麦わらの男は旅をする (大明神覇王)
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東の海編
序旅


 この世界では海賊が溢れつつある程の規模で存在している。

 

 それは伝説の『海賊王』と呼ばれたゴールド・ロジャーが処刑される際に放った一言を信じ、世界中の人々が海へと繰り出したからである。『おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやるぜ。探してみろ、この世の全てをそこに置いてきた』

 

 ロマンというものは常に人を魅了するし、誘惑するが……。

 

 

 

「世界に名を残す程の男ってどうやったらなれるんだろう?」

 

 とある村に住む少年は、海賊という悪党でありながら、世界の人々の記憶、歴史に記される程の存在となったゴールド・ロジャー本人に対して関心をもった。

 

『あぁ? そりゃあもちろん自分の行動に責任を持てるようになることじゃな』

 

 祖父に聞くとそんな答えが返ってきた。確かに祖父は少年から見て人外の力を世のため、人のために使っている。いわゆる正義の味方として……。

 

 

『ん、世界に名を残す? そうだなぁ……如何なる障害が立ちはだかっても打ち壊す強さと自分を貫き通す意思。少なくともこの二つは無くちゃ駄目だと思う』

 

 村に立ち寄る海賊の頭に真剣に質問すると揶揄うでも無く、目線を合わせて真剣に応えてくれた。祖父もだが、人を従える者とは総じて度量が大きいのだと普段接していると理解が出来る。

 

 祖父と海賊の頭、少年にとっては高みに居ると感じられる二人をいずれ超えるためにはどうすれば良いか彼なりに模索し続け……。

 

「取りあえずは、世界を旅して考えるか」

 

 

 先ずは世界を学び、探求する事にした。結局は行動しなければ始まらないのだから……。

 

 

 

 

 

 

 とある島に設けられた幾つかの小屋、その側の海岸には船が固定されていた。この場所は女海賊『金棒のアルビダ』の休息地だ。

 

 その休息地より少し離れた海岸に樽が漂流し……。

 

「よっとぉっ!!」

 

 次の瞬間、砕け散って中から人間が飛び出し、着地する。その男は麦わら帽子を被っており、服装は求道者染みた物のため、アンバランスである。髪は短い黒髪で黒瞳、肉体の方は衣服を纏っていても筋骨隆々であり、極限まで引き締まっているのが分かる程の立派なものだ。

 

「やっぱ、樽の中は窮屈だなぁ。その前に小船で海を渡るのも難儀だったしよ」

 

 男は呟きながら笑い、歩き始める。

 

 

 

「あれは海賊船か……良し、ちょっと乗せてってもらうか。金は持ってるしな」

 

 男はアルビダの休息地に置かれてある海賊船や掲げられた旗を見ると世迷言を呟き、其処へと向かった……。

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、しっかり掃除するんだよ!!」

 

 そう、船の上で大声を上げ、複数の男たちに命令する女は長髪の上に海賊帽を被っており、肥満体でどうみても醜いとしか評せない顔だった。異名通りの金棒をもったこの女こそアルビダである。

 

 

「ノロノロするんじゃないよ。このグズっ!!」

 

「あうっ!!」

 

 そんな彼女が誰よりも遅れて掃除をしている少年を蹴り飛ばす。短いピンク髪で眼鏡をかけたその少年の名はコビー、海軍に入る夢を持っている彼は不運にもアルビダの船に乗り込んでしまい、航海士兼雑用係となってしまった。

 

 

 

 殺されないよう、必死で働きつつ自分の未来に絶望を感じていたのだが……。

 

『おーいっ!!』

 

「なんだい、さっきの喧しい声はっ!?」

 

 とんでもない爆音が船にも響き渡り、怒りながらアルビダに部下らが声の主を探す。

 

 

 

『おーい、海賊ー。ちょっと交渉して欲しい事があるんだ』

 

 アルビダ達が自分の方へと視線を向けているのを確認しつつ、小さな金塊を懐から出し、上へ掲げ振る。

 

「何なんだい、あの馬鹿は? あんたたち、獲物を襲いに行くよ」

 

 当然、海賊であるアルビダは男を嘲笑しつつ、彼の金塊を奪い取るため船を降り、接近した。

 

「(た、大変だー)」

 

 コビーは惨劇待ったなしの事態に恐怖しつつ、アルビダ達に続く。それしか出来ないからだ。

 

 

 

「よう、俺の名はルフィ。そこの姉さんが船長って事で良いんだよな?」

 

「そうだよ。あたしこそ、この海で一番美しい女海賊のアルビダ様さ」

 

「なら美しい女海賊のアルビダ。これでどっかの町の近くまで乗せてってくれないか?」

 

 

 ルフィはアルビダのほうへと金塊を放った。

 

 

 

「あんた、海賊ってのが何なのかを理解してるのかい?」

 

「ああ。だから代金は渡しただろ」

 

「ふふ。もっと寄越してもらわなくちゃ駄目さ。有り金全部をねぇっ!!」

 

 首を傾げつつ、答えるルフィに対しアルビダはそう叫び、部下はそれを合図に武器を取り出し、構える。コビーだけは震えているだけであったが……。

 

 

 

 

「参ったな、俺は平和主義なんだよ」

 

 そう、余裕を持った笑みを浮かべながら頭を掻き……。

 

「けど、向かって来るというのならそれ相応の対応をするぞ。覚悟は良いな?」

 

 次の瞬間、真剣な態度と共にルフィの雰囲気が激変する。

 

 

 

 

『うぐっ!?』

 

「(こ……殺されるっ!!)」

 

 ルフィを襲おうとしたアルビダ、そしてコビーを除くアルビダの部下達はルフィより放たれたのが戦意でありながら、それはまだ予兆の段階…それでも自分たちが一方的に倒されるしかないのだと理解させられてしまった。

 

 

 よって……。

 

「こ、降参だよ。あたしたちはあんたに従う」

 

「そうか。ならさっきの話、頼んだ」

 

 

 アルビダ達が屈服してルフィに服従の意思を示すと彼は笑顔を浮かべ、アルビダへと手を差し伸ばした。

 

 

 

「え、許してくれるのかい?」

 

「許すも何も……俺、何もされてないし、むしろこっちが頼み事聞いてもらおうとしてるしな」

 

 戸惑うアルビダ、それに彼の部下たちに対しルフィは言ってのける。

 

 

 

「ふ、ふふ、完敗だよ。任せなルフィ。あんたを町近くまで安全に運んであげるからね」

 

 笑顔を浮かべる彼の手を取り、立ち上がりながらアルビダは言った。

 

「おう、ありがとなアルビダ」

 

「(す、凄い……海賊を従わせるなんて)」

 

 コビーはルフィの器の大きさに尊敬の念や憧れを抱いたのであった……。

 

 

 




 スタンピード見て触発されちゃいました


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一旅

 

 ルフィは現在、女海賊のアルビダによって海軍第153支部がある町シェルズタウンへと向かっていた。

 

 アルビダ達と話していたルフィが、とある事情から彼女の仲間になってしまっていたコビーの『海軍に入りたい』という話を聞いて目的地をそこにしたのだ。

 

「良し、此処で止めてくれ。これ以上近づいたら海軍にみんなが襲われちまうからな」

 

「そうだね。それじゃあ小船を用意するよ」

 

 町が遠目に見えるところでルフィは指示を出し、アルビダは頷きながら部下たちに準備させようとしたが……。

 

 

 

「いや、良いよ。自分の足で行くから」

 

『は?』

 

 ルフィが何気なく言った言葉に当然、アルビダ達は戸惑いの声を発する。

 

「コビー、俺の背中に乗れ。しっかり掴まれよ。じゃねえと落ちるぞ」

 

「い……いやいやいやいや!! いきなり言われても困りますよ。冗談にしても……」

 

 コビーはルフィの言葉に反論したが、ルフィは彼の言葉が終わるまでの間にしょうがねえなとばかりにため息を吐いてアルビダの船から疾走しつつ跳躍。

 

 海へと着地と同時に疾走を開始して短い円を描くかのように移動し、跳躍する事でアルビダの船へと戻った。

 

 

 

 

「これで冗談じゃ無くなったろ?」

 

『……う、うぉぉぉぉぉぉぉ。流石、ルフィの兄貴だぁぁっ!!』

 

 信じられない光景にアルビダの部下たちは大興奮の叫びを上げた。

 

 因みに会話する中で、部下達は、ルフィのフランクな態度と海賊だからと見下さず、一人の人間として接する人柄に惚れ込み、彼を慕うようになっていた。

 

「まさか、海を自分の足で渡るなんてねぇ。本当にとんでもない男だ」

 

「……常識ってなんなんだろう」

 

 アルビダも微笑み、コビーは渇いた笑いをしつつ頭を抱えた。

 

 こうして、ルフィはコビーを背負ってシェルズタウンまで行くことが決定し、アルビダ達と別れる際……。

 

「ルフィ。アタシはもっと美しくなって、あんたの傍にいるのに相応しい女になるよ。そうしたら受け入れてくれるかい?」

 

「ああ。アルビダがそれで良いなら、俺は良いぞ」

 

 アルビダの言葉にそう返答して笑うと海を渡って町へと向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェルズタウンに着いたルフィはコビーと共に飲食店へと向かった。

 

 腹を満たすためというのもあるが、人が集まりやすいという場所柄、町独自のルールなど情報を得やすいからだ。

 

 情報は大事であり、町独自のルールを守るのは大事だ。そうでないと余所者であっても町の掟を乱せば罰せられたり、町の者にも迷惑がかかる場合がある。

 

『郷に入っては郷に従え』という事だ。

 

「おれはルフィで、こっちは海軍に入ろうとしているコビーって言うんだけどさ……何かこの町で過ごす上で重要な事とかあったりするか? 話しにくい事ならお金も渡すからさ」

 

 食事をした後、コビーを伴ってルフィは町民へと話しかけつつ持っていた金塊を換金して得たこの世界の通貨、ベリーを見せた。

 

 

 

「そういう事なら……絶対に話を他には漏らさないでくれよ」

 

 一人の男がルフィ達を更に招き寄せつつ、小声で話す。どうやら、言いにくい事があるようだ。そうして、話を聞いていると……。

 

 この町にある海軍基地の長はモーガン大佐であるが、彼は町民に『貢ぎ』と称した納金を課しており、額に満足いかなければ罰する時さえある。

 

 更に問題なのは、モーガンの息子たるヘルメッポが親の七光りを良い事に町の中で横暴を働く事だ。

 

 下手に文句を言うだけでも連れ歩く海兵に暴行を受けたり、牢に入れられる事すらあるので、皆、なるべく関わらない様に生きるしかないのだという。

 

 そして最近『海賊狩りのゾロ』という異名で有名な賞金稼ぎのロロノア・ゾロが、ヘルメッポが野放しにしていた飼い狼を斬った事で海軍基地にて捕らわれているとの事だった……。

 

「そんな……海軍なのに酷い事を」

 

「……話してくれてありがとな、おっちゃん」

 

 コビーは顔を曇らせ、ルフィは話してくれた男に金を渡して店を出た。

 

「コビー。悪いけど海軍基地に行くのは待っていてくれるか? ちょっと、騒がしい事になるからよ」

 

「え?」

 

 ルフィは店を出るとコビーにそう言い残した直後、姿を一瞬で消す。無論、疾走を開始したからだ。

 

「お嬢ちゃん、こんなところに来てどうした?」

 

「あ……えっとね、この基地に捕まっているお兄ちゃんにおにぎりを渡しに行くの」

 

 ルフィが海軍基地に辿り着くと包みを持った少女がいたので話しかけてみた。

 

 

 

「捕まってるって事はお嬢ちゃんがおにぎりを食べさせたい男はロロノア・ゾロか?」

 

「うん。助けてくれたから……」

 

 どうも、ロロノア・ゾロがヘルメッポの飼っていた狼を斬ったのはこの少女を守るためだったらしい。

 

「そうか、なら一緒に入ろう。ゾロのいる場所は分かるか?」

 

「う、うん」

 

 ルフィは少女の案内によって移動し、次に彼女を横抱きに抱えると海軍基地の壁を軽々と跳躍する事で飛び越え、基地の敷地内に着地する。目の前には確かに十字の形をした木にロープで縛り付けられた男がいた。

 

 男、ロロノア・ゾロは黒い手ぬぐいを頭に巻いており、腹部には腹巻をしていた。

 

 

 

「な……」

 

 壁を飛び越えて現れたルフィと少女の姿にゾロは驚愕した。

 

「よぉ、俺はルフィ。このお嬢ちゃんがお前におにぎりを食べさせたいんだってよ。食ってやれ」

 

 名乗り、一方的に用件を言うと……。

 

 

 

「な、縄が……お前、どうやった?」

 

「手刀で斬っただけだ」

 

 ゾロを縛り付けている縄が切り裂かれており、彼の問いにルフィは刀の形にした手を見せる。

 

「おい、そこで何をやってる!!」

 

 少女がゾロに歩み寄ろうとしたところで遠くの方からおかっぱ頭に豪華なスーツを着た男が現れる。両隣には護衛のためか海兵を二人連れていた。

 

 この男こそモーガンの息子、ヘルメッポだ。

 

 

 

「少し、待ってろ。このお嬢ちゃんがゾロに手作りのおにぎりを食べさせたいそうだ」

 

「俺の許可なく、そんな事……」

 

「おい、少女だろうと一人の女性が男に対して一生懸命に料理を作って食べさせようとしてるんだ。敬意を持って、その優しさを汲んでやれよ。お前も男だろ?」

 

「っ……う、あ……」

 

 

 

 ルフィから発せられた威圧感に気圧され、ヘルメッポは動けず言葉すら紡ぐことが出来なくなった。

 

「ほら、食べさせてやりな」

 

「うん。ありがとうお兄ちゃん」

 

 笑みを浮かべて勧めるルフィに頭を下げると少女は包みを取り出し、おにぎりをゾロに見せる。

 

 

 

「はい、これ」

 

「……あぁ」

 

 少しの沈黙の後、ゾロは少女が作った二つのおにぎりを口にした。

 

「美味かった、ごちそうさん……ありがとよ」

 

「うん、どういたしまして」

 

「それじゃ、門を開けてやるから家に帰りなお嬢ちゃん」

 

 ゾロの言葉に笑みを浮かべた少女は、ルフィによって連れられて海軍基地から出た後、彼に手を振って歩き去って行った。見送りつつ、ルフィは門を閉めてゾロやヘルメッポが居る場所へと戻った。

 

 

 

「待たせたな、お前はモーガン大佐の息子なんだろう? お前の親父に言いたい事があるから連れて行け」

 

「は……はい」

 

 ルフィからの威圧感に頷くヘルメッポ。彼はもはや心身共にルフィに屈服していた、恐怖で震えてすらいるのだ。

 

「お前はどうする?」

 

「ついていく」

 

 ルフィの問いにゾロはそう答え、一同は基地の内部へと入り、モーガンの部屋目指して歩く。

 

 

 

 

「なぁ、どうしておれを助けたんだ?」

 

「さっきも言ったように、お嬢ちゃんの願いを叶えてやりたかったのとお前を一目見て、助けたいと思った。それだけだ」

 

「そうか」

 

 ヘルメッポ達に先導させ、後に続いているルフィにゾロが近寄り、問答を交わす。

 

 そして……。

 

 

 

「おい、なんでガキを連れ込んだんだ?」

 

 座っていても巨漢と分かる身長でがっしりとした体格、口から下顎を覆う鉄のマスク、右手が斧と融合しているという異様な男がルフィに視線を向けつつ、言った。

 

 周囲にはルフィにゾロを連れているという異様な状況から、彼らを尾行してきた海兵たちもいて様子を見守っていた。

 

「お前に言いたい事があるから連れてきてもらったんだ。なぁ、モーガン大佐。お前は海軍なんだよな?」

 

「何を急に変な事を……俺は海軍の大佐だぞ。だから、偉いんだ」

 

 

「じゃあ、なんでだ?」

 

「ぁん?」

 

「何でこの町には平穏ってもんがねぇんだよっ!!」

 

 次の瞬間、ルフィが激昂の叫びを上げた。

 

「海軍で偉い存在ってんなら、この町の人たちに平和と平穏を与えてやるもんじゃねえのか。逆に恐怖を与えて、支配して……これじゃ、海賊と変わりねぇだろっ!!」

 

「て、てめぇっ!!」

 

 モーガンはルフィの言葉に激昂して立ち上がる。

 

「おれの爺ちゃんも海軍に勤めて世界の平和と人々のために働いている。だから、おれはそんな爺ちゃんと海軍を尊敬しているんだ。それに爺ちゃんだって海軍であることは誇りだって言ってた」

 

 

『……』

 

 モーガンとは逆に本心で語るルフィの言葉に周囲の海兵たちは聞き入っていた。自分たちの存在意義を噛み締めているかのように……。

 

 

 

「だから、海軍を、爺ちゃんを馬鹿にするような事をしたお前をおれは許さない。決闘を申し込んでやるっ!!」

 

「何、決闘だと?」

 

「あぁ。まさか逃げたりしないよな、腰抜けじゃないなら」

 

「どこまでも馬鹿に……良いだろう、偉いおれを馬鹿にした事をたっぷりと後悔させてやるっ!!」

 

 ルフィの挑発に激昂したモーガンは挑戦を受け入れ、部屋から庭へと移動する。

 

 

「先手は譲ってやるよ。俺より年上だからな」

 

「がああああっ!!」

 

 少し対峙し、人差し指で手招きするとモーガンは完全に怒ってルフィへと猛進する。

 

 

「らああっ!!」

 

 そして、右手の斧をルフィに振り下ろす。

 

「やっぱり、大したことないか」

 

「なっ!?」

 

 ルフィは身じろぎ一つせず、腕まで組んでいた。そんな彼に当たったモーガンの斧は即座に砕け散る。冗談のような光景に当然、モーガンは驚愕していた。

 

 

 

「うぐっ!!」

 

 そして、モーガンは意識を失って倒れた。

 

「力は唯、振りかざせば良いもんじゃないんだよ」

 

 右の人差し指を突き出した状態で告げるルフィ。

 

 彼は人差し指で突いた衝撃を長年の鍛錬によって培った技術により、接触場所からモーガンの体内、そのまま、脳へと伝播させる事で揺らし、気絶させたのである。

 

 

 

「おれは海軍の基地で暴力沙汰を起こした。罰は受けるよ」

 

 モーガンを倒したルフィは海兵の一人に近づき、両手を出した。

 

「皆、此処で暴力沙汰なんてあったか?」

 

「いえ、両者合意の上の決闘だけです」

 

「そうだな」

 

 海兵の言葉に別の海兵が答えていく。皆、ルフィの行為を正当化しようとしていた。

 

 

 

「……」

 

 ヘルメッポはモーガンをルフィが倒した事で恐怖しており、更に傍に居る海兵、それにゾロから威圧されているので余計に動けず、文句も言えなかった。

 

「ありがとう、おっちゃん」

 

「礼を言うのはこちらの方だ。キミのお蔭でモーガンの支配は終わったんだから」

 

 ルフィが頭を下げると海兵たちもルフィに敬礼を捧げた。

 

 そんな様子を見ているゾロも又……。

 

 

 

「(あいつの仲間になろう)」

 

 計り知れない強さに加えて自分と周りの者たちを引き付ける何かを持つ事から『高み』にいる人間だと認識し、仲間になる事を決めた。

 

 夢を叶える上でそれが重要だと思ったからだ……。

 



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二旅

 

 コビーが海軍に入隊出来るよう、海軍基地のあるシェルズタウンへと向かったルフィはその町を実質支配し横暴を働いていたモーガン大佐を倒した。

 

 それによってモーガンは本部の者が送られてくるまで投獄される事となり、ルフィはモーガンを倒した事で基地の者、町の人達から英雄として持て囃されていた。

 

 

 

「ルフィ、おれの名前はロロノア・ゾロだ」

 

 そんな中で『海賊狩り』として有名な賞金稼ぎのゾロは海軍に捕われた時に没収された刀を三本とも、返してもらいルフィに感謝を告げて名前を名乗った。

 

 彼の夢は今は亡き、幼馴染の少女であるくいなと誓った『世界一の剣豪』になる事である。

 

 その夢のためにある男を探して海を出た結果、自分の村に帰れず、海賊船を襲って生活費を稼いでいると賞金稼ぎになってしまっていた。

 

「こっちも改めて言う。おれはモンキー・D・ルフィだ」

 

 そう名乗り合うと二人は握手を交わす。

 

 

「なぁ、おれをお前の仲間にしてくれないか?」

 

「良いぞ。旅は一人より大人数でする方が楽しいしな」

 

 ゾロの問いに二つ返事で応えた。

 

「ありがとよ。それでもう一つだけ頼みがあるんだ」

 

 次にゾロは刀に軽く手で触れながら、ルフィに頼みごとをした。それは手合わせをしてほしいというものであった。

 

 ルフィの計り知れない強さを感じ取ることで、それを指標にして更に強さを目指す事が出来るようになるからだ。

 

 結果としてルフィは自分の想像より遥かに強かった。勝負にすらならなかったがそれでも彼は自分に付き合ってくれた為、手合わせは鍛錬となってその中で色々と言葉で交わすよりも多くのコミュニケーションも取った。

 

 だから……。

 

 

 

 

「ルフィ、おれはお前の剣になる」

 

「なら、おれはお前が納まるに相応しい鞘になれるよう頑張るとするよ」

 

 夜、飲食店で酒を飲み交わして二人は誓い合ったのだった……。

 

 

 

 シェルズタウンに来た翌日、その町の港でルフィはゾロと共に旅立とうとしていた。

 

 船は、海軍が礼として提供してくれた小隊用の中型船である。潜入用、偵察用のものなので大砲は無かったが海軍本部などに連絡できる雷伝虫は備え付けられていた。

 

 更に少しの食料と水、詳しい海図(ルフィは一人だとこれが無しでも気にはしないのだが、仲間が出来た今では必要なので用意してもらった)までも提供してもらっている。

 

 

 

「ルフィさん。色々とお世話になりました」

 

「困ったときはお互い様だ。この借りはいつか、出世払いで返してくれれば良いからな」

 

 港にて二人の見送りに町の人々や海兵達が集結している中、コビーはルフィと言葉を交わす。

 

「はい。絶対に返します。それとルフィさんの旅が良い物になる様、祈っています」

 

「ありがとよ。それじゃあ、行ってくる」

 

『行ってらっしゃい!!』、『ありがとう!!』等と町の人からは手を振りながらの歓声を、海軍の者とコビーからは敬礼を貰いつつルフィとゾロは旅に出たのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルガン諸島にあるオレンジの町の酒場の屋上で大人数が賑わいの気配を見せていた。

 

「野郎ども、いよいよおれたちは『偉大なる航路(グランドライン)』に入る。準備は良いな?」

 

 

『おおっ!!』

 

 赤く大きい鼻が特徴的な男、船長のバギーからの言葉に船員たちは勢い良く返事をした。彼らが次にやろうとしているのは大掛かりな事になるので今は英気を養おうとしているのである。

 

 もっとも、海賊であるためこの町を襲って金品も奪うのだが……。

 

「(うん、良い具合に隙だらけね。これなら……)」

 

 バギー海賊団の様子を陰から観察しているオレンジ色の髪、容姿もスタイルも良い美少女は満足して行動に出ようとしていた。

 

 彼女は海賊から宝を盗む海賊専門の泥棒なのである。

 

 

 

「お前たちがバギー海賊団だな?」

 

「あぁ、誰だテメェ?」

 

 少女が行動に出ようとした時、バギーらの元へルフィとゾロが姿を現した。町に海賊船があった事でこの町が危機に陥っていると判断し、町を出歩きつつ、避難所を探していると海賊を警戒しながらもシュシュという犬にエサをやりに来た町長であるブードルと出会い、情報提供をしてもらった。

 

 

 

 そして、すぐさまバギー海賊団の元へと向かったのである。

 

「おれはルフィ。世界を知るために旅をしている者だ。国や町、色んなものをじっくりと見て回りながらな……だから、お前たちにこの町を荒らされるのは困るんだ」

 

『ぐっ!!』

 

 バギー海賊団はルフィより発せられた気配に動けなくなった。下手に動けば確実に死ぬ事を理解させられてしまったからである。それにルフィの隣にいるゾロも又、刀に手をかけつつ、威圧している。

 

「(う、嘘だろ。こ、このガキ……覇王色の覇気をもってやがるのか)」

 

 そして、ルフィより発せられる気配の正体をバギーは直感的に理解した。

 

 覇気とは俗に意思の力で言い表され、発現できれば常人を超える能力を発揮することが出来るもの。

 

 そして、覇王色の覇気とは覇気の種類の中でも数百万人に一人しか使えないものであり、力量差がある相手を気絶させたり、従えさせたりすることの出来る王の力と言い換えても遜色のないものである。

 

「大人しく退いてくれるなら何もしないが、退かないなら力尽くでやらせてもらう」

 

「(ぐっ、やべぇ、こいつ、なんて目をしてやがるんだ)」

 

 警告するルフィより発せられる覇気はさらに強まり、威圧されたバギーは内心でまだルフィが本気で無い事、戦えば確実に自分が蹂躙される事を理解させられ、しかも命乞いなどの余地も無い事を理解した。

 

 

 

 なので……。

 

「へ、へへ……仕方ねぇな」

 

 バギーは薄笑いながら、武器を取り出し……。

 

「あばよぉぉぉぉっ!!」

 

 次の瞬間、脱兎の如く全力での逃亡を実行したのだった……。

 

 

 

 

 

『えええええええっ!?』

 

 呆気にとられ、バギーの部下たちは悲鳴にも似た声を上げる。

 

「追って良いぞ」

 

『あ、ありがとうございます。待って下さいよぉぉぉ、バギー船長!!』

 

 親指でジェスチャーしつつ、ルフィが告げると頭を下げながらバギーの部下たちはバギーを追ったのであった……。

 

 

 

 

「何やったか知らないけど、バギーたちを追い払うなんて凄いじゃないあんた」

 

 一部始終を見ていたナミはルフィ達に近寄る事で姿を現す。

 

「お褒めの言葉、どうも。おれはルフィだ」

 

「おれはゾロだ」

 

「ゾロって……『海賊狩り』の……私はナミ、海賊からお宝を盗む泥棒よ」

 

 ナミは二人に自己紹介をした。

 

「声をかけてきたって事は俺たちの力を利用したいのか?」

 

「話が早いわね、その通りよ。勿論、その代わりにルフィ達にも大儲けさせてあげるわ」

 

「良いぞ。旅をするのに金は必要だからな……個人的にもナミみたいな美女と旅できるってのは悪くない」

 

「あら、ありがとう。それじゃあ取引成立ね」

 

「ああ」

 

 ルフィとナミは握手を交わした事で組んで行動する事が決定したのであった……。

 



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三旅

 見聞を広めるためと祖父や育った村に何度か訪れていた海賊の頭、世界に名を残す程の高みにいる男たちを超える事を目標として自己追求の旅をしているルフィ。

 

 彼は現在、『海賊狩り』として有名なゾロと海賊専門の泥棒だという少女、ナミと共に旅をしようとしていた。

 

「成程、それで泥棒をしているのか」

 

 ルフィはナミと話をし、彼女が泥棒をしているのはある村を買うのに一億ベリーを手にする必要があるからだという事を知った。

 

「そ。海賊相手なら宝を奪っても罪悪感は無いしね」

 

「だろうな。海賊の世界は全てが自己責任だ」

 

 海賊とはときに村を襲い、略奪する悪党。

 

そんな者たちの財産を盗んだ場合、盗まれた方が悪いという事になる。弱肉強食の道理がまかり通るのが海賊の常識と言っても良い。

 

「うふふ、バギーの奴。随分と財宝にこだわっているわね。これだけあれば一千万はくだらないわ。それにグランドラインの海図もある。ルフィ、世界を旅しているのならグランドラインも通るのよね?」

 

 ルフィがバギー海賊団を逃亡させた事で彼らが騒いでいた酒場近くの小屋に保管されていたバギーの宝と海図を手に入れる事が出来た。それに満足しながらナミは質問をする。

 

 

 

「あぁ、勿論だ」

 

「良し、なら大物の海賊を狙っても大丈夫そうね」

 

「頼りにしてくれて嬉しいよ。ゾロ、おれはなるべく戦いは避ける主義だが避けられない戦いのときはお前の力を貸してもらうからな」

 

 満足気に頷くナミに苦笑しつつ、ルフィはゾロに声をかけた。

 

「言う必要はねぇよ、ルフィ」

 

 ゾロはルフィにそう答えを返した。

 

 そして、ルフィとゾロはナミと共にバギーの宝を自分たちの船へと運び終わると……。

 

「ありがとう、お前たち。この町を救ってくれて」

 

『ありがとう!!』

 

 その後はバギー海賊団を追い払った事で町の人達から感謝と歓迎を受、一日滞在した。

 

 

 

 ルフィの主義としても立ち寄った場所の特徴などはしっかりと記憶、あるいは理解するために最低でも一日は滞在すると決めているのだ。

 

「じゃあ、予定の航路としてはこんな感じでどう?」

 

「うーん、島や町には多く立ち寄りたいとは思っているんだ」

 

「なら……」

 

 ルフィとナミは海図や地図を見つつ、旅の予定を立てた。行く当ても何も無ければ遭難するのは目に見えているし、行動の意欲も違ってはくる。

 

 まぁ、ルフィは仲間が出来たから計画を立てているだけで、一人旅だと行き当たりばったりで行動してしまうのだが……。

 

 ともかく、ナミが航海術に長けているのもあって予定はしっかりとした物が出来たのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレンジの町からルフィ達は出航し、道中で発見した無人島へと向かった。当然、ルフィの意向である。

 

「ん、人がいるぞ」

 

 無人島へと上陸したルフィは少し、瞑目するとそんな事を言う。

 

 

 

「はぁ? 此処は無人島なのよ。そんな訳無いじゃない……まぁ、遭難者は居るかもしれないわね」

 

「取りあえず、行ってみようぜ」

 

 三人が歩み出し、森に入ると……。

 

「コケコッコー」

 

「しゃー」

 

「ガルルル」

 

 ニワトリのようなとさかに尻尾を持つタヌキにウサギのような耳と尻尾を持つ蛇、ライオンの鬣を持つブタなど奇妙な動物が目に入った。

 

 

 

『それ以上、踏み込むな』

 

 そして、少し進むと声が響く。

 

「おれはルフィ。仲間と共に世界を旅している者だ。この無人島をしっかりと見たくて此処に来たんだが、先人がいるなら話は早い。ちょっと話さないか?」

 

「え、えええええっ!?」

 

 ルフィは自己紹介しながら姿を一瞬で消し、次の瞬間には銃を構えている者の後ろに現れて声をかけた。

 

 

「お、お前、なんで……さっきまであそこに」

 

 当然の事ながら一瞬で自分の背後に現れたルフィに対し、銃を向けつつ男は問いかける。銃を構えている男は髪は豊富でマリモのようになっており、眉毛は繋がって髭はぼさぼさの状態だった。何より、小柄な身体は何故か宝箱に入っている。

 

 

「単に移動しただけだ。かけっこや鬼ごっこは得意なんだよ……警戒するのは無理も無いが、話ぐらいしてくれないか? 後、その状態は趣味と事故、どっちだ」

 

 

「趣味なわけ、無いだろう!! ハマっちまったんだよぉぉぉっ!!」

 

「そうか。なら」

 

 次の瞬間、ルフィは男に接近して右の人差し指で宝箱を突く。その衝撃はルフィの技術によって宝箱だけに伝播すると共に破壊された。

 

 

 

「お、おお……うおおおっ!! やったー、解放されたぁぁぁっ。ありがとう、本当にありがとう」

 

 男は銃を懐に収めつつ、ルフィに近寄って彼の手をとった。

 

 

 

「喜んでくれたならなによりだ」

 

 そして、男と共にゾロとナミの二人と合流した上で話をした。

 

 男の名はガイモン。二十年前に海賊だった彼は大岩の上に宝箱を発見した。しかし、興奮のあまり、ミスって落ちてしまい下にあった開けっ放しの宝箱にハマってしまった。

 

 それ以来、二十年もの間、島に来る海賊を追い払いつつ、大岩の上にある宝箱をいつか手に入れる事を願って守り続けてきたのだという。

 

 又、島の珍獣とも長年交流しており、愛着もわいているので珍獣狙いの海賊も追い払っているとの事だ。

 

 

 

「それじゃあ、ガイモンのおっさん。宝を取りに行こうぜ」

 

「おう、重ね重ねありがとうルフィ」

 

 ルフィは話を聞くとガイモンに宝を与えるため、共に大岩へと移動。彼を背に上がらせると大岩の壁を階段を上るかのように足で上がった。

 

 

 

「……人間じゃないわね」

 

「やりやがる」

 

 付き添っていたナミは仰天し、ゾロは喜んでいた。

 

 

 

「さぁ、遠慮はするなよ」

 

「ああ」

 

 そして、大岩の上に並ぶ五個の宝箱にガイモンは近づき……。

 

 

 

 

「う……あ……」

 

「……」

 

 彼は涙を流し、ルフィはガイモンの様子を何も言わずに眺める。

 

 ガイモンが二十年も守り続けていた宝箱。その中身は空であった。しかし、これはおかしなことでは無いのだ。宝の地図が存在する財宝、地図を手に入れた時には宝は奪われた後だというのは……。

 

「う、うおおおおおおっ!!」

 

 つらい現実を前にガイモンは只々、慟哭を周囲へと響かせたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうよ、ルフィ。これで未練も何も無くなった。この島でのんびり過ごすよ」

 

 ガイモンは夢が潰えたとはいえ、心残りは無くなった。なのでルフィが旅について来ないかと尋ねると彼は断った。珍獣は守り続けたいとの事だ……。

 

「良いって事さ。こっちも思い出になる体験が出来た」

 

「そうね」

 

「おっさんの事は忘れねぇよ」

 

 こうしてルフィ達は島を発ち、ガイモンと珍獣たちはそれを見送ったのだった……。

 



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四旅

 

 ガイモンが珍獣と共に余生を過ごすと決めた無人島を出て、進んだルフィ一行は小さな村のある大陸に到着した。

 

「さて、どんな村か楽しみだ」

 

 船を止めて、陸へと上がったルフィは少し、瞑目すると……。

 

 

 

 

「ん……」

 

 眉根を寄せ、怪訝な声を洩らすと目を開けた。

 

「おーい、ちょっとこっちに来てくれないか?」

 

 次にルフィは目を開き、上からルフィ達を見下ろしている少年と彼より少し年下の子どもたちのほうを見て声をかける。

 

『うわあああ、見つかったぁぁぁぁ!!』

 

「おい、お前ら逃げるな!!」

 

 子どもたちは逃げ出し、少年だけが取り残されてしまう。

 

 

 

「……おれはこの村に君臨する大海賊団を率いるウソップだ。人々は俺を称え、さらに称え、“わが船長‘’キャプテン・ウソップと呼ぶ!!!」

 

 ルフィ達が近づいてきたのもあって、一般人より鼻の長いのが特徴的な少年のウソップは気まずげな様子を見せたのち、突如そんな自己紹介をした。

 

「この村を攻めようと考えているならやめておけ。このおれの八千万の部下共が黙っちゃいないからだ!!」

 

 次にそんな事を言ったが、どう聞いてもこのウソップの言葉は……。

 

「(嘘ね)」

 

「(嘘だな)」

 

 当然、ナミとゾロはウソップの言葉が嘘だと理解し……。

 

 

 

「おれはルフィ。世界を旅している者で海賊なんかじゃないから安心してほしい」

 

「普通に流されたぁぁぁぁっ!!」

 

 ルフィは特に気にせず、自己紹介したためにウソップは嘘を吐いた手前、いたたまれなくなってしまった。

 

 

「ところでウソップって言ったが、もしかしてヤソップさんの息子か?」

 

「父ちゃんの事を知ってるのか!?」

 

 ルフィはウソップの姿にとある人物の姿、その者が言っていた言葉から一つの質問をすることにし、見事それは当たっていた。

 

 ヤソップとはルフィが育った村を一時期拠点にしていた海賊団に属している男であった。

 

 その海賊団の誰よりも射撃の腕が優れているという長所を持っており、『ルフィ、おれにはお前と同じ年頃の息子がいるんだ。ウソップっていってな……』とルフィに何度も言った。

 

 そして、年幼いルフィをヤソップは二人目の息子であるかのように可愛がったりもしたのだ。

 

 更にヤソップの属する海賊団の船長は『赤髪のシャンクス』であり、ルフィが祖父と同じく尊敬し、超えたいと思っている一人だ。

 

『ルフィ、お前は誰もが辿り着けない高みへと至ってみせろ。この帽子はその時、返しに来てくれればいい』

 

 別れることになる前日、シャンクスが被っていた麦わら帽子を預けられ、ルフィはそれ以来、麦わら帽子を被り続けているのである。

 

 

 

 

 

 

「そっか、父ちゃんがなぁ……」

 

 ルフィ達と村へと移動し食事をとりながら、ウソップはルフィからヤソップの事を聞いていた。

 

「おっと、もう時間か……父ちゃんの事を聞かせてくれてありがとうなルフィ。何も無い村だけど、過ごしやすい村だっていうのは保証するからゆっくり、楽しんでくれ」

 

「あぁ、そうするよ」

 

 ウソップは少し慌てた様子でルフィ達へと言葉を残し、ルフィの言葉を聞くと手を振りつつ店を出て行った。

 

 

 

「ゾロ、ナミ……実はな」

 

 ルフィはウソップが去ったのを見ると声を潜めてゾロとナミに何かを言い、食事を終えると店を出、何処かへと向かったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 ウソップの住む村には場違いともいえる大富豪の屋敷が一軒建っている。しかし、その屋敷の主は一年ほど前に病気で両親を亡くした少女である。

 

「あの方向は……まさかっ!!」

 

 その少女を支える立場にある屋敷の使用人、黒髪のオールバックに眼鏡をかけた几帳面そうな男がクラハドールは屋敷から出て歩いていると煙が天高く上がっているのを発見してその場所へと向かった。

 

 実はクラハドールには裏の顔がある。彼は三年前まで凄腕の海賊であり、『クロネコ海賊団』の船長、キャプテン・クロだった。

 

 だが、海賊稼業に嫌気がさして平穏な生活を営む事に決めた。そして転がり込んだ村にあった屋敷の使用人となったのである。

 

 もっとも屋敷の主人とその妻が死んだのは彼にとっても計算外であり、ならばと部下で催眠術師のジャンゴによる催眠術で娘に遺書を書かせる事で財産を手に入れ、部下の海賊に村の者達を襲撃させようと計画し、正に今日、それを実行しようとしていたのだが……。

 

 

 

 

「な、何なんだこれはっ!! まさか、お前たちがやったのか……」

 

 キャプテン・クロが辿り着いた煙が上がっていた場所。

 

 それは彼の部下たちが乗っている海賊船のある場所であったが、船のある海岸では彼の部下がジャンゴも含めて倒れ伏しており、焚火の近くに麦わら帽子を被った男に三刀を携えた男、海賊船にあったであろう宝を運んでいる女がいた。

 

「ああ、ご覧の通りだよ。そして、キャプテン・クロだったか? 最後の一人であるあんたを呼び出したんだ。其処のジャンゴって男にあんたが立てた計画も全部、喋って貰ったから全部知っている」

 

 麦わら帽子を被った男、ルフィは覇気の一つで生物の発する心の声や感情を聞く能力をもたらす『見聞色の覇気』とそれとは別に生命自体のエネルギーとでも言うべきか……肉体を鍛え抜く事で手に入れた生命の感知能力をもってこの村に海賊が潜んでいる事を察知し、ゾロとナミの二人と共に奇襲を仕掛け、キャプテン・クロ以外の海賊を再起不能の状態にした。

 

 そして、今はキャプテン・クロが現れた事で彼の方へと向かって歩き、多少の間合いを取って止まった。

 

 

「そうか、やってくれたなガキがっ!! どこの馬の骨か知らんが、よくも俺の計画を台無しにしてくれたなぁぁぁぁっ!!」

 

 キャプテン・クロは自分の計画を台無しにされた事に激昂し、両手袋の五指に刀の刃が融着している特殊な武器を装備し、次の瞬間には姿を消した。

 

 

 

「(死ね)」

 

 キャプテン・クロは無音の移動術、抜き足を習得している。それをもってキャプテン・クロは相手に気配を感じさせず、姿を見せる事も無く殺す静の殺人者なのだ。

 

 そして、キャプテン・クロは微動だにしないルフィに接近し、殺そうと両の五指による刃を振るったが……。

 

 

 

「う……」

 

 何故か、キャプテン・クロはルフィの身体をすり抜けてしまう。だが、これは彼の錯覚のようなものである。

 

 実際にはルフィがほんの僅かに横へと移動して回避しただけなのだから……。

 

「ふしっ!!」

 

 ルフィは背後に居るキャプテン・クロへ振り返りもせずに左の肘打ちを彼の背中へ炸裂させる。

 

「うがぁっ!!」

 

 背中から生じた衝撃は彼の内部に浸透し、搔き乱す事でダメージを与え、意識を失わせることで地面に倒れさせたのだった……。

 

 

 

 

 

 

「す、凄ぇ……あいつ、あんなに強かったのかよ」

 

 この海岸にはキャプテン・クロの他にルフィによる焚火の煙を見た事でもう一人、来ていた。それはウソップである。

 

 彼は自分の村に海賊がいた事、屋敷の執事であるクラハドールがキャプテン・クロだった事にも驚いたが、何よりルフィの超絶的な強さに驚き、それに伴う勇姿に惹かれた……。

 

「おーい、ウソップ。手伝ってくれないか?」

 

「ああ、分かった」

 

 呼びかけられた事でそれに応じて海岸へと向かい、キャプテン・クロとその一味を捕縛するとルフィが乗ってきた船に用意されていた電伝虫によって海軍に通報した。

 

「(ルフィの仲間になりてぇ)」

 

 彼は作業の最中、そんな思いを持っていたのであった……。

 

 



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五旅

 ルフィが現在滞在しているシロップ村には、自身が平穏を得るために三年間も潜んでいたキャプテン・クロと船長である彼の指示によって村を襲うために待機していた催眠術師のジャンゴ他『クロネコ海賊団』が居たのだが、その全てがルフィとゾロによって倒され、通報を受けた海軍によって連行された。

 

「村を救ってくださりありがとうございます。ルフィさん、ゾロさん、ナミさん」

 

 海軍がやってきたがためにキャプテン・クロらの事はすぐに村中へと知れ渡り、それによってこの村の屋敷の主人、長髪の少女であるカヤにルフィ達は招待を受けた。

 

 因みに病弱気味な彼女であるが、その病気は精神的な気落ちによるものなのでルフィが生命エネルギーの譲渡によって彼女の精神に活力を与えると椅子に座っての対話が出来るようになった。

 

 

 

「どういたしまして。しかし、残念だったな」

 

「はい。まさかクラハドールが海賊の船長だったなんて」

 

 そう、キャプテン・クロはカヤにとってはクラハドールというの名の使用人だったのだ。今まで忠実に仕えてもらっていたが故にショックは大きかった。

 

 

「世の中、良い事もあれば悪い事もある。割り切るのは難しいけど、そうするしかない」

 

「えぇ、辛い事ですがなんとか受け入れて生きていこうと思います。そして、お礼と言ってはなんですが、泊まるならこの屋敷をお使いください。どうせ私と使用人たちだけじゃ広すぎるので」

 

「そういう事なら、お言葉に甘えさせてもらう。旅は始めたばかりだが、良かったら今までの話をしようか?」

 

「はい、お願いします」

 

 こうして、ルフィ達はカヤの屋敷を宿泊場所として使う事が出来るようになったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 シロップ村にあるカヤの屋敷。

 

 夜も遅くなろうかという時間帯であるにも関わらず、屋敷の庭の土にシーツを敷いてそれに座禅を組んで瞑想しているルフィの姿があった。

 

「すー、はー」

 

 彼は身体の内部にて生命エネルギーを巡らしている。一か所だけに留めたり、二か所であるがその部位は別々、あるいは全体に巡らすなど様々なパターンでエネルギーをコントロールする。

 

 出力にいたっても0から100に一気に上げる。徐々に上昇させる。減少させることも一気にやるときもあれば、徐々に、少しの間、留めたりなど……生命エネルギーのコントロールをある程度で終えると今度は覇気で同じような事をしていく。

 

 

 

「どうしたんだ、ナミ?」

 

「それはこっちの台詞よ。あんたこそ何やってるの?」

 

 近づいてくるナミの気配を感じたので一旦、エネルギーのコントロールを止めて目を開いて、振り返って会話を始めた。

 

 彼女は与えられた部屋のベランダに出て、物思いに耽っていたのだが、ルフィの姿を見かけたので気になって近づいたのだ。

 

「鍛錬だよ。実は幼少の頃、獣に頭を齧られたせいでその時から睡眠が出来なくなった。だから、鍛錬でもしないと暇なのさ」

 

 正確に言えば祖父による指導の元、過酷な環境こそ強くなる近道としてサバイバルも兼ねた血肉に飢えた獣の居る森林へとルフィは放られた事がある。

 

 未だ鍛錬始めたてであったため、獣に勝つことが出来ずに頭を齧られたのだ。

 

 偶々、ハンターが通りがかったお蔭で命を失う前に助けられたが頭を齧られた後遺症としてルフィは痛覚に睡眠欲、睡眠機能、脳のリミッターなどを失ってしまった。

 

 睡眠が出来ないとはいえ、慣れや鍛錬のお蔭で休息を取れば体力の回復は出来るようになったので現在では特に問題は無いが……。

 

 

 

「……随分と過激な事を平然と言うわね」

 

「事実だからな。なぁ、ナミ」

 

「何よ?」

 

「お前とは手を組んだ形だが、俺個人としては仲間だと思っている。だから、おれの助けがいるなら遠慮なく言ってくれ。喜んで力を貸す」

 

 

「前から思っていたけど、善人過ぎよ貴方」

 

「悪人よりはましだろ?」

 

「そうね……さっきの言葉は覚えておくわ」

 

 ルフィの言葉に苦笑を浮かべると背中を向けつつ、言った。

 

 

 

「おう」

 

「それじゃあ、おやすみ」

 

 ルフィの言葉にそう、挨拶をすると屋敷の中へと彼女は入った。

 

「さて……もっとキツくしていくか」

 

 ルフィは次に生命エネルギーと覇気、二つの力のコントロールを始める。力とは制御が何よりも重要だ。だからこそ、徹底的に制御できるように彼は鍛錬に励むのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シロップ村の海、停留している船は羊の船首が特徴的なキャラヴェル船だ。名前を『ゴーイングメリー号』といった。

 

「本当に良いのか?」

 

「ええ、私には必要ない物ですから」

 

 

 

 このメリー号はカヤの好意によってルフィ達へと与えられたものなのである。因みにメリー号を設計したのは羊が人間になったような男、使用人のメリーである。

 

「すまん、遅れたっ!!」

 

 メリーから船についての説明を受けていると大声を上げて荷物を持ったウソップが近づいてきた。

 

 

 

「ウソップさん、あなたも海へ出るんですね……」

 

「ああ。今度、この村に帰るときは嘘よりずっと嘘みてぇな冒険譚を聞かせてやるからな」

 

 カヤがウソップの様子を見て何か悟ったような表情になると会話を始めた。ウソップは度々、カヤの屋敷へと侵入しては嘘ではあるものの、病弱であった彼女を元気づけるように話を聞かせていたのだ。

 

 

 

「ルフィ、本当におれを仲間にしてくれるのか?」

 

 キャプテン・クロと海賊団を捕縛している最中、彼はルフィに仲間にしてもらえないかと頼み、ルフィは二つ返事で承諾した。

 

とはいえ、不安はどうしてもあるが……だからこその確認だ。

 

「前にも言ったが、お前がそれで良いと思うなら、こっちは問題ない」

 

「ありがとよ」

 

 そして、今まで乗っていた中型船は鎖繋ぎで連れるようにして、ウソップを加えたルフィ一行はカヤとメリーが見送る中、シロップ村を出港したのであった……。

 



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六旅

 

 シロップ村に住んでいた少年ウソップを加えたルフィ一行は村を救った事で手に入れたゴーイングメリー号に乗り、旅を続けていた。メリー号を手に入れる前に乗っていた中型船は鎖で繋ぐ事によって共に航海していた。

 

 

 

「へえ、上手いなウソップ」

 

「だろ。昔から人んちの壁に落書きしてたからな」

 

 ルフィは『このままじゃ味気ない』として、ウソップが書いた船旗のマークを見て絶賛した。それは麦わら帽子を丸のマークとして中央には『自由』と文字が書かれており、『旅団』という字が一番下に書かれているその字から左右の半円が構成され、円となっている感じだ。

 

 

 

「自由な旅団……良いわね、そういうのも」

 

「ああ、縛りが無いってのは良いもんだ」

 

 ナミとゾロも旗を見て納得の表情を見せた。その後は談笑しながら航海をつづけていると……。

 

 

 

 

「おーい、助けてくれぇっ!!」

 

 岩山近くで助けを呼ぶ声が聞こえたので近寄って見ると小舟があり、その上でグラサンをかけ、左頬に『海』の字がある男が手を振って助けを求めていた。

 

「待っていろ、今すぐそっちへ行く」

 

「ん、お前……ジョニーじゃねえか」

 

 ルフィが男に応じ、船を近づけるとゾロは男を知っているらしくそう訊ねた。

 

「ぞ、ゾロの兄貴っ!? と、とにかく大変なんだ。ヨサクが……」

 

 ゾロと組んだことがある賞金稼ぎのジョニーはゾロが居る事に驚きながらも傍で横たわり、息絶え絶えの様子である額当てをした坊主頭の男、ヨサクを見る。

 

 

 

「どれ、ちょっと様子を見よう」

 

 ルフィは軽々とジョニーとヨサクが乗っている小船へと着地すると右掌をヨサクの胸に押し当てた。

 

「このくらいなら……」

 

 生命感知によってヨサクの容態を把握したルフィは次の瞬間、掌に光、オーラを生じさせそれはヨサクへと流れて彼の身体を包む。生命エネルギーを譲渡する事で彼の身体を治癒しているのである。

 

 少しすると……。

 

「治ったぁぁぁっ!!」

 

「うおぉぉぉっ、やったぜ相棒っ!!」

 

 ヨサクが元気良く立ち上がると共に両手を勢い良く上げ、ジョニーもヨサクの復活を両の拳を天高く上げる事で祝福した。

 

 

 

「スゲェ、ルフィって神通力みたいなのが使えるんだなっ!!」

 

「まだ悪魔の実の能力者っていう方が色々と納得がいくんだけどね」

 

「可能性って奴を感じられるからおれとしては喜べるけどな」

 

 ウソップはヨサクを自分が理解できない力で治癒したルフィに興奮し、ナミは自分の中の常識が崩される事に嘆息、ゾロは人間が鍛え続ければ到達できる指標と出来るので笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「いやー、本当に助かりましたルフィの兄貴」

 

「流石はゾロの兄貴が認めただけの事はありますぜ」

 

 メリー号の上へと上がり、ジョニーとヨサクは改めてルフィに感謝を告げる。

 

「おう、どういたしまして」

 

 彼らの感謝を受け取ると二人との会話で話題に出た、船をレストランとして改装し、営業しているという『バラティエ』にルフィ一行はジョニーとヨサクを加えて向かったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 海上レストランである『バラティエ』で働く副料理長、金髪で左目は隠すようになっているという特徴的なそれ、右目の眉は丸く跳ねているというやはり、特徴的な男サンジには夢があった。

 

 しかし、それはオーナーへの恩故にサンジは胸に抱いたままであるが……。

 

「クリークの海賊船……だが妙だ」

 

 麦わら帽子を被った男や三刀を持った男、鼻の長い男にやたら兄貴、兄貴と呼ぶ二人の男に紛れていた素敵な女性をお持て成し出来て満足していたサンジは、他の客や店員達が騒いでいたので、外を見るとぼろぼろであるが『首領・クリーク』の海賊船の特徴と一致する船と旗を見つけた。

 

 というよりも数日前にクリークの部下の男にシェフとしての流儀を通したばかりなのだが……その、礼ではない様子だった。

 

 

 

「す、すまん。水と飯を貰えないか……金なら、幾らでもある」

 

 そして、少しするとバンダナを巻いたギンという男が大柄の男を抱えるようにして連れてきた。特徴からして首領・クリークである。

 

 だが活力は感じないし、憔悴した様子だ。言葉通り、飢えているのだろう。

 

「はっはっは、こりゃいい!傑作だ!日頃の行いってのはこういう時に出るんだな」

 

 鉢巻を巻いた体格の良い男、パティがクリークに対して飯を与えないとサンジには納得のいかない事を言った。

 

 

 

 彼のコックの流儀として『メシを食べたいものには食べさせる』というものがある。なので……。

 

「どけ、パティ。ギン、そいつに食わせろ」

 

 料理と水を持ちながら、サンジはパティを蹴り飛ばし、数日前に飯を与えたギンに声をかけて持っているものを手渡した。

 

「すまん」

 

 クリークが泣きながら、料理を貪っては水を飲む。

 

「おい、サンジ。そいつがどういう奴か知っているのかっ!!」

 

 

 シェフの一人が言うには、クリークはだまし討ちを得意としていて、それによって悪行を働いてきた正真正銘の外道だというのだ……。

 

 

 

「ふ」

 

 そして、実際、クリークは笑みを浮かべながら立ち上がり……。

 

「がばっ!!」

 

 クリークの行動を『見聞色の覇気』によって未来予知とすら言えるレベルで把握していたルフィが密かに、そして、素早く接近すると共に肩からの接触による衝撃、それをクリークの体内で爆発させた事で彼を倒した。

 

 

 

 

「恩を受けたなら、返すのが筋だろうが」

 

 痙攣しているクリークを見て吐き捨てつつ、ルフィはギンの方を見る。

 

「なぁ、あの船にはこいつと同じように飢えた奴らがいるのか?」

 

「あ……あぁ。百人ほど」

 

「金は」

 

「ある。それだけは本当に幾らでも……」

 

「……なぁ、バラティエの皆。金はあるそうだ。海軍には通報するとしてクリークの船にいるやつらに料理と水を出してやれないだろうか?」

 

 

 

 ルフィの言葉にサンジは勿論として、他の店員たちも何故だか彼の求めに応えたくなった。それは彼の誇り高き精神、風格が出ているからだ。

 

「……良いだろう」

 

 コック帽を被り、それなりに年老いた男が答える。彼には右足が無く、義足となっていた。

 

 

 

 彼こそこのバラティエのオーナーがゼフ、彼の答えを聞くとルフィはゾロにギンを伴ってクリークの船へと移動する。

 

 

 

 

 

 

「お前たち、降伏するなら飯と水が貰えるそうだぞ」

 

『ああ、する。生きられるなら絶対にするよ!!』

 

 ルフィとゾロはもしもの時に対応するための待機であり、ギンはクリークの部下の説得のためにいるようにした。

 

 そして、バラティエが用意した料理と水を船まで運ぶのを手伝いつつ、様子を見ていると……。

 

 

 

 

 

 

「ゾロ、誰か強い奴が来るぞ」

 

「分かった」

 

 ルフィは何者かが来るのを感知したのでゾロと共に船の船首へと向かった。

 

 

 

「あれは……鷹の目の男か……」

 

 小船で近づいてきたのは、十字架にも見える大剣を背負った眼光の鋭き男で、帽子を被っており、首には十字架をかけていた。

 

「ほぅ」

 

 興味深げにルフィとゾロを見る彼こそゾロが言う『鷹の目の男』として有名な世界最強の剣士ジェラキュール・ミホークである。

 

 

 

 

「今、ちょっとした救助活動中だが何か用か?」

 

「やり残した事を片付けようと思ったが……まさか、こんなところで良い覇気を持った若者に会えるとはな」

 

 

 

「……」

 

 ルフィの言葉に応じるミホークへ挑戦的な視線をゾロは送る。世界一の剣豪を目指す彼にとっては挑みたい男であるがルフィの剣になる事を決めたが故にルフィが許可しない限りは耐えるしかない。

 

 

 

「……良いだろう、此処は退こう。そして、そこの剣士、名は?」

 

 ルフィと視線を交わしたミホークは次にゾロの方を見る。

 

「ロロノア・ゾロ、いずれお前を超える男だ」

 

「ならば、もっと世界を回り、力をつけろ。その男といればそう遠くないうちに俺に挑めるようになるだろうがな」

 

 言うとミホークはこの場より去って行った。

 

 

 

 

「悪いな、ゾロ」

 

「謝る必要はねぇよ」

 

 いずれ、お前の気持ちを果たさせる事を誓うとルフィは目で伝え、ゾロも目で了承の意を伝える。

 

 その後、クリークにギン、彼らの部下たちが海軍によって連行されるまでをルフィ一行は見届けた。それからルフィは、ゼフに対して、バラティエがどういった店か良く知りたいとアルバイトのようなものとして一日だけの店員になった。

 

 因みにだが育てられた村にて姉代わりであったマキノが経営していた飲食店で手伝い、旅をするならと叩き込まれた自給自足するための技術があるので十分、バラティエでも働くことが出来たのであった……。

 

 



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七旅

 

 海上レストランの『バラティエ』で働くコックのサンジは元々、オービット号でコックとして働く少年だった。

 

 それがある日、現在は『バラティエ』のオーナーであり、昔は蹴りの達人【赫足のゼフ】として名を馳せていたクック海賊団の船長ゼフらによって襲撃を受けた。

 

 その時、嵐が発生しており運命の悪戯かゼフによって助けられつつ、サンジはゼフと二人、岩山にて救助を待つだけの日を送る事になる。

 

 しかもゼフは唯一残されていた分の食料全部をサンジに与え、自分は自らの右足を食う事で命を繋いだのだ。

 

 そうやって助けられたからこそ、サンジはゼフに恩を返すために働いており、コックの道を歩んでから、夢を諦めつつあった。

 

 

 

 

 

「オールブルー?」

 

「ああ、そうだ」

 

 サンジは一日だけ働かせて欲しいと此処の店員になったルフィに自らの夢を語った。彼はこの店に来たクリーク海賊団による問題を片付けてくれた恩人でもあり、更には中々のコミュニケーション能力の持ち主でわずかの間に自分たちの輪に入ってしまっていた。

 

 そして、世界を旅していると言ったのでサンジは自分の夢であるオールブルーの事を語った。

 

『オールブルー』とは海のコックならば誰しもが行きたい、見つけたいと願う海の名であり、東から南まで四つの海にいる全種類の魚たちが住んでいるという伝説の海だ。

 

 海賊をやっていたゼフも探していたという……。

 

 

 

「それは是非、見てみたいな」

 

「分かってくれるか……」

 

 大抵の者が眉唾だとして苦笑するか馬鹿にする話を真剣に、興味を示してくれるルフィの存在にサンジは喜んだ。

 

「なら、見つけた時は真っ先に教えてやるよ」

 

「おう、頼んだぜルフィ」

 

 

 自分はこの店を離れる事は出来ないという事情を話すとルフィがそんな事を言ってくれた。しかし、本当ならルフィの旅に加わってオールブルーを探したいとも考えていた。無理な話ではあるのだが……。

 

 そんな事を内心で思いつつ、ルフィと話を弾ませているサンジはだからこそ、彼らの様子を見ながら何かを決心した様子のゼフに気づくことは出来なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日、バラティエがどういった店かを理解するために店員となったルフィは最後に朝の仕込みを終えたので旅を再開しようとしていたが……。

 

「ルフィ、ナミが消えたぞ」

 

 そういったゾロからの報告をルフィは受けることになる。確認してみればメリー号に繋いでいた中型船が無くなっており、財産のほとんどもナミによって持ってかれていた。

 

 

「ナミの姉貴、この手配書をずっと見てましたぜ」

 

 ジョニーによると相棒のヨサクと二人で狙う賞金首について相談していると、ナミがやってきた。ただの興味本位で『それは?』と聞いてきたので賞金首のリストだと見せるととある賞金首のリストを意味ありげな様子で見ていた。

 

 

 

 それこそ……。

 

「アーロン……これが魚人って奴なんだな」

 

 魚人、魚がそのまま人となったような種族。

 

 ルフィが見ているリストにはノコギリザメの魚人で海賊【ノコギリのアーロン】のものだった。ジョニーらの話によれば、アーロンは同じ魚人らを率いてアーロンパークとして人間の村を支配しているのだとか……。

 

 

 

「それにしては、妙な金額だな」

 

 アーロンの賞金は二千万ベリーとリストには書かれていたが、ルフィは言葉には出来ないもやもやしたものを感じた。

 

 しかし、今大事なのはナミだ。

 

 予測ではあるが彼女が言っていた一億ベリーとは、アーロンが支配している村の金額なのだろう。

 

 自分の村、あるいは自分の村では無いが大事な人がいる村か……それを救うためにアーロンと取引をしようとしている。

 

 だが、村を支配する程の海賊が正直にその取引を守るだろうか?

