イナズマイレブンG 〜Grasp all!〜 (杠葉)
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イタダキモノ
青雲のもと、新風を待つ



 こちら、恐れ多くもハチミツりんご様が書いてくださった、この小説の二次小説(つまり三次小説…?やっぱり二次小説?)です。
 許可をいただいたうえで、本文はそのまま全文コピペしております。
 タイトルはお任せいただいたので、こちらで頭捻って付けました。

 情報が出揃っていない状態でしたので、本編とは所々設定が違います。
 が。それを補って余りある良作なのでぜひ読んで!ください!

↓↓↓



【attention!】

・こちらの小説は杠葉さんの『イナズマイレブンG~grasp all!~』の過去捏造小説となっております。

・コンセプトは『青崎海尊の入部の要因が、綿雲えありだったなら』です。物語開始の2年前〜作品開始当初辺りまでのお話となっております。

・明日葉姉妹のリストラを受ける前から書き始めているので姉の方も出演させていただいております。

・というか捏造マシマシです。杠葉さんの作品とは著しく異なる可能性、及びキャラクターのキャラ崩壊の可能性がございます

・てか変な人がいきなり書いた変な短編です。杠葉さんの本編とは切り離してご覧頂くようお願い致します。

・よければ『なんだこれwwwwwwww』くらいの軽い気持ちで読んでいただければ幸いでございます。

・無駄に2万文字ほどあります。

 

以上が大丈夫な場合はお読みいただければ幸いです。クソみてーな内容なので無視して頂いても構いません。それでは、どうぞ。

 

 


 

 

 

 ______春。それは出会いの季節。

 

 

 一年のうち、始まりとは元旦の事を指すだろう。1月1日、西暦が1つ重なり、新しい年の始まりを皆で祝う日。まさしく始まりの日である。

 

 しかし。現在の日本社会において、馴染み深い始まりといえば春。桜咲き誇るようなこの季節こそ、老若男女問わず新しき環境に身を置くものが多々と現れる。元旦と並ぶ、出会いと始まりの象徴だろう。

 

 

 

 

 そんな春のとある一日。小鳥がさえずり花は咲き誇る、穏やかな日差しが自然豊かな街並みを照らす、まさしく春うららとでも言うべきこの日。全国の学校で入学式の行われる、記念すべき日であった。

 

 それはこの場所______都内に座する『水雲中学校』も例外ではなく。真新しい制服に身を包んだ歳若い男女が、おもむろに緊張した面持ちで校舎の門をくぐっていく。

 

 

 友人は出来るだろうか?どんな先生に当たるだろう?小学校の時仲の良かった子達と離れないといいな。憧れのあのコと、隣の席になれたら…………

 

 

 それぞれの少年少女が思うことに差はあれど、総じて新しい環境下への不安と期待が綯い交ぜになった、新入生独特の感情だろう。これはこの時期にしか、この瞬間にしか味わえない貴重なもの。彼ら彼女らが咲き誇るために必要な、日差しのようなものである。

 

 

 

 

 

「______くぁ、ぁ〜あ…………」

 

 

 そんな彼らが表情を緊張に染める中。一人、場違いな雰囲気の男の姿があった。

 

 

 短めな青の短髪……特に側頭部や後頭部は剃り上げているほどの短さ。刈り上げた側頭部や後頭部は藍色のように濃ゆく、それに反するように頭頂部は鮮やかな水色。

 細身ながら新入生にしてはかなり背が高く、周りの男子と比べてひとつ抜けているほど。そんな高身長も相まって、かったるげに大欠伸をするこの男は酷く目立っていた。

 

 

 

「あ〜ぁ………面倒くさいなぁ………入学式なんて、来ても来なくても大して変わりねぇだろうに……」

 

 

 非常にやる気のない目をしながら、カバンを片手で肩に下げる様にして持っているこの男。真新しい制服と入学式という言葉が意味する所は、この男が水雲中学校の新入生だということだ。

 周りの生徒たちが緊張を露わにする中、全く持ってそんな感情を見せない彼_______【青崎 海尊】は、気だるげな雰囲気を包み隠さぬまま校舎内へと足を踏み入れる。

 

 

 

「靴箱………っと、こっちか………」

 

 

 この学校は、入学式にはクラスごとにオリエンテーションが行われる。その為、既にクラス分けが行われているのだ。従って、青崎の靴箱も自然と決まってくる。

 

 

 正直な話、とっとと教室に行って仮眠の1つでも取ろうと思っていた青崎。つい昨日までは休みだったのだ。渡されていた課題も適当に終わらせた彼にとってそれは、なんの罪悪感も無く惰眠を貪れる至福の日々。面倒な交友関係も無し、自分の好きに時間を使える素晴らしいひと時。

 それを入学式というしち面倒くさいものに奪われ、普段ならば10時過ぎまででも寝ている青崎は親と祖父に叩き起される事、6時半。実に4時間弱も睡眠を奪われたのだ。親しい友人も作るつもりのない青崎は、とっとと寝て終わるのを待ちたかった。

 

 

 

「………………………」

 

「ん〜………!!んにょ〜……!!!」

 

 

 

 

 …………この小娘に出くわすまでは。

 

 

 

 この学校は、それなりに生徒数が多い。しかしスペースは限られているので、必然靴箱も一列に多くの生徒の靴をおけるよう高くなっている。

 しかし青崎の身長ならば余裕を持って一番上の段まで届く程度だ、出席番号一番、つまり最上段に割り当てられた青崎にとってその高さは問題では無かった。

 

 

 問題なのは、んにょ〜という謎の言語を発しながら必死に背伸びをし、手を伸ばして悶えるこの珍生物。制服を見るに青崎と同じ新入生であろう。スカートを履いているので女子だということも容易に想像がつく。

 そして何故背伸びして必死になっているかも簡単だ。この女子はちんまい。とてもとても、ちんまいのだ。青崎の肩ほどまでも届かない、同学年内でもかなりの小柄。

 

 そんな彼女だが、どうも出席番号が一番最後らしい。『31番』に割り当てられた彼女は、一列に十人分置けるこの靴箱で運悪く最上段に属されたようである。なので届かず、必死になっているのだ。

 

 

 

 

「……………………無視だな」

 

 

 

 小さく呟いた青崎は、足音を殺してそっと少女の後ろを通っていく。自分は長身、余裕で最上段に手が届く。つまりは見つかったら頼られる可能性がある。それは面倒だ、非常にかったるい。極力労力を消費したくない青崎は、非情にも同学年、しかも同じクラスの女子を見捨ててさっさと教室に向かおうと画策したのだ。

 

 そっと忍び歩きで必死になる少女の後ろを通り、視界に入らぬようにしながら音を立てずに靴を脱ぐ。すぐさまそれを拾い、最上段にある自分の靴入れにそっと置いて上履きに履き替える。

 

 

 完璧だ。迅速且つ無音でミッションを達成。面倒事に関わらずに済んだと安堵しながら靴箱からとっとと退散しようと足を向けた。

 

 

 

 

「______あにょ〜………しょこの人〜………」

 

「げっ」

 

 

 

 ______そうは問屋が卸さなかった。

 

 

 背後から、フワフワとした声が掛かる。春一番に吹かれ翔ぶ綿毛のような、掴みどころのない綿雲の様な優しい声。

 どう考えても、その声の主は明白だ。掛けられた事に嫌そうな声を上げながら、渋々青崎が振り返る。

 

 

 

「あにょ、こりぇ、しょこにポンッてしてくりぇにゃい?あーし届かにゃいかりゃ………」

 

 

 

 くんっ、くんっ、と何度も手を伸ばすが目的の靴入れに引っかりもしない様子を見せる少女。舌っ足らずな口調でそう願ってくる少女を見ながら、青崎は心底面倒くさいという表情を隠さない。正直嫌だと言ってとっとと去りたい気持ちでいっぱいだ。

 

 しかし同時に青崎は思う。ここで嫌だと言って去った場合、より面倒事に巻き込まれる可能性もある。この眼鏡をかけた少女が入学初日に自分に無視された、なんて広めてみろ。間違いなく自分の置かれる立場は地に落ちる。現状ほぼ全員が同じ立場にいるのだ、いきなり周りより下に行くのは間違いなく面倒な事になる。

 

 自分は確かに誰とも関わりたくないが、それは自分が安全な立ち位置を確保し、周りから中立の立場を手に入れる事。決して嫌われて話かけられず、いじめの候補にされる様な地位にいることでは無い。第一印象というものは中々拭うことは難しいのだ、ここで無視するのは得策では無い。

 

 

 ………何よりこの女子自体が、それなりに面倒な性格していそうという直感も多分に含まれている。

 

 

 

「______はぁ〜〜〜…………めんどくさっ………」

 

 

 

 渋々といった雰囲気を隠さぬまま、青崎は少女に歩み寄る。「貸してみ」、と言って少女から小さな靴を受け取ると、なんの苦労もせずにヒョイッと彼女の靴箱の中に放り込む。

 

 

 

「おぉ〜!!!しゅごい!!おっきい!!」

 

「はいはいそりゃどーも。もういいだろ?そんじゃ」

 

 

 

 オーバーに青崎を賞賛する少女。それを見て面倒くさいタイプだと確信した青崎は礼もそこそこに、さっさと退散しようと足早に去ろうとする。

 

 

 

「あっ、待っちぇ!!」

 

「ぐえっ!?」

 

 

 

 しかし、それを見た少女が咄嗟に青崎のベルトをがっちりホールド。前に進もうとしていた青崎と、自分の元へ引っ張り寄せようとした少女の相乗効果で青崎が潰れた蛙のような声を上げる。

 

 何すんだ、と言わんばかりに振り向いた青崎。しかし彼女はそんな彼の顔を見てもキラキラした顔付きで、噛み噛みな口を回していく。

 

 

 

「にゃまえ!!えっと、おにゃまえは?」

 

「にゃ……?あぁ、名前ね………青崎だけど?」

 

「したのにゃまえは!?」

 

「…………海尊」

 

「かいしょん!!あーしはね、わたぎゅ………わたぎゅむ………わちゃっ…………えありらよ!!」

 

 

 

 糸目故に読み取りにくいが、確実に喜色に満ちているだろう雰囲気で名前を尋ねる少女。どうせ同じクラス、直ぐに知ることになるだろうし手早く答えた青崎に対して、舌っ足らずの口調故に何度もどもる。

 

 そんな少女の言葉を聞き取れず困惑する青崎。喋ってる言語でも違うのだろうかと思う程だ、困惑しながらも、チラッと視界に入った靴箱に書かれた名前を呼んでようやく少女の名前を把握する。

 

 

 

「わたぎゅ………?………あぁ、『綿雲』ね………」

 

「しょう!わたぎゅも!!しゅごい!!にゃんでかいしょん分かった!?」

 

「なんでもいいだろ別に………んじゃ俺、もう行くから。次からは脚立でも用意してくれよ」

 

 

 

 もう面倒くさ過ぎる。この一覧のやり取りでどっと疲れが押し寄せてきたようだ、一刻も早くここから離れたい。今度こそ離れるべく早歩きでその場を離れた青崎。

 

 

「あ!あーしも!!あーしも行く!!」

 

 

 

 しかし、その後ろをポテポテとついてくる綿雲。それを聞いて青崎は密かを顔を歪め、歩く速度を早める。にも関わらず、何故か距離を離さずにポテポテとついてくる綿雲。

 

 更に早める。ついてくる。

 

 もっと早める。ついてくる。

 

 

 

「かいしょん、こっちらよ?」

 

「………………………」

 

「かいしょん、そっちちあうよ〜!!!」

 

 

 

 後ろで謎の言語を発する不思議ガールの言葉を努めて無視する。それに自分の教室はこの先だ、先程彼女が行こうとしていたのは3年教室方向。真逆である。

 

 

 そうして青崎はようやく自分の教室に辿り着く。まだ全員は揃っておらず、来ているメンツも席に着いている。先生も来ていないし問題なくついたのだろう。

 

 

 

「しゅごい!!ついた!!教しちゅちゅいた!!かいしょんしゅごい!!」

 

「………なんっなんだ、こいつマジで………!あぁくそっ、厄日だぜってぇ………」

 

 

 ぴょんこぴょんこと後ろで跳ねる少女と、頭を抱えながら顔を顰める少年という特異な構図に、席に着いていた生徒たちが困惑しながら彼らを見ていた。

 あぁ、なんで初日からこう面倒くさいことが起きるのか。こんな出会いを生み出した八百万の神達へと、軽く呪詛の言葉でも投げつけたい気持ちに覆われる青崎であった。

 

 

 

______これが、彼の運命を変えるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

 

 

「______はい、今日のところはこれでお終い!この後は、各自自由に校内を見回って下さい!部活動の見学とかもやってるので、興味ある子はぜひ見ていってね!!帰る子達も、教科書やジャージとかの受け取りは忘れずにね!!」

 

 

 

 担任となる教師からの言葉を受けて、生徒たちは続々と行動を始める。この短い時間の間に意気投合したもの同士で校内を散策するもの。興味ある部活動へと顔を覗かせるもの。外に出て、街へと繰り出そうと相談を始めるもの。さっさと帰路につこうとするもの。千差万別だ。

 

 

 

 当然ながら青崎は最後の帰宅組である。手渡されたプリント類をさっさとカバンにしまい込み、その場で立ち上がって教科書類の配られる教室まで行こうと歩き始めた。

 

 

 

「あっ、おい!!えっと………青崎だっけ?お前もこの後カラオケ行かね?」

 

 

 そんな折に、近くにいた男子生徒から声を掛けられる。クラスメイトで出席番号が近かった男子だ、コミュニケーションが得意なのか、既に数名の友人を作ってカラオケに行く算段を付けていた。

 

 

 

「あー、悪ぃな。俺今日家の手伝いあんだわ。また今度誘ってくれよ」

 

「そうか?そんじゃ仕方ないか……またな!」

 

「はいよ、また明日な」

 

 

 表面上は申し訳なさそうな対応を取り、軽く手を振りながら彼らと別れる青崎。

 

 実のところ、彼に手伝うような用事は存在しない。ただ円満に誘いを断るためだけの方弁だ、あぁいった手合いには断るにも納得のいく理由を提示しなければならない。敵を作らず誰にも組みせず。誰にでも接する事が出来てなおかつどのグループにも属さない。そんな立ち位置こそ、青崎の望むポジションだ。

 それに面倒くさい。なんで良く知りもしない連中と好き好んでカラオケなんて行かねばならぬのか。それなら寝ていたい、のが青崎という男だ。

 

 

 

 

「か〜いしょ〜ん!!」

 

「げぇっ、また出た……!」

 

 

 

 ふわんっと響くゆるゆるボイスが鼓膜を揺らす。とてとてと後ろをついてきてた綿雲の存在に顔を顰める。もうなにも用事はないだろうに何故声を掛けてくるのか。

 

 

 

「かいしょん、ぶかちゅ!ぶかちゅ見学!」

 

「はぁ?部活って………なんで俺が付き合わなきゃなんないのよ。そも何部?調理部とかその辺か?」

 

「しゃっかー部!!作るにょ!!」

 

「………あぁこの学校、サッカー部ないんだったっけか?へー、1から作るとは殊勝なこって」

 

「しょう!だからかいしょんも一緒にしゃっかーするにょ!」

 

 

 舌っ足らずな言動の綿雲だが、口の動きと雰囲気からなんとなく言いたいことを読み当てられる。どうにもサッカー部を作りたいらしく、青崎をそこに引き込もうとしているようだ。それを察して青崎はひとつため息をつく。

