生きるは恥だが役に立つ (柿の種至上主義)
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プロローグ

遅くなりましたが、

祝!!Fate/Grand Order 4周年!


 我ながら、恥の多い人生を送ってきたものだと痛感している。

 

 やれ転生だ、ここからは俺の時代だ!などとはしゃいでいた誕生直後の自分を爆笑不可避の愉快なオブジェに変えてやりたくて仕方ない。最高にCOOLなものが出来上がることだろう。

 

 自分には力があって物事を思い通りにできると勘違いし、調子に乗って多くのバカをやった。

 

 訪れる悲劇を覆すことも回避することもできず、より大きな悲劇を生んだことさえあった。

 

 

 無力だった

 

 幾つもの過ちを繰り返してきた

 

 

転生してから数年くらいで出会った英雄王に、目が合った瞬間に捧腹絶倒されて落ち着いたと思ったら鼻で笑われる謎コンボくらって祭祀長シドゥリと一緒になって唖然としたが、彼の王はこうなることを見透かしていたのかもしれない。

どこかの教会で懺悔しようにも、この世界には碌な神父がいない。愉悦されるかいつの間にか毒飲まされて廃人コースな気がしてならない。蝉様とイチャコラしてどうぞ。

 

本当にどうしようもない。ああ、改めて振り返って考えてみると死にたくなってきた。来世がまた望めるのならば、次は石ころあたりになりたいと感じるくらい生きているのが申し訳ない。

 

 今歩いている廊下の壁に突然穴が開いて外に投げ出されないだろうか。たしかここは標高六千メートル級の雪山に位置しているから、対策なしで外に出れば楽に死ねるだろう。はたまた未来に向けて冷凍保存されるかのどちらかだ。後者の場合は死ねたと定義していいものかも微妙なところではある。

 

閑話休題

 

たまにくるナーバスな思考はこの際棚の上にでもあげておき、これでもかというほど失敗を積み重ねた私は、今度こそは奮起し、生き方を変えてみたのだ。今生は、問題を直接介入して解決するのではなく失敗談を話し、人生の後輩たちが先達と同じ問題が起こさないないように努めようと。それから悩みの相談に乗り、時に教えて時に教えられる、自分なりに教師の真似事を始めたのが、一体どれ程前だったか・・・まあ些細なことだろう。

 方向性が正しかったのか、それまでに比べてえらく長生きが出来ている。そして何時だったかに誘われて以来、私の話に金を出してくれる者たちがいる学園都市で働く日々。

 

 不満というか残念というべき点は、私に変な二つ名がいくつもできたことと、私個人の話より魔術の話を聞きたい者が多くなり、当初の目的は全体から見ればほんのわずかの熱心で物好きな生徒達との語らいでしか成せていないことのみ。

 

 二つ名なんてね、いい年して中二病やら高二病患ってる時計塔の老害ども(バカども)で充分なの

 

 さて、ここからが私が今いる場所に繋がってくるのだが、ある時先に話した生徒の一人から助力を請われた。

資金援助から私の古馴染の説得、さらには特別顧問になってくれときた。十中八九、父親に唆されたのが発端だろうが彼女は打算抜きで本心から願っているようだし何より大切な生徒のお願いとあっては断る理由もなく事業に参加、その末にこの場にいるというわけである。

 

 ぶっちゃけ、可愛い大事な教え子のお願いに教師という人種は弱いのだ。

 

 

 

 肩入れ?身内贔屓?さあ、知らない単語ですね。

 

 

 事業参加後もまあ色々とあったが、これ以上暗い話もさすがに気が滅入る。今後の余生を如何に有効に役立てるかについての話を・・・(以下延々と自虐やら何やらが多いので省略)

 

♦ ♦ ♦ ♦ ♦

 

「────────フォウ……? キュウ……キュウ?」

 

 

 

 カルデアの廊下を歩く、一人の青年が立ち止まる。

 ほぼ無表情で周囲の者を委縮させるであろうその容貌は、美形ぞろいの魔術会では平凡。と本人は感じているが充分に容姿端麗と言える青年である。

 金髪金眼で髪を後ろで一つに纏めている中、数本が前に垂れ下がっている。

 

 

そんな見た目の自己評価がズレている彼の視線は、自身が曲がった通路角の少し先の床に向かっていた。

 