 

 少なくともこの世に絶対はない。保険はかけておくべきだし、最悪は想定しておくべきだ。

 

 

 

「ジョニー、ヨサク。アーロンパークの場所は分かるか?」

 

 ナミの事は勿論だが、困っている人が居るという話を聞いた以上、ルフィの行動理由としてはそれで十分。

 

 アーロンの支配を終わらせるために動くのみである。

 

 

 

 

「へい、しっかりと案内します」

 

「流石、団長だ」

 

「そうでなくちゃっな」

 

 ゾロは満足げに、ウソップはアーロンの話を聞いた時より、震えていたが言葉では凄んだ。

 

 

 

 そして、バラティエの皆に船を出す事を告げて見送られる中、メリー号を出発させようとした時だ……。

 

 

 

 

「お前も行って来い」

 

「うおっ!?」

 

 突然、ゼフがサンジをメリー号へと蹴り飛ばしたのである。

 

「っ、ぐ……クソジジイ、何をしやがるっ!!」

 

「サンジ、お前はそのままその男とオールブルーを探す旅に出ろ。恩返ししたいのなら、おれの夢を託すから実現してみせな」

 

「……ジジイ」

 

 ゼフの言葉にサンジは涙すら浮かべた。

 

 

 

「風邪、引くなよ」

 

 後はそれだけ言って、彼は背を向けて去り始める。

 

「っ、オーナーゼフ!! 長い間、くそお世話になりました!!」

 

 彼はメリー号から土下座するようにして長年の感謝を伝えた。

 

 

 

「くそったれがああ!! 寂しいぞぉ」

 

「寂しいし、悲しいぞ!!」

 

 バラティエの皆がサンジとの別れに涙を流していた。

 

 

 

「……バカ野郎どもが。男は黙って別れるもんだぜ」

 

 ゼフも又、背こそ向けていたが涙を流している。

 

 

 

 

「また会おうぜ、クソ野郎ども!!」

 

 最後にバラティエを離れるメリー号から大声でサンジは叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「良い店だな、バラティエは」

 

「ああ、最高の店だ」

 

 バラティエがあった方を見るサンジへルフィは言い、サンジは頷く。

 

 

 

「うおおお、なんて感動的なんだぁぁぁっ!!」

 

「あっぱれ、あっぱれすぎますぜえぇ」

 

「こんなの、泣かずにいられねぇよぉ」

 

「だからっていつまで泣いてんだよ、お前ら……」

 

 ウソップにジョニー、ヨサクがバラティエを出てから、ずっと涙を流しているのにゾロは呆れた。

 

「一緒に旅が出来る事を嬉しく思う。よろしくなサンジ」

 

「此方こそだ、ルフィ」

 

 ルフィはサンジの加入を歓迎し、サンジも又、ルフィと旅が出来る事を喜んだ。

 

 こうして、アーロンの元へと向かったナミを、アーロンによって支配されている村の人たちを守るため、新たにサンジが加わったルフィ一行はジョニーとヨサクの案内の元、航海をするのであった……。

 



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八旅

 

 

 海上レストランが『バラティエ』のコックであったサンジを加えたルフィは、予測ではあるが、今までの旅で得た宝や財産を持って魚人の海賊団である『アーロン一味』の元に行ったであろうナミを追って、アーロンが支配しているという一帯の村へと向かった。

 

因みにゼフによって蹴り出されたサンジだが、事前にゼフはルフィにサンジの事を頼んでおり、必要な荷物は他のシェフらによってメリー号に運び込んでいるので旅はしっかりと出来る。

 

「分かりやすい目印だな」

 

 アーロンの支配する村の近くに辿り着けば、『ARLONG PARK』と表記された大きな館風の建物、その前には門が見えた。

 

「予想通り、ナミはアーロンのところに居るな」

 

 少し、周囲を回ってみるとメリー号に繋いでいた中型船があった。

 

「それじゃあ、斬り込むか?」

 

「美しいナミさんや村のレディーたちは早く、助けないとな」

 

「うぉいっ、向こうがどの程度の戦力かも分からないのにそんな無謀な事、出来る訳無いだろうっ!!」

 

 ゾロとサンジがやる気十分に言うとウソップは注意をした。

 

「そうっすよ。魚人は生まれながらに人間の十倍の腕力を持つと聞きますし……」

 

「アーロンはそんな魚人を複数、従えているそうですぜ」

 

「それに下手に攻めて、村の叛逆として誤解されたらとんでもないことになる」

 

 ジョニーとヨサクも二人を宥めるように言い、それにルフィは賛同しつつも……。

 

「取りあえず、俺が先に行って合図するから、それを見たら船を近づけろ。見張りが居るからな」

 

 

 言うと、ルフィは船から海の上を走り出した。

 

「はは、そうだった。ルフィは超人だったな」

 

「急に全部、上手くいく気がしています」

 

「良し、ルフィの兄貴に続きましょう」

 

『急にやる気出したな、お前ら』

 

 ウソップとジョニー、ヨサクがルフィの人外ぶりにやる気を出したのを見て呆れるようにゾロとサンジは突っ込みつつも、ルフィの力となる様に気持ちに気合を入れた。

 

 そして、ナミによって停められた中型船の近く、木造の橋の近くには魚人が三人、見張りとしていたのだが……。

 

「うぐっ!!」

 

 彼らに気づかれず死角から近づいたルフィが素早く、指で突くようにして身体に触れ、生命エネルギーを流して相手の生命エネルギーに干渉する。そうする事で乱し、麻痺状態として無力化したのだ。

 

 そして、丁度良いので中型船の中にあったロープで念のために三人を縛るとメリー号の方へ合図を送るために懐に収納していた赤い棒を少し遠くで待機しているメリー号が見える場所へと行って合図を送ったのであった……。

 

 

 

 少女、ナミ。彼女はアーロンの支配している『ココヤシ村』を一億ベリーで買うという契約を交わしていた。海賊相手に命を懸けて泥棒をしているのはそのためである。

 

 だが、『ココヤシ村』は彼女の生まれた村では無い。彼女は義姉であるノジコと共に拾われ子で義理の親となったのは海軍であったベルメールという女性であった。

 

『シャーハッハッハ!!』

 

 ちょっとした喧嘩をナミがベルメールとしたある日、アーロン率いる魚人海賊団が現れ、瞬く間に支配してしまった。

 

『ノジコ、ナミ……大好き』

 

 アーロンは支配のために村人に対し、大人は一人十万。子供は一人五万を命の代金として徴収した。ベルメールは記録上では独り身、ノジコとナミが島を出ればそれで丸く収まる筈だったが、ベルメールは二人の親でいたいと自分の命を捨て、結果、アーロンに殺されてしまったのだ。

 

『ほう、航海士の才能があるな』

 

更にナミの悲劇は続く。

 

ベルメールの家に置いていた海図を発見され、その出来に感心したアーロンがナミを自分たちの仲間になるように取引を持ち掛けたのだ。

 

仇であるアーロンに服従するしかないのは彼女にとっては当然、辛すぎる仕打ち。それでも取引が出来る立場とはなった。だから、後は自分が上手くやるだけだ。

 

「シャーハッハッハ!! 良く帰ったな、ナミ」

 

「ありがとう。相変わらず、元気そうねアーロン」

 

 満足そうに笑うアーロンへ内心では憎しみを送りつつも、笑顔を浮かべてやるナミ。

 

「(ごめん……ルフィ)」

 

 彼女はルフィに何度も心で謝っている。ルフィは彼が言ったように助けを求めれば応えてくれる人物だと旅の間に十分に理解出来たし、実際、命すら懸けてくれるだろう。それに強さも桁違いだ、もしかすればアーロンすら倒せるかもしれない。

 

しかし、だからこそナミは彼に助けを求められない。アーロンに刻まれたトラウマ、恐怖心がアーロンを絶対的強者として認識させてしまっているのだ。よって殺された時の事を考えてしまうし、そうなれば自分は立ち直れない。

 

だから、助けを求められないのだ。()()()()()……。

 

 

 

「盛り上がっているところ悪いが、アーロンってのはお前か?」

 

 アーロンが仲間たちにナミに対して再会の宴を開こうと提案し、それによって盛り上がるアーロンの仲間である魚人たち。そんな彼らに声が響いた。

 

「……あぁ。アーロンってのはおれの名だよ。てめぇは?」

 

 声の主はルフィであり、傍に続くのはゾロとサンジの二人である。ウソップ、ジョニーとヨサクの三人は魚人らに見られない場所で様子を伺っていた。

 

「おれはルフィ。世界を旅している者だ」

 

「ほう、そいつはご苦労なこったな。今のおれは機嫌が良いんだ、気が変わらねぇ内に此処を立ち去って旅を続けな」

 

「そうはいかない。お前たちはこの周辺にある村々を恐怖に陥れているからな。潰された町も実際に見た」

 

「おいおい、中途半端な正義心は身を滅ぼすぜ」

 

「滅ぼしてみろよ」

 

 アーロンを挑発するように言うルフィ。そんな様子を見ているナミは……。

 

「(やっぱり、あなたはそういう人なのね)」

 

 内心、思ってはいたのだ。自分が抜けた時、何をしてでも自分を追って必要ならば助けようと行動してくれるのではないかと。そのあり得ない思考に『都合が良い』と自嘲しつつも、期待してしまっていた。

 

 そして、実際に来てくれたのだ。

 

「(なら、私は)」

 

 こうなった以上、仕方ない。事の次第を責任を持って見守ろうとナミは誓い、ルフィがアーロンを倒したならばとある事をしようとも誓ったのだった……。

 

 

 

 アーロンパークの館内へと堂々と侵入したルフィたち。アーロンはルフィと視線を交わしており、彼の仲間である魚人たちはルフィとゾロにサンジの三人を取り囲むように対峙し……。

 

「下等な人間はこれだから、困る……お前ら、潰してやれ」

 

「おうよ、お前らなんかアーロンさんが相手にするか。こいつの餌にしてやるぜ」

 

 

 アーロンの指示に真っ先に動いたのは蛸の魚人、彼は口からラッパ音を出した。

 

「モォォォォォッ!!」

 

 すると海と繋がっているアーロンパーク内のプールに似たその場所から巨大な牛魚が出てきた。海牛、モームである。

 

「ゾロ、サンジ。おれに続いてくれ」

 

『了解だ、団長!!』

 

 ルフィが一言告げ、幻影となる中でゾロは剣を抜き、サンジも動く。

 

『!?』

 

 そして、次の瞬間、魚人らとモームの目に見えたのは無数とも言えるルフィの残像の軍団。それらが魚人らと空中に浮くことでモームにも接近しており……。

 

『があああっ!!』

 

 空すら駆ける身体能力と疾走技術によって残像となったルフィはそのまま、魚人らに指、掌、肘、肩による打撃を放って衝撃を彼らの内部に伝播させる。その様子はさながら、残像による舞踏劇として映った。

 

 一瞬の間に魚人の大半とモームが倒され……。

 

「三刀流が六刀流に勝てるかああっ!!」

 

「はっ、剣において重要なのは数じゃねえ事を教えてやる」

 

 とあるところでは六剣を持つ蛸の魚人はっちゃんとゾロが戦っており……。

 

「下等な人間が……武術を修めた魚人の恐ろしさを教えてやる」

 

「そんなもの、蹴り倒してやる」

 

 とあるところではエイの魚人クロオビが構え、サンジもゼフによって仕込まれた足技を披露せんと構えた。

 

「てめぇら、ふざけやがってぇぇっ!! ぶっ殺してやるっ!!」

 

「うおおおお、こうなった以上、やるぞお前ら。おれたちも一人ぐらいは倒してやるんだ」

 

「ええ、やりましょうウソップの兄貴」

 

「ルフィの兄貴に誇れるように」

 

 

 キスの魚人チュウにパチンコ玉を放った事で標的にされ、追われながらもウソップにジョニーとヨサクは魚人を倒すために行動しようとしていた。

 

 そして……。

 

「で、お前は動かないのか。アーロン?」

 

「ふ、ふふ……やってくれたな、下等な人間風情が。調子に乗りすぎだぜ」

 

 ルフィの挑発に椅子に座っていたアーロンが立ち上がりつつ、睨みつけていた。

 

「やたらさっきから下等、下等と言っているが魚人はそんなに偉いのか?」

 

「シャーハッハッハッハッ!! ああ、偉いぜ。だから逆らったらどうなるかたっぷりと教えてお前を殺してやるよ」

 

 ルフィからの質問に嘲笑しつつ、アーロンはそう言った。

 

「その割には妙だな」

 

 しかし、ルフィは彼の言動を聞きつつ、内心を見ていたからこそとある事に引っ掛かりを覚えていた。

 

「あん?」

 

「お前たちからは人間を見下している感じはしていない。どっちかと言えば怒りや憎しみを感じる。それはおれたちが戦い始める前からだ」

 

「……忠告だ。知った風な事を言えば早死にするぞ」

 

「お前たち、魚人はまさか人間に虐げられでもしたのか?」

 

 アーロンの言葉に構わず、ルフィは問いを投げかける。その問いにアーロンは……。

 

「ふ、ふふ、ふふふふふふ……シャーハッハッハッハッハ!! 有難うよ、大事な事を思い出させてくれてよぉぉぉぉっ!!」

 

 次の瞬間、笑いを上げつつアーロンは激怒し、瞳はそれに応じて海王類が怒りの際に見せるそれと同じになってルフィへと向かった。

 

「それじゃあ、こんな事をやっているのは人間に対する復讐か」

 

 魚人が生来持つ人外の腕力による凄まじい拳撃をアーロンは放ったが、ルフィは人差し指一本で簡単に逸らした。

 

 

「っ、そうだ……お前たちがおれの仲間たちを……大兄貴を虐げ、殺したからだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 そう、アーロンの言っている事は事実だ。昔より人間は魚人の姿を恐れるが故、差別、果ては虐待、更には奴隷としても扱ってきた。

 

 それをなんとかしようと行動したのが魚人の多くが、そして、アーロンすら最も尊敬した魚人、フィッシャー・タイガーであった。

 

『おれはもう、人間を愛せねぇっ!!』

 

 魚人の差別問題どころか他の種族すらも救おうと海賊としてではあるが行動していた彼は卑劣にも人間の手によって死ぬ事となり、死の間際に人間の奴隷であった事を告白した。

 

『島の皆には何も伝えるな』

 

 そして、信じられない事に自分が死んでも恨みや怒りを残すなと皆の事を考えつつ、彼は言ったのだ。

 

 フィッシャー・タイガーと共に行動していた他の魚人はタイガーの遺言を良しとしたが、アーロンには無理だった。

 

 許せないのだ、どうしてもっ!! そもそも先に手を出してきたのは人間だろうっ!!

 

こうして、タイガーすら死んだ以上、人間と種族間での共存など不可能だ。

 

 そう、結論付けたからこそアーロンは人間を恐怖させ、支配してやろうと決意し行動している。自分の仲間たちがやられたように……。

 

「おれこそが魚人族の怒りと知れぇぇっ!!」

 

 アーロンは拳撃を繰り出し続けるが、ルフィはやはり、指一本で難なく逸らし続ける。それに更に怒りを増してアーロンは全力を込めて攻撃を放つが……。

 

「そうか、良く分かった」

 

「うごぉっ!?」

 

 次の瞬間、触られてもないのに体が勝手にルフィの後ろへと吹っ飛ばされ、アーロンは背中の強烈な勢いと共に地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

魚人族(お前)の怒り、おれが鎮めてやる」

 

 倒れているアーロンを見ながら、ルフィはそう告げた。

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ルフィの後ろにアーロンはどうしてか、自分を見ているタイガーの姿を幻視したからこそ、彼は立ち上がり、すぐさまルフィへと攻めかかったのだった……。

 

 

 



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九旅

 

 アーロンの本拠地であるアーロンパークにて、ルフィはアーロンと戦っていた。その戦況と言えば一方的である。

 

「うぐあっ!!」

 

 アーロンがルフィへと拳、更には、鉄より頑強で瞬時に生え変わる自分の歯を利用した武器『(トゥース)ガム』を使っての攻撃を仕掛けても容易く捌かれ、そして彼が一瞬、奇妙な構えを取るとそれに身体が勝手に反応して吹っ飛ばされ、地面へと受け身も取らずに着地…つまり、自ら地面に激突する事態が何度も繰り返される。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ど、どうなってやがる」

 

 アーロンには理解出来ないだろう。

 

 ルフィが闘志はそのままに、あえて攻撃を繰り出す構え、予備動作をする事でアーロンの身体に攻撃が来ることを予測させ、逃げ道をわざと一か所にだけ残す事で其処へと強制的に誘導させている。

 

 生き物としての生存本能、危機回避能力を逆手に取った言わば呼吸投げのような事をしているなど……。

 

 

 

「ちいっ!!」

 

 アーロンは素早く自分の館内へと移動、ルフィは歩いて彼の後を追った。

 

 

 

「これでも、くらえぇっ!!」

 

 館内に入るとアーロンは、長く巨大なノコギリ『キリバチ』を手にしており、それをルフィに向かって振るった。

 

 

 

「ふんっ!!」

 

 それに対し、ルフィは左手を刀として振るうと彼を切り裂こうとしたキリバチの刃は剛断された。

 

「んなぁっ!?」

 

「はあっ!!」

 

 キリバチが剛断され、驚愕で固まるアーロンに対しルフィは打撃を叩き込めない間合いであるにも関わらず、右掌を突き出す。それに伴って空気、いや、空間すら歪ませつつ、押し出され……。

 

 

 

 

 

「ごぉあっ!!」

 

 ルフィの放った、さながら「飛ぶ掌打」はアーロンをすさまじい勢いで吹っ飛ばし、壁すら突き破らせた。

 

「(ち、畜生が、強すぎるっ!! このおれがこんなガキに……)」

 

 アーロンは自分が容易く、ルフィによって追い詰められている事に怒った。

 

 

 

 

 

「……」

 

 対してルフィは変わらず、アーロンを見定めるだけで自分からは動こうとしない。それは決してアーロンを舐めているのではなく、寧ろ全力をぶつけて来い、真っ向から叩き潰してやると言うように戦士として向き合っている。

 

 其処にアーロンに対する侮蔑なんかは無く、それはアーロンにも分かった。

 

 

 

「(大兄貴、どうしてそんな奴の後ろに……)」

 

 更にルフィへと挑んでいる時、対峙している時、ルフィの後ろでアーロンにとっての英雄でもあるタイガーの幻姿もアーロンの事を見ていた。まるで、『お前の行方を見守る』と語るかのように……。

 

 

「(分かってるんだ、おれのやっている事はタイの大兄貴が望んでる事じゃねぇのは……)」

 

 そう、タイガーは人間を憎みながらも、それを表には出さず魚人と人間が平和に暮らせるようにしようと行動していた。死ぬ間際でもその意志を部下であった自分たちへ継がせようとしていた。

 

 アーロンのやっている事はタイガーの意思を全否定する行動だ。しかし、それでもどうしても許す事は出来ないし、もう、今更止まる事すら出来ない。

 

 

 

 

「(でもおれぁ、バカなんだよ。タイの大兄貴)」

 

 内心では何度もタイガーの幻姿に謝りながらルフィへと挑みかかる。拳撃を何度も何度も繰り出した。

 

「うおおおっ(もっと兄貴といたかった。もっと兄貴と生きたかった。もっと、もっともっと……)」

 

 

 

 ルフィに攻撃を捌かれながら、内心でタイガーの幻姿に謝るアーロン。

 

「うごああっ!!(だから、兄貴をおれから奪った人間と共存したくねぇんだよ)」

 

 気づけば、最初に居た場所へと吹っ飛ばされながら、アーロンはタイガーへと何度も詫びた。

 

 

 

「へ……へへ、認めてやるよ人間。お前は強いっ!!」

 

 アーロンは立ち上がりつつ、ルフィを指差して言う。彼にも理解出来ないが、今のアーロンに怒りの感情は存在せず、すっきりとした気分であった。

 

 

 

「おれの名はルフィだ。称賛については受け取っておくよ」

 

「ヘ、口の減らねぇガキだぜ。おい、ルフィ……言っておくがおれを倒しても村が救われるとは限らないぜ」

 

「……どういう事だ」

 

「海軍にネズミって……お前とは比べ物にならないくらい下衆な奴がいるんだが、そいつと取引していてな」

 

「成程、村の幾つかを支配している割に懸賞金が少ないのはそういう事か」

 

 懸賞金とは本来、世界にとっての危機に応じた額が設定される。当然、村を複数支配したならば本来、それだけ懸賞金は多くかかるし海軍だって本腰は入れる筈なのだ。

 

 それをアーロンは、海軍のネズミ大佐と手を組む事で、アーロン一味が其処までの脅威と認定されないようにしていた。

 

 

「ああ、そういう事だ。中々、聡明だなルフィ。後は説明しなくても良さそうだ」

 

「良く分かった。情報提供、感謝する」

 

 苦笑するアーロンに対しルフィは頭を下げた。

 

 

 

「シャーハッハッハッハ、冥土の土産ってやつさ」

 

 それに幻姿とはいえ、タイガーに会わせてくれた事、今はルフィの強さと戦士として向き合ってくれている態度に敬意も抱いている。

 

 更に何故、タイガーの幻姿が見えたのかも今では理解出来る。ルフィはタイガーに匹敵する程の気高さを持っているからだ……。

 

「おれはお前を倒すぜ、ルフィっ!!」

 

 怒りとかそういう感情は抜きにアーロンはルフィに勝ちたいという要求を抱いていた。

 

 

 

「受けてたつぞ、アーロン」

 

 アーロンの挑戦にルフィは頷いた。

 

 次の瞬間、アーロンは海の方へと跳躍しそのまま沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 そして、数秒の後に……。

 

(シャーク)ON(オン)歯車(トゥース)!!」

 

 水中で速度が上がる自分の能力を活かし、回転を加え突撃しながら噛み千切る最大の技を持ってルフィに挑んだ。

 

 

 

「ふしっ!!」

 

「があっ!!」

 

 ルフィはそれに対し、拳鎚を振り下ろす事でアーロンを地面に沈めた。

 

 

 

「(もう良いんだ、アーロン)」

 

 薄れゆく意識の中、最後にアーロンはルフィにタイガーが重なり、自分に対して幻聴として語り掛けてきた。

 

 

 

「(済まねぇな、大兄貴。そして、ありがとよルフィ)」

 

 アーロンはタイガーに謝り、そしてルフィには感謝を述べて意識を失ったのだった……。

 

 

 

 

「こっちこそ……お前と戦えたことはおれにとって誇りだアーロン」

 

 そうアーロンに語り掛けてルフィは歩き出す。向かう先はナミの元。

 

 

 

「ルフィ……」

 

 涙を流しつつ、ナミはルフィを見、口を開こうとしたが……。

 

「まだやる事が残ってる。そいつを預かっておいてくれ」

 

 自分の麦わら帽子をナミに被らせ、そう言い残す。

 

 

 

「ゾロ、サンジ、ウソップ、ジョニー、ヨサク。お前たちは休んでおいてくれ。後はおれだけで動いた方が都合が良いんだ」

 

「お前がそう言うなら……」

 

「了解だ」

 

「おう、有難うなルフィ」

 

「すみませんが、そうさせてもらいます」

 

「正直、辛いですぜ」

 

 

 蛸の魚人を倒したゾロ。エイの魚人を倒したサンジ、ぼろぼろではあるが協力してキスの魚人を倒したウソップとジョニーにヨサク、彼らはルフィの指示に頷いた。

 

「そういう訳で話は後だ、ナミ。先に言っておくがお前は何も悪い事をしていない。怒ったりはしないから、安心しろ」

 

 そう言うとルフィは瞬時に何処かへと姿を消したのだった……。

 

 



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十旅

 

 とある島の森林にて二人の男が対峙していた。

 

「直ぐにでも海兵として通用する能力がありながら、お前は旅に出ると言うのじゃな。ルフィ」

 

 ルフィが旅に出る前のある日。

 

 

 

 ルフィは、目の前の筋骨隆々で身長も高い祖父に問いかけられた。『中将』という海軍の中でも最高位に匹敵する地位を持っている上、その活躍から『海軍の英雄』とも呼ばれているモンキー・D・ガープである。

 

 ガープはルフィを自分と同じ海兵にしようと育てていたが、ルフィとしては敷かれたレールの上を歩くような生き方は嫌だった。

 

 だからこそ、彼から指導を受けながらも独自に力や技術を磨いたり、自分が育った村にて様々な技術を村人に師事して身に着ける事でガープに自分の夢を認めさせるために努力を続けてきたのだ。

 

 

 

「うん。おれはまだまだ世界を知らないし、自分の事は自分で決めたいんだ。爺ちゃんには悪いけど……先ずは旅に出たいんだよっ!!」

 

「其処まで言うのなら……良いじゃろう。ならばわしに認めさせてみろっ!!」

 

 こうして、ルフィとガープは互いに全力での決闘を行い、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……まだまだ届かないか、爺ちゃんには」

 

「ふふっ、そう簡単に孫に負ける訳にはいかんよ」

 

 ルフィは負け、疲労から地面へと倒れ込むと、ガープも座り込んだ。どちらもかなりの力を出したので疲労も相当のものであった。

 

 

 

「……行ってこい、ルフィ」

 

 ガープはルフィに旅の許可を出した。そもそも、決闘したのはルフィの実力を確認したかっただけで元から旅をさせるつもりであった。男が、ましてや自分の孫が独立しようと言うのだから、止めるつもりは無かったし、独立への意思が強いというなら余計にだ。

 

 もっと言えば、それでこそ自分の孫だと誇らしくさえも思ったほどである。

 

 

 

「ありがとう、爺ちゃん」

 

 ルフィはガープから許可を貰うとゆっくりと立ち上がり、頭を下げた。

 

そして、ルフィが旅立って何日か……。

 

(流石はわしの孫じゃな、行く先々で正義を成しおる)

 

 ガープは海軍本部の自室にて、ルフィが『東の海(イーストブルー)』の海賊たちを倒した事、海軍のモーガン大佐による支配から町を解放した事など自分の孫についての情報を聞くたびに気を良くした。

 

 

【英雄の旅人】、【武雄の救世主】などなどルフィによって救われた村からはヒーローとして敬われてもいるので尚更、ガープは気分が良くなった。

 

「ぷるるるる。ぷるるるる」

 

 内心でルフィを褒めていると自室の机に置かれた電伝虫に連絡が入った。

 

 

「はい。此方、ガープ」

 

『もしもし、爺ちゃん。ルフィだけど』

 

「おおっ、ルフィ!! 元気そうじゃな」

 

 受け取ってみると相手は孫のルフィであったため、喜ぶ。

 

「うん。おれは元気だよ。旅も順調で仲間も出来たんだ」

 

「そうかそうか。それはなによりじゃな……お前の活躍は聞いておるぞ。色んな村を救っておると」

 

「爺ちゃんの孫として悪事は放っておけないからね。さて、爺ちゃん、ちょっと大事な話があるんだ」

 

「何じゃ、言うてみぃ」

 

 突如として真剣な態度になったのでガープも真剣な態度で話を聞く。

 

 それは海軍に関する話であり……。

 

 

 

 

「そういう事なら、お前の思う通りにやりなさい。責任はわしが持ってやるわい。何も心配はするな」

 

「……迷惑をかけてごめん、爺ちゃん」

 

「謝る必要が今の話のどこにある? お前が変わらず、誇らしい孫でわしは嬉しいぞ」

 

 ガープはルフィがやろうとしている事に許可を出し、声を聴いたことで孫が自分の『正義』を受け継いでいる事を確認できたので褒めたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海軍第十六支部。その場所を管轄しているのは鼠の耳が付いた帽子を被った男であり、鼠の様な髭が特徴的な男であるネズミ大佐だ。

 

「チチチチ……さて大金を受け取りに行くか」

 

 席に座っている彼は笑いつつ、呟く。

 

 彼はアーロンと取引をしており、アーロンよりナミが村を買うために一億ベリー近くを所有しているのを聞いていたのでそれを奪おうとしていた。成功すれば三割も手に入るのだから、彼にとってやらない手は無い。

 

 この策略はアーロンがナミをずっと自分の手元に置くためにやったことである。もっとも現在、アーロンはルフィによって倒されているのだが……。

 

「失礼するぞ」

 

「何だお前は。どうやって入って来た?」

 

 突如、ルフィがネズミの部屋の扉を開けて中に入った。

 

「お前の部下に通してもらったんだよ。おれはガープ中将の孫のモンキー・D・ルフィだ。何なら問い合わせてもらっても構わない」

 

 

「な、何だとっ!?」

 

 ネズミは驚きながらも電伝虫で本部へと連絡をしてみる。

 

『む、お前がネズミという奴か。連絡をしてきたという事はわしの孫が其処に来ているという事じゃな』

 

 ルフィが事前にガープへと連絡が通る様にしていたので直々にネズミへガープから言葉がかけられた。

 

「は、はい。貴方様の孫は確かにきていますガープ中将」

 

 ネズミは平静にしようとしながらも海軍の英雄として名高いガープが連絡に応じた事やその孫が急に来たことに動揺してしまう。

 

 

 

「そうか、お前の事は孫から聞いたぞ。海賊と手を組んでいるそうじゃな……お前や十六支部の者に関しての対処は孫に任せておる。それじゃあな」

 

 一方的に告げるとガープは通話を切ってしまった。

 

 

 

「な……な」

 

「そういう事だ。さて、お前についての対応だがお前自身の行動で判断しようと思う」

 

 

 ネズミへと言うと、ルフィは懐からこの部屋に来る前に入れていた銃を取り出し、ネズミの机の上に置いた。

 

「その銃をどう使うかでお前の全てが決まる。良く考えて行動しろ」

 

「……チッ、チチチ、チチチチ。何を偉そうにっ、この間抜けがぁぁぁぁっ!!」

 

 ルフィがネズミを観察する中、彼は大笑いをすると共にルフィへ銃口を向け……。

 

 

 

「うぇ?」

 

 脅しに一発、撃ち込んでやろうとしたが銃の引き金を引くことは出来なかった。事前にルフィが壊していたからである。

 

「間抜けはお前だったようだな」

 

「ひ……」

 

 そして、ルフィは飛ぶ貫手の連撃をネズミへと炸裂させた。

 

「ぎゃああああああっ!!」

 

 ネズミはルフィによる連撃が終わると机の方へと倒れ、痙攣する。明らかに再起不能の重傷状態だ。

 

「さてと」

 

 ネズミの部屋を物色してアーロン以外にも色々と汚職や不正をしていた証拠をルフィは見つけ出した。

 

 これを本部に提出できるようにし、事前の頼み通り、ガープからネズミの部下たちに対してルフィに従うよう命令を出してもらい、更に本部からの応援も要請した。

 

 

 そして、先ずはアーロンパークへと向かって本部の者が来る間、十六支部の牢部屋へと連行するための収監船を必要な分だけ出す。

 

 

 

「……」

 

 アーロンパークへと行くと縛られていたアーロン及び魚人たちが居た。

 

 そして、何も言わずアーロンが先に収監船へと向かうとそれに魚人たちも続く。

 

 アーロンは何も言わず、ルフィの方を見もせずに収監船の牢へと入る。彼とルフィは対決の間に交流は十分に交わしているので、もう、後は必要ないのだ。

 

「アーロンさんを、ありがとう」

 

 ただ、蛸の魚人であるはっちゃんはルフィへと頭を下げる。

 

 彼は魚人たちが縄を引き千切り、暴れようとしたのを『みっともねぇ事、するんじゃねえっ!!』とアーロンが止め、『おれたちは負けたんだ』と何処か満足そうに語った様子から何かが変わったのを感じ取った。

 

 更にルフィを見て、アーロンが礼を尽くしているような様子を見せた事からルフィこそがアーロンを変えたのだと悟り、だからこそ礼を言った。可能ならばいつか恩を返す事も誓って……。

 

 

 

 ルフィはそれにただ、頷いただけだった。

 

 連行が終わると次にやる事は村の復興である。これは十六支部の海軍、ガープからの応援である海軍たちにも協力してもらうようにしている。だが、それが始まる少し前……。

 

「ルフィっ!!」

 

 ナミがルフィへと走り寄って彼の身体へと抱き着いた。

 

「出迎え、どうも」

 

 ルフィはナミを優しく受け止める。

 

「うん。お帰りなさい……そして、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 そうして、二人は微笑みを交わし合ったのだった……。

 

 

 



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十一旅

 アーロンパークの領内として魚人海賊団アーロン一味に支配されていたココヤシ村の住民たちは現在、生涯最大の幸せを体験しているが如く、騒いでいた。

 

 それはそうだろう……長年、まるで奴隷のような生活を強いられた上に一つでもしくじれば殺されるという地獄を味わっていたのだから。

 

 しかし、そんな日々はルフィたちによって終わりを告げられ、平穏が戻ったのである。しかもルフィは、アーロン一味によって滅ぼされたゴサの町の復興やココヤシ村の住民の生活支援などに必要な物質や人材を運んできた海軍本部の者と十六支部の者、ゾロとサンジ、ウソップにジョニーとヨサクら、無論、アーロンからココヤシ村を取り返そうとしたナミも手伝ってそれらの作業に尽力した。

 

 

 

 

「君がルフィ君か。この村を、私たちを、そしてナミを救ってくれてありがとう!!」

 

「私からも礼を言うよ。あんたたちは私たちにとって、英雄で救世主だ」

 

 村を代表してルフィ達に礼を言ったのは、風車付きの制帽を被った古傷だらけの男でナミにとっては父親に近いといえる関係のゲンゾウ。そして、カチューシャをし、左腕に大きなタトゥーのあるナミの義姉、ノジコ。

 

 二人は自分たちより特にナミがアーロンより解放された事を喜んでいた。

 

 更に当然だが子供から老人まで次々にルフィ達へと感謝、あるいは崇めるかのような態度と言葉を伝える。

 

「どういたしまして。これからは思う存分、平穏な時を過ごしてくれ。それだけでおれたちにとっては十分な報酬だ」

 

「……なんて少年だ」

 

 ルフィの本心、それが込められた誠実な言葉にゲンゾウは感嘆の声を漏らす。

 

 

 

「へぇ……ねぇ、ナミ……」

 

 そして、ノジコはルフィから近い位置に居たナミに接近して何事かを呟く。

 

「っ!? もう、ノジコ!!」

 

「へへっ」

 

 ナミは顔を赤くし、詰め寄ろうとしたのをノジコは口から舌を出しつつ、素早く躱した。

 

 

 

 

「さぁさぁ、ルフィ君たちのお蔭で取り戻された平和、思う存分噛み締めよう皆。宴だぁぁぁぁっ!!」

 

『オオオオオッ!!』

 

 ゲンゾウの言葉に村人たちは賛成の声を上げたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 来る日も来る日もココヤシ村の住人は宴を、祭りを開催した。アーロンによって支配された日からずっと手に入れようとし、願っていた平和、平穏、自由……それらがようやく手に入ったのだ。これを祝わずにいられようか。

 

「それにしてもまさか、ルフィが海軍の中将の孫だったなんて……」

 

 海軍を大勢引き連れた上、海軍の者たちにとっての英雄、ガープ中将の孫であるルフィはだからこそ敬意を持って接しられていた。まあ、ルフィが数々の賞金首になっている海賊を海軍に引き渡した事や海軍にとっての不穏分子と言っても良いモーガン大佐、ネズミ大佐の対処をした事も要因であるのだが……。

 

 なのでルフィも改めて仲間たちに自分の身の上を話したのだ。

 

「爺ちゃんは爺ちゃんで、おれはおれだ……今回は爺ちゃんの偉大さが改めて分かったよ」

 

 何日目かの夜、ココヤシ村にあるナミの義母、ベルメールの墓の前へとナミによって連れられたルフィは話をしていた。彼はガープも超えようとしているが、今回は彼の地位に甘えてしまった。

 

 

 ネズミ大佐を襲った場合、万が一にでもしくじれば賞金首にされ、仲間たちに迷惑がかかる場合や失敗したその後、アーロンが居なくなった事でココヤシ村になにがしか、横暴を働く恐れがあった。

 

 何より、ルフィが行く前にネズミはナミが隠し、蓄えていたアーロンとの取引のための金を奪おうとしていたが……。

 

 

 

 人が築いた地位を利用するのはルフィにとってはやりたくない事ではあるが、それでも必要があるなら、自分の気持ちを押し殺す決意もある。

 

 そして、今回はそういう時だった。

 

 

 

 

「私は十分、ルフィも偉大な人だと思うわ」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ。だが、おれ自身はまだまだ未熟だと思っている」

 

 ナミの言葉に笑みを浮かべたルフィは次の瞬間には向上の意思を秘めた表情となった。

 

 

 

「未熟って……どれだけの偉大さを求めてるのよ」

 

「いけるところまでだ」

 

 苦笑しながら言う自分の言葉にやはり、真剣な表情で言うルフィ。自分には厳しいのに他者にはすさまじく優しい彼にナミは救われた。許されるべきでない事を、彼を裏切るような真似をしたのに許してもくれた。

 

「(ベルメールさん。私、この人のために生きるね)」

 

 ナミは今後、ルフィと共に生きる事を自分に誓い、ベルメールへと告げる。

 

 今までアーロンによって支配されいやいや服従していた彼女であるが、今度は自ら、ルフィの力になりたいと思っているし、自分を捧げようと決めた。

 

 口に出しては言えないし、現金で自分勝手とは思うが恋心も抱いてしまっている。

 

 

 

 

「なら、最後まで見届けてあげるわ」

 

「そうか。なら、よろしく頼む」

 

 ナミの言葉にルフィは頭を下げる。彼はナミとこうして話をする前、彼女の父親代わりであるゲンゾウと酒を飲み交わしながら誓った事がある。

 

『ナミの笑顔を奪うような事をするな』と破れば、ゲンゾウ自身が殺しにいくとも……無論、そんな事はしないとゲンゾウは確信してはいたが、それでも誓いをする必要はあった。

 

 その言葉に『承知した。絶対に誓いは守る』とルフィは告げ、意思もゲンゾウへと伝えたのである。

 

 

 

「こちらこそ、よろしくねルフィ」

 

 ナミは笑顔を浮かべ、次にどちらともなく手を差し出し握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 翌日、ココヤシ村の港にて……。

 

『では兄貴たち、お世話になりました!!』

 

 ジョニーとヨサクは賞金稼ぎに戻るとルフィ達と別れた。

 

 

 

 

 

 「じゃあね、皆。行って来る!!」

 

 

 そして、ナミは村人に見送られる中、ルフィ達と共に旅へと出たのであった……。

 

 

 



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十二旅

 

 

 ナミを仲間とし、彼女の故郷であるココヤシ村を出港したルフィ達が目指すのは『偉大なる航路(グランドライン)』である。

 

 そして、グランドラインの近くには《始まりと終わりの町》と呼ばれる『ローグタウン』が存在する島があった。

 

 世界を変え、大海賊時代の幕を開いた者、海賊王と呼ばれているゴールド・ロジャー。

 

 

 

 彼が生まれ、処刑されたのが『ローグタウン』だからである。

 

 

 

 

 

 現在、ルフィ達はそのローグタウンにてグランドラインに入るため、そしてグランドラインを超えた先にある島国への旅に備えて資材や食材、医療用具に生活用品など必要な物の調達を主用とし、後はそれぞれ自由行動のために分散して町を巡り始めるのだった……。

 

「あれが、ゴールド・ロジャーが処刑された死刑台か」

 

 ルフィは買い物を済ませつつ、立ち寄った場所で一点を見つめていた。その視線の先にあるのは死刑台、上から彼の処刑を眺める者らに向かって笑顔を向けつつ、『探してみろ、この世の全てをそこに置いてきた』と【ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)】の存在を知らせ、世界の者達へ海に旅立つよう、促した。

 

 一体、何を思ってそんな事をしたのか……それはロジャー本人にしか分からない事である。

 

「さて、行くか」

 

 死刑台を見、ロジャーの生まれや最後などを記録した資料館を訪れたルフィは当時の様子、それに伴うロジャー本人の気持ちなどを考える事を楽しんだ。

 

 答えが出る訳は無いのだが、考えるだけというのも時には良いものではある。だから、満足げに町を歩くのを再開した。

 

 

「君はもしかして、ルフィ君かい?」

 

 町を歩いていると警邏中らしき海軍の一人に声をかけられた。

 

 

 

「ああ、そうだけど」

 

 ルフィがそう答えると……。

 

「確か、最近噂になっているガープ中将の孫の……俺は大佐のスモーカーだ。部下が呼び止めちまって悪りぃな」

 

 白髪のオールバックに荒い顔つき、口に二本の葉巻を咥えていて、裸の上半身にそのままジャケットを羽織り、背中には大きな十手を背負っている男が部下と話していたルフィに近づき、会釈してきた。

 

「いや、気にはしないでくれ。仕事お疲れさん」

 

 ルフィはスモーカーと彼の部下たちに敬礼してみせた。

 

「おう、ありがとよ。こっちこそ色々と世話になってるみたいで面目ねぇ」

 

 実際、モーガン大佐の件とネズミ大佐の件をルフィが対処した事は海軍にとっては感謝すべき事であり、さらに東の海で名を馳せていたキャプテン・クロ、首領・クリーク、魚人のアーロンを倒しその身柄を引き渡してもらった事にも感謝していた。

 

 

 

「別に良いって……そろそろ、町巡りの続きをさせてもらって良いか?」

 

「存分にやってくれ。おれがいるこの町ではお前の手を煩わせはしねぇよ」

 

「そのようだ」

 

 苦笑しつつ、スモーカーへと別れを告げると彼も応じてそれぞれ、別方向へと向かったのであった。

 

 

 

 そして、ルフィは少し進んでいると……。

 

「さっきから、視線を感じるな」

 

 そして、町を歩いていると何処かから自分に向かって視線を向けている者の存在を感じた。なのでそれを探る為、目立たない様に路地裏へと入る。

 

「おれに何か用か……ってあんたはっ!?」

 

 視線を向けてきた人物を確認するとルフィは驚く。祖父の話や配られた手配書、新聞でしか情報を得られなかった存在がこの場に居たからだ。

 

「初めましてだな。息子よ」

 

 男はフードを被って顔を人目に晒さないようにしており、身体も外套で隠してはいる。ルフィも近づいたことで顔の左側にある特徴的なタトゥーが見え、それによって正体が分かったその男は革命軍すべての黒幕と呼ばれ、世界最悪の犯罪者として手配もされている『モンキー・D・ドラゴン』であり、ガープの息子であり、ルフィの父親である男だ。

 

 

 

 

「本当にな……せめて幼少のときに一回は顔見せしてほしかったよ」

 

「申し訳ないとは思っている。だが、いつかはこうして会えるとは思っていたぞ」

 

「おれもだよ。今、世界を旅してるんだ」

 

「そうか、ならお前の旅が実り多きものになる事を願っていよう」

 

「どうも。それじゃあ、又どこかで会えたら……」

 

「ああ。配慮に感謝する」

 

 初めて会った自分の父との会話にしては何とも言えない微妙なものであるが、ドラゴンからは時間はあまり無いといったような意思も感じたのでそれを尊重した。別に生きてさえいれば巡り合う事はある筈だと直感したのもある。

 

 とにかく、こうしてルフィは実の父親と別れた。

 

 

 

 

「ふふ、ルフィ。此処なら会えると信じていたよ」

 

「ん、お前は……」

 

 そろそろメリー号へと戻ろうとした時、とある人物に出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ローグタウンの港、メリー号を止めてあるその場所にて……。

 

「という訳で仲間に加わる事になったアルビダだ。皆、よろしくしてやってくれ」

 

 ルフィは傍にいる黒い長髪に美しく成熟した容姿を有する女性を紹介する。その女性とは『スベスベの実』を食べた事でいかなる物の接触をスベらせる身体を手に入れたアルビダであった。

 

 凄まじい変貌をしたが、それは実の副作用である。彼女はルフィと別れてから、海賊も辞めてルフィの傍に居るための努力をしながら出会える時を待っていたのだという。

 

 

 

「突然ですまないけど、精一杯ルフィ、それにルフィの仲間たちであるあんたたちの力になるよう頑張るからよろしく頼むよ」

 

「ああ」

 

「歓迎しまーす。アルビダ様ー」

 

 ゾロは頷き、サンジは上機嫌となった上に目をハートにもして喜んだ。

 

「こんなすっげぇ美人と知り合ってたなんて流石だな、ルフィ」

 

「まぁな」

 

 ウソップもアルビダを歓迎しつつ、ルフィへと言葉をかける。アルビダの事を紹介する際、前の姿の事は言ってないが言ったところで信じないだろうという判断によるものだ。

 

 というよりルフィも若干、驚いている。恐れるべきはスベスベの実を食べる事が出来たアルビダの意思や強運と言ったところか……。

 

「まぁ、女の勝負では別だけどね」

 

「むっ……」

 

 ナミもアルビダを歓迎はしたが、彼女の挑戦的な視線に応じて火花を散らす。

 

 ともかく、こうして更に仲間を一人、増やしたルフィ一行は嵐の接近を感じたナミの意見もあってグランドラインへと早々に向かったのであった……。

 

 

 

 




 Q バギーは?
 