 

 

 

「………あのさ。なんで俺なわけ?」

 

「?にゃにが?」

 

「誘う相手。今のご時世、好き好んでサッカーやる奴なんてごまんと居るだろ。わざわざ俺を誘う必要なんて無いじゃん。もし助けてくれた優しい人、なんて思ってるならご愁傷さま……俺そういうのやる気ないから」

 

 

 

 ______サッカー。それはこの日本において、最も盛んなスポーツと言っても過言ではない。

 

 数年前に円堂守率いる雷門中がフットボールフロンティアで優勝し、エイリア学園との戦いに勝利。そして初めて開催された、第一回フットボールフロンティアインターナショナルにおいて主催者たるガルシルドの野望をしりぞけ見事優勝。それを皮切りに、元々国内で人気のあった中学サッカー界はより一層の盛り上がりを見せることとなった。

 

 そんなサッカーをやろうと思う人間なんて、今の時代履いて捨てるほどいる。道端で小石でも投げて当たったやつがサッカー部、なんてよく言われる笑い話だ。強い弱い、やる気のあるなしの差こそあれど、それだけ今の日本でサッカーは愛されていた。

 ならば自分を誘う必要性は皆無だ。ほっといてもチームメイトなんて簡単に集まるだろう。それに青崎は、『そういうの』がすこぶる苦手なのだ。

 

 

 

「……?あーしは、かいしょんも一緒にしゃっかーしたいよ?したことにゃくてもらいじょーぶ!しゃっかー楽しいよ!!」

 

「______そういう『貴方も一緒に』、みたいな暑っ苦しいの……俺いっちばん苦手なんだわ」

 

 

 

 あぁ面倒だ、心底面倒くさい。なんでわざわざ自分がそんなことをしなければならないのか。

 青崎はドライだ。昔っからそうだし、今の自分も他人に比べてそういった感情が薄い事は自覚している。

 

 対人の距離感というものは、つかず離れずこそが理想だと常々思っている。誰とも深い付き合いをせず、かといって蛇蝎の如く嫌われることの無いような立ち位置。顔見知り〜友人の中間程度に位置する、面倒な誘いにも誘われないし、そいつらが問題起こしても何も関係ないような、そんな立場。それこそ人間の理想だ、一番楽が出来るポジションだ。

 

 

 

「んじゃ、俺はこれで。もう誘ってくんなよ、面倒だから」

 

「あっ、かいしょ______」

 

 

 

 

 ヒラヒラを軽く手を振って、青崎はその場を離れる。綿雲がなにか言おうとしていたが、無視だ。関わるとどう転んでも面倒くさ過ぎる。それがこの一日でよーく分かった。青崎がトップクラスで苦手とする人種だ、良かれと思ってこちらのパーソナルスペースに踏み込んでくる距離感の掴めないタイプ。善意を持っている分、悪意をもって接してくる輩より余程タチが悪い。

 

 

 

 

「………突き詰めてきゃ、親だって他人なんだ。適度に力抜いて、やらなきゃならない事だけ手早く終わらせる。後はテキトー、誰かと関わるなんてクソ面倒な事、しないに限る………ひひっ、クズらしい考え方ってね」

 

 

 

 誰もいないその場所で、青崎は一人笑う。自分の性格が異端であることなんて重々承知だ、それでもこれが性分なのだから仕方が無い。あれだけぞんざいに扱えばあの少女も自分を誘おうなんてことはもう考えないだろう………どうにも他の人に悪い噂を広めようとするタイプにも思えなかった。辛辣に突き放しても問題無い。

 

 仮にこれから誘ってきても無視すればいい。そうすれば、いつか話かけなくなるだろう。女子を無視するというのはクラスメイトから反感を買うかもしれないが、こちらとしてはやりたくも無いことに誘われてるから仕方なく無視しているという言い訳が出来る。何も問題ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かいしょん!!しゃっかー!!」

 

「…………………」

 

 

 

 

 問題は無い。

 

 

 

 

 

 

 

「しゃっかー!!かいしょんしゃっかー!!しゃっかーかいしょん!!」

 

「……………………………………」

 

 

 

 …………問題は無い。

 

 

 

 

 

 

 

「か〜いしょん!しゃっかーしゃっかーか〜いしょん!!」

 

「………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 …………問題は______

 

 

 

 

 

 

 

「かいしゃ……?しゃっかいしょん……?………!しょっかー!!」

 

「おっかしいだろ………?」

 

 

 

 多分に問題あった。

 

 

 

 

「なんっなんだよほんとお前………俺誘うなっていったよね?なんで1ヶ月も飽きずに誘ってくるわけ…?」

 

「かいしゃん、しょっかー!!」

 

「混ざってるし………俺は海尊だ、か・い・そ・ん」

 

「かいしゃん?」

 

「………お前、頭のネジ何本外れてんだよ……」

 

「うぇへ〜、しょれほどでみょ〜……」

 

「褒めてねぇよ………」

 

 

 

 にへらにへらと笑みを浮かべながら照れ笑いを見せる綿雲。青崎の机の前でしゃがみながら腕を組んで机に乗せ、その腕の上に顎をぽてんと乗せるようにして話しかけている綿雲。席に着いている青崎は、この1ヶ月の間ずっとこの少女からの誘いを受けていた。

 

 

 

 

 飽きもせずに自分のような薄情者を誘い続ける綿雲えありという少女に、青崎海尊は辟易していた。正直ここまで無視すれば、どんなに呑気な奴でも青崎がやる気ないと思い知って話しかけて来なくなると踏んでいた。というか普通の人間ならば事実そうなるだろう。

 

 それがどうだ。この綿雲えありという少女はどれだけ無視しても気にした様子ゼロ。呂律の回らない口調で休み時間も放課後も、姿を見せれば誘い続けていた。無視しても、会わないように姿をくらましても、全力で逃げ出しても何故か近くに現れて勧誘してくる。やめろ、と言っても効果無し。暖簾に腕押し、糠に釘、馬の耳に念仏、えありに無視である。

 

 

 

 

「……お前さ、なんで俺に拘るわけよ?何度も言ってるけど、サッカーやりたい輩は沢山いるじゃん」

 

「?あーしは、かいしょんも楽しくなって欲しいらけらよ?」

 

「それならお生憎様、俺はじゅーぶん今が楽しいのよ」

 

「……?でも______」

 

 

 

 今でも楽しい。そうだ、このもわもわ少女を除けばクラス全体でもちょうどいいポジションを保てている。綿雲の執拗なまでの勧誘さえ取り除けば、自分の理想の学校生活が送れそうなのだ。だから早くこの少女をどうにかしなければ。

 

 

しかし。キョトンとした表情を見せて小首を傾げながら、綿雲がぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

「______海尊、1回も笑ってないよ?」

 

「____________!」

 

 

「ずっとずうっと、つまらなそう。冷めた目で、これが一番だって自分に言い聞かせてる」

 

 

 

 

 半ば確信めいた口調でポツポツと語る。

 

 この1ヶ月間、誰とも深い付き合いをしていない。周りは大なり小なり、仲の良い友人を見つけているのに青崎だけがそれを避けている。1度も笑わず、終始つまらないと言った表情で無気力に日々を過ごしている。誰とも関わらぬ方が楽だと、それこそ正解だと自己暗示するように彼は独りっきり。

 

 そんな彼を、意図してか意図せずか見続けてきた綿雲。この少女が何を考えているのか、一瞬誰なのかと、青崎の背筋にゾクりと何かが走った。

 

 

 

 

「______あーしは、かいしょんも一緒ににこにこが良いらけらよぉ」

 

 

 にへらっ、と緩んだ様な笑みを見せる綿雲。舌っ足らずで、子供で、表情が読めない。コロコロと笑っていたかと思えば芯が強く、かと思えばふらりと掴みどころの無い。なんとも言えぬ、不思議な少女。今まで青崎が……いや、これからも出会わないであろう、不可思議な少女だった。

 

 

 

「………お前、変人だって言われない?」

 

「?にゃにがぁ?」

 

「自覚無いのね………はぁ〜、ったく………なんでこう上手くいかないかねぇ、俺の計画……」

 

 

 

 青崎が尋ねてもぽけっとしたあほ面で首を傾げる。そんな彼女と関わってしまったことが、運の尽きだったのだろうか。ため息をつきながら、椅子にもたれかかって頭を搔く。

 

 

 

 

 

 

 

「えありー!!ちょっといい!!?」

 

 

 そんな時。がらりと教室の扉を開いて響き渡る叫び声。青崎がそちらに目を向ければ、桜色がかった金髪………ピンクゴールドとでも言えばいいのだろうか。そんなウェーブがかった豊かなセミロングヘアーを高い位置でまとめたポニーテールの少女。目はパッチリとして、背は高め。制服を見るに、同学年の女子だろう。その背後には、同じく一年生と思われる男女の姿が数名分見受けられる。

 

 そんな先頭に立つポニテ少女は、目的である綿雲と、そのすぐ近くにいた青崎を見つけると表情を明るくしてずんずんと教室に足を踏み込んでくる。

 

 

 

 

「あーっ!!!アンタね!!えありが言ってた新入部員!!!」

 

「………はぁ?」

 

「背は高いわね!!火谷とか舘田と同じ……身長だけならそれより高い?身体は細め……あっでも意外にしっかりしてるわね!!うん、DF向き!!」

 

 

 いきなり話しかけてきた上に『新入部員』と言ってきた声のでかい女。なんだコイツは、と青崎が思っているうちに、彼女は座っている青崎の身体をぺたぺたと触りながらうんうん!と一人満足げに頷いていた。

 

 

 

「ちょっ、何よお前!?もしかして、こいつの知り合い?」

 

 

 

 突然のスキンシップに困惑しながら青崎が立ち上がって離れる。当然だ、いくら相手が美形で異性だとしても、いきなり触診されてDF向きだのなんだの言われれば胸に宿るのはトキメキではなく困惑である。

 

 

 

 

「?何って、えありの言ってた新入部員ってあんたでしょ?」

 

「はぁ!?ふざけんなよ、なんで俺が入ることになってんのさ!?」

 

「あっ、違うの?………まぁこれも何かの縁よ!!サッカー部入りなさい!!それにもう入部届けもアンタの名前以外書いちゃってるから!!」

 

「いやいやいやいや、強引過ぎるでしょ……なんなんだよ、サッカー部は頭のネジ外れた奴ばっかなのか……?」

 

 

 

 自分は入部希望では無いことを伝えた青崎。しかしやってきた少女は首を傾げた後に、細かいことは気にするなと言わんばかりに笑って机に入部届けをバンッ!!と置いた。というか叩き付けた。ご丁寧に名前以外必要なところは全部記入されている。

 

 青崎は確信する。この女は面倒くさい奴だ、綿雲と比べて違うようで根っこは変わらないタイプのくっそ面倒くさい輩だ、と。

 

 

 

「はいペン!!はい、書く!!!」

 

「いや、だから俺は入らねぇっての……」

 

 

 

 バンッ!!とペンを手渡されてから書くように指示される。だが当然青崎は書くつもりは無い。なんのためにこの1ヶ月綿雲を避けてきたと思っているのだ、しかも綿雲クラスに面倒くさいのがもう一人なんて全力で勘弁願いたい。

 

 そう思い青崎はちらりと視線を残りのメンバーへと向ける。流石に残りのメンバー全員がこの2人と同類ということは無いだろう。無理やり入部させることに抵抗のあるお人好しがいるはずだ、そいつに頼ろう。

 

 

 

「______青崎君だっけ。大丈夫、貴方が入部したくないということは伝わってるわ」

 

「(来た!)」

 

 

 やっぱり居た、まだ話の分かる人物。空色のショートヘアーをした、涼し気な雰囲気の女子生徒だ。彼女はうんうん、と話を理解しているような雰囲気を見せながら、とても素敵な笑顔で青崎の肩をポンッ、と叩いた。

 

 

 

 

「入りたくない。面倒くさいのね______その表情、すっごくいいわぁ………!!」

 

「(1番やばいやつ!!最早ドSじゃねぇか!!)」

 

 

 

 こいつはダメだ。他のやつら……特に男子ならば話が分かるのではないか。3人いた男子生徒に素早く目を向けた。

 

 

 

「うむ!!新しい部員!!しかも僕と同じDFか!!嬉しいぞ青崎君!!共に頑張ろうではないか!!」

 

「取り敢えず何でもいいから早くしてよ……新入部員なんでしょ?」

 

「別に減るもんでもねぇし入っちまえよ、めんどくせぇ」

 

 

 

 ダメだどいつもこいつも味方になりそうな雰囲気が皆無。なんなんだ、これだけ人数いてこの状況に疑問とか覚えないのか。バカしかいないのか、バカサッカー部か、バッカー部なのかコイツらは。特にうるさい緑色の奴。

 

 

 

 

「………はい、取り敢えずみんな落ち着く。青崎君も一回落ち着いて、ね?」

 

 

 

 そんな中で一人だけ。肩まで伸ばした水色の髪の、凛々しい少女が待ったをかけた。この場にいる青崎を除いた7名のうち、唯一止めに入ってくれた少女に青崎は柄にもなく感謝の念を送る。

 

 

 

「……君はえありに誘われていたんだろう?えありからは新入部員だと聞いていたんだが……違うのかい?」

 

「しんにゅーぶいんだよぉ〜」

 

「なんでお前が答えんのさ………違うよ、俺はこの脳みそまで雲でできてる変人に付きまとわれて迷惑してるだけ」

 

 

 

 青崎の代わりに回答する綿雲の頭に軽くチョップを落としつつ、自分は新入部員ではないと告げる。ようやく誤解を晴らせることに成功した青崎は小さく安堵を露わにする。あのままだと話も聞かれずに引き込まれるところだった。

 

 

 

 

「うーん………事情は分かったよ。その上で聞くんだが、本当にサッカー部に入る気はないかい?」

 

「はぁ?ようやくマトモなのが居たと思ったらアンタもそれかよ。サッカーやる奴なんてそのへんに転がってんだろ……わざわざド素人の俺を勧誘する意味がわからないね。ひと月も経ったんだ、試合人数ならとっくに集まっただろ?」

 

「いや、私達はこれで全員なんだ」

 

「………はぁ?」

 

 

 

 何度も言うが今のご時世、サッカー経験者やサッカーを始めようという人間は多い。わざわざトーシロの自分を誘わなくてもとっくに試合出来るほど集まっているだろうと思っていた青崎は、予想外の言葉に顔を歪めた。

 

 だってそうだろう。この場にいるのは青崎を除けばたった7人。

 

 青崎を誘い続けている天然、綿雲。

 猪突猛進という言葉がぴったりなポニテ女。

 人が迷惑してるのを良しとしてきたドS女。

 ガタイのいい、うるさい緑男。

 物静かだが面倒くさそうな雰囲気漂う目隠れ男。

 黒の短髪をした、暑苦しそうな男。

 それに話の分かる、水色髪の女。

 

 

 1ヶ月だ。1ヶ月も経っているのに、今の日本中学でサッカー部が集まらないなんて有り得ないだろう。それなりにこの学校には生徒もいる、当然幼少期にサッカーやってた奴もいるだろうに。

 

 

 

「にゃかにゃかあちゅまらにゃいのよにぇ〜……」

 

「……なら余計に俺に関わらないで勧誘しに行けよ………フットボールフロンティアまで、あと2ヶ月くらいだったか?集まんないとまずいんじゃないの?」

 

