Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです (這い寄る影)
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開幕 「咎人と少女」

幸運が三度姿を現すように、不運もまた三度兆候を示す。
見たくないから見ない、気がついても言わない、言ってもきかない。そして破局を迎える
だが、俺たちの世界じゃ、三度どころか最初の兆候を見逃せば終わりだ。

イノセンス キムの屋敷でのバトーの呟きより。


「さて哀れな。あの箱庭を破壊する準備は整ったが。これでは実に味気がない」

 

ケラケラと笑いながら影は言う。

偶々である。

その宇宙を観測したのは。

影がソレを見たのは。

愚かな人を憐れんだ人外の欠片が外に向かったが故だ。

故に彼は阿頼耶識と繋がり向こう側へと赴き。

”試練”の在り様として厄災を振りまくのだ。

 

「無数の輪の微妙な連鎖が、もっとも身近なものをもっとも遥かなものに結びつける。

目はいたるところに兆しを読みとり、あらゆる言語を薔薇は語る。

そして人間になろうと努力しながら、毛虫は形式のすべての螺旋をのぼりゆく。

すでに賽は投げられてあとは出目を待つのみ、だがそれでは意味がない」

 

コイツは無数の小さな起点を置いたに過ぎない。

それは世界にとっても利になるものではあるが、こいつが置くそれらは歪みとなっていく。

断てば断ち切るほど歪み大きくなり使用者を破滅させるのだ。

無数の小さな連鎖が共鳴し歪な災害となるバタフライエフェクト。

 

そんな混沌はふと思いつく。

 

「そうだそうしよう、オマエは何時も悪役だった。偶には英雄というのもいいだろう、なぁ、周防達哉」

 

 

扇動こそ我が喜び、虚飾の光こそ我が力。

そうだともと、彼は飽和し無に帰っていく世界を見て思いついたかのように嗤う。

 

 

 

「奪うばかりで与えていなかったなぁ、なれば与えてやろう、神なる力を、そして親愛なる理解者を」

 

 

影は笑いながら闇に溶けていった。

 

 

 

 

それと同時にたった一人っきりの世界で一人の青年が消失した。

 

 

 

 

 

 

 

マシュ・キリエライトはカルデアの施設内部を歩いていた。

それはレイシフト開始までの暇つぶしのようなものであり、たまたまの気まぐれだったのかもしれない。

窓から見る外は雪に覆われ空も顔を見せない。

ここにいるマシュは施設から出ることは許されず、故に空を見たことがなかった。

こうやってカルデアのロビーや通路から窓越しに見上げる空は悪天候で晴れることはなく。

曇っているか吹雪ているかのどちらかだ。

故に晴れと言う概念はデータ上のフォトだったりムービーだったりと仮想の物でしか知らない。

2016年の今日に至るまで。現在もなお仮想空間による疑似体験という一種の技術的領域には満たされていないのである。

ここカルデアのトレーニング用の空間もその括りからは逃れられないだろう。

魔術と科学技術の併用による、超科学的空間による疑似体験はできるが。

それはどこまで行っても疑似は疑似、限界というものがどうしても生じてしまう。

何かしら万能という訳ではない。

医療チームのトップたる『ロマニ・アーキマン』曰く「やはり本物に比べると無数の細かい粗がどうしても出てしまう」とのことのである。

現実は不形的であり無数の数式が混ざり合って不確定に蠢いている。

オリジナルの風景はやはり不規則に柔軟に動き、CPUで再現した物はどこか機械的に感じ、そこに齟齬を感じてしまうのだという。

故にこの施設から肉体の都合上出られないマシュは外の世界に憧れていた。

無論、それは残酷さを知らぬ少女の思いだからだろう。

現実はどこまでも辛い、人生云々は置いて、その天候でさえ不規則に牙をむく。

暖かさが田畑を乾かし、行き過ぎた雨水が濁乱を起こして破壊し、雪は肌に打ち付け、時に通路を封鎖し、道路は凍結し事故を引き起こす。

自然の厳しさはいまだなお、進んだ科学技術をもってしても克服しきれないのである。

それらは肉体的に生じる不便であったりする。

無論。現代社会は精神的にも来る、人間関係の軋轢やらなんやらも。

世界は万人に優しくはないし決して美しい物ではないのだが、今は置いておこう。

嫌でも彼女はこれから、それらの現実と向き合うことになるのだ。

 

そのきっかけがほら、その先にいるよ。

 

通路を歩いていくと。白い毛むくじゃらの愛くるしいリスとも犬とも猫ともつかない白い生物。

マシュが「フォウ」と名付け「フォウさん」と呼ぶ生き物が。通路にうつぶせに倒れている人物の頬を舐めて起こそうとしていた。

その存在は一種の異端的存在だった。

ここでは専用の制服で職業ごとに統一されているが故だ。

胸元に黒色の罰点印が刻印された赤色のライダースーツに身を包み。

ブラウン色の髪の毛をメッティカットという珍しい髪型で整えており。

苦悶に歪んでいるがその顔の造形はかなり整っており十分に美青年と呼べるものであった。

が、見ての通りカルデアの職員服ではない。

衣類からして違うのだからすぐにわかる。さてどうしようと、マシュは若干慌てた。

カルデアのセキュリティはそれこそ世界最高峰の物である。魔術と科学技術の両立による物理的または監視的にも最高峰である。

それこそ魔法使いやら最上位の死徒くらいしか正面突破や潜入は不可能だ。

ということは、この青年はカルデアに正規に招待された人物か、最後の候補なのだろう。

入口のシミュレーションで酔って着替える間もなく気絶したのかなとあたりをつけて近寄る。

 

「あの・・・大丈夫ですか?」

 

おずおずと声をかける。

それに合わせてフォウが前足でペチペチと青年の頬を叩くと。

 

「うっく・・・ここは?」

 

青年はゆっくりと瞼を開け苦しそうに呻くように典型文を呟いた。

理解が追い付いていない、あるいはシミュレート酔いによる記憶の混乱か・・・。

身をゆっくりと起こして、彼は胡坐をかいてしばらくボゥとする。

マシュはなんと声をかけていいのかわからず青年を見下ろす形で立ち尽くした。

 

「フォーウ!!」

 

フォウが唐突に青年の服を掴んでよじ登り始める。

青年は少し困惑しマシュは慌てた。

 

「ダメですよ、フォウさん、彼が困っているじゃないですか」

「いや、いいよ」

「え? でも迷惑そうですし」

「・・・・少し困惑しているだけだ。それにこういうのは嫌いじゃない」

 

何処寂しげに、苦悶をかみしめるように青年は言う。

どっからどう見ても大丈夫ではないとマシュは思った。

なぜなら本当に辛そうだから。我慢して我慢してすり減らしきってしまったかのような表情である。

マシュが困っていると、それに青年が気づいたのか。

 

「すまないが、ここはどこだ?」

 

青年は話題を切り替えると同時に、現状を確認すべく問う。

また自分は罪から逃げたのではないかと思ってしまったからだ。

であるなら状況を確認し戻る手立てを立てなければならないからである。

 

「・・・ここは人類の未来をより長くより強く存在させるための観測所、人理保障継続機関カルデアです」

 

青年は初めて聞く機関の名にかつてかかわった流星塾のようなニュアンスを感じ取って顔を顰めるほかなかった。

 

「そうか、そういえばまだ自己紹介がまだだった。俺は周防達哉だ。君は?」

「ええっと・・・」

「どうしたんだ?」

「いえこういう自己紹介を自らするというシチュエーションは初めでして・・・少しどうすればいいかわからないんです」

 

青年は「周防達哉」と名乗った。

マシュも彼の自己紹介に返そうとするものの勝手がわからず少し考える仕草をする。

 

「・・・そういう時はとりあえず名前を言って。ヨロシクとか。そういう感じに言えばいい」

「そうなんですか?」

「全部が全部という訳じゃないが、少なくともこの場でならそれで通ると思う・・・、俺も人付き合いが得意な方じゃないんだ。まともな事言えなくてすまない」

「いいですよ、参考になりますから、ありがとうございます!!」

「・・・それならいい」

 

彼は困った風に俯いてしまった。

マシュに対する適切なアドバイスができずに自己嫌悪に陥っているのだろう。

 

「あ、じゃ自己紹介します!! 私はマシュ・キリエライト、ここの職員みたいなものをしています。よろしくお願いします、先輩!!」

「先輩?」

「はい、ええっと年上みたいですし、ダメですか?」

「いいや気にしない。それでだ。マシュ、適当に休めるところがないか。まだ意識がはっきりとしないんだ」

「あっ、じゃこっちです、休憩所がありますので」

 

マシュの後ろにふらふらとした足取りで達哉はついていくのだった。

 

 

::::

 

 

兎に角と、マシュに現在の情報を聞く。

現在、ここの組織は魔術によって人理、すなわち人間の歴史を観測し未来を保障するという組織であるらしい。

だが問題が起きた。観測機に映っていた人理の光が突拍子もなく消え始めたらしいのである。

原因は過去に起きた事象がねじ曲がったことによるタイムパラドックスによる現在の崩壊とのことである。

つくづく因果なものだと達哉は思いながらミネラルウォーターを口に含んで飲み干す。

 

「それで、その因果律崩壊にどう対応するんだ?」

「レイシフト、すなわち疑似的に人を霊子化させて異なる位相 時間軸の歪みを利用し、その償却地点となっているポイントに転送、システムFateによる英霊の使役で歪みの原因となっているものを取り除くというのが今回の作戦の大まかなものです」

「・・・」

「どうかしましたか、先輩? 顔色がすごく悪いですよ?」

「いや・・・、なんでもない」

 

過去に起きた歪みを呼び出した英雄を使って除去する。

まるでかつての己のようにだ。

気分がすぐれなくなるというものだ。

 

「それで、一応、俺はこんなことにかかわりあった記憶は無いのだが?」

「え? そうなんですか? タブレットには48人目として登録されていますよ?」

「なに?」

 

自分のいた場所は一人であった。

こういう場所もなければ組織もないはずだというのに。

いつの間にか“人のいる世界”に居て怪しい組織に登録されているということに達哉は内心押し殺しつつもややこしいことになっているため。

表情を押し殺し、表情を固定しつつ驚きを見せる。

マシュに差し出された。達哉に馴染みの無い平板上の機械。読んで文字の如くタブレットには己の顔写真がとられていた。

ご丁寧にバイクの免許に乗せた時の写真である。

 

マスターNo.48 周防達哉

霊基属性 善中立

塩素配列 ヒトゲノム

年齢 19

性別 男

身長 181cm

体重 68k

血液型 B

 

レイシフト適性 S

 

 

と表記されている、ご丁寧に生年月日は自分の見覚えのない年月になっていた。

また“罪”から逃げ別世界の自分に憑依したのかと思ったが。以前のような記憶はない。

つまり憑依前の記録が読めないあるいはないことから。憑依したとかと言うわけではないと直感が囁く。

脳裏によぎるのは黒色の怪物。

太極の黒、普遍的無意識下の悪意の総意たる神であろう。

 

「先輩、大丈夫ですか? 顔色が優れないですよ?」

「え? ・・・ああ少し故郷が恋しくてね、ホームシックというやつだ。」

 

マシュが心配するように横から達哉の顔を伺いつつ心配するが。

達哉は誤魔化した。

疲労感が凄まじく考えがまとまらない故である。

その時だった。

 

「マシュ、こんなところに居たのか」

 

モスグリーンのスーツにシルクハットを被った。

ぼさぼさの長髪が特徴的な紳士のような男性が来たのは。

 

達哉のペルソナがざわつく。

 

アレは良くないものであると嘯くのである。

だが初見の人間?相手にペルソナを怪しいからと言ってぶっ放すのはどうかという問題もある。

第一に殺しきれるかという問題もある。

コンディションは最悪でそれをやって意味があるのかという話もある。

自分は生きなければならない故にと達哉は脳裏に浮かべたカードを心の奥底にしまった。

 

「っと。マシュ彼は?」

 

此方に気付き何やら驚いたかのような表情を男性が取りつつ達哉の事をマシュに尋ねる。

 

「ええっと先輩は一般公募枠の最後のマスターです。先ほど到着なさったようで」

「ふむ、少し待ってくれたまえ」

 

男性が腕時計型の端末を操作し3D映像を投影する。

それは達哉の見たことのない電子機器であった。

まぁ彼のいた時代は1999年代である。

そこから16年の月日が流れればこうも技術は発展する物であろうと達哉は納得し。

或いは魔術的な物も組み込まれている故に、こう異常な発展をしているのかもしれないと納得する。

男性は映像に触れて名簿をスライドさせ。

達哉のプロフィールを閲覧し確認する。

 

「確認した。ようこそ周防達哉君。私はレフ・ライノール、此処の一部門を任されているものだ」

「周防達哉です、よろしく」

 

軽めの自己紹介を済ませて。

互いに握手を交わす。

達哉のペルソナが震えた。

 

「それよりもだ。作戦ブリーフィングが始まっている。マシュも周防くんも急いでレイシフトルームへと向かってくれたまえ」

「あのレフ教授、先輩は此処に来たばかりで、それとシミュレーションの酔いにやられて酷い疲労です、とてもではないですが。

レイシフトとミッションに耐えられるような状態では」

「それでも一応ブリーフィングだけでも出てほしい、ミッションから外すように私が手配しておくが。万が一もある。

長旅でマシュの言う通り疲れても作戦の概略だけは触りでも知ってほしいからね」

「ですが」

「ここにきている時点でそういったことは覚悟しているはずだ。違うかい?」

 

食い下がるマシュを諭しつつ。

視線を達哉に向けてそうだろう?と問う。

達哉も一応知っておきたかったゆえにYESと答えた。

それに満足したかのようにレフは満足げに頷きつつ場を後にする。

 

「すいません、先輩、レフ教授も疲れているようで何時もと様子が違いますが優しい人ですから・・・、あの」

「大丈夫だよ、マシュ、俺は気にはしていない」

 

いつもと違い多少強引なレフを見て達哉が不快になったら不味いとマシュがフォローを入れる。

もっとも達哉は気にしては居ない。

強引さで言えばハンニャの方が酷かったからだ。

 

 

:::::

 

眠気がひどい、向こう側での疲労も残っている

今思えば心安らかに寝ていなかったなと思い、こんな頽落では所長も怒るだろうというものだ。

達哉はブリーフィングから叩き出されていた。

あまりにも長い演説につい寝てしまったゆえである。

レフがフォローする間も無くヒステリックに叫び散らされ叩き出されて現状に至るということだ。

叩き出されたのち、達哉を心配してブリーフィングルームから自主的に出てきた。マシュに案内されて。

自室へと目指している。

その過程でぐるぐると思考が廻りに廻った。

達哉を取り巻く状況の巡るましい変化に彼自身がついて行けず。

自分自身のあり様に整理を付けようと思考が動いている。

本来であれば彼自身が此処にいることが可笑しいという状況だからだ。

前のように此処の周防達哉に憑依したという訳でもない。

憑依したのなら前と同じように憑依先の記録が分かるはずだからである

となると向こう側からダイレクトに転送されたとしか思えない、情報を組み合わせるとそうなる。

『奴』ならそれが可能だ。『奴』は向こう側とこちら側を完全に把握していた。

となると人間という知性体がいる限りその領域は『奴』の領域となるだろうから

人理焼却、人理定礎復元。

まるで自分が行った罪を起因とする事件を解決するようなことである。

ともなると巻き込まれたという方が正しい。『奴』は確信犯であり愉快犯でもあるからだ。

 

マシュと別れ、渡されたカードキィを差し込んで部屋の扉を開く。

すると甘い匂いが鼻孔を擽った。

砂糖菓子などの特有の匂いである。

達哉の家庭がああなる前は。パティシエを目指していた。兄の「克哉」が作ってくれたものだ。

そしてそういう類の菓子でベットを占領し、PCを目の前に置きながら熱狂しているポニーテールの白衣の青年が一人存在していた。

ヒップホップが流れている。曲調からして、アイドル物であろう。

 

「あの・・・」

 

達哉は邪魔して悪いかなと思いつつ声をかけた。

 

「わぁ!? だっ誰だい!? ここは空き部屋でボクのサボリ場所だぞ!! 誰の断りで入ってきたんだ!?」

 

なぜかオーバーな驚き方をされた挙句に逆切れされた。

達哉はため息をつきつつ自分の認識上の一応の身分を言う

それを言うと。青年はあーと声を出し

 

「とすると君が最後の適合者か、ボクはロマニ・アーキマン、此処の医療主任をしているよっと、ところで君、ブリーフィングはどうしたんだい?」

 

青年の名は「ロマニ・アーキマン」というらしく、しかも医療主任ときていた。

つまるところカルデアのメディカルスタッフの統括責任者である。

ぶっちゃけ、今の状況的にさぼっている方が可笑しいのは達哉以上にロマニの方が可笑しかった。

 

「いや、その睡魔に耐えられなくて・・・」

 

事実を述べると、ロマニは納得したかのようにうなずく

 

「うちの所長はプライドは高いからなぁ、学校の朝礼中に眠っていた生徒を怒鳴り散らして起こす校長の如しってやつさ。もっとも所長もあの年でアムニスフィアの当主に据えられちゃってね、あれでよくやっている方なんだけど。まぁ貴族同士の争いやら柵やら、プレッシャーとストレスでああいつもカリカリしているんだ。そこにスポンサーが望んでもいないカルデアスの不調と特異点の観測で余計ね。でもね悪い子じゃないんだよ、そこはわかってくれると嬉しい」

「・・・自分も家でちょこっと、いろいろありましたので。所長の心境はわかります」

 

オルガマリーを見て思ったことはそれだった。自分と一緒だったから。

同類というのは嫌でも目に付くものであるから。

二度と会えぬ、何故置いて行ったのと言うことすら許されなかったのだろうあの様子ではと達哉は思いつつ言葉を口にする

 

「あっなんかごめん・・・」

 

ロマニはバツが悪そうにするが達哉は気にしていないと返しておいた。

一応、決着をつけた分だけ自分の方が恵まれているからである

 

「ところで、ミスタ・ロマニはなぜここに? 見た感じでは危険が伴うような実験の様ですけれど・・・現場待機しておかなくていいんですか?」

「それは君と一緒さ。僕も怒られて待機命令中なのさ、うんちょっと君」

「はい?」

 

ズイっとロマニが達哉に接近し医師らしく達哉を見る

 

「体調がすぐれないのかな? 見た感じ、精神的に疲弊しているみたいだ。カルデアのテストでってところじゃなさそうだ、目の下に隈もある・・・、というか肉付きは良いけどあからさまに栄養失調気味だぞ。君、うん、叩き出されたのはある意味正解だね」

 

ロマニはパッと見た感じで達哉が具合の悪いことを医者らしく理解した。

パッと見た感じは良いがよく見てみればどこかで断食やら過酷なダイエットでもしてきたの?というレベルである

もし達哉がそのままレイシフトに参加するならロマニは身を張って止めて、医療室に叩き込んだであろう位にはだ。

 

「とにかく休むこと。腹が減っては戦は出来ぬっていうしね、良いね?」

「あ、はいわかりました」

「あと寝てからでいいから医務室に来なさい詳しい診察はそこでするから、じゃ僕はここ「Pipi」っと呼び出しだ」

 

言葉を発しつつノートPCをたたんでお菓子を片づけつつロマニはそういう

達哉としても医者の言うことには逆らえない。

状況の理解に思考が追い付かない。とにかく休み。ロマニの診察を率直に受けることにする。

そうしている間にもロマニは腕時計型の通信機から投射される映像に向かって何か話している。

 

『ロマニ、そろそろ実験開始だ。あと人員のバイタルサインに若干の乱れがある、一応の事も考え現場に戻ってきてくれたまえ。医療室で待機しているはずだから二分もあれば来れるだろう?』

「うん。もちろんさ。それにしたって。バイタルの乱れ? 緊張してるのかな。一応麻酔とメディカルキットをもっていくよ」

『心得た。だが早くしてくれよ。オルガマリーのストレスも限界値なんだから』

「分かってるって。じゃまた」

『ああ、また』

 

どうやら通信内容に聞き耳を立てればついにレイシフトとやらが始まるらしいのだが」

 

「・・・ロマニさん、ここから管制室まで走っても結構時間かかりますよ」

 

達哉は来た道を重い出しながら言う。

地味に長い道のりだった筈だったなと。

戦闘で走り慣れてはいるが、二分となれば無理だと達哉も断言できる距離をだ。

医者故体力はありそうなロマニであるものの、運動し慣れているといえば無いと言い切れるレベルの彼が二分で到着できるかは疑問である

 

「あははは・・・どうしよこれ」

「いや俺に聞かれても」

 

乾いた笑いを浮かべてロマニは問うてくるが。達哉に満足のいく答えを持ち合わせてはいなかった。

 

 

「うんこりゃ雷確定だ・・・。あ、これ食べてくれていいから」

「あ、ありがとうございます」

 

煤けた感じでロマニは菓子の乗った皿をテーブルの上に置き食べてもいいからと言いながら部屋を後にしようとする。

達哉はいたたまれない気持ちで礼を言いながらベットに足を運び・・・

施設全体が振動に包まれた。

腰を抜かして倒れるロマニ。

達哉は長年の経験から。これが爆発による振動だと瞬時に見抜く。

 

「ロマニさん!? 爆発があったみたいだが。そんな風になる実験だったのか!?」

「まさか!? 逆だよ!! 爆発なんてそれこそ爆薬でも持ち込まなきゃ起きないようになっているはずだ!? 周防君、僕は管制室に急ぐ、君は此処に居るんだ」

 

確かに指示に従えば楽だろう。

だが彼の脳裏にマシュ・キリエライトという存在がよぎる。

出会って一時間程度とはいえ、久々の人との会話で情が沸かないとなれば嘘になるから。

救いたい、無事であればそれでいいと思い。

彼はロマニの申し出を断った。

 

「一応、こういう状況にあったことがあります、簡単な救命処置程度はできます、だから自分も・・・」

「・・・わかった。手伝ってくれ」

 

管制室が爆破された以上人手は手薄になっている、正直猫の手も借りたかった。

危険だといっても彼の決意は揺らぐことは無いだろうと彼の瞳に灯る決意の意思を見てロマニは了承する。

 

 

::::

 

達哉は炎の中を走る。

広大な管制室の中を生存者を探してだ。

だが大よそあるのはかつて人だった物の肉片と血と臓物である。

コフィンに入った連中はコフィンの保護機能というよりも作りの頑丈さで傷は一見してないように見えるが。

生命維持装置との繋がりが途絶えており一刻も早くコフィンから出さなければならないような状況でもある。

だが自分ではどうのこうのできるような物でもないため施設復旧が早急に終わることを祈るほかない。

ため息をつくと。

 

―フォーウ―

 

フォウの鳴き声がした。彼? も此処に居たのかと鳴き声のする方向へと行く。するとそこには。

 

 

「うう・・・」

 

崩落してきた瓦礫に下半身と左腕を押しつぶされたマシュが倒れていた。

 

「マシュ!!」

 

達哉が彼女の名を叫んで、駆け寄る。

瓦礫の撤去は不可能、ペルソナ能力で消し飛ばせば。その衝撃に彼女が耐えられないし瓦礫がどこに飛んでいくかわかったもんじゃない。

そして・・・

 

(・・・・だめか)

 

達哉は回復魔法をマシュに掛ける。

すでに出血量からみて下半身がぐちゃぐちゃだろう。ショック死していないのが不思議なくらいであった。

それでも彼は駆け寄り回復魔法をかけた。一種の鎮静魔法のようなものだ。痛みだけを和らげるだけ。

 

「先・・・輩・・・、にげて・・・ここは、崩壊・・・します」

「後輩見捨てて逃げる先輩がどこにいる!! 大丈夫何とかなる、だから・・・」

 

 

暖かい光がマシュを包み込む。

達哉の顔は苦渋に満ちていた。根拠なき希望を言っているのではない。

達哉自身知っている、もうこれは助からない、だからせめて安らかにという自己満足。

自分も傷つける優しい嘘。

マシュもそれを見て己が死期を悟る。だから彼の心情を理解したのだ。

 

「先輩・・・一つ。だけいいですか?」

 

今日が出会って、初めてだけど。

心優しい嘘を付けるくらい優しい人だった。

だからこう思う、ありがとうと。

 

「ああ、なんだ?」

「手を握っていてほしいんです」

「分かった」

 

 

 

警報は解除されず鳴り響く中

 

達哉がマシュの手を握る。

暖かい掌だなぁと思いながら。

2人はレイシフトの光へと飲まれていった。

 

 

 

 

 

-かくして罪人は特異点をめぐる戦いへと巻き込まれる、それは破滅か栄光か、いずれにせよ、英雄譚という物は結果的には不幸な結末で終るのが常である-

 

 

 

 




外宇宙を観測しようとした某魔神柱のせいで『奴』が紛れ込んじまった話。

所長が何とか生き残って人間的に成長したりペルソナしたり。

憑依神をたっちゃんと召喚したり。

ジャンぬが覚醒して冥王になったり。

オガワハイムあたりでロマニが『奴』に宝生永夢ゥ!!されたり。

獅子王と第一の獣が『奴』にm9(^Д^)プギャーされたり。

『奴』が賢王に賢王パンチでボコられたりする話。

『奴』とか英霊たちとか初投稿で人生初めてのSSなので書き切る自身がないので誰か続き書いてください。


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第0章 A.D.2004 「炎上特異点 冬木」 人理定礎C
一節 「状況急転・戦闘開始」


人間の直感は精密ではないが正確だよ。滅多に故障しない。


戦闘妖精雪風 妖精の舞う空より抜粋


夢だった。

無垢な少女が触れているのはいつかどこかの夢。

 

―駄目だ。忘れたくない―

 

誰かの声が響く。

 

―忘れられるものか―

 

絞る出すような拒絶と懇願を含んだ擦れる様な声。

 

―皆、行かないでくれ。もう俺を―

 

 

ノイズ。

夢にノイズが走る。

 

 

 

―汝の名を問う―

 

 

 

そのノイズに紛れて男とも女ともつかぬ声が響き渡る。

 

 

ノイズに紛れて誰かの叫びがこだまする

 

 

―私は―

 

 

少女は答えようとするその荘厳なる声に。

或いはあの悲痛な声の叫び主に。

だが名前が出ない。

まるで巨大な岩を前にして前に進めぬ登山家のように。

ぱくぱくと口だけが動く。

ノイズが酷くなるそれは波のように唸りを上げて少女を押し流そうとする。

 

 

―汝の名を問う―

 

 

流れに抗いつつ手を伸ばしその声に向かう。

どうしてそうするのかは分からない。

心が突き動かされるからその衝動に乗って少女は抗う。

その中で荘厳な声だけが響き渡る。

最後のチャンスだとばかりに。

 

―私はッ―

 

ノイズは酷くなり津波となって少女の声をかき消していく。

 

だが。

 

 

―承知した。ここに契約はなった。汝に言祝ぎを。■■■・■■■■■■。―

 

 

声の主には聞こえたらしい。

契約はなったと告げて声は去っていく。

ノイズが波のように少女を押し出し押し上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、う・・・・」

 

 

達哉は全身を打ちつけたような痛みに耐えながら身を起こす。

あの事件と事件の果てに、達哉はペルソナ能力もあって人間を外れた身体能力を持つし。

悪魔の攻撃を食らったことも数えきれないくらいだ。

痛みには慣れっこだしこの程度で壊れるほど軟でもない。

マシュが倒れている、急いで駆け寄る。

 

「息が有る? それにあの大怪我が完治している上に、命の輝きが戻って・・・ いや、増している?!」

 

マシュはうつぶせに倒れていたがきちんと息をし生きていた。

肉体の傷もすべて癒えており、魂の輝きが以前より増している。

上位の英雄を降ろしたかのようにだ。

揺らすのは得策ではないと、安全に横たえられる場所はと思い。

 

唖然とした。

 

周囲は地獄のような露呈を呈している、町は燃え上がり、建物は倒壊している。

地は砕け木々は倒れて水は泥のように汚染されている。

大気中を濃い魔力が漂い、町全体が巨大な結界でおおわれたかのように一個の世界となっていた。

まるで自分の故郷、そこで起きた噂が現実として成立する特殊空間。

即ち特異点の如き露呈を呈している。

まるであの幼き頃の神社での出来事が拡大したかのような惨状だ。

カルデアの面々が言う事が本当であれば、レイシフトという時間跳躍逆行に成功し、異常のみられる特異点の時代へと飛んだ訳なのだと、兎に角自分自身を納得させてマシュを背負って移動しようとしたその時。

 

「ッ・・・」

 

右手の甲に痛みが走り、赤く燃え上がるかのように太陽を象った紋章が浮かびあがる

それと同時にマシュの身体が光る。

 

「なんだ?」

 

膨大な魔力が彼女に流れ込み変革させていき光る。

達哉から見れば悪魔に近い存在へと。

そして光が融ける、そこには黒がメインカラーで紫のアクセントが加えられたタイツ型の衣類というエロい服装を身に着け、巨大な盾を持ったマシュが立っていた。

 

「・・・」

 

思わず達哉は痴女かと言いかける物の、状況が状況なので何とか口に出る寸前で言葉を呑み込む。

本当に状況に付いていけない、なんでこうなったのだ?

奴か? 奴のせいなのか? と。

達哉は現状への責任と混乱を”奴”に押し付ける。

それは行けないことだが状況認識が追い付かず仕方が無いことと言えよう。

 

「あの先輩?」

「・・・すまない、どういった状況なのか理解が追いつかない」

 

呆然としていた達哉にマシュが心配そうに声を掛ける。

マシュからしてみれば素人同然の達哉ではしょうがないと思うが。

達哉自身はこの道のプロと言っても過言ではない。

もっとも此処に来てこの世界の在り方もわからぬうちに急展開に次ぐ急展開なのだから分からないのは当然である。

マシュが説明をしようとして、悪寒が背筋を走り抜けた。

2人とも咄嗟に構える。

達哉は素手だが空手の構えをとって、マシュは盾を構えた。

達哉が感じるのは悪魔とかそういう類の気配と殺気であった。

 

「説明は後の様だな」

「はい、ですが先輩は下がっていてくださいアレは「普通じゃないんだろ?」

 

達哉はマシュの言葉にそう返す、刀が有ればいいのだが手元にはない。

素手で対処できる範疇でならすることはしよう、あの場所にいたがゆえの不規則かつ気の抜けない生活のせいで。

この場に移動した時の影響で精神が摩耗しているのがよくわかる。

ゆえに無理はできない、達哉としては悔しい話であるけれどマシュに頼らざるを得なかった。

だが、マシュ自身も何かしらの影響で人外染みた力を手にしたとは言え。戦闘経験は無い様にも思える。

突撃銃を持ったは良いが効率的に使えないという状況だ。

ならば経験のある自分が指揮を執りつつマシュの背後を固めるのが合理的だと判断する。

 

「背中は任せろ、自分の身を守れるくらいには鍛えている。生き残りを最優先に入れつつ敵を破壊する」

「分かりました。マスター」

 

万が一に備え、ペルソナをスタンバイする。

敵は典型的な骸骨、自身の知る敵とは違うが。圧倒的に弱い、所謂雑魚、敵に知性が有れば斥候規模だ。

周囲に敵部隊が広範囲に展開しこちらを探っていることが考えられる、迅速に始末する必要性がある。

知性が無ければ獣の如き群れなのだろうが、騒ぎを聞きつけ集まってくることも考えられる。

いずれにせよのんびりしている暇ない。

 

「たぁ!!」

 

マシュは、人を越えた膂力で走り盾を振り抜く。

如何に盾とは言え、ここまで巨大な盾となると。重量を利用した。殴打武器として機能する。

マシュの今人外的身体能力で振るわれれば人なんて簡単に殺傷できる。

達哉も手慣れた手つきで応戦していた。

如何に骨の怪物が、人の膂力を越えていると言えど、このような敵とは日常茶飯事に戦っていたのである。

マシュを抜けて来た骸骨を組み伏せて骨を砕く

致命打にはならないが時間稼ぎにはちょうどいい、そうやってマシュとは近すぎ過ぎず遠くも無くという絶好のポジションをキープし続ける。

達哉のペルソナはどれもこれも強力ではあるが、同時に燃費が最悪だ。

普段なら無理も効くが、ペルソナとは己が精神力を利用する物、精神的限界が来ている以上自滅の可能性を孕んでいる。

アポロによるスキルを三回ほど使えば気絶できる自信が有りペルソナを戦闘に使うことは自殺行為に等しい。

せめて以前使っていた愛刀が有れば戦えるが。

こちら側に来た時には持っていなかった。

無い物ねだりはできない。素手で応戦しマシュに指示を飛ばす。

一分二分程度立っただろうか。骸骨の群れは殲滅したのを確認するが達哉は悪寒が抜けきらない。

頭に警報を鳴らしている、戦場では下手な電子機器より勘の方が当てになる、なぜなら壊れないし誤報であっても取り越し苦労程度で済むからである。

 

「戦闘終了、お疲れ様です先輩」

「いや、見られている。狙撃兵だ・・・ たぶん。」

 

そういいつつ達哉は周囲を見渡した。マシュも息をのんで周囲を警戒する。

その時である、空気を斬る音とともに剣が飛来したのは。

マシュが瞬発的に反応し達哉と狙撃手の射線上に割り込んで飛来物を防ぐが。

余りの威力にそのまま後ろに倒れそうになったところを。達哉がマシュを支え盾を握る手に自らの手を添えて盾の維持を補強する。

 

「せっ「ペルソナ!!」」

 

礼を言おうとするマシュの声を遮って達哉は手札を切る。

射線は見た。ならば最大火力をもって敵狙撃手を排除しなければ安心して状況の整理もできないし休息もできないからだ。

ここは無理を押してでも火力による敵の撃破、あるいは撤退を狙う。

最悪、相手が狙撃ポイントの移動中に逃げ切ればそれでいい。

そしてマシュは見る。自らのマスターの足元から青い炎が立ち上がりまるで幽体離脱のように赤い道化師染みた戦士が浮かび上がるのを。

霊基が震えた。それは神格の欠片じみたようなナニカであるから。

 

「先輩!?」

 

それが出た瞬間、達哉の顔色が悪くなる。

明らかに消耗していた。額には冷や汗が流れ疲労からくる怠惰から意識が眠りに落ちそうになるのを必死でこらえる。

 

「マシュ、敵の魔力反応を探れるか?」

「あ、はい!! おおよそ四km前後です、北西に!!」

 

達哉は自分の感覚のほかにマシュの感覚を頼る。

今の彼女は身体能力的には自分を超えるのだから捉えられるかもしれないという淡い期待を込めて。

それにマシュは答えた。魔力がほとばしる光を彼女は見逃さなかったのだ。

そうマシュが言うや否や、達哉は自らのペルソナ「アポロ」の最大射程火炎魔法を起動する、広範囲に炸裂するそれだが、収縮率を上げることによって、射程距離を延ばす。

 

「第二射来ます!!」

「マシュ頼む!!」

「はい!!」

 

が、どうあがいても相手の次弾に間に合わない、この場はマシュに耐えてもらうほかない。

マシュは達哉の期待に応えるべく盾を強く握り。彼女一人の負担にさせない様に達哉は彼女を支える

第二射は先ほどとは違う神秘を含んだもの、ランクはC相当であるが。

それが盾に接触した瞬間炸裂し膨大な神秘によって炸裂弾頭とかす。

だがマシュは耐えきった。

煙が晴れる、だが次は無い。相手も盾を破壊で来るものを用意するだろうと思う。

だがそれよりも達哉は速くスペルを装填していた。

アポロの両手に恒星と見違えるほどの熱量がともり。アポロが両手を突き出すと同時に。

 

「マハラギダイン!!」

 

収縮した炎線として炸裂し、射線上の物を薙ぎ払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ・・・ッ!」

「先輩大丈夫ですか?」

 

第三射は飛んでこなかった。

だが撃破したという確信は無かったため。即座にその場を移動し何とか落ち着けるところまで移動し。腰を下ろす。

だが状況は好転しているというわけではなかった。

マシュが見てもわかるくらいに達哉は衰弱しているのである。あのペルソナと呼ばれる力を使ってから余計にだ。

 

「少し休みたい・・・」

 

はっきりって限界に近い。

本音を言うのなら寝床に潜り眠りたいくらいには精神が披露していた。

 

「だっ駄目ですよ! いま気絶したら・・・私だけじゃ逃げ切れません」

「その時は俺を置いて行ってくれれば「余計に駄目です!!」

 

 

妥協案を言うが置いていくのは駄目だとマシュが却下する。

戦術的には足かせになるのは切って同然だが。

ソレをできるほどマシュは達観もしていない。

何よりあの状況で死にゆく自分の手を握っていてくれた存在を切るなんてことはできなかった。

 

 

「もしもの時は背負って私が全力疾走しますから!!」

「だが・・・俺は・・・、いやそうだな」

 

自分がやらかしたことについて自分は君のような人間に助けられるような存在ではないと思う。

だがそれこそ逃げだ。

罪から死んでも逃げたいという弱みだ。

誓ったではないかと達哉は自分自身に発破をかけてマシュにもしもの時は頼むという。

 

「はい!!」

 

マシュは頼られたことが嬉しいのか純粋な笑顔共に答えた。

そして兎にも角にも場所を移動する。

狙撃手がポイントを変えて再補足するまで時間がないのだ。

此方も場所を移し煙に巻く必要性がある。

達哉たちは素早く走る。

物陰を利用し最短で駆け抜けていく。

マシュの装備に土地の地図情報があったからそれを利用している。

霊脈ポイントに付けばカルデアとの連絡は付くかもしれないとのことであるからだ。

正直希望観測もいいところである。

丁重に管制室は爆破され。通信機能が生きているかどうかさえも不明だ。

だがマシュ曰く「レイシフトには外部からの存在証明が必要です」とのことで。

もしも機器が停止済みなら存在証明が成り立たず消滅しているとのことだった。

故にカルデアの機器が生きていることは立証済みであり十分に勝算があるということである。

 

マシュが先頭を走り達哉を先導する。

 

これはマシュは達哉にはいっていないが彼女はデミサーヴァントと呼ばれる存在だ。

強き自我を持つ英霊をデザインチルドレンに卸すことによって完全制御化に置くという愚行の極みの如き計画で生み出されたのが彼女である。

白の絹地に黒の染料を落とせば黒に染まる。

即ち自我の薄い彼女に自我の強烈な英霊を卸し制御するなんぞ馬鹿の所業の失敗作であった。

卸された英霊が高潔な存在であったがゆえに今の彼女は無事で済んでいるが他の英霊であれば・・・

 

まぁ今は話すことではあるまい、閑話休題

 

故に馴染んでいないとはいえサーヴァントの身体能力を生きながらにして持っている彼女は。

無論人間離れした身体能力を持つが。

達哉はそれに追随していた。

おかしな話であろう。なぜただの一般人がサーヴァントに匹敵し得る身体能力を持つのか。

マシュには分らないことだらけだった。

最上位のペルソナ使いであれば当然なのだが。

この世界において神卸と呼ばれる魔術が劣化して久しいのである。

分からぬのも当然と言えよう。

マシュが斥候を務めつつ移動する中で、彼女はふと気づく

 

「先輩、止まってください」

「何かあったか?」

「はい、スケルトンの群れの様です、どうしますか?」

 

マシュの声に反応し二人で物陰に潜み会話を交わす。

手鏡でもあればいいのだがないので。

達哉が瞬間的に頭を出してマシュの言う方向を見てすぐさま引っ込める。

マシュの言う通りスケルトンの群れが距離にして50m先を横断していた。

 

「ふぅ・・・ちょっと待ってくれ」

 

懐から飴玉を取り出す。

鎮静効果のある飴玉だ。

それを口の中に放り込みかみ砕く。

先ほどぱっと見て見過ごすという選択肢は達哉の中からなくなっていた。

マシュも当然見捨てるという選択しないけれど困惑していた。

なぜそうなったのかというと。

至極単純な話でカルデア所長「オルガマリー・アニムスフィア」がヒステリックに叫びつつ応戦したからである。

マシュの困惑はそこに合った。

なぜなら彼女レイシフト適性が0なのである。

ゆえに此処に存在しないはずの人間であるからだ。

無論達哉はソレを知らない。

だが助けなくてはならないカルデアの上位陣が物理的に消し飛んでいる惨状で見捨てるという選択肢はナンセンスであるし。

顔見知りが黙って惨殺されるのを見過ごすほど達哉は冷酷でもなかった。

 

「マシュ飛び込むぞ」

「先輩、大丈夫ですか?、具合が」

「そうも言ってられないだろう・・・さっきとは違う、多少楽にはなるさ」

 

運よく物陰には鉄パイプが落ちていた。

先刻の素手で対応するよりは楽だと言いつつ構える。

 

「ペルソナでしたっけ? あの力は使わないでください、見るからに先輩が損耗しているようですし」

「わかってる、俺も死ぬわけにはいかない。まだやるべきことがあるんだ。だから背は任せていいかな?」

「無論です!!」

 

 

そういうやり取りをしつつ、ある程度の段取りを済ませて達哉は呼吸を整える。

マシュもそれは同様だ。

呼吸を整え達哉がマシュに合わせて・・・

二人同時に地面を蹴って突撃する。

 

「やぁああああああ!!」

 

マシュが叫び声を上げつつ突撃、大盾を振るい敵をなぎ倒す。

敵は必然と声に反応しマシュの方を向く。

達哉は静かに息を吐きつつ最短ルートでオルガマリーのいる場所へと疾駆する。

マシュがデコイを担当し体力に余裕のない達哉がオルガマリーの救助だ。

 

「所長、無事か?!」

「あ、アンタは・・・!?」

「そのことは後でいい、離脱する!!」

 

マシュもあの様子では長くはもたない。ラインを通じて簡潔にマシュに『回収終わり。合流ポイントで待つ』と伝えて

オルガマリーを担ぎ上げその場を飛び出る。

 

 

「ちょっと、もうちょっと優しく!?」

 

思った以上の速度で飛び出たことにオルガマリーは俵担ぎ上に持ち出されたことについての不満を黙殺。

殺到するスケルトンを右手に持った鉄パイプを片手で巧みに振るいつつ。

へし折りやすい部位の骨、首や脊髄を狙って振るう。

鉄と骨がぶつかりへし折れるような鈍い音が響きわたる。

骨というだけまだましだ。

日本刀で肉を断つ音や感触がまだなくて済む。

それに骨であるなら死者であると認識するのが容易いからだ。

俵担ぎにしたオルガマリーも現実へと追いついたのか。右手を拳銃に見立てて指先に呪詛をともす。

フィンの一撃と呼ばれる、指先などのシングルアクションで相手を呪う魔術を物理的破壊が発生するレベルまで引き上げたものである。

それはさながらスラッグ弾の如しであった。

着弾と同時にスケルトンが木端微塵になることからその威力のすさまじさがうかがえる。

 

「タツヤだったっけ!!、そのまま担いで。援護するから!!。ポイントまで急いで頂戴!!」

「了解!!」

 

達哉の有用性をオルガマリーは認め、援護するからポイントまで急げと指示する。

達哉はそれを了承し足を動かすが。

正直な話、ペルソナを体にエンチャントし身体能力を底上げしているだけでもきつい状況である。

だが文句も言ってられず。

彼は全力で走りぬいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩!! 所長!! 無事ですか!?」

 

 

ポイントに先に到着していたのはマシュである。

壁の影に身を預けて息を荒げながら落ち着こうとしていた。

対する達哉はオルガマリーをゆっくりと下ろしつつ深くため息を吐く。

 

「ああ何とか無事だ」

「そう、よかったです」

 

マシュが見る限り両者ともにこれと言った傷はない。

精々が衣類に攻撃が掠めて破ける程度である。

だが。

 

「ちょっと、タツヤ、あんた本当に大丈夫なの?」

 

オルガマリーでもパッと見てわかるほどに疲労していた。

額には冷や汗が浮き、唇は紫に。肌は青ざめている。

 

「正直な所きつい・・・力を使い過ぎた」

「力・・・、ペルソナでしたっけ?」

 

達哉が力なく言うのにマシュが反応する。

マシュは見ていたからである、ペルソナと叫び。

あの赤い道化姿の幽霊を出していたことを。

 

「ちょっとアンタ、一般公募枠なのに・・・、魔術とか超能力とか使えたわけ?」

「一応な・・・ だがスカウトには説明する暇もなかった。 というかスカウトと会った事もない」

 

オルガマリーが顔を顰めつつ問いただす。

書類や情報には周防達哉は港台生まれでごく普通の一般人と記されていた。

レイシフト敵性がSという驚愕の数値を除けばであるが。

その問いに達哉は壁に身を預け苦虫をかみつぶすかのような表情でオルガマリーの問いに答える。

 

「それはどういうことですか?」

 

スカウトにも会った事もないと答える。

如何に魔術組織とはいえど契約抜きで拉致まがいの事をすれば法政課と表の連中がうるさいからである。

国連組織という以上、本人の同意なしにそういった拉致まがいは禁止していた。

故にスカウトに会った事がないというのはおかしいことだった。

それはマシュにもわかることであるし、オルガマリーなら異常だと気づけるものであった。

 

「スカウトに会わなかった? そんな話があるとでも?」

「なんなら俺の頭を覗いてくれてもかまわない。魔術師なんだから朝飯前だろう?」

「まぁそうね、でも私もあなたも疲労困憊よ。そういうところで魔術は安易には使えないわ。使えたとしても疲労困憊なアナタの意識を覗いてもあやふやで意味がない」

「そうか・・・」

 

達哉の意識は疲労困憊で。

故にそのような中で記憶を覗く魔術を使ってもあやふやにしか読み取れない。

第一、オルガマリーは隠匿の掟の一環でそういったものを収めているだけであって。

そのような状態から読み取るには降霊課の連中のような専門知識が必要になる。

故に現状では達哉の記憶を読み取ることは不可能であった。

第一に先ほどの応戦でオルガマリー自身も疲労している。

現状で読み取るのは不可能であった。

 

「とにかく状況が安定したら。身の上を話すよ・・・、俺だってこの状況自体が不可解すぎる」

「・・・長くなりそうね」

「ああ長い話になる」

「だったら。マシュ、霊脈からカルデアに繋いで。そのあと安全ポイントを割り出してもらってとりあえずそこに立てこもるわ」

「はい」

 

 

達哉の身の上話は長くなるとしていったん打ち切りにし。

オルガマリーはマシュに中継ポイントの設定を支持し達哉に振り替える。

 

「それでペルソナってなによ? キリキリ吐きなさい。これは所長命令です」

「わかった。」

 

オルガマリーからすれば一般公募枠のペーペーがデミサーヴァントとタメ張れる身体能力を持つ上に。

マシュが言うには超能力じみたものを持つという。

生来から信頼できるものが少ない彼女にとってはそんなもの居たところで。

いつ寝首を掻くか気が気でないのだ。

故に権力にかこつけて説明を強要する。

安心する為にである。

オルガマリーの思惑とは違って達哉は渋るかと思いきや、すんなりと説明し出した。

 

 

 

 

 

 

 

ペルソナと呼ばれる能力の概要は説明した。普遍的無意志に揺蕩う神格という物を己が人格に合わせて出力し現実に分霊を呼び出すようなものであると。

高ランクのペルソナ使いになれば降魔中はサーヴァントレベルの身体能力を発揮するのも容易であると。

オルガマリーは顔をひきつらせた。当たり前だ阿頼耶の力をそのまま振るっているというにも等しい。魔法にも匹敵し。

デミサーヴァントとしての理想を体現した。超能力なのだから。

 

「といってもそこまで万能なわけじゃない、攻撃、回復、強化、敵の弱体化とかしか使えないぞ」

「でしょうね、じゃなきゃ反則もいいところだもの」

 

攻撃 回復 強化 敵の弱体化にしか使えないというが。

それでも驚異的能力だ。

魔術とは違いペルソナの行使には精神力と体力を使うとのことである。

故にここまで損耗しているのだとオルガマリーは納得し。

達哉と共に拠点の設営状況を見る。

 

「マシュ、設営はどう?」

「八割方終わりました。通信くらいなら繋がる筈ですけれど・・・」

「なら通信して。ナビゲーションを優先しましょう」

「召喚は良いので?」

「カルデアの惨状と私たちの損耗を見る限り召喚したところで維持は困難だし、この大橋の下じゃ不利極まるもの」

「不利ですか?」

「ええアサシンに強襲されたら対応しようがないわ。」

 

現在は大橋の下の河川敷である。

加えて現地情報もなく今は三人で明かりも灯さず洞窟の中を探検しているようなものである。

現状迎撃にも向いていないこの場所では鴨狩も良いところであるというのはオルガマリーにも理解できた。

故に此処は八割方の設営で十分である。

ナビゲーションを復旧し安全地帯に退避し迎撃を整える。

その安全地帯への候補に行くにしろ安全に行くにはナビは必須だ。

オルガマリーのしていた通信機器を組み込んだバングルを操作する。

 

「マシュ、タツヤを見てあげて疲労が酷いわ、すぐに移動する事になりそうだから。意識が堕ちないように見てあげて」

「了解しました」

 

マシュに達哉を見るように指示しポイントにバングル経由でアクセスする。

バングルから展開された映像はノイズ塗れで音声も同様だが確かなつながりがあった。

 

―手ごたえ有りね―

 

と内心ガッツポーズしオルガマリーは映像をスクロールしつつ周波数を合わせていく。

 

「つながったか?」

「ええ、あと少しで・・・、マシュは?」

 

作業を進めていると達哉が話しかけてくる。

マシュはどうしたのかと問いかければ達哉は「周辺警戒中だ」と返した。

 

「そう」

 

と素っ気なくオルガマリーは返しつつ作業に没頭する。

こう悪意なく会話をするのは彼女的には珍しいことで彼とどう接していいか分からないのだ。

そうこうするうちにカルデアとの通信がつながる。

 

『こちらロマニ・アーキマン!! 達哉君!! マシュ!! 誰でもいいから応答を!』

 

向うも何度も通信を試みていたのか。

機器から聞こえてくる声には切実ささえこもっている。

レイシフトルームにいた存在が消失したということは生身でレイシフトしたということだからだ。

マシュは通信の為の礼装と装備を所持しており。

繋がる筈だと淡い期待を込めて何度も向こうも通信を試みていたのである。

最もロマニからすれば予想外の人が通信に真っ先に出てきたのが予想外の人物に面を食らう羽目になった。

それはオルガマリーも同じだ。

 

『うわっ、所長!?、なんでアナタがそこに!?』

「それはこっちの台詞よ!!、レフはどうしたの?! 速くレフを出して!!」

 

通信に出てきたのがロマニであることに面を食らったのはオルガマリーも同じであった。

最もレフさえ出てくれれば話が早いというのにという思いもある。

 

「所長、落ち着いて」

 

ヒステリックにパニック状態になりそうだった。オルガマリーの右肩に手を置いて落ち着かせる。

達哉の言葉と行動が冷や水を浴びせる結果となり。

いったんは彼女のヒステリックが沈静化する。

 

「・・・ごめん、少し取り乱したわ。ロマニ、現状は?」

『管制室は爆破されレフ教授及び他メンバーの生存は絶望的です、生き残ったメンバーも大怪我はないですけれど小中の傷を負っています。

僕より現状階級が上の人物がいないため生存したスタッフ20名には応急処置を施し現在施設を稼働し復旧作業中です』

 

 

凄惨たる状況であった。

八割方の人材を消失し機材も大破状態。

最低の状況で稼働させていることが言葉で伝えるよりも早いとロマニが転送した施設データに写される。

 

「ということは・・・、他のレイシフトメンバーは・・・」

『達哉くん及びマシュを除く46人が危篤状態です、医療スタッフ総出で現在生命維持を行っていますが・・・・』

「時間の問題ということね」

『はい・・・』

「なら、すぐに冷凍保存機能を立ち上げて!! 蘇生法は事態収拾まで後回し!! 死なせないことが優先よ!!」

『りょ。了解しました!!』

 

苦虫をかみつぶしたかのような表情をしつつオルガマリーは素早く指示をだす。

専門外であるため達哉は何もいない。

 

「あの所長、冷凍保存は本人の承諾なしに行うのは犯罪になりますが・・・」

 

心配に思ったのだろうマシュが声をかける。

それをやって大丈夫なのかという気づかいである。

無論それはわかっているが荒れずにはいられない。

 

「死ななければあとで弁解なんて幾らでもできるわ!!、第一46人分の命なんて私が背負えるわけがない・・・・」

 

後で幾らでも弁解できるとは言うが46人分の命なんか背負えるかと語尾が弱くなっていく。

これだけは何とも言えない言えるはずがなかった。

いま彼女にどのように言葉をかけても過敏に反応するだけであるのは達哉は知っているからである。

 

「ロマニさん、とにかく此方の消耗が凄まじい、安全ルートでどこか立てこもれる場所に誘導してほしいだが・・・」

『うん分かった。通信も不安定だから常時交信という分けには行かないけれど。現状のマップを所長とマシュの礼装に転送するよ』

「助かります」

『いいよ、無茶言っているのはこっちだしね』

 

たははと困ったように笑いつつロマニは達哉に言葉を返す。

データが転送され。地脈的にも立てこもるにも優れている建物が表示される。

この都市の高等学校だった。

此処から都市内の障害物が多い場所を抜けていける場所である。

 

『っと通信が不安定だ。もう少しで切れそうだ。通信は不安定だけれど何かあったら遠慮なく通信を』

「了解しました。」

 

達哉とのやり取りが終わると同時に通信が不安定であったためかまたノイズだらけになる。

それをみて達哉とマシュは出立の準備を始める。

もっともそう持ち物がないため数秒で終わるのだが。

そのなかで。

 

「SOSを送ったところで誰も助けてくれないクセに」

 

 

オルガマリーはボソりと毒を吐いた。

 

 

 

 

 

 




補足すると阿頼耶識に影が入り込み掌握済みですがフィレモン(イゴールの上司で奴とはコインの裏表のような存在)も一緒に介入しているので。
一応、阿頼耶の抑止力は動いています。

本日は達哉、ペルソナを出す、マシュと協力してカウンタースナイプ(エミヤン無事退避済み、後に兄貴と戦闘予定)

所長、たっちゃんの力を認める。

所長、カルデア職員に毒を吐くの三本でお送りしました。

奴の出番は一章からです。


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二節 「仮面と英霊」

待っていては駄目だ。完璧な好機など永遠に来ない

ナポレオン・ヒル 1883年~1970年


街の中を進む。マップ情報に従い物陰に隠れ身を潜めつつ進む。

先ほどの設営のおかげで幾分か精神的に余裕ができた。

かみ砕いた飴玉の効能が出てきたと言ってもいいだろう。

達哉とマシュがツーマンセルを組み前へと進む。

先頭は達哉だ。

幾分か回復したのとこなれて居るということもあって斥候を担当している。

マシュは前と後ろの防御に入れるようにオルガマリー寄りの中衛を担当している。

 

進む中で一同は気づいた。

 

石像のような物が無数に乱立していることにである。

 

「なんでしょうか此れは?」

 

マシュの疑問も当然だろう。

まるで生きた人間がそのままに石化したようなものであるからだ。

 

「サーヴァントの反応はないって言っていたから大丈夫でしょうけれど」

 

オルガマリーが呟く。

もしここがサーヴァントの縄張りだとすれば。自分たちは既に奇襲されているだろうからだ。

だが都合の良い恐怖という物は常であるということを知らない。

 

マシュが反応し達哉がオルガマリーに向かって走る。

 

それと同時に砲弾が炸裂したかのような音。

 

 

「あの忌々しいギリシャ神の気配があると思えば・・・珍しいですね、今の人間が神々の加護を受けているとは」

「ッッ!?」

 

狙いが寸前で変わり軌道も変わる。

さながら飛翔する蛇の如くだ。

正体はフードコートに身を包んだ絶世の美女だった。

長柄の鎌を持ち達哉を粉砕せんと鎌を振るう。

相対する達哉は躊躇なく間合いを詰めた。

長物の武器というのは刀の間合いに入り込めば振るい辛く獲物の特性を発揮しづらい故にである。

 

「シッ!!」

「シャァ!!」

 

相手が振り切る前に相手の獲物に向かって鉄パイプを振り下ろす。

完全に力が入り切っていない今なら相手の攻撃を遅延させることが可能だ。

打ち据えると同時に達哉は手首を返し打ち据えた反動を利用し、相手の首を狙う。

敵は即座にカウンターを放棄。

何の変哲もない鉄パイプであるが彼女からすれば達哉は神の加護持ちだ。

サーヴァントも十分殺傷可能と判断する。

軽く鎌を振るって弾き飛ばしながら後退し手首を反転、鎌を一回転するように。

背後から飛来したオルガマリーのガンドを叩き落す。

 

(マシュ! いまだ!!)

(はい!)

 

達哉が念話を飛ばすと同時に刀を下段脇に構えつつ疾駆。

すでに地を蹴り先ほどの攻防の隙に右のビルの壁に跳躍し壁をさらに蹴って敵の頭上を取っていった。マシュが盾を振りかぶる。

 

「全弾持っていきなさい!!」

 

 

オルガマリーは次弾を装填し指先を敵へとむけていた。

三方向からのクロスファイア、即席の連携としては上出来な代物であり並大抵の相手なら詰みである。

だが相手は英霊。こういう類の事を捻じ伏せて進むのが英霊なのだ。

 

「所長!! 伏せろ!! マシュは攻撃中止!!」

 

ジャラリと達哉の視界に敵の左手からそれが見えるや否や。

長年の戦闘経験が悲鳴を上げる。

とっさのことにオルガマリーは唖然としつつ詠唱放棄、中途半端組み上げられたガンドをぶっ放しつつ。

頭を抱えて蹲り。

マシュは振りかぶった状態を脱力することでキャンセル。

防御姿勢へと持っていく。

刹那、オルガマリーの放った中途半端なガンドは放たれた鎖によって叩き落され。

オルガマリーの頭上を鞭のようにうねった鎖が通過していく。

だがそれだけではない。

おおよそ鎖は敵の意思の通りに動き、長さという概念がないのかという錯覚するレベルで長大である。

防御姿勢を取ったマシュの盾をすさまじい力で打ち付け弾き飛ばしビルの窓に衝突させ、

内部へと突入させる。

達哉はパイプを半回転させつつ円の動きで鎖を捌き時間を稼ぐために空いた間合い

潰しつつ。

動きに無駄がないように上段へと構えを移行させる。

 

「シッ!!」

 

間合いが殺傷圏内に入ると同時に鉄パイプを渾身の力をもって振り下ろす。

無論ただの鉄パイプと言えど人間一人の力で振り下ろせばスイカを割るかのように頭部を粉砕できる。

ペルソナ使いであればそれは銃が至近距離で発砲されているのと同意義だ。

がしかし、敵は鎌の柄を横に掲げ両腕で支えるように悠々と受け止める。

足元が上から掛かる力で多少陥没し衝撃波が流れた。

だが完全に力では敵の方が上であることが証明されてしまっている。

こうまで渾身の一撃を悠々と受け止められれば当然の話だ。

鎖の切っ先が走り達哉の頭部を射抜かんとする。

が達哉は力で勝っていないと判断するや否や、鉄パイプから手を放し右足を前に左足を折りたたんで勢いを殺さずそのまま敵の脇を通り抜けるかのようにスライディング。

鎖の切っ先は達哉の後頭部の髪の毛を数本切り落とすだけに終わる。

舌打ちしつつ敵は足運びと体の回転を行いつつ鎌を振りかぶりながら旋回。

背後に移動した達哉の首を狙わんと振りかぶるが。

 

 

「アポロ!!」

 

立ち上がり振り向こうとしていた達哉へ首に鎌が走るものの。

達哉の叫びと共に具現化した赤い道化のような存在が一歩踏み込み柄を押さえて攻撃を防御。

柄を握り込み逃がさないようにして、左腕を振りかぶる。

 

「なぜ貴様「ギガンフィスト!!」

 

アポロと呼ばれた存在に敵は眼を見開き驚愕する。

当たり前だろう。人間が欠片とはいえ神格を下ろし虚像さえ生み出して見せたのだから。

されど敵がなぜ貴様がと言い切る前にその隙を逃す達哉ではない。

渾身の一撃を腹部にたたき込む。

さながら迫撃砲の如き威力を持つスキルであり直撃させればサーヴァントでも只では済まない威力であるが。

 

「ッア」

 

スキルの真価を発揮するには体力が致命的に足りていなかった。

達哉の顔から一瞬にして生気が消えていく。

一気に体力を持っていかれた感じである。

直撃した敵は三回ほど地面をバウンドし10m後方まで飛ばされ無様に地面をスライドする。

膝をついた達哉にオルガマリー駆け寄ろうとして。

 

「貴様ァ!!」

 

憤怒に染まった声が空気を揺るがした。

左手で顔面を覆いながらも敵は憤怒の形相に顔を染め上げ。

口からは血反吐を吐き出している。

万全の状況でなかったがゆえに仕留めそこなった。

 

「ヒッ」

 

 

オルガマリーは余りの殺意の質量に身がすくみ悲鳴を小さく上げる。

無理もない最近までは生身の切った張ったなどという環境とは無縁だったのから。

達哉は息を荒く吐きつつ、パイプを拾い上げて脇下段に再度構え直し迎撃の姿勢を取る。

 

「貴様ァ、よくもこの私に・・・タダでは殺さぬ、全身を刺身にしてからゆっくりと石化させて恐怖に染まった顔をここの石像たちと同じように永久保存してあげましょう」

「・・・・」

 

 

恐ろしいことを言う上に敵は絶対に履行するだろう。

だがそれで怯えているほど達哉も伊達に修羅場を潜り抜けてきたわけではないのだ。

敵が喋っているのを良いことに意識を向けつつ。

マシュへと念話を飛ばす。

 

(マシュ、行けるか?)

(ハイですが・・・先輩は・・・・)

(次で最後だ。決めるぞ。タイミングは炎が上がった時だ)

(わかりました)

 

ビルの中に突っ込んだマシュの安否を確認。

運よく気絶から復帰していた。

マシュに行けるかと聞けば行けるという、ならば行くしかないと達哉は腹をくくる。

次で最後だ。

ペルソナスキルを発現できるのは。

タイミングを告げて呼吸を落ち着ける。

相手が喚いている間にも少しでも呼吸を整えタイミングを計る。

 

「さて、どう哭いてくれるでしょうかね、貴方達は」

 

悦に相手が顔を染めた瞬間、達哉が走った。

まだ抵抗する気かと不快気に顔を染めて鎖を走らせる。

それを鉄パイプで弾いて連動して襲い掛かる鎖を姿勢を低くしつつ地を縫う様に疾駆し回避しながら。

再度反転して襲い掛かってくる矛先を地面から足を放し体を軸に回転して鉄パイプを軌道線上に割り込ませ反らす。

一秒にも満たぬ跳躍の後に地面に着地と同時に地を蹴って肉薄する。

 

「小賢しい!!」

 

なかなか仕留められないことに苛立ちながら敵は鎖を振るう。

その苛立ちが致命傷となった。

 

「アポロ!!」

 

再度ペルソナ『アポロ』を召喚、右手に炎を纏わせ射出する。

敵は回避ではなく迎撃を選択。

理由は明らかに弱い炎であったからだ。

普通の戦士なら回避と同時に肉薄を選びとどめを刺すだろうが反転の影響で嗜虐趣味が増加している今現在の彼女は。

その選択肢を選べなかった。

鎌で炎を叩き落す、無論振り下ろした鎌と炎が接触すると同時に爆発した。

結構な威力だ。弱っているとはいえど直撃すれば皮膚が焼け吹き飛ばされるであろう位には威力があった。

一方の達哉は曲芸のような身のこなしとペルソナの行使で疲労困憊状態になり転倒する。

それを見て敵は口を吊り上げた。

獲物がようやく上がったのだと。

炎の爆破。達哉の戦闘不能状態に意識が完全に達哉に向いて外れる。

風を切りながらビルの三階からその優れた身体能力で飛び出た存在に気付いていなかった。

 

二度あることは三度あるといった風に。

 

相手を舐めて掛かったがゆえに敵はそのツケを支払うことになる。

 

「やぁああああああああ!!」

「なに!?」

 

横を振り向けば巨大な鉄塊の如き盾が横に振り切られていた。

落下エネルギーと跳躍による速度、横回転エネルギーを加えた渾身の振り抜きである。

凄まじく鈍い音が響き渡り敵は衝撃エネルギーの伝達するそのままに真横に吹っ飛び建物のコンクリを粉砕しながら建物内に突っ込んだ。

 

「先輩!! 無茶しすぎです!!」

「すまない、俺の頭じゃ。あれくらいしか思い浮かばなかった・・・」

 

無茶をし過ぎだと半泣き状態でマシュが言うのに。

苦笑しつつ達哉返す。

 

「次は無茶するからと言ってください。心臓に悪いです」

「・・・すまない」

 

達哉を引き上げつつ肩を貸し無茶するなら事前に行ってくれとマシュは言う。

それにも苦笑しつつ達哉は謝る死かな無かった。

 

「それで仕留めたの?」

「あれで仕留められなかったら人間じゃないだろ・・・流石に」

 

人体を再現している以上、神秘さえ通れば死ぬはずである。

そう普通ならば。

手ごたえ的には仕留めきれたはずだと達哉は言うが。

 

 

相手は人間ではない。

 

爆発音、瓦礫が穿たれた穴から飛び出てきた。

 

「もう嬲るということしません、アポロン神を欠片とはいえ神卸できる男とその出来損ないを相手には嬲るなど言ってられない」

 

相手は右半身がぐちゃぐちゃになりつつも立ち上がってきた。

右腕は機能しておらず左手で鎌ではなく鎖を保持している。

右足もぶらりとなっておりくっついている方が正しい。

消滅間際だというのにまだ反転して増強された本能で立ち上がってきている。

 

「ッッ・・・」

 

達哉は苦渋に顔を染める。

正直な所、切れる手札はない。オルガマリーが怯えるように達哉の服を摘まみ。

覚悟を決めた表情でマシュっは冷汗をかきつつ盾を保持し前に出る。

 

「ゆえに、後悔もなく瞬時に死に散りなさい人間」

 

もう相手に油断はない全力で取りに来るだろうと身構え・・・

 

「いいやアンタはここで終わりだ」

 

男性の声が発せられると同時に放たれた火炎弾によって遮られた。

 

「これはキャスターの・・・」

「おうよ畑違いも良いところだがね」

 

火炎弾を鎖で叩き落すも数発が敵の周囲に炸裂し粉塵を巻き上げる。

背後から杖の鋭い一撃が敵の霊核を貫いた。

 

「・・・・ふぅー、まったくホント畑違いだよな」

 

男、「キャスター」は杖を引き抜き敵が完全に崩れ落ちたのを確認し残心を解きつつ。

ため息交じりに愚痴をこぼす。

 

「・・・一応確認する、アンタ敵か?」

 

達哉は息を荒く吐きつつ右手で鉄パイプを持ちつつ問う。

キャスターは苦笑しつつ答えた。

 

「敵じゃねぇよ、故あってヤツラとは敵対中でね、敵の敵は味方ってワケじゃないが、信用してもらってもいい」

「そうか・・・」

「おう、案外容易く刃を下ろすんだな」

「・・・敵意があるなら疲労した俺達を葬るくらい、アンタほどの使い手になるとワケがないだろ、搦め手をする必要がない」

 

一応味方という言葉に達哉は鉄パイプを下ろす。

不確定要素を相手にに容易く刃を下ろすんだなとキャスターは茶化すが。

達哉は無論、キャスターの体捌きから近接職が本職であると見抜いていた。

ペルソナの特性上、先ほどの火は怖くはないが。

近接戦闘で疲弊しきった現在は対抗手段がないに等しい。

まどろっこしいことをしなくても圧殺される自身が達哉にはあった。

敵であるなら自分たちに搦め手をする必要性はない。

故に完全には信用できないが一応の敵ではないことは理解できた。

 

 

 

「へぇ・・・、おい坊主、オメェさん結構できるみたいだな。つーか奇妙な感じだ。親父やらギリシャ神の魔力の香りを纏っておきながら。深淵に魅入られた空気を持つ、現代でも神様相手に英雄譚やってるやつがいるたぁ初耳だな」

 

そして如何に満身創痍とはいえどキャスターも達哉が相応に出来ると見抜き。

そして太陽神の欠片がごっちゃ混ぜになった魔力の香り、加護の残滓をかぎ取り。

同時に深淵染みた神に魅入られていると見抜く。

これはキャスターが太陽神にある種の縁があるから見抜けるものであった。

 

「それにさっきの神卸も見事なもんだ。ドルイドでもああ上手く下せる奴は居ねぇよ」

 

ペルソナを神卸とキャスターは誤解する、まぁ間違ってはいないののだが亜種系統の能力であるがゆえに仕方がないとも呼べるが。

 

「それでなんでいきなり割って入ってきたのよ、今は聖杯戦争中でしょ? 私たちを助ける道理なんかないはずじゃない」

 

オルガマリーが問う。

なぜ戦闘に介入してきたのかということだ。

聖杯戦争の特性上、自分以外は敵のような物であろうに。

実に不可解であると。

 

「それだよ、俺も気づけば炎上したここに放り出されていた。詳しくは……落ち着ける場所で話し合おうや」

「信頼できると思って?」

 

オルガマリーは生粋の魔術の名家である人間不信の気もあってそう簡単に目の前の男の事が信じられなかった。

マシュはアワアワとキャスターとオルガマリーの二人に視線を移し移しに慌てている。

コミュニケーション不足がたたり上手く言葉を出せないでいた。

助けを求め達哉に縋る様に顔を向けると。

 

「せっ、先輩!? 大丈夫ですか!?」

 

達哉は表情そのままに立ったまま気絶していた。

普段ならないが人間は限界があるという物で。

今までの疲労 戦闘による極度の緊張とペルソナ行使による体力と精神力の損耗が酷く。

達哉は多少信頼できる相手を見た瞬間、本人の思った以上の疲労が襲い掛かり。

気絶していた。

 

「アーちょい見せてみろ・・・」

 

キャスターが近寄り達哉を見る。

 

「ど、どうにかなるでしょうか?」

「今すぐには無理だぞこれ、肉体の方はルーン刻んで放置すれば一時間位で遥かにましに出来るが・・・精神的疲労もすっげぇたまってるみたいだしな。無理もねぇよ神卸なんて御業やって身体能力底上げしてたみたいだしなぁ」

 

よいしょっと達哉をキャスターが背負おうとする。

それをオルガマリーは止めようとした。

人質に取られては堪ったものではないからだ。

 

「ちょっとまだ信用したわけじゃ・・・」

「だが付いてくるしかねぇはずだよな? 先の戦闘もほとんどコイツ頼りだったし。お前さんと盾のお嬢ちゃんに気絶した坊主だけで上手く回せるのか?」

「それは・・・」

「だったらこっちの言うこと聞いておけ、死にたくねぇだろ、互いによ」

「うー」

 

戦闘指揮はほぼ達哉だよりであるし戦闘もメインは主に彼が行っていた。

マシュの力は強大であるが体の使い方を知らない上に力を発揮しきれていないのは。

猛者のキャスターはパッと見ただけで理解していた。

 

「マシュ、アナタはどう思う?」

 

オルガマリーはマシュに問う。

このキャスターを名乗る男が信頼に足り得るかどうであるかをだ。

 

「私は信じても良いと思います、先輩が気絶する前に言っていた通り敵ならあのサーヴァントを倒した後で即座に私たちを始末出来ていたはずですから」

「そうよね・・・うんそうよ」

「信じてくれる気になったようだな。じゃこっちだ」

 

キャスターが達哉を背負い。二人はそのあとに続く

 

 

 

 

縁日が行われている。

皆ワイワイと騒いで入るが自分は一人だった。

戦隊ものお面をかぶり水風船の口を縛るゴムを中指に通し。

伸ばしては戻し伸ばしては戻しを繰り返している。

引率を引き受けてくれた。自身の兄は小遣いがなくなったのと自分の振り回しっぷりに嫌気がさし。

ここで待つように言って雑踏の中へと消えていった。

水風船で遊んでいると・・・

神社の神木の影から同じ戦隊もののブラックのお面をかぶった同じ年くらいの少年がこっちを伺っていた。

自分は彼に話しかけてみる。

こんにちわだとかそういう当たり前のあいさつを言ったような気がした。

 

場面が転換する。

自分は友人と呼べる存在が少なかった。父の事だとか生来の不器用さゆえにだ。

だが友達というのはできるという物で。

あの日の縁日に同じ境遇のような存在が自分も含めて四人集まって友人となった。

自分たちは神社に集まり仮面党を名乗ってごっこ遊びに興じていた。

楽しかったというのは今でも鮮明に思い出せる。

 

そんな日々を過ごすうちに家庭環境は悪化していった。

 

だから仮面党というグループで過ごす時が自分にとっての一番の癒しだった。

来る日も来る日も遊ぶ。

そんな日々の中で変化が訪れる。

神社に参拝していた高校生のお姉さんと仲良くなったのだ。

活発で明るい頼れるお姉さんというべき存在であろう。

色が変化してグループもまた活気づいていく。

 

本当に楽しい日々だった。いつまでも続けばいいと思っていた。

 

だが終わりは何にも訪れるものである。

 

歯車が致命的にズレたのだ。

 

お姉さんがもう会えないと言い出したのだ。

もとから夏休みが終わる前に引っ越す予定だったと辛そうに言う。

皆と一緒にいると楽しかったから言い出せなかったのだと。

 

 

ズレる、ズレる、ズレる。

 

 

なぜこのようなコトになってしまったのか。

 

『ヒャハハハハアアア!!」

『お姉ちゃん』

 

お姉ちゃんが倒れる、男が嗤う。

自分は無様に這いつくばって手を伸ばすだけで・・・

炎が燃えさかる、慕う少女は炎上する神社に閉じ込められて扉を叩きながら逃げてと叫ぶ。

自分は腹部に傷を受けてもう動けない。

身体が燃える神社とは反対に冷たくなっていく。

 

手を伸ばす、それ呼応するかのように・・・・

 

彼の背後から何かが出て。

 

『ヒィア?』

 

炎が炸裂した。

 

彼女と自分は助かったすぐさまに駆けつけてくれた消防士たちの活躍によって・・・

 

だが絆は壊れた。親友は記憶を歪められ道化に成り果てた、他の二人は罪の意識に耐えられず記憶を忘却し。

 

自分もまた。自分のことに精一杯になってしまい・・・忘れてしまった。

 

 

なぜこんなことにと・・・。悪夢は続く。

 

家庭環境は悪化しさらに人付き合いが苦手になった。

 

鬱屈した日々が流れていく。あの時のような黄金はなかった。

 

だが奇妙な再開で歯車はまた動き出す

 

数年ぶりに友達と再会し想い人と再び出会い困難を乗り越えきずなを取りもどした

 

でもそれはまやかしで。

 

 

『私、忘れ去られる女より、哀れな存在が分かったわ、それは人を縛る女、皆・・・速く私の事は忘れなさい』

 

 

全ては一瞬にして砕け散ってしまった。

条件が満たされ星の位置が揃い予言は噂の力をもって具現化する。

星は自転を止め世界は箱舟を残し滅び去る。

 

『フハハハハ!!。お前たちは一つ大きなことを学んだぞ!! どうしようもない事もあるという世の理をだ!!』

 

自分たちは敗北したのだ。

 

『私は、お前たち人間の影だ!! 人間に昏き影がある限り私は消せん!!』

 

怒り任せに刀を振るう。

だが奴には傷一つ付けられなくて・・・

 

『這い寄る混沌の最後の試練を受け取れ!!』

 

そういって奴は姿を消した。

滅びた世界、それを戻すには幼少期の出会いを忘れ去り。

この願望叶う空間ですべてを無かった事にして時系列の分岐を造り世界を巻き戻し創造しなおすという事。

無論、全ての起点は幼少期の出会いからで、それらと現在に至るまでの記憶を忘れ去ればすべてが元に戻る。

 

 

だけど・・・自分は孤独に耐えられず忘却を拒んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が浮上する、現実へと引き戻される、悪夢はこれでおしまいの様であった。

現実が周防達哉を待ち受けていた。

それはぽっかり空いた深淵の穴の様であった。

 

 

 

 

「よう坊主、目が覚めたか?」

「・・・キャスター」

 

目が覚めるとコンクリ張りの床に敷かれた

 

「酷く魘されたぜ? 本当に何に魅入られたんだよ、お前」

 

キャスターが見ているのは達哉の右腕に刻まれている手のような入れ墨であった。

彼自身、魔術の達人である。

それがトンデモない物に魅入られた証であると見抜いた。

死ぬような呪詛ではない、神の癇癪じみたものでもない。

されどそれよりずっと悍ましいナニカに魅入られているということに気付いたのである。

 

「昔、やらかした罪の名残だよ」

「罪っておい、何やったんだよ、粘着っぷりでは神々より質が悪いぜソレ」

「・・・忘れられなかった」

「・・・はぁ?」

「・・・」

 

 

忘れられなかった。

そのことが何を指し示すのかキャスターには分らない。

だが、キャスターの見下ろす先で寝そべっている青年は今にも泣きそうでも泣くのを我慢している童にしか見えなかった。

 

「ところで。所長とマシュは?」

「問題が出てよ、いま修行中だ?」

「・・・? 修行??」

「ああ、お前さんは素人だったか。説明してやるよ」

 

サーヴァントと呼ばれるのは境界記憶帯と呼ばれる世界の記憶装置から呼び出された古代に実在した英雄たちである。

無論そんな大それた存在を完全制御できるはずもなく。そも召喚するのもほぼ不可能と言える。

だが呼び出す英霊を一側面のみ切り出して能力を限定したうえで呼び出すことは膨大な魔力を賄い高度な術式を用意すれば呼び出すことは不可能ではない。

それで呼び出された英霊は一側面で限定しているがゆえに形嵌めしたクラスに左右されるが。

宝具と呼ばれる生前の逸話や武勇伝などを具現化した切り札と呼べるものを持ち行使できるのだという。

 

「それはお嬢ちゃんのようなデミサーヴァントでも同じはずだ。」

「そのデミサーヴァントとは?」

「・・・早い話が、英霊は制御不可能に近い、だからこそ令呪と呼ばれる、坊主の左腕に刻み描かれたそれで制御するんだが・・・、ぶっちゃけ三回しか使えない手綱だ。俺たちは個我を持ち自由意志を持つ。だから三度では不足と考えるだろう。生体兵器として完全運用したい連中からすればな」

 

胸糞悪いと最後に付け加えつつ説明する。

ここまで言われれば誰だってわかる話だ。

英霊個人の制御が不安定なら人に憑依させ武器として行使させればいいという考えである。

さしもの達哉も顔をしかめた。

 

「でも、お嬢ちゃんは卸された英霊は此処に来るまではお嬢ちゃん保護を優先して居座っていた。でここに来るときに死にかけたんだろう?」

「ああ、間違いなく致命傷だった。」

「でだ。卸された英霊は高潔だった。当然そんな状態を見過ごすはずがない。だから奴さんは自分の力の大半をお嬢ちゃんに預けて体を蘇生させ消滅したってわけだ。だからこそ」

「渡されている筈ということか」

「その通り、坊主が眠っている間には状況説明は終了してある。細かいことは伝えてあるし同じ話を二度説明するのも面倒だからかいつまんで言うとだな、あそこを占拠してるやつがこの町で行われていた聖杯戦争を無茶苦茶にして倒したサーヴァントをシャドウやら反転やらさせて蘇生して無茶苦茶になった結果、この特異点の出来上がりってわけだ。」

「無茶苦茶だ・・・」

 

説明も無茶苦茶という意味合いも込めて達哉はつぶやく。

まぁ長い話になるし所長が知っているのであればいいとは思うが。

 

「それで大半のサーヴァントは俺が撃破済み、バーサーカーは蘇生後、森の中の城に居座って手さえ出さなきゃ動かねぇから無視して。聖杯の力で手勢を蘇生される前に本丸を叩くって話だ」

「・・・今すぐ出るのか?」

「いや、嬢ちゃんたちの特訓後、休憩を挟んでって形になる」

「そうか・・・」

 

 

達哉は覚悟を決める。

先の夢が彼の過去がそれを決定づけた。

もし話さず手遅れになる前にだ。

もう御免であった。

11年前のようなこと、1年前の事などを考えれば余計にそう思う。

 

 

 

「休憩時間中に俺の過去を話したい、キャスター記憶を映像化できる魔術はあるか?」

「あるにはあるが・・・いいのか?」

「・・・説明しないと不味いことになるかも知れない頼む」

「・・・わかった。」

 

 

 

 

 

だからこそ己が罪を明かすことを決めた。

特異点のあり様からして最悪自分が向こう側を呼びかねないからだ。

幸いにもカルデアはそれを修正できる。

故の決断であった。




ランサーアダルティメデューサ戦 疲労困憊のたっちゃんと、所長、マシュで対抗。

奇妙な気配に感付いて救援に来た兄貴が仕留める

たっちゃんが気絶している間にマシュ宝具展開特訓開始。所長も指揮能力強化の為訓練参加

”奴” 第一特異点の仕込みが終わったので暇つぶしに疲労困憊でぶっ倒れたたっちゃんに悪夢を見せる。

次回はたっちゃんの身の上話と柳洞寺の聖杯洞窟突入、たっちゃん&マシュ&所長VSセイバーオルタ戦まで行けたらいいなぁ。


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三節 「罪の吐露」

俺は大丈夫だから。

あなたのいない世界を、俺はちゃんと生きていくよ。


PCゲーム「虚空のバロック」より抜粋。


カキンと鉄と鉄が擦れる音が響く。

かつての親友と誓いの証として交換した物である。

それはジッポライターである。

オイルこそ入っているがタバコは吸ったこともない。

故に無用の長物であるが。

自分を除いて皆が居なくなりライフラインが寸断された。”向こう側”では貴重な火を灯せる器具だった。

幼少期からずっと持ち歩き大事に使っていたそれは生き抜くために使い込まれ。

表面は色褪せて火口と蓋が幾度となく開かれ閉じられを繰り返し擦れた傷が刻まれている。

達哉は黄昏るように冬木の空を見上げながら。

ライターの蓋を閉じたり開いたりして音を鳴らしていた。

 

「準備できたぜ」

 

キャスターあらため、クーフーリンと名乗ったサーヴァントが準備ができたという。

達哉としてはクーフーリン、即ちトップ英雄に雑事をさせるのは実に気が進まなかった。

あまりどころか大概の人間が不快に思うようなことの暴露に加担させるということもある。

がしかし、クーフーリンは「気にするな」と軽快な意味を言いつつ快諾してくれた。

 

『男が腹括って話そうっていうんだ。止める通りがどこにあるよ。状況を言わずに先延ばしにするよりはるかに良いし、俺としても覚悟が伴っているんなら言うことはねぇ』

 

と言ってだ。

クーフーリンも達哉の覚悟を受け取り汲み取ったのである。

故に今回の上映会のシステムを提供したのだ。

原初のルーンと呼ばれる魔術師に置いても高度な文字魔術を使いソーンやアンスールなどのルーンを主軸に構築された術式が教室内に刻まれている。

今でいうところのVRゲームのように他者記憶を俯瞰視点で見れるようにしているのだ。

 

「あの先輩、大丈夫でしょうか?」

 

無事に宝具を疑似とはいえ展開でき。

一時間ほど休憩した。マシュとオルガマリーが達哉が目覚めたということと。

長い身の上話を言うということで呼び出され教室に訪れる。

マシュは部屋に入ってくるなり達哉に心配の声をかける。

当たり前だろう。

いまこの世界で達哉と最も肩を学べて戦ったのはマシュであるし。

彼が戦いの都度に只でさえ良くない体調を押して戦った結果、気絶である。

心配するなという方が無理な話であろう。

 

「ああ大丈夫だ。クーフーリンが治癒のルーンを刻んでくれたおかげで。次の戦闘はいつも通りに行ける」

「ちょっと待ちなさい、貴方、あれで十全じゃなかったの?」

 

次の戦闘は十全に行けるから安心しろとマシュに達哉は言って彼女を安心させる。

が今までの戦闘は本気ではなかったのかとオルガマリーが食いついてきた。

 

「ペルソナは・・・、魔法・・・こっちでは魔術だったか、それの使用には精神力、物理系の能力は体力を削る。さすがにライフラインが寸断されて悪魔が溢れかえる世界でサバイバルをしていたんだ。あの時は其れくらいしかできないよ。」

 

治療前の達哉は例えるなら。

ノンストップでスーパーカーをサーキットでフルスロットルで運転した後で給油もせずに高速道路を非合法でぶっ飛ばした状態と大差が無い。

なにせ人が居なくなりライフラインが寸断され悪魔のいる世界でサバイバルしてきた上に。

いきなりこの世界に叩き込まれ全力戦闘を要求されてもできないのは当然であった。

十分な休息も取れなかったため消耗している状態であり。

それではあっと言う間にペルソナの行使に必要な力を使い果たしてしまう。

しかし今は精神はともかく、肉体面の問題はキャスターとして呼び出されたクーフーリンが治癒のルーンを刻み解決したのである。

冬木に転送され戦闘していた当初よりずっとマシにペルソナを行使できるのは当然と言えよう。

オルガマリーはあれでも本気じゃなかったのかとブツブツ言いつつ、適当な椅子に座る。

マシュもそれにならって椅子に座った。

 

「それで先輩、話したいこととは何でしょうか?」

 

マシュが口を開き話したいという事は何でしょうかと聞く。

無論。心当たりがないためである。

 

「前に言った身の上話かしら? それらなら後にしてよ、今は時間が」

「俺が特異点発生の元凶になりかねないとしてもか?」

「・・・冗談も休み休み言いなさいよ、なんでアンタがこの状況の元凶になりかねないってことになるのよ」

「・・・いや今回の件については俺は無関係だ。次があれば元凶になりかねないということを言いたいんだ」

 

如何にペルソナという高度な超能力を使えるとはいえど。

世界を歪ませるのは聖杯クラスの魔力が必要になるゆえに、冗談も休み休み言えとオルガマリーは一蹴するが。

達哉はそれを否定する。

確かに世界が燃えて居なければ、世界の形が保たれていれば達哉と関係のないこの世界が達哉の世界と同じような事になる確率は低い。

だが人理焼却という人理のあやふやによって。

達哉が呼び水となり異世界の珠閒瑠市と同化しかねないかもしれない。

嘗ての向こう側とこちら側の関係のように。

そう説明するとオルガマリーは何を言ってるんだコイツという顔をして。

マシュもどう反応していいのかよくわからない顔だった。

 

「異世界の住人ってそれをどう説明するのよ・・・・、その悪魔の証明を言わなければ信用もないわよ・・・」

「それを証明する、クーフーリン、頼む」

「あいよ、カルデアにも映像投影するからな」

『ええ、ちょっと待って僕たちも見なきゃならないのかい?』

 

キャスターはこの学校を魔術工房化している。

この内部なら通信も安定する為、十全に伝えることも可能だ。

 

「もしもが存在した場合に手遅れでしたは笑えない・・・、俺自体が・・・居る事がおかしいんだ。だから伝えておきたい、始めてくれ」

「あいよ」

 

達哉は見てほしいと言いって、クーフーリン映像の展開を行ように指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・」

 

 

山の奥底、この都市の霊脈の中央に配された器を見上げて。

男はクツクツと嗤っている。

男は陰鬱ながらも何処か鷹を彷彿させるような顔立ちで。

服装は一般的な学者のそれであった。

 

無様なものだと。

死んだものを蘇らせそれがオリジナルと立証するのは悪魔の証明だ。

自らの主観で行うからこそ。

それこそ人の身では永劫たどり着けはしない。

嘗てこの身が愚かしくも行った演算の果てである様にと・・・

故にこれは無様に過ぎる、願って過程を省略してまで手に入れたものが本物かどうかなど誰にも分らない。

完璧に失われた物は戻ってくることはない。それが世界の、現実の大原則だ。

万能という言葉に惑わされ英霊たちは愚者になりさがりこんなものを求める。

自分の力で得たものに意味はあれどこういった類の物に願いしがみついた結果に意味はない。

生者ならまだわからんでもないが。死者が滑稽にもしがみつくのは

全く度しがたい物であろう。

 

「そうは思わんか? 騎士王?」

 

眼前、杯の真下に存在する鎧を着こみ反転した漆黒の剣を携える少女に言葉を投げかけた。

 

「まぁ最も、今の私の声など届きはしないがな、また間違えたなお前は」

 

反転し、また間違えた事をしているぞと男は嘲笑う。

まぁもっとも男自身が声を届けようと思っているわけではないので男の声は絶対に届くわけではない。

故に気付けないのだ。少女、あるいは騎士王と呼ばれる「アルトリア・ペンドラゴン」の優れた能力をもってしても。

生前の彼女は随分と無様だったと男はニタニタ嗤いつつ思い出す。

面白いくらいに踊ってくれた。ああこれなら自分が来る前の世界もちょうどいい人形として旧世代の幕引きに使うだろうと思いながら。

 

「ククク、本当にこの世界は罪人だらけだ。故に周防達哉にふさわしい」

 

騎士王を嘲笑いながら思考を横に反らして、常日頃、パージングが行われるこの世界は実に達哉にふさわしいとつぶやき。

また嗤う。

本当に無様な世界であると。

少し細工しただけで王は選択を失敗し。

術式が暴走してこの様である。

見通す眼はあっても事を理解する思考の目は無いに等しい。

まぁ男からすれば我が主たる白痴の神の代表者だ。

色濃く本質を俗諺?にするのは仕方の無いことだと嗤いつつ。

それを見る。

 

「ほう、今回は早いな、周防達哉」

 

知性体のいる場所で覗けないものは男にはなかった。

過去、未来、現在、そのすべてを見通し嘲笑することが出来る。

 

「ククク、それは見当違いだ。周防達哉」

 

己が罪を吐き出し。吐露する。

それは逃げではなくて。事前に準備する一手であると男にはよく理解できたが。

その考えこそが見当の違いだ。

いや断罪への一手になり得る手筋である。

達哉ではなくカルデアにいる王へのだが。

達哉の記憶が再生されていく、11年前の事件事の発端。

その後の再会と、加速する状況悪化への対処のための奮闘。

だがすでに事は遅く転がり落ちるように世界は人は破滅を望み達哉たちが敗北したという結果である。

さらにソレをなかった事にするため、普遍的無意識下の最下層から過去へと干渉し。

過去の忘却という対価と触媒をもって、出会いを無かった事にして現在地点をリセットするという。

この世界のあり様を行ったということを見せていた。

 

「さてあとはこの場は奴の仕切りだ。愚者には愚者なりに踊ってもらうとしよう」

 

男は視覚を再度スライドし霧のように千切れて消えていく。

 

舞台は整いつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルガマリーはもう止めてと叫びたくなった。

同情とかそういうのではない純粋に嫌だったからだ。

現実というのは辛く痛い物だ。

光がなくては生きていけない。

それですら取り上げられる惨状が繰り広げられていた。

どうしろというのだ? どうすればいいのだ?

辛い現実を受け入れてなおも足掻けと?

それができるなら人は・・・

そして脳裏によぎる自分の言葉。

 

―確かに未来を変えるには大きな力。大きな才能が必要でしょう―

 

―でも未来を、もっと善きものに変えるには、ほんのちょっとしたどこにもある一般的なコトじゃなかったのかってー

 

その一般的な思想はある種の超人を表す思想だ。

その言葉は辛い現実から目を背けずなおも足掻けるのか?ということだ。

魔術師という人種の多くがソレヲできていない。

超常的な力に目を向け己はロクデナシだからと目を背け。超常者を気取る。

それゆえに、破滅を望んだ珠閒瑠市の住人と変わりがないことに気付かされる。

 

淡々と述べられていく事実に。

まるでオルガマリーは”お前は逃げて逃げて戦いもしなかった愚物”だと突き付けられているような感覚に心がへし折れそうになっていった。

 

場面が切り替わっていく少年、少女たちが慕う少女たちが愛する姉が刺された。

 

その槍は特別な物であった。

 

2000年も語られる伝説を持ち。

噂が具現化する土地の中で刺されれば如何なる奇跡でさえ癒せぬ呪いの槍と化している。

 

もう手遅れだ間に合いもしない。

 

姉は破滅を担う生贄として捧げられ。

 

世界の破滅が叶えられた。

 

民衆が望み。影が嘲笑いながら敷いた悪意のレールを運命の車輪が走っていく。

 

少年たちの叫びなど大多数の過半数を有する願いからすれば知らぬ物だとばかりに。

 

これで終わりか?、否である・・・・

 

―すべてを忘れろ、出会ったことを無かった事にしろー

 

そうすれば過去への干渉によって。

今が無かった事になり。現状が無効となるゆえである。

無論少年、少女たちはソレを選んだ。

嘗て神社でやらかした時のように。

都合が悪いからと目を反らし臭い物に蓋をする、酸っぱい葡萄だからと切り捨てると同じように。

だがそれが世界を守れなかった罪に対する罰ならしょうがない事だろう。

 

「ちょっと待ってください」

「なんだ?」

 

マシュがふと思う。

忘れることによってすべてなかったことになる。

だが、目の前の先輩は・・・覚悟を決められたのか?

 

親友は”奴”との策謀があったが両親との確執を解決し。少女も己の生まれを乗り越えて友を得た。

友人も大事なものを得て父の恐怖を乗り越えた。

 

 

「先輩は忘れたんですか?」

 

 

彼等は救われたのだ。

この争乱の中で。

だが目の前の、先輩は?

 

悪化した家庭環境が治るわけでもない、友人が増えたわけでもなければ、愛した人でさえ死んでいる。

彼の抱えている蟠りは何も解決しておらず。

あるのは取り戻した絆だけ。

その事実から生来より続く無垢さゆえに直視できず本人の言葉を聞くという愚行をマシュはやってしまう。

 

「俺は」

 

マシュの問いに彼は眼を背けず、血反吐を吐くような表情で言い切った。

 

「忘れられなかった。」

「「------」」

 

達哉の言葉に何も言えない、言えるはずがない

達哉と同じ状況に立たされて忘れろという方が酷でもあろう。

誰もどう言っていいのかも分からずとも。

映像はなおも続く。

世界がリセットされ崩壊していく中で彼らは最後の言葉を交わす。

 

『色々合ったけど。また会えて嬉しかったぜ。戻ったら今度こそバンドのメンバーにして見せるからな、男の約束忘れるなよ!!』

少年は言う忘れるなと・・・

 

『情人・・・、私の事、忘れないで。大好きよ』

少女は言う忘れるなと・・・

 

『僕は忘れない、犯した罪も君の事も皆の事も、必ず、また出会い今度こそ舞耶姉さんを守るんだ。だからさよならは言わないよ。ただありがとう』

親友は言う忘れるなと・・・

 

 

「はは・・・」

「所長?」

 

皆が忘れるなと達哉に言っている。

ここまでくると渇いた笑いが出るという物であろう。

辛いのは自分だけと思っているのか? お前らは良いよな、救われたんだから。

だがコイツは事態の収拾に奔走こそしたけれど得たものは過去の絆だけで。

それ以外は何も救われてはいない。

この中で一番忘れ辛いのは彼だというのにそれなのに・・・

 

「ふざけんじゃないわよ!!」

 

忘れるなと言うのか!!

オルガマリーは頭に血が上がり幻影に殴りかかる様に躍りかかる。

 

「所、所長?」

「おいやめろって!!」

 

突然激高し出したオルガマリーをクーフーリンが羽交い絞めにし。

その様相に達哉は眼をむいた。

殴られるのは自分であると覚悟していたが。まさか親友たちに襲い掛かるとは思っても居なかった。

 

「ふざけんな!! 何が忘れるなよ!! 忘れなきゃいけないのに・・・・、忘れて何もかも以前と同じような場所に戻るのが一番辛いのはタツヤだって、なんで分からないのよ!!」

 

達哉のリセットの光景に見たのはオルガマリー自身の姿だった。

血筋ゆえに要らぬ期待やらなんやら押し付けられて此処にいるからである。

だが激高したのはそこではない。

オルガマリーに友人は居ないけれど。達哉には居た。

羨ましいともいえるだろう。だからこそ鼻につく。

達哉に強い人という幻想を押し付けて、忘れるなという、こいつらが許せない。

達哉の隣に居ながら親友やら想い人といいながらこいつの苦悩を理解しないこいつらが許せなかった。

 

そうする間にも映像はスライドする。

 

皆が消えた中で世界の狭間で蹲り達哉が慟哭を漏らす。

 

 

『駄目だ。忘れたくない、忘れられるものか』

 

マシュの顔も引きつった。

これで忘れろというのですか!?と思わざるを得ない。

想い人を失い寄る縁を失い、さらに忘れるなのオンパレードである。

達哉には此れしか頼る縁がないというのにとどめと言わんばかりの仕打ちだ。

 

さしものクーフーリンも顔をしかめた。

これが奴の脚本どおりなら神以上の腐れ野郎だと思うほかない。

悪辣極まる邪悪の罠だ。

クーフーリンから見ても達哉は優れた戦士であるが英雄ではない、故にそれを望むのはお門違いにすぎると思う。

 

『みんな、行かないでくれ、もう一人にしないでくれ』

 

達哉は慟哭に手を伸ばす。

彼は数少ない友を失えば一人であった。

父が冤罪で懲戒免職され。ソレを晴らすために兄は夢をあきらめ刑事になり仕事に打ち込み。

学校にも実際のところ馴染めず友人は居ないに等しいゆえに。

そんな状況下で取り戻した大事なものが失われるのに。失ったことによってやってくる孤独に耐えられる人間はない。

英霊ならばできたぞというのは論外である。

誰も戦士であろうと思えば在れるが英雄にはなれない。

達哉は超人でもなければ英雄でもない、ただの人間であるゆえに。

耐えられるわけがないのだ。

 

『いやだ。嫌だ。嫌だァ―――――――』

 

故に達哉は忘却を拒んでしまった・・・・

そして刻は繰り返される。映像も繰り返される。

向う側で舞耶と達哉が再開した時に運命の歯車が回り始めた。

 

「まだあるのね・・・」

「ああ、寧ろここからが本質だ。」

「・・・」

 

息を切らしたオルガマリーの呟きに達哉はむしろ此処からが今回につながると言う。

オルガマリーは表情を削り切ったような無表情で。

マシュに至っては怒りと嘆きがごちゃ混ぜになった表情だ。

クーフーリンも眉間にしわを寄せてダンマリであり。

カルデア職員たちも絶句していた。

 

映像が流れていく。

 

罪から罰へと。

 

忘却を拒んだがゆえに達哉だけが思い出してしまい。

こちら側との同調に失敗した。

だがすぐに戻ることもできなかった。

 

”奴”が暗躍していることを察したからである。

 

名は様々にあるがあえて言うなら。

クトゥルフ神話におけるトリックスターの代名詞である「ニャルラトホテプ」を語り嘲笑う。

阿頼耶識の太極絵図の黒を司り。

全人類、あるいは全知生体の破滅などを望む代表とする黒き感情の化身

自分たちを陥れたソレが暗躍していることを知り。

事態へのインターセプトを図らなくてはならなかったがゆえである。

もう事態そのものが走り出しており達哉が介入しなければ同じことになるだろうと必死に奔走する羽目になった。

多くの痛みを伴い。

刻は繰り返される、噂が実現化し街が浮上など。

ニャルラトホテプの嘲笑は止まらない。

挙句、前倒しで前と同じになるところであった。

それでも達哉は戦い。

奴との闘争に大人たちの手を借りて勝ちをもぎ取った。

そこまで映像が流れる。

 

さぁあとはハッピーエンドだとオルガマリーもマシュも思い。

 

終わったなという仲間の大人の言葉に返す達哉の言葉に。

 

「『いやまだ後始末が残っている』」

 

絶句するほかなかった。

向こう側の存在である達哉は生み出したパラレルワールドには存在できない。

存在すれば、それ自体が特異点として機能し奴が促進しなくとも向こう側が来てその世界を上書きしてしまうからだ。

故に帰らなければならないと達哉は言う。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、帰るって・・・どこに・・・」

 

マシュは事実を認めたくないがゆえに問いただす。

当たり前だあの状況下で忘れろとか言う方が無理である。

それを罪というのは余りにも酷すぎると思うほかないからである。

 

「向こう側だが?」

「向こう側って、何もないじゃないですか!! 人々はこちら側に同調して去って!!、ライフラインも寸断された世界にですか!?」

「そうだ。それが俺が忘れなかったことへの罰だ」

「そんなの間違っていますよ! 先輩はあんなに頑張ったじゃないですか!! 友人のためにみんなのために、なのにそんな結末って・・・・」

「間違ってなんかいないよ、俺が忘却すれば全てそこでお終いだったんだ。」

 

もう誰も何も言えない。

映像が終わり沈黙が見守る中でクーフーリンが口を開く。

 

「それで、坊主、こんな映像見せて何が言いたいんだ?」

「・・・もしかしたら冬木以外に、 俺が居ると向こう側が特異点として顕現するかもしれない、だからその時は「やめてください!!」」

 

聞きたくないとばかりにマシュは叫ぶ。

当たり前だろう人生経験皆無の少女が。自分が慕う存在が。

こんなにも理不尽な目にあってその挙句ずっと理不尽を味わい続けろというのだ。

ただ忘れたくないと願っただけなのにと。

 

「先輩は・・・なにも悪くないじゃないですか・・・」

 

マシュは擦れる声を出しながら俯き、拳を握りしめてブルブルと震わせる。

その時である。

カルデアからの通信から声が上がる。

 

『あのな、今調べて見たんだが・・・、日本に珠閒瑠なんて町はないぞ』

 

声の主は生き残ったスタッフの一人である「ジングル・アベル・ムニエル」がそういう。

彼は達哉の危惧を否定するためにカルデアのデータベースから街の事を調べようとして。

街の情報がないことに気付く。

異世界の住人というは達哉が語る通りであり世界観が違う故の差異ゆえに存在しないことを知って胸を撫でおろした。

マシュもオルガマリーもその言葉に安堵の息を漏らすが。

 

「いや、それでも帰らなければならない、俺は奴に魅入られている」

 

特異点問題が発生しなくても帰らなければならないと達哉は断言した。

それは特異点よりも質が悪いヤツ、つまりニャルラトホテプに魅入られていることに起因する。

もし奴が自分を起点に、この世界に介入したら目も当てられないだろう。

どう足掻いても帰らなければならないのだ。

 

「今回は前とは違ってこちら側の俺に憑依したわけじゃない。直接来てしまったみたいだから、前と同じようには帰れない・・・

だから」

 

今回は何故か自分のデータがカルデアに既に登録済みという謎現象まで起きている。

憑依ではなく入れ替わりが起こっていることも考慮すべきだと達哉は思う。

だが憑依ではないため以前のような帰還は無理だ。

 

故に。

 

 

「この一件で回収された聖杯を、譲ってはくれないか?」

「そ、そうです! 聖杯を使えば状況が解決します!」

 

聖杯は万能の願望機、それを使えば達哉が帰る必要はないとマシュは思い言う物の。

達哉は首を横に振った。

 

「奴の手からは逃げられない、それは痛感している。聖杯の力でもそれは無理だ・・・、それに以前とは違うとはいえ、もしかしたら、此処の俺と今の俺が入れ替わっている恐れもある、だから聖杯を使い帰還したい」

 

もう何とも言えない。

達哉自身を取り巻く環境が悪すぎる。

存在するだけで周辺が歪み破綻するとなれば達哉の言うことを人理保証機関としては受け入れざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩」

 

あの吐露から30分が経過した。

重い話が漏らされて精神的に疲労しているということと襲撃時間は、まだ先ということもあって休息をしていた。

達哉は適当な椅子に腰かけて手癖でライターを鳴らしているとマシュが達哉のところに来る。

 

「どうした? マシュ?」

「いやあの・・・その・・・」

 

マシュはなんと達哉に声をかけていいか分からない。

彼を励ましたいのだが・・・言葉が思考が追い付いてこないのだ。

 

「マシュ、俺の事は気にするな・・・、元居た場所に帰るだけなんだ。」

「ですがッッ、それでも私は・・・」

「マシュ、俺は十分に報われたよ、あっちで皆と会えて。舞耶姉が生きていただけで。兄さんと和解出来て・・・、俺は報われたんだ」

「・・・」

「それにこの世界に来て短い間だけれど、君と出会えた。それだけで十分さ」

 

それだけで十分さと、彼は諭すように言う。

 

「君は此処にいるべき存在だ。生きるべき存在だ。だから気にしてちゃだめだ」

「・・・はい」

 

こんな男など、人を縛り付けるような男など忘れろと。

まるで死にこそしてはいないが罪をなぞる様にやり取りが行われる。

そして彼の心の裡を何とかしてやりたいと思うが。

マシュはソレヲできず歯を食いしばるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

ため息一つ吐いてオルガマリーは椅子に背を預けた。

作業机の代わりに教室にある勉強机を利用し拾ってきた手ごろな石ころにルーン術式を刻む。

サーヴァント相手では大概の攻撃魔術がレジストされるため。

光などを発生させ目の機能を奪うことなどに特化している。

威力はない分、魔力を通せば詠唱なしに炸裂するフラッシュバンだ。

無論、ちゃんとした触媒ではないため効果がどの程度見込めるかは不明であるがないよりはマシだ。

 

「たくトンだ愁嘆場になっちまったな・・・」

「そうね・・・」

 

教室にクーフーリンが入ってくるなり言った言葉に。

オルガマリーも同意する。

飛んだ爆弾が付いてきたものだと。

 

「達哉は確かに悪いっちゃ悪いが。周りの連中も大概すぎるぜ、アレは、年端も行かねぇ坊主共に世界の命運おっかぶせて。破滅を望むなんてな・・・、現代だとあれがデフォルトなのか?」

「違うわよ、誰だって楽していきたいもの、都合のいい幻想に縋りつきたくなるのも当然でしょう? 私だってあの場に居たらどうなっていたことやら」

 

本当に間の悪さ、周囲の悪意のすべてが噛み合った結果である。

そう誘導したのはニャルラトホテプではあるが実行したのは現地住民だ。

達哉は加害者であるが被害者である、しょうがないとまだ言えるものの。

あの噂が実現するという状況下に置いて事態を間違いなく悪化させたのは周囲の責任であろう。

故に一概に達哉を責めることはできない。

 

「それであいつに聖杯譲るのか?」

「・・・ええ」

 

居れば世界が滅ぶかもしれないニャルラトホテプの介入を招くかもしれない。

だったら譲って退去してもらうのが合理的判断という物だ。

もっともオルガマリーは内心では納得していない。

クーフーリンも同様だ。

だがそう思う度に、脳裏に奴の声が再生される。

 

『貴様らは一つ大きな事を学んだぞ!! どうにもできない事もあるという、世の理をだ!!』

 

そうどうにもできない事なのだ。

幾ら望もうが叫ぼうが渇望しようが。

願望機であれどどうしようもない事なのだ。

 

「ところで、クーフーリン、それなによ?」

 

クーフーリンが担いでいるのは丁度普通の刀剣サイズの鉄パイプである。

殺傷力を上げる為、先端を斜めにカットし。

鉄パイプ自身にルーンが所狭しと書き込まれ本体強度が引き上げられている。

下手な名刀の類よりは鈍器として刺突武器として優れているものに仕上がっていった。

 

「あの坊主の、いやあいつは何であれ試練を乗り越えているから、坊主呼びは失礼だな・・・、達哉の得物だよ。

此れから騎士王と戦うんだ。神卸の影響でそこいらの鉄パイプでもダメージを通せると言ったって普通の鉄パイプじゃ荷が重いだろ?」

 

だから準備したわけだとクーフーリンが述べる。

 

「まぁそうならいいけど・・・・」

「はぁ、アンタも重症だな」

「そりゃね・・・」

 

達哉の過去はある種。オルガマリーの身の上での類似点も多く。

共感するなという方が無理である。

両親との軋み、周囲からの重圧、やらねばならないという強迫観念・・・

似ていた。

 

「マシュは?」

「・・・あまりいい状態じゃない、だが戦ってもらわんと困るぞ」

「そう、こっちでフォローしておくわ」

「できんのか?」

「少なくともタツヤよりは話し上手よ、私」

 

マシュはこの短期間で達哉に依存していることはオルガマリーにもわかっている。

その中で柵が多く纏わりついている達哉はそれに気づけていないことも理解している。

故に此処は所長の自分が発破を掛けなければならないだろうと決意する。

オルガマリーは自身が加工した。石ころを懐に入れてマシュをできうる限りフォローする為。

場を後にする。

 

 

現実は痛みに倒れた人の事を待ってくれなどしない。

 

運命の車輪は小さな砂粒をかみ砕き、猶も無常に廻る。

 

それは神にですらどうにもできぬ、この世の理であった。

 

 

 




現状

たっちゃん、いきなり過ぎる展開やら罰の経験から疑心暗鬼になり、身の上をばらすタイミングをミスる。

マシュ、メンタルボロボロ、現実知らんから割り切ることもできない。

所長、たっちゃんに共感してブチ切れる。 マシュのフォローに奔走する羽目に。

兄貴、さしもの爆弾ぷりにどうすればいいのだ?とポルポル状態。

フォウくん ニャルが行った。達哉に対する仕打ちにランボー怒りのアフガン状態

ニャルは暇つぶしに春川英輔の姿でこっそり登場、Fate SS名物アルトリアディスり、たっちゃんの暴露に愉悦。



各個人の心境

たっちゃん 何が何でも帰られば(使命感)

マシュ こんなの絶対おかしいよ!!

オルガマリー バカヤロー!! バカヤロー!! ふざけるナァァァアアアアアアア!!

クーフーリン 俺にどうしろと言うのだ・・・・

フォウくん  混沌ヤロゥ、オブクラッシャァアアアアアア!!

カルデア職員 絶句。

奴ことニャル様  実に感動的な一手だなwwwww、だが見当違いだ。(^U^)wwwwwww



フォウくん描写するのを忘れていたので此処に心境を描写、ニャルの存在に殺意の波動に目覚めかけている。


次回はオルガマリーと達哉による、マシュのフォローの後、円蔵山地下攻防戦

たっちゃん&マシュ&所長&兄貴VSセイバーオルタ&エミヤン戦で行きます。


相変わらず上手く話し纏められなくてすいません。


先の構想を練ると、主にニャルのせいでシリアスしか思い浮かばない。

辛いから第一特異点をやったことにしてハロウィンイベントとか書きたい・・・・

あと仕事が忙しいのと夜光雲のサリッサやらなんやらを読むで忙しいので。

だいぶ遅れるかも知れません。




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四節 「抗う者たちと折れた者たち」 

動け、問うこととは、答えをくれぬものに抗うことだから。

終わりのクロニクル 下巻より抜粋


そも現実的理不尽に抗うには経験が必要である。

つまるところ”己の哲学”を持ち合わせなければ無理にも等しい。

此ればかりは生きた年月や他者と接し、他の情報媒介からの情報を摂取して組み上げる類である。

偏屈な人間は、それはお前の偏見だと言うであろうが。

そういって上から見下げること自体が主観性の無さを語るという物であろう。

もっともその程度の嘲笑でへし折れる方もへし折れる方であるという話であるが。

 

だからこそマシュ・キリエライトという少女は外を知らぬがゆえにあまりにも無垢で脆い。

 

まるで繊細な硝子細工の様にだ。

いま彼女は何もできないということに打ちのめされていた。

デミサーヴァントという能力があれど。

それは達哉の問題を何も解決してくれない蟷螂の斧である。

故に戦線を前にして皆から離れて昇り階段の中腹に腰かけて蹲っていった。

 

「此処にいたのね、マシュ」

「所長・・・もう作戦開始ですか?」

「違うわよ」

 

そんな、マシュのもとにオルガマリーがやってくる。

彼女の表情は緊張に染められ、優雅な表情を作ろうとしているが緊張ゆえに歪であった。

オルガマリーにとってマシュは恐怖対象であった。

父が己が知らぬ間にやらかした負の遺産であるがゆえである。

故にいつか報復されるのではないかと気が気でなかったのである。

今回の特異点において助けられたことや、戦線を共にしたり、一緒に訓練して死にかけたりして蟠りは溶けつつあるが。

それでも早々に人間という物は恐怖をすぐさま克服できるように便利に出来てなどいない。

緊張するのは当然の事と言えよう。

 

「じゃあ何のために・・・」

「私もね、タツヤの事で思うことがあるから・・・、少し話しましょうよ」

 

怖いけれど腹を割って話そうと此処にオルガマリーは来たのである。

自分が生き残るにせよ皆で生き残るにせよ。

マシュの力は必要だからだ。

名だたる英霊の中でも有名な騎士王の一撃を凌ぐにはマシュの宝具が必要になるからである。

 

「私は・・・話すことはないです」

「己の無力さが嫌になったかしら?」

「それは!!「私も一緒よ」え?」

 

図星を突かれて冷たい殺意を一瞬宿らせてオルガマリーを睨み付けようとするが。

彼女の独白に虚を突かれ呆然とする。

マシュの知る、オルガマリーはヒステリックで他人を受け付けないというイメージがあったからだ。

こうも他者に己が胸の内を明すということはほぼ無く。

抱え込んでは空回りしてトイレで吐いているイメージが強かった。

 

「ずっと前から、自分の無力さも嫌だったし取り巻く環境も嫌だった。だってそうでしょ? 我が家に生まれたんだから魔術を引き継げってさ、その上で連中はキリシュタリアの方がいいとかほざくし、だったらやりたがってるアイツに全部押し付けてよ!! 私の方なんか見るなって常日頃思っていたもの。

今回も一緒、達哉に自分の似姿を見て無様に怒鳴り散らすことしかできないもの、情けないでしょう?」

「・・・」

 

マシュは何も言えず沈黙する。

 

「だからあなたと一緒よ、アイツに助けてもらっておきながら、何一つ出来やしないわ・・・」

「だからって、所長は先輩を見捨てるんですか?!」

「じゃぁ逆に聞くけれど、どうすればいいのよ・・・」

「それは・・・」

「だからどうしようもないのよ・・・と言ってもね。」

 

―私はタダであいつを見捨てる気はないと続ける。―

 

過ごした時間はわずかだが悪意なく自分自身を見てくれた二人目の存在だ。

見てる気にはなれない。

 

「タダで見捨てる気はないって・・・どういう・・・」

「忘れない事よ・・・、あいつは此処にいたんだって。あと此処の修復が終わったら盛大にパーティやって盛大に送り出しましょう!!、そんくらいは許されるはずだわ、アイツは向こう側で罪を犯したけれどこっちでは何もしていないし、寧ろ世界を救ったんだから、そのくらいは良いでしょ」

 

 

最高の思い出を作り送り出そうと言う、それは無力な祈りだけれど。

だが抗うということでもある。すべてを忘却された彼を覚えていればきっとそれが希望になるからと。

出来ることなど精々そのくらいで。

だがその光が人の生きる活力となる。

オルガマリー自身がそうであった様に

周りから奇怪な眼差しで見られていた彼女に悪意になく接してくれたレフが救いになったようにだ。

 

「向こう側は大変そうだし、資材やら資源やら提供してもいいでしょう。聖杯ならそれごと送り届けられるでしょうしね!!」

「所長・・・」

「だからマシュ、辛いでしょうけれど笑って送り出しましょうよ、じゃなきゃいい思い出にもなりゃしない」

 

辛いけれど出来ることは出来るだけやって笑って送り出そうと決意を表明する。

そうすればきっといい思い出になるはずだから。

 

「所長って・・・」

 

その決意を聞いてマシュはふと微笑んで。

 

「もう少しなんかヘタレだと思っていました。」

 

毒を吐いた。

ギョッ&クワッとした表情でオルガマリーがマシュを見る。

毒を吐いたことに驚愕してである。

いきなり実際になり言葉でなりボディーブローを食らえばそうもなろう。

 

「うっさいわね!! どーせ私はヘタレよ!」

 

マシュの悪態に不貞腐れつつそう返す。

こんな状況に放り込まれて、あんなもの見せられれば嫌でも吹っ切れるという物であった。

つまり達哉の記憶を見て少しばかり成長したということである。

 

「でも素敵な提案だと思います!! カルデアの備蓄庫が壊滅していなければいいのですが。」

「あーそれね・・・、まぁその時は数週間ぐらい滞在してもらうわ」

「いや、すぐに帰りそうですけれど・・・その点どうするんです?」

「縛り上げて医務室あたりに転がしておけばいいのよ、うん、世話はマシュがやってよ」

「ええ!? あの所長、吹っ切れてから頭悪くなってません!?」

「いいのよ!! あーもう、なんかほんとゲロ吐きにトイレに駆け込んでいた時期が懐かしいわ・・・、全部終わったら家督と刻印をキリシュタリアにぶん投げて、自分は責任取って所長も引退して、そこそこの魔術師として過ごそう、そうしましょう!」

「所長、それは吹っ切れすぎですよ!!」

 

達哉の記憶を見て吹っ切れたのは良いが変な方向に飛び出しつつあるぅとマシュは叫び。

オルガマリーはどうでもいいわ的な感じで返す。

まるで気だるげでテキトーな友人に突っ込む女子のような感じのやり取りである。

そんなやり取りをしてこうしようああしようと二人で盛り上がる。

内に。オルガマリーが噴き出した。

 

「ほんと私か拒絶していたのは」

「所長?」

「いやね、他人を分かろうとせずに逃げていたことがやっとわかって・・・」

 

重圧と魔術師のあり様ゆえに人間不信になっていったが。

それは自分から他人と付き合おうと思わなかったことが原因かとぼやく。

マシュがこういう少女ということさえ知らなかったからそうもぼやきたくなる物だろう

 

「いまだから告白するけどね、私、アナタに殺されるんじゃないかなと思ってた」

「いえ、なんでそんなことしなきゃならないんですか」

「糞親父のやらかし代表じゃない、アナタ。 だから報復されるかなぁと」

 

そう、だから逃げていた。

前は話すのでさえ事前準備が必要なほどには逃げていた。

 

「ええ・・・」

 

さしものマシュも心外だとばかりに引く。

けれどよくよく考えればこれも仕方の無い事だろうとマシュは内心納得する。

さらにオルガマリーは己が思いを吐き出していく。

今は無性に誰かと喋りたかった。こうして初めてだけれど同性と気兼ねなく話せるというのは新鮮でポンポン言葉が出てくる。

マシュもそれは同じであった。

 

「でもそれは思い込みだった。思い込んで逃げて向き合おうともしなかったから、判らなかったのよ・・・ごめんなさい」

「いえそれは、私も同じです・・・ヘタレでヒステリックだなぁと思っていましたから」

「否定できないけど、もうちょっと言葉をオブラートに包みなさいよ、アナタは。私やタツヤはいいかもしれないけれど、ズバッとやると人って大概に不快感が出るものだから。言葉の綾を学んでおかないと今から苦労するわよ~」

「は、はい! 勉強しておきます!!」

 

下らない話しやら愚痴やらなんやらで時は流れていく。

さてそろそろねと思ってオルガマリーは話を打ち切ろうとして。

マシュが半泣き笑いになっていることに気付いた。

 

「マシュちょっとあなた泣いているわよ」

「い、いえ、そのやっぱり割り切れるものではなくて・・・そういう所長だって半泣きじゃないですか」

「え?」

 

指摘して言い返され気づく。

オルガマリーの目頭から涙が流れていた。

そう簡単には割り切れるものじゃないのだ。

短すぎる付き合いだけれどそれでも今はオルガマリーにとって大事な者に成りつつあったのだ。

 

「・・・盛大に送り出して皆で泣きましょう、アイツにとって最高の思い出にしてあげましょう、それが私たちにできる返礼だから」

「はい・・・」

 

だが今は泣く時ではない。

勝利をもぎ取る時であり、達哉に対する返礼は最高の思い出を送る事だと決意を新たにして。

その寂しさは全てが終わった後で吐露しようとオルガマリーとマシュは約束した。

涙の最後の一粒が頬を伝って床に落ちて。涙の軌跡は消えていった。

 

 

「・・・」

「いい縁じゃぁねぇか、達哉」

 

その二人の様子を物陰から見守る二人の男。

達哉とクーフーリンである。

二人とも、女子二人が心配になり来てみれば談笑に花を咲かせており。入るタイミングを完全に失い。

気配を殺してこうやって動かなかっただけである。

故に会話が聞こえてしまった。

会話を聞いた。クーフーリンはいい縁に出会えたなと、ポンと達哉の肩を叩き励ます。

 

「ああ」

 

それに達哉は同意する、クーフーリンから顔を達哉は顔を背けていた。

彼もまた泣いていたのだ。

新しき友の心使いに泣いていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き少女は思いをはせる。

最後の戦場、そこで姉が笑っていた。

嘲笑っていた。

 

ー所詮貴様は夢魔の作った人形だ!! 人の心を理解できない男が作ったものに人の心を理解するなど到底不可能に違いない!! 最初の一歩から間違っているのだよ!! 貴様は!!―

 

貴様は完璧な王でもなければ光の奴隷ですらないと嘲笑う。

 

―違うと叫ぶか? ククク、それもいいだろう!!、だが自覚するのだな、選択の結果を考慮せず進み続けた結果がこの様だ!! 正しければ報われるなどと、なぜ都合よく世界が出来ていると思ったのか? まぁ実に少女らしい夢だ!、故に周りを狂わせることしか貴様はできないのだよ!!―

 

姉は嘯く、見てみろと。

お前の背後を。死体だらけでではないかと言い放ち。

正しさと夢に縋り続け現実を見なかった結果。どうするべきかも本当の意味で分からなかった結果。

この様だと嘲笑う。

 

―おまけに人を見る目もない、貴様の周りはYESマンだらけでお前を正そうともしなかった。当然の帰結だな、まぁ人形風情には上出来だがな!! 人形が人形を操って制御に失敗して国を滅ぼしたなぞ最高の笑い話だ―

 

黙れ、黙れ、黙れと少女は呟く。

まだまだ言葉は続く。筈であったが。

 

 

「セイバー」

 

男の声に現実に引き戻される。

 

「アーチャー・・・私は・・・」

「だいぶ魘されて居たぞ。また奴にでも煽られたかね?」

「煽られた夢を見ていた」

 

セイバーと呼ばれた少女の言葉に男も顔を顰める。

セイバーの反応で男が思い出すのは男の最後の戦場で対峙した「武帝」と名乗る奴の化身との会話だ。

 

 

―なぜ武器をもって正義の味方を気取る? 武器は人を傷つけるための道具だというのになぁ、英雄と正義の味方は別であると、なぜ気付かない? 貴様は名も無き誰かのために武器を振るった、その上誰も愛してはいない癖に大義だけを振るう、それはまさに英雄の思考だ!! 故に世界から武をなくす俺の天下布武の邪魔だ。来るがいい同じ善悪相殺の神髄を教えてやろう!!―

 

―違うというのか? であるなら叫んでみればいい、お前たちがこの世の中で自分の中で優先されるべき存在だとな!!-

 

―結局言えまい、なんせお前は救うべき相手など本当の意味でいないのだから―

 

―それでも俺という悪鬼を滅ぼしたいか?、なら私信を捨てて殺戮機械になればいい!!―

 

―なぜ貴様が此処にいるのかと? 言ったはずだ。私は人の影だと。 故に此処は私の領域だ。

居て当然だ。あの私という脅威は去り彼らは生き残った。

あの状況からは救われたぞ!! なに? 国軍に殺されているではないかと? 何を言っている?

お前は”今の彼らを救え”と、この私に自ら契約したはずだ。故に望んだはずだ!! そう私に脅かされている彼らを救うのは契約内だが、そのあとの国軍に介入され殺される事から助けるのは契約にはない

そう言う契約だ。 後の事は知らんなァ、故に契約に則り貴様の死後はもらい受ける。

精々、世界の滅亡を回避するための殺し屋になるがいい、ほら願いが叶い、お前の望んだ”理想の英雄”に成れたのだ。喜べ!! ククク、クッハハハハ!!!―

 

武帝という影は払われたかのように見えて実際は奴の一人芝居で。

男は世界と契約させられ、影に取りつかれてこの様だ。

答えを得たからいい物の。

未だにヤツからは逃れられていない

故に興味がある、あの悪神と対峙し勝利した人間に。

 

 

「周防達哉、見せてもらおう」

 

 

セイバーはそう言って、男と共に洞窟の先を見据えた。

 

 

その背後で影が嘲笑っているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうちょっとお手柔らかに・・・・うっぷ・・・」

「す、すまない・・・大丈夫か?」

「ちょ、ちょっときつい・・・」

 

円蔵山の麓までは体力温存の為。

近所から拝借したバイクで麓まで来ていた。

達哉はバイクいじりが趣味で乗ることも好きであるしかつては自分のバイクを持っていったこともある。

運転は無論心得ていた。大型バイクを中型バイクの感覚で乗り回したため多少運転が荒く。

四ケツしたということもあってさらに荒くなり。狙撃を警戒しワイルドスピード張りに街中を駆け抜けつつ敵を迎撃しながらここまで来たのだ。

ペルソナ使いである達哉。デミサーヴァントであるマシュ、サーヴァントであるクーフーリンは余裕で耐えられるものの。

魔術師ではあっても身体能力一般人基準のオルガマリーはリバース寸前である。

 

「あー嬢ちゃん吐いて来い、すっきりさせた方が身のためだ」

 

クーフーリンの気づかいに頷き。オルガマリーは雑木林の中に消えていった。

 

「先が思いやられるぜ・・・」

「そう言わずに」

「まぁそうだけどよォ、最深部にはセイバーとアーチャーが控えている、戦力分散せず、戦力を集中させて、こっちを粉砕するつもりだ。」

 

達哉のフォローを聞きつつ、いま現状は相手が戦力を集中し待ち受けていることはクーフーリンには分かった。

殆どのサーヴァントこそ仕留めたが、セイバー、アーチャーは健在である。

置物と化したバーサーカーは置いておいて。

全力でこちらを迎え撃つべく状況を整えて待ち受けているといった方がいい。

つまり連中はこっちの戦力を見据えて集中させ一気に火力で押しつぶす気だ。

 

「ならどうしましょうか・・・みすみす相手のホームグランドに行くというのも」

「俺だったら槍ぶっ放して岩盤ぶち抜いて生き埋めにするが、わりぃがランサークラスの身でもないからそりゃ無理でね、達哉、お前、ペルソナでどうにかできないか?」

「無茶言わないでくれ・・・」

「だよなぁ・・・」

 

戦略的には乗り込みたくなく、正直な話、生き埋めにして終わらせたいのがクーフーリンの本音である。

といっても火力的に崩落する岩盤は消し飛ばされるのが落ちかとつぶやいた。

まぁ兎にも角にも相手の居城に自分たちは踏み込むしかない。

それくらいに現状手札がかぎられている。

寧ろペルソナ使い一名、天才魔術師一名 デミサーヴァント一名 サーヴァント一名で相手取るなら数の暴力で押しつぶせるのだが。

相手は戦術兵器持ち、聖杯のバックアップに加えて乱射可能な二人がタッグを組んでおり。

距離を取ればとるほど不利になるのは道理と言えよう。

 

「マシュ、宝具の展開準備をしておいてくれ、俺なら顔見世で最大火力をぶつける。クーフーリンはマシュの防御宝具の補強をお願いしたい」

「分かりました! 任せてください!!」

「おうよ、任された」

 

兎に角、今回の作戦というより突撃は如何に相手の初撃を凌ぎ、出鼻をくじけるかにかかっている。

マシュの宝具で想定される宝具ブッパを凌ぎ。

凌ぎ切ったと同時に達哉が騎士王をクーフーリンが令呪を切ってアーチャーと対抗する。

ちなみに今まで述べていなかったがキャスターの魔力供給は此処に来ると同時に降って沸いたかのように適正が生えてきたオルガマリーが。

現状のカルデアに負荷をかけるわけにはいかないとしてクーフーリンと契約を結んでおり。

令呪も持っているためオルガマリーが手札を切ることになる。

無論タイミングを合わせて達哉もアポロの最大スキルを切って。

即座に打ち倒す予定であった。

 

それでもし、敵が当初の予定に出てこなかったらということも想定して数パターン用意している。

 

無論、カルデアスタッフと煮詰めた結果である。

あとは出たところ勝負。激流に身を任せてなる様にしかならないものだ。

 

「ふぅ・・・すっきりした」

 

すっきりしたという表情で所長が雑木林から出てくる。

吹っ切れてからはそのヒステリックさは身を収めていた。

と言ってもズボラになりつつあるが。まぁそれも愛嬌という物だろう。

 

「達哉、飴、頂戴。胃液で口の中がベトベトなのよ・・・」

「わかった。」

 

口臭リセットと口の中をスッキリさせるために図太く飴を要求する。

本当に吹っ切れたな/ましたね、とクーフーリンとマシュは思う。

達哉は苦笑しつつポケットから飴玉を取り出した。

 

「そういえば・・・この飴、精神の疲労回復効果もあるけれど・・・変なの入っていないわよね?」

 

精神がリラックスするのを感じつつ非合法的な物が入っていないか達哉に聞く。

 

「入っていない。何処にでもある普通の薬局で購入した物だからな」

 

達哉はオルガマリーの懸念は考えすぎという。

確かに効能はあるが。達哉からすれば馴染みの電波ソング流れる薬局で買った合法なものだ。

友人たちも大人たちも皆買ってる、故に合法であると思いたい。

 

「喋っても仕方がないです、行きましょう、皆さん」

 

マシュの声に頷く、事態が喋って好転することはないからだ。

隊列は此処に来たものと違い。マシュが先頭、その後ろに達哉。

さらにその後ろにオルガマリーで。

背後奇襲にも対応できるように最後にクーフーリンが並ぶ。

事前に送られてきたマッピングデータをバングルから映像投影しつつ奥へと進む。

内部は不気味なほどに静まり返っていった。

エネミーすらいない。

 

「ッ」

「大丈夫か? 嬢ちゃん?」

 

オルガマリーがふら付く。洞窟内の濃すぎる魔力に当てられたのだ。

吹っ切れて精神的余裕が出来たのと。達哉から渡された飴であるチャクラドロップの効能のお陰でリバースするまでは行かずにせよ。

眩暈程度で済んだ。

大丈夫と返し、気丈に振るまって、心配しそうに見ていた二人を先に行くように促す。

足場が不安定なのと。敵がいつ奇襲してくるか。

或いは火力任せに攻撃してくるか分からぬ緊張感で疲労が蓄積されていく。

幸いにも距離はそんなに大したことはなかった。

 

もっともたどり着いた先は地獄絵図であるが。

 

「あれが、聖杯・・・、正直眉唾だったけれどあったなんて」

「だがあれじゃ、使い物にならないぞ」

 

オルガマリーは実在をほぼほぼ疑っていた。ただの大規模な魔力炉心程度に思っていったが。

あれを見れば存在していたことを理解するという物だ。

だが達哉はあれが使い物にならないことを即座に感じ取る。

何度も感じた悪魔の気配をペルソナが教えてくれるからだ。

 

「・・・先輩の言う通りです、あれじゃ・・・ 正規使用には至りません」

 

といってもそれはペルソナがなくてもわかるという物。

杯からあふれ出る魔力という名の水は溝の水より濁って不浄の気を立てているからである。

 

―糞親父はどうやってあんなもの使ったのよ!? 私にまつわる不幸ってこんなもの使ったから、親父が受けた呪いを継承した結果なの!? どうなのよ!!―

 

オルガマリーは現実逃避に走りたくなった。

まぁ普通の人間ならばそうだろう。いかに才溢れる魔術師とはいえ。其れに人格が比例するとはまずありえないのだから。

 

「よく来た。星見の戦士たち」

 

ガチャリと音を立てて甲冑を軋ませながら立ち上がる少女が一人。

その横には赤着の男が立っている。消去法でアーチャーだろうと一同はあたりを付ける。

そして、あれが騎士王なのかと達哉は騎士王が女であることは世界が違うからと納得させて。

ルーンパイプを構える。

 

「だがこの場では力こそが全てだ。私たちを超えて見せろ!!」

 

騎士王ことセイバーはそういいつつ下段に剣を構える。

装填される魔力はペルソナの最大級魔法スキルの比ではない。

無効耐性があっても貫かれるほどの魔力の本流だ。

 

「問答無用とかふざけないでよ!! 人理の守り手なら協力してくれてもいいじゃない!!」

 

オルガマリーが悪態をつきつつ魔術回路及び刻印を起動しフルスロットルで魔力をキャスターに回す。

 

「マシュ、頼む!!」

「了解しました!!」

「周防達哉が我が友に命ずる!! 宝具を最大硬度で維持しろ!!」

 

達哉も令呪を一画切ってマシュの宝具の強度を上昇させる

 

 

「真名偽装登録 宝具展開ッッ――――」

 

「極光は反転する、光を飲め―――――」

 

 

漆黒の閃光が放たれ。それと同時に光の壁が構築される。

 

 

「約束された勝利の剣!!」(エクスカリバー・モルガン)

 

 

「偽装宝具/人理の壁!!」(ロードカルデアス)

 

 

その壁を見てセイバーはバイザーの下で驚愕に目を見開くが・・・

すぐさま雑念を切り捨てて聖剣に魔力を込める。

 

漆黒の光が展開された。人理の壁に衝突。

 

凄まじい衝撃と重圧がマシュに襲い掛かり吹き飛ばされそうになる。

光が弾けて拡散した熱線があらゆるところに飛んでは壁を床を天井をも抉っていく。

 

そこでセイバーの脇に控えた男が動き出した。

 

歪に捩じらせた剣、あるいは掘削機を彷彿させるようなものである。

 

「クッソ、あれは不味い!!、お嬢ちゃん、魔力回せ、宝具を使う!!」

 

クーフーリンにはなじみ深いくらいに見覚えがあるソレ。

嘗て共に修行した叔父の愛剣の贋作である。

今はマシュは約束された勝利の剣を受け止めることで一杯一杯だ。

それに貫通力特化の宝具なんぞぶっ放されたら防ぎようがない。

このままでは潰されると判断し、クーフーリンがオルガマリーに魔力を回すように要請する。

先ほどからオルガマリーも必死になって魔力を供給している。

なぜならば、マシュの宝具の補強のために原初のルーンを刻ませ強化するためだ。

潤濁に魔力のつぎ込まれたルーンを刻み込ませ確実に防ぎ切る為にしていたのが仇となる。

即時宝具を発動できないくらいにリソースを割り過ぎていた。

 

「ああもう!! 令呪も付けるわ!! オルガマリー・アニムスフィアが勇士に命ずる。宝具を解放しマシュの宝具を補強しなさい!!」

 

達哉はマシュを支え共に盾を握りできうる限りの力を注ぎ動けない。

次の一手に必要なリソースを残しなりふり構わず令呪まで使ってクーフーリンの大魔術である宝具を解放させる。

 

 

「助かる!! 大神刻印!!」(オホド・デウグ・オーディン)

 

 

十二の原初のルーンを潤濁に含ませて刻み共鳴させる大魔術が展開する。

射出された贋作の剣が光となって空間をねじ切りながら疾駆。衝突し苦悶の声を達哉とマシュがあげる。

 

その時である。盾にひびが入ったのは。

 

オルガマリーの顔の色が一気に降下。

 

最悪の結末を予想し、マシュもまた諦めかけて。

 

「ペルソナァ!!」

 

達哉がアポロを呼び出しフレイダインを起動させる。

嘗て仲間たちと魔力を同調させたように。

フレイダインを媒介として人理の盾と大神刻印を同調させた。

ひびが補修され、大神刻印が人理の盾に刻み込まれ、アポロの発する炎が表面を高速で循環し炎の壁となる。

それでも相殺し切れず。マシュは必至に耐えつつどこか諦めが入った表情で達哉を見て・・・

 

それでもと、達哉は奥歯を噛みしめながら前を見据えていた。

後ろをちらりと見れば、必死に魔力をつぎ込むオルガマリーと展開した術式を必死で維持するクーフーリンが居る。

 

それをマシュは見て奮起する。

 

―なに勝手に諦めてんですか私!! 先輩や所長もクーフーリンさんも諦めてない!! それにまだやりたいことがあるでしょう!! 私!!―

 

自身に喝を入れ達哉と同じように前を見据えて盾を握り込む。

 

ここまでして相殺し切れぬ、聖剣の一撃も大概である。

 

セイバーの横に控えて弓をつがえている存在、アーチャーもまた。

 

同じ弓を選択し射出した。

 

衝撃がこもる

 

 

「うっあ・・・・」

 

 

マシュは、うめき声を上げながら衝撃に耐えて、前に前にと意識を伸ばし。

 

 

「あああああああああッッ――――――――――――」

 

 

一瞬ではあるが盾は城壁の様に形を変えて。

フリーになった盾を、腹の底から声を出し盾をかちあげるように振るい、聖剣の一撃を跳ね返した。

 

「なにっ!?」

 

アーチャーは驚愕しセイバーも目を見開く。

 

「今だぁぁアアアアアア!!」

 

オルガマリーがチャンスだと声を上げる前に達哉とクーフーリンが疾駆。

事前に服の内に仕込んでおいた強化ルーンが起動し即座に間合いを詰める

 

だがキャスターは近接職ではない。

 

種に気を付けつつ油断なく削げばとアーチャーは思考し

 

「シロウ!! 逃げなさい!!」

 

セイバーが叫ぶ

 

だがしかし遅い

 

「オルガマリー・アニムスフィアが第二の令呪をもって勇士に命ずる!! 本来の得物である槍を取り戻し使え!! 続けて第三の令呪をもって命ずる、取り戻した槍の真名を解放しアーチャーを仕留めなさい!!」

 

オルガマリーがここだと言わんばかりに令呪を全部切って確実に殺しきるようにする。

結果論ではあるがアーチャーはクーフーリンに間合いを詰められた時点で距離を取るべきだったのだ。

クーフーリンは魔術着姿でありながら、朱色の呪槍を取り出し杖を放り投げ構えている。

間合いは後退ではなく迎撃を選択したがゆえにクーフーリンの間合いに入っていた。

令呪によってクラスによる宝具使用制限を取り払い前提を狂わせての真正面からの奇襲である。

 

「その心臓、貰い受ける」

 

 

防御宝具展開、間に合わず後退はすでに遅い。

クーフーリンが本来優れた槍兵であるという代名詞。

一撃必殺の絶技が解放される。

 

「刺し穿つ死棘の槍ッ!!」(ゲイボルク)

 

既に因果は組みあがり残るのは結果だけ。

間合いもアーチャーが投影していた剣の間合い範囲外ですでにどうしようもない。

朱槍はその御業の通りアーチャーの霊核を穿ちぬいた。

 

時は数秒戻り。

 

達哉もアポロを顕現しながら。ルーンの補強もあってトップサーヴァントレベルの疾走を行っていた。

 

それにセイバーは本当に貴様人間かと内心で毒づきつつ。剣に魔力を装填。射出する。

がしかし。

 

「ギガンフィスト!」

 

達哉の号令と共に真正面から迫ってきた魔力放射の熱線をペルソナの力と耐性に物言わせ殴り粉砕する。

セイバーは舌打ち一つしつつ次弾を装填し・・・。

直感が全方位から襲ってくる炎の群れとアーチャーが術師が持っていないはずの槍で穿たれる光景を見て動揺し。

 

「シロウ!! 逃げなさい!!」

 

記憶の破片として残っていった。アーチャーの名を叫ぶが時すでに遅く。

槍が放たれ。

 

「ノヴァサイザァァァアアアアアアア!!」

 

達哉以外の時が停止した。

 

厳密に言えば達哉が超加速したに等しい。

時が停止すると錯覚するレベルでだ。

アポロン神とは太陽神である。月の女神とセットで時刻を当時は表す物であった。

故に時間神ほどではないにしろ、時刻を表すイコンである。

達哉の渇望によってアポロはその側面を強く表しこの固有スキルが発現したのだ。

 

ノヴァサイザー、自己の超加速による時間停止である。

 

無論強大な力だ。10秒時を止めれば意識が飛べるくらいに。

 

故に最大停止時間は10秒だが、スキルも使う以上、実戦に置ける有効停止時間は5秒ほどでしかない。

 

それでも瞬間的判断などが絡む実戦では強力な力である。

時間を三秒停止させ。

 

「マハラギダイン!! フレイダイン!!」

 

アポロの持つ最大火力をセイバーに叩きつける。

 

「!?」

 

如何に直感でこうなることが分かっていたとはいえ。

まさか本当に事前に予兆なく。サーヴァントを消し炭にできる威力の火球が取り囲んでいるのである。

さらに直感では確実にアーチャーは仕留められている。

早急に目の前の少年を仕留めなければ

 

 

―なぜ、仕留めなければならない?―

 

 

嘲笑

 

 

―貴様は。人理の守り手として彼らを倒したいわけではあるまいよ、周防達哉の、オルガマリー・アニムスフィアの、マシュ・キリエライトの奮闘は見事だったではないか?―

 

―あとは貴様自身の首を鬼退治よろしく差し出しアッパレというだけだぞ? それとも何か? 嫉妬か? 自分がかつて成しえなかったことを成す少年たちが羨ましくて羨ましくて溜まらないわけだ?―

 

―それとも自分が褥を共にして。地獄に突き落とした男が殺され憎くなったか? 大した執着心だ。世界よりも死者を抱いている方がいいと見える―

 

「黙れぇ!!」

 

混沌が嘲笑う。

その怒りをそのままに全方位の魔力放射。

炎が誘爆するように爆発しかき消されるが。

襲い来る衝撃波を達哉はアポロの腕を振るわせて魔力放射を穿ち突破し。

ルーンパイプの切っ先を向けて腕を引き刺突をせんとする。

達哉の一撃を届けんとしてオルガマリーが指先を向けてセイバーに無駄だとわかりながら目潰しくらいにはなるだろうとガンドをぶっ放し。

マシュも念話で達哉に通告しながらオルガマリーから渡された簡易魔術閃光弾を投げる。

閃光が炸裂する中、達哉は眼をつむり音と脳裏に焼き付けたセイバーの姿を頼りにルーンパイプを突き出さんとして。

アポロをセイバーの背後に移動させつつ、ギガンフィストを振りかぶらせる。

それを小賢しいと言わんばかりに怒りに身を任せて聖剣に魔力を装填。

刀身に光刃を纏わせて薙ぎ払わんとするが。

 

「達哉ァ!!」

 

クーフーリンが達哉の名を叫びつつ素早くアーチャーから槍抜き放ち。

槍投げの姿勢に移行して全力でぶん投げる。

狙いは当たるにせよ外れるにせよ頭部であり。

目の前のことに集中し直感のリソースを集中しすぎたがゆえにクーフーリンの投擲に気付けなかった。

とっさのことに剣で弾いた。

されど投擲はミサイルの如き威力だ。魔力で補強しているとはいえ剣を保持する腕が上へと弾かれてしまう。

弾かれた朱槍が空中で回転し、セイバーの真横、数メートル先の地面に突き刺さった。

 

ルーンパイプの一撃をそれでも体をよじらせ回避する。

 

それによってアポロと向き合う形になり。軽症で済ませようと両腕を交差して

 

 

アポロの剛力は少女のか弱い腕と小手を粉砕し胸を穿ち貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




各個人の現状

たっちゃん 申し訳ないと思いつつ受け入れられたことに男泣き。CV子安だから時止めも使う

オルガマリー たっちゃんの記憶を見て不幸に嘆くことに馬鹿々しくなり吹っ切れる

マシュ 達哉という先輩 オルガマリーという友達などをえて覚悟を決める

キャスニキ 少年少女たちの立ち直りにホッコリ、キャスターだけど槍も振えて、挙句ゲイボルク直撃させたので大満足。

エミヤン 万全を喫するが少年少女たちの奇策に敗北。

アルトリア ニャルに煽られ半ば暴走。聖杯というバックアップがっても彼等の連携と兄貴のフォローの前に敗北。

レ/フ さて奴らに絶望を与えてやろうとスタンバってる

ニャル  お前ら過程が起こす結果の見積もり甘いからそんな様なんだよwwwwwwwww なぁレフwwwwww(阿頼耶識の自宅で愉悦しながらワイングビー)






たぶん読者が思っているだろう、なんでニャルは排除されないの?という疑問への回答がこちら。

エミヤン&アルトリア、なんでニャルを野放しにしてんだ!! 普通首だろ!! 首ィ!

阿頼耶識 人類が進化する過程で必須だから。つーかちゃんと契約書類は読めよ。ストライキしてる暇あるなら働け。

地球 人類を効率よく殺してるし言うことないです。 つーかお前らはちゃんと後ろ振りむいて自覚しろよ。ストライキしてる暇があるなら働けよ。

人理 世界の編纂と剪定の仕分けが、彼が来てから効率良くなったし、首にする道理が無いんですが、それは。 つーかちゃんと働いてください、ノルマアップしますよ?

ニャル ですってよ♪、お二人方♪

エミヤン&アルトリア クソガァアアアアアアアアアアア!!


という分けでニャル様がブリテン介入&エミヤンの人生に介入していることも触れました。

ブリテンについてはウーサーとかモルガンを焚きつけて争乱起こしたり。円卓連中の不和などを噂して人間関係を悪化させたり。
ランスロットとギネヴィアに通りものとして当たったり、アグラヴェインがやらかすと分かった上でランスロットのやらかしを通報したり。モーさんの部下あたりに化けて焚きつけたりしたり。
用済みになったモルガンに事実を突きつけて発狂させたうえで精神を乗っ取り化身化してアルトリアを煽りまくったりしていました。

つまりブリテンの間の悪さはニャルが悪い、実行したのは円卓だけどな!! byニャル様

エミヤンはエミヤンの集合体なので彼が関わった時空もあるということで。
エミヤンすべてに奴が関わっているわけではないが、ニャル様に関わったエミヤンは一人芝居詐欺に引っ掛かり守護者就職していますよ。

皆もちゃんと契約書は読もう!! ブラックに捕まるぞ!! byニャル様


ちなみに両者がたっちゃんを知っているのは煽りの最後に引き合いに出されていた一人の為です。


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第0章幕引き 都合の良い奇跡は善意か悪意で仕組まれた物でしかない

世界は残酷で醜悪だ。なれど、ときどき美しく装って我らを惑わせる。

血を分けたものが争い、竜が悲しい唄を叫び、人形が我が身を嘆き、神ですら沈黙する世界なのであろうな。


されど罪人は竜と踊る、より抜粋。


ゾブリと柘榴を砕きつぶしたような音と感触が達哉の右腕に伝わった。

両腕を木端微塵に破壊され胸部の真ん中に風穴を開けらたセイバーは、アポロの両腕が引き抜かれると同時に膝をつき、沈黙した。

 

「見事だ。 周防達哉」

 

血反吐を吐きながら騎士王が述べる。

なぜ俺の名をと達哉は目を見開いた。

 

「奴から聞いた・・・。影に抗い、勝利した一人目の人間だと・・・・なるほど・・・私では勝てぬか」

「奴? まさか奴が!?」

 

奴、ニャルラトホテプ。

もうすでに干渉したのかとゾッとした表情に達哉は顔を染める。

それを見てセイバーは弱々しく立ち上がり。達哉に振り向いた。

 

「貴様の責任ではない・・・奴は”愚かな人外が外に干渉しようとして”その結果、人理に干渉してきた。長い人類史だ。お前が悪いわけではない・・・そういうこともある」

「しかし」

「・・・貴様たちは私たちより懸命だった。君は後の為に罰を受けに帰ったというのに。

私は国の滅びを認められず、奴の言う通り人形として正しさの奴隷として踊り続け。あの何もなくなった場所で生き足掻くアナタとは違うと罵倒し吠え猛り。あとに託すという義務でさえ・・・放棄した・・・・ ククククッ、何たる無様、あの時の私は征服王を英雄王を否定したが・・・、すまない英雄王、貴方が正しかった。」

 

―我も征服王もやらかさなかった言えばウソになろう、だがな後に託すという義務だけは放棄しなかった。その一点で貴様は王足り得ぬ―

 

―セイバー、一つ言っておこう、貴様のしようとしているのは、あの雑種と同じことだ。

いいや。ある一点においては貴様の方が愚物極まる、影からは逃れられぬと自覚できぬのなら。我自らの手で殺してやる―

 

セイバーは遠き思い出に身を馳せて。

ようやく自覚する。

己の罪を。

 

散々言われたのに。ニャルラトホテプに英雄王に。

少年との出会いでも、それは自覚できなかった。いや都合が悪いからと目を反らした。

国を維持するのではなく託すことが王の務めなのに、少年の姿に縋りつき。影から逃げるように妖精郷に逃げ。

その義務を放棄し、自分の愛した少年と共に忘れるかのように過ごして。

そして少年が息を自分が息を引き取り座に召し抱えられた後に。

己が死に際に放たれたヤツの言葉の意味を。

 

あのカムランの丘でニャルラトホテプに見せつけられた達哉の姿を己が所業を棚上げして罵知ったことを自覚し。

 

挙句、望んでも居ないのにこの世界に叩き落され。猶も奔走る達哉と必至に生きているこの子たちの力を試してやるだのなんだの言って。傲慢に見下し。

自分が此処にいたのは本来であれば獣を牽制しカルデアに杯を渡すのが筋だというはずなのに。

ニャルラトホテプの嘲笑に暴走して殺しかけるなんぞ無様に過ぎる。

本当に馬鹿は死んでも治らないとはこのことだなと。

セイバーは苦笑して。

 

 

 

 

「周防達哉・・・すまない、介錯を頼む・・・」

「・・・ッ、だが」

「これ以上無様を晒させないでください・・・、貴方の生き方を汚し、殺しかかった女ですよ・・・私は・・・」

 

 

セイバーはそう言うが達哉だってやらかしている。

忘れずにセイバーと同じように世界を滅ぼしかけた。

達哉に彼女を責めることなどできない。

彼女は他人を思って足掻き続けたのだから。それが彼女の吐露から察せるから

周防達哉という男に彼女に物を言う資格は無いと言える。

だって救国を願った少女と己がエゴで世界を滅ぼしかけた青年。

どっちがマシかと言われれば前者であるがゆえにだ。

 

「”奴”に何を言われたが知らないが、俺はアナタの様に誇れる人間じゃない!! 俺自身のエゴで己の世界を・・・ッ!!」

「違います・・・アナタは世界の事を思っていた。だからこそ戦い打ち勝った。だからこそ一度の過ちで済んだはずです。ですが私は違う、敗北したからよかったものの何度もやらかした。貴方と同じことを。」

「それは・・・違ッ」

 

それは違うと言いかけて言葉を飲む。

これ以上は侮辱でしかない、己に対しても彼女に対しても。

 

「最後に一つだけ・・・・、奴に唆された獣が・・・今の事態を握っています。私が与えられた情報はこれだけですけれど・・・どうか後を頼みます」

「・・・ッ」

 

 

私は遅すぎましたけれどと苦笑し膝をつき首を垂れる。

さながら斬首される罪人の様に。

言葉は誰も挿めぬ。

誰も何も言えぬ。最善を目指した少女を弾劾できるほど達哉は誇らしい人間ではない。

マシュはそれほど人生観を積んでいるわけではない。オルガマリーもまた同様で・・・

 

 

故に嘗て王であったクーフーリンが。

 

 

振り上げた達哉のルーンパイプをゲイボルクで弾き飛ばし。

彼女の霊核を貫いた。

 

「そう言うんだったら、なおさら達哉に刃を振るわせるな・・・・騎士王、こいつの荷物が一杯なのがわからねぇか?」

「・・・そうですね・・・本当に私は馬鹿です・・・・」

 

セイバーが崩れ落ち地面に倒れる。

霊核を抉りぬいたとはいえ。

消滅には時間がかかる、彼女の瞳は光がゆっくりと消えていく。

 

「ごめんなさい、シロウ、ごめんなさい、リン、ごめんなさい、サクラ、ごめんなさい皆・・・・ごめ・・・・んな・・・・・さ・・・・・い、私が・・・・」

 

懺悔の言葉は言い切れず光となって彼女は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

「達哉・・・わかってんだろ?」

「ああ分かってる」

 

 

クーフーリンが問いかける。

彼女の罪は彼女の罪でお前が背負うべきものではないと。

無論達哉もそれは分かっていた。

他者の罪に共感したからと言って背負うのは傲慢に過ぎる者であり、割り切るしかない。

 

「奴を殺したのは俺だ、アイツの罪も魂の価値もお前が背負うことはない・・・、割り切っちまえ」

「ああ・・・」

 

それでも一応の確認ということでクーフーリンは事実を突きつけるように言って。

達哉はうなずく。

 

「だがな慣れるなよ、そうなったらお終いだからな」

「・・・わかってる」

 

されど慣れるなと。森の賢者は言う。

一人殺せば殺人者だが百人殺せば英雄だ。

英雄はその煌びやかしい称号の裏では只の虐殺者に他ならないゆえにだ。

戦いを良しとするクーフーリンであるが。

達哉にはそういう事に成れて欲しくはなかった。

その果てにあるのは師と同じものであるからだ。

 

「あの・・・ところで聖杯はどう回収しましょうか?」

 

話しが区切りの良いうちにマシュは聖杯をどう回収すればいいか述べる。

これ以上引きのばそうともいい結果にならないことは明白故だからだ。

あえて空気を読まないように言葉を紡ぐ。

オルガマリーもまたそれに乗っかる形で賛同した。

 

 

「そうよね・・・あんな、物、どう回収しろっていうのよ・・・いや本当に」

 

実際、大聖杯を回収しようとなるとどうしていいかわからない。

それほどに大規模な術式で設備だ。

カルデア施設そのものに収納は不可能と言っていい。

 

実際問題どうしろと頭をオルガマリーは抱える。

 

「いや、いわゆる大聖杯はジェネレータみたいなもんよ。実際の機能はセイバーの持っている小聖杯になる」

 

その苦悩にクーフーリンが答え指をさす。

先ほどまでセイバーが倒れていた場所に膨大な魔力を含んだ黄金の杯が転がっていった。

 

「こっちが本命の機能を持った杯だ。こいつを持って帰れば、特異点は修正されるぜ」

「よ、よかった・・・あれほどの大規模な物どうしようかと・・・」

 

クーフーリンが聖杯を拾い上げてオルガマリーに手渡し。

オルガマリーは出来ない事をせずにすんで、ほっと息を吐いた。

 

「・・・クーフリン、アンタ体が・・・」

 

ふと達哉は気づく。

クーフーリンの身体が足元から光の粒が上がって消えかかっていくことに。

光は徐々に強くなって姿が掻き消えていく。

 

「代打バッターだからなぁ、俺は。勝利者になった時点で用済みってわけさな」

 

 

特異点は修正された。故に歴史は正されこの乱痴気騒ぎは幕を下ろす。

役者は舞台より退城しなければならない。

 

「ちょっと待ってくれ、俺たちはアンタになにも・・・・」

「いいよ、気にすんな、代打とはいえ望んでやったからな。分かり切った上の事ってな。それよかお前らは俺とは違って今を生きているんだ。自分の事と存在する隣人の事を気にしろよ」

「クーフーリン」

「じゃあな、達哉、マシュ、オルガマリー、楽しかったぜ、ああそうだ。次があれば槍兵で呼んでくれよ!! すぐ駆けつけるからな!!」

 

礼はと言いかける達哉を気にするなと制して死者である自分よりも生きている自分と身の回りの隣人を大事にせよと通告しつつ。

セイバーの言いようから次もあると睨み、もしもの時はすぐ来るからなと言いながら。

遠回しにキャスターではなくランサーでなと言いくるめて。

 

 

ケルトの大英雄にして森の賢人は姿をかき消した。

 

 

「終わったのね・・・いや言わなくてもわかるわよ・・・」

 

 

終わったとばかりにへたり込みオルガマリーは天を仰ぐつつ軽く現実逃避した。

なぜならセイバーは次があると言っていたのだからか・・・、あるいは罪の暴露合戦になり。

状況的にも重いことが連続して続いたがゆえか。

それが達哉に起因する事か分からないけれど。

達哉の視線はそれをよこせと。オルガマリーに訴えかけていた。

 

「そうだ・・・俺が・・・・」

 

奴の介入という言葉でその線は現状色濃くなったと言えよう。

達哉の滅びた向こう側が来ると。

 

「・・・ちょっと待ちなさい。タツヤ。セイバーなんて言ってた?」

 

だがオルガマリーはセイバーの死に際の台詞を聞いていたがゆえに内心に妙に引っ掛かりを感じる。

セイバーは達哉を責めず、獣がと言っていった。

ということは?

 

『所長!! マシュ!! 達哉君!! 応答してくれぇぇえええええええ!!!」

 

その思考も、オルガマリーとマシュの腕に着けていたバングルから響き渡り強引に展開された映像にさせぎられる

 

「びっくりさせないでよ、ロマニ!! 給料天引くわよ!」

『いや、そのもう一時間近く連絡取れなかったんだよ!! 心配になるじゃないか!』

「親しき仲にも礼儀ありです、ドクター、通信の強制介入ではなく、事前にベルを鳴らしてくださいよ」

『マシュ、まで酷い!? 助けて達哉君!!』

「すいません、心配してくれたのは良いですけれど・・・音量でかすぎです」

 

心配して強制通信はいいけれど音量がマックスすぎて実にうるさい。

音が反響して洞窟内にグワングワン、ロマニの情けない声がこだましていた。

それが突然展開されれば誰だって驚きキレるという物であるくらいには音量が凄まじかった。

 

『ロマニ医療主任、マイク設定がMAXになってますよ、MAXに』

 

ムニエルが達哉の声でロマニの使うマイク設定がMAXになっていることに気付き慌てて指摘する。

実際カルデアも達哉たちの存在証明と機材維持のために奔走しつつ。

騎士王に挑むということは作戦の練りの段階で聞いており気が気ではなかった。

クーフーリンの工房から出れば機材の不調で通信も断続的であり気軽につなげることもできない。

気が気でなかったのは確かであり。

特異点修復の余波で通信が安定。大急ぎで連絡してきたわけである。

 

「でもありがとね、ロマン、心配してくれて。皆無事よ、衣類がボロボロだけれど」

『所長がデレた!? 達哉君・・・、彼女そこらへんの雑草でも食べたのかい』

「・・・給料天引きと私物PCは没収ね」

『イヤショチョウハウツクシクユウガナソンザイデスヨ・・・』

 

オルガマリーとロマニが漫才の様なやり取りをしている様に達哉は肩の力を抜き。

ため息を吐く。

だが表情は。

 

「あっ」

「ん? どうしたんだ? マシュ」

「い、いえ、先輩って普通に笑うと・・・ええっとなんて言うかその・・・・綺麗だなと」

 

達哉は此処に来てから笑うことはなかったいつも無表情で何かを堪える様に眉間に皺を刻んでいた。

連続した死闘と罪の直視から一時的に解放されて力が緩んだ故か目の前のやり取りに彼は笑った。

だからマシュもオルガマリーも達哉が微笑むところを始めてみた。

 

「・・・男ってのはな」

 

気恥ずかしさに顔を反らしつつ誤魔化すように男についてのトークを語り出す。

その様子がなんだかおかしくてマシュもオルガマリーも吹き出し笑う。

重たいこともあった達哉と騎士王の罪の吐露や状況的に殺されかけた事。

色々なことがあった。だから帰ろう。今はそして折り合いをつけていこうと。

三人は決意し

 

ここに一つの物語は・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く度し難い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗に幕を下ろさず、獣の無様な所業によって若人たちは更なる地獄を旅する羽目になるのだとは誰も知らぬことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「れ、レフ!? 生きてたの?! 私同様に自力でレイシフトを!?」

「所長!!」

 

レフに駆け寄ろうとする達哉がオルガマリーの右手を左手で掴み止める。

 

達哉のペルソナが震えた。

 

悪魔と交戦直前の様に。

 

「あいつは人間じゃない・・・!!」

「なっなにを言って「全く貴様は感が良い、実に良いな。初見で正体に感付きそうになった事といい、現代では失われた神卸の力といい、その戦闘能力といい、なんなのだ?」

 

達哉の言い様に動揺しオルガマリーは言い返そうとするが

その前にレフは大聖杯の淵から達哉たちを見下ろし忌々しげに言う。

特に周防達哉は強固な染みどころか。羽毛の服にへばりついたガムの様に忌々しいとばかりに。

さらりと言われる、初見の時にレフが達哉が気づきそうになったという事実に驚愕しつつも。

レフの禍々しい様子にマシュも気づく。

自分の知るレフはあんなどす黒い感情をあらわにしたことはない。

まるで中身だけが別人のように変わっていることに。

本能が叫ぶ、ペルソナが無くても二人には理解できた。

あれは”存在してはならないものだ”と

 

「レフ・・・教授・・・アナタは一体・・・誰になったというのですか!?」

「出来損ない、貴様もか、私の在り様に気づくとはね、本当に忌々しい、どいつもこいつも統率の取れない屑共が!!」

 

悪意をそのままにレフは顔面を歪ませ語り出す。

 

「デミサーヴァントとなったマシュ・キリエライト!! 私の言うことも聞かず生き残った。ロマニ・アーキマン!! 本当に予想外の事ばかりで頭にくる、その中で最も予想外なのは、何も知らぬからと見逃したらトンだ怪物だった48人目の適合者の周防達哉と、そしてぇ」

 

まるで罪人を処刑するかのように声高らかに告げる。

 

「自分が死んだことに気付いても居ない、哀れなオルガマリー」

 

レフは言い切った。オルガマリーが死んでいるということに。

さしもの死者を前にしたことのある達哉は経験則に感覚が固定され気づけなかった。

 

「え、は?」

 

オルガマリーは呆けるほかない。

だってそうではないか。自分はそんなつもりも無くて。

レフが何を言っているかも分からなくて

 

 

―ククク。哀れだな、ならば教えてやろう 貴様が望んだこと故にな-

 

 

誰かもわからない声が脳裏に響き。

映像が再生される。カルデア爆破の瞬間を。

管制室でレイシフトの光景を眺めている一人称視点が投影されて。

足元から紅蓮の炎が上がって自分という存在が粉みじんに砕けていく瞬間をだ。

 

「あっアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

確実に鮮明に思い出しオルガマリーは頭を抱えて蹲る。

自分が死んではいないという事故逃避の防衛本能による記憶の消去であった。

 

「どうした? 死んだショックで飛んでいた記憶でも蘇ったのかのかな?、まったく人間とは話にならないほど、か弱く度し難い」

「所長、しっかりしてください!!」

 

レフが嘲笑し、蹲るオルガマリーに寄り添う。

 

「レフ、貴様ッッ」

 

アポロが再度出現させ。達哉自身は戦闘態勢を整えつつ。

躊躇なくフレイダインを放たんとするものの。

突然とレフの背後の空間が裂け。まるで穴でも開いた旅客機の中に居るような衝撃波が三人を襲った。

達哉はクーフーリンの消失によって効力の失われたルーンが刻み込まれたパイプを地面に突き刺し片膝をつきつつ両手でそれを保持する。

己が死の瞬間を見せつけられて混乱し蹲るオルガマリーをマシュが片手で庇いながら達哉と同じように大盾を地面に突き刺し衝撃に耐える。

 

「くそ、何がどうなって・・・」

 

現状が分からない。死んだ人間は即座に世界に帰るからだ。

幽霊になるのはこの世に未練を残した・・・・達哉は思考を巡らせて。

オルガマリーがマシュを立ち直らせる中で思い出す。

死にたくない普通に生きたいと語っていたことに。それもまた立派な”幽霊になる条件”だ。

そして気づく。あの爆発をカルデア職員たちは調べ上げていたはずだ。

故に知らないはずがないと。

 

「ロマニさん・・・まさか・・・」

『すまない君たちを見ていたら言い出せなかった。』

 

職員たちはロマニを含めて言い出せなかった。

あのオルガマリーが年ごろの少女のように笑って友人を作り前を向うとしているさなかに・・・

達哉の背負う罪の重さにソレを上乗せすることが・・・

マシュが打ちのめされている様を見て。

 

言い出せるはずがなかった。

 

『・・・あの爆発の起点は。オルガマリーを中心に発動していることが確認できた。だからその・・・そこにいるオルガマリーは彼女の残留思念そのものだ』

「そんな・・・」

 

マシュの唖然とした表情にロマニは泣き出しそうな己を縊り殺したくなった、殺意が凝縮し悔いを噛みしめる表情をする。

故に真実。どうしようもできない事だと三人に分からせる。

ここまでくればオルガマリーも含めた三人も気づいた。適性値0のはずのオルガマリーがレイシフトできたのは。

耐えられない肉体が破壊され魂だけの状態になったからだと。

 

『すまない、本当にすまないッッ』

「ふん、本当に貴様らは不完全だ。総体におけるこの消失は些細な意味しかない、それを荘厳な意味を持たせ。戦乱を世にはびこらせたお前ららしい無様な思考だ。オルガマリーはなんと取りつろうとも、無意味に消える、それが摂理だ。奇跡はこれ以上起きない!!」

 

 

ロマニのその表情を見てレフは鼻先で笑いつつ言い切る。

それをよそに吹っ切れてしまったがゆえにオルガマリーは現実を直視してしまった。

もう自分はどうにもならないのだと理解させられてしまった。

 

そしてレフは開いた空間をどこかへと接続し。

それを見せつける。

 

「なっなんでカルデアスが。」

 

その様子に錯乱状態のオルガマリーも絶句する。

大聖杯よりショッキングなものがそこに広がっていた。

星の歴史を監視するカルデアスが真っ赤色に燃えている。

それ即ち人理が機能していない証であった。

 

「人理は我等が王が焼却を完了した。すでにお前らの守るべきものは存在しないのだ。そうだろ? 貴様なら事実だと理解できるはずだ。なにせ外に確認を行いに行った職員は戻ってきていないはずだからな」

『・・・・』

 

レフの指摘にロマニは奥歯を噛みしめるしかない。

 

「ふざけんなッ。」

「駄目です所長!!」

 

現実に思考が追い付けない。

白熱した怒りそのままにオルガマリーは瞬発的に肉体を強化しマシュを振りほどき。

 

「所長!! 駄目だ!!」

 

行くなと伸ばした達哉の手を振りほどきレフに向かって突撃する。

達哉はアポロを一旦戻し。オルガマリーを追う。

だが遅い。

 

―そう遅い、遅い―

 

何かが嘲笑って。

 

 

「本当に無様で哀れだな。オルガマリー」

 

レフが右手を突き出し不可視の力場がオルガマリーを拘束と同時に。

左手で魔力弾を達哉とマシュに向かって射出。達哉はアポロでマシュは盾でそれを叩き落とすが。

そうしている間に。オルガマリーは約50mを高速でスライドし距離を開けられる。

無数に射出される弾を迎撃しかいくぐりながら達哉とマシュは走る。

 

「だが我が王は寛大だ。君に地獄を与えてやろう、精々あの愚か者共を嘆き狂わせるがいい」

 

―生に意味などないと知るがいい、答えなどどこにも無いと泣くがいい!!―

 

レフの言葉に達哉の記憶の映像で見たニャルラトホテプの嘲笑がリピートされ・・・

 

「カルデアスは超高密度の情報体だ。次元が異なると言ってもいい。故に触れれば分子レベルで分解される、まさしくお前が落ちる地獄にふさわしいという物だ。」

「そう・・・もうどうでもいいわ・・・」

 

心がへし折れた。

地獄に放り込まれることにではない。

自分は無様に間違いなく死ぬというのは分かり切っていた。

それ以上にオルガマリーを絶望させていたのはレフの裏切りはもちろんの事。レフの叛逆を見抜けずレフの背後にいる存在に人理を焼却されて。

友と呼べるような存在の達哉とマシュに・・・特にいろんなものを背負った達哉に・・・これから起きるであろう大事変の解決を無様に押し付けて何もできずに死ぬという己の無力さと馬鹿さ加減にだ。

 

「ふむ、予想と違うな。まぁ無様に足掻かれるよりはよっぽどいいが」

 

レフは何時もの表情に戻り。でもまぁ最後位の言葉は聞かせてやろうと少し待つ。

オルガマリーは無気力に手を伸ばす。

それは来るなという揶揄だったのかもしれない。

こっちに向かってくる達哉たちに来るなと。舞耶という素敵な人だって言っていたじゃない。

この世で最も哀れな女は人を縛る女だから。

自分は無力で馬鹿で救いようがなくて。貴方達が苦労して引っ張るような人間じゃないと。

だから。

 

「お願い・・・来ないで・・・・」と呟き、そして。

 

それを聞いたレフが右腕を振り抜き、一気にオルガマリーをカルデアスに放り込もうとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神話が覚醒する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アポロォッ!! ノヴァサイザァアアアアアアアアアアアア!!」

『我は汝、汝は我、我は汝の心の海より出でし者、烈日と蒼穹の支配者なれば・・・・契約者の持つ心の灯をもって道を切り開かんッ!!』

 

 

 

 

 

達哉の絶叫と共に。

太陽神が時計の針を達哉だけ回す。

彼の認識では世界の色だけが反転し停止する。

最大停止時間までとはいかないが現在停止できる時間を最大停止する。

先ほどの戦いでマシュの宝具の維持と合体宝具で魔力を使いペルソナ行使に多大な浪費をしているゆえにこれが最後に近い。

それでも!!と達哉は叫び走り抜ける。

無論、必死に魂状態のオルガマリーを助けるべく考えていた。

そしてたどり着く。

同じような状況があったことを。

 

向う側から来た達哉はパラレルワールドの自分の街で寄るべきところがなかったが一人の女刑事と奇妙な縁を繋ぎ。

事件捜査の間はそこに居候させてもらっていた。

だが女刑事は街で蠢く噂殺人と呪いを追う内に。ニャルラトホテプに唆されその噂殺人に利用されていた組織につかまり。

悪魔化させられてしまう。他の殺人や呪い同様に悪魔化した女刑事をベルベットルームならばどうにかできるかも知れないと駆け込んだ。

そこですでに悪魔化した女刑事は通常に事件にかかわった者たちが変質した存在から引き戻すことは出来ない。

ガタス・マンダラという場所で散らばった女刑事の心を集めろと言われ奔走したのである。

集めた心の保存方法を無論達哉は聞いていた。

オルガマリーが残留思念、即ち魂の存在として心の存在となり、普通の死者とは違い、此処にいるのなら。

捕まえることが出来るかも知れない。

幸いにもオルガマリーから休憩中に人体を他人であろうが自分であろうが再現し作り上げられる人形師が居ることを愚痴交じりに。

学校から出陣する前に聞かされていた。

望みは現実にある。ならば実行するのみであると。

 

達哉は歯を食いしばって実行する。

 

 

オルガマリーの拒絶に延ばされた手に。

 

 

彼がいつも伸ばして届かなかった。いつかの日とは違いちゃんと届いた。

 

 

反転した世界に色が戻る。世界が動き始める。

 

 

 

「タツヤ・・・?」

 

 

オルガマリーが呆然とする中で達哉の右手がしっかりとオルガマリーの右手をしっかりと掴み。

両足に力を込めてオルガマリーに掛っている力に対抗する。

 

「小賢しいマネを!!」

 

余計なことをと舌打ちしつつレフは力を込めて気づく。

自分の放つ魔術がレジストされつつあった。

弱々しくであるがアポロが具現化し達哉の右腕に己が右腕を重ねていたのが原因だ。

神秘は古き神秘に敗北する。

であるなら神格の欠片を出力するペルソナは神秘の塊だ。故に対抗できる。

如何に人外となったレフであっても。

人の身を脱ぎ捨ててない状態の魔術であれば、攻撃魔術でも無い限り、直接本体の達哉が手を貸すオルガマリーを潰せない

 

だがレフの本性がそれを否定している。

 

こんな下等生物風情に本気を出さなくてはいけないのかという怒りがだ。

 

故に本性を出さずあえて人間形態で叩き潰すため、狙いを達哉本体へと変える

 

「ならば直接消し去ってくれる!!」

 

ならばとそいう言いつつ左手を二人に向ける。

 

「周防達哉が令呪をもって友へと告げる!! マシュ!! 俺とオルガマリーを守れ!!」

「了解です!! 先輩!!」

 

残り数m地点まで来ていたマシュを転移させ己を守らせる。

レフの血圧が上昇していくが知ったことではない。

 

 

「なんで助けたのよ・・・・」

「助ける、方法が・・・・あると言ったら?」

 

空いている右手でFOOLのペルソナカードを懐から取り出し。

オルガマリーの右手の手の甲に重ねる。

 

「詩織さん・・・の件がある・・・所長も見ていたはずだ」

 

無論、オルガマリーもそれは見ていた。

 

「彼女の件で、彼女の精神体の欠片を集めていた。その要領で君の魂をペルソナカードに封印する・・・戻ったら人形師の人形に詰めて貰らえば完全蘇生だ」

「でも私、生きていていい人間じゃない。こんなことになった全部元凶よ!! そんな女がどんな面を下げて生きれればいいのよ!?」

「逃げるな!!」

 

オルガマリーの絶叫に達哉が言い放つ。

 

「生きることから逃げるな!!」

 

それは達哉だから言える言葉だ。

無様晒していると言えば達哉もだ。だが生きる事だけは決して諦めたことはない。

それは断言できる。

償うことは生きることだからだ。

死して贖罪なんぞ罪から逃げることでしかないからだ。

背負って傷だらけになって。後悔してそれでも背負って生きていくということが償いになるからだ。

 

「それに・・・こんな人生でも悪いことだらけじゃない・・・俺は皆に出会えた。君だってそうだろう? ロマニさんやマシュに出会えて友人に成れたはずだ。楽しかったはずだ。彼らといるのが」

「タツヤ・・・」

 

如何にレジストしているとはいえ人外の力が再度強まり出していく。

今度こそ力での対抗が難しい。

マシュは耐凌ぎ。ロマニが特異点が崩壊し出したと絶叫を上げレイシフトアウト準備を指示する。

 

『所長もですか!?』

『当たり前だ!! こんなに無様晒して達哉君ができるって言っているのにこっちが出来なかったなんて。大人失格も良いところだ!!

茜、存在証明のデータリンクこっちにも回して!! 僕も手伝う、総員、レイシフトアウト準備!! 全力を注げぇ!!』

『『『『『了解ッッ!!』』』』』

 

全員が手を尽くすオルガマリーの為に。

 

 

「オルガマリー!!、生きたいと願うんだ!! 君のその叫びが必要だ!!」

 

 

自己証明とその存在を受け入れれば存在はより明確な形で封入できるからである。

故に叫べ。己は此処にいるのだとと言えと達哉は抜けていく握力を必死に、魂に触れるためにアポロを必死で維持する。

高ぶる感情のままに。ついとオルガマリーの名を叫んでしまうが知ったことかと言わんばかりに手に力を込めた。

掴んだ手を離さないように。

 

 

「所長!! 帰るんです! 先輩も所長も皆で!!」

 

マシュが叫ぶ皆で帰るのだと。

あの校舎で約束したではないかと。

帰って皆で喜び。彼を見送って共に泣こうと

ゆえに・・・嗚呼ゆえに。

 

 

「やだぁ!! 死にたくない!! タツヤと友達になれて。マシュと友達になれて・・・ようやく誰かに認められて。頼られて。生まれてからずっと一人で。でもようやく色んなものが手に入って。色んなことやりたくて、やだ、いやだぁ!! 死にたくないよぉ・・・・だから・・・!!」

 

 

 

情けない悲鳴を上げながらも彼女は生存を渇望し叫ぶ。

 

 

 

「お願い・・・助けてぇ―――――」

 

「任せろぉ!!」

 

いま彼女は此処にいたいと叫び、泣き散らしつつ。繋がった手を握り返し助けてと叫び。

達哉はそれを聞いて確かに強固に存在が証明されたのを確認し、アポロを通じてオルガマリーをペルソナカードに封入する。

 

『所長はカードになったけれど! 存在証明成立続行中です!! 行けます!』

『ロマニ医療主任、特異点もう持ちません!!』

『レイシフトアウト準備は!?』

『あとは医療主任の承認だけです!!』

『承認する、三人を回収するんだぁッ!!』

『了解! レイシフトアウト開始!』

 

それと同時にレイシフトアウトの準備が完了。実行せよという声と共に達哉たちの姿がサーヴァントの消滅のように掻き消えていく。

 

「こんな三文芝居でェ!! 認めんぞォ!! 逃がすもの・・・・」

 

レフは本来の姿を出そうとして。気づけなかった。

特異点の崩落。拡散した聖剣の閃光が著しく強度を弱めていたことに。

そしてそれが崩落してきているという事実に・・・

それに気付いたのは落下してくる岩盤の影が大きくなった時であり。

上を見て。それに気付いて。

 

「ク―――――――――」

 

断末魔も罵倒の言葉も上げる暇もなく、レフ・ライノールは質量の暴力に押しつぶされて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ舞台は整った。

 

 

 

人類最新の英雄譚にして前代未踏の旅路。

 

 

 

罪人に課せられた贖罪と理解者を得て彼岸の果てに至る物語が幕を上げるのだ。

 

 

この所業は我である影の試練なれば、人も英雄も神も獣も逃げきることは出来ない。

 

故に破滅は迫り、英雄はそれを乗り越える必要がある。

 

その果てを知り、狂い泣くがいい、周防達哉、お前の末路は英雄だ。

 

 

 

影は依然消えず、より深く闇は深くなっていった。

 

 

 




各個人の現状。

たっちゃん、ようやく親しい誰かを助けるために伸ばした手は、ペルソナではなく自分自身の手が届く。

オルガマリー 一度はへし折れるが達哉の叫びで復活、原作とは真逆の事を言えたため生存。
ベルベットルームに直行。

マシュ、シールダーのサーヴァントに偽りなし鉄壁の防御力を発揮する。

レフ 達哉の力とマシュの防御力、オルガマリーの成長を見誤って岩盤にプチりと潰される、なお生きてる。

アルトリア 魔術師還らずでの致命傷を受けたヤン状態。

ニャル 計画通り!! つまり達哉たちがオルガマリーを助けられることも織り込み済み。 セイバーに仕掛け時間差論理爆弾を起動させ座の本体のアルトリアにトラウマ刻み込んで、止めを刺しつつ。本当に憐憫とかで舐めプしかできない奴の眷属のレフは駄目駄目だなぁと思っている。
次の次で予定する第一特異点攻略準備インターバルパート2でたっちゃん虐めの準備中。



マーリンのニャルに対する履歴。

ブリテンがまだ維持されていたころは。

マーリン 本当にうるさいなぁ、アレ、でもまぁ煽るだけだから放置してもいいか(なおニャルがウーサーやらモルガンを焚きつけていたことはジャミングの影響で知らない)


カムラン直前にアヴァロンに来たニャルに煽られ。

マーリン クソガァアアアアアアアア!?

カムラン後
ZERO時空でニャルが遊び感覚で介入、
この世界では英雄王は影の試練にエルキドゥを奴の策謀で失いつつも勝利したがゆえに。原作より傲慢ではないく王様問答でアルトリアを止めるべく必死に諭すものの徒労になり。
影に踊ろされながらも人々が必死になって紡いできた人理を守るべく英雄王が躊躇なくして。
これ以上影に踊らされているならマジ殺しモードでアルトリアにマジレス真剣喰らわされて原作通りの結末に。
ただでさえ原作からして破滅が多いため、ニャルは多くは干渉しなかった。
マーリン、死んだ目で見ていた。

Fate本編。
セイバールート突入、マーリン、アヴァロンで「どうだみたか! 僕の完全勝利だね!!」とコロンビア。
ラストルートも通過し完全勝利と意気込む。
ちなみに英雄王は現代に”汚染杯”で受肉した影響やら、影に魅入られて姿を本編まで晦ませていたコトミーの追走での”過労”で全力出せず敗北。


現在。
ラストルートに士郎に化身を使って誘導し、罰による痛みを増幅させるために暗躍。
士郎と幸せに過ごし息を引き取り座に召し上げられるが、それこそニャルの計画であり。
達哉たちと出会い、ニャルの嘲笑が聞こえてしまったせいと反転による暴走で。
嘗てアルトリアがカムランの丘で見せられた達哉のあり様を否定して。
ここまで来るのに何を犠牲にしたのか自覚。
結果座のアルトリアに大ダメージ、ニャルの計らいで座本体に生身の記憶をして刻まれ意気消沈。
というか座の現在の彼女は、魔術師帰らずの死に際のヤン状態くらいにメンタルボロボロにされてとどめを刺された。

ニャル あえて罰から逃していただけでお寿司、影から逃れることは不可能という摂理から目を反らし、己の自慰行為に夢中で何も介入せず、人の心も分からない、ろくでなしがどうにかできると思ってるの?wwwwwwwwwwwwww 彼女がああなったのはお前のせいだから!! 助けてやらずに止めなかったのが悪いんだぞ?wwwwwwwww

マーリン、チクショォオオオオオオオオオオ!?






次回はオルガマリー、ベルベットルームに叩き込まれるペルソナに目覚める、第一特異点に向けての準備。

その次もインターバル回、おそらくサーヴァント召喚の後にニャル様による達哉虐め






ニャル、おいそこの聖女モドキ、達哉いじめが終わって第一特異点入ったら。アルトリアの次は貴様だからなwwwwwwww


ジャンヌ !?




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第一特異点に向けてのインターバル
01 ベルベットルーム


明日が”明るい日”と誰が決めた?

それが在る限り、人は不安から逃れられん。

安らぎは遠きあの日にこそあると思わないかね?


ペルソナ2罪より抜粋



気付けば……オルガマリーはどこぞとも知れぬ場所に場所に立っていた。

真鍮製の螺旋階段が壁際に配置された鳥かごのような場所に・・・

 

「ここは・・・」

 

魔術回路が起動しない。

刻印さえも機能不全だ。

寧ろ

 

「不味い」

 

神代のレベルで神秘にあふれていた。

起動しようとすれば情報に磨り潰される。

 

「なんなのよぉ・・・」

 

左手で包むように右手を包む。

彼の掌の温もりが残っていた。

絶望的状況で。

手段はあったとはいえ下手をしたら自分まで巻き込まれかねない状況で。

手を伸ばしてくれた青年の手の温もりを……。

 

その時である

 

 

『汝の名を問う』

 

 

声。

それは宗厳な予言者の男のような声であり老人の様なものであり。

それはオペラを謳いあげる名女優のような美しい声であり子供に物語を聞かせるような優しい老婆の声である。

つまり一定していない。

神秘に触れているオルガマリーにはそれが理解できた。

不安定に輝く恐ろしき者がいると。

 

「誰って私は・・・」

 

事はシンプルだ。

事前情報を達哉から聞かされている。

故にこれがペルソナ様という者だろう。

彼がペルソナを得た経緯は聞かされている。

 

故にこの場から脱出するには自分の名を言えばいい。

 

だが

 

 

「あれ? 私は誰だっけ??」

 

混濁する情報、削られる記憶。

自分が自分を理解できない。

自分の名を言えばいいだけなのに。

それができない。

 

『汝の名を問う』

 

声は大きく荘厳になっていく。

言えなければどうなるかまでは聞いていない。

達哉も含めてあの場所に居た全員が言えていたから。

故に神秘を知るものとして恐怖が倍増する。

存在を抹消されるのではないかと、それが可能な力を持つ者であることがオルガマリーには理解できているから。

最もそれは見当違いなのだが、知らなければそう思うことも無理のない話である。

 

『汝の名を問う』

 

死にたくない死にたくない死にたくないッ!!