 A バギーはルフィの姿を見かけ、驚きながら関わらないようにしてました。後、スモーカーがルフィとの接触からちょっと気合、入れて警邏してたのもあります。

 Qスモーカー、友好的だね。

 Aそもそも、海賊やってないので敵対する理由は無い。

 海軍からすれば英雄であるガープの孫で今まで色々と恩をルフィからこの作品の海軍は受けていますので、これくらいは友好的になるかなと……それにスモーカー、子供に対しては優しいっぽいですし。


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偉大なる航路編
十三旅


 グランドラインの手前には『導きの灯』と呼ばれる島の灯台があり、それは目印ともなっていた。だからこその『導きの灯』である。そして、グランドラインの入口は【赤い土の大陸(リヴァース・マウンテン)】にあった。

 

 しかし、気を付けなければ無風の海域たる【凪の帯(カームベルト)】に入ってしまう。そうなればその海域を巣としている巨大な海洋生物が海王類の群れに遭遇してしまう事になるのだ。

 

 しかし、ルフィ一行はナミの優れた航海術とルフィのために調べていたアルビダの知恵と船長を務めていた事で熟練している操舵術によって難なく、リヴァース・マウンテンへと近づけた。

 

 リヴァース・マウンテンには四つの海の大きな海流が全て向かっており、運河をかけ登って頂上へぶつかり、グランドラインへ流れ出る。運河に入りさえすればグランドラインに船は辿り着けるのだ。

 

 

 

 だが、冬島であるリヴァース・マウンテンでぶつかった海流は表層から深層へ潜る。誤って運河に入りそこなえば船は大破し、海の藻屑となるので優れた操舵士は必要だ。

 

「任せるぞ、アルビダ」

 

「あいよ。しかし、良い船だねメリー号(この子)は」

 

 リヴァース・マウンテンの運河には鳥居のような物があり、激しい海流が山を登っている。

 

 ルフィが船の操舵をしているアルビダに声をかけると彼女は頷き、メリー号の性能を褒めた。彼女にとっては操りやすい船のようだ。

 

 

 

 

『いっけえええっ!!』

 

 運河を通る事でメリー号は山を登り、そしていよいよグランドラインへと降りていく。

 

 

 

 

「アルビダ、とり舵いっぱいだ。この先に巨大な生物がいるぞっ!!」

 

『ブオオオ』と一瞬、風にも聞こえる大音の中、何があるか分からないので生命感知に生命エネルギーを目に巡らせての視界強化、見聞色の覇気で最大限警戒していたルフィがアルビダに指示を出す。

 

「本当だ。鯨じゃねえかっ!?」

 

「山のようにでかいぞ」

 

「なんなのよ、あれは……」

 

「海王類の亜種じゃねえのか」

 

 ゾロたちは、頭部には幾多もの深い傷が刻まれた巨大すぎる鯨に驚愕した。

 

 

 

 

「皆、しっかり踏ん張りなよっ!!」

 

 咆哮を上げる鯨をアルビダは上手く避けてみせた。

 

『ブオオオッ!!』

 

 回避している間に鯨は耳が痛くなる程の咆哮を上げる。

 

「何が悲しいんだ、お前は……」

 

 ルフィはその咆哮に嘆きが籠っているのを感じ取った。

 

 

 

「激しい航海だったからな。一応、あそこの岬に船をつけて状態を確認しよう。気持ちの切り替えもいるだろうから、休憩も兼ねようか」

 

 ルフィの言葉に皆は賛成してメリー号は岬に停められる。そして、ルフィは『あの鯨が気になるから』と海の上を走る事で鯨に向かって行った。

 

 

 

 

 

「む、なんで扉が……」

 

 鯨の背の上に跳躍する事で着地すれば、何故か中に入るための扉が存在した。取りあえず、開けて中に入ると……。

 

 

 

「良いか、今度こそこの鯨を狩るぞ」

 

「ええ、邪魔な爺も始末してしまいましょう」

 

 鯨の中は、生物であるのに通路や扉があった。そしてルフィより先に二人の先客、それぞれ武器を持った王冠を被っている男と蒼い長髪を後ろに結った露出的な格好の女性がいた。

 

「悪事は止めろ」

 

「うぐっ!!」

 

「かっ!!」

 

 鯨の中に入ったルフィは二人の背後から接近し、そのまま背中を指で突きつつ、生命エネルギーを伝導させる事で干渉、身体の動きを封じ、意識を奪った。

 

「この先には何があるのかな」

 

 二人を背負いながら、通路の奥の扉を開けて進むと……。

 

 

 

 

 

 鯨の体内、胃酸と思われる海に浮かんでいる小島があり、小屋も存在した。住んでいる人物は老人の男、ヤシの木の葉が重なったような独特な髪型をしている。

 

「おれはルフィ。グランドラインを旅しようとしている者だ。この二人は鯨を狩ろうとしていたぞ。あんたも始末するつもりのようだった」

 

「相変わらず、懲りんなこいつらは……私はクロッカス。この鯨、ラブーンのいる双子岬の灯台守をやっている者だ」

 

 クロッカスによれば鯨の種類はアイランドクジラ、名前はラブーン。海賊が連れてきたのだが岬より先の航海は危険になると岬へ預けられたとの事だ。

 

 二、三年後に迎えに戻るとラブーンを預けた海賊たちは誓ったが、もう五十年は経過しているとの事だ。つまり、もうその海賊たちは……。

 

 そして、ラブーンは二、三年が過ぎると仲間に自分なりに伝えようとしてかリヴァース・マウンテンへの登り口、壁になる場所へと身体をぶつける、自傷行為を行うようになってしまったとの事だ。

 

 そんなラブーンの治療をするために医者の経験のあるクロッカスはラブーンの体内へと入れるように施術をしたとも説明してくれた。

 

 

 

 そして、ルフィが気絶させている男女は近くの町のゴロツキで時折、別々にラブーンの捕鯨を狙ってやってくるのだとか……。

 

「自傷行為を始めたようだぞ」

 

「もう、鎮静剤も効かなくなってきているよ」

 

 一旦、振動が発生した事でルフィは言い、クロッカスは痛ましげな表情を浮かべつつ、この場を離れた。

 

 

 そして、戻ってくるとルフィと共にラブーンの体内より外を出た。

 

「この二人については後だ」

 

 メリー号の停まっている岬の陸地へと移動したルフィはクロッカスやラブーン、捕らえた男女の事を手短に仲間へと説明しつつ、男女に関しては縄で拘束しておいた。

 

 

 

「ラブーン、お前は賢いようだな」

 

 ルフィは鎮静剤の効果で一時的に大人しくなっているラブーンへと近づくと手で触れつつ、生命エネルギーを送る事でヒーリングを行った。

 

「オゥゥゥ」

 

「本当は分かってるんだろう。お前の仲間たちが死んでいる事は……それが悔しいし、悲しい。つらい気持ちを発散できずにいるんだろう?」

 

「オォォォン」

 

 ルフィがラブーンの身体を優しく撫でつつ、語り掛けるとラブーンは悲し気な声を出した。

 

 

 

「だがな、ラブーン。辛くても時には受け入れるしかない時もあるんだ。出会いもあれば、別れもある。永遠なんてものは存在しないんだ」

 

「オォォォッ!!」

 

 現実を突き付けるように語れば強くラブーンは反応を示す。それはルフィはヒーリングによって抑えつけた。

 

 

 

「聞いてくれ、ラブーン。お前はまだ、全てを失った訳じゃない。思い出せ、長年、お前の傍にはクロッカスさんがいただろう。彼はお前の事を常に気にかけているぞ」

 

「ゥゥゥゥ……」

 

「お前が死なない様に長年治療してきたのも彼だ。これ以上、彼を悲しませるような事をするな。彼だってお前にとっては掛け替えの無い仲間じゃないのか」

 

 ラブーンはルフィの誘導に応じ、クロッカスの方を見る。

 

「ラブーン……頼む」

 

「……」

 

 クロッカスはラブーンに対して深く頭を下げる。ラブーンはこれまでの事を思い返したようで表情が変わった。それは何かを理解し、噛み締めたものだ。

 

 

 

「良い子だ。おれも今は旅しているし、誓う事は出来ないがお前の事は気に留めておこう。機会があれば、お前に会いに来るよ」

 

「オゥン」

 

 ルフィの言葉にラブーンは了解の声を出す。

 

「なら、これでおれとお前は友達だ。よろしくな」

 

「オォォォォンッ!!」

 

 ルフィが言うと嬉しさ全開にラブーンは咆哮を上げる。

 

 

 

「ありがとう、ルフィ君」

 

「どういたしまして。ただ、クロッカスさんの尽力があったから出来た事でおれはただ、ラブーンにあんたとの絆を確認させただけの事だ」

 

 クロッカスの礼にルフィはそう言って苦笑した。次に彼はラブーンを狩ろうとした男女の元へと向かい……。

 



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十四旅

 

 グランドラインの入り口と言っていいリヴァース・マウンテンを抜けると必ず双子岬に辿り着く。

 

 其処の灯台守をやっているのはクロッカスという七十代の老人であり、彼は長年、とある海賊団より預けられた【西の海(ウエストブルー)】にのみ生息する巨大な鯨たるアイランドクジラのラブーンの世話もしていた。

 

 

 

「た、頼む。せめて社長(ボス)に連絡だけでもさせてくれっ!!」

「このままだと私達だけじゃなく、貴方達も殺されることになるわよっ!!」

 

 そんなラブーンを狩ろうとしていた王冠を被った男、Mr.9とその相方の女、ミス・ウェンズデーはルフィによって捕らわれていた。

 

 気絶させた状態からルフィが起こし、話を聞いてみると自分たちが所属する組織は、二人の名前が明らかなコードネームである様に、秘密主義で情報を少しでも漏らせば殺されるし、任務を失敗しても殺されるという過酷な組織であるという。

 

 更に任務については時間が決められており、逐一、報告をしなければ失敗したとみなされるそうだ。

 

 

 

 

 その話を聞いてゾロが「何かそんな感じの話を聞いたような……」と訝しがっていたが……。

 

「丁度、お前たちを始末しに空からやってきたようだぞ」

 

 

 

 ルフィはそう言って、一瞬の間に空へと蹴り上がるとそのまま、空を足場の如く蹴って移動した。

 

 しかし、これは何の特殊能力などでは無くれっきとしたこの世界に存在する武術の一つ、世界政府やそれに属する海軍などに伝わる『六式』の中の『月歩(ゲッポウ)』という空を移動する技だ。

 

 

 ルフィは六式をガープより教わり、基礎を元に改良を重ねてもいる。

 

 

 

『でぇぇぇぇっ、空飛んだぁぁぁぁっ!?』

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーは飛び上がったルフィへ両目を飛び出させ、口を大きく開け、舌を伸ばして仰天する。

 

 

 

 

「ルフィは今日も平常運転ね」

 

「海だけじゃなく空も移動するなんて、どこまで底が知れないんだろうね。それでこそ、アタシが見込んだ男だよ」

 

「あいつには不可能が無さそうだな」

 

「脚力が重要そうだし、やり方だけでも教えてもらうか」

 

「まだまだ、先にいるんだな」

 

 ナミはもう、ルフィに関しては超人以上の何かだと思う事にしてそれが当たり前だとすることにした。一々、驚いていては身が持たないからである。

 

 アルビダは底が知れないルフィをだからこそ、自分が惚れた男だと再度、認識した。

 

 ウソップはナミと同じようなものだが、精神性だけでもルフィのような男になろうとはしている。向上心は消えていないのだ。

 

 サンジはルフィの月歩は自分でもいずれ出来そうな気がしたので、教わる事にする。

 

 ゾロはルフィの追い着く事を許さないようにしているかという程の実力差をだからこそ、良しとしてさらに強くなる事を誓う。

 

 因みに旅にて宿泊している時などルフィとゾロは何度か手合わせしており、それを参考にゾロは着実と実力を上げている。

 

 

 

「ふふ、とんでもない若者がいたものだな」

 

「ブオゥッ!」

 

 クロッカスは感心したようにラブーンへと言い、ラブーンは満足げに頷いた。

 

 

 そして、Mr.9とミス・ウェンズデーを始末しに空を移動した存在、それは一見すると寝間着のようなものを着たサングラスをかけたラッコがMr.13、それを背に乗せたパイロット帽にゴーグルをしたハゲタカがミス・フライデーの二匹である。

 

 

 

「これは……凄い組み合わせだな、お前たち」

 

『!?』

 

 ルフィが繋がりの無い二匹に戸惑いながら言葉をかければ、人間が空に現れるという奇想天外な事態に直面したアンラッキーズはサングラスにゴーグルを割る程に両目を飛び出させ、口を大きく開け、舌を伸ばして仰天した。

 

 

 

「お前たちは、下の二人を始末しにやってきたんだよな?」

 

 両足で常に空を踏む反動で浮遊しているルフィはアンラッキーズに対し、確認のための質問をする。それにアンラッキーズは戸惑いながらも頷いた。

 

 因みにアンラッキーズの方はミス・フライデーが羽ばたく事で浮遊していた。

 

 

 

「悪いが何も無かったって事で退いてくれないか? 断るならお前たちを始末して食料にさせてもらう事になる。オレには良い腕のコックが居てな。ハゲタカは勿論の事、ラッコは珍味として良い料理をしてくれそうだ」

 

 

「〜〜」

 

 ルフィは軽い闘志を浴びせながら脅した。動物が故に本能、危機を感じ取る能力が高い二匹はそれによってルフィは脅しを本気で実行する男である事を悟ったし、自分たちが到底敵わない事を悟ると震えながらも強く頷いて去って行ったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 アンラッキーズを退却させたルフィは地面にいるMr.9とウェンズデーの元に戻ると……。

 

「貴方様は私たちの命の恩人です。我が村にて恩返しさせてください」

 

「お願いします、是非とも恩返しさせてください」

 

 二人はルフィに土下座して言ったのだった……。

 

 

 

 

『(いや、どう見ても、考えても裏がありすぎるだろ……)』

 

 ルフィだけでなく、ゾロにナミ、ウソップ、サンジ、アルビダ、クロッカスですら魂胆が見え見えの二人に呆れる。

 

「其処まで言うなら、受け入れさせてもらおう」

 

 ゾロたちにハンドサインで『敢えて飛び込む』と示し、『了解』と皆がハンドサインで反応したのを見て頷く。

 

 

 

「本当に良いのか、こんな奴らを受け入れて?」

 

「懇願までされちゃあ、無下にする訳にもいかないしな」

 

 クロッカスの問いにルフィは苦笑を浮かべて答えた。

 

 Mr.9とウェンズデーの二人が住むのはウイスキーピークという町であるそうだが……航路はこの場所でしか決められず、他の目的地を決めるのは大変だという。

 

 更にグランドラインの島々は鉱物を多く含んでいるので航路全域に磁気異常が発生しており、普通のコンパスは使えない。

 

 

 

「あいつにしては、変な物持ってると思ったら……」

 

「だから、ルフィのために確保してたんだけどね」

 

「まぁ予備があるなら、あるだけ良いだろ。何かの取引材料にもなるかもしれんしな」

 

 グランドラインを航海するためには【記録指針(ログポース)】という腕に巻く字盤のないコンパスが必要だ。

 

 なんと、ルフィ達は少し前、バギーを追い払った後で彼が蔵に入れていた物(多分スペア)とアルビダが確保していた物、ルフィも又、海軍から贈与された物で三つも所持していた。

 

 この妙なログポースとの縁にルフィ達は苦笑。

 

 

 

「どんだけ、持ってるんだお前らは……」とクロッカスは呆れた。

 

 まぁ、ともかくグランドラインを航海する事に問題は無い。そして……。

 

 

 

「じゃあな、クロッカスさん。ラブーン、出来る限りお前に再会できるようにするよ。その事だけ頭の片隅にでも置いといてくれ」

 

「ああ、それじゃあな」

 

「ブオオオオッ!!」

 

 ウイスキーピークを目指して旅立とうとする前にルフィに言葉をかけられたクロッカスは手を上げつつ、頷く。

 

 ラブーンは了解とばかりに咆哮を上げた。

 

 

 

「(ふふ、馬鹿な奴らだ)」

 

「(御免なさい……貴方達には恩もあるし、海賊じゃないから抵抗はあるけど、それでも私は組織に居なければならないの)」

 

 ルフィらを見つつ、Mr.9は自分の策が上手くいく事を確信しつつ、微笑む中……ミス・ウェンズデーは組織にとって脅威となりうる者たち、特にルフィの身を持って自分の所属する組織に返り咲こうとしていた。

 

 相棒ですら知らないとある使命が彼女にはあったからだ……。

 

「(さて、何が待つやら……)」

 

 ルフィは敢えて虎穴、あるいは火中と思われる場所に飛び込もうとしていた。

 

 Mr.9らの町にはおそらく彼らが所属する組織の手があるだろう。二人もだからこそ、自分たちを招こうとしている。

 

 ルフィたちを始末して失敗を取り消そうとしているのだろう。だが、そもそも二人だけでなく、アンラッキーズの二匹とも関わった。

 

 ならば『組織』の手は自分たちに向けられるのは確定だ。

 

 対処しない限りはそれが続く事は容易に考えられる。故にルフィはウイスキーピークへ向かう事にしたのであった……。

 

 

 

 

 



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十五旅

 

 

 謎の組織のエージェントであるMr.9とミス・ウェンズデーの懇願(裏がある事は承知の上で)によってルフィ一行は彼らが拠点としているらしい町、ウイスキーピークに向かって双子岬を出港した。

 

 それはグランドラインを通る事を意味し……。

 

「入るだけでも大変なのに、入った後も中々、過酷だな」

 

 グランドラインにおいては東西南北、四つの海と違って季節も天候もでたらめに巡っており、環境は常に激変する。

 

 晴天であったのに雪が降り、雷は鳴り響き、そうかと思えば春の暖かさあふれる環境に変わる、何もかもが常識外で対応するのが大変だ。

 

 

 

「そうね。ちょっとでも、ログポースから目を離せば進路が変わるんだもん。私の航海術が通用しないなんてショックだわ」

 

 ナミが言うように常にログポースによる導きを確認せねば目的地への進路を外れてしまう。だからこそ、ルフィ達はナミのナビゲートに従いつつ、常に最適な作業を行っていた。

 

「ふふ、これこそがグランドラインの洗礼だ」

 

「風も空も波も雲も何一つ、信用できない。信用できるのはログポースだけ?旅をするだけでも厳しいわよ」

 

 

 

 忙しなく働くルフィ達へ、Mr.9とミス・ウェンズデーは不敵に笑った。彼と彼女の船は小型船であるため、ウイスキーピークへの案内を兼ねて船はメリー号の横に巻き付けるようにして固定している。そのため、メリー号に乗っていたのだ。

 

「そこっ!! 止まってないで動けっ!!」

 

「こっちは別にお前たちを放り出しても良いんだからな」

 

『あ、はい……』

 

 ナミとルフィからの言葉に止めていた作業を再開した。

 

 

 

「これはこれで、退屈しないな」

 

「お前、それは皮肉か?」

 

「皮肉が言えるだけの知恵はあったんだな」

 

 ゾロが苦笑を浮かべて呟いた言葉にウソップとサンジが驚いた顔で意見を述べる。

 

「お前ら、斬り落とすぞ……」

 

「あんた達、やるなら状況がおちついてからにしな」

 

「というか、船の上でやるな」

 

『すんません』

 

 騒がしい三人に向かってアルビダとルフィが咎めると頭を下げる。

 

 常に右往左往しながらグランドラインからの洗礼に立ち向かう、ルフィ一行は……。

 

 

 

 

『ようやく、終わった』

 

 無事、厳しい状況を乗り越えた事で安堵の息を吐いた。現在、船は穏やかな天候にて穏やかな波に揺られつつ、進んでいる。

 

「ほら、皆。疲れの取れるスイーツだ」

 

 サンジが甘い焼き菓子にコーヒーやお茶などをセットで持ってきた。

 

 

 

 

「これは中々だな」

 

「ええ、本当に美味しいわ」

 

 焼き菓子の美味しさにMr.9とミス・ウェンズデーも素直な感想を言った。

 

 

 

 

「ありがとうございます。ミス・ウェンズデー」

 

 サンジはミス・ウェンズデーの感想にだけ礼儀正しい態度で礼を述べた。

 

「さて、このまま行けばウイスキーピークに辿り着くけど……」

 

 

 ナミがログポースの示す方角を確認しつつ、進むと巨大なサボテンが幾つも並ぶ島が見えた。

 

 

 

 

 

「あそこがウイスキーピークだ」

 

「私たちは先に行って、皆に貴方たちに受けた恩の事を説明するわ。きっと、もてなしてくれる筈だから合図するまで此処で待機してて」

 

 町が近づいてきた事でMr.9とウェンズデーは先に小型船で向かうと言い、メリー号より自分たちの船を下ろす。

 

「了解。期待させてもらうとしよう」

 

 ルフィが頷くと二人は一行よりも先にウイスキーピークに向かった。

 

「さて、方針について会議しようか」

 

 二人が居なくなったことで、ルフィ達はウイスキーピークにて襲撃してくるだろう連中に対処するための方針の会議を始めたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 ウイスキーピークの空に轟音が響いた。それが先行した二人からの合図だと確信し、ルフィ一行は町へと入った。

 

「ようこそ、旅人さんたちっ!!」

 

「此処は歓迎の町、ウイスキーピークだ」

 

「来客、万歳っ!!」

 

 などなど様々な歓迎の言葉をウイスキーピークに住まう人々は送った。

 

 

 

 

「何度かこういう事をやっているようだな連中は」

 

「で、油断した奴らをバッサリか」

 

「悪くは無いんじゃないか。グランドラインの過酷な環境を抜けてからだと、油断もするだろうし」

 

「ああ、美女もいっぱいいるからな」

 

「アンタなら即座にハニートラップに引っ掛かるね、サンジ。決めた方針は忘れないでくれよ?」

 

 目をハートに、鼻も少し伸ばしたサンジへアルビダは苦笑と共に忠告した。

 

「良いお宝があれば良いんだけど」

 

 ナミはそんな事をぼやく。取りあえずの方針としてルフィはウイスキーピークでのもてなしを受けることにした。様子を見つつ、向こうが仕掛けてきたらルフィとゾロが対応。遊撃としてサンジとアルビダが担当しつつ、支援はナミとウソップが担当という感じだ。

 

 

 

 

 

 備えはしつつ、いざ、ウイスキーピークに辿り着くと……。

 

「いらっ……オホン、マーマーマ~。いらっしゃい、私は町長のイガラッポイ。二人より話は聞いております」

 

 髪を左右に分け、幾つもロールしているイガラッポイという男がルフィ達へと近寄り挨拶した。

 

 この町は酒造と音楽の盛んな町で旅人に対してもてなす風習があるという。助けた二人の恩も兼ねて更に手厚くもてなすとイガラッポイは言い、ルフィ達は喜んで応じたのである。

 

 

 

 そして……料理や飲み物に毒が無い事を先じてルフィが確かめる。彼は生命エネルギーを巡らす事で毒物の浄化が可能であり、他者へも生命エネルギーを送る事でやはり、浄化が可能だ。

 

 それに修行にて何度も命の危機を体験したからか本来、脳の命令では動かせない髪や臓器は勿論の事、爪先や産毛まで完全に己の意思で操れる『生命帰還』も使える。

 

 胃や腸などを活発化して消化機能を増大する事により、幾ら食そうが、飲もうが即座に消化して有事に備えられるのである。

 

 

 

 

「うん、美味い」

 

 事前に決めていたハンドサインで『安全』と知らせつつ、その後はもてなしに気を良くする演技をルフィ一行は始めた。

 

「ふふ、ほらルフィ。まだまだいけるだろう?」

 

「こっちの料理も美味しいわよ」

 

 ルフィの左右にアルビダとナミが寄り添い、アルビダは酒をルフィへと注ぎ、ナミは料理をルフィの方へと運んだ。

 

「ありがとうな、二人とも」

 

 ルフィは二人からの好意に感謝する。更にアルビダの大胆な寄り添いとナミの少し恥ずかしがるような寄り添いを受けた。

 

 

 

「てめぇ、ルフィ。何てうらやま……けしからんことをっ!!」

 

「お前、その状況でそんな言葉、良く言えるな……」

 

「今のお前にはそういう言葉、使う資格無いと思うぞ」

 

 当然というか、何と言うかサンジが嫉妬の炎を上げつつルフィへと抗議したものの、今の彼はウイスキーピークの美女らを二十人ほど、侍らせているような状況である。

 

 

 

 

 ゾロとウソップは「(本当に会議の事、覚えてるのか?)」と不安になりつつ、呆れた。

 

「どうですかな、我が町は?」

 

「月並みの事しか言えないが、良い町だと思う。この町を案内してくれた二人の姿は見えないが」

 

「はは……ゴホン。マーマーマ~、二人はまた仕事に行っています。色々と大変なのですよ」

 

 少し図星を突かれたような表情をしたものの、ルフィに近づいてきたイガラッポイは悟られないための苦笑を浮かべて答えを返した。

 

 

 

「みたいだな……しかし、与えた恩にしてはでかいもてなしをされちまった。だから、又返させてもらうよ。あんた、何か大きな使命を抱えてるようだが何なら、力を貸すぞ」

 

「っ!? い……いえいえ、何を言うんですかルフィさん。私はただの町長、使命なんか、そんな大げさな物はありませんよ」

 

 ルフィの言葉に大きな驚愕をしつつも、なんとか、苦笑のそれへと変えて焦りも残した言葉を発した。

 

「そう言うなら、それでも良い。だが、おれが言った事は本気だ。覚えておいてくれ」

 

「ふふ。気持ちはありがたく受け取っておきます。どうやら、ルフィさんは素晴らしい善人だという事は分かりました」

 

「ええ、ルフィは本当にこれこそ善人ってくらいの善人よ」

 

「この世界じゃ一番って言っても過言じゃないさ」

 

 イガラッポイへナミとアルビダが補足する。

 

「だからこそ、自慢の団長だ」

 

「憧れでもあるしな」

 

「おれたちにとっての誇りさ」

 

 ゾロにウソップ、サンジも又、ルフィの事を讃えた。

 

「ふふ、慕われていますな」

 

「ああ。嬉しい事にな」

 

 こうして、もてなしを受け続けたルフィ達はそのまま、眠りについたのであった(無論、演技であるが)……。

 

 

 

 

 

 ルフィ達が眠った事でイガラッポイは外へと出た。

 

 

 

「すまない、素晴らしき旅人たちよ。せめて良い夢を見てくれ」

 

 申し訳ないと語るかのような表情で呟く。

 

「良い奴らなんだよな」

 

「海賊なら、罪悪感も無いんだけど」

 

 イガラッポイの後ろにはMr.9とウェンズデーの二人が居た。実はイガラッポイは二人と同じ組織に所属するエージェント、Mr.8であった。

 

 

 

 この町に住むのは、正体も居場所も謎のボスからの指令に従う犯罪組織が【バロックワークス】に所属するエージェントたちである。

 

「まったくだよ。本当にあいつらが私たちの邪魔を?」

 

 がっしりとした体格を持つ大女、ミス・マンデーが現れて問いかけた。

 

「それは確かだ」

 

「恩を受けたのも事実よ。でも、脅威になるだけの実力はあるわ。特にルフィという男には……」

 

 Mr.9たちが答える。表情と言葉には後悔も見えていた。何故ならここまでの航海中、ルフィ一行が悪い奴らでは無い事は十分に理解させられ、更には居心地の良い航海を楽しませられたからである。

 

 

 

「ならば、仕方ない。我が社は非情だ、ボスのために働くのみだ」

 

 そして、眠らせたルフィ達を襲撃しようと他のエージェントも集合させたが……。

 

 

 

 

「一度だけ言う。おれたちに争うつもりは無い」

 

「やるってんなら相手になるけどな」

 

 ルフィとゾロが堂々と眠っていたはずの建物から出て、ルフィが闘気を軽く漂わせ、ゾロも刀を構える。

 

『っ!?』

 

 ただ、威嚇しただけのそれに全エージェントが動けなくなった。二人に挑めば打ちのめされるだけの未来しか想像出来なかったからである。

 

「イガラッポイさん、どうかおれたちに挑まないでくれ」

 

 念押しの言葉にMr.8は頷くしか出来ない。

 

 

 

「ん、新手だ……二つは覚えがあるが、もう二つは無い。しかも、悪魔の実の能力者だな」

 

 気配感知、見聞色の覇気によってルフィは新手が接近している事を察知した。因みに悪魔の実の能力者の特徴として、生命エネルギーは燃え盛る様に巡っているというのがある。

 

 

 身体を常人のそれとは異なる体質などに作り替えるためだろう……。

 

 

 

「話は後だ、待機していろ。良いな?」

 

 Mr.8に命令しつつ、ルフィはゾロと共に新手、悪魔の実の能力者の元へと向かった。

 

 

 

 

「ったく、なんでおれたちが面倒な事を……」

 

「まったくよね」

 

 身を隠しながら、ルフィは悪魔の実の能力者の二人の男女を観察する。

 

 男の方はチリチリになっているような髪型でサングラスをかけており、数字の5が幾つか書かれたコートを着ている。

 

 この男はMr.5であった。

 

 女は日傘を持っていて、帽子を被りレモンの柄のワンピースを着ている。

 

 Mr.5のパートナーであるミス・バレンタインだ。

 

 

 

 

「どうやら、複雑な事態になってきたようだ」

 

 見聞色の覇気によって、Mr.5たちの意思を読み取る事で、ある事態が起きている事をルフィは把握した。

 

「ゾロ、あの二人を任せて良いか?」

 

「当然っ!!」

 

 ルフィの言葉にゾロは頷き、Mr.5達へと姿を現した。ルフィも又、ゾロが答えたと同時に姿を消しており……。

 

 

 

 

「仕事熱心で何よりだ。お前たちは素晴らしい忠ラッコに忠ハゲタカだな」

 

『!?』

 

 Mr.5らとゾロの戦いを観察していたアンラッキーズの背後からルフィは呼びかけ、二匹は大きく震え上がって驚愕した。

 

「一日と経たず、出会うなんていう奇妙な縁を祝してお互い、何も起きなかったって事で此処は手を打たないか?」

 

 気軽に提案しつつも闘気は巡らせるルフィに対し、密偵などそういった仕事に誇りを持つ自分たちが簡単に背後を取られた事で二匹は更なる実力差を悟り、パートナー同士、顔を見合わせるとこの場より去って行ったのだった……。

 

 

 

 

 

そして、Mr.5とバレンタインの方もゾロが軽く一蹴して気絶させたので、後はルフィが生体エネルギーによる干渉で二人の生命エネルギーの巡りを激しく乱す。

 

 こうする事で長い時間、脱力状態、行動不能となるのである。

 

 そして、二人を背負ってMr.8らの元へ戻った。

 

「この二人の標的はウェンズデーとイガラッポイさんだ。詳しい話を聞かせてくれないか?」

 

「……分かりました。全てをお話ししましょう」

 

 

 イガラッポイは少し、考えたのち頷くのだった……。

 

 

 

 




 アンラッキーズは可愛い(比率としてはラッコが99.9%、ハゲタカは00.1%)


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十六旅

 グランドラインにあるサンディ(アイランド)に築かれた砂の王国であり、世界政府の加盟国ことアラバスタ王国。

 

 その土地の多くは砂の王国と呼ばれる通り、砂漠で占められてはいるがグランドラインでも有数の文明大国とされ、人口は一千万人に至る。

 

 統治もしっかりとしていて平和な国であったのだが、ここ数年、突如として民衆の間に革命の動きが現れ、現在のアラバスタは民衆による暴動によって、乱れていた。

 

 この状況を調査していたアラバスタ王国の護衛隊長と彼からの報告を聞いた王女の二人は民衆に革命をするよう促した元凶である組織、バロックワークスへと潜入する事にしたのだ。

 

 

 

 

 自分たちの王国を脅かす黒幕と目的を知るために……。

 

 

 

 そして、バロックワークスに潜入したアラバスタ王国の護衛隊長と王女の二人というのが……。

 

「……以上が、私たちの事情になります。よもや、潜入がバレていたとは思っていませんでしたが」

 

 そう、ウイスキーピークの町長がイガラッポイ、エージェントとしての名前はMr.8であり、真の正体はアラバスタ王国の護衛隊長、イガラムがルフィ一行と『パートナーとして聞く権利がある』として説明を求めたMr.8のパートナーであったミス・マンデーにミス・ウェンズデーのパートナーであるMr.9にも事情を話した。

 

 

 

 

「道理で私達とは毛色が違うと思ったはずだよ」

 

「まさか、お前が王女だったなんて……」

 

 イガラムの話にミス・マンデーは納得したような表情をし、ミス・ウェンズデーとして潜入していたアラバスタ王国の王女、ネフェルタリ・ビビに対してMr9.は信じられないといったような表情で呟いた。

 

 

 

「騙して御免なさい、Mr.9」

 

 ビビは顔を伏せつつ、謝った。

 

「……それで、黒幕は掴んでいるのか? 話してくれれば、おれの祖父は海軍の中将だから力になれるぞ。それに正体がばれ、抹殺指令も出た今となってはアラバスタ王国へと戻らなければならないだろうから、それまでの護衛も請け負わせてもらう」

 

 

 話を聞いたルフィはイガラムへと問いかけた。

 

 

 

「な、なんと……ありがたい。しかし、事情があったとはいえ私たちは……」

 

「ルフィさんたちを殺そうと……」

 

 ルフィからのありがたい申し出にイガラムは正に助け舟と喜び、ビビも喜んだもののどちらも元々はルフィ達を犠牲にしようとしていた手前、自責の念にかられてしまう。

 

「結果論だが、こうして生きているしそれはそれで、これはこれだ……もてなしてもらった恩は返すと言っただろ」

 

「……ルフィさん」

 

「なんと、なんと素晴らしい若者だ」

 

「正に聖人ってやつだね」

 

「お、おれたちとは器が違いすぎる」

 

 ビビにイガラム、Mr.9とミス・マンデーもルフィの高潔で寛容、慈悲深いとも言うべき精神に感服した。

 

 

「流石だ」

 

「度の過ぎた救いたがりよね、本当」

 

「でも、ルフィはこうじゃなきゃな」

 

「同感だ」

 

「同じくだよ」

 

 自分たちの団長ならばイガラムとビビに協力すると分かっていたゾロにナミ、ウソップ、サンジ、アルビダは頷き合った。

 

 因みにだがウソップの腰にはサウスブルーの新型銃、フリントロック式44口径6連発リボルバーが納められているホルスターがあった。

 

 これは現在、部屋の隅で行動不能状態となっているMr.5の懐よりルフィが奪い、ウソップに与えた物だ。

 

 

 無論、予備弾薬も含めてである。

 

 

 

「それで、お前たち二人はどうするんだ?」

 

 Mr.9とミス・マンデーにルフィが尋ねる。イガラムとビビという組織への潜入者に対して、どう行動するかを……。

 

「王女だったとはいえ、長い間行動を共にしていたんだ。協力するよ、おれに出来る事があるならな」

 

「あたしも同じだよ。組織より友達の方が大事さ」

 

 ルフィの問いに二人は迷いなく答え、それにビビもイガラムも深い感謝を示す。

 

「そういう事なら、良い策があるぞ」

 

 二人の答えを聞くとルフィは自分の考えを皆に説明したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウイスキーピークより、大分離れた岩場のある海域。椅子を背に設けた帽子を被った大亀へと船が近づく。

 

 それはバロック・ワークスのエージェントの二人、Mr.5とミス・バレンタインが使う船であった。

 

 

 

「二人とも、仕事は終わったようね」

 

 大亀に乗っていたカウボーイハット風の帽子を被った黒髪の女性、バロックワークスの副社長であり、最高司令官の地位を持つミス・オールサンデーがMr.5の二人へ近づいて声をかけた。

 

 

 

「ああ、任務は遂行した」

 

「完璧にね」

 

「そう、ならこれでボスの機嫌も……っ!!」

 

 二人からの返答に相槌を打ちながら、組織安泰という未来を告げようとしたオールサンデーは自分の背後に死神が居るかのような感覚に陥った。少なくとも、背後を取られてしまった。

 

 

 

「待って、降参よ。貴方は王女様たちの仲間ね?」

 

「ご明察だ。安心しろ、殺しはしない」

 

 オールサンデーの言葉に答えたのはルフィである。

 

 彼はMr,5とミス・バレンタインの生体エネルギーに干渉して自分を仲間と認識させ、見聞色と気配感知で待ち受けていたオールサンデーの事を知ると、操っている二人のように「ビビとイガラムは死亡した」というデマを確定情報として広めさせるために操ろうとしていた。

 

 

 

 因みにウイスキーピークではMr.9とミス・マンデーが協力してビビとイガラムが死亡したという虚偽を確定した情報として広め始めている。

 

 

「記憶を操るから、かしら……そんな事をされるくらいなら、私がボスに王女たちが死亡したと言ってあげるわ」

 

 オールサンデーはMr.5らの状況から推測した考察を語り、協力の意思を示しながら苦笑を浮かべる

 

 

 

「おれとしては目的が達成できるなら、どっちでも良い」

 

「良かった。なら、貴方に協力するわ。恩を売っておいた方が良さそうだもの」

 

 勘ではあるものの、オールサンデーはそれこそが最善だと確信していた。

 

 

 

「時と場合次第ではあるぞ」

 

 見聞色の覇気によってオールサンデーの意思を読み取った事で彼女が騙しや裏切りの意図を持っていない事を確認しつつ、ルフィは言った。

 

「結構よ。組織にどこまでやれるか、見物させてもらうわね」

 

「なら、しっかり見ているんだな。組織の崩壊を……ついでに言っておくが、こいつらはもう少しすると普通の人間として辿り着いた町で暮らすようにしている。放っておいてやってくれ」

 

「分かったわ、次はしっかりとした形で対面しましょう」

 

「中々の皮肉だな」

 

 オールサンデーへ苦笑と共に返答するとルフィはオールサンデーの背後より姿を消したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 海軍本部の一室、其処に居るのは海軍の中将でルフィの祖父であるモンキー・D・ガープである。

 

 そして、長年彼と共に活躍した同期であり、海軍の全兵を総べる【元帥】の地位を有する巨大なアフロヘアーに長い三つ編み状の顎髭、目には黒縁の眼鏡をかけた男、センゴクも居て滅多には無い暇な時間を過ごしていた。

 

 

 

 

「……はい、もしもしこちら、ガープ。おおっ、ルフィかっ!!」

 

 ガープが電伝虫からの連絡に嬉しさいっぱいの感情が込められた返答をする。

 

「うむ、うむ……そういう事ならセンゴクに言うと良い。丁度、傍におるんじゃ」

 

「ん、どうしたガープ?」

 

 本当に孫の事が好きなんだなとガープの様子を見ながら思考していたセンゴクであったが、自分に話の矛先が向いたので訊ねてみる。

 

 

 

「なぁ、センゴク。アラバスタって知っておるよな?」

 

「むしろ、なんで知らないと思った」

 

「良し。なら、バロックワークスは?」

 

「情報を中々掴ませず世界で暗躍している犯罪組織じゃないか」

 

 

 

「うむ。それじゃあ王下七武海のクロコダイルは?」

 

 王下七武海とは世界政府に収入の何割かを納める事を条件に海賊、未開の地に対して様々な海賊としての行為が認められた政府公認の海賊の通称である。

 

「さっきから、話が見えんぞ」

 

「それがな……クロコダイルがアラバスタ王国の乗っ取りをしようとしているらしい。それとクロコダイルがバロックワークスのボスだそうだ」

 

「ぶっほぉぉぉぉぉっ!! な、な、な……なんだとぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 センゴクはガープが何気なく言った衝撃的な事柄に口に含んでいたお茶を噴き出し、驚愕を声に出す。

 

「ちょっと、代われ……もしもし、ルフィ君。私は海軍の元帥をしているセンゴクだ。君には色々と協力をしてもらって感謝しているよ。それでだが……」

 

 センゴクはガープから電伝虫の受話器を奪い取る様にして、ルフィの通信相手となった。その後はルフィから王女であるビビに代わったりして事態を把握。

 

「そういう事なら、君には申し訳ないがその二人をアラバスタへと送り届けて欲しい。こっちもアラバスタへ……」

 

 話し合いによってルフィがビビとイガラムの二人をアラバスタへと送る事になっているのを知るとセンゴクもルフィへと頼み、海軍より援軍を出す事を伝えようとして、ふとガープの方を見る。

 

『ルフィの加勢に行って来る』

 

 そう、書かれた紙が机に置かれているのみでガープの姿は消えていた。

 

 

 

「あ、あの野郎ぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 センゴクはそう叫ばざるを得なかったのであった……。

 

 




 


 

 


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十七旅

 

 統治はしっかりとし、平和であったのに何故か民衆が暴動を起こし、それが広まっていくことで乱れ始めた祖国を救うべく、元凶の組織であるバロックワークスに潜入したアラバスタの王女であるビビと護衛隊長のイガラムは刺客が送り込まれた事で正体がバレた事を悟った。

 

 偶然ではあるが、二人にとっての刺客を倒したルフィは事情を聞くとアラバスタまでの護衛と輸送を引き受け、自らの祖父である海軍中将ガープと彼の友であるという元帥のセンゴクに連絡をし、協力関係を結んだ。

 

 更に二人が死亡したという偽りの情報を広める事でアラバスタまでの道のりを妨害されないようにもしたのだった。その際、バロックワークスの副社長を務める女性、オールサンデーとも取引を結んだ。

 

彼女が裏切らない事は見聞色の覇気で確定している。

 

そして、アラバスタまでの道のりだが……島の磁力を記録する事でその島から離れてどこへ行こうとも記録した島への進路を示す『永久指針(エターナルポース)』をビビが持っていたのでそれを使う事とした。

 

とはいえ、あまりに速くアラバスタへと向かおうとすれば死亡が偽りだとバレる可能性があるので、あえて遠回りとなる航路でルフィたちは進んでいる。

 

「随分と穏やかだな」

 

 ウイスキーピークまでを航海していた時は荒れるに荒れた天候や波だったのに対し、今は穏やかな状況が続いているのでルフィは呟く。

 

「あの海だけは特別なの、リヴァース・マウンテンから出る7本の磁気が全てを狂わせていたから」

 

「ですが、グランドラインの海はやはり、普通の海を行くより困難な海である事は心しておいてください」

 

 ビビに続いて、イガラムが重要な事だと真剣な表情で忠告する。

 

因みに船にはビビの家族とも言えるカルガモのカルーもいた。

 

「了解だ」

 

「まぁ、あの時みたいに常に忙しいのはなるべく勘弁してほしいところだわ」

 

「そうかい? すっかり、この船の運転に馴染むことが出来たからアタシとしては歓迎したいんだけどねぇ」

 

 ナミがグランドラインでの最初の航海を思い返しつつ、苦笑するとアルビダは挑戦的な笑みを浮かべた。

 

「流石、アルビダ様。常に自信満々で素晴らしいっ!!」

 

「いや、おれはナミに賛成だ。楽な航海の方が良い」

 

「おれとしてはどっちでも……」

 

 サンジがアルビダを囃し立てるようにする中、ウソップにゾロは自分の意見を述べた。

 

「おれはあるがままを受け入れるだけだ……む、島だな」

 

 ルフィは前方に大きな島を見つけた。其処へ進んでみれば行く先々にあるのは森林の数々、この島は【リトルガーデン】と呼ばれている島である。

 

「ビビ王女、イガラムさん。先にも言ったように、おれは見つけた島には足を踏み入れるようにしている。探検に行かせてもらうぞ」

 

 どのみち、時間をかけた航海をする事は話し合っており、海軍への連絡も含め、かなりの協力をしてもらっているので二人としては文句も無かった。

 

 それに……。

 

「私も行くわ。じっとしていたら色々考えちゃうし、気分転換にね」

 

「ビビ様が行くなら、私も当然、行きます」

 

「クエー」

 

 ビビ達も気分転換としてルフィに続くことにした。

 

「おれは言わずもがなだ」

 

「それならルフィ、ゾロ。食糧が足りねぇから食えそうな獣がいたら獲ってきてくれ」

 

「おれは良いや」

 

「私も残るわ」

 

「アタシはルフィに同行したいところだけど……今回は船を守る事にするよ」

 

 それぞれ、方針を決めてそれに準じる事にした。

 

「それにしてもこういう所は懐かしい。小さい時は爺ちゃんから良く、修行として幾つもの無人島でサバイバルさせられたからな」

 

「へ、へぇ……」

 

 ウソップが皆を代表するかのように相槌を打った。

 

 

「そうそう、こういう所を歩く際には少しでも厚手のものを着た方が良い。虫刺されとか毒を持つ植物が付着したとき、皮膚から侵食されないようにな。他にも……」

 

 ルフィは自分の体験談によって危険について備えさせようとしたが……

 

「ルフィさん、私は貴方に従います。是非とも同行させてください」

 

「同じく……」

 

「ク…クェェェ……」

 

 ビビにイガラム、カルーは「あの時はこうして、死にかけた。こうして、死にかけた」と苦笑しながら言うルフィへと震え混じりに言った。

 

「強くなるためには、逆境を何度も跳ねのける必要もあるからな」

 

「そういう問題じゃないと思うぞ」

 

「一体、どういう幼少生活を……いや、聞かないようにするか」

 

「本人、気にしてないだけで過酷な生活、してるのは確かね」

 

「只者じゃない訳だ」

 

 ゾロは当然だと頷き、サンジは反応に迷い、ウソップは多少恐怖し、ナミは曖昧な反応、アルビダは苦笑を浮かべる。

 

 ともかく、こうしてルフィにゾロ、ビビにイガラムとカルーの5人がリトルガーデンの地に足を踏み入れたのだった……。

 

 

 リトルガーデン、その島は密林のジャングルで構成され、古代種に恐竜が住んでいる。

 

グランドラインのでたらめな気候によって古代の時代の環境が閉じ込められてしまっているのである。

 

だが、そんな恐竜よりも文字通りの大物がこの島で生活を営んでいた。

 

「ふふ、随分な大役をボスは任せてくれたもんだガネ。これも私たちが高く評価されている証拠だ」

 

「そうね」

 

 ジャングルには似つかわしくないロウで構成された家の中に頭の上に『3』と髪を結って固定している男に帽子を被ったお下げの少女が居た。

 

 二人はバロックワークスのエージェントであり、男の方はMr.3で少女の方はミス・ゴールデンウィークである。

 

「まさか、100年前に海を荒し回った巨人族の海賊団、それを率いていた二人の頭がこんな秘島にいるとは、しかも懸賞金はまだ有効。合計は二億、素晴らしすぎるガネ」

 

 Mr.3が紅茶を飲みながら見ている机の上にはドリー&ブロギーと書かれた手配書があった。

 

「忘れられてるだけだったりして……」

 

「誰もが君みたいなマイペースじゃないんだから、そんな訳なかろう。それに巨人族は長命。可笑しな事は何も無いガネ」

 

 そして、彼は部屋に置かれた幾つかの道具を見る。

 

 

「では、そろそろ仕事に取り掛かるガネ」

 

「え~、面倒くさいなぁ」

 

 そして、立ち上がり家の扉を開けて、外に出た時……。

 

 

 

 

 

「二人とも、こんにちは」

 

「っ!?」

 

「……こんにちは」

 

 部屋の外には二人の存在を感知した事でこの場へと向かい、出てくるのを待ち伏せしていたルフィが居て彼は挨拶する。

 

 Mr.3は驚愕し呑気にゴールデンウィークは挨拶を返す。

 

 

 

「ふっ」

 

「がっ!!」

 

「あっ!!」

 

 二人の額を人差し指で突いて生命エネルギーによる干渉を行った。

 

「さて、おれはお前たちのボスだ」

 

「分かったガネ」

 

「分かった……」

 

 脳の機能を掌握され、一種のトランス状態にされた二人はルフィの言う事に頷いた。

 

 

「では、まずビビとイガラムあるいはMr.8とミス・ウェンズデーが死亡したという情報は流れているか?」

 

 バロックワークスのエージェントである事を自己紹介させた事で知ったルフィは先ず、確認するべき事を聞く。

 

 

「その二人なら死亡したという連絡は聞いているガネ」

 

「同じく」

 

「なら、お前たちがこの地で任された仕事は?」

 

 これにより、二人の仕事の詳細を知ると……

 

「なら、Mr.3はこの電伝虫を使って繋がった相手に任務は達成したと伝えろ。連絡が終わったら、帰る準備だ。ゴールデンウィークは先にこの島を出る準備をしていると良い。準備が出来たら、後はこの島を出て、近くの町で自分たちの特技を人のために使う仕事をしろ。良いな?」

 

 

「分かったガネ」

 

「分かった」

 

 頷くとそれぞれ、ルフィの指示をこなすために家の中へと入る。

 

 

 

「よう、お前たちまた会ったな」

 

『!?』

 

 そして、次の瞬間にはMr.3達へボスの命令によりアラバスタへのエターナルポースを届けようとしたアンラッキーズに上空にて対面した。

 

 アンラッキーズの二匹はまさかの遭遇にグラサンを割る程に目玉を飛び出させ、口を大きく開き、舌を伸ばしながら驚愕をする。

 

「悪いが、逃がしてやれる状況じゃない。降参か、抵抗するか選べ」

 

『……』

 

 ルフィの言葉と軽く漂う闘志にアンラッキーズはお互いのパートナーと視線を交わし……。

 

「その覚悟に敬意を表そう」

 

 アンラッキーズはルフィへと立ち向かったのだった……。

 

 

 

 

 二

 

 

 

 リトルガーデンのとある場所、其処では巨人族の二人による幾日も幾日も決着のつかない決闘が行われていた。

 

「ゲギャギャギャギャ、今日は良い日だなブロギーよ」

 

「ガババババ、そうだなドリーよ。良い友人に会えたのだから」

 

 眼鏡状の顔当てがついた兜を被った細身の巨人、ドリーと丸っこい体型に扇のような形になっている特徴的な髭、角つきの兜を被った巨人であるブロギーが酒を飲み交わし、笑う。

 

 

 

「おれも二人の素晴らしい戦士に会え、心滾らせられる決闘を見る事が出来て良かった」

 

 二人の決闘を見、感動したルフィは酒でも与えて讃えたいと考えた。

 

 だが、ブロギーが先にメリー号で待機していたサンジ達に出会っており、そのまま、全員で軽い宴が行われたのであった。

 

 

 

 

 

 更に……。

 

「これから、よろしくなピクチャにヴァルチィ」

 

 二度は見逃され、三度目は戦ったが敗北、しかし命は取られなかった事でアンラッキーズの二人はルフィに屈服。

 

そして、『お前たちを気に入った。良かったら一緒に旅をしないか?』という言葉に賛同し、Mr.13はピクチャ、ミス・フライデーはヴァルチィと名を改めてルフィの仲間となったのだ。

 

 

 宴により、それぞれが楽しい時間を過ごしたのであった……。

 



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十八旅

 アラバスタへと遠回りの針路で向かっているルフィ一行はその道中、密林に恐竜を始めとした古代生物が住まうなど古代の環境そのままである島がリトルガーデンへと立ち寄った。

 

 その島では巨兵海賊団を率いる二大頭首であったドリーとブロギーが決闘を行いながら暮らしていたのだが、賞金がかけられていた事からそれを狙ってバロックワークスのエージェントの二人、Mr.3とミス・ゴールデンウィークが襲撃をしようとしていた。

 

 だが、それを察知したルフィは二人を最終的に無害になるように対処し、更に意図せず出会ったアンラッキーズと戦い、勝利すると仲間に加えたのである。そして、ドリーとブロギーの決闘を見、それに感銘を受けた事で酒を振る舞い、宴を行ったのである。

 

 

 

 

「それじゃあ、おれたちは行くよドリーにブロギー。二人に出会えて良かった」

 

「それはこっちの台詞だ。無事にアラバスタとかいう国へ辿り着ける事を祈っているぞ」

 

「美味しい酒と楽しい宴をありがとうな。良い旅を……」

 

 ルフィがリトルガーデンより旅立つ事を告げるとドリーとブロギーは言葉を送った。

 

 

「一人の剣士としてあんたたちの決闘は感じるものがあったぜ」

 

「男として尊敬出来る」

 

「まったくだ。師匠、おれはいつかエルバフへ行くぜ」

 

「マー、マー、マー……こう言ってはなんですが、どちらも決闘頑張ってください」

 

「クエー!!」

 

 他にもそれぞれ、男として二人の誇りを懸けた決闘を理解できるゾロにサンジ、ウソップにイガラム、カルーも言葉をかける。

 

 

 

「男ってああいうのが好きなのね」

 

「何の意味も無い殺し合いなのに……私にはどうしても理解出来ないわ」

 

「良いじゃないさ。理屈や常識からすれば無意味でも当人らにとっては大事なものってのはあるんだよ」

 

 ナミにビビは多少、訝しがりアルビダは苦笑を浮かべた。ともかく新しく元アンラッキーズでMr.13のラッコがピクチャに彼の相棒であるミス・フライデーことヴァルチィを加えてルフィ一行はリトルガーデンを旅立つため、メリー号へと向かう。

 

「この島に来たチビ人間たちが次の島へ辿り着けぬ最大の理由がこの先にある」

 

 船に乗り、リトルガーデンの出口になる島の東へと進んでいるとドリーとブロギーが先回りして待ち受けており、ルフィらに語った。

 

 

 

「お前たちは我らに良い思い出を与えてくれた」

 

「その恩を返そう」

 

「いや、それには及ばない。こっちとしては十分なものを貰っているからな」

 

『む……?』

 

 二人の巨人に言葉を返し、それに彼らが首を傾げる中でメリー号が進む先に超巨大な金魚が這い上がる様に出現した。

 

 

 

「これだけでかいと衝撃は通りにくいな。それじゃあ」

 

 ルフィは即座に空中へと跳躍し金魚の頭上に着地し、そして……。

 

【双穿連銃!!】

 

 六式に一つ、自身の力を指へと集約する事で凄まじい速度と共に目標を貫く突きの技が指銃。それを自分なりに改良した技をルフィは放った。

 

 

 

「十弾」

 

 先ず、繰り出されるのは両の手、五指で形作られた槍による突きをほぼ同時に金魚の頭部へと二打、炸裂させる。

 

「八弾」

 

 間髪入れず、次に指を一本ずつ減らし四指によって形作った槍による突きを二打、炸裂させる。

 

「六弾」

 

 更に指を一本減らし両の手、三本指で形作った槍による突きを二打、炸裂させる。

 

「四弾」

 

 そして、又も指を一本減らし二本指による槍による突きを二打。

 

「二弾っ!!」

 

 最後に人差し指一本の突きを炸裂させる。

 

 

 

 

「グォォォォォッ!!」

 

 巨体故に衝撃が通らないならば一か所に集約させて穿てば良い。抉じ開けるための連撃を。芯へと届けるために指を減らす事で貫通力に突破力を増した衝撃を送り込んだ。

 

 それは見事に金魚の芯へと届き、金魚を倒れさせたのである。

 

 

 

「ふ……ふふ……」

 

「は……はは……」

 

「ゲギャギャギャギャ!!」

 

「ガババババババババ!!」

 

 ドリーとブロギーは共に快活に笑い……。

 

『見事だ、人間の戦士ルフィよっ!!』

 

 倒した金魚の上で二人へサムズアップするルフィへ彼の勝利を讃える言葉を送ったのであった……。

 

 

 

 

 

 リトルガーデンを旅立ち、進むメリー号はナミによる航海術とアルビダの操舵術によって巨大なサイクロンを回避した。

 

 海軍の元帥であるセンゴクと連絡を取るとまだ、ビビとイガラムが生きている事はバロックワークスは掴んでいないようだ(ピクチャとヴァルチィも自分たちが抜ける以前では二人が生きている事は知らないと頷いている)。

 

 国の内戦に関しても諜報部隊などを上手く潜り込ませた事で未だ、阻止は出来ないが悪化するのは防げていた。

 

 もっともクロコダイルや国王軍、反乱軍に潜んでいるだろうバロックワークスの者たちに悟られないようにしなければならないので抑えるのには限度があるとの事だったが……。

 

 

 

 急ぎ足立つ状況ではあるものの、ならばこそ、食料に水や資材、医療品などの用意に体調の検査など万全を期したいとあえて、どこか国がある島へと立ち寄ろうと決めてルフィ達は目指していたが……。

 

 

 

 

「なに、人が海の上に立ってる?」

 

 グランドラインの島々は気象学では四種類に分類される。『夏島』、『春島』、『秋島』、『冬島』の四つ、例外もあるが基本はそれぞれの島に四季はある。

 

 『冬島』に近づいているのか、冬の気候となっている海を渡っていたところ、偵察に出ていたピクチャとヴァルチィが海の上に人が立っていたと説明した。

 

 因みにピクチャの特技は人相書きであった。誰が見ても正確だろうというレベルである。

 

 

 

 

「進路先か……念は入れておこう。アルビダはそのまま、舵を持っておいてくれ。ナミにウソップ、ビビにイガラムは部屋の中だ。サンジにも部屋で待機するように言っておいてくれ。おれとゾロ、ピクチャとヴァルチィはこのままだ」

 

 料理を用意しているサンジはこの場にはいないので伝言を任せたりもしたが、とりあえず少数でこの先に居る相手と対面しようとルフィは準備した。

 

 

 

「よう、冷えるな今日は」

 

 ピクチャたちの言うように弓と矢筒を背負い黒白柄の妙な被り物をした男が海の上に立っていてルフィ達に声をかける。

 

 次の瞬間、男の居た場所から船が浮き上がるとあっという間に何処かの国の兵士染みた格好の連中がルフィ達を取り囲む。

 

 

 

「ふむ……幾らなんでもこれだけって事はあるめぇ。まぁ良い、取りあえず聞こう」

 

 大柄でカバのコートを着た男が現れ、肉とそれを突き刺していたナイフをも食べつつ呟く。

 

 

 

 「おいおい……」

 

 ゾロにピクチャ、ヴァルチィは男の食事に顔を歪めた。

 

 

「おれ達は『ドラム王国』へ行きたいのだ。エターナルポースかログポースを持ってないか?」

 

 横柄な態度で男はルフィ達へと要求を告げる。

 

「あぁ、ログポースならあるぞ。今から持って……」

 

 ルフィは好青年な態度を装いつつ、部屋へ行こうと歩く。取り囲んでいる連中は拍子抜けしたのか気を緩め、男も同じく気を緩めて油断した。

 

 

 

「くる訳がないだろう。手荒な真似する奴らなんぞにっ!!」

 

 

 瞬時に男の元へと接近、彼の身体を掴み生命エネルギーによる干渉で動きに重心を支配した事で片手だけで男の身体を持ち上げるという現象は成立した。

 

 

 

「という事で、船から退場願うっ!!」

 

「うわあああああああああっ!!」

 

 力の限りに男を空の彼方へと投げ飛ばす。

 

 

 

「き、貴様。良くも……」

 

「良いのか? 適当に投げたからおれにもあいつが何処に落ちるか分からない。島に落ちればそれで良いが、海の中にでも落ちたらやばいだろうな」

 

 因みに生命エネルギーの感知で投げ飛ばした男が悪魔の実の能力者である事をルフィは知っている。

 

「ま、まずい。ワポル様はカナヅチなんだっ!!」

 

「は、早く助けに行かなければぁぁぁっ!!」

 

「貴様ら、覚えてろよぉっ!! 必ず復讐してやるからなぁぁぁっ!!」

 

「リメンバー・アス!!」

 

 弓と矢筒を背負った男とマリモ頭の男がそう言い捨てて、ルフィらを取り囲んだ連中と共に自分たちの船に乗り込み、メリー号より去って行った。

 

 

 

「何だったんだ、あいつら」

 

「ドラム王国がどうとか言っていたな。事情を聞きに行くか。ピクチャ、三人ほど、人相書きを頼む」

 

 こうしてルフィはドラム王国なる場所に行く事を決め、ピクチャには投げ飛ばした男と弓に矢筒を背負った男にマリモ頭の男の人相書きをさせたのであった……。

 



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十九旅

 アラバスタへと向かうルフィ一行はその前に一度、資材や食料、医療品など必要な物の調達に医者による検査など体調管理を行ってしっかりと準備をしようと何処かリトルガーデンより手頃な島の村か国に行こうと航海をしていた。

 

 その途中、妙な海賊に襲われたので適当に対処したが、海賊の首領と思われる男が『ドラム王国』に向かっているような発言をしたので警告も兼ねてドラム王国へと向かう事を決める。

 

 もしかすれば、ビビかイガラムかが妙な海賊の首領を知っているかもしれないので人相書きが得意なピクチャに書かせたそれを見てもらうと……。

 

 

 

 

「こ、これはドラム王国の国王、ワポルっ!!」

 

「ええ、確かにそうだわ。どうして、海賊なんかに?」

 

 二人には見覚えがあったようだ。何故かイガラムはワポルに対して苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべたので聞いてみると、世界政府の加盟国は数年に一回、聖地マリージョアなる国で『世界会議(レヴェリー)』を行う。

 

 ビビが幼少の頃に連れられたその時の会議でワポルは我関せずの態度であり、不真面目だったのをアラバスタの国王であるコブラが注意をした。

 

 すると、ワポルはなんとその意趣返しに会議からの帰り道、偶然出くわしたビビの頭を叩いたとの事だ。

 

 

「それくらい、やりかねない男ではあるな」

 

 ルフィは船に襲撃をかけたワポルらの行動に対処できるよう、見聞色の覇気で意思を読んでいたのだが、ワポルは余りにも自己中な精神だったので呆れや蔑みを通り越して、関わるのを早く止めたいと思ったほどだ。

 

 

 それはワポルを持ち上げ、遠くへ放り投げた一因でもある。なのでイガラムより話を聞くとそう、呟いた。

 

 

「まぁ、良い王には思えねぇな」

 

「外見で見ても、暴君なタイプね」

 

「話からして、器の小せぇ奴だな」

 

「女に……それも少女だったビビちゃんに手を上げるとは。男の風上にも置けねぇ野郎だ」

 

「一つだけ良いところがあるよ。ぶん殴りがいのある顔をしてる」

 

 全員が全員、ワポルが取った王らしからぬ行動に表情を歪めつつ、意見を言った。

 

 ともかく、ルフィ一行はドラム王国の国民へワポルに関しての話をしようと向かったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 大きな円形に雪が積もった山々が見えるこの島にこそ、世界政府の加盟国たる『ドラム王国』は存在する。

 

 大勢で押しかけては余計な混乱を招く可能性があるのでメリー号に繋いである中型船へルフィとビビにイガラム、ピクチャとヴァルチィが乗って、ドラム王国へと先に向かった。

 

 

「すまない、おれたちは旅の者だが此処はドラム王国で合っているだろうか?」

 

 ドラム王国の入り口とも言える場所には、多くの国民が見張りのためか並んでいたので先ずは呼び掛けてみる。

 

「確かに此処はドラム王国だ。む、其方の二人は……」

 

 代表者らしい大柄の者がルフィの声に応えつつ、ビビとイガラムを見て見覚えのあるかのような表情を浮かべた。

 

 

「すみません、先ずはこの人相書きを見てください」

 

 イガラムが言うと、ヴァルチィがワポルらの人相書きを応対している男へ渡す。

 

「これはワポルにチェス、クロマーリモ!!」

 

「さっき、そいつらに襲われたんだ。適当に追っ払ったけどな……出来れば、ワポルについて話を聞かせてもらえないか?」

 

「良いだろう。此方もぜひ、聞かせてもらいたい」

 

 こうして、男の許可を得てルフィ一行はドラム王国へと上陸した。

 

 

 

 許可を出した男の名はドラム島の民間護衛団長のドルトン。彼の話によれば一年にも満たない数か月前にこのドラム王国は黒ひげと名乗る船長含めて、五人の海賊団によって滅ぼされたとの事だった。

 

 しかも、ワポルは海賊団の強さが自分たちより上と知ると誰よりも早く、逃亡。

 

 軍勢も国が抱えていた二十人の医者までも同行させたので現在のドラムは防備も医療も充分では無い。

 

 だが、それでもドラムに残された者たちは逆に幸せだった。何故ならばワポルによる王政は最悪であり、彼の機嫌を損ねれば直ぐに処刑は勿論、思い付きで滅茶苦茶な悪法が作られていく日々であったからだ。

 

 

 