「だからかいしょんしゃっかー!!やるにょ!!」

 

「だからさぁ……あーもう、アンタらコイツどうにかしてくれよ……ここまでやって入部しない奴に割く時間なんかねぇだろ?」

 

 

 

 くいくいと制服の裾を掴んで引っ張る綿雲を見ながらまだ諦めないのかと呆れ顔を見せる。一体この少女の何が自分をサッカー部に引き込もうとするのだろうか。甚だ疑問であるが、そんなことはどうでもいい。早いところこの少女を連れ帰って貰わねば。

 

 

 

「んー……君が本気で嫌ならそうしてあげてもいいんだが………」

 

 

 水色髪の女子生徒がそう呟いた。それを聞いた青崎はこれでやっと自分の求めていた学校生活を過ごせると安堵するが、次の台詞を耳にした瞬間その願いは崩れることとなる。

 

 彼女がチラリ、と1人の方を見る。視線の先にいるのはピンクゴールドのポニテ少女………つまるところ、このチームの発起人であり、中心人物である少女だ。その少女はにっこりと笑いながら、青崎の机をバァン!!と叩く。

 

 

 

「______気に入ったわ!!!」

 

「______は?」

 

 

 唐突な『気に入った』宣言。いきなりこの猪は何を言っているのだろうか、はっきり言って初対面もいい所なこの女と自分のあいだに気に入る要素なぞ皆無、というかどちらかと言えばこんなに直球で暑っ苦しいタイプはトップクラスに苦手だ。まだフワフワしている綿雲の方が適当に流せる分マシだ。五十歩百歩ではあるが。

 

 

 

「気に入ったって……あいにく俺はお前さんみたいなタイプは勘弁願いたいんだけど?」

 

「いいえ大丈夫!!分かってるわ!!アンタの言いたいことはウチ、完璧に分かってる!!」

 

 

 

 遠回しに何言ってんだお前、という感情を多量に込めて言ってやれば、この猪突猛進を通り越してほぼイノシシ女は分かってる、とドヤ顔気味でこちらの言葉を切ってくる。どうにも青崎の中で嫌な予感が走る。こういう手合いは自分の中で決めたらこちらの都合なんてお構い無しに振り回してくるのだ。

 

 

 

「……あっそう。んじゃ、俺の求めてること言ってみ?」

 

「ふふん!!アンタ______【本気にさせてみろ】って言いたいんでしょ!?」

 

「………はぁ!?」

 

『ブフっ!!』

 

 

 

 そう思い青崎が一縷の望みをかけて聞いてみれば、ポニテ少女は青崎の望みとは180度逆の事を言ってのけた。清々しいまでの間違いっぷりに、青崎だけでなく後ろのドS女や男子生徒3人組も揃って噴き出した。

こいつはなんと言った?『本気にさせてみろ』?自分がか?アホか?アホなのか?青崎の脳裏で幾度も『アホ』という言葉が反芻していく。

 

 

 

「えぇ!!要するにアンタは、中途半端が嫌なのよ!!」

 

「いや、ただ単に俺はお前らに関わりたくないだけなんだけど?」

 

「いいえ違うわ!!アンタはそんなことを言いながら信頼出来る相手を求めてる!!だけど中途半端に仲良くなって、面倒な関係になるくらいならいっそ関わらない方がいいって、自分に言い聞かせてるだけよ!!」

 

 

 バァン!!と今一度少女は熱を込めて机を強く叩いた。

 

 

 

「アンタが真に求めているのは起伏の無い、何事もない学校生活なんかじゃない!!!自分を受け入れ、無理やりにでも引っ張っていく『友達』よっ!!それに本当にアンタが変化を求めてないなら、この1ヶ月の間無理やりにでもえありを引き剥がすだろうにそれをしなかった!!」

 

「………曲解だな。読解ですらない、自分に都合のいい言葉をそれっぽく当て嵌めてるだけだ」

 

「ならなんで律儀に人の話を聞いてくれてるの?」

 

 

 

 ナンセンスだ。ここまで来ると笑い話にもならない。青崎が求めているのは深い友人関係なんかではない。大きな山も、深い谷もない。平坦に、ただただ真っ直ぐ伸びた人生。誰にも邪魔されずに、責任も無く、与えられた役割を相応にこなすだけ。そんな人生こそ青崎の理想。

 

 そう言って話を切ろうとした青崎。しかし、少女の発した言葉に思わず言葉が詰まった。

 

 

 

「本気で嫌なら、アンタみたいなタイプはさっさとここから離れるわ。それこそ職員室にでも行けば、私達も諦めざるを得ない。なのにアンタはそれもせず、この1ヶ月えありの勧誘を受け続けて、今私の無理矢理の会話にも対応してる。______それって少なくとも脈アリだと思うんだけど?」

 

 

 ニヤリ、と笑いながら確信めいてそう言ってくる。

 あぁ、と青崎は一人思う。前言撤回だ。

 

 

 

 ………この女の方が、綿雲の何倍も苦手なタイプである。

 

 

 

 

「それにアンタ、えありがずっと勧誘してる相手だもの!今更逃がすわけないじゃない!!!うちのチームの8人目はアンタしかいないわ!!さぁ早く入部届けを書くのよ!!ハリー、ハリー、ハリー!!!」

 

「はりぃはりぃはりぃ〜〜〜!!」

 

「8人目って、それっぽく言えば特別感出ると思うなよ………あぁっクソ!!こんな事なら少し時間かかっても十衣路の方に行くんだった……」

 

 

 

 ずずいっ、と迫ってくる少女。そんな彼女に付随するように綿雲もふわんとした口調で入部届けを書くことを急かしてくる。そんな彼女達との出会いを神に呪いながら、青崎はガリガリと忌々しげに頭を搔く。

 

 そして彼は、パシッと少女からペンを奪い取って用紙に乱雑に言葉を書き連ねる。

 

 

 

 そして、入部届けに刻まれた………【青崎 海尊】の文字。それが意味するところ、つまりは組み込まれた、ということだ。

 

 

 

 

 

 

「………いいか、俺は『繋ぎ』だ。お前さんらのメンバーが揃うまで、夏の大会までの繋ぎのメンバー!!練習も最低限は参加するが、夏の大会が終わったら速攻で辞めさせてもらうからな!!」

 

「ええ!!それまでにアンタをサッカーの虜にすれば問題ないわね!!」

 

「そういうこっちゃねぇっての……」

 

「ふふふっ………さぁ!!歓迎するわ、8人目!!青崎海尊!!!」

 

 

 

 

 この物語に、やる気無し、熱意無し、だけど少しばかり、心の奥底で『友達』を求めているかもしれない細身のDF______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______ようこそ!!!水雲中学サッカー部へ!!!」

 

 

 

【青崎 海尊】、という歯車が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで集まらねぇんだよ!?」

 

「いやー、全国制覇に乗っかってくるやつは少ないわね!!燃えてくるわ!!!」

 

「あーしももえりゅよ〜!!」

 

「これじゃ辞めるにやめれねぇじゃんか………あーあ、とっとと代わり見つけねぇと……」

 

「まだ言ってるのか青崎。いい加減諦めたら?」

 

 

 

 

 少し時が経って______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かぁいそぉん!!!共に昼食をとって親睦を深めようではないか!!!」

 

「げぇっ、舘田……!」

 

「あ、あーしも一緒にごひゃん〜!!」

 

「ぬっ!勿論だとも、歓迎するよ綿雲君っ!!」

 

「ウチも混ぜろ〜〜〜!!!!」

 

「あーあ、バカとバカとバカの不協和音………飯時くらい勘弁してくれ……」

 

 

 

 

 時が経って______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おおおお!!いい感じ!!いい感じよ!!やるじゃない火谷!!!」

 

「なんで俺が焼き芋焼く係なんだよ……おい青崎、変わってくれよ」

 

「なんでよ。お前無駄に暑っ苦しいんだからそういうの得意だろ?俺は食べる専門なもんで〜」

 

「けっ、口の減らねぇ野郎だな………おい綿雲、そんな顔近づけたら危ねぇぞ?」

 

「あったきゃいのぉ〜………」

 

 

 時が経って______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 大 掃 除 タ イ ム よ ! ! 」

 

「やるからには徹底的よ!!」

 

「なーんで俺まで、めんどくせぇ……」

 

「部室でいつも爆睡してる常駐者はどこの誰だったかなぁ〜青崎くぅん……??」

 

「わーった、わっーたよ。だから箒こっち向けんなって澄川……」

 

「あーしも、おねーしゃんだからがんばうにょ!!」

 

「おねーさん?背伸びしたい年頃の子供の間違いだろ?ほーれほーれ」

 

「にょあー!!かいしょん、あーしのじょーきんかえひて〜!!!」

 

「遊ぶなっつってんでしょうがァ!!!!」

 

 

 

 

 …………時が経って___________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明けみゃしておめれとうかいしょん!!」

 

「はいはいあけおめ。今年初噛みだな、お前」

 

「はちゅかみ?」

 

「今年もそのへんちくりんな口調は変わりそうにねぇってこった……げっ、凶かよ」

 

「!!あーしも!あーしも凶らよ!!」

 

「うっへぇ、やめてくれよ……変なこと起こりませんように……」

 

『うおおおおおおお大吉よおおおおおおおお!!!!』

 

『見てくれ碓氷!!僕の日頃の行いが、神様に届いていたようだ!!うおおお大吉だああああああ!!!!』

 

『うるっさいなぁ………あっ末吉……』

 

『あらあらあら………涼しい顔して一番つまらない結果引いてどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?』

 

「………既に変だったわ」

 

 

 

 ………時が、経って…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして!月紙宗次!サッカー部、入部希望です!!」

 

「宗次ぃ!!!久しぶりじゃな〜い!!!」

 

「なんだ、明日葉の知り合いかなんかなわけ?」

 

「しょーじは『かちょーふうれつ 』の月らもん!」

 

「かちょー……?あぁ、前言ってたお前らのサッカーチームの……へぇ、アイツが月で、明日葉の妹が花……あの暑苦しそうなのが風……ん?鳥はいねぇのか」

 

「りきやんは来年らよ〜!あーしのおちょーちょも、来年中学しぇい!!」

 

「へぇ〜、お前さんの弟とは災難な奴だな」

 

「なんじぇ!?………もし2人がここに来ることがあったら……その時は、2人をよろしくね、海尊!」

 

「うわっ、なんだよ改まって気持ちわりぃ………」

 

 

 

 

 ______時が経ってしまって______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おい、綿雲」

 

「?どしたにょお、かいしょん?」

 

「……俺は詳しくは知らねぇが、明日葉とケンカしてんだろお前。しかも澄川達にも説明してないみたいじゃん」

 

「……………………」

 

「別に俺がとやかく言うつもりも無いけどさぁ。………お前らが暗い顔してると、気が狂うのよ。どっちが悪いのか知らないけど、とっとと仲直りでもしろよ。後輩連中も心配してっからさ」

 

「………うん。ありがとう、海尊」

 

「はいよ。まぁお前の事だ、そのうち元通りになってるだろ。いつもの風がどうのこうのって言ってさ」

 

「……………………そうだと、いいなぁ……」

 

 

 

______そして最後に______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、皆さんに残念なお知らせがあります。私たちのクラスの一員である、綿雲えありさんですが______」

 

「__________________は?」

 

 

 

 

 

 

______『綿雲』の様に、消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______やっぱりこんな所にいた」

 

「ん?」

 

 

 

 

 そして、彼が一陣の風と出会ってから2年の月日が経ったある日のこと。

 

 かつては入学その日に大欠伸を見せていた青崎も既に最高学年。以前綿雲が間違えかけていた3年教室に正式に通学している青崎は、最近部活に出ることも少なくなった。それも当然だ、サッカー部は部長に就任した月紙の方針で【無期限活動自粛】状態なのだから。

 

 

 

 そんな青崎は、休み時間や放課後などを屋上で過ごすことが多くなった。本来この学校の屋上は立ち入り禁止、バレれば問題になるのだが、青崎は気にしていないようだ。

 それに、滅多に教師が来ることも無く、校舎から見えることも無い。名目上サッカー部に所属している青崎の時間潰しにちょうどいい場所なのだ。

 

 そんな屋上で寝そべっていた青崎に声が掛かる。視線を向ければ、屋上の扉から一人の少女が彼を見つめていた。

 

 

 

 

「よう、澄川。久しぶり」

 

「………ええ、そうね。久しぶりに、なっちゃったわね」

 

 

 軽く手を挙げて『久しぶり』と告げる。そんな青崎の言葉を聞いて、悲しげに顔に影を落とす。

 

 久しぶり。そう、久しぶりなのだ。かつては練習で嫌という程顔を合わせていたチームメイト。しかし、今ではそれすら無くなった。

 

 

 

 

「…………みんなが居なくなって、もう随分経つね」

 

「ん?まぁそうだなぁ」

 

「………えありも、瑞花も、熱人も、水斗も、翠も………優唯は学校に入るけど、サッカー部は辞めちゃってる。……残ってる3年、私達だけだよ」

 

「良いんじゃねぇの?これで活動しないまま、内申点は貰えるし、こんなふうに適当やってても文句言われないし……俺は満足だね」

 

「………本気でそれ思ってる?」

 

 

 

 8人いた。こんな部活動にも力を入れていない中学校で、本気で全国制覇を目指そうとしていた大馬鹿者が7人。

 

………そして、その大馬鹿者たちに魅せられてしまったもっと大馬鹿者が、1人。

 

 

 

 そのうち5人は、何も告げずに学校から去ってしまった。残った3人のうち、空色の髪をした天原優唯も、今のサッカー部は自分の望んでいたものでは無いとして部活動を辞めてしまっている。

 

 残っている3年生は、そこにいる澄川清香。そして、青崎の2人だけ。

 そんな2人も、顔を合わせることは稀になってしまった。普段の生活で顔を合わせても、軽く挨拶する程度で前のように話すことは無い。

 

 

 

「あの子達が作り上げたサッカー部なんだ………あの子達が頑張って、頑張って、頑張って……!!そうして作り上げた、私たちのサッカー部なんだ!!!それを、そんなふうに済ませていいの!?ねぇ青崎!!!」

 

「………んじゃ聞くけど。その『私達のサッカー部』って、誰を指すのさ」

 

「はぁ!?そりゃ、瑞花と、えありと……………」

 

「その2人と?」

 

「______熱人、水斗、翠、優唯!!それに2年生のみんなに、私に、貴方!!全員揃って水雲中学サッカー部の仲間達!!そうに決まってるでしょ!?」

 

 

 青崎の問に、叫びながら答える澄川。自分たち3年が土台を築き、月紙を筆頭に2年生が加わって出来上がった『水雲中学サッカー部』。それこそ自分たちの居場所だったと。

 

 

 

「へぇ、お前にとってはそうなんだ」

 

 

 そんな彼女に向けて、青崎は酷く冷めた表情でぽつりと青崎が呟く。

 

 

 

 

「……それならなんで、その『仲間達』はなんの相談も無く居なくなってんのさ」

 

「ッ!!それ、は……!!」

 

「三年生8人のうち、5人居なくなった。特に明日葉と……綿雲。仲間だってんなら、なんで相談は無かったんだ?特に澄川、お前あいつらの親友だったんだろ?______月紙達は知ってるのに、さ」

 

 

 

 そう。何も無かった。何も知らされなかった。この場の二人も、既に部を辞めた天原も。何も言われず、何も相談されず、何も出来ず。そのまま、サッカー部創部の立役者達は、霞のように消えてしまった。その理由を、その事件を、あの後輩達は知っているのに。同学年の自分たちは、何も知らない。

