お師匠さんが女体化してから誘惑してくる件について (キサラギ職員)
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魔術師のおしごと

 俺は、魔術師だ。

 魔術師と一口に言ってもやることは多種多様で、薬剤師に近いことをしているものもいれば、山に赴いて薬草を摘んできてというものもいるし、王宮に仕えて軍事にかかわっているものもいるという。

 じゃあ俺はというと、医者みたいなもんだ。魔術を主に診断に使っているのだ。まだ、経験が浅いから師匠についているわけだけどな。

 そのお師匠さん(俺はいつもこう呼んでる)は、変わり者だ。脱いだ服はそのままだし、食器は洗わないし、ついさっきのことを忘れてみたり、というのに診断の腕前にかけてはピカイチなのだ。どこが悪いのかを的確に判断して、薬を処方している。魔術師というよりも、魔術を使える医者といった感じである。

 他にも変わったところがある。どこが変わってるかと言うと……。

 

『弟子君(お師匠さんは俺をこう呼ぶ)~イチャイチャしようじゃないか~いいだろ~』

 

 と絡んでくるのだ。しかも尻を触ろうとしてくる。尻をいやらしい手つきで触るのを止めろ。

 

 そう、お師匠さんは異性を愛せない同性愛者なのだ。

 それは、まあ、いいのだ。

 だがはっきり言っておくべきだ。俺は、女性しか愛せないのだ。

 それを伝えたとき、お師匠さんはがっかりとしていた。仕事はちゃんとしてくれるというのに、目に見えて落ち込んでいるのがわかるだけにこっちが罪悪感を覚えるほどだ。何? 俺って同性愛者だと思われてたわけ?

 

『弟子君はどうしたらボクを抱いてくれるんだい?』

 

 とか直球で聞いてくるようなお師匠さんだが、俺は尊敬している。この道十年も市民のために仕事をしてきているからだ。腕前も間違いなく一流だ。この人の下につけたのは幸せだったと思っている。

 だから、ケツ触るのをやめろっ! って思いつつ、その腕をねじって張り倒した回数は覚えきれない程だ。

 うん。悪い人じゃないんだよ。性的な部分がちょっと変わってるだけで。片付けられないというだけで。

 

 そんなある日のことだ。俺は仕事場で薬品の目録をつけなおしていた。昨晩、お師匠さんが薬品棚をひっくり返してしまい、薬品塗れになった事件があった。少なくとも三十の瓶が割れてしまったので、新しいものを仕入れてきたのだ。

 俺がかりかりと羽ペンを羊皮紙に走らせていると、一人の女性が店に入ってきた。

 黒いつやつやとした髪の毛を腰まで流した青い瞳の美しい女性だった。黒いセーター越しにもはっきりわかるたわわに実った豊かな体つき。薄手のズボンは、その肢体の滑らかさを隠すには不十分すぎて。赤い形のいい唇は、見ているだけでうっとりとしてしまいそうだった。上下共に服の丈があってないようだが、そんなことは些細なことだ。かえって美しさに拍車がかかってさえ見える。

 こんな美人さんが、魔術師の家に何の用件だろう。というよりも、入り口に鍵をかけていたはずだが。

 

「私だよ弟子君。君の師匠さんだぞ。いいニュースが入ったぞ」

 

 その女性は。

 

「なんと! 女になったみたいだ!!」

 

 自分こそがお師匠さんであると言い放った!

 ……まあ、落ち着け。確かにそんな口ぶりだが、目の前の美しい女性がお師匠さんであると信じるには、俺は年を取りすぎている。確かに性別を変える薬やら魔術やらはあるにはあるが、神話に登場するようなものだったり、危険性が高すぎたりと、御伽噺なんかの域を出ないものばかりだ。

 まさか。俺はその女性が腰に手を当てて胸を張るのを見ながら、恐る恐る声をかけた。

 

「まさか………薬品塗れになったせいでとか言わないですよね」

「そのまさかだよ。一晩高熱にうなされてな、ふと気がつくと体がこんなことになっていたのだよ」

 

 どーだと言わんばかりににこにこするお師匠さん(?)。

 

「いや、そんな冗談やめてくださいよ。あなた誰です?」

「本棚最下段虫の図鑑の中身」

「わああああああああ!! やめろ! なんで知ってんだアンタ!」

「だーかーらー君のお師匠さんだって言ってるじゃないか」

「そんな……ばかな……」

「本棚の裏も要注意だな!」

「なっ、ばっ………くそおおおっ!」

 

 美人さんもといお師匠さん(?)突然の暴露に俺は慌てて立ち上がった。その位置になにがあるかというと、男の桃源郷があるのだ。絶対にバレないであろう位置に仕込んだはずなのに、この目の前のお師匠さん(?)にはお見通しらしい。

 俺はここにいたっても、目の前の人物がお師匠さんであるとは認めたくなかった。道を歩けば十人中十人が振り返るような美人が、あの髭面のお師匠さんであるとは信じたくなかったのだ。じゃあどうやって鍵を開けて入ってきたんだよとか、なんで秘密の本の場所を知ってるんだよとか、色々突っ込みどころはある。

 俺が唖然としていると、お師匠さん(もう認めるしかないだろ!)が心底嬉しそうな笑顔を浮かべながら歩み寄ってきて、俺の肩に手を置いてきた。

 

「ふふ。お弟子君。君の大好きな女の子のカラダだぞ~? ボクはね。君みたいな子が大好きなんだ。どんなことでも、やってあげるよ? ほーら」

 

 いつの間にか俺の手は細い作りの手に捕まっていた。そのままゆっくりと、セーターに覆われた胸元に誘導される。

 ふにゅん。

 

「あっ、んっ………やー、女の子のカラダは感じやすくてしかたないなあ。もみもみしてもいいんだよ?」

「う、う、ぐ……」

 

 超やわらかい。なんだこれ。指が肉に埋もれている。

 お師匠さんの体から放たれる甘い香りが俺を狂わせる……………体臭にしては甘すぎる。

 

「“取り除け”」

 

 俺は精神力を振り絞って呪文を唱えた。すると、スッと匂いが引いていく。

 慌てて手を引っ込めると、お師匠さんがふふっと笑った。残念そうに自分自身にかけていた呪文を指を振って解除している。

 

「流石はボクのお弟子。チャームにかかってくれたら簡単だったのになあ。ま、機会はたくさんあるとも」

「ば、何やってくれてんだよ! 冗談にもならんぞ!」

「んー、だってキミ。男を抱くのが嫌なんだろ。オンナノコのカラダならどうかなって思ったわけで、なんならボクはキミの為にならなんだってやってあげるんだよ? おっぱいがいーい? おくち? 足が好きかな~?」

 

 俺は慌てて距離を取った。お師匠さんがやけに様になる仕草で胸元を強調してみせる。

 

「とにかく! 俺はアンタをあくまで男として扱うからな! いいな!」

 

 俺はそういうと、仕事に戻ったのだった。

 

 で。

 これであきらめてくれるだろうという俺の考えは甘かったようで、あの手この手で誘惑してくるようになってしまった、というわけだ。

 誰か、この状態をなんとかする手段を知らないだろうか。

 俺は今までとは逆の、尻を触らせようとするお師匠さん手を叩きながらぼんやりと考えていた。



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裸エプロン

続いた


「おかえりなさい、あなた! ご飯食べながらする? お風呂入りながらする? それとも玄関でする!?」

「………」

 

 おお………誰かこいつを殺してくれ。

 帰宅して早々、俺を待っていたのは裸エプロンのお師匠さんだった。

 黒髪を腰まで伸ばした妙齢の美女が、肌の殆どが隠れていないエプロン一丁で出迎えてくれるというのは、男ならば誰もが一回は妄想するのではないだろうか。

 これでお師匠さんじゃなければ押し倒していたかもしれん。お師匠さんじゃなければなああああああ!

 いかんいかん。落ち着け、落ち着け。この頭に虫でも湧いてるようなセリフのせいで正気を失うところだった。

 俺は、買い物袋を下ろすために室内に入っていった。

 お師匠さんはって? 持ち前のスルースキルで何事もなかったかのように目も合わせなかったよ!

 

「んっ、無視なんて酷いぞお弟子君。放置プレイをご所望かね?」

「服を着てください」

「質問しないのかね。どうしてそんなに女の仕草が様になるのか! とか。ふふん。こう見えても女装も趣味だったものでね」

 

 その情報はいらなかった。

 

「服を! 着てください!」

「裸エプロンで嫁が出迎えてくれるシチュはなかなかそそ」

「服を!!!! 着ろ!!!!」

 

 頭の血管がブチ切れそうだよわたしゃ。

 俺は視界にるんるん気分で入り込んでくる異物をよそにお師匠さんの書斎に直行すると、椅子にかかっていたコートを引っつかんで戻ってきた。

 

「ご開帳―――」

「やらせねぇよ!?」

 

 あやうく半裸から全裸という完全に犯罪な行為をし始めるお師匠さんにコートをかぶせて取り押さえる。

 

「あん♪ 強引♪」

「ちゃうわい! あんたが脱ごうとするからだわい!」

 

 くそ! もぞもぞ動きやがってからに、着せにくいわ!

 ふと気がつくと、顔を真っ赤にしたお師匠さんが俺に力ずくで押し倒されているという状況になっていた。お師匠さんは、ついこの前まで男だったとは思えぬ妖艶な仕草で赤い唇の上に舌を滑らせると、伏目がちに呟いた。

 

「………強引。やさしく、ね?」

「………うばああああああ!」

 

 床を殴った。いってえ。

 

◇ ◇ ◇

 

「もーへそ曲げないでくれよー弟子君~」

「………へそなんて曲げてませんよ」

「さて、そろそろお仕事開始の時間だからね、張り切っていこうねぇ」

「あの」

「ん~」

 

 なぜかはわからないが、お師匠さんは“女魔術師の格好をしている”。

 おかしい。今まで男だったということは、男物の服しかなかったはずだ。女装が趣味といっても、背丈までは変えられんのだから、男物の尺のはずである。というのに、薄手のセーターの上から由緒正しいマントを纏っている姿は、袖が余ってるだとか、そういうことが見受けられない。

 俺がじーっと見つめていると、お師匠さんは頼んでもいないのにくるりんと一回転して会釈してきた。

 

「この服をどうやって手に入れたかと聞きたいかね? このカラダになってすぐに、服やらなんやらを買いにいっていたのだよ。女として生きるためにはいろいろと用品も必要だしね!」

 

 行動が早すぎる。なるほど、だから昨日は外出していたのか。

 

「その、元の体に戻ろうとかそういうことは考えないんですか」

「君が男の体も愛せるなら考えるけどねえ。どうだい? ボクの太い腕に抱かれるというのは」

「いや……それは……」

 

 太い腕ね。ひょろひょろだった癖に生意気な。

 元の体に戻るつもりはどうやらないようである。今更感はあるが。

 何度も師匠には伝えているのだが、俺は女性しか愛せないのである。だから男の体の師匠に迫られても(師匠はどっちかと言うとウケらしい。知らんがな)ピンとこない。性愛対象としてみろと言われてもお断りである。だが今の師匠は女性の体である。性愛対象になるかといえば、正直いける。むしろお願いしたい。中身が元男じゃないならな!

 

「だろ? なぁ、正直になりたまえよ。生徒よ。いつでも僕の部屋の鍵は開いているからね?」

「めんどくさくていつもかけてないだけじゃねぇか」

「ふふん。じゃ、そろそろお客さんくることだし、診断開始しようか」

「ちょっと待ってください。男から女になりましたとか、そんなん誰が信じるんですか」

 

 それだ。今まで男性医だったのに急に女医になりました☆ミ とか通用するはずがない。俺だってまだ信じきれてない部分があるのに、他人からすれば男性医がクビになって女医がやってきたと思われても不思議じゃない。

 お師匠さんはふむと得意げに息を漏らすと、赤いルージュの引かれた唇を開いた。

 

「元ボクの方は長い旅に出ました。従姉妹が代役を勤めることになりましたとさめでたしめでたし」

「はー………似てはいますけど、妹とかのほうがいいんじゃ」

「妹なんていないから嘘をついちゃうことになるからねぇ。従姉妹ならいるから、嘘は嘘でも軽い嘘さ」

 

 まあいい。仕事は仕事なんだきっちり済まさないとな。あれこれ言っていても話は進まん。

 

 魔術師は魔術師でも人を治すことに長けているお師匠さんは、まずは相手の話を聞くことから始める。

 

「最初の方―――」

 

 俺は年老いたおじさんを中に招き入れた。カルテを書くのは俺の仕事だ。お師匠さんを見るや、明らかにおじさんの鼻息が荒くなった。

 

「あれぇ? いつもの先生は……」

「長い旅に出てしまったので、代わりに私が勤めさせていただいてます」

 

 にこっと笑いながら、足を組みかえるお師匠さん。

 狙ってやがる。狙ってるだろ。絶対にそうだ。

 おじさんの目線が足に釘付けになったところで、お師匠さんはさっそく診断に入った。

 

「今日はどうされました?」

「ちょっと息切れがひどくて……心臓がドキドキいってその場で蹲ってしまうことがありましてねえ」

「なるほど。最近変わったことは?」

 

 一番変化があったのはお前だけどな。

 なんてことを思いながらカルテを取る。おじさんの脈を取って、それから手を翳して診断していく。お師匠さんの魔術はとても地味だ。火炎を引き起こしたり、目に見える形で何かを起こすということはない。相手の生命の波動のわずかな歪みを検知して、魔術薬を処方するというものだ。唯一派手さがあるとすれば、診断のため手をかざして光を放つくらいである。

 お師匠さんがおじさんの胸元に手を翳して光を発すること数十秒。光がスッと引いた。

 

「はい結構ですよ~。お薬処方しておきますので、係のものから受け取って御代をお支払いくださいね~。お大事に」

「ありがとうございます。また来ますわ」

「はっはっは。医者にじゃなかった、魔術師にかからないほうがよっぽど平和でいいことですよ」

 

 診断終了。俺は、おじさんをカウンターに連れて行って席に座らせる。そして、指定の薬品をって、ここまで言えばわかるがこの診療所もとい魔術師の店は二人でやっている。これが案外忙しいのだ。

 

「あの美人さんいいねぇ、あんたもそう思うだろ」

「ハハハ……」

 

 おじさんにそう言われたので愛想笑いしておいた。

 中身を知ったら仰天するだろうな。

 中身が男だからな。男じゃなければなあ。



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メイド服

※中身が男じゃなかったらとっくに押し倒してるくらいには可愛いと思ってます。


「お帰りなさいませ、ご主人様♡」

「……」

 

 帰るなり俺はメイドさんに出迎えられた。

 おかしい。メイドさんなんて雇ってないというのにピンク色の声が聞こえてきた。

 おっぱいを指で作ったハートマーク型に押し付けて肉感を強調しつつ、ウィンクしている黒髪の女性がいた。というかお師匠さんだった。

 俺はお使いの帰りだった。大して疲れるようなことはしていないというのに、急激に疲れてきた。

 俺がメイドと化したお師匠さんを見ていると、お師匠さんはきゃっとかいいながら両手を頬に当てて身をくねった。

 

「そんな、こんな場所でなんてご主人様ったら気がお早いこと♡」

「あのー」

「言わなくてもわかるよ。こんなメイド服があるかといいたいんだね?」

 

 急に真顔に戻るのはビビるからやめろ。

 確かにメイド服というには腿丸出しの短すぎる裾といい、やけに薄い素材で、やけに胸の形状が浮き彫りになる構造といい、全体的な安っぽさといい、まるでコスプレみたいだあ。

 

「その通りだとも。これはメイドさんに情欲を抱いてしまう人を対象にした夜のお仕事さんたちが着ると言う衣装なのだよ。ふふふ、どうだいこのおっぱい」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~。忙しいんで後で」

 

 付き合っていられん。どうやって手に入れたのかとか、聞きたいことは山ほどあるけど、飯の支度もしないといけない。まずお師匠さんは作っていないだろうし、万が一作っていたとしたら目も当てられない異物が出来上がっているだろうから結局作り直しになるのだ。

 俺が横を通り過ぎようとすると、肩をがっちり掴まれた。背丈も縮んでしまったせいで、背伸びをして俺の耳元に顔を近寄せてくる。

 

「ちなみに今履いてないよ」

「~~~~~~!? は、はぁ!? アンタついに脳みそがおかしくなったんかよ!?」

 

 俺はささやき声でとんでもないことを言ってくる女――じゃない、中身が男の外側女(ややこしいな!)に指を突きつけた。

 

「ボクはいつだって準備完了だよ? どうだい、熱いひと時をというのは……」

「やるか! 何度でも言うがお師匠さんとそういう関係になるって選択肢自体ねーわ!」

「えぇぇ゛~~? ○ってるじゃん」

 

 お師匠さんがおもむろに手を輝かせてきた。

 俺はとっさに前を守ると、後ずさりをした。

 こいつ、魔術で人の体を勝手に調べやがったな! これは生理現象! 生理現象だから!

 

「とにかく!! そんな意味不明な格好するなら料理の一つでも覚えろってんだよ!」

「ほーん。料理のできるオンナノコのほうがいいんだね!?」

「女の子じゃないだろ! アンタは男なの!」

「えー」

「えー じゃないえーじゃ! 俺は飯作ってるんで大人しく洗濯ものでも干しておいてくださいね! いいですね!」

 

 俺は肩を怒らせながらずんずんと奥に突き進んでいった。お師匠さんがとことことついてくる。どこまでついてくるのかとそれとなくうかがっていると、るんるんと歌を歌いながら洗濯物がある部屋に歩いていった。

 よかった。これで一段落だ。

 昼飯は何を作ろう。パンはある。食材は、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、リーキもある。今朝方牛乳をもらってきたのがあるから早めに使ってしまおう。

 

◇ ◇ ◇

 

「飯できましたよー」

 

 シチューと、パン。シンプルかつおいしい料理の完成である。

 洗濯物を干しに行ってるであろうお師匠さんを呼びに部屋に入ってみる。洗濯物をいれた籠はなくなっていた。窓から外を見てみると、なるほどちゃんと干してある。明日には乾いているだろう。

 つんつんと背中を突かれたので振り返ると、そこには、俺のシャツ(ぶかぶか)を着込んだお師匠さんがいた。

 

「はぁ~キミの匂いがするよー」

 

 男用シャツを小柄な身で着ているのだから、当然のことながら裾が余る。手は指先しか出てないし、余った布で皺が出来ている。ボタンを中途半端に留めてないせいで、胸元が見えかかっている。というか半分出てる。乳首がギリギリ見えないところで布が引っかかってる。

 中身は男中身は男中身は男ナカミハオトコ……。

 

「固まっちゃった。弟子君弟子君。憧れのシチュを再現してやったのだぞ。どうだね?」

「………まさか」

「そのまさか! 君が本棚に隠してるブツからシチュエーションを拝借し、ってどこにいくのかな!?」

 

 こみ上げる欲望のせいでよからぬことを口走ってしまいそうだったので、自室に駆け込む。お師匠さんが滑り込むよりも先に足で蹴ってどけて、そのままベッドに転がり込んで布団をかぶる。

 ふう。落ち着く。いや、落ち着かないといえば落ち着かないんだが……。

 中身は男、よし、これだけ唱えればよかろう。

 俺は扉を開けた。すると、いつの間に着替えたのかワンピースタイプの服を着たお師匠さんがいた。

 

「せっかく作ってくれたシチューが冷めてしまうからいただこうよ。安心するといい、何もしないよ?」

「安心するといい、ですか。本当ですかねえ。というか男物の服を着るんじゃないんですか」

「せっかくオンナノコになったんだもの、オンナノコらしい服装を楽しんでみたいというのはおかしな発想じゃあるまいよ。君だってオンナノコになったら……」

 

 廊下にて。

 お師匠さんが俺のことをシリアスで瞳で見つめてくる。青く澄んだ瞳だ。

 お師匠さんは目を細めたり開いたりをして、首をかしげた。

 

「君がオンナノコになったらさぞ目つきが悪い猫背の子になりそうだなあ」

「へーへー悪うございました……どうせ目つき悪いですよっと」

「おや? 目つきの悪い子だって、需要はあるのだよ。そういう子がだね」

「はいはいご飯食べましょうねっと」

 

◇ ◇ ◇

 

 夜。俺は帳簿の整理を済まして、寝巻きに着替えていた。

 今日も色々なことがあった。お師匠さんが積極的に皿を洗い始めたのにはあせった。不器用なのですぐに一二枚は割ってしまうから、止めにはいらないとまずいことになるのだ。さすがに食事中あれこれと手を出してくることはなかった。

 さて、寝るか。俺はカンテラを持つと、欠伸をかみ締めながら階段を登っていった。

 扉を開く。ベッドメイキングはしてある。あとは寝るだけだ。

 愛用の机にカンテラを置いて、火を止める。カーテンから差し込む月明かりだけが照明だ。

 ……気のせいか、甘い香りがするような気がする。気のせいだろう。香水なんてつけた覚えはないしな。お師匠さんじゃあるまいし。

 

「ふぁ~~~あっと」

 

 そして俺は布団を捲り、

 

「待ってたよ♡」

 

 スタンバイしていたお師匠さん(薄ピンクネグリジェ着用)が敷布団に寝転がっているのを発見した。

 

「そおい!!」

 

 俺は枕を顔面に剛速球!!!!!

 超! エキサイティン!!

 

「自分の部屋で寝ろ!!」

 

 それからお師匠さんを部屋から蹴りだして眠りについたとさ。



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媚薬入り紅茶(伝統芸能)

誘惑には勝てましたか?


「弟子君弟子君。思ったのだがね、例えばボクが記憶を失ったとするだろう」

「突然なんですか」

 

 ある日のこと。夕飯を終えて、食後のお茶を楽しんでいる最中にお師匠さんが急に言い始めた。

 ちなみにお師匠さんといえば、既に寝巻きである。どこで仕入れてきたのか薄ピンクのネグリジェを着ている。

 不潔だとか言わないで欲しいが、ここの地方では風呂に毎日入るという習慣が無い。まず、火を焚いてお湯を沸かすこと自体が重労働なのだ。薪代だってバカにならない。そこらへん魔術師はお湯を潤沢に使えるわけだが、あまり入らないという習慣のせいで、まず毎日入る魔術師などいない。

 ところが最近のお師匠さんときたら、毎日入っている。魔術師の特権をこれでもかと使って、お湯を並々と張った容器(どこから調達してきたのかわからん。そもそもうちに浴槽なんてものはなかったはずだが)に入っているらしい。俺は普通に水浴びで済ましてるよ。

 それから、出てきたら香水をうっすら体にかけてるのか、近くにいるとふんわりと甘い香りがただよってくる。

 こうして対面しているだけでも甘い香りが漂ってくるので、ドキドキしてしまう。

 お師匠さんは紅茶を啜ると、スコーンをもさもさと食べながら人差し指を立てた。

 そういや、この紅茶。お師匠さんが淹れたものだ。なにやら俺が料理が出来るような女の人が好きとかなんとか言った影響なのか、自分から淹れてきたのだ。

 

「記憶を失ったとすると、先天的な女性としての振る舞いをする私が現れるのか。男性としての振る舞いをする私が現れるのか。どっちだと思う?」

「さあ。お師匠さんの素が出てくるんじゃないんですかね」

「ボクの素というと今がその素に近いんだがねえ。たまに勘違いされるが私は同性愛者でもあるけど、異性も愛せるのだよ。同性相手のほうが強いだけで」

「へー」

「それで、暫く待ってみたんだ。君への興味がなくなるんじゃないかと」

 

 お師匠さんが綺麗な青い瞳で俺を見つめてくる。

 てっきり同性愛者かと思っていたけど、かならずしもそうじゃないらしい。本人曰く。

 ぱちん。音が響きそうなウィンクが返ってきた。

 

「むしろどんどん興味が沸いてきたね! 本の趣味はいただけないが」

「あーあー、人のプライバシーを侵害するのをやめてください」

「よかったよ。おっぱいが大きくて髪の毛が長い女の人が好きみたいで!」

「あぁぁぁぁぁぁクソどうしてみつかったんだよ!!」

 

 お師匠さんがにこにこしてくる。

 クソが。隠し場所を変えたはずなのにバレてやがる。そうなのだ。俺は、おっぱいが大きくて髪の毛が長い人が好きなのだ。お師匠さんはそれに加え―――顔がいい。面食いじゃない俺でも一目で射抜かれそうになるくらいに、顔がいい。最もお師匠さん(男性のときの)の面影がうっすらあるので、接近してくるとどうにも思い出してしまうところが難点だが。

 俺は一通り頭を抱えてから、若干冷めた紅茶を飲み干した。

 

「とにかく、もう寝ますからね! 絶対に付いてくるなよ! アンタはアンタの部屋で寝るの!」

「えー」

「えー じゃないえーじゃ!」

 

 デジャブを感じる会話をしたのち、俺は自室へと引きこもった。

 

◇ ◇ ◇

 

 “おさまらない”。

 ナニがかって? ナニだよ! 察しろよカス! と俺が精神的に不安定になるくらいには、乱れていた。

 おかしい。普通は一回二回“出せば”すっきりしてくるものというのに、今日に限って何回やってもおさまりがつかない!

 絶対におかしい。いやたまにこういうことくらいあるねんなって思いたいけど、俺は絶倫じゃない。性豪とかそんな属性持ってない!

 

「…………ま、まさか」

「ふふふ。そんなまさかあのお師匠さんが紅茶に媚薬とか盛ったとかそんなことはないよ」

「ひええええええっ!!!????」

 

 俺は股間を押さえたまま全力で壁際に逃亡した。振り返ってみると、薄いネグリジェどころか女性物のシャツ一枚羽織っただけのお師匠さんが四つんばいになっていた。

 鍵はかけたはず! まさかこのヤロー……。

 

「失礼な。魔術で破るなんて、魔術の神への冒涜だよ。合鍵だよ」

 

 お師匠さんがリングにかかった鍵を指でくるくると弄んでいた。上体を起こすと、いたずらっぽく笑いながら鍵を見せびらかしてくる。

 ただでさえ緩々なシャツから胸がはみ出さんばかりに自己主張をしている……!

 ナカミハオトコ……ナ、ナ……カミ……。

 

「もっと悪いわ! 何人の部屋の合鍵勝手に作ってくれてんのさ!」

「んもー、キミとボクの間柄じゃないか♡」

 

 俺は無言でお師匠さんの指から合鍵を奪取しようとした。

 

「わぁ指がすべっちゃった☆」

「くっ……! 小癪な……!」

 

 お師匠さんがあろうことか鍵を胸元に滑り込ませた。

 

 たゆん。

 

 鍵が胸の谷間に挟まっている。お師匠さんが呼吸するたび、鍵の位置が揺れる。

 俺は手を伸ばし、そして、取れない!

 

「う、くそ………」

「ま、ま。落ち着きたまえよ愛弟子よ。鍵ならいつだってあげるとも。“それ”がおさまりつかなくて困っていたんじゃないのかな?」

「………!」

 

 わかった。わかってしまった。こいつしかいない。こいつがなにやらせっせと紅茶を淹れている最中に、“手を滑らせて”しまったのだろう。オトコをいきり立たせるようなものを!

 脳裏に紅茶を入れたカップをカコンッと置いて薬をサーッ! と投入するお師匠さんの絵が浮かぶ。なんだクォれは……たまげたなあ。

 俺はお師匠さんから隠すため、ブツをささっとズボンに格納して立ち上がった。前のめりで。

 

「解毒剤、作ってきます」

「材料切らしちゃってさ☆」

「ブッ殺す」

「てへ☆ というのはさておき、まま、鍵くらいはあげるともー」

 

 お師匠さんの手が、俺の手に絡みつく。抵抗できない間に、手が胸元に。柔らかい肉の間に指が埋まる。危うく鍵を落とすところだった。

 …………う、ヤバイ。もうヤバイ。頭の中がお師匠さんの匂いでいっぱいになる。お師匠さんが入れた薬のせいか、立ってるだけで本日何度目になるかもわからない“状況”に陥りそうだった。

 胸が柔らかすぎて、もう、だめだ。耐えろ。耐えろ俺。

 

「自分に正直になろうよ………大丈夫大丈夫、減るもんじゃないからさ……」

「う、う……」

 

 体の力が抜ける。いや一部抜けてないんだけど!

 俺はあっという間にお師匠さんの力で押されていって、ベッドに寝かせられた。お師匠さんが唯一掛かっていたシャツを腕を交差させて脱ぐ。

 たゆん、ふるんっ。

 重量感たっぷりの効果音が見えそうなほど、それが弾む。

 

「大丈夫大丈夫。んっ、この体では初めてになるけど、天井の染みでも数えてればすぐに終わるからねぇ………いやーすぐじゃないな。すぐ終わらせるなんてもったいない……」

 

 それから――――。

 

◇ ◇ ◇

 

「ふぅ~~~~」

「………」

 

 朝。

 やけにツヤツヤした顔のお師匠さんがサクサクと焼きたてパンを頬張る一方、俺は机に突っ伏していた。

 色々と失ってしまったよ。

 

「パン、食べないならもらうよ!」

「頂きますよォ!!」

 

 お師匠さんが俺のパンをくすね様としたので大声を上げ奪い返して一口。

 どんな日でもパンは美味い。俺はそう思った。




Q.R18ルートがないやん!
A.そんなことしたら運営に怒られちゃうだろ!


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オイル塗り

短編だからさくさくといい感じになんとかこうしたい(曖昧)
オチ無しの日常系四コマ漫画みたいになってるけど気にしない


「弟子くーん! やっぱり料理するときの正装は裸エプロンだと思うんだけど青とピンクのエプロンどっちがいい?」

「今日はお肉を焼いたのと、山菜を煮たやつにしようと思ってるんで時間来たら下りてきてくださいねー」

「料理をする嫁の姿こそ男のロマン! とはいうものの、やっぱり旦那が料理を作っている姿もまた乙なものだねえ!」

「あ、部屋の掃除ならやっておきましたから。次からはちゃんと自分で掃除してくださいね」

「冷たいなァ。あっそうだ男性のエプロン姿はいいんだけど、キミも裸エプロンしてみないかい!?」

「………」

「………」

 

 おかしいのは毎度のことだが、今日はまた序盤から飛ばしてんな。

 

「ダーリン。実はね、生理がね、こなくなったの」

「ふぁっ!?」

 

 お師匠さんがモソモソっと何かを言った。

 俺は思わず包丁を取り落とすところだった。

 なんだって? なんだって??

 俺は包丁を震える手でまな板に置くと、机でくつろいでいるお師匠さんの傍に寄った。

 

「というか生理とかあんの!? いや、あるだろうなとは思ったけど冗談抜きで!?」

「………プッ。アハハハハハハ! アハハっ、………ぶっ! ぶひひゃひひひひひ! はーっ、ひぃーっ! 真剣な顔、頂きました☆」

 

 お師匠さんが手で「」を作ってウィンクしてくる。爆笑も爆笑、口が上下に裂けてしまいそうな豪快な笑いである。

 生理がこない。その言葉をまさかこのタイミングで聞かされるとは思ってもいなかった俺は、ぜいぜいと呼吸しながらお師匠さんを睨み付けた。

 

「冗談でもやめてくださいよ心臓に悪い」

「いやはや。生理は来てるとも。ウム。つらいねぇ、女性ってのは。お腹が痛むのがこんなにつらいとは思わなかったよ」

 

 お師匠さんは自分のお腹を撫でながらそんなこと言った。

 やはり体が形状だけ変わったのではなく、完全に女性としての機能を持っているということらしい。

 俺はお師匠さんと向かい合う形で椅子に腰掛けた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ………そっすか。俺、死ぬのかなって思いましたけど」

「残念なことにキミがパパになるにはチト施行回数が足りんようだねぇ。一緒に回数重ねようね♡ いつでもボクの横は空いてるからね♡」

「するか!」

「えーでもこの前はボクがクタクタになるまで一緒にしてくれたじゃあーん?」

「アンタが終始リードして俺からあらゆるものを吸い取ったんだろ! サキュバスかアンタは!」

「もっかいしよ♡ というかしろ。お前がパパになるんだよ!」

「す・る・か!」

 

 なんてことがあり。

 

「やっぱり料理の出来る嫁が欲しいんだね!?」

 

 とかなんとかいいながら料理を手伝おうとする師匠から逆手持ちの包丁をぶんどって、本でも読んでろと書斎に叩き込んだり。

 

「一緒にお風呂入ろー!」

 

 って全裸で駆け寄ってくるお師匠さんを床に投げつけたりして今日は終わった。

 そして翌日。

 

「ということでキミと旅行に行くことになったよ」

 

 とっても綺麗な声で。しかし、ギラギラと欲望を感じる表情でお師匠さんがそんなことを言い始めた。

 俺は帳簿をつけている真っ最中だった。危うくインクをポタリと羊皮紙の上に落とすところだった。

 

「はぁ」

「気の無い返事だねえ。満月草について知ってるかい」

 

 満月草。曰く、満月の時のみ海辺に咲くという花だ。満月の夜、雲が出ていない時のみに咲くと言われていて、薬草の効力を高める効果があるという。普通に購入しようとすると、べらぼうに高い値段を付けられるのだ。

 まさか。まさかとは思うが、いや多分そうなんだろうが。

 

「旅行して摘みに行くとか?」

「その通り! 実はさるお方から満月草がひっそりと咲くビーチについての情報を得てね。普段はだーれもいない無人島なんだけど、そこにいって毟ってこようと思うんだ。同行してくれるね?」

「疑問系ですけど、もう船を取り付けてあるとかなんでしょ」

「お、話がわかるねえ。じゃあ一緒に新婚旅行に行こうね♡」

「新婚かどうかは知らないですけど、お師匠さんの方向音痴に任せたら北極にでもついてそうなんで、行きますよ。いつです?」

「えっとね―――」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 かくして俺は、お師匠さんと一緒に初夏の無人島へと旅立ったのだった。

 ちなみに魔術師の家の診療所は一時的にお休みになった。こりゃ、満月草を樽一杯毟ってこないとな。

 

「………」

 

 青い空。透き通った海。白い砂浜。誰一人いないそこに、テントが構えられている。俺はその横に設置されたビーチチェアに寝転がっていた。

 服装? 水着だよ。え? この時代にそんな普通の水着なんてあるはずがない? あるんだよこの宇宙では。

 

「暑い……」

 

 一応は満月草を摘みに来たということになっているが、なんでこんなに装備がいいのだろう。

 テント、三日は過ごせそうな量の水、食料、酒やらの嗜好品もあるのだ。まさか数日間この無人島でお師匠さんと二人っきりということになるのか。この島に連れて来てくれた船乗りは数日経ったら迎えにくるとかなんとか言ってたしそういうことなんだろうが。

 男女二人、無人島。何も起こらないはずもなく。なんてことをお師匠様が期待しているのが透けて見える。

 サキュバス呼ばわりしていてアレだが、お師匠さんは天使みたいにかわいい。そこは認める。認めるが、誘惑に負けてはならぬという謎の義務感を感じるのだ。ナカミはオトコだし。

 

「おまたせ~」

 

 俺が声に我に帰って振り返ってみると、白い肌に相反する漆黒のビキニを身に着けたお師匠さんがいた。黒レースのパレオで腰周りを隠していて、瑞々しい腿が眩いばかりだった。俺と視線が合うと、へたくそなウィンクをしてぺろりと赤い舌を覗かせて来る。

 髪型は――活動的なポニーテールにしていた。

 

「……」

「どうかな? 似合ってる?」

「……に、似合ってますけど、なんで元オトコの癖にそんな着こなしがうまいんですか?」

「女装をね」

「あーはいはい、聞きたくないからパスで」

 

 オトコのお師匠さんが女性水着を着ているシーンを想像してしまったので、俺は頭を振った。

 お師匠さんが俺の横にビーチチェアを持ってくると、ごろんと寝転がった。

 

「満月まではあと一日あるから今日はのんびりとすごそうか」

「やけに装備がいい理由を聞きたいんですけど」

「え? 新婚旅行だからだよ?」

「いや結婚してねーし!」

「えぇ~しよーよー結婚。一緒のお墓にはいろうよー」

「どんな勧誘文句だよ」

「ねー弟子くーん。これ」

 

 お師匠さんがなにやら瓶を渡してきた。コルクの蓋を取ってみると、なにやら粘性の高い液体が入っていることがわかった。これは……オイル?

 

「塗って」

「自分でやってください」

「………肌カッサカサのボッロボロになって皮剥けまくって」

「わかりましたよ! やればいいんでしょやれば!」

 

 お師匠さんがニコニコしながらチェアの横に敷いてあった布の上にうつ伏せで寝転がると、ビキニの上の金具を取る。丁度、胸に布地がかかっているだけの状態になった。

 

「やりますよ」

「ちゃんと手で温めてね」

 

 俺はオイルを手に塗ると、お師匠さんに手を伸ばしたのだった。




いいところですが次回に続く!!!!!


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オイルマッサージ

やっぱみんなTS好きなんすねー


「優しくね、優しく愛撫してね?」

「愛撫じゃねーし! ハァ~……塗りますよ」

 

 愛撫じゃねーし。するっと下ネタが出てくるので本当に困る。

 日焼け止め用のオイルを手で温めてっと。どのぐらい温めるのかは知らんが、もう大丈夫だろう。

 俺はお師匠さんの横に屈み込むと、まずどこから塗ろうかと目線を巡らせた。

 白いうなじ。ポニーテールに結わいている黒髪がぱらりとかかっている。いきなり首から行くのはまずそうな気がする。背中。妥当な線だ。まずは肩甲骨の上辺りから……。

 ぺとっ。

 

「んっ………ッ……いいよぉ、続けて続けて」

 

 艶かしい声が上がる。野郎………口元が笑ってるのが見え見えだぞ。

 肩甲骨から背筋。

 

「はぁっ、んっ、ふぁぁ………」

 

 お師匠さんが太腿を内側に向けてもじもじと擦り付けている。

 消えろ煩悩消えろ煩悩消えろ煩悩……。

 次は腰。しかし、なんて滑らかな肌なんだろう。張りがよくて、滑りがいい。触ってるだけでも気持ちがいい。

 

「上もぬってえ……」

「う、上ェ?」

 

 いかん声が裏返った。上ってどこだよ。上って、上っていうと首とかか?

 俺が首にぴとりと触れると、お師匠さんの腰がせり上がった。

 

「ん! んっ………」

「………あのー、俺オイル塗ってるだけっすよねこれ」

「ん? うん」

「………続けますね」

 

 妙に冷静に言葉を返してくるお師匠さん。なんと言っていいのか、その、わかりません。

 上と言われたので、首を撫でるように塗りこむ。それから、腕……の付け根には絶対に触れないぜ。

 

「そこも塗ってよぉ」

「自分でやんなさい」

「ちぇ」

 

 前は自分で塗れ。俺は手を出さんぞ。

 次。腰の下~~~~どうする。お尻だ、お尻がある。大胆なビキニタイプなので、ぷりんとしたお肉が丸見えになっている。塗るべきか、塗らないべきか、ええい、塗ってやるよじゃあ!

 

「んふぅ~~………おく、塗ってね」

「やるか!!」

「えぇ~弟子君のけちんぼ」

「いいから黙っておいてください」

 

 奥って……お尻を塗ってる最中に奥って言われたら、もう股以外に考えられない。だめだ、触ってはいけないんだ。

 いや触るよりすごいことはしたよ。したけど、やっぱり、ナカミがオトコの呪文を唱えないと俺のアイデンティティが消し飛びそうなので、だめだ!

 次、足。

 ……びっくりするぐらいいい足だ。無駄肉がなく、うっすら筋肉が透けている。整えられた爪から始まるつま先からふくらはぎまでの線は美しく、腿はむっちりとしていて、横にせり出した腰周りの美しさを装飾しているよう。

 これにオイルを塗ると。足フェチじゃないが、足フェチに目覚めてしまいそうだ。

 ぺとり。

 

「ふぅぅ……」

 

 甘ったるい声が漏れ聞こえてくる。ああ、もう! 一々喘ぎやがって。許さないぞ。

 俺はテキパキと脚にオイルを塗ると、これでとどめと言わんばかりに尻をぺちりと叩いた。

 

「うひぁあっ!?」

「終わり! 前は自分でやってくださいよ!!」

「ねー」

 

 ん? なにやらお師匠さんが上半身を起こして俺のことを見つめてくる。

 婀娜っぽく唇に指を当てて、脚線美を強調するように足をくねる。

 

「お尻、もっと叩かないのかな?」

「次は頭を叩きますよ」

「おおおお嗜虐が好きなのだね? かく言う私は被虐の方が性に合ってるんだけどね!」

「嘘付け一晩中俺のこと攻めてた癖によお!」

「ひひひ! じゅるる。いかん、思い出すと涎が」

 

 やってられん。俺はオイルをポイと放ると、テントの中にある木箱を開けようとした。

 

「んー? 元気だねえ。結構結構♪」

「ば! どこ触ってんだ!」

 

 ふわりと甘い香りが鼻腔を擽った。

 この匂いだ。お師匠さんの匂いを嗅ぐと、理性がゴリゴリと削り取られる。すぐにでも木陰にでも引き込んで裸体をむさぼりたい衝動に駆られる。たぶん喜んでくれそうな気がするけど、それはだめだ。だってお師匠さんなんだぜ?

 お師匠さんが背後から抱きついてきていた。おまけに、俺の下腹部を探ってやがる。急に振り払うのも危ないので、震える手で引き剥がす。

 

「興奮してたっしょ?」

「してないです」

「ほんとにぃ?」

「ねーよ!」

 

 ねちねちと聞いてくるので首を振ると、お師匠さんはくっくっくと喉を鳴らして笑った。

 

「じゃ、次はキミの番ね。そこ寝なさい」

 

 俺が荷物をゴソゴソしていると、いつの間にやらオイルを手に塗りこんだお師匠さんが隣に座っていた。

 

「は、はー? やるわけないでしょ」

「まあまあ」

「いや、やんないですよ」

「まーまー、ちょっち期待してるんでしょ」

「してねーし! 触ンな!」

「ホラホラホラ! 寝て寝て! 暴れんなよ暴れんなよ!」

 

 で。

 

「ふっふっふっ………じゅるる、っと涎が」

 

 俺はなぜかお師匠さんに日焼け止めオイルを塗られることになっていた。

 

「仰向けになって♡」

「お断りします!」

 

 仰向けになったら色々とヤバイ。ナニがやばいって? そりゃナニがヤバイんだよ。

 俺はうつ伏せになってお師匠さんに背中を晒した。

 

「いいお尻してるよねぇ。運動とかしてたっけ?」

「ないですね」

「あっ、してないのにこんなにガタイいいんだ」

「親が体格よかったんで遺伝とかじゃないですかね」

「そうなんだ。最近はいつ抜いた?」

「答えませんよ」

 

 なんだこのインタビュー。さりげなく下ネタを振るのをやめろ。危うく言いかけたわ。

 

「あ~~~いいねぇ、いいお尻してるねぇ」

 

 お師匠さんがいきなりお尻を揉み始めた。オトコのケツを揉んで何が楽しいのか理解に苦しむねって思ったけど中身が男(男も女もいける派)だとするとおかしくはなかった。

 オイルを塗るはずなのに、熱心にお尻を撫で回してきやがる。このままじゃお尻が柔らかくなってしまうなんて思っていると、お師匠さんが俺を跨ぐように膝立ちし始めた。

 

「は?」

 

 ぱさっと何かが落ちてきた。頭をひねって見てみると、水着の上だった。

 ふにゅん。

 柔らかい何かが背中に触れた。

 

「おっぱいで塗り塗りしてあげますからねぇ~♡♡」

「ば、止めろ!」

 

 い、いかん。俺の俺が限界寸前だ。オイルを塗りたくったおっぱいで背中を擦ってくるとかなんなの、天才なの?

 俺が銅像と化していると、お師匠さんが動き始めた。柔らかいお肉が背中の上をぬりゅんぬりゅんと滑っていく。なんだか、一部分だけ硬い感触を感じる。

 

「うつ伏せで我慢できるかなぁ~♡」

「わ、わかったから……」

 

 もう、日焼け止めを塗るのが目的じゃなくなってる。お師匠さんが俺の耳元に唇を寄せてくると、ちゅっとリップノイズを立ててキスしてきた。

 俺はお師匠さんを引き剥がすと、仰向けになった。両手で顔を隠しながらな。恥ずかしすぎて頭がどうかしてしまいそうだ。

 

「わ♡ 自分では動いてくれない感じ?」

「………もう、好きにしてくれよ……」

「そっかぁ、じゃ失礼してっと」

 

 ずるりと水着の下を脱がされる。この歳になって脱衣を手伝って貰うなんて、考えもしなかった。

 

「わっ……♡ おっぱいがいい? おくち?」

「………あぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!! この! アンタが悪いんだぞ! アンタが!」

 

 キレた。もう我慢できるはずがない。俺はおもむろに姿勢を起こすと、お師匠さんをシートの上に組み敷いた。

 オイル塗れの上半身。顔を真っ赤にした乙女が、髪の毛乱してうっとりと頬を緩ませている。どこを見ても、美しくて、愛おしくて、だからこそ苛立つ。もう、どうにでもなれ。

 

 

 

 

 

「あっ、いきなり……♡」

「このっ! この口か!」

 

「もっとぶっていいのだよ? ぶたれるほうがいーい?」

「ぶつわ! この! こういうのが好きなんだろ!?」

 

「なんだよー最初の威勢はどこいったんだよー? うふふ。かわいいなぁ弟子くんは」

「くそ、サキュバスめ……っうあ」

 

「ひあっ、んっ……んぅぅっ♡ んっ♡ おっきぃ♡♡ ごりゅごりゅって♡」

「はぁっ、ふぅぅっ……!」

 

「のましてー、ねぇお酒ー」

「蜂蜜酒ばっかじゃねーか! ったく。ほら口開けてくださいよ……」

「ありがとね。ご褒美に、おっぱいで……」

 

 

 

 で。

 あんだけ“した”癖に元気なお師匠さんをよそに、俺は蜂蜜酒を飲みすぎてダウンする羽目になったとかなんとか。




※蜂蜜酒ばっか→蜂蜜酒は子作りの時に飲まれるうんぬん


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蜂蜜酒

イチャイチャしてるだけの話だった


「弟子君弟子君。なんともなーい?」

「はい?」

 

 またか。お師匠さんの唐突っぷりときたら、朝っぱらから世界について哲学し始めるくらいには唐突なのだ。

 説明不足過ぎてなんとでもとれる質問を投げかけてくるお師匠さん。なんともないって、なんのことなんだ。

 俺とお師匠さんは無人島の隅っこの海岸に来ていた。白い砂を覆い尽くさんばかりの草が生えている。これこそが満月草だ。普段は地味な草にしか見えないが、満月かつ雲が出ていない時に限り花を咲かせるのだ。これを毟りに来たのであって、断じて新婚旅行ではないのだ。というか結婚してないのに新婚もクソもないのだ。

 俺は海岸に移動してきたテントの横で準備をしていた。鮮度が落ちないように温度を下げる魔術を使った俺特性の樽の横に屈んでいた。

 お師匠さんと言えば、水着の上からシャツを引っ掛けて麦藁帽子をかぶって俺の横に座っていた。後ろで結わいていた髪は下ろしていた。

 俺は、お師匠さんが淹れてきてくれた紅茶を飲み干したところだったが、まさかコイツ。

 

「盛ったな?」

「あ、わかる? どう、ボクの顔を見てもなんともならない?」

「………はぁー」

 

 もう、お師匠さんが作るお茶とか料理とかは口にしないほうがいいんじゃ……。

 俺はお師匠さんが顔を指差してきたので、じっと見つめてみた。なにも起こらない。

 

「いや………何の薬を入れたんです?」

「んー、そうかそうか。喜ばしいことだねぇ。実はね、惚れ薬を入れてみたんだ」

「はぁ? 失敗作なんじゃ?」

「失敗なんてとんでもない。成功作だとも。ボクが調合を間違えるなんてこと、滅多に無いもの。効果が出ないんじゃなくて、もう状態が出てるから効果の出しようが無いということと考えると心底喜ばしいことだよ」

「は、はぁ!?」

 

 俺は思わず立ち上がっていた。つまりこういいたいのだろう。

 

『ボクに惚れてるよね?』

 

 と。

 

「いや、そんなバカなことあるわけ……」

「きらい?」

 

 お師匠さんがじっと見つめてきた。外見だけならば、黒髪を垂らした色白な美女と言ったところ。ついこの前までオトコだったとは思えない、堂に入った女性としての立ち振る舞いをする、尊敬している人。

 嫌いなんてことはありえない。尊敬しているし、惚れてるかって言ったら………。

 

「…………」

「ぬふふ」

「………ぐ、ぅぅぅぅぅ!! この……この! この……!」

「ふっふっふ………ボクの体を知っておいて今更なことだがねぇ? だってキミ、ボクのこと大好きでしょ」

「う………」

「いんだよ、素直になろうね。好き好き愛してますって言ってみ言ってみ」

「……………ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺はその場に体を投げ出した。だめだ、この人には勝てない。

 するとお師匠さんがニヤニヤ意地悪く笑いながら俺にもたれてきた。ええい、寄るな暑苦しい。

 

「ボクもね、最初は男に戻れないか考えたんだよ。ボクにかかった薬品を分析すれば戻れる可能性はあったしね。でもキミが女しか愛せないみたいだから、覚悟を決めて服を買いにいったんだよね」

「決断早っ!? 初日に買いに行ってましたよね!? え、じゃあ半日くらい悩んだだけ?」

「んー。二分ぐらいかな」

「はっや! ちょっとは悩めよ! 俺がどんだけ悩んだと思ってるんだよというか今も悩んでるよ!」

「ナハハハ! 悩むと禿げるよ!」

 

 お師匠さんが俺の肩をペチンペチン叩いてくる。痛い。手を引き剥がす。

 

「ということでボクがスキな弟子君弟子君。ねっとりとえっちいことしようかぁ」

「しませんよ」

 

 俺が言うと、ふーんとお師匠さんが俺の腿の上に寝転がってきた。逆かよ。どっちかっていうと俺が膝枕をってじゃないわ!

 

「はぁーよかったよ、だってキミったらあんまりにも冷たいこと言うじゃない」

「別に冷たくしてません。お師匠さんがなんというかふざけるからじゃないですか。降りろ」

「あばー」

「お・り・ろ」

「あばば」

「降りろって!」

「勃った?」

「勃ってねぇよ!」

「勃てようか? ん?」

「降りろボケ!」

 

 俺はゴロゴロと猫のように甘えてくる黒毛をどかした。

 ふー………。前をそれとなく隠していかないとな……。

 

◇ ◇ ◇

 

「すごい光景ですね」

「来てよかったでしょ?」

「手を繋ぐな、手を」

 

 俺はさりげなくというか露骨に手を繋ごうとしてくるお師匠さんから手を退避させながら言った。

 空は快晴。満月が煌々とあたりを照らしている。

 薄暗い海岸線に、ぼんやりとした光が揺らめいている。エメラルドグリーン色に輝く花が、海風にさらされて、光の波を作り上げていた。

 空は、満天の星空。

 ロマンチックという言葉はこのためにあるんだろうな。俺は白ワンピースに麦わら帽子のお師匠さんと海岸にいた。

 これだ。この満月草を採るためにやってきたんだ。

 俺は肩を組もうとしてくるお師匠さんの手をかがんでかわしながら歩き始めた。

 

「これを毟ればいいんですね?」

「ウム。いいかね、間違っても根っこごと引っこ抜くんじゃないぞ。花の部分だけを摘み取るんだ」

「根っこには薬効がないんですかね」

「あるとも。だが、根っこごと抜いたら次が生えてこなくなるだろう。叡智ある魔術師は植生を破壊するような真似はしないのだよ、弟子君」

「無人島だからいいんじゃ……」

「いいかね、森を焼くようなことは慎むべきだよ。我々は学び、作り、至るものであって破壊者ではないのだ」

 

 ……久々に魔術師っぽいこと言ってて違和感があるな。なんて言ったら怒りそうだ。

 いやお師匠さん脳味噌がゆるいだけで魔術師としては立派な人なんだよ。市井によりそって魔術で医療を提供なんてめったに出来ることじゃないしな。尊敬してるんだよ。女体化して以降脳味噌がゆるいプラスピンク色になってるとしか思えないだけに魔術師としての顔が逆に違和感を覚えるだけで。

 俺は尻に触ろうとしてくるお師匠さんをどかしながら花を摘み始めた。摘んではしょっている籠に入れて、摘んでは籠に入れて……。

 やはりというか、摘み取ると光が徐々に抜けていくらしい。薬効は確かにあるそうだから、発光する成分と、薬品の効力を強化する成分はまた違うものなんだろうな。

 籠が一杯になったので、テント横にある樽まで歩いていって中身をぶちまける。何度か繰り返すと樽の中が一杯になった。

 

「これだけあればよかろう。君がかけてくれた魔術のお陰で帰るまでは腐らないで済むだろう」

「そうですね。目的達成ってことで………」

 

 ふう。テント横に腰を下ろして焚き火を見つめてみる。

 隣にお師匠さんが来た。俺が視線を向けると、小首をかしげて見つめてくる。

 

「げふっ……」

「………まーた蜂蜜酒か。飲みすぎなんじゃないですか」

 

 まさかのゲップである。

 暗かったせいで顔が赤らんでいることに気がつかなかったが、きっと真っ赤になっていることだろう。

 そう、お師匠さんがなぜか大量に蜂蜜酒を持ち込んできたのだ。きっと、俺がせっせと採取している間に飲んでいたに違いない。

 

「ねぇ知ってるかい。蜂蜜酒はねぇ、カップルがねぇ、子作りする時に飲むんだよ」

「へ、へぇ」

「飲んで♡」

「飲むか!」

「十回くらいはできるようになってね♡」

「死ぬと思うんですがそれは」

「若いからへーき、へーき。飲んで♡」

 

 やたら酒を勧めてくるお師匠さん。

 俺はお師匠さんからグラスを受け取ると、飲んだ。何か盛られてるかもしれないが、そんなことはどうでもよくなった。この美しい景色を見ながら、美女(ナカミはオトコ)と酒が飲めるなら、悪くない。

 お師匠さんが俺の肩に寄りかかってきた。

 

「あのね、キミの赤ちゃんが欲しいな……」

「いややらねぇよ」

「もうシてるのに?」

「……あぁぁぁぁぁ! そうだった! そうでしたねぇ!」

 

 現実を突きつけられた俺は蜂蜜酒を飲み干したのだった。




長編というよりサックリ終わらせます

次回作は異世界で女騎士やってるけど俺はヒロインじゃない! みたいな感じの、こう…(ろくろ)


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終わり。

サクっと完結。弟子君とお師匠さんその後は各々想像して欲しい。
え? 18禁ルート? なんのことかわからないですね(棒)


「弟子君弟子君、話があるんだ」

「なんですか急に」

 

 無人島から帰ってきて一月ほど経った。

 採取してきた満月草は、効力増強剤として見事薬にすることができた。この薬があれば、大抵の薬の効力を強めることができるのだ。傷薬に使ってもヨシ、魔術の媒体にしてもヨシ、診療にも使うことが出来るだろう。

 俺は、いつものように帳簿をつけていた。基本的に数字の管理は俺がやることにしている。というのもお師匠さんはどんぶり勘定で適当に収支を記録し始めるので、今月いくら使ったのかということさえわからないのだ。お金は大切だからな、大切なことは俺が握っておかないと不安で仕方が無い。

 

「あのね、生理がこないみたい」

「ははん、またまた俺を嵌めようとしたって、そうは問屋が卸さないぞ」

「……」

 

 お師匠さんはもじもじしながらお腹を撫でている。

 

「え?」

 

「え!?」

 

 

 

-------------

 

 と、というのが俺とあの人が正式に結婚するまでの経過であることは、言わなくても大体はわかってくれると思っている。

 あの人は、本当に俺の子供を授かっていたらしい。避妊とかしてなかったし、いずれそうなるだろうなという予感はあったけどな。

 なんでしなかったかって? そんなん、言えるわけがない。

 

「ぱぱー。ままが、またくすりをひっくりかえしました」

 

 もちろん言えるわけがないのだ。あの人がもともと男だったとかなんて。

 俺によくにた目をした黒髪の一人娘が、俺のところに報告しにきていた。あの人に似たのか、歩くのもしゃべるのも普通よりもかなり早かった、そんな子だ。

 

 あの人―――ようは、お師匠さん。妻が、照れくさそうな表情で工房から出てきた。

 

「てへ」

 

 二十(ピー)歳渾身のてへを聞いて、俺の表情は北極圏に突入した。

 仕事はできる人なんだが、こういううっかりというかずさんというか雑なところは結婚しようがしまいが直らないらしい。

 

「てへ じゃない てへ じゃ。何度目だよ………あーはいはいわかったから引っ込んでて。掃除するから」

「いやーんパパこわーい」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ………じゃ、ママと一緒に向こう行っててね。危ないからね」

 

 俺は体をくねくねさせているお師匠さんを横にどけると、腕まくりをした。

 掃除を任せるわけにはいかん。ひとたび掃除を任せると、それはもう、台風がやってきた後のような惨劇が待っているものだから。

 

「じゃ、よろよろ~。今日のご飯も期待してるからねぇ」

「ぱぱ。あとで、わたしといっしょにごはんつくりましょう」

 

 料理を練習しても一向に上達しない壊滅的なメシマズ(茶の淹れ方だけはうまくなったが)嫁と、俺の腰にも届かないくらい背丈が低いのに簡単な料理なら出来る娘がリビングに消えていく。

 俺は、やれやれと首を振って掃除に取り掛かったのだった。



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