 だから、ワポルが逃亡した事で人々は逆に幸せなのだ。

 

 今では滅ぼされた町村の復興も進んでおり、団結して新しい国を作ろうとさえしている。

 

 だが、ドラム王国の元守備隊隊長をしていたドルトンによれば、必ずワポルはこの国へと舞い戻り、再び王座へと返り咲こうとしている筈でその間のカモフラージュとして海賊をしているに過ぎないとの事だ。

 

 

 

「酷い……なんて男なの」

 

「まったくだ。国民を見捨てたくせに王をやり直そうなんて、虫が良すぎるにも程がある」

 

 ビビの呟きにルフィが頷く。そして、この場に居る全員がルフィがワポルへ激しい怒りを抱いている事を悟った。その余波が彼より漂っているからだ。

 

「感謝しているよ。君たちの話によればワポルはまだ当分、この国に来ることは無いだろう」

 

「だと良いが、ああいうのはしぶといし、自分の利になる事には貪欲だ。防衛の準備はしておいた方が良い。おれたちも何時までもとは言えないが、少しの間は協力させてもらう」

 

「すまない。助かる」

 

 ドルトンはルフィ達に頭を下げた。

 

 

 

「ヒーヒッヒッヒ。邪魔するよドルトン」

 

 そうして話をしていると、頭に眼鏡を掛けた老婆が帽子を被り、青い鼻のトナカイを連れてドルトンの家の中に入って来た。

 

「Dr.くれはっ!? どうして此処へ……」

 

 ドルトンが驚きながら、彼女が来た理由を問う。彼によればDr.くれははこのドラム唯一の医者であるらしい。

 

「なに、村の方でこの国に旅人が来たと聞いてね。なぁ、あんた達の中に病人は居ないかい?」

 

「今のところ、全員平気だが詳細な健診をしたいと思っていた所だ。頼んでも?」

 

 

「ヒッヒ、構わないよ。もっともあたしの健診は高いけどね」

 

「当然だな、お金より健康の方が大事だ」

 

「良いねぇ。若いのに良く分かってるじゃないか」

 

 こうして、ルフィ達はDr.くれはが住居としている元ワポルの城であるドラム城へと向かった。

 

 後は全員がくれはによる健診を受け始める。

 

 

 スベスベの実の能力でアルビダには血液検査に使う針が刺さりにくい事は分かり切っているのでルフィが彼女の生命エネルギーを抑える事で能力を一時的に弱体化させて問題に対処した。

 

 順番でいうとルフィは最後の健診者だ。

 

 

 

「変な質問だが、Drが連れていたトナカイはもしかして喋れたりするか?」

 

 見聞色の覇気によってチョッパーの意思を確認したところ、どうも意思が他の動物にするように深く探らなくてもはっきりとしていて、生命エネルギーを探った時には他の悪魔の実の能力者と同じようなエネルギーだったのでルフィはチョッパーが喋られると予想した。

 

 

「へぇ、良く分かったね。チョッパーは確かに人間と同じように喋られるよ」

 

「なら、後で会話をしても良いか?」

 

「好きにしな」

 

 許可を得たのでくれはによる健診が終わった後、彼女よりチョッパーの居る部屋を聞いて其処へと向かった。

 

 チョッパーはくれはの助手をしていて、今は薬の調合をしているという。

 

 

「チョッパー。お前の事はDrから聞いたから、喋られる事は知っているし話して良いと許可も取った。だから、部屋に入らせてもらうぞ」

 

 部屋の前で呼びかけ、ルフィは部屋のノブに手をかけて開けた。

 

「こんにちは。おれの名前はルフィ、今は事情が違うが……世界全てを回ろうと旅している者だ」

 

 小さな体型に二足歩行で動くトナカイことトニートニー・チョッパーに視線を合わせるため、屈んで名乗ると手を差し出す。

 

 

「お、おれはチョ……チョッパーだ」

 

 戸惑いつつ、チョッパーは蹄を差し出す。ルフィはそれを優しく握った。

 

「本当に医術の心得があるんだな」

 

「あ……ああ。お前、おれが怖くないのか?」

 

「何故だ? 人間として立って、喋れたりするのが怖い理由にはなんねぇだろ。ましてや、医者を恐れる事なんか、全くないしな」

 

「……凄いな、ルフィ」

 

 今まで青い鼻であったからこそ、同胞のトナカイたちに疎まれ、悪魔の実で人間と同じ能力を手に入れた結果、トナカイに加えて人間からも恐れられてきた。

 

 だが、ルフィは対等な立場で接してくれているのがチョッパーには分かった。

 

「お前の方が凄いよ、チョッパー。こいつは提案なんだが……おれの仲間のサンジはコックでな、腕は一流だ。Drも誘ってあるから是非とも一緒に食事して味わってくれ。勿論、Drには話を通してあるから心配は無用だ」

 

「いや、でも……」

 

「ちゃんとおれからもお前の事は説明しておく。だから、頼むよ」

 

「そ、其処まで言うんなら……」

 

 ルフィが深く頭を下げたのに驚きつつ、チョッパーはルフィの誘いに乗ったのだった……。

 

 



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二十旅

 

 ルフィ一行が様々な経緯から立ち寄った、グランドラインの冬島の一つであるドラム島には『ドラム王国』という国があった。

 

 現在より数か月前に海賊に襲撃され、国王で今は海賊を装っているワポルが自分の軍勢に医者たちと共に国民を見捨てた事で実質的には王国は滅亡しているのである。

 

 そして、ドラム島に残された国民と唯一、残った元王国守備隊隊長のドルトンらによって新たな王国としての復興が行われつつある。

 

 

 

 時期は『ドラム王国』があった六年前、医療大国として名を馳せるドラム王国だが裏側で王の城に居る二十人、それ以外の医者は全て国外追放されていた。

 

 それはワポルが国民に対して自分に逆らえば医師の治療を受けられないようにし、絶対服従を強制させるために行った政策によるものだった。しかし、それでもワポルに逆らって医者として治療活動を続ける者たちが居た。

 

 

 一人は天才的な医学と治療技術を持つが足元を見たように治療費や物資をふんだくるDr.くれは。

 

 そしてもう一人は治療費こそ取らないが治療を強制的にするうえ、その腕はヤブ医者級、金自体は富裕層から盗むという男、Dr.ヒルルクの二人だ。

 

 

 何を隠そう、Dr.ヒルルクこそ現在、くれはの助手をしているトナカイのチョッパーの恩人にして親のように慕っている人物であった。

 

『こいつは不可能をものともしねぇ、信念の象徴だっ!!』

 

 ヒルルクは海賊旗のドクロマークをそう評した。

 

 全ての病気を治す医者になってみせるという信念を掲げたのである。そして、彼は悪魔の実の一種、ヒトヒトの実を食べたことで人間と同じ能力を手に入れたことで喋ることの出来るチョッパーに偏見を持たず、出会ったときに重傷だったチョッパーを治療し面倒までをも見た。

 

『ありがとうよ、チョッパー!!』

 

 傷が完治するとヒルルクはチョッパーを突き放した。それは彼自身、病を抱えていて自分が死んだとき、絶望感を味わわせないためだったがチョッパーはこっそりと恩を返すために行動し、ヒルルクが病気だという事を知ると『アミウダケ』を探して与えた。

 

 

 

 だが、チョッパーは医者としての知識が無かったうえ、ヒルルクが言ったドクロマークは『不可能をものともしない』という言葉による思い込みから『アミウダケ』の図鑑に描かれていたドクロマークが猛毒の印では無く、万病に効く証だと誤解してしまっていたのだ。

 

 それを知りながらチョッパーの優しさを無駄にしないためにヒルルクは敢えてアミウダケのスープを飲んだのである。口にすれば一時間も生きられない程の猛毒を……。

 

『チョッパー、お前は良い医者になれるぜ。おれが保証する』

 

 そして、僅かな命のタイムリミットを抱えた状態でヒルルクは王国の抱える医者が病気という情報を得ていたのでそれを治療するためドラム城へと向かう。

 

 

 

『まったく、良い人生だったっ!!』

 

 しかし、それはワポルがヒルルクを処刑するために仕掛けた罠であり、それを知ると彼は患者が居ない事に安堵しつつ、最後はチョッパーに与えられた『アミウダケ』の毒で死なないために自爆してこの世を去った。

 

 ワポルが逃亡した後、ヒルルクのドクロマークはくれはとチョッパーが住居としている元ドラム城にて国旗のように掲げられており、彼の墓標ともなっていた。

 

 

 

『おれが万能薬になるんだ。何でも治せる医者になるんだ。だって……だって、この世に治せない病気はないんだからっ!!』

 

 彼の死を通してチョッパーは全ての病気を治せる医者になる事を決意したのであった……。

 

 

「そうか……」

 

 現在、ドラム島を訪れたルフィ一行はくれはによる健診を受け、彼女とチョッパーの住居となっているドラム城にて一泊をしていた。

 

 チョッパーは自分を初対面から受け入れてくれたルフィと彼の仲間たちとの楽しい食事の時間を過ごし、その後、夜中に薬の調合を行っていたが用を足すために部屋を出ると外に出ていたルフィに遭遇した。

 

 ルフィは過去に受けた頭部の負傷で睡眠機能が無いため、習慣として染み付いている上、彼自身の向上心、又、時間を潰す意味もあって鍛錬をしていたのだ。

 

 極寒という厳しい環境だからこそ、鍛錬を行うには最良であるとルフィは認識している。

 

 

 

 後はドクロマークの意味を問われたのでチョッパーはヒルルクの話をしたのである。

 

「なら、黙祷だけでも捧げてこよう」

 

「おれも行くよ」

 

 ルフィがそう言ったので、気になってチョッパーも付いていくことにした。

 

 城より外を出てドクロマークのところへと行くルフィとチョッパー。

 

 

 

「Dr.ヒルルク、チョッパーから話は聞かせてもらった。実際に会ってみたかったよ。信念を掲げて、曲げる事無く殉じたあんたに……見ず知らずのおれからじゃ困るだろうが、捧げさせてくれ敬意をっ!!」

 

 そう、ドクロマークへと語り掛けてルフィは黙祷と共に敬意を捧げたのである。

 

「ルフィ……」

 

 チョッパーはそんなルフィを見て、この男は本当にヒルルクに対して敬意を捧げているのだと感じ、純粋さと熱いなにかをルフィより溢れる雰囲気から感じた。

 

「チョッパー、お前にとっては辛い話をさせてすまない」

 

「いや、良いんだ。ルフィには話したいなと思っていたし」

 

「そう言われると救いがある。それとおれにとっては良い話だった。客観でしか語れないが、ヒルルクは立派な男だと思っている」

 

「そう言ってくれて、嬉しいよ」

 

 ルフィのような人物に言われるなら尚更だとチョッパーは思う。

 

 

 

「チョッパー、ワポルの事はどう思う?」

 

「……許せないよ、絶対に。彼奴はドクターの事を最後まで馬鹿にしていた」

 

 ルフィからの質問にチョッパーは怒りを抱きつつ、答えた。そもそもワポルの罠が無ければあの時、まだ少しでも長い間、ヒルルクに付き添えた可能性はあるかもしれない。

 

 八つ当たりでしかないとはいえ……それでもドクターの死さえも馬鹿にしたワポルに対してチョッパーは怒っている。

 

「なら、一発でもぶん殴ってやれ。こいつは勘だが、明日にでもワポルが帰って来るだろうからな」

 

 怒りを漂わせながらルフィはチョッパーへとそう言ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 ドラム島を訪れた翌日、勘によりワポルが現れると予測したルフィは島の入口へと向かった。

 

 同行したのはゾロにサンジ、アルビダとチョッパーである。又、ルフィの意見により、『君は何となく信用できる』としてドルトンもワポルを待ち受けた。

 

 すると……。

 

 

「まーはっはっはっは、とうとう帰って来たぞぉぉぉぉっ!!」

 

 海の中より潜水帆船が浮上し、ワポルと彼に従う者たちが姿を堂々と現して上陸をする。

 

 

 

「よう、前に会った時より上機嫌だな。元気そうで何よりだ」

 

「ぶおっ!? てめぇはおれ様を投げ飛ばしてくれた奴。どうして俺様の国にっ!!」

 

 ルフィが気軽に語り掛けると驚愕しつつも、次の瞬間には憎々し気な表情となってルフィを睨みつける。

 

「お前が『ドラム王国』がどうとか、言ったから気になって寄っただけだ。驚いたぜ、お前は此処の()()()()()んだって?」

 

「ふっ、後悔しても遅いぞ。この国にのこのこ来やがった以上、処刑してやる。丁度良い、ドルトン。そいつを殺せばお前の罪を許してやる」

 

 ドルトンを見かけたので命令すると……。

 

「許さなくて結構、第一に此処はもうお前の国じゃないし、お前は王では無いっ!!」

 

「な……良くもそんな口を……」

 

「いや、当然だろう。お前は一度国を、国民を見捨てて逃げ出したんだ。その時点で常識から言えば、お前は王としての権利を放棄している事になるんだぞ」

 

「そんな訳があるか、おれ様は王として生まれたんだ。だから、一生、この国の王なんだぁっ!!」

 

「じゃあ、勝手にそう思っていろ。だが、言わせてもらう。お前はもう王でも無いし、ましてや海賊と呼ぶにも値しない。それにすら劣る()()()

だ」

 

 激昂するワポルに冷静なままに冷酷な事をルフィは言った。

 

 

 

「そうだ、そうだっ!!」

 

「とっととこの国から出ていけっ!!」

 

 ルフィの意見に賛同し、ワポルに出て行けと促す国民たち。

 

「……あのクレイジーな医者と言い、ババアと言い、ドルトン、更にはお前……どいつもこいつもおれ様に逆らいやがって、もう許さんぞっ!!」

 

「それはこっちの台詞だ、カバ野郎っ!!」

 

 ワポルの怒りに対し、ルフィはそう言って対抗した。

 

 

 

「貴様ぁぁぁぁっ!!」

 

 上陸しつつ、ワポルの身体は変化を始める。

 

『バクバク(ショック)!! ワポルハウス』

 

 彼は悪魔の実、『バクバクの実』を食べたことで何でも食べられる上に食べた物の能力や特性を使う事が出来るようになっている。

 

 

 そして、頭には煙突、両手には砲口、腹部には家があるという巨大な人間へと変わった。

 

 

 

「おれ様の真骨頂を見せてやる。王技、バクバク工場(ファクトリー)!!」

 

「ちょ……」

 

「え……」

 

 次の瞬間には部下であるチェスとクロマーリモを食べ、彼らが悲鳴を上げる中、呑み込むと……。

 

『チェスマーリモ!!』

 

 チェスの上にクロマーリモが肩車をしたような状態でワポルの腹部にある扉より現れた。

 

「さぁ、行け最強の合体戦士チェスマーリモよ。奴らを殺せっ!!」

 

『了解』

 

「いや、合体っていうより肩車しただけじゃねえか」

 

「見苦しいもん見せやがって……」

 

「まったくだよ。気持ち悪いったらありゃしない」

 

 ワポルの言葉にチェスマーリモが動くとゾロにサンジ、アルビダも動く。

 

 

 

 そして……。

 

『ぐああああっ!!』

 

 ゾロの剣撃にサンジの蹴撃、アルビダの剛撃を一斉に浴びたことで吹っ飛ばされるままに敗北したのだった。

 

 

 

「見掛け倒しかよ」

 

「食い合わせが悪かったんだろ」

 

「ま、こんなもんだろうね」

 

「ん……な……」

 

 ワポルはゾロたちの強さに驚愕していた。

 

 

 

「チョッパー、ドルトンさん。一緒にやるか?」

 

「うん」

 

「勿論」

 

 ルフィの誘いにチョッパーは姿を変え、大柄な人間染みた姿になり、ドルトンも悪魔の実、『ウシウシの実』でモデル野牛(パイソン)を口にした事で変身能力を得ていて、牛男と言えるような姿になった。

 

「お前はあの時の……は、おれ様が殺したい奴大集合って訳だっ!!」

 

 チョッパーの姿に思い当たるものがあったのか、呟くと両手の咆口を三人へ向けて次の瞬間には砲撃を開始する。

 

 

 

「ふっ!!」

 

 しかし、ワポルの放つ砲弾はルフィの貫手が空間すらも穿つのではないかと思う程に鋭い飛ぶ刺突を放つ事で迎撃される。

 

「んなっ!? こ、この……」

 

 ワポルは異常な事態に驚きつつもルフィに狙いを定めて砲撃する。

 

 

 

「無駄だ」

 

 襲い来る砲弾へとルフィが指一本で触れれば砲弾は勢いを失って地面へと落ちるのみ、衝撃を無力化する事で成せる現象だった。それをしながらルフィは歩きながらワポルへと近づく。

 

 

「おお、まだだ。バクバク食、『ベロ大砲(キャノン)』!!」

 

 ワポルが口を大きく開けると舌が両の手より大きな砲口に変化し、砲撃。

 

 ルフィはそれに何の対処もしなかったために命中し、爆発。煙によりルフィの姿が確認できなくなった。

 

 

「まっはっはっはっは、やったぞっ!! 一番ムカつく奴を消してやったぜぇっ!!」

 

「それはお前の思い込みだ。さて、次はこっちの番といこう」

 

 勝利を確信して大笑いするワポルであったが、煙が晴れるとルフィの身には怪我も何も無く、無事であった。

 

 

 

「っ!?」

 

 そして、彼が驚愕する間にルフィは動き……。

 

「ふっ!!」

 

 速度に優れる縦拳による直突きが十を超える数、放たれて炸裂。その個所から衝撃がワポルの体内をも打ち抜き、血肉に骨、臓器すらも揺るがせる。

 

 

「ぐ……お……が」

 

 流石に堪らず、仰け反るワポル。

 

「少々、勿体ないがおまけだ。くれてやる」

 

六王銃(ロクオウガン)――速射(クイックショット)!!』

 

 ルフィがワポルへと片手の拳を密着させると次の瞬間、鋭い衝撃が拳の密着箇所から体内へと突き抜ける。

 

 それは背中を貫通して中身を飛び出させるのではないかとくらったワポルに思わせる程のものだった。

 

 『六式』の全てを極限まで高めた者だけが使える究極奥義が『六王銃』。

 

 本来は両の拳を密着させ、衝撃を爆発させて放つ技だがルフィが放ったのはそれを改良し、速度とそれに伴う突破力を重視した応用技である。

 

 

 

「ぐ……あ……が」

 

 背中こそ突き破られていないが内部へのダメージは確実に存在しており、ワポルは血を吐きつつ、倒れようとしている所に……。

 

「ワポル、お前はドクターを散々、馬鹿にした。だから許さないっ!!」

 

 悪魔の実の波長を狂わせる薬、ランブルボールを口にしていたチョッパーは腕力を強化した姿へと変身。

 

 

 

刻蹄(こくてい)(ロゼオ)!!』

 

 自身の蹄による強力な一撃をワポルの頬へと見舞う。

 

「がばっ……」

 

 吹っ飛びながら、今度こそ地面へと倒れ行くワポルであるが……。

 

 

 

「これで終わりだ、ワポル!!」

 

 ドルトンが武器をワポルへと容赦なく振り下ろした。

 

 

 

 

 

「ぎゃ……が……」

 

 これにより、ワポルは倒れ伏し痙攣する。

 

 

 

『まだ、やるか?』

 

 ルフィにチョッパー、ドルトン、ゾロにサンジ、アルビダ達が様子を見ていたワポルの兵士たちを威圧すると……。

 

「ひ、ひぃぃ」

 

「い、命だけはお助けを」

 

 次々と武器を捨てて降参した。

 

「良し、なら後は……」

 

 ルフィが言って手を出すとゾロを始めとして全員が手を出して拳を打ち合わせる。

 

「おれたちの勝ちだっ!!」

 

 次に様子を見守っていた島民たちへと拳を上げて宣言した。

 

 

 

『うおおお、やったぁぁぁぁっ!!』

 

『ワポルが倒れたんだぁぁぁっ!!』

 

 島民たちはルフィ達の勝利を歓迎したのであった……。

 



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二十一旅

 

 海賊の襲来により逃げ出した元国王のワポルは少しの間、海賊と身分を偽って潜伏していた後、国王へと返り咲き、再び権力のままに栄華を謳歌せんと再びドラム島へと帰って来た。

 しかし、それをルフィは自分の仲間とドルトン、チョッパーらと共に撃退したのである。

 

 

 そして……。

 

「良し、怪我が治ったらお前たちは自分の能力を王であるドルトンとこの国のために使うんだ」

 

「はい、分かりました」

 

『了解』

 

 ルフィは生命エネルギーにより干渉して思考を支配する事により、新たな国のために人生を捧げるよう、ワポルとチェスマーリモの二人に強制したのである。

 

 取りあえずは怪我が治るまで元ドラム城の牢獄に入れられ、治った後も陰ながら働くという感じになるが……。

 

 因みに何故、ドルトンが王なのかというと昔、ワポルに仕えていた身であり、前国王への忠義からワポルの暴走を止められなかった罪悪感を抱えていた彼はそのまま、ワポルにトドメを刺して自らも命を絶とうという腹積もりだったからだ。

 

 それを防ぐために先じてルフィは島民に勝利を告げた後、『皆も見たようにドルトンが暴君ワポルを討ち取った。彼こそこの国の王に相応しいっ!』と大きく宣言すると島民もワポルが去った間、必死で自分たちのために尽くしてくれた彼を慕っていた事もあってそれに賛同、ドルトンを王として認める事を表現したのであった。

 

 

 

 

「待ってくれ、私は……」

 

「償いをしたいっていうなら、これが一番良い方法だドルトンさん。貴方には王としてこの島の人々の生活を支える責任や義務がある」

 

「お願いだ、ドルトンさん。おれ達の王になってくれっ!!」

 

「あんたしかいないんだっ!!」

 

 躊躇うドルトンにルフィと島の人々が説得の言葉を投げかけると……。

 

「分かった。ルフィ君や皆がそこまで言うのなら……」

 

 最後には頷き、今後、ドラム島の新たな王になる事を誓ったのだった。

 

 そして、余談だが医療大国としては勿論、ワポルによるバクバクの実の効果によるもので新たな形状記憶合金『ワポメタル』を生み出した事でその金属の輸出国としても名を馳せる事になるのだった……。

 

 

 

 

 

 ルフィ達はワポルを倒した事から宴によってもてなしたいとドルトン、島民らに言われそれをルフィは了承した。そして、ワポルの海賊船より必要なだけの物資を貰い、メリー号に運んでから元ドラム城へと戻って待っていたナミたちに宴の事を告げて一緒に村へと向かったのである。

 

 チョッパーとくれはも一緒である。

 

「その……ワポルを倒してくれてありがとうな」

 

「今更、遅いけど怪物なんて言って、ごめんな」

 

「こんな可愛いトナカイが居たなんて……」

 

 島民らからワポルを倒した事による礼や蔑んでしまっていた事の謝罪などをチョッパーは受ける事になった。

 

「別に良いよ、おれだってドクターの仇を取るためにワポルを倒したかっただけだから」

 

 

 苦笑しながらも島民らとチョッパーは交流した。そうしながらもチョッパーには心の奥底に芽生えた気持ちがある。

 

 

「(おれもルフィの仲間に……)」

 

 それはヒルルクのように自分を最初から受け入れてくれた事、オスとしてルフィに対して芽生えている憧れ、『彼のような男についていくべき』という動物としての勘など様々な要因からチョッパーはルフィについていく事を決めた。

 

 だからこそ、まずは……。

 

「ドクトリーヌ、おれはルフィ達と旅をするよ」

 

 宴を終えて元ドラム城へと戻ったルフィ達が診断に問題はなかったために旅立つ準備をしている中、くれはへとチョッパーは自分の意思を告げた。

 

「何だって?」

 

「おれも世界を旅するんだ。そして、もっと他の医術も学んでさ……世界一の医者になる」

 

「ナマイキ言うんじゃないよ。お前が旅だなんて出来る訳ないじゃないか、それにあたしよりも上の医者になんてなれやしないさっ!!」

 

「なってみせるよ、そう決めたんだっ!!」

 

「いや、無理だね。それにあのヤブ医者のように幻想に生きるのかい!?」

 

「幻想じゃないよっ!! ドクターは諦めなかったから夢を叶えたんだ。だから、おれも夢を諦めない。男はそういうものだってルフィにも教わったから……おれも男だっ!!」

 

 

 ヒルルクの事をルフィに話していた時に言われた事で固めた決意をくれはに宣言する。

 

「……そんなに出ていきたいなら、あたしを踏み倒していきなっ!!」

 

「わああああっ!!」

 

 くれははチョッパーの言葉を噛み締めるように沈黙すると突然、包丁を投擲し始め、チョッパーは逃亡する。

 

 

「どうやら、余計な事をあの子に吹き込んでくれたようだね」

 

「……すまない。責任は取らせてもらうと誓うよ」

 

「当然だね……でも、感謝もしているよ。あの子を変えてくれた事に」

 

 

 チョッパーが去った後、くれはが呟くと様子を隠れて窺っていたルフィが現れて話を始める。

 

「あんた、名前は?」

 

「モンキー・D・ルフィだ」

 

「ふ、ふふ……どうやらとんでもない男に惹かれちまったようだねぇっ!!」

 

「(生きていたのかい、Dの意志は……)」

 

 ルフィの名前を聞くとくれはは大笑いしたのだった……。

 

 

 

 

 三

 

 

 

 

 出航準備が終わりつつあるメリー号に……。

 

「ルフィ、皆……おれも仲間に入れてくれぇっ!!」

 

「ああ、勿論だチョッパー。そして、よろしく頼む」

 

 チョッパーが駆け寄り、仲間になる意思を告げるとルフィは頷いて受け入れた。

 

「ほう、これは」

 

「お、おお……ウオオオオオオオオッ!!」

 

 ルフィ達が出航した数秒後、祝砲がドラム島より打ち上げられ、それは雪を桜の花びらのような綺麗なピンク色に染め上げた。それはヒルルクの作った塵である事を察したチョッパーは感動の咆哮を上げる。

 

「さぁ、行っといでバカ息子」

 

 くれはは祝砲として使ったヒルルクの塵による効果を見つつ、チョッパーへと見送りの言葉を送ったのであった……。

 

 

 



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二十二旅

 

 アラバスタへと向かうための準備をするため、ドラム島へと立ち寄ったルフィ一行はトナカイの医者であるチョッパーを加えていよいよ、アラバスタへと航海を開始した。

 

 先ず、向かうのは海軍よりの協力者で中将、ルフィの祖父であるガープとの待ち合わせ場所の港町が『ナノハナ』である。

 

 

 

「どうした、ピクチャにヴァルチィ。何があった?」

 

 偵察に出ていたピクチャとヴァルチィが慌てた様子で帰って来たのでルフィは訊ねた。

 

『大変だ、ルフィ団長。Mr.2・ボン・クレーが乗った船が近づいてきているっ!!』

 

 ルフィにはピクチャとヴァルチィの伝えたい事が伝わるが、他の者にも伝わる様、元は動物であるチョッパーが通訳をする。

 

 ピクチャは大柄のオカマで白鳥の2匹の頭部が付いたコートを着た者の人相書きを提示しながら、説明を始めた。

 

 Mr.2・ボン・クレーとは『マネマネの実』を食べたことであらゆる人物に変身できる能力を持つ者であり、その能力を駆使してバロックワークスのために様々な潜入や陽動、暗殺などといった裏方の任務を主軸としているという。

 

 

 しかし、戦闘能力も相当らしい。

 

 

「成程。そいつにアラバスタ王や重鎮にでも変身させて、国民や兵士らの反国感情を煽る様な行動をさせようって事か……暴動をより過激化させるために」

 

「そんな者がいたとは……」

 

「どこまで卑劣なの、クロコダイル……」

 

 ピクチャとヴァルチィからの情報にルフィは予測を述べ、イガラムとビビは険しい表情を浮かべた。

 

「だからこそ、此処で遭遇出来て良かった……だよな、ルフィ」

 

「ああ。対処出来るからな」

 

 ゾロの言葉にルフィは頷いたのだった……。

 

 

 二

 

 

 

 ルフィ一行の乗るメリー号へと近づく船があった。

 

 白鳥の船首、帆には『おかま道』と書かれた余りに目立つ船であり、それこそバロックワークスの上級幹部がMr.2・ボン・クレーの乗る船である。彼はボスからの命令により、アラバスタへと向かっていたのである。

 

「Mr.2・ボン・クレーだな?」

 

「な、なななな……何なのよーう、貴方。一体、どうやってあちしの船に……」

 

 彼の乗る船に突如としてルフィが姿を現した事でボン・クレーは驚く。

 

 六式による空中移動の技術が『月歩』、高速移動の技術、『(ソル)』の合わせ技、空中を走る事を可能とする『剃刀』にてメリー号から移動し、ボン・クレーの船に到着したのだ。

 

 

「悪いが、お前たちをアラバスタへと向かわせる訳には行かない。おれの名前はルフィ、バロックワークスのMr.2・ボン・クレーに決闘を申し込ませてもらう」

 

「へぇ、どうやらこのあちしが何者か知っていての行動のようね。良いじゃなーい、その度胸に応えてあげるわ」

 

 ボン・クレーの部下に取り囲まれる中、ルフィが決闘を申し込むとボン・クレーはそれを受け入れた。

 

 

 

「感謝する」

 

「っ!?」

 

 ルフィが感謝を述べつつ、闘志を身体より漂わせた事でボン・クレーは瞬時にルフィが只者でない事を知り、ボン・クレーの部下らは動くことが出来なくなった。

 

「挑戦を受け入れてもらったからな。一撃、譲ろう」

 

「大した自信ねいっ、ならオカマ拳法の主役技(プリマ)を見せてあげるわっ!!」

 

 ボン・クレーの靴の先に彼の肩に付いている白鳥の頭部が装着される。

 

 

 

爆弾白鳥(ボンバルディエ)アラベスク!!」

 

 そして、彼の全力が凝縮された事で鉄をも穿つ蹴りがルフィに向かって放たれた。

 

 

「なら、こっちも一つ、技を出そう」

 

 ルフィはそう言って……。

 

鉄塊(テッカイ)

 

 六式の一つ、全身に力を入れる事で肉体の硬度を上昇させる防御技を使った。

 

 

「なっ!?」

 

 ボン・クレーの蹴りが炸裂したが鉄塊により、ルフィの身体は傷つかず、仰け反らせるなどの反応すら生じなかった。

 

「次はどうする?」

 

「降参よぅ。あちしの全力が通じなかったもの……煮るなり焼くなり、好きにしろいっ!!」

 

「なら、お前たちはアラバスタへは行かないと誓ってくれ」

 

「負けた以上、誓うわ」

 

 座り込んで降伏を示したボン・クレーにルフィが言い、ボン・クレーは頷いた。

 

「なら、おれからは以上だ」

 

「あちしたちを信用するの?」

 

 立ち去ろうとするルフィへボン・クレーはあえて言葉をかけた。言葉だけのやり取りで良いのかと……この海賊が横行する時代、騙しや偽りは当たり前でむしろ、人を信用する事こそ間違っているというような時代である。

 

 だが……。

 

 

 

「ああ、そうだ」

 

 本心からの言葉だと頷きつつ、ルフィは答えた。

 

「これは個人的な願いだが、今後は世のため、人のために力を使ってくれ」

 

 最後にそう言ってルフィは姿を消す。

 

 

 

「ふ、ふふふ……まさか、こんな時代にあんな人間がいるとはっ、お前たちルフィの人情に報いるぞっ!!」

 

 純粋に人間を信じることが出来る人間を目にし、その人柄の深さをも体感したボン・クレーは決意した。

 

 善の道を歩む事を……。

 

『はいっ!!』

 

 こうしてボン・クレーと部下たちは今後、麦わら旅団が傘下の一団として世界平和のために活動するようになり、名を馳せる事になるのだった……。

 






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アラバスタ編
二十三旅


 アラバスタの港町である『ナノハナ』では入りと出るための船がいつも、行き交っている。此処には人も物品も当然多く、土地もそれに比例して広大である。

 

「おい、やべぇんじゃねえのか?」

 

 そんなナノハナにある飲食店の一つで騒動が起こっており、野次馬が続々と集まっていた。

 

「……」

 

 

 店主と向かい合うカウンターの席で飯に顔を突っ込んだまま、頭には帽子、上半身は裸で背中には海賊の国旗のような刺繍、左腰には短刀を修めた鞘、短ズボンを履いた男が微動だにしていないのである。

 

 人々は『砂漠のイチゴ』という赤いイチゴの実のような姿の毒グモを食べたのでは噂した。

 

 砂漠のイチゴは口にすれば数日後に死に、数時間後にその死体には感染型の毒が巡るというとんでもない危険生物である。

 

 

 

 よって迂闊に触る事も出来なかったのだが……。

 

「ぶほっ……あー、寝てた」

 

『寝てたぁっ!?』

 

 突如、男は起き上がって困ったように呟くと心配してたものは当然、驚愕する。

 

 

「なんで、皆騒いでんだ?」

 

『おめぇの心配して騒いでたんだよっ!!』

 

 呑気に言う男に対して何人かは一斉に突っ込みを入れた。店主は安心したのだが……。

 

 

 

「ぐー」

 

『うおいっ!!』

 

 男は又も突然、眠り始めたので店主も流石に突っ込んだ。

 

「何やっとんじゃい、お前。こんなところで……」

 

 騒ぎを聞きつけてアラバスタ王国の王女のビビと護衛隊長のイガラムを護衛しつつ、この町へと向かっているルフィを待っていたガープはこの店を訪れ、男に声をかけた。

 

 因みにクロコダイルに動きを悟られないため、センゴクより海兵だとバレないようにしろと言われたので暑い気候もあってか彼はラフな格好での単独行動である。どうしても鍛え上げられた身体をしているのである程度、目立ってはしまうが……。

 

 

 

 

 

「ジジイっ!? 何でここに」

 

「わしの質問に応えんかいっ!!」

 

 驚いた男へガープは容赦なく、ゲンコツを見舞った。

 

「痛っ……いきなり、なにすんだっ!!」

 

「わしの質問に答えんからじゃい。まぁ、久しぶりじゃなエース」

 

「そうだな、相変わらず元気そうで何よりだよ」

 

 苦笑を浮かべる男の名はポートガス・D・エースであり、海賊たちの中でも最上位に位置する者が【四皇】の名を冠する白ひげ海賊団の二番隊隊長であると共にガープにとっては義理の息子、ルフィにとっては義兄たる人物である。

 

 そして、何を隠そうエースの父親はゴールド・ロジャーことゴール・D・ロジャー、つまり、彼は海賊王の息子なのである。

 

 ガープはロジャーと宿敵ともあるいは悪友とも呼べる程、深い関係であった事もあって彼の頼みにより、エースを引き取ったのである。

 

 

 

「抜かせ、こっちの台詞じゃそれは……結局、海賊になりおってからに。じゃが丁度良い、力を貸せエース」

 

「は? いや、おれにはやる事が……」

 

「うるさい、ルフィが大変なんじゃ。クロコダイルと敵対しているんじゃよ」

 

「っ、クロコダイルだとっ!? そういう事なら仕方ねぇ。あいつは中々、頼ってくれねぇからな、無理やりにでも加勢してやらねぇと。そもそも、あいつに一度、会うために此処で待ってみるつもりではいたから丁度、良い」

 

 ガープの言葉を聞くとエースは立ち上がる。

 

 

「なら、行くぞ」

 

「ああ」

 

 エースは食事による清算を終えるとガープと共にルフィの船が来るだろう場所へと向かったのだった……。

 

 

 

 

 

 ルフィ一行を乗せたメリー号は無事にナノハナへと辿り着いた。

 

 だが、ナノハナの海域の周囲にはバロックワークスの精鋭である二百人の集団、『ビリオンズ』を乗せた船があったのでビビとイガラムは生存を知られないよう軽い変装をしている。

 

「おーい、ルフィっ!!」

 

「っ、は……はは、まさかこの場所で出会うなんて……久しぶり、義兄さんっ!!」

 

 船を港で止め、ナノハナへと降りたルフィはガープと彼の傍で手を振る義兄、エースを見かけて駆け出した。

 

『義兄さんっ!?』

 

 ルフィに兄がいたという事実にゾロたちは驚きつつも事態を見守る。

 

「ああ、久しぶりだルフィ」

 

 エースは近寄って来たルフィに拳を差し出すとルフィもそれに応じて拳を差し出し、軽く突き合わせ、先ずルフィが上から、エースが下から拳を振って打ち合わせ次にお互い、反対にして打ち合わせ、最後には握手をすると抱擁を交わす。

 

 

 

 ルフィはずっと一人で幼少期を過ごしたわけでは無く、エースとそれにもう一人の義兄と呼べる人物と共に過ごした。そして、色々あって今ではエースとは目指す夢は違うものの絆の深さはかなりのものである。

 

「じいちゃんも久しぶり」

 

「おう、久しぶりじゃなルフィ。こうして会う事が出来て嬉しいぞ」

 

 次にルフィはガープと抱擁を交わした。

 

 

 

「今回は迷惑をかけてごめん」

 

「良いんじゃよ。人助けをする孫のためならいくらでも力を貸すわい」

 

「オヤジから聞いたぜ。イーストブルーでは英雄になってるんだってな。それでこそ、俺の義弟だ」

 

 ガープとエースは嬉しそうに言葉を紡ぐ。

 

「紹介するよ、オレと一緒に旅をしてくれている仲間を」

 

 ルフィが言い、ゾロたちは自己紹介を始める。ナミが名乗ったところで……。

 

「ナミ……ルフィから聞いた話じゃが、ネズミとかいう塵屑が大分、迷惑をかけたそうじゃのう。すまんかった」

 

「いえ、良いんです。ルフィが全部、解決してくれましたから」

 

 ガープはココヤシ村を占有してアーロンとグルで今は投獄されているネズミ大佐の一件を謝罪し、ナミはルフィを見つつ、そう言った。

 

「そして、この二人が……」

 

「アラバスタの王女、ネフェルタリ・ビビです。ルフィさんには助けられました」

 

「護衛隊長のイガラムです。どうか我が国を、そしてビビ様の事、よろしくお願いします」

 

 

 

 ビビもイガラムもそれぞれ、深く頭を下げる。

 

「おう、任せい。わしがいれば百人力じゃ」

 

「それどころじゃない気がするが……ルフィ、おれも力を貸すぜ。クロコダイルはおれの船長、白ひげと因縁があるんだ」

 

 

「助かるけど、本当に良いの?」

 

「勿論だ。それにお前は人に頼らなすぎなんだよ」

 

『それには同感』

 

 エースの言葉にゾロたちは賛同し、ルフィは苦笑するという一幕を経ながらもルフィ達は一度、指針を決めるために会議をした。

 

 

 

 

「ビビ、こいつを預かっておいてくれ」

 

「え……あ」

 

 クロコダイルを倒すために彼の拠点としている場所にルフィとゾロ、ガープとエースが組となって向かう事となった。そして、向かう前にルフィは麦わら帽子をビビへと投げ、彼女はそれを受け取った。

 

「クロコダイルは必ず倒すとそれに誓う」

 

「……はい、よろしくお願いしますルフィさん」

 

 ルフィは誓いながら、背を向けるとビビは彼の背中へと頭を下げたのだった……。

 

 

 

 

 




 


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二十四旅

 

 外来の者がアラバスタを訪れた時、その多くが一度は夢の町と呼ばれる『レインベース』へと足を運ぶ。それはこの町に聳え立つバナナワニの屋根が特徴的なカジノのある建物『レインディナーズ』があるからだ。

 賭博による一攫千金を狙う訳である。

 

そして、そんなレインディナーズのオーナー、実質、この町の支配者と呼んでも良い存在こそが……。

 

「……」

 

 黒のオールバックに鼻の中央辺りには横一線の傷跡、左手の部分は鉤爪と一体化しており、修羅場を長年生き抜いてきた風格のある男は葉巻を吸っている。

 

彼こそはサー・クロコダイルだ。

 

 彼は世界政府所属の海賊である王下七武海の一人であり、この国に居を構えてから、この国を荒そうとする他の海賊を倒し続けたことでこの国の王であるコブラを始めとして、アラバスタに住まう人々より英雄としての信頼を勝ち取っていた。

 

 しかし、信頼を勝ち取ったのはこの国に眠るらしい()()()()()()()()を手に入れるためである。

 

先ずはアラバスタに溶け込みやすいように政府側の人間、英雄として信頼させつつもその裏では犯罪結社であるバロックワークスを創設して手駒を増やし、色々と暗躍させつつ、アラバスタを転覆させるために国民を扇動する事で反乱軍を誕生させてクーデターを起こさせた。

 

流石に王国側も馬鹿では無く、バロックワークスが暗躍している事は掴まれた。もっとも、王女のビビと護衛隊長のイガラムが潜入しようとしていたのは正直言って、驚いた。

 

しかし、それは直ぐに呆れへと変わり、ちょっとした余興とばかりに冥土の土産としてクロコダイルは全てを晒してやった上で始末を命じた。これで邪魔者はいなくなり、計画は達成される。

 

その筈だった……。

 

しかし、その時から狂いは生じてしまった。

 

「何、二人に連絡が出来ない?」

 

 始末を任せたMr.5とミス・バレンタインのペアよりビビとイガラムを始末したと連絡を受けてから全く、連絡が付かない様になったのだ。

 

 

 

「Mr.3とミス・ゴールデンウィークにもだと……」

 

 更に優秀な策略家であり、任務遂行への執念を評価していたMr.3と相方のゴールデン・ウィークとも連絡がつかなくなった。そして、Mr.3らに連絡を任せた時より、アンラッキーズの二匹の帰りが妙に遅い。

 

 更に異変は組織内だけでなく、反乱の進行具合もだ。本来なら王国軍の状況は今以上に悪くなり、反乱軍は更に歩を進めて首都であるアルバーナに向かっている筈だが、動きは停滞している。

 

 

 

「何か、いや……()()()()()()()()()()っ!!」

 

 それを確信したクロコダイルは一旦、残っている上級エージェントにビリオンズなどを集結させた。だが、計画において最も重要な能力を持つMr.2・ボン・クレーは今だ、来ていない。

 

 

 

「良いだろう、何者か知らないが……来い」

 

 

 長年、修羅場を生きた経験からクロコダイルは自分の計画を乱している何者かが此処に来ることを確信し、だからこそ手駒たちにレインベースを出入りする者の見張り、不審な者を発見すれば即始末する事を命じたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 ルフィは自分の剣になると誓ってくれたゾロと祖父であるガープ、更に彼にとっては予想外で加わってくれてうれしい存在、義兄のエースと共にクロコダイルがアジトとしている『レインベース』へと向かった。

 

『いくぞぉっ!!』

 

 もう、クロコダイル側に自分たちの存在が知られないように隠密行動をする理由は無く、どちらかと言えばルフィは肉体派だ。なので堂々と正面から見張りをしていたバロックワークスの者らへと猛進した。

 

 

「うはははは、血が滾るわ。やっぱり、悪党は殴るのが一番じゃな」

 

 ガープは本日、いつも以上に気持ちは滾っていた。何故なら孫のルフィと一緒に悪を蹴散らせる上、予想外な事に悪友とも呼べるロジャーに託されたエースとも共闘しているからだ。

 

 昔を思い出しつつも今をも楽しむ彼のボルテージはヒートアップし続ける。

 

 

「悪いが、今日のおれはいつも以上に燃えているぜっ!!」

 

 そして、ボルテージが上がっているのはガープだけでなく、エースもだった。

 

 彼は悪魔の実の能力者で自然の化身と化す『自然系(ロギア)』の一種、炎を司る『メラメラの実』を食べた。これにより、身体を炎へと変化させられるし、炎を放出できる。

 

 今回は祖父のガープ、何より愛する義弟のルフィと共闘できる嬉しさで身体も精神もいつも以上にヒートアップしていた。

 

 

 

「世界にはいくらでも強豪がいるんだな。おれももっと強くならねぇと」

 

 ガープもエースもゾロにとっては鬼神のようであり、その強さに感銘を受けながらもいずれ越えてみせるという決意を持ち、奮起して剣を振るった。

 

 

 

 

「押し通らせてもらうぞっ!!」

 

 ルフィはクロコダイルを倒すその意思を激しく燃焼させながら、先ずは邪魔者たちを蹴散らしていった。

 

『ぐああああっ!!』

 

 四人の戦意がヒートアップするに伴って振るう武威は高まり続け、敵対している者らからすれば天災が如き、暴威に他ならないものへと達する。

 

 

 

 

 『うぎゃああああっ!!』

 

 成す術無く、ビリオンズもそして上級エージェントも蹴散らされる中……。

 

 

 

「(つ……強すぎる)」

 

 バロック・ワークスのエージェントがMr.1であるダズ・ボーネスはルフィらの強さに内心、そう漏らすしかない。

 

 しかし、満足感はあった。何故なら……。

 

「(英雄(ほんもの)はこんな世界にもいたんだな)」

 

 昔からそうなりたいと思った存在、ヒーローと呼べる存在、ルフィに会えたからだ。

 

 見よ、あの悪を許さんと猛る義憤。悪を倒すために本気で行動するその勇姿。慢心も油断も無く、真剣に状況を見据え、悪の暴挙を粉砕してみせている。

 

 あれこそ、正にヒーローと呼ぶべき存在だろう。

 

 

 

 

「(おれには努力も根性も足りなかったんだな)」

 

 ルフィに感動しながら、彼は自分のこれまでを思い返す。

 

 バロックワークスのエージェントになる前はウエストブルーで賞金稼ぎをしていた。それは憧れていた民衆を救うヒーローになろうと考え、ならば海賊を倒す賞金稼ぎこそがそうだろうと考えたからだ。

 

 しかし、この悪が蔓延る世界で『正義』を貫く事は困難であり、結局はヒーローになる事を諦めた。

 

 

 

 

 

「(お前は諦めないでくれ)」

 

 しっかりと英雄(ほんもの)の姿を目に刻みつつ、内心、ルフィにヒーローであり続けて欲しいと内心でエールを送った。すると……。

 

「(っ!! 嬉しいものだな……)」

 

 彼は知らないが、見聞色の覇気によってダズの意思を読み取ったルフィは頷いて見せ、ダズは喜びつつ、気絶したのだった……。

 

 

 

 

 

 

「ふふ、見事なものね」

 

 敵だけが倒れ、ルフィ達が己らの健闘を軽く讃え合っているとミス・オールサンデーが声をかける。

 

「戦いに来た訳じゃないようだな」

 

「ええ、正直私じゃ勝てないもの。だから、恩をまた売りに来たのよ。貴方達をクロコダイルの元まで案内してあげるわ」

 

「案内するのはおれ一人で良い」

 

 オールサンデーの言葉にルフィはそう返す。これは元から決めていた事だ。クロコダイルに一人で挑む事は……。

 

「しっかりやり遂げるんじゃぞ、ルフィ」

 

「クロコダイルが相手でも、お前は勝つ。なんせ、おれの弟だもんな」

 

「誰を怒らせたのか、存分に後悔させてやれ」

 

 

 ガープにエース、ゾロはオールサンデーと共にクロコダイルの元へと向かおうとするルフィへ見送りの言葉を送った。とはいえ、ルフィが帰って来るまで待機はするし、倒した者たちを海軍へと連行出来るための準備はするのだが……。

 

「行ってくる」

 

 こうして、ルフィはクロコダイルの元へと向かったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十五旅

 

 

 アラバスタにあるカジノの町、『レインベース』にある中で最大のものこそが『レインディナーズ』。そのオーナーこそがアラバスタ王国の転覆を狙うサー・クロコダイルである。

 

 そして、ルフィはクロコダイルの右腕とも言える存在、ミス・オールサンデーに連れられてレインディナーズの裏口から内部へと入り、クロコダイルの居る部屋へと向かう。

 

 

 

「この部屋の先に彼が居るわ」

 

「そうか、案内してくれて感謝する」

 

 オールサンデーは大きな部屋の扉の前まで辿り着くと脇に移動してルフィに入る様、促し、ルフィは頭を下げて礼を言う。

 

「良いのよ、私は私のためにやっているだけだから。それにしても不思議ね。貴方を見ているだけで貴方がクロコダイルを倒せると思わせられるなんて……」

 

「称賛は受け取っておく。受けた恩はしっかりと返させてもらうから安心しろ」

 

「ええ。そうさせてもらうわ」

 

 ルフィの言葉に微笑むとオールサンデーは部屋より去って行った。それを見送ったルフィは部屋の扉を開けて中へと入ると……。

 

「ふん、オールサンデーめ。最後の最後に裏切りやがるとは……やはり、他人は信用できねぇな」

 

 葉巻を口から離し、紫煙を吹かしながらクロコダイルはルフィを見て、呟いた。

 

「そんな事を言うなら、お前は組織の頭としては失格だな」

 

「はっ、生意気な口を聞いてくれるじゃねえかクソガキが。おれにとってバロックワークスは所詮、唯の手駒だ。さて……」

 

 

 

 クロコダイルはルフィの言葉を嘲笑うとそのまま、彼を観察し……。

 

「お前だな。散々、おれの計画を引っかき回してくれたのは?」

 

「そうだ。ビビとイガラムさんからお前がアラバスタを滅ぼそうとしていると聞いたからな。こうして、お前を倒しに来た」

 

「ち、王女共はやはり生きていたのか。それにおれを倒すだと……笑えねぇ冗談だ」

 

 ルフィの宣言にクロコダイルは嘲笑を浮かべる。

 

「おれはいつでも真剣だ」

 

 その言葉にルフィは答えつつ、次の瞬間にはクロコダイルに接近していた。

 

「(速いな……)」

 

 自分に対し、左の五本指を合わせ、旋回を加えた貫手を繰り出そうとしているのを見ながらもクロコダイルは余裕だった。

 

 何故なら、彼は悪魔の実の能力者であり、【自然系】の『スナスナの実』を食べた人間。

 

 自然系の能力者は基本として自然物へと身体が変化するが故に物理攻撃は通用しなくなる。無論、打撃など通用する訳が無いのだ。

 

「(!?)」

 

 だが、クロコダイルは長年、修羅場を生き抜いたが故の経験で培われた勘によってルフィの攻撃に危機を感じ取り、身体は勝手に回避へと動いた。

 

「おぐっ!!」

 

 ルフィの貫手がクロコダイルに炸裂したが直前に身体が後退したので、直撃自体は避けることが出来た。しかし、それでも受けた衝撃は彼の内部へと浸透し搔き乱す。

 

「(馬鹿な、こんなガキが覇気使いだとぉっ!!)」

 

 自然系の能力者には物理攻撃は通用しないのは基本である。しかし、物事には例外は存在するのだ。

 

 

 人体、あるいは物体へ纏わせる覇気が【武装色の覇気】。これが使われているならば例え、自然系の能力者であっても物理攻撃は通じてしまう。

 

「しいっ!!」

 

 ルフィは攻撃を回避されても動じず、追撃に彼の顔面へと右手の指全てを折り曲げ立てた状態で突き出した。いわゆる熊手染みた攻撃であり、くらえば顔面が捥ぎ取られるだけの脅威を感じさせられる。

 

 

 

「うくっ!!」

 

 なんとか頭を傾ける事で頬を裂かれつつ、回避したクロコダイルは即座に右手でルフィの首を掴んだ。その直後にルフィの右手はクロコダイルの首を後ろで掴み、左掌はクロコダイルの腹部に押し当てられる。

 

「死ね」

 

 しかし、クロコダイルはルフィの行動を気にはしない。何故なら今の状態はクロコダイルが勝利を確信するに十分な状態だからだ。

 

『スナスナの実』の能力によって彼の掌は触れた物体の水分を奪う事が出来るため、人間ならばミイラへと変えられるのだ。つまり、ルフィの死は確実であるが……。

 

「(なっ、身体が……!?)」

 

 クロコダイルは驚愕する。急に自分の身体が動かせなくなった事で力が使えなくなったからだ。これはルフィがクロコダイルの首の後ろを掴んでいる事で右手から生命エネルギーを流して、彼の生命エネルギーに干渉。

 

 

 エネルギーの流れを乱す事で力の使用を封じ、身体の動きも封じているのである。

 

「少なくとも、お前を倒すまでは死ぬ訳にはいかないな」

 

 そう言って、ルフィはクロコダイルへ押し当てている掌より強烈な衝撃を放ち、内部へと浸透させる。

 

「お、が……」

 

 首の後ろを掴んで固定している事で衝撃は一つの逃れも無く、クロコダイルの体内を搔き乱し、それによって彼は血塊を吐く。

 

「六王銃っ!!」

 

 ルフィはすかさず、右手と左手をクロコダイルより離してすかさず、両手の拳を上下にクロコダイルへと押し当てると六式の最大奥義を放った。

 

 

 

 

「ぐふっあああああっ!!」

 

 爆発の如き衝撃の伝導によってクロコダイルは凄まじい勢いで吹っ飛び、床を転がっていった。

 

「う……お……が、は……ごほ、ごほ……クッ、クハハ。まさか、お前のようなガキに追い詰められちまうとはな」

 

 ルフィが構える中、クロコダイルは弱弱しくも立ち上がり、血塊を吐き出しながら苦笑を浮かべ、ルフィを憎々し気に睨みつけた。

 

 

「ふざけるな……おれはもう、()()()()にはいかねぇんだぁぁぁぁっ!!」

 

 そう、クロコダイルは一度、ある存在に敗北させられていた。だからこそ、その屈辱を晴らすがために力を蓄え、リベンジし今だ、果たせていない野望を実現しようとしたのだ。

 

 

 

 

 それがために彼は勝利への執念を燃やし、身体の限界すらも超えてルフィを打ち倒さんと迫る。

 

「そうか、お前にも勝ちたい理由があるんだなクロコダイル。その勝利への執念は見事。だが……」

 

 ルフィはクロコダイルへ語り掛けつつ、拳を握り……。

 

 

「ごぶはぁぁぁぁっ!!」

 

「この勝負、勝つのはおれだ」

 

 

 クロコダイルを己の拳撃により、打ち倒し勝利を掴んだのであった……。

 

 

 



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二十六旅

 クロコダイルが本拠地としていたレインディナーズにて、クロコダイルとの勝負に勝ち、彼が意識を取り戻しても動くことが出来ないようにしてから担ぎ上げて裏口から出てゾロにエースとガープが待つ場所へとルフィは戻った。

 

「そいつがクロコダイルか?」

 

「ああ、間違いなく本人だ」

 

 ルフィが地面へと下ろした者を見てゾロが尋ねてきたのでルフィは頷いた。

 

 

 

「やっぱり、勝ったな。それでこそだ……なぁ、ジジイ」

 

「うむ。流石は自慢の孫じゃ」

 

 エースとガープはルフィがクロコダイルを倒した事に満足げな表情を浮かべ、頷きあった。

 

「さて、それじゃあ後は海軍であるわしらでやっておくからルフィ達は王女さんたちの方へと行ってやれ」

 

「なら、おれはこれで別れさせてもらうぜ。捕まる訳にはいかねぇからな」

 

 ガープがルフィ達に告げるとエースが続けて言う。

 

「助かったよ義兄さん。やらなければいけない事があったのにありがとう」

 

 ルフィはエースに礼を言った。

 

 レインベースに向かう道中、エースがアラバスタまで来た理由を聞いていたのだが、それはドラム王国を滅ぼした『黒ひげ』なる人物、元は白ひげ海賊団の二番隊員の男でエースの部下だった男が海賊たちにおいて最悪で最大の罪、仲間殺しをした事でその男に報いを受けさせるためであるとの事だった……。

 

「なぁに、義弟を助けるのは義兄として当たり前の事だから気にするな。それとこいつを渡しておく」

 

 エースはルフィからの礼に微笑むと懐から何かを渡した。

 

「ほう、ビブルカードなんか作っておったんかい」

 

 ビブルカード、別名『命の紙』は濡らしても燃やしても平気な特殊な素材の紙に人の爪の切れ端を混ぜる事でその者の命の大きさを示すものであり、破片として持てばビブルカードに使われている者の居場所の指標にもできる優れものである。

 

 

 

「そいつがあれば、再会も簡単になる」

 

「分かった、しっかりと持っておくよ。それじゃあね」

 

「おう、じゃあな。ジジイもまあ、元気でやれよ」

 

 ルフィはエースへと近づき、共に抱擁を交わすとエースはルフィより離れ、ガープへ声をかける。

 

 

 

「ふん、それはこっちの台詞じゃ。今回は見逃せる状況じゃし、協力もしてもらったからこのまま見逃してやれるが本来ならこうはいかん。頼むからわしが動くような状況にするなよ」

 

「アンタとやり合うのは俺だっていやだよ。上手く立ち回ってみせるさ。それじゃあな」

 

 最後にガープへ笑いかけるとエースは去って行った。

 

「それじゃあ、俺たちもビビ達の元へ向かうよ。また後でね、爺ちゃん」

 

「おう、後でな」

 