 

 本当の仲間だというのなら。友達だと言うのなら………何も声をかけられないのは、おかしくは無いだろうか。

 

 

 

 

 

「…………じゃあ………どうしたら、いいのよ………」

 

「どうにも出来ないね」

 

「っ!!なんでアンタはそんなに気楽でいられるのよ!!!アンタは……アンタは!!えありと仲良かったじゃないっ!!!」

 

 

 

 

 どうしたらいいのかと縋るような声を上げる澄川に、そう断言する青崎。そんな彼に、思わず声を荒らげてしまう。

 

 もう、2人だけなのだ。

 

 あの時、あの場所で………一年間、共に過ごしてきた水雲中学サッカー部を知っているメンバーで、在籍しているのは澄川と青崎だけなのだ。天原は、彼女なりの考えがあるのか何も相談してこない。そんな彼女にとって、思いの丈をぶつけられる相手はある意味青崎のみなのである。

 

 

 

「…………今更俺らが動いたところで、なんにもならないよ。俺たちは『三年生』ってだけだ。偶然この水雲中学に進学して、偶然あのバカ達と同じ学年で、偶然引き込まれた、たたそれだけ。事情を知るような立場にいないのよ、俺ら」

 

「……じゃあこのまま、卒業するの………?瑞花とえありが作って、みんなで練習してきて……それを発揮する場所がないまま卒業で、貴方は平気なの……?」

 

「さあ?平気かもしれないし、内心残念に思ってるのかもね」

 

 

 ある意味、一年生の頃から変わらぬ態度を貫く青崎。真面目で責任感のある澄川とは違い、適当かつ責任感もやる気も無い青崎だからこそ、という事だろうか。

 

 

 

「______まっ、もしかしたら変わるのかもね。入ってきたんでしょ?綿雲の言ってた『アイツら』」

 

「………【花鳥風月】と鳥と、えありの弟……?」

 

 

 

 はっと気が付いたように澄川が呟く。

 

 

 【花鳥風月】。明日葉が、綿雲が、月紙が、風見が所属していた、謎の多いサッカーバトルチーム。ある意味この騒動の根幹に位置する、そのチームメンバーならば。花鳥風月の『鳥』を関する少年ならば。

 

 

 そうして……綿雲のように消えてしまった、あの優しい少女の血縁者。彼女が愛していた、その弟ならば。何か、現状を打破出来るのかもしれないという期待があった。

 

 

 

 

「変わらないなら、俺はこのまま自由気ままに残りの学校生活過ごすだけ。ただもしも…………もしも、変わるんなら______」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______あんの馬鹿共全員の頭、引っぱたかないと気が済まないね、俺は」

 

 

 

 ニヤリと笑って、彼は立ち上がる。どう転ぼうが、自分は自分を貫くだけだ。斜に構えたクズの皮肉屋なりに、それなりの事をやっていくだけ。それが、自分なのだから。

 

 

 

「特にあのちみっ子だな。人の事引きずり込んでおいて何も言わねぇとか、無責任にも程があんだろ」

 

「………プッ。ふっ、ふふっ、ふふふふ……!!」

 

「?なんだよいきなり、気持ちわりぃな」

 

「いや、ごめんごめん!……アナタほんっと、変わらないよね。何だかんだえありの事大好きじゃん」

 

 

 

 

 思わず笑みが溢れてしまった。目じりに溜まった涙を拭いながら、澄川は変わらぬ友にそう投げかける。なんだかんだとあの穏やかな綿雲と共にいた皮肉屋の青年は、とっくに彼女の暖かな風に染められていたようだ。

 

 そんな彼女の言葉を聞いて、青崎は顔を顰める。

 

 

 

 

「げっ、やめてよそういうの。柄じゃないんだって俺………それに他の奴らも引っぱたくぜ?あんのクソうるさいイノシシ女もそうだし、よりにもって俺に押し付けてどっか行きやがった馬鹿な男3人もな……ったく、なんで唯一の3年男子が俺なんだか………」

 

「それじゃ、えあり達のこと嫌い?」

 

「嫌いだね、大っ嫌いだ。人のこと面倒ごとに巻き込んどいていなくなる薄情もんだし、アイツらのせいで俺の学校生活めちゃくちゃだからな」

 

 

 

 

 あぁ全く。面倒だ、心底面倒だ。

 なんで自分がこんな事になっているのか。ただ呑気に日々を生きて、惰性で過ごしていきたかったのに。あんな奴らに出会ってしまったせいで、自分の設計は滅茶苦茶だ。人の事引きずり込んでおいて、張本人共は勝手にどっか行ってしまった。やっぱり奴らはバッカー部だろう。

 

 

 

 

 ただ、少し思う。多分二年前、この時期の自分に今の話をしても…………

 

 

 

 

 

 ______この場にいない人間のことを気にするようになってるなんて、信じないだろうなと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、そんなことどうでもいいさ。折角の特等席だ、『脇役』は『脇役』らしく、面白おかしく拝ませてもらおうじゃないの」

 

 

 

 そう笑って、彼は屋上から下を覗き込む。その先にいたのは、二人の少年。

 

 

 

 

『……………なんでついてきてんですか貴方』

 

『………………(一緒、に、行動………チームメイト、っぽい……!!)』

 

『いやだから喋って下さいよ』

 

 

 

 片や口を開かぬ、長めの銀髪をした整った容姿の少年。あのサッカーバトルチーム、【花鳥風月】において最も長く『鳥』を務めていた、口下手で、しかして確かに熱い心を持った男。誰よりも純粋に、誰よりも無垢に。バカ正直に『約束』を護るために翔ける鳥。

 

 

 片や忌々しげに銀髪の少年を見つめる、ゆるふわとした明るい緑色の短髪の少年。濃い緑色の縁をしたメガネの奥に見えるのは、何処と無く冷たさすら感じる瞳。しかし彼は彼女の……誰よりも優しい風の弟だ。自分から姉を奪ったものを見極める為、一歩を踏み出した駆け出しの風。

 

 

 

 

 変えるかもしれない。現部長の事を……恐らく誰よりも抱え込んでしまっている、孤独な『月』を掬い上げる、その主たる要因になるやもしれない。

 

 

 

 

「『もしここに来たら、2人をよろしく』……だったもんな、約束」

 

 

 

 脳裏に浮かぶ、他愛ない約束。本来の青崎ならば既に忘れ去っているであろう、なんともない約束だが、彼は覚えていた。

 

 

 

 一年間、共に過ごしてきた。偶然あの靴箱で出会って、舌っ足らずな喋り方で何度も何度も声を掛けてきて、最終的にはほかのメンバーと一緒になって自分を引きずり込んだゆるふわガール。この物語の根幹に位置する、要石たる少女。

 

 自分をこの、気苦労が多く、面倒ごとが絶えず、思い描いていた未来とは全く持って異なっている………刺激に満ちた毎日に引っ張りこんだ上に、自分だけ抱え込んで、どこかへ去ってしまった薄情者。サッカー部崩壊の、主たる要因。

 

 

 ______青崎を引っ掻き回した、最高で最低な、大罪人にして大恩人。

 

 

 

 

「さってと………どう転ぶのかね。個人的には付き合いのある在籍組を応援したいけど………まっ、せいぜい頑張って面白くしてくれよ」

 

 

 

 

 そう笑って、彼は手すりにもたれ掛かる。自分は動かない。動けない。変わるべきとは自覚しているが、同時に苦労を抱え込んだ後輩を凶弾出来るような立ち位置にはいない。唯一の3年生男子だ、自分が表立って動くのは得策とは言い難い。流れを見て、程よい塩梅を見つけて、より良い未来に転がるかどうかを見定めるのが最高学年者である自分の______否。『綿雲えあり達に魅せられた者』としての役目かもしれない。

 

 

 

 

「なぁ…………【主人公】?」

 

 

 

 

 春うららとでも呼ぶべきその日。暖かな風が、彼の前を吹き抜けて____________。

 








 タイトルにバッカー部使うか小一時間悩んだ←

 みんなかわいいかよ……(遺言)
 ハチミツ先生、こんな風にわちゃわちゃさせたいです…!



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本編
プロローグ


 作者としては、皆さんはじめまして。いつかは改名したい奴、杠葉です。
 読者参加型界隈に出没していた長文設定ヤローは私です。

 わりと中心人物も募集することにしたら、プロローグで触れるところがなくなった……。そのため、よくわからない内容かと思います。どうにでもできるように曖昧に書いてます。
 いっそ、キャラ募集のための広告と思っていただければと思います。

 それでは。


 

 

 

 春うらら。

 中学入学を控えた少年は心躍らせる。

 

 彼はいままで、仲間との約束のため、ただひたすらに特訓を重ねてきた。

 

 

 

「…………皆と、会える……ようやく、だ。」

 

 

 

 頬は薄っすらと色づき、黒々としたつり目は柔らかな色をたたえている。無に近しい薄い表情だが、精一杯の喜びがこぼれ落ちていた。

 

 自前の銀は外へはねていて、サワサワと音を立てるほどに長い。前髪も片目が隠れてしまっているし、襟足は特別長く背に流れていた。

 風になびいて、彼の心情を表すかのように軽やかな音を立てる。

 

 

 

 

 彼は――――鳥羽 仂弥(とば りきや)は心を躍らせていた。

 

 サッカーを続けるきっかけをくれた、一足先に進学した仲間たち。とんと話を聞かなくなってしまったのには何か理由があるのだろうと、全国大会へ姿を見せずとも目指す志は変わらないはずだと勇み立った。

 

 

 

 

 

 FFで優勝する(頂点を目指す)約束を、彼は心底信じていた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 春うらら。

 中学入学を控えた少年は憤る。

 

 彼はいままで、自らの誓いのため、ただひたすらに手がかりを求めてきた。

 

 

 

「やっとスタート地点に立てるんですね…………姉さん。」

 

 

 

 灰色のつり目は、濃い緑色の縁を持つ眼鏡が反射で覆い隠してしまっているものの。その深い眉間のしわと胸の奥底から絞り出されたような暗い喜びの声音から考えれば、きっと良い感情は浮かんでいないだろう。

 

 明るい緑色をした短髪をゆるふわと風に遊ばせ、年相応の幼さを残した(かんばせ)

 しかしいまの彼には、本来持つ柔らかな雰囲気は感じられなかった。

 

 

 

 

 彼は――――綿雲 士存(わたぐも おぞん)は憤っていた。

 

 一度は辞めたサッカーを再び始め、何処ぞへ行方をくらました姉。必ずや何か理由があるはずだと、その足跡を辿れば何かしら掴めるはずだと勇み立った。

 

 

 

 

 

 士存――オゾンから姉を奪ったモノを、彼は決して許さない。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 春らんまん。

 一般的な中学と変わらず、ここ、水雲(みくも)中でも新学期が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 鳥羽 仂弥(とば りきや)は、夢へつながる一歩だという、希望を抱いて。

 

 

 綿雲 士存(わたぐも おぞん)は、姉へつながる一歩だという、希望を抱いて。

 

 

 

 

 

 それぞれの望みを乗せて、提出された入部届けに対し、もたらされたのは。

 

 

 

 

「「『無期限活動自粛』……⁉」」

 

 

 

 

 サッカー部が活動していないという事実だった。

 

 

 


 

 

 

 中学サッカーにおける世界一を競う大会・FFI、その記念すべき第一回大会にて日本が優勝を掴んでより6年。

 

 続く第二回大会をも制したことで中学サッカーは大いに賑わい、サッカー人口は右肩上がりであった。

 

 

 

 反して世界大会での戦績を見れば、そのレベルは推して知るべし。

 

 当時の日本代表・イナズマジャパンのメンバー、最後の『イナズマ世代』であった『宇都宮 虎丸』の卒業以降、日本代表はアジア予選の突破すらままならない状態だった。

 

 

 

 

 

 時、熟す。

 これは日本の中学サッカー界のツワモノが、『新生イナズマジャパン』として世界に挑戦する物語――――までの軌跡である。

 

 





 尚、世界編に入るまでの道のりは遠い模様。

 拾える情報はほぼなかったかと……すみません。
 説明とかは全部活動報告でやります。

 まだ報告上げられていないので、予告です。
 続報を待てっ!()


※8/17追記
 募集中です!

☆水雲中の生徒を特に募集中。
『指定枠』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=221288&uid=125597
『フリー枠』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=221276&uid=125597

☆未来の対戦相手たち
『ライバル枠』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=221368&uid=125597
『ご当地選手』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=221350&uid=125597


世界線等の説明とか。
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=221220&uid=125597

今後の募集予定です。
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=221331&uid=125597


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鳥羽 仂弥のスタートダッシュ

 あんまりにも内容が進まなかった……タイトルにも困る程度の短さ。
 謎タイトルはスルー願います。

 1話=1ページな感じで投稿するので、しばらくはとても短いです。(おそらく)視点変わるごとにも分ける。(おそらく)おまけは別。(おそらく)

 今回主人公片方しか出てません。しかも喋らない。セリフの半数以上がモブのもの……おや?
 ちなみにお話ししてくれてる担任もモブ予定。


 そんなこんなで、こんなものですがどうぞ。



 

 鳥羽 仂弥(とば りきや)はそわそわしていた。

 

 

 

 

 ここ、水雲中学校の入学式が近づくにつれて、日々そわそわが増していることは、本人も自覚していた。

 

 

 入部式の前も、その最中もずっとそわそわしていた。

 終わってから、新入生として教室へ案内されても、まだそわそわしていた。入学式が目的ではないからだ。

 

 

 

 

 この男、物凄くそわそわしている。

 

 

 

 担任教師がわかりやすくオリエンテーリングを行ういまも、心此処に在らずでそわそわしっぱなしである。話を聞け。

 

 

 

 

 

「さて、これで説明はおしまい。

 

 このあとは各自で動いてください。校舎を見て回ってもいいですよ。

 

 あっでも、教科書やジャージ等を受け取りに行くのは忘れないでくださいね?」

 

 

 

 

 

 しっかりと念を押す担任の言葉に、新入生たちは少しだけ初々しい様子で聞いていたり、興味なさげにしていたり、いつ開放されるのかと時計をしきりに気にしたりしている。

 分類するならば、仂弥は最後だろうか。

 

 

 

 

 

「部活動をしている2〜3年生もいるかもしれません。部活紹介で気になったところへ見学に行くのもいいですね。

 

 とにかく、教科書等の受け取りを忘れないこと。困るのはあすの自分と、隣の席の人なんですから。」

 

 

 

 

 

 それでは、解散────担任がそう告げるや否や、仂弥は勢いよく立ち上がると、ざわめき出した教室には目も向けずに退室した。

 

 

 その手には、小さめの紙が握られている。

 丁寧に、けれど枠一杯に大きく『サッカー部』と書かれたそれは、少しばかり皺がはしっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただでさえそわそわの原因についてしか頭にない仂弥に、少し離れた場所のささやき合いなど届かない。

 

 

 

 

 

「ねえ、いまの彼カッコよくない⁉」

 

 

 

「うんうん、すっごいイケメンだった! ちょークールだね……!」

 

 

 

 

 

 クラスの女子生徒による黄色い声も、熱い視線も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「び、びっくりしたなぁ…………なんだったんだろ……。」

 

 

 

 

 

 勢いよく下がった椅子の立てる音に驚かされた隣人のひとりごとだって勿論、届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして話はプロローグへとつながる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「『無期限活動自粛』……!!?」」

