬ複雑な感情を抱くことになる。

クワトロがシャアとして死した事に、これで良かったのだと言い聞かせ自身を納得させるしかなかったのだ。

アムロに対しては、グリプス戦役時代、地球で何度も戦場を共にした先輩であり、モビルスーツ操縦技術に置いて、目標とする人物であった。

そのアムロは第二次ネオ・ジオン紛争において、シャアを名乗るクワトロを討ち、そして戦死したと聞き及んでいた。

もし、自分がその戦場に出る事が出来ていたのなら、自分もきっとシャアを討ちに行っただろうと、思わずにはいられない。

自分の代りにシャアを討ったアムロに対しては、感謝の念と同時に惜しい人物を無くした事に、落胆したものだった。

 

だがなぜ、この3人が目の前に生きて、しかも同じ場所のこのヘイガー診療所にいるのか?

しかもなぜ、ハマーンがナース姿なのか?

 

更に、今もたまに連絡を取り合ってるブライトや、顔見知りのベルトーチカまでここにいるのだ。疑問を持たない方がおかしい。

 

また、自分の代りにネオ・ジオンとの抗争に巻き込まれ、ハマーン率いるネオ・ジオンと戦い続けた当時少年だったジュドーが目の前の人物だと感覚的に感じ取り、なぜここに、ハマーンが居るこの場所にいるのかも、謎だらけだ。

 

 

「どどどどいう?な、何がどうなって!?ああっ!?ああああああ!?」

カミーユの思考はフル回転するが、答えはまるで見つからず、遂には脳はオーバーヒートを起こし、プツンと何かが切れる。

 

カミーユは白目を剥いて糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちる。

 




この後のカミーユの行動が気になり過ぎるw
誰もカミーユに何も知らせてなかったようです。

因みにブライトさんはまだレストランを開いてません。
修行中です。
ジュドーはルーと共に本社で訓練教官を……
私生活ではルーさんの頑張りにジュドーがついていけてないようで


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 忘れた頃にやって来る。(カミーユ編中)

いつも感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

この前の続きなんですが、長くなっちゃって、今回は中編です。


(フォウ、聞いてくれるかい。俺は今日、ハマーンに会ったんだ)

(また女の人なのかって?そうか、フォウは会った事が無かったんだった。宇宙で会った悲しい女さ。自らの欲望の為に戦火を広げ、ついに何も手に入れることなく死んでしまった。……しかし何故ナース姿で俺の前に……あり得ない。あのハマーンがナース姿なんて、どういうことなのだろうか?一番あり得ない姿のハズなのに……夢か、俺の欲望が夢を見せているのか?ハマーンを嫌っていたはずなのに……分からない)

 

(レコアさん、クワトロ大尉に会ったんだ。相変わらずサングラスをかけてたよ)

(冷たい人だって?不器用なだけなんだ。地球を守りたいという思いは本物だと思う。でもなぜネオ・ジオンの総帥になって、地球に隕石を……そして死んでしまった。……本当は俺が大尉を殴ってでも止めるべきなのに、俺はその場にいなかった……俺のこの手でクワトロ大尉を助けてあげたかった)

 

(エマさん、俺はアムロさんに再び会えたんだ。しかも恋人と仲睦まじい姿で……)

(俺にはユイリィが居るって?そう、俺にはいつもユイリィが傍にいた。アムロさんは俺の代りにクワトロ大尉を止めてくれた。本当はクワトロ大尉は俺が止めるべきだったのに……。アムロさんはそれで死んでしまった。本当はベルトーチカさんと幸せに過ごして欲しかった。

……俺はエマさんにも生きてヘンケン艦長と幸せになって欲しかった。

すみませんエマさん。俺……皆に助けて貰ってばかりのに……恩返し何一つできずに……俺も今からそっち[あの世]に行きますよ。まだまだ話したい事がいっぱいあるんです)

 

(ロザミィ、ブライトさんにも会ったよ……んん?おかしいな?俺は死んで皆に会えたと思ったのに、ブライトさんは生きてるはずだ?……ちょっとまて!俺は医者になってユイリィと結婚して、娘が出来て……それで……それで………)

 

 

「うわわわああああっ!……はぁ、はぁ……ゆ、夢か」

カミーユは叫びながら体を起こし、自分がベッドの上で寝ている事に気がつく。

カミーユは夢を見ていた。

過去に出会い戦場で散ってしまった彼女らに何やら語りかける夢を。

 

「ここは?何故ベッドに?……確か俺は、ドクター・エドワードを訪ねて新サイド6に……ヘイガー診療所に向かって……それから、どうなった?」

カミーユは周囲を見渡し、どうやらどこかの病院の病室に寝かされている事を理解し、なぜそうなったのか、今自分が置かれていいる状況を順を追って確認しようと、今日の自身の行動をふりかえる。

 

「ハマーンとクワトロ大尉とアムロさんが目の前に……俺は少々疲れていた様だ。夢を見ていたのだろう。あり得ない。ナース姿のハマーンとか……」

カミーユは自嘲気味に独り言ちる。

 

そこに白衣姿の少々目の鋭い細身の中年男がベッドを仕切っているカーテンをめくり現れる。

「よう、気分はどうだ?」

 

「大丈夫です。ここは?俺はどうなったんですか?」

 

「ここは俺の診療所だ。あんたはここに来て倒れたんだ」

 

「そう……ですか、どうやらご迷惑をお掛けした様です。ありがとうございます」

カミーユはそう言ってベッドから降りようとするが、その医者が手を前に出し制止する。

 

「まだ無理をするな。あんた名を言えるか?」

白衣の男は、カミーユが意識の混濁具合を確認するためにわざと名を聞いた。

 

「カミーユ・ビダンです。月面都市アンマンで医者をしてます」

カミーユはベッドに上半身を起こした状態で自己紹介をする。

 

「俺はエドワード・ヘイガー。しがない街医者だ」

白衣の男はそう言って名を告げる。

 

「あ、あなたがあのドクター・エドワード!?……よかった。会えた遂に会えた」

カミーユはその名を聞き大いに驚き、そして大きく安堵の息を吐く。

 

「ん?俺を知ってるのか?」

 

「私は貴方に会うために月から来たんです」

カミーユはベッドの上で改まって、エドにここに来た理由を述べる。

 

「はぁ?唯の街医者になんでわざわざ?」

 

「ドクターが唯の街医者なんてとんでもない。遺伝治療の第一人者で、世界最高峰の医療技術者の一人と言われてます」

 

「ちょっとまった。それは人違いじゃねーか?俺はそんな大したもんじゃねーぞ」

 

「そんなはずは、だったらこれはドクターの執筆した論文ですよね」

カミーユはベッドの横に置いてあった私物のボディーバッグから携帯端末を取り出し、医師会会報誌の論文をエドに見せる。

 

「……なんだこりゃ?確かに俺が書いた奴だけどよ」

エドは自分が医師会に提出した論文がこんな形で掲載されているなど、全く知らなかったのだ。

 

「やはりそうでしたか」

 

「いやいやいや、これ、おかしいだろ?」

 

「ドクター、貴方は医療界の風雲児とも言われ、発表された論文や技術指南書は全て、現代の最先端の医療の礎になっているんですよ。特に10年前に発表された体組織の分離再生と再結合についての再生医療の論文や技術資料は誰も驚愕するような物でした。そのお陰で、この10年、今迄完治できなかった難病や怪我の治療が出来るようになったんです」

ドクター・エドワードが謎多き医療技術者で有名でもあった理由がカミーユは朧気ながら理解したようだ。エドは自分の立場を全く理解していないのだと……

カミーユはエドが10年前に発表した論文の当時のコラムや業界誌などで取り沙汰されていた様子の記事を携帯端末でエドに見せる。

 

「おおっ?これって」

エドはちょっと驚くも、微妙な顔をしていた。

そう、その技術は13年前、レッドマンの股間の再生データから確立させた遺伝子再生医療

技術論文だった。

当時のエドは家族が増え、家計の足しになればという軽い気持ちで執筆したものだったのだ。

 

「ドクター・エドワード、改めてお願いします。私に是非お力添えを、私の力不足でクライアントである一人の少女が命を落としかけているのです」

カミーユはベッドから降り、エドに頭を下げる。

 

だが、カミーユは足元がふらつき倒れそうになる所を、エドはカミーユの肩を支える。

「っておい。まだ寝てろっての」

 

「すみません。恥ずかしいお話、その事で少々疲労がたまってるようで……さっきもあり得ない幻覚のような夢を見てしまって……」

カミーユはふら付きながらもベッドに腰掛ける。

 

だが、そんな時だ。

 

「エド、患者は起きたようだな」

淡いピンクのナース姿のローザが仕切りカーテンの脇から入って来たのだ。

 

「はっ、は、ハマーン!?ナース姿のハマーン・カーン!?」

カミーユはそんなローザの姿を見て、驚愕な表情で取り乱す。

 

「落ち着けって、ああ、此奴はここの看護師で俺の嫁だ」

 

「す、すみません。ドクターの奥様でしたか……た、他人の空似にしては……に過ぎている」

カミーユはそのエドの声で落ち着きを取り戻すが……。

 

「私が誰に似ているのだ?久しいなカミーユ・ビダン」

 

「ん?まさか本物のハマーン・カーン!?貴様なぜここに!!」

 

「おいこら、此奴は俺の嫁だっていってんだろ?はぁ、ちょっと落ち着けっての」

起き上がろうとするカミーユの腕を取り、無理矢理ベッドに座らせる。

 

「そうだ。私はエドの自慢の嫁だ」

ナース姿のハマーンがカミーユを見下ろし、不敵な笑みでこんな事を言う。

 

「お前、自分で言うか?普通?」

「ち、違うのか?」

「まあ、そう言う事にしておくか」

「ふんっ」

「ああ、わかったって、お前は俺の自慢の嫁だ。これでいいか?」

「わかればいい」

 

「………」

カミーユは唖然とこの様子を見ている事しかできない。

カミーユの脳のキャパはまたしても、限界に近い状況に陥る。

あの女帝ハマーン・カーンが生きて現れるだけでなく、ナース姿で、あのドクター・エドワードの嫁で、しかも目の前で、三文芝居のような犬も食わぬ夫婦仲を見せつけられたのだ。

致し方が無いだろう。

 

「ふう、カミーユさんよ。こいつと過去に何があったかはさっき大体聞いてる。……こいつはネオ・ジオンの摂政官で、あんたと幾度も戦ったんだってな。俺は死にかけて宇宙に彷徨ってるこいつを偶然拾って治療した。……まあ、なんだかんだあって、今は俺の嫁だ。戦時中の事だと水に流してくれなんて事は、感情的には無理かもしれん。ここは俺の顔に免じて、抑えてくれないか?」

 

「カミーユ・ビダン。今の私はローザ・ヘイガーだ。ハマーンと言う名は当に捨てたのだ。ハマーン・カーンという女は17年前に死んだ。そう言う事にしてくれないだろうか?」

ローザはエドと共に軽く頭を下げる。

 

 

「その、何が……どういう……」

あのドクター・エドワードが頭を下げ、しかも女帝や鉄の女と呼ばれたあのハマーンが頭を下げたのだ。

カミーユは混乱冷めぬ表情だった。

 

 

 

 

ちょっと時を遡り、2時間前……。

 

「どどどどいう?な、何がどうなって!?ああっ!?ああああああ!?」

ヘイガー診療所の待合室でカミーユは、数々の精神的ショックを一気に受け、崩れ落ちるように床に倒れ気絶した。

 

そんな時に丁度、エドが診察室から現れる。

「なんだ?騒がしいな。ここは診療所だぞ……って、お前ら何やってんだ?」

硬直したままの一同に、怪訝な顔で声を掛ける。

 

すると、一同は沈黙したまま一斉にエドの方に振り向き、そして再び床に倒れたカミーユを見る。

 

「おい、誰か倒れてるぞ?何やってんだ?お前ら早く手伝え、診察室に運ぶぞ」

 

「「「カミーユ!!」」」

エドのその言葉に一同は慌てて動き出し、倒れているカミーユを診察室のベッドまで運ぶ。

 

 

「うーん。ただ気を失ってるだけだな。一応脳波も測っとくか」

エドはベッドに寝かしているカミーユを診断し、そう結論付ける。

 

カミーユの診療を終え、そのままベッドに寝かせた後、エドは改めて、ローザや待合室で待っていた面々に聞く。

「ローザまでどうした?なんかおかしいぞ。こいつはお前らの知り合いか?」

 

「カミーユ・ビダン。グリプス戦役で少年の身で前線を戦い抜いたエゥーゴのエースパイロットだった」

エドの問いに対し、ブライトが最初に口を開け、次々に皆がカミーユについて語りだす。

 

皆からの話を聞いたエドは……

「なるほど、グリプス戦役時に高校生だったカミーユ・ビダンは、クワトロを名乗っていたキャスバルにエゥーゴに勧誘されて、モビルスーツのパイロットとなって、キャスバルと肩を並べる程のエゥーゴのエースパイロットとして活躍したと、そん時の戦友がアムロやブライトとベルトーチカで、そんで敵だったのがハマーンだったローザだったと、グリプス戦役最終決戦でエゥーゴが勝利するが、繊細だったカミーユの心は戦争や仲間の死に耐え切れずに精神崩壊を起したと、そのカミーユの後釜がジュドーだったという事でいいな?」

途中までの経緯を皆に確認する。

 

「ああ、だいたいあってる」

ブライトが皆の代弁で返事をする。

 

「そんで、5年後の第二次ネオ・ジオン紛争、シャアの反乱の後に、正気を取りもどしたが、既にハマーンはジュドーに討たれ戦死、兄貴分だったクワトロはシャアを再び名乗りネオ・ジオンを率い、地球に隕石落とした。そんで、ブライトやアムロのロンド・ベルに討たれ、戦死。そん時にアムロも戦死したと聞いていたと……。そのハマーンやシャアやアムロが生きて目の前に現れ、知り合いのベルトーチカやブライト、そんで関わったジュドーが一緒にいたとなれば……はぁ、まあ、こうなるよな。」

エドはため息を吐きながら、話の内容を確認する。

 

「…………」

皆は沈黙をもってエドの確認内容が正しいことを示す。

 

「そんで、誰もカミーユにこの事を伝えてないって事だな」

エドは皆をブライトやアムロ、ベルトーチカを見渡しそう聞いた。

 

「ブライトはどうだ?」

「いや、俺もカミーユとは連絡をたまに取るが、アムロ達の事は一言も話していない」

アムロはまだカミーユと繋がりがあるブライトに確認するが、当のブライトはカミーユには伝えていないとの事だ。

 

「諸悪の根源はキャスバルって感じはするが、まあ、そりゃしょうがねーって言えばしょうがねーよな」

エドは少年だったカミーユがグリプス戦役に巻き込まれ精神崩壊に至る状況を作った元凶はレッドマンにあるとし、カミーユに今の状況を伝える事が出来ないのは仕方ない事だと判断する。

 

「エド……」

エドに面と向かって言われると流石のレッドマンは少々気を落とす。

 

「はぁ、どうしたものか」

エドはカミーユが起きた時の対応をどうすべきか悩む。

 

「うーん。折角気絶したのだし、カミーユの目の前から私達が姿を消せば、夢かなにかと勘違いして、やり過ごせないかしら」

ベルトーチカがこんな提案をする。

 

「どうだろうな」

 

「レッドマン、カミーユに一発殴られろ」

「ふんアムロ、貴様も一度殴られてみろ」

アムロとレッドマンは何時もの如く言葉でじゃれ合う。

 

「そもそも、皆ここの事をカミーユさんに知らせてないのに、なんでここ(ヘイガー診療所)に来たんだろう?」

ジュドーはそもそもの疑問を口にする。

 

「他の誰かに聞いたのかしら?」

「聞いていたのなら、驚いて気絶しないだろう」

ベルトーチカはここにいる人間以外に事情を知っている人物がカミーユに伝えたのではないかというが、ブライトは疑問を持った顔をしたまま否定をする。

 

「ならニュータイプの勘とかかしら?」

「いや、カミーユ・ビダンに嘗て程の力を感じない。私が目の前に現れるまで認識できなかったからな」

ベルトーチカはアムロに向かって聞くが、それにローザが一早く反応し、その意見を否定する。

 

「そうだな」

「ああ」

「確かに」

アムロ、レッドマン、ジュドーもカミーユのニュータイプ能力が低下している事に同意する。

 

「まあ、何にしろ、ここに来た理由は俺が聞いてみるしかないか。それに、このままってわけには行かないだろう。一斉に会っちまったから、倒れちまったんなら、一人づつ会わすしかないだろう」

エドは最終的に意見をまとめ、一人づつカミーユに会わせる事にした。

そして、そのトップバッターがローザだった。

 

 

 

 

 

 

時を戻す。

 

カミーユが落ち着いた頃を見計らい、

「ちょっと、二人で話でもしてみろよ」

エドはローザとカミーユにそう言って、そっと仕切りカーテンの外にでる。

 

「本当にあなたはあのハマーン・カーンなのか?今のあなたからは戦場の匂いが全くしない」

ベッドの上に腰を下ろすカミーユは、先ほどとは打って変わって、落ち着いた口調でローザに話しかける。

 

「ああ、今はローザ・ヘイガーの名でかれこれ看護師として、14年はここでこうしている」

 

「……ドクター・エドワードがあなたを?」

 

「そうだ。瀕死の私はエドに救われ、最初は妹としてこの家に居させてもらった。エドとの生活は心地よいものであった。私はエドに命だけでなく心も救われた。それと同時に私は思い知った。ジオン再興に欠けていたものが何かを……人の心だ。表面上では人心掌握の為に必要だとは理解していたが、本当の意味で理解が及んでいなかったのだ」

 

「……俺も戦争を起こす悪い奴らを倒せば全て終わると最初は思っていた。でも違っていた。それが何なのかが分からなくて、どうすればいいのかわからなくて、戦争という大きな化け物に飲み込まれ、俺の心は……、でもユイリィが傍に居てくれたから俺は今もこうして生きて居られる」

 

「……おかしなものだな、こうしてお前とこのように落ち着いて話す事ができるとは」

「本当の意味でお互いを理解していなかった。いや、理解しようともしなかったというのが正解かもしれない」

「そうだな。ニュータイプとはお互いが理解し合えるものだというが……私は今ではそれを否定出来る」

「ニュータイプだろうがオールドタイプだろうが結局、お互い心を開かなくては、同じことなのだと」

 

ローザとカミーユはグリプス戦役で出会った当時の自分を思い起こしながら、今の気持ちを穏やかに語り合う。

 

 

「クワトロ大尉の事を俺は本当の意味で分かって上げる事が出来なかった……だからあの人は……あんな事に………俺は……」

カミーユは後悔の念からなのか、眉を顰めながら、悲哀を含んだ表情でそんな事を語りだす。

今のカミーユの中では、ヘイガー診療所でナース姿のハマーン以降に出くわした人物は全て夢だと思っていた。

いや、思わずには脳内が処理しきれないのだろう。

なので、こんな事をローザに語ってしまう。

 

「…………」

当のローザはそれに対する答えを全く持ち合わせてなかった。

 




次ぎはレッドマンとアムロの番か……どうなることやら。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 忘れた頃にやって来る。(カミーユ編後)

ご無沙汰しております。
漸く観念して、結論を出しました。
3案ぐらいあったのを悩みまくって、手を離してしまってました。

こんな結論になりました。


エドは病室でカミーユとローザが語り合っている間に、3階の自宅リビングに上がり、カミーユが倒れた原因である当事者連中に状況を説明する。

「カミーユがここに来た理由が分かった。どうやら俺が原因だ。まだ詳しい事は聞いていないが、カミーユが受け持った患者の治療に俺の執筆した論文の医療技術が必要らしくてな、それでわざわざ月から訪ねてきたらしい」

 

「ふっ、やはりエドはニュータイプを引き付ける何かを持っているようだ」

アムロは少々笑みを零し、こんな事を言う。

 

「そのアムロの意見には同意せざるを得ないな」

レッドマンもそんなアムロの意見にしみじみと言った風に頷く。

 

「はぁ?何言ってんだ?俺はオールドタイプだぞ?ニュータイプ能力のニの字も感じられないような人間だ。クェスからは超オールドタイプなんて言われるぐらいだぞ」

 

「エドさん、それはきっと誉め言葉だよ。大体ここのメンバーの半分以上はニュータイプだし、エドさんの家族も、エドさんとリゼ以外全員ニュータイプじゃないか。そんなところって普通ないよ」

ジュドーがそう言うのも無理もない。

大体エドの家族は、ローザを筆頭に、オードリーにクェス、バナージにリタ、それに元強化人間ではあるが今はニュータイプだと言って差支えが無いマリーダ。それにどうやらエドとローザの子は3人ともニュータイプの素質があるようなのだ。

家族11人中、子供達を含め9人がニュータイプとは普通ではあり得ないだろう。

さらに、そのニュータイプとしてのレベルも非常に高いときている。

国策で大枚をはたいてニュータイプの研究と育成を行ってるニュータイプ研究所が、こんな現状を知れば、腰が砕け落ちるか、匙を投げるか、それ位の驚愕な事実である。

 

「エド先生、ジュドーの言う通りだ。ニュータイプがこれ程一所に集まるなど通常ではあり得ない。連邦軍の戦隊規模でも多くて精々2、3人だ。1人もいないなんて事はざらだ。しかも、優秀なニュータイプとなると皆無だ」

ブライトもジュドーの意見に同意しながら、さらに言葉を付け加える。

確かに、この15番コロニーはニュータイプの巣窟と言っていいだろう。

エドの家族以外では、アムロにレッドマンことシャアや、更にセイラまでいる。

最近引っ越してきたブライトの奥さんであるミライや息子のハサウェイもそうだ。

それに隣の16番コロニーに住んではいるが、エドの診療所に頻繁に訪ねてくるジュドーやルー、アンネローゼも居るのだ。

それ以外にも元ジオンのニュータイプも幾人かこのコロニーでひっそり暮らしてるらしい。

養鶏場を経営しているご近所のシムスさんの旦那さんがどうやらそうらしい。

宇宙世紀でも十指に入るようなニュータイプがここに数多集っていたのだ。

 

「おい、何か?俺はニュータイプを集めるフェロモンでも出してるっていうのかよ?」

 

「そうではないな、エドの医者として実直の姿勢と献身が、ニュータイプの拠り所になり、ここに留まらせているのだろう」

レッドマンは真剣な表情でエドの言葉を否定し、こう語った。

 

「俺はエドが持つ医者の信念が、縁(えにし)を引き寄せたのだと、感じている」

アムロも真面目な面持ちでこう語る。

 

 

「なんだそりゃ?よくわからんがこの際俺の事はどうでもいい。次はお前らがカミーユに会う番だぞ、…とは言っても今ローザとカミーユは穏やかに語り合ってるぞ。お前ら普通に会って話せばわかってくれるんじゃないか?」

エドはレッドマンとアムロにカミーユに会う様に促す。

 

「うむ、どうであろうか?」

「カミーユのあの狼狽ぶりと困惑ぶりでは流石に一筋縄にはいかないだろう」

「レッドマンとアムロについては厳しいかもしれんな」

レッドマンとアムロは少々難しい表情を浮かべ、ブライトもこの二人の意見に同意する。

確かに、ハマーンだったローザに比べ、レッドマンとアムロはカミーユにとって近しい存在だった。

特にレッドマンに対してカミーユは複雑な心境を抱いていた。

 

「まあ、ぶっ倒れるぐらいだしな。カミーユはローザが俺の嫁って事で受け入れた節がある。俺が仲立ちすれば、ちょっとは軟化するんじゃねーのか?」

 

「エド、そうしてくれるか?」

「エドが仲立ちしてくれるのなら心強い」

アムロとレッドマンもエドの提案に肩を撫でおろす。

 

 

 

そして、エドは午後の診療を終わらせ、少々研究内容について談義した後、カミーユを夕飯に誘う。

エドが午後の診察を行ってる際中は、カミーユを診察室の隣にある狭苦しい研究室に通し、カミーユの患者に関係ありそうな研究資料を渡し、診察が終わるのを待ってもらっていた。

 

「良いんですか?研究資料を見せて頂けるだけでなく、夕飯までご馳走になって」

「ああ、別に構わないぜ、一人増えたところで全く問題無いしな、何せ大家族な上に、友人連中も集まってるからな」

「ドクターのご友人ですか、申し訳ないです。そんな時に突然訪問してしまいまして」

「いいって、ところでカミーユさんよ。激甘料理はいけるか?」

「激甘料理?」

「ローザな、彼奴の料理は全部激甘だ。だが味は保証するぜ」

「……は、ハマーンが料理をして……それが激甘料理……」

カミーユは軽く衝撃を受けていた。

ハマーンが真面に料理をしてる姿が想像できなかったのだ。

しかも、それが激甘とか。

それは当然と言えば当然だろう。

誰もが18年前のハマーンから料理する姿など想像もつかないだろう。

しかも、クマさんエプロン姿で調理する今のローザを。

 

だが、こんな事で衝撃を受けている場合では無かった。

 

 

カミーユはエドに促され3階のリビングに通され、ソファーに座らされる。

既に料理がテーブルに置かれ、エドの家族や友人もソファーやダイニングテーブルの席に座っていた。

 

「そんじゃ、めしにしますか。頂きますっと」

エドはそう言って、フォークを手に持ち、食事を始める。

エドの家族や友人連中も思い思いに食事を始めるのだった。

 

だが……

「?なんだ、カミーユさんよ。腹減ってないのか?それとも激甘がダメだったか?」

エドは隣の席で、一切料理に手を付けず額から汗を垂らし肩を狭めプルプルと震えてるカミーユに軽い感じで聞いた。

 

「……ド、ドクター、そのご家族とご友人と、き、聞いてましたが、ご、ご紹介していただけないですかね…」

カミーユの目は瞳孔が開きっぱなしで、俯いたまま、震える声でエドに話す。

 

「おっと、そりゃわりぃ、そういえば紹介してなかったな。ローザはいいよな。ダイニングテーブルのローザの前に座ってる金髪の子がオードリー、ローザの妹だ。その右は緑髪の子が長女のクェス。その横が妹分のリタ、外見は幼いがこれでも人妻だ。それとこの場に居ないが、俺とローザの子で9歳のミーナと6歳のレオナと2歳のアリスとリタの子でキャスバルjrとララァの8歳の双子達は先に飯を済ませて子供部屋で遊ばせている。後で紹介するぞ。それ以外に妹のリゼとマリーダと甥っ子のバナージが居るが今日は仕事で帰ってこれない。結構な大所帯だろ?」

 

「………は、はぁ……その、なんて言いますか、皆さん美しい方ばかりですね……そ、それはいいのですが……わた…俺の前に座ってる方々は?」

カミーユはエドの家族を紹介されて、その家族から溢れんばかりのニュータイプ能力を感じ、それはそれで衝撃を受けていたのだが、目の前の人物達に比べればどうと事はなかった。

 

「そうか。俺の前に座ってるのはだな。リタの旦那でレッドマンだ」

エドは軽い感じでテーブルを挟んで前のソファに座ってるレッドマンをカミーユに紹介する。

 

「デニス・レッドマンだ。それ以上でもそれ以下でもない」

レッドマンはそう言って、グラサンを外しながら何故か他人行儀に自己紹介をする。

だが、レッドマンは冷静の様で若干緊張気味なようだ。

 

「………………」

カミーユはぷるぷる震えるだけで、レッドマンと目を合わせない。

 

「そのレッドマンの横に座ってるのは、アムロとその奥さんの一人のベルトーチカだ」

 

「アムロ・エヴィンだ。今は月の研究所で研究開発者をやってる」

「ベルトーチカ・エヴィンよ。アムロの本妻よ」

アムロとベルトーチカも何故か他人行儀に自己紹介をする。

 

「アムロにはベル以外に3人奥さんと6人の子供がいるが、今日はベルだけだ」

 

「………………」

カミーユはやはりぷるぷる震えるだけで、アムロと目をあわせない。

 

「そんでだ。俺の隣に座ってるのが最近結婚したジュドーで、カミーユの横に座ってるのが最近引っ越してきたブライ……」

エドはそんなカミーユにお構いなしに次次に紹介しようとするが……

 

カミーユはその場をスクっと立ち上がり、目を見開き目の前の人物に指を差し叫びだした。

「…………ああああああっ!!!あんた何で生きてんだ!!!!!何がレッドマンだ!!!あんたクワトロ大尉だろ!!!!何しれっと生きてんだ!!!!!しかも何幼妻まで!!!!!趣味は変わってないな!!!!!どうなんだ!!!!!!」

 

「わ、私はレッドマンだ。シャアでもクワトロでもない」

 

「はぁぁぁ!!!!何言ってんだシャアって自分で言ってるだろ!!!!!それにその横!!!!!アムロさん!!!!何やってんだこんなところで!!!!!あんたシャア倒して、死んだんじゃないのか!!!!!なに仲良さげに隣に座ってんだ!!!!!しかも奥さん4人ってどうなってんだ!!!!!!!!!」

 

「いや、そう言う事もある」

 

「ベルトーチカさんも!!!!!よく他の奥さんを許しましたね!!!!!昔の尖った貴方はどこに行ったんですか!!!!!!」

 

「私が本妻だから、別にいいのよ」

 

「少し落ち着けカミーユ」

興奮し目が血走ったカミーユを落ち着かせるために後ろからカミーユの肩を掴むブライト。

 

「ブライトさん!!!!!何故あなたもここに!!!!!!しかもこの状況で何平然としてるんですか!!!!!しかも、俺と半年前に引っ越しの事で一度通信で話しましたよね!!!!!!これは何なんですか!!!!!!!」

 

「いや、流石にこれはな」

ブライトは言い淀みながら鼻の頭を掻く。

 

「カミーユさん、せっかくの料理なのに少し落ち着いたら?」

エドの横からジュドーが軽い感じでカミーユに声を掛ける。

 

「君はジュドーだろ!?君も君で何でここにいるんだ!!!!!ネオ・ジオンと死闘を繰り広げたと聞いているぞ!!!!!何居心地良さそうにしてるんだ!!!!!」

 

「別にいいじゃん。ローザさんの料理は激甘だけど美味いしさ、エドさんは何時も相談に乗ってくれるし、美人姉妹はいるし、居心地良いんだよここ」

ジュドーはしれっとこんな事を言う。

 

「何を言って!!!!!!!!」

 

「カミーユさんよ落ち着け、いいから現実を受け入れろ」

エドはカミーユの両肩を掴んで、引きつった笑顔でこう言った。

 

「あああああっ!!!!!」

カミーユは案の定、ぶっ倒れた。

ぶっ倒れはしたが今回は意識はまだ保っていた。

だが、何やらブツブツと呟き、瞳孔は開きっぱなしだった。

 

エドは過去の経験上、食事を摂りながらであれば、精神的な余裕が出来、何とかなるのではないかと考えていたのだが、少々考えが甘かったようだ。

 

 

この後、カミーユは5日間程エドの病院で寝込んだのは致し方が無いだろう。

この間もエドの説得というか精神治療のような物が続いた。

月のユイリィに連絡すると、娘を連れ直ぐに掛けつける。

ユイリィにしこたま説教を食らうレッドマンとブライトとジュドーの姿があったとか。

 

 

 

 

 

カミーユがエドの診療所に訪れてから1週間後。

バー茨の園の扉には貸切りの札が掛けられていた。

バーのカウンターにはカミーユを真ん中に右横にアムロ、更にその横にエド、カミーユの左横にはブライトその横にジュドーと続く。バーカウンター内ではバーテン姿のレッドマンがシェーカーを振る。

カミーユの歓迎会兼復帰祝いだとか。

因みに女性たちはユイリィを交えて、ヴィンセントの二つ星レストランで女子会を行っていた。

 

 

「具合はどうだカミーユ」

「ブライトさん。エドワード先生のお陰でなんとか、…5日も寝込みましたけどね」

「まあ、元々疲労が溜まってたし、精神的に疲弊してたからな、丁度良かったんじゃないか?だが念のために今日はノンアルコールだぞ。キャスバル、カミーユは野菜ジュースでな」

「これ程アルコールを望んだ事は今までなかったのに、そんな時にかぎって禁酒とは」

「そう言う事もある。リタが考案した我が家特性の野菜ジュースを用意しよう。胃腸の調子が良くなる」

「……クワトロ大尉がバーテンとかもはや笑い話にもならない。それにしても、ハマーンだけじゃなく、クワトロ…いやレッドマンさんにアムロさんが生きてるとか、もはや心霊現象ですよ」