 ルフィもガープへ告げるとゾロと共に国王軍と反乱軍の争いを止めるために行動しているビビにカルー、イガラム、ナミにウソップ、サンジにアルビダ、ピクチャとヴァルチィ、チョッパーらの元へと電伝虫で連絡しつつ、向かったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 結果としてはアラバスタの内乱は止まった。

 

 国王軍にも反乱軍にもバロックワークスの者が潜んでいたとはいえ、裏方全般を担当していたアンラッキーズであったピクチャとヴァルチィが上手く誘き出した事で対処する事が出来た。

 

 

 又、反乱軍のリーダーであるコーザはビビと幼馴染であったことも功を奏し、反乱は止まったのだ。無論、クロコダイルの悪事が暴かれた事もあるが……。

 

「皆、上手くやったようだな。お疲れ」

 

「そっちこそ、お疲れ。王下七武海の一人まで倒しちゃうなんて本当、あんたの強さは底なしね」

 

「そして、クロコダイルを倒した事で名も広まるねぇ……あんたはもっと世界に知られるべき男だ」

 

 

「おれは最初から信じてたぜ、こっちはピクチャとヴァルチィのお蔭で楽だった」

 

「内部情報を持ってる奴ってのは頼りになるよな」

 

「そうか、良くやったなピクチャにヴァルチィ」

 

 ウソップとサンジの言葉を聞くとルフィはピクチャとヴァルチィの頭を撫でると二匹は嬉しそうな表情と照れた状態になる。

 

「おれも頑張ったぞ、ルフィ」

 

「みたいだな、良くやった」

 

 チョッパーが帽子を取りつつ、頭を差し出してきたのでルフィは優しく撫でた。

 

 

 

 

 そして……。

 

 

 

「ルフィさん、ありがとうございました」

 

「ああ、どういたしましてだ。上手くいって良かったよ」

 

 ビビがルフィに近づき、礼を言い、ルフィは笑顔を浮かべて頷く。

 

「全部、ルフィさんのお蔭ですよ」

 

「それは違うぞ。アラバスタの人たちを救おうと必死に動いたビビの尽力あっての事だ。素晴らしい王女様との縁が出来ておれは誇らしいし、嬉しく思う」

 

「……っ、褒めすぎですよルフィさん。それとこれ」

 

 ビビはルフィの言葉に照れながらも預かっていた麦わら帽子を差し出した。

 

 

 

「ありがとう。ああ、そうだ……」

 

 それを受け取り、被りながら何かを思い出した様子で言う。

 

「何ですか?」

 

 ビビがそれを尋ねると……。

 

「アラバスタへの入国許可を頂けますか、王女様?」

 

 恭しい態度でルフィはビビへと尋ねる。

 

「……はい、歓迎します。そして、ようこそ私たちの国、アラバスタへ」

 

 彼の言葉にビビは微笑みを浮かべて歓迎したのであった……。

 

 

 

 

 



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二十七旅

 

 世界政府の加盟国であり、砂に包まれた文明大国がアラバスタ。

 

 その首都の名は『アルバーナ』であり、当然、此処には王宮が存在する。そして、この王宮の長であり、アラバスタの全てを管轄している王こそが……。

 

 

 

「ビビとイガラムをこの国まで送り届けてくれた事、そしてこの国を狙うクロコダイルを倒し、反乱を止めるのに協力してもらった事……感謝という言葉では表せない程の事をしてもらった。まずは言わせてもらおう、本当にありがとう!!」

 

 そうして、アラバスタの国王であり、ビビの実の父親であるネフェルタリ・コブラは玉座を下りると兵士や護衛の者らが居るのにも関わらず、膝を付き、頭を深く下げた。

 

 

 

『ありがとうございました!!』

 

 続いて兵士らに護衛の者である黒髪でおかっぱの男であるチャカと黒髪のオールバック、布を巻き、両目の辺りから頬までをペイントしているペル、ビビにイガラム、カルーもコブラに倣ってルフィらに対して、膝をつき、頭を下げた。

 

 

 

「深く感謝してもらえたなら光栄です。しかし、おれたちは助けを求められたから助けたという当たり前の事をしただけです」

 

 ルフィはコブラたちの感謝を受け取りつつもコブラへと近づいて、屈みながら手を差し伸ばした。

 

 

 

「こんな時代に……そして、世界にこれ程の、それも少年がいるとは……」

 

「何という、義侠心の持ち主だ」

 

「我らも見習わなくては」

 

 コブラは感動しつつ、ルフィの手を取って互いに立ち上がる。その様子を見ながら、チャカとペルは感想を述べた。

 

「感謝されるってのは、良いもんだ」

 

「流石、ビビちゃんの国だけあって丁寧な対応だな」

 

「おれもああいう言葉をさらっと言えるようになりたいもんだ」

 

「うーん、ルフィは自然にやってるから誰にも真似できないんじゃないかしら」

 

「むしろ、出来ちゃ駄目だろ」

 

 感謝された事に気を良くしながら、ゾロたちは呟き、アルビダの言葉にピクチャとヴァルチィは頷く。

 

 

 

「へへ、気持ち良いな」

 

 チョッパーは照れる余りに身をくねらせていた。

 

「コブラ王、おれたちはこのまま今までの反乱で乱れた地域の復興を支援しようと思います。その傍らでしばらくの間、観光しようと思うのですが構いませんか?」

 

「そんな……そこまでしてもらっては此方の立つ瀬がない。観光だけしてもらえれば、その間はもてなしをさせてもらうから……」

 

「いえ、黙って見ているだけなんて出来ませんよ。感謝ならその後でゆっくり受け取りますから」

 

「なんて、なんて事だ……素晴らしすぎるぅっ!!」

 

 ルフィの言葉によってとうとう、感極まったコブラは涙を流し……。

 

 

 

「どうか、ビビを嫁にして私の義理の息子になってくれないだろうか。そして、この国の次期国王になってくれっ!!」

 

「何を言ってるの、お父様っ!?」

 

 コブラの言葉にビビは顔を真っ赤にして声をかける。

 

 

 

「幾らなんでも混乱しすぎだ国王っ!! 賛成ではありますが」

 

 イガラムも声をかけながら小声で彼の案には賛同していた。

 

「取りあえずは、落ち着いてください。それにおれに王は荷が重すぎますよ」

 

 困った様子でルフィはコブラへ言うというちょっとしたことがありながらも一先ずは彼らからの恩として軽い宴に誘われ、それに応じたルフィ達であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 クロコダイルを倒し、反乱が治まる一役を担った事でアラバスタをルフィ達が救った事は当然の如く、大々的なニュースとなった。

 

 それは無論、クロコダイルが王下七武海でありながらアラバスタの転覆を担っていた事も大きい。本来ならば世界政府の体面的に海軍が倒したという事にしたいところだったが、ガープが大々的に『孫のルフィが倒した』と自慢げに言いふらし回ったのでセンゴクはルフィに連絡を取り、ルフィ達の事を海軍に協力している組織という風に扱う許可を取った。

 

 

 

 こうすれば、ルフィらに対しても色んな恩赦が与えられるという事も計算しており、ルフィも了承したのでそのように宣伝はなされたのである。

 

 しかし、それを抜きにしてもアラバスタの者たちはルフィらの事を救世主のようにも扱っている。

 

 それもそうだろう、復興への手伝いから美味しい料理の提供、怪我人の治療等々、慈善団体も顔負けの善行をしてもらっているのだから……アラバスタの者らへのインタビューにより、ルフィら含めて『麦わらの旅団』は『救国の英雄集団』やら『正義の代行者』など完全に正義の味方として新聞で扱われていた。

 

 

 

『ありがとうございました』

 

 復興の手伝いをしながらも余る時間は国王軍やチャカにペルという戦士らと鍛錬に励んだルフィとゾロは彼らに礼をする。

 

「う、うむ……流石、クロコダイルを倒しただけあってとんでもない男だな、ルフィ君」

 

「ゾロ君も凄まじい剣の腕です」

 

 ルフィとゾロに対し、動物系の能力者、『イヌイヌの実、モデルはジャッカル』のチャカと『トリトリの実、モデルは隼』のペルは変身した状態で全力で戦ったが、消耗しきったので何とか、声を出した。

 

 もっともルフィらも消耗しているが……。

 

「我らももっと、鍛えねば」

 

エリート護衛団のツメゲリ部隊と兵士らに至っては倒れ伏してすらいる。

 

「それにしても、一々大げさだなこれは……」

 

「いや、妥当だろ」

 

 

 ルフィとゾロは鍛錬が終わるとチョッパー特性のたんぱく質を大量に摂取できるプロテインの丸薬を咀嚼し、水で流し込んだ。

 

 因みにクロコダイルの策略によって水不足にさせられていたアラバスタだったが海軍の協力により、人工降雨船による雨でそれは解消されている。

 

 ルフィは新聞で自分たちが過大に評価されている事に戸惑ったが、ゾロは納得した様子で呟く。

 

 更に……。

 

 

 

『麦わら旅団の傘下、オカマ船団大活躍』というボン・クレーらに関しての記事を読んだルフィは苦笑しながら、『まぁ良いか』と流すのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロコダイルを倒した事が世界に広まったがその情報により、動いた者たちが居る。

 

「へ、クロコダイルが居ないならアラバスタなんか恐れるに足らずだ」

 

 それはアラバスタを狙う海賊集団、今まではクロコダイルの戦力に恐れをなしていたので攻めなかったがそれが居なくなったことで襲撃をかけようと決意した者たちである。

 

 海軍に協力する組織がどうたらなど彼らは信じなかったし、海軍による作り話だと都合良く思っていたのだ。ましてや、海軍は現在、アラバスタには居ないのだから……。

 

 しかし……。

 

「この国はようやく、平穏を取り戻したんだ。余計な事は止めてもらおう」

 

 まだまだ麦わらの旅団は健在であった。そして、麦わらの旅団に新入りが最近、入っている。

 

 

 

「クオーっ!!」

 

 それは亀の甲羅と一体化しているようなジュゴン、クンフージュゴンである。

 

 緑の町、エルマル付近に居るジュゴンであるが実力はそれなりに強く、しかし、クンフージュゴンは負けた者に弟子入りする習性を持っている。

 

 ビビたちは反乱軍を止めるために行動した際、一度会っており食料を渡す事でクンフージュゴンの群れをやり過ごした。そして、二度目はルフィを伴っての観光で会ったのだが……。

 

 

『クオー』

 

「ようこそ、武神様……って、問答無用で崇めてるぞあいつらっ!?」

 

 ルフィを一目見ると一斉にひれ伏したジュゴンたちは彼らの間で一番の実力者を差し出し、『どうか、仲間にしてほしいっす』と土下座して頼み込み、ルフィが了承したことで仲間に加わった。

 

『ぎゃああああああっ!!』

 

 こうして、クンフージュゴンが加わった麦わらの旅団はアラバスタを襲撃しようとした海賊らを撃退したのであった。

 

 

 

 

 そして、その日の夜……ルフィが夜の鍛錬をしていた時……。

 

「恩を返してもらいに来たのか?」

 

「えぇ、そうよ。安心して簡単な事を一つやってもらいにきたの。それが済めば私の今後は貴方に任せるわ」

 

 

 ミス・オールサンデーがルフィに接触しに来たのであった……。

 

 

 

 



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二十八旅

 

 

 反乱軍による内乱が治まり、かつての平穏を取り戻しつつあるアラバスタ。その首都、アルバーナの王宮にはいつものように玉座に座り、政務をこなしている国王、コブラの姿がそこにあった。

 

「頼みがあるとの事だったが、それは何かなルフィ君。それに其方の女性は?」

 

 コブラは娘であるビビからルフィが頼み事をしたいと聞き、幾つもの深い恩がある事から是非、してほしいとルフィを玉座の間まで招いた。ビビを傍に、そして後ろにはミス・オールサンデーを伴ってルフィが訪れたのである。

 

 事前にルフィは『彼女には自分たちの事をクロコダイルに黙っていてもらった恩、クロコダイルの元まで案内してもらった恩がある』とオールサンデーとも会わせつつ、説明した。

 

 

 

 最初は当然、敵意をむき出しにしていたビビであったがルフィが信用しているならばと一旦、敵意を納めて父に掛け合い、こうしてこの場まで同行した。

 

 そして、ルフィであるが……。

 

「個人的な要件ですみませんが、この国にある『歴史の本文(ポーネグリフ)』を彼女に見させてあげてください」

 

 そう、頼み事をしながらルフィは膝を地に着け、深々と頭を下げる。

オールサンデーがルフィへの恩を返す要件として要求したのは世界各地に置かれ、この国にもある歴史が記されたキューブ状の石碑が『歴史の本文』を見せるよう、掛け合って欲しいとの事だった。

 

 

 

「ま、待ってくれ。何もそこまでしなくてもよい」

 

「しかし、アラバスタの王家にとっては守るべき物と聞きましたので……」

 

「確かにそうだが、恩人である君ならば構わん。頼みは聞こう、しかし君は歴史の本文を読めるのか?」

 

 

 歴史の本文は古代文字で書かれており、守るべき物として伝えられてはいるものの、国王であるコブラにそれ以前のアラバスタの王たちでも解読する事は出来ず、よって何が記されているのかは知らない。

 

 

 

「ええ、私はオハラの生き残りよ」

 

「なんとっ、では君は……」

 

 オールサンデーからの答えにコブラは彼女の正体を悟った。

 

オハラとはウエストブルーにあった島で全知の樹という巨大な大木があり、その中には世界中の資料が集められた図書館があったためにこれを目当てに考古学者が集結し、協力して歴史の研究が行われていた島の名だ。

 

しかし、考古学者は歴史の研究をしながらも古代兵器を復活させて世界支配を企んだためにバスターコールという海軍による島破壊命令が下された事でオハラは地図より消し飛んだ。

 

 そんな中、生き残りの存在が判明した事でその生き残りに対し、絶対生け捕りの手配書が出された。

 

「とにかく、案内しよう」

 

 こうして、コブラ先導の元で歴史の本文がある王宮の西の葬祭殿へとルフィにビビ、オールサンデーことにニコ・ロビンは向かったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生まれる前より、他界した父に自分を守って死んだ母、そして周りの者たちも考古学者である者が殆どであったことから、彼女も又、考古学者となる道を選んだ。

 

しかし、考古学者ならば誰もが解き明かそうと目指す『歴史の本文』。それを調べる事は何故か世界政府によって禁止されていた。

 

だが、歴史を研究するならば『歴史の本文』にはどうしても触れなければならない。だからこそ、秘密裏にでも解き明かそうと父も、母も、周りの者たちの誰もが挑んだ。

 

 

 

 

『生きてロビンっ!!』

 

その結果、生まれ故郷であるオハラとその島民の殆ど、自分の母親までもがバスターコールによって滅せられ……。

 

 

 

「生きろ、ロビン」

 

 唯一、海軍の中将であったものの、友人であったサウロも又、自分を逃がして犠牲に……以来、手配書も出され世界が敵になった環境の中、必死にニコ・ロビンは孤独の中で生きてきた。

 

オハラの誰もが成し遂げられなかった歴史の本文を解き明かさんがために……。

 

そして、なんとか掴んだ手掛かりによってアラバスタにある歴史の本文の元に辿り着き、解読してみれば……。

 

 

 

 

「ふふ、此処ならと期待していたのだけど……」

 

 記されていた内容はロビンが求めるものでは無かった。歴史には全く、関係の無い情報が書かれていただけだったのである。

 

「目的を果たせなかったようだが、お前が望んでいたのは何だったんだ?」

 

「私が求めていたのは『真の歴史の本文(リオ・ポーネグリフ)』、世界中に存在するポーネグリフの中で唯一、真の歴史を語る石よ」

 

「真の歴史?」

 

「そんなものが……」

 

 ロビンの発言にビビもコブラも戸惑った。

 

「二十年も探し続けて、ようやく掴んだ情報だったのに残念だわ……ありがとう、団長さん。私の要求を叶えてくれて」

 

 ロビンは諦めと自嘲を浮かべるとルフィに微笑みかけた。

 

「それは別に構わない。恩を返すのは当たり前の事だからな……それより、お前は世界全てを回ったのか?」

 

「……いえ、政府に追われる身だから回れない場所もあったわ。でも多分、この先には無いと思うし、もう良いの」

 

「可能性があるなら、諦めるなっ!!」

 

 ルフィへの質問にロビンが答えると急にルフィは叫ぶ。

 

 

 

「二十年も探す根気と執念があって、可能性もまだ残っているなら諦めるなよ。可能性のある事、全部やってそれでも駄目なら、ともかくな」

 

「簡単に言ってくれるわね」

 

 ロビンはルフィの言葉に不機嫌となる。

 

 

 

「ああ、言わせてもらう。おれは諦める奴を見るのが嫌いだからな……お前との約束は此処の『歴史の本文』を見せたら、お前は今後をおれの判断に任せるというものだった筈だ」

 

「ええ、それで良いわ。私を海軍か世界政府に差し出せば、大金が手に入るわよ」

 

「勝手に決めるなよ。お前には今日からおれたちの仲間になってもらう」

 

「っ!? どういうつもり」

 

 

 ルフィの言葉にロビンは驚愕の表情を浮かべた。

 

「お前に悔いを残さない事が真の『恩返し』になるからだ。リオ・ポーネグリフを見たいのなら、確証は出来ないが手伝いくらいはしてやる」

 

「本当に分からないわね。そんな事をして貴方に何の得が」

 

「損得の問題じゃない。おれはおれが納得できるようにしたいってだけだ」

 

「随分と勝手ね」

 

「自覚はある。だが、約束は守ってもらうぞ……おれたちの仲間になれ、ニコ・ロビン」

 

 

 

 ロビンの苦笑にルフィも苦笑を浮かべて手を差し出した。

 

 

 

『この世に生まれて、一人ぼっちなんてことはないんだで……』

 

「サウロ……」

 

 手を差し出してきたルフィにロビンはサウロの面影を何故だか、見てしまった。

 

 

 

「貴方が約束を守ったのは事実。だから、私も守るわ」

 

 ロビンはそう言って、ルフィと握手を交わす。

 

 

 

『仲間と生きろ、ロビン』

 

「(ええ、サウロ。貴方がそう言うのなら……)」

 

 こうして、ルフィはロビンを自分たちの仲間にしたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 海軍本部、元帥であるセンゴクの部屋にはその当人、センゴクがお茶を飲んでリラックスしていた。

 

「ルフィ君のお蔭で本当に助かった。ガープとはえらい違いだ」

 

 アラバスタ転覆を企んでいたクロコダイルの情報を提供してくれた事、王女と護衛隊長がアラバスタへと辿り着くまでの護衛と輸送、果てはクロコダイルの打倒に反乱鎮圧、及びそれが終わった後の復興の手伝いとルフィは海軍にとっても助かる事を数多くやってくれたのでセンゴクは当然、感謝していた。

 

 

 

 「ん、もしもし……おお、ルフィ君か」

 

 電伝虫より、ルフィからの連絡が来たので軽く挨拶したセンゴクであるが……。

 

『一応、報告させてもらいます。ニコ・ロビンをおれたちの仲間にしました』

 

「ぶほぉっ!? な……なななな、何があってそうなったんだっ!?」

 

 『悪魔の子』として指名手配され、生け捕り命令まで出ているニコ・ロビンを仲間にしたと聞いて動揺と衝撃のあまり、飲んでいたお茶をセンゴクは噴き出してしまった。

 

 

 

「彼女を仲間にする事で海賊認定されようと犯罪者にされようと、構いません。仲間にする以上は責任は負います」

 

「待て待て、早まらないでくれルフィ君。こういう言い方は好きじゃないが、君は海軍にとっても必要な存在だ。返すべき恩も多い。難しいが出来る限り、政府によって害されないよう取り計らってみる」

 

 断固とした決意と鉄の意思で宣言するルフィにセンゴクも又、出来る限り世界政府が魔の手を差し向け無いようにする事を誓った。

 

 

 

 

 そして結果的に言えば、ある程度は成功した。

 

 それはアラバスタを実質的に救った事、ルフィ達の評判がアラバスタ内では大きく、英雄扱いである事。実力的にも王下七武海のクロコダイルを倒せる事から多少のリスクを背負ってでもルフィたちを協力者とする事は全体的に利になるという判断によるものだ。

 

 そもそも、海賊と慈善団体顔負けの事をしている旅団、抱えるならばどちらが得かなど考えるまでも無いだろう。

 

 イーストブルーでの海軍に利する行動をとった事も加味され、センゴクによる証言もあって、ニコ・ロビンが麦わらの旅団に居る間は手配が免除されるという特例的な恩赦は出されたのであった。

 

 もっとも、これは麦わらの旅団がロビンの保護観察のようなものを命じられたことであり、彼女が旅団を抜ければその責任は負わされることにはなるが……。

 

 

 

 



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二十九旅

 ルフィは、自分との取引に応じ、間接的にクロコダイル打倒の手助けをしたミス・オールサンデーことニコ・ロビンを自分たちの仲間にした。それは彼女の夢である「この世界の真の歴史」を記す石碑『真の歴史の本文』を探す手伝いをするためだ。

 

 

 

 それにより、彼女への借りに対する清算としてルフィ自身が納得できるからという面もあるが……。

 

 

 

 

 当然ルフィは、ロビンを仲間にした事を、麦わら旅団のメンバーに伝えた。

 

「そうか」

 

 ゾロはルフィが決めたならばと特に反論も示さずに納得し……。

 

「うーん、でもクロコダイルの右腕だった人でしょ。信頼できるの?」

 

「だよなぁ……流石に警戒しちまうぜ」

 

 ナミとウソップは、ロビンがクロコダイルの右腕であった事からどうしても警戒してしまう。

 

 

 

「ああ、そうそう……クロコダイルの所から少しだけ手土産を持ってきたわ」

 

「歓迎します、お姉様」

 

「おいっ!?」

 

 もっともロビンが金塊の入った袋を落としてみせるとナミはロビンに擦り寄ったため、ウソップは突っ込みを入れたが。

 

「ナミ、ウソップ。お前たちの反論ももっともだが、この事についてはおれの事を信用してくれ」

 

「ルフィがそう言うなら、良いわ」

 

「お前にそう言われちゃあな」

 

 

 ルフィが頭を下げると一先ず、ナミもウソップも納得してみせる。

 

 

 

「おれは歓迎します。ロビンちゃーん」

 

 サンジは美女が加わる事に喜び、目をハートにして近づいた。

 

「ふふ、どんどん仲間を増やしていくんだから。流石だよ、ルフィ」

 

「関係を大事にしてくれるからな、ルフィは」

 

 

「クオー」

 

 アルビダにピクチャ、ヴァルチィ、チョッパー、クンフージュゴンのマイロンもロビンを歓迎する。

 

 それにそもそも……。

 

「ありがとう、ピクチャ、ヴァルチィ。貴方達が頼んでくれたそうね……」

 

 そう、ピクチャとヴァルチィはルフィの仲間となった時に頼んでいた事があった。

 

『自分たちの世話をしてくれたミス・オールサンデーの身をできるだけ安全にして欲しい』という頼みであり、これもルフィがロビンを仲間とした一因である。

 

「これからも貴方達と働けるのは嬉しいわ、よろしくね」

 

 ロビンが笑顔でピクチャとヴァルチィの頭を撫で、更にマイロンとチョッパーの頭も撫でる。どうやら、可愛いもの好きであるようだ。

 

 ともかく、この後は彼女の入団記念に軽い宴などをやったりしたのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 アラバスタは、麦わら旅団の協力もあって、復興はほぼ終わった。それにより、ルフィ達は旅立つ事を国王やビビへと告げると、アラバスタに住む者全員による見送り会が開かれる事に決まる。

 

 全く縁も何も無いのに関わらず、王女であるビビと護衛隊長のイガラムが『助けを求めた』というそれだけでこの国を転覆させようとしたバロックワークスを倒し、クロコダイルの策略による国の内乱も鎮めさせ、復興に尽力してくれた。

 

 そして、特に見返りも要求しない。

 

 ただでさえ、海賊が幅を利かせる世の中であるのに、『正義』は未だ無くなっていないと知らしめるかのような存在だ。

 

 救済者であり、英雄である彼らを見送ろうとするのも当然の事だろう。

 

 

 

『本当にありがとうございました!!』

 

 そして、麦わら旅団が出航する前に、国王から国民に至るまで全員が彼らへと頭を下げて礼を言う。

 

「こちらこそ、温かく見送ってもらえて嬉しく思う。そして、この国と縁を持った事にも感謝を捧げよう」

 

 代表してルフィがそう告げ、頭を下げる。

 

 

 

 

「ルフィさん、本当にありがとうございました。良ければ又、来てくださいね。次はもっと良い歓迎をしますから」

 

「ああ。いずれな……約束だ」

 

 ビビがルフィへと近づいて言葉を交わすと握手をする。そう、唯一の王女である彼女はアラバスタに残るのだ。この国を愛しているから……。

 

「はい。いつまでも待っています」

 

 ビビはそう言って、ルフィに頷くと彼を抱き締め、ルフィはそれに応えて抱き締め返す。

 

 

 

 

 

「んむ」

 

 そして、口づけを交わした。

 

『うおおおっ!!』

 

 これに盛り上がる国民たち。

 

「おおおおおっ!?!? ど、どういう事だルフィィィィっ!?」

 

 サンジは凄まじく動揺する。

 

「わあ、大胆」

 

「やるじゃないか、王女様」

 

 そして、ナミとアルビダの発言を聞きつつ、サンジは二人の姿をよく見る。

 

 

 

 

 いつもいつも美しさや色気が上がっている二人であるが、ビビも含めてどうも色気が魔性めいているような……。

 

「へぇ……」

 

 

 ロビンが興味深げに呟くのを聞きつつ、高速回転しているサンジの頭はとある事実を導き出す。

 

 

 

「う……が……」

 

「あ、ショックのあまり気絶した」

 

「ほっとけ、ウソップ。男の格の差って奴に打ちのめされてるだけだ」

 

 サンジが立ったまま涙を流しつつ気絶した事を、ウソップが指摘するも、ゾロは呆れたようにそう返すだけだった。

 

 

 

 

 

『ねぇ、チョッパー。ちょっと作って欲しい薬があるんだけど……』

 

 ニコ・ロビンが仲間になる何日か前にナミ、アルビダ、ビビに頼まれて、とある薬を作ったチョッパーは思う。

 

「(人間の恋愛って難しいんだなぁ)」

 

 と、こう思ったのだ。

 

 

 

 

「それじゃあ、皆、またいつか」

 

 

 そして、麦わら旅団はアラバスタを出港し、航海を始めたのであった……。

 

 

 




 とりあえず原作集めつつ(現在五十巻まで)。何度か読み返しながら、展開を自分なりに構築させていただいております。


 時には更新の間が長くなることもあるかと思いますが、ご容赦いただければ……。


 一先ず、アラバスタ編終了です!!


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三十旅

 

 ビビとイガラムの救いを求める声を聞き、色々と手を尽くして政府公認の海賊である王下七武海の地位に就いていながら、その裏で暗躍し砂の王国、アラバスタを転覆させようとしたサー・クロコダイルの野望を打ち砕いたルフィ達、麦わら旅団は復興も観光も終えたことで新たに航海を始めていた。

 

 

 

 

「さて、次はどんな島が待っているか楽しみだ」

 

「砂漠はしばらく、勘弁だな。十分体験したからよ」

 

「記録指針によれば、秋島のようね」

 

「秋か……丁度良いな」

 

「ゆっくり過ごせそうに思える」

 

「色々とあったから、その気持ちは分かるよサンジ」

 

「おれはとにかくいろんなところに行きたいし、色んな人に会いたいぞ」

 

「うふふ、今までこんな穏やかな雰囲気で旅したことは無かったわ」

 

 

 それぞれが穏やかな雰囲気の中、他愛もない話をして航海を楽しんでいたが……。

 

 

 

 

「アルビダ、船を早く動かしてくれ」

 

「あいよっ!!」

 

 小さなものが空より降ってきたので、最初は雨かと思ったのだが、嫌な予感がしたルフィは、アルビダに指示をする。そして、彼女によって動かされたメリー号が今居る地点から速度を上げて進むと……。

 

『ふ、船ぇぇぇぇっ!?』

 

 空から逆さまになったガレオン船が降り注いできたのだ。

 

 

 

 

 それによる波、まだ降り注ぐ人骨や落下する船の破片などを問題なくやり過ごしたルフィ達。

 

 

 

「あっ、記録指針が壊れてる!?」

 

「いいえ、より強い磁力をもつ島によって記録が書き換えられたのよ」

 

 記録指針の針が上を向いたことで焦るナミに対し、ロビンは落ち着かせるようにそう指摘した。

 

 

 

「指針が上を向いているなら『空島』に記録を奪われたという事よ」

 

「何か、知っているのかロビン?」

 

「いいえ、残念ながら……ただ、記録指針は疑ってはいけない。指針の先に島があるのだけは確実よ」

 

「分かった。ひとまず、あの船に手掛かりが無いか、調べてこよう。ピクチャにヴァルチィ、マイロンついてこい」

 

 ロビンの話を聞いて、ルフィは、落ちてきた船が海底へと沈む前に、手掛かりが無いかを調べる事とし、泳げるピクチャとマイロン、空が飛べるヴァルチィに指示を出す。

 

 

 ピクチャとヴァルチィは頷き、マイロンも『クオー』と手を上げて答えるとルフィと共に沈もうとしているガレオン船へと向かったのだった。

 

 ガレオン船の探索、そしてメリー号に落下してきた人骨の頭部をロビンが調べた結果、船の正体は、二百八年前に出航したサウスブルーの王国ブリスの『セントブリス号』と判明した。

 

 

 

 

 そして……。

 

「空島の地図に航海記録と日誌があったぞ。財宝のようなものは無かった」

 

 ルフィはピクチャとヴァルチィ、マイロンと共に手掛かりを幾つか手に入れた。

 

「存在だけは本当、みたいね……後は行き方だけど」

 

 ナミが手掛かりを見つつ、考えていると……。

 

「サ〜ルベ〜ジ〜、サルベ〜ジ〜」

 

 

 

 どこからか、愉快な調子の歌声が響き、シンバルを叩く音に笛の音による演奏も伴ってシンバルを持った猿の船首、船の側面に大きなバナナが付いているなどかなり、特徴的な大型船が近づいてきた。

 

 

 

「船が沈んだ場所はここかァ!!?」

 

「アイアイサー!!園長(ボス)!!!」

 

「園長!?つまりそいつァおれの事さ!!! 引き揚げ準備〜〜!!!沈んだ船はおれのもんだァ!!!!!ウッキッキー!!!」

 

 

 

 中々、テンション高めなやりとりをしながら出てきたのは、猿にそっくりな巨漢であった。彼こそ猿山連合軍マシラ海賊団の園長、サルベージ王マシラである。

 

 そして、そんな彼を見てルフィたちが思った事は一つ。

 

『(猿だ……)』

 

「おい、お前ら……って、えええええ麦わら旅団んんんんんっ!?」

 

 マシラは自分の縄張りにいるルフィ達に声をかけようとしたが、メリー号の船旗を見て驚愕の声を上げる。

 

 それは、ルフィがクロコダイルを倒したというニュースや海軍と協力している事などが広まったことで、麦わら旅団が海賊にとっては警戒すべき存在になっていたからである。

 

「ままままま、待ってくれ!おれたちゃ略奪はしてない!ただ、沈んだ船をサルベージして稼いでるだけなんだ!」

 

 

『(それは略奪に変わりないのでは?)』

 

 焦りつつ、言い逃れをしようとするマシラの言葉に、ルフィ達は疑問符を浮かべた。

 

 

「心配しなくて良いぞ、別にお前たちに何かしようとしに来た訳じゃない。質問したいのだが、良いか?」

 

「は、はい。何でも聞いてください」

 

「この辺りについては、お前たちは詳しいのか?」

 

「一応、縄張りにしてます……ウキ」

 

「畏まる必要は無いぞ。それならこの辺りでは空島についての話が広まっていたりはしないか?」

 

 

 気の毒なくらいにしおらしい態度で応じてくるので苦笑しつつ、ルフィは質問を続けた。

 

 

「空島……お前たち、空島に興味があるのか!?」

 

 ルフィが空島について聞くと何やら、嬉しそうな態度で答えてきた。

 

「ああ。その島へ行きたいと考えてるところだ」

 

「なら、任せろ同志よ!空島について、一番詳しいおやっさんに会わせてやるッ!!」

 

 マシラはそう言って、ルフィ達を案内する事を決めた。

 

 

 

 

 そして、先導するマシラの船を追っていると……。

 

「気をつけろ、怪物が来るぞぉぉぉぉっ!!」

 

 突如、空が暗くなるとマシラの船から警告する声が聞こえた。

 

 そして……巨大な黒い人型の何かが現れる。

 

「待てっ、あれはおそらく空からの影だ。心配ないっ!!」

 

 一瞬、驚いたものの空に島があるならばその島に人が居てもおかしく無いとルフィは考え直した。それに現れた黒い人型には生気も存在感も無かったのを感知したのもある。

 

 実際、ルフィの威厳ある声に従ったマシラのビクトリー・ハンター号、そしてルフィを信頼している麦わら旅団のメリー号は、黒い人影に近づいたがそのまま通り抜けることが出来た。

 

「(空島か……行くのが楽しみだ)」

 

 そして、空島があると確証を得たことでルフィは心を高鳴らせるのだった……。

 



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三十一旅

 北の海ことノースブルーには、とある童話が存在する。

 

 ある日、モンブラン・ノーランドという探検家が、旅から帰って、『私は偉大なる海のある島で山のような黄金を見ました』と王様に報告。

 

 それを聞いた王様がノーランドと二千人の兵士と共に偉大なる海へと船を出し、大きな嵐やかいじゅうたちとの戦いを乗り越え、島へと到着した時、何も無いジャングルしかなかった。

 

 これにより、うそつきの罪で死刑になったノーランド。最期に彼は『そうだ! 山のような黄金は海に沈んだんだ!!!』と言葉を残したという……北界民話『うそつきノーランド』

 

 

 

 実はこの童話、実話を元にしたもので、ノーランドは実在していたし、彼が紹介した島は『ジャヤ』と言う。

 

 この島の西には、夢を見ない無法者たちが集まり、世界政府すら介入を諦めた無法地帯、人が傷つけあい、歌い、嘲る町『モックタウン』が存在する。

 

 

「ウォッホッホ!! いやぁ、嬉しいぜ。空島に行こうと本気の奴らに会えるなんて。しかも、それが有名な麦わら旅団と来た」

 

 しかし、航海中に出会ったマシラ達の案内で、麦わら旅団が向かっているのはジャヤの東側である。その最中、マシラの兄であり、オランウータンのような姿の巨漢がショウジョウと彼が率いる海賊団と出会った。

 

 

 因みにショウジョウは「海底探索王」という二つ名を持っていたりする。

 

「げぇ、麦わら旅団!? ま、待ってくれ俺たちは海底を探索してるだけで……」

 

「大丈夫だ。お前たちを捕まえに来たんじゃないから」

 

 ルフィ達を見て、動揺しつつ、しおらしくなるショウジョウであるが、ルフィとマシラの説明により、ルフィ達が空島へと行こうとしているのを聞くと喜び、上機嫌となった。

 

 

 

「ほら、あそこがおやっさんの船だ」

 

 マシラたちが案内した先には大きな城が存在していた。ここにはマシラやショウジョウたちが従う者であり、『猿山連合軍』が最終園長(ラストボス)モンブラン・クリケットが住んでいるという。

 

 

 そして、クリケットはモンブラン・ノーランドの子孫であり、この辺りで素潜りによる黄金探しに明け暮れているとの事だ。因みに……。

 

「へぇ、大きな城だな」

 

「あれはハリボテだ」

 

「見栄張ってるだけかよっ!!」

 

 ウソップが城の見た目に感心したが、それはベニヤ板を普通の家にくっつけただけの代物であったようだ。

 

「黄金かぁ、良いわねぇ」

 

 ナミが海底に黄金があるという話に目を輝かせたりしつつ、上陸して家へと近づいてみれば……。

 

 

「ああ、今、潜ってる最中か」

 

「悪いがちょっと待っていてくれ」

 

 マシラとショウジョウが呼び掛けても、扉を軽くノックしても反応はなく、留守であった。

 

「おう、こんな時間に来るなんて珍しいなお前ら。そいつらは新人か?」

 

 少し待つと、栗が頭にくっついた筋骨逞しい男が現れ、声をかけてきた。

 

 今の今まで、潜水していた為か、ずぶ濡れなこの男こそモンブラン・クリケットである。

 

「いや、こいつらはあの麦わら旅団だよ、おやっさん」

 

「空島の事を聞きたいって言うんだ」

 

「へえ、七武海のクロコダイルを倒し、アラバスタを救ったという奴らが……空島を信じてるのか。うっ……か、あっ!!」

 

 

 マシラとショウジョウの話を聞いていたクリケットだが突如、苦しみ出して地面に蹲った。

 

「チョッパー!!」

 

「うん」

 

 ルフィとチョッパーはクリケットへと近づき、容体を確認すると、まず彼の家の中へと運び、ベットに寝かせ、冷やしたタオルを幾つか身体の上に置く。そして窓を全開にして部屋の風通しを良くした。

 

 

 

 

「随分、無茶をやってきたようだな」

 

「ここまで酷い潜水病は初めて診たよ」

 

 チョッパーの診察によると、クリケットは、海底から海上へと上がる際の減圧が原因で身体に生じる気泡が起こす病「潜水病」を抱えているとの事だ。ルフィはとりあえず、生命エネルギーを彼へと送り込み、干渉する事で身体の修復作業を促進させる。

 

 

 

これにより、出来る限りの治療を行う。急激に治療すれば逆にそれが負担となるのでゆっくり慣らすように……だが、クリケットの状態は完全に回復出来るものでは無い。

 

 だからこそチョッパーとルフィは、クリケットが無理な潜水をしないようマシラとショウジョウに言い含めた。

 

 

「お、おう。良く分かった、治療してくれてありがとうな」

 

「お前ら、本当に良い奴なんだなぁ〜」

 

 マシラとショウジョウは、ルフィとチョッパーに感謝しつつ、頷くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 少し時間が経過すると、モンブラン・クリケットは意識を取り戻し、ベットから身体を起こした。

 

「なんだ?随分と身体が軽いし、調子が良い」

 

「出来る限りの治療はしておいたが、完全な状態に回復させるのは無理だった。これからは身体を気遣った方が良い」

 

「酷い潜水病だ。なるべく、安静にしろよ」

 

 ルフィとチョッパーはそれぞれ一応の忠告をした。

 

「そうか……迷惑かけちまったようだな。それで空島について聞きたいそうだが、お前たちは信じているのか?」

 

「信じている。個人的とは言え、確証が得られる出来事も体験したからな。存在するなら、行ってみたいと思う」

 

「ふふ……良いな、その熱意。気に入ったぜ、同志よ」

 

 クリケットはルフィに対し笑みを浮かべて一つの本を取り出す。それは彼の祖先であるノーランドの航海日誌であり、それには空島についての記述があった。

 

「それじゃあ、おれが知る限りの事を教えてやる」

 

 ジャヤ周辺の海では真昼であるのに、夜が来る奇妙な現象が生じる。それは極度に積み上げられた雲の影によるもので『積帝雲』という空高く積み上がるも気流を生まず、雨にも変わらない特殊な雲が原因との事だ。

 

 この積帝雲は何千年、何万年もの間変わること無く空を浮遊し続ける雲の化石と言い伝えられており、空島が存在するならこの雲を狙うしかないとの事だ。

 

 そして、この雲に行ける可能性としては『突き上げる海流(ノックアップストリーム)』という海流が挙げられる。原理に関しては、「海底深くの大空洞へ低温の海水が流れ込み、下からの地熱で生じた膨大な蒸気の圧力による海底での大爆発が生じ、空へと噴き上がる」というのが定説である。

 

 時間にして約一分間で、それが発生する場所は毎回違って、頻度は月に五回。

 

 

「しかし、お前ら。もしかしたらツイてるかもな」

 

 クリケットが言うには、マシラとルフィ達が実際に見た積帝雲は、翌日南の空にて現れるし、月に五回のノックアップストリームも南の地点になる可能性が高いとの事だった。

 

「でも、そんなトンでもない海流に乗るなんて……」

 

「それに成功したとしても空島が無かったら……」

 

 クリケットの話に、ナミとウソップは不安になる。

 

 一応船に関しては、マシラとショウジョウが事前の強化も進行の補助も担当してくれるとの事だが、それでも失敗のリスクが大きすぎた。下手すれば死ぬ事になるのだから、不安を完全には消せない。

 

 空から落下してきたセントブリス号の航海日誌等には、空島への行き方が抜け落ちていたため、方法としてはこれに賭けざるをえないのだが……。

 

 

 

「オレたちならやれるし、空島だってある」

 

 ルフィは断言した。

 

「こうも順調に空島の事を知っているクリケットさんに会えたし、行く方法にしてもまるでお膳立てされてるかのようにタイミングがぴったりじゃないか。だったら、やってみる価値は、賭けてみる価値はあるだろう、ウソップ」

 

「……あ、ああ。そうだな、良しっ、賭けてやるぜぇぇっ!!」

 

 ルフィは、ウソップに近づいて、肩へと手を置いた。それだけで弱気になっていたウソップの心は自信溢れるものになっていた。

 

 

 

「ナミ、海流という事は風と海……お前の航海士としての腕に頼らせてもらうぞ」

 

「!……ええ、任せてルフィ!!」

 

 ルフィの頼みにナミは強く頷いた。

 

「アルビダも、操縦は任せたぞ」

 

「ああ、了解だよ」

 

 アルビダは微笑んで頷いた。

 

 

 

「それで、海流を当てにするなら指針はどうすれば良いんだ?」

 

「ん……おお、そうだったそうだった。安心しろ、ちゃんと頼れるものがあるぞ」

 

 ルフィの指摘に失念していたという表情を一瞬浮かべたものの、クリケットは自分の住む家から見える森にすむ鳥が『サウスバード』の事を紹介した。

 

 動物の中には体内に正確な磁石を持っていて、それによって己の位置を把握する種がいるのだが、『サウスバード』のそれは強大で、広大な土地や海に放り出されようとその身体に正確な方角を示し続けるという。

 

 

 

「良し、森の探索行為なら大得意だ。ちょっと待ってろよっ!!」

 

 クリケットが潜水により海底から持ってきた黄金により、サウスバードの特徴は掴めた。そして変な鳴き声を発するという情報も得たルフィは迅速に森の中へと向かった。

 

 

「ただいま」

 

「ジョ~」

 

 数分後、ルフィは肩にサウスバードを乗せており、背後には森にすむ動物や虫が続いていた。

 

 森の主になってしまったが故である。

 

『余計なもんまで連れてきてる……』

 

 全員がこの事態に戸惑いを余儀なくされたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 空島へ挑むのは明日であるため、前祝いとして……。

 

「それじゃあ、ノーランドに乾杯」

 

『乾杯っ!!』

 

 麦わら旅団と猿山連合軍による宴会が行われた。

 

 

 

 そうして、賑やかな雰囲気となったジャヤの東側だが、夜中、向かって来る船があった。

 

 

 

 

 

「それにしても良い話を聞いたぜ、まさかノーランドの子孫が金塊を拾ってるなんてよ」

 

 嘲笑の笑みと共に声を響かせるのは荒っぽい雰囲気に凶悪な人相の大男。

 

 彼の名はベラミー、『ハイエナ』としてジャヤでは特に有名な海賊団の船長である。

 

 当然、彼の部下たちも船には乗っており、今より、彼らがベラミー海賊団はクリケットの金塊目当てに夜襲をかけようとしているのだ。

 

 そして、裏側の方から上陸した彼らであるが……。

 

 

 

 

「そこで止まれ」

 

「あぁん?」

 

 彼らの前にルフィとゾロ、サンジが立ちはだかっていた。クリケットから金塊を狙って来る存在がいる事は聞いていた為、宴会中に妙な気配を感知したルフィは一人で対処しようとしたものの、ゾロとサンジも同行したのである。

 

 

 

「狙いは分かっているぞ、クリケットさんの金塊だろう?」

 

 見聞色の覇気でベラミーたちの心を見つつ、ルフィは問いかけた。

 

「ああ、じゃなきゃこんなしみったれたとこに来ねぇよ。邪魔するってんなら殺すぜ」

 

「そうか、ならこっちもそれ相応の対応をしよう……と言いたいところだが、オレたちは空島に向かう必要があって、忙しいし今は宴会中だ。良い雰囲気も壊したくない。だから今後、金塊には手を出さず、この島にも来ないというなら見逃してやるが……」

 

 

 

 ルフィはそう言い……。

 

 

 

 

「さあ、どうする?」

 

 ルフィは問いかけと共に闘志による威嚇を行い、ゾロとサンジもそれに続き威嚇する。

 

「お……あ……あ」

 

「ひ……い……」

 

 ベラミーらはその威嚇により、ルフィ達が自分たちを蹂躙できるだけの能力を持つ事を悟り、無意識に身体を震わせ、尻もちすらついて倒れ込む。

 

「ま……待てよ、その麦わら帽子……お前たち、麦わら旅団か!?」

 

「ああ、そうだ。で、おれの問いかけに対する答えは?」

 

「わ、分かった。今後、此処には近づかないし、金塊にも手を出さねぇ。だから、許してくれ!!」

 

 ベラミーは怯えながら、ルフィへと誓う。

 

 今まで、傍若無人に振る舞っていたベラミー海賊団は今夜、ルフィたちの威嚇だけで今までの自信やプライドなどあらゆるモノを折られてしまったのである。

 

 

「その誓い、絶対に破るなよ」

 

『う、うわあああああああっ!!』

 

 ルフィが威嚇を止めた瞬間、ベラミー海賊団は必死な様子で逃走を開始したのだった……。

 



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三十二旅

 

 偶然の出会いから猿山連合軍の一人、マシラに『空島』への情報を求めたルフィ達は、彼と彼の兄、ショウジョウのボス…猿山連合軍の最終園長であるモンブラン・クリケットの元へと案内された。

 

 

 

 モンブラン・クリケットは、ノースブルーで有名な『うそつきノーランド』のモデルにもなったモンブラン・ノーランドの子孫であり、『山のような黄金は海に沈んだんだ!!』という先祖の遺言に決着をつけるため、黄金郷だったというジャヤの海底に潜り、黄金を探す日々を続けていた。

 

 しかし、それにより身体は『潜水病』となる程に弱っており、ルフィ達が会いに行くと、突如として倒れた。

 

 ルフィとチョッパーが手当てをしたものの、完全な回復は無理であり、潜水を続ければ元の木阿弥になってしまう状態なのだ。

 

 

 

 それはともかく、クリケットは治療してもらった恩もあってかルフィ達に空島への情報、行くための方法についての予測も含めて教え、マシラとショウジョウ達による協力も約束してくれた。

 

 

 

 必要な準備をした後、『麦わら旅団』と『猿山連合軍』が軽い宴が開かれた。クリケットが海底より拾った黄金目当てにやって来た『ハイエナ』のベラミー率いる海賊団を、ルフィにゾロとサンジが追い払うといった事もあったが夜は過ぎ……クリケット曰く『空島へ行くための条件が揃っている』という日へと夜明けの光は訪れ、世界に証明した。

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、空を飛ぶことになるから鳥をモデルにするってのは分かるけどよ……何で、鶏なんだ?」

 

 ゾロがマシラとショウジョウによる改造で船首にある羊の頭に鶏冠、船体の横には両翼をつけたメリー号を見て言う。

 

「ウキキィッ、羊は白色だろ? 同じ白色の鳥と言ったら鶏じゃないか」

 

「ウォッホッホ! ちゃんとイメージは大事にしたぜ」

 

 ゾロの質問にマシラとショウジョウが自信満々に答える。

 

 

「鶏は、空飛ばないし、色で決めたってんなら、鶴とかでも良かったじゃねえか」

 

『!?』

 

 サンジの指摘にマシラもショウジョウも『あ』とばかりに今、気づいたというような顔をする。

 

「まあまあ、せっかく労力をかけてやってくれたんだから良いだろ。デザインのセンス的には悪くないしな。何となく飛べそうだ」

 

「おれも悪くないと思う」

 

「クオー!!」

 

 ウソップにチョッパー、マイロンはそれぞれメリー号の改造について好意的であった。

 

 

 

「アルビダ、船の操縦任せるからね」

 

「ああ、そっちこそ航海の指示は任せるよナミ」

 

「ふふ、こういう雰囲気は良いものね」

 

 アルビダとナミはそれぞれ、大変だろう空島への旅に向けてお互い、気合を入れており、ロビンはピクチャとヴァルチィの二人と話をしつつ、冒険を楽しもうとする麦わら旅団の皆を眺めていた。

 

「それじゃあ、色々とありがとうなクリケットさん」

 

「それはこっちの台詞だ。治療をしてもらった上に、オレが拾ってきた黄金を狙った奴らを追い返してくれたんだからな」

 

「気づいてたのか」

 

 

 頭を下げるルフィに対し、クリケットは苦笑を浮かべて指摘するとルフィも又、苦笑を返す。

 

「当り前だ。伊達に人生過ごしてねぇよ……お前のような男に会えて良かった」

 

「こっちこそ」

 

 

 ルフィとクリケットは握手を交わした。そして、ルフィはメリー号の元へと行き、先導のためにショウジョウとマシラもそれぞれの船へと乗った。

 

 

 

 

「猿山連合軍っ!! 良いか、ヘマをやらかすんじゃねえぞ!!絶対に何が起きようと!!!麦わら旅団が空島へ行けるように全力を尽くせ!!!」

 

『ウォ~ホ~!!』

 

『アイアイサ~!!』

 

 航海をする直前、クリケットが猿山連合軍の皆へと号令をかけると猿山連合軍の者は皆、大声で応えた。

 

「ルフィ、オレァここでお別れだ。良いか、“黄金郷”も“空島”も!!!過去誰一人“無い”と証明出来た奴ァいねェ!!! バカげた理屈だと人は笑うだろうが結構じゃねェか……それでこそ!!“ロマン”だ!!!!」

 

「ああ。冒険にロマンはつきものだ。それが無い冒険なんて冒険じゃないとオレは思っている」

 

「同感だ。おめぇら、空から落ちてくんじゃねえぞ」

 

「勿論、それじゃあなクリケットさん」

 

「宴会、楽しかったぜ」

 

「あんた、中々の漢だ」

 

「おやっさん、黄金郷はきっとあるぜ!!」

 

「色々ありがとう、クリケットさん」

 

「世話になったよ」

 

「無茶な潜水は絶対にダメだからな!!」

 

「じゃあね」

 

 

 それぞれが見送るクリケットへと声をかけ、麦わら旅団はマシラとショウジョウの先導に従いつつ、航海を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 猿山連合軍と麦わら旅団がクリケットの居るジャヤの東側を出発して三時間後。常に南を示すサウスバードを当てにしつつ、空へと噴き上がる海流こと『ノックアップストリーム』を探す一行は……。

 

「こいつは、随分と激しいねぇ」

 

「こんな、大渦の話なんて聞いてないわよォ!!!」

 

「ぎゃああ、死ぬぅぅぅ!!」

 

 空島への手がかりとなる昼間であっても夜をもたらす積帝雲は訪れ、ノックアップストリームが発生するであろう場所へと進めば大きな渦潮に巻き込まれた。

 

 

 

 一応、記録指針は積帝雲を指しており、クリケットの予測は間違ってはいないが渦の事は聞いていなかったのでアルビダは少し戸惑い、ナミとウソップは驚愕している、

 

 

 

「止まった……いや、違う」

 

「ああ、来るぞ皆」

 

 

 渦潮に振り回されていたが、急にそれは止み……。

 

 

 

『うわぁぁぁぁぁっ!!』

 

『行けよ、“空島”!!!』

 

 ノックアップストリームがメリー号を空高く打ち上げるのをショウジョウとマシラ達は見送った。

 

 

 

 そして……。

 

「うん、これならなんとかやれる。皆、私の言う通りにして!」

 

『おう!』

 

 

 ナミの指示に全員が頷き、それに従うと見事、メリー号は積帝雲の中へと入っていったのだった……。

 



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空島編
三十三旅


 猿山連合軍の協力の元、ルフィ達麦わら旅団は空高くまで噴き出す海流こと『突き上げる海流』に乗る事に成功し、そのまま空へと上昇する事で昼を夜へと変える程の厚い雲である積乱雲の一種、『積帝雲』の中へと入った。

 

 

 

「(む……)」

 

 雲の中は水であり、ルフィ達は全員が海中に沈んだような状態を体験した。呼吸が出来ないのだ。

 

 ルフィは、ある程度海中で活動する事が出来る。自在に身体を活性化させる生命エネルギーの操作術… 『生命帰還』、そして祖父ガープによる指導の下、鍛えられてきた身体能力の賜物である。流石に魚人族程では無く制限時間はあるが、素潜りを始めとした水中戦も可能だ。

 

 

 

 そして、ルフィの仲間には……。

 

『ピクチャ、マイロン。皆が散らばらない様に行動しよう』

 

 

 海洋生物であるラッコのピクチャとクンフージュゴンのマイロンがいるため、船は未だ浮き上がっており、これがずれる事はないだろうがハンドサインでそれぞれに指示をした。

 

 

 

 

「(了解)」

 

「(OKっす)」

 

 どちらもハンドサインで返してルフィと共に備えながらも……。

 

「良し、抜けた」

 

 雲の中をメリー号は通り抜けて宙へと上がるとそこで海流は途切れてメリー号は落下。雲の下には落ちずに着地ならぬ着雲してそのまま雲の流れに乗って進んだ。

 

 

 

「おい、大丈夫か」

 

 ルフィは少しの間、呼吸が出来なかったために倒れているゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、アルビダ、ヴァルチィ、チョッパー、ロビンをピクチャとマイロンと共に起こしていった。

 

 

「はぁ……はぁ……まさか雲の中が水だったなんてな」

 

「けほっ、けほっ、水蒸気なんだから考えてみればそうよね」

 

「あやうく、死ぬところだった……」

 

「まったくだな……ふー」

 

「なんか、脱力感も感じたからアタシは余計にだよ。チョッパーにロビンはどうだい?」

 

 アルビダはチョッパーとロビンに質問をした。アルビダ、チョッパー、ロビンは『悪魔の実』の能力者なのでカナヅチであり、海の中では溺れてしまう。

 

 

 

「ぜー、ぜー、ああ……おれも感じたよ」

 

「私もよ……という事は雲の中は海と同じという事ね。もっとも、雲の中に底は無いと思うから落ちれば、そのまま地上へと真っ逆さまでしょうけど」

 

 チョッパーもロビンも同じだったようで頷いて答えた。

 

 

 

「まあ、とにかく皆……おれたちは空の世界に来たぞぉっ!!」

 

『おおおおおっ!!』

 

 一面は全て、雲のために白い世界であるが、ルフィ達は生きており、真実として空の世界に辿り着いた。故にルフィは喜びの声を上げ、皆もそれに呼応した。

 

「先ずは当然の事だが、空気が薄い。だから船はなるべく遅く進めよう。環境に慣れるためにな……それとナミ、アルビダ。二人のお蔭で此処に辿り着けた。本当にありがとう」

 

 ルフィの指摘通り、空にある雲の上ともなれば山の頂上よりも気圧の問題はあるようで空気が薄かった。

 

 なのでルフィは更なる『生命帰還』、細胞への干渉と同様にその域による生命エネルギーを巡らせる事によって空の世界に出来る限り、適合出来るように身体を改善した。

 

 

 

 そうしながら、行動指針を述べてナミとアルビダにそれぞれ、礼を言った。

 

「どういたしまして」

 

「そういう心遣いを忘れないのは、流石だねぇ」

 

 ナミもアルビダもルフィの言葉に満足げな笑みを浮かべる。

 

 

「それで、記録指針はどう?」

 

「うん。まだこの上を指しているわ」

 

「なら、積帝雲の中層みたいね此処は……」

 

 ナミの返答から、ロビンは一つの見解を示した。

 

 

 

「まだ、上があるのか?」

 

「もう、あんなふざけた勢いのある海流なんてねぇから上がれるとは思えねぇけどな」

 

「流石にまた、あんな体験は嫌だぞおれは……」

 

「おれはナミさんやアルビダ様にロビンちゃんのためなら、幾らでも無茶する覚悟です」

 

 チョッパーにゾロ、ウソップとサンジはそれぞれ先程の体験を交えた感想を述べる。

 

『皆、気を付けろ。この先に危険な人物がいるぞ(ピクチャ&ヴァルチィ※チョッパー訳)』

 

 

 

 

 短い範囲で偵察を行っていたピクチャとヴァルチィが皆に警戒をするように伝えた。

 

 

 

「どうやら、向こうもこっちを見つけたみたいだな……ふっ!」

 