 

 

 

 

 

 次は、騒がしい職員室でのお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────《とある教室にて、隣人のひとりごと》────

 

 

 

 

 

「これからどうしようかな…………斗真(とうま)さん、本当に来るつもりなのかなぁ。」

 

 

 

 

 

 迎えにいく、と言っていた先輩を思い浮かべる。

 入学初日とはいえ、ほかの同級生たちは詳しくないままに校内を回るのだ。

 

 自分がやらない謂れはないだろうに、と思う。

 しかし彼が案内するのだと宣言してきた時を思い出すと、勝手に1人で回るのも悪い気になる。

 

 

 「俺が案内してやるよ! なんてったって、『先輩』だからな!」と胸を張るあの人。

 緩む顔を抑えようとしたのか。ニカッともニヤリとも言い難い顔をしていた。

 

 どうやら、名実ともに『後輩』となった弟分を、猫可愛がりしたいらしい。過保護か。

 漏れたため息を飲み込んだ。

 

 初めての場所を回るのに、不安がないわけではないけど。ちょっとやり過ぎではないだろうか。

 

 

 当時の『先輩』の浮つきっぷりは、なんとなくさっきのお隣さんに被るような気がする。

 

 

 そんなことまで飛んだ思考を戻すべく、飲み込んだため息を今度はこぼして、リセットを目論んだ。

 

 

 

 

 

 さて。待っていろと言われたなら、やっぱりその通りにするべきなのだろうけれども。

 

 しかし1年の教室に2年である彼が訪ねてくれば、それは目立つのではないかという不安があり。どう動くか、悩みどころだ。

 

 視線を集める行為は、あまり得意ではなかった。

 

 

 

 

 

 素直にこの教室で待って、先輩の来襲で騒がせるか。

 

 一足先に出すものを出して、現地で集まるか。

 

 

 

 

 

 最終的に、勝手に動くと拗ねるだろう相手の様子が簡単に想像できたことで、おとなしく待機することを選んだ。

 

 

 

 

 

 

 呼ばれてすぐ行けば、そんなに目立たない……はず…………だったらいいなぁ。

 

 

 

 

 

 意図しないため息は、手の中の紙へとこぼれ落ちる。

 

 

 『入部届』と大きくプリントされたその小さめの紙には、きちんとした、しかしどこか申し訳なさそうな文字で、自分の名前ととある部活の名が書いてあった。

 




『今回の内容』
 残念なイケメン仂弥くん
 隣の席の●●くん
 イケメンフィルター(笑)

 ……薄っぺらいがすぎるっ!!
 プロローグのラストの前辺りの、入学式を終えて各教室で話を聞いているところです。もう『入部届出しにいったお』で済ませられる内容……。

 一人称的地の文が固くなる病を患ってますのでキャラっぽくないのは許してください。セリフとセリフっぽい地の文は頑張ります。



 前書きでも色々申したけれど、応援してもらったので頑張ります。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
 あとでまとめたり大幅修正しそうでも、とりあえず書いたら投稿すると決めましたよ!



 キャラ募集ありがとうございました! おかげ様で主人公チームが決定しました。
 現在は引き続き『ご当地』と『強キャラ』、新たに『ライバル校』を募集しています。お時間等よろしければ、どうぞご参加くださいませ。

 『ライバル校』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=223074&uid=125597


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のうきんぶらざーず

 お久しぶりです。サブタイトルがおかしななのはやっぱり気にしないでください。

 何か書き方変だとか、そもそもこれは小説の体をなしているのか甚だ疑問ですが、前言どおりとりあえず書けたので投稿しました。
 数こなせば上達するって誰かが言ってた! しかしこの世には下手の横好きという言葉があってな……がはぁっ。

 ということで本編どうぞ。


 クラスごとのオリエンテーリングが終わり、生徒たちは思い思いに動き始める。

 かくいうオゾン――綿雲 士存(わたぐも おぞん)もまた、身の回りを整理したのちに行動を開始した。出会ったばかりも多い中、既に気の合う相手を見つけた同級生たちは、やれ一緒に回ろうだとか、やれカラオケ行こうぜだとか、このあとの予定を決めているらしい。

 

「なあ! お前も一緒に行かね?」

 

「……用事があるので。」

 

「もしかして部活見学? オレら回ってみるつもりだけど……。」

 

「もう決めているんです、僕。……失礼しますね。」

 

「おー、じゃーな!」

 

 そそくさとリュックをまとめるオゾンも声をかけられるが、短いやり取りで断り、そのまま盛り上がりの止まない教室をあとにした。

 

 

「ちょっとそっけなさすぎね……?」

 

「ほっとけって。それよりこのあとさ……。」

 

 

 愚痴を少しこぼしたあと、話題は放課後のことへ移る。既にいなくなった相手を気にする者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳥羽 仂弥(とば りきや)は焦っていた。

 

 クラスのオリエンテーリングが終わってすぐに教室を飛び出し、入部届を出そうと職員室にやってきた。

 何故なら仂弥は、サッカー部の部室の場所を知らなかったからだ。だから直接顧問へ入部届を出さなければならない……と、思い込んでいた。

 しばらく会っていないが、サッカー部には仂弥の知り合いが数名いる。彼か彼女かに渡してもらう、という手段は頭になく、ただただ入部届を受理してもらいたい一念で職員室へ特攻したのだ。ついでに部室の場所も教えてもらいたかった。

 

 職員室にたどり着いた仂弥は、新たな壁にぶつかった。

 そう――顧問が誰か知らなかったのだ。知らないことが多すぎる、だって新入生だもの。新入生のくせして根拠のない自信でもって突っ走ったのがこやつである。

 

 聞けばいい、そう思う人は多いだろう。

 ここは職員室。教師の集まる場所であり、現在も数名がこの部屋にいる。サッカー部の顧問はどの先生か、と尋ねれば何かしら返してくれるに違いない。

 しかしそうはいかない事情がある。

 

 鳥羽 仂弥(とば りきや)は口下手だ。

 

 言葉にするのが苦手で、声は小さいしよく詰まる。色々あって、人と会話することが苦手だ。一時期よりも回復しているものの、1年くらい家族としかまともに会話を交わせていないのだから筋金入りである。

 

 鳥羽 仂弥(とば りきや)は焦っている。

 

 はやく入部届を出し、サッカー部に入りたい。ようやく中学に上がり、そして約束を果たす最初で最後の1年なのだ。少しの時間も無駄にしたくない。

 はやくサッカーがしたい。あの人たちと、もう一度。もう一度、11人で――。

 

 そのためにも、はやく顧問を見つけなければならない。しかし忙しなく動く教師への呼びかけはタイミングが合わない。「……あ、の。」の『……』のうちに遠ざかってしまう。

 

 鳥羽 仂弥(とば りきや)は焦っている。

 

 

「……あの。」

 

「……?」

 

「用がないのなら、どいてもらえません?」

 

 ふと。自分のものではない呼びかけを拾った仂弥は、声の方へ振り向く。

 幾分か目線を下げた先に、男子生徒がいた。

 

 彼の第一印象は『緑』だ。ゆるふわとした短髪は明るい緑色であるし、フレームの太い眼鏡は濃い緑色をしている。瞳は灰色だけども。

 どことなく冷たく感じるな、と自分を棚に上げながら彼のツリ目を評価する。ぐぐぐと下げた視線が上履きを捉え、緑色(同学年)だと気づく。制服の新品感を見抜ける能力は、仂弥のツリ目にはなかった。

 そこまで確認してからようやく、出入り口をふさいでしまっていることにも気づいた。仂弥は慌て、すまないの意味を込めた目礼をしつつ斜め前方へ一歩進んだ。

 

 

 

 

 

 仂弥に声をかけた緑の彼――オゾンは思った。

 

 職員室の入口を塞ぐ高身長の銀髪野郎に、何だこいつすっごい邪魔、と。上履きを確認して同学年だとわかり――先輩だろうと結論は変わらないが――、声をかけることにした。

 

 振り向いた銀髪野郎は銀髪イケメン野郎だった。同じツリ目なのに目つきの悪さではなくクールさをかもし出す彼に、顔面格差を感じた。悔しくなんかない。

 全体的に髪は長めだし、前髪なんて片目を隠してしまっている。不良か。学ランの首元のフックも第一ボタンも開けられている。不良なのか。すごく視線を感じる、見られている。やべぇ、目つけられたか。

 気安く声をかけてしまったことに、早くも後悔するオゾン。なお、普段からフックまできっちりしめている学生なんてそういない。オゾンはちょっとおつむのお固い昭和タイプの中学生だった。ちなみに不良疑惑をかけられている仂弥は、ちょっとおつむの弱い雛鳥タイプの中学生である。

 そのタイプ:雛鳥は観察か値踏みだかが終わったのか、一言も発することなく斜め前方へ一歩進んだ。

 

 オゾンは思った。

 

 いや声発してくれませんか、と。

 確かに通り路は空いたし、これでオゾンも職員室へ来た用事を果たせるだろう。でも無言はどうなんだ。そのゆっくりとしたまばたきはもしや目礼か。声に出せ。決して一歩で十分な距離が稼げる長身への嫉妬ではない。

 

 オゾンは思った。

 

 まあいいか、と。どうせこの場限りの関係だろう。もう気にしないことにして、さっさと用事を済ませてしまおうと。

 

 

 

 

 

 世の中ではそれを、フラグと呼ぶらしい。

 

 

 

 

 

 ちょうど近くを通りかかった教師にオゾンが声をかける。

 

「すみません、サッカー部の顧問の先生はいらっしゃいますか。」

 

 仂弥のツリ目が輝いた。

 焦る仂弥の前に現れた緑の彼は救世主だったらしい。これで入部届が出せる、というかもしかして未来のチームメイトなのか。

 あっち、と指さされた方へ進むオゾン。その後ろほくほくとした心地でついて行く仂弥に、怪訝そうに振り返るオゾン。嫌な予感がもたげ、もしやと問いかけると。

 

 目の前に広げられる入部届。空欄にはしっかりと『サッカー部』、『鳥羽 力弥』と書かれている。

 

 完全にフラグだったと気づいたオゾン。だから話せよと思ったが、それはこの短時間で既に諦め気味であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ〜、入部希望? 2人共サッカー部なの?

 えぇ……弱ったな。」

 

 サッカー部の顧問だという中年男性は、どこか困った様子だ。いまにも弱ったなんて言いそうだと思ったらすぐに口に出されていたぐらい弱った様子だった。

 仂弥も、オゾンも、ここ水雲中にサッカー部があることは知っているし、なんなら知り合いが所属しているはずである。部活紹介用のプリントにしっかり書いてあることも確認した。

 まさか人数制限や入部試験なんてものがあるんじゃあるまいな……いやあるなら乗り越えるだけだけど、なんてことを考えるオゾン。早く受け取ってもらえないかな、と入部届を差し出したままの仂弥。仂弥は空気が読めないタイプの脳筋だった。オゾンは空気が読めると思っているタイプの脳筋である。脳筋しかいねぇ。

 

「サッカー部はねぇ、あまりおすすめできないなぁ。いまの部長になってからは活動してなくてね、なんだったかな……そう、『無期限活動自粛』なんて掲げているんだよ。」

 

 脳筋2人は顧問の言葉をすぐには理解できなかった。噛み砕いて噛み砕いて、粉々にしたあと味がなくなるまで噛みしめてようやく飲み込んだ。それから、一呼吸。

 

 

「「『無期限活動自粛』……!!?」」

 

 

 意図せずそろった叫び声は、狭くはない空間でハウリングする。間近で聞いた顧問の耳はキーィンとするし、離れた場所にいた教師も耳を押さえながら何事かと発生源へ視線を向けている。

 

 

「ちょっ……どういうことですか先生っ!」

 

「……な、んで、だ? ……で、すっ!」

 

「(……えっ? しゃべった……!?)」

 

 

 その発生源は発生源で、周囲に目を配れる状態ではなく。強い困惑の中顧問へ詰め寄った。

 とても困惑していたが、先程まで一言も発しなかった仂弥が話したことにオゾンは驚き、より深い混乱に陥った。

 

 

「詳しいことは当人たちしか知らないんだよねぇ。私は結論を受け取っただけだからねぇ、理由が知りたいなら部長の『月紙(つきがみ)くん』にでも聞かないと「「……っ/失礼し、ますっ!」」……あらら、行ってしまった。」

 

 困惑と混乱の中にあった2人の脳筋の頭には、その部長に話を聞かなければ、という思いしか残っていない。思い立ったら即行動とばかりに2人は動き出した。

 

 がたがたがた。どたばたキュッキュ、おっとっと。デスクにぶつかったり教師にぶつかりかけたりお互いにぶつかったりしながら、出入り口へ急ぐ。

 特にドアの前では、盛大にぶつかった2人が「ちょっいたっ、どいてくださいっ!」「……っ!」「(いやだから話してくださいよっ!)」と我先に出入り口を抜けようとし、おしくら饅頭のようになって、最終的に心太のようににゅるん飛び出た。饅頭になったり心太になったり忙しない。

 飛び出た勢いでたたらを踏みながら、2人して足速に職員室をあとにしたのだった。廊下は走ってはいけません。

 

 

 

 なお、2人とも部長の居場所も部室の場所も知らないでの行き先は不明である。のうきん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あらら、とおしくら饅頭を観戦し、1人残された顧問は思う。

 

 もしかして仂弥()が『例の約束』の子だろうか、とか。

 もしかしてオゾン()は『彼女』の血縁だろうか、とか。

 

 もしかしてあの2人が、あの日から停滞したままのサッカー部が動き出すきっかけとなるのではないか、とか。

 

 

 サッカー部の『無期限活動自粛』を告げられた時、顧問たる教師はただ受け入れただけだった。

 『彼女』がここを去ると告げた時も、ただ受け入れただけだった。

 

 2年前のいま頃、白紙の創部届を手渡して、ほぼ埋まったそれを受け取った。顧問になってくれと頼まれて、それも受け入れた。

 最後の空欄を埋めた教師は、その日からサッカー部の顧問だった。

 

 『復活した』サッカー部の行く末を、顧問はただ見守ってきた。

 

「……はてさて、どうなるかねぇ。」

 

 うちの部員が失礼しました、と教室内のあちこちへ頭を下げてから自席に着く。そうしてようやく、そういえば受け取ってないなぁ、と入部届に思いを馳せる。そして、一つのことに気づいてしまった。

 一応書類で確認して、やっぱりなとため息を一つ。

 

 

 そうだ、せめてこれだけは聞いていってほしかった。

 

 

「自分の名前を間違えるのは、少しまずいと思うなぁ。」

 

 ずっと差し出されていたものの、結局受け取ることなく本人が持っていってしまった仂弥の入部届。その空欄にはしっかりと『サッカー部』、『鳥羽 弥』と書かれていた。

 

 

 

 鳥羽 仂弥(とば りきや)はどこか抜けているタイプの脳筋であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、時は巻き戻り。

 

 オゾンがあとにしてからも、教室の騒がしさは変わらない。校内を回るグループがあれば、街にくり出すグループもある。男女で盛り上がるグループがあれば、同性同士で計画を立てるグループもある。オゾンに声をかけたのは、男女入り交じる遊びに出ようというグループだった。

 そのうちの、部活見学に行こうとする、とある女子グループにて。

 

「まずどこから回るー?」

 

「調理部とかは? 差し入れで運動部のイケメンゲットとか(笑)」

 

「あんたにそんな繊細なことができるの?(笑)

 ――あっ、葵ちゃんはどこがいいとかある?」

 

「うん! もう決めてるんだっ!」

 

 太陽へ向けて大輪を咲かせる夏の花のような少女が、嬉しくてたまらないとばかりの笑顔を浮かべていた。

 事実、彼女は嬉しくて嬉しくて、この短時間で仲良くなった友人がいなければすっとんで行きそうなほどだ。

 

 ずっと昔から、この部に入ると決めていた。昨年の試合を見て、ここの部に入りたいと強く思った。

 それがようやく叶おうかというのだから、心が浮つくのも無理はない。

 

 彼女が小さく掲げた入部届は、言葉通りに記入済みだった。

 

 




 現時点の合計文字数の倍近く書いたのに全然進まない……。文章の半分くらいは職員室の出入り口で繰り広げられたほぼ無言のやり取りです。……あれ?

