花に絢爛 (MUL)
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一ノ巻 終わる命

K(急に)I(アイデアが)K(来たので)

見切り発車にもほどがありますが衝動を抑えきれず……!
設定やらなんやらいろいろと荒いですがよければご覧ください。


歓声が聞こえる。

長く続く闇から遂に救われたという歓喜と、そしてそれを為してくれた存在への感謝と謝罪。

聞こえる声は老若男女関係なく、やむ気配もなく続いている。

それに包まれている彼らの顔のなんと晴れやかなことか。

『鬼』が魔の者の手から『人』を救い、『人』は感謝と共に『鬼』を自分たちなりのやり方で助ける。

かつて夢物語と吐き捨て、踏みにじったはずの光景が眼下には広がっていた。

 

(ハッ…。それに比べて…ザマァないな……。)

 

村の入り口から少し離れた丘の上、そんな光の届かぬ影の中。

男が一人、誰にも顧みられることも無くその生涯を密かに終えようとしていた。

 

『ヒトツミ』にあちこち喰い散らかされた体は、これ以上はとても動きそうにはない。

とっくに死んでいてもおかしくないほどに損傷した体で今なお惨めに息を保っているのは『魔化魍』へとその身を落とした罰ということなのか。

 

村人たちの声に手を振りながら、かつて志を共にしたはずの鬼たちがそれぞれの帰るべき場所へと帰っていく。

それが眩しくて、直視できなくて、男はそっと目を伏せた。

 

(なんだよ…あるんじゃねぇか…こんなに近くに…。)

 

誰かを助けるために命を賭けて戦ったって、普通の人々から見れば魔化魍も鬼も同じバケモノだ。

感謝なんてその場限りで、用が済んだらお払い箱。

表面ではこちらに媚び諂いながら、怯えと蔑みを宿した目でこちらを見る大人をこれまで何度でも見てきた。

それでもいつかはと期待して、裏切られて。期待して、裏切られて―――やがて期待することも諦めた末に残ったのは、人間の大人に対する憎しみだけだった。

それなのに諦めた途端に目の前に転がり込んでくるなんてのは、運命っていうものは随分と意地が悪い。

 

とうとう目も霞んできた。

化物と化したこの体もようやく限界らしい。

まぁ尤も、お迎えなんて期待にできそうにないが―――

 

(俺みたいなやつにはお似合いの最後だな…まともな末路なんて、裏切りモンの化物にゃあ贅沢すぎるってもんだ…。地獄の閻魔様だって、許しちゃくれねぇだろう……。)

 

ほとんど力の入らない手を、懐へと伸ばす。

取り出したのは鬼がその身を変身させるために使用する道具。変身音叉『音角』だ。

音角に拵えられた鬼の顔を霞んだ目で見つめる。

今はもう名前も顔も上手く思い出せない師匠にコレをもらったのは、いつのことだったろうか。

侍同士が起こすくだらない戦で親を失い、孤児として死にかけていた男を拾い育て、厳しい修行の末に鬼へと至らせてくれた。

学も何もなかったみすぼらしいガキを、根気強く守り、教え、鍛え上げてくれた。

師匠から一人前と認められた時の感情が、今はもう上手く思い出せない。

嬉しかったはずだった。

数多の化物たちから人を護るという使命感に燃えていたはずだった。

しかしそれも、いつしか憎悪へと変わってしまっていた。

 

――こんな地獄を歩ませるぐらいなら、何故あの時見殺しにしてくれなかったのか――

 

いくら見つめていたところで、ただの道具であるこれは何も語りかけてはくれない。

厳めしい鬼の顔が責めるような色を帯びているように感じるのは、ただ単にかつての自分自身がバケモノになり果てた自分を責めているだけのことだろう。

当たり前のことなのに、何を期待しているのだろうか。

死に際に自覚する己の女々しさに、男は一人、自嘲の笑みを浮かべていた。

 

音角が手から零れ、地面との間で乾いた音を立てた。

体に残ったわずかな血と共に、残り滓の様な命が流れ出ていく。

歓声が遠くに聞こえる。

その中には、見知った少年少女の声もあった。

ヒトツミに命を狙われていたはずだが、どうやら無事だったようだ。

恐らく『響鬼』が守ったのだろう。

やっぱり自分なんかとはモノが違う。

 