「フォウ! フーフォウ!フォウ!」

「どうしたんだ、プライミッツ」

 

正確には、その床の上で倒れる橙色の髪の少女とその顔を舐める白い生物に視線が向いており、

 

「・・・・ふむ、なるほど」『おk、把握』

 

 納得がいったとばかりに手を叩いた。副音声なんて聞こえない(何もおかしくはない)。表情はほとんど変わっておらず、ほんのわずかに眉間に刻まれた皺が深くなっているのみに見えてしまうのは本人も若干気にしている表情筋の絶滅加減故だろう。

 

 

ちなみに、そっちの名前で呼ぶなと言わんばかりの鳴き声をあげる存在はガン無視である。

 

 

 ヤムチャした後のように倒れる彼女が着ているカルデアの制服やカルデアにおける猫のような兎の様な、リスの様な何とも言い難い珍妙な生き物であるフォウが警戒せずどこか懐いている様子から、侵入者や敵対組織の構成員の可能性を排除。

経験則から、カルデア入館時に受けるシュミレートで霊子ダイブになれていなかったためのダイブ酔いが原因だと彼は判断した。

 彼は何故かそういった者との遭遇率がカルデア内で格段に高いのだ。

 

 いかにカルデアに集められた魔術師が精鋭であろうと、霊子ダイブは彼らにとっても未経験であり初回にダイブ酔いがない者の方が少数派であるのだが・・

 

 謎の遭遇率の高さに頭痛を覚えるも思考を切り替えて少女を医務室に運ぼうと考えたが、

 

「この体では運ぶのに苦労しそうだな・・・」

 

 そう呟いてすぐ、彼の体が変化を始めた。

 

「ファッ!?」

 

 突然の魔術行使に毛玉が驚きの声をあげるが気にせずに続行される。

 

 全身に紫電が走らせながら大柄で筋肉質な大人の体へと変わり、青年の顔も髪色と同じ顎鬚を生やした厳格そうな壮年の顔つきに変わっていく。

十数年も急激に年を取ったかの変化に合わせて、カルデアの制服も変化し、ネクタイをつけたフォーマルな服装へ。

 

「ふむ、やはり錬金術は使い勝手がいいな」

 

 体の調子を確かめるように手の開閉を繰り返しながらこともなげに魔術行使を終えた。

 

 

 彼が行ったのは魔術界でも使用者の多い魔術系統である、錬金術。

 

 多くが物質の転換、流転であり魔術界ではメジャーで特に珍しいわけでもないが、彼が詠唱や予備動作なしに行使した錬金術は他人から見れば正気を疑うレベルであったということを無駄に長生きしている本人のみが未だに理解していない。

 

 理解、分解、再構築の三工程を経て、自分の体を完全に(・・・)完璧に(・・・)作り変えたのだ。人体は精密な機械の塊と同等かそれ以上と称されることもありそれは事実である。魔術界には人工的に作り出されたいわゆるホムンクルスも存在し、御三家の一つはその最高峰でもあるが、その最高峰でさえ本来の人間と同様の生体機能、寿命等を備えた個体の作成には多くの手間暇や資金等が掛かるのだ。故に、僅かな綻びやミスが死に直結していた大魔術をノーモーションかつほんの僅かな時間で行い、その理由が少女を医務室に運ぶための安定性の確保だけなのだから常軌を逸している。

 本人は何の気なしに行っているが他の錬金術の学がある者が見れば発狂ものであろう。

 

 実際、今回と大差ない理由で行っている錬成を教え子たちに半泣きされながら何度も窘められているのだが、一向に控える気配はない。

 

 心配をかけてしまったのは申し訳ない。

 だが便利なものを使った点については後悔も反省もしていない。

とは過去幾度にも渡って述べられた本人の弁である。

 

 

「せ、先生?」

 

「ごきげんよう、カルデア特別顧問様、職権乱用でセクハラですか?そんな貴方様にはぜひガンドの的になっていただきたいのですがよろしくて?」

 

 

やや動揺を孕んだものと何やら盛大な勘違いをしている聞き慣れた二人の声に振り返ってみれば、狂化(偽)が発動して長く美しい白髪をゆらゆらと溢れる魔力とドス黒いオーラ的なナニカで動かす現カルデア所長とその所長の様子におびえつつも所長の言葉を真に受けてか動揺した様子から一転冷ややかな視線をよこすカルデア先鋭のAチーム所属員の姿があった。

