復讐慟哭シンフォギア (サルミアッキ)
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復讐慟哭シンフォギア

 短編の一発ネタです。思いついたら続くかも……?

 時期は未定。


 一人の男がいた。

 

 その人間は宮廷楽長だった。数多くの音楽家たちの師として尊敬され、音楽史に名を刻み………そして慟哭に満ちた灰色の軌跡をたどった者である。

 

―ゴットリープ……ゴットリープ……―

 

 神に愛されし者と友誼を交わし……その友を羨み、だが実力を認め合った。神才の、偏屈で変態的な性格に振り回されながらも……それでも歌と音楽を愛し合い、研鑽し合った二人。

 

―私は…おぉアマデウス……私は……―

 

 だが現実は残酷だ。魔女狩りの様に、風評被害(デマゴーグ)はあっという間に広がって行く。不協和音…雑多な音律は、彼の脳裏と心に苦痛を刻み続けていた。

 

―私は……■■■■、なのか……?私は、誰だ……?誰なのだ……?―

 

 悪意ある中傷によって、在り方を捻じ曲げられた者。雑音(ノイズ)まみれのこの世の中でただひたすらに無実の罪を訴えた。そして、燎原の火に焼かれて、歴史の影に消えていった……。

 

 

 

 

 数年前、ロシア……───。

 

 ヴァイオリンケースを担ぎ、一人の少女が雪原を行く。濛々と巻き上がる雪化粧の白粉。その吹雪の中から、微かな音楽が命に届く。

 

『……呼んでいる?…誰が。……でも、懐かしい声がする……』

 

 雪原を走り、遂に至る。そこにあったのは真っ黒の札。鎖に繋がれた長髪の男が描かれていた。

 

『……これは……?……っうッ!?』

 

 謂われなき暗殺伝説によって存在を歪められ続けた彼の存在は、同じく神に愛されし者の最後にまつわる伝説『灰色の男』と……そしてこの世界の子孫と習合し、英霊として現界を果たす。

 

 

『あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 

 哀しきもの。怒れるもの。神の愛し子を殺すもの。

 

 

 丁度吹雪が止んだ夜。見上げた空にはきらきら星が輝いていた。まるで、“狼たちが住まう、永久に凍え付いた帝国”の最後の夜の様に。そんな運命の夜に、『彼』と引き合いし人間とは……。

 

 

 

 

 

 時は移ろい、現在。

 

 人々は別の雑音に煩わされてきた。別の世界ならば英雄王が持つ宝物庫、その中からあふれ出る人類抹殺の為の怪物。

 

「……煩わしいな」

 

 灰色髪の女がその音に向かって歩みを進める。縦縞の入った黒いスーツに、首筋に巻いた血の様に赤いスカーフ。どこか虚ろな瞳を前方に向けながら、一歩、また一歩と足を踏み出す。燎原の様な道路を歩いている。……前方からは我先にと逃げ去る民衆が。

 

「アマデウス……、ヤツはアマデウス……。奴らは忌まわしきアマデウスゥゥ……」

 

 だが、彼女にそんなことは関係ない。人波を掻い潜り、彼女は再び『彼』となる。歯軋りと共に復讐の怨嗟をまき散らす。

 

「アマデウスゥゥゥゥゥッ、モォォォォォォツァルトォォォォォォォォォォォォッッ‼」

 

 紅蓮の炎が溢れて出る。その姿は、仮面の男になっていた……。

 

 

 

 

「ハァァァァァァァァァァ‼」

 

 少女たちは血が通う歌で世界を護る。ノイズたちは己が身体を塵と化し、消える。だが、その時。

 

 戦場に歌声では無く、鎮魂の曲が流れだす。

 

「何だ……この曲は……」

「モーツァルトのレクイエム?……!」

 

 ノイズたちと戦っていた少女たちは、『それ』を見た。燎原の火に塗れた、救われぬ男の残滓にして復讐の音楽家を。指揮棒を振るう様に剣を振るい、怒りのままに殺戮をするその有様は、奏でる者達とは決して相容れない。

 

『オォォ……オォォォォォォォォ‼殺す‼殺すゥ‼』

 