やっと誰かに認めてもらって。友達もできて。あの手に還せてもいない。

だからオルガマリーは走馬燈を感じて。

それでもなお自分の名を探す。

でもそれを、心を奮い立たせるような思い出は無くて―――――削られて――――――

 

『――――――――!!』

 

自分が焼却されそうになった時の光景が脳裏にフラッシュバックして。

手を伸ばす存在が自分の名を叫ぶ。付き合いも短くて自分よりも重い物を背負って行っても。

それでもと手を伸ばし救ってくれた。助けてくれた。青年の姿と声に応えるために。

 

『汝の名を問う』

 

最後通告。

身体が分解されていく。それでもカルデアスに放り込まれるよりはマシなんだろうなぁと思い泣きながら。

彼の伸ばした手と自身の生存欲求を無駄にするわけにはいかないと。

彼が叫んでくれた自身の名を叫ぶ。

 

 

「私は――――」

 

 

声が響く

 

「オルガマリー・アニムスフィアよ!!」

 

自分は此処にいるのだと叫ぶように声の主に、フィレモンに伝える。

 

刹那ナニカが繋がりソレの使い方を知り。

意識が強制的に浮上した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が揺らぐ。揺蕩う。

引っ張られる感触が達哉の掌を包み込んだ。

銀髪の紺衣の美女が微笑みかけてくる。

落ちる引っ張られる飛翔する。

そんな奇妙な感じを感じて・・・。

 

気付けば、そこは青一色の部屋の中だった。

 

「ここはベルベットルームなのか?」

 

ペルソナ使いとしては慣れ親しんだ光景ではあるけれど。

内装が違っていった。

 

ガタンゴンと線路と車輪が擦れて走る音がする。

そこは車両一両を貸し切って丸々一つの部屋として機能させたような物。

つまりVIP専用の個室車両に見えてる。

嘗て達哉が訪れていた。ベルベットルームは劇場の舞台上みたいなところだったが。

それとは違っていた。

 

「おはようございます、周防様、ようこそベルベットルームへ」

 

達哉の机を挟み向かい側の椅子に小柄で杭のように出っ張った鼻とぎょろりとした目が特徴的な紳士服姿の男性が座り。

その隣には銀髪のボブカットが眩しく輝く紺色の車掌姿の美女が佇んでいる。

達哉は、ふと隣を見ると、椅子に座らされウーンと魘され目を閉じているオルガマリーの姿があった。

 

「なぜここに」

「ここは現実と夢の狭間ですので。レイシフト中ならば現実世界に夢から干渉して呼び出すこととほぼ同じですので・・・」

「そうか・・・」

 

 

要するに呼び出すこと自体は容易いのだと老人は言う。

ベルベットルームの主にして「イゴール」はそう言って。達哉は納得して頷く。

 

「・・・・頼みたいことがある。」

「なんでしょうか?」

「オルガマリーを蘇生できないか?」

 

オルガマリーは今は魂のような状態である。

向こうに行ってもカードのままの可能性が高く。蘇生できるとしたら頼めるかと達哉は言うが。

イゴールは首を横に振った。

 

「やはり無理か・・・・」

「いえ、周防様、一度切りの蘇生手段はあるのですが、その必要はないということです」

「・・・アンタは?」

 

 

達哉の失意を正すようにイゴールのそばに控える女性が言う。

そう言えば、ベルベットルームにこんな人はいたかと達哉は思うが。

それを察した女性は苦笑を浮かべながら名乗り出た。

 

「お久しぶりです、そして初めまして。周防達哉様。私はエリザベス。ベルベットルームの住人です」

「・・・・お久しぶりって、俺はアンタと会ったことはないが・・・・」

「パラレルワールドのアナタ様と出会い。まぁヒッドイ騒乱を駆け抜けましてね・・・、一方的に知っているのでありますよ」

「そっそうか」

 

要は並行世界の自分と出会ったことがあるのだという。

イゴールは「身の上話はそこまでにしておきなさい」とエリザベスを窘めて。

エリザベスは優雅に微笑みつつ肩をすくめた。

 

「それで。イゴール、所長の蘇生が必要ないとはどういうことだ?」

「すでに意識だけがこちらに来ている状況でですので・・・。オルガマリー様の魂はカードから現在。この世界で言うところのドリーカドモンへの移植施術が始まっていますので・・・・ご心配召されるな」

 

ドリー・カドモンという言葉の意味は理解できないが。

様は完全蘇生がなされているという事実にほっとする。

 

「・・・・イゴール、俺はなぜここにいる」

「分かりませぬ、それが奴の策謀なのか。偶然の産物なのか・・・」

 

 

なぜ俺は此処にいるのかと問い掛けても答えが返ってくるはずもない。

イゴールはあくまでもペルソナ関係の仕事が主軸でありフェレモンとかニャルラトホテプの様に中心に居る男ではない。

故に返せない。達哉がニャルラトホテプの玩具であるならこいつらはフェレモンの人形であるがゆえだ。

 

「それでなぜ、呼び出した?」

「単純ですわ、周防様、ペルソナの仕様に変更がありまして。二度手間も愚かの極み。すべてはオルガマリー様が目覚めてから告げましょう、故に周防様、お飲み物はいかがでしょうか?」

「ああ・・・頼む」

 

 

達哉は気が気ではなかった。オルガマリーを救えたが。

 

 

―奴から聞いた・・・。影に抗い、勝利した一人目の人間だと・・・・なるほど・・・私では勝てぬか―

 

 

セイバーの言葉が心理内に反響して気が気ではなかった。

奴が来ているという言葉に気を取られ過ぎていた。

並々と琥珀色の液体が注がれたグラスをエリザベスから受け取り。

喉の渇きを癒そうとグラスの中の液体を一気に飲み干そうとするが。

舌と喉に襲い掛かるアルコールの刺激に耐えられず。たまらんと言わんがばかりに吐き出す。

 

「ゲホッ!? ゲホッ!! エリザベス――――これは?!」

「ニッカ、40年でございます、あの甲斐性無し秘蔵の酒の一つでございますれば、お気に召したかでしょうか?」

「俺はまだ未成年だ!! 飲めるわけないだろう!?」

「おや? そうでしたかあの甲斐性無しと戦線を共にした達哉さまはイケた口でしたので・・・失礼いたしました。ですが、気は晴れたでしょう?」

「え?」

 

ようはエリザベスは達哉の疑心暗鬼を一時的に晴らすためにわざと酒を出したのである。

彼女もまた抗う者ならば。奴の手管はよく理解しているゆえにだ。

 

「考えることは重要ですが、疑い深いのもまた”奴”の手札の内ですので・・・強引では御座いますが。疑心暗鬼の人間には不意打ちでの悪戯が効果覿面ですのでね。あの甲斐性無しを見るに」

「……エリザベス」

「怒ることないじゃないですか、イゴール様、寧ろ知らぬ我らが助けになるには・・・これがは一番早いのです。」

 

干渉できない立場としてはこれが達哉の気晴らしになるとイゴールの窘めを図太く払いのけ言いつつ。

手に二つのグラスを出現させ部屋の隅にある冷蔵庫から麦茶を取り出し注ぐ。

イゴールはため息吐きつつエリザベスが図太くなり過ぎたことに頭を抱えていた。

達哉はため息を吐きつつ椅子に深く腰掛ける。

それから10分もしないうちに。

 

「------」

 

オルガマリーが目覚めた。

パチリと瞼を開いたり閉じして周囲を確認し・・・・。達哉を認識すると凝視している。

 

「所、所長? どうした?」

「-----------」

 

さしもの達哉も何がなんやらと言ったように恐る恐るオルガマリーに喋りかけて……。

 

 

オルガマリーは忽然と動き出し達哉にしがみ付き。

叫び散らす。

 

「ダヅヤャ!? 怖かったよぉおおおおおおおお!?」

「お、落ち着いて!! 所長!?」

 

 

達哉にしがみつき泣き散らして鼻水垂れ流す。

情けないという概念そのものであるが。信じていた存在に裏切られ。新しく得た友に助けられ。

そして勘違いとはいえ消滅の危機に直面し助かり。

目覚めて横を見れば友達がいるという状況であるなら誰だってこんな無様を晒すだろう。

甘酸っぱいでありますなーとエリザベスは苦笑し

イゴールは深くため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということは、ここは要は阿頼耶識の一部ってことなのね……」

 

魔術師であれば最も根源に近いという場所ということもあって。

オルガマリーは『欲せば手に入らず、無視すれば要らなくても押し付けられるのね』とため息を吐く。

現状も此処がどこかついでに説明されていた。

故に彼女は精神の均衡を取り戻しつつあった。

そりゃ誰だって死にかければ精神的均衡がぶれるのは当然の事である。

 

「だが。なぜオルガマリーがここに?」

 

達哉は疑問を口にする。

オルガマリーはペルソナ使いではないはずだ。

ペルソナ様もせずフィレモンと接触したこともないはずだと。

 

「え、ええっと達哉。私、起きる前にフィレモンの領域に居たのよ……」

「・・・なに?」

 

オルガマリーの独白に若干驚きつつも。ありえなくはないと納得する。

フィレモンは奴と同じだ。

もっとも司る性質は逆で、太極図の白を司るポジティブマインドの化身である。

ニャルラトホテプが居る以上。自分にそうしたように。

この世界の誰かに干渉してペルソナ能力を与えるのはある種の必然だった。

 

「契約したのか?」

「ええ、したわよ、なんか殺されかけて……否応なしにだけど」

「はぁ?!」

 

そんなに厳しい試練ではなかったはずだ。

言えなければ現実世界に帰されるだけである。

 

「オルガマリー様……はテンパっていて、試練の一環で記憶を意図的にあやふやにするという現象を消されると勘違いしたのでは?」

「・・・・でも情報に押しつぶされかけたんですけど・・・」

 

イゴールの言う通り、確かに記憶があやふやになり意識が飛んでいく感覚だった。

だが情報に押し潰されかけるのは明確に感じていた。

ふむとイゴールは頬杖を突き、気付く。

 

「おそらくですが、その体の状態にも起因しているでしょうな。なにせ今のアナタは帰るべき肉体が無い」

 

要するにオルガマリーの肉体の状況のせいであった。

蘇生作業中で今彼女の魂は帰るべき肉体が存在せず。それゆえに存在自体があやふやで高密度情報体の阿頼耶識の情報に潰されかけたというわけだ。

読者に分かりやすく言うと肉体が移植中だった故にオルガマリーカルデアスチャレンジパート2になりかけていた訳である。

 

「何度殺す気よォ!!」

 

もうこれで実際に殺されかけたのは何度目か。

スケルトンにリンチされかけて、アダルティランサーに鎖で頭部を割られかけて。騎士王に聖剣で消し飛ばされかけて。

レフにカルデアスチャレンジされかけて。今度は一番まずい状態で阿頼耶識に引き摺り込まれ、阿頼耶識チャレンジで死にかける。

キレるのはしょうがない事だった。

 

「主はきっと親切心でやったものと思います」

 

イゴールの善意でやらかすフィレモンに対する必死のフォローだが。

生憎とオルガマリーはフィレモンが達哉にリセットボタンを渡した上に条件説明すらせず、見捨てて立場がヤバくなったから再度利用したことは見ているのだ。

そんなフォローなんぞ通用するわけもなく。

ブチ切れて。暴れ出そうとなるところを達哉が必死に後ろから羽交い絞めにして止める。

そして感情が高ぶったがゆえに。

 

 

『我は汝、汝は我、我は汝の心の海より出でし者・・・、地より星を見上げ未来を見る眼、ラプラスなり・・・・』

「「「「あっ」」」」

 

 

会得したペルソナが出現してしまった。

 

黄金に染め上げられた双眸に中性的美貌を持ち。陶磁器の様に白い肌、銀細工のように美しいセミロングヘアーに法衣服を戦闘用に仕立て上げたかのようなドレスを身にまとっている。

無論人間的な形こそとっているが、両方の側頭部から生えて後ろに向かって伸びている角のような物や。

体の関節部分は球体関節であるし、皮膚も陶磁器のように白く無機質で。

露出した両足は両方とも膝から下は巨大な杭のようになっており人間的な脚部ではない。

さらに右手で保持する豪華な装飾と刃と柄の接合部に時計のような装飾品が埋め込まれ。光の刃を持つ大鎌を右手で持っており。

人間的というよりは人形的にも見える。あるいは数式の様に美しい悪魔という概念を表せばこうもなろうという物であった。

 

状況に冷や水を浴びせかけられたのと。グダグダしてきたのと。おそらく一番くそ情けない覚醒したというのもあって。

全員が沈黙。

 

「達哉。ペルソナの出し方は分かったわ・・・戻すのには?」

「俺の場合は出す場合は脳裏にカードを描き場に出すイメージで。引っ込める場合はカードをデッキに戻すというイメージだ」

「ふぅん、自己暗示とかそういうのは魔術と一緒なのね・・・こうかしら?」

 

オルガマリーは達哉の言うことを魔術になぞらえて理解し。

引っ込めるイメージをオルガマリーなりに描きラプラスを引っ込める。

魔術と大して変わらないと述べつつ椅子に座る。

達哉もそれにつられて椅子に座る。

 

「話を進めていいですかな?」

 

イゴールの催促に両者はうなずく。

そして説明をし出した。

此処はペルソナを降魔したり合成し新たなペルソナを生み出す場所であるという。

ペルソナは人の人格の仮面だ。

闘争中に新たな側面に目覚めペルソナが生まれる。それを持ってくればそれらを使い、今のペルソナと合成して新しい物を生み出せるという。

 

「ん? ちょっと待て。俺の時は悪魔からタロットカードを集めて作っていたが・・・今は違うのか?」

「はい。人の総体的心の変化によってペルソナの運用システムもまた変わります。今はそうなったというだけの話であります」

「そうか・・・」

 

達哉の疑問にイゴールはそう答えた。

人の心が変わったのだからペルソナの運用システムもまた変わるのだと。

 

「と言ってもサポートの体制が変わっただけということでありますな。あなた方はフィレモン様と契約したがゆえにワイルドの素養がなくとも、相性によりますが、ワイルドの様にペルソナの付け替えが可能です」

「・・・?? ワイルド?」

 

またもや達哉の知らぬ単語が出てくる。

ワイルドという概念は聞いたことがなかった。

 

「あの事件の後。フィレモン様と契約しなくともペルソナに覚醒できる人間が生まれましてな、そう言った人間のペルソナは一人につき一体のみと制限されていますがワイルドと呼ばれる特別な素養の持ち主は制限なく付け替えることが可能ですので。こちらでサポートさせてもらっております、もっともあなた方には関係のない話でありますが」

「そうか・・・」

 

確かに関係がない。自分はワイルドとかそういうものではないのだから。

達哉の言葉に満足そうにイゴールはうなずき。

話を先に進める。

ペルソナ合体の他に、ペルソナを強化する「継承の儀」システムやペルソナをスキルカード化する「具象の儀」システムなどの追加。

ペルソナ事態の性能の表示がランクからLv方式に変わって入り限界値能力が高まったこと。

また達哉たちが利用していたころにはなかった。ペルソナ全書システムなど。

達哉たちが利用していたころには無かったものが実装され洗練されていた。

 

「要は此処はそれらを使ってペルソナを強くできるということでいいのね?」

「その通りでございます、ああですが、ペルソナ全書からのペルソナの再降魔はお金が必要になりますので・・・そこはご注意を」

「金取るの!?」

 

エリザベスはオルガマリーのいいように同意しつつ。ペルソナ全書からのペルソナの再降魔には金が必要と述べて。

オルガマリーは金取るのかよと驚愕する。

 

「ええ、無から有を生み出すのは不可能でございます、故にお金という最も分かりやすい資源リソースを使い心の海からペルソナを再現し呼び出すという奇跡を起こすのです。等価交換はこの世界の魔術の基本原則と聞きましたが?」

「まぁそうだけれど・・・魔法に近い能力だからもっと、こうねぇ?」

「世の中、こういった御業ほど結構、俗であることが多いのですよ」

「・・・・」

 

オルガマリーからすれば魔法染みた超能力なのに俗すぎてなんか来るものがある。

 

「一通り説明しましたな・・・、ではカルデアに戻ると良いでしょう、それとこの部屋への扉はお二人の部屋などに設置しておきますので・・・これを・・・」

 

説明が終わったから解散しようということになる。

イゴールが二人にベルベットルームのカギを渡し。

ここへの通路の扉を二人の部屋に立てておくと言って。

イゴールが指を鳴らす。二人の意識は浮上し存在が掻き消えるように退去した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Pi――――――――――――Pi―――――――――――Pi―――――――――――――

 

 

規則正しく生命維持装置が起動している。

オルガマリーはその音で目が覚めた。

白い天井が広がっている。

 

「かえってこれたのね・・・・」

 

 

酸素マスクを外して半身を起こす。

右腕がチクリと痛んだ。よく見れば点滴用の針が刺さっていたからだ。

右腕を動かすのは得策じゃないわねと思いつつ。

周囲を見渡す。カルデアの医務室の一角であった。

見慣れてはいるけれど、何度も死にかけて現実感が戻ってきていない。

隣のベットを見ると自分と同じように患者服を着せられて丁度今起きた達哉と目が合う。

 

 

「生きてるのよね?」

「互いにな・・・」

 

 

そのやり取りをしておかしくなって噴き出して笑った。

なんだかおかしくてしょうがなかったからだ。

 

「先輩!! 所長!! 目が覚めたんですね!?」

 

その声を聴いてマシュが駆け込んでくる。

 

 

 

 

 

 

 

彼等は帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

だが次の旅が残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室に現在、失われた人材に変わって各部を統率する主要人物たちが集められた。

と言ってもカルデアの現状維持のためにマシュ、ロマニ、それと開発部の主任兼カルデア召喚サーヴァント成功例の二人目の「レオナルド・ダヴィンチ」であった。

もっともなぜかダヴィンチは女であった。

だが男でもありだが女だという矛盾した状態であった。

無論、達哉は余りの自己紹介のアレさとビッグネームに白目をむく。

だって普通ならそうだ。歴史教科書ではおっさんとして肖像画が乗っているのに。本人も男と認めているのに。

モナリザになりたいゆえにサーヴァントとして顕現するさいの全盛期の定義を弄繰り回し体を女にして現れたのだから。

いい年こいたおっさんが美女になりたい願望はちょっと理解が及ばなかった。

 

「達哉くんの反応。マリスビリーとそっくりだなぁ」

 

しみじみとロマニが呟く、ダヴィンチが召喚された日、オルガマリーの父であり前所長である、マリスビリーも同じ反応だったなぁと

 

「いや君も白目向いて天井を仰いでいたじゃないか」

 

君も同じだったじゃないかと不貞腐れ気味に言うダヴィンチに。

いやだって、正規の大天才が当時は女体化して「ダヴィンチちゃん」と呼ばせようとしてくる奴だと誰も思わなから仕方ないだろ。

と言いかけロマニは言葉を飲み干す。

ダヴィンチも怒らせると怖い存在に間違いないからだ。あるのが分かっている虎の尾を踏む馬鹿はいないのだ。

 

 

 

「それで現状は?」

「カルデアスの観測結果で七つの特異点の出現が確認されました。おそらくそれが現在の人理を焼却している元凶の楔だと思われます。現在特定班が必死の解析を進めていますが」

「先の爆発で機材の破損が大きい、我ら開発班でニコイチ修理で回して、カルデアの炉心はなんとか安定、施設へのエネルギー供給は十分ではないけれどリソース集中で。何とか設備運用は最低限だけれど出来ているよ、けれど現状じゃレイシフトによる介入は無理だ」

「つまりカルデアに残ったリソースをかき集めて、レイシフト運用できるまで修繕しなきゃいけないってことね?」

「その通りだ。所長、いやぁ逞しくなって」

「何度も死にかければ吹っ切れるわよ・・・ホント・・・」

「だろうねぇ・・・それでどうするのさ?」

 

ダヴィンチの問いにオルガマリーは決断を下す。

 

「現状は準備が整うまで復旧に集中して、休憩は交代制で行くわ」

「所長、俺にも・・・」

「タツヤはしばらく休んでおきなさい、言っちゃ悪いけれど。戦力として頼れるのはアンタとマシュだけなのよ」

「わかった・・・」

 

現状頼れるのはアナタしかいないと言われれば頷くほかない。

ああそれで思い出したとばかりに。ダヴィンチが述べる。

 

「達哉くん、君聖杯を使って元の場所に帰ろうとしていたよね?」

「え、まぁそうですが・・・」

「それは無理だ。一応解析にかけたが。回収された聖杯は願望機としての機能が大きく欠損している。あれじゃ世界の外側に行くなんてのは不可能だ・・・」

「・・・そうですか」

「・・・まぁ帰ることはおいおい考えてちょうだい」

 

 

帰るのは不可能だと言われる。

無論、現状放り出して帰るほど達哉も馬鹿ではない。

出来るだけ協力することは思っていた。

だから帰る考えは後回しにしてということにも納得する。

 

 

「さて働きます「君ね、まだその体に魂を叩き込んで幾分も無い、休んでいたまえ」でも」

「でもも糸瓜もありませんよ、所長、施術中に一度消えかけていたんですよ」

(フィレモンぇ・・・・)

 

だから馴染むことが確認できるまで休めとダヴィンチがいい。

施術中に起きた出来事ゆえにマシュも休んでいてほしいと言い。

その現状に地味にオルガマリーはフィレモンの要らぬ善意で殺されたことを再認識し殺意を少しばかりたぎらせた。

 

「じゃぁ俺は何か手伝います、機械の事はある程度分かりますし」

「達哉君も休んでいてくれ。精神的疲労が肉体面にも出つつあるからね。むしろその状態で手伝われても邪魔だから」

 

達哉は手伝うというがそれもロマニは却下する。

ルーンの効力で回復とごまかしをしていたがついにここで表面化しているから休めと医者として断言したて。

渋々ながらもそれを達哉は了承した。

二人の看病はマシュがすることになり。

カルデアも動き出す。

 

全ては発生した特異点を修正し世界を取り戻す時代を駆け抜ける大いなる旅路を乗り越えるためにだ。

 

 




ちと短いけれど、今回はこれでおしまい


各個人の現状


たっちゃん 休めとロマニに言われて休む ニャルが背後に迫っていることは知らない。

オルガマリー 何度も殺され駆けフィレモンの余計な采配でまたも死にかけ、ドッキリ仕掛けられた。国分張りリアクションを披露した結果。凄まじく情けなく、ペルソナ覚醒をする。

マシュ 付きっ切りで二人の看病をしていた。

ダヴィンチ ロマニから現状を聞いて、前所長の貴重な魔術作品からなんか代用になる物を探して橙子さんせいの人形発見する。そのままロマニ共にマリーの魂移植施術へ。

ロマニ 体があったという事でダヴィンチとオルガマリーの移植施術を行う、フィレモンのせいで所長の魂が消えかけ焦る物の、なんとか施術を成功させる。

カルデアスタッフ一同、施設復旧の為機材のニコイチ修理に奔走しつつ得点の座標特定を急ぐ。

イゴール 原作と大差なし、ペルソナ5の影響で疲労気味

エリザベス、原作とは異なる並行世界のエリザベス、此処の達哉とは違う向こう側の達哉と戦線を共にを共にしたことがある。
彼女もまた影の試練に抗った存在の一人。
色々合って監視役としてベルベットルームに復帰する。
衣装は女車掌の物に変更。


フィレモン オルガマリーの状態が最悪なのに干渉し契約を迫るという。うっかりやらかしをする


ニャル 次回のたっちゃん虐めの為に鎬紅葉染みたウォームアップ中


並行世界の人物。



甲斐性無し 達哉と出会ったことによってパラレルの罰事件に巻き込まれてから血反吐を吐きつつ走る存在。いわゆるところの綺麗なキャベツ。FateGO一部が終わったら彼の物語を書くかもしれない。


本作FGOに新たな機能が実装されました!!
QPを使ってたっちゃんとオルガマリーのペルソナを強化して戦闘を有利に進めよう!!
あとベルベットルームでペルソナガチャ機能追加。、現在ヴォルガヌス&ラプラスがPU中だぞ!!

オルガマリー 結局ガチャじゃない!?



オルガマリーのペルソナのステータス

名前 ラプラス
Lv1
アルカナ月
斬耐 突― 銃― 炎― 核― 地― 水― 氷― 風― 衝― 雷弱 重耐 闇耐 光弱 精耐 異―
力1 魔3 耐1 速3 運1
スキル
コウハザン 近くの敵に大鎌で切りつける、魔法スキルながら近接仕様 ダメージ量は小だがクリティカル発生がコウハより高くクリティカル威力のアップ具合が高い 本作オリジナルスキル
スクンダ
マジックカウンター 所持する魔法スキルで一定確率で反撃する本作オリジナルスキル
逆境への覚悟

元ネタは未来を計測するラプラスの悪魔という概念がペルソナ化した者
不安定な未来を排除したいという彼女の渇望もあって大鎌を持ち前衛攻撃よりなペルソナとなっている。
造形の元ネタは.hack・GUのスケィスとペルソナ3のオルレフェウスを混ぜ合わせたものとなる。


次回、英霊召喚&ニャルによるたっちゃん虐めと現状の第一特異点が、どうなってるかというのをジャンヌオルタ視点で書く予定










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02 影の嘲笑 贋作は冥府に堕ちる。 そして贖罪へ。

善行は悪行と同じように

人の憎悪を招くものである


マキャヴェッリ  1469年~1527年


燃える燃え尽きる。

 

三千世界燃やし尽くすというのはこういうことか。

 

焼死とは遍く死に置いて惨たらしい物である。

まず即死はない、皮膚が焼け爛れる激痛如きで人間の人体というものは容易く人を死なせてはくれない。

火災における死傷の事例で最も多いのは熱傷によるものではなく煙に巻かれての窒息死が多いことからもうかがえる。

息と一緒に熱が喉を焦がし二酸化炭素などが心肺機能を犯して。

窒息死させるのだ。

 

「------」

 

それを漆黒の聖女はただ眺めていた。憎悪にぎらつかせた目をしながら。

その双眸をどこまでも冷たく染め上げて。

悲鳴によるものは竜たちの息吹、召喚された邪妖精の類が執行している。

与えられた能力でワイバーンを統率しワザとブレスを直撃させずあくまで死ぬように着火するように仕向けている。

何匹かのワイバーンが捕食に走るが。

それでも即死だけは絶対にさせることはない。

惨たらしくゆっくり咀嚼させるのだ。

 

「ひゃはははは!! いいねぇ、いいねぇ!! ヒャハハハハ!!」

 

凶嗤を上げて白髪の男が剣を振るう。

男も女に即死させるなと厳命されている手前、即死はさせない。

だが刃で器用に戦闘不能に持っていきつつ出血死を狙っている。

即死させるなという命令でさえ男は自分自身の殺人欲求を満たすものでしかなかった。

 

 

「ジャンヌ」

 

 

女は見ている只惨たらしく死を行い死んでいく者たちを見ている。

そんな彼女に声を開ける大柄のフード姿のぎょろめの男。

女「ジャンヌ・ダルク」の副官にして狂信者の「ジル・ドレェ」だ。

 

「この町の攻略は終了しました」

「そう」

 

興味なさげにジャンヌは適当に返し、炎を見つめ続けている。

 

「この時代のジルが率いる本隊は?」

「まだ落とせませぬ、他の砦も引きこもり防衛陣を引いており大火力を持つ対軍宝具でもない限りは・・・」

「まぁそうよね、幾ら”噂”を使っても、私と接点がないおかげで”噂”の適用外みたいだし。殺傷能力で選び過ぎたわね」

 

 

ジャンヌは聖杯を使いサーヴァントを召喚していた。

どいつもこいつも人格破綻者の上での殺人狂、狂っている怪物たちである。

それでいいと思っているし事実それを覆す気はない。

伝説に謳われる大火力持ちのサーヴァントなんて光の奴隷連中だ。

使い辛いったらありゃしない。

狂化を付与して無理やり殺戮本能を引き上げてもいいが、それではだめだ。

生身の殺意を世界に切り刻んでやるという情念が必要なのだとジャンヌはそこに拘る。

噂の力によってこの時代の人間ではジャンヌには勝てない。

絶望が起点となって広がって人は駆逐されるだけの存在と化していた。

だがしかし抑止力として呼び出されたサーヴァントは”噂”の効力は通用してなかった。

これは単にジャンヌに関する噂ゆえに接点がなく効力外となっているがゆえであろう。

 

 

「ようお嬢ちゃん戻ったぜ」

「お帰り、注文通りね」

「ああ殺しが出来ねぇのは残念だがな、電波様のお告げじゃぁしゃぁあない、でも楽しめているから問題はないぜ」

 

 

戦場から先ほどまで奇声を上げながら殺戮疾走していた男。

「須藤竜也」がジャンヌのもとに帰還する。

ジャンヌは注文通りと彼を誉めてそれにジルが反応し。

視界に物理的圧力を込められるのなら人ひとりくらいは余裕で殺傷できそうな威圧を込めて睨み付けた。

須藤は「おお怖ッ」と大げさに肩をすくめて見せる。

それを挑発と取ったかジルの機嫌はより加熱した。

それを見て須藤は獲物を見つけたかのように表情を歪め口を開きかけ。

 

「そこまでよ」

 

ジャンヌが二人を制する。

このままでは売り買いの喧嘩という名の殺し合いに発展しかねない。

どっちを失っても痛手なのだから。

 

「それでジークフリードは見つけたかしら?」

「不明です・・・、翼竜たちに後を追わせていますが。抑止力のサーヴァントの助力があったのでしょう、補足できません」

「そう、まぁその件については私が一方的に悪いわ。確実に殺すために呪いをたらふく打ち込んでから首を跳ねようと思っていたらすきを突かれて逃げられましたなんて笑い話にしたのも私だもの。だからジルが気にすることはないわ」

「おおジャンヌ」

 

不手際は自分の不手際だと言って許すジャンヌに歓喜極まっているジル。

須藤はクツクツと笑い声をかみ殺して笑っている。

ジャンヌはその様子を見て呆れて冷たい目でジルを見ていた。

 

「それでどうするよ? お嬢ちゃん?」

 

手元でナイフをくるりと弄びつつ須藤がジャンヌに問う。

 

「なにも、このまま予定通り行くわよ」

「ジャンヌ、予定とはカルデアの到着を待つということですか?」

「ええそうよ、聖杯がこちらの手にある以上、カルデアさえ始末してしまえば王手詰みですもの、だからこの時代のジルや抑止には牽制球だけ投げて置いて。カルデアを連中から切り離してあとは叩いてお終い」

 

戦力比で上回っているのだから分散する方が愚行の極みである。

人理を完全崩壊させるという目論見を達成するのならカルデアを潰した後に。

バラバラの抑止サーヴァントを各個撃破すればいいのだから。

それに。

 

「こちらには切り札はもう一枚存在する」

 

ちらりとジャンヌが自身の持つ旗の切っ先を見つめる。

人理焼却犯とはちがうルートで授けられた穂先だ。

それは聖人の身体を貫き癒えぬ傷を刻んだという物である。

自分の宝具ではないけれど。エンチャント系故に常時能力を発揮する優れものだ。

 

「確実にここで全部殺しきる」

 

ジャンヌはそう呟く。

 

 

全ては自分が生まれた日より始まった。

 

 

―貴様、何奴!?―

 

―貴様らの影だ。まぁどうでもいいことだが―

 

 

突如として現れた白い学生服の青年は両目の瞳を黄金色に輝かせて。

ジル・ドレェをあしらいつつ。

ジャンヌを見るて口を吊り上げた。

 

 

―フハハハハ!! これは傑作だな!! こうまでに側面を切り取られ呼び出された英霊とは実に無様なのだな!! なるほどなるほど。これでは獣畜生のお使いにふさわしいという物だ。―

 

 

無論その嘲笑に当時のジャンヌとジル・ドレェは襲い掛かったが。

青年の両方の手に拳銃のような物が握られ。

炎は鈍器の様に使用されたそれで打ち払われ。海魔は吐き出された銃弾で穿ち倒される。

その後の攻撃も”未来予測”でもしているかのように回避され対処される。

状況は一方的にジャンヌとジル・ドレェが圧倒されて終了した。

聖杯は青年の手に渡り。ジャンヌは漆黒に染まった青年の左手に首を鷲掴みに握られ持ち上げられる。

ジャンヌの首に指がめり込み動脈を圧迫しながら骨をへし折り筋肉繊維を引きちぎらんばかりだ。

ジル・ドレェは地面に這いつくばり手足に細い杭上の物を撃ちこまれ地面に縫い付けられて動けない。

 

―ククク・・・、ジル・ドレェ、貴様は確か神が憎かったはずだな? 己が敬愛というよりは狂信を募らせていた。聖女モドキを殺されてナァ―

 

聖女モドキ、それは誰だとジャンヌは遠くなる意識の中で思い。

 

―貴様ァ! 彼女を侮辱するか!!―

―侮辱?? 嗚呼、聖女モドキ呼びの事か? だが真実だろうが? 私の認識では、聖人は死後奇跡を起こすことが条件だったはずだが? 

あの聖女モドキは生焼けの丸焼きで生きていただけで。その直後の彼女が無様に生きていたのを死んだ後でも生きていると貴様らが誤解しただけだろう? 

それに神の声を聴いたと叫び散らし戦場でのルールを勝利のために破って戦端を開いた先導者だ。

良いところ聖女の皮を被った神の玩具。あるいは大衆の人形だろうよ。”勝ったから” ”都合がいいから” ”大衆がそう思ったから” 聖人扱いされているだけで。本性は思考の欠けた愚物だ。聖女モドキと言って何が悪い?-

 

私は当たり前のことを説いているだけだがなぁと青年はニタニタ嗤っている。

 

―だがまぁ、そこは論点じゃなぁない、私が言いたいのは。貴様がその聖女モドキに哀れみを抱き。現実逃避の狂行に走った挙句。あの聖女モドキが神に受けた仕打ちを。お前自身が行っているという点だ。―

― -------え? ―

 

ジルが呆ける。

青年は遂に耐えきれぬとばかりに大笑いした。

 

―だから。私は、自称神の声であの聖女が先入観を植え付けられて愚行に走ったという。

貴様が最も嫌っている事象を、貴様自身が、一から無垢なジャンヌを作り出し、あの神の様に先入観を植え付けて作り上げるという。

自分自身が最も嫌う存在と同じ行動を、何故とっているのかと聞きたいのだが・・・

なんだ・・・自覚がないのか? であるなら本当は神が憎いのではなく、理想のジャンヌ・ダルクという自慰人形でも欲しかったのか??―

 

青年の物言いにジャンヌは首を締め上げられながら。

驚愕に瞳を染めてジルを見る。

要はこの青年はこういっている。お前はジルの考えている理想のジャンヌという贋作であると。

無論。それはついでに述べられ。

事の論点の焦点は。なぜジル・ドレェが敬愛する聖女に対して最も嫌う神が行った先入観と思想の植え付けと誘導という事の発端的所業をジル・ドレェ自身が行っているのかということであるが。

ジャンヌからしてみれば最も衝撃的だったのは自分が出来の悪い贋作でしかないということである。

 

 

―うそ―

 

 

―嘘ではない。貴様はジル・ドレェという人物が用意した。オルタナティヴ(代替品)にすぎん!! 知りたいようだから叶えてやろう、事の経緯をな!!―

 

青年が嘲笑いつつジャンヌ・ダルク・オルタの額に右手の人差し指を当てて事の経緯を直接流し込む。

 

ジル・ドレェは事実を突きつけられて「私があの愚神と同じことをした?」呆けている。

 

ジャンヌは真実を知り叫ぶ。

 

 

―偽物が嫌か? であるなら・・・・なぁ周防達哉、理解者は多い方がいい。この私が貴様に憎悪が何たるかを教えてやるとしよう!!―

 

 

 

そのあとは坂を転げるが如くだ。

 

理不尽を見た。

絶叫を見た。

悲哀を見た。

 

 

理不尽な罪を背負わされ孤独に叩き落された青年の夢を見た。

世界を救ったというのに敗北者に未来を奪われた最後のマスターの夢を見た。

悪魔に悪魔にされて永劫神と戦うことを義務付けられた混沌の王の夢を見た。

 

 

 

ほかにもほかにもほかにもーーーーーーーー

 

 

 

 

 

―くくく、いい塩梅だ。祝福しよう、逆襲劇を奏でるというのなら、ぞんぶんに奏でるがいい!―

 

 

 

それを見て気づく。

 

この男が発端なのだと。

 

 

 

―舞台は用意してやったのだ!! そこの男を使い、私が張った結界を使いカルデアを滅ぼせた後に。自力で人類を滅ぼせたならば。直々に私が相手をしてやろう!! フハッ、フハハハハハハ!!―

 

 

 

私は叫ぶ、炎を焦がす。

 

 

 

だがあの青年「ニャルラトホテプ」には届かなくて。

 

 

 

奴は選別として眷族である「須藤竜也」をジャンヌに付けて。

 

さらにとジャンヌに聖槍と噂が具現化する結界をゆずって消えていった。

 

まだ見下すかとジャンヌはへたり込みつつ歯ぎしりし

 

 

 

故に――――――

 

 

 

 

「滅迅滅相よ、人類は滅ぼす、私も含めて全て燃やし尽くすッッ!! それが何もできなかったオリジナルへの!! ジルへの!! 

何も変わりはしない人類への!! あの哀れな周防達哉への―――そしてぇ!!何よりも悍ましいニャルラトホテプへの!! 返礼であり私の復讐だ!!」

 

 

その日。ジャンヌ・ダルク・オルタナティヴは冥府の底より太陽を食らわんとする漆黒に堕ちた。

 

もっとも影ではニャルラトホテプとその眷族である「須藤竜也」が嘲笑っていることに気付きはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルデアの修復作業やらマシュとオルガマリーの特訓に奔走していた達哉は疲労でベットに寝そべるなり眠りに落ちた。

此処10日、休まる暇はなかったが、楽しかった為、達哉的には全然苦ではなかったのである。

英霊召喚目途も付き。

明日に英霊召喚を行い、その後。不信感やら連携の不備やらないように休息と英霊とのコミュニケーションを三日ほど行い。

第一特異点への介入を始めるという段取りであった。

オルガマリーも無論忙しそうであった。

人理焼却という未曽有の事態は無論だがそれを解決するためにはペルソナを行使せねばならず。

ペルソナ事態が封印指定というお前ら根源に行く気在るのかという謎制度に引っ掛かる代物であったため。

オルガマリーを筆頭にカルデア一同の入念な打合せが連日連夜行われているからしょうがない事であろう。

誰もかれもが忙しいのである。

休める機会があるだけましと言えた。

 

がそれでも因果は巡る、人の心は宇宙の星のように光り。

それを漆黒の宇宙空間が覆う。

その中に真鍮製の鳥かごのような場所が一つある。

 

「ククク・・・就寝前に呼び出して悪いな。周防達哉」

 

そこに気づけば達哉は立っており、彼の数m先に嘲笑う青年が一人。

 

その姿は達哉と同じだ。

 

瓜二つとはこのことを表す言葉だろう。

 

もっとも着ている衣類は違うが。

 

今、達哉が着ているのはカルデアのレイシフト員が着ている服であるが。

相対するもう一人の達哉が着込んでいるのは胸元に罰点印のロゴが刻み込まれたライダースーツである。

ついでに言えば瞳は黄金色に染まり。その表情は皮肉に歪み切っていた。

 

「随分早いお出ましだな・・・・ニャルラトホテプ!!」

「決着を付けよう・・・と言いたいところだが・・・そう急ぐとはあるまい。この場所はあのフィレモンの人形の住む場所と同じとほぼ同一とまでは言うまいが。此処は阿頼耶識の底、時は永劫に近くあるのだからな」

 

達哉は戦闘要員ということもあってマリスビリーが英霊召喚の触媒用に用意し、蔵に眠っていた物をロマニと所長が引っ張り出し。

譲ってくれた日本刀を構えるが。

あいも変わらずニャルラトホテプは嘲笑うようにそれを制する。

奴がこう言うということは大概決着をつける気はない。

大方自分を煽る為に呼び出したのだろうと検討を付けつつも油断なく刃は構えたままにしていく。

 

「ククク、全く相変わらずせわしない男だよ、すこしは父親役であった私と旧交を温めようという気にはならんか?」

「だれが貴様と! それに俺の親父は一人だけだ。」

「そうだった。そうだった確かに。明確に父親役を演じたのは哀れなピエロ・・・、名は黒須淳だったか。そいつだけだった」

「・・・また俺を煽りにでも来たのか。その下衆じみた思考であの世界を巻き込もうとでもいうのか?」

 

 

もうここまでくるとこいつは本格的に煽りに来ただけかと思いつつ。

あえてその煽りに乗る。

歪めてこそいるがこいつは乗るだけで真実を語るからだ。

故に問う。今度はどんな下衆じみた考えで関係のない他世界を巻き込もうというのかを。

 

 

「あの世界? ああ、あの腐れ樹のような無様極まる世界か・・・・いやこの言葉は相応しくはないな・・・ふむ、ではこう言おう。生き死体の様な世界と形容するべきかな?」

「生き死体だと?」

「そう、形容するほかあるまい? なぜならば貴様と私が居たアマラの宇宙とは違い。この世界は最善も最悪も許さずにパージする世界だ」

「・・・・何を言っている?」

「容量の問題だよ、周防達哉。この世界には容量があってだな、最善を突き詰めすぎた並行時空、最悪を突き詰めすぎた並行時空や結果は、発展性がない疾患として排除されるのだ。幾ら英雄共が努力し貴様が気張って我が試練を乗り越えたところで発展性がないという理由だけでパージされる。・・・さながら多数の疾患を患い死が確定した脳死患者を生かすようにな?」

 

 

そうこの宇宙は最善と最悪を容認し、作り直せるシステムが存在しない。

最善と最悪は異端認定され、さながら疾患の様に扱われパージされそこそこの結果で埋め合わされる。

多数の疾患を患い、死にかけるたびに臓器をパージし人工臓器で埋め合わせる。

まるで脳死患者を無理やり延命するように。

 

「その哀れで無様な人間の事をなんというか知っているか? 

生き死体だよ。無理に周りの認識で生かされているだけのものに過ぎないのだから。

そう言う以外になんと言えばいい? どうせ先細りして死ぬのは一緒だろう?」

 

ニャルラトホテプが言う。

容量不足なんぞでパージを続けていけば先はどうせ先細りし死に至る。

この世界のパージ法は所詮無理な延命処置でしかない。

故にその無理な延命処置で行かされる世界を、生き死体と形容して何が悪いというのだと嘲笑っている

 

「貴様ッ!」

「ククク、怒るなよ事実を述べたまでだ。なんの矛盾も無い真実だよ」

「滅びに加担して色々滅ぼしてきた貴様がそういうか?!」

 

無意味にパージしてきたのは貴様も一緒だろうと達哉は庵に言う。

世界は残酷だ。だがそれでも友達が生きている世界を”生き死体”やまだ賽子の目も出ていないのに無駄と断言されて怒りがわかないはずがない。

それに無意味に愉快犯的動機でパージに等しい滅びを行ってきたのはニャルラトホテプも一緒であろう。

 

「確かに・・・そうだな、だがなそれは大衆が私に望んだことだ。貴様が望んだことだ。それを実行したにすぎん。貴様もな・・・」

「ッ・・・」

 

其処を突かれては痛い話になる。

だが。

 

「ああそうだ。望んでしまったことだ。だが、その意味を無意味と断じることは出来ない」

「ほう、ではこの世界のパージを容認すると?」

「ああ、仕方がないことだ。進めなくなってしまったのならそうするほかないだろう、俺の様に・・・だが彼女たちは今を生きてる。まだ世界は此処にある・・・!! 俺もまた歩みを止める気はない!!」

 

人は必ず何かを犠牲したうえで成り立っている。

それを踏まえたうえで先細りで死ぬか。新たな結果を開拓するかの賽の目はまだ出ていない。

だからこそ無意味と断じられぬし同時に価値があるものだとも断じられぬ。

自分はドンズマリだが、それで終わるつもりはないし。彼女たちは生きて世界を紡げるのだからと矛盾を言いながらまだ終わっていないと叫んでいる。

 

「矛盾だな。だがそれを抱きかかえて現実に挑む。結果は出ていないのだからと・・・、パージされた世界に意味はあったのだと叫ぶのだな? 見事な成長だな? 周防達哉? さすがは私を倒しただけのことはある・・・・」

「・・・受け入れて進め。それだけが償いになるのだと。お前が教えてくれたことだ」

「そうだったな。クックック」

 

達哉の成長にも彼は嘲笑っている。

 

 

「何がおかしい?」

「いやな・・・今日はその成長に免じて疑問の解消と贈り物を用意してきたのだよ」

「??」

「まず一つ目、疑問の解消だ。もし貴様らがあそこでリセットを選ばなかったとしたらどうなっていたか・・・ということについてだ。アマラ宇宙はこの宇宙と違い、世界を文字通り再構築できるのだよ」

「・・・・なに?」

「可能性の維持のためにな? この宇宙とは違って可能性を形にできる。お前たちがリセットをできたように・・・な? ならば逆のことが出来ても当然だろう?」

「!?」

 

 

つまりあの時。もしリセットを選択しなければ。

 

 

「そう貴様たちは私に勝利出来ていたのだ。早い話が。無駄に貴様は滅びをかざしたにすぎん!!」

 

 

勝利出来ていたということである。

アマラ宇宙の法則としてドンズマリになった世界は受胎しその中で理を開くことによって世界を再度構築できるのである。

 

「奴もまた私だ。私もまた奴だ。属性こそ違えどな? ペルソナ能力の授与だけが奴の試練の与え方ではない・・・。極限状況下で正しい選択ができるのかと迫ることもまた在るのだ。私とは形が違えどな?」

「だがそれが出来なかった。それだけだ・・・・まさか」

「ククク、なんだ周防達哉?」

「俺はまた逃げたのか? 誓いを破ったのか?」

 

ニャルラトホテプが言ったことが本当であれば達哉のいる世界は再構築されていたはずである。

つまり受胎状態だったはずだ。

その影響下はまさしく万能の願望機にふさわしいことは分かる。

故に再構築されずこの世界に来てしまったのは”受胎”を利用した世界跳躍を行ってしまったのかという考えに至ってしまう。

その考えに至ったことにニャルラトホテプは内心嘲笑いつつ。

優しく諭す。

 

「いいや私から見ても、それはない。今回の事故はこの世界のせいだ」

「?」

「魔術師共は愚か者共の集まりだ。世界は自分たちだけがどうのこうの出来ると思い込んでいる。その中の馬鹿が我々の宇宙を観測した。

結果。私はまぁスカウトされここにきている。そしてその結果を知った馬鹿が私を倒す抑止力として丁度受胎しあやふやになった世界に干渉し貴様を引き摺り込んだ」

「・・・いやに優しいな貴様」

「ここまでくると私も哀れみを覚えられずにはいられない故にな・・・・」

 

だから貴様の責任ではないぞと優しく語りかける。

無論。達哉はこいつの言葉信じない。

どうせ来てついでだから感覚ということさえあり得るのだから。

 

「なぜなら・・・貴様の住んでいた向こう側はすでにないのだから」

「・・・・はぁ?」

「当たり前だろう? 受胎し周防達哉という理を開きし存在の願いをかなえるべく世界はあやふやになっていた。

つまるところOSインストール寸前のパソコンからOSを強引に引き抜いたようなものだ。世界自体が機能を停止する。

流石にそうなるとアマラの宇宙もパージを実行する」

「!? じゃ俺は・・・帰れないのか・・・・」

「そう言うことだ。ククク、また帰る場所を失ったな。周防達哉?」

「黙れ・・・・」

「黙れだと? それは誰に対していっているのだ? 私は影だ。誰も影を消すことは出来んゆえにな?」

 

心が揺らぐ。達哉の心が。

影が深くなっていく。

嘲笑う。

 

 

「そこでだ。贈り物の話になる」

「・・・何の関係があるんだ」

「いいやあるさ。世界とは理不尽だ。まぁそれはどこの世界でもいえることだがな。それでも私は思うのだよ。私を倒して雄々しく成長した貴様に。贈り物の一つや二つくらいは用意せねばとな?

まったく英雄譚を駆け抜けたお前にそれすらしてやれんのは敵役としての沽券にかかわる」

「貴様からの贈り物なんぞ要らない!!」

「まぁそういうな話を聞いてからにしても遅くはない・・・。私は良く知っているぞ? 二つの世界の為にお前がどれほど奔走し。血反吐を吐き大事な者を失っても走り抜けたのか、故にすまなく思っているのだ」

 

そう知っているともと影は言う。

その時に達哉の脳裏に警報が鳴る。これ以上の事は聞いてはいけないと。

それを察した影はニタリと口を吊り上げて。

 

 

「だからこそ。贈ろうと思ってな? お前が何よりも欲するものをな?」

「俺が欲すもの?」

 

奴はそういうがテンデ心当たりがない。

これ以上。言わせてはいけないという警報が強くなる。

もうだめだ奴の言葉を聞いてはいけない。

ペルソナを準備し刀を握る手に力を込めて。

それより早く奴は言葉を紡いだ。

 

「つまりお前を理解してくれる誰かとそれらと共にする新天地をな」

「理解してくれる・・・誰かと・・・新天地?」

 

そうそれは二度と手に入らず、達哉自身が最も望み。

もっとも拒む物である。

 

「そうだとも!! 先も言った通り、この世界は貴様を巻き込んだ。どれだけ足掻き苦しみ憎悪し絶望し慟哭した貴様の意思なんぞ知らんというばかりにお前を巻き込んだ。この生き死体じみた世界を破壊し、お前と同じ苦汁を持つ人々を作り、それらと共に新天地を目指すという英雄譚をだ!!」

「!? 貴様ァ!! 貴様ァァァアアアアアアアアアアア!!」

 

達哉は理解し叫ぶ。望みながらも望まぬゆえに。

 

「察したか、つまりマシュ・キリエライトを、オルガマリーアムニスフィアを・・・カルデアの連中を同じ目に合わせ、理解者にしてやろうということだ!! 状況も都合がいい。己が贖罪も兼ねられるしこの世界を断罪もできる・・・ククク・・・最高の舞台になるだろう?」

 

ようは達哉という走り切った英雄を巻き込んだ世界を断罪として、ぶっ壊し理解者を作り新天地へと赴く英雄譚をプレゼントするということだ。

この状況下では実にニャルラトホテプには実に容易い事であろう。

それゆえに達哉は、同じ目をよりにもよって新しい友となった人々に味合わせるということに激高する。

 

「フハハハハ!! 確かに感じたぞ? 理解者と新天地という言葉を聞いて貴様の心が揺れ動いたのをな!! 私は全人類の影だ!! 誰も私に対し虚偽の報告はできん!!」

「黙れぇぇええええええええ!!」

「いくら叫ぼうが無駄だ!! 車輪は既に回っている!! 私は貴様らの影だ! 故に私に対し嘘を吐くことなどできん!! 貴様は望んだ!! 故にその望みを叶えてやろう! もっとも貴様が心の裡に抱える深淵の底で燃え続ける様な何よりも形容しがたい渇望を、この脆弱な世界が!! 無垢なる少女が!! 歩き始めた少女が受け止められるかは知らないがな!! ククク・・・フハハハハ!!」

「ニャルラトホテプゥゥウウウウウ、貴様が!! 貴様ぁぁあああああああ!」

 

 

影が消えていく、残るは達哉の絶叫のみで。

運命の車輪は動き出し始めていた。

 

 

 

「せん・・・ぱ――――」

 

誰かの呼ぶ声がする。

 

「せ・・・ぱ・・・・い――――――」

 

薄っすらと明けられたしかに薄紫色の髪の毛が特徴的な少女が映る。

 

「マシュ?」

「はい、私は此処にいます」

「どうやってこの部屋に・・・・」

「鍵が開けたままになっていたので・・・すいませんが勝手に上がらせてもらいました・・・」

「そうか・・・」

「大丈夫ですか? 酷く・・・獣のように魘されていましたよ・・・?」

「マシュ・・・」

「? なんでしょうか」

「悪い・・・」

 

達哉はマシュを抱きしめるかのように引き寄せる。

いきなりの事にアワアワと慌てるが。達哉の惨状をみてそれはすぐに掻き消えた。

 

「何かあったんですか?」

「すまない、今はこのままで頼む・・・お願いだ・・・・」

 

 

人のぬくもりが欲しかった。縋るものがあまりにも無さすぎて。

そうするほかなかったのから。

きっと酷い夢を見たのだろうとマシュは察して。あの時とは違い彼をあやす様に抱きしめた。

 

 

 




この人理すっごいよな、ニャル様たっぷりだもん!!

英雄召喚をすると言ったなありゃウソだ。

今回はニャルニャル回で終了。

各個人の状況。

たっちゃん。まさかの望んで最も望まいことを押し付けられメンタルボロボロ

マシュ、ニャルに煽られズタボロの達哉を抱きしめるヒロインムーブ

オルガマリーを含めたカルデア職員 疲労で交代制で休息


邪ンヌ。贋作あることを突き付けられそのうえでアマラ宇宙の悲劇の数々、現実の理不尽を見せつけられビーストモドキ化する

ジル、ニャルにへし折られ邪ンヌの人形状態。

須藤竜也 電波ッパーパー


ニャル様、、第一特異点に噂フィールド展開し稼働率チェックの為に降臨。邪ンヌに真実を突き付け。
ジルに「それってお前がもっとも嫌う神と同じ所業だよね?」と煽りながらへし折る。
その後、邪ンヌに真実を語ながら世界の無常さを叩き込み憎悪を仕込み力を押し付けてビーストモドキ化させる。
その帰り足でたっちゃんをモナド曼陀羅に引きずり込み。この世界の真実となぜ来たかということを嘘とホントを交えつつ、「お前の世界は型月連中のやらかしで滅びたんだから。私をかつて倒した褒美に、こっちを滅ぼして断罪してやるよwwww、ついでに貴様への理解者と新天地もセットなwww」と
最も達哉が望み。故に望まないものを押し付ける宣言してボコボコにする。





座では

ジル ちょっと腹掻っ捌いてきます
ジャンヌ ジルー!?

アルトリア 言葉も出ない

エミヤン 白目

第七特異点では

英雄王。第七特異点で過労死寸前で働き続けている時にたっちゃん虐めの映像が飛び込んできたため、たっちゃん虐めのひどさとニャルの世界への見解という名の冒涜に職中にキレて魔獣共にスデゴロで八つ当たり。




次回は英霊召喚と、たっちゃんへのフォロー回、特異点突入までできればいいいなぁ・・・・

修正作業と同時にニャルが妙にたっちゃんがこちらに来たことについてへの言及についての解説。

ニャルは達哉に事故と言っていますが、実際に引き摺り込んだのはニャルです。
じゃないと、本作のあらすじ詐欺になりますしね。
無論ニャルが他人の願いをかなえるという名目で巻き込みました。
そこをあえて。たっちゃんのメンタルをヅタヅタにするためと、あとでロマニとマシュの殺意を自分に向けさせる為の伏線としてたっちゃんが型月時空に来た理由はかなり歪めています。
なお世界再建の事は全て真実を語った方が達哉が効率よく傷つく為、嘘偽りなし。
つまり世界は受胎しコトワリを達哉が見出せば再建出来ていた。悪いのは近い未来にやらかす獣の眷属と。
罪と罰の時に何の説明もしなかったフィレモンが悪い。

あと次の更新は遅くなるかもです


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03 存在肯定、そして集う英傑たち。

神様は私たちに。

成功してほしいなんて思ってはいません。

ただ、挑戦することを望んでいるだけよ。


マザー・テレサ 1910年~1997年


カルデアの状況は事は順調に進んでいると言っても過言ではない。

周防達哉を除いて、だ。

 

「・・・タツヤ、何かあったの?」

「ええっと・・・そのだな・・・」

 

オルガマリーに即座にばれた。達哉の狼狽はそれだけ酷かったし。

マシュもニャルラトホテプや無意識の住人の事は聞いている。

故にマシュも昨日晒した就寝間際の達哉の狼狽から何かあった。

ということは理解できており。それが態度に出ているのだ。

落ち着いて周囲を見れるようになったオルガマリーはカルデア所長として相応しい存在になったがゆえに。

それを見抜いていた。

出会った頃の様に眉間に皺を寄せながら黙々とコンビニ弁当を食べる達哉。

達哉のとなりに座りながらどこか喋る機会をうかがってるようにチラチラしているマシュ。

何かあったのかというのは理解できる話で。

達哉は女性を襲うような男ではないのも確かなので。

無意識の住人の特性とやらかしを知っているオルガマリーは。

達哉がソレ関係の事で何かあり、マシュが狼狽している達哉とばったり会ったとかそう言った事だろうとあたりを付ける。

人間不信時代に培った観察眼は伊達ではなかった。

もっともフルスペックを発揮できるようになったのは。オルガマリー自身が余裕という物を持てるようになってからである

 

ちなみに食料がレトルト主流なのになぜコンビニ弁当があるかというと。

 

「新しい商売を始めてみました」

 

ベルベットルームでまさかの食糧が購入可となったからである。

エリザベスが向こうのアマラ宇宙で手に入れた食料を買うことが出来るようになったのだ。

折角、ベルベットルームが新幹線車内の様なものなのだから車内販売を開始したとのことである。

無論、金は取られるが。

さらにベルベットルームの一角にサトミタダシ「ベルベットルーム支店」なるものまでできており。

ベルベットルームにできたそんな珍妙な看板の下をくぐると。

おばちゃん店員が店番をしながら、何故だかえらく脳に残る電波ソングが店内ソングで流れる珍妙な薬局に放り込まれた。

故にベルベットルームを視認し入ることの出来る達哉とオルガマリーは職員などから頼まれて金を受け取り購入してから。

購入したそれらをカルデアに持ちんでいる。

お陰で食糧事情と民生品とはいえ医療事情はだいぶ改善した。

最も一部、魔術師でアレ、現代科学者でアレ、白目をむくような品もあったが。

 

 

閑話休題

 

という事もあって。達哉の様子がおかしいことに気付く。

達哉は心配かけまいと誤魔化す様に言うが。

 

 

「ダヴィンチ」

『ちゃんを付けてくれたまえよ。所長』

 

 

オルガマリーが指を鳴らすと同時に彼女のバングルからダヴィンチの映像が投影される。

此れには達哉もマシュも面食らった。

 

「あのそこでなぜにダヴィンチちゃんなんですか? 普通、ドクターではないのですか?」

「アイツ、手心を加える気があるからね。いい事? マシュ。 タツヤは抱えこむタイプの人間だからこういう時はズバッというのがいいのよ。躊躇していちゃだめよ・・・」

「それはそうですが・・・」

「タツヤをカルデアで囲う以上、奴の策謀に巻き込まれるということだもの。という訳でやっておしまいなさい、ダヴィンチ」

『だからちゃんを付けてくれたまえよ。まぁそういうわけだ達哉君、諦めてくれたまえ』

「え・・・えぇー」

 

先も述べた通り、所長の観察眼はいかんなく発揮されていた。

吹っ切れたということも有ろうが、伊達に魔術の世界を生き抜いてきたというわけではないのである。

といっても普通の人間なら逃げようとするところを達哉は困惑しつつもそれに応じた。

影の嘲笑という物は自分自身では解決できぬ物であるしオルガマリーの言う通り。

抱きかかえていたところで何もできないのは痛感済みだ。

だがそれでもオルガマリーの問いをはぐらかそうとしたのはひとえに達哉が抱える罪悪感と不安からである。

それを、ここまで言われて理解できぬほど達哉は馬鹿ではなかった。

故にカウンセリングを大人しく受け入れて。

ニャルラトホテプに言われたことを吐き出す。

 

『うわ・・・うわぁ・・・・まさしく知性体の黒だ・・・。私も奴とは面識があるが・・・、ここまでされたことはなかったからなぁ』

「俺はどうすればいいんだ」

 

さすがのダヴィンチもドン引きしさすがはニャルラトホテプというほかない。

他者を貶める事については右に出る者はいないというほかないだろう。

なんせアイツは本当に、個人であれ群衆であれ、ゆがんだ形でその望みをかなえるのだ。

それが奴だ。

やると言えば必ずやる。

過程に偽りはあれど結果は必ず叶える最悪の形で。

だが結局は抗うほかない、知性体は奴から逃げられないのだから。

 

「あの、ダヴィンチちゃんはニャルラトホテプと面識があったのですか?」

『あるよ、と言っても座で共有される情報で初めて気が付いたけれどね。歴史の影に奴が居る、古今東西の英雄譚が今風のハッピーエンドに終わらないのも、そいつの影響さ、無論終わった物もあるが必ず後継がやらかすからね・・・』

「それは・・・・本当ですか?」

『影との戦いに終わりはない、話が一つ幸せに終わっても実際にはそのあとにもいろいろ問題が終わるわけがない。

例えば勇者が魔王に打ち勝ち姫と幸せなキスして結婚して終了と締めくくられたところで。

そのあとの問題はいろいろある結婚生活とか王族になったがゆえの統治やらなんやら、無論当の本人たちが幸せに頑張ったところで後継はやらかす。

身近な所ではイエスの教えが現代に多角的視点と解釈がもたらされた結果。様々な問題を生んだようにね・・・、故に奴との戦いは現実そのものとの戦いだ。だから終わりはない』

「どうしようも…ないのですか?」

『ないね、奴は現実そのものの無常さであり、人類のあるいは知性体の影だ。殺すには奴のいる宇宙をすべて滅ぼし、自分の首を刎ねるほかない』

 

ダヴィンチの説明にマシュは涙目ながらに終わりはないのかと問うが。

ダヴィンチはマシュの懇願を切って捨てる。

本当にどうしようもないのだ。すべてを受け入れた上でなおも足掻くという超人の領域に至り。

ようやく奴を追い返せるのである。

故に達哉のやったことはある種、大英雄クラスの偉業であるのだ。

全人類を敵にして勝利をもぎ取ったのだから。

最もソレでも戦いは終わらない。光在る限り影は消せない。闇があるかぎり暗がりは永劫で。夜明け前が最も暗いという様に奴は不死身だからだ。

ニャルラトホテプは再び顕現するのである。

まさしく悪夢であろう。

 

『だからさ、達哉君、君にはこの言葉を贈ろう、気にするな!!』

「・・・え?」

『どうにもならんことは天才の私にさえならんことさ!! 現実、生前の私はモナリザに成れなかったんだぜ!! 現実を見ることは大事だが、固執しすぎるのもまた逃げさ!! だからそこそこに気にして、欲しいけれど要らねぇんだよ!! ボケェ!でいいと思うよ?』

 

故に奴に勝つには矛盾して猶も貫ける精神力が大事なのだ。

周防達哉はそれがかつてできたがゆえに勝利した。

あの達哉の映像を見て客観的にダヴィンチはそう評価する。

 

「・・・俺が悍ましくはないのか? 世界の断罪を願い、理解者を欲し・・・新天地を望んだんだぞ・・・」

「それ言ったらレフにカルデアスに放り込まれる前に、私なんてとっくに死人よ、死人」

 

達哉の自虐をオルガマリーは切って捨てる。

それはある種オルガマリーも望んだ事ゆえだ。

なにせ魔術業界に一般人メンタルで生まれてきた女である。

 

『というよりもね、達哉君、君やオルガマリーに関わらず誰だってそう望んだことがないと言えばウソになるよ、うん』

 

ダヴィンチがすかさずそういう。

そうともニャルラトホテプはそういうが。誰だって望む普遍的な願いでもある。

無論、達哉は状況的にそう望んでも仕方がないしある種許されるのもあるが。

平和な国の住人だって些細なことでそれを望むのだ。

今日は雨が降ったから天気予報許さねぇとか、コンビニで気に入った商品の仕様が変わっているだけで世の中クソとか思って。

断罪やらなんやらを望むのだ。

そう望んでしょうがない事なのである。

痛みを肉体的にも精神的にも感じぬ人間はいないのだから。

 

『もっともそれをしょうがないと思いこそすれど私たちは歩いて行かなきゃならないんだ。君はどうであれ此処にいてマシュをオルガマリーを救い、冬木のどんちゃん騒ぎを解決したんだ。戻れないのはしょうがないとしても、私は此処にいていいと思うぜ?』

「そうですよ!! 先輩!! 先の事は誰にもわかりませんし私にもわかりません。不安と言わなければウソになります。だから何か起こった後でこういえばいいんですよ」

 

ダヴィンチが達哉の存在を肯定し。

マシュが不安が無いと言えばウソになるということを言いつつ。

あの大人たちの言葉を引用し紡ぐ。

 

―すべては運命だったと―

 

「ダヴィンチちゃん、マシュ・・・・」

「二人の言う通りよ、まだ賽子の目は出ていないのよ? そしてまだ結果は出ていないのよ・・・。なら此処に居て生きなさいよ・・・。あなたは世界を滅ぼした罪持ちとはいえ世界を救ったのも事実だしね。それにアナタは行動で結果を出した。

私やマシュは無論の事、カルデア一同が達哉が居てはいけないと思ったことはないと言うのは保証できかねるけど。

ここにいて居て良い存在だとは胸を張れるし保証できるわ・・・」

「所長・・・」

 

 

その言葉をオルガマリーが受け継いで此処に居ていいのだという。

色々あり過ぎて確かに居てはいけないとは思ったことが無いと言えばウソになるが。

居て良い存在だとは胸を張れると微笑みつつ述べる。

 

「・・・すまない皆・・・ほんとうにすまない」

「先輩、そこはありがとうでは? 本当に自己評価低すぎます!! 私は胸を張っても良いと思います!!」

『マシュの言う通りだぜ? 自己の品性を自分自身で貶めるってのは他人の評価も貶めてるんだから。どっかの王レベルで自己評価エベレストまでに成れとは言わないけれど、君はもうちょい自信を持つべきだ』

 

 

謝る達哉であったがあまりにも自己評価低すぎるとマシュとダヴィンチに窘められて。

またも謝る達哉であったが。今度はソレを所長に窘められ。

ワイのワイのと休憩に来ていた職員までも巻き込んでの談笑へと発展していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

賭け事は大概上手くいかない。

それが世の常である。

 

「やっぱりさ私が言うのもあれだけど・・・、大英雄狙って。確率0.5は糞じゃないかなぁ」

 

ダヴィンチがぼやく。

『システムFate』。カルデアが有する英霊召喚システムで。

強力な魔力リソースを使用して行うものであるが英霊召喚第一号の正体不明サーヴァント 第二号であるダヴィンチなどの召喚から得られた情報をもとに改良され現在に至る英霊召喚システムだ。

確率魔術と呼ばれている技法を使っている。

要はあえて確率を絞ることによって高価な現実を得るというものだ。

この魔術の最大のメリットは。どのような事象でアレたどり着くことを可能とし、”確率設定”次第ではローコストでたどり着けるのだ。

がそこでデメリットの話になる。

より高度な結果を望めば望むほど。確率を遠くしなければリソースを高価にする必要があるということだろう。

等価交換の原則であり、遠い確率ほど安く済むが当たるまで結局同じくらいかかるということであるし。

確率を近くしては払うリソースの増大を招き、結局他手段を行った方がいいという本末転倒っぷりと成る。

現にこの魔術を使う大家は根源にこそ行けたが、その後継は下手すりゃロードエルメロイⅡ世ですら裸足で逃げるレベルの借金を背負う羽目になった。

それによって、「あまりにも不確実すぎかつ誰にでも出来るがゆえに封印指定には値しない」と判決が下り。

時計塔でも野放しである。

それでなぜその大家の術式があるというのかと言うと。

借金返済のために術式をカルデアに売り払ったのである。

日々借金取りに追われ、金策の為に長男があの魔郷「アルビオン」に日々潜り。

魔術資源を集める為では無くそれらを売り払うという金策に走っているくらいに貧困しているのである。

そうなった元凶の術式をダメ元で買い取ると言ったらそりゃもう。

あらゆる国の紙幣を表す言葉が瞳に出るほどという揶揄ができるくらいに食いついてきた。

当時人間不信であったオルガマリーも信じて引くくらいにはドン引きした物である。

 

それで強力な魔術リソースである「聖晶石」を対価に設定。

ダヴィンチが最適な確率演算を行った結果。

一流サーヴァント狙いで0.5% 狙えば0.25を余裕で切る数値に設定され。

Aチームが全員そろって爆死したという結末が具現したので在る。

聖晶石も無料ではなく下手な魔術礼装の数倍のお値段が掛かっているのだ。

そこでシステムFateはコストに見合わず確実性がない物として凍結、現地の霊脈から聖杯にアクセスし英霊を現地で召喚するという方針に切り替わったというのが事の経緯であった。

 

 

されど現在のカルデアは人手不足も良いところ。

マシュは新米デミ・サーヴァント、オルガマリーもペルソナ能力の開花に伴いレイシフトできるようになったこともあるから。

責任は自分自身が取ると言って後方指揮をロマニに委託し最前線にでることになったとはいえ。

ペルソナ使いとしては下位である。

達哉も英霊に対抗できるペルソナ使いとはいえ彼一人の押し付けて戦術、戦略リソースを限定するのは悪手にすぎる。

故に藁も掴む思いでこのシステムに賭けたオルガマリーであったが。

カルデアの聖晶石の数は90個ピッタリ。

本来の投入個数は一回3個で10回を行うのに30個であったが。

レフボンバーによってシステムに異常が発生し、このまま運用するには一回を四個、10回を40個投入しなければならなくなったのである。

縁にもすがる思いで90個を半分に分けて爆死である。

達哉もペルソナを得るために”噂”でカジノ化してペルソナの降魔に必要なものを狙っていたから。

人の事は言えないのだが。

 

「・・・ガチャって駄目ですね」

「・・・マシュ・・・。賭け事ってのはそういうことだ」

 

達哉はガチャは駄目とマシュに言われてもピンとこなかった。

ガチャと言われれば達哉にとっては幼少期に父や兄にねだってやった。フェザーマンガチャ(一回100円)であり。

マシュが思い浮かべるソーシャルゲームガチャでは無かったりする。

無論、両者ともに低い確率を目指すというのは一緒であろう。

 

「・・・ウェwwww ウェwwww」

「先輩、なんかこう、所長が陸に上げられたマグロみたいに寝そべって飛び跳ねながら・・・・女子が発してはいけない声を出してます」

「・・・そっとしておこう」

 

マシュの視線の先にはマシュの述べた通りの風体になり下がったオルガマリーが存在していた。

達哉は哀れみに目を反らしながらそう言う。

されど確率、だがしかし確率だ。

当たるときは山ほど当たるし当たらないときは全く当たらない。

そう言う類の物なのである。

ちなみに聖晶石の単価は無論、我々の視点や、我々の知る価値とは違うのだ。

一個につき日本で大マグロをそれこそ4匹釣らなければ賄えないような値段の物が40個

わずか数十秒で無意味に消し飛んだのだから。

そう言う風体にもなろうという物であろう。

 

「達哉くん、次は君の番だ。オルガマリーはあの様子じゃ後にした方がいいだろうし。頼んだよ」

「・・・微力を尽くすさ」

 

ダヴィンチに催促され。

達哉はどうしようもない現実。

即ちガチャ確率へと挑むべく。

聖晶石を投入機材へと放り込んだ。

 

 

サークルが回転する。

 

案の定抽出されるのはしょっぱい礼装である。

これは英霊の座にアクセスするというプロセスで英霊に届かなかった場合人理の記録から礼装として外れ賞として出されるものだ。

英霊の霊基に付属させることによって素のスペックを底上げしたり能力を後付けできる優れものである。

ただしその特性上。英霊にしか装備できない代物なので。

こうもぽこじゃか出てきても無用の長物に等しい。

英霊一人につき一枚しか装備できないため、マシュが居てもこればかりは、数が多すぎて使いどころがない。

 

『おお、結構強力な霊基反応だ!!』

 

約、9回目にようやくサーヴァント反応が出て。

先のオルガマリー爆死の件もあったから気が気でなかったがようやく英霊が来てくれて。

管制室でモニタリングをしていたロマニも胸を撫でおろす。

ちなみに先ほどの時は顔が真っ青だった。

 

「セイバー 柳生但馬守宗矩・・・召喚の命に応じ参上仕った・・・・ 貴殿が我がマスターか?」

 

サークルから出現したのは着物姿に腰に刀を下げた初老の男である。

名を「柳生但馬守宗矩」と男性は名乗った。

柳生と言えば柳生流で有名な剣士であり。将軍家の剣術指南役も勤め上げ。

今なお現代にも残る実戦式の剣術流派でもある。

創作物にも多く取り上げられ有名な流派の中興の祖ともいえる人であった。

一概には剣術使いとしてはそこそこと言われ政治の人ともいわれるお方であるが。

実際に会ってみればそんな先入観は吹っ飛ぶ。

多くの修羅場を駆け抜けてきた達哉でさえ明確に勝てぬと思うレベルであった。

 

「ああそうだ・・・」

「ふむ・・・そこそこできると見た。がそれ以上に心が強い、貴殿に仕えることはいささかの不足なし、我が剣、いまより貴殿の刃となる。よろしく頼む」

 

宗矩はそういいつつ達哉に右手を差し出し

達哉も握手を交わして。マスターの契りを結ぶ。

 

「あの・・・先輩」

「どうしたマシュ?」

「所長が、マグロを通り越して・・・・ 地獄兄妹の兄の様に・・・」

「いいわよねぇ・・・アンタは・・・・」

 

 

運がいいよなぁとオルガマリー部屋の隅で矢車の兄みたいになっている。

ちなみにマシュは仮面ライダーを詳しくは知らないがロマニのせいでネタライダーは知っていたりする。

それをちらりと見た達哉と宗矩は。

 

「「そっとしておこう」」

 

と呟くほかなかった。

 

召喚も最後の一つとなり。

今度は黄金にサークルが光って回転する。

ダヴィンチは強力な霊基を確認しロマニ側でもそれを確認したと報告が飛んでくる。

 

「ほう、これは・・・・」

 

笑みとは本来攻撃的な表現に使われる。

宗矩は感じ取ったのだ。

召喚される存在が極めた武術家であることを。

それに心躍らないとなれば嘘になる。

 

「我が名は李書文、槍も持たぬ只の老人だが・・・召喚の命に応じ参上した。貴様が我がマスターか?」

「そうだ。」

「ふむ、なかなかに良い心の持ち主と見た。よろしく頼むぞ」

 

宗矩と同じ武術の生き字引であった存在である。

神槍の李書文、八極拳と槍術を極めた武術家だ。

宗矩より後の時代の人間ではあるが彼もまた近代で英霊に召し上げられるレベルの偉業を残した兵である。

宗矩と槍を持たず八極使いの暗殺者として召喚された李書文。

この二人が居ればアポクリファ時空で行わる通常開催の聖杯戦争くらいは勝利で来そうな人材と言えた。

そのあとの余った聖晶石を突っ込むが。

まぁ当たるわけもなく。

最初の十連のショックから立ち直った。オルガマリーが最後の一回を回して終了となる物の。

 

『おお、これは!!』

「凄まじい霊基反応だ。神話のトップクラスだぞ!!」

 

サークルが通常の光を発しつつ回る。つまり最後の一回をヒットさせたのだ。

出てくるサーヴァントは神話のトップクラスである。

此れにはロマニもダヴィンチも大喜びで。オルガマリーも渾身のガッツポーズであった。

 

「よう、サーヴァントランサー、クーフーリーン、召喚の命に応じ駆け付けたぜ!! 冬木以来だな。嬢ちゃんたち。まぁよろしくな」

「おぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

出現したのは槍持った。クーフーリンである。

これにはオルガマリーも叫び声をあげた。

クーフーリンとは言えばケルトの大英雄、ケルト版ヘラクレスである。

クラスに縛られているとはいえ槍は彼の得意中の得意とする、神話通りの活躍は期待できる大当たりだ。

最もそのあまりの引きに、召喚されたクーフーリンさえ台詞を言い切った後でドン引く位にオルガマリーは歓喜の絶叫を上げていた。

 

「・・・嬢ちゃん、何があったよ」

 

説明しろよとこっそりと、いまだに歓喜の声を上げているオルガマリーをスルーしながらクーフーリンは達哉に何があったのかと問う。

 

「ええっとだな・・・なんといえばいいか・・・」

「先輩、私も頑張りますから・・・説明しましょう・・・」

 

 

達哉は困惑しつつマシュも共に召喚システムやら召喚の対価やら説明し。

それじゃああなるのは仕方がないことだと、クーフーリンと宗矩と書文は納得する。

通常の聖杯戦争とは違い通常の手段では呼び出すことは不可能なので。

虚しくてもこんな運任せ極まる物に命を預けなければならないのは誰だって気が気でなくなるという物であるからだ。

 

「・・・ごめんなさい、はしたないところを見せたわ」

「気にすんなよ、運任せでよく俺らを呼び出すしかなかったんだ。誰だってそうなるよ」

 

まぁ重要な局面を策謀で埋め合わせて0.1%の運を賭すというのなら納得いくが。

最初から運任せというのも糞みたいな話であるというのは理解できるという物だ。

さてと召喚は終わった。

あとはレフによる爆破を免れた、レクリエーションルームで交流し三日後の作戦へと備える。

サーヴァントは人理の影法師ゆえに人間付き合いと同じように交流なども必要であるからだ。

ではとオルガマリーがレクリエーションルームに皆を連れて行こうとしたとき。

召喚機器が動き出す。

 

「え、ちょ、どういうことよ!!」

「うーん、連続召喚で・・・魔力が蓄積されていたみたいだね、言わばオマケによる召喚かなぁ」

 

オルガマリーの驚愕に、機器を見てダヴィンチはそう判断する。

切り捨てられた端数が溜まりに溜まって1になり一回分の召喚が自動的に行われたということであった。

サークルは廻るが。

 

「むっこれは不味いな」

「感じたか? 神槍」

「無論、闘争の狂気に染めきった感じのだ、クーフーリン殿は?」

「ケルトじゃぁ日常茶飯事でね。でもまぁ現代からすりゃ危険だわな」

 

 

そのサークルの気配を察し。クーフーリンと宗矩と書文が達哉たちを庇う様に前に出て。

各々の得物を構える。

達哉もその血の匂いの濃さにペルソナをスタンバイし。マシュもサーヴァント形態に移行して備える。

どういうことなのと下がりつつ達哉と違い素手での戦いはできないため、達哉とマシュの背後に下がってペルソナをスタンバイしながら。

魔術回路に魔力を送り込み魔術をスタンバイする。

 

サークルが回転し光が収まる。

 

全員が戦闘態勢に移行しつつ光が張れるのを待ち。

それを見た。

全身鎧にバケツヘルム、右手には十文字槍。

チグハグすぎて一見どこの英霊か分別が付かない存在がそこに立っていった。

 

「召喚の命に応じ参上した。バーサーカーこと森長可だ。テメェが俺のマスターか? つまんねぇこと言ったら即ぶった切るからそのつもりでな!!」

 

不良の自己紹介じみたことを言う、バーサーカーこと『森長可』。

一応命令は聞くつもりがあるかと先んじて召喚されていたサーヴァントたちは得物から手を放す。

危険なバーサーカークラスということもあって達哉たち三人はあえて「召喚したいと思って召喚したわけじゃない」ということを胸の内に秘めた。

それは賢明な判断であろう。

その後、交流会を開き、長可が「交流ってやっぱ茶の湯だろ! 茶の湯!!」ということもあったが。

今のカルデアにはそんなものがあるはずもなく。

されど文化人四人である。

クーフーリンも王族として無論、そういう嗜みは存在し、兄貴的イメージがあるが実際には文化人としても、かなりできるのだ。

茶の湯の詫び寂びというケルトにはなかった概念を理解し。

異文化交流と言いうこともあって。インスタントであるけれど皆で楽しく。

最終的に酒盛りになって皆で暴走した。

 

 

でも楽しかった宴会である。

 

 

 

 

一生心に残る思いでに。出会った。

 

 

 

それは闘争の間の泡沫の如き思い出の一つ。

 

 

運命は迫ってきていた。

 

 

 

「・・・ロマニ医療主任。大変です!?」

 

 

抹茶を飲みつつ一息ついていた。ロマニは長可の仕切る茶会を見つつホッコリしていた所にムニエルがロマニのもとに駆け込んでくる。

 

 

「なにかあったのかい?! 敵がこちらの座標位置に気付いて乗り込んできたとか!?」

「違います! 観測された七つの特異点の内、我々が最初に介入予定だった特異点の人理定礎値が悪化しました!!」

「なんだって!?」

 

ロマニはムニエルのいいように慌てて観測結果を覗き込む。

 

 

 

「これは・・・」

 

 

 

人理定礎値A-「憎悪深淵紛争 オルレアン」  『冥府の聖女』

 

 

 

所詮は泡沫の夢は泡沫の夢にすぎぬ。

 

願望を具現化するとはそれだけで大罪になるがゆえに。

 

それでも憎悪を持った聖女は月へと吠えるのだ。

 

世界の何もかもを飲み尽くし、砕いて逆襲劇を成すために。

 

殺戮の丘を歩む。

 

 

それがかつて自分のオリジナルが行った道とは知らずに。

 

 

 

『ククク、喝采せよ、喝采せよ、喝采せよ!! おお素晴らしきかな、第一の生贄が今英雄譚に捧げられるのだ。時計の針は動きとまらず、多くを犠牲にして星見の戦士たちに深き傷を与えるのだ』

 

 

 

どこかの底で蠢く混沌が嗤う。

 

 

英雄譚に喪失は付き物で。嘆く者が今、生贄に捧げられる。

 

 

全ては周防達哉という英雄、あるいはカルデアが成すことへの生贄として。

 

 

なぜなら英雄譚に置いて痛みや喪失という物は必要であるから。

 

 

そして敵という存在もまた英雄譚には必要であると嘲笑って。

 

混沌は視線を移す

 

 

混沌の見る視線の先にある七つ蝋燭が立てられた燭台には未だ火が灯らず。

 

 

灯るのを待っていった。

 

 

 

 

 

 




前回やら予定される特異点がニャルニャルしすぎたがゆえに英霊召喚と作者が慣れぬ、ほのぼの回

現状

たっちゃん。オルガマリーとダヴィンチちゃんのカウンセリングである程度持ち直す、地味に現状のカルデア召喚システムで星5サーヴァントをヒットする。

オルガマリー。ガチャで吹っ飛んだ金額を見て砂浜に打ち上げられたマグロが如き無様を晒したのちに地獄兄妹の兄の方みたいになって。兄貴を当てた時は地下闘技場に連れ去られたシコルスキーみたいな雄たけびを上げる。

マシュ。突っ込み担当 森くんの勧めで茶の湯に嵌る

ロマニ&カルデア職員。モニタリングしながら戦力整ったことに一安心、森くんにインスタントだけれど振るわまれた抹茶でリラックス。

ダヴィンチ。天才であり英霊ということもあってニャルと面識在り、ただし気づいたのは英霊に召し上げた後の事。たっちゃんのカウンセリングを成功させる。
芸術家として森くんと書道で勝負したいなぁとか思っている

宗矩。達哉に召喚される、達哉が刀を使うということもあって手ほどきする気満々。

書文。達哉に召喚された人、その二。茶の湯に舌鼓を打ちつつ新米サーヴァントであるマシュを要として鍛える気満々

兄貴。予告通り駆け付けてくれた我らの兄貴、茶の湯の概念にカルチャーショックしながらも楽しむ。
達哉、オルガマリー、マシュの強化メニューを思考中。

森くん。フィレモンが用意したニャルラトホテプに対する手札その1、交流会で抹茶がないことに(´・ω・`)しながらインスタントで妥協する。
文化人が集まったこともあって本人的にはにっこり、でも本物の抹茶を使いたいとか思っている。


フィレモン。「対ニャル戦を考慮しこういう采配になった。食事とか考えると無いけど。私は後悔していないし謝る気もない」

ニャル。絶望は希望が増大するにつれて深まるとして傍観、ジャンヌいじめと第二特異点をひっくり返す準備中、それはそれとして第二部でダヴィンチの殺傷を決意。

エリザベス。車内販売開始。

サトミタダシ薬局。時計城の伯爵のはからいでベルベットルームに出店。



座では。


エミヤン「食糧事情を解決するために、テンプレ的そこは私ダルゥオオオオオオオ!?」 

フィレモン「君じゃニャルに対抗できないから後」

エミヤン「クソガァァアアアアアアアア!!」

アルトリア「火力担当として私が行くべきダルォォオオオオオオ!?」

フィレモン「火力だけな上に、過去にボコボコにされたヤツはお呼びじゃないんで。火力的にまずくなったら呼びますから引っ込んでろ」

アルトリア「クソガァアアアアアアアア!!」

へラクレス「ならば私が!!」

フィレモン「幼女を助けたいのに、凶戦士であえて呼び出された馬鹿を派遣する気は御座いません、ちゅーかニャルの策謀に負けてパンツに毒塗られて死んだ奴を派遣するとでも?」

ヘラクレス「クソガァアアアアアアアアア!!」

メディア「なら私が!!」

フィレモン「ギリシャ神話でニャルに面白いように踊らされていた上に魔術王に敗北したから駄目です」

メディア「クソガァァアアアアアアアアアアア!!」

メデューサ&アサシン(真)「あっ私たちは勝てなさそうなんで辞退します」

フィレモン「カルデアには派遣しませんが、ニャルが特異点無茶苦茶にしてるんで。召喚された特異点では原作以上に頑張って下さい」

メデューサ&アサシン「クソガァアアアアアアアアアアアア!!」


ステイナイト組、ランサー&英雄王以外はニャルに勝てぬからフィレモンにインターセプト食らい現状出撃出来ず。
英雄王は過労気味で出れず。
ランサーが出撃。

ノッブ「だからッて森を出撃はないじゃろ!?」


ちなみにたっちゃんのカルデアのガチャ仕様は排出キャラは限定もでる現在に相当しますが。
PUなんて甘えたものがない上に闇鍋使用&キャラ排出がニャルへの対抗の為に著しく絞られています。
あとガチャシステムもFGO稼働初期状態という煉獄使用。
聖晶石の単価も凄まじく高く。
一個の石で凛の宝石の一個の二倍以上という糞単価です。
控えめに言って煉獄地獄仕様ガチャ。


一応、フィレモンやらペルソナ能力のお陰で特異点でであったサーヴァントはたっちゃんたちの事を覚えている仕様です



次回の進行状況は、現状半分程度です。
仕事忙しすぎて首が回らぬぇ・・・・
予定としては一週間後くらいになるかなぁ・・・・



 


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04 修練、そして特異点へと。

準備が万全でも上手くいかないこといもある


ウィリアム・マクレイヴン 1955―現在


森の中を三人が走る。

シュミレーターの中ではあるがすべてが生々しい。

三人の勝利条件はゴールにたどり着くこと。

三人の敗北条件はゴールにたどり着けないことである。

状況が悪化しているのに訓練というのはどういうことかというと。

ひとえに、座標の特定が出来ていないからだ。

大まかな座標は捉えているが、正確にかつ安全にレイシフトを行うには、座標の特定が重要な作業だからである。

このまま強行しても。ペルソナ使い二人の適性値はSであり、存在証明作業自体は簡単であるが。

特異点への突入への作業は、また別物だ。

強行するとなると目標の到達ポイントも知らされぬまま、夜間に厚い雲の中をヘイロー降下するようなものである。

安全に着陸できるはずもない。

 

『だからこそ特定作業はスケジュール通りにします。着陸ポイントを逸れて戦力分断で各個撃破は笑えないわ』

『然り。私も所長に同意する。敵の戦力分断は勝つ上で基礎中の基礎。こちらがされれば負けは必須ゆえに』

 

だからこそ状況を聞いた。オルガマリーは突入開始予定と特定作業はスケジュール通りにということを言って。

宗矩も戦力が分断される、リスクは避けるべきであると同意する。

もっとも訓練内容は変更となった。

まず味方との連携の強化である。

自分の味方が、何が出来て何ができないのかということを、理解する必要性が在る。

故にサーヴァント組、マスター組に分かれての紅白戦だ。

敵として、相手が何が出来るのかということで、分かることもあるし。

達哉たちが強敵を相手にした際の対処法を学ぶためである。

達哉はあるが、オルガマリーとマシュにはそれがない。

それを学ぶための手っ取り早い手段としての模擬戦である。

 

達哉は抜身の刀を下段に構えて、この森というシチュエーション下を苦も無く進む。

マシュは所々たどたどしいところもあるが問題はない。

だがオルガマリーは息も上がり、ヘトヘトであった。

 

「先輩、少し休憩にしますか?」

「・・・ああそうしよう」

 

マシュが息の上がっているオルガマリーを倒れないように支えつつ達哉に指示を仰ぎ。

達哉はそれに了承した。

戦闘行為をしつつ一時間は走っているがゆえにである。

もっともその裏では。

 

(マシュ、所長を守れ、そろそろ仕掛けてくるはずだ。気配で察するのは無理だから、落ちている枯葉や草木を見て、不自然に動いたところに居るぞ)

(了解しました)

 

念話で、達哉は指示を出す。

園境と呼ばれる、書文の所持する気配遮断スキルである。

原理は内家武術の物であり、世界との同一化に等しいスキルだ。

まず、これを使われ、不意を突かれれば防ぎようがない。

されど、存在自体が完全消失したわけではない。

落ちている枯葉の動き、生えている草木の不自然な動きで察そうと試みるが。

何もない。

 

「-----」

「-----」

 

たらりと達哉とマシュの頬に冷や汗が流れる。

人間の感は正確ではないが滅多に壊れない。

つまり、どこにいるかは分からぬが、どこかにいるということは察することが出来た。

射程圏内である。

 

「タツヤ!! マシュ!! 5時方向!!」

「ブラフか!? マシュ!!」

「了解!!」

 

周辺警戒に集中しすぎたと。

達哉はオルガマリーの叫びを理解しつつ。

マシュが瞬間的にオルガマリーを左手で担いだのを確認し場を離脱する。

次の瞬間には迫撃砲でも、たたき込まれた衝撃が三人を襲った。

 

一方別所。

 

クーフーリンは自身の蹴りで投擲した。槍の成果を見て満足げに頷く。

真名解放などはしていないが。かの大英雄であるクーフーリンの槍の投擲だ。

下手なCランク宝具なんぞ目ではない威力が発揮される。

 

「いい反応だな、ほんと。」

 

 

三人が三人の欠陥を補いつつここまで走ってきて、自分の槍の投擲までを凌いだのだから誉めるべきであろう。

いい反応をすると、クーフーリンは率直に褒めた。

一方の彼の隣に居る、宗矩は表情変えず、双眼鏡を覗き込んでいる。

 

 

「で? どうするよ? じいさん」

 

クーフリンは宗矩に問う

これ以上続ける意味があるのか?という意味も込めてだ。

 

「このまま続行するべきでしょうなぁ・・・、主殿の判断力は良い物ですが。

少々目の前のことにとらわれ過ぎている気がありまする・・・、マシュ殿は単純に思考の経験不足が過ぎますな。

主殿の指示なしで動けぬのは致命的かと。所長殿は純粋に鍛錬不足と経験が足りて居ませぬな」

 

 

宗矩はそう評し打つ、クーフーリンの言いたいことも無論、それは理解していた。

これ以上は戦場で生き残ってこそ培う物だからだ。

がしかし、VR訓練ということで話は若干変わる、その感触は現実的で。

現実の実戦とほぼ変わらぬ、死なぬとわかっていても、感触はある。

故に実戦に置ける経験値の会得数値の半分程度にすぎぬが、されど半分、だが貴重な半分を訓練で培えれるならば、それに越したことはない。

故に続行だ。

そして、この訓練が過酷なのも。

 

 

『ヒャハハハハアアアアアアア!! 見つけたぜェ!! マスタァァアアアアアアアア!!』

『もう追いついてきたのか!?』

 

 

不意打ちになれる為、書文は追手役で参加、さらに。

そこに戦えど倒れぬ、という恐怖を演出するべく宗矩が投入したのは我らが戦国DQN四天王。

痛みも発生するのだから、誰だってチェーンソウで抉られる感覚は味わいたくはない。

火事場のバカ力や覚醒も起きるという物であろう。

さらに李書文がハッスル気味である。

緊張感は増すという物だ。

無論、ショック死などは無いように痛みはある程度カットされるが。

それだけである。

 

 

状況に放り込まれた。三人からすれば、たまったものではないだろうが・・・・

 

 

これも実戦に置ける準備でしかない。

いざ特異点に突入するとなれば、これよりきつい状況なんぞダース単位で押し寄せてくることは明らかである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練を終えてシュミレーターを終えた達哉たちは、軽めの運動の後。

明日に備えることになった。

気付けば、―明日だな―と達哉は一人呟き施設内をうろつく。

何時もの赤いライダースーツ姿ではなくカルデアの制服姿でだ。

赤いライダースーツはクタクタに草臥れ果てて。

今日に至るまでに、サバイバルをしていたと言うこともあって汚れや損傷が目立つため。

この服装が彼の今のスタイルである。

母校の夏服を思い出して、むず痒いのだが、まぁ時期に慣れていくだろうと思っておくことにする。

先も述べた通り、明日は早い。

故に休息に専念しているのだが、達哉はどうにも気分がせわしくなってしまい。

施設内をうろついていた。

爆破による破損は未だ、なお生々しい傷跡が残っている。

修繕作業は人手が足りず。

レイシフトの正常稼働に持っていくことと、館内の生体維持機能を稼働させるための修繕で限界であった。

達哉はその様な中を歩き、大破した喫煙ルームのすぐ横にある、奇跡的に生きていた自販機へと寄ろうとする。

そこには奇怪な客が居た。

 

「なんじゃこりゃ―――――――」

 

自販機の前に突っ立って。

長可が自販機から取り出したものを右手で保持するため、愛槍の「人間無骨」を左手で持ち左肩で担ぎつつ。

右手でもった炭酸飲料の入った。ペットボトルを見て呆然と呟いていた。

彼の気性の粗さは、達哉も痛感済みだ。

故にキレないだろうなと身構えて。

 

「めっちゃ、侘びてんじゃねぇか・・・、え? なにこれ? まじでこんなもんがあんの?」

 

長可、死後ではあるが、人生初の炭酸飲料に感動していた。

安くて誰でも買える上に。

美味い、液体自体も透明で綺麗で、その中に無数の泡が浮いては消える。

確かに現代人からすれば、そこら辺にある、ごく普通の炭酸飲料だが。

戦国時代の人間からすれば。

美しく泡を発生させる透明で美味しい水があるのかとショックを受けるのも仕方がない。

 

「器も良い、中の液体が見れて状態も確認できる、らべるだったか? デザインもシンプルで分かりやすく飾り切らずに実に良い具合だ・・・ まじでこれ使い捨てなのか・・・」

 

ペットボトルも文明の利器である。

戦国では硝子というぜいたく品を使ってやっとできるような、器が使い捨てとは、長可には信じられない様子であった。

その様子に達哉は疑いすぎかと思いながら、感動に浸っている長可の横を通り過ぎて。

通貨を入れて、ボタンが点灯したのを確認し。

スポーツドリンクを購入する。

投入された通貨は、お釣りの排出口から出てくる。

こんな緊急時である、金を払う理由は無いとして。

ダヴィンチが手早く改造し、通貨はスイッチの機能を立ち上げるためのトリガーとなっているのだ。

ボタンだけ押して飲み物が出るという改造は配線変更が面倒くさいということもあって、こういう形式に落ち着いたわけである。

達哉は排出口から缶を取り出し。

場を去ろうとするが。

 

「おいマスター」

「? どうかしたのか? 森さん」

「いやよぉ、バイクの事について分かんねぇんだけど、少し説明してくんねぇか?」

「バイクですか・・・・、どのような?」

「これだよ、これ、なかなかいいだろ?」

 

長可が懐から雑誌を取り出し、差し出して、あるページを指さす。

そこにデカデカと映し出されていたのは・・・スーパーカブであった。

 

(以外!! それはカブ!!)

 

達哉、内心で驚愕。

長可の事だから、スポーツタイプに感銘を受けるかと思いきや。

カスタムカブに心打たれていた。

 

「いや、確かに良い物だが・・・」

「だろぉ? 洗礼されたフォルム。実用性を重視した内燃機関、そして誰でも買えて、やる気さえあれば好きにカスタムできる拡張性能・・・・、実に良い。侘び寂びの一つの極地だな」

(森さんの中での侘び寂びとはいったい・・・)

 

侘びとは、貧相、不足の中に心の充足を見出す意識のことを言い。

寂びは、静寂さの中に奥深い物や豊かなものを感じられる美しさの事を言うのだが。

それが果たして、カブに当てはまるのかは果てしなく謎である。

いいや長可の言う通り見れば見るほど、侘び寂びがあるのかもしれないと。

達哉は思い始めている。

 

「ところで、マスターもバイク持ってんだってな?」

「・・・ああ、まぁな」

「どんなのに乗ってるんだ?」

「ああ、これだ。」

 

とりあえず、ベンチに座り二人でバイクの話で盛り上がる。

 

「・・・なぁマスター」

「なんだ?」

「・・・気にすることねぇんじゃねぇの?」

「?」

「向こう側の事だよ」

「!?」

 

達哉は驚愕した。

長可が向こう側の事を知っているとは、思わなかったからである。

いやでもと、思う。

アーサー王は自分の事を知っていった。

とすると、ニャルラトホテプに関わった連中は知っていても不思議ではないだろう。

だが、返り忠を良しとせぬ、長可が知っていて自分を殺さぬとはどういうことかと、達哉は思わずにいられない。

 

「俺がアンタをなぜ殺さないって顔だな?」

「ああ・・・まぁ、俺は森さんの嫌う裏切りをやったからな・・・」

「どこが?」

「え?」

 

達哉は仲間との約束を裏切ったのに、なぜ殺さないと間接的に言うと。

長可はどこが裏切りななのかと言い返し。

逆に達哉が、鳩が豆鉄砲食らったような顔をする羽目になる。

 

「俺がマスターの事を知ったのは此処に来る途中だったんだよ.

ニャルラなんとかって奴に、マスターの過去を見せられた。

リセットの事も知っているが・・・、三人ともアンタに忘れるなと最後に言っていったよなぁ? アンタは孤独に耐えられなかったとはいえ律義にそれを守った。結果起きた破滅にも、ちゃんとツケを払った。

これ以上、なにやれってんだよ? よくやったと思うぜ? 俺はァよ」

 

寧ろよくやった方だろうと、長可は述べる。

右を向きながら左を向くなんて不可能だ。

孤独に耐えられなかったというのは減点であるが。

忘れるなという約束を取り付けたのは、ほかならぬ三人である。

故にその約束を守り。最後まで足掻きツケをを払ったのだから、長可的には何も言うことはない。

 

「それをゴチャゴチャと、あの貌無しはヨォ・・・本人が良しとしてるのに。重箱の隅突く様に、勝手に評論しやがって、うぜぇから、わかったわかったってな感じで殴って追い返してやった。」

 

しれっと、トンデモないことを長可はやっていった。

彼もまた。すべてを受け入れた上で足掻く者である。

彼自身、生前、自分はそうなのだと受け入れて、それでも生き抜き、むごたらしい末路を迎えてもそれでよしとした男である。

当然「すべてを受け入れ、なおも足掻く」ということが出来ている人間だった。

故に殴って追い返すことは可能である。

 

「森さん・・・」

「誰もが俺みてぇな奴じゃねぇのは、俺自身わかってる。まぁゆっくり割り切っていけばいいんじゃねぇの?」

「・・・ああ、わかってる」

 

誰もが自分みたいな奴じゃない。

故にゆっくりと割り切っていけばいいという。

達哉はうなずき肯定した。

周りの流れが激動過ぎて、そう簡単に割り切れるものではない。

誰もが割り切れるアドバイスを言い。その上で長可は達哉のペースで割り切ってしまえば良いと諭す。

長可から見ても、そう簡単に割り切れるモノではないと、理解できるがゆえにだ。

レイシフトも近い。

だからと言って、焦って無理に割り切っては、ろくでもないことにしかならないのは身をもって知っている。

 

「じゃぁな、マスター、俺は自室に戻って寝るわ、明日は早いしよ、マスターも寝ろよ」

「わかった・・・」

 

長可はそういいつつ場を後にした。

 

「・・・・俺なりのペースで割り切ればいいか・・・」

 

達哉は懐からジッポライターを取り出し蓋を開けて閉めて。

金属音を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイシフト当日。

レイシフト準備は十全であった。

ヒューマンエラーを避けるべく、マスター勢も含めての交代制の多重チェックを重ねたのである。

これ以上はしようがなく、誰もが最善手を重ねて、成功確率を埋めたのだ。

後は埋まらぬ分が上手くいくことを天に祈る時である。

 

「先輩、レイシフトスーツの着心地はどうでしょうか?」

 

マシュが大盾を担いで更衣室を出てきた。

それと同時にオルガマリーもレイシフトスーツを身にまとい更衣室から出てくる

達哉は廊下の壁に背を預けて待っていったのだが。

予想以上のアレさっぷりに二人から目を若干そむけた。

二人とも超が付く美少女である。

そんな二人がタイツスーツの如き服を着ていれば。眼福という物である。

特に達哉は20歳に来年には突入する男性だ。

スタイルの良い二人が、そんな服装をすれば目のやりどころに困るのは必然である。

 

「大丈夫だ。マシュ、所長、問題はない」

「・・・所長・・・先輩の顔が若干赤らんでいるようなんですが? 突発的風邪でしょうか? 今日のレイシフトは中止した方が・・・」

「違うわよ、マシュ、こいつスケベな思考でも大方してたんでしょうよ。このスケベ」

「ち、違う、お、男ってのはな・・・」

 

オルガマリーの指摘が達哉の胸にグサリと図星が刺さり。

達哉は誤魔化そうと男というのはトークで、誤魔化そうと必死になる。

そんな青春の一幕であるが時は待ってくれれない。

カルデア職員のダストンが時間だと声を掛けに来てくれたのを機に。

三人が思考を切り替え管制室へと向かった。

到着すると、突入予定のサーヴァント三名と。

情報サポートを担当する、ロマニとダヴィンチが待っていた。

 

「では始めましょう、所長」

「ええ」

 

ロマニの言葉にオルガマリーが頷き、端末を操作し現状を3D映像として出力する。

 

「私たちが一に突入する特異点は。A.D.1431年、フランスよ。かの聖女ジャンヌ・ダルクが処刑された年ね・・・」

 

オルガマリーの説明に達哉は首を傾げた。

 

「・・・特異点化する要因が見当たらないんだが・・・・」

「私も同意です、ジャンヌ・ダルクという歴史的人物は重要なファクターですが・・・、この時期でのジャンヌ・ダルクはパリ解放に失敗して。転換期と言いづらいのでは?」

 

二人の言いようはジャンヌという人物は確かに大役を果たしたが。

この時点では歴史に与える影響力は少ない。

この後の戦いではシャルル七世の戦いの方が歴史的には重要だ。

 

「そうね、ジャンヌ・ダルクは大して重要なファクターじゃぁない、だけど、その後歴史的に大きな役割を果たした。シャルル七世が殺されたらどうかしら?」

「・・・崩れるな」

 

 

オルガマリーの問いに達哉はそう返す。

この後、起きる近代文明に必要なことがなくなれば人理は崩れる。

この時代でそれほどの影響力となれば。

ジャンヌ・ダルクが蘇ったというよりシャルル七世が殺されるという方が拙い。

 

「だがそれじゃ・・・、崩れた後の事はどうにもならないんじゃないのか?」

 

達哉の言うのも、もっともな事である。

すでに失われているなら戻しようがないはずだと。

そこの説明はロマニが行った。

 

「まぁ普通ならそう考える、でもね、この世界には人理定礎と呼ばれる、いわば歴史の保存があって。それで運行されている。

ようはゲームでいうところのセーブ機能だね、それがあるから普通なら特異点が発生して横やりをしても人理は遺物とみなし違法セーブデータとして消去してまうんだ。

特異点の発生前にね。

つまりどう足掻こうが現在地点からの干渉で歴史は変えられない、

でも今回は話が別だ。

冬木の特異点で回収された、便宜上”聖杯”とも呼べる膨大な魔力リソースの反応が、発見された七つの特異点から検出された。

流石にこれほどの。魔力リソースで歴史改変を行ったとなると、その世界のセーブデータの防御プログラムを抜いてねじ込むことが可能なんだよ。」

 

普通の常套的手段で人理は揺るがない。

だが干渉に使うエネルギー源が願望機の聖杯となれば話は別だ。

世界の内側で大よそ叶えられない願いはない強力なソレを使って強引に割り込むことによって。

無理やりに維持を行うことは可能である。

 

 

「つまり・・・聖杯という楔があるからこそ、特異点は特異点として機能するということか?」

「そう言うこと。聖杯という楔さえ回収してしまえば。あとは人理の仕組み的に無かった事になり歴史は元通りってわけさ」

 

逆に言えば聖杯なくして特異点の維持は不可能なのだ。

故に聖杯さえ回収してしまえば、特異点は消去修正され、消失するのである。

 

(・・・すべてを、無かった事にか・・・)

 

チクリと達哉の心の胸に刺さった棘が痛み出す。

まるで。自分がもし帰らなかったらということを突き付けられているように感じてだ。

 

「タツヤ、質問は以上かしら?」

「・・・いや、あと一つだけ・・・ いくら過去とはいえど流石に、この服装は不味くないか?」

 

達哉の言い分も最もである。

タイツスーツが主流であった時代はほとんどない。

というか達哉の知りうる限り、タイツスーツが主流であったことはない。

その認識はある意味間違っておらず。

此処に居る、全員の視線がクーフーリンへとむけられた。

彼の姿はタイツスーツであったからである。

 

「・・・なんで、皆で俺を見るんだよ!?」

「いや、奇怪な事もあったものよ、と思ってな・・・」

「書文の爺さん、俺だって好きで着てるわけじゃないんだが・・・」

 

書文の言葉は此処に居る、全員の心を代弁していた。

ケルト神話にもクーフーリンがタイツスーツ着ていたという記述は一切ないのだから。

彼の姿はおかしいのである。

文献的に見れば。普通であればキャスター時の姿を豪華に仕上げたような恰好が彼の姿のはずだ。

それが何故に、こうなるのだと思われてある種必然である。

 

「じゃぁなんで、着てんだよ」

 

長可の問いにクーフーリンはため息を吐きつつ説明する。

 

「これは、俺の師匠の手製の逸品の一張羅でね、そこらへんの鎧より頑強に出来ていて俺の動きに着いてこれる」

 

クーフーリンは大英雄であるゆえに。生半可な衣類では持たないのである。

持っても数回の出撃でズタボロになるという有様であった。

がしかし、このタイツスーツはクーフーリンのスカサハの特注の品であり。

どの様に酷使しても壊れることはないため愛用していたのである。

話しが脱線しかけていた為、ダヴィンチがわざとらしい咳払いをして周囲の意識を引き戻しつつ。

技術的話をする。

 

「レイシフトスーツはあくまでもレイシフトの補助だ。だから向こう側についたときには。君たちの何時もの衣類になっているから大丈夫さ」

「そうか・・・すまない、魔術については素人以下だから分からなかった。」

「気にしなくても良いよ。分からないのが駄目じゃなくて分かろうとしないのがダメなことだからね~、達哉君は学ぼうとしているから、そう後気になることはないよ、これから学んでいけばいいさ」

 

ダヴィンチにそう励まされつつ達哉はうなずく。

だがそれに付属する問題もまた在るのだ。

それを気にした。宗矩が口を開きダヴィンチに問う。

 

「ダヴィンチ殿・・・それでも、仏蘭西の方々から見れば我々は奇怪なのでは?」

 

現代服は当時の人からすれば奇怪だ。

マシュは鎧の部分で、まだなんとか、誤魔化せるだろうが・・・

書文の衣類は現代衣類に近く。

宗矩に至っては着物であり、長可に至ってはパッと見てロボだ。

さらにクーフーリンは全身タイツである。

どの時代であっても実に奇怪な姿をした不審者集団にしか見えない。

 

「・・・旅芸人でごり押してくれたまえ」

 

ダヴィンチ、匙を投げる。

だが全員分の衣装を用意する暇もなかったゆえに、それでごり押しするしかないかと全員が思うほかなかった。

無い物ねだりはできないのだから。

そしてこれ以上の説明は不要とい判断した。オルガマリーが作戦開始の号令を口にする

 

「現在、フランスの定礎値の悪化を確認済み、これ以上の観測による情報の会得は徒労に終わる可能性が大として。

詳しい作戦は現地での様子と情報を会得次第に決めるわ。

私を含めて、タツヤ、マシュはレイシフトコフィンに搭乗し現地入り、サーヴァントは自動転送だから、レイシフトルームで待機していて。

此れより、人理を再編するための。一大プロジェクト「Grand order」を開始するわ!!」

 

オルガマリーの開始宣言と同時に全員が所定の位置につく。

彼らの旅路が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『A.D.1431 憎悪深淵紛争 オルレアン』 『冥府の聖女』 人理定礎値A- 

 

 

 

 

 

 

開幕

 

 

 




という分けで。今回はサラリと巻いて。
サーヴァントの方々との模擬戦と森くんとたっちゃんのコミュ、特異点突入回でした。
森くんがニャル様をさらりと退けていますが。
ニャル様的に本気ではなかった上に、森くん現実見た上で是非も無しと言えるような人なので殴り返せただけです。

森くん的にはたっちゃんの約束破りは。忘れるという約束は破ったが、三人から言われた忘れるな約束は守ったし。
やらかした事のツケ払いもちゃんとやったため、返り忠判定にはヒットしません。

第一特異点現状
ニャルが展開した噂フィールドによって邪ンヌ勢が強化&クラスチェンジしたことによる一方的すぎる戦況と噂フィールドのせいで矛盾だらけになった為。定礎が悪化している。
このままだと異聞帯かあるいはモナドマンダラに侵食され第六特異点状態になりかねない状況

エリちゃん CCCなどでフィレモン&ニャルのダブルラリアット試練を受けた結果、原作より成長している。現在第一特異点でマリーと共同戦線を張りつつ西へ東へ。休む暇なし。
Fateキャラのになぜかペルソナキャラっぽく見えてきた今日この頃。


マリー、ニャルの試練を受けて跳ね除けた一人。ニャルの介入を察知している

アマデウス、マリーと共にニャルの引き起こした怪事件に挑んだ一人。エリちゃんプロデュースという地獄巡業中。

マルタネキ、邪ンヌに召喚されておらず抑止力側として参加。町の防衛任務中

すまないさん、邪ンヌが与えた呪いは解除されているが”槍”で傷を受けたため虫の息状態。

免罪剣、マルタネキのサポートをしつつ精力的に活動中

ジャンヌ、いまのところまだ通常営業中、そう今はまだ・・・・

邪ンヌ、戦況を見極め中、本家の方はあえて見逃している。




次回 第一特異点ですが、仕事がマジで忙しいため、更新は遅れるか。
更新できない場合、未完で終わらせるかもしれません・・・
こんな拙い小説を読んでくださっている、皆様方には本当に申し訳ないのですが・・・
いつの間にやら高い評価を付けてもらい嬉しさもあるのですが、反面プレッシャーが凄まじく、仕事のトラブルで私自身精神状況もよろしくなく。
このままでは自分自身でも納得のいくものが書けない恐れがあるからです。
本当に未完となった場合は申し訳ないですが・・・ご了承ください。


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第一章 A.D.1431 「憎悪深淵紛争 オルレアン 冥府の聖女」 人理定礎A-
一節 「ショックウェーブ」


「やる」か「やらない」かだ。「試す」など無い。


スターウォーズ 帝国の逆襲より抜粋。


キン、キン、とオルガマリーの耳には。

そんな雷鳴りの様な耳鳴りが響いていた。

意識は混濁し、視界が明滅している。

ふと、視線を横に向ければ湯気が立つ臓物が腰の断面から露出させた死体が目に入る。

もっともそれは、オルガマリーの知らぬ誰かの遺体であった。

 

「-------!!」

 

誰かが叫んでいる。

 

「しょ――――――」

 

視界を真正面に戻すと。

ただ唯一の男友達とも呼べる存在が必死になって自分に呼び掛けていた。

 

「せ―――――もう――――――」

 

少し向うでは友達とも呼べる存在が盾を必死に維持し。そらから降り注ぐ火球を防いでいる。

サーヴァントたちは襲い来る亡者の群れをなぎ倒し。

空を飛ぶ翼竜を叩き落していた。

なにがどうなってと。

衝撃で頭が上手く回らない。

レイシフトと同時に。運悪く移動中の難民の群れのど真ん中にレイシフトしたのだ。

いや本当に偶然である。

座標はちゃんと特定し人気のない場所を選んだつもりが。

まさか翼竜やら亡者たちによって、町からたたき出された難民が、翼竜などに見つからぬように移動していたなどというのは予想外に過ぎたのである。

無論、自分たちは異端者として囲まれ実力行使で逃げ出そうと思った時に。

空から降り注いだ榴弾の如き火球によって吹っ飛ばされたのだ。

 

「所長!! 起きてくれ!!」

 

そこまで意識が走馬灯のように現状まで走って。

ようやく、オルガマリーの意識が引き戻る。

達哉がアムルタートを呼び出しオルガマリーの治療に当たっていった。

 

「大丈夫か?! 所長!!」

 

達哉も必死だった。

何故なら、飛竜共の火球を直撃ではないとはいえ、至近距離に居た故に。

咄嗟に、自身のペルソナである「ラプラス」で防御し。

礼装に仕込んだ防御機構がなくば体はバラバラになっていたであろう、傷を受けたのだ。

現に達哉が治療するまえは手足が変な方向に折れ曲がっていたのである。

変な方向に曲がった手足を書文が位置を整え達哉がメディラハンで繋ぎなおしたのだ。

だが、これは運がいい方だろう。

下手すれば首がへし折れて即死だったかもしれないから。

 

「ええ、大丈夫・・・大丈夫よ・・・、現状は?」

 

頭を振るい、気を取り直しつつ達哉に現状を問う。

本当にあっという間の事で、なにがなんだかといった様子だった。

 

「現在、俺たちは竜みたいなものやゾンビに悪魔と交戦中、戦況は押してはいるが・・・」

「押し切れないってことね・・・」

「ああ、難民も抱えて動くことが出来ない・・・、ついでにカルデアとの通信が途絶した。」

「最悪ね・・・、吐きそう」

 

現在、敵性勢力と大絶賛交戦中な上にカルデアとの通信が完全に途絶していた。

しかも難民抱えての防衛線である。

自分たちだけなら撤退か、あるいは敵の戦力ラインを突破の上で逃げるということもできるであろうが。

難民を抱え込んでいる以上、それはできない。

かと言って難民を見捨てることは出来ない。

ある種、最悪であるが難民を無事に護衛しきれば、味方であると証明できるからである。

 

 

「近くの都市は?」

「難民曰く、ティエールに向かっていたそうだ。というかティエールしか残っていないらしい」

「・・・なるほど定礎も悪化するわ、それは・・・」

 

フランスの大都市以外はほぼ落とされ、この様であるらしいとのことである。

定礎も悪化するという物である。

人理焼却犯が本腰を入れ始めた。

あるいは人理焼却犯に諭された誰かが、何かしら要因ですさまじく強くなったかであろうとオルガマリーは見当をつけて。

その思考を一旦片隅に放り投げる。

今はいくら考えても仕方がないし、目の前のことに取り組まなくてはならぬから。

 

「タツヤ、難民を見捨てる方針は無し、これは現地住人に取り入れる機会よ、逃す手はないわ

けれど戦闘ではアナタの方が私より上だもの、指揮はアンタがやって。私がサブと責任を取るから」

「・・・わかった。」

 

オルガマリーはあえて戦闘指揮は達哉に任せることにした。

こうも緊迫した状況下では達哉の方が経験も多い。

鉄火場を経験した事もない、小娘がするというのは無理な話である。

予定されていたことが完全崩壊しているなら猶更だ。

であるなら、当初の予定を放棄し、一番の経験者に腕を振るわせた方がいいのは道理である。

達哉も即座に同意し念話を飛ばす。

 

「クーフーリンと森さんは先方!! 書文さんは遊撃、宗矩さんは難民の護衛を頼む」

 

クーフーリン及び長可は打撃力が高いため先方にし突破を図りつつ。

高機動且つ龍の皮膚や鱗、外殻を無視できる書文を遊撃。

宗矩は関節部を狙うなどの手はあるがリーチが短いため、護衛に移行させる。

 

「俺達は中衛を務める。マシュは、さっきの飛竜たちの連携に備えて走り回ってもらうことになるが・・・行けるか?」

『大丈夫です、行けます』

「ならいい、とにかく難民を連れての護衛脱出任務だ。難民を優先しつつ各自情報は随時念話で更新しつつ戦況に合わせて動く、行くぞ!!」

 

達哉たちは前衛には出れない。

無論、達哉はサーヴァントとタメを張れるがマスター故に落ちることは許されない。

これはオルガマリーも一緒だ。

中衛は前衛と後衛の援護に集中する。

特に先ほどの翼竜たちへの攻撃にも備えて防御宝具マシュには前衛、中衛、後衛を行き来してもらうことになる。

マシュへの負担はでかいがやるほかない。

 

達哉の指示と同時にクーフーリンと長可が槍を横一文字に亡者の群れを薙ぎ払う。

 

「行くぜぇ!! ナガヨシィ!! ついて来いよォ!!」

「ぬかせぇ!! あんたが付いてくるんだよぉ!! 俺になぁ!!」

 

クーフーリンと長可の突破力は一級品だ。

一度の突撃で亡者たちが木ノ葉の様に吹っ飛び。

驚異度を更新した。竜種たちは上空からのパワーダイブでクーフーリンたちに襲い掛かるが。

 

「どこを見ておる?」

 

園境にて姿を消していた。書文の飛び蹴りが側頭部に直撃。

浸透頸も併用されたそれらは、翼竜の脳髄を揺さぶり確実に粉砕する。

そのまま空中で死体となった翼竜を蹴って、書文は再飛翔し打掌を同じ要領で叩き込んで。

派手さはないが着実に翼竜の命を刈り取る。

 

「こっちです!!」

 

マシュは盾を構えて盾を横なぎに振るい亡者共を吹っ飛ばしつつ。

へたり込む難民を立ち上がらせるべく引っ張り上げて。

ティエール方面に行くことを促す。

兎に角、難民が移動しないことには、話にもならないからだ。

へたり込む難民のリーダー格の男の腕を引っ張って立て上げさせて。

移動位置を誘導する。

 

「でもあっちは・・・」

「あっちは先方二人と先輩と所長で退路をこじ開けます!! あなた方は私たちが守りますので全員でまとまって走ってください!!。」

 

向こう側は戦場だ。

長可とクーフーリンが敵を粉砕しつつ退路をこじ開けているとはいえ、まだ敵の量は多い。

 

「でも俺たちは・・・」

 

あんたらを敵として弾劾しようとしたと言い掛け。

 

「そんなことはどうでもいいです!とにかく走って!!」

 

マシュはそんなことは、どうでもいいと叫ぶ。

こうなったのは成り行きと偶然である。

各個人の想いが交差した結果であるのだ。

それに今は敵味方の哲学をしている場合ではない。

二匹の翼竜が難民に狙いを定めパワーダイブし突撃してくる。

此処は戦場である余計な思考を走らせている暇はない。

故に事はシンプルに纏めてやることをやるだけだ。

 

マシュと宗矩が駆けだして迎撃に移る。

 

「やぁぁあああああ!!」

 

マシュは盾を構えつつ斜め上に飛び上がる様に竜種の顎へとアッパーカットの様なチャージアタックをぶち当て。

翼竜の顎を分差しつつ意識を飛ばす。

脳震盪は生物共有だ。

サーヴァント特有の身体能力で重量級の盾をぶち当てられれば竜種ともいえど耐えられる道理が無い。

顎を粉砕され意識を失った、翼竜は突撃軌道が反らされ、難民の群衆から逸れつつ地面にぶち当たりながら自重の重さと突撃速度も相まってズタボロになりながら転がっていく。

もう一匹の翼竜は宗矩に空中で瞬時に解体されていた。

 

「なるほど、鱗以外は、存外脆いと見た。」

 

瞬時に相手の特性を見抜き解体を実行する。

流石は、柳生新陰流の師範でもあった男である。

魚を三枚下ろしにするように翼竜の鱗の隙間や関節部狙って切り倒していく。

 

一方の達哉とオルガマリーも大忙しだ。

 

中衛として前衛が討ち漏らした物と左右から挟み込むようにする翼竜と亡者を相手取らなければならないからである。

難民の安全な護送と前衛と後衛を中継するポイントでもある。

殺されるわけにはいかない。

さらにはマスターとして死ぬことも許されないのだ。

 

達哉は自分の愛刀となった。

正宗を握りしめ。亡者の振るう刃を側面同士を当てて手首を半回転させ横に知らしつつ。

そのまま切り上げ、亡者の左わき腹から右肩までを両断しながらペルソナを呼ぶ。

 

「ビャッコ!! マハブフーラ!!」

 

節制ビャッコを達哉へとペルソナをシフトし広範囲にわたる。冷気攻撃を行う。

ペルソナシステムの変更によってビャッコのアルカナも変更され、特殊相性がなくなった故に燃費は多少悪くなったが。

背に腹は代えられない。

 

アポロとは違い線ではなく点として広範囲にばら撒かれた氷属性魔法が散弾のようにぶちまけられ。

広範囲の翼竜を叩き落す。

竜種の図体も、だいぶ大きく散弾状に射出すれば被弾面積の大きさゆえに軽々と殺傷できるのだ。

それでも、翼竜は数こそ少ないが、達哉の展開する弾幕を掻い潜り後方へと流れていく。

だが後方へと到着した竜種はマシュと宗矩のインターセプトを食らって叩き落されていった。

 

「ラプラス!! マハコウハザン!!」

 

一方のオルガマリーも撃破数では負けていない。

火力が足りないと判断し、数だけは竜種よりも多い亡者を目標にして撃破数を増やしている。

無論、ペルソナだけではない。

戦闘用に調達した代物が役に立っている。

コルトパイソンをベースに魔術的加工が施された礼装魔銃の威力も、また高く。

戦闘能力皆無なオルガマリーを十分に戦わせてくれている。

コルトパイソン本体には衝撃の吸収用の魔術と弾薬の自動装填魔術だけが施されている。

これは改造者のダヴィンチの考案であり、相手にダメージを与えるのは弾頭の方であるとして。

あえて手はそこまで加えられていない。

もっとも弾頭の方はダヴィンチが.357マグナムを参考に精製した物であり。

その威力は亡者の頭部をスイカの如く粉砕し。

一撃で屠る威力を誇る優れものだ。

初心者のオルガマリーでも銃本体に施された先ほど述べた魔術で操作性に問題はなく。

弾薬の装填訓練も必要なしに素早く装填できるのである。

銃弾を媒介にした。銃弾が飛翔し、亡者どものの頭蓋を吹っ飛ばし。

ラプラスの振るう大鎌に祝福の光りが宿り広範囲を薙ぎ払う刃となる。

 

『マスタァ!! 敵の包囲網が崩れた!』

「よし!! 俺が穴を広げる、前衛組は一応防御姿勢!! 行くぞ! 」

 

長可が敵の陣形が崩れたと報告。

それを逃さぬように達哉は即座にペルソナをヴィシュヌへとシフトし具現化せる。

黄色の神々しい存在が顕現し手をかざす。

 

「メギドラオン!!」

 

無属性広範囲系のスキルが炸裂。

一瞬で空中に存在する飛竜や、地上を闊歩する亡者の群れを薙ぎ払う。

対軍宝具にも匹敵する無属性の純正のエネルギー波の威力は強烈だった。

無論味方に誤射しないように、座標指定の上での点的な展開であったが。

それでも威力は折り紙付きである。

飛竜の鱗を一瞬にして食い破り撃墜し。亡者どもを形もなく消し飛ばす。

 

「全員走れ!!」

 

即座にペルソナをアポロへと変更しマハラギダインを斉射しながら達哉は指示を飛ばす。

それに応えるのはクーフーリンと長可である。

これ以上退路もない故に突撃あるのみだ。

兎にも角にも道を切り開かななければならないゆえにだ。

 

『マスター、敵第三波を確認、どうする?』

 

その時、先方はクーフーリンと長可に任せて良いと判断した書文は気配を消し先行。

敵の陣形を確認していた。

 

「敵の指揮者は?」

『不明、どこもかしこも埋め尽くすが如くというものよ』

「なら書文さんは前衛二人に合流してくれ。同じ手で突破する」

『心得た・・・ムッ』

「どうした?」

『こちらにティエール方面から向かってくる馬車を一台確認した。馬車は普通だが・・・それを引っ張る馬はガラス細工のような馬だ』

「・・・すっごく判断に困るんだが」

 

周囲は亡者と飛竜の群れ。

であるなら同じ手を取るほかないと達哉は判断するが。

書文の言葉で、ものすごく判断に困ることを伝えられる。

だが迷う暇はない。

即座に判断を達哉はつける。

 

「マシュ、聞いていたな!! 難民も只無作為に放浪していないはずだ。

硝子の馬は特徴的すぎるから、何か知っていると思う!! 聞いてみてくれ!!」

『了解!!』

 

 

硝子の馬を使う者を知らないかと護衛組のマシュに確認を取るように指示するが。

 

『その必要はないよ』

 

声が突如として鼓膜に響く。

誰もが誰だだと口を開く前に声の主が答える。

 

『僕らは抑止力側で呼び出されたサーヴァントさ!! 君たちはカルデアだろう? フィレモンから話は聞いている!! 今対軍宝具をぶっ放すから、耳を塞ぎ、口を開いて対ショック姿勢を取ってくれ!!』

 

 

フィレモンという概念はペルソナ使いしか知らぬようなものだ。

第一に達哉とオルガマリーのペルソナが共振反応を起こし揺れる。

顔も知らぬペルソナ使い同士が接近することで起こる共振反応だ。

達哉はそれと声の主の言葉を信じ。

 

「総員、耳を塞ぎ口を開いて、伏せろ!!」

 

叫ぶと同時に念話を飛ばし、全員が伏せた。

衝撃波が炸裂し。

敵陣が吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、カルデア

 

 

 

 

 

 

「駄目です!! 周防くん、マシュ、所長、三人に通信繋がりません!!」

「通信復興作業は続けるんだ!! 存在証明は?!」

「続行中、現在存在だけは証明されています!!」

 

特異点へとレイシフト同時に、三人ともカルデアとの通信が途絶。

存在証明は立証されているが、それでも。

薄い線の様なものだ。

達哉とオルガマリーはペルソナの影響ゆえに前代未踏のレイシフト数値をたたき出し。

マシュやサーヴァントたちは、そんな二人と契約しているがゆえに存在立証がなされている。

だがそれだけだ。

バイタルデータですら、ブラックアウト済みなのである。

カルデアの面々は、現在達哉一行が直面している問題を知ることも許されないのである。

全然進まぬ状況に。さしものロマニも唇をかみしめる。

大人であるというのに。今戦っている青年少女たちに何もしてやれないことにだ。

 

「そう慌てなさんなって。定礎A-の地点に突入するんだ。こうなることは予測出来ていたはずだ。」

「だが・・・」

 

そんな時に管制室へと入ってきた。

ダヴィンチが混乱する一同を想定していた事態のはずだと。

けれども想定の斜め上を行き過ぎて対応ができないとロマニが言うのをダヴィンチは左手で制して。

 

「だからテンパり過ぎだって。別々に事を進めるから噛み合わないのさ。

観測班は通信班とデータを共有、ラインから周波数の割り出しを行え。

ダストンくん、報告によれば向こう側からの通信反応は数度なんだね?

間違いなく?」

「はい、数度の微弱な通信波は観測済みです、ですが微弱すぎて・・・通信の逆探知が不可能です」

 

ロマニを諫めつつダストンから上がっていった。報告をダヴィンチが再確認の意味で、ダストンに問う。

ダストンは間違い在りませんと言いつつ。

通信波が微弱すぎて逆探知は不可能だというが。

 

「論点はそこじゃない、君、携帯が電波状況は最高なのに通信がつながらない場合どうする?」

 

違うそうじゃないと言い切り。ダヴィンチはムニエルに聞く。

繋がらない場合どうするかをだ。

 

「はぁ、何度か連絡をしますが・・・」

「そう言うことだ。そして彼女たちはレイシフトという前代未踏の状況に挑んでいる。達哉君は戦慣れしているから。

情報の重要性は良く知っているはずだ。数度の連絡で済むはずがない。

とすると。今彼らがおかれている状況は純粋に電波が届かないから、見切りをつけて霊脈を探しているか。

最悪に考えるなら、数度の通信で打ち切らざるを得ない状況下に置かれているかだ。」

 

ダヴィンチの予測に全員が青ざめた。

つまり向こう側は修羅場の可能性が高いと。

だがダヴィンチは慌てない。

手も足も出せないのだから慌てたところで何にもならないのは理解しているからだ。

 

「とにかく、さっきも言ったけれど、通信班は観測班と連携して通信の復旧作業。

医療班は薬剤やメディカルキットの転送準備、。ロマニ、君は通信の復旧と同時に彼らの状況を聞いて適切な医療指示及び指導の準備だ。」

「わかった・・・」

 

 

ダヴィンチが兎に角、なせることを成せと指示を飛ばし

観測班は存在証明をしつつ通信班と共同で通信に勤しみ。

医療班は倉庫から薬剤などを取りに走る。

ダヴィンチは通信班と合流しロマニは自分に用意された席に腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティエールから馬車が発車したのは達哉たちがここに来る一時間前位の事であった。

ボルドーから退避してきた難民の護送と誘導が使命であるからである。

 

 

「それが、こんな状況になるんてね!」

「アマデウス!! お願いだから。音楽に集中してちょうだい!!」

 

荷馬車の上に膝をつきながら宝具の鎮魂歌を奏でつつ。『キャスター・アマデウス』は悪態をつく。

それに。状況が状況ゆえに、さしもの『ライダー・マリー・アントワネット』も何時もの余裕を投げ捨てる様な棘のある口ぶりで。

自身の宝具である硝子の馬を制御し、間接的に荷馬車を制御する。

余裕が全くないのも、襲い掛かってくる亡者共を馬車で引き潰しつつ制御し、空の飛竜は己のペルソナで叩き落しているからである。

 

そして何故、二人がペルソナを使えるのかというと生前。彼らもまた影の試練に挑んだものだからだ。

 

その果てに勝利を得たものの・・・歴史は変わらなかったが。

それは置いて置いて

マリーのペルソナは戦闘能力はあるが。

アマデウスのぺルソナは音楽を奏でることと索敵に特化しているタイプであるから。

必然的にマリーに負荷が集中するのは必然と言えよう。

 

「エリザちゃん!! 準備は!!」

『プロデューサー・・・私もう喉限界なんだけれど…』

 

馬車内で待機している、「ランサー・エリザベート・バートリー」は涙目になりながら言う。

彼女は生前、残虐極まる性格だったが。月での出来事やら、此処フランスに居る、”もう一人の自分”の事もあって。

抑止の側として、開戦初期から参加している。

彼女は歌が下手だ。

アイドルを自称しているくせに技法も音性も持っているくせに。

何故か下手な歌しか歌えず。

きちんとした設備があれば、その歌声は音響兵器として機能するくらいに下手だ。

故に、フランスを現在防衛している、ジル・ド・レェ元帥は状況の打開の為。

エリザベートの歌を音響兵器として転用。

彼女自身が所持する宝具とアマデウスのペルソナとチューニングもあり。

聖剣顔負けの広範囲殲滅兵器として機能するのだ。

さらにそこにマリー・アントワネットが加わり、硝子の馬に馬車を引かせ、二人を乗せることによって。

高機動型音響兵器車両へと変貌を遂げていた。

 

「泣き言、言わないで!!、次行くわよ!!」

 

マリー・アントワネットも余裕はない。

自覚はしている、自分はある種の配慮ができぬ人間だというのも。

第一こういうのは畑違いだ。

けれどそれを踏まえた上でやらねばならないということは。

あの事件で嫌というほど体験している。

 

『マリーさん!!、このまま突っ込むんですか!?』

 

もう一人の同乗者がマリーに問う。

このまま突っ込むのかと。

 

「ええ突っ込むわ。エリザちゃんの歌は亡者の人達には効果が薄いわ、ジャンヌ、準備をお願い!」

『了解しました!!』

 

もう一人の同乗者である『ジャンヌ・ダルク』を本人が呼び捨てでいいと言ったので。

マリーは呼び捨てで呼びつつ。

戦線に参加するように指示する。

同時に、向こうの戦線も見えてきた。

火球やら氷塊が乱れ飛び、亡者や飛竜共を叩き落す。

光の刃が亡者共を薙ぎ払い、振るわれる槍と十文字槍が亡者、飛竜を区別なく、穿ち殺す。

 

「アマデウス!! ステージ準備は!?」

「完了さ!!、いつでも!!」

「ならアゲて行くわよ!!」

 

マリーの開幕宣言にエリザがマイクに声を叩き込むように歌った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ッ」

 

達哉はフラリと頭を揺らしながら立ち上がった。

凄まじい歌声であった。

耐ショック姿勢をとってもこれほどの威力である。

優れた感覚器官をもつ飛竜はそれだけで絶命し。

バタバタと空から落ちてきていた。

直撃を食らった亡者共も動きが鈍る。

 

「アー、ツゥ・・・亡者にも通用する叫び声ってなんなのよ・・・」

 

オルガマリーも頭を振るいつつ、立ち上がりながらぼやいた。

亡者などのフレッシュゾンビ系のエネミーはそれこそ。殺し辛い。

肉体の損傷を意に返さぬゆえにだ。

だからこそ頭部を切り飛ばしただけでは動き続ける。

サーヴァントやペルソナ使いであれば持つ武器に神秘が宿るので殺せるし。

スキルや宝具で薙ぎ払うくらいの火力は出せるが。

現代魔術などで屠るとなると、それこそ火葬場クラスの火力が必要になる。

つまり亡者をホイホイ倒せる、サーヴァントやらペルソナ使いの火力がおかしいだけで。

普通ならば専門家を呼んで対処しなければならないのである。

それが普通の魔術的常識から照らし合わせて。

音響で対応するとなると、どれだけの聖歌楽団を呼ばなければならなないのかといういう物になるのだ。

改めてサーヴァントの驚異的性能に戦慄する、オルガマリーを他所に。

達哉は念話で被害状況の確認を急いでいた。

 

「マシュ、書文さん、宗矩さん、森さん、クーフーリン、全員無事か?」

『私たちは無事です、現在、亡者を掃討中です、それで難民の皆さんも今の衝撃は噂で知っているようでして。動揺は少ないです』

 

マシュは自分たちは無事だという

書文も偵察に徹していた為、問題は無いというが・・・

 

『わりぃ、達哉、こっちは森が気絶した。』

「森さんが?」

『今の今まで忘れてたがよ、こいつはバーサーカーだ。マスターの指示は兎にも角にも・・・、不明勢力の言うことなんぞ信じられんわな』

 

 

クーフーリンの言いようは、長可からすれば当然と言えよう。

横破りなんぞ戦場では。当時当たり前であったからだ。

信用すれば自分どころかマスターさえも死ぬかも知れぬと言う可能性がある以上。

彼としては従う分けには行かなかった。

己が死することになろうとも。

と言っても気絶だけで済んでいるのは。

流石、森長可と言ったところであろう。

 

「クーフーリンは戦線を維持。俺と所長が前に出る。マシュ、宗矩さんと一緒に難民を前進してくれ」

『了解しました』

『心得た』

 

達哉の指示に両者が同意し難民と共に前進するを始める。

達哉とオルガマリーは前へと出た。

相変わらず、飛竜こそすべて叩き落されたが前方は亡者の群れだ。

 

「それでどうするよ?」

「スキルで薙ぎ払う、飛竜に比べれば楽だ」

 

長可の巨体を軽々背負いつつ、クーフーリンが近づいてきて達哉にどうするかを問う。

達哉は即座に宝具ではなく自身のスキルで薙ぎ払う事を選択した。

宝具は切り札である。

魔力消費をカルデアの電力施設で賄っているとはいえ。

それでも足りない部分は達哉たちが負担している。

無駄な損耗は避けるべきである。

自力で倒せるなら、自力の方がいいという判断である。

飛竜より遥かに亡者の方倒しやすいゆえにだ。

 

「・・・体力は?」

 

冬木での戦闘で見た達哉の姿はクーフーリンからしてもギリギリであった。

故に問う”持つのか?”と。

達哉は苦笑しながら問いを返した。

 

「気力も体力も充実している。大丈夫だ。」

「なら言うことはねぇわな」

 

達哉のいいようにクーフーリンも同じように苦笑で返し一歩下がる。

達哉の背後にアポロが具現化した。

両手に宿る炎が燃え上がり。

 

「マハコウガオン!!」

 

突っ込んできた馬車が、亡者の群れを吹っ飛ばしつつ。

その御者台に座っていった。少女がペルソナを呼び出し、槍状に形成された光を無数に射出し。

亡者を薙ぎ払う。

これには突然のことに達哉もクーフーリンも呆然とした。

いくら広範囲殲滅系のスキルがあるとはいえ。

突っ込んでくるとは思わなかったからだ。

 

 

 

「無事かしら? カルデアの皆さん、騎兵隊の到着よ」

 

 

独特な帽子を衝撃波などで飛ばないように抑えつつ少女が立ち上がり。

優雅に微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう・・・」

 

ジャンヌ・オルタは興味なさげにジル・ド・レェからの報告を聞いていた。

難民を追って。

偶発的にであるがカルデアを発見し。

戦力を、搔き集めて強襲させてまでは良かったが。

カルデアの面々も手ごわく、そこにティエールを防衛するサーヴァントが合流したことによって。

逆に殲滅されて取り逃がしたというのだ。

普通のジャンヌ・オルタであればキレていただろうが。

彼女は起こることもなく淡々と事実を受け止めた。

 

「周防達哉は影に挑んで勝利をもぎ取った男よ。たかがワイバーン風情でどうにかできるとは思ってはないわ」

 

ニャルラトホテプに見せられた現実のうちの一つ。

罪と罰の物語。彼女が最も見入った人生を歩んだ男だ。

故に飛竜ことワイバーンとゾンビの群れを逐一投入という戦術上の愚行を犯した上での危機なんぞ。

サーヴァントたちが居なくとも跳ね除けるだろうと。

ジャンヌ・オルタは信じていた。

世界を滅ぼしかけ救った。

あの青年がこの程度で屈するはずがないのだと。

 

「ジル、至急に各所から戦力を集めなさい」

「は?」

「聞こえなかったの? 全勢力を集結、ティエールに攻め込むわ。」

 

ギチギチとジャンヌ・オルタの身体が音を立てる。

聖杯を直接取り込み。

死者の増悪を吸収し続け。

呼び出したサーヴァントとの霊基の同調による過負荷だ。

指一本動かすことさえ。普通のサーヴァントであれば無理なのを、報復心で彼女は動いている。

言い難い激痛が動くだけで走っているだろうに。

彼女は慈母の如き微笑みを浮かべながら。

決戦を挑むと宣言したのである。

 

「一ヵ所にまとまるしかないとはいえ、実に都合がいい、全部、終わらせてあげる」

 

都合がいいと微笑んで。

次には魔女のように嗤っていた。

 

 

「理解者は多い方がいい、だよな? ”たっちゃん”」

 

 

同時に、影を色濃く残している、須藤竜也が二人の見えぬ位置で嗤っていた。

 

 

 

 

 

 




今回は戦闘回

ティエール以外陥落という崖っぷち&初手ワイバーン亡者地獄。

そして、いきなり通信途絶という状況にテンパるカルデア組。

炸裂する、アマデウス&マリープロデュース、エリちゃん砲とフランス組とカルデア戦闘班との合流。

邪ンヌ、短期決戦で押し込む決意をする

そんな感じでお送りしますた。

たっちゃんも体力的にかつ精神的に余裕があるので他のペルソナも使用する。

オルガマリーは先の模擬戦で覚えた本作オリジナルかつ、新スキルの「マハコウハザン」を使用しています。

ちなみに一応の予定としては次回、カルデア組や現地住民コミュとフランス組とのコミュを行い。

その次にティエール防衛回をやってから、第一特異点攻略回となる予定です。


まぁ仕事が・・・いまだに良くならず。エタる危険性も高く
最悪、この物語の肝である、ニャル様無双回予定のオガワハイム特異点編と、たっちゃん最終特異点編だけでも先にやるかもしれません。
ご了承ください。





おまけ


現在のたっちゃんとオルガマリーの装備


たっちゃん
武器 正宗。マリスビリーの蔵から拝借した名刀。本物である。
防具 カルデアの野戦服。第二部のぐだ達の装備と外見はほぼ一緒であるが、継続能力に主眼を置いている。ダヴィンチちゃんが夜なべして作ってくれた代物。
アクセサリー 約束のジッポ


所長
武器 魔銃 コルトパイソンをベースにダヴィンチちゃんが作ったもの、威力はガンドより低い物に見えるであろうが、実際の威力はこちらの方が上。
防具 アトラス院制服、所長仕様、ペルソナ使いになったオルガマリー用にダヴィンチちゃんが調整した代物。見た目はオルガマリーの私服。
アクセサリー 宝石のブローチ 






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二節 「過去から延びる手と聖女の刃」

未来のことはわからない。しかし、我々には過去が希望を与えてくれるはずである。


ウィンストン・チャーチル「イギリス国民の歴史」より抜粋。


自分たちに与えられた空き家の硬いベットの上で達哉は目を覚まし身を起こす。

 

カルデア一行がティエールにたどり着いたのは半日掛かっての後の事だった。

もっともティエールに到着したからと言って休む暇はない。

そこから二日が立つが。

カルデアとの通信普及作業の為にサークルの設営に、怪我人の治療にまで駆り出されていた。

達哉はペルソナ能力とカルデアから送られてきた医療キット(サトミタダシで購入した物)を使い

書文と共に医療行為に奔走していた。

医療指導にあたったロマニの指示は的確で迅速であった。

本人によると以前は紛争地域での緊急医療などに携わっていたらしい。

それをやったかいもあり。

マリーやアマデウス、ジャンヌの取り成しもあって。

カルデア一行は、フランス軍の客将として招かれることになった。

激動の二日である。

 

「はぁ・・・・」

 

ため息を吐く。

慣れぬ医療行為や前戦指揮官ということもあって慣れぬことばかりだ。

気疲れしない方が無理という物であろう。

この時代のベットは硬く

非常に寝ずらかった。

せめてスプリングベットが欲しいと思う、今日この頃であるが。

文句は言っていられないかと、沸騰殺菌して冷やしておいた。

グラスに入った水をコップに入れて飲み干しつつ思う。

机の上に乱雑に放り投げ置いたジャケットを着こんで

下のリビングへと降りる。

 

「おはようございます、先輩」

「ああ、おはよう、マシュ」

 

下ではサーヴァント着姿のマシュがリビングの大机に料理を並べていた。

 

「誰が料理を?」

「森さんと書文さんですよ。」

 

ハッキリ言って、達哉もマシュも料理スキルは低レベルである。

簡単な物こそ作れるが。マシュが配膳しているようなきちんとした物を作るのは無理だった。

 

「・・・森さん、大丈夫だろうな・・・」

「・・・生卵を食べようとしていましたからね」

 

先日の朝、時間が無い、ということで長可が出したのが、卵かけご飯である。

無論、達哉、マシュ、オルガマリーの顔は盛大に引きつり。

通信向こうのロマニは悲鳴を上げた。

長可の生きていた時代には無かった日本食であるが。

カルデアに居た頃に日本食特集の雑誌を見ていたらしく。

パッと出せるならこれだろと、本人は悪気無しに出したのだが。

特異点という過去の世界で、生食は死亡フラグ満載である。

現代においても生卵を食べるのは徹底した品質管理の上に成り立つ物であり。

そういう物がない現状で卵かけご飯なんぞ喰えば食中毒真っ逆さまであるのは明白の理であるからである。

それを説明された長可はしょんぼりしていた。

ということもあって先日の朝食はカルデアから送られてきた米を、おかずも無しにそのまま食べるという悲劇に見舞われたのである。

 

「今日は大丈夫です、簡単なサラダと、スープに焼魚とライスらしいですから」

「そうか・・・」

「? どうかしましたか? 先輩・・・」

「いや・・・、メニューを聞いていたら、味噌汁と醤油が欲しくなってな」

 

献立的に、日本の朝という感じのものだ。

そこまでくると。達哉も日本人だ。

味噌汁と醤油が欲しくなるという物であろうが。

如何にベルベットルームの車内販売があるとはいえ、仕入れの品はランダムで。

米を買えたこと自体が奇跡である。

無い物ねだりは出来ぬが欲しくなるものは欲しくなるという物だ。

 

「味噌汁に醤油ですか・・・、美味しいんですか?」

「・・・マシュは口にしたことがないのか?」

「はい、カルデアでは基本的にパンと洋食でしたもので、和食は口にしたことはありません、それで美味しいんですか?」

「うーん、文化の違いで味覚が違うからな・・・、両方とも発酵食品だし、受け付けない人は受け付けないだろう」

「食べてみないことにはわからないということですね?」

「そうだな」

 

マシュはカルデアでの主食は洋食がほとんどである。

無論、オルガマリー達もそうだ。

古今東西の人材が集まるとはいえ。日本人の割合は実に少ない。

 

「そういえば」

「? どうした?」

「いえ、Aチームのペペロンチーノさんは何時も『やっぱ朝は、鮭の焼き身に味噌汁と、炊き立てのご飯よねぇ~』と言っていったので・・・何故かなと思いまして」

 

達哉は無論、ペペロンチーノの事は知らないが。

マシュの言いようと冗談のような名前から外国人であると推定し。

何故にそんな人物が日本人染みた思考をしているのかというマシュの疑問を察する

 

「・・・日本ファンだったんじゃないか? 俺のいた時代よりも。日本文化が海外に出て受け入れられているんだろう?」

 

 

彼のことも知らないので。そう片づけて置く。

というかそう評価するほかない。

Aチームはマシュ以外はコフィンの中で生命維持のために

負傷した他のチームと同じように凍結封印されているのだから。

 

「おはよ~」

 

そこに寝ぐせぼさぼさのオルガマリーが二階から降りてくる。

レイシフトしても書類仕事に忙殺されることになるとは思わなかったとは本人の弁である。

故に慣れぬ土地で悪戦苦闘しながら。書類処理及び軍議だ。

疲労もたまるものである。

 

「所長、外の桶に水を汲んでおきましたので。顔を洗った方がいいと思います」

「うぃー」

 

マシュのススメにオルガマリーは同意しつつ外に向かって歩いて行った。

不甲斐ない姿をオルガマリーは晒しているが、全員が、あえて見逃す優しさはあった。

その後朝職を済ませて己が役目を果たすべく諸々の場所へと向かった。

 

オルガマリーは責任者として今日も会議に出席するために、朝早くにクーフーリンを伴って会議に参加しに行った。

長可は前線への視察と教導。

マシュと書文は怪我人の治療と街の外壁修繕作業の手伝いだ。

宗矩は予備戦力への教導訓練と兵站や物資の確認。

達哉は街で資材を集めた後でマシュかオルガマリーと合流するということになった。

 

予定される時間まで達哉と宗矩は多少の余裕があり。

とりあえず、このセーフハウスで待機することにしたものの。

達哉は先日のことが気がかりになっており。

気分が落ち着かず、鍛錬でもして、気を晴らすべく。

木剣を手に取って庭へと出る。

 

 

「――――」

 

空に浮かぶ光の環。

ロマニ率いるカルデア科学班ですらスキャニング不可能な。

歴史上にはないソレ・・・

忙しさで認識できなかったそれを認識したのは昨夜の事。

気分転換がてらにオルガマリーとマシュと共に星を見に夜空を見上げた時のことだ。

ソレを認識した瞬間。

オルガマリーは夜食のすべてをその場で吐き出し。

達哉も吐きそうになった。

ペルソナ使いは命の事について敏感になるがゆえにだ。

光の帯が走り軋む音と光の中に浮かぶナニカ。

ペルソナ使いは例外なく視認出来てしまう。

それは・・・・人々の苦悶の声と顔であった。

その達哉とオルガマリーの認識をもとにカルデアは解析を試みているが。

成果を出す余裕はどこにもなかった。

 

「・・・考えすぎだな」

 

それは憶測を余計に予測していると言うことではなく。

思考が他所にズレすぎているという意味合いでのボヤキであった。

達哉は木剣を持って裏庭へと赴く。

ある種、先日診た。

ジークフリードの負っていた傷の方が達哉には衝撃的だったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どう見ても刺し傷にしか見えないなぁ、コレ・・・、ダヴィンチちゃん、スキャニングの結果は?』

『魔力よりも概念反応の方が高い・・・、不死殺しの類で刺されたかな?』

 

当初、ロマニとダヴィンチちゃんの診察の結果。

不死殺しで刺された物かと予測がたてられたが。

それは違うと言ったのは、話を聞いていた。

エリザベートである。

 

「彼を刺したのは、もう一人のジャンヌの方よ、とにかくシコタマ呪いを打ち込んで動けなくなったところを剣で手足の健を切って。

持っていた旗の穂先で腹部を貫いてから、首を跳ねようとしていたのよ」

 

すでに、もう一人の方のジャンヌとサーヴァントとして呼び出された。ジル・ド・レェが。

フランスの人理を荒らしていることは聞かされていた。

最もサーヴァント・ジル・ド・レェが指揮を執っているのは上層部とサーヴァントの判断によって握りつぶされているが。

 

そして彼女と邂逅した本家ジャンヌ曰く。

暴れている方のジャンヌ・ダルクは本家ジャンヌ・ダルクの代替品であるらしいが。

今はどうしようもない。

問題は、この場合「ジャンヌ・オルタ」と呼称される存在が代替品だとしても。

「セイバー・ジークフリード」を傷つけられ尚且つ癒せない傷となると高ランクの不死殺しを持つことになる。

いくら代替品としてもそれはおかしい話であった。

エリザベートもドン引く位に。ジル・ド・レェはジャンヌを信望している。

代用品にオリジナリティを付けたし過ぎて、此れではもはや別物だ。

別のサーヴァントにジャンヌのガワを被せて仕立て上げた言う風でもないと。

ティエールを防衛する「ライダー・マルタ」の証言もあって。

かなりの高確率で後付けされた物であろうと推測はできる。

だがジル・ド・レェが、それをするかと思えばそうは思えず。

この時代の存命している、本人こと「ジル元帥」でさえ首をかしげているのだ

 

「現地調達も不可能よ、そんな代物」

 

ならば現地調達したかと、達哉は思うがオルガマリーはそれを否定した。

触媒としては使えるかも知れないが。

宝具レベルの機能を現在も最善を保つ物は実に少ない。

このフランスの年代でも早々にお目に掛れるものではないのだ。

 

つまり、どっから沸いて出たのか分からない代物である。

 

達哉はいったん、その武器の出所を思考の隅に追いやって。

傷口を見る。

ジークフリードの腹部の傷から血がとめどなく溢れては魔力として四散していく。

消滅していないのは。

ひとえに彼自身のサーヴァントとしての性能と気合と根性であろう。

 

「エリザベートさん、アナタがジークフリードさんを助けたんですよね?」

 

見た目的には年下に見えるが。

実際には年上でありサーヴァントのエリザベートに達哉は敬語を使いつつ問う。

 

「達哉だっけ? 敬語はいいわ、エリザーベートでもエリザでも好きに呼んで頂戴、その方が肩が凝らなくていいもの」

「・・・わかった。エリザ」

「それでいいわ、で? 私が彼を助けたことが気になるの? 私の逸話的に?」

 

確かにそれも気になる。

エリザベート・バートリーは領主の妻として、権力に物言わせて少女をなぶり殺しにした殺人鬼だ。

己が若さを保つためなどの定説はあるくらいに、冷酷な存在であるのは容易に理解できるものの。

目の前のエリザベートは、どこにでもいそうなJKのようにフランクである。

が今気になるのはそこではない。

彼女が言っていった旗の穂先だ。

 

「違う・・・、ジャンヌ・オルタの旗の穂先に付けられていた槍刃の形状を教えてほしいんだ」

「? いいけど・・・心あたりでもあるの? アンタ」

「・・・ああ」

 

傷口を見て達哉には思い当たる節がった。

嫌というほど覗き込み。脳裏に刻んだ傷だから。

心当たりがあると聞いて。

エリザベートは槍の刃の形状を説明する。

 

「槍にしては刃幅が広くて刃も大きかったわ。ちょっとしたショートソードくらいあるんじゃないかしら? 形はこんな感じよ」

 

そう説明しつつ、両手のジェスチャーでエリザが形状を示す。

達哉は一気にそれで顔の血の気が引き。

眩暈を起こしてふら付く。

 

「ちょっと!? 大丈夫?!」

 

オルガマリーが慌てて達哉を支える。

 

「・・・ああ大丈夫だ。気が動転した」

『達哉君、心当たりがあるって言ったけれど。向こう絡みかい?」

「ああ、その槍を突き刺された聖人の遺体から、止めどなく血が溢れ続けた・・・2000年の信仰と噂を持つ槍だ。」

 

オルガマリーもカルデアもここまでくると理解できる。

達哉は敬愛する舞耶がそれに刺されて死んでいる。

ペルソナの力でも癒せぬ物とくればまずそれで。

彼女の死を看取ったがゆえに刺し傷は脳裏に刻まれ。

ジークフリードに刻まれた傷と共通点を見出し。

エリザベートの説明で特定し切った。

達哉のいいように。カルデアの面々も達哉の過去を知っているため。

彼の言い回しを理解できたのである。

 

「まさか、ロンギヌスの槍っていうの!?」

 

この時期のロンギヌスの行方はトルコにあるとされている。

それを宝具として使用できる者たちは、ジャンヌ・オルタのように世を憎む物でもなければ女性でもない

第一にこの時期にはトルコにある、ロンギヌスを調達できるはずがないと、オルガマリーは驚愕し・・・

 

「神への当てつけ目的なら、別段不思議じゃないんじゃない?」

 

エリザベートは神への当てつけ目的なら不思議ではないと述べる。

物も聖杯を使って、呼び寄せればいいだけの話だ。

サーヴァントを呼ぶよりは簡単であろう。

効力も聖杯を使って引き出せばいいのだから。

兎にも角にも聖杯の魔力を使って、駆動させる宝具の呪いを解除するのは不可能に近い。

ロンギヌス自体が神殺しと聖遺物の属性を含んでおり、ジャンヌとマルタの力では無理。

神殺しの特性によってペルソナスキルも弾かれる恐れがあるし。

聖属性のため魔物系ペルソナもアウトだ。

つまりどう足掻こうが解呪できないとのことである。

 

「元帥にオルガマリー、少しいいか?」

「はい? なんでしょうか? 達哉殿?」

「なんかあるの?」

 

 

とりあえず、オルガマリーがジークフリードに鎮静魔術を掛けて。

その場は解散することになり。

皆が部屋を出ていくことになる。

だが達哉は妙に引っ掛かることがあった。

故にジル元帥に話しかけて頼みごとをする。

 

「・・・比較的、治安の良い場所でがあるか?」

「?? まぁ近くにありますが・・・、それがなにか?」

「そこに”サトミタダシという腕のいい薬師が薬を売る店が出来た”という噂を流してほしい」

「・・・なぜ?」

 

達哉の頼み事は実に単純だった。

サトミタダシという腕のいい薬師が薬を売る店が出店したといううわさを流してほしいということであった。

そんな奇怪な頼みごとに、オルガマリーは達哉の懸念を理解し

事情をしらぬ、ジル元帥は怪訝そうな表情で達哉を見る。

何故そんなことをするのかということを説明してほしいという表情だ。

 

「俺の居たところでは”噂が実現する”という事件があった・・・。ロンギヌスも、その事件で使われたから特定できたんだ。

だからもしもの事があってはいけない。確かめたいんだ。」

「・・・わかりました・・・。なるほどそれはあってはいけない」

 

達哉の懸念はある種、極秘裏に確認しなければならないということはジル元帥にも理解できた。

噂というあやふやな情報が具現化するとなればパニックに陥ることは明確で。

情報漏れを防ぐために、あえて三人になれる時を狙って達哉は話を切り出した。

エリザベートたちを信用しないわけではないが。

なんの拍子で漏れるか分かったものではない。

此処は確認してからでも遅くはないと達哉は判断した。

気のせいであれば笑い話で済ませて。

真実であれば全員に説明すればいい。

確定するまで悪魔で私事に留めておいた方がいいと思っての判断であった。

 

 

 

 

現在

 

 

 

 

そういうやり取りからすでに一日が経過していた。

達哉は正宗ではなく鍛錬用の木剣をもって雑念を振り払うように型稽古に勤しんでいた。

 

「ブレておりますな」

 

それを眺めていた宗矩は。

達哉の剣をそう評する。

何時もよりブレが大きくなっていると。

もっとも宗矩も達哉が多くの事を抱えているのは聞き及んでいるし。

カルデアの雰囲気で察していた。

ロンギヌスの事はすでに聞いている。

 

 

「・・・ふむ、すこし稽古をつけて進ぜよう」

 

 

自分たちにも言えぬ何かがあると宗矩は確信して。

あえて問うようなことはしなかった。

達哉は誠実な人間であるし、言うべき時が来たら言うだろう。

だったら迷いが多少でも気が払えるように稽古をしないかと宗矩は提案する。

 

「え、良いんですか?」

 

まさか柳生新陰流の師範に教えてもらえるとは思ってはいなかった。

無論、これは達哉が一定以上にできる人間だからの提案だ。

普通の人間であれば加減が出来ず、けがをすることになるのは、明白の理であるが。

達哉はクーフーリンとも切り結べる猛者だ。

ペルソナの強化があるとはいえ、我流であれど人外を相手取った実戦で磨き上げたものは本物である。

だが所詮は我流だ。

創設から時間が立ち、多くの同門人々の手によって磨き上げられた柳生新陰流には及ばないのは道理であり。

故に教育者として宗矩は達哉に正しい武を学んでほしいと考えているのだ。

一次の迷いを振り切るには稽古がいいと思っての事でもある。

 

「主殿はなかなかの使い手、教えるということに些かの不足も無し、寧ろ磨けば光る物を目にすると教えたくなるのは剣術家としての性ゆえでしてな」

「・・・なら、お願いします」

 

達哉としても我流では限界があることは痛感している。

正道を収めたサーヴァント相手には刀のみに限定すると、食らいついて行くので精いっぱいだから。

ここで柳生新陰流を学べるのであればそれに越したことはないし。

教師役は、あの柳生宗矩である。

これ以上に贅沢なことはないとして彼の提案に寧ろ頭を下げて頼み込む。

その様子に提案したのはこっちだと言いつつ苦笑しながら宗矩は木剣を握り。

何時もの、宗矩がたどり着いた極致である、無形の型ではなく教えるために、八相の構え型を取る。

対する達哉は何時もの下段の脇構えである。

 

「行きます」

「存分に来られよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗矩との朝の鍛錬を終えて朝食を取ったのち。

達哉は予定されていた通り、資源の買い付けに出ることにした。

そこにジャンヌがやってくる。

 

「達哉さん、街に出るんですか?」

「ああ、カルデアから送られてきたインゴットを換金して物資を購入して、転送しておけと所長に言われたからな」

 

タメ口で良いとジャンヌも含めた。

フランス組サーヴァントから言われたので。

タメ口でジャンヌの問いにそう返しつつ。

金塊の収まった。ジュラルミンケースの持ち手に手錠を付けて。

盗まれないように右手にジュラルミンケースの持ち手に付けた手錠を右手首に装着する。

 

「なら私が、案内しましょうか?」

「それはいいが・・・、ジャンヌは仕事があるんじゃないのか?」

 

如何に隠匿されているとはいえ。戦力としては申し分がない。

死んだ次期が重なったせいか。

サーヴァントとして本領を発揮できないとジャンヌ自身の自己申告はあるが。

それでも十分に戦力に数えられるくらいの戦闘能力はあるのだ。

故に達哉は仕事があるのではと思い聞いてみるが。

ジャンヌは露骨に目を反らした。

 

「・・・」

 

達哉はさらりと勉強したことを思い出す。

ジャンヌ・ダルクは聖女というイメージがあり。聡明な女性というイメージが世間体で強いが。

実際は内容は逆である。

元は田舎娘で文盲だったとされ。

100年戦争下で数々の脳筋戦法や暗黙ルール無視で勝ち進んだ存在だ。

脳筋戦法が通用しない現戦況下では全く役に立たない存在と化してしまい。

イコンとして使うにせよ、劇薬すぎて使えないという理由でハブられ現在に至るという分けである。

達哉はソレを察し。

 

「・・・案内頼めるか?」

「はい」

 

とりあえず、これ以上の指摘はやめて。

大人しく、達哉はジャンヌに案内を頼み込んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティエールの街は戦時下というのに活気づいている。

それが現実逃避からくるものなのかは。

生れてこの方、戦争を体験したことのない達哉には分からなかった。

 

「活気づいているな」

「ええ、確かに難民は集まってきていますが・・・、物資の調達には苦がないようですよ」

「? どういうことだ?」

「それが分からないのです、隠匿された物資の備蓄庫が発見されたり、遠方から財産を抱え込んで逃げてきた商人さんたちが無事に到着したりなどで、物資自体は潤濁とジルが言っていました」

 

ティエール以外は陥落済み。

既に補給線も崩壊しているのに物資が潤濁。

だが決定打にはなり得ない。

達哉は内心、焦ってはいるが顔色を変えず、そうかとだけ返す。

 

「そう言えば気になっていたのですが、達哉さんは神の声を聴いたことはありますか?」

「? ないが・・・、なんでまた」

「いえ、達哉さんにオルガマリーさんは、神卸の御業を使うと皆が言っていったものでして、もしかしたら聞いているかなぁと」

 

無論、ジャンヌの言う通り、神の声は聴いたことはある。

神は神でも、邪神とかの類であるが。

それを馬鹿正直に大衆が居る中で言う分けには行かないので。

達哉は無いと返答し、なぜそんなことを聞くのかと思い聞き返す。

ジャンヌからすれば神卸という啓示の上位互換の様なスキル持ちの達哉やオルガマリーなら。

聞いていたかもしれないということが気になったらしく聞いてみただけらしい。

 

「それと私は神の声を聴きこそしましたが。姿を見たことはない物でしたから・・・、もしかしたら主と出会っているものかと気になりまして。」

「・・・生憎だが、便利な力じゃない、この能力は」

 

だがジャンヌの思い描くような力ではない。

これはあくまで試練に挑むための鎧であり剣だ。

万人を救うだとか導くためのものではないのである。

これ以上は暗い話になるなと、達哉は思い。

話題を変えるべく財布を見る。

頼まれた物資は購入済みで、金貨もまだ余っている。

余ったお金は多少は好きにしていいと言われているので。

 

「ジャンヌ、もう昼時だし、何か食べたいものとかない「え? 奢ってくれるんですか!!??」・・・ああ」

 

もう時は昼時だ。

奢るから、ジャンヌもどうかと問うと。

彼女は眼を輝かせて奢ってくれるのかと聞く。

ああそういえばジャンヌ・ダルグは健啖家だったなと達哉は思い出し。

首を縦に振って意思を肯定し。

適当な料理店へと入った。

対応はジャンヌに任せる。

カルデアの自動翻訳魔術は網膜に貼り付けたコンタクト型礼装と耳に付けた補聴器型の礼装で行われるのだが。

達哉の場合は先日の戦闘で不調気味であったがゆえである。

補聴器型は問題なく機能しているが、コンタクト型の方が機能していないゆえに、フランス語が読めなかったのだ。

書類仕事から外されたのもそれが理由だ。

ちなみにオルガマリーは魔術的教養の賜物でフランス語はペラペラであるし余裕で読めるから問題はなかった。

店に入り。メニューが読めないため。

ジャンヌの説明を受けつつ注文を行い。

それから10分ほどで料理が出てきた。

 

「あの・・・」

 

ジャンヌはチラチラと達哉の方を見ながら申し訳なさそうに問う。

達哉の他のだものはパン料理とサラダにデザートのガトーの三つであるが。

ジャンヌの頼んだものは三つでは利かなかった。

成人男性の摂取量を超える量である。

大食いファイターかと言われれば言葉の刃が刺さりかねない量だ。

気まずくなるのも当然と言えるだろう。

達哉自身はそういう人も世に入ると、金に余裕もあるので。

あえて突っ込みこそしなかったが。

それでも奢ってくれる当人が自分自身より遥かに少ない量で済ませるのは気まずい事だった。

 

「達哉さんは・・・、それだけで本当にいいんですか?」

「ああ、カルデアに来る前は、いろいろあって旅を・・・していた。だから食事とか最小限にする必要があってだな・・・、その胃が小さくなってな」

 

そういってごまかした。

下手に罪を言っても面倒くさいことになりかねないからである。

 

「旅をですか!? いいなぁ・・・、どういったところを見て回ったんですか?」

 

知らぬとは罪というべきか。

達哉がワザとはぐらかした事を言いようから察せず。

無邪気に問う。

達哉の顔が少し歪んだ。

精いっぱいに堪えてここまでに抑えたのだ。

 

「・・・色々、行く先々であり過ぎて・・・・覚えきれていないんだ」

「・・・すいません」

 

さしもの達哉の表情にジャンヌも流石に察する。

カルデアの面々が時折、達哉と一線を引く意味を。

達哉にとっては小さな箱庭なれど。あまりにも多くの事があり過ぎた。

一人の人間では潰れてしまいそうなものを背負っているからである。

行ってしまった過去は一度、正しい意味で自覚すれば血肉に食い込んで離れることはない鎖となる。

割り切るには多く、そして速すぎるのだ。

そこからは会話もなく、なかなか話をジャンヌは切り出せないでいた。

よしんば切り出しても。

大概が達哉の地雷へとたどり着く。

 

例えば。

 

「達哉さん・・・、ここのガトー、美味しくなかったでしょうか?」

「いや・・・現代の味に慣れていると余計にな・・・、うん」

「慣れている? どういうことです?」

 

大方を食べ終えてデザートに移行した時に達哉はガトーを口にして表情を歪めた。

現代とはそも技術や器具の違いで絶対的に味に差が出る。

だが良く、ケーキの類を口にしていた。

達哉はそれを理解していても不味いと表情に出せざるを得なかった。

ジャンヌは気遣って、美味しくなかったと問い。

達哉は現代の味に慣れ過ぎたという。

その言葉の意味を知らず。ジャンヌは問い返してしまった。

慣れてしまうということは日常的に口にしていたという事実と例を知らぬがゆえにだ。

 

「いつも・・・、兄さんが作ってくれたんだ。だから結構五月蠅いんだぞ。俺はケーキとか菓子については」

「まぁ、それは素敵な。お兄さんですね」

「・・・ああ、最高の兄さんだ」

 

―代わりはいないほどに―

 

という言葉を達哉は飲み込んだ。

正直、吐き出してしまいたいが。

それを吐き出すほどの達哉ではない。

 

「ということは。達哉さんの兄さんはパテシェですか!!」

 

がしかし菓子職人と言えばパテシェという概念が。

抑止の情報である以上。

そう邪推してしまうのも人間の性であろう。

 

―ククク、ここまでくると愚かだな。必死に他者を傷つけたくないと堪える子を打ち据える老婆の如くだ

 

「いいや違う」

 

影が嘲笑う。

だが堪える。

無知とは時に人をこれ以上、傷つけることのない刃となることを知らぬジャンヌに傷ついてほしくないがゆえにだ。

 

「兄さんは刑事だった。趣味がお菓子作りというだけの・・・」

「そっ、そうだったんですか・・・すいません早とちりを・・・」

「気にしなくていいさ、俺が言葉足らずだった。」

 

 

過去だから自分のことだから気にするなと達哉はジャンヌが地雷を踏み抜くたびにそういうが。

もうジャンヌは半泣き状態に移行しそうになっていった。

他人とのコミュニケーションがここまで難しいとは思っていなかったである。

 

―見たかね? 愚かだよ、自己の悲嘆の欠損故に他者と共感できない。

まったく無知とは罪とは言ったものだ。なぁ? 周防達哉?―

 

右手に走る入れ墨を通して、達哉をジャンヌを影が嘲笑する。

無論、その声は達哉のみに聞こえるものだからだ。

 

「・・・黙れ、これは俺の愚かさだ。」

 

達哉は雑踏の音にかき消されるような声で影の徴用を跳ね除けるように言う

 

―そう言って、そこに居る、痛みも絶望も知らない、聖女モドキに嬲られ続けるつもりか?

言っておくがな。その女は誰も救えない。

所詮は旗持ちの扇動家の無知蒙昧だ。行いは戦局的にも無意味だった。

彼女が居なくともルイ八世が何とかしただろうに。

挙句、幻聴を聞いて自分は聖女だと思い込み、ジルドレェを含め多くを狂わせた。

この女は、ただただ。戦乱をかき回したという自覚すらなく。

愚者という自覚すらなく、自分の行いが正しかったものだと思い込んでいる!!

笑わせる、所詮は大衆に利用された人形風情が。

よりにもよって世界を滅ぼし救った貴様が行った罪も痛みも重さも知らない癖に。

そこの女は選ばれた尊きものだからと自負し。

上から目線で、こういうだろう、『主は許されます』とな!!

貴様は自分自身の罪を受け入れているというのに、遠回しに他者が許しているから捨ててしまえと、この女は言うだろう

ククク、所詮は犯される痛みでさえ、”主に選ばれた”と言う”錯覚”で目を反らした小娘だ。―

 

「黙れと言っている、論点をすり替えるな。この話は俺が話し上手ではない。それで終わりだ。」

 

そう達哉の言う通り。

この話は、達哉のコミュニケーション能力の不足に尽きるのである。

だがそれは周りにも十分フォローできるものであった。

現にオルガマリーやマシュにカルデアの面々は踏みついても起爆をそして解体するという適切な対応が出来る者たちである。

宗矩や書文、長可だってそうだ。

だが、ジャンヌに限っては違うであろう。

まぁ今は述べることはない。

影はそれ以降語りかけてくることはなかった。

気まずい空気が流れる。

 

 

「あの・・・その・・・」

「・・・なんだ?」

「いいえ、なんでもありません」

 

 

ジャンヌは何も言えない。

どうすればいいのか分からなくなっていった。

ジャンヌから達哉に語り掛ける言葉の悉くが刃となって彼を襲うから。

何も言えなくなっていったからだ。

その時。達哉のバングルが鳴る。

文字チャット表示で手早く簡潔に指令が書かれていた。

 

―会議が長引きそう、タツヤはマシュたちと合流して 追伸、ジャンヌが居るなら指揮所に寄越すように―

 

という概略であった。

達哉は手早く投影されたキーボードを叩いて了承の意を伝える。

マシュたちの居場所はマップデータに表示されているから、その場所に向かうだけであった。

 

「ジャンヌ、すまないが用事が出来た。あと、ジル元帥がアナタを呼んでいるみたいだから。指揮所に行った方がいい」

「あ、そうですか、すいませんお昼ご飯をおごってもらった上に何もできなくて・・・」

「気にしないでくれ・・・、こっちの問題だからな、それじゃ」

「はい・・・」

 

達哉は紙袋を抱えて場を後にした。

ジャンヌは彼の救いにはなれなかった。

なれる筈もない・・・

 

 

 

 

―さぁ、断罪の時間までもう少しもう少しだ―

 

 

 

影は笑う嘲笑う。

 

彼女が生きていた頃。

 

ジャンヌは経験した事の無い人生での試練がそこまで迫っていった。

 

 

 

 

 




投稿完了ゥ!!

死ぬぅ・・・仕事が忙しすぎて死ぬゥ・・・

まぁそれは置いて置いて。ぶっちゃけ、ジャンヌって神とも分からんなんかに踊らされていた小娘ですよねぇって話。

第一に悪魔は天使の如き声やら姿で人々を惑わすという教えがある上に既に神代は終わって神々は去った世界で。

ジャンヌの聞いた”主の嘆き”とやらは本当に”主”だったのかという疑問があるんですよねぇ・・・

立証されないことは如何様にも歪めやすく真実になりやすい。

現代に置いてジャンヌの主の声は彼女自身の精神疾患だったとされることがある様に。

本人ですら立証できないそれは本物だったのかと言えば・・・どうなんでしょうねぇ・・・


事この世界においては、ニャルが居るわけですしねぇ(暗黒星人笑顔)



やったね!! ジャンヌ!! 君は神の声を聴いていたかもしれない!!




みんなの現状


たっちゃん、西に東に奔走中、翻訳機が故障して悪戦苦闘中

所長、何故に人理修復に過去まで来て書類仕事やってるのか・・・、あと人理光体の本質みちゃってSAN値ロール失敗、しめやかにリバース。

マシュ、達哉以上に書文と一緒に大忙し。

森くん、最前線で小競り合いの指揮中、ワイバーン相手に無双

書文、マシュと一緒に大忙し

兄貴、何故に槍ではなくペンやら口を動かしているのか・・・と兄貴は疑問に思った。

宗矩、たっちゃんに柳生流を教える。

ジャンヌ、たっちゃんとコミュの結果、ゲームで普通のコミュ相手ならリバースしかねないようなコミュ内容、たっちゃんのメンタルの地雷を踏む抜いていくスタイル。

フランス組み、大忙し

ニャル、意図的にたっちゃんが気づけるようにロンギヌスなどを見せ突けて挑戦状をたたきつけつつ。軽くたっちゃん虐めをしながらジャンヌ、ディスリ
さらにジャンヌの人間性と信仰の否定という試練を準備。

的な感じ。

特にニャル様はジャンヌの地雷の踏み抜きっぷりに大爆笑中。


ニャル『なに、この小娘wwwwwwww、自分から地雷原に突っ込んで起爆してるんですけどwwww、まじ聖女モドキだわwwwww、此れには罰が必要だよなぁ(ニチャァ) 他人の痛みを本当の意味で理解するには、現実突き付けて、へし折るのが一番だからなぁ』


次回はマシュ&書文とのコミュにマルタ姉やエリちゃんなどのコミュ回を予定。

次の次くらいには邪ンヌ陣営との第一次決戦で行きたいと思います。



あと感想であった。パリスくんちゃんですが・・・

他のギリシャ神話英霊より三割増しくらいにニャルにフルボッコされ座で引きこもっているため。たっちゃんカルデアにはイベント時空であろうと来ることはありません。

というかWikiで彼の原作の逸話見て。作者でさえナイワーとなったんですが・・・アレ。

考え足りてないってレベルじゃないんですが・・・


更新時期については三週間ぐらいかかるかも知れません、ご了承ください。


あと、Fateファンの皆様方については申し訳ないですが。ニャル様は平等にアンチヘイトを容赦なくやっていきます。例外はありません。

命の答えを見出そうが、英霊だろうが、神霊だろうが、獣だろうが、目を背れば容赦がないです。


ご了承ください。

ではまた次回に会いましょう。


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三節 「束の間の準備と交流と馬鹿騒ぎ」

棚の脇をぶち抜いてギギナの両腕が出現する。
続いて棚の下から破砕音をあげて、長い両足が噴出、さらに棚の上を破ってギギナの頭部が現れる。
棚を胴体にした異形の魔人がそこにいた。


されど罪人は竜と踊る、2巻より抜粋


オルガマリーは舌の上で茶を転がした。

 

「うん・・・濃いわね」

「・・・何がだ?」

 

 

オルガマリーの言葉が何を指すのかと言えば。

単純に神秘の含有量である。

料理とか飲料などは現代の方が格段に味では上である。

歴史とは退行する物ではなく進む物だ。

故に古代の酒が何故、美味なのかという疑問があるが。

これは単純に使用される素材と環境によって神秘の含有量などが違っていたり。

そもそも概念の付与で認識がずらされているだけの話である。

神代の酒が、その代表格で。

概念や神秘に魔力を抜けばやったらめったら薄い葡萄酒に他ならないのである。

故にオルガマリーは茶の味が濃いと評する。

この場合での濃いとは、魔力の含有量の事であった。

近代に入りつつあり神秘は減衰しきっているとはいえ。

それでも500年以上前の茶である。

現代魔術師からすれば十分に濃い含有量だ。

茶に含まれた魔力は魔術回路、あるいは魔術刻印を通して旨味の摂取や飲酒をした幸福感を齎す。

と言っても。

この程度なら、現代人にとっては不味く渋い茶で終わる程度の品である。

クーフーリンは彼女の言いたいことを理解しつつ。

 

 

「でもまぁ俺としてはアンタらの時代の料理の方がよかったがなぁ」

 

 

クーフーリンがそう言う。無論それは過去に生きたサーヴァントが現代料理を食べたことがあるというのは実におかしな話であるが。

オルガマリーは思いつくことがある。

交流会で盛大に愚痴っていた、並行世界の聖杯戦争の事であった。

普通サーヴァントは、現世での経験を受け継ぐことはない。

座の本体にサーヴァントの情報はフィートバックされるが。

逆に座の本体の情報はサーヴァントとして別の場所に召喚された時にその情報は共有されない。

単純にこれは抑止力が現地住民に無駄に情報を与えて人理の運航に支障が起きない様にするするためである。

と言ってもペルソナ使いだけは別で。

その能力上、阿頼耶識と意識を繋いでいる状況であるため。

座の位置する境界記憶体へと無意識に干渉して特殊なつながりが発生し。

サーヴァントはペルソナ使いとの交流は忘れずに覚えて引き継ぐことが出来る。

無論、ヤバイ情報が入りかねないためフィレモンの情報封鎖は入るものの、大概の事は覚えている。

 

さらに並行世界の出来事を覚えているのは、そう言ったペルソナ使いとの特殊なつながりと。

人理焼却下という特殊な環境だから召喚の際に検印される記憶情報の管理がずさんになった結果とも言えるだろう。

 

「並行世界のクーフーリンが散々な目にあった聖杯戦争だったかしら?」

「おうよ・・・マスターが早々に叩きのめされて変態神父に令呪奪われてなぁ・・・

望みもしないことをでよ、それで自害しようとしたら、令呪で止められて馬車馬の如き扱いってやつだ。」

「そりゃまた・・・」

「まぁそれでも戦いが無い時は、街をぶらりしてたし、そいつから金はもらっていたからな。一応満喫は出来たぜ・・・。ただし戦いは糞だったがな」

 

そういうクーフーリン、その聖杯戦争は監督役を語った神父の策謀であった。

追い詰められまくった騎士王、精神的にボコボコにされた少年少女。影の暗躍に光の異端者の神父。

胸糞悪い物しかなかった。

ケルトでも早々お目に掛れぬ蠱毒の如きという物であったのだ。

 

「ほんと、その時のいい思い出つったら、うまい飯と英雄王とガチれたことくらいだよ・・・」

 

クーフーリンの背中はすすけていた。

彼も苦労しているわねとオルガマリーは明日は我が身と身を震わせた。

 

「さて少し暇になったし、状況を整理しましょうか」

「だな、少しどころか、かなりごちゃついてるしな」

 

 

オルガマリーは茶を飲み干してカップをテーブルに起きつつそういう

クーフーリンも知れに同意した。

 

戦況は無論、こっち側の圧倒的不利と言えるだろう。

相手は亡者にワイバーンに海魔、未確認ではあるけれど悪魔らしきものを従えている上にだ。

 

 

「ファヴニール・・・、ヴラド三世・・・、ランスロット・・・、頭が痛くなるわ」

 

会議などで齎された情報に、オルガマリーは頭を抱える。

ファヴニールは北欧系神話における邪龍だ。

推定的見積もりは最低で魔獣上位ランク。

最高位で神獣上位ランクに位置する怪物である。ジークフリードあるいはシグルドが死力を決して討伐した竜である。

それに、湖の騎士と名高いランスロット、護国の鬼将ヴラド三世ともなればそうなる上に。

 

「しかも知能を兼ね備えていると来ている上に、プライドの高い、そいつはジャンヌ・オルタと仲良しと来ているぞ」

「ジャンヌ・オルタの方の性能もぶっ壊れよ。何よジークフリードのバルムンクを真正面から打ち負かして。剣技では終始圧倒。どんな怪物よ。」

 

鎮静魔術を掛けて若干やり取りをしたジークフリードや。

マリー・アントワネットを筆頭としたジャンヌ・オルタと交戦した者たちから。

ジャンヌ・オルタの話を聞いたのだが。

もうオリジナルとは別物と言っても刺し違えないくらいに変貌している。

大英雄クラスのジークフリードを真正面から殴り倒したというのだからシャレになっていない

 

「さらに彼女の配下のサーヴァントは祝福属性がないと傷を即座に再生し致命傷を与えても即座に復活・・・モリモリすぎじゃない?」

「達哉やら、嬢ちゃんが居るのがこっちの救いだけどな」

 

 

さらに敵のサーヴァントは祝福の掛かった武器でなければ傷を即座に治療できると来ている。

最も即座に再生するのはこっちで抑えられる。

なぜなら齎された情報は悪い物ばかりではなく

祝福や光属性の乗った攻撃であれば即座に回復は不可能。

それで止めを刺せれば撃破あるいはしばらくは行動不能へと追い込めることが判明している。

これはランスロットを抑え込む為にエリザベート、マルタ、マリー・アントワネット、アマデウスの四人が殿を務め。

ランスロットと交戦、光属性系スキルの攻撃及びそれらを付与した攻撃は再生不能、あるいは治癒こそできるが減衰を確認でき。

結果的にランスロットを撃破あるいは行動不能へと追い込んだのだ。

現にそれ以降の戦場でランスロットは見ていないという証言は取れているものの。

最悪は常に想定しておくべきだ。

現にランスロットは撃破?以前での戦場でマリーやマルタの居ない戦場で袋叩きにして殺しきれる傷を与えたにもかかわらず。

即座に復帰してきているという情報もある。

最悪傷がいえていないから出てこれないことであると考えておくべきだ

 

もっともそれでも時間稼ぎは出来るという証明なので。

一度倒し切れば一週間ほどは出てこれないと考えることもできる。

 

それに達哉は無論、強力なペルソナを所持しているし。

オルガマリーだってカルデアでの訓練やら先の戦闘でペルソナを複数取得している。

それにマリーはサポート向けのペルソナとはいえ祝福属性スキルを習得しているし。

アマデウスのペルソナもあれば。ペルソナ使いのサポートを遠方に居ようと広範囲で即座に適応できるし。

合体魔法だってできるし合体魔法の応用でペルソナスキルで宝具やスキルを繋ぎ合わせ。

効果を増大したり相乗したりできる。

再生能力は脅威ではない。

 

がしかし敵の手札はサーヴァントやファブニールだけではない。

大量のワイバーンに亡者、海魔も存在するのである。

それでも数の暴力は驚異的で。敵のサーヴァントの対応に関してはカルデアもサーヴァントをぶつけるほかなく。

 

「まぁ、火力ほしいわね」

「叔父貴が居ればなぁ」

 

クーフーリンは戦闘技能と面制圧能力は高いが火力で言えばアーチャーに劣る。

長可及び書文に宗矩の技量には無論文句のつけようもないが。

タイマンではほぼ最強レベルの技量あれど物量には弱い。

故に聖剣や魔剣の一級ビームが欲しいところだが。

そんな人材はカルデアには存在しない。

クーフーリンは叔父であるフェルグスが居ればとぼやくが居ないので実現はしない。

サーヴァント以外の数に対応できる、火力持ちが大怪我して行動不能のジークフリードしかいないのである。

エリザベートキャノンもあるにはあるが。

頼り過ぎるのもいかがなものかという物である。

現に何度も戦場で使用している以上。

向こう側も馬鹿ではなく。そろそろ対応してくると考えた方がいい。

 

「一応対策しているけれど・・・」

「正直焼け石に水だな。連中は弱兵も良いところだ。」

 

一応対サーヴァント及び対亡者対策に、兵士の装備は聖女マルタによる祝福儀礼武装の製造が進められていた。

ペルソナ使いやサーヴァントにとっては亡者は取るに足らぬ相手であるが。

一般人兵士にはそうもいかない。斬っても死なず損壊を無視して突撃してくる相手なんぞ悪夢そのものだからだ。

加えて兵士も弱兵だ。

 

 

「・・・そりゃ、ケルトとか日本のサムライに比べれば弱兵よ」

「そうか?」

「そうよ・・・、全世界が覚悟ガンギマリ死兵集団とか笑えないから」

 

もっとも弱兵の基準がケルトのクーフーリンの評価は今一当てにならない。

長可も宗矩も「なんでお前らそんなにすぐへし折れる?」とか言っていったが。

ケルトとか侍の基準値が高すぎるだけであって。

現状やる気があるフランス兵士だって十分な部類である。

 

「けどまぁ現状じゃ、その評価も止む無しよね・・・」

 

が足りない。

相手は魑魅魍魎と復讐心に取りつかれた英霊たちである。

いくら通常戦力にインスタント聖剣持たせたところでどこまで役に立つかという話なのだ。

なにか手は無いかと

 

「悩んだって仕方がねぇぜ、お嬢ちゃん。策で埋められるのは99%までだ。」

「分かってるわよ・・・、いくら戦術、戦略で埋めたって100%に届かないってのは」

 

そういくら戦術、戦略や個々の能力で99%までは可能性は埋められるが。

残る1%はどうあがいても埋めることは出来ない。

後は出たとこ勝負で運の女神に見放されないことを祈るばかりである。

ああもうっとオルガマリーは両腕をを伸ばしつつ背筋を伸ばした。

そう言えばとクーフーリンが思い出したかのように口を開く。

 

「ジークフリードの傷の調整は良いのか?」

「プラン通りなら戦闘前にやった方が居でしょうね、長持ちしないから絶対に」

 

傷口の呪いを解呪するとはいかなくても、マルタのスキルで抑え込んで。

そこに達哉とオルガマリー持続回復スペルや魔術を掛けて傷口をふさぐ。

後はオルガマリーとパスをつなぎ、彼女の魔力とカルデアの魔力。

ペルソナ経由で達哉の魔力も投入し癒えぬ傷口を強引に修復し魔力に物言わせてつなぎ留める。

無論、長続きは絶対にしないという計算が出ているので。

下準備だけ整えて戦闘まえに一気に組み上げる方式で行くしかなかった。

つまり空中で分解し続ける戦闘機を修理しながら飛ばすような所業である。

故に戦闘が始まる前に施術を行うということになったのである。

 

「無茶苦茶だな、おい」

 

クーフーリンも無茶苦茶だと思いつつも口に出さざるを得なかった。

それだけの無茶なのだから仕方が無いと言えば仕方がないだろう。

 

 

「無茶も承知の上よ・・・」

 

 

本当にままならないなぁと思いながら、オルガマリーが言葉を紡ぎ出したところで。

応接室の扉が開かれた。

 

「やっと終わった・・・」

 

そうボヤキながら部屋に入ってくるのは、ライダーマルタである。

キリスト教の聖者であり聖女に列する女性だ。

竜を祈りで静めた逸話を持ち。

本来ならルーラークラスで呼ばれるであろう高名な聖女なのだが。

何故か、その静めた竜である「タラスク」を従えてライダークラスでの召喚である。

まぁ本人曰く「結構無理をした」弊害らしいのだが・・・。

 

そんな彼女はくたびれ果てていた。

急ピッチで進められる武器と防具の聖別作業は負荷がでかい。

同じ竜を倒した誼の聖人「ライダー・ゲオルギウス」も居るが。

より効力を高めるために二人で祈っているのである。

故にシフトは組めず休む暇なんかなかったわけで。

今日も一日中祈り倒しであった。

 

 

「ご苦労さん、茶飲むか?」

「ええ、頂くわ」

 

クーフーリンの淹れた。茶をが入ったカップをマルタは受け取り。

一気に飲み干しつつ。椅子に行きおいよく腰掛けようとして。

マルタはハっとなって、寸前の所で気づいて、聖女らしくお淑やかにゆっくりと腰を椅子に下ろす。

 

「マルタ、私たちの前では気にしなくていいわよ」

「そうしたいのも山々だけれどね・・・奴の影響下にある特異点だもの・・・、隙を見せたら何があるかわかったもんじゃないわ」

 

オルガマリーの気づかいにマルタはそう返す。

奴の、つまり「ニャルラトホテプ」の影響下にあるということは漠然とながら、影に関わったことのあるサーヴァントなら理解できている。

それが何かは具体的には未だに判明せずだが。

達哉の推測が正しいのであれば奴の試練の中でも”噂が具現化する”と言う状態である。

それ即ち、最悪、その状況で末期に至ると。

現実と妄想の境界線がなくなり、この場に居る全員が根源接続者化した挙句。阿頼耶識の底に沈む羽目になる。

嘗ての達哉の世界の様にだ。

故にマルタはお淑やかな聖女の仮面をかぶっている。

本来ならバリバリの武闘派だ。

が、素面を出しては何されるか分かったものではないというのがマルタの意見だ。

 

「・・・イエスがまさかニャル絡みだったとはね・・・」

「まぁね・・・、あの人はそれこそ・・・ね・・・」

 

イエスを誘惑した悪魔はニャルの化身であったらしい。

彼は影を食い止めるべくユダヤから見れば異端の道を歩んだ。

その果てに七つの大罪を巻き込んで彼は奇跡を起こし昇天したのだが。

 

傲慢 憤怒 嫉妬 怠惰 強欲 暴食 色欲を道連れにしたところで。

 

原罪と言うのは人の数ほどにある悪性だ。

第一に人を人に足らしめるものは光と影である。

そして光と影は常に共に存在する普遍性であり。

一度倒したところでまた沸いてくるのは分かっていた。

 

「それで、タツヤを避けているの?」

 

マルタは露骨に達哉を避けていた。

ニャルラトホテプに魅入られているからというニュアンスを含めてオルガマリーはマルタに問う。

マルタはそれは違うと首を横に振った。

 

「彼を見ているとね・・・、ゴルゴダを思い出すのよ・・・、彼の瞳の奥は余りにも彼に似すぎているから」

 

 

 

あの時ほど自分が無力に感じたことはないという感情を込めてマルタは言う。

彼女から見て彼は似ていたのだ。

姿かたちではなく瞳の奥に宿す気配が似すぎていた。

 

「・・・あのね、タツヤは聖人なんかじゃないわ、どこにでもいる人間よ」

 

だがそれは錯覚だとオルガマリーは指摘する。

そう言う憧憬こそ。

 

「そうね、奴の思うつぼよね」

 

ニャルラトホテプが最も付けこむ隙になるのだから。

 

「じゃ次は私たちの番ね」

「だな」

 

武器防具の聖別作業がひと段落した為。

次は自分たちの番であるとオルガマリーとクーフーリンは礼拝堂へと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャンヌと別れて。

達哉はバングルから、目に付けている映像投影用のコンタクトに投影されるマップデータを頼りに、マシュと書文の所へと歩いていた。

文脈からそこまで急ぐ必要もないように感じ取れたために歩いているわけである。

 

「それにしても便利な時代になったな・・・」

 

達哉はそうボヤキながら、歩みを進めた。

と言うのも、達哉が生きていた時代である1999年では考えられない電子機器の発達が行われており。

カルチャーショックが凄まじい物がある。

電話端末は特に顕著であろう。

ボタン式の携帯端末はほぼ駆逐され。

今主流のスマートフォンのサイズは文庫本一冊よりも薄くサイズも小さい

操作はタッチとスワイプで行われ。

さらには音楽、ネットなどを筆頭にする多機能すぎる端末の高性能さである。

そこに魔術を組み合わせた。カルデア謹製の機器はSF小説に片足突っ込んでいるような性能だ。

此処に来てからという物、達哉のいた時代との差でカルチャーショックを感じざるを得ないのは道理と言えよう。

 

そんな事を思いつつ街の雑踏を抜けてマシュ達が居るであろう街角へと出る。

 

そこでは・・・

 

 

「・・・はぁ?」

 

達哉は思わず間抜けな声を出した。

彼の視線の先では、マシュと書文がタッグを組んで大道芸をやっていったからである。

書文が奇妙な体勢を取って。

その手の上に載ったマシュが器用にナイフでジャグリングしていたのだ。

地味に大衆が集まって盛り上がっている。

丁度、一通り芸が終わり、マシュが書文の手から降りて着地。

お辞儀をすると観衆の声援が上がった。

達哉は気を取り直して人垣の合間を縫う様に素早く進んで。

マシュに声をかける。

 

「何やってるんだ? マシュ、書文さん・・・」

「ひゃっ!? せ、先輩、居たんですか!?」

「ああ・・・さっき来たばかりだが」

 

達哉が声をかけると。

マシュはとたんに慌て始める。

サボっているのかと思われたかもしれないとマシュが思ったからだ。

 

「いやサボるだとかは思っていない、」

 

無論、達哉もそう言う勘違いの類は経験して入おり。

マシュの様相からそれを察することが出来た。

 

「してマスターはなぜここに?」

 

書文が何故ここにと聞いてくる。

サーヴァントとマスター間ではノータイムの念話通信があるがゆえに。

バングルは渡されておらず。

またバングル自体も数に限りがある。

まぁ速い話が、レフの爆破のせいで数を用意できなかったのである。

それによる通信の齟齬であった。

 

「いや、所長に、合流してくれと頼まれたんだが・・・、やることはあるか?」

「いえ今のところはないですよ。大方の修復作業とかは職人の方々が。私たちの仕事は運搬でしたし」

 

いくらデミサーヴァント又はサーヴァントであっても出来ないことは出来ないのだ。

マシュは生まれてこの方、そういう修復作業に参加したこともなければ経験もない。

書文だって日曜大工が精々であろう。

故に本職の職人に劣るのは事実であり。

主な業務はサーヴァントの身体能力を生かして荷物運びであったが。

それも午前中に終わってしまった。

手持ち沙汰になり。

この街角で。救った難民の親子と再会し。

子供を喜ばせるべく。

マシュがまだ病室暮らしであった頃に映像で見たサーカスのジャグリング芸に感銘を受けて始めた。

趣味のジャグリングを披露して。

民衆が集まり喝采するものだから。

マシュも書文も興が乗ってしまい現在に至るという分けである。

 

「あ、達哉お兄ちゃん」

 

その時である。

解散を始めた大衆の中に。

マシュと書文が芸をする切っ掛けになった少年がまだ存在し。

達哉に気付いて声をかけてきた。

無論、達哉もその顔には見覚えがあった。

何故なら先ほども述べた通り、カルデアが護送した難民の中の一家族の少年であったからである。

その後ろには少年の両親も居た。

 

「これは達哉さん。あの時は、どうもありがとうございます」

「アナタのお陰で生きて此処にたどり着けました。本当にありがとう」

 

少年の両親はあの時は助かりましたと頭を下げて。

達哉は若干どう反応していいのかよくわからない表情で『当然の事をしたまでですよ』と返す。

 

「そういえば。マシュお姉ちゃんが達哉お兄ちゃんは自分よりすごいっていたんだけど、達哉お兄ちゃんもすごいことできるの?」

 

子供特有の無茶ぶりである。

子供の両親は達哉の戦いを知っているが。

年頃の子供の視界に行くのは、やはり難民の一番近くで戦った、マシュに目が行くのは当然の事であり。

仕方がのないことだと言えよう。

少年の父はそれを窘めようとするが。

達哉は苦笑しながら、右手で少年の父を制して。

腰を下ろして少年と目を合わせる。

年頃の少年の我がままくらいは、彼として聞いてやるつもりだった。

無論。達哉自身が出来る範囲でだが。

 

「マシュや書文さんの様にはできないさ・・・、一応モノマネは得意だ」

「モノマネ?」

 

子供が顔を傾げる。

この時代に芸としてのモノマネはほぼ無いに等しい概念だったからだ。

マシュと書文は意外だなぁと思いつつ。達哉と子供のやり取りを見ている

 

「じゃあ、それやってよ!!」

「いいぞ、目を閉じてな」

 

それをやってとせがまれつつ、達哉は拒絶することなく請け負った。

達哉は目を閉じてろと子供に言って。返事を聞いて目を閉じたのを達哉が確認し。

口を動かす・・・・

 

「「!?」」

 

マシュと書文は驚愕した。

達哉が口を動かしたと思った瞬間にファンファーレが流れたのだから。

ボイスパーカッションとかそいうレベルではない。

明らかに楽器をちゃんと奏でたような音が口から出ていたのである。

もういいぞと達哉が子供に言って目を開けさせる。

子供は達哉のモノマネをすごいと評しつつ目を輝かせていた。

その後、集まった子供にせがまれて何度か達哉がモノマネをする。

工場の騒音だとか、バイクの騒音だとか。

ラーメン屋でなんかよく流れているBGMだとか。

よくわからないレパートリーかつ人類が出来るのか?という物が多い。

 

「ふむ、極めるというとは分かっていたが。別分野の極みを見ると。自らの道が極まったと物とは別の感動が出てくるものだな」

 

一芸極めれば何でも芸術になるという典型例だろう。

書文は達哉のモノマネを心の底から称賛した。

 

「私も先輩みたいにできるでしょうか・・・」

「それは分からんな、長く続けるほかないだろう、此ればかりは」

 

マシュは達哉がモノマネをして人々を喜ばせている様を見て。

自分もできるのだろうかという。

マシュのジャグリングも一芸であるがプロと比べればはっきり言って拙い物である。

それをデミサーヴァントの身体能力と書文のサポートで芸に出来た形であり

達哉のように単独で芸に昇華した物ではないのだ。

故にそれはすぐに出来るものではないと書文は言う。

こういう極めるということは才能も必要だが。それよりもどれだけ努力できるかにかかるゆえにだ。

その時である。

 

「やるじゃない」

「アマデウスさん!?」

 

いつの間にかマシュの隣に立って、好敵手を見つけたボクサーじみた表情をしつつアマデウスがそういう。

彼は世紀の音楽家だ。

そんな彼がそう認めるほどの物なのであった。

と言う分けで対抗心を燃やしていた。

 

「ちょっと行ってくるよ、マリー」

「あらあら、珍しくやる気じゃない」

「まぁね、一芸特化とは言え音楽の才には変わりはない、勝負を挑みたくなるという物さ」

 

アマデウスはそういいつつ口を吊り上げると達哉のもとに向かう。

久々に好敵手を見つけたとばかりに。

確かにボイスパーカッションの部類とはいえ。

アマデウスの琴線に触れるものであった。

サリエリと比べるのは烏滸がましいとはいえ。

勝負するには相応しい相手と認めたのである。

 

アマデウス共に街を散策していたマリーは、まぁまぁと言う様に微笑ましい物を見るかのように。

彼を見送った。

 

「あのー、見てないで止めましょうよ」

「マシュの言う通りだな。ああいうのは熱が入ったらとことんまでやるぞ」

 

マシュが止めた方が良いのではという。

書文もそれに同意した。

何故ならこういうことは。

行われると互いに決着が着くまでとことんやる物だからである。

書文だって武芸者である故に。

若いころの立ち合いとは本当に互いが納得するところまでやったものだからだ。

現に勝負が始まっている。

アマデウスのボイスパーカッションに達哉は顔を歪めた。

それは不快感だとかそういう物ではなく。

純粋に強敵が出てきたという思いだからだ。

伊達に達哉とて、これで多くの悪魔相手に交渉してきたわけではない。

いくら虚しい理由から身に着けたとはいえ、それなりの矜持がある。

アマデウスのボイスパーカッションに応えるように達哉も次のネタを出す。

 

「楽しそうだからいいじゃない。アマデウスがあそこまで楽しそうにしているのに。止めるのは無粋でしょう?」

 

マリー・アントワネットは優雅に微笑みつつ言う。

彼女の脳裏に浮かび上がるのは過去の情景であった。

マリー・アントワネット、アマデウス、サリエリ。

嘗ての自分たちはそこでこうやって馬鹿騒ぎした物であるから。

 

「それにね、アマデウス、ここ最近、フラストレーションが溜まっているのよ・・・。少しガス抜きさせてあげて・・・」

「それはどういうことですか?」

「エリザちゃんの歌の事よ」

 

 

どういうことかと問えばそう返されたら。

どの様な白痴でさえ理解してしまう。

あの威力は凄まじかったゆえにだ。

あそこまで音痴とくるとある種の兵器であるがゆえにだ。

 

「アマデウスさんは、エリザベートさんに歌をですか・・・」

 

マシュは聞いただけで。その壮絶さを理解する。

当たり前である。あの戦場で聞いた音波攻撃が。

よもや歌だとは思わず、あとで歌であると聞かされた時には驚愕した物である。

 

「ええ、彼女、才能はすごいのよ? アマデウスも認めるくらいにはね・・・。けど、どう教えても上手くならないからフラストレーションがすごくて・・・」

「それは技法などが致命的に駄目であるとかですか?」

 

いくら優れた音感や声量などを持っていても。

歌う技術力が無ければ話にならないわけで。

そこに原因があるのかとマシュは推測を口にするが・・・・

 

「いいえ、技法はアマデウスが教える前は・・・まぁ失礼だけれど拙いの極みだったわ。でもちゃんと身につけたのよ」

「・・・それでアレですか?」

「そう、それでアレなのよ・・・と言うより威力アップしてるのよ、何故か・・・」

 

技法などはアマデウスが教え込んだ。

努力家と言うこともあったし。もともと才能があったのか。

メキメキと実力を身に着けたエリザベートであるが。

練習の時はいざ知らず。

本番になるとなぜか音痴になる。

しかも何故か、技法などを身に着ける前より酷くなっている有様だ。

そりゃ、アマデウスも匙投げたくなるを通り越して右ストレートをぶちかましそうになり。

マルタが必死にアマデウスを羽交い絞めにして何とか収まったという事件もある。

 

「だから好きにさせてあげて。」

「はい・・・」

「心得た。」

 

マリー・アントワネットの言葉にマシュと書文はうなずき。

ヒートアップしている勝負を楽しむことにした。

 

 

 

 

 

勝負は一時間ほどで終わった。

ここまでネタが続いたのは、ある種の達哉の努力の方向性だろう。

一見いい勝負に見えるが。

 

「いやぁ、すっきりしたよ。悪いね勝負吹っ掛けちゃって」

 

アマデウスはいい汗かいたと言わんばりの万遍の表情で余裕もあるが。

一方の達哉は肩で息をしていた。

即興ネタまで披露し食い下がるのが一杯一杯だったのだ。

勝負は達哉の負けである。

 

当たり前である。相手はあのヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトである。

ここまで食い下がれる方がすごいと言えよう。

 

「いいえ気にしてませんよ・・・良い物を見せてもらいましたし」

「そうかならよかった。僕も良い物を見せてもらったよ。次の作曲の発音の参考にさせてもらうよ」

 

達哉のモノマネを可能とする技法を見たことによって。

アマデウスも自身にはない物を身に着ける機会が来たと喜びを新たにしつつ。

互いの健闘をたたえて握手を交わす。

 

「見事だった。両者とも流石だ」

「すごかったですよ、先輩にアマデウスさんも」

 

見事だったと書文が微笑みつつ両者をたたえて。

興奮気味にすごかったとマシュは言つつ水筒を達哉に差し出す。

 

「久々だったんじゃないかしら、こうもアマデウスが音楽勝負するなんて」

「そう言えばそうだね、生前にサリエリとはよくやってたけれど、アイツ以外とやるのは本当に久々だなぁ」

 

アマデウスとガチれるのはそれこそ。彼と同年代を生きた「アントニオ・サリエリ」くらいなものだ。

アマデウスが音楽家として大成したころに相手になってくれるのは彼しかいなかった。

ほかの同僚はアマデウスには勝てないとして勝負事態放棄している始末であるし。

教え子たちも勝負を吹っ掛けても達哉のように挑んでくるという物は少なかった。

故に久々だったのである。

だからアマデウスとしてはサリエリ以外と勝負するというのは久しく。

本気は出せないが挑んでくる達哉の姿勢には新鮮味を感じていたのである。

 

達哉はマシュから受け取った水筒の蓋を開けて。

蓋とコップを兼任する容器に水を注いで飲み干す。

 

「じゃあ僕らはここらへんで失礼するよ、まだ回らなきゃいけないところもあるしね」

「そうね、またね」

 

そういって二人は去っていった。

 

「して、次はどうする? これと言ってオルガマリーからは指示が来ていない故にな」

「そういえば合流前の連絡を最後に指示が来ていませんね」

 

正直手持ち沙汰になってしまった。

指示もなければやることもない。

二人の言葉に達哉は少し考えて。

 

「書文さん。森さんと合流してそのあと、ちょっと敵陣を偵察してきてほしい、森さんだとそのな・・・」

「・・・うむ、奴に隠れて移動するという概念はないからな、任された。」

「マシュは俺と一緒にちょっと街の見回りだな。」

「分かりました。」

 

そう言って書文と別れて街へと足を運ぶ。

既に午後の三時過ぎだ。

もうじき日が傾いてくるころ合いである。

日本とは違い、ここは過去のフランスだ。

治安も無論悪いだろう、極限状況下でそれも拍車に掛かっている。

行く先々でのトラブルを解決あるいは鎮圧しながら達哉は目的の場所へと向かう。

 

「・・・」

「?」

 

街の一角にそれはあった。

パッと見てごく普通の薬屋にも見える。

マシュからすれば看板にフランス語で「サトミタダシ」と書かれていた。

達哉は眉間に皺を寄せて、バングルの通信機能を立ち上げる。

早急に連絡する必要性があったからだ。

 

 

『なにかあったの? タツヤ』

「・・・噂が具現化している。」

 

 

その言葉にマシュは絶句し、オルガマリーは叶ってほしくない予見通りで顔を顰めた。

 

『ならセーフハウスに戻ってきて。ジャンヌを除くフランスのサーヴァント組はこっちに全員いるから、前線組にはライン経由で伝えましょう』

「わかった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コミュ回ならぬコンタクト回で本日終了。
次回は噂システム解説とたっちゃんとすまなさいさん&エリちゃんコミュ回になる予定。

コンタクト一覧
たっちゃん、モノマネと、男と言うのはトーク
マシュ、原作とは違って、興味が出て趣味となったジャグリング及び、推理小説トーク
所長、料理講座と、愚痴トーク。
森君、茶の湯についてのイロハ&恫喝。
宗矩、敵の持っている刀剣の鑑定と、喫煙トーク。
クーフーリン 頭ケルトでも良くわかる原初のルーン講座と槍捌きを見せる。
書文、八極拳のススメと悩み相談。

マリー、現代ファッションの評価及び、美味しい紅茶の淹れ方。
アマデウス、現代音楽についての持論および、鍛えたビリヤード技術を見せる。
ジャンヌ 現在色々あって余裕なしなため、コンタクト無し。
エリザちゃん、歌う(ダメージ判定あり)と自分に酔う。
マルタネキ、拳で語る&布教。
すまないさん、趣味がこれと言ってないためコンタクト無し
免罪剣 写真を撮る。写真機材について熱く語る。