 ※本作の主人公ずはよそ様のところへ送っているバージョンよりも色々悪化してます。しゃべらないっぷりとか荒んだ思考とか。参考にしすぎないでくださいね……。

 ようやく主人公ずが話し終わった(プロローグまで消化できた)ので、次回からは募集させていただいた子たちをメインに動かす予定。部室前だよ全員(はいないけど)集合!の巻、までいけたらいいな巻きで。
 ちなみに。ぐだぐだというか、こんな感じで内面とか行動とかを逐一突っ込んでのたのた進むのと。テキパキと、とんとん展開進んで行くのどっちがいいですかね?


***

 新旧水雲イレブンが無事……?決定いたしました。ありがとうございます!


 現在募集中。
『ライバル校・十依路中イレブン』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=223074&uid=125597

 こちらも募集継続中……。
『ご当地選手』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=221350&uid=125597


 募集予告
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=229351&uid=125597


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廊下は走ってはいけません

 設定が増えたり減ったりすみません……。
 後書きにリンク貼ってますが、物語の始まりという大事な『チーム花鳥風月』に欠けが出ましたので、よろしければキャラ募集にご協力くださいませ。



 東京都郊外に構える水雲中学は、実はあまり部活動が盛んではない。どちらかといえば、学業に力を入れている学校だ。

 部活動の実績で言えば、県境を越えた近隣校である『十依路中学』に軍配が上がる。『一人一人の才能を育てる』を理念に設備に力を入れているマンモス校であり、突き詰めたいものを持つ生徒の多くがそちらへ進学するからだ。

 なので水雲中学では、オリエンテーションで部活見学を勧める担任教師もいるものの、実際に回る生徒はそれほどいない。そしてそのことを元新入生であった在校生は知っているため、入学式のある日に態々活動をすることもそれほどないのだ。大会上位を狙う体育会系の部活か、あとは精々自由参加の部活動の一部くらいだろう。

 

 入学式を終えた新入生の大半は、教科書等の必要物資を引き取ると足早に帰宅する。もしくは式に来ていた親に任せ、一時帰宅することなく街に繰り出す。顔を合わせたばかりのクラスメイトとの親交を深めるのだ。

 そんな訳で、大半が下校しつつある校内にはちらほらとしか人影がない。だからといって、廊下を走ってよいという訳でもないのだが。

 

 

 

 

 

 職員室入口を心太のようににゅるんと飛び出た勢いのまま、廊下を駆けるお馬鹿が2名。鳥羽仂弥と綿雲士存だ。

 事走りにおいてそれなりに自信のあったオゾンは、スタートダッシュで仂弥が先を取ったことに驚き、負けず嫌いに火が点いた。

 

「(こんなよくわからない人に負けたくない……っ!)」

 

 一方の仂弥は、どちらかと言えば短距離向きとはいえ、スタートの時点から自分とそう離れずついてくるオゾンに驚き、感心した。

 

「(……この人。足腰がよく、鍛えられて、る……と思、う。……チームメイトになる、のか……心強い、な……♪)」

 

「(何薄ら笑い浮かべてるんですかねこの人っ……!)」

 

 廊下を爆走する存在に、まだ校内に残っていた生徒がおっかなびっくり視線を集めていることに当人達は気づいていない。何だこいつら……と言わんばかりの中で、しかし1つだけ違う視線の主が声を上げた。

 

「おい、そこの爆走2人組! 廊下走ってっと

…「こらっ、そこの生徒! 廊下は走らない〜っ!」…っと、遅かったか……。」

 

 

 

 

 

 入学早々はっちゃけた(ように見える)生徒2人と、廊下を走ることの危険性をこんこんと言い聞かせる教師が、ちょっとした見世物になったあとのこと。

 

「早速やらかしたなぁ、オゾン!」

 

「……笑ってんじゃないですよ、大地。」

 

 爆走していた2人に忠告しようとした男子生徒が、オゾンに声をかけてきた。

 短く整えられた茶髪と同色の瞳を持つこの男前は巽大地(たつみ だいち)。お馬鹿の片割れオゾンと同小の新入生だが、少し前まで小学生だったとは思えない恵まれた体格で、がっしりとした印象を受ける。

 オゾンが目を合わせて話そうとすると身長差で若干首が痛くなるので、一応友人とはいえイラッとすることもある。しかし仮にも友人であり、とある恩もあるので無視はしない。頭に置かれてしまった腕が重くて無視できないともいうが。

 

「そっちの銀髪ははじめましてだな!

 俺は巽大地だ! コイツ(オゾン)とは同小の親友(ダチ)なんだ。」

 

「ただの腐れ縁でしょうが……それと離れてくれます? 重いんですよ筋肉馬鹿。」

 

「腐れ縁って、相変わらず冷てぇな!? 受験勉強だってあんなに手伝ったのによぉ?」

 

「そ、れは感謝してますけど……って重い重い重い……! っいいから早く腕をのけなさい!」

 

 腕へ更に体重をかける大地と、その腕を跳ね除けるオゾンを仂弥はにこにこと(無表情で)眺めていた。テンポのいい会話に入れなかったともいうが……仲良きことは美しき哉、である。

 

「お前ら、同じクラスなのか? まさかあのオゾンがこんなに早く友人を作れるなんてなぁ!」

 

「違いますよ。偶々職員室であっただけの知人未満です。クラスどころか名前すら知らないんですから。」

 

「え、そうなのか?」

 

「……(そう、いえば……俺も、知らない、な。……チームメイトになる、んだ…………うん。)」

 

「って無言かよ!?」

 

「この人さっきから大体こうですよ。……そうだ、職員室で聞いたんですけど、」

 

「(名乗る、のは……自分から、だな。)……鳥羽仂弥、だ。」

 

「いま名乗るのか!? …………面白い奴だな、鳥羽! よろしく頼むぜ!」

 

「ちょっと、話遮らないでくれません?」

 

 時間の流れが違うのかと思うくらい会話のテンポが噛み合わない仂弥に、笑う大地とイラッとするオゾンであった。

 

 

 

 因みに大地よりは低いものの同じく高身長である仂弥にもオゾンはやっぱりイラッとする。それにまだ親しくもないので、嫌いな奴認定の現状普通に無視もする。

 なお、仂弥のオゾンへは職員室で助けられた(※偶々)(※勘違い)ので好印象である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……仂弥で、いい。」

「結構ですよ『鳥羽』くん。」

「おいおい、オゾンお前なぁ……。」

「……兄がいるん、だ。(間違えられた、ら……申し訳ない、な。)」

「そうなのか。じゃあ、名前の方がいいかもな。」

「……お兄さん、サッカー部なんですか?」

「……コクリ。(兄さん達、は……凄いから。)」

「…………なら、しょうがない、か。

 では、りき――」

「(……強豪校で、レギュラー…………2人共、凄く強い、けど……『約束』したか、ら。)……絶対に勝って、優勝するん、だ。」

「――って、はあ? ……ちょっと待ってください。」

「ん? ……お前の兄貴、『他校の』サッカー部なのか?」

「……コクリ。」

「……さあ。早く部室に行きますよ、大地、『鳥羽』くん。」

「……? ……仂弥で、いい。」

「あーっと…………改めてよろしくな、仂弥!」

「……よろし、く。……大地、オゾン。」

 




 違うんです寄せてるわけではないんです……オゾンと仂弥が蟲柱サンと幼女柱みがあるとかそんな……。
 ほんとに偶々ですし、ちょこっとだけ性格似てる部分あるけど別物ですので。ただ書いてて自分で雰囲気ちょこっとだけ気になったので、先に弁解しておくとします。
 極力名前で呼びたくないのと、まだピリピリしてるから刺々しい荒目の丁寧語男子(にこにこしてない)オゾン。会話のテンポがゆっくりでズレてくるのと、言葉数が少ない故の勘違いは偶にある無表情男子(圧縮言語はない)仂弥。まあ毒吐くし、幼女みありますけどね……。



 今回やっとまともにご応募いただいたキャラが出せました! 『県内一最強の矛』くんです。
 色々設定積んでますがとりあえず、オゾンと幼馴染み?設定をお披露目です。
 元気の足りない陰属性主人公ズなので、展開的には明るさや熱血な陽属性キャラは非常に助かる。意外と冷静とのことなので、1年組の保護者的立ち位置になりそうだなー、と思ってます。ご苦労をおかけします←
 もう一人と一緒に引っ張っていって(先導&リード的な意味)あげてほしい。


 うーんでも、やっぱりテンポが……中々キャラが集まりませんね。まだサッカー部にすらたどり着けてないぞ?
 次回は2人、まとめて進められたらもう2人くらい一気に出せるかもです。また気長にお待ちくださいませ。


***
 現在募集中。

『緊急募集:花』※3/25 23:59〆
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=232637&uid=125597

『ライバル校・十依路中イレブン』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=223074&uid=125597

『ご当地選手』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=221350&uid=125597


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まいごのやきとり

 停滞して久しいあの部活に、『()()()()()』が咲くらしい。
 ()()()』も何もなければ来るだろう。もしかしたら『()()()()』も吹くかもしれない。

 ――ああ、面白くなる予感がするな。



 

「マネージャーって結構大変らしいし……運動部は外から眺めてるのが一番。」

 

「てかサッカー部ってあったっけ?」

 

「あるよ!?」

 

 入学早々仲良くなれたクラスメイトたちとそんなやり取りをして別れた葵――『向日 葵(むこう あおい)』は、サッカー部の部室を目指していた。

 葵は、内面の明るさがにじみ出たような肩までのオレンジ色の髪と、その活発さとは逆の印象を与える日に焼けていない白い肌色の新入生だ。季節外れの麦わら帽子と、肩元の向日葵の刺繍と合わせてすでにトレードマークと認識されつつあるその明るい笑顔を振りまきながら、校外を進んでいる。

 

 事前準備もばっちり。更に先ほど綺麗な先輩におすすめのルートを聞いたので、改めて道順を繰り返し確認してもいるのだ。

 ただ、あの意味深な微笑みの理由はわからないけど……。

 

「(そういえばあの先輩、どこかで見たことあるような……。)」

 

 部室への道のりを教えてくれ、無記入の入部届をくれた女の先輩が何か引っかかるのか。向かう足は止めないままに、うんうんと悩み出す葵。

 そこに。

 

「おや、可愛らしいお嬢さん。何かお悩みかな?」

 

「! ……え!? もしかして私ですか? 私に言ってるんですか……?」

 

「ああ、そうだよ。差し色を見る限り、新入生ちゃんかな?」

 

「そうです! そういうあなたは先輩ですよね!」

 

「そうだねぇ。」

 

 背後からの呼びかけに振り向いた先には、1人の男子生徒――襟元のピンの色からみて2年生――がいた。

 黄色いツンツン頭に、センター分けではっきり見える赤い瞳はややタレている。葵が見上げなければ視線の合わないほど――そもそも葵が少々小柄ではあるが――の高身長だ。がっしりはしていないものの大きく見えるのは、身長もあるが骨太な印象を受けるためか。どことなく軟派そうだが、そこそこ整った顔立ち含め、それなりにはモテそうである。

 

 ――まあ、葵にそんなところまでわかったわけではないのだが。

 背の高い先輩が、間違いなく自分に、『可愛らしいお嬢さん』と声をかけてきた……と理解した葵の一言がこちら。

 

「わー! 私、ナンパって初めてです!」

 

「俺もナンパとわかっていて、真っ正直に喜ばれたのは初めてかな?」

 

 何はともあれ(閑話休題)

 困っているように見えた(女の子)を心配して声をかけてきたらしい先輩――『軽井 遊翔(かるい ゆうと)』に、葵は元気に返す。

 

「大丈夫です! さっきも親切な先輩が声をかけてくれて……部室への行き方はばっちりなので!」

 

「へえ、もしかして部活見学かい? 珍しいね。」

 

「珍しいんですかね……? でも、はい! そうなんです!

 ずっとずっと入りたかったので、もう待ちきれなくて!!」

 

 明るい笑顔全開で元気いっぱいに話す葵に、遊翔は少し眩しげに目を細めた。

 うちの部で見られなくなって久しい、女の子の素敵な笑顔だと。嬉しいような寂しいような気持ちになったのだ。

 

「(『元気いっぱい』と言えるのは、いまじゃうちの『太陽』くらいだからな……。)」

 

 その太陽だって、少しも陰っていないとは言えない。原因のほとんどは手が届かないところに行ってしまっているし、近くにいる『月』は動けない。

 

「(俺は『知っているだけ』だしね……何もして来なかったが、そろそろ動くべきかな?)」

 

 葵の話に相槌を打ちながら考える。溌剌としたおしゃべりはすでに、『どれだけその部に入りたかったか』から、より()()な道を教えてくれたという『親切な先輩』の話へ移っている。

 うんうん、晴れた日の空のような綺麗なショートヘアで、上品で、眼鏡をかけた、生徒会の女の先輩ね…………ん?

 

「あ! そうでした早く部室に行かないと!