 ルフィは見聞色の覇気の発動と生命エネルギー感知をする事で此方へと向かって来る存在を発見し、すぐさま対処するために『剃刀』を使ってその存在へと向かい……。

 

「なっ!?」

 

 ルフィ達の元へと攻め入ろうとした人物は、部族的な仮面を被り、右手にはバズーカ、左手には盾、両足にはスケートブーツを履いていた。相手は突如として自分の間近に姿を現したルフィに驚き……。

 

 

 

「しいっ!!」

 

「がっ!?」

 

 腹部にルフィによる掌撃を受けた事で身体が麻痺すると共に気絶してしまった。ルフィはそのまま相手を抱えるとメリー号へと戻る。

 

「空には人も住んでいるようだ」

 

 無力化した相手を縄で縛りながら、ルフィは取りあえず拘束した相手が意識を取り戻し、話が聞けるようになるまで待つことにした。

 

「先程の戦い、見せてもらった。まさかゲリラを捕らえてしまうとは驚いたぞ……そして、見事であった」

 

 

 すると、正に騎士とも呼ぶべき老人が、嘴が妙に長い鳥に乗った状態で現れた。

 

「お褒めの言葉、ありがとう。オレは下からやってきたルフィだ。よろしく元神様」

 

「ぬ……お主、まさか心網(マントラ)を……」

 

「取りあえず、色々と話を聞かせて欲しい。困っている事があれば、手を貸そう」

 

 驚く老人へとルフィは笑みを浮かべつつ、告げたのであった……。

 

 

 



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三十四旅

 

 『麦わら旅団』は『突き上げる海流』によって、海から空の世界に辿り着いた。空の世界にあるのは雲であり、地面ならぬ雲面をメリー号は進んでいる。この空の世界の雲は、全てが空より下の世界にて昼を夜へと変える程の厚い雲である『積帝雲』で構成されているからだろう。

 

 

 

 そして、空の世界に辿り着いたルフィ達は二人の人物と遭遇した。一人はまるで部族的な印象を受ける男。この男はルフィ達を襲おうとして返り討ちに遭い、現在は捕らえられている。

 

 

 

 そして、もう一人は……。

 

「我輩の名はガン・フォールである」

 

 奇妙な鳥ピエールに乗ってやってきた騎士甲冑に身を包んだ老人。最初、部族の男がルフィ達を襲おうとしたのを見かけた彼は、助けようとしたのだ。無駄に終わったとはいえ、ルフィ達の船やルフィの強さにも興味を持ったので近づいて来たとの事である。

 

 そして、ルフィの見聞色の覇気(空の世界では心網と呼ばれている)によって、自分がかつてこの空の世界を総べていた『神』である事を知られ、それならばと彼はルフィ達に自分が知るだけの情報を語りだした。

 

 先ず、現在地は、ルフィ達が来た地点より七百メートル上空の『白海』と呼ばれる場所であり、ナミが持つ記録指針が示しているのは一万メートル上空に当たる『白々海』という場所であるという事。

 

 この場所にくる方法としてはルフィ達のように『突き上げる海流』に乗る事が一つの方法だが、これはガン・フォールからしても……。

 

 

「何と!! あのバケモノ海流に乗って此処に来たのか……」

 

「やっぱり、普通じゃなかったのかぁぁぁっ!!」

 

「他の方法があったのね……」

 

 純粋に驚愕するぐらい、滅茶苦茶な方法であったようで彼の反応にウソップは叫びたくなったし、ナミは落ち込まざるを得なかった。

 

 ただ、ルフィ達の方法は全員死ぬか全員生き残って空の世界に到達するかだが……もう一つの方法である『ハイウエストの頂』を通る方法では途中の時点で多くの犠牲が出るという。

 

 

 

 

 そして、この空の世界では昔より、文化を築きながら生活してきた人間である『空の者』がおり、彼ら、彼女らからすればルフィ達のような者は『青海人』と呼ぶ事。この空の世界では『土』が無いという基本的な事を教えた上でガン・フォールは更に語り出す。

 

『白々海』には『神の国』たるスカイピアがあるが、土の無いその場所へと『突き上げる海流』によって青海の島の一部が運ばれたのである。今まで見たことも無く、存在する筈の無い『土』があったため、『大地(ヴァース)』としてスカイピアは喜んだ。

 

 しかし、その『大地』にはシャンディアという住民がおり、戦争が行われる。

 

 この事は四百年前の話であり、勝ったのはスカイピアの者達だった。

 

 辛くも逃げ延びつつ、生き残ったシャンディアは島の奪還のため、スカイピアは『大地』の確保のために長い戦争は続くことになったのだ。

 

 そんな中で今より二十年前に激変が起こる。

 

 神であったガン・フォールは、突如現れたエネルという者と彼の配下により、その座から下ろされた上に部下達を捕らわれた上で追放されてしまった。それ以来、ガン・フォールは『空の騎士』としてエネルによって捕らわれている部下を助けるために行動しているのだという。

 

「話は分かった。次はそっちに聞こうか、とっくに起きているんだろ?」

 

 ルフィは自分が拘束していた部族の者に近づき、その仮面を外した。

 

「……お前に話す事は無い」

 

「ああ、答えなくても良い。シャンディアって言うのはジャヤの原住民の事というのは分かった。青海では海底に沈んだって言われていたが、まさか空にあったなんてな」

 

 男は憎々し気にルフィを見るが、それを気にせず彼は呟く。

 

「モンブラン・ノーランドという男の事は……知っているようだな」

 

 見聞色の覇気を使いながらの問いかけで、男から情報を得るルフィ。ノーランドの航海日誌にはジャヤでの生活の事も書いてあったのでその情報も彼は使う。

 

 

 

「おれたちはノーランドの子孫、クリケットという男の協力で此処に来た。純粋な興味からだ……だが、もしお前たちの奪われたジャヤの島の一部にまだ『黄金郷』があるなら、それを証明する物か方法をやりたい。クリケットは海底に黄金があると信じ、身体を酷使しながら潜り続けているんだ。それを止めさせたいからな」

 

「……」

 

 ルフィの語り掛けに男は何かを感じ取っているかのような表情となった。

 

「お前たちが住んでいた場所を取り戻す手伝いをしてやる。代わりにそっちもさっきおれが言った事が出来るように手伝ってくれ。一先ずは同盟って事でどうだ? 文句があるなら、全てが終わってからでも良いだろ」

 

「……ふん」

 

 男は鼻を鳴らしながらも賛同の意だけは表情で語っていた。

 

 

「ガン・フォールさん。あんたの部下を助ける協力もしよう……それともう一つ、大地ってのは奪い合うものじゃないぞ」

 

「むっ……」

 

 ルフィはガン・フォールが長年抱えていた悩みに対しての意見を述べた。そして……。

 

「そういう事だ。エネル、お前はおれたちが必ず倒すと宣言しよう。この挑戦、受けるだけの度量がお前にあるかっ!!」

 

 この空の世界に来てから、ずっと感じていた妙な気配の主へとルフィは叫びを上げる。すると、メリー号の傍に雷が落下した。

 

 そして、『スカイピア』のとある場所。

 

「ヤハハハハ!! 良いだろう、せめてその大言を叩くだけの実力はあると期待してやる。どこまで私の暇つぶしを務められるかな?」

 

 エネルはそう、ルフィに対して呟いたのだった……。

 




 そういう事でこの作品のルフィ達はシャンディアルートで行く事になります。


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三十五旅

 地上に幾つもの国が存在するように、雲の上にも国は存在する。

 

 その国の名こそが『神の国 スカイピア』。地上の国を総べるのが王ならば、スカイピアを総べるのは『神』であり、それに仕えるのは神官だ。もっとも、称号的なものなので地上の者が思う神とはだいぶ、違っているが……。

 

 そして、現在のスカイピアを総べている神の名はエネル。

 

 先代の神であったガン・フォールを部下の四人と共に襲い、その座を奪って追放した後、逆らう者を『裁き』たる雷で排除するなど、力による統治を続けている。

 

 また、何か目的があったようで、ガン・フォールに仕えていた『神隊』の六百五十名を捕虜とし、労働力にしている。彼らを解放する為、ガン・フォールは空の騎士として日々活動していたのだ。

 

 

 

 

「さっきので、大分エネルの事が分かったぞ」

 

 四百年ほど前、偶然にも大規模な『突き上げる海流』によって、島の一部ごと空の世界へ上雲させられたあげく、スカイピアによって土地を奪われたジャヤの原住民の末裔『シャンディア』の男が一人…

 

 シャンディアとスカイピアが和解できるように尽力していた当時の『神』ガン・フォールと出会い、話を通じて、エネルと戦う事を決めた。

 

 そして、ルフィは挑戦状をエネルに叩きつけた。

 

 空の世界に着いてから、何やら周囲に妙な力が張り巡らされていることには気づいていた。その力に、『心網』…地上の世界で言うところの『見聞色の覇気』が混ざっていた事から、自分たちの行動を観察している者がいると察したが故だ。

 

 そしてルフィもエネルの事を探ろうと挑発を試みたところ、反応はしてきた。それで少し、情報を得られたのである。

 

 

 

「まず、エネルが落としてきた雷…あれは『悪魔の実』の能力によるものだ」

 

 ルフィが挑戦状を叩きつけると、エネルは承諾代わりに船の近くに雷を放ってきたのだ。

 

 それには人意、悪魔の実の能力者特有の激しく激燃するエネルギーが込められていた事から、ルフィはエネルが悪魔の実の能力者だという事を悟った。

 

「それなら、おそらく『ゴロゴロの実』……数ある能力の中でも無敵と謳われる能力の一つ、『雷の力』を得られる自然系よ」

 

 ルフィの言葉に心当たりがあったロビンは意見を述べた。

 

 

「雷っ!? とんでもないじゃない、そんなの……」

 

「おいおい、『砂』の次は『雷』かぁ!?いきなり危険度上がりすぎだろッ!?」

 

 天候に詳しい分、雷の恐ろしさを知るナミは驚愕せざるを得ず、ウソップも又、驚かざるを得ない。

 

 

 

「成程。という事は雷による電波的な力に乗せて『心網』を使っているって訳だ。範囲だけならおれより上かもしれない。とはいえ、勝つけどな」

 

「相手にとって、不足は無いな」

 

「鍛錬の成果の見せ所としちゃ十分だ」

 

「その通りだよ」

 

 ルフィの言葉にゾロ、サンジ、アルビダは頷く。アラバスタに滞在している時、ゾロ達はルフィから『覇気』を教わったり、彼の体術から参考に出来るものを吸収したりと、己を磨いていたのである。

 

 

 

 他の者達もルフィからそれぞれに合った技術などを教わる事で少しでも彼の『力』になろうと己を磨いているが。

 

「あの強さが悪魔の実によるものだったとは……」

 

「のうりょくしゃなら、海楼石が通じるな」

 

 ガン・フォールとシャンディアの男はそれぞれ呟いた。

 

「とりあえず、船は何処かに置かないと。船を置けるような場所は知らないか?」

 

「それなら、良い場所があるのである」

 

 ルフィの問いに答えたガン・フォールが案内役を務めることになった。

 

 

 

 

 その際……。

 

「見よ、これが我が相棒ピエールの真の姿」

 

「ピエー!!」

 

 ガン・フォールが乗ってきた鳥、ピエールは悪魔の実の能力者であり『ウマウマの実』を食べている。そう、翼を持った馬になれるのだ。

 

 

 

「おおおお……」

 

「あれはまさか、馬になるのか」

 

「という事はペガサス。素敵じゃないっ!!」

 

 チョッパーにウソップ、ナミ。慣れているらしいシャンディアの者を除いた他の全員が興味津々にピエールの変化を見やる……。

 

 

 

「そう!!!ペガサスだっ!!!」

 

「ピエ〜〜〜〜〜〜!!」

 

 ピエールは見事、ペガサスに変化した。そう、姿こそは地上の世界に伝えられているペガサスではあるのだ。あるのだが……。

 

『(微妙だ……)』

 

 元々が奇妙な鳥であるためか、幻想的な美しさは無く、微妙という他無かった。

 

 

 

 ともかく、ピエールに乗ったガン・フォールの案内で『島雲』なる場所に辿り着き、船を停めることが出来た。

 

 因みに島雲の雲は人間が歩くことが可能であった。

 

 

 

「それじゃあ、おれはシャンディアの方へ行くよ」

 

「ああ、武運を祈っているぞルフィ。何か助けがいるならこれで呼んでくれ」

 

 ガン・フォールはルフィ達の船を見る事を約束し、別れ際には笛を渡した。

 

「という事で案内を頼むぜ。お前の名前は?」

 

「ワイパーだ。余り、気安く呼ぶなよ」

 

 

 

 ワイパーの案内によってルフィ達は動き出し……シャンディアが拠点としている雲の中の村、雲隠れの村へと入った。

 

 

 

「ワイパー、そいつらはなんだ?」

 

「まさか、青海人を頼るのか?」

 

 

 ワイパーがルフィ達を連れてきた事にシャンディアの戦士たちは驚きつつ、ルフィ達に対して敵意をむき出しにした。

 

 

 

「まあ、あんた達の態度はもっともだ。言葉で語っても納得出来ないだろう。だから……」

 

 瞬間、シャンディアの戦士たちは自分たちがルフィによって制圧されるのを幻視し……。

 

「あんた達の味方であると行動で示そう。必ず、エネルを倒して故郷を取り戻させると誓う。」

 

 この瞬間、ルフィから、彼が自分たちにとって救世主であると確信してしまうような強大であり、温かい何かを感じた。それは無論、ワイパーも同じだ。

 

 その後、エネルを倒す作戦の為に、麦わら旅団とシャンディアの者たちは準備を始めたのであった……。

 



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三十六旅

 

 今より、四百年前の話。偉大なる航路には、海賊たちが上陸を諦め切れない島があった。何故なら、その島は黄金郷であるとの噂が絶えなかったからだ。故にその黄金を手に入れようと多くの海賊たちが目当ての島へと向かったが……。

 

 

 

 

「侵入者は排除するのみっ!!」

 

『ひ、ひいいっ、シャンドラの魔物だぁぁぁっ!!』

 

 黄金郷と噂されていた島が『ジャヤ』にはシャンディア…「シャンドラの戦士」とも呼ばれる部族が住んでいた。その恐ろしき強さに敵わず、撃退されるため。海賊たちはジャヤに上陸する事は叶わなかった……。

 

 

 

 

 

 そんなシャンディアには一つの問題があった。

 

「ぐ……げほぉっ!!」

 

「お、おい。しっかりしろぉっ!!」

 

 

人々が死に……作物も死んでいくという彼ら、彼女らにとっては謎の現象。

 

「はぁ……はあ、はあ……血を、血を捧げるのだ。カシ神様に村で一番美しい娘の血を……」

 

 悪霊の呪いだと思い込み、カシ神たる大蛇に生贄を捧げる事でそれを解決しようとしたが……。

 

「お前たち、何を馬鹿な事をしているんだあっ!!」

 

 生贄を捧げる儀式をしていたシャンディアたちであったが、この島を訪れていた探検団の提督たるモンブラン・ノーランドがカシ神の首を刎ねてしまった。

 

 

 

 

 

「貴様、よくも神殺しをっ!!」

 

 これにシャンディアの民は激昂。特に娘をカシ神への生贄として捧げたカルガラは気持ちの問題としても後に引けない分、ノーランドへの怒りと殺意が凄まじいものとなる。

 

「お前たちの村の悪霊、私が祓ってみせる。それが出来なければ私たちの命は好きにしろ」

 

 ノーランドはカルガラと少し、戦ったのち、そう言ってシャンディアの呪いを解決するために行動を始めた。そう、実はシャンディアの者たちは呪われていたわけではない。疫病に襲われていたのである。

 

 

 

 

 

 その疫病とは罹った者が90%で死ぬという遥かに危険な病『樹熱』。しかし、ノーランドの住んでいた国ではとうに特効薬が作られており、だからこそ、彼はこの特効薬となる『コナ』という樹皮より、『コニーネ』という成分を採取しようとしていた。

 

「くそ、こんな時にドジった」

 

「これぞ、神の天罰だ。ホラ吹きめ」

 

 シャンディアを助けようとしていたノーランドであるが、地震に襲われた事で地面に挟まれてしまった。其処にカルガラが現れ、彼を嘲笑った。どうやら彼を尾行していたようだ。

 

 

 

「見ろ、カシ神の子までお前を裁きに来たぞ」

 

「何が裁き……何が悪霊、何が神だ。そんなに神が怖いのかっ!!」

 

 大蛇まで現れたがノーランドは必死に説得を続けると懸命な態度も相まってか、カルガラの心を動かし……。

 

 

 

 

「おれは今……何を殺した」

 

「ヘビだ」

 

 カルガラはノーランドを助け、彼の言う通りに樹熱への対処法を行った。すると樹熱は治り……ノーランドとカルガラは親友になった。

 

 

 

 

 

 しかし……。

 

 

 

「お前ら、とっとと帰れ」

 

 ある時より、カルガラどころかシャンディアの者たちは、恩人である筈のノーランド達に対して拒絶的な態度を取るようになった。

 

 実はシャンディアにとって大事な『身縒木』という木を、先祖代々の魂が宿るという木をノーランドたちが切ってしまったからだ。

 

 だが、ノーランド達には身縒木を切らなければならない理由があった。

 

植物にも感染してしまうのが、『樹熱』の恐ろしいところである。

 

 そう、人から森へ、森から人へ感染を広める事で最後には島まで『樹熱』は滅ぼしてしまう。最悪な事に『樹熱』は『身縒木』に感染してしまっていたのだ。

 

 知識があった事と無かった事。文化の違い……ノーランドとカルガラの固い筈の絆はこんな単純な事で崩れかけてしまった。

 

 

 

 

「鐘を鳴らして君を待つ!!」

 

「またいつか、必ず会おう!!」

 

 

 事情を知り、後悔しながらカルガラは去り行くノーランドへと誓いを立てた。もう一度、友情の絆を繋ぐために……これにノーランドも了承した。二人は共に再会の時を待ち続けた。

 

 

 

 しかし、無情にも二人が再会する事は無かった。何故なら、ジャヤの一部ごとカルガラたちシャンディアの民は大規模な突き上げる海流により、空へと打ち上げられてしまったからだ。

 

 

「シャンドラの灯をともせェ!!!!」

 

 空の世界という何も分からない場所で『スカイピア』の王である神とその軍勢に襲われながらもカルガラはシャンディアの戦士を率いて戦った。ノーランドの事を想いながら……。

 

 

 

 

 

 そして、ノーランドはと言うと、ノースブルーにあるルブニール王国の王や兵士たちと共にジャヤの黄金郷を紹介しようとした。

 

 しかし、黄金郷のあったジャヤの一部、カルガラ達シャンディアが空に打ち上げられた事など知る由もなかったため、彼が王たちと到着した時にはジャヤは何も無い島となっており、故に……。

 

 

 

「山のような黄金は海に沈んだんだ。黄金郷は実在するっ!!」

 

 最後まで王達にジャヤの黄金郷の存在を語り続けるが、人々にうそつきの汚名を被せられ、打ち首となったのであった。カルガラの事を想いながら……。

 

 

 これが二人の男の悲しい出会いと別れの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 四百年前より、『神の国 スカイピア』に故郷を奪われて以来、奪還のために長き時を戦ってきたシャンディアの末裔たち。その者達は今……。

 

「美味いっ!! 今の青海ではこんな美味い料理が存在するのか!?」

 

 地上から、かつてのシャンディアの民と同じように『突き上げる海流』によって空の世界にやって来たルフィ達、『麦わら旅団』は、シャンディアの末裔の一人にしてリーダーのワイパーと出会い、色々あって彼の拠点である雲隠れの村を訪れた。

 

 

 

 

 そして、遅めの食事を摂ることになった時、シャンディアの末裔たちも堪らず、分けてもらったサンジの料理を食べると絶賛。特に恰幅の良い男であるゲンボウは喜んだ。

 

「ちょっと待ってくれたら、お代わりも作れるぞ」

 

「おう、待つぜ!こんな美味しい物が食べられるならな!」

 

 自分の食事を喜んでくれる人の笑顔というものは、料理人冥利に尽きる。サンジの機嫌が良くなったのは言うまでもない。

 

 

 

 又、他の所では……。

 

 

 

 

「お前、中々器用だな」

 

「いやー、この『(ダイアル)』っての中々、面白いな」

 

 帽子で目元を隠すようにしている男、ブラハムはこの空の世界にて主流となっている『貝』を弄っているウソップへと声をかけた。

 

 空の世界にある貝は、なんとそれぞれ、別々の貝殻の中に特定のエネルギーや物質などを取り込み、自在に出し入れすることが出来るという特質を持っている。

 

 

 これを様々な物質に組み込み、動力源とすれば、機能や性質の大幅な変化,強化が期待できる。

 

 因みにであるが、ピクチャはラッコであるが故か『イェェェイッ、最高の奴キタァァァァッ!!※チョッパー訳』とばかりに貝の事を知ると、テンションを高揚させて早速、ウソップに自分の持つ武器としての貝にこれを組み込むよう頼んだ。

 

 

 

 相棒のヴァルチィも貝を組み合わせたブーストのような物を作ってもらい、戦闘用の装備であるバズーカも貝を組み合わせた事で小型ながら強力な物、接近戦用としてはアラバスタにて作ってもらっている翼に巻き付ける翼刃、足の爪を覆う鉄爪などに加えて大幅強化が成された。

 

 

 

 更にナミも抜かりなく、『天候棒(クリマタクト)』を貝で強化してもらうように頼んでいる。そんなウソップの仕事を見て『貝』を提供したブラハムはウソップを評価したのだ。

 

 

 ウソップもウソップで自分の持っている銃などの強化をしているが……。

 

 

 

 

 

「へえ、動物の言葉が分かるなんて凄いじゃないか。喋るのもびっくりだけど」

 

「まあな」

 

 少女アイサ他子供たちはチョッパーにピクチャ、ヴァルチィ、マイロンと共に遊んでいる。

 

 

 

「すまないね、アイサたちの気晴らしに付き合ってもらって」

 

「別に良いわよ、これくらい」

 

「そうだよ、何てことない事さ」

 

 アイサ達の様子を穏やかな表情で見つつ、ナミやアルビダにラキは礼を述べた。

 

 

 

 

「なんと……お主、あれを読めるのか?」

 

「ええ。だから貴方達の土地を取り返した時には、読ませて欲しいの」

 

 シャンディアの酋長とロビンはシャンディアが守り抜いてきた『歴史の本文』についての会話を交わしていた。スカイピアによって奪われた土地に『歴史の本文』があるからだ。

 

 

 

 

 

「……今の青海には強い奴がゴロゴロ居るってのか」

 

「お前たちも強い方だとは思うけどな」

 

 カマキリはゾロと対峙しただけで自分と彼との差に愕然としてしまっていた。ゾロはそんな彼と語らいを始める。

 

 少しの間にそれぞれ、自分たちと打ち解け始めている『麦わら旅団』の様子を見る者が居た。

 

 

 

「……」

 

「戦いを始める前だってのに騒がしくしてしまって悪いな。だが、士気を上げるのは大事って事で許してくれ」

 

 

 

「……お前、何故おれたちの味方をすると言った?」

 

 ワイパーは自分に近づいてきたルフィにそう、問いかける。

 

「おれは『縁』って奴を信じているからな」

 

「縁だと?」

 

「ああ、おれはジャヤの人々と出会い、カルガラと友情を結んだモンブラン・ノーランドの子孫であるクリケットさんと出会った。しかも、此処に来るための条件が揃った状態でだ」

 

 ルフィは食事をしていた時にシャンディアの酋長から四百年前のノーランドとカルガラの話を聞いている。だから、それを含めて自分の意見を述べているのだ。

 

 

「そして、此処に来てワイパーたちに出会った。ノーランドとカルガラの縁がおれ達を引き合わせたんだと、考えれば味方するのも当然だろう」

 

「滅茶苦茶だな。理屈が全然、通っていない」

 

 ルフィの言葉にワイパーは思わず、苦笑した。

 

 

「綺麗事が好きなんだよ、おれは。とにかく、同盟を組んだんだし、力を合わせてエネルを倒そう」

 

「元々、エネルはおれ一人で倒す気だった。邪魔はするなよ」

 

「する訳無いし、ちゃんと力になってやる」

 

 ぶっきらぼうに言って、立ち去って行くワイパーにルフィはそう、言ったのだった……。

 



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三十七旅

 

 四百年前、島雲から成る空の世界に、緑と土に覆われた『大地』が突如打ち上げられた。『神の国 スカイピア』の者達はこれを「祝福」とばかりに、『大地』の先住民、『シャンディア』を追い払って奪取したのである。

 

 

 

 緑も土も無い空に生きる人々は『大地(ヴァース)』と呼んだ。

 

 そして、その『大地』に、空の支配者「神」へと移り住んだ為、『神の島(アッパーヤード)』という名へと変わった。

 

 そんな『神の島』を守護するは、エネルに仕えし四人の神官と多数の神兵たちである。

 

 そして、神官は自分に有利な場を設け、それぞれ『玉の試練』、『紐の試練』、『沼の試練』、『鉄の試練』として『神の島』への侵入者を待ち受けていた。

 

 

 小さな島雲で出来ている『玉』が一面に浮くこの場所は『玉の試練』…「びっくり雲」と呼ばれるこの『玉』の中には火薬や刃物、蛇などの危険物が入っている。

 

 この場を守る神官は帽子を被り、眼鏡をかけた丸い体型の男であるサトリ……彼は奇妙な動きと『玉』を使って翻弄する戦闘スタイルだ。更にエネルと同様に『心網』を使う事で相手の行動も逐一、把握することが出来る。

 

 

 

ただ……。

 

「う、動かない……何でこんなに手がおれの身体から……」

 

「悪いわね、私は相手の姿が見えてさえいれば捕らえられるのよ」

 

 麦わら旅団は、シャンディアの末裔たちと協力して『神の島』もとい『ジャヤ』をエネルたちから奪還する為、それぞれ分かれて『四つの試練』に挑む事になった。

 

『玉の試練』を任されたのはニコ・ロビンとナミ、アルビダである。

 

 そして、ニコ・ロビンの『ハナハナの実』の能力により、サトリは自分の身体中にロビンの手を生やされ、拘束された事で行動不能になり……。

 

 

 

 

「あたしたちの団長は完全勝利をお望みだ。という訳で勝たせてもらうよ」

 

「はぁっ!? お前ら動けない相手に攻撃するなんて卑怯だとは思わないのかっ!!」

 

「お前らだなんて失礼ね、美女に対して……男と勝負するんだからこれくらいのハンデがあるのは当然じゃない」

 

 アルビダの言葉に反論するサトリに対して、ナミは呆れたように告げる。

 

 

 

「いや、もうハンデの限度、超えて……」

 

『三華繚乱!!』

 

 ロビンとアルビダ、ナミによる合体攻撃が容赦なく身動きできないサトリに炸裂。

 

「うぎゃあああっ!!」

 

 サトリは吹っ飛び、『玉』に炸裂して様々な危険物による被害も受け、遂には地面に倒れ伏したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『神の島』に設けられた『紐の試練』、目には見えぬ程の細さながらも人を強力に縛るだけの丈夫さを持つ『紐雲』が周囲に張り巡らされた此処を担当するのは、パイロット帽を被り、パイロット服を着た男がシュラ。

 

 彼は武器として刺せば対象を燃やす『火の槍(ヒートジャベリン)』を持っており、火を吹く三丈鳥のフザに乗る事で、「スカイライダー」という異名通りの優秀な能力を発揮する。

 

 更に紐雲を上手く操り、相手を縛る事で絶対的な機動性と速度のままに瞬殺を可能とする。

 

 だが……。

 

 

 

「うっとおしいんだよっ!!」

 

 紐の試練に挑んだサンジは、ルフィとの鍛錬で習得した蹴りによる鎌風で攻撃する『嵐脚』によって紐雲を切断し……。

 

「こっちだって空中戦は得意だ」

 

「なっ……どんな剛脚を……」

 

『剃』と『月歩』の原理によって空を駆け、空中戦を得意とするが故に警戒が薄かったシュラの頭上を取り……。

 

「そして、おれはコックだ。火の扱いなら誰にも負けねぇっ!!」

 

「うがああああっ!!」

 

 摩擦による熱で火を生じつつ、足に纏うとそのまま、シュラの頭へと炸裂させて相棒のフザごと強烈な勢いで地へと叩き落したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『神の島』に設けられた『沼の試練』。この周囲の雲はいわゆる『底なし沼』の性質を持っているので踏んでしまえば身動きが出来ず、沈む羽目になる。

 

 此処を守るは蜘蛛の足のような髪型の男であるゲダツ。彼は手から沼雲を込められた『貝』により、沼雲を放出できる。更に足のブーツに仕込んだ『雲貝(ミルキーダイアル)』によって、沼雲に嵌っても脱出できる程の噴射力を持ち、肘に仕込んだ『噴風貝(ジェットダイアル)』による強烈な『ジェットパンチ』を得意としている。

 

 彼は間違いなく、強い……だが、どんな者にも少なからず弱点は存在する。

 

 

 

 ゲダツの弱点とは……。

 

 

 

「そこだぁっ!!」

 

「うおっ!?」

 

 ()()()()、沼の試練に挑んだ一人であるウソップの事を見落としており、彼のパチンコと銃による攻撃で体勢を崩してしまう。

 

 そう、ゲダツはかなりのうっかり屋だったのだ。

 

 

 

 

「いくぞぉ、皆っ!!」

 

「クオー!!」

 

 そして、ゲダツの隙を、ウソップと共に沼の試練を任されたチョッパーにマイロン、ピクチャとヴァルチィが狙い……。

 

動物猛進撃(アニマルパニック)!!』

 

 それぞれ、種類の違う動物たちによる合体攻撃が炸裂した。

 

 

 

 

「うぐぉぉ、くそ……沼より、脱出せねば」

 

 ゲダツは吹っ飛び、沼に頭から突っ込んでしまった。沈む前に脱出しようとしたが……。

 

 

 

 

 

「ぬおおおお、しまったぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 頭に突っ込んだままの体勢を戻さなかったためにブーツに仕込んでいた貝による噴射で凄まじい勢いで沼へと沈む事になり、そのまま彼らの呼び方で言う青海へと落下……。

 

 

 

 

 

 

「な、何だ?空から人が?」

 

 こうして、この後ゲダツは偉大なる海の中でも一番の温泉、『うっかり温泉』の番頭となって青海で暮らす事になるのだが、そんな事などウソップたちは知る由も無かった……。

 

 

 

 

 

 

『神の島』に設けられた『鉄の試練』、周囲には有刺鉄線の性質を持つ『鉄雲』が張り巡らされており、更に周囲の地面に仕掛けられたスイッチを踏む事で発射される。

 

 この場を担当しているのはスキンヘッドでグラサンをかけた剣豪であるオーム。彼の持つ刀は鉄雲で出来ており、形状も伸縮も自在。

 

 更に相棒として彼が躾け、二足歩行と拳闘が可能である巨犬、ホーリーだ。

 

 

「悪いな、お前程度の剣豪には負けてられないんだよ。そしておれにも間合いは関係ねぇっ!!」

 

 『鉄の試練』に挑むはゾロ。彼は三刀による飛ぶ斬撃をオームとホーリーに放った。

 

 

 

「キャイーン」

 

「んな……青海に……これ程の剣豪が……お前こそ世界一……」

 

「いや、まだおれより上の剣豪が居る」

 

 

 

 ゾロの斬撃により、ホーリーとオームは切り裂かれ地面に倒れ伏す。

 

 そして、オームの言葉にゾロはそう、事実を語ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『神の島』、エネルが座するは『神の社』。其処でエネルは『心網』によって神官、神兵らとシャンディアの末裔に協力している青海人たちの様子を傍観していた。

 

 

 

 

「ヤーハッハッハッハ!! 随分と歯応えがあるじゃないか青海人たちは。こうも一方的にやられるとはな」

 

 エネルは自分に付き従う者が破られ続けているというに愉快そうに笑った。何故なら神官、神兵など当てにも頼りにもしていないから。自分の力をもってすれば誰が、どれだけの数がいようとも片付けられると自負している。

 

 

 

 

 そう、彼は自分がスカイピアの王どころか青海も含めて『絶対神』だと自負しているのだ。とはいえ、『力』というのは手に入れればそれを振るいたくなるし、振るうだけの価値がある相手を求めたくなってしまうものだ。

 

「さあ、早く来い。私に挑戦した以上、たっぷりと私が神であるという証、恐怖を味わわせたいのだからな」

 

 エネルにとって神とは人に絶対的な力で立ち向かう意志を砕き、恐怖を与える象徴である。

 

 だからこそ、自らに挑戦状を叩き込み、今、正に自分の元へと迫り来ているルフィに恐怖を与えてやろうと待ち受けるのだった……。

 



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三十八旅

 『神の島』の森の中を凄まじい速さで進む男が二人居た。一人はワイパー。『シャンディア』の祖先の地「ジャヤ」を取り戻すためにエネルの打倒を目指す者。

 

 空島の乗り物ダイアル船の中でも小型のウェイバーを更に小型,軽量化して、スケート靴のような形状にした『シューター』を両足に履いていた。

 

 機動力もそうだが、外装は硬いため、具足の代わりとしても使えるので戦士にとっては重宝する代物である。

 

 

 

 そして、彼の速さに対して素の身体能力で並走しているのは、シャンディアの末裔たちに協力する事を決めたルフィ。二人の目的地はエネルが待っている場所である。

 

 ワイパーとルフィの仲間たちは『四つの試練』の主である『四神官』攻略のため、彼らと別れて行動していた。

 

 

 

 

「ほっほほーう!! 神に逆らうとは愚か者め」

 

「愚か者め、ほっほーう!!」

 

「神に代わって、我ら神兵が裁きを下してやろう」

 

 ルフィとワイパーの前に立ちはだかるは多数の『神兵』、そして丸眼鏡と肥満体型を除けば、『神兵』と同じく頭の角や耳がヤギに似た男が二人。

 

 『神官』サトリの弟である『副神兵長』ホトリとコトリ…そして、肥満体型の巨漢が『神兵長』であるヤマだ。

 

 しかし……。

 

 

 

 

「お前たちじゃあ、前座としても不足だ」

 

「同感だ。邪魔でしかないな」

 

 ルフィとワイパーでは連携しても即席でしかないためにむしろ、お互いが邪魔し合って戦力は大きく下がる。

 

 その筈なのだが……。

 

 

 

 

『ぐぎゃああっ!!』

 

 そんな道理など砕き、二人の連携はまるで長年共に戦ってきた戦友であると示すかのように完璧でお互いの戦力を相乗効果として高め合い、立ちはだかる敵を倒した。

 

「(こいつ……おれに合わせてやがる)」

 

 その事にワイパー自身が驚く。ルフィはワイパーを主役とするかのように、彼の動きに合わせ、彼が戦いやすいように支援する事で完璧な連携を成しているのだ。

 

 

 

 

「調子は良いようだな」

 

「……お前もな」

 

 ルフィの言葉にワイパーはそう返す。彼は本来、赤の他人と組む事など断じて認められない者の筈だが……エネル打倒のためには有効な戦力であることは間違いないため、利用してやるつもりであった。

 

 だが、彼と二人で行動を始めてから不思議と一緒にいるのは悪く無いものと感じているし、動きを合わされた事を含め、共に戦っている事が誇らしくも思えている。まるで、戦友のように思えてしまっているのだ。

 

 

 

「(カルガラ……貴方もノーランドの事をこんな風に思っていたのですか?)」

 

 戸惑いつつ、心の中で祖先であるカルガラへと彼は問うた。そうしながらもルフィと共に進み……。

 

 

 

 

「ジュラララッ!!……」

 

 次に二人の前に現れたのは巨大な蛇であった。そして、二人を見るなり、迫り寄って来る。

 

「ち、空の主か」

 

「待て、ワイパーっ!!」

 

 蛇が迫り寄って来たのでバズーカを構えるワイパーであったが、ルフィは彼を制して蛇の前に立ちはだかった。

 

 

 

 

「ジュラララ……」

 

「そうか、長年寂しかったんだな」

 

 蛇に対し、ルフィは頭に触れて撫でながら優しい言葉をかける。二人が知る由も無いが、この巨大な蛇は元は四百年前、小さい蛇であった時、ジャヤの地でノーランドとカルガラに可愛がられていた。又、ジャヤの地にあった黄金の鐘の音が大好きでもあったのだ。

 

 しかし、この蛇もカルガラと共に空の世界に無理やり、移動させられる事となり……孤立しながらも、黄金の鐘の音が聞こえてくるのを待ちながら今の今まで生きる事になってしまった。

 

 

 

 そして、ルフィとワイパーに、ノーランドとカルガラの面影を見たことで近寄って来たのだ。

 

 

 

 

「大丈夫だ、約束する」

 

 見聞色の覇気を用いて語り合い、ルフィは蛇に約束した。

 

「ジュララ……」

 

 蛇はルフィに対し、喜びの声を上げる。

 

「空の主を手懐けやがった……」

 

 ワイパーはルフィの行為に驚愕しながらも心の何処かでは、そんな彼に惹かれていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『神の島』内の神の居所、『神の社』には、現在のスカイピアを総べる神・エネルがいた。背には輪のように繋げられている四つの小太鼓、手には武器として黄金の長棒たる『のの様棒』を持ち、頭の頭巾と長い耳たぶが特徴的である。

 

「ふふ、待っていたぞ、この私に挑戦を申し込んだ青海人よ……おまけもついてきたようだが」

 

 彼の元にルフィとワイパーの二人が現れた事で話しかける。

 

「おれの戦友に酷い言い草しないでくれよ。こうして戦いには来たが、その前に聞く事がある。言わなくても分かるだろ?」

 

 

 

「ああ、ガン・フォールの『神兵たち』の事なら用件自体は済んでいたからな、解放してやったぞ。本来ならしない事だが、お前が余計な事を気にせず、戦えるようにな。神の恵みと感謝するが良い」

 

 ルフィの心を読む事で彼の質問にエネルは答えた。そう、長年自分に堂々と挑戦をする者が居なかったからか、エネルはルフィと戦う事に興味を持っており、彼自身が言うように自分との戦いに集中できるようにしたのだ。

 

 

 

 

 

「そうか。そういう事なら感謝するよ。ありがとう……一応の礼儀だ。俺の名はモンキー・D・ルフィ。よろしくな、神・エネル」

 

「ヤーッハッハッハ、ああ、その名前は覚えておいてやろう」

 

「おれの名前はワイパーだ。今日こそ我らが祖先の地を返してもらうぞっ!!」

 

「やってみせろ。不可能な事だがな」

 

 

 

 両者、互いに対峙し……。

 

 

 

 

「エネル……実はおれもスピードには自信があるんだ。【生命帰還・柔極 紙絵武身】!!」

 

 ルフィは細胞にすら及ぶ生命帰還により、疑似的な人体改造を行った。それにより、その身は極限にまで絞り込まれ、当然、質量すらも軽量となり、痩身となる。

 

 

 自分の戦闘力を速度重視とした形態になったのだ。

 

 

 そして……。

 

 

 

「捕らえられるか、やってみてくれ」

 

 彼がエネルへそう言った瞬間…

 

「ふっ!!」

 

「がふっ!?(バ……馬鹿な。何が……)」

 

 ルフィの貫手による衝撃がエネルの内部へと伝導し、揺るがせる。

 

移動する様子など見せずに接近し、攻撃を炸裂させたルフィへの驚きが一つ。そして、『ゴロゴロの実』を食べた事で雷人間となった自分へ攻撃を当てた事による驚きが一つ。エネルが混乱したのは言うまでもない。

 

 

 

「おおっ!!」

 

 攻撃をもらったとはいえ、エネルは拳に雷を纏わせてルフィに拳撃を放つ。

 

 だが……。

 

 

「しっ!!」

 

「ぐばっ!!」

 

 六式の技術の一つ、『紙絵』。それは相手の攻撃による圧を利用し、それに身を任せる事で文字通り、紙一重の回避を可能とする技術。

 

 それの極限的な事が起こった。

 

 エネルの攻撃はまるでルフィの身体をすり抜けるかのように、炸裂しなかったのである。そして、ルフィは攻撃を繰り出した事で隙だらけなエネルへと再度、貫手を炸裂させた。

 

 

「おのれぇぇぇっ!!」

 

 そうして、生じるはインファイト。だが結果としては一方的にルフィが押していた。

 

 何故なら、単純な速度差もそうであるが……エネルの『心網』が範囲としてはルフィのものより上でも精度では劣っていることが主な理由である。彼の『見聞色の覇気』は相手の未来すら見通しているのだからこの時点で先手を行かれている。

 

 今まで『心網』で先手を取ってきた己の上を行かれてしまっているので対応が全くできないのだ。

 

 無論、『武装色の覇気』と氣による一時的な力の散らしで衝撃の炸裂が成立させられている状況にも対応できていない。

 

「っ、おおおっ!!」

 

 だからこそ、エネルはやり方を変える。相手の攻撃をやり過ごす事で隙が生じるのを待ち、束ねた力をぶつけて反撃する。それに集中するが故……エネルはこの戦いにおいて大事な事を忘れていた。

 

 

 

「おれの事を忘れているようだなっ!!」

 

「ぶがあっ!?」

 

 そう、自分が戦うべき相手がもう一人いる事を……そんな愚行を犯したエネルへワイパーが蹴撃を炸裂させた。ルフィが氣により、エネルの力を散らした事で一時的にワイパーでも攻撃が通用する状態となっていたのだ。

 

 

 

「(大した男だ、本当に)」

 

 ワイパーはルフィと行動を共にしていた僅かな間に彼の誘導がわかるようになっており、そのため、絶好のタイミングで攻撃が出来た。

 

 それと共に分かりつつ、感謝している事があった。本来なら、ルフィ一人だけでもエネルを倒せるが、ワイパーの気持ちを考慮して戦わせてもらえている事に、だ。

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぐ……くそぉぉぉっ!!」

 

 

 そして、エネルはルフィの貫手による連撃、時折繰り出される掌打。それに加えて繰り出されるようになったワイパーの蹴りによって痛めつけられる。

 

 防戦すら出来ていないがそれでも、彼は必死に耐え、散らされながらも溜め込んだ力を持って起死回生を成そうとしたが……。

 

 

 

「【双穿連銃】」

 

 両の手による同時の貫手が連続攻撃、数が減るごとに衝撃の貫通力が増していくそれが繰り出され……。

 

 

 

「ごふぉぁっ!!」

 

 両の手、一本指の同時貫手の衝撃がエネルの防御を崩して、彼が溜め込んでいた力を散らしながら炸裂し……。

 

「【六王銃 重射(ヘビーショット)】!!」

 

 半握りの状態で両手の拳を上下にエネルへと押し当て握る事で衝撃を、更にその刹那にデコピンの要領で拳を開き、指で弾く事で衝撃を重ねた。

 

 

 

 

「ぐぶはああっ!!」

 

 

 エネルに対して凄まじい衝撃が彼の体内全体を搔き乱しながら、吹っ飛ばし、地面へと転がした。

 

 

 

 

 

 

 

「う……あ……が……げふ、ば、馬鹿な……こんな、事が……」

 

 エネルは血を吐き、弱弱しく立ち上がりながら動揺している。何故、圧倒的強者で正に神である自分が全く手出し出来ず、やられてしまっているのか。全く以て、理解出来ないし何より納得できない。

 

 

 

「エネル……お前は強い。今までお前と張り合えるやつも居なかったはずだ」

 

「今までじゃない。この、今もだ」

 

 語り掛けてくるルフィに対し、エネルは反論した。

 

 そう、己は強い、圧倒的強者なのだ。今に見ていろ、すぐに逆転し、己が神だという証を恐怖として二人に刻み込んでやるとエネルは思考する。

 

 

 

 

「だからこそ、勝負といえるものを経験出来なかった。勝利が決められた勝負は勝負じゃないからな……だが、今は違うぞ」

 

「……何?」

 

「今、お前の前に立っているのはその『勝負』が出来る相手だ。だったら、全力を出して勝利を捥ぎ取りに来い。もっとも、おれたちだってそうするがな」

 

 エネルへとルフィは教授しつつ、宣言した。

 

 その態度は馬鹿にしているとか蔑んでいるとかそういうものでは無い……むしろ、お前ならばもっとやれるだろう。全力はこんなものでは無いだろうと言うような一種の信頼、問いかけ、期待……エネルの全てを体感し、その全てを乗り越えるという挑戦であった。

 

 そんなルフィへ対し、エネルは……。

 

 

 

 

 

 

「ふ……ふふふ、ふふふふふ、はははは……ヤーハッハッハッハ!!」

 

 何故かは知らないが笑ってしまい、更に内心では不思議と高揚感と興奮が充満しており、楽しくもなっている。

 

 そう、彼は楽しいのだ。()()()()()()()()()……。

 

 彼はルフィが言うように強者であったために勝利が当たり前であり、故に勝負という物を意識したことが無いし、それが故に全力すらも出した事が無い。

 

 挑むと言ったような行為すら意識もしなかった。

 

 それが今はどうだ……全力を出す事を要求されているし、それに応じ、二人に対して勝利しようと望んでいる自分がいる。

 

 初めて、自分が勝負を意識するという未知が彼にとっては堪らない快感となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「良いだろう。認めてやる。お前たちは私にとって勝負するべき敵だ……望み通り、本気を出してやろうっ!!」

 

 そして、エネルは初めて全力を発揮する。更に彼が勝利を何としても掴むと誓った事で彼自身の力は限界すらも超えて……。

 

 

 

 

 

「【10億V 雷神】!!」

 

 今まで武装色の覇気をルフィにより、体感させられたからか学習したことでそれも発動。己が能力を上昇させたのである。

 

 結果としてエネルは雷の巨人へと変化した。

 

 

 

 

 

「お前、焚きつけやがって……敵をパワーアップさせてどうすんだ」

 

「捧げる勝利はでかい方が良いだろ?」

 

「あれはでかすぎだろうが……」

 

 笑みを浮かべて答えるルフィに溜息を吐いて苦笑しつつ、ワイパーはバズーカに備え付けた貝を換装する。

 

 

 

 

「【生命帰還・剛極 鉄塊武身】!!」

 

 ルフィは現在の状態の逆、己が筋肉を肥大化させ、それに応じて身長は3メートル程はあろうかという巨漢に……己が戦闘力を力重視とした形態へと変化した。

 

 

 

 そして……。

 

『いくぞっ!!』

 

 対峙していたルフィとワイパー、エネルが動き出す。

 

 

「潰れろぉぉぉぉっ!!」

 

 

 雷の巨人となったエネルは二人に対し、拳撃を振り下ろし押し潰そうとしたが……。

 

 

 

 

「【六王(ロクオウ)……】」

 

「【燃焼(バーン)……】」

 

 ルフィは右手を上に、左手を下にしつつ後ろへと引いた。ワイパーはバズーカを構え……。

 

「【大砲(バズーカ)】!!」

 

「【(バズーカ)】!!」

 

 ルフィが後ろに引いていた右拳と左拳を同時拳撃として繰り出すと凄まじい衝撃波たる拳砲が空間を歪ませながら放たれ、ワイパーのバズーカからも熱閃が放たれる。

 

 

 

「があああああああっ!!」

 

 二人の攻撃により、エネルの拳撃は吹っ飛ばされ、更に雷の巨人である彼にも攻撃は及び、エネルは元の姿に戻されながら、吹っ飛ばされたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 



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三十九旅

 

 『スカイピア』の神・エネルは生まれつきの天才であった。

 

 

 幼少の頃より、『心網』を使えた上に運動神経もやはり、抜群だった。  

 

 

 ちょっと身体を鍛えればすぐさま力を着けることが出来、ちょっとの期間で戦士として並ぶ者無しの実力者となった上に学の方もちょっと教わるだけですぐさま身に着け、学者顔負けの知識を手に入れた。

 

 だからこそ、人々は……。

 

「お前こそ神になるべき人間なのかもな」

 

 と誰もがエネルを持て囃し、彼に擦り寄って来た。

 

 

 

 

 

「(……つまらん)」

 

 自分に近づくことで旨味を得ようとする者は多く、敵対する者などいやしない。何故なら、彼が怖いからだ。

 

 親もそうであるが……最初こそ親しくなろうとした人間も結局は距離を置いていく。

 

 彼は最初から優れ過ぎており、視点も立ち位置も最初から遥か高みに存在していた。

 

 

 彼は今までの人生において、なんでも上手くいってしまうのだから、挫折をしらなかったし、努力という努力も特にしなかった。

 

 だからこそ、つまらない。

 

 他者が進める『神の国 スカイピア』の王たる神になって人々を導くという考えも『なぜ、つまらない奴らをこの私が……』と応じる気も無かった。

 

 

 そんな彼に転機が訪れた。

 

『悪魔の実』の一つ、『ゴロゴロの実』と巡り合い、それを食べたのである。

 

 これにより、絶大な力を手に入れたエネルは悟った。

 

「ヤーハッハッハッハッ!! そうか、そうだったのか!!!!」

 

 そうだ、己こそ、この世界において真の神になるべき者なのだと……そうして、彼は真の神として相応しい行動を取ろうとしたのだ。

 

 そんな彼であったが……。

 

 

 

 

「ぬ……あ……が」

 

 エネルはぼろぼろの状態でありながらも立ち上がる。ルフィとワイパーの攻撃によって相当吹っ飛ばされてしまっていた。

 

「ふはは……はははははは」

 

 エネルは何故だか笑ってしまう。今の今まで、此処まで追い込まれた事は無かった。そう、今日は一人の青海人のお蔭で初体験ばかりだ。

 

 一人の青海人…ルフィという男は初めて自分の『ゴロゴロの実』による電波と『心網』を併用した監視網に気づき、その上で挑戦をした。

 

 そして、戦ってみればどうだ……自分を遥かに上回る男だったではないか。

 

 

 

「これが勝ちたいという気持ちか……これが挑むという気持ちか」

 

 今までずっと何かに挑む、誰かを上回りたいと強く願った事……本気を出した事の無い彼はついにそれを意識させられてしまったのだ。

 

「必ず勝ってやるぞ、ルフィ…!」

 

 初めて本気で物事に挑み、勝利しようとするエネル。あの男を倒さねば自分は神では無くなってしまう。これは自分に課せられた最大の試練だとも理解していた。

 

 

 

 

 

 

「いや、勝つのはおれたちだ」

 

 エネルが二人の元へと向かおうとした矢先、迫ってきたワイパーが何かを両足に絡み付かせた。

 

「っ、何だ!?力が……」

 

 突如としてエネルを襲った強烈な脱力感。それはなぜかというと……。

 

「海楼石だ。おれのシューターにはそれが仕込んである」

 

 超人系に動物系、自然系とタイプが分かれ、種類も豊富な悪魔の実を食べた能力者には共通の弱点がある。それは『海の中では無力な存在』、つまりはカナヅチになる事だ。

 

 そして、海楼石とは同じエネルギーを宿している特殊な石の事で能力者はこれに触れるだけで海の中にいる状態と同様、無力になってしまうのだ。

 

 

 

 

「ったく、あいつめ。パワーアップさせるどころかしぶとくもしやがって」

 

 ぼやきつつ、彼は右腕を左手で押さえながらバンテージに巻かれた掌をエネルへと押し当てた。彼のそれには『衝撃』を取り込み、放出できる貝が『衝撃貝(インパクトダイアル)』の十倍程上の性能を有する『排撃貝(リジェクトダイアル)』が仕込まれている。

 

 撃てば反動により自分の身体もダメージを受けるが、そんな事、ワイパーはお構いなしだ。ましてや勝利の機会を得たとなれば……。

 

 

 

「(まだだ……乗り切ってやる)」

 

 窮地に陥った事を理解しながらも勝利を掴むと決意しているエネルは何としてでも耐え切る覚悟をした。だが……。

 

 

 

「エネル……お前は世界を、物事を知るべきだ。そうすれば、いずれは本当の神になれるかもしれん」

 

 彼の背中へ両拳を上下に押し当て、告げる存在。『生命帰還』による体型変化を解除し、普通の体型になっているルフィがいた。

 

「……ふ、そうだな」

 

 エネルはルフィの意見に賛同しつつ、心で問いかける。

 

「(なら、お前が教えてくれ)」

 

「(ああ)」

 

 見聞色の覇気と心網による会話を二人は交わし……そして……。

 

 

 

排撃(リジェクト)!!」

 

「六王銃!!」

 

「がはああああっ!!」

 

 前後より、強烈な衝撃の挟み撃ちがエネルへと炸裂し彼は地に倒れた。

 

 エネルが生まれて初めて意識し、挑んだ勝負は残念ながら敗北に終わったのである。

 

 それについて無念、残念に思う気持ちはあるものの、満足感もあった。

 

 

 

 

「(お前こそ私にとっての……)」

 

 エネルは初めて、自分と親しくなれる存在に会えたのだから……。

 

 

 

「お前、また妙な事をしただろう」

 

「さてな」

 

 ワイパーはルフィへと問いかけた。何故なら『排撃』による反動が思ったよりも遥かに少なかったからだ。

 

 それもその筈、ルフィはワイパーが放った『排撃』に合せて自分が放った『六王銃』と共に込めていた生命エネルギーの力、『氣』をワイパーへと伝導。上手く反動から守ったのだ。

 

 又、エネルに対しても気絶程度で済むように攻撃の威力を抑えてもいた。

 

 

 

 ルフィがとぼけるのを見ると彼は……。

 

「まったく、お前という男は……本当によく分からん奴だ。」

 

「褒め言葉として受け取っておく……ワイパー、やったな」

 

 呆れ、溜息を吐いて苦笑したワイパーへルフィは拳を差し出した。

 

 

 

 

「あぁ……お前のおかげだ。感謝するぞルフィ。いや、我が友よ!」

 

 ワイパーは礼を言い、ルフィと拳を打ち合わせる。

 

 お互い、勝利を讃え合ったのだ。

 

 

 

「(カルガラ、おれも貴方が出会ったノーランドのような……友と思える存在に出会えました)」

 

 そして、ワイパーはカルガラへ友を得た事を報告するのだった……。

 



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四十旅

 『神の島』は地形で言えばほとんどが森林である。しかし、森林を進んだ先には遺跡が存在しており、その側には『巨大豆蔓(ジャイアントジャック)』と呼ばれる巨大な蔓があった。

 

 遺跡は『上層遺跡』であり、この場にある蔓を登れば神であるエネルが住む社がある。

 

 

 

 

「よっと」

 

「ふっ」

 

 ルフィは背にエネルを担いだ状態で上層遺跡へと着地し、ワイパーも蔓を下り、着地出来る位置まで到達すると其処から一気に飛び降りた。

 

 

 

 

「お……そいつがエネルか、ルフィ?」

 

 神の島の四つの試練を攻略した麦わら旅団のメンバーとワイパーの仲間たちはこの上層遺跡にて自分たちのリーダーとエネルとの対決が決着するのを今の今まで待っていたのだ。

 

 

 

 

 ルフィとワイパーが下りてきた事でそして、ゾロが先んじて問いかける。

 

 

 

「ああ、そうだ。御覧の通り、勝ったぞ」

 

「お前が負ける事なんて考えてねぇよ」

 

「まったくだ。特に誰かのために戦うお前は絶対に負けねぇ」

 

「こんなでかい蛇すら手懐けちまうんだしな」

 

 サンジとウソップも同意した。

 

 

 

 

「ジュラララ」

 

「ルフィ、こいつの名前はノラ。シャンドラの鐘の音が大好きなんだけど、もう四百年も聞いてないって」

 

 ルフィを待っていたと言わんばかりの様子の蛇に対し、チョッパーが言った。

 

 

 

 

「最初、見たときは本当に驚いたわ。相当に長生きしてるのもあれだけど」

 

「どっかで巨人族の血でも混ざったんだろうかねぇ」

 

 ナミとアルビダはそんな事を呟いた。

 

 

 

「それにしても此処は遺跡だけど、ノーランドの日誌にあったシャンドラの記録とは違っているわ」

 

 

 

「ああ、この場所は『上層遺跡』って言うらしい。なら、下もあるだろう」

 

 ルフィはそう言うとエネルを一旦、下ろしてから遺跡周辺の島雲に拳撃を振り下ろして穿つ。

 

 

 

「良し、ちゃんと下があった。皆は先に行ってくれ。俺はノラと一緒に下りる」

 

 穿った事で出来た穴から覗くと遺跡の中の階下が見えたことでルフィは告げる。

 

 

 

「ここから下におれたちの故郷が……」

 

 ワイパーたちシャンディアの戦士たちは期待しつつ、下りはじめ……。

 

「さて、ようやく黄金にありつけるのね。楽しみだわ」

 

 ナミも黄金都市シャンドラにあるだろう黄金を期待して下りていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、エネル。気分はどうだ?」

 