 

「やあマシュ、それにアニムスフィア所長。もうすぐ行われるブリーフィング会場に向かう途中であってるな?すまないが私は少し遅れるが、ご覧のとおりなので今回は目を瞑ってもらいたい。」

「すみません先生、私急に殺傷魔術の練習がしたくなりまして、ええ是非とも協力していただきたく存じます。」

 

先生と呼ばれる男の言葉を聞いてさらに魔力を滾らせるのは、現カルデア所長オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア。現在進行形で狂化が深くなっているのは、別に自らの師としていやそれ以上に慕っている相手に公共の場での呼び方をされたことを不満に思っているわけではないのだと本人は誰にでもなく主張している。

 

公私で呼ばれ方が異なるのは両者が重要な立場にいるが故であり、今この場で所長呼びされたのは彼女が先に特別顧問と公共の場での呼び方をしたからであるのに彼女は気づいてはいなかった。

 

 

「落ち着きなさい。彼女まで巻き込んでしまう。」

 

「せせせ先生、そそそそそそその女性の方はッ!?まままままさか、こ、ここ恋人かそれに準ずる方なのですかッ!!??」

 

 

自身よりも抱き上げた少女の身を先に案じる行動などから再び動揺し、言語能力が盛大にバグった様子で質問している薄紫色の髪を持ち眼鏡を掛けた女性の名はマシュ・キリエライト。

 

自身が先生と呼び慕う彼にそのような相手がいることは本来なら祝福すべきだろう。マシュの頭のまだ冷静な部分はそう囁いているし異存はない。しかし、その事実に対する謎の動揺や胸の痛みのせいで彼女はどうすれば良いのか分からなくなっていた。

 

 

「残念ながらそういった相手ではないよ。それにこんな男が相手なのはこの子に失礼だ」

 

「い、いえいえそんなことはありません!せ、先生はじゅ、十分過ぎるほどにす素敵で魅力的な男性だと私は思います!!そそそうですよね!?オルガマリーさん!!」

 

「なぜそこで私に話をふるの!?そりゃ確かに先生は頼りになるし紳士的で理想の男性に一番近いと言っても過言ではない・・・って何言わせてるんですか!?」

 

「・・なぜそこで私に怒鳴るんだい?」『ついに恐れていた反抗期がッ!?』

 

まったくこの朴念仁は・・と言わんばかりに足元で白い毛玉が呆れるように鳴いた。

 

「ああ、よく見れば一般枠で招集したマスター候補の子じゃない。一般枠なんて彼女以外いないしよく顔は覚えているわ」

「流石だな若きロード。いや、この場合はカルデア所長と言った方が良いかな?」

「おだてても何も出ませんわよ。所長として候補者や職員を把握しておくなんてことは常識です。それに最古参に言われても嫌味にしか聞こえませんよ?」

 

そう口では言いつつも、嬉しさ故か雪のように白い肌がほんのりと赤くなっておりそのやり取りに、いささか置いてけぼりをくらった一人が胸にモヤモヤした感情をほんの少しばかり抱いていた。

 

「フォウッ!!」

「・・・頬を、舐められたような――――」

 

いつの間にか男の肩に登っていた、マシュをはじめとする少数かつ特定の人物にフォウと呼ばれる白い毛玉とも言えそうなソレが彼の腕の中の少女の頬を舐め、それをきっかけに少女が呻き声と共に目を覚ました。

 

「想定していたよりも早いお目覚めだな」

「――――――――」

 

眠たげに細めていた眼は、目の前にある異性の顔のよって一瞬で見開き硬直する。

その様子を不思議に思ったのか男は少女の眼を興味深そうに更に覗き込む。

傍から見れば犯罪臭漂う通報不可避な状況であり、その様子に周りの二人が不満げな視線を男に向けている。

 

「ひゃんっ!?」

 

実際は数秒、少女本人からすれば永遠にも等しい長さに感じられた時間を経て、少女は見た目相応の声を出しながら浜辺に打ち上げられた魚の如く跳ねた。

しかし男が少女を落とすことなく、少女は異性の腕の中からの脱出することは叶わなかった。

 