「そりゃそうだよね。カミーユさん、俺も最初はビビったし」

「全て、エドのお陰だな。俺とレッドマンとローザはエドに宇宙で偶然拾われていなければ、こうはならなかっただろう」

「どんな偶然ですか?エドワード先生はニュータイプじゃないんですよね」

「俺はニュータイプじゃないし、こいつ等みたいなとんでも人間じゃねーぞ。唯の街医者だ」

「エドワード先生、何度も言いましたが、貴方が唯の街医者なら、俺や世界中の医者はどうなるんですか?もう少し自覚してください」

「カミーユ、エドに何を言っても無駄だぞ。この自称街医者は世界一鈍感だからな」

「言ってろアムロ」

「………あなた方が生きてることで思ったんですが、エマさんやレコアさんももしかしたら生きてるかもって」

「流石にあの状況では可能性は低いだろう、だがこの時代何が起きてもおかしくない。エド先生どうなんだ?」

「ブライト、何故そこで俺に聞く? まあ、俺が関わった中ではこのバーの前のオーナーで今はキャスバルのところの副社長やってる奴は、デラーズの反乱の最終決戦終息後にアルビオンって軍艦乗ってる時に味方回収時にどさくさ紛れて拾った奴だし、まさか再びこのコロニーで再会するとは思ってなかったけどな、このコロニーに移り住んでからは、それらしいわけあり連中の治療は結構やったな。そもそも俺が関わってなくても、このコロニーはよ、元ジオンや連邦兵士とか高官が名前を変えて結構普通に生活してるぞ」

「そ、そうなんですか、もしかしたらシロッコも……」

「あれ程禍々しい男の気配だと直ぐにわかるだろう。バーの経営で他のコロニーや月面都市にも足を運ぶが、少なくとも私はシロッコの存在を感じたことは無い」

「だといいんですが」

「シロッコが生きていれば、既に事を起こしていただろう。それ程の才覚はあった」

「ふっ、レッドマン、今のお前の様に幼妻を貰い愛妻家として大人しく過ごしているかもしれないぞ」

「ふむ、奴はアムロと同じく女をかどわかす才能もあった。嫁を4人貰って毎日苦労しているかもしれん」

「「ふん」」

「まあまあ、俺も木星とか火星とかにも結構行ったけど、カミーユさんが言うシロッコとか言うような奴はいなかったと思うな」

「まあ何にしろ、何にもないんだったらいいじゃないか? 気を揉むだけ無駄だぞ」

「エド先生の言う通りだカミーユ」

「そうします。目の前のお二人を見てるとそう思います」

 

 

 

 

「カミーユの患者の件だが、流石に1か月も月に行くことは厳しい。俺の患者もいるし、大学病院の定期診療も行かないといけないからな」

「そうですか……」

「だが、アムロに相談したら、特殊なネット回線を通じて、直接俺んちから月面都市アンマンの大学病院に遠隔操作で何とかなるらしいぞ」

「ああ、カークランド・コーポレーションの新型医療用マシーンは遠隔操作が可能な様に出来ている。それでもサイドから月面都市には連邦の規制が掛り繋ぐ事はできないが、カークランド・コーポレーションの各支店の秘匿ネットワークにつなぐことで、なんとかなる」

「助かりますアムロさん」

 

 

 

 

「それにしても……この状況、連邦に知られたらどうなることやら」

「知られなきゃどうってことないって、意外とどうにかなるもんだぞカミーユ」

「カミーユ、口外無用だぞ」

「当然ですよブライトさん。ハマーンにシャアにアムロ・レイだけじゃなくて、ブライトさんの息子のハサウェイやエドワード先生のご家族のオードリーも相当不味い」

「ははははっ、そりゃそうだ」

「ジュドー、笑い事じゃないぞ」

「大丈夫だってカミーユさん。それにあんまり言えないけど、うちの会社もそうだけど会長も相当ヤバいから」

「まあ、おっさんなら何とかするだろ」

 

 

こうしてバー茨の園は夜明けまで盛り上がる。

最高のニュータイプと呼ばれたカミーユ・ビダンは嘗ての同士達とのまさかの再会を果たしたのだった。

 




何とかカミーユ編完結。


因みにベルトーチカさんは自称本妻です。
アムロからすれば、皆平等のつもりですが、やはりリーダーはセイラさんですね。

元バー茨の園のオーナーはやはり0083のジオン側の方ですね。
養鶏場のシムスさんの旦那は勿論シャ〇ア・〇ルさん
ジャガイモ農家はアカハナさんともう一人は年を重ねた方がいらっしゃいます。
ソーセージ工場の工場長は連邦の高官の方です。
16番コロニーの美味いと評判のパン屋を開いてる元キマイラ隊のジーメンスとエメ夫婦。
元F・S・Sのメンバーは全員、カークランド・コーポレーションの社員。
しばらく出て来てませんが、フル・フロンタルさんとアンジェロさんも健在です。
きっとレッドマンの系列店で働いてるかもしれませんね。
ボマーは地球でカークランド家電の店長さんかもしれません。その他のレイスもきっと健在。
イーノは一応設定はありますが、秘密です。
ナナイさんもカークランド・コーポレーションに……その後、レッドマンと会った……かな?(これ以上は危険な気配なので終了)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 合コン再び

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

えーっと、今回のは思いっきり番外もいい所のお話です。
やっちまった感が半端ないです。
設定だけあった人達を、ひとまとめにしようとしたらこんな感じに。
本編とはほぼ無関係w
閑話なので生暖かい目で読んで許してください。



新サイド6ではかなり有名となったヴィンセントが経営するレストラン『クローチェ』。

味もさることながら店のオシャレな雰囲気からも、恋人と行きたいレストランランキングには常に上位に食い込んでいた。

 

宇宙世紀0106年2月初旬

一年戦争からはや26年が経過し、世代も移り変わり人々の記憶からも薄れつつあった。

そんなレストランの個室ではとある食事会が開かれていた。

参加者は20代から30代前半までの男性6人、女性5人だ。

所謂、合コンである。

 

「今日は皆、来てくれてありがとさん」

ジュドーはレストランに現れた女性陣を個室に案内する前に声を掛ける。

 

「いえ、バナージがいつもお世話になっておりますので」

オードリーは綺麗なお辞儀で返す。

 

「……バナージは呼んでもないのに来てるけど、まいっか」

どうやら、バナージはオードリーが来る事を聞いて、無理矢理ジュドー達についてきたようだ。

 

「ジュドー、これ合コンよね。結婚したばっかりなのに、ルーさんに言付けるわよ」

「クェスは美人さんなのに何時もきっついな。大丈夫、今回の俺はお目付け役だし、ルーにもちゃんと訳を話してるしさ」

ジュドーはクェスにそう説明する。

実は今回の合コン、ジュドーの会社のトップであるトラヴィス会長の口添えがあったようだ。

 

「私はこのような場には相応しくないのだが……」

「マリーダは来てくれなくっちゃね」

「どういう意味だ?」

マリーダはリゼに選んでもらった適度なオシャレな服を着ているが、気が進まないようだ。

トラヴィスのお節介で、マリーダにもこういう機会を当てて、仕事や家族以外で男性に慣れさせたいという思いがあった。

 

「お兄ちゃん、何か企んでるの?」

「いや~、リィナもいい年だろ?恋人の一人や二人作ってもいいんじゃない?」

「私だって、恋人くらい居ました。お兄ちゃんに言われなくても、ちゃんと見つけるわ」

妹のリィナを呼んだのはマリーダを安心させるためではあったが、兄として、リィナもモテるようだが、中々男性の影が無いため、普段男連中にどんな態度をとるのかも気にはなっていたのだ。

 

「私、その、こういう場に参加した事が無くて」

「大丈夫大丈夫、ちゃんと俺もフォローするし、リィナやオードリーも居るから、ブライトさんやミライさんにはちゃんと言ってあるしね。……まあ、なんかブライトさんは怒ってたけど、ミライさんが説得してくれたお陰なんだけどね」

「そうなんですか」

チェーミンは若干緊張気味だったが、改めて同行する女性陣の顔を見てホッとした表情をする。

チェーミンを誘うのに、一応ブライトに連絡を入れたジュドーだったが、ブライトがまだ早いとか喚いていたようだ。そこにミライのフォローが入って実現したとか。

チェーミンはどうやらブライトのせいで、男性と付き合うどころかこういう場にも参加してこなかったようだ。

 

「男連中はどんな奴よ?……まあ、何となく想像つくけど。どうせトラヴィスのじいちゃんの差し金でしょ」

クェスはジトっとした目でジュドーを見据えてこんな事を聞く。

 

「す、鋭いね。クェスは……まあ、それもあるけどさ」

確かにトラヴィスの差し金ではあったが、ジュドー自身にも思惑があった。

 

「まあ、いいわ。バナージも来てる様だし。安心ね」

クェスは何だかんだと、家族としてバナージを信頼していた。

 

 

 

 

そして、ジュドーが女性陣をエスコートして、用意した個室へと誘う。

個室では既に男性陣が大きなテーブルの片側に並んで座っていた。

 

「バナージ、来ていたのですね」

「もちろん」

一番最初に個室に入ったオードリーは自然と左端のバナージの前に座る。

 

 

次にクェスが個室に入ると、男性陣を見て開口一番、この何とも言いようもない声が漏れる。

「うわー……」

 

「「クェス!!」」

そんなクェスの声にカジュアルスーツを着た黒髪の2人の青年が同時に反応し、席を立ち上がる。

 

「……なんで、あんた達が居るのよ」

 

「クェスが参加するからってジュドーさんに聞いたから、ところで誰なんだいこの目つきの悪い奴は?」

「クェス!こいつは誰だ?」

一人は好青年風で、もう一人は少々目つきが鋭い青年の二人は、クェスに問いかけながらお互い目を細め視線を交わす。

 

「私、帰っていいかしら?」

クェスはそんな二人の青年の様子を見て、ウンザリ顔でジュドーにこんな事を言う。

 

「あれ?クェス、此奴と知り合いだったの?…まあまあ、ちょうどいいじゃん」

ジュドーは目つきの鋭い青年の方に視線を移してから、クェスを軽い感じで説得する。

どうやら、目つきの鋭い青年はジュドーの知り合いの様だ。

 

「はぁ、まあいいわ。そういえば、2人は顔を合わすのは初めてかもしれないわね」

クェスは呆れた表情でそういいつつ、オードリーの横の席に座る。

目の前には銀髪の青年が不機嫌そうに座っていた。

 

「ああっ!お前、席を代れ!」

「知らん。相変わらず騒がしい奴だな」

目つきの鋭い青年は、クェスの前に座る銀髪の青年に席を譲る様に言うが、銀髪の青年は素知らぬ顔をする。

 

マリーダはそんな喧騒に興味が無さそうにクェスの横に座り、リィナも続いてマリーダの横に座るが……。

「リィナ、久しぶり。えーっと横の子は……まさか?」

「久しぶりね。忙しいのにわざわざここに?この子がマリーダよ。お兄ちゃんに聞いてるでしょ?」

銀髪の青年の横に座っていた茶髪の背の高いイケメンがリィナに気軽に挨拶をし、マリーダを見て少々驚いた顔をしていた。

 

最後にチェーミンがリィナの横に座り、クェスに声をかけていた好青年風の青年に声を掛ける。

「……兄さんも来てたの?」

「チェーミン、よく父さんが許してくれたね」

 

 

こうして、ジュドー主催の合コンが始まるのだが……、14年前のとある合コンと同じく残念臭が既に漂っていた。

 





新キャラ登場ですが……
お判りですね。
逆襲のシャアからあの人
ユニコーンからあの人
ZZからあの人

なんで生きてんだお前!!
なんで合コンに参加してんだお前!!
とか、いろいろ突っ込みどころはありますが、まあ、前提をエドが壊しちゃったんで、許してください。
次回はその辺の話が出て来ると思います。

リディさんを出そうか迷ったんですが、あの人連邦の人で更にお坊ちゃんですよね。
さらにロニさんを出そうかと迷ったんですが、ユニコーン勢だらけになっちゃいそうで、ロニさんの設定は、ユニコーン時に地球での騒乱が無かったので、そのまま、マフティーに参加みたいな感じで登場していただけるかなと。そんで、トラヴィスのおっさんの計画で宇宙に移民へと。
他も色々と参加者を考えてましたw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 合コン再び その2

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

早速ですが、残念な合コンの始まりです。


女性陣も各々の席に座り、最後にジュドーが細長いアンティーク調テーブルに男性陣と女性陣が対面に座ってる上座の席、オードリーとバナージの横の位置に座る。

 

「今日は集まってくれてありがとう。軽い感じの親睦会って事でよろしく。男性陣は俺の会社の部下と幼馴染とか知り合いが参加で、女性陣は俺の個人的な知り合いと、妹も混ざってるのは愛嬌って事で」

ジュドーは昨年の秋から、正式にカークランド・コーポレーションのもう一つの顔である民間軍事部門スレイブ・レイスのモビルスーツ教官と隊長という役職を受けていた。

その際、つけられた直属の部下が3人程居るのだが、一癖も二癖も強い連中だった。

今回この合コンに参加しているのはそのうちの2人だ。

トラヴィスが、癖が強すぎる連中をジュドーに丸投げしたと言っても良いだろう。

因みに、ルーもモビルスーツ教官と隊長職を受けていたが、ジュドーとは別に部下が3人程ついている。

 

 

「そんじゃあ、男連中から自己紹介ってことで、因みに女性陣は皆、スレイブ・レイスの事も知ってるから部署とかも言ってもいいぞ。一応俺から手本って事で、そんじゃ…。ジュドー・アーシタ32歳、カークランド・コーポレーションの民間軍事部門スレイブ・レイス第二ユニットモビルスーツ教官兼特殊機動204隊の隊長で、去年までは長距離輸送部門で木星間輸送船のクルーをしてたんだけど、昨年から専属でこっちに。因みにそこのリィナ・アーシタの兄貴だ。あっと、それと、去年の秋に同じ部署のルーと結婚したての新婚なんだ、まあ、結婚したからってなにも変わんないし、16年位付き合ってたからね。…こんな感じで、まずは呼んでもいないのについて来たバナージから」

ジュドーは結婚と同時に、ルーと共に長距離輸送部門からスレイブ・レイス専属に転任となり、モビルスーツ教官として、新人研修や教育を行いつつ部隊も率いていた。

 

 

ジュドーに促され、バナージが自己紹介を始める。

 

「俺はバナージ・リンクス26歳、ジュドーさんと同じくカークランド・コーポレーションの開発部門宇宙開発課主任で、緊急時にはスレイブ・レイス第三ユニット緊急徴集部隊の部隊員も務めてます。マリーダさんとクェスとは家族で、オードリーとは恋仲です」

バナージは至って真面目に模範的な自己紹介を行うが、最後には合コンではある意味タブーである恋人宣言を口にする。

バナージはこれを主張するためだけにこの場に参加したようなものだ。

対面のオードリーはその言葉に嬉しそうに微笑み、隣のクェスは呆れていた。

そもそも、誰もが公認しているカップルの片割れを合コンに参加させる自体ナンセンスなのだが……。ジュドーの思惑としては、気品のある花も必要だという事と、もしクェスが荒れ狂った場合に、宥める人が必要だろうという事で呼んだようだ。

 

「……まあ、そう言う事で男達は、もしオードリーに声をかけるとしても番犬が居るから気をつけるように。次、アンジェロ」

ジュドーはそう言って、バナージの横に座る銀髪の色気のある青年に自己紹介を促す。

 

 

「……アンジェロ・ザウパーだ。27歳。本来、飲食チェーンナイチンゲール系列の月支部、大佐…フロンタル月統括支部長の元で働いていたのだが、しぶしぶ今は出向という形で、スレイブ・レイスでこの男の部下ということになっている。だが、俺は飽くまでもフロンタル支部長の部下だ。その事は忘れないでもらおう。こいつ等ともなれ合うつもりはない。特にお前とはな」

そう言って、アンジェロはバナージをキッと一睨みする。

アンジェロ・ザウパー、元ネオ・ジオンの残党であったフル・フロンタル率いる袖付きの部隊長だった男だ。宇宙世紀0096年3月に起こったラプラス事変にて袖付きは、スレイブ・レイスに壊滅させられ、そのまま母体であるカークランド・コーポレーションに吸収される。だが、フル・フロンタルとその部下の数人は、本人の要望で、農業更生を経て、レッドマンが経営するバーや夜の飲食業を主体とする飲食チェーンナイチンゲールに就職することに……。

フル・フロンタル自身、そのカリスマ性や経営能力で月支部を任されるまでに一気に上り詰めるのだった。

フル・フロンタルの元で不満無く働いていたアンジェロだが、昨年、急にフロンタル自身から出向を命じられ今に至る。

敬愛するフロンタルの命令には逆らえないが、今の待遇に不満たらたらなのだ。

しかも、今、ラプラス事変で敵として戦い、乗機を直接行動不能にさせられたバナージが横にいるのだから尚更だ。

 

「え?なに、アンジェロって、バナージと知り合いなの?会長、そんな事を一言も言ってないよ。……わざとか、あの人面白がってる節があるからな。はぁ~。まあ、何でもいいから、仲よくしよう。次々、イーノよろしく」

どうやら、ジュドーはアンジェロとバナージに因縁がある事を知らなかったようだ。

バナージはどこ吹く風といった感じだが、アンジェロはまだ、遺恨が冷めきっていないようだ。

 

次にジュドーから紹介を受け、すらっとした高身長のイケメンが、爽やかな笑顔を称え、甘い声で自己紹介を行った。

「イーノ・アッバーブ、32歳です。ジュドーの幼馴染です。イーノ・アレクサンドの方が通りが良いかな?今は俳優をやってます」

そう、彼こそが内気で、ジュドー達にいつも振り回され、貧乏くじを引きまくっていたあのイーノの成長した姿だった。

「やっぱり、イーノ・アレクサンドさん……」

イーノがそう紹介する前から、チェーミンはイーノを羨望の眼差しで眺めていた。

実はイーノは今、イーノ・アレクサンドの芸名で俳優業を営んでいた。

しかも、草食系イケメン俳優としてどの世代の女性からも人気が高く、いくつか賞も受賞する程の実力も備え、毎年好感度ランキング10位内に入る誰もが知る有名俳優だったのだ。

17年前ジュドーとルーが木星に旅立った頃、リィナが勝手にモデルのコンクールにイーノをエントリーしたのが切掛けだった。背も高く優し気な風貌もあって、直ぐに若手人気モデルに……、そこから俳優に転向し今に至っていた。

エゥーゴで活動していた頃から女装や潜入捜査などでその片鱗を見せてはいたのは確かだが、ここまでの有名人になるとは、当時を知る誰もが予想外だっただろう。

いや、リィナだけが先見の明があったのかも知れない。

そのイーノだが、たまたま、仕事で新サイド6に映画の舞台挨拶に来たついでに休暇を取って、ジュドーやルーに会いに来たところにこの合コンの話だったのだ。

 

「まさか、イーノがイケメン俳優とか、俺も俳優に転向しようかな?」

「お兄ちゃんはいいところコメディアンよ」

「そ、そうですか、リィナさん辛口だよね……じゃあ、次ギュネイよろしく」

兄妹漫才もそこそこに次を指名するジュドー。

 

 

「ギュネイ・ガス、31歳だ。スレイブ・レイス第二ユニット直属特殊機動MSパイロットだ。それよりもクェス!この横の男とはどういう関係なんだ!」

ギュネイ・ガス。第二次ネオ・ジオン紛争にて、高度な強化人間としてニュータイプ用モビルスーツを駆り活躍していたエース格のパイロットだった。偶然出くわしたアムロのリ・ガズィに負けるも、シャアに助けられ命拾いをする。

最終決戦時は戦場でクェスの反応が消えた事で、持ち場をそっちのけでクェスを探し回り、そうこうしいてる内に、アクシズ落下を阻止され大将であるシャアも行方不明となり、ネオ・ジオンは敗北。

撤退するネオ・ジオンの艦隊に合流できたのだが、その道中で見たものは、無残にもボロボロとなったクェスの乗機だったαアジールの姿だった。

コクピット部は跡形もなく破壊され、クェスの死を知り、茫然自失となる。

その後、ネオ・ジオンの艦隊の半分以上がカークランド・コーポレーションに吸収され、クェスの死に自暴自棄となっていたギュネイはそのままカークランド・コーポレーションの元で働く事に。

もはや生きる屍となったギュネイは長距離輸送部門の護衛モビルスーツ要員として淡々と生を貪っていた。

実はクェスは生きていて、新たな養父や姉妹達と楽しく毎日を過ごしていたなどと知らずに……。

因みに、その時期にジュドーとルーに出会っている。

 

丁度3年前、木星から帰還し本社に戻っていたギュネイは、カークランド・コーポレーションに遊びに来ていた誰もが見惚れる美女に成長したクェスを見かけたのだ。

ギュネイは脳内で殴られる様な衝撃を受けた「クェスかもしれない」と。

気を取り直し、早速クェスの後をつけ、クェスの様子を見る事に……。

16番コロニーから15番コロニーまでコソコソと後をつけるギュネイ。

クェスはとある診療所を兼ねた家(自宅)に入り、直ぐに出て、隣のオシャレな家(レッドマン邸)に入った。

この時、既にギュネイは「間違いないクェスだ」と断定していた。

しばらくすると、クェスはオシャレな家から出て来る。

ギュネイはクェスに早速声を掛ける。

「クェス!生きて……生きていたのか」

ギュネイは既に涙目だ。

「え?あんた、まさかギュネイ?生きてたのね」

クェスの方はかなりあっさりだ。

「クェス、俺の女になれ、もう、シャア大佐はいない。俺はまっとうに職にもついてる。金の心配もない!」

ギュネイはいきなりクェスを口説き始めたのだが……

「シャア?彼奴ならあそこよ」

クェスが指さす方向には、幼稚園児位の双子の金髪の兄妹を両腕に抱えながら、デレ顔のレッドマンが向こうから歩いて来たのだ。

 

「!!!??まさか、大佐が生きて!!!!しかも子供まで!!!?くそーーーーっ!!」

ギュネイは別の意味で涙目となり、そう叫んでその場を勢いよく逃げるように去って行く。

どうやら、ギュネイはリタとレッドマンの子供達をクェスとレッドマンの子供と勘違いしたようだ。

16番コロニーに戻ったギュネイは会社に1か月間の有給届を提出して、シャア暗殺計画を立てようとする。

(あのロリコン大佐!生きて、ネオ・ジオンを捨てただけじゃなく、クェスをかどわかし!子供まで!!!許せん!!)

だが、ギュネイはシャア暗殺計画の為に周囲で聞き込み調査等を行ったのだが、どうやらシャアはレッドマンと名を変えクェスとは別の幼妻を娶ったと。

さらにクェスが、診療所を営み美女達を一人で囲う医者の元で暮らしている事を聞き付ける。

ギュネイは再びクェスと接触を図るためにヘイガー診療所を物陰から見張る。

診療所を兼ねた家から出てきたクェスに玄関先で声を掛けるギュネイ。

「クェス、大佐とはもう何ともないのだろ!俺と暮らそう!俺は今全うに暮らし、一流企業にも勤めている。金もそこそこ貯めてる」

「嫌よ。なんであんたと暮らさないといけないのよ。私はパパと一緒が良いのよ」

「パパだと!?何言ってんだ!あんな冴えない中年のどこが良いんだ!?クェスは騙されてるだけだ!!あんな医者を装った色情狂の中年より、俺の方がよっぽど良い!!」

どうやらギュネイは調査の段階でエドを見かけていたようだ。

しかも、思いっきり勘違いをしていた。クェスがエドの愛人に無理矢理やらされていると。

 

しかし、ギュネイは言ってはいけない事を言ってしまっていた。

間の悪い所に丁度この騒ぎに様子を見に来たローザが玄関から出てきたタイミングで……。

「ほう、貴様、我が夫を冴えない中年の色情狂と……フン」

「パパよりあんたのほうがいい男だとでも?……エイ!」

 

そして、ギュネイはローザから横っ腹に鋭いリバーブローを喰らい悶絶し、くの字に体が曲がったところをクェスにアッパーを喰らい、後ろに吹き飛び気絶する。

 

その後はエドの診療所に運び込まれ、エドの治療を受ける事となる。

その際、強化処置の形跡をエドが発見して、ギュネイは通院することになったとか。

強化処置の後遺症が軽度ではあったとはいえ、エドのお陰で今ではすっかり後遺症は完治し、エドの誤解も解け、今では全く頭が上がらない存在に。

 

その後、ギュネイはクェスに何度もアプローチを行うが、すげなく断られ続け今に至っている。

 

そのギュネイだが、今はアンジェロ同様にジュドーの直属の部下として活動している。

 

 

「ギュネイ、落ち着けよ……まさか、ギュネイがクェスの知り合いだとか、しかもこれハサウェイもこの場に呼んだのは不味かったかな?まあいっか。じゃあ次、ハサウェイよろしく」

ジュドーは相変わらず軽いノリで最後のハサウェイに振る。

 

 

「ハサウェイ・ノア、25歳です。そこのチェーミンの兄になります。昨年このコロニーに引っ越してきたばかりです。今はレッドマンさんのバーと赤鼻さんの農場でアルバイトの日々を過ごしてますが、将来的には教師を目指そうと思ってます。……クェスとは13年前から友人関係です」

ハサウェイも無難な自己紹介を行いつつ、隣のギュネイにクェスとの仲をアピールしけん制する。

ギュネイはそんなハサウェイを睨んでいた。

但し、ハサウェイはクェスと13年前に確かに出会っているが、その間の12年間はクェスとの接点は全くない。クェスの事を死んでいたと思っていたのだから、13年前から友人とはいささか盛り過ぎだろう。

しかしながら、13年前の第二次ネオ・ジオン抗争時に互いにクェスに恋心抱いてはいたが、直接接点が無かったギュネイとハサウェイ、13年の時を経て、漸くライバルとして顔を合わせる事となったのだ。

……クェス本人にどう思われているかは別の話だが。

 

 

こうして男性陣の自己紹介を終えるが、どう考えてもこの合コン、始めっから失敗の気配が漂いすぎていた。

 




アンジェロ参上
相変わらずの擦れっぷりと、大佐の敬愛っぷりです。

ギュネイ惨状。
ギュネイこの13年間何があった!?
ハサウェイ同様、クェスや紅白ダメンズと真逆の、なんとも悲しい生活を送っていたようです。

イーノがイケメンに!
ガンダムチーム時代は不遇のイーノ。
でも何だかんだとイーノが居なかったらガンダムチームは成立しなかったと言っても言いすぎじゃないと思うのは私だけかな?
縁の下の力もちポジションだったと思うのです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 合コン再び その3

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

それでは続き。


「男共はもうちょっとましな自己紹介できない?イーノくらいかな。こんなに女性陣は美女ぞろいってめったにないのにさ。うーん、まあいっか。そんじゃ女性陣はオードリーから自己紹介よろしく」

男性陣の自己紹介を終えた段階で和気あいあいとした合コンの様そうは期待できそうもない雰囲気だった。

ジュドーはそれでもそのまま女性陣の自己紹介へと移す。

 

「はい、わたくしはオードリー・バーンと申します。現在25歳。マリーダ姉様とクェスとは家族で、クェスとは双子の姉妹のように過ごしてきました。現在は大学院で政治の研究を行いながらここ15番コロニーにて法律事務所を開いております。……それと、その……バナージとは恋人の関係です」

オードリーは何時もと変わらない清楚なブラウスとスカートを着込んでいた。今日のコーデは市販品ではあるがオードリーが着こなすと何故か高級感を漂わせる。

そのオードリーは凛とした声色と仕草で自己紹介を行うが、最後の方は頬を少々赤らめ気恥しそうにバナージとの恋人関係を語る。また、その仕草が絵になる。

 

「なにこれ、甘いとかさ初々しさとかさ、マジで羨ましいんだけど。ふう……次、クェスよろしく」

ジュドーはオードリーとバナージの仲睦まじい雰囲気にあてられ、一度深呼吸をし、クェスに自己紹介を促す。

 

「私はクェス・ヘイガー、25歳。ヘイガー診療所の医師エドワード・ヘイガーの長女よ。さっきオードリーが言ったようにマリーダ姉とオードリーと、そうねバナージも家族よ。今はオードリーの法律事務所で秘書をやってるわ」

素っ気ない自己紹介を行うクェスは何時ものジーパンにシャツ姿だった。

そんな軽い感じのコーデなのだがスタイルもいい美女のクェスが着ると何故か映える。

ギュネイとハサウェイは言うまでもなくそんなクェスに見とれていたが、クェスがバナージを家族呼びすると同時にこの二人はバナージへ鋭い視線を向ける。

 

「クェス、それだけ?もっとこうあるじゃん。歌もうまいし、モビルスーツも乗れるでしょ?」

「それは趣味みたいなものよ。特に言いふらすようなものじゃないわ」

ジュドーはそんなクェスに注文を付けるが、クェスは相変わらずである。

 

「うーん、まあいっか、後でその辺の話もしてもらうとして、そんじゃ次はマリーダで」

ジュドーは盛り上げようとしたのだが、クェスのノリがいまいち悪いため、早々に切り替え、次のマリーダに自己紹介を促す。

 

「私か……、私はマリーダ・クルス。28歳だ。先ほどオードリーやクェスが話した通り、バナージ共々家族だ。カークランド・コーポレーション中距離輸送部門、ガランシェール編隊所属、有事の際はバナージと同じくスレイブ・レイス第三ユニットの隊員だ。……私はこのような場に慣れてなくてな、何を話せばいいのかわからない。お手柔らかに頼む」

少々戸惑い気味のマリーダは、姉のリゼがデザインした動きやすさと清楚さを兼ね備えた外行用のシックなパンツスーツを着用している。

 

この合コンはマリーダの為にセッティングされたものだった。

マリーダは過去の出来事で未だに男性との接触を避ける傾向があり、男性との付き合いは家族とガランシェール隊とだけの狭い間で完結してしまっていたのだ。

それに見かねたトラヴィスやアンネローゼは、少しでも男性慣れをさせておきたいと、お節介を承知でこんな席を、ジュドーを巻き込んで設けたのだった。

エドは男女の関係等この辺のことはどうも鈍感で、そのうち何とかなるだろうと特に問題視していなかった。

そこでジュドーが対マリーダ対策として用意したのがイーノだったのだ。

全年齢の女性に好感度が高いイーノであれば、マリーダの男性に対する嫌悪感を少しでも緩和できるのではないかと、イーノにもある程度事情を説明していた。

それを聞いたイーノはイーノで、あのプルの姉妹の生き残りであるマリーダに対して、何とかしてあげたいという純粋な思いがあった。

 

「マリーダには、そっくりな双子の姉さんがいるんだけどね。姉さんの方はかなり社交的で、今年結婚するんだ。でも、マリーダはこういう場に慣れなくてね、男共はほんとお手柔らかに。さあ、次はリィナ」

ジュドーはマリーダについて捕捉し、次にリィナに自己紹介を促す。

 

 

「リィナ・アーシタ、28歳です。そこのひょうきんな人の妹です。今はカークランド・コーポレーション総務部門所属で本社受付を行ってます。今年の秋にサイド1に戻って、カークランド・コーポレーションシャングリア支店の支店長として着任する予定です。マリーダとは前からの友達で、最近はチェーミンとも友達になりました。一応彼氏募集中です。お兄ちゃんみたいなガサツじゃなくて真面目な人が好みです」

少々童顔気味のリィナは淡いベージュのブラウスにロングスカートと大人の女性を演出するコーデに身を包んでいた。

ジュドーはこの場にリィナを呼んだのは何もマリーダの為だけでは無かった。

ジュドーはリィナに好きな相手と幸せな未来を掴んで欲しいという思いが強い一方、リィナが何処とも知れない馬の骨と付き合うのは良しとはしなかった。

初めて大学生時代のリィナに彼氏を通信で紹介された時は、ジュドーはかなり不貞腐れていた。

そこでイーノだ。

イーノは対マリーダ対策だけでこの場に呼んだというわけではなかった。

出来ればリィナとくっ付いて欲しいという思いがあったのだ。

イーノならばリィナを預けても兄として安心できると。

 