 痛ましいものを見る眼で『彼』に顔を歪める少女、立花響。

 

『私は、殺さねばならぬ。奴を……神に愛されし者を……!』

「……そんなの、無いよ…」

『…、…?』

 

 小首を傾げる様に少女を見る赤い外套の男。心底理解できない、と言うように。

 

「そんな簡単に殺すなんて言わないでよ。話し合おうよ!私は貴方と…」

『…殺す』

 

 ガングニールの少女の声を遮り、不気味なメロディが赤黒い弦から放出した。

 

「コイツ、話通じないのかよ!?」

 

 音と共に、灰色の外套の集団が出現する。槍と猟銃を持った……伝説の亡霊たちである。

 

『殺す』

 

 灰色の男たちが離散し、各奏者やノイズたちと混戦になる。その合間を縫って凄まじい敏捷性で接近してくる赤コートの怪人。その手で以って振るわれる剣は寸分たがわず……。

 

『殺す!』

「それはシンフォギアでは無いな……!」

 

 ガリン、と酷く耳障りな音を立て、風鳴翼の刀と鍔迫り合いと相成った。

 

「お前は何を纏っている……!?お前は一体何者だ!?」

『……私は、死だ』

 

 死に神は嗤う。現代に蘇った灰色の男は雑音共を薙ぎ払う。

 

『私は、神に愛されしもの(終わり告げるもの)を殺さねばならぬ』

 

 防人の剣と死に神の剣が、その在り方を衝突させる。

 

『……我が名は“サリエリ”』

「サリ…………エリ……さん?」

『……いいや、違う!』

「ほへ?」

 

 

 

『私は……私は一体誰なのだ…………───』




小ネタ設定

アンナ・スカッキ・サリエリ

 この世界でアントニオ・サリエリの子孫に該当する女性。風評によって捻じ曲げられた家系の出自であり、ノイズ騒ぎも累加され忌み嫌われた人物で、流浪の旅で各地を転々としていた。ある時ロシアの雪原で、異聞帯からこぼれ落ちたサリエリの残滓であるクラスカードを入手。英霊との融合症例として活動し、ノイズを討伐してきた。ただしそれは人助けでは無く、アンナの無力な人類への当て付けとサリエリの存在意義を満たす為。

 立花響とは極対に位置する関係性が多々あり、

・他を復讐対象と誤認して傷つける事が戦闘指針。言わば他人を犠牲にして英霊サリエリの自己を確立させる。
・常に暗い性格。紳士淑女然としており、他と心の距離を置いた丁寧口調。故に友達ゼロ。
・好物はスイーツ&スイーツ。
・『呪われてる』と言うのが口癖の響に対して遥かに幸運。具体的には幸運Bで大概の不幸イベントを回避できる(ラスボス戦や最終話補正には巻き込まれる)。

と対照点が確認できる。

 立花響が人の助けになれない事を『我慢出来なかった』人間だとするならば、アンナは『我慢出来た』人間である。それはまるで、『とある正義の味方』と『最弱の復讐者』の関連性と似たり寄ったりである。

筋力:B-
耐久:C-
敏捷:A
魔力:―(フォニックゲインに置換)
幸運:B
宝具:C


無辜の怪物(EX):英霊サリエリと同様。
慟哭外装(A+):戦闘時サリエリは自動的にこれを身に纏い、殺戮の戦闘装置として稼動するが、世界が変われば在り方も変わる。シンフォギアと似た効果を持ち、ノイズに干渉し滅ぼす事が可能。
燎原の火(B):英霊サリエリと同様。
復讐者(C+):この世界のウォルフガング・アマデウス・モーツァルトはフィーネの器であった。無論、魔神柱に打ち勝った彼がフィーネに覚醒する事は無かったが、彼の復讐は終わらない。未来永劫『神に愛されし者』を殺す、それが何処の世界にもおける、復讐者アントニオ・サリエリである。
忘却補正(B):英霊サリエリと同様。
自己回復(フォニックゲイン)(C):アヴェンジャーのクラススキルが変化したもの。復讐が果たされるまでそのフォニックゲインは延々と湧き続ける。


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