大切な人を救いたいという少年の純粋な願いを、騙して、利用して、裏切って、あまつさえ殺そうとした。

そんな自分にそんなことを考えるのは烏滸がましいとは思うが、それでも無事でよかったと、そう思う。

これから彼らは協力して村を立て直し、新しい未来を創っていく。

鬼達との交流も続いていくだろう。

まだしばらく時間はかかるだろうが、鬼と人との関係もこれから大きく変わっていくはずだ。

いつか夢見ていた理想の世界が今、この場所から始まっていく。

それを目にすることができない事だけが心残りだった。

もしかしたらそれが、何もかもを捨てて裏切った男への一番の罰と言えるのかもしれない。

 

(今更…だな…。そんなこと、俺が願えた義理じゃねぇ…。…でも、もし……もし、俺が選択を間違えていなかったなら…諦めていなかったなら…そしたら、もしかしたら俺も……あの………光の………な、か………に…………)

 

絶望の末に魔に堕ちた男の体は塵となり、吹きすさぶ風の中へと消えていく。

風がやんだその時にはもう、男の居た痕跡など、一欠片すらも残ってはいなかった。

 

 

 

 

「もう!姉さん!ちゃんと聞いてよ!!!」

「わ、わかってるわよ…。ちょっと落ち着いて、ね?そんなに怒ったらせっかくの可愛い顔が台無しよ?姉さん、怒ってる顔より笑顔の方が好きだな~って…。」

「ごまかさないで!今日という今日はしっかり言わせてもらいますからね!!」

 

草木も眠る丑三つ時。

街はずれの夜道では、二人の少女が言い争うような声が響いていた。

いや、どちらかというと言い争うというよりは、一方がもう一方に対して一方的に捲し立てているといった様子だ。

並んで歩く二人の少女は、非常に姿が似通っている。

その二人が姉妹だということは見た目からでも、会話の内容からでも察することができた。

二人とも男性用の黒い詰襟の洋装に身を包んでいるが、これはこの大正の世の女性としては非常に珍しい。さらには腰に刀まで帯びているのだから猶更だ。

別に彼女たちも伊達や酔狂でこんな格好をしているわけではない。

これは、彼女たちが所属しているとある組織の隊服だ。

組織の名は『鬼殺隊』。

闇に紛れて人を喰らう鬼共を、人知れず狩ることを使命とする組織だ。

こんな時間に女性二人で外を出歩くことになっているのも、その組織から与えられた任務が原因だ。

 

時間も時間ということで話す当人たちは少し抑えめにしているものの、他に聞こえる音が虫のさざめき程度とあればやはりそれでもそれなりに目立つ。

幸いにして一つを除いてこのあたりには家屋はないから、特に迷惑を被る人がいないのが救いといえば救いかもしれない。

現在進行形で声を荒げている片方の少女だって、人がいないからと言ってこんな時間に外で言い争うのが非常識だという認識はもちろんある。

しかし、それでも看過できないことがあるからこそこうして声を荒げているのだ。

むしろ、こういっては何だが街はずれまで我慢した自分を逆にほめてやりたいぐらいだった。

 

「もういいじゃない。こんなの、ちょっとしたかすり傷よ。明日には治ってるわ。」

「そういう問題じゃないの!今回はかすり傷だけだったかもしれないけど、運がよかっただけよ!あんなこと、いつまでも続けてたらいつか……。」

 

激しい剣幕で言い募る妹を宥める少女の額には、うっすらと糸のような切り傷が刻まれていた。

これはついさっき、任務で相対した鬼につけられた傷だ。

別に、その鬼が格段に強かったというわけではない。

確かに、そのあたりの雑魚鬼よりは多少強くはあったものの、それでも鬼殺隊でも最上位の実力を誇るこの少女にとっては全く問題の無い程度の相手だった。

にもかかわらず、わずかでも手傷を負ってしまったその理由は―――

 

「もうやめてよ姉さん。鬼への説得なんて、無駄なのよ。所詮あいつらは人から外れた化物。自分が助かるためだったら、平気で嘘をつく。そして安全になったらまた、本能のままに人を襲う。」

「……。」

 