「……リィナ…それはないでしょ、お兄ちゃんいじけちゃうんだけど。うちの妹はしっかりもので、兄の俺は全く頭が上がらない。彼氏になりたい奴は気をつけて、そんじゃ次はチェーミン」

ジュドーはワザとらしくいじけた顔をするが、直ぐに何時もの陽気な雰囲気でチェーミンに自己紹介を促す。

 

 

「わ、私はチェーミン・ノア23歳です。昨年大学を卒業して、今は料理の専門学校に通ってます。週に2回、アルフレッドという洋菓子店でお菓子作りのアルバイトをしてます。前に座る兄の妹です」

チェーミンは腰の右部分に大きなリボンをあしらった淡い水色のワンピースを着ていた。

こういう場に慣れてないチェーミンの為に、ミライが選んだ若々しさと可愛らしさをアピールするコーデだった。

どうやらチェーミンは緊張気味で、本当にこういう場は初めての様だ。

チェーミンはブライトがレストランを開く話を聞いて、父のレストラン開業の助けになろうと、料理専門学校に通い出したのだ。

元々、大学を卒業しロンデニオンのコロニー港湾局の事務方公務員として就職していた経緯があったが、180度の方向転換だった。

料理好きもあって、今は意気揚々と専門学校に通っている。

しかし、チェーミンは兄であるハサウェイとの関係に悩んでいた。

幼い頃は仲がよかったのだが、第二次ネオ・ジオン紛争以降、中高生時のハサウェイはふさぎ込んでおり、兄妹らしい会話は殆ど無かったようだ。

ハサウェイが大学入学以降は離れて暮らしており、兄との接点はほぼ皆無となった。

父ブライトは元々軍務に忙しく家に帰る事は少なく、実質母ミライと二人で暮らしていたと言っても過言では無かった。

今になり、ハサウェイは普段は住み込みで農場に働いてはいるが、週末には家に帰って来るようになり、ようやく接する機会が出来た所なのだ。

しかも、その実兄が世界を揺るがすテロリストのリーダー、マフティー・ナビーユ・エリンだった事実も未だに消化しきれていない。

だが、兄ハサウェイのせいで家庭が滅茶苦茶になったと恨んでもいいものの、チェーミンはハサウェイに対しそんなに負の感情を抱いてはいなかった。

ある意味、セイラとシャアの関係にも通じるところがあるが、母ミライのお陰でそこまでの激しい感情は生まれなかった。

それは母ミライが陰ながら、いろいろとチェーミンには不自由させない様にと気を使って来たからだった。

だからと言って、今まで接点が薄く、しかも世間を騒がせたテロリストだった兄と、仲睦まじくとは行くはずも無かった。

チェーミンとしては兄ハサウェイとどう接していいのか距離感がつかめない現状は、致し方が無いだろう。

 

実はジュドーはミライから、兄ハサウェイとの関係に悩むチェーミンの状況も聞いていた。

ミライはこの機会にハサウェイとの関係も少しでもいい方向に向かってくれればという思いもあったのだ。

だが、その肝心のハサウェイは、御覧の通りクェスの事で頭がいっぱいだ。

 

 

この合コン、名目はジュドーが部下と知り合いの顔合わせのための懇親会だが、実際はいろんな思惑が交差して実現しているのだ。

逆にアンジェロとギュネイは数合わせ程度のハズだったのだが、この二人からもジュドーの予想外な関係性や事情が現れる。

アンジェロはどうやらバナージと遺恨があり、下手をすると元ジオンの姫君であるオードリーにも何やら感情があるのかもしれない。

ギュネイに至ってはクェスに一辺倒で、明らかにハサウェイをライバル視し、家族と名乗りを上げてるバナージにも鋭い視線を向けていた。

 

元々無茶のある合コンが更にカオスと化する現状に、普通の幹事であれば胃のあたりがシクシクと痛み、額からは脂汗が流れるだろうが、肥大するニュータイプ能力にも取り込まれずどんな苦境にも並外れた精神力で打ち勝って来たジュドーは「まあいっか」と相変わらず軽い感じで何とかなるだろうとこの無茶な合コンをこのまま進めるのであった。

 




次回、遂にカオスな合コンの序章が終わり、遂に本格開始。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 合コン再び その4

感想ありがとうございます
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きをどうぞ。


様々な思いが犇めくこの合コン。

男女共にお互いの自己紹介を終えたのだが、やはり場の空気が少々重い。

但し、ジュドーの目の前のオードリーとバナージだけは別だが……。

 

「ジュドーさん、ご質問よろしいでしょうか?」

「何オードリー?畏まって?」

オードリーが女性陣の自己紹介を終えると同時にジュドーに質問を投げかける。

 

「この懇親会は所謂合コンだとお聞きしていましたが、今回は随分と少人数なのですね」

「ん?合コンって普通はこんなもんじゃない?あんまり多いと唯の宴会みたいになっちゃうし」

「そうなのですか?その学生時代は何時も大人数で、50人以上は……」

「え?何?オードリー、どういう事?」

オードリーとジュドーはお互いの認識に首を傾げていた。

確かにジュドーの言う通り、合コンは大人数過ぎると男女間の纏まった話になりにくく、唯の宴会の様相になりやすい。それか明確な目的をもって開催する婚活パーティならまた別の話なのだが……。

 

「久々にオードリーの天然発言でたわ」

「ジュドーさんすみません。オードリーとクェスが大学時代に行った合コンなるものは、大概、オードリーとクェス二人に、それ以外の男性連中が50人以上集まって来るんです。その時は俺も介入して、オードリーとクェスと話すのは一人30秒とかルールを決めたりして、男達の暴走を抑えるのが大変でした」

「何それ?それ合コンじゃないよね。どこのアイドルの握手会よ?」

クェスはオードリーの発言に苦笑し、バナージがその説明をジュドーに行う。

学生時代、オードリーとクェスが合コンに参加するとなると、女子達は自然と参加を辞退し、男共が有象無象に湧き集まり、こんな事になってしまうのだ。

ジュドーのアイドルの握手会という表現はあながち間違いではなかった。

 

ギュネイとハサウェイはこの話を耳を大にして、恨めしそうに聞いていた。

 

そんな中、ホールスタッフが前菜をテーブルに並べて行き、各グラスにワインが注がれる。

「今日は存分に料理を堪能して頂き、楽しい一時をお過ごしください」

渋い中年の料理長らしき人物がそう言って、お辞儀をし、個室から静々と退出する。

 

「あーっ、一応言っておくけど今の人、ヴィンセントさんといってうちの会社の会長の息子さんだから、ここで騒ぎを起こしたら不味いぞ。特にアンジェロとギュネイ。しかもあの人、一年戦争時も特殊部隊出身の凄腕パイロットで、元ネオ・ジオンの佐官だったらしいから、お前たちの大先輩だからな」

ジュドーは退室際の料理長に軽くお辞儀をしてから、アンジェロやギュネイに向かって忠告する。

 

「「………」」

アンジェロとギュネイはさして興味が無いのか返事もせずに沈黙したままだった。

 

「ヴィンセントおじさんは、いい人よね。優し気でパパとも仲がいいし」

「そうですね。奥様のクロエさんもとても優しい方です」

「クロエさんも昔は凄腕のパイロットだったと聞いたことがある」

「とてもそうには見えないがそうらしいな。クロエさんはアンネローゼ社長とローザ姉さんとも仲がいい。たまに一緒に食事に誘われる事があるが、独特の雰囲気があるお方だ」

クェスとオードリー、バナージとマリーダはヴィンセントとクロエの話題で話が広がりだし、さらにリィナとチェーミンもこの話に加わり、女子陣+バナージだけで身内話で盛り上がり始める。

 

 

「はははっ、うーん。まずいな……そんじゃ、とりあえず定番の好きな事とか得意な事や趣味は何かある?男性陣からバナージはもういいかな、アンジェロ!おっと、ビームライフルとかファンネルとかそう言うのはいいからな」

ジュドーもこの雰囲気は合コンとしてはかなり不味いと理解し、流れを変えるために話題を振る事にする。

ジュドーがバナージをとばしたのは、バナージの話題で身内連中がそれに乗っかり、また身内だけで盛り上がる可能性があるからだ。

それと、ニュータイプの勘なのか、得意な事で兵器群を名指しにすることは非常に不味いと感じ、禁止した。

 

「ない」

アンジェロは素っ気なく一言で答える。

 

「無いってことは無いじゃん。植物とか育ててるんだろ、花とか?ルーが薔薇の花を貰ったと言ってたぞ」

 

「ふん、薔薇や観葉植物は支部長室に置くためのものだ。お忙しいフロンタル支部長に一時でもリラックスしていただくためだ。趣味というわけではない。ルー隊長に渡したものは新しい品種の出来栄えを聞くためだ。他者の意見も時には必要だからな、特に香りは重要だ」

 

「……アンジェロ、品種改良って趣味の域超えてない?どんだけその支部長崇拝してるんだよ」

ジュドーはアンジェロに掘り下げて聞いたのは失敗だったと後悔する。

ジュドーは引きつった顔をするがクェス以外はそれ程引いてはいなかった。

今のところは……

 

「ふう、イーノは最後にして、ギュネイは趣味とかなんかある?」

ジュドーは真面な言動をするだろうイーノを最後に取っておくために、他の期待できない連中に先に話題を振る。

 

「そんなものは無い」

ギュネイもアンジェロ同じく、素っ気なく答える。

 

「好きな物ぐらいあるだろ?ハマってるものとかさ、普段からルーチンになってる事とか、何でもいいんだけど。あれ?あるのか?なんかなんにも無さそうだなギュネイ」

ジュドーは掘り下げようとするが、残念な物を見るような目でギュネイを見つめる。

ジュドーはギュネイと知り合ってから6年以上たつが、ギュネイが仕事以外で趣味や何か打ち込んでるような姿を見た事も聞いた事も無かった。

 

「バカにしてるのか?ふん、趣味とまではいかないが最近散歩に行く機会が多い」

 

「へ~、ギュネイが散歩ね、意外だな。ウインドウショッピング?それとも健康のためとか?16番コロニーの運動公園あたり?」

 

「休日はもっぱら15番コロニーへの散歩だ。丁度街外れの農業区域との境目辺りがベストだな」

 

「………それエドさん家の診療所近くじゃん」

どうやらギュネイは休日の度に、エドの診療所周辺をうろついているようだ。

勿論、クェス目的である事はジュドーも今日のギュネイの言動から理解する。

それにしても、よく今迄ハサウェイと出くわすことなく過ごせたものだ。

 

「一時通院していたからな、たまたま偶然風景が気に入っただけだ。たまたま偶然だ。特に意図はない」

ギュネイは平然と断言する。

クェスはやはり目茶苦茶引いていた。

 

「………もういいや、これ以上聞いたら、軍警にお世話にならないといけない気がするから……次、ハサウェイよろしく」

ジュドーは背中に冷たい物を少々感じながら、次にハサウェイに話題を振る。

 

 

「僕は、クェスの笑顔を見る事かな?」

ハサウェイはストレートにそう言って、クェスに笑顔を向けた後、隣のギュネイにはどや顔を見せる。

 

「くっ、こ、こいつ!俺だって!」

「まあまあ」

ギュネイは拳を戦慄かせ、席を立ちハサウェイを掴みかかる勢いだったが、隣のイーノが微笑みながらギュネイの肩にポンと手を乗せると、ハサウェイを睨みつけながらではあるがギュネイは席に座る。

流石はイーノ、あの癖のあるガンダムチームを影から支えて来ただけのことはある。

この手の扱いは手慣れたものだ。

 

「はぁ~、あんたね。いつも思うんだけどよく恥ずかしげもなくそう言う事言えるわね」

クェスはクェスでハサウェイに呆れる。

ハサウェイは誰の目を憚ることなく、だいたい何時もこんな感じでクェスに接しているのだ。

その辺は、さすが元マフティーのカリスマと言ったところだろう。

ギュネイとハサウェイはクェスへの攻め方は似ているが内容は全く異なっていた。

二人共、本人にストレートに好意を言葉にする事は同じだが、ギュネイは愚直に本人に告白の一辺倒、ハサウェイはあの手この手でエドの家族の前でもクェスへの好意を口にし、外堀まで埋めようとする作戦を実施しているのだ。

クェスと同じ屋根の下に住むバナージに対しても腹に一物を抱えるが、顔を合わせれば表向きはフレンドリーに接している。まあ、隠しきれてはいないが……。

 

ギュネイはハサウェイを睨み、ハサウェイは笑顔で返すが目は笑ってない。

 

「………兄さん」

そんな兄の姿にチェーミンは気恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。

あの兄が、まさか外ではこんな感じだったとは……。

 

「ここで刃傷沙汰はやめて、お願いだから……もういいや。次、イーノ」

ジュドーは投げやり気味にイーノに振る。

 

「僕はケーキを焼く事かな。仕事が忙しくて中々家で出来ないから、ホテルの厨房を借りたりしてね。この頃はもっぱらパウンドケーキだね。手軽にできるしね」

イーノは爽やかな笑顔を女性陣に向けながらそう話す。

ジュドーは内心イーノにナイスと声を上げる。

イーノは昔から料理をするのが得意であった。

また、ガンダムチーム時代は、食事の用意はイーノの役割の一つでもあった。

 

イーノのこの話には、今迄たいした反応がなかった女性陣は「へ~」だの「ふむ」だの「素敵ですね」などと、興味を示す。

 

「そう言えば、マリーダもケーキとかお菓子を作るよね。チェーミンもミライさんとよく家でお菓子を作るとか」

ジュドーはここだと言わんばかりに、すかさず女性陣に話しを振る。

 

それに最初にマリーダが答え、それが切っ掛けに女性陣の会話が弾みだす。

「私は甘いものが好きだからな。5年前までお菓子料理の専門学校に通っていた」

「マリーダ姉様は家でもよくケーキやお菓子を焼いてくださいます」

「そうね。マリーダ姉は特にアイスが好きよね。あのバニラアイスは絶品ね。お店に出してもいいぐらいよ」

「マリーダと遊びに行くときは、ケーキやアイスで有名なお店をチョイスするわよね。お兄ちゃん、私もお菓子作るわ、クッキーが多いけど。そう言えばチェーミンもクッキーをよく焼いてくれるわ」

「はい、私はクッキーなどの焼き菓子をよく作ります。今はお父さんが開くレストラン用にパンケーキを練習してます」

 

「マリーダさんはバニラアイスが好きなのかな?僕の昔の知り合いにアイスが好きな子が居てね。とても美味しそうに食べるんだよ。懐かしいな」

イーノは微笑みながらマリーダの顔を眺め、何かと一緒に行動したり世話をしていたプルの顔を思い出していた。

 

「オードリーとクェスもお菓子とか料理とかするのかな?」

会話が盛り上がりだしたのを見て、すかさず会話を回すジュドー。

 

「何?私が出来ないとでも思ってるのかしら?失礼しちゃうわ。元々家は食事全般が当番制なのよ。妹達が生まれてからはローザ姉がメインだけど、手伝いは今も当番制よ。私はサンドイッチには自信があるわ。それに今は妹達の為にデザートのゼリーとかプリンとかも作るわよ。マリーダ姉のような凝った物は出来ないけどね」

「はい、学生時代からお弁当を作って来ましたので、わたくしも自然とサンドイッチが得意になりました。今はバナージが好きな煮込み料理をよく振舞ってます」

ジュドーに振られた話題にクェスとオードリーは興味を持って答える。

 

「そうなんだ。クェスって意外と家庭的なんだ。オードリーって完璧なのね。何か不得意な事ってないの?ここの女性ってみんな料理出来るんだね。羨ましい。ルーにもちょっとコツを教えてやってほしい……俺の為にって、頑張ってくれてるんだけど……。そりゃ嬉しいんだ。でもな~、アレだし、頑張ってるんだけどな……。……という事はバナージも?」

どうやら、ジュドーは新婚生活で深刻な問題を抱えているようだ。

 

「俺は元々母子家庭でしたから料理は出来ましたし、ここに来てからはエドおじさん直伝の簡単料理をよく教えて貰いました」

 

「そう言えばエドさんも料理するんだよな。前に何かの時に作って貰ったし……で、アンジェロはどうよ?」

ジュドーはこの会話に加わっていない男連中にも話題を振る。

 

「ふん。造作もない。激務でお忙しい身のフロンタル支部長の為に朝食から夜食の用意も完璧だ。支部長の体調管理の為に、厳選した無農薬素材にカロリーと栄養価計算、味はもちろん一時を優雅に過ごして頂くために見た目も大事だ。むしろ食事は一番手が抜けないところでもある」

アンジェロは腕を組み目を瞑りながら、当然だと言わんばかりの言い方だ。

 

「ぶ、ぶれないよなアンジェロは……理由は超引くけど、料理は出来るんだ。そんじゃギュネイとハサウェイは……」

ジュドーはアンジェロの言動に引き気味に、次にギュネイとハサウェイに話題を振る。

 

「…………」

「…………」

皆の注目の視線が集まる中、二人は沈黙を守ったままだ。

 

「なに?あんた達料理も出来ないの?結婚する奥さんが大変ね」

クェスは二人の沈黙の意図を察し、ため息交じりに呆れたように言う。

 

「…………ぐっ!」

「う……うう」

ギュネイとハサウェイはそのクェスの言葉のナイフが深く胸に突き刺さる。

 

「まあ、俺も得意じゃないんだけど、ここの女性陣やイーノやアンジェロが特殊だと思った方が良いし、ルーもやってくれるけど、アレだし」

ジュドーはそんな二人を見かねて慰めた。

 

そんな中、ハサウェイは正面のチェーミンに顔をよせ小声でこんな事をお願いする。

「チェ、チェーミン、今度家に帰った時でいいから料理教えてくれない?」

 

「え?うん、いいよ。お母さんにもお願いしておくね」

「ありがとうチェーミン」

チェーミンは兄ハサウェイの意外な申し出に驚いた顔をするが、微笑みながら了承する。

 

「貴様、抜け駆けとは卑怯だぞ!ぐっ」

ギュネイはそんなハサウェイのやり取りを聞き、ハサウェイを罵りながら、自分も何とかしなければと周りをキョロキョロと見渡す。

 

「あ~ギュネイ、ルーはダメだぞ。アンジェロにでも教えてもらえば?」

「断る」

「ぐっ、誰がお前なんかに!」

ジュドーがギュネイに助け舟を出すが、アンジェロは即断った。

 

 

だが、意外なところから助け舟がでる。

「ふむ、クェスはどうだ?」

マリーダだった。

 

「え?マリーダ姉、何言ってるの?」

「クェスの友人なのだろう?料理が出来ない辛さは、料理が出来るようになってからよくわかる」

どうやら、マリーダは今迄の会話で、ギュネイがクェスと仲のいい友人だと判断したようだ。

 

「違うから……はぁ、私がギュネイに料理を教えるとか。そうだ、マリーダ姉が教えれば?それだったら私も手伝ってあげるわ」

「私か?……私は……」

「だったらこの話は無し」

マリーダは逆にクェスに話しを振られるはめに。

マリーダはギュネイの顔をちらりと見て躊躇する。

やはり男性への嫌悪感から、返事をすることが出来ない。

そんなクェスとマリーダの会話に心の中で一喜一憂するギュネイは最後に撃沈する。

 

そこに更に助け船が現れる。

「私で良ければ料理教えますよ。会社の福利厚生棟のキッチンが借りれるし、そこで良かったら今度どうぞギュネイさん」

リィナだ。

リィナの面倒見のいい性格が、困ってるギュネイを見過ごせなかったようだ。

しかも兄の部下でまったくの他人とは言えない間柄だ。

 

「いいのか?」

「リィナ!?」

ギュネイの表情は明るくなる。

ジュドーはまさかのリィナの助け舟に驚いていた。

 

「お兄ちゃんがお世話になってますし、同じ会社に勤めてますし、私がサイド1に戻るまでですけど、やるからにはちゃんと料理覚えてくださいねギュネイさん。マリーダも時間があるときは手伝ってよね。言い出しっぺなんだから。それにクェスもそんなにすげなくしない。クェスもたまには来るように」

「う、うむ。そうだな」

「え~、私も?リィナさんがそう言うなら仕方が無いわ」

リィナはそう言って、結局マリーダとクェスも参加する様相でこの話をまとめたのだ。

 

ギュネイにとって渡りに船とはこの事だ。

「助かる。ありがとう」

ギュネイは自然と感謝を言葉にする。

リィナのお陰で料理を教えてもらえるだけでなく、クェスも一緒にと、リィナに感謝してもしきれないだろう。

 

隣りのハサウェイは言うまでもなくこの結末に焦りを覚える。

 

 

「……なにこれ?意外な展開なんだけど、ルーも混ぜてもらおうかな」

ジュドーはこの意外な展開に唖然とするのだが……。

軽い感じで始めるギュネイの為の料理レッスンだったのだが、カークランド・コーポレーション内で大きな波紋を投げかけることに。

 

 

直ぐに破綻するのではないかと思われたこの合コン、始めの頃に比べるとかなり軟化しつつあった。

あったのだが……後半へと続く。

 




次で合コン終わりですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 合コン再び その5終幕

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

お待たせしました。
ようやく書けました。

何とか着陸した感じです。
一応、もう一パターン考えていたのですが、最後まで悩みました。


「そんじゃ次は女性陣に質問いこっか、趣味とかって、…うーん、もういいや。ぶっちゃけ、どんな男が好みなのか言ってみよう」

ジュドーは、男性陣には無難に趣味を聞いたのだが、女性陣にはいきなりこんなぶっちゃけた質問をしだした。

イーノ以外男性陣は合コンにあるまじきスタンスをとっているからである。

バナージは当然の如くオードリーの恋人宣言。

ギュネイとハサウェイはクェス一択。

アンジェロに至ってはまるで興味が無いようなのだ。

イーノだけが真面なのだが、イーノはジュドーの仕込みもあって、男女の関係性を求めて合コンに来て居るわけではない。

元々はマリーダの男性嫌悪を軽減させるためにジュドーがイーノに参加を頼んだのだ。

ジュドー個人の思惑としてはイーノとリィナが仲を深めくっ付いてくれればという思惑もあった。

合コン開始時に比べれば多少空気はマシになったとはいえ、この状況は覆しようがない。

男性陣は既にスタンスが決まっている上に、女性陣もそれほど盛り上がってるわけでもない。

だったら、もうぶっちゃけた方がましだろうと投げやり気味にジュドーは考えたようだ。

 

 

「うんじゃ、オードリーからって聞くまでもないけど一応。個人名じゃなくって、優しいとか男らしいとか、こんな趣味の男が好きとかそう言うので答えて」

 

「わたくしですか?個人名はダメなのですね。…真面目で優しくて、わたくしを支えてくれる人です」

オードリーは目の前のバナージを見つめ微笑みながら答える。

 

「オードリー、俺もだよ」

バナージはそう言って、微笑み返す。

 

「………まあ、うん、そう言う感じで……、次はクェスよろしく」

ジュドーは合コンに相応しくない空気感を醸し出す二人を余所に、オードリーを手本に答えるようにと次のクェスに質問を振る。

 

「私?そうね。ちょっと目が鋭くて、口汚いけど、優しくて、頼りになって、医者な人」

クェスはスラリと答えを口にする。

 

「……クェス、それってまんまエドさんじゃない。クェスってファザコン?」

どうやらジュドーはクェスがファザコンだった事を知らなかったようだ。

 

「まあ、そうね。少なくともパパかパパ以上の男じゃないと嫌よ」

クェスは当然だと言わんばかりの態度でそう言い切る。

 

「「…………」」

ギュネイとハサウェイもクェスのその答えにため息を吐く。

ギュネイとハサウェイはクェスに告白したりデートに誘おうとすると、何時もこんな感じで断られるのだ。

 

「ふう、エドさん以上って条件厳しすぎない?まあ、エドさんが親父さんだとそうなるかもだけどさ。もうちょっとハードル下げようよ。そんじゃ、ここの男共だったら誰がマシ?」

ジュドーは好みの条件が厳しすぎるクェスにさらにぶっちゃけた質問を投げかけた。

ギュネイとハサウェイは当然、この質問に前のめりに聞き耳を立てる。

 

「居ないわよ」

クェスは即答する。

 

「「…………」」

ギュネイとハサウェイはガクッと首を垂れる。

 

「居ないって、まあいっか。……クェスのお眼鏡にかなう男になるには相当努力が必要だぞ。がんばろうか男共。そんじゃ、次マリーダはどんな男が好み?」

ジュドーはギュネイとハサウェイを憐れんだ目で見つめながら、マリーダに質問を振る。

 

 

「私もか?……どうしても答えないとダメか?」

マリーダは何故か若干頬を染めながらモジモジしだす。

 

「マリーダ?」

「何?マリーダ姉?」

「マリーダ姉様?」

「マリーダさん?」

そんなマリーダの普段見せない恥じらう姿にリィナやクェス、オードリーとバナージは少々困惑する。

 

「マリーダ?別に恥ずかしがることじゃないんだけど、何?好きな男でも居るの?」

ジュドーも疑問顔でそんなマリーダに言葉を返す。

 

「そ、そうじゃないんだが」

 

「だったら大丈夫じゃん、言ってみようか」

 

「ううう……そのだ。いつも優しく頭を撫でてくれて、大丈夫だと何時も言ってくれて、心が落ち着いて……その……うううう」

マリーダは顔を赤くしてしどろもどろに小声で答える。

 

「それって誰かの事を指してない?何?マリーダって好きな男いたの?合コンに呼んだのお節介だったかな?」

ジュドーはマリーダが誰か特定の人物を指している事を察するが、それが誰の事かは分からないようだ。

 

「………うーん。マリーダ姉、それってもしかして……」

クェスは若干上目使い気味にマリーダに視線を向ける。

 

「……そのだ。そ、そんな人だったら、お、男の人でも大丈夫だということでだ。べ、別にエド兄を指してる分じゃ……な、ない」

マリーダは今にも蒸気が出そうな位に顔を真っ赤にして答える。

クェスは別にエドとは言っていないが、そう言う事なのだろう。

 

「何このマリーダ、凄く可愛いんだけど」

そんなマリーダの恥じらう姿にリィナは何故だか愛おしそうに見つめていた。

 

「マリーダ姉……自分でパパって言ってるし、でも、何これ?これはこれでいいかも」

「マリーダ姉様、可愛らしいですわ」

クェスもオードリーもどうやらリィナと同じ感覚の様だ。

 

「ふぅ……エドさん基準は流石にハードルが高すぎじゃない?まあ、分からない事もないけど、エドさんって噛めば噛む程味が出るってタイプだし、うーん。そんじゃ、ここの男連中だったら誰がマシ?」

 

「だ、誰と言われてもだな……」

マリーダはそう言いつつ、バナージをチラっと見ていた。

 

「……先は厳しそうだ」

ジュドーはマリーダのその視線に気が付き、ため息交じりにぼそっと口にでる。

マリーダの男性に対しては身内で完結してしまってる理由が、過去の凄惨な出来事だけでなく、身近な男性陣がエドやバナージというのも問題があるのではないかと感じるのであった。

マリーダが接する男性陣としては、ガランシェール隊を除くと、レッドマンやアムロ等が居るのだが……。彼らも彼らで見た目や立ち振る舞いは魅力的ではあるが私生活において反面教師となってる可能性もある。

 

「も、もう私の事はいいではないか!リ、リィナはどうなんだ!?」

マリーダは皆の視線に耐えられなくなり、早口でリィナに話しを振った。

 

「私はそうね。一生懸命な人が好きかな。何かに打ち込む人って素敵じゃない?そう言う意味ではここに来てる方は皆、素敵かなって思うわ」

リィナは微笑みながらそう答える

 

「リィナ、こ、こいつ等でもいいの?こいつらかなりおかしいぞ」

ジュドーはリィナの発言に少々慌て、この合コンの主催者なのにこの言い草だ。

 

「何を言ってるの?お兄ちゃんも結構変よ。でも、実際付き合ってみて、隣に居て安心できる人だったらね。私の場合ネックはお兄ちゃんかな。何だかんだと介入してくるから」

 

「リ、リィナ。そりゃ兄として心配だからさ~」

 

「そもそも、お兄ちゃんは私じゃ無いんだから、私は気に入った人と結婚するからお構いなく」

リィナはツンとした感じで兄ジュドーにそう言い切る。

 

「リィナ~~」

 

そんなジュドーとリィナの相変わらずのやり取りにイーノは微笑む。

 

「それじゃ、チェーミンの好みのタイプは?」

ショックを受けてるシュドーを余所に、リィナがジュドーの代りに隣のチェーミンに質問をする。

 

「私はそうですね。家族を大事にしてくれそうな人です。結婚して子供が出来ても私や子供達を大切にして守ってくれて、それで家族に心配をかけないぐらい安心感がある人がいいです」

チェーミンはやけに実感がこもった答えをはっきりと言うと、目の前のハサウェイは下を向きっぱなしだ。

今迄、家族に迷惑をかけまくって来たハサウェイとしては耳が痛い話どころではない。

 

「そうなの?じゃあ、見た目のタイプとかは居ないの?」

リィナは更にチェーミンに突っ込んだ質問をする。

 

「それは有りますけど、でも最終的には見た目とかよりも、そう言うところが好きになると思います」

 

「うむ、そうだな」

「やっぱそうよね。私もチェーミンの意見に賛成よ。ハサウェイ、あんたわかってるわよね」

マリーダとクェスはチェーミンの意見に全面的に賛成のようだ。

さらにクェスはハサウェイに追い打ちを掛ける。

 

「…………」

ハサウェイのライフは既にゼロに近かった。

 

「なにこれ?そもそもここの女性陣と合コンとか厳しくない?」

ジュドーは女性陣の返答にこんな事をぼやく。

そもそもこの女性達は、合コンというシステムにそぐわない。

彼氏持ちだったり、好みが超厳しかったり、見た目を重視しないスタンスなのだ。

 

 

結局この後もこの合コンは、男女間での話は盛り上がらずに終わってしまった。

ジュドーを擁しても、この合コンの成功は難しかったようだ。

ただ、後日カークランド・コーポレーション本社にて、ギュネイの為にリィナによる料理教室が開かれ、何故だか他の社員も多数参加し、大いに盛り上がる事となった。

ハサウェイも妹のチェーミンに料理を教えてもらう事で、ギクシャクしていた家族間は軟化し始める。

合コンは失敗したが、図らずともギュネイとハサウェイは一歩、二歩と前進したと言っていいだろう。

 

 

 

 

合コン後、バー茨の園では男性陣だけで二次会が開かれる。

もちろん、バナージとイーノは含まれていない。

バナージはオードリー達と家路に、イーノはリィナと16番コロニーに先に戻ると。

そんな二次会と言う名の反省会にたまたま居合わせたエドとトラヴィスも参加することに。

 

「ジュドー、今日の合コンは……こんな時間に男連中だけってことは失敗かよ」

「トラヴィス会長、流石にあのメンバーは厳しいって」

「やっぱり今日の合コンはトラヴィスのおっさんが噛んでいやがったか、お節介も大概にしろよな」

「エドは放任過ぎるだろ?クェスは仕方がないがマリーダは何とかしてあげろよ」

「そのうちなんとかなるだろ?」

「……エド、お前な~。とことん男女の機微に疎いな。夜の女遊びはいける口なのによ」

「え?エドさん今も夜遊びしてるの?」

「昔の話だぞ。独身時代にな。今はお姉ちゃんが居る店でたまにおっさんと飲みに行く程度だぞ」

「へ~、そうなんだ」

 

 

「で、情けない連中がこいつらか……」

トラヴィスはアンジェロとギュネイとハサウェイの若者達を目を細めて見やる。

 

「アンジェロ、合コンの意味わかってる?女の子を誘うつもりなんて無いだろ?そもそも何で断らずについて来た?」

ジュドーは先ずはアンジェロにダメだしを始めるのだが……

 

「ふん。隊長の妹であるリィナ・アーシタが参加すると聞いたからな。会社では才色兼備であるともっぱらな噂が流れていたため、見極めに来たまでだ」

「えええ!?まじ?アンジェロ、お前、リィナ目当てだったのか?」

「そうだ」

「でもさ、リィナとお前、あんまりしゃべってなかったじゃん」

「見極めに来たと言った。噂通りの女なのかと」

「なんでお前は上から目線なの?で、どうだった家の妹は、出来た妹だろ?」

「そうだな、隊長の妹だからと大雑把で雑な女なのではないかと危惧していたが、ほぼ噂通りの女性のようだ」

「ほう、アンジェロ、惚れちゃった?」

「何を言っている?俺は見極めに来たと言っている。フロンタル支部長に相応しい女性なのかとな。フロンタル支部長に言い寄る女性は星の数ほどいるが、フロンタル支部長に釣り合う女性は皆無。ならば、俺が代わりにフロンタル支部長に相応しい女性を探し、噂を元に今回の合コンに参加したまでだ」