 皆が下りていくのを見てから、降ろしたエネルに氣を送る事で動けるだけの活力を与えた。それにより、目を覚ましたエネルへルフィは声をかける。

 

「お前たちとの勝負に負けたからな。無念や残念さもあるが……清々しい気分でもある。実に不思議だが、悪くない」

 

 エネルは言葉の通り、清々しい顔で心境を告げた。

 

 

 

「そうか。ところでお前ならこの下に遺跡があるのは知ってるよな?」

 

「ああ、良く分かったな。だが、その遺跡にあった黄金は全て船の製造に使ってしまったぞ。欲しいというなら、分解した後、くれてやっても良いが」

 

「それはありがたい。ナミが喜ぶよ……だが、もう一つ聞きたい事がある。鐘はあったか?」

 

「鐘か……四百年前、この島が空へ吹き飛んで来たと同時に大きな鐘の音がスカイピア中に響いたという話は聞いた事がある。だが、下の遺跡には無かった」

 

「……取りあえず、下で相談するか」

 

 ルフィは呟くと共に深呼吸すると足元の雲へと大きく足を振り上げ、振り下ろす事で強烈な衝撃を発生。それにより、雲を大きく穿つとそのまま、エネルとノラと共に下の遺跡、『黄金都市シャンドラ』まで落下した。

 

 

 

 

『無茶すなぁぁぁっ!!』

 

 先にシャンドラへと辿り着いた殆どの者がルフィの暴挙とも言うべき行動に文句を言ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 『黄金都市シャンドラ』にはある筈の大鐘楼は存在していなかった。ならばとこの遺跡のずっと上にある『神の社』の更に上を目指す事にした。

 

「本来なら、こんなに人間を乗せる気は無かったのだがな」

 

 そのために使ったのはシャンドラの黄金を伝達物質とする事でエネルが生み出す雷を動力源とした巨大な飛行船『方舟 マクシム』。

 

 エネルはこれを使ってある大規模な事をやるつもりであった(今の彼にはそんな気はもう無いが)。

 

 そして、上へ上へと雲を抜け続けると……。

 

 

 

「おぉ……あれが大鐘楼……ようやく、鳴らせるんだな」

 

 

 ワイパーたち、シャンディアの戦士たちはそれぞれが先祖であるカルガラの遺志を果たす機会が出来た事で涙を流す。

 

 

 

「ロビン、これも【歴史の本文】なんだろ?」

 

 大鐘楼へと向かい、観察してみると古代文字が書かれてあるのを発見したのでルフィはロビンに尋ねる。

 

「ええ、だけど書いてあるのは古代兵器の一つ、ポセイドン。そのありかよ」

 

 残念そうな様子でロビンは答える。

 

 

 

「じゃあ、こっちは?」

 

 見えにくい場所に古代文字が刻まれているのをルフィは発見する。

 

「……っ!!『我ここに至り この文を最果てへと導く』『海賊 ゴール・D・ロジャー』」

 

『海賊王っ!?』

 

 ロビンが驚き、内容を告げると、流石にルフィ達麦わら旅団全員が驚いた。この空の世界に彼も来ていたというのが分かったからだ。そして……。

 

 

 

 

「ルフィ、貴方のお蔭で私の夢は終わってない事が分かったわ。そして絶対に果たさなくちゃいけない夢が出来た」

 

 ロビンは海賊王が記した文により、彼女が探し求めた【真の歴史の本文】の正体を察したのである。

 

 

 

「なら、絶対にやり遂げろ。それまでは付き合う約束だ」

 

「ええ、勿論よ。これからもよろしく」

 

 ルフィの言葉にロビンは笑顔を浮かべた。

 

 

 

 そして……ルフィ達とワイパー達、エネルも協力し……大鐘楼は鳴り響く。

 

 

 

「(聞こえてますか カルガラ……そして、カルガラの友ノーランド)」

 

「(クリケットさん 黄金郷は空にあったぞぉぉぉっ!!)」

 

 ルフィもワイパーもお互いに聞かせたい者に向かって鐘を鳴らしながら、その音が伝わる事を祈る。

 

 

 

 

「おお、これは……島の歌声か」

 

「ジュラララ!!」

 

 ガン・フォールはスカイピアにて伝わっている四百年前に鳴り響いたという鐘の音を聞いて喜ぶ。これにより、四百年前はシャンディアとの戦争が起きたのだからもう一度鳴れば、それは終戦の音だと神に関する者らは代々、思っていたからだ。

 

 鐘の音に喜んでいるのは彼だけでなく、黄金都市シャンドラにて待機していた『ノラ』もであり、ようやく聞けた大好きな音に踊るように動いて喜びの声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鐘の音はなんと、ルフィの願い通りに青海にまで届いた。そう、当然彼の元にまでだ。

 

「は……はは。そういう事だったか。ったく、又でかい借りをくれやがって」

 

 ノーランドの子孫、クリケットは空より鐘の音を聞いた事で先祖が伝えた黄金郷はルフィ達が向かった『空島』にある事を理解。又、麦わら旅団が無事に辿り着いた事も分かったので安堵しつつ、この借りをどう返すか考える事になったのだった……。

 



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四十一旅

 四百年前、突如として海や大地が主だった世界より、雲が主な空の世界へと異常な海流によって打ち上げられたシャンディアの民。

 

生まれ育った土地を奪われた事で彼ら、彼女らは歴代に渡って取り返すべく、戦い続けた……。

 

 

 

「おお、此処が我らの故郷か……」

 

 そして、シャンディアたちの思いは今、ようやく叶い故郷たる黄金都市シャンドラの地を踏みしめ、感慨に耽っていた。

 

「ふう、これで良し。これだけ大きいと運ぶのも一苦労だな」

 

「ああ。だが、これでようやくすべてが戻ったのだと実感できる。本当にお前たちには世話になった」

 

 ルフィ達はエネルらとの戦いに勝ち、『神の島』ことジャヤ、そして『黄金都市シャンドラ』を取り戻す事に成功した。

 

これにより、後は隠れ里「雲隠れの村」に残っていた仲間たちを呼びに行ったり、遥か上空にあった【黄金の大鐘楼】をエネルの船である方舟マクシムを使って下ろし、後は引っ張って運んだりと大仕事が行われたのである。

 

そして……。

 

 

 

「思ったより、ノラは黄金を呑み込んでいたぞ。洗う必要はあるけどな」

 

 巨蛇である『ノラ』によれば、四百年の生活の中で黄金を呑み込んだ覚えがあると答えたので試しにルフィはノラの口の中へと入り、体内を探検した。その結果、それなりの量の黄金を発見できたのである。

 

 

 

「そうね、でも溶けたりはしてないようだし十分だわ」

 

「ありがとうな、ノラ」

 

 ナミは遠くから観察しながらも実物の黄金に満足気であり、チョッパーがノラへと礼を言うと蛇は満足げに返事をした。

 

 

 

 

「そういう訳で私は青海でルフィ達と旅を楽しむ事にした。お前たちは……待て、ゲダツはどうしたのだ?」

 

 エネルは『神兵』に『四神官(現在は三神官だが)』へ自分の今後を伝えたが、改めて見るとゲダツが居ないのに気づく。

 

 

 

 

「ああ、そいつなら……」

 

 ウソップが自分たちと戦った時、最後にゲダツが自滅し、ひたすら墜ちていった事を告げると……。

 

「ほっほーう……あれならや、やりかねない」

 

「ああ、いつかこんな大ポカやらかすとは思っていた」

 

「やはり、うっかりじゃ無くタダの馬鹿だな」

 

 三神官となってしまった彼らはそれぞれ、ゲダツの末路に溜息を吐かざるを得ない。

 

 

 

「へっくしょい。うむ……うっかり、風邪を引いてしまったか」

 

 当人は青海の地でくしゃみをし、呑気に呟いていた。彼は、近い将来、大人気な温泉屋こと『うっかり温泉』の番頭としての道を歩むのであった……。

 

 

 

 

「と、とにかく……今後はガン・フォールの手足となって働くのだ」

 

『はっ!!』

 

 エネルの命に三神官と神兵たちは頷く。

 

 

 

「やっと存分にカボチャ栽培を楽しめると思うた所へ…」

 

 ルフィに呼ばれたガン・フォールはエネルの雰囲気が変わった事やシャンディアたちの様子から今後、この空の世界が平和になる事を感じつつも又、自身が忙しくなる事に愚痴った。

 

 最初はルフィに『神』になるように勧めてみたが、そもそも彼はスカイピアの『神』で収まる様な器では無い。そして、元から分かっていたが断られてしまった。

 

 

 

「だが……取り戻してくれた平和を続けていくのが、恩義への報いであるな」

 

 改めてガン・フォールは神として平和が続く努力をする事を決めた。それに話し合いの結果としてシャンディアの者たちも協力してくれる事になっているのだ。

 

 

 

 

「あの海賊王の仲間にも剣豪がいたなんてな。益々、負けらんねぇ」

 

 因みにガン・フォールが海賊王たるロジャーと交流があった事を聞き、さらに彼に付き従う者のなかに『おでん』という剣豪が居た事を聞いて、ゾロは自身の向上心にさらに熱を入れていた。

 

 とにもかくにも、長年続いてきた空の世界、いや空島の問題はルフィ達麦わら旅団の活躍あって解決したのである。そして……。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、宴を始めよう!!」

 

『おおおおおっ!!』

 

 ルフィたち麦わら旅団とシャンディア、エネルたちにガン・フォールと全ての者で宴が行われた。

 

 

 

 

 

「さて、改めて紹介しよう。俺たちと旅する事を望んでいるエネルだ。皆、歓迎してやってくれ」

 

「ヤーハッハッハ。よろしく頼むぞルフィの仲間たち」

 

 ルフィは新たに仲間になったエネルの事を紹介すると……。

 

「うちは来る者拒まずだからな、歓迎するぜ」

 

「どんどん戦力、凄い事になってない? ま、ありがたいけど」

 

「はは、ルフィのお陰で色々と大事に巻き込まれているしな」

 

「今更だろ。とにかく俺も歓迎させてもらうぜ」

 

「私もだ。よろしく頼んだよ、エネル」

 

「よろしくな」

 

「この団は楽しいわよ、エネル」

 

 

 当然とばかりに全員がエネルを快く、歓迎した。

 

 

 

 

 

「ルフィ、お前に会えて本当に良かった。敵対もしたが、友になってくれるか?」

 

「勿論だ。しばらくは空島を堪能するからよろしくやっていこう、ワイパー」

 

「ああ」

 

 宴は続き、ルフィとワイパーは友となり酒を飲み交わしたり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルフィ、私、頑張って四神官の一人を倒したわよ。だから、ご褒美を頂戴」

 

「勿論、私もだよ」

 

「なら、私も貰う権利があるわね」

 

「分かった」

 

 宴が終わり、それぞれが就寝しようとする時、ナミとアルビダ、ロビンは彼に寄り添って何処かへと移動し始め……。

 

 

 

 

「……!!!!、っ!!!!」

 

「うわぁ……サンジの奴、もうなんかヤバい事になってるぞ」

 

「放っとけ」

 

 何かを察したサンジはショックのあまり、放心状態を超えた凄まじい状態となって打ちひしがれるのにウソップは同情。ゾロは我関せずの態度であった。

 

 

 

「ふむ、確かに楽しい事になりそうだな。退屈はしない」

 

 エネルは今後、自分が満足できる生活が出来そうだと確信するのであった……。

 

 

 

 

 

 

 そして、宴が終わりルフィ達は『神の国 スカイピア』を観光する事になったが……。

 

 

 

「ヤーハッハッハ。聞け、私は今日から『神』を辞めるぞ」

 

『えええええっ!?』

 

「更にシャンディアとの争いは終わった。今後は共に暮らしていくことになるぞ」

 

『ええええええ!?』

 

「そして、私の後任はガン・フォールだ」

 

『ええええええええええっ!?』

 

 スカイピアにて生活を営んでいた空の者たちはエネルが神を辞めた事、シャンディアと和解した事、ガン・フォールが神として復帰する事などひたすら、事態の変化に連続して驚愕する事になるのだった……。

 



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四十二旅

 

 空の世界が『空島』にある国の一つ、『神の国 スカイピア』と青海からやってきてしまった『シャンディア』の四百年にわたる戦いの歴史、それにスカイピアを支配していた神・エネルの問題は、青海から訪れた『麦わら旅団』によって解決した。

 

 

 

「さて、そろそろ下に降りるか。まだまだ訪れていない島は多いしな」

 

 数か月程、空の世界を楽しんだルフィはそう言った。この数か月の間にも色々とルフィ達、麦わら旅団の状況は変化していた。

 

「ヤーハッハッハ。これはまた、良い感じの船になったではないか」

 

「意外とやればできるもんだ」

 

 先ず麦わら旅団の船である『メリー号』は、ウソップ、それにシャンディアとスカイピアの民の手によって、エネルの方舟『マクシム』と合体した事で、大旅方舟『マクシム・メリー号』と化したのである。

 

 

 

 

 

「まさか 天候を科学する空島があったなんてね。お蔭で色々と得したわ」

 

 空島の一つには人工的な空島があった。老気象学者のハレダスをリーダーとして複数の気象学者らによって作られた島である。名を『ウェザリア』という。

 

 『ウェザリア』は風の赴くまま、世界中の海を漂っていて時には青海に下りては物資と情報を入手しながら旅をしているそうだが、運の良い事に、里帰りとしてスカイピアのほうへとやってきたのだ。

 

 これにより、ルフィ達はウェザリアを見学させてもらった。この時、ナミは学者達から気象学を学び、ウェザリアにある装置を貰う事で自分の持つ『天候棒』に組み込み、強化。

 

 彼女の『天候棒』は『魔法の天候棒(ソーサリー・クリマ・タクト)』へと進化したのだ。

 

 

 

「大変だ!青海の漂流者だぞ!?」

 

 青海へと下りようとした時、騒ぎが起きたことに気づく。

 

 

 

 

「こいつは……」

 

 ルフィが近づいてみれば、空島を訪れる前に対峙した海賊ハイエナのベラミーが気を失っていた。

 

 

 

「なっ……何でお前たちが此処にっ!?」

 

「それはこっちの台詞だ」

 

 意識を取り戻したベラミーは、ルフィ達を見ると驚愕した。少し間を置き、事情を聞いてみると、ルフィ達に追い払われた後、その情報をベラミー海賊団が名を借りていた王下七武海の一人であるドフラミンゴという男に知られ、制裁を受けたようである。その後、『空島に行って、証拠を持って帰って来れたならチャンスをくれてやるよ』と言われたベラミー海賊団は、ドフラミンゴの言葉通りに空島を目指したという。

 

 

 

 無論、空島の存在は青海では信じる者は少ないし、到達する方法も危険性があまりにも高い。結果としてベラミーは仲間を全員失い、彼一人がこうして空島へと辿り着いたのだ。

 

 

 

「麦わら……恥を忍んで頼む」

 

 ベラミーはルフィへと深く頭を下げ、彼にとって、ドフラミンゴは憧れの存在であり、彼の傍に居続ける事が自分にとっての幸せだと告げる。

 

 だからこそ、空島を訪れた空島独自の物である『貝』、ドフラミンゴの名を傷付けた詫びとして持っていく『黄金』を分けて欲しいと頼んだ。

 

 

 

「そうまでして、頼まれちゃ仕方ない。お前の願い、叶うと良いな」

 

 憧れる者の傍に居たいという気持ちはルフィ自身もシャンクスに対して抱いた事もあったために共感できる。

 

 幼少の頃、シャンクスの事を馬鹿にした山賊の男と揉めた時に連れ去られ、助けに来てくれたシャンクスと共に近海の主である怪物に襲われかけたところで、ルフィの『覇王色の覇気』が覚醒し、近海の主を気絶させた。

 

『ルフィ、お前はおれたちを超える可能性を持った男だ』……シャンクスに麦わら帽子を授かった出来事もあって、ついて行きたいのでは無く、超えたい男として意識するようになったのはこの時である。

 

 もっとも、共感が無くとも必死に頼まれると断れない性格である。

 

 ともかくルフィはそう言って、ベラミーの頼みを了承すると幾つか、黄金と貝を提供する。

 

 

 

「すまねぇ、この借りは必ず返す」

 

 ベラミーはルフィへと深く感謝して頭を下げた。

 

 

 

 そして……。

 

 

「ルフィ、こいつを餞別代りに貰ってくれ」

 

「手甲か」

 

 青海へと下りようとするルフィにワイパーはそう言って、二つの手甲を渡した。

 

 

 

「純度100%の海楼石を加工して創ったものだ。役に立つだろう」

 

 海楼石は硬度だけを評してもダイヤモンド並みという頑丈さがある。単純な防具や武器としても使えるものであるのだ。

 

 

 

「分かった、遠慮なく貰っておく」

 

「ああ」

 

 ルフィは手甲を貰い、そしてシャンディアの者たちとスカイピアの人々、現在の『神』ガン・フォールらに見送られる中……。

 

 

 

 

「また、いつか此処に来るからな」

 

 そう言って、船を動かす。

 

『マクシム・メリー号』はエネルによる『雷』を原動力に絶大な飛行能力も有している為、空島を訪れようと思えば、いつでもそれを可能とするのだ。もっとも、青海での飛行は緊急事態だけに限り、普段は普通の船として航海する事になるのだが……。

 

『ありがとうー!!』

 

 スカイピアの人々にシャンディア、『神隊』にガン・フォールは礼を言いつつ見送り、又、シャンディアの末裔たちは『黄金の大鐘楼』を鳴らす。

 

 

 

 

 

「この借りは絶対に返すぞ、麦わら」

 

「良いから、行けよ」

 

 同乗させていたベラミーには、少しの食料と小船を提供して、別れることになった。何度も頭を下げる彼に苦笑しつつ、ルフィは送り出した。

 

 

 

 

「さて、航海する前にまだやり残してることがあったな」

 

「何なのだ、それは?」

 

「『掃除』だよ」

 

 エネル以外の者は心当たりがある様子を見せたのでエネルは敢えて聞く。心網を使っても良いが、彼にとっては異世界に当たる青海での新鮮さを失いたくないために戦闘時などを除いて封じる事にした。もっとも、ルフィに頼まれれば別だが……。

 

 だからこそ、ルフィに問うと彼は少し、笑って答えたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャンディアの本来の故郷と言える青海の島ジャヤの西には、無法者たちが集まり、政府すら介入する事が出来なくなった無法地帯の町、『モックタウン』が存在する。

 

「さて、いこうか」

 

『おう!!』

 

 その町を訪れた『麦わら旅団』は『モックタウン』の無法者共を全て退治する事で浄化したのであった……。

 



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四十三旅

 

 その日、突如として世界に激震が走った。世界政府が介入を諦めた事で無法者らが集まり、法など無用な悪徳の町として栄えていた、ジャヤの西の町、『モックタウン』。

 

 それが僅かな間に海軍によって浄化されたからである。暗躍していた王下七武海の一人、クロコダイルの魔の手からアラバスタを救ったという『麦わら旅団』の存在も、その場にあったとも報じられた。

 

 

 

「ふっふっふ……流石はルフィの兄貴じゃな~い。あちしたちももっと頑張るわよ~」

 

 その報道に気合を入れるのは帆に『おかま道』、『人情』、そして麦わら旅団の帆を掲げた船に乗る男、元クロコダイルの部下であったⅯr.2・ボン・クレー改めベンサムであった。

 

 彼はルフィとの決闘に負け、その人柄に惚れて以来、麦わら旅団の傘下を自称して世界に平和を齎すために活動していた。

 

 

 

「フェッフェッフェッ、燃えてるなぁベンサムの兄貴」

 

 そう声をかけたのは、狐の耳のような形状の黒髪に長く伸びた鼻の男…最近、ベンサムらに退治された事で仲間となった元フォクシー海賊団船長銀ギツネのフォクシーであった。

 

 海賊の戦いの中には仲間を賭けたデービーバックファイトなるものがある。それの勝敗の結果、渦中で友情などが生まれたこともあり、フォクシー海賊団は船長以下全員がベンサムの仲間となったのだ。

 

「ええ!燃えずにはいられないわよ~う!!それに感じるの、近いうちに再会できるって、その時に誇れるような事をしなきゃね。さあ、頑張るわよ~」

 

『オオッ!!』

 

 こうして、彼らは今日も活動を続けるのであった……。

 

 そして、ルフィからの連絡により、モックタウンの浄化の手柄を譲ってもらった(報酬はちゃんと内々に払っている)海軍本部では……。

 

 

 

「いやー、しかしルフィ君たちが味方になってくれているのは助かる」

 

 センゴクは自室内でリラックスしながら呟いていた。実際、ルフィ達の協力のお蔭で海軍の名が上がり始めている(モックタウンで捕らえられた者の中には、裏で海軍の者と非合法な取引をしている者も居て、連鎖的にその海兵らを問題が明るみになる前に逮捕する事が出来た)。

 

 そんな訳で気分の良かったセンゴクだったが……。

 

「大変です、元帥!ガープ中将が急に部下を引き連れて『教育のため、エニエス・ロビーに連れて行く』と出て行ってしまわれましたっ!!」

 

 エニエス・ロビーとは、世界政府の直轄地である。『司法の島』とも呼ばれる通り、政府直轄の裁判所がある島の事だ。

 

「嘘つけぇっ、絶対ただの建前だろうっ!?孫恋しさに勝手なマネをしおって!!しかし、隠していた筈なのに、どうやって……」

 

「『愛の前に不可能無し』との事です」

 

「その能力を仕事に活かさんか、爺馬鹿めぇ……」

 

 残されたのは、至福のひとときを台無しにされたセンゴクであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 ジャヤ島、モックタウン。

 

 空島を訪れたルフィは、そこでカルガラとノーランドの話を聞いた事でその素晴らしい友情に心打たれたのもあって無法地帯と化したモックタウンを浄化し、ジャヤ島を誰もが立ち寄れる島へと変える事に決めた。

 

 無論、町の再生も手伝うなど事後処理もちゃんと行った。

 

 

「あんたたちは町の恩人だ。そしてこれから先、無法者がよらないよう、名前を借りても良いか?」

 

「ああ、構わないぞ」

 

 今まで我が物顔でモックタウンで横暴を働く無法者たちに辟易、恐怖していた町人はルフィ達に感謝し、新たに町の名を『麦わらタウン』として平和な日々を堪能し始める事となる。

 

 

 そして、捕らえた無法者らの連行を海軍へと任せたルフィ達だが……。

 

 

 

 

「どうも、すまねぇな。おれたちがやらなくちゃいけなかった事をやってもらって」

 

 部下を引き連れ、連行を担当するは、頭にアイマスクをかけ、パーマかけたショートの黒髪の大柄な男。海軍大将の一人である青キジことクザンであった。

 

「あ……青キジ……」

 

 ロビンはクザンの出現に身を強張らせ、激しく動揺した。彼女の故郷であるオハラがバスターコールによって消滅させられた際、庇ってくれた恩人のサウロを凍らせつつも、何のつもりか逃がした男であった。

 

 

 

『おれはお前の味方じゃねぇ。お前が何かやらかせばお前を一番に捕えにいく敵だ』

 

 その警告を残して……。

 

 

 

 

「あらら、コリャ良い女になったな……ニコ・ロビン。それに驚いたよ、お前が善行なんてな」

 

「ああ、今のロビンは俺たちの仲間で善人だ。環境に問題があったから、昔は悪事をやっていたようだけどな……話はセンゴクさんとちゃんとつけた筈だが?」

 

 ロビンを庇うように前に出、一瞬、彼女へと微笑んでからクザンに視線をぶつけるルフィ。

 

 

「お前がガープさんの孫のルフィか……本当にそっくりだ。安心しな、別にロビンに何かしようっていうんじゃない。ちょっと昔、色々あって、気がかりだったから様子を見に来ただけだ」

 

 ルフィに苦笑を浮かべるとそう言って……。

 

「それにしても、まさかそういう事になっているとはな……ロビン、おれはサウロとは親友だった。だから、サウロがお前を生かした事は正しかったのか、間違いだったのかその答えを見せてくれよ」

 

「ええ、そのつもり」

 

「おれたちだってロビンを支えるしな」

 

 ルフィも答え、皆が頷いた。

 

 

 

「少なくとも、寄り木……いや、それ以上のもんが見つかったのは何よりだ」

 

 そうして、ちょっとした事態は済んだのだが……。

 

 

 

 

「ルフィ、又、大活躍したそうだな。良くやったっ!! せっかくじゃからエニエス・ロビーを案内してやろう」

 

 ガープが出現し、ルフィを力強く抱擁した。

 

「爺ちゃん、いきなりだね」

 

「えぇ……あんたがエニエス・ロビーに行くとか絶対問題になるじゃないっすか」

 

 ルフィは苦笑するのみであったが、クザンは恩師でもあるが故にガープの性格を熟知しているので付き添いをしなければ(問題事が起きそうなので)ならない事に肩を落としたのだった……。

 




 原作でのウオーターセブンとエニエスロビーの展開は作者には無理なので、IQ溶かしたごり押しハッピーエンドでいかせてもらいます。

 一部のキャラにはその犠牲になってもらいますが……。


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エニエス・ロビー編
四十四旅


 ルフィ達麦わら旅団は、ジャヤ島西部の『モックタウン』に蔓延る無法者達を全てを退治することで、この町の平穏を取り戻した。

 

 無法者たちの顔色を窺いながら過ごす恐怖の日々から解放された町人達は、感謝の意を表し、町の名を『麦わらタウン』と改めた。これには彼らの名を借り、今後やってくるかもしれない無法者たちを牽制する目的もあるが……。

 

 そして捕らえた無法者たちを引き取りに来た海軍大将が青キジことクザンと話し合っているとガープが現れ、『エニエス・ロビーを案内する』と告げて半ば、同行を強制した。

 

 

 

 ガープからすれば孫であるルフィが大手柄を立てたのでその祝いのつもりであり、本人にとっても孫と一緒に時間を過ごしたいという思いつきであった。

 

 そして、本人なりの建前として彼が教育中の部下も引き連れている。その部下とは……。

 

「お久しぶりです、ルフィさん!王下七武海のクロコダイルを倒してアラバスタを救ったり、政府ですら手を出せなかったモックタウンを救うなんて相変わらず、とんでもない旅ですね」

 

 東の海にあるシェルズタウンで別れたコビーが嬉しそうな表情を浮かべ、敬礼した。

 

 数か月の間に身長は伸び、顔つきも立派になるなど別れた当時の彼と比べ驚くほどに激変していた。

 

「とんでもなくはないだろ。ただ、持てる力を使って人助けしているだけだ」

 

「ええ、貴方にとってはそういう認識でしょうね」

 

「そっちは随分とりっぱになったな」

 

「そうだね、まさかあのコビーだなんて信じられないよ」

 

 ルフィの言葉に、かつて海賊だった頃、コビーを捕らえて航海士兼雑用としてこき使っていたアルビダは賛同する。

 

 

「いえいえ、僕なんてまだまだです。将校にもなれていませんし……話には聞いていましたが本当にアルビダさんはルフィさんの仲間になったんですね。見た目も大分、美しくなってるようで戸惑いました」

 

「まあ、ルフィのお陰でね」

 

 そうコビーと談笑するルフィとアルビダ。更にガープが教育している部下がもう一人……。

 

 

 

「へぇ、ククリ刀なんて珍しいもん使うんだな」

 

「これがおれの手に馴染んだからな。見てろよ、何時かお前より強い剣士になってやるからな」

 

 湾曲した刃が特徴的な二振りの刀をそれぞれ納めた鞘を二本、腰の後ろに専用のベルトで装着している金髪の男がゾロに宣言した。長髪をオールバックにし、独特のサングラスをかけたこの男は何と……

 

 シェルズタウンで横暴を働いていたモーガン大佐の息子ヘルメッポであった。

 

 階級として曹長がコビー、軍曹がヘルメッポだ。

 

「お前もあの時と大分、変わったな。お前のオヤジよりもましになってる」

 

「言ってくれるじゃねえか……確かにオヤジはやりすぎだったからな。だから、その分、おれがオヤジの汚名を払拭できるくらい立派な海兵になってやろうって決めたんだ」

 

 ルフィの言葉にヘルメッポはそう、宣言した。

 

 

 

 「良し、それじゃあ行くぞ」

 

 こうして、麦わら旅団とガープにコビー、ヘルメッポは当然として、ガープがエニエス・ロビーでとんでもない事態を起こさないよう、お目付け役を兼ねてクザンも同行し、航海は始まった。

 

「ヤハハハ、青海の生き物は面妖だな」

 

「お前んとこの生き物も大概だったろ」

 

 道中、『ロングリングロングランド』というとんでもなくのびのびとした草原が広がる島に立ち寄った時、身体がとにかく長い動物を見たエネルがそう評すると、ウソップからツッコミが入った。

 

 そして、竹馬が好きで世界一長い竹馬に挑戦し、登る事は出来たものの、あまりの高さに恐怖し十年間、そのままだった遊牧民の老人トンジットを助ける。

 

 この島は海によって普段は十の島に区切られているとの事で年に一度、潮が引き一つの島となるのを狙って島々を移動するのだが、彼は当然、他の遊牧民たちから置いてけぼりをくらってしまっていた。

 

 そこで、自然系の悪魔の実【ヒエヒエの実】の能力者であるクザンは、海を凍らせる事で島々を渡れるようにした。これにより、トンジットは相棒の馬であるシェリーと共に他の遊牧民らが住んでいる島目指して移動を開始するのだった……。

 

 

 

 

 

『エニエス・ロビー』とは世界政府直属の裁判所がある『司法の島』であり、夜が無い『不夜島(昼島)』にその施設は建てられている。

 

 周囲は鉄柵で囲まれていて、正門から本島前門を進むと裁判所が見えてくる。その奥に見える司法の塔へは裁判所からの架け橋が無いと立ち入ることは不可能だ。

 

 そしてこのエニエス・ロビーは裁判所ではあるものの、世界政府には権力分立制度が無いために実態は政府の決定にそのまま従う形だけの司法機関である。

 

 故に、そもそもここに連れられて来られるのは政府自体が罪人とみなしている者であり、裁判も形式上行われているもので、有罪確定と決まっているからこそ【無罪】はありえないのだ。

 

 

 

「だからこそ、民間人は本来、立ち入れんし実態も秘密じゃからよろしく頼むぞ」

 

「本来なら、この行動自体が問題だけどな」

 

「爺ちゃんがすいません」

 

 ガープの言葉と行動にため息を吐くクザンにルフィは謝った。

 

 

「ほら、ピクチャ。いつもの癖が出ているわよ。それは駄目」

 

「!?」

 

 その傍ら、メモを無意識に取っていたピクチャはロビンの指摘に驚愕し、慌てて破り捨てた。クロコダイルの元でエージェントとして情報戦などを多く担当していたからこそ政府の施設で見聞きした情報に身体が勝手に動いてしまったのだ。

 

 

 そしてエニエス・ロビーの本島正門を守るのは巨人族のオイモとカーシーである。

 

「ドリーとブロギーの二人は元気よく決闘してるんだろうな」

 

 ガープの手続きで通そうとしている二人を見つつ、そう呟いたルフィだったが……。

 

 

 

「っ!? 何でお頭たちの名前を知ってんだ!?」

 

 実はオイモとカーシーは百年前までドリーとブロギーが率いていた巨兵海賊団の仲間であった。しかし、ある日、ある島で決闘を始めたドリーとブロギーの邪魔をしまいと船員たちは皆解散。どちらかでも帰還するのを、エルバフで待っていたが音沙汰も無かった。気になって海へと出た二人は海軍に捕まってしまったのである。

 

 そしてドリーとブロギーが捕まっていると言われ、政府のために百年働く取引をしたという。つまりはエニエス・ロビーの門を百年守ればドリーとブロギーと共にエルバフへ帰れる、と。

 

 そう、二人は騙されてしまったわけである。

 

 

 

「……どいつか知らんが、しょうもない事しおってからに」

 

「まったくだ。二人共、安心してくれ。ドリーとブロギーはリトルガーデンで決闘を続けている」

 

 ガープは溜息を吐き、ルフィはドリーとブロギーの近況を教えた、

 

『すまなかった』

 

 そして、次の瞬間にはガープもルフィも巨人の二人に対して謝る。

 

 

 

「い……いや、二人に謝られても困る。お頭たちの様子も教えてくれたし」

 

「ああ、お頭たちの事を信じなかった我らも悪い」

 

 その後、今日一日働いてからゆっくりとエルバフへ帰ると言い、ガープもクザンが何も見ず何も聞かなかった事にする傍らで許可を出し、話し合いは終わった。

 

 

 

 

 そして、門を通り裁判所へと移動する一同を前にエニエス・ロビーを守る海兵や法番隊はガープやクザンへと敬礼をしていった。

 

 

 

「相変わらず、堅苦しい奴らじゃのう」

 

「そりゃ中将のガープさんと大将のおれが居たらこうもなるでしょうよ」

 

 今更かと言わんばかりの態度でクザンはガープの言葉に溜息を吐く。

 

 

 

「ふふ、ルフィの祖父というのが納得できるな。どちらも劣らずの豪快さを持っている上に好漢だ」

 

「それはどうも。けど、爺ちゃんの方がおれより上だよ。何に比べてもな、まだまだおれは未熟者さ」

 

 エネルがガープを評するとルフィは苦笑する。

 

 

 

「久しぶりですなガープ中将、クザン大将」

 

「今日は見学との事で……」

 

「幾らでも見ていってくださいン」

 

 ガープらに声をかけたのは、髭生やした男、覆面をした男、なよっとした顔つきの男の三つの顔が融合した巨体の男。彼こそ裁判長である【3つ首のバスカビル】だ。

 

 

 

「凄ぇ、三つ首だ」

 

「あ、あんな人間も居るんだ」

 

「うむ、面白い」

 

 ウソップとチョッパーにエネルが三つ首であるバスカビルに興味を示した。しかし……。

 

 

 

「相変わらず、引っ付いとるんじゃなお前ら……そんなに楽しいのか?」

 

「ちょ……今はそれを言わない方が……ほら、あのへん凄い落ち込んじゃったじゃないですか!?」

 

 そう言いつつも、バスカビルはその正体を明かした。何を隠そう、バスカビルは三つ首では無く、仲良しの三人組がくっついてそう振る舞っているだけだったのだ。

 

 その事実にウソップもチョッパーもエネルもそれぞれ、がっかりした様子を見せた。ともかく、ガープの案内の元に裁判所内を見学するのであった……。

 



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四十五旅

 

 この世界の国際統治機関である世界政府には凶悪犯や危険組織の調査を行うための諜報機関が存在する。その名を『CP(サイファーポール)』と言い、世界中に八つの拠点を持っていてそれぞれCP1からCP8までの部署が割り振られている。

 

 だがそれは表向きの話だ。

 

実は他に二つ、特殊な部署がある。……一つは、世界貴族直属組織の【CP-0(サイファーポールイージスゼロ)】。【世界貴族】とは、この世界において「最も誇り高く気高き血族」として、世界の頂点に君臨するが故に世界政府加盟国のあらゆる国の王侯貴族を超越した絶対的権力を有する存在である。

 

 

 

 世界政府加盟国としての登録,その立場の維持には、この【世界貴族】への献上金がなくてはならない。それも下手な国ならばすぐに滅びかねない莫大な金額を、だ。

 

そのような者たちの直属であることからも分かる通り、【CP-0】は「世界最強の諜報機関」とも呼ばれている。

 

そして、この【CP-0】を光とするならば、闇となるのは、10番目の部署【CP9】である。

 

この部署は、従来のCPの活動に加えて、政府と敵対する者や非協力的市民の殺害という超法規的活動を行っているため、世界政府にとって最も知られてはならない部署である。

 

そんなCP9の拠点はなんと司法の島である『エニエス・ロビー』に存在する。裁判所から橋を架けねば辿り着けない最奥の『司法の塔』がそれだ。

 

「もう五年か……あいつら、いつになったら設計図を手に入れてくんだ」

 

 ウェーブのかかった薄紫色の長髪に色白肌、黒い目元と鼻が特徴的な容貌に加え、過去に負った怪我により、革製の保護マスクを被っているという派手な見た目のため、諜報員には向かなそうな男が呟く。

 

彼の名はスパンダム。CP9の司令官である。

 

 

CP9の司令長官であり、エニエス・ロビーの最高責任者でもあるが、CP9に所属している部下たちと違って【六式】は使えないために、彼本人の戦闘能力は常人と大差無い。ただ、動物系である悪魔の実、【ゾウゾウの実】を食べた事で象へと変化する象剣ファンクフリードを扱う事で多少は戦闘を行える。

 

因みに、ロビンの故郷である『オハラ』を焼き払ったバスターコールを発動したのは彼の実父スパンダインであり、その男も又、CP9の長官であった。

 

現在、司法の塔にいるのは、スパンダムだけである。

 

 彼の部下全員がそれぞれ任務を遂行中であるからだ。

 

 彼が最重視している任務には五人(一人は新入りの「四」式使い)、もう一つの任務である『革命軍支部長暗殺』には三人送っている。

 

 そして、スパンダムは、トイレから自分の部屋へと戻る途中、前者の任務が一向に果たされない事に対して不満げに呟いていたが……。

 

 

 

「設計図って、何のだ?」

 

「そりゃあ、古代兵……って、誰だお、うがっ!?」

 

 後ろからの声に対して反射的に答えたスパンダムは、自分以外の存在に気づいて、振り返ろうとしたが、衝撃と何かが流れる感触に襲われ、意識は闇へと沈んでいった。

 

 

 

「気になる内容だな。詳しく聞かせてもらおうか」

 

「ああ」

 

 彼の前へと回って指示をしたのはルフィだ。

 

 時は、ガープ、そして付き添いとなったクザンの先導の下、コビメッポコンビを始めとした研修中の海兵達に同伴した麦わら旅団が、エニエス・ロビーの裁判所内を見学し終えた頃に遡る。

 

 本来ならばそれで帰るべきなのだが……。

 

 

 

「良し!せっかくじゃから司法の塔も見学するか!」

 

「いや、幾らなんでもそれは不味いでしょう。この裁判所に部外者が入ってるのも問題なのに……」

 

「バレなきゃ良いんじゃよ。ワシ、スパなんとか嫌いだから言うのも面倒くさいし」

 

「スパンダムです……仮にも政府の組織に属する人間が言っちゃあなんねえ台詞ですよ、それ」

 

「いいから行くぞ。中を歩き回るだけなら問題ないじゃろう」

 

「いや、問題だらけです。孫がいるからって良いとこ見せたいのはわかりますけど、肝心なトコがどんどん適当になってませんか?」

 

「行くぞ」

 

「えぇ……」

 

 結局、ガープのごり押しにより、クザンは、皆が司法の塔へ入れるように氷の道を創らざるを得ず、そのまま極秘の見学と相成った。

 

 

 そして、トイレに行こうとしたところでスパンダムとすれ違ったルフィは、その時の彼の言葉が気になって、質問と同時に首の後ろを人差し指で突いた。【氣】を流し込む事でスパンダムの意識を支配する為だ。

 

 そして……。

 

 

 

「は?中止、ですか?」

 

『何っ!?』

 

 長年ウォーターセブンに潜入していた部下五人は、任務を命じたスパンダム本人から『任務を即刻中止しろ』と言われた事で衝撃を受ける(因みに新入りは支援要員で待機中であった)。

 

「えぇっ、嘘だろ、長官!?」

 

 革命軍支部長暗殺を命じられた者たちも又、任務の中止を命じられた。

 

 

 そして、司法の塔へと戻れば、スパンダムが誠心誠意の態度で謝ってきた上に『おれは、お前たちに…もっとこの立場に、相応しい上官になる』と宣言したのだ。小悪党で権力を笠に着る最低最悪な上司が、真逆の雰囲気と性格を持つ者へと変化していたのである。

 

 当然、この激変ぶりには……。

 

(何があったぁぁぁっ!?),(気持ち悪っ!?),(別の意味で、セクハラです!!)と、それぞれ内心動揺し、しばらく調子が狂う羽目になってしまったのだった……。

 

 

 




 Dの者、二人がエニエス・ロビーに来た結果……スパンダムが改心しました。

 まあ、CP9のメンバーはそれぞれがパワハラ紛いのものを受けましたが……公務員は辛い。

 更に上司が気持ち悪くなるという奇妙な体験……原作と比べて新入りの〇ロは救われてますけどね。

 今のうちに六式を完璧に習得するんだ、頑張れ(だからと言って、活躍があるかは知らない)


 果たして大きく変わる事、確実なCP9はこの先、出番はあるのか(一応、ぼやっとした先の展開では予定しています)


 




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W7(ウォーターセブン)編
四十六旅


 

 

 世界政府直属の裁判所たるエニエス・ロビーには世界政府の諜報機関であり、超法規的、非合法な活動が許された闇の部署たる【CP9】の活動拠点たる『司法の塔』が併設されている。

 

 当然、エニエス・ロビーもであるが『司法の塔』はもっと、部外者が立ち入ってはならず、立ち入らせてはならない場所なのだがガープはそんな事は我、知らぬとばかりに主に孫であるルフィに対しての愛から『部屋には入らず、塔内をちらっと見るだけ』という名目でルフィ一行、部下であるコビーにヘルメッポ、付き添いとしてやむなく同行した青キジと共に無断で入った。

 

 その際、ルフィはたまたまであるが【CP9】の長官であるスパンダムとすれ違い気味に出会い、彼が妙な事を口にしたのでそれを詳しく聞くと同時に、改心させたのである。

 

 

 その後、ルフィはガープの元へと戻って『司法の塔』での見学を再開し、終了後……。

 

 

「どうじゃった、ルフィ。政府の重要施設は?」

 

「見応えはあったよ。それに改めて爺ちゃんの偉さも分かったから良かった」

 

「そうじゃろう、そうじゃろう。ぶわっはっはっは」

 

 ルフィの感想にガープはご機嫌な様子で笑った。

 

「良し、堅苦しい所は十分、見たから次はウォーターセブン辺りでゆっくりするぞ」

 

 

 『ウォーターセブン』とは造船業が盛んな町として有名な都市の名だ。島全体が一つの町となっていて、水の都としての名を持っており、水で沈んだ地盤に町が造られているが故に水上都市の様にもなっている。

 

 

 

 又、海列車である『パッフィング・トム』の開発元の都市であり、『カーニバルの町 サン・ファルド』,『春の女王の町 セント・ポプラ』,『美食の町 プッチ』そして『エニエス・ロビー』にも定期便を設けている。

 

 

「え、いや……ガープさん、仕事は?」

 

 ガープの急な発言(孫に会えている事から普段より、自由度が暴走している)に戸惑うしかないクザンはそれでも、至極当然の事を言う。

 

 

「今から、ワシらは有給休暇じゃ」

 

「それ、報告だけじゃ駄目ですよ? 事前に書類で提出しないと……」

 

「ワシを何じゃと思っておるんじゃ。それくらいちゃんとやっておる」

 

 

 クザンは敢えて言い聞かせるように言うと馬鹿にするなとガープは反論した。

 

 

 同時間帯、センゴクの自室内では……。

 

 

 

『 センゴクへ

 

 ワシと部下たちは有給休暇を取る。

 

 大体一週間くらいだからよろしく。ガープより』

 

 こんな文面の書き置きがガープの部屋に置かれていたのが発見された。

 

 

 

「……こ、こんな有休届けがあるかぁぁぁぁぁぁっ、しかも今まで碌に体裁取り繕ったりとかしなかった癖に、爺馬鹿めぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「うわぁっ、センゴクさんが本気で切れたぁぁぁぁっ!!」

 

 

 本日、海軍本部でセンゴクが大暴れしてしまうという大事件が発生したのだった……。

 

 

 

 友人が大激怒している事を察しながらも、ガープは、ルフィ達と共に『ウォーターセブン』へと向かう。裏でルフィがクザンへ謝ると、「君は悪くない…」と答えが返ってきた。どうしようもない事態に双方溜息を吐くしかない。

 

 

 

 そして、ルフィ達が港へ船を止めると……。

 

 

「此処で待てば、必ず再会出来ると思っていましたルフィの兄貴」

 

『待っていましたルフィの兄貴、『麦わら旅団』の皆様方!!』

 

「暖かい出迎え、どうも」

 

 ルフィ達を『麦わら旅団の傘下』を名乗るベンサムらオカマ船団、そしてベンサムらと交友を深めた事、元より荒くれた時代から「英雄」と呼ぶべき活躍を続ける『麦わら旅団』に尊敬や憧憬の感情を抱いていた事より『ウォーターセブン』の解体屋集団たる『フランキー一家』が出迎えたのだった……。

 




 寄り道が過ぎましたがちゃんと、各作品の更新はしていく所存です。

 私事ですが原作はちゃんと全巻、購入しました(中古と新品バラバラですが)。翌月に新刊出ますがこれから先は楽なので良かった、良かった。

 

 時には更新間隔に長い空きが出るときもありましょうが(展開だけは絶えず、試行錯誤はしてます)、その時は気長に待っていただければと思います。


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四十七旅

 

 ルフィたちは、ガープの主張により、世界政府の裁判所たる『エニエス・ロビー』からそのまま造船業が盛んな水の都『W7(ウォーターセブン)』へと向かった。そこで出迎えてくれたのは、麦わら旅団の傘下となっているベンサム達、そして、彼らと意気投合したW7の解体屋集団たる『フランキー一家』であった。

 

 

「まさか、あんたにまた会えるなんてな。随分と活躍してるみたいじゃないか」

 

「いえ、兄貴たちに比べたらあちしらなんてまだまだ……勝手に傘下名乗ってすいません」

 

「謝る必要なんてないさ。前に言ったように、世のため人のために力を使ってくれて嬉しいよ。これからもよろしくな」

 

「兄貴……ありがとうございます」

 

 こうしてルフィとベンサムは正式な契りたる盃を交わした。

 

 

 

 他の船員たちも当然、歓迎を受けており、ガープらでさえ(主にガープがルフィの祖父であるからという理由で)歓迎を受けていた。

 

「きゃああ、可愛い!!!」

 

「でしょう?」

 

元フォクシー海賊団の女性、ポルチェはロビンと共にチョッパーら小動物組を可愛がっていた。

 

 

「いやはや……彼は本当、アンタの孫だガープさん」

 

 クザンは、皆の中心に居るルフィの姿を見て、改めてガープへと伝えた。

 

「当然じゃ。ルフィはわしにとって誇らしい孫じゃよ」

 

「それは十分、分かってますって……間違いなく、世界を変えちまうような大物にもなる。ただ、その正義感は今の世界には()()()()()、軋轢を生んじまう……こっちとしては恥ずかしい話ですがね」

 

「ああ……分かっておる。じゃが、何をどうするかはあいつ自身に決めさせてやりたい。わしが取らなきゃならない責任は当然、取る。基本はルフィの味方じゃ」

 

「でしょうねぇ……おれもそれなりには味方しますよ。海軍としても借りは多くあるんだ。お互い敵味方となると状況次第ですが……」

 

「それで十分じゃ、すまんな」

 

「本当、孫が絡むと人が変わりますね、色々と」

 

 ガープとクザンは言葉を交わしながら、酒を飲む。

 

 

 

 

「いや、それにしても中々興味深い船に乗ってるんですね、ルフィの兄貴」

 

 ルフィ達の乗る大船『マクシム・メリー号』に対し、逆立てた風の長い水色の前髪、額のグラサン、はだけたアロハシャツ、海パン一丁という強烈な外見の大男であるフランキーが話しかけてきた。

 

 因みに、彼の声はベンサムと驚くほどそっくりであり、性格も似ていて波長が合う事などから互いを『ソウルブラザーズ』と呼んで深い仲を築くに至ってもいた。

 

 

「ああ、自慢の船だ」

 

「ふふ、この船の凄さが分かるとは大したものだな」

 

 ルフィは笑顔を浮かべて頷き、エネルも褒める様に言う。

 

「兄貴、いきなりでなんですがオレはかつて船大工を目指していました。とある理由から挫折しましたが、それでも夢は諦めきれない」

 

 フランキーが言うにはせめて誰か、自分が船を造りたいと思える者が現れるのを待っており、世間からの情報、ベンサムからの勧め、そして実際に会って感じた漢気からルフィがそうだと確信したという。

 

 

そして話は「宝樹アダム」へと移った。砲弾が降り注ごうが、災害が押し寄せようが、折れず、朽ちない最強の頑強さを有する最強の樹で、この世にたった数本しか存在しないという。かの海賊王ゴールド・ロジャーの船である『オーロ・ジャクソン号』もその樹によって造られたとの事だ。

 

 そのアダムがこの町で売り出されるのだが、裏のルートで二億近くもするという。そこで、ルフィ達の持つ黄金の換金分からの投資額で、アダムを購入し、新たにルフィ達の船を改造したいとの事だった。

 

 

 

「船が良くなるってんなら文句はない。任せる」

 

「うおおお、会って間もないのにこの信頼、絶対応えて見せます、ルフィの兄貴ィィィ!!」

 

 二つ返事で応えたルフィに、フランキーは号泣した。

 

 

「何だお前、船大工再開するのか」

 

 宴が盛り上がっていたからか一人の男がやって来る。

 

短い髪を整えた彼は造船所たる『ガレーラカンパニー』の社長であると同時、この町の市長であるアイスバーグだ。

 

「なんで、お前が此処へ?」

 

「ンマー、これだけ派手に盛り上がってりゃな。それに大きな船が来たって話、その船に乗ってるのが最近世界を揺るがせている麦わら旅団ってんなら尚更だ」

 

 知り合いたるフランキ―とアイスバーグはそんなやりとりを交わす。二人ともかつては同じの師の元で船大工の技を学んだ身なのだ。

 

「それにしても本当、大きいな。色々と興味深い技術も使われている。麦わら旅団の皆、良く来た。オレはW7の市長(ボス)、アイスバーグだ」

 

「アンタがアイスバーグさんか。なら、是非伝えなきゃならない事がある」

 

 そして、ルフィはアイスバーグへ【CP9】の人員が幾人か潜入し、古代兵器の設計図を狙っていた事やそれが解決した事を告げる。

 

 

 

「相変わらず、卑劣な奴だなスパンダの野郎……それにブルーノもそうだが、あいつらもぬけぬけと潜入していたなんてよ」

 

「成程、ウチの有能な秘書や大工たちが酒屋のブルーノと共に忽然と姿を消したかと思えば、スパンダムの奴が何か気持ち悪い謝罪をしてきたのは、そういう訳だったのか」

 

 フランキーは怒り、アイスバーグは納得が言ったような表情を浮かべる。

 

「だったら、オレたちの恩人って訳だな。是非ともこの町でゆっくりしてってくれ。船の方はオレたちも手伝おう。この船にも興味あるしな」

 

 こうして、麦わら旅団は市長直々に歓迎されたのだった……。

 




 最近の展開でもアダムの頑丈さは健在だったなぁ……でも、とあるどっか女性海賊にはべっきりやられてたような……。

 まあ、あの女性は色々と別格ですからしょうがないですけど。


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四十八旅

 『麦わら旅団』はいつもだと、『困っている者がいれば助けるのは当然』というルフィの信条によって立ち寄った島々の荒事へと挑む事が多いのだが、今回立ち寄った『W7(ウォーターセブン)』では、珍しい事に、今のところ、ゆったりとした日々を過ごしている。

 

 

 

 期間としては一週間くらいで、その間、フランキーにこの『W7(ウォーターセブン)』の市長であるアイスバーグ、『ガレーラカンパニー』の業者たちによる『マクシム・メリー号』の改装が行われる。

 

 改装に使う『宝樹アダム』の購入費は『麦わら旅団』が空島にて手に入れた黄金の換金分から出された。

 

 材料費としては二億なのだが、それでも一億余る上に、今までに『麦わら旅団』が名立たる海賊たちを倒した事など海軍に協力した事で得た報酬も積み重なっているし、それに『W7(ウォーターセブン)』の財政を壊さないようにと保管している黄金は残っているので、『麦わら旅団』の有しているお金はまだまだあった。

 

 

 

「はぁ~あ。偶には良く寝るってのも良いもんだ」

 

 ゾロがいつもよりは遅めに起床して、皆で泊まっている宿泊所の台所へと下りてみれば……。

 

 

 

「くそぅ……くそぅ……何で、ルフィばっかり……」

 

 隅の方でまるで地獄の底にでもいるかのような暗い雰囲気でぶつぶつ呟いているサンジがいた。

 

 

「大体、想像はつくがあいつ、どうしたんだ?」

 

「ああ、それがな……ナミかアルビダ、ロビンの誰か……欲張って全員とデートしようとしてたら、とっくの昔に三人ともルフィと海列車に乗って、セント・ポプラに行っちまってたのさ。デートにオススメの、な。」

 

 何やら部品のような物を弄っているウソップはゾロの問いに答えた。

 

 

「成程……」

 

「ちくしょう、おれはおれで他の綺麗なお姉さん探してデートしてやるぅっ!!」

 

 次の瞬間には自棄だとばかりに立ち上がり、サンジは走り去ってしまった。

 

『そういうとこだぞ』

 

 去り行くサンジの背に二人はそうツッコミを入れたのだった。

 

 

 

 

 因みに他の者は現在……。

 

 

 

「ヤーハッハッハ、青海の文化も悪くない。世界というのは素晴らしいものだったのだな」

 

 エネルは青海の文化の素晴らしさに満足して上機嫌となり……。

 

 

 

 

「皆、今日は何をして遊ぶ?」

 

「おれはその前に本を探したいな」

 

 ポルチェと共にチョッパー、ピクチャ、バルチィ、マイロンは町の中を歩いていた。

 

 因みにだが、ベンサム率いる旅団の中にも動物は二匹いる。一匹は元フォクシー海賊団のペットであったホシザメのモンダ、もう一匹はこの町を訪れる前に出会い、ベンサムと語らった結果、加わった角界ガエルのヨコヅナである。

 

 そして、セント・ポプラにてデートしているルフィ達は……、

 

 

 

「なんか新鮮だな、そうやって甘えてくるナミは」

 

 ルフィの傍には彼の右腕を取って身を預けるように寄り添っているナミ、彼女ほどでは無いが寄り添っているアルビダ、背後にいるが距離の近いロビンが居た。

 

 三人はだれもが親密な雰囲気を醸し出してもいる。

 

 

 

 

「だって、今はおもいっきり甘えられる場所だもん。こんな私は嫌?」

 

「全然。ナミに甘えられて嬉しくない男がいるかよ……本当に光栄だ」

 

「ふふ、ならしっかりと男としての義務を果たしてもらうよ」

 

「その分、私たちも女として義務を果たしてあげるわ」

 

 

 

 こうしてルフィはナミ、アルビダ、ロビンらと愛し合う男女の関係を楽しんだのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと日々を過ごしている『麦わら旅団』とはいえ、まだまだ旅しなければならない島々は多い。そして、海賊やならず者に出会い、荒事となる機会はまだまだ多く、人助けを良しとするなら余計にだ。

 

 よって、それぞれ鍛錬も行っている。主にルフィが指導者側になるのだが今回は……。

 

 

 

「ルフィ、久しぶりにわしが稽古をつけてやるわい。怠けてないじゃろうな」

 

「勿論。ちゃんと鍛え続けているよ」

 

 ルフィ自身の稽古の相手としてガープが申し出る。ルフィにとっては久しぶりの祖父による稽古であった。

 

 

 

 

 

 

「はあああっ!!」

 

「おおおっ!!」

 

 そうして、始まった二人の手合わせは、観戦している『麦わら旅団』、ガープの部下であるコビー、ヘルメッポら海兵たちにとっても参考にはなりそうにない『激闘』であった。

 

 

 

「あらら……流石、ガープさんの孫だけあって鍛え込んでるじゃないの。クロコダイルも倒せる訳だわ」

 

 唯一、激闘が理解できるクザンから称賛の声が上がる。

 

 彼から見て、ルフィの実力は、ガープという例外を除き、いかなる中将が数で掛かっても敵わない程で、自分に『黄猿』ことボルサリーノ、『赤犬』ことサカズキの三大将の誰か一人なら勝てはしないが、渡り合えはするぐらいだろうか(もっとも、それでも十分に過ぎるくらいだが……)。

 

 それも今、見せている実力が全てならばだ……。

 

 ルフィの戦闘スタイルは、六式がベースであるが、手や肘、肩による打撃を主としたものへと改変され、足は完全に空地問わず、相手との間合いを制するものとなっている。

 

 そして、覇気に生命エネルギー、生命帰還を用いて力をコントロールしつつ、戦うのだ。

 

 ガープの拳を主とした打撃が『力』ならば、ルフィの打撃は『技』。それが齎すは恐ろしい程の衝撃伝導である。

 

 【武装色の覇気】を極めた先にある内部破壊に加えて素手の衝撃伝導が出来るのだ。

 

 それはこの世界にある花ノ国のギャング、八宝水軍が使う拳法【八衝拳】と酷似しているが、強さは段違い。

 