俯き、絞り出すように言う妹の姿を、姉である少女は悲しそうな目で見つめる。

妹から感じられるのは、鬼に対する激しい怒りと憎悪だ。

本来は優しいはずのこの子が、そういった感情にとらわれるのはもちろん理解できる。なにせこの子と全く同じものを自分も一緒に見てきたのだから。

 

「……確かにそうかもしれない。でもね、私はそれでもあきらめたくないの。皆が皆、望んで鬼になったわけではない。私が諦めなければいつか、鬼とも分かり合える時が来るかもしれない。殺す以外の方法が見つかるかもしれない。そんな可能性を、私は信じていたいのよ。」

「っ!でも!それで姉さんの身にもしものことがあったら!!」

「―――しっ。しのぶ、少し静かに。あれ、なんだと思う?」

 

姉の指差す方向、道の先に何かが見える。

一瞬、またはぐらかそうとしているのかと思って尚も言い募ろうとしたしのぶも、それを見てすぐに押し黙った。

さっきまで明るかった月は丁度今雲に隠れ、この距離からではそれがなんであるか判別できない。

しかし、大きさから言ってあれはもしかすると―――

警戒をしながらも、それに向かってじりじりと近づいていく。

視線の先にいるそれは、先ほどからピクリともしない。

勘違いならそれでもいい。

しかし、二人の勘はなんとなくそうじゃないと告げている。

そして、いよいよはっきりとわかる位置まで近づいた時、雲が晴れ、月明かりがそれを照らし出した。

姿を現したのは、血まみれの衣服に身を包んだまま横たわる男の姿。

 

「姉さん!」

「ええ!わかってるわ!息は…あるわね。もしもし、聞こえますか?…ダメ、意識はない。しのぶ、すぐに蝶屋敷へ走って皆を起こしてきて。この人は私が運ぶ。」

「っ!わかった。すぐに行ってくるわ!」

 

素性も知れぬ人物を鬼殺隊の重要施設である蝶屋敷へと連れ込むことに一瞬だけ抵抗を覚えたしのぶだったが、その考えをすぐに放り出して走り出した。

ここからなら蝶屋敷は目と鼻の先。ここから町へ運ぶよりも早いし何よりこの時間では誰も起きてはいないだろう。

色々と問題はあるかもしれないがそれは後で考えれば済むこと。

今はそれよりも人命の方が大事だ。

 

「傷は…思ったよりは深くないわね…。でも、なんだろう…獣に襲われたの?このあたりでそんな話は聞いたことはないけれど…。そうじゃなければ鬼?それこそまさかね。屋敷近くのこんなところにいるはずがないわ。」

 

ボロボロな衣服に反して、中の体自体には致命的と言えるような損傷はない男の状態に、一先ずはホッと息を吐く。

それでも予断は許さない状態であることは確かだと、慎重にその体を抱きかかえた。

見た目よりも遥かに重いその重量に、ほんの少し顔を顰める。

ぱっと見ではわからなかったが、よく見ると細いように見えてその実全身ががっちりと鍛え上げられているのがわかる。

医療施設も兼ねる蝶屋敷で一般の男性隊員の治療を行う際に、その体を見たことは何度もあるが、この人の体は今まで見たどれよりも鍛え上げられている。

袖のない着物に動物の毛皮でできた上着という、ここいらでは見かけない格好をしている。山の猟師というにも少し、違和感がある。

月明かりに照らされたその顔はもちろん、見覚えはない。

 

「この人…何者なんだろう……。」

 

人と鬼との共存を夢見る少女―――鬼殺隊『花柱』胡蝶カナエ。

人に絶望し魔に堕ちた鬼―――音撃戦士『歌舞鬼』カブキ。

 

後に深い絆で結ばれる二人の、これが最初の出会いだった。

 




気づいたら移動してましたパターンで理由とか特に考えてないです!!
短編なので書きたいように書いてみようと思いついたものを書きなぐった結果がコレ。
カブキさんのバックボーンもオリジナル設定とかで補完しています。
HEROSAGA設定を入れるかもしれないし入れないかもしれないというふわっと加減。
とりあえず原作開始前ぐらいから柱合会議で主人公たちに出会うまでぐらいで考えています。
不死川さんと出会ったらとりあえずヤバそう。


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