「………お前、頭大丈夫?」

「ふん、リィナ・アーシタ。あの若さで次期主力コロニーの支店長に抜擢されるほどの才女にて、家事スキルも相当な物を持っているようだ。周りへの気配りも出来、不出来な兄を支える包容力も持っている。容姿も多少童顔だが合格点だ。体格は少々貧相ではあるが問題無いだろう。年は少々行ってるが、フロンタル支部長の伴侶候補としては、ギリギリ許容範囲だ」

「……………お前、俺に喧嘩売ってるの?」

「何がだ?」

「……おい、アンジェロ、そのフロンタル支部長とかいう奴連れて来い!」

「ほう、早速見合いの席を設けるという事か」

「お前とそのフロンタル、まとめてモビルスーツでぎったんぎったんにのしてやる」

「ふっ、いいだろう。伴侶候補リィナ・アーシタの身内である隊長の力もフロンタル支部長にも体感してもらった方が良いだろう」

「ぜったいだからな!!」

ジュドーは珍しく怒りを露わにするが、まあ、当然だろう。

しかも、アンジェロとジュドーの話の内容は噛みあってないのに、なぜか同じ結論に至っていた。

 

「おもしれ~、許可するぞ。時間や場所とモビルスーツは俺が用意するし」

「おっさん何面白がってんだよ!おい、ジュドーも穏便にな!?お前とフロンタルが戦ったらヤバいだろ?」

トラヴィスはその成り行きを面白そうに許可し、エドも珍しく止めに入った。

 

 

 

「ギュネイとハサウェイも合コンに参加してたのかよ。クェスには相変わらず振られてるようだな」

「エド先生、クェスはどうしたら振り向いてくれますか?」

「………」

「あれじゃないか?まず友達からってのがセオリーじゃねーのか?」

「小僧共、エドに聞いても無駄だぞ。この医者は名医だが、恋愛ごとについてはポンコツだからな」

「はぁ、ギュネイはがっつき過ぎだっての。まじストーカーだぞ。クェスが通報しないだけマシだっての。ギュネイは何時もの落ち着いた感じで接すればいいんじゃない?スレイブ・レイスの中ではクールなイケメンって事で結構モテてる感じなのにさ」

「…………何時もの俺でいいのか?」

「ハサウェイの小僧は、あれだな。先ずは家族にちゃんと贖罪をしろ。クェスは家族を非常に大事にする。家族を蔑ろにして来た今の小僧じゃ、何年経ってもクェスは振り向かねーぞ」

「……それは分かってるんですが、なかなかうまくいかなくて」

「はぁ、闘いばっかりやって来た弊害か?そんじゃ、俺が若いお姉ちゃんの居る店に遊びに連れて行ってやる!お前らついて来い!」

トラヴィスは何時ものノリで、男共を誘う。

 

「ふん、興味が無いな。俺の用は終わった。ここで帰らせてもらう」

「俺はいい……」

「僕も遠慮します。明日も早いんで」

アンジェロ、ギュネイ、ハサウェイはそれぞれの理由でトラヴィスの誘いを断る。

 

「マジでか!?そんなんだから、女一人釣れねーんだ。エドを見て見ろ!!目つきが悪くて、こんな唐変木だが、俺が散々女遊びを教えてやったお陰で、モテモテだぞ!!」

「おっさん、何言ってんだ?俺がモテた事なんて一度もないぞ。店行っても、いっつもおっさんの一人勝ちじゃねーか」

「……このニブチンの鈍感野郎は相変わらずだな。エドも来い!ジュドーもな!?」

 

「会長流石に俺は新婚だからさ……、結婚前に誘って欲しかったな~」

「おっさん、女遊びも程ほどにな。おっさんもう65だろ?どんだけ元気なんだよ」

 

「ジュドーもいいじゃねーか!今日合コンOKだったんだろ?だったら今日一日独身ってことだ!エドはもちろん行くだろ!?小僧共に真の男の大人の心意気を教え込ませてやるぞ!!」

トラヴィスはノリノリでバーの会計を済ませて、夜の大人の店へと若者達を誘おうとするのだが……

 

 

「元気そうねトラヴィス、ふーん。私より若い子が好きなんだ」

「トラヴィス、エドを悪の道に引き込むのはやめてもらおうか」

「会長!ジュドーに何を教えるつもりですか!?」

そこに、23歳年下の嫁のアンネローゼとエドの嫁のローザ、さらに新婚ほやほやのジュドーの嫁のルーが何故だか現れる。しかも仁王立ちで。

 

「ロ、ローゼ!?なんでここに!?しかもローザちゃんにルーまで?」

トラヴィスは珍しく慌てふためいていた。

 

エド家では妹達は合コンや仕事で留守にし、子供たちはアムロの家に遊びに行っており、今日はエドの家にはローザだけという事も有って、アンネローゼはルーを誘ってローザの家に遊びに来ていたのだ。

 

エドは事前にトラヴィスとバー茨の園で飲みに行く事をローザに伝えており、ルーもジュドーから二次会でバー茨の園に行くとメールがあったため、アンネローゼの提案で、エド達と合流しようと言う話になり、ここに現れたのだが……。

タイミングが悪かった。

 

この3人にトラヴィスが説教を喰らうだけでなく、エドとジュドー、若者3人もその巻き添えを喰らい、クドクドとダメだしを………。

 

 

その裏では……

バナージはオードリーと帰り、イーノはリィナと16番コロニーへと戻るという名目だったのだが、実は二人は改めて落ち着いた店で女性陣達と二次会を行っていたのだ。

その二次会は実に和やかだったとか。

 




アンジェロ君の未来はどうなるのだろうか?

ギュネイはどうやら、会社ではモテてるようですが、本人が全く興味が無いようです。
ハサウェイは社交性は高いようですが、クェスを好きになったのが運の尽きなのでしょうか?とりあえずは家族との信頼関係の再構築が優先ですね。

マリーダさんにいい人見つけてあげたい。
閃光のハサウェイの登場人物でいい人は居ないだろうか?
うーん。ケネス大佐は随分とナンパな感じだし。
レーンは、なんか似合わないよね。
やっぱ、イーノかな。

リィナ、まさかのリィナ×フル・フロンタルルート?
そりゃ、ジュドー君も怒りますわ。
そこからの、リィナ×アンジェロルートに?
いや、リィナの料理教室で、リィナ×ギュネイルートもあり?

クェス……
ギュネイとハサウェイとどちらかと結ばれるのかな?
それともまさかのアルベルトさんルート。
なんか想像つかない。

チェーミン……。
意外とギュネイとか良くないかな。
ブライトさんが許してくれるかは別にして。
でもイーノだったら許してくれそう。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 ハマーンの忘れ物①

ご無沙汰しております。
閑話です。
昨年に①は完成していたのですが、ようやく公開に踏ん切りがつきました。
時代背景は、(Twilight AXIS)がベースとなっております。


 

宇宙世紀0096年7月中頃

 

カークランド・コーポレーション所属の小型輸送艦は任務のため、とある小惑星に向け航行していた。

 

小型輸送艦の名はガランシェール。

ほんの数か月前まではネオ・ジオン残党組織「袖付き」の麾下にあり、モビルスーツを三機搭載可能な特殊作戦遂行のための偽装輸送艦であった。

だが、3月に起きたラプラス事変後、艦長スベロア・ジンネマン以下乗組員は全員艦船ごとカークランド・コーポレーションへ所属することとなった。

 

 

現在航行中のガランシェールにはゲストが乗っていた。

 

艦長のジンネマンは艦の第二ブリッジに設置したゲスト用シートに座る妙齢の女性に声を掛ける。

 

「ローザ殿、マリーダの容態はどうですか?」

「ジンネマン、それ程気になるのなら病室に顔を出せばいい」

「父親失格なのかもしれませんが……あの子が辛い思いをしている姿を見るのはしのびなく……足が遠のいてしまい」

「術後は良好だ。エドが手術を施したのだ当然だ」

「そうですか、マリーダは皆さんと、その…上手くやってますか?」

「マリーダから毎日のようにメールが送られているのではないのか?」

「そうなんですが、お恥ずかしい話、親子というよりも上司と部下のやり取りが抜けず、内容が淡々とした軍務報告書調でして」

「ふむ、そうか。現状、特に問題はない。リゼもいるのだ。マリーダが暴走するような事はない」

「そうですか……この任務を終えた後、休暇を取り、ヘイガー診療所にお伺いすることにします」

「そうするがいい」

そう、ローザがこの艦に乗っていたのだ。

ジンネマンはローザに、義理の娘となり、現在エドの元で強化処置の後遺症治療のため長期入院し、7月初旬に1回目の手術を受けたばかりのマリーダ・クルスの様子について聞いていたのだ。

 

しかしなぜ、ローザがこの艦に乗っているのか?

 

 

話は1週間前に遡る。

エドの家に、トラヴィス・カークランドが訪ねて来る。

しかし、いつもと少々様子が異なっていた。

このトラヴィスがエドの家に来ること自体は珍しい事もなんともない。

エドとトラヴィスは古くからの友人関係であり、しょっちゅうエドを訪ねて遊びにつれまわしていたのだ。

だが、この日のトラヴィスはエドでは無くローザを訪ねて来たのだ。

カークランド・コーポレーションの社長兼スレイブ・レイスの頭領として。

 

ヘイガー家のリビングで、トラヴィスは神妙な面持ちで対面のソファーに座るエドとローザの夫婦にこう話しを切り出した。

「ローザちゃん、エドも聞いてくれ、実は小惑星モウサが見つかった」

 

「……まさか」

「何だそのモウサって?」

その名を聞いてローザは少々驚いた顔をし、エドは全く聞き憶えがない様子だった。

 

「……モウサは嘗てアクシズに接合していた小惑星であり、アクシズの居住区であった」

ローザは疑問顔のエドに簡潔に述べる。

 

「って、おい、それってお前が育った場所ってことか?」

 

「そうだ。だが……グレミーとの最終決戦でモウサはアクシズから切り離され、当時の我々の拠点であったコア3(コロニー)にぶつけられ、双方破壊されたはずだ」

ローザは少々考え込むような表情でエドの質問に答える。

第一次ネオ・ジオン紛争時、ネオ・ジオンはハマーン派とグレミー派は内部抗争に発展し、血で血を洗う泥沼の戦いへと転じていた。

その最終決戦時に、グレミー派はアクシズの居住区であるモウサを、有ろうことかサイド3のコア3というハマーン派の拠点であるコロニーに直接ぶつけ、破壊するという暴挙にでたのだ。

 

「いや、破壊されたのはコア3だけだったようだ。モウサはどうやらその破壊の衝撃でサイド3宙域を離脱し、この新サイド6があるL5宙域の外延付近に彷徨っていた。破壊の衝撃の影響で表面が一部削り取られているような姿となりはて、今までモウサと確定出来なかった」

 

「ほう。おっさん、そのモウサって小惑星は機能しているのか?」

エドは興味深そうにトラヴィスに相づちを打つ。

 

「外部からの観測では機能は停止状態だそうだ。人の出入りも見られないとある」

 

「ん?まだ、調査隊を派遣してないのか?……という事はだ」

 

「そうだ。ローザちゃんに調査を手伝ってもらいたくてな。これ程アクシズに詳しい人物はいないだろ?」

 

「……はぁ、そう言う事かよ。だからローザか……。調査隊の水先案内人ってことか、これってアレか?連邦関連の依頼か?」

 

「そう言う事になる。依頼者は連邦関連ではあるがその辺は少々ややこしい事になっててな。今回は俺の会社が主体となって調査を行うつもりだ」

 

「おっさんの会社で調査するっていう事ならあまり問題無いか、ローザはどうする?」

エドはトラヴィスに相づちを打ちながら、隣に座るローザに聞く。

 

「…………」

だが、ローザは難しい顔をし黙ったままだった。

 

「ん?なんだ。お前の故郷みたいなもんだろ?帰りたくないのか?」

 

「そうではないのだが……」

 

「……おっさん、俺も一緒に行っていいか?」

エドは、そんなローザの様子を見てこんな事を言いだす。

もしかすると、破壊された故郷を見るのは辛いのかもしれないと思い、ならば自分も一緒に行く事で、ローザの精神的負担を軽減させようと考えたのだ。

 

「エドがか?」

トラヴィスはエドが同行することを考えてなかったようだ。

 

「俺もローザの育った故郷を見て見たいと思ってな、一緒にな」

 

「エド……、エドがそう言ってくれるのは私も嬉しいが……、今回は私一人で同行しよう」

ローザは本来ならば、嬉々としてそのエドの申し出を受けるだろうが、何故かこの時は断りを入れる。

 

「ん?なんでだ?」

 

「行ったとて何があるわけでもない。それに危険を伴うかもしれん。私なら自分の庭のような場所だ。目を瞑っても進めるだろうが……」

 

「ローザちゃんの言う通りだな。今回は初回調査だ。不測の事態もあり得る。安全を確保しながらとなるだろう、エドは足手まといになる。すまんが今回は遠慮してくれないか」

トラヴィスもローザの意見と同じくし、エドの同行をはっきりと拒否する。

 

「おいおい、別に戦闘になる事はないんだろ?俺だって元軍人だぜ。一年戦争だって、デラーズの反乱も乗り切ってきた」

 

「エド、お前ははっきり言って荒事に向いてないんだよ」

 

「はぁ?大丈夫だろ。おっさん所の調査隊も一緒なんだろ?」

 

「まあ、そうなんだけどよ。俺の会社からアムロと数人、連邦からも立会人も含め少数精鋭での行動となる」

 

「おいおい、連邦軍の連中も来るのかよ。ローザとアムロが行ってもいいのかよ。連邦にバレたりしないのか?そっちの方が心配なんだが」

 

「大丈夫だ。そこは抜かりない。だってよ連邦からの立会人はウラキだし」

トラヴィスはそこで意外な人物の名を出す。

エドの古くからの友人であり連邦軍モビルスーツパイロットのコウ・ウラキである。

確かにウラキはローザが嘗てのハマーンであり、アムロが今も生きている事情も知っている数少ない連邦軍人だ。

 

「まじか?……おっさん。こんどはどんな裏技を使ったんだ?」

 

「ウラキの件は正直たまたまだ。依頼人の連邦のお偉いさんの麾下にウラキの部隊があったから俺が指名しただけだぜ」

 

「そういえば、コウの奴、サナリィとかいうモビルスーツ研究所で臨時教官をやりながらテストパイロットやってるって聞いてたが……。それと関係あるのか?」

エドは友人であるウラキとは定期的に連絡を今も取り合ってる。

 

「エド、なかなか鋭いな。関係大ありだ。連邦内部の勢力争いがサナリー内でも起こってる。サナリィはアナハイム・エレクトロニクスや今迄のニュータイプ研究所とは全く別のコンセプトの組織だ。正式名は海軍戦略研究所、要するに戦争の戦術や戦略を研究する目的で作られた組織だが、モビルスーツについても独自に設計開発を行い始めている。コンセプトもいいところを突いている。中々面白そうなところだ。だが、そのサナリーを利用して一儲けや派閥争いをやろうっていう政治屋将校らが手を出すタイミングを虎視眈々と狙ってる」

サナリィは元々は戦略研究所であったが、第二次ネオ・ジオン抗争以降、モビルスーツの独自開発にも力を入れていた、

 

「おっさんがわざわざその政治闘争に足を突っ込むって事は、なんかあるな?」

 

「まあ、そんな所だ。だが、今回の俺んところの依頼者はその中でも随分とマシな考えを持ってる奴だからその辺は安心してくれていい」

 

「おっさんは相変わらずだな……足をすくわれるなよ」

 

「はっ?そう簡単にすくわれるかよ」

トラヴィスはエドの忠告に不敵な笑みを浮かべる。

 

「それは置いといてだ。ウラキが来るんだったら尚更俺も行きたいぞ」

 

「エドを危険な目に遭わせたくない。私の身一つであれば何とでもなるが……エド今回は」

ローザはエドに懇願するかのようにこう言って説得する。

 

「モウサの安全性が確実視すれば、次の機会にでもエドとローザちゃんを必ず招待するからよ。今回はローザちゃんだけで勘弁してくれ」

 

「はぁ、わーったよ」

ローザやトラヴィスにこうも言われてしまえば、エドも引かざるを得なかった。

 

こうして、ローザは小惑星モウサの調査隊に同行する事となったのだった。

 

 

 

 

話を戻す。

 

「ふぅ」

ローザはガランシェールが進む先のモウサがあるだろう宙域を見据えながら深い溜息を吐いていた。

なぜローザがこれ程までにエドと一緒に行きたがらなかったのか?

それは、ただ単に危険だからという問題では無かった。

 

ローザはトラヴィスから小惑星モウサが現存している事に、明らかに驚き困惑していた。

 

実はローザはハマーン時代にモウサのとある隠し部屋の机の引き出しに、エドには決して見られたくない物を入れていたのだ。

 

ローザはモウサがもう破壊され跡形もなく消し飛んだと思い安心していたのだが、モウサが現存しているという事は、そのエドに見られたくない物も残っている可能性が非常に高い事を示していた。

ローザは気が気で仕方がなかった。

もし、それが誰かの手に渡り、公表でもされ、それがエドに見られでもしたらと思うとゾッとすると……。

ローザは宇宙(ソラ)を眺めながら、アムロやウラキ、調査隊にも気付かれずに、その隠していた物を確保しこの世から消し去ろうと決意していた。

 

 

エドに決して見られてたくない物、ローザがハマーン時代に隠し持っていたものとは何なのか?

 





②も週末にはアップ予定。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 ハマーンの忘れ物②

早速の感想ありがとうございます。
誤字脱字報告も非常に助かります。

では続きです。


 

『大佐、次はあちらに向かいましょう』

『そう急くこともない、ハマーン』

『せっかく、お忙しい身の大佐が、わたしのために時間を作ってくださったのですから』

『案内を頼んだまでだったのだがな……』

歳は13、4のピンク髪の少女が愛らしい笑顔を向け、額に傷がある20前後の若い金髪の偉丈夫の手を引き、小惑星モウサ内にある農場区域をツインテールを揺らしながら楽し気に歩く。

 

 

(や、やめろ!!やめるのだ!!あああああああっ!!!!………ゆ、夢か)

(悪夢だ。なぜ昔の私はあのような男に……、あの写真とアルバムだけは処分せねば……あれをエドにみられることこそ本当の悪夢だ!!)

ローザはガランシェールのゲスト用シートでうとうとと少々眠りについていたが、悪夢という名の過去の記憶が蘇り、うなされ目が覚める。

 

そう、ローザがモウサに向かうことを決めた理由、さらにはエドを連れて来たくなかった理由がこれだった。

かつて、ハマーンだったローザは、一年戦争がジオンの敗北で終結した後、ドズル・ザビの奥方と娘であるミネバと共にアクシズに逃れてきたジオンのエースパイロット、シャア・アズナブルに恋をしていた。

出会ったのは宇宙世紀0080、13歳の時。

シャアに気に入られたい一心で、お気に入りのツインテールを切り、シャア好みのショートヘアにまで……。

そして、15歳の時にシャアはハマーンを置いてアクシズを出ていってしまう。

再会したのはグリプス戦役の真っただ中の19歳の時だったが、それまでも、シャアを思い恋に焦がれていたのだ。

そして、アクシズの居住区であるモウサにはハマーンが一人になりたいときに使用していた隠し部屋に、シャアとの思い出の写真やそのアルバムを大切にしまっていたのだ。

 

一般的に見て、シャア・アズナブルは非常に魅力的な男性である。

その貴公子然としたルックスに、紳士的な振る舞いや言動から仕草に至るまで、女性だけでなく男性すらも引き付ける魅力にあふれていた。

少々芝居じみた言動(中二病チック)すらも魅力に映ってしまうのだ。

少女から大人になろうかという年齢の多感な時期の少女からみれば、どうだろうか?

しかも、上流階級の箱入り娘のハマーンならなおさらだ。

目の前にいるだけで、自分を迎えに来た王子様に見えても致し方がないだろう。

シャアの本性を知らない当時のハマーンからすれば、恋焦がれても致し方がない。

シャアの本性を知ったとしても、狂気を感じざるを得ないが、それはそれで大人の女性からみれば、その狂気とのギャップが魅力的に映ったり、保護欲にかられるのかもしれない。

 

シャアの本性を知り、エドの温かさを知った今のローザからすれば当時のシャアへの恋心は、黒歴史そのものであろう。

その時の写真やアルバムがもし、昨年結婚したばかりの最愛の夫であるエドに見られたのなら……。

羞恥心で死にたくなる。

その事で、エドのあの暖かい温もりが遠のいてしまうかもしれない。

そう考えると、絶望に近い暗雲とした思いが溢れ、どうしようもない焦りを感じてしまうのだ。

もし、ばれたのなら、レッドマンを殺して、自分も自害しようなどとも考えるほどだった。

 

まあ、エドにばれたところで、エドは気にするような男ではない。

ハマーンだったローザがシャアに恋心を寄せていたことはエドも知っているし、むしろ、若い頃のローザの写真を見ることができて、喜ぶだろう。

 

だが、恋に恋し恋心をこじらせているローザにとって、絶対的にノーだった。

 

「ふぅ……いかん」

宇宙空間の向こうにあるだろうモウサに視線を自然と向け、何が何でもあの写真とアルバムを抹消させようと再び決意するローザ。

 

 

 

 

その頃、ガランシェールのモビルスーツ格納スペースでは。

「アムロ中佐!こうやって直に会うのは初めてですね。是非お話を!」

「中佐?」

「失礼しました!二階級特進されてデータ上は中佐に、生きておられるから大尉ですね!」

「ウラキ大尉、今の俺は軍属ではない。死んだことになってる身だ」

「では、なんとお呼びすれば……」

「君と俺は同じ歳だ。タメ口でいい」

モウサ探索に向け各種確認作業を行ってるアムロにコウ・ウラキが話しかけていた。

興奮気味に話をしようとするウラキに、アムロは苦笑気味に対応する。

数々の功績を残した伝説のパイロットが目の前にいるのだ。

モビルスーツバカのウラキがこうもテンションがあがるのも致し方がないだろう。

 

アムロは現在32歳、民間企業であるカークランド・コーポレーションの取締役の一人で、技術開発部門のトップでもある。

ガランシェールの乗組員の中で、立場的に一番上である。

一方ウラキも32歳、今年早々に連邦軍オークリー基地からサナリィへ出向という形で、モビルスーツ訓練教官兼テストパイロットという立場となった。

現在、アナハイム・エレクトロニクスを辞めた2歳年上の妻ニナと8歳になる娘共々、サナリィの研究所がある月面都市フォンブラウンへ移り住む。

ニナはサナリィへの再就職を希望しているが、その手続きにいささか手間取っていた。

元アナハイム・エレクトロニクスの社員ということで、裏があるのではないかなど、精査されているのが実情だ。

因みにウラキの相棒であるチャック・キースというと、オークリー基地のモビルスーツ隊部隊長として少佐にまで出世していた。

連邦軍は全体的に人材不足もあって、戦闘経験豊富なキースは周りの勧めもあり、軍大学に入り、佐官教育を受けてのことである。

ウラキよりも全体的に柔軟な思考を持ちコミュニケーション能力も高いキースならではではないだろうか。

ウラキはキースに先んじられた感はあるが、ウラキはウラキで実績を積み、この出向でおおよその佐官要件を満たすまでに至っていた。

後は、半年間の教育を受ければというところまで来ていた。

 

 

私生活では女性問題で現在絶賛頭を悩ましているアムロは、このモウサの調査はいい息抜きになるはずだったが、しばらくウラキに金魚の糞のように付きまとわれることとなる。

 

アムロがモビルスーツ格納スペースで忙しなく各種作業を行っている理由は、サナリィからガランシェールに試験運用評価実験を行うためのモビルスーツが積み込まれているからだ。

そのモビルスーツは特殊作戦用可変小型モビルスーツD⁻50Cロトのバリエーション、特殊工作作業用と輸送運用用、民間災害活動用の3機。

ロトはサナリィが開発したタンク形態へと変形できるモビルスーツというよりも、人型戦車といった様相だ。

突出した要素として、全高12.2mと従来のモビルスーツに比べ圧倒的に小型であった。

ガランシェールの狭い格納スペースでも無理に積めば6機積めることができる。

その分スペック的にはモビルワーカーよりではあるが、戦闘にも十分耐えられるとして、モビルスーツとして登録されている。

実際に戦闘用のロトはすでに連邦軍特殊部隊エコーズで運用されている。

今回はモウサ内での移動などでの試験運用予定だ。

このような小惑星や廃棄コロニーなどの調査は、小型でタンク形態に変形できるロトの真価が発揮される運用方法であることは間違いない。

 

 

 

ガランシェール第二ブリッジの正面ディスプレーに目的の小惑星が徐々に近づいていく映像が映る。

小惑星モウサ、以前緩やかな楕円形だった形状は、コロニーとの衝突の衝撃でいたるところが欠けて歪な形になってはいたが、その姿にローザは何故だか懐かしい気分にさせられる。

「まもなくモウサに到着です。宇宙港に着岸可能か確認作業を行う間に、ノーマルスーツ着用の上、格納庫で待機願います」

ガランシェールの女性クルーがローザにそう告げに来る。

 

「わかった」

ローザはそのまま女性クルーに更衣室まで案内される。

 

 

ローザはノーマルスーツに着替え、格納庫に向かう。

「ローザ、来たか」

「ローザさんよろしく」

「ああ」

そこにはアムロとウラキが待っていた。

 

アムロはローザとウラキに改めて、今回の小惑星モウサの内部調査に同行するカークランドコーポレーションの社員である4名の隊員を紹介する。

何れも、元連邦軍兵士だったり元連邦軍開発や情報局の人員だったりする。

これはローザやウラキに考慮した人選である。

元連邦兵士であればハマーンだとばれにくいし、現在連邦軍所属のウラキとしてもやりやすいというのと、ばれたとしても口の堅い人間を選んでいる。

 

 

アムロは他の隊員から離れ、ローザを呼び寄せる。

「ローザちょっといいか、アクシズ総督府はモウサ内にあると聞いているが、予定通り案内を頼む」

「うむ、建物施設が残っていればの話だがな。恐らく、グレミーに乗っ取られ、捨て石にされた段階で必要なデータは奴らにすべて接収されているだろう」

「そうか……」

「ふん、トラヴィスがわざわざこのような調査を大々的に行わずとも、私から情報を得た方が早い。だが、情報の出所(私)を連邦から隠す意味でも、今回の調査を行うことにした……。いや、それだけではないな、トラヴィスが言う連邦内の派閥争いなどの政治的思惑が絡んだ結果か。実にばかばかしい」

モウサはアクシズの居住区域であり、アクシズ内の市政を司る総督府は当然モウサ内にあった。

そもそもモウサが先に資源採掘のため開発発展し、モウサの資源の枯渇を見越してより強大な資源が眠るアクシズを後に接岸させ、さらには要塞化したのが当時のアクシズの姿だ。

それを取り仕切っていたのがハマーンの父であり祖父であった。

そのモウサとアクシズはグレミーの反乱により、グレミー側に乗っ取られ、当時ハマーンが拠点としていたサイド3のコア3コロニーに、アクシズからモウサを切り離し質量爆弾として突撃させたのだ。

当然、グレミー側はモウサを突撃させる前に重要な情報はすべて引き揚げている。

ただ、モウサを突撃させ、破壊されるだろう事を予想して、情報の消去等は行っていない可能性はあるし、それ以外にも何か情報が残っている可能性もある。

連邦もそれを期待して、モウサの調査を依頼したのかもしれないが、それがメインではない。

トラヴィスもわざわざモウサの実地調査を行わなくても、アクシズ執政官のハマーンであったローザから聞き取りをすれば、より正確な情報を得られえるハズだ。

ローザが言うように、情報源の隠蔽のために実地調査を行うにしては、わざわざモウサにローザやアムロを連れて本格的に実地するとは、別の思惑があるとみていい。それはトラヴィスがこの話を持ってきたときに話していた連邦内の派閥争いが関係しているのだろう。

 

「ああ、そうだろう。連邦は今更だがアクシズにも同時に調査隊を派遣している」

アムロはローザの意見を肯定しつつ、今更というのも当然だ。

3年前アクシズショックで二つに割れたアクシズは、外からの監視は行われていたが、この3年間ほぼ放置状態で内部調査を本格的に行っていなかったのだ。

それに、アクシズはハマーンとグレミーが倒れた後、連邦によって4年間管理されていた。

アクシズを地球に落とすためにシャアに一時的に占拠されていたとしても、今更の話である。

 

「ふむ、確かに今更だ。アクシズに搭載されていた『設計支援システム』『自動生産設備』は当然接収されているだろうし、アクシズのモビルスーツ等の兵器群の設計図データは、当時、私がアナハイム(アナハイムエレクトロニクス)に大量生産させるために渡してある。今となってはアクシズやモウサにそれほど価値はない」

 

「今回の話の裏にはサナリィをめぐる政治的縄張り争いだけでなく、アナハイムも裏で噛んでいる。さらに第三勢力としてブッホ・コンツェルンも介入しようと手を出してきたところを、トラヴィス社長がそれを食い止めるために、今回の話に乗ったようだ」

 

「うむ、そういえば、そのようなことを言っていたか……」

トラヴィスからモウサ調査の話をもって来た時に、確かにトラヴィスはローザとエドにこの辺りの話していた。

万が一の時のためにもエドの同行はやめた方がいいと説得していたのだが、ローザはあのシャアとの写真やアルバムの事で気が気でなく意識をほぼそちらに奪われており、この辺の事は話半分にしか聞いていなかったのだ。

因みに、ブッホ・コンツェルンとは、近頃勢力をつけてきた工業総合メーカーで、アナハイム・エレクトロニクスの下請けでモビルスーツのパーツなどを多量に生産していた。

元はカークランド・コーポレーションと同じく、モビルスーツ等の残骸を売りはたいていたジャンク屋であったのだが……。

この会社がのちのコスモ・バビロニアの大元であった。

この頃から、将来を見越して、モビルスーツなどの開発を独自に着手し始めていた。

 

 

「……ん、どうやらモウサの宇宙港が使えるようだ。キャプテン(ジンネマン)から着岸すると連絡がきた」

アムロはイヤホン型の通信機で連絡を受ける。

 

いよいよモウサへと、ローザは現在28歳、実に7年ぶりに誰もいない実家への帰還である。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 ハマーンの忘れ物③

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

遅くなりましたが続きをどうぞ。


 

モウサに到着したカークランド・コーポレーションの調査隊一行は、宇宙港にモビルスーツロト3機と荷を降ろし、内部調査の準備を進めながら、宇宙港一帯の調査を同時進行で行っていた。

 

アムロは宇宙港の調査を一通り終えて、ローザに尋ねる。

「さすがに主電源は落ちているようだ。宇宙港の予備電源は再稼働できたが、エアコントロールシステムは生きていない。ローザ、エアコントロールシステムはこの予備電源とは別に独立した電源を確保しているのかい?」

「モウサには太陽光発電は無い、4基の原子炉で全ての電源を賄っていた。予備電源はそれぞれのブロックに独立した流体サイクル式の半固体バッテリーで蓄電していた物があるはずだが、必要最低限の稼働で最大1か月は持つよう設計されている。本来エアコントロールシステムも連動しているはずなのだが、それが稼働していないとなると相当ガタが来ていると見ていいだろう。それに既に電力供給が停止してから7年以上が経っている。予備電源もいつ落ちるか分かった物ではない」

「なるほど……、調査の結果、放射能漏れがない。ということはだ、原子炉自身は破損していないだろう。だが凍結状態にあればいいが、システム自身が破損している可能性が高いということか」

「ああ、そう言う事だ」

「それにしてもローザ、元摂政官とはいえ、よく細かい事までも知っているな」

「当然だ。モウサは祖父によって開発された元は資源衛星だ。それを祖父から父へ、そして私と引き継いできたのだ。誰よりも知っていて当然だ」

アムロはローザがモウサの全容を細部まで知っていたことに感心していた。

だが、ハマーンだったローザにとって、それはモウサやアクシズを管理してきた一族として当然の知識であった。

 