 それじゃあ先輩! 声をかけてくれてありがとうございました! 失礼しますね!」

 

「おや、思ったより速い……っとそうだ。

 ――ねえ、お嬢さん! そんなに君を魅力してやまない、光栄な部活はどこかな?」

 

 足早に立ち去る後ろ姿に呼びかける遊翔。ぱっと振り返った葵は、やはり嬉しくて仕方ないという思いを隠さない、満面の笑みで答えた。

 

「――サッカー部です!」

 

 それでは! と立ち去る背中を消えるまで見送ったあと、遊翔は軽く息を吐いた。

 この場所はいないわけではないが人通りが少なく、また少々迷いやすくもある。だから、入学したての新入生がわざわざこんな所にいるなんて迷子かと思い声をかけたのだ。……まあ、女性である限りそうでなくとも声をかけただろうが。

 この道を教えたらしい『親切な先輩』の意図が読めなかったが……あのお嬢さんがサッカー部への入部希望者なら話は別だった。

 ここは部室へ向かう際に()()()()()()()()()ルートに含まれている。そして件の先輩の特徴に当てはまるサッカー部関係者を、遊翔は知っていた。

 

「やれやれ、あの人は何を考えているのやら……。」

 

 どこからか、フフッという愉しそうな女性の声が聞こえてくるようだ。

 果たしてあの先輩が何を思って自分と彼女を引き合わせたのかはわからないけれど。自分が動くまでもなく、どうやら我らがサッカー部には変化の時が訪れるようだと遊翔は笑う。

 それと同時に、あのお嬢さんの名前を聞き忘れたことにも気づいた……が、まあまたすぐに会うのだから大丈夫だろう。何を隠そう――遊翔もサッカー部であるからして。

 

 上機嫌に踵を返して歩き出したが、ふと思い立って立ち止まる。

 そういえば、あの子の進んだ先はサッカー部の部室とは反対だな、と。

 

「……さて、あの子はいったいどこに導かれているのかな。」

 

 裏表のない元気で素直なあの子に、いい先輩の皮を被ったドS嬢がたじろぐ姿は容易に想像できるが…………反対に、新たな餌食にされていないことを祈ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃の主人公たち。

 

「……中々着かねぇな、サッカー部。」

「……流石に遠すぎませんか?」

「そうなのか? 俺は判らねぇけどさ……なんとなくここ、グランドから遠のいてる気がするんだよなぁ。」

「…………待ってください。(2回目※前回おまけ参照)

 大地、貴方まさか……知らないで進んでいるんですか?」

「ん? いやいや、オゾンがわかってるなら大丈夫だろ?」

「……。」

「……え、まさか。」

「…………わかりませんけど何か?」

「いやいやいや……じゃあお前、どこに向かって全力疾走してたんだよ。

 ……待て、マズいことに思い至ったんだが。」

「(……そういえ、ば…………俺も、わからない、な。…………連絡、とっていれば……よかったの、か?)」

「……あの時の僕は、ただこの人を追いかけていただけですし…………大地が知ってるものとばかり……。

 …………まさか鳥羽くんまでわからないとか、言いませんよねえ……?」

「フルフル(…………ん……いや。……次に会うのは、水雲中学(ここ)だと……約束、したから、な。)」※考え事中で聞こえてない

「、そぉだよな! 流石に目的地がわからんのに全力で走り出したり――」

「(…………しまった、な。……さっき……職員室、で。)……聞けば、よかった、な。」

「――2人揃って大馬鹿かよっ!! いや俺たち全員馬鹿だろ!?」

「っああもう! なんで僕は話の途中で動き出してしまったんだ……!」

「(……どうすれ、ば……いい……だろう、か。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――んあ? ……いまなーんか、声が聞こえなかったか? ……馬鹿、とかなんとか!」

「え、えっと……誰かが噂でもしてるん、ですかね?」

「あー、俺がサッカー馬鹿ってか! なるほどな! …………んなわけねーわ! コンニャロ……そりゃその通りだけどさ!」

「す、すみませんっ……(別にぼく『あなたの』とか『あなたが』なんて言ってないんだけどなぁ……しかも認めちゃうのかぁ、先輩。)」

 

 

「――よっし! さっきの声の方、覗いてみようぜ『ジュン』!」

「え!? は、はやく部室に行かなくていいんですか!? 『斗真(とうま)』先輩っ!」

 

 




※長いです。



 前回出せるかもって言ったので出しました。……2人はおまけでですが。申し訳ないです!

 今回登場したのは『ヒマワリ』ちゃんと『天地を駆けるナンパ野郎』くんです!
 ヒマワリちゃんは明るくて元気前向きな子。大地くん共々1年組を明るくしてほしい……。でもそのまっすぐさでほかのメンバーを引っ張り回すこともありそう……物語やサッカー部が停滞しそうになった時、動き出すきっかけになってくれそうです。初期唯一の1年女子、しばらくヒロインポジはこの子かな……フラグが立つかは未定です!
 前略ナンパ野郎くんは、キャプテン(彼は『部長』ですが)の幼馴染みポジは勿論イナイレ自体にも珍しい(と思う)、その名の通り軟派なキャラクターをしています。彼の口説き文句はキャラ的に面白い部分なのですが、実際書こうと凄く頭と気を使いますね。あんまり大仰にしたり比喩使うのはなんか違いますし、かといって省き過ぎ直接過ぎも駄目だし、ただの女たらしでもアカン…………違うんだ彼はもっと紳士的に女神たちを口説くんだっ!(床ダン) いつかちゃんと女神って口説かせたい。(願望)面白さを求めてあえてひっかき回したりするタイプだと思うので……養殖の騒動の発端(トラブルメーカー)その○になりますね! あとは……固めな幼馴染みたちをいい感じにほぐしてあげてほしいです。いっぱい口説かせたい。(2回目)

 因みに、最後に出てきた先輩後輩は予定が変わらなければ次回登場します。(ネタバレ)
 『太陽』とか『月』とかはそのうち……。ドS嬢は(少なくとも本文には)まだ先です。3年生は中々登場しませんので……。(ネタバラシ)



 初期プロットだと、前回までで初期1年組(−1)で合流して部室わっかんないぞどうする!? ってなってからか、大地くんがしっかり場所把握してたから部室へGO! の途中で残りの1年+αで先輩初登場……ってなってました。お馬鹿の1人にしてごめんね大地くん……(一応、場所を確認する前に爆走する2人を見てあっ知ってんだなって思った的な理由付けはいましました)。←
 それからヒマワリちゃんを職員室組とは別ルートに分け、その理由にちらっと先輩の話題が出て……今度こそ主人公たちと合流する予定でしたが。あまりにキャラが出ないので誰か出せないかなと思って、選ばれたのが前略ナンパ野郎くんでした。というかここで出さないと彼にナンパさせるタイミングが遠のく気がしたので急遽抜擢です。
 ひたすらヒマワリちゃんのお話を聞いてくれた前略ナンパ後略くん。そのまま一緒に行くかと思いきやとある先輩のせい()で分かれることに……。ごめんね先輩、勝手に眼鏡(伊達)かけさせて……。←
 と、まあ……こんな感じで。なんとなく作っていたプロットは時と場合により無意味と化する運命なのです……。そしてやっぱり進まない! もう、ひと場面一話だと思うべきですかね……。

 ヒマワリちゃんナンパくんもですが、最後に出てきた2人、文中で匂わされた3人含めて、キャラが違うんだが……という点とかあればご指摘くださいませ。
 ナンパくんの女性向けの話し方(口説き文句)とか、ビビリくんの親しい先輩に対する接し方とか、企んでる感じのドS嬢(伊達眼鏡のすがた)とか……諸々。





 さてさて。今回のお話は、前のとどっちを先にするか悩んで、以前より書き始めてはいたためこんなにはやく(※1週間)投稿できました……あと『なんとなくプロット』に追加はあれど書いてる部分には変更がなかったので……。
 はやく書けたので前書きをいままでと違う使い方してみました。

 あと。なんとこの小説の二次?小説書いてくださった方がいて……! めちゃくちゃ嬉しくって捗りました。改めて、ありがとうございました!
 皆さんにも読んでほしいくらいのクオリティ…………あ゛あ゛ぁあっ!! リストラしてなければ! もう少し説明増やしていれば!! …………ちょっと設定違うけどもうこれが正史でよくね? と定期的に思い浮かぶ過去編でした。仲良し3年生が可愛すぎた……。
 いずれ葉っぱも過去編を書きますが……書いてくださったお方が、公開についてはお任せくださるそうなので。もしこちらの小説も読みたいって方が多くいらっしゃるなら、公開をご依頼させていただこうかな、なんて……。
 だって! このカワイイを共有したい! でもひっそり大切にしたい気持ちもある! でもでも明るさがほしい! でもでもでも設定一部違うし、こっちの書く予定の過去編のハードルがもっと上がる(既に自分で上げてしまっている)のはこわい! ひえぇ……。

 ということで。アンケートなる機能を使うてみるなり。
 よろしければご参加ください。


 ……えっ? タイトル?
 鳥+風+炎=風に煽られた炎で炙られた鳥、ですね。
 もしくは、鳥+雲?+炎=鳥の燻製でも可。
 迷子なのは葵ちゃんではなく彼らの方ですね! それだけです。


***
 現在募集中。

『緊急募集:花』※3/25 23:59〆
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=232637&uid=125597

『ライバル校・十依路中イレブン』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=223074&uid=125597

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まんざいクインテット



――――とある時間の1-教室ダイジェスト――――




「(やっと、会える…………サッカー、できる……!)」ソワソワソワソワ


「(う、うわぁ……目が!! 怖いっ!!
 ふ、不良だ……!?)」





「自己紹介をしましょう!」


「…………鳥羽 仂弥、だ。」


「…………先生、鳥羽くんの自己紹介もう一声聞きたいな!」


「……? ほか、に……………………サッカーが、好きだ。……です。」


「「「(えぇ……。)」」」


「「「(クールでカッコいい……!!)」」」


「……(文字通り『一声』だった……!)」


――――ダイジェスト終了――――


↓↓↓本編開始↓↓↓



 

 

「――2人揃って大馬鹿かよっ!! いや俺たち全員馬鹿だろ!?」

 

 

 

「っああもう! なんで僕は話の途中で動き出してしまったんだ……!」

 

 

 

「(……どうすれ、ば……いい……だろう、か。)」

 

 

 

 前回までのあらすじ――――迷子になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とにかく、人を探しましょう。僕たちはいま、サッカー部どころか現在地すらはっきりとしないんですから……全くっ。」

 

「じゃあ、とりあえず戻るか? 少なくとも来た道ぐらいなら覚えてるからな。」

 

 たっぷりと混乱したあと、オゾンと大地はとりあえずの方針を固めた。仂弥は考えて口に出すまでの時差がありすぎるのでスルーである。大地は無意識、オゾンは意識的。なおスルーされた当人は、仲が良いな、と腐れ縁由来のテンポに感心するばかりだった。

 

 ふ、と。

 さっさと戻ろうと踵をかえした反対方向――つまるところ背後である――の物陰の向こうから近づく人影を仂弥が捕捉する。

 

「…………誰か、来る。」

 

「はい?」

 

 ようやく話したと思えば何言ってんですかこの人、と突然の発言に怪訝さを隠さないオゾン。言葉だけでなく行動もワンテンポツーテンポ遅れるらしい仂弥を振り返り、睨むように見上げる。ホント腹立たしいですねこの人(怒)

 廊下で見せた快足は何だったのかと思うマイペースっぷり(とはいえあの爆走も一種のマイペースだったのだろうが)にむしろ感心しつつ、それに親友(ダチ)が苛立つ気配を感じ取る大地。こちらも続いて振り返りどうどうとなだめようとするが、理由の片側しか理解していないためにかこうかはいまひとつのようだ。貴方もデカいんですよ縮めください(怒)

 

 出来の悪い漫才のようになりがちなところがある3人(出会って数時間のすがた)は、お互いに意識がいっていて、遂に姿を現した人影に気づかなかった!

 

「さーて、馬鹿馬鹿言ってたのはどこのどいつだ〜!? …………おっ??」

 

 混沌への乱入者は、はたして少年の姿をしていた。

 内面の明るさがにじみ出たような短めのオレンジ色の髪と、意志の強さを感じる黒ぐろとした瞳を携えた、少々小柄な少年。どこかで聞いたような紹介が混ざったが、彼の場合はその活発さ通りの印象を与えているし、頬の絆創膏が更に際立たせている。

 学年で色分けされた襟元のピンは第2学年を表しているし、そもそも入学初日にこんなにも着崩した1年とかそれなんて不良。少なくともそんなガラの悪さは感じられない、精々イタズラ小僧がいいところなビジュアルである(褒めてる)。

 

「(救世主! ……で、いいのか?)」

 

「(選り好みできる立場ではないですけど……何か変なのが来ましたね……。)」

 

 どことなく『何も考えてなさそう』に見える先輩(失礼)の登場に、素直に喜んでいいものか悩む腐れ縁組。

 

 そんな彼らには構わず、何かに気づいたような声を上げた救世主(仮)が指差したのは、無言で全身から驚き→喜びの感情を爆発させる仂弥だ。

 

「おっ……お前――仂弥か!?」

 

「――斗真っ…………久しぶ、りっ。」

 

「うっわぁマジで仂弥か!

 ひっさしぶりだなぁ……コンニャロ、元気してやがったか!」

 

 にこにこ(とした雰囲気)でコクコクと頷く仂弥の背中を、その旧知の友――『風見 斗真(かざみ とうま)』はバッシバシと叩いて再会の喜びを表した。全く遠慮のないそれは、同じく喜びを露わにする仂弥をして、珍しく心なしか弛みつつあった表情筋を引つらせることになるほどの勢いがあった。

 

 突然目の前で感動の再会(?)を見せられた大地は、なんだかよくわからないながら良かったなと胸を熱くした。

 同じく見せられたオゾンは目を点にしたのちに視線の温度を下げた。自らの目を酷使する彼は、イマドキの冷めた少年だった。

 

「……知ってる人なんですか? 鳥羽くん。(さっさと説明してください僕ははやくサッカー部に行きたいのに何でこんなことに時間を食われているんですか腹立つな。)」

 

「(おっと、隠された苛立ちを察知。)感動の再会(?)中に悪いが、紹介してくれるか?」

 

「! (……そう、か……2人は初対面だ、から……。)ん……紹介、する。

 ……斗真…………オゾンと、大地、だ。……2人と、も…………斗真、だ。」

 

「「…………」」

 

「それを紹介とは認めませんからね僕はっ!!!」

 

「ぶっはは……!! ホンっトに変わんないなぁ仂弥! その語彙不足っぷりも懐かしいな!!」

 

 懐かしがってないで矯正してやってください――オゾンは初対面の先輩を相手に怒鳴り上げたい気持ちでいっぱいになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っはあ〜〜っ……こんな笑ったの久しぶりだぜホントっ!」

 

「(何しに来たんだこの人……?)」

 

「いったい何しに来たんですか?」

 

「(口に出すのかオゾン!?