 激闘を見ていても分かるが相手が防具や鎧、搭乗式のパワードスーツなどのオーバーボディを有していてもルフィの打撃が掠っただけで接触箇所から伝導して内部を破壊する程のものだ。

 

 ガープとは違う原理で圧倒的破壊力を顕現させるのである。

 

 

 

 なのであのガープでさえ、回避を徹底し、ルフィがまともに打撃を出せないようにしている。

 

 ルフィの方も絶対の打撃を与えるために意識を傾けており、発生しているは持久戦。

 

 もっとも、ルフィの様子を見る限りこの状況を打開する為の何某か、ブースト技を持っているようだが、今回は鍛錬のためか使ってはいないようだ。

 

 

 

 それでも……。

 

 

 

「年は取りたくないものじゃな、わしがへばるまで保つようになるとは……強くなったのぅ、ルフィ」

 

「いや、情けない勝ち方しかできないのが悔しいよ」

 

「ふ、言いよるわい。その気持ちがあるなら安心じゃ」

 

 年齢もあってか、ガープがヘバって倒れ込んで手合わせは終了する。

 

 

 それを鑑みつつ……。

 

 

 

 

 

「敵対はしたくねぇよ、ルフィ」

 

 クザンがこれまでルフィを見てきて思うは『人のために力を使える人物』という事だ。それは『正義そのもの』でありながら、更に今まで相手してきた海賊やならず者に対してのそれを見ても『罪を憎んで人を憎まず』が出来る個人的には素晴らしい若者だ。

 

 だが、だからこそ、この世界政府が抱える闇に対しては迷わず立ち向かってしまうだろう。

 

 ガープはその闇に対して妥協をしたが、彼は出来ないと確信してしまえる。

 

 

 

 恥ずかしい話だが、その闇を『海軍』は守らなければならないのだ。だからこそ……。

 

 

 

「クソッ、世の中ままならねぇな……!!!」

 

 クザンは真の『正義』が罷り通らない世界へ毒突かざるを得なかった……。

 

 




 この作品のルフィは八宝水軍に原作以上に絡まれる事確定です(圧倒的な上位互換ですからね)……。


 後、内部破壊の性質上……とあるキャラにとっては現時点でもルフィは鬼門となっております。

 原作ではめちゃくちゃ持久戦した相手でヒントはオーバーボディ……。

 まあ、ワイパーより貰った海楼石で出来たガントレット(ガープとの手合わせでは使ってない)があるので能力者にとっては大体、鬼門だったりするんですが。

 そう、三大将や現時点での四皇(将来のとある一人)でもそれぞれタイマンである上でガントレットを当てられたらワンチャンは十分あるくらいです。


 この時点でのルフィ(クザンが見抜いたブースト技抜き)でも……。



 最後にコロナで大変な世の中ですがそんな皆様の暇つぶしとして出来る限り、話を提供させていただきますので頑張って乗り切ってください。

 自分も乗り切ります。


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四十九旅

 

 『W7(ウォーターセブン)』の解体屋集団を束ねる男フランキ―。彼の本名はカティ・フラムと言った。

 

『おっさん!!おれ拾ってくれ!!捨てられたんだ!!!』

 

 彼は海賊の元で生まれ育ったが、十歳のころ、手に負えないからと『W7(ウォーターセブン)』で捨てられた。

 

 行く当ての無い彼は、廃船島にて大砲を造り、それを試射していると、音が気になって現れたコンゴウフグの魚人にそう言って自分を売り込んだ。この魚人は、造船会社『トムズ・ワーカーズ』の社長トム。偉大なる航路の島であること、そして大海賊時代の到来により、交易に難があった当時の『W7(ウォーターセブン)』を近くの島々と繋ぐ『海列車 パッフィング・トム』を開通させることで救うことになる伝説の船大工である。そして彼の返事はと言うと……。

 

 

 

『たっはっは……よし!!ドンとウチに来い!!』

 

 トムは、フラムの事情を聞いて、笑いながらも豪快な勢いでもって了承する。

 

 そして、彼の造船技術のノウハウを学びつつ、どんな海王類でも倒せる戦艦を造る事を目指して造船し続ける。

 

 

『ンマー、フランキー。兵器の放置は止めろと言っているだろうが!!』

 

 造った後は処分もせず、放置し続けるフラムに、凶器となる物を存在させる事の責任を持てと兄弟子であるアイスバーグは怒り続ける。端的に言って二人はそりが合わなかった。

 

『たっはっは!! 何を造ったって構わねぇよ。ドンと胸をはりな、フランキー』

 

 トムはフランキーの意志を尊重しており、戦艦を造るのを許していたし応援もしていたが……。

 

 『お前がトムだな。司法船へと来てもらう』

 

 トムは海賊王たるロジャ―の船が『オーロ・ジャクソン号』を造船した当人であったために裁判にかけられ、死刑と判決されてしまう。

 

 

 しかし、『海列車』の事を告げ、製造するまで十年の猶予を願うと、裁判長に承諾された。そして製造にかかっている最中……。

 

 

『古代兵器 プルトンの設計図を渡せぇっ!!』

 

「たっはっは、そんなものは知らん」

 

 トムが持っている古代兵器であるプルトンの設計図を頂かんと当時、『CP5(サイファーポールナンバーファイブ)』の主管であったスパンダムがやってきた。

 

 その場をあしらったトムは、フランキーとアイスバーグにプルトンの設計図を託した。

 

 

 

 だが、スパンダムは執念深い性格であり、狡猾であった。海列車による貢献で事実上無罪が確定していたトムの再審が行われる日に、廃船島に放置されていたフランキーの戦艦を使って『W7』を襲撃する事で、トムを有罪確定として『エニエス・ロビー』へ連行できるように仕向けたのだ。

 

 

 

『あ、あんなのは俺の船じゃねェ……ごぶっ!!』

 

『それだけは言っちゃいけねェよフランキー。生みの親だけは例え、生み出した船が世界を滅ぼそうとも否定しちゃならェ、責めちゃならねェ……造った船に男はドンと胸をはれ!!』

 

 自分が造った船を否定したフランキーを叱責したトムは、船大工としての在り方を説く。そして……。

 

 

 

『ふん!!!!』

 

『ホベァーッ!!!』

 

 フランキーが抱えた無念の落とし前としてスパンダムを殴り飛ばし、そのまま彼だけでも叩きのめそうとしたものの、大量の麻酔弾を撃たれた事で鎮圧される。

 

 

 

 

『裁判長、司法船襲撃の罪を認める。だが海列車を造った事で何か一つ、罪が消えるというならこの罪を消してほしい』

 

 それでもロジャーの船を造った罪は消えないので極刑となる事は確実と裁判長は告げたが、トムはロジャーの船を造った事に誇りを持っていると宣言した。フランキーに説いた船大工の在り方は彼の信念でもあったのだ。

 

 

 

『……罪名は変更だ』

 

 麻酔の効力が完全に回り始めた事で眠りについたトム。スパンダムは彼とその弟子であるフランキーとアイスバーグも連れて行こうとしたが、裁判長はトムの要求を呑み、連行はトムだけと告げた。

 

『トムさんは絶対に連れて行かせねぇっ!!』

 

 フランキーは徹底的に暴れ、トムを救おうとスパンダムらの乗る海列車の前に立ちはだかるも……海列車に轢かれ、瀕死の重傷を負った。

 

 幸運な事に乗り捨てられた鉄屑多めの廃船に漂着し、そこの鉄屑等を利用し、鉄人(サイボーグ)となって生還を果たした。一人であったために背中までは処置出来なかったが……。以後は罪滅ぼしとして、『W7(ウォーターセブン)』を守るため、あぶれ者などを拾いつつ、解体屋集団として活動してきたのだ。

 

 だが、それでも、どうしても船大工の夢は忘れられなかった。

 

 トムが連行される切っ掛けとなった戦艦を造る事はもう止めたが、世界の果ての未知の波でも胸を張って、乗り越えられる夢の船を造る夢は抱えていた。

 

 そして、それを託せる人物に出会う事を待ち続け、彼は自分の基準においてそれに相応しい世界の頂点とも呼んでいい好漢モンキー・D・ルフィと出会った。

 

 よって、後は船を造って託せば良いと思っていた彼であるが……。

 

 

 

『たっはっは!!!お前はやっぱり船大工が一番合ってるな、フランキー!!!』

 

「トム……さん? あ、あぁ……!!」

 

 夢の中でフランキーはトムと出会えたのだ。

 

「お……おれ……お゛れ゛は゛……ッ!」

 

 夢だと認識していても、涙が、謝りたいという気持ちが、どうしようもなく溢れて、言葉が吐き出せない。

 

『良いんだ、あれはお前のせいじゃない。余計な重荷を背負わせてすまなかったな』

 

「いや、でもあれは間違いなくおれのせいだ!ちゃんとアイスバーグの言葉を聞いていれば……ごめん、トムさん!本当にごめんよ!!」

 

 謝って済む話では無いが、それでも改めて謝りたかった。

 

『たっはっは!!!ああ、良い!!!わしはお前を許す!だからお前も自分を許せ』

 

 トムはフランキーの謝罪を受け入れ、そう告げた。

 

 

「でも……おれは……」

 

『お前は船を造ったんだろう。なら、共に行って最後まで見守れ。わしは会社をもっていたから出来なかったが、本当の意味での船大工はそうするもんだ!』

 

 トムは自分が出来なかった事をやれとフランキーへと告げる。自分自身を許せないだろうフランキーへと夢でありながらもトムは大義名分を与えようとしているのだ。

 

「……分かったよ、トムさん。おれは自分の造った船の面倒を最後まで見るよ!!」

 

 トムへそう宣言すると大笑いし、送り出してくれた。目覚めたフランキーは決意を呟く。そして……。

 

 

 

 

 

 

 『W7(ウォーターセブン)』に来て一週間ほどが経った日、フランキーから船が完成したと聞き、行ってみれば……。

 

「最高だ、ありがとうフランキー」

 

 出来上がった船は大型船で船首の羊は燃えがっている太陽の化身であるかのようなデザインへと変貌を遂げていた。勿論、甲板や船室も幅広く、設備も最高のものとなっていた。

 

 更に新たな動力としてコーラが利用でき、エネルの雷と併用すれば更なる加速や飛行も可能となっている。

 

 そして『古代兵器 プルトン』のそれをフランキ―とアイスバーグなりに改良し、開発した兵器も積まれていた。

 

 ルフィが人助けをする際、海賊らと戦うのは分かり切っているので、その助けとなるようにであり、更に言えば、決してこの技術をルフィが私利私欲のままに振るわないと確信できたからである。

 

 

 

 この大型船の名は『サニー・マクシム・メリー号』と名付けられた。

 

 

 

「気に入って貰えてよかった。ルフィの兄貴、こいつの面倒はおれが見ても良いですか?」

 

「ああ、勿論さ。最初からそう頼むつもりだったんだ」

 

「ありがとうございます!!!」

 

「良かったな、ブラザー!!」

 

 事実上の入団の許可をフランキーは伺い、了承されるとベンサムが祝福した。

 

 

 

「兄貴、おれたちは今後もこの海の平和を守るために航海を続けます。何かあればいつでも呼んでください」

 

「それはこっちも同じだ。これからもよろしくな」

 

「勿論」

 

 それぞれが連絡するための電伝虫をルフィとベンサムは既に渡し合っており、故に後は手を握り合った。

 

「またね、チョッピ―、ピクチャ、ヴァルチィ、マイロン」

 

「ああ、またなポルチェ」

 

「クオー」

 

 その裏で、よく交流していたポルチェとチョッパーたちは別れの挨拶をする。

 

「ゲコッ!」

 

「クオッ!」

 

 マイロンは、個人的に拳を交わして友誼を結んでいたヨコヅナとも別れの挨拶をした。

 

 

 

 

「良い旅をな、ルフィ」

 

「またどこかで会える事を願っています」

 

「じゃあな」

 

 ガープにコビー、ヘルメッポ始め、海兵たちもルフィの旅立ちを見送る。

 

「シャボンディ諸島に近づいたら、おれに連絡をいれてくれ。あそこはちょっとややこしいんだ」

 

 こっそりと近づいて個人的な連絡用の電伝虫をクザンは渡しつつ、要求する。

 

「分かった、覚えておく」

 

「悪いな……」

 

 こうして、『麦わら旅団』は新たにフランキーを加え、新たな船である『サニー・マクシム・メリー号』に乗って次なる島を目指し、航海を始めたのだった……。

 

 

 






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五十旅

 造船業が盛んな水上都市『W7(ウォーターセブン)』にて、珍しくリラックスした時間を過ごしたルフィ達、麦わら旅団。自分たちの船を更に大型の『サニー・マクシム・メリー号』へと改装したフランキーを船大工として加え、あらゆる面において心機一転、航海を再開した。

 

 彼らが目指すのは”偉大なる航路(グランドライン)”の後半にして、”赤い土の大陸(レッドライン)”の向こう側に広がる最後の海”新世界”だ。

 

 クザンによると、そこへ到達する為には、シャボンディ諸島、そして海底の楽園として有名な魚人島を通る必要があるとの事だ。

 

 ちなみに、シャボンディ諸島へ着いたら連絡するように、と個人回線用の電伝虫も渡されている。

 

 

 

「フランキー、この船、乗り心地が最高だ。本当にありがとう」

 

「それは何よりの言葉だぜ、兄貴」

 

 順調に航海をしている中、ルフィは乗り心地の感想をフランキーへと笑顔で伝えると、彼は喜んだ。

 

 

 

「なんか、海に浮いてるぞ」

 

 海を進んでいるメリー号の前で『海神御宝前』と書かれた旗が付いている大樽が浮かんでいるのを発見した。

 

 これは『流し樽』と言い、航海の無事を祈って海の守護神へと捧げる供え物。中に入れるのはお酒と保存食だ。海の神様に捧げる物ではあるものの、祈りさえすれば手を付けても良く、その場合は空樽となったそれに新しい供えを入れて海へと流すのが一般的な習わしだった。

 

「こういうのに毒とか開けたら爆発するような物とか入れたりする性質の悪いのがいるかもしれないしな」

 

 一応、細心の注意を払って『流し樽』を拾いつつ、手触りで慎重に探るルフィ。

 

「エネル、悪いがちょっと調べてくれないか?」

 

「分かった」

 

 『ゴロゴロの実』により、雷人間となっているエネルが、自分の電気を電波程度に弱めたそれを指に纏わせつつ、樽に触れると……。

 

「中に、機械がある」

 

「分かった。とりあえず厳重に保管しておくか」

 

 中の機械は分からないが、他の誰かが拾い、何かあってもいけないために一先ず、その樽を厳重に保管する事を決めた。

 

 

 

「皆、持ち場について!!南南東に逃げるわよ、五分後に大嵐が来るわ!!!」

 

 

 ナミが警告した事で皆、早急に動き出して備えた。そうして彼女の言う通り、発生した大嵐を乗り越えると……。

 

 

 

 

「凄まじく濃い霧だな、それに妙に暗いし魔的な雰囲気もある」

 

 ルフィは立ち込める霧の中、そう評しつつも何が起こるかを期待している風である。

 

「此処があれじゃねえか」

 

魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)って言うなら確かにそうかもな。うわぁ……」

 

ゾロ、そして、怯えたウソップが口にした海域の名。

 

 其処は、毎年100隻以上の船が消息不明となり、「船から船員だけが消えた船が見つかる」,「死者を乗せて海を彷徨うゴースト船が確認された」といった話が後を絶たない曰く付きの海域として有名であった。

 

 

 

「私、怖いの苦手……」

 

「ナミさん、おれが……チクショウ!?」

 

 ナミが怯えた態度で弱気な声を出したのでサンジがそれを何とかしてやろうとしたが、それより早くもナミはルフィに近づき、しがみつくようにした。

 

「正にゾクゾクするところだねぇ」

 

「おれ、こういうの駄目だ。鳥肌立ってくる」

 

「クオー……」

 

「安心して、私が守ってあげるわ」

 

 アルビダは身構えるが、チョッパーにピクチャ,ヴァルチィ,マイロンは動物特有の鋭い感覚で魔の影響を強く感じ取れるが故か震えだした。ロビンはチョッパー達を近くに集まらせてハナハナの実の力も使いつつ、抱き締める。

 

 

 

「何があっても兄貴が居るなら、安心だろ」

 

「ヤハハハ、その通りだ。私も手助けしてやるしな……さて、この神であった私ですら震わせる魔が来るかどうか……」

 

 フランキーとエネルは余裕をもっている。そして……。

 

 

 

「ヨホホホ~♪」

 

 ぼろぼろで不気味な船、正にゴースト船たるそれがルフィ達の前に姿を現す。その船からは陽気な声色の歌声が流れており、それがかえって不気味さを増していた。

 

 

「よし、行って来る」

 

 ルフィが先行し、ゴースト船へと乗り込み……。

 

「こんにちは。おれは麦わら旅団の団長、ルフィだ」

 

 船で出迎えてくれたのは、紳士な装いをしたアフロ髪の骸骨であった。ルフィは見聞色の覇気と生命エネルギー感知の併用により、見た目は屍であるこの存在が生者と理解し、気軽に挨拶をする。

 

「ヨホホホ♪はい、こんにちは、ルフィさん……私はブルックです。いやー、人と会うのは何十年かぶりなのでびっくりですよ、気軽に話しかけられたのもびっくりですが」

 

「おれはフランクなのが取り柄なんだ。まず、交流するなら明るくやったほうが良いだろ?」

 

「それは確かに」

 

「それとブルック……ひょっとして、ルンバー海賊団か?」

 

 ルフィはブルックという名に聞き覚えがあった。

 

 何故ならグランドラインに入って直後の『双子岬』の灯台守であるクロッカスより、彼が世話しつつ、共に過ごしている巨大な鯨のラブーンを預けた海賊団の名と団員たちの話を聞いていたからだ。

 

「ええ、その通りです。もっとも私以外、死んでしまいましたが……しかし、何故その事を?」

 

「クロッカスさんから聞いたんだよ。ラブーンは変わらず、お前たちを待っているぞ。自分の身を傷付けてまで自分の存在をお前たちに伝えようとする程に……何とか止めたけどな。」

 

ブルックへルフィがクロッカスとラブーンの事について話し始めると……。

 

「っ!! お……おぉ、そうですかラブーンは未だに私たちの事を……そんなにまで」

 

 ブルックは、ルフィから聞いた話に涙を流し、ついには堪え切れず、ゴースト船の甲板に蹲った。

 

「これも何かの縁だ。とりあえず、色々と話し合おう……それにラブーンの親友ならおれにとっても親友と勝手に認識させてもらうが良いか?」

 

「願ってもない事です!それにラブーンを救ってくれたという事は私たちにとってルフィさんは恩人だ。ありがとうございました、ルフィさん!」

 

「どういたしまして…とはいってもおれはただ、人として当たり前の事をしただけなんだけどな」

 

 真剣な風に言うブルックに対し、ルフィは苦笑を浮かべて言った。その態度や彼より発せられる雰囲気にブルックは……。

 

「(この方は素晴らしい大物になる)」

 

 紛れもなくルフィは真の正義を体現できる善人であり、大器だとブルックは確信する。

 

ともかくこうして、ルフィはブルックを連れてサニー号へと戻ったのだった……。

 




 そういう事でこれより、スリラーバーク編始まります。

 

 


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五十一旅

 ブルックという男、彼は『西の海』の出身であり、とある王国の奇襲部隊に所属し、そこから護衛戦団長を務める程に成り上がった。

 

 得意とするのは剣術であり、両刃の剣を仕込んだ杖が彼の得物だ。

 

 そんな彼が、ある日、音楽好きな海賊キャラコのヨーキが率いる『ルンバー海賊団』にスカウトされる。乗船の絶対条件が『音楽が好きな事』であった為、音楽が趣味の彼は誘いに乗って、一員となったわけだが、此処から彼の永い「孤高」という名の地獄へと向かう旅は始まった……。

 

「プオー」

 

「クジラ……お前、ついてきちまったのか」

 

 ルンバー海賊団は航海の途中、アイランドクジラの子供に懐かれてしまった。というのも……、

 

 

「ヨホホホホ、嬉しいですねぇ。私の演奏を好きになってくれるとは」

 

「プオー♪」

 

そのクジラの子がブルックの演奏を気に入ったのが、一番の要因だ。その可愛らしさや危機を助けられた事もあって、ルンバー海賊団はクジラの子をラブーンと名付け、同行を暫く許すことにした。

 

 

 

「あいつは子供だ。これ以上は同行させる訳には行かねぇ」

 

 しかし、『偉大なる航路』は危険海域である事で有名だ。だからこそ、ラブーンの同行を限界だと判断し、関わりを絶ち、置いていこうとしたのだが……。

 

「ところで、一緒に連れてきたクジラはペットか?」

 

 偉大なる航路の入り口、双子岬の灯台守であるクロッカスにそう指摘され……、

 

 

 

「プオオオ♪」

 

『ラブーン!?』

 

 結局、仕方ないと三ヶ月ほどルンバー海賊団は双子岬に滞在すると共にラブーンの説得に努めた。

 

 

 

『ラブーン、おれ達は必ず世界を一周して此処へ戻る。待ってろよー!!』

 

 ラブーンはルンバー海賊団の説得に応じ、こうしてクロッカスと共に彼らを双子岬にて待つことになった。ルフィたち麦わら旅団と出会う50年以上も前の話である。

 

 そして、ルンバー海賊団というと……。

 

 

 

 

「無念だ……!!!」

 

 最初の方はスリルも楽しいと明るく過ごし、海軍本部とやり合う事も日常茶飯事だったものの、とある密林にてヨーキ船長他、十数名が未知のウイルスによる疫病に感染してしまい、無事だった者と袂を分かつ事となってしまった。

 

 

 

「まだ、息のある者は……どのくらいいますか?」

 

「息はあっても、誰も助かりそうにねぇな……」

 

 ヨーキ船長の意志を継いだブルックは船長代理となり、航海を続けた。しかし、『魔の海』にて敵対した海賊との戦闘の際、敵の毒仕込みの武器により、全員が瀕死となり、最期を迎えようとしていた……。

 

 

 

「そうだ。どうせ、死ぬなら……楽しいほうが良い。唄いませんか?」

 

『ああ』

 

ブルックが『ヨミヨミの実』を食べて一度だけ死んでも復活できる能力を得ていたため、それに賭けて全員がラブーンへ届けるため、好きだった歌……そして殆どの船乗りたちにとって有名な歌である『ビンクスの酒』を歌いながら力尽き果てたのである。

 

「約束を果たさなくては……」

 

 

 霧が立ち込めていたために自分の身体を探すのに一年かかった。そして、白骨化した我が身へと還った事で、ブルックは喋る骸骨として復活を遂げたのだ。そして、年数にして五十二年もの間、何度も気が狂いかけながらも、ラブーンへの思い、亡くなった仲間たちとの誓いを支えに霧の中を彷徨いながら生きる事となった。

 

 

 生き返ったものの、正に地獄と変わらない旅であったが……。

 

 

 

 

「ブルック、あんたは強いよ」

 

「ああ、おれも見習いたいもんだ」

 

「なんて凄いやつなんだ……」

 

「本当にな」

 

「私だったら、耐えられないわ」

 

「そうだね、尊敬に値するよ」

 

「うおおおおお……」

 

「大変なものを背負って、生きてきたのね」

 

「クォ……」

 

「こんな凄い男が青海に居たとはな」

 

「うあああ、凄すぎる。お前は男だ、ブルック」

 

 彼が出会ったラブーンの恩人でもあるというルフィ達、麦わら旅団は自分の話を聞いてくれただけでなく、心からの感想を伝えてくれた。それはブルックにとって救いであった。

 

 

 

「ヨホホホ、今日はなんて素晴らしい日なのでしょう……貴方たちのような方に出会えるなんてっ!!」

 

 だからこそ、ブルックも心からの喜びを叫んだ。

 

 

 

「いや、喜ぶのは早いだろうブルック。あんたの影を取り返さなきゃな……七武海のモリアから」

 

「!? 何故それを……いや、そんな訳には」

 

 ルフィはブルックから話を聞きつつ、様子を見、見聞色の覇気で心を読みながら知った事を告げる。因みに『W7』にてガープやクザンが居た事から七武海の情報も多少は得ている。

 

 ゲッコー・モリアが人の影を奪う能力を持っているという事もだ……。

 

「アンタはラブーンが帰りを待っている人で友人、ならおれたちにとっても友人。友人がさらに困っているとあれば、尚更助けないとな。と言うより、頼ってくれよ。」

 

「うちの団長は、こう決めたら、絶対にやるぞ」

 

「また七武海か……でも、仕方ねぇよな」

 

「丁度、リラックスはしたしな」

 

「しょうがないわね」

 

「ふふ、腕が鳴るじゃないか」

 

 

「やるぞぉっ!!」

 

「そうね、頑張りましょう」

 

「クオー!!」

 

「ふむ、少しは手応えがあれば良いがな」

 

「っし。入団して初めての戦闘。やぁぁぁってやるぜ!」

 

 ルフィを始め、全員がブルックを助けようと気持ちを切り替える。

 

 

 

「……あ、ああ……本当になんてすばらしい人たち……ッ!」

 

 更にブルックは喜び、涙した。

 

 そうして、彼は、ゲッコー・モリアとその部下たちについて、知り得る限りの情報を提供し……。

 

 

 

 

 

「じゃあ、開戦の狼煙を上げる。皆、絶対にブルックの影を取り返すぞぉっ!!」

 

『おうっ!!』

 

 事前にルフィ達が拾い、怪しいからと厳重に保管する事にした流し樽は、ブルックによれば、ゲッコー・モリアの手によるものだと判明。

 

 ブルックの話から作戦や行動方針など必要事項を決めた後、それを運び出し開けてみれば、発光弾が飛び出した。中から飛び出したそれは、霧の中でも見えるだろう強烈な赤い閃光を上空にて生じさせる。

 

 そうして、麦わら旅団はゲッコー・モリアらが来るのを待ち受けるのだった……。

 

 

 




 次回より原作とは違って準備万端かつ滅茶苦茶対策を備えたルフィ達によるスリラーバーク戦が始まります。


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スリラーバーク編
五十二旅


 世界政府によって公認された七人の海賊である『王下七武海』。

 

 かつてアラバスタの乗っ取りを目論んだサー・クロコダイルが、麦わら旅団に介入されるまで、政府や海軍、そしてアラバスタの民にさえ警戒されず、暗躍を続けられたのは、『七武海』の一角であった事が大きな要因であった。

 

 そして、今回相対するゲッコー・モリアも『七武海』の一人だ。彼が拠点としているのはなんと、自身の船である。

 

 その船の名は、『スリラーバーク』。内部に島を丸ごと載せた世界一巨大な海賊船である。傍目には島としか見えないために、知らぬ者からは『ゴースト(アイランド)』と呼ばれているが、それも無理もない話だ。

 

 『魔の三角地帯』を縄張りとし、霧の中に潜む事でこの海域に侵入してきた船を密かに巨大な口たる『門』の中へと誘い、そのまま島の周囲を取り囲む壁の内側に閉じ込める事で逃亡もこの船の情報流出も許さない。

 

 後は自分たちの思うがままにするだけだ。そう、今回も又、いつも通りに……。

 

 

 

 

 

 

「(ガルルルル……もぬけの殻だと?)」

 

 『魔の三角地帯』の外へと漂流させている流し樽に仕込んでいた発光弾の光を捉えた事で、スリラーバークは獲物である船へと近づき、閉じ込めた。

 

 そして、今、見えざる客がサニー・マクシム・メリー号へと侵入した。モリアに付き従う幹部「墓場のアブサロム」だ。

 

 彼は、仲間の天才外科医によって、ライオンの顎にゾウの皮膚,クマとゴリラの筋力を移植された改造人間である。

 

 更に言うと、とある超人系の悪魔の実を食しているが故に、自身の体や触れた対象を透明に出来る。これらの力を駆使して、船に居る者の攪乱と島への誘き出しを担っているのだが、目的はそれだけでなく……。

 

 

 

「(せっかく、おいらの花嫁に相応しい女がいるか探しに来たってのに……)」

 

「ふざけるな、馬鹿野郎っ!!」

 

「ブヘアッ!?」

 

 己の欲望を露わにした瞬間、手痛い歓迎を受ける。それは、アブサロムの位置や思考を把握したサンジによるものであった。彼も『見聞色の覇気』を身に着け始めている証左だ。

 

 ルフィ達は、スリラーバーク海賊団の接近を感知し、隠れて待っていたのだ。

 

 

 

「たとえ透明になろうと、全部お見通しだ。無駄な事は止めて姿を現しやがれ」

 

「(ハッタリだ!!さっきのはまぐれに決まってる……ッ!!!)」

 

 先陣を切ったサンジの言葉にはのらず、縊り殺してやろうと接近したが……。

 

 

 

「無駄だと……言ってるだろうがぁっ!!」

 

「ゴフッ!?」

 

 サンジによるカウンターが炸裂し、アブサロムは吹っ飛ばされた弾みから透明化を解除してしまう。

 

「ば……馬鹿な……どうして、おいらの事が……?」

 

「そんな事はどうでも良い。なぁ、その能力……『スケスケの実』だな?」

 

 サンジは『スケスケの実』の事を詳しく知っていた。

 

 子供の頃に読んだ“悪魔の実”大図鑑の中に載っており、更には彼が一番興味を持ち、「この実を食べて、透明人間になりたい」と思った程だからだ。しかし……。

 

 

 

「ガルルルル……なんでバレてやがる」

 

「やっぱり、そうか……なら、おれとお前には因縁がある!」

 

「はぁ、因縁だと?」

 

「ああ、お前はおれから夢を一つ奪った男だ」

 

 『スケスケの実』の実在は判明したものの、アブサロムがそれを食べてしまっていたので、サンジは夢(よくぼう)の一つが潰えたことになる。悪魔の実に同じ物は二つと存在しないからだ。

 

「もし、透明人間になったらその能力で女湯……いやどんな事をしてみようか女湯……どんな風に人の役に立とうかと女湯……考えていたのに女湯」

 

『八つ当たりかよっ!?』『おまけに女湯覗くことで頭いっぱいだぁぁぁぁっ!?』

 

 隠れて様子を見ていたウソップとチョッパーは思わず、突っ込んでしまう。

 

 

 

「(まあ、おれも透明になれるなら一度くらいは女湯覗くかもしれないけどよぉ)」

 

 それはそれとして、ウソップも同じ男としてサンジの気持ちには共感していた。

 

 

 

「何かと思って聞いてみれば下らねぇ。筋違いにも程がある」

 

 至極もっともな反論をアブサロムは口にするが……。

 

 

 

「だったら、お前は女湯を覗かなかったと?」

 

「当然、覗きまくってる!決まってんじゃん!?」

 

 サンジの質問に、アブサロムは思い出し笑いを浮かべながら答える。

 

 

 

「この……変態野郎があっ!!」

 

「ゴバギャアアアアアアッ!?」

 

 サンジによる蹴りの猛ラッシュに「エロ」サロムは叩きのめされた。

 

 

 

『(どっちもどっちだ……ッッ!)』

 

 再度突っ込むウソッチョコンビであった……

 

 

 

 そして、気絶したアブサロムを縄で拘束し、念の為、モリアの能力で生み出された「ゾンビ」であるか否か,影を託されているか否かを確認する目的で、口の中に塩を流し込む。モリアの能力が解除されると、奪われた影が飛び出す仕組みだが、アブサロムにその兆候は無かった。その後、彼を船から海面すれすれの位置へと吊るした。

 

 

 

「……それじゃあ、乗り込むか!」

 

 先程までのサンジの言動を不問にして、ルフィは告げる。

 

 因みに今の彼は、空島にて友となったワイパーより託された手甲を両手に装備している。純度100%の海楼石を加工して作られた特注品だ。

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオッ!!」

 

 侵入者が現れた事で大量のゾンビたちが出現したが……。

 

「いくぞ、皆!」

 

 今回先陣を切ったのはチョッパーにピクチャにヴァルチィにマイロンから成る『麦わら旅団のアニマル部隊』。

 

 彼らは今、とある奥義を放つ。それは……。

 

 

 

小動物の神威(アニマルパワー)!!』

 

 アニマル部隊が繰り出したるは愛くるしさ全開の甘えのポージング。その可愛さは、実験台1号(ポルチェ)は生きながらに死にかけ、2号(ロビン)は石化した程の脅威を有する。

 

 よって……。

 

『か……可愛いぃぃぃっ!!』

 

 ゾンビたちは戦意を削がれに削がれてしまい、チョッパーたちの神威(かわいさ)の前にひれ伏してしまう。

 

 

 

 

「はい、ごめんなっと」

 

 後はウソップにナミ、アルビダにフランキーたち浄化部隊が塩を使ってゾンビたちを無力化する。因みにルフィも海楼石の手甲を炸裂させて、ゾンビを浄化している。ちなみに、ロビンはまた生ける石像と化していた。

 

 モリアの影を操る能力は悪魔の実由来であるからこそ、海の力をもつ塩に拒絶反応を起こしてしまい浄化されるのだ。

 

 同様の原理で海のエネルギーを有する海楼石、しかも純度100%のそれも効果的であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて可愛(おそろし)い侵入者たちだ。あまりにも可愛(おそろし)過ぎる!!

 

 ゴスロリ衣装を身に纏い、頭の王冠やピンク髪のツインテール,太く丸い黒目から可愛い印象を受ける顔立ちをしたの女性は、チョッパーたちの神威(かわいさ)にそう悶絶(せんりつ)していた。彼女は、アブサロム同じくスリラーバーク海賊団幹部の一人、“ゴーストプリンセス”ペローナ。自身の体を媒介として霊体を自在に操る超人系悪魔の実『ホロホロの実』の能力で、幽体離脱を行い、戦況を見に来た彼女も戦意を削ぎに削がれたのは、言うまでもない。

 

 でも、自分は海賊……そう、海賊なのだ。戦わなければならない……ならないのだ。そう……。

 

 

 

 

 

 

 

「降参するから、そいつら愛でさせてぇっ!!」

 

「お、おう……」

 

 

 

 心の内では戦おうと思っていたのに気づけば、霊体から実体に戻ってそのまま自分の部屋がある屋敷から猛ダッシュし、麦わら旅団の元へと向かって降参していた。

 

 身体が勝手に動いたのだから、こればかりは仕方ないのだ……。

 

 

 




 説明しようっ!!

 麦わら旅団のアニマル部隊の『小動物の神威』はハンコックの美の域に並ぶ魅了技なのだっ!!

 可愛いこそ正義っ!!(どんっ!!)


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五十三旅

 七武海の一人ゲッコ―・モリアの率いる部下の多くは、「ゾンビ」……モリアの能力によって相手から奪った影を移植された死体だ。そして、影を抜き取られた者にはとある弱点が出来る。

 

太陽の光を浴びると消滅するのである。

 

又、影を抜き取られた者が死ぬと、ゾンビとしての核となっている「もう一つの魂」影も消えてしまうので、モリアは影を抜き取った者を船へと送り返して、縄張りたる『魔の三角地帯』を彷徨わせるのだ。

 

だが、中には影を取り返すため、何よりモリアへ逆襲するためにスリラーバーク内に身を潜めて機会を待っている者たちが居た。

 

 

「おお、なんと……これは、奇跡じゃ……!あの人たちならきっと!!」

 

 モリアによって影を奪われた者たちの集い「被害者の会」名誉会長スポイルは、スリラーバークのゾンビたちを次々と浄化している麦わら旅団に希望を見出し、最大の好機とばかりに仲間たちへと連絡する。ちなみにこの御老体、大怪我をしたお年寄りなのだが、見た目はゾンビそっくりでややこしいことを付け加えておく。

 

 

 

 

「間違いない、モリアを倒せるのはあの人たちをおいて他にないわ。行くわよ、あんたたち!!」

 

『おおっ、ああいう人たちが来てくれるのを待っていたんだぁっ!!』

 

 二本の刀を背負った長いお下げ髪に濃い顔が目立つ恰幅の良い女性……『ローリング海賊団』船長「求婚のローラ」は、リスキー兄弟を始めとした自分の部下たちや被害者の会の仲間たちを引き連れて、麦わら旅団への加勢に向かった。

 

 

『ぎゃぁぁぁぁ、た、助けてくれぇぇぇぇっ!!』

 

 こうして、スリラーバーク内のゾンビたちは、今までとは逆に「因果応報」というものを身を持って味わいながら浄化されていったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 スリラーバーク内の屋敷の一つには、スリラーバーク海賊団の幹部が一人、「天才外科医ドクトル・ホグバック」専用の屋敷があった。彼は、死体をその驚異的医術により改造し、強靭なゾンビの素体「没人形(マリオ)」へと変える役割を担っている。

 

「フォスフォスフォス……今日はいつもより外が騒がしいな」

 

「気になるなら、確認に行ってそのまま迷って居なくなれば良い……」

 

「長年住んでる場所なのにっ!?」

 

 前髪が無いオールバックの長髪,半円な縫い跡が目立つ額,丸眼鏡に尖った耳,上歯の内、二本が鋭い牙…とまさに「怪人」と呼べる容貌のこの男こそドクトル・ホグバック。

 

他のゾンビと同じく継ぎ接ぎだらけなセミロングの女性の名は、シンドリー……ホグバックの付き人だ。しかし元はこのシンドリー、数多くの男達を魅了した貴族生まれの人気舞台女優であり、ホグバックも求婚する程に夢中だったが、婚約者がいたために断られた。

 

そして、今より十二年前、彼女が舞台からの転落事故で死亡した時、ホグバックは死体を奪い、モリアの能力でゾンビとして活動させるのを条件に、モリアの部下となったのだ。

 

 

 

「流石、死者を冒涜するだけあって、中々腐った精神をしてるなホグバック……!」

 

 ホグバックこそは何より先に対処しなければならない存在。だから、ルフィは彼の元へとすぐに向かい……

 

 

「いきなり……んなっ!?」

 

 ホグバックは、いきなり背後から聞こえてきた侮辱に反応して、振り返るとルフィの指が頭に炸裂。こうして、彼の全ては暗示によって強制的に改変される事となり……。

 

「ああ、私はなんと罪深い事を……!こうしちゃおれん!より一層、命を救わねばっ!!」

 

 金のためでも歪んだ愛のためでもない。世のため人のため、そしてかけがえのない大切な「仲間」のために、正真正銘の「医師」としての道を、ホグバックは再び歩み始めたのであった……。

 

 

 

 

「今、解放するよ」

 

「……はい」

 

 そして、ゾンビとして活動していたシンドリーに、ルフィは海楼石の手甲で触れて浄化した。

 

 

 

 

 一方……ホグバックの屋敷内では、護衛を務める将軍(ジェネラル)ゾンビがとある者と対峙していた。

 

 このゾンビはブルックの影を移植されている。しかもそたいは竜を斬ったという伝説を残した侍「霜月リューマ(リューマ・ド・キング)」であったが……。

 

「ヨホホホ、これは参りましたね」

 

「居合が得意なんだってな……おれも多少心得があるんだ」

 

 伝説の侍の相手を務めるは剣士ゾロ。リューマは彼の実力を見抜いて敗北を悟りながらも、しかし、自分の誇りがために対峙する。

 

 そしてお互い構えた数秒後……ゾロがリューマの背後に立っていた。

 

「がはっ……全く、反応できなかった……見事です。この侍の体に、敗北を、与えてしまうのは、心苦しい、ですが、ね……」

 

 あまりに速いゾロの居合は激しい摩擦による発火を伴っており、リューマを斬撃の炸裂と共に燃やし始める。ゾンビの弱点には「肉体が消滅するまで燃やされると、そのまま浄化される」というのもあったのだ。

 

 故に、エネルは電熱、サンジは摩擦によって熱を帯びる足技、そしてフランキーは炎を吐く機能を使って、ゾンビ達を浄化している。

 

 

 

 

 

 

 

「この名刀たる秋水……貴方のような剣豪にこそ相応しい」

 

「刀は預かっておくが……勝負は無かったことにしようぜ!ワノ国の侍……!!!」

 

ゾロは受け取りながらも消滅していくリューマへと告げた。

 

 因みに、ゾロは、ホグバックの対処を終えて戻って来たルフィに雪走を預けた。どうやら四本では収まりが悪いようで……

 

「良し、戻ったぁぁっ!!」

 

 そして、リューマが消滅した事で、影は戻ってきたブルックは完全復活を遂げた。

 

 こうして、次々とルフィ達はひたすらにゾンビたちを浄化し続けながら、モリアの元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

「人が寝ていりゃ、良い気になって……随分と好き勝手やってくれたじゃねえかてめぇらあああああっ!!」

 

 頭に二本の角を有し、巨人の三倍はある巨体に加えて筋骨も逞しい死体がモリアの屋敷の外にて出現した。その正体は、五百年前、討ち取った国を島ごと自分の領土に持ち帰り、悪党たちの国を築いた伝説を持つ『国引きオーズ』であった。

 

 オーズの死体の腹の中に造られたコクピットにいるのは、長い首と尖った耳を持ち、オーズには負けるものの常人と比べれば間違いなく巨体で肥満体型の男であった。そう、この男こそゲッコー・モリアである。

 

 

 オーズの死体は未だ影を入れられていないために自律行動は不可能だ。

 

 故にモリア本人にとっては余りにも不本意だが、自らの能力を用いて、一先ずオーバーボディとして動かし始めた……。

 

 




 何か戦況からして大分、あれな事に成ってはいますがいよいよ、モリア戦が始まります。


 
 





 

 
 


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五十四旅

 今より二十三年前の自分は、己の力を過信していた。血気盛んであったが故に、海賊王になる野望を早く叶えようとして、暴走すらしていた。その結果……ッ!

 

『ウォロロロロ、良い暇つぶしにはなったぜ』

 

「カイドウ……ッ!このままで済むと思うなよぉッ!!」

 

 二十三年前のとある日、モリアが率いていた『ゲッコー海賊団』は新世界のワノ国において、壊滅した。其処を縄張りとしていた大海賊「百獣のカイドウ」率いる『百獣海賊団』と戦い、敗れたのだ。

 

 この大敗により、モリアは長く連れ添ってきたかけがえのない部下たちを数多く喪った。彼の心に去来した激しい悲しみや怒りは、他者には計り知れない。

 

 

 

「生きてるから情を持っちまう、生きてるから失っちまう……」

 

 喪った部下達に報いるがため、『海賊王になる』という野心は捨てず、『カイドウに雪辱を果たす』という目的も持ったモリアは、永久に失わず、情も持つ必要のない軍団を求めた。

 

 自分が食べた超人系悪魔の実である【カゲカゲの実】によって抜き取った他者の影を、ホグバックが手術により強化した死体に移植する事で生み出したゾンビによる軍団だ。

 

 浄化により失っても、替えのきく無限の兵士ならば、情を抱く必要は無いので、その点でも自分にとっては最高だった。

 

 こうして、モリアは七武海の権力も利用して着々と力を増していったのだが……。

 

 

 

 

「(ちくしょう、一体何がどうなってやがるんだっ!!)」

 

 何時も行っている夜討ちの時間まで寝ていた彼は、その時間となっても誰も起こしに来なかったことを不審に思った。呼びかけても、幹部はおろかゾンビたちですら応じない有様……そこで、ちょっと様子を窺えば、ゾンビ軍団を全て浄化しようとする愚か者たちが暴れている始末。

 

「あ、モリア様〜……オーズ引っ張り出したんだぁ〜」

 

 自分に従っている幹部…もとい子どもの頃に拾って育ててやったペローナはゾンビたちを浄化している連中の仲間だろう小動物に囲まれて腑抜けた感じになっている。まあ、無事ならそれで良い……。

 

 

 

「おれを虚仮にした事、たっぷりと後悔させてやる」

 

「ふむ……では、お前の恐ろしさとやらを試してやろう」

 

 オーズの死体を操るモリアに対し、エネルがそう告げ……。

 

 

 

力纏(ブラフマ)、そして【雷神(アマル)】!」

 

 エネルは武装色の覇気で全身を覆いつつ、オーズよりは小さめな雷の巨人へと変身する。

 

 武装色の覇気で包んだ事による凝縮でエネルの雷の密度は尋常では無い程のものとなっていた。

 

「これこそ、我が真の力……武闘雷神(インドラ)だ」

 

「な……(やべぇっ!!)」

 

 武闘雷神と化したエネルの威容を見たモリアは、即座に危機を察知し、動き始めた。

 

 瞬間、エネルの拳撃がオーズに炸裂し、直後に雷光が弾けてオーズを消し炭へと変えた。

 

 

 

 

「うむ、良い感じだな。ではルフィ、後はお前が決めろ」

 

「おう、任せろ」

 

 エネルは通常の姿へと戻るとルフィへと近づき、両者はハイタッチをする。そして、とある方向をルフィが向くと……。

 

「何の冗談だ……!ゾンビどころかオーズまで……!!!お前ら、一体何なんだっ!!?」

 

 影の支配者としての能力を利用し、自分と分身の影の立ち位置を入れ替えて難を逃れたモリアはルフィ達に対してそう叫ぶしかなかった。

 

 

 

「おれ達は『麦わら旅団』だよ。そして、おれが団長のルフィだ」

 

「!? お前がクロコダイルを倒した野郎か……ッ!!」

 

「ああ、そしてお前も倒す。やるなら徹底的に、そして完全勝利だ」

 

 宣言するルフィのそれは相手を舐めているのでも、調子付いてるわけでも無い。

 

 純粋に勝利を、自分と仲間に誓い、それをやり遂げようと心も体も熱を放っていた。

 

 

 

 

「……成程、クロコダイルが敗れたのも頷ける。キシシ、こんな時代に『正義の味方』が現れるなんてな」

 

 非道な海賊が横行しているこの時代、数多の人達が願っている『正義の味方』……それがルフィには当てはまっていると確信した。しかも世界政府や海軍以上に『正義』を体現しており、感じる威容も強大、と何もかも文句をつけられない為、思わず苦笑してしまった。

 

「おれを倒すと言ったな……やれるもんなら、やってみろっ!!」

 

影進化(シャドー・エボリューション)

 

 そして、モリアが分身として出現させた影は進化を始めた。

 

 モリアのもう一つの悲願……カイドウへの復讐のために用意していた奥の手を発動したのだ。

 

 生じたのは自分の影に他者の影を喰らわせた事による進化。

 

 

影の混沌勇士(シャドー・カオス・エインフェリア)!!】

 

 

モリアの影は異形の怪物と強靭な戦士が混ざったそれへと変貌し……。

 

「グ、オォォォォォッ!!」

 

 影の変貌に伴い、モリアの身体も影と同じ姿に変貌を始めた。

 

 「影は実体に追従し、実体と影は必ず同じ形をする」というその絶対常識が適用された結果だ。

 

 

 

影融身(シャドー・フュージョン)

 

 そして、更に更に影は動き、モリアへと覆い被さって同化する。

 

「キシシ、お前の意気を見込んでの特別待遇だ……本番前の肩慣らしにしてやるよ!」

 

 本来はカイドウと再戦するまで秘匿すべき自己の強化法をモリアは開帳したのである。

 

 影との同化により、戦闘能力は勿論のこと、防御力も超絶的にに強化されている。相手が武装色の覇気を纏っていようと攻撃を通さない程だ。当然、姿形を自由自在に変えての様々な対応力も有している。

 

 

 

「そうか、ならこっちも……はあああああっ!!」

 

 【双力戦動!!】

 

 生命力による『氣』と精神力の『覇気』をルフィはどちらも身体中へと巡らせることにより、肉体の内外強化を発動。

 

「実戦でやるのはこれが初めてだ」

 

 ルフィの強化は最早、存在の格と存在強度を飛躍的に上昇させるもの。

 

 それが証拠に彼は神秘的なものを感じさせるオーラを纏い、その身自体も熱の燐光を帯びた。

 

 ルフィとモリアはどちらも超絶的な自己強化をした上で対峙し……。

 

 

 

『おおおおおおっ!!』

 

 数秒後には、二人が動く。

 

 

 両者の間合いは瞬時に縮まると……。

 

 

 

 

 

「潰れろぉっ!!」

 

「打ち砕くっ!!」

 

 

 モリアは暴威を宿す右手を振り下ろし、ルフィは武威を宿す右拳を突き上げる。

 

 

 

 双方の力が激突したその直後……。

 

「うぐ……ぶがあっ!!」

 

 ルフィの武威、その本領たる衝撃伝導が、影との同化でモリアが得た絶対防御すら貫き、影に覆われたモリア本体へと届く。更に彼の内部をも攻撃しながらそのまま地面まで吹っ飛ばして、気絶させたのだった……。

 

 

 

 

 

 




 モリアは原作よりだいぶ強化させてもらいました。今後、独自展開において活躍してもらうためです。

 どんなものかは見守っていただければ……。


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五十五旅

 本来ならば、迷い込んだ者の意識を恐怖や混乱で埋め尽くすモリアの海賊船が『スリラーバーク』。しかし、現在……

 

「それでは、演奏させていただきます」

 

 ブルックは、ルフィ達麦わら旅団によってモリアに奪われた影を取り戻す事が出来た。

 

 本来ならば、グランドラインの入り口たる双子岬にてルンバー海賊団との再会の約束を交わしたラブーンの元へすぐにでも向かうべきであろうが …… 『世界を一周して、必ず戻る』という約束を信じ、五十年以上も待ち続けているラブーンに対して真の再会を果たすために、彼は世界一周を果たす必要があった。助けてくれた麦わら旅団の恩義に報いる為、そして、友と亡くなった仲間たちの誓いを果たす為……

 

 ブルックは、麦わら旅団に加わったのだ。

 

 

 

 そして、ブルックによる見事な演奏は、スリラーバークの雰囲気を一気に明るく楽しげなものへと変えてみせた。

 

『うおおおおッ!!良いぞ良いぞ!!!!』

 

 その演奏は、かつてのブルックと同じく影を奪われた事で陽の目を見れず、闇に潜んできた被害者たちの心に響いた。麦わら旅団によって影を取り戻せたという喜びを深く実感し、心も晴れやかとなった。

 

 ただいま、スリラーバーク内にて宴会が行われている最中だ。

 

「本当にありがとうね、ナミにアルビダ……お礼と言っちゃあなんだけどママのビブルカードあげるわ」

 

 ローリング海賊団の船長ローラは、「自由な恋」を求めて、家を飛び出した過去がある。彼女は、若いナミを、実家に残してきた妹と重ねて、可愛がるように接した。かつて海賊団を束ねていたアルビダとも、お互い通じ合うものがあったようで、すぐに打ち解けたようだ。

 

 そして、会話の最中、ビブルカードの切れ端を渡す。

 

「へぇ、ローラのお母さんも海賊船長なんだ……」

 

「どんな海賊団なんだい?」

 

「ビッグ・マム海賊団って知ってる?」

 

「いっ!? 知ってるも何もあの『四皇』の紅一点じゃないか……」

 

 ローラへと気軽に質問したアルビダは、予想外の大物の名が彼女の口から出た事で、驚愕の表情を浮かべ、苦笑するしかなかった。

 

 

 

「ガルル……話が分かるな、サンジ」

 

「お前もな、アブサロム」

 

 別の場所では驚く事に敵対していたサンジとアブサロムが意気投合し、楽し気に酒を酌み交わしていた。

 

 そう、なんと宴会には麦わら旅団と被害者の会だけでなく、スリラーバーク海賊団までもが参加していた。そもそもの話、ルフィ達麦わら旅団の目的は『ブルックの影を取り戻す事』であって、モリアの捕縛や処刑ではなかった。

 

 別にモリアはクロコダイルのように七武海の仕事を逸脱するような違法行為はしていない。対外的には職務たる海賊退治,封じ込めを行なっていただけだ。

 

 しかし、七武海とはいってもモリアは海賊で船長。

 

『ブルックの影を返してくれ』と堂々と言っても取り合う訳が無いのだから、徹底的にやり合うしかなかった。そして、目的を果たしたのだから、後は普通に交流し合えば良い……最初からそのつもりであったのだ。

 

 流石のモリアもルフィらの態度に最初はきょとんとし、徹底的にやられたといういっそ清々しい状況だったのもあってか爆笑し、誘いに応じた。

 

 

 

「あいつら、類友だな」

 

「ああ、類友だ」

 

「ヤハハ、まさしく」

 

 「エロリーダー」同士の意気投合ぶりを見て、ウソップもゾロもエネルも思うことは一つであった。彼らは彼らで、ローリング海賊団の面々や被害者達に礼を言われつつ、飲食を共にして交流している。そんな中……。

 

 

 

「(ちゃんと返してやるからな、リューマ)」

 

 リューマの死体を元にした将軍ゾンビより渡された名刀『秋水』。これはモリアによるとワノ国の国宝であり、リューマの死体と共に盗んだものであるという。

 

 リューマのゾンビは彼自身では無い。よって、秋水も彼本来の意志で託した物ではないからこそ、新世界の海域にあるという世界政府未加盟国のワノ国へといずれ返す事をゾロは誓っていた。出来るなら、リューマの墓参りもするつもりである。

 

 だから、その時までは自分の刀として使わせてもらう事も心の内で亡くなっているリューマ自身へと告げたのだった。

 

 

 

 

 

「フォスフォスフォス、私の研究資料で何か使えそうなのがあれば気にせず、持って行ってくれ、ドクトル・チョッパー」

 

「本当かっ!! ありがとうドクトル・ホグバック」

 

 チョッパーはルフィによって改心しているホグバックとの医術談義に花を咲かせており、仲を深めていた。

 

 

 

 

「これから、よろしくなお前たち。毎日可愛いがれるなんて最高だ」

 

「でしょう、良いわよね……可愛いって」

 

 ピクチャにヴァルチィとマイロンを可愛がっているペローナの言葉に同意するロビン。そう、ブルックもそうだが麦わら旅団の新団員としてペローナが加わることが決まったのだ。

 

 それ程にチョッパーたち、アニマル部隊の虜になったのもあるが、麦わら旅団の明るく楽し気な雰囲気に惹かれていた彼女の気持ちを察したモリアの粋な計らいも含まれていた。

 

 因みに彼女の有する『ホロホロ』の実で生み出せる幽霊は、相手に取り憑く事でその者をネガティブにし、無力化させるという特徴を持つ。しかし……『おれにはネガティブな感情は無いみたいだ。まあ、それから這い上がってきているしな』と超絶的に前向きな性格であるルフィや『元々、ネガティブだ!』と自慢げなウソップ、『これでも神だったからな』と彼女にとっては訳の分からない理屈を述べたエネル…………

 

 例外が結構居た事で、アニマル部隊の可愛さに白旗上げて良かったとさえ思ったりもしたペローナであった。

 

 

 

 そして……。

 

「キシシ、お前に会えて良かったぜルフィ」

 

 それは、モリアの本音であった。

 

 完全敗北し、野望も潰えたというのに、今の彼にあるのは清々しく、晴れやかな気持ちだ。どうしてこうなのか、彼でさえも理解出来ないが、宴会は楽しいし、この空気自体も心地良かった。

 

「おれもだ、モリア」

 

 ルフィはモリアの言葉に頷き、笑みを浮かべて酒を飲み交わしながら会話をしていた。

 

 

 

「しばらく、七武海として真っ当にやっていきながら考えるつもりだ。もう、ゾンビ軍団は止めだ!」

 

「そうか、納得できる答えを見つけられると良いな」

 

「キシシ、焦らず、ゆっくりやっていくさ」

 

 大将同士、一騎打ちをした者同士だからこそ、ルフィとモリアは通じ合いつつあったのだった……。

 

 その翌朝、ルフィ達麦わら旅団は、モリアにホグバック、アブサロム、そしてモリアの被害者だった者達やローラ率いるローリング海賊団に見送られながら、新団員としてブルックとペローナの二人を加えて航海を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それとは別にとある島では……。

 

「そろそろ、教えてやるとするか。宝が目当てなだけのミーハー共に……ロジャーが去って軟弱になっちまった世界に……()()()()()()()()()()()()

 

 長きに渡って世界から身を隠していた大海賊が今こそ好機と姿を現そうとしていた。

 

「そうさ、おれこそが『真の海賊王』だ。ジハハハハハハハハ!!」

 

 今まで敢えて留守としていた玉座に座ってやるのだと、かつてロジャーと鎬を削っていた歴戦の海賊は高笑いを上げるのだった……

 

 




 うおおお、手が……手が勝手に動いて出すつもりのないやつを登場させやがったぁぁぁっ!!

 止めてくれ、確かに原作に存在自体は明記されてるけど収拾が……収拾がつかなくなるぅぅぅ。

 うああ、ま、また手が勝手に……。












 次はメルヴィユ編(STRONG WORLD)やっちゃいます☆by作者の手より





 PS ちょっと資料を観たり(本編視聴)、資料を読み込んだり(ノベライズ読了)するので気長にお待ちください。




 


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