「そうか、ここは君の故郷でもあったな、……いや、すまない」

アムロは一度はそう言ったが、ローザにとって故郷である場所が、既に人が住める状態では無い状況に、少々デリカシーが無い発言だったと謝る。

 

「変な気を使わないでもらおうか、私自身はサイド3で生まれ育った。ただ単に一族が管理していたというだけに過ぎない」

ハマーンだったローザがモウサ及びアクシズで過ごした期間は12歳から21歳までの9年弱だ。

第二の故郷と言っても差支えの無い時間を過ごしてきていたが、ローザの人生にとって苦難の時期でもあり、あまりいい思い出が無い。

アクシズとモウサに移り住み、しばらくして父が死に、後ろ盾だと思っていたシャアが何かと理由を付けアクシズを出て行き、政争の最中、僅か15歳で摂政官に担ぎ出され、ジオン再興という大事業がその小さな双肩に圧し掛かかることとなったのだ。

ハマーンは、自分と言う感情を押し殺し全てをなげうって、アクシズを一大勢力まで押し上げてきた。いや、それ程の才覚があったからこそ、成しえたと言っていいだろう。

ある意味、シャアはハマーンの才能を見出していたと言える。

ただ、ハマーンが青春真っ盛りの少女である事を考慮せずに……。

あのハマーン・カーンの強硬な立ち振る舞いは、若輩者である自分を理解した上で、統制を図るため強者を演じ続けなくてはならない中から生まれてきたのだろう。

 

「……そうか」

ローザの心情を思い、アムロはこれ以上言葉にしない方がいいと判断する。

 

 

しばらくし、アムロはローザとコウを含む隊員達に今後の予定を伝える。

「第二プランで行く。今日は居住区及び中央政庁の探索、明日はこの宇宙港とは反対側にある原子炉周囲の調査だ」

宇宙港の状況からモウサの原子炉は生きているが凍結状態だということ、宇宙港ブロックの予備電源は稼働出来たが、エアコントロールシステムが稼働出来なかったため、ライフライン系のシステムはほぼ潰滅的だと予想がたった。

アムロはモウサの再起動は現状では不可能だろうと判断し、調査をメインにした行程プランを選択したのだ。

 

出発の準備を進める中、アムロはローザにこんな事を聞いた。

「しかし、嫌な感じがする。どう思うローザ?」

「ああ、私もモウサに入る前から違和感を感じていた」

「そうか、君もそう感じるか、何なのかは分からないが、十分な警戒が必要だな」

ノーマルスーツ姿のアムロとローザはニュータイプ能力でモウサに何かがあると感じていたのだ。

 

アムロの指示でロト三機編隊を組み、タンク形態で宇宙港から居住区へ縦一列に並び、ライトを照らしながら進む。

先頭の特殊工作用ロトはアムロが操縦し複座にローザ、続いて輸送用ロトにアムロの部下が操縦、コウと隊員3人が輸送ラックの簡易シートに座り揺られている。後方に災害活動用のロトと続く。

 

「………」

ローザは道中、暗闇の中、ロトのライトに照らされて荒地が広がってる様をみて、顔をしかめる。

そこはかつての農業畜産地区であり小麦畑等が広がり乳牛などの家畜がのんびりと過ごす光景が見られる場所だった。

 

「町は原型をとどめているようだ」

「人が住める有様ではないがな……」

居住区に到達すると、19世紀頃のヨーロッパの街並みを思い起こすような4.5階建ての集合住宅が建ち並んでいるのが見て取れるが、建物はそのほとんどが半壊し、人が住める状態にはとても見えなかった。

以前は、ロンドンを彷彿させる荘厳かつシックな街であった。

 

ローザにとって良い思い出が少ない場所ではあるが、自分の故郷と言ってもいいこの場所のこの有様に自然と伏目がちとなる。

 

暗闇の街並みの中をロトのサーチライトで照らしながらゆっくりとした速度で進む。

「やはり町にも電気や空気は来ていないようだな」

「システム自身が破損した可能性が高いという事だ」

「放射能漏れの兆候はない。予想通り原子炉は停止しているが生きている可能性は高いということだな」

「稼働の可能性は低いが、町の予備電源の制御盤はモウサの中央管制室と官邸にある……ここからだと目的地の官邸が近いだろう」

「案内を頼む」

 

更にサーチライトを照らしながら進むと、高台に石造りの西洋の城風のひと際大きな建物が見えてくる。

ただ、立派だっただろう面影は残ってはいるが、半分崩れかかっていた。

ローザはロトの補助席のディスプレイ越しにその姿を見て、目を細める。

「あれが、官邸だ」

 

「倒壊はしていないが……慎重に調査しなくてはな」

アムロはロトを半壊した官邸の前まで進める。

 

3機のロトを官邸の前で止め、官邸内の調査を始める。

コウと隊員の一人がロトで外側から損壊状況を確認し、アムロとローザ、他の隊員3名が官邸内に入り調査に向かう。

入口が瓦礫で塞がっていたため、壁が崩れ落ちた部屋から入って行く。

 

だが、その場所は……

「……ローザ、君は自分の肖像画を官邸に飾る趣味があったのか?」

アムロはその部屋の様子に苦笑気味にローザに聞く。

そこは、ハマーンの肖像画が壁から天井まで、至る所に薔薇と共に飾られていたからだ。

 

「ち、違う。私ではない……ここは、場所からすると騎士隊第二部隊の屯所であろう」

そうここは、ハマーンの騎士隊長の1人マシュマー・セロ率いる騎士隊2番隊の執務室だった。当然この奥の隊長室には壁一面にハマーンの特大肖像画が飾られていた。

マシュマー・セロはハマーンを過剰に崇拝し、女神の如く崇めていたのだ。

 

他の隊員達もこの部屋の様そうには流石に引いていた。

 

「騎士隊…親衛部隊のことか……随分慕われていたようだ。これではまるでアイドルファンの展示場のようだな。ふっ」

アムロは思わず笑いが漏れる。

 

「な、なにが可笑しい。私もこのような事になっているとは思いもよらなかったのだ」

 

「ふっ、いやある意味君の親衛隊ということなのだろう。ぷふふっ!」

アムロは笑いを堪えるのが精いっぱいの様だ。

アムロはアイドルの私設ファンクラブを親衛隊と見立て、そう言っているのだ。

世事に疎い当時のハマーンであれば理解出来なかっただろうが、今のローザはアムロが言わんとしている事を十分理解している。

軍の親衛部隊がほぼアイドルの熱烈なファンクラブ親衛隊と同じ様相である事への違和感、いや変質的様相と言っていいだろう状況に……。

ただ、これはこれで当時のネオ・ジオンの騎士隊(親衛部隊)はハマーンに絶対的な忠誠を誓い良好に機能し、問題どころか士気はかなり高かったのだ。

 

隊員の1人が奥の隊長室の引き出しから丁寧に製本された重厚な本を見つけ出し、中身を確認し、口にする。

「『ハマーン様、ああ、ハマーン様、麗しのハマーン様、この美しき薔薇すらも貴方の彩る額縁に過ぎない』………ぷっ、なんだこれは?……アムロ隊長、重要書類ではなさそうですが、参考資料として持ち帰りますか?」

そのわけがわからない詩のような物が書かれた本を、隊員が資料として持ち帰るべきかアムロに確認してもらうために渡す。

 

手渡された資料をアムロは確認のため開く。

「『高貴なる薔薇の香り、ああ、ハマーン様、きっとあなた様もこの薔薇のような高貴な香りがするのでしょう』……ぷっ……『ああ、ハマーン様、凛としたあの声色で、無能な私に是非お叱りの言葉を頂き、美しきおみ足で私に高貴なる罰を与えて頂きたい』……ぷふっふふふ……」

アムロは笑いを堪えるのに精いっぱいだった。

表紙には『高貴なる愛の詩集』と題され、著者名にマシュマー・セロの名が刻まれていた。

そう、マシュマー・セロの300ページにも上るポエム集だった。

そのすべてが、ハマーンに関するポエムだった事は言うまでもない。

 

「アムロ!廃棄だ!廃棄に決まっている!」

ローザはヘルメット越しでもわかる位、顔を真っ赤にして、その羞恥集をアムロの手から奪おうとする。

 

「ぷっ……い、いや、その……これも当時の状況を知るための大切な資料だろう?持ち帰って詳細に調べるべきだ……ぷふっ」

アムロも別の意味で顔を真っ赤にし、こんな事を真顔でいい、また笑いが漏れる。

 

「そんな物、資料になるはずがなかろう!」

 

「ぷっ、……いやはや、当時のハマーン・カーンがどうやって兵士達を統率していたのか、よくわかる資料だ……ふはっ」

 

「くっ!こんなものはこうだ!」

ローザは笑いを堪えるアムロからポエム集を分捕り、投げ捨てる。

だが、この時のローザはまだ知らなかった。

そのポエム集には第二集と第三集もあったことを……。

 

「貴重な資料が……ぷくっ」

 

「アムロ……この事は絶対にエドに言うな。いいな、絶対だぞ」

ローザは顔を赤らめ、ノーマルスーツのヘルメット越しではあるが、切れ長の目を一層細め、アムロを睨みつけながら低い声で迫る。

今のローザにとって、この状況は流石に精神的に色々と厳しいだろう。

黒歴史の一つと言っても過言ではない。

エドにこんな事を知られ、笑われでもしたらと思うと、恥かしさのあまり、穴があったら入りたかった。

 

 

だが、これだけではない。

ローザは過去に向き合わなければならなかった。

 





ローザさんの苦難の道が……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 ハマーンの忘れ物④

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

なかなか進みません。


官邸1階にあるマシュマー・セロ率いる騎士隊(親衛隊)第二部隊の執務室を後にする調査隊一行。

当時のネオ・ジオンの政略や軍略等のなどが知れる価値のある情報や資料などは見つからなかったが、ある意味当時のネオ・ジオンの兵士達の状況を知る事が出来る証拠品が残されていた。

それは、年若い新兵が多かったネオ・ジオンが何故あれ程の士気を保っていられたのか、さらには一部の部隊に至っては常に士気が異様に高かったのかを指し示すには十分なものであった。

その証拠品とは、とある部隊の執務室に飾られていたハマーンの数々の肖像画に部隊長自ら紡いだポエム集。

ハマーンが部下達に女神のように崇拝され、若しくはアイドルの如く慕われていたことは調査隊の全員が十二分に理解できただろう。

ただ、かつてハマーンだったローザにとっては、黒歴史以外の何物でもなかった。

 

その後も、内政官や武官の執務室などが並ぶ官邸の1階の調査が行われるが、マシュマー・セロ率いる騎士隊第二部隊程ではないが、皆ハマーンを慕っていたことが分かる証拠品が断片的に残っていた。

 

 

1階の調査をそこそこに2階に上がる調査隊一行。

官邸の2階は外賓などをもてなすための煌びやかな大ホールが大きく占めていた。

「随分と豪華な作りだ。かなり手が込んでいそうだ」

アムロは大ホールを見渡し、そう感想を述べる。

衝撃や劣化で壁や天井の内装が剥がれ落ちてはいたが、天井や壁には豪華絢爛な絵が描かれており、柱一つとっても凝った作りであった。

 

「ああ、ヴィクトリア朝時代の迎賓館を参考に私の祖父が造らせたものだ」

ローザは内心ホッとしながら、さっきの黒歴史など無かったの如く淡々とアムロに説明する。

イギリス帝国最盛期、黄金期とも呼ばれるヴィクトリア朝時の迎賓館は贅が尽くされたものだった事は言うまでもない。

 

「成る程、サイド3は中世の貴族社会に似た社会形成がされていたと聞いていたが……」

 

「確かにそうだな。軍事に関しては功績も重視されてはいたが、国の基幹上層部、特に内政については家柄が物を言う社会であった。ジオンが公国と名乗っている段階で想像に易いだろう」

ローザは簡潔に答える。

ジオン公国はデギン・ザビを中心とした専制国家であった。

確かに議会が存在し、選挙制度も導入されていたが、ほぼ、形だけでデギン直属の子飼いの政治家や名家が幅を利かせていたのだ。

ただ、デギン含め、その政治家たちはかなり優秀であった。

ジオンが独立戦争を連邦に仕掛ける程の財力と戦力を僅か20~30年で築きあげたことからも十分理解できるだろう。

その名家の一つがローザの実家、カーン家であった。

 

「成る程、当時のジオンが財政をも他のコロニーを圧倒していたのも、ここや、街並みを見ればわかる。ここでは財界人などが集い舞踏会等も催されていたということか」

「ああ、ジオン敗北後は主には軍の慰労や勲章式等も執り行われていた」

 

 

アムロとローザは、ホール端から直接扉で繋がっている隣りの部屋へと入る。

「……隣の部屋は、何かの作業室だろうか、いや、服を仕立てる部屋か。舞踏会用のドレスなどもここで?」

そこそこ広い部屋には、何人もの仕立て職人が作業できる作業台が置かれ、裁断機やクリーニングマシーン等の機器も置かれていた。

 

「そうだ。だがそれだけではない。ここは軍部にとっても重要な部署でもあった」

ローザはどこか懐かし気にそう答える。

 

「軍部にとって重要とはいったい?」

アムロはローザの答えに疑問を持ちながら、何気なく、床に落ちていた台帳のような物を取り、ページをめくる。

「『功績別軍服要望書』とあるが……『ハマーン様近習隊イリア・パゾム少尉の近習小隊軍服変更Sランク』ん?何だこれは?『イリア・パゾム様の軍服要望、ダーティーペアや、ロードス島戦記ダークエルフのピロテースのようなエロかっこいい服との事、ご本人にお聞きすると、該当人物は旧世代のアニメやマンガのキャラクターであったため、ネット検索をし、アニメ映像を参考に三面図を作成し、ご本人に確認する』……意味が分からない」

 

アムロは疑問顔をしながら、更にページをめくる。

「『突撃部隊ラカン・ダカラン大尉、軍服変更Sランク、ラカン・ダカラン様の軍服要望、男らしい服、筋肉を見せるために袖が無いもの。しいて言えば北斗の拳のラオウっぽい服がいい。マントは忘れるな。との事でした。Wikiで検索しラオウなる人物を確認。ダカラン様に似た風貌ではありました。ただ。黄金のカブトムシのような角の生えたヘルメットではモビルスーツには乗れないため、我慢して頂きました。黒王号なる馬の姿をしたコクピットシートカバーが欲しいとの事で、モビルスーツ技師長にカバーをかけても良いかお聞きしたところ、お叱りを受ける。そもそもダカラン様はノーマルスーツを着用せず、モビルスーツに乗られる事に、モビルスーツ技師長はお怒りの様です』………ローザ。これは何だ?」

アムロは頭痛がするかのように額に皺をよせ、ローザに聞いた。

 

「恩賞用の軍服変更要望書のようだ。実際私も見たのは初めてだ」

 

「いや、そう言う事ではない。これはなんだと聞いているのだが……」

 

「功績を上げた者に対し、軍服を変更することを許可し、ここで仕立て恩賞として、渡していたのだ。功績に応じ、軍服を変更する個所が増減する。Sランクとはフルオーダーが可能な功績を残したものに対しての恩賞だ」

 

「………どういうことだ?」

 

「ふむ、この隣の部屋を見ればわかる」

ローザは仕立て部屋の隣の部屋の扉を開ける。

 

アムロはその光景を見て、無言になる。

「……………」

そこには、ダーティーペア風の軍服や、ラオウ調の軍服だけでなく、魔法少女やプラグスーツ風、忍者や海賊、聖闘士クロス風まで、数々の奇抜な軍服が飾られていた。

 

「ふむ、相変わらずここは煌びやかだな。半年に1回、有志で軍服の着こなし大会が模様されていたが、私も審査員をやらされたものだ」

ローザは軍の施設にあるまじきその異様な光景に、眉一つ動かさず当然のように語りだす。

目の前にはダーティーペア風の軍服レプリカと共に、そのコスプレ軍服を着こなしたイリア・パゾムの写真が堂々と飾られていた。第7回大会優勝と……。

 

「…………」

アムロは頭を抱えていた。

アムロは先ほどのポエム集や絵画展示は、部下達が個人的にハマーンを慕うための物であり、微笑ましくも笑い過ごす事が出来た物だが、今回のこれはネオ・ジオンの政策そのものだったのだ。なにも事情を知らなければ笑っていたかもしれないが、仮にも弱体化していたとはいえ連邦を追い詰めた勢力が、何故そんな事になっていたのかと、笑えないどころか頭を痛めていた。

 

後から来た調査隊3人の内の1人が……。

「なんだこれは?コスプレ店?……隊長、この部屋は一体?」

コスプレ店顔負けの、トンでもない衣装がずらりと並んだ光景に驚きを隠せない。

 

「……ネオ・ジオンの軍服の展示場だ」

アムロは頭を抑えながら、そう部下達に簡潔に答える。

 

「本当ですか!?隊長………まるでアニメのコスプレじゃないですか!!」

「マジですか……連邦はこんな奴らに、追い詰められたのか……いや、しかしこれは無いな」

「これって、プリキュア0083の衣装よね。……これ着て、軍務を遂行していたの?」

調査隊のメンバーはその事実に引いていた。

 

だが、数々のコスプレ衣装をまじまじと見ている内に、遂には調査隊の3人のメンバーは大爆笑しだす。

「『わが生涯に一片の曇りなし!!』ってか?お、恐るべしネオ・ジオン!!ぷははははは!!」

「そ、そういえば、ハマーン・カーンもシルバー聖闘士のクロスみたいなの着てたな!!ふははははっ!!」

「きっとメガ粒子砲発射の合図はこうよ『希望の力よ,光の意志よ』『未来へ向かって突き進め!』『プリキュア・レインボー・ストーム!!』……ふ、ふふふふふ!!」

「ネオ・ジオンの連中、全員中二病だぜこれ!!ふは、ふはははっ!!腹が痛い!!」

「コスモが燃えすぎだろ!!ふははははははっ!!でも奇跡は起きなかったようだけどな!!くくくくっ!!」

「ミンキ―・モモもあったりして!?ピピルマ ピピルマ プリリンパ パパレホ パパレホ ドリミンパ アダルトタッチでハマーンになーれ………、もうダメ!ふふふふっ!!ミンキーモモがハマーンでミネバがハマーン!?ふふふふふふふっ!!だ駄々ダメよ~!!」

 

 

「な、なにが可笑しいのだ。どういうことだアムロ」

ローザは隊員達が大爆笑し笑い転げている理由が分からず、戸惑いながらアムロに小声で尋ねる。

 

「……ローザ、これはだな」

アムロは居た堪れない気持ちになりながら、ローザに懇切丁寧に説明しだす。

ネオ・ジオン士官共の軍服は皆、アニメやマンガや映画のコスプレだと……。

 

「な、なんだと?……いや、そんなはずは?」

ローザはその説明を聞き、かなり狼狽える。

嘗てのハマーン・カーンはアニメやマンガを全く知らなかった。

いや、存在は知っていたが、見た事が無かったのだ。

カーン家の教育方針で、それらを遠ざけていたためだ。

ローザとなってからは、リゼやクェスが見ていたものを何となく一緒に見ている事があったが、あまり興味はなかったのだ。

 

「ローザ、そもそも何故、恩賞に軍服改造だったんだ?」

 

「………ネオ・ジオンと名乗った所で、アクシズは所詮ジオン残党の一勢力に過ぎない。最盛期のジオンの国力とは比べものにならない。モビルスーツを揃えるのが最優先であり、部下に恩賞を与えるだけの財力も無かったのだ。ジオンはパイロットに恩賞の代わりに、モビルスーツのカスタマイズを許していたが、我々にそんな余裕もない。そうかといって兵達をまとめるには恩賞は必要だ。古くはジャパンでは茶器を一国の価値にまで引き上げ恩賞として渡していたとか。それを応用し、軍服やノーマルスーツの変更を軍人の誇りや最上の名誉と位置づけ、恩賞としたのだ。兵の間ではかなり好評であったが、政治屋たちには通じなかった……」

アクシズにとって、切実な問題であった。

恩賞問題は、古くはエジプト王朝やローマ帝国からついて来る問題であった。

金品財宝だけでなく、大きくは土地や利権などが恩賞として支払われていた。

だが、財政がひっ迫していた当時のネオ・ジオンは功績に見合った恩賞を与えるだけの、財力は全く無かったのだ。

そこで、当時のハマーンが考えたのがこれだった。

兵や軍属の心をつかむ良い方策であったが、青春真っ盛りの若年兵が主であったアクシズ

の兵達は思い思いの軍服を仕立て、こんなにバラエティ豊かな軍服を作ってしまったのだ。

 

「なるほど……、苦心の策だったのか……、すまない」

軍服改造はハマーンが苦心の末に作り上げた制度だった。

アムロは笑い転げる部下達に代わり、ローザに頭を下げる。

 

「いや、規制を付けるべきだった。これは当時の私の無知からなるものだろう。甘んじてその辱めを受けるしかない……」

ローザにとって、ある意味これも黒歴史となる物だろう。

いや、ネオ・ジオンそのものにとって黒歴史なのかもしれない。

 

「いや……お前たち、いい加減にしないか。資料の記録はどうした」

アムロは、ローザがハマーン本人であると知らないとはいえ、失礼にも本人の目の前で笑い転げる部下達に注意をする。

 

「ただ……、エドには言わないでくれ」

ローザは顔をそらしながら、アムロにそう言う。

 

「了解だ……」

アムロとしても、こう言うしかなかった。

 





さくっと終わるはずが、長くなってきた。
ネオ・ジオンってネタが多くないですか?

イリアさん・ラカンさんすみませんでした。


(Twilight AXIS)の話はちょろっとも出ない。
おかしい、最初はちゃんと、混ぜるつもりだったのに。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 ハマーンの忘れ物⑤

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

漸くシリアス展開へと……


 

ネオ・ジオンの闇に触れた調査隊一行は、アムロの叱咤により改めて気を引き締め、官邸の3階へと向かうのだった。

 

「ローザ、資料では3階は執務室と謁見の間とあるが、4階についての詳細な記載は無い。どういうことだろうか?」

「ああ、3階の半分を占めている謁見の間は4階へと吹き抜けとなっているがためだ」

「なるほど。だが、謁見の間の吹き抜け以外のスペースもあるのだろう?何がある?」

「貴賓室にミネバ様の控室、それと私の私室だ。いわばプライベート空間だ。公にできるはずもない」

「合点がいった。外観図ではこの4階の渡り廊下で隣の高台の別邸へと続いているようだが、別邸とはミネバの宮廷と言う事だろうか?」

「そうだ。宮廷と言うには仰々しすぎるが、元々カーン家のモウサにおける屋敷であった。サイド3にあったカーン家の屋敷に比べれば手狭ではある」

「……ローザ、君は屋敷では無く官邸に住んでいたのか?」

「ああ、姫君であるミネバ様と同じ場所に住むわけにはいかなかったという事も有るが、摂政として官邸で過ごした方が何かと便利だったのでな……」

ローザは1人で住むにはあの屋敷は広すぎると心の中で言葉を続けていた。

ミネバとミネバの母ゼナがアクシズに来た当初は、カーン家のこの屋敷の3階に迎え、カーン家総出でもてなしていた。

しばらくし、ゼナが亡くなり、次にハマーンの父マハラジャ・カーンが亡くなり、更にシャアが去り、更に妹のセラーナ・カーンを地球に逃した後、ハマーンは自分の私室を官邸の4階へと移したのだ。

それは、ジオン再興に身を捧げるという決意でもあった。

さらに、主であるミネバと同じ屋根の下で過ごすわけにも行かないという理由もあった。

だが、それよりもハマーンの感傷的な理由が大きかった。

当時のハマーンはまだ15歳の少女に過ぎなかった。

ミネバや家人が居ようとも、既に父や妹がいないこの屋敷は自分一人が残り、過ごして行くには寂しすぎたのだ。

 

「……アムロ、3階の調査を任せていいか、私は一足先に4階の私室に行きたい、恐らくグレミー一派に荒らされているだろうが………」

「3階の調査はそこそこ時間がかかるだろう、私用が終われば無線で知らせてくれ……」

本来なら、安全の為にも一緒について行くべきだろうが、アムロはローザの心情を慮り、ローザの私的な行動を許可する。

 

「うむ、3階の摂政官の執務室は直接階段で4階の私の私室へと繋がっている。執務室までは調査を行っても構わん。その前にシャアの執務室がある。そこを念入りに調査でも何でもしてくれ」

アムロだったら許可してくれるだろうとは思ってはいたが、アムロのその言葉にローザは内心ホッとする。

ついでにアムロが興味を持つだろうシャアの執務室について触れた。

 

「それは楽しみだ。しかしローザ、シャアはアクシズを随分前に出て行ったのではないのか?何故、出て行った後も部屋を残していた……、すまん。少々野暮だったようだ」

アムロはシャアの執務室の話に興味を持つが、何故、アクシズを出て行きエゥーゴに参加し、対立までしていたシャアの執務室を残していたのかという疑問を持つが、グリプス戦役でのハマーンとクワトロと名乗っていたシャアとの関係性について、ブライトからこの二人の間にはプライベートでも何かしらの因縁があったのではないかと聞いており、ここに来て、もしかすると当時のハマーンとシャアの間には、何かしらの男女の関係があったのではないかという思いに至った。

 

「勘違いしてもらっては困るな。奴はアレでもジオンの家臣を名乗っていたのだ。しかも当時のミネバ様も大層気にかけておられた。ただ、それだけのことだ」

そんなアムロの反応に、ローザは憮然とした声色でそう答える。

確かに当時のハマーンはシャアに憧れ、恋焦がれていた。

シャアが自分の元を離れていたとしても、必ず自分の元に戻ってくれるものだと思っていたのだ。

だから、シャアの執務室を何時までも残していたのだ。

だが、当のシャアの心はハマーンにはまるで向いていなかった。

ただ、アクシズの運営とミネバの事をハマーンに任せるため、いや、押し付けるために、都合のいいようにハマーンを懐柔していたにすぎなかったのだ。

エドに拾われローザとなった今は、その事を理解し、嫌悪を持ってレッドマンとなったシャアと接している。

それはある意味、愛憎の裏返しなのかもしれない。

 

「そうか、だが、何か問題があれば直ぐに知らせてくれ」

 

こうしてローザは調査隊から離れ先行し、足早に自らの私室へ向かう。

実はその私室から地下へと通じる隠し通路があった。

元々ハマーンの私室も貴賓室であった。

王侯貴族等の貴賓の為に、何かあった時用に地下へと続く脱出通路と地下に大小7つの核シェルターが設けられていたのだ。

ハマーンは当時、確かに私室を官邸の4階に設けていたが、付き人も何人もおり、完全なプライベート空間とはなり得なかった。

そこで、この脱出通路の先にある地下の核シェルターの一つを隠し部屋とし、誰にも入られる事がない自分だけのプライベート空間として利用していたのだ。

核シェルターだけあり、防音防弾、機密性も保たれえており、何よりもそこで数か月過ごせるだけの設備が整っていたため、都合がよかったのだ。

この事は付き人や官邸の管理官の極一部の人間だけしか知られていない。

軍関係者だけでなく高官にも誰一人として知られていなかったのだ。

そして、そこには誰にも見られたくない様なものが多数あった。

母や父、姉の遺品や、公的に全て処分させたはずの妹セラーナとの写真。

子供のころから使っていた抱き枕や、クマちゃんのぬいぐるみなど、結構少女趣味なものが多い。

その中でも絶対見られたくない物……、

それがあの写真と、シャアとの数々の思い出の品だった。

 

ローザは先ずは私室に向かうため、当時の仕事部屋である摂政官室を通る。

執政官室は案の定、執務机や棚などが無造作に開かれたままになり、床のあちらこちらに物が散乱していた。

グレミー派がこのモウサを占拠した際に、物色した跡の様だ。

 

執政官室から螺旋階段を上り、私室へと入ると同じく物色された跡がありありとあった。

服や小物、ベッドのシーツなどが床に散乱し、小物入れや鏡台も開けっ放しであった。

「………ふん」

ローザはその様子に少々顔を顰めながら、隠し通路があるウォークインクローゼットへと向かう。

 

 

 

その頃アムロ達調査隊一行は、早速シャアの執務室へ向かう。

「奴の事だ。不都合な物は残してはいないだろうが……」

アムロはそう言いつつも、内心ではシャアの執務室に興味深々であった。

先ほどのネオ・ジオンの闇(黒歴史)と同じく、シャアの執務室にも何か面白げなものは無いかと……。

それをネタに帰ってからレッドマンに一言二言皮肉でも言ってやろうとも思っていた。

 

アムロはシャアの執務室の扉を開き中に入り、部屋内をゆっくり歩みながら見渡す。

所々壁や天井が剥がれ落ちていたが、特に荒らされた様子はない。

だが、アムロはある物が目に移り、思わず立ち止まってしまう。

壁にかけられていた大きな油絵の絵画だ。

アムロは目を大きく見開き、しばらく見入ってしまっていた。

その絵画は、湖畔を飛び立とうとする白鳥が描かれていたのだ。

その白鳥が何故か、1年戦争で出会った少女、ララァ・スンの姿と重なる。

「…………」

 

「隊長、素敵な絵画ですね。白鳥が飛び立つ姿がどこか儚げで、目がつい行ってしまいます」

絵画を見つめているアムロの後ろから女性隊員が声を掛ける。

 

「……ああ、そうだな」

シャアもこの絵を見て、ララァとこの儚げな白鳥と重ねていたのだろうと……。

シャアにとってもララァ・スンの存在は大きなものだったのだと、アムロは改めて思い知らされる。

先ほどまでのレッドマンをからかってやろうという思いは既に無く、逆に、たまには気遣ってやろうとまで思いだしていた。

 

 

そんな時だ。

官邸の外のロトで待機していた隊員からアムロに無線通信が届く。

『隊長!ガランシェールから緊急通信が来ました。隊長に繋ぎます』

隊員はロトに無線通信で宇宙港に停泊中のガランシェールから緊急通信が届いた事を告げ、ロトを中継に、ガランシェールからの通信を直接アムロのヘルメットに内蔵されている通信機に繋ぐ。

 

『ガランシェールだ。アムロ隊長、無人監視偵察機によるモウサの外観調査を行ったのだが、この宇宙港の反対に位置するモウサの非常用ドックが最近に開かれたような形跡を発見した。我々より先に何者かが潜入していた可能性がある』

ガランシェール艦長のスベロア・ジンネマンがアムロにそう報告する。

ジンネマンはモウサの宇宙港にガランシェールを停泊させたまま、モウサの外観調査のため、無人監視偵察機を数機飛ばしていたのだ。

無人監視偵察機が発見したものは、モウサに二つある宇宙港以外にある非常用ドックが最近になって開かれたような跡があったからだ。

そもそも非常用ドックは緊急時しか使用しないため、滅多に開かれる事がない。

その非常用ドックが最近人為的に開かれたような形跡を発見したのだ。

それは、この調査隊よりも先に、最近何者かがモウサ内に侵入した事を示していた。

 

「艦長、今も何者かの艦船が非常用ドックに停泊している可能性があるということか?」

 

『そういうことだ。無人監視偵察機を非常用ドックに潜り込ませる予定だが、もし艦船が今も停泊していた場合、こちらの事は恐らくバレているだろう。動きが無い所を見ると、既にもぬけの殻なのかもしれないが、息を潜めやり過ごすつもりなのかもしれない。こちらが何者かの動きを察知したとバレた場合、こんな場所に潜り込んでる連中だ。間違いなく荒事になるだろう。万が一、何者かが既にモウサ内にモビルスーツを潜り込ませていたのなら、そっちが危険だ。相手にこちらが勘づいているとバレる前に、隊長たちは戻った方がいいだろう』

 

「不味いな。了解した。直ちにこの場を撤収し、ガランシェールに戻る」

アムロはモウサに入った時、ニュータイプ能力で違和感を覚えたのはこの事だと理解し、恐らくジンネマンの言う通り、今も何者かがモウサに潜んでいる可能性が高いと判断したのだ。

 

『了解だ。隊長たちが戻るまで勘づかれないように無人監視偵察機は引いておく』

 

「そうしてくれ」

アムロは一度ここで通信を切り、撤収準備を進めるための段取りなどを考えていたのだが……。

 





シリアス展開にこのまま突入していいのだろうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 ハマーンの忘れ物⑥最終