「もう立てるかい?まだ力が入らないようなら大人しくしておいた方がいい」

「だだ大丈夫です、はい」

 

その様子を傍から見ていた二人は不満やら嫉妬やら複数の感情が入り混じった視線を向ける。

美形のまま年月を経たような姿の今の彼は、人生経験だとか人間的な厚みだとかそういう類がすべてプラスの方向に働いており、ぶっちゃけると包容力とかが半端ない。

そんな人物のすぐ近く、しかも腕の中になんていたら誰だって落ち着いてはいられないだろう。

これまでの実体験やら何やらでその点は理解できなくもない二人であったが、理解はできても感情は別であった。

 

「大丈夫でない人ほどそう言うものだ。取りあえずは医務室まで送ろう」

 

周囲の視線ガン無視で強行するのであった。

 

ただ単純に、視線に欠片も気づいてないだけなどとはその場にいる彼女たちは考えもしない。

 

呆れるような鳴き声がカルデアの通路に小さく響いた。

 

 

 

♦♦♦

 

 不思議な人、一言で表現するならばこれが自身を医務室へ運んでくれている男性への藤丸立花の率直な印象であった。

有無を言わさずカルデアに連れてこられた、一般参加の48人目のマスターである彼女は魔術や神秘の存在を欠片も知らず、ごく普通の家庭で普通の暮らしをしてきた表の世界の人間である。

 

目的の為ならどんな外法だろうが禁忌に触れることになろうが、平然と何の躊躇いもなく他者を使い捨て、珍しい、貴重だからなどとと言う理由で人間をホルマリン漬けにする、場合によっては目的さえ遂げられるのなら全人類が死に絶えても構わない探求者が跋扈する所謂裏の世界に突き落とされた彼女はただの食い物にされかねないのが純粋な事実であった。

 

そんな彼女に対して、裏の世界の実情を懇切丁寧に教えその心構えを説いてくれる彼は出会ってからまだ一時間も経っていない。見ず知らずの赤の他人になぜそこまで親切に教えてくれるのか、親が愛する我が子に向けるような優しさに溢れた目を向けてくれるのか、彼女は不思議だった。

魔術界隈の重鎮だと思われる彼が、その世界の後ろ暗い側面を包み隠すことなく教えてくれるということは、彼がその世界において希少な価値観を持っていることに他ならない。

 

「ここカルデアにいる全職員に私は授業をしていてね、今日から家に帰るまでの僅かな期間とはいえ君はカルデアに所属する扱いになる。ということは君は新しい私の生徒ということだ。先生として生徒を気にかけるのはおかしくはないだろう?」

 

もし君が良ければ先生と呼んでくれ、そう笑いかけてくる彼が生徒に慕われているのは何だかんだ理由をつけて仕事に影響がないギリギリまで後ろをついてくる彼女たちとの短いやりとりでも十分に感じられた。禁断の恋慕的な匂いがしなくもないが一定の理解はある。何しろこの美形だ、周囲の女性はみんなほっとかないだろう。ライバル同士でもありそうだが、それ以上に二人の仲が良さそうなのは道中の短いやり取りでもすぐに感じられた。二人ともぜひ仲良くなりたい。だが、恋愛に関しては自分はそんな安っぽい女なつもりはない。たしかにこんな人が先生だったら学校はもっと楽しいだろうなとか思わなくわないが、それ以上はない。無いったら無い。遠目から楽しむとしよう。

 

「そういえば、まだちゃんとした自己紹介をしていなかったね。新しい生徒が来てくれて柄にもなく浮かれていたようだ。すまなかったね。」

 

そんな思考が若干ズレだした立花に彼はようやく自己紹介をする。

 

 

「人類保障機関カルデア特別顧問、ヴァンガード・ホーエンハイムだ」

 

 

近未来観測レンズ・シバ  人理焼却  特異点  人類悪 

 

聖杯探索 それは未来を取り戻す物語

 

これは人類史最大の英雄譚

 

そしてそこに存在したかもしれないナニカの物語

 

 

彼は己が生き恥をさらしていると考える。

 

だがそれでもなお、誰かの役に立ちたいと願って今を生きている。

 

『生きるは恥だが(誰かの)役に立つ』と

 

 




たぶん続く、、、といいなあ・・・


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