 ……いや、そうだった。こいつも仂弥(ド天然)とは違ったタイプの馬鹿(天然)だった…!)」

 

「うっわ、すっげえトゲトゲしいな緑のヤツ!」

 

「は?? それもしかして僕のこと言ってます??」

 

「……た、楽しそうですね、斗真先輩。(緑の人は、すごくイラッてしてるけど……。)」

 

 腹を抱えた大笑いが落ち着いた斗真へ、ようやくまともに話せるとオゾンが話しかけるものの。思うままに話す斗真の発言ひとつひとつに反応してしまうオゾンでは、いつまでも本題に入れないようで。

 

 そんな時に、見るからに気が弱そうな少年がいつの間にか合流していた。茶色いおかっぱ頭の彼は、頼りなさげに下がった眉と相まっていまにも泣きそうに見えるが、別にMN5(マジで・泣いちゃう・5秒前)なわけではない。これがデフォルト顔なのだ。知らない人のいるところに行かないといけないことに怯えてはいたけれど。

 

「あっれ『ジュン』、いま来たのか?」

 

「ぼくが先輩に追いつけるわけないじゃないですかぁ……!」

 

「まあ、ジュンの速さは『すばしっこい』って感じだしなー!」

 

 時折詰まりながらも斗真とぽんぽん会話を始めた彼――『内宮 ジュン(うちみや じゅん)』を見て、おっ……さてはこの2人も仲良いな…? といった感じで見つめだす仂弥。なお周囲(親しい友人(斗真)除く)からは睨んで見える。その目付きの悪さに合掌(合掌)。

 

 斗真と仂弥は、斗真が水雲中学へ入学するより前くらいからの付き合いである。年齢は違うが、年上に囲まれて過ごしていた仂弥にとって斗真は最も親しい友であり、そんな自分が会ったことのない(・・・・・・・・・・・)彼の『親しい相手』に興味津々なのだ。

 ちなみに2人の出会いは大体2年ちょい前、但しここ1年は交流を断っていたとする。更に仂弥の交友関係は斗真を含む『かつてのチームメイト』に限られ、そして斗真は『友達100人できるかな』が余裕なレベルの交友関係の広さを誇る。つまり、知らない『親しい相手』なんて結構沢山いたりする。

 仂弥は自覚のないボッチ(特に気にならないすがた)だった。

 

「……俺は、斗真の…………友人だ。」

 

「(えっなな何? と、突然…………マウント取られ、た……?? ぼくこの人に何かしたっけそして何かされちゃうのかな??)」

 

「だか、ら……(俺とも、仲良くして、ほしい。……どうするのが、いい、か…………うん。そう、だな)……サッカーし、よう。」

 

「ひぇっ(えっこれこてんぱんにしてやる宣言?? 果し状的な何かな!?)」

 

「(サッカー、は……つないでくれる、から。)」

 

「(サッカーでぼこされる!? ぼっこぼこにされちゃうの!?)」

 

 思っていたことを伝えられた(伝えられてない)満足と、サッカーへの絶大なる信頼、そんなサッカーで交友を深められる相手と出会えた喜び。その諸々が混ざり合って、何故かほぼ眼力に表れてしまうのが仂弥が仂弥たる所以と言えるだろう。

 興奮が8割以上目にキている仂弥のおかげで、既に複数回も勘違いによって心臓を酷使しているジュンである。

 

 このすれ違いを楽しめたのは、仂弥の内心へ理解のある斗真だけだったとさ。大丈夫だ、みんなそのうち慣れるよ。

 

「ひ、ひどい……笑ってないで助けてください斗真先輩! クラスメイトに目をつけられたんですけど……!」

 

「んあ? なにお前ら、クラス一緒なのか?」

 

「……??」

 

「……えー、気づいてなかったんだ。

 いや、た、確かにそわそわしすぎて周りが目に入ってない感じはしたけどさ…………と、隣の席の相手くらい、覚えててほしかったかなぁ。」

 

 入学式より前からずっとそわそわしっぱなしだった仂弥は全く気づいていなかったが、ジュンと仂弥は同じクラスな上に席は隣同士だ。つまり『仂弥が会ったことのない(・・・・・・・・・・・)斗真の親しい相手』は元々この場に存在しなかった。

 ちなみに第1話のおまけ(ジュン視点)参照。(メメタァ)

 

 

 

 

 

 さて。

 笑う斗真、申し訳なさげな仂弥、慌てるジュン――詳しく言えば、僅かに下がった程度の眉では細まったツリ目の威圧感が無くならなかった仂弥、をまた怒らせたと怯えるジュン、を見て状況が理解でき爆笑する斗真、である。そして先ほどからしばらく声を発していないのだが、いまこの場にいるのはこの3人だけではない。

 三者三様に震える様に、身長差にイラッ★としていた以上にイライラッ★としてきたオゾンがついに声を上げた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――To be continue……★

 

 




 というわけで、一旦カット!!

 お久しぶりです! いつもは会話させることに四苦八苦、このたび何故か地の文が一切思いつかなくなっていた葉っぱでございます。セリフも文章も書けないって、それは小説になるのか…? といったところ。いやー、実に早すぎるスランプでした。←
 先月末に急に書けるようになって、今回投稿した分まで大体かけてたけどまだシーンは終わらないんじゃが、ということで投稿を先延ばしにしていたのですが。次に覚醒するのがいつになるかわからないので、現状書けてる部分までだけ先に投稿すると決心しました。数カ月動いてないのでね……そろそろ、ね……。
 なので尻切れトンボですが、お許しくださいませ。




 さて! 今回登場したのは、前回匂わせ?ていた『追い風』くんと『ビビリ』くんです。
 『追い風』くんは現時点で数少ない先輩キャラ。仂弥の歳上の友人で、仂弥にとってもチームにとっても、その名のとおり『追い風』となって支えてくれる頼もしい存在です。ことあるごとにいじってる感じになっていますが、愛ゆえですのでお許しください…。ヒマワリちゃんと合わせてチームを明るくしてくれるオレンジコンビ。場面の明るさはしばらくこの2人にかかっている……かもしれない。
 『ビビリ』くんは初期での最後の1年生。仂弥とはクラスメイトでしたが、楽しみのあまり周囲が全く見えていなかった仂弥には気づかれていませんでした不憫。そしてクラスメイトかつ追い風くんの友人と知った仂弥に絡まれる不憫。ビビリくんは不憫枠だった…? 追い風くんのサッカーチームに参加していて、以前から知っている分気安い関係にしています。あんまりオドオドさせられなかったと反省中です。なんだか一番キャラがズレてないか不安…。


 物語開始時点で完全な初心者がいないことにいま気がつきました…………いやこれでチームがまとまればとりあえず試合はできるからいいんだよこれでうん。うん……特に問題ないですね!



 なんだか投稿する度にルートがちょっとずつ変わっていってるような気がします。やっぱり予定は未定なんやなって…。
 しばらく登場予定のなかったキャラを出せそうなので、頑張ってプロットを破壊&再生してきます!

 それでは。


***
 現在募集中。

『皆でキャラメイク☆』
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『ライバル校・十依路中イレブン』
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『ご当地選手』
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 ※後日増やす予定


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あつまれ! どこぞの中庭


前回ラスト:
 進まない会議()に耐えかねたオゾンがついに叫ぶぞ!



 

だぁかぁらぁああ!!!! 何しに来たんだって聞いてるんですけど!?」

 

「カリカリしてんなぁ! ミドリクン、カルシウム足りてないんじゃね??」

 

「〜〜〜〜!!!? っっ貴方ももうちょっと牛乳を飲む必要がありそうですけどね!!!!(ブーメラン)」

 

「あー、な! 俺もちょっとばかし身長が……って喧しいわっ!!(自爆)」

 

「せっ先輩! ち、ちょっとお、お、落ち着きませんか!?」

 

 

 完全に斗真のボケ倒しに振り回されまくっているオゾンに、大地は苦笑いが隠せなかった。どうやら連れであるジュンにも、斗真の暴走は止めづらいらしい

 けれど、普段は余り感情を露わにしようとしない(けど隠せてもいない)という親友だから、それを発散できるという意味ではいい薬になるかもしれない。

 

 なお、その親友は顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。歳が歳なら血管がぶち切れていたのではというくらいの怒りよう……というより、そろそろ本気でキレそうだ。

 このままだと更に脱線するのは明白なので、大地は強引にでも話を進めることを選んだ。いい加減にこの漫才を止めるべきだと思ったし、本来の目的が一向に果たせられない状況に辟易していたのもあった。

 

 

「あートウマ先輩、でしたっけ?」

 

「おうっ、合ってるぜ! ――っと、そういやぁ自己紹介もまだだっけか。

 んじゃ、改めて……俺は『風見(かざみ) 斗真(とうま)』! 仂弥とは中学上がるまで同じチームだったんだぜ?」

 

 

 髪色にも負けないくらい明るくニカッとした笑顔は、温かみを感じる。しかし先程までの飄々としてカラカラと笑っていた一面もあり、春よりも夏の風といった印象を受ける。

 最後に加えられた情報で、大地はようやく旧知の仲だと伺えた仂弥との関係がわかった。

 

 

「ああ、そういう繋がりなのか……あ、俺は『(たつみ) 大地(だいち)』。 サッカー部入部希望その1で!

 んでこっちがその2、俺の親友(ダチ)!」

 

「っだ・か・ら! 貴方は重いんだから持たれかかるんじゃないですよ……!」

 

「……その3。」

 

 

 自己紹介には自己紹介を。テンポ良くいくために『いつものやつ』を省いて簡単に挨拶し、流れを止めないようにオゾンへ水を向けた。

 斗真との会話で意図せず情緒を乱されまくっているため、肩を叩いて更に体重をかけることでこちらに意識を持ってこさせる作戦だ。

 作戦は上手くハマり、オゾンは「それに親友(ダチ)ではないです!」と言いながら腕をはずさせようと奮戦。本気でキレないほどほどのところでぱっと離れ、名乗りを促した。

 

 巽大地12歳、少し前まで小学生だったとは思えない名采配である。

 彼はただの肉体派ではなく、広い視野や冷静さを持つ頭脳派の一面も持っている。優れているのは体格ばかりではないのだ。

 

 

「ふんっ、貴方に言われなくても…!

 ……僕は『綿雲(わたぐも) 士存(おぞん)』です。」

 

「! 『綿雲』…?」

 

「? (いま何か……まあいいです。)よろしくどうぞ……風見、先輩。(……で、合ってましたよね…?)」

 

 

 実は怒り狂っていて話半分だったオゾン。さっき聞いたばかりのはずの先輩の名前にいささか自信がなく、少し言い淀んでしまう。

 そんなことはないように振る舞うが、間違えていないか気になってしょうがない。斗真の方をちらちらと見ていたが特に反応はなく、そのまますーっと滑らされた視線を受け止めた大地は、全てを理解した顔で頷いた。

 

 

「(大丈夫だオゾン、合ってるぞ。

 でも『よろしくどうぞ』はやめとけって言っただろ?)」

 

「(うるさいですよ大地。貴方僕の保護者か何かなんですか? )」

 

 

 

 

 

 幼馴染みコンビが目線で会話している間、反応のなかった斗真はといえば、何か考え込んでいる様子だった。それは大地が不安視していることに関係してはいたが、別に礼儀がどうとか言いたいわけでもなかった。

 

 

 斗真は思い出していた。

 数年前の出会い。憧れていた――今なお追いかけている先輩(ヒト)との、初対面の時の記憶。

 

 

 

 

 

 突然押しかけて、まくし立てて、土下座した。そんな相手からすればよくわからん奴だったであろう当時の斗真()

 

 

 

 「(泥で汚れた俺の手を、あの人は笑って取ってくれたっけ。)」

 

 

 

 それから、どうしたんだったか。たしか、あの人は――――

 

 

 

 

 

 ――――よりょしくどーじょにゃの、カザミン! ――――

 

 

 ――――めざしぇ、フットボールフロンティアにゃの〜!!――――

 

 

 

 

「 」

 

 ――――カミカミじゃねーか。

 

 

 

 出会ってからこちら、全く改善の見られなかったカチュゼツ……もとい滑舌。噛みまくりな回想の“あの人”が、久しぶりに斗真の笑いのツボに被弾した。

 斗真にとっては尊敬する相手であり、同時にライバル視していた相手だ。しかしそれはサッカーに関してであり、日常生活においての“あの人”は笑いの“ツボ”そのものだった。

 

 

 もっともそれも“あの人”が()()()()()までの話。当人の存在なく、ほかの部員にとってツボどころか地雷となったいまでは、楽しかった日常を思い出すことも少なくなっていた。

 

 

 

 

 

 そんな折の、()()

 

 

 

 

 

「 」

 

「(おい、先輩凄え震えてっけど。めっちゃバイブレーションしてんだけど! 謝った方がいいんじゃねえか?)」

 

「(えっ、これ怒ってるんです? ……あっスゴい眉間にシワ寄ってる…!?)」

 

 

 

 

 

 突然の思い出し笑いは気持ち悪がられるだろうと、斗真必死のマナーモードである。

 

 

 * * *

 

 

 さて、落ち着きを取り戻した斗真は改めて入部希望者たる後輩たちを観察する。

 

 

「(巽大地(茶髪の方)は筋肉質でタッパがある。1年だってのに随分がっしりしてんな……あーCF向き、か? 守備っつーよりは熱血ストライカーって感じだな。)」

 

 しかしながら現在進行形で苛立ちを顕にするもう一人をどうどうとなだめている様子や、つい楽しくなって止まらなかったコント(ボケ倒し)に待ったをかけたことからも、この中で一番の冷静さを感じさせる。

 

 

「(綿雲士存(緑の方)は反対にちっせーな。隣りがデカいってのもあるんだろーが……あんまりゴツくもない……………………あークソ、どーしても()()()がチラつくな。)」

 

 大地と並んでいると大きな差があるが、実際の身長的には斗真とそう変わらないだろう。(斗真の方が若干低いとかはない。ないったらない。)見てわかる程はないが男子中学生の平均くらいには筋肉もあるし、特に足腰辺りはしっかり鍛えられているように思う。

 

 しかしその特徴一つ一つから、あの人を連想してしまう。

 周囲と比べて小柄、でも存在感は大きく。柔らかなより緑に近い黄緑色が風に吹かれて泳ぎ。大きめサイズの眼鏡の奥で、時折開かれたグレーと同様に強い眼差しを感じられて。

 

 そうだ……あの人も、そうだった。

 

 

「……なあ、オゾン。」

 

「なんですか!? っていうかいきなり名前呼びなんです!?」

 

 どいつもこいつも…! とここ数時間の苛立ちの原因達の類友加減に若干キレつつ応答するオゾン。

 

 それを確認した斗真は、もやもやと考えるのは止めにした。

 その強い意思と判断力で、もうズバッと当人に聞くことにしたのだ。

 

 

 考え込むのが面倒になったとも言う。

 

 

「お前さ、『綿雲 えあり』を知ってるか?」

 

 

 斗真の出した名前に反応を示したのが、1人、2人――――

 

 

「っやっぱりあぁ? ……綿雲だって?

 

 

 ――――3人。

 

 

「胸くそ悪い名前……久々に聞いたよ。なぁ、風見ッ!」

 

 

「――――っお前、」

 

 

 

 

 

 いつから聞いていたのだろうか。いままで話していた斗真やオゾン達とは違う、新たな人影が近づいてきていた。

 

 

 

 果たしてその正体は――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………その3。」

 

 そして、自然とスルーされるひよっこのさえずりが届く時はいつなのか――――。

 

 





 お久しぶりでございます。葉っぱです。毎日暑いですね。(遺言)…………いやあ、ホントにお久しぶりですよ。前回9月ですってよオクサン……季節一周してる。(白目)

 ということで。大変お待たせしました!
 何日何ヶ月かずっとキャラのセリフ書き分けができないっっ!!(乱回転)とゴロゴロゴロゴロドッカーンしてましたね、はい。まあリアルでも色々ありましたが主にそんな感じです。キャラ募集のやり直しとかにならなくてホントよかった…………実はまだゴロゴロ継続中です。


 今回の初登場は……いませんね()。すみません、お話をここで切ったのでラストの方はお名前出ませんでした。出番が早まったのがこの方ですね。
 次回きちんと紹介を入れるので〜。まあわかりやすいのではと思いますが、誰が来たのかお楽しみにお待ちくださいな。

 うちのエアリーちゃんの名前がようやく出ましたが、この子については本文で触れるのみにしようと思ってます。



 そういえば、使ってみたいな〜と思っていた特殊フォームを取り入れてみました。文字が動く系。使い所違う気がするけども。
 悪役っぽくなってごめんねラストの方。それまでの和気藹々()とは違う空気がどっと入ってきた感じを出したかったんだ……強調したかったんだ…。
 ということで次回、シリアス調になります。したいな。この地の文のテンションでできるか…?

 ジュンくんあまりセリフなくてごめんね。()
 主人公の片割れが「その3」しかしゃべってないから赦して。()





 お知らせです。
 設置して放置していたアンケートを覚えていますでしょうか? 先日この件で「読まなきゃ夜しか眠れないっ!!(直訳)」とメッセージをいただきました。そういえば読みたい派多数でしたね…(言われて思い出した人)。
 こちら現在準備中です、とだけアナウンスさせていただきます。



***
 まだ整理がついてないため、前回と変更なしです。
 現在募集中のものは以下の3つ。

『皆でキャラメイク☆』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=235042&uid=125597

『ライバル校・十依路中イレブン』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=223074&uid=125597

『ご当地選手』
 →https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=221350&uid=125597


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