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
お待たせしました。


 

ローザのモウサでの過去を振り返る旅は終盤を迎えていた。

本来は過去の汚点の一つ(14歳の時のシャアとのツーショット写真)を消去するためだけのハズだったのだが、目的を達する前に本人の予期せぬ方向から雨霰と過去の罪(羞恥と若さゆえの過ち)にまみれた遺物が続々と顔を出し、後悔と懺悔の心から、ローザの精神はすり減り、限界に達しようとしていた。

 

そして苦難の末、ようやく当初の目的である汚点へとたどり着こうとしていた。

ローザは隠し部屋へ通じる扉がある自室のウォークインクローゼットに入ったところで、アムロから緊急通信が届く。

『ローザ、俺たち以外にこのモウサに艦船が停泊していることが分かった。もしかするとトラヴィス会長から話が合ったブッホ・コンツェルンの手の者の可能性がある。一度、ガランシェールに戻るぞ』

「少し待て、まだこちらの用事が終わっていない……くっ!?」

ローザがそう返事を返している最中に、大きな地響きが起こり、半壊した官邸が揺れる。

 

『攻撃ではない?爆発か?ローザ、官邸の地下からだ!人の意思を感じる!撤退するぞ!外に待機させてあるロトまで急げ!!』

「……なんだと?」

 

ローザもニュータイプ能力で数人の人の気配を察知した。

アムロと同様に、官邸の地下からだ。

しかも、その場所は官邸のシェルター群、ハマーンの隠し部屋がある方向からだ。

「まさか!?」

 

ローザは急ぎ、ウォークインクローゼットの隠し扉から、細い階段を降り、地下の隠し部屋へと進む。

 

ローザは小さな車が通れる程の大き目の地下通路に達すると、砂埃が立ち込め、数人の人影がシェルターから次々と出ていくのが見える。

しかも、そのシェルターはハマーンの隠し部屋だった。

そして、人影の一人の手にはあの問題の写真が納めてあるアルバムが……。

 

「貴様ら!!何者だ!!」

ローザは咄嗟に叫んでしまう。

 

人影はそのまま逃げださずに、なぜか全員ローザに振り替える。

砂埃も薄らぎ、その人影達の姿がしっかりと見えたが、女が一人、男が3人だ。

女は、ダークエルフのピロテースのような恰好。

男は三人共、ダンバインの聖戦士の青紫スーツのようなコスプレだった。

この4人はアルバムだけでなく、ゴシックロリータの服や少女趣味のワンピース等、ハマーンの過去の遺品をたんまりと携えていた。

 

「ん?ハマーン様かと思ったが、声が似ているだけ、驚かしてくれる。貴方こそ何者です!!」

ピロテースのような恰好の女は、鋭い視線をローザに向ける。

 

「そうだそうだ!!一瞬、ハマーン様かと思ったではないか」

「そうだ偽物め!!それでハマーン様に成りすましたつもりか!?」

「ノーマルスーツが全然違うぞ!!ゴールド聖闘士のような女王様ノーマルスーツだ!!不勉強にもほどがある!!」

聖戦士風コスプレ男共は口々にこんなことを言い出す。

 

「なにを!!……貴様たちは!?」

ローザはこの連中のコスプレに見覚えがあった。

ピロテースの恰好はモロ、イリア・パゾム

ダンバインの聖戦士スーツの男共は、ダニー、デル、デューンの元ジャムルの3Dだった。

そう、彼らはハマーン・カーンの元部下達だったのだ。

今はネオ・ジオン残党軍の一派で、イリアは大佐としてレウルーラの艦長を務め、ブッフォ・コンツェルンと手を組み、このモウサの調査を行っていたのだ。

 

イリアはローザの様子に訝し気に見つめながらこんなことを言い出す。

「……もしかすると貴方もアクシズのゆかりの者ですか?だが残念ですね、ハマーン様の遺品は我々のものです!!この場は見逃します!!早々に去れ!!」

どうやら、イリア達の真の目的はハマーンの隠し部屋にあるハマーンの遺品のようだ。

隠し部屋について何処からか知り、それでこの連中はハマーンの遺品目当てでブッフォと手を組みここに来たようだ。

 

「貴様ら、いいだろう!!元主の顔と………」

ローザは元部下達に、ハマーンだと名乗ろうとしようとしたが……、先ほどまでの黒歴史を思い出し、未だに元部下たちは堂々とコスプレをしている姿を見て、名乗るのを躊躇したのだ。

 

「元主?まだ言うか?このハマーン様モドキが!!ハマーン様はノーマルスーツを着ていても、バラをしょってんだよ!!」

「貴様にはオーラが無い!!蔑むような視線と声色の再現度が低い!!ハマーン様は根っからの女王様気質なんだよ!!」

「ハマーン様のスレンダーな完璧なお身体は、ノーマルスーツを着ていてもわかるんだよ!!乳とケツが垂れてるぞ!!オバン!!」

3D連中は、言うに事欠いて、本人に言いたい放題だ。

 

「………」

ローザの眼光はさらに鋭く……

 

イリアはそんなローザにこんなことを言い出す。

「そこまで言うならば、ノーマルスーツのヘルメットを脱いでください、ここは空気が多少あります。顔を見せてみなさい!!」

確かにこのシェルター地区には独立した空気発生装置が稼働していた。

 

「貴様ら、後悔するがいい」

ローザはノーマルスーツのヘルメットを脱ぎ、ナイフのように鋭く厳しい視線を4人に向ける。

 

「ふん、やっぱり違うではないか!!ハマーン様はな!!ミンキーモモカットなんだよ!!」

「なにをなにを?ディーン、違うぞ。ハマーン様は、オルドナ・ポセイダルカットだ!!」

「はぁ?何言ってるんだ!!貴様ら!!ガウ・ハ・レッシィに決まってるだろ!!」

何故か3Dの男共は昔のハマーンの髪型談義で喧嘩しだす。

確かに今のローザは茶色かかった金髪で、髪は伸ばし、サイドダウンでまとめて居るが、髪型で判断するのはどうかと思う。

しかも、全員答えが間違っている。

正解はシスコンのシャア好みのアルテイシア(セイラ)カットだ。

 

 

「……まあいい、そのアルバムは渡してもらおうか」

ローザはグッと我慢をし、連中に凄む。

 

それに応えるイリアは、手に持ってるアルバムを愛おしそうに眼前に掲げ、平然とこんなことを言い出す。

「それは渡せませんね。ハマーン様の幼き時代の写真は家宝となるものです。なんなら私の艦に飾り付けたい。そして、ハマーン様の魅力を世に知らしめるために各種SNSに掲載するつもりなのです!」

ローザにとって最悪のシナリオだ。

あのシャアとの写真が全世界に広まってしまうなど、絶対に許せるものではない。

 

「イリア・パゾム!!貴様!!」

ローザの怒りは頂点に。

 

「何故私の名を??……ハマーン様!?」

名を呼ばれ、イリアは困惑しだす。

 

「ローザ!無事か!?」

そこへ、アムロ率いるカークランドコーポレーションの精鋭達が現れ、イリア達に発砲。

 

「ちっ、撤退です」

イリアは3D達に指示を出し、銃で応戦しつつ通路奥へと走り出す。

カークランドコーポレーションの精鋭達は発砲しつつじりじりと進むが、深追いをせず、陣形を保つ。

 

「待て!!それを置いていけ!!」

ローザの声はイリア達には聞こえていないだろう。

 

「ローザ、待て!」

イリア達を追いかけようとするローザをアムロは肩を掴み止める。

 

「アムロ離せ!!」

 

「上では敵モビルスーツを確認した。ウラキ大尉がけん制し、こちらに近づかないようにしているが、こちらのロトは戦闘用ではない。長くはもたないだろう。撤退だ」

 

「ええい!!……ん!?」

ローザはアムロの手を振り切ろうとするが、足に何かが当たり、視線を移すと、赤色のアルバムが一冊落ちていた。

それは、ローザがこの世から消し去りたいと切望していたシャアとの思い出のアルバム集だった。

どうやら、先ほどの銃撃戦でイリアは一冊落としていったようだ。

強運と言っていいだろう。

ローザの紆余曲折はあったが目的はこれで達したのだった。

 

 

ローザ達は撤退し、ガランシェールに戻り警戒しながらモウサから離れる。

同じころ、反対側に停泊していた敵の艦もモウサから離れていくのを観測する。

 

 

ローザは赤いアルバムをガランシェール内で焼却処分し、灰を宇宙へと捨てる。

 

落ち着いたところでアムロはローザに質問をする。

「連中は何者だ?いや、聞くまでもないか、あのおかしな服装、おそらく元ネオ・ジオンの残党か?モウサの官邸に展示されていた制服と似ていた。それに何かを話していたようだが?」

「奴らは、元私の部下だった連中だ。私の事を認識できなかったようだがな」

「あの地下には何があった?」

「……私の個人的な隠し部屋があった」

「なるほど……」

アムロはそれ以上ローザに聞くことはなかった。

聞くだけ野暮だということもあるが、あのコスプレまがいの服装のハマーンの元部下達が、ハマーンの隠し部屋を漁る理由など、官邸の様子(惨状)を見るだけで、察しがついたからだ。

 

 

ローザはドッと疲れが出、目的を達した安心感もあり、帰路は深い眠りについた。

こうして、ローザの過去と向き合う旅は終わった。

 

 

 

二日ぶりの我が家に戻るローザ。

出迎える夫のエドの顔を見てホッと安堵の息を吐くが……

その晩の寝室、二人掛けのソファーで……。

「ローザ、お前、昔はクェスみたいな髪型だったんだな」

「何故それを!?」

「それ」

エドはタブレットの画面を隣に座るローザに見せながら操作し、次々と写真を見せる。

ローザの顔は見る見るうちに青ざめる。

「ど、どうしてこれを?」

そう、それはハマーンの幼き日の数々の写真だった。

 

「ああ、お前が出かけた後に、セラーナから通信があって、ちょっと話したんだが、そん時にこの写真データを送ってくれた。どうやらセラーナは地球に逃れる時に、家族やお前の写真データをこっそりナノチップに収めて、ブレスレットに忍ばせていたらしい。いや~、昔のお前、無邪気にかわいい笑顔するじゃねーか」

エドは顔を緩め、楽しそうに写真を眺める。

 

「……う……う」

ローザの顔は、今度は湯気が出るのではないかというぐらい真っ赤になる。

 

そして、エドはとある写真で操作する手を止め、微笑みながらローザにこんなことを聞く。

「おおっ、これってキャスバルとお前か?随分若いな。この頃お前は何歳だ?今のクェスやオードリーと同じぐらいか?へ~、やっぱお前、昔は奴の事好きだったんだな。なんで今はあんなに毛嫌いするんだ?」

そう、苦労の末、先ほど焼却処分したはずのあの忌まわしき過去の写真だった。

どうやら、セラーナがマスターデータを持っていたようだ。

 

「ああ!?あああああ!!??」

ローザは飛び込むようにベッドの中に潜り込む。

 

「おい、どうした?」

 

「………くッ~~ッ」

ローザは声にならない声を上げ、シーツに包まり、顔を真っ赤にし悶絶していた。

ローザは言うまでもなく羞恥で死にたくなる。

 

 

その後、ローザは三日間エドと口をきかなかったとか……。

そして、ますますキャスバルを毛嫌いするのであった。

 




また何か思い浮かんだら、書き足しますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話、レストラン開業 前編

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

というわけで、アンケートで未来編以外で一番得票が高かったレストラン編を書いてみました。


 

 

宇宙世紀0106年9月

新サイド6・15番コロニー、この農業が盛んなだけの片田舎のコロニーで、小さなレストランが開業を迎えようとしていた。

何処にでもありふれた何の変哲もない日常のひとコマであるはずなのだが……。

 

 

 

「ふっ、マジで片田舎だなこのコロニー。ブライトは本当に隠居するつもりだったということか」

淡いブラウンのスーツを着こなすこの少々目つきの悪い男は、宇宙港からコロニー内の風景を見てこう漏らす。

男の名はカイ・シデン。

かつて一年戦争でホワイトベースに乗り込み、ブライトやアムロ達と共に戦場を生き抜いたモビルスーツパイロットだった。

一年戦争終結後は、テレビや雑誌や新聞などに記事を売り込むフリーのジャーナリストを生業としていた。

 

「あのブライト・ノアがレストランか……似合わねーな」

カイは宇宙港のタクシー乗り場で、無人タクシーを待っている間に封筒を再び開き、ブライトとミライの夫婦名義で送られてきたレストラン開業の案内を手にし、ホワイトベースで指揮を執る若かりし頃のブライトの顔を思い浮かべ、そう言葉を漏らす。

手紙には和風レストランの開業案内と共に、招待状が添付されていた。

招待状には、ミライの自筆で開業前日にデモを兼ねた招待者だけの開業お披露目を行うことが書かれていた。

 

「マフティーの反乱後にブライトが急に軍を辞めたのは、何か裏があると思ったのだが、考えすぎだったようだ」

カイはブライトとミライに定期的にコンタクトを取っていた。

ジャーナリストとして、連邦宇宙軍の動きを知るためという名目もあるが、主には元ホワイトベースクルーの近状の情報交換やカイが得た裏の情報などを提供するためだ。

今回も、ブライトが軍を辞めることはミライから聞いていたが、辞職するにしては早すぎるのと、その後、直ぐにこのコロニーに引っ越したことから、マフティーの反乱終結後に宇宙軍に大きな動きがあり、ブライトが何か責任を負うような出来事があったのではないかと考えていた。

マフティーの反乱は、世間では連邦宇宙軍が収めたことになっているが……。

 

無人タクシーに乗り込んでからも、カイはずっと思考を回していた。

(確か、隣の16番コロニーにはカークランド・コーポレーションの本社があったな……。カークランド・コーポレーション。僅か20年足らずで世界有数の大企業にまで成長した新興企業。利権としがらみにとらわれたこの世界で成し遂げる事は普通ではあり得ない。……だが、この男トラヴィス・カークランドはそれをやり遂げた。元連邦軍中尉。第20機械化混成部隊隊長。味方殺しのトラヴィス……。裏の顔は連邦軍内の粛清部隊スレイブ・レイスの隊長にして、その信念により自らの上官すらも討った男。しかし、調べれば調べるほどおかしな男だ。信じがたいが、一年戦争の最中で連邦の一部隊でありながら、連邦ジオン敵味方見境なしに奴は自分の手ごまとして動かしている。一年戦争後はさっさと連邦軍を辞め、この新サイド6に移住、ジャンク屋をやり始め、今では財界や政界すらにも影響力を及ぼす大企業に……。カークランド・コーポレーションは今や木星・火星航路すらも独自に得ている。宇宙海賊やジオン残党軍が闊歩する地球圏外で連邦軍の護衛なしに航路を確立させるなどありえない。宇宙海賊を退けるだけの戦力を保有していると見て間違いない。……

もしかすると、今回のマフティーの反乱も、カークランド・コーポレーションが関与した可能性も……。それにブライトも巻き込まれた?いや、考えすぎか……)

 

カイは再び、招待状に目を移す。

(しかし、ブライトがレストランを開業してコックか…。ふっ、アムロの奴やハヤトが生きていればなんて言うか?一緒になって笑っていただろう。……そういえばセイラさんは風の噂ではどこかの富豪と結婚したと聞いたが、招待を受けてるだろうから会えるかもしれないな。フラウも再婚したとレツが言っていた。フラウやレツ、キッカもくるだろう。ふっ、久々にいい酒が飲めそうだ)

カイは招待状をまじまじと見て、少々狼狽する。

「……しまった!招待の日時は明日じゃないか!まあいいだろう。今日のところはブライトやミライさんに顔だけでも出しておくか、明日だとまともに話もできないだろうしな」

カイは招待の日を1日間違えていたが、そのまま、ブライトが開業するレストランへと向かうことにした。

 

 

そのカイの間違いが、混沌への第一歩だった。

何故、ブライトとミライ夫婦はレストラン開業日前日に招待客のためにわざわざお披露目を行うのか……、それはとある連中と鉢合わせさせないための考慮だったのだが、今のカイに知る由もなかった。

 




たぶん前後編で短いです。

ブライトは知り合いに開業するよとお知らせだけ出すつもりでしたが。
とある混沌勢は絶対知られるわけにはいかないため、風の噂とかでわざわざ来そう連中に招待状を出し、日時指定し、鉢合わせしないようにしたのですが……。

因みにカイは、15番コロニーが伏魔殿になってることを一切知りません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 レストラン開業 中編

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
後編で終わるつもりが、中編が出来てしまいました。


 

カイは15番コロニー中心街の雑居ビル1階の真新しい飲食店舗を遠目で眺め、ニヤリとニヒルに笑みをこぼす。

「これか、なかなか良さげだな、ミライさんのセンスだろう」

ブライトの新店の外観はかなりオシャレだった。

 

カイは店へ近づこうと一歩踏み出すが、先に白髪頭の雰囲気のある老齢の男が店に入って行くのが見えた。

カイはその男の顔を知っていた。

「……トラヴィス・カークランドだと?やはりブライトと関りがあったか、カークランド・コーポレーションが先のマフティーの反乱にも介入していた可能性が高いな」

カイは意外な人物に出くわし、後退りし店の斜め前の路地から様子を覗う。

 

1分も経たない内にトラヴィスが店から出て行き、ぶらりぶらりと町中を歩きだす。

職業柄なのか、カイはついトラヴィスの後をつけていく。

トラヴィスが喫茶店に入るのを見て、カイもその喫茶店に入り様子を覗う。

トラヴィスが席に座りコーヒーを注文した後に、客の一組がトラヴィスに近づき、親し気に挨拶を交わして同席しだした。

「……あれは、ジュドー・アーシタとルー・ルカか……元エゥーゴのパイロットで、たしかカークランド・コーポレーションの長距離船団員だったはずだ。ブライトとも親交が深いと聞いたことがある。なるほどブライトとトラヴィスの関係はジュドー・アーシタも関わってそうだ」

 

喫茶店に一組のカップルが入ってくると、そのカップルはトラヴィスとジュドーとルーにも挨拶をしだす。

「ん?……カミーユ・ビダンとユイリィ・ビダン、この二人もブライトと親交が深いはずだが、トラヴィスとも顔見知りだったとは……」

 

しばらくし、トラヴィスはジュドーやカミーユ達を連れ立って、喫茶店を後にし、街はずれの方向に歩いていった。

「……トラヴィスはエドの家に行くとかなんとか言っていたがエドとは?まあいい、ブライトに会うのが先だろう。なんならブライトから直接事情を聴いた方が早いだろう」

 

カイはトラヴィス達の後をつけるのをやめ、本来の目的であるブライトのレストランへ再び向かう。

 

カイは先ほどの事もあり、レストランに入らずに路地から様子を覗う。

 

しばらくすると高級車が店先に止まり、一人の淑女然とした女性が車を降り、店舗へと入って行くのが見える。

「あれは、セイラさんか。美人ってのは歳をとらないのか?それにしても俺と同じで日時を間違えたということか?意外とおっちょこちょいなところがある」

 

だが……。

高級車からセイラの後に続いて金髪美女が降り、店に入って行った。

「……カ、カラバのべ、ベルトーチカ・イルマだとーーっ?いや……どういうことだ?セイラさんと同じ車から?セイラさんとブライトと親交が?彼女は元カラバだ。ならブライトと顔見知りでもおかしくない。だが、セイラさんとはどういう関係なんだ?」

 

さらに高級車から、黒髪のキュートな女性が降りて、店に入る。

「おいおい、あれはアムロの元カノじゃないか?確かチェーン・アギだ。アムロの葬儀で会った。いや、彼女は元ロンド・ベルだ。ブライトと親交があってもおかしくない。だが、なぜセイラさんとベルトーチカと一緒なんだ?」

 

そして、柔和そうな家庭的な女性が高級車から下りてくる。

「……フラウ、お前もか!セイラさんはわかる!なぜ、ベルトーチカとチェーン・アギと一緒なのか?どういうことだ!?」

先の3人の女性と同じように静々と店に入っていく。

 

カイはこの状況に驚きを隠せず、つい心の声が漏れてしまっていた。

 

「落ち着け、焦れば真実が見えない……、ふう、なるほど、全員アムロの関係者か。確かアムロの葬儀の時に全員顔を合わせている。アムロつながりで交友を持った可能性が高い、冷静に考えればなんてことはない……ん?………!?おっ!?おわっ!!?」

カイはこの4人の女性の関係性を冷静に考察し、答えを導きだすのだが、最後に高級車を降りて来た人物を見て、頭が真っ白になり膝と腰が落ちる。

 

そう、天然パーマの優し気なイケメンがそこに歩いて店に入っていくのが見えた。

「ば、バカな!?あ…あああ…アムロだと!?ど、どどどどどどういうことだ!?なんでアムロが生きて………、いや、冷静に冷静になれ、カイ・シデン、慌てた方が負けだ」

13年前にシャアの反乱で死んだはずのアムロが目の前で歩いていたのだ。

カイが驚愕で腰を落とすのは致し方が無いだろう。

それでもカイはガクガクと震える膝を叩きながら、立ち上がる。

 

カイはその場を離れ先ほどの喫茶店に戻り、コーヒーをブラックのまま一気に飲みほして、冷静さを幾分か取り戻し、思考を再開する。

「あれはアムロだ、間違いない。……アムロは実は生きていた。あの戦いで奴はMIA、要するに行方不明だった。戦死の確認はされていなかった。だとすると、身元が分からないままどこかの病院で意識不明のまま入院していたということもあるだろう。そして、最近意識が戻ったということもある。そして、アムロの所縁がある女性達もこの機会に再会したのだろう。そうに違いない。う、うむ」

カイは多少強引だが、アムロが生きていた仮説を立て、無理やり自分を納得させた。

 

 

カイは再びブライトのレストランに向かい、路地から店の様子を覗うことにしたが……。

金髪のイケメン偉丈夫が、若い女性をエスコートし、サングラスを外しながら店に入って行く姿が見えたのだ。

その姿を見たカイは驚愕のあまり、腰と膝が落ちるどころか、後ろにひっくり返り、しりもちをついてしまった。

「ま、ままま、まさか!?シ、シャア!?シャアだとーーーっ!?ど、どどどどいうことだ!?何故死んだはずの奴が!?なぜブライトの店に!?」

カイは頭の中も真っ白になり、震えが止まらない。

全身から冷汗が噴き出す。

流石のカイも冷静でいられないどころか混乱の坩堝に。

 

カイは何とか立ち上がり、壁にもたれかかるが、息絶え絶えだった。

「はぁ、はぁ、冷静にだ。シャア・アズナブルが生きている……。この事実は流石にやばい。アムロの比じゃない。しかもブライトの店に……ブライトに何があった?このコロニーは一体?」

カイは目を押さえながら思考を回すが、妙な焦燥感と共に恐怖も感じていた。

当然だ。

シャアは地球に隕石を落とすような男だ。

しかも、そのカリスマ性は死亡して13年経つ今でも語り継がれている。

その男が生きていたのだ。

 

 

そんな時だ。

壁に寄りかかり息絶え絶えに俯くカイに声をかける人物が。

「おい、大丈夫か?気分が悪いのか?」

カイはかろうじて顔を上げ、声をかけてくれた人物をみる。

そこには少々目つきの悪い中年の男が立っていた。

 

「すまん。ちょっと疲れただけだ。大丈…夫…………!?」

カイはその男が連れ立っていた女性を見て目を丸くして固まってしまう。

(この女を俺は知っている。どこかで会ったことがある。誰だ?誰なんだ?)

 

「ふむ、持病か何かか?」

その妙に目つきが鋭い女性がカイに声をかける。

 

そこでカイは気づいてしまう。

彼女が誰かということを……。

(ま、まさかーーっ!?ハ、ハマーン・カーンか!?何故こんなところに、ネオ・ジオン抗争で死んだはずじゃ!?)

カイは内心叫びまくっていた。

当然だろう。

死んだはずのハマーンが、地球連邦を追い詰めたネオ・ジオンの女帝ハマーン・カーンが目の前に現れたのだ。

 

「おい、顔色がめちゃくちゃ悪いぞ。大丈夫じゃねーなこれ。俺は医者だ。ちょっと見せてくれ」

 

「はぁ、はぁ、だ、大丈夫……だ」

カイは目の前の視界がぼやけ、ふらつく。

 

「おい!」

医者を名乗る男が、ふらつくカイを支える。

 

「ローザ、ブライトの店まで運ぶぞ」

「ああ」

そう言って、医者を名乗る男…エドと隣の眼光が鋭い女性ローザは、カイを支えブライトの店まで連れて行こうとする。

 

「ちょ、ちょっと待て」

「待てねーよ。大人しくしてくれ」

カイにとって今のブライトの店に行くなどと、悪魔どもが巣くう魔窟に足を踏み込むような心地だった。

カイはめちゃくちゃ焦るが、体の方が上手く動かない。

 

「ちょ……ま、待て……おいーー-っ!!」

カイは今のこの状況が何なのか既に理解が及ばなくなってはいたが、頭の中ではヤバいヤバいと警鐘をならしていた。

カイにとって、今のブライトの新店が恐ろしい何かに見えて仕方がなかったのだ。

 




カイは精神を保つことが出来るのだろうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 レストラン開業 後編終幕

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
レストラン開業編というかカイ・シデン編も終わりです。
いつもの倍のボリュームになってしまいました。




 

カイは今、ブライトのレストラン奥、畳四畳半程の和室造りの個室に横になっている。

度重なるショックで、立っている事もままならない状態だったカイは、医者を名乗るエドに救護のためと、ハマーンと思わしき女性と共にブライトのレストランまで連れられて来られたのだった。

だが、幸いなことに開店前とあってブライト親子や手伝いに来た友人連中は忙しなく動いており、エドは急患で個室を貸してくれと声だけかけてカイを連れ込んだだめ、その急患がカイだと誰も気が付いていなかった。

 

「しばらく横になってくれ、ローザ、冷たいタオルを借りて来てくれ、お絞りでもいい。複数な」

「ああ、了解した」

「熱は無いようだ。ちょっと脈を測らせてくれ」

カイは横になりエドに処置を受けながら、ホッと息を吐く。

(ふう、ひとまず助かったか……これからどうするか。それにしてもハマーンを連れ立ったこの医者は何者だ?どう見ても一般人だが……、少々探りを入れてみるか)

 

「脈は少々速いが……、落ち着いてきたようだ。名は言えるか?」

「……ラトキエだ。」

カイは咄嗟に保護対象であり妹分でもあり、ジャーナリストの助手であるミリー・ラトキエの姓を名乗った。

因みにミリーは一年戦争時に出会ったミハル・ラトキエの歳離れた妹だ。

さらに丁度30歳を迎える彼女もカイもまだ独身である。

 

「大丈夫そうだな。大事を取って後日にでも病院に行った方がいいだろう。俺はこの町はずれの診療所で医者をやってるエドワード・ヘイガーだ。よかったら寄ってくれ」

「助かったよ。先生」

「まだしばらく横になっていた方がいい、ここの店主とは顔なじみだから安心してくれ」

カイは幾分か落ち着きを取り戻し、体を起こそうとするがエドに止められる。

 

同じタイミングでローザが戻ってきて、冷水で絞ったタオルを2枚程エドに渡す。

「ローザ、サンキューな。ここは俺が見ておく」

「うむ、祝いの品は渡しておいた。子供達もぐずる頃だ私は一旦家に戻るとしよう」

「そうしてくれ」

 

額にタオルをのせてもらったカイは、ローザが出て行くのを見計らい、エドに質問をする。

「彼女は先生の奥さんかい?」

「ああそうだ」

「お子さんも?」

「ああ、下の子がまだ2歳だからな、上の子が見てくれてるが、親戚の子も来てるからな。面倒見に戻ってもらった」

「うらやましいね。美人奥さんに子供まで」

(あの女から戦場の匂いが全くしない、この目つきは悪いが人の好さそうな先生と夫婦で子供が複数も……本当にハマーンか?確かに顔は一緒だが……、もしかするとアムロとシャアも俺の勘違いかもしれないな。久々に仲間に会うからって少々浮かれ過ぎていたようだ)

カイはハマーンについてはかなり疑問視しだし、アムロとシャアの生存については半分自分の願望のように、勘違いだと思い込もうとしていた。

 

「店は忙しそうだ。悪いね。ここの店は新店かい?」

「ああ大丈夫だ。店の営業は始まってない。明後日開店なんだが、俺もなんか手伝おうと思って嫁と来たんだが、既に他の連中も結構来ていたから、人手は足りてそうだ」

「そうか、開店したら寄せてもらおうか」

「脈も落ち着いてきた。大丈夫だろう。だが、まだ横になっていてくれ、30分は安静だ。俺はちょっと手伝いに行ってくるが、出て行くときは声をかけてくれ」

「先生、助かったよ」

エドは個室から出て行く。

(あの先生はブライトの友人だろうが……)

カイは余ったタオルで冷や汗をぬぐいながら体を起こし、聞き耳を立てる。

 

『ブライト、ハロ・ウエイタータイプ3機と掃除専用ハロマークⅡ2機の稼働テストは終わった。命令は基本音声で可能だが、このコントロールパネルで細かく調整できる。これでアルバイトを雇わずに済むだろう』

『アムロ、助かる』

 

(………やはりアムロか……幻覚ではなかった……ということはシャアも……)

カイはこの会話でアムロの生存を確信し、シャアもやはり生きているのではないかと焦りだす。

 

『ブライト、ワインセラーの温度調整はしておいた』

『レッドマンちょっとまて、ワインが入っているが?高そうな年代物まで、こんなには』

『なに開店祝いだ。とっておいてくれ。追加注文する場合は当社の農場直営店でしてくれればいい。日本酒も扱っているから都合がいいだろう』

『ああ、そうさせてもらう』

 

『レッドマン、赤ワインが多いぞ。自分のパーソナルカラーをそんなに主張したいのか?』

『アムロ、墓穴を掘ったな。ここは和食レストランだ。白ワインやロゼは日本酒とかぶる。赤ワインは日本酒では代用がきかない味わいだ。しかも肉料理に合う。自分から無知をさらけ出すとはこれがかつてのライバルとは情けない』

『ワインセラーが金ぴかなのは何故だ?』

『私の趣味だ』

『兄さん、アムロも大人げない真似はおよしなさい』

『むう』

『……』

(………やはりシャアか……しかし何だこの会話は?……アムロとシャアは何を張り合ってる。実はお前ら仲がいいんじゃないか?)