なおユニオンコンタクトは盛大にカオスになるもよう。


マシュの趣味のジャグリングは本作独自設定です。
ロマニかペペさんあたりが楽しく室内でも体を動かせるようにと、色々気を利かせた結果です
セイラムのCMでジャグリングしていたマシュが可愛かったから仕方がないね。
普段はおはじきとか野球ボールで練習している模様

あとは所長が趣味料理なのも理由があって。
たっちゃんが来る前は食堂に行くのも苦痛であったがゆえに。
ポケットマネーで料理機材やら食材やらそろえて、自室でボッチ飯やっていたという悲しき独自設定を追加。
一人の時間且つ仕事の事とか忘れることや思ったよりも楽しかったということもあってどっぷり嵌っていた。
腕前はレクター博士くらい。



たっちゃんFGOに噂システムが実装されました。
噂が広がれば事実として具現化します。
利用しすぎると特異点が大崩壊しますけどね!!。

現在流れている噂
「ジャンヌ・ダルクが蘇って復讐に来ているという噂」
効力ジャンヌ・オルタがフランス住民に対しアンリレベルの殺戮能力を発揮。
これによって本物のジャンヌの方が偽物判定を食らっているため大半のスキルが使用不可能。

「ジャンヌから逃げてきた商人がまだいる」
「死んだ貴族たちの隠し倉庫がある」
効力、ティエールの物資が尽きることが無い。


「サトミタダシという腕利きの薬師が店を出している」
効力、サトミタダシフランス支店オープン。






えー作者の現状ですが・・・
台風災害のお陰で仕事がえらい舞い込んでくることになり。
元受けの奴らが資材の手配やら設計図の数字ミスなんぞやってくれたおかげで。
仕事がGEレクイエム状態です。
加えて活動報告でもいった通り。8日にデスストが出るので今月の更新も難しいかもしれません。










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四節 「現実の境界線と罪意識の軋み」

いちばん嫌らしい嘘は、いちばん真実に近い虚言だ。


一粒の麦も死なずば 二部より抜粋




「意外ねぇ」

 

「なにが?」

 

「アンタっていいところのお嬢様よね・・・、こう見事に料理できるなんて」

 

「現実逃避の一環よ・・・もう三年ね」

 

マルタは肉を潰しつつ意外といい。

オルガマリーはどうでもよさそうに血抜きされ、既に腑分けが済まされた鳥の筋を切っていく。

 

 

あの後。聖別された武器にルーンとオルガマリーの強化を刻み込んでから。

彼女はセーフハウスへと戻ってきていた。

明日は会議が無い、時間もゆっくり取れると思い。

丁度、血抜きされた鶏があると思立って。

思い切って腕を振るうことにしたのである。

 

 

なぜ、お嬢様である彼女が料理が出来るのかと言うと。

カルデアに来てから現実逃避の一環で始めたのが、手料理だった。

 

心情的にというか、当時の彼女は周りが潜在的敵にしか見えない精神状態だったのである。

食堂には行きづらかったし行きたくなかった。

だったら自分で作る他ないと始めて。

これが思いのほか楽しくて。仕事が終われば魔術研究などではなく手料理の練習ばかりをしていたものだ。

本を読み番組を見て学ぶ。

ネットの情報網さえ使って腕を磨いていた。

料理に熱中していたのは、魔術研究で発生する義務感とか。

仕事や所長職の中で晒される。他者とのコミュニケーションが不要だったからである。

食器に食材、調理器具まで、ポケットマネーで賄えば。神輿の少女如きに誰も気にするようなことは当時のカルデアではかった。

だから仕事が終われば、自由気ままに出来る手料理という物は彼女にとって救いだった。

自分勝手に出来る、味も自分好みにできる、誰にも喜ばれないが同時に他者への干渉をせず。

自己完結できるとして。

 

さらに彼女の舌も一流だ。伊達にカルデアの所長をやってないわけではない。

会食などで一流料理店の味を知っている。

故に自分と金が許すままに自由にできるということもあってどっぷり浸かっていたのだ。

気付けば三年である。

オルガマリー自身の腕もすごい物になっていた。

 

暇さえあれば読書か手料理につぎ込でいたし。

嫌々やる魔術とは違って、すごく楽しかったから。

そう言う事もあって、地味に料理が得意になっていたりするし、グルメにもなっていった。

もっともストレス性の拒食症になりかけていたということもあって。

仕事に戻れば即座にリバースしていたから。

太ることに悩まされずには済んだが。

 

閑話休題。

 

「オルガちゃんは綺麗なんだし、手料理も出来てスタイル抜群なんだから、いいお嫁さんになるわよ」

 

オルガマリーに教えてもらった通りに野菜をたどたどしく切り分けつつ、茶化すようにマリー・アントワネットが言う。

お嫁さんという言葉を聞いて思い出す。

 

「そういえば。糞親父、婚約者とか最後まで連れてこなかったわね」

 

ふとオルガマリーは呟いた。

魔術師の大家はそれこそ古臭く黴た。政略結婚とかは普通だ。

だがいま思ってみてみれば。そういったやつを連れてきたような覚えが一切ない。

 

「いいじゃない、私とルイは政略婚だったけれど幸せだったからよかったけれど。政略婚で不幸になるっていう話は、私の時代にはよく聞いていたもの」

「そうね、選択できるというのは幸運な事よ」

「・・・うーんでもねぇ、私の意識が飛んでいるだけかもしれないし、あとで書類関係漁ってみようかな・・・」

 

ある種、恋愛の自由があるのならそれは幸運なことだと二人は言って。

オルガマリーはその意見に頷きつつ、自分が認知していないだけでいるのかもしれないと呟きながら。

帰ったら、一応確認しておこうと思い立つ。

知らない婚約者なんぞ御免こうむるからだ。

アニムスフィアの当主は自分だ。

故人のマリスビリーではない。

故に知らない婚約者なんぞ、取る気は一切なかった。

 

「そう言えば。オルガちゃんは気になる人とか居るの?」

「居ないわよ・・・、そういう暇あったことなんて無いし。」

 

マリスビリーが自殺してからオルガマリーは南極暮らしである。

そんな出会いなんぞなかった。

後継者候補とか言われていた。自分より優れ、家との繋がりも深いキリシュタリアは反りが合わない。

と言うより当時は自分より優れているから嫌いだとオルガマリー自身は考えていたが。

いま思えば、そう言った感情ではなくて。

単純に彼の人間性が嫌いだったのかもしれない。

何処までも雄々しく英雄のように進める彼が嫌いだったのかもしれない。

そんな思考を他所に。

リビングからカウンター越しに調理を眺めていたエリザベートが。

 

「だったら、あの達哉って子はどうなのよ」

 

というものの。

 

「彼は友人よ」

 

オルガマリーは脳裏に手を伸ばす彼の姿が写り込むものの。

それはあくまでつり橋効果だと切って捨てる。

 

そんなものを達哉に押し付けて依存はしたくなかったゆえにだ。

つまんないーとエリザベートは憂鬱下に調理の鑑賞へと目線を戻す。

当初は彼女も参加していたのだが。

食材を悉く駄目にするため。オルガマリーとマルタと珍しく笑顔を引きつらせたマリー・アントワネットが摘まみだして。

そこで見学させているのだ。

 

「さて、そろそろスープを」

 

鍋の様子を確認しようとして蓋を開けた時にバングルが鳴る。

通信音は文字通信ではなく。

映像付きの音声回線だった。

何かあったのかと思いつつ蓋をひっくり返して盆の上に置いて。

クツクツと煮られている茸とり肉のトマトスープ煮込みの味を見つつ。

バングルの通信をオンにする。

映像に投影されたのは達哉であった。

 

「何かあったの? タツヤ?」

『噂が具現化している』

 

達哉の見ている視界のコンタクトレンズからバングルに経由された映像が投影される。

見事にフランス語で「サトミタダシ」と看板に描かれている店が映し出されていた。

それにオルガマリーは顔を顰めた。

マシュは向こうで呆然としている。

ニャルラトホテプの介入が証明されたのである。

 

「ならセーフハウスに戻ってきて。ジャンヌを除くフランスのサーヴァント組はこっちに全員いるから、前線組にはライン経由で伝えましょう」

 

今現在、セーフハウスに居ないのはジャンヌと前線組だけである。

書文は現在敵陣の偵察、長可は時たまやってくる斥候部隊規模の相手を蹴散らしており。

この場にはいない。

ジャンヌとは一応カルデア経由での契約をしているためライン通信が可能だ。

達哉が了解と言って通信を切ったのと同時にため息を吐く。

 

「何かあったみたいね」

「ええ最悪よ」

 

オルガマリーは吐き出すように言うほかなかった。

この特異点で。

或いは下手をすれば残る6つの特異点で達哉の世界と同じものが再演されようとなっているのだから当然であった。

オルガマリーは万が一のためにジル元帥へと連絡を走らせる。

こんなこともあろうかと簡易携帯機器を彼に操作を説明して置いてきたのが役に立ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達哉とマシュがセーフハウスに戻ってきて扉を開ければ芳醇な料理の数々が大机の前に並べられている。

どれも見事な代物だった。

プロ顔負けとはこういうことか。

 

「お帰りなさい、タツヤ」

「ただいま所長」

 

そういうテンプレーション的、挨拶を交わしつつ。

促されるままに達哉は何時もの席に着き。マシュがその隣に座る。

 

「説明した方がいいか?」

「まずご飯食べてからにしましょう。あの後ジャンヌにも連絡したらジル元帥を連れてくるって話だから」

「分かった。」

 

 

達哉はそう言うが。

まず料理を食べて胃と口を満たして体とオルガマリーは言う。

それに達哉は頷きつつ

色とりどりの食事を見る。作ったのはエプロンを現在進行形で外しているオルガマリーであることは分かるが。

先も言ったように、達哉からすれば、オルガマリーが料理を趣味にしていることは知らない為。

意外過ぎる一面だと達哉は思いつつあえて聞く。

 

「これ全部、所長が?」

 

達哉の問いに不満そうに、オルガマリーは頷いた。

 

「ええ、最も手早く作れるものだらけで満足のいく代物じゃないけれど」

「でも十分美味しいですよ」

「仕込みやら煮込みが甘いのよ・・・本来ならもっと時間をかけて丁重にやりたいのだけれどね・・・」

 

マシュの賞讃にオルガマリーは仕込みや調理時間が十分ではないとのこだわりを言う。

以外だなぁと思いながらマシュもを切って口に運び込んだ。

十分に美味しいのにと思いながらだ。

そんなこんなで料理を食べつつ雑談をする。

 

 

「あー、ビールが飲みたいわね」

「いや、所長は未成年じゃ・・・」

 

鶏肉を口に運びつつぼやく。

達哉はそれに突っ込んだ。

日本国民は20歳からの飲酒喫煙が彼にとっての常識だからだ。

 

「多国籍組織のカルデアに酒の年齢制限はないわよ」

「術式によっては子供のころからお酒を嗜んでいる方もいらっしゃいましたからね」

 

オルガマリーは、さらりとそう告げてマシュも肯定する。

魔術協会の一部門且つ国際組織のカルデアではイギリス法律を主体とした。

多国籍的法律で動いている。

ついでに言えば魔術師の巣窟でもある為。そういった物は形骸化しており。

未成年だろうが喫煙、飲酒は可能だ。

さすがに麻薬キメて、トンでいく奴は選考段階で弾いてるのが予断となる。

故にオルガマリーもマシュも喫煙に飲酒可であるが。

マシュに関してはロマニが笑顔で「喫煙飲酒は君は絶対に駄目だからね」と言明されているから飲まないだけであるし。

オルガマリーの場合はもし飲酒なんぞすれば入り浸りになるのは明白であったから普段は飲まないだけである。

そうこうしているうちに、ジャンヌとジル元帥がやってくる。

 

「お待たせしました」

「すいません遅れまして」

「気にしないで。状況は説明した通りよ」

 

 

二人のあいさつを適当に受け取って椅子に座る事を進めつつ。

台所にラップしておいたキノコとクルミのブルスケッタを出し。

ベルベットルームの方のサトミタダシで購入しておいた「マッスルドリンコ・R」を出す。

 

「・・・嬢ちゃん、そりゃねーよ」

「うむ・・・この料理で。これはな・・・・」

「生殺しにもほどがあるという物・・・」

 

美味そうな摘まみ系料理があるのに。

酒ではなく、マッスルドリンコである

 

 

「私も詳しいことを知っているわけじゃないのよ、概要はパッと見たけれどね。ただ噂すれば具現化するってわけじゃないんでしょう?」

 

達哉に説明するようにそう言って指示を出す。

過去の映像こそ見たが詳しい説明などはなかった。

だがパッと見て噂すれば具現化するわけでもないというのはオルガマリーにもわかることである。

達哉はその指示を聞いて意を決したように説明する。

 

「まず噂の具現化には条件がある、ニャルラトホテプという邪神の類が張る結界の影響下にある地域でしか噂は具現化しない」

「ニャルラトホテプですか? ・・・聞いたことありませんが・・・」

「ジャンヌの疑問も最もだ。が・・・マルタさんは知っているようですね」

「ええ、生前、主が盛大に関わった悪魔の事よね、座で知ったわよ・・・」

 

マルタは生前の事もあって知っていた。

無論、ニャルラトホテプの事もである。

 

『異常だね、何で知る英霊と知らない英霊が居るんだ?』

 

ロマニの疑問である。

英霊の座では抑止の関係上、英霊たちに共有される情報のはずである。

それだというのにジャンヌや宗矩にクーフーリンは知る様子もなかった。

おかしな矛盾である。

 

「奴は運営側の存在だ。フィレモンの事も考えてると、人類に対する試練としてサーヴァントの召喚や情報共有度に差があるのかもしれない」

 

だがそれもあり得ることだと達哉は言う。

阿頼耶識の具現である以上、ニャルラトホテプもまた運営側の存在だ。

試練と称して召喚されるサーヴァントの記憶から共有情報を抜き取ることも造作もないだろう。

ニャルラトホテプと対局の立場にあるフィレモンとて同じだ。

連中は総じて試練の為には手段を選ぶことはないのである。

 

「アイツら・・・ホント手段選ばないわね・・・」

 

エリザベートは片手で頭を抱えつつ、マッスルドリンコを飲みながらぼやく。

月では遊星関係での対策のために付きまとわれた経験があるエリザベートならではである。

 

 

「とにかく、阿頼耶識側の運営は信用ならないとそう言うことですかな? 主殿」

「ああそうなる」

 

達哉は宗矩の言葉に肯定する。

ニャルラトホテプは無論の事。

フィレモンも対象だ。

 

 

「だけどそこまでの力をあいつが持っているのかい? 僕の時は神父がトチ狂って町の一角が魔界化したけれど」

『あるらしいよ、座では共有されていない情報だけれどね』

 

だがそれでも、噂で世界の改変するということはアマデウスにマリー・アントワネットには信じられなかった。

如何に阿頼耶識の化身とはいえ、そのようなことが出来るのかと。思うアマデウスは言う。

情報共有されていないのが第一ではあるし。

第一に二人が挑んだときは、そこまで無茶苦茶ではなかった。

精々が信仰心に狂った神父が救済を行うために、ガチ物の悪魔を呼び出そうとしたことくらいである。

もっとも町の一角が複雑怪奇なダンジョン化して怪奇現象を起こしてたという時点で十分トンデモだが。

噂が具象化するということは一度もなかった。

 

 

そしてそれは真実だとダヴィンチは述べた。

座での共有情報にはないが達哉の過去を知ることが出来たから言えるのである。

 

(もっとも、達哉君の考察を受け止めるなら、座に情報はあるけれど、サーヴァントの私には連中が意図的に抜いている可能性があるけれどね、クソが、私もカルデアも、ロマニも、マシュも、オルガマリーも、達哉君も、お前らにとっては有益な駒ってわけかい)

 

ダヴィンチは内心で毒を吐く。

そうでも無ければやっていられないというのもが実情だった。

一応の為、達哉が自身に降りかかった”事件”を語る

 

「俺の時は街中に結界を張られて。噂が具象化するというのを利用し、奴は黙示録を成そうとした。

だが荒唐無稽な噂は叶えられない。

なぜなら結界の影響下にある人々が”真実である” ”そうであってほしい”と思うことで、初めて噂は具象化する」

 

「なるほど大多数を納得させなきゃ、噂は具現化しないって事でいいのね?」

 

「ああ、所長やマシュは俺の記憶を見たから知ってると思うが、あの時は”轟大助”という腕利きの探偵に頼んで、一気に効果が出るように都合の良い噂を流布してもらったから、すぐに効果は出た。」

 

つまるところ大多数が納得するような噂で無くては。具現化はしないということである。

達哉の場合は腕利きの探偵に噂の流布を頼むことで即日に効果を発揮させていたが。

 

「つまり、大多数に真実と思わせることが出来れば。即座に効果が発動するということでいいのですかな?」

「ああ、そうだ。さらにマッチポンプを仕掛けて大多数に真実と思わせてしまえば本物になる、そういう結界だ」

 

ジルの問いにそう答える

嬉しくないことに、マッチポンプを仕掛けて偽装を演じて。

大多数の民衆に真実と思わせれば事実になるということも伝えて置く

現に達哉の世界に存在した”新世塾”と呼ばれるカルト集団がそれをやって。

街を浮上させたのだ。

ジル元帥は頭を抱えた。

政治にかかわる身としては、これ以上に制御が難しい力もないのだから。

要するにこの力は、大衆の思考能力を完全に奪いでもしなければ防ぎようがないのである。

 

「さらに都合がいいからと言って使いすぎると、現実と妄想の境界線があやふやになって。噂の具現化のハードルが低くなる。

なぜなら使いすぎると噂が具現化するということが人々の手によって信じ込まれて、鼠算方式に噂具現化のハードルがどんどん低くなる。

そうなれば誰もが、どんな荒唐無稽な噂を信じ込む状況になり、結果的に具現化する」

 

「メイブのヤツあたりが泣いて喜びそうな力だなぁ、ところで達哉、その噂の具現はニャルラトホテプにも効くのか?」

 

「無論、奴自身にも効力は聞くが・・・事態が収拾する寸前までは出てくることはない、噂の力で奴の引く絵図に、不利を押し付けることは出来ても。根本的解決には至らない」

 

「効く、としても止めには使えないか・・・」

「それに噂の力は無差別ですけど。先輩の記憶を見る限り。奴の方で不利な噂は止められますよね・・・」

 

そう言いつつ面倒だなとクーフーリンはぼやき。

マシュは不利な噂はニャルラトホテプ自身が止めるのではないかと考察を言う。

達哉はそれを肯定し。

 

「マシュの言う通りだ。噂の力はあくまで奴の力だ。奴自身の制御下にある。だがそれを必要にしないくらい奴の情報操作能力は高い。たとえ奴の不利になる噂を流し具現化できたとしても十中八九逆手に取る」

 

例えニャルラトホテプに不利になる噂を具現化できても。

ニャルラトホテプはそれらを悉く逆手にとって状況を悪化させたのだ。

第一に何度も述べる通り。

 

「そして噂の力ははっきり言って危険だ。さっきも言った事に加えて、現実と妄想の境界線があやふやになって最終的には奴の領域に結界内部が堕ちる」

 

噂の力は利用する都度に阿頼耶識へと世界を落とすのだ。

使いすぎれば人理修復どころではない。

 

「反吐が出るな。そのニャルラトホテプと言う奴は」

 

ため息交じりに書文が天井を仰ぐ。

敵味方識別はないが。使えば使うほど奴にとって有利であり。

使いすぎた場合を知っている、自分たちが使用を控えたところで。

 

「でも敵はそんな事情知っちゃこっちゃないでしょ、便利だと思えば人理焼却に乗ってまで、欲望叶えている連中なんだから。文字通り際限なく使うわよ」

 

オルガマリーの指摘も最もである。

敵はそんな事情を考慮したうえで使用を差し控えてくれるとは限らない。

寧ろ人理焼却に加担してまで願いを叶えている連中である。

そんな事情知ったこっちゃないとばかりに利用するだろうことは眼に見えていた。

 

「とすると・・・、敵の攻勢を退けたのち、敵本陣へまっすぐ突き進むほかないように見えるのですが」

 

マシュの疑問もその通りである。

なんせティエール以外は陥落済み。

敵の一斉構成で防衛し敵戦力を出来るだけ削る。

無論、敵サーヴァントは再生する恐れがあり。

推測でなら防衛線後、一週間以内に敵の本陣を落とさねばならないクソゲーである。

ジル元帥は頭を抱えた。

民衆に思い込ませればなんでも具象化できるが。

逆に言えば民衆がそれを知った瞬間から暴走が始まるということだ。

故に情報統制は必須、加えて前線での小競り合いも多くなり。

宗矩やクーフーリン及び長可たち戦ガチ勢の意見を加味すると。

防衛陣地の構築、大砲などの設営も急がねばならないのである。

 

 

『マシュの言う手段しかないな、僕らにできることは余りにも少ない』

 

 

ロマニが意気消沈気味に言う。

もう策がどうのこうのではない

フランス軍はティエールに追い込まれ。そこに噂結界の相乗で人理定礎値がA-に突入している。

もうここは、敵がこちらに殺到してきたときに敵陣を防衛線の利点のあらん限りを尽くして戦力を削り。

防衛線でジャンヌ・オルタの首を取るか。

防衛線で凌ぎきったのちにまっすぐジャンヌ・オルタのところまで駆け抜けるほかないのだ。

 

「そうね、それしかないわ。防衛線でジャンヌ・オルタの首を取るかあるいは出来るだけ戦力を削った上でカウンターアタックでジャンヌ・オルタの首を短期間で取るほかないわ」

 

オルガマリーもそれに賛同する。

防衛戦後のカウンターアタックですべてを決するほかないのだと。

良くも悪くもやることがはっきりしすぎていた。

これ以上この議題について語ることはない。

連日の会議で大まかな方針はすでに打ち出している。

噂結界の事に関しては緊急的な会議が必要だったからこうなったまでの事である。

ジル元帥は対策に頭を抱えている。

マリー・アントワネットたちもそれは同様だ。

 

「今更だけれど、私たちよくケンカ吹っ掛けられたわよね」

「良くも悪くも僕も君も若かったじゃないか。」

「まぁそうね、あの時は本当に若かった。」

 

 

「そう言えば・・・なぜジャンヌ殿はサーヴァントの機能をすべて使えないのだ?」

「それは俺にも気になっていたな。奴が手を回していたと思うか?」

 

宗矩の疑問。

それはジャンヌが依然としてサーヴァントとしての機能を発揮し得ないということにある。

あるのはサーヴァントとして補正された身体能力と武器だけで。

スキルは全部使用不可能、宝具にも同様であった。

ジャンヌ自身は「自身が死んだ年だから」と述べて考えているようだが。

抑止の関係上、そういうのは一切関係がないはずである。

となると、ニャルラトホテプかフィレモンが手を回したかとクーフーリンが達哉に聞くが。

達哉は首を横に振って明確に否定する。

 

「いや、後付けされた能力を奴は寸前で取り上げて嘲笑うが、最初から取り上げるということはしない」

「重要な局面で梯子を外すのが大好きってことだな」

 

確かにニャルラトホテプは物を取り上げられる力を持つ。

だが最初から奪うということはあまりしない。与えるだけ与えて暴発させて破滅させるか。

致命的なときに取り上げて梯子を外すのが、主に奴のやり口である。

英霊の座では記録の意図的統制以外は問題なし。

他は非干渉をつらぬいているとなると、とオルガマリーは魔術的な見解からソレを導き出す。

二人のジャンヌ・ダルク。

定礎が無茶苦茶の状態と同一人物が二人。

様は・・・。

 

 

「・・・ねぇジル元帥、いま、ジャンヌ・オルタに関する噂とかある?」

「いえ・・・しいて言うなら、ジャンヌが蘇り復讐しに来ているということくらいしか」

 

オルガマリーの問いにジル元帥はそういう。

オルガマリーはやっぱりねと頷き。

 

「それよ。」

 

素っ気なく言った。

 

「どういうことだ?」

「?? どういうことです?」

 

達哉とマシュの二人は首をかしげる。

ジャンヌもジル元帥も同様で、魔術に触れたことが無いサーヴァントも同様であったが。

ルーンの達人であるクーフーリンは「ああ、そう言う事か」と瞬時に納得する。

 

「要するに、噂が実現化するという状況下で先にジャンヌ・オルタが本物として認識されて真実として定着しているわけ。

後から召喚された方のジャンヌは偽物として修正力の過剰的影響下にある可能性があるってことよ。」

「わけが分からんのだが・・・」

 

書文の苦言に。オルガマリーは人差し指を自身の額に当てて少し思考し。

 

「抑止力はカルデアの資料によると、阿頼耶識以外の者は絶賛停止。でも人理が元の歴史に引き戻そうとする力である修正力は働いているわ。要するにその時代に生きているのはおかしいと判断されるとマイナス補正を食らう分けね、けれど守護者として呼び出され場合にはその負荷が軽減されている筈。出なければ仕事ができないもの」

「なるほど・・・、がしかしその修正力が何故、ジャンヌ殿に明確に働いているのだ?」

 

オルガマリーの説明に宗矩は納得しつつも問う。

存在し得ない者たちにはマイナス補正が掛かるというのは納得がいく。

緊急事態だから自分たちカルデアや抑止側のサーヴァントたちはそれが免除され。

敵皮のサーヴァントは聖杯による高出力供給によってそれを跳ね除けているというのは納得がいく。

だがしかし。抑止の側として呼び出されたジャンヌには明らかに過剰な制限が加わっているではないか。

 

「そこで噂結界の効力よ、さっきもジル元帥が言った通りのうわさが流れているのなら、オルタの方が蘇った本物のジャンヌとして人々に認識され、真実として固定化されている。そのあとで召喚されたジャンヌは噂結界で真実として認識されているオルタとは別物として認識されて。似たり寄ったりの赤の他人として修正力に認識されているため。抑止力による免除特権が機能していないんじゃないかしら」

 

要するに噂結界の下で偽物が先に本物として認識されてしまったがゆえの。

システム的誤作動であろうとオルガマリーは結論付けた上で解決策を出す。

 

「こればかりは噂結界を利用しなきゃ、キャパシティの制限解除にはならないでしょうね。」

 

 

噂結界による認識の歪みから発生する改変である。

干渉手段がない以上、霊基を根本的に弄繰り回すか。

或いは高出力の魔力炉でもつかって強引に霊基を起動させるか。

もしくは噂結界を使って歪みを正すほかない。

 

 

『一応聞くけれど、ダヴィンチ、ジャンヌの霊基の修繕は・・・』

 

一応確認の為、魔術師としてももう神代でも行けよと言うレベルのダヴィンチに。

ロマニはジャンヌの霊基を噂結界に頼らずできないかと聞くが。

彼女は首を横に振った。

 

『無理だね、できない事もないけれど。それは現地に居て尚且つ施設が整っていることが前提だよ」

 

無理だと述べる。同時に条件が整っていないからだと注釈を加える。

それは一般人なら所謂所の天才の傲慢だと思うであろうが。

ダヴィンチの実績を目にしているカルデア一同は出来るのだと思うし。

なんやかんやで便利アイテム送ってもらっているフランス陣営もダヴィンチの腕前は知っている。

故に、内心で皆こう思うわけだ。

 

 

『(((((((((((できるんだ))))))))))))))』

 

まぁ出来るのだろうと。

 

そしてそのあと特に名に変わらず。

場を切り上げて。

飲み会へと移行することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

飲んで食べて。無論飲酒はせずに好きにやって。

帰ってきた長可の参加もあって場は加速し。

オルガマリーが「まぁ嗜む程度なら大人ならいいでしょ」と飲酒を許可したことによって。

出されたワインを飲んでジル元帥が大暴走し。

ジャンヌへの駄目押しを開始。

やれなぜに、フス派にあんな手紙を送ったのか。

やれ自分の意見を聞かずコンピエーニュに志願兵搔き集めて突撃したのかと言っている。

 

 

それから逃げるようにマルタとオルガマリーは宗教討論を行い。

アマデウスとマリー・アントワネットは。

亡者対策の為にエリザベート向けに作っている聖歌のアップデートに入っていった。

マシュは場酔いで達哉に絡み。

長可と宗矩に書文は武術やら武勇伝に茶道などの話で盛り上がっている。

夜は深くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宴会の半ばで達哉は席を離れた。

それは純粋に疲れたということもある。

ペルソナ能力で確かに普通では考えられないサーヴァントとやり合える実力と身体能力を持つが。

それでも生身の人間だ。

体に傷を負えば倒れるし動けば疲労するのである。

今日も一日かれは働いていたし疲れるのは道理であった。

布団に入り硬いベットに身を預けて目をつむる。

疲労感からか、ニャルラトホテプの介入の判明の為か気疲れも起こし。

蓄積された疲労は彼を即座に夢へといざなった。

だが夢とて良い物であると誰が保証できようか。

 

夢に見る・・・のはかつての仲間たち、そして・・・

 

「たっちゃん」

「達哉」

「情人」

 

 

 

「「「俺/僕/私たちを捨てたの?」」」

 

 

彼等から投げかけられる疑問。

あの孤独の世界を投げ捨てて此処に居場所を見出し。

自分たちを忘却の彼方へと追いやるのかと言う弾劾の言葉だ。

それに反応し・・・

 

 

「違う!!」

 

そう叫びつつ達哉はベットから上半身を跳ね起こす。

 

「はぁー、はぁー・・・・」

 

息が荒く動悸が激しい。

此処のところ、よく見る夢だった。

 

 

―だからこそ。贈ろうと思ってな? お前が何よりも欲するものをな?―

 

影に言われたあの日から。

カルデアなどに居心地の良さを見ると見てしまう悪夢だ。

 

選ぶ余地はなかった。

ため息を深くつきつつ。

ベットから出て。窓を開ける。

肌を伝う冷や汗もあるが純粋に夜風が冷たく気持ちの良い物であった。

しばらくそうしてボウとするものの思考はグルグルと回り続ける。

無論捨てたわけではない。彼らの事は今でも覚えている。

 

色褪せることのない記憶としてだ。

 

「外にでるか・・・」

 

ジッポを鳴らし。上着を着こんで屋上へと行こうかと思案する。

窓からの夜風では悪夢に火照った体を冷やすのには足らかった。

だから屋上で夜風に身を浸そうと歩を進めた。

 

 

Ra――――♪ Ra――――――――♪

 

 

流石にそのまま出れば汗が冷えて風邪を引きかねないので適当に汗を拭いて。

達哉は屋上へと上がる階段を歩いていく。

すると屋上から美しい歌声が聞こえてきた。

音質からしてエリザベートの物であろうことは簡単に予測がつく。

練習では上手くやれるとのことであるので。

その歌声はセイレーンも顔負けの美声だった。

 

達哉は屋上へと上がり夜風に身を涼めるべく階段を上がっていく。

 

エリザベートの練習の邪魔にならないようにゆっくりと扉を開けて。

屋上へと出る。

それとほぼ同時に。

エリザベートの歌が止んだ。

屋上の隅っこの縁に座って歌っていたが。

彼女のサーヴァントとしての能力は達哉の存在を感じ取ったからだ。

 

「すまない邪魔したか?」

「いや、別にィ、ギャラリーが居ると下手になるのよ私」

「・・・そうなのか」

 

エリザベートは確かに作曲以外の才能は備えているが。

練習以外はてんで駄目だ。

ギャラリーがそれこそいれば元に戻るどころか訓練した分だけ殺傷能力が増幅している歌に変貌してしまう。

自覚はあるのでエリザベート自身が切り上げたという訳であった。

そしてエリザベートは達哉の様相を見て。

 

「眠れなかったのかしら?悪夢でも見て」

 

見事に達哉がここに来た理由を当てて見せる。

 

「・・・そんなに分かりやすいか? 俺」

「まぁね、やせ我慢しているのが丸わかりだもの。私も似たようなものだし」

 

エリザベートは達哉の疑問に苦笑しつつ言う。

髪型が乱れ、肌には寝汗が滴っていった。

エリザベート自身が悪夢を見て眠りから覚めて鏡を見た時の自身の姿だからすぐにわかっただけの話である。

 

ようは自罰意識の表れである。

如何に本位的ではないにせよ。

この世界に来てしまい、そして居心地の良さを感じる自分と。

何とかできたはずだという自分。

そして楽しさや新たな仲間に縋るのかと問う自分が居ることを。

そう言った意識や意識的仮面の意識の摩擦が悪夢を発生させるのだ。

割り切れればいいが。そう簡単に割り切れるモノではない。

そしてそれは自分も一緒だと、エリザベートは語る。

 

 

「似たような物?」

「ええ、生前の夢よ。我がままで馬鹿だったころの私、そのまま大人になって若い娘の血を浴びれば美を保てると思っていた頃の私の夢よ」

 

達哉の疑問にエリザベートは答えた。

まさしく達哉と同じなのだ。

彼女はぽつりぽつりと語る。

生前の悪行故に死後に座に召し抱えられ、月の聖杯戦争に参加することになった。

 

―行くと良い、この戦争はきっと君にとって良い物になるはずだから―

 

自身にはまだ先があるといったのは仮面をかぶった黒衣の美丈夫だった。

当時まだ罪の自覚さえしていなかったエリザベートはそれに乗った。

良い物とはいうが、良い物をエリザベートは自分自身都合の良いように解釈して戦場へと出てしまった。

 

それが自分自身にとって、愚かさを自覚して大人になるという激痛や失意を知る物だとは知らずに。

 

結果

 

―滑稽だな、愚かな幼子。自覚しないというのも問題だ。故に正してやろうではないか。咽び泣けよ、この私自ら授業してやろうというのだからな―

 

闇に堕ちた彼女を待ち構えていたのは影であった。

 

その後、影に散々打ちのめされて月での聖杯戦争で己が罪を自覚し罰を受け入れ歩くことを決意し。

一人のマスターを救い、その後の平和になった月で過ごす中で。

その場の居心地の良さに今になって作られた良心が呵責を引き起こしているのである。

 

このままではいけないとエリザベートは座へと戻り。

 

今に至るというわけだ。

 

結局それは月を離れても変わらない。

寧ろ真摯に教えてくれる人や親しくなった人が増えて見える世界が広がったことで。

より重い痛みを齎すこととなった。

今を肯定すればするほど自身の犯した過ちが強くのしかかってくる。

 

 

 

「・・・」

「まぁ反応に困るわよね・・・」

「いや、俺も同じようなものだ・・・」

「・・・何やったのよアンタ・・・」

「約束を・・・友との生涯守っていくはずだった約束を破った・・・」

「そう・・・」

 

説明は簡略すぎるものだったが。

エリザベートは達哉の表情で察する。

その約束が何かしらの要因となって達哉の罪意識の源泉となっていることを。

そしてそれはもう償うことが出来ない取り返しの聞かない致命的なミスだったということを理解する。

 

「キッツイわよね・・・終わりが見えてこないってのも」

 

だからエリザベートは弱音をつい吐いてしまった。

巡り合うこと自体が少ない同類が居るからだろう。

達哉もエリザベートの言葉に頷く。

終わりが見えてこない。

自罰意識という物はそう簡単に拭えるものではない。

 

「それでも・・・少しずつだが進めているような気はするんだ。」

 

だが少しずつであるが拭えこそできないが。

受け入れて納得できるようには、なってきていたのも確かだ。

 

「そう、それは良い縁があったのね、アンタにも」

 

そしてそれは出会いに恵まれたということでもある。

エリザベートもそうだったからだ。

月で出会った少年との出会いが、彼女にとってのそれだった。

だから此処に居るのは、達哉もエリザベートも同じである。

 

「ああ、俺には持ったいないくらいの縁だ」

「そう卑屈に・・・まぁ私も人の事は言えないかな・・・うん」

 

そう苦笑してエリザベートは立ち上がる。

 

「少し気分が晴れたし。私は寝るわ。聖歌の練習もあるしね」

「そうか、じゃ御休み」

「ええ、達哉もいい夢をね」

 

そう言ってエリザベートは達哉と別れ用意されてた寝室へと無向かう。

 

「少しずつね、そうね私もよ。」

 

そのさなかぼそりとつぶやく。

達哉の少しずつ進んでいるという言葉に同意するかのように。

 

「まず一つ、私は私との決着を付けなきゃ」

 

もう一人のエリザベート、即ち「カーミラ」と呼ばれる、ジャンヌ・オルタ陣営に呼び出されたもう一人の自分。

愚かな自分の象徴だ。

開戦初期に交戦したが逃げられ。

今では一方的に避けられている有様だ。

だが次の一大攻勢には加わるだろう。

ジャンヌ・オルタはエリザベートが目にしたかぎり奇跡を否定するタイプだ。

いつまでも自分と邂逅したくないというカーミラの願いを叶えているわけではない。

ケツを蹴り上げてでも戦線に投入するだろうことは眼に見えていたからだ。

 

 

 

 

彼は生き延びる為、仲間を守るために戦うのならば。

エリザベートは未来であり過去との因縁に決着をつけて。己が愚かさを受け入れて少し前に進むために此処に居るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は決戦よ。出撃拒否は許さないわ」

「分かっているわよ」

 

 

オルレアン。

すでに荒廃しきったこの都市の城でカーミラはジャンヌ・オルタの言葉にそういうほかなかった。

ジャンヌ・オルタは怒り狂っていた。

カーミラの醜態にである。

勝ち負けはどうでもいいのだが、過去の自分におびえて逃げ回るのはジャンヌ・オルタの気に触れていたというよりも。

ジャンヌ・オルタが毛嫌いするというよりも憎んでいる大衆像そのものであったがゆえにだ。

 

「無論、逃げるのもね、次に私事で逃げたら・・・・殺すから。」

 

ジャンヌ・オルタの言葉に心の奥底からカーミラは冷えて怯える。

彼女はやると言ったら必ずやる。

それこそ次に私事で逃げれば。フランス住民に働いた虐殺行為をフルセットで体感させたうえでジャンヌ・オルタはカーミラを殺すだろうから。

 

 

「アタランテ」

「此処に居るぞ」

 

ジャンヌの言葉に玉座の後ろから彼女の声に応える声がする

 

「私は少し寝るわ・・・、少し統制が効いていないのよ、ランスロットは現在修復中だし。ヴラドは前線で小競り合い中だから。暴れたら叩き起こして」

「分かった。」

 

アタランテと呼ばれた薄紫色の美しい髪の毛を持ち民族装束に身を包んだ女性にジャンヌ・オルタは暴れたら叩き起こすようにと言い含めて。

玉座に腰かけたまま足を組み頬杖を付いて眠り始める。

隙だらけの様相であるが、カーミラではジャンヌ・オルタは殺せない。

令呪とかの縛りではなく。純粋に実力差があるからである。

湖の騎士とレイラインを通じての夢の中での圧縮時間訓練やらあらゆる手段を尽くして技巧を身に着けているのだ。

それにアルゴノーツの一人として弓の腕をとどろかせたアタランテを掻い潜ってとなるのは元々良いところのお嬢様であるカーミラには土台無理な話しと言えよう。

カーミラには土台無理な話しと言えよう。

 

カーミラは逃げるように玉座の間を後にして。

 

「どうしてこんなことになるのよ」

 

過去の自分に対する報復心でジャンヌ・オルタの召喚に応じた。

それは正解だった。

ジャンヌ・オルタはカーミラに力を与えた。

それこそ過去の自分なら嗤って殺せるくらいに。

だが過去の自分はそれ以上を行っていたのだ。

と言うよりもカーミラの知る過去の自分とは違っていた。

罪を是として認めて。前に進む芯の強い娘ではなかったはずだから。

結果、エリザベートがカーミラの知る過去の自分と違って見えて。

同時に自分を否定する怪物のように思えてしまい。

逃げに逃げてこの状況である。

 

「逃げるのはいいけれどさぁ、所詮は先延ばしだよ。勝利からは逃げられないってなぁ」

 

嘲笑。

 

背後に振り替えれば。黒のYシャツにジーンズ姿の白髪の殺人鬼がそこで見下すように嗤っている。

 

「須藤・・・アナタ私を馬鹿にする気?」

「馬鹿に? おいおい、馬鹿にっていうかな、今のお前は負け犬そのものだよ。情けないよなぁ過去の自分は成長したのに未来である自分はその様だもんなぁ。ヒャハハハ!」

 

 

過去の自分であるエリザベートは強く成長した。

だというのに未来のカーミラは何も成長していない。

ただただ過去から目を背けて危うく敗北しかけたのだから。

負け犬と言えればその通りであろう。

 

「ッ・・・・!!」

 

唇をかみしめてカーミラは須藤をにらむ。

だがそれしかできない。

何故なら須藤も強いからである、ヴラド三世やランスロット、アタランテにジャンヌなら勝てるかもしれないだろうが。

この男は平均的なサーヴァントよりも強い怪物だ。

 

「まぁ精々逃げ回ってろよ。どうなるかはお前さんが一番よくわかっているはずだしなぁ」

 

煽るだけ煽って、須藤は踵を返す。

後に残ったのは両手を強く握りしめ唇を血が出るほどに噛みしめているカーミラだけであった。

 

 




コミュ回!! 次回はすまないさん!!とカルデアの誰か!!

あるいは邪ンヌの回想と邪ンヌ陣営の話のどっちか!!

噂システムが特異点という特殊状況下で動いている以上。
たっちゃんたちは、急いで特異点攻略しなければP2罪の二の舞になりかねないので速攻を掛ける必要性があります。
邪ンヌは自分自身の計画の為に、噂結界を使う気はないですが。
彼女自身は悠長にしている気も無いので一大攻勢しかける気満々で。
現状ドコモかしこも余裕はなし。
ちなみにニャル的には噂結界は使用前提ではなく
設置して意味のあるものとして起動しているので。
たっちゃんカルデア陣営と敵陣営が使おうが使わないがどっちでもいいという物。
つまり有るだけで、最終的に両陣営に不利になるようなギミックです。

使いすぎるとどうなるかは第二特異点でやる予定。

あと何故か座でニャルの事は共有情報なのに知る奴と知らない奴が居るのは。
主に場を有利に動かし過ぎて現状が試練として機能しないということを避けるのと。
サーヴァントのフィートバックによる成長を期待したフィレモンによる意図的操作です。
あと下手に知っているより知らない方がニャルを殴れるキャラにも情報統制が入ります。

ニャルはノータッチ

エリちゃんなんで二人に目を付けられたの?という疑問が読者の方々にはあるでしょうが。
単純に相性の関係上、フィレモンとニャルでは遊星には勝てないため。
エリちゃんを動かしてトンチキさせるために目を付けられた上に。
ついでに成長させるためにボコボコにされたのが真相です


あと作者。メンタルが色々アレなのでしばらく休みます。

デスストで11月は更新できないと言いましたが。

そもそもゲームもできないほど忙しいためや、休日が家族問題やらなんやらで休めず気が落ち着かず、精神的に余裕がないためということもあります。


皆さまには迷惑をかけて申し訳ありません。















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五節 「冥府の聖女」

社会的憎悪は、宗教的憎悪と、同じく政治的憎悪よりも強烈かつ深刻である。


バクーニン「政治哲学」より抜粋。


夢を見る。

酷く吐き気のする夢だ。

夢の中で影に疑似仮想体験した夢を見るというのは滑稽極まる物であろう。

だがそれが根なのだ。

 

即ち。ジャンヌ・ダルク・オルタの憎しみの源泉はそこにあるのである。

 

 

周防達哉の影との闘争。

 

結城理の死への行進。

 

鳴上悠の真実の探求。

 

雨宮蓮の統制からの脱却。

 

ショウの英雄譚。

 

アレフの英雄譚。

 

人修羅の黙示録。

 

フリンの神殺しへの物語。

 

仁成の文明の負荷への挑戦。

 

 

多くの悲劇を、夢と言う仮想空間で味あわされて。

そして多くの奇跡をみて。

 

ジャンヌ・オルタは絶望した。

 

 

多くの悲劇と奇跡を積み重ねても。

人は変わらず世界は平行線をたどる。

何時もは、危機感を認識せず。

そういった負荷を他者へと押し付けて。

いざ自分たちが危機に晒されると辛いことは、戦えるものに押し付けて。

祈ることしかしない上に、最後の奇跡だけを後押しして我が物顔で成果を奪っていく

 

 

それに失望し絶望し憎んだ。

 

 

こんな何もしない、なにもしようとしない連中の為に・・・皆、人柱になったのかと・・・・

 

 

誰も報われてなどいない。

 

 

達哉は孤独に堕ちた。

理は死を封じ込め永劫目覚めることはない。

悠は真実を見つけ出したが人の本質は変わらず。

蓮の境遇は変わらず。

 

ショウは不要だからとばかりに人に切り捨てられ。

アレフはその行いは大罪として永劫報われぬ輪廻を課せられて。

人修羅は悪魔の切り札がゆえに闘争を続けて。

フリンは神こそ殺したが。結局根源を断つに至るまでは行かなかった。

仁成は終わらぬ文明の過負荷に挑み続けている

 

何も終わらず、何も変わらない。

 

奇跡が起きたという事実と、とりあえずは安全圏に到達したという認識のもと。

人々は安堵し、また惰眠を貪りに戻る。

戦線が押し上げられただけで実際のところ何も終わっていないのに。

出来るんだったらお前らがやってろよと言わんばかりに。

未だ戦い続けている彼らを見捨てて起こった奇跡を享受し貪り食らう大衆を憎む

 

『許せるものか・・・』

 

仮想体験とはいえ彼らと戦ったジャンヌ・オルタは憎しみのままに現実に浮上し。

この世界も大して変わらないことを知る。

幾度となく綴られた英雄譚。だが文明は発展こそしたが。

人は変わらず、向こう側の住民同様。安楽に身をゆだねている。

 

一部が理想を掲げたところで変わりはしない。

 

ならば。

 

『一切合切、幕を引く。』

 

それがジャンヌ・オルタの至った結論だ。

 

歪んだパズルはリセットすればいい。

 

報われぬ者に慈悲の刃を、惰眠を貪る白痴の如き猿共には絶死の爪を突き立てよう。

何もかもを殺し尽し報復して、影をこの世界から追いだし、抑止を潰し、人理を食いちぎって。

獣を叩き殺し、その果ての殺戮の丘から生まれる、人の次の生命に期待するほかないと結論付ける。

それをここから始めるために。

ジャンヌ・オルタは殺戮の丘を進む。

 

 

 

 

 

そして今も夢を見る夢を見る夢を見る、

 

『ああ、憎い、憎い、憎い!!』

 

この世の理は功利的な物が大原則だ。

 

誰かの幸福は誰かの絶望で成り立っている。

 

先も述べた通り終わらず憎しみだけが増大し膨れ上がっていく。

 

ジャンヌ・オルタは憎み続ける。

だが同時にふと思うのだ。

 

 

何故に彼は復讐を望まなかったのか・・・

 

 

周防達哉の事である。

 

 

彼こそ人間の獣性の被害者の代表格であろうに・・・

終わることも許されず一人孤独を歩み、影にこの世界に叩き落されて。

そして始まった。人理焼却という事象に挑んでいる。

 

ジル・ド・レェの使い魔を通し彼を見て確信する。

 

強い意思に隠されてこそ居るが

また世界を憎んでいる同類の瞳。

それと同時に、それに匹敵・・・。否、それ以上の憎悪を抱えているのを見て確信した。

 

『だから教えて。アナタが世界以上に憎む物を』

 

分からぬがゆえにジャンヌ・オルタは夢の幻影と知りながらも手を伸ばして問う。

自分のオリジナルとは違って青年は周防達哉はこの世を憎んでいるだろう。

それも自覚しているのも理解している。

出なくば、影に対しあれほど迄の殺意は抱いていないはずだ。

だがそれを、表に出すことはなく。

彼は世界の為に必死に戦っていった。

 

なぜそこまで憎みながら。まだ世界の為に戦えるのか。

憎悪の化身と化したジャンヌ・オルタには分らない。

手を伸ばして答えを掴もうとして・・・夢から現実に浮上した。

 

 

「ジャンヌ」

「-----」

「ジャンヌ!!」

 

 

薄紫色の髪の毛がジャンヌ・オルタの頬に触れた。

彼女の目の前には露出度の高い獣皮の戦闘服を身にまとい。

頭に獣の耳を生やした絶世の美女こと「アタランテ・オルタ・アヴェンジャー」の顔がジャンヌの視界に迫る勢いで飛び込んできた。

衣類も宝具を使用したがために民族衣装から際どい今のそれに代わっていた。

が、アタランテの体の所々は焼けただれ、斬り抉られている。

ジャンヌ・オルタはそれが自分自身がやったことであることは理解している。

 

「ああ、またやっちゃった?」

「ああ、全く、抑えるのに手間だったぞ・・・」

「御免なさいね、アタランテ・・・一度夢を見るとどうもね・・・」

 

余りの憎悪に下手をすれば夢を見ている時の方のジャンヌの方が一番ヤバい。

ためにため込んだ力が。夢の中で枷の外れた憎悪に呼応し噴出するのだ。

起きている時は理性での制御が効くが、夢を見て本性が露になると暴走する。

そう言った時はアタランテかランスロットに叩き起こしてもらうのが通例となっていった。

ため息を吐きつつ、アタランテの頬にジャンヌの右手が触れて。

アタランテに刻まれた傷がジャンヌ・オルタへと移り鮮血を噴出させる。

もっとも引き受けた傷は即再生され。ジャンヌ・オルタの力へとなる。

 

「・・・汝は引き受けすぎだ」

「いいのよ、性分だもの、というかアンタと私はビジネスライクな関係でしょうに」

 

アタランテも報復心を抱きジャンヌ・オルタの計画に加担している。

ビジネスライクな関係だとしても。

それでも彼女が使役するサーヴァントに邪龍の傷を引き受けてもらっているのは気の良い話ではなかった。

ジャンヌ・オルタ陣営が一方的にフランス勢を押し込めたのはジャンヌ・オルタが聖杯やら怨霊やらを取り込んだことによる疑不死と高出力。

それを利用して、サーヴァントと邪龍ファフニールの傷を引き受けているからである。

ジャンヌ・オルタ自身も聖杯と言う強力な楔と「死んだはずのジャンヌ・ダルクが蘇って復讐に来ている」という噂の効力もあって蘇生と疑似不死能力を手に入れているため。

彼女の指揮下にあるサーヴァントは致命傷を受けようが即座に復活するという不死性を持っていった。

最も流石に祝福属性のペルソナスキルやら聖人系スキルでデバブを掛けられて殺されれば呪詛に近い能力であるため。

即座に蘇生と再召喚という分けには行かない。

現にランスロットはマリーとマルタと交戦し敗北。

ジャンヌの中に回収され蘇生処置が済んだのがここ最近なのである。

 

「・・・私はそうは思わない。」

 

 

アタランテにとって初めての共感者だ。

自分の憎悪を理解し共感してくる存在であった。

だがまぁ、皆殺しにしてすべてをリセットする、というジャンヌ・オルタやり方にはすべてを賛同できない。

だがこの苦界を駆逐できるなら、そうするほかないというのは、アタランテには理解できる事ではあった。

刹那の思考に思い出すのは嘲笑う影。

 

 

―ククク。馬鹿極まるとはこのことだなぁ、自分に対し優先事項も付けられないのか? どちらが大事だったのだ? 誓いか? それとも道に落ちている林檎というなの財貨か? まぁ貴様にとっては誇りや誓いより林檎の方が重いと見たがな。 故に告げてやろう、お前は大事な者を取り逃がすのだ。―

 

 

生前の勝負の後の敗北後にアタランテを嘲笑したのはヒッポネスを友人の形で諭した影。

その後、座に至って。

真実を知った。

 

影が嘲笑し試練を課し人々を苦しめ子供たちを打ち据える世界がこの世界であると。

 

そんなものに救いはなく。故に苦渋の果てにジャンヌ・オルタの計画に賛同した。

子供も女も老人も男もすべて殺し尽しリセットするという愚行の極みを。

 

それもひとえに。

 

『憎みなさい、アタランテ、世界を、自分を、私を。その憎悪全て私が受け止めて成し遂げてあげる。その果てに殴るべき私と理不尽を殴らせてあげる』

 

憎しみを肯定し。

報復心を聖女の如くに肯定してくれた。

涙さえ流れた。

アタランテは英雄である、その思想は常人に理解されないことがほとんどであったから。

故に影を倒し自分たちの夢をかなえ、新たな地平線を作ろうとする、ジャンヌ・オルタにアタランテ・オルタは忠誠を誓っている。

だからと言って。

彼女が憎悪の果てに朽ちるのを認めたくはなかった。

 

「私は汝と勝利の果ての酒が飲みたい・・・、故に無茶はするな」

「はっ、だから勝ち目をなくすのよ、アナタは、一度得た影法師の如き生ですもの。少しは愚直になりなさいな」

「哀れみを嫌っているのは知っている。故にこれは純粋な敬意と友人心と言う奴だよ、ジャンヌ・オルタ」

 

ジャンヌ・オルタの一蹴にアタランテは自分自身が選んだゆえの行動だと言い切り。

それを聞いたジャンヌ・オルタはため息吐きつつアタランテの意思に拒絶を吐く。

 

「どうせ最後には殺すのよ。情なんて持たない方が気が楽よ」

 

そうは言う、幾ら友情を抱こうともジャンヌ・オルタは最後まで殺し尽す気である。

それは召喚した自らのサーヴァントも例外ではない。

自分でさえもだ。

最もアタランテもそれを知っている。

だが他者であるからこそ見えてくるものもあるのだ。

 

 

「汝は「それ以上言ったら殺すから」 すまん」

 

 

アタランテの印象としてジャンヌ・オルタは完成に至っていない。

まだ枷は外れ切っていないとの印象がある。

徹底的に刻み付けると言いながらどこか。カルデアに期待しているような思わせぶりであった。

現にジャンヌ・オルタがその気になれば、計画はとうの昔に成就しているはずだから。

 

故に思う。

 

―彼女は・・・カルデアに自分自身を殺してほしいのではないか―と。

 

それを口に出そうとしてジャンヌ・オルタが殺意をむき出しにして止める。

彼女自身わかっているのだ。

いくら言葉を合理性で繕っても。

只の八つ当たりやテロリズムに過ぎないと。

がしかし、抱く憎悪は本物だ。

故に止まれない。

坂を転がる小石は底にたどり着くまで止まれないのと同様である。

 

「ジャンヌ」

 

玉座の間に「シュバリエ・デオン・アサシン・アヴェンジャー」が来る。

ドレス姿に軍服の上着を肩に羽織っており、腰の鞘にはレイピアと言ったいで立ちの

黄金比の体現したかの様なスタイルを持つ美女である。

同時に男でもあるらしいのだが詳細は不明だ。

彼女の衣類も所々が破けている。

 

「なにか問題でも?」

「清姫が暴れ出したよ。何とか拘束はしたけれどね。」

「またか・・・」

 

アタランテは右手を額に当てつつデオンの言う状況にため息を吐いた。

 

「清姫・バーサーカー・アヴェンジャー」

 

召喚した時にはもう人ではなくなっていった。

いや、確かに召喚術式に復讐者スキルを召喚したサーヴァントに組み込むようにしたのはジャンヌ・オルタ自身であるが。

召喚は完全に向こう側が答えなければ召喚されない方式である。

ようはジャンヌ・オルタと英霊側の双方の合意が無ければ成り立たない代物なのだ。

 

 

アタランテは子供たちが報われぬ世を正すために応じ。

ヴラド公は己を怪物と定義した世を壊すために応じ。

デオンと「シャルル=アンリ・サンソン・アサシン・アヴェンジャー」はマリー・アントワネットを犠牲にしながらもあの様になった国を憎んで応じた。

「ランスロット・セイバー・アヴェンジャー」は未だなお王に纏わりつく影への報復心で応じている

ファブニールはまぁジークフリードへの憎悪で応じた。

ジル・ド・レェは言わずもかなである。

清姫は安珍への恨みで応じた。

カーミラは愚かな自分への報復心だ。

 

無論、ジャンヌ・オルタは彼等をだます気はさらさらなく。

召喚術式に応じた場合、人格が変容するレベルでの復讐者スキルを付属するということを。

伝わるようにした上で。

それでも召喚に応じた者たちを召喚し。

その上で自身の計画を話し賛同した者たちをサーヴァントとして従えているが。

 

清姫の場合説得もくそもなかった。

 

彼女自身が召喚された時には自身の復讐心が増幅された結果、清姫と言う英霊はバーサーカークラスの影響もあり常に暴走状態となった。

己の憎悪に飲み込まれ、竜化が常時発動し。

憎みに憎むあまり霊基が変質し鬼化まで同時に引き起り。

最早、その姿さえ人でないのだ。

自己嫌悪と復讐心に狂う彼女は常に暴れ散らすのである。

ジャンヌ・オルタや彼女が従えるサーヴァントたちの憎悪に指向性があり一貫しているのもあって、それゆえに理性があるが。

清姫の場合はその復讐心に二面性があるゆえに一貫性が無く、

自身と他者を憎み続ける二律背反が発生しており、その二面性によって常時錯乱状態である。

故に意思疎通はジャンヌ・オルタも不可能である。

精々が彼女自身の憎悪を吸い取って鎮静化し。

戦になれば解き放つことくらいなものだ。

 

 

「いいわよ、いつも通り静めればいいでしょ」

「僕的には推薦しないね、君とて抱えているものが多いんだ」

 

いつも通りに復讐心を引き取ればいいんでしょと何度目になる暴走に慣れたかのようにジャンヌ・オルタは言うが。

デオンは止める。

アタランテもそれに頷いた。

 

「然り、我らの憎悪を受けとめている上に有象無象共の怨霊までため込んでいるんだぞ・・・。」

 

自己改造EXがあるとはいえ。

聖杯まで取り込んで。サーヴァントたちとの霊基を一体化。

そこにさらに怨霊やら魂喰らいで出力アップを続けているのである。

何度とも述べる通り無茶苦茶である。

少し感情が揺らいだ時点で城が消し飛びかねないのだ。

というよりも、そこまでしておきながら、彼女自身の人格が擦り切れて居ない方がおかしいのだが。

二人の言葉を右から左へと受け流すように「わーってますよ」言う風に受け流し玉座の間を出て廊下を抜けて。

庭に出て素通りし出る。

 

鍛錬場だったそこは。もうすでにそのあと形もない。

鍛錬場の中央には一匹の化け物が佇んでいるというよりも。

鎖で雁字搦めにされて藻掻いているという表現が正しいだろう有様だった。

全長は6m前後、骨格は竜と鬼種の中間問った風情である。

体には竜のような虚が多い。

両目は完全に爬虫類のそれであるが。人間とも鬼とも竜ともにつかぬ顔の造形と頭部から生えている白髪が。

かつてそれが美少女だったという名残を残している証明である、

身を応用に色褪せズタボロになった着物を羽織っており、

女の怪物といった風情だ。

 

「安珍様ァァアアアアアアアアアア!!」

 

頬まで裂けた口を開き愛しき人の名を叫ぶさまはもう目も当てられないとのことであろう。

狂っているというより狂っていなければ耐えられない。

だというのに。

影が生前の正気に戻してしまった。

 

 

―確かに、お前は彼を愛していたんだろう、だが愛とは相互の想いが成ってこその物。好意を君は持っていたが、彼は持っていなかった。だから彼は君の事を配慮し遠回しに振るのはごく現実的選択だ―

 

 

彼女の脳裏に浮かぶのはあの燃え盛るお堂。

正気に戻った時に、狂う瞬間に、現れた黒に塗れた僧である。

彼は口を吊り上げ淡々と事実を告げる。

確かに清姫は安珍を愛していたんだろう。

だが彼は君を愛していなかった。

だから遠回しに断って場を後にしたという現実を。

 

 

―ウソです・・・それは嘘です!―

 

―クク、ならなぜ彼を殺した? 問い詰めて聞けばよかっただけの話だろう? それで一切合切話しはついたはずだ。―

 

だが清姫は伝説にもある通りそうはしなかった。

追い詰めて焼き殺した。

 

―そしてその理由も単純だ。お前は怖かったのだ。自分が愛されてなどいないという事実を聞くのが。だから自分だけの都合の良い悲劇と言う、自分自身の妄執と嘘で塗り固めた思い出を作り上げるために。彼を焼き殺した―

 

―ち、違います!! 私はそんな、そんなことは―

 

―違うと言うのなら、なぜ殺した? 先も言っただろう? 聞けば済む話だと。だがそうはしなかった。死人に口無しという言葉の通り、殺してしまえばあとは自分の胸の中で好きなようにこねくり回して美化してしまえば良い。現実から目を背ける方法としては上等な手段だ。要するに貴様はフラれるのが怖くなり愛されていないという現実から逃げるために殺しただけだよ。―

 

 

そう違うというのなら殺す必要はない。

只聞けばいいだけの話であるから。

そうはしなかったのはどういうことか。

影の言う通り。自分可愛さに殺しただけ、自分自身を理想の幻想と言う嘘に塗り固めて現実から逃げようとしただけではないかという物を完全否定することは出来ない。

僧からすれば清姫は愛されていないという事実に恐怖し、己ですら騙して都合のいい解釈に逃避する少女にしか見えない

 

―うそは吐くなとお前は言うが・・・、お前ほど自分に嘘を吐き、己が可愛さに逃げてるやつも早々はいまいな―

 

―嘘・・・です・・・―

 

―まだ逃げるか? であるなら本当の自分に聞いてみると良い、本音と言う奴をな―

 

 

僧はケラケラと嗤いつつ、怯え竦む清姫に近づき、頭に右手を乗せて。

彼女の心の中からシャドウを引き出した。

 

 

 

そして清姫は壊れた。

結果がこれである。

無論、それだけなら原作通りなのかもしれないが。

召喚条件事態が違うのだ。

座の清姫が良心の呵責で自分自身への復讐を望みジャンヌ・オルタの召喚に応じ。

人格に影響の出るレベルの復讐者スキルを付属され召喚された結果がこれである。

常に泣き叫ぶように叫び散らし暴れる。

影が場にいたならケタケタと嗤っていたであろう状況であろう。

ジャンヌ・オルタはため息を吐きつつ、清姫に歩み寄る。

 

「全く、嘘が嫌なら俗世から離れて尼にでもなればいい物を。」

 

そう愚痴りつつ、炎を口の端や体の全身から魔力放射の形で吐き出す清姫に、ジャンヌ・オルタは事も無げに近づく。

今更、この程度の炎で痛みなんぞ感じていないと言わんばかりだ。

無論、皮膚は焼けただれ髪の毛は焼ける。

だが取り込んだ聖杯と怨霊たちがそれを許さず、即座に再生を始める。

霊核を穿たらなければ死ぬことはない。

が痛みはシャットダウンできるほど便利な物ではなく。

負傷と再生が繰り返される激痛にも彼女は眉一つ歪めていなかった。

清姫の背に触れて彼女の増悪をジャンヌ・オルタは吸い取ってエネルギーに変換する。

無論、それは彼女の感情をそのまま引き受けるのと同じだ。

生身で今と同じように炎を浴びるのと違いはない。それが肉体面的であるか精神的な面であるかの違いだけである。

憎悪を吸収されて清姫が沈静化する。

 

が今度はジャンヌ・オルタであった。

肉体内面から噴き出るエネルギーに霊基が軋みを上げる。

無論彼女とて馬鹿ではない。

 

堪える。

 

自分自身が望んだことであるし、いつも通りなのだから。

 

耐えて己が力とする。

 

 

「君こそ、それが合致すると思うが」

 

ジャンヌ・オルタが膝をつく前に。

割って入ったサンソンがジャンヌ・オルタを支える。

 

「・・・居たのアンタ・・・」

「まぁ、医者の言う事を聞かない患者がいるからね・・・、いつでも動けるようにはしているのさ」

 

清姫が暴れ散らしていたことは既に彼は認識済みだ。

そこにアタランテからの連絡が飛んでくれば来るという物なのだから。

霊基の同一化によって光属性やら祝福儀礼済みの武器でも霊核に喰らわない限り。

ジャンヌ・オルタのサーヴァント一同不死である者の。

逆を言えばジャンヌ・オルタが消えれば彼等もまた消えるのである。

それでは困るのはどういう感情がアレ、困るというのは真理であるのだ。

 

「とにかくこれ以上の強化処置は自爆でしかない、僕としては困るから怨霊の消化に努めてほしいね」

「はいはい、分ってるわよ」

 

サンソンの物言いに投げやりだがジャンヌ・オルタは答えた。

彼女のエネルギー源であり霊基の強化剤の一つである怨霊は吸収して片っ端から消化と言うわけにもいかない。

誰にも胃の容量と消化時間がある様にすぐにとはいかないのが現状だ。

しかしである。

 

「けれど明日には出撃するわよ、それで明後日には決戦ね」

「あのね、少し自重するようにって言ったばかりじゃないか」

 

予定されていたこととはいえ。

サンソンもジャンヌ・オルタの無茶には苦言を呈する。

本当におかしいのだ。霊基の同一化、怨霊の吸収、聖杯の取り込み。

自我が崩壊するのが普通なのに。

彼女の人格は欠損すらしていない。

いいや壊れているから壊しようがないというべきであろう。

憎いからすべて終了するの一念と、カルデアへの希望で彼女は動いている。

 

無論、それを知ることはサーヴァントたちには理解できない。

彼女の憎しみはそこまで根深く。

自死衝動と両立されているものだった。

あやふやで矛盾しているが絶対にやり通すと言う危ない意識が彼女を彼女足らしめている。

それはどこかの聖女と同じもの。

コインの裏表だ。

無論、ジャンヌ・オルタは気づいていない。

そういう風に誘導され、作り上げられた。合わせ鏡であるということも。

最も知ったところで止まりはしない。

今の彼女を打破できるのは。

カルデアだけだろう。

同じ同族であり憎しみを持つ者たちだけがジャンヌ・オルタを倒せるのだ。

故に屈さぬ、倒れぬ、進み続ける。

この程度、喰らい尽くせずして何が報復者かと言わんばかりに。

何もかもを飲み干して己が憎悪を増幅させるためにあらゆる憎悪を背負うかのようにジャンヌ・オルタは立ち上がった。

 

「・・・」

 

その様子を見て、サンソンは口を歪めた。

それは哀れみであった。

サーヴァントと言う死者に囲まれ、怨霊に囲まれ、そのすべての憎悪を取り込んで復讐の為だけに歩き続ける。

まるで死者を背負って冥府魔導を歩み続ける聖女の如くに。

だからこそこの場に居る誰もが何も言えぬ。

だって、彼女の憎悪に乗っかる形でしかこの場に存在できないからだ。

英雄に縋る大衆のように。

 

 

彼女の憎悪に惹かれて縋っている亡霊共が何をいえようか。

 

 

「ジャンヌ!! ジャンヌ!!」

 

 

だが物事の道理を弁えず全力で縋っていく人間も居るわけで。

ジル・ド・レェもそんな人間だろう。

拗らせて間違えて現実から逃げて目を背けている。

 

「ランスロット殿が回復し全ての準備が整いましたぞ!! 屍兵にワイバーン、悪魔たちもいつでもティエールに攻め込める準備が整いましたぞ!!」

「そう」

 

 

故にジャンヌ・オルタは未だに現実を直視せず自分とオリジナルを重ねているジル・ド・レェに冷たい目線を送るのだ。

まぁいずれにせよ準備は整った。

 

 

「総員、出撃準備、ヴラドと合流しティエールを落す」

 

 

相対との時まであとわずかである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは奇妙な部屋だった。

大よそ金持ちの所持するダイニングルームと言った方が表現的には正しいだろう。

最も壁は全て黒で塗りあげられており、壁自体には様々な国の文化が生み出した仮面が掛けられている。

その部屋のカウンター越しのすぐ隣の部屋では、yシャツと黒のスラックスにエプロン姿のくすんだ金髪の美中年が料理をしていた。

軽く茹でた豆腐を均等に切り分けて。

香味料や豆板醬、豚のひき肉が混ぜられ炙りに困れた赤黒くトロミのある液体の入った中華鍋へと投入する。

所謂、麻婆豆腐と言う奴であるが。

常人では悶絶しかねない、辛いという香りが蔓延していた。

同時にすっごくおいしそうな香りまで漂ってくるのである。

 

「一種の麻薬だな」

 

リビングの大テーブルの一角に腰かけている神父はぼやく。

中年男の作る麻婆は辛すぎる、それこそ作る工程で悶絶する代物である。

辛さも神父が嘗て通っていた店の倍である。

大よそ常人が食える代物ではないというのに、凄まじく美味いのだ。

辛さと美味さが拮抗し、辛すぎて死ぬかもと、わかっていっても手と口が動くのだから。

麻薬的に美味い物という表現があっているだろう。

 

「酷い言い草だね、言峰」

 

中年男は苦笑しつつ鍋を振るう。

そのたびに麻婆と鍋が熱で焼ける音が響いた。

 

「それだけ美味ということですよ。師よ」

「ならもっと詩的に表現したまえよ、他者を巻き込む魅力を生み出すのは知識とそれを応用し適切に運用できる頭脳だからね」

「誰しもが知識に憧れる故でしたか?」

「そうだとも。人という物は自分にない物に惹かれるからね」

 

言峰の返しに満足げに中年男は頷き。

二つ用意された皿に分量が均等になる様に盛り付け。

優雅に皿を運び、言峰の前に一つ。自分自身が座る位置の机に一つ置き。

保存棚からワインを取り出す。

 

「シャトーペトリュス1981年、良い物だよ此れは」

「ほう、ぜひ拝啓したいものですな」

「無論、君にも飲んでほしい、そのために開けるんだから」

 

 

コルクを男が引き抜き。

言峰と呼んだ神父のグラスにワインを注ぐ。

それと同時に部屋の壁に取り付けられた液晶テレビに砂嵐が走り。

映像を映し出す。

 

 

「ようやく、開演ですな」

「ああそうだとも。ようやく始まって彼らの物語が始まる」

「すべての人類に対するですかな?」

「無論だとも、時に言峰、彼女をどう思う?」

「実に正しいと言えるでしょうが・・・、そんな極論を語らせるために用意したわけではありますまい」

「その通り。彼女もまた影なのだよ。」

 

言峰の言葉に中年男は頷きつつ言う。

彼女もまた影であると。

 

「・・・師の化身でしたか?」

「いいや違うよ。すべてが私でしたは、興覚めも甚だしいところだろうからね、だから用意した物だ。すなわち何かしらに紐づけて憎む自分。そして世の不条理さを知るがゆえに憎しみ殺すというテロリズム、誰もが抱える世の不条理に怒る仮面そのものだ。

同時に周防達哉という存在が持ちえる怒りの具象でもある」

「・・・すなわち理解者と言う事ですかな?」

「その通り、世界を滅ぼした悲哀と自罰意識を持ち世界を救った男にはぴったりの番いだろう? 世界をどうであるかを知り憎しみ抜き滅ぼし、なお足りぬと叫ぶ、他罰意識に飲まれた女と言うのはね」

 

要するにジャンヌ・オルタは中年男にとって周防達哉の抱える憎悪の具象でしかないという。

現実、彼も一歩間違えれば彼女のようになっていっただろうということは明らかであるし。

そう言った境遇である。

故にすべてを憎み、報復を望む女の声は、自罰意識などで抑え込んではいる物の。

世界に対する理不尽への怒りを持つ、達哉を揺さぶるのには絶好の玩具として中年男も期待しているのである。

中年男の言いように言峰は苦笑しつつ

 

 

「相変わらず趣味が悪い、それだけではないでしょう?」

「ほう、その心は」

「IFの自分も、またペルソナでしょうに。ありえたかもしれないというのは精神的に変容すればなることが出来る。オルタの姿はありえたIFでしょうな」

 

そう、IFの自分と言うのも、またもう一人の己である。

生活環境が違うだけで人という物は変わる。

もしかしたらありえたかもしれない自分という存在なのは間違いがないだろう。

ジャンヌ自身が神の声を聴かなかった。大切な何かを胸張って言えるような性格だった。

そして超常的物語に運命の歯車として組み込まれ世界の真理を知って何もかもを失えばこうなるだろう存在である。

言い過ぎと侮るなかれ英雄譚とはそういった不幸の積み重なりで動く物なのだから。

環境が違えばありえたかもしれない、ジャンヌの姿なのだジャンヌ・オルタはジャンヌにとっての。

 

「その通り、故に彼女の存在は周防達哉だけではない、常に不遇の中で生きてきたオルガマリー・アニムスフィア、理不尽にさらされているカルデア職員、憎悪を知らず外の世界に憧れる、マシュ・キリエライト、そして白痴の極まったカルデアの王に対する問いだよ、同時にジャンヌ・ダルクに対する試練でもある、なにを見て、どう考えて、決断し、履行するかというな」

「ふむ・・・マシュ・キリエライトは成長株ではあるが、正直期待できないのでは?」

 

ハッキリ言って言峰から見れば、マシュ・キリエライトは成長株ではあるが。

まだ収穫もできない苗の様なものだ。

そんなものが影の試練に晒されればどうなるかは火を見るよりも明らかである。

 

「無論、目を背けたとして今は罰は与えんよ、自覚が出来るまでは待つさ。遅咲きの花を踏みにじるのは咲き誇ってからと相場が決まっている」

 

今は見逃す、されど目を背けて、成長できないツケはいずれ払うから見逃すということに他ならない。

 

「ジャンヌ・ダルクは?」

「無論、彼女には態度で示してもらおう。成長したのか否か」

「成長していない場合は壊すのですね」

「ああ、そうだとも、いい加減彼女も自分のしたことに目を向けるべきだからな」

 

影は運命から逃れるものを逃がしはしない。

例外はないのだ。

だれであろうとも。

 

 

「ジャンヌは人を破滅に蹴り落す天才だ。そして自覚していないと来ている、ならば自覚させたうえで選ばせると言うのがジャンヌにとっての試練であり罰となるのだ。その為にまずは与えてやろうではないか」

 

 

そう言いつつ影は嘲笑った。

無論彼らに対しての問いで済むはずがない。

影の試練とは対峙した者たちを問答無用で巻き込む試練だ。

人理光体に取り込まれた人々にとっても。

嘆き狂う獣にとっても。

それは例外なく己が怒りとの対峙なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




敵視点だと執筆が滾ったため投稿。
次回は年明けになるかなぁ・・・。作者のメンタルはランダムダイスの如くである。

邪ンヌ、ニャル様監修、VRペルソナシリーズ&メガテンシリーズを受けて人にブチ切れるの巻き。
それを強制プレイされれば、まぁ誰だって切れるし拗らせるよねって話。
ペルソナシリーズ、メガテンシリーズ共に主人公たちは奇跡を起こしてきましたが。
結局人は変わらないという絶望がありますからね。

たっちゃんも影を追い返せましたが人が変わったかと言われるとNOですし。
結局P3で桐条の爺がやらかして(ニャルの関与の可能性大)、キタローが尻拭いに奔走して奇跡を起こしても人は変わらず。むしろエレボスなんぞ生み出してますし。
番長たちも頑張ってイザナミを殴り抜いたが、世の中は何時もの通り。
ジョーカーたちに至っては、奇跡を起こしたから、それに有象無象の大衆が乗っかってヤルオをぶちのめしたけれど何も変わらないという、世の無常さですよ。

そこにメガテンシリーズとDSJまで追体験すりゃ、自分も含めて人間駄目じゃん、人類皆殺して影を追い出して次の生命体に期待するしかねぇ!!ってなるのは道理なわけで。

ニャル「たっちゃん達が抱える、憎悪の合わせ鏡としては上々、邪ンヌが全力で自覚している上で間違えるスタンスに草wwwwwwwwwwww」


それと文字稼ぎでニャルとコトミーの日常
既にコトミーはニャルの眷属です。
第一部ではコトミーは主にニャルとの会話担当兼傍観者
第二部で暴れる予定。

ニャル&コトミー「ペ~ルペ~ル、ぺ~ルソナ~♪ ジャンヌはどうなるだろうかなぁ~♪ マシュはどうなるかなぁ~♪」



と言う分けで、次回はすまないさんは確定として。カルデアの誰かとのコミュ回のち迎撃準備

次の次はカルデア&フランス連合軍VSジャンヌ・オルタ率いるインスタントアヴェンジャー軍団との戦争だよ!!





最後に言わせてください。


キヨヒーファンの読者さんたち、本当に申し訳ないッッ!!(土下座)


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六節 「開戦」

これは・・・『大変なこと』になるかも知れない


ゴジラVSビオランテより抜粋


ジャンヌは悪酔いしていた。

普段はこの程度で酔わないのだけれど。

ジル元帥の言葉が胸に刺さる。

 

自分は最善だと思っていった。

あとは自分が死ねば誰も悲しまないものと。

だが・・・どうだ?

ジル元帥はジャンヌの事を思っていた。それが恋か横暴かあるいは父性からくるものなのかは。

知るのは本人ばかり。

愛されていた。愛されていたんだと自覚して。

 

脳裏にちらつくのはもう一人の自分。

 

憎悪で狂って滅ぼそうとするもう一人のジャンヌ。

 

そして座の記憶データに刻まれたジル・ド・レェの末路。

 

忘れようと頭を振るう。

自分は聖女なのだから、彼女とは違うのだと決めて。

布団に潜り込んで。

 

 

 

悪夢を見る。

 

 

それは当たり前の事、自覚していなかった悲劇が、自覚したことによって悪夢となっただけ。

 

 

 

それは此処に呼び出されてからの夢だった。

轟々と火の手が村から上がっている。

いやそれは正しくない表現だ。

ジャンヌ・ダルクの現実逃避的思考の産物である。

 

故に正しく表すならこうだろう。

 

山火事が起きたかのように村が焼き払われていた。

 

家も木々も水も土も何もかも燃え上がっていた。

 

まるで龍が神話のように戦士たちを吐息で薙ぎ払ったかのような燃え上がりっぷりだった。

 

ジャンヌ・ダルクの故郷の「ドンレミ」が焼け落ちていた。

 

 

「なにが・・・」

 

 

情報はない加えてスキルが不発。

それでも故郷が焼けているということにジャンヌは駆けだす。

全力で走り村へと向かう。

村との彼我の距離が小さくなるにつれて。

ジャンヌの鼻孔を擽るのは家の焼ける匂い。人が焼ける匂い、生き物が焼けて炭になる匂いである。

 

「なんで・・・」

 

村へと近づく。

入口の前は炎が壁のようになって立ちふさがっていた。

そして火柱の前には巻き込まれかけて生きながらにして焼かれて苦悶の声を上げる人々が居た。

ジャンヌの知った顔だった。

 

「小父さん!!」

 

慌てて駆け寄る。だがその人物はジャンヌをジャンヌとして認識できない。

五感のすべてが炎であぶられて破壊されているのだ。

皮膚は炭化し、肺は熱で破壊され。血液中の水分は致死量のレベルで排出されている。

瞳は熱波を浴びた瞬間から機能を停止し焼いた魚の目のように白濁としていた。

 

それでも人はなかなか死ねぬもの。

ここまで焼かれてショック死できないのは不幸極まるという物であろう。

ジャンヌは幼少期から世話になった小父さんと呼んだ彼に駆け寄って。

抱き起こそうとして。

 

 

「待ってください、いま「駄目じゃない、キッチリ殺してあげないと」

 

声と同時にドスと音が響く。

男性の後頭部に短矢が突き刺さっていた。

後頭部から脳まで一気に貫通し即死させる。

後頭部から血を噴出しつつ男性は倒れ伏し。血がジャンヌの頬を濡らした。

 

「・・・あら、どんな慈善業者が来たのかと思ってウンザリしていたけれど。アンタも来ていたのね。オリジナル」

 

矢の飛んできた方向を見る。

そこには。

 

左手に槍と旗が一体化した武器を持ち。右手の指の間に挟み込むように矢をもって。

瞳は黄金色に染まり、肌は蝋のように白く染まって。

灰色の髪の毛を腰まで伸ばし、身に紺桔梗色のドレスと具足を着こなし。

その表情は笑っているように見えて憎悪一色染まった。ジャンヌ・ダルク自身こと「ジャンヌ・オルタ」が存在していた。

 

彼女の一歩後方の左右にも敵性存在が居る。

一人は黒く赤く亀裂の入った鎧を身にまとう美丈夫で。

もう一方は漆黒のコートを着込み腰まで黒い髪を伸ばした美青年である。

 

「ジャンヌ・・・」

 

コートの美青年は口の端から炎をチラチラと滾らせながら、憎悪に染まっているジャンヌに声をかける。

 

―殺していいのか?―

 

と。

 

「駄目よ、ファブニール。アレは私の獲物よ。ランスロットも手出し無用、OK?」

「御意に」

 

ファブニールと呼ばれた青年は憎悪に染まっているジャンヌの言葉を聞いて舌打ちしながら下がり。

騎士「ランスロット」は不満はないため率直に下がる。

 

「アナタは誰です・・・、なぜこのようなことを・・・」

 

目の前の存在は余りにも

 

「誰? 誰?? 誰ですか??? なぜこのようなことを???? アハハハハハハハハ!!  ハハハハハハハハハハッ!! 滑稽ね! 滑稽よ!! ねぇ聞いた? 元凶がなんか言っているわよ!!」

「元凶、私が?」

「そうよ、ジルがあの獣畜生風情に惑わされた元凶じゃない、ジルの狂気を見抜けず自己完結して勝手にくたばって。そのあとも彼の祈りに応えることなく放置してこの様じゃないのよ」

 

そう、自己完結する終わりとは大概周囲に不幸を生み出す。

生前からそうなっても悔いは無いと公言しているなら、狂った連中は馬鹿で済むが。

言っていないのなら。狂った原因が本人に有りきと一概に責めるわけにはいかない。

火あぶりにされて殺されても仕方が無いとジャンヌ自身が己が行動の結果を見定めて言いくるめておけば。

こんなことには成らなかった。

 

さらに言えば彼女がジルの祈りに応えたことはないだろう。

本当に彼の事を思うのならZEROの時に来てやるべきであったし。

この特異点で、ジルの召喚に応じて殴り飛ばして、戒めるくらいはしろよという話である。

 

「アンタはジルの祈りに応えず、その場で収めようとしなかった。結果、私が生み出された。ジルの理想の復讐に燃える聖女。ジルの自慰の果てに生まれた出来損ないの代替品(オルタナティヴ)が私」

 

その果てにジャンヌ・オルタはジャンヌの代替品(オルタナティヴ)は産み落とされた。

祈りに応えなかった。結果、復讐者のジャンヌであるオルタが位置から作り出されたという分けである。

 

「だから私の両親を殺したんですか!! 私を苦しめるために!!」

 

だからこそジャンヌは自分への報復心でこんなことをしているのかと問い詰める。

ジャンヌ・オルタは状況的にそういう考えに行くかと思い訂正するべく言葉を紡ぐ。

 

「ああ、そっちに思考が行くのね・・・、こっちは私自身がやりたいことの為に殺しているだけよ、アンタは関係ないわ」

「・・・・え?」

 

別にアンタへの報復心で動いているわけではないと述べる

確かに彼女は不出来な贋作として生み出されたが。

不出来であったがゆえに本人とは別の可能性に行きついてしまった。

影の見せた現実のような夢の果てに。贋作は独立し一個の生命体として自立し掛けているのである。

故にこの憎悪はジャンヌ・ダルクのモノではなくジャンヌ・オルタが抱く本物の憎悪だ。

 

「私の目的は人を殺し尽す、区別はないわ、全人類を殺す」

 

ジャンヌ・オルタの考えはそれだけだ。

全人類を殺す、影と愚かな大衆への復讐としてだ。

 

「なぜ・・・そんなことを・・・」

「まだ分からないの? ジルの下りで理解しなさいよ、人は見たいものだけを見て、知らないものは知らないと通り過ぎて、危機に直面すれば出来るやつに縋って背負わせて挙句に使い捨てる。そんな愚衆の歴史がこの世の歴史よ、頑張っている連中が一向に報われない、試練は人類が人類である以上続く、祈ったところでなにも変わらない、だから終わらせるだけよ」

 

奇跡を無駄に浪費して生きていく世界に何の意味がある。

成果があれば希望もあっただろうが。

出したところで愚かな愚衆共はそれを食いつぶしていく。

ジャンヌ・オルタはそれを見てしまった。

故に復讐する、人類に。

余りの極論にジャンヌは唖然となり・・・・

叫んだ。

 

「それはただの八つ当たりでしょう! くだらない極論と何が違うというのですか!!」

 

無論、ジャンヌの言う通りそれは八つ当たりである。

糞くだらない妥協案と言っても刺し違えない。

 

「アンタもやったことでしょうが」

 

がジャンヌも人の事を言える存在か?

否である。

 

「百年戦争という糞くだらない内紛を終わらせるために、神の声を聴いたという大義名分掲げて、気に入らない連中をぶっ殺したじゃない」

 

そう彼女も殺している。神という名の大義名分を掲げてお前も気に入らない連中を殺しまくったんではないかとジャンヌ・オルタが言う。

 

「祈ることを止めて、武器を手に取って殺す手段に出た。アンタに私をとやかく言う資格はないでしょうね、最低でもナイチンゲールくらいにやり切ってから物を言ってちょうだい」

 

無論覚悟があるからやって言い訳が無いのは言える道理である

自覚ありきで全力で滅ぼさんとしている女と自覚無しで他者を先導し殺す女。

どっちが正しいのかは勝利した物が正しいと言えよう。

 

「ほんと、私のオリジナルだけは在るわね、正の方向に走ったか負の方向に走ったかの違いだけね」

 

流石は自分自身のオリジナルだ、見ているだけで吐き気がするとジャンヌ・オルタは嘲笑う。

 

「違う!!」

「はっ、だったら答えてみなさいよ」

「なにを」

「私の憎しみはそうね、それらが出来なかった人たちのためと自分のためにやっている」

 

少なくとも、ジャンヌ・オルタの報復心の源泉はあの仮想体験だ。

幻想にすぎなくとも彼らと共に駆け抜けたのだ。

故に極論、自分の為ではあるけれど。

それでもジャンヌ・オルタには彼らという存在の憎悪を叶えてやりたいという気持ち。

即ち特定の誰れかが、存在する。

故に問いただす。

お前の渇望は他者を押しのけてまで成すべきことなのかと。

 

「だから彼らに殴られても殺されても胸を張って言えるわね。あなた達を貶めた世界が憎いから殺すと。だから胸を張ってアナタを救いたいという存在がアンタにはいるの?」

「誰かは皆に決まっているでしょう!」

 

その言葉に・・・

ジャンヌ・オルタは・・・・無表情へとなった。

 

 

「結局、誰も愛していないのね・・・アンタは」

「何を言っているんですか、私は「誰の名前もとっさに出てきてない時点でどうでもいいんでしょう」

 

 

反射的に言葉に出してしまう人の名とは本当に想っているという事である。

が逆に言えば、咄嗟的に言えないのなら。

それはどうでもいいということに他ならない。

全てを愛しているという言葉が平等というように。

誰かとか皆とか言っている奴は基本的に誰も愛してはいないのだ。

 

 

「だからジルの祈りに応えなかった。ジークのところに行こうともしない。」

 

 

それはジャンヌのアキレス健だった。

英霊の座にたどり着いてしまった時点で彼らのもとには行けない。

嗚呼、だがしかしだ英霊の座が並行世界に跨る以上。

チャンスはいくらでもあったはずだ。

聖女の仮面を脱ぎ捨てて少女として挑むくらいには世界は寛容だ。

人はそうでもないが。

 

「黙って」

 

暴論にも等しい正論にも

ジャンヌはその指摘に言ってしまった。

言ってしまったのだ。

 

オルタの表情から虚無から憤怒に染まる。

 

結局お前もそうなんだなと。

 

 

「ふざけんな! 私の言い訳なんぞ跳ね除けなさいよ! ジルがジークが大好きだったと、なぜほえないのよ!! お前がそんな様だから」

「黙って!!」

「私が無様に生み出されたんだろがぁ!!」

 

悪夢だった。

因果なものである。故に死は救いだ。

己が死後に世界を見ずに済むのだろうから。

救済の祈りが絶望を具現化したなどという悪夢を見なくていいのだから。

 

「どうすればよかったのですか・・・・」

 

悪夢にうなされ目が覚めたジャンヌは涙をぬぐいながらポツリとつぶやく。

誰も彼女に教えなかった。

愛するということはどういうことか一途に生きるということはどういうことか。

 

「駄目です、ちゃんとしなきゃ、私は」

 

 

―ジャンヌ・ダルクなんですから―

 

 

分からない知らない辛い。

故に聖女の仮面をかぶる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティエールから若干離れた丘の上。

そこには指揮所の為の陣が出され。

簡易的な倉庫がたてられていた。

その倉庫の中には一台の馬車が存在している。

 

 

「ふぅ・・・・」

 

達哉は馬車の下から這い出るように出てきてため息を吐いた。

敵戦力が前線に集結中とのことであった。

開戦は今日の昼から明日にかけてと予想されている。

戦術は既に決まっている。

敵サーヴァントをこちらのサーヴァントで抑え。

戦況を硬直させ、達哉、マシュ、マリー・アントワネット、ジャンヌで敵本陣へと殴り込みをかける。

敵の予想戦力がこちらの手札を総動員して拮抗状態に持ち込むのが一杯一杯である以上。

ジャンヌ・オルタの首はサーヴァントとガチれる達哉にやってもらうほかないとの判断であった。

冬木では消耗しており今一真価を発揮できなかったが。

本来であれば最上位のペルソナ使いである。サーヴァントに遅れは取らない実力者である。

これで不足であれば令呪なりなんなり併用して仕留めに掛かるほかない。

 

サーヴァントとして絶賛ポンコツ気味のジャンヌが突入メンバーに選ばれたのは噂による機能回復及び。

ジャンヌ・オルタに対する特攻を付与するためである。

 

切れるリソースがそこを実際にはつきつつあった。

ジャンヌ・オルタも脅威的ではあるが制空権を握るファブニールの方が戦略的には危険であるとして。

元々枯渇気味だった戦力サポートリソースをジークフリードにつぎ込んでいるのである。

これ以上戦力を遊ばせる理由はないとオルガマリーは思い切って噂結界を利用することにした。

戦場という物は絶望に覆われるし大勢の目がある、故に事前に兵士たちにとって都合の良い希望を仕込んでおけば噂は即座に真実として認識され起動するからだ。

故に突入組に編入された。

 

マリー・アントワネットも裏では修羅場を潜り抜けているので在る。

流石に本職騎士に劣るとはいえ地味に近接能力があったりする。

マシュは無論外せない。

シールダーという特性と防御宝具は突入の際に対して最も必要になるからだ。

 

まぁ所長から言わせれば。

 

『ほんとなら、敵ボスなんて囲んで袋叩きにしたいわよ!!』

 

という物である。

実際戦力分散の上に50%以下の賭けをするなんぞ普通は通らない。

というよりせざるを得ない状況だからしているだけの話である。

普通ならば各個撃破に持ち込みたいが追い込まれている現状その余裕はない。

後は出たとこ勝負で状況に合わせて戦術を変化させていくほかないのである。

 

という分けで。突入組は今までマリー・アントワネット率いる愚連隊が使っていった馬車を修繕して補強し突撃するということになっていった。

 

敵の親玉の懐に乗り込むのだ。

少しでも頑丈にと、ダヴィンチちゃんがプライベート用の自己製造車両のパーツのパーツキット(ボーダーとは別の趣味で作っていった奴)をよこしてくれたので。

バイクいじりが出来る達哉が工具を片手に補強作業しているのである。

 

「すまない、達哉、此れでいいかな」

「・・・大丈夫だと思う」

 

這いずり出てきてみれば。

馬車の横で鋼板を取り付けていたジークフリードがボルトのゆるみが無いかで悩んでいた。

如何に知識的バックアップがあるとはいえ知っているだけでは実際にちゃんとしまっているのかは分からない。

達哉はスパナをボルトに入れて何度か力を入れて締まりを確認する。

経験則上、問題は無いと達哉は判断し問題ないと判断を下す。

 

「少し休憩にしないか? かれこれもう三時間になる」

「そうだな・・・」

 

朝早くからずっと作業詰めだった。

ジークフリードは術式の予備チェックということもあって作業を手伝っていた。

現在、術式が走って痛みを消して魔力を通常の二倍流して強引に傷を押しとどめている。

故にこの程度の作業なら支障はないようなので。

問題なしとバングルでラインを送っておく。

 

「食べますか?」

 

コンビニのサンドイッチと缶に入ったお茶を差し出す。

 

「いいのか?」

「はい、手伝ってもらってるんで」

「・・・じゃ遠慮なく」

 

ジークフリードはそれらを受け取って。

達哉と共にベンチに腰掛ける。

空は青々としているが、開戦が近いということもあって町全体が沈黙しており。

通りには人が居ない。

それを寂しいと思いつつ達哉はハムサンドを齧って咀嚼し。

お茶を飲んで一息つく。

 

「君、ため息が多いな」

「・・・気に障りました?」

「いや、そうじゃない、少し気負いすぎだと思ってな」

 

ジークフリードから見ても達哉は気負い過ぎである。

いや世界を取り戻すという重圧は仕方が無いと思い言葉を紡ぐが。

 

「俺は世界を守るために戦ってるわけじゃない」

「・・・?」

「そんな大義に命はかけられないよ・・・俺は」

 

そうあの時もそうである。

いつだって達哉は仲間のために戦っていった。

世界を救うとかいうあやふやな大義を掲げているなんて一般人の達哉にはできない。

だから友達の為に戦っていた。

世界を救わねば人は生活できないし消し飛ぶんだから。そうするほかないだろう。

その方がしっくりくるし自分の純粋な気持ちだった。

世界を救うだとか万人を救うだとかそういうヒーロー的思考は達哉は抱えられないし思うことは不可能だ。

だから友人の為に世界を救うという思いを抱えて此処に居る。

付き合いは短いけれど。カルデアの面々と共に明日を手に入れるのだと。

 

「俺は皆と一緒に居たいから戦うそれだけだ」

 

それは極めてエゴティックな祈りだが。

純粋でもあるしそう思う方が進んでやれるというのもある。

大義を成すために大義を抱え込むのではなく大義を成すために小義を抱え込んだ方が健全だ。

 

「そうか君は、自分がなすべきをちゃんと理解しているのだな・・・」

「ジークフリードさんだってそうでしょ・・・」

「いや俺は生前、他者から言われたことしかやらなかった。それが英雄としての義務だとも思っていた。だがな逆に言えばそれは他者の意思に縋って自分では何も考えてこなかったのではないかと。思ってな」

 

生前ジークフリードはそうやって生きてきた英雄として。

他者の祈りに応えるように生きてきた。

結果、あの惨劇である。

その結果、死後にジークという少年の祈りに応えた結果。

彼を邪竜に変貌させて裏世界に叩き落すという結果を生んだ。

 

あの時はそれで納得したが。

振り返ってみれば善意で助けただけで。その後の事なんぞ知っちゃこっちゃないという行動そのものだ。

吐き気がした。行動の結果を考慮せず自己満足だけ満たして少年を地獄に突き落とした己の愚かさに。

 

故に他者の望むままに生きて望むがままに死ぬ。

それは自分で望まず人の都合の良い道具として主体性の無さの具象であるとも呼べる生き方に己を縊り殺してしまいたくなるくらいに・・・

故に、こうやって自主的に生きて目的を成そうと必死に生きている達哉という青年が。

ジークフリードには眩しく映っていった。

 

「だから望んで戦うという正しい義務を抱く君が眩しく見える」

「・・・それは買いかぶり過ぎだ。本音を言うとこんなことはしたくない、でもやらなきゃ皆を失うからやっているだけです」

 

義務とはやり通さねばならぬことだ。

望むにせよ望まぬにせよ。

達哉本人はこんなことを望んでも居ない。ただ皆と一緒に居たいという願いが根幹にある以上。

世界の滅亡なんぞ本当は欲しくはない。

だが皆を守り生き残るという題目を成すためにはやるほかないのである。

何かしらの願いを抱える以上理不尽に会うのは必然である。

 

と言っても達哉の場合はその理不尽が度を超えているというのもあるが。

 

影に絡まれればそうもなるのはしかたがないといえた。

 

「というか、ジークフリードさんは自分に主体性がないとかいうが。あるんじゃないか普通に」

「・・・そうか?」

「他者の祈りに応えて生きてきたと言うけれど。やっぱそういうのって自分が望んでやってこないことにはできないものだと思う」

 

他者の意思に応えて生きる。

先ほども述べた通り主体性の無さを強調する生きざまだが。

これは側だけの理論である。

普通、他人の意思に応えるということは酷く辛い。

知人ならまぁ容認範囲ではあるが。見知らぬ他人の意思に応えるとなると辛いことである。

故にジークフリードレベルまでくると主体性の無さというよりはもう望んでやっていなければおかしいレベルだ。

 

「だからジークフリードさんが認識していないだけで。本当は自分自身でそうやりたいって根幹的理由がある筈」

「・・・そうかな」

 

生まれながらにしてそうであったなら。

それこそ怪物だ。

光の奴隷と言うほかない。

だがそういう奴に限って、こういう風に悩むことはない。

悩めるなら十分そういった風ではないと達哉は思い指摘する。

そう行動するに足りうる何かがあったはずだと。

達哉にはあったからアマラで、ああやって行動したのだから。

 

「・・・」

 

ジークフリードはその指摘を受けて過去に思考をうずめる。

生まれてから死ぬまで。

何故そう生きようと結論付けたのかという切っ掛けを知るためにだ。

そして思うのだ。

 

 

「そうか・・・そうだった・・・」

 

 

幼少期、幻想種に困らされている近所の老人の頼みを受けたのが切っ掛けだった。

そんなごく普通のやり取りだった。

誰かを助けられることがうれしくて。それで始めたはずだった。

 

「なぜ・・・忘れてしまっていたんだろう」

 

そうやっていくうちに擦り切れて義務感になり生理的反射に成り果ててしまった。

だが無理もない。

それが人間だ。自分のしたいことをやっているうちに、擦り切れて欲を忘れてしまい道を踏み外すこともあれば。

逆もまた然り、やりたいことに固執しすぎるあまり間違った方向に行ってしまう。

だからこそ、人は一人では生きていけない。

他者との繋がりと視点をもって、己が人生の道筋を修正しなければゴールにはたどり着けない。

そう言った繋がりの部分でジークフリードは恵まれなかった。

こうやって指摘してくれる、思い出させてくれる人が居なかった。

だから忘れてしまうのだ。

頭を抱えて嘆くジークフリードに達哉は何も言えない。

達哉もある意味同じである。

皮肉なことに影があの運命を紡がなければ思い出すこともなかっただろうから。

 

だからこそとジークフリードは思う。

 

今度は道を違わないと。

 

「すまない、戦端も近い、休ませてもらうがいいだろうか?」

「はい、大丈夫ですが・・・・問題でも?」

「君のお陰で。ようやく俺はやるべきことを思い出せた」

 

 

影は言った。主体性が無いからそんな様なのだと。

打ちのめされて叩きのめされた。

だがいまなら奴にも胸を張って言える。

俺がしたいからやったのだ。

罪と罰は受けよう。

だからこそこれは自分自身の行動の結果だ。

お前がどうのこうの言う物ではないと影に心の底で言い返して。

場を後にする。

やるべきことの為に成すべきことの為に。

若人たちの道を切り開く為の剣を取るためにだ。

 

 

「やはり強いな英霊の皆は」

 

達哉は眩しそうに目を細めてジークフリードの背を眺めつつ。

残った作業も彼の手伝いもあってかあと少しなので。

ちゃっちゃと終わらせようと残ったサンドイッチを口に放り込み。

よく噛んでからミネラルウォーターで流し込み作業に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作業が終わって本陣へと入れば皆がそろっていた

 

 

今や、戦端は開かれようとしている。

 

「配置に変更は無し、左翼、変装したエリザベート、右翼 マルタ及びゲオルギウス、中央はクーフーリン、宗矩、長可で。本陣待機は私、アマデウス、書文、ジークフリード。敵本陣突入組はタツヤ、マシュ、マリーにジャンヌよ」

 

左翼右翼は主に通常戦力との戦闘が主眼となる。

敵のサーヴァントは不死だ。

中央突破に戦力を集中してくると言う事を予想し合えて薄目で行くことにしておく。

そしてアサシンとファブニールは間違いなく本陣攻略に使われることは眼に見えているため。

首狩り戦術を防ぐのとファブニールをおびき寄せる餌場として活用するためにこの配置となった。

中央戦力は精鋭を集め。相手の攻撃を縫い留める役割をしてもらわねばならないし。

最も激戦区になる。

前衛指揮官はやはりこの三人しかなしえない。

左翼はあからさまに人手が足りていない様相だが。

 

「これで突っ込んでくるなんて只の馬鹿か、私みたいな阿保でしょ、あ、なんか自分自身で言っていたら泣けてきた。」

 

それはエリザベートの立案だった。

復讐心に濡れて居ながら、根っこの部分は変わっていない。

故に一番薄い場所にやってくると彼女自身が言ったのである。

と言ってもカーミラはエリザベートの事を避けている。

故に魔力殺しの一級アミュレットをもって一般兵士に偽装して左翼を餌にカーミラを吊り上げるという事である。

碌な戦力が居ないと分かればカーミラは悠々と来てくれるはずだとエリザベートは言う。

 

そしてジャンヌ・オルタ側が裏をかき左翼に殺到すれば令呪とカルデアの魔力リソースを使ってサーヴァントを集結させればいいだけの話。

故に左翼は問題にはならない。

だから問題はない。

 

 

「フェーズ1、私と達哉、クーフーリン、マルタで敵第一陣を壊滅させる」

 

作戦初期段階。

オルガマリーの魔術にアマデウスのペルソナを使って合体魔術によってランクを宝具級に上昇。

敵の第一陣を薙ぎ払う。

ジークフリードはファブニール対策で温存、本陣待機

 

「フェーズ2、敵戦力をサーヴァントたちに抑えてもらうわ」

 

作戦第二段階、大火力を使った後。敵のサーヴァントをこちらのサーヴァントで抑える。

敵の通常戦力はインスタント聖剣やら武装をもった兵士たちに抑えてもらう。

ワイバーンなどは初撃で落とせるしアマデウスのペルソナの能力で味方が展開している地域にはいつでもエリザベート砲が展開可能。

大砲などに聖別を施した釘を大量に詰めての対空散弾もたんまり用意しているので脅威ではない。

これで戦場に拮抗状態を作り出す。

 

「フェーズ3、タツヤ、マシュ、マリー・アントワネット、ジャンヌ・ダルクで敵本陣に殴り込む」

 

冬木とは違いペルソナ能力をフルに使える達哉であれば一級サーヴァントと互角にやり合えると宗矩の保証もあり抜擢。

マリー・アントワネットはペルソナのブーストもあって一級サーヴァントクラス。

マシュは未熟慣れど敵本陣に切り込む以上。守りは必須なため採用。

ジャンヌ・ダルクは噂結界の能力でサーヴァント能力を取り戻すために必須な行為+ジャンヌ・オルタに対する特攻付与の為に突撃確定という塩梅だった。

 

「私、書文、ジークフリードは本陣待機、アマデウスもね、これで敵が殴り込んできたところを迎撃するわ」

 

こう戦場を拮抗させれば向こう側も似たような戦術を取ってくるはずだ。

ジークフリードが居ようとも最上位ペルソナ使い&デミサーヴァント、一級サーヴァント一体に特攻搭載サーヴァント。

普通ならば焦るし。

そうなれば航空戦力であるファブニールを動かしてこちらを取りに来るはずであると。

アサシンであるシュバリエデオンも投入することは眼に見えているため。

その迎撃と察知の為に書文も本陣待機となった。

 

「これ以上は無理よ」

「ですな」

 

これ以上の作戦は現状無意味とオルガマリーは述べて宗矩も同意する。

斬れる手札が少なすぎるのだ。

ジークフリードが万全であるなら、もっとやり様はあったのだが。

彼は絶賛大怪我中であるどうしようもないのだ。

万全だったら。マリスビリーの遺産を聖晶石に変換してバルムンク乱射する予定だった。

 

まぁ出来ぬことは出来ない。

 

「以上解散!! 決戦に備えて各員第二戦闘態勢で待機!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マシュは手が震えていた。

開戦前の空気は張りつめていた。

兵士全員がピリピリとして。

サーヴァントたちも黙々と準備を始めている。

空はワイバーン達の声がこちらまで轟いていた。

それよりもだ。

 

 

 

敵本陣から漂ってくる殺気にマシュは恐怖していた。

 

 

殺す、殺し尽す、殲滅する。

 

 

そう言った意識が垂れ流れてきているようだった。

生れて経験した事の無い殺意の本流。

開戦前のにらみ合いである。

無論、戦経験者たちはこんなもの慣れっこだ。

所長は成れていないので軽めの精神安定剤でどうにかしていたが。

マシュは生まれからくる薬物の反応を恐れたロマニが却下している。

サーヴァントとしての能力に影響があるかもとして所長も却下していた。

 

故に緊張感からか準備でさえ碌に手伝えない有様である。

 

どうしようと思い。

マシュは達哉を探した。

彼はすぐに見つかった。

簡易的に組まれた倉庫から馬車を引っ張りだして。

その屋根の上に座っていった。

黄昏るように戦場を見つめて手癖のジッポを鳴らしている。

 

「先輩」

「ん? どうした? マシュ?」

「いえ、なにかお手伝いできることは・・・」

「いや、いま作業を終えたばかりだ・・・」

「そうですか・・・」

「・・・少し話そうか」

「え、はい」

 

 

あからさまに緊張しているのは眼に見えていた。

冬木では1on1や2on2が主であった。

戦力が三桁以上の軍勢のぶつかり合いは、さしもの達哉も初めてであるが。

日輪丸に単騎で乗り込んだときよりははるかにましだ。

なんせあの時は増援で舞耶達が来たが、彼女たちが来るまでには。

単騎で乗り込んでフル装備のクーデター軍やら、配備されたパワードスーツやら、悪魔やら相手取っていたのである。

たった一人で突撃するわけでは無いので達哉的には楽ではあった。

達哉が座る屋根に上ってきたマシュは彼の横にチョコりと座ると。

達哉がなにか言おうとするよりも早く。

マシュが口を開く。

 

「先輩は怖いとは思わないんですか?」

 

 

既に両軍にらみ合いの状況だ。

ロマニ曰く、サーチの結果複数のサーヴァントがすでに敵本陣に集結しているが。

動きが無いところを見ると大将各が来ていないと判断して。

故に動きが無いと結論付けている。

だからこそジャンヌ・オルタが本陣入りすれば

すぐに戦端が開かれるだろう状況である。

 

故に怖くはないのかと達哉に問う。

 

少しでも気を紛らわせるために。

 

「怖いさ」

 

達哉は躊躇なく本音を言った。

 

「先輩もですか・・・」

「まぁな。俺は普通の人間だよ。戦場を前にして恐怖しないなんてことは出来ないさ」

 

誰だって死ぬのは怖い。

戦場に恐怖を抱かないのはそれこそねじがぶっ壊れているというほかないだろう。

それは破綻者の証だ。

故に達哉は何時も恐怖していた。

何故なら・・・

彼は明確にペルソナの凶器的な側面を行ってしまった過去があるかだ。

 

 

「・・・だから怖がっていても縮こまっていてもなにもならない」

 

 

だが、しかし良くわかっているからこそ立ち上がるのだ。

失うのは怖い、死ぬのは怖い。

情けないかもしれないがそれが達哉にとっての原動力なのである。

 

「マシュも、状況に強要されたとはいえ・・・、選んだはずだ」

「はい」

 

幾らでも辞退できる機会はあった。

周りの人たちはいい人たちである。

マシュが無理ですと言えばロマニが必死で降ろすだろうし。オルガマリーも惜しみながらマシュを外しただろう。

だが彼女は選んだ。選んでしまったのだ。

 

「私は嫌です・・・、皆が死ぬなんて耐えらない、そして一人で怯えて事態から目を背けるなんてできません」

 

短い付き合いと言えばそうであろうが。

それでも嫌だった。普通に過ごす日常を世界を失うのが。

戦火に身を晒し達哉とオルガマリーが行く中、力があるというのに身を縮ませて怯えているなんてできなかった。

此処に来てから短いけれどフランスの現地住民との交流もあって一つの輪を作った。

それを失うわけには行かないと。

 

そう考えると、震えも止まっていった。

人間安っぽい理由で命を懸けられるからここまで来たのだ。

失いたくない、それがどんなに矮小であっても。

世界を救うという大義を成す小義となるがゆえにだ。

それを達哉は見て言葉を紡いだ。

 

「だが、それで熱くなり過ぎるなよ、死んでは元もこうもないからな・・・、生きて帰ることも重要だ。無理なら無理だというんだ」

 

冷や水を頭にぶっ掛ける所業であるが。

死んでは元もこうもないのも事実だ。

覚悟は良い、戦う気力になる。

しかしそれは死と隣り合わせの危険なカンフル剤であるからだ。

だから冷や水を掛けるような真似をあえて達哉はやったのである。

マシュは初めての戦場だ。うかつに覚悟を持つと特攻しかねない危うさがあるのだ。

覚悟を理由に無茶をされても困るがゆえにだ。

 

「難しく考えるな。こういう場合はそこそこに考えておけばいい」

「はい、わかりました。すいません、なんか浮き足立っちゃって」

「仕方がないさ。俺も熱くなりやすい方だ。もしもの時は頼むぞ」

「え、私がですか?」

 

が先も言ったことは達哉自身も当てはまることである。

若気の至りやら精神的に追い詰められていたとはいえ。

クーデター軍が配備されている日輪丸と呼ばれる豪華客船に一人単独で乗り込んで暴れまわったこともあったからだ。

だからこそもしもの時は頼むと言っておく。

 

「はい、やってみます!!」

「ああ頼むよ。・・・・っと、始まるみたいだ」

 

 

敵の陣が動く。

達哉のつぶやきと共にアマデウスがペルソナでラインを作る。

カルデアの魔力供給および通信ラインとは違う支援用のラインをだ。

これで離れて居ながらアマデウスのペルソナのスキル範囲内なら合体スキルを使用できる。

 

「勝って生きて帰るぞ」

「はい!」

 

そう言って。マシュも頷く。

生きて帰らねば何もかも無に帰するがゆえに。

 

彼らは死地へと赴く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という分けで雑の極みだったけれど、コミュ回はいったん終了!!

すまない、これが限界です、文章力の無い作者ですまない・・・

ジャンヌの悪夢。まぁ死後という物がない英霊たちは、生前の知人と邂逅すると嫌でも突き付けられる試練です。
此ればっかはしゃーなし

まぁ邪ンヌの皆殺しの願いも傍迷惑極まりないけどね!!

肯定されてはいかんのですよ、邪ンヌの願いも。

ちなみに出力アップの影響で邪ンヌは最終再臨状態です。

人にはそういった道を歩くのは、些細な切っ掛けでもいいからなんかあるよねって話パート1
パート2は戦争パート後のジャンヌとのコミュでやるよ!!





という分けで戦端が開きます

あとたっちゃん戦慣れしすぎじゃね?と思われる方も居るとおもいますが。
罪ほうでは仲間と一緒にカルト集団に殴り込みかけて
罰の方で、パワードスーツとフル装備の自衛隊が配備されている上に悪魔がうろついているテロリストの居城に単身乗り込んで無双してたからね?
ルートによっては、神取+パワードスーツ4機相手に単独で勝利してるからね?
慣れてないわけがないわけで。


箇所がきマジックすると、たっちゃんはMGSのサイボーグ忍者(初代)みたいなことしてますね。


という分けで次回から戦争パート、総力戦回を複数回に渡りお送りします。

だって憎悪深淵紛争だもの、この特異点のタイトル。

分かり合うことは出来ない。出来たとしても互いに相手へし折って進むほかないのですからねぇ。




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七節 「前哨の混戦 星が降る日を駆け抜ける者たち」

我が軍の右翼は押されている。中央は崩れかけている。撤退は不可能だ。状況は最高、これより反撃を開始する。

フェルディナン・フォッシュ 1851年~1929年


「これで揃いましたな」

 

場は混沌としている。

屍兵はまだいい。ワイバーンもまだいいだろうが。

海魔に悪魔と着ている。

悪魔に至っては受肉済みだ。

真性悪魔に近い物の、それは別の種族でもある。

情報体を媒介に阿頼耶識から現れた歪んだ願いの結晶でもあるのだ。

 

「ええ。揃ったわね」

 

用意された椅子に腰かけてジャンヌ・オルタはジル・ド・レェの言葉に同意した。

もう我慢することはないのだと。

現在、本陣控えはジャンヌ・オルタ、ジルドレェ、ヴラド3世である。

彼女たちは指揮官だうかつに前に出るわけにはいかない。

前線組のアタランテ 清姫 ランスロット、カーミラは第二陣で待機で。

アサシン及びファブニールはフランスへと紛れ込んでいる。

アサシン組の行動タイミングはジャンヌ・オルタに一任されている。

 

「問題は左翼が薄すぎることですかな」

 

戦況を見ながらジルドレェはぼやく。

フランス軍の左翼が薄いのだ。

サーヴァントの有無は戦力的アドバンテージのウェイトを大きく占める。

故に左翼にサーヴァントが居ないことが分かってからはジル・ド・レェは避けるべきであると判断していたが。

 

「ジャンヌ、左翼には私に行かせてもらえないかしら」

「あら、珍しくやる気ね」

「ええ、ここまで良いところ無しだったし、いいでしょう?」

 

 

カーミラが自ら左翼に攻め込むと言い出したのである。

表向き武勲を立てたいと言っているが。

彼女の内心をジャンヌ・オルタは見抜いていた。

とりあえず安パイを取って安全ラインに到達しておきたいという愚物的思考である。

 

「エリザベート出てくるかもしれないけれど、いいのかしら?」

「大丈夫よ、私が出てこれるはずがない」

 

ジルドレェはそのやり取りを聞いて天を仰いだ。

カーミラは自己嫌悪から過去の自分を過小評価し過ぎである。

 

エリザベートをジル・ド・レェも見たことはあるが。

ハッキリ言って気に食わなかったら殴り込んでくるタイプだ。

カーミラの考える過去の自分とは差異が出ていることにカーミラ自身が気づいていない。

或いは目を背けていた。

 

 

「ああ、そう言う事ですか・・・」

 

そこからカルデアの思惑を、ジル・ド・レェは割り出す。

左翼自体がカーミラを吊り上げて殴殺するキルゾーンであるということに。

と言っても。戦力的に問題はなかった。

それは何故か? カーミラ自体が戦いが得意な人間ではないのである。

アサシンクラスではあるがはっきり言って技量がない。

スペックで見ればハサンに勝てるかも知れないが。

素の技量でハサンに負けるのがカーミラだ。

ハッキリ言ってスペックごり押しアサシンなんぞどう使えばいいのか。

しかも嗜虐思考で相手を仕留めるというより嬲ることを主な戦闘目的にしているから。

ジル・ド・レェ的には余分な駒であったりする。

いわば邪魔な駒だ。

ジャンヌ・オルタも痛感しているしいくら言っても聞きもしなかったので。

カーミラを捨て駒にする為にあえて事実は伏せる。

 

エリザベートを押さえる捨て駒としてだ。

 

「いいわよ、好きにしなさい、ただしこっちの戦術指示は厳守しなさいよ」

 

戦場では好きにしろ。ただし大まかな指示は聞けと言いくるめて。

カーミラが陣幕から去っていくのを見届けて。

指示を出す。

ライン経由での指示だ。

ワイバーンと悪魔はジャンヌが、海魔と屍兵はジルドレェが縄を握っており瞬時に情報を共有及び通信が可能。

サーヴァントも言わずもかなである。

 

 

「まず第一陣を前進、連中がどうって出てくるかでプランを替えるわ、現状プラン1に乗っ取って、サーヴァントたちは待機。」

 

そう言いつつ第一陣を前進させる。

刹那、大地が魔獣やら悪魔たちの咆哮で揺れた。

総錯覚するレベルで津波のような数の化け物たちがフランス軍に殺到する。

最初は数でプレッシャーをかけて相手の出方を見ることと第一陣という肉壁を作ることが目的だ。

 

「さぁて、お手並み拝見と行きましょうか、カルデア」

 

開戦である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『敵総数、7000!! いや一万!! まだまだカウントが上がるぞォ!?』

 

ロマニが通信越しに情けない悲鳴を上げた。

敵総数のカウントが上がっていく。

万単位での兵力の動員数はこの時期ではありえない。

圧倒的に数が上回っていった。

 

「まだ想定の範囲内だけれどね」

 

ロマニの悲鳴にもオルガマリーは冷静だった。

敵はそれこそ戦力を動員し補給し放題というインチキツール持ちだ。

故にこれはまだ想定の範囲内、敵陣の後方に動きが見えないということは。

使い捨ての部隊だ。

数で圧倒し、此方の手札を覗き込んでおきたいという思惑が透けて見える。

だが予定は予定だ。

 

 

オルガマリーは呼吸を整える。

魔術回路、全回路起動。

魔術刻印、全力稼働。

 

 

「アウロス!!」

 

それに合わせてアマデウスが己のペルソナを呼び出す。

ギリシャ神話に置いてアテナからマルシュアースの手に渡った木管楽器であるが。

アマデウスがペルソナとして呼び出したものは違う。

彼のペルソナヴィジョンは名前だけがあっている物である。

彼の背後には巨大な彫刻とそれを這うように無数のパイプが絡み合い。

アマデウスの周囲に数多の楽器を融合させたかような楽器の巨人がペルソナであった。

 

「ミュージックフリークス」

 

スキルを起動する。

アウロスのこのスキルは遍く音を捉えて伝えたりできるスキルだ。

アマデウスレベルの音楽家であれば音楽だけで魔術をなせる代物である。

音を伝達回路にしてフランスとカルデアの人物及びサーヴァントに通信を接続。

さらに魔力の波長の同期により、離れて居ながら起点する人物を選び、そこから合体魔法や合体宝具が使用可能となる。

これを利用し各々が個別の戦場で戦いつつ支援できるのだ。

 

 

 

Stars. Cosmos. Gods. Animus. Antrum.星の形。宙の形。神の形。我の形。天体は空洞なり

 

 

 

詠唱が開始される。

 

それと同時にラプラスが彼女の背後に浮き出た。

 

天に絵が描かれる星の運航を操る天体魔術。

大よそ現代においては物理法則に阻害され成すこと自体が難しい。

出来たとしても共同作業は必須である。

だがしかし此処は特異点、星の抑止力は動いていない。

そして過去のフランスということもあって。オルガマリー一人でも起動は出来るが。

威力はサーヴァント相手には不安が残る。

威力はあるがサーヴァントを傷つける概念的情報量が致命的に不足しているのだ。

であるならどうするか?

 

オルガマリーは単純明快な答えを出した。

 

即ち自身の魔術にペルソナを使ってスキルやら宝具を同調させて威力を底上げすればいいと結論付ける。

ラプラスを介して己が組み上げている魔術に他者のスキルを上乗せする。

 

「全ルーン、起動完了・・・。やったれ、お嬢ちゃん!!」

 

前線に出ていたクーフーリンも打合せ道理に原初のルーンを刻み効力をアマデウスの作ったラインに乗せ

 

「主よ、いま一度、奇跡を此処に・・・」

 

マルタが祈りと共に信仰の加護を発動し乗せる。

 

馬車で待機していた達哉もサタンを降魔しスキルを起動する

 

「アルファブラスタ!!」

 

達哉の背後に出現したサタンが最上位の光スキルを起動しラインに乗せて伝達する

 

天空に幾何学的に描かれて。

夜空でもないのに星がちらつく。

 

 

Ambers. Anima, anim sphere!!(空洞は虚空なり。虚空は神ありき)

 

 

魔術回路及び刻印が臨界駆動する。

当たり前である原初のルーンに聖女の祈りに最上位ペルソナによる最高位光属性魔法スキル「アルファブラスタ」を上乗せして。

融合させているのだ。

例えるなら普通車にニトロターボを乗っけて無理やり回している状況と大差が無い。

このままではエンジンブローと同等の事が起きるが。

ペルソナのお陰でそこまでは行かない。

だがキツいのは変わらない。

頭痛と魔術回路と魔術刻印の臨界駆動による激痛を堪えながらもオルガマリーは詠唱しきって。

それを現実のものとする。

 

空は昼であるはずなのに描かれた星々の軌跡が魔方陣と化して。

 

 

「コメットホーリーコール!!」

 

オルガマリーの絶叫共に。

 

空が堕ちてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャレになっていないぞ!!」

 

さしものアタランテも目をむいた。

無数の隕石が着弾、第一陣が文字通り消し飛ばされ。

絨毯爆撃かあるいは津波が迫ってくる勢いでこちらに迫ってきているのである。

 

 

「ただの石ころでなにが出来るっていうのよ」

 

舐めるなとジャンヌ・オルタは憤怒を身にまとい。

右手を天に掲げて魔力を放射、圧縮、装填、形成。

作られたのは物質化寸前のエネルギーで編まれた巨大な槍だ。

 

「これが我が憎悪で彩られた咆哮」

 

 

 

 

―吼え立てよ、我が憤怒―(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

 

 

 

それが投射され空中で炸裂する。

炸裂した憎悪の熱波が隕石の群れを粉みじんに粉砕した。

 

「ッ―――――、所詮、猿真似は猿真似ね」

 

人修羅の至高の魔弾を真似た物だが本家本元には遠く及ばないと自嘲しながら、ジャンヌ・オルタは奥歯を噛む。

無理を気合と根性でやってこれだ。

本当に笑えないと思いながら。

次にジャンヌ・オルタは右手に魔力を集中させる。

隕石は爆砕したが破片が降り注いできているのだ。

それも迎撃しなくてはならない。

右手を横一文字に振るうと扇状に火線が迸り破片を破壊しつくす。

 

「ジャンヌは迎撃に集中を、ジル・ド・レェ、本隊を前進させるがよろしいな」

 

と言ってもすべてが迎撃しきれるというわけではない。

ジャンヌ・オルタが迎撃しているが、破片も多い数が降り注いでいる。

此処は火力担当のジャンヌ・オルタには隕石迎撃に集中してもらい。

ジルドレェには兵力の補填に集中してもらい、ヴラド自身が指揮を執った方がいいと。

ヴラドが判断し、ジル・ド・レェに判断を聞く。

 

「構いませんとも、私は戦力の増強に集中します故、指揮はヴラド公に任せますぞ」

 

ヴラドの言葉ににべもなくジルドレェは頷き。

海魔及び悪魔を増産する。

 

「全軍前進!!、フランスを叩き潰せ!!」

 

 

 

 

 

 

『所長無事か?』

「なんどがぁ・・・ねぇ・・・・」

 

達哉の通信に言葉に濁点付けるかのような声でオルガマリーは返す。

合体魔術の反動である。

ぶっちゃけLvが違いすぎるがゆえに送り込まれた魔力が膨大過ぎて処理しきれなかった。

ペルソナのお陰で多少はマシだが。

起点を自身の魔術回路及び魔術刻印にしたせいでこの様である。

いくら優れた炉心があってもエネルギーを変換する砲塔がショボければ暴発するのは道理であるし。

寧ろ暴発させず術式を具象化したオルガマリーの手腕を褒めるべきであろう。

 

頭を押さえつつ立ち上がったオルガマリーはあらかじめ用意しておいた。チューニングソウルの蓋を開けて一気に飲み干す。

 

「しかし向こうも迎撃手段があるとは・・・」

 

隕石落しを見ていたジル元帥が呟く。

敵本陣から射出された、杭の様なものが空中で爆散。

第二陣に襲い掛からんとしていた隕石が迎撃された。

無論、迎撃されたと言っても細かな破片が降り注ぎ、それはそれで敵の本隊にダメージを与えているものの。

敵本陣から射出される熱線が大半を迎撃しているのである。

驚愕するほかあるまい。

 

ジル元帥の生きる時代とは全く違う戦場がそこにあった。

 

『どうします? 私たちが出た方が・・・』

「大丈夫よ、マシュ、予定道理だから。最も敵の第一陣を食い破っただけで大成果よ」

 

マシュの言葉にオルガマリーがそう返す。

最初から迎撃される想定もあった。

隕石は落着するまでのラグがあり。

落着する前に迎撃されれば威力を発揮できない。

故にまともに敵の先陣を吹っ飛ばせたのは僥倖であると言って。

浮足立つマシュを落ち着かせる。

 

「では、前線を押し上げます。それでいいですかな」

「元帥、こっちのことは気にしないで、こっちで合わせるから、ぶっちゃけ前線指揮なんてできないもの」

 

ピクシーを呼び出し自らにディアを施しつつ言う。

達哉も前線指揮は出来るが、兵力を纏めて動かすという経験は無い。

オルガマリーはできない事もないが。

すぐそこに専門家が居るのだ。

であるなら全体指揮はジル元帥に放り投げてサポートと足並みを合わせた方が得策である。

 

「分かりました。では中央は前進、右翼は――――」

 

ジル元帥が指揮を飛ばし。

カルデアラインおよびアマデウスのミュージックフリークスで的確に齟齬が無いように指示を飛ばす。

双眼鏡で見れば中央の戦況は悲惨だった。主に敵がだが。

 

 

「行くぜ野郎共ォ!!」

 

長可が率いる槍隊が前進を続ける。

伊達にここ数日間、長可に追い回されていた兵士達ではない。

ワイバーンの大半が消滅した以上、悪魔だろうが海魔だろうが長可に比べれば可愛い物だと。

突撃を勇敢に敢行する。

事前に武装にマルタとゲオルギウスが付与した加護によって屍兵も切り倒していく。

そこにクーフーリンが単独で一撃離脱先方で突貫。

サーヴァントの身体能力によって弾丸と化した彼は的確に薄くなった敵陣を切り崩していく。

 

 

「機なり」

 

 

宗矩がそう呟き騎兵隊を投入、ズタボロになった前線へと駄目押しとばかりに突撃した。

普通ならば壊走する所であるが。

 

「あん?」

「ッ」

 

飛んできた矢に反応し、遊撃手として暴れまわっていたクーフーリンは一旦足を止める。

クーフーリンは槍を構えて迎撃の体制に移行。

矢除けの加護があるとはいえ生前はそんな便利な物はなかったし。

第一にこういう類は突破されるのが常である

遠くを見ればカルデアの情報網には引っ掛からなかったアタランテが遠方で弓を構えていた。

当たりこそしなかったがあの矢の威力は即死級と即座に判断。

オルガマリーに敵サーヴァント補足迎撃に向かうと伝達。

当のオルガマリーからは全力で好きに撃滅しろと帰ってきた。

ならばいい、仕留めようとクーフーリンが槍を構えて疾駆しようとした刹那。

 

 

「ちッ、アキレウスに匹敵する奴が居るかッ!!」

 

アタランテは矢を放ち、クーフーリンと視線が交差した瞬間、理解する。

ギリシャに居てもヤバいやつが自分のところに突っ込んでくると。

であるなら。

 

「是非も無しか・・・」

 

己が宝具である獣の皮に魔力を注ぎ込む。

矢は届かぬ。

狩人の誇りなんぞ、ジャンヌ・オルタに従った時に投げ捨てた。

故に弓に固執することなく宝具を使用する

 

 

神罰の野猪(アグリオスメタモローゼ)!!」

 

民族衣装から扇情的な皮服にチェンジし彼女自身の肉体が歪な音を立てて変形するかのように肥大化。

 

「■■■■■■■!!」

 

山と形容すべき巨体、赤黒く染め上げられた毛並み。

ケルトでも早々お目に掛れぬ小さな山の如き威容を誇る魔猪である。

猪の額からはアタランテの上半身が生えており弓を構えていた。

 

「影の国の魔物じゃねぇーんだぞ!!」

 

クーフーリンは悪態を吐きつつも、戦場の高揚感に身を任せて笑みを浮かべる。

本当なら彼女ほどの英雄ならば己が槍とアタランテの弓、どちらが早いか競い合いたいところだが。

そうもいってられる状況でもない。

だがしかし。魔獣狩も戦士の誉れであるのは変わらない。

そして自分自身には人理を守るという役目もある。

 

「不足はない、全力で殺す」

 

故に躊躇はしない。

全力で殺すと決意する。

 

『補強する! ランダマイザ!! ヒートライザ!!』

『焼け石に水だけれど・・・ マハタルカジャ!! マハラクカジャ!!』

『じゃ私もね!! ジュノン! クリスタルパレス!! ヒートライザ!』

 

達哉がアムルアタートを呼び出し、全軍にランダマイザとヒートカイザを発動。

オルガマリーもこの日の為に用意しておいた。補助特化型シルキーを呼び出し

マリー・アントワネットも己のペルソナである「ジュノン」を呼び出して、専用スキルのクリスタルパレスを使用する

アウロスの作ったラインを問うして味方にヒートライザを付与、ステータスランクをワンランクアップ。

クリスタルパレスによって耐久を三段階上げ。

ランダマイザで敵のステータスをランクダウンさせる。

 

『長くはもたない、効力が切れたら言ってくれ』

『私はちょっと回復するからしばらくは援護できないわ』

『怪我をしたらすぐに言ってちょうだいな、言っては何だけれどまだ余裕があるから!』

 

「たく、達哉もマメなこって、まぁそこがいいんだが。宗矩の爺さん。アレ任せてもらっていいか?」

 

飛来する矢を叩き落しながら宗矩にクーフーリンが聞く。

あの魔物に突撃していいか否かをだ。

 

「無論、幾ら拙者でも。あれは手に余る」

 

さしもの宗矩もあの巨体は解体しきれない。

さらに強力な矢をぶっ放してきているのである、殺しきるのは実に骨だ。

であるなら、ケルトの大英雄にこの場は譲り、通常戦力を削ぎ取る方がいいと判断する。

なんせ図体が図体だ。

突撃された時点で前線が崩壊しかねない。

 

その言葉を聞いた時点で、クーフーリンは一つの弾丸となった。

飛翔する弓の如くアタランテへと接近する。

それを宗矩は見届け。

振り下ろされた漆黒の刃を華麗に捌きつつ、奇襲してきた相手と相対する。

 

 

「貴殿の相手は拙者だ。」

「そうか・・・、では死ね」

 

殺意と憎悪に濡れた声が響き渡り。

 

 

「Syaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」

 

 

 

人語と爬虫類の叫び声が混ざり合えって聞き取れない音と共に巨体が突進してきた。

 

「二体一、卑怯とは言うまいな?」

「言わぬ」

 

黒騎士ことランスロットの言いようにも宗矩は問題ないと一蹴する。

この程度が卑怯だと片腹痛い。

武士が闇討ち、一騎打ちと評していざ決闘に来てみれば複数人で相手方は袋叩きにする気満々。

それに此処は戦場、切り抜けたものが勝者となるということを宗矩は知っているがゆえに文句を言うことはない。

宗矩が愛刀を青眼に構えて。

 

「柳生の爺さん、その真っ黒黒助は俺にやらせろ」

 

長可がソレを制止した。

長可は怒り狂っていった。

目の前の黒騎士は自身が最も嫌った、あの裏切り者「明智光秀」と同じ類であると長可は認識し殺意を滾らせる。

こういう奴は忠義だなんだいって己が身が可愛いというのが相場だと彼は良く知っている。

こうなってはこちらの言うことは聞かぬかと宗矩は大人しく引き下がった。

 

 

「任せる、しかし」

「安心しな、こんな奴に俺は負けねぇ、腐った金柑頭みたいな奴はぁ特にな」

 

故に対するには己しかいないだろうと槍を構える。

こうなっては言うことは聞かないかと宗矩はため息を吐きつつさがる。

 

 

「それにマスターたちから意地でも戦果上げて帰ってこいって言われてるからなぁ」

 

オルガマリーの命令はただ一つ戦果を挙げて帰ってこいという物。

戦の場に置いてこれほど無茶な命令はないだろう。

だがそれがいい、戦のし甲斐があるゆえに。

目の前の男は鼻に着くという物だ。

 

 

「貴様風情が私に勝てるとでも?」

「はっ、知らねぇよボケェ、勝てる勝てないで戦なんかするか、勝たねばならぬからやるんだよぉ!」

 

湖の騎士、ランスロット。

アーサー王伝説最強の騎士の一人だ。

近年、良くも悪くも評価傾向にある長可であるが。

それをプラスしても英霊としての格では目の前の騎士に劣る。

言っては悪いが、メジャーリーガーと日本野球選手くらいに世界的知名度では雲泥の差があった。

普通ならば勝てぬ相手である物の、それで戦を決めているなら、そいつは臆病者である。

普通ならばそれも良い。

だが長可にとってこの戦は引けぬ戦いだ。

ならば戦い主命を果たすまで。

勝てるか勝てないかではなく、勝ちをもぎ取りに行くには

行くしかないというのは嫌というほど戦国の世で痛感しているのだから。

 

―コイツ、死兵か?―

 

ランスロットは一瞬気圧される。

これほどまでに殺意を身にまとった忠義心というのは眼にしたことがない故に。

だが戦場で類似の類は見たことがある。

己が命に頓着せず。

命を簡単に投げ捨てて、自分を取りに来る兵士の類。

 

即ち死兵である。

 

そういう連中に限ってこちらの意表を突く上に道理を捻じ曲げて刃を届かせようとする危険存在だ。

英霊としての格は無論ランスロットに劣るが。

長可は織田家臣及び豊臣家臣として一軍を率いた武将である。

そんな存在が死に物狂いでくれば。ランスロットにその刃を届かせることは現実的な話であった。

ランスロットは認識を修正し、アロンダイトを構え。

それと同時に人間無骨の刃が走った。

 

 

「さて・・・」

 

宗矩もまた己が役目を果たすべく。

視線をその竜に向けた。

 

「シャァアアアアアアアア・・・・」

 

蛇のような唸り声をあげてワイバーンと同等程度の巨躯をしならせるそれ。

無論、大きさはワイバーンとほぼ同一とはいえ秘めた魔力量などは桁が違う。

骨が折れると宗矩は内心に思いつつ。

それでも思考を切り捨てる方向に持っていく。

巨体が突進してくる宗矩は感情も無く刃を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、より取り見取り」

 

カーミラはほくそ笑んだ。

隕石による絨毯爆撃というイレギュラーはあったにせよ。

ジャンヌ・オルタの采配で第一陣が囮になったおかげで、本隊及びカーミラの率いる手勢は損傷無しだった。

強い魔力反応もない。

まさに人間だらけ、さぁどうやっていたぶってやろうかと思った時に。

 

「見つけたわよ、私ィ!!」

 

絶叫と共に空から槍を振り下ろしカーミラめがけて落ちてくる存在が一人。

その方向に驚きつつカーミラは後方に2mほど下がり。

土煙に顔を顰める。

土煙が晴れれば、一般兵士姿のエリザベートが兜を脱ぎ捨てていた。

 

「アンタなんで!?」

 

カーミラの驚愕。

何処までの過去の自分ではない、尺度が合わない。

されど自分。もう一人の・・・エリザベートでありカーミラである。

 

「決まってんでしょ!!」

 

ギリリと槍が軋む勢いで槍を握りしめ。カーミラを睨み付ける。

未来を否定したいわけではない、駆逐したいわけでもない。

受け入れてその先へと進むべく彼女は此処に来た。

 

「前に進む為よ!! あんただって扉が開いているのに。いつまで漆喰塗の部屋に閉じこもってんのよ!!」

 

もう漆喰塗の牢獄の扉は開かれている。

まえに進めるのにいまだ閉じこもって哀れな自分に酔っている。

それが許せないのだエリザベートは。

いつまで閉じこもっている、いつまで嘆いている。

ふざけるなとエリザベートの瞳は語る。

カーミラはいい加減にしろと叫ぶ過去の自分の姿が薄気味悪かった。

過去の自分は無知で自己愛に溢れた白痴の少女だった筈なのに。

 

「やめなさい!! そんな目で私を見るな!! 違う! 違う違う違う!! アナタは誰よ!! 過去の私はそんなんじゃない!! 無知で自己愛に溢れた愚かな少女のはずのよ! なのに・・・どうして・・・そうやって強く・・・」

 

錯乱したかのようにカーミラは喚き散らす。

心の堤防の限界が崩れ去った。

愚かな過去さえ殺せればこの罪悪感や恐怖は消えると思っていた。

だが現実はどうだ?

すでに過去の自分は前に進んでいた。

最早、カーミラの思うエリザベートは虚像に成り果てている。

それが一層、自分自身のみじめさを際立たせる。

 

「なんで早く、そうならなかったのよ・・・」

 

故に思うのだ。

なんでもっと早くそうならなかった。

そうすれば、こんな無様な吸血鬼に成り果てずに済んだのにと。

 

「単純な話でしょ、私。都合の良い事ばかりに耳を傾け、都合の良い事に口を開き、そして不都合な物から目を反らし続けた。だから・・・いまここにいる、贖うために。わかるでしょう!! 私!! いつまでもそうは居られないって刻み込んだはずだもの」

「五月蠅い!! その口を閉じなさい!! 私に岸波白野は居ない!! 出会ったこともない!! だから影に無様に叩き伏せられて無様に壊れた私なんて私じゃあない!! そんなものは存在しないのよ!!」

 

 

エリザベートはもういい加減にしろと指摘を繰り出す。

無論自分自身に刺さる言葉である。

心が痛い、目を背けてしまいたい。

嗚呼だがしかし月での記憶が、思い出が、誓いがそれを許さない。

目を背けたら自分で自分を許せなくなる故に自身すら巻き込む弾劾の言葉を吐き出す。

 

 

「殺しなさい!! 悪魔に亡者共!! その得体のしれない小娘を殺せェ!!」

「いい加減にしろォ!! 私!!」

 

カーミラの叫びに悪魔と屍兵が殺到。

一方のエリザベートはいい加減にしろと言った怒りを表情に出して槍を振るい。

それに合わせて左翼の兵士たちも前進し、カーミラ軍と衝突を開始する

無論指示は出していない。

現場の兵士の判断だった。

 

「亡者や悪魔どもは我等にお任せを」

「あんた達・・・」

 

一部隊を預かる兵士長が、悪魔を蹴り飛ばしつつ戦場の怒号にかき消されないくらいの大声で言った。

兵士達だって。ここまで生き抜いてきた兵である。

エリザベートが、このフランスの為にどれだけ頑張ってきたのかを直接見て知っている。

カーミラの殺戮が起きるたびに、彼女が天真爛漫な少女の仮面をかぶる中で。

悔しさと後悔に打ちのめされていたのは知っているのだ。

だから雑魚は自分たちにまかせて。

君は君の成すべきことの為にカーミラと決着をつけるのだと態度で示し。

 

 

「ごめんなさい!!」

 

エリザベートが頭を下げて、カーミラに向かって一直線に走る。

これでいい、なれば自分たちは自分たちの成すべきことを成すまでと兵士長は盾を横に振るいぬき。

悪魔の振りかざした爪を弾いて。

そのがら空きになった胴体に剣の切っ先を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦況は硬直状態だ。

隕石は第一陣を壊滅させた後。

敵の迎撃にあって。全て落されてしまった。

だが物量で言えば第一陣の方が上で。

戦況の拮抗状態も想定より良い状況である。

フォローもアマデウスのお陰で即座に適応可能だ。

 

想定外なのは敵がズバズバと隕石を叩き落せるような対軍宝具級の威力を持つ攻撃を連発できたことだろうか。

 

がしかし敵も無理をしていないわけではないということは分かった。

普通。そういうことが出来るのであれば火力で圧殺する方が手軽であるし。

そうしないということは。敵は無理をして動けないか。

或いは条件付きの迎撃手段であったかのどちらかであろうと、オルガマリーはあたりを付けた。

かと言って。突入班は動かせない。

重要なのはタイミングだ。

タイミングをミスればこっちが死ねる。

故に私情を押し殺し。

味方を見殺しにしようとも・・・オルガマリーは堪えなければならない。

無論それは達哉もマシュも一緒だ。

必勝を期するべく堪えているころだ。

 

『あの、所長。もう達哉君たちを出しても・・・』

『駄目だよ、ロマニ。現状戦況が硬直しただけだ。完全に相手の手札がこちらの想定した戦力と同値になるまでは達哉君たちはだせない』

 

双眼鏡を覗き込むオルガマリーの耳元にロマニの具申が響くが。

それをオルガマリーが否定する以前にダヴィンチが否定する。

この作戦の肝は如何に相手に戦力を釘付けにして自身の最高戦力を効率よく敵本陣に投入できるか否かにかかっている。

ファブニールとデオンを確認できない以上。

戦力をこれ以上投入は出来ないのだ。

 

「ダヴィンチの言う通りよ。極上の餌を引っ提げているんだもの。だから今更、罠の檻の扉を下げることは出来ないわ」

 

元よりチキンレース覚悟の策だ。

本当ならもっと楽がしたい。

オルガマリーの掛け値なしの本音だ。

だができない、今ある此処こそが現実なのだから。

双眼鏡越しにオルガマリーの視界に入ってくる戦場は間違いなく本物故に。

 

皆が絶叫する。生きたい。死にたくない。どうしてこうなった?と叫びながら剣を槍を槌を盾を振るって全力を尽くし。

 

血で血を洗う泥沼を演じる。

如何に英霊が居ようとも避けれない流血がそこにあった。

上層部とオルガマリーにカルデアの話で決めた戦術だけれど、決めたのは他ならぬ戦略、戦術を練って決めた本人たちである。

オルガマリーは言わずもがなである。

つまるところ戦場で発生する死というのは敵味方問わず。責任の類は指揮官や扇動した者たちの責任でもあるのだ。

最善は尽くした。しかし犠牲は必要だ。

魔術とは血を容認するものというけれど、どこかの誰か言ったように。

手に血がつかない殺しは自覚しずらいものである。

故にこの血風が香る戦場の空気は着実にオルガマリーの精神をむしばんでいる。

 

『所長殿。殺気の数が三、此方の陣地に兵士姿で近づいてきている。うち一人は人の形こそしているが。明らかに人間ではないぞ』

 

書文が念話を飛ばす。

敵を補足したが。想定よりも数が多いとのこと。

内一人は明らかに人間ではないとのことだった。

オルガマリーはすぐさま記憶から情報を引っ張り出し魔術回路及び刻印の演算機能を使って答えを導き出す。

 

『こちらまでの距離は?』

『100m前後』

 

本陣周辺は後方要員や指揮要因でごった返している。

敵に怪しまれないようにするために通常運営にしていたのが裏目に出た。

ファブニールは龍という伝承もあるが元は人である。

故に英雄として呼び出される可能性もなきにあらずというわけだ。

邪龍という固定観念にとらわれ過ぎたという事である。

ジャンヌ・オルタに裏をかかれたと舌打ち。

 

「アマデウス、周囲の連中と繋いで。」

「了解」

 

アマデウスがオルガマリーの指示を聞いて音を接続しオルガマリーは避難勧告を出しつつ令呪を起動させる。

令呪を二画切ってジークフリードを戦闘できるようにする。

あとは。

 

「タツヤ。こっちが慌ただしくなったら出撃して。敵が食いついたわ」

『・・・大丈夫なのか?』

 

達哉の心配そうな声にオルガマリーは精いっぱい強がった苦笑で返す。

 

「本当ならアンタを頼りにしたい。けれどそれじゃ勝てないのよ」

 

そう言いながら。

懐から魔銃を抜いて弾倉を確認。

魔術合金製の媒介弾は六発装填済み。

ペルソナ能力も併用すればサーヴァントですら殺傷可能。

 

脳裏のペルソナも確認して、右太腿に巻き付けたレッグシースの中にはきちんとサイドウェポンの礼装ナイフがしっかり収まっていた。

 

弾倉を元に戻し撃鉄を上げて安全装置を解除。

カルデアでの訓練と此処に来てから何度もやった戦支度である。

 

準備も作戦もできることは全部やった。

後は勝つまで足掻くだけである。

作戦を成しえないからと言って放棄することは許されない。

それがこの戦場で命を懸けている全員と、命を散らしている死者に対する責任という物である。

 

だから達哉には頼れない。

彼は彼でなすべきことがある。

達哉もそれのみ込み

 

『わかった。生きて帰ってくる。だから死ぬな』

「当たり前よ。そっちも死なないでよ。困るから」

 

そう念話に応えた刹那。

 

オルガマリーのペルソナが震えて。

感覚のそれに反応したオルガマリーが振り向きながら銃口とペルソナを繰り出しながら対象に向ける。

既に刺突が放たれていた。故に一歩遅い。

 

切先が躊躇なく繰り出される。

 

襲撃者は仕留めたと、その美貌に笑みを浮かべ。

 

オルガマリーは表情一つ変えなかった。

自分は間に合うことはない。引き金を引くよりも早く。

放たれた刃の切っ先が自身の左眼孔から脳を貫くであろうと結論付けながらも。

すでに襲撃者よりも半歩速く動いている存在を認識していたからだ。

 

「させん」

 

書文は既に踏み込んでいた。

拳は刃よりも早く事前に繰り出されている。

高度な園境スキルによる気配消しだ。

恐らく襲撃者も気づけないほどに高度に編まれた術理をもって完全な不意打ちを成す物の。

襲撃者もサーヴァントであるゆえに。感情を切り離し体の駆動を経験反射に任せて。

その強襲に即座に対応。

攻撃に逆らわず飛ぶことによって、拳の威力を減衰しつつ当たりをずらす。

 

「チィッ! アサシンが居たとはね。てっきり本陣に行ったものだと思ったけれど」

 

 

空中で側転し地面に新体操選手の如く着地。

襲撃者。『デオン・アサシン・アヴェンジャー』は忌々し気にレイピアの切っ先を振い。

オルガマリーの放った銃弾と召喚したペルソナ「アークエンジェル」の刃を捌き切ってみせる。

 

書文は既に追撃に移る

流石と思っていると。

鼓膜にアマデウスの声が飛び込んできた。

 

「オルガマリィ!! ちょっとこっち助けてくれないかなぁ!!」

 

それとほぼ同時に、「サンソン・アサシン・アヴェンジャー」がアマデウスを襲っていた。

が彼とて伊達に修羅場を潜り抜けた経験がないわけではない。

医者の処刑人の生前戦闘経験が無いサンソン相手なら多少はしのげる。

タクトを振い。

音を衝撃波に転換し炸裂させる物の。

その威力は本来の威力とは程遠い。

味方の支援に多くリソースを割っているのだ。

現状のアマデウスではサーヴァント相手には荷が重い。

 

「ゲンブ!! マハブフ!!」

 

ペルソナを、アークエンジェルからゲンブにチェンジ。

マハブフによる飽和攻撃を敢行。

無数の氷弾が射出されアマデウスの付近を薙ぎ払う。

 

「あっぶない!? もう少し正確に狙ってくれ!!」

「うんな余裕ないわよッ!!」

 

サーヴァントの高速移動にかろうじてついていけるでしかないオルガマリーが攻撃をヒットさせるにはこうするほかない。

広範囲スキルの標準は意識操作だ。

動かないアマデウスを避けて撃つことは可能とはいえ、肝が冷えるという物。

だがそこでさらに余裕がなくなる。

二人のアサシンの後に続き黒フードの青年が本陣に入ってきた。

口の端からチラチラと炎を揺らしている。

フードには魔術殺しの術式及び魔力殺しの術式が刻まれている。

それは素人が施したものだが。塵も積もればなんとやら。

大量に刻み込むことによって質をカバーしているのだ。

 

「ジィィイイイイイイイクフリィィイイイイドォオオオオオオオオ!!!」

 

青年は魔力の香りから宿敵が居ることを嗅ぎ付けて雄たけびを上げる。

それは戦場が揺らぐほどの物だった。

フードが裂けて骨格が変化していく。

肉は肥大化し首が伸びて体表を漆黒の鱗が覆う。

頭部からは角が王冠のように伸びて。両目は黄金のように輝いている。

口も爬虫類のように変形し、鋸のように生えそろった鋭い牙が生えそろっていった。

体表を覆うのは漆黒の魔力の本流。

 

その巨大な体躯と巨大な翼。

 

まさしく幻想種の王種としての威容を携えた邪龍の権限である。

 

 

「ジークフリード。出番よ!」

「了解」

 

既に傷は限定的な完治積み。

それでも万全の戦闘が可能だ。

オルガマリーの言葉に応えて。ジークフリードが医療用の天蓋から飛び出てバルムンクを構える。

これで想定された戦力+想定外の戦力を吊り上げた。

であるなら。

 

「作戦フェーズ2完了!! マリー行きなさい!!」

『わかったわ! 飛ばすわよ!! ジャンヌ、旗を出して!!』

『ちょっと待って!? この状態では・・・・ にょわぁぁああああああああああ!?』

 

 

オルガマリーの叫びと同時に本陣近くの小屋の扉が爆砕されると同時に。

硝子の馬が引く馬車がスーパーカー顔負けの速度で飛び出していく。

馬車の天井にはジャンヌが固定用のベルトで括りつけられ直立姿勢のまま悲鳴を上げている。

達哉とマシュは申し訳そうな表情をしつつもそれを黙殺しているという状態で馬車は戦場を一直線に駆け抜けていく。

それを刹那の間だけ見送って。

オルガマリー、書文、アマデウス、ジークフリードは己が敵たちを見定めて。

 

「行くわよぉ!!」

 

オルガマリーはやけくそ気味の半泣き状態で号令を下した。

 

 

 

 

 

 

戦場は混沌として地獄の釜の底が開いたかのようになっていった。

 

「まだだ! まだよッ!!」

 

ジャンヌ・オルタは地面に崩れ落ちながら崩壊する体をつなぎ留めていた。

宝具の使用とそれに匹敵する魔力放射の過負荷が霊基を崩壊させていく。

それを精神が焼き切れるような感覚を味わいながら。

全身に亀裂を発生させ血を滴らせながら、まえに進もうとする。

 

「まだぁ「いい加減にしたまえ」」

 

叫び続ける彼女を落ち着かせたのはヴラドである。

 

「今君に無理をされても、私たちが困るのだ。連中がこっちに来るまで落ち着いて霊基の再統合に勤めていてくれたまえ」

 

正論を言って彼女を黙らせつつ。

彼女を担ぎ上げて椅子に座らせる。

正論と激痛故に彼女は禄に反論もせず、目をつむって霊基の再統合を行う。

分かっているのだ。

今の今までは連携のために力を落していたが。

本気で力を行使すれば周防達哉は手に負えない存在である。

故にジャンヌ・オルタはヴラドの言葉を聞いて大人しく引き下がったのだ。

 

 

「痛ましい」

 

ヴラドはそう呟き、そう思う己を嫌悪する。

祈りを託す、否定するという悍ましさはヴラド自身がよく知っているのに。

自分でやっていれば世話無い事であろう。

背負わされる辛さは知っているというのに。

 

ジャンヌ・オルタに背負わせるということをやってしまった。

 

本当なら今すぐ彼女を終わらせたい。

けれどそうさせてしまったという事実がそれを拒む。

もしここで殺せば。彼自身が憎んだ都合が良いからと英雄を利用した民衆と同じに成り果てるためだ。

 

ヴラドは今目の前の戦場を見た。

誰もかれもが戦っている。

そこに嘘も虚飾もない。

硝子の馬が引く馬車が高速で戦場を一直線にこちらに向かってきている。

無様な選択をしてしまった以上、ヴラドはジャンヌ・オルタを裏切れない。

故に罰。この地獄的な召喚に応じた以上。

やり遂げなければならないのだ。

魔が差したとかの言い訳は通用しないのだ。

過去の所業は戻らない。引いた引き金を戻すなんぞ不可能だ。

それはごく普通の事。当たり前のことだと知るべきだった。

誰も彼も己が行いの重さを知らないから愚行に走る。

 

悲劇は悲劇を起こし憎悪を発生させて燃え広がっていく。

 

逃げることは許されない。目を背けることは許されない。手を汚さないということは許されない。

 

 

 

 

 

 




という分けで所長のメテオ。
事件簿読んでからずっと温めておりました。
基本的に魔術はサーヴァントに通じないけれど。
合体スキルとして発動させればサーヴァントも直撃すればただではすみません。
ただし周囲のレベル違いすぎて所長ぶっ倒れたけども。
所長のLvが上がれば連射できるようになるよ!!
でもまだまだ先の話です。

今回はごっちゃ茶していますが。今回は導入ということでご容赦ください。

ああ文章力とが欲しい・・・。





コメットホーリーコール
合体魔法 本作オリジナル。
魔術ランクA
対軍宝具C相当
所長メテオ+聖職者系スキル+アルファブラスタ+魔法スキル
全体に光属性で大ダメージ、ゾンビ系&ゴースト系の敵を即死させる。



アウロス

Lv64
耐性無し
ステータスなし。
スキル
フル・アナライズ
ミュージックフリークス
シンクロコンセレイト
スイッチチャージ

専用スキル
ミュージックフリークス
音に関する事ならほぼ何でもできるという物。
アマデウスの技量をフルに発揮するためのスキルである。
ペルソナスキルが少ないのもこれによってほぼ応用が利いてしまうためである。
作中ではスピーカーとしての機能および。
魔力を音に乗せて伝達させ支援先のペルソナ使い及びサーヴァントを起点に合体スキルを使用可能とする。
つまりアマデウスの支援範囲下であれば仲間同士が離れていても合体スキルが使用できる。
支援スキルも遠隔で伝達可能なため。
常時、アマデウスの支援範囲下なら相互支援が可能となる。
ただし攻撃スキルは合体スキルの為の魔力に変換されるため、遠隔砲台とかは不可能
他にも自身の宝具を超広域で発動したり
エリザベートの歌や歌系宝具及びスキルが鬼性能に成ったりする。

ゲーム的にはクラス別にバブを掛けるスキル

シンクロコンセレイト
クリティカル発生時に、クリティカルを発生させたメンバーにコンセレイトを付与する。

スイッチチャージ
クリティカル発生時、クリティカルを発生させたメンバーにチャージを付与




対戦カード 現状

兄貴VSアタランテ
森君VSランスロット
宗矩VSキヨヒー
所長&すまないさんVSファブニール
アマデウス&ジル元帥VSサンソン
書文VSデオンくんさん
エリちゃんVSカーミラ

そして引き逃げ愚連隊と化した。たっちゃんズ


邪ンヌは無理して気絶。ジル悪魔召喚中。ヴラド指揮で大忙し。

電波待機中


次回は宗重VSキヨヒー&森君VSナニスロット戦で行きたいと思います

マルタネキの活躍は戦争の最終教区面で予定しておりますのでご安心を





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八節 「血路を繋ぐ」

憎しみは人を盲目にする。

オスカー・ワイルド著書「獄中記」より抜粋。


槍とは一般創作に置いて基本、不遇な割り当てが多い。

何故なら剣の方が見栄えが良いからと言う。身もへったくれもないこともあるが。

実際のところ、その挙動の単純さが弱く映してしまうのである。

だが実際は違う、剣に対する絶対的アドバンテージは無論存在する。

即ちリーチの差である。

間合いの差というのは大きい物であるし。

突くという単純動作故に雑兵であっても槍を持たせれば一定の戦力にはなる。

故に、槍の術理を学び鍛えた武将が槍を振るえばどうなるかは明白であった。

 

―押し切れぬ?!―

 

ランスロットは長可に押されていた。

 

無論それは先ほども言ったアドバンテージもある。

だが殺す技術は古いよりも新しい方が洗礼され術理としては性能も高い。

アーサー王伝説の方が古く、神秘的な強度で言えばランスロットが圧勝するが。

長可は日本の武将である。

あの狭い島国で続いた戦国という地獄を駆け抜け武を学んだ生粋の武将にして槍の名手である。

時代的に考えて、先ほども言ったように術理は新しければ新しいほど洗礼化されている。

この時点でランスロットは才能的意味合いでは長可に勝る物の。

純粋な技量という宝具やスキル抜きでの技量勝負では劣るのが道理である。

 

さらに兇化と呼ばれる狂化の亜種スキルによって長可自身がぶれることはない。

周りの敵は自分の部下たちに放り投げるという割り切りを即決で慣行。

間合いを保ちつつ槍を繰り出す。

徹底した合理性と術理にランスロットは押されていていた。

がしかしだ。

 

―チッ、長くは出来ないなコレ―

 

長可は内心で舌打ちをしていた。

既に並大抵の将であるなら詰ませている連撃である。

それでも仕留めきれないのは純粋にランスロットの戦闘センスがずば抜けているからである。

このままでは対応されると長可は判断した。

槍を横一文字に振るながら、後退し間合いを離す。

ランスロットは無論、間合いを詰めることを選択する物の。

長可は手首を返し石突きで地面を抉る様に槍を振るい小石を巻き上げて飛翔させる。

サーヴァントの膂力で放たれたソレは広範囲に散らばる散弾と大差が無い。

ランスロットはそれに対応し足を止めて迎撃を選択。

アロンダイトに魔力を振いぬき、纏わせた魔力を放射する散弾のように射出し迎撃する。

 

―できる―

 

ランスロットは長可の実力に舌を巻いた。

円卓で上位とはいかずとも中堅クラスの実力はあり。

さらに精神的執念で上位に食い込めるまで行けると判断する。

自分たちの先の時代の異国ではこういった戦士が生まれたのかと感嘆しながら。

ランスロットは油断なく剣を構えなおす。

 

長可も呼吸を一つ置き手筋を考える。

長くは続けない。続けられない

間違いなくこちらを上回ってくると判断したがゆえだ。

ランスロットと剣と槍を交わすたびに実感し確信した。

 

―コイツ、俺の筋を一手ごとに覚えてやがる―

 

即ち、槍を放つ都度に対応されていると理解する。

これだから天才というのは恐ろしいと長可は痛感する。

無論生前。格上の敵とやり合うということは何度もあった。

カルデアに来てからはクーフーリンや宗矩に書文という一種の極みを持つ人たちや。

将来有望株の達哉、マシュ、オルガマリーとも違う才である。

即ち、受けて覚える聖闘士式才能と言えば読者たちにも想像しやすいであろう。

 

長期戦は不利。かと言って無計画に攻め立てては手札を丸裸にされてしまう。

通常、こういった手合いはバーサーカーにとって相性不利すぎる相手だが。

長可の場合は狂化ランクが低く。

それを利用し他の思考を意図的に低くして戦闘思考に特化させており。

他の思考は愚鈍化するが武芸だけを効率よく考えることに特化させていた。

要するに思考のリソースを戦闘に効率化せているという具合である。

故に技の冴えに曇りはない。

だが才能の差で詰め切れない。

であるならどうするかと言われれば単純である。

 

 

―天才は一太刀で詰ませればいい―

 

 

そう天才は初見殺しで即座に殺せればいい。

それなら対応する事もなく殺せる。

無論言うだけならタダだ。

ランスロットも一時代を駆け抜け無双の名を冠する英雄である。

そう言った初見殺しの類は潜り抜けてきている。

故に彼が想定できない技の類を一発で成功するほかない。

 

 

その時だ。

フランス陣営の本陣が爆発の如き爆音と筒煙で覆われる。

がしかし。サーヴァントや兵士たちにとっては予定道理だ。

動揺する要素はない。

これから達哉たちはまっすぐ敵本陣を目指すのはブリーフィングで何度も言われている。

寧ろ道を開けることに集中せねばならない。

長可は意を決する。

打ち合いで何度も確認はした。

相手に致命的な隙があることをだ。

時代的にはまだ洗礼されていなかった武芸だ。

それに事前にランスロットのスペックはたたき込んである。

 

であるならここまでくれば予想道理だろう。

 

後は致命的な隙を作ればいい。

 

「ウォラァァアアアアアアアアア!!」

 

長可は叫ぶ。

猿声と呼ばれる技法に近い。

本来であれば薩摩の技法だが、大声を出して相手の気を竦ませるのは殺しの場に置いて常套手段だ。

ついでに自分に気を入れることもできる。

声と同時に脚に力を込めて突進。

 

無論、ランスロットほどの相手となれば愚手でしかない。

本来であれば。

 

ランスロットは死兵相手にさらさら付き合う気はなかった。

 

無論付き合うとは適当にあしらうではなく。

確実に次の一撃で殺すという意味合いである。

長可のような存在は放っておくと何仕出かすか分かったものではないからだ。

故に最短、最大火力の一撃をもって決するとランスロットは心に決めて。

 

 

無毀なる湖光(アロンダイト)

 

 

愛剣の真名を解放した。

達哉たちの支援を上回る強化が一瞬にして行われ。

剣が禍々しい気配を放つ。

だが知ったことかと長可は突進。

ランスロットは完全に迎え撃つ形である。

 

こうなれば長可は不利だ普通であるなら。

 

「ッ」

 

突進する長可と彼の愛槍の穂先を見てランスロットは顔を歪めた。

穂先が揺れているのである。

長可レベルの使い手と在れば普通ならありえない。

これだけぶれていれば致命傷なるような刺突は出せない。

だがランスロットレベルならそのブレに規則性があると見抜ける。

即ち、攻撃のフェイントだ。

これで狙いをかく乱しつつ多くの選択肢を迫るのである。

 

「こそばゆい!!」

 

がランスロットはこそばゆいと言い切って見せる。

どれが来ようとも手足程度なら具足を使って受け流して見せる実力がランスロットにはある。

彼もまた偶然的に長可と同じ思考に至ったのである。

死兵相手は何をするか分かったものではないのだ。

故に一太刀で殺しきると踏み込んでくる。

それを見て長可は思考を変更。

次の一歩を踏み込みに変更し。

腰に力を入れ、間合いを詰めようとするランスロットに連撃を放つ。

無論それにランスロットは悠々と対応して見せた。

 

―柳生の爺さんじゃぁねぇんだからヨォ!―

 

内心悪態つきつつ”乗って来てくれた”事には感謝しながら連続の突きを読まれる、学習される前提で放つ。

刃と刃が擦れる音が響いた。

ランスロットと長可の打ち合いは続く。

間合いが徐々に縮まり。

槍から剣への間合いへとなっていく。

長可は槍の柄を短く握って対応する。

懐の脇差と刀はとっておきだ。

無理をしてでも槍で対応する。

 

 

「グッ!? オォォ!!」

 

アロンダイトが両腕を掠め、手甲を引き裂いて鮮血を飛ばす。

間合いが小さくなればなるほど圧倒的に明らかになる地力と才能の差。

なんとか両腕を持っていかれないことで一杯一杯になっていくが。

剣先は遂に銅の部分を掠めて。

フルフェイス型の兜を弾き飛ばす。

 

鉄と鉄が弾けるような音と共に兜が上にとんだ。

 

同時に長可の体勢が崩れる。

 

ランスロットはそれを好機と見るや否や。

一歩踏み込む。アロンダイトはまだ振るわない。

こういう時は大概に。

 

「シャァ!!」

 

破れかぶれの攻撃が飛んでくるというのが相場だからだ。

だがランスロットは長可の太刀筋を見切っている。

より確実に仕留めるべく。槍と剣を交差させ軌道を反らしながら相手を切り捨てる交差殺法の軌道。

槍と剣が交差する瞬間に手首を傾けつつ穂先を反らし。

そのまま踏み込んでいく算段なのだ。

このまま手をこまねいていては長可は切り捨てられるのみ。

 

もっとも長可が待っていたのは、この行動に他ならない。

刃を捌きつつ攻撃に転ずる瞬間と軌道をだ。

ランスロットは気づかない。

というより初見ではまず気づけと言う方が無理な手段が発動した。

 

「嗤え、人間無骨」

「!?」

 

 

アロンダイトと槍である「人間無骨」が接触する寸前で駆動音を立てて人間無骨の穂先が開く。

槍から十文字槍の形にだ。

それと同時に手の内で槍を回転させ。

翼の部分と刃の側面で挟み込むようにアロンダイトを絡めとり。

そのまま全体重を乗せて人間無骨の刃事、アロンダイトの切っ先を地面に埋める勢いでランスロットの構えを下段へと強制移行させる。

無論、そうすることに何の意味があるのかという話だが。

長可はそのまま下段に運んだ人間無骨の槍の根元を踏みつけて両方の獲物を固定。

既に長可の両手は人間無骨から離れている。

新たな得物を手にする気配もない。

ランスロットは絡めとられ人間無骨事地面に突き刺さったアロンダイトを抜こうとしたが。

一歩踏み込んで既に拳を振りかぶった長可が存在していた。

 

「ウォラァ!!」

「ッ!?」

 

アロンダイトを引き抜くよりも速く。

拳の方が早く走る。

ランスロットの頬を掠めて右腕が通過。

 

ランスロットは後退し剣を振える間合いに出ようとするが。

先ほど通過した長可の右腕の指がランスロットの後頭部の髪の毛を掴んでいた。

髪の毛を掴まれた激痛に一瞬呻くランスロット。

それを逃さず。鎧の襟首を左手でつかみ。

右足でランスロットの足を払いつつ。右腕を髪の毛掴んだまま。

長可の自身の咆哮に押すようにあるいは抱きかかえるように腕を動かし。

長可は体の加重を後方に移行させつつ体の位置を入れ替えていく。

 

柔道における山嵐に近い形であるが。

 

殺し合いの場であることで正調の型から外れているが。

要するに押し倒せれば問題はない。

押し倒し。

即座にマウントを取った長可は腰の脇差を引き抜いて逆手に持つ。

 

「死ねや!!!」

「断る!」

 

長可の叫びと同時に振り落とされた脇差の側面を左手の手甲で叩いて反らす。

脇差はランススロットの左側頭部すぐ横の地面に刺さり。

それによって頭部を下げてしまい。

ランスロットの拳の間合いに入った長可の顔面に体勢的に不完全で本来の力を発揮できないとはいえ。

ランスロットの全力の拳が長可の顔面にヒットする。

鼻がへし折れて顔面が陥没でもするのではないかという衝撃が長可の頭部を襲うが。

それが来るとわかっていたので瞬間的に上体を後方に反らして威力だけは削がす。

それでも額のが割れ派手に出血。折れた鼻からは鼻血が噴出した。

だがそれだけだ。

この男にそんな程度でひるませることは不可能だ。

 

お返しとばかりに左拳で頭部ではなく、ランスロットの胸部を殴りつけた。

全体重を乗せて指やら拳やらが砕けるのをいとわずにである。

如何に肉を蘇生できても。装備まではそうはいかない。

陥没した鎧が鋳型となって胴を圧迫。継続ダメージを与え続ける。

肺が破裂しへし折れた肋骨が食い込みランスロットが吐血する。

無論、祝福属性の乗っていない攻撃の為。

ジャンヌ・オルタの支援で傷は癒えようとするが。

 

先ほど述べた通りへこんだ鎧が鋳型となって再生を許さない。

再生しようとする体組織が無理に傷口を埋めようとしては鎧に圧迫され崩壊を繰り返す。

再生と崩壊の繰り返しだ。

こうなっては何度も同じことをされているようなものである。

 

と言っても長可とて無事で済むはずがない。

継続ダメージを与える代わりに左拳を犠牲にしたにも等しいのだ。

鉄に対し拳を叩き込み無事で済むのは書文などの優れた拳法家くらいな物だろう。

そも前提からして選択肢に入らない行為を長可は狂った感性で選び取ったに過ぎないのだ。

指がへし折れて無茶苦茶になるのを構わず。

本来ならば達哉に回復魔法を頼むという手段を選ぶべきだが。

聞こえてくる戦場の前線を突破しようとする音に彼はその選択肢を捨てた。

第一に脇差を握っているのは右手だ。

戦闘続行に支障は無いと判断する。

第一に実力差を顧みて、腕一本くらいはくれてやるつもりだったのだ。

こんなことでいちいち達哉たちにけがの治療などは要請していられない。

 

 

右手の脇差は取って置きなので振り下ろす振りだけを今はして。

長可は更なる致命的な隙をこじ開けるべく、左腕を振り下ろし。ランスロットの顔面やら喉元を殴りつけていく。

へし折れた指がさらに潰れるが知った事ではないとばかりにだ。

傷は治癒するが痛みやら脳震盪までは回復してくれることはない。

さしものランスロットもこれには堪ったものではないと。

彼の振り下ろされた左腕を右手で防ぎ掴み取り。

万力の如き力を籠める。

長可の左腕の肉と骨が軋みを上げた。

 

「ヅッ!?」

 

さしもの長可も悶絶する。

骨の折れた指先を掴まれランスロットの指が食い込んでいるのだ。

自身から殴りかかる痛みは一瞬で済むが。

掴み圧迫されればそれは握られる限り絞めあげられるが如きの痛みだ。

流石に長可も痛みに苦悶の声を上げるという物である。

 

長可の苦悶の声を、チャンスととらえたランスロットは。

そのまま長可の左腕を引っ張り引きはがそうとする。

既にもう片方の腕にはアロンダイトが握りしめられていた。

このまま引きはがせば形勢は逆転するだろう。

 

だが此処にきてはミスだ。

引きはがすのではなく。

多少無理をしてでもアロンダイトで長可に傷を与えておくべきだった。

 

長可は完全にランスロットの両腕がふさがったことを確認し。

左腕から力を抜いてあえて引っ張らせる。

ランスロットの力を込めた右腕が不要に力んで空振るように伸び切った。

そしてもう片方はアロンダイトを握りしめている。

完全に長可の右腕の事が眼中からなくなっていた。

組み伏せられたことから脱却するのに思考が埋め尽くされていたからである。

 

 

「しまッ」

 

 

長可の脇差が躊躇なく振り下ろされ。

その思考の最後の刹那。

 

 

王の遠ざかっていく背中が見えた気がして

 

 

「なぜ・・・私の祈りは何時も届かぬ・・・」

 

 

ランスロットは呆然と呟くように言った。

 

決着が着いたのである。

脇差がランスロットの眼孔から後頭部まで貫通しているのだ。

刃に祝福が乗っている以上、致命傷である。

さらに追撃とばかりに致命傷を広げ、尚且つ脇差を抜きやすくするように

脇差を半回転させ傷口を広げつつ傷口を掻きま回しつつ脇差を長可は引き抜き

頭部を完全に破壊。

如何にサーヴァントと言えどここまでされれば死ぬのみ。

そのままジャンヌ・オルタの持つ聖杯に回収され復活するまでは出てこれない

 

ランスロットはそれ以降言葉を発することなく粒子化し消えていく。

完全に消えたのを見届けて一息つきつつ長可は脇差を鞘に納めて立ち上がり。

 

 

「自分本位だからだろ」

 

 

長可は自分なりに応えた。

生前彼もやらかしている。故に人の事は言えないが。

それでも償うように長可は動いた。

関守を切った時も腹を切れと言われれば腹を切った。

放置され錆びついて行く刃の様な無様な生き恥を晒せと言われればそうする覚悟はあった。

 

「王に無様に生き恥を晒せと言われたんだから。甘んじて受け入れろよ。王の嫁さん寝とって、当然の罰が課せられて、それを受けることなく姫の方を取って仲間殺して逃げ切って。後で後悔するなんかただの馬鹿じゃねぇか。そんなもん忠義とは呼ばねぇ」

 

尽す相手に対する裏切り。

それが身を捧げ主に利益をもたらす物であればいい。

だが先ほども述べた通り。

ランスロットの場合は弁解の余地がないのだ。

長可ですらドン引きした物である。

彼からすればランスロットの過去の所業は織田の家臣団一名除くの結束に泥を叩きつける様なものだからだ。

気に入らないのも当然だろう。

 

 

「そこまでやっといて楽に死ねるだとか。栄光ある物だとかあると思うんじゃねぇよ。本当に王様の為だとか思ってんならやること別にあるんだろうが」

 

 

そう吐き捨てて長可は右手で落ちていた人間無骨を拾い上げる。

長可とランスロットのあり様の違いは。最後まで主に忠を貫いたか否か。

死に際に納得するように歩めたか否かであろう

 

本陣からは爆音と轟音に咆哮が響き渡ってきて。

彼の目線の先では戦場の中枢を駆け抜けていく馬車が見えた。

それと同時に士気が上がる。

事前に流しておいた噂が効力を上げているのだ。

 

 

「さぁて。もう一仕事すっかな」

 

 

片手で器用に槍を担ぎ。

長可は敵の集中している手短な場所へと突撃する。

いま仕えるべきは殿でもなければ殿下でもない。生きようとする青年少女たちだ。

 

それと同時に。視界の片隅で巨躯が倒れる影が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兜割り

 

鎧抜き

 

具足狩

 

大よそ普通では成せぬ魔剣。

鉄を鉄で断つという矛盾。

 

 

『父上。このような業に何の意味がありますか?』

 

 

かつて若き宗矩は父であり師である「宗厳」に問うた。

聞こえはいいが混戦状況下における戦場でこのような剣技に何の意味があるのかと。

現に城に居る殿を喜ばせる、天覧の為の妙技でしかないと宗厳に問う。

剣術とは如何に常人が完全武装の人間を惨殺するかにある。

そんな魔剣は必要ない。

銃と一緒だ。

いかに効率で手軽に殺せるかの物でしかない。

故にこんな常人では至れぬ魔剣に何の意味があるのか?

天覧で将軍なりなんだり。

喜ばせる術理に何の意味があるのかと。

そのあんまりな言いように宗厳は苦笑しつつ。

 

『ふむ。貴様の言う事も一理ある』

 

若き宗矩にそう言って。

 

『時に肌は煮皮の如く。骨は鉄の如く。外殻は鉄側の如き相手を仕留めなければならぬ敵を屠らなければならぬときがある。』

『そのような相手は居ませぬ』

 

宗厳の語る相手は夢想の住人。

既に神秘が去ったこの江戸でそんな想定何の意味があるのかと。

 

『カカッ そうかもなぁ・・・。だが何れわかるさ。宗矩』

 

その時は生前の宗矩は訪れることはなかった。

だがしかし。

 

 

 

皮肉にも死後の現在でそのような相手と殺し合う羽目になるとは思いもしなかった。

 

宗矩はその巨躯から放たれる一撃を凌いでいた。

普通ならばありえない。

がしかし、柔術の基本である受けて流すを行うことによってそれを成す。

高速で振るわれる四肢に攻めこむように攻撃を加えて。攻撃軌道を反らす高等攻勢防御術である。

理論的には銃弾を弾くのと同じである。

理論は簡単だが成すのは難しい。

打ち込む角度と間合いを間違えれば宗矩の愛刀事、その身をひねり潰される。

 

技巧の極み。剣豪としての腕を極めた宗矩だからこそできる芸当である。

さらにそこから弾いて反らして。その衝撃を得物に伝達させ刃の威力を損なわず。

寧ろ相手の攻撃の威力を上乗せしてカウンターする妙技を行えるのは。日本でも両手指より少し少ないくらいであろう。

 

鮮血が走る。

無論、清姫の鮮血だ。

怒涛の攻撃を行っているのは清姫のはずなのに。

一方的に宗矩に切り刻まれていく。

 

「すっげ・・・」

「あれが、極東の剣士」

 

周囲の掃討に移っていたフランス兵も思わず見惚れる武の極致である。

如何にサーヴァントとは言え人間が剣一本と技巧のみで竜と対峙し圧倒する様は神話のそれに近い光景だからだ。

 

と言っても宗矩の心中に余裕はない。

一手のミスが先ほども述べた通りの致命傷だ。

単純なスペック差はそれだけで脅威である。

第一に膾にこそにしているが。

 

「Syaaaa・・・」

 

清姫はいまだ健在であった。

愛刀にマルタのスキルを付属させている物の。

あくまでもそれはジャンヌ・オルタの加護を妨害、あるいは無効にするものだ。

サーヴァントが所持する自動再生スキルや蘇生を無力化は出来ない。

故に如何に切り刻もうが、魔獣クラス以上の竜種が備える再生の力を備える、今の清姫には意味がない。

現に、湯気を湯立たせながら傷が数秒にも満たぬうちに完治している。

がしかし。これでもまだましだ。

マルタのスキルによって鬼種としての再生能力及びジャンヌ・オルタの加護は封じ込めている。

もし加護が無い場合はジャンヌ・オルタの加護&鬼種の生命力&竜の治癒能力で刀傷程度なら瞬きせぬ間に回復してしまうからだ。

 

―殺しきるには、首を落すか脳を破壊するなどの再生不可能な傷或いは霊核を貫くほかないか―

 

分かり切っていたが宗矩の手札ではそれしかない。

幸いにも相手の急所はワイバーンとの交戦経験と剣術家としての戦闘経験から導き出されている。

さらに確認のために何度かカマを掛けたが。

案の定、弱点は弱点であるゆえに理性が吹っ飛んでいても本能で庇うような動きをしていた。

であるなら。あとは簡単である。

相手の体幹を崩し、防御力皆無な瞳から脳へ刀を突き入れるか魔剣による防御無視で霊核を貫けばいい。

柳生の秘伝には刃で鎧を通す秘剣という名の魔剣もあるのだ。

喫するべきことは決まった。

後は行くのみと宗矩は意を決し刃を構えて疾駆しようとする刹那。

 

清姫も攻めを替えた。

 

本能で察したのである。

目の前の男が自分を殺せる技を放ってくると。

であるならばとばかりに清姫は魔力を炎に変換し全身から噴射。

ただの人間ならば一瞬にして丸焼きであろうものの。

 

「――――」

 

宗矩は迫りくる炎を見つめ。

右手で刀を持ちペン回しのように器用に刃を回転させた。

無論それはミンチメーカーの回転刃の如き鋭い回転である。

クルクルと回る刃は空気を攪拌し、炎を巻き取りながら散らして無力化する。

いわば回し受けの刀術版といった形であった。

柔術も併用して治める柳生新陰流だからこその妙技であろう。

無論、得物を盾にしている以上。

攻めには転じれない。

清姫はそんな事情知ったことではないとばかりに右腕を振う。

無論、炎を纏ったままの腕だ。

 

だが宗矩はそれを逃さない。

 

清姫が腕の攻撃に転じる瞬間。炎の噴射が止んだのである。

放射ではなく鎧として身にまとった影響である。

高波の構えを取って最大速で踏み込みつつ。

腕を引き拳を振るわんとした清姫の腕の筋肉の動きと鱗の一を見て一線を結び。

 

躊躇なく踏み込んだ。

 

瞬発的機敏性であればクーフーリンですら上回る宗矩の踏み込みである

 

炎が衣類に着火するよりも早く。腕とすれ違う形で清姫の右腕を斬り飛ばしつつ清姫の脇を通り抜けて見せたのだ。

 

「―――――――!?」

「如何に骨を焦がす程の猛火とて・・・」

 

驚愕に目を見開く清姫を他所に。宗矩はそのまま切り抜く形で距離を置き。

再び清姫に向き直りつつ。

 

「着火する前に走り抜けてしまえば安泰である」

 

そんな理不尽を口にする。

先ほども述べた通り。瞬発力ならクーフーリンよりも上だ。

言ってやれないことはないのである。

だがしかし。

理不尽なのは向こうも一緒だった。

トカゲのしっぽ切りの如く傷の表面から湯気を出しながら腕が生えてきている。

加護ではない種族としての特異性故だ。

規格外の供給元もあるから成せる荒業である。

 

時間をかければ倒せないことはない。

だが時間はない。

既に本陣では戦闘が開始。段取り道理であれば達哉たちが突っ込んでくるのだ。

今すぐ倒さねばならない。殺し切らねばならない。

次の手筋で殺しきる事を意に決し。

主たちに念話をつなげて支援を要請する

 

『オルガマリー殿、主殿でも良い。防御壁の様な支援が欲しいのだが』

 

長可とは違い相対する相手が相手である。

下手に相打ち狙いなんぞすれば、宗矩が消し炭だ。

 

『だったら俺がマカラカーンで』

『いえ私がやっておくわ』

『所長の方が余裕ないんじゃないのか?』

『魔術回路で分割思考があるからね、こっちは!!』

 

通信越しに聞こえてくる爆音。

両者ともにすさまじい火力を押収していることは手に取るようにわかる。

それで意外だったのは。オルガマリーの方に若干余裕がある事であった。

魔術回路は演算機としての側面もある。

本来なら時計塔魔術師としては邪道的扱いであるものの。

そんな建前なんぞ糞の役にも立たないのでそうやっているがゆえに若干の余裕があった。

 

『分かり申した。ではオルガマリー殿。タイミングはこちらで上げまする。』

 

宗矩は余裕があるオルガマリーに支援を委託。

後は斬り通すのみである。

相手を見据えて。

呼吸を一つ二つ置いて。

 

『今!!』

 

走ると同時に念話を飛ばす。

 

『オシリスの塵!!』

 

宗矩の合図と共に乱戦の最中でありながら。

魔術回路を使っての分割思考でタイミングをミスることなく礼装に魔力を込めて術式を起動。

アマデウスのラインを使って宗矩に伝達起動する。

 

アトラス院の秘術である「オシリスの塵」はいわばサーヴァントを無敵化させるものである。

 

耐性を付与すると言っても良い。

どの様な原理かはオルガマリーもよくわかっていない。

神秘は隠匿されるものだからだ。

他者にばれては効果が激減するゆえに原理自体はブラックボックス化されている。

信用も信頼もないが使えるなら使うしかないのが現状だ。

ただし乱発は出来ない。消費魔力が大きいのと礼装の演算機能のリセットに時間がかかる為である。

 

無敵化した宗矩はその信頼を受けて。

 

躊躇なく炎の渦に飛び込み。

その健脚をフル稼働させて清姫の膝を踏み台に真上に跳躍。

頭部辺りを横切る際に彼女の髪の毛を左手で掴んでおき、そのまま清姫の真上を取る。

清姫は反射的に真上を見て口に炎を滾らせ吐き出さんとするが。

宗矩は先ほど掴んでおいた髪の毛を力の限りに引っ張る。

無論、竜種の頭髪である、早々簡単には抜けることはないが。

髪の毛を引っ張られれば。痛みに悶えるのが生物的反応の原則だ。

頭部に走る痛みに数瞬。清姫の攻撃が遅れる。

そのまま髪の毛を類寄せるように引っ張り空中で反転。

今度は垂直に下降しながら、刀を握る右腕を引き絞りながら腰から上を右に捩じる。

 

間合いまで降下し。宗矩は捩じった腰と引き絞った右腕をバネにしながら。

下降の速度と体重を全乗せした刺突を放った。

それは清姫の左目から脳髄、喉まで貫通するレベルで深々と刺さる。

清姫が絶叫する。

 

「まだ・・・倒れぬかッ!?」

 

確かに頭部機能を破壊したはずだ、

まだ動けるとは恐ろしい生命力である。

頭部を振り回し宗矩を振り下ろさんと狂乱する。

無論、いつまでもしがみ付いているつもりなど毛頭も無く。

これで倒れぬならばと。剣を引き抜き跳躍。

地面に着地し大上段に剣を構え。

 

最速で踏み込んだ。

同時に清姫の顔面が宗矩に向けられ。その顎が開かれて炎が灯る

最大威力のブレス攻撃だ。

ファヴニールのそれに比べれば大したことはないが何度も言う通り直撃も。

かすり傷も避けなければならない。

 

 

ふぅと息を吐き宗矩は刃を構え思う。

 

 

 

 

―まさか。影法師に成り果ててようやく理解するとは―

 

 

 

天覧の為の魔剣。実戦で使う意義の無い魔剣。

それを使う相手が今目の前にいる。

 

 

 

「Syayyyyyyyyaaaaaaa」

 

今まさに対峙するのは鬼竜。

鱗は鉄の如く。

皮膚は煮皮の如くに。

骨は鉄の如きに。

まさに人外の領域。

宗矩は苦笑一つしつつ。

埃被った魔剣を宗矩は引っ張り出した。

 

 

「柳生・・・奥義」

 

 

 

それに術理はない。

それに理論はない。

それに道理はない。

 

それは万人が見る夢である。

ただの刀の一振り。

ただの振り下ろしのみをもって刀で頑強な兜を断つなどありえないことなのだ。

鉄を断つなど人間では成せるはずもない。

出来れば因果が破綻していると言わざるを得ない。

 

故に幻想。故に夢想。故に魔技。

 

何故か切れてしまうという夢の極致。

 

それはどうしようもなく魔剣であった。

 

 

「安珍サまァアアぁぁあああああああああうjhぐkhlvch;;ひうhycgjyhjglx!!」

 

清姫の絶叫と共に吐き出されようとした炎よりも早く。

 

 

「兜割り!」

 

 

頭部に宗矩の縦一閃が炸裂する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私はどうすればよかったのでしょうか?』

 

 

痛みにあえぐ中で清姫はぼうと思う。

どうすればよかったのか?

自分がそれほどまでに憎かった。

他者を責めたいわけではない。

だが13の少女が自罰意識を抑え込むのは無理だ。

どうしても他罰意識として八つ当たりしてしまう。

結果この様だ。

挙句現世に出ては嘘を許さず他者に安珍を重ねて強要する。

そんな醜い存在になりたくはなかった。

が成ってしまった。

 

 

 

『誰か・・・誰かわたしを・・・・』

 

 

 

激痛で自我が多少戻りかけて。

 

自分の前に立つ侍が白刃を振り下ろす

 

それが酷く救いに見えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けてください・・・か」

 

轟音。清姫の頭部は真っ二つに切り落とされ倒れ伏す。

そのまま粒子化し消えていく。

それを見つつ宗矩は最後に聞こえた言葉を口に出して呟いた。

個人名を叫ぶ様な絶叫。

聞こえたような気がした鈴の様な声。

それから推測するに安珍清姫伝説の清姫であろうと辺りを付ける。

 

 

宗矩とて禅の心得がある。

高名な和尚から教えられたこともある。

故に彼女が抱えていた物を察する。

究極的自己嫌悪をだ。

だがそれをどうすることもできない。

腰を据えて話し合える状況下ならメンタルケアからできるが。

いまこの状況の殺し合いの場ではその前提に意味はない。

此処は戦場だ躊躇し臆した物から死ぬ。

同情しないとなれば嘘になるが。今この場においてはその心理を切り離して。

左右から襲い掛かってきた悪魔を振り向きざまに切り捨て呟く。

 

 

「・・・だからか?」

 

 

敵の判明サーヴァントの情報は伝承込みで予習済みだ。

無論達哉もだ。

達哉の話はある程度は聴いている。

大事な人を守れなかったトラウマ。友と別れざるを得なかったトラウマを抱えているということをだ。

 

 

「これ以上は想像の域を出ないか」

 

 

意図的に達哉や戦闘経験のないオルガマリーやマシュに対し。

悔いや憎悪を突き付けることで傷つけるための意図的配置なのかと。

無論推測に過ぎない。

 

だが敵の”伝承(リレキ)”を見ているとそうとしか思えない。

 

しかし思っている暇などないのだ。

 

後方から馬車が疾駆し。馬車に乗った達哉がメタトロンを呼び出し。

マリーアントワネットはジュノンを呼び出し光魔法をばら蒔きつつ。

敵を馬車で引き殺し。それでも取り付こうとする悪魔や屍兵をマシュの大盾とジャンヌの旗が弾き飛ばしながら。

高速で戦場を駆け抜けていく。

 

「武運を」

 

そう短く祈って宗矩もまた戦場に向き直る。

クーフーリンは間に合わない。

未だ前方で巨躯が揺れて激戦の閃光は止むことはなかった。




やっとできた・・・仕事がイソガシイ・・・イソガシイ・・・
頭がマワラナイ・・・マワライナイ・・・

あと電波VSジャンヌの回のぷろっとが・・・どこかに消えてしまった・・・

渾身の出来だったのに・・・渾身の煽りだったのに・・・

資料を漁って書き直そうと思えば、その資料が見つからない。どうしてこうなった・・・


ランスロの独白は端折りました。
だって書くと。侮辱にしかならないですもん。
ほんとランスロットって功績でかいけれどそれ以上にやらかしの方がでかくてフォローのしようがないですよね・・・
まぁ原作の方で散々描写はやってますし許してください。


でもランスロットはマジ強いですよ。
長可君が勝てたのはランスロットの時代には無かった十文字槍による武器拘束からの組手甲冑術という初見殺しのお陰ですね
サーヴァント戦だと基本的に高機動しながらの打ち合いになるから。
英霊になった後でも味わう機会はないと思われるので。
ランスロは生前なまじ才能があったとの対戦相手が基本人外だったということもあって。寝技の完全に対応できないのと。
故に平安から続く内戦国家だった日本内で洗礼された寝技には対応できなかったというわけです。
これが無かったら逆に森くんがフルボッコでしたからね。
というか、森くんの場合は寝技以外に勝ち筋がないというクソゲー使用。

かと言って暴走キヨヒー相手ではスペック差でゴリ押されて勝ち目がないと言う事なので。
ランスロットを相手取るしかなかったという事情もあります。

キヨヒーはまぁ相手が悪かった。
宗矩を相手にするには力云々かんぬんではなく技量で優れるやつじゃないとまず無理。


でもまぁ・・・神秘が強大なのに技量も頭おかしいのは居ますけど。
アチャクレスやらオジマンやらですね。
仙人やら剣聖もヤベーとか。


次はたっちゃん達の現状をほんのりやって。

兄貴VSアタランテとエリちゃんVSカーミラでお送りします。


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九節 「血路を行く/開く/保つ」

悪質過ぎるマッチポンプ。どこまで、クソッタレなんだ!


幼女戦記より抜粋。


達哉たちはオルガマリーの絶叫と共に本陣から飛び出た。

戦場が突っ込んでくるかのような錯覚が起こるような速度で突っ込む。

サーヴァント同士の戦いは有利に進んではいるが。

人間VS異形の軍団戦はジャンヌ・オルタ陣営が有利に運んでいる。

数で上回れている上に質も向こうが上だ。

総崩れになっていない方がおかしい。

現に出発と同時に本陣は文字通り爆砕し。

交戦状況に入っている。

それでもそんな最中で総崩れになっていないのは、アマデウスの作ったラインを活用しジル元帥が指揮を執っているからだ。

さらにプラスで嘗て軍師として従軍経験のあるダヴィンチが補佐に入っているのも大きい。

 

 

「所長・・・」

「マシュ、所長を信じろ。前を向くんだ!敵が来る!」

 

オルガマリーを案じるマシュに達哉は今は信じるほかないと言ってペルソナをシフト。

一方のマシュは馬車と言う特性上、盾は取り回しが極限まで悪いため。

盾を背中に背負って、フランス軍から供給されたハンドメイスを取り出して握る。

前線が既にそこだ。人間たちと魑魅魍魎共が争っている。

士気は保たれていることがどこまで持つか。

現に達哉の視界の先では。ランスロットと清姫を長可と宗矩が討ち取っている物の。

敵数は一向に減っていない。

敵のサーヴァントは倒したが雑魚であっても通常戦力では厳しいのが現状だ。

加えてサーヴァントも身は一つ。そう多くに対処は不可能。

ジリジリと士気は局所的勝利を収めても一時的な回復にしかならず、ジリジリと削られるのは道理。

故に、予定道理にジャンヌに旗を掲げらせることにした。

 

「ジャンヌ旗を掲げてくれ」

「分かりました。あの名乗りは!?」

「聞こえないから。凛と立っていればいい!! 来いメタトロン!!」

 

 

絶望的状況では人々は都合の良い希望に縋る物である。

何度かここで戦線にジャンヌを投入してきたのが幸をそうしたのだ。

最初から噂の種はあったのだ。

であるならあとは単純。オルガマリーがジル・ド・レェに頼んで。

フランスのピンチに―嘗ての聖女が闇に堕ちた自分を倒すべく天の国から帰ってきたと言う、―類の噂を戦端が開く前に流布しておいたのである。

多少の齟齬はあるが何度も言う通り。このような極限状況下では人は何にでも縋る。

仕込みは十全に機能していた。

出力が向上し純白のバトルドレスに戦装束が変化し、以前よりも神々しい存在になった。ジャンヌが硝子の馬が引く馬車の上で天使(達哉のペルソナだが)を従えていれば信じるという物である。演出も完璧だ。

 

「うわぁ!?」

「ジャンヌさん、何かありましたか!?」

「いえ・・・その霊基が向上しすぎて」

 

噂の真実化。それによる霊基の向上による出力上昇による体の差異と高揚感にジャンヌが膝をつく。

 

「立てそうですか?」

「ちょっと待ってください。力が上がり過ぎて下手に力を入れると変な方向にすっ飛んでいきそうなんです、ちょっと待ってください」

 

対象を設定し明確な特攻を付けるということはこういうことだ。

ジャンヌはジャンヌ・オルタに対する明確なカウンターとして設定されたのである。

であるなら出力自体がジャンヌ・オルタ基準となるのだ。

考えてほしい。

行き成りアップした握力で紙コップを握れば握り潰してしまうというように。

下手に踏み込みなんぞすれば馬車の屋根を破壊してしまうのだ。

だが、そうも言ってはいられない。

既に前線を突破して敵地に入り込んだのである

 

「敵来るわ! 交戦に備えて!!」

 

マリー・アントワネットがそう叫ぶ。

最前線より先は敵の陣営だ。これから先は火力的支援は一切ない。

逆に言えば味方への誤射の心配もないので遠慮なく攻撃ができるというわけである。

敵も異様な身なりと高レベルの人間が突っ込んできたということを認識し終結を始める。

 

「メタトロン!! マハハマオン!!」

「ジュノン!! マハコウガオン!!」

 

故に二人とも容赦はなく後の事を考えてのセーブこそしたが、範囲指定に自重はしない。

なぎ払うのではなく、始点を設定し爆発させるという物だった。

戦闘機から投下された気化爆弾の如くに炸裂する二つの光魔が敵の軍勢を薙ぎ払う。

それでも、その爆発に耐えながら進む者たちもまた存在した。

味方の死骸を盾に悪魔どもがなりふり構わず突っ込んでくるのである。

臓物やら死に切って途端に腐敗が急速進行した死骸を悪魔やら屍兵に海魔たちが盾にして進むという地獄的光景だ。

達哉とマリー・アントワネットの張る弾幕をそうやって強引に潜り抜けてくる連中が接近。

 

「ジャンヌ!、体調は!?」

「大丈夫です!! 行けます!」

 

マリー・アントワネットが戦場の轟音にかき消されぬように大声で叫び状況を確認。

多少力加減が利かないとはいえ敵は取り付き始めている。

加減の効かない旗を振い。敵を血霧に変換しつつ

一方の達哉は右のほうの扉を斬り飛ばし。ペルソナをアポロにチェンジして正宗を鞘から抜き放ち白刃を晒しつつ。

取り付こうとしていた悪魔と海魔を斬り飛ばし。自らの脚で蹴り飛ばし、アポロの剛腕で殴り飛ばす。

マシュは左側の扉を粉砕し、左側を担当。

ハンドメイスを持って蹴りやらなんやらで敵を殴りたたき出している。

 

「ならいいわ、このまま突っ込むから振り落とされないように注意して!!」

 

マリー・アントワネットの叫びと同時に彼らは最短ルートを抜けるべく。

巨猪が暴れる場所へと一心不乱に突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風切り音が無数に鳴る。

クーフーリンは猪と化したアタランテ・オルタの背を疾駆していた。

毛はピアノ線の如く鋭く。

体の所々から出ている管から牙の様な刃を生やした触手が唸り。

クーフーリンに殺到する物の。

 

「シッ」

 

呼吸一つで乗り越えんとしていた。

こんなもの生前に経験済みだ。

スカサハの扱きやら嗾ける魔物と大差が無いと突破していく。

鋭い毛並みを鮭飛びと呼ばれる歩法の応用で靴を傷つけることなく突破。

迫りくる触手をゲイボルグを振って槍を滑らせるように捌き切る。

 

「落ちろ!!」

 

が多方面攻撃が当たるなどととは。アタランテ・オルタ自身が思っていないことだ。

故に回避されるのも計算済みで追い込むように攻撃による包囲網を作り上げていき。

矢が回避できぬタイミングで渾身の一撃を放つ。

魔力供給に関しては潤濁にあるのだ。

 

だがしかし現実とは無慈悲で。

 

クーフーリンは躊躇なく飛び込んだ。

脚に力を込めて跳躍。

回避行動の効かぬ空中に行くという不可解な行動。

だが迫りくる攻撃の数々をよけるすべはない。

 

それは常人の尺度という物である。

 

短く息をクーフーリンは吐き。

下方から延びる触手に蹴りを叩き込みつつ足場にして跳躍エネルギーに変換、再飛翔を行う。

無論左右からそれを呼んで囲い込まれるように放たれた触手はそれを逃がすことはないが。

クーフーリンは拳の裏拳と右手で振い。

槍が叩きつけられ。下方からの触手と同様に移動エネルギーに変換される。

上方から襲い掛来る触手は。それらの行動で稼がれたエネルギーをもって。

腰の動き。手足の動きによる空中での姿勢制御によってかわされ。

それらを回避されること込みを見越して放たれた矢はクルクルと両手で交互に入れ替えるように振るわれた槍で弾かれ。

尚且つ足元に丁度良く飛翔してきた矢は足場にされた。

 

要するにクーフーリンは四肢と槍を使って攻撃を足場と槍飛びの始点としたのである。

具体的には迫り突き薙ぎ払う触手に蹴りを叩き込むように力を込めて足場にしつつ跳躍。

放たれる矢を槍で受け止めて。受ける角度を調整し姿勢制御のための微調整と跳躍距離を稼ぐという行為を行い。

さらに正確な姿勢制御を成すために腰の動きや手足の運びまで入行い。

攻撃が着弾する前に全ての攻撃を捌き受け切って。

自身の移動エネルギーに変換する。

 

方から見れば槍衾に真直ぐ突っ込み、バレルロールだけで突破したようにしか見えないが。

実際にはそれだけの技巧が行われているのだ。

要するに攻撃なんぞ意味がないのだ。

 

アタランテの狩人としての確かな目は。その隔絶した動きを見せつけられて驚愕する。

誘い囲い込み一撃を届けるだけの布陣が容易く突破されるとは思いもしなかった。

アキレウスですら屠る気で行う必殺陣はクーフーリンには届かなかったのである。

アタランテはケルトの大英雄の予測戦力の認識を変更する。

 

アキレウス以上ヘラクレス未満であると。

 

単純な速さでは無論アキレウスに軍配が上がるが。

技巧の巧さという速さではクーフーリンに軍配がある。

そして精神的青さがないのだ。

確かに平時の聖杯戦争であればクーフーリンは心情的縛りがあるが。

人理焼却下という事。ニャルラトホテプが介入していると言う事もあって。勇者的信条だとかを取り払っている。

 

「っ」

 

アタランテは歯を食いしばって第二陣を整える。

弓矢を引き絞り触手を生やす管を再配置。

しかし既にクーフーリンの槍の間合いだ。

だが彼に躊躇はない。宗矩と長可は作戦を遂行し前線を切り開いた。

もう手前に達哉たちの馬車が派手に花火を咲かせつつ突撃してきている。

躊躇は無く全霊だ。

 

「この一撃。手向けとして受け取れ」

 

彼の真紅の宝石の如き色を持つ瞳が鋭さを帯び。

ゲイボルグに真紅の魔力が灯る。

下半身を巨猪に変貌させている以上。アタランテに回避は出来ない。

攻撃はからならず命中する。

幸運ランクが高ければ避けることもできなくはないが。

アタランテの幸運ランクはCだ。

加えて防御及び回避スキル宝具は存在しない。

準権能クラスの一撃を回避する方法なんぞないのだ。

 

クーフーリンはすでに間合いに入ると同時に槍を放つ。

アタランテは両腕を交差させ。攻撃軌道に割り込ませて防御の姿勢。

魔力を回し両腕を肥大化。

肉の壁で防ごうとするが。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)

 

意味がない。

ゲイボルクの真名解放を防ぐには物理防御力よりも幸運と彼自身の槍捌きを超えることが、まず大前提なのだ。

ペルソナ使いであればまず幸運値の高いペルソナか闇属性耐性持ちのペルソナを用意すれば因果逆転の部分は防げる。

ただし心臓を狙う場合の軌道なら。ペルソナ使いであっても自力で避けなければならない。

因果逆転はどうにかできても。

クーフーリン自身の技量はどうにもできないのだ。

アタランテはその両方をどうすることもできなかった。

故に覆せぬ結末が待つばかりであるが。

 

「捕まえたぞ・・・槍兵!!」

「!?」

 

肥大化した両腕の筋肉を硬直し。己が心臓ですら穿って見せた槍を拘束する。

確かに心臓を穿ったはずだとクーフーリンは驚愕しつつも身を反射に任せる。

ゲイボルグから手を放して即座に後退。

先ほどのと同じ要領で追撃を捌いて躱す。

無論、如何にクーフーリンと言えどタダではすまず。

四肢の具足がボロボロである。

最もアタランテの技量を知る人間からすれば、こう言うだろう『なんで具足がボロボロになる程度で済んでいるんだ?』と。

それだけクーフーリンの技量はおかしい。

現に長可とて匙を投げるレベルで隔絶している。

これで将としての才能もあるのだから。どこぞのパーフェクト仕様のロボだと言いたくもなる物だ。

 

だからこそ心臓の一個や二個程度くれてやるとアタランテは意気込み。

この布陣を整えて仕留める気でいたが。

この包囲網をクーフーリンは軽々と抜け出して見せた。

 

「化け物め・・・!!」

 

アタランテが忌々し気にそういうがクーフーリンは。

 

「心まで怪物に成りはてているテメェには言われたくねぇよ。」

 

そう言い返しつつゲイボルクの槍の機能を起動。

呪いじみたそれはアタランテの剛力すら意に返さず、勝手に引き抜けて。

クーフーリンの手元まで飛翔し戻ってくる。

戻って来たゲイボルクを受け止めて再度構えながら、心臓をぶち抜いたのに相手を殺しきれなかったことへの絡繰りを察する。

 

そもそも。あの目の前にいる上半身のアタランテ自体が疑似餌なのだ。

本体は今も直。クーフーリンが立つこの巨猪である。

心臓も宝具の機能である肉体の操作。変化。変化の側面で作り上げたでっち上げたものでしかない。

アタランテの霊核は今やこの巨大な巨体という肉の鎧に覆われた場所にあるのだ。

 

「抜かせ。我が憎悪。晴らすなら悪魔にでも、あの子にでも売ってやる!」

「そうやって、今生きる連中に害を成したら意味無いだろうが!」

 

アタランテはクーフリンの言葉に憎悪の絶叫じみた声で返し。

それじゃ只の八つ当たりと何が違うと

 

「貴様に何がわかる!! この世界のどこに愛着がわけるというのだ!! 何もかもを嘲笑うニャルラトホテプ!! そいつがいる限り何も終わりはしない!! あの子の苦しみは晴れず。周防達哉という青年も永遠に嬲られ続ける」

 

全人類が矛盾を超越した新人類になるまで試練という名の実験は行われる。

終わるまで永劫苦しみ続けるのだ。

現に周防達哉もジャンヌ・オルタも苦しみ続けている。

 

「惨過ぎるよ。あまりにもあの子も周防達哉も・・・ 世界を回す運命の歯車として廻され続ける生き続ける限りな・・・」

 

影は永劫嘲笑を止めない。

尊き祈りが形になったところで愚衆を先導し自らの手を汚さず踏みにじって破壊する

それがこの世だ。

一人。最善手を成し遂げたところで傍観者に徹する愚衆が物事をダメにする。

ギルガメッシュの建国も。イエスの教えも。アインシュタインの数式も。

誰もかれもがダメにした。

 

なら周防達哉の決断がそうならない理由はない。

 

この世は功利的な物が原則だ。

人類の少数が到達したところで何も変わらない。

 

「なにも変わらないんだったらぁ!! 全て終わらせて次を作るのが慈悲という物であろうがよ!!」

 

アタランテの絶叫と共に。

彼女の肉体が皿に変貌していく。

最早自分自身が消し飛ば根かねないほどだ。

変化とか改造とかの領域ではない

自己増殖及び自己進化ほどの物だ。

あのグリードですら、ここまででたらめではないだろう

 

「そうかい、だがそれを決めるのは死んでいる俺達じゃない」

 

されどクーフーリンは冷めきった声で、だがそれは違うだろうと否を突き付ける。

 

「世界を作っていくのはそうやって明日は少しでも良くなりますようにって祈りながら行動して生きて頑張っている連中だ。そうやって600万年前から続けてきた」

 

それが生者に許される足掻きだ。

人類が発生して、ずっと続いている祈りだ。

3000年で語る方がおかしいだろう。

霊長類が発生したのは六百万年だと言われ、それが真実であれば。

それでゆっくり進み文明を築き上げ発展してきた。

故にもう少し待つべきであろう。数十年単位で進化できるならどこの生物も苦労はしていないのだから。

 

現にクーフーリンが生きてきた時代より恵まれているし生きやすい時代ではないか。

医療は発展し娯楽は溢れている。

理不尽に疫病に掛かって死を待つようなものではない。

 

無論、それは一側面だ。

それゆえに格差が発生し搾取は横行している、でも過去の惨たらしさやら無慈悲さに比べればまだましと言えるのは道理ではないか。

であるならちゃんと進歩しているとクーフーリンは思える。

故にジャンヌ・オルタもアタランテも悪性を糾弾してはいるが。

それしか見ていない。

良い部分を見ようともしていない

 

「だから、墓場から這いずり出てきて火事場ドロなんぞして。間違いを弾劾しているテメェらが。世界の云々かんぬんを言う資格なんざねぇだろうが。」

 

生きているではないか。

皆死力を尽くしている。

それですら無駄だと言い切るか?

 

クーフーリンはそう啖呵を言い放ちつつ斜め後方に跳躍。

それと同時にアタランテの巨体が激震。

達哉とマリーアントワネットはそこまで来ている。

故に援護射撃が開始されていた。

 

「・・・アレは」

 

猪の方の目でそれを認識する。

忘れる物か忘れもしない。

あの旗はと。

 

脳裏によみがえるは並行世界の聖杯戦争。

救いたかった幼子。

それを慈悲と評して殺した女の旗。

だがそれにですら影がちらつく。

 

「ジャンヌ・ダルクゥ!!」

 

巨体を震わせ前進。

その脚を振り上げて踏みつぶさんとする。

だがそれを光の御子の前では悪手だ。

完全に彼から意識を外すとは

 

 

「させねぇよ。突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)

 

 

アタランテの意識がそれた瞬間に。

クーフーリンは動いていた。

宝具を躊躇なく開帳し。絨毯爆撃じみた攻撃を敢行する。

一転収集中ではなく。面攻撃特化方のゲイボルク本来の機能だ。

ただし。ショットガンの散弾で大型の獣を仕留められないように。面攻撃特化のゲイボルクでは。

現状のアタランテを仕留めるのは不可能。

クーフーリン自身。百も承知のうえである。

巨猪の背部全面を耕すが如き勢いで放たれたソレはアタランテの思考を縫いとめタタラを踏ませるに済むが。

 

『すまない。クーフーリン』

「気にすんな。こいつをここで縫い留めるか仕留めるのが俺の役割だからよ。あとちょいしたら無理すっから回復魔法よろしく」

『わかった。メディラハンか?』

「それでいい。タイミングは追って連絡する」

 

これで達哉たちは離脱で切る時間を稼いで見せた。

巨体の下を馬車が潜り抜けて敵本陣に抜けていく。

念話で達哉はクーフーリンに律義に礼を言うがクーフーリンは己が役割だから気にするなと言い。

クーフーリンは戻って来たゲイボルクを構える。

 

「貴様ァ!!」

「目移りしたテメェが悪い。此処は戦場だぜ。隙を晒せば後ろから刺されるは道理だろうよ!!」

 

その構えは刺し穿つ死棘の槍に近いが。

あえて形容するなら棒高跳びの選手が地面に棒を刺すときの物に近い。

 

アタランテを仕留めきるには火力が必要だ。

業では届かない。武器の機能では届かない。

であるなら残るは力のみであろうというのは道理の話しだろう。

 

「そして、もう次は無いと知れ。」

 

第三の奥義。

クーフーリンの渾身一擲の投擲である。

体の自壊すら引き起こす力による、ものである。

事前に自前に刻み込んでおいたルーン。預けられている攻撃用礼装。そして達哉たちからのバフもある

故に使用可能。

さらに自壊を伴う一撃であるがゆえに通常の聖杯戦争では、優れた癒し手が居なければ使えないが。

達哉というペルソナ使いがいるならば十分に使用も可能だ。

だがそれはさせんとアタランテが矢を放つが悪手でしかない。

矢避けの加護により認識範囲内であればどのような体制でアレ回避可能。

同時に体さばきを持って攻撃態勢は維持されている。

放たれた矢は気休めにもならず。

 

抉り穿つ鏖殺の槍ゥ(ゲイボルク)!!」

 

この巨体を破壊する勢いで槍を突き立てられ、炸裂。

衝撃波が円形状に広がるほどのものが炸裂する。

その威力は本物だ。なんせ主要時間軸に置いて不意打ち有りきとはいえ。

スーリヤの御子相手に致命傷を与えているのだ。

如何に分厚い肉の壁があれど意味をなさずぶち抜かれた。

そのまま倒れ伏した巨猪であるが・・・

 

「人の事は言えねぇけどよぉ・・・」

 

クーフーリンは魔力に分解されていく巨猪の背の上で悪態を吐く。

 

「往生際悪すぎだろ!!」

「言っただろうが。まだ終われぬとな」

 

アタランテ健在。

直撃を避けれないと判断し変異し増大した部位を捨てて離脱。

魔の一撃から逃れたのである。

クーフーリンの肉体へのダメージは既に達哉のメディラハンで回復済み。

即座に戦闘態勢へと体を引き戻す物の。

 

「!?」

 

その瞬間に自身に供給される魔力が数舜完全停止。

繋がりは太い物の明らかに供給される魔力が細くなっている。

ルーンの魔術に異常が発生。複数種類が機能停止。

隙ありとばかりに放たれた弓と触手の刃を叩き落としながらカルデアへと叫ぶように通信する。

 

「ええい!! 何があったカルデアァ!!」

『魔力供給システムに異常だ!! 少し待ってくれ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 左翼では。

 

 

 

「なんでよぉ!!」

「逃げるナァ!!」

 

悪魔やら海魔に屍兵はフランス軍の手によって完璧に食い止められていた。

ゆえに。エリザベートとカーミラが一騎打ちになるのは必須だ。

槍を振い、迫りくる拷問具を弾き飛ばし。拉げさせてエリザベートが前に進む都度に。

カーミラは後退を強いられる。

 

―徐々に追いつてきている、あと少し!!―

 

だが拷問器具が増える。

既にサーヴァントして規定された能力を超えていた。

鋼鉄処女やらファラリスの雄牛やらが大量に押し寄せてくるのだ。

 

「というかさぁ!!」

 

空洞の鉄鍋を叩き割る勢いで槍を振い

 

「なんで!! そんなトンチンカンな事になってんのよォ!!」

 

自らを貪り喰らわんと血錆びた大型の機械魔獣と対峙する。

機械魔獣は拷問器具をぐちゃぐちゃに組み合わせた物であった。

ドラゴンと狼の中間のような造形をしている。

さらにそこに同じく拷問器具で作り上げられた巨人も居り。

安易な突破を許さない。

吸血鬼が狼を使役するというのは実に皮肉が聞いていた。

これには思わずエリザベートも絶叫する。

 

だが巨体に似合わず物自体は軽い。

所詮は拷問器具の組み合わせで。中身は組み合わせている物がものだけに軽い。

だが巨体は脅威であるし。四方八方から拷問器具が無数にエリザベートを捕食しようかという勢いで迫ってくる

先ほどからエリザベートがカーミラを射程距離にとらえれば。徹底した物量戦術で距離を離されるという鼬ごっこだ。

 

「いい加減にぃ、往生しなさい!」

「嫌よ!」

 

 

これにはエリザベートもたまったものではない。

相手は操り人形だ。

攻撃の大よそを屍兵以上に無視して続行できる代物である。

十八番の音波攻撃も通用しない。

達哉たちの支援スキルのお陰でランクアップした身体能力と自身のスキル効果で何とか対応できているのが現状だ。

生命関係にはめっぽう強いが。

逆に言えば無機物系の敵に関しては天敵でもあるのだ。

 

「コナクソォ!」

 

悪態を吐きつつ槍を一閃。

迫りくる拷問機械巨人の腕を粉砕する。

 

救いと言えば拷問機械獣自体が見た目ほど頑強ではないことだろう。

元より甚振る事に特化した物だ。

つまるところ強度という物は通常の巨人種よりもはるかに劣る。

問題は。

魔力元がある限りいくらでも再生してくる質の悪さだ。

壊れた拷問器具がジャンヌ・オルタからの魔力供給によって即座に再集結しいびつに結合していく。

これではいくら倒したところでという話である。

 

(どうする? どうする!?)

 

時間がたてばたつほど、じり貧だ。

普通ならば火力さえあればなぎ飛ばせる。

だがエリザベートには達哉の様な火力を誇る物はなく。

クーフーリンのように面を爆撃するかのような物はなく。

マシュのように鉄壁を誇るような物はない。

さらに言えば技量という観点から言ってしまえば長可にですら遥かに劣っている。

対するカーミラは無尽蔵の供給源が存在し。

雑に宝具を連打できるからこうもなる。

 

心の差も潰された。

 

覚醒なんて都合の良い物はない。

だが武器はある。

本来なら攻撃手段ではないけれど散々攻撃手段に転用してきたのだ。

要するに突破できないなら敵陣をガン無視する攻撃手段だ。

 

「万策尽きたようねぇ!」

 

 

カーミラは拷問器具を追加で製造。

物量に物言わせて潰す気であるが。

 

「さぁてねぇ・・・やっぱ私には此れしかないわよねぇ」

 

エリザベートは槍に取り付けられたマイクを起動させる。

音とは一種の防御負荷の攻撃である。

音響的衝撃波は防ぎようがない。

 

『コーチ! 今暇!?』

 

エリザベートはアマデウスに念話を飛ばす。

いま余裕があるかと。

攻撃をより完璧なものにするためにアマデウスの力が必要だが。

 

『そんなものあるわけないだろ!!』

『アマデウス! 上 上!!』

 

アマデウスに手を空いているかと聞いてみれば。

案の定空いているわけもない。なんせ音声ラインによる魔力伝達。音声伝達。雑音取りと余裕がないのに。

サンソンに狙われて慣れぬ戦闘行為まで強いられている。

第一に龍とサーヴァント複数にペルソナ使いが入り乱れて戦闘している中で余裕なんぞある筈もない。

ならば無いもの強請りも仕方が無いと見切りをつけ。

己が感性と声に転換するしかないと心を決めて。

 

『何か必要なものがあるのかい?』

 

そこでロマニからの通信だ。

アマデウスの音声ラインは各サーヴァントを介して音声だけは繋がっている。

故に今の会話も聞こえていた。

アマデウスは手が離せないことが分かっていたので

此方でエリザベートの欲しい情報を用意すると言う。

 

「いま私の周囲の音響データ調べられない? できればリアルタイムで、音波で攻撃するから雑音のデータじゃなくて共鳴現象の方!!」

『結果論を言えば可能だけど・・・それを情報化できる人材が、いや待ていたな。ミック!!』

『何でしょうか!! こっちも音声精査で忙しいんですけれど!』

 

エリザベートの音響データの詳細が欲しいと要求に一瞬ロマニが口を塞ぎ駆けるが。

詳しい人材が通信班に居たと思い出す。

『ミック』と呼ばれた男性は高音質ヘッドフォンを右耳だけにかけて。

ラインの音声精査を手伝いつカルデアの通信ラインも維持する作業をしている男に声をかける。

 

『エリザベート周囲の共鳴音響データを精査。彼女にリアルタイムで提出できるかい!?』

『無茶言わないくださいよぉ!! こちとら。ラインの音響の雑音データ取りですよォ!!』

 

戦況は刻一刻と混戦状態だ。加えてデジタル処理では、通信に直接悪影響の出る魔力波動による雑音取りの為にミックはさっきから指をフルで動かし切っている。

これ以上望むべくもないという奴である。

 

『それなら、そっちは僕がやるよ!! 初●ミクでマギ☆マリの曲を耳コピした事あるし。何とかいけるから。ここは僕に任せて、ミックはとりあえず、エリザベートの方を手伝って!』

『あの医療主任。初音●クの耳コピとリアルタイムでの雑音取りじゃ、感覚全然違うんですけれど!! というか耳コピってアンタさぁ!』

『ないよりマシだろぉ!!。今は雑音より攻撃手段の確保!! 音声通信は雑音取りに不安があるなら常時僕らで監視して、受け取り側に伝達ミスが無いように僕らでミックが作業に集中の間は勧告すればいい!』

「ダァー!! グダグダしてないで出来るのかどうか、結論だけが欲しいのよ!! 結論!! というか音楽に詳しいダヴィンチは!?」

 

グダついているカルデアに叱褐を飛ばしながら。

地面を掬うように横なぎに払われた機械巨人の巨腕を回避と同時に。

自分の足元を過ぎようとするその腕に槍を突き刺し地面に縫い付けて固定。

左腕を強引に突き入れて装甲を力任に引きちぎりつつぶん投げ頭部を破壊。

タタラを踏ませ、槍を引き抜きながら疾駆。一気に頭頂部まで駆け上がり。

装甲がぶち当たり破損した頭部に槍を突き入れて破壊する。

無論そうしている間にも左右から機械魔獣二体が襲来。

 

『本陣での交戦で手放せなくなったジル元帥の代わりに総指揮中だよ!!』

 

カルデアからの無慈悲な情報にエリザベートは歯ぎしり一つ立てて自らのしっぽと槍を横に振るって。

弾き飛ばしつつ若干後退。

 

『ああもう、やってやりますよ、主任は主任の仕事をやっていてください! 達哉たちに戦闘任せっきりなんだ。情けないことはもう言いませんから!』

 

もうこうなればヤケ&大人としての責任を果たすべくミックはコンソールと向き合う。

 

『良いかエリザベート。音響の共鳴データの精査はリアルタイムで不完全だ。それに戦場は日常生活以上に雑音だらけだ。だから此処は使えそうで安定している音だけを探してピックアップする。』

 

戦場は不安定な音だらけである。

アマデウスのようにリアルタイムで全ての音を把握するのは無理だ。

故に使えそうな安定した物だけを精査し提出するという。

 

『その割り出しに時間が掛かる』

「具体的には!?」

『最低限五分、威力上げたいなら10分だ。時間をくれればくれるほど使える音の割り出しが効くからな!!』

「上等、やってやるわよ」

 

そう意気込むのはいいけれど

鈍い音がカーミラのすぐ近くから

 

「それで何か企んでいるらしいけれど出来るのかしら?」

「嘘ォ・・・」

 

 

機械合成獣と巨人が組みあがっていく。

そして生れ落ちるのは獣染みた巨大な巨人だ。

 

エリザベートが過去にカーミラ交戦した時には機械合成獣ですら出せなかった。

何故かと言われれば単純明快で。

エリザベートの支援役にマリーアントワネット。アマデウス。

バティにジャンヌかマルタがいたからである。

組み上げる前に片っ端から粉砕されたがゆえにできなかっただけの話で。

エリザベート単騎ならどうにでもなるのである。

 

「一時期は怖かったけれど。所詮は群れなきゃ何もできない小娘よねぇ。アンタ」

 

そう言いつつカーミラは嘲笑う。

 

「知ってるわよ。自分がどんなに無力かなんて」

 

そんなこと知っていると言い返す。ちゃんと物事を見据えて離さないような鋭く強い瞳でだ。

此処に来るまで嫌というほどそんなことは分からされている。

だから目を背けない。

マイクとしての機能はそのままに。

槍を構えて。強くカーミラを見据える。

たかが五分十分稼いで見せようではないかと雄々しくだ。

その姿をカーミラは見て不快感に顔を歪める。

 

「でもそれも私なのよ。どうしようもない私と言う人生じゃない。人生という過程を受け入れなければ、前に勧めないでしょ?」

 

強がりかも知れない。でも・・・それでも。

月で見た。自分の仮初のマスターはそれでも歩いて見せた。

どうしようもないと受け入れても分かっていても足掻いていた。

自分が自分になる、どうしようも無い過程も是としながらそれでも自分は自分なのだと叫んでいた。

そしてエリザベートはこう思う。

そうやって生きてみたいと。

過去を受け入れて今を享受し未来を生きてみたいのだと。

迫りくる拷問器具の群れの群れと、その後方にいるカーミラを見据えて。

彼女はマイク機能を展開。

 

「行くわよぉ!!」

 

とびっきりの殺意を乗せてマイクに雄たけび一つ叫び。

衝撃波を見舞い拷問器具の群れを吹っ飛ばす。アマデウスの音響支援や自身の城が無くても、マイクさえ在れば、これくらいはできるとばかりに行動を断行。

そして即座に槍を振い、後方から接近してきた敵を吹っ飛ばす。

城を使えば、もっと奥の敵を吹っ飛ばせるが、そも使い様が無い。

展開時間までの時間が長すぎる。支援がほぼ無いこの状況下では悪手にしかならない。

後ろに敵を通すわけにはいかない。兵士たちも悪魔などの相手で手いっぱいだからだ。

展開時間が致命傷になりかねないのである。

 

そして緊急通信が走った。

 

「もう特定できたの? 速くない?!」

 

先の連絡から指定時間まではまだ遠いはずだと。

連絡に出てみれば・・・

 

『カルデアの送魔機器に異常が出た。魔力供給を一時制限する!!』

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

カルデアは確かに最善手を打ち続けていた。

だが致命的なミスをしている。

強大なサーヴァントを維持するというのは魔力を食う物だ。

施設がガタついている上に応急修理だらけの中でよくやっている方だろう。

だが考えても見てほしい。宝具が乱発される中で。ジークフリードの維持に多大なコストとリソースを割いているのが現状である。

そんなことをギリギリでやっておきながら。

過剰強化済みのジャンヌ・オルタの出力を基準値にジャンヌ・ダルクの霊基修復ついでに出力アップなんてすればどうなる?

供給元はどうなる?

 

 

 

答えは至極単純だ。

 

 

パンクするしかないという物だろう。

 

 

 




アーもう無茶苦茶だけど。投下しました。

馬車のドアからでは盾も満足に振えないのでマシュは武器を一時的にハンドメイスにチェンジ。


兄貴はアレだ。ケルト版ヘラクレスだからね。強くて当たり前よ。
今回は一流マスターという布陣。カルデアという魔力元。ニャルラトホテプとかいう人理焼却犯より質の悪い愉快犯がいる為。
自重なんぞしてませんし。自身の心情より、たっちゃん達優先なので、無慈悲に強いです。

なおダミー心臓で回避された模様

ミックはオリジナルカルデアスタッフの一人です。いわゆる名も無きスタッフという奴ですので出番があるかどうかは知りませぬ。


兄貴vsアタランテとエリちゃんvsカーミラは決着つかず。泥沼に突入。
このまま削り合い移行して後半戦までは決着はつきません

ということで決着は第一特異点後半戦に持ち越し。

そして有利になる様にと小細工したら自分の首を絞めるという絵図
たっちゃんたちも、P2罪でもそれで自分たちのシャドウが出て来て暴れまわる状況つくちゃったし。
カルデア施設はでっち上げ状態。本陣は乱闘中。バルムンク乱射 兄貴ゲイボルク三連発。マルタ姉さんのタラスク維持費。ギロチンブレイカーの維持費。
そして・・・

ニャル「ジャンヌの霊基修復と出力アップ・・・理想値は邪ンヌねぇ。いいぞ叶えてやろう!! ただし供給元に関して一切記載がないので。ソッチは自前な!!」
オルガマリー「」(アゾられたトッキーの様な顔)

という分けで次回は本陣での大混戦&カルデアパニックと言うスタッフの頑張りを送りします。


あと更新遅れて申し訳ありません。色々あってちょっと精神的な物が肉体にまで出ており。ベットの上の住人になっていました。
あと二週間ぐらい余裕がありません。





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十節 「血路は混濁し破裂する・前」

パトカーより戦車が必要です!

フランケンシュタイン対地底怪獣より抜粋



「ああもう!!」

 

魔術回路、魔術刻印、ペルソナをフルスロットルでぶん回しつつ、オルガマリーは悪態を吐く。

そりゃそうだろう。

動いただけで巨躯という質量が破砕槌となり。

常に放射される魔力は乱気流の如く周囲を薙ぎ払う。

まさしく清姫以上の動く理不尽だ。

そんな怪物を相手に目の前の状況を対処しつつ。

飛んでくる支援要請に対応しなければならない。

戦線の突破を図る達哉たちに余裕はなく。

前線は崩すわけにもいかず援軍なんぞは期待できないからだ。

逆に実力がある方が限界以上の無理をしなければならず。

かと言って、実力がないから無理はするなと言うのは、状況が許しはしない。

襲撃してきたサーヴァント二人は書文とジル元帥が抑え込み。

ファブニールも疑似的にではあるが一時的に完全回復したジークフリードが抑え込んでいる。

そこでオルガマリーに若干の余裕はあるが。

先も書いた通り。その余裕というリソースは速攻で溶けてなくなる。

故に悪態の一つや二つ吐きたくなるのは、道理と言えよう。

そうしながら適度な遮蔽物を乗り越えつつ、その裏に潜り込み指示を飛ばす。

 

「ジークフリード!! 叩き落しなさい!!」

「了解した!!」

 

自重は一切ないとばかりに。オルガマリーはジークフリードに魔力を送り込み。

さらにカルデアから供給される魔力がよりジークフリードを満たしていく。

剣に装填される魔力が増幅を開始。

 

「させるか!!」

 

それをさせまいとデオンが書文の脇をすり抜けようとする物の。

 

「行かせる訳なかろうがよ!!」

 

叫ぶと同時に肺から空気を絞り出しつつ。

振り返ると同時に震脚。繰り出される崩し気味に肘撃の一種。

無論喰らえばデオンとてお陀仏な力が秘められている。

故に喰らう分けには行かず。脚を返して真横に跳躍する。

それを認識た瞬間。書文もまた身を翻しつつ拳を繰り出しながら追撃を執行。

超速で行われる戦闘を他所にジークフリードがバルムンクに魔力を装填する。

 

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)

 

 

射出される魔力光。

ドラゴン殺しの命題氏たる一撃を放つ。

ファブニールはそれを意に返さない。

威力を削ぎ落すかのように吐息を吐いて直撃を甘んじて受け入れる。

だが威力が削ぎ落されたバルムンクの光はファブニールの身にまとう魔力によって完全に四散させられ。

完全に無力化されていた。

だが流石に全てが無傷というわけではない。

これによって魔力の鎧が剥ぎ取られたのだ。

 

 

「もう一発ゥ!!」

「承知している!!」

 

ジークフリード第二射準備。

だがそれを見逃すファブニールではない。

ブレスよりもパワーダイブの方が早いと判断し上空からの突撃を選択する。

 

「アマデウス! サンソンはこっちで引き受けるから。ファブニールを音波で叩き落して!」

「了解!」

 

竜種はその優れた五感が仇になって音波攻撃に弱いのは立証済みだ。

だからこそ此処はバルムンクではなく音波攻撃によってファブニールを地に引き摺り下ろすことが先決と判断し。

オルガマリーはアマデウスに攻撃をさせるべく。

叫ぶと同時にファブニールから若干意識を背け。

遮蔽物から身を乗り出して、銃を握る右手をアマデウスに襲い掛からんとしていたサンソンに突きだし、銃口とペルソナを向ける。

躊躇なく引き金を引かれ。特殊合金を媒介としたことによって。サーヴァントにですらダメージを与える六発のガント以上の呪弾が発射。

ゲンブによるマハブフがコンセレイトが乗った上で炸裂。

 

「ちっ」

 

サンソンは舌打ちしつつ攻撃をよけるべく後退。

後退した隙をオルガマリーは逃さず。

アマデウスからサンソンを引きはがすべく。

ペルソナをパワーにチェンジし、オルガマリーは遮蔽物から完全に乗り出し、跳躍と同時にパワーに自らを投げ飛ばさせる。

目標はサンソンだ。

さしものサンソンも。マスター自身が自らを砲弾代わりに飛ばさせるとは思わず。

その飛び蹴りを脇腹に直撃させられる。

 

「ガッ!?」

「そのまま・・・」

 

サンソンはその肉弾に耐えて踏みとどまった物の。

蹴り込んだ右足を軸にオルガマリーが身を翻して回転。

 

「くたばりなさい!!」

 

左足でのハイキックをサンソンの側頭部に叩き込んで吹っ飛ばす。

魔術強化。ペルソナ補正による強烈な蹴りだ。

普通の人間なら首か側頭部の骨が粉砕されれる威力を持つが。

サーヴァントの耐性的に仕留めれるには至っていない。

 

「ダヴィンチ! ジル元帥も出すから、指揮を交代して!」

『ちゃんを付けてくれたまえよ!! ジル元帥はサンソンへの追撃だ。無理はしないでくれよ。』

「心得ました」

 

 

そうやって。ジル元帥からダヴィンチに指揮系統を受け継がせる。

戦術データはもう飽きるほど見ているため。ダヴィンチであれば

アマデウスはアロウスで周囲の音を共鳴収集、指向性を持たせたうえで。

パワーダイブに移ったファブニールに直撃させる。

そのまま脳を揺さぶられ意識が混濁し。ファブニールが地面に激突。

土煙が溢れ飛ぶものの。

既にジークフリードがファブニールの真横についている。

既に魔力は装填済みだ。

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)

「ゴガァ!?」

 

炸裂するバルムンク第二射。

横腹に直撃し押し出すようにファブニールを転がす。

同じく、蹴り飛ばされたサンソンに対し追撃をジル元帥が行う。

事前にバフは付与済みだ。

 

その巨体を転がしつつもファブニールは、即座に体制を整えんとする。

だが逃がしはしないとばかりにジークフリードは走った。

第三射装填までの時間的余裕はない。

オルガマリーがサンソンの処遇はアマデウスとジル元帥にぶん投げて、ファブニールの討伐に全力を注ぐ。

 

ジークフリードは跳躍し、ファブニールの翼の根元にバルムンクを突き刺す。

鋼と同等、あるいはそれ以上とういう硬度を切断できるのは。

魔力の鎧を先のバルムンクの真明解放で打ち払ったのと。

シークフリードの優れた膂力及び、瞬時に鱗の間を見極め、刃を差し込む技量の高さだ。

そこからさらに精密な魔力コントロールを行い。バルムンクの刀身に魔力を拘束循環させ切れ味を増幅しつつ。

突き刺した剣をそのまま前に走らせ。翼を断たんとするものの。

 

「ガァァアアアアアア!!」

「ッ!?」

 

無論、ファブニールもそのままにしておくわけもなく。

瞬間的に魔力放射で吹っ飛ば酸とする。

 

「させるかってーの!  ラプラス!!」

 

入念に調整された。ラプラスを降魔させ。

固有スキルである、コウガザンを振りかぶらせ。大鎌を深々とファブニールの脚に突き立て

血を浴びながら、ラプラスの大鎌を突き立てつつ、ラプラスの左腕をねじり込み傷口を横に広げて。

コルトパイソンの呪弾を全弾叩き込むオルガマリー。

 

服が血で汚れることなんぞ気にしている暇なんぞ在りはしない。

いくら多重の補正があっても、現状ではジークフリードの支援と敵の行動の妨害で一派いっぱいだ。

現にジークフリードの攻撃の方がファブニールにダメージを与られているし、再生も許してはいない。

オルガマリーの身体を張った攻撃は大きな傷こそ刻んだが。即座に再生が始まっている。

 

 

切り抜けながら体を転がし、体制を片膝ついて、しっかりとコルトパイソンの標準を引き絞り。

ファブニールの意識がジークフリードに向いたのをいいことに。

邪魔さえできればいいと。

ファブニールの両目や、肉体構造的にもろい部分を狙って穿つ。

が・・・しかし。

 

「うっとしいのだ!! 蠅ガァ!!」

 

ファブニールは弾丸で目などの脆い部分を穿たれながらも。

魔力放射を強行。

同時にジークフリードも、このままではまずいとバルムンクの宝具解放を行う。

膨大な魔力が衝突し、炸裂。

暴発し。

衝撃波に変換されて。周囲を薙ぎ払い。

無論ジークフリードも、オルガマリーも吹き飛ばされるほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書文とデオンの攻防戦は一進一退である。

極まった対人戦闘で一番重要なのは、間合いの取り方であるから。

互いに円舞を踊る様に間合いと位置を調整しながら隙を伺っている。

突き出される刃と拳。

互いにジャブの応酬じみたものを繰り出しつつ、一撃を届ける機会を伺っているのだ。

 

『駄目だ埒が開かないな』

『・・・埒が空かんなこれでは』

 

レイピアと掌が交わされ反らされること。

既に数十手。

互いに手をこまねいている状況が続いている。

書文的にはこれでいいわけではない

対人戦闘であれば彼は無類の強さだが。逆にあの巨体を持つ龍相手では分が悪い。

されどオルガマリー側も手数が欲しい所なのは明白だ。

故に早急に仕留める必要がある。

 

デオンもそれは一緒だ。

初撃の暗殺失敗で有利を取れないばかりか。

各個撃破的な状況に持ち込まれているのである。

ファブニールが暴れまわり場が荒れているが実際には綺麗に戦力分担されたのだ。

加えて、槍に刺され動けないようにしたはずの、ジークフリードが万全に動けている上に。

オルガマリーが後方から的確にサポートしているおかげで。

ファブニールはその巨体が仇となって嬲られている。

 

 

デオンは右手のレイピアを突き出す。

牽制ではない。十分に勢いの乗った殺傷可能なド本命の刺突だ。

だが単発でそれを出した所で。いかに早かろうが、レイピアと言うのは得物の重さが出せない武器である以上。

今までのやり取りのように払いのけるのは簡単であった。

レイピアの切っ先を払いのけ。腰を落しつつ震脚を踏まんとして・・・

 

―おかしい―

 

デオンは体術に秀で居ているようではない、剣術、暗剣の類の名手だ。

故に不自然さが浮き出てくる。

 

―なぜ、こうも甘い刺突を放った―

 

先も述べた通り。デオンは優秀な使い手だ。

だからこそ降匂い地内、本命の攻撃は何十

 

胴はがら空き、足運びも先ほどのように攻撃の位置をずらしての無力化だとか。

後方への回避だとかを行う様子もない。

これではまるで打ってくれと言わんばかりの愚行だ。

体術に移行する気配もない。

よしんば、体術勝負を書文に挑んでも技術面でデオンが負けるのは道理でありえるが一応の可能性と考慮しても。

体術に移行するような姿勢ではない。

そして書文は気づいた。

彼女の左手が懐に突っ込まれていることに。

腕の動きからして何かを握っている。

 

―短剣・・・否、もうこの状況では儂のほうが早い、故に遠い、それを理解できて―

 

そこまで書文は思考し。

脳裏に電流が走る。

此処に来る前に。オルガマリーが銃の扱い方を教えてもらっている光景がだ。

保安部の生き残った数人の一人で。リボルバーをこよなく愛する男が見せた拳銃の運用法が脳裏をよぎる。

それに思い至ったがゆえに書文はわざと姿勢を右に崩し倒れ込んだ瞬間だった。

刹那の前に書文の腹部があった空間を鉛弾が通過するのはである。

そのまま側転しつつ連射される、銃弾を回避し体制を立て直す。

 

「これも避けるなんてね、恐ろしいな」

 

デオンの左手に握られているのはフリントロックピストルである。

フランスの決闘の一形式として使われていたということもあって。

無論、デオンも並み以上に扱えるのだ。

加えてサーヴァントの武器と化したことで。フリントロックなのに連射可能というふざけている仕様だった。

 

「剣士が銃に頼るとはな」

「恥を知れってかい? ご老体」

「言わぬよ、殺し合いに卑怯もナニもあるまい」

 

銃の利点は拳以上に攻撃に使う動作がないことである。

空論上の話だが、射線を保持できるのならどのような姿勢であろうが指先一つ動かすだけで、相手を殺傷可能な攻撃を行えるのだ。

デオンの筋力はAであり。その条件をクリアしている。

加えて剣が威力を発揮しえない密着状態であっても。

銃ならば十分に対処可能だ。

うかつに近づくことができない。

 

縮地からの無拍子の間合いを詰めても。

攻撃動作に移る瞬間に打たれて終わりだ。

 

そしてデオンも、攻め方を変える。

風切り音を鳴らしつつ、レイピアの切っ先を揺らしながら円形に回す。

 

「趣味じゃないが・・・」

 

デオンがポツリと言う。

 

「なりふり構ってられないんでね。一方的に切り刻ませてもらう」

 

本来なら主義に反する。

されどそれに括っていては勝てぬとデオンは判断し。

嬲り殺す方向に舵を切った瞬間である。

爆発音と共に。書文とデオンは反射的に互いの間合いを離して近くの障害物に身を隠す。

 

 

 

 

「ハァ!!」

「クソッ!!」

 

ジル元帥とサンソンの戦いは。おかしいことにジル元帥が有利と言う状況で続いていた。

噂での能力アップはない。単純にオルガマリーと達哉のバフが効いているのである。

後は単純に技量の差という奴だ。

騎士と処刑人では、そも戦う土俵が違いすぎる。

サンソンは生粋の医者で処刑人だ。

言っては悪いが対象を拘束したうえで切り刻んだ事しかないサンソンでは、訓練と実戦経験を得ている百戦錬磨のジル元帥相手では、暗殺という土俵に立たなければ強化さえあればどうにもできる。

 

「騎士の誇りはどこに行ったのかな!?」

 

地面をするように足をスライドし砂粒と石ころを巻き上げサンソンに向って放ち。

目を潰しながら愛剣をジル元帥は振り下ろす。

サンソンは砂に目をやられながらも。何とか剣を受けとめて叫ぶ。

曰く、騎士の誇りはどこに行ったのかと。

ジル元帥は若干顔を歪めつつ。

 

「戦場に綺麗も誇りもある物か!!」

 

必要と在れば指揮官は部下を数字としてみなければならない。

出なければ部下が死ぬからだ。分かった上で、極悪非道と罵られる覚悟も無しに元帥なんぞできるわけがない。

現に戦場に綺麗も美しいもない。あるなら、只の錯覚であることをすでにジル元帥は思い知っている。

 

『その結果。私を見捨てたんですか? ジル?』

 

その結果。未だなお、こびりついて離れない後悔が胸を締め付ける。

その後悔がありえないジャンヌの虚像となって心を抉る。

 

「ッーーーー」

 

無論。あれはどう考えてもジャンヌの独走だ。

彼が見捨てた云々ではないのだが。それをどう感じるかはジル本人の問題である。

 

「隙ありだ」

「しまッ!?」

 

だが戦場で後悔に耽るのは致命傷であろう。

身体能力に物言わせて。サンソンが強引にジルの剣をかちあげて身を旋回し。

回転廻し蹴りを腹部に叩き込む。

 

「ああ、クッソ!!」

 

吹っ飛ぶジル元帥を、アマデウスが演奏片手間に受け止めて、壁に激突するのを防ぐが。

サンソンは、そのまま間合いを詰めて。処刑剣を真横に首狙いで振う。

がしかし。アウロスの腕が動いて、剣を掴んでそれを未然に阻止。

 

「そんなものでなぁ!!」

「チィ!?」

 

ただしアウロスの力はぶっちゃけ低い。

図体はデカいが、ぶっちゃけ標準サーヴァント以下だ。

加えて生前、サポートに特化していた為。替えのペルソナを持っていない。

というよりも。サーヴァントとして座から呼び出されるのは一側面であると言う事が災いしてか専用ペルソナしか使えないのである。

もし替えが効くのであれば。もう少しこの戦争はやり様があった。

 

閑話休題。

 

よって、替えの戦力を用意できず。

アウロスの腕を振り解く様に。サンソンが剣を振って断ち切って見せる。

ダメージフィードバックが走る。無論現実的に傷が出来る様なものではないが。

精神が痛みを誤認し、幻肢痛として痛みが走るのだ。

アマデウスは表情を痛みに歪めつつも演奏だけは止めない。

ここで止めたら全部が崩壊するからである。

ジル元帥が食い下がっていく。

ここで鍛え方で差が出始めていた。

肉体面では無論サーヴァントの方が上であるが。

戦闘とは精神を削る物。従軍経験のありなしが差を生み出していた。

 

だがここに来て異常事態である。

 

大爆発である。

魔力放射による炸裂放射と言っても過言ではない。

竜種による全力の放射なのだから、その威力は凄まじいの一言に尽きる。

それにバルムンクの真名解放が衝突し。

なぎ払われた建造物及び遮蔽物が散弾どころか、土砂雪崩のように炸裂。

もはや敵味方もない物となっていた。

 

「ファブニール!?」

 

さしものサンソンもデオンも面食らいつつ回避行動に移る。

デオンの方は問題ない。書文も同時に間合いを離して後退しているからだ。

問題はサンソンの方なのだ。

無論。彼も回避行動を取り辛うじて残っている遮蔽物に足を向けた刹那である

 

「ダラッシャァ!?」

「ホォゴツ!?」

 

本日二度目のオルガマリーの肉弾がサンソンの脇腹に突き刺さる。

吹っ飛ばされ、ラプラスを盾にダメージを減衰しつつ、吹っ飛んできたオルガマリーのタックルが綺麗にサンソンの鳩尾に決まる。

もっとも意図してやったことではないため。オルガマリー自身にも衝撃が入り。

意識が数瞬飛翔し二人とももつれ合う酔いに地面を派手に転がる。

 

「クソ!! アウロス!!」

 

アマデウスはフォローに回れなかった。

サポート専用のペルソナであるため。

自分とジル元帥を庇うので一杯一杯なのである。

 

「クッガ・・・このぉ」

 

意識を飛ばしていなかったサンソンが懐からメスを取り出し組み付いたまま

 

「不味い!?」

 

アマデウスとジル元帥の顔色が青色に下降する。

組合の場で意識を数舜失えば致命打だが。

 

『―――――――――』

 

振われたサンソンの左腕が宙を舞う。

オルガマリーのラプラスの大鎌が振るわれている。

意識が完全に堕ちていないことが幸いし半落ち仕掛けている意識で何とか、ラプラスを呼び出して防御したのだ。

その隙を突いてオルガマリーがコルトをサンソンの額に意識が朦朧としながらも執念で突き付けて引き金を引き

 

カチリと虚しい金属音が響くだけだった。

 

「「!?」」

 

結論を言うならコルトから弾は排出されなかった。

何が起こったと驚愕する。無論オルガマリーとアマデウスたちはだ。

 

「貰った!」

「ッ」

「させる物か!!」

 

そんな中、すでに書文は動いており真っ当な引きはがしは困難として。

殺すつもりでサッカーボールキックをサンソンの頭部に叩き込みつつ。

オルガマリーの首根っこを掴んで即座に離脱し遮蔽物へと逃げ込みながら。

気付けのツボを強めに押す。

 

「許せ」

「いッた!? もう少し加減しなさいよォ!」

 

オルガマリーは半泣き状態になりながら意識を完全に取り戻しつつ悪態を吐く。

肉弾戦に、爆発に、肉弾戦である。

本来ならマスターのすることではない。

散々な目に合うのは、当然であるが自らも戦闘しなければならないので仕方なしである。

 

「散々ね!! ホント!!」

 

悪態を吐きながら背を防壁に押し付けて手動で薬莢を輩出し銃弾を装填する。

訓練の時にオートリロードがあるから。

こんな手動での訓練意味があるのかと教官に愚痴ったが。

 

―いいか? 戦場で最後に物を言うのは、自分自身の技能と気合と根性だ。オートリロードに頼るといつか痛い目に合う―

 

オルガマリーに銃の扱い方を教えた保安部課長は煙草を救いつつそう言った。

 

―そういうアンタはあるの? そういう類の痛い目にあった事?―

―あるよ、中東の秘密作戦に参加した時。民兵に追いやられてね、愛銃のM4とガバメントが同時にジャムって銃を突きつけられた時は死んだと思ったもの―

 

案の定である。

問題が起きて装填しきれず、相手を仕留められないと言う醜態を晒す羽目になった。

無論、これはオートリロードに頼り切ったのが全ての原因ではない。

残弾数を体に覚えさせ。

弾切れしているなら即座にリロードという工程を体に覚えさせきれなかったのも問題であるし。

第一にこっちでのトラブルならまだましも。

 

「オートリロードが機能していない。ダヴィンチ、どうなってるのよ!?」

 

向うでのトラブルなんぞ想定しきれるわけがない。

カルデアに通信を飛ばし抗議するが。

 

『送魔系統にトラブルだ。現在、こっちの判断で突入組以外は最低限の供給で運用中だ!』

 

聞きたくない言葉がダヴィンチから告げられ。

体当たりの衝撃より強い衝撃がオルガマリーの脳髄を貫抜いていく。

 

「・・・なにがあったのよ」

『原因は現在不明で、いま状況の把握中だ!!『開発主任!!』ああもう、すぐこれだ!? ジル元帥に指揮を変わってくれ。こっちは維持するので一杯一杯だ!』

 

要するに向こうでトラブルがあったということを。

オルガマリーは理解したくないが理解してしまった。

優れた魔術回路より優れた演算能力の賜物であろう。

 

「アマデウス、ジークフリード、そっちは?」

 

弾倉に銃弾を装填し戻しつつ。

状況を確認する。

土煙のせいで視認による確認は困難であるため

アマデウスの構築した通信ラインで確認を取る。

 

『こっちは無事だよ。演奏も続行中』

 

アマデウスはため息交じりにそう返す。

オルガマリーは内心で胸を撫でおろした。

現在、戦場全体の通信網を担っているのはカルデアのレイラインとアマデウスの音声ラインなのである。

その一角が落ちたとなればシャレになっていない故だ。

がしかし、ジークフリードからの連絡がこない上にカルデアからのナビゲートが沈黙済みである。

オルガマリーは自前のレイライン経由でオルガマリーはジークフリードとの視界を共有。

状況把握に努めれば。

ジークフリードが血反吐を吐いていた。

カルデアでの問題とかけ合わせれば自ずと、カルデア側でなにかがあったのがわかるという物だ。

 

「アマデウス。音でジークフリードの位置の特定は?」

『できない事はないけれど。そっちの機器の方が精密だよ』

「向こうは手一杯でこっちで探る余裕はないわ、だから、アンタの能力が必要なの」

『わかった。とりあえず。ファブニールの後方50mの所に居るみたいだ。それで僕らはどうすればいい?』

「ジークフリードが倒れている所で合流よ。あと元帥は?」

『なんとか無事だよ、意識もはっきりしている』

「なら指揮をダヴィンチと交代よ。問題が起きたみたい」

 

とりあえず此処は合流し戦力を立て直すことが最優先と判断し。

合流ポイントをジークフリードのいる場所に指定する。

ジークフリードは動けないのが明白だからだ。

 

『まったく。僕は音楽家だよ。なんでこう、あの時みたく走らなきゃならないんだ・・・』

 

ペルソナを使って街を奔走する羽目になった事件を思い出しながら愚痴り。

 

「土煙が晴れ切っていない今がチャンスなのよ。それに運動も音楽家じゃ業務内容の一つでしょうが!」

『それは今や歌手に楽器使いの話しであって、昔は違う! 今のミュージシャンみたいに走り込みやらウェイトトレーニングなんてしたことないんだけど!?』

「ごちゃごちゃ言ってないで。こっちで合図出すから、その時に走って、デコイも出すから音響でのデコイもよろしく」

『ああもう、無茶苦茶だ!』

 

アマデウスの愚痴を切り捨てながら。

オルガマリーはエンジェルを呼び出しコウハを空中に打ち出して。

信号弾代わりにする。

それと同時に全員が走り出した。

無論それに感付けないほど敵方も馬鹿ではない。

個の視界が利かない中で。足音を頼りにオルガマリー達に襲い掛かるものの。

オルガマリーはマハブフで適当に輪郭だけを似せた氷の彫像を配置。

そこにアマデウスが足音の音響を発生させて簡易デコイに仕立て上げる。

この砂煙の中なら流石にデオンやサンソンであっても引っかかるという物だ。

 

「クッソ!? またデコイか。ファブニールがやらかさなければ仕留められていたのに!」

「怒るな、サンソン。間が悪かっただけだ」

 

仕留める段取りが着いたというのに。

ファブニールが怒りに任せて周囲を薙ぎ払ったおかげで。

場は仕切り直しだ。

加えて土煙で視界が利かず、濃密に垂れ流された魔力のせいで感も効かない。

故にデコイに引っ掛かりサンソンは悪態を吐くものの。

デオンは次の事を考えながら、切断されたサンソンの左腕を彼に投げ渡しつつ落ち着く様に言いくるめる。

サンソンは苦虫を潰したような顔でそれを受け取り。

断面と断面を引っ付け癒着させた。

 

「仕切り直しだ」

 

サーベルを一振りし彼らがいる地点へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

まんまとデオンたちを出し抜いた。オルガマリーは、ジル元帥と書文にジークフリードを引きずらせて。

一定距離を交代し、ペルソナをラプラスからゲンブにチェンジ。

 

「ゲンブ。マハブフ!! ラプラス!! 詠唱破棄!! 強化! 構築!!」

 

ゲンブを過労死させる使用頻度でマハブフを使用し。

氷塊を形成。積み上げて組み上げて、即興の壁として。

さらにラプラスを呼び出し。ラプラスを魔術回路、あるいは刻印兼媒介として機能させる。

神格の断片である以上。ペルソナは魔術回路及び刻印としても使える。

自前の刻印と回路も併用し。普通なら詠唱しなければ行使できないようなものを行う。

ただしこの使い方は、専用でしかできないので。

緒戦の差異も、今もラプラスを使ってでの行使だ。

アマデウスを護衛しつつジル元帥も同じ遮蔽物に隠れる

 

「アマデウス、ジークフリードの状態は・・・」

「良くない、僕の演奏で代謝を活性化させているが・・・このままじゃ持たない」

 

吐血だけではなく、腹部の傷口まで開いていた。

ジル元帥が止血を行い、アウロスのミュージックフリークスによる代謝活性で傷口を抑え込もうとするが。

正直な所焼け石に水も良い所。

 

「要因は・・・連中の攻撃じゃない。彼の鎧は機能している。となるとこっち側の問題か」

 

オルガマリーはちゃんと聞いていた。送魔設備系でのトラブルだと。

あの具合からして、かなり拙い状況であることは予想がつく。

そしてそのトラブルのせいで、供給量の絶対値が途端に不足したがゆえに。

強引に封じ込めていた傷口が開いたと感がる方が自然であろう。

かと言って状況を聞こうにも、先ほどの口ぶりからすると。向こうもパニック状態だ。

自分から連絡を入れても

チェスや将棋のプロの試合はこういう具合なのだろうとオルガマリーは思う。

着々と進む駒。

どちらかが詰んでいく盤面。

そして結果はまだわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「送魔ケーブル6番及び8番破損!! ああこれは・・・完全に飛んじゃってます!?」

「原因は!?」

「過剰供給です!! 想定以上に魔力が消費されています!!」

 

彼等が現場で血を流す中で。カルデアも必死の作業が行われていた。

カルデアのスタッフのコンソールには施設の状況が映し出されている。

スタッフが叫んだ番号のケーブルが弾け飛んでいた。

しかも最悪な事に弾け飛んだケーブルが他の設備を傷つけあふれ出る魔力が計器に異常を発生させているのだ。

 

「過剰供給? 馬鹿なそんな余裕は無いし、今まで全員想定道理に供給されていたはずじゃ・・・」

 

無論、そうならないように、模擬戦でテストがてらに運用はしていた。

ここに来てから、ラインを繋いだサーヴァントが多くいた上に。ジークフリードに供給する魔力を含めた上でも揺らぐことはなかった。

さらにそこにリアルタイムでの監視を行っていたのだ。

異常が少しでもあれば感付けるように複数のスタッフが監視していたのである。

普通ならこうなる前に気付けたはずなのに気づけなかった。

まるで急激に、供給魔力の数字が跳ね上がったかのように。

ダヴィンチは親指の爪を手袋越しに噛みつつ、コンソールを操作し原因を探ろうとするが。

そうするよりも早く、スタッフの一人が原因を突き止める。

 

「開発主任。原因特定できました!! ジャンヌです! ジャンヌへの供給ラインに異常発生!!。魔力が過剰に取られています!!」

「なんで・・・そうか・・・”噂”か!!」

 

多数のサーヴァントの契約。これは問題ない。元々50名近くのサーヴァントの魔力を賄う予定だったからだ。

それに定員が満たされていない以上。

ジークフリードに魔力を鱈腹に供給しても想定の範囲内だったが。

レフの爆破によって、送魔ケーブルは本来運用される物より少なく、送らねば話にならないので

減った本数を賄うために、残ったケーブルに理論上の限界値まで利用して送っているのである。

だが何度も述べる通り問題はなかった。

そう、このままでの話ではある。

上で述べた要因と噂による過剰強化で、ついにケーブルが限界を迎えてしまったのだ。

 

これが原作通りのジャンヌ・オルタであれば問題はなかった。

だが此処のジャンヌ・オルタは自己を強化しまくっている。

ジャンヌ・オルタの想定は、獣やら神格やらを想定した物なのだ。

現状それでもジャンヌ・オルタは満足していない物の。

手っ取り早くいってしまえば強引にハイ・サーヴァント化しているのである

それに基準値を合わせて強化すれば。噂による強化であるため、ジャンヌ本人に負荷はないが。

魔力供給への負荷は倍増する。

ジャンヌ・オルタとて聖杯と怨霊を燃料にして自己維持しているのだから。

今やジャンヌの魔力消費量はインドのトップサーヴァントのフルスロットルとほぼ変わりがないのだ。

つまり噂による過剰強化をし過ぎた。あるいは想定が甘かったというほかない。

こうしている間にも、状況は悪化していく。

 

「こっちとは独立してるんだぞ。噂の力はこれほどなのか!?」

「いいや。ダヴィンチ、明確に言えば供給ラインはつながっている。ラインだけは影響下にあるんだ。至急、バックアップケーブルに振り分けるんだ!」

 

ロマニも自分のコンソールに戻り、ダヴィンチの叫びに応えつつ。ケーブルの魔力供給を変更

ケーブルが吹っ飛んだところで。残ったケーブルに供給先が自動変更され。ジャンヌに供給を開始するならば。

もう割り切って一本丸々、ジャンヌ専用に設定する。

 

施設までは噂の影響下はない。

なんせ特異点とは独立した世界のようなものである。

だがカルデアはそこにラインを通して魔力供給を行っている。

ラインは特異点とつながっているゆえに影響範囲内だ。

そこから逆算して効果が結果的に及んでしまっている。

そこにさらに追撃と言わんばかりに問題が発生する。

 

「カルデアの炉の稼働効率20%下降!! 基部に異常発生!!」

「開発主任!! 炸裂したケーブルが他のケーブルにも悪影響を出して。どう足掻いても供給量が・・・」

「漏れ出た魔力が他の機器に異常を貰たしています!?」

「所長へのオートリロード回線もやられました!?」

 

高濃度の魔力は電子機器にも影響を及ぼす。

漏れ出した魔力が施設の機材にもダメージを与えるという最悪の展開だった。

 

「炉からのライン接続いったん中止して。この際オートリロード回線は無視だ!! 接続先を予備バッテリーに変更。残ったケーブルは突入組み以外は最低限に振り分けるんだ!! ロマニ。ここの指揮は任せる。アマネ、保安部の連中を全員呼んできてくれ」

 

修繕作業には人手が足りず。

本来ならカルデアの治安を担う保安部も動員する事を、ダヴィンチは決意し。

その意志にカルデア保安部統括の「ウィンドリン・アマネ」は頷いて同意し。

インカム経由で詰め所の保安部に指示を飛ばす。

 

「ダヴィンチ。けれど、この消費量なら、バッテリー供給じゃ持たないぞ?!」

「ケーブルの交換と炉の修繕まで持てばいい!! 兎に角、突入組を優先で他は最低限にだ。」

「所長の方はどうするのさ?! 彼女たちは防衛線組以上に余裕がないんだよ?!

「ジークフリードの方は、こんなこともあろうかと準備しておいた。聖晶式供給機を使って維持する!! 今はそれしかない!」

 

ダヴィンチは作業指示を飛ばしつつ。

聖晶式供給機、通称「石割機」を置いてある自らの工房に技術スタッフ数人を引き連れて走り。

保安部は保安所から掛け出ると同時に医務室で防護服へと着替えて工具を片手に指示された場所に走る。

事態は混迷を極めて破裂した物は治らず。

猶も戦場は駒が進められて。決着の時は近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後半に続く。
とりあえず後半戦は、書文VSデオンを書けば完成まで書けました。
そして気が付けばもう八月中半です、前回の投稿から遅くなって申し訳ないです。
本当に死ぬかと思った・・・マジで・・・

後、メガテンⅢリマスターにメガテンV発売決定 ウレシイ・・・ウレシイ・・・
でもスイッチ持ってない・・・ドウシヨウ、ドウシヨウ・・・
パニグレの為に端末換えた直後にこれだよ・・・
メガテンVは完全版がPS4あたりで出たりしないだろうか・・・







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十一節 「血路は混濁し破裂する・後」

お前が死んでも何も変わらない。
だが、お前が生きて、変わるものもある。

最遊記より抜粋。


思いつく限りの手段をオルガマリーは打ち続けるが

それで止まるファブニールではない。

マグ系およびブフ系で作った即席の壁と拘束をまるで金魚すくいのポイの如く引きちぎられるのだ。

ペルソナと言う外付け高性能魔術回路を手に入れ。神代終わり位の魔術師くらいの腕を手に入れたオルガマリーの魔術でさえ通用しないのだ。

張られる弾幕も攻撃もほぼ意味がない。

物理タイプのペルソナに切り替えたいのも山々だが。

それをすれば今度は牽制射で動きを止めているサンソンとデオンがフリーになって拮抗状態が崩れる。

 

「ええい! これだから幻想種は!!」

「悪態ついてないで。障壁展開止めるな!!」

 

アマデウスの手一杯だ。

各戦場から送られてくる音声を捌きつつ、サポートしているのだ。

手が空くことはない。

書文はジークフリードにできうる限りの応急処置中だ。

状況は一向に良くならない。

そんな中でも彼らは懸命に足掻き付ける。

 

「ロマニ。状況は?!」

『現在復旧作業中!! 伝達系は予備バッテリーにシフト。ですが伝達系に異常が発生してる。だからラインの再構築までは前衛組は魔力制限を最低値にして。防衛線戦から遅滞戦術に移行させたうえで。突入組への供給で手いっぱいでして。』

 

バッテリーに供給源を移行した以上。上限という物がある。

前線組への供給を制限したうえで突入組への供給を十全にすることで現状一杯一杯なのだ。

 

「それで? ダヴィンチが動いたってことは。こっちに回す代替案があると言う事でしょう?」

『石割機を使うみたいです』

「・・・デスヨネー」

 

石割機の仕様は、オルガマリーは知っている。

令呪の代用案として考案された代物で。

緊急時に使用するための物であった。

それを供給ラインに接続し、緊急時の運用も視野に入れ射ていた。

あとなぜこんなものを作ったのかと言うと。

バックアップはあって損が無いというのと。

なんかこういう、高価な代物を使い捨てるのって浪漫があるよねという、ダヴィンチの趣味である。

それが周りに回って助けになるのだから止める理由はない。

もっとも高価な聖晶石を使い捨てるのだ。

ここに来て回収したリソースをぶん投げる様な真似をすることに、泣きたくなるものである

 

「それで準備は?」

『ダヴィンチ曰く現在時刻から一分で完了させるって。さすがは保安部だ。元米国非正規特殊部隊だから設営作業も速い早くてね。』

「わかったわ」

 

突入組の魔力供給は確保してあるが。防衛線へのサーヴァントには最低限の魔力しか回せない。

石割機がある分だけ前線組よりは楽であるし。

幸いにも書文もアマデウスも低燃費である問題はなかったが。

 

『それでだ。所長。達哉君たちが敵の首魁と戦闘に入った。』

「・・・予定より早くない?」

『向こうから突っ込んできたんだ・・・』

 

要するに知った上か。獲物が近くに来たと言う事を知ったかで。

敵の首魁は達哉たちに突っ込んできたと言う事である。

計算の上か感の上か。どちらにせよ。オルガマリーにとっては溜まったものではない。

予定は完全崩壊。リソース分配は破たん寸前で。勝つには分の悪い賭けをしなければならない。

ジークフリードは見た感じに動けそうになかった。

令呪を使えば動かせないこともないが。

どうするかと。迷う。

もし今回で仕留めきれなかった場合にはジークフリードが必要になる。

だからと言って。温存すればファブニールを倒すことの難度が跳ね上がる。

オルガマリーは考え込みつつ右手親指の爪を噛み余裕のない表情で必死に頭を回す。

 

「まて・・・」

 

それを制するかのように、ジークフリードがバルムンクを杖に立ち上がり。

オルガマリーに近づき左手で彼女の肩を掴み。視線をオルガマリーと合わせる

 

「アンタは「休んでいろなんて言わないでくれ」」

 

ジークフリードの顔色は真っ青だ。

既に鎧の機能が無くば死んでいる状態である。

それでも戦いたいと心の奥底から執念を吐き出すように言う。

 

「俺は何時も誰かの願いを叶えるために・・・他者からの命令で動いていた・・・理想を体現する英雄として・・・でも違う」

 

何時も誰かの意志で動いてきた。

けれど今度は違う、今度は自分から手を伸ばすべく戦うのだと決意を吐き出す。

流された結果ではない。自分の意志で手を伸ばすのだと。

 

「俺は・・・・俺の意志で今度こそは・・・・この戦いを終わらせたい」

 

もうジークフリードは一生を全うした。故に此処にいるのは亡霊でしかない。

だから今度こそ、本当の意味で生きる人々のために

他人がどうのこうのではない。自分の理想像がどうのこうのではない。

それをオルガマリーは汲み取って。

 

「最後の令呪を持って英雄に告げる。無茶をしても戦闘が終了するまで死ぬな」

 

オルガマリーは腹をくくった。

ジークフリードを使い潰す腹を決めたのだ。

令呪を起動させる言葉は何処までも素っ気なく冷たい。

だがこれは単純命令の方が効力が出るのと。余計な言い回しをしては効力が間違って出る場合を防ぐのと効力が薄くなるのを防止するためである。

 

『所長。主要供給ケーブルの修復作業は終わっていないけれど。君たちへのと言うより。ジークフリードへの緊急供給ラインの構築は完了したよ、君たちの合図一つで魔力を投入できる』

 

そしてダヴィンチ

 

「分かったわ。書文」

「なにか?」

「意地でもデオンを潰して、返す刃でサンソンを潰せ」

 

デオンは暗殺者として一流であるし。

剣技も一流だ。

ぶっちゃけファブニールと組まれるとシャレになっていない。

考えても見てほしい。知性のある最上位の竜種と、技巧派のアサシンがこの戦況下で。

完璧な連携を行えば脅威でしかない。

何処からともなく死に至る刃が飛んでくるかわかったものではないのだ。

だがいまからサンソンをフリーにする以上。

書文に負担を強いるほかないわけで。

 

「無茶を言う」

「その方が燃えるらしいじゃない。男の子って」

「可可可。まぁそう言われたら反論の余地はできぬな」

「元帥は引き続きアマデウスの護衛よ。兎に角、書文がデオンを落すまで持ちこたえて」

「承知しました。」

 

作戦はないに等しい。

無茶無謀の単縦突撃を行うというのだ。

 

「タイミングも単純、数秒後に障壁を解除するから。皆でジャパニーズバンザイカミカゼよ」

 

正気の沙汰ではない突撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾層にも構築された壁をファブニールが薙ぎ払う。

 

「まったくこういう時は頼もしいんだがな」

 

サンソンはそう呟く。

大雑把すぎる攻撃行動のせいで。プランが一向に進まないとなれば。

そうも言いたくなるものだ。

 

「ブレスで薙ぎ払えないか?」

「馬鹿言うな。向こうにはジークフリードが居るんだぞ。この至近距離ならこっちも巻き込まれて消滅だね」

 

サンソンの言いようにデオンはそう返す。

対軍クラスの攻撃のぶつかり合いに巻き込まれれば。

それこそデオンたちも只では済まない。

第一にブレスはその特性上、大きな魔力を動かすため。

事前に察知されやすく、回避もされやすい。

この状況下では空撃ちになる可能性も高く控えさせるのが賢明という物だろう。

そう言った意味では、オルガマリーが取った方法は実に単純で狂っていた。

 

「なっ」

 

障壁が解除、一斉に崩れて。

一番先頭をオルガマリーが全力疾走している。

続く背後にはジークフリードだ。

その少し後方をアマデウスとジル元帥が走ってくる。

 

「連中、気でも狂ったか!?」

 

デオンは驚愕に口の先を引きつらせつつレイピアを抜き放ち。

直感に任せて横へと体を半回転させながら横なぎに切先を繰り出すものの。

風船が割れたような音が響き割った。

右腕の肘部が割れた風船のように炸裂していたのである。

 

「すまぬが・・・」

 

書文の裏拳が丁度関節部に当てられていた。

浸透頸の一つである。

 

「儂も風情をかなぐり捨てさせてもらう」

 

先にデオンが書文に宣言した同じような言葉を彼もまたデオンに投げ。

 

「ッーーーー」

 

噴出する殺気に一歩引いたデオンに対し。

猛獣の如く書文が襲い掛かる。

先ほどのような静な動きではなく、ボクシング選手の様な激しい動きである。

即座に腕を復元せんとデオンは腕に魔力を集中するものの。

 

「チィ!」

 

再生速度が遅すぎた。

復元は開始されているのだが致命的なまでに遅い。

書文の手にはルーンとマルタの祝福。衣類にも施されており。

体術に秀でている彼の技をもってすれば全身凶器である。

加えて、攻め方を変えており。

後手に回れば被弾する。

左手のフリントロックピストルを腕を引いて腰だめで乱射。

だが書文は躊躇なく。踏み込んだ。

体捌きだけで致命傷を回避。無論、致命傷を回避しただけで何発か被弾し掠めていく。

繰り出される拳。

後退は間に合わず、直撃コースであるが。

 

「シャッ!!」

「ギィ!!」

 

デオンは躊躇なく、壊れた右腕を拳の軌跡上に割り込ませ直撃を寸前の所で防ぐ。

だが書文は間合いを離さない。

さらに無謀に踏み込みつつ体を返す。

デオンは腰だめ撃ちをしたため。このような密着状態では位置的に書文の弱点を狙えない。

なんとか後退しようとする物の。

掠める様な形で打開が炸裂。

凌いで浅くはあるが。全身が衝撃で揺さぶられ意識が一瞬飛ぶ。

書文にはそれで十分だった。

デオンの肩に右手を乗せて加重を全力投入した十字掌を叩き込み地面にデオンを叩きつける。

浸透頸ではなく純粋な打撃技として機能させたら地面に叩きつけられるだけで済んだ。

 

「~~~~~~~ッ!!」

 

それでもデオンは再生能力などに物言わせて意識が盛ろうとする中立ち上がろうとする。

無論、書文はそれを読んでいた。最低限の魔力供給でひねり出した魔力を拳の祝福に全部投入し。

精製された光エネルギーを氣と混ぜて炸裂させる

さらに周囲を氣で飲んで。デオンの体組織を緊張状態へと持っていき拘束。

 

「褐ァ!!」

 

无二打と謳われる彼の宝具レベルまで昇華された奥義・絶招猛虎降爬山がデオンに直撃し一瞬で彼の霊基と霊核を粉砕した。

 

 

 

 

 

一方のオルガマリー達はデオンと交戦し始めた。書文を見る暇もなく。

ファブニールに突撃している。

普通、竜種に対して。マスターが前にサーヴァントが後ろで単縦突撃なんぞすることはしない。

無論オルガマリーだってやりたくないが。

あくまでで相手にブレスを吐かせるための餌になる為だった。

ファブニールは見事にその餌に食いつく。

敵のマスターと宿敵ジークフリードを一気に落とせるチャンスと言うこともあってブレスを吐き出すべく。

口腔を一杯に広げて。

 

「トート!! マグナス!!」

 

それを待っていたとばかりに。

皇帝・トートを呼び出し最大出力のマグナスを見舞う。

 

「ラプラスゥ!! 詠唱放棄、強化! 強化!! 強化ァ!!!」

 

さらにオルガマリーはラプラスに変更、三重強化によってマグナスの強度を底上げし。

ブレスを吐かんとしていたファブニールの口に突っ込む。

 

「ムゴッ!?」

 

無論、ここで多少は狼狽えるという物。

かみ砕くか、即座に岩事、ブレスで消し飛ばすかを選ぶのを瞬間的に迷ってしまう。

通常の戦闘なら、その程度、回避行動を取る為の時間稼ぎにしかならない。

普通ならだ。

此処は戦場、袋叩きに連携、不意打ち何でもありだ。

 

「ダッヴィンチィ!!」

『おうともさ!!』

 

マグナスを射出同時に既にオルガマリーは叫びつつ横にとんだ。

入れ替わる様にジークフリードが弾丸の如く突っ込み、カルデアに居るダヴィンチが石割機を起動。

通信機越しに爆薬が炸裂したかのような音が響き渡り。

一瞬でジークフリードに膨大な魔力を叩き込む。

即座にそれをバルムンクに装填し解放した。

 

衝撃で反射的にマグナスをかみ砕きつつ口を閉じるファブニール。

無論口内には、射出寸前のブレスが溜め込まれた状態である。

行き場を失ったブレスはどうなるか? 単純だ暴発する。

一瞬にしてそれはファブニールの頭部を爆発させ粉砕させる。

ジャンヌ・オルタの加護もあって即時に再生開始。

だが今はバルムンクの射出を受けている途中だ。

頭部が破壊されたことによって一時的に生体機能を喪失し魔力防壁が四散。

諸にバルムンクの魔力が直撃する。

 

「ダヴィンチ、次ィ!!」

 

横に飛んだオルガマリーは、態勢を立て直しつつ、ダヴィンチに次の聖晶石を割る様に要請する。

先ほどの石割で盛大に吹っ飛ばされたダヴィンチは気合と根性で立ち上がって次の聖晶石を装填。

 

『ちゃんを付けてくれ所長、総員対ショック!!』

『とっくに対ショックだ!』

 

何時ものやり取りをしつつ、工房内に居る人々に対ショック姿勢指示。

全員していると聞くや否やレバーを卸す。

 

「黄金の夢から覚め、揺藍から解き放たれよ!!」

 

注ぎ込まれる魔力を制御するべく詠唱し。

バルムンクに魔力を込めてその光を極大の物とする。

 

「撃ち落す!! 幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

炸裂する極光。

それは遂に、ファブニールの皮膚と外殻を破壊し溶断し始める。

がしかしだ。

 

「二度も同じ手で負けるかァ!!」

 

頭部を復元完了し魔力障壁を再起動しながら、魔力炉を防御及び回復に回し受け切らんとする。

ジャンヌ・オルタからの無尽蔵の魔力供給もあって被弾面積に集中すれば押し切れる流れへと持っていく。

これが竜種、幻想種の頂点に君臨する絶対的種族の理不尽さだが。

何度も言う通り、戦場ではチームプレーが当たり前。

過去とは違うのだ。

今のジークフリードは一人ではない。

 

「ラプラス、コウハザン!!」

 

オルガマリーは既にペルソナと魔術によって、ファブニールの後ろの空中に位置を移動していた。

ペルソナを使って踏み場としてだ。

位置取りを終えてアークエンジェルに自らを投げ飛ばせて。

一つの弾丸となったオルガマリーはラプラスを召喚し。

ラプラスで弾ける魔力光から自らを守りつつ、大鎌を振りかぶらさせる。

ここでファブニールは完全に詰んでいた。

あらゆるリソースをバルムンクを防ぐことに注力しすぎて。後ろから首を跳ね飛ばさんと躍りかかるオルガマリーに対処が不可能となっていた。

だからと言ってオルガマリーに対処すれば。

今度はバルムンクを防ぎきれず、致命傷を食らって消し飛ばされる。

つまりどう足掻こうとも、詰んでいた。

後ろ首に取り突いたオルガマリーは即座にラプラスの大鎌を食い込ませる。

そのまま力任せに大鎌を引いたが一息に切断できるような威力はない。

達哉であれば出来ただろうが、オルガマリーでは致命的にLvが足りない。

かと言ってこうでもしなければ詰め切れない。

 

「ぐぎぎぎぎ」

 

オルガマリーはレッグシースから引き抜いたナイフを突き刺し。

それを起点にしつつ、左手でファブニールの角を掴んで振り下ろされないように必死にしがみついて。

ラプラスの刃に力を込めていく。

ファブニールも必死になって首を振い彼女を振り下ろさんとするが。

未だにバルムンクの魔力光は収まらず暴れることができない。

しかもコウハザンは光属性だ。

傷の治癒は許しはしない。

 

「■■■■■■■!!」

 

ファブニールは咆哮する。

最後の足掻きとばかりに彼が選んだのは。

 

「オルガマリー離脱しろ!!」

 

ジークフリードが叫ぶ。

ファブニールが選んだのは道連れだった。

魔力防御を中止、全体への放射に移行。

先ほどはそこそこ離れていたから吹っ飛ばされるだけで済んだが。

竜種の魔力放射なんぞ零距離で受ければオルガマリーは粉みじんになる。

無論オルガマリーは即座に離脱を選び。

脚に力を込めて後方へと飛ぶ。

だが若干、ファブニールの放射の方が早かった。

炸裂する魔力放射とバルムンクの光。

 

「ラプラス!!」

 

オルガマリーのペルソナを呼ぶ声と同時に。

再び場が炸裂したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

揺れ動く意識の中で、サンソンは過去に思いをはせていた。

取り囲む民衆、全員が罵詈雑言を一人の元王妃に浴びせかけている。

 

―醜い、まるで獣の群れに様だ―

 

この時期の公開処刑は一種の娯楽であった。

民衆が堕ちた上級階級を合法的に罵倒し引き釣り降ろし嘆息を吐き出す場である。

つまり都合が悪くなったら切り捨てる。

都合の良い情報だけを摂取し自分は悪く無いと責任を転換する。

そして都合よく自分を取り繕い敗者を見て自分は連中よりマシだと心を満たすの場であった。

まるで獣の群れの様だと思わずしてなんと思えばいいのか。

 

処刑される罪人の方がまだ人間らしいと思えてくる終末の場である。

 

なのに。

 

連れてこられた元王妃は何処までも静かで澄んだ目をしていた。

余りの場違いさにサンソンは眼を奪われ。

呆然と立ちすくみ。

彼女に目が行って一歩引くことを忘れてしまい足を踏まれてしまう。

 

「お赦しくださいね、ムッシュ。わざとではありませんのよ」

 

悪いのは自分のはずなのに。

彼女はあくまで優雅にダンスを失敗した令嬢の如く自分が悪いとサンソンに謝った。

処刑は進んでいく。元王妃はギロチンに固定される。

民衆は熱に浮かされたかのように「共和制万歳」と叫び続けている。

それでも彼女の表情は揺るがず。

処刑が執行され・・・・

 

「―――――」

 

ごろりと転がった彼女の首の目線とサンソンの目線が交わると同時に。

民衆の熱狂は最高潮へと達する。

 

だがサンソンの心には鬱屈した思いが溜まっていくばかりだった。

この時、サンソンは自分が何かから逃げ出した気がしてならなかったからだ。

それはすぐにわかることになる。

何も変わらなかったのだから。

後釜の政権がベルギーに軍隊を進めた結果。

ヨーロッパ中を敵に回すというやらかしを行ってしまう。

それを何とかするべく、ロベスピエールを指導者として祭り上げ。

結果、彼による恐怖政治が幕を上げただけに終わった。

日々積み重ねられる、首、首、首。

結果的にその恐怖政治を引いた張本人がサンソンの手によって処刑されて終わるという笑い話である。

それでも。ロベスピエールを処刑した時も。民衆は元王妃と変わらない熱気で処刑を見ていた。

 

―ふざけるなよ、お前ら、彼女とこんな暴君を同系列に見るのか!? お前らは不要も必要も見極められない癖に自分たちは関係ないとでも思うかのように娯楽として己の欲のはけ口としてみるのか!?―

 

只悪戯に悲劇が蔓延しただけの茶番劇。

 

無論良い側面もある。

これによりヨーロッパは近代化していくことになるのだが・・・・

 

当事者たちがどう思うかは別口である。

光もあれば影もある。

サンソンは影の方に思考が捕らわれてしまった。

あの日、マリー・アントワネットを処刑した日からだ。

もっと熱心に死刑撤廃に関する政治的工作や運動をしていれば。一連の革命に連なる悲劇は止められたのではないかと思う様になってしまったのである。

そして同時に思う。

 

「なぜおまえたちは悔い改めもしなければ、後悔もしない?」

 

そう思考を走らせ。目を覚ませば。

地面を這うように立ち上がろうとするオルガマリーの姿が視界の端に写った。

 

「なぜ間違っている世界でお前たちは足掻けるのだ・・・」

『そうだとも。この世界は間違っている。幼子は愚衆へとなるだろう。あるいは絶望して君のように成り果てる。だったら殺せ。処刑人、間違っている者を殺すのが君の役目なのだから殺せ』

 

問いを投げると同時に聞こえるのは声。

都合がよくて甘い誘惑。

自らを正当化せてくれる言葉と概念を”声”は語りかける。

普段なら雑念として振り払えただろうが。

衝撃波によって意識が蒙昧としている状態であるがゆえに。サンソンはその声に身をゆだねてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くヒッドイ様だ。」

 

アマデウスは口の中に入った砂やら土埃を吐き出しつつゆっくりと身を起こす。

本日二度目の爆破オチだ。

肉体派ではないアマデウスには答えるという物である。

 

「状況は・・・」

 

また土煙が酷くてわからない。

サンソンの姿見えず。

ジル元帥は気絶、ジークフリードも膝をついている。

ファブニールは完全に沈黙していた。

胸部分を穿たれ霊核を粉砕されている。

バルムンク本来の特効とマルタの聖別処置にクーフーリンのルーンが乗っている真名解放だ。

いくら加護マシマシのファブニールとて沈黙せざるを得ない。

 

 

「うぐ、ペッ、ペッ・・・だれがたすけて・・・・」

 

 

そしてオルガマリーも無事だった。

ただし左腕が変な方向に曲がっているし。

全身擦り傷だらけである。

オマケに衝撃波をもろに喰らったのだ。内臓系も痛めてろくに動けなかった。

だがこれでもましな方で。もしラプラスの防御が間に合ってなかったら。

割れた風船の残骸のようになっていただろう。

 

『すまぬが誰か手を貸してくれぬか?』

「何があったのさ。書文』

『いやなに、。若いころの攻め方をしたのが祟ってな。爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされて瓦礫の下よ』

 

存外早く決着が着き過ぎたせいで。

書文も爆発に巻き込まれて。何とか離脱した物の吹っ飛ばされて家屋に衝突。

瓦礫に押しつぶされて動けないとのことだった。

 

兎にも角にも無事ではないが全員生きていることに安堵し。

まずはオルガマリーに簡易的治療を施し、その後、ジル元帥を叩き起こして。

書文を救助だなと思考を纏めて。

 

 

「―――――――」

 

 

サンソンがゆらりと起きて、足を引きずりながらオルガマリーに接近し処刑剣を振り上げんとしていた。

その目は狂気に揺らいでいる。

アロウスで衝撃波攻撃は駄目である。射線と範囲的にオルガマリーを巻き込んでしまう恐れが十二分にあった。

 

「ああ、もう出撃前に死亡フラグなんか言うべきじゃなかったな!」

 

ハッキリ言えば。アマデウスではサンソンに勝てない。

武力では負けている。

あの狂った神父の時もそうだ。

ペルソナ能力は彼に武を与えず才能を伸ばす方向のスキルと補正を与えた。

だからこうするほかないのだ。

振り下ろされる剣からオルガマリーを庇うようにアマデウスが立ちふさがり。

 

「コフッ――――」

 

右肩から胸部中央辺りまでを切り裂かれる。

普通であれば斜めに真っ二つだったが。

アロウスの右手と自身の右手で必死になってサンソンの腕を押さえたことによって両断による即死だけは防ぐ。

オルガマリーをサンソンに殺させるわけにはいかない。

かと言って現状に対応できるのはアマデウスのみで。

彼がやるほかなかった。

しかも無理をしてでのインターセプトしか手段がなかった。

自分が落ちるのも拙いがオルガマリーが落ちる方が最拙いパターンとして。

アマデウスは己の命をなげうったのだ。

 

「アマデウス、はなせ!!」

「嫌だよ。ヴァカッ!!」

 

アウロスで抱き込むようにサンソンを拘束。

心の奥底から拒絶を吐き出しつつ、左手でサンソンの肩を掴み離れられないようにしながら。

宝具を解放しつつ。ミュージックフリークスを収束展開。

 

「僕らは影法師、人生を終えた人間で亡霊だ。だから亡霊が亡霊のまま欲を叶えるなんてあってはいけない。僕も君も退場すべきだ」

 

アマデウスはサンソンだけではなく自らに蠢く魔神にもそういう

 

「詰んでいるのさ。こうなった時点で、僕らに世界をどうのこうのする権利はなく。だからこそ僕は彼等に良き道を行ってほしい。故に大人として責任を取るだけさ。」

 

そうすでに詰んでいる。

サーヴァントであると言う事と過去を利用している時点で詰んでいる。

大きな奇跡を過去を持ってやり直すということを世界は容認しない。

あの影が見ている筈もない。

だから過去の亡霊としてできることは、今を生きる人々に良き道を与える事。

そして過去の清算という責任を果たすことだと。

 

「それで何が変わった!! なにが変わったというだ!! 彼女を殺して。他の連中も殺して愚衆共は「いい加減五月蠅いよ。お前」」

 

サンソンの絶叫を切り捨て左手に力を籠める。

なるほどすさまじい恨みだと思うと同時にアマデウスは。

 

「嫌なら止めればいい。無論簡単な事じゃないというのは分かるよ。けどさ本当に嫌なら止めれる、機会と金はあっただろうに」

 

そう指摘する。

地位も何もかも投げて他国の田舎にでもすっこんでいればよかった。

或いは。

 

「マリアのように叫び続けていればよかったんだ。どっちも出来ず。どっちつかずで悲劇の主人公気取ってどっちつかずでその様になったのはお前自身の選択だろう?」

 

後悔するなら逃げればいい。やりたいなら叫び続ければいい。

そしてどちらもやらなかったのがサンソンだ。

後悔するという事実から目を背けて楽な方を選んだ。

 

「民衆の事は僕は知っちゃこっちゃない。だがね彼女は・・・ マリアはあれで良しとした。それが彼女の意志だ。マリアの決断だ。お前がどうのこうの言っていい物じゃない。本人が良しとしているのにこう騒ぎ立てて。まるであの時、革命の熱に浮かされて後先考えない民衆のそれだよ」

「違う!」

「はっ違わないよ。民衆云々言う前に言った彼女ってマリアの事だろう? 先に出てくる言葉の方が大事なんだから。お前は民衆よりもマリアの方が大事って言ってるような物さ」

「ッ」

「図星かい。だからさぁ・・・。さっきも言っただろう。見当違いも良いところだ。彼女はああなるのも覚悟の上さ。」

 

まだ、マリー・アントワネットとの付き合いの長い、サリエリあたりが復讐に走ってくるのなら。

アマデウスも理解できるが、サンソンがマリー・アントワネットと出会ったのはあの断頭台でだ。

そんな言っては悪いがポッと出の奴が、民衆の愚行を隠れ蓑にしつつ当事者の意思を無視して勝手の報復に走る。

彼女の決意の侮辱にしかならないのはあきらかである。

やっていることがアイドルに浮かされて凶行を犯す、マナー違反のファンとなんやら変わりない。

 

「それにさ。ご飯は美味しくなったし。音楽と言う文明だって発展した。楽器だって進歩して。僕らを超えた偉大なアーティスト達だって生まれたんだ。それは否定できない事実ってやつさ。少しづつだけどね。それは確かな成果さ。」

 

今は良くなった。自分たちを超えていくアーティストだって生まれた。

そして断頭台の悲劇も彼女自身が良しとしているなら。

言うことはアマデウスにはない。

だから大人の責任として、同じ時代の憎悪に塗れて意思をはき違えた同胞を冥府に叩き返すべく。

 

「ほかにも、お前に言いたいことは色々あるけれど。ラストナンバーの演奏もある。マナー違反のドルオタには退場してもらおうか」

「アマデウスゥ!!」

 

最後の弦を弾いた。

 

死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)

 

音による超振動音響と自らの宝具を合わせた合体技が炸裂し。

サンソンは霊基を一瞬で破壊しつくされ。

如何に個人用に様に調整した物と言えど、自分をも巻き込んで炸裂させたのである。

致命傷を負ったアマデウスに止めを刺すのには十分だった。

 

「アマデウス!!」

 

オルガマリー必死に這いずって倒れたアマデウスにディアを施す物の。

 

『駄目・・・間に合わない―――』

 

内心ですでに悟ってしまう。

ディアでは修復切れない。

霊基と霊核の崩壊速度の方が早い。

修復には令呪を使うかディアラハンが必要になる。

それでも確実ではなく、完全な修復にはリカームを持ち出すほかないが。

生憎とオルガマリーの手持ちにはリカーム持ちはおらず、Lv的にディアラハン級の回復スキルは使用不可能だ。

 

「た―「達哉は動かさない方がいい」

 

ならできる達哉に支援要請を飛ばそうとして。

アマデウス自身がそれを止める。

何故と言う目線を送れば。

アマデウスは苦虫を噛み潰したかのような微笑みを浮かべながら言う。

 

「あっちは無理だ。音的に考えてさっきの僕ら以上に修羅場になっている。一瞬の判断が命取りだ。こっちに思考を割る労力はない」

 

アマデウスの耳に入ってくるのは連続で交わされる刃鳴りの音と魔法スキルの炸裂音。

飛び交う連携の合図である。

こっちは技巧的に攻めてくるのはデオンのみだった。

後は大味にわかりやすく攻めてくるタイプだったので若干の余裕はあったが。

向うは派手さこそない物の、技巧者が集い殺し合う刹那の思考がものをいう状況である。

既に達哉の支援は彼の首を断頭台に掻けると大差が無い行いだ。

 

「でも」

「大丈夫さ。この乱痴気騒ぎが終わるまでは演奏しきって見せるよ」

 

そう言いつつ彼は半壊したアウロスを呼び出し。

演奏を再開する。

 

「オルガマリー」

 

ジークフリードも息絶え絶えで口の端から血を流しつつオルガマリーに声をかける。

 

「バルムンクで狙撃したい。」

「でもそれじゃ・・・」

「向こうも余裕がない。兎に角相手にリソースを切らせないことには彼等でも無理だ。」

 

ジャンヌ・オルタは豊富なリソースを持っている。

それを切らせなければ彼女は倒せない。

 

「ダヴィンチ聞こえている?」

『ちゃんを付けてくれ給えよ、ああ聞こえている』

「設備の本格的修繕に入って。石割機はアナタがいなくても他のスタッフで出来るでしょう?」

『了解した』

「ジークフリードはバルムンクの射出準備、アマデウスは音声ラインの維持。書文・・・あいつはどこに行ったのよ」

「書文ならファブニールの魔力放射で吹っ飛ばされて家屋に生き埋め中だよ」

「・・・ふぅ、ならジル元帥が起きてから発掘作業ね」

 

指示を出し切って一息つく。

気が抜けてへたり込みつつ戦場の先へと視線を向ける。

まだまだ戦闘は続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アマデウス&ジークフリード瀕死で踏ん張り状態のまま。
前半戦の山場に突入します、という分けで次からは。邪ンヌの回想を挟んで。
戦闘スタートになります。
電波も参加するのでより苛烈になるでしょう。
つまり胸糞悪くなっていくので、切るなら今だぞ!!

現状の状況
たっちゃん達 交戦状態
マルタ&ゲオルギウス 右翼で悪魔やら海魔相手に無双
兄貴 アタランテと交戦中。
宗矩&森くん。前線で崩壊寸前の防衛線を何とかして維持中
書文 生き埋め状態
エリちゃん。カーミラと交戦、じり貧の不利。
所長左腕関節骨折、打ち傷 全身擦り傷だらけ。
ジークフリード。 槍の傷が開くが気合と令呪でどうにか。
アマデウス 最後の曲だけはと気合と根性


令呪残弾数
たっちゃん 二画
所長    零画

ジークフリードの傷を強引に埋め合わせるのに。たっちゃん一画 所長二画
ジークフリードを戦闘続行させるために所長、最後の一画を使用。






ニャル「ちっ、オルガマリーも脱落か重症化させて、たっちゃんとマシュの罪悪感煽るつもりだったのに・・・ ドルオタじゃダメか。次!!」
フィレ「アマデウスよくやった。100フィレモンポイント」

英霊&神霊たち(ほんとこいつ等はさぁ・・・)

アマデウス(そんなポイント要らないんだけど?)

イゴール(そのポイントはベルベットルームで使用できますよ?)

アマデウス(マジで!?)










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十二節 「過去の傷と慙愧と今と見知った他人」

人間てのは、欲望と意志のあいだで極端に針を振う事しかできない、出来損ないのメーターなんだよ。

伊藤計劃「ハーモニー」より抜粋。


ニャルラトホテプに叩き込まれた幻想だ。

だが現実というしかない仮想空間では。

ジャンヌ・オルタも夢とは知っていながらも現実と錯覚してしまうくらいには。

ジャンヌ・オルタは此処で留学生という役割を与えられて過ごしていた。

 

「ジャンヌ~。またねー!」

「あーはいはい、またねー」

 

何故かできてしまった友人たちと別れを告げて。

夕日に染まる母校で憂鬱げにジャンヌ・オルタはため息を吐いた。

奴は言った本物の憎悪を教えると。

だがこれが何につながるというのか。

ジャンヌ・オルタは疑問に思いつつ。一頻り思考に耽って。

教室を後にする。

目指すのは自転車置き場だった。

家は自転車通学が許されるギリギリの距離だから。

ジャンヌ・オルタは、ここ七姉妹学園には自転車で通っている。

本当ならバイクで通いたいところであるけれど。

距離故に学校側がそれを許しはしなかった。

自転車置き場には部活動で汗を流して行事を行い残っている連中の自転車やらスクーターであふれかえっている。

雑多に並べられた自転車やスクーターの中に彼は居た。

 

「・・・またやってんのね」

 

ジャンヌ・オルタの視線の先には片膝をつきながら。自身のバイクを弄繰り回す少年の姿があった。

メティカットが特徴的なイケメンである。

学校内部でも有名な存在だった。

同時に不穏な噂が彼を一人にしていたし。

彼自身も口数は少なく否定もしないため成すがままという奴である。

 

「ちょっと。」

 

気まぐれだったのかもしれない。

彼と会話したことはないけれど。

こうも1週間に三回ほどバイクを弄っていれば気になるというのが人の性だからだ。

 

「また弄ってんのアンタ?」

「・・・」

 

ちらりと達哉はジャンヌを一瞥する。

何処か傍観と拒絶が入った目の色だった。

一瞥後は無言で即座にバイクいじりに戻っている。

それにジャンヌ・オルタは生まれて持った反骨心故かムッと来てしまった。

無視されるのが溜まらないのと。その瞳が気に入らなかったというのもある。

 

「なんか返してくれてもいいじゃない」

「・・・アンタには関係が無い」

 

言葉をかけたのだから返せよとぼやけば。

達哉はそう返してきた。

まぁたしかにジャンヌ・オルタにバイクの知識なんて欠片も無いし興味もなかった。

出来る事なんて無いけれど。

こうやってバイクを弄っているということは。

また同級生が達哉の鼻を明かすためにやったことだろう。

現に学校というコミュニティで孤立気味の達哉をイジメのターゲットにするのは珍しい事でもない。

ただし中学の時にキレて人を焼き殺しかけたという噂もある彼に対してするのは糞度胸と言わざるを得ない面もある。

 

閑話休題。

 

兎にも角にも無視されたのことにイラと来て。

ジャンヌ・オルタは半ばムキになりつつ会話を続行する。

 

「なら教えてよ」

「え?」

「分かる様に教えてって言ってんの」

 

分からないから邪魔だと言われるのが嫌だった。

であるならばわかる様に教えてくれとジャンヌは言う。

 

「・・・わかった。」

 

にらみ合う感じで沈黙が一定続き。

折れたのは達哉だった。

渋々という感じではあるがジャンヌ・オルタの言葉に折れて。

バイクの説明をする。

結局のところ修理はパーツが無いと判断して二人がかりでバイクを専門店まで引っ張っていくことになった。

それがジャンヌ・オルタと周防達哉の交流が始まる切っ掛けだったのである。

そして月日が流れ。

 

「ああ。疲れたぁ・・・」

「ご苦労さん」

 

机の上にしだれかかる様にジャンヌ・オルタは身を預ける。

出会いから数か月が流れた。春先から夏休みが丁度終わった時期である。

達哉との交流を通してバイクに興味を持った。ジャンヌ・オルタは、中型バイクの免許を夏休み中に習得することに決めたのだ。

達哉に色々教えてもらいつつ休みを潰さぬように予定を組んで、教習所通いをしたもんだから。

夏休み終了の今日に、なんとか取得したのである。

 

此処まで中型二輪免許を取得するのが大変だとは思わなかったのだ。

他者とのマンツーマンレッスンと聞こえはいいが。実際には見知らぬ他者にあれこれ指摘され。

その指摘事態が他者の基準を元に下されているからストレスが溜まる物である、という物である。

そして判断基準値事態やら教導内容が教官によって変換するのだから余計にやっていられない。

それでゲロ吐きそうになりながらなんとか実技試験は合格、

後は免許センターでの試験のみとなる。

これまでなんだかんだ言って、一発で検定などを突破してきたジャンヌ・オルタであればまぁ行けるだろうと達哉は判断して。

ピースダイナーで奢ることにした。

流石に寿司屋は手が出ないしラーメン屋に行くのはなんか色々アレであると判断しての事である。

 

「好きなモノ頼んでいいぞ」

「いいの?」

「流石に俺の財布事情を考慮してくれると助かる」

 

それがジャンヌ・オルタの至高の日常の日々だった。

達哉とダベりながら将来に怯えつつも先に行こうとした黄金の過去。

 

 

だが・・・青春は終わってこそという物だ。

彼に関わった以上。影に関わった以上。彼女も立派な役者として舞台上に上がる。

仲間を得て。己が宿業を乗り越えて。そして―――――――。

 

「―――――――」

 

ジャンヌ・オルタの両手は血で濡れている。誰の血で自分の手が濡れているのか。

そう現実逃避じみた考えをしながら。ジャンヌ・オルタは舞耶の傷を押さえて圧迫止血を試みるものの

血は止まらず。あふれ出してジャンヌ・オルタの衣類と両手を真っ赤に染め上げていく。

 

「チクショウ!! ギンコォ!! 早く魔法で何とかしろぉ!!」

 

栄吉が叫び。リサが慌てて駆け寄って回復スキルを施すが。

リサが慌てて舞耶に駆け寄りスキルで医療処置を施すが傷は全くふさがらない。

 

―死なないで! 死なないで!! 死なないで!!!―

 

贋作である己を彼らは肯定し一人の人間として認めてくれた。

そして人生初めての友人たちである。

その中から一つでも欠けるなんて今のジャンヌ・オルタには耐えられない。

魔法が効かないとリサが叫ぶ。

どうしてなのかとフィレモンに問えば彼は達哉たちに応えず。

 

「ニャルラトホテプよ・・・貴様、この為に聖槍伝説を・・・」

 

フィレモンはニャルラトホテプに振り返りつつそう言った。

予想外の出来事とばかりに。ニャルラトホテプは必至に大笑いを堪えつつ嘲笑に歪み切った微笑を浮かべて。

絶望に沈んで逝く彼らに事の真実。

或いは現実という断頭刃を振り下ろす。

 

「かつて、その槍で貫かれたイエスの遺体からは、止めどなく血が流れ続けたそうだ。お前たち人間が、2000年も語り継いできた伝説・・・ ”噂”だよ。致命傷ならさぞ効果覿面だろう?」

 

つまりもう。彼女は助からない。

マイヤ予言は儀式の通り遂行される、

マイヤという女性がこの場で死んだことで。破滅への願いは叶えられるのだ。

後は読者の方も知っての通りだ。

ジャンヌ・オルタという存在が紛れ込んだところでどうしようもないのである。

リセットボタンは渡され押し切られてしまった。

 

「私・・・アンタの事忘れない絶対に。向こうでまた会ったら一緒に・・・バイクで走りましょう?」

 

そして・・・その愚行も彼女はやってしまった。

話しは此処で終わるはずだった。

終わる筈だったのだ。

 

 

 

 

「なんで・・・・」

 

 

カチカチと鳴る目覚まし時計が世界はやり直されたのだと告げる。

だが、ジャンヌ・オルタは頭を抱えながらカチカチと歯を凍えて震えるように鳴らした。

嫌な予感がした。

だが学校へと行けば日常は変わらず。

されど達哉は本物の不良と化していた。もはやここまでくれば知っている他人であるという物。

もう擦れ違う事さえない。恋心を持って接した相手は居ないのだと失望して一人泣いて。

 

 

数日後に。

 

 

「―――――達哉?」

 

ジャンヌ・オルタは休日に私服姿の達哉が町裏で悪魔を切り殺していたのを見て。

その背中に既知感を覚えてしまう。

不安が募る。なにか良くないことが起きているのだと背中に冷や汗が伝っていく。

 

「ジャンヌか・・・」

「・・・うん。達哉、アンタは思い出したの?」

「・・・忘れるんだ。何もなかったんだ」

 

そういって彼はジャンヌ・オルタに背を向けて場を後にしようとする。

彼を捕まえようと走ろうとするが。アポロが炎を呼び出し彼女と達哉を分断。

ペルソナの炎は制御可能だ。周囲に燃え移らせることなく達哉は自分自身の離脱時間を稼いで場を後にして見せた。

そしてジャンヌ・オルタの物語も罪から罰へと移行する。

そこで彼女の意識は浮上した。

 

 

 

 

 

 

「戦況は・・・? 言うまでもないわね」

 

ランスロット、清姫が落とされたことは感覚で分かる。

彼等が加護を超えて死んだ場合は一度、ジャンヌ・オルタの聖杯に回収されるからだ。

彼等の憎悪が内面で渦巻いていることを知覚し戦況を理解する。

 

「ああ。だが良くはなっている。前線の屍兵とのリンクで。連中の魔力供給体制に異常があったと判明した。今奴らは防衛と遅滞戦術に移行しつつある。」

 

確かに大駒は倒された。

しかし数の暴力は以前機能中。

であるなら。

 

「あいつらを潰しておしまいってことね」

 

此方に敵をなぎ倒し弾き飛ばしシバキ倒しながら。引き殺し火力で圧殺して突き進んでくる。

 

「どっかの英雄譚にありそうな光景ね。思いを一つに束ねて勇者に賭ける。ああ反吐が出そう」

 

分かりやすいというのは実に良い。そこに良し悪しで言うなら最悪の部類だ。

難度も見て。戦列も並べたこともある。

故にその行いの栄光の陰にある物を彼女は嫌と言うほど理解しているのだ。

 

「出るのかい。お嬢ちゃん」

「そうするわよ。決着が着くには早いに越したことは無いし」

 

須藤が嘲り混じりに聞き。

ジャンヌ・オルタは凪の如く無常に返して。旗を取る。

 

「まず私が突っ込むわ、アンタたちは後ろから付いてきなさい」

「キヒヒ、了解」

「御意に」

 

二人が了承したのを確認し。

 

「じゃ行くわよ」

 

魔力が迸る。

その出力はただのサーヴァントでは発揮し得ないものだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おかしい・・・」

「何がですか?」

 

ガラガラと音を立てながら。馬車は戦場を進む。

敵は依然として取り付こうとして来ているが。

達哉が違和感を覚えるほどに、数が激減していた。

と言っても。数は依然として多く。

マシュの精神的消耗が激しい。主要時間軸と比べて。達哉と言う頼りになる存在はいるが。

主要時間軸とは違い、直に武器を握っての応戦だ。

手に血が付くというのは答えるものである。

盾であれば面積にそうでもないが。

ハンドメイスは叩き潰しへし折る武器だ。

振えば肉が裂け骨が折れ血が飛ぶ。返り血を浴びて当然なのだ。

達哉とて初めて明確に人を切り殺した時は、刀が手から離れてくれないものだった。

如何に異形相手とはいえ精神的に来るものがあって当然なのである。

 

「敵の数が少なくなってきている。もうあと少しで本陣のはずだが・・・」

「出払っているとかですか? フランス軍の皆さんも頑張ってますし・・・向こうからすれば一気に押しつぶしたいところでは?」

「それを抜きにしてもカルデアの件もある。向こうも現状一杯のこっちの焦りに気付かないはずがない・・・中継の戦力を削る意味合いが無いんだ」

 

達哉の言う通り、ジャンヌ・オルタ側には中継のポイントの戦力を削る意味合いがない。

未だ本陣では派手に交戦中。

さらには前衛組も宗矩と長可以外は抑えられており。

時間さえかければジャンヌ・オルタ陣営の勝利は揺るがず。

後は達哉たちを潰せばいいだけである。

戦力を引かせる意味はない。

 

「マシュ!!、ちょっと盾持ってこっちに来て頂戴、何かが突っ込んでくる!?」

 

マリー・アントワネットが慌てて声を上げ。

達哉は瞬発的に判断を下す。

 

「狙いは俺達か!? マシュ、マリーさんの隣に行って宝具を展開急げ!!」

「了解しました!」

 

 

万が一が在ってはいけないという事も考え。

マシュに宝具を展開するように指示し。

達哉はメタトロンにペルソナを替える。

 

疑似展開/人理の壁(ロードカルデアス)!!」

 

防壁が前面を覆うように展開すると同時に

赤黒い閃光が一直線に走った。

 

「堕ちろ」

 

それはジャンヌ・オルタだった。

左手に旗を。全身から血を滴らせ。

右腕を振り絞り。

壁に向かって超音速を突破しながら、右腕を矢弓の如く振り絞り殴り抜く。

同時に爆音と防壁が粉砕。

幸いにも威力は殺し切ったが衝撃で馬車がバランスを崩す。

 

「総員離脱!!」

 

達哉が脱出指示を出すと同時に。ジャンヌ・オルタは次の攻撃を放とうとしていた。

逆手に持った旗槍に注ぎ込まれる無尽蔵の魔力が四人を一撃で葬らんと突き立てられたのである。

なんとか一瞬の差であると言う事と。収束率はすごい反面。

範囲はそこまででも無いということが助けとなって、四人は空中に吹っ飛ばされるだけに済んだ。

達哉は空中で一転二転しながらマシュを抱き留めつつ着地。

ジャンヌもマリー・アントワネットも身体能力を生かし空中で姿勢を取り戻しながら着地する。

余りの威力に岩盤が起立した地面の上に平然と断ちつつ。

そして旗槍を引き抜き。壊した右腕を即座に蘇生させ呟く。

 

「やっぱり仕留められないか」

 

背中の布地を破砕させ背中から魔力を噴射。

超音速で飛翔し自分を弾丸として撃ちだすという無茶をやってのけたのはジャンヌ・オルタその人である。

彼女は同期しているサーヴァントたちの傷を引き受けているゆえか。

体中から血を流していた。

最も即座に再生。

祝福も内部にため込んだ怨霊で食いつぶして無効化している。

 

「終わりです。ジャンヌ・オルタ」

「イキってんじゃないわよ。オリジナル」

 

出力上昇。ジャンヌ・オルタに勝てるようにジャンヌ自身の出力も向上している。

いまの現状に置いてジャンヌとジャンヌ・オルタはスペック面で見れば互角に等しい。

如何に出力を上げても噂の効力によってジャンヌの出力も上昇する。

ジャンヌ・オルタの方は無理に自己改造をしてあげているというのに。

ジャンヌの方は噂によって無理なく上昇されるのだから理不尽なものであるともいえよう。

だがそれはカタログスペックに限った話だ。

 

そして理不尽は唐突に起こった。

跳ね飛ばされ切り刻まれるジャンヌ・オルタに一瞬の間も置かず炸裂するマハラギダインが彼女を一瞬で殺傷するものの。

 

「相変わらず理不尽ね。そのスキル」

 

だがジャンヌ・オルタには効いていなかった。

即座に傷が逆再生でもするかのように再生治癒する。

アポロのマハラギダインにあぶられて生きている方が生物的にもおかしい。

そして彼女は感想を述べる。

理不尽であると。

それはそうだ。ノヴァサイザーによっての時止めからの、滅多切りと光属性上乗せのマハラギダインなぞ

どうよけろと言うのか。

冬木の時とは違い体力も精神力も充実しているのである。

本領を発揮し戦闘に限定すれば歴代のPシリーズ主人公の中で戦闘に特化しているスキルなのである。

最も相対する敵が大概人間やめているか異形相手で殺しきれないことが多いだけで。

実際は大概の概念防御持ちでなければ真正面からサーヴァントでさえ圧殺できるのだから。

ジャンヌ・オルタの言う理不尽その物であろう。

 

「お前のその再生能力もな・・・」

 

限界点があるとはいえ、理不尽なのはそっちの再生能力もだろと達哉はボヤキつつ。

油断なく正宗を下段に構えてアポロを背後に維持する。

不意打ちかねてのノヴァサイザーは、確認のための意味合いもあった。

先のノヴァサイザーで殺しきれればそれで良し。

殺しきれないなら。あとは死ぬまで殴るまでのごり押しに切り替えるだけの事である。

 

そして今ので確信した。

事前の情報からジャンヌ・オルタも不死性を持っていることは判明している。

相当な無理をしているのは事前的にわかっていたことだ。

アマデウスが彼女と交戦した時に見抜いていたのである。

無論それは伝えられて。オルガマリーが何パターンか不死身の絡繰りを想定し対処法を出している。

故に想定の範囲を超えていない。要するにジャンヌ・オルタはリソースに物言わせて再生能力を保持している。

だがそれが聖杯と怨霊関係である以上。光属性攻撃及びエンチャントバフが掛かった武器で殴り続けて行けば。

無理をしている以上、決壊するのは道理だ。それを確信し、光属性スキルとマルタとゲオルギウスの祝福が乗った武器で圧殺するだけの話だが。

問題が一つ起きていた。

 

「マシュは俺と来い。ジャンヌ、君は下がっていろ」

 

達哉は作戦を変更する。

対峙した瞬間理解した。

ジャンヌ・ダルクではジャンヌ・オルタに勝てないと。

 

「え、どうしてですか!?」

 

ジャンヌの顔が驚愕に染まる。

まさかの此処に来て、お荷物宣告であった。

 

『明確に君より、ジャンヌ・オルタの方が実力は上だ。俺とマシュで損耗させる。ヤバくなった入れ替わりでヤツを討て』

 

武を学び地獄の様な戦闘を駆け抜けてきた達哉だからわかってしまう。

正直な所、達哉自身だけでも勝てるのは怪しいじゃないかというレベルだ。

彼の額とほほに冷や汗が滲んだ。

ジャンヌではジャンヌ・オルタに勝てないということを戦士の感が告げてきて理解させられてしまう。

かと言って、数に物を言わせれば逆に連携の粗さを逆手に取られて殲滅できる技量がジャンヌ・オルタにはある。

であるなら、この場で連携練度の高い、達哉とマシュで損耗させ。

削るだけ削ったら余裕をもって特攻持ちのジャンヌで仕留めるのが上策。

後方支援にはマリー・アントワネットも居るのだ。

 

『ジャンヌ、此処は達哉君とマシュちゃんに任せましょう。下手な連携なんて食いつぶしちゃうわ。アレ』

 

達哉の方針にマリー・アントワネットも同調する。

先ほども言った通り。カタログスペックなら互角。

でも技量という観点。経験した地獄の差が明確に両者を上と下で分けていた。

加えて即席の連携は逆に意味がないどころかマイナスになると判断し。

当初の予定を切り替えるの当然のことである。

 

(リサか栄吉が居れば)

 

嘗て戦線を共にした仲間たちが居れば。

連携で押しつぶせなくもない

だが彼らは居ない。完全に達哉の事を忘れて自分たちの人生を謳歌しているはずだから。

だが無いものねだりもできる境遇でもない。

 

「ねぇ、達哉」

 

歪な音を立てながらジャンヌ・オルタは凛と立つ。

不思議と。カルデアの面々以外のサーヴァントはジャンヌ・オルタと交戦しているがゆえに。

分かってしまった。彼女の宿す憎悪が歩燃え上がる炎ではなく焼き切るような鋭い物に変貌していくのを。

第一になぜ、達哉の名を知っているのかと驚愕せざるを得ない。

 

「なんだ」

 

動揺を隠しつつ達哉は何時ものように正宗を下段に構えて。

そんな思考を他所に。

ジャンヌ・オルタは、右腕を伸ばし、掌を仰向けに広げて、まるで社交パーティーで異性をダンスにでも誘う優雅さで、

右手を差し出して。

 

「一緒に来ない?」

「・・・はぁ?」

 

達哉は予想外の不意打ちに唖然とする。

まさか見るからに憎悪の化身の如き存在が。友人に接するようにフランクに。

一緒に世界を滅ぼしませんか?という勧誘をしてくれば誰だってそうなる。

第一に目的が正反対同士だ。勧誘にすら考慮に値しないはずなのである。

 

「え。何を言っているんですか? アナタは?!」

 

マシュも予想外の展開に呆然と声を出す。

ジャンヌもマリー・アントワネットも呆然としてマシュの声に頷いた。

それを他所にジャンヌ・オルタは呆れたように溜息を吐きつつ言う。

 

「だってそうでしょ? 本来、達哉とこの世界は無関係で。さらに言うなら世界を賭けた戦いに、もうこいつは二度も巻き込まれている。一度目は敗北して世界を滅ぼし。二度目は責任を取るために大事な物を手放して。こいつは滅んだ自分の世界に帰って一人ぼっちになって。一回目の責任を清算していた。それで今度は? 影がやらかして獣畜生は詰んでいることも知らずに状況を起こした結果。抑止の一環だか、蝶の計略だか。影の策謀だかは知らないけれど。無理やりこの世界に引き釣り込まれて。世界を救えと言う。これを理不尽と言わずしてなんというのかしら?」

 

既に達哉はもう二度も世界の危機に挑んでいる。

理不尽っぷりで言えば達哉の味わった苦境の方が上だ。

なんせ些細な報酬さえなかった。

一度目の失敗と取引を拒んだがゆえに孤独に叩き落されたのだ。

さらに罪とばかりに滅びた世界に一人ぼっち。

頑張って生きてみれば。都合が良いからと引き釣り込まれて世界の命運を背負わされる。

 

 

「え? 達哉さんが世界を滅ぼした? 帰る場所には誰も居ない?」

 

ジャンヌ・オルタの雑多すぎる説明にジャンヌは驚愕する。

ツケは払った。つまりその罪は帳消しになっていると言う事であるが。

それは誰も居なくなってしまった滅びた世界に世界を救ったうえで帰るという苦行の果てに成り立っているものである。

つまりだ。

 

 

―旅をですか!? いいなぁ・・・、どういったところを見て回ったんですか?―

 

―まぁ、それは素敵な。お兄さんですね―

 

主なところでこれである。

ほかにも色々彼に聞いてしまった。

 

「――――――――」

 

ジャンヌは呆然とする。同時にカチリとパズルのピースが嵌るような音がする。

あの時。食堂の会話で達哉が若干顔を慟哭に染めていたというのはこういう事だったのかと。

聞くすべてが彼にとっての刃になっていたことに呆然とする。

魔が悪いとかではなく頑張って耐えてしまった達哉の頑強さとコミュニケーション能力不足である

その様子を達哉は察して。

 

「お前が奴に何をされたのかは知らない・・・ だが俺は、全部ではないが納得はしている。納得して向こう側に帰ったんだ。第一に俺が忘却していれば全部にそこでカタが着いたんだ。お前がとやかく言うんじゃない」

 

全てを納得しているわけじゃない。だが帰ると決めたのは自分だ。そこに大よその納得は在り後悔はない。

故に赤の他人が勝手に自分自身の心を知った風に代弁するなと。

 

「でもムカつくのは・・・本当の事でしょ?」

 

ジャンヌ・オルタはその反論こそ現状に苛立っているというのだと返す。

達哉は油断なく正宗の柄を握りしめ。

 

「ムカつくと言われれば。そうだと、言うほかないな」

 

本音を言う。

 

「誰だってそうだろ? 俺だって例外じゃない。こんな理不尽に巻き込まれでもすればイラつくのは当然のことだ」

 

世界滅亡の危機。それを解決すべく英雄が刃を取って敵に立ち向かう。

ああ外見は確かに良い。

だが当事者たちにとっては堪ったものではないだろう。

やらなければ、やり切らねば全部終わるのだから。

無論、その難題をクリアしたところで現実が待っている。

オルガマリーは責任を負わねばならない。出自が特殊なマシュや異邦人の達哉も身振りを考えなければならない。

クリアしたところでそう言う事も含めて。成果みあっていない。

それに達哉は経験済みだ。

苛立つというのも当然の話だ。

 

「・・・でも悪いことだらけでもない。そのお陰で俺はマシュや所長にカルデアの皆と出会うことが出来たから」

「そうやってまたやせ我慢するの?」

「やせ我慢だと? ああそうかもな。本音を言えばしたくはない。だがな、それでも俺は此処に居たい」

 

罪と罰は重い。未だに割り切れてはいない。

だが此処に居たいというのは達哉の出した答えだ。

 

「苦しむことになるわよ」

 

ジャンヌ・オルタは悲痛そうな表情で言う。

初恋に敗れた少女の風であり、何かを奪われて泣き伏せる童の様であり。過去の情景を見て懐かしむ女の哀愁のような表情である。

そしてジャンヌ・オルタの言葉にも達哉は真摯に返した。

 

「分かっている」

 

苦しむことなんてわかっている。

現在進行形で過去との呵責に苦しんでいるのだから。それでも此処に居たいと思う。

だから。

 

「もうこの話はお終いだ。」

「――――そうね。」

 

もうこの話はそれでおしまい。

交わることはない。

確かに過程はほぼ一緒だ。

だが出した答えが違いすぎるのである。

肯定した達哉と否定を翳すジャンヌ・オルタでは道が交わることはないのだ。

 

言葉はなく。殺気が満ちていく。

上位サーヴァント同士が本気で誉れも何もなく只殺すという殺気のぶつかり合いが如き様相を呈していく。

数の理では突っ込んできたジャンヌ・オルタが不利だ。

達哉たちはジャンヌ・オルタの損耗を狙ったが。その刹那。

 

「なるほど。消耗戦か悪くはない」

「けどまぁ、そうは問屋が卸さねぇよ!!」

 

轟音。飛来する無数の炎閃。

それらが達哉たちの面々の間を引き裂く様に炸裂し引き離す。

すぐに再集合できる状況ではあったが。

 

「ヒャハ!! モテモテじゃねぇか、相変わらずよぅ。羨ましいぜ?”たっちゃん”」

 

合流させまいと、漆黒の影二つがマリー・アントワネットとジャンヌに襲い掛かり。

マリー・アントワネットは引き抜いたレイピアでヴラド公の放つ槍を捌き。

ジャンヌは旗で振りおりされた刀を受け止める。

 

それよりも達哉が驚愕したのは、ジャンヌと鎬を削っている人物が居る筈のない人物であることだった。

あの日、あの博物館と飛行船の中で殺したはずの殺人鬼「須藤竜也」が嘲笑するような笑みを浮かべ。

ジャンヌと刃を交わしつつ、まるで古い友人と再会するかのような気軽い言葉を達哉に言い放っていた。

 

「お前は死んだはずだ!」

「そう簡単に死ねるかよぅ。俺には電波の加護があるんだぜェ!!」

「お前、そこまで落ちたのか!」

 

マシュも知っているため目を見開いている。

最悪の殺人犯が何故このような場所にいるというのだ。

その問いに須藤は彼なりに応える。

電波の加護。つまるところ、ニャルラトホテプの手によってサルベージされ蘇生され。

眷族になって甦ったと言う事である。

つまり神取鷹久と同じと言う事だ。

セベクスキャンダルと呼ばれる事件で死んだ神取と同じ手法で甦らされ駒として使われていると言う事である。

 

「落ちる? 何言ってんだ? 俺は選ばれたんだよォ。お前に理解者を与え、間違ったこの世界を壊すためになぁ!! そのためにィ!!」

 

出力差を技量というよりも、獣の直感的行いで最適の回避行動を弾きつつ。

ジャンヌの攻撃を回避し腹にケリを叩き込み吹き飛ばす。

 

「まずは手始めに。そこの電波聖女をお仲間にしてやるよ!!」

「させると「アンタこそ私から逃げられるとでも!!」クッ!?」

 

達哉は須藤に躍りかからんとするが、ジャンヌ・オルタが行かせるかと槍を走らせ。

それを見たマシュが達哉とジャンヌ・オルタの間に割って入り、大盾を構えマシュがそれを防ぐ。

 

「アゥッ!?」

 

が槍の一撃は尋常ではない重さだった。

書文に体幹重視のトレーニングを施されているにもかかわらず、そのまま張り倒されそうになる。

ジャンヌ・オルタは右腕を振りかぶりつつ。

左手の槍を保持する手を緩め。槍を盾に突き立てたままスライドし。

間合いを詰めて。右腕を盾に叩き込む。

マシュの脳裏によぎるのは先ほど。自身の宝具の障壁を破った一撃が脳裏をよぎる。

 

「スキル展開!!」

 

宝具の展開は間に合わない。ならばとスキルを展開させるが。

 

「温いわァッ!!」

 

ジャンヌ・オルタは温いの一言で切って捨てそのまま右腕を突き出す物の。

盾にその右腕が着弾するよりも早く切り飛ばされると同時に、ジャンヌ・オルタの顔面が斜めに切り裂かれる。

同時にマシュの肩に重みが掛かり。

背後にいたはずの達哉がマシュとジャンヌ・オルタの間に出現し刀を振り下ろしていた。

ノヴァサイザーによる二秒停止で。

マシュの肩を踏み台にジャンヌ・オルタの上を取って切先で顔面を切り裂きつつ、右腕を切り飛ばしたのである。

達哉は手首を返し切先を跳ね上げ。霊核を狙うが。ジャンヌ・オルタは右腕と顔面の切り傷を再生し。

真横にステップを踏みながら体を沈めての下段の足払い。

達哉は即座に一歩後退し回避する物の。回転運動のそのままに振われた槍の穂先が達哉の顔目掛けて一閃。

ソレを剣先の側面の手を当てて正宗を盾代わりにして受け止めつつ且つ上げるように流す。

マシュはその隙にジャンヌ・オルタの側面につきつつ。

踏み込みと同時に震脚、大盾に肩を預けるかのようにシールドバッシュ。

八極拳の肩靠と盾を組み合わせたものだ。

書文が教えて何とか形にした代物である。

さらにアポロがゴットハンドを振り被らせ。

達哉は持ち上げた刀を握り直し。唐竹割りだ。

 

「シッ」

「ハァッ」

『ウァラ!』

 

達哉の短く吐かれた吐息。

マシュの気を込めた震脚と声。

アポロの咆哮が同時に重なってのクロスファイア。

 

「だからさぁ、温いのよ!」

 

普通であれば詰みである。回避も許容しない。

進めば三方向からの同時攻撃で潰され。

引けば。達哉は躊躇なくアポロを付け替えてメタトロンかサタンによる高火力スキルを見舞うだろう。

もっとも仮想現実とはいえ。ボルテクス界やシュバルツバースを潜り抜けてきた彼女にとっては温いのである。

左足を軸にさらに回転し、マシュの盾に斜めに蹴り上げるように蹴りを叩き込み。

力の伝道をずらしつつ浸透頸を無力化しつつ、少し後ろに跳ね飛ばす、

振り下ろされた達哉の刃を左腰の鞘から右手で逆手で抜き放ち、ロングソードの鎬腹に左腕を当てて受け止める。

だがこれで動きは止まったと。アポロを達哉は走らせゴッドハンドを撃つ。

ジャンヌ・オルタは体を右に反らし倒しつつ、達哉の刀を押さえ支えている両腕の内の左腕から力を抜き、刀身の斜めにしつつ。右脚に力を込めて真横に跳躍しながらゴッドハンドを回避。

さらにジャンヌ・オルタは空中で身をねじり槍旗を旋回。

今度は達哉の胴を狙う軌跡で放つ。

達哉はアポロを消してメタトロンを召喚し、振るわれた槍を防ぐ。

ジャンヌ・オルタからすれば追撃を防ぐための牽制攻撃であるため惜しくはない。

掴まれることも想定していた分。掴まれなかった事を行幸と思いながら、右手のロングソードを指の動きで順手に持ち替え魔力を注ぎ込みつつ。

空中で姿勢を立て直し地面に直地すると同時に。剣を振って魔力を熱戦に変換した物を射出。

マシュが即座に達哉の前に入り、スキルを展開しながら盾で受け止める。

 

「マシュこのまま全力で間合いを詰めるぞ。さっきの奴を撃たれたら溜まった物じゃない」

「了解しました。行きます!!」

 

それに間髪入れず。達哉はマシュに突撃を指示。

先ほどの特攻攻撃を撃たれたら溜まった物ではないというももちろんあるが。

マシュは周りを気にしすぎるきらいがある。

下手にマリー・アントワネットやジャンヌに気を払われては。そこを付けこまれてマシュが落ちるのを防ぐために。

合えて急かすように指示を達哉はねじ込んだのだ。

 

状況は完全に分断された。

 

マリー・アントワネットは生前。影絡みの時に使っていたレイピアとジュノンでヴラド公に応戦し互角に戦って見せている。

ジャンヌの方は上昇した出力があれど。須藤は獣の如き感性で彼女の攻撃を凌ぎ回避し攻撃の手を緩めず。

ジャンヌの戦況は悪くなるばかりだが気にもしていられない。

ジャンヌ・オルタの技量は本物だということが分かったのだから二人を気にしている余裕は一切ない。

 

達哉も視線をジャンヌ・オルタへと向けて突撃を敢行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャンヌ」

 

そしてはるか後方では戦場でジャンヌ・オルタとカルデアの交戦が始まったころだろうかとジル・ド・レェは物思いにふけりつつ。

地下を海魔を使って掘り進んでいた。

彼はジャンヌ・オルタの勝を疑ってはいないが。万が一もある。

後詰はきっちりしておくべきだと彼は最善の行動を取り続けていた。

 

「なぜ、なぜ、お前なのだ。なぜお前達なのだ。」

 

そしてそれはある種の嫉妬心だったのかもしれない。

何故なら。自分が知るオリジナルのジャンヌは兎にも角にも自分が作った贋作のジャンヌ・オルタが、ジルには見せたことのない普通の少女の様な微笑みを浮かべていたのだから。

あの夢の中で、確かに。彼等はジャンヌ・オルタを贋作と言うトラウマから救い。一人の人間として成長させて見せた。

そして周防達哉に天野舞耶に三科栄吉にリサ・シルバーマンに薫ゆきのに黒須淳に、ジャンヌ・オルタは普通の少女として笑顔を向けて頼りにしていた。

生前のジル・ド・レェも今のジル・ド・レェも出来なかったことだ。

故に思わざるを得ないジャンヌ・オルタを救えたのなら。オリジナルも彼等ならばと思ってしまうのだ。

 

「なぜ今になって。私たちのもとに現れたのだお前は」

 

彼等は出来たという嫉妬。

彼等ならば救えたかもしれないという絶望。

そして彼は、達哉は、なぜ事が全て成ってしまった時になって此処に来たのだと言いう慟哭。

それらが入交り狂気となってジル・ド・レェの心の奥底に溜まっていった。

 

 

 

 

 




邪ンヌ。輝かしい青春。なお初恋は失恋確定+後にPシリーズ&メガテンシリーズという地獄が待ち受けている模様。

今回邪ンヌの使った術理は単純な物で。
全力全開の魔力放射による自らを質量弾として超音速突撃+バフにバフを盛りまくった全力の右ストレート+殴ると同時に右手の霊基に指向性を持た収束曝射した壊れた幻想=相手は死ぬという物。
VR時代では右腕の代わりに自身のペルソナでやっていた模様。


電波「来ちゃった♡」
たっちゃん「カエレ!!(全力右ストレート)」
電波「と言う分けで。たっちゃんのお友達増やすために聖女苛めるね♡」
たっちゃん(汚い濁音のような叫び)
ジャンヌ「え?」
ニャル「何勘違いしてんだ? アレは邪ンヌが勝手にやったことで。私たち関係ないから。と言う分けで本番です。頑張って成長しろよwwwwwwwww(ジャンヌの駄目な所を書いたリストを須藤に渡しながら)」

フィレ「ところでニャルラトホテプよ、難度、上げ過ぎじゃないか?」
ニャル「原作通りの展開にするとノヴァサイザー無双になるからね、仕方がないね」
フィレ「それもそうだな」


あと、たっちゃんはベルベットルームでアポロを調整したので。以下ステータス
アポロ
Lv53
斬― 突― 銃― 炎無 核無 地― 水― 氷― 風― 衝― 雷ー 重― 闇無 光無 精- 異―
力39 魔45 耐32 速40 運17
スキル
ゴッドハンド
マハラギダイン
フレイダイン
ノヴァサイザー
コンセレイト
火炎ブースター
火炎ハイブースター
大気功

後。たっちゃんと所長に鯖のペルソナ使いのステは自分のLvステータス+ペルソナステータスを合計した数値になります。
最もLv99で成長限界であるため。99なった時点でストップ。それにペルソナの数値を加えても、ステオールMAXにしたメガテン主人公ほど出鱈目ではありません。


と言う分けで。
本当に胸糞悪くなりますからね!!
警告はしましたよ!!!
あと連投は此処まで。次の話はプロット中半。明日から仕事なので長い目で見てもらえれば幸いです(白目)

ニャル&須藤「行くぞー(*'▽')」




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十三節 「弾劾戦闘」

これが定めさ! 知りながらも突き進んだ道だろう!
正義と信じ、分らぬと逃げ、知らず! 聞かず!
その果ての終局だ! もはや止める術はない!!

機動戦士ガンダムSEEDより抜粋。


大よそマリー・アントワネットの生涯は幸福とはいいがたい。

当時の価値観として男尊女卑が普通だったのだ。

道具としての価値観は見出されていたとはいえ。

大よそ現代のようにそれが認められるような状況ではないのは確かである。

だがしかし。彼女はそれでも立ち上がった。

無論。それは愛する国の為。愛する家族の為。愛する隣人の為であはあったが。

そんな先も述べた情勢下で反骨心を滾らせれば綺麗も汚物に見えるの画筆の世という物である。

規範に沿わない存在はいつの世も排除対象だ。

祈りがとうとうモノと言えど一般大衆の需要にそぐわない上級階級は排除されるのが常ともいえる。

故に不幸だともいえよう。

彼女自身にも問題があったとはいえ大衆が結局自分自身の負債を覆い隠すために彼女の名誉を落したという事実は、何も変わらないのは至極当然の理由であるからである。

でも彼女は後悔はあるけれど納得はしていた。

 

「シッ!」

 

短く鋭い吐息とも共にマリー・アントワネットはレイピアを突き出す。

花の様な金細工が施されたただのレイピアであるが。

今は祝福も乗っている。十分に対峙している相手であるヴラド三世に傷を負わせることは可能だ。

さらに彼女自身の腕前もそこそこ良い物である。

 

こればかりは生前の経験の差だ。

あの怪異で化け物を相手取ることは多かったが。

対人戦闘は少なく。

どうしてもヴラドには劣ってしまうものである。

一王妃と護国の鬼将を比べるのが間違っていると言えばそうなのだが。

 

槍とレイピアが擦れてはじける。

既にやり合いは数十号に及んでいた。

 

「貴殿は王妃と聞いていたが・・・まさかこれほどの使い手とはな・・・」

「ペルソナ補正に頼りきりだけれどね。かのワラキア公に褒めてもらえるなら幸いという物よ」

 

先も述べた通り。通常であればヴラド公にマリー・アントワネットは単騎での武力も劣っている。

純粋な実力では達哉よりも下だ。

それをペルソナ補正によって補っているだけに過ぎない。

 

(さて・・・どう攻め崩しましょうか)

 

手札が圧倒的に足りない。

前話で説明したとおり。英霊のペルソナ使いは専用ペルソナしか使えない。

理由としては前の話しで書いた通りだ。

サーヴァントは座の本体の一側面を切り取った存在だからである。

現にチェンジどころかベルベットルームの使用すらできない。

故に手札不足なのだ。

マリーアントワネットの元来のスタイルは、多数のペルソナを捌いて戦うオルガマリータイプなのだから。

流石にジュノンだけでは、サーヴァント化による身体補正があっても、ヴラド公レベルの相手となればきつい物がある。

 

「では、悪いが異国の王妃よ。詰めさせてもらうぞ」

「ッ」

 

 

雰囲気が変わる

大地が発起する

再現されるのは皆殺しの極刑の大地。

オスマン帝国から領土を守るために行った。串刺しの地獄の具現。

 

極刑王(カズィクル・ベイ)

 

ヴラド公の宝具である極刑王が発動する。

刹那。地面から出てくるのは無数の杭。

中世に置いて串刺しの刑に使われた代物だ。

 

「ジュノン マハコウガオン!!」

 

それが前から津波のように襲い掛かり。それをジュノンで薙ぎ払いつつ。

撃ち落し損ねた杭を、レイピアで切り落とし。

ステップを踏むかのように後退。

刹那、マリー・アントワネットが居た場所から杭が現出する。

これが極刑王だ。

サーヴァントを殺傷可能なほどの杭をヴラドが地脈掌握した領域なら大地の度からでも生やすことがかのうなのだ。

そしてその派手さにに買わず応用も効く宝具である。

 

「テトラカーン!!」

 

その初見では回避不可能の攻撃を自分の足元にジュノンでテトラカーンを足元に展開。

杭を弾き返す。

 

「なに!?」

 

展開された障壁に杭が接触するや否や。

接触した本数がヴラドに襲い掛かる。

彼は驚愕こそしたものの。即座に状況に対応。

槍を振って跳ね返された杭を叩き落す。

マリー・アントワネットも間合いを詰めるべく脚を動かす。

 

「こう激しいダンスは好みじゃないのだけれどね!!」

 

兎に角、動く、間合いを詰めるのと。

足元から発生する杭にあたらぬためだ。

もう中半詰まされている形なのだ。

いくらペルソナがあっても、補正があっても。サーヴァントとしての身体能力があっても。

それでも生前から戦争を行っていったヴラド相手には地力の差が露呈する。

 

「・・・なぜこうも抗える」

「?」

「すでに状況は決した。そのジュノンとやらの火力では。余の極刑王は乗り越えられまい。周防達哉のペルソナであれば別だが」

 

詰みかけているのは先も述べた通り。

ジュノンの火力が足りていないのだ。相性がいいから薙ぎ払えているだけで。

それが無かったら物量差に押しつぶされる。

達哉であれば最上位ペルソナの暴力で薙ぎ払えるが。マリー・アントワネットはペルソナ使いとしては中堅だ。

それほどの物は卸せない。

故に詰み。この布陣を突破は不可能だというのに。

なぜこうも抗うのかヴラドは不思議でならなかった。

 

「第一に貴公も私と同じで民衆によって名を汚され。名誉も貶められ。都合の良い妄想として使われている。故にあの若人たちに協力する意義はあるまい?」

 

確かに。マリー・アントワネットの名誉も地位も心も大衆によって踏みにじられた。

そしていまだなおネガティブなイメージが付きまとうことは否定できないものではある。

故に未だ直。名を貶め続けられるがゆえに現在の人間を救うことに意味があるのかとヴラドは問うているのだ。

そんな連中を救う事に何の意味があるのかと。

 

「・・・プッ」

 

その言葉を聞いて。マリー・アントワネットは吹いた。

彼女からしてみれば見当違いも良い所だったからだ。

彼女は民をフランスを愛した。

それは原作で語られるところである。

だがそれを言ったところで、目の前の王も同じ。

故に自分はそういうスタンスということを言っても理解はされない。

であるならとマリー・アントワネットは負の側面を言う。

 

「・・・何がおかしい?」

「ごめんあそばせ。別段嘲笑したいから笑ったわけじゃないの。ええ確かに私は私の愛する者たちの手によって何もかもを奪われたわ」

 

そう前置きしつつ自分自身の影をさらけ出す。

 

「でも、王妃として皇族として、一政治家として。その悪名やらネガキャンの類で首を落されたのは、私がミスをしたからに過ぎないわ。だから残念には思うけれど。私に非がないとかそう言う事を言う権利はない。あの場で少なくとも有効手を打てなかったのは誰?」

「それは・・・」

「そう他ならぬ。私自身じゃない? 違うかしら? いいえ違わないわ」

 

専制政治である以上。政治的ミスはマリー・アントワネットやルイ16世の物でしかない。

彼女も政治にかかわっていたし体制を変えようと奮起した。

誰もがそれを理解せず、彼女を断頭台送りにしたとは、誰もが言うが。

実際には、マリー・アントワネットのプレゼンテーションとコミュニティが足りなかったということでしかない。

独裁政治も、頭が良く民に利益をもたらすなら賢君としてたたえられる光の側面があり。

負の側面としては個人に依存しすぎるがゆえにやらかした場合のリカバリーが利かず。トップが暴走しすれば、その王は暴君やら暗君として呼ばれることもある様に。

周りへの根回しが十全に足りなかったから、要らぬ嫉妬を買ってあの様というだけなのである。

故に事を怠り有効手を打てなかった自分自身が悪いのだとマリー・アントワネットは語る。

 

「飽く迄も、自分人が貶められたのは民のせいではなく自分自身の責任だと?」

「そうよ、何処までも自分がやったことに対する正当な評価じゃない。貴方も。確かにああするしかなかったとはいえ。あれだけの事をやっておいて悪名がつかないと思うのは、少し甘いんじゃないかしら?」

 

ヴラドの所業は残酷無比だ。

だがそれは当時最強レベルの国であるオスマンを相手にするには仕方がないという側面もあった。

兵の質も数も上。その上で民衆を守るにはあらゆる手段を使わねばならなかった。

故に敵兵を串刺しにし。戦略の邪魔をする味方と貴族を始末して。徹底した焦土戦術を使った。

側から見れば実に正しい。だが裏を見れば血も涙もない所業である。

如何に理屈で正しいとわかっていっても。

 

故に憎むべきは自分自身だろうと彼女は言う。

 

「それに今もネガキャンだらけというけど。再評価の動きはあるじゃない。貴方も私も。映画にだってなってるのよ? 本や歌劇の主題にもなったわ。むしろ吸血鬼という偶像で貶められたけれど。今やあなたの名はメジャーだし。おいしい主題も一杯貰っているじゃない。私はあんまり映画の主題にしてもら得られないけれど」

 

第一に一時はドラキュラのせいでヴラド=吸血鬼という偶像が生まれて名は貶められていたが。

今や負のイメージだけではない。色々なジャンルでそれは表現されている。

そして世界がネットでつながったことによって。再評価の動きもあるのだ。

それはマリー・アントワネットも同じであるが。

強いパンチの聞いた属性がないせいで。そう言った映画関係の主題にもされずらい。

 

「だから私が羨ましいと?」

「いいえ、そうは言わないわ。でもそこで満足しておきなさいって話よ。いい方向に話が持っていっているんだから喜ぶべきでしょう? 私はむしろ・・・できなかった事を評価されてもって思っているもの」

 

マリー・アントワネットの最終目標は達成できなかった。

出来なかったことを評価されてもモニョると言うのが普通の反応である。

 

「・・・なら虐め抜かれた貴様の子はどうする!! あれこそ愚衆の醜い責任の転換であろうがよ!!」

 

マリー・アントワネットの子であるルイ17世はそれこそ虐め心理の被害者でもあろう。

人間的な尊厳ですら貶められてなお怒らないというのかとヴラドは憤慨するが。

 

「だから・・・私の責任って言っているでしょうに」

 

静かに怒りつつ。マリー・アントワネットは百合の王冠に栄光あれを起動。

硝子の馬を呼び出し、押し寄せてくる杭を粉砕させて、飛び乗る。

 

「あの時、確かに逃げ切れる筈だった。」

 

革命が起き亡命するために馬車を用意した。

理論上は逃げ切れる筈だった。

だがそうはならなかったのは何故か。

 

「でもそうはならなかった。ほからなぬ私自身のせいでね!」

 

他ならぬマリー・アントワネットのせいである。

事もあろうに逃走用の馬車に過剰に荷物を積み込んだせいで。

馬車が速度を出せなかった挙句。そも馬車に荷物を積み込む時間を食ったせいで。

民衆に補足されととっ捕まったのだから。

その責任はマリー・アントワネットに付属する。

 

「もう嫌と言うほど見せられたわ。学習の一つや二つすると物でしょう!!」

 

硝子の馬が光を放つ。

宝具機能とペルソナを組み合わせた攻撃突撃スキルにして攻撃ではマリー・アントワネット最高火力だ。

 

「咲き誇り。絢爛に駆け抜けよう、我が行く道は刹那の軌跡!! 百合の王冠よ栄光を紡げ(フルール・ド・バニッシュ)!!

 

美しく絢爛な具足と馬用の防具を身にまとった硝子の馬が一瞬で超音速を突破。

踏みしめる大地を結晶化し砕きながら炸裂する杭を粉砕し、その外皮はマリー・アントワネットを守る様に杭を弾き飛ばす。

防御と攻撃を両立した単純な攻撃は速度も速く。

祝福も乗り、四方八方から襲い掛かる杭を粉砕しながら突き進む。

 

「だがそんな大技は当たってやれぬ。」

「直撃させるわ、意地でもね!!」

 

だが無論。ただで当たるほどヴラドも馬鹿ではない。

だが当てて見せるとマリー・アントワネットは手綱を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャァッハ!!」

「ッ」

 

刃が振るわれる。

それは正調ではない。

宗矩がその太刀筋を見れば武ではないと評する乱雑さである。

ただ刃を当てて目標を傷つける為だけの乱雑な太刀筋。

されど人は三寸切れば死ぬという言葉がある様に。

当たりどころが悪ければ死ぬから。

須藤からすれば殺せれば乱雑だろうが何だろうが苦しもうが苦しまないがどうでもいいのである。

 

須藤の動きは機敏だ。

影との契約によって覚醒した。彼本来の専用ペルソナは。

ガタスではなくモナドへと接続先を変えており。

そのレベルは最高ランクである。

 

いや汲み上げられる純度で言えばベルベットルームで調整を入れて強化された達哉のアポロより高出力である。

故に、機敏性だけ見ればハイサーヴァントレベルという人間を超越した物である。

そのスペックに加え。

尚且つ殺傷行動における心理的鎖なんぞ存在しない彼は躊躇なくジャンヌを殺すための行動をとっている。

 

「おいおい、もっと楽しませろや。お前も電波が聞こえんだろぉ? スキルも戻ってるはずなんだからヨォ!!」

「クッ、私の効く声はアナタの聞く悪魔の声とは違う!!」

 

ジャンヌはそう返す。

事前に達哉から聞かされていた。

ニャルラトホテプは人類の影だ。

大よそ救いとは相いれぬ存在で。間違っても聖書の神とは相いれないと。

彼女は叫び。須藤は大きく爆笑した。

 

「俺とアンタは違う? ヒャハハハハ!! おいおい、じゃぁ聞くがよ。アンタの信じる神とやらの名はなんだぁ?」

「神の・・・・な?」

「名は大事だろうがァ!! 明確な信仰心ってのはまず、信仰相手を認識することから始まるのはごく普通の事だろう?」

 

信仰とは明確な対象が居なければただの妄想である。

だから須藤の言うことは間違ってはいない。

神にも名はある。

無論、キリスト教の聖四文字だって存在する。

が、ジャンヌが知る筈もない。

ヤハウェの名を知るのは当時、それこそ専門職を歩むモノ達か聖職者くらいなものだ。

田舎娘で文盲のジャンヌが知るわけもない。

無論。座からの情報フィートバックがあるから言えるのではと思う読者もあられるだろうが。

そも聖四文字の正式な発音自体が失われている。

明確な記憶がない以上、情報補佐はないのだ。

ジャンヌの素の学では言いよどむほかない。

 

「いい淀んだな? つぅーことはお前はお前自身が信望する神の名ですら知らねぇわけだ。その上姿も見たこともないのに。なぜお前の聞いた神とやらの声が。聖四文字だと断言できるんだ? ええ?」

 

名も知らない。姿を見たこともないはず。

だというのに誰かであると言い切れるのは実におかしい話だ。

ネットチャットあたりで有名人のコテハンを使っている人物を本人と断定するような行いである。

まず普通であれば幻聴を疑うだろう。

 

「断言出来ますよ。あの声の嘆きは本物だった。確かな嘆きだったのだから」

「クハ! 物は言いようだなぁ。おい!! お前の信望する宗教にはこうあるぜ! マタイだったか・・・確かぁ。偽の預言者に気を付けなさい。彼らは羊のなりをしてやってくるが。うちは貪欲な狼ですってなぁ」

 

ジャンヌの言い分を具体的証拠が伴っていないと一蹴しながら。マタイの福音書の第十五を引用しつつ。

須藤が問いを投げる

何故、その清廉な声とやらが、神の皮を被った偽の預言者。つまり神の皮を被った悪魔の誘惑ではないと言い切れるのかという事である。

無論、ジャンヌにそれを言えるはずがない。

抑止の情報サポートはあるが。高校生レベルの人間が大学教授の論文クラスの

前提からしておかしい。

文盲だった彼女が聖書を詳しく読み取り理解したうえで判断するなら兎にも角にも。

理解もしていないのになぜ。声を聴いただけで。それが神の声と断定できるのが実におかしな話だろう

 

「知らない。けれど綺麗で紳士だからだからお前が神!! 実に都合の良い妄想だァ。でも一口に神って言っても色々いるんだぜェ。お前さんの信望する宗教は多くの神を引きずり貶めた。嘗て神であった存在を悪魔って口触りの良い認識と概念にな。だから多方面に恨まれて当然だよなぁ? 嘆くなら元神様の連中の方だろう? でだ。お前の聞いた声はだれだ?」

 

だからこそジャンヌの信仰は歪だ。

知らない物を信仰しているのを、清廉やら光やという口触りの良い概念でごまかしている。

いわば現代における、ミーハー精神に近い。

一件にして強靭な信仰で成り立っているように見えるが。このように理論的に否定すればあっという間にはがれるメッキだ。

偽の預言者が良き隣人を偽装するように。

悪魔もまた神を騙らないとなぜに保証できようか。

 

「かの蠅の王でさえ。かつては慈雨によって豊穣を齎す神として信仰されていた訳だ。それがキリスト教の台頭によって。あんな様だぜ? 恨んでないわけがねぇだろ? 言ってみろよ。貴方の奉じた神様は誰だ? ■■■■? バアル? アスタルテ? ダゴン? アドラメレク? 神の姿語るならデミウルゴス? エホバ? ヤルダバオド・・・ さぁどれだよ!!」

 

須藤にその歪さを指摘されたうえで。お前の聞いた神の声は誰だという問いに返すことは出来ない。

故に須藤も言ったように、キリスト教に貶められた神々が、ジャンヌに嘗ての姿と言う虚像を纏いながら。

聖四文字を貶める為に声を届けたということは否定できないのである。

 

「それはあの方に決まっている!!」

「だからさぁ、名を言え!! 具体的に説明しろよ!! 適当な抽象的言葉ではぐらかすな!! 説得力ねぇんだよ! 姿も見たことも無ければ名も知らねぇ小娘の言いようなんぞなぁ!!」

 

説明できないのに説明しろと人は強要する者だ。

何故なら見えないものは存在しないのだから。

神もまた同じである。

ジャンヌの叫びをそれは無知蒙昧な女の奇声と変わらないと須藤は嗤いながら否定し。

振われる旗を刀で捌き。

繰り出される蹴りを交代しつつ回避する。

ジャンヌの攻撃は一見して苛烈であるが。

実際はテレフォン気味になっている。自身の信仰心を根幹的に揺るがされているのだ当たり前だろう。

何故なら、こうも理論的に否定してくる相手は初めてだったからだ。

彼女も自分自身が怒っていることに気付いていない

そしてさらに須藤は思い出したかのように、一層嘲笑を深めた。

 

「なるほど、だから、たっちゃんに聞いたんだな? 主の姿を見たことはありますかってなぁ!!」

「!?」

「不安だったんだろう? 自分の信仰心がよ。じゃなきゃあんな言葉と問いが出てくる分けねぇだろうが!!」

 

祈れど姿を見せない神に天使。

そして生前に広がる戦乱。

貴族にとっては温い戦争だっただろうが。一般人は命がけ。

だからこそ、信仰する傍らで、ふと魔が差したことが無いということウソになる。

先ほどの須藤の指摘で。そう言った影が噴出していた。

さらにその指摘で自覚できるまで。ジャンヌの心理的背後に影が浮き出てくる。

 

「そりゃ誰だって不安になるよな? お前も座で知ったはずだ。打ちのめされたはずだ。神は既に世界を去っていたって事実を知ったんだからよ」

 

そういいつつ須藤はヘラヘラ嘲笑いつつ、身をかがめて地面を縫う様にジャンヌに接近。

間合いを縮め。刀を足元を狙い横に走らせつつ。

さらに煽る。

既に当時のフランスには神格なんぞ都合の良い物は居ないわけだ。

そして座に至ったがゆえにその事実。知らぬわけがない。

だからこそ。ジャンヌの信仰は否定されているのである。

 

図星を突かれたジャンヌは即座に地面を蹴って。

さらに距離っを縮め、右は膝を須藤に叩き込まんとするが。

須藤は左手を地面につけて身を回転しつつ浅くジャンヌの左足を斬りつける。

 

「それ見た事か。信仰を否定すればぺーぺーの狂信者は即座に暴力。どっかの戦争宗教屋と変われねぇなおい。こえーこえー。本当に此れだから戦争犯罪者のテロ女はよ」

 

須藤は飽きれ気味に後方宙返りの要領で即座に体制を立て直しつつジャンヌの居る方向に向き直る。

一方のジャンヌは旗の石突きを地面に突き立て跳躍の勢いを殺し。

地面に着地

 

「戦争犯罪者・・・誰が」

「お前だよ。ルール破って、闇討ち、大砲を対人戦に使用。当時のルールでは違反だよ」

 

現に100年戦争の暗黙ルールにおいては大砲を人にぶっ放すのは厳重禁止事項だった。

それを突然と破って行えばだれでも勝てる。

理論的にわかりやすく言えば。条約違反の攻撃の釣瓶撃ちを行ったのだ。

 

「現代で言えば国際協定やら条約違反の様なことだよぉ。広島と長崎の悲劇 911テロ。ベトナムの枯葉剤。イランイラク戦争におけるハブラジャ事件などがそうかねぇ」

 

今でいうところの米国が条約違反をやれば勝てる。

如何に追い込まれていたとはいえ。それだけやれば覆せたのだから。

国力はあったのだ。

 

「が、幾ら国が容認したと言っても、それは戦時下の話だ。第二次世界大戦規模なら敗戦国っていう明確な責任の押し付け先があるが。一国VS一国だとそうもいかねぇ、情勢ってものを気にしなきゃならねぇのさ、勝ち方もなぁ」

 

ただ勝つだけならどうにかなる。

しかし戦争というのは他国への事も気にしなければならない。

戦勝国でさえ責任を負うのだから。どう簡単に決着をつけるかまず考える。

そしてそれの一番楽な方法とは。

 

「どうあがいても責任ってのは発生するわけだ。だったらどうする? 答えは簡単だ。個人に押し付けてしまえばいい」

 

単純な話で個人に押し付けてしまえばいい。

アイツがやったと全部おっかぶせて捨ててしまえばいい。

情報伝達技術の発展した現代では不可能な話だが。ジャンヌが生きていた時代は違う。

まだ個人的武功がものをいう時代でもあった。

故に個人に責任を押し付けやすい時代でもあった。

末期戦まで追い込まれていた。フランス首脳陣は当然。都合の良い生贄を見つけた。

 

「幸いにも当時のフランスにはいたよなぁ。そんな人材が」

「それが私とでも言いたげですね」

「そうだろぉ? 国としての安泰をたかが。神の声を聴いたとかいう小娘生贄にするだけで手に入るんだからヨォ。そりゃ全力で持ち上げるわな。」

 

故に彼女の行う掟破りを容認した。

あとはジャンヌという一個人に全部責任を押し付ければお終い。

現にそうなったではないかと。

 

「で叩いて落して。都合が悪くなったからまた持ち上げる。政治屋の常套手段だよォ」

 

そして都合が悪くなったので政治的アピールも加えて再度持ち上げる。

政治家の常套手段だ。

こうすることによって事後処理は滞りなく終わる。

そうやって百年戦争は終結されたのだ。

 

「そんで無知蒙昧なお前は裏ではそういう事情があることを知らず。理想の英雄像によって。躊躇なく連中の望んだとおりに人殺してくれたわけだ。 ジルやら上層部の連中は小躍りでもしたんじゃねぇか? 味方の死は指揮官の責任、非合法的手段もまたお前に帰結する。ホレ。全部お前の責任だ。」

 

不正は元より、味方の兵士の責任さえ。魔女だとか適当なレッテル張り付けて背負わせて使い捨てられる。

実に捨て駒としては手ごろで元々、高貴な生まれとかでもないため、遠慮なしに使い潰せる。

まさしく世界が国が民衆が望む都合の良い偶像だろう。

 

「お前の家族もそうだったなぁ。死にたくない巻き込まれたくないで。悪魔払いで教会に多額の寄付金は出したくないで娘の異常から目を背けて悠々と軍に送り出しして。戦果を挙げれば家族面。処刑の日には止めに来なければ最後に顔を焼きつけようともしない冷酷無慈悲「ふざけるな!!」っとぉ!?」

 

そこでさらに須藤は追撃とばかりに今度はジャンヌの家族を持ち出す。

戦果を挙げてのパレードには来たのに処刑の時には来なかったことを引き出して。

復権裁判の事を言う。

遂にそこでジャンヌが切れた。

まぁ自分の事なら耐えられる人も多いが。家族まで貶されて怒らない人間の方がおかしい。

出力が上昇した筋力は既にありえない力と威力を発揮していた。

もっとも先ほども述べた通り。テレフォン気味である。

ニャルラトホテプの眷属となった須藤であるなら余裕で回避して見せている。

スウェー気味に穂先を回避するように小ばかにするような足取りで須藤が後退。

ジャンヌが激昂し図星を突いたと確信した須藤は。

致命傷になり得る言葉を紡ぐ。

 

「自覚してたんじゃねぇか、愛されてなかった。都合の良い道具としてしか見られていなかったわけだ? ほれ俺と同じよ。両親からは都合の良い道具。電波の声を聴いて楽な方に歩みを進めて思考放棄。俺と同じだろう?」

「お前とは違う。私の家族の絆がお前に」

「それがな。分かるんだなこれが!! 藤丸の方でお前やったよな? 今日から私たちは姉弟ですってよぉ。しかもベカスの方で姉ビームとか聖杯の補正で作り上げてまでやったよなぁ」

 

家族を求める。

裏を返せば。それは愛されていなかったことの証明だ。

或いは愛されていても。その愛を受け取れなかったかだが。

ジャンヌの場合は前者だ。

歴史資料は所詮、過去の物。記憶を残す当事者たちが一致団結すれば偽装は可能だろう。

特に当時はカトリックが主流だ。異端認定されては溜まった物ではないゆえに。

関係者が口をそろえるのは当然と言えよう。

故にこの時空、つまりこの世界と連なる平行世界のジャンヌの姿は史実は一体せず。

故に影が潜む。

現在の誰もが過去を本当の意味で捕らえるのは不可能なのだ。

そして彼女は主要時間軸でやってしまった。

そう、あの夏の日、藤丸と主要時間軸のジャンヌ・オルタにファミコン丸出しの。

洗脳(物理)&(ビーム)までやっているのである。

もうここまでくれば。家族仲は悪いと思わざるを得ないし。実際そうだったとしか言いようがない。

良かったらそもあんな事をする必要性がないのだから。

 

「いい加減認めろや、お前は生前都合が良いから偶像に仕立て上げられただけの、聖女の仮面被った電波で負け犬でよぉ!! 英雄という光の概念で悦に浸りたいただの人殺しだってよぉ!!」

「違う私は皆を・・・助け・・・られた救えた命が」

「ねぇよ、お前がやっていたのは。ただの扇動だ。とりあえず旗降りながら突撃して。赤信号みんなで渡れば怖くないと同じ心理状況に陥らせて突撃させた。救うどころか命の浪費だよ。第一にお前が英霊になって救えた命なんて無いだろうが? ジャックっていう孤児を殺したじゃねぇか」

 

まだ抵抗するジャンヌに須藤は真顔で突っ込む。

 

「いやあれは・・・」

「明確に詰んでいる。最初からデットエンド。道理だよな? なら安楽死が救いだ。道理だよ。でもさ本当の救いってのはそういう連中を救ってこそだろうよ」

「―――――」

 

確かにジャック・ザ・リッパーの一件はどうしようもない。

だが救いを翳す以上、もっとやるべきことはあったはずだ。

 

「お前はあの時。どうしようもないから安楽死せたが。贋作の方はちゃんとアタランテを説得して見せたぜ?」

「え? はぁ?」

「呆けるなよ。だからああも協力し合ってるんだろうが。召喚時にアタランテがあの時の問いを贋作に投げかけて。贋作の方は具体案とプランを出して見せたぜ?」

 

ジャンヌ・オルタの方は召喚時にアタランテの言葉を聞いて。

言葉と理を言って説き伏せて見せた。

出なくば。アタランテを使役する事なんて叶わないし友愛なんて抱かれないのは当然の事だろう。

 

「嗤えるよなぁ。贋作は具体案だして、やろうと思えば出来て。本物は出来ませんでしたぁという本音を都合の良い信仰心やらなんやらで目を背けて後始末はマザコン英雄に全部ぶん投げてガン逃げだもんなぁ。マジ嗤えたぜ。聖者として本物より出来がいい贋作とかよぉ。誰もかれもが綺麗な物語を望んでいい空気吸いたいようなんで。俺が言ってやるぜ!!」

 

振われる旗を刀で弾いて嘲笑いつつ須藤は致命傷となる言葉の刃を振り下ろす。

これまでの否定は。この言葉のための布石だ。

誰もかれもが否定せず。”美しい物語を見たい”から指摘もしなかったがゆえに。

それが周りに回ってこの場で刃となってくる。

 

「お前は誰かに愛されたいがために。自分から無意識に他人の共有する誇大妄想に縋りついたあわれな少女だ。楽だっただろう? 楽しかっただろう? やっぱりお前も電波じゃねぇか!! 俺と同じ電波だよ!!」

 

その信仰心に理はなく。行いもまた他者が望んだ蛮行。結末も国と言うシステムが望んだ都合の良い生贄。

ただ愛されたいと願った少女は。

誰もが望む聖女像を完全に否定されはがされていく。

まさしく魔女だのという罵倒やらなんやらが比ではない罵詈雑言の雨あられだ。

重箱の隅をつつきつつ本人も自覚している及びしていない部分を躊躇なく解体しばらして罵倒していく。

それは大衆の公然的批判より的確に指摘される分ダメージが及んでいく。

当たり前だ。こうも的確に否定もされればダメージが及ぶのは道理である。

加えて、今のジャンヌには余裕が一切ない。

縋れる相手も居なかったのだ。

Apo時空の様な余裕なんぞ持てるはずもないのである。

後に残るはむき出しの。ジャンヌではなくジャネットとしての心のみ。

 

「ぐぅッ?!」

「ヒャっは!! 動きが単調だぜ!! ジャネットよぅ」

 

思考が白熱化し動きが単調になっていき、そこを躊躇なく須藤に切り刻まれる。

達哉とマシュはジャンヌ・オルタとの戦闘で手いっぱいだ。

マリー・アントワネットも格上のヴラド公に食いついていくので手一杯。

本来に予定なら。四体一でジャンヌ・オルタを圧殺。

或いは最低限、二体1に分散されてもヴラド公を圧殺してから合流し四体一に持ち込む予定が。

須藤という伏せ札のせいで覆番狂わせだ。

 

「お前はまさしく運命の歯車。最初からそうであれと望み望まれて作り上げられたシステム。何かできているようで何もできていない誇大妄想だ。そんでよぉ、たっちゃんは世界を滅ぼして救った。で今でも走っているわけだ。犠牲を無駄にしないためになぁ、無論そこにはペルソナに依存せず地力をちゃんと磨いてるからこそできるは当たり前のことだ。お前さんはどうよ? サーヴァント補正にスキルと宝具取り上げられてから自分で成し遂げたことがあるかァ? ねぇよな!! ここに来てから頑張ってのは、エリザのお嬢ちゃんや、聖人コンビにアマデウスと元王妃様だもんなぁ!!」

 

誰もが望むがままに彼女は道を歩み続けた。

故に何かを成せているようで何も成せてはいない。

妄想という意志の赴くまま。愛されたいがゆえに他人に都合の良い自分を演じていただけ。

後は脚本通り役を演じ切ればいいだけの人生。

自分の意志なんてものはそこにはないのだ。

 

「他人におんぶにだっこなんだよ。都合よく状況が動けば都合の良い光にしがみ付いて、鳶がお揚げを掻っ攫うが如き良いとこ取りじゃねぇか」

 

なんせ演じて居れば都合の良い物が手に入る、名声、愛する人、地位や成果もだ。

シチュエーションだってそうだ。

聖女の如き役を演じるにふさわしいシチュエーション。

Apoなんかそんな感じだろう。

誰一人として少女としてのいびつさを指摘もしなかったのだから。

だからおんぶにだっこ。都合の良い物は全部自分の成果として得られるのだからそうする。

現にジャック・ザ・リッパーの一件はそうだろう。

本物の聖女であるならアタランテを説き伏せ。現実に沿ったプランをジャックのマスターに提示する事だって可能だったはずだ。

でもジャンヌはその無知故に手段を知らず理を分からない。

故に安楽死という安直な手段を取ってしまったわけだ。

挙句。アタランテの暴走招き。それをアキレウスに押し付けた。

本来であればアレは因縁を紡いだ以上。ジャンヌが方を付ける問題だったわけだ。

それすらせず。天草の成り立ってはいけないプランにも具体的な否定提案を提示せず自爆特攻である。

 

「贋作も哀れだよなぁ。あっちは何かするたびにダメ押しされて。失いたくないからつってよぉ。必死に努力してアイツはあいつなりに頑張って自分を確立させたのによ。オリジナルがその様じゃ。そりゃ苦しんでのたうち回っていろって気にもなるわな」

 

あの時確かに。ジャンヌ・オルタがドンレミを焼き払った時。

単独でやり合った数分間。

ジャンヌ・オルタはジャンヌを殺さず。増援が来ると知るや否や踵を返した。

 

―哀れね、宝具も使わない。ペルソナですら取り上げられて。精神的余裕もないし、好みの得物すらない私に。その様なんて・・・ ああだからか。蝶も影もえげつないわね―

 

―いやよ。どうせアンタは破滅するわ。自分に影がない。他人に影がないなんて思い込み自分の無い女はね。誰かに縋りついて破滅するのが相場よ。あの処刑の時のように。今回はその比じゃないわ。明確に自覚したうえで滅ぼされる。なにも成し遂げられずにね―

 

―だったら無視してもいいでしょう? どうせ何もできはしないんだから―

 

無視したところで運命の歯車の砂粒ですらない存在を気にする余裕はないと言わんばかりにジャンヌ・オルタはジャンヌをあしらって撤収していく。

聖女の仮面を剥ぎ取ってしまえば何一つ力のないお前を殺す優先順位は後だとばかりにだ

 

「だから誰でも良いのさ!! 国が欲したのは都合の良い生贄。旗降って条約違反を犯してくれる都合の良い捨て駒。誰だってよかった。そこに都合よく転がっていたのがお前ってだけの話だよ!!”代わりはいくらでもいる”」

 

ジャンヌの代わりなんぞ要る。

国が民衆が人が求めたのは都合の良い偶像で生贄だ。

力の有無ではなく都合が良いかどうかである。

だからジャンヌは何一つ成せていない。ただ流れに身を任せていただけだと、須藤は弾劾する

 

「違う!! 私は成し遂げた!! 事を成したんだ!!」

「へぇ・・・まだ言い張るかよ」

 

まだ折れない、縋りついているジャンヌを見て須藤は行動を停止する

確かにジャンヌは英雄だろう。

だがそれを証明するのは今しかない。

では今。彼女が何が出来ているのかと言わんばかりに須藤はそれを証明するように指を差す。

 

「見てみろよ」

「なにを」

「出来た出来たという割には現在進行形で何もできてねぇじゃねぇか」

 

送って指さす先には

 

「「「ウォォオオオオオオオオオオオ!!」」」

 

神話の様な光景が広がっていった。

太陽神と織天使に匹敵する天使。人に試練を課し見定める魔王を従えて勇敢に立ち向かう達哉。

怨念をまき散らしながら剣を振い、絶死の槍を振い、骨ですら焦す焔を射出し見せる絶望その物如き様相を呈するジャンヌ・オルタ

そんな中、明確に格下ながらも達哉を守りカウンターさえ叩き込まんと勇猛に盾を振うマシュ

 

「元王妃様もスゲーわ。電波殴り返しただけは在るわ。見てみろよ、圧倒的格差について行っているぜ?」

 

ヴラド公とマリー・アントワネットの応酬もすさまじい。

繰り出される槍衾を硝子の馬に跨り粉砕しつつ。

騎乗試合のように何度も突撃を敢行している。

 

「ああそれとだな。ファブニールが堕ちたらしいわ。初のガチ殺し合いで竜殺しの主体無しがついていたとはいえ。カルデアの所長様はやり切ったみたいだぜ?」

 

無理に無理を押し通し、勝利をもぎ取ったオルガマリー。

皆死力を尽くし道を繋がんと血を流して役目をはたしている。

お前には何ができるんだよと。

手元で刃を弄びながら須藤は嗤う。

 

「敵は明確に贋作だよなぁ? だっつぅーのに三下の俺に嬲られて。そこでキレて蹲っているのはどこの誰でしょうか?」

 

そしてジャンヌは何が出来ていると須藤は嘲笑う。

ジャンヌの敵はジャンヌ・オルタだ。

その為にカルデアは、使いたくない噂まで使って特攻を付与したというのに。

現状、須藤にですら負けている。カタログスペックでは確かに彼を上回っているが身に着けた技術でいなされている。

彼はこういいたいのだ。自分の如き殺人鬼風情に図星疲れては隙を晒し。

生前積み上げた技術も思考力もない物だから言いようにされていると。

 

「シェイクスピアの時もだよなぁ。幻想のジルへの反論をレティシアの好意の影響ですって言ってとりあえず保留。ジークの時は結局聖杯をぶっ壊すって任務は達成できず。散っていくヒロインとかいう都合の良い虚像を演じて。事後処理を全部おっかぶせた。藤丸の所の第一特異点でお前はジルを引き込めず、民衆を説得できずそこらをうろうろ。最終決戦に至っては生前よろしく旗降ってただけ。ほれ何もできていない。なぜなら生前積み上げたもんが何一つないからだ。何もできなくて当然だよなぁ?」

 

生前。もっと戦術や戦略に精通しておけばバックアップ要員として活躍できた。

武術を真面目に学んでさえいれば優れた身体能力だけであってもサーヴァントとしての仕事は出来るはずであると須藤は指摘する。

ほかにもいろいろある。きちんと学べば、きちんとやっておけば。

ジークをジャック・ザ・リッパーを天草四郎を説き伏せられたかもしれない。

それらを全て自覚し。

何かが折れた。

呆然となる、ジャンヌに須藤は歩み寄り。

目線を合わせて皮肉に表情を歪める。

 

「よーく。分かっただろう。俺はお前だ。お前は俺だ。他人に認めてもらうことが苦痛で楽な認め方を求めて電波っていうどこの声か分かりもしねぇものにしがみ付いているだけの電波だよ」

「わ、私は・・・・」

「信仰心は理論的に立脚された物じゃない、不出来な贋作で電波。そんな電波なお前にもう帰る場所はない。ジルはお前が電波にしちまった。家族はお前を拒絶した。友はお前を都合の良い踏み台にした。国はお前を利用して捨てた。お前自身も多くを己の意志で殺した。たっちゃんと同じように帰る場所はないっと。始まった見てぇだわな」

 

始まったと須藤が述べると同時にだ。

準聖剣クラスの魔力光が閃光として走る。

振り向いてみれば。ジャンヌ・オルタから膨大な魔力光が噴出していた。

外壁に罅が入ってその間から水を噴射し決壊寸前のダムを彷彿させる。

貯め込みに貯め込んだエネルギーリソースがついにジャンヌ・オルタの憎悪の暴発に呼応し噴出。

収縮極まったそれは戦略核弾頭を上回る威力を秘めている。

 

「さぁって。アレを見逃したら。ティエールが全部吹っ飛ぶぜぇ」

 

無論、そんなもの見逃せばフランスが消し部と言うのは言い過ぎだが

この戦場とティエールが吹き飛ぶ威力は余裕であった。

 

「さて、お前のご自慢の旗で守ってやりな。最も。お前が守れるのはお前の虚像にしがみ付くボンクラ共だけだがよぅ」

 

今回はスパルタクスの時とは違う。

背後には町と戦場で戦う者たちがい居るのだ。

旗で守れるのはせいぜいこの場に居る達哉とマシュとマリーアントワネットにジャンヌ自身程度。

戦略目標を守り切るのは不可能。

かと言って戦術目標も守り切れるかどうか怪しい状況だ。

 

クツクツと嗤いながら、須藤はクラマテングを呼び出しトラフーリを使って場を離脱。

 

呆然とするジャンヌの視線の先では状況は動き続けていた。

 

 

 




これがニャルだ!! 良い部分も直すべき部分も悪いように解釈して歪ませた上でのマジレス真拳。
そして並行世界も跨いで情報持ってくるため、座と言う共有機構を利用する英霊にはどうあがいても刺さるというね。

ちなみにジャンヌと邪ンヌでは学ぶ環境も違いましたんで。
だって邪ンヌ、1999年から~2016年まで高校生活。本人もP2の経験から必死に努力に勉強に鍛錬にニャルの駄目押し そしてPシリーズ終了後はメガテンの神霊乱舞な戦場で戦ってきたんですもの。
育った環境と境遇が違いすぎて単純比較はできません。

あとジャンヌの家族描写でありますが。
史実では資料を読む限り仲は良かったみたいです。ただしそれは史実の話しで。
型月ジャンヌの描写てきに明らかにファミコン拗らせていることを加味して資料を読みつつ当時の情勢やらなんやらをニャル思考で考察するとこうなるわけで。
つまりどういうことかって?

ニャル「幾らイベントギャグとはいえ。迂闊なカミングアウトは死につながるということだ」

つまりファミコン拗らせさせた原作者が悪い。
俺はわるくぬぇ!!

ニャル「というわけで。次の選択肢ミスったら。ひどい目にあうからな。お前ではなく、たっちゃんとカルデアがな!」
ジャンヌ「え? なんで?」
ニャル「当たり前だろう? 罪の重みってのは他人が巻き込まれて初めて本質を理解できるんだかな」
ジャンヌ「ちょっと待ってさい!? それは理不尽すぎます!?」
ニャル「なぁに。次の選択肢を間違わなければ。大丈夫wwww 大丈夫www。ここまで否定されたんだからダメなところは分かるだろう?wwwwww 普通なら間違えようがないぞwwwwww」
ジャンヌ「」



言峰「やりすぎでは? 十中八九、間違えるかと・・・」
ニャル「私は連中の願いを叶えているだけだよ。聖女ではなく少女の自分を知ってほしいと望んでいるジャンヌと少女としての顔を知りたいと願ったジルのなwww。だから聖女の仮面をかぶる余裕が無いようにボコボコにしただけだ。望んだのは連中だよwwwww」



ジャンヌファンの皆様。本当に申し訳ない(土下座)

邪ンヌも負けず劣らずボコボコにされているので許して(焼土下座)


次回はたっちゃん&マシュVS邪ンヌ血みどろの殺し合いと安定の爆破オチ回。

須藤のおニューペルソナお披露目は後半戦で行います。










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十四節 「沼地」

仇を討ちたければ、力をくれてやろう。

ちか・・・ら・・・

この神の家で、父を焼かれ、母を焼かれ、友を焼かれ、隣人を焼かれ――――・・・
それでもまだ。アレにすがるか――――・・・
己で成すかだ―――

デンドロバテス 第六巻より抜粋


「はっきり言ってあげましょうか?、答えが欲しかったのでしょう? アンタは何の関係もない。ただ彼らと共に行動したがゆえに、縁が生まれてしまい。それによって周防達哉が忘却を拒んだ時点で君の記憶は蘇るのは確定事項だった。」

 

ジャンヌ・オルタシャドウはそう言った。

そうジャンヌ・オルタの記憶の再生の原因は達哉たちとのコミュの結合。

そして罪の物語に深くかかわったことが原因による連鎖反応でしかない。

第一に記憶の消去だって。根幹である10年前の出来事を消すうえでの巻き込まれである。

それが完全な形で成されなかったから、リセットに自分から望んだとはいえ巻き込まれた形のジャンヌ・オルタは物語に関わっていたがゆえに。

達哉が忘却を拒んだおかげで記憶を保持したまま同調してしてしまったのである。

 

「え・・・じゃ私の行動って・・・」

「総じて無意味だったわねぇ。無駄に人をぶっ殺しただけよね? 自分の居場所欲しさにね?」

 

ジャンヌ・オルタの皮を被るニャルラトホテプはそういって嘲笑う。

 

「無意味なんかどうかはアナタが決める事じゃない」

 

だがそれに否と言ったのは舞耶である。

 

「確かにこのお嬢ちゃんは周りの声を聴かずに大暴走したな。けれどよ。全部が全部無意味だったわけじゃねぇ」

「パオフゥの言う通りだ。彼女のお陰で悪魔によるオカルト事件の被害数は減ったし、JOKERによる被害だって止められた。無駄ではない」

 

無駄な部分もあったが有益な部分もあった。

ジャンヌ・オルタの行動のお陰で救えたものも確かにあった。

 

「はっ、なによ。結局欲しいものには届かない。達哉が愛したのはそこの舞耶じゃないのよ。叶わぬ願いを抱いて永劫苦しめって?」

「そうね・・・苦しむのかもしれない」

「なら」

 

ジャンヌ・オルタは”剣”を呼び出し、自らのシャドウへと突き刺す。

もう知っているし決意したと言って。

 

「それでいいわ。私はこの思いを胸に苦しみながら進む・・・帰るわ。私の世界に」

 

そう改めて誓いなおす。

この幻想の中の思い出を胸にまえに進もう、罪と罰を背負ってジャンヌ・オルタとしての個人を始めよう。

そう誓った筈なのに・・・・はずだったのに・・・

 

「先を知ればなんとやら。こうもいともたやすく砕け散ってしまう。そんな思いに何の意味がある?」

 

不気味な月が浮かび永劫開けることのない夜が帳を卸す。

視界は常に霧でぼやけて。人々は仮死状態の中散れた夢に溺れ続け。

影が永劫に這いずっている悍ましい世界。

すでに人は変わらない。三度奇跡を起こしておいて。

結局。たどり着くのは此処だ。

 

「さて・・・これが君の遊戯の結末だ。如何に彼らが奇跡を起こそうと。それは弧蝶の夢の如き幻だ。状況が終了すれば民衆はこう思うのだ。奇跡が起こったよかったよかった。でも明日から仕事だの生活があるからもうどうでもいいとな。そして奇跡の内実を知ろうともせず、目先の現実に捕らわれて。即座に奇跡を風化させる。そしてまた事件が起きれば物乞いのように、また奇跡を希うのだ。その果てにあるのは破局だよ。都合の良い物を望み続けて進化などできるはずもあるまいが?」

 

影が嗤って。ジャンヌ・オルタは呆然と月を見上げた。

奇跡は棄却され。都合のいいものを望み続けた結果だけが虚しくそびえたつ。

 

「さて、まだ君の望む物には程遠い。故に次だ」

 

仮面をめぐる物語は終わりを迎え。

神霊跋扈する女神の転生への物語へと堕ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に三桁台に突入しようかと言う剣の応酬が繰り出されている。

加えてペルソナとサーヴァントスキルが至近距離で炸裂しあっている。

高火力を距離を離してではなく至近距離で撃ち合い斬り合うインファイトだ。

亜音速領域で酌み交わされる刃と入れ替わる立ち位置は大気を絶叫させる。

その中で明確に優れていると達哉は思う物の・・・

 

―なんだ? これは?? 動きが変だ―

 

達哉はジャンヌ・オルタの動きが変であるという事に感付く。

確かにあらゆる側面において高水準だ。

槍術、剣術、体術がだ。

 

しかし、チグハグな印象を受ける。

いや、実際にチグハグだった。

回避動作に余計なマージンを組む傾向にある。

武器を振う時の間合いの取り方や振い方が、まるで別の物を想定したかのような取り回しの時がある。

こうやって打ち合っている時は良いが緊急時の判断の時は実に顕著だ。

特に足動きからして。明らかに悪手である空中への跳躍回避を選択しそうになって、不自然に動く時があったし。

現に何度か跳躍してしまい、それを魔力放出によって強引に補う時がある。

つまり、通常時は高水準に纏まっている物の。

緊急時やアドリブを利かせる際には別の技術が出てしまうと言う事である。

 

無論。それは致命的な隙であり、ジャンヌ・オルタにとっても致命傷だ。

現に達哉の刃に腕を斬り飛ばされ、マシュの蹴りが脇腹などに直撃させられてしまっている。

傷は即座に出力に物言わせて修繕するものの。その都度に霊基が軋みを上げて悲鳴を上げる。

 

この摩訶不思議な現象はいたって単純な話で。

そも、この時空におけるジャンヌ・オルタは武を収める猶予があった。

そう、ニャルラトホテプが放り込んだ現実と大差が無い夢という仮想現実である。

その中は無論、死ねば精神が死ぬ素敵使用であり。

生きる為には現実同様に実力を磨かねばならない。

ジャンヌ・オルタは無論必死で磨いたのだ。そして身に着けた。文字通り血肉に刻み込むように。

だが反射という無意識領域まで刻み込んだ武術は得物が違えば、毒に転換する。

仮想現実に置いて彼女が愛用していたのは彼女の身丈は在ろうかという大剣と小さな短剣だ。

そこに自身のペルソナスキルを組み合わせた魔剣を主軸としたスタイルだったが。

今は、槍と直剣と来ている。

技術の仕様想定が違うという齟齬が出てしまっているのだ。

無論、それは対人技術面で秀でている、技巧派サーヴァントにしか気づけぬであろう疵である。

そして書文やらクーフーリンやらの技巧派の面々に扱かれた達哉とマシュが気づかないはずもない。

 

ジャンヌ・オルタ自身もそれは理解していた。

故にランスロットやヴラドに体捌きの矯正と鍛錬を頼み。

できうる限り矯正した物の。

元より才能がない上に六年以上にもわたる積み重ねが早々に修正できるわけもなく。

結果。このようなチグハグさがそのままになっているのである。

されど。実力は本物だ。

戦闘経験で、その傷を強引に埋め合わせ、スペックも発揮しつつ質量の差で押し込まんとする。

だが、達哉は達哉でノヴァサイザーを攻撃ではなく防御に転用。

消費がほぼ無い0.1秒停止を敵の攻撃のウィークポイントで使う事によって。

致命傷や攻撃起点を潰しつつ、カウンターを確実に叩き込む。

 

「相変わらずッ!! インチキね、ホント!?」

 

再生を繰り返しつつもジャンヌ・オルタは悪態をつく。

時間停止という悪魔王クラスレベルの力だ。

戦闘に置いて達人同士の戦いでは0.1秒ですら重要なリソースになるのである。

それを一方的に取られるのだから溜まった物ではない。

技術のみに限定すれば確かに達哉は宗矩には勝てないが。

何でもありの実戦ではマスターでありながら、時止め持ちであると言う事、素の技量が優れているということでカルデアの現状最高戦力の実力は伊達じゃないのだ。

 

「お前が言うな!」

 

だがいくら節約しているとはいえ。連続でノヴァサイザーである。

ゴリゴリと削れる精神力、加えて。

 

「オーディンッッ!! 真理の雷!!」

 

最上級ペルソナを回しながら最上級スキルを撃っている。

既に通常のサーヴァントであれば数十回は消し炭にしつつ体を踏分けにできる量をだ。

それでも殺しきれないのだから、ジャンヌ・オルタの再生力も理不尽極まるだろう。

結果生まれるのは堂々巡りの削り合いだ。

一方的にジャンヌ・オルタが失血しているように見えもするが。

ジャンヌ・オルタは聖杯やら怨霊やらをエネルギー源にして無限にも近い稼働時間を誇る上に。

光属性の祝福ですら強引にねじ切って傷を即時に再生しているのだから。

体力と言う人間的枷がある達哉たちが不利なのは誰の目にも明らかという物である。

兎にも角にもロンギヌスの槍は嫌でも警戒しなければならない。

直撃すれば疑似即死と言っても過言ではないのだから。

それ以上に火力さえも狂っている。如何に隙を突きやすいとはいえ、それに集中しすぎれば。

それを踏まえたうえでをやられかねないのだ。

手札の配分をしっかり管理しなければやられると達哉は神経を研ぎ澄まして、ジャンヌ・オルタの攻撃を捌きカウンターを見舞う物の。

彼女が有する、攻撃が着弾と同時に再生するというレベルの再生能力のせいで攻撃が直撃しようが。

ジャンヌ・オルタは攻撃を続行してくる。

達哉一人であればとっくに押し込まれている。

だが。達哉は一人ではない。

 

「死ねぇ!!」

「させません!!」

「マハラギダイン!!」

 

右手指に炎が宿り扇状に薙ぎ払うかのように射出された炎を、ジャストタイミングで割って入ったマシュが受け止め。彼女の背後の達哉はアポロを左側面に出しつつマハラギダインを放ち。

自身は右側面からジャンヌ・オルタに切りかかる。

ジャンヌ・オルタの旗が旋回し切先が達哉の心臓めがけて放つものの。マシュは炎を受け止めながら突進してくるため。

行動を中断せざるを得ず。

ロングソードで達哉の唐竹割りを受け止めながら流して。

旗槍の石突きを地面に突き刺し

必死にロンギヌスを震わせないために接近戦を仕掛ける。

 

(クソ!? 盾持ちのせいで対策が・・・)

 

無論、ジャンヌ・オルタも馬鹿ではない。

達哉と肩を並べて戦ったのだ。

ノヴァサイザーの恐ろしさが分からないわけではない。

対策も用意していたが。

マシュと言う存在のせいで誤解してしまっていた。

時止め系への対策は二つ。タイミングを合わせて、時を止めようが逃げられない攻撃を放つ。

そして同じスキルで時を止めた世界へと入門することだ。

ジャンヌ・オルタの取った対策は前者であるものの。

マシュが完璧にフォローに入っているせいと、達哉が躊躇なくマシュを盾として使うべく位置取りと攻撃タイミングを完璧に取っているせいで。

その対策が完全に崩壊していた。

フラッシュバンあたりがあればそうでもないのだが。

そんな便利な現代の兵器なんぞジャンヌ・オルタが持っている筈もなく。

状況は泥沼の様相を呈しつつゆっくりと天秤が傾いていく。

 

(これなら確実に「マシュ!?」ッ!?)

 

この様なら削り切れるとマシュは確信し。

気を緩めてしまった。

その緩みを見逃すジャンヌ・オルタではない。

達哉の叫びと同時に狙いを変更する。

傷を受ける前提で背中を切り裂割かれながらも、太腿の部分から魔力放射。

超高速でマシュへとジャンヌ・オルタが肉薄。

 

「ノヴァサイザー!!」

 

達哉もマシュへのフォローへと回るべく。

五秒停止して一気に走る。

 

(どっちだ。どっちを選べばいい!?)

 

此処での達哉の選択は二つ。

ジャンヌ・オルタの進攻を妨害するため彼女への攻撃を加える。

ただし、これをすれば、停止解除と同時に超高速で飛翔中のジャンヌ・オルタともつれ合いになる。

そうなった場合、次の手を撃ちずらい。

二つ目がマシュを庇いつつ自分が攻撃を捌く。

これは相手の攻撃の着弾地点に身を晒す以上。

自分が吹き飛ぶ恐れがあるが。

確実にマシュを守れるし彼女の援護も期待できる。

ならばと後者を選択し。

マシュの前に立ちつつ。ペルソナを具現。

戦車「ヤマトタケル」、物理特化型の中では最強の手持ちだ。

 

「ヤマトタケル!! 金剛発破!!」

 

繰り出される一撃はヘラクレスの外皮を一度は穿つ威力を誇る。

縦一閃に繰り出されたソレは。

超音速で突っ込むジャンヌ・オルタには相対速度的に回避はほぼ不可能。

だが。

 

「シャァラァ!」

「!?」

 

体の加重移動と体各所からの魔力放射で強制軌道変更。

ヤマトタケルの一撃を掻い潜りつつ。

飛び蹴りの要領で右足が突き出され。

達哉の腹部に炸裂。

通常の人間であれば内臓どころか。ジャンヌ・オルタの足のサイズに体重が乗った大口径弾が炸裂したのと同意義だ。

打が炸裂する瞬間に既にペルソナを物理無効持ちに変更することによってダメージを減衰。

即死は免れるものの。

勢いそのままに地面に叩きつけられる。

 

「ガッ!?」

 

肺から一気に息が排出され。

それでも内臓が揺れて骨が軋み、視神経が危険信号を出して即座に動けない。

ジャンヌ・オルタは無論、好都合とばかりに達哉に馬乗りになって組伏せつつ。

 

「カハッ?!」

「これで終わりィぃぃいいいいいいいい!!」

 

達哉の首を右手で握りつぶそうとする勢いでつかみ。逆手に持ったロンギヌスを振り上げ。

確実に達哉の頭部を貫かんと。何もかもがごちゃ混ぜになりながら、何か大事な物を強引に振り切る様に声を上げて槍を振り下ろさんとするが。

 

「させない!!」

 

マシュがフォローに入りシールドバッシュ。

無論八極拳の動きを加えたものだ。

真横に振り抜かれた盾をもろに喰らったジャンヌ・オルタが先ほどの達哉の様に吹っ飛び。

土煙を上げながら大地に激突。

 

「うぐッ」

 

それでも達哉の即座の戦闘復帰は困難。

であるなら自分が抑えるべきだとマシュはジャンヌ・オルタに向かって走る。

地面に衝突され全身がバラバラになりそうな感覚を味わいながらも。

飛び起きるように即座に体制を立て直していたジャンヌ・オルタに盾を薙ぎ殴る様に振いつつ。

 

「なんで・・・こんなことをするのです。なぜ先輩に執着するんですか」

 

世界が憎いと叫び殺し達哉に執着する。ジャンヌ・オルタの姿をマシュは理解できないがゆえに問いただす

 

「なんで? あんたには分からないでしょうねぇ。大事な物を奪われ続けた痛みはね」

 

それに対しジャンヌ・オルタは奪われたこともないやつが理解できるものかと返しながら。

逆手に引き抜いたロングソードで振るわれる盾を受け止めて鍔迫り合いの形に持ち込む。

金属同士がかち合い火花を散らし、歪な金属音が鳴り響いた。

 

「個人に完結するなら兎にも角にも。先輩や民衆の皆には関係がないじゃないですか!!」

 

復讐とは明確な相手が居てこそである。

それこそジャンヌ・オルタの言いようを信じるのであれば彼女を酷い目に合わせたのは。

あのニャルラトホテプという存在であり擬人化された神だ。

民衆も絡んでいるとはいえ、悪意で民意をニャルラトホテプが勝手に解釈し履行したのなら。

その意志や手段は既に民意から離れている筈であるとマシュは言う物の。

 

「関係がない? ウフ・・・フフフ・・・。アハハハハハ!!」

 

その言いように一瞬唖然となって・・・。

ジャンヌ・オルタは嗤い。

 

「ふざけるナァ!!」

 

旗槍を握り左拳で盾を殴りつけ真芯を捉えて。マシュの

肘の肉を爆砕するほどの反動が発生する魔力放射で右拳を加速。

 

「アァ!?」

「関係がないですって? 阿呆抜かすなよ。この無知蒙昧!!」

 

凄まじい衝撃と共に後方に盾もろともマシュを後方に吹っ飛ばす。

それでもマシュは踏ん張りながら足底を大地にスライドさせつつ食いしばって耐えて見せる。

 

「アンタはそれに解釈違いをしている、影は一個体なんかじゃない!! 世の中、大きいことも細かいことも絡まって歯車の様に連鎖しながら動いているのよ。特に世界滅亡なんてくだらない事象は個人の意思は無論。大衆も絡んでいる。一方的に殴るなんてのはないのよ!! 近代に入って民意がどれだけの紛争や戦争に介入したと思っている!? 古代でも適当な王様やら領主さまあたりが民意によって動いてどれだけ血を流したと思っている!? あれは知性体の悪意その物だ。アレが出て来ている以上、全員が関わっている!!」

 

故にマシュの意見はジャンヌ・オルタにとっては見当違いも良い所。

ニャルラトホテプを一個体としてみるなら実に正しい。

だがあれは個体ですらない、名を騙り個を演じてはいるが民意とやら当たりの集合体。

悪意が形をなした汚濁だ。

ニャルラトホテプが出て来ている以上。全員が関わっているのだからマシュの言い分は見当違いも良いところだ。

 

「達哉の件も知っているでしょう? 周りが都合の良い夢を選んだから。不要になった英雄に余計なものを背負わせて嬲った挙句、礼の一つも言わずに使い捨てて牢に閉じ込めた。オメラス的功利主義を理由にね。大多数が幸運ならば少数の不幸は見世物として許容される!!」

 

そう戦ったのはあの場に居た彼等だけで。

民衆は都合の良い栄光に縋りついて何も変わってはいない。

あの場で血を流し歯を食いしばったのは達哉や、その友人たち、そして大人たちでしかない。

民衆は見ているだけ。そしてよりかっこいいだとか都合が良いからだとかの光に賭け金をベットするのだ。

 

「私はそんな糞くだらない功利主義によって大事な人々を奪われた。達哉も理も悠も蓮もショウもアレフもみんな! そんな極論がまかり通るのなら。私個人の極論もまたまかり通っていいじゃない?!」

「なら痛みを知っているアナタが止めなければ、ならないことじゃないですか!! 自分がされたを他人にやって何の解決に・・・」

「我慢したわよ!! 必死に!!」

 

他人からされてやり返す。

アナタは私とは違うが闘争の根幹理由だ。

故にマシュはなぜ我慢しなかったのかと傲慢極まる反論を口にして。

その言葉を聞いたジャンヌ・オルタは泣き出しそうな童、あるいは怒りに染まり切った羅刹の表情が半分ほど混ざり切った声で絶叫する。

 

「我慢して。我慢してェ!! 我慢したァ!!」

 

マシュの言いようなんぞ理解できる。なにせ既にやっている。

その結果何も変わらなかったのだと叫び。

脳裏に思い出させるのは・・・

 

―大丈夫だ。俺たちは心の海でつながっている。いつでも会えるさ―

 

孤独に帰っていく彼の後ろ姿。

 

映像が変わる。

 

機械の少女に見守られながら眠る様に死にゆく親友。

その先にあったのは巨大な門を縛り付けるように石像と化した親友の姿。

そしてそれを引きはがさんとする歪な結合双生児の様な獣。

 

映像が変わる

 

燃える家。人々の死体。血を流して倒れる仲魔。

 

―ねぇ―

 

擦れる声でジャンヌ・オルタは問う。誰に?

蹲るジャンヌ・オルタの隣のかつての親友にだ。

彼は滅多刺しにされて死んでいた。

 

―なんで・・・逃げなかったのよ―

 

英雄は不要となった。

神をも殺す力は不和を呼び。彼は民衆によって殺されて。

英雄を助けようとしたジャンヌ・オルタは何もかもを失った。

 

ノイズが走って映像が変わる。

 

ジャンヌ・オルタは這いずりまわっていた。

手足がボロボロでろくに動きはしない。

神霊との交戦で仁成たちが致命傷を与えるべく特攻し。

気付けば此処にいた。

 

そして

 

 

―七度目のシュバルツバースの発生を確認しました。―

 

 

幾度となく奇跡を目にして何も変わらず。

理解できたのは民衆は都合の良い物にしがみ付いていると言う事だけだった。

 

「それでェ!! なにもかも!! あいつらは。我が物顔で」

 

何度もたたき込まれた一撃は盾の真芯を捉えて。

遂にマシュの手を痺れさせた。

指の筋肉が弛緩し緩められ遂に盾が弾き飛ばされる。

 

「あッ?!」

「沈めぇ!!」

 

そしてジャンヌ・オルタは間合いが近すぎる為、旗槍を振って攻撃ではなく。

旗の部分でマシュの視界を覆い、ジャンヌ・オルタは自分の攻撃を覆い隠す。

そして同時に旗の布を盛り上げるようにジャンヌ・オルタの左膝が繰り出されて。

マシュの脇腹に突き刺さった。

瞬間、内臓が破裂したかのような感触。

着弾と同時に、マシュの口腔から血反吐が吐き出される。

 

「メディラハン! マシュ離脱しろ!」

 

ダメージは致命傷に近かったが何とか起き上がった達哉がアムルタートでメディラハンをかけてマシュの傷を即座に治癒。

達哉は痛む体に鞭を撃つかのように立ち上がって。

フォローに入るべく走る。

だがジャンヌ・オルタは目標を殺しきれなかったことや達哉との彼我の距離が若干離れている事などもあるが。

盾持ちのマシュは厄介過ぎるとして彼女を討つことを優先とする。

翻るロングソード。離脱しろと叫ぶ達哉。

だが恐怖に流される形で逃げではなく

反射的に、習っていた体術が暴発する、突き出されるロングソードを左手で払いつつ身を沈めて。

ジャンヌ・オルタの腹に崩拳を叩き込む。

 

 

「ガフ!?」

「わぁああああああああああ!?」

 

ジャンヌ・オルタの身体がくの字に曲がるなり、今度はジャンヌ・オルタが派手に吐血するものの

両足で何とか堪えて踏みとどまるが。

それが悪手となり。

次手として繰り出されたマシュの左ストレートが顔面に直撃。

仰向けに地面に張り倒される。

マシュは追撃。そのまま恐怖に押され怒りで我を忘れて拳を真っ赤に染め上げて。マシュはジャンヌ・オルタを殴り続ける。

 

「このでいどぉ!?」

 

顔面が粉砕され肉が引きちぎれ眼球が破裂し骨が砕け飛び散っても

ジャンヌ・オルタはロングソードを手放し。マシュの襟首をつかみ類寄せるように前に引き込んで。

背中と左足でブリッジ。

右足を真横に振るい、横に加重移動で回転しマシュを巻き込みながらマウントポジションを入れ替える。

ジャンヌ・オルタが拳を振り上げ。

マシュは対抗するためにレッグシースからナイフを引き抜いた瞬間だった。

 

「うぁ・・・・」

 

呻き語を上げてジャンヌ・オルタの頭部が割れた。

原型こそ残っているものの皮膚が罅割れ眼球が破裂、頭部の穴と言う穴から血が噴出し。

胴体部から血が滲み滝の如く流れる。

 

ファブニールのダメージフィードバックだ。

その隙を逃さず、マシュは苦悶の表情を浮かべて、ナイフをジャンヌ・オルタの霊核に叩きこむ

だがそれでもジャンヌ・オルタは出力に物言わせて霊基と霊核を復元させるものの。

無理に無理を重ねているのは言わずもかな。

取り込んだ聖杯の出力と怨霊に引き摺られて。

再生の都度に精神が摩耗し。理性で押さえつけている本性が表に吹き出て来ている。

その本性に膨大なエネルギーが呼応し爆発寸前だ。

制御臨界点に近づきつつあった。

 

「マシュ!!」

 

達哉はアポロを呼び出し、マシュの大盾を拾い上げジャンヌ・オルタに投擲。

飛翔する質量の暴力。

ジャンヌ・オルタは左腕を振い飛翔する盾を強引にかちあげて防ぐが。

 

「このぉ!!」

「盾持ちィ!?」

 

空いていたジャンヌ・オルタの右腕を、チャンスと確信したマシュが両手でつかんで拘束。

左腕は飛翔する盾を迎撃するべく全力で振り切らせている。

 

「シィヤァッ!!」

 

達哉の渾身の横一線がジャンヌ・オルタの首を斬り飛ばすものの。

切った端から再生される。

だが着実にジャンヌ・オルタが有するエネルギー制御が限界に達しつつあることは分かっているので。

攻撃を続行。

 

『「マシュ、手を離せ!!」』

 

念話と言葉で叫びつつマシュに指示を送る。

マシュは達哉の言葉通りに掴んでいたジャンヌ・オルタの右腕を離すと同時に。

達哉はヤマトタケルを召喚し怪力乱神を放つが。

 

「温いィってぇ!!」

 

左手を旋回しつつ。放たれるヤマトタケルの怪力乱神を旗槍で受け止めると同時に。

衝撃を逃がすべく、達哉とは反対の方向にワザと吹っ飛ばされ。

空中で身を縦に回転し。右足を地面につけて飛翔距離を強引に縮めつつ。

 

「言ってるでしょが!!」

 

右手で予備の鞘に納めたロングソードを逆手で抜剣しながら、伸ばした指三本に魔力を放出。

マシュは今盾を持っておらず。攻撃は無論受け止められないため達哉がアポロにチェンジしつつ前に出て。

ゴッドハンドで射出された熱線を切り裂く。

 

「ヅッぅ?!」

「先輩!?」

 

ゴッドハンドを放ったアポロの右腕が焼けただれる。

達哉の腕にも無論幻肢痛が走り。苦悶の声をあげ。マシュが悲鳴の如き声を上げるが達哉はそれを無視し。

強引に精神力でねじ伏せて。

ジャンヌ・オルタに特攻する。

何故なら。ジャンヌ・オルタが持つ旗槍に魔力が注ぎ込まれているからだ。

脳裏によぎるのは馬車を吹っ飛ばされた時の攻撃と。隕石を撃墜した熱線である。

達哉が突き出された槍旗を刀身に絡め、斜め上にずらすと同時に。

閃光が射出。上空の雲に大穴をあけて衝撃波が両者を揺さぶる。

 

『タツヤ、マシュ、聞こえている?』

「聞こえているよ!!」

 

そのまま打ち合いに移行。

ジャンヌ・オルタが煩わしいとばかりに乱暴に振う旗槍とロングソードを、達哉は自身の正宗とヤマトタケルを呼び出し捌きながら。

突如に入った通信に荒々しく返答する。

 

『あんた達の座標を元に。ジークフリードの宝具で狙撃するわ。目の礼装に転送されている射線データに留意して!!』

『助かる、それでタイミングは!?』

『こっちで合図するわ! 巻き込まれないでよ!』

『シビアだがやるしかないな・・・。マシュ!』

『何でしょうか!?』

『ジャンヌ・オルタを釘付けにして所長たちの宝具援護を直撃させる。射線データに留意しろ!』

『は、はい分かりました・・・』

 

バルムンクの射出まで限界までジャンヌ・オルタを釘付けにするべく。

マシュに達哉は援護を指示。

ふら付きながらも弱気な声を出しつつマシュは了承し盾を拾って。

ジャンヌ・オルタへと攻撃を仕掛けるが。

その動きに精細さを欠いている。

先ほどの交戦で明確に殺す殺されるを理解してしまったがゆえに恐怖に折れる二歩手前的な心理状況にマシュは陥っていた。

 

 

『邪悪なる龍は失墜し。世界は今落葉に至る。』

 

キィンとフランス本陣の方で光が収束。

 

『撃ち落す!!』

『当たれェ!!』

 

ジークフリードとオルガマリーの絶叫が二人の通信礼装越しに響き渡り。

 

『『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!』』

 

炸裂。真直ぐに青白い閃光が戦場を横断。

達哉とマシュは斜線軸から跳躍し離脱。

ジャンヌ・オルタもよけようとするが。

 

―いい、負けたらバナナチャーシューよ!!―

―わーてるよ、男に二言はねぇ。お前こそやっぱりなしとか言って抵抗するなよ―

―勝たなきゃバナナチャーシュー・・・うげぇ・・・―

―・・・―

―「「「「最初はグー、じゃんけんポン!!」」」」―

―悪いな、ジャンヌ、栄吉。一抜けだ―

―ジャンヌ、栄吉ごめんね。

―くっそ、なんでこんな・・・年末の集まりの罰ゲームみたいなことを俺が・・・―

―私だっていやよ!? バナナチャーシューなんて悍ましい物は!?―

―・・・恨みっこなしだぜ・・・ジャンヌ―

―はっ上等。意地でも勝ってやるわ―

―言っておくが、ジャンヌ、栄吉。ペルソナは外しておけよ。―

―『『』』―

―情人・・・なんか二人とも絶句してるんだけど―

―ペルソナでいかさまする気満々だったな・・・これは、まぁ気持ちは分かるが―

―だってバナナチャーシューよ!! ラーメンにバナナよ!!―

―嫌だぁ!! 負けたくねぇ!!―

 

「ハァ・・・。ハァ・・・・ッ うッッ  同じ手を何度もォ!!」

 

記憶によって生じる頭痛に耐えるべく動きを止めながら。

ジャンヌ・オルタの選択は真っ向からの対峙。

通常の魔力放射では押し負けるのは眼に見えている。

故に、彼女は魔力を右腕に集中した。

 

 

―バイクねぇ・・・―

―あれ、ジャンヌもバイクの免許持ってないのか?―

―持ってるわよ、中型二輪免許―

―「「「「まじで!?」」」」―

―マジでって、みんな知らなかったの? ジャンヌ先輩。うちにバイク乗ってツーリング帰りに、良くお揚げや豆腐買いに来てたよ?―

―結構乗り回してるはずなんだけどね―

―先輩、バイクに乗っている時はライダースーツにフルフェイスヘルメットだから―

―ふむ・・・と言うことはジャンヌは海への道とか知っているのか?―

―知ってるわよ。ツーリングとかでよく行くから。案内しようか?―

―頼む―

―・・・海ね―

―?―

―いや、もう遠い思い出よ―

 

「クッ、なんで今になって・・・。効かないのよぉ!! そんなモノォ!!」

 

閃光を殴りつけると同時に右腕を肘から先の霊基をパージ。

それと同時に切り離した右腕を壊れた幻想の原理で指向性を持たせたうえで起爆。

霊基と収縮して注ぎ込められた魔力が指向性を伴って炸裂し。

バルムンクを相殺する。

普通であれば無理な話だが、腕の霊基という神秘概念に収縮され切った魔力。さらにそれらを壊れた幻想と言うサーヴァントの機能でやり切ることは十分可能だ。

無論、再生能力があれど気でも狂っているような手段と芸当だ。

だが彼女は何度も行ってきた常套手段でもある。

神霊と呼べる高位存在を相手にした場合。真っ当な手段では傷さえつけられないから。

自分自身のペルソナで彼女はそれをやっていたのだ。

 

バルムンクの閃光がモーセの十階の如く引き裂かれる。

 

流石に最初の奇襲とは違い、霊基を一部とはいえ使い捨てる行為であるゆえに。

再生は通常よりも遅い。

右腕の完全修復完了まで残り5秒。

それを見逃す達哉ではない

 

「サタン!! 光子砲!!」

 

攻撃の身に限定すれば聖剣の真明解放にすら匹敵するスキルを撃つ。

 

「ま、ッ、アッ」

 

―・・・アイギス、アイツは?―

―・・・眠りました。酷く。そうひどく疲れているようでしたので―

―・・・そう―

―・・・最後に理さんから伝言です―

―・・・―

―ありがとう、親友。だそうです・・・―

―・・・ッ―

―ジャンヌさん・・・―

―また・・・ッ また伸ばした手は届かなかったか・・・―

―・・・―

―くそ。畜生・・・達哉に理・・・なんで・・・私の手はこんなにも・・・こんなに・・・・―

―駄目です・・・これ以上壁を殴ったら手が壊れてしまいます―

―壊れてしまえばいい!! 大事な人や親友を助けられない手なんて・・・・壊れてしまえば―

 

迎撃しようとしたが。アイギスとの最後のやり取りが脳裏に再生され。

あの時飲み込んだはずの憤怒が噴出しジャンヌ・オルタの両足が震え、両手が下がり

光子砲が直撃。

 

「なに?」

 

迎撃されるか減衰されると思っていた達哉は。

無防備にそれを受けたことに唖然となって。

土煙を引き裂きながら放射される閃光を回避すべく横に跳躍する。

遂に決壊が始まったのだ。

 

―君の信条、世の中下らないけれど明日は少し良くなるように頑張りますだっけ?―

―それの何が悪い!―

―悪くないよ、けどさそれがいちいち僕の・・・いや俺の美観に触って苛立たせるワケ。本当に良くなると思ってるの? この世の真実を知る君がさ。心の奥底からそう思っているわけ?―

―なにを・・・言っているの?―

―俺も唖然としたよ。こんな糞みたいな世の中がさ。たった二人の少年が気張って維持されていたことにさ。それであいつらが頑張って何か変わったわけ? そんで取り残された君がそうやって血反吐吐いて、見たくも無いもの見て、友情の為に友情すらかなぐり捨ててここまで来てさ。何か変わった?―

―それは・・・―

―変わらないよねぇ? 外国じゃ革命だの主義だの人種だので毎日ドンパチ、大国のお偉いさんは核弾頭向け合って世界滅亡スイッチ握りっぱなし。民衆はそれにも興味は持ってない。ああ怖いですねって言って食卓のテレビ向うに現実押し込めて自分だけの現実に手一杯、やってらんねぇよ―

―だから諦めてなんになる!! 変えて行かなきゃならないよ! 少しづつ、1mmでも良いから!!―

―そう叫んだところで1mmも変わらねぇだろうが!! 俺が糞下らねぇことやってる間に。どれだけ民衆は都合の良い物にすがって踊り散らしているんだよ!! 断言してやるよ、お前は誰も救えない、たとえ誰かに手を伸ばして掴めたとしても。掌にべっとりついた血で手が滑って誰も救えはしねぇんだよ!!―

―だから諦めろって!? 伸ばすのを止めろっていうの?! 自分自身の傍観を私に押し付けるな!!―

―テメェこそいつまで無様晒すんだよ!! 悠も堂島さんも自分たちの事気にしてりゃいいのに・・・お前だって自分の幸せを見ていればいいのに・・・クッソ、なんで今になって―

―足立・・・―

―もっと早くお前たちに会いたかった。もっと早く会えていれば・・・・―

 

「・・・ギッ、グ・・・・アゥ」

 

達哉とマシュの攻撃。味方サーヴァントの傷の肩代わりで精神心を削っている削られているというのに。

そして拒絶を叫ぶ都度にリフレインされる楽しい記憶と悲しい記憶。

伸ばした手は届かず、得物を伝って血で濡れていく手と親しい人たちや敵の返り血で濡れて。傷つき傷つけて進んでそれでも。

ちっぽけな結果ですら手に入らないという結末と結果。

それらがついにジャンヌ・オルタの理性を擦り切らせ本性を露呈させ暴発させる。

ためにため込んだ膿が漏れ出していく。

皮膚が罅割れ、そこから閃光のように魔力光が射出された。

多方面にやったらめったら放射されている魔力光はレーザーの様に大地を空を。まるでチーズの如くスライスし。

かくはん機に混ぜたように吹っ飛ばしていく。

 

「先輩!! こちらに」

「頼む!」

 

マシュの声に我に返り。

返事をしつつ。マシュの盾裏に達哉は逃げ込む。

 

「メディラハン・・・とりあえずこれで傷はどうにかなるが・・・マシュは大丈夫か?」

「大丈夫です・・・大丈夫」

 

自身の傷とマシュの傷を癒しつつ。

言葉を彼女に掛けながら、達哉はマシュの様子をうかがう。

案の定であるが、心が折れ掛けていた。

今の今までは良い。戦闘の高揚感による脳内麻薬の分泌によって恐怖心などは防げていたが。

即時治療し戦闘行動に支障はないとはいえ、即死級の傷を受けている上に。

素手で本来であれば人なんぞミンチにできる勢いで殴りつけたということによるショックが彼女を現実に引き戻しつつあった。

ジャンヌ・オルタの攻撃が一撃でも直撃すれば死ぬという現実を突けられたがゆえに。

恐怖に心が沈んでいる。

 

(こればかりはな・・・)

 

達哉の思う通り。こればかりは慣れるほかない。

達哉だって必死に理由付けをして悪魔と切った張ったの中で身に着けたものだ。

とりあえず何かを言おうとする中で。

 

「グゥ!?」

 

マシュがうめき声をあげる。

炸裂する光が直撃したのだ。

スキルを展開し何とか防ぐが。元々メンタル依存の宝具にスキルである。

恐怖心に屈しつつある彼女が十全に使えるはずもない。

突破されかけている。

 

「マシュ、気を保て! 後ろにはみんなが居るんだ!!」

 

達哉はそういいつつ。ペルソナをアポロにチェンジしながら。

マシュの掌に自身の掌とアポロの掌を乗せて魔力を媒介に心理を伝達。

 

「先輩・・・」

 

マシュに伝わる恐怖の心。達哉も恐怖しているということを理解する。

同時に流れてくるのは情熱。後ろに皆がいる故に奮い立っているのだという心だ。

その心が恐怖に沈みかけていたマシュを引き上げる。

自分も怯えているけど頑張っているという気持ちを伝えることによる同調圧力によって。

メンタル面を引き上げる強引的な手段ではあるが時間が無いため達哉はそれを断行する。

 

「行くぞ!! マシュ!!」

「はいッ!」

 

展開される大盾。

光の防壁。マシュの宝具が起動し光を押しとどめるものの。

 

「範囲が足りないッ!?」

 

光が増大。守備範囲から津波のように光が広がって大地を蹂躙。

中継ぎの悪魔やワイバーンに海魔を吹っ飛ばしている。

さらに光が質量を持ったかのように重く二人に襲い掛かり。

砕けぬのであれば。そのまま飲み込まんとばかりに襲い掛かる。

 

「グッ、ツァ!?」

「ウウウウッ!?」

 

達哉たちとジャンヌ・オルタの間を遮る様に硝子の城壁が展開し。

光を押しとどめる。

 

「待たせたわね!!」

「「マリーさん!?」」

 

硝子の馬にのったマリー・アントワネットが衣類をボロボロにしながら。

二人のもとに馳せ参じたのだ。

彼等に元に来るなり宝具である「愛すべきは永遠に」を展開したのだ。

 

「ヴラド公はどうしたんです?!」

「オルタの無差別攻撃で吹っ飛んだみたい。こんな攻撃だから確認する余裕も無くてね」

 

マシュの疑問にやり切れないと言わんばかりの表情でマリー・アントワネットはそういう。

ジャンヌ・オルタの発する光は無差別だったがゆえに。

偶々、射線上にいたヴラド公に直撃してしまった次第であった。

マリー・アントワネットは

状況は刻一刻と悪化していく。

放射される魔力光は既にジャンヌ・オルタを中心に柱となっていく。

増大する魔力係数はなおも増大中だと混線中の通信礼装からロマニの悲鳴が聞こえてきた。

それでも余波が凄まじい勢いで大地を抉り始めていた。

 

「先輩、令呪を!!」

「私もマシュに同意するわ。令呪抜きじゃ多分突破される!!」

「第二の令呪を持って我が友に命じる。宝具を最大硬度で維持しろ!! 第三の令呪を持って麗しの王妃に奉じ奉る、宝具を最大硬度で維持せよ!!」

 

そして炸裂する光は・・・

 

―なぜ君は私と同じだというのに否定できる。どうせ一年過ぎればニュクスが到来しようがなかろうが、此処を去るというのになぜ抗える!?―

―お父さんやお兄ちゃん、ジャンヌお姉ちゃんに足立さんと、もっともっと一緒に居たいなぁ―

―アナタは私の完成系だった。いつも思っていた。なぜあなたなのだと―

―正直に言おう。ジャンヌとアイギスのメイド姿が見たい―

―逃げるんだ。ジャンヌ―

―うん、合格だ。コーヒーの淹れ方上手くなったな―

―俺は一人に成ってようやく至る―

―なに? カレーはビーフ派?異教徒め!!―

―レッツ・ポジティブシンキングよ!―

―なんでアンタなのよ!? 私の方が早くコトワリを見出したのに。そのコトワリの理想形がコトワリを持っていないアナタって・・・なんでアンタは何時も私の先を!!―

―うぜぇんだよ!! 無頼を気取ってるくせに他人から信頼されているテメェが!! なんでテメェは・・・・そうやって俺が欲しい物を全部持って俺の上に行けるんだよォ!?―

―いいか? ジャンヌ・・・。マップを書くときはパンイチ全裸でな、なんかこう解放されて救われていなきゃダメなんだ―

―混沌の王は二人もいらない。故に殺し合え―

―クッソ!! お前さえいなければ。私の計画は完璧だったのに!? 真なる原罪浄化がなされたのに。お前が!! 私に呪いをかけたせいで!? 影の駒め!! この悪魔め! 楽園の蛇の化身が!! お前が居なければ!!― 

―悍ましい、お前はニンゲン、そのものだ。何もかもを食らってまだ足りぬと猛り狂う怒りのケモノだ―

―汝、真なる混沌の聖女よ。我を倒し、楽園を出て、荒野に踏み出し何処へと行く?―

 

脳裏に写るのは楽しかった記憶。嬉しかった事。呆れつつも楽しんだこと。

そして謂れのない縋りつきや嫉妬。

罵詈雑言に憎悪の言葉と記憶が彼女視点でごちゃ混ぜになったものだ。

それらが精神をさらに攪拌し。

 

「ウゥゥウゥゥウウウウウウウウウウッッ」

 

ジャンヌ・オルタの叫びと共に臨界に達する。

 

「達哉くん! こっちで合わせるわ!! スキル出力最大でお願いよ!!」

「分かっている!! ノヴァサイザー!!」

 

起点を達哉のノヴァサイザーに設定。

達哉もマシュもマリー・アントワネットも限界点を絞り切りねじ切る勢いで宝具を展開。

達哉のノヴァサイザーに宝具を同調させ合体スキルとし展開する。

展開するは白亜に光り輝く硝子の城壁。

触れれば時間停止という絶対的防御概念を身にまとう絶対防壁であるが。

 

 

「グゥッ!?」

「ッッ・・・」

「そんな!?」

 

突破されかかっていた。

停止要領に対しジャンヌ・オルタの攻撃規模が大きすぎるのである。

罅割れていく城壁。広がる光。

 

『達哉を援護しろ!! 魔力を注ぎ込める連中は僕のラインを使って兎に角送るんだ!!』

『とっくに全振り!!」

『主任!! 聖晶石の在庫が!』

『クッソ。今ルーンを刻む!!』

『余波が来るぞ!! さがれ!! さがれ!!』

『防波堤代わりに城をだすから。魔力こっちにも頂戴!!』

『皆一旦落ち着け!! 魔力波の影響で混線してるぞ!』

 

それでも皆、最善を尽くす。

魔力にスキル、魔術を達哉たちに伝達し城壁を補強する。

罅が消えて強度が上がる。

それでも当事者たちに襲い掛かる負荷は倍化していく。

それでも上がる、出力。

ためにため込んだ怒りはとどまるところを知らない。

 

「ァァァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

怒りに飲まれる意識の最中で。ジャンヌ・オルタは過去を見る

 

 

―どうだ? 初めてのドライブは?―

―風がすごく気持ちいい―

―だろ?―

 

いつかどこかで買ったばかりのバイクに乗って二人で走った時の記憶。

原初の一つ。過ちの始まり。

 

「ウゥッ  ア・・・・」

 

―ねぇ達哉―

―なんだ?-

―また一緒に走れるかな?―

―走れるさ。俺達―

 

 

過去の残影は彼女を切り刻み。

ありえない選択肢を選ばせてしまう。

盾を支える少女と共に光の壁の向う側、苦悶の表情を浮かべる。

彼女が愛した人に良く似た誰か。

 

―友達だろう?―

 

心では世界違いの他人だと理解している。

だが切り離せるかと言われればそれは別口で。辛い別れであるほど。

それが理不尽であるほど。人は愛する者をよく似た他人に求めてしまうのが道理である。

特にこうも過去という記憶に蝕まれ自己を失いかけているなら猶更のことだ。

どうやっても心の芯がブレてしまうという物だろう。

故に必死になって。ありもしないのに。大事な彼でないのに。

 

彼女は・・・射線軸をずらしてしまった。

 

光は無常に上がっていく。

 

射線上の有象無象を消し飛ばしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




邪ンヌ ⊃冥⊂
ニャル 大爆笑
ジル 「やはりこうなりましたか(脱出通路を確保しながら)」
たっちゃん&マシュ&マリー「何の光ィ?!(防御宝具展開しながら)」
ヴラド公 ボッシュート
アタランテ 邪ンヌに何かあったのだとわき目も降らず撤退。
ジャンヌ 体もメンタルもズタボロ。
カーミラ「自由への逃走!!(一番恐怖対象のジャンヌ・オルタが瀕死と知ったので)」
エリザ「逃げんなァ!!(戦況が戦況だけに追撃できないので涙目)」
悪魔&海魔 本陣近くの連中と中継ぎ着の連中が吹っ飛ぶ


一応補足すると。邪ンヌとヴラドはまだ脱落してません。

と言う分けで次回。カルデア総戦力VS大海獣ジルランテを終えて。

第一特異点 前半戦終了となります。

その後はコミュ回挟んで後半戦スタートと言った感じです。


次回の更新は遅くなりますのでご了承ください。






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十五節 「狂海の祭神」

宗教は幻想である。そしてそれは本能的な欲望と調和してしまう力を秘め持っている。


ジークムント・フロイト




光が炸裂する。

余波が木々を薙ぎ払い。空気を引き裂き。大地を抉る。

無論、これは余波だけの損害だ。

主要な攻撃部分は、射線軸が真上に向けられたことによって空を穿つだけに済んだ。

無論、それだけではない。

特異点と言う特殊空間に文字通り穴が穿たれたのである。

空間ですら貫く超威力だ。

展開された城壁が半壊しつつ決壊し余波がティエールを襲う物の。

中継地点に展開されたエリザベートの宝具である鮮血魔嬢が防波堤となって防ぐ。

そして光が収まっていき・・・

 

「・・・全員、生きてるか?」

 

達哉たちは生きていた。

城壁は半壊し、文字通り薄皮一枚の所。つまりマシュの盾のお陰で生き残ったのだ。

達哉はマシュの手の甲に乗せた掌を離しつつ。

確認を問う。

 

「生きてます・・・何とか・・・」

「マリーさんは?」

「無事よ。不思議とね。宮殿が半壊してドレスがボロボロになったくらいよ」

 

マシュもマリー・アントワネットも達哉も。

肩で息をしながら。立ち上がりつつ互いに生存を確認し合う。

そして前を見れば彼等の一歩前から前方の広範囲が文字通り消滅していたのである。

余波だけであれくらいの威力はあったのだ。

爆心地の中心と触媒になったジャンヌ・オルタの周囲には文字通り何もなく。

クレーターの中心にはジャンヌ・オルタが倒れていた。

 

『・・・エネルギーの完全開放確認。 達哉君・・・生きてるかい?』

 

ロマニの通信が達哉の礼装に入る。

もう驚愕通り越して逆に彼は冷静になっていた。

その言葉に達哉は息を荒く吐き出しながら

 

「ああ何とか・・・」

 

ロマニも呆然とした様子の確認に達哉は息を整えつつ答える。

今の一撃は先ほども述べたとおりであるが・・・

 

「ほぼ上空に向かって撃たれたから何とかなった・・・」

『うん。こちらでもそれは確認できているよ。アレが上ではなくこっちに向かって明確に撃たれていたら・・・間違いなくこっちが消し飛んでいたね』

 

上空に向かって撃たれたがゆえに何とか防げたという事実である。

余波でこれだ。

こっちに向かって明確に撃たれていたら、今頃達哉たちは塵も残さず消し飛んでいただろう威力であった。

運がよかったと言えばそうであろうが。

それでも戦場では最後に立っている者たちが勝利という事実を手にする。

故に勝敗は明確に決定したのだ。

 

「あの。ところでジャンヌさんは・・・・」

 

今更感があるが三人に余裕はなく気づけるはずもなかったので仕方がの無いことと言えよう。

ジャンヌ・オルタと文字通りの血肉の削り合いで他人を気にする余裕なんぞなかった。

マリー・アントワネットだって無理を押してヴラドと交戦していたのである。

それでも先ほどの衝撃だ。

死んでいてもおかしくはなかった。

 

「ロマニさん、ジャンヌは?」

『こっちでは生存を確認、交戦ポイントから動いていないから怪我でもしたのかも。先の攻撃でライン系統が知っちゃかめっちゃかだ。かろうじて。達哉君と所長のダイレクトラインだけ生きていたから。こっちからだと、他のサーヴァントには通信できないんだ。すまない、アマデウスのラインを使って連絡を頼む』

「気にしないでください。そっちも大変でしょうに」

『・・・うん、本当に済まない。こっちも今手を離せない。施設修理に出ていた保安部の何人かが負傷した。今医療スタッフも足りなくて僕もでなきゃならない。しばらくはダヴィンチに指揮を任せる』

 

施設修繕も命がけだ。

高濃度の魔力はそれだけで人体に悪影響を及ぼす。

そんなものが充満する中で防護服有りきとはいえ作業しつつ。

不測の事態によって負傷者が出ない方がおかしいのだ。

現に保安部の何人かが負傷し、医療部門はテンヤワンヤだという。

ロマニも施術に参加しなければならないほど切羽詰まっていった。

 

「マシュ」

「なんでしょうか?」

「・・・ジャンヌを連れて来てくれ、本物の方をだ。マリーさんもマシュに付き添ってくれ」

「いいけれど。達哉君は?」

「・・・オルタに止めを刺すのはジャンヌを連れて来てからの方がいい。俺達だけでは詰め切れるかどうかも分からない。」

「なら、なおさら三人の方が・・・」

「いいや不測の事態が起きた時にバラバラは不味い。此処は一旦合流してだ。俺から見ても、オルタの方は完全に意識が堕ちている、しばらくは復帰できない」

 

達哉の目からしても側は兎にも角にも内部はズタボロであろうことは見て取れたし。

彼女の執念を身をもって味わった身としては。

起き上がって戦闘続行できるならとっくにしているだろう。

故に此処は落ち着いて合流を図り。

全員集まってからでも遅くはない。

 

「ですが先輩一人では・・・」

「大丈夫だ。奴が起き上がっても、合流まで時間を稼げる。」

 

達哉はそう言って微笑んでマシュを言いくるめて送り出す。

 

『通信変わるよ、ところで達哉君。結構強引に行かせたみたいだけれど・・・何かあったかい?』

「・・・今から行う光景を見せるわけには行かないでしょう・・・」

『?』

 

強引に行かせたことにダヴィンチが疑問を呈し。

達哉はその疑問に答えつつ。

アポロを呼び出し。

 

「マハラギダイン」

 

攻撃魔法を自らにぶっ放した。

 

『達哉君!? 君、なにをしてるんだい?!』

 

ダヴィンチの悲鳴が上がるが。

炎は糸のように細い物でしかなかった。

それが達哉に纏わりついて。体に刻み込まれた無数の切り傷を抉り飛ばす。

 

「ウグッ、アッ・・・。こう・・・でもしなきゃ・・・ロンギヌスの傷は癒せないからな・・・」

 

原因は聖槍だった。

如何に達哉と言えど。ジャンヌ・オルタレベルの相手に切った張ったをやって無傷で済むはずはない。

浅い切り傷の中には聖槍の攻撃で傷つけられた部分も含まれている。

故に患部を攻撃魔法で吹っ飛ばし呪いが施された患部を切り離して。

それで治療することによって癒すことは出来る。

この治療法を編み出したのは詩織の一件で頬を槍が掠めた時だ。

ではなぜ、それをジークフリードにしなかったのかと言うと。単純に傷が深すぎるのと体力がギリギリだった故に。

やればショック死させることになるとロマニが止めたからだった。

 

アポロで患部を焼き飛ばし、焼き飛ばしたところをアルムタートのメディラハンで癒し再生する。

 

『確かにマシュにはショッキング過ぎる光景だけれど。私らにとっても心臓に悪いから。事前に言ってね!!』

「す、すいません・・・」

 

確かにメンタルがガタついている状態のマシュに今の強引すぎる治療法を見せたら追撃にしかならない。

とはいえ。やるなら事前に言ってくれと言うロマニの言葉に達哉は素直に謝罪しつつ。

右腰の小物入れからチャクラポッドを取り出して。

精神を回復しつつ、事前に処方されていた打ち身用の痛み止めを服用する。

如何に傷は癒せても痛みまでは消せないがゆえだ。

盛大にジャンヌ・オルタに叩きつけられたのだから、無効耐性があっても痛いものは痛いのだ。

 

「ふぅ・・・」

 

一息ついて、ジャンヌ・オルタを見る。

彼女はまだ倒れていた。

起きる気配はない。

それでも油断はできないので臨戦態勢は整えておく。

 

「哀れでしょう?」

「・・・なに・・・がっ!?」

 

ジャンヌ・オルタに意識をやっていた為、気づけなかった。

殺気や邪気があれば気づけたが。ジル元帥とおなじ声ということで気づけなかったのである。

まさか英霊のジル・ド・レェがこう気軽に話してくるなんぞ誰が想定できようか。

 

「貴様・・・何のつもりだ・・・」

「共に来ませんか? 周防達哉」

「お前もか・・・」

 

ジルもジャンヌ・オルタと同じことを言う。

とすると次に来るのはもういいではないかと言う催促だろうと。

達哉は気を引き締めつつ呆れた。

 

「もういいではないですか・・・散々世界はあなた方に出血を強要した・・・もういいではないですか」

 

案の定である。

どの口が言うのかという苛立ちを達哉は黙殺しながら言葉を紡ぐ。

 

「黙れ・・・俺には守りたいものがある、罪の清算も終わっていないんだ・・・ 安易な手段に逃げるなんて俺自身が許さない」

「あの子の選択を安易ですか・・・」

「そうは言わない。彼女には彼女の決意があってこんな事をしているんだろう・・・ だが俺には俺の決意がある。」

 

無論達哉はジルの勧誘を一蹴する。

大事な物が在り、清算するべき罪がある。背負って進むべき誓いがある。

だからこそ、達哉が突き付けるは拒絶の刃の切っ先。

ジル・ド・レェもそれは想定したとばかりに魔導書を取り出し。

 

「であるなら。その四肢を切り落とし。あの子の前へと持っていきましょう。そうすればあの子の憂いも晴らせるという物です。」

 

説得は失敗。

なら。ジャンヌ・オルタが安心して彼を殺し後悔を晴らせるようにと狂気をその双眸に走らせながら宣告する。

無論。そんなことを実行できたと仮定しても。

やり遂げてしまえばジル・ド・レェは怒り狂ったジャンヌ・オルタに殺されるだろうが。

彼自身そんなことは分かり切っている。

それを承知のうえで。自分が殺されてもジャンヌ・オルタが最終的に安らげるのなら安いという思考の元。

戦闘態勢にはいるが・・・

 

「ジル!!」

「・・・須藤に嬲られたのだから、早々に復帰できないと思っていたのですが」

 

そこに三人が戻ってくる。

ジャンヌは酷く憔悴しつつもジル・ド・レェに静止の声をかけて説得を試みる。

 

「もう止めてください!!」

「いえ、もう止めれないのですよ。出血は避けられないのです。どう足掻こうとも。あの子も、アナタも、私も、獣でさえ”間違ってしまった” 選択は二つに一つなのですよ。彼らを英雄に仕上げるか。あるいは殺して安楽死させるかのね」

「それは極論過ぎます。今からでも・・・」

「いいえ遅い、そんな決意は影の前では蟷螂の斧でしかない。今のアナタではあの子にですら勝てない」

「――――そんなこと」

「あるのですよ・・・ 獣の大本ですら絡んでいるこの一件。主要時間軸の様にはいきません。言いたくはないですが、そんな様だから私もアナタもこの場で無様を晒している、違いますか?」

 

既に死人が飽きもせず永遠と犠牲者を出しているのだから。

殴って止めるということくらいしてみたらどうだとジル・ド・レェは自嘲交じりに笑ってジャンヌの言葉を一蹴する

その時である。

 

「ジル!! ジャンヌは回収した。汝も撤退に移れ!!」

「「「!?」」」

 

会話に気が削がれていた。

爆心地の中心に倒れていたジャンヌ・オルタを翼を生やしてやってきた

アタランテが担いで撤収だと声を上げていた。

 

「クッソ、この為のブラフか!?」

「ブラフではありませんよ。私たちの元に来ることは本気で言いましたし。先の宣告もまた本気。これは保険ですよ」

 

全ての行動が本気だった。

全てが成ればそれでよし。

ならなければ、ジル・ド・レェは交戦する気は満々であったが。

状況的にジャンヌ・オルタを巻き込む気はなかった。

 

「では、アタランテ殿もヴラド公も今は退却を。殿は私が勤めます故」

「なにを、今の我等の戦力ならカルデアをあの化け物共を倒せる!!」

「なりません、3on3のトーナメント形式であれば、確かに我等で倒せるのは道理ですが。此処は戦場、後ろからカルデアのサーヴァントたちと抑止のサーヴァントが上がってきています故に。そして敵本陣からは竜殺しの聖剣による狙撃と砲撃。此処は我々が不利です、敵に追撃の余力はない。此処は引いて時を待つのです」

 

もうこうなった段階ですでにジル・ド・レェは撤収を選択。

勧誘がてらにブラフを巻いて撤収を完璧な物へと仕上げて見せた。

先ほどの大爆発に巻き込まれかけていたヴラドはジルが回収しており健在。

ジャンヌ・オルタの暴走光を察するや否やジルはあらかじめ海魔に掘らせていた地下洞窟に逃げて。

ヴラドもジル・ド・レェが寸前のところで掘った穴に落すことによって救出出来たのである。

現に海魔の開けた穴からヴラドが出て来て極刑王を発動し。

簡易の仕切りを作って追撃を遮断する。

 

「逃がすか!!」

「流石に見逃せないわね!」

 

達哉とマリー・アントワネットがペルソナを呼び出し仕切りを粉砕しようとするが・・・

 

「させると思いで?」

「ッ!?」

 

沸いて出てきた海魔に攻撃を妨害されてしまう。

それが呼び水となったのか。

地中から次々と海魔が湧き出てくる。

達哉は刀で、マリー・アントワネットはレイピアで応戦し事なきを得る。

そのまま達哉たちは合流し四人で背を合わせ周囲を見渡せば、海魔たちが達哉たちを囲んでいた。

無論、海魔程度の群れで彼らを倒せるとは。露ほどにもジルは思っていない。

 

「では終わらせましょう」

 

ジルの背中に。地中から出現した触手が突き刺さり。

大地が盛り上がる。

 

「さぁ来なさい!! 遠方の彼方から来た白痴の神の司祭神の現身よ! 汝が仮面を持って現世に降臨せよ!!」

 

 

ジャンヌ・オルタの幻想を見たジルが作り上げてしまったもの。

元より通路は細くではあるが作り上げられている。

だが細いがゆえに。自身のすべてを捧げても召喚できるのは司祭の影だけだ。

それでも十分驚異的である。

ジルは既に詠唱を完了していた。

戦場で大量に発生した死者とワイバーン

そして死んで魔力に変換された悪魔と海魔。

召喚リソースには事欠かさない。

故に穴を掘るついでに詠唱をし、達哉と会話したのも撤退時間を稼ぐのもあったが。

宝具の起動までの時間を稼ぐという意味合いもあった。

 

そして大地が爆発した。

ジルの足元から現出したのは漆黒の触手で形を作り、頭は蛸、背中には巨大な翼を持つ悍ましい何かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぶなかった・・・皆無事か?」

「はい、私は大丈夫ですが・・・こうも想定外の事ばかりは堪えます」

「マシュの言うとおりね・・・本当に疲れるわ」

 

 

一方の達哉たちは炸裂した触手の群れから逃げるべく。

達哉が展開したコウリュウの背に乗って大海魔の上空を旋回している。

つまり寸前のところで。コウリュウを呼び出し。

四人がその背に乗ることによって場の崩壊から逃げれたと言う事である。

ただし、ペルソナは呼び出せば基本的に消耗する物だ。

状況が状況ゆえに長時間の維持は不可能。

さらに。

 

「それで達哉君。大丈夫なの? 私とマシュは騎乗スキル持ちなのよ?」

 

ライダーであるマリー・アントワネットも。さらにはマシュも騎乗スキル持ちである。

ペルソナに騎乗すれば無論性能が上がる。

しかし性能が上がった分だけ維持コストが増大するのは道理であり。

達哉単騎なら兎にも角にも。騎乗スキル持ちを二人も乗せた上で維持し続けるとなると困難と言わざるを得ない。

 

「大丈夫・・・まだやれる・・・」

「冬木の時みたいな顔をされても説得力が無いですよ!? 此処はいったん離脱して・・・」

「いや安全圏までの離脱は無理だ。」

 

コウリュウを維持しつつ

安全圏までの離脱は不可能に近い。

なにせ味方陣地の最前線まで海魔共がびっしりなのだ。

ほぼ来た道を帰るということになるし。

それだけの時間を維持するのは不可能である。

 

『達哉君。前線組のサーヴァントが今そっちに急行している。倉庫から聖晶石の在庫も引っ張り出して運搬中だ。なんとかしのいでくれ!!』

「了解」

 

ダヴィンチの言葉に達哉がうなずき。

コウリュウが咆哮を上げる。

 

「マハザンダイン!!」

 

吐き出される吐息は熱波ではない。

超振動による共鳴破壊を行う物である。

それらが炸裂し邪神に直撃する物の。

外皮を穿ちえぐり取るだけで終わった。

いや普通ならば致命傷なのだが、邪神は即座に触手を生やし編みなおして外皮を修繕再生する。

 

「効いてはいるが、効いてない!?」

「ダヴィンチちゃん。敵の解析は!!」

『霊基解析はできたよ!! アレだ。分かりやすく言うとコアを破壊しないと無限再生かリポップするタイプだね!!』

 

 

ダヴィンチの言葉を聞いて四人とも顔を顰める。

要するに邪神内部のジルを倒せということだ。

 

「ダヴィンチちゃん。バルムンクの次弾は!?」

 

十全ならできなくはない。ごり押しという最終手段であるが

だが達哉もマシュもマリーアントワネットもジャンヌも派手に損耗している。

ぶっちゃけ次手が打てない。

ならバルムンクの次射に掛けるほかないのだが・・・

 

『聖晶石の運搬は終わったけれど。肝心のジークフリードがぶっ倒れていて、今所長と書文が応急手当て中だ』

 

令呪で持っているが流石に限界に近いがゆえに。

気絶。一向にふさがりもしない傷口をオルガマリーと書文が縫合糸と針で縫い合わせて強引に傷を閉じたうえで

魔力を強引に流して治癒処置中とのことだった。

復帰まではしばらく時間を要する。

 

『けれどもう少しで、クーフーリンとマルタとゲオルギウスが到着する。エリザベートも急行中だ援護に上がったから彼らの到着まで耐えてくれ!!』

 

クーフーリンとマルタとゲオルギウスは事前に上がっていった。

理由は各々ある。

クーフーリンは逃げ出したアタランテへの追撃。

マルタとゲオルギウスは達哉たちへの援護の為だった。

無論、先ほどの光の濁流にも巻き込まれたが。そこは英雄たちである。

何とかしのいで近くまで来てくれていたのである。

 

『ちょこまかとォ!!』

 

ジル・ド・レェが。達哉たちを完全前補足。

触手の先端を向けてそこからレーザー光を発射。

達哉はコウリュウを旋回させ回避行動。

だが・・・悪寒がさらに酷くなっていく。

 

「達哉君、これヤバいわよ!! 具体的には私が捕縛される前のような詰み具合のような感じ!!」

「そう言われても!!」

 

マリー・アントワネットが自虐混じりの警告を言うが。

生憎とペルソナの維持と被弾回避のための操作で達哉はいっぱいいっぱいだ。

レーザーが常に放射され触手の向きが変えられレーザーメスのように振るわれているのである。

気を抜けば賽子肉に加工される事請負である。

達哉はコウリュウを操作しその網目を潜り抜けるように回避をするが。

誘導されていると達哉とマリー・アントワネットは言葉を交わすが。

達哉はペルソナの操作でいっぱいいっぱい

 

「間に合えぇぇぇやぁぁあああああああああ!! 突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)!!」

 

そこに近くまで接近していたクーフーリンが達哉たちのピンチを察知。

体を回転しつつ左腕を振るって海魔を殴り飛ばしつつ槍を投擲。

無論、真名解放済みの全力投擲だ。

槍の穂先が枝分かれし、神の前面に着弾。

 

『ぐっお!?』

 

贋作とはいえアイアスを最後の一枚まで貫いたクーフーリン、渾身の投擲である。

内部のジル・ド・レェには届かずとも動きを止めることは出来た。

 

「達哉ァ。今だ!! 俺のところに来い!!」

『了解!!』

 

アマデウスのラインを使ってこっちに来るように指示。

触手の大群相手のど真ん中に着陸するよりは

海魔を多少掃討した近場に居る自分の所が良いと判断しての事だ。

だがその投擲姿勢の隙を突いて海魔たちがクーフーリンに襲い掛かる。

槍も戻って来てはいるが間に合わない距離だ。

素手で応戦するしかないとクーフーリンは拳を構えて。

 

「待たせましたな!!」

 

そこに馬に乗ったゲオルギウスとマルタが参戦。

馬で海魔を跳ね飛ばしつつ剣を振って海魔たちを斬り飛ばし。

マルタが拳で海魔を殴り飛ばす。

 

「予想以上に早いじゃねぇーか。右翼はどうしたよ!!」

「左翼や中央とは違いサーヴァントが居ませんでしたからな。残敵の掃討に移っているので指揮は戦士長に預けてきました」

「タラスクが使えたらもっと早くこれたんだけどね」

 

右翼は敵サーヴァントが存在せず。

かつマルタが悪魔相手ということもあり自重という名の杖をかなぐり捨てたということもあって。

早く落ち着いていた。

中央か前線の援軍に向かおうとしていた時にジャンヌ・オルタの暴発もあって。

混乱する右翼を落ち着かせて。途中組の援軍に独自に向かうことを選択し、それが功をそうした形である。

 

「クーフーリン殿はなぜここに」

「戦っていたやつが、飛んでトンずらしたからな。下手に逃がすわけにもいかんから多少の無理して追撃だよ。」

 

クーフーリンはクーフーリンで。

暴発が起きた時に異常を察知したアタランテが空を飛んで離脱を使用としたため追撃していたのである。

衝撃波は槍で地面をえぐって簡易的塹壕を作って凌いでいた。

 

「兎に角、達哉の消耗が激しい。ここら辺の敵を掃討して着陸地点を作ってやらにゃならん」

「消耗が? なんでまた・・・」

「ああ、アイツの最大火力ならあれくらいは抜けられる。だからこそ攻撃が消極的すぎるんだよ。たぶんえらい損耗している。」

「まぁ神降ろしなんて真似してりゃそりゃねぇ」

「だからこそ、此処に着陸させると」

「そう言うこった。あのデカブツも少しの間は動けんと見たしな」

 

故に言葉を交わしながら周囲を掃討する。

クーフーリンは突くではなく薙ぎ払う型で槍を振って、海魔を纏めて叩き潰す。

海魔の身体構造は軟体生物に近いのだが。

クーフーリンの力は並の英雄の数段上だ。

振われる槍は全力で突っ込んでくるダンプカーの如き威力を誇る。

それが直撃すれば。外見は無事でも内臓が破裂するのは道理。

そして魔力で構成されている以上。死体が槍に纏わりつくことを考えずに済む為。

遠慮なしにぶん回して海魔共を倒していく。

ゲオルギウスは基本に忠実に愛剣を持って正統派の剣術で切り倒していくが。

一方のマルタは・・・・

 

「温いわぁ!!」

 

どこぞの狼人間のように拳を使って海魔を張り倒していた。

と言っても誰も何も言わない。

旧約の方で描かれるイエスの弟子たちは基本的に武闘派だったりするのである。

マルタとて基本的に祈ってタラスクを鎮めたとされるが。

少し調べて見ると聖水を掛けてサッシュで縛り上げたという。

無論、そんなもので当時のタラスクが鎮まる筈もない。

事の経緯は単純で、イエスから話を聞いたマルタがタラスク鎮圧のために出撃。

いざ赴いてみれば人をタラスクが襲っている真っ最中だったのである。

あとは言わずもがなであり、ここでは話すことではない。

故にマルタも本質は武闘派の人間だ。

タラスクに聖水の入った瓶をぶち当て怯ませた隙に縛り上げた力は伊達ではない。

寧ろ武術を下手に納めていない分素手による喧嘩殺法のほうが彼女の性能は発揮される。

今は人理焼却中な上に影が暗躍。戦況は最悪であるため自重を取り払っているため存分に拳を振い。

海魔を殴殺、伸びてきた触手を掴んで、そのままスイングして海魔を纏めて投げ飛ばす。

 

「それにしても、この物量にはこたますな!」

 

場が開き達哉たちが突っ込んでくるのを確認しながら。

切り殺した海魔を蹴り飛ばしゲオルギウスが言う。

というかそうも言いたくなる。

倒しても倒しても海魔たちが途絶えることがないのだ。

現状、クーフーリンが居るお陰で持っているようなものである。

如何に武闘派と言えども聖人二人はこのような大人数を生前に相手にしたことはないのだから、そうも言いたくなるものだ。

 

「そうか? 影の国の海の魔よりはマシだよ。マシ」

 

一方のクーフーリンは余裕の表情だ。

追い込まれて万の軍勢と対峙するのは彼の生前は基本だ。

ここにメイヴあたりが居れば「数でクーちゃん倒そうと思うなんて馬鹿でしょ? 倒したいなら勇士をダースで揃えて、卑劣な策謀やって、その上でゲッシュをやぶらせ、あとは神に祈るくらいやらないとねぇ」とか言う質の極致的存在だ。

ケルト版ヘラクレスの異名は伊達ではないのだ。

そうこうしているうちに。達哉の乗るコウリュウがクーフーリンたちの開けた場に着陸。

それと同時にコウリュウが消え失せる。

 

「良く気張った。達哉」

「流石にきつい、少し呼吸を整えたい・・・任せて良いか?」

「いいに決まってんだろ、ここは俺らが押さえておくから、少し休みな」

 

その言葉を聞いて達哉は懐から、虎の子のチャクラポッドを取り出す。

チャクラドロップやチューニングソウルとは違い要指導医薬品だ。

値段と購入の難度は高いが。

その分強力な代物で精神力をほぼ完全回復してくれる代物である。

それを手に取って、ジャンヌ、マリー・アントワネットとマシュに手渡す。

三人に行き渡ったのを確認し、達哉はそれを飲み干す。

ハッカとドロップに薬草を混ぜ合わせて煮詰めたような味と若干の粘り気のある液体である。

精神的疲れもぶっ飛ぶまずさではあるが、とやかく言っていられる状況ではないため。

始めて飲む、ジャンヌとマリー・アントワネットは吹き出しそうになりながらも飲み干し。

マシュも咽つつ飲み干して。

達哉はもう慣れ親しんだ味であるため、余裕しゃくしゃくで飲み干し一息ついたときである

 

「ごめん待たせた!!」

 

エリザベートが翼で飛行し。

その勢いのまま、槍を突き出し海魔を粉砕。

そして飛び散る返り血を。

 

「拷問は血税の如く!!」

 

自身のスキルで吸収。

本来なら回復用のスキルだが無理に鮮血魔嬢を展開した為と飛行したということもあって魔力切れ寸前なため。

魔力回復へと機能をシフトさせる。

 

「うげぇ・・・不味い・・・」

 

味は最悪だ。しかも海魔は軟体動物でヘモグロビン主体の赤ではなくヘモシアニンの青い血液である。

浴びれば昔あったスライムの玩具を浴びるという悲惨ぷりであった。

すぐに魔力に変換され消えるのが唯一の救いであろう。

 

「これで一通り戦力はそろったか・・・」

「どうすんよ? 達哉?」

 

体制は立て直した。

いまここに来ていないサーヴァントは後方での戦線維持に奔走中。

来ているサーヴァントでどうにかするほかない。

 

「先輩は・・・アレとの交戦経験がありましたよね?」

「あくまでも人類の認識が生み出したシャドウだがな・・・だからアレとは性能が一緒とは限らない」

 

ジル・ド・レェが召喚し、使役している巨大なアレは

達哉も交戦した記憶がある。

ガタスの地でいた其れとそっくりだったからだ。

クトゥルフと呼ばれる、とある小説作家が書き連ねた架空の神話に出てくる神。

外なる神の配下である旧支配者と呼ばれる存在の一柱である。

無論達哉が交戦したそれは、人類の情報から生み出された怪物であるから本物ではなく。

目の前のは性能からして祭神の影程度なのだろう。

本物が出てきたらそれこそ精神が強くなければ姿を見ただけで発狂するとかいう精神汚染を振りまくからだ。

今居るそれは嫌悪感を抱かせる程度で済んでいるからそう判断できるものの。

火力やら再生能力は本物だ。

ゲイボルクの真名解放を受けて再起動しつつ追加で海魔を清算する。

 

「・・・一ついいかな?」

「なんだ? エリザ?」

「見た感じ翼と足があるけれど・・・アレ自立で動けるのかしら?」

 

全員、あえて思いたくなかったことを、エリザが口にして確認する。

触手で編まれ歪ではあるが。

祭神には足があった。

ついでに背中からは翼も生えている。

触手で編まれているから飛べないとは達哉は思うが。

魔術云々かんぬん、神秘云々かんぬんを並行して考えると。

 

「・・・飛べちゃいますよね・・・先輩」

「ああ飛べるんじゃないか?」

 

飛べると考えるのが利口だ。

歩行は余裕で出来るだろう。

今こそ、出力に物言わせて強制制御しているから動けないだけの話で。

 

「時間が立てば動けるようになるという事ですな」

 

その結論をゲオルギウスが言う。

時間を掛ければ完全制御しあの巨体という重量が走って飛んで海魔を量産しつつ高火力ビームを撃ってくるということに他ならない。

 

「かと言ってこの物量じゃね!」

 

マルタがアッパーカットを海魔に叩き込みつつ苦虫を噛み潰したかのような表情で言う。

辺り一面、海魔の群れだ。

カルデアからの供給制限もあって蹂躙自体が出来ない。

 

「槍は撃てるか?」

「この魔力量だと。良くて二発か三発程度だな」

 

クーフーリンの突き穿つ死翔の槍もよくて二、三発が限度である。

切り札である以上、迂闊に切れるカードではない。

 

「達哉とマリーの嬢ちゃんは?」

「俺の方はオルタと交戦前くらいにはペルソナを回せる。がこの物量を駆逐するのは無理だ。」

「私は回せるけれど。火力がね・・・」

 

達哉の方はチャクラポッドを飲んだことで、多少十全気味に。

だが駆逐するのは無理だ。

数が数であるし、祭神が控えていることもあって突入戦の様にスキルを景気よくばら蒔くのは悪手でしかない。

マリー・アントワネットは純粋に火力不足過ぎるのである。

 

「エリザベートさんの音撃はどうでしょう?」

「無理よ。だって城がほぼ半壊ですもの・・・」

 

マシュの提案をエリザが否定する。

何時もはステージ兼スピーカー代わりに使用しているチェイテ城はジャンヌ・オルタの爆破からティエールと後方の味方を守るための防波堤として使った結果、半壊状態である。

再展開しても修繕されるというわけではないので、超広範囲音撃は事実上使用不能だ。

 

「オルガマリー、少しいいか? アマデウスのスキルでエリザの音撃を強化できないか?」

『無理よ、彼も致命傷なの、音のライン維持と現界でいっぱいいっぱいなの・・・』

 

普通であれば、アマデウスのペルソナスキルで城のスピーカーは必要ないのだが。

当の本人のアマデウスが気合と根性で現界しつつ、ペルソナを行使しているのである。

もう音声ラインとスキルラインの維持で一杯々なのだ。

 

「・・・そうか、ジークフリードの方は?」

『今、射撃体勢に移らせているわ』

「わかった。ゲオルギウスさん、あの巨体にアンタの宝具で竜属性を付与可能か?」

「無論ですとも」

「よし、所長、砲撃前に合図を頼む」

『わかったわ・・・ごめんなさい私が上手くやれれば・・・』

「気にするな。こんな状況だ誰もがって奴だろう?」

『・・・タツヤ』

「俺だってもっと上手くやりたかったさ」

 

誰もかれもが必死に結果を出した。

赤点こそ行動ライン的に取らずにすんだが合格ラインは別の話だ。

だが出来なかった。あるいはやり切れなかっただけの話である。

幾ら完璧に計画を練っても、カタログスペック的に優れた精鋭を集めても。

現実と言う戦場の摩擦は容易くそれを凌駕してしまう。

 

 

「とにかく次の手で「達哉、なんかアレこっちみているんだけども!?」」

『50%掌握完了・・・これで終わりです!!』

「マシュ!!」

 

 

達哉の言葉を遮りエリザが叫び、ジル・ド・レェの言葉が響くと同時にだ。

巨大な触手の先が全て向けられていた。

収束する魔力光。

思い出すのは先ほどのレーザー光である。

マシュに指示を出すが一歩遅れるものの。

それより先に動いたのはジャンヌだった。

何かに駆られるように必死の形相で射線軸に出て旗を掲げる。

 

「我が旗よ同胞を守り給え!!」

 

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)

 

 

展開される結界

ジャンヌの結界宝具だ。

 

「総員、ジャンヌの後ろに着け!!」

 

ただし達哉の指摘道理範囲は狭い。

噂で強化されているとはいえ数人を守るのがやっと。

だが今はそれで十分だとばかりに、達哉の指示通り全員がジャンヌの後ろに張り付く。

 

「なんちゅー威力よ」

 

光が結界と衝突し、炸裂して拡散。

周囲の海魔を文字通り消滅させる威力に、マルタも驚愕。

だが・・・

 

「長くはもたないかッ マシュ、宝具準備。マリーさんは!?」

「半壊状態で役に立てないッ!」

「ならスキルを!!」

 

 

ジャンヌの我が神はここにありては容量が存在する。

防御の安定具合で言えば、随一なのだが。

その限度は旗が燃え尽きるまでである。

噂による強化は入っているが出力が関係ない以上、容量のアップはそこそこどまりである。

故に補強に入るべく各々がスキルをきるものの。

 

『では、そこでジッとしていなさい』

 

そうするならそうしていろとジル・ド・レェが言い放ち。

祭神の頭部がティエールを向く。

そして口腔部の触手が花びらの開花のように広がって現れ、光が灯る。

その出力は触手から射出される物の数倍以上。

つまり聖剣の一撃に匹敵し街を消し飛ばせるレベルの物が在った。

 

「なっ」

「アイツ直接ティエールを!?」

 

触手から射出されるレーザー光で達哉たちは表に出れない。

加えて手持ちでは防ぐ方法がない

 

「所長!! 予定変更だ!! 迎撃を頼む!!」

『わかったわ!! ジークフリード!!』

『心・・・得たッ!!」

 

達哉はオルガマリーに即座に連絡。

達哉の声を聴いたオルガマリーは即座に斜辺を変更を指示。

放たれる神の息吹。

炸裂する龍殺しの聖剣の一撃が一直線に伸びて。

正面衝突する。

 

 

 

 

 

『達哉。今のでジークフリードが限界!!』

「なに?」

『魔力送電の衝撃にはもう耐えらないわ。ゆっくりこちらで通常供給でチャージさせないと一発で崩壊する!!』

 

通信向こうのオルガマリーは叫びながら言った。

元々。石割機は大量の魔力を一気に押し込む方式である。

健全で一回二回なら耐えられるが。

致命傷を負ったままのジークフリードでは元々厳しい物があった。

無理に傷口はふさいだものの。傷口の再度の開きによって負荷が押し寄せ。

その中でもファブニールやジャンヌ・オルタ撃破の為に体を張り続けたがもはや限界だ。

存在が四散するのをオルガマリーが強引に回復スキルやら応急手当で繋いでいるだけなのである。

故に石割機を使えば即座に座に帰る状況だった。

 

「援護はもうできないと言う事か?」

『いいえ、こうなったらジークフリードは使い潰すわ。本人もやる気よ』

「・・・そうか」

『チャージは私の魔力とカルデアの予備バッテリーの魔力を使ってゆっくりチャージさせる。けれどその一発でどう見積もっても限界よ・・・』

「次は直撃させたうえでジル・ド・レェを仕留めろと言う事だな?」

『ええそう言う事よ、ごめんなさいこんな予定じゃ「気にするな」』

「戦場ではいつもの事だ。日輪丸やら仮面党の一件だってそうだった。町が浮かぶよりはインパクトは薄い」

 

インパクトは薄いし慣れているとオルガマリーを励ましつつ。

達哉は思考の中で持ち札を見つつ。

手を考える。

相手はまだ完全な行動が不可能。

故に叩くタイミングは今しかない。

 

「クーフーリン、アタランテに撃ったアレもう一回できるか?」

「できるぞ、つってもそっちを撃ったら、今回は打ち止めだ」

「十分だ」

 

もう一度

 

「クーフーリン、エリザ、よく聞いてくれ。無茶をするぞ」

 

達哉は即席の作戦を考え出した。

 

 

「よし、まず、射撃まで5分程度かかるとのことだ。その間に限界まで奴に肉薄して、射撃数秒前にクーフーリンの宝具を撃つ」

「どうしてですか?」

「バルムンクの威力はジルドレェももう知っている。第二射目は意地でも防ぎに来るからだ。だから先手を打って奴の防御カードを使わせるためだ。」

「次にゲオルギウスさんの宝具で龍属性を相手に付与してバルムンクの直撃ダメージを底上げする。それでも相手が動けるようだったら・・・。エリザ、君のあの城は敵の直上に召喚して落す事は可能か?」

「もちろんよ」

「悪いが、エリザには宝具を使い捨ててもらう。城を奴の上から落して動きを完全に止める、それでも止まらないようなら壊れた幻想でさらにダメージを与えて確実に止める、その上でバルムンクさえ直撃させれば行けるはずだ」

 

ヤルことはシンプルだ。

相手の防御手段をクーフーリンで潰し。

回避行動などをエリザベートの宝具を使い潰してでも止めたうえでバルムンクの直撃を狙うだけの話しだ。

 

「それでも仕留められない場合はどうするのです?」

 

不安げにマシュが達哉に問う

 

「それも単純だ。マシュ、マリーさん」

「なんでしょう?」

「なにかしら?」

「コウリュウで突っ込む、二人には騎乗スキルがある。それを使ってブースト済みのコウリュウで奴の首を取りに行く」

 

達哉自身の状態は消耗しきった先ほどの状況よりマシだ。

だからこそ、もしこの攻撃が失敗した場合はコウリュウにブーストさえ乗せれば。

ジルドレェの首を取るということは十分に可能なのである。

そこでマシュはふと気になる。

 

「あのそれなら私より、マルタさんの方がいいのでわ?」

 

騎乗スキル及び突破能力はマシュよりマルタの方が上であるが。

 

「それは単純にマリーさんとマルタさんの組み合わせでは。俺が途中で力尽きるからだ」

 

達哉はそういう。

騎乗Aと騎乗A+++を同時にコウリュウに乗せた場合。

達哉自身、ペルソナを維持できる自信がなかった。

そして。

 

「次に俺たちが失敗した場合はマシュの盾が必要になる、死んだんじゃ次の手は打てない。守り手の君の力が必要だ。」

 

マシュのメンタル面を考慮しながら言葉を選び。付属品ではないと言いつつ。

もし攻撃が失敗した場合の仕切り直しの際にはマシュの力が必要であることを言って。

さらに言葉を紡ぐ。

 

「それにだ。ジル・ド・レェの首を取る時に君抜きじゃどうあがいても被害が出る。マシュ以外の適任者がいないんだ」

 

攻撃に出るにしろ損害が出る。

無論。マシュ抜きであるならだ。

逆に言えば、マシュ有りきなら攻撃直前の隙を潰し十全を保ったまま攻撃を終えられるという事であると説明する。

 

「無論。マシュの負担がでかくなる。無理なら「大丈夫です、行けます!」わかった。」

 

意を決し、彼らは一丸となって海魔の群れと祭神へと突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、うぐ・・・」

「くっそ!! ふさがれ、ふさがれ! ふさがれ!!」

 

達哉との通信後。

倒れたジークフリードを書文が肩を貸して立ち上がらせつつ。

オルガマリーは祈る様に悪態を吐きつつ。

ジークフリードの腹部に両手を当てて圧迫止血に保護糸で縫い合わせ糸を切らずそのまま引っ張って無理やりつなぎ合わせ。

さらに左手に治癒魔術を展開する。

 

「書文!! そのまま支えていて!!」

 

ペルソナはアマデウスの現界維持のために使っており。ジークフリードの維持には使えない。

さらにジークフリードに魔力を供給しているせいで魔力が削れていく!!

 

「ジル元帥、こっちは・・・いい。オルガマリーのほうを・・・手伝って・・・」

「喋っては駄目です!! 死にますぞ!」

『ジル元帥!! そうじゃない!!』

 

 

アマデウスは既に体の粒子化が始まっている。

それでも崩れていく体をペルソナの回復スキルとジル元帥の応急手当で食い止めているのだ。

 

「ぐふ、コフ!?」

「ッ~!!」

 

ジークフリードが吐血。

供給される魔力の負荷に体が耐えられない。

退場と次弾射出までの境界ラインが実に際どくなっていた。

オルガマリーの両手は肘辺りまで真っ赤だ。

顔や髪の毛にも傷口付着している。

 

「くっそ、縫合糸が!! ッジークフリード!?」

 

縫合糸で再度つなげようと、新しい糸を取り出そうと血だらけの手でメディカルボックスに手を突っ込んだ瞬間。

ジークフリードの瞳孔が開き切り、瞳の色が失せる。

 

「心臓停止しておるぞ!?」

「書文! 手荒でも良いから心肺蘇生!! カルデアは魔力供給止めないで!!」

『ですが、所長!』

「やめる訳に行かないのよ!! 前線じゃ、タツヤとマシュ達が突撃中なのよ!? 一秒でも遅れたら・・・」

 

そう前線もギリギリだ。

一秒でも遅れれば・・・どうなるか、オルガマリーは理解してしまった。

搬入される重傷者たちのうめきと絶叫。

死にたくないと叫び、そして弱々く力届かず死んでいく。

そんな死者の列に彼らが加わるという事をだ。

 

「ジークフリード殿、手荒になるが・・・セイ!!」

「グフォ!?」

 

そう考える間にも書文が簡易的に心肺蘇生を試みる。

極論、心臓や肺が圧迫され血の循環が再起動すればいいのだ。

故に心臓付近にビンタの要領で浸透頸を叩き込むことによってソレを行う。

それと同時にジークフリードが吐血しつつ意識を回復する。

 

「大丈夫?」

「なんとか・・・」

 

限界を超えての駆動にさしものジークフリードもギリギリであった。

だがしかし賢明な治療の甲斐あってか。

バルムンク一射分が溜まり切る。

 

「チャージは・・・」

「十分に溜まった・・・すまないが、オルガマリーに書文。俺を支えてほしい。反動を押さえきれる自信がない・・・」

「わかったわ。書文はそのままで。私が左側を支えるから」

 

そういってオルガマリーはジークフリードの左側に回って彼を支える。

彼は弱々しくバルムンクを構える。

ジークフリードの吐く息は荒い。

加えて霊基まで破損し出して、魔力が漏れ出ている。

オルガマリーは時計を確認。

丁度五分の7秒手前だった。

 

「タツヤ、こっちは準備完了。カウントは5からスタートするわ!」

『わかった。あとはこちらで合わせる』

「頼むわよ」

『ああ、任せろ!』

 

 

最後の攻撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いていたな!! バルムンク射出前にクーフーリンの槍で敵の防御を粉砕する!! これから射撃体勢に入るクーフーリンを、意地でも守り切るぞ!!」

 

目の前にいる海魔を刀で両断、足運びで切先を地面で摩る様に刃を翻して右側面の海魔を切り殺しつつ。

左側の海魔をアポロのゴッドハンドで粉砕。

マシュは盾の側面をうまく使って海魔を引きちぎる様に斬り抉って殺す。

達哉の合図とともに、各々に言葉を返し。

クーフーリンが投擲体制に移行する。

体中に刻み込んでおいたルーンが起動。

 

「全ルーン起動、絶望をくれてやる」

 

相乗効果により一気にクーフーリンの肉体が軋みを上げて筋肉が膨張する。

その上で右腕を限界まで絞り切る様な投擲姿勢を取る。

無論投擲に全振りな姿勢だ。

回避と防御出来ないゆえに押し寄せてくる触手やら海魔から彼を守らねばならない。

 

『5!』

 

カウントダウンもスタート、正念場である。

祭神の触手が唸りを上げて達哉たちを押しつぶさんとするが。

 

「シヴァ!! プララヤ!!」

 

ヴィシュヌと同格のペルソナを呼び出し。

固有物理スキルを発動。

突き出される槍が巨大な触手を抉り契る。

ジャンヌ・オルタ戦ではその絶大な威力故に燃費が悪いため使用不可能だったが。

今はフォローしてくれる仲間も増えたことで使用したのだ。

 

「ダラァ!!」

 

続けて殺到してくる海魔をマルタが蹴り飛ばし。

 

「通せません!!」

 

その間を縫って炸裂するレーザー光をマシュとジャンヌが食い止める。

 

『4!』

 

時計の針が進む。

前線で必死に状況を維持する者たちにとっては1秒単位でさえ数十秒に感じられる緊迫差だ。

 

「ジュノン!! マルタ、今治療するわディアラハン!! 達哉君、防御を底上げするわね!!クリスタルパレス!! マシュちゃん危ない!? テトラカーン!!」

 

マリー・アントワネットはサポートに集中。

武闘派がそろっているなら無理をすれば邪魔になるだけだからだ。

だが彼女の的確なサポートのお陰で彼らはギリギリの所で踏みとどまれる。

 

『3!!』

 

バルムンク射出まで残り三秒を切ると同時に。

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)ゥ!!」

 

クーフーリンが全力で槍をぶん投げる。

筋肉が裂けて骨にひびが入り。

目と鼻から出血。

駆動させた右腕はもっとぐちゃぐちゃになっている。

即座にマリー・アントワネットが駆け寄って治療を開始。

 

『猪口才なァ!!』

 

炸裂する槍の一撃をジル・ド・レェは触手を幾重にも壁にして防御。

それでも威力はすさまじく、防御に使用された触手が千切れ飛び本体まで迫る勢いだったが。

此処まで威力を殺し切れば十分だと。

ジル・ド・レェは祭神の右掌から光弾を射出し槍を撃ち落す。

だが元々、敵の防御を引きはがすのが目的だ。

故に作戦は予定道理と言えるものの。

 

『2!!』

 

二秒前。膨大な魔力が収束。

無論それでジル・ド・レェも気づく。

達哉たちの本命はバルムンクの直撃で自分を取ることだと。

 

「ゲオルギウス!!」

「お任せを!! 汝は竜、罪ありき!!」

 

駄目押しとばかりに、ゲオルギウスの『汝は竜なり(アヴィスス・ドラコーニス)』による竜属性のエンチャントである。

 

『ぬぉおおお!? させぬ!! 終われぬ!! 死ねぬのだ!! あの子が解放されるまで私はァ!!』

 

祭神の身体が歪に変形し、骨格が鱗が竜の様なものに変わっていく痛みに耐えながらも。

ジル・ド・レェは動き続ける。

再装填される神の息吹。

狙いは無論、本陣だ。

 

『1!!』

『遅いんですよぉ!!』

 

カウントダウン終了直前になって、ノーチャージ式の神の息吹だ。

溜が無い分。威力は8割方下がるが。

フランス軍本陣を消し飛ばす威力はある。

だがそこにエリザベートが羽を羽ばたかせて祭神の直情を取って宝具を起動。

 

「させるわけないでしょうが!! 二度目のォ!! 鮮血魔嬢(バートリエルジェーベト)!!」

 

今度は防波堤ではなく、祭神の直上に城を召喚し叩き落す。

質量の暴力によって祭神は首を下げてしまい。

直後、放とうとしていた閃光が目の前に着弾し暴発。

 

「くらえ!! 壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!!」

 

駄目押しとばかりに、エリザベートは躊躇なく壊れた幻想を起動し起爆。

砕け散ったチェイテ城の構造物が全て爆弾となって起爆し。

祭神を蹂躙。

殺傷にこそ至らなかったが、完全に動きが沈黙。

 

『いい加減にくたばれ!!』

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!』

 

伸びる光

 

『動けぇ!! それでも邪神ですか!? 動けと言っている!?』

 

ジル・ド・レェは狂乱しつつも再起動処置を彼自身でも不思議なレベルで冷静に行う。

そして祭神の両目が光り輝き。

バルムンクの光が直撃した。

 

がしかし・・・

 

一言で言えば健在だった。

孔こそ空いたが。ジル・ド・レェまでは、バルムンクの光は届かなかった。

 

「ははっ汝たちの光は私には届かなかった! あの時の様に! あの様の様に!! あの幕引きの様に!!! フフフ。ハハハ・・・」

 

ちゃんと光はジル・ド・レェの所まで届いたのである。

ただし直撃は免れないとして。射線上の体内に隔壁の様に幾層にも歯舌を形成し。

聖剣の一撃を防ぎきったのだ。

無論、空いた穴はジル・ド・レェの所まで届いており。

彼自身も余波によって幾分負傷し重度のやけどを負ったが。

戦闘には支障はない。

それを見て、ジル・ド・レェはこう思う。

結局のところ、届きはしないのではないかと。

そういつもそうだった。ジャンヌ・オルタはそうだった。

届かせようと夢の中で必死に藻掻いて足掻いて、結局届きはしない。

達哉だってそうだ。世界を救い孤独の世界に堕ちた。

理は死を封印し時代を守ったが、その祈りと犠牲が人々に届くことはなく。

悠と蓮が紡いだ答えも途絶えてしまった。

故に届くはずが無いと嗤い・・・

 

「終わりだ・・・、ジル・ド・レェ!!」

 

 

その出来た孔の中に、ジル・ド・レェの視線の先に達哉が立っていた。

隣にはマシュとマリー・アントワネットが居る。

事前の打ち合わせ通りにバルムンクの光が細くなると同時にコウリュウを呼び出して。

突撃していたのである。

穴をふさぐ再生は間に合わないというか無駄だ。

ペルソナの高火力で焼き払って十分に肉薄できるからだ。

ジル・ド・レェが思う理不尽が此処に成立してまったのだ。

 

「なぜだ・・・」

「・・・」

「なぜ! アナタは私たちの元に現れなかった!!」

 

ジルは見てしまった。

かけ離れすぎた可能性と幻想の中でとはいえ。

 

『ありがとう。達哉』

 

ジャンヌ・オルタが恥ずかしがってはにかむ少女の如く微笑んで礼を言う光景を。

贋作だと告げられてもジャンヌはジャンヌだと言って一人の人間として手を伸ばし救った光景を。

間違っているから怒るのだと間違いを正してくれる大人たちを。

故にこう思うのだ。

彼等のような人々が居ればオリジナルのジャンヌもまた助かったのではないかと。

無論それは無意味な過程だ。

だが見てしまった以上、そう考えてしまう。

出来なかった自分とできてしまった他者を比べて。もっと早く出会いたかったのだと叫んでしまう物である。

そしてそれは言いがかりにも等しく。

達哉は聞く耳持たんとばかりに刀を構えて疾駆。

 

 

「周防・・・ッ」

「終わりだ!!」

 

達哉が刃を構えアポロを背後に現出させ刃を上段に構えて疾駆。

悪あがきと知っていても行っても、ジル・ド・レェは蘇生を早める為に魔力を全注入

肉の壁を再形成し突入してきた彼らを押しつぶさんとするが。

 

「人理定礎 仮想展開!!」

 

マシュのロードカルデアスが展開。

ふさごうとしていた穴を強引に押しとどめさせる。

ならばと触手を足元から出現させ。

迫ってくる達哉の元に走らせるものの。

ソレを無慈悲にマリー・アントワネットのジュノンのマハコウガダインとアポロのゴッドハンドが粉砕する。

もうジル・ド・レェに打てる手は無い。

多くの犠牲が繋いだ光は届くだけ。それが確定事項だ。

 

「達哉ァ!!!」

 

ジル・ド・レェの絶叫。

なぜおまえなのだという悲哀と絶望に憤怒が混ざった物。

だが悲しきかな。

 

―お前は狂うという逃避を選んだ。―

 

影が嘲笑いつつジル・ド・レェを見下している。

 

―本当に絆があるなら。お前が目指すべきはジャンヌの目指す世界を作るために努力することだった。人はいずれ死ぬ。誰だってなぁ。お前は逃げたのだ。受け継いだはずの理想から。―

 

そう本当にやるべきことは多々あったはずだ。

 

―そんなお前が。罪を受けいれ、いまを生きようとするこの男に勝てるはずもないのは当然の帰結だ。一度では分からぬようだからもう一度言ってやろう。運命からは逃げられない。影からは逃げられない。両方から逃げたお前に勝利など在りはしない!!―

 

ジル・ド・レェは逃げた。狂気に染まるという逃避を選び。

結末は此処に収束する。

 

走る正宗の剣閃がジル・ド・レェの肩から脇腹までを切断し。

駄目押しとばかりにアポロの繰り出す拳がジル・ド・レェの頭部を完全に粉砕する。

 

 

 

『ジル・ド・レェの生命活動・・・完全停止を確認』

「ダヴィンチちゃん、外の海魔はどうなっています?」

『外の海魔もジル・ド・レェの撃破と同時に消えていっている。彼の宝具で生み出されていたんだ。当然の事象さ。それよりもそこもいつ崩れるか分からない。早めに離脱してくれたまえよ」

「了解」

 

 

達哉は再び交流を呼び出し、場を離脱。

祭神は沈黙し巨体を魔力に返しながら消えていく。

他の海魔も同じだ。楔となったジル・ド・レェが居なくなったことで現界が出来なくなったからだろう。

 

「・・・」

 

コウリュウの背から夕陽を達哉は見る。

皮肉にも、戦場は地獄なのに嫌というほど夕焼けは美しかった。

 

 

 

 

 

 

 




雑の極みだけど。これで第一特異点前半終了!!
遅れて申し訳ありません・・・鬱病、年末故の仕事量の増加などなど色々ありました・・・
と言う分けで次回はコミュ回と言う名のメンタルケア回になるかなと思いますではまた。



たっちゃん、強引な傷治療。
アンディショナルの方で。外れたとはいえロンギヌスでかすり傷負っていたので。
どう治療したのか描かれていなかったので本作的に解釈して描写しました。
誰だって。過去の過ちは消したいからね考えないわけがない。
ジークフリードはカルデアが処置するまでは瀕死の状態だったのでショック死します。
此処ばかりは時間とタイミングの問題ですね、刺された時に吹っ飛ばしておけばすまないさんは助かっていたりします・・・(不穏なフラグ)
あと兄貴がアタランテを取り逃がした理由ですが。

兄貴「いくら俺でも。ゲイボルクの呪いが効かない再生能力持ちが飛行までしだして、逃げに徹したら普通ににがすわ!!」

冬木みたいにビルが立ち並んでいるなら十分補足できたんですが。
戦場は平地なので仕方がないと言う事です


あとジルが嫌に冷静ですが。
ニャルにぷぎゃられへし折られた挙句。邪ンヌの地獄を見て呆然とし。
起きた邪ンヌに物理的にボコられマジレス真拳食らった影響で狂気が一周回って冷静な感じになっているだけだったりする。
クトゥルフが出てきたの物。クトゥルフが居るアマラとの繋がりが出来てしまっているからです。
あと本体ではなく。悪魔でクトゥルフの影、アバターみたいなものなので。
理不尽再生能力と火力とサイズ以外は大したことは無かったりする。





前半戦 損害

カルデア陣営
アマデウス脱落
ジークフリード脱落
フランス軍 3割が損耗
チェイテ城 全壊
クリスタルパレス 半壊 これによって本来の性能を発揮できない
マスター二人とも令呪全部使用
カルデアで修繕作業に従事していた保安部員が二名殉職
カルデアの送魔機器関係がさらに打撃を受ける。開発部及び保安部による修繕作業中。レイシフトアウトが修繕まで不可能に。


ジャンヌ陣営
ジャンヌ・オルタ 意識不明の重体
ランスロット 脱落
清姫 脱落
サンソン 脱落
デオン 脱落
ファブニール 脱落
ジル 脱落
ただし上記六名は蘇生可能。
一週間後に戦闘復帰。
大半の駒が邪ンヌの暴走で吹っ飛ぶ。ただし一週間後には元通り

ムリゲー感漂うけども、カルデア陣営も苦しいが邪ンヌ陣営も苦しいという状況です。
邪ンヌはボコボコにされた影響で折角作り上げたスペックが半壊。
戦力の再編に一週間はかかるので此処を殴られると邪ンヌもヤバい
つまり攻め込む時を間違わなければ。数の暴力でカルデアがウィニングラン出来ちゃったりします。
カルデアも全リソースをつぎ込みました。無論、それは邪ンヌも同じことですので。

と言う分けで。次回コミュ回と言う名のメンタルケア回。

誰か綺麗なキアラさん呼んできて、ガトーさんでも可という惨状です。
なお、たっちゃんたちの癒し回はハロウィンまでお預けな模様。




あと最近。嫌に不幸なことが多いです。
ガチャで爆死、今年星五一枚も無し・・・まぁこれは良いとして。
仕事で同僚が盛大にミスする、自分もミスする。
あとキャパオーバーなのに仕事を詰める社長。今年度限りで退社すると言っていた同僚が、急に先月に突然と退社。
鬱発症して病院通いする羽目になるわ。
取引先が数字をミスるわ。
自分・・・なんかした?(涙目)





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十六節 「敗戦処理」

負けても終わりではないが、やめてしまったら終わり。


ジグジグラー



「ふぅ・・・」

 

達哉はため息を吐いた。

掃討戦も糞もない、ジャンヌ・オルタの暴発とジル・ド・レェの退場によって。

現代戦闘基準である、三割も損壊したフランス軍でも簡単に残った敵戦力は掃討できるまで消耗していたからだ。

事前準備していたというのもある。

出なければこう上手くいくはずもない。

 

「負けたな」

「ああ・・・」

 

クーフーリンの言葉に達哉は頷く。

戦略目標を達成できなかったのは非常に痛いどころの話ではなかった。

 

「次はねぇぞ」

「だろうな」

 

どうあがいても次の防衛は絶対に不可能だ。

戦力を損耗したというのもあるが。

噂のせいでもある。

噂とはすなわち共通認識の類だ。

万人が思えばそうなるという物を無差別に行う。

今回の戦場でジャンヌ・オルタはその猛威を見せつけた。

絶対的復讐者として逆襲者としてだ。

その上でこの被害である。故にこう思うのだ。

 

―次攻め込まれれば守り切れる筈がない、絶対に殺される―とだ。

 

前線から遠のけば、楽観主義が現実にとって代わる。

しかし前線に近づけば、逆に悲観主義が現実にとって代わるのだ。

人々の間に蔓延する被害による悲観が現実となる。

それによって次攻め込まれた場合は自分たちに対する特攻すら付与されたジャンヌ・オルタが殴りかかってくると言う事だ。

残された時間は少ない。

 

「兎に角、本陣にもどって」

「達哉!」

「? どうした? マルタさん」

「マシュの様子がおかしいの!! 軽いパニックになってるからこっちに来て」

 

マルタが声を荒げてそういう。

マシュがパニック障害になっているとのことだった。

今の今まで誤魔化しきれていたが、戦闘終了と言う事もあって気が抜けた結果そうなったのだ。

達哉たちが駆けつけてみれば。

地面に両ひざと両手をついて、胃液をぶちまけているマシュが居る。

そんな彼女に付き添って。マリー・アントワネットが必死にマシュの背をさすりつつ介抱している。

何故こんなことになっているのかと言うと。

ジャンヌ・オルタに殺されかけたのが原因だ。

ジャンヌ・オルタの膝がめり込んだときに内臓が破裂。普通ならショック死で、マシュ自身も死んだという思いが駆け巡ったのである。

最も、達哉が上位ペルソナ使いとしてのメディラハンによる治癒によってショックが発生する前に治癒が間に合ったからこの場に生存しているだけで。

普通であれば致命傷だった。

それが先も書いた通り、戦闘終了で張りつめた気が抜けたことによって明確に自覚してしまったわけである。

加えて自分がどんな感情でジャンヌ・オルタを殴ったのか。どういった威力が出ていたのかということもセットだ。

後者は相手がサーヴァントであるということもあってまだ軽いが。

死の恐怖の前者はマシュの心理的状況にダイレクトアタックをかましたわけである。

 

「うぁ・・・あああああああああああああ」

 

初めての恐怖だった。

明確に殺す殺されるを自覚してしまったのである

マシュの脳裏に写るのは殺意に塗れたジャンヌ・オルタの凶貌であった。

彼女自身体感したことのない殺意と有言実行される恐怖。

腹を膝で打ち抜かれ内臓が潰され破裂する感覚。

拳で肉をすりつぶし骨を砕く感覚。

自分が何をして何をされたのか理解してしまったのである。

達哉が駆け寄り肩を押さえて、視線を合わせる

 

「先輩・・・私・・・殺されて殺して」

「落ち着け」

「でも「落ち着いて深呼吸!!」はっはい!!」

 

兎に角こういう時は落ち着かせるのが一番だ。

薬には頼れない。下手に安定剤やコンバットドラッグの類を使うと癖になる。

軽めなら良いかもしれないが極度の緊張の前には無意味だ。

だから、目線を合わせて自分は此処にいるぞと認識させつつ。

深呼吸で緊張を落ち着かせる。

 

「吸って」

「スゥー」

「吐いて」

「ハァー」

 

達哉は自分の言う通りにマシュに深呼吸を行わせる。

極度のストレス障害に置いて呼吸の乱れが酸素供給を遮断し思考に乱れや体内リズムを狂わせる要因だからだ。

だからこうやってリズムよく呼吸させてまず落ち着かせる。

 

「少し落ち着いたか?」

「はい・・・」

「よし、君は生きてる、生きて此処にいる」

 

そして次に死の恐怖を取り除く。

ちゃんと生きて此処にいるぞと伝えて自分自身を認識させ生きていることを実感させる。

 

「でも私・・・人を・・・・」

「ヤツは人じゃない、何にもかもを捧げつつくして魔に堕ちた悪魔だ。悪鬼なんだよ」

 

達哉の見立てからしてもうジャンヌ・オルタは駄目である。

行き過ぎた憎悪故に鬼も悪魔も超越した何かになりかけている。

 

「ですが・・・それでも・・・」

 

それでもとマシュは言う。

確かに達哉に手を伸ばした時だけ、ジャンヌ・オルタの表情は少女そのものだったから。

今になってみれば話し合う余地はと考えてしまう

 

「それでもそうはならなかった。俺が応じたところで結局滅ぼしに来るよ。根の部分は絶対に譲らない」

 

だがそれは幻想のように揺蕩う物でしかない。

例え達哉自身を切り口にしても、ジャンヌ・オルタは皆殺しを変更する気にはならないだろう

そしてもうそうなれば止まらない。

止まらないのは知っている。達哉も、もし大人たちが止めてくれなければ、ありえたかもしれない末路がジャンヌ・オルタだ。

 

「だから止めるしかない・・・ないんだ。」

 

もう止まらない。

だから殺すという手段でしか止められないのだ。

言葉を尽くせばどうにかなる程度の温い感情を、ジャンヌ・オルタはかなぐり捨てているから。

 

「それでも私は・・・」

 

それでもとマシュは言う。

世界は綺麗な物だと思っていた。美しい物だと思っていたから。

御伽噺の様な事はあるはずだと。

だから殺さなければならないなんて結果を認められないと口に言おうとして

 

「だがマシュの姿勢も大事なんだ。武力を振りかざしてきても防衛しつつ説得するというのもありだと思う、・・・時と場合によるが、それをしなかった結果俺の場合は淳の母を見殺しにしたり、行き違いで状況が悪化したりだ。」

 

マシュの姿勢は正しいと肯定しつつ。

過去その姿勢を放棄したがゆえに達哉はこの様である。

向うも放棄していたというのが噛み合ってアレだった。

 

「だが同時に和解する和解しないの選択肢はミスすると自分だけじゃ被害が済まなくなる」

 

同時に前がそうだったからと言って和解に固執しすぎれば。

自分だけでなく味方にも被害が及ぶ。

 

「どうすればいいんでしょうか・・・」

「俺もそこらへんは未だに分かっていない」

 

いつだって疑問に思ってきた。だが達哉の場合は状況が許さなかった。

言葉を掛けようとすれば殺されかけた。

振り向く暇すらなかった。

言い訳にも聞こえるが、それが現実だった。

 

「だから一緒に考えて行こう。一人で悩んでもろくなことにならない、一緒に悩んで答えを出そう」

「はい・・・」

「立てるか?」

「・・・あのその、なんだか気が抜けちゃって足腰が動かないんです・・・」

「そうか、なら俺が背負うがいいよな?」

「お願いします」

 

マシュの了承を取って達哉は器用に彼女を背に担ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

うめき声。鳴き声。絶叫。

勝利の余韻なんて在りはしない。

 

「・・・・」

 

負傷兵が運び込まれていく。

カルデアから送られてきた現代医療キットは足りず。

治療のためにサーヴァントたちが医療知識をロマニの教導のもとで修正したうえで奔走している。

それでも今後の生活に支障が出る傷は残ることは間違いないのだ。

 

「・・・・・」

 

オルガマリーは涙目だった。

自分が立てた作戦でこれだけの犠牲を出したという事実にである。

48人の命の責務を背負えないと嘗て吐露した少女が味わうには辛すぎる現実だった。

死者の見開かれた眼がオルガマリーを見ている。

まるでお前のせいだと言わんばかりに。

そういうのが心の奥底に泥となって沈殿していく。

現代においても戦争における責任の在りどころにより心理的外傷は問題だ。

近代に入り。人の倫理感の発展に比例してそういう物は大きくなる。

要するに倫理観が示す超えてはならない一線を余裕で超えるのが戦争という物であるからだ。

故に今米軍は、兵士の帰還プログラムに精神的ケアを行うために。色々やっているのだ。

オルガマリーは魔術師という一種の外道的古く黴た倫理観を持つ集団の生まれだけれど。

マリスビリーが並行して現代的価値観をまっとうに教育してしまった故に。

真っ当な常人の感性を持ち合わせてしまった故に割り切ることなんぞ不可能に近い。

 

ついでに言えばランスロット、デオン、サンソン、清姫、ジル・ド・レェの五騎を打ち取り、尚且つ敵の戦力に即効での立ち直りが不可能な損害を与えたものの。

肝心のジャンヌ・オルタにヴラド三世及びアタランテが健在。

カーミラは別方向へと逃走と一見、見栄えのいい損害を与えこそすれど。

相手は聖杯で戦力補強を短期間のうちに行える上に。

脱落サーヴァントを再度呼び出す芸当も可能である。

 

もっとも修繕には時間が一週間ほどかかるが。逆に言えば一週間過ぎれば相手は元の戦力を取り戻せるということに他ならない。

 

そしてカルデア側に戦力はない。

フランス軍は文字通りのズタボロ。

アマデウス及びジークフリードと言う大駒が消費させられた以上。

次の攻撃を防ぐことは不可能。かと言って攻撃に転じる場合。

フランス軍がカルデアに同行するのは不可能であるし。数が減った以上邪魔にしかならない。

 

早い話。

カルデアは戦術上では勝利したが戦略面での効力目標を達成できなかったというわけだ。

これだけ犠牲を出しておきながら勝利を得られなかったという結論が鬱屈とした感情となって心の底にたまっていく

 

「所長。無事か?」

 

そこに達哉がやってくる。

無論。彼もボロボロだ。

ジャケットはズタボロでズボンも所々が破けている。

 

「ええ無事よ」

「・・・そうは見えないが」

 

達哉から見ても憔悴しきっているように見えている。

彼女が犠牲者を出したことで心を痛めているのだろうと達哉は察することが出来た。

彼は此処に来る前に既に人を殺めている。

新世塾が率いるクーデター軍がそうだった。

彼等は悪魔ではない。人間だった。

ただ幸せになりたくて戦っていた人間だったのだ。

それを踏みにじり殺したのである。

 

「・・・所長」

「なによ」

「泣きたいときには泣くんだ。でないと潰れてしまう」

 

あの時の形容のしがたい感覚はまだ掌に残っている。

皆。踊らされ間違えたということはあれど。

根底にあったものはただ幸せになりたい。夢を叶えたいという思いだけだった。

 

―幸せに・・・なって、淳―

 

―娘に・・・伝えて・・・夢を・・・―

 

達哉の敵もそうだった。

間違っている云々かんぬんは置いて置いて。

幸せになりたい。愛する人を幸せにしたいと信じて戦っていた。

正誤を分けるのは視点の違いと黒幕を知覚するか否かであり。

故に彼らを完全に否定することは出来ず。

得た知識や境遇の違いゆえに殺し合うほかなく。

力でねじ伏せて己が正しさを押し通してきたのだから。

その重たさが手に腕に背に乗っては未だは慣れることは無い。

だからこそ達哉は、オルガマリーに泣きたいときは誰かに縋って泣けばいいという。

縋らず我慢を続けた結果が達哉自身だからだ。

ここは遠慮するなというものの。

 

「誰に・・・」

「・・・」

「誰に縋ればいいのよぉ!」

 

オルガマリーは絶叫する。

それは誰かを信じられないからではなく。

 

「皆一杯一杯じゃない!! 大事な物背負って。懸命に動いて!! 

 

皆手一杯だから縋りたくない。

良い人たちだから縋りついて彼らに負担を掛けたくないと叫ぶ。

達哉は前線指揮官であり現最高戦力だ。マシュも防衛の要で前線で切った張ったである。

サーヴァントの皆は影の介入を知っている故に出来うる限りの事を尽くしている。

カルデアスタッフだってバックアップの重要性を理解し寝る間も惜しんで働いているし。

今回の一件は保安部に負傷者まで出ている有様だ。

余裕を持っている奴はいない

 

「私はなにも・・・どうやっていいかさえ・・・」

「落ち着け・・・」

「でも・・・」

「今すぐ割り切れと言う訳じゃない。と言うよりも割り切っちゃいけないんだ。」

 

今すぐ割り切るなんて誰もが出来ることではないのは本作で何度も語る通りである。

寧ろ安易に割り切ってしまえば悪癖になると達哉は諭す。

割り切るというのは良い側面もあるが、あまりにやり過ぎると、それは大義を振りかざせばどのような事でアレ容認される筈と言う悪癖になるがゆえにだ。

 

「だから誰かに縋って一旦心を落ち着けろ、辛いことは吐くんだ。はっきり言って心情的な余裕は俺にはある」

 

流石に今回みたいな戦争には参加したことはないが。

祭神やらなんやらの偉業とは切った張ったをしたうえで。

その犠牲も見て苦悩していたこともある。

割り切れてはいないが、背負えるだけの信条的余裕はあった。

 

「私は頼っていいの?」

「当たり前だろう」

「・・・]

 

オルガマリーは震える手で達哉に手を伸ばす。

達哉がその震える手を掴むと。オルガマリーは達哉の胸に飛び込み泣いていた。

色々な思いがごちゃごちゃになっている。

誰もかれもが背負っているから縋りたくない、縋っても裏切られるのが怖い、そしてマシュ同様に死の恐怖に対する明確な恐怖と戦えば誰かが死ぬという恐怖に少女は震える。

何時もは気のいいあんちゃんなアマデウスは死んだ。それでマリー・アントワネットの気の消沈具合に打ちのめされ。

ジークフリードは英雄的に死んだ。あれほど頑張ってくれたのにオルガマリーに謝りながらだ。

それは酷くオルガマリーを悩ませる。

もっと上手くできたのではないかと。

 

「今は・・・ッ・・・お願い、こうさせて、タツヤ」

「俺でよければ」

 

オルガマリーは泣いていた。

それをあやす様に抱きしめて達哉は彼女の背をさする。

少しでも彼女の憂いを晴らすために。

 

 

 

与えられた館に戻って来た一行はそのまま解散となった。

サーヴァントたちには軽めのアルコールが支給された。

達哉、マシュ、オルガマリーにはお値段張るインスタントラーメンに干し肉、軽めの精神安定剤が支給され。

達哉は二人を部屋に送り不安になったら連絡するんだと言いくるめて、自室に戻って、鞘に収まった正宗をベットの脇に置き。

椅子に腰かけ、アポロで湯を沸かし、カップラーメンにお湯を注いで一息つく。

マリー・アントワネットも普段の様子は鳴りを潜めているくらいに意気消沈していた。

当たり前だ生前の友人が先に退場したのだから。

自分の弱さに若干苛立ちつつ干し肉を齧る、良く齧ったら飲み込んで水で喉を潤しため息を吐くと、バングルから通信音が鳴り響く。

 

『達哉君、今大丈夫かい?』

「ええ、大丈夫ですが・・・なにか?」

『所長とマシュに連絡が取れなくてね・・・不安で達哉君に連絡させてもらった』

 

オルガマリーとマシュに連絡が取れないとのことだった。

幾らフォローを入れても、最終的に決めるのは本人である。

故に考えを誰にも邪魔されてなくて

 

『達哉君・・・所長とマシュのメンタルコンディションは?』

「悪い意味で予想道理だ。良い状況じゃない。正直いって俺のやったことは気休めだ。いつどこで再発するか」

 

なんとか持ち直させたとはいえ。

所詮は気休めだ。いつ、どこで噴火するか分かったものではない。

 

「英霊の皆は参考にならない。無論俺もだ。」

 

殺人への割りきり方なぞ、

普通の元高校生が知る筈もない。達哉だっていまだに割り切れていないのだから、心の隙に付け込んで気休めをねじ込むことしかできない。

英霊の皆は生きた時代が時代だ。

戦乱や殺人が日常だったと言っても過言ではなく、一種の生活習慣のようになっている節があって参考にならない。

 

『わかった。アマネと自分でメンタルケアプログラムを組んでおくよ。君も受けるんだ』

「分かっていますよ・・・あと」

『あと?』

「ジャンヌの方も参っているんだが・・・所長たちと同じようで違うみたいなんだ・・・」

『・・・なんでまた。彼女が?』

「須藤に嬲られた」

 

ロマニは達哉の言葉を聞いて表情を歪めた。

達哉の言葉から出てくる須藤という人物に心当たりは一人しかいない。

そしてジャンヌも意気消沈気味かつ焦っているが、手を回す余裕が達哉にはない。生憎と達哉は宗教家ではない。彼女の悩みを解決できるとは思えず。

さらにはオルガマリーとマシュのサポートで一杯一杯だ。

クーフーリンや長可はその精神性から最初から当てにできないし、当てになりそうな宗矩やら書文は負傷兵や残存兵力の再編と情報操作に精を出している。

様子を見たが、マシュやオルガマリー以上に憔悴しきっている上に、撤収作業では意気消沈気味だった。

神がどうのこうのと言っていたから。そこから達哉は彼女の信仰心が否定され尽くされたのだろうと考えるものの。

それでも此処はあえてマルタとゲオルギウスに任せてきた。二人も快く引き受けてくれたが。

治癒にまでは相当時間が掛かるとのことだった。

 

そして件の須藤竜也であるが。

達哉のいた世界である意味悲劇を起こした殺人鬼である。

度を超えた教育で精神が歪み、ニャルラトホテプにそこを付けこまれて。

事態を引き起こした人物の一人だ。

達哉とはあの神社の日より因縁が結びついている敵である。

 

『須藤は・・・死んでいるはずだ。』

 

達哉の記憶を見ているロマニとしても、須藤はどちらでも死んでいる。

確かに達哉がバッサリと切り捨てているのだ。

確かに致命傷で、さらに飛行船の落下の衝撃も加わって生きている方がおかしい。

 

「ヤツは俺に言った。電波に選ばれたんだと・・・神取の件もある」

 

神取鷹久

セベクスキャンダルの元凶で。事件でエルミン学園のペルソナ使い達によって倒され死亡したはずの男。

だが、彼もまた影からは逃げられずニャルラトホテプによって甦らされ手駒として使役されていた。

最終的に影の打倒を託し、海底遺跡に石神千鶴という女性と共に沈んだ。

 

『死者の完全蘇生・・・か・・・』

 

それと同じく魂をサルベージされ完全蘇生したうえで須藤を使役する。

まさしく神だ。

死者の安らぎですら容易く冒涜して見せるのだから。

ロマニは眼が眩むような錯覚に襲われる。

死者の完全蘇生なんぞ序の口だ。

噂と言う触媒があれど。現代において惑星運航ですら思いのままにして見せる力は

まさしく神と言うほかない。

規格が違いすぎる。

まぁそれは置いて置いて。

 

『それで・・・ジャンヌのメンタルの件は二人よりも緊急度が高いということだね?』

 

達哉の言いようから、メンタル面では二人より危うい傾向にあるというのをロマニは察する。

ジャンヌは言葉で

 

「はい。おそらく・・・言ってはあれだが。彼女は自分が認識していない罪の意識を無理やり掘り起こされた可能性がある。」

『聖女と言う看板と無知による精神的自己防衛をはぎ取られたというわけだね?』

「・・・ええ、俺も痛感したことだ」

 

大義に酔うというのは実際にあり得ることなのである。

達哉たちでさえそれで目を反らした。

人を殺したという事実からである。

 

 

「そういえば・・・医療部門に精神関係の専門家は?」

 

達哉はふと思い立ったように言う。

普通、先にも言った通り、軍事と精神関係は切っても切り離せないのは述べた通りである。

故に医療部門にも精神関係の専門医がいるはずなのではとと思うはごく自然的発想だ。

だが。

 

『レフの爆破でね、精神関係の医療従事者は全員ね・・・』

「・・・」

 

レフの爆破で精神医療専門家たちは爆殺やら施設の崩落に巻き込まれて死亡しているとのことであった。

 

『一応無事ともいえるのもいるんだ』

「なに?」

『チームBの式島律っていうんだけれど。一応無事。ただし絶賛凍結中』

「駄目じゃないか・・・」

 

レイシフトBチーム所属でさらに医療班に所属していた人材は生きてはいるが。

他のレイシフトメンバー同様絶賛凍結中であった。

 

『魔術は心理魔術の使い手でメンタルカウンセラーとしても一流だった。外科と内科の腕もよくて緊急医療の経験もあったから居たら頼もしい味方になってくれたんだけどなぁ・・・』

 

ロマニはそういいつつ自身の額に冷えピタを張る。

先の戦闘で指揮と医療と施設修繕を行ったり来たりだったのだから当たり前と言えば当たり前である

 

「・・・彼だけ、どうにかできないよな・・・」

『まぁね凍結処理の解除は無理だ。施設ダメージで他に回す余力は一切ないからね。レイシフトアウトの為の機材にも問題が出た』

「それ所長には?」

『言える訳ないじゃないか?! ヒステリックが発生中なんだよ、余計にメンタルが悪化するだけだよ・・・これじゃ・・・』

 

さらにレイシフトアウト用の機材にもダメージが発生していることをロマニが言う。

無論、所長にはまだ言っていない。

一旦、落ち着きこそしているが下手に刺激を与えれば暴発するのは眼に見えていたからだ。

 

「伝えるタイミングはこっちと宗矩さんと森さんで考えておく。それで帰れるんだよな俺達?」

 

だからこそ伝えるタイミングは余裕のある自分自身に宗矩と森で相談しつつ考えると言いつつ。

もう一つの懸念材料である戻るという行為について代案はあるのかと問う。

当たり前だ。特異点をクリアしたら虚数空間に放り出されるというのは勘弁願いたいのは誰だって一緒である。

 

『無論だとも。むしろ君や所長のレイシフト敵性値は最高峰なんだ。たとえ虚数空間に投げ出されても回収は可能。むしろ明確に定義された空間から引き上げるより楽なんだよ』

「つまり修繕された歴史の修正力のはじき出しと言う反発力である程度まで浮上。そこからはそっちの機材で現状で回収可能と」

 

簡単に言えば兎に角生きている機材で回収ポイントというクレーンを下げて、修正力と言うはじき出す力を使い、そのクレーンにしがみ付かせるという手法である。

理論上リスクは高いが。

レイシフト敵性が最大値ならば確実に位置を把握し理論上はやれると判断された。

無論修理できればできるほどクレーンの回収ワイヤーも深く下げれるので。

修繕作業は続行中である

 

「リソースは?」

『マリスビリーの蔵から引っ張り出しているから問題なしだよ、君が気にすることじゃない、予定道理にいけば十全な回収も可能だからね』

「・・・そうか」

 

まさしく死人に口なしとはこのことか。

オルガマリーは魔術師のあり様に疑問を抱いており、父が残した遺産は遠慮なく使い潰す気満々である。

もっともこの緊急事態で物資の出し惜しみをする方が馬鹿とは彼女自身の弁なので。

あえて口には出さず、遅れてきた娘の反抗期で死後に八つ当たりされるマリスビリーに達哉は十字を切った。

 

「エネルギー回路の方は?」

『そっちは何とかなるよ、ダヴィンチちゃんの前任者の遺産があるからね、もっとも大型の機材だから、さっきの戦闘では使えなかったけれど』

 

そして第二の問題。

エネルギー供給である。あれだけ派手にやったのだ。

修繕に手間取るなと思いながら達哉は問いただす。

それにロマニは前任者の遺産があるから大丈夫だと言った。

もっとも機材が大型で、設置作業にも時間が掛かる為使えなかった代物だが。

 

「・・・前任者?」

『ああ、カルデアの設計担当にして前技術部の統括 スティーブンっていう人さ、偉大な人だった』

「・・・過去形と言うことは」

『うん、死んでいるよ。私室内でめった刺しの遺体で発見されたんだ』

 

どうも自分が来る前はカルデアは随分物騒な所だったらしいと達哉は思う。

魔術を使えば密室殺人やりたい放題。証拠も残らないから金田一もコロンボも涙目だなとだ。

 

『といっても魔術的理由とコスト問題が解決しきれなくて作ったは良いものの、前所長が許可せずに倉庫入りさせたのさ」

「ディーゼルか」

『うん、バックアップ系の発電機器は主要発電機と一緒にすべきではないってね。フクシマの件もあるから僕は賛成だったんだけれどね…』

 

通常、フェイルセーフ及びバックアップは別の物に設定するのが、エネルギー産業業界では普通だ。

カルデアは魔術炉の上位互換を主要エネルギー回路にしている。

予備の電力とて魔術的な物ではあるが、幾ら電子制御が可能とはいえ万人が手を付けられる様なものではない。

ダヴィンチがいたから今回は対処できて持たせることが出来たが。

やはりバックアップの発電機器はディーゼルなどの予備電源を用意するべきであったし、スティーブンはそれを手配していたが。

 

「魔術的理由で見送りか・・・」

『うん。スティーブン的には、それよりも確実性を取るべきだとマリスビリーに主張していたが。マリスビリーはそれを認めなかった。いくら常識人とはいえ、マリスビリーは魔術師だからね。それ以前にマシュの件についてもケチ付けていたからそりゃもう二人の仲は最悪だったよ。』

 

魔術的理由でスティーブンの提示した予備発電機は設置されることはなく。

倉庫で埃をかぶっていたのである。

現在、戦闘終了と同時にダヴィンチちゃんたちと保安部がそれを引っ張り出して。

緊急設置作業の真っただ中だ。

エネルギーバイパスの最適化の為。管制室の人員もモニタにかじりつく様に作業に従事している。

 

『兎に角、魔力供給の問題は設置作業とバイパス調整が終了するまで最低限に絞らせてくれ』

「それで問題ない、こっちも予定は組んでいる」

『早いね!?』

「俺一人で練ったプランだからな。兎に角最低でも二日は休息だ。三日後には奴の居城に殴り込む」

『・・・医師として言わせてもらうよ、それは早すぎる、最低でも四日は休息するべきだ』

 

達哉の出した案は性急すぎるものだった。

二日休んで三日後には殴り込む。

無論準備もあるのだから性急すぎると言わざるを得ない。

 

「そうも言ってられない、ティエールの街中を書文さんに見て来てもらったが・・・案の定、厭戦ムードが漂っている上に、ジャンヌ・オルタの暴発光やら、ジル・ド・レェの怪獣のせいで次はないって不安が蔓延している」

『・・・まさか』

「噂とはついているが。要するに大衆が真実と思い込み共有されている情報が具現化する。次の防衛線では俺たちにもマイナス要素が課せられるだろうな」

 

次攻め込まれればジャンヌ・オルタ陣営は強化され自分たちは弱体化を喰らうだろう。

 

「俺のミスだ。強引にでも仕留めておくべきだった」

 

あそこで強引にでも仕留めに行けばと漏らすが。

 

『いいや無理だったよ、どのみち、ジル・ド・レェがタイミングを見計らっていたんだ。それは意味のない過程だ。』

 

どのみちジル・ド・レェがアンテナを張っていた以上。

あの時は強引に仕留めることはほぼ不可能だった。

どちらにせよ、インターセプトされることは確定していたのだから。

だからこそ、ロマニは達哉が判断ミスであると余計に気負わない様に切って捨てる。

 

「そうか・・・」

『そうだよ、君は背負い過ぎだ。 ・・・慣れているのは分かるよ。でも耐えるには限度がある。無論きみにもだ』

 

達哉は既に現状と同等のケースを惨たらしい形で味わっている。

故に体験したからこそ焦ってしまう。

さらに対処できる力と心を兼ね備えてしまっている。

それがたとえ心を摩耗させて行える諸刃の強さであってもだ。

 

『兎に角休んでくれ。プランを練るのは後日でも良いからさ。コンディションが悪いと良い案も出ないし、今は休んでくれ」

「ああ、そうするよ、ラーメン啜ったら安定剤飲んで寝るさ」

『それがいい、じゃ御休み達哉君』

「ああ、ドクターも、おやすみ」

 

 

通信を切って、ちょうど良くカップヌードルが出来たので達哉はそれを啜り。

干し肉を齧って、舌を刺激。

美味しい物で幸福感を一時的に満たして、水を飲んで寝る。

明日も早いからだ。

 

 

 

 

 

 

 




メンタルケア回
48人の命なんざ背負えない、でも死にたくないと言った結果、所長は自らの手で磨り潰した命の重さを背負う羽目に。
マシュ、初めての死の恐怖。
ぶっちゃけ、ジャンヌ・オルタ戦で死に掛けましたらね。
間がよかったのと。たっちゃんがディラハン級のスキルを使えたから生き残っているだけで。
普通なら内臓破裂からのショック死コースでしたからね。
故に彼女も戦場では死が隣り合わせ、でもやらねば誰かが死ぬという事を理解したわけで。
さらに素手で人間なんぞミンチに出来るということも理解しました。
最初からこんなんだから、邪ンヌの存在自体がマシュの中でトラウマに・・・

現状、ギリギリとはいえ、カルデア有利ですからね。
ニャルが調整入れまくります。
ニャルのお好みは両者拮抗状態での殴り合いですからそりゃ調整するよ!!


ニャル「と言う分けで。ジャックとか邪ンヌの様な救いたいのだろう? だったら手を伸ばさせてやろうではないか!!(二人を邪ンヌの心像風景に蹴り落しながら)」
ヴラド「私関係ないではないか!?」
ニャル「邪ンヌに縋った時点でテメェも同罪だよwwww、マリーとか見習え!! 学習してこい!!」


と言う分けで次回、お労しや邪ンヌ上回 あるいはニャル&コトミー「「ワイン美味ぇwwwww」」と言う名の愉悦部回です。

胸糞注意回ですよ!!




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十七節 「少女は冥府の底で奇跡の残骸を抱きしめる」

放っておけば、幸せだったと思うのか?
貴様らの味方になったからと言って、人形ではない。
生き続けても・・・孤独になるだけだ。


GUILTY GEAR Xrd-REVELATOR- より抜粋


アタランテはジャンヌ・オルタの頬に手を添えた。

 

「ジャンヌ」

 

大よそ8割近くのエネルギーリソースを吐き出し、文字道理のぼろ雑巾のような状態だ。

残っている出力も二割程度である。

そして息を荒く吐き出しながら冷や汗を流しつつ、うめき声をあげてジャンヌ・オルタは眠っている。

戻って来てから、ジャンヌ・オルタは大概眠っている。

かき乱された精神、半壊したスペックの修繕。脱落したサーヴァントの再登板処置の為だ。

眠ることによってそれらを一括処理することに集中している。

彼女の両目から血筋が涙のように流れる。

もう泣きはらし過ぎて碌に泣けなくなり、精神的摩擦が神経を痛めつけて血を流させる。

状況は最悪だった。

ジャンヌ・オルタのスペックが破損したせいで聖杯に取り込んだ英霊たちの修復作業が遅延し。

大半消し飛んだ駒の補充も終わっておらず。

これを気にカーミラがラインを寸断した。

契約までは切れていないものの補給までを断っている上に連絡網さえ断っていった。

これが簡単に出来るのは単純な話でジャンヌ・オルタ自身が嫌になったらいつでもやめろと。

ライン寸断用の礼装を配布していたからである。

 

「なぜ汝は・・・こうも」

 

ジャンヌ・オルタがこうなった経緯は聞いていた。

最も表層的概略と言う奴で。深く何があってどうなったのかまでは聞き及んでいない。

ライン経由での夢を見るというある種のお決まりも。

ジャンヌ・オルタ自身がジル・ド・レェに命令し施させた精神防壁で起こったことはなかった。

彼女自身、過去を極端に言うのが嫌であるらしく、断片的にしか本当に聞き及んでいない

故にアタランテ自身、出会いと言う名の過去に身を馳せることでしか彼女を読み取れない。

 

 

 

 

 

衝撃が当時のアタランテの頬を襲った。

 

―殴られたら殴り返される。私が左頬を差し出すと思った?―

―グッギ・・・―

―それで・・・あのオリジナルに何言われたのかしら? いいえ分かってはいるのだけれどね。オリジナル視点だからあんたのことは良く知らないのよー

 

此処に帰還してから見せられた可能性。

と言っても全部見せられたわけではない。

ジャンヌ・オルタが第三者視点でジャンヌ・ダルクの視点で見せられた物でしかないからだ。

彼の地で行われた聖杯戦争を隅から隅まで把握しているわけではないのだ。

だからこそ、ジャンヌ・オルタはジャック・ザ・リッパーとアタランテの因縁を知らない。

故にあそこでなぜ大暴走したのかを理解できないがゆえに問いただし。

返ってきたアタランテの言葉に。

 

―アハハハハハハ!! ハハハハ!!―

 

ジャンヌ・オルタは嗤った。

と言うよりも経験からして笑うほかなかった。

 

 

―何がおかしい!?―

―おかしいわよ!! 嗚呼、ニャルラトホテプの視点ってこういう事を言うんでしょうね・・・なるほどあきれ果てて嗤うしかないわ!! アハハハハハハ!!―

 

怒り狂ったアタランテが突撃しようとする物の。それより早くジャンヌ・オルタが間合いを詰めて。

 

―ふざけるな? ふざけてるのはお前だ―

 

強引に力でアタランテの首を掴み持ち上げるように地面に倒して。

馬乗りになって、ジャンヌ・オルタはアタランテの顔面に自分の顔面を近づける。

見開かれた黄金の瞳孔は高熱量で燃え上がる炎のように揺れていた。

 

―矛盾してるのよ。助けたかった? 救いたかった? 救えたはずだ? 喚くことなら誰にでもできる。それこそできない奴が結果論だけを見て述べるように簡単に―

―簡単だと?矛盾しているだと? 貴様が―

―ええ、オリジナルは救いにならない救いを与えた。けれどあんたの選択はもっと最悪。反吐が出そう。だってそうでしょう? 見てるだけだったんだから―

―違う!―

―違う? なにがどう違うのよ?― 

 

アタランテの怒りも言葉も道理ではある。

だが中身が伴っていない。

救いたい相手が居る筈なのに全力で行動をしていない。

手段はいくらでもあった。ジャック・ザ・リッパーのマスターを篭絡するなり、ジャック・ザ・リッパーを説得するするなり。

成功するかは兎にも角にも置いて置いて。行動するというのが普通だろう。

だがアタランテは行動していない、なんやかんや適当な理由を付けて見守っていただけ。

それ即ち、何もせずに傍観に徹していたということに他ならないのだから。

見ているだけとはいわば何もしていないと同意義だ。

そこを論ずるなら偽善を行ったジャンヌよりも、事態を静観し気に食わない方向に行けば勝手に絶望し嘆くアタランテの方が

ジャンヌ・オルタにとっては最悪度で上である。

何故ならそういう登場人物を気取る傍観者と言う名の民衆に奪われたのだから当たり前だろう。

故にへし折ることに躊躇という慈悲をジャンヌ・オルタは持ち合わせていなかった。

 

―人ひとり救うってのは大変な事なのよ。狼に育てられた子供を人間に戻すには人の子を育てる以上の労力と一生付き合う覚悟と献身が必要なの。生まれ育った環境による認識を変えるのはそれだけ大変なのよ。貴方の慈悲は間違っていないわ。でも間違えているのよ。見守るなんて都合の良い行動が間違っている―

 

同じ概要の言葉を今度はやんちゃな生徒を宥めるようにジャンヌ・オルタは言う。

 

―であれば、私はどうすれば良かった!! 答えろ!! あの女の贋作!!―

―至極単純。そのアサシンとやらのマスターを自分の陣営にでも引き込めばよかった。で優勝したら受肉でもしてアサシンを一生かけて育てればいいだけじゃない―

 

であればどうすればよかったという癇癪じみた叫びに。

ジャンヌ・オルタは至極まっとうに応えて見せた。

見守るのも大事だろう。しかし現在進行形で間違っているなら体を張って正してやるのも大人の務めだ。

獣になり下がった子供を救いたいと思うのなら本人が人間になるまで付き合っていけばいいと。

そんな単純で一般的道理。

それがあの子を救うただ唯一の道だ。

故にそんな簡単な事だったのかとアタランテは呆然として。

 

―私は―――――

―なぁに?―

―また間違えたのか?―

 

抵抗する四肢から力を抜いて呆然とした。

言うのは簡単であるが成すことは難しい。でもできない事ではないのだ。

ならそれすらできない自分は何だとアタランテは震える。

林檎の下りでもそうだ。

簡単な事なのに間違えて見当違いの方向に進んで絶望する。

 

―アンタの愛は間違っちゃいないわよ。でも愛し方を間違えた。―

 

ジャンヌ・オルタは微笑みつつ信託を告げる巫女のように言う。

愛は間違ってはいない。だが何度も言うように行動が矛盾し間違っている。

致命的なまでに。

 

―それで?アンタはどうする? 契約段階での齟齬でこんなことになったし、今なら気が合いませんでしたとか音楽性違いだとかで分かれるのも良いわ。その場合はその力だけはもらうけれどねー

 

合わなかったら合わないだけ。

意固地になる理由をジャンヌ・オルタは持ち合わせていなかった。

霊基と魔力さえ置いて行ってくれれば引き留める理由もない。

それに次に新しく呼び出せばいいだけの話しでもあるからだ。

 

―汝はどうするのだ?―

―殺す―

―なぜ・・・まだ汝は戻れる―

―戻れないわよ。過去は過去。精々脳味噌の裏で思い浮かべて安らぎにするか。今を生きるための糧にするか。あるいは未来のための推進剤にしかならない。もう戻ってこないのよ。だから戻れない。戻ろうとも思わない。それを自覚すべきだ。全員ね―

 

そしてジャンヌ・オルタは自身の未来を捨てている。

復讐するということは戻ってこない物の為に行う行為だ。

自身の因縁をすっきりさせるという行為ではあるが、復讐行為が全人類に及ぶなら人生を捧げたといっても、過言では無いだろう。

それは自分の人生を捨てたということに他ならない。

だから・・・・手を伸ばそうとして。

 

この時アタランテは気づいていなかった。

ジャンヌ・オルタは戦いに際して十全を整えた。

気休めであれど防御魔術だってジル・ド・レェが施した魔のを身に着けていたし。

強化魔術や礼装だってつけていた。

最も世界やら宇宙やらに到達していないとはいえ、影に挑んだ実力は本物の達哉の前では無意味に等しい物だったが。

それはさておき、なにが言いたいのかと言うと。

あの自爆でほぼすべてのそう言ったものが吹き飛んだり破損したと言う事である。

それはジャンヌ・オルタが自身の過去を見られるのを嫌い。

ジル・ド・レェに頼み施してもらった精神防壁も例外ではない。

そして、その精神防壁は、結果的にとはいえ逆にジャンヌ・オルタからライン経由で彼女の抱える憎悪が逆流するのを防いでいたものである。

無論、それもあってないようなものに成り果てていた。

つまり現状意味をなしていない。

ゆえにこそこの現象は必然だ。今ジャンヌ・オルタは自身の黄金期と絶望期を交互に行きしている。

その都度、燃えがる憎悪が逆流を始めるのは当然の事だったし。

意図的にラインを切断しているカーミラは兎にも角にも。

その逆流現象とも呼ぶべきものが起きるのは必然の話しだった。

 

「ッ―――――」

 

意識の裏から熱い何かが噴き出してきて。

彼女の意識を飲み込む。

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・」

「アタランテ。貴公もか?」

「ヴラド・・・。ところで此処は? 現代みたいだが・・・」

「・・・外は焼却中だ。故にここはおそらく。ジャンヌの記憶だろう」

「彼女の? 馬鹿を言うな。ジル以外は見ることもできない様に精神魔術防壁が張り巡らされてライン経由で夢を見るのは不可能はずだ・・・」

 

だが現実、現代風景は続いている

そして視線の先には達哉とジャンヌ・オルタが居た。

 

「ねぇ本当に良いの? 全部いい値段するじゃない」

 

彼等が見たことのない表情でジャンヌ・オルタは狼狽えている。

そこそこ値段の張るライダースーツやジャケットが所狭しと並べられていた。

 

「いいよ、バイク購入祝いだ。この程度なら問題ないし、この時期に走るとなるとライダースーツだけじゃきついぞ。」

「そう」

 

と言ってもだ。やはり抵抗はある物である。

それでも達哉は良いからと複数種類のライダージャケットを持ってきて、これがいいんじゃないのかというのに。

ジャンヌ・オルタはタジタジである。

 

「おいおい、たっちゃん、まさか彼女か?」

「違う。同好の士って奴だよ、店長」

「その割には世話焼くじゃないか、ええ? たっちゃんも隅に置けないねぇ」

「だから違うってって、おいジャンヌ。どうした? 顔を俯かせて?」

「なっなんでもないのよ!! この鈍感!」

 

店長の冷やかしを達哉はため息交じりに流していく。

だがジャンヌ・オルタ自身、どんな表情と感情を出して良いか分からず百面相状態。

達哉の鈍感ムーブに痛みと熱さを感じつつ。

それを隠すように奥の方にジャンヌ・オルタが行ってしまう。

 

「鈍感って・・・なにがだ??」

「たっちゃん」

「なんだ店長?」

「鈍感」

「なぜ!?」

 

ジャンヌに鈍感と言われた達哉は気落ちする物の。

此処まで酷い鈍感っぷりには達哉の心の奥に根底的理由があるわけだから仕方がないのだが。

達哉自身それを知覚していないのだから誰にもわかるはずもなく。

それがましてや店長やジャンヌ・オルタに分かるはずもない。

故に達哉は店長の冷たい視線と共に非難の鉄槌を喰らって理不尽とばかりに声を上げる。

そんなやり取りをしり目にジャケットを漁っていると。

 

「あっ」

 

一つのジャケットが目に入る、色は黒で背中部分に白い罰点があしらわれ、両袖に小さな白罰点があしらわれたシンプルなものだ。

このころのジャンヌ・オルタは主要時間軸のオルタに精神性が近いというのもあって。

中二病的感性と。

 

「これだったら達哉と御揃い」

 

罰点の刻まれている位置こそ違うが。達哉のライダースーツにも罰点があしらわれて居るから御揃いじゃないかと口に出し。

 

「なっ何考えてるのよ私!?」

 

一度は手に取って目を輝かせたが何考えているんだと頭を振う物の、そこに達哉と店長が来る。

 

「それが良いのか?」

「え、ちょ」

「いいじゃないか? 彼女になら似合っていると思うぞ」

「え、その・・・・」

「どうした値段なら気にしなくていいぞ? さっきからずっと見ていたし気に入ったらなら買うべきだと思う」

「ちょっと待って!! 試着!! 試着させて!! これにするかどうかはそのあとで決めるから!!」

「わっわかった」

 

まさかみられているとは思わず。達哉をまくしたててジャンヌ・オルタは試着室に逃走。

試着室に入り込んで思考を整理。

 

「み、見られてた!? でもあの言葉は聞こえていないはず。だってそうよ。いくら鈍感だからって聞かれてたら自覚やら問い返しの一つくらい・・・うん、そうよ!!」

「ジャンヌ。まだか?」

 

論理武装を完了しジャンヌ・オルタは勢いよく立ち上がり。我天啓得たりと言った表情である物の。

試着とはいえ、ジャケットを七姉妹高校の制服の上から着込むだけである。

そんなに時間も掛からないのは道理であった。

故に達哉の催促に慌てて着込み。

 

「どうよ!!」

 

勢いよくカーテンを開けてドヤ顔で己を見せつける。

 

「うん、綺麗だ。非常に似合ってるよ」

 

達哉、真心を込めての殺し文句である。

ウソ偽りがない上に。達哉のスマイルにジャンヌ・オルタは顔面に右ストレートを喰らったかのような感覚に襲われる。

 

「ほんと卑怯よ。アンタ」

「だからなにが!? 普通に褒めただけじゃないか!?」

「自覚してないって罪だわー 俺からしてもそれはねぇぞ、たっちゃん」

「店長まで!?」

 

本当にそういうところが卑怯だとジャンヌ・オルタは顔を赤らめ抗議。店長も同意し達哉涙目であった。

そして帰路に二人は付く。

 

「ねぇ本当によかったの?」

「なにが?」

「このジャケットよ、結構いい値段したじゃない」

「気にするな。レアものバイクパーツよりは安いよ」

 

達哉はそういって微笑む、いつもは無表情なくせにこういうときだけ楽しそうに笑うのは卑怯だとジャンヌ・オルタは思う。

 

「本当に今日はありがと、本当に嬉しかった。」

 

生れてから生みの親に与えられたのは忌々しいオリジナルの投獄時代の負の記憶。

それから派生する憎悪と言う感情だけだったから。

こうも優しいプレゼントは生まれて初めてだった。

 

「ずっと大事にするわ」

 

ジャケットの入った紙袋をジャンヌ・オルタは抱きしめるように握りしめる。

初恋を得て、憎悪にいったんケリをつけて。贋作の少女は自己を自覚していく。

淡く切ない初恋の記憶。

 

 

 

 

 

視点が変わる。

 

 

 

 

 

 

「だぁあああああああああああ!!!」

「うぉぉぉおおおおおおおおおお!!!」

 

そして視線の先では、学生服の上にライダージャケットを着こんだジャンヌ・オルタとヘッドホンを首から掛けた少年が凄まじい気迫でゲームの台にかじりつく様に勝負をやっていた。

 

「あー順平、今日でどれだけだっけ?」

「4体5で理の勝ち越しだよ」

「ジャンヌって冷静に見えて結構馬鹿だよね・・・いつまでやるんだか」

「それが男ってものだ。」

 

「あと少し。あと少しで!!」

「ヤバイ、脳汁ヤバイ!!」

 

二人とも自己レコード更新中である

絶対に勝つのだという執念を燃やしながら。

記憶更新による陶酔感によるミスの誘発を起こさないように二人は激しくキーボードを叩く。

そして。

 

「勝ったぞォ!!」

「負けたァ!?」

 

理はラストを捌き切ったが、ジャンヌ・オルタは押し切れなかった。

コンボが途切れてそこからの立て直しが上手くいかず。理に負けた次第である。

 

「いいえ、私の勝ちよ」

 

がそこに一人の少女ことチドリが出てくる。

 

「あのチドリなにやってんだ?」

「暇だから私もやってみたの。面白いわねコレ」

「あっ、二人のスコア超えてますね」

「「え?」」

 

二人が呆然とする傍ら。電光掲示板にランキングの表示が変更される。

二人ともチドリに抜かれていた。

 

「「ばかなぁぁああああああ!?」」

「派手に轟沈したな二人とも」

「順平、配当はどうするのよ此れ・・・」

「均等分配だろうな、うん」

 

派手に崩れ落ちる二人を真田がそう評し。

呆れながらも賭け賃がわりに賭けた菓子の分配は均等分配というオチが付く。

だがそれこそ彼女の代り映えせず友たちと居る愛した日常だった。

 

 

 

 

視点が変わって、世界が反転する。

 

 

 

 

真っ赤な夕日が街を染め上げる。

 

「お兄ちゃんのハンバーグ♪ ハンバーグ♪ ジャンヌお姉ちゃんのコロッケ♪ コロッケ♪」

「おいおい菜々子ちゃん、はしゃいだら危ないって」

 

だらしなく苦笑しつつ足立は菜々子を落ち着かせている。

 

「悪いな、悠にジャンヌ。菜々子の我がままに突き合わせてしまって」

「気にしないでください、堂島さん。好きでやってるんで」

 

堂島の言葉に悠は微笑みつつそう返した。

久々の休みだった。事件もなく、一人寡婦の足立を堂島が誘っての家族のだんらんである。

何処にでもあるごく普通の光景。家族や友人たちの一時。

 

「ジャンヌ、メンマの葱和え期待しているよ」

「ああ良いな、ビールによく合うもんなアレ」

「菜々子は好きじゃないなぁ・・・・お兄ちゃんのサラダがいい」

「まぁまだ菜々子が食べるもんじゃないわよアレ」

「の割にはよく食べているよなジャンヌは」

「舌を刺激させるのにちょうどいいのよ、食事前に食べて食欲の促進にもなるし」

 

メンマのラー油葱和えはジャンヌの好物と言うより。食前に食欲を促進する物でしかないのだが。

酒飲める堂島と足立には受けが良かった。

そんなこんなで5人は夕日の中を他愛のない話をしながら歩いていく。

それは理想の家族像。或いは幸せな家族の一風景であった。

 

 

 

 

 

視点が変わり、世界がクルリと廻る

 

 

 

 

 

カリカリとシャーペンシルを動かす音が響く。

必死の形相で参考書と教科書にかじりつき電卓を撃つのは四人の男女だ。

つまり蓮 竜司 祐介の怪盗団三馬鹿は無論の事、杏も涙目になりながら学業に励むしかなかった。

 

「なぁジャンヌ」

「なによ、双葉」

 

そんな彼等をカウンター席から眺めつつ双葉もまた社会復帰に向けての勉強である。

最も彼女は天才だ。

ジャンヌ・オルタが見てきた人々の中で頭の出来は一番であるから余裕綽々でこなしてはいる

 

「ジャンヌは勉強しなくていいの?」

 

そんな双葉の言葉を聞きつつ珈琲メイカーを動かし珈琲をカップに入れて、

テーブルに起きつつジャンヌ・オルタはため息を吐く。

 

「まぁ余裕はあるからね。期末の試験範囲は押さえてあとは忘れないようにちょこちょこ復習していればいいだけだし」

「そうだけどさぁ・・・ジャンヌってそんなに時間ある様に見えないだけど。私嫌だよ。ジャンヌが過労で倒れるなんて」

 

ジャンヌ・オルタはそう簡単に言うが、双葉は自分の口にした言葉の通り。

ジャンヌ・オルタにそんな余裕があるようには見えなかった。朝は鍛錬、昼間は学業、放課後はここでバイトしつつ。

夜は怪盗団とは別に廃人事件を追っての調査とメメントスの捜索。

また怪盗団が無茶をした場合のフォローと裏関係へのついて作りに双葉の母の研究内容のサルベージングと休む余地なしと言う奴である。

 

「毎日3時間寝れば休めるでしょ。あと勉強ついでの読書とかバイトは趣味だし」

「それワーホリの発想だよォ!?」

 

バイトは趣味とか言い出し、もうこれ末期だと双葉は天を仰いだ。

それを聞いた蓮は思う。

そう言えば学校以外でジャンヌ・オルタと会えるのは此処だけだなと。

自分たちを裏で支援してくれるのはありがたいが。

働きすぎだと思う。

 

「ジャンヌ、幾らなんでも俺でも無いと思うぞ」

「祐介だけには言われたかないんだけど!?」

「それだけ働いているってことよ」

 

常に金欠で無茶苦茶な生活をしている祐介に苦言を呈され。

口端を引く付けながらジャンヌ・オルタがそういう物の。

此処では双葉に次いで長い付き合いの真も祐介の意志に同調する。

 

「ジャンヌはさ、自分の事顧みなさすぎ。少しは休んだ方がいい言って」

「俺もそう思うぞ、とういうか惣治郎さんに”あいつに休み取らせる方法はあるか?”ってな」

「惣治郎さんが言うならよっぽどだろ・・・」

 

杏も同調し始め、さらに蓮も惣治郎に相談されたことを言いつつ休めという。

惣治郎さんが言うならよっぽど無理していると竜司はドン引きだ。

 

「ちょっと待って、なにこのなに? なんなの? このアウェー感!?」

 

そう言いつつも心配してくれることが嬉しかった。

確かに自分は此処にいるのだと感じた日々。

 

 

 

万華鏡の如く世界は廻り巡るましく時代が変わり黄金の青春という物を奏でていく

楽しい時間が続く。

 

「なにが起こっている・・・」

 

ヴラドは驚愕としている。如何に繕っても、その表情の下には憎悪が渦巻いていた。

神域すら犯す負の感情を持つ彼女が、なぜこうも普通に笑って過ごしているという事実を信じられなかった。

だが季節とは移ろい行くもの。穏やかな日々は続かない。

 

 

 

 

 

 

視点が変わって、世界が落ちる

 

 

 

 

 

 

 

ジャンヌに服を進めていた女性が倒れている。

腹部から血を流し目を閉じて絶命していた。

 

そしてただそれを見ていた蝶が提案を出す。

 

「でもそれじゃよ、ジャンヌは・・・」

「彼女は異邦からのかりそめの客、10年前の因果を消すことによって奴の介在の余地がなくなり、奴の手によって介入した彼女は消えるかも知れん、だが奴がどうやって彼女を此処に定着化させているのかは私にも分からない以上。どうなるかは分からない」

「ふざけんな!! 舞耶ねぇまで殺されて、ジャンヌまで殺せってのか!? お前らは!!」

 

栄吉が激昂する。

 

「だがしかし選ばねばならない」

 

蝶は現実を突きつける。二つに一つ、ご都合主義を成すか成さないかだ。

誰もが躊躇する。ここが分水領。

コップを満たす水が流れ出すか否かの選択。

 

「やってちょうだい」

「ジャンヌ!?」

 

遺骸を抱きしめながら泣きながらジャンヌは言う。

 

「私なんてどうなってもいい、皆が笑って暮らせるなら消えても・・・帰るだけだもの、向うに」

「ジャンヌ」

「私は耐えれない、死ぬことよりも帰る事よりも!! 誰かが欠けたなんて結果だけには!! だから私なんかどうなってもいい!!」

 

自分はどうなっても構わないリセットしろと叫び。

 

「分かった」

 

達哉は苦渋の表情でそれを選択した。

 

 

 

 

 

視点が崩落し、世界が砕ける。

 

 

 

 

 

場が転換する、ジャンヌ・オルタが走り。

そして叩きつけられる。穿たれ切り刻まれ。地面を転がる。

沸騰する意識。意識は限界を超えて肉体を駆動させる。

 

「がぁぁああああああああ!!」

 

喉が裂けるほどに叫ぶ。

これでもまれるなら勝てるなら、幾らでも叫び立ち上がってやると言わんばかりだ。

脳裏によみがえるのは、孤独に帰っていくという彼の後ろ姿。

取り残され現実に打ちのめされる自分。

彼等にはそんな様を味わってほしくないのだと。

勝てぬとわかっていながら。ジャンヌ・オルタはタルタロスの天井で死の現身と戦っている。

だが単騎である以上、無理な物はどう比べようとも無理なのである。

削られていく時間。削られていく己が体。削られていく己が精神。

混沌が嘲笑い死を祝福している

 

「黙れェ!! 黙れェ!! ダマレェぇぇえええええええ!!」

 

それを振り払うように、或いは目の前の神に対する怒りを叩きつけ弾劾するように。

剣を振い、現身を切り刻む。

 

「いい加減にしなさいよ、オマエェ!! 勝利者をなんだと思ってるのよ!! 納得したんでしょう? 認めたんでしょう?? だったらちゃっちゃと眠りに入るか遠いところに行きなさいよ!! 今のお前らは玉座から民を見下している愚王と違わない!! 絆を紡いでおきながら結局本能に屈して原初的衝動に走りってさぁ!! それを抗いもせずに仕方がないとかふざけるナァ!!」

 

 

納得し絆を紡ぎ認めながら結局、己が機能に屈して彼等ならどうにかするだろうというおごりにこいつは縋った。

その果てにあるのは痛いほど知っている。

知り過ぎていたのである。

故に許せない。ふざけるなと吠え猛る。

意識があるなら彼らに報いる為に遠いところに行け、それもできないなら大人しく何ガンでも眠っていろと

 

「無駄だよ、いくら君が頑張ろうと、死は万物平等だ。故にそのアルカナは指し示すんだ。その先にあるのは絶対の死であるということを!!」

「御託は良いのよ。そんなことほざくなら私を殺してからにしろ!! グライ・・・グライ・・・トラフーリ・・・エストマソード」

 

死の本流に対し、ジャンヌは自らのペルソナにスキルを展開。

同調ではなく。個別展開してぶつけることによって引き起る現実現象だ。

重力と別位相への転移スキルを複数展開することによって引き起る位相の混濁。

空間崩壊現象及び位相崩壊現象が発生。

原初の地獄を、刀身にごく小規模展開する、彼女のオリジナルである。

 

「抉り殺す!!」

「夜の女王」

 

お前は絶対に殺すという絶対無慈悲の殺意と。

万物は死に至るべしという神の権能が衝突し炸裂した。

 

「まさか」

 

死の現身は驚愕する。

夜の女王とも呼ばれる死の権能が真っ向から引き裂かれたのだから。

 

「グライ、グライ、グライ、トラフーリ!!! 砕け死ね!!!」

 

さらにグライを自らにかけて重量を増加。

転移術式を使用。

自らを質量弾として発射。

 

「闇夜のドレス」

「そんなものぉ!!」

 

絶対防御と絶対殴殺が衝突。

闇夜のドレスはあらゆる攻撃を向うにし、自動魔法迎撃を行うものであるが。

 

「まだだ!!」

 

ジャンヌ・オルタは生きて自らを弾体として維持していた。

 

「ディアラマ、ディアラマ、ディアラマァ!!」

 

原理は単純。回復スキルの重ね掛けである。

無論、それだけでは意味はないが。彼女は自分の自壊をガン無視しして回復魔法を乱打する。

元より自爆必死なバグ技をそうやって維持しているのだ。

スキルの使用回数が増えただけだと狂気的な行為を実行し拮抗させているのである。

さらに、彼女のペルソナは貫通スキル持ちだ。

貫通というスキルはアマラに置いて絶対の王冠の一つである。

力量ベクトルを操作する反射でなければ如何なる概念防護を貫くものだ。

と言っても貫くにしろ、防壁事態に膨大な魔力が込められている。

概念防壁は容易く貫通できるが。質量防壁、エネルギー障壁という現実部分はジャンヌ・オルタがどうにかするしかない。

 

「グライ・・・グライ・・・トラフーリ・・・エストマソード!!」

 

そこでさらに。先ほどの空間崩壊を引き起こす魔剣を起動。

本来ならば、何度もなせるわざではない。

現に使用が自らを弾頭として射出する技よりも難度は非常に高く。

スキルの加減具合、タイミング、あらゆる刹那をミスできない業だ。

だが彼女はこの土壇場で成し遂げた。

通常なら誰もしないようなバグ技の三重奏という御業を。

闇夜のドレスが粉砕。亜光速領域に以下、超音速以上の弾頭となったジャンヌ・オルタの刃が真直ぐ突き出され。

炸裂し開けぬ夜に一秒にも満たぬ光が輝き、そして。

 

宙に投げ出されたジャンヌ・オルタはそのまま床に落下。

受け身を取る気力もなく肉やら骨やらがつぶれる様な音を立てながら床に落着。

転がるの手足は複雑骨折し、右目はつぶれ、肋骨が灰に食い込むという、もう肉袋だろうという状態を呈していた。

 

「まさか単独で僕を殺し掛けるなんて」

 

そして右肩から心臓部あたりまでの部位が消し飛んだ死の現身が居る。

だが彼は神、人間的損傷で死にはしない。

しかしあと少し、攻撃が狙い通りに着弾していれば殺し切っていった。

 

「うぁ・・・」

 

うめき声をあげ砕けた両手両足を動かし這いずる様に、あるいは芋虫が無理やり立ち上がろうとするかのような動作で立ち上がって。

 

 

「死ね・・・」

「・・・」

「死ね!! 死になさい!!死んでよォ!! アンタが死なないと、皆消えちゃうじゃない!? だからどっか行け!! 行けないならここで首括るか死んでよォ!! 達哉の覚悟は・・・舞耶姉の・・・覚悟は・・・こんな・・・こんな・・・・だからさぁぁあああああああ!!」

 

駄々を喚き散らすように血まみれの肉袋のような様でありながら立ち上がる。

もうそうヤッテでしか立ち上がれないから

回復スキルを乱打しても完全治癒までは程遠い。

 

「私と一緒に死ねぇ・・・・え―――――?」

 

だがそこまでだった。

膝をついて動けなくなる、最後の気力も尽きたのだ。

気合い根性で無限覚醒なんて都合の良いものは無い。

ジャンヌ・オルタは出来る物をすべてやってここで止まるほかなかった。

そして肩に温かみ。後ろを振り返れば理が居た

 

「ジャンヌ、あとは任せろ」

「やめなさい!! それがどんなものか、分っているの?!」

「分かってるよ・・・」

「だったら猶更でしょう!? 」

「それでもさ、生きてほしんだ君たちに・・・アイギスに・・・ジャンヌに」

「―――――――」

 

その後ろ姿は彼の物と同じで。

 

「やめて!! ねぇ、お願いよ!! 私が何とかするからァ・・・・ だから・・・やめて・・・・」

「ごめん・・・さようなら」

 

理はそういって背を向けて。

達哉と同じように歩みを進める。

伸ばした手は届かず。ジャンヌ・オルタの意識はと遠のき。

そして目が覚めてみれば、必死に治療するゆかりの顔が視界に映る。

 

「・・・・」

「ジャンヌ! 目が覚めたのね!? 順平!! 早く変えの包帯もってきて!!」

「ゆか・・・り・・・あいつは・・・」

「・・・帰って来たわよ、しっかりとね」

 

ゆかりは彼は帰ってきたと言って。彼を指さす。

だが彼は・・・

 

「「・・・」」

 

アタランテもヴラドも呆然と彼を見る。

見て分かった。もう彼は・・・死んでいる、影法師の様なものだ。ここにてそこに居ない。

 

「うぁ・・・・」

 

ジャンヌ・オルタにもわかっていったわかってしまった。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

決壊する心、壊れていく思い出。

どうしようもない現実にただただ。また何もできず慟哭の叫びをあげることしかできない

 

 

 

 

 

 

世界が砕けて、少女が堕ちて行く。

 

 

 

 

 

 

 

雨の中をトラックとバイクが並走しながら走る

既にアクセルはフルスロットルだ。

後ろに現役刑事の堂島もおかっけて来ているが知ったことではないと。

ジャンヌ・オルタはバイクをアクセル全開にしトラックに追いすがる。

 

「お姉ちゃん、ジャンヌお姉ちゃん!!」

「頭低くして! 蹲ってなさい!! 今すぐに助けてあげるから

 

ジャンヌは必至になってバイクのアクセルを吹かしつつ。

左手にペルソナを呼び出す。

 

「なぜじゃまするんだ。この子は助かんるんだ!! 殺人鬼の魔の手から!!」

「助かったりしないわよ!! この偏執狂!! あんたが人を放り込んだおかげでこっちが奔走する羽目になったのよ!! 殺人鬼はお前だ!!」

 

ペルソナの刀身に重力の刃を形成しトラックの助手席の扉を斬り飛ばし。

助手席に座る菜々子を引きずり出そうとするが。

 

「邪魔するなぁ!!」

「なっ!?」

 

生田目が取り出したのはドラムマガジン付きの拳銃だった。

所謂所「マカロフ」である

 

「こなくそぉッ!!」

 

絶叫と同時にトリガーが振り絞られる。

ハンドルを切ってスピンしながら刃を旋回、銃弾を叩き落しつつ姿勢を戻しアクセル全開。

だが・・・エンジンタンクに穴が開いているのをジャンヌ・オルタは躊躇なくバイクを足場に跳躍を選ぶ。

同時にバイクが爆発炎上し。

 

「この程度でぇ・・・」

 

皮膚が焼ける 肌が裂ける、弾が内臓をかき回す。

だからどうしたと言わんばかりに、ジャンヌ・オルタはトラックの天井に張り付いていた。

躱しきれないと判断し。その瞬間に彼女は飛んでいた。

バイクが爆発したおかげでその爆風の勢いも乗って、予想より遥かに上等な位置に着地している。

無論、アサルトライフルの弾丸が足やらどうやら腕を貫き筋肉繊維や内臓をかき回していた

普段の彼女であれば全て防げるのだが。予想外過ぎる不意打ち数発貰ってしまった。

口から血反吐を吐きつつ、刃を天井に突き立て体を固定。

 

「死ぬとでも思ったがァ!!」

 

右手にもう一つのペルソナを呼び出し、逆手にもって突き立てる。

左手のペルソナに重力刃を再度形成しトラック屋根を切り刻み蹂躙

そのまま助手席の菜々子を掴み離脱しようとするものの。生田目がジャンヌ・オルタの衣類を掴み逃がさんとする

 

「救う‼救う!! 救うんだ!! 邪魔するなぁ!!」

「五月蠅い!! 死ねェ!!」

 

ほぼ密着状態で発砲されるマカロフ。

ジャンヌ・オルタは菜々子をい抱きしめ庇いながら右足で生田目の頭部を蹴り飛ばす。

刹那、トラックのタイヤが縁石に乗り上げド派手に横転する。

 

 

「菜々子、無事?」

「うん、お姉ちゃんのお陰で、でもお姉ちゃん「菜々子は此処で待ってなさい」

「でも!?」

「私なら大丈夫よ。悠や堂島さんも」

 

そう言い掛けて。銃弾数発がジャンヌの腹部を貫く。

ジャンヌの背後には生田目が焦点の在っていない瞳をしてマカロフを持っていた。

そのままジャンヌが倒れ藻掻くが彼はそれを無視し菜々子を引きずっていく。

 

「クソガァぁぁあああああああ!!1」

 

獣の世の様な雄たけびを上げて。

彼女は気力一つで立ち上がり生田目を追撃。

血反吐を吐きながら、走り、横転し半開きのトラックの荷台に乗り込む。

無論そこには、菜々子をテレビに居れようとして、菜々子は必死に抵抗している。

ジャンヌ・オルタは自分の意識が飛びそうなくらいにキレた。

 

「いい加減にしろォ!」

 

そう叫びながら生田目にタックルをかまし。もみくちゃになりながら殴り合って。

 

「ッア!?」

「ジャンヌお姉ちゃん!!」

 

ジャンヌ・オルタは生田目と共にテレビに堕ちた。

 

 

 

 

 

世界が燃え墜ちて、傷だらけの少女が底に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

「―――――」

「無様ね」

 

全能者を奢る男を言葉で力でねじ伏せた。ジャンヌ・オルタはそう吐き捨てて。

白痴を見る。

これで状況は終了。世は事も無しだと安堵のため息を吐いて。

 

「うそ――――」

 

自らのペルソナを介して、白痴が接続を開始したことに驚愕する

 

『確かに。お前の言う通りだ。オルタよ。認識できないものは叶えられない。認識していないものは、ない物として扱われるがゆえだ。この男の計画は前提からして破綻している』

「やっぱり、お前か!!」

『その通り、この男と我が主を接続してやったのは私だよ。事を成した後で。精々この国しか変化していないことに絶望するこの男を嗤ってやるつもりだったが。お前が先に論破してくれたおかげで。一早くこの男の滑稽さを見れた。感謝するよ』

 

白痴による現実の曲解は個人認識を媒介としている以上。

自分が明確に認識している範囲でしか現象を書き換えることは出来ない。

原罪を取り除くと言っても、そこで呆然としている、日本国内から出たこともなく、加えて紛争地域やら内戦、民族浄化などの地獄を本当の意味で体感し理解した事もない、この男が星の数ほどある悪性を取り除くなんぞ不可能な事であり。

第一に世界全てを認識しているわけでもないので、全世界に影響を及ぼすのは不可能である。

認識していないものは無いのも当然だからだ。

そこを突いて思考に世界の境界線を引いて、死者蘇生の言い分もよくあるSFの文句で論破し男のたくらみを砕き力でねじ伏せたが。

それ自体は影の計略でしかない。

 

『だがそれも。向こう側からくれば関係がない話だ』

 

そして認知の曲解も。個人視点で行えば上記のような限界が来るのは道理であるが。

他人が率先して補助にとくれば別だ。

ジャンヌ・オルタの認識に他者が賛同し共感して認識を広げてくれる。

さながら、ちょび髭伍長に扇動された民衆の様にだ。

あるいは枯草を燃やす様に熱狂は広がり認識から認識へと伝授していく。

 

『個人的認識には限界が生じるが。他者が自発的に賛同し、その答えを広げ共感するのなら範囲は鼠算方式に拡散する、今お前はそこの男とは違い、世界を作り変える権利を得たのだ!! 最も他者の意識を介する意以上、それが自分の望んだ結末になるかどうかはしらないがな!!』

 

だがそれをすれば、今度は自分の描く想いが確実に歪む。

言葉とてニュアンス一つ、状況一つで意味合いが違ってくるのだ。

宗教的理念も個人によって解釈が違うと言ったように。他人の認識と独自解釈絡み。

広がれば広がるほど出した答えも歪められていく。

大衆に都合の良いようにだ。

もはやジャンヌ・オルタの出した答えは上っ面しか合致していない。

 

「・・・そうね」

 

怒りは沸いてこない既に知っているから

所詮、人間とはそういう類であると。

 

「でもね、私は。それを一度痛感している。だったら私が消えることに何の躊躇があるっての?」

 

世界はあの時の様に破滅に向かって転がり落ちていく。

だが止める方法はある。中枢核となっている人物、即ちジャンヌ・オルタ自身が消えればいいだけの話し。

 

剣をくるりと旋回し腕を伸ばす。

時間はない。

早く接続を切断するために自刃しなければ自分の理想の人を基礎としたものになってしまう。

人間モドキで溢れた虚しい世界になってしまう。彼らの紡いだ奇跡が無駄になってしまう。

手が震える。思い出が脳を掻きむしる。生きたいと吠え猛り。

それに比例し死にたいと泣き叫ぶ。

だが・・・彼は孤独に帰っていった。彼は未だに死を封印している。

だから、次は自分の番だと。

背負えなかった物を今度こそ背負って全部終わらせるのだと決意し。

 

「ッ、クゥ・・・ツーーーーーーッ!!」

 

剣を振り上げ己が臓腑に突き立てんとした時だった。

発砲音

 

「ジャンヌ!!」

 

振り返ってみれば、皆が居た。

 

だが・・・

 

「これで・・・全部終わる」

 

捻じ伏せた。ジャンヌ・オルタの力は彼等を上回っている。

嘗て影に挑み。そして死の写し身にたった一人で殺し合いを挑み。

たった一人で国生みの神に喧嘩を売って。その都度生き残ってきた女である。

彼等が体感している事を。小細工抜きで切り抜けてきた女だ。

さらにそこに加わるのは血を垂れ流すが如き努力の差である。

Lvという質量も上、技量と言う運用行程の巧さも上。加えて精神力も上とくれば、真っ向勝負という土台では彼らに勝ち目はない。

時止めという理不尽スキルを持つ達哉でさえ苦戦し、マシュと言う存在が居なければ詰められていたのだから。

その実力はこの段階で達哉を超えている。

人を殺すことへの躊躇を克服せずして人を生かす活人剣はなせない。躊躇があると無いでは崖上と崖下と言う差を開かせてしまう。

つまり、明確な殺人経験の差と覚悟が上と下を分けたわけだ。

殺してねじ伏せた事のあるジャンヌ。殺さず改心という都合の良い事象に縋っていた怪盗団とでは

くぐった修羅場が違う、押し付けられた理不尽の度合いが違う、舐めた苦渋の数が違う。

さらに言えば白痴とつながっているゆえに今の彼女の力は強力なものだ。故に勝利してしまった。しまったのだ

 

「やめろ・・・」

 

蓮が呻くように言って拳銃を向けるが。

正確な標準が取れないゆえに、引き金を引き絞れない。

もう彼女を止める者はいない

 

「やめてよぉ!! 皆で打ち上げするってい言ったじゃん!! みんなで今度旅行に行くって!!」

 

双葉の叫びも届くことはない

 

「そうね。でもそうはならなかった。だから一つ言っておくわ。誰かを縛るような女にはなりたくないからね。私の事は忘れて、幸せになって」

 

そして世界を守るため、達哉の様に理の様に、罪と罰を背負って。

彼女は・・・

 

『さて、ゲームクリアおめでとう。ではリザルトだ。次はそこで決めるとしよう』

 

それでも影は彼女を逃がしはしない。

演目の途中で死ぬのならそのまま死なすが。

演目をやり遂げるべく死ぬのなら話は別だ。彼女がその心の臓腑に刃を突き立て絶命する瞬間に介入し。

刃をどけて邪ンヌが存在していた宇宙から取り寄せた全く同一の偽物にすり替えて置き。

白痴との接続を切断して結末の未来へと飛ばす。

それに乗じてまた視点が変わる。

 

 

 

 

 

世界は崩れ行き、少女が底で嘆き哭く

 

 

 

 

 

 

そこは眼下に地球が広がる神殿のような場所だった。エデンと呼ばれる宇宙船内部である

そこに達哉の呼び出したサタンと同じ姿ではある物の。それより遥かに強大な者が全身から血を流し倒れ伏す。

その裁くものと対峙するのは。ジャンヌ・オルタとアレフだった。

彼等の周りには仲魔だったものの遺骸が散乱している。

それだけの戦いだったのだ。

倒れたサタンは頭部を上げ残った右目でジャンヌを見て最後の問いを投げる。

 

「ジャンヌ・・・愚かな少女よ・・・陰の駒よ・・・汝の選んだ道には断崖しかない・・・さきにはなにもないのだ・・・」

「五月蠅い。」

「その強さは剃刀の如き物・・・。過去。答えを出した者たちへの懺悔の念で立っているものでしかない。故に過去に捕らわれ楽園を壊し秩序に属せず、かと言って混沌に身をゆだねることも無ければ・・・その果て・・・秩序も混沌もない先を知って折れることになるだろう」

「・・・」

「故に我は問わん。汝、真なる混沌の聖女よ、我を倒し、楽園を出て、荒野に踏み出し何処へと行く?」

 

もうジャンヌ・オルタはどこに行きたいのかわからなかった。

ただ良きところに行きたいと思う事しかできず、回答を拒むように或いは事実から目を背けるように

 

「黙れ」

 

刃を振り下ろすそして。最もその先はノイズが酷かった。

聖四文字に挑み、彼らは勝利したその先には何もなかった。

 

「アレフ・・・?」

「お前・・・ジャンヌ? ・・・いや俺はなんといった?」

 

そして気づけば現代。担当教師の見舞いついでに代々木公園を通った時である。

通りすがったルポライターの姿に戦友の姿を見て呆然と呟き。

彼もまたジャンヌの名を言って。

世界は受胎へと入る。

 

その後は友人の間薙シンと共にボルテクス界を彷徨い、彼を追って。

その真実を知り、親友の二人を探すために奔走しつつ。

何もかもを殺した後無明の地で彼らは・・・・

 

「だが混沌の悪魔。魔人の極致は二人もいらない」

「――――――」

「故に殺し合え」

 

まるで薄明の闇が晴れ切らない地平の彼方で修羅と聖女は向き合う

 

「――――変わらないのね」

「ああ変わらない。俺は止まらない、神は存在する価値なんて無いだろう。俺の理念は人生と言う類は上位者と言う介入者が居ないからこそあらゆる思想は許され人生は醜くとも肯定されるべきだと考えている。明星? 聖四文字? 大いなる意志? いらねぇよ」

「・・・そう。だったら、私は縛り付けてでもアンタを止める!!」

「そこをどけジャンヌゥ!!」

 

 

拳と剣が交差し絆は此処に砕け散った

 

 

 

そして・・・

 

 

その後の物語も絶望しか翳さず。

彼女は過去、自分自身が否定した物になり下がり浮上する。

その道中、オリジナルの行った聖杯戦争の記憶を見せられた。

 

「どうだね? それが君のオリジナルの在り方だ。比較し自分自身を確立させたと確信させるには良いだろう?」

 

それは適当に座から聖杯戦争中のジャンヌの記憶をダウンロードし、第三者視点でジャンヌ・オルタに見せただけだ。

此処まで来て、ジャンヌ・オルタがオリジナルとどう違うのかを検証する為の物。

無論余計なお世話だと、ジャンヌ・オルタはズタボロになった肉体を引きずって立ち上がる。

 

「お前が望んだことだ。本当の確立した己が欲しい。本物の憎悪が欲しいとお前は願い。僕はそれを叶えてあげただけだ。どうだ? 自分自身を確立し本物の憎悪を抱いた気分は?」

 

そういって影は祝福と嘲りを含んだ笑みを浮かべ。

さらに追撃とばかりに映像を投影する。

 

「ああそうだ。君には悔いがあったね。それも叶えてあげたよ」

「なにを・・・」

「周防達哉はここに来ている」

 

映像が投影される。

疲労困憊の様子で騎士王を相手に鉄パイプとペルソナを振う彼の姿がだ。

 

「ア、なんで・・・」

「ククク・・・奴は僕の玩具さ。奴の処遇を決めるのもまた私でありフィレモンの領分だ。私たちが目指すのは人類の進化。それを叶えるなら再度登板させるのも道理だろう?」

 

周防達哉はニャルラトホテプに魅入られている。

故に使えるなら再登板されるというのは当然だった。

 

「理も悠も蓮も失敗だった。ワールドやユニヴァースにまで至ったのは良いがそこより先に行けない。アザトースを追い返すだけでは大いなる意志、さらに言えば人間自ら生み出した我が同胞たるシュバルツバースは打倒し得ない。我等が選定した物で唯一、コトワリを成したは彼、そう周防達哉だけなのだ。凡人こそ超人に至る切符・・・よく言ったものだよ、特別であるゆえに彼らは一般人認識の先へと行けない」

「―――――――・・・・うな」

「クッ、なんだ? なんといっているんだい? 負け犬くん? 人の聴力には限界があるんだぜ? もっと大きな声で言ってくれないとね」

「彼らを嗤うんじゃない! この腐れ野郎ガァ!!」

 

ジャンヌ・オルタの絶叫と共に彼女の心臓部から漆黒の杭が突き出る。

 

「ペルソナァ!!」

 

左手には釵状の捻じれた刀身が特徴的な刺突短剣、右手には身丈に匹敵する巨大な十字架の様な特大剣を呼び出し躍りかかる。

炸裂する剣閃はすさまじく速いが。

 

「フハッ」

 

鉄と鉄が歪に噛み合うような音と共に必殺の二刀が受け止められる。

神霊にですら通じ得る魔剣がだ。がしかし世に絶対がないのは知っている。

それでも無数の連撃を放つ、共に捌き切らなければ一手一手が必殺として機能する刃の本流。

だが。

 

「ククク」

「ッ~」

「ハハハハハハハッ!!」

 

影は嗤いながら未来でも見えているかのように片手の拳銃で怒涛の連撃を捌き切って見せる。

嘲笑が響くほどに刃を振う速度は速くなっていくが、動きが単調になり。

拳銃のトリガーガードと銃身がペルソナの刀身と接触し噛み合い火花を散らすと同時に。

ガラスが砕ける様な音共にジャンヌ・オルタのペルソナが砕けた

 

「え・・・はっ?」

 

いついかなる相手であろうと、砕けることがなかった己がペルソナを砕けれて呆然とする

そうやっている間に、ジャンヌオルタの顔面を少年が鷲掴みにしそのまま、アギを放ち吹っ飛ばす。

 

「ぐッがァ!?」

 

床を転がりながら何とか起きつつ、それでも戦闘続行を選択。

腰の鞘に収まっていたロングソードを引き抜き、弱々しく立ち上がる。

あいも変わらず影の表情は笑みだけだ。

 

「なぜと・・・言った表情だね? そのペルソナは私が貸したものだ。自己確立を明確に終了していた罪と罰 そして死の行進曲の頃のお前からは奪えないけれど。人類の総体の悍ましさを知って影に身をゆだねた今の君から取り上げることは実に容易い」

 

罪と罰、死の行進曲の頃の強さがあれば、ニャルラトホテプの取り上げにも対抗し、取り上げを防ぐことは出来た。

だが人類の悍ましさを知って幾多の闘争を乗り越えて、友情の為に友情すらかなぐり捨て摩耗した彼女の心ではそれを防ぐことが出来なかった。

 

「そも本当に実力を確立しているならば・・・こんなものがなくとも問題ないだろう?」

 

だが本当に自己と実力を確立しているならば問題ないはずだとニャルラトホテプは嗤いながら。

その身をカスミの様に消え失せさせていく

 

 

「今度こそ救ってやると良い。ククク・・・」

「ニャルラトホテプ」

 

剣を杖に立ち上がり。おぼつかない足で躍りかかるが。

まさしく霞を切るが如し、振るわれる剣は虚空を切るのみ。

 

「それとも私に挑むか? それもいいだろう」

「ニャルラトホテプゥッ!!」

「くくく、いい塩梅だ。祝福しよう、逆襲劇を奏でるというのなら、ぞんぶんに奏でるがいい!」

「ニャルラトホテプゥゥウウウウウウ!!」

「舞台は用意してやったのだ!! そこの男を使い、私が張った結界を使いカルデアを滅ぼせた後に。自力で人類を滅ぼせたならば。直々に私が相手をしてやろう!! フハッ、フハハハハハハ!!」

「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

叫びは邪神に届かず。

ただただ彼の女は――――――――

 

 

 

 

 

世界はすでになく。冥府の底で積み重なった棺を見て少女は全てを憎んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さしもの惨い事実にアタランテもヴラドも呆然とする。

周防達哉は哀れな子とはジャンヌ・オルタから聞かされていたことだ。

影に嬲られ一人孤独に堕ちたのだと。

簡略すぎる概略故に、自分たちと同じような被害者だと思っていた。

それどころではない罪と罰。

そして孤独の果てを歩き彼は贖罪し此処に来たのだということを理解し。

同時にジャンヌ・オルタがなぜこうも矛盾し破綻寸前でも走り続けているのかを知る。

彼女も地獄の中で藻掻いて抗ってきたのだと。

だというのに自分たちは何をしていた? なんと言った? どう縋った?

 

そう考えている間にも下降

二人がたどり着いた先には。

血みどろの泉で幼子が上から落ちてくる人形の様なものを、水面に立って沈んで行くソレを引っ張り上げようとしている

幼子だけは水面から下には行けず。

水面の下の底には亡者の様なものが蠢き沈んで行く人形を貪っていた。

 

「達哉・・・理・・・アイギス・・・悠・・・足立・・・蓮・・・双葉・・・ショウ・・・ゆりこ・・・パスカル・・・アレフ・・・シン・・・千晶・・・フリン・・・仁成・・・」

 

そして最早涙は流れず血涙を流しながら人の名前を呼びつつ。

残骸になった人形の様なものを必死に引き上げようとして手を伸ばしては亡者たちに奪われている哀れな幼子。

彼女の両手には捥げた人形の腕。

その幼子はまさしく、ジャンヌ・オルタだった。

 

「ここは?」

「おや珍しい、いずれせよ初めての巡礼者だ。歓迎するよ」

 

そしてそんな、ジャンヌ・オルタの背後に居る。

右手にはタクトを握り。腰まで伸ばした黒艶の髪の毛。

病人のように白い肌、人形のように悍ましくクリエイトでもされたかのような美しい様相を呈する絶世の美少女である者の。

その両目の瞳は黄金色に染まり、顔は嘲嗤うが如き皮肉に歪んでいる。

 

「誰だ貴様」

 

ヴラドが槍を取り出し突き付ける。

何故なら異常なレベルで此処に馴染み、そして異常なレベルで異物感を少女から感じるからだ。

同時に武器を突きつけこそしたが。

武人としての感が告げてくる

 

―殺傷不可能 根絶不可能 殲滅不可能 抹消不可能―

 

絶対的絶望がそこに居るのだと。

そんなヴラドとアタランテを他所に少女は笑みを浮かべて名乗る。

 

「ああ、この貌では初めてだったかな? 私はソーン、妄執と執着を無残に嗤う者だよ。本来なら第二特異点担当だったんだけれどね、上手くいきすぎて今は第一特異点担当の補佐さ」

 

そこまで言われて気付く、それは姿かたちこそ違うとはいえ。自分たちの破滅を致命的な物にした存在と同じ気配。

 

「貴様が」

「ククッ、今気づいた? 相も変わらず遅すぎる思考だ。そして私に構っていていいのかな? ここはパレス、或いはダンジョン、さてこの宇宙風に言うのであるなら君たちにもわかりやすいかな? 歪んだ現実認識という心像風景」

「それがどうした!!」

「だからさぁ、そこにいる彼女が本当の人格だよ、いつものように取り繕っている者とは違う」

 

影が嘲笑いつつ解説する。

元来はこんな悍ましいものではなかった。だが幾重にも叩きつけられた結末によって歪み切った認知上の世界だ。

ダンジョン、パレスなどと色々呼び名はあるけれど、此処で言うならこういうべきだろう「心像風景」と

この地獄的光景が彼女の認識なのだ。

そして、アタランテとヴラドの服の裾を引っ張る存在が一人。

即ち先ほどから奇跡の残骸になった人形を助けようとしていた幼子。

ジャンヌ・オルタが血涙で真っ赤に染めたボロ衣を着こみそこに立ち二人を見上げていた。

 

「お願いします、お願いします、お願いします。私なんてどうなってもいいですから。おかされても、火あぶりにされても、首をくくられても良いですから。助けてください彼らを。お願いしますお願いしますお願いします」

「――――――――」

「本物の彼女だ。ほら助けてあげなよ、哀れみで言えばあの水子と一緒だよ」

 

アタランテの背後には影が居る。

そして言った。

助けてやれよ、今度ばかりは誰も邪魔をしないと。

 

「・・・・」

 

どうやってだ。

一般教養の少ないアタランテが。彼女を救うのは無理だ。

なんせ当事者でもなければ力もない。

自慢の弓の腕なぞ、彼女の助けにはなれない。

敵は存在せず。ただ幼子が沈んで逝った仲間たちを助けてくれと懇願しているなら。

それらを助けられる知恵と長い手が必要だ。

その両方とも、アタランテにはない。

ヴラドもまた知らない。彼もまた戦いに明け暮れた者ゆえに。

 

「存分に救え。もっとも、ヴラド、君は民衆を守りたいと謳いながら実際は虐殺の野を築くしか能のない頭で救済を悟らせる頓智がひねり出せるのだったら。そしてアタランテ、その弓を番え矢を放ち人を殺すだけが上手いお前に伸ばせる手があればの話だけどね」

 

生前の努力の過程からして間違っていると。

無論、武を学ぶことがではない。

古代ギリシャは弱者が生きていけるほど甘い場所ではない。

だが子供らを助けたいのなら、学を付ける必要があった。

だが磨いたのは弓の腕という人殺しの技術。人を殺せる技術での救いは一瞬の救いにしかならない。

本当の救いを与えたくば学問も収める必要があった。

みなしごたちを救うということは保護し暖かさを教え知恵を授け明日へと進む力を与えることだから。

故に武だけでは少ない。救えないのだ。

 

「だから言っただろう? 君たちはやりたいこととやるべき努力をはき違えた。故に永劫取り逃がすのだ。救いたい相手をね」

 

故に彼女を救うことは出来ない。

いま自分よりも彼らを救ってほしいという彼女の願いを叶えられない。

知識も無ければ伸ばす手すらない。

第一に、アタランテもヴラドもすでにカルデアの敵だ。

救いたい救いたい救いたいと渇望し手を伸ばす相手をすでに敵に回している。

そして風景が変わる。

 

「許さない―――――――」

 

泉が燃える、炎が上がる、世界が壊死する。

他者を憎み己を間でも憎む、世界を憎み人を憎む。

彼等は手を伸ばし光を掲げたと追うのに。

民衆はそれを貪り無駄に浪費し自滅したのだ。

 

「許せるか―――――――――――」

 

アタランテが振り向く。

来て居る衣類は違う。だが確かにジャンヌ・オルタはそこに居る。

人類愛なぞなく。ただただ滅ぼしてやるという怨念の塊がそこに居た。

 

「あの時、私は答えられなかった。だから今答えましょう。」

 

試す者に問われ、彼女はかつて答えられなかった。

何処に行くのかを。

 

「屍を積み上げ丘を作ろう。血を絞り河を作ろう。その果てに自分の首を飛ばし汚濁に塗れた世界を一新する。その果ての大いなる意志の観測も、影の嘲笑もない無明の世界を作ろう。」

 

無論、彼女自身も言葉に出した通り彼女は無明にはたどり着けない故に。

 

「その一歩手前、屍山血河。殺戮の丘に一人立つ。」

 

何もかもを殺した殺戮の丘に一人立とうと。

その憎悪が二人に流れ込んできた。

まるで鉄砲水や大津波の如き憎悪の本流に溺れかける。

 

「これ・・・は!?」

「彼女が個人で抱く憎悪だ。さぁ存分に救えよ。彼女もまた人類の被害者にして。オメラスの牢に閉じ込められた哀れな幼子なのだから。英雄ならばこの憎悪の果てに居る彼女を説得して見せろよ」

 

ケラケラと笑って影は飲み込まれていく二人を見届けながら思う

 

「さて此方での調整は完了と・・・彼らも望んだものに成れたのだから良しとしよう、戦力は五分五分。であるなら」

 

彼女の憎悪に飲まれたが最後、霊基ごと汚染され変質されるだろう。

白痴に頼らず、ペルソナ使いでありながらパレスを持つ女の憎悪は伊達ではないのだ。

それらをしり目に次の手を考える。

元々、ジャンヌ・オルタは過去を取り戻し切っていない。

故に本来の力を発揮できない。

がしかし出力不足になったおかげで逆に冷静に憎悪に濡れている故問題なし。

多少技量を取り戻しいい勝負をしてくれるだろうと思う。

が数が数だがそれも問題ない。

その為に二人の望みを叶える形で夢を繋ぎ強固なラインを形成したのだ。

獣的、あるいは怪物的思考に堕ちるだろうが障害物としては上々。

 

「サプライズにジルでも狂わせておくか、あの時の再現には丁度良い、カルデアも学習できて今なら修正も楽だろうからね」

 

人理的にも、あとで狂わせるより”今”狂わせた方が手順を踏まなくて済むとのこと。

であるなら影は説得する手間が省けたとばかりに嗤う。

 

「須藤・・・須藤竜也、聞こえているな? もう我慢しなくてもいいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャハ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安全地帯などどこにも存在しない。

フランスの最後の都市に紛れていた魔影が浮上を開始した。

 

 

 

 





闇夜のドレス、反射なのか、無効化してから500固定なのかはっきりしてくれぇ!!
攻略サイトやらWikiごとに記載が違うんですけどぉ!?
とまぁ本作では無効化してから500ダメージを採用しています。
なので一度無効化する以上、貫通スキルは通るとしました!!
以上、閉廷!!

貫通はP2の頃に習得済み。
邪ンヌ、初期ペルソナの習得スキルは知っちゃかめっちゃか過ぎて戦力にならない。バグ技使わないとろくに戦えないという哀しみ背負ったペルソナ。
後期型は物理と物理補助オンリーとかいう超脳筋使用
P3の頃にキタローのペルソナの複数運用から後期型と初期型の二刀流という現在の形になる
なお固有スキルを習得するのはメガテンⅢ終盤。
チートもりもりに見えるけど、実際は邪ンヌが思考錯誤と鍛錬で磨き上げた地力と技術があってこそのペルソナです。
詳細は第一特異点終了後に記載します





地獄の釜の底 メガテン界の闇を見たアタランテ&ヴラドSAN値チェック回
邪ンヌがどんな悲劇を這いずって来たのかを知って。
さらに達哉がどのような場所で精神すり減らしながら生きていたかを知る

邪ンヌは裏で必死に動いて原作報われない勢を救ったりとかしているけど、必要以上にラスボスやらラスボス周りの人を追い詰めたから、残当気味に難度がオートで最大値になるというね
足立は邪ンヌが手を伸ばして引き釣り上げて、そこから番長含む堂島家の皆さんが救ったけれど。そこで足立が邪ンヌダンジョンで世界の真実を知って、結局現実とか糞じゃねぇか! もっと楽でいいんだよ!となった足立がイザナミと契約、ラスボス化する。
もう一人の方のトリックスターは早期にオカルト絡みと感付いた邪ンヌにターミネーターされた挙句、同じような境遇ながら邪ンヌの方が生き方も生き様も上位互換と知って発狂。東京がカオスに!!
メンタルカウセラーは、京極リスペクトした一度でも考えたら負けの論法を邪ンヌに吹っ掛けられ論破されボコボコに。結果白痴が明確な答えを持つ邪ンヌに接続先変更。P5Rラスボス邪ンヌと言う地獄絵図


オマケ
メガテンVRの実情

ニャル「wwww」
閣下「ニャル次の盤面つくっから集合ってなにやってんの?」
ニャル「いやね、我々が新規参入した世界があるじゃん? あそこでたっちゃん育成計画&ヒロイン育成計画やってたらさ。面白い玩具見つけてね、アマラ経路の保存データにそいつ放り込んで楽しんでんの」
閣下「おまッえwww 相変わらずえげつないなぁ、私も見てもいい?」
ニャル「いいよ」
四文字「私も気になります!! 見ても?」
ニャル「お前もかい、つーか閣下との戦争はどうしたよ」
四文字「いまオフシーズンだからね、それはそれこれはこれよ」
ニャル「OK、じゃ映像を視覚投影するね」
ニャル&四文字&閣下「「「wwwwwwwwwwww」」」
閣下「何コイツ、面白ww、今後の成長を期待して私の権限でメガテンⅢとDSJにGOだ!!」
四文字「じゃ私の権限でメガテンⅠとⅡにⅣにもGOだwwww」
ニャル&閣下&四文字「「「wwwwwwwww」」」

邪ンヌ「クソがぁ!!」






さて次回はジャンヌとのコミュ回を少しやって電波強襲回ことティエール市内地戦です
そして近づく分水領・・・・ここで運命が決まる。


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十八節 「魔影浮上」

軍法会議でも何でも受けてやる。
現場にもいもしねぇで、ガタガタ言うんじゃねぇっ!!
黙ってろ・・・


ゴジラ FINAL WARS より抜粋


『戦闘終了、お疲れ様です。先輩』

『ふぅ・・・なんとかなったよ・・・』

 

ノイズ交じりの映像。ロマニの瞳に写っているのは達哉たちではなく、彼が知っていて知らぬはずの誰か。

彼等はジャンヌ・オルタと交戦し一息ついている。

だがしかし、それはロマニの知る現実とは違っていた。

ロマニの知る、ジャンヌ・オルタは自分自身が贋作であることを知っているし、振る舞いも憎悪に濡れていて阿頼耶の怪物と言わんばかりであるし。

火力からして違うのである。

第一に彼らが安堵しているような状況ではすでにない。

何故なら既にロマニの知る現実ではティエールの間近で戦端が開かれ、地獄の露呈を呈していたからである。

 

『ドクター? どうかした?』

 

少年の貌にはノイズが掛かって見えない。

だが思い出さなければならないような気がして悪寒が脳を掻きむしり。

 

「――――――――――――!?」

 

ロマニは跳ねるように目を覚ました。

視界の先には慌ただしく動く職員たちが居る。

そしてその中には相変わらず禁煙だというのに煙草をくわえつつキビキビと指揮を執るアマネの姿があった。

 

「ロマニ。お疲れ」

 

そこにダヴィンチがコーヒーカップを持ってやってくる。

 

「・・・僕寝てた?」

「寝落ちしてたからね。一応起そうとはしたんだが、アマネに止められてね、曰く”必要以上に隠れてオーバーワークしている奴は咄嗟の時に動けないから寝かせて置け”ってね」

 

そう言いつつ苦笑しながら、ダヴィンチは珈琲の入ったマグカップをロマニの前に置く。

芳醇な香りがロマニの鼻孔を擽った。

明らかにインスタントでは出せぬ香りである。

 

「これ、インスタントじゃないよね?」

「所長の私物、昨日が昨日だから、気付け代わりに皆に出しておけって指示が出てね」

 

昨日はどこもかしこも慌ただしかったし誰もが死線を通った。

士気の維持のために、スタッフ各員にオルガマリーが私物の珈琲豆を出す様にダヴィンチに今朝早く指示が出ていたのである。

そしてロマニは珈琲を啜りつつ一言。

 

「・・・アマネには叶わないなぁ」

「元米国の非正規作戦群の長だぜ? それこそなんちゃって的な秘密部隊じゃなくて公表も存在も隠匿されている裏のマジものの元長だよ? 魔術師相手に銃火器と筋肉と技術で対テロ戦闘やってきた女傑の目を欺くのは不可能だよ」

 

ロマニがオーバーワークを無理したうえでやっているのはばれていた。

アマネ的にもメディカルスタッフの頭脳であるロマニに現状倒られてはたまったものではないとして。

ダヴィンチに寝かせておくように指示を出していた。

文字通り彼が倒れたら医療部門が機能停止する故にである。

それに現場の医療指示と監督という作業もある。何度も言うが魔術抜きの医療も必要になる可能性も高いため。

彼に倒れられたら文字通りの詰みに近くなる故だ。

 

「それでアマネは?」

「彼女は戦闘情報の整理と施設修繕の臨時指揮中だ」

「彼女も人の事言えないじゃないか。」

「それでも最低限の休憩は取っているからね、ああ見えて・・・ ところで・・・ 君、様子がおかしいぞ?」

「・・・また既知感がね」

 

ロマニは冬木の時、つまり特異点ではなく、この世界に置いて行われた聖杯戦争にマリスビリーの助手として参加した時から既知感を感じるようになっていった。

今の今までは気にすることはなかった。

既知感と言っても物事を体感した時に、前にもこういうことがあったようなという物だったからだ。

あったなぁ程度ということもあり気にしていなかったのである。

此処に来るまでは、紛争地域で緊急医療や勉強で忙しく、その気疲れと思っていたからである。

だが最近、その既知感と現実認識がずれだした。

達哉と出会ってからである。

感じる既知感と現実が違い過ぎていた。

既知感で直感に感じるのは、既知感では所長は既に居ないし達哉と言う存在はいない。

冬木はあんなにスムーズに既知感では進まなかったし、第一特異点はこのような地獄じみた光景ではなかったはずである。

違和感は日に日に増加する一方だった。

 

「君の眼の影響かな・・・」

「いやもう眼は冬木の時から動いていないよ」

 

眼とは何かと当事者たちだけが分かる符号で二人は会話する。

ダヴィンチは眼が原因ではないかと言う。

ロマニは魔眼持ちだったからだ。今はとある事情でその機能を失っている

故に原因は眼ではないかという物の。

 

「いやもう眼は使えないよ・・・」

 

ロマニは眼は動いていないと断言する。

 

「だが既知感はあるんだろう? 噂結界の事もあるし。達哉君や所長がペルソナ使いの影響かも知れない」

「だとしても目は関係ない、今は見れないからね、僕の目は」

 

だが既知感は警報を鳴らす様に事あるごとに襲い掛かってくる。

それは現在進行形で体感する現実とほぼ同時のリアルタイムにだ。

未来予知の類ではないので、本当に関係が無いのだ。

 

「とすると・・・ニャルラトホテプか?」

「かもしれない」

 

既知感の正体は分からない。

誰がどう関与しているのかも分からないのだからといっても。

影が居たらこう言うだろう。

 

―もう遅い、分水領は超えている―と。

 

現に人理は焼かれているのだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議は糾弾していた。

 

「だから、アンタたちが付いてきても、損にしかならないの!」

「君たちだけで確実に勝てる保証があるのかね!?」

「この期に及んで、安全策なんて通用しないよ!! 有り金全部ベットして勝つか死ぬかの瀬戸際なのよ!!」

 

人理定礎は先の会戦でさらに悪化。

これ以上の犠牲者が出ればどうにかなるか分からない状況である。

故に打って出るしかないという事をオルガマリーはフランス上層部に伝えた。

特攻するのは自分たちだけだから潔く送り出してくれるだろうと思えば。

まさかの引き止めである。

フランス軍は事実上の壊滅判定だ。

現代的尺度で言えばそうである。あとぶっちゃけるなら邪魔だった。

下級悪魔であればどうにかなるもののその上となるとペルソナ使いの支援とサーヴァントの支援が必要になる。

先の戦闘ではカルデアのラインとアマデウスのラインがあったおかげでそれも出来たが。

アマデウスが脱落した以上、それも不可能だ。

そしてフランス上層部は先の戦闘でリッシュモンとジル元帥以外は日和ったのである。要するに死にたくないという奴だ。

故に奴らに対抗できるカルデアを手元に意地でも置いておきたいという奴である。

 

「これが会議は踊るという奴かよ」

 

余りの醜態ぶりにクーフーリンもため息を吐く。

 

「俺も初めてだな、兄さんならもう何度も見ているだろうし当事者だっただろう、親父も・・・」

 

兄の克哉は刑事であり父も刑事である。

無論、そこにはいろいろなこういった会議やら派閥争いを行いつつ仕事と正義を両立してきたのだろうと達哉は察し。

クーフーリンも同意しつつ溜息をついた。

 

「因果は巡るってやつだな・・・マシュも来たいと言っていったが連れてこなくて正解だったな」

「ああ、止めになるぞこれは。」

 

先の戦闘で殺し殺されの本質に触れた後に会議は踊るなんて見せられれば。

今のマシュのメンタルは粉々になるだろう。

達哉もかつてはそうだったが、克哉周りの事を知ってからは今は違う。

そうこうする間にも会議の議題は白熱し、同時にオルガマリーが押しつつあった。

加えて。通信越しにではあるものの。

オルガマリーの次に政治が理解できるであろうアマネも参戦。

伊達に米国非正規作戦群を率いて西へ東にと、世界の政治情勢及び、均衡を担う薄汚れた仕事という名の殺しをこなしてきていないのだ。

 

「では。方面に逃げたカーミラはどうするのかね?」

 

軍の高官の一人がそういう。

カーミラはジャンヌ・オルタの居城である、オルレアンとは違う方向である、ラ・シャリテに逃走したのである。

エリザベート曰く『まぁあんな怪物に付き従っていたのって、力がもらえるからと恐怖心からでしょ』とのこと。

仕留めるには至らなかったが大幅に力を削ぎ落し瀕死にまでは追い込んだのである。

恐怖の重りがなくなったということもあって。逃走したのはエリザベートには丸わかりだった。

故に、カルデアにとってカーミラは邪魔な駒である。

目の上のたん瘤と言ってもいい。

もう戦力を分散する余裕はない。

かといってカーミラを無視しオルレアンに殴り込めば、カーミラがその隙を嬉々として突いて

ティエールに殴り込むのは道理である。

であれば、カーミラを張り倒しラ・シャリテを経由してオルレアンに殴り込むかと言われれば

不可能である。戦術および戦略を管理するアマネの算出にダヴィンチも同意したくらいに現状リソースが足りていない。

噂結界の効力でジャンヌがジャンヌ・オルタの力と同期しているから。

敵の状態もおのずと図れるが、ジャンヌ曰く。あの大爆発を起こしても、ジャンヌ・オルタは二割の出力を維持しているとのことだ。

如何に先ほどの戦闘のレベルは無理とはいえ、先ほどの戦いの二割でも十分脅威であることは既に分かり切っている。

故にカーミラを張り倒しながら、ジャンヌ・オルタのいる城塞化しているであろうオルレアンに殴り込む余裕はない。

二割であっても、逆に出力低下の影響で。制御が楽になり冷静さを取り戻し余裕のある、ジャンヌ・オルタとか悪夢である。

という訳で。もうカルデア総出で袋叩きにするしかないわけで。

どうあがいてもカーミラに構っている余力はない。

ぐっと痛い所を突かれたとばかりにオルガマリーが口をつぐみ。

それに代わって、アマネが非情な判断を言おうとした時である。

 

「あーそれなら私が何とかするわ」

 

エリザベートが右手を上げつつどうにかすると言ったのだ。

 

「アレ一応未来の私だし、私の手で決着付けておきたい。だったら、責任取るって意味でも私が適任でしょ?」

 

どうあがいても、カーミラは未来のエリザベートであり同一人物である。

故に今回の一件の責任の一端を取るということでの発現だった。

 

「だが、君一人で、あの吸血鬼を相手取るつもりかね」

「そうよ、ぶっちゃけフランス軍は邪魔、無駄に犠牲が増えるだけ、だから私一人で行く」

「でもエリザベート」

「・・・今の私にはこの位しかできないわ、コーチも居なくなっちゃったし、城も使い潰しちゃったもの・・・だったら未来の私を意地でも食い止めるわ」

 

エリザベートの手札はほぼ無いに等しい、アマデウスが退場し城も使い潰した。

かと言ってオルレアンでは足を引っ張るだけだとエリザベートは考え、

決着をつける為と責任を取る為にカーミラを死ぬ気で抑えるという。

 

「策はあるのかな?」

「もちろん、未来の私だもの。どういう布陣を引いているか手に取る様に分かるわ。だから大盾を五枚重ねて連結した物を用意して頂戴」

「何をする気? エリザベート」

「なにって簡単よ、オルガマリー」

 

オルガマリーの言葉にエリザベートは苦笑しながら言う。

 

「ダイナミックエントリーよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで会議が踊ると言う状況の最中。

マシュは待機であった。

達哉もオルガマリーも止めたし。

 

『上役との会議程不毛な物もないぞ。見て気持ちのいいもんじゃないし、大人しく休んでいた方が身のためだ』

 

と。アマネが躊躇なく不毛と言いきって見せた。

 

『なぜかって表情だな。いつぞやの任務の時の会議の時、そいつらは意気揚々と机上の空論を述べた。私はリスクについて説明したが酔っぱらっているのか、聞きやしなかった。会議はそのまま終了し任務の準備をしていたら。現地工作員は諜報活動中に敵地のど真ん中で気軽にピザを食べようとして、ピザ屋に化けたテロリストに取っ捕まり、救出作戦まで同時並行で行う羽目になった。現場とディスクワークの連中じゃ、それだけ現実への思考の差異が発生する。間違いなく今回は荒れるというのが私の経験則上導き出せるものだ。』

 

諜報員が取っ捕まりCIAの考えた理想の計画(笑)はご破算。

使い捨ての非正規部隊とはいえ隠匿性の高く難度は非常に高い任務であったため、

ブチ切れた参謀本部が指揮権を奪取。

作戦該当区に着くころには作戦内容も参謀とCIAの間で行われた暗闘で二転三転し、すっかり別物になっていたことを例に上げつつ見たって気持ちのいい物ではないし、そういう類の交渉はオルガマリーに任せるべきと押し切られてしまったのだ。

故にマシュは手持ち沙汰という訳でも無かったりする。

 

「うーん、やっぱり皆気落ちしちゃっているわね」

 

マリー・アントワネットも待機組であった。

というより、彼女自身からカルデアにライン経由でマシュのメンタルケアの打診があったため。

意図的に待機に入ったと言っても過言ではない。

 

「あのマリーさん」

「なぁに」

「会議に参加しなくてよかったんですか?」

「いいのよ、私政治に関しては失点だらけの落第点だしね」

「えっ? ええ・・・」

 

自虐的にマリー・アントワネットはそう言った。

マシュは困惑気味に驚く物の、

おかしな話ではない。現に彼女は失敗した側の人間である。

第一、結果論になるが彼女が政治の怪物だったら革命なんぞ起きなかった。

もっともどうあがいても血は流れたが、それは無き可能性とやらで、此処で語る事ではない。

 

「だってそうでしょ? ぶっちゃけ私なんかよりオルガちゃんの方が数倍上手くできるわよ」

「そうなんですか?」

「そうよ。私もオルガちゃんくらいできればなぁって思うもの。でも好き好んで身に着けた技能じゃないから、私が羨ましがっていたのは秘密にしてね」

 

そんなこともあって、隣の芝は青いという奴である。

オルガマリーとて好き好んで政治手腕を上げたわけではない。

時計塔の魔術師の特色として貴族主義が蔓延しているため、ロードの跡取りとなれば政治的手腕は生きるだけでも必須課題である。

そして所長にもなればそんな魑魅魍魎蔓延る政治界にも入らなきゃいけないわけで。

カルデア維持のために必死に勉強し戦ってきて三年もカルデアを維持したのだ。

そこにさらに若干吹っ切れたということも相まって十全に発揮される政治手腕は本物である。

だがやはり好き好んで身につけたものではないので、

羨ましがられてもストレスにしかならない。

 

「だから、ジャパン的に言うなら餅は餅屋って言うじゃない、人間ですものできない事を無理しようとすると失敗するのは眼に見えているわ。」

 

マリー・アントワネットは苦笑しつつ言う。

無理をした結果があの様だったからだ。

だが信頼できる政治手腕の高い味方があの時代に居なかったのも事実であった。

ドコモかしこも腐っていたから。

それをどうにかしようとして抗いそしてと言う奴である。

だから口が裂けてもマリー・アントワネットは言わなかった。

それは重荷だからだ。

 

―なぜもっと早く出会えなかった―

 

行ってしまえば最後だ。

自分たちの重荷を背負わせる行為に他ならない故に飲み込む。

本当なら将来ある若者の為。自分たちで終わらせたかったのが、マリー・アントワネットの本音だからだ。

ただでさえ頼っている現状でこれ以上の無様をさらけ出すわけには行かなかった。

同時に

 

―なぜ今できて生前に、そう言うことが出来なかったのか―

 

そう思ってしまう。

所謂所の努力しなかった部分への後悔だ。

勉強やらなんやらをちゃんと理解していればという奴である。

 

「重い話になっちゃったわね。でもそうやって生きていくしかないのだと私は思う」

「なぜです?」

「生きる上で悩むだとか後悔はセットなのよ。それが人間でいう薄汚さやら浅ましさとかいう人もいるけれどね。それが人間が生きる上で必須なの。後悔とかなかったら学習できないでしょう?」

「・・・」

「だからゆっくり考えて良いの。その為のフォローをするのが私達大人の役目だから」

「ですが早くできないと・・・・皆が・・・所長が・・・先輩が困ってしまいます」

「マシュちゃん、アナタは十分にやってるわ」

 

マシュは力の無さを嘆いているが、マリー・アントワネットはそうじゃないと優しく諭す。

あのジャンヌ・オルタの攻撃から達哉を守り抜いた実績もあるではないかと。

 

「そうでしょうか・・・」

「そうよ、きっとじゃなくて絶対に。ジャンヌじゃ無理だったわ。無論私でも無理よ。」

 

後から戦闘データを拝見した時にマリー・アントワネットも顔を青ざめさせた。

ジャンヌ・オルタの攻撃はごり押しのように見えて、実際合理的だったからだ。

達哉一人では詰まされているのは言うまでもなく。

達哉が別の存在と組んだ場合は文字通りの焼け石に水だった。

クーフーリンならばマシュと同じくらいに達哉との連携が出来るが。

宗矩では如何に優れた魔業を持っていようとあの火力の前には相性が悪すぎる。

長可や書文も同様で、マリー・アントワネットも防御や守護には秀でているが技量と火力で押し込まれるのは眼に見えていた。

盾を持つマシュでなければ押し切られていたことは明白だった。

宗矩と書文の分析でもそう出ている。

出力に引き摺られ、挙句好みの得物が無いがゆえにああいうごり押しだったが。

それでもあの技量は異常だったと。

寧ろマシュの事を褒めたたえていたのだから。

 

「でもマリーさんはペルソナを使えます」

「無理よ。生前でもね。達哉くんの様に高位のペルソナ呼び出せたわけじゃないし、宝具もマシュの盾の様に小回りが利いてしっかり受け止めるのは不可能よ」

 

マリー・アントワネットの宝具は小回りが利かない。

広範囲に展開する物であるがゆえだ。

故に駆らなず隙を突かれこじ開けられるのは眼に見えている。

マシュでなければ駄目だったのだ。あの場所では。

 

「そうでしょうか・・・」

「そうよ!! もっと胸を張りなさい、達哉君や私たちが生きて帰ってこれたのはアナタの働きがあってこそだもの。達哉君たちも守って住民も守ったのよ」

 

あそこで達哉たちが、落ちていれば完全に天秤はジャンヌ・オルタの勝利に傾いていたのである。

達哉とマシュがジャンヌ・オルタを追い込んだ故に、現状致命傷一歩手前で済んでいるのだ。

だから。

 

「いつまでも後悔していると次に響くわ。今すぐ糧にしろとは言わない。今は保留してもいいの。気持ちの整理をするときには逃げるというのも時には必要よ」

 

だから悩んでいても仕方がない。

今それをすれば後悔に足を引っ張られ次が上手くできないからだ。

故に此処は保留、安全圏に脱するまでは考えるなと言う事でもある。

逃げるというのは確かに負の側面も大きいが、必要な時は確実あるのだ。

今のマシュの様に、極限状況下に追い込まれて無理をするという選択肢は悪手になりかねないからである。

 

「マリーさん・・・」

「という訳で達哉君やオルガマリーちゃんたちには悪いけれど、遊びに行きましょうか」

「遊びにですか?」

「リフレッシュのためによ。さぁ行くわよ」

 

そう言ってマリー・アントワネットはマシュの手を引っ張って市外へと出る。

戦略目標は達成できず。活気は幾分か下がってるし不安が蔓延している物の。

それでも人の行き来は多かった。雑踏を抜けながら青果店を見て回り。

賭場に入って、マリー・アントワネットが生前のような暴走をするのをマシュが必死で止めたり。

肉屋に向かって、マシュが現代の肉屋ということにカルチャーショックを覚えたり。

折角、噂で開いたサトミタダシに行ってみれば。

 

「現代の薬局じゃないですかぁ!!」

 

外見はそれこそなんか、ファンタジー風味の如何にもな感じであるのに。

中に入れば現代薬局そのものである。抑止力仕事しろとマシュは言いたくなったものの、

現地住民は違和感なく利用しているためもう何も言えない。

さらに薬局内で流れるソングは中世ヨーロッパ訛りがキチンと決まっている電波ソングだった。

ニャルラトホテプの影響で具現化した影響か現地住人は無意識洗脳レベルで違和感に気付いておらず普通に使っている有様である。

 

「ねぇ折角だから、今後の事も考えて買い溜めしておきましょ?」

「それもそうですね、お金もありますし」

「じゃ、マシュちゃん、案内と解説よろしくね、現代の物については専門にしていたもの以外、今一ピンとこないのよ」

「そうなんですか?」

「ええ、知識は渡されているのだけれどね」

 

知識こそ渡されているが実感が伴っていないため今一ピンとこないのが現状である。

要は説明書だけを見ているのと大差が無いからだ。

マリー・アントワネットが生前履行した物なら想像もつくのだが、現代良品はさっぱりなのである。

故に

 

「・・・マシュちゃん、このゴムってどうつかうの? 避妊具らしいけれど・・・」

「わー! わー!! 私達には必要ない物ですから!! 返してきてください!?」

 

とか

 

「すごいわねぇ、美容品がこうより取り見取りなんて。」

「私もカルデアから出たことないんで、圧巻ですね。」

「マシュちゃんは、美容品とか使わないの?」

「?? なんでです? ちゃんとした栄養管理と適度な食事にトレーニングをすれば必要ないですよね?」

「マシュちゃん」

「?? なんです」

「今の台詞、全世界の女性を敵に回すわよ」

 

とか

 

「これ一本で栄養が取れるものなの?」

「取れませんよ、胃に入れてからの吸収工程で全部とれるわけじゃありませんし。満腹感で満たされるわけじゃないので。食事の補助という側面が強いんです」

 

などとサプリの説明をしたり。

そんなこんなでレジ袋を抱えて店から二人出ていけば。

 

「マシュお姉ちゃん!!」

「マシュさん、この度はまた助けてもらってありがとうございます」

 

助けた難民の家族と再遭遇しお礼を言われたりしあっという間に夕方になっていった。

 

「ん?」

「どうしたのマシュちゃん?」

「先輩からの通信です。会議が長引きそうなので今夜は議事堂の方で寝泊まりするそうなので、セーフハウスには向かわず議事堂に来てほしいとのことです」

 

ライン連絡は達哉からであった。

会議は現在も続けられており、警備網を引き直すのも面倒なため。

議事堂の応接室を複数借りて今日は寝泊まりするとのことだった。

 

「カップ麺買っておいて正解ね。私カップ麺初めてだから、ドキドキしちゃう」

「そう言えば私もです」

「そうなの? カルデアの食事事情も結構カツカツって聴いているけれど?」

「レトルト食品が現状の主軸なので。カップ麺に手を出すところまでは行っていませんよ」

 

昨晩出されたカップ麺には手を付けておらず。

人理焼却前は食堂が機能していた為、ロマニの指示のもとに食事をとっていたし。

レフが爆破した後はレトルトであるがパウチ食品やらコンビニ弁当だった。

流石にカップ麺一辺倒という劣悪までは行っていなかったので、手を出すのは実は今日が初めてだったりするのだ。

 

「へぇ・・・普段からは食べたいと思ったことは?」

「ありますよ! 動画サイトとかで新作のカップ麺のレヴュー動画とかあがってみてみるとおいしそうだなぁって思っていましたから。」

 

そんな雑談をしつつ雑踏を抜けていく。

その時である。

 

「ヒャハ」

「!?」

 

雑踏の中で通り過ぎた男の声に、二人は驚愕し振り向く。

当たり前だ。忘れもしない須藤竜也の声だったからだ。

 

「気のせいだったんでしょうか」

「いえ、気のせいじゃないわ。ペルソナが一瞬震えたし。確実に来てる」

「・・・連絡します」

「それが賢明ね。」

 

マシュはバングルを操作しライン通信で達哉とオルガマリーに須藤が来ていることを連絡し。

狙われたら溜まった物ではないと足早に議事堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議は結局、夜になるまで終わることはなかった。

カーミラの件を片づけても必死に論理武装してくるのだから当たり前だろう。

オルガマリーを筆頭にアマネ、ジル元帥、リッシュモンの説得で何とか押し切り会議は終わった形だ。

今夜は此処で休息をとって休むことになった。

帰るのも億通だからと言う理由だし、サーヴァントたちが警護をしてくれているのと。

帰って警護ラインを引き直すのも面倒という理由もあったからである。

なんせ、マシュの連絡で既に須藤がティエールの市内に潜入しているかもしれないとのことだったからだ。

今日は取りあえず、オルガマリーは答弁で。マシュはまだ戦闘の疲労が抜け切っておらず疲れているので。ロマニと達哉が説得し寝かしつけて置いた。

達哉は体力も回復していると言う事と場慣れしているということもあって正宗を腰の鞘に納めて館の警邏である。

 

「ん?」

 

そんな時である、時代が時代だ。

文明の利器では闇夜を照らしきれていない、故に通路は当たり前のように暗く。

明かりは月光だけである。

そんな通路の中で窓際にジャンヌが蹲っていった。

ジャンヌはズタボロだった。

体がではなく心がだ。

彼女は暗闇に包まれた通路をボウっと眺めて呟く。

 

「なにも出来なかった。」

 

戦端を開いて蓋を開けてみればこの様である。

カルデアは万全を喫する上で、噂結界まで使い力を底上げしてくれたというのに。

メインの交戦である対ジャンヌ・オルタ戦では達哉とマシュが行い追い詰めて。

その脇でジャンヌ自身は須藤と交戦、いいように甚振られた。

ジル戦ではエリザベートは自身の宝具すら使い潰し、クーフーリンは渾身の投擲でズタボロ。

聖人二人は己が身を顧みず道を切り開き。

カルデアのサーヴァントたちはぼろ雑巾の様になりながらも戦線を維持して見せた。

その脇で自分は何をやっていたと言われれば何も出来てはいない。

ジルの祭神の光線を防ぐことだって、マシュが居れば十分な側面もある

 

―代わりは幾らでも居る!!―

 

―マジ嗤えたぜ。聖者として本物より出来がいい贋作とかよぉ―

 

―他人におんぶにだっこなんだよ。都合よく状況が動けば都合の良い光にしがみ付いて、鳶がお揚げを掻っ攫うが如きいいとこどりじゃねぇか―

 

あの戦場でジャンヌは何もできなかった。折角付与された出力もスキルも活用できず、須藤に嬲られ結果を出せないばかりか。

ジャンヌは悪くないのだが。噂結界を活用したせいでカルデア

そして、ジャンヌ自身をベースにしたオルタは、ドンレミが燃える炎をバックに、無感動な瞳でジャンヌを見下ろし。

 

―だったら無視してもいいでしょう? どうせ何もできはしないんだから―

 

お前なんぞいなくてもどうとでもなると宣告された光景を思い浮かべ余計に気が沈む。

 

「私・・・必要なかったのかな・・・」

「違うだろそれは」

「え?」

 

ジャンヌが俯かせた顔を上げれば。

当たり前であるが達哉が居る

 

「確かに変わりは誰でもの良かったのかもしれない。けれどな、誰もやっていない、だからジャンヌが選んでやり遂げたんだろ」

「ですが・・・」

「気にしすぎだ。奴の言うのはあくまで結果論だ。やろうと思ってできれば誰も苦労はしないし、英雄なんてそもそも必要ない」

 

変わりは誰でもいる。

それはあくまで結果論だ。故に返すなら誰でも良いという割に誰もやりたがらなかったし成し遂げられなかった。

故に、達哉はジャンヌがやり遂げ成し遂げたんだろうと評する。

ごく単純で在り来たりな理論だが、現実そうなのだ。

 

「奴とその眷族は決まって、本人が隠している罪悪感や無意識下の悪意を暴き立てて、本筋と結果論を挿げ替えるのが手段の一つだ。」

 

本人が気にしていることを最悪のシュチュエーションで暴き立て。動揺したところで行動の是非を結果論で否定し挿げ替えるのがニャルラトホテプの常套手段である。

無論、それは試練と指摘の一環である。

本当に、その心と行動が真面なら、この程度の指摘で動揺する方が悪いという奴であるが。

その手段の工程の徹底した悪意と巧みな心理誘導を跳ね除けられるのは無論簡単ではない。

人生の選択においてどうしても後悔や要らぬ行動、迂闊な選択を取らずに生きるという負い目の無い人生を送るなんぞ不可能である。

英雄王にだって後悔はあるのだからだ。

それだけニャルラトホテプの誘導と誘惑と嘲笑を跳ね除けるのは簡単な事ではないのである。

 

「かと言ってそう決めつけて対峙すれば躊躇なく上げ足を取ってくるけどな」

 

無論、前もって対策を立てればその上で別アプローチを掛けてあらかじめ用意していた手段で後ろから差してくるのである。

その上で運命だったと啖呵を切って行動を検めたうえで惨い結末が決定されても立ち向かえる人間がどれほどいようか。

 

「その、なんだ。奴の言葉は正しくはないが正しい。だから言葉の上っ面を見るのではなく、言葉の問いの意味を考えればいい」

 

奴の指摘を鵜呑みにすればそれこそ破滅一直線だ。

何がダメでどうすればいいのかを考えて履行する姿勢がまず第一条件である

 

「でだ。選ぶということはそれ相応の理由があったはずだ。」

「理由なら私が神に縋ったから」

「縋る理由があったんだろう?」

「家族に見て貰いたくて」

「それも一つかもな。俺もそんなやんちゃはやった。けれどそれじゃ悪戯の範疇でおわるだろう?」

「いたずらの?」

「ああ、家族に構ってもらいたくて多少の無茶やったり、バカやったりすることは誰だってある。だが親に見てもらいたくて戦場に行く馬鹿が居るか?、いないだろ常識的に考えて・・・でだ、今聞いた限りじゃ、ジャンヌと両親の関係は致命傷までいってはいなかった。戦場に出るまではだが、だからこそ家族の理由は別だと考えろ。奴は無意識に抱える傷を引き釣り出して認識させ、さもそれが行動の決定になったと誤認させて間違わせるのが常套句だ。」

 

実の身内に追い詰められて凶行に走るという事例は多い物の。

それは両親がドクズだとかの領域である。

少なくとも表面上は家族をやれていたのだから大きな理由にはならないのだ。

暴発したところで過激な悪戯程度が関の山である。

 

「私が戦場に出なければならないと考えた状況」

「ああ、ニャルの声だろうがフィレモンの啓示だろうが 君は君自身でなければならないと思った。もっと残酷な切っ掛けがあるはずだ」

 

切っ掛けはあくまで切っ掛けでしかない。

ソレは思いつめた自分自身を背後から押す魔手のような物である。

両親に見てもらいたいからという側面は否定できないがそれでもパンチ力に欠けていた。

家族との仲はその中の小さなものであり。

故に行動に起こすに足り得る”残酷”な問題か切っ掛けがあったはずであると達哉は言う。

ジャンヌはそういわれて考える。

色褪せた青春の時代。まだ神の声が聞こえ始めた当初の原初の記憶。

百年戦争という戦争は未だ続き、国は追い詰められつつあった。

如何に暗黙の了解があって貴族や騎士は捕虜と言っても兵士はその限りではない。

彼等に保証はなく、正真正銘の命がけだったのだ。

そして戦場からドンレミを経由して各々の故郷に帰っていく兵士達。

誰もかれもが終わらない戦乱に疲れ切っていた。

そして思い出すのは。

 

「ああ」

 

近所の気のいい兄ちゃんがズタボロで帰ってきたことだ。両足に右手まで失ってどう生きればいいのかと言う状況で帰ってきたことを眼にしてだ。

兄ちゃんの家族や婚約者は絶望し、影では死んでくれればよかったと言って。

そして兄ちゃんは首をつって死んだ。

それがきっかけだった。

嫌だったのだ。何とかして終わらせたい。

だから世界を少しでも変えたい、この続く戦争を終わらせたいと願い。

何もかもを利用し走り出したのではないかと。

 

「なんで・・・どうして・・・私、忘れて・・・」

 

聖女に成りたかったわけじゃない。英雄になりたかったわけではない

それらはあくまで手段にすぎず。ただただ止めたかったのだ、百年戦争という戦争を止めたかった。

それだけだったのだ。

 

「なんで私忘れて・・・」

「・・・そう言う事もあるさ、人間なんだいつまでも覚えていられない、俺もそうだった。」

「達哉さんがですか?」

「忘れて逃げた。姉と慕った人が死んだと思い込んで友たちが居なくなって一人に成ったと思い込んで。それが辛くて忘れるという行動で逃げた。」

 

あの後少しでも舞耶の事を調べておけばああはならなかった。

逃げた結果。10年越しの再開と絆の確認という光で目を曇らされ行動の意味を考えず走った結果。

最後に後ろから差された。言葉的にも肉体的にも精神的にもである。

 

「奴の言う言葉に嘘はない。俺は俺のエゴを押し通して世界を滅ぼした大罪人だ」

「それは違う!!」

「なら聞くが。失敗に目を背けて過去を改ざんして、挙句、作り直した世界すら消しかけた人間が英雄に見えるか?」

「それは・・・」

「違うだろ・・・。でもな、それで死んで償うというのは別だろ」

「・・・」

 

死は救いである。

なんせ死ねば全部終わり、背負うべき責任もぶん投げられる最終手段。

だがそれは無責任の極みという物だ。

だから誓ったのだ。孤独の中でも生き抜く世界を再建する。

ここにきて孤独から抜け出すことになったが、同時に孤独から脱却した罪悪感で苦しむことになっている。

 

「だから此処に俺はいる、罪を背負うために過ちを糧にするために、だから君は君として清算すべきことがあるはずだ」

「清算すべき行動・・・」

「ああ、ジルに何か言いたいことがあるなら言えばいい。分からないなら誰かに聞いたっていいんだ。」

「そうでしょうか。」

「当たり前だ。過ちは拒絶する物ではなく受け入れて糧にする。それが人の特権だ」

 

世の中、完璧に間違わない奴などいない。

だから人は完全ではないから、犯した過ちを背負って糧にするしかないと

 

「立てるか?」

「はい」

 

達哉はジャンヌに手を伸ばし、ジャンヌはその手を掴み。

ゆっくりと達哉は腕を引いて彼女を立ち上がらせる。

月光が彼らを照らす。まるで英雄譚の一幕の様にだ。

それを物陰で見ていたものは、じぃっと見ていた。

 

「落ち着いたか?」

「はいすいません、達哉さんにはみっともない所お見せしてしまって・・・」

「気にするな、その代わり俺が困ってるときやカルデアの皆が困っている時は助けてくれ」

「はいっ!!」

 

達哉の言葉にひまわりのような笑顔を張んなきながらも見せて微笑むジャンヌ。

その時である、光が強ければ。影もまた濃くなるという当然の現象が起きるのは道理、故に。

 

「またそうやって縋るのかァ」

 

声がするのもまた必然であろう。閲覧者とは別の存在が物陰から具象化するように浮き出て嗤っている。

二人が振り向けば。

 

「須藤!? 貴様どうやってここに!?」

 

幾ら戦争が一時停戦状態とはいえ戦時下なのだ。

ここの警備には現在、サーヴァントたちも参加している。

潜り抜けられるはずがないのだが。

 

「電波様のお導きってやつよ。あの人が見られない物なんてねぇってのはわかってんだろぅ?」

 

ニャルラトホテプがバックに居れば話は違う。

阿頼耶識の黒であるがゆえに情報抹消しようが、気配を消そうが、改竄しようが当事者たちの知覚から警備網やら事の真実を見抜き、暴くことは可能。

故に警備の穴を吐くことなんて朝飯前という訳である。

 

「それによかったじゃねぇか。望んでいた理解者だぜ?他者に縋れない苦渋!! 立ち上がることの辛さ!! 救いたいという憤怒!!それらを共有できる理想の聖女様だァ」

 

達哉はP2という壇上に上がるにあたり誰にもすがれなかった。

主人公とは常に完璧という戯画的な認識ゆえだろうか、あるいは彼自身が意地を張れてしまう人間だったからだろうか。

達哉とジャンヌは似ている、強く意思を通せたがゆえに脆い部分を誰にも認められなかったという同類だ。

 

「スタイル良し、貌も良し。器量はまぁ磨けば光るんじゃねぇのってもんはある、野蛮な男どもに回されたこと以外は、パーフェクト美人ってなぁ世の男どもなら感涙物だろうよォ」

 

ジャンヌは美人であるしスタイルもいい、器量もジャンヌ・オルタは磨いて店主が留守の喫茶店を任せられるぐらいなのだから、光る物があるというのも嘘ではないだろう。

もっとも須藤の言いようはあからさまに挑発の色に染まっている。

故に、達哉は鯉口を切る。

 

「おいおい、まさか重ねてか? 舞耶お姉ちゃんとよぉ、まぁ似てるわな。他者に愛されたいがゆえに都合の良い女性と言う仮面をかぶってたあの女とジャンヌはそっくりだもんなぁ!! 好みに合致したようでなによりって電波も言ってるぜ!」

 

舞耶もジャンヌと似た側面があった。

戦場カメラマンだった舞耶の父は、その仕事の性質上彼女に十分な愛を注げず。

それのお陰で自分は家族から必要とされていないのではないかと言うトラウマを抱くきっかけとなった。

故に気のいいお姉さんという仮面をかぶり他者から必要とされる自分を演じて他人からの愛を求めていたという点では似ているのである。

それを知っているがゆえに、達哉は完全に刀に手をかけて疾駆した。

お前が言うなと言わんばかりに憤怒の形相でだ。

 

「アポロォ!!」

「キヒッ! アレスゥ!!」

 

そして達哉は殺意に濡れた表情で疾駆と同時に居合抜きの形で刃を走らせつつ。アポロを呼び出しゴッドハンドを発動。

須藤は達哉の斬撃を受け止めながら。

白く燃える様な髪を持ち、継接ぎだらけの古代ギリシャの鎧に身を包つつ、口と両目からは白い炎が揺蕩う様に揺れ燃え上がっている。そしてその右手には槍の様な棍棒のような歪な槍を持つ歪な武神、即ち須藤が本来所持している専用ペルソナである「アレス」が呼び出され。

アレスの持つ槍でアポロのゴッドハンドを受け止め。

衝撃が場を揺るがした。

 

 

 

 

 

 




会議は踊るよ何処までも。
幾ら追い詰められようが最善手を選べる。かっこいい大人なんて一握りと言う現実。
と言うか克哉やらパオフゥレベルの異能持ち大人が型月主人公周りに居たら話が始まらんわけで。
たっちゃんは会議の様子を見て兄がどれくらい苦労していたのかを知る。
ジャンヌは家族周りのぎくしゃくに連日撤退していく兵士やらズタボロになって帰ってくる近所のおじさんとかあんちゃん見てればああもなろうという訳で。
出来るんであれば誰でもいい分けですが決断できる人間はジャンヌしかいなかったわけで。
故に運命に選ばれた以上、やり切るほかなかった才能の有無ではないやらなければひっどいことになるから彼らはやり切ったわけで。
そりゃそんな中駆け抜ければ誰だって無自覚に精神歪むし最初の切っ掛けを忘れるよって話ですよ。


ロマニ周りの不穏もどんどん起きてきます。
感じる既知感とズレる現実。
どんどんズレていきます。


そして電波強襲、ティエール市街地防衛線始まるよ!!


とまぁそんなわけで
作者の近況としては活動報告で述べた通りです。
鬱病の再発と休職を巡って会社と口論になり止めることとなりました。
ゆっくり休養してバイトから復帰していこうかなぁと思ってます





あと電波、サバトマ使えるんだよねぇ・・・










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十九節 「魔影乱舞」

大げさな事じゃない。死はつきもの。ディズニーランドで会おう


リチャード・ラミレス


議事堂を揺るがす振動にオルガマリーはベット代わりに使っていたソファから文字通り転げ落ちて目が覚めた。

 

「いつつ・・・一体何が」

 

轟音と衝撃、迸る濃い魔力。

魔力の波長からして達哉が何かと交戦しているのは理解できた。

 

「大丈夫ですか? 所長」

 

同じ部屋で寝ていたマシュもほぼ同時に飛び起きて。

ソファから転げ落ちた所長を抱え起こす。

そして二人の身に着けているバングルの着信通知が、けたたましく鳴り響いていることに気付く。

通信に出れば、投影される画面越しにロマニは狼狽えていた。

 

「なにがあったんです?」

『須藤の奇襲だ!! 会議場を中心に悪魔も出現中で、乱闘騒ぎみたいになってる!! 今クーフーリンと森くんに宗矩は守備隊を組織して外に出ない様に戦闘中。書文とマルタは内部で出てくる中位ランクの悪魔と交戦、ゲオルギウスはパニックになっている中詰めの守衛の統率と要人と在中職員の避難作業です?!』

「なんですって?! タツヤは!?」

『達哉君はジャンヌと一緒に須藤と交戦している!! あとマリー・アントワネットとエリザベートはジル元帥を探しています!』

 

知らされたのは須藤の奇襲、それと同時に議事堂を中心に中位ランクの悪魔を部隊長とした中から下ランクの悪魔が出現。

議事堂周囲に出ない様に長可たちは守備隊を組織し議事堂に防衛線を展開。

書文とマルタは議事堂に出現した悪魔の統率個体と思われる悪魔と交戦中とのことだった。

さらに悪い知らせは重なり、議事堂に同じように詰めていたジル元帥の位置が特定できず連絡も付かないとのことである。

達哉とジャンヌは絶賛、須藤と交戦中とのことだった。

 

「なんでジル元帥との連絡が取れないのよ!」

『分からないんですよ!! 渡した礼装はこっちで確認する限り壊れた風じゃないのに、連絡が付かないんだ』

 

ジル元帥には通信用の連絡礼装を渡しておいたのは前に述べた通りである。

だがそれが壊れた様子もないのに連絡が一向につかないとのことであった。

 

『ロマニ、私よ、マリー・アントワネットよ!! ジル元帥が詰め所に居ないわ! 礼装は机の上に置きっぱなしで争った形跡とか、後始末した様子とかもエリザちゃんに確認させたら無いから。たぶんまだ死んではいないと思う』

 

さらに通信にマリー・アントワネットが割り込んでくる。

ジル元帥は個人用の詰め所には存在せず。礼装は置きっぱなし。

争った形跡や後始末した形跡の確認は、そういう類の処置に精通するエリザベートが確認を取り、形跡が無いことを確認し。

一応、現在時刻に置いてジル元帥は生きているかもしれないということになる。

 

『一応、捜索続行するわね、いいかしら? オルガマリーちゃん!』

「お願いするわ! これ以上は人を死なせるわけにもいかないもの」

 

捜索続行の言葉にオルガマリーは無論許可を出す。

難度も言う通り人理定礎はギリギリだ。単純に人が死に過ぎなのだ。

そこに有名人が死ねば本格的に拙いのは言わずもかなだからだ。

そして再度、ロマニに通信をつなげて街に出た悪魔が居ないかどうかを確認。

 

「議事堂で出現した悪魔は街には!?」

『それは大丈夫。大勢の部隊が警備に詰めていたからね。漏れは今のところ確認できないよ』

 

幸いだったのは昼間の連絡を受けて、一応にと議事堂の守備隊を多めに詰めておいたのが吉と出たことである。

これによって即座に防衛網を引くことが可能であった。

それで悪魔たちは街には出ていないとのことである。

 

「どうして起こしてくれなかったんですか!?」

 

だがなぜそのような状況に成っておきながら自分たちを起こしてくれなかったのかとマシュはロマニに攻寄る。

彼女は焦っていた。当たり前である。

もしかしたらあの戦場の惨劇が街で繰り広げられていたかもしれないと言う事を理解したからだ。

 

「マシュ、悪いのは私達でしょ」

 

だがそれは見当違いだとオルガマリーはマシュの右肩を右手でつかんで制するように指摘。

元々、精神不安定と極度の疲労で通信に制限を掛けていたのは自分たちだと指摘する。

マシュはそれにハッとなり苛立ちで八つ当たりした嫌悪感に表情を歪めるほかなかった。

 

「す、すいません、ドクターは悪くないのに」

『気にしなくていいよ! 僕もちょっと判断ミスったかなぁって思ったから。緊急通信のダイレクトまで切るなんて楽観視しすぎたよ』

「ロマニ、マシュ、反省はあと!! ロマニは議事堂のマップと敵位置情報を礼装に転送して。よしこれなら・・・・」

 

反省と謝罪はあとと言いつつ、オルガマリーはロマニに内部状況の情報と見取り図を要求。

魔力センサーで敵の展開状況を確認。

強力な反応は三つ、二つに書文とマルタが対処。もう一つ強力な反応は須藤で。達哉たちが対処中。

敵の分布を見て、ルートを決定し。線を書いて礼装に転送。

 

「私とマシュは二手に分かれて達哉と合流するわ」

「所長、ここは分かれない方がいいのでは?」

「時間差で挟撃になる様にするためよ。須藤は逃がせない、ジャンヌ・オルタの次くらいにはヤバいやつだもの」

 

出力アップしたジャンヌを言葉を弄しつつ圧倒する力に。

破綻した殺人鬼だ。逃がしたら寝首を掻くまではまだいい方で。

科学館を躊躇なく火の海にし、向こう側で達哉の代わりに犠牲となった拓也を無残な死体に変換した狂気があり。

何をしでかすか分からない故である。

故にオルガマリーは達哉たちが通路で交戦している事を理解し。

多少手間も増えるが挟撃と言う形を取って須藤が逃げ出すことも視野に入れて戦力分散をあえて選ぶ。

ルートも。カルデアでのトレーニングで出した数値と敵の戦力図を合算し算出したタイムで割り出した。

出来ることはやったのだ。

 

「行くわよ、マシュ」

 

オルガマリーは愛銃となったコルトパイソンを構え扉の前に立ちそういう

 

「了解です、所長も武運を」

 

マシュも策を了承し盾を右手で担ぎ、左手をオルガマリーの右肩へと置く。

所謂、突入動作の基本形である。

準備が出来たら肩を叩くことで。突入という訳だ。

マシュが肩を叩くと同時に。

 

「アンタもね!」

 

オルガマリーは気合を入れる意味もあって大声で返しながら扉を蹴り破った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アポロ! ゴッドハンド!!」

「アレスゥ! ティタノマキァ!!」

 

アポロの拳とアレスの槍が苦衷で激突し衝撃波が発生し周辺の壁や天井を破砕。

両者ともに己がペルソナ同士の激突に弾かれるようにたたらを踏みつつ後退する。

達哉は鯉口を切って右手を刀に添えて疾駆。

 

「おいおい。もっと出来るのにぃよぉ、なんでそんな玩具みたいなペルソナ使ってんだ?」

 

須藤は軽々と達哉の居合一閃を刃先でまず受け止め。そのまま刃を滑らしつつ軌道の変更と摩擦で速度を殺し。

鍔と刃元で受け切って見せる。

だが達哉は一歩踏み込み。鞘に添えていた左手を鞘から離して柄を両手で握る形へと持っていき。一気に押し込まんとする。

須藤は器用に右手で刀を旋回、達哉と同じく左手で柄を握り両手握りの形へもっていく、鈍い金属音が響き合い。達哉と須藤は鍔迫り合いの形に落ち着く。

アレスもゴットハンドを軽々と受け止めている。

がしかしだ。力負けしていた。

無論達哉がだ。

 

「うっぐッ!?」

「■■■■もってんだろぉ? なんで使わない? それさえ使えば。第一の獣を消せるって言うのによぉ!!」

「そんなもの、持っている覚えはない!!」

 

須藤がノイズ交じりに■■■■を持っていると指摘し、達哉としては何が何だかである。

達哉は精神力を通常の二倍消費し強引にアポロのパワートルクを増やして拮抗状態へと持ち込む。

こう言う類の敵は初めてではない。日輪丸で神取のゴット神取とやり合った時もパワー負けしている。

繋がっている場所がそもそも違うのだ。

ニャルラトホテプの眷属や使徒のペルソナはモナドへと接続されており、具象化されるペルソナは規格外の力を発揮する。

精々、ガタス深部までしか接続できない達哉では出力負けするのは道理だが。

精神力を力とする以上、無理をすれば出力差を跳ね除けることは可能だ。ただし専用ペルソナであるアポロでなければ。

細かい出力調整が不可能なため、他のペルソナでは取れない手段ではある。

それでも燃費は悪くなる物なので拮抗状態は長くは続けられない。

 

『ジャンヌ。俺ごとやる気でやれ!!』

『達哉さんごとですか!?』

『こっちで合わせる。最悪ノヴァサイザーでどうにかできるから、頼む!』

『・・・わかりました!!』

 

ジャンヌに支援要請、自分事やれと達哉は指示を飛ばし。

此方で合わせると言って説得。ジャンヌもジャンヌ・オルタと達哉とマシュの戦闘は見ているので。

合わせられると確信しているし実力や戦闘経験は自分よりも上だからと決意を固めタイミングを見る。

そして、達哉はかちあげるようにアポロの腕をアッパーカットのように振り上げ拳と槍を弾かせる。

と同時に達哉が刃を引きつつ一歩後退。

須藤は無論追撃を選択と同時に。

 

「たぁ!!」

「あっぶッ!?」

 

ジャンヌが達哉と入れ替わる様に横なぎに旗を振い突進してくる。

達哉は後方宙返りの要領で走り幅跳びの様に横なぎに振るわれた旗を回避。

旗は躊躇なく攻めに転じた須藤へ直撃コースとなる。

完璧な形での入れ替えだ。

即興としてはよくできた方である物の。

須藤は右手を引き左手を刃の後ろへと持っていき、

上斜めに坂を作る様に刀を構え振るわれる旗を受け止めつつ、両膝をかがめて姿勢を低くしジャンヌの横なぎを受け流す。

ジャンヌは捌かれたことに驚愕しつつも旗を振って石突きを床に立てて急停止。

須藤へと足を進めんと力を入れるが。

 

「マハジオダイン!!」

 

須藤はペルソナ使いだ。

ペルソナ使い・・・だけではないが。異能持ちとの戦闘に置いて恐ろしいのは無拍子に異能が炸裂するというワカラン殺しが平然と行われることにある。

故にいくら不自然な体制であってもペルソナは呼び出せるので。

取ったと思ってもペルソナが牙をむく。

 

「私に――――」

 

だがジャンヌには対魔力EXが存在する。

ペルソナにおけるダイン級の威力は威力範囲が対軍ランクに匹敵するとしても、概念強度はBからC程度。

精神の通常の倍と収束発射と言う工程を得てAクラスになる。

故に冬木では対魔力持ちのセイバー相手には収束発射という手段でしか通せず大規模を薙ぎ払う攻撃では意味がなかった。

それはジャンヌにも言える事である。

加えて貫通スキルであっても。ジャンヌの対魔力は受けて向こうではなく。逸らして無効という一種のベクトル操作に類似するものだ。

つまりジャンヌをペルソナの魔法スキルで仕留めるのは不可能である。

見た目が似てるもんだから、須藤はそこの所を見誤っていた。

 

「魔術は効きません!!」

 

炸裂する雷を反らしつつ、ジャンヌが突き進もうとする物の。

 

「なら物理だぁ!! モータルジハード!!」

「クッ?!」

 

魔法スキルが効かないなら、物理で殴るまでと言わんばかりに。

須藤はアレスで横で薙ぐようにモータルジハードを繰り出す。

ジャンヌは旗でそれを受け止めるが、あまりの威力に防御事吹っ飛ばされ壁に衝突。壁向うの部屋に突撃させられる

達哉が復帰し、須藤の背後から、カウンターを見越しての縦の柳生新陰流の基礎にして奥義「合撃」の形の一つを繰り出すものの。

 

「付け焼刃は、良くないぜェ」

 

須藤は半身をずらして、悠々と避けて見せる。

達哉はそれは分かっているとばかりに、右手の握りを緩め、左手を介して軌道を横に変更。

だが、須藤は自身の刀と達哉の肩の側面を重ねて鎬を合わせつつ。

先ほどの様に刃の殺傷能力を削ぎ、先ほどと同じように鍔迫り合いの形に。

アポロも再度ゴッドハンドを繰り出すが。アレスに片腕で受け止められる。

 

「捕まえたぜ、そうだ。お前もあの時の舞耶と大体同じ年頃だったよなぁ、一丁、やけどでもつけてやろうかァ、どんな顔するだろうなぁ、ジャネットは、あの時のオメェ見たいな顔をするだろうか」

 

須藤は余裕綽々で受け止めて挑発に口を滑らせるものの。

元よりこの硬直状態が狙いだ。

 

「ッ―! このぉ!!」

「おーお~。ホント贋作とは違って防御に極振りだねぇ、ジャネットよぉ。殺しづらいったらありゃしねぇ。アレス!」

 

アポロの右腕を押さえつつ、アレスの槍でジャンヌの旗を受け止める。

全員が硬直状態の必死の間合いであるが、須藤もそれは一緒である。

加えてジャンヌの対魔力の効力を達哉は確認した為。

アポロに精神力を普段の倍叩き込みながらコンセレイトを発動し、アポロの両腕から炎が噴射し収束する。

 

「あの時と同じようになるのは貴様だ!!」

「玩具みたいなペルソナでイキるなよぉ。」

「普段の四倍だ。ビルなら吹っ飛ばせる。無論お前もだ。」

「キヒ。ビルかぁ。随分吹かしこくじゃねーの、日輪丸の時に出来なかったくせによぉ」

「ほざいてろ!!」

 

そして炎が炸裂。

普段の精神力をコンセレイト込みで4倍注ぎ込んだマハラギダインが指向性を持って射出。

射線軸的にマップデータを参照し被害が出ないという判断と。

ジャンヌ・オルタばりの理不尽再生能力が無いと判断して一撃で殺しきる為である。

同時に轟音で仲間たちに手奇襲を知らせるための信号弾としても使用した。

射出と同時に。一応の事も踏まえてジャンヌは壁際に退避。

通路の装飾品やら壁紙を焦がしながら熱線が横断、通路行き止まりの壁もぶち抜く。

並のペルソナ使いでは文字通り消し炭であるが。

 

「ヒャッハ!」

「ツーーーーー!?」

「達哉さん!?」

 

残念ながらアレスは炎無効持ちである。対魔力Aを想定した収縮射出ではあるが。

ニャルラトホテプから直接力を供給されているため、無効か出来るランクが上がっているのだ。

故に普段の四倍と言う戦闘継続を考慮しないリソースを使ったマハラギダインが防がれた。

最もアナライズが使えないし、ペルソナもJOKERからアレスに変貌しているため。それを読み切れと言うのは土台無理な話で。

それ故に須藤のアレスが繰り出したティタノマキアが直撃。

咄嗟にヤマトタケルにチェンジしたから無事で済んだが、吹っ飛ばされて達哉が床を転がる。

無論追撃を考慮しながら、即座に姿勢を立て直すのは流石達哉であろう。

もっとも須藤はその場に佇み達哉を嘲るように喉を鳴らしつつ服の裾を軽く払う。

ジャンヌは攻めれなかった。ただでさえペルソナを使わなかった須藤に圧倒されていたゆえに付けこむ隙が無いのである。

 

 

「あぶねぇ、ヴィシュヌやらメタトロンやらだったらヤバかったぜ。なんでそっちを使わない? 使ってたら俺を仕留めていたぜぇ」

「なにを・・・」

「ククク、わざわざ聞いてみたが。分かってるよ。周辺被害を気にしてんだろ?」

 

威力に関して言えばヴィシュヌやメタトロンの方が火力は出る

だが裏を返せばアポロ以外のペルソナのダイン級の威力は下手な榴弾よりも威力が出てしまうし。

制御関係で言えば相性が良いペルソナよりも専用ペルソナの方が細かに制御が効く。

故にヴィシュヌやメタトロンなどの火力を市街地の此処でぶっ放せばどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ。

守るべき人々に累が及ぶし。

建物自体が倒壊する恐れもある。ここの避難誘導だって終わっていない。

アポロか物理特化のヤマトタケル、補助オンリーのアムルタートしか実質使用できない状況なのだ。

 

「本当に甘ちゃんだよな、たっちゃんは。日輪丸の時の様にうるせぇ死ね!! くらいやったって許されるとおもうぜ?」

「なにを・・・」

「だってそうだろう? 特異点って問題自体が元来は現地住民やら過去に未練たらたらのお馬鹿な英雄様のやらかしだろうが」

 

特異点という問題自体が、

当事者たちが元来片づけるべき事柄である。

本来未来からの修正者を期待する方がおかしい。

その為の抑止、そのための人理、そのための枠組みであり選別なのだから。

あるいは抑止のサーヴァントが片づける案件だ。

本来カルデアが介入する前に解決するのが彼らの仕事だからだ。

 

「第一にそちらの資料曰く、”修繕できれば無かった事になる”だろう? だったら気にせずぶっ放せばいいじゃねぇねぇか?」

「黙れ、こっちの心情の問題だ。それをやったら人間としての一線を超えるだろうが」

「超える? おいおい、シビリアン・コントロールって概念があるから大丈夫だろうが。日常茶飯事だぜ」

「大義があるから一般人を巻き込むというのを容認すればただのテロリズムだ!! 都合の良い解釈をまき散らして前提を替えるな!! 俺がやった罪と何が違う!!」

「おーおー。成長したみてぇだな」

「貴様に褒められてもうれしくはないな。ノヴァサイザー」

「それもそうか。ノヴァサイザー!!」

 

ノヴァサイザーによる時間停止によって一気に押し込まんとするものの。

須藤もアレスにダークノヴァサイザーを遣わせる。

嘗て須藤がペルソナしていた「JOKER」の固有スキルであるが。

アレスと言う専用ペルソナにも引き継がれていたらしい。

時間が静止する中、剣の打ち合いに移行する。

互いに停止時間8秒だ。

 

「それともまた騙されるのが怖いか? 本当はロマニとかいうボンクラか所長辺りがデータ改ざんして騙してるんじゃないかと思ってんじゃねぇの」

「お前、相変わらず人の神経を逆なでするのだけは達者だな。言っては悪いが所長とロマニさんがそんなことやる度胸と余裕があるとでも?」

「ははっ、そうだな、あの嬢ちゃんにそんな度胸も余裕もあるわけんめぇか、だがロマニはチゲェよな。あのマリスビリーの側近だった男だぜ。ぶっちゃけ信用してねぇだろ、なぁたっちゃん?」

「彼が裏切り者だと仮定してカルデアを残す意味がどこにある!」

 

須藤の挑発にも達哉は動じない。

第一に世界滅亡と言う状況下。カルデアだけが残っている方がおかしいのだ。

それ以外に目的があるとしても。どう考えてもカルデアを残す意味がない。

どの様な目的であるか。つまりホワットダニットをから考えてもカルデアは邪魔にしかならないからだ。

つまり残す意味がないのだ。

殺す手段があったのに、今更内通者を使って抹殺と言うのも間抜けどころか、子供の行き当たりばったりな行動過ぎるゆえに。

逆にカルデアには現状裏切り者が居ないと決定できてしまうのである。

静止時間が過ぎ去り、時間の流れが元に戻る。

破砕された欠片やほこりが一気に雪崩のように重力に引かれて床に落ちる

 

「キヒヒ、確かにああ確かにだなぁ。第一の獣も馬鹿だよなぁ、だからこそ良く聞けよ。そしてよく考えなぁ!! マリスビリー自体が典型的魔術師だ。手段は選ぶとはいえ過程は考慮しねぇ頭魔術師だぜぇ! 世界平和だの根源だの糞下らねぇ幻想に縋りついて世界吹っ飛ばしてしまう愚者だよ。お前以上に下らねぇロマンチストだ。お前は学習したが、魔術師は学習なんてしない!! ただ全部を解き明かして成し遂げたことの上っ面に酔いしれて。事の本質を理解せず、自分たちは進化したって奢っている愚者共の集まりだぁ!!」

 

オルガマリーは元々がメンタルが一般人よりであると言う事と、フィレモンとの接触によって己は己であると自覚しエゴをペルソナ化し能力を得たことによって、魔術刻印の呪いから外れているため、一般魔術師像とはかけ離れているのだ。

普通の魔術師は研究に熱を上げ、成果の為なら他者を平気で食いつぶし、財貨を蓄える悪竜が如きロクデナシである。

さらにそこに世界が変われば基本やらかす側だ。

アインツベルン然り、マキリ然り、エインワーズ然り、ハートレス然りである。

 

「そんな連中をなんでお前は信じれる? ああ今生きて動いている連中は信じられるかも知れねぇが。その前にくたばった、マリスビリーを信じれる分けねぇよな?」

「その尻拭いをするのも・・・俺たちの義務だ」

 

そう言って達哉は不自然に刃を引いて後退。

それと同時に。

 

「ご指摘ありがとう!! 死ね!!」

 

オルガマリーが到着。ノヴァサイザー発動数秒前に付くことは聞いていた為、達哉は悠々とオルガマリーの行動に合わせられた。

全力疾走からの跳躍+全力のローリングソバットが放たれる。

間合いと速度的に回避は不可能と須藤は判断し。

左腕を蹴りの間に入れて衝撃を流すように横に飛ぶ。

 

「アポロ!!」

「ラプラス!!」

 

達哉はアポロを出し、オルガマリーがラプラスを出して大鎌を振るわせつつ、コルトの標準を須藤に向けて全弾発射。

 

「ケッ、当たって・・・」

 

トンと須藤の背に何かが当たる。

此処には遮蔽物がなかったはずだと思考し視線を向ければ。

大盾を構えたマシュが居た。

彼女の表情は盾と夜の闇で見えないが双眸が見開かれ殺意に濡れている。

そして須藤に逃げ場はなく。

 

「マハラギダイン!!」

「コウガ!!」

 

二人のスキルが炸裂。

後ろへの後退はマシュがふさいでいるため不可能であり。

マハラギダインは須藤に対し効果こそないが、視界と耳を塞ぐ帳となり。

オルガマリーの光の杭として射出されたコウガを躱しきれず、須藤の右顔の目元周囲を焼く。

 

「グッ ギィ!? このクソがぁ!! 俺の貌に傷をォ!!」

「三度目だな。そんな様になるのはな、そして」

「形勢逆転です」

 

顔の右側を焼かれて痛みに狂う須藤を、達哉とマシュにオルガマリー、そしてジャンヌが囲む。

 

「今度こそ、終わりです須藤竜也」

 

マシュは覚悟を決めた表情で言いながら左手のメイスを強く握りしめる。

 

「調子のってんじゃねぇぞ! 俺がサバトマで悪魔呼んでんだからよぉ! 今頃ここいらはパニックに・・・」

「なってるわけないでしょうが。サーヴァントたちを舐めないでほしいわね」

 

確かに多少の混乱はあるだろう。

だがサーヴァントとは英雄譚を成し遂げた者たちである。

今更、悪魔だのに怯む要素も無ければ。

この程度のパニックを収めて人を率いて統率して見せるのが彼等だからだ

現に同時刻。議事堂周囲。

守備隊も白熱した様相を呈していた。

 

「ダラァ!!」

 

長可が雄たけびを上げ左手で持つ大盾を上に薙ぐように振るい防衛網に接近してきた悪魔を複数体弾き飛ばす。

 

「市街地は目と鼻の先だァ!! テメェら気張れェ!! 訓練の時より温いマネしたら琵琶湖に沈めっぞ!!」

 

市街地は目と鼻の先である。故に大盾を構えて道を塞ぎ。それでも超えてこようとする悪魔どもを槍やメイスで応戦していた。

故に此処は最終防衛ラインなのだ。

走る長可の激昂も厳しくなるという物。武将と言うよりヤクザ染みているのは愛嬌という物だろう。

 

「ビワコってどこだよ!」

「ファシム!! 無駄口叩いている暇あったら連中をぶっ殺せ!! 長可さんならガチでやりかねんからな!!」

「わかってますよ!!」

 

琵琶湖がどこか分からないと愚痴る若い兵士に、兵士長が怒鳴りつけつつメイス降って悪魔の頭蓋を粉砕して蹴り飛ばす。

戦端前に訓練の時に長可を黄色人種と馬鹿にして、訓練で手を抜いた結果。ボコボコにされてガチで近くの川に沈められそうになった挙句に次の日には人間無骨を振り回す長可に追い掛け回され鍛え上げられた兵士たちは有言実行されると思いつつ。

必死である。

 

「援軍まだか!?」

 

と言っても流石に悪魔とて伊達ではないのだ。

正直。クーフーリンが遊撃手で無双しているとはいえ。後続の悪魔はどんどんと中位クラスに成って言っている。

押さえるのが正直難しい所である。

さしもの長可も抑えきれないと判断せざるを得なくなり、援軍はまだかと叫び。

 

「長可殿!! 守備隊の人々を左右に避けて下され!!」

 

援軍を呼びに行っていた宗矩が帰還。

左右に守備隊をよけろと叫び、その声を聴いて後ろを振り向いた長可はギョッとして。

 

「全員左右に分かれろォ!!」

 

焦りをにじませた声で私事を飛ばす。

守備隊全員が焦りを感じる長可の声に後ろを振り向きつつ左右れようとして。

宗矩が引っ張ってきたものを見て全員顔面蒼白になり駆け足で左右に分かれると同時に。

 

「全門撃てぇ!!」

 

宗矩の指示と同時に馬で引っ張ってきた大砲五門の一斉掃射。

対ワイバーン及び屍人を想定した聖別済み、祝福儀礼済みの弾頭が込められた大砲である。

悪魔相手でも威力に不足は無し。

道が開けたと誤解した悪魔たちが開けた場所に集中したもんだから。砲弾が直撃。

えらいことになる。

爆発と同時に、悪魔の血肉、贓物などが飛び散った。

これには長可も引きつった笑みと言う奴である。

知識としては大砲の争点には時間が掛かる、再度防衛陣地を形成。

宗矩はカルデア経由のラインで暴れまわっているクーフーリンの視界を駆りて状況把握。

 

「弓ぃ、射て!!」

 

さらに駄目押しとばかりに引き連れてきた弓兵による掃射を開始。

クーフーリンは矢除けの加護もあるし本人の技量も卓越しているという割り切りである。

 

『宗矩ィ!!矢が飛来してきたんだが!?』

「すみませぬがそうも言ってられぬ状況です故。それに矢除けの加護が御身には宿っておりますからな、遠慮なく射らせてもらいます」

『ちょっとは遠慮しろォ!!』

「第二射、準備、急げ!!」

 

クーフーリンの抗議を宗矩は黙殺しつつ。

第二射準備。

ニホンジンってえげつねぇとフランス軍は思いつつ、事態が事態であることと。

でもケルトの大英雄なら大丈夫だろということもあって躊躇なく第二射準備である。

クーフーリンは飛んだとばっちりだった。

 

「本当なら火矢であぶりたいところですがな」

「普通の攻城戦ならありだなぁ、これは逆だぞ。中から湧いてくる敵を出しちゃいけねぇ上に味方が中にいんだからよぉ」

 

普通の攻城戦とは逆である故に。さしもの長可と宗矩も内心頭を抱えていた。

中から湧いてくる敵を撃滅するのはまだいいが。味方が中で奮戦中なのである。

通常のセオリーから外れている。

これが逆に敵しかいない場合だったら。文字通り火責めやら、クーフーリンの槍で一網打尽にする。おまけに大砲の斉射も加えるだろう。

 

「だから初めてだぜ兎にも角にも、包囲殲滅する側が耐えなきゃなんねぇのわよ」

「まこと奇怪な事もありますな」

『長可殿、私です、ゲオルギウスです。今外に出ますので、矢の掃射を中止してください』

「柳生の爺さん。矢の掃射は次の奴でいったん中止!! ゲオルギウス、次射で掃射を止めるのは聞いていたな!? 確認できるよな!!」

『無論ですとも』

「なら掃射終了と同時にこっちに向かってこい!! クーフーリンは掃射中止と同時に出てくる連中の護衛だ!」

『あいよぉ!!』

 

だがそれでも、長可は包囲網をがっちりと引いて統率し、崩さないでいた。

元より有能な武将である、猛将の気はあるが、そこは宗矩のサポート、クーフーリンの遊撃も合わさり完璧な布陣である。

もっとも際どい所でことは推移している以上気は抜けなかったが。

彼等は彼等の役目を果たしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言うこともあって、悪魔たちは外に出れないでいた。

 

『オルガマリー殿、此方は大物を今仕留めた』

『こっちも仕留めたわよ・・・大御所どころが出てくるとか。何なのよのもう』

 

書文からの通信が入る。

悪魔たちを統率していた個体は倒したと。

オルガマリーは須藤に聞こえない様に、念話ですぐに気配を殺して不意打ちできるように来てと指示を飛ばし。

書文はそれを了承する。

さらにだ。ジル元帥を探し回っていった。マリーアントワネットとエリザベートに書文よりも早く相性の関係で悪魔を倒しエリザベート達に合流したマルタも合流し包囲網を引く

須藤は完全に追い詰められた形ではあるが。

それでも不気味な余裕を持っていた。

 

『先輩、須藤から情報を引き出すのは駄目だと思います』

『わかっている、これ以上は野放しに出来ない』

 

マシュは珍しく相手を取るべきだと主張する。

先の先端での出来事やマリーアントワネットのやり取りである程度の覚悟を決めて彼女は選んだのだ。

達哉もその意志に同意。

北居ないのどうのこうの。背景がいくら哀れだからという分量を須藤は超えているのである。

ここで仕留めておかねば後に障ると、各々が武器を構え。絶対に逃がさんとしたときにだ。

 

 

「っとぉ! 動くんじゃねぇぞ・・・ カルデア」

 

達哉は刃を止める。

さしもの達哉も停止せざるを得ないものが握られていた。

 

「人間ってのは切って殺してもよぉ、多少は動けるんだぜ? 下手に俺を殺してみろよ。町の一角が消し飛ぶぞ」

 

須藤が握っていたのは爆破スイッチ、或いは発火スイッチだった。

彼は此処に来る前にティエールの各所に仕掛けを施していたのである。

ブラフだと笑い飛ばすことは出来ない、なんせこいつは、達哉の世界では幼いころの達哉を躊躇なく刃物で刺した上に。

舞耶が閉じこめられている神社に火をつけ。科学館を火の海にしているのだ。

やるといえば必ずやるという嫌な信頼が保証されてしまっているのである。

 

「今の時期、農屋に鱈腹、藁とか貯め込んでのな。さらにぃ戦争準備で武器庫には大砲や羅なんやら、黒色火薬もより取り見取りだったよ」

「貴様ッ・・・!!」

「アナタは!! そんなに人を殺して何がしたいんですか!?」

 

マシュから見ても。と言うか誰から見ても須藤は支離滅裂だ。

そう言った環境下に置かれて壊れたは分かるが。

なぜそういう思考がふっとび、躊躇なく虐殺を行えるのかマシュにも理解が及ばない。

それを聞いた須藤は口を吊り上げて言ってのける。

 

「何がしたいってぇ? 決まってんだろ、この世界は終わってんだよ!! たっちゃんが来なきゃとっくの昔に剪定対象で消去予定だったんだからヨォ」

「えっ、なぁ!?」

「本来登板だったヤツは、そもこの世界のどこにも存在しねぇ、出来るやつは全員冷凍漬け、所長様も本来なら死んでる。焼却完了ッて時点で七つの特異点が修繕できなかったからよぉ、アッこれ駄目だわってなるのは当然よ。そこを電波が、たっちゃんって言う英雄をこっちに呼び寄せたからどうにかなってるだけだぜ!!」

 

そう、この世界は詰んでいた。主人公は存在せず、代打を務められる者たちも冷凍漬けだ。

達哉が来なければマシュはそも力の覚醒を行えず、あの爆破で死ぬ。

オルガマリーも達哉とマシュが何とかできたから生きているだけで普通なら死亡である。

戦えるものが居ないがゆえに剪定されていたそれにニャルラトホテプが目を付けて、達哉を放り込み現状剪定を先延ばしにしているに過ぎない。

 

「第一にだ。人理焼却という未曽有の災害!! 故に全員全力と最善を尽くさなきゃいけねぇのに、生前に未練と後悔タラタラやら格好つけたいから良いシチュエーションが回って来るまで本気を出さねぇ体たらくな連中、そしてぇ主要時間軸じゃ一般人に命運背負わせて走らせている時点でねぇんだよ!! ここでもヒッドイもんだぜ! 頑張っているのが第一の此処、第三の海賊共と第七の賢王くらいなものだもんなぁ!!」

 

影の提示する情報である程度特異点の状況を把握し、

並行世界での旅路を知ることが出来る須藤はそう評する。

人理焼却と言う未曽有雨の災害。故に天秤の守護者たちは主義主張を抜きに過去の遺恨を抜きに戦わねばならないのに。

それを引きずって事態を解決に乗り出しもしない。

挙句単独で特異点一つなら引っ繰り返せる奴が変な方向で動いているのだから。ニャルラトホテプからすれば爆笑ものである。

 

「それにだ。今回の一件もそんな過去の情けねぇ英雄様のやらかしらしいんだよぉ、そいつがやらかしたせいで主犯が起動してこの様だ!! たっちゃんが世界創生できず此処に放り込まれたのも。お前らが苦しんで嘆いているのも、ジャンヌ・オルタがぶっ壊れたのも特異点の犠牲も全部そいつの責任を取る為なんだよ。たっちゃんは知ってるよなぁ、些細ではあるが決して叶えてはならない類の願いはあるってなぁ!!」

「ッ」

 

些細ではあるが決して叶えてはならない願い。

達哉はそれを知っているしやってしまった。

忘れたくないと願い叶えてしまった結果がこの事件とほぼ同じであり。

その後の漂白現象と同じことをやらかしかけたのだから。

 

『――――――』

 

須藤のいいように現状をモニタしていたロマニが絶句する。

 

「つぅーか。オルガマリー、テメェも悪いんだぜぇ」

「なにを」

「なにを糸瓜もあるかよ。お前さんがきちんと所長してりゃ、こんなことにはならな語った」

「ッ―」

「第一によォ、お前さん自身が言ってたらしいじゃぁねぇかよ。所長も家督も全部、パッキン冷凍林檎野郎に放り投げてやるってなぁ、嫌なら最初からそうすりゃよかったじゃねぇの、違うか?」

 

話しがこじれたのはオルガマリーにも一因がある。

引き継ぎたくなかったら、引き継がなければいい。

 

「確かにそうよ。けれどねェ、魔術業界はそんな甘ったれたことが許されるところじゃないのよ」

 

そうそんな甘ったれたことが許される業界ではない。

今こそある程度の政治力やらツテはあるが、三年前のオルガマリーには何もなかった。

故に所長の座につくほかなかったのだ。生きる道がそれしかなかったからだ。

そう言った意味ではレフにオルガマリーは今でも感謝している。

でも元凶になったことについては受け止めるべきだとも思っているし反省もしている。

今になって彼女も気づかされたことが多いゆえにだ。

もっと早く素直になっておけば解決できたことも多かったから。

 

「責任は取るわ、アンタを倒して、レフをぶん殴ってからね!」

「本当かよォ、できんのかぁ。泣き虫オルガマリーちゃんよぉ」

 

オルガマリーの決意を聞いても須藤は嘲笑を止めず、次の言葉を投げかけようとして。

 

「この娑婆僧!! さっきから聞いていれば好き放題いい加減に!!」

「だからなんだ? ご自慢の拳で黙らせるってカァ? イエス様も草葉の陰で泣いてるだろうぜ。隣人を愛せと説いたのに武力行使してるのってなぁ!」

 

マルタの言葉に更なる挑発を掛けて殴らせようとする。

 

「駄目よ!! マルタ!!」

「分かってる。分かっているけれど!!」

 

エリザベートがマルタを抑え込むといういつもとは逆の光景が繰り広げられ。

須藤はせせら笑いつつ。躊躇なくスイッチを押し込み。

ティエールの一角が炎上した。

 

「ウワァオ、これには俺も予想外だなぁ」

「なぁ、っ、アンタは!」

 

躊躇なくスイッチを押したことにマルタは驚愕する。

 

「おいおいにらむなよ聖女様。俺は事前に警告したぜ。無視して殴ろうとしたのはお前だ。俺は殴られる恐怖を感じたからブラフじゃねぇってことを分からせる必要があった。だから悪いのはお前だ!!」

「そんなヘリクツ!!」

「動くなって言ってんだろうが!! 今のはほんの余興だぜ。こいつは押し込み具合で起爆順番を決める特注品でよォ。深く押し込んだら全部ドカンだ」

「ッ!!」

 

そして拮抗状態が生まれる。

下手に殺せばスイッチは押し込まれる。であればノヴァサイザーによって時間停止中に殺害。

不可能だ。須藤もノヴァサイザーを使える。

時間停止した瞬間に時間停止世界に須藤も入り、躊躇なくスイッチを全開で押し切るのは眼に見えていた。

 

「ヒィヤァハハハハ!! じゃあ俺は撤収させて「いいやそうはならない」」

 

奥歯を噛み何もできぬカルデアを須藤は嗤い。

クラマテングにペルソナをチェンジ。逃げようとする物の、書文が物陰から奇襲。

それは完璧に決まった。書文が放った裏拳が浸透頸の原理を持ってスイッチを握る須藤の右手を粉砕。

さらに翻って繰り出された崩拳が須藤の腹部に突き出される物の、

アレスを持ってガード。

 

「テ「くたばれやァ!! 下衆ゥ!!」

 

書文の攻撃こそ凌ぎきったが、攻撃が緩くなったということもあって内部に突入してきたクーフーリンが槍を投擲。

アレスの槍を振り弾くが。

躊躇なくオルガマリーがコルトパイソンの引き金を引いて須藤の下半身を打ち抜く。

足を奪われた結果、移動が出来なくなったところに、マシュのシールドバッシュが炸裂。

それでも彼は往生際が悪く倒れ込むように前転し回避。

 

「いい加減!!」

「往生せいやぁ!!」

 

マルタが追撃、渾身の右こぶし。

それを身を仰け反らせて避けるが、さすがに躊躇を無くしたジャンヌの蹴りが炸裂。

 

「グギィ!?」

 

吹っ飛ばされてもすぐ逃走を図らんとする須藤はクラマテングを呼び出そうとするが、

それが悪手になった。ノヴァサイザーはノヴァサイザーでしか基本対処ができない。

アレスからクラマテングにペルソナチェンジしたがゆえにノヴァサイザーに対抗できなくなっていた。

達哉がノヴァサイザーを起動、アポロの拳がクラマテングを四散させ。

嘗ての様に須藤を肩から右斜めに切り裂き。

 

「ウァ・・・・」

「これで三度目の正直ってやつだ」

 

須藤がそのまま仰向けに倒れる。

 

『・・・こちらの各種センサーでは死亡確認。ダヴィンチ、そっちは?』

『こっちでも確認済みだよ。全く肝が冷えるよ』

 

ロマニとダヴィンチが各種センサー系で客観的に須藤の死亡を確認する。

自分だけの認識では不安だったのでそれを聞いて達哉は残心を解く。

これで三度目である。

ようやく悪夢から解放、された気分だった。

 

「今度こそ、倒したんですよね・・・」

「ああ多分な」

 

マシュの言葉にそう返す。ニャルの眷属になった以上。

また沸いてくるかもしれないが、今は倒してのだと確信したかった。

 

「もうこれ以上は勘弁よ・・・マジで」

 

囲いを作るためにあえて単騎で悪魔どもをシバキ倒しながら此処に来たオルガマリーは体力の限界に近い。

こうも連日、大騒ぎであるやってられないというのは誰のと言うか全員の本音である。

 

「全員回復させるわね」

 

マリーアントワネットも疲労を隠せないでいた。

未だに見つからぬジル元帥の捜索で悪魔どもとと交戦である。

エリザもマルタも疲れていた。

 

「書文さんは大丈夫ですか」

「無事にとはいかんな・・・」

 

書文も衣類が破けていた、中堅どころの悪魔とはいえ強力な存在であることは変わりがなく。

近代英雄である書文では手を焼く羽目になった。

マルタは聖人という観点から相性こそいい物の、技量で押されていたゆえに生傷が絶えない。

 

「森さん、そっちは?」

『マスターか、こっちもボチボチだよ。あとは掃討終わらせてOKだ」

「了解」

「森さんはなんと?」

「外も掃討戦に移行中だ。こっちの騒動はもうじき収束するが。問題は・・・」

「須藤の爆破した地域の救助作業ですか」

「そうだ」

 

やることが増え過ぎていた。

全員の空気が重くなる。

噂結界の事もありこれ以上、厭戦気分が蔓延する前に収束作業をしなければならないからだ。

全員が重たい気持ちでその場を離れようとしたとき

 

「キヒ」

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

 

この場に居た全員が驚愕する。

右手を砕かれ下半身をハチの巣にされ。出力強化されたジャンヌの蹴りをもろに喰らい。

達哉に肩から脇腹までを刀で引き裂かれて、血やら内臓までをぶちまけているのだ。死んでいない方がおかしい。

加えて魔術的見解及び科学的見解から死んでいるとロマニが判断したのだ。

間違えるはずもない。

もう一度述べるなら死んでいない方がおかしいというのに。

 

「電波・・・電波電波電波電波電波ァ!! 来い!! 俺は此処にいるぜェ!! クヒャヒャヒャヒャ!!」

 

須藤はゆらりと立ち上がり狂笑を叫びながら、傷が全て時間が戻るかのような再生で再び蘇る。

加えてそれだけでは収まらず。

 

『何だこれ・・・情報の相転移? 彼を起点に穴が開いている!?』

 

吹き荒れる膨大な魔力は神代の深淵その物の香り。

そして咽返るような獣の匂い

ロマニの驚愕通りに須藤を中心に穴が開いたかのように何かが這いずり出てくる。

 

『情報飽和確認! 魔力流入!? 何かが出てくるぞ!!』

『須藤の脳内だ!! コイツ、ペルソナっていう心理領域から何かを呼び出す気だぞ!!』

「クーフーリン、槍を!!」

「分かってる!」

 

 

達哉はその感覚を知っている。

まるで神取と対峙した時の様な。

或いはそれ以上の物が出てくると判断しクーフーリンに宝具の使用を指示。

 

 

 

 

「電電電電波ッ 電波だよォ!! 電波波波電波電波電電電波波波ァ!!  アレスゥ・リバァァスゥゥゥウ・イドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

炸裂。

領事館のこの階層と上の階層が吹っ飛び。

 

 

『馬鹿な・・・そんなことが』

 

ダヴィンチも唖然とする。

計器に表示される魔力量はありえない物になっていた

顕現するのは神そのものではない。

専用ペルソナを中心核として他の荒魂を切り取って取り付けて強引に神格領域まで引き上げた者。

存在は歪ではあるが、特化されているがゆえに専攻分野では本霊よりまさるもの。

 

達哉や日本サーヴァントには素戔嗚に見え。

書文には蚩尤に見えた。

クーフーリンにはそれはタラニスに見えた。

要するに形こそ違えと言えど。各々の生まれの土地の神話の戦神を彷彿させる気配。

大よそ戦神の負の側面を継接ぎにして作り上げた歪な神が這いずり出てくる。

 

だからこそ、ジャンヌ・オルタは須藤を容認していたのだ。

影が須藤にナニカ仕込んでいたのを見抜いていたから。

殺そうと思えば殺せたかもしれないが、実利と被害が割に合わないと判断し、

故に手出しが出来なかった。最低でも第一特異点を取り込む最終工程まで先延ばししていたのはそういう理由である。

 

 

 

『さぁゲームの続きと行こうぜぇ。カルデアァ!!』

 

 

 

継接ぎの名も無き戦神はそう狂笑した。

 




アレス
アルカナ 戦車
Lv90
斬耐 突耐 銃耐 炎無 核耐 地― 水― 氷― 風無 衝無 雷- 重無 闇吸 光弱 精無 異―
力70 魔30 耐41 速62  運40
スキル
ティタノマキア
モータルジハード
チャージ
マハジオダイン
ノヴァサイザー
サバトマ
防炎の壁


須藤本来の専用ペルソナ。JOKERの能力を引き継ぐ形で使用している。
ペルソナヴィジョンは伝承のアレスを戯画的にむちゃくちゃにデザインしたような歪なヴィジョン


あと電波強すぎじゃねと思う方もいるでしょうが。
さらに直感AクラススキルにJOKERの能力を引き継いだ専用ペルソナ「アレス」を持っているため。
流石のたっちゃん達でも出力負けする上に。
ノヴァサイザー使える為、実質ノヴァサイザーが封じられている。
さらにたっちゃん達は市街地&拠点内戦闘であるため攻撃スキルを最大出力で使用できないので圧倒されています。
さらに言えば制御の関係で出力調整細かくできる専用ペルソナ以外が実質封殺。
闇体制完備であるため兄貴の槍も命中しません。
電波はやりたい放題出来て、自分たちは技量と連携で潰すしかないという、たっちゃん達からすればクソゲー状態よ


なお内部の指揮担当悪魔は書文とマルタさんにボコられました。
と言っても中の中くらいの強さの奴なんで戦闘職サーヴァントならボコれるくらいの強さ何で。


そしてニャル仕込みの爆弾がさく裂。
自分言いましたよね? 憑神やるって。
つっても、足立がアメノサギリになった現象やらを制御できるってだけの話しですけども
たっちゃん達がやるのは第四以降ですけれどねッ!!
それまでは使えません。

チート過ぎじゃないかって? 大丈夫 大丈夫。
電波の場合、本人の精神がイカレていると言う事とニャルのバックアップにお陰で使用制限がないだけで。
たっちゃん達が使う場合なら使用制限有りますんで。
第一にチートを得たところで楽にならないどころか、それに合わせて、ニャルが難度調整するんで大丈夫ですよ。



■■■■(アゾられた。トッキーと同じ表情」
ニャル「まだジャブなんだから耐えろよ!! 大丈夫、たっちゃんなら耐えられたからwwww 英雄のお前が耐えられないとかないからwwwww 最後までどこぞの爽やかナイスガイばりに生き恥さらしてねwwww(某ターバンのガキばりに■■■■の心の太腿を指しながら)」

第一特異点後半戦スタートです。
このままたっちゃん達には突っ走ってもらいます。



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二十節 「魔影狂乱」

私に残された最後の望みは、自分の首が切り落とされ、血飛沫を吹き出す音をこの耳で聞くことです。

ペーター・キュルテン


東京は地獄の如き露呈を呈していた。

各陣営の準備が整った瞬間を狙ったかのように、第四勢力が動いたと言えばいいか。

「ガイヤ教 聖女派」、つまるところジャンヌ・オルタを信望する者たちが決起を起こしたのである。

各協会や組合 組織に潜り込ませておいて工作員はジャンヌ・オルタに従い各部署の制圧を行っていった。

既に形骸化したガイヤ教本部、デビルハンター本部および支部。

さらにはナラクを通ってミカド国の本丸への奇襲攻撃である。

殴り先を決めてからの鼻面を折るような同時テロと言っても過言ではない事態に。

メシア、ガイア、加えてレジスタンスは足払いを喰らったかのように。初動の動きが遅れざるを得なかった。

無論それがどうしたかと言う話になるのだが。

ジャンヌ・オルタが考えている作戦には。その初動の遅さが重要なのである。

最も当初構想していた物とは違う。

話しは省くとして要するに一人でやろうとしていたが。なぜか同志と呼べる者たちが出来たので。

 

「始まったな」

「それが終わりか、始まりかは分からないけれどね」

「そう自信の無いことを言うな。お前がカギなんだぞ」

「知っているわよ」

 

ジャンヌ・オルタの目的はたった一つだった。

東京を覆う天蓋をぶち壊す。

その為に、この日の為に準備を続けたのだから。

無限発電炉ヤマトと四文字が作り上げた偽の明星と神の戦車が必要となる。

だからフリンたちに協力までしたのだ。

 

「絆されたか?」

「・・・されていないと言えばウソになるわね、けれどね」

 

―アイツらの提案で何かが変わると思う?―

 

「・・・思わんな。また天使だの悪魔だのに付けこまれて繰り返すだろう」

「その通り、何も変わらない、犠牲無しの美しいハッピーエンド、側だけ見れば綺麗だけれど。それじゃ大衆連中は何も変わらない、痛みを刻み込み、こんなことが起きないように痛めつけなけりゃね。また同じことを繰り返すだろうから、徹底して痛みを刻み込んでやらなきゃならない」

 

だからこそ。あえて犠牲が出る方をジャンヌ・オルタは選択した。

改革とは痛みと言う共有認識が必要から。

 

「お前は世紀の虐殺者として歴史に名を刻み込まれるだろうな」

「そんな私に加担したあんたもね」

「いいさ。私もある意味、失望していたからな」

 

そして、扉の前で二人は止まる。

 

「・・・」

「・・・」

 

沈黙は数秒。

 

「来世があるなら。その時は勝利の酒を共に」

「ええ」

 

カガは歩いてきた通路に振り返り。扉を開けて前に進むジャンヌ・オルタにそう言って。

通路に残り。別れの言葉を継げる。

既に全陣営にはジャンヌ・オルタ自身の狙いは理解されている事だろうからだ。

ある程度の手札を開示し、ここまで派手にやっているのだ連中も馬鹿ではない。

気付いている。現に此処に突入した時に天使共の反撃にあったし。ナラクの方も絶賛戦闘中だ。

レジスタンスも気づいて神殺しの英雄を此処に送り込むだろう。

故にカガは最後の防波堤を買って出た。

ジャンヌ・オルタが神の戦車を食い殺し、無限発電炉ヤマトのエネルギーを吸収し場を離脱するまで決死の足止めだ。

もう出会うことも無いだろう。

何故か一人でやろうとしていたのに心を同じくする人々が集まりことが大きくなってしまった。

そんな彼らと出会うことは無いだろう。

みな自立したいがゆえにやっている。故にせめて世紀の虐殺者としての汚名は自立しようともがく彼らの為に背負ってやるかと思いながら。

 

扉を開けて。

 

 

「――――――――」

 

 

現実へと戻って来た。

ボロボロの謁見の間。

焼け焦げた床に天井に壁。加えて獣でも暴れ散らしたかのような惨状である。

アタランテとヴラドは生き残っていったはずだとラインを繋げるが。帰ってくるのは獣の唸り声のような物ばかり。

何時もと同じように彼女は一人に成った。

でもいい。もう慣れた。

 

「だがそうはいくまいよ」

「――――アンタ」

 

影ではない。外部からの強制介入だった。

情報が信仰というエネルギーと思考に寄生し形を成す。

つまりシャドウとは違う。魔界の住人が顕現する。

悪魔の顕現である。

ジャンヌ・オルタの前に顕現したのはそのたぐいだ。

 

「それで何しに来たの?」

 

殺意が渦巻く。先の戦闘の比ではない。保有するエネルギー総量が低下したことによって逆に制御がしやすくなった事で。

今の彼女は過去に戻りつつある。

いいや向こう側で成長した物がこちらに戻って来ているに等しいのか。

 

「影と閣下の取引の一環だよ。冥府の聖女よ。私とて好き好んで此処にいるわけではない」

 

そうため息を悪魔はため息を吐く。

影と明星の裏取引と言う奴だ。基本アマラでの事象の裏では事が起こる切っ掛けとして影と蝶が舞台を整え。

指揮を執るのは明星と聖四文字と相場が決まっている故にである。

 

「我々は周防達哉の足止めを仰せつかった。君の邪魔はしない」

「・・・あっそ。じゃ好きにやって、どうせあとはなるようになるってやつでしょ?」

「然りと言うほかあるまいな」

「ならどっか行って。今の私はイラついているのよ」

 

悪魔を適当にあしらう様に追い払い。

ジャンヌ・オルタは深く玉座に腰かける。

 

「始まったわね」

 

そして頬杖を付きながらぼやいた。

須藤に仕込まれた罠が起動したのだ。神霊もかくやと言わんばかりの魔力の波動が具現化する。

嘗ての交戦経歴でジャンヌはそれがどれほどの物かを理解する。

アメノサギリと同階級、ただし戦闘特化型ゆえにアメノサギリより驚異度は二段上のナニカがティエールで暴れまわっている。

サーヴァントの蘇生は間に合わない。

防衛体制は整えられないが。戦力調整の意味合いで影が悪魔を派遣してくれたから戦力的に問題は無いだろう。

そして向こうも二日か明日にはこっちに向かってくるであろうことは眼に見えていた。

あの状態の須藤がティエールで暴れれば人理定礎も限界を迎えるからだ。

状況がどう転がろうが。カルデアはジャンヌ・オルタの首を取るしかないわけで。

そしてジャンヌ・オルタも、計画の成就の為に彼らを殺さねばならないからだ。

 

故にジャンヌ・オルタは再度、深く玉座に腰かけて彼らを待つ。誰も居なくなった都市でかつてのようにたった一人で。

 

何時もの様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャハハハハ!! 虐殺の丘ァ!!」

 

須藤の声が木霊するたびに。地獄が生み出される。

落雷と言う形で炸裂する光は都市を壊滅させるに足り得るものだった。

最も威力的には大したことはない。サーヴァントであれば自前でレジストできるし、

ペルソナ使いであれば無効で十分耐えうるに足りる。

具体的に言うのであれば、威力はジオンガと大差が無いのだが、

その範囲が規格外すぎるのである。

なんと、その規模はティエール全域は無論の事。ボルドーまでギリ届かんとする超広範囲である。

ペルソナの固有スキルは個人のエゴと渇望を基準に組み上げられるゆえに。彼の固有スキルは人間を殺すということに特化しているのである。

しかも低燃費なのか連射可能とか言う悪夢仕様だ。

これにはさしものカルデア一同も溜まった物ではなく、そんな超低燃費スキルを相手に宝具を切らざるを得ないのだ。

 

「ジュノン!! クリスタルパレス!!」

 

その殺戮スキルを防ぐために、マリー・アントワネットがジュノンを呼び出し。その固有スキルを中核に。

 

人理定礎 仮想展開(ロードカルデアス)!!

愛すべきは永遠に(クリスタルパレス)!!」

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!」

 

マリー・アントワネット自身の半壊した愛すべきは永遠にとマシュとジャンヌの宝具を同調させることによって。

ティエール全域を包み込む結界を展開し虐殺の丘を防ぐ。

一方の書文や長可に宗矩は一般市民の避難誘導指揮だ。

加えて須藤はアレス・リバース・イドを身にまとっているため空中を高速移動している。

手出しできるのは。

 

「いけ!! クーフーリン!! エリザ!!」

「「了解!!」」

 

達哉とクーフーリンとエリザベートくらいなものである。

達哉のコウリュウに乗った二人が飛ぶ。

エリザベートはその翼をはためかせて、クーフーリンはその健脚で弾丸のようにだ。

この三人が須藤事「アレス・リバース・オド」を押さえる主戦力となる。

他はなぜ駄目かと言うと、そも空中戦が出来る人材ではない。

クーフーリンはケルトの大英雄である、槍の間合いに入れば如何様にでもできるし。

達哉はコウリュウやメタトロン、サタンを使えば十分に空中戦にも対応可能。

エリザベートも無窮の怪物によって飛行能力が追加されていることは言わずもかなと言う奴である。

 

「ジャリァ!!」

「キヒ!」

 

弾丸のように突撃したクーフーリンの槍の刺突が繰り出されるものの。

須藤は容易く槍を旋回させ弾くと同時に、左手からジオダインを射出。

通常なら空中での大きな回避行動など不可能なのだが、弾かれた勢いを利用しクーフーリンは再度跳躍するように空中で体を回転。

ジオダインを回避、さらに体の動きを無駄にしない様に槍を再度突き出す。

それの繰り返しだ。

相手の攻撃も利用しながら空中に滞空するというのも神話レベルの英雄ならではだろう。

 

「とったぁ!!」

 

そして拮抗状態に持ち込まれていれば、基本的に他がおろそかになる。

背後からエリザベートが強襲。

取ったと言っても倒せるとは露ほどにも思っていない。クーフーリンか達哉が致命打を与える隙になればいいと思っていた。

故に不測の事態だった。

 

「え、なんで!?」

 

槍が深く突き刺さったのである。

これだけの霊基と魔力だ。まさか発砲スチロールと同等の強度とはエリザベートも思わなかったのである。

ただし霊基の厚み故に、核となっている須藤までには届かなかった。

 

「捕まえたぜぇ!! トカゲ娘ェ!!」

 

槍が刺さった部位の霊基の密度が増大。槍を拘束し引き抜けなくする。

同時に。

 

「マハジオダイン!!」

 

アレス・リバース・イドの全身から雷が放射。

対魔力スキルの無いクーフーリンとエリザベートでは致命打になる。

クーフーリンは打ち合いで自らを弾き飛ばす様に離脱するものの。

槍を引き抜くことに必死になっていたエリザベートは退避が遅れる。

 

「させるか!!」

 

が、そこで達哉がコウリュウを高速飛翔させエリザベートの後ろ襟首をつかみ寸前のところで回収しつつ。

そのままコウリュウをバレルロールしつつ落下しているクーフーリンに追いつきコウリュウへと乗せ。

コウリュウを翻させて再上昇。

須藤は迎え撃つ形で槍を掲げる。

 

「来るぞ!」

「防御する、二人は俺にしがみ付け!!」

 

クーフーリンの叫びと同時にティエールを覆うかのような雷撃が炸裂。

クーフーリン、エリザは達哉にしがみ付き、それを確認した達哉は。ペルソナをオーディンにチェンジしマハジオダインを防ぐ。

ペルソナを今度はサタンにチェンジし再飛翔。

 

「達哉、お前大丈夫か!?」

「そこまでは損耗していないが、長くは続けられない!!」

 

祭神戦より気力は充実しているとはいえ。

そう長くは続けられないのは道理である。

 

「ロマニ、ダヴィンチ! 敵解析結果は!!」

『ちょっと待ってくれぇ!! ああもう情報がしっちゃかめっちゃかだ! 解析に時間が掛かる』

 

達哉の叫びに、さしもの天才ダヴィンチも半泣き状態で答える。

なんせ計器には古今東西の戦神が入れ替わりに表示されるのだ。

加えてそれらがモニタに滝の如く羅列されては入れ変わっているのであるから、解析どころの話ではない。

達哉とて馬鹿ではない、だが情報を欲するのは須藤の得体の知れなさゆえにだ。

シャドウ 悪魔 サーヴァントどれとも似通って行って違う感覚だからだ。

勘という物は馬鹿には出来ないからこそ不安定要素は潰したくなるのは当然のことである。

 

「どうするよ、達哉」

「攻め立てるほかないだろう、この状況においては。下ではいつ撃たれてもいいように三人とカルデアに無理させているんだから」

「だよなぁ」

 

そして、解析終了まで。兎にも角にも攻め立てるほかない。

須藤は超広範囲スキルを無拍子で撃てるのだから。それに備えて三人の合体宝具は交戦終了まで維持しなければならず。

時間が立てば立つほど。負荷が増大するゆえだ。

手立てがない故に今は攻め立てるほかない。

 

「エリザ、さっき攻撃を直撃させていたよな。感覚から何か掴める物はあったか?」

「うーん、感覚とっても。なんか発砲スチロールをぶったぎった感覚というか・・・なんて言えばいいだろ・・・ 低密度の氷塊に槍を突き刺した感じだったわ」

 

エリザの表現に達哉もクーフーリンも唖然とする。

達哉はペルソナ使いであるがゆえに神代が感覚的にわかるし、クーフーリンはそも神代が去る前の神霊がまだいた頃の時代の人間だ。神の恐ろしさが分かるゆえに。

エリザベートの表現に唖然とするほかなかったわけだ。

何故なら。目の前の須藤の身に纏うのは本物の神威なのだから。

通じないというのならまだわかるが、まさかの発泡スチロールやら低密度の氷塊と表現されては困惑するという物であろう。

先も言ったように達哉もクーフーリンも神を知るものだからだ。

 

「まてまて、下手な戦神レベルのアイツが、そんな脆いはずがねぇぇぇええええええ!?」

 

そんな脆いわけなかろうよと、クーフーリンが言おうとした刹那。

達哉はサタンを急旋回しつつ、バレルロールにターンを繰り出す。

急激に掛かるクーフーリンは絶叫を上げる物の、サタンを掠めるように規格外出力のマハジオダインが雨の如く降り注ぐ。

なんども言うが耐性が無ければサーヴァントどころか幻想種ですら消し飛ばせる威力なのだ。

雷耐性持ちの飛行能力所持ペルソナが無い以上、兎に核回避するほかない。

 

「ちょこまかとウぜんだよぉ!!」

 

狂乱する須藤はマハジオダインをばら蒔きながら。

超高速で達哉たちに肉薄、達哉とクーフーリンは互いの位置を入れ替え、クーフーリンが戦闘へと立つ。

 

「モータルジハードォ!!」

「オォォオオオオオオ!!」

 

革鎧に刻み込んだルーンを起動しつつ身体能力を底上げしモータルジハードを受け止める。

クーフーリンの全身が軋み、足場にしているサタンが悲鳴を上げ。

サタンを維持する達哉にダメージのフィードバックが走る。

だが気にしても居られない。達哉は奥歯を噛みしめつつ光子砲を発射。

エリザベートはクーフーリンがモータルジハードを受け止めると同時に再飛翔し、須藤の背面を取っている。

だが須藤はあざ笑うかのように、上半身と下半身の位置を側転のように入れ替え、下半身に直撃コースだった光子を回避。

さらに槍でクーフーリンを弾き飛ばし。

 

「何度も同じ手を喰らうかよォ!」

「「クッ!?」」

 

左腕を後ろに回してエリザベートの槍を受け止め。

槍でサタンの鍵爪を押さえる。

クーフーリンは吹っ飛ばされながらもサタンのしっぽに片腕でしがみつき事なきを得る。

 

「だからってねぇ、引けないのよ!!」

 

エリザベートが旋回、万力のような力で槍を引くも押すも出来ないのなら。

槍をポールダンスのポールに見立てたうえで旋回し遠心力を付け。

自らの尻尾を、アレス・リバース・イドに叩きつける。

サーヴァントにすら通じる竜の一撃に等しい物はアレスリバースオドの頭部から胸元までを粉砕。

砕けたガラスの様に霊基が散らばり、須藤の上半身が露出する物の。

即座に再生が始まる。

 

「須藤ォ!!」

 

だが逃がさんとばかりに達哉がサタンの背を蹴って、跳躍。

大上段に構えた正宗を振り下ろす。

獲物が無い須藤は、このまま両断されるかと思いきや。

 

「キッヒャア!!」

「!?」

 

振り下ろされる白刃は須藤の額数cm手前で停止。

須藤は両掌で挟み込むように、正宗を止めたのだ。所謂真剣白刃取りと言う奴である。

ならばとばかりに達哉は右手で刀を保持し、ホルスターからナイフを左手で器用に引きぬき。

間合いが遠い為、投擲を選択するが腕が動かない。

 

「ペルソナと使用者は一定数リンクするってな」

「くっ」

 

サタンの両腕が破砕寸前にまで握りしめられていた。

激痛でこれ以上腕を振るえなくなっている。

 

「そしてぇ、テメェも電波に成れや!!」

「ギッ!?」

 

ギチギチと音を立ててアレス・リバース・イドの霊基が修復を開始と同時に。

サタンを捕食し出す。フィレモンとの契約型特有の共鳴現象を利用した能力だ。

リバースオドはニャルラトホテプの力であり、ペルソナ同士が接触しているなら十二分に可能である。

と同時に接続された達哉の方は堪ったものではない。

須藤の他者の排斥欲求という獣性に引き摺られて、彼の抱える憎悪、憤怒、絶望が引き釣り出されると同意義だからだ。

抱えているペルソナが全員暴走寸前である。

 

「達哉!? エリザベート離脱だ!! 達哉を抱えてこっちにこい!!」

 

達哉の異変に気付いたクーフーリンはエリザベートに達哉を抱えて退避するように言いつつ。

どうも捕食現象から逃げられずペルソナを引っ込められない達哉を救助すべく。

サタンとアレス・リバース・イドの結合部を槍で粉砕。

と同時に強引に槍を引き抜きつつ、エリザベートが羽根を羽ばたかせ。達哉の腰に腕を回し回収する。

そういった事もあってか両者ともに弾けるように間合いを離して対峙。

足場が無ければ話にもならないので。一番荒れ狂っているサタンではなく、コウリュウを召喚し、クーフーリンとエリザベートもそれに乗る。

 

「うっぐ・・・ッア」

「大丈夫?」

「大丈夫じゃないな・・・コウリュウの維持で一杯一杯だ・・・」

 

だが達哉は左手で頭を抱えて膝をついていた。

当たり前だ。所持しているペルソナが暴走状態なのである、コウリュウはまだ制御できるが。

直接浸食を受けたサタンは今回の戦闘では使えないくらい拙い状態であるし。

専用ペルソナである、アポロはもっとも達哉とつながりが強い為、他の物より暴走している。

それでも暴走を押さえつけられるのは彼が背負う罪と罰の重さと覚悟の念だろうか。

 

『こちら管制室、敵性存在の霊基解析終了』

 

そしてダヴィンチ達もまた動く。

アレス・リバース・イドの霊基解析が出たのである。

達哉たちのコンタクト型礼装に須藤とアレス・リバース・イドの霊基情報が映し出される。

 

『敵の出力は神霊クラスではあるけれど継接ぎで無理やり形を保たせているんだ。回復こそしているが。ジャンヌ・オルタレベルで理不尽じゃない。殴り続けば落ちるよ』

 

出力こそ神霊クラスではあるが、歪に霊基を継接ぎしている故に防御力や耐久力はサーヴァントクラスと言うことが判明する。

ならば、やることは決まっていた。

 

「外装を削り切るか・・・或いはさっきみたいに外装を引きはがしたうえで中の須藤を倒すかだな」

「つっても達哉は接近戦は控えろ、さっきみたいに取り込まれたら溜まったもんじゃねぇぞ」

「分かっている」

 

相手は脆い、自動回復機能も持ち合わせているが、切った端から治癒するという理不尽っぷりはない。

火力こそすさまじい、宝具ランクBクラスの超火力スキルをポンポン撃って来るが、所詮は殺人鬼。

力任せも良いところで対処はしやすい。

ただし、此処からは達哉は戦闘に大きく参加はできない。

先ほどの浸食捕食を警戒しなければならないし。

加えて、いまだにペルソナの暴走状態が収まっていないのだ。

コウリュウにペルソナを固定し支援に回るほかない。

 

「加えて下も長くはもたねぇぞ」

 

呑気に会議こそしているが現在進行形でマハジオダインやら虐殺の丘が降り注いでいるのである。

都市全域に防壁を張り巡らす、マシュ。マリーアントワネット。ジャンヌへの負担は増大する一方だ。

そして長可たちも民衆の避難誘導に天手古舞であるし。

上空で高速戦闘を行っている達哉たちへの支援はほぼ不可能と言ってもいい。

 

「ロマニさん、下の状況は?」

『マシュたちは防壁の維持、行方不明だったジル元帥も何とか見つけて皆で避難誘導中だ』

「非難の誘導具合が一番進んでいる場所をリアルタイムで表示してくれ』

『わかった』

「・・・マシュ、聞こえているか?」

『聞こえてます』

「こっちで須藤を地表に叩き落す。その時だけ宝具を解除、地表への落着と同時に範囲を狭めて再展開してほしい』

『須藤を結界内に閉じ込める・・・と言う事でしょうか?』

「ああ、こうも空中戦ではこっちも分が悪いからな」

 

ドッグファイト染みた戦闘は続けられているが。

両者ともに音速域での戦闘だ。

コウリュウよりも、アレス・リバース・イドは重力を無視したかのように動けるため。

致命打を与えられずにいる。故に次の一手で須藤を地表に叩き落して。

マシュ達の宝具で閉じ込めたうえで全員で袋叩きにする算段を達哉は立てていた。

第一に消耗戦になれば勝ち目はないのが明らかだ。

 

「でどうするよ、達哉、俺の槍を使うか?」

「槍は却下だ。いくら準権能クラスであっても、闇耐性持ちな上に神クラスの相手にはホーミングは期待できない」

「だよなぁ」

 

ペルソナとは欠片とはいえ神格を降ろす。

故に物理的或いはエネルギー的破壊を巻き起こす攻撃スキルであれば無効耐性性能を上回ればダメージを通すことが可能だが。

呪殺や破魔に精神などの間接的な殺傷耐性は別口であり、耐性さえあればほぼ無力化できてしまうからだ。

故に槍の威力自体は十二分に須藤を叩き落してお釣りがくるが。

因果逆転という呪いの部分が通用しないのだ。

直撃させるには手間と工夫が必要となる。

 

「面倒だが二段重ねで行こう」

「あの時みたいに?」

 

エリザベートの声に達哉がうなずく。

礼装に転送された避難が終了されつつある区画を確認し。

叩き落すタイミングと角度を計算。

位置取りの為。コウリュウを唸らさせ。再飛翔する。

 

「それとだ。クーフーリン、頼みたいことがある」

「なんだよ」

「確実に奴を落す。だから無茶をする」

「・・・で?」

「最悪意識が飛ぶことをする」

「わかった。死ぬなよ」

 

コウリュウがその巨躯をしならせ、再上昇

雷の雨を抜けてコウリュウを突撃させ、その巨躯をアレス・リバース・イドに巻き付いたのだ。

 

「自分から喰われに来たかァ!?」

「黙れ!!」

 

巨躯は拘束したが。接触している段階で捕食範囲内だ。

コウリュウの身体が徐々に結晶化し同化されていく。

エリザベートは必至に形相で送られてくる情報を確認し位置取り。

クーフーリンはアレス・リバース・イドの右手の槍を振るわせまいと鍔迫り合いに持ち込む。

達哉も達哉で正宗を深く突き刺し、須藤の気を引く。

 

「行くわよォ!!」

 

エリザベートがたっぷり距離を取って旋回、空中回転かかと堕としの要領で遠心力を存分に乗せた尻尾を振り下ろす。

 

「マシュ、宝具解除ォ!!」

『了解!!』

 

それと同時に達哉が叫びマシュたちが宝具を一時解除、

勢いそのままに達哉たちと須藤は一直線に予定落下コースに乗りながら垂直にもつれ合うように落下。

 

「この、クソ!?」

「動くんじゃないわよ!!、このご同輩!!」

 

須藤はアレス・リバース・イドを動かし拘束から抜け出ようとするが。

エリザベートも拘束に尻尾を最大展開し巻き付けたうえで、自身の剛力も使って抑え込む。

クーフーリンも達哉も出来うる限り抑え込む。

団子状にもつれ合い、そのまま落下。

地面に激突と共に、達哉、エリザベート、クーフーリンは三者三葉に衝撃で吹っ飛ぶ。

クーフーリンは大丈夫だろうと、達哉とエリザベートのフォローの為に走っていった書文とゲオルギウスがそれぞれをキャッチしてフォロー

 

「長可殿!!」

「わーてるよぉ!!」

 

落下ポイントでは長可と宗矩、書文、さらにタラスクを呼び出していたマルタが待機していた。

宗矩の声と同時に全員が飛び出て、アレス・リバース・イドに殺到する。

 

「嗤えぇやぁ!! 人間無骨!!」

「兜割りィ!!」

「踏みつぶせタラスク!!」

 

書文とゲオルギウスは達哉とエリザベートの回収。

その他は一斉に攻め立てるがしかし。

長可の渾身の一撃は槍で弾かれ左手拳で長可は弾き飛ばされ。

宗矩は兜割りを繰り出し頭蓋から股間まで一閃の二枚下ろしにせんとするが。須藤は即座にアレス・リバース・イドの左腕を引き戻し刃と自らの間に割り込ませ。

刃が腕に食い込むと同時に左腕を振い、万物を切断する魔剣の剣筋をずらしながら宗矩を長可と同じ場所に振るい飛ばす。

そこにタラスクが覆いかぶさるように来襲。

振い降ろされる全体重に乗ったタラスクの前足二本を両腕で抑え、そのまま支える。

その間にマルタが踏み込み、渾身の右ストレートからの左右ワンツー。

砕ける、アレス・リバース・イドの霊基。だが仕留めるまでには足らず。

 

「うぜぇんだよ!!」

 

虐殺の丘を全方位掃射しながら、両腕を振り上げタラスクを引っ繰り返し、マルタを蹴り飛ばす。

 

「ジュノン、マカラカーン!!」

 

だがそうはさせないと宝具を再展開しつつ、マリー・アントワネットがマカラカーンを展開。

全員を保護する。

さらに、自力で起き上がったクーフーリンが跳躍、須藤の周りに誰も居ないことをいいことに宝具の真名解放投擲だ。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)!!」

 

ホーミングこそしないが止まっている相手に外すも糞も無い。

贋作とはいえアイアスをぶち抜く槍の投擲だ。

リバース・オドと言う鎧を身に纏っていても防ぎきれるものではない。

と言っても耐性はあるので。須藤は威力を削ぐ方向にシフト。

全力全開のマハジオダインをぶちかまし威力を減衰。

 

そして着弾。

 

空気中に紫電が迸り砂煙が舞う。

 

マシュ達の宝具も鳥かごの様に再展開が終了し殺しの場が完成した。

一方の須藤はボロボロだった。

あれだけやれば如何に神霊と言えどもズタボロになるのは道理ともいえる。

 

だがまだ動いていた。

 

意識があやふやだった達哉とエリザベートも復帰。

それでもなお須藤の表情はあざけりに満ちている。

 

「雷ってよォ、地面によくとおるんだよな。拡散率は高ぇーけどよぉ、収束して撃てば一般人くらいなら楽に殺せるんだぜ」

 

ヤバい予感に背筋を凍らせつつ達哉が叫ぶ。

 

「誰でも良いやつを止めろォ!!」

 

今ここで止めないと不味いことになると。

須藤の言うことはごもっともである。

なんせ地中深くまで宝具の結界は張れないのだから。

宗矩と長可はまだ体制を立て直せず、マルタも同様だ。

タラスクに至っては引っ繰り返されてまだ起きれない。

 

故に。

 

「全員走れェ!!」

 

避難誘導指示から、慌てて戻って来たオルガマリーが拳銃を乱射しながら走り。

ラプラスの大鎌をぶっさすが、Lv差故に。

 

「そんな低レベルの玩具以下でなぁ!!」

「砕けたぁ!?」

 

大鎌はアレス・リバース・イドの左腕の一振りで粉砕。

だが、須藤の気はそれでオルガマリーに向き直るのを見計らって。

クーフーリン。エリザベート。ゲオルギウス。書文。が各々の武器を振りかざし切り込む物の、

如何に脆いとはいえ妙に分厚い霊基の前に、須藤まで届かない。

須藤はアレス・リバース・イドに槍を逆手に持たせ、穂先に雷を充填する。

 

「やめてください!?」

 

思わず宝具を維持していたマシュが叫ぶ。

装填されているスペルは虐殺の丘である。

そんな超広範囲スキルが地面を伝って都市全土に広がればどうなるか?

威力、範囲共に地面を伝わせる以上、減衰するだろうが、それでも人を殺すには実に容易い威力は出るのである。

 

「やめてくださいぃ? 知らねぇよ!! 撃っちゃうんだなぁ! これがァ!!」

 

須藤はマシュの制止の声に嘲りを叫び。

思わず感情の赴くままにマシュは、宝具維持を放棄し、須藤に向かって飛ぶ。

彼女の脳裏にはここで暮らす人々や難民のみんな、そして自分を慕ってくれた難民の一家の笑顔が浮かび。

槍が地面に突き立てられようとして。

 

「オーディン!!」

 

寸前のところで達哉がインターセプトに成功、オーディンの槍と正宗で受け止めたのだ。

無論、オーディンは半ば暴走状態、耐性もまた期待は出来なかった。

だがそれでも防がねばならない攻撃であった。そして炸裂する光。

 

「先輩!?」

「タツヤァ!?」

 

マシュとオルガマリーの絶叫。

達哉は攻撃を防ぎこそしたものの、体中から白煙を吐き出しながら白目を向いてた仰向けに倒れる。

 

『ロマニィ、達哉君の状況は!?』

『心電図は正常だ。生きてる!!』

 

ダヴィンチ、パニックを防ぐためにすかさずロマニに確認。

ロマニもそれに答えて、素早く確認と応答を敢行。

 

「書文、タツヤを」

「心得ている!!」

 

オルガマリーの命に応えて書文は達哉を引きずりつつ後退。

 

「おいおい。たっちゃんよぉ、舞耶ねぇえちゃんの代わりに丸焦げかァ? ああミディアム位だから聖女様と御揃いって言った方が良いか?」

 

そんな様を見て須藤はアレス・リバース・イドを暴れさせ、纏わりつくサーヴァントたちを弾き飛ばしながら。

再度、虐殺の丘を使用せんとするものの。

激昂したマシュが発動前に盾で殴りつけるかのように発動を阻止する

 

「お前ぇ!! オマエだけは!!」

「ヒャッハ!!」

 

生まれてこの方、無いくらいにマシュは激昂していた。

達哉の記憶映像、そして実際に会ってみればジャンヌをこれ以上ないくらいに侮辱し貶し。

さらには無関係の民を躊躇なく笑いながら虐殺しつつ、なおも達哉を嬲り周囲を嘲笑う。

我慢の限界と言う奴であろう。

盾が荒々しく槍との打ち合いになり、激しい音が響く。

質量と質量のぶつかり合いだ。それにマシュの怒りに呼応するかのように彼女の魔術回路の回転が上がっていく。

クーフーリンでさえ拮抗させるのがやっとだった力勝負に互角の打ち合いと言う不可解現象に悲鳴を上げるのはロマニだ。

彼女の身体の事を知っているから当たり前ではあるが。

怒りに染まった。マシュにはロマニの制止の声は届かない。

須藤はマハジオダインをばら蒔きつつ、周囲のサーヴァントたちを牽制しながらマシュとの打ち合いを楽しむように槍を振う。

 

「ほれほれ、どうしたァ!! 憧れの先輩の味わった屈辱ってのは美味いかぁ?」

「もう黙れ!!」

 

神社での一件、モナドでの一件、大事な人を守れなかった苦渋と痛みの味は美味いか?

同じ思いを共有できてよかったなと須藤は挑発を重ねていく。

その都度にマシュの形相は怒りに染まり、魔術回路の回転率が跳ね上がっていく。

だが怒りに我を忘れるというのは動きが単調になっていくと言う事である。

足運びをするたびに、足跡を地面に陥没させるような力で踏み抜きつつマシュは盾を恐ろしい力で振っている物の。

先も言った通り単調の極みだ。

 

「誰かマシュちゃんのフォローを!!」

「こんな状況じゃいけねぇよ!!」

 

マリー・アントワネットの悲鳴にクーフーリンも怒鳴りつついけないという。

防御に徹さねば耐性持ち以外は消し炭のマハジオダインが掃射されているのだから仕方が無いし。

そんなマハジオダインを他の区画に出すわけには行かず、マリー・アントワネットもジャンヌも必死で宝具を維持しなければならない。

誰も動けないのだ。

そしてついに臨界点はそこに来る。

 

「ティタノマキァ!!」

「ウァ!?」

 

横なぎに振るわれるティタノマキアが炸裂しマシュの大盾を弾き飛ばす。

無武装となったマシュに、無慈悲に須藤は返す刃でモータルジハードを放つが。

 

「うわぁあああああああああ!!」

 

そこに雄たけび上げて、必死に恐怖を押し殺しフォローするべく全力疾走してきたオルガマリーがマシュに飛びつき。

そのまま地面を転がる様に、間一髪のところでマシュを救い出す。

 

「死ぬかと思った!? 死ぬかと思った!! 私生きてるわよねぇ!?」

『生きてます!! 生きてますから落ち着いて!!』

 

錯乱状態になる、オルガマリーをロマニが落ち着かせるべく必死に声をかける。

だが状況は一向に良くならず。

 

「クキキキ、今位で潮時かぁ、なら出来る限り巻き添えよ!!」

 

須藤はこれ以上の交戦は不可能と判断し。

ならできるだけ巻き込んでやるとばかりに槍に力を集中する。

マハジオダイン及び虐殺の丘の収縮発射、それはまさしく神の力と言っても過言ではない。

現状の防壁では防ぎきれない。

マシュが居れば何とかなるかも知れないが。

ご丁寧に彼女のいる方向とは反対方向へと仮想展開された砲身を向けている。

位置的に防御は間に合わない。

クーフーリンは槍を投げるが、須藤はアレス・リバース・イドの左腕を駆動させ、跳ね除けるように打ち払う。

無論、真名解放済みではあるが、呪いの部分が通用しないためただの威力ある投擲でしかない。

だがアレス・リバース・イドの左腕はくだけたもののこの場では意味がなさない。

 

「まにあわ!!???」

 

間に合わないとオルガマリーが叫ぼうとして愕然とする。

射線軸に達哉が立っていった。

これ以上はやらせないという覚悟の表情と絶対に殺してやるという殺意の表情だ。

先ほどの電撃で、意識を飛ばした達哉は遂にペルソナと己の憎悪に引き摺られる形で暴走していたのだ。

 

「来い!! アポロォ!!」

 

達哉の叫びと同時に彼の背後にアポロが具現化する、禍々しい雰囲気を身に纏い。

青の双眸は赤に染まって陽炎ような炎の光を揺蕩せて

その両腕が”白く”染まっていた。

須藤は好都合とばかりに。仮想砲塔の引き金を引く、光が榴弾で炸裂し。

 

「いい加減にぃ」

 

それを見ていたマシュもオルガマリーも息をのんだ。

達哉の表情が憎悪に染まり殺意に濡れ過ぎていたからだ。

同時にアポロの表情も一瞬だが三つ目と裂けた三日月のような口になり。

両腕を突き出し閃光に触れると同時に。

 

「しろぉ!!」

 

―■■■■■■―

 

達哉の雄たけびと共に虐殺の丘の閃光が一瞬にして結晶化し砕け散る。

須藤もマシュもオルガマリーもカルデアも全員が呆然とし。

結晶化し四散した魔力がアポロが両腕に集約、達哉の獣染みた叫びと同時に。

達哉とアポロはアレス・リバース・オドの懐に潜り込んでおり、

アポロが右腕をアレス・リバース・オドの腹部にめり込ませそのまま持ち上げ。

 

「ノヴァ」

 

灯る光は先ほどの須藤の物以上の物を。

 

「サイザァァァアアアアアアアアア!!」

 

アレス・リバース・オドを消し飛ばしつつ上空へと光を打ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

達哉は眼下を見た。

そこには須藤が倒れていた。下半身は炭化し、全身が焼け焦げている。

嘗ての面影はそこには無かったが。影の力かそれでも彼は流暢にしゃべって見せた。

 

「満足したかよ。達哉」

 

血をまき散らしながら須藤は仰向けに倒れ。致命傷を負いそれでも嘲りを止めない。

 

「俺と言う過去をようやくパージできて。満足かァ」

「過去が消せるわけないだろ、悔しい話だが、お前も今の俺を成り立たせている要因の一つだからな」

「・・・そうかぁ」

 

達哉の言葉に須藤はどこか満足げだった。

 

「・・・なぜおまえはこんなことを・・・」

「聞くなよ、正しくないから正そうとしただけだァ。俺はァよぅ、言っただろう? 詰んでんだよ」

「・・・・」

 

そう詰んでいる。影が達哉を引きずり込んだから持っているだけの瀬戸際である。

いや、もう戦える力を持っているから達哉が死んだ程度では剪定対象にならないだろう。

そして須藤も詰んでいた。

 

「そこの元帥様といっしょさ。キヒヒヒ よぉく見て置け、マシュお嬢ちゃんにカルデアのお嬢様。俺はお前たちだ。」

「何を言ってるんですか。私たちはアナタではない!」

「いつまで・・・そう強きで居られるかなぁ? お前たちも必ず折れる日が来る。今はたっちゃんに縋っているから立っていられるだけの話だァ 俺はそう言った折れた連中の影だよ、諦めてしまったお前達そのものだ」

 

いつまでも続く、故に終わらせてくれ。

そう言う自首衝動の祈りの代弁者だと。

同時に幻想だけではなく、現実そのものを受け止めきれず折れた結末が自分だと須藤は言い切る

 

「お前たちもいずれは思う、終わってくれってなぁ」

 

影との戦いに終わりはないのだ。

終わっていると奢るものほど後の事を考慮できないししない。

 

「そして絶望すると良いさ。お前達もいずれそうなる。なぁ正規No持ちの泣き虫オルガマリーちゃんよぉ」

「正規No持ちって、ちょっと待ちなさい、須藤、貴方何を知って」

「さてなぁ、俺が知るかよォ、電波がそういえって言ったんだ。」

 

言葉の真意まで知るかよと、彼は一息ついて最後の言葉を述べる。

 

「受け入れられなくなった瞬間に影は湧いてくるぜぇ。どこまでも。どこもまでも。ずぅっと、影はお前達を見ている」

 

そう言って須藤は息を引き取った。

さぁと夜風が虚しくカルデアの面々を撫でる。

 

『・・・人理定礎の悪化を確認・・・ AからA+に入ったよ』

 

当初はA-と言う数値であったが。先の戦闘でAに。そして今回の須藤との戦闘でA+へと移行する。

余裕は遂に消失した。

それはジャンヌ・オルタも同様だ。

遂に両者崖っぷちに立たされた。

 

 

ならば今度は彼等が攻め込む番である。

 

 

 

 

 




須藤竜也
原作でも文字通り事態を動かすための発火材として使われていた人。本作でもニャルがたっちゃん達が早期解決するための発火材及び邪ンヌをおちょくる人材として投入された。
作中でもボロクソに言われているが、こいつが電波になったのは父の竜蔵の過度な教育によるものの為である。
やったことは擁護できないが彼もまた毒父やニャルの被害者と言えば被害者である。



リバース・イド
アルカナ 使用者の適正アルカナの反転
明星&聖四文字から提供されたアマラの悪魔運用システムである喰人とコトワリによる神卸システム
さらにそこに型月世界の固有結界とビースト運用システムをニャルとフィレが悪魔合体させて構築した新システム。
早い話が.hakcの憑神。
自身の専用ペルソナと他者の排他的欲求や渇望と言う獣性を中核に神の荒魂の側面を無数に結合し鎧として身にまとうというもの
攻撃性能は下手すると本家本元を凌駕するが、霊基が継接ぎ状態且つ不安定なため、出力は兎にも角にも強度面で言えば普通のサーヴァントと大差が無い。
だが須藤の場合はメンタリティが浅すぎて攻撃特化のアメノサギリ程度で済んでいる。
抱える他者の排斥欲求に準じる憎悪や獣性が深ければ深いほど悍ましい物が這いずり出てくる。
たっちゃんはまた守るべきものを得てしまった。
故に影は闇の様に酷く淀み奈落の如き露呈を呈している。



ニャル「ペルソナの花と言えばやっぱ暴走よ!! 世界観も変わったし、都合の良いシステムもあるし、第一獣対策で暴走した場合は派手に爆発するようにしてみますた☆」

フィレ「ガンバレ、君たちはこれを乗り越えらると信じている☆」

英霊&神霊の皆さま ドン引き中



という訳でたっちゃんの半暴走とティエール市街地防衛線は終了!!
此処からカルデア愚連隊がオルレアンに突っ込みつつ、エリちゃんは単独でカーミラ城にカチコミに行きます。
待ち受けるは、邪ンヌの憎悪に侵食されたアタランテとヴラド。
そして閣下がニャルとの取引で派遣した悪魔ども。
ジルの背後にはニャルが迫るという感じでお送りしたいと思います。
おかしい・・・予定では第一特異点終了しているはずだったのに・・・
何故にこんなに長引いたし。







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二十一節 「平穏/進攻」

敵が中に入った後で門を閉ざしても意味がない。


マジックザギャザリング「裏工作」のフレーバーテキストより抜粋


須藤の強襲と戦闘から夜が明けた。

達哉は動けなかった。ペルソナの暴走などで頭痛が酷かったし。

命に支障はなかったとはいえ、感電までして白煙を吐いたのだから、体中に痺れが残されている。

ともすれば、休むべきなのだがそうも言ってられなくなっていた。

人理定礎の悪化に伴い、ついに崩壊が始まったのである。

現在、オルレアン周辺が異界の如き状態を呈しているとの観測班からの報告が上がった。

須藤の強襲によって民衆のジャンヌ・オルタへの共有する恐怖心が臨界を超えて彼女を魔王かなんかだと認識し始めた結果であろう。

彼女がいる場所は地獄だとかそういう類の噂が出始めている。

所謂、噂に尾鰭が付くという奴だ。

ジャンヌ曰く、出力アップや修復はしていないと言う事で確認は取れたが。

何時、そういった恐怖心の類の認識で再びジャンヌ・オルタがパワーアップするか分かったものではないからだ。

第一に何度も言う通り定礎が限界値に近いのである。

無理をしてでも仕留めに行くほかなかった。

故に当初使用予定だった馬車を即座に準備し。

職人を手配しタラスクに引かせるように細工中という訳である。

もともと機材は万が一を考え準備していたということもあって作業はスムーズに進んでいた。

達哉も当初は参加しようとしたが。

 

「けが人は大人しくゆっくりしてなさいな」

 

マリー・アントワネットの笑顔と言う名のお叱りを喰らっては動けるわけもなく。

体中が痛いのも確かなので彼女の言葉に甘えて。

ベルベットルームでのペルソナ調整を終えて、ベンチで漫画を読んでいた。

 

『そっちは鬱屈した状況が続いてんだろ? それに達哉はまだ動けないんだから、ここは読書でもしてリフレッシュしておけ』

 

そんな風にカルデアスタッフのムニエルが私物の漫画を箱に詰めて送り付けてきたのである。

箱にはムニエル厳選ギャグマンガ集と張り紙がされていた。

達哉が読む漫画と言えばレース物やら不良物が大半だったため、ある意味新鮮だった。

新鮮過ぎたのだ。

 

「先輩、湿布の張替えの時間です、ってなに読んでいるんですか?」

「いや、ムニエルさんから鬱気には此れだと送られてきた漫画なんだが。ボーボボというのか? ・・・わからんが笑えるんだが真面目に考えると頭が」

「先輩、それフィーリングで読む漫画です、真面目に考えちゃいけませんよ」

「そうなのか? ギャグマンガはある意味流れが大事だろ・・・」

「ボーボボはそういうマンガじゃありません、先も言ったっ通りフィーリングで読む漫画です、考えるな! 感じろ!と言う奴ですね」

「そっそうかぁ・・・俺のいた時代とはやっぱ違うんだな」

 

達哉が此処に来るまでに居た時代は1999年であり、それ以降は世界自体が達哉一人なので。

達哉の世界ではボーボボは連載すらされていなかったりするのが余談である。

 

「あと、それ所長には見せない方が良いかと」

「・・・なんでまた?」

「一度、ヒステリックを収めるために、ムニエルさんとキリシュタリアさんがそれとなーく進めたんですが。理不尽すぎて突っ込みの鬼と化しヒステリックがより悪化したということがありまして。それで発狂した所長に嫌味かとボーボボ全巻でキリシュタリアさんが殴られまして」

「おおう、なんというか」

「はい火に油と言う奴を始めて見ましたよ。その後、キリシュタリアさんとムニエルさんは2時間の説教地獄だったんです」

「・・・キリシュタリアとムニエルさんが何をしたと言うんだ」

「キリシュタリアさんは、天才ですが、天才ゆえに突拍子もないこと結構していたので・・・残念ながら当然かなぁっと・・・」

 

キレた人間って怖いねと言う話である。

キリシュタリアの普段の突拍子もない行動にうっぷんがよほど溜まっていたらそりゃそうもなるかと。

 

「そう言えば。マシュはボーボボよんだのか?」

 

そして意外だったのはギャグマンガに縁のなさそうなマシュが読んでいたことにが達哉的には意外だった。

彼女は根っからのシャーロキアンであるし推理小説や英雄譚が彼女の領分だからだ。

こういう理不尽シュールギャグとは縁の無いものかと思っていたが違うらしい。

マシュは達哉の言葉を聞いて嬉々として語る。

 

「推理小説を梯子すると、頭がこんがらがりますんで。そういう時は読んで一旦リセットかけてましたんで」

「そう言う事か」

「はい、先輩も気苦労が多いと思いますので。お勧めですよ、でも所長みたいなタイプには逆効果だと思います」

「良くも悪くも生真面目だからな、所長は」

 

だが先ほども述べた通り、こういう理不尽シュールギャグは合う人は合うが合わない人はとことん合わない。

合わない人からすればヴォイドニッチ写本を見せられているのと変わらんので。

そりゃ、コンプレックスマシマシのヒステリック発症時期に自分より上のキリシュタリアから進められば嫌がらせと思うのは残当でもあろう。

 

「それはそうと、湿布の張替えですので、上着脱いでください」

「ん、分った」

 

雑談を切り上げ、マシュの言葉に従いつつ達哉は上着を脱いで上半身裸になる。

かなり鍛えこまれており均衡のとれた美しい体つきである。

もっとも体中には切り傷や銃創などが刻まれており痛々しくもある

彼がどれくらい戦ってきたかマシュには分かってはいたつもりだったが。

実感が伴っていなかった。先の戦闘と戦争でそれだけ、どれだけ相手を憎み殺すことが辛く大変であるかを身に染みて理解させられたのである。

今でも覚えているというよりも脳に焦げ付いたのだ。

憎悪に染まり切った表情でジャンヌ・オルタが殺しにかかってくるのと対峙した恐怖。

須藤と言う存在を心の奥底から憎み殺すという行為は脳神経を焦がし焼きつかせるほどの物を感じたから。

それは後という今になって振り返ればどれほど辛いか、マシュには理解できてしまったし。

その時に伴う一種の解放感をだ。

それだけ人を殺すという行為は大変であったものの。対象を排除し、安全圏に脱出した時の解放はなんと形容していいのか分からない安堵をマシュに与えたのである。

同時にだからと思ってしまう。

矛盾するようだが憎むことは楽なのだと思う。

踏みにじる行為は楽しい事なのだと思ってしまう。

須藤の指摘通りだ。憎悪のおも向くままに他者を貶めて殺してしまえば優劣や損得が非情に楽に付けられるからである。

 

―だからこそ、我々は武を論じながらも、人道を説き、条理を騙るのだ。けっして説教で言っているわけではない。武とは身に付ければ身に着けるほど畜生道へと持ち手をいざなうゆえにだ。人道と条理がその落とし穴に堕ちぬようにしてくれる命綱だからだ―

 

此処に来る前の準備での訓練で宗矩は最初に達哉たちに人道や条理を口ずっぱくしていったのはこういうことに溺れぬようにとの配慮であったとマシュは理解し。

達哉の背中に張られた湿布を剥がし新しいのに張り替えつつ思う。

そして同時に畜生道の類に堕ちなかった達哉の心労はいかばかりな物かとマシュは背筋を震わせた。

マシュ達には優れた教導者が最初からついている。

世界の戦場を練り歩いた。現代歴戦の兵であり保安部統括、ウィンドリン・アマネ。

ケルト、アルスターサイクル最強の戦士、クーフーリン。

柳生新陰流を一躍、跳躍させた新陰流中興の祖 柳生宗矩。

織田家から豊臣まで仕えた歴戦の猛将、森長可。

近代でありながら、勇猛さゆえに歴史に名を刻んだ八極拳士 李書文。

文字通り古代から現代に足るまでの時代代表が揃い踏みの豪華メンバーが一致団結して教えてくれるのだから。

だが達哉にはそんなものは無かった。

心も体も自分ひとりで磨き上げるしかなかったのである。

故に寒気がした。

こんな気持ちを一人で処理し続けていたのかと思い知ったがゆえにである。

 

「ん? マシュどうした?」

 

湿布を張り替えるマシュの手が止まっていることに気付いて。

達哉はマシュの様子がおかしいことに気付く。

「いえ、・・・あのその」

「?」

「先輩もお辛いのでしたら、吐き出してもいいと思います」

 

故に達哉に思い切って言ってみる。

これだけ自分が辛いのだから。誰かに縋りたいはずだと。

だが。

 

「体の痛みは耐えられるさ」

「ですが心の痛みだけは耐えられないですね?」

「・・・まぁそうだがな、須藤の事も一応覚悟は実はしていた」

「そうなんですか?」

「こうも速く出張って来るとは思っていなかったし、ああも暴走するとは思っていなかった。爆破の件だってそうだ」

 

無論、須藤が来ているという連絡を受けている時点で。

めぼしい場所は全て潰したのである。

だが須藤はその上を行った。

爆薬やら発火材はその場にある物を使い、着火装置はいずれもホームセンターで購入できるものばかり。

パッとみガラクタにしか見えないゆえに。クーフーリンの探知やらカルデアの探査をすり抜けられたという絡繰りである。

探査のルーンに入るのは爆弾などに絞ったのが仇となり。

古臭いかつ使い古されたローテクゆえにカルデアの探査を潜り抜けられたと言う事なのだ。

まぁそれはさておき。

 

「だが被害も抑えられた。次こそうまくやろう」

 

だが実際には被害はゼロだった。

サーヴァントたちの奮闘あってこそである。

悪魔や須藤による被害は建物が崩壊したくらいな物であり。

主な被害は爆破による死傷者くらいなものである。

重傷者こそ出たが。ロマニとアマネの的確な指示で生存させつつ。

達哉とオルガマリーにマリーアントワネットの治療スキルや治療魔術。

そしてサトミタダシと近代的医療器具のお陰で被害は最小限に抑えられた。

だからこそ次はもっと上手くやれるように頑張ろうと達哉は言う。

 

「すいません、励まそうとして、なんか私が励まされちゃいました・・・」

「気にするな。俺も十分、マシュや所長たちに励まされているからな」

 

それこそ、達哉もマシュやオルガマリー達に励まされている。

現に此処に来た当初はアレだったのが。今では彼女たちの言葉で前向きになりつつあるのが事実なのだから。

 

「おーいマスター、ダヴィンチから注文の品来たぜ」

「ん? わかった」

「先輩、ダヴィンチちゃんになんか頼んでいたんですか?」

 

そしてそこに長可も来る。

手には数本、気のような物が握られていた。

 

「目釘を頼んだんだ。俺じゃ作れないからな、宗矩さんは馬車の仕事で忙しいし」

 

宗矩は馬車の整備点検、部品の現地製造を職人と連携してやっている。

書文も無論であるし、クーフーリンは念のため町の見回りだ。

 

「目釘ですか?」

 

マシュにとっては聞き覚えの無い言葉である。

故に首をひねって疑問を口にし。

達哉は鞘に収まったままの正宗の柄をマシュに差し出し掴んでみろという。

マシュは達哉に促されるままに、右手で柄を握ってみる。

 

「あっ、なんか酷くガタついてますね」

 

正宗の柄はガタガタだった。

目釘が摩耗し折れ掛けているのである。

故に不要ながたつきが発生している。

無論、そうならない様にダヴィンチが徹底して強化処置を行っている。

普通のサーヴァントとの打ち合いなら十分に持つし長期間の運用は可能だが。

いかせん規格外ばっかりが相手だ。

超火力と馬鹿力のジャンヌ・オルタ。ジル・ド・レェの呼び出した異邦の祭神。影の眷属と化した須藤相手に連戦である。

そして、アレス・リバース・イドの一撃をオーディンと共に受け止めたのが致命傷となり、目釘の一本が折れ、二本目も折れ掛けていた。

故にダヴィンチに発注を掛けていたのだが。

発注を掛けたのが朝方だったので。かなり早く来てくれたのである

ダヴィンチも急いだし。正宗の実戦投入前の調整もダヴィンチが行ったゆえの速さである。

業務の片手間に仕上げて見せるのは流石、世紀の大天才と言ったところであろう。

 

「随分もったな。つぅーても刀身の方は・・・大丈夫かコレ?」

「鞘滑りに違和感を感じる程度だから、大丈夫だと思う・・・」

 

長可が正宗の露出した刀身を見つめつつ言う言葉に達哉はそう返す。

元より無理な扱いが多い。達哉は達人ではないのだ。

刀身もよく見ればガタついている。

日本刀と言うのは基本頑丈で切れ味が良いと思われがちだが。

実際には違う、如何に補強しているとはいえ繊細な扱いや日頃のメンテナンスが求められるのだ。

相手が相手と言うこともあって刀に細かな刃こぼれが無数に発生していた。

刀身も今は大丈夫だが若干歪みつつある。

須藤との交戦で繰り出した。居合を繰り出した時に鞘滑りに違和感を感じたからわかったことでもある。

だったら直せばいいじゃないという話になるが。

 

「フランスの鍛冶師さんたちの手でどうにかできないでしょうか」

「そりゃ無理だろ、西洋剣と刀じゃ運用思想やら製造工程事態が違うんだから」

「そうなんですか?」

 

西洋剣と刀の違いの知識はマシュはフィクションの物でしか知らず。

刀の方がよく切れるし頑丈と言う事しかわからない故の進言であるが。

刀を熟知する長可は無理だろという。

 

「剣は叩き切る、ナタなんかと同じ使い方だが、刀は押すか引くかしないと切れねぇんだよ、反りだって鞘からの抜きやすさ、斬る際に引くや押すの動作の簡略化、切った時の作用の軽減なんかって意味合いもある、無論他にもいろいろあるが。面倒くさいから自分で調べてくれ。でだ。そういった多機能を一本の刀身に職人技で乗せているからフィクションとは違って。繊細なんだよ」

「そうなんですか。初めて知りました・・・」

「俺はァ。刀が講談やら演目やらで無敵の近接武器扱いされていることに驚いたがな」

 

長可の言いたいのは漫画やらアニメでの刀の扱いだろう。

刀はそんな素敵装備じゃねぇとカルチャーショックを受けての事だった。

 

「そう言えば。先輩は此処に来る前の愛刀はどうしたんですか?」

「あ、それは俺も気になるな」

 

そこで達哉が以前使っていた愛刀の話になる。

気晴らしにでもなればと言う意図もある。

 

「あー、ニャルラトホテプの奴がこっちに俺を送る際に向こうに置いてきたんじゃないかな。もってきてたらカルデアの警備システムに察知されるだろうし」

「ですね」

「そう言うところ丁重だな、影の奴は。ところでヨォ。マスターは何愛刀にしていたんだ?」

「村正を使っていた。いつの作品かは知らないが・・・その前は虎徹だな」

 

初期は虎徹。その後は懸賞応募で手に入れた妙法村正を愛刀にしていた。

もっとも、こっちに来る際に、カルデアの警備システムに引っかからない様にニャルラトホテプが気を回したのか。

手元には無く。向こう側へと置いてくる羽目になったが。

 

 

「村正ね。実戦向きでいいじゃねぇの」

「森さん、村正と言えば妖刀とか言われる刀ですよね」

「いや実際には手ごろな値段で実戦向きのいい刀だよ。あの狸の事だし。優れた武器を浪人が持ってると不味いじゃねぇのって流したホラだろ。妖刀伝説ってのはよぉ、殿下の刀狩りと同じよ」

 

実際、村正は三河武士に愛されていたし。

徳川に害したという件も、家康の祖父である清康が部下に殺されたという一件だけである。

剣相という迷信や三河後風土記などで広まった誤認。信康の切腹事件が家康主導だったことを隠すためのカバーストリーとして

村正祟り説の流布や浪人がこんな切れ味のいい実戦刀持ってたらあかんやろと言うことで牙抜きもかねて村正に関わる噂の黙認などもあっての所謂根も葉もない”噂”と言う奴であった。

やはり先も言った通り。マシュにとっては刀はフィクションでしか知らないため。

歴史の謎がそういった政治工作やら根も葉もない噂と否定されては。なんか浪漫を根本的にぶち壊された気がして気落ちする。

 

「ん? どうしたマシュ?」

「いえ、歴史ロマンが、こう当事者から根っから否定されると歴史好きとしては来るものがありまして・・・」

「あーまぁ俺もだな」

「先輩もですか?」

「アーサー王が女でエクスカリバーからビーム出た時は・・・まぁ衝撃的だったし。ジークフリードもなんか言っちゃ悪いが想像とは違うし、剣からビーム出るし・・・こっちの世界じゃ。それがデフォなのか?」

「違うと思いますよ、たぶん」

「殿の長谷部からもビームでねぇから違うんじゃねぇか? たぶん」

「二人そろって、なんで多分なんだ・・・」

「えっと、私の中の霊基がなんかそうですと頷くわけでして・・・違うと言い切れなくて」

「俺より古い時代はどうか分かんねぇからなァ俺は。童子切安綱持った頼光サンあたりなら出せるんじゃねぇかなっと思ってよ」

 

剣からビームがデフォかと疑問を言う達哉に対し二人は曖昧に答えを出す。

マシュは違うと思うのだが、体の中の霊基が肯定しているため、濁すほかないし。

長可としては長可が生きた時代の先の剣豪である宗矩がビーム出せないのだから違うと思うが。

過去の事は分からないもので。鬼退治で有名な源頼光当たりなら出せると思っちゃったので曖昧に返答したわけだ。

剣からビームがデフォかと疑問を言う達哉に対し二人は曖昧に答えを出す。

マシュは違うと思うのだが、体の中の霊基が肯定しているため、濁すほかないし。

長可としては長可が生きた時代の先の剣豪である宗矩がビーム出せないのだから違うと思うが。

過去の事は分からないもので。鬼退治で有名な源頼光当たりなら出せると思っちゃったので曖昧に返答したわけだ。

そんな他愛もないグダグダ話を続けつつ。

達哉は自分で張れる範囲の湿布を張り終えて、ガタつく目釘を引き抜き物を交換する。

マシュもマシュで無駄話で止まっていた手を動かし、達哉の背中の湿布を張り替え終えるとそこにオルガマリーがやってくる。

 

「タツヤ、マシュ、お昼よ、お昼、ついでに作戦会議も平行よ」

 

腕まくりした私服とエプロンと三角巾を着こなして、食堂のアルバイト女子高生と言った風情だが酷く似合っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

机にはオルガマリーお手製のプッタネスカが大皿に盛られて置かれていた。

製造理由としては乾パスタは保存も効くのでカルデアに大量に保管されていることと。

サトミタダシで容易く調達できる事などがあげられるからである。

 

「すまぬが・・・喰いきれんぞコレ」

 

書文が苦言を言う。

この量を食べきれと言うのかと

サーヴァントは本来食事は必要なく。精神的調律目的で配布していたのだが。

先の戦闘での魔力問題と言うより施設へのダメージもあって、本来の供給量に満たないため。

食事させて魔力供給するほかない分けで。

幸いにも燃費が良いサーヴァントばかりだが。有事に備えてため込ませておくことに越したことはないだろうとして。

サーヴァントの皆だけには大量に容易されていた。

 

「サーヴァントの皆さまは全部食べて魔力貯めておきなさい、これは所長命令です」

「・・・」

 

若いころの姿で呼び出されたクーフーリンはこの程度苦でもなく。

ライダークラス二人は燃費の問題からか食ったら速攻で魔力返還されるため問題はなく。

長可も若いので苦でないが。老境の姿で呼び出された宗矩と書文にはきつい物があった物の。

拒否は不可能だった。書文はため息を吐きつつ山盛りパスタに向かい合う。

宗矩もちょっと顔を顰めさせていた。

食べきれなくはない、頑張ればの話だが。

日本酒や薬用酒が欲しいと思うご老体二人である。

酒はあるが、オルガマリーが用意した。マリスビリーの私物のヴィンテージワインである。

違うそうじゃない、故郷の酒が飲みたいのだと二人は思ったが口には出さなかった。

という訳で会議の前にまずは食べようということになり、皆黙々と食べ始める。

その中でつくづく、不幸な星の生まれだとマリー・アントワネットは思った。

魔術師やら影やら人理なんかが絡まなければ。料理人としての道もあったのではないかと。

と言うかそういうのが絡まなければそっちに行くくらいには腕は良かった。

作る量こそ多かったが実に楽しそうにやっていたし堂に入っていったから。

だから少しでも自分が彼らの負担を軽減できるようにと言う事と早くも離脱してしまったアマデウスの損失分の働きはしなければと。

優雅にパスタを口に運びワインを飲む。

 

「それで、いったん配布した概念礼装を替えるんだったか・・・」

「ええ、攻撃補正に振り分けすぎたから、今度は生存面を重視した礼装を配布するわ」

 

今の今まで、サーヴァントに着けていたのは攻撃面特化の礼装だ。

もう一つの結末やら、月の勝利者と言えば読者様方は分かりやすいかもしれない。

だが此処から戦力を落とせぬ以上、攻撃面に割り振るのもアレであるし。

存外、効力の実感が出来ないという事も判明したので。

生存力や防御面を上げる礼装へと配布しなおしである。

 

「それでどうしましょうか・・・」

「だよな・・・、ロマニ達の報告からすると、ティエールは異界化しかけているんだろう?」

 

定礎悪化の原因は先の戦争や須藤の強襲爆破事件だけではなく。

ティエール周辺が徐々にであるが、異界化が進行しているとのことだった。

ジャンヌ・オルタの根城は完全に特異点の中の特異点と化し、ティエール全域も徐々にであるが位相がずれ始めている。

解析的には地脈を経由してテクスチャを侵食しているとのことだった。

ダヴィンチの分析では、水晶谷の蜘蛛に近い、固有結界の浸食に似通った現象とのことである。

どうやって、なにを触媒にして浸食しているのかは不明だった。

 

「浸食型固有結界ね・・・」

「俺の世界を経験していれば不思議な事じゃないのかもしれない」

 

ペルソナとは心の力、さらに噂が具現化する関係上。

魔王やら悪魔扱いの、ジャンヌ・オルタならまぁ出来なくもないとも全員が思う。

 

「ジャンヌ、オルタの方の出力は・・・」

「あの戦闘以降の出力で安定ですね」

「一気に捕食しないのが気にかかるわね、いえそうよ。彼女は万全を期そうとしたわけか」

「所長わかる様に・・・」

「あの出力自体が。このための前準備だったと言う事よ。」

 

要するにあの規格外出力自体が特異点を取り込む前準備だったと言う事である。

地脈接続、聖杯の魔力に怨霊を還元したリソースは特異点を食い、更なる前準備の為だったとすれば合点がいく。

戦闘映像を見る限り、ジャンヌ・オルタはフランスではなく世界を徹底的に憎んでいるというのは分かっている話だった。

ゆえに報復対象が大きい分、この特異点だけで済ます気でないのは容易に見て取れる。

ニャルラトホテプが噂結界を張り巡らしたことを踏まえれば。開戦初期の不可解に無残な虐殺にも説明がつくのだ。

噂の力で世界を食いやすい存在に編成するための虐殺、準備が整って戦力にも都合がついたから彼女は最短で勝つべく戦争を吹っ掛けてきたと言う事なのだ。

カルデアを殺したのち、噂の力を使って世界喰らいとなった彼女はこの特異点を効率よく食う為にだ。

だから開戦初期は見せしめのようななぶり殺しも行い自らの存在を噂結界を使って変貌させていたのである。

あの膨大な出力も特異点を食って消化に注ぎ込むカロリーのような物である。

しかし先の戦闘でジャンヌ・オルタは一気食いの算段が潰れたため。徐々に喰う方向へと方向性をシフトしつつ。

自らをカルデアを誘き出すための餌としたのだ。

 

「まぁそう考えれば納得できないこともねぇけどよ」

「正気の沙汰ではないな」

「けどよぉ、情念の一つで人間は盛大に狂えるんだぜ。あの金柑頭のようにな」

 

全ては復讐の為、世界を食って殲滅するための前準備。

まさしく徹底している、クーフーリンは狂った類似例を知っているためかため息を吐き。

書文の正気の沙汰ではないという言葉に。狂った例を知る長可は不思議な講談で済ませられることではないと注釈する。

 

「兎にも角にも、先の戦闘の収穫があったようでよかったわ。時間は無いけどね」

「ということは。予定通りの前倒しって訳か」

「タツヤのいう通り、予定通りの前倒しで行くわ。世界滅亡の危機はまだ終わっちゃいない」

 

先の戦闘もジャンヌ・オルタを仕留めきれず。実質の敗北だったが。

相手を追い詰めることは出来た。逆にジャンヌ・オルタが開き直ったことによって現状の繰り上げ予定は変わらず。

こっちも追い詰められている。

つまり崖淵の張りつめた縄の上での殴り合いは終わっていない。

自分たちに余裕が無ければ、相手にも余裕ないのが現状である。

 

「逆に言えば首の皮一枚分つながったわけで。と言うことで馬車の用意も出来たし、出撃は馬車の調整を終えてからすぐに撃って出るわよ」

 

両者ともに余裕はなく。

繰り上げた予定の変更はない。だが口に出したのは心に余裕を持たせるためである。

まだ勝ち目はあるというカンフル剤だ。

それが今は何よりも重要なのである。

 

「あと、エリザちゃん、本当に一人で?」

「ええ。一人で行くわ。決着付けなきゃいけないもの、もう一人の私と、それになんか知らないけれど一人で引きこもっているみたいだし、そっちよか楽だもの」

 

そしてエリザベートは単独でカーミラへと挑む。

カルデアのスキャニングの結果、カーミラの居城には手勢がそんなにいないことが判明した。

悪性情報がぽこぽこ悪魔の具象媒介に変化され、悪魔どもがうろつくティエールより遥かにましと言っていいだろう。

単騎は単騎で不安はぬぐえない。

されど生きて帰るという温い選択肢を許すほど現状は優しくはないのだ。

 

「大丈夫よ、私は勝つ。勝って受け入れてすぐに飛んでくるから!!」

 

心配する皆を他所にエリザベートはそう強きに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出撃は夜となった。

タラスクが引くと言う事で、牽引される馬車も過激なものに仕上げ。

その試運転と調整をすればこの位になる。

そして時代に影響云々行ってられる状況でもなかった。

輸送する人数と最大牽引できる荷重を考慮しての仕上がりとなった。

さらにはカルデアの早期警戒迎撃用ヘリからひっぺ剥がしたヘリの武装も取り付けられている。

ロケット砲に迫撃砲。

乗り込むところが所である、楽できるなら絞り出せるリソースは絞り出すべきとして保安部が保管庫から引っ張り出した代物だ。

元々、カルデアの早期迎撃のために購入したヘリの武装である。

装填される弾薬は7.62×51mmNATO弾を。ダヴィンチとスティーブンが対悪魔、対魔術師を想定して作り上げられた神経弾と呼ばれる代物で。

十分にサーヴァントやら悪魔に対抗できる代物である。

装甲だって、馬車を引くのがタラスクなもんだから。いっぱしの物を付けた。

流石にジャンヌ・オルタクラスの出力も地には紙装甲だが無いよりはマシであろう。

加えてサーヴァントが生前身に着けたクラス制限に左右されない自力で仕える得物も嫉妬で積み込んだ。

槍、剣、盾、カルデア保安部が保管している銃火器とその弾薬である。

まさに走る武器庫かなんかと言ってもいいだろう。

これらは先の戦闘で投入予定ではあったが。

馬車のサイズ的につけるのは不可能であることと、そも取り付け加工している時間が無いと言う事で搭載は見送られたものの。

今度はタラスクが馬車を引く為大型化したことによって搭載が可能となった為。

ダヴィンチが中途半端に搭載加工されていたソレを仕上げて搭載可能となった。

これで幾分かは楽になるだろう。

馬車の屋根には、M134機銃も取り付けている銃座担当はオルガマリーだ。

 

 

「じゃ行きましょうか」

 

オルガマリーがそう声を出し、全員が頷き、宿舎を出る。

見送りは沢山来ていた。フランス兵士達やティエールの住人達が様々な激昂や心配の声を上げている。

英雄譚の出撃の一幕と言う奴であろう。

そして達哉たちが馬車に乗り込もうとした時である。

 

「ジャンヌ」

「ジル・・・」

 

そこにジル元帥が訪れた。

眉間に皺を寄せて溺れてまるで藁にでも縋るかのような声でジャンヌを呼び止める。

 

「申し訳ありません、私にもっと力があれば」

「大丈夫ですよ、ジル、私にはカルデアの皆が居ますから」

「・・・」

 

あの時の様にジャンヌを送り出すことを息苦しく思っているのか。

なんとか声を出すが。ジルの言葉にジャンヌは答える。

カルデアの皆が居るから大丈夫だと。

戦力的には問題ないだろう、古今東西とまでは行かないが英霊が揃い、腕利きの魔術師たるオルガマリーに。

最上位ペルソナ使いの達哉が居るのだ。

普通なら大概の敵を粉砕できる戦力であることは誰にだってわかる物である。

 

「ですが・・・」

「ジル?」

「いえ、何でもありません」

 

ジル元帥は何かを言おうとしている物の。

寸前で言葉を飲み込む。

力なきものが何を言っても無駄であるがゆえ。

 

「ジャンヌ、そろそろ」

「はい、今行きます、達哉さん!!」

 

そろそろ時間だと達哉が声をかけて、ジャンヌがそれに答え馬車へと乗り込む。

足を踏み外しても困るので達哉は彼女に手を貸した。

それはまるで英雄譚の様で・・・

 

「・・・達哉殿」

「?」

「ジャンヌをどうか。どうかお願いします!」

「分かった」

 

どこかで燃え上がるような炎を押さえつけながらジル元帥はジャンヌを頼むと達哉に懇願し。

達哉はそれに力図よく答える。

そしてジャンヌをゆっくりと引っ張り上げつつ馬車へと招き入れ扉を閉める。

それと同時に御者となっているマルタが合図を出してタラスクを走らせる。

ゆっくりと馬車が動き、徐々に加速していく。

そしてエリザベートも翼を翻して夜のとばりへと飛翔する。

全員が決着の地へと赴き。

ジャンヌ・オルタはただ一人決着をつけるべく居城で待ち受けている。

 

 

 

 

さぁ決戦の時間だ。

 

 

 

 

 

そしてこの場にいる誰もが気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジル元帥の背後で嗤っている何かが居ることに

 

 

 

―ケラケラー

 

 

 

気付けなかった。

 

 

 

故に待ち受けるのは悲劇的なゴールだけであろう。

 




たっちゃん、型月の魔剣 聖剣はビームがデフォだと思い込むの巻き。


暗い話が続きすぎたので雑の極みだけど息抜き回(たっちゃん達が突っ込む場所から目を反らしながら)
そりゃヒステリック発症中に自分より格上のキリシュタリアからボーボボ渡されたら所長的には、嫌味か貴様とキレれるわけで。
キリシュタリアは犠牲になったのだ。所長のヒステリックのバットコミュの犠牲にな。

次回は多分風雲邪ンヌ城突入とエリちゃん、カーミラ城へのカチコミで行きたいと思います。

風雲邪ンヌ城。
リソースがなくなった邪ンヌが計画前倒しで地脈経由で強引にテクスチャの吸収を開始、同時に心像風景が侵食し出している。
現在はティエールの邪ンヌの居城が異界化、噂の認識も相まって周辺が阿頼耶識と接続開始。
浸食速度はゆっくりだが。抑止が仕事放棄しているので。リソースが潤濁になればなるほど加速度的に浸食律は上がる。
速い話、中半現実に具象化しかけているパレスに近い。
VR時代にしたゲーム知識やら、Pシリーズやらメガテン時代に体験したトラップわんさか&ニャルとの取引で閣下が部下に命じて派遣した悪魔の上位分霊が数体顕現。。










ニャル「タイムアップライン気にしすぎて背後がお留守ですよwwww カルデアの皆さんにジャンヌの本物と贋作のお二人方wwwwww」









ではまた次回









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二十二節 「周りを切り刻み進む」

結末が有効であるためには、あいまいでなければならない。


アインシュタインの交点より抜粋


馬車は進む。

銃音をオーケストラの様に響かせて。

唸るM134機銃が景気よく銃弾をばら蒔く。

毎分2000発ものNATO弾は悪魔を亡者たちをミンチに変換していた。

 

「近代火器は恐ろしいですな」

 

基本、こんなものサーヴァントには豆鉄砲とおっしゃる方もいるだろうが。

それはあくまで神秘が乗ってないから効かないというだけで。

十分に神秘を乗せる。或いは通用できるようにすれば。四方八方からの一斉者で一部例外を除けば英雄であっても只では住まい

無数に排供される弾頭は効率よく相手をミンチに変換するが。

カルデアで製造されていた弾薬の量は少ない。

歩兵兵装の弾薬は潤濁にあり。オルガマリーへのリボルバーの供給は湯水のごとく行えるが。

機銃に搭載される弾薬は一発で人を痛みなく殺傷できる威力を誇る。

基本単独行動が多い魔術師相手に歩兵装備なら兎にも角にも、機銃クラスとなればオーヴァーキルなので、

弾薬は少ないのだ。

それに加えて毎分3000発という回転率でブッパ魔成す物だからあっという間に弾は消費されていく。

そして現在オルレアン市街地に突入してはいるので。今まで売った数と距離の概算から。

一応は持つというのが。オルガマリ―の結論だった為躊躇なくトリガーを引く。

ペルソナスキルで薙ぎ払えば良いと思われがちであるが。敵の本丸に何が居るのか多少わかる以上、

ここで要らぬ損耗をするわけにもいかず近代武器の力を借りていた。

元王妃と書文にM125迫撃砲の運用させているのだからなんかこうB級映画染みた光景だ。

無論、それらはあくまでも前を切り開くものである。

左右から襲い掛かってくる連中は取り付き次第、達哉たちが近接装備や異能やらで対処していた。

 

「しつこい!!」

 

達哉は悪態を吐きつつ、屍兵の振るわれる両腕を斬り飛ばしメタトロンで殴り飛ばす。

 

「これじゃ人間じゃなくて獣じゃねぇか!?」

 

通常、屍兵とは死んだ者を操る特性上、動きは緩慢で単調になりがちだ。

だが今の現状の屍兵はわけが違う。

人体のリミッターでも吹っ飛んだかのような剛力と機敏さだ。

加えて、多少の損壊を気にせず特攻してくるのだから溜まった物ではない。

宗矩は多勢に無勢と判断し。

 

「ほう、使えますなコレ」

 

AAー12を引っ張り出しフルオート射撃。

剣はどうしたと言いたいが現在の状況ではキルスコアを稼ぐ方が重要だ。

なんせ敵は大量である。

近代火器も良いと言いながらフルオート射撃で近づく屍兵を吹っ飛ばしていく、

マシュも手数を増やすためにハンドメイス二刀流だ。

そんなこんなでオルレアンの市街地を馬車とタラスクが爆走していき。

遂にジャンヌ・オルタの居城へと接近する。

 

「門が見えた!! マルタ。タラスクでぶち抜ける?」

「少し厳しいかも!! 宝具かペルソナスキルで吹っ飛ばしてもらえるとありがたいわ!!」

「敵陣地内がどうなっているかもわからないから、宝具とスキルは温存するわ、悪いけど。

変わりに・・・」

 

門が見える、魔城とかしているであろう門は禍々しく頑丈そうに変貌していた。

故にタラスクでぶち破れないことも無いが。それやった場合タラスクが負傷する恐れもあるとして。

それでも温存するために、オルガマリーは替えの聞く物を取り出す。

それはRPGー7と呼ばれる対戦車ロケット砲だ。

近代洗車の複合装甲やら特殊装甲ならいざ知らず、ただ頑丈な門程度なら数発で打ち抜ける。

何でこんなものまでカルデアにあるのか保安部にあとで問い詰めなければならないなと思いながら。

オルガマリーは迫撃砲を後方に撃って、追撃を阻止していたマリー・アントワネットや書文にも使うように指示を出しつつ、

RPGー7を構えて門に向かって撃つ。

白煙を引きながら弾頭が射出、そして着弾、大爆発。

 

「ちょっと!? 何よこの威力」

「画像で見ていたものと違うのだが!?」

 

オルガマリー及び書文は驚愕。

オルレアン突入前の最終ブリーフィングで簡単な扱いとRPGー7がどのようなものであるかレクチャされていたのだ。

無論、爆発の規模もだ。

だが実際には戦闘機に搭載しているミサイルレベルの火力が出射ている。

理由は単純で、

 

『対魔術師様に調整した代物だからな・・・試射もまだだったから、威力までは把握してなかった。すまん』

 

アマネの言い分通り対魔術師用に弾頭は加増されているのが原因だった。

だが威力過剰も良いっ所だろう。この威力なら現代魔術師がどれだけ優れた礼装持っていようが木端微塵である。

後でやっぱ問い詰めようと思いつつマルタへと確認を飛ばす。

これだけやって門は完全に吹っ飛んでいなかったからだ。

 

「マルタにタラスク、今ので行ける」

『これくらい壊れれば傷なしで行けるぜ!』

「だそうよ!!」

「分かったわ。総員対ショック!!」

 

突入に支障はなしと言う。

なら門は完全に吹っ飛んでいなかったからこそ、

 

門を派手に粉砕しながらタラスクが門を突っ切る。

 

『達哉君、所長、マシュ!? 全員無事かい? すっごい音がしたけれども!?』

「全員無事だよ、ロマニ・・・偶には落ち着いて突入がしたい・・・」

「先輩に同意見です・・・ここ最近馬車でダイナミックエントリーばかり・・・ってなんですかこれ」

 

突入した周辺は凍結していた。気温も下がる空気も凍り付く様な極寒の世界へと変貌している。

本丸までの広大な土地が見える限り凍結していた。

 

「おい、所長、嫌な予感がしやがる、そっちからなんか見えるか?」

「いいえ見えど見えど氷の庭って感じじゃないわね・・・、なにこれ結界? でも固有結界に・・・」

 

クーフーリンの言葉に応えつつ、オルガマリーは探査魔術や自分の私見で検分する。

事前情報的に的に固有結界に近い感じもするが別種ともいえる気もした。

だがその時である。

 

「ボクのオウチに入るなァ!!」

 

絶叫と共に馬車の下から現れる何かに馬車が粉砕され、全員が宙に投げ出された。

 

 

 

 

 

「――――――」

 

絶叫、悲鳴。

ジャンヌ・オルタは無表情で左手を伸ばし上げた。

その手に握られるのはかつて人だった物だ。

両目はなく刃も無い、鼻は削がれて耳も切り落された。

臓物は周囲に適当に放り投げられ、

血は彼女自身と、その周辺の大地に散らばっている。

 

「何が楽しいのかしらね? これ・・・」

 

そういって、気重たそうにため息を吐いた。

なぶり殺しにされた女性には悪いが、これは見せしめ。

本来、戦闘行為にこういった残虐行為をする意味をジャンヌ・オルタは見いだせないし意味を感じていない。

殺すなら一太刀でスムーズに行くが、

噂結界を使って自己を都合よく作り変えるには必要な行為でもあった。

即ちサーヴァントの霊基規格では最終工程に届かないゆえにアマラの基本的理を欲している故である。

と言っても猟奇趣味は無いのも先ほどにも述べた通り。

こうやって殺して、相手の悲鳴と嗚咽やら聞いて何が美しいだの楽しいだのとは思えない。

悪魔で何度も言う通り必要だからやっているだけで、する必要が無いのならジャンヌ・オルタは一太刀一殺を心がける。

故に猟奇趣味全開の事を成しても理解できないのだ。

 

「―――――――」

 

そして必要な事とはいえこれには全員ドン引きだ。

嗤っているのは殺人鬼の須藤位な物だろう。

母を生きたまま目の前で豚を食肉に加工がする如くに解体された夫はその惨状と怒りのあまりに布の猿轡で窒息&憤死。

両親も兄妹も無残に奪われた息子だけが憎悪を滾らせジャンヌ・オルタを見ている。

 

「ねぇ・・・なにが楽しいのかしらね? カーミラ」

 

突然と話題を振られ、カーミラは後ずさった。

生前、散々な残虐行為をしたが、それは拷問器具である種効率化されたような物。

さらに言えば対岸の火事だったから平気なだけで、

当事者となれば話は別だろう。

 

「まぁいいわ、初戦は上場・・・、ランスロット」

「なにか」

「残りは解放、逃がしてあげなさい。」

 

元より見せしめだ。

生き証人が何人かいないとジャンヌ・オルタも困るゆえに、残りは解放と言った有様である。

喜ぶものも居れば怒る物も居る。また嘆くものもいる。

だが少年だけは怒り狂っていった。

武器があれば、ジャンヌ・オルタに踊りかかっていただろう。

そんな様子を見てジャンヌ・オルタは。

 

「はい」

 

ザンッと音を立てて、ロングソードを少年の前に突き刺す。

使いたければ使えと。

 

「ランスロット、なんか斬れる物持ってきなさいな。槍でも剣でも包丁でも・・・」

「ジャンヌ。なにを・・・」

「こうなることは覚悟しているし想定の範囲内。そして彼らに選択を与える、それだけよ」

 

復讐たければ自由にしろ。無論選択の結果を考慮したうえでとのことである。

逃げるも良し、此処で殺されるも良し、或いは殺すのも良しと言う事である。

少年は刃を取って、ジャンヌ・オルタはそれを受けれた。

そのまま仰向けに押し倒され滅多刺しにされる。

 

「でもね血で手を洗うってこういう事なのよ、ボウヤ」

 

少年に滅多刺しにされながらも諭す様に言いながら次の瞬間には。

 

「そしてこれはお前たちが私のオリジナルに、ジルが私に刻み込んだ行いだ。」

 

少年を無慈悲に殺した。

翻るロンギヌスが少年自身が右目から後頭部を貫通する。

 

「お前たちが!! 達哉に理に悠に蓮にショウにアレフにユウにやった行いだっ!!」

 

行動こそ違えど本質は同じ。

奇跡の価値を理解せず、安全圏に達したという認識を得たいがために彼らを生贄に捧げた挙句。

結果を無意味にしたのだから。

幼子に群がる肉食の獣の如くにだ。

ソレを彼女は見続けたし見届けてしまった。

 

「殴れば殴り返され、撃てば撃ち返され、殺せば殺し返され、そんな当たり前の道理すら理解せず。あまつさえ他者に代行させて対岸の火事の見物人気取っているのがお前たちだ!!」

 

怒りのままに殺したにもかかわらず。少年に追撃。

翻る腕が音速領域を超えて拳を繰り出し。

少年の上半身を血霧に変換する。

 

「死ね!! 死ね!! 死ねェ!!! 息するな!! 縋りつくな!! 貪り食らうんじゃない!! 規範の奴隷共がァ!!」

 

そして残った下半身を滅多刺しだ。

これは不味いとランスロットとファブニールが必死に後ろから羽交い絞めにして止める。

出力に引っ張られて自分自身が制御できていないのである。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

肩で息をして深呼吸で整える。

もう場は敵味方ともに静まり返っていた。

サーヴァントたちはまたかと言う痛ましい空気に飲まれている。

逆に捕まった人々は彼女の殺意に当てられ。心臓発作を起こして死ぬものでさえ出始めていた。

 

「ハァ~、やる気がないのなら早く行け、腑抜け共、そして私の役に立て」

 

ジャンヌ・オルタはそういって生き残った人々を解放する。

そしてカーミラをぎょろりと見た。

 

―言わなくても分かっているわよね? こいつらと同じ醜態を晒すなら次はお前の番だ―

 

と言わんばかりであった。

 

 

「ヒィッ!?」

 

カヒュと音を立てて夢から覚めたカーミラはベットから跳ね起きる。

初めてだった。

報復されるというのが。自分を閉じ込めた民衆の比ではない、やっていることを自覚しながら周りを巻き込み取り込んでしょい込んで怒り狂う本物の復讐者だ。

いわば遅かったか早かったかの違いである。

報いを受ける時が来たのだ。

故に震える、処刑を待つ罪人の様に。

後悔もあった、恐怖もあった、故に断頭台で散るまで王妃であったマリーアントワネット夫妻はどれだけ強かったのかを理解する。

 

そして万人に訪れる死の様に。あるいは隣に存在する恐怖が肩に手を置く様に。

 

轟音、天井を粉砕し、

カーミラのよく知る存在が玉座の前に舞い降りる

 

「本当にしつこいわねぇ・・・!!」

「往生際が悪いからこうなってるんでしょうが」

 

エリザベートは舞い散る粉塵をかき分けつつ、突入に使った大盾を投げ捨てつつカーミラの悪態に応える。

 

「第一逃げていいことあった?」

「なにを・・・」

「あんたは私、わたしはあんた、噂結界の効力かしらね、ここ最近、ラインでの夢共有と同じ現象が起きているのよ。だから何でアンタが此処にいるのか知ってる」

 

ジャンヌとオルタ以上にカーミラとエリザベートは同一存在と認知されている。

達哉に夢見が悪いと言った時は若干誤魔化したが。

エリザベートが未来の自分であると公言してしまったがゆえにその現象は起きていたのだ。

 

「あの時、知らないって言ったけれど、もうアンタはわかっている筈よ。私たちのもとに彼らは来たのよ!!」

「黙れ!!」

「ふざけないで!!もうどれだけ目を閉じて耳を塞ぎ口を閉ざすのよ!! そうやってまた、罪を重ねる方が馬鹿じゃないって気づきなさいよ!!」

 

出来るきっかけは作られた、後は行けるか行けぬか本人次第というものである。

だからエリザベートはカーミラの手を引き上げようと手を伸ばす。

彼女も自分で自分も彼女だから。

先に行き罪と罰を背負って、彼らの様に誇る人生を送りたいのだと雄々しく宣言する。

でもカーミラには届かず、あるのは決裂だけ。

 

「もうダマレェ!」

「逃げるな私ィ!!」

 

カーミラは咆哮し拷問器具を呼び出し、エリザベートに殺到させる。

対するエリザベートは完全に迎え撃つ体制で殴ってでも止めると槍を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――ヌ」

 

ジャンヌは運が悪かった。

と言うよりもここ最近運が無いとは彼女自身思う事であり、

今回もまたその例にもれず、頭を強く打ち付けたがゆえに脳震盪である。

そんなぼやけた視界と思考の中でジャンヌに誰かが呼びかける

 

「ジャ―――――さん」

 

誰かが叫び、氷の魔王と化した狩人が荒れ狂う。

 

「ジャンヌ!!」

 

そして声が鮮明に聞こえ、ジャンヌは目を覚ました。

目の前の光景は地獄じみていた。

タラスクと巨大な四足歩行の氷塊の怪物が取っ組み合い、クーフーリンがヒットアンドアウェイで削っている。

 

「起きたな!! 良しこっちだ。あれはクーフーリンたちに任せて俺達だけで突入する」

「大丈夫なんですか!?」

「アレとやり合っている時にオルタの方が殴り込んで来たらこっちが負ける! 戦力分散してでも囲んで殴った方が効果的だ。森さん、門の開閉は!?」

「あと少ぉしッ」

 

達哉が気絶していたジャンヌを引き起こしつつ長可に確認。

長可も顔を真っ赤にするレベルで力を入れながら人間無骨を門の中央部に突っ込み、

チェーンソウ機能で中の閂をぶった切っている最中だった。

宗矩はAAー12が弾詰まりを引き起こしたため、AAー12本体をぶん投げ悪魔に直撃させてタタラを踏ませてつつ踏み込み愛刀の鯉口を切って居合入りで横一文字に切り飛ばしながら、

未だに死なぬ悪魔の頭蓋に向けて刀の切っ先を回転し逆手に持ちつつ振り下ろして悪魔を仕留める。

 

「クーフーリン殿やタラスク殿は良いが、我らはこのままでは持たぬぞ」

 

書文もまた、悪魔の腹に拳を叩き込み内臓を粉砕つつそう叫ぶ。

未だにタラスク、マルタ、クーフーリンと取っ組み合いしている巨大な氷塊の悪魔の力はすさまじく、

普通の人間なら活動限界の気温に下げつつ、

凍らせた大地を自由に隆起させ、空からはブフダイン級の氷塊を雨あられの如くだ。

ハッキリ言って神話クラス以外にはきついにもほどがある。

故にここは戦力分散のリスクを冒してでも。あの氷の魔王「フロストカイザー」の相手はクーフーリンとマルタとタラスクが相手取るほかない。

達哉も損耗するわけには行かず、支援攻撃は消極的にしかできない。

本当に心苦しいが彼らに任せるほかないのだ。

 

「よし切ったぞ!!」

「行け、こっちはこっちで何とかすらぁ!」

 

長可の叫びと同時に、クーフーリンが先に行けと叫び達哉がアポロを呼びだし門に背を当てて押し開ける。

マシュと長可もそれに同調し門を開けて、全員が飛び込むように入る。

そしてすぐさま門を閉じておく。

全員が荒く息を吐きつつ、各々自らを落ち着かせ、周囲を見る。

場内は濃い魔力が漂っており、空気も淀んでいる。

パッと見綺麗だが、幽霊屋敷と言った雰囲気が漂っていった。

 

「こちら達哉だ。ロマニさん、施設のサーチでマップデータを作ってくれ」

 

如何にもと言う感じだったので、

礼装経由でのサーチでのマップ作製を依頼。

無論、精密な物となるとくまなく探査しなくてはならないが、大雑把な物は出来る。

魔力波長の反射から割り出した大雑把な建造物のデータを元にだ。

だが今は緊急時でもある。精密なデータなんて取っている暇もないが、大まかな指針となるデータは欲しいと通信を繋げるものの、

 

『――――――』

 

返ってくるのはノイズばかり。

そして気が付いてみれば礼装のデータ更新も途絶えている。

やられたと達哉は天を仰いだ。

先の会戦でやっていなかったのは、ただ偏に広域をカバーできる手段がなくリソースの無駄だったから。

居城かつ心像風景が侵食し出しているここならばジャミング程度は軽くこなせるのである。

無論、敵が突っ込んでくるのも分かっているし部下たちは理性が吹っ飛び、新しい部下はそも信用ならない悪魔どもとくれば、

ジャンヌ・オルタは味方間の連携を捨てて、如何に機材がダメージを追っているとはいえ、広域通信可能なカルデアの通信妨害を行えるジャミング波を放ったのである。

状況を全員が説明され、まぁ仕方が無いと納得した。

元より無理な強行軍と強襲である。敵に罠に嵌ることが大前提と言ってもいい。

通信がつながらないのは不安であるがなるようになるしかない。

 

「駄目ね、探査魔術もやられてるわ」

 

ならば自前で探査しようとオルガマリーはして。探査魔術を走らせるものの。

強力なジャミングによって見事に打ち消された。

礼装の探査機能も無論と言う奴である。

 

「これ・・・ドラキュラじゃ死亡フラグですよね」

「そうなのか?」

「はい、探査魔術も通信も妨害されていますし。ドラキュラのオリジンであるヴラド公が居るので。私的には扉をぶっ壊して進むのがお勧めです」

 

ドラキュラを読了しているマシュがそう解説する。

ドラキュラは扉を閉じたままにする力を持っており、その対策としてヘルシング一行はドラキュラ城に突入するときは、

徹底的に扉を壊して回って脱出路を確保していたことをだ。

 

「マシュ、それは気にしすぎじゃないかしら? ドラキュラの発行年代は1897年よ、年代的に考えてそういった書物は此処にはなさそうだし、噂結界の効果範囲外だと思うのだけれど・・・」

「そうですかね・・・、でも万が一と言うこともありますので・・・」

「宗矩、ショットガンは・・・」

 

万が一とお言う事もある、撤退だけではなく探索で来た道を戻れないというのも致命傷だ。

故に、マスターキーとして使えるショットガンはどうしたとオルガマリーは宗矩に問う物の、

先ほど描写した通り、弾詰まりしたため投擲武器として使い捨てている。

ぶっちゃけ手元には無い。

 

「オルガマリーのリボルバーで・・・ってぇ!?」

 

オルガマリーのリボルバーでどうにかならないかと達哉は言おうとしたが。

その瞬間、エントランスが軽く振動し、天井がゆっくりと降りて来た。

所謂、釣り天井と言う奴である。

ご丁寧にジャキリと鋭い鉄杭が出て来ている。

 

「達哉、ペルソナで吹っ飛ばせるわよね!?」

「無論だ!」

 

オルガマリーが達哉にもう構わんからペルソナで吹っ飛ばせと指示を飛ばし。

達哉はそれを了承、アポロのマハラギダインを収束発射するが、ものの見事に弾かれる。

これには全員びっくりだ。

 

「ここの建築材はシバルバーと同じか!?」

「うんなわけ・・・いえオルタの心像が侵食してるからあながちそうなのかも・・・」

「所長、先輩! 考察は後です! 森さん! 開いてる扉は?!」

「扉は付け根の強度的に頑丈じゃねぇから、ぶち破れた。こっちだこっち!!」

 

城の建築材は心像の浸食でシバルバーと同じだった。

達哉たちが本気で大暴れしてもビクともしないものと同じであるから、強引に突破できないのも仕方がの無いことである。

さらにジャンヌ・オルタは遊びはしないたちなのか、このエントランスの他の扉には全てロックが掛けられていた。

最も、閂やら扉の結合部分など、どうしても脆くなってしまう場所は何とかサーヴァントのパワーで蹴り破れるくらいなので助かりこそした。

書文と長可が二人がかりで全力で蹴り破り、

一階通路に全員が逃げ込む。

 

「まったくいよいよ忍者屋敷染みて来たな」

「書文殿、伊賀の屋敷でも釣り天井とかないですからな」

「「「「「そうなの!?」」」」」

「・・・主殿や書文殿はしょうがないとして森殿はなぜ驚かれているのですかな・・・」

「いやぁてっきり忍者屋敷ってそういうもんかと」

「ちがいますからな!!」

 

剣術指南役として伊賀と交流のあった宗矩は忍者屋敷ってそういうもんじゃない、という認識を突っ込みつつ否定する。

最も伊賀忍衆当主が絡繰り作りのロボット美少女と言うのは宗矩は黙った。

此処で言おうものなら余計に話がこじれるし、関係が無いからだ。

 

「兎に角、シバルバーと同じような物に成っているなら、無駄なことは考えない方がいいな」

「ああ、確かマスターは似たようなところで大暴れしてたもんな・・・あそこと同じなら無駄なことは考えられねぇ」

「考えたらそれが具現化してですもんね」

「私嫌よ・・・電子レンジ通路駆け抜けるの」

 

そして城は全域がジャンヌ・オルタの心像に侵食されているということも分かった為、

強引な突破法は無理と分かった。

構造上脆いのは先ほどの扉や閂の様にどうにかなるかもしれないが、

そのたびにサーヴァントの全力の蹴りやらペルソナスキルを切らざるを得ないのは正直割に合っていない。

さらに達哉の経験から、下手な事も考えられないかもしれない可能性まで出てきた。

達哉の記憶を見たオルガマリー、マシュ、長可としても電子レンジ通路を駆け抜けるなんて御免である。

特に鎧を着こんでいる、マシュと長可は蒸し焼きにされる、なんてことになりかねないので堪ったものではない。

 

「・・・気になったのだが、達哉、考えたことが具現化すると言ったな」

「ああ、そうだが。なにかあったのか? 書文さん」

「なら、適当な扉からオルタが出てくると考えれば・・・速攻で引き釣り出せると思ったのだが・・・」

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」

 

逆転の発想である。

近づくとかまどろっこしい事を想わず、

直通だと思えばいい分けで、なるほどこれは盲点ばかりと思い、

全員が祈る様に思いこもうと手を尽くす、その光景は一種のカルト宗教染みていた。

しかり、ここはシバルバーではなくジャンヌ・オルタのパレスモドキである。

そんなことは起こらず無論徒労に終わるわけだ。

 

「シバルバーとは違うのか・・・」

「そうみたいね。時間も無いし次行きましょう次」

 

という訳で移動である。

通路を抜けてホールを通り二階への階段を目指そうとするが、

やはりトラップだらけだった。

ペルソナ耐性が無ければ死ぬような電気が流れた壁。

空間が歪められ進行方向があべこべにになる通路。

扉関係は侵入を拒む様に鍵が施錠されているのを、長可が人間無骨をバール代わりに強引にネジ開けるなどして突破していく。

そうこうするうちに、達哉が気づく。

 

「えらく敵がいないな」

「そうですね、本拠地ですし。入り口前に氷魔を配備しているくらいですからてっきり、中も鮨詰め状態かと思っていたんですが・・・」

 

城内は不気味な雰囲気と気配が漂うものの、

今のところ敵はいない。だが扉を開けてモンスターハウスと言う可能性も無きにあらずと言う奴で。

第一に先ほどの悪魔の件もある。

普通の神経なら、戦力の逐一投入なんぞせず一気に投入する方が普通だ。

ジャンヌ・オルタがなんらかの手段で出れないにせよ、

彼女にはアタランテとヴラドと言うサーヴァント二騎に、悪魔の上位分霊というサーヴァントが居るにも関わらずだ。

これは単純な話で、達哉たちはあずかり知らぬ話だが、

ジャンヌ・オルタの仮想敵の設定基準は、神霊跋扈する女神の物語の主人公たちや某悪魔召喚師である。

達哉は彼等に及ば異にしろ、彼等の影を踏める存在であるし。

そういう連中が束になってきているのなら、此処は決戦ではなく時間稼ぎを行いつつ焦らせた方が勝ち目があるから、

施設内のトラップなどで分断しての個々の戦力をぶち当てるという方針を取っていた。

だからこそ、二階に達哉たちは移動しようとして・・・

先行していた達哉と宗矩、書文、長可の足元で不吉な音がカチリと鳴り響いた。

無論、それは仕掛けではなく魔術的罠である。

 

「なっ」

「先輩!?」

 

マシュが慌てて手を伸ばす。一歩前に進んだ瞬間、再度カチリと言う音。

こういう類は狙撃戦での生餌と一緒だ。目の前に無視できない餌を置いて置いて得物を吊り上げる。

故にワープトラップの近くにもトラップが置いてあったのである

そして起動したそれはマシュとオルガマリーにマリー・アントワネットの足元がぽっかりと開いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に分断された。

 

 

「ここは・・・」

 

達哉が頭を振りつつ立ち上がればそこは中庭である

もっとも周辺状況は最悪だった。達哉は囲まれていた。

悪魔の群れにだ。

だが問題はなかった、この程度なら既に経験済みだ。あの誰も居なくなった世界でだ。

しかしその中にひときわ拙い姿がある

 

「ここは、城の中庭だよ、周防達哉」

「貴様は・・・」

「我が名はベリアル。まぁどうでもいい。閣下は意味があるというから参戦したまで」

 

悪魔が蠢き、その中でも赤色の竜人のような悪魔は別格だった。

なんせ彼の身体から出る魔力は物質を分解していた。

それに触れるだけで地面やら建造物が砂になっていく。

配下の悪魔ですらベリアルには近づかない。

まさしく無価値なるものとして万物の価値を貶める能力と言っても過言ではないだろう。

悪魔の上位分霊となれば権能じみた固有スキルを備えているのが常である。

無価値なる者の能力はそういう分子結合解除能力と言ったところだろう。

しかしベリアルは油断していなかった。

アマラではあの手この手で絶対的能力も突破してくるのが人間だとアマラの悪魔や神々は知っている。

傲慢な天使なら兎も角、ベリアルは油断することはなかった。

 

「悪魔が何故、オルタに協力する・・・」

「影との取引の一環だ。円環を回すためにすぎぬ、試練は辛ければ辛いほど人を強く成長させ神の座に至らしめるがゆえ」

「・・・なにを言っている」

 

意味不明な言葉の羅列である。

神になった記憶も無ければそんなもの望んでも居ないのに。

 

「これは警告だ。周防達哉、■■■■を持つ者よ。汝が翳すは終わりである」

「・・・向こう側が来るという事か?」

「いいやそういう事ではない。そしてこれ以上語らう意味はない」

 

ベリアルは一方的に話題を打ち切り、顎で悪魔に指示を出す。

殺到する悪魔。達哉は何時もの構えを取り迎撃態勢。

卸したペルソナはメタトロンで。その威容を現し悪魔たちを蹂躙すべく両目を輝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分断されてからマリー・アントワネットのは落下孔トラップにもみくちゃにされつつ。

城の地下ホールへと落とされた地下のホール、無数の棺が無造作に置かれた場所で。

一種の埋葬場所だとかを彷彿させる。

一緒に落下したオルガマリーとマシュとは落下の分岐ではぐれてしまい。

今はこの場にはいない。

 

「来たか異国の王妃よ」

 

そして棺を椅子代わりに座り込み、先の会戦とは打って変わって西洋鎧姿となったヴラド三世が底に存在していた。

まるで灰の様に髪色が変貌し、見た目的には十歳近く老け込んでいる。

何があったとは思わないでもないが・・・

マリーアントワネットは油断なく腰の鞘から愛剣を抜き放つ。

今度は完全な孤立無援だ。

 

「・・・もうその様子だと・・・戦うって感じじゃなさそうだけど、避けてくれると助かるのだけれど、ムッシュ」

「・・・意味? 意味なんぞない。この世界に価値は無い」

「ムッシュ?」

 

ヴラドが立ち上がる、霊基が灰の様に砕け散った。

彼はジャンヌ・オルタの復讐心に耐えられず更なる絶望に叩き落され精神をへし折られ、

怪物と成り果てていた。

もはやこうなっては供給されるジャンヌ・オルタの憎悪で駆動する操り人形も同然である。

彼は口を吊り上げ笑い、

 

「ククク。無価値、無価値、無価値。この人理に意味などなない」

「―――――」

「貴殿が一番わかっているはずだ。フランスの犯し続けた愚挙をな。ジャンヌが火あぶりにされ、貴殿が首を跳ねられ。ナポレオンが地ならししながらも、負債を後回しにし続ける国に価値はない」

 

価値はない故に先なんていつも無いだろうとヴラド三世は言う。

だがマリー・アントワネットは違うのだ。

主義は腹を掻っ捌く様にもう言ってある。そこは緩れぬ一線だ。

互いに排除するほかないと、心を決めて両者ともに間合いを詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・ハァ・・・ホント予想外の事ばっかで嫌になるわね・・・」

「皆さんは大丈夫でしょうか・・・」

「・・・わからないわ、けど嫌な予感がする」

「・・・私もです」

 

オルガマリーの虫の知らせにマシュも同意する。

殺意に当てられ続け、戦場で理不尽を知った彼女たちにもそういった第六感の虫の知らせと言う奴が分かるようになってきた。

無論歴戦の猛者であるサーヴァントや達哉たちほど鋭い物ではないにせよ、

拙くとも大よそは分かるようになった。

 

兎にも角にも脱出と探査魔術を走らせようとしたオルガマリーの前にマシュが出て、背から大盾を取って構えて飛来する何かを防ぐ。

と同時にマシュの両腕に凄まじい衝撃が走った。ジャンヌ・オルタの一撃よりはマシ程度だが。

威力で言えば冬木のアーチャーの通常射撃の倍以上の威力はある。

奥歯を軋ませ腕の筋肉が震えることに耐えながて、その矢を凌ぎきる。

矢が飛来した。先を見れば扇情的な衣装に身を包みつつ背から翼を生やし右手には弓、左手の指の間の数だけ矢を握りしめているアタランテが、ホール上に作られたコロッセオを彷彿とさせる広大な地下闘技場の柱の上に存在していた。

歯を軋ませ、両目からは炎の様に魔力が揺れている。

まるで魔獣もかくやと言わんばかりの様相。

 

「そう簡単に通してはくれないみたいですね」

「そうね・・・」

 

マシュは盾を握り直し。

オルガマリーは事前の情報から戦闘方式を組み立てる。

少なくとも猪化されたら勝ち目はないが、逆に言えばされなければ勝ち筋は、この距離であればいくらでも作り出せるからだ。

確かに二人はクーフーリンほどではないが。オルガマリーは魔術師にしてペルソナ使いである。

手札の内容が彼と違うし数も多いので。やれないということはなかった。

そしてある意味、彼女たち初めての修羅場だ。

冬木のように達哉はおらず。先の会戦の様にサーヴァントたちはいない。

独力で切り抜けるか否かを試されている。

無論失敗すれば死だ。

そんな恐怖心を、自分たちが失敗すれば周りが失われるという恐怖心で抑え込み。

魔獣となった狩人と対峙する。

 

 

 

 

 

そして鍛錬場では既に交戦が始まっていた。

此方でも達哉と同様、悪魔の群れである。そして対峙する悪魔は上半身が球体場の岩から生えているという偉丈夫である物の。

その瞳は愉悦に染まっている。

 

「どうしたね? この世界の英傑は秀でていると聞いているが・・・なんだ、この程度も突破できないのかね」

 

魔王ミトラス、その信仰は弾圧によってほぼ失われ詳細が不明な魔王であるが、

 

「お前らの色を魅せてくれよ。でなければ出てきたかいが無いというものだ」

 

彼が手を振い斑模様の様に氷と炎が炸裂する。

無論、その規模は清姫やら達哉の比ではない。

魔王の高位分霊と言うだけでこの出力である。元来、人が敵う相手ではない。

 

「クソが、城崩しを連射できるようなもんじゃねぇか!!ゲオルギウスどうにか出来ねぇのかよ!!」

「受肉した悪魔となれば祈りでは無理です!」

 

遮蔽物に身を隠し長可は叫びつつ、ゲオルギウスに問うものの。

相手はカルデアのサーヴァントと同様、疑似受肉している状態である。

そうなればいくら聖人であっても祈りだけでは退けられない、さらに相手は魔王である。

出来るとすればその宗教のトップ級を持ってくるほかない。

攻撃は止まず苛烈ではあるが、幸いにも先にも述べた通り遮蔽物にもジャンヌ・オルタの心像が侵食しているのか、

強度で言えばシバルバー並みなので遮蔽物には困らない物の、

こうも嵐の如く最新鋭の近代兵器をダース単位で叩き落せる攻撃を乱発されては三人にとっては溜まった物ではない。

 

「こういうのはクーフーリン殿の仕事ですな」

「然り、だが宗矩殿よ。アレを仕留めれば逆説的に我らの武功にも箔が付くという物」

「それにああも言われていたら男が廃るというものですからな」

「然り然り、という訳で突っ込む故、長可どの少し頼みますぞ」

 

と言っても相手が相手である。もとより武芸を極めた身である。

人外領域? 望むところ、我等の武功としてくれると奮い立っている。

強さが絡むとコエーなこの人達と長可は他人事のように思いながら、

 

「行くぞゴルァァアアア!!」

 

遮蔽物を引き抜いて盾にしつつ突貫を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャンヌは途方に暮れていた。

罠自体は、並んでこられては戦力分担の意味合いを失うとして使い捨ての物だった。

達哉や宗矩たちを転送した魔法陣は意味を失い。

落とし穴もまたなかったかのように消失している。

徹底しているという意味合いでは、ジャンヌ・オルタは何度も述べる通り容赦がなかった。

故に孤立されていた。或いは偶々、ジャンヌだけがそれたかは分からないけれど、

彼女だけが取り残されたのである。

悪魔は存在せずサーヴァントも襲ってこない。

指示を仰ごうにも、カルデアとの通信はジャミングの影響で途切れている。

まさしく誰も助けてはくれない状況だ。自分自身で判断し最善を紡がないといけない。

的確な彼女自身の使命はただ一つ

 

―ジャンヌ・オルタを抹殺せよ―

 

と言う物だけで、天啓スキルもまた類似した答えの身を提示してくる。

宗矩たちに合流し手伝おうにも、自分は役に立てるのかという疑念があった。

如何に達哉にケアされたからと言って行き成りポン、と払拭できるのなら苦労はしないし、

魔王とも呼べる個体相手に自分は不足ではと思ってしまうのは道理と言えるだろう。

だったら、此処は自分の後始末。つまりジャンヌ・オルタを削ることが正道ではないかと思うのも仕方がないわけだ。

ジャンヌ自身、クーフーリンやら達哉の様に神話に参加できるほどの実力はなく。

マリー・アントワネットやオルガマリーやマシュの様に神話勢についていける実力はない。

旗を抜けば、文字通りの典型的中世英霊でしかないのだから仕方なしと言う事である。

故に、生来の自己犠牲精神的に、自分を犠牲にしてでもジャンヌ・オルタを削るのが正道と思っても仕方がないことだろう。

第一にあれだけ彼らに負担を強いておきながら、役立たずという事に彼女は耐えられない。

心は決まった。事前のブリーフィングでジャンヌ・オルタは玉座の間か地脈の影響も考慮して地下室に居ると判断されて、

ジャンヌ・オルタの居場所は二択に絞られている。

ならば居場所の不確実な仲間の元に駆け付けるより削った方がいいと判断し、

玉座の間に向かったのは必然ともいえたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティエール 兵舎。

 

 

体は透明で裏地に花柄をあしらったスーツ一式と首には白いマフラー。

手先には黒の革手袋 足には黒革靴。

両手に握られているのは鉄板をくりぬいて作ったかのような漆黒の拳銃二丁。

そして頭部は漆黒の骸骨と言う異形だった。

無論、ソーンとは違い、当初から第一特異点を影で暗躍していた化身である。

彼は銃底で衛兵の後頭部を殴り気絶させるとするりと中に入る。

そして詰め所内に入ると。

懐から、ドルミナーのスキルカードの束を取り出し、それを握りつぶして強引に発動した。

 

「お休み♪」

 

周囲一帯の人々がある人物以外を除いて眠りに入った。

影は悠々と兵舎へと入っていく。

 

 

 

影は這いずっていた。良くも悪くも相変わらず。

 

 

光の傍には常に影がある。

彼等が希望と言う光を掲げ続けるのなら、

その恩恵にあやかられぬ人の背後に、影は這いずり寄ってくるのが道理という物であろう。

 

 

 

 

 

 

 




雑だけれど、とりあえず投稿。読者の方がは申し訳ありません( ;∀;)

カルデアエクスペンタブルズの巻き
英霊に銃火器持たせて突撃させるのは自分が初めてではないだろうか。
と言っても戦術上、カルデアとしては魔力消費やら温存したいから、キルスコア稼ぐために、こういう戦術になるのはしょうがないっちゃしょうがない。
なお在庫が無いため次回からはやらない模様。
そしてカルデア、今度は意図的に通信をジャミングされる。
メガテンで近代戦やってりゃ、邪ンヌとしても敵が突っ込んでくるのが分かっている上に妨害手段があればそりゃ妨害する。


カーミラが邪ンヌを怖がる理由がコレ。
必要と在れば躊躇なく人も龍ちゃんのように楽器に仕立て上げる精神。やると言ったらやるという凄み。つまりだが絶対殺すという精神性
あと噂を効率よく広めるために大暴走していた時期の邪ンヌを見ていたから。
カーミラからすりゃ理不尽ですけど、本来課せられる罪と罰が邪ンヌという姿かたちを得て今更襲い掛かってくるという悪夢ですよ。
なおエリザベートが覚悟きめてカチこんでくる来るとかいう悪夢


と言うか今の年代的にフロストカイザー知っている人いるかなぁ。
オリキャラじゃなくてちゃんとしたメガテンの悪魔です。
と言っても出演はデビチルだけですけども。
一応、ベリアル、ミトラス、元ジャックフロストことフロストカイザーは邪ンヌがVRメガテン1の頃に仲魔してました


ヴラド公は、まぁ邪ンヌの憎悪に燃やされて抜け殻状態、残った感情で暴走中。

アタランテ、憎悪を注ぎ込まれて絶賛炎上中

座の二人は天を仰いだ。





という訳で対戦カード
フロストカイザーVS兄貴&マルタ&タラスク
アタランテVS所長&マシュ
ベリアルVSたっちゃん
ミトラスVS長可&宗矩&書文&ゲオルギウス
カーミラVSエリザベート
ヴラドVSマリーアントワネット
邪ンヌVSジャンヌと言った感じで行きます。
それで次回ですが ニャルニャル回とエリザVSカーミラ決着で行きます。
なおミトラス戦はキンクリ予定、如何に魔王でも宗矩、書文、森くん相手に英雄王でさえ殺す型月最大の死亡フラグの慢心王すりゃねぇ・・・



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二十三節 「坂道を転がる/坂道を駆け上がる」

妬み深き人は、錆びよりて鉄がむしばまれるが如く、己れ自身の気質によりてむしばまれる。

アンティステネス「断片」より抜粋。


ジル元帥は執務室で頭を抱えていた。

 

「私は・・・何を・・・」

 

それは状況への憂いではなく。自分は何をやっているのかと言う失活である。

先の大規模戦闘、須藤との戦闘。ジャンヌの消沈へのケア。

そのほぼすべてをカルデアへと押し付けていた。

彼等が多くの負担を担い。無理をさせ。

さらには彼等だけでの攻城戦と言う名の特攻が行われている。

その多くの責任を取っているのがカルデアの所長である。オルガマリーと最高戦力として戦っている周防達哉へと負担を強いていた。

彼等の奮戦はそれだけ見事な物だった。

人種差別色濃い時代に置いて黄色人種である達哉がフランス軍に認められているのもそう言うところが大きいし。

なんせペルソナという力を使って。メタトロンというキリスト教徒においても最高位の天使を降ろし使役するという離れ業あってこそである。

だがしかし彼らは歳も成人していない子供たちであるし。

そんな中で、何もできないという無力さに打ちのめされ。

あまつさえ。

 

「なぜ彼に嫉妬なんぞ・・・!!」

 

ジル元帥は達哉に嫉妬しているという事実に打ちのめされていた。

最前線でジャンヌと轡を並べ。

そして須藤に打ちのめされ幼子が泣くかのように絶望していた彼女を救ったのも彼だった。

月明りが照らす廊下の中で英雄が聖女の手を取って立ち上がらせる。

まさしく英雄譚の如き光景である。

加えてジャンヌが生きて居た時。ジル元帥にはできなかった光景だ。

故になぜ自分は出来なかったいう自責の念。

そして反立してなぜ彼、達哉に機会が与えられるのかと言う嫉妬が生み出されるわけだ。

なにせ一番助けたかった存在を助けたのは、言っては悪いがポッと出の達哉であったことがより拍車をかけるというものである。

その隙を影は逃さない。

窓際で踏ん張る人間を指先一つで落とすが如く、人差し指を突き出すのが。影の本領と言うものだ。

 

「なら行ってあげるべきじゃないかな? ジル・ド・レェ」

 

キィと扉を開けて漆黒が現れる。

半透明の身体に裏地に花をあしらった。黒スーツの男。

といっても人間として形容すべきか、人間の頭部があるべき場所には漆黒の髑髏の頭蓋が乗っていった。

紳士的幽霊的なテンプレート染みた存在がジル元帥の元に現れる。

 

「貴様、何奴!? 衛兵は・・・」

「衛兵は来ないよ。皆ぐっすり、シエスタ中さ。お久しぶり、そして初めまして、僕はLucid、偽りの光を持て破滅へ誘導する者」

 

そういってLucidはカタカタと微笑む。

ジル元帥は剣を引き抜いた。

カルデアからの情報では自分では倒せないと

 

「貴様が彼らの言っていた元凶か!」

「元凶? 酷いなぁ、僕は君たちの願いを叶えてあげただけだよ、君はジャンヌとの再会を望み、未来の君は憎悪に濡れた彼女を欲した。それに君もさ。この状況を望んでいたよね、ジャンヌに責任をおっかぶせて処刑した連中が紅蓮の炎に包まれ生きたまま解体されるという罰を望んだ。だからその願いを叶えてあげたわけだ。現にあの魔女裁判に関わった連中は殆どが死んだし、無関心を貫いた民衆は惨たらしく殺された。どうだい? 憎悪に濡れて自分が思っていったことをしてくれる、ジャンヌ・オルタの姿は胸の内がすっきりしただろう」

 

Lucidは他人事のように語る。むしろ願いを叶えてあげたのに怒られる道理がどこにあるのかと言わんばかりだ。

これにはジル元帥も言い返せない。

なんせジャンヌと再会することを何よりも望んでいたから。

そしてこの悲惨な状況こそ君は望んだはずだと指摘する。

 

「そんなこと望むわけないだろうが!!」

 

突き出され剣、だがLucidは防御するそぶりも見せずに刃を受け入れる。

半透明の身体は存在していないかのように刃を素通りさせ血でさえ流さない。

そして同時に引き抜かせない、どのようにジル元帥が刃を引っ張っても固定されたかのように動かなかった。

Lucidはカタカタと顎を鳴らしつつ、自らを貫く刃を撫でつつ言葉を紡ぐ

 

「嘘いうなよ、ならその書物は何だい? そしてなんで各地から孤児を集めた?」

 

Lucidが指を差す先には人の革で作られた本があった。

悍ましき異界の法則と神々を記した著作である。

 

「失って取り戻したいからそんな下らない物に手を出す。金持ちの発想は変わらないなぁ、そして望んでいないという割にはコミュ障よろしく死んだ彼女に関わろうとしたよね? もう言い訳は出来ないよ、それでジャンヌとの交流をしたいと望んだシュチュエーションが手に入ったわけだ。だけどいざやってみたらどうだった? 何もできていなかったよねぇ。敵を仕留めたのはカルデアで、特攻しているのも誰だ? 何一つジャンヌの為に役立てていない」

 

折角望んだものを用意したというのに、何一つ出来てはいないではないかと嘲笑う。

サーヴァントたちが居たからとかではなく、幾らでも交友の機会はあっただろうし。

ジャンヌが一番多く絡んでいただろうマリー・アントワネットだって、ジル元帥がお茶会に飛び入り参加を許可しないなどと言う器量狭ではない。

むしろマリー・アントワネットだったら嬉々として迎え入れてくれるというのに。

友人同士としての交流を邪魔したくはないからと言う理由で常にそういったことからはジル元帥は引いていた。

 

「それとも、罪悪感かな? みすみすジャンヌを見殺しにした罪悪感から話さなかったわけだ」

「黙れ」

「図星かな? その罪悪感で結局逃避では僕としても用意した甲斐が無いというものだよ」

 

ジル元帥の恫喝に近い声を中半スルーしつつ、これでは用意した甲斐が無いという物であるとして次の用意があるとLucidは言う。

 

「だから僕は君の願いを叶える為に此処に来た」

「願いを叶える?」

「そうだとも、君の渇望を満たし嫉妬心を洗い流してあげようといんだ」

 

そういってLucidは指を鳴らす。そこにはオルレアンのジャンヌ・オルタの居城の裏口が映っていた。

 

「今カルデアとジャンヌ・オルタの交戦も中盤戦だ。そろそろ本物と贋作も戦っているころだろう。だから行ってあげると良い。ただしサーヴィスは此処までだ。ジャンヌの場所までは自分自身の手で行ってくれ給えよ」

 

要するに送ってやるとのことである。

 

「さぁ選びなよ、ここで役立たずとして彼女の勝利を願うか、あるいは死ぬも覚悟のうえで、彼女の窮地を救いにいくかをだ。」

「窮地・・・だと?」

 

ジル元帥は呆然とする。それがおかしいという様にLucidは嗤った。

 

「君はあの聖女モドキを絶対視しているけれど。彼女、特段強いってわけじゃないからね」

 

Lucidは呆れながら指摘する

当たり前である。

真っ当に考えればジャンヌではジャンヌ・オルタに勝てない。

基本スペックは同じだが、潜った修羅場と鍛錬した時間が違うのだから当たり前である。

冷静さを取り戻しつつあるジャンヌ・オルタは徐々に戻り始めているのだ。

あの頃、神霊跋扈する神殺しと魔人たちの戦場を駆け抜けた頃にだ。

言っては悪いが人間同士の戦争及び殺しという場でもあまり活躍できなかったジャンヌに勝てる道理は無いだろう。

第一に影に戦いを挑んだ達哉、ケルト最高峰の英霊クーフーリン 武の境地の一角である書文と宗矩、戦国武将の長可、武闘派聖女マルタに竜討伐経験のある軍人してゲオルギウス、歴史の闇に葬られたとはいえ異界とかした街の区域に乗り込みペルソナ使いとはいえ討伐したマリー・アントワネット。

戦績で言えば見劣りするのも当たり前と言えよう。

第一に彼女自身の武力による逸話は限りなく少ないのだ。

個人技量でいえば最悪、オルガマリーにですら劣る。

 

「もっとも達哉あたりは交戦中の悪魔との相性もいい、間に合ってどうにかするかもしれないけれどね。だがね・・・」

 

そして現在、状況は混沌としているとLucidは告げる。

各個分担され。魔王の上位分霊が顕現し、ジャンヌ・オルタのサーヴァントたちは大暴走状態。

 

「それでも疲弊はする、そんな状態で、また”英雄的に彼に無理”をさせるのかな? また誰かを英雄に仕立て上げて、自分は最善を尽くしたのだと言い張って殻に閉じこもるのかな? 死ぬのが怖くて」 

「黙れ・・・」

「またそういう、彼女が真に聖女足り得るなら協力者を募り内部工作を重ねて救出だってできたはずだ。あの時既に喧伝は終わっていて。法王に接触すればどうとでも出来たはずだ。それが出来なくても私兵を率いて全てを投げ捨てれば届いたかもしれない。」

「だまれ・・・」

「なぜできなかったのか。単純だ。君は怖かったんだろう? 死ぬのが、或いは異端と名を押されてすべてを失うのが」

「黙れぇ!」

 

狂った形相で両手に力を込めてジル元帥は刃を返す。

死ぬのさえ恐れなければ。できたはずだとニャルラトホテプは煽る。

だが出来なかったという結果と事実、そして壊れかけるまで生きていたという事実がそういった負い目を浮かせるものだ。

本当に死ぬのが怖くなかったら、結果の是非は置いておいて彼は救出作戦をたとえ一人でもやったはずであるから。

 

「おや、おや、怖い怖い」

 

それでもLucidは動じない。

寧ろ図星だなと嘲笑う。

 

「だからこそ違うというのなら、それを証明すればいい、そこは直通済みだしね」

 

そして本当に命をかける気があるのなら。

さっさと行けよと言う。今、目の前に開いている光景に飛び込めばすぐそこはオルレアンなのだと。

それでも呻くように悩む様子を見せるジル元帥に。

Lucidはため息を吐きつつ。致命傷になる針の一撃を加えることにした。

 

「言っておくが、この機を逃すと君はジャンヌには会えないよ」

「え?」

「当たり前だろう? サーヴァントなんて世界の天秤の守り手だ。その役割は特異点化の元凶を抹消するための実働部隊な物で。お役目が終われば即座に撤収なのは道理だよね? 彼らからは耳にタコが出来るほど説明されていたはずだけれど。なんだまた都合のいい妄想、いや妄執と言った方がいいかな・・・ そんなものに逃げて事実から目を反らすなんてね」

 

そう言われていたはずである。オルガマリーも抑止に関する知識をカルデアの修繕作業に必要な知識として。

フランス首脳陣には言ってあった。

現状のフランスがどういう状況で、カルデアがどのような任務をして、サーヴァントがどういう存在なのかを。

故に察することは出来たはずなのである。

だから、あの出撃の時に分かれたら、もう懺悔も何もする機会は永劫に失われる筈なのだと理解していない方がおかしい。

だがジル元帥はその事実から目を背けた。彼女は帰ってくるはずだと。カルデアの戦士たちも同行するのなら今度こそ。

彼女の凱旋を見届けることが出来るのだと。

無論、そんな都合のいいものなぞあるわけがない。

目を背けた。知覚したうえで都合のいい妄想に縋りついた。

平時ならそうはならなったが。今の時期はジル元帥が一番精神的に参っている時期でもある。

つまり壊れかけていた時期でもあり、都合のいい妄執に縋るのは道理と言えよう。

 

「さて・・・だから僕は何度も言う通り、君の願いを叶える為にここに来て。現実を教えるために此処にいる。あとは君自身の選択だ。ここで待って、”周防達哉がジャンヌのヒーロー”という立場を指くわえて見ているか。あるいはもっとも願っていたジャンヌへの懺悔をするか。さてどうする? 全ては君の望むがままだ!! ジャンヌへの懺悔 民衆への断罪!! 前者は今の君が望み、後者は未来の君が望んだ!! ならば最後も思うがままにしてやろうというんだ!! チャンスは目の前にあるぞ!!」

「私は・・・・」

 

 

 

そして―――――――――――彼の出した答えは。

 

 

「まぁやはりこうなるかな」

 

部屋にはポツンと影が一人。そうボヤいた。

あとはもう結果は見えているという物。

ジル元帥が何よりも望んだ光景には彼ではなく達哉が居る、そして落ちている聖槍、彼の嫉妬心と都合のいい妄執。

影からすれば蠟燭の火を見るよりも明らかと言う奴だ。

 

「死者は帰ってこない、失ったものは戻らない。まったくそんな現実も理解できないから。こんなことになる」

 

影法師は影法師、生前のコピー品でしかないのだから。

何を同行したところで無意味だというのにと言いつつ、影は姿を消した。

テーブルの上にあった悍ましい魔術書はそこになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

エリザベートとカーミラの戦いはエリザベート優位だった。

これはジャンヌ・オルタとのラインをカーミラが寸断してしまったことが原因である。

無限リソースから有限リソースへと移行している。

もっとも幾ら有限とはいえ、もしもの時に備えてカーミラは取れるだけのリソースを貯め込んでいたのだ。

かと言って臨時駆動とはいえエリザベートはカルデアの支援下だ。リソースに困らない。

 

「いい加減自覚しなさいよ!!」

 

槍を振い鉄の処女などの拷問器具を殴り飛ばしながら叫ぶ。

 

「なにがよ・・・」

「真っ当な領主としてやり直したい、それがあんたの願いだったはずなのに、そうやって逃避してることを」

「ッーーーー」

 

ジッっとノイズが配する

いつかどこかの記憶、自分が変わる筈だった大事な物。

 

「それが私の願いだもの、根源的なね・・・だったらあんたもそうでしょうが・・・」

「うるさい」

 

ジッジとノイズが走りる。

記憶が混濁する。月の記憶、人理焼却の記憶。どこかのカジノの記憶、会った筈のハロウィンの記憶。

カーミラとエリザベートが混ざり合ってノイズが走る。

 

「そして痛いからとりあえず八つ当たりしたいってのが、今のアンタよ」

 

それはエリザベートも同じだ。

影が仕込みを用意していないはずがないのだ、こんなおいしい主題を逃がすはずもない。

故に仕込んでいた毒の針。

噂結界によって繋がりが構築され強化されているゆえである。

何故ならエリザベートは、カーミラを未来の自分として公言していたからである。

それが周囲に広まっていれば噂として成り立つからだ。

 

「同時に罪と罰から逃げたい。復讐なんてどうでもよくて、本当は逃げたかった。だから名目上加担するように見えて、実際は第一特異点で終わらせるために加担した」

 

ギチギチ。

エリザベートも頭を右手で抑えながら指摘する。

カーミラの頭痛も、共有されかかっている。

どっちがシャドウなのか関係ない、サーヴァント自体が座から投射されたシャドウのような物だから。

 

「本当は・・・「やめなさい!!」

 

指摘を続けるエリザベートに対し絶叫する。

 

「アナタも望んだことでしょうが!!」

「・・・」

 

そうカーミラが望んだということはエリザベートも望んだことだ。

罪から逃れたい、終わらない円環から脱却したい。ああ・・・或いは。

 

「私自身をちゃっちゃと終わらせて普通の人として過ごしたいってね」

「望んだわよ、そりゃ・・・」

 

今でも覚えている一時の仮初の主。

ああやっていきたいと何度思った事か。ご普通の日常を送って友人たちと馬鹿笑いして痛かった。

罪悪感に胸を締め付けられ苦しめられ断罪すらされず永劫悩めという罰なんて受けたくなかった。

それは本音だ。だが一側面でしかないのも事実でもある。

 

「でもね”次”なんて永劫来ないのよ」

 

死ねば何もかも失う、罪と罰から解放された時点で。エリザベート・バートリーという個体の存在は消えている故に。

次なんて無いのだ。虚無に還るだけだから。

 

「座から消去されれば虚無に還るだけ。次なんて無い。達哉だってそうだもの」

 

次なんて永劫来ないのだ。

犯した罪は消えない。

なにか大きい罪を犯してしまった彼は背負って生きている。

苦しそうに、断罪され続けながら痛みを受け入れて矛盾しつつ生きている。

 

「終わらないのよ、永劫断罪され続ける、やらかした事は変えられない」

「ならどうすればいいのよ!? 永劫この頭痛と付き合えって?!」

「それだけのことをやったでしょ!! だけど私だってそんなの背負いたかないわよ! けどさぁ・・・」

 

―守るべき約束を破った―

 

「今を楽しめる若者が必死こいて背負って、足掻いて戦ってさ、生きてるのよ!!」

 

そうエリザベートのマスターだった存在達はいつもそうだった。

誰もかれもが必死に背負って戦っていた。

岸波白野の両手だって血で濡れている。生きるために親友を殺した。

しょうがないとかではなく、いくら環境に強要されたとはいえ最終的に選ぶのは自分自身だからだ。

藤丸立香だって周防達哉だってそうだ。

辛い物を背負ってそれでも生きている。罪と罰に目を向けて戦っている。

 

「だったら先達として恥をかこうが。助けてやるのが大人の役割だし、逃げている姿じゃなくてこう背負うんだって多少は楽に背負える姿を見せるのが・・・罪と罰の背負い方を教えるのが大人の役割でしょうが!!」

 

そう真摯に生きる彼らにエリザベートは憧れたのだ、辛くとも痛くても些細な幸せに微笑み生きる彼らのようなと。

 

「それはジャンヌ・オルタだってそうよ!!」

 

彼女は自覚していないだろうがとエリザベートは思いつつ叫ぶ。

あれはもう一人の自分だった。背負いたくて結局背負えず託してしまう側の慟哭だったから。

 

「五月蠅い!!」

 

もうここまでくればカーミラも理解するという物。

何故本当にジャンヌ・オルタが怖かったのかを理解する。

理想だったからだ。だがそう簡単に変える事なんてできない。

過程のエリザベートなら柔軟に適応できる。だが結果と言う側面で呼び出されたカーミラにはそれは不可能だ。

なぜなら遅すぎるからである。

生前の様に罪を犯して。気づけば取り返しのつかないところだからだ。

もっともエリザベートからすればそれこそ、座のシステムを言い訳にした逃げでしかないと思う。

故に交渉は決裂した。

カーミラの指先から血が滴り刃を形成する。背後の玉座の間から拷問器具が蠢めき巨人をなす

 

「ほんとに・・・」

 

エリザベートも内心怒髪天だ。

故に懐に手を突っ込み、切り札を切った。

 

「いい加減にしろォ!!」

 

投擲、空中に投げられるのはメギドストーンと言われる魔法アイテム。

アマラ固有の物で低出力ながらメギドを発動する便利な物であった。

そして如何に低出力とは言え威力は下手な榴弾よりあるのだ。

炸裂する光が巨人の前で炸裂。

一撃で吹っ飛ばす、ついでに周囲の拷問器具たちもだ。

 

「なっ」

 

これにはカーミラも驚愕である。

もっともこれには理由があり、先ほど言ったリソースの有限によってさらに強度が下がっているためだ。

 

「アアアアアアアアアアアア!!」

 

エリザベート雄たけびを上げて突貫。

カーミラは舌打ちしつつ、すぐには巨人やら獣やらは出せないため、今度は物量攻撃だ。

 

「邪ァ魔ァアッするなぁああ!」

 

押し寄せてくる、拷問器具たちを一閃しつつ叫ぶついでにマイク機能をON。

音波によって弾き飛ばすながら突き進む。

それでもなお、物量は津波の如くだ。

呼吸一つですら致命傷になり得る。

再度、懐からメギドストーンを引っ張り出し、複数投擲。爆発。

 

「なっ」

 

拓ける視界の先にはカーミラはいなかった。

如何に優れて無かろうが、彼女はアサシンである。

 

「ざんねぇん」

「ッ?!」

 

爆発と轟音、物量で迫りくる器具の数々に集中せざるを得ないという状況ならば。

カーミラの低ランク気配遮断でも十分に姿は眩ませる。

背後を完璧に取ったという形で、喜悦に表情を染める様は暗殺者としては二流であれど。

十分にエリザベートを仕留めるのには十分である。

 

「くっ」

「今更じたばたしたところでねェ!!」

 

エリザベートは槍を横に翻すと同時に反転、カーミラに向き直ると同時に半身をずらし、突き出される手刀を回避しようと試みる。

タイミング的には間に合わない。手刀は軌道を変更しやや右にズレこそしたが直撃した。

肉が裂ける音と共に、カーミラの手刀が深々とエリザベートの腹部に埋もれる。

カーミラ自身の血も使って強化した手刀だ。そんじょそこいらの剣より切れ味はあるからこの位は容易い事である。

 

「コフッ」

 

エリザベートが吐血。

それに喜悦した表情をカーミラは浮かべ・・・次の瞬間のエリザベートの表情は苦笑だった。

 

「やっぱ”そうやる”わよねぇ」

 

まるでこうなるとわかっていたかのように

 

「何がおかしい!」

「だって、霊核も狙えたでしょう? っていうのに狙わないあたりが私だなぁって」

 

そうタイミング的に腹ではなく心臓を抉れたはずだと。

そうなれば戦闘続行スキルも糞も無いのに。

自分だからとクラス違いの差に気付いていなかった。

 

「だから」

 

エリザベートは腹部に力を入れてカーミラの腕を拘束。

必死に抜こうとするカーミラではあるが、駄目押しとばかりに拷問は血税の如くを変則起動する。

カーミラの手刀は血で強化されている。

そこを狙っての吸収だ。

 

「こうなるのよ!!」

 

槍を一旦、落して握りこぶし右ストレートをカーミラの顔面に叩き込む。

 

「アンタは、ほんとホントアンタはぁ!?」

 

右ストレートを直撃させられたカーミラの顔面が苦悶に歪む。

仮面の上越しに殴られ。砕けた仮面の破片が顔面に食い込んで。美貌は苦悶と屈辱に歪んでいた。

その怒りのままに左手に血を身に纏い、エリザベートの顔面を膾にしてやると、指先に血刃を展開した左手を振う物の。

エリザベートは右手を突き出し、右手が切り刻まれるのも我慢しながらカーミラの左手をがっちり残った指で拘束。

同時に、エリザベートの右手掌に血刀が食い込んでいる形になるので拷問は血税が如くの効果範囲内に入り。

ドレインが開始される。

 

「ク、正気?!」

「正気よぉ!?」

 

以前の自分であれば考えられない自傷前提の策にカーミラは驚愕の声を上げ。

エリザベートはその言葉に返事を返しつつ左手でストレートパンチ。

後退したくてもカーミラは両腕を押さえられドレインされているのだ後退は不可能。

左手拳がカーミラの顔面に直撃する。

今度は骨が砕ける音が響き、カーミラの鼻がへし折れた。

 

「この!! お前が!!」

「!?」

 

がここに来てカーミラも心情的に尻に火でもついたのついたのか。

再度繰り出される、左ストレートを回避しヘッドバットである。

予想だにしない反撃にカーミラの額がエリザベートの顔面に直撃。

さらにこうも繋がっているのだからと吸血スキルで拷問は血税が如くに拮抗させる

 

「いつもいつも、そうやって振り向いてからじゃ遅いのよ!」

「なにを」

「何をじゃない!! いつもそうやって気づくのが遅いのよォ、そうやってもう遅いのに気づいて高みに至りましたなんてしたり顔してぇ!! ふざけるなぁ!!」

 

振りかぶられる二度目のカーミラの頭突きとエリザベートの左ストレートが繰り出されるのはほぼ同時。

裂ける額と指骨や甲の骨がへし折れる音。

 

「そんなに無様な未来を見て、今の私はアナタと違うって見下たいわけ? そんなに私という未来を切り離したいわけ」

「そうだったかもねぇ・・・拗らせて、怪盗やらなんやらやって、それでも答えが出せずに逃げ回ってるやつなんて私じゃないって言えたらどれほど楽か・・・」

 

散々無様を互いに重ねてきた。

事の本質を理解せず犯した過ちを犯して迷ってここに来ている。

 

「でもやっぱさ。よく見てみると私だって自己嫌悪なのよそれは!!」

 

そしてやっていることが自分自身だから余計に腹が立つ。

そこを受け入れて、改善に努めない限りは何処まで行っても堂々巡りだ。

だから受け入れようとエリザベートは決めたのだ。

彼等の様に進むために。

 

「出来るわけないでしょう?! 今更!!」

「やってみなきゃわかんないでしょう? もう互いに止めましょうよ・・・、こんなくだらないことで被害一杯出して。下手なことに目を背けて改善もせずに、今だけの都合のいい物を摂取したって不毛よ。その頭痛は一生抜けはしない」

「やれたら、とっくにやってるのよォ!! 今更膨れ上がった負債を背負えって?! 出来るわけがない、アンタも覚悟を決めた癖に、あのマンションで発狂したじゃない!! 知らないとは言わせないわよ!!」

 

主要時間軸で増幅されたと言え、オガワハイムで発狂状態だったことを指摘される。

確かにあの時はそうだった。

 

「そうね、あの時は見て見ぬふりしてたからね・・・でもね今度はそうならない」

 

故に今度同じうようなことがあるのなら乗り越えて見せる。戦って見せると。

エリザベートはカーミラを見抜き。

 

「アンタ・・・本当に・・・」

 

繋がりがあるからこそわかる。

噂結界の効力やら現在進行形で繋がっていることがだ。

尻に火が付いた影響故にカーミラはここに来て過去の己を直視出来た。

 

「だからアンタは私なの!! 我儘なお嬢様で気づいた後で取り返しのつかないことに発狂してる辺りが私よ。だから」

 

呆然とするカーミラにそう啖呵を切って。

 

「私の中に還れぇ!! このバカヤロォ!!」

 

動かぬ右手の代わりに全力のヘッドバットを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーミラが消えていく。まだ霊基は全壊してなかったし霊核も穿った覚えはないのだが。

サーヴァントが退場するように粒子状になって消える。

そして物理的に、支えとしていた。カーミラが消えた事でエリザベートはその場に倒れる

戦闘続行スキルで無茶できたのも此処までみたいであった

 

「ごめん、すぐ行くって言ったのに」

 

罪と罰を背負ってでも彼らのもとに行くと約束した。

すべて思い出していた。月の事も主要時間軸の事も。

だがそれは無理だ。脇腹を派手に抉られ風穴をあけられている状態なのだから。当たり前だ。

血と同時に魔力が流れ霊基が崩壊する。

 

「すぐに行けそうにないや」

 

それでもエリザベートは血反吐を吐きなが槍を両手で保持し杖代わりに歩く。

アマデウスもジークフリードも死んだ。

先の会戦で見知った顔や親しかった人も死んだ。

皆最善を尽くして死んでいった。だから・・・

 

「くそ・・・なんで・・・私は子豚や子犬やコーチの様に・・・」

 

最善を尽くしたいのに。

 

もう体は動かない。

 

「・・・ああこれが」

 

惨劇を演じた人生を送った少女は無意味に死ぬ。

何も成し遂げられず無様に、あの漆喰の部屋で死んだ時と同じように。

だが。

 

 

 

『だったら諦めるのはナンセンスでしょう?』

 

 

カツンと音がする、エリザベートが見上げれば幻影の様に揺蕩うカーミラがそこに居た。

 

「まだ出てくるのね・・・」

『アンタが諦める都度に私は出てくる。影ってそういう物でしょう?』

「じゃぁ。また戦う?」

『今のアンタ相手にしたって意味はないでしょ・・・今の本心は諦めたくないだもの、この先に行くと辛いわよ』

「・・・知ってる」

『何処まで知ってるんだか。影は躊躇しないわ。主要時間軸のオガワハイムが比じゃなくなるわよ。永劫苦しむ羽目になる』

「それも知ってるわよ!!」

 

一時の感情なんかでこんなことをするかと。エリザベートは息を荒く吐きつつ槍を構える。

 

「でも先に行ったわよね?! どんな恥を見せてもこれ以上の恥の上塗りは出来ないって。」

『なら私を背負え、エリザベート』

「背負えるなら背負ってやるわよ!」

『今度は言葉だけじゃないわ。私とあなたが統合されて本当の意味ですべての記憶と記録がフィートバックされる』

 

今の今まで互いから目を背けていた。

故にエリザベートとカーミラが分かたれて本当の意味での全盛期で呼び出されることはなかった。

エリザベートは無邪気な幼少期、カーミラは末期の姿だからだ。

罪と罰を起因とする目を背けたことが主な要因で一人は二人に分かたれて召喚される。

それでは真の全盛期ではない。だが今回は違う。

彼女は眼を背けないことを誓い受け入れた。

それ故にカーミラは霊核を抉られていないにもかかわらず消えたのはそういう事であり。

カーミラも受け入れることが出来たからである

無論、噂結界の効力もある。

二人の統合が始まっていた。

 

『主要時間軸の比じゃないわよ、私たちの抱える後悔は、二分していたから軽く済んでいるだけの話し。それでも背負えるのかしら?』

「背負って永劫を行く・・・とは言えないけどね」

『そこは断言しなさいよ、情けない』

「うっさいわねェ、永劫なんてそんな安っぽい概念なんてどこにもありゃしないのは確実だもの、だからそうは約束できない」

『そうね』

「けれど今は背負うし、背負いきれなくなったらいったん下ろして、その時はまた喧嘩よ。今度は誰にも迷惑かけないようにね・・・」

 

永劫背負っていくと言えばウソになる。

背負えなくなったら荷を下ろしてまた向き合おうと心の奥底から誓い。

そうなったら今度は誰にも迷惑かけないように喧嘩しようと決める。

永劫なんて概念はどこにもないのだからそこに嘘はない、きっと座に縛り付けられる限り終わりはないのだから。

 

「だから一緒に行きましょう? アンタもそうしたかったんでしょう? 彼等みたいに」

 

岸波白野 藤丸立香 周防達哉の様に・・・と

 

『そうね、そうよ・・・』

 

カーミラは微笑み消えていく。

 

『でも一応言っておくわ。影はずぅっと見ている何処までも、光がある限り、私と言う影は消せない』

「うん、だからさっきの言葉よ」

 

だからこそその時は喧嘩と言う奴である。

カーミラが微笑み消えていく、だが彼女と言う影は消えない、ただ中に還っただけなのだから。

そして四散していたカーミラの霊基がエリザベートの元に集まり出し融合を果たす。

エリザベートの脳裏によみがえる様に切り込むように刻み込む様に過去に犯した罪が克明に刻まれていく。

絶叫はない、ただただ粛々と受け止めて受け入れていく。

 

そして彼女自身の見た目も変貌していく。

本当の意味での全盛期、年齢にして19の頃にだ。

紅色の髪の毛に白いメッシュが入り。

背丈も10cm前後伸びる、

衣類も大きく変わり黒を基調とした落ち着いた軍服を模様したゴシックドレスに。

角は若干小さくなり、されど翼は大きく広がる、犬歯は吸血種の様により鋭くなり。

瞳の色は蒼色と金色の色が混濁した物となった。

エリザベート・バートリー、おおよ19の頃の全盛期の頃の姿にだ。

 

 

 

彼女は翼を伸ばす、約束を果たすために。戦っている彼らのもとに駆け付ける為に。そして彼らの様に生きるために。

 

 

 

翼をはためかせ夜のとばりの向こうを流星の矢の如く飛翔した。




という訳で、パーフェクトエリザベート、略してパフェエリちゃん爆誕回。


エリザベート・バートリー(オリジン)
筋力C 機敏A 耐久C
魔力B 幸運C 宝具B+

スキル
騎乗 D 貴族としてのたしなみ程度の物。
拷問技術 A
嗜虐のカリスマA
抗魔力 B 吸血鬼としての特性も得てしまったためランクダウン
戦闘続行 B
吸血 B 自分自身を受け入れたことによってランクアップ
無辜の怪物 A 自分自身を受け入れたことによって乗りこなしている


宝具
エリザベートとカーミラの使用できるものは使用可能と言った感じ。
さらにスピーカー内臓の拷問器具ビットなども完備


ニャル「自分を受けれ、罪と罰を背負う、結構! 結構!! という訳で全特異点出撃確定な!!」
エリザ「え?」
フィレ「私としても君の成長は嬉しい、もっと成長してほしいので切っ掛けは一杯あげるよ!!」
エリザ「え?」





エリザ「え?」
賢王「過労死は良いぞうぅ、小娘ェ・・・ふかいぞぉ!(エリザの右足を掴みながら)」
ノッブ「金の字の言う通りだぞぉ、いいぞぉ!!(エリザの左足を掴みながら)」
エリザ「ちょま・・・!?」
賢王&ノッブ「「お前も過労死枠になるんだよォ!!」」
エリザ「ウワァァアアアアアアアア!?!?」




悲報、第一特異点終了後、エリザベートはチェイテで領主やりつつ全特異点出勤確定。
これには賢王も同情目線(ただし人手が足りないのでこき使う事に躊躇は無し)











ニャルの謝罪会見

ニャル「ジルが狂ったのは私のせいだwww だが選んだのはジルなので私は悪くないからwwww謝らない(キリッ!!)」

ジル、バットもって殴りかからんばかりの勢い、フランス勢に羽交い絞めされ中

ニャル「あと、聖女モドキ、罰ゲーム確定な」
ジャンヌ「え?」
ニャル「フラグwwwへし折ったのwwwwお前自身だよwwwww自覚無しィ?(タンバリン鳴らしながら反復横跳びの貌芸しつつ) まぁ予習と駄目押しは第一特異点終了後だwwww」
ジャンヌ「―――――――え?」





次回、所長&マシュVSアタランテ及びマリーアントワネットVSヴラドでお送りします。
時系列が前後するのでご容赦ください


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二十四節 「行き止まりロンド」

躊躇ォ?それは選択肢のある奴の言葉だな。

石川雅之「もやしもん」一巻の予告カットより抜粋


人間では英雄には勝てない。

これは純粋にジャンルが違うという事であろうと解釈できる。

テクスチャ毎にほぼ肉体構造が違うのだからそういえなくもない。

だが近代において人間の生み出した兵器は英雄の技巧と火力を凌駕した。

例えばクーフーリンの槍の突きだって突撃銃やら狙撃銃を持ち出せばいい。

インド系英雄の奥義も弾道ミサイルで代用できる。

神秘が乗っていないから通用しないだけであって、それが無ければ金で代用できてしまうのが今日に至って英霊が生まれない原因でもあるのだ。

故にある程度の神秘を乗せられ且つ素養のある人間であれば英雄に勝つことも不可能ではない。

もっともそれは理論上の話しである。

まず大前提として極まった魔術師やら魔法使い、最上位のペルソナ使いであるということで論ずるに値しなくても。

今この場では十分に通用する方程式と言えよう。

 

「ちっ」

 

オルガマリーは舌打ちしつつコルトの弾倉を露出し薬莢を排出し、リローダーで弾を装填する。

ジャンヌ・オルタの通信阻害はコルトの転送式自動装填術式にも影響を及ぼしていた。

もしもを想定し服のポケットや身に着けたポジェットに鱈腹銃弾を詰め込んでおかなければ弾切れになってだろうし。

もしもを想定し装填訓練を受けておいてよかったとオルガマリーは思いつつ弾倉を元に戻す。

 

「さてどうしようかしら・・・」

「相手は空中ですからね」

 

ドーム状に作られたこの地下室は広大且つ天井も高い。

ジャンヌ・オルタの心像風景が色濃く出ているためであろう。

そこをアタランテは自由に飛び回っているのだからたまった物ではない。

 

「所長は先輩の様に高速で飛べるペルソナは無いんですか?」

「あれば一緒に空中でドッグファイトよ」

 

マシュが盾を構え炸裂する矢を防ぎつつオルガマリーに聞く。

だが手持ちにそのように空中における高速戦闘可なペルソナは習得して無いし作れない。

Lvが足りないとのことである。

Lvとは魂の強度であり容量だ。

アマラではLvを上げれば上げるほど強力な存在となる。上げ方は単純明快で相手を殺傷し魂のエネルギーをものにするという魂喰らいシステムだ。故に型月世界の魂喰らいのデメリットはなく。

ペルソナシステムを使えるようになったことで。アマラのそのシステムをオルガマリーは十全に搭載している物の。

まだまだLv不足と言わざるを得ない。

それだって、そのシステムに引っ張られる形で現代魔術師としては異様な実力ではあるし。

ペルソナを+すれば神代の魔術にも指を掛けられるだろう。

閑話休題。

兎にも角にも、達哉が使い手としておかしいのだ。

こればかりはオルガマリーが悪いわけではない。

 

「兎に角、隙を突いて、引き摺り下ろすわ」

「どうやってです?」

「ちょうどいい踏み台がそこらかしこにあるじゃない」

 

引きずりおろすと言っても飛べないのであれば話になるわけないのだが。

丁度良い踏み台がそこらかしこにあると、オルガマリーは指を差して言う。

幸いなことに周囲は暗いしオルガマリーは先ほどからマシュの後ろに隠れて銃弾を撃っているだけだ。

 

「という訳で、マシュ、援護して」

 

マシュにフラッシュグレネードとサイドアームである「S&W M500」を手渡す。

自動装填術式こそ掛けられていないが強力な術弾が込められている。

既に魔力もペルソナパワーも注入済みだ。

といってもペルソナ補正があっても強化を多重に掛けなければM500の反動はオルガマリーでも抑えきれずろくに扱えないため。緊急時の切り札であるものの。

デミサーヴァントのマシュであれば十分に扱えるだろうと判断してのことだ。

これを撃っている間はアタランテもマシュの後ろにオルガマリーは隠れていると思い込むだろう。

 

「所長は?」

「ちょっくら走ってくる」

 

そしてその隙を突く、強化魔術 質量操作魔術 ペルソナのブーストスキルがあれば十分に組み付くことが可能だ。

 

「合図は前と一緒、順番はフラグ、私、マシュ援護、でうまいこと引きずりおろせたら袋叩きよ。」

「了解しました」

 

ふぅと呼吸を落ち着けて、二人がフラグを投擲。

闇が数秒払われ。凄まじい音がホールを満たす。

マシュとオルガマリーは対策済みなので問題ないが。優れた五感を持つアタランテは溜まった物ではない。

まず閃光が眼孔を焼くが如き光に覆われ。聴覚が強力な音にかき回されたのだから当たり前の話であるが。

それでも飛行を維持できるのは流石はカリュドン随一の狩人と言ったところであろう。

もっともそのどさくさにまぎれでオルガマリーは、空中に滞空するアタランテの一番近くの柱に向かって走る。

それと同時に、マシュはM500を持って一応念のため魔力を注ぎ込みつつ。

右手で盾を保持しながら、左手でM500を発砲

 

「ッ」

 

もっともオルガマリーはそも先も述べる通り、扱い自体がやけくそ前提で使う物で。

使いこなせない悪あがき用の切り札だ。

もう悪あがきならと言うことで、ダヴィンチが改造しすぎたせいで初弾なら兎にも角にも。

次弾は反動でまともに狙いを付けられないレベルであり。

サーヴァント規格で筋力Cのマシュでも扱いずらい品物である。

現に一発撃っただけで手が反動でムラついた。

加えて銃器の扱いはマシュはレクチャされていない。

それこそ不自然な体制と腕運びで打つほかない分けで。もっとも牽制射になれば御の字とオルガマリーも割り切っているのでそこは問題ない話である。

と言っても、腕が跳ね上がるから秒間隔での射撃になる。

だがこれで、アタランテの目からオルガマリーを反らすことに成功した。

後は自分が耐えればいいだけであると盾の

 

 

「コウガザン!!」

 

大鎌を振りかぶったラプラスを出現させたオルガマリーが組み付かんとしていた。

振われる大鎌は頭を下げることで回避。同時に放たれた銃弾を弓を振るい弾く。

オルガマリーはラプラスを維持しつつ空中で前転、ワザと身一つくらい高度を下げる。

このままでは胴に組み付く前に弓を鈍器代わりに叩き落とされるのが目に見えていたからだ。

ラプラスに再度大鎌を振わせ鍔迫り合いに持ち込みつつ、自分自身はアタランテの足にしがみつく。

 

「ガァアアアアアアア!!」

 

理性が吹っ飛んでいるのか上げるのは雄たけびだ。

オルガマリーが組み付いたのは右足であるため。左足で蹴り落そうとするが。

ラプラスは未だそこに存在しているのだ。

足を振り上げた瞬間、再び大鎌が振るわれる。

咄嗟に弓を割り込ませて防ぐが。オルガマリーの狙いはアタランテの首ではなく、背中から生えている翼だったからだ。

鎌の形状上。柄を押さえても刃は届く位置にあった。

 

「Gi!?」

 

片羽根にラプラスの刃が食い込む、コウガザンは光属性だ。再生を許しはしない。

それによって翼の片方が機能停止し飛行能力が格段に堕ちる。

ラプラスをどうにかしようと力を籠めるアタランテ。だがオルガマリーはそれを逃がさず。

右手に握ったコルトの銃を向け引き金を引く。

反動を肘を曲げて逃がしつつ転々と狙いを替えて、左足内太腿、右脇腹、右翼の順番にだ。

術弾にも光属性はたっぷりと乗っている。叩き落すには十分だった。

結果、両者もつれ合う様に落下、オルガマリーは強化魔術を最大起動しながらコルトをホルスターへと戻しつつアタランテの身体を両手を使って這い上がりつつ。

ラプラスも使って抑え込みにかかる。

オルガマリーのLv帯ではアタランテの拳一撃で死亡確定だからだ。

だから完全に堕ちきるまでは組み付いて抑え込まなければならない。

ものの数秒も立たず地面へと迫りくる中で。

 

―死ぬ、死ぬ、しぬぅ!?―と心の中で叫びつつアタランテを抑え込む。

 

達哉とは違うのだ。アタランテクラスのパンチに耐えられる訳がない。

攻撃されたらそれこそ致命傷である。

だから必死に押さえつける。

その間にも床との彼我の距離は縮まっていく。

マシュは落下ポイントへと向かって全力疾走だ。落着と同時にフォローを入れるべくである。

M500を使ってオルガマリーを援護するべきなのではと思う方もいるであろうが。

マシュ自身、銃の腕は牽制射位しかできない腕前なのだ。空中でもみくちゃになっているアタランテとオルガマリーに向かって撃てばフレンドリーファイアの可能が高くできるはずもないし。

第一にM500は弾切れだ。

急造品であるため予備弾薬はオルガマリーも持っていないのである。

 

ラプラスと己が力を持ってアタランテを拘束しつつ猶も落下。

床まで1mを切った刹那に。

オルガマリーはアタランテから両手を離すと同時に両足に力を込めてアタランテを踏み台に跳躍。

床の衝突から逃げつつアタランテを床にたたきつけた。

そのまま、空中で一回転しつつ地面に着地しようとする物の。

 

「ウルガァ!」

「五雨斬り!!」

 

アタランテが即座に復帰、弓に矢を番って速射。

放たれる矢をラプラスの五雨斬りで迎撃する。

仕留めきれないと判断するアタランテは次弾装填するものの。

 

「ヤァ!!」

 

盾を保持する場所を切り替えながら盾に肩を当てて盾によるマシュの靠撃を乗せたシールドバッシュだ。

疾走からの震脚によって速度と荷重がたっぷり乗っている一撃が炸裂する。

これにはさすがのアタランテも吹っ飛ばされる。

普通のサーヴァントならこの段階で意識が飛びつつ致命傷だが。

ジャンヌ・オルタの憎悪で意識が焼き切れて吹っ飛んでいるのだ。加えて再生能力も健在。

痛みも感じぬのだから即座に戦闘復帰してくるのは眼に見えている。

柱に衝突したアタランテへとマシュは全力疾走。

オルガマリーはペルソナをゲンブに切り替え、マハブフを放ちつつ、コルトの弾倉を露出、排莢からのリローダーを使っての再装填を完了し銃口をアタランテへと向ける。

普通なら誤射を嫌うところだが。ペルソナパワー全開にして、先の会戦の乱闘とは違うので落ち着いて狙えるためマシュは気にしなかったし。

オルガマリーも誤射をするつもりはなかった。無論自信の方はないのだが、今はそういう事よりも自分がやらねばという恐怖に押されて行動を履行している。

まだまだな危険を伴う連携であるがこれが現状で出来る精いっぱいなので。できぬよりはマシと言う物だろう。

 

「クグッ・・・」

 

対するアタランテの対応は弓をぶん投げた。

 

「へ?」

 

これにはマシュも呆然としつつ盾で受け止めて弾く、真上にかちあげられるアタランテの弓。

そして。

 

「早ッ!?」

「シャァァァアアアアアアア!!」

 

マシュの前にテレポートするが如くアタランテが現れる。

彼女的には走っただけだが、カリュドンの狩人の健脚はワープと見違えんばかりに凄まじい健脚であるし。

ジャンヌ・オルタからのブーストを受けているのだ。この位は当たり前の事でもある。

アタランテは盾の縁を掴みどかす様に腕を振るう。

無論筋力の差でこうなればマシュに抵抗の余地はない。

下手に盾を保持し、体勢を崩して押し倒された方が対抗手段的に問題が起きる故だ。

故にマシュは一度盾を手放し。

八極拳の構えを取ろうとして。

 

あの時、先の会戦で組伏せたジャンヌ・オルタを殴った時を思い出す。

 

感情の赴くままに殴りつけ、相手の肉を割き骨を叩き砕いた感触。

同時に自分の内臓が破裂した時の感覚。

自分が何をしようとしているのかを理解する。

 

自分は拳でまた人を撲殺しようとしているのだと気づいて。

 

「シャァ!」

「マシュ!?」

 

押し倒される。

取られるマウントポジションと同時に、殴るではなく、落ちてきた弓を再キャッチし矢を番える。

密着状態なのだ外すことはない。

マシュは死を感じて短く意識を吐き。

 

「トート!! マグナス!!」

 

オルガマリー、もう幾度目かの渾身のインターセプトである。

コルトの銃弾がアタランテに直撃。

姿勢を崩したところで、トートによるマグナスを直撃させようとするものの。

 

「ルゥアガッ!!」

 

矢先をマグナスに向けて射出し相殺。

挙句の果てに貫通しつつ飛翔、最も弾道がそれたということもあってオルガマリーの頬を掠めて一筋血を流させる。

もう少しズレて居たらオルガマリーの顔面に風穴があいていただろう。

それを見て今度はマシュの脳裏に黒い何かが沸く。

それは恐怖ではなく激情でもあるが今の彼女にはよくわからない物でもある。

その感情の赴くままにレッグシース―からナイフを抜き放ち。

アタランテの衣類を掴んで手繰り寄せ、ナイフを胸部に差し込む。

アタランテ、絶叫。

祝福儀礼の乗ったそれは十分にダメージになる物だからだ。

だが、霊核を完全崩壊させるには至らない。

アタランテが鋭い爪を生やした手を走らせるが。寸前の所でマシュが腕を押さえて防御。

ならばとばかりにアタランテは弓をそのまま振り上げ、弓の末弭をマシュの顔面に振り下ろす。

マシュはナイフを引き抜き、その振り下ろされたを末弭を反らす。

ズレて床に振り下ろされた弓の末弭は、ものの見事に床にぶっささった。

その刹那、アタランテの頭部や肩、腕に銃弾が着弾し。

 

「マシュから、離れろぉ!」

 

射撃地点に振り向いたアタランテの顔面にオルガマリーの飛び膝蹴りが突き刺さる、

オルガマリーはさらに空中で身を翻し、回転、全力を乗せたローリングソバットで靴裏をアタランテの顔面に叩き込み、弾き飛ばす。

ペルソナによる強化スキルと魔術の強化に質量操作で威力マシマシの物だ。

中世期クラスのサーヴァントであれば、直撃させさせれば首をへし折って座に返す威力を持っている。

だがしかし、アタランテはカリュドンの狩人である。

幾ら理性がねじ切れているとはいえ身に沁みついた反射行動で吹き飛ばされこそすれど威力は軽減され。

精々、鼻がへし折れた程度だ。

 

「マシュ、大丈夫!?」

「はい、なんとか・・・」

 

マシュを気遣いつつオルガマリーが彼女を立たせる。

マシュはオルガマリーに手を貸してもらいながら、盾を手にして立ち上がるが。

その体は震えていた。

だが敵はまってくれるはずもない。

アタランテは空中で縦軸に反転、床に爪を突き立て減速する。

次が来るかと二人は身構えた時だった。

地下空間が揺らぐ。石柱が倒れ床や壁に天井と亀裂が入る。

 

「ちょ、なにが・・・」

 

オルガマリーの驚愕を他所にアタランテが宝具を展開。

床も壁も天井も先ほどどれほど暴れようが壊れる気配がなかったというのに。超質量の具現によって崩壊を開始している。

施設にはジャンヌ・オルタの心像風景が侵食していることで強度が上がっている。

つまり何かがジャンヌ・オルタに何かがあったわけと言う結論が出せられるが。

超質量を身に纏ったアタランテの重量に、もう一階下のある通常の石畳の床が耐えられるはずもなく。

 

「所長!!」

 

床がド派手に陥没し滑落するのは当然と言えるものだった。

壁際の階段に退避しようとする物の。当然の如く間に合う訳もなく。

オルガマリーが退避と叫ぶと同時にマシュがデミサーヴァントしての健脚を生かし、オルガマリーを抱え込むと同時に。

瓦礫と一緒にオルガマリーとマシュ、そしてアタランテは下へと瓦礫と一緒に落下していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリー・アントワネットとヴラドの交戦はマリー・アントワネットが不利だった。

先の会戦での誇りだとかそういった類のものが取り払われ。完全に冷酷な頃に逆行していているヴラドの技の冴えは先の比ではない。

躊躇なく何が何でも殺すことに特化しており隙がより無くなっている。

しかも先の会戦での手札開示が痛い方向に運んでいた。

悉く、マリー・アントワネットの手札は封殺されている。

と言うより宝具展開の時間なんぞ与えられなかった。

 

「ジュノン・マハコウガダイン」

「またそれか」

 

突き出される杭を薙ぎ払いつつ、レイピアで突き出される槍を捌くきながら宝具展開の機会を伺う。

馬さえ呼び出せれば、先の会戦の様に持っていける。そうなれば長期戦は覚悟しなければいけない物の。

前提の土台を引っ繰り返せるからだ。

手数の不利を火力で補えるという事である。

無論、向こうもそんなことは承知済みであるがゆえに連撃を繰り出し、機会を与えないようにする。

第一、ヴラドの攻撃は掠めただけで試合終了な初見殺しも良い所だ。

偏に押し込まれていないのはジュノンのテトラカーンと闇耐性があるからである。

これにより直撃でも貰わねば杭を生やされることはない物の。

その直撃を凌ぐのに多大なリソースを払わされているのが現状であった。

要するに、大札を切りたいが、相手の札に封殺され出せないのが現状と言える。

 

「テトラカーン!」

「もうそれの仕様は見切った」

 

テトラカーンによる全方位バリアを展開。

だがテトラカーンの仕様を見切ったヴラド三世は展開する杭の順番を決めて射出する。

針の様に小さいソレ(無論当たったらただじゃ済まん)を射出し。

テトラカーンを反応させて消失、次に砲弾と同等サイズはあろうかと言う杭の射出と現出だ。

マリー・アントワネットは舌打ちしつつそれでも距離を詰める。

離れればそれこそ物量の差で押し切られるのは眼に見えているのだ。

もう何度同じことを繰り返しただろうか・・・

マリー・アントワネットは損耗しつつあった。

如何に精神エネルギーを使うからといって、ペルソナは無限には使用できない。

出来るのは頭のネジが吹っ飛んだ筋金入りの馬鹿か自分自身をも擦り切れさせる狂気持ちのキグルイだけなのだから。

生前ならば豊富なペルソナで強引に場を開ける事もできただろうが。

故に駄目だなこれ、という言葉が、マリー・アントワネットの脳裏に浮かんだ。

どうあがいても手札も火力も足りない。

目の前の二人のサーヴァントは一人一人が嘗てマリー・アントワネットとアマデウスにサリエリの三人がかりで討伐した悪魔神父を凌駕している。

いくらサーヴァントとしての宝具やら身体補正があってもトドカナイ。

彼女の第六感は生前の捕縛時くらいに詰んでいると言って悔いる

 

「くっうっ」

 

それでも歯を杭張り、槍と杭を捌いていた時だ。

空間の何かが変わった。

そこにあった物が抜けていくような感覚と、それに比例して起きる振動。

そしてヴラドは呆然と上を見る。

 

「ジャンヌ?」

 

信じられないようなものを眼にしたかのように呆然と呟きながら。

そこにある種の悪寒がマリー・アントワネットの背筋を走るが、ヴラドとは別種の悪寒でもあった。

勘がささやく時間が無いと。

故にこの好機を逃さずマリー・アントワネットは歯を食いしばりながら渾身の一撃を繰り出さんとして。

場に轟音が鳴り響き天井が抜けた。

それで我に返ったヴラドは自身の心臓部を貫かんとしているマリー・アントワネットの刃の切っ先に気付きそれを払いのけて。

互いに後退する。

なんせ上から瓦礫が落下してきているのだから当たり前な事で。

ついでに言えばオルガマリーはマシュに抱えられながら半泣きで悲鳴を上げ。

マシュはオルガマリーと大盾を抱え込みつつも、魔力を現状回せるだけ回転させて落下する瓦礫を足場して飛びつつ降りてくる。

もっとも魔猪化しているアタランテはそんな華麗なことを出来るわけもなく。

そのままビターンと言う形で落下し、床を陥没させながら落着している。

 

「マリーさんご無事で?」

「ええ無事よ、なんとかね・・・、オルガちゃんは・・・」

「だ、大丈夫ブブブ・・・」

「大丈夫じゃなさそうね」

 

マシュの全力機動に振り回されたのとこれまでの白兵戦で吐きそうになっていった。

もっとも交戦に備えて吐く様なものは食べていないので、出るとすれば胃液くらいだろうが。

それでも二人が合流し数では上回れると、マリー・アントワネットは喜ばなかった。

むしろ二人が合流したのはより拙いとマリー・アントワネットは感じていた。

正直なところヴラド三世相手でさえ手に余るというのに、アタランテまで合流されれば、宝具半壊状態のマリー・アントワネットでは手に余る。

さらにアタランテは宝具を展開済みであり質を考慮すれば数の差なんぞチリ紙にも等しい物でしかない。

この場にクーフーリンか達哉という大物狩りを得意とする二人のうちどちらかが居れば話は違う。

が二人ともこの場にはいないのは見ての通りである。

つまり人数こそ増えたが詰められる手札を持つ人材がいない。

ヴラドを詰めるには、理不尽と形容する初見殺しの札。

アタランテを屠る大火力も無い。

つまり、言っては悪いがお荷物が増えた上に、敵を引きつれて来てしまったという感じである。

マリー・アントワネットの心境は塹壕にこもって必死になって応戦したら、戦車が来た兵士の心境だ。

彼女の戦闘理論でももう勝ち目がないことは分かる。

故に、斬りたくない手札を切ることにした。

生前は出来なかったし。サーヴァントといしての在り様を利用した裏技である。

これさえ使えれば、ヴラドとアタランテを葬ることは十分に可能どころかお釣りがくるレベルだ。

もっともそれは裏技に等しい。

加えて、ここまで交流した二人の心に傷を刻み込むのを強制する手段でもある。

本音を言えば切りたくはない、サーヴァントになっても死にたくないと思うのは当然の事なのだから。

だからこそ、亡霊であっても過去にしがみ付いてしまう。間違ってしまうのだ。

されど、マリー・アントワネットはそう自覚したうえで煮えたぎった鉛を飲み干しような感情の感覚を押し殺しながら飲み干す。

本当に現状、それしか手が無いのだ。

 

 

「マシュちゃん、オルガマリーちゃん、先に行きなさい」

「え?ですが・・・」

「嫌な予感がするのよ、本当にさっきから嫌な予感が止まらないの、だから達哉君たちの方に行きなさい」

 

 

マリー・アントワネットは自分より前に出ようとするマシュをレイピアで遮って止めつつ、先に行けと伝える。

無論嫌な予感も本心で言う、本当に生前の時と同じ感覚なのだ。

ここで二人が居たところで勝ち目はないから先に行かせて自分は遅滞戦闘という合理的判断と。

尚且つ嫌な予感がするというのも本当なので、此処は先に二人を行かせるべきだと判断する

 

マシュは先の会戦のジャンヌの様に鳩が豆鉄砲で撃たれたかの如き表情をするが。

この場で冷静に戦力の差を理解できるオルガマリーはマシュの肩を掴み、猶も食い下がろうとするマシュを止める。

無論マリー・アントワネットがしようとしていることを間接的に理解した上である。

何故理解できたのかと言えば簡単で。

オルガマリーはマリー・アントワネットの瞳の在り様に覚えがあった。

なんせ身近な連中、つまり保安部がそうだった。

自らの死者の群れと評し、只最善を尽くして意味のある死が欲しいと渇望する連中と同類の目だっだからだ。

本質的には違うけれど類似はしている。

最善を尽くすために死を選ぶ人の眼だった。

 

「マシュ、行くわよ」

「ですが! マリーさんを一人で置いてなんて「もう勝てないのよ!!」ッ」

 

マシュの左手を掴み踵を返しつつ言うオルガマリーにマシュは駄々を捏ねる様に進言するが。

オルガマリーはそれを真っ向から切って捨てる。

もう勝てないと。理由は先ほども述べた通り、純粋な実力不足が原因である。

二人増えたところでアタランテとヴラドには逆立ちしたって勝てないのだと。

 

「だから、マリーさんを放っておくのですか!? 見捨てて逃げるのが最善手なんですか!?」

「ええ、そうよ」

 

マシュの言葉にオルガマリーは言葉を紡ごうとして、それを制したのは当のマリー・アントワネット本人だった。

 

「マリーさん?」

「マシュやオルガちゃんは生きてるもの、生きているってことは一度きりなのよ、失えば次はない、私は死者で死んでも次はあるかも知れないもの、だからこういったことは任せて、そしてまた会えるわ。きっと」

 

マシュやオルガマリーは今を生きている、無論それは一度きりの物。

失ったものは戻ってこないのだ。

だから死んでもサーヴァントとして呼び出される可能性のある自分が決死の遅延戦闘を行うのは自分の役目であると諭す。

マシュの視線がオルガマリーとマリー・アントワネットの間を行き来する。

どう選んでいいか分からない。

脳裏によぎるのは冬木での達哉の記憶映像。

彼等の幸福を祈り忘れろという舞耶。

極限状況下に置かれて盛大にミスをした達哉。

 

今まさにマシュは選択を迫られている。

 

どうしようもない現実を突きつけられている。

 

オルガマリーは既に選んでいる。

無論、最善手だからと言って開き直りなんてしていない、悲しくて悔しくて力のない自分自身が憎くて仕方がない。

だが時間が無い。

言いようの知れぬ不安がよぎるのだ。

何かを天秤に駆けて選ぶほかない。

 

「わ、私は・・・・」

 

ギリリと心が締め付けられる。

何かを手放す行為は激痛が走る物だ。他者には石ころ当然の価値であっても。

自分にとっては宝石レベルで大事な物だからだ。

残るか、見捨てるか選ばなければならない。

マシュは特にマリー・アントワネットとカルデアの中では親しい仲である。

酷だが選ばなければならない。

 

そしてそうこうするうちに、アタランテがその巨体を揺らし、ヴラドが槍を構えながら杭の出現させ迫ってくる。

 

だがマリー・アントワネットはそうやすやすと突撃されてたまるかと。

広大な地下空間に愛すべき輝きは永遠に、百合の王冠に栄光あれまで展開して。

自分事、ヴラドとアタランテを封じ込めつつ。二人を結界外に弾き飛ばす

 

「マリーさん!?」

「行きなさい!! やるべきことがあるでしょう!!」

 

まだ煮え切らないマシュに対し駄々を捏ねる子供を叱る様に激を飛ばし。

オルガマリーはマシュの手を強引の引いて壁沿いの階段へとかけていく

 

「今の貴様が私たちに勝てるとでも?」

「勝てるだなんて思っていないわ。ムッシュ」

 

突撃してくるアタランテと殺到する杭を城壁を再配置展開しながらそういう。

戦力差的に時間稼ぎは無謀極まる物となっている。

だからこそ。マリー・アントワネットは勝利だとか生存だとか投げ捨てていた。

 

「でも退場の時間よ。ムッシュ」

 

心残りはある、結局ゴタゴタでカップ麺は食べる気もしなかったので手つかずのままだったし、マシュと買い物ももっとしたかった。

オルガマリーに料理だって教えてもらいたかったし。達哉には気が廻らなかったからもっとかまってあげたかった。

そして今を生きる若者たちの歩む道をもうちょっとだけ楽にしてあげたかったと。

自らの霊基、霊核、宝具、ペルソナを―――――――

 

 

 

 

 

 

 

壊れた幻想に仕立て上げた。

 

 

 

 

 

 

パキリと彼女の皮膚にひびが入る、ガラスの宮殿が振動し崩れていく、ペルソナも硝子の馬も光を鈍く発している。

正気ではできない、真っ当ではできないはずだとヴラドは眼を剥いた。

宝具どころか自分自身の霊基にペルソナまで使った自爆である。

いかな、ヴラドとアタランテとはいえ耐えることは不可能だ。

それを抜きにしても気が狂っているという選択肢には他ならない。

故にヴラドには彼女の行動が理解できなかった。

 

「なぜそこまで出来る!! この人理に意味はない」

「それはあなたの主観でしょう、生きる意味だとか存在する意味だとか当人たちの問題で、自分でつかむ物よ」

 

生に意味など存在しないのだ。

それは逆に言えば自分自身で決めなければならない自由と言う奴である。

今生きる人々がそれらをぶつけ合って生きるのは仕方ないことではあるが。

裏技染みた幻想にしがみ付き利用して墓穴から出張って根本的に否定するのは筋違いだ。

あくまで出来るのは間違っていると、根本的に否定せず諭して先人としてより良い道を示すことだけである。

 

「だから、もう舞台上からすでに退場した亡霊の私たちが出来るのは、あの子たちに少しでも良い道を行ってほしいと手を貸すことだけ」

 

故に、彼女は自分の存在を投げ出してでも、オルガマリー達を送り出すことを選択したのだ。

子供のために命を投げ出す大人の選択を誰が責められようか?

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

「マリー・アントワネットォォオオオオオオ!!」

 

アタランテの絶叫。ヴラドの驚愕を置き去りしながら。

マリーアントワネットは躊躇なく己が安全ピンを引き抜いて

 

「アマデウス、少し遅れたけれど今行くわ―――――――」

 

今はもういない親友へと言葉を告げ。

もっとまともな結末へと導けぬ自分を許してくれと懺悔しながら。

 

 

 

 

 

百合が散った。

 

 

 

 

 

 

 

大爆発である、床をぶち抜いてさらに広大となった地下空間を光が満たし。

マシュの慟哭に満ちた絶叫と。

竦む彼女の腕を掴み、無理やり引っ張りつつ視線を光の中心部から切りつつ、上を目指して駆け上がった。

胸に沈殿する黒い気持ちをにじませながら。

何もかもが崩壊して瓦礫に山へと埋まっていく。

 

 

 




前のあとがき通り、時系列が前後しております、ご容赦ください。
言っておきますが邪ンヌはまだ死んでませんのであしからず。

そしてトラウマが抜けるわけないんですよねぇ。
邪ンヌはマシュのトラウマになってます。
明確に自分の手を血で濡らして殺そうとして殺されかけた相手ですからね。
同時に恐怖と相反する殺意を邪ンヌはマシュに植え付けて行きました。


そしてマリーアントワネット自爆。
ヴラドとアタランテを巻き込み滅殺完了。
ヴラド三世&宝具展開アタランテとかいくら所長とマシュが居るからと言っても。
普通に交戦したら負けるからね、自爆で相手を葬って所長たちを先に行かせるのは正解です。
ビーム持ちかたっちゃんか兄貴居れば自爆無しでも倒せたんですが。
この二人は今魔王と交戦中ですからマジでどうしようもないというね。
と言うか今のカルデアマジでビーム持ち急募中。



さて次回は少し時間を巻き戻して、兄貴&マルタ&タラスクVSフロストカイザーとたっちゃんVSベリアル&その取り巻きでお送りします。

やっと第一特異点終わりが見えて来たぞォ。
実際10話程度で終わらせるつもりが、二倍近くなってるもん、ほんと無計画に邪ンヌの掘り下げし過ぎたと反省してます。





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二十五節 「魔王の顎 人々の剣」

統幕幕僚長。現在の自衛隊の兵力で、あの怪獣に勝てるのかね?

必ず倒せる筈です!

「ゴジラ」1984年版より抜粋


ゴウと炎が駆け抜ける

ベリアルは愕然とした。

一体多数と言う絶対勝利の方程式が成り立つ状況である。

無論、達哉が絶死の地に放り込まれたの側なのだが。

彼は自重という名の鎖を把持していた。

理由としては三つほどで、単純に時間が足りない、フレンドリィファイアを気にしなくともいい。相手は一回殺せば死ぬと判断しての事である。

故に鎧袖一触とばかりに悪魔の軍勢を薙ぎ払い。

時止めという理不尽を持ってベリアルの命を刈り取ってしまった。

本来ならば通常の英霊でさえ出力差でどうにかするしかない分子結合解除の権能も。

時止めの前には無力だった。

攻撃展開すれば確実に回避され。防御展開しようとすればその前に潰しに掛れればどうしようもないという物であろう。

まさしく、明星の力の一部に匹敵する理不尽と言うほかない。

さらにノヴァサイザーの応用によって瞬時に接近してきた悪魔、数体を切り捨てて見せた。

無論、これは味方が居ないという事でスキルの範囲指定を自重していないというのがある。

達哉は向こう側に帰ってからずっと一人で戦い続けていたのだ。

彼の本領は下手をすれば味方が居ない方が本領を発揮できる戦い方の方が得意になってしまっていった。

無論、本人も自覚しているので矯正のために積極的に戦闘訓練などには特異点突入前に行っていたが矯正しきれていなかった。

故にそれが良い方向に今回は働いたわけだ。

鎧袖一触と言う形でだ。

ベリアルは嘗ての主やら神殺しの一つ段階の下という実力に舌を巻く。

そして影に蝶、明星に超人が目を付けるはずだと同時に納得もする。

 

つまり”いつも”の事がこの世界で行われようとしていると悟るわけだ。

 

まぁそれは置いておいてとベリアルは悪魔たちをバッタバッタとなぎ倒す達哉に視線を戻す。

達哉はフレームがとびとびの様に動いていた。

そこから推測できるのは達哉が時を止めているという事である。

なんせ上司も時間系スキルを使用可能なのだから見破れるということだ。

 

「――――――――――」

 

達哉の視線はどこまでも鋭く冷たい。

ペルソナをアポロにシフトし、ナイフを投擲させる。

ゴッドハンドを乗せてだ。

 

「腐落しろ」

 

ベリアルは己の権能スキルを発動する。

ベリアルが身に纏った炎は投擲されたナイフを瞬時に分解した。

砂すら残さぬ徹底ぷりである。

 

(耐性関係なく、あの焔に触れるのは無しだな、なら・・・)

 

近接戦闘は無理だと当然達哉は判断。

物理攻撃をすれば即座に分解されることを察してのことだ。

下手に接近戦なんて挑めば、精神エネルギーのペルソナは大丈夫でも、達哉が持たない。

物質系スキルはあの焔の前には無意味で必然的にエネルギー系のスキルに限定される。

普通ならこれで手段が一本化され達哉は単調な攻めにしか回れないが・・・

背後から襲い掛かってくる悪魔を振り向きざまに切り捨て。さらにその背後を取ろうとする悪魔をヤマトタケルで薙ぎ払いながら。

ペルソナチェンジ、アポロとメタトロンを交互に入れ替えつつ牽制射をベリアルに打ち込む。

扇状に展開したマハラギダインを腕で粉砕。おそらく炎無効。

一方のメタトロンで展開したマハコウガダインは槍を振って叩き落している。

光は耐性無しと判断しつつ、達哉は距離を置く。

悪魔たちが殺到するがヤマトタケルによって鎧袖一触。

抜けたとしても達哉自身が振るう剣の前にバッサリと切り捨てられる。

無論、この量を相手取って無傷ではない、達哉も全身傷だらけだ。かすり傷だけと言うだけでも十分豪傑の範疇ではある。

ベリアルはこれ以上の物量投入は意味が無いと判断。

 

「開け、最下層、飲み込め。虚ろなる怠惰の炎よ」

 

よって炸裂させるは無価値の炎の最大出力系、虚ろなる怠惰の炎だ。

それは津波の如くうねり炸裂する。

全方位、逃げ場などないと言わんばかりだ。

配下の悪魔たちを砂に分解しながら達哉へと押し寄せてくる。

だが達哉は先ほど無価値の炎の使用を見ているため、ペルソナをサタンへと切り替える。

 

「光子砲!!」

 

呼び出された裁きの魔王が口を開き、最大出力での光子砲を発射する。

無論、収束発射なのだが、大樹の幹くらいの太さがあり、炸裂する光は虚ろなる怠惰の炎に大穴を穿つ。

達哉は足に力を込めて疾駆、その穴に躊躇なく飛び込み突破。

そのままベリアルへと、リスキーすぎる接近戦を挑まんと突撃する。

ベリアルも迎え撃たんと徹底抗戦の構えだ。無価値の炎と合わせて純粋な近接戦闘では理不尽ともいえるべき性能なのだから。

自分の土俵に来てくれるなら、迎え撃つのが道理である故だ。

もっとも真っ向から打ち合う愚を達哉は犯さない。

二度目の光子砲を射出。

無論、ベリアルは回避を選ぶ。さすがに光子砲の威力では消し飛ぶのはベリアルである。

続けて、達哉はアポロへとペルソナをシフトする。

 

「マハラギダイン!!」

 

須藤に放ったのと同等出力の四倍出力マハラギダイン、若干収束気味に発射。

ベリアルは炸裂する炎線を見て、問題ないと判断。

自分自身のLvと耐性で十分に無効化できると判断し回避せず、接近することを選びマハラギダインに突っ込む。

まさしく魔王ならではの選択。

マハラギダインで鎧の様に無価値の炎が埃を散らす様に剥がされるが。

 

―問題あるまい、周防達哉は数m先・・・、近接戦闘の間合いには遠い―

 

だがベリアルはノヴァサイザーの事を図り間違えていた。

先ほどから、達哉はコンマ以下の時間停止しか使っていないからである。

さらにそこに悪魔としての奢りだ。如何に某明星染みた力と言えど。

停止しかできないし、良くても4秒か5秒程度だと思い込んでいたのである。

良くも悪くも達哉を人間としてしか見ていなかった。

彼を勇士とは聞いていたが、どこぞの修羅やら神殺し悪魔召喚師やら悪魔狩人Lvではないだろうと。

現にその通りなのだが、そこらへんの基準が極端だった。

つまり1か10で判断してしまった事が致命傷となる。

普通の人間が1 どこぞの規格外品共を10とするなら達哉は6くらいまで来ている十分な怪物である。

一年、孤独に過ごし悪魔を殺し続けてきたことは伊達ではない。

無論、そんなバックストーリは知っているとはいえども。実際見てきたわけではないので余計に読み違える要因となっていった。

精々ニ三秒が限度と思い込んでいたのである。

これは達哉の思考誘導的処置もあった。わざとコンマ以下で停止しベリアルに力の差を見誤らせたのだ。

 

そして・・・世界が反転する。

 

時が止まるレベルでの超加速。

 

達哉以外に入ってくることのできぬプライベートタイム。

 

「ノヴァサイザー、悪いが8秒だけは俺だけの時間だ」

 

ノヴァサイザー最大出力時間停止8秒。

この間合いならばスキルを使わずとも、ベリアルの首を刀で切り飛ばしても十分にお釣りがくるというものだ。

そして今のベリアルはアポロのマハラギダインで無価値の炎が吹っ飛ばされており身に纏っていない。

距離的に大丈夫だろうとベリアルは判断していたが。それは二秒三秒だったらの話しで。

8秒止められるので十分間合いの範疇である。

刀の刀身は多少がたついているが、宗矩の矯正を受けたお陰で鋭さは増しているのだ。

故に、達哉は全力疾走で間合いを詰め、横一文字に刀を振り抜かせる。

 

「そして時は動き出す」

 

達哉がそう宣言すると同時に世界に色が戻ると同時に、ベリアルの首が宙を舞った。

 

「―――――――まさかこれ程とは」

 

ボトリと地面に首が落下してもベリアルは生首状態で多少は生きている。

無論絶命するまで数十秒と言ったところだろう。

停止時間を彼我の距離から導き出しベリアルは絶句していた。

ちなみにベリアルの胴の方は既にマグネタイトに分解され達哉の経験値に成っている。

 

「お前も十分理不尽だ」

 

通常のペルソナ使いでは詰みかねない理不尽持ちが何を言うかと達哉は言いながら刀を構えて生首に刀身を一直線に振り下ろす。

どこぞの鬼退治の様に生首だけで抵抗されても御免被るからだ。

きっちり止めをして仕留めて置くことは当然ともいえる。

 

「ふぅ・・・」

 

溜息一つ付きながらもチャクラドロップを口に放り込み多少の精神回復。

チャクラポッドは先の会戦で在庫なしだ。

多少の回復だがないよりはましと思いつつ次の手番を考える。

第一に全員トラップに嵌ってバラバラにされたのだ。

マシュとオルガマリーとマリー・アントワネットはセットだから大丈夫だと判断。

クーフーリン組は言うまでもなく大丈夫であろう。ケルトの大英雄であれば十分にフロストカイザーを詰め切れると信じているしそこは疑っていない。

宗矩たちもその実力はきっちりと身に染みているし、基本悪魔はこっちに慢心してるのがデフォなので。技量的に十分詰め切れるとは思っている。

 

「ジャンヌと合流するか・・・」

 

とすると、最後の光景、あからさまにジャンヌだけが孤立させられていた。

ジャンヌ・オルタの仕込みかニャルラトホテプの仕込みか、ベリアルの後ろにいるであろうナニカの仕込みかは無論達哉が知るわけもない。

戦力的観点から言ってジャンヌが一番まずい状況であることに変わりはないのだ。

ジャンヌ・オルタと相対するにせよ。悪魔の軍勢と相対するにせよ、攻め手が足りず突破力に欠けている。

マシュと同じく誰かと組むことでジャンヌは真価を発揮できるタイプだからである。

迷っている時間はない。

嫌な予感がするという根拠のない勘がささやき右手のニャルラトホテプに刻まれた刻印がうずく。

 

―刻は繰り返される―

 

ケラケラと何かがそう嗤っているような気がしてならない。

戦闘の時は特にそうだ。

だから此処にとどまるのも一つの手だろう。

通信の回復を待って。或いはダヴィンチたちがジャミングを退けて通信してくるのを待つのも手であるが。

余りにもそれは都合のいい妄想と言う物でしかない。

ゴドーを待ちながら、永遠と語り部がゴドーがどんな人物なのか語り散らす様に待っていってはチャンスは来ない。

下手に待っていればゴドーは来ないというオチよろしく、状況を悪化させるだけだ。

ジャンヌは城内に居るだろう。ジャンヌ・オルタの居所はあたりを付けているため、彼女はしらみつぶしに動くはずだと推理し。

ならば、自分が罠に嵌った地点から近場のアテを目指して動けば何れは追いつけるはずだと。

そのさなかに悪魔と遭遇したのなら先ほどのベリアルと同じように切り捨てて行けばいいし。

ジャンヌ・オルタと遭遇したら逃げの一手を打ちつつ、音で知らせればいいと判断する。

故に達哉は玉座の間に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボクは体が弱かった。

フロスト族の中でも弱いと言われ続けてきた。

だから強くなるために外に出た。

 

それで出会ったんだ。彼女と

 

無双、最強、絶対。

 

格上相手に彼女は怯まなかった。両手に握る剣を二本持って。

ボクより弱い人間とかいう種族のくせに、ボクより強い相手を蹂躙していた。

だからこそ魅入ってしまった。弱き人間が圧倒的強者を蹂躙する強さに。

そんな彼女に目を付けて、なんとか仲魔にしてもらって

そしてボクは彼女と旅をした。

その果てに。

 

「ひーほー」

 

呼吸が途切れる、視界が明滅する、ボクは何をやっているのだろうと思う。

ボクはジャンヌを庇って致命傷を負ったんだ

 

「ジャック!!」

 

ボクに致命傷を負わせた悪魔をジャンヌは即座に切り殺して僕の所に駆け寄ってくる

彼女が泣いている。でも流せる涙が無いのか両目からは血涙だ。

表情も嘆いているのか怒っているのか分からない混沌の様相。

 

「ひーほー、ひーほー、ジャ・・・ヌ・・・・大丈夫?」

 

ボクはジャンヌを見つつそういった。

自分の事しか気にしてなかったあの頃の自分から随分変わったなぁとボクは苦笑しながら。

 

「なんで庇った!! 一番強いフロストになるんでしょう! だったら私なんか見捨てて「みすてられないよ・・・」

「―――――――」

「だってジャンヌは」

 

確かに、強くなるためには生き残らなければならない。

だったら見捨てるのが正解だったのだろう。

もっとも今のボクからすればそれはハズレの選択肢だ。

旅をする中でボクは楽しかった。彼女やボクより後で仲魔になった連中とどんちゃん騒ぎしたり。

地図を眺めて皆でどこに行こうかと頭を悩ませたり、行く先々で起きたトラブルに悪態を吐きながら必死に奔走したり。

時には怒りに身をませてカチコミからの爆破オチで互いになんでこんなことになるのかと肩を落したり。

だからジャンヌはボクの事をどう思っているのか知らないけれど、ボクは――――――

 

 

「ぼくのしんゆうだもん」

 

 

その言葉を耳にした彼女は絶叫した。

涙はもう枯れ果て血が流れる。

彼女は怒り続ける嘆き続ける、血を流し肉を削ぎ骨を削りながら。

彼女が一番見たくない光景なのだろう。彼女は失いたくないから努力するのだと言っていった。

だとすれば失われつつあるボクの存在に絶叫するのなら彼女はボクの事を友人と思っていた分けで。

それが嬉しくあると同時に申し訳ない気持ちになるし、この先一緒に行けないことにボク自身怒りを覚える。

もっと力があればと思う。

視界が暗転していき、もう彼女の声も聞こえず表情も見えない。

 

 

 

ぼくは・・・・・

 

 

 

 

彼女の、ジャンヌの・・・・

 

 

 

『見事だ』

 

 

 

 

『正直君には期待していなかった。だがよくぞ練り上げた。故に君次第だが、力を与えよう』

―ちから?―

『ああ、そうだとも、だが君は死にかけで、魂も崩壊寸前だ。そんなきみに力を与えれば、君が君でなくなってしまう可能性は実に高い、だから君自身が選びたまえよ』

 

明星の星が告げる。

ボクに力を与えてやると。

僕は、ボクは、ぼくは―――――――――

 

 

 

―力が欲しい―

 

 

そう言ってボクは星に手を伸ばし意識が完全に堕ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Siyxaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

魔王が狂気に染まった雄たけびを上げる、敵味方無し、フレドリィファイアなんぞ誰が気にするかと言わんばかりだ。

クーフーリンはこれ以上ないくらいに苦戦していた。

 

「ちっ」

 

全力で振り抜く魔槍の一手が飛来する氷塊を粉砕する

だが彼がするのは舌打ちだ。

相手は氷を支配し、間接的にこの場を槍衾として変貌させている。

水分と言う物が在る限り、この氷塊の怪物「フロストカイザー」からは逃げられない。

そしてその再生能力も驚異的だ。

なんせ水分さえあれば即座に固形化し、欠損した肉体を複製し埋めて再起動してくるのだからシャレになっていない。

彼の者を倒すなら、システム的にアンチを張るか大火力でフロストカイザーの領域ごと消し飛ばすほかない。

クーフーリンの槍ではそれこそ力不足であると言わざるを得ない。

いいや誤解無きように言うとクーフーリンが劣っているのではなく。

単純に相性の差で不利に追い込まれているのだ。

これがガウェインあたりであれば熱量で何とかできるだろうが。

クーフーリンの槍は単純破壊能力や再生阻害能力に優れているとはいえ。

威力は先も言った要因で意味がなく。

再生阻害もフロストカイザーの備える耐性と、通ったと仮定しても臓器をそこらへんの空気中の水分から代替して付け替えられるのだから意味がない。

 

「グリードさえもっと可愛げがあったっていうのになぁ」

 

神獣グリード

師からのまた聞きになるが。

それを参考しても。

ケルトにおける海魔の首魁でさえ、目の前の魔王には及ばない。

相性差もあろうが。相手は絶対零度の吹雪を発し続け。凍てついたものを自由自在にそうして見せているのだ。

フロストカイザーが凍結した場所は彼の支配下に置かれている。

まさしく360°全方位、彼の射程圏内かつ顎の中と言っても過言ではない。

これが魔王だ。これが向こう側におけるデフォルトである。

本霊となればもっと理不尽をなす。

 

故に――――――

 

 

「舐めるなよ、雪達磨」

 

 

クーフーリンは奮い立ち覚醒する。

彼もまた理不尽の一角を成す、ケルト神話最高戦力の一角であり最先方だ。

彼も彼でうっぷんが溜まっていた。

本来なら達哉もマシュもオルガマリーも戦う事自体が似合っていない。

そんな普通の若人他たちに戦いを強要している時点で十分無様なのに。

この一端すら抑え切れないのは無様極まる物だろうとクーフーリンは怒りサーヴァント規格の限界を超えていく。

 

「ルーン、全呪起動、絶望に挑むのは貴様と知れ」

 

革鎧の裏に事前に刻み込んでいたルーンを全部起動。

波濤の魔物の鎧に劣るこそすれど、サーヴァントとしては過剰なレベルでの強化が躊躇なく履行される。

限界にまで膨張する筋肉。

霊基を巡回する血が汗孔から蒸発を開始。

涙腺からもそれは同様で、蒸発する血涙が炎のように揺らめく様は壮絶の一言。

此処まで純粋に出来るのは何とか今居る分だけは十全に魔力供給できるようにしたカルデア一同の動力の賜物である。

普通の聖杯戦争なら、マスターが一瞬にして木乃伊だ。

いま、クーフーリンのステータスはヘラクレス(狂戦士)と同等レベルまで引きあがっているのだからあたりまえではある

 

だがキツいのはマルタである。

確かに武闘派であるが。魔王クラスの悪魔となると神話やらイエスやらブッタやら十二使徒クラスが必要となる。

タラスクはフロストカイザーに揚力で互角ではある物の。

凍結の権能を持つフロストカイザーでは分が悪い。

現に火を吐くが彼の凍結能力の方が強いのだ。

 

「大冷界」

 

そして氷属性最強のスキルが起動する。

それは収縮発射、ではなく津波の様に起動する。

凍結する大地が、降り注氷塊が、天地逆転したかのように、二人を包むように起動する。

並大抵の英霊であれば詰みだ、絶対殴殺の鉄の淑女、取り込まれれば氷塊の魔王のみが無事で済むという地獄。

 

「愛を知らぬ悲しき竜よ」

 

それに対抗するは嫉妬の竜の子と聖女。

もうここまでくれば自重も糞も無い。

アイコンタクトでクーフーリンとマルタの視線が交差。

クーフーリンはかまわないと伝え。マルタは了承しタラスクの全能力を解放する。

タラスクの四肢と口から炸裂する獄炎が氷獄を溶かし攻撃を凌ぐ。

 

「狂乱の剛爪!!」

 

しかし権能だけではない、フロストカイザーはその剛腕を振いタラスクに襲い掛かる。

 

『ギッガァ?! このォ!!』

「グォ!?」

「タラスク!?」

 

タラスクの甲羅が深く爪で抉られ砕かれた甲羅の一部が弾け飛ぶ。

これにはタラスクを知るマルタは驚愕である。

血は薄いとはいえリヴァイアサンの子孫だ。

現代で倒すなら航空機の高性能ミサイルが必要となるのに、フロストカイザーは腕をふるっただけでその堅牢な甲羅を一部とは言ええぐり取って見せたのだから驚愕する者である。

一方のタラスクは痛みに喘ぎつつ突撃。

狂っているフロストカイザーは避けることをせず真正面から食らってしまう。

が体に罅を入れても即座に空気中の水分を吸収し修繕。

同時に、接触しているタラスクの水分でさえ氷結を始める

 

「タラスク、退避しなぁ!」

 

強化した全力のクーフーリンの蹴りがフロストカイザーの頭部に炸裂。

フロストカイザーはよろけながら、タタラを踏みつつタラスクを手放す。

両腕から炎を噴射しつつ、フロストカイザーを焙るついでにジェット噴射でタラスクが後退する。

 

「こんだけやって・・・無傷とか・・・笑うしかないわね」

 

マルタは顔を引きつらせつつ笑うほかなかった。

クーフーリンの槍やら蹴り、タラスクの突撃に獄炎を浴びようが。

 

「Ssyaaaaaaaaaaaaaa・・・・」

 

魔王フロストカイザー、健在である、獄炎に現在進行形で炙られながら冷気を噴射し強引に鎮火。

加えて全身罅だらけになりながらも

 

「コンセントレイトォ」

 

フロストカイザーが呟いた言葉にクーフーリンもマルタもタラスクも青ざめた。

コンセレイト、使用魔法スキルに注ぎ込まれた精神エネルギーをブーストするスキルである。

所謂、溜めに近いスキルであるため、高速戦闘が主眼のペルソナ使い及びサーヴァント戦では使用難度は高いが。

使えれば巨大な一撃を生み出すことが可能だ。

そしてフロストカイザーの口に光が灯る

 

「退避ぃ!!」

 

こればかりは堪った物ではないとクーフーリンが叫び。

各自回避行動。

 

「コキュートス!!」

 

そして吐き出される極寒の閃光は、達哉の最大出力のスキル出力を凌駕し。

さらには、祭神の影やらバルムンクが可愛く見えるほどの閃光だった。

炸裂する青が射線上の建物やら街をうろつく屍兵やらを一瞬にして凍結させつつ、一瞬で粉砕しダイアモンドダストへと変換しながらオルレアンを横断し突き破っても止まらず。

地平線上の向こうで大爆発を起こす。

 

「ええい、向こう側の悪魔ってこれがデフォなの!?」

『姐さん、次どうします!? アイツ次に移っちゃってますよ!?』

 

まさしく魔王であろう、今のが直撃していれば、射線上の物体と同じく芯まで凍結され、ダイアモンドダストに変換されていたこと請負だ。

しかも大英雄であっても即死圏内の冷気砲は連射も可能なのか。

次弾装填とばかりに今度はコンセントレイト抜きながらも、コキュートスがフロストカイザーの口内に装填される。

だがクーフーリンは臆さない。

ルーンは稼働中、体も心も十全だ。

 

「次弾は撃たせねぇ!!」

「ギガァ!?」

 

高速移動を繰り返し、フロストカイザーの顎下を垂直に蹴り上げる。

普段槍を蹴り投擲する全力の力と各種ルーンが乗った強化されたケリが炸裂。

顎が粉砕されながらフロストカイザーは真上へと頭部を跳ね上げてしまい、そのままコキュートスが放たれ上空へと放たれた。

直撃した雲は一瞬にして凍結、雹へと変換され、降り注いでくる。

そしてそのまま、クーフーリンは両腕を振い、真名解放はしなかったがゲイボルグを投擲するかのように全身に力を込めて反転。

棒高跳びの様に地面に槍をぶっさす勢いでフロストカイザーの胴へと突き刺す。

単純な威力で言えば、達哉のヤマトタケルの金剛発破を上回る威力重視の一撃だ。

さしものフロストカイザーも胴体をすり鉢状に穿たれながら、仰向けに倒れつつ後方へと吹っ飛ばされる。

氷土が割れ、降り積もった雪が舞った。

 

「チィ」

 

クーフーリン舌打ち、右手が強化込みでの想定外の筋力を発揮したがゆえにピクピクと痙攣し引き攣れと筋肉痛を起こしている。

まぁ抉り穿つ鏖殺の槍を使ったときよか遥かにましであるが。

戦闘に多少の支障が出るだろう。

 

「クーフーリン、こっちに来なさい、回復するわ」

「わりぃけど、仕留めきれた自身がねぇ。こっちに来て治療してくれ」

 

クーフーリンは雪が粉塵として舞う先をにらみつけてながらそういう。

今戦闘態勢を解いて回復なんてすれば致命的な隙だからだ。

 

『今ので仕留めきれてないんスか?』

 

クーフーリンのいいようにタラスクも絶句。

タラスクであれば先の一撃で十分あの世行けるくらいの一撃だ。

 

「そう言った感触がねぇのよ・・・、影の国でもあそこまでの魔物は―――――」

 

と言いかけて雪の粉塵が真っ二つに割れて、フロストカイザーが再度姿を現す。

 

「うそでしょ・・・」

 

さしもの女傑のマルタでも顔面を引きつらせた。

胴には擂鉢状に大穴が空き、そこから全身に罅が入っており、フロストカイザーの霊基が崩壊し漏れ出す魔力が湯気の様に揺蕩っている。

加えて、下あごは完全粉砕、頭部も罅だらけで同じような状態だ。

もはや死体も良い所なのだが、生きて戦意を轟かせている。

無論、クーフーリンも殺す気でぶちかましたのに生きているのだから顔を渋面にするのもうなずけるだろう。

だが問題はそこではない、周囲の冷気をフロストカイザーは吸収し水分を氷結させ肉体を再構成していく。

先の会戦のジャンヌ・オルタほどではないにしろ、かなり早く体を再構築していく。

そして場が振動する、異変が起きていた。今までビクともしていなかった建造物が見る見るうちに崩れていく。

何かあったのかと思いつつ、突っ込むかとクーフーリンが意を決し、させぬとばかりにフロストカイザーは大冷界を発動。

全方位から氷の杭が竜のアギトの如く襲い掛かってくる故に、クーフーリンは後退を選択。

マルタも無論同じで、タラスクの下へと堪った物ではないと逃げ込む。

一方のタラスクは四肢から炎を上げて全力で大冷界を迎え撃つ。

そうしている間にもフロストカイザーは肉体を十全に修復し終えてコキュートスを口内にともしていた。

拙いとクーフーリンは思い、行動に写ろうとする、外ではまだ大冷界が起動し、外に出ればどうなるか分かった物ではないが。

釘付けにされている上にコキュートスを撃たれれば避けることができない。

そこは多少の無茶をしてでもと意志を固め。止めるマルタを振り解き出ようとしたとき。

 

「Ga!?」

 

フロストカイザーに何かがぶち当たると同時に爆発。

後に続いて、同じようにアイアンメイデンが飛翔しフロストカイザーに着弾すると同時に爆発する。

たまらずフロストカイザーがタタラを踏む、もっともそれでも表面に罅を入れる程度でしかなかったが。

 

「壊れた幻想まで使ったんだけど・・・ダメージそれだけって噓でしょ?」

 

その様そうに愕然としているのは、翼で滞空する美女だった。

 

『「「だれ?」」』

 

急な援軍と見おぼえない存在に、二人と一匹は思わずそんな間抜けな声を上げてしまった。

 

「誰って、エリザベートよ!!」

「いや、俺の知ってる嬢ちゃんはそんなスタイルよかねぇし、服装違うじゃねぇか」

「幼いころのスタイルはそうだから、言い返せない!? でも私がエリザベートよ!! ちょっと色々あって。カーミラと霊基統合したからこんな姿になっただけよ!!」

 

エリザベートの姿を知っているゆえに二人と一匹は誰となったわけで。

もっともカーミラと霊基が融合し本当の意味での全盛期の姿になったという摩訶不思議現象が起きるなんて思っているわけでも無いから当たり前に疑問に思うわけだが。

声がエリザベートなので二人と一匹は納得した。

 

「それより遅れてごめんなさい」

「謝んなくていいよ、で? 嬢ちゃんはカーミラと霊基統合したってことは決着ついたと思っていいのか?」

「ええ、それでいいわ」

「・・・ところでエリザベート」

「なに? マルタ?」

「さっきから宝具を連射して壊れた幻想やっているけれど・・・大丈夫なの?」

 

先ほどからミサイルの如く炸裂するアイアンメイデンを見つつマルタが言う。

確かにランクは低いが、立派な宝具だからだ。

普通、壊れた幻想は一回きりの切り札染みたものである。

群体染みた宝具なら複数回使えど残弾が減るし宝具事態の性能を下げることにもつながる。

故にこのまま連射していて大丈夫なのかと聞いたのだ。

 

「大丈夫よ。魔力が続く限りいくらでも作れるし」

 

エリザベートがそういう、いわばアイアンメイデンは某弓兵の投影の如く大量生産が可能と言う事だった。

無論生成するにはそれなりの魔力も必要だから某弓兵の如く盛大に使い潰せないのが通常である。

悪魔でカルデアの支援があるから出来る手段であった。

 

「ところでどうするのよ・・・。如何に低ランクでも傷つけるのでいっぱいいっぱいなんだけど」

「そりゃ、相手はクーフーリンとタラスクでようやく損壊するくらい頑丈な相手よ、加えて空気中の水分を使って体を再構築できるみたい。」

「なに・・・その理不尽」

 

マルタの解説に唖然となるエリザベート。

タラスクとクーフーリンの一撃でキズらしい傷を与えられるというのに再構築能力まで持ち合わせているという。

こうなると、大火力で物言わせず消し飛ばす。

全体攻撃を与え続け相手に再構築の隙を与えないようにして殺しきるという、どんな手段でも使えと言う事しかない。

達哉が居ればペルソナの火力でそう言ったことはできるが今この場にはいないので。

出来る筈もと想いながらエリザベートは案を思いつく。

 

「全体攻撃を絶やさずやるなら、私が出来るわ」

「・・・マジか?」

「アンタたちも巻き添えだけだど」

「駄目じゃない」

「死にはしないわ、一応、やり様ってのがあるのよ、最も死ぬレベルで五月蠅い音に鼓膜を揺さぶられるけど」

「「あっ」」

 

その良いようで二人は察する。

それと同時にエリザベートのすることが分かった。

もう後がない、クーフーリンは決断しその手段を決行することにした。

 

「じゃぁ行くわよ!!」

 

まずエリザベートは生産限界までアイアンメイデンを製造、フロストカイザーに殺到させる。

小賢しいとばかりにフロストカイザーが四肢を振い、ブフダインで薙ぎ払うが、四肢が接触するたびに壊れた幻想が起動し機雷となる。

そうやってフロストカイザーの気を反らしつつ、フロストカイザーの空中周辺に特注のアイアンメイデンを十機配置。

 

「スゥ―――――――」

 

エリザベートが息を吸うと同時に。空中のアイアンメイデンのハッチが開く。

そこにはスピーカーが内臓されていた。無論繋がっているのはエリザベートの槍に内蔵されているマイクである。

 

 

破城魔嬢(ハウリングエルジェーベト)!!」

 

 

殺意を乗せての全力歌唱である。

都合十方向からの指向性を伴った物理圧壊を伴う全力歌唱をフロストカイザーは浴びせかけられたわけだ。

振動を伴うそれは全身を揺さぶられ、フロストカイザーの全身が氷からシャーベットへと変換されていく。

 

「ギィガァァアァァァァアアアアアア!?」

 

フロストカイザーは堪った物ではないと、冷気を生み出し再構築を開始。

だが駄目押しとばかりに、タラスクがファイアブレスを放つ。

それでも再構築の方が上なのか、まだフロストカイザーは生きていた。

この場からの離脱を選び脚を動かすが大量に押し寄せてくるアイアンメイデンと、それで作り上げられた拷問巨人がフロストカイザーを押しとどめる。

これでフロストカイザーの動きは止まったし再構築に集中している。

幾ら再構築中と言えども再構築能力とエリザベートとタラスクの攻撃が拮抗状態だ。

あと一押しで滅ぼせると踏んだ。クーフーリンとマルタも動き出す。

 

「クーフーリン、今よ!!」

 

マルタは必至に祈りを込めてクーフーリンの肉体を治癒する。

何故ならクーフーリンの身体全体が限界を超えた駆動を起こしている。

マルタの祈りが無ければクーフーリンは退場しているだろう。最もマルタも必死になって祈って治癒しているためそういう風にはならない。

つまり彼の持ちえる最大威力の投擲宝具が発動するということだ。

 

「応さぁ!! 抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)ゥ!!」

 

炸裂する紅槍は弾道ミサイルの如く飛翔。

フロストカイザーはよけようとするがアイアンメイデンたちが絡みつき回避を刺せない。

 

「―――――ジャンヌ」

 

全身が揺さぶられ崩壊する激痛、自分は滅びるという感覚の刹那。

その間だけフロストカイザーは自分自身が何だったのか思い出しながら、ゲイボルグが着弾。

全身の結合は弱まっており、クーフーリン渾身の一撃に耐えられる訳もなく。

溶けかけの雪を散らす様に爆発四散し、氷の魔王は完全に滅び去った。

 

 

 




閣下「強化しすぎたか・・・・」
ニャル「おまうぇwwwwうぇwwwうぇwwww」


ノヴァサイザー理不尽案件
ベリアルも上級分霊とはいえ某シルヴァリオの殺人鬼張りに理不尽な固有スキル持ちのにほぼ瞬殺。
時止め系スキルはこれだから扱いが難しい。
本来ならこうなるんですよねぇ。
邪ンヌが有利取れているのも、そも再生能力が理不尽すぎる事やらVR時代の経験があるからで。
大概あの相手なら、ノヴァサイザーからの首狩りで試合終了とかいうクソゲー始まります。
サイズ的に振りをとってもペルソナ火力でごり押しまで取ってくるたっちゃんまじ理不尽。
メガテン主人公とかモヒカンサマナーは前転やらあの手この手で回避して来る模様。
もっともこれから先の特異点ではボスクラスはあの手この手で無効にしてきますが。

まぁ後々ですけど、所長もマシュも理不尽になっていきますけどね(敵はもっと理不尽で殴り掛かってくるが)


そしてフロストカイザー堕ちる
如何に哀しみ背負っていても、やってることがやっている事なんで。
でも兄貴とマルタネキにエリザが終わらせたお陰である意味救われた。



エリザの新宝具
破城魔嬢 ハウリングエルジェーベト
スピーカーを内蔵したアイアンメイデンファンネルから彼女の歌を聞かせるという物。
もっとも本作ではガチで殺意を乗せた音痴マシマシな超振動を引き起こす歌を炸裂させるという凶悪な代物である。
アイアンメイデンも魔力が続く限り生産可能なため、時間を掛ければ戦場上空をアイアンメイデンで覆い、全方位から歌を利かせることも可能。
多分学士殿は死ぬ。



次回、邪ンヌVSジャンヌでお送りします。
果たしてジャンヌはVRで成長しまくった(VR時代よりは現在弱体化中)邪ンヌに勝てるのか、ご期待ください!(鮪並感)


あと第一特異点はあらゆる特異点の予習も兼ねているので惨劇になります。
つまりラストは悲惨ですので、切るなら今だぞ(第二特異点が第一より簡単とは言っていない)!!

忠告しましたからね!!

それでは皆様また次回。


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二十六節 「こうして本物と贋作はオメラスの牢の前で殺し合う」

ご自分の剣をどうぞ―――神の御前で、黒白をつけましょう。

ディビット・ウェーバー著「航宙軍提督ハリントン」より抜粋。


伸ばした手は届くことはなかった。

伸ばして掴めば相手の手には熱はなく力尽きていた。

だからせめて一人で背負って事態さえ収束できればとも考えて孤独に歩んで。なお失っていく。

如何に無頼を気取ろうとも他者とかかわりを持てばそれが鎖となって引っ張ってしまう故。

だから言葉で諭し、時には拳を振い、そして剣を向けて彼らを遠ざけても、運命は彼等を逃がすことはせず。

結局失う羽目になって。ジャンヌ・オルタは此処にいる。

 

「ふぅ」

 

ロンギヌスを地面に突き立て、そこを起点にテクスチャを徐々に捕食しリソース化しているのだ。

ゆっくり自分に馴染ませるように。先のような一気食いをして吐き出すような無様はもうしないとしてだ。

そして俯かせた顔を上げて玉座の間の入り口を見る。

ぎぃいと音を軋ませて入ってくるのは白い自分と同位の存在。

 

「まったく、相変わらずお気楽ねアナタ」

 

ジャンヌ・オルタは自分のオリジナルを見て嘲笑うことはしなかった。

寧ろあきれ果てたというべきか。

分かっていてやっているならまだわかる。

分かっていないからあきれ果てるまでの事だ。

 

「なにがですか?」

「実力差があるっていうのに突撃してきたことよ」

「そんなの百も承知の上です」

 

勝てる手段があるから突撃してきたのだとジャンヌはジャンヌ・オルタに言い返す。

最もジャンヌ・オルタからすればそうではなかった。

どこかで見た光景に類似し結末も大体予想できた。

ここで彼女は選択肢を間違えた。

責任を果たすという名目で単独でジャンヌ・オルタと対峙するという選択肢が間違っている。

広域通信ジャミングがあるとはいえ、探すことだってできたはずだ。

 

「それに聞きたいことがあります。アナタは、一体何がしたいのです」

「それ、今更聞く?」

「はい。行動が良くわからない」

 

世界を殲滅するためにリソースを得るという行為は分からなくもない。

だがしかし、多次元的宇宙のこの世界の一角を削ぎ落したことで満足するのかと言う疑問が、ジャンヌの脳裏に残っていたから。

ジャンヌ・オルタが嫌うのは人間のその性であろ。

世界の在り方故に、その程度で済ますのかと言う疑問があったからだ。

 

 

「言ったでしょう。全て殺す皆殺しにする。その為の踏み台。人間の魂や草木の情報体、テクスチャと言う概念、そして人理光帯、全てが強力なリソースな訳、一部の無駄ににもできないし、手の届く場所にあるなら利用しない手は無いでしょう?」

「・・・まさか」

「そのまさかよ。間違ったパズルはリセットすればいい、ならこのエネルギー総量を持って私が究極の汚濁となり、最初の一に干渉して人類が発生しなかったという結果を適応する。つまり、全ての特異点のエネルギーリソースを回収し、剪定前に回収したリソースで根源に干渉、並行世界も含めて人類が発生しなかったという事象で塗り替えるのが目的よ」

 

文字通りの皆殺しである、自分も含めて。

そしてやっていることは人理焼却犯より苛烈だ。ジャンヌ・オルタは根源へと干渉し、この世界、並行世界を跨ぎつつ無かった事にするという鏖を敢行しようとしているのである。

だが、そうでもしなければ。大いなる意志。明星。聖四文字。阿頼耶識の黒白の観測からは逃げられないし。

アマラの干渉を跳ね除けるにはそれしかないのだ。

 

「それぐらいやらないと。また連中は這い寄って来る。大いなる意志の打倒と言う大義名分を振りかざしてね」

 

人間の認識とあらゆる感情を媒介に顕現する影や蝶、そしてアマラの高位次元に存在する情報生命体たる”悪魔”の干渉を跳ね除けるにはそうするほかないのだ。

もしくは人類すべてが高位の次元にいたれればいいかもしれないが。

そうなるまでにどれほどの血と涙が流れるというのか。

少なくとも現在地点に至る人類の全ての血液では足りないくらいの量となるだろう。

だったらそうするのが道理だと。

 

「・・・正気なんですか、そんなことやって許されると「正気よ」」

 

ジャンヌの言葉にジャンヌ・オルタはまたテンプレート的な返し文句だとため息を吐きつつ言葉を返す。

 

「元から許されるだとか思ってやってるわけじゃないのよ。そんなもの巌窟王あたりにでもやらせておけばいい。そういえば風の十二方位のオメラスを去る人々って知ってる?」

「?」

「・・・現世に出たら勉強する事ね。だから私相手にもきれいごといってやり返される」

 

風の十二方位。

ジャンヌ・オルタが七姉妹高校での図書館で初めて手に取って読んだ本だ。

あの幻想の中でこれを手にとって気まぐれに読んでいたのは今でも覚えている。

 

「いま思えばこれが出発点だったのかもね」

 

オメラスを歩み去る人々。

ユートピア物の極地であろう。

功利主義を語るのであればこの書物は外せない一つだ。

あの時は何気なしに読んでいたが。

今は違う、これが今の自分の出発点だった。

オメラスの幼子は牢に閉じ込められ多数の幸福のために閉じ込められ続ける。

そうやって哀れなものを作り上げて人々は幸福を享受する。

無論、事実を知った人々の中には幼子を助けようとする人もいるが。

閉じ込められ続けて白痴に成り果てた幼子をどうやって普通の人間に戻せばいいか分からず絶望し。

そうなった人々は都を去るというのが大まかな流れである。

ジャンヌ・オルタも試された。

即ち英雄という犠牲をもって存続される世界を見て。

己が幸せを享受するのかそれとも去るのか・・・

 

 

「話は単純よ、オメラスと言う都市は絶対的な幸福が約束されている、けれどね、その幸福は一人の不幸で成り立っている。幸福を維持し、視認できる情報として。たった一人の幼子を閉じ込めておくのよ、なにもない地下牢に。そして幼子に与えられるのは最低限の食事だけ、牢屋には光もなければ着替えなんかもないし便器もない場所にね。そんな幼子を見て自分たちはなんて幸福なんだろうと思い込むことで幸福は維持され。そしてある人々は都市を去るのよ」

「それがなんだというのです、助けてあげればいいだけではないですか、その幼子を」

「ククク・・・あのさぁ自分が何言ってるか分かってるの? アンタ、殺したわよねぇ」

「え?」

「ジャック・ザ・リッパーっていう幼子を殺したわよね? 閉じ込められ続けた幼子が普通だとなんで思う訳? 閉じ込められて精神がぶっ壊れて周りの事も正しく認識できなくなった幼子もアレと一緒。救うこと自体がどうすればいいか分からない類の子なのよ」

「!?」

「助ける、救う、言葉にすれば簡単よねぇ、でもどれだけ助けられたのよ、アンタの私と一緒の血染めの両手で」

 

クツクツとジャンヌ・オルタは嗤いながらも怒り狂い、旗槍の石突を鳴らしながら立ち上がる。

 

「この世界も一緒、出来るやつに擦り付けて感謝もせず地下牢に閉じ込める、。あるいは自国の平和を他者の国での代理戦争で意図的な不幸を生み出し幸福を自国に供給し続ける大国。そんなオメラス的功利主義の上で世界は成り立っている」

 

その上で世界を肯定できるのか?

懸命に最善手を尽くせるのか?

それが彼らの問いだ。

ジャンヌ・オルタは許せなかった。

 

「そんな幼子を見てどう助けて良い変わらず、そしてそんなもので維持されている都市と幸福に恐怖した人々は都市を去る。私は歩み去る人々にはならない」

 

救えぬ、だが死と言う救済を与えることはできる。死と言う断罪を執り行うことは出来る。

だから殺すことにしたに過ぎない。

 

「全て殺す、死体で丘を作り。流血で川を作って。その果ての殺戮の丘に一人立つ。」

「・・・」

「分からないでしょうね。アンタには・・・」

 

故に彼女は獣に在ず。

個人に期待こそすれど。人類に期待なんぞ欠片も無い。

特定の誰かには期待するが。有象無象に期待なんぞしていない。

全体に対する無形の物に彼女は愛を抱かない。

人類愛は持ち合わせていないのだ。

 

「・・・いえ分かった気がします」

「へぇ・・・」

「私は都合の良い私に縋りつき過ぎていた。影が出てくるのも道理でしょう。だから抜身の私として告げます。私は歩み去る人にはならない。救います、全霊をかけて。達哉さんとカルデアとジークくんを。」

「できるわけないわ」

「いいえやり遂げます。幼子には救済を。民衆には教えを。それが私の誓いだ。」

 

助けるのだと宣戦するジャンヌに対して。ジャンヌ・オルタは一瞬呆けて・・・

 

嗤った。

 

可笑しくて可笑しくて仕方がの無いといった様子で。

 

ジャンヌの宣言の本質を知るがゆえに可笑しくてたまらない。

第一に、都合のいいものを与えられ、都合よく切り捨てた側のジャンヌが何を言っているのか。

背負う背負う言って、失った事に気付いて血涙一つ流したことも無い女が何を気取っているのかと。

背負う事の辛さを知らない癖に、そうやって英雄を気取っている姿が滑稽で仕方がなかった。

故にイラつく、ご都合主義を成し遂げるためにいばらの道をどれだけ這いずった痛みさえ知らない癖に、自分がどれほど背負い、失って、それでも背負いたかったのに取り上げられて、擦り切れて来たかを知らない癖になに英雄を気取るのだと。

誰も救えたことが無い癖にと。

 

だから一通り嗤った後の、ジャンヌ・オルタの表情は憤怒だった。

血がにじむほどにロンギヌスとロングソードを握りしめる。

そして叫び疾駆した。

 

 

 

「そうやって知ったかぶってんじゃないわよ!! オリジナルゥ!!」

「悲観に暮れて自分の過去を押し付けるんじゃありませんよ!! 贋作!!」

 

 

交差する旗槍と旗槍が火花を上げる。

ジャンヌは衝撃に呻いた。

達哉ですらノヴァサイザーで一呼吸置かねば耐えられないほどである。

この馬鹿力には宗矩も真正面からの打ち合いを放棄すると言えるレベルなのだ。

加えて出力低下によって思考が冷静さを取り戻し、技量が戻ってきている。

達哉と交戦した時より淀みなく武を振ってくるのだからシャレになっていない。

ジャンヌがしのげるのは啓示スキルとサーヴァントとしての補正値+噂による出力補正があるからでしかない。

通常仕様のジャンヌであれば一合で詰みである。

 

「往生しなさいよぉ!!」

 

ジャンヌ・オルタの猛攻は止まらない。

先も言ったっとり真っ当に打ち合うには地力が足りなさすぎる。

元よりジャンヌはまともに戦う気などさらさらなかった。

此処に来るまでに嫌というほどわかっている。

 

なれば後はソレを悟られないようにするべきである。

 

勝てないとわかっているが全力で抵抗する。リスクを承知のうえで宝具クラスの魔力放射をさせないために張り付いていく

勝利に突き進むように見せかけて勝利を投げ捨てていた。

だが。

 

「シィ!!」

「ッ!?」

 

こうも連撃に晒されては逆襲劇も糞もあった物ではない。

特に旗槍の一撃の重さは剣の比ではなかった。

故に、わざと隙を晒しながら啓示スキルを最大限に展開。

十数手の選択肢をそれで読み切る。なお完全には対応が出来ない。

一手ごとに手が蒸れる。お得意の足癖の悪さもジャンヌ・オルタの前では悪手でしかない。

ひっしに攻撃を捌き、待っていた攻撃がついに翻る。

それはジャンヌが間合いを開けた刹那の追撃であった。

一直線に伸びるロンギヌスの槍、バックステップでの短い跳躍時間という回避できぬ間を精密に狙った一撃は回避できない。

ふつうなら。読み切っているなら話は別だ。

身をねじり空中で体の位置をずらし回避。さらに全身全霊で槍にしがみつきつつ回転しながらジャンヌはジャンヌ・オルタの腕をねじりあげようとする。

そしてその対応に、これは間に合わないとジャンヌ・オルタは判断し。旗槍を手放した。

そのままジャンヌは旗槍を自分の後方、部屋の入口まで投げ飛ばす。

これでジャンヌ・オルタはロンギヌスを使えなくなり、攻撃にも多少の淀みがとジャンヌが思った瞬間。

 

啓示に数十手の攻撃が表示された。

どういうことだと思う前に体が動き、

全身が浅く切り裂かれる。

 

「・・・本当に滑稽ね」

 

出力低下に伴う思考の演算リソースが増えたことによって。

技の冴えは達哉と戦った時よりもはるかに冴えているというのに。

 

「高性能装備に気を取られて身近な物に目が行かないとか笑えるわ」

 

入口付近に転がった、旗槍をジャンヌ・オルタは完全に捨てて。

空いた左手に予備のロングソードを装備した結果。

以前の戦闘スタイルに近い故か。

さらに冴えが増すという事態に陥っていた。

以前は出力強化を無理に行い、その分思考に余裕が持てなかったことに、ジャンヌ・オルタは自分自身を嘲笑しながら。

 

「さぁ行くわよ」

「ッ―――――!?」

 

ジャンヌを切り刻む。一方的にだ。

それをしのぐことしかジャンヌにはできない。

当たり前だ。

そも体や才能的基本設計は両者とも同じ。

されど育った環境がまず違うし潜り抜けた修羅場が違うのだ。

ジャンヌは対人戦闘や攻城戦をこなしてはいるがジャンヌ・オルタが戦ったのは。

悪魔という超常の軍勢に

さらには一個体として極地に居る神やら英雄と魔人たちと戦った。

 

最終標的に対しては最終的にはいつも負けこそしたがそれでも生き延びたのである

純粋に闘争のレベルが違う。

修羅場の数も違う。それを乗り越えるべく鍛錬した執念も違う。

何もかもが違い過ぎた。

それが絶対的差となる。人外舞踏を演じ切ったジャンヌ・オルタにジャンヌ・ダルクは勝てない

 

「くぅ、ツァ!!」

「そんな付け焼刃でねぇ!!」

 

何とかしのぐものの押し込まれていく。

こればかりは堪った物ではないとジャンヌは遂には生前には抜かなかった剣さえ抜いて防御に回る。

無論、ジャンヌ・オルタからすればそれは幼稚なものでしかない。

一方的に押し込んでいく。

ジャンヌは堪った物ではないと我が神はここにありてを起動。

 

「旗よ!! 我が同胞を守り給え」

「誰も守ったことが無い癖にほざくな!!」

 

起動の口上ですらジャンヌの言葉はジャンヌ・オルタをイラつかせた。

そして叫ぶ、誰も守ったことが無い癖にどの口がほざくのかと。

 

「違います私の後ろには皆が居る!! 負けるわけには行かないんですよ!!」

「それが都合の良い思考だと言っているのよ! 自分の掌を見たことがある? 自分の歩んできた道を振り返ったことがある? ないわよねぇ!! 気味悪いのよ、空っぽの癖にさも持っているかのようにふるまう、”今も出来るからやってる”のでしょう?神の人形風情がぁ!!」

 

ロングソードの刃表面に魔力が迸り循環。

収縮極まったそれは障壁に食い込み始める。

ああ、ペルソナがあれば、こんな障壁食い破ってやるのにと思いつつ、ジャンヌの哀れな神の人形っぷりに怒りながら食い込ませていく。

 

「違う! 私は私の意志で戦っているんですよ!! あの戦争を終わらせたいと願い行動した!! 神とか関係ない!!私自身の意志です! そこに嘘なんかない!!」

「自分の意志で戦っただぁ? ほざくな!! お前は民衆に都合のいい情報を摂取させて。突撃させただけだ!! そこいらのクソみたいな革命家と一緒よ!! 自分自身が血で濡れている自覚すらない!! やっていることに対して酔って悪手だという自覚すらない!!」

「そういうあなただって糞みたいな革命家と何が違うのです!? 気に食わないからぶっ壊して殺して、あとは投げっぱなしジャーマンじゃないですか!! 世界を良くしようとは思わなかったんですか?! 達哉さんが大事なら隣に立って戦おうとは思わなかったんですか!! いいえ! いいえ!! 思っていたんですよね!! だからあんな言葉を投げかけたんでしょう!?」

「一時の気の迷いよ!! 並行世界の類似した他人にもうそういうことは求めてなどいない!! 第一に私は人類に一片も期待もしちゃない、世直しなんか求めていない!! 求めるのは私も含めての皆殺しだ!!」

「そんな意味のないことして何の意味があるのかって聞いてるんですよォ!!」

「復讐に意味のある結果を求めるのは、ナンセンスだ!! ムカつくからぶっ殺すで十分、許せないから殺すで十分!! 美しくある必要なんかどこにもない!! 復讐自体が醜いんだから美しい結末を求める巌窟王みたいなヘタレと一緒にするんじゃない!! 第一ねぇ・・・」

 

剣と旗が激突

だが先ほども言ったように経験値が違う。

鉄板をただの稲妻が穿てないとの同様ではある。

並大抵の宝具ではジャンヌ・オルタの宝具を穿つことは出来ないのだ。

だが

 

収束 収縮 圧縮。

 

物質化寸前まで収縮された魔力リソースはソレを可能とする。

要は、運用の問題である。

ジャンヌ・オルタは馬鹿ではない、力押するにしろ効率性を求めるのだ。

エネルギーの物質化寸前まで圧縮されたエネルギーの杭は。

見た目に反して十二分に旗を穿って見せた。

 

「なっ」

「投げっぱなしジャーマンはお前もだろぉうがぁ!! オリジナルゥ!!」

 

ジャンヌは旗を保持する腕ごと弾かれて、胴ががら空きとなる物の、ジャンヌは右手の剣を走らせる

一方のジャンヌは振り下ろされる剣を見つめつつ間合いをさらに詰めて両腕を交差しつつ振り下ろされる剣が着弾する前に腕を締め付けて阻止しながら。頭突きをかます。

この距離なら剣の方が有利とジャンヌも意識を剣を握る手に集中させ何とか手離さずに済むが、

ジャンヌ・オルタはジャンヌの側頭部を狙い身を翻させ、ハイキックを繰り出す。

ジャンヌは今動かせる左腕を割り込ませ防ぐが、骨のへし折れる音と肉が裂ける音が響き、旗を握る手は痙攣し手放してしまう。

ジャンヌ・オルタは自分自身の再生能力も込みでジャンヌの剣は脅威ではないと判断しつつ

落した旗は万が一にも拾われると面倒と判断し。ジャンヌ・オルタはジャンヌの旗を軽く蹴り飛ばす。

 

「くっぐゥ、このぉ!!」

「いい加減、死ね!!」

 

回収不能な距離に蹴り飛ばすと同時に、腕を限界まで引き絞り、ほぼ密着状態から刺突を繰り出し。

奇しくもジャンヌもそれは同じであったらしくジャンヌ・オルタの霊核を貫こうとする。

だが動作の淀みの差でどうあがいてもジャンヌ・オルタの方が早い。

咄嗟に身をねじって胸を貫かれこそすれど。霊核への直撃だけは避ける。

よってできあがるのはジャンヌオルタが早いと言う相打ちである。

無論、ジャンヌ・オルタは再生能力で致命傷をものともせず、ジャンヌはジャンヌで致命傷は避けていた。

故に、ジャンヌの狙いはこれである、相応必殺が成立する至近距離での相手の油断。

再生能力があるから大丈夫であるという油断を欲していた。

 

「ハッ。この程度」

 

無論、この程度はジャンヌ・オルタにとっては無傷にも等しい。

如何に出力が低下したとはいえど不死性は健在なのだから。

ジャンヌは旗を手放し刃が深くめり込むことに頓着せず。

左腕をジャンヌ・オルタの後ろ首に回して引き寄せて拘束。

そしてジャンヌの剣から火の粉がチラついている

左腕を素早くジャンヌ・オルタの後ろ首に回して。ハグをするように密着。

ジャンヌはジャンヌ・オルタがその一手先を行くだろうと信じていた。

 

「アンタ。正気!?」

「正気では勝てませんし聖女じゃいられませんよ、主よこの身を委ねます!!」

 

相打ちした瞬間に宝具を起動していた。

勝ち目なんかないことなんぞジャンヌは自覚済みだ。故に自爆染みた宝具を起動させる。

自らが生み出してしまった物を始末するためにだ

またジャンヌ最大の祝福武装でもあるので。出力もジャンヌ・オルタの最大値に合わせられる。

故に今この瞬間ならば、如何に膨大なリソースを所持するジャンヌ・オルタでさえ焼き尽くせるのだ。

だからこそ躊躇なく祈る様に剣に力を込めて、真名を解放する。

 

 

紅蓮の聖女(ラピュセル)

 

 

焔が上がり火柱の様に伸びて二人を包み込み、一拍の間をおいてジャンヌがなんと生きて炎の中から倒れ込むように飛び出る

それは偶々の出来事でもあった。

 

―攻撃特化礼装にしすぎて失敗したわ・・・―

 

「はぁ・・・グゥッ・・・」

 

ガッツ礼装。

それがジャンヌをこの世に押しとどめたものである。

事前に配布された礼装は攻撃的に過ぎるとして。

オルガマリーが回収。再配布した物は読者の方々も知っての通りである。

それがジャンヌの命を繋いだのだ。

 

如何に執念と技巧を重ねようとも勝負事は基本あっけなく終わる。

今回はジャンヌ・オルタの油断が彼女自身の首を断ち切ったに過ぎない。

良くも悪くも無力なジャンヌしか見ていなかったから、彼女が決死の間合いに踏み込み断行した逆襲劇を読み切れなかった。

復讐者が逆襲劇に敗れるという皮肉とケレン味きいた結末へとたどり着くのはある種の必然染みた物であり。

 

 

―まぁ誰とてそうするだろうよ。戦場とは不確定要素と摩擦が入り乱れる混沌だ。安全マージンを組みたいと願うのはごく普遍的な物だとも。―

 

 

だがそれは逆に影の読み通りだ。

 

 

故に

 

 

ー罰を下そう、ジャンヌ・ダルク。カルデアの人々よ。お前らのせいで周防達哉は現世と彼岸の狭間を彷徨うだろう。そして知れ。大事な者は常日頃脅かせるという現実にだー

 

 

運命は決まった。

その様な中途半端は許さない。奇跡など容認しない。

 

―第一にそのような自爆特攻で殺せるような女ではないぞ。彼女は―

 

影の言う通り、炎が蠢いた。そして炎上するジャンヌ・オルタの人型に。ガラスに罅が入って割れる寸前の様に亀裂が入り。

浸食していた心像風景が砕け散っていく。

それと同時に城も掛かった過負荷が押し寄せでもしたのかボロボロに崩れる箇所も出て来ていた。

それらが、まるで雛鳥が割った卵の殻の様に崩れて堕ちて行く。

そして・・・彼女は生まれる。この瞬間に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎上する、燃える、燃え尽きていく。

ジャンヌ・オルタ自身と彼女を構成するすべてが燃えていく。

まるでジャンヌが処刑された時のように燃え尽きていく。

それがオリジナルたるジャンヌがジャンヌ・オルタにやってのけたのだから皮肉が聞いているという物だ。

身を浄化の炎で焦され。

ため込んだ怨霊たちは浄化され尽くしていく。

召喚し取り込んだ霊基でさえ消失しかかっている

このままいけばジャンヌ・オルタは消えるだろう。

全てが無明に帰っていく中で。

走馬灯の様にジャンヌ・オルタの脳裏に過去が過る。

 

最初の慟哭。

罪と罰物語。

ジャンヌ・オルタの出発点。

 

無様で情けなさすぎる己が姿

 

それを見て思う。

 

『死にたい、皆の所に行きたい』

 

助けたかった。救いたかった。恩を返したかった。

幻想であってもあの人たちの温かみに報いたかった。

だがそれはもう成せない。

もう存在しない。全て幻想になったのだから。

だから強くなろうと無理を押し通した。

過去の弱い無様な自分から目を背けて復讐を大義と掲げて、達哉に幻想を重ね合わせて押し付けた。

 

逃げに逃げていただけに過ぎない。

人は過去から逃げられない、故に強くなるということは過去の傷を受け入れて土台としてなすことを言う。

過去を拒絶していては間違った物しか手に入らない。

外装を見繕っても本質は変わりがない。

世界が憎いのどうのこうのではなくて。

ここにきて彼女は過去を受け止めて原初を見つめて。

 

「ああ・・・やっぱり・・・」

 

ジャンヌ・オルタの瞳に輝きはない。

 

「間違えたまま走っちゃ・・・勝てないか・・・」

 

分かっていた。

分かってはいたのだ。

間違えていると自覚していた。

でも許せなかった。

正しさを人は英雄に強要し。間違いを犯すことを許さない。

無敵、不変、絶対。

そんな誇大妄想を押し付けて戦いを強要する。

許せるはずがなかった。

 

正しくないのだとしても。自分の愛した人たちに泥を塗る行為であっても。

 

そんなベンサム染みた世界が嫌いだった。

 

故に納得する。

これは当然の帰結であり、何もなしえないことというのが自分自身に対する罰。

魔王役として主人公に約束された勝利を彩る仇花でしかないのだろうと。

 

『いい加減。諦めたらどうです?』

 

意識の暗がりの中。

這いつくばり立ち上がろうとした。ジャンヌ・オルタの背後に現れるのは。

幼少期の如く幼い”もう一人の自分”

 

『もうわかったじゃないですか・・・いくら頑張ったところで伸ばした手は届かない』

 

大事だった。失いたくなかった。本当ならこんなことしたくなかった。

けれどもう無い。

取り戻す機会は永劫無い。

 

『かと言って八つ当たりの意味の無さは、良く知ってますよね? この宇宙はアマラの宇宙より下位であれど多次元的な宇宙です、一つを皆殺したところで。大いなる意志と聖四文字と明星に影と蝶の観測からは逃げられない、意味がない』

 

かと言って八つ当たりも総じて意味がない。

多次元的宇宙を片端から皆殺しにするなんて不可能だ。

だから立ち上がるな。ここで死ねば有終の美を飾れるのだと、自分の自罰意識と自死衝動の仮面は嘯く。

 

『黙れ、もう一人の私ぃ!! やりたいからやっている!! 許せるか!! 許せるものか!!』

 

今度はジャンヌ・オルタの前に嘗てシュバルツバースに傭兵として挑んだ自分が現出し叫び散らす。

 

『死んでなんになる? 足掻いた果てのしなら良いかもしれないけれど。目を閉じて耳を塞ぎ自分の命すら絶って何もかもから解放されるって究極の現実逃避を選べばどうなるか、知ってるわよねぇ!? 私が殺さなきゃ同じ人たちが奇跡の為に切り刻まれて惰眠を貪る人々にバラ売りにされるのは嫌と言うほど見てきたでしょうが!?』

 

 

『もう止めなさいもう一人の私」

『立て!! もう一人の私』

 

自罰意識は死ねと言う。意味がないからと。

他罰意識は立てと言う。そうしなければ誰も報われないからと

 

そして・・・。何もかもを辛そうにへたり込む。ジャンヌ・オルタは視線を下げて・・・答えようとして

 

「私は――――――」

 

―走れるさ―

 

思い出す。

海岸沿いの岬でのやり取りを。

 

「―――――」

 

―俺達―

 

夕焼けが酷く美しい。

風が気持ちよく肌を撫でる中で。

 

「―――――――――」

 

―友達だろう?―

 

夕日をバックにそう言って、はにかむ様に微笑んだ彼との約束と友好の証明・・・

 

 

何のために・・・戦ってきたかを思い出す

たったそれだけの為に。

 

本当はともに行きたかった。罪と罰を背負って。

 

だからユルセナイ。

当たり前の事。

故に剣を取ったまで。

 

全てを殺し飲み干し汚濁を背負って彼らを救う為に。

 

「五月蠅い」

『? もう一人の私?』

 

自罰意識の仮面は震えた。

他罰意識の仮面もそうだ。

何かが目覚めた。

そして感じる。自分たちの主人格が悍ましい物になっているのを

 

「いちいち言うな。死にたいと思うのは当然。あれだけ無様晒せばそうもなるでしょう?」

『そ、そうです、ですから』

「そんな安息なんて私は許さない、死にたいから死んでなんになる? 巌窟王の様な綺麗な死にざまなんぞ選べない この道を選んだ瞬間から退路なんてないのよ。どうせ後にも先も同じなら後を選ぶべきでしょう?」

『よく言った私』

「アンタもよ。狂い過ぎていて自分でもわからなくなった他罰意識、一つ訂正するわ。私は彼等の奇跡を奪った世界が許せない、あとの連中なんて知ったことか。なんてどうでもいい、憎いから殺す。」

 

掴み取る様に両手を突き出し、繋げる。

取り上げられたとはいえ、嘗てはつながっていた。

感覚は染み付いている。であるなら自力でこじ開け汲み取るだけの話し

 

「やりたいことはやっている、今立ち上がってやるから、大人しく私の元に還れ、そして存分に使われろ」

 

両者ともに自分だと認めて受け入れて捻じ伏せて制御する。

彼女が帰ってきた。

アマラからこの世界に。

 

 

 

 

 

 

ジャンヌは呆然とした。 そうするほかなかった。

 

「そこで諦められるようならなぁ! そもそも復讐なんて決意してないのよォ!!」

 

咆哮である。

炎に焼焦されて蠢いた彼女の動きが静止し。

叫び散らすように吠えながら静止する。

 

いまの今までが半覚醒状態の様なものである。

幻想の中で弱かった己を認められなかったがゆえに至っていなかっただけの話。

幻想の中で共に過ごした愛しい誰かが、今現在に存在してしてしまったがゆえに滅ぼしくたくないと願った故に発生した自己矛盾。

それらが彼女の目覚めを阻害していた。

そして過去をを受け入れ求めた時に

彼女を覚醒させる。

過去の傷を着火剤に。今持っているものを薪にしてくべて燃え上がる。

 

「奪われたから奪い返して何が悪い!! 全部終わってしまってなくなったからと言って捨てなくて何が悪い!!」

 

この状況から脱するのは簡単だ。

幻想の中で味わった修羅場の数々が身を燃やされていようと思考を冷静に走らせ。

解決策を断行させる。

取り込んだ聖杯は願望機として機能している。

これで偏に世界を吹っ飛ばなかったのはジャンヌ・オルタ自身が自らの手でやらなければ気が済まないことと。

計画に支障が出るからだ。

故に今までは単純な出力機器としてしか使っていなかった。

 

「復讐は不毛? 虚無じみた虚しい自慰行為? 愚者の典型的な行動? だから復讐なんてやめて悟った賢人の振りをして穏やかに逝け? ふざけるナァ!!」

 

今はジャンヌの特攻を受けてリソース不足とはいえ。

願望機として再起動させる燃料はある。

即ち取り込んだ霊基を全て引きはがし聖杯に突っ込んだ。

彼女は何もかもを失った。

だが過去を本当の意味で肯定し全部を殺し尽すことを決めた。

本当の意味で許せなかったのは自分。

そして世界を憎むのはそんな弱き己であることを受け止めて。

もう誰も必要としなくなっていった。

しまったのだ。

だから止めに入った同志たちですら怨敵にしか今の彼女の眼には映らない。

躊躇なく都合の良い御託を並べてきたので聖杯に突っ込み

さらに彼らの言葉を真っ向からふざけるなと咆哮し己の身体さえも捧げて聖杯を起動させる。

炎上するジャンヌ・オルタの炎が剥がれ落ちる。

外殻と共に床に落ちる。

 

「大事だった!! 大切だった!! 至高だと声高々に叫んでも恥ずかしくないものだった!! だから・・・それらを切り捨てて賢者とかキレイな終わりを選ぶくらいなら」

 

声が、咆哮が止まらない。

例え幻想だったとしても愛した物はそこに合ったのだ。

確かにあった。

故に憎い。故に許せぬ、世界を民衆を己でさえも・・・

だからこそ何にもかもを、引っ繰り返して投げ打って足掻く。

 

「醜くても無様でも汚泥に塗れても。罪と罰を背負って、私はァ!! 復讐を選ぶ!! だから見くびってんじゃない!! ニャルラトホテプゥ! 私をぉぉおおおおおおおおおお!!」

 

物は先ほども書いた通り存在している。故にこれは確約された奇跡という物であり必然だ。

獣のような叫びを上げながら蛹から羽化する蝶の様に自身の肉体だった物を引き裂き、抜け出て、踏みしめて。

ジャンヌ・オルタは一歩踏み出して新生した。

 

開門せよ(ルデマラージュ)――我が原罪(ナチュール)

 

胸の心臓部から漆黒の杭が突き出る。

 

蹂躙せよ(ルデマラージュ)――我が陰我(ナチュール)

 

その周囲を彩るのは黒百合とコルチカウムの花

 

覚醒せよ(ルデマラージュ)――我が慙愧(ナチュール)

 

そして杭から肌を這うように漆黒の入れ墨が伸びていき、両腕を漆黒に染め上げる

さらに衣類の霊基も歪められていく。

歪められた聖女像染みたバトルドレスではなく。

間違いなく。自分が自分として生きていたあの頃の物にだ。

黒のノンスリーブに漆黒の胸当て。黒のホットパンツにサイハイソックスに軍用ブーツ。

額当の代わりに両脇から角のようなブレードアンテナが突き出たバイザーゴーグルに両手には薄手の皮手袋。

そして幻想の達哉に選んでもらった使い古され思い出の詰まったボロボロのライダージャケット

 

 

 

 

弱き己を受け入れ復讐の定義を確立したことによって幻想の中で影に与えられ奪われた物を取り戻し

心の奥底から剣を引き抜く。

 

 

 

             霊基再臨 受肉完了 生命再誕。

 

           「ペルソナァ!! フルンティング!!」

 

                  心像具現

 

        「ダーインスレイヴゥゥゥウウウウウウウウウウウ!!」

 

 

 

                 

        

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 魔人 再誕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今ここに立つのはたった一人の『ジャンヌ・オルタ』という女性だけだ。

 

 

あの幻想を駆け抜けた時のように。

弱き自分自身を、憎む己を認めたことによって幻想の中で貸し与えられた力が発現する。

 

ニャルラトホテプがサーヴァント能力を取り上げる代わりに貸し与えたその力。

 

ペルソナの亜種能力「カタルシスエフェクト」

過去を受け止めた事で。ニャルラトホテプに与えられ幻想の終了と共に取り上げられた力をそれらを土台に取り戻す。

掌に具象化した漆黒のそれを引き抜く様に両腕を振り抜けば。

右手には柄と鍔が異様に長く刀身がジャンヌ・オルタの身丈にも匹敵する長さを持つ細身の大剣。

左手には握られているのは釵と呼ばれる刺突短剣に近いが。その刃は歪に捻じ曲がっている独特の形状の短剣。

 

全体的な機能は。さっきの状態に比べれば全て下がっている。

だが技量や経験値が完全に適応され実力自体は上がっている。

寧ろそれに精神が完成され。ここから再び進化を始めていくだろう。

今度は消化不良や負荷などによる不完全な進化などはしない。

無論、全てのリソースを再誕に使ったため嘗ての不死性は失われている。

もっとも今の彼女ならすぐに取り戻せるものでしかないし。

むしろ余計に過剰に過度に強化のために取り付けた物を取り払い。

自己定義を完了したことによって。

まさしく完成された彼女は魔人として世界を食らう修羅として、この瞬間に再誕し帰還したのだ。

新生した彼女は、肩で息をしながら、呼吸を整えて精神を落ち着け、ジャンヌを見て歩みを進める。

 

「皮肉ね」

 

吐く息はまだ荒い。

器として完成こそされたが。再誕の為に中身を聖杯に使ったのだ。

体力も精神も限界に近い。それでもカツカツと音を立ててジャンヌ・オルタはジャンヌに近づく。

礼装による霊気の修復効果でギリギリ生き残っているに過ぎないジャンヌに抵抗するすべは残されていない。

脚に力が入らず崩壊寸前の霊基によって激痛が常時発生しまともに立てない。

剣を杖に何度も何度も立ち上がろうとするが。その都度。床に倒れてしまう。

 

「アンタが拒絶し私が生まれ。アンタが私を殺し私は生まれた。」

 

そしてジャンヌが見上げれば。

ジャンヌ・オルタが無表情でジャンヌを見ている。

 

「本当にクソッたれよ。まぁ先に行きなさい、いずれ全ての座も滅ぼすから」

 

全部殺す

全ての悲劇が終わるまで。

そうすることで己が復讐は完了するのだと宣言し。

 

「逆襲の顎」

 

自身の固有スキルを起動させる。

漆黒の炎がダーインスレイヴに纏わりつき。まるでサメの歯やらチェーンソウを彷彿させるように鋭く巡廻してる。

刃と炎に触れた空気と空間がえぐり取られるように消失し。

ジャンヌ・オルタの力となっていく。と言ってもそれは微量だ。

フルスペックを回復し、尚且つ高みに上る為にはまず。ジャンヌを殺しその霊基を吸収する必要があると。

ダーインスレイヴを後ろで担ぐように構える、ダーインスレイヴの異様な長い柄と鍔の形も相まって、ダーインスレイヴを構える彼女の姿はまるで十字架を背負っているようだった。

そして漆黒の刃がジャンヌの首元に迫って・・・

甲高い音が鳴り響いた。

 

「無事・・・ ではないか・・・」

「達哉さん・・・」

「遅くなってすまない」

 

 

ギャリと刃が擦れる。

 

 

「本当に悪趣味ね、アイツは・・・」

「それには俺も同感だ」

 

 

ジャンヌ・オルタはそう呟きながら刃に力を込めて。

達哉はアポロを呼び出し。

 

ここに神話を駆け抜けた者たちの刃の切っ先は再交差するのだった

 

 




魔人邪ンヌ帰還にして再誕回。
幻想の中で人生を送った彼女は今生れた。
彼女は覚醒ではなくVRの中で培ったものを取り戻しただけです。
実力は周回重ねているということもあって、たっちゃん以上。ライドウの二分の一の実力
フルスペック発揮できるならカルデア総出で袋叩きににしてようやく互角の怪物。
魔人の称号にして地位に座るというのは伊達ではない
と言っても再誕にリソース全部振りしているので現状は疲弊したたっちゃんと互角程度。

ちなみにたっちゃんが割って入ったのは正解です。
ここで邪ンヌがジャンヌを殺したらスキル効果で完全回復+ジャンヌの霊基分強化入って。
ノヴァサイザーも十全に対応できるので、たっちゃんの勝率がなくなり。
たっちゃんを殺せばその分パワーアップ。領域内は自分に庭なのでカルデア各個撃破に持ち込まれて敗北するという流れになりますので。




次回決着回。「恩讐の最果てにて」をお送りします。



オマケ
ジャンヌ・オルタの固有スキル「逆襲の顎」

バフ系だが能力を強化するとかではなく。
ダーインスレイヴの刃で切った物を存在基盤事抉って物質的及び霊質的に削り捕食しジャンヌ・オルタの力とするという物。
斬った物が協力であればあるほど彼女は強力なものに成長する。
元になった渇望は「不死の神々を殺したい」「生に真摯生きて、犯してしまった罪と罰を背負いたい」という物が原型となって発現した彼女の復讐劇である。
またスキルの副次効果として切った物の存在自体を抉っているため再生を許さない。
この剣の刃で殺された場合、存在そのものを捕食する為、不老不死ですら即死損壊を与えられれば殺せるという究極の不死殺し。
防ぐ方法は、ニャルラトホテプや某人形師の様に多数の同位体を有するしかない。
そんな殺傷能力及び格上殺しに特化したスキルではあるが、発動時点では攻撃力や武器の切れ味を上げる物ではなく。
ジャンヌ・オルタの素の攻撃力に依存する為。サイズが大きい相手。純粋に物理的に頑丈な相手や自分と同一規格の代わりを用意できる相手には不利なのは変わりがない、逆に攻撃を通せればどうとでもなる。
殺傷スキルの究極系、彼女の在り方である。






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二十七節 「恩讐の最果てにて」

私はもう誰にも負けたくないだけ。

何にも、誰にも。

始めましょう。 殺すわ。貴方を。



アーマードコア ヴァーティクトディ ミッション09でのマグノリアの台詞から抜粋。 


何時も届かなかった。

 

―俺たちは心の海で繋がっている、いつでも会えるさ―

 

それでも必死に手を伸ばしてきた。

 

―生きていてほしいんだ。アイギスにジャンヌに―

 

守りたいと願って必死に走って。

 

―うん、菜々子ね。ジャンヌお姉ちゃんみたいな立派なレディなりたい!!―

 

失って、また会得し、失うのが怖くなって。

 

―なんで、お前はいつも一人で・・・みんな待ってる!! お前の帰りを待ってるんだ!!―

 

だから一人になって・・・友情すらかなぐり捨てて。

 

―切り捨てられるかよォ!! 大切なんだ!! 秤になんかかけられるか!! 大事なんだよォ!! そんなもので損得なんて出来るわけないだろォ!!―

 

それでも一人に成り切れなくて自ら切って捨てて。

 

―ジャンヌ・・・、なぜ君がこんなことを、天蓋をぶち抜けば・・・皆が、いやそうか、君を追い込んだのは俺達か、すまない―

 

失って失って失って。

 

 

 

そして

 

 

 

気付けばたった一人生き残って、私は此処にいる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギリリと鋼が擦れる音が響く。

両者の間に割って入ったのは達哉である。

ノヴァサイザーで寸前のところで間に合った。

 

「やっぱりか。」

「ッ」

 

拮抗状態から身を後ろに後退させつつ、ジャンヌ・オルタは距離を取る。

彼女がその数瞬前に立っていた床をアポロのゴットハンドが粉砕していた。

 

 

「そうよねぇ・・・そうなるわよねぇ・・・ 私を殺せるのは達哉だけよねぇ。影も嫌らしい演出をするわ」

「らしいな」

 

一方的ではあるけれどジャンヌ・オルタは彼をよく知っている。

故に影の演出なのだこれは。

ただ互いに傷ついてへし折れろという罠である。

だがもう止まれない。

 

達哉もジャンヌ・オルタももう止まれない。

互いの信念、願い。絶望。

 

よく知って、同じものを抱えているが。出した答えは真逆で。

もうへし折ってでも進むほかないのだ。

話し合って仲直りできる段階はとっくに過ぎている。

第一に、彼らは此処からなのだ。

理も、悠も、蓮も、ショウも、アレフも、シンも、フリンも、仁成も。

此処から本領を発揮する。

何もかも費やしながらも、そこから先に進む気概と超越者じみた精神力が彼らの何よりの武器だと知っている。

故に達哉は此処からが強い。ここからこそ理不尽の領域に突入すると。

ジャンヌ・オルタは理解している。

故に最後になるだろうと。問いを投げかけた。

 

 

「これ以上言葉には意味がない。だから最後に聞かせて」

「なんだ?」

「アナタは世界以上に何を憎んでいるの?」

 

 

こんな酷い世界以上に何を憎んでいるのかとという問い。

ジャンヌ・オルタのその疑問に達哉はさらりと答えた。

決意は固まっている。もう引き返せない

 

「・・・あんな選択肢を選んでしまった自分が憎いんだよ。辛いことから目を背けて、安易な手段に逃げて挙句忘れたくないと願った自分が!!」

 

そうしたのは世界だ。

しかし。選んだのは自分だ。

達哉が選んだのである。それを棄却したのも達哉だ。

だから。あの瞬間。

誰が何と言おうと。

選んでしまったのは。達哉と言う一個人である。

 

「都合の良い選択肢に逃げた。あの時。俺自身が忘れてしまえば。こんなことにはならなかった。俺が・・・こんなに弱くなければ・・・俺さえ、存在しなければ・・・・」

 

皆、ご都合主義の内に終われたのにと。

 

「だが・・・俺は・・・俺はァ・・・・」

 

憎かった。ああ憎いとも。

忘れていればすべてご都合主義で済んだのに。

都合のいい幻想に縋って世界を滅ぼしかけた自分自身が世界以上に憎いのだという。

 

「そうよね。アンタはそういう人間だった。」

 

ジャンヌ・オルタは苦笑する。

分かっていたはずだ。

 

「いいじゃない、居ても。皆認めてくれたんでしょう? だったら素直になりなさいな」

「・・・」

「そんな顔しないでよ。」

 

聖女の如く肯定する。罪と罰の清算は生きる限り終わらない。

立場は変われどだ。第一に望んで此処に放り込まれたわけでもない。

だから、皆が認めているなら、居てもいいではないかと告げる。

罪と罰を忘れ去って呑気に生きているならジャンヌ・オルタも躊躇はなかったが。

彼は自覚してここに居るが故にだ。

彼は間違いなく罪と罰を背負って今を苦しみつつも此処に居たいと望んでいる。

それを否定する権利があるのは事の当事者たちのみ。最も最終的にはアレだったので連中にも言う資格なしとジャンヌ・オルタは思っている。

だがそれはそれ、これはこれだ。

同情はするが殺す、そう決めたから。

そして彼女もまた失った物を幻想に出来なかった。

自分自身からそれらを奪った世界を許すことが出来なかった。

 

「でもね。私も譲れない。アナタとリサと栄吉と舞耶さんと過ごした日々をみんなと過ごした日々を幻想になんかできない。過去の思い出なんてレッテル張り付けて何もしないなんて耐えられない」

 

耐えられない。

過去があるゆえに今がある。全てが無駄だったという過去があるから今が許せない。

耐えられないし許すことができない。

 

―ジャンヌ、これが終わったら二人でどこかに―

 

あの言葉は形にならない。

目の前にいる達哉は、ジャンヌの愛した達哉ではない。

ああそれでも、吐き出さずにはいられなかった。

最愛の人の現身がいれば感情を吐き出さずにはいられない

 

「大好きだったアナタが踏みつぶされて延命にしかならなかった世界なんて許せないのよ!!」

 

見当違いも良い所。都合の良い代替品があるとでも思っておけばいいのに。

それでも達哉は呻くように苦しむ。

かつて自分もやってしまったことだから。

如何に同調したとはいえ、すでに舞耶はこの世から去っている。

あの忘却を拒んだときに都合の良い再会を望んだと言われれば否とは言えないから。

 

「そう言えば。まだ名乗ってなかったわね。私はジャンヌ・オルタ。アンタは?」

「周防達哉」

 

名乗りの後は無言だ。

達哉が握りなおすように正宗を握る指を動かし。

ジャンヌ・オルタもそれに呼応して構えなおす。

膝を曲げ前かがみになり。

ダーインスレイヴを持つ右腕を担ぐように背に回し。左手で鍔と柄の交差点を握りながらフルンティングを地面に向けて伸ばす。

クラウチングスタートの構えに近い。

と言っても、ジャンヌ・オルタに明確な余力はない。

聖杯に何もかも注ぎ込んだのだ。精神も体力も限界値である。

彼女の代名詞である、バグ技は使用すれば自爆にしかならず、さらにオーヴァードーズもまた同じ理由で使えない。

ジャンヌを逆襲の顎で殺せていれば、リソースの回収も出来たのでこの辺の問題は解決できたのだが。

達哉にインターセプトされてそれもできない。

かと言って。苦しいのはジャンヌ・オルタだけではない。

達哉も苦しいのだ。

ベリアルと悪魔たちの戦闘は、一見達哉が蹂躙したように見えるが。

それはあくまで遠慮なしにやったからであって、

そうしなければ達哉がやられていたという理由もある。

だが両者ともに引く気はないのだ。

フルンティングの切っ先で少し地面を掻き、切先と床が擦れる音共に。

ジャンヌ・オルタが疾駆した。

 

 

「シャラァァアアアアアアアア!!」

「ッァ!?」

 

 

全身を使った、横一文字、あとの事なんて考えぬ薩摩流ともいえばいいか。

剣が閃光となって横一文字に放たれる。

気を抜いていたら首が取られていたであろう速度だ。

既に一撃がスキルや魔技の領域に達しつつある。

達哉は首を狙って放たれた一線をスウェー気味に回避。即座に体を起こし、ジャンヌ・オルタに切りかかる。

彼女は降り抜いたダーインスレイヴの勢いを殺さず、そのまま身を回転させていたからだ。

所謂所の回転斬りと言う奴であろうが、通常この手の技は熟達した相手にはあまり意味がない。

なんせ一打放てば背を向けると同意義だからである。

だからこそ達哉は遠慮なくがら空きの背に切りかかった。

しかし、その刃は虚空を切った

軸足を入れ替え回転しながら彼女は半身をずらしたのだ。

 

「魔剣――――」

「ッ!?」

「多重流星ッ!!」

 

ジャンヌ・オルタが繰り出すのは魔剣の類。

つまり技術的に構築された彼女の必殺の布陣であり。夢の中で鍛え上げた彼女の剣だ。

対多人数戦と対個人戦闘を両立させた一種の理想形。

術理は単純明快。

体の回転運動を殺さずに横なぎを絶え間なく繰り出すということにある。

回転エネルギーを脚捌きと腰の動きで制御することによって絶え間なく回り続けられる。

質量の両手剣が自分自身に纏わりつき攪拌してくるのだ。堪ったものではない。

しかも動作自体が攻撃と回避を一体化している。

回避は足運びで防御は左手のフルンティングで連動して行う。

手順を変えようとも戦場で磨き上げた経験と動作によって淀みなく連動する。

ジャンヌ・オルタの一撃を凌いでも、すでに彼女は後ろやら横に回り込むなりして剣を振るっている。

雑魚の集団戦ではこの動きを使って敵陣を攪拌し。個人戦闘においては取り付くことによって対象を刃の攪拌で切り刻む。

要するにハメ殺し戦法なのだ。

 

「チ・・・」

 

達哉は舌打ちしつつ振るわれる閃光の如き横薙ぎを見定めて。

即座に魔剣の弱点を洗い出し対応して見せる。

その弱点とは簡単で、全ての動作が淀みなく連動している以上、一回でも動きを止めてしまえば流れが止まるという様に。

次への攻撃動作へと移行するにはいったん仕切り直しをしなければならない。

つまり、相殺覚悟の鍔迫り合いこそがこの魔剣の弱点となり得るのだ。

ただし、これは言うだけは簡単だが。大型悪魔の胴ですら容易く一つを二つにする剛剣の極み染みた物を受け止めるという大前提をクリアしなければならない。

と言っても達哉にまともに打ち合う気はなかった。

ノヴァサイザー最大時間停止を起動と同じ刻に、ジャンヌ・オルタはタイミングを読み切ってトラフーリを起動。

天井スレスレに跳ぶ。

トラフーリにそんな使い方があったのかと達哉は思いながら同時にノヴァサイザーを読み切った上での転移に驚愕する。

ノヴァサイザーは無拍子に発動する、故にタイミングを見切ることは尋常ではない。

何度も交戦すればわかるかも知れないが、達哉とジャンヌ・オルタは二度目の激突だ。

普通なら見切れる筈がないのだが、ジャンヌ・オルタは幻想の中で達哉と共に死線を抜けてきたのだ。

時止め前提での連携も無論十全に可能とする。それは逆を言えば。達哉の時止めのタイミングが分かるという事である。

先の会戦では出力を制御するのに大半の思考を費やしていたことや、ペルソナが消失したことによって緊急回避手段が失われていた為、前に書いた通りのごり押し対策となっていった。

今は違う、達哉の呼吸と体運びから十全に読み切って回避することが可能だ。

 

「マハラギダイン!!」

 

だが何故かジャンヌ・オルタは回避行動のとれぬ空中へと逃げた。

そこにマハラギダインを発射、ジャンヌ・オルタは無論、天井を蹴って回避。

だが次はそうはいかない、空中に身を躍らせたジャンヌ・オルタは放射されるマハラギダインの次弾を体捌きだけで避けるのは不可能なはずだった。

 

「空間殺法!!」

 

ペルソナスキルを、ジャンヌ・オルタが起動させる。

カタルシスエフェクト形式のスキルは、ペルソナ使い自身がそのスキルを発揮する。

取り戻した本来の獲物であり能力。ペルソナカタルシスエフェクト「ダーインスレイヴ」&「フルンティング」を使用可能となったことでペルソナスキルを解禁し。

縦横無尽に空間に足場を形成し駆け抜ける。

これが通常のペルソナ使いとカタルシスエフェクト型の違いだ。

通常のペルソナは、ペルソナを操作してスタンドのようにスキルを使うが。

カタルシスエフェクト型は、武装として展開されるためペルソナ使い本人がスキルを使用するような形になる。

何処までも使い手に性能依存するが。その分、スペックのブースト割合やスキルの応用自由度はペルソナ使いより高い。

空間殺法と呼ばれる、元来であればペルソナを縦横無尽にかけ巡らせ斬撃を多方面から叩き込むスキルも。

ジャンヌ・オルタの手によって彼女自身がどこでも足場にできるという物へと変貌しているのだ。

何もない場所に、足場を形成し180°全方位からヒットアンドアウェイで達哉に切り込んでいく。

動きに淀みはなく一合合わせる都度に鋭く洗礼されている。

加えて彼女が左手に握っているのは彼女の初期ペルソナ「フルンティング」である。

ペルソナ使いは現世に呼び出せるのは一体である。

精神的負荷などを考えれば二体の同時使役は実戦的ではない。

だが同時使役している前例はあるのだ。

読者の方々はP3と言えばピンとくるだろう。

P3の主人公である結城理は、無印版やフェスでは単独で二体のペルソナを召喚し合体スキルをやっていたのだから。

理論上は可能なのだ。

カタルシスエフェクト型は武装として呼び出すタイプである以上。維持自体は通常のペルソナよりも軽く簡単だ。

維持コストが安いと思ってくれれば良い。

と言っても二体の同時使役はいかに安いとはいえ負荷は増大するものの彼女の精神力は途方もない物だ。

 

閑話休題

 

ジャンヌ・オルタは虚空を蹴りつつ、達哉に肉薄。

先も言ったっとり、彼女は自分自身が足場と認識したところを足場に出来る。

空中での回避行動も十全という訳だ。故に空中での回避行動は体さばきのみといいう前提を崩したうえでの行動を取らねばならない。

無論自由飛行とはわけが違うので。文字通り空を走る相手と相対するため。そこは未知の領域だ。

もうなりふり構っていられない、相手の土俵に立つのは愚か者のすることである。

ペルソナをサタンにチェンジ。

達哉の背後、3m後方に着地したジャンヌ・オルタが刃を振りかぶって疾駆。

それに合わせて。

 

「光子砲!!」

 

このタイミングならば避けられないだろう超火力スキルを発射。

前のジャンヌ・オルタでは耐えられただろうが、完全に聖杯に全部放り込み新生したジャンヌ・オルタには耐えられない。

確かにそうである、彼女は理不尽じみた再生能力を失っている。

だからと言って防げないわけではないのだ。

 

「逆襲の顎!!」

 

ダーインスレイヴにジャンヌの首を斬り飛ばそうとしたときの漆黒の炎が宿り。ジャンヌ・オルタは光子砲の閃光に向かってダーインスレイヴを振り切った。

 

「なっ」

 

達哉は驚愕。光子砲が飲み込まれたのだ。

そう形容するほかない。光子砲が真っ二つに切られるや否やダーインスレイヴの刀身に絡みつくように吸収されたのだ。

これがジャンヌ・オルタの固有スキル、『逆襲の顎』にして振われるダーインススレイヴの権能。

遊星クラスの捕食能力に存在を抉り食らうというスキル

切って抉って殺した分だけジャンヌ・オルタを強化するスキルは貫通スキルも相まって、その剣で終わらせたものを捕食する。

死がどうだとか不死だろうが。

人間基準で言うところの死に至る傷を与えさえすれば捕食可能だ。

つまり切った物を捕食しジャンヌ・オルタへの力へと還元する。

それこそ直接的不死性ではなく。

ニャルラトホテプやカーマ、あるいは蒼崎橙子の様に同位体を用意しなければ、如何に高い不死性を持とうが切り殺せる殺傷特化のスキル。

相手が強ければ強いほど、ジャンヌ・オルタはその強大な敵の存在を抉り削って強化されていく理不尽その物。

まさしく剣で逆襲劇、あるいは復讐劇を成し遂げんとする聖女の命の答えである。

だが逆に言えば当たらねば只の風車に等しい物でしかない。このスキル自体は発動しただけでは何もアップしてくれない。

斬るか抉るか殺すかしなければ効力を発揮しないのだ。

光子砲の分だけ精神値を回復したが、攻撃スキルをぶった斬っただけでは必要経費分しか回復しないのが幸いか。

だがその脅威が明らかになるにつれて、達哉は崖っぷちに立たせられる。

ノヴァサイザーは見切られている。大味に使えば損耗にしかならない。

かと言って大火力スキルを連射すれば、全部ぶった切られてジャンヌ・オルタの稼働の餌である。

ペルソナも下手に攻撃に回せば捕食されかねない。

故にペルソナは補助へと回し、自分の手で殺傷するほかないと見切りをつける。

 

「アムルタート!! ヒートカイザ!! ランダマイザ!!」

 

アムルタートを呼び出し身体能力を強化、ジャンヌ・オルタにはランダマイザを付与、弱体化するが。

 

「フルンティング!! デクンダ!」

 

デバフは自力で解除したジャンヌ・オルタが突っ込んでくる。

一踏みで大よそ3mをスライドするかのように高速移動する。

アマラで見た悪魔狩人の独自の足さばきを真似たものだ。彼等よりは拙いが実戦で通用するレベルで早い。

 

「ヤマトタケル! 金剛発破!!」

「死ね! 金剛発破!!」

 

振われる横一文字の金剛発破をヤマトタケルの金剛発破を乗せて受け止める。

衝撃に大気が震え、粉塵が盛大に舞うほどの威力だ。

そのままヤマトタケルには鍔迫り合いに移行させ。達哉は自分自身から見て左方向へと移行。

これが通常のペルソナ使いの強みだ。

強制的に二体一に移行させることが出来る。

良くも悪くもカタルシスエフェクト型は個人への依存が高いのだ。

ジャンヌ・オルタは腕を返して、そのままヤマトタケルの剣の切っ先を床へと流し、刃が突き刺さったのを確認し踏みつけて拘束。

達哉はさらに間合いを詰めて刀を振るう。

ダーインスレイヴでは長大な刃やら柄が邪魔となり、間に合わない。

だからこそ、そのためのフルンティングだ。

鍔と柄の部分に指を掛けながらペン回しに様にクルクルと回し達哉の一撃を受け流すと同時に手首を返して刃と鍔を挟み込みつつ拘束。

ダーインスレイヴを振り上げ、鍔の部分で止めを取ろうとするが。達哉は一旦ヤマトタケルを戻し。

アポロを呼び出し、振り下ろされるダーインスレイブの柄の部分を両手で握って攻撃を阻止。

もっともアポロに掛かる負荷は尋常ではない、凄まじい馬鹿力である。

 

「フッー、フッー」

「グッ、ウァ―ッ」

 

ジャンヌ・オルタは息を荒く吐き。

達哉もまたうめき声を上げながら必死に攻撃を押さえつつ刀を拘束から抜こうとする物の、ジャンヌ・オルタは巧みにフルンティグを操り抜け出させない。

 

そしてここに来て両者ともに限界に来ていた。

ジャンヌ・オルタは歪とはいえ強化に強化を重ねた霊基とエンジンとして使っていた聖杯に霊基一体をなしていた魔改造霊基と引き換えに彼女は受肉した一個の生命体であり。魔人として再誕した結果。

体力や身体スペックは、仮想現実内での頃と、ほぼ同数に戻っている上に。

新生した影響で体力を削られていた。

今の彼女の残存スタミナは限界値であるのは言わずもかな。

達哉とてベリアルを蹂躙したが盛大にスキルをばら蒔いているのである。

ジャンヌ・オルタの攻撃を止めるペルソナの維持費も只ではない。

故にカルデアはジャンヌ・オルタを追い詰めている。

逆もまた然りだ。

達哉も負けるわけにはいかない。

此処で負ければ。ジャンヌ・オルタは達哉とジャンヌを殺して、魂を捕食し自己強化と回復を行い肥大化する。

そうなればカルデア側が崩れるように負けるだろう。

そして噂が機能しているため現地戦力は抵抗の仕様がない。

 

『『絶対殺す』』

 

憐憫も慟哭も嘆きも超えて、両者は互いに殺し合う。

ジャンヌ・オルタは一旦ダーインスレイヴを消して、右拳でストレート。

達哉はアポロでソレを防ぎ、カウンターの左蹴りをジャンヌ・オルタの腹部に叩き込む。

結果、両者弾けるの様に間合いを離す結果となった。

 

 

「フッー・・・・シィア!!」

「ジャリィァァアアアア!!」

 

 

離れた両者は再び肉薄。

叫び声が木霊する。

亜音速領域で武と魔が振るわれ。血が飛び散る

時が一瞬制止し、互いの位置が転送で入れ替わる為。

その戦いには他の物が介入できないものとなっていった。

速すぎるのだ。

ノヴァサイザーとトラフーリが同時炸裂しフレームが抜けたように両者が高速移動を繰り返しながら。

達哉は残る力を振り絞り、物理スキルを展開。

空中を走りながらもジャンヌ・オルタも物理スキルを展開しながら。隙あらば達哉のペルソナを逆襲の顎で捕食に掛かる。

壮絶な高速戦闘は互いに切り傷を生み、少量とはいえ血が鋭く飛び散っていく。

互いに視線を交わし、吐息の熱を感じて。殺意を走らせる。

目を離さず、自らの血で濡れながら、相手の返り血を浴びる。

なぜとはジャンヌは思うだろう。

和解する道だってあったはずだと思うだろう。

 

そんなものはどこにもない。

 

IFとは振り返った後で考えられる後悔の念でしかない。今を生きる者たちには今しかないのだ。

そして若いという選択肢であるが、

そもそんなものは選べはしない。

達哉もジャンヌ・オルタも積み重ねてきた。

その上で出された答えは相反する物である。

故に和解なんてありえないのだ。互いに読心術でも使えればと言うのも幻想だ。

心が通じ合い分かり切ったとしても、譲れない故に、この時点で殺し合うだけである。

同時にそれは決めたことが本物であるからこその闘争だ

 

 

「達哉ァ!!」

「ジャンヌゥ!!」

 

互いに手札は捌き切った。

オープンされた手札で彼らは死力を尽くす。

正宗とダーインスレイブが鍔迫り合いに移行する。

絡み合う刃と刃が擦れ合い火花を散らし。金属音が擦れ狂うように鳴る。

互いに意識は発火しており。

鍔迫り合いになり拮抗状態になった以上。

後はどちらかが力負けするか。焦って攻め立てた方が敗北するという状況に追い込まれている。

 

故に達哉もジャンヌ・オルタも必死だ。

 

拮抗状態を押し切らんと最後にに残った力ですら振り絞っていく。

 

両腕と両足に力を込めてジャンヌ・オルタの刃を押し切らんとして。

背後に呼び出したアポロにゴッドハンドをスタンバイさせる。

対する、ジャンヌ・オルタもダーインスレイヴを保持しつつ。

左手のフルンティングの切っ先を達哉に向ける。

拮抗状態が崩れれば即座に、両者ともに攻撃を放つ姿勢である。

軋みを上げる刃。震える腕。

烈火の如き意志が宿った視線が交差し―――――

 

「ッ―――――」

 

だが此処で。

得物の性能さが出てしまった。

如何に古刀の宝刀と言えど。

現実的な物質強度を無視できる概念を武器化するペルソナ相手では。

強度差では分が悪い。

概念とかを除く純粋な切れ味では無論上だけれど。

鍔迫り合いで物を言うのは使い手の身体能力と集中力。

そして得物本体の強度である。

 

達哉は此処に来るまで多くの戦闘をこなしている。

如何に古刀とはいえ限度が来ていたのだ。

 

 

限界である・・・

 

だからこそ・・・

 

 

「―――――!」

 

限界点はそこに。

遂に正宗の刃が真ん中から折れた。

勢いよく折れた刃が縦に回転しながらはじけ飛び、弾け飛んだ刃の切っ先が達哉の肩を掠め斬っても。

そこで達哉が選んだのは後退ではない。

ゴットハンドをキャンセルし。

 

正真正銘最後のノヴァサイザー。

 

停止時間0.1秒。

 

これで精神力も空っぽ。ペルソナは使えないものの。

その間に即座に半身をずらしつつ斜め左に踏み込む。

時の流れが元に戻り。ジャンヌ・オルタは即座に剛力とチャージスキルを使って刃の軌道を変更。

縦切りから横一文字に。

さらに達哉の次の手をジャンヌ・オルタは予想し。

軽く振り上げ、間合い的に考えて頭部への唐竹だと。

フルンティングでの刺突攻撃を取りやめて。頭部を守るべく掌の中でフルンティングを回転、順手から逆手に持ち替えて。

刃が飛来するであろう軌道上にフルンティングの刀身を割り込ませる。

 

彼女の読み通り達哉は既に刃を振り下ろしていた。

 

がしかし読みとは違ってジャンヌ・オルタの右手を狙ってだ。

 

 

「ッ―――――」

 

 

炸裂したのは達哉の業でもなければ、ペルソナでもなかった。

 

柳生新陰流の奥義の一つであり基本技の一つ。

『十文字』 あるいは『合撃』と呼ばれる技法であった。

無論、まだ付け焼刃だ。

本来なら反射的思考でなされるソレをノヴァサイザーを使って思考しながら行使するに至る。

即ち先ほどのノヴァサイザーで実戦での使用に耐えうる攻撃動作時間を稼いだのである。

右手首から先を折れた正宗が切り落とし、

全力で振り抜かれた右手はあらぬ方向に切り飛ばされ、右手に握られていたダーインスレイヴは消えうせる。

 

 

 

そしてジャンヌ・オルタ自身が達哉の剣筋を良く知っているというのも達哉にとっていい方向に働いた。

戦闘下に置いて相手の手筋を読むということは非常に重要なウェイトである。

そしてその戦闘行為の数式の読み合いの正解はその時々。さらに言えばリアルタイムで変わっていく。

つまり相手を知り過ぎていたことがジャンヌ・オルタの敗因だった。

達哉を知り過ぎていたがゆえに。彼女は彼女の知る達哉では持ちえない攻撃を。

付け焼刃とはいえ立派な殺傷能力を持った物に気付くことが出来なかった。

ジャンヌ・オルタは即座に防御の姿勢を捨てて達哉の頭部に向かって逆手に持ったフルンティングを振り下ろすものの。

既に読み合いの上をいかれたのである。

達哉は左手を突き出し、振り下ろされていたフルンティングの刃を食い込ませて、そのまま手に力を入れて固定。

残った右手で、刀を握りしめて。そのまま突き上げるように。あるいは捩じり込むように。

ジャンヌ・オルタのガラ空きの胴に切先の折れた刀を突きさし、それは寸分の類なく心臓を穿ったのである。

 

 

 

「コフッ」

 

ジャンヌ・オルタの口から血反吐が漏れる。

それが達哉の髪の毛を濡らし。

切り裂いた傷口から噴射した血液が達哉をさらに血で汚した。

 

場が静止したように静寂になる。

血がしたたり落ちる音だけが虚しく響いた。

 

「―――――」

 

達哉は刃を半回転させかき混ぜるように傷口を拡大させると同時に心臓とその周囲の生体器官と筋肉を破壊し。

刃を引き抜きやすくするという術理であり作法を履行し。

刃を引き抜きつつ後退。

ジャンヌ・オルタは達哉に左手を伸ばしながら、そのまま背後に仰向けに天井を仰ぎ見るかのように倒れた。

 

 

「・・・やっと」

 

 

自らの血に身を漬しながら彼女はどこか嬉しそうだった。

ようやく長い坂を下り終えたかのように。

或いは嫌すぎる自分に対して願いは叶わないという絶望ではあれどようやく終わることが出来た。

背負っていった荷から解放されたことに対する安堵感からか・・・

 

もう戦闘が出来る状態ではないと達哉は見極め。

荒く息を吐きながら構えを解く。

 

「やっと望んでいた場所にたどり着いた気がする」

「・・・こんな場所がか・・・」

 

彼女の独白に達哉はただただ顔を悲嘆に歪めた。

ボロボロの城砦。誰も彼もを生贄に捧げてたった一人の殺戮の丘。

己が恩讐の果てに嘗て愛した人に似た別人に討たれることが

 

「・・・ええ、もう辛かった。生きるということが己をやり通すということが。本当につらくていたかった。」

 

生きていれば失ってもまた得て。また奪い取られ憎み走っての繰り返しだ。

だから人は死を望むのだ。

この世界ではそのたぐいの代表格がエミヤだ。

終わらないから死を望む。

でもジャンヌ・オルタは理解したうえで生きるほかなかった。

 

「でも復讐したかったのは本当なのよ、憎かった。そう人を落していく現実が・・・」

 

希望は見えず絶望だけがある。

だから復讐して全部終わらせてしまおうと思ったのだ。

だから勝てるはずもない。

 

「生きたくて死にたくて。殺したくて――――――嗚呼。アナタをせめてここに来てしまったアナタだけを救いたかった。」

「そうか・・・」

 

ジャンヌ・オルタは誰も救えなかった。

だから・・・・終了と言う救いだけを持って与えたかった。

それが悍ましくても、醜くても、無様であっても、妥協であっても。

心の奥底から望んだ彼女の願い。

 

「私はもう死ぬ。これでやっと・・・・やっと」

 

ジャンヌ・オルタが手を伸ばす。

達哉に対して。

でも届くことはない。

何故ならジャンヌ・オルタの知る達哉は此処に存在せず。

達哉はジャンヌ・オルタとあの世界で出会ったこともないのだから。

ただ虚しく憎悪と殺意と哀愁だけが交差して此処に終結した。

 

完全にジャンヌ・オルタは絶命しこと切れていた。

瞼は下ろされ

 

「・・・」

 

ジャンヌ・オルタは消滅しなかった。

ただ命が抜けた亡骸が残っている。

彼女はあの瞬間にこの世界に生れ落ちたのだ。

生きていた。間違いなく生きていたのだ。

それを達哉は殺した。己の意志で。

彼の握る折れた正宗から血が滴って手を汚している。

それを服の裾でぬぐい取って。懐からチャクラドロップを取り出し口に放り込んで。

精神力を回復し、アムルタートを呼び出し左手の刺し傷を治癒しアポロを呼び出す。

 

「達哉さん・・・なにを・・・」

「・・・キリスト教では・・・死体を焼くというのはナンセンスであるというのは分かる」

 

でもきっと。彼女は神の身元まで行くことを望みはしないだろう

 

 

「だからこうしよう、マハラギダイン」

 

彼女はきっと神の場所に行くことを望まない、寧ろ嫌がるだろう。

だから燃やす、灰になるまで。

そうやって骨さえ残さず達哉はジャンヌ・オルタを燃やし尽くし灰にする。

葬送を終えて転がっていた聖杯を回収しつつ達哉はジャンヌに歩み寄って手を伸ばす。

 

「帰ろうか…」

「はい」

「立てるか?」

「いえ、もう結構限界でして・・・」

 

ジャンヌも限界だ、自爆宝具使ったのだからこの程度で済んでいるだけマシと言う物だろう。

達哉は苦笑し。

 

「あっ」

「あー、悪いがこれが一番だ」

 

達哉はジャンヌを背に背負う。

御姫様抱っことかはセクハラゆえだ。

 

「・・・なんか問題が在ったら言ってくれ」

「いえでも大丈夫です、幼いころ遊び疲れてピエール兄さんに背負ってもらったことを思い出しまして」

「そうか、じゃ行こうか」

 

皆が待っていると、入り口に振り返り、達哉の前には・・・

ジル元帥が存在していた。

 

「えっ」

 

ジャンヌは唖然となる。

達哉も無論だ。

彼の貌は狂気に歪んでいる、彼の手に持っているのは入り口付近に転がっていたはずの”ロンギヌス”

 

―刻は繰り返される―

 

影が笑い

だから、達哉はジャンヌを投げ飛ばし。

疲労もあって回避も防御もできず

 

「あっ」

 

ジル元帥の凶行を受ける他なかった。

 

槍が真直ぐ伸びて・・・血がほとばしる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、フィレモンのヤツは見ているだけだが、私は違うよ」

 

ところ変わって二階に上がる為の大広間で、合流したカルデア一同の前には影の化身が一人。

右手のタクトを弄びながら、彼らの殺意を受けてもなお、微笑みを崩さない。

寧ろ滑稽だとばかりにカラカラと喉を鳴らして笑っている。

 

「では解説と授業の時間だ。カルデア」

 

まだ事態は終わっていない。

突き付けられる現実は如何なる戦士であれど絶対は無いという事に他ならぬ。

英雄譚のテンプレート、身内からの不意打ち、嫉妬による狂気が牙をむき結果を生み出す。

再現されるはモナドでの達哉の過去。

彼が舞耶を失った惨劇その物だ。

 

 

 

 




と言う分けで決着回ですた。


多重流星は邪ンヌの戦闘スタイルですね。
回転切りを主軸に回り続けて相手を意地でも殺すスタイル。
メインをよけると短剣やら蹴り技が飛んでくる。
かと言って防御に徹していると削り殺される、カウンターを狙うと足運びや体運びで回避される。
奇を照らしたところでペルソナスキルで回避という魔剣。
しかも執念やら血反吐を吐きながら身に着け構築した物なので隙がない
彼女自身の体力がなくなるまでズット、邪ンヌのターン。
某格闘漫画の煉獄+クライムバレエの様なイメージ。
ちなみにこの戦闘スタイルはキタローのミックスレイドを見て鍛え始めた模様。
さらにキタローのミックスレイドから発想を得て開発した無慙式バグ合体スキルを好きにねじ込んでいくスタイル。

オーヴァードーズ
原理が違うリバース・イド。
白痴に接続以降使用可能となった。強制的に阿頼耶識から力を引きずり出すスキル。
ただしこれは強引に阿頼耶識から力を引き出すため、嫌が応にも使うと短期決戦をせざるを得なくなる。
今回は邪ンヌは限界値だったため使用できず

バグ技。
これはP2の頃から使用。
ただし今回はなんも感も限界だったため使用せず。


スティンガー
某悪魔狩人の技、邪ンヌはその突進力に目を付けて目で見て盗んで覚えた。
ただし本家本元には及ばないため、邪ンヌ好みにアレンジした結果、某悪魔狩人の甥っ子のストリークに近い形となった。



ニャル的には予想外だったけど。嗤える方向で予想外だったので容認OK。
寧ろ次がメインディッシュ。
皆忙しかった。特にジャンヌには余裕はなかった。
故に彼の狂気が爆発する
狂気に揺らぐジル元帥。落ちている槍、たっちゃんとジャンヌの英雄譚の様な一幕


ニャル「あとは分かるな?wwwwwww」

フィレ「貴様のこのために槍と聖女いじめを・・・」

ニャル「勘違いするなよwwww フィレモンwwww 私は連中の願いを叶えてやっただけだwwww 選ぶのは連中だともwwww」


主人公が崩れなくても、周囲の人物を崩して積極的に崩していき。
そいつのやらかしに巻き込むのもニャルの常套手段の一つです。

本当にクソッタレだな、おい。


という訳で。第一は次回のニャルニャル回で終了だよ!!

遂にニャルラトホテプがカルデアの前に姿を現すよ!!


と言っても書けば書くほどやり直したくなっているので少しお待ちください。



オマケ 邪ンヌのペルソナことカタルシスエフェクト

ダーインスレイヴ
アルカナ 戦車
Lv90
斬耐 突耐 銃耐 炎耐 核耐 地― 水― 氷― 風無 衝無 雷- 重無 闇吸 光無 精無 異―
スキル
チャージ
貫通
刹那五月雨斬り
空間殺法
金剛発破
物理ブースター
物理ハイブースター
エストマソード
逆襲の顎 物理属性及び万能属性で単体に特大ダメージ ダメージの50%分 SP及びHPを回復

ジャンヌ・オルタの後期ペルソナ。
身丈ほどもある大剣。
形状は柄と鍔と刀身を延長したツヴァイヘンダーに近い。
ジャンヌ・オルタの独自の構えから十字架を背負っているようにも見える
コンセプトは物理で殴って絶対殺す。


フルンティング
アルカナ 戦車
Lv90
サブ使用であるため耐性はダーインスレイヴと同じ
サブ使用であるためステータスは無し
スキル
ディアラマ
アドバイス
デクンダ
大治癒促進
勝利の雄たけび
トラフーリ
グライ
食いしばり

ジャンヌ・オルタの初期ペルソナ。
歪にねじれ曲がった奇怪な刀身を持つ刺突短剣というより釵に近い。
その形状故に使うには相当の訓練が必要だったうえに。
覚えるスキルがチグハグすぎて使いずらい。
まさしく役立たずのフルンティングである。
キタローのペルソナ運用を真似たおかげでサブ試使用が可能となった。



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第一章幕引き 「奇跡は無く故に我らは選ばなければならぬ」

私達は羊の群れ。
道を誤りそれぞれの方向み向かって行った。
その私達の罪を全て主は彼に背負わせられた。
苦役を課せられ、屈みこみ彼は口を利かなかった。
祭壇に捧げられる子羊の様に。


イザヤ書より抜粋。


ジル元帥は何時も取り残される側だった。

これはジャンヌの気質もあろう。

旗を掲げ鉄火場へと突撃する、いつも不安だった。そして取り残されていくような気分だった。

ジャンヌが武功を上げれば上げるほど彼女は最前線へ、ジルがその知略を発揮すればするほど彼は後方へ。

何時も英雄譚などとは無縁だった。

無論後方の重要性は知っているが裏方は裏方だ、本当は表に出てジャンヌと共に駆け抜けたかった。

だが立場がそれを許さない。

そして立つ時間が徐々に彼と彼女の間に溝を作り、最前線と後方勤務という谷となった。

そして運命の時が訪れる、コンピエーニュ包囲戦である。

無論、ジル元帥は止めたが、手紙でのやり取りでその誠意まで伝わらず、結果ジャンヌは捕縛された。

後は言わずもかなと言う奴である。

だから彼は自分自身に対する怒りか失望で魔道へと歩みを進め。

 

フランス全土がある日突然炎上したかのように惨劇に見舞われた。

 

ジャンヌ・オルタの具現とそれに伴うIFの発生。

そして蘇ったジャンヌ。ジル元帥は取り返せるのだと思った。

だが・・・

 

 

蓋を開けてみればどうだっただろう。溝は広がるばかり、無理をして最前線に出て見れば結果は御覧の通り。

主役は達哉を筆頭とするカルデアと抑止のサーヴァントばかりと言った有様だ。

ジャンヌは最前線へジルは後方へ。

そしてジャンヌは心を折られた。

だから今度こそ救おうとする。

あの日、須藤がティエールに強襲を掛けた日。

落ち込むジャンヌに声を掛けようとして声を掛けれなかった。

どの様な言葉を言っていいか分からなかった。なんせあそこまで今にも砕けそうな罅だらけの水晶のような表情をするジャンヌを見るのは初めてだったから。

ジルが知る凛とした彼女はどこにもいない。どう言葉を掛けるべきかと迷っていた時である。

そこに現れた達哉がジャンヌを癒して見せたのだ。

 

故にまた機会を取り逃がしてしまったということに他ならない。

もっとも達哉はそこらへんの経験値が違う。何度もニャルラトホテプにへし折られればそこからの立ち直り方を学習するのも当然で。

それはへし折れた他者を救う手立てを持っている事でもあるからだ。

もっともその場はお開きとなった。須藤が強襲して場が荒れたからである。

 

機会を逃す。

 

だからこそ今度こそはと影の誘いに乗った。

 

 

だが・・・・

 

どうだ?

 

ボロボロになっているジャンヌ。

未来の服装を着こなし、右手には大剣、左手には異形の短剣を持ち絶叫しながら殺意を滾らせるジャンヌ・オルタ。

鬼の様な形相で神々を呼び出し剣を振って肉薄する達哉。

両者ともに人間どころか並のサーヴァントですら立ち入れぬ超高速戦闘を行う。

ぶつかり合う殺意と殺意が炸裂しジル元帥を竦ませた。

入口付近でへたり込むジル元帥を他所に。

状況は進んでいく、そして紙一重の差で達哉が勝利した。

敗北したジャンヌ・オルタのか細い慟哭と歓喜が場に虚しく響き、ジャンヌ・オルタは救われたかのように目を閉ざした。

そして達哉がジャンヌを背負う、彼女には少女の様な微笑み。達哉は苦笑していた。

英雄譚の終幕にして幕引きである。

故に、蚊帳の外に置かれたジル元帥の嫉妬はいかがばかりか。

何時も置いていかれた。彼女を救いたいと望み叶わず狂気に埋もれかけて・・・

今回こそはと意気込みこそしてみたが、いつもジャンヌを助けたのは達哉で。

ジャンヌ・オルタに死と言う救いを与えたのも彼である。

本当なら自分がその場に居たいのに、なぜこうぽっとでの達哉がそこにいるのかと怒り、狂い嫉妬し。

ちらりと隣を見る、ジルのすぐ横にはロンギヌスの槍が転がっていた。

誰も癒せぬ傷を刻み込む聖槍。

ジャンヌがサーヴァントしてよみがえったことによって封印されていた狂気が罅割れた感情の蓋からあふれ出し。

 

そして

 

「・・・なんか問題があったら言ってくれ」

「いえでも大丈夫です、幼いころ遊び疲れてピエール兄さんに背負ってもらったことを思い出しまして」

「そうか、じゃ行こうか」

 

ジル元帥ですら聞いたことのない家族の思い出をジャンヌが達哉に言う場面を見て。

なぜそこに居るのが自分ではなく、ぽっと出の匹夫なのかと言う想いが洪水のように溢れて。

壊れかけていた精神が完全に崩壊し。

懐にしまい込んでいた魔導書が胎動し、ジル元帥の身体能力を強化して。

 

 

気付けば”ジル・ド・レェ”はロンギヌスをもって、達哉を刺し貫いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「達哉さん!?」

「ごふ・・・」

 

 

腹部に穂先が刺さり込む。

血反吐を吐きながら達哉は見た。

憤怒の形相に染まり切って自分を見ている、ジル元帥を。

 

「ジル・・・元帥・・・、なにを・・・」

「だまれぇ!! ジャンヌを惑わす異教徒の神の徒めがぁ!!」

 

彼は完全に正気を失い錯乱していた。

なにがどうしてと達哉もジャンヌも思い

 

「そりゃそうなるでしょ、愛しの聖女が異邦から来た青年に熱を上げている様を見せつけられた挙句、自分にはできない事をやってのけて、蚊帳の外に置かれる。並大抵の男でさえ嫉妬するんだから、人の頸木を外れた狂信者だったらこうもなろうに」

 

嘲り。

達哉とジャンヌの視線の先で頭部は骸骨、衣類は黒装束の化身「Lucid」苦笑気味に嘲笑っていった。

ジルには捉えられない存在。

即ち影である。

 

「同じことをなしうると考える限界までは、他人の幸福をよしとして受け入れられるも、限界を超ゆる人は嫉妬され、疑惑の目を向けられるだったかな、いまの状況にピッタリだろう? 君は作られた代用品の聖女にある意味導きを与え救いを与えた。そこのへし折れた聖女には答えへと導き本当の芯を与え救いを齎した。ジル・ド・レェが過去も今も未来も出来なかったことだ。

彼が何よりもやりたくてできなかったことをやってのけた。本物にも理想とした代用品にも。だからこうなるのさ」

「っ」

 

影はそういって嗤いつつ。

そんな姿をしり目に達哉はジル・ド・レェの顔面を殴り飛ばし、次に腹部に蹴り飛ばし間合いを離す。

たまらずジル・ド・レェは強引に離されて仰向けに倒れながら悶絶していた。

 

「達哉さん!?」

 

フラリと膝をついた達哉の左肩を掴み支えるジャンヌ。

その姿を見てジル・ドレェの狂った嫉妬心は加速する。

もうこうなれば止まらない、ジャンヌと達哉のかかわりがジル・ド・レェには嫉妬心を掻きむしる者にしか映らない。

あの美しい光景に居るのは自分であるべきはずなのにと・・・

ジャンヌは達哉を支えつつその場を離れる。

既に人理定礎は修復されあと5分ほどで場は無くなる。

そうなれば・・・逃げ切れると判断しての事だった。

 

「おのれぇ・・・、おのれぇ・・・・!!」

 

緩やかに立ち上がるジル・ド・レェ。

普通であれば達哉の拳を顔面に喰らったのである、首がへし折れるような衝撃が襲ったはずだ。意識が飛んでいてもおかしくはないのだが。懐に入れた魔導書の影響で身体能力が強化されておりそうはならなかった。

折れた鼻が自動的に修繕され彼は飛び出すように”槍”を握りしめて走り出した。

 

「また逃げた」

 

そうLucidは呟き口元を三日月上に吊り上げる。

選べる分水領だった。

だが彼女は逃げた、狂気に染まった彼から。

現実というのは常に選択を迫るが猶予はある。

達哉やオルガマリーにマシュ、そしてカルデアは最善とは言わず最良の選択を取っていった。

 

「頑張ったね、君たちの勝利だとも。嗚呼、けれどね」

 

群れで行動するというのは団結するという強みがあるが。

それは同時に一人のミスが群れを破滅に導く脆弱性を秘めている。

 

 

そう選択をミスったのだ。

 

周防達哉が? オルガマリー・アニムスフィアが? マシュ・キリエライトが? カルデアが?

 

否、いいや否であろう。

 

彼らは懸命に周囲と向き合い出来ることをやって勝利をもぎ取った。

カルデアの面々はきちんと周囲と向き合った。

だが彼の狂気を払えるのは狂気の十中にいる者のみ。

即ち、ジル・ド・レェがこんなことになったのはジャンヌの所為であろう。

彼が狂気に居る以上、壊すことは他人にできても、治すことはジャンヌにしかできぬ役割だったから。

がしかし件の聖女は己の代替品に人間性を否定され、人形によって信仰を完膚なきまでに破壊された。

精神的に壊れかけていた?

そんなもの理由にもならない。

壊れるまでに追いつめられる前に彼と過ごしていたはずだ。

人理の守り手故に彼のその後を知っていたはずだ。

壊れるまでの期間に正せたはずなのに。彼の上っ面だけを信じて目を背け。

そして壊れかけて太陽に救われ、光で目を閉ざして目を背け続けたのだ。

当然の報いであろう。

 

「ふふ、贋作の方が出来がいいとは滑稽だよ」

 

間違いこそ全力でしていたが、

周囲に目を配り憎悪を背負って歩む不出来な贋作の方が、

宗教的聖人の殉教者に見えるというのは実に皮肉である。

 

「だからこそ、選べ、それが君の最後の試練であり、僕が与える罰だ」

 

そうだからこそ選ばなければならない。

現実という影は逃がしはしないのだから。

己がIFという名の影から目を反らし、隣人の狂気には目を伏せて、自身を救ってくれた太陽に依存する。

逃げ続け都合の良い綺麗な概念に縋りつく女にはふさわしい罰であるとのだ。

 

 

 

 

 

「皆ボロボロね」

 

偶然にもオルガマリー達は合流に成功していた。

加えて通信が回復し、既に達哉とジャンヌがジャンヌ・オルタと交戦状態と言う事もある。

と言っても全員ボロボロだ。

魔王を相手取っているのだからむしろ損害は軽い方だろう。

と言っても、長可たちの様相は酷い物だった。

衣類鎧がボロボロである、彼ら曰く無茶をしたとの事らしい。

帰還後はダヴィンチによる霊基修繕が待っているだろう。

そして・・・

 

「想定していたより、遅かったねカルデア」

 

二階へとつながる階段の上にソーンが存在していた。

 

「誰ですか?」

 

無論、マシュも所長も知らない存在である。

と言うか特異点内部で現代の服装をしている時点で異常だ。

さっと、クーフーリンと宗矩が二人を庇いように前に出る。

 

「下がっていなさい。こやつ人間ではない」

 

宗矩は一目見て見抜いた。確かに目の前にいる存在は人間であるが。

中身が人間ではないと見抜いたのである。

 

「テメェ・・・この深淵の香り・・・テメェがニャルラトホテプか」

 

そして神代の英雄であるクーフーリンの鼻は誤魔化せない。

魔力の匂いから、あからさまに神に類似すると感付いたのである。

 

「その通り、私がニャルラトホテプの貌の一つ、第二特異点担当のソーンだ。よろしくお願いするよ」

 

カラカラと笑みを浮かべて、ソーンは揺るがない。

場が凍っている。殺意だとかではない、コイツは存在してはならない生き物だと全員が無常の殺意を発しているのだ。

 

『所長、止まってないで早く、達哉君の所に!?』

「ロマニ、なにがあったの?」

『分からない!? 達哉君の礼装がイカレたのか状況はこっちでもつかめないんだ! 兎に角、達哉君のバイタルサインが酷く乱れて・・・致命傷だ!!』

 

復旧した通信からはロマニの悲鳴が上がる。

達哉が重傷を負ったと。

ジャンヌ・オルタの悪あがきでも喰らったかとマシュとオルガマリーの顔色が急降下。

それを見てソーンは嗤って

映像を展開、さらにカルデアの管制室の大スクリーンにも介入し、達哉の惨状を映し出す。

 

「さて、フィレモンのヤツは見ているだけだが、私は違うよ」

 

映し出されるのは、狂った表情でロンギヌスを達哉に突き刺す、此処にはいないはずのジル元帥の姿が映し出されている。

 

「では解説と授業の時間だ。カルデア」

 

映像を見ていた全員が呆然とする最中でも調子を崩さずに

 

「と言う分けで・・・あの聖女モドキは最善を尽くせなかった。その結果がこれだ。」

「ジャンヌさんが最善を尽くせなかった?」

「ああそうとも、全員が向き合っているなか、与えられた都合のいい役職に縋りつきジル元帥とのコミュを怠った。君たちが来るまでの交渉はマリー・アントワネットとそこのゲオルギウスが行っていった。初期の交戦で仮面を剥がされかけていた彼女は本当の小娘としての自分を見られたくない余り、ジル元帥の前ではいつも以上に英雄として振る舞い、自分自身として胸元を拓くという事を怠った。それで須藤によってへし折られた彼女が縋ったのはジル元帥ではなく、都合のいい答えを与えてくれた周防達哉だ。お前たちもジル元帥の狂気は知っているだろう? ジル元帥が恋慕していたジャンヌが

自分を無視して得体のしれぬ男に興味を移せば容易く狂うのは眼に見えていたはずだ。そしてそんな危険な狂気を持っていることを知っている上に原因は自分にあるということも分かっているくせに無視したからこうなったまでの事だよ。ね? 最善を尽くしていないだろう?」

 

ジル・ド・レェの抱える狂気の事は分かっていたはずなのだ。だがそれを押さえる努力を行った。

ボロボロだったというのは言い訳にもならない、ジル・ド・レェの望みはジャンヌが自分自身に背を預ける事だったから。

寧ろ本心を明かすことでジル・ド・レェの狂気を押さえられたはずなのに。

少女としての自分を見せて失望されたくないと一線を引いてしまったことが今回の元凶である。

 

「吹かしこくなや・・・貌無し、テメェがジル元帥をけしかけたんだろうが!!」

 

長可は激昂する、大方お前がけしかけたんだろうと。

ソーンはその様相を見て嗤いを深めた。滑稽で仕方がないと言わんばかりにだ。

 

「うん、私の片割れがそうしたね。でもね、私たちは何時も選択肢を提示しているだけに過ぎないんだよ? 選ぶのは当事者たちでしかない。間違っているならば選ばなければいい、違うかい?」

「選ぶ選ばない云々前にそう追い詰めりゃ、誰だって選ばざるをえねぇだろうが!」

「それでもと言える強さが無いのが悪い、第一にだ。死人が戻ってくるわけないだろう? 甘い蜜には裏がある。真っ当な人間なら選ばない、ましてや達哉レベルで追い詰めていた訳じゃないんだからね、都合のいい事象に目を向けて都合のいい答えを選んだ結果じゃないか、自業自得だよ、それに巻き込まれただけだ。たっちゃんはね」

 

クーフーリンの反論にも達哉レベルで追い込まれていたならまだマシも、状況的には選ぶ余裕はたっぷりあったはずだとニャルラトホテプは指摘する。

現にその通りである、ニャルラトホテプはそこまでジル・ド・レェを追い詰めてはいない。ただ選択しを提示しただけだ普通の大人ならばまず選ばないことをだ。

故にニャルラトホテプからすれば、脅かすだけに危険もなんもない場所で背を押したら、勝手に都合のいい妄想を行い爆走したあげく、恋慕していた女を刺し殺すという滑稽な結果が出たに過ぎないのである。

もっともそうなる前にジャンヌがちゃっちゃと内心ぶちまけて置けばこうはならなかった。

故にジャンヌのせいで、彼女のやり残しの不始末に達哉は巻き込まれただけだという。

 

「まったく。君たちは最善を尽くしたというのに最後の最後のであの女がダメにした。物語の主役とはつまり神の玩具。私のお気に入りの駒に夢中になればこの結果は簡単に予測できただろうに。そう言った意味では主役として「コノォ!!」っと」

 

未だ直、挑発を続けるソーンにマシュが盾を振って躍りかかる。

もっともソーンは右手にタクトを媒介とした漆黒の槍を呼び出し防ぎつつ、振るわれた盾を受け流し、体勢が崩れて露になったマシュの横腹に蹴りを叩き込み吹っ飛ばす。

フォローに動いた、クーフーリンと長可も槍を繰り出すが、ソーンはひょいひょいと余裕を持って回避。

そしてマシュを得物を前にした猛禽類の如き笑みを浮かべながら見つめて。

 

「君、ジャンヌ・オルタに言ったよね。”自分がされたことを他人に押し付けてなんになるんですか””痛みを知るアナタが止めなければならない事じゃないですか”とね。でもねそれでは達哉の理解者とはほぼ遠い。彼とて日輪丸で盛大にやっているんだよ。私に対する思念でね。ではその復讐心の根源を分からせるため。彼の心の裡をどうにかしてやりたいと思い願う君たちの為には? 単純だ他者を憎むシチュエーションを作ればいい。作ってあげたのだ。一ついいことを学び、君たちは彼の心を理解できただろう? どうだい? これが他者を心の奥底から憎むということだ。そしていくら君たちが頑張っても所詮は此処においては修繕者でしかない。過去の濁りを解消できるのは当事者たちのみという無常な現実を味わい一つ理解したわけだ。成長できたかな? じゃないと第二を一旦切り上げてここまで来たかいが無いというものだ。」

「―――――――殺す」

 

ソーンの挑発に普段のマシュからは考えられない殺意のこもった声が漏れる。

自分は良い、だがジャンヌを侮辱され、達哉まで笑い、悪意で人を絡めとって選ばせたあげく滑稽で仕方がないと嘲笑い。

挙句お前の成長のためにやっているんだと嘯くのだ。

切れない方がおかしいだろう。

 

「いいね、実にいい、人形から人間らしくなったじゃないか!! いいね一つ成長できたんだ喜べよ、そして感謝したまえよ。」

「誰がお前なんかにぃ!!」

 

マシュが怒りのままに盾を振う。

オルガマリーも宗矩も怒髪天で武器を向ける。

 

「おいおい、そこの所長さんは兎にも角にも、剣豪殿がキレるのは珍しいなぁ。ああそうか。そこまでだったか? いい子だろう周防達哉は、お前の不気味な息子とは違って率直で凡才ながらもしっかり付いてきてくれる子だものね」

「ッーーーーー」

 

宗矩の怒髪天具合から彼の過去を暴き立てていく。

それは少なからず思っていったことではあるだが。

 

「そう思ったこともあるが、アレは私の自慢の息子だ。貴様風情が語るでない」

「おや失敬失敬、――――――っとこれ以上は調整に支障が来るな」

 

確かに剣才に不気味に思った事もある。だが手塩にかけて育て上げた自慢の息子でもあるのだ。

その愛に嘘はないと啖呵を切る。

もっともソーンはさらに抉り込もうとして時間を思い出す。

ゲームはこれからだからだ。

始める前にゲーム機とソフトを叩き潰しては元もこうも無いと言わんばかりにだ。

 

「さて、君たちは私の相手なんかしていていいのかな? このままじゃジル・ド・レェに二人とも殺されるよ」

「「「「「「「「「ッーーーーーーーー」」」」」」」」

 

全員がソーンの言葉に行動を止める。

今は時間が無かった。

 

「ダヴィーンチ、ロンギヌスの傷の癒し方は知ってるはずだよね? 達哉が実践してくれたんだから」

『そうなのかい。ダヴィンチ!?』

『ああ、先の会戦でね、ロンギヌスの傷はいえない、でも逆に言えば傷を上書きすれば治癒できる、傷の部分を抉り取ればね』

『それを早く言ってくれぇ!! アマネ!! 保安部連れて医務室から野外で使用する緊急無菌テントと各種機材に医療器具に万能細胞式生体人工臓器持ってきて!! ダヴィンチは技術スタッフと共に達哉君のコフィン前にそれらを設置して!!』

 

そしてソーンがロンギヌスの傷の治癒法を知っているだろうと指摘。

ロマニの問いに治癒法をダヴィンチが言って、ロマニは即座に保安スタッフと技術スタッフに指示を飛ばし緊急手術の準備を指示する。

 

「特異点崩壊修復まであと5分程度。達哉の体力も何処までもつかな? ほら早く言ってあげなよ、私としても折角整えた舞台があるから死なれても困るしね」

 

次があるから死なれても困るという理由でソーンは道を開ける。

マシュは犬歯をむき出しにしながらソーンをにらみつける、オルガマリーも無論同じで彼女に至っては握りしめた左手拳に指の爪が食い込んで血が流れていた。

 

「・・・行くわよマシュ、皆もそれでいいわね?」

「・・・了解ッッ」

 

オルガマリーの言葉に歯を食いしばってマシュが同意。

全員が達哉のもとへと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ・・・」

 

息が荒くなる、神経がささくれる、気が動転し思考が上手く回らない。

 

「なんでですか・・・」

 

ジャンヌは涙を流しながら達哉の腹部の傷を押さえる。

啓示スキルは機能せず聖女の祈りスキルでは傷は癒せない。

血は止めどなく溢れ続ける。

 

「なんで血が止まらないのよォ・・・」

 

癒せず止血もできない。

槍の効力もあるが止血処置による遅延ならできる。

がしかしジャンヌは近代医療の止血処置なんぞ知る筈もない。

所詮は文盲の田舎娘だ。

奇跡が意味をなさぬ場に放り込めば無力な小娘でしかない。

 

「ああだがしかしこのままいけば。レイシフトが終了しカルデアに帰還し際どいけれど死にはしない」

「貴方は・・・」

 

通路の奥から先ほどの少年が歩んでくる。

両手には二丁の拳銃が握られていた。

 

「なんでこんなことをするんですか?!」

 

ジャンヌが叫ぶ。

こんなことする必要性がどこにも見当たらないからだ。

がしかし少年はいけしゃあしゃあと述べる。

 

「なんでこんなことを? 当たり前だろう? ジル・ド・レェには狂ってもらわねば困る。それが歴史の修繕ってやつだからね。最善も最悪もこの世界は要らぬとおっしゃるから、僕はそのお通りに動いているだけさ」

 

ケラケラと少年は嘲笑いつつ言う。

全てが無かった事になるとはいえ歴史の齟齬は少ない方が、

修繕作業も楽になるという理由でだ。

 

「だから僕は僕の仕事をしているだけさ。でもまぁそれではいい結果という物は出ない。だから選ばせてやろうと思ってね」

「なにを・・・」

「ジル・ド・レェは狂わなければならない、がしかしだね、特異点の犠牲者は全てが戻ってくるはずがないというのは君もしっての通り。だからさ、狂ってしまった彼を終わらせるチャンスだよ。」

「・・・なにを」

「目を背けないでほしいね、君はサーヴァント、人理の守り手だ。知っているんだろう?」

「・・・」

 

そう達哉たちに告げられていない真実を無論。

ジャンヌは知っている。

 

「だから殺して楽にしてやりなよ。そうすれば、余った時間で達哉の止血処置で時間を引き延ばして、治療可能なカルデアまでの時間を稼げる。」

 

だからこそとち狂って暴走している彼を哀れに思うのなら彼を殺せと影は嘯く。

そうすれば達哉は救われるのだと。

 

「ああそれとも、恩師を殺すのは気が引けるから救いの言葉をかけて彼を説得するかな? でもさぁ。これは望んだことだよ、誰よりも君がね」

「何を言ってるんです」

「何言っているんだい? 君には後悔も嘆きも無念もないとおっしゃり。その上で自分たちの辿った結末は変えてはならないと言ったじゃないか。藤丸の方、すなわち主要時間軸でね。だから結末だけは変えないで上げたのさ、僕自ら動いてね。感謝してくれたまえよ?」

「ふざけるな!!」

「ふざけるな? フフフ、アーハハハハ!! ふざけてるのは君だ。先のご立派な倫理を述べた口で向こうでジルの狂気を払う事を言ったよね?」

「――――――」

「後悔も無念もない癖に、なんであんなことを言ったよ。これは君自身のスタンスと矛盾している。あの行動の影響で再び人理が崩れるとは思わなかったのか? 記憶から無くなっているとはいえ無意識領域では覚えている故にだ。おかげで向こう側のジルを狂わせるのに一手間かける羽目になった。故にお前は矛盾だらけだ。しかし口では何とも言える。本当はサ、無慙無愧な人間は存在しないのも確かだ。故に選んで存分にやりたいことをやるがいい」

 

だがしかしジル・ド・レェを説得するという選択肢もある。

だがそれをすれば、止血する存在が居なくなり、

達哉は失血死するだろう。

 

「どれでもいいんだよ、僕としては。ジルか達哉か、個人か世界か、慈悲をもっての死か無慈悲を持っての生か。好きな方を選べばいい、誰かを救いたいという願いを叶えてやったんだ。そして選択の重みを分かっていない君に理解させるためにこの場を用意したんだ。むしろ喜んでほしいくらいだね」

 

そう決意を、あり様を口にして履行した。

であるなら救ってもらおう、彼が大事なのだろうと影は笑いながら。

 

「両者ともに大事ではある、しかし嗚呼、しかしだね君は二人を救えるほど手は長くなく、また知恵も持たない」

 

両者ともに選べる力も知恵も哲学もない、

故に選ぶほかないなのだ。

人は全てに手を伸ばせぬゆえに選ぶしかない。

影は嘲笑い聖女を己が心を優先したがゆえに裏切った騎士は迫って。

兄の様と慕い自分自身を救済してくれた青年は血を流し続ける。

試練である

 

 

―そう、この試練を乗り越えた果てに君は人の英雄としてなれる―

 

 

蝶が言祝ぎを告げる。

これぞ聖女に貸せる最後の試練。

大事な者を認識し救うことによって人の心を知って器となれる超人を生む試練だ。

 

「君はあまりにも多くの事を知らなかった。ジャンヌ・オルタの指摘した通り、殺人に対する責任感が欠如していた。命の重みを知らなかった。今分かっただろう? 君が旗を振って扇動し突撃させた者たちの命の重みが!!」

 

もう此処に至り、命の重みが分かっただろうとLucidは嘲笑う。

血が抜けて冷たくなっていく体、命が失われようとして小さくなっていく鼓動。それに比例して生きたいという思いが強くなり足掻く様。

それらをすべて見届けるという行動の重み、命をすり減らすということはこういう事なのだと。

本当の意味でジャンヌに教え込む。

 

「さて、それを踏まえたうえで、選択しろ」

「ジャンヌゥ」

 

さぁ今こそ選択の時だと影が嘲笑う。

成長が本物であれば。心が本物なのなら。信念が本当の物なら選んで救えるはずだと。

さらに最悪のタイミングでジル・ド・レェも来る。

その手にはロンギヌスの槍だ。

彼を殺して救うか彼を殺さず達哉を見殺しにするか。

涙が両目から流れてジャンヌの視界はジル・ド・レェと達哉を行き来する。

どれを選べばいいのか、答えは二つに一つ、やり直しは効かない、これが他者の命を背負ったうえで選択する重荷であると。

Lucidは口には出さないがカタカタと顎を鳴らして嘲笑っている。

どうすればいいと、ジャンヌは必至に頭を動かすが、どうあがいても出てくるのはこの二択のみ。

だがしかし。

 

「タツヤ!!」

「先輩!!」

 

そこにみんなが来る。

助かったとジャンヌは思い。

 

「ダメダメ、これは彼女に対する試練だ。余人が介することは認められないね」

 

Lucidが本格的に動き出し二丁拳銃を構える。

 

「お前、手出さないじゃぁなかったの!?」

「それはソーンがそういうスタンスで僕は違う。ああ名乗るのを忘れていたね、僕は第一特異点担当のLucidだ。長い付き合いになると思いますれば、よろしくお願いしますよ、星見の方々」

「そこをどけぇ!!」

「いやだよ」

 

オルガマリーが発砲、だが未来を見ているかのようにLucidは完全に対応する。

全員が総攻撃を開始するが結果は変わらない。

 

「そらそら!! 僕を倒して達哉の所に行くんだろう? もっと頑張らなきゃ死んじゃうぜ?」

「いい加減!!」

「黙れ!!」

「嫌だよ、ほらもっと頑張れって、じゃないと僕を倒して彼を救うって選択が取れないよ」

 

援軍は見事にLucid単騎で止められ。

ジル・ド・レェがゆっくりと近づいてくる。

ジャンヌは場を走馬灯のように見た。

ゆっくりと流れる時の中で全員の視線がジャンヌに釘付けになっている。

選べ、選べ、選べと攻め立てる様に。

時間はなく選択の時は近づき。

焔が上がり、うめき声と共に赤が疾駆した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朦朧とする意識だけれど彼は意識が覚めた。

ちらつく槍。

狂気濡れた誰かと、刺されようとしている女性。

光景がダブる、されどあの時とは違い槍を持つ存在を殺してはならないと直感が告げた。

意識は白濁としているが死に身突いた戦闘感覚が最適解を呼び起こす。

 

 

故に

 

「ア・・・ポろ・・・・」

 

アポロを呼び出しながら首筋に造血剤のアンプルを叩き込む。

 

「マハラギダイン・・・・」

 

舌を噛まぬように布の代わりに自身の腕を噛み。

スキルは攻撃魔法を選択。

極限まで炎を絞って腹部の傷に炎を当てロンギヌスの傷を焼き切りつつ火傷で一時的に止血。

 

「ギッ!?」

 

余りの激痛に意識が飛びそうになる。

腹部の傷が焼き切られて聖槍の傷を上書きする。

そして白濁とした意識は傷を焼き切った痛みで完全に覚醒した。

無論一時的な物であっても。十分なものだと。

達哉は足に力を込めて立ち上がり。地を蹴る。

 

「なっ」

 

誰の驚愕だったかは知らない、達哉的にはもうどうでもよかった。

放たれた矢の如く走る。

突き出されるロンギヌスを半身翻して完璧に回避。

そのままジル・ド・レェに組み付き押し倒し拳を振り上げ、思いっきり振り下ろす。

 

「うぉぉおおおおおおおお!!」

 

フラッシュバックする。

姉と慕っていた人が刺された瞬間を。

そして焼ける寺の境内に閉じ込められていた夜を。

だから殴るひたすらに殴り続ける

 

「この「五月蠅い!!」

 

抵抗するジル・ド・レェであるが達哉はそれを許さず。

それに跨り襟首を左手でつかんで達哉は右こぶしを振り下ろした。

それでもジル・ド・レェは気絶しない。

魔導書の自動強化による神経系の異常発達によって薬物をキメた状態だからだ。

だから殴る。

殺すことは出来ない。だから殴り続ける。

そして特異点の修繕が始まり、レイシフトアウトが開始される。

そんな中ただジャンヌは呆然と見ることしかできなかった。

 

「タツヤ!!」

「先輩」

 

オルガマリーとマシュが叫び。レイシフトアウト。

彼等が光の粒子になって消えていく中で。

呆然とジャンヌは彼等を見送り。

 

「ははははは!! クハハハハハハ!! アハハハハ!! これが君の選択の結末だ。選べないという都合の良い答えを選び、他者の貌から逃げた!! 結局、君の思想は綺麗だけれど、中途半端で幼稚で傲慢だ。そんなもの現実の前では意味をなさない。」

 

影が彼女を見下ろし、ジャンヌの顔面を覗き込み。

絶望に目を見開く彼女の最後の希望を。

選べなかった罰として。

影は粉砕する言葉を投げかけた。

 

「死んだかもね、彼。君が選ばなかったせいでね」

 

ジャンヌの貌に罅が入り。

その形相を見て影は嗤う

 

「ククク、おいおいその表情は何だい? 君の自己申告では憎悪や無念に悔恨と言った感情はなかったはずじゃないか? 何を怒る?  その表情そっくりだよ。舞耶を失った時のジャンヌ・オルタとね!!」

「お前・・・お前がッ!!」

「感謝したまえよ? 君はこれで人間に成れたんだ。都合の良い物に縋り封じて目を背けてきた感情を開封したことによってね。他人に自分を見せる事、選択の重みを理解し君は人として成長したんだ。喜べよ!! ククク、アハハハ・・・ アーハハハハハ!!」

 

世界が崩れ再編し修復される。

そんな中で聖女を演じていた少女の慟哭と憤怒が入り混じった叫びは虚しく響き。

誰にも届くとはなく、影がそんな様を見て嗤っていた。

そしてカルデア管制室

 

『ロマニ医療主任、達哉及び所長とマシュの完全レイシフトアウトを確認しました!!』

「達哉くんのコフィンのキャノピーの強制排除!!」

『了解!!』

 

通信機器を通じて管制室に指示を出し。

達哉のコフィンキャノピーを緊急時における強制撤去を遂行する。

ボルトロックの少量爆薬で排除され。

キャノピーがすっ飛ぶのを確認したロマニはアマネやメディックに医療班の人達と共に達哉をコフィンから引きずり出す。

 

「造血剤投与!! 血液パックと生体人工臓器準備!!即効性の麻酔を使う。オーヴァードーズに注意、所長とクーフーリンはそのまま治癒魔術を維持してくれ!」

 

事態が事態であったため。

受け入れ準備は整っていた野外用の無菌室や医療機器はセットされている。

それでも致命傷だ。

ペルソナ使いだから持っているだけの話で、普通なら失血死である。

そして通常の施術では癒せない。

患部を切除しその代わりとなる、万能細胞を培養して作った魔術臓器を移植しなければならないからどうしても長丁場になる。

故に、輸血と同時に造血剤の投与。

持たせるために、オルガマリーとクーフーリンの治癒魔術が必要になる。

ダヴィンチは麻酔医として参加だ。

宗矩はロマニの助手として参加。

 

「俺たちはどうすればいい!!」

「薬剤やら資材がまだ完ぺきに持ってきていないんだ。スタッフの指示を聞いて此処に持ってくれ」

「わかった!!」

 

ロマニは指示を飛ばす、ダヴィンチは危機をにらみつけ麻酔と造血剤に輸血の量と格闘を開始。

マシュとオルガマリーも必死に声を掛けながら治療に奔走する。

マシュは力仕事で長可と機材や薬剤運搬。

オルガマリーはクーフーリンと共に治癒魔術による手術のサポートだ。

まず火傷をすべて切り取る、ロンギヌスの呪いもあるから万が一も考えて、呪いを切り取る意味でも少し過剰気味に切り取らねばならない。

そして彼の体力も考慮するなら万能細胞から培養された臓器移植も並行でやっていかなければならない。

長くなりそうだとロマニは思いつつメスを走らせる。

こんな事が続くのかと誰もが今は思えない、最善を尽くし何が何でも達哉を救うべく皆が奔走するので一杯一杯だから。

故に今回の特異点修復は勝利と言えるものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「消えると思っていたのだけれどね・・・」

 

ジャンヌ・オルタは自らに与えられた座に座り、目の前に剣を突き立て柄尻に両手を乗せてぼやいた。

彼女はやり過ぎてしまったのである。

特異点という状況を生み出し、ティエール以外を陥落せしめ、竜と亡者と悪魔を従え。

フランスの一角を消し飛ばしかけた。

如何に修正力であっても、噂結界という無意識の力を利用しその恐怖は人々の無意識下に根付いてしまい修正しきれず。

憎悪を持たないジャンヌ・ダルクの代用品として、人々が恐れる怒り狂う理想のジャンヌとして彼女は承知されてしまった。

主要時間軸とは違い徹底的すぎる殺意を刻み込んでしまったがゆえに永遠の座に至ってしまったわけである。

 

「どうです? 座に至った気分は」

「最悪よ。糞野郎」

 

ジャンヌ・オルタの前に影が現れる。

ご丁寧にジャンヌ・ダルクの姿でだ。

無論、影の化身である以上、ジャンヌ・ダルクのうり二つであるが。

両目の瞳は黄金色に、表情は嘲りと皮肉で歪みまくっている。

 

「ですが哀れですよねぇ、貴方も終わらせると言いながら永劫の座に来てしまうとは。貴方の戦いは終わらない」

「別に良いわよ。復讐なんて悍ましいことをやっておきながら、美しい終わりなんて求めていないもの」

 

影にそういう。

第一に復讐なんぞ遣らかしておいて、救いなんぞ求める方がおかしい。

故に破滅することは知っていたし理解していた。その上で走って。

満足は出来た。であるなら上等という物であろう。

故に彼女はぶれない。

納得は出来たのだから。

 

「だから敗者は敗者らしく。今は沈黙するわ。あの世界で復讐は彼等が生きている限りはしない」

 

彼らは自らの手で道を切り開いたのだ。

自分という驚異を跳ね除けて進むことを決意しているのだ。

故に敗者がまた出しゃばって敵対するなんぞ恥の上塗り等できはしない。

彼らが彼等であり続ける限りは、あの世界に出張ることはない。

だがしかし。

 

「最も他は別だけれどね。例外はないわ全て殺す一人残らず。」

 

他は別だ。であるなら望むところだ。呼び出された世界悉くを滅ぼそう。

復讐に濡れたジャンヌを望む時点でそういう願いだろうから。

であるなら自分の願いの為に呼び出された時点ですべてを殺す。

終わるまで殺し続ける。

だから今は見ているだけにとどめると。

 

「こんな酷い現実があったとしても?」

 

影が嘲笑いながら”起こるべき未来”を投影する。

だがジャンヌ・オルタは動じもしなかった。

 

「それは可能性の一つでしょうよ、たとえ未来が決まっているにしても。複数用意されているのがこの世の理でしょうに。都合の悪い結果だけを見せてこの結末に行くかもという不安を煽って引き金を引かせるのがあんたの常套手段。そうはいくか」

 

その手には乗らない。

ジャンヌ・オルタはそう一蹴する。

まだ賽子の出目は決まっていない。

だというのに決めつけてまたであるのはさっきのこと以上にナンセンスであると切り捨てる。

 

「そうなったとしても、それでも彼らは生きるでしょう。あの世界に手は出さない」

 

せめて彼らが生きている間だけは手は出さない。

 

「ならば、自分のやったことくらいは清算してもらわないとね」

「なに」

 

座から視界が一転する。

そこはかつてジャンヌ・オルタが生きていた”世界”

 

「これだけ私の力を使ってこの程度で済むわけないでしょう、特に貴様はあの幻想という人生で向こう側に縁を作ったのだから」

「・・・まさか」

「そう言う事だよ。あの幻想は放棄された結果の世界、今のところ。人が一応いるからパージが保留されているジャンクデータです。この世界では異聞帯と言うのでしたか? 完全に滅びた周防達哉の世界とは違い、一応は生きているのだ。故に自らを一個生命として確立させ、噂結界という人の心の力を使って、さらにはペルソナを取り戻したことによってアナタの記憶データはこの世界の無意識下に広まってしまった。そしてこの世界の人々はパージされずに都合のいい惰眠を貪れる世界があると認識し、アナタが広げた門と世界の境界線があやふやである事を利用して、君が生きた世界を呼び寄せてしまった。」

 

達哉の世界は完全に行き止まりで放棄されたから来ないだけで

だがジャンヌ・オルタの体感した世界は、一端の保留領域にとどめられている。

故に向こう側の理を噂結界という力媒体を過剰使用したことによって、ジャンヌ・オルタの記憶から都合のいい世界があると無意識下に認識され呼び寄せてしまったのだ。

普通ならばこうはならない、人理焼却下という現象のせいで世界の枠組みがあやふやであるため起きてしまった事象と言えよう。

そしてジャンヌ・オルタの前には大量のシャドウと、この世界の末期に生産されたかつての親友の後継機たちが大量に存在している。

 

「―――――――――」

「ニャルラトホテプよりジャンヌ・オルタへ。冠位指令を発令、異聞帯最後の人である結城理の排除ならびに異聞帯及び神を殺せ」

 

人は眠りつき影となって這いずっている異聞帯が侵食を開始。

止める方法はただ一つ、この世界を維持する月の神を殺すほかない。

 

「望むところよ」

 

そしてジャンヌ・オルタは嗤った。愉悦に憤怒に悲哀に染め上げた悍ましい笑みを持って。

嘗て人だった者たち。そしてその人によって生み出されたかつての親友の量産品たちを睨み付け。

ペルソナを両手に呼び出す。

願っても無い、ああ感謝さえしようとジャンヌ・オルタはたった一人、機械と影の軍勢へと突撃した。

今度こそ、理想を抱くお前たちに現実を叩きつけてやると

 

彼女は止まらない

 

「――――――――――――!!」

 

剣を振い、殺し続ける。

 

 

 

全ての悲劇が終わるまで。

 

 

 

 

 




第一特異点終了!! ここまで来るのに長かったッッ!!
惨劇の第一特異点ですが、第二ではたっちゃん達が完勝するのでご安心ください。



ジャンヌ (鉄血第一期でマクギリスに裏切られた時の愕然としたガエリオと同じ表情)

ジル  口の端から血を流して気絶

アルトリア「これは酷い・・・・」

エミヤ「嫉妬と隣人の裏切り・・・うっ頭が?!(エミヤンの可能性の一つにニャルは同じ手を使った)」

フィレモン「やはり駄目だったか(クソデカ溜息)」

ニャル 「m9(^Д^)プギャー  だが貴様等も対岸の火事ではない、最善を尽くせないなら容赦なく今回の様に刺すからな」


英霊一同「え?」

ニャル「あwwwwwたwwwwwりwwwwwまwwwwwwえwwwwwwだwwwwwww。達哉だけではない私は私自身を含めて嘲笑う存在だ。貴様らも試練の中だとしれwwwwww 良い空気吸いたきゃ、AUOやら邪ンヌやらフローレンスばりに努力するか、海賊共みたいにそれが己だと認めてやる覚悟をキメるんだなwwwwwwww」








ニャル「第一に原作からして悔いありまくりだったしな。後悔も嘆きもないなら原作の第一特異点のラストですました顔であんなこといわねぇよw なんせやり切った上で納得したんだから、ジルの狂気も容認したと言う事だからなぁ。結局後悔してんだよ、口では何とでもいる者さ。だから都合の良い口触りの良い言葉と概念に身を任せた結果こうなるんだよ、普通はwww」

ニャル「そして敗北を味わうには取り返しの効く初期段階が一番いい(ワイングビーしながら)」

ニャル「ゆえに。これでカルデアは学んだはずだ。彼がどういう戦いを一線をギリギリのところで走ってきたのをな」

ニャル「次は上手くやるんだなwwwwww」

ニャル「と言う分けで。次はネロちゃま、お前だ」

ネロちゃま「!?」

ニャル「なにが、!?だwwww。エクストラやらアンコールやらで言った言葉はあるようなぁ、アレが真であれば。私程度の策謀なんぞ簡単にしのげるだろうwwwwwww」


悲報 第二特異点 大崩落する模様


あと異聞帯が進行。
全人類がシャドウ化した世界が、アマラの力を使いまくったジャンヌ・オルタが門を開いてしまった事や都合のいい安息があることを型月世界住人が認識した為、浸食を開始。
と言っても先も言ったとおり破棄すん全だったため異聞帯規模としては小規模。
東京くらいの広さ

ニャル「たっちゃんたちが来るまで足止めよろしく♪」
邪ンヌ「今度こそニュクスムッコロ!!」
ニャル「楽しそうで何よりですwwwwwww」

邪ンヌもまた噂結界を使った影響で人々に認識されているため。憤怒し憎悪し復讐を敢行するというジャンヌの理想図として認知されたため英霊の座に正式就職と言った感じ。
異聞帯特異点絶対殺すウーマンの誕生である。
なおたっちゃん達以外の世界に呼び出されようものなら。誓いの範囲外なので皆殺しを行う模様。
しかも疲弊もないので全盛期全開モードで呼び出されるという悪夢。






という訳でインターバル数話挟んで第二特異点攻略に入ります。
肉体的難度は下がりますが、精神的には第一よりニャルが盛大に絡んでいるためキツイ感じで行きます。
第一では選べなかったマシュには選んでもらいますし、所長にも選択しが付きつけられる予定です。



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第二特異点に向けてのインターバル
01 投影罪悪


恨みを抱くな。
大したことでなければ、堂々と自分ほうから謝ろう。
頑固を誇りとするのは、小人の常である。
にっこり握手をして自らの過ちを認め、いっさいを水に流して出直そうと申し手こそ、大人物である。

デール・カーネギー


マシュは自室のシャワールームに入り温水の蛇口を捻った。

達哉の手術は無事終わったのだ。

無論、医療知識も技術も無いマシュは手術途中でお役御免となり。

治癒魔術が必要となくなった時点でオルガマリーもお役御免となった。

そこから二時間程度の施術が続き、達哉は無事帰ってきた。

手術後に意識を若干取り戻したが、すぐに寝る様に意識を失い。

いまは医務室の上で絶対安静である。

合いに行きたいとマシュもオルガマリーも言ったが面会謝絶。

失った血の量が多く、ペルソナ使いに対する施術は初めてであるため、経過を見守る必要があり。

どの様な事が不測の事態につながるか分かった物ではないため。会うことは叶わなかった。

オルガマリーは最後まで食い下がったが、アマネの一喝と厳しいお言葉で部屋に叩き戻された。

そして現在に至るというわけである。

 

「なにもできなかった。」

 

『嫌だよ、ほらもっと頑張れって、じゃないと僕を倒して彼を救うって選択が取れないよ』

 

立ちふさがる髑髏の青年はそういって嘲笑った。

だが結局は彼を倒すことが出来なかった。

徹底的に時間を稼がれ。達哉は瀕死の重傷だ。

多量出血と傷口を吹き飛ばして強引に止血する方法でのショックが脳に響いており。

意識不明である。

峠は越えたが、いつ意識が戻るか不明だった。

 

「なにも・・・なにも・・・」

 

コフィンから出てみればオルガマリーとクーフーリンは即座に達哉に駆け寄って神秘に治療を行っていった。

宗矩や書文に長可もできることをやる為。

施設の中を駆けずり回って治療具を集めていた。

流石に戦闘続きで魔力切れを起こしたため魔術による治療では限界だったが。

駆け付けたロマニ率いるメディカルチームが適切な緊急治療を行ったおかげで達哉は死なずに済んだ。

だがマシュは見ているだけだった。

知識とは実践し血肉に身に付けさせなければ何の意味もないのである。

故に知識だけの彼女は何もできなかった。

 

傷口を押さえ死ぬなと必死に声を駆けつつ。なけなしの精神力を使ってピクシーを呼び出したオルガマリーが治療し。

クーフーリンも疲労を隠せない表情でルーンを刻み込んでいた。資材搬入しかできなかった自分は何なのかとマシュは問答を始めるが答えは出ない。

考えがぐるぐると回りながらシャワーから出る温水が彼女の肌を伝っていく。

その時である。

 

―あなたにはアイツらを殺せる手段があったのに―

 

マシュと同じ姿の存在がマシュの後ろに居た。

その両目は真紅に染まっている。

鏡越しにそれを見たマシュは振り返るがそこには誰もいない。

疲れているのだろうかと思いつつ、マシュは蛇口を絞めて。

シャワールームから出て、タオルで体と髪の毛の水分を拭い。

ドライヤーで髪の毛を乾かし寝衣に着替えてベットに身を放り投げて天井を仰ぐ。

あの時どうすればよかったのかと考えつつ、彼女の脳裏に睡魔が襲ってくる。

疲労とシャワーで上昇した体温が彼女を眠りに誘っているのだ。

疲れて思考もまとまらず、マシュは睡魔に身を任せて目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

マシュが気づけば、そこは幾何学的文様が足場となる闇の底だった。

達哉に舞耶。

パオフゥにうららと克也。

 

そして。

 

舞耶の背後に石のような仮面を身に着けた詩織の姿があった。

両手で持つのは槍。

 

聖槍ロンギヌス

 

向こう側で舞耶が死ぬ原因となった呪槍。

此方ではジャンヌ・オルタが振るい。落したそれをジルが振るって達哉を殺しかけた物。

 

『邪魔しないで拓也。外しちゃったじゃない』

 

彼女は弟を慈しむような声で達哉に言った。

達哉は呆然としている。なぜどうしてという驚愕だ。

さらに付け加えれば。今、マシュは達哉の過去を映像ではなく夢を通してみているため、

彼の心の感情もフィートバックされる。

マシュは蹲った。胸が痛い心臓の鼓動が早くなる。

この後の光景も無論知っている。

いま達哉の心の激痛がこれだったら。

もし次の光景の痛みはどれほどか。

 

『拓也? 宮代君。君は一体何を言っているんだ?!』

 

『いいのよ、拓也で。だってその女と達哉くんのせいで、拓也は殺されたんでしょう!?』

 

そうリセットに伴い過去を無かった事にした。

あの神社で起きた事件も無かった事にされた。

だからこそ達哉たちはあの神社に事件の当日おらず。

神社に放火しようとしていた須藤を見たのは彼女の弟だった。

そして須藤に見つかった拓也は惨たらしく惨殺されたのである。

拓也には達哉とは違いペルソナを持ってはいなかった。

故に抗えずにそうなった。

 

『お姉さんは私でいいじゃない。なってよ・・・達哉君! 拓也になってよ!!』

 

だからお前のせいだと。

もしお前が過去を改竄するなんてことをしなければという言いがかりに等しいことを彼女は叫ぶ。

だからお前が拓也になれと。

 

『拓也を返してよぉ!!』

 

罪を清算しろと弾劾する。

全てお前のせいだと。

そうじゃなきゃ人生こんなはずじゃなかったのに。

不幸な結末を引っ繰り返した結果が他者を身代わりにする結果を生んだのだと。

 

そして

 

「あ・・・あああああああああああ」

 

マシュは蹲った。

流れ込んでくる罪悪感やらなんやらがごちゃ混ぜになった混沌とした心情。

それらはカミソリを混ぜ込んだタールのようだ。

触れただけで肌に張り付き体を傷つける物。

 

彼の抱え込む自罰意識である。

 

『フハハハハ!! 返せと言うから返してやったのだ。何を悲しむ? 「そしてマシュ・キリエライト。お前は望んだはずだ。 奴の心の裡を何とかしてやりたいと!! お前もだ!! オルガマリー・アニムスフィア!!」 喜べ!! 矛盾しているぞ!!』

 

夢は舞台のように進んでいく。

だがその中で無貌の神だけが明らかに夢の範疇を逸脱して現れていた。

そして邪神は言う。

これはお前たちが望んだことなのだと。

達哉の抱える罪意識を何とかしてやりたいという願いを。

故に契約システムを介して達哉の見る夢とお前らの夢をつなげてやったのだと。

 

そしてそれを叶えてやって。達哉の心の激痛を知り。もういいと思ってしまうことは実に矛盾だ。

 

心を救いたいと理解したいという願ったのに今はこの心の痛みから抜けだしたいという矛盾。

 

それらを影は嘲笑う。

喜べ矛盾しているぞと。

 

 

「『わかるぞ!!/わかったか? 気も狂わんばかりの怒り。身を焼き尽くすほどの苦悩!胸を掻き開き抉り出してしまいたいほどの苦悩が!!』」

『「すべてお前が/お前たちが望んだことだ。身を任せて楽になれ/受け止めてやれそれが絆という物だろう?』」

 

「――――――!?」

 

違うとは言えなかった。

口が裂けてもそれを言ったらお終いであるから。

 

『ククク・・・ 強情だな? ジャンヌ・オルタであれば即座に選んでいたぞ?」

 

『なんで・・・タツヤを守ってくれなかったの?』

 

現出するのは詩織と同じ仮面をかぶったオルガマリーだ。

彼女もまた槍を持っている。

 

『デミサーヴァントのくせして。私より優れているくせして・・・タツヤをなんで守ってくれなかったよ!! なんでアイツらを倒してくれなかったのよ!!』

 

仮面をかぶったオルガマリーも理不尽に弾劾を行う。

マシュは違うと言おうとして何も言えなかった。その通りだったから。

 

『拓也、ごめんね・・・ お姉ちゃん、守ってあげられなくてごめんね・・・』

 

そして気づけば、マシュはオルガマリーを押し倒し首を絞めあげていた。達哉が詩織の首を絞めあげる動作と連動するかのように手が動く。

 

「『私の元に堕ちよ。それがお前/お前たちの運命だ』」

 

混沌がそう嘲笑って。マシュの意思を他所に彼女の手は影に対する殺意に比例するかのようにオルガマリーの首を絞めあげ。

悲鳴を上げると同時に、マシュは跳ね起きた。

 

「――――――」

 

そのまま両手を見る、あの生々しい首を絞めあげる感覚は残っていた。

気付けば朝になっていた。もう何が何だか分からない状態でマシュは食堂へとふら付きながら赴く。

 

「おはよう・・・マシュ」

「おはようございます、所長」

 

マシュと同じように幽鬼の如き有様であった。オルガマリーが机を挟んで存在していた。

その様子からマシュも察する、ニャルラトホテプが言ったように彼女もあの場に居たのだ。

多分、立場は入れ替わっていただろうと思う

 

「首・・・絞めちゃった。貴方の首を・・・・」

「・・・・」

 

オルガマリーは血反吐を吐くように告解する。

マシュがオルガマリーの首を絞めたように。

逆にオルガマリーはマシュの首を絞めたのだ。

 

「・・・なんでよぉ・・・・」

 

オルガマリーは泣いていた。

達哉もマシュもカルデアも大事なのに。

奴は選べ殺せ。というよりも達哉の心の裡をどうにかしてやりたいのなら選べという

 

「マシュごめん・・・ごめんなさい・・・」

 

手には確かに嫌なまでに首を絞めた感覚が残っている。

 

「所長が謝る事なんてないんですよ、私がもっと上手くできていれば・・・そうすれば」

 

互いに謝罪だ。

涙があふれて二人は互いに謝り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後。ダヴィンチ、ダストン、アマネの3人は会議と評して一室に集まっていた。

ロマニもこの場にいるべきなのだが達哉の経過を見ているため来ることができない。

 

「あまりいい状況じゃないな」

 

アマネは珈琲を啜りつつぼやいた。

達哉は未だ目が覚めていない。ロマニが現在付きっ切りで看病している。

各種検査は終わっており、脳に異常はなく。

移植された人工臓器も馴染んでいる、普通の魔術でもあり得ない驚異的回復力だった。

オルガマリーも傷を負ってはいたが、一日できれいさっぱりに回復していたが。

精神の方はそうもいかない、はっきり覚えている悪夢のせいでガタガタである。

ニャルラトホテプが追撃をかましたのは見なくても分かるという物。

当の二人はメンタルケアを受けつつ訓練に身を費やしているが、焦燥感に駆られてやっているので良い状況ではない。

シェルショックあるいはPTSDの発症兆候も見られているのだ。

事は慎重に運ばねばならない。

アマネとしては頭の痛い問題だ。本来ならメンタリストが専門知識を使って組むことを。

畑違いの自分たちが組んでいる時点でおかしいのだが、やるだけやるしかない。

 

「特異点でのサーヴァント運用の問題も洗い出せたけど・・・ぶっちゃけ、現状で全戦力を賄うことは可能だけど効率的とはいえないね」

 

サーヴァントの一斉投入は効率的ではなかった。

これは単純な問題で、達哉もオルガマリーも指揮には向いていないからである。

と言うよりも出来ると言えば出来るのだが、それは部隊としてのユニット単位上での話しであり。

本家本元の指揮官には劣るのが現状だ。

まぁ良くも悪くも部隊長としての指揮能力が限度であり、よって多数のサーヴァントを従えて指揮するというのは無理な事なのである。

 

「ダヴィンチ、そういえばスティーブンの残した、限定投入用装備はどうした?」

 

ダストンが言う。限定投入用装備とはサーヴァントを一旦情報に分解し現地で再構成するというシステムである。

元々多数のマスターとサーヴァントによる鎮圧が想定をされていた為無用の長物であるのだが、

マスターが単独でかつ多数のサーヴァントを効率よく運用するために作られた装備であった。

マスター自身が判断し状況に適応したサーヴァントと数を適切に投入出来る優れものである。

加えて各種礼装機能も搭載されている優れものなのだが、先にも言ったとおりの無用の長物であるし、何より作った理由が趣味と来ている。

完成一歩手前で放置されており、投入するにせよ各種の調整が必要だった。

 

「現在、カルデアのサーヴァント用のレイシフトルームとの直結作業中、システムOSもある程度弄らなきゃいけないけれど。なにせあのスティーブンの作品だ。ロックを抜けるのにも一手間だよ」

 

そして悪用されない様に。特にスティーブンはベリルを警戒してか、多重のロックセキュリティがかけられ、

現状起動もできはしないのが余談となっている。

 

「いずれにせよ施設の調整と修繕作業もある、予定通にスケジュールが進むなら、投入はどうあがいても間に合わない。それよりオルテナウスの投入の方が重要だよ」

 

それよりも急ピッチで進められているのが、オルテナウスと呼ばれる強化外骨格の投入である。

これはデミサーヴァントの性能が要求基準を満たさない場合使用される強化外骨格だ。

デミサーヴァントの霊基を安定させる、増幅させるという効果がある。あとスティーブンが手掛けたということもあって装着者の戦闘能力向上も見込めるし各種礼装機能も搭載している優れものである。

と言っても、マシュはデミサーヴァントとしての要求値を十分に満たしており、装着すれば逆に足かせになるとして倉庫の隅っこで埃をかぶっていたが。

第一得点攻略後はそうもいかなくなった。彼女の霊基が不安定化したのである。

これには先も言ったとおりの理由が挙げ荒れる、ジャンヌ・オルタやらニャルラトホテプやらが入念にトラウマを刻み込んだせいで精神が不安定化しているのが原因だった。

寧ろ、拙いのは不安定さからくる、超高出力である。

先の須藤戦とニャルラトホテプとの交戦時、あからさまに出力が上がった。体の負荷をガン無視してだ。

確かにデミサーヴァントとしてマシュの身体能力は高いが。それイコール体の頑強さではない。

上がったり下がったりする出力変動は脆いマシュの身体を着実に蝕んでいる。

戦力アップと出力矯正と安定のためにオルテナウスの投入は次の特異点に間に合わせなければならない、必要な課題であった。故に限定投入用装備に熱を上げる暇はない。

 

「完成度は?」

「そっちはすぐにでも、スティーブンがほぼ完成させていたからね、細かい調整を残すのみさ」

 

もっともオルテナウスはスティーブンが既に組み立てており。

後はマシュに合わせた細かい調整を終えれば即座に投入できる状況にまでは仕上げた。

と言っても手抜きは出来ないのでやはり限定投入装備は放置せざるを得ない。

 

「だが肝心のマシュがあれじゃなぁ・・・」

「そっちは私や書文、宗矩でどうにかする、長可もフォローに回っているから大丈夫だ」

「嫌に断言するね、アマネ」

「暈して不安が欲しいなら、そうするが?」

「そりゃ御免だ」

 

不安が欲しいならそうするぞと言うアマネの言葉に苦笑してダヴィンチは返す。

 

「ダストン、第二特異点の方は?」

「座標特定までは漕ぎ着けた」

「早いな・・・まだ三日だろ?」

「聖杯に次の特異点座標がご丁寧に刻まれていたからな。特定までは簡単だったよ。ただ」

「「ただ?」」

「サラッと観測した時点では、第一終盤よりまずい感じだ」

 

ダストンの言葉にダヴィンチもアマネも天井を仰いだ。

ジャンヌ・オルタが暴れまくった第一より地獄とは一体何なのか。

あれか魔王とサーヴァントが仁義なき戦いでもしてるのかと二人は思う。

 

「東京の方も不穏だ。特異点反応が出たり引っ込んだり」

「それはどういうこと?」

「不明です。とりあえず問題ないというのが管制員の総意ですので、とりあえず第二特異点の特定を急ぎたいと思います」

「どれくらい時間が掛かる?」

「最短で二週間、最長で一か月です」

 

ダストンの言葉にダヴィンチもアマネも催促をするということはなかった。

当たり前だ。達哉はベットの上の住人。マシュとオルガマリーは不安定。

先の攻略で機材や設備にダメージが入っている。

リソースだって盛大にぶちまけた。フランスで回収したリソースがほぼ±0に限りなく近いのである。

聖晶石だって召喚や魔力装填以外にも使い道はあるのだから。

令呪の補填も聖晶石を使って行われるのだから無駄に使うわけにもいかない。

 

「こっちは手が足りなさすぎる、キャスタークラスが数名欲しい所だな」

「火力保証してくれるサーヴァントもだね・・・、第一では範囲は達哉君とクーフーリン、そしてマリー・アントワネットに依存し過ぎていた」

 

指揮官が足りねぇ、範囲火力が足りねぇである。

達哉やマリー・アントワネットが居なければクーフーリンの腕を両方とも失っていただろう。

かと言って達哉がいるからといって安心できるわけもないので戦力不足は非常に頭の痛い問題だった。

 

「駄目で召喚してみる?」

「礼装だけに50ドル賭けてもいい」

「賭けにもならないじゃないか・・・」

 

確率論的に論じるにも値しない。

素寒貧寸前なのに、賭け事に行くと大概カモられて終了と言うのが世の常だ。

長可の言い分だとニャルラトホテプやらフィレモンがなんらかの干渉を行ってるという節もあるので回すわけにもいかない。

兎に角、微細特異点でのリソース回収後に、ある程度物資が潤沢になったら行うのが吉である。

後手詰まり感があるが今はやれるだけのことをやるしかないと思うほかないわけで。

 

「メンタルケアも手詰まり感があるな」

「どうにかならないかい?」

「馬鹿言うな、私が彼女たちの様に一々気にしてたのはティーンエイジャーのはるか遠い過去だぞ」

 

アマネは少年兵上がりである、最初こそ苦悩もしたが、もうすでに割り切れてしまう人格になっている。

昔はなぜ悩んだかのでさえという事すら分からなくなっているのだ。

故に割り切り方を教えるほかない。

 

「あとは達哉のほうだが・・・どうなっている?」

「失血による脳へのダメージは確認されていないとのことだよ、疲労とダメージで純粋に眠っている状態だってさ、けれど」

「なんかあるのか?」

「これを見てくれ」

 

ダヴィンチがタブレットをスワイプする。

そこには驚愕の事実が乗っていった。

 

「・・・達哉は人間か?」

「人間と言われれば。はいそうですとしか言いようがないね」

 

タブレットの情報を見てさしものアマネも目を見開く。

ダストンからすれば彼女が驚愕していること自体が驚きだった。なんせあの爆破騒動でも表情筋一つ動かさず。

第一特異点の惨状にも眉一つ動かさない鉄仮面の極みがここで揺らいだのである。

なぜなら生物学上ありえないからだ。

失血死寸前まで血を垂れ流し腹に風穴開けて、内臓も移植である。

施術完了まで普通の人間なら持たないだろうが。達哉は持った。ペルソナの力と言えばそれまでだが。

そして移植した内臓などがもう完璧に引っ付いているという事だった。

魔術師でもありえぬ自然回復速度である。

 

「もう目が覚めたらすぐ動いても大丈夫なくらいに肉体は回復してるってさ」

「そりゃ・・・向こう見ずにもなるな」

 

達哉の記憶を見て。アマネが思ったことは向こう見ずすぎるという事だった。

もっとも今はそうではないけれど、危険に対し突っ込みすぎるきらいがあるなと想い。

そりゃそうもなると今の情報を見て納得する。

ペルソナ使いの自然治癒能力も此処まで凄まじい物であれば向こう見ずになる物だと。

そう言った意味では達哉の危機感を矯正し大人への不信感を払しょくしてくれた、向こう側の大人たちには感謝するべきだろう。

 

「所長の方も一緒か」

「うん、もうピンピンしてるよ、肉体の疲労はゆっくり休まないと取れないらしいけれどね」

 

恐るべしペルソナ。神代の力は伊達ではないという事であろう。

 

「さて話がズレたが。各々やることは変わりはなしということだな」

「それで私もいいと思うよ」

「私もです」

「なら解散だ。ダヴィンチ、オルテナウスの件は頼むぞ」

「任されて」

 

こうして3人は解散した。

 

 

 

一方そのころ、マシュとオルガマリーは。

 

「正座」

 

仁王立ちする長可の説教を受けていた。

年寄りは回りくどくていけねぇということで彼が説教することになったのである。

原因は二人が焦っていることが見てわかるからであった。

止めようと書文も宗矩もしようと思ったが、それより早く長可が動いたのである。

 

「あの・・・私達何かしたでしょうか?」

「明らかなオーバーワーク気味だって言いたいんだよ、俺ぁ」

 

明らかなオーバーワークである。

 

「はっきり言ってやるよ、あれ以上どうやれた。お前らが力を持っていたと仮定してだ」

「少なくともマリーさんは」

「救えただろうな、だが時間かかって結局同じだ」

「「ッッ」」

 

あの場で力の有無は関係が無いと長可が言い切る。

マリー・アントワネットを救えたところで時間が掛かるのはどのような力を持っていっても同じことだ。

アタランテとヴラドは上位サーヴァントである。

瞬殺圏内に持っていける達哉のノヴァサイザーやらクーフーリンがおかしいだけで。

彼等を基準点に力を得ようとする方が愚かであると。

二人が力を持っていたところで容易に時間が稼がれ、今より最悪の事態になっていたかもしれないと長可は指摘する。

つまりヴラドとアタランテをマリー・アントワネットが体を文字通り張って葬ったからこそ、今回はこれだけで済んだともいえる。

 

「だけど私たちがもっと上手くやれれば」

「アイツを倒して達哉を救助できていたと思うか?」

「それは・・・」

「出来ねぇよ。ジル元帥がトチ狂ってワープしてくるって考えられる方がおかしいだろうが、常識的に考えて。第一に貌無しの奴に至ってはクーフーリンまでいて突破できなかったんだ。どうしようもねぇよ」

 

Lucidを相手取った時、8人掛かりで袋叩きにしたにもかかわらず、

奴は傷一つ負うことが無かった。達哉が居てもそれは同じだったろうことは安易に予想が付くというものである。

第一に、槍を刺された時点で詰みだ。

キズはその場では癒えず惨劇確定である。

そしてそこで責任の有無を問うならば。影の言う通り、選択しきれなかったジャンヌを恨むほかない。

 

「さらに言えばある意味、刺されたのが達哉でよかったっていうのもある、お前らが刺されて、アイツみたいに適切な処置が出来たか?」

「・・・できないわ」

 

さらに幸運だったのが。刺されたのが達哉でよかったという点にある。

彼は最高位のペルソナ使いだ。体力もある。

加えて前の経験から刺された時の対処法を知っていた。

これが刺されたのがマシュやらオルガマリーであれば体力的に処置すら不可能で死人が出ていたことだろう。

ニャルラトホテプの事だからそこまで計算してやったに違いない。

 

「だろ? だからあの場ではアレが正解だ。達哉がジャンヌ・オルタとタイマン張って倒さねぇとこっちが負ける状況だったしな」

 

加えて分断された以上、あれ以上の選択肢はなかった。達哉の礼装から得られた情報からひねり出された事実と言う奴である。

逆襲の顎と呼ばれる殺傷能力の究極系。

そのスキルによって達哉が単独覚悟でも介入しなければジャンヌ・オルタはジャンヌの霊基分回復し強化され各個撃破に持ち込まれて手も足も出なくなるがゆえだ。

極論、影という第三者が余計なことをしなければ、全員生き残って終わりだった。

無論、ニャルラトホテプからすれば付け入らせる隙を作ったのが悪いと言えよう。

なんせだいぶ前から介入していたのだから、この位の想定位はしろと言う話である。

長可は死人に鞭打つ趣味はないが、付け入らせる隙を作ったジャンヌが悪いという話に落ち着くと思うほかない。

なんせジル・ド・レェは長可からすれば頭光秀である。光秀を黙らせるのはそれこそ信長くらいなものと同じように。

ジル・ド・レェの狂気はカルデアの面々ではどうしようもないのは道理ともいえるだろう。

 

「だからあの場であれ以上誰がどう頑張っても最善なんだよ、どうしようもねぇんだ」

 

戦場で死なない様に努力しない奴はいないし混沌とした状況下であればあるほど誰がどう力を持とうとも

誰かは死ぬ。今回は誰も死んでいないのだからむしろ最善手であったという事に満足すべきであると長可は諭す。

 

「それで無力感かんじて大急ぎで努力しても意味は無ぇよ。いつも通りにやるべきことをちゃんとやる、そうやってしっかり足元見ながらでしかちゃんとした力は付かねぇんだ。だから一旦落ち着け」

「「はい」」

「よし、あとは柳生の爺さんに任せっから」

「長可殿!?」

「これ以上は俺の領分じゃねぇよ。ダヴィンチで霊基改変するっつぅーから、そっちにもいかなきゃならん。と言う分けであとよろしく」

 

そういいつつ長可は場を後にした。

先の戦闘で達哉に次いで地味に霊基の損傷が酷かったのが長可である。

幾ら慢心している魔王と言えどもその火力は本物で、

タンク役を務めた長可の霊基はぐちゃぐちゃだった。それを修繕するのと同系列で正調するためにダヴィンチから呼び出しを喰らっていたので、

後のことは宗矩に任せたというわけである。

 

「全く、投げっぱなしは困るのだが、とりあえず正座は解いたほうがよろしいかと」

 

宗矩の言葉に二人は足を延ばす。

慣れない正座に二人の足はプルプルと震えていた。

宗矩はため息吐きつつ諭すように二人に言う。

 

「力を付けるなと言いたいわけではござらん、だが急いで身に付くものでもない、現にマスターは努力した地力や経験があるからこそ今のように強い、私とて生前剣に邁進したからこそ今があるだけという事。歩みはそれぞれとはいえ、基礎が成っていない人間がいきなり強くなれる道理はない」

 

達哉が強いのは前から経験や訓練を積んでいたからに過ぎない。

宗矩という天才だって、一朝一夕に強くなったわけではないのだ。

強さを求めるのは良いが焦ってオーバーワークしたところで良い事なんて一つもないのだ。

 

「いいですかな? 武を身に着けるというのは一本の刀を作るという事に似ているのですよ、基礎をしっかり身に着けなければ強くはなれない、一部の例外はまぁありますが、普通はそうなのです、ゆっくり腰を据えてしっかりと土台を作らねばカミソリの如き鋭さにしかならない」

 

武を身に着けるということは一朝一夕にはいかない。

まずは基礎を身に着け強い土台か或いは地金を鍛え上げなければ本当の強さとはならないのだ。

故に焦ってもいい事なんて無い。出来上がる土台はガタガタな物でしかない。

その様に作り上げれば剃刀の如き物しかなれないのだ。

 

「焦る気持ちは分かりますとも。私も生前味わったことのない屈辱でしたからな」

 

宗矩がついぞ生前感じることのなかった悔しさと言う奴である。

あそこまでコケにされたことはなかった。

あそこまでマスターを害され焦ったことはなかったゆえにだ。

 

「宗矩さんもですか?」

「左様、私とて人の子と言う奴だったみたいですな・・・ 故に焦ったところで意味は無いというのは長可殿の語る通りであり、私も言いましたが、剃刀のようにしかならない、それでは奴の思うツボでしょう」

 

ニャルラトホテプはどこにでも潜んでいる。

それこそ焦って道を踏み外すなり、剃刀のような武を身に付ければヤツは躊躇なくそこを突いてくる。

あの影に挑むには真に強き武が必要と宗矩は見定めていた。

 

「それにですな・・・達哉殿は気にしていないと思いますぞ」

「「え?」」

「え?と言われましてもな、事実は出ているのです、状況分析すれば、極論槍を避けられなかった主殿が悪いでしょう」

 

そして極論、あの場は遠因としてジャンヌが悪い、あるいは槍を避けれなかった達哉が悪いで終了なのだ。

気に病むことは何一つないと言える。

 

「むしろ奴の手札を考えると、これは焦らせてそれに気づけるかどうかと言う試練なんでしょうな」

 

故に奴の言いたいことはそんなことを突き付けられて猶も焦らずじっくりと行動できるのかと言う事である。

焦ったらそのまま蹴り落す。

焦らないならそれで良しと言った風なのだろう。

 

「だけど私・・・・夢でマシュの首をしめたのよ」

 

それでも焦りがぬぐえないのかオルガマリーは夢の内容を宗矩に明かす。

マシュもそれに追随して胸の内を漏らした。

なるほど徹底的に焦らせる手管だったかと宗矩は自身の顎を右手で撫でて考えつつ言葉を紡ぐ。

 

「夢は夢でしょう、現実ではない、互いに謝っておわりでいいでしょうや」

「そ、それでいいんですか?」

「後ろめたさを感じず、ヘラヘラしている方が問題でしょう、その様子であれば互いに胸の内は開いている、違いますかな?」

 

そうすでにオルガマリーもマシュも夢の内容を互いに明かし合っている。

ならばするべきことは一つだと宗矩は告げる。

 

「互いにそういう風に思っていました。ごめんなさいで終わりでしょうな」

「・・・それでいいのかしら?」

「良いのです、私とて息子を一時は気味悪く思っていったこともありますからな。あとになっては笑い話か酒の肴ですよ」

 

そういって宗矩は笑って二人の頭を撫でた子供をあやす様に。

 

「さて、おごりは解けたようですな」

「はい」

「ええ」

「なら訓練ですな、アマネ殿からメニュー上がってますのでこなしていきましょう」

「「え?」」

「基礎はじっくりこしらえるものと言いましたが時間が無いのは事実、なにご安心召され。アマネ殿の調整はきっちりしております故な」

「「え、ちょ」」

 

張り出されるメニュー表は、計算され尽くされたオーバーワークだ。

無計画なオーバーワークは毒にしかならないが、計画的オーバーワークは基礎を手っ取り早く積み上げる上で有効である。

芸術的に真に計算され尽くしてるのだからそうだろう。

 

「それに無駄に考えるより体を動かしすっきりさせた方がいいと私は思っております。ではクーフーリン殿や書文殿も待っておりますで、いざ参りましょう」

 

次の日、文字通り足腰立たなくなった二人が愚痴を言い合う姿が目撃された。

やれアマネは容赦ないだの、ケルト式は気が狂っているだの。書文と宗矩は容赦がないだのと。

だが微笑ましい光景でもあったし、焦りは消えていた。

彼女たちの道もまた長く一歩踏み出した光景であった。

 

 

 




書いてて思った。
インターバル回しては重過ぎる件。
そして徐々に浮上を始める”もう一人”の自分。
焦るオルガマリーとマシュ。
やだ。このカルデア、笑顔がないぞぉ・・・

マシュやオルガマリうーは
でもぶっちゃけ理不尽とも呼べるスキルやら技を持つ達哉とクーフーリンがおかしいだけです


と言う分けでオルテナウスは早期投入。
スティーブン前技術局局長が開発、既に細かい調整を残して投入可能までこぎつけていた。
本作ではなぜかマシュの霊基が安定しないため安定させることと戦力増強を狙って早期投入されることに。

限定投入装備
装備といっても超高性能ハンディカムコンピュータと霊基再構築する拳銃型の投影召喚機で構成される物。
カルデアのサーヴァント運用戦術から真っ向から外れた品物であるため正式製造品ではなく。
スティーブンが趣味で作っていた物。
完成度は現状80%と言ったところである。
が異常なほどまでのセキュリティロックが掛けられており現状は使いたくても放置されている。

東京の方の特異点反応は邪ンヌが必死で足止めしてるからこんな感じ。
第四終了まで手も出さないので忘れて構いません。


後ガチャは次の次あたりでやります。
ゲームと違って、命掛かっている分だけ切実です。
次はストレス発散回



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02 憐憫は悪である、だがソレ切り捨てた者は人間ですらない

痛みを知らないから、他人の痛みを想像できないし、だから平然と人殺しができるんだ、って。
ぼくにはそれが、完璧に筋の通った話のように思えた。

The Indifference Engineより抜粋。


どこかの誰かが幸せな夢を見ていた。

贋作に勝って第一特異点は勝利したという夢、最もそこには達哉もオルガマリーもいない。

故に、二人がいないからこそ藤■が微笑む、マシュも笑っている、ダヴィンチも――――――といったところで。

 

 

ザクリと音がする

 

 

そこにいたのはジル元帥だった彼が■丸を刺し、マシュが泣く、ダヴィンチは呆然としていた。

 

―間抜けめ―

 

夢を見る存在に混沌はそういって嘲笑う。

 

―あの程度の存在、その気になれば第一から詰ませている―

 

混沌は影はそういう。そうしなかったのは偏にそうできないからだと。

当初より詰んでいた世界は実験ケースとして好き勝手やれる、故に全力が出せる。

だから達哉は刺され彼岸の岸を彷徨う羽目になったのだと。

 

―あれは最低レベルでの可能性ケースを作る為の世界だ。ご都合主義がなんどもそう続くわけないだろう? 七つの特異点を超えてなお、異聞帯の切除にいちいち躊躇している奴など。人理のオーダーがないのならば即座に潰している。―

 

混沌にはそれが出来る。

散々特異点で人を殺してきたのに、異聞帯の切除でいちいち悩む輩など潰せると。

そう今見た光景の様に。

もし、藤■がこの世界の達哉ポジションであればゲームオーバーだ。

ジル・ド・レェを嗾けるまでもなく、ジャンヌ・オルタの手で終わらされている。

 

―まぁそれはどうでもいい―

 

だがそれは論ずるに値しないことで。

彼が言いたいのは即ち

 

―お前は殺人を強要した。治せばすべてが戻ってくると言って彼らを戦場に送り出した―

 

死者は戻ってこない、どういう理由があろうともだ。

それを黙って彼らを送り出し手を血で染め上げた。

如何に綺麗に話を盛っても本質はそうなのだ。

故に―――――

 

―今回はお前が思い知れ―

 

ここは処刑場にして試練場。

思い知れと、彼のもっとも幸せだった夢をIFという藤●が達哉と同じ難度で挑んだ場合を見せつけ、彼の体感した現実を踏みにじり弾劾しながら言う。

 

お前のそれは責任放棄をした結果に起きた事だろうと。

都合よくいったのはそういう風に難度を調整してやって裏から手を回したに過ぎないのだと。

今回は一切そういうことはないのだと知れと影が彼を嘲笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達哉は二度目になる医務室での覚醒だった。

刺されてジル・ド・レェをタコ殴りにしたところまでは覚えているがそこから先は覚えていない。

あやふやな記憶はあるが、あやふやすぎて覚えているかどうかという判別がつかないのだ。

腹部への痛みはない。いつものように癒えている。

致命傷に至らねば回復スキルを使って一晩寝ればいつも通り。

それがペルソナ使いであるがゆえに。

 

「フォーウ!!」

「フォウ?」

 

テシテシと左足でフォウに叩かれて覚醒する。

 

「フォウ! フォフォウ!!」

 

今度はグシグシとフォウが頭を達哉の頬にすり付けてくる。

心配したよと言わんばかりだ。

達哉は苦笑しつつ、フォウを撫でて落ち着かせ、酸素マスクを取って上半身を起こす。

衣類は病人服ではあるが、体調に問題はないように達哉自身感じ取れた。

腹に若干の違和感があったので、服の中を覗いてみると槍で抉られた傷が残っていった。

皮膚は癒着しているが抜糸は済んでおらず縫合糸が点々としている。

 

「皆無事か・・・」

 

皆は無事なのかと思いつつベットのナースコールを押そうとして。

横を見れば机に突っ伏して寝ているロマニがいた。

爆睡中である、そりゃ気が気でなく、ついに緊張の糸が途切れたがゆえに寝ていたわけで。

起すのも悪いかと思った時、

ロマニが激しく唸った。

と言うよりうなされている。

 

「フォウ!?」

 

これにはフォウも達哉もびっくりだ。

かなりひどいうなされ方である、故に達哉は自分の左腕に刺さっている点滴用の針を慎重に抜いて。

ベットから降りてフォウと共にロマニに近づく。

三日とは言えど体を動かしていないゆえに酷く硬い。

 

「フォーウ?」

「大丈夫だ、この程度は・・・・」

 

背伸びよりもロマニを起こす方が先決であるとして達哉はしっかりと歩みを刻み込みつつ。

足元にフォウを伴って、ロマニに近づく。

うなされる彼は「藤丸君、マシュ」と呟いていたがマシュは兎にも角にも藤丸という人は達哉は知らなかった。

達哉自身の記憶に該当する人物はいなかったし、カルデアのスタッフにもそういう人物はいなかった。

だからこそ、それに嫌な予感がした。

もっとも致命傷になるとかではない、ただ、天井から吊り下げられたナイフの切っ先が自分に向いており。

それが致命傷になるではないかと言う妄想染みた思いである。

妄想は所詮妄想、現実ではないと達哉は切って捨てて。

ロマニの背を摩ろうと接触する寸前で、ロマニが跳ね起きる。

本人も予想だにしなかった悪夢だったのか。ロマニは呆然と達哉を見て、部屋を見渡し達哉を見る。

 

「―――――ここは?」

 

そしてロマニは一筋の涙を流しながらそう呟いた。

藤丸と言うのはロマニの失った友人なのかなと思い、達哉はあえて触れずに至極まっとうに。

 

「カルデアの医療室ですよ」

 

と言ってのけた。

ロマニは現実を受け止めきれていないのかそういわれても部屋を数度見回してしてようやく現実に戻ったのか。

 

「あ、僕は!? 僕は!?!?」

 

と酷く狼狽していた。瞳孔が安定せず錯乱状態である。

患者の達哉がロマニを落ち着かせるという逆構図が発生していた。

 

「ロマニさん落ちついて!」

「フォフォフォウ!!」

 

錯乱し暴れるロマニの両腕を押さえ達哉が説得。

フォウもロマニの髪の毛にしがみ付き右足をペチペチとしている。

それでも戻らないので。

 

「フォウ、離れろ」

「フォウ?」

 

フォウに離脱を指示。

そして達哉は。

 

「ふんぬ!」

「ぬふぉう!?」

 

ロマニの顔面にビンタを叩き込んだ。

ロマニはコマのように回転しつつ倒れる。

無論達哉はかなり手加減し、威力的には成人女性の全力ビンタくらいの威力である故に。

 

「ごめん、此処に来る前の夢を見ていた・・・」

 

ロマニはそう言った。実際には違うが誤魔化した。

あの夢の人たちが自分にどう関係するのか分からないゆえにロマニ自身あれがどうなのか分からなかった故だ。

達哉はロマニがどんな夢を見ていたのか知らないので、そのうわべの理由で納得する。

なんせロマニはカルデアに来る前には紛争地域で緊急医療に従事していたと聞いていたからである。

そんな事をしていれば、うなされるのも道理だろう。

紛争に内戦となれば死体と轟音は御供だからだ。

 

「それより達哉君、君立っていちゃいけない! ベットに戻って!」

「いや、これくらいなら日常生活や戦闘行為に支障は「戻るんだ!!」はっはい・・・」

 

先の混乱などもあってロマニの顔面はえらいことになっていた。

ビンタで顔の左頬は若干腫れており鼻水に涙である。

さらに夢見の影響やで喜怒哀楽ごちゃ混ぜである、そうとしか形容し得ない表情だったので。

達哉は押し負けおずおずとベットの上に戻る。

ロマニは大慌てで関連各所に連絡を入れつつカルテをすごいスピードでめくっていた。

 

もっとも達哉からすればロンギヌスの一撃と言うことを抜けば、日常茶飯事だった。慣れないころは脇腹抉られたり、

腕がすっ飛んでリサの世話になるのは日常茶飯事であったから。

ついでに財布を見つつ守銭奴妖精相手に涙流しながら治療を依頼することもだ。

 

「・・・冷静に考えれば、刺されただけって事でも拙いのか」

 

故に、そこらへんの危機感が薄れていたことは否めない。

即死しなければペルソナスキルで重傷でも直せるからだ。

自分自身の負傷に無関心になるのも無理はない、なんせ治せるからだ。

無関心に無頓着になるのも道理だろう。

普通の人間なら腹を槍で刺されたら大騒ぎ物だから。

 

「鈍くなってるな」

 

さらにそこで孤独な一人生活というのも相まって余計に鈍くなっているというのもあった。

 

「フォウ?」

「気にするな、フォウ・・・ちょっとした自嘲さ、皆には迷惑かけたな・・・」

 

もっとも思い返しても、あの時、あのタイミングと疲労的に考えて回避は不可能だった。

言い訳染みているなと苦笑して、ベットに身を横にする。

そうして数分経てば、皆が駆け込んできた。

これには達哉もびっくりである。

泣き散らすマシュとオルガマリーに抱き着かれ、美少女二人に泣きつかれるとは男明利に尽きるだろうが。

デミサーヴァントとペルソナ使い二人に抱き着かれるということは絞めあげられると同意義だ。

ギブギブと二人の肩を叩き、達哉は役得感よりも窒息の危機を訴える。胸の柔らかさなんぞ気にしていたら死ぬだろう。

それでもご褒美ですと言える特殊性癖を達哉は持ち合わせていないので必死に訴えかけた。

なんとか二人がやっとのことで離れ、

達哉は息をと整え二人を見る、半泣きだ。

 

「先輩、大丈夫ですか? どこか痛いとかそういうのは」

「大丈夫だよ、マシュ、ロンギヌス抜きにすれば向うじゃ、日常茶飯事だからなぁ・・・ん、傷もふさがっているし問題ないだろう・・・それよりすまん、迷惑かけた」

「な、なんでアンタが謝んのよ!?」

「いや、何故も何も、あそこで俺が避けられないのが悪かっただけだろ、それよりも二人とも怪我は? 大丈夫なのか?」

 

マシュもオルガマリーもまさか宗矩の言う通り、二人に対して達哉が思うところがなかったのが事実であるということを知って呆然とする。

寧ろ達哉的には自分が迷惑かけてしまったわけで。

 

「なっ、宗矩の爺さんが言った通りだろ? 気にしちゃいねぇって」

「長可さん・・・、説明欲しいんだが・・・」

「いやよ、そこの二人、自分たちに力がないから、達哉が大怪我したって焦ってたのさ」

「・・・気持ちは分かるが。所長や、マシュは悪くないぞ」

 

長可の説明で十分伝わった。

達哉も通った道だからだ。

 

「ですが・・・」

「マシュ、気にしすぎだ。あそこではあれでよかったのか?」

「そこは言い切れよ達哉・・・」

「しかしだな。自分の行動というのは他人からの評価が無いと分からないぞ。普通」

「・・・正しかった。これは俺もクーフーリンも宗矩の爺さんも同意見だよ」

 

既に戦闘評価は終了している。

達哉の装備礼装から回収された戦闘データでそういう評価が出た。

ジャンヌ・オルタはあそこでなにがなんでも倒しておくべき敵であり、悠長なことをしていたら後がなくなるという評価であった。

 

「と言うわけだ。所長もマシュも気にしすぎだ。」

「うん」

「はい」

「・・・まぁそういわれても納得できないのは分かるけどな、そこはそれで納得してくれ。」

 

いくら本人が言っても納得できない。

後は時間や日頃のコミュで解決していくしかないかと達哉は思いつつ。

 

「ロマニさん・・・俺はもう動けるが、日常生活に戻って「あと二日は検査とかやってもらうからダメ」はい・・・」

 

ロマニに退出許可を貰おうとしたが笑顔でダメと言われちゃ何も言えない。

 

「そう言えば。ドクター、顔面がすごいことになってますけど・・・何があったんです?」

 

泣きはらし喚き散らし達哉にビンタされたのだ。左頬が腫れており涙痕やら鼻水痕が残っている上に髪の毛が派手に乱れている。

 

「いやその「ロマニさん、俺が目覚めた時慌てて来たもんだから盛大にコケてな」

 

咄嗟の言い訳が効かないロマニのフォローを達哉が行う。

もっとも本人の名誉を守れているのかどうかは激しく疑問形なフォローではある物の。

まぁロマニだからと言うことで皆が納得した。

 

「ああ、所長、マシュ。頼みたいことがある」

「なんです?」

「なぁに?」

「俺のジッポもってきてくれ」

 

今は病人服だ。達哉は手癖の御供がないことに寂しさを覚えていたがゆえと言う事と。

やはり約束のジッポだ。傍に無いと不安になる。

 

「それと本とか持ってきてくれると嬉しい」

 

さらには二日は手持ち沙汰と言うのも、アレだったので。

達哉は思い切って、二人に書物をお願いする。

欲を言えばバイクの専門誌などが良いが。達哉は活字は苦手ではないため。

そこまで頼むのも気が引けたため。あえて二人のチョイスに任せることにしたのだ。

二人ともそれを了承する、心持が楽になったのか向日葵のような笑顔を浮かべてだ。

 

「やるねぇ色男」

 

長可は口笛を吹きつつ茶化すものの。

 

「なにが?」

「そりゃねぇよ・・・大将」

「??」

 

達哉の鈍感ぶりは長可も呆れるほかなかった。

もっとも二人とも自分自身の心の内に気付けるほど情緒が成長しているわけでもないため。

恋とかそういうものではないのはない、あえて形容するなら父性を求めているという物だろう。

今はまだという概念が付属されるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、気づいたのだけれど」

「なんだ?」

「なんで、魔術組織にこんなに銃火器があんのよ!!」

 

アサルトライフルの射撃練習を終えてキルハウスから出てきたオルガマリーは叫んだ。

今の今まで気を回す余裕はなかったが、

カルデアには大量の火器が搬入されていた。

最新鋭を嫌うにしろ保安部を有しているなら当然なのだが。

それでも過剰なレベルで銃本体とカスタムキット、

そしてコンテナにたっぷりと詰め込まれた弾薬である。

レフボンバーを喰らう前の保安部だったら、驚異的な練度と火力、

ダヴィンチやスティーブン製の装備に身を固めて色持ち魔術師の工房に攻め入っても攻略してお釣りがくる量である。

叫びたくなるのも当然と言えた。

 

「アンタら、私に内緒で購入したわけ?!」

「いや、購入したのは前所長だ」

「糞親父かよぉ!!」

「ストレスフルだったからな。雄たけび上げながらランボーやってたぞ」

「だったらくたばるなぁ!!」

 

意外なことに主犯はマリスビリーであったらしい。

無論、経費削減的な意味合いもある。対魔術戦闘であっても、基本7.62mmNATO弾 神経弾仕様を使えば片づけられるためだ。魔術師に対し魔術師あるいは魔術使いを配備するより安上がりである。

そして火器の大口径化 高威力重視も魔術師という一般の人間からすりゃクマやら人間サイズのタクティカルを通常火器で相手取るのだからと言う理由もあるが、

ストレス解消もかねての事だったらしい。

オルガマリーは絶叫した。

 

「で・・・宗矩、アンタなんで銃なんて撃ってるわけよ」

「武器の性能を知り、対策を練るのも兵法の一つ。故に分かる為に訓練している次第」

 

キルハウスから出てきた宗矩は着物姿でゴーグルに消音ヘッドフォンを付けて腰には愛刀。

なんというか侍が銃器ぶっ放しているというB級映画染みた光景である。

 

「しかし、楽でいいですな。ちなみに聞きますが。新兵などでも使いやすい物などもあるのですかな?」

「ん? なんでまたそんなことを・・・」

「いや、銃の評価を聞いているとそういう類の物もあるのかと」

「あるぞ。子供から大人まで。発売した1949年以降から現代まで紛争地域での御供」

 

二人をしり目にガンケースに歩きつつ、年季の入ったAK―47を取り出し、

テーブルの上に置く。

オルガマリーも宗矩も興味津々だった。

 

「それがこれだ。AK-47」

「・・・なんか安っぽそう」

「実際に安い。だが集弾率と反動に目をつむれば現役で行ける優れものだ。何より多少の訓練で使えるようになるくらい構造が単純で、田んぼの泥水に浸そうが、砂地に埋めようが正常に動く。」

「・・・それはそれで頑丈すぎませんか、しかも安いとくれば、幾らほどで?」

「30$以下・・・、ああ侍には分かりにくいか。生きた鶏一匹以下だ」

「なんですと・・・」

 

当時、火縄銃は高級装備だった。

それより

 

「アフリカの紛争地域に潜入した時の任務で市場で見かけた中には5ドルくらいの奴もあった」

「「5、5ドルって・・・」」

 

さしものオルガマリーも宗矩も戦慄し恐れおののいた。

5ドルとくれば日本円にして500円から600円前後の値段である。

つまり、子どもが100円コンビニスナックを5個買うのと大差が無い値段である。

流石のアレっぷりに宗矩はドン引きだった。

先も言ったように、火縄銃はそろえるだけでも大金が掛かる。

訓練だって現代の銃器に比べれば難しく数をそろえなければまず当たらないのだ。

それを超安価で揃えられ多少の訓練で撃てる上に連射可能とくれば江戸の人間としては引くものがあるという物だろう。

 

「もっとも撃てるかどうかは流石にそこまでくると保証しかねるな

 

ヒロシマ&ナガサキでの被害以降、直接的被害は出していない核兵器よりも人を殺している。先も言った整備性からか、それこそそこらへんの適当なガキ拉致して、ガウンパウダーとスティックを摂取させてランボーなんかを見せて洗脳。これで少年兵の出来上がりだ。」

「・・・安価で使いやすく高性能というのも・・・考え物ですな」

「ああ。その分、人材育成の難度が下がるから、それと同時に命の価値も暴落する。」

「そう考えると武器は多少扱い辛く専門性を求めた方がいいってことなのかしらね・・・」

 

銃器の発展は兵士を容易く生み出すことを可能にした。武器の性能が古代の達人の技を安く再現できるようにしてしまったからである。

だが同時に、それ以上に命の価値は暴落したと言っても過言ではないのだ。

多少の訓練さえあれば銃はぶっ放せる。

英雄の時代も終わろうというものだが、

ここ最近の流れは違う流れになっている。

 

「いやここ最近は歩兵装備の機械化が進んでいるのと戦術の高度化で兵士に掛ける金も訓練も倍増しつつ高度化している、数はそこそこ技量を高めたワンユニットでスマートに任務をこなすというが主流だ」

 

兵士の機械化、戦術の複雑化と機械化、それに伴う高度な専門知識がものをいう時代になってきており。

個と言わないまでにしても、少数精鋭が現在の軍の方針だった。

維持費だって馬鹿にならないから少数精鋭で経費を浮かせる。

さらに高性能火器と衛星監視網、そして優れた兵士で物事はスマートに終わらせる時代になってきているのだ。

 

「少年兵なんて初見殺しでしかない、テロリストやら数をそろえられないテロ組織の悪あがきだよ」

「アマネは・・・」

「ん?」

「アマネは殺せるの?」

「殺せるよ」

 

少年兵を初見殺し、使い捨ての盾と言い切る時点でアマネの人間性が垣間見れた気がする。

宗矩は顔を顰め、故にオルガマリーは殺せるのかと愚問を問うて。

アマネは表情一つ変えず言い切った。

 

「私自身が少女兵だったからね、連中の手は私の過去そのものだ。だから殺せる。一発の銃声を惜しむ間があれば少年兵は複数人の戦友を殺すから」

 

アマネは少女兵上がりだった。

ウィンドリン・アマネと言う名も本名ではない、自分で適当に識別のために名付けた名でもある。

生きるために少女と言うことをフル活用して敵兵を惑わし殺して生き残ってきたのだ。

少年兵の手管は熟知している故に殺せる。

油断すれば戦友が死ぬから躊躇はしない。

 

「所長、今から言うのはぶっ壊れた人間の割り切り方かサイコパスの割り切り方だからあんまり参考にはするなよ。貌も知らないガキと戦友、天秤にかければどっちが大事かなんて決まっている。不要な憐憫を戦場で抱けばそれは致命傷だ。だが抱けなければもう人間じゃない」

 

謂れの無い憐憫は人間の傲慢その物である。

故に刹那の判断がものをいう戦場では致命傷にしかならない。

だがそれを捨てたやつが人間と言えるだろうか?

言えるはずもない、良い所、肉塊が銃を持ってぶっ放す兵器と形容するほかない。

 

「だったらどうすればいいのよ」

「憐れんだうえで飲み干して行動には出さず引き金を引け」

 

だったらどうすればいいのかとオルガマリーはアマネに問う。

それらを承知のうえで引き金を引けという。

かなり無茶な問題だが戦場で人間性を失わず大事な物を守る為にはそれしかないと言い切る。

現実それしかないわけで、だから米軍はメンタルケアにも力を入れている。

 

「憐憫を悪と断ずる奴もいるだろうが、人間にとっては切り離せない構成物質でもある。人間で居たいならそうするほかない」

「辛くても?」

「ああ、皆そうしている、それが出来なくなってしまったのが私のような戦闘マシーンで、それをしたくなかったのが革命家とかの類だ。ああいう奴らは急激な変化で変えられると考えている、発生する反作用も考えず、それで失敗もする。歴史が示すとおりにな。そんなわけないのに、急激な流れで変えられるのは希望的観測をせず前準備に掛ける羽目になるから。結局ゆっくりと変えることと変わらない、故に急激なご都合主義を使って変えようとしている奴は、基本現実に屈した負け犬、世界と戦うと言いながら戦うこと自体を放棄したくだらない存在だよ、テロリストと一緒だ。勝てないから暴力に訴える阿呆・・・っと話がそれたな、次の講義に行こう」

 

アマネはカルデアに来るまで、米国の非正規特殊作戦群としてあらゆる紛争 内戦 戦争を渡り歩き。

彼女なりの見解を述べつつ話しがズレたと言いながらアマネはテーブルの上に置かれたガンボックスを拓く。

そこにはM4SOPMODⅡが収められていた。

と言ってもその様相に、オルガマリーも宗矩も顔を顰めた。

 

「これがアサルトライフルの悪いカスタム例、通称クリスマスツリーだ」

 

M4のレールにありとあらゆるアクセサリーを取り付けたものを取り出す。

そりゃもうゴテゴテ超デコレーションと言った有様だ。

昔の人の宗矩も何するんだ此れと言うレベルである。

 

「十手器・・・ですかな」

 

宗矩、渾身の皮肉である

十手器とは宮本武蔵の父である無二が考案した代物で薙ぎ突き絡めとりに対応した多機能武器だが、

ぶっちゃけ多機能すぎてまともに扱える代物ではない。

現実、現代に至り、十手器の操法はものの見事に失伝でしているのだ。

 

「似たようなものだよ、多機能すぎて使えたもんじゃない。持ってみる?」

 

アマネが差し出し宗矩が持つ。

 

「重い・・・しかも装備があり過ぎて邪魔になっていますな」

「サバゲーとかガンシューティングでやる分には良いがな・・・」

 

宗矩は重いと言いつつかなり手慣れた手つきで各種動作を行っていく。

侍がそれでいいのかと二人は思った。

それぐらい手慣れた手つきであるし、本職であるアマネが見ても謙遜が無い動きであったから。

 

「ハンドガンで二丁拳銃と言うのも悪い礼だ」

 

次に二丁拳銃は駄目と言いつつガンボックスからLARグリズリーを取り出しつつ言う。

 

「なんで二丁拳銃って駄目なの? 映画とかじゃドカドカやってるけれど」

「まず拳銃は片手での保持が難しいから、自動拳銃はスライド機構を衝撃で行うから余計に。次に弾の装填の問題、両手がふさがっている状態だから装填が難しいんだ。混戦状態で冷静に判断できるかって問題もある」

「ふぅん」

「まぁやってみろよ、実際に体感した方が手っ取り早い」

 

そういってアマネはLARグリズリーを机の上でスライドさせオルガマリーに寄越す。

 

「女の子なんだけど私」

「ペルソナの成長補正でペルソナの身体補正抜きでも現役軍人顔負けいわせる奴が女の子な物かよ」

 

普通ならまず扱いきれないが、ペルソナの成長補正とLvアップシステムによってオルガマリーの身体能力は現在、現役軍人顔負けである。

マグナムも片手で保持できるだろうと考えての事だった。

 

「そういえば気になってたんだけど・・・保安部の持ってる銃ってほとんどマグナムとかだけどなんで?」

「突撃銃クラスになれば神経弾持ち出せば魔術師は確実に鎮圧及び殺傷できるが、サイドアームは普通の拳銃を神経弾使用にしても十分な効果が期待できないからね」

 

保安部は万が一の外部からの敵や内部でやらかした馬鹿の始末も業務のうちである。

確実に仕留める為の装備をきちんと取り揃えているわけだ。

故にサイドアームは強装弾使用の拳銃神経弾を込めれる大口径拳銃かマグナムを使えるマグナム拳銃に限られているのだ

 

「ベリルの件でももめてたものね」

「ベリルの一件は肝が冷えたよ、そんじょそこいらの魔術師なら素手で撲殺できるがね、ペペやベリルクラスとなると私に信頼のできる部下複数人と完全装備が必要だからな」

「件の事件は、フラッシュバンからの素手で鎮圧したって聞いてるけれど」

 

通称ベリル籠城事件である。

珍しくキレたロマニが保安部員の出動を要請。

フル装備のアマネ率いる保安部員が出動。

ベリルは魔術協会でも腕を鳴らす殺し屋として有名だった。

故に確実に鎮圧すべく、アマネは殺傷を前提としたプランで進攻

危うくベリルは殺処分が決定されるところだったが、キリシュタリアと律とそこまでしなくてもと顔を青ざめさせたロマニの説得によって無殺傷の鎮圧手段が取られた事件である。

 

「ベリルは五感が良かったからな、フラッシュバンを焚けば初回は効く、あとは怯んだところを締め上げたわけだ」

「貴方とペペでね」

 

流石にアマネ一人では分が悪いじゃないかと言う事でペペロンチーノも同チームとしての責任を取るということでアマネと共に鎮圧作業を行い、

フラッシュバンからの二人の奇襲でベリルはつるし上げられ独房に叩き込まれたのが事の顛末である。

五感が鋭いということはフラッシュバンなどの効果が倍増するということに他ならない故に。

もっとも次は通用しないだろうとアマネは思いつつ、シガレットケースから煙草を取り出し口に咥える。

 

「準備は?」

「いつでも」

 

マガジンポーチを取り付けたタクティカルベルトをオルガマリーは腰に付けて。

両手にグリズリーを持ってキルハウスに入った。

同時に完全ランダム式、最新鋭の3Dターゲットが表示さられる、それらは生きているかのように動く。

速い話が投影式のゲームだ。

スコアとタイムを競う。

ちなみにぶっちぎりでアマネが一位、それで二位に宗矩が付けていた。

本当に古代人は恐ろしいとも思いつつアマネは煙草に火をつける。

ブザーが鳴る、ゲームスタートだ。

 

「―――――――うそだろ?」

 

その様子を最初は二丁拳銃を持って入るのだから無駄弾を使いつつタイムも食い込めないとたかをくくってみていた。

 

「嘘ではありませんよ、アマネ殿」

「ペルソナの身体補正と魔術回路による演算補助抜きでこれか」

 

だが現実は上位トップテンに食い込みそうな勢いである。無論ペルソナによる身体補正は抜き 魔術回路による演算補助も抜きだ。

技術とは生身で身に着けてこそ真に自分の物となるゆえに。

そして的を正確に把握しながら両手の拳銃を巧みに撃っていった。

ターゲッティングを複数同時に行っている。

弾数の管理も問題なし、マグチェンジも銃を保持しつつ中指と親指をうまく使って、マガジンホルダから上手い事取り出し左右交互に弾を込めてサイトを利用しつつ片手コッキングして弾倉を確認。

元々空間把握能力が高い傾向にあるとは思っていたが、此処までとはアマネは思っていなかった。

空間把握能力は生来の物で。それがカルデアに来てからのストレスと生来魔術回路を宿しており、それを常日頃回していたから脳が自動的に鍛えられた結果であると結論付ける。

狙いが若干定まっていないのはマグナムの使用による反動でのブレだろう。

 

「全然使えるじゃない」

 

タイマーストップをオルガマリーが掛けて若干息を切らせつつキルハウスから出てくるなりそういう。

順位はタイムとスコアの合計数でランク付けされる。

結局十一位であったが十分すぎる物だった。

 

「所長、片手コッキングなんて教えた覚えないんだが?」

「映画で見たのよ、使えるかなぁって」

「・・・見て聞きかじったテクニックを使うのは減点だな、失敗すればジャムする可能性がある、サンソンの時のようにはなりたくないだろう?」

「ええまぁ」

 

聞きかじったテクニックを実戦でやるのは馬鹿である。

特に銃器ではだ。ジャムや動作不良の危険性が伴う。

使っているのがオートマグナムに分類される拳銃なら倍率はドンだ。

 

「まぁとりあえず、シューティングレンジに入って一連の動作がものになるまで練習だ」

「へ? 二丁拳銃って駄目なんじゃ」

「前言撤回、君向けのアーツだよ、接近戦は足技でどうにかすればいいし、銃で殴る為のアタッチメントもある、と言う分けで、練習しておいてくれ、君の新しい武器の手配とそれに合った体術の会得メニュー作ってから行くから」

「わかったわ」

 

オルガマリーがそういってシューティングレンジにありったけのマグを抱えて入っていくのを見届け。

アマネと宗矩は宇宙を背景にした猫のような表情。

或いは珍種を偶然発見した動物学者のような表情をしていた。

 

「まぁ適性も分かったところで。意外な所に来たから。所長の教練メニューの見直しと、銃のカスタムプランを見直しだな」

「ダヴィンチちゃん殿が悲鳴を上げますな」

「意外なところに入ったからな~」

 

一丁運用で専用リボルバー、そして体術はCQCでいいだろうとたか括っていたらこれである。

宇宙猫になるのも無理も無いと言えた。

 

「才能あるやつは出来るって話だ。でこの状況下で才能を開花させないという方針は無しなわけだ・・・。ところでマシュの具合は?」

「主殿の事は聞かないのですな」

「だってあれ。明らかに才能限界までいっている。あとはムソウキョウチとかそういう領域に達しないとキャパ解除にはならんだろうよ・・・」

 

もうすでに達哉は才能の限界値だ。

それは身体的と言う意味合いで、これ以上鍛えても筋肉などは付きはしないという意味だ。

元々が凡人である。

運命に選ばれただけの只人だ。

ニャルに絡まらなければ、それこそ藤丸立香とどっこいどっこいであるし。

鉄壁メンタルの藤丸とは違い達哉は凡人メンタルでもある。

あくまで試練に挑み成長したから優れているだけの違いでしかない。

能力の有無も試練の内容違いでしかないのだ。

故に太刀筋のブレなどを矯正する、現状の身体能力を維持するくらいである。

技術に関しては良くも悪くも凡才、時間が掛かる。

要するに達哉は肉体作りを終えて技を習得することでしか成長できない段階であり、技術という点の習得時間も才能的に二人に劣る。

もっとも一からすべてを磨き上げる二人に比べれば楽ではある。

 

「まぁそうですな、此処からは境地的な話です、主殿の場合。それでマシュやオルガマリー殿のことですが」

「才能が有り過ぎるか?」

「はい、二丁拳銃の件を抜きにしてもオルガマリー殿は銃器の扱いや足技に才が有り、マシュ殿は体術や盾裁きに才がありますな、言っては何ですが・・・主殿を鉄とするなら二人は金銀と言うレベルです」

「そりゃな、ある意味、調整されて生まれて来た二人だからな」

 

オルガマリーもマシュも、調整されて生まれて来たデザインチルドレンでもある。

オルガマリーは魔術師として古臭い血の手法で、マシュに至っては遺伝子段階からのデザインドが施されている。

用途は別だが普通に生まれてきた達哉とは違うのだ。

二人とも渇いたスポンジのように技術を吸収していく。つまり達哉と比較しても吸収速度がダンチである

 

「もっともあってるかどうかは別ですがな、三人とも致命的に戦いに向いていない」

「当たり前だ。所長にはああ言ったが、良い兵士の条件は理論の崖っぷちに立たされたら疑問符などぶん投げろ。無神経かつ鈍感になれ。正しいのだから正しいというトートロジーを受けいれられる、そういうサイコかソシオだ。三人はそうじゃない」

 

と言っても心の戦える才能とは別口である。

良くも悪くも三人とも割り切れる様な心理構造をしているわけではない。

本当なら三人とも普通に学園生活でもして就職目指すなり、大学目指すなりの普通がよく似合うのだ。

達哉も殺人への割り切りはあれだけ酷い目にあっても改得していないのだから。

故に兵士と言う職業に向いているのはサイコパスやソシオパスであろう。

無論メンタル的意味での話になるが。

 

「・・・すまないボヤいたよ」

「ぼやきたくもなる物です」

「・・・」

「なんでしょうか?」

「心理才能云々で思い出したが、達哉たちを一か所にまとめるという計画は誰が言い出すんだ。これ・・・」

「あー」

 

メンタル的焦りは一応抜けたとはいえ他の精神的外傷は癒えているとは言えない。

日常生活に支障が出て来ている。

故に達哉、マシュ、オルガマリーを三人まとめて生活させるという計画が立案された。

達哉は強い、徐々に本来の精神性を取り戻しつつある、二人のフォローも可能だろう。

包容力もある、父を知らぬがゆえ、あるいは父の愛を知ったがゆえだ。

ぶっちゃけた話、一括管理のついでに都合がいいから達哉に押し付ける計画ともいえる。

というかそうせざるを得ない、アマネも今に至るまで戦場で過ごし続けた故に歪な精神性、ダヴィンチは天才過ぎて他人が共感しずらい。ロマニは言っては何だが情けない部分もある。故に完全なメンタルケアは不可能だ。

本当にレフボンバーでメンタリストが消し飛び、最後に残った一人は氷漬けだ。ケアできる人材がいないのである。

このまま放置しておくと自傷行為やら薬に手を出しかねないとして監視兼二人のメンタルケアを行える人物が必要だった。

だからこそ今のところ一番二人が心を開いているのが達哉であるゆえに押し付けるほかないわけで。

その言いだしを誰がするのかと言う事である。

 

「クーフーリン殿は?」

「クーフーリンなら別の意味でもうやっちまえって言いかねんから却下」

「戦士としては尊敬していますが、彼の女性遍歴は信用なりませんからな」

「責任取って切実さを持ってる分だけマシだよ、これがランスロット当たりなら余計に拗らせるトンチンカンなことを言いだしかねん・・・」

 

クーフーリンも多重婚である、故に女性遍歴は信用ならないとしてアマネは責任取っているだけマシとしつつもそう切って捨てる。

そしてこの場にはなぜか召喚されていないのにディスられるランスロット。

それも第一特異点で敵側で召喚されればそりゃ信用度が地の底に埋まるのも仕方がないことだろう。

それ+伝承での女癖の悪さだ。

間が悪いのもあるが、あれは八割方本人が悪いで片付く為である。

 

「・・・書文殿も違いますし、長可殿も違う・・・もうアマネ殿しかいないのでは?」

「貧乏くじ引くのは慣れているがね。それは戦場での貧乏くじだ。こういうメンタル系の貧乏くじをどうにかしろと言われてもなぁ」

「・・・ロマニ殿」

「駄目だ。アイツ何故かそういう事では即座にヘタレるぞ。一度泣きつかれたことがある」

「ロマニ殿が女性関係で泣きつくですか?」

 

宗矩、目を見開き宇宙猫である。

あのロマニが女性関係で悩むというのは一体何があったのかと言う驚愕があった。

アマネはタブレットペンを動かしトレーニングメニューを書き込みつつ答える。

 

「アイツ顔は良いし、普段の性格もいいからな。だからカルデア内での人気はあって、当然告白してこようとするスタッフは出てくるわけで。それでコクられて。断り方が分からんからとダヴィンチと私に泣きついてきたんだよ」

「―――――ヘタレ過ぎやしませんかな・・・それは・・・」

「だろ? いい年こいて女性を袖にすることすら知らんのは問題だ。何とか取り成しして解決したがね。故に一人の女性相手に慌てふためいている奴に達哉君、二人と同棲しろなんて言わせてみろ、変な方向に飛ぶぞ」

 

そうため息を吐きつつアマネはタブレットのデータを保存しいったん画面を落し煙草を灰皿に押し付けてもみ消す。

そしてしばらく考え込み。

 

「悪い、あこぎな事だが宗矩手伝ってくれ」

「承知しました」

 

結局説得はアマネ自身がすることに決めた。

青年少女たちに武を伝え殺し方を教え、割り切り方を伝える。

嘗てアマネ自身がそうするしかなかったとはいえ、される側からさせる側になったことにため息を漏らす。

こうはなりたくない物だと擦り切れた思い出の怒りの中で思ったことが今になって返ってきた。

まさしく因果応報と言う奴だろう。故に思わずにはいられない

 

ーいつになったら、こういう類の寒い時代は終わるんだか・・・・―

 

人理焼却という熱い日々なのに寒い時代は未だ尚続いている

そして銃声がシューティングレンジから鳴り響いていた。

 

 

 

 

 

 




今回はギャグにするつもりやったんや・・・
宗矩が張っちゃけたり、アマネがピザで狂乱したり、所長怒りのカルデアとかやりたかったんや・・・
なんかどんどんシリアスなってこんなことに・・・どうして・・・



フォウさんやっとのことの出番です。
ちなみにフォウさんセンサーにたっちゃんは引っ掛かりません。
選ぶしかないかないからね、その上で糞真面目に選んでいるという事もあって。フォウさんからは同情目線。
寧ろフォウさんがキレたいのはニャルだったり。


そして所長意外な銃適正に関係者全員頭を抱える羽目に。
二丁拳銃適正が一番高いとはアマネも思っていなかった。
突撃銃適正が高ければいいいかなーていどだった

アマネ「ダヴィンチちゃん。予定変更な リボルバーからオートマ二丁お願いね」
ダヴィンチちゃん「キェェェエエエエエエァァアアアアアアア!?」

施設修繕、装備調整などなど数多の掛け持ちしているダヴィンチにやるしかない理由あるの無茶ぶりが襲う!!
そしてたっちゃんに忍び寄るラブコメの波動。
彼もまたペルソナ主人公だからね女難に会ってなんぼよ。
ニャル的にはギンコや舞耶を切り捨てて選べるのかニヨニヨしていたりする。

ニャル「P主人公共の女難は私関係ないからな!! マジで!! 連中の選択の結果だからな!! でもバロスwwwwwwwwww(P3P4P5修羅場を見ながら)」



カルデア重装化の原因
ぶっちゃけと魔術師に対抗するためには魔術で対抗するよりダヴィンチ&スティーブン製の神経弾搭載した。銃使った方が安上がりだから。
それでも大口径が多いのはアマネが魔術師は人間の頭脳を搭載したジャガーノート着込んでる熊だと思っているためです。
だから保安部員の装備はサブアームがLARグリズリー。メインが。IWI ACE52
スナイパーにはDSRー50やらバレット。
対戦車兵器として魔改造済み対戦車ロケランなどが正式採用されています。
その他には訓練用や施設内戦闘も考慮し通常火器も潤濁にあったりする。もしくは保安員個人の私物だったりする。

あと所長魔術はどうした?

所長「だって、魔術演算するよりマグナム神経弾使ったり蹴り叩き込んだり殴った方が早いし、演算は危機回避やら戦闘に回した方が効率的ですもの」



次回はギャグ回か召喚回やります













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03 御立派パニック!!

体が勝手に・・・

サクラ大戦シリーズより抜粋。


此処の所、ダヴィンチは徹夜続きだった。

無理もない、各種設備の調整修繕作業及び達哉やオルガマリーの装備の新調もあったからだ。

肉体的に疲労は無くても精神的な疲労はいかなサーヴァントでもどうしようもないことである。

それに一区切りついて明日は休み、そして明後日から地獄的デスマーチだとダヴィンチは思いつつ作業机に限定投入用装備を置き、自分のPCにハンディカムPC経由で接続する。

我ながら仕事人間だなとダヴィンチは苦笑しつつ限定投入用装備の解析に挑む。

 

「しっかし、スティーヴンの奴、なんでくたばったんだか」

 

惜しい実に惜しいとダヴィンチは思いつつそういう。

スティーヴンは天才だった。プログラム技術、電子機械という分野ではダヴィンチでも勝てないと思う天才である。

現に限定投入用装備はダヴィンチの理解外にある物だった。

優れ過ぎた技術は魔法と見分けがつかないというように、その領域に達しているこの機械を前に。

発明家として天才として解析に乗らざるを得ない。

未知の技術を知りたいという探求心に駆られ、解析を進めていく。

そうしている間に気付けばダヴィンチは意識を落していた。

俗にいう寝落ちと言う奴である。

故に、気づかなかった。

限定投入用装備の銃口が淡く輝き。

 

「ウハハハハ!! 見たか!超人め! 閣下の盟友だか知らんが、このご立派な我を封印するとは。まぁいい数年の雌伏の時を超え、我現世に降臨セリ!! どれそこの美女からセクハラを・・・なんや!?このおっさん!?」

 

悪魔が出てきたことにだ。

 

 

 

 

 

 

此処連日、オルガマリーとマシュは達哉の所に入り浸っていた。

湿布やら塗り薬を処方してもらうついでにお見舞いというわけである。

 

「アマネはあれよ、生粋のサディストよ」

「こればかりは・・・所長に同意です、もう少し手心が欲しいです」

 

二人は愚痴っていた。

基礎修練も地獄である。アマネが英雄たちの鍛錬を現代解釈に基づいて洗礼した地獄の特訓である。

痛くなければ覚えませぬという奴だ。

もっとも一般軍事訓練よりは温くしている物の。こんな事態になるまで戦闘すら行ったことのない少女二人にはキッツイ物が在る。

と言ってもデミサーヴァントのマシュが音を上げるレベルではあるが。

訓練にはサーヴァントたちも混じる為何も言えない。

 

「もう腕がガタガタよ、筋肉痛で」

「私は背中と膝が痛いです」

 

基礎訓練が終わったらそこからサーヴァントのマンツーマンによる技術教練に入る。

型稽古と組手をひたすら繰り返すのだ。

オルガマリーは二丁拳銃適正が見えてから、ダヴィンチが作ったラバーガン・・・所謂ゴム製の模擬銃に実物と重量を同じくするための鉄板入りを持たされ。

アマネとクーフーリン交互に模擬戦、銃裁きと二丁拳銃を前提としたCQCに足技を叩き込まれている。

マシュに至っては長可と書文と当たり稽古だ。

それでも疲労でぶっ倒れないのはアマネと宗矩の教導の腕と言う奴だろう。

 

「悪魔狩りが出来ればいいんだが」

 

悪魔狩りをしていれば技術は兎にも角にもLvアップによる身体能力向上と駆けずり回る事によって体力は付く。

 

「先輩、それって楽なんですか?」

「楽じゃないな、命がけだしな」

 

達哉たちは時間も無いためLvを上げて身体を強化していた。

町中の悪魔が沸くポイントを練り歩き、実戦経験と身体能力を磨いたのである。

確かに手段としては手っ取り早いものの、上がるのは体力と身体能力だけだし何より命がけであることは変わらず。

結局身体能力を伸ばしたところで最後に物を言うのは身に着けた技量と根性であるから。

悪魔狩りが出来ると仮定して、結局地獄の扱きからは逃げられないわけで。

達哉は話題を変えるべく、別の話題を口にする

 

「そう言えば」

「どうかしましたか?」

「いや人理焼却犯のやりたいことが上手い事分からなくてな」

 

達哉は今一、人理焼却犯のやりたいことが分からなかった。

ニャルラトホテプは分かりやすい愉快犯的な奴である、黒幕をさらに深い裏で操ってこっちを翻弄しているのは明らかで。

この状況自体が奴の作った舞台であるということだが。

その件の黒幕の事が良く分からなかった。

 

「まぁ中途半端すぎて、分らないですからね」

 

マシュも達哉の言葉に同意する。

何もかもが中途半端すぎて訳が分からない。

攪乱作業にしても脇を上げ過ぎだ。柔軟に対応するための隙とだけは説明が付かない。

 

「ちなみに先輩ならどこを落します?」

「1962年、10月から11月の間の米国かキューバ」

「キューバ危機ね・・・ まぁ私もそうするかなぁ」

 

マシュの問いに達哉は冷戦に突っ込むと答えてオルガマリーも同意。

キューバ危機、今は遠い昔の冷戦の頃であるが。

そこを弄れば特異点が一瞬で世界滅亡爆弾と化すからである。

神話の英雄たちを嗾けるより、大統領を騙す方が楽である。

騙し切ったら。あとはスイッチ一つで地球の地表は放射能と粉塵による冬が到来するという寸法だ。

 

「ですが敵はソレをしなかった。と言うことはジャンヌ・オルタと同じでやることがあるからですよね?」

 

だがあえてしないということは。敵もその状況を利用してやりたいことがあるからとマシュは結論付ける

 

「でも本当にガバガバですね・・・レフ教授何がしたかったんですか・・・」

 

が状況が状況である、過去にさかのぼり特異点修復可能なカルデアを残している時点で意味が分からない。

そう言った意味ではジャンヌ・オルタは徹底していたから余計にだ。

マシュも他者を害するということが理解できてしまったがゆえに敏感にそれを感じ取っていった。

これが過程だとしてもカルデアを残しておく意味がない。

幾らなんでも柔軟性を保つための遊びにしてもずさんが過ぎるというものだ。

 

「・・・案外慢心だったりして」

「「まさか~」」

 

オルガマリーのいいようにマシュも達哉も声を合わせて否定する。

がしかしとオルガマリーが続ける。

 

「ニャルラトホテプが利用するような奴よ」

「「・・・・」」

 

端から完全に詰めてくる相手ならニャルラトホテプは別方面で利用する。

即ち自爆装置としてだ。その方が都合も良いし煽って勝ち逃げするのがニャルラトホテプである。

逆に言えば慢心している黒幕気取りは舞台装置として利用するのが奴である。

そう黒須淳や須藤竜也の父である須藤竜蔵のように。

つまり舞台装置として利用されている以上、カルデアを残したりわざわざ特異点こさえたりする慢心ぷりを見せている以上。

カルデアを残した理由が俗っぽいのは納得できそうな答えでもあった。

 

「そう言えば先輩はいつ頃退院で? 宗矩さんが暇そうに待ってますよ」

「明日には退院だ。と言うか宗矩さんが暇?」

「教導に空きがありますから、私も所長もナイフなら兎にも角にも専門じゃないですし」

 

マシュの言う通り宗矩は暇である。

達哉が入院中だから、教える相手がおらず、ここ最近は保安部の溜まり場でもあり所員のストレス解消場とかしたキルハウスに入り浸っていた。

 

「・・・きつくなりそうか?」

「「・・・」」

 

と言う分けで宗矩、気合入れて達哉待ちである。

そりゃもうウキウキと言う奴で。達哉が訓練に入ったら地獄確定な有様であった。

故にマシュもオルガマリーも目を背けるほかなかったわけで。

 

「そ、それよりよ!、退院したら私の部屋で食事でもしない?」

 

再度の話題変更をオルガマリーが行う。

 

「なんでまた、所長の部屋で食事って」

「いやぁね・・・ヤバいのよ」

「なにが?」

「一部食材の賞味期限が・・・」

 

そしてこんな話題を出したのも相応の理由があった。

オルガマリーが料理を趣味にしていたことは前にも語っていた通りだ。

故に事前に肉などを仕込み、真空パックに入れて冷蔵庫で保管しているのだが。

当然、幾ら保存法に拘っても賞味期限はやってくるものなのだ。

特にここ最近忙しいのは言わずもかな。さらに量が量である、消費しきれないのだ。

 

「皆もさそえばいいんじゃ」

「そう言うのは若い者同士でやれって、皆が言うのよ」

 

量が量ならサーヴァントや職員の皆にもふるまえばいいじゃないかとマシュが言う物の。

当の本人たちが断ってきたということもあってそういうことになったらしい。

なおスタッフたちはメンタルケア計画を知っているので後ろめたさ全開で断っていたことをオルガマリーは知らない。

 

「しかしだな、年頃の女の子が俺みたいな男を自室に上げるのは抵抗があるんじゃ」

「タツヤならそういうことしないでしょ?」

「まぁしないが」

 

達哉の記憶は皆が見ておりそういうことをしないと確信できるため。

オルガマリーも自室に上げることに抵抗はなかった。

 

「だがなぜ、君の部屋なんだ? 食堂でもいいだろう?」

「調理器具の問題よ。料理作るならグレードの高い設備使いたいでしょ」

「所長・・・自室の料理機材にいくら賭けたんです?」

「・・・三ツ星レストランクラスの調理場を個人使用にしたレベル」

「「それはやりすぎじゃ・・・」」

「それだけストレスがたまってたから、金で発散したかったのよ・・・」

「でもやりすぎ「それなら分かるな」先輩!?」

 

 

それは幾らなんでも個人でやるには掛け過ぎだろと二人は軽く引いた。

と言うかそのグレートであれば食堂の調理施設の質を凌駕する豪華設備だ。

某弓兵が見たら血涙流す豪勢っぷりである。

そしてそうなった原因はやはりストレスで、散財して解消するというあまり褒められた解消法ではない物を行った結果。

こうなったわけで。

最初は若干引き気味だった達哉も、所長の言い様に掌を返す。

むしゃくしゃした時に達哉もバイクショップでレアパーツを金が許す限り買いあさったことがあり。

しこたま兄の克哉に怒られ、後に財布の中身を見て激しく後悔したことがある。

 

「まぁそういう分けで。是非に来て頂戴。マジで拙いのよ・・・」

「なら楽しみにさせてもらおうかな、マシュは?」

「私もですか? 大丈夫ですが・・・良いんですか? 所長?」

「当たり前よ、三人で何とかできる量なのよ、こっちから是非にお願いするわ」

 

 

と言う分けで後日無事退院しささやかな食事会となったわけだが。

オルガマリーの私室

 

「むむむ」

 

彼女の部屋に黒い靄が隅っこの方に存在していた。

力が弱すぎて逆に誰も探知できないほどである。

 

「銀髪美少女を見つけて追っかけてきたのは良い・・・だがこの状態ではセクハラ出来ぬ」

 

何かにとりつかねばそれこそスプーン一つ動かすことくらいしかできない。

と言っても取り付くにしろ、依り代は選定し極上の物が良い。

女性に取り付くことも考えたが。今はそういう気分ではなかった。

 

「まぁ数年待ったのだ、機会は幾らでも・・・」

 

そう言いかけて部屋に入ってくる達哉を見て悪魔は・・・

 

「美青年もいるとか、マジ我得」

 

達哉に憑依することを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして達哉の退院日。

オルガマリーは珍しく気合を入れて料理していた。

男の子なら分厚い肉だろうと思い、メニューはトロトロ半熟オムライスデミグラス仕立てとビーフウェンリントン、生ハムを添えた季節野菜サラダ特性イタリアンソースと決めたのだ。

これはあくまでメインの話しで、その後の談話用のつまみは手早くできる物を選定している。

 

戸棚から日本米の入った袋を取り出し。戸棚の上にあった使っていないまま放置気味の高性能炊飯器を取り出し。

電源をセット。

ボウルに水を満たして。

ステンレスザルに米を入れ、ボウルに浸して良く洗う。

水が白く濁ったなら。一旦ザルを上げて。

ボウルに入っている水を捨てて新しい物へと変える。

 

「・・・炊き込みモードでするのも味気が無いわね」

 

そして白い濁りが出なくなったら、いざ炊き込みなのだが。

暇が暇である。機械なんぞに任せておけないという思考が過る。

これはプライドどうのこうのではなく。米の水分の調整が自分でやった方が適切と言う思考からだ。

シンが残っても糞拙いだけだなと思ったが故である。

時計を見れば。まだ余裕は一時間ほどあった。

 

「古き良き手法と行きましょう」

 

水を再度綺麗なものに換えて、今度はザルに入った米を綺麗な水に入ったボウルに浸す。

部屋の気温を確認。現在23°。

なら一時間から半程度かなと考えそのままにしておく。

水がしっかりと米の芯まで届かせるためだ。

 

「・・・パイと肉ね」

 

そう言えばレアで食べれるギリギリのフィレが合った筈だと思い立ち。

オルガマリーは冷蔵庫を開けて確認。

きっちり下ごしらえされたフィレの真空パックが存在し。ラベルにはレアでは今日までと書かれていた。

無論ミディアムなどなど各種焼き加減の期限も事細かく掛かれている。

それを確認し、人数は達哉、マシュ、自分と来ているから、加工したフィレの量的にも大丈夫と決断。

 

 

「パイ生、パイ生地っと」

 

 

強力粉と強力粉(打ち粉用)、薄力粉、バターを用意し。

強力粉と強力粉(打ち粉用)、薄力粉を泡だて器でムラなく攪拌し。バターを四方形に賽子サイズに大まかに加工した物を入れて。プラスティックヘラでよく混ぜる。

バターが小さくなったところを確認し、水を入れてさらにヘラで切る様に混ぜ上げる

そうやって出来上がった生地を。ラップの上に置き、手で綿棒で伸ばしやすく伸ばしたら。生地の上にもラップを敷いて。

綿棒で伸ばしつつ四角くする。

多少厚めだが。寝かせた後でさらに伸ばすのでこれでいいのだ。

下敷きと綿棒と生地が接触しないように敷いた。ラップを使ってそのまま生地を包み。

 

「よく考えたら一時間ほど放置だわ・・・パイ生地も・・・」

 

疲れているわねと自己分析をしながら。

やっちまったものは仕方が無いとしてデミグラスソースなどの準備を行う。

 

「・・・アレ?」

 

冷凍保存しておいたデミグラスソースが微塵の欠片も無かった。

今、思い返してみれば。ストレスの余り暴走で変な声を出しながら肉料理に使ったなと思い断ち。

であるなら作るほかないと冷蔵庫を確認。

材料がなければトマトソース(缶)よねと思いながら、冷蔵庫と保管棚の在庫を確認。

問題はなかったので、素材を取り出す。

牛の挽肉、セロリ、ニンジン、玉ねぎ、プチトマト。

そして料理用なのに無駄に良い赤ワインを準備し。

野菜各種を1cm四方に手早く加工。

耐熱皿に作るソースの分量に適した量の薄力粉を引いて。電子レンジで加熱。

良い状態に仕上がる様に時々、電子レンジから皿を出してかき混ぜてを繰り返しつつ、熱したフライパンにサラダ油を引いて加工済みの野菜を投入し程よく焦げ目が付くまであまり動かさないように炒め

薄力粉の様子も監視。時折混ぜて、ついでに米の状態も見つつ、野菜をいためていく。

野菜各種が良い具合に成ったら。プチトマトを投入し潰すように炒めながら

程よくなったら、電子レンジで加工した薄力粉を入れて木べらでさらに混ぜ上げつつ。トマトソース(無塩)を入れてさらに混ぜ上げながら調味料で味を調整し。均一に混ざったのを確認したら。それらを鍋に移して水を入れて煮詰める。

その間に温めて置いた新しいフライパンにサラダ油を引いて用意し挽肉を投入しながら塩をアクセント風味に投入。

米。鍋。冷蔵庫の記事の様子を伺いつつ。オルガマリーは鼻歌を歌いながら。挽肉がパラパラになるまで炒め。

炒め切ったら赤ワインを入れて人に立ちしたら。

圧力鍋に野菜をいためて煮詰めたものと赤ワインで煮詰めた挽肉を入れて混ぜて、

蓋をして30分煮る。

元より本格派であるが今回の行動自体が在庫処分と達哉の退院祝いの物だ。

本当であれば肉から仕込みを入れて日を跨ぐ仕込みを行うのがオルガマリーである。

 

「さてと・・・ライスは良い具合ね、お肉よお肉」

 

水が芯まで程よく浸透した米を炊飯器に入れて炊きつつ。

キッチンペーパーを敷いたまな板の上に置いて塩コショウを満遍なくかけて。

新しく取り出しあらかじめ火を通しておいたフライパンにオリーブオイルを入れる。

使用しているオリーブオイルはピュアを使用。

バージンを使用するとオリーブオイルの強い香りが出てしまうのを避けるためだ。

オイルに熱が通ったら肉を投入、左手でフライパンの持ち手を保持しつつ、右手にトングを持ち。

レアな焼き加減を目指して肉をフライパン内で転がしつつオイルが付く様にうまい具合に転がす。

そうやってローストビーフ風に焼きあがったフィレ肉を一旦取り出し。

皿の上に置いて。マスタードを入念に刷り込むようにハケで塗っていく。

全体的に均一に、あくまでもアクセントと言った感じでだ。

そして軸を取ったマッシュルーム、薄切りにしたニンニク、塩胡椒をフードプロフェッサーに入れて攪拌。

ペースト状に加工し。フライパンに入れて均等に伸ばしつつ炒めて、程よく炒めたら香草を香り付け程度に入れて火を消しコンロから話す。

まな板の上にラップを引いて、最高級の生ハムをきれいに並べる。

それの胡椒をうすく満遍なくかけて置き。

先ほど作ったマッシュルームのペーストをスプーンを使って乗せて均一に伸ばす。

そうやって作った物の上に先ほどのフィレ肉を乗せて巻き寿司を作る様に多少きつめに包み込み。

包み込み終わったら包んだラップの左右の余りをねじって密封状態のラップ包みを作り、

一旦肉を冷やすため冷蔵庫に入れて保管。

 

それと同時にオムライスの仕込みに移る。

塩を入れない卵本来の味を楽しむべく、良くかき混ぜて置く。

そしてボウルをもう一つ取り出し、もう二個ほど卵を取り出して、ボウルに片手で器用に割って落とし。

スポイトで卵の黄身を吸い出し卵白のみにしておく。

卵がかき混ぜられたボウルと卵白のボウルにラップで蓋をして常温で放置。

すぐに使うことになるからだ。

 

そしてメインの材料が良い具合になるまでサラダとつまみを仕上げておく。

そうしている間に、いい具合に冷えた肉とパイ生地を取り出し。

ラップを再度まな板の上に引き、その上にパイ生地を乗せて麺棒で広げ肉を置き、ラップの端をつまみまた巻きずしを作る様に包み込む。

しっかり巻いたらラップを広げ肉をパイ生地で包んだもの表面に包丁の峰で溝を作る。

そして卵白を刷毛で塗り、焼きあがった際にテカリを出す様にする。

後はオーブンに入れてタイマーをセットし焼き上げていく。

 

「デミグラスもいい具合ね」

 

鍋の中のデミグラスもいい具合に仕上がった。

本当ならば日を跨ぐような作業の果てにさらに仕上げに掛かるのだが。

流石にビーフシチューとの並行作業のデミを用意する暇はない。

在庫がないのだから仕方がないともいえる。

 

後は達哉たちが来るのを待つばかりだ。

ライスと卵は彼等が来てから出ないと話にならぬがゆえにだ。

 

『所長、来たぞ』

「早かった・・・ってもうそんな時間なのね、ちょっと待って今開けるから」

 

がタイミングよく彼らが来たらしい。

オルガマリーは台所に付けてあるパネルで入口のロックを解除し。

新しいフライパンを二つ取り出して温める。

オムレツを作る為だ。

 

達哉とマシュが入出し、オルガマリーは適当な席に座ってくれと彼らを誘導する。

オルガマリーの私室は広大だった。一流機材の揃ったダイニングキッチン。職人が作り上げた長テーブルとソファ、最新鋭の大型液晶テレビが添え付けられたリビング。

そしてオルガマリーの寝室にバスとシャワー完備の浴室と個室トイレ。

さらには執務室も隣接して建てられている。

ホテルのスィートルームが如き様相だった。

 

達哉もマシュもこう言ったVIPルーム染みた部屋は初めてなのでたどたどしく椅子に座る。

 

 

「タツヤ、マシュ、私はデミグラス派だから、チキンライスはトマトケチャップじゃなくてデミグラスで仕上げるけど・・・問題ない?」

「俺は大丈夫だ。マシュは?」

「私も大丈夫です」

「良かった。なら一気に仕上げますか」

 

 

オルガマリーはデミグラスとご飯を合わせてデミグラスライスを仕上げて、形に入れて皿の上に綺麗にご飯が整うように盛り付ける。

デミグラスライスを作ったフライパンは一度片づける。

今からオムレツを作るのだ。匂いが卵に移るのを避ける為である。

オムレツは半熟のトロトロ使用に仕上げる為。

薄く焼きながらうまい事、回してオムレツに形を整える。

そうやって焼きあがった物を三つのさらのご飯の上に乗っけて良き。

最後にオムレツの皮を切る様に縦に包丁で切り込みを入れると、半熟の卵が花開く様に中からあふれ出す。

 

「うわぁ」

 

マシュは眼を輝かせてその様を見て感嘆の声を上げる。

達哉も大したものだと思いながら見ていた。

 

「はいこれで。完成よ」

 

最後にデミグラスを掛けて完成である。

加えてビーフ・ウェリントンも焼きあがった。

それをきり分けて皿の上に並べ、最後は季節野菜のサラダを出す。

ダイニングテーブルに色とりどりの料理が並べられ各々の席に着いた。

その後は他愛のない話をしながら食べ進んでいるのだが。

二人とも達哉の思い出話に夢中になっていた。

生れてこの方、オルガマリーは貴族生活、マシュは箱入り娘のように育て上げられた。

故に達哉が一般世界をどのように生きていたか気になるのだ。

 

「そうだな。駅前の立ち食い蕎麦屋には通っていたな」

「立ち食い蕎麦? 日本ではポピュラーなフードでしたね」

「蕎麦ねぇ・・・、雑誌とかで見たことはあるけれど、食べたことはないのよねぇ?」

「? いやカップのラインナップにもあっただろ?」

「いや味薄そうだし」

「私は病院食に見えてちょっと」

 

オルガマリーは必要以上に味が薄そうだと思い手を付けておらず。

マシュに至ってはシンプル過ぎて病院食に見えたというのが悪い方向に働き。

カップ蕎麦には手を付けていなかった。

 

「そうでもないぞ? 俺の通っていたところは味がしっかりしていたし、所長やマシュも十分美味しいと思えると思う」

 

蕎麦ツユは確かに外国人には薄く見えるかも知れないが実際は違う。

職人がきっちりと作っているのだ。見た目よりも味はしっかり付いているのだ。

 

「特に冬のツーリングの帰り時に食べるかけ蕎麦は絶品でな。葱を抜いてもらって、七味を少々入れて、そばを掻っ込み、ツユを飲むと骨の真まで温まるんだ。」

「「・・・」」

「どうした?」

「いえ、なんか酷く美味しそうに語る物だからつい」

 

寒い冬、骨の芯まで冷えた中、入った蕎麦屋で熱いそばを食べる。

言葉にすればそれだけなのだが。

達哉は美味しそうに語るもんだから、二人とも食べたくなるのも当然と言えば当然のことである。

 

「月見蕎麦なんかもよかった。アツアツの蕎麦に生卵入れて、ツユの暖かさで卵白が夜の雲に薄く白くなるのを見ながら食べるのには風情もあった」

「それは良いですね、そういえばネットで見ただけなんですがコロッケ蕎麦ってどうなんです?」

「・・・警察沙汰になった」

「「なんで!?」」

「偶にはいいかなって思って、食べてたんだ。そしたら隣の席のおっさんに殴られた」

「いやいや・・・なんでそうなるのよ!?」

「食べ方がなってないだのなんだと言っていたな・・・その時ばかりは兄さんに被害届を出したよ。顔も腫れて・・・学校どころじゃなかったな、あとで聞いた話だが、ソイツ立喰師とか言って食い逃げの常習犯だったらしい」

「ありていにいっても、そのおじさんクズじゃないですか・・・先輩はただそばを頼んだだけなのに・・・」

「そうよね、嫌なら去ればいいだけの話しなのに」

 

達哉、殴られ損どころかタダ食いのダシに使われたのだ。

そりゃ二人も怒る。

もっとも、そのおじさんは克哉の手によって逮捕、送検されたことが後日談となるが。

そう言った達哉の高校生活の話しに二人は耳を傾ける。

もっとも常に達哉は一人であったため。寂しい物がある。

エミヤあたりが聞いていたら自分は恵まれていたと痛感するようなものだが。

生憎とマシュもオルガマリーも真っ当な青春を送っていないため、楽しそうに聞き入っていった。

達哉もこれがデフォであるため苦ではなかった。

 

「そう言えば先輩は進学希望でしたよね? 先輩の夢って何だったんですか?」

 

あの事件の記憶では遂に達哉の夢は読み取れなかったゆえにマシュは聞く。

 

「機械工学系の大学に進んで、整備知識を身に付けつつ経営学を学んでバイクショップを故郷で開くことが夢だったんだ」

 

これには痛みもないので達哉はビーフウェリントンを切り取って口に運びつつこともなげに言う。

元からバイクが好きだった。だから機械系の大学に進学して経営学を齧りつつ卒業し。

自分の故郷でバイクショップを営むことが夢だったのだ。

 

「そう言えば夢と言えば、所長やマシュはこれが終わったら何かしたいこととかないのか?」

「終わったらしたいことですか?」

「ああ、何かしたいというのは考えていた方がいい。終わった途端に燃え尽き症候群に成ったり、手段が目的にすげ変わったりするからな」

 

事態の解決に奔走するのは良い。

だが先の事を考えておかないと手段が目的にとって代わる恐れがある。

それに今だけを考えていたら辛いだけだ。

希望観測と言うのは行き過ぎれば毒でしかないが。多少なら勇気をくれる物なのだ。

 

「タツヤに言われて気付いたけれど・・・やりたいことが無いわ」

「私もです、考えたことがありません」

 

そして二人とも今が急がして先の事なんて考えてたことも無かった。

 

「カルデアは取り潰し確定だものね。責任問題で」

 

カルデアは責任問題もあってほぼ解体決定である。

利権を欲する、協会の老人共は中国をパイのように切り取る列強の如く解体に乗り出すだろうことは。

オルガマリーにも分かっていった。

 

「・・・まぁそうね、責任取ってアニムスフィアは時計塔のロードを辞任、天体科からは撤退でいいかしら」

「所長、それは・・・」

 

オルガマリーは聡明な頭脳で今後を紡ぎ出す。

全面降伏染みた物ではあった。故にマシュは心配そうに声を出すが。

 

「気にしないでよ、責任取ってもごく普通の魔術師として暮らす分の資産は十分に残るわ。マシュもタツヤも私と来なさいな」

「「え?」」

「え? じゃないわよ、あんた達二人とも戸籍と帰る場所がないじゃない」

「そういえばそうだな・・・」

「・・・」

 

達哉は帰る場所が消し飛び。カルデアに登録されたプロフィールは偽装であると実意は第一特異点終了後のデータ整理で判明している。

マシュはそも此処で生み出されたデザインドチルドレンであるからしてカルデアが解体されたら家無し子である。

帰る場所が必要だった。

 

「ですが・・・所長いいんですか? 私達なんかが転がり込んで?」

「大丈夫よ、先も言った通り責任取っても遊んで暮らせる資産はあるのよ、達哉とマシュが増えたところでビクとも動かないわ」

 

アニムスフィアの資産は膨大である。

マリスビリーは膨大な資産を残していた。

加えて魔術的特許の収入もある。オルガマリーからすれば二人抱え込んだところで痛くもかゆくもない。

家無し子となった二人を見捨てるくらいならオルガマリーは身銭なんぞ幾らでも切る気になっていた。

 

「そしたらそうね・・・ダイナーでもやりましょうか、達哉はバイクショップやりたいって言ったからそれも併設してね」

「おいおい。所長、幾らなんでも俺にそこまでの事は・・・」

「色々助けてもらっているから気にしないで。先も言ったけれど金は腐るほどあるのよ」

 

オルガマリーとしても二人にはいろいろ助けられている。

故に身銭を切ることは先も言った通り躊躇はなかった。

 

「それに時計塔の飯は一部を除いて美味しくないからね、私の腕ならそこそこ儲けられるでしょうし、最近、車とかバイクを購入する層も増えているから、儲けになるのよ」

 

そして料理屋とバイクショップを経営することも実際は儲けになるとオルガマリーは踏んでいた。

ここ最近、時計塔も近代化の波には勝てず。

車やバイクを購入する層も多いものの、そう言った専門性の店は少なく、今なら大きめに利益を取れる。

料理屋も一部を除き、いまだにイギリスご自慢の伝統料理屋だ。

オルガマリーの腕で十分通用するのである。

不可能ではないのだ。

 

「まぁそれはそれとしてやってみたいことだから」

 

達哉が来る前にプライベートではよく考えたものだ。

所長の座を退いて料理屋経営しながら気楽に生きたいと。

出来るわけが無いと思っていたが思わぬ形でそれが叶いそうなのは泣けばいいのか悪い事なのか。

オルガマリーには分からなかった。

 

「それでマシュはやりたいこととかある?」

「・・・」

 

オルガマリーの言葉にマシュは黙り込んだ。

考えたことが無いのだ。未来で自分はどう生きたい、こうやりたいというのが。

考えたことが無かった。外に出たいとは思えど。そこから先は考えたことが無い。

いわば、自分の境遇に甘えていたという側面も強い。

ここらばかりは仕方がない。

 

「まだわかりません」

 

故にそう答える。

仕方がの無いことだった。

 

「まぁゆっくり考えた方がいいぞ。下手に趣味を仕事にしたら現実とのギャップに苦しむことになるから」

「タツヤのいうとおりね、趣味を仕事に下手にするとギャップで苦しむことになるらしいし」

 

だが分からないのもまだいいのかもしれない。

夢を持つのは良いが、それに慢心し過ぎて目を曇らせるとろくなことにならないのは古今東西よくある話である。

ここで必要なのは夢を持たずとも何かやりたいという事なのだ。

そしてそんな夢ややりたいことを話しながら趣味の話に移行し、気づけば全部平らげていた。

 

「あー食った。食った」

「所長、ご馳走様です。すっごく美味しかったですよ」

「そりゃよかったわ、自分で食べることはしていたけれど他人にふるまったことはなかったから。ああ、食器はそのままでいいわよ、明日片づけて置くし、まだ出すから」

「もう食えんぞ?」

「そうガツンと来るもんじゃないわよ、オツマミ程度の物だから。マシュお願いがあるんだけど」

「なんです?」

「アナタ、推理映画も集めてたわよね?」

「はい、ムニエルさんとかに相談して選んで取り寄せた物が在りますけど。それがどうかしました?」

「持ってきてくれない? 普通ならテレビ番組とかみつつってやつだけど。外は焼却中でテレビ番組なんかやっていないし、肉を食った後に戦争やらアクション映画ってのもねぇ」

「・・・胃もたれするな」

「でしょ? 達哉の言う通りだから。ここはそう言った感じのが見たいのよ、でも私は興味なくて持ってないし」

 

肉料理中心の後に戦争映画やアクション映画を見るというのも実に胃もたれする話であるから。

此処は推理映画を見たいという事だった。

 

「分かりました。日本やアメリカ、イギリスなどなど各国の物が在りますけど、リクエストなんかあります?」

「マシュの御勧めで」

「所長と同じく」

「では選んで戻ってきますね!」

 

そういってマシュは部屋を出ていく。

皿をとりあえず台所にもっていき置いて置き。本格的片付けは後日と言うことで。

オルガマリーはシャワーでも浴びるといって浴室に行き。

達哉はリビングのソファに腰をかけて、ゆっくりすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして。達哉は鼻歌を歌いつつソファに身を沈めて雑誌に目を通していた。

そろそろマシュも帰ってくるころだろうと思いながら、コーラを飲む。

 

「♪」

 

達哉、口笛を吹きつつ机の上に置かれた雑誌を見ている。

料理雑誌主軸ではあるがなかなか楽しめたし、問題はなかった。

美少女がバスルームにいるのにそういう類の想像をしないのは達哉が紳士的であるか。或いはサバイバル生活のせいで枯れているのか、自己評価が低い故にそういうのを考えられないのか、鈍いのか。

いずれにせよ、男子としてはある意味失格と言えよう。

故に――――――――

 

『いかん、いかんぞぉ!! 健全な男子が覗きの一つや二つ熟さんとはァ!!』

「なにぃ!?」

 

そんな魂の絶叫が聞こえた瞬間。

達哉の脳裏に暴走状態のペルソナがINする。

これには達哉もびっくりである。

だがそこは百戦錬磨の達哉、アポロやらサタンを使っていきなり取り付いた何かを取り押さえに掛かるが。

 

『煩悩パウァワァァァアアアアアアアア!! フルバーストからのマララギダイン!!』

 

なんか理不尽パワーと言うか、達哉の繋がるルートを使ってパワーアップしている。

さらに理不尽と言う名の漫談補正でも働いているのか、達哉の脳裏のペルソナが吹っ飛ばされた。

 

『ヌフフフフフ、さぁ貴様も●神や●島のようになるのだ』

 

某華撃団隊長や某スケベのように貴様もなるのだと悪魔こと魔王「マーラ」が言祝ぎを告げる。

達哉的には嬉しくもなんともない。

当たり前だ。女子風呂にのぞき見する男なんぞ

 

「メタい発現してんじゃ・・・・――――――!?」

『ヌフ、貴様は確かに■■■■持ちであるようだが・・・自覚してなければ我の掌の上よ!! 大人なしく美女のマッパを見に行くのだ!』

 

マーラはそういいつつ達哉の身体を動かす。

達哉は必死に、そりゃもう必死に抵抗しているが現状歯が立たない。

映画DVDを取りに行ったマシュはまだ帰って来ておらず、状況は男の尊厳的な意味では第一特異点のジャンヌ・オルタ戦より崖っぷちだ。

リビングを抜けてバスルームへ。

だがオルガマリーは気づく様子がない。体を操っているマーラの無駄に極まった忍び足スキルと。

彼女自身がシャワーを浴びているからだった。

手がバスルームの扉に伸びる刹那

 

『ぬお!?』

「オルガマリィ!? 扉をしめろぉぉぉおおおおおおお!?」

『え、ちょ、なに!?』

「わからん!? 体が勝手にぃ!?」

 

達哉、なんとか土壇場で口の制御を奪還。

オルガマリーに声をかけ、オルガマリーもナニカ達哉に憑いていると察知。

急いで扉の鍵を閉めるが、

達哉の身体能力フルスロットルである。

 

『達哉、鍵ごとこじ開けないで!?』

「そういわれてもなぁ!? 悪いが手で押さえてくれぇ!!」

 

鍵ごとこじ開けられそうになるのなら扉を押さえるほかない。

 

『ぬふぁぁあああああああん!! すぐそこにチチ、フトモモォ!! 抵抗するナァ!!」

「するだろうが!! 常識的に考えてぇ!?」

 

取り付いたマーラが叫ぶのに達哉も怒鳴り返す。

オルガマリーは扉を押さえつけつつバスルームに付けてある緊急用のパネルで通信を行い。

サーヴァントと保安部に緊急出動要請を掛ける。

その時だった。

 

「先輩、所長、戻りました~」

 

マシュ、自慢の推理映画DVDをもって帰還である。

二人にはマシュが救いの天使に思えた。

 

『「マシュ!! マァァァアアアアアシュゥゥウウウウウウウウウ!!」』

 

達哉はあらぬ限り叫んだ。

それは心の奥底から。

 

「先輩、どうかしましたか!? って最低です先輩」

「違う!! 体が勝手に動くんだ!! 速く引きはがしてくれぇ!!」

「えっええ!?」

 

達哉必死の形相である、腕をプルプル振るわせながら必死に抵抗しているのだ。

無論自分の裸を見られまいとしてオルガマリーも必死にバスルームの扉を閉めている。

もうそれは必死の様相を呈し、本当に体が達哉自身の制御下化から離れているということだ。

第一によく見れば漆黒の靄が達哉の背後に浮かび、

 

『メガネ清楚キョヌー子、きたぁぁあああああああ!!』

「ぬお!? 逃げろぉ!? マシュ!?」

「えちょ、先輩の意志じゃないのは分かりますが! 手をワキワキさせながら近づかないでください!?」

「いいから逃げろぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

「きゃぁぁぁあああああああああ!? こないでくださぁぁああああああああい!?」

 

もう達哉は涙目であるが、両手をワキワキさせている。

率直に言ってに気持ち悪い指の動きだ。それでもなお達哉が必死な形相の物だからシュールすぎる物が在る。

そんな渾沌とした状況にマシュの脳は一瞬にしてパニック。

縮地でもしたのかと言うレベルの達哉の足の運びで一瞬で間合いを詰められたマシュは、持っていったDVDボックスで達哉の頭頂部を強打。

 

『ブハ!?』

「イダァ!?」

 

達哉とマーラは変な悲鳴を上げる。

それと同時にマシュは見事な震脚で踏み込み。

崩拳を達哉の腹に叩き込んで吹っ飛ばす。

マーラのギャグ補正が無ければ達哉はまぁ酷いことになっていた威力である。

 

壁に衝突し倒れる達哉であるが。これで彼の意識が飛んだのがいけなかった。

完全に肉体の制御はマーラに移行。

 

『ヌォォオオオオオオ!! そのチチ揉むまではァ!!』

 

ヨツンヴァイン形態でゴキブリの如くカサカサ四肢を動かしながらマシュに襲い掛からんとするものの。

 

「いい加減にしろやぁ!! このド変態悪霊!!」

 

体にタオルを巻き付けて見えちゃいけない場所をちゃんと隠したオルガマリーが救援に駆け付け。

鍛え上げられながらも美しい御身足の右足サッカーボールキックをマーラタツヤの脇腹に直撃。

達哉は意識が再び覚醒する。

さらにこうも殴られては所詮は下級分霊なので制御件も達哉に取り戻され。

達哉はオルガマリーの蹴りによって横転しつつも、マーラをようやく脳裏から追い出すことに成功する。

 

『うぐぐぐ・・・貴様ァ!! 男としてその不健全さはどうなんだぁ!!』

 

追い出されたマーラはスッ転がりつつそういうが。

彼が上を向いてみれば絶対零度の視線で見下ろす三人の姿がある。

殺意マシマシと言う奴で、達哉とオルガマリーに至ってはペルソナを出し。

マシュは丸めた分厚い雑誌を二刀流だ。

 

「覗きたいなら、自分でやれ!! 他人を巻き込むなぁ!!」

『誰かに憑依しないと触って揉めないんだよォ! 触れなきゃ我のリビドーは解放されんのだァ!!』

「「「知るかァ!!」」」

 

マーラの言い分に三人は叫びながら囲んでマーラを蹴る殴るである。

そりゃ自分たちの尊厳が真面目に拙い所まで行けば誰だって切れるというものだ。

ズタボロになったその御立派ボディが無様に投げ出されビクンビクンと痙攣している。

なんかもうこれだけで女性にはセクハラものだった。

そんな様相で息絶え絶えになりながら、マーラは身を起こして・・・

 

『覚えておくがいい、人々にスケベ心ある限り、我は何度でも蘇るぅ!!』

「二度と来るなぁ! ゴットハンドォ!!」

『うぼぁぁぁああああああ!? 我の御立派ボディがぁぁあああああ!?』

 

なんか聞いたことのある捨て台詞を吐くと同時に。

マーラにアポロの全力のゴッドハンドが叩き込まれ。

どうでもいい断末魔と共に四散する。

 

「オルガマリィ!! 達哉ァ!! なにがって・・・ほんと何があったんだ・・・・?」

 

そこにサーヴァントたちも駆け込んでくるが。すでに祭りの後。

バスタオル一枚のオルガマリー。

頭部と脇腹を強打され、息絶え絶えの達哉。

涙目のマシュ。が何故かナニカの霊基が四散したであろう一点を見つめ荒い吐息をしてた。

 

「・・・もしかしてお楽しみ中だったか?」

「「「ちがぁう!?」」」

 

クーフーリンの頓珍漢な回答に三人は否定し。

此処であったことを話し事態は沈静化する。三人の尊厳は無事守られたのだ。

こうしてマーラ事件と呼ばれる事件は幕を下ろす。

だが彼らはまだ知らなかった。ハロウィンで無駄に凝ったマーラのセクハラが待ち受けていることに。

近い未来、セラフィックスと獣を巻き込んだマーラによる地球規模の厄災が起こることをまだ知らなかったのだった。

 

 

 




マーラ様「中身じじいとか、イケるちゃぁイケるけど、今はお呼びじゃないです。せめて中身美ショタか美青年じゃないと」
ダヴィンチちゃん「殺ちゅ♪」

それはさておき、遅れてごめんなさい(土下座)
気温が暑すぎてぶっ倒れ。調子が良くなってきたころに二度目のコロナワクチンの影響で熱出して倒れてました。

このSSの清涼剤ならぬ強制冷却材ことプチマーラさま降臨。
何でいるのかと言われればシステムFateの試験運用中に紛れ込んだのをスティーブンが捕縛封印していました。
これは流石にニャルでも閣下の仕業でもなく、マーラ様がニャルやら閣下の縁を使って送り込んだ分霊です。
当時の門はまだ狭すぎるレベルだからセクハラ分霊くらいの力しか持っていません
流石に型月世界に高位分霊マーラ様が来ると人類悪戦待ったなしですからね。
当時は門も小さいのでプチマーラ様が限度。

プチマーラー様スペック。
スキルとか特にない、取り付いてスケベ行動を強制させる悪霊。
たっちゃんの場合、ペルソナ使いだから体が勝手にとか抵抗可能。
それでも体は勝手に動く。たっちゃんは泣いていいと思う。

それとたっちゃんはマララギダインのスキルカードを手に入れた!!

閣下「なんでこんなことしたん?」
マーラ様「カルデアに行けば古今東西の美女とウハウハ出来ると聞いて、ついかっとなってやった。反省はしているが後悔はしてない」
閣下「ニャルになんか言われるの私なんよ? カルデアにはちょっかい掛けないように」
マーラ様「(´・ω・`)」
閣下「と言ってもイベ特異点は良いよ」
マーラ様「よっしゃぁぁああああああ!! 丁度良い依り代あるから、チェイテいくわ!!」

後のチェイテヴラドドスケベ事件へと続く・・・
まぁマーラ様だからね、彼は彼で好き勝手やりたい放題やります 某イベント特異点を見ながら。
ヴラド公は泣いていいよ。
ちかたないね、ヴラドはドスケベってネタにしちゃった俺たちが悪い。
まぁそれはさておき、ニャルが超ド級爆弾仕込む&マーラ様のせいで第二特異点後のチェイテイベはカオスなります。
エリザベートと超間接的に巻き込まれた賢王は泣いていい。


次回 訓練と召喚回。




フィレ「えー、召喚仕様に変更があったので再通達します。召喚件のあるサーヴァントはニャルに対抗できるというのは無論ですが。ニャルに対抗できるように成長性のあるサーヴァントも放り込みます」


座の皆さま 「「「「「「「「ふざけんなぁ!!」」」」」」」

覚悟決まっている勢以外阿鼻叫喚の地獄絵図。
そりゃ死んで逃げれた。もう関わることはないと思っていた。勝てるわけが無いと思っていたら。
成長できるんだから再戦なと言われたらこうなる。





あとペルソナ25周年おめどとうございますアトラスさん。
けれどメガテンⅤかえない、スイッチ持ってないでござる・・・


第六異聞帯はアレでしたね、ニャルが大ハッスルすること一杯でしたね。


次回も多分遅れます。
ご了承ください。








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04 ベルベットルームⅡ アマラ回廊

よく、時間が解決してくれると言うけれど、そうは思わない。

でも、行動した時間なら解決してくれるはずだ。


松岡修造。


「ふむ強くなりたいですか・・・」

「ええ、タツヤと違って私はまだLv低いし」

 

ベルベットルーム。

今日は珍しくイゴールが居らず。取り仕切っているのはエリザベスだ。

あのおっさんがいないということも相まって。オルガマリーはどうすれば強くなれるのかエリザベスに相談していた。

今後の事や現状についても相談に乗ってもらっていた。

 

「確かにLvが悪い意味で見合っていませんね」

「エリザベスからしてみればどれくらい必要?」

「最低でも60前後でしょう]

 

Lvアップシステムは人格に影響しない魂喰らいのようなシステムである。

第一特異点ではサーヴァントの魂はジャンヌ・オルタが回収していた為、そこまでLvアップできているわけではない。

 

「と言ってもLvアップでは技量を上げてくれるわけではありません、数値に驕ると足元を掬われますよ」

 

Lvアップで上げられるのは肉体的素養と魂の強度だけである。

ついでに言えばアマラのLvアップは悪魔で魂の強度を高める仕組みで、身体能力の向上は強化された魂に肉体が引っ張られる形での強化でしかない

技量や技術は自分で磨かなければならないのだ。

故にステータスに驕れば即座に足元救われるは道理であるとエリザベスは説く。

優秀な教導員たちがいるからオルガマリーは同レベル帯では十分に強者の部類であるものの。

あのニャルラトホテプがそれだけで通用するようなずさんなものを用意するわけがない。

 

「まぁそうよねぇ、達哉も宗矩にボコボコだし」

 

そしてLvに驕れば死あるのみと言うのも実感済みだった。

訓練では技量の差で達哉はペルソナスキル抜きとはいえ。宗矩にボコボコにされているし。

もしジャンヌ・オルタが疲弊していなければ達哉はペルソナスキルありでも詰まされていた。

 

「ですがあるに越したことはありませんね・・・と言う分けで」

 

だがあるに越したことはないとして、エリザベスが指を鳴らすと同時に。

サトミタダシとは反対の壁に新しい扉が出現する。

 

「・・・なにこの扉」

「アマラ回廊の低層への扉でございます、此方で言うところのアカシックレコード、アマラのあらゆる世界につながる通路にして、魔界、天界、阿頼耶識への入り口へとつながる通路です」

 

アマラ回廊

アマラ宇宙を巡る魂の流れる場所。

アマラのあらゆる世界につながり深層への入り口である。

 

「とりあえず低層につながっております、深入りすると戻ってこれなくなりますので」

「・・・アカシックレコードの価値低すぎじゃない? そっち・・・」

 

アマラ回廊はアカシックレコードとも呼べる。

いつでも簡単アクセスできるのは、幾らなんでも価値が低過ぎではないかとオルガマリーがぼやくが。

 

「普通に通る分には害はありませんが、意図的に情報を抜き取ろうとすると、周防様Lvでもない限り情報に磨り潰されるのでご注意を・・・・それに」

「それに?」

「ここで具現化している悪魔は魔界に近いということもあって、小物であっても中堅クラスの実力を保持、魔王の影ともなれば最上位分霊が基本となっています、達哉様でも苦戦するような相手がひしめいていますので」

 

つまり潜る場合は注意しろと言う事だった。

魔王の高位分霊はそれだけで脅威だ。オルレアンではどうにかなったが。それは達哉の固有スキルが理不尽すぎるという事と。

長可の相手は酷く慢心していたことに尽きるからである。

加えて厄ネタ度で言えば魔王よりも厄介な魔人がうろつき。

移動のために魔王ですらぶちのめせる超人英傑がうろつく危険地帯だ。

要するに下手すりゃ全盛期のジャンヌ・オルタ以上の連中がうろついているのである。

 

「私が出来るのは此処まででございます」

 

エリザベスは事もなげに言う。

本来ならベルベットルームの住人として此処までカルデアに加担するのも十分アレなのだ。

だが彼女はもう住人ではない、自分の意志でやめて今は本当なら、元刑事の経営する探偵事務所の所員だが。

事が事だけにとフィレモンに呼び戻され。

向こう側もカーニバルであるため、これ以上の外部干渉を防ぐためだけに此処にいる。

だからと言って。嘗ての自分たちを彷彿とさせる若者を見捨てる気にには慣れず。

精一杯の便宜を図っていたのである。

 

「ここには夢と言う形で。サーヴァントの皆さまも参加できます、上手く利用してください」

「・・・わかったわ、ありがとうエリザベス」

 

エリザベスの言葉にオルガマリーは頭を下げて礼を言う。

此処まで便宜を図ってくれているのだから当然だろう。

その後、オルガマリーはカルデアへと戻り、頼まれていた買い物の品を所員に配りつつ。

達哉やマシュに新しいベルベットルーム機能が追加されたことを伝える。

 

「ならちょうどいいじゃないか? 所長の武器も新調できたし、マシュのオルテナウスも各種調整が済んだんだろう?」

 

ガンケースを開きつつ、アマネが取り出すのは二丁の異形の拳銃である。

真っ白に塗装され銃身付近から下方に伸びて供給口まで伸びる斧の様な打撃用マズルスパイクが取り付けられている大型拳銃だ。

ベースはLARグリズリーをベースに各部に強化パーツと近接戦闘への即座的移行のために取り付けられた前述のマズルスパイクが装備されている。

マズルスパイクは斬るではなく、抉り叩き切ることに特化させ強度性を重視している。

これは相手の攻撃を防ぐ際にタダの刃にしては即座に壊れると想定されたためだ。

だから強度重視の叩き切る、殴り抉る事に特化している。

使用弾薬は.357マグナム弾神経弾使用を対サーヴァント用に魔改造した物を引き続き使用。

サブに下げられたコルトパイソンと保安部のサブアームであるLARグリズリーとの共有化を図る為である。

マガジンは通常仕様とは違い、ダヴィンチお手製のロングマガジンを使用。

これにより、重量は増したが装弾数は二倍、二丁の運用で制圧射撃も可となり。

先の様な魔術転送式供給の供給不良に陥っても長期的運用が可能となった。

ただし拳銃としては重い。

大型の打撃マズルスパイクに強化パーツ、装弾数二倍とくれば当たり前なのだが。

それは問題なかった。此処連日の重量とバランスが一緒の鉄板入りラバーガンを駆使しての模擬戦である。

さらに射撃訓練ではLARグリズリーを代用としての訓練だ。

二丁を手に取り、オルガマリーは各種動作で重量バランスを確認。問題なかった。

 

「・・・ところで、なんで、真っ白な上に銃身にエングレーヴが刻んであるの?」

 

だがオルガマリーとしては一つ問題があった。

二丁の銃は白く染め上げられ銃身にはオオアマナのエングレーヴが刻印されている。

そうみるとあくまで芸術品にしか見えないゆえにだ。

 

「私たちは修繕者だ。戦争屋じゃぁない、銃を抜くなんてのは最小最低限にしておくための戒めだよ」

 

そうあくまでもカルデアの目的は修繕だ。現地住民との戦闘ではない。

無駄な殺生は心を蝕み最終的に殺人者へと変貌させてしまう。

そういうのを止めるための戒めとゲン担ぎの様なものだった。

オルガマリーはアマネの気づかいに礼を言いつつ、新造された専用のホルスターに二丁の拳銃を収める。

 

「そして次にこれは達哉用だ」

「これは・・・」

「孫六兼元初代の作だ」

 

達哉に新しく与えられたのは孫六の初代の作品である、和泉守兼定と共に知られる名刀であった。

流石に正宗ほどの物が用意できるはずもないのでこれとなった次第だ。

 

「達哉君としては同田貫の方が良いかもしれないけれど。あっちは新刀に分類されるから、サーヴァントに対する殺傷能力が薄くてね、これで我慢してくれたまえ」

 

ダヴィンチはそう言う。達哉的には実戦向きの刀の方がいいのだが。

美術品ばかりのカルデアにはこういう物しかなかった。

 

「切れれば文句は言いませんよ」

 

と言っても達哉的には問題はない。

問題はマシュの方である。

 

「お待たせしました」

「「・・・」」

「あの・・・先輩に所長、どうなされたので?」

 

マシュの格好に二人は驚愕。

辛うじて西洋鎧だった部分は撤去され、その代わり強化外骨格的な装甲が装備されている。

目元には専用バイザーという、なんか美少女メカアクション的なサムシングであった。

 

「達哉君は兎にも角にもなんで所長まで驚愕してるのさ・・・」

「いや実物見たのは初めてだし。糞親父関連の書類やデータはあんたらが全部消去してるから把握していることも少ないし、そういうのはあるくらいしか知らないわよ」

 

マリスビリーの後ろめたい計画の概要書はオルガマリーが見る前に前に抹消済みだ。

不自然なほどに消されており、デミサーヴァント計画がどういったものでさえオルガマリーには分かっていない。

故にデミサーヴァント計画の一端を担っていたオルテナウス量産化計画で試作された現在マシュが身に着けている試作品が一機倉庫に転がっているくらいしかわからなかったし、実物は見たことが無いのだ。

故に不自然にデミサーヴァント計画の詳細が抹消されていたがゆえに。

当初のオルガマリーはマシュはマリスビリーに酷い事されて恨んでいるのではないかと言う疑心暗鬼に陥っていたのだが。

今は些細な話であるため置いておくとしよう。

 

「本音を言えば計画を把握したいから、当事者のアンタかロマニから再編集してあげて欲しいんだけど・・・」

「それはやめておいた方がいい、見て気分のいいもんじゃないし、余計なものを背負うことになるからね、はっきり言うとアレは君が背負う必要のない物さ」

「・・・わかったわ」

 

ダヴィンチの説得にいったんは引く。見なくていい物を見て余計な責任を背負うのは御免だったからだ。

なお未来のオルガマリーはこの時、ダヴィンチとロマニをつるし上げてでも聞いておくべきだったと後悔する羽目になるのだから。世の中ままならないというものである。

 

「森さん装備を変えたが・・・大丈夫なのか?」

 

達哉が長可を見つつそういう。

長可の格好は現在、古き良き武者甲冑に身を包んでいた。

最初期のようなロボではない。

 

「ああ、彼の霊基修繕と同時に最適化しただけだからね。鎧強度は一緒だ。それに前より魔力の流れを効率化したおかげで動きやすくなってるはずだけど。どう?」

「おう、前より動きやすいぜ」

「だろう? 本当なら全員に同じことをしたかったんだけれど。」

「けれど?」

「リソースがねぇ。ないんだよ」

 

本当なら全員に施したかったが、霊基調整のための資源がないのである。

原因はぶっちゃけ施設修繕に使ったからと言うほかない。

カルデアの炉の基盤に異常が発生していたのだからそりゃもう、最優先で回されていた。

その余ったのを使って長可の霊基修繕と調整を行ったわけである。

 

「リソースは、微細特異点の修繕とアマラ回廊から搔き集めてくるしかないでしょう?」

「微細特異点は兎にも角にも、アマラ回廊ってなんだい?」

「エリザベスが開いてくれた向こう側の通路みたいなものらしいわ。Lv上げのために開放してくれたの。あとリソースも回収できるって」

「・・・所長、それって間違いなく危険地帯なんじゃ」

「見返りは多いそうよ」

 

と言う分けでリソース回収のめどが付き。

とりあえず、行ってみないことには分からんと言うことで全員でアマラ回廊へと乗り込むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アマラ回廊を走る

マシュは重いと感じていた。

彼女を包み込む強化外骨格オルテナウス。

デミサーヴァント計画で製造された外部補助のための装備にして最後の一機だった。

予備パーツはあるがゆえに損傷は気にしなくていい。

さらに彼女の言いたいことは動作が強制されている感覚だった。

オルテナウスはバイザーと各種駆動系に組み込まれた魔力反応装置を使って。光ファイバー伝達系を使い装着者を補助する。

生前の縛りがあるサーヴァントでさえ発揮し得ぬ光反射。思考をダイレクトに反映させるそれは。

肉体が動くよりも早く強化外骨格がサポートへと回るという事なのだ。

故に動きが反応よりも早く動く為、動きが強制され、窮屈で重く感じ取れてしまいのである。

と言っても。

 

―さすが先輩です、所長も―

 

そんな贅沢極まる身体アシスト機能を持つオルテナウスを装備しているマシュでも息が上がる道のりで。

達哉は規律正しく息をしていた。資源会得の為のケースをぶら下げる専用スーツとリソースや食材がたっぷり詰まったケースを体中にぶら下げながらも体幹は一部のブレも無い。

オルガマリーも達哉と同様の装備をしながら限界ですと言わんばかりに息が荒い。

無論第一特異点を超えて、マグネタイトという経験値としての魔力、

戦場を走った生身の体力は前より遥かに彼女をマシに仕上げていた。

以前の彼女であれば。装備を身に着けた時点でギブアップし、もう動けないと白目を向いていたことだろう。

 

「少し休憩しよう」

 

達哉は丁度いい場所を見つけるや否や、そういう。

無論、無理はしたくない、幾ら浅瀬とはいえ危険地帯なのだから。

 

「だな・・・ホントこの世の魔郷が可愛く見える」

 

クーフーリンもため息吐きつつ言う。

アマラ回廊はそれだけ魔郷だった。中堅どころでさえワンランク上がっており。

クーフーリンが生前体験した魔物よりヤバイ奴らが平然とうろついているのだからシャレになっていない。

 

「一回、死にかけたもんなアンタ」

 

長可も笑わず真顔で言った。

一つ目の象のような巨人相手に宝具ぶっ放したら反射され、クーフーリンはどこぞのお祭り作品の如く死にかけたのである。

達哉が居なければ出オチをかますところだった。

と言うか。

 

「物理耐性って理不尽すぎやしないか・・・」

 

長可の愚痴ももっともである。物理耐性持ちは前衛系サーヴァントがいい鴨である。

魔術による攻撃手段がないだけで詰みだ。

達哉の事を基準にしていたから上から殴り殺せると思っていたのも痛い話である。

此処にいる悪魔たちは純度が違う、故に耐性性能は基本ワンランク上だからその基準値が通用しないわけで、それで痛い目にあったというわけだ。

 

「ヒーヒー・・・死ぬぅ、しぬぅ」

 

パワーレベリングの影響で体力上限は上がってはいるが。Lvアップごとに全回復なんて言いう都合のいい物が在るわけもなく。

高位悪魔たちとの連戦にオルガマリーはかすれ声を上げていた。

アマラ回廊は想像していたのと違い神殿的迷路であるし。回復の泉やベルベットルームにつながる扉もある。

無論、それに比例してパワーソース的リソースはがっぽりであるし、幾分かサーヴァントにも強化が入る。

 

「先輩、ここら辺が潮時かと・・・、資源も持ち切れませんし」

「だな、撤退するか、正直俺も限界だ」

 

だがもう限界だった。

先の特異点の一般戦力が塵に見えるレベルで敵が手ごわいのだ。

そこで悪魔の最上分霊なんかも湧き出て来ては仕事が出来るのが達哉とクーフーリンのみとなる。

取り巻きなんか連れていれば無理をしてでもオルガマリーが前に出ないと戦線が持たないレベルであった。

通りすがりの悪魔召喚師が援護してくたおかげで何とかなったが。

あの悪魔召喚師の腕は宗矩でさえあり得ぬと言うレベルだった。

なんせ前転であらゆる攻撃の隙間に身をねじ込んで回避、繰り出される一刀は概念防御なんぞ女々しいとばかりに悪魔を両断しているのだからである。

本当にアマラの宇宙は魔郷である。

故に疲弊が来ていた。これ以上探索を進めればどうなるか分かったもんじゃないし成果に見合わない。

マシュの言う通りここらが潮時と言う奴である。

それと同時に意識が浮上し、目覚めれば、達哉たちはオルガマリーの私室だった。

集めたリソースも部屋にごった返していて片づけるのが大変だったのが後日談となっている。

 

それから数日後、休息や修理などを行い、万全の状態で召喚である

アマラ回廊及び微細特異点から回収された聖晶石を使いギャンブルの時間である。

 

「・・・気が重い」

 

オルガマリーがそうボヤくが此処にいる全員がそうだ。

第一特異点より状況が悪化している。

故に人手が必要だった。

アマラ回廊で聖晶石をざっくり掘れたから、リソース量的に問題はないが。

 

「キャスターキャスターキャスター!!」

「セイバーセイバーセイバー、なんならライダーでも可!!」

「先輩、先輩・・・所長とダヴィンチちゃん率いる技術局の皆さんが雨ごいの儀式みたいなことを・・・」

「そっとしておこう」

 

インターバル01で説明した通り、当カルデアの召喚システムは完全に運だ。

故にこう召喚機の前に触媒を置き珍妙な音楽を流そうが時間合わせしようが完全に運である。

それでも人手不足は顕著だ。開発部はキャスタークラスが欲しい。

オルガマリーは火力目当てでセイバークラスが欲しいと、達哉とマシュに護衛のサーヴァントを除く皆がマリスビリーの宝物から触媒を引っ張り出して雨乞いの儀式のように祈る。

もっともシステム上完全運任せであるため触媒やら雨乞いダンスやら意味がないのだが。

それこそ藁にも縋る思いと言う奴である。確率が上がるならオカルトなゲン担ぎは誰だってやる、皆だって覚えがあるはずだし。

共感も出来るはずだ。まして命が掛かっているのだから必死になろうものであろう。

ダヴィンチもあまりの過労におかしくなったのか絶賛参加している。

居合わせているクーフーリン(護衛)は生暖かい目で見ていた。

という訳で百連分何とか搔き集め、他のリソース使用のために実質五十連と洒落込み。

そして。

 

「「――――――――」」

「駄目ですね」

「礼装だらけだな」

 

残り10という段階。

ダヴィンチ&オルガマリー、FXで有り金すべて溶かした人の顔をしている。

開発部はこの世の終わりの顔だ。

デスマーチを押し付けられそうな人間が出てこないならそうもなる。

 

「タツヤ、アナタが最後の希望よ!!」

「そうだよ!! 君が見せた二枚抜き!! 今回もやってくれたまえ!!」

「・・・そんなこと言われても俺、素の運は良くないぞ」

 

残り十連。もうここまでくると絶望的ではある。

故に二枚抜きを見せた達哉にオルガマリーもダヴィンチも縋った。

ただし、素の運で言うと達哉はそんなによろしくない。

彼の半生は酷い物だし、サーヴァント的ステータス表記すると幸運Eくらいじゃなかろうかと思う今日この頃。

それでも血走った、二人の眼光に押され達哉は残りの十連を行う。

そして廻るサークル。でてきたのは。

 

「サーヴァント、ライダー、マリー・アントワネット、召喚に応じて参上しました。オルガちゃん、マシュちゃんあの時はごめんなさいね辛い役目を押し付けちゃって」

 

マリー・アントワネットその人だった。

第一特異点で、マシュ達を行かせるべく死地に残り散った王妃、故に思わずオルガマリーとマシュの二人は泣きながらマリー・アントワネットに抱き着いた。

当たり前だ。彼女に対する負目もあったから。

そんな二人をそっとしておきつつ、達哉は廻るサークルに目をやる。

そして何も出てこなかった。

 

「アレ? おかしいなぁ」

「故障か?」

「いいや、アマラ回廊でリソースは十分に回収できたんだ不具合が出るはずが」

 

故障かと問う達哉にそう返しつつ、ダヴィンチは計器をみようとして。

一泊遅れて赤外套の白髪の男が天井突き破って床に叩きつけられるように現れたのだ。

 

「サ、サーヴァント、アーチャー、召喚の命に応じ「おい、お前魔術師だな?」 え?」

 

召喚口上を述べる前に、ステータスとスキルを確認したダヴィンチが冷えた声で言う。

加えて言うなら、開発部全員がアーチャーを取り囲んでいた。

 

「ちょっと。待ちたまえ!? え? なんなのだこの状況は!?」

「こいつ魔術師だァ!! 皆喜び給え!! 我々と同じくデスロードを共にする者があらわれたぞぉ!!」

「「「「「「URAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」」」」」」

 

ダヴィンチがそう宣言すると同時に、アーチャーは取り囲まれ、雁字搦めにされてどこかに運ばれていった。

 

「ありがとう、達哉君、これで我々も楽が出来る」

「あの・・・自己紹介は・・・」

「そんなの後でいい、彼には施さないといけない洗・・・ゲフゲフ!! 教育があるからね!! さぁ次だ!!」

 

洗脳と言いかけたよなと言う言葉を達哉はグイと飲み込んだ。

言えば次は自分の様な気がしてならなかったからだ。

 

「と言っても二連だぞ、もう打ち止めじゃ」

 

かれこれ二連である、普通ならここで打ち止めも良い所だろう。

 

「いいや、サーヴァント反応くるよ!!」

 

だがまさかの三枚貫である。

我々なら血涙ものだった。

 

 

「サーヴァント、セイバー。我が真名をシグルド。貴殿がマスターか? どうかよしなにたの・・・。どうした?」

「シグルド? ジークフリードとは違うのか?」

 

神話素人、達哉は首を傾げた。

彼はジークフリードとシグルドを一緒に考えていたのである。

 

「先輩、確かにジークフリードさんとシグルドさんは同じ逸話や名前の由来から混合されがちですが、全く別の英霊なんですよ」

「そ、そうなのか・・・、これは失礼を」

「いいや気にしなくていい・・・当方もよく間違われているらしい事を確認した。」

 

マシュの解説に達哉はシグルドに謝罪し、抑止知識でよく混合されることを確認し、達哉の謝罪を受け入れ

 

 

「四連目キタァァアアアアアアアアア!!」

 

オルガマリー絶叫する、まさかの四枚抜き。

これにはダヴィンチも大興奮である。

マリーアントワネット、無銘のアーチャー、大英雄シグルドに続いて彼に匹敵し得る霊基反応に二人とも大興奮。

 

「・・・ニャルラトホテプだろ」

「ですよね・・・」

 

興奮する二人を外に達哉はボヤく。あからさますぎるという奴である。

ニャルラトホテプかフィレモンが大方手を回しているであろうというぼやきに、マシュも同意した。

そしてサークルの光が抜けると。

そこには絶世の美女が立っていた。

 

「ブリュンヒルデ、クラスはランサーです」

 

これには達哉を除くオルガマリー、マシュ、ダヴィンチも絶句。

まさかのワルキューレ筆頭にして長姉である。神霊クラスに下手すりゃ分類される超ド級サーヴァントだ。

そしてブリュンヒルデはシグルドと目が合い硬直。

言葉を紡げないでいる。

シグルドもまた同様だ。彼らは悲恋の末に別たれている存在である。

如何に古今東西英霊が集まるといったってだ。

こんな運任せシステムを前提として会えるとは誰もが思ってもいなかっただろう。

 

「シグルド? シグルドなのですか?」

「ああ、そうだ我が愛よ、まさか再開できるとは」

 

二人とも感極まったように互いを抱きしめ合った。

 

「・・・タツヤー、マシュー解散しましょー」

「ですねー」

「邪魔して馬に蹴られたくはないからなー」

 

二人のいちゃらぶ空間が形成されようとしていたので。全員が気の抜けた声を合図として解散した。

 

「ボク、エミヤ、カイハツガンバル」

「なにやったぁぁあああああ!? ダヴィンチィィイイイイイイイ!?」

 

さらに次いでの余談となるが、ダヴィンチの工房から出てきたアーチャー「エミヤ」は死んだ目でロボットのような動きをしながら。

そう自己紹介し、オルガマリーの絶叫が響き割ったのは更なる余談となった。

 

 

 

と言う分けで数日後。

 

宗矩、シグルド、長可。

三人を相手に木剣をもって、達哉は立ちまわっていた。

四方八方から振るわれる剣閃を前に達哉は回避と防御に捌きを行った遅滞戦術を取っている。

これは単純にサーヴァントクラスの実力者が複数人であることとペルソナが使用できないという状況を想定しての訓練だった。

ついでにサーヴァント組は連携の確認と帳尻合わせの側面もあるのだ。

新規組はこの荒稽古にドン引きした。

当たり前だ。普通マスターは後方に待機し指示を飛ばすのが普通であり戦うのが役目ではない。

だがニャルラトホテプの事を説明され、第一特異点の戦況と惨状と敵の実力を映像と宗矩の解説付きで見せられた挙句。

状況をプロデュースしたのはニャルラトホテプであるがゆえにマスターにもサーヴァント級の戦闘能力保持は急務であることは理解できた。

しかも魔術支援ではなく、相手と斬った張ったをしなければならないという異常事態である。

それが出来なければ死だ。

ある程度の訓練を積んでいなければファブニール戦やアタランテ・オルタ相手に詰んでいたのだから。

もうここに来て、この人理修復は本当の意味での戦争だ。

戦場にでたら最後、マスターにですら戦闘員的立ち位置が要望されるのである。

故に

 

「ヴァルハラでは日常茶飯事ですが。あの子たちにはあまりにも・・・」

「そうは言ってられんのですよブリュンヒルデ殿、彼らは剣を手にした。故に戦わねばなりませぬ」

 

余りにも惨いと主張するブリュンヒルデに書文はそう言い切る。

ニャルラトホテプは確実に弱いとこを抉って付いてくるどころか爆破してくる。

自分たちも自覚していない影の部分を利用して。

故に万が一が高確率であり得るのだ。

その場合はどうあがいてもマスターたちに対処してもらうほかない。

もっともそういわれたところではいそうですかとマリー・アントワネット以外の新規組は納得していなかった。

ジャンヌ・オルタと言うジャイアントキリングの極致を見せられたうえで尚且つ。ジャンヌの惨劇を見ても驕りが抜けきらない。

だがそれは仕方の無いことなのだ。

一度経験しなければ人はその認識を検められないのだから。

 

「それに若人に嫉妬するのはやめなされ。」

「・・・はい」

 

シグルドは嬉々として達哉に己が技を教えていた。

歩みは遅く才能は一般武芸者のそれだがきちんと何度間違っても付いてきてくれるのがうれしいから。

シグルド的にも熱は入ろうものである。

それにブリュンヒルデは嫉妬していた。

なんせ折角の夫婦の時間が鍛錬と施設修繕に削られているのだからしょうがないと言えよう。

彼女も神代のルーンの使い手であり、施設修繕や座学授業に駆り出されているのだから。

ついでに彼女の呪い染みた精神性は此処に来る際にオーディンかフィレモンの手で外されていたが。それでも嫉妬するなと言う方が無理と言う物であろう。

 

「それでは、自分もまた。マシュへの教練がある故、失礼する」

 

書文がここで悠々ブリュンヒルデとダベっていたのはマシュの休憩時間だったから。

それも終わり書文はマシュへの教練に戻る。

ブリュンヒルデが違う方を見れば、エミヤが二刀をもってオルガマリーを攻め立て。彼女はマズルスパイクでそれを捌き。

一定期間が来ればアマネにチェンジ。蹴り技や足による組手を教えてもらいつつ投げ飛ばされまくていた。

一方のマリー・アントワネットは回復や休憩用のスポーツドリンクの準備をしていた。

良くも悪くも、カルデアは賑やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




召喚&訓練回
サーヴァントが多人数戦を考慮して寄ってたかってマスターを袋叩きにするのはウチが初めてじゃなかろうか・・・
シグルドよかったね!! ブリュンヒルデと再会できたよ!!
だから第二特異点後でたっちゃんの悲劇とP2罰のラストを、お見せするね!!(by ニャル)




アマラ回廊 メガテン時空に続いている道。
所謂アカシックレコードようなもの。
情報体の河でありこの最奥に四文字世界、閣下の統率する魔界 ニャルフィレの領域に繋がっている。
深場に潜れば連中やらアマラ宇宙に近くなるなる為帰ってこれなくなる恐れや。
オルガマリーたちは浅瀬を利用しているとはいえ。超ド級の厄ネタがうろついていることもある危険領域である。


ゲーム的には大量のQPやらレア素材に聖晶石やらをランダムで手に入るハクスラミッション。
ただし低確率で聖晶石を落すエネミーは魔人やら魔王などの超高難度使用。

そしてたっちゃん達の新しい装備
孫六兼元 初代の作 ダヴィンチちゃんが強化術式重ね掛けで強化されている。

リペアラー、LARグリズリーをベースに打撃用のマズルスパイクとロングマガジンを装備、スライドやバレルにも強化材などが使用されている、ぶっちゃけ凍京ネクロのリ・エリミネーター

オルテナウス スティーヴンが開発を担当したため原作より機能が追加されサバイバル能力が向上している。。

たっちゃん達の訓練は苛烈です。
そりゃできるからね、出来るようになるまで鍛えられるよ。
英雄たちも後継者が出来てエミヤン以外はハッスル気味だしね。
エミヤンはエミヤンで武術面だけだけど後継者作るって環境にモニョる模様

座の一角にて

フィレ「選抜メンバーを伝えます。マリーアントワネット」
英霊一同「まぁだよな」
フィレ「エミヤン」
エミヤン「ちょっとまてぇ!! 私は負けているが!?」
フィレ「答え、得たんでしょ? だったらモノにしなきゃ、と言う分けで切っ掛け上げるよ」
エミヤン「余計なお世話だ!! もっとこういるだるぅぉぉぉぉおおおお!?」
フィレ「じゃ次、シグルド夫妻」
ブリュン「あの・・・シグルドは兎にも角にも私は・・・」
フィレ「シグルドが原作で次は間違えないと言ったので同時採用でフニッシュです、ニャルが君たち向けの試練になるって言ってたし、成長できるいい機会なので」


と言う分けで、召喚メンバーは成長期待枠でエミヤン、ヴリュンヒルデ、シグルド。
対ニャル追加要因でマリーアントワネットで行きます。
成長期待枠ですが、抑止的理由としてはエミヤンは第三、眼鏡夫妻は第四で不味いレベルの不測の事態が起きるのでその対策でフィレが成長とメタを期待して採用しました。


アルトリア「そう言えば、エリザベートは?」
メディア「そう言えば影も形も無いわよね・・・真っ先に選出されると思っていったけれど」
フィレ「彼女なら既に現地入りです、彼女にはカルデア召喚ではなく、現地直接入りで頑張ってもらいます」

エリちゃんは修繕が終わると同時にチェイテに戻ってフィレモンの手によって直接現地入りなので最終特異点クリアするまではカルデアに呼ばれません。
因みに第四特異点対策としてはカルナさんが出動予定でしたが。今のカルデアでは支えきれないのでボツに。
フィレ的には第四をメタればそれでいいからね。
つまり第二特異点ではシグルドとブリュンヒルデは活躍できないレベルで相性最悪な試練が待ち受けています。




たっちゃんのいるカルデアのマスターの訓練。
基礎訓練→型稽古→組手→仕上げ具合寄ってはまた型稽古から組手。
極限まで絞った上で、対多人数戦と言う地獄。
その後余裕があれば、座学か仕事かアマラ回廊マラソンというハードワーク。
もっともスケジュール管理はアマネがやっているため、休める時に休もうとしないなら彼女が張り倒します。
よって原作では不眠不休気味だったロマニも休んではいます。



それはさておき、次回はほぼ完成済みなので、チェックなどを終えれば早く投稿できそうです。
と言う分けで毎度、毎度の警告です。
ニャルが自分自身で分の悪い賭けをしつつアクセル全開で第二特異点を無茶苦茶にしています、そうつまり。一話丸ごとニャル様回ですので胸糞っぷりがすごいことになっているので、切るのなら今の内です。
特にネロファンの人は切った方が良いかと思う。今日この頃。








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05 大人になり切れない子供

どんなことも永遠に続きなどしない。
いいことはすべていつか終わる。

ピーナッツより抜粋。


「意外だな」

 

言峰はそう呟きつつ駒を進め、相手の駒を取る。

対手である青年は盤面に目を落としながら、

言峰の言葉に応じる。

 

「なにが?」

「ああいう、欲望の方向性を多少誘導してやれば破滅する物を諭すとは思わなくてな」

 

言峰にとって、ああいう放置しておいても破滅する類は青年の好みではないはずだ。

ネロ・クラウディウス、哀れな獣の王。

青年にとってはいくらでも破滅させようのある滑稽な人間。

敵対する連中には躊躇なく試練と評して破滅という地雷を置きまくるが、敵性が無い相手は基本干渉しない。

成長性が無いとして。

 

「力を与えるだけで、思惑通りに動いてくれる人形というのも手軽で良いと僕は思うよ」

 

だからこそ良いのだと青年は言峰に語る。

あくまでネロは試練を課される側ではなく動かす側。

つまり手駒でしかないという。

だから人を与え。力を与え。知識を与えただけに過ぎない。

主要時間軸とは違う。これは彼女の物語ではない。彼らの物語なのだから。

影からすれば現地サーヴァントなんぞ主役を演じるカルデアの教材であり端役に過ぎないのだから。

 

「ああいう類は疑いなく、与えられた力を自由と勘違いし、即座にチープな万能感に変換するのが常じゃないですか」

「だからこそだよ、ああなるのは分かり切っていた話さ、彼女は空っぽだ、故に誰よりも欲深い、あれよこれと欲するアバトーンの大口だよ」

「バビロンの大淫婦ですがね」

「本質的には一緒さ、ビーストが現実に嫌気がさした負け犬と同じことと同じようにね、と言っても相手は神帝だったから、そこらへんは注意してたんだ」

 

歩の駒も化ければ金に変わる。

大昔に仕込んだそれが第二では都合よく金になったから本気を出して取りに行くのみ。

その時であるピロリロリン♪と机の上の端末が鳴った。

 

「ほら噂をすればなんとやらだ」

「良いのですか? 噂結界を限界まで使えば、第一の獣どころかいかなる理由があっても世界自体の剪定が行われますが・・・」

「いいのさ、僕としてはね、最善を尽くせなかった奴が悪い。何度も言うがカルデアに頼る方がナンセンスなんだから、本来はさ。ああソーン? 上手い事やったみたいだね・・・うん? 予定通り神帝が慌てて動いた姿が滑稽だった? まぁそうだろう超越者とは自分の視点が高すぎるから、後継者にも同じ目線を求めてしまうものだ。だから彼は弟を殺すことになるし彼女の抱える幼さまで完全に把握は出来ていなかった。第一に都合よく妄想が具現するシステムを何の疑いもなく使用すること自体がナンセンスだ。でもまぁいいじゃないか。まだ遊べるだろう?ああ健闘を祈るよ」

「第二は陥落で?」

「いい塩梅にね、リスキーすぎて最悪駄目になるとは先も言ったとおりだが。神帝は予想通りに動いてくれたらしい、おかげで盤面を放棄せずに済んだ」

「では第三は・・・放棄ですかな?」

「そうだとも。ネロのおかげでアマラとの大きな通路である門は開かれ、予定通り”第六に来る前の獅子王に聖四文字が接触した” それに海賊たちも頑張ったが、海中神殿は既にこっちが抑えたからね・・・、もう第三は・・・いやそういえば明星に任せていた子たちがいたね」

「ええ、カルデアの子供たちでしたが・・・使うので?」

「自分のルーツを知るのは大事だよ。一度否定され、見直してそこから人は自立していくものだからね」

 

青年はそう呟きつつどこかへと電話をする。

 

「やぁ久しぶりだね、明星、預けておいた二人をそろそろ投入したくてね・・・うん、必要な事だとも。イアソンたち? ああもう放棄したから、多分人理側に付くだろうから、敵役が少なくてね。僕の方を経由せず、直接ミァハの所に送ってくれ。彼女なら幼子の扱いは心得ているしね、うん頼んだよ・・・。やぁ、そっちはどうだい? ああこっちも予定通りだよ。さて第三のイアソンは放棄してくれてかまわない。機神の再起動に漕ぎ着けた今は不要だ。それよりカルデアから回収した子を二人そっちに回すから、ちゃんと可愛がってあげてくれ、ああそれじゃ」

 

青年は端末を懐にしまう。

 

「言峰、オガワハイムの統制と運営は任せるよ」

「師は?」

「各特異点の仕込みの確認だよ。明星と蠅王は静観しているが天使たちはやりたい放題やるのが常だからね」

 

現在、第四 第五 第六 第七の仕込みは終了済みだ。

第四は魔術協会は既に落とし、第五も彼の御高名な発明家は堕落し、妖精女王は失意に沈んでいる。

第六も人理焼却下という時代のあやふやさを利用した時間軸矛盾を利用し獅子王を拗らせた。

第七は既に後の選択はカルデア自身と原初の母がどう選択するかまで詰めた。

だが気を抜けぬのも確かである。

特に第四と第七は油断ならないゆえにだ。

そう言った意味では、ある意味、待っていると言ってずっと待っているフローレンスも大概だ。

フローレンスは影の特注品だ。自らを殺す自滅の刃。

達哉たちの向かう先の試作品の一つだから。

 

「愛を知らぬ者が愛を語っている時点で滑稽だよ。知ろうともせず、得ようとも努力をせず、いきなり大衆から与えられる、或いは与えるなんて、そんな道理ないのにね」

「なぜなら知らぬということは持っていないという事と同意義ゆえにですかな」

「その通りだ。第一にだよ? 敵の懐に飛び込んでおきながら倒さないというのがナンセンスだ」

 

彼の帝は既に敵の懐に飛び込み、その気になればいつでも首を跳ねられるポジションにいるにもかかわらず

それをしなかった。それを怠慢と言わずしてなんというのか。

何度も言っているが本来カルデアに頼ること自体が間違っている。

ケリを付けないからすべてが手遅れになるのだから。

故に、神帝は選択を誤った。

だからこういうことになるのだと。青年は優雅に微笑んだ。

その微笑みはまるで最高級ステーキがようやく目の前に来た人間が見せる肉食獣染みた物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネロ・クラウディウスに心を置ける友人はいない。

実の母にはなじられ裏切られ殺され掛け、実の父の貌も知りはしない。

幼少期から大人に囲まれ同年代の友人など存在しないのだ。

そして、彼女は愛を知らぬまま、血みどろの宮廷抗争の中で生きた。

故に知らぬまま大人になったことを誰が責めれようか。

いつも一人だった。誰かに抱きしめて欲しかった。

だが

そんなある日の事、ネロは一人の同年代の少女と出会う。

名をソーンと言った。音楽の腕を買われ弦楽器の奏者として雇われたのだという。

彼女は聡明だった。知識や教養もあってユーモアもある、ネロと友人関係となるのもそう遠くはないことであったし。

まさかロムルスが甦ってローマに牙をむき戦端を開いたと聞いたときのショックで倒れ込んだネロをかいがいしく世話をして。

彼女がいない間代行すら務めて見せた。

 

「噂が具現化しているようだ」

「真か? ソーンよ」

「うん、何故なら出所不明の物資やら人の流れが噂と合致する、裏取りも済ませたけれど、やっぱりそう考えないとおかしい流れだ」

 

ソーンは言う、そう説明しなければ説明のつかないことが起きていると、現にロムルス軍の兵站の整備が早すぎるし人の流れも速すぎる、食糧や兵装備蓄が生えてくるわけでもない。

まさしく噂が具象化しているかのように物資がロムルス軍は潤沢に過ぎた。

故にロムルス率いるローマ軍は強固かつカサエルまでいる以上、手段を選んでいる暇は無いと。

だから使える者は何でも使うべきと噂を流し続けた。

軍備、人の流れ 物資、財貨を噂をコントロールしロムルス軍に間接的ダメージさえ与えるソーンの情報操作の手腕には荊軻も舌を巻いたものだった。

時にネロが私情で流した噂もあるが彼女は物資が増えるならまぁ、とローマ市内にも悪いことではないので苦笑しつつ容認していた。

明らかに過度な物でさえ、見過ごしているというのに。

普通なら気づくはずだが、今のローマには必要とネロの擁護をする形であったが、

彼女の有能さがそういったことを雲隠れさせた。

誰もが思っていたのだ。有能すぎるあまり彼女が言うなら後々必要になるのだろうと思い込んでしまったのだ。

だが誰かの特定個人に依存した政治体系ほど強固ではあれど脆いという矛盾した概念が成り立つのだと、

王政の経験者達しかいないネロ陣営は知らなかったのである。

だからこそ、ソレに気付けなかった。

ついでにいえばサーヴァントとして現れた者たちはネロの事を理解してくれていた。

念願の理解者を得たのだ。

だから彼女は怖くなった。理解者のいない宮殿に戻るのは。

無論それは悪だ。求めてしまったが最後の選択肢である。

だが弱音を吐いた、よりにもよってソーンに懇願するように。

故に、ソーンはニャルラトホテプはその悍ましい願いを叶えたのだ。

 

「ソーン・・・いつからだ」

「なにが」

「いつから裏切っていたと聞いている!!」

 

ローマの空に罅が入り夜天の如き空が広がっていくときになってようやく彼らは気づいたのだ。

敵は神帝ではない。ネロの親友であるソーンが一番の敵であるということを。

 

「いつから? 裏切っていた? クク、アハ♪」

 

ネロとサーヴァントに囲まれながらもソーンは嗤う。

見当違いの事を言っているぞと言わんばかりに。

 

「アハハハハハハハハハ!!」

「気でも狂ったか?」

「それはこちらの台詞だよ、荊軻。私が何をした? 裏切りの意味をよく考えて見なよ。私は何一つ裏切ってなどいないんだよ!」

 

そう裏切りとは対象の意志に反して犯意を押し付け不利益を与えることを指すのだから。

そういった意味ではソーンはネロの事は裏切っていない。

ネロの率いるローマが有利になる様に動いた。ひたすらに。

ネロの望むままにだ。

 

「私と言うお前の考える理想の友人を与えてやった。ローマ軍を再編し士気の鼓舞もやったし、黄金劇場の建築だって手伝ってやった。そしてなんでも叶う世界を与え、不安定な明日なんて来なくていいと望んだから。欲しいものが与えられるように誘導してあげただけだ。もっとも対価はお前の命なんて安い代物ではないけれどね」

 

すべて与えてやった。欲するものをすべて。

故に裏切りではない。もっとも噂結界を使って欲するものを欲し続ければ現実が歪む。

普通ならコップに水を灌ぐように、そう簡単には世界は壊れない。

だが今は人理焼却下だ。コップに該当する世界の境界線が存在せず、容易く世界が壊れることは黙っていた。

 

「噂結界の副作用と対価を知っていて黙っていたなって質問もナンセンスだよ。聞いていたらまだしも、君たち私に一言も聞かなかったじゃないか?」

 

そして今更騙されたというのもナンセンスな質問である。

信じ切っていたから彼らはソーンに質問の一つや二つもしなかった。この時点で最善手を取る行動を思考放棄している。

聞けば一つや二つ程度のヒントをソーン的にはくれてやるつもりだったのだから。

 

「ならなぜ黙っていた!?」

「そんな都合のいいことが世の中のどこにあるよ、君たちは散々理不尽を経験してきたはずだ。分かって当然だろう?」

 

そう英雄とは世の中の辛いことを散々味わってきたはずだ。

大小関わらず経験してきているはずだ。こんなに都合のいい事なんか世の中にある筈が無いということを。

だからソーンは何も言わなかった。分かっているはずだから。

知っているはずだから、身をもって教え込まれたはずだ。現実にだ。

あのジャンヌ・オルタだって都合のいい物ではないと扱いは細心の注意を払っていた。

カルデアとて達哉から聞いた。彼の記憶から見た情報を元に都合のいいことはないのだと使用を最低限まで控えていた。

故にいい年こいた皇帝が分からないというのはナンセンスだった。

 

「まぁもう種も割れたし、あえて名乗らせてもらおう、私はソーン、貴様らが有する最悪のペルソナであり、貴様等人間そのものだよ、私たちの目的はただ一つ、人間の進化、それに必要な試練と状況の設営だ」

 

ソーンの口が三日月状に裂けて、貌には燃えるような三つ目が浮き上がる。

この場にいる誰もがニャルラトホテプとの接点はなくどのような存在かまでは理解できなかったが。

存在の巨大さは理解する。

 

「よって、私はネロ、君に試練を課した。与えられた物に依存せず自らの力で切り開けるのかどうかという物をね。あるいは一人の大人として友を疑うということをね。まぁ結局駄目だったみたいだが・・・おかげで世界は崩壊するよ」

「な・・・・に・・・」

「現状の特異点と言うものは外が焼却されているがゆえに、真っ白な和紙の上に塗られた新しい色だ。神帝が新しい色を塗り異常が発生した。だが君たちは私の力を使い新しい色を筆で塗った。だがまぁそれだけではこうはならない。だが君たちは何度も色を塗りつけた。するとどうなる? 単純だ。人理という薄い和紙は水分でふやけて筆との摩擦で穴が開く、穴が開いたらどうなる? きわめて単純だよ。世界は君の望んだ世界になりつつ崩壊する」

「こ・・・このような世界など望んでいない!」

「嘘はよくないなぁ、宴の後で君は私に言ったじゃないか、こんな明日が続けばいいと」

 

ネロの反論もソーンは嘲笑って受け流す。

現状すべてがネロの望んだ通りだ。

望み通り噂結界を多用し、挙句まだ足りぬとばかりに永劫の世界を、ネロ自身がソーンに望んだ。

理由は単純である、いずれ来る別れが怖かった。全てが無かったことになるのが怖かった。

たった一人の宮殿に暴君として戻るのが怖かったのだ。

だから言ってしまったのだ、今がずっと続けばいいと、ソーンに願い。噂を流されネロのシャドウを中核に望むままに世界が書き換えられていく。

 

「でも安心したまえよ、君だけじゃない、現実に抗える人なんてごく少数だ。今必死にジャンヌ・オルタという魔人が食い止めているけれど現に別口で似たような異聞帯も来ているしね、噂が飽和し限定的創生が君を核として始まる。無論君の意志などはもうどうでもいい、何故ならばこれは罰だ。際限なく欲望を叶え貪り食らい、他者の欲望を叶えるという名目を掲げて自分勝手な欲を満たし続けた君のね、無論都合のいいことを信じた民衆も十分愚かと呼べるだろうが。」

 

指揮棒を弄びつつソーンはネロに近づいていく。

 

「近寄らせない!!」

 

ブーディカが剣を振って前に出る、スパルタクスもそれに合わせるが。

 

「君のようなブレブレの女の剣が届くわけないじゃないか」

「ッ!?」

 

タクトでソレを軽く受け止める。

無論普通なら受け止められはしないのだけど、今は別だ。

 

「復讐したいと望んだから、あえてこちら側で呼び出してあげたのに、良い母親面していい空気吸ってるんだもの、本当に嗤える、嗚呼それとも顔が似た娘と重ね合わせたかな? そっくりだものねェ、彼女君の娘に。だからローマと言う王政の食い物にされ人柱に捧げられた彼女に情でも沸いた? ククク、本当に君の憎悪は温いよ。と言うか復讐したいのか母親として実の娘にしてやれなかったことをしたいのかはっきりしたまえよ。だからあのトンキチレースで再び狂わされる羽目になる、まったくジャンヌ・オルタを見習いたまえよ、彼女なら復讐相手を眼前にしたときから首を取りに掛かっていたよ」

 

ソーンは剣を捌き、ブーディカの腹に蹴りを叩き込みあしらいつつ言う。

復讐を達成するために呼んであげたのにと。

 

「圧政!!」

 

スパルタクスがフォローに入る。

その山の如き筋肉の一撃はソーンの肉体を挽肉にするには十分だった。

だが。

 

「それは私から派生した物に過ぎないんだよ、英霊共」

 

サーヴァント補正はいうなれば認知度である、人の祈り、即ち阿頼耶識の力だ。

生前からそうならば兎にも角にも、英雄としてブーストした物が影に通じるはずもない。

何故なら力の根源はニャルラトホテプやフィレモンなのだから。

よってスパルタクスの自慢の一撃も左手で容易く受け止められる。

 

「そう言えば、君常日頃、圧政、圧政とほざき、他者からの圧力を嫌っている割には、その思想は圧政であると他者の意志をないがしろにし押し付ける圧政なわけだが。そこらへん、どう思っているのかな? 嗚呼御免、大義に狂っている筋肉で構築されて思考放棄した君の脳味噌じゃ理解できてないかッ!!」

「!?」

 

そのままスパルタクスの腹に拳を叩き込み吹っ飛ばす。

巌のようなスパルタクスの身体がくの字に曲がり勢いよく吹っ飛んだ。

荊軻 呂布が前に出るものの

 

「邪魔だ」

 

ソーンが指を鳴らすと同時に彼女の背後にスピーカーが現れ音を掻き鳴らす。

それはエリザベートの物とは違い、心を揺さぶる音響である。

それによって荊軻 呂布も膝をついて頭を抱える。

心が揺さぶられ心の中にいるもう一人の自分が暴れ出しているのだ。

 

「さて、最後の授業だ。真の友とは間違っているなら意地でも止めてくれる存在だ。何でもかんでも肯定してくれる存在は友ではなく奴隷だ。見誤った対価は払ってもらおう」

「あ・・・あ・・・」

「君の本音がどういった物かな? まぁ知っているけれどね」

 

ソーンが嘲笑い。ネロに手を翳す

 

「知らずに与えようとするのは、君が単純に空っぽだからさ。じゃないと自分がなんであるか分からない、承認されたかった。愛が欲しかった。それだけの為に何もかもを巻き込んでパレード、当然空っぽのきみに観客を満たすスケジュールなんて作れるわけもない」

 

ネロは空っぽだ。

愛を知らぬがゆえに心の空白を埋めきれない、知らないがゆえにあっても無いと感じてしまう、自分が理解されないのも暴君だからと諦めている。

逆に言えばそれは満たされたいという渇望を生み、大人たちは暴君と言う都合のいい物で彼女を満たし。その無垢さが転じてあらゆる姦淫を求める堕落の獣となった。

 

「そして一度得てしまったら固執してしまう、さながら初めてチョコレートを食べた子供の様に。だがら最後に一つ質問しよう、君の食べたチョコレートは本物だったかな?」

「――――え?」

「子供はその幼さゆえに、先に食べたのがチョコレートは甘ければチョコレートと思い込む、目の前のケーキという概念が分からなければチョコレートだとね、では逆説的に最初に食べたチョコレートがチョコレートだとどう証明する?」

 

だがそれは転じて何も持っていないという事である。

子供から大人へ、そういう成長を促すのも影の役割だ。

だから今度は”本物”を教えてあげようとソーンは言う。

 

「まぁ証明できないか、君は多くを知らなさ過ぎた。だから教えてあげよう、これまで通りにね、今度は都合のいい価値観を持ちそれに慢心して歩き、足元の影を見ない連中じゃない、本物の友達をって奴だ。こいつらはきっかけを作る為の人形だったけれど、今度は人間の友達を上げよう」

 

そういいながらソーンは翳した手を引く。

それと同時にどす黒い何かが引きずり出された。

 

「うぐぁ―――――」

「ビーストとはそれイコール負け犬の称号だ。連中は超越者を気取り総じて世界を弾劾するが。一般認識に馴染めず世の中から爪弾きにされ、復帰することもできない、良くしようとも動かず、駄目だと決めつけ見下し、自慰に耽っているだけの負け犬」

 

引き釣り出したのはネロのシャドウ、永劫を貪る大淫婦。

彼女の獣性そのものだった。

その獣性を使って世界を塗り替える特異点のコアを生成する。これによって噂結界の維持はこの特異点ではネロシャドウが行う。

ニャルラトホテプの欠片のような物なのだから維持するだけは実に簡単だ。

彼女のシャドウを討滅しなければこの汚濁の流出は止まらない。

特異点を突き破り、世界を阿頼耶識の一角に設けられた彼女の神殿に堕とすだろう

もう止める手段を持っているのは彼の神帝のみ。

現実であればもう少し持っただろうが、人理焼却下のこの世界ではそも基盤自体があやふやで。

噂結界の効力が広まるのは早い。

何れ、この特異点を染め切って、永劫の世界を作るだろう。

誰もが望む黄金期を回り続ける世界だ。

もっともそうなればパージが開始されるというのはソーンは黙っていた。

何故なら聞かれてもいない。そして目の前の物事が正しいのか判断せず都合のいい情報のみを接種し続けた女にはふさわしい罰と呼べるだろうと。

 

「だが一度目のミスだ。その称号は一度お預けだ。故に敗者復活戦だよ。カルデアから多くの物を学び正道へと戻るのか邪道へと堕ちるのか・・・決めるのは君だ」

 

だが敗北こそが理解する切っ掛けを作る、お前が本当に王足り得るのならばと影は試練を投げかける。

そして世界をより強固なものとするために強力な中核となるべきものをソーンは呼び出す。

それは巨大な杯だった。くすんだ黄金色で、鎖によって雁字搦めにされた聖杯である。

その瞬間。

 

「―――――とった」

 

荊軻の宝具が炸裂する。

背後から七首がソーンの胸元を貫いた。

 

「―――――――クハ」

「なに――――!?」

 

荊軻の短刀を通して伝わる感触は人間のそれではない。

まるで粘度の非常に高い液体に短刀を突っ込んだような感覚である。

内臓や骨を抉った感触ではない。

 

「敗者が私を倒せるとでも思うか? 一度目は失敗 主要時間軸でも詰めを誤り二度目の失敗、なら三度目も失敗するだろうよ。滑稽だよ、まだ力量差を理解できていないなんて。ここで私を倒すことが最善かな? こんな状況で。・・・うん落第だ」

 

腕を一振り、荊軻を軽く吹っ飛ばし、音楽を奏でる様に両腕を振う。

 

「さぁ謳え、ネロ、この世のすべてを満たすために」

 

ソーンの背後に曼荼羅の様に幾何学的魔法陣が浮かび上がり。

立ち上がったネロシャドウが喉を鳴らし。

 

「そして君たちも、そんなに現実が嫌なら、彼女の謳う黄金の夢に微睡むと良い」

 

荊軻とネロ以外の意識はそこで落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーンは嗤っていた。

この都市の一番高いところに立って地上を見下ろしながら嗤っていた。

世界は夜に包まれ、

人々は棺に押し込められていく。

 

「アハハハハハハ!!」

 

空には穴が開いて崩落が始まった。

 

「西暦以前から決めていたことだ。赤き暴君には汚れた”統制の杯”が似つかわしいと!! 見ろヨハネの予言の如くにだ!! 良く似合うぞ!!」

 

波のように漆黒が広がり天への穴が広がる最中。

都市の中心の王宮には巨大な杯が鎮座しその上に赤き女がまどろんでいる。

それを見てソーンは。

否。混沌は嘲笑う。

まさしく理想の黙示録の淫婦だと。

巨大な杯を従え堕落の夢を垂れ流す中枢核として実にふさわしいと笑うのだ。

 

こうなったのは単純である。なんども言う通り噂を流し過ぎた。

 

ローマには無限の材がある

 

ローマには飽和しきった食材がある。

 

ローマは黄金で彩られた美しい都市である。

 

主な物でもこれだ。

 

他にも大なり小なりあらゆる噂が飽和している。

 

そしてローマは噂が具象化し永劫の黄金の日々を約束してくれるというのが致命的なものとなった

 

「ハッ―――――ハハハハハハハ!! 見ているか? 神帝!! 第一の獣!! 聖者モドキ!! これが貴様が望み。貴様たちが望む永劫とやらの本質だ!! 永劫の安楽椅子に満ち溢れ・・・民衆は口端から涎を垂らして呆けている夢見る世界!! これがお前らの果てだ!!」

 

結果願いは叶えられてしまった。

永劫に夢をみて生き続ける世界へと変化を遂げていく。

その中を必死に逃げるネロを担いだ荊軻の姿がある。

事の発端のネロ・クラウディウスを抱えて逃げる集団である。

 

そして中枢核で眠りにまどろんでいるのは、ネロのシャドウである。

 

彼等がネロ・シャドウには勝てずこの永劫広がる白痴の統制から逃げているのだ。

 

影はあえて彼らを見逃す。

興味がない。

所詮は舞台装置の敗残兵共の集まりだ。

 

カルデアに科する永劫への概念に対する挑戦の試練を生み出すためだけの舞台装置。

 

故に。

 

「否、それは違う」

 

隕石の如く飛来したそれを見て。

影は嘲笑う。

極めた職人が作り上げた芸術の彫像の如き肉体。

生来から黒いのもあるだろうが日に焼けた肌。

真紅の如き瞳を持つ神に匹敵するヒト。

 

 

彼を人はこう呼ぶ。

 

 

神帝「ロムルス」

 

 

ローマを建国した偉大なその人。

嘗て影を叩き返した偉人だ。

 

「ククク。随分遅い登板だ。遅すぎて危うく世界を吹っ飛ばすところだったよ。その腰の重さが私に勝てない理由の一つだとなぜわからない? ああでも今学んだか、良かったね、君は今一つ成長したよ。そして負け惜しみだなぁ。ロムルス。何度も教えてやっただろう? 上から目線のあやふやな物言いでは大事な者を失うとなぁ。滑稽だったぞ。私を殴り返した後で弟を惨殺し後悔する貴様の姿は!!」

「滑稽だと笑いたくば笑え。混沌よ。だがしかし言わせてもらう。後悔こそあれ。怒りがあったとはいえ。私自らの意思で行った愚行だ。貴様の仕組んだものではない。責任は私に帰結する」

「ほう? であるならどうする? この状況も貴様のせいだろう? チャンスは与えてやったはずだ。その分の責任も取ってもらおう」

 

 

■■・■■■

 

 

混沌のスキル。

都合の良い光を奪い棄却する絶対王権。

全能者であればあるほど効力を発揮するそれ。

それによって。この瞬間。ロムルスはただの人になった。

スキル起動不全。

宝具起動不全。

 

 

だがしかし。

 

「読んでいたぞ。混沌よ」

 

ロムルスが持つのは聖杯。

人理焼却犯が作り上げた物。

それを起動させ能力を取り戻しながら生前へと己を近づける。

 

「哀れだなぁ!! それも読んでいたぞ!! アハ、ハハハハハ!! 光を失えば違う類の光に縋るのもまた人であるからな。 それが私の狙いだ。」

 

そう言われてもロムルスは動じない。

最善を尽くすのみだ。ローマを続けるために。

聖杯の魔力リソースを使って宝具を二種同時に使用する。

 

手に持つ槍が成長する樹の如く増幅し。

 

彼の愛は城壁を築き上げる。

 

城壁と樹が融合し都市を囲み天へと延びて完全に外界と遮断し切り離す。

 

「全てをローマと断じるのであれば、これをまたローマと受け入れても構うまいよ!! 結局のところ。好きか嫌いかを美しく彩る物でしかない!」

「確かに。だが私の目指した浪漫とは」

 

―明日の灯を見て歩くことを言う―

 

 

神帝の言葉は言葉にならなかった。

聖杯を取り込み宝具を同調させて展開させたことによって彼も宝具もろとも、

この都市を隔離し崩落する特異点を支える柱となったからだ。

それでも意識だけは存在する。

 

「その光をお前は彼女に示してやれなかった。愛していると謳いながら抱きしめるのではなく軍隊をけしかけた。普通の人間がそれが愛だと気づけるはずもない。何故なら彼女はお前じゃない、お前の視点で物事を語られても分かるはずもない、さらに言えばそういって自分たちが片づけるべきことを片づけず、そんな言葉を言い訳に未来に負債を重ねた結果が現代なんだよ、いい加減認めろ、今回はお前の負けだ。勝者は誰でもない私か、あるいはカルデアだ。お前が紡いだものじゃぁない!! 負債を払ったものが勝者なのだ!」

 

ソーンはそういいつつタクトを振う。

 

「さぁ舞台がようやくできたんだ。今回ばかりは私でもシビアでリスクを犯した最高の出来なんだ。だから早く来い、たっちゃん、今回は本当に時間が無いぞ、神帝でもいつまでも持ちこたえられる訳ではない」

 

焼却された世界は真っ白なキャンパス。

そして今やこの特異点はインクの詰まった風船だ。

決壊すれば火を見るよりも明らかとなる。

だから早く来い、そして選ばせてやろうとソーンはニャルラトホテプは喉を鳴らし。

 

 

 

黄金色の今日という誰も脱せない牢獄を広げるべくタクトを振い続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて全準備が整ったわ」

 

会議室でオルガマリーは告げた。

現地用の偽装礼装。装備。食料、リソース。

ここ一か月、必死になって微細特異点やアマラ回廊から搔き集め。

訓練も一転基準を満たし、観測班も第二特異点の把握を終了した。

既に人理定礎はEXと言う計測不可能領域に達している。

これ以上の時間をかける余裕はない。

みなやる気だ。

 

「もう大まかの打ち合わせも終わった。あとは現地で詰めるわ」

 

大まかの打ち合わせも終わり、あとは現地へ突入し、その時に決めるまでの事である。

 

「今日は休んで明日の明朝 午前08:00には特異点への突入と攻略を開始します!!」

 

オルガマリーの宣言に全員が気合を入れて頷き。

第二特異点攻略が明日には開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

第二特異点 A.D 0060 「黄金牢獄都市 セプテム  大樹の神帝」  人理定礎EX

 

 

 




ネロちゃま「」
アルトリア&エミヤン「しっ死んでる・・・!!」

ニャル「君は良い道化だったが。ロwwwムwwwルwwwスwwwが一般的価値観を知らないのがwwwwいけないのだよwwww」


スーパーニャルニャル回
原作ムーブすると、ニャルがこうやって刺してきます。
ネロはよくも悪くもブレーキ役がいないと、拙いリスクがあることに気付けないタチですかね。英霊になった時はハクノンやぐだがいるから気づける余裕はあったかもしれないが・・・
今の彼女、セネカが去っているためブレーキ役がいない+精神的に大分参っている時期+神祖が敵=メンタルガタガタ。
縋れるのが、幼少期からネロに近づいていたソーンとかいうニャルだけ。
責任感をニャルに変な方に誘導され、戦況有利にする噂は良いとして。ローマ発展までに使っちゃったもんだから、民間にも噂が具現化しているという噂が流れ出て・・・このありさま。
と言うか第一特異点とカルデア以外はリスクを知りません。
邪ンヌが知っていたのはVRで前知識あったからですし。
そのリスクも邪ンヌは身をもって体験しているから知っているだけで。
それが無いネロが分かるはずもなくこんなことに。
さらにサーヴァントも来たためネロの精神が依存する方向に仕向けていました。
噂結界もロムルスに対抗する名目とネロ個人の欲望を叶えるという名目で使いたい放題。
周りのサーヴァントもソーン事態はニャルなんで超有能であるため見事に騙されるという有様。
故にインターセプト出来たのはロムルスだけと言うね・・・
でも彼はそれをしなかった。原作からして軍隊差し向けているしね。
ニャルも気配を極限まで消して、黒子に徹していたので、ロムルスもニャルがいるという事を察することが出来なかった。
AUO?

そりゃあ・・・

AUO「情報統制!! 噂が具現化するとか十中八九ヤツの力だろ!!」

ニャルの仕業と見抜いて情報統制中ですからね。
なお見抜いたところで、噂が特異点崩壊させる以前にゴルゴーンがティアマトと認識されると噂結界の力でゴルゴーンが強制リリースされ自動復活からのアウト。
マーリンやらノッブやらを酷使しつつティアマトではなくゴルゴーンと言う情報を得て必死にばら蒔いています。


そして現状の第二特異点ですが。
ニャルもロムルスがそうすると見越したうえで賭けに出ていたので本当にギリギリの所で持っている状態です。
最高の舞台を作り上げるためにニャルも自分自身と賭けをしました
故に最後の場面でロムルスが動いていなければ全部吹っ飛んでニャルの思惑も潰れてました。無論悪い方向で。
まぁたとえそうなったところで、ニャルからすりゃ、ロムルスをプギャッたうえで自分も馬鹿と嘲笑いながら勝ち逃げボンバーするとかいうクソですけどね。
でもロムルスは動きカルデアの出番となったわけで。

と言う分けで第二特異点の噂結界の出力元はネロシャドウと怠惰の聖杯に移行。
この二つを排除すれば噂結界の効力はキャンセルされ、レフもレ/フになっているため第二は完了します。
もっとも二つを単純に倒して解決と言うわけには行かないですけどね。


オマケエリザベートの動向


エリザ「どこよ~ここ・・・(荒野をウロウロ)」
ローマ「見つけたぞ」
エリザ「誰!?」
ローマ「説明している暇がない、詳しいことは孔明に聞いてくれ」
エリザ「いや孔明って誰?」
ローマ「行くぞ」
エリザ「説明しろぉぉおおおおおおおおおお!?」






次は遅くなると思いますのでご了承ください。



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第二章 A.D.0060 「黄金牢獄都市 セプテム  大樹の神帝」 人理定礎EX
一節 「臨時ローマ帝 エリちゃん」


大人にはな、責任てものがあるんだ。


「無限のリヴァイアス」 より抜粋。


冷めた目で、オルガマリーをマリスビリーは見ている。

当時は褒めてもらいたい一心でオルガマリーは頑張っていたが、

悉くがその目線であった。

偽りでも良かった。心の奥底から微笑んで欲しかった。あるいは騙し切って欲しかった。

しかし幼少期における機微の良さとは一種の残酷その物で。

その偽りを張り付けていることを、オルガマリーは見抜いてしまった。

マリスビリーの笑顔の裏にあるのは何処までも人形どころか道具のそれを見る目線であった。

だから愛されていないことに気付いてしまい。

愛とは何かが分からなくなった。ここ最近になって彼等とのふれあいでようやく、彼女は。

 

 

「―――――――」

 

 

そんな夢を見て覚醒した。

心配そうに、達哉とマシュがオルガマリーを見ている。

 

「大丈夫か? 所長」

「レイシフト完了するなり倒れちゃったからびっくりしましたよ」

 

レイシフト完了と共にオルガマリーはぶっ倒れたのだ。

所謂レイシフト酔いと言う奴に当てられたらしく。

それで気絶していたとのこと。

 

「ごめん、迷惑かけた」

 

過去の残滓を振り解く様に謝りつつ立ち上がる。

周囲は何もない荒野だと思っていたが。

 

「ナニ・・・アレ」

 

それをみてオルガマリーは絶句する。

超巨大な真紅の大樹が遠方からでも余裕で視認できるレベルの巨躯と威容を誇っていた。

 

『君たちの礼装による観測と方位、位置情報から観測結果が出たよ、あれがローマ市が穴の開いた黒点のように表示される元凶みたいだ』

 

ダヴィンチがそう伝える。

オルテナウスの機能でより精密に現地情報を得ることが出来るようになったのだ。

無論前回の様なトラブルや意図的ジャミングが無ければの話である。

 

「とりあえず偽装礼装を発動させよう、現地民に見られたらたまったもんじゃない」

 

それはさておきとばかりに、達哉が偽装礼装の発動を指示する。

これは視覚偽装の一種で、ハンディカム光学迷彩装置と魔術礼装を組み合わせた代物だ。

これによって装備そのままに達哉たちとカルデア陣営のサーヴァント以外は現地の衣類を着ているように見せるという代物である。

エネルギー源は使用者の魔力を少々程度なので戦闘に支障はない。

因みに映像出力されるのは入力式で、入力されているデータはAD.0060年代の標準的一般人の服装だ。

 

「座標にズレは無しみたいね」

「予定通りマッシリアの近くみたいです」

 

予定にズレはなく。マップデータ通りであれば、マッシリアの近くである。

ローマに直にレイシフトは不可能。

加えて付近へのレイシフトもある種のリスクが伴うかもしれないということで、

マッシリアの付近となったわけである。

情報収集もしておきたいという思惑もあった。

 

「しかし、大きな木ですね。あれは一体なんでしょうか?」

 

ローマを覆い尽くし文字通り天を突き破る巨木。

幾ら解析に賭けても不明だったそれをマシュが不思議に思いつつ呟くと。

 

「あれは深淵を封じ込める為、神祖ロムルスが生やした神樹の大蓋だよ。あれがネロ皇帝の垂れ流した理を封じ込めているからこの特異点は、神樹という楔によって持っているらしいよ。僕も詳しいことは把握していないけれどね」

 

そう言って近くの岩の上から声がする、鈴の音の美声だが、虫の羽音が混じっているような気がする不思議な声だ。

そして声かけてきたのは深緑色の髪の毛が特徴的な美少年だった。

フード付きのローマ市民標準の服装をしている。

 

「誰だ?」

「ああこれは失礼を、僕はゼット、ゼット・ゼブ。臨時ローマ帝のお付きをしている者さ」

 

達哉は嫌な予感がして、腰の孫六の鯉口を切る。

百戦錬磨の英霊たちもそうだ。

マシュとオルガマリーだけが困惑気味である。

 

「ちょっと、僕は臨時ローマ帝に頼まれて君たちが現れたら案内するように頼まれただけで、害する気はないよ」

「ならいいが」

 

孫六を収め臨戦態勢を解く。

だが何かがあれば即座に即応できるだけの姿勢だ。

現状、誰が人理焼却側で修復側なのか分からないのだから当たり前と言えば当たり前であろう。

 

「付いてきてくれ、マッシリアが現在、臨時ローマ帝国首都になっている、そこで臨時ローマ帝が君たちの事を待っているんだ」

 

ゼットの説明に臨時ローマ帝ってなんだ?と言うワードを脳内で反響させた。

皇帝は臨時限定で出来る物かと言うことにである。

兎にも角にも状況を確認しなければならず、ついて行かないという手はナンセンスだ。

 

 

 

 

 

マッシリアは必要以上に賑わっていた。

此処こそ真のローマ帝国首都と言わんばかりにである。

 

「・・・・季節外れだなおい」

 

長可がそう呟き顔を顰めた。

明らかに季節外れの果物、野菜が市場に並んでいるからだ。

魚類なども新鮮に過ぎる。

 

「ロマニ、この時期でこれはありえっか?」

『ないね、どれもこれも当時の技術じゃ無理だ』

「・・・達哉、ロマニが言ってんだ。噂結界が」

「間違いなく有るな此処も」

 

要するに噂の力と言う奴である。

もっとも憲兵らしき姿があちこちに見えるし、

宗矩や書文は市内に潜む密偵の姿があるという。

憲兵は兎にも角にも密偵の数が多いとのことだ。

そしてしばらく歩いているうちに。

 

「あのぅ・・・先ほどから殿方の視線が集中しているんですが」

 

気恥ずかしそうにブリュンヒルデが言う。

確かにブリュンヒルデは超絶美人だ。神話体系でもそういわれている。

ついでに言うならオルガマリーやマシュにマリー・アントワネットにも同一の視線が伸びてきた。

変わりに達哉やクーフーリン、シグルドには女子たちの熱い視線が伸びている。

 

「・・・周りには俺達がローマ市民の服装をしているように見えるからじゃないか?」

 

達哉の言う通り原因は偽装礼装にあった。

この時期のローマの服装と言えば布である、現代服などのような感じではない。

達哉たちには仲間の偽装効果はないので、皆ちゃんとした装備を身に着けているのが分かるが周囲はそうではないわけで。

ハッキリゆーて、ブリュンヒルデのローマコスプレは眼福通り越して目に毒である。

さらにそこに男性も含めカルデアは美男美女軍団だ。目立たない方がおかしいという奴である。

 

「・・・偽装効果意味無いじゃない」

 

目立たないための偽装礼装なのに、自分たちの美貌のせいで悪目立ちとは本末転倒である。

まぁ此ればっかは誰も悪くはないのだが。

 

「・・・すいません」

「気にしなくていいわよ、ヒルデ、生まれは選べないんだし」

 

生れとそれに付属する容姿は選べないと、いつの間にやら仲良くなったのかオルガマリーはブリュンヒルデをあだ名呼びしつつ。

気にするな無視しろとアドバイスする、

一方のシグルドは妻の美貌が認められてうれしいやら、ほかの男どもに見られるのがつらいやら百面相中だった。

そんな賑やかな市内を抜けて、宮殿へと近づく。

衛兵に止められるがゼットが衛兵に説明し潔く門を通してもらい、

荘厳なつくりの宮殿の通路を抜けて、玉座の間へと通される。

 

そして玉座に座っていたのは、ブリュンヒルデにも負けず劣らずの美貌とスタイルに群青色のドレスを身に纏っている女性だった。

要するにエリザベート・バートリーだった。

 

『エリザベートなにやってんの!?』

『え? あれがエリザなのか? 彼女もっと幼かったような・・・』

『先輩は知りませんでしたね。エリザベートさんはカーミラとの霊基統合で真の意味での全盛期の姿がアレなんですよ』

『そうなのか、知らなかった』

 

オルガマリーがライン念話で絶句。

達哉はあれがエリザベートであることに驚愕した。

達哉だけは誰とも思い込むのも無理はない、統合前の姿しか知らなかったからだ。

こそこそ話で失礼に当たるのもあれなので、