新米ハンター成長記〜日々のご飯を添えて〜 (椅子)
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踏み出す一歩に乾杯を!

夏バテ予防に美味しいもの食べてたら書きたくなりました、あっちもちゃんと書きます、書きます、


 不幸、とは、どこにでもあるものだ。

 

 程度に違いはあれど、それは確かに、世界のどこかに存在するもの。

 生きているだけで不幸だと思う人がいる。

 なんでもないようなことを、不幸にしたがる人がいる。

 

 逆に、幸せもどこにでもあるものだ。

 

 程度に違いはあれど、確かにそれは存在する。

 生きているだけで幸せだと感じる人がいる、どんなことでも『いいこと』にしようと思える人がいる。

 

 なぜ、どうして。

 自分の今を見つめること、そしてそれ。どう捉えるか、それは人々が持つ当然の権利で、当然の行為だ。

 

 それが幸せでも、不幸せでも。

 

 では。

 突然現れた巨大な化け物に殺される。

 これはどうだろうか。

 

 間違いなく、それはとても『不幸』なことだ。

 

 不幸の後には幸せがやってくる。

 

 だから、その最大級の『不幸』の帳尻合わせに、最大級の『幸せ』が訪れるのは、きっと当然の摂理だろう。

 

 彼にとっての不幸は、自らを殺す巨大な化け物。

 彼にとっての幸運は、その巨大な化け物を、モンスターを一太刀の元に斬り伏せた狩人が現れたこと。

 

 彼はその姿に憧れた。

 

 彼はその姿に畏敬を覚えた。

 

 ゆえに、彼がそれに成ろうとするのは、なんらおかしなことではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 あの日から、数年の月日が流れた。

 

 少年は立派な青年に育ち、憧れた狩人への一歩を踏み出すこともできた。

 

 未だに小型のモンスターしか狩ることのできない青年ではあったが、確かに、彼は歩み続けている。

 

「いらっしゃい、いつもの席空いてるよ」

 

 いつもの、カウンター席に座る。

 

「あぁ、ありがと」

 

「タンジアビールと、モスソーセージでいいんだね?」

 

「うん、それで頼む」

 

 シンと静まった路地裏。客の少ない酒場に若い男の少し低い声が響く。

 

 赤褐色の髪に、真っ黒な瞳。顔の其処彼処にかすり傷があり、一際目立つのが右頬に走る痛々しい傷跡。

 

 纏った鉄鎧には無数の傷や凹み。

 隣に置いてある盾と片手剣。

 

 職業『ハンター』、名をユーリ・アストレア。

 

 まだまだ駆け出しハンターだ。

 狩った経験のあるモンスターはジャギィやランポスのような小型ばかり。憧れたあのハンターのようになれたであろうか、いいや、まだまだだろう。彼ならばきっと、リオレウスですら容易に狩ってしまう。

 

「はい、お待ちどうさま。達人ビールと、モスソーセージね、あとこれ、サービスのムーファの乳から作ったチーズ、口に合うかはわからないけど、良ければ食べてね」

 

 給仕の女性がニコニコと快活な笑顔を浮かべて、卓上にお盆を乗せる。

 なみなみと注がれた黄金色のビール、少し曇った銀の皿に載せられているのは、黒く、網目状に焼き目のついたソーセージと、黒いカビ? がまだらについたチーズ。ベルナ村の特産品、ムーファの乳から作られているらしい。

 

 ムーファの肉は美味いし、乳も癖があるが俺は好きだ。だが、チーズは話が別。作り手の腕が露骨に出る食べ物だし、原料のくせが一番出る。もちろん食べますけどね。

 

「よし、じゃあ、いただきます」

 

 一日の終わり、狩りの成功を祝して、たった1人の祝勝会の始まりだ。

 

 グビリと、達人ビールを一息に飲み干す。鼻を抜ける独特の苦味と、気持ちのよい炭酸が、疲れ切った体に染み渡る。

 

 ビールの苦味が消えぬうちに、モスソーセージにかぶりつく。

 水分がしっかりと抜かれ、燻製されたモスソーセージ。そのパリパリに焼かれた皮が香ばしい薫りを放つ。皮が破れると今度は、モス独特のキノコの風味の混じった肉汁。そしてプリプリとした食感のモス肉。

 程よく口に残る脂を、ビールと共に嚥下する。

 くはぁ、と息が漏れ出る。

 

「あぁ、美味いな」

 

 意図せず声が漏れ出る。

 

「さて、と」

 

 問題の、ムーファチーズに取り掛かる。黒いカビのような何か、その得体の知れなさに一瞬、手が止まる。

 が、ハンターは度胸と慎重! 

 

 ……どちらかというと慎重の枠に当てはまりそうな行為だが、変なものを出すような店ではない。

 

「ええい、ままよ!」

 

 ちびりと一口。

 

「……!」

 

 なんだこのチーズは。

 ムーファの肉と同じで、独特の癖があるかと思いきや、ゴーニャチーズに比べれば臭みや独特の癖など無いに等しい。その上、今まで食べてきたどのチーズよりも濃厚で、コクも深い。これが最高のチーズ、至高のチーズか……。

 これは、達人ビールで流し込んでいいようなものではない。

 これがあるから、ベルナ村では"ちーずふぉんでゅ"なる、野菜や肉にトロトロにとかしたチーズを絡め、アツアツのまま頬張る。そんな贅沢な料理が生まれるわけだ。だが、このチーズはきっと、熱すれば風味がさらに深く、強く、ともすれば癖が悪目立ちする程に活性化してしまうだろう。どんな、どんな味がするんだろう。食べたい、食べてみたい。きっと、知らない、未知の味だ。

 

 うん、そうだな、行こう、ベルナ村いこう。それがいい。

 

「なぁ、おやっさん」

 

 カウンター席の向こう、こちらに背を向けて料理をしているこの店の店主に声をかける。

 

「なんだ、小僧」

 

 凄みの効いた、渋い声。ハンターを始めたばかりの頃からずっとこの店に来ていたからいつのまにかお互いにおやっさん、小僧と呼び合うくらいには、仲良くなった店主さん。

 

「ここって、依頼受け付けてたっけ」

 

「ああ? あー、仲介くらいはするぞ」

 

「じゃあさ、ベルナ村への護衛依頼って来てたり……する?」

 

「知らん、ギルド行って探せ。チーズはうまかったか」

 

 取りつく島もない、が、まぁ、平常運行といえば平常運行。

 

「おう、最高だったよ。ベルナ村のチーズでいいんだよな?」

 

「そうかい、そりゃ良かった。そうだ、ベルナ村のチーズだ。あの村の奴と知り合いでな、時々送ってくるんだ」

 

「へぇ……なぁ、おやっさん。ちーずふぉんでゅってわかるか?」

 

「あ? 知らねえな、食ったことがねえ」

 

「ベルナ村の料理らしくてな」

 

「ほぉ、どんなだ」

 

「肉とか野菜に火を通して、トロトロに溶かしたチーズを絡めて食べるってのらしい。このチーズ、確かに美味しいし、最高のつまみなんだが、味が濃いせいか、いかんせん単体で食べ続けると飽きが来そうでな。肉だの野菜だのと合わせて食うのもまた違った旨さがありそうだ。おやっさん、作れるか」

 

 想像するだけでヨダレが止まらない。

 

「どうだろうな。作る作らないの前に、チーズがもうない」

 

「は?」

 

「お前に出したので最後だ、もともと量も無かった」

 

「……嘘だろ。じゃあ、なんだ。ベルナ村にいかないと食べられないってことか!?」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

「……ぐぬぬ……」

 

「お前の食い意地にはほとほと呆れる。ハンターなんだ、モンスターを倒すことをもっと意識すりゃいいものを」

 

「あいつら倒しても腹は膨れん。狩場で食うのはあんまり褒められた行為じゃねえしな」

 

「そうかい。そのちーずふぉんでゅってぇのを食いたきゃ、ベルナ村行くんだな。冬になる前にいかねえとな」

 

「おう、そうするよ。ごっそさん、今日も美味かった」

 

「当然だ」

 

「勘定頼むー!」

 

「気をつけていけよ」

 

「あぁ」

 

 パタパタと給仕が釣り入れを持って駆け寄ってくる。

 

「350zです」

 

「はい、チーズの分で100z追加しとくね」

 

「はい! ありがとうございます」

 

 ニコニコと釣り銭入れにお金をしまったのを見て、戸に手をかける。

 

「じゃあ、また来るね」

 

「おう、狩りは死なねぇ程度にな」

 

「お待ちしておりますね!」

 

 ひとまず、ベルナ村行きの竜車か、護衛の依頼見つけないとな……。




あとがきではその話で出てきたご飯の詳細や、ちょっとした小話を。

今回の料理

・達人ビール
皆さんご存知、訓練所の教官が作り出したと言われるビール。最高級のビールであり、ブレスワインや黄金芋酒などと肩を並べるほどだという。
作者はビール飲める歳じゃないから、ちょっとビールの描写わかんないんですよね。

・モスソーセージ
オリジナル……かな?
モスはご存知の通り、キノコを主食としています。生き物の肉は食べるもので香りや硬さが変わります。モスの主食はキノコ、とくに特産キノコや厳選キノコを好んで食べるモスの肉は、芳醇な香りのする最高の肉なんでしょうね。
最近のソーセージの皮は人工皮という話ですが、昔は豚の腸や、羊の腸を使っていたらしいですね。

・ムーファチーズ
ベルナ村の特産品、という設定です、おそらくあっているとは思いますが。
羊のチーズは、牛のチーズよりも臭みがなく、味が濃厚で、コクも深いという話を聞きました。これはタンパク質の種類の違いだという話です。作者は羊のチーズ食べたことないんですが、食べたことのある人の話だと、これを食べると牛のチーズが下に見える、とのことです。美味しければなんでもいい作者にはちょっとわからない話でした。

さて、今回の料理小話はここまで。次回もお楽しみに、です。


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毒抜きは慎重に

「あー……腹減った……」

ジメジメとした空気、生い茂る木々、水浸しの地面。止まない雨に、無数の羽虫。ここは水没林。読んで字のごとく、水に浸かったジャングルだ。

 

グルルルと唸り声を上げる腹。意思を持ったように唸り続ける自分の腹と、途方も無い空腹感に、沸々と行き場のない苛立ちが募る。

 

「クッソ、これなら干し肉の一つでも持ってくるんだった」

 

ちょっとした採取ツアーのはずだったんだが、緊急事態のせいでどうにも狩猟場から出られなくなった。

 

「なんでイビルジョーなんか……」

 

イビルジョー、恐暴竜と呼ばれ恐れられている獣竜種。

その特徴は、高い体温を維持するため、比喩なしにその地域一帯の生物を食い尽くす食欲と、どんな生物も一纏めに『捕食対象』と化す程の戦闘力。イビルジョーの強靭な顎に噛みつかれれば古龍でさえ逃れられないと言われるほど。

もう一つ、イビルジョーが厄介な理由がある。それを定住地を持たないこと。特定の縄張りを持たないということは、既に確立された生態系を文字通り破壊し尽くすという結果になり得る。そのためギルドではイビルジョーを見つけ次第監視。他のモンスターの縄張りに侵入した際には討伐依頼が出る。俺たちハンターの掟の一つに、自然との調和がある。つまり自然の調和を乱すイビルジョーはギルド、ひいてはハンターの敵だってことだ。

 

あと肉がまずい。いろんなもの食いすぎて臭い、苦い、へんな味がするという三拍子揃った要らない肉だ。雑食性の生き物の肉は大抵臭いが、その中でも群を抜いて臭い、あんなの食った日には他のものが食えなくなる。あと確か、龍属性を分解する酵素のせいでとんでもない臭いがするんだよな。すえたような刺激臭、到底口に入れたいとは思えないほどの激臭だが、匂いのきついものでも食べてみれば案外。

なんて話も聞く。あれはダメだったが。腹壊すぞ、あんなの食ったら。現に俺は腹を壊した。

おそらく最も嫌われているモンスターの一匹だろう。

 

あと、さっきも言ったようにとても危険なモンスター。俺みたいなへなちょこが勝てるわけないし、見つかったら死を意味する。いや、さっき見つかりかけて心臓止まるかと思ったが、命からがら逃げ出せて今は一安心。安心できねえけど。

 

でもキャンプから動けない。というかそもそもあいつがいなくなるか討伐されるまで狩猟場から出ることができない。

 

そして一番大事なんだが、匂いが立つとキャンプの位置がバレるから、料理できない、飯も食えない、携帯食料は本当に死にそうになった時用に取っておかないといけない。まだ我慢できるが、最悪の状況もありえる。

 

釣りでもできればいいんだが……。

竿があっても餌がない。キャンプ外に出られないから釣りミミズも取れない、と……。こんなことならルアー貰っとけばよかったよ……。

 

あぁ、寝ておこう。無駄に体力を消費する理由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腹が減った」

 

秒で目が覚めたよ。無理、空腹我慢は無理。少なくとも俺にやらせることではないね、うん、ない。断食とか絶対ダメだわ、俺に死ねと言ってるようなものだぜ。

 

やばい、まじでやばい。目がぐるぐる回るぜ。空腹のせいで妙な虚脱感あるし、これこのままだと死ねる。

 

なけなしの携帯食料……食うか。

 

腹が減りすぎてまともに力が出ないが、それでも支給品ボックスに手を突っ込んで探る。

 

あった。

 

小さな皮巾着に入れられた拳より少し小さめの球状の食べ物。

 

様々なものをまぜこぜに、それらを蜂蜜で捏ねて固める。

 

味は最悪、栄養価は高い、大量に食うとめっちゃ太る。大量に食えるほど美味くねえけど。

どんな味かというと、まず粉っぽさが来る。いくら蜂蜜で練られているとはいえ、量が量だ、すごい、喉乾く。そして細かく刻まれ、混ぜられた薬草だの香草だの木の実だのの渋みと甘さと香り。あまりにぐっちゃぐちゃで口内がひどいことになる。

 

進んで食う人はなかなかいないが、本当に困った時は最高の物だろう。最低でもあるが。これでも味は良くなった方らしい。昔は干し魚の魚粉だとか、干した肝の粉末だとかもつなぎに使われていて、良くなってもこれとか。この不快感にさらに生臭さもプラスされていたなんて、食いたくねえ。

 

取り敢えず、妙にモチモチした携帯食料を咀嚼しながらこれからどうするべきかを考える。

 

「取り敢えず最初にイビルジョーを見たのがここだな、7番エリア。餌を探してるのか盛んに鼻をひくつかせてたな。てかあれ、俺のこと気がついてたかもしれないな。風上だったし。位置まではバレなくてよかった」

 

さらさらとマップに印をつけていく。

 

「で、おそらく次に行くのがこっち、4番エリア。こっちはルドロスとか、たまにズワロポスがいる。餌にするならこっちの1番エリアのズワロポスもいるけど、7番から1番まで戻ってくる道はイビルジョーには狭すぎるし、もしもいるならここまで音が聞こえてくるからありえない」

 

シャッシャと1番に斜線を引く。

モチモチってかモチャモチャだなこれ、喉に詰まる。

 

「それと2番エリアに移動する可能性も高い、習性からして様々なところを歩き回るタイプだろうし。つまりイビルジョーと鉢合わないように動くには8番エリアの上っ側の崖を歩いて、9番に行くしかない、か。8番エリアの上っ側の崖もイビルジョーは来れないだろうが、あそこにとどまる意味もない。

 

取り敢えずイビルジョーに鉢会うことなく食料になるものを見つける、なるべく向こうで調理してからもどる。

 

口の中のものをごくりと嚥下したならば。

 

よし。

 

「出発!!」

 

パシャリと、恐怖にまみれた一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、寒い。流石に濡れすぎた」

 

いくら温暖期の水没林とは言え、洞窟の中は冷えるし、風が吹けば冷たさが倍増する。さぶい。今すぐユクモ村の温泉にゆっくり浸かりたい。あぁ、あそこの温泉で飲む酒がまた美味いんだ。確か米から作った酒だったか、大吟醸だのなんだの言ってたな。穏やかな風味と、優しい米の甘みが、心を落ち着けてくれる。あれは温泉でこそ飲むべきものだ、異論は認めよう。

風景を肴に酒を呷る、風流ってやつだな。

 

あぁ、うん、温泉入りたい。だから生きて帰らなきゃ。美味い飯、少し酔える酒、誰かの笑い話に、暖かい笑い声。なんて事のない日常だ、だから、ちゃんと生きて帰ろう。

 

「とりあえず、だ。フロギィでも狩って食うか。毒抜きは、まぁ、失敗しなけりゃなんとでもなるだろ。道具持ってたかな」

 

この洞窟を抜けて、少しいけばフロギィの群生地。そこに突っ込むのはちょいと危険だが、その手前、見張りのフロギィを誘き出しての二、三匹ならなんとかなる。

 

ただ、ドスフロギィがいた場合はちょっと面倒だな。俺が勝てる相手じゃないから、場合によっては断念して逃げてくるしかない。

 

ズシリと、どこかで重い音が響いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟を抜けた先は枯葉の積もった細道。木々はまばらだが、その分背の高い草が伸び、他のエリアとは少し違った雰囲気だ。

大型のモンスターは通れず、中型、小型であるドスフロギィやフロギィが巣にしているひらけた場所はここからしか行けない、他のルートは獣道を彷徨いながら行くしかない。

そして、大抵見張り役のフロギィが二、三匹、ここらにいるはず。

 

ビンゴ、大体4歳くらいのが1、2、3、4。あのくらいならなんとかなるな。よし、じゃあ。

 

ピピピ!!

 

竹笛を適当に吹き、注意を引く。狙い通り、体勢を低くしこちらに警戒を向けるフロギィ達。そしたら乾燥させたマヒダケ、ネムリ草を粉末状にして素材玉に込めた特性麻酔玉をちょうど真ん中あたりに投擲。湿気ないように密閉してあるけど、衝撃には弱いから簡単に飛散するはず。

 

ぶわりと広がった薄い桃色の粉末が煙状に広がり、フロギィ達を包み込む。

即効性が強くなるように調合をしてあるから、数分もしないうちに眠ってくれるはず。

 

その間にこっちはこっちで準備がある。

 

ここで調理するに従って、調味料と調理器具をある程度持ってきたから、あとは火を起こすだけ。

今回はユクモ村で打竹を、もらってきた。竹を一節に切って、そこに火種を入れたものだ。竹は燃えにくいし、火種の温度を一定に保てるから重宝する。あとは乾燥した木材でもあればいいんだけど、そう簡単には見つからないから、もったいないけど打竹の火種を多めに使う。補充したばかりだからなんとかなるはず。

 

盾を使って穴を掘り、片手剣で枝を切り、それを穴の中で炉組みしたら、真ん中に繊維状に裂いた木の皮を丸め、そこに火種を落とす。なるべく強めに、でも消えないように慎重に息を吹き込む。

 

木の皮に火が移ったらあとは全体に火が広まるのまつ、このとき無駄に炉をいじるのは禁物。

 

湿気ていなければすぐに着くが、いかんせんそう簡単にはいかない。

 

まぁ、いつもと違ってまだ食材の処理もある、火がつくまでゆっくりまってやればいい。外にイビルジョーがいるからか、フロギィ達の動きはあまり活発じゃない。ある程度までなら時間がかかっても平気そうだ。

 

 

 

よし、じゃあ次、フロギィの処理……といきたいのだけれど。説明が面倒なので割愛。

 

 

 

 

さて時間を飛ばしてフロギィの処理後。毒腺、毒腺に繋がった毒袋を取り、血中にも少し含まれてる毒素が肉に染み込まないように解毒草を丸一日浸けた水で切り口を洗いながら丁寧に血抜きをしたりだとか。解毒草水は持っておくと便利だ。解毒薬ほど効果が強くないけど、そのかわり簡単な消毒だとかに使える。

 

あ、そうそう。フロギィの毒は出血毒と呼ばれる種類の毒だ。文字通り血が止まらなくなる毒。打ち込まれれば出血多量で死ぬ。食べれば体内出血で死ぬ、なんなら臓器不全にも陥る。だから絶対に毒の処理と血抜きは手を抜いてはいけない。いかなハンターと言えども毒には弱い。

 

まぁ、諸々の工程を経て、ちゃんと食べられるお肉になりました。

 

体表の毒々しい赤色からは想像もつかない綺麗な白身。鰐とか蛇がこんな感じだな。淡白な味わいなんだろう。

 

さて、ではさっさと焼いてしまおう。久しぶりの毒持ちの処理だったから随分と時間を食ってしまった。そのおかげかしっかりと火がついてる。

 

白身はカバヤキにして食べるとうまいんだが、そんな贅沢なタレは持ってないし、匂いがとんでもないことになるから塩を振って普通に焼く。

毒消しの意味も込めてなるべくじっくりと、表面がパリパリになるくらいまでは焼いておきたい。

 

片面がしっかりと焼けたのならひっくり返して同じくらい焼く。生肉は意外と匂いがたつから、ここで全部焼いて行ってしまった方が楽か。

 

というわけで肉を焼き続けて数十分。

 

白身だから焼くと崩れやすくなるかと思ったがそうでもなさそうだ。しなやかな体を支えるしっかりとした筋肉が詰まってる。鶏肉に近い感じだな。これは塩で正解だったか。

 

ここで食ってもいいんだが、そろそろキャンプに戻らないと。

 

 

火をしっかり消して、火種を少し打竹に戻したら出発。

 

正直帰りが1番危ない気もするが、とりあえず戻ろう。肉はキャンプでも食える。

 

 

 

 

 

 

 

 

戻って来る途中は何もありませんでした。どっかでズシンズシン揺れまくってたけど終ぞこっちに近づいて来ることはなく、安心して肉が食えた。

 

で、肉の感想はというと。

 

見た目通り淡白な味だった。塩のみの味付けが肉の旨みを引き立ててくれるかと思ったが、解毒草の効果が思いの外強かったのか匂いがほとんど消えてたんだ。失敗したかな。あぁ、でも歯ごたえは楽しめた。プリプリだけど芯のある硬さというか、簡単に嚙み切れるけど、噛みちぎろうとするとほどよく押し返される弾力、繊維質だけど、それがまた食感にアクセントを加えてくれて、さらに楽しめる。多分フライが美味いのだろう。

 

まぁ、本来の目的が腹拵えと食糧難を逃れることだったから、一応目的は果たした。あと3匹分あるから五日間くらいは平気だな。

 

 

 

次は魚が食べてえなぁ。




今回のお料理(?)

・フロギィの塩焼き

フロギィって鰐っぽいなぁって思ったんですよ。多分喉の毒袋抜いて4足にしたらまんま鰐ですよあいつら、色のどぎつい鰐。
鰐の身は淡白らしいですね。爬虫類は大体淡白な身をしてるんですが、鰐は真っ赤なイメージがあった分、結構驚きました。味とかは鳥肉によく似ているらしいです。カエルとかも鳥肉寄りらしいし、蛇もそういう感じだと聞きました。本当はざく切りにして串焼きにしようと思ってたんですけど、流石に非常事態っぽい雰囲気で呑気に肉を串に刺し始めたら主人公くんヤベーやつですよ。狩猟場で料理してる時点でヤベーやつなんですけどね。

・イビルジョーの肉

作品の説明通り臭い、苦い、変な味がするの三拍子揃ったダメ食材。雑食性の生き物は酷い匂いがするのが普通なんですが、イビルジョーは食べてるものの種類と量が尋常じゃないので、多分臭いも尋常じゃない程酷いと思います。亀とかの独特の匂いは雑食性特有の匂いなんですけど、亀もなかなか酷い匂いがしますね。住んでる場所にもよるんですけど。その臭み抜きに使われるのは、薬味でお馴染みのネギとか生姜とか。モンハンの世界にありますかね、生姜。ホットドリンクに入れたら美味しいと思うんですよね。

今回はここまでですね。……お酒はまた今度、ということで。


では!また次回!


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釣りと猫、時々波乱

お久しぶりです


朝の森丘、エリア1の巨大な河で、ハンターが1人、くたびれた釣竿を握りしめ、水面と睨めっこをしていた。

 

「釣れねえ」

 

ざばーっと流れる川の水面。絶えず動き続けるそこに、ちゃぽんと糸を一つ垂らす。

針先には掘り出した釣りミミズ、ルアーは難しくて苦手だ。

 

かれこれ、釣りを始めてから1時間ほど。

見える魚は釣れないというが、見えていなくとも、釣れない時は本当に釣れないものだ。

先日の水没林の一件から、ずっっと魚が食べたくて仕方なかった。

サシミウオにキレアジ。はじけイワシにハリマグロ。たまに釣れる黄金魚。カジキマグロにハッカツオ。

どれが釣れても小躍りできるくらいには魚が食べたい。酒場で食うのと、釣ったばかりのを塩焼きにするのでは話が違う。が、しかし。釣れないのなら、食えないのと同じこと。

 

「エサがだめなのかぁ?」

 

針先でいまだに蠢く小さなミミズを突っつき、また川へと投げ入れる。

 

釣りは魚との化かし合いだ。魚は釣られたくない、こっちは釣りたい。

針のついた餌だとバレれてしまえば、よほどのアホでない限りは食いつかないし、突かれて終わりだ。魚は本能的だが馬鹿じゃない。知性がないかと言われれば……まあ。微妙なところだ。

ミミズの利点は匂いと"慣れ親しんだ"食料であるということ。人間だって初めて見るものは警戒するが、慣れたものは特に気にせず食べるだろう。全ての生物に共通して、慣れというものは大概恐ろしいものなのだ。

 

「……」

 

息を潜めて、ゆーっくりと針に食いつくまで待つ。

この時間が苦手だというハンターは多い。まぁ、狩場のど真ん中で呑気に釣りを楽しむハンターは極小数だ。いつモンスターが現れるとも知れない場所で能天気なのは褒められた事じゃない。

俺は、この時間が好きだから。

いやまぁ、早く食いたいけどさ。

期待してる時間って、一番楽しいんだ。

 

運ばれてきた料理のクロッシュを取る瞬間。

──閉じ込められた匂いが、今か今かと時を待ち侘びている。

 

肉が焼き上がるのを待つ時間。

──誰かが、料理を作ってくれる音。

 

待ちってのは大概、食い物が最高潮になる瞬間を涎をあふれさせながら待ってる時だ。

 

だから、食事ってのは待つものなんだ。

作ってくれる人がいて。かけてくれる時間があって。そこには確かに、心が籠ってる。

 

だから、俺は食うのが好きなんだ。

独りを埋めてくれる、大事なものだから。

 

まぁ、単に食欲に弱いってのは……あるが。

 

「にしても、釣れねえなぁ……」

 

燦々と降り注ぐ太陽の光、それを反射した川の水面に目を細める。

ざばざばとバケツをひっくり返したような川の音にため息を混ぜた。

その瞬間。

とすとすと軽い小さな足音。

何かと思い背後を振り向く。

──現れたのは。

 

「珍しいのお。ここに人が来るとは……」

 

長い耳、酒を飲んだ後のような赤い顔、体を支える杖に、背負った大きな籠。

そして、俺の半分もない身長。

 

「山菜爺さん……?」

 

師匠に聞いたことがあった。

狩場を点々としながら、いろいろな珍しいものを探している竜人族のお爺さんがいると。歳は……わからん。

 

「ほっほっほ。オヌシは……ハンターさんかのう。まだまだひよっこのようじゃ」

 

まなじりを下げ、ニコニコとヒゲを撫でさする山菜爺さん。

笑みを浮かべた理由がよくわからなかった。

 

「じいさん、どうしたんだ?」

 

本当にいるのだという驚きと、やけに親しげにしてくる爺さんに、若干腰が引ける。

 

「いやなに、ハンターさんが困っていたようだからの。知恵を授けてやろうと思ってなぁ」

 

「……困って……るな、うん。でも、釣りだぞ?そんな難しい知恵なんてあるわけ……」

 

「ほっほっほっ。そんな身を隠す隙間もない川底では、食いつく魚はお前さんを見つけておるじゃろうよ。流れの深い、少し緩やかな場所に投げるんじゃよ」

 

投げる場所?投げる場所なんてどこでも……。

いや、年の功って言うしな……やるだけやるか。釣れるんなら、なんでもいいし。

 

「わかった、どこら辺が良いんだ?」

 

「ほっほ、それは自分で探すんじゃ。いつまでも人に頼ってはいかんぞ」

 

「え、あ、ちょっ……いっちまったよ」

 

言いたいことだけ言って、また森の奥へと消えていった。

なんだったんだよ……。

 

「まぁ……いないもんを気にしてたって仕方ないかぁ……」

 

言われた通り、川底が浅く、魚が見えるような場所ではなく、深く少し暗い、いかにも何かいそうなポイントに餌を落とす。

 

「ほんとんに釣れんのk──うぉっ!?」

 

餌を落として数秒もしない、ほとんど落とした瞬間だった。

軽い竹で作られた釣竿が大きくしなり、ぎぎぎと音を立てる。

気を抜けば簡単に体が引きずり込まれてしまいそうな引き。これは……超大物だ!

 

無理矢理引っ張れば糸が切れてしまうし、かと言って穴に引っ込まれたら、その時点で釣り上げるのは不可能に近い。

力任せにいけないのは、やはり俺が未熟だからだろうか。師匠はすぽーんって魚釣り上げてたのになぁ。

 

「こん、の!大人しくしやがれ!」

 

右へ、左へ、上下に斜め。

魚の動きに合わせて竿を引けば、魚も負けじと大きくあばれる。

水中に時折光る巨大なものが見える。あれが獲物か。

 

「お前は!俺に!食われんだよ!」

 

気合を入れて、渾身の引き揚げ。

ぐぐぐっと大きく力がかかった直後。

 

ずるっと踏ん張った足が滑って尻餅をついた。

当然ながら、竿を持つ手は大きく動き、先程まで力では拮抗していたはずの魚が、水滴の輝きを纏いながら、水面から飛び出してくる。

 

黒緑と鮮やかな橙色の滑らかな鱗、少しだけシャクレた口に、引き締まった体。

そして何より、本来よりもかなり大きなその体。

 

「うおあぁぁあっ!?」

 

それが、滑って転んだ俺へとまっすぐ降ってくる。

凄えサイズだ、モンスターみてえ。

 

「ぐぶぅっ!」

 

ドスサシミウオと俺の額が凄まじい音を立ててぶつかり合う。

ドスサシミウオは脳震盪で動かなくなり、俺は数キロの物体が勢いよくぶつかったため額を抑えながら呻く。

 

どさっと倒れた俺と、死に体のドスサシミウオ。

 

なんだかやけに、虚しかった。

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

さて、少しして痛みが引いたのでドスサシミウオを捌いていこうと思う。

普通のハンターなら焼くだけだろうが、俺は違う。なんてったって腹が減ってる。

若干目が回るくらいには腹が減ってる、限界に近い。これなら焼いたほうが早く食えて良いんじゃないかと思いまする。

 

とまぁ、気を取り直して。

魚を捌く際に気をつけることは幾らかあるが、やりながらだな。

 

とりあえずシメて、血抜きをする。

血抜きをする際は尻尾付近の大動脈を切って水に晒せばいい。あらかた抜けたら捌きに入る。

あとは鱗取り。こちらは剥ぎ取りナイフの背でこそぎ落とす。キレアジと違って鱗が大きくないので、皮に引っ付いている力が弱い分、取りやすいが、鱗が小さく残ってしまうので念入りに。

 

ひとまず内臓を抜く。

剥ぎ取りナイフの刃先数ミリを、肛門からゆっくりと頭のほうにかけて慎重に動かす。

この際、こいつがメスで卵があったらもっと優しく時間をかけていい。

鮮度のいいサシミウオの卵は珍味だ。濃厚な味とコク、一粒一粒に内包された旨味が薄い皮を突き破って一気に口内を満たしてくれる。ユクモ村のショーユを垂らして食うのが最高に美味い。あれは素晴らしいね、幸せになれる。

 

腹が開けたら、今度は内臓を抜く。首のあたりには食道にあたる部分がついているので、そこを切って抜き出す。こいつの肝は食えない。というか、魚の内臓は何が潜んでいるかわからないからあまり食えたものではない。一度大きく腹を下したのでもう食いたくないしな。

 

内臓が取り出せたら一旦腹の中を洗い流す。川のすぐそばで捌くのはこのためだ。楽だからな。

 

内臓を切った際に溢れた血を洗い流したら、次は血合だ。血合いは血を多く含んだ肉だ。血とか血管のことではない。焼けば固まるし食える。が、今回は見送りだ。

 

血合いは背骨に沿うようにあり、内膜を切って削ぎ出す。

この際、身本体に傷をつけないように。サシミウオは身破れしやすい、柔らかい魚だ。痛みの原因になるし、何より血が混じると味が落ちる。ここも慎重にやる部分だな。

意外と血合いは綺麗に取れるので、少しだけ残った部分をこそぎ出して、また洗う。

一応、血合は撒き餌になるのだが、今回はこいつ以上のものは釣る気がないので、土に埋める。あまりやってはいけない。

 

血合いが取れたら、次は頭を落とす。

サシミウオの頭の肉は、人間で言うとつむじの部分までぎっしりとあるので、そこを切らないようにV字に切っていく。

エラの少し後ろから刃を寝かせて入れ、ススッとそのまま進ませる。頭の肉を通り過ぎた正中線で止め、反対の方も同じように。

 

背骨は太く大きいので、怪我をしないよう気をつける。

横から関節を狙って刃を入れれば簡単に切れるので、あまり無理をしないように。

料理中の手指の怪我は衛生的にも、気持ち的にもバッドだ。

 

頭を落とせたなら、頭の方はエラ取り、そしてまた血合い抜きをして完了。

 

最後に、メインである身だ。

 

魚の身は水に直接触れるととても良くない。痛みが速くなるし、何より味が悪くなってしまうので、ロアルドロスの海綿タオルでしっかりと水気を拭き取ってから3枚に下ろそう。

この際、尻尾側から頭にかけて丁寧に拭き取ると、鱗が刺さっていた毛穴のような部分に溜まっていた水も拭き取れて楽だ。

 

では、捌こう。

 

魚を捌くときは、表の背、腹。裏の腹、背の順で捌くのが楽だ。と言うかそう教わった。

 

最初に刃を入れるのは、黒緑と橙の境目あたり。背鰭の付け根は鰭と骨との付け根の部分が食えないので、それに沿わせるようにして刃を少しだけ入れる。

切り込みを入れたら、中骨と同じ角度で刃を進め、背骨と身が薄皮一枚でつがっている程度まで切る。

ここで鋸のように前後に刃を動かすと、身が削れてしまうのでなるべく刃は角度を保ったままスッとスライド。身を無駄にするのは、一番やってはいけないことだ。

背骨までいけたら、つぎは腹の方から同じ感じで。

こちらには、内臓を守るための硬い腹骨があるため少しだけ力がいるが、力任せすぎても身を傷つける恐れがあるので慎重に作業する。

このとき、背側と同じく背骨で薄皮一枚程度繋がっている状態にする。

そして尻尾側に刃を貫通させ、尻尾まで一度切ってしまう。

そのあとは身を傷つけないように気をつけながら、刃を進めよう。

これで片側が完成だ。長い。てかでけえ。ハリマグロ並みのサイズだな。

 

腹骨がジャギィの腹骨と同じくらい太いサシミウオってなんだよ。デカすぎる。

 

反対側も同じ要領だ。簡略化する。

 

捌き終わったらもう一回しっかりと水気を拭き取って、ひとまず完成。

骨抜きなんかは、まぁ、面倒だし、このサイズの骨なら、簡単に手で抜ける。

腹骨もいいサイズだし、かなり食いごたえありそうだな。

 

サシミウオらしく、サシミは勿論。塩焼きでもムニエルでもフライでも。脂の乗った最高の状態だから、何で食っても美味い。

干して保存食にするのも美味い、が。保存するほど滞在するわけでもないし、これはそのうちだ。

 

とりあえずベースキャンプに戻ってから、色々と試そうと思う。

かなりの大きさだ。腹一杯になるだろうなぁ。食い切れないなら、保存のきくようにしないと。

抑えきれない笑みを口の端に溢れさせ、BCへの帰路につく。

今回は採取ツアー。思う存分、飯が食える。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「なんだぁ……?」

 

ベースキャンプについてみれば、なんだかよくわからない生き物が転がっている。なんだこいつ。ボロ頭巾被った頭に耳が……猫?アイルーか?

 

随分、ボロボロだ。土に汚れた白い毛はむしられたように皮膚が見え、体表の至る所に、大きな傷がいくつも見える。うつ伏せで倒れているため、腹側に傷があるかは、わからない。

 

「ッ。おい、おい?アイルー!お前平気か!?」

 

口元に耳を近づける。息の音はする、正常だ。良かった、呼吸器系に傷はなさそうだ。

ぺしぺしと頬を軽く叩き、大きな声で呼びかける。下手に動かせないのは、大きな傷口がないかわからないから。もし傷があって、開けば失血死する恐れがあった。

とにかく、清潔な水で傷口を洗い流してやりたいのだが。

 

「おい!!平気っおぁっいっでえ!」

 

呼びかけに応じたのか、それとも反射的にだったのか、頬を叩いていた指を思い切り噛みつかれた。防具つけてるとはいえ、猫の鋭い歯は繊維をすり抜ける。痛え。

 

「に"ゃ"……」

 

喉が渇いているんだろうか、嗄れた声で一声。かなり弱っているし、水すら取れないほど何かに怯えているようだ。

 

「いって、いてぇ!ちょ、離せ!おい!お前どうした!」

 

がぶーっと噛みつかれたままの手。離そうとしないアイルー。心なしか齧られているような気すらする。

 

「おなが、へった。にゃ」

 

「はぁ……?……おう」

 

今にも死にそうな声でそんなこと言われたら、仕方ない。あまり他人に料理は作らないが、流石にそんなことも言っていられない。

 

「作るから、離せ」

 

「にゃ……」

 

今度は素直に口を離した猫助。料理の前に、とりあえずこいつの手当をしなければ。

 

「でもその前に、お前の傷の手当てだ。腹に大怪我はしてないか?」

 

「にゃ……大丈夫、にゃ」

 

「なら、軟膏塗るから、とりあえず身体を拭くぞ。持ち上げるから、暴れるなよ」

 

「……わかったにゃ」

 

ひょいと持ち上げた体は、随分と骨ばって、毛もぼそぼそごわごわと酷い有様。道中で何かに襲われただけじゃないなこれ。

 

「酷えな、何にやられた?」

 

濡らした清潔なタオルでゆっくりと身体を拭いていく。あまり力を込めると簡単に傷口が開きそうで怖いな。

 

「……にゃ……」

 

「言いたく無いか?」

 

「……にゃ」

 

あらかた茶色の汚れが取れたところで、今度は塗り薬を取り出す。

傷口は清潔にしないと破傷風の元になるし、軟膏で蓋をして薬効で治せば、痕も残りにくいだろう。

師匠直伝のこの軟膏、匂いがきつくてあまり好きじゃないが効果は確かだ。

しっかりと塗って、包帯で患部が外気に触れないようにする。

 

「……ありがと、にゃ」

 

「おう、まあ、飯も作ってやるから、少し待ってろ」

 

しょぼしょぼと縮こまってしまったアイルーをベースキャンプのベッドに寝かせ、必要な食材だけ取ってかまどへ向かう。

 

今回は、サシミウオの粥だ。

 

鍋で水を沸かし、酒、生姜、3枚におろした背骨、兜で出汁を取る。このとき、背骨にこびりついた身は貝殻などでこそぎ取って取っておこう。この部分の肉は味が濃厚で、脂がとても良く乗っている。

 

鍋の方が沸騰したら背骨を取り出し、今度は大雪米を入れる。

中火でじっくりと米がふやけるまで炊いていく。水分がある程度飛んだらOKだ。

切っておいたジャンゴーネギとねぎったサシミウオの身を投入。うーん、パンチのある食欲をそそる匂いだ。生姜は言わずもがな、ネギは臭い消しとしてとても優秀な食材だ。魚料理によく添えられたりしているのは臭い消しに使われるから。ネギ本来の甘さもさることながら、その消臭力は凄まじい。

 

少し沸騰したら、卵を軽くとき鍋に回し入れて、ゆっくりかき混ぜる。焦ってぐちゃぐちゃにしないように気をつけよう。最後は黒、白胡麻を振りかけたら完成。胡麻も香りの強い食材だが、今回は大きなサシミウオて出汁を取ってるから、多分このくらいでちょうどいい。

 

こうして、鍋いっぱいのサシミウオの粥の出来上がりだ。

 

「出来たぞー、歩けるかー?」

 

テントに向かって呼び掛ければトトンとベッドを降りる音。少し歩けるようになったか、回復早いな?

 

「いい匂い、にゃ」

 

「おう、ほら、これ座って」

 

椅子代わりの小さな箱を2つ。テーブルなんて無いので、タルの上に粥をよそった器を二つ置く。

アイルーが座ったのを確認したら。

 

「よし、じゃ、いただきます」

「いただきます、にゃ」

 

ぱんっと手を合わせ、食事の挨拶。

 

サシミウオの出汁が良く出てくれた上、ジャンゴーネギと生姜がしっかりと生臭さを消してくれている。とろみのある粥を掬って口に入れれば、胡麻の香ばしい香りと、サシミウオの出汁のさっぱりとした後味が最高にベストマッチだ。意味の重複?いいだろ。美味いもの食うと頭が悪くなるのは全人類、いや、全生物共通だ。

 

思いの外、大雪米が煮てもしっかりと形を保ってくれているのが驚きだ。というか、とろみを多く出し、かつべちゃべちゃになるほど水分を吸わない、最高の米になっている。美味い。

 

「どうだ?」

 

「美味しい、にゃ」

 

「そうか、良かった」

 

猫舌だからか、何度も冷ましては少しずつ食べていくアイルーに少しだけほっこりしながら、俺も黙々と食べ進める。

 

あっという間にお椀一杯を食べ終わってしまった。うーむ、箸が進むのはいいが、進みすぎる。見ればアイルーの方も、ぺろりと一杯食い終わり、けぷっと小さくゲップをした。

ま、美味いものを目一杯食うことは、何も悪いことじゃないからな。いいか。

 

 

「……さて、と。食いながらでいいから、何があったのか、聞かせてくれるか?」

 

一息ついてから、本題に入ろう。

もしも環境に悪影響を及ぼしそうなら、ギルドへの報告をしなければいけないし。そうでなくとも、何があったかは、聞いておかなければいけない。

 

やや、沈黙があって。ようやくアイルーがやけに重く、口を開いた。

 

「実は──」




今日のお料理

・サシミウオの(中華風)粥

本来は鶏ガラを使ったりするんですけど、鶏ガラ出汁なんてハンターが常備していたらそれこそやべー。というか、顆粒の鶏ガラなんてあの世界には無いと思う。
なので今回は三枚おろしにした背骨と、兜で取ったアラ出汁としました。ジャンゴーネギのパンチが強くワイルドな風味、そして生姜と一緒なら、下処理をしっかりしても出てしまう魚の出汁にある生臭さを緩和してくれるのでは無いかと。まぁ、割とアゴだしのひつまぶしだったりあるから、そんなに変じゃない……かな?鮭の切り身があるならご家庭で是非。さらさらっと食えてとても美味しいですわよ。
前回生姜あるかどうかわかんなかったけど先人様が生姜出してたので良いかなって。まぁ、多分ある。

話が変わりますが、サシミウオってかなりシャケなんですよね。モノクロにしたらおそらくですけど、まんまシャケです。鱗や鰭の形状なんかが一致しますし、なんか脂の乗った河魚って感じある。あと知ってる人も多い話ですが、シャケは白身魚です。白身と赤身はそれぞれ肉を構成するタンパク質の差から来ているものです。まぁ、白身は淡白、赤身は肉って感じです(IQ1)
シャケのような河で生まれ、海で育ち、河に戻るタイプの魚は海にいても河にいても不自然では無いため、サシミウオのようにどこでも釣れるモンハンの魚って形には良く当てはまります。多分シャケです。シャケダーッ!

モンハンの魚類は様々ですが、たぶん最も親しみがあるのはサシミウオですね。一番よく釣れる上、どこにでもいる、どこでも見られる。キレアジと並んでモンハンを代表する魚類と言ってもいいんじゃ無いかと。なお、Wに入ってからはドスと名のつく魚が出て魚アイテムがすごく強くなりました、ドスサシミウオのウロコにはよくお世話になった。
今回はしませんでしたが、おそらく鱗もとても美味しいと思います。魚の鱗を食うなんて、普通はしないんですけどね。

さて、長々と語りましたが最後に。

魚っていいよね。


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