カイは聞こえて来た会話で、アムロとシャアの生存に確信を持つが、先ほどのような焦燥感や恐怖は感じなかった。

 

(だがしかし、俺は見なかったことにした方がいいだろう。さすがにこれは真実としては重過ぎる。俺の胸だけにしまっておくか)

カイはフッとニヒルに笑いながら立ち上がり、黙って店を出て行こうとするが……。

 

「あら、カイじゃない」

「こ、こんにちはミライさん、ご、ご無沙汰」

ミライと入口を出たところでばったり会ってっしまった。

 

「こんなところで、突っ立ってないで入りなさいな」

「あのミライさん?俺は野暮用で……」

「いいからいいから、そういえばカイには招待状を明日にしていたわよね」

「日時を間違えてしまって、はははっ」

「まあいいわ。どうせあなたにも言うつもりだったし」

「な、なにを?」

 

「あなた、カイが来てくれたわよ」

「カイだと!?」

カイはこうなってしまっては腹をくくるしかなかった。

 

カイはふっと一息吐いてから、いつものようにニヒルに口元を緩めて、何もなかったかのように皆を見まわしながら挨拶をしだす。

「…ブライト、開店おめでとさん。よおアムロ、元気そうだな」

「カイ、相変わらず時間にルーズな奴だ」

「カイ……」

 

「セイラさんとフラウもご無沙汰」

「カイ」

「カイさん」

 

「それと…そこのあんた。よく生き恥さらしてんな」

「誰かと勘違いしてはいまいか?私はレッドマン。それ以上でもそれ以下でもない」

「はぁ、そういうことにしといてやるよ」

 

 

この後、夕刻から事情を知った身内のみで、ブライトの店でプチ開店祝いを行い、カイも参加させられる。

 

その夜はアムロの御殿のバーが備え付けられている第二ダイニングで、元ホワイトベースの面々が集まる。

メンバーはブライトにミライ、セイラ、フラウとアムロ、そしてカイの6人だ。

因みにアムロの嫁の内ベルトーチカとチェーンは気を使いこの場には参加していない。

 

「……アムロ、お前どんだけ金持ちなんだ!」

「ああ、カークランド・コーポレーションの専務取締役の役員報酬がかなり大きい上に、セイラさんが資産運用してくれて、10倍に膨れあがったからな」

「はぁ?カークランド・コーポレーションの専務はエウロム・エヴィンって名だったはずだ」

「ああ、名前を偽造してラテン語に変えたからな。文字だけだとそう読み間違える。今の名はアムロ・エヴィンだ。大概的には間違った読み方のエウロムで呼ばれることが多いがその方が都合がいい」

「それにしても、お前が生きていたとはな。みんな知ってたのかよ?」

「この中で一番早かったのは俺だったか。シャアの反乱の三年後だな。まさかニューガンダムで現れるとは思いもしなかった」

「ブライト、どういう再会の仕方だ?三年後ということはラプラス事変か!?やはり、カークランド・コーポレーションがあの事件も関わっていたということか!?アムロ、お前はいつからカークランド・コーポレーションに身を隠していたんだ?」

「成り行きだ。正確には、シャアの反乱で俺は宇宙を彷徨い死んでいたハズだった。エドに脱出ポットを拾われ、命拾いしたが、俺は半年間目が覚めなかった」

「エドって、あの医者か」

「ああ、レッドマン…シャアも同時に拾われた。奴の方がかなり重傷だったらしいが、エドが何とかした」

「なにもんだ?あの医者……それにあのローザを名乗る嫁は?」

「ハマーン・カーンだ」

「やはりか……」

「彼女もネオ・ジオンの内乱後に脱出ポットごとエドに拾われたらしい」

「俺も彼女に会った時は別人かと思った。あまりにも纏う雰囲気が異なっていたからな」

「ハマーンにアムロとシャアをって、あの医者は本当になにもんなんだ!?」

「自称、町医者だ。ただ、一年戦争時は地球で連邦の戦場医として活動していたそうだ」

「本当か?」

「カイ、ドクター・エドワードは医療界の風雲児と呼ばれる天才よ。彼のお陰で遺伝子治療は20年先に進んだといっても過言ではないわ」

「セイラさん、それってあの表に全く出ないで有名なドクター・エドワード・ヘイガーか?それがこんなところで町医者を?」

「カイ、絶対記事に載せるな。エド先生は表に出ることを嫌う」

「載せてたまるか!!無茶いうな!嫁がハマーンだぞ!!それに、これをのせるとシャアの存在も明るみに出るだろ!!それにアムロ、お前もだ!!」

カイはシャアとハマーンが生きてる事実なんてものをさらさら書く気はなかった。

世間が余計に混乱するだけで、誰も得しないことはわかっていたからだ。

 

 

「それにしてもアムロ、まさかセイラさんと結婚するなんてな。念願叶ったりってとこか?」

「カイ、からかうのはよしてくれ」

「そういえば、フラウ、レツから再婚は聞いたが、どんな奴と再婚したんだ?」

「アムロよ」

「………どういうことだアムロ!?」

「カイ、落ち着いて聞いて……アムロはね。セイラとフラウ、ベルトーチカとチェーンと4人と結婚したの」

「はぁ!?ミライさん何を言って……本当なのか!?アムロお前!!何ハーレム築いてるんだ!!金か!!金が余ってるからか!!セイラさんにフラウ!それでいいのかよ!?」

「カイ、落ち着きなさい。子供達も居るのだし、既に手遅れよ」

「子供って!何人だ!!アムロ!!」

「セイラさんとの子が一人、フラウとも一人、ベルは二人だがもう一人生まれそうだ。チェーンとも二人」

「アムロ!!お前って奴は!!」

「カイさん、私は構わないわ。アムロはハヤトとの子もしっかり面倒見てくれるし、もうあの子も大学生で大人になって……」

「……レツがフラウの再婚相手を言いにくそうにしていた理由が十分に分かった」

カイにとってアムロが4人と結婚したことが、アムロが生きていたこと以上に衝撃だったようだ。

 

 

「それにしてもブライト、急に連邦辞めるなんて、何があった?」

「それはだな……」

「ブライト、大丈夫だ。トラヴィス会長からも許可をもらってる」

「カークランドも関係しているのか?」

「……カイには話しておいた方がいいわ、あなた」

「ああ、但しカイ、これ以降を知ってしまったら、もう抜けられないということだけは先に言っておく」

「ちょっと待て……いいだろう。もうここまで知ってしまったんだ。後戻りはとっくにできないだろう」

「わかった。……息子のハサウェイは……マフティー・ナビーユ・エリンだった」

「ぶっ!??ちょ、ちょっと待て!!マフティーはブレン元少将じゃなかったのか!?」

「黒幕はそうだった。表の指導者として、連邦政府と連邦地球軍と直接戦っていたのはハサウェイだった」

「ブライトと私は知らなかったの、ハサウェイが地球でテロをしていたことを」

「……ば、バカな!?どういう……!?アムロ!!どういうことか説明しろ!!」

ブライトの息子ハサウェイがマフティーだった事実にカイは、シャアが生きていたと同じくらいの衝撃を受け、狼狽する。

 

アムロはカイにマフティーの反乱の結末について詳しく説明する。

「黒幕がブレン元少将とアナハイムのマーサ・ビスト・カーバインで、裏で連邦政府の最大派閥と繋がっていて、マフティーの反乱自身が自作自演だっただと!?それで、連邦政府は今回の反乱をブレン元少将とカーバインのババァにすべて罪を擦り付けて終わりにしたってことか!」

「ああ、ハサウェイ達マフティーの若者たちは連邦政府に踊らされていたんだよ。それにいち早く察知したのがトラヴィス会長だ」

「そんで、実際はカークランド・コーポレーションの裏の民間軍事会社が介入して証拠を押さえたと」

「そういうことだ」

「トラヴィス・カークランド、今日会ったが、あの爺さんの妙な迫力はなんだ?あんなとんでもない奴がまだいたとは……。連邦軍はあんなのをよく手放したな」

「連邦軍では扱いきれないと思ったのだろう。トラヴィス会長自身、最初はこんな大がかりなことをするつもりはなかったようだ。自分たちの仲間内だけを守るつもりだったが、エドの所にはハマーンが来て、エドがハマーンを妹として守ろうとした。そこから始まったようだ。会長の元々の才覚もあって、こんな大企業に発展した」

「それに一役も二役も買ったのがアムロ、お前だな」

「これは成り行きとしか言い難いがそうだ。トラヴィス会長は俺に生きる場所をくれただけでなく、好きにやらせてくれた」

「連邦の無能っぷりがそれでよく分かる。アムロやブライトを押さえつける一方だったからな。ブライトとアムロを好きにさせればシャアも反乱を起こす真似はしなかっただろう」

「どうだかな」

「それでハサウェイは今日会ったが、マフティーの他の若い連中は?」

「ああ、ハサウェイを含めて、更生労働を課して新サイド6で働かせている。さらに非正規地球移住者をドンドン引き入れ、自分たちが住むコロニーまで建設させてる」

「ははっ。……トラヴィス・カークランド、とんでもない爺さんだ。あの爺さんが死んだら、爺さんの伝記もんでも書いてみるか。もちろん不都合なことは書かねーから安心してくれ」

 

 

「セイラさん、シャアの奴は大丈夫なのか?今日見た限りは尖った感じはしなかったが」

「兄さんは大丈夫よ。ドクター・エドワードや若い奥さんに子供達もいるのだし」

「……確かに若かった。高校生に見えるが……」

「ああ見えて、リタは35歳よ」

「そ、そうか……エドワード先生というのはどういうことだ?」

「リタはエドの妹分みたいなものだ。何よりシャアがエドを裏切ることはない」

「どういうことだ?ミライさん、セイラさん、フラウまで何故全員頷いてるんだ?」

「カイ、見ればわかる」

「いや、わからん」

レッドマン、シャアが地球連邦に反旗を翻さない理由がエドを裏切らない理由と重ならない上に、なぜエドを裏切らないのか、今のカイにはわからなかった。

 

 

「ちょっと聞いていいか?」

「なんだ、改まって?」

「気になる事がもう一つあった、エドワード先生の妹?家族の子の一人が、ミネバに似ていたんだが」

「本人よ。今はオードリー・バーンって名前よ」

「……やっぱそうか……聞かなきゃよかった」

「そのオードリーの恋人でエドの甥のバナージは現ビスト財団総裁の腹違いの弟だ。なんでもサイアム・ビストから財産分与でコロニー一つもらったそうだぞ」

「聞きたくないぞ!アムロ!」

「カイ、それとこのコロニーにはな……」

「ブライトもやめろ!もうお前ら余計なことをしゃべるな!」

 

 

「しかし、ここはネタのオンパレードかよ。一生食ってくだけじゃない、金持ちになれるネタがゴロゴロと……絶対記事にできないがな」

「カイもそろそろ腰を落ち着けたら?このサイドに引っ越してくればいいじゃない?」

「………俺は平穏無事に過ごしたいんだよ。ミライさん」

「ここは平穏よ」

「カイさん、住みやすいところよ。連邦の圧力も無いし、子供達ものびのび過ごせるわ」

「……お前ら、神経どうにかなったんじゃないか?」

 

「そういえば、トラヴィス会長からカイ宛に招待状が届いてる。二日後に本社にだと」

「………アムロ、お前も一緒に来てくれるよな。友達だろ?」

「俺はこれでも会社の取締役だ。会長側の人間だぞ」

「そうだった!ブライトでいい!一緒に来てくれ!あの爺さん怖えーんだよ!」

「二日後はレストランの本格開店だ。俺とミライはそれどころじゃない」

「だったら、セイラさん、フラウでもいい!なっ、頼む!」

「カイあなた、また軟弱者と呼ばれたいのかしら?」

「カイさん、がんばって」

「この!裏切者どもーーーっ!!」

 

 

二日後、無事ブライトの和食レストラン『ヤツシマ』は開店し、しばらく盛況が続き人気店となる。

 

その頃、カイはカークランド・コーポレーションに向かう。

会長室でトラヴィスとの会合が、アムロ同席のもとで行われた。

トラヴィスの口調は軽い感じだったが、内容は脅迫に似た情報を漏らすなという警告であった。

さらに、逆に情報提供者の一人にさせられる始末。

 

カイは帰りのシャトルでは、離れ行く新サイド6を眺めながら独り言ちる。

「とんでもない目にあったぜ。しかしまあブライトもアムロも活き活きしていやがる。シャアもハマーンもあれでいい。もう、戦争なんてこりごりだ。……トラヴィス・カークランド。あれ程の大物がまだこの時代に居たとはな。巻き込まれるのはご免だが、このコロニーの行く末が楽しみではある」

 




また、ネタが思いついたら書き足しますね。

因みに前回のアンケート結果ですが

【15番コロニーの混沌勢と鉢合わせたカイの反応は】
①こういう時慌てたほうが負けなのよね……もろ初代ネタです。
②お星さまが見える人になる……カミーユネタですね。
③とりあえずレッドマンを修正する……レッドマンの修正はいつも人気です。
④怒涛の如く叫びまくる。……これが正解ですかねw
⑤アムロを修正する。……アムロ修正がなんとランクイン。当然ですよね。
⑥きさまといた数か月、悪くなかったぜ……ピッコロさんネタがwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 カイ・レポートUC0106

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は前話の続きで、カイから見た15番コロニーのお話になります。
閑話の番外編程度で見てあげてください。


 

ブライトのレストラン開店パーティーに招待され新サイド6まで行ったが、トンでもねー目にあったぜ。

そもそも俺が招待日を1日間違えたのが運の尽きって奴だ。

 

 

まさか、アムロが生きていたとはな。

宮殿みたいな家に住む超金持ちで、奇麗どころ4人も嫁もらってハーレム状態ってか?

それで子供が7人っておい。

冗談が過ぎて、笑い話にもならん。

しかも、嫁はセイラさんにフラウだと?

さらに元カラバのベルトーチカ・イルマに元ロンドベルのチェーン・アギだ。

何のオールスターだ?マジ何なんだ?

おまけに、今世界を席巻する大企業カークランド・コーポレーションの専務取締役だぞ?

誰が予想できるか。

 

……しかし、アムロの不遇な半生を考えれば、バチは当たらんだろう。

一年戦争の英雄とモテはやされはしたが、アムロの能力を恐れた連邦上層部に7年の不当な軟禁状態にさらされる。

ティターンズが台頭してからは、カラバでティターンズとハマーン率いるネオ・ジオンと2年弱戦い、数々の戦場を勝利に導き、あの戦争の勝利の立役者の一人と言える。

だがその後、エゥーゴとカラバは連邦軍に吸収され、アムロやブライトはしばらくまた不遇な時を過ごす。

シャアが暗躍しだすと、また前線に送られる。

シャア率いるネオ・ジオン相手にロンドベルのたった一戦隊で挑み、アクシズ落下を阻止し、シャアを直接破り、奇跡的ともいえる勝利をその手にした。

だが、その代償はアムロの死か。

連邦にとって、厄介者のシャアとアムロの二人が消え、お偉いさんどもはさぞかし、ほくそ笑んでいただろう。

 

しかし、生きていた。

アムロだけじゃない。あのシャア・アズナブルもだ。

 

 

シャアもアムロやブライトと同じコロニーに根付いていやがった。

シャアが生きていた事実と影響力はアムロの比ではない。

彼奴は悪党だが、才能とカリスマの塊のような奴だ。

奴が動けば、自然と人が集まりついて行く。

反連邦を掲げれば、また一大勢力を築くことも容易だろう。

だが奴は、ネオ・ジオンやジオン残党などとは一切手を組むことも、政治関連にも首を突っ込むこともせず、普通の一市民として暮らしていた。

しかも、女子高生ぐらいに見える嫁を貰って、双子の子どもまでなしてな。

奴の今の名前はデニス・レッドマン。

奴にとって名前を変えるぐらいどうってことはないだろうが、似合いの名前だ。

この10年で急激に成長し、今や宇宙全域でバーやクラブを経営展開している飲食チェーン、ナイチンゲールコープのトップだ。

この男の才覚は何をやっても上手くいくらしい。

凡人の俺からしたらうらやましい限りだ。

 

本来なら警戒すべきだろうが、奴の今の周りにはアムロやブライトが居る。

さらに妹のセイラさんもな。

しかも、ドクター・エドワードが居る限り、奴は警戒しなくてもいいらしい。意味は分からんがな。

連中がそろって真顔で言うんだ。そうなのだろう。

 

 

そのドクター・エドワードだが、あの医療界の風雲児ドクター・エドワード・ヘイガーだった。

数々の画期的な治療法を生み出した天才医療技師だが、全く世間に顔を出さないことからも元ジオンの研究者だとか元ニュータイプ研究所の研究員だとか、いろんな憶測が飛び、時折ゴシップなどにも話題にもなる人物だ。

俺はその事実に久々にジャーナリスト魂に火が付きそうになった。

誰もドクター・エドワードの正体を突き止められなかったからな。

しかし、まったく偉そうに見えんし、こんな片田舎で町医者やってるなんて誰が思うか?

だが、絶対記事にできない。

いや、しちゃならない。

何せ、ドクターの嫁が連邦を追い詰めたあのネオ・ジオンの女帝ハマーン・カーンだったからだ。

生きていた事にも驚いたが、こんな片田舎で看護師をやっていたとはな。

ドクターと今のローザを名乗るハマーンを見れば、ただの仲睦まじい町医者夫婦だ。

アムロが言うには、ハマーンの方がドクターにゾッコンらしい。

今のハマーンには戦場の匂いが全くしない。

恋が人を変えるとは言うが、人はこんなにも変われるものかと思うぐらいな。

ハマーンはネオ・ジオンの内乱後に瀕死状態で宇宙に彷徨ってる所を、たまたま通りかかったドクターに脱出ポットごと拾われたそうだ。

ハマーンの命を救い、妹として一緒に生活しだしたんだと。

よく、連邦に突き出さなかったことだと思うが、そもそもドクターは連邦嫌いだそうだ。

一年戦争からデラーズの反乱まで、連邦軍軍医として数々の修羅場を潜って来たらしいから、連邦の体質をよく知っているのだろう。

それにドクターの所には、日の目を見る事ができない訳アリの患者がよく来るらしい。

 

このドクター・エドワード、拾ったのはハマーンだけじゃなかった。

シャアの反乱の際には、アムロとシャアの脱出ポットを一緒に拾ったと。

………運が良いのか悪いのか分からんが、ドクターはとんでもないのを拾ってくるようだ。

 

そのドクター・エドワードの家族構成もおかしい。

嫁のハマーンもそうだが、義妹にザビ家の姫ミネバ・ザビっておい。

今はオードリー・バーンを名乗るミネバの恋人が、ドクターの甥の立場のバナージ・リンクスという若者だ。

このバナージ、あのビスト財団の親類だった。

しかも、現ビスト財団総帥の腹違いの歳の離れた弟らしい。

さらに、ビスト財団創設者のサイアム・ビストから、財産分与としてコロニー一基をもらったとか。

聞きたくなかった事実だぜ。

ドクターにはそれ以外にも義妹や養子娘が数人いるらしいが、俺はそれ以上聞かなかった。

嫌な予感がしてたまらない。

間違いなく何らかの訳アリの連中に決まってるからだ。

 

 

聞きたくなかったといえば、ブライトとミライさんの息子ハサウェイがマフティー・ナビーユ・エリンだったという事実だ。

世間では、マフティーによる一連のテロは連邦に恨みを持つ元連邦軍のブレン少将とアナハイム・エレクトロニクスのマーサ・ビスト・カーバインが結託して起こし、二人を捕らえることで終息したとされていたが、事実は異なる。

マフティーは非正規地球移住者や連邦に恨みを持つ若者たちで構成された反政府テロ組織で、その表の指導者がハサウェイだった。

マフティーは地球環境保全と地球の未来を憂う反政府テロ組織として、利権を振りかざす連邦政府や連邦軍上層部の人間をモビルスーツ等を使って次々にテロで亡き者にしてきた。

それによって無関係な人間も多数巻き込まれ傷ついた。

だが、これは表の話だ。

事実は、マフティーを元ブレン少将を通じて裏から動かしていたのは連邦政府の最大派閥だった。

マフティーにモビルスーツを使ったテロを起こさせ、政敵を亡き者にしつつ、マフティーに対抗するためにと連邦軍にモビルスーツを発注させ、政治家たちの利権も生ませる。

世間に不安をあおるだけあおり、非正規地球移住者や反政府思想は危険だと植え付け、マフティーを利用するだけ利用し最終的に壊滅させ、連邦政府の正義と威厳を回復させつつ、危険思想を持つ非正規地球移住者と反政府組織もすべて徹底的に壊滅させるつもりだった。

連邦政府の最大派閥にとっては、一石二鳥どころか、三鳥四鳥と良い事づくめの戦略だったようだ。

 

だが、それは途中で瓦解した。

世間では、連邦宇宙軍の介入でマフティーは壊滅したことになっているが、実際はカークランド・コーポレーションの裏組織スレイブ・レイスによって、マフティーテロ実行犯やブレン元少将とアナハイムのマーサが捕らわれ、終息したと。

連邦政府の最大派閥は保身のためにブレン元少将とマーサを早々に切り捨て、すべての罪を擦り付ける。

だが、それだけでは済まなかった。

マフティーを野放しにした連邦政府に批判が殺到し、連邦政府議会は解散、最大派閥は勢力をそぎ落とされる結果となった。

利用されていたマフティーの構成員達は表向きは壊滅したことになっているが、実際はカークランド・コーポレーションの監視の元、新サイド6で更生労働だとかで働かされている。

 

 

スレイブ・レイス。

一年戦争時、連邦内部の粛清部隊。

ジオンへの内通者などの裏切者を葬り去る部隊だ。

その部隊長がトラヴィス・カークランド中尉。

裏情報をかき集めると、とんでもない事実が浮き上がってくる。

このトラヴィスという男、一年戦争の混乱した戦場で、敵であるジオンの部隊とすら手を結び、自らの手駒として動かし、直属の上司すらも自らの意思で粛清対象とし亡き者にしている。

一見、冷酷無比に見えるが、奴に助けられた軍人は連邦ジオン問わず多数存在した。

 

トラヴィスは一年戦争後、あっさり軍を辞めて身を潜めていたが、連邦軍を辞めた今もスレイブ・レイスを存続させていた。

そのための大企業カークランド・コーポレーションなのかもしれない。

 

先日トラヴィスに呼ばれ、俺はカークランド・コーポレーションに向かった。

会長室で話しあったが……。

あの爺さん、軽口叩いていたが、知った事実を俺に記事にするなと釘を刺してきた。

そもそも、俺は記事にするつもりなんてない。

アムロにブライト、セイラさんにミライさん、フラウ、ここには戦友たちがいる。

俺に仲間を売る趣味はないからな。

 

 

ブライトの和風レストランで、事情を知った身内だけのプチパーティーに、俺も参加させられた。

そこには月からわざわざ来たグリプスの英雄カミーユ・ビダン、ユイリィ・ビダン夫婦。

カークランド・コーポレーションの現社員で隣のコロニーに住むネオ・ジオン抗争終結の立役者、ジュドー・アーシタ、ルー・ルカも、二人は最近結婚したらしい。

もちろん、アムロの家族やレッドマンを名乗るシャアの家族。ドクター・エドワード一家。トラヴィスも夫婦で参加。たぶん俺と同じぐらいの歳の男は話からトラヴィスの息子だろう。

これだけの連中がそろうなどまずないだろう。

シャアにハマーンにアムロとブライト、それにカミーユ・ビダンにジュドー・アーシタにトラヴィス・カークランド、そしてミネバ・ザビ。

こいつらが本気出したら、連邦政府なんて転覆できるんじゃないか?

 

それとジャガイモ農家のオーナーを名乗る赤ッ鼻の男が居たが、こいつ何処かで見たことがあるが思い出せん。

ソーセージ工場の社長もやばい。そいつは元連邦のお偉いさんだ。

養鶏所のオーナー夫婦も、何かの資料で見たことがある。

ん!?あの男は?どういうことだ?なんでこんな大物がここに!?

 

俺はそこで思考を止め、とりあえずレッドマンおすすめのワインを口にした。

フラウが言っていたことは正解だったか、確かにここは良いところだ。

連邦やジオン、敵や味方など関係ない。

皆、楽しそうに飲み食いしてやがった。

 

 

 

新サイド6を離れ、事務所兼自宅に戻る。

「もどったぞ」

 

「カイ、お帰り。久々に昔の仲間に会えてどうだった?」

「あ……まあ、よかったな」

出迎えてくれたミリーの声に何故だかホッとする。

 

「なに、その気のない返事は、何かあったの?」

「いろいろな」

 

「ふーん、早速なのだけど、カークランド・コーポレーションについて調べてみたところ、ネタになりそうなものは見つからなかったわ。中々手ごわそうよ」

「それはもう調べなくていい」

「なんでよ?」

「……ちょっと休もうと思ってな」

 

「そう……、カークランド・コーポレーションの会長のトラヴィスの奥さんは、現社長のアンネローゼだって知ってる?」

「もちろん、知ってる。それがどうした?」

「アンネローゼって美人よね。43歳でカイと同い年」

「らしいな」

「トラヴィスは今が66歳で、結婚したのが54歳で、アンネローゼが31歳の時よ」

「そういえば随分と歳が離れてるな」

 

「カイ、私の歳は知ってる?」

「ああ、ちょうど30だろ?」

「もう、30歳……カイと出会って20年。私はいつまで待てばいいの?」

「何を待つんだ?」

「……結婚」

「いい奴いないのか?」

「カイのバカ!!」

「おいやめろミリー、物を投げつけるな!!」

「バカバカバカ!!」

 

 

今度ドクター・エドワードに妹分との適切な付き合い方をご教授させてもらった方がいいのかもしれん。

 




なんか思いついたら、また書き足します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 とある日常 (NT編①)

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は閑話なのに、落ちが無い。
話のきっかけの話みたいな感じです。

話はラプラス事変後、アムロ、レッドマンの修羅場のちょっと後の0096年7月末です。


 

宇宙世紀0096年7月末

とあるコロニーではいつものように平和な日常風景が見られた。

 

「よお、レッドマン来たぞ。ってアムロも来てたのか」

「来てくれたかエド」

「エド、休日に珍しい」

エドは家族で夕食を過ごした後、レッドマンが店長をしているバー茨の園に飲みに来たのだが、既にアムロがカウンターで酒を片手に過ごしていた。

因みに、エドはレッドマンをプライベートや事情を知る友人連中の前ではキャスバルと本名で呼ぶが、公共の場や他の客がいる場ではさすがに本名で呼ぶのはいろいろとまずいため、皆と同じくレッドマンと呼んでいた。

 

そんなエドの後ろから年若い女性が顔を出す。

「エドがこの店に女性同伴とは珍しいな、ローザがよく許してくれたな」

アムロの言う通り、エドはローザ以外の女性を同伴させてこの店に訪れたのだ。

 

「ローザも一緒に来たがってたんだが、あいつ酒飲めねーだろ?」

そう、ローザは酒にめっぽう弱い、表面上は変わらないがワインを一口飲んだだけで思考がめちゃくちゃになる。

ワインをコップ一杯飲もうものならその場で即寝込んでしまう始末。

ローザは女子会に顔を出しても一切酒類は飲まないし、友人連中はそれをわかってるため、酒類をローザに近づけさせない。

そもそも、ローザはとことん毛嫌いしているレッドマンの店に近づかないのだが……。

 

「だがエド、さすがに未成年は酒を振る舞うこの店にはふさわしくないが…」

レッドマンはその同伴女性の姿を見てこんなことをエドに言う。

レッドマンのいう通り、その女性は見た目16歳前後の少女に見える。

バー等の酒類を専門に出す夜の店に同伴させるには相応しくないだろう。

 

「レッドマンは直接会った事無かったか?まあ、無理もないか、こう見えてリタは成人してるから安心しろ、それに今日はリタのためにここに来たんだ。酒を飲んだことが無いっていうから、どうせ初めて飲むんなら本格的なところが良いだろうと思ってな、それにお前の所だったら安心だしな」

「こんばんは」

そう、エドはリタ・ベルナルを連れて来たのだ。

彼女はトラヴィスから預かっていた患者だ。

ユニコーンガンダム3号機に精神が捕らわれ、ずっと眠りについたままだったが、4か月前のラプラス事変でレッドマンが問題のユニコーンガンダム3号機に乗り込んだおかげで、リタは長い眠りから覚めた。

その後は、強化処置を施された影響の軽い副作用の治療のため入院していたが、今はいつでも退院できる状態であった。

リタは元連邦軍のニュータイプパイロットであったがトラヴィスとの話し合いで連邦に戻すことはせず、本人の希望で、ここで生活することを決め、取り敢えず今もエドの家で過ごしている。

リタは何故かエドの事をお兄ちゃんと呼び慕い懐いており、エドと結婚して2年目に突入したローザ(29歳)はそんなリタ(24歳)の懐き方と自分よりも5歳も若く自分にはない可愛らしい容姿や仕草に警戒していたのだ。

ローザはリタとエドと二人きりになる状況を避けたくて、バーについて来ようとしたが、なぜかエドの妹たちに止められたのだった。

ただ、そのローザの警戒は全くの杞憂にすぎない。

妹扱いをしている相手にエドがどうこうなる事は無い、それはローザも実感として知っているはずなのだが……。

それは、未だに乙女心全開なローザの勇み足といったところだろう。

 

「いや、顔を合わせたことはあるが、……それは失礼した。この通りだ」

「そういや、紹介していなかったか?」

それは致し方が無いだろう。

リタは最近まで入院していたため、なかなか紹介するタイミングが無かったのだ。

レッドマンはリタの名を聞き、その姿を見て少々驚いた顔をし、未成年扱いしたことに謝罪する。

因みにアムロは既にリタとユニコーンガンダム3号機関連で正式に顔を合わせていた。

 

「リタ・ベルナルです……初めまして、ではないかな」

リタは微笑みながら自己紹介をする。

 

「私はエドの親友で、このバーの店主であるデニス・レッドマンだ。そういうことか……君があの……」

レッドマンも自己紹介をするのだが、リタとはほとんど初顔合わせであるにも関わらず、なぜか懐かしい気分になった。

それと同時にユニコーンガンダム3号機に精神を捕らわれた女性であることに何故か納得する。

ラプラス事変の際、レッドマンはユニコーンガンダム3号機のコクピットに乗り込むと誰かに優しく包みこまれるような感覚を覚えたのは一度や二度ではない。

その感覚は目の前の少女に見える女性によるものであると、この瞬間感じ取ったのだ。

 

「俺はいつもの奴で、リタにはアルコール度数低めにして、飲みやすい感じなのを頼む」

「あ…ああ、任せてもらおうか」

エドはカウンター越しにレッドマンに注文してから、リタをカウンターに座るように促し、

エドはリタの隣り、アムロとリタとの間の席に座る。

レッドマンは注文を受け返事をするが、目はリタを追っていた。

 

エドはそんなレッドマンの様子など気にも留めず、隣のアムロに話しかける。

「それにしてもアムロ、家に帰らなくていいのかよ。ベルトーチカとチェーンがお前んちに居るんだろ?」

「……まあ、そのだ。まだここの方が落ち着く」

「いつまでグダグダやってるんだ?早くどっちかに決めちまって、楽になっちまえよ」

「それを言われると耳が痛いが、せめて酒の席ではその話題は無しにしてほしい」

アムロは疲れ切った表情でエドに懇願する。

ローザの裁定でアムロのマンションに居座っているベルトーチカとチェーンによって修羅場が毎日勃発し、家に帰りたくないアムロはここで時間をつぶしているようだ。

そもそも、その原因はアムロなのだから、自業自得ではある。

 

「待たせたな」

バーテン姿のレッドマンは、エドとリタにカクテルグラスをカウンター越しに出す。

 

エドのカクテルはエッグノック

ブランデーに牛乳と卵黄、砂糖をブレンドしたカクテルだ。

甘口で、意外と飲みやすいカクテルで、アルコール度数も12度前後と高くない。

「サンキューな」

エドは元々中辛が好みだったが、ローザと暮らすうちに酒も甘口に。

 

リタのカクテルはカシスソーダ。

リキュールにカシス果汁を加えソーダで割ったものだ。

見た目はワインやブドウジュースに見える。

日本の居酒屋でも定番で、アルコール度数も4~5度と低くかなり飲みやすいカクテルだ。

レッドマンの店ではチェリーをのせていた。

「綺麗、ありがとう」

 

「うむ、アルコール度数も低い、これなら飲みやすいだろう」

「さすがバーテン、いいチョイスじゃないか、リタの初アルコールにもってこいだな」

因みにカシスソーダのカクテル言葉は『あなたは魅力的』だ。

レッドマンがこのカクテルをチョイスしたのは意図的なのかはわからない。

 

「そんじゃリタ、初めての酒に乾杯だ」

エドは自分のグラスを持ってリタの方へ軽く突き出し、リタもそれを真似てエドの方に自分のグラスを向け、軽くグラスを合わせる。

 

エドは先にカクテルを一口のみ、グラスをカウンターに置く。

リタも続けてエドの真似をしゆっくりと酒を口にする。

「どうだ?初めての酒の味は?」

「甘くておいしい。喉がちょっとスッとする感じだけど大丈夫」

「そうか、甘いからって一気に飲むなよ。ゆっくりな、酒の味を感じるように飲んだ方がいい」

「お兄ちゃんのもおいしそう」

「これはまだリタに早い、もう少し酒になれてからだな」

「うん、そうするね」

そんな会話をしていたエドとリタの様子を見ていたアムロは……。

「ふっ、エド、端から見ると、本当の兄妹に見えるな、いや見ようによっては年の離れた恋人同士にみえるかもしれない、ローザが気が気でないんじゃないか?」

確かにエドとリタは仲睦まじく見えるだろう。

しかも本当の兄妹ではない上に、リタはこう見えてれっきとした成人女性だ。

ローザが気になるのも仕方がない。

 

「はぁ?何言ってんだアムロ。俺とリタが恋人同士?普通にアウトだろ。援助交際とかパパ活とかに見えちまうだろ?」

「ふっ、いや、前言撤回だ。恋人同士どころか、そうしてると親子にしか見えないな」

アムロはエドとリタが並んで座ってる姿を改めて見直し、笑いを漏らしながらこんなことを言う。

「まじか!?確かにリタはクェスと同じくらいの年に見えるしな。実際に俺はクェスの父親で、オードリーの父親代わりでもあるし。はぁ、俺も歳をとったってことか」

そんな会話をエドとアムロが交わしていた。

 

そんな会話に聞き耳を立てていたレッドマン。

「………」

何か思うところがあるようだ。

 

 

「リタ、俺たち親子に見えるらしいぞ…、って、おいリタ?」

エドがリタに話をふろうとするが……。

 

「……フニユ~」

リタはうつろな目をしフラフラと頭を揺らしていた。

リタのカクテルのグラスは空だった。

リタはどうやら酔っぱらっているようだ。

 

「げっ、いつの間に全部飲んだんだ?おいリタ大丈夫か?」

そんなリタに心配そうに声をかけるエド。

 

ピキーーーン!

 

フラフラしていたリタの頭はピタッと止まり、うつろな目をしたまま真正面を向く。

「見えます。……金ベルトと黒鎖が襲来、白の英雄は囚われその魂は永遠に縛られることでしょう」

預言めいたことを言いだす。

明らかにリタの様子がおかしい。

 

「お、おい?リタ、大丈夫か?」

そんなリタに声をかけるが……。

 

店の扉がバンと勢いよく開かれる。

「アムロ!此処にいるのはわかってるわ!さあ、私と帰りましょう!」

「帰りましょう!アムロが好きなシチューも用意してるわ!」

金髪美女と黒髪チャーミングが勢いよくアムロに迫り、片方ずつの腕を絡め取る。

 

「べ、ベルにチェーン!?」

そう、現れたのはベルトーチカとチェーンだった。

 

「さあ、帰りましょう!私たちの家に!」

「私と!アムロ!の家に帰りましょ!!」

二人は敵対心むき出しに顔を突き合わせながら、アムロを引っ張って店を出て行こうとする。

 

「助けてくれ、エド!レッドマン!」

引きずられるアムロは二人に助けを求めるが……。

「……普通に無理だろうこれ、あきらめて帰れ」

「早く帰れアムロ、また店が壊されたらたまらん」

エドは苦笑気味に、レッドマンは迷惑そうにそう言って帰らせようとする。

 

「では、失礼しました」

「ごきげんよう」

「……う、うう」

ベルトーチカとチェーンは挨拶を残し、諦めて項垂れるアムロを引っ張り店を出て行った。

 

 

「アムロがんばれよ。ってあっ!おいリタ、俺のカクテルも飲んだのか?」

アムロ達が出て行った店の扉を見やってから、リタに視線を戻すとリタはカウンターにうつ伏せになって、寝息を立てていた。

どうやらエドの飲みさしのカクテルも飲み干してしまったようだ。

 

「レッドマン、俺にちょっと強めの奴でなんか頼む。リタのさっきの奴はなんだったんだ?」

エドはレッドマンに酒のお代わりを要求しつつ、リタのさっきの様子と預言めいた言動について聞いた。

 

「うむ、未来視や予知か何かではないか?高レベルのニュータイプにはそういう能力がある」

「リタもニュータイプだしな、まあ、ただの酔っぱらいの戯言って線はないか?ローザも酒飲むと思考がめちゃくちゃになるしな」

レッドマンはカクテルをシェークしながら見解を話し、出来上がったカクテルをエドは口にしながら、それに答える。

 

 

ピキーーーーン!

 

カウンターでうつ伏せて寝ていたリタが急に上半身を起こし、うつろな目のまま真正面を向き、また何やら預言めいたことを言いだした。

「ツンデレ乙女女帝は究極鈍感医師に不器用に甘えたい」

 

「何言ってんだ?リタ、大丈夫かよ」

 

 

すると、またしても店の扉がバンと大きな音を立てて開く。

「エド、私とて酒の相手などわけがないのだ」

ローザが現れ、いきなりエドに詰め寄りこんなことを言いだす。

 

「はぁ?ローザも何言ってんだ?」

 

「私が酒を飲めることを証明してみせればいいのだろう」

「おい、やめろって!」

エドが制止する間もなく、ローザはエドの少ししか飲んでいないカクテルのグラスに手を伸ばし一気に飲み干した。

 

「エドが悪いのだ!私を置いて出かけるなど、寂しいではないか!……私は私は………すぅ、すぅ」

ローザは顔を赤らめエドに詰め寄るが、そのままエドにしな垂れかかり、寝てしまった。

 

「だから言わんこっちゃない……レッドマンわりぃ、ローザ連れて帰るわ。リタ帰るぞって、寝てやがる。はぁ、レッドマン。自動タクシー呼んでくれねーか?」

エドの自宅からこのバー茨の園まで歩いて10分程の距離しかないが、さすがに寝ている二人をおぶって帰るわけにいかず、自動タクシーを呼ぶことにした。

 

「了解した、1分ほどで到着する」

レッドマンはタブレットを操作し、自動タクシーを呼ぶ。

 

「サンキューな」

エドはレッドマンに礼を言いながら、先にローザを自動タクシーに乗せるためにおぶって、店を出る。

 

 

ピキーーーーン!

 

その間またリタがスクッと起き上がり、うつろな目で真正面を向き、先ほどのように預言めいたことを言いだした。

「赤のダメンズ、妹を幸せにすれば、亡き母も許してくれるでしょう。家族や友人を大切にすれば明るい未来が待っています」

 

それを聞いたレッドマンは小さくつぶやくようにリタに問いかける。

「………私は許されるのだろうか?」

 

だが、リタからの返事はない。

またフラフラとしだし、今にも倒れそうだ。

そんなリタをレッドマンはカウンターを身軽に飛び越えて、優しく支える。

「………」

 

「リタ、帰るぞ……って、レッドマン、リタに何かあったか?」

「いや……、なにもない。倒れそうだったからな、支えたまでだ」

「助かる、そんじゃな、引き上げるわ」

「ああ……」

 

エドはカードで支払いを済ませ、リタをおぶって店を出ていく。

 

 

そのエドと入れ替わりにセイラが店に現れる。

「ここに来るなど、めずらしいな」

「兄さんの仕事ぶりを急に見てみたくて……」

「そこに座って見ていればいい」

セイラはレッドマンに促され、カウンターに座る。

 

「何を飲む?私の奢りだ遠慮はいらない」

「そう、ありがとう。そうね。兄さん…マスターにお任せするわ」

「かしこまりました」

レッドマンはセイラに対し客としての対応を取る。

 

セイラに出したカクテルはカルフォルニアレモネード。

ウイスキーをベースにレモンジュース、ライムジュース、グレナデンシロップ、砂糖とソーダをブレンドしたものだ。

カクテル言葉は永遠の感謝。

 

兄妹が交わす言葉は少なかったが、二人の間で穏やかな時間が過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話には分岐が3つあります。
そういう意図で書いてますw
アンケートよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 復活のキャスバル(NT編②)

ご無沙汰してます。

今回のお話は時系列的には前話の続きです。


 

宇宙世紀0096年12月

今年も色々あったな、ラプラス事変でトラヴィスのおっさん達が大暴れ、オードリーが彼氏(バナージ)を連れ帰って来るわ、クェスは黙ってついて行くわ、さらにはリゼの生き別れの姉妹のマリーダが残酷な運命の末、家にやって来た。

それと、おっさんから預かっていたずっと昏睡状態の患者のリタが目覚めて、そのまま家に居ついちまった。

随分と家族が増えちまったもんだ。

 

それだけじゃねー、近所の住人も増えた。

キャスバルの実の妹のセイラが修羅場の末にそのままキャスバルの家に住み着いた。

キャスバルの奴、妹が大好きな癖になぜか20年もほったらかしにしてやがった。

兄妹の空白の時間を埋めるかの如く、今は2人で生活してる。

 

そのセイラなんだが、どうやらアムロの事が好きなようだ。

アムロもアムロで年上のセイラにはかなり好意的というか憧れというか、まあ、平たく言えばアムロもセイラの事が大好きなのだろう。

だがアムロの奴は過去の女の清算を全くしてなかったのが運の尽き、元カノのベルトーチカと前カノのチェーンの襲来を受け、ローザのせいもあるんだが、その二人はアムロのマンションに住み着き現在進行形で絶賛修羅場中だ。

そう言えばアムロの幼馴染で後家さんのフラウが、ちょうどこのコロニーに遊びに来ているな。

どうなることやら。

 

俺んちでは、バナージをクェスとオードリーと同じ高校に通わせた。

バナージは真面目で勉学も優秀で、性格もいい。

オードリーはともかく、性格に難があるクェスともうまくやってる。

もちろんローザやリゼともな。

バナージはローザの事はローザさんって感じで呼び、なんだか師弟というか部活の先輩後輩みたいな感じだ。

ローザにモビルスーツの操縦をアムロ共々教えて貰ったのが影響しているのだろう。

俺のことはエドおじさんって感じでおじさん呼びだ。

俺ももう36だしな。年を取ったという事だ。

流石に倍も年が違うのに兄って感じじゃねーが、それなりにおじさん呼びはショックだったわけだが。

リタやマリーダの事はさん付けで呼んでるが、何故かマリーダの姉であるリゼの事はリゼ姉さんって呼んでるな。

リゼに限っては、近所の子だけでなく、学校の連中ですらリゼの事をお姉様とか姉さんとか、姉上とか呼ばれてる。

ちょっと前までは仕草やらなんやらが子供っぽかったが、クェスやオードリーがやって来てからは、マジで姉さんをやってたからな。

それが行き過ぎて万人の姉体質になっちまったようだ。

 

話を戻すが、バナージはまじで出来た奴だ。

母子家庭で育ったらしいが、母親の教育がよっぽどよかったのだろう。

そのバナージは、ここで生活する上で俺が便宜上保護者となっている。

俺の養子でもいいんだが、彼奴の実家は存在し血縁者は今も生きてる。

何より彼奴の血筋のビストの名はのちのち必要となるだろうから、戸籍関係はそのまま残してある。

 

マリーダは先月に2回目の手術を行い、経過は順調。

表情も最初に来た頃に比べれば随分と柔らかくなったものだ。

 

リタはこの家に居ついたのはいいのだが、一般常識が少々かけている事がわかった。

いや、ローザやクェスとは違って致命的じゃないんだが、無防備過ぎる。

直ぐ人の事を信じてしまう傾向があるため、クェスの他愛も無い冗談も真に受ける。

それも致し方が無いのだろう。

リタは13歳からニュータイプ研究所に居たらしく、あのゆるふわ系の感じに反して結構ハードな人生を送って来たようだ。

だがそれじゃ、社会に出て直ぐに痛い目に遭うだろう。

そこで、アンネローゼの勧めで、リタは社会復帰の一環として、アンネローゼの元バイト先の花屋でアルバイトを始める事になった。

あの花屋の女将さんに任せれば大丈夫だろう。

 

アンネローゼと言えば、トラヴィスのおっさんと結婚したにも関わらず、しばらくはうちの家の部屋に寝泊まりすることが多かった。

だが、この頃はこっちに帰って来ることがほぼなくなった。

それはいい事なんだがな。

彼奴の明るい声が聞こえないのは、少々寂しい気もする。

アンネローゼがこちらに帰って来れなくなったのは、トラヴィスのおっさんの会社が急激に大きくなった影響でだ。

トラヴィスのおっさんのジャンク屋は、10年前まで従業員十数人の会社だったが、5年前には数百人規模、3年前のアムロ加入での特許商品の量産や技術革新、ローザの情報提供によりアステロイド帯に取り残された元ネオジオンの生産施設及び技術者を編入して1万人以上に。

今年になって、袖付きやらジオン残党やらを加え、そんでアムロの商品開発が進み5万人を超え今も増え続けている。

さらに各コロニーのジャンク屋やらを傘下に加え、グループ全体では10万人を超えてるとか。

アンネローゼはそんな中マーケティング部門を任されているらしく、忙しい毎日を過ごし、会社で寝泊まりしているようだ。

 

アムロと言えば、彼奴この頃家に殆ど帰らずに会社で寝泊まりしてるらしい。

まあ、あいつ自宅のマンションに帰ったところで、金黒(ベルトーチカ、チェーン)が修羅場を展開してるからな、家に帰りたくないのも仕方がない。

そのおかげもあって、アムロは会社のラボに引きこもり続け、画期的なジャイロシステムと熱交換エネルギーシステムやナノモーターを開発したんだと、元々モビルスーツの小型化の課題であった物を姿勢制御や熱放出問題を解決するものだったそうなんだが、コロニーのシステムや宇宙船舶など幅広く大いに利用できるらしい。

ナノモーターについては、生活家電や医療用マシンにも応用が利くとあって、他の企業から特許認定交渉や提携交渉などで引く手数多らしい。

アムロの奴、モビルスーツパイロットとして超一流なのに、技術者としても超一流とか、マジでなんなんだ?

まあ、その分私生活はほぼ破綻してるがな。

 

 

 

俺はそんな事を思い起こしながら、診療所の研究室で医療技術論文をまとめるためにノート型のコンピュータを前にしていた。

今日の午後からは休診でローザは買い物に出掛けているし、妹連中やバナージは学校へ、リタは花屋でバイト、マリーダは仮退院扱で義父(おやじ)さんと食事に出かけてる。

要するに珍しく俺一人だということだ。

 

キーボードを打ちこみ論文を進めていると、診療所の正面玄関のチャイムが鳴る。

急患か?

 

『エド、私だ』

「ん?検診か?」

インターフォンの画面にはレッドマンことキャスバルが写っていた。

 

『いや、相談があってな』

「まあ、入れや」

俺は診療所の入口のロックを外し、診察室で奴を待ち構える。

 

診療室の扉を開き入って来る奴はどこか神妙な雰囲気だ。

俺は丸椅子に奴に座るように促しながら要件を聞く。

「相談って何だ?」

「……エド頼みがある」

「なんだ?改まって」

「エド、私のアレを結合してくれまいか?」

 

「はぁ?何言ってんだお前?」

アレの結合ってなんだ?何かの隠語か?

俺は奴を訝し気に見据える。

 

「いや、アレだ。随分と待たせてしまったが私のアレを接合してほしい」

なにモジモジしてやがるんだ?しかも少し顔が赤いぞ?

36のおっさんが、なんだか気持ち悪いぞ。

 

「アレってなんだ?はっきり言えよ。キャスバル」

アレってなんだ?まじで身に覚えがない。

 

「ま、まさか、処分してしまったのではあるまいな?」

ん?なんか一気に絶望したような表情になったぞ!?

どういうことだ?

 

「だから何の事だって聞いてるんだ!はっきり言え!」

 

「……エドに培養してもらい預かってもらっている私の股間のアレだ」

今度は神妙な顔つきでこんな事を言い出す。

 

「ん?んんん?あっ?アレか……」

俺はようやく思い出した。

研究室の研究資料保管用冷凍庫の奥に閉まって置いたアレの事を。

そう3年半以上前、重症のこいつを宇宙で拾ったが顔と股間の損傷が激しく、特に股間は手遅れだった。なんとか苦労して遺伝子操作と幹細胞培養でこいつの股間を培養したんだが、『私の大きさではない』とか言いやがって、接合手術を拒否しやがった。

しかもしばらく預かってくれとか、しゃーなしに特殊な冷凍しても凍らないような処置を施し、冷凍保存をしていた奴のムスコだ。

 

「思い出してくれたようだな」

キャスバルはホッと安堵の息を漏らす。

 

「それにしても今更だな。……まさか、お前、セイラとの生活が嫌になって、このコロニーから逃げ出すつもりじゃねーだろな!?」

 

「違う。このコロニーから出て行くつもりなど毛頭ない。それにアルテイシアには一生をかけて償うつもりだ」

 

「だったら、なんだって?」

もう、ムスコから分離され3年半も経ってる。

流石に不自由だろうと何度か声をかけたが、奴は問題ないと言い張っていやがったし、なぜ今更ムスコを接合する気になったんだ?

 

「……うむ」

キャスバルは言い難そうにしていた。

 

「俺にも言えないことなのかよ」

 

「そんなことはない。少々気恥ずかしいだけだ。……好きな女性が出来た」

 

「ほう、そうか……まさか、昔みたいに弄ぶつもりじゃないだろうな?」

なるほど、彼女が出来たってことか、そりゃ当然ムスコは必要だろう。

だが、こいつの場合、女との付き合い方がかなり歪んでるらしいからな

 

「そんな事はない。……この胸の高鳴りは久しく感じ得なかった感覚だ。いや、それとも違う。これが恋なのかもしれない」

何言ってんだ?いい年こいたおっさんが、顔をあからめながら。

まあ、こいつの場合超イケメンだから、こんなこと言ったところで逆にモテるんだろうけどな。

俺なんかがこんなこと言いだしたら、気持ち悪がられるのが落ちだ。

 

「まあいいか、好きになった奴って誰なんだ?」

 

キャスバルは躊躇気味にこの名を言った。

「……リタ嬢だ」

 

「まじか……、全然気が付かなかった。お前、リタと接点あったか?」

 

「カークランドコーポレーションに所要でしばらく出入りしていた際の事だ」

 

「そういえばそんなことをリタから聞いてたな」

2か月前だったかリタはトラヴィスのおっさんに呼ばれて、元乗っていたあのど派手な金ぴか暴走モビルスーツの件でおっさんの会社のプラント基地にしばらく通ってたな。

そん時、キャスバルの奴と行き帰りも一緒だったって言ってた。

 

「そのことで相談なのだが、リタとの交際を認めてほしい」

「はぁ?リタが良いって言えば、別に俺に聞かなくてもいいだろ?」

「いや、そうはいかない。エドに認めてもらわなければならない」

なんで、リタとお前の交際に俺の許可がいるんだよ。

 

「そもそも、リタはお前と付き合いをOKしたのか?」

「それは問題ない。私とリタは相思相愛だ」

「……そうかよ」

リタはキャスバルのダメンズぶりを放ってはおけないみたいな感じの事を言ってたな。

誰が誰を好きになろうとかまわないが、二人とも特殊な事情を持っている。

キャスバルは言わずとしれたジオン・ダイクンの息子にして、ネオ・ジオンの総帥となり地球連邦に反旗を翻した男、あのシャア・アズナブル。

歴史の裏にシャア・アズナブルありと言われる程の世界で最も危険視された男だった。

今じゃ、こんなだけどな。

 

リタはリタで元連邦のニュータイプ兵だった。

しかもニュータイプ用の新型機あのフェネクスとかいう金ぴかモビルスーツの稼働試験中に暴走し、味方の戦艦を落としてしまったという経緯がある。

そこにリタの意思があったかは不明だが、今のリタを見ればそれは本当に暴走だったのだと思う。

だが、連邦のメンツのために暴走事故という扱いになってはいるが、フェネクス破壊の命令を下している時点で、リタを反逆者扱いで有無を言わさずに処刑しようとしていたのは明らかだ。

 

そんな二人だが、世間では死亡が確定視されている。

連邦からしてみれば、厄介者が消えてホッとしているといったところだ。

 

しかし、何の因果か、二人はこうして生きてる。

しかも、カップルになろうとは……。

 

 

 

「エド、さっきの頼みなのだが、認めてほしい!」

キャスバルは椅子から立ち上がり俺に迫り両手を握って懇願しだした。

「ちょっ、何すんだ!別に認めて……」

 

そんなタイミングでだ。

「き、貴様!!何をやっている!!エドから離れろ!!」

ローザが買い物から戻って来て、いきなりキャスバルに怒声を浴びせる。

 

「ちっ、邪魔が入ったか!エド、また来る!」

キャスバルはさっと身を翻して、診察室から逃げ出す。

 

「この俗物が!二度とエドに近づくな!!」

そんなキャスバルを追いかけるローザ。

 

……いつも通りだな。

 

 

しかし、キャスバルとリタか。

リタとも少し話した方がいいだろうな。

 




次回はリタとレッドマン……NT組もあるかも


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 リタ・ベルナル (NT編③)

ご無沙汰しております。

前回からの続きですが、今回はリタ視点での話になります。
では、どうぞ。


 

私には未来が見えていた。

オーストラリア大陸にコロニーが落ち、その衝撃で私が住む街は跡形もなく吹き飛び、そして家族と共に多数の人々が犠牲になる光景を……。

 

家族や知り合いだけでも助けるために逃げようと声を上げたのだけど、子供だった私の言葉を両親や知り合いは聞き入れてくれなかった。

でも、幼馴染のヨナとミシェルだけは……

 

連邦軍本部ジャブローを狙ったジオンによるコロニー落としは、オーストラリア大陸南東に落下、その衝撃によってオーストラリア大陸の南東部は文字通り大地は消し飛び、海とへと変化し、周囲の地表はひっくり返り、町や人を悉く消し飛ばした。

実にオーストラリア大陸の半分の面積は不毛の大地へと……

 

私はコロニーが落ちる事を知っていたのに、コロニーを止めるどころか、人々を、大切な家族さえも逃がすこともできなかった。

私が何もできない子供だから……。

 

コロニーが落ちる光景を目の当たりにした際、次の未来が見えていた。

20年先に起こる人類滅亡の最悪の結末を……。

次こそは何としても私が止めなくては……。

 

私は最悪の結末に至る未来を変えるため、いくつもの分岐点や分岐への道筋を見て来た。

未来が近くなればなるほど、その最悪の結末への光景は鮮やかにくっきりと映る。

見えたのは最悪の結末だけじゃない。

それと同時に、最悪の結末の阻止への分岐も見えてくる。

その中でも確率が高く、阻止できる方法も。

それは人類滅亡への引き金となる、あの白いモビルアーマーの破壊と停止。

でも、私は私の命を使うだけでは足りず、幼馴染のヨナとミシェルまでも巻き込まなくてはならなかった。

最悪それでも止められないかもしれない。

止められたとしても、ヨナとミシェルも死なしてしまう可能性もある。

それでも私はやり遂げなければ……、阻止しなければ人類に未来はないのだから……。

例え幼馴染を巻き込んでしまったとしても、二人が死んでしまったとしても……。

いえ、二人を死なせないようにしなければ意味がないわ。

私はどうなっても構わない。

ヨナに自由に空を飛んでほしい……。

ミシェルには心のままに生きてほしい……。

 

宇宙世紀0095年12月3日

私はユニコーンガンダム3号機フェネクスに乗り込み、密かに決意する。

この子と一体となって、人類もヨナとミシェルも助けて見せると……。

 

 

そして、ユニコーンガンダム3号機フェネクスのサイコフレームは予知通り暴走し、私の操縦から離れ、味方戦艦とMSを破壊尽くし、闇夜の宇宙(そら)へと消え入り、私の精神を取り込もうとする。

 

そう、これでいいの。

私の魂をフェネクスのサイコフレームの中に溶け込ませ、サイコフレームと私の意識を融合させ、疑似宇宙意思(サイコ・フィールド)の力を振るうことが出来る。

ヨナと共に、あの白いモビルアーマー(Ⅱネオ・ジオング)を止める。

 

しかし……。

私の意識が途切れる瞬間、フェネクスのメインカメラから見えたものは……。

真っ白いモビルスーツ。

この子(フェネクス)と私と違って、真のユニコーンのガンダム……。

 

 

フェネクスは抵抗もせず、そのユニコーンのガンダム(νガンダム)に掴まれる。

 

 

何が起きてるの?

ユニコーンのガンダム(νガンダム)が何故ここに?

白の英雄は2年前のネオ・ジオンとの闘いで行方知れずになったはずなのに?

私の見た未来にはこんなことが起きる分岐は無かった。

 

 

フェネクスはユニコーンのガンダムに連れていかれる。

 

 

私は失敗したの?

もう白いモビルアーマーによる人類滅亡の道筋は避けられない?

ヨナもミシェルの未来も……。

ごめんなさい。

 

 

私はそこで意識を手放した。

 

 

 

 

私は私が自分であることも理解できない位に意思が胡乱となり、精神世界を漂っていた。

時折、左手には温かい心の声が流れてくる。

「「生きろ、目を覚ませ、未来を歩めば幸せになれる」」と。

誰なのかな?よくわからない。

この声が心地いい。

男の人の声?……お兄ちゃん?

私には兄はいないハズなのに、なぜかそんな心の声が漏れてしまう。

でも、優しい声。

今迄感じたことが無い安心感。

心地よすぎて、私はこのままでいいと、時に意識を任せてしまった。

 

 

 

でも突然、私の胡乱な意識に他人の感情の渦が衝撃として抜けていき、私は無理やり意思を繋ぎ止められる。

 

その感情の渦は、激しい復讐心と執着心、母への愛情への渇望が見え隠れしていたのだけど、それに覆いかぶさるように、無垢な信頼と安心感、さらには認めてもらいたいという承認欲求まで……。喜怒哀楽が激しすぎて、私は船酔いするかのような感覚に襲われる。

 

その感情の渦の元凶は、フェネクスのコクピットに乗り込んだ金髪の偉丈夫。

この人はシャア。

私の見えた未来予知で最も残酷な終焉を迎える未来を作り出す人だった。

彼があの白いモビルアーマーに乗り込む、または緑髪の少女を乗り込ませて世界を破滅に……。

でも、白の英雄が身を呈して彼を止めたはず。

なのになぜここに、しかもフェネクスに?

 

今の状況は私の見た未来のどれにも当てはまらない。

やはり破滅に向かっているの?

 

でも、彼の感情のこれは……。

光とも言えないけど、闇に覆われているわけでもない。

闇夜の浮かぶ朧月のよう。

 

この人からは未来予知で見たシャアのような憎悪の狂気は感じられない。

確かにこの人はシャアだけど、かつてのシャアじゃない。

シャア・アズナブルとキャスバル・レム・ダイクンという過去の名のしがらみに囚われながらも、全く別の名であるデニス・レッドマンとして名づけ親と共に生きようとしている。

 

彼の精神に深くつながると、ここ最近の彼の過去が見えて来た。

 

その姿は真面目に生きようと不器用に奮闘するけど、空回りし続けるちょっとダメなおじさんだった。

 

ふふっ。

なにこれは?

これがあのシャアなの?

私は久しぶりに心から笑った気がした。

 

しかも、彼の近くには白の英雄に、彼に人生を狂わされたハズの悲しき女帝まで。

 

バーテンとして不器用な笑顔でお客さんをもてなす彼。

時には白の英雄と他愛もない言葉を交わしながら、シェーカーを振る姿も。

そして、大好きな親友を追いかけまわす彼。

それを阻止しようとその親友の伴侶となった女帝が彼を逆に追い回す。

夜には自宅で一人、過去の自分に向き合い、大きく感情を揺らす姿も見える。

後悔…、懺悔…、何とも言えない苦しい感情を巡らせていた。

 

なんだろう?

この不器用な感じがその、かわいいかも。

 

そんなことを思っていたら私は目が覚めた。

すると、目の前には、ちょっと目つきが鋭い白衣の男性が……。

「目が覚めたか……、大丈夫だ。今はゆっくり休めばいい」

あの温かな優しい声でそう言ってくれた。

 

 

 

 

 

私が見た未来の分岐から完全に離れてしまった。

でも、大丈夫。

 

同時に新しい未来が見えたから……。

そう、彼と私であの白いモビルアーマー(Ⅱネオ・ジオング)を止める未来を……。

人類の危機も、ヨナとミシェルも死なない。

私が一番望んだ世界。

 

 

 

 

 

目覚めて、ベッドから起き上がれるようになってから、ここヘイガー診療所の医師エドワード・ヘイガーお兄ちゃんとトラヴィス・カークランドさんから、今の状況の説明を受けた。

フェネクスのコクピットから衰弱死寸前で助けられた事、1年半以上眠りについていた事。

トラヴィスさんの民間軍事会社が連邦からフェネクス破壊依頼を受け、破壊に成功したことを連邦宇宙軍に報告し、私の死亡も確定させた事。

実際にはフェネクスを鹵獲して、私を助け、秘密裏にここの診療所に運び、私をかくまってくれた事。

連邦に戻すと、私は軍法会議で死刑か、裏で使い捨ての実験動物のような扱いを受けるだろう事。

また、フェネクスの戦闘ログ記録を確認済みで、私の操縦で母艦エシャロットを攻撃したのではなく、フェネクスが暴走した結果だということを確認した事。

 

そして、トラヴィスさんもエドお兄ちゃんも私を助けたいと……。

私は自然と涙が溢れえる。

20年ぶりに泣いた。

私は誰かに助けたいと言われたのはヨナ以外で初めてかもしれない……。

 

 

私はヘイガー診療所、エドお兄ちゃんの元で入院を兼ねて生活することになった。

ここでの生活は今までに考えられないぐらいに穏やかだった。

薬剤投与や実験もない。

勿論、モビルスーツの訓練などもない。

エドお兄ちゃんの家族は皆、優しく私を受け入れてくれる。

でも、困ったことがある。

そう、エドお兄ちゃんとリゼ以外皆、高レベルのニュータイプだった。

私が目覚めて直ぐ、入院してきたマリーダも危険な感じだけど人工ニュータイプの気配、同じ頃にここに住むようになったバナージくんもかなり凄いニュータイプの気配。

これはニュータイプ特有の悩み。

なぜなら、何かの拍子に、皆の心の声が聞こえてきてしまうから。

 

ローザさんはエドお兄ちゃんの事ばかり。

声と態度と大違いで心の声はすごく恥ずかしがり屋さん。

《きょ、今日こそはエドと……う、ううう、私からは言えない。いや、エドは良いと言ってくれたのだ。……しかし、エドから誘ってくれてもいいではないか、しかし、エドは疲れているのだ。いや、これでは結婚前と一緒ではないか……》

私にはよくわからないけどエドお兄ちゃんが悪いように思う。

 

オードリーとクェスの二人は日常会話をしながらニュータイプ能力の念話を織り混ぜて、話してるし。

「オードリー、今日って共通授業の課題ってあったかな?」

「昼からの社会科講義の課題がきょう提出よ《また、忘れたの?》」

「そ、そうだっけ?《あれ?オードリー、後でみせて》」

「共有ファイルに入れておくわ《でも、最後のコメント欄は自分で考えないとダメよ》」

「サンキュー《今度、壺屋のウラガン印の甘々焼き蜜イモ奢るわ》」

2人はいつも仲良しね。

 

最近、バナージくんは思い悩んでいるよう。

《学校に通わせてくれたエドおじさんには感謝しきれない。だが、どうすれば……、オードリーとクェスは学校ではアイドル以上に崇拝されていて、一緒にいる俺はやっかみに……、今のところ敵意がエドおじさんに集中しているから、実質被害はないけど、二人と一緒に住んでるなんて知れたら、どんな目にあうことやら。全力でばれないようにしないと》

いいな、私も高校に行きたかったな。

私は中学に上がるころに、ニュータイプ研究所に連れていかれて、学校に行ってないから。

 

入院したてのマリーダはここでの新しい生活にどうやら困惑しているよう。

《リゼから渡された下着…、なぜ、パンツにネコのイラストが全面に?これは若年の子供用のものではないのか?間違えたのか?いや、この家には若年層はいないぞ、ミネバ様もクェスも16歳だそうだから、こういうものは履かないだろう。どういうことだ?》

私がリゼから渡されたパンツはウサギちゃんのイラストだったわ。

私はかわいいと思う。

 

 

そして、そんな家族の様子なんて全く気にしていないというか、まったく知らないエドお兄ちゃん。

こんなにニュータイプに囲まれて生活しているのに、ニュータイプに覚醒しないどころか、感応の気配すら感じない。

よく言えば理性的、悪く言えば鈍感ということなのかなと思う。

その鈍感力が常人の数倍はあるのかもしれない。

 

 

 

今、穏やかな時が流れてる。

 

でも、1年後には白いモビルアーマー(Ⅱネオ・ジオング)がこの新サイド6を火の海にし……世界を破滅へと。

白いモビルアーマーを止めなくっちゃいけない。

私の予知では今のレッドマンを名乗るシャアがキーポイントとなる。

彼と共に白いモビルアーマーを止める予知。

 

彼は私の説得で一緒に戦ってくれるだろうか?

それに今は穏やかな生活に満足しているけど、心の闇と復讐の炎がまだ消え切っていない彼を戦場に誘って良いものなのか?

 

私はそのことを考えると心が重くなる。

 

 

そして……半年が過ぎる。

 





リタの予知ですが、改変しております。
Ⅱネオ・ジオングが自身が世界を滅亡させるのではなく、新サイド6を攻撃することが、世界が滅亡に向かう切っ掛けになる設定。
という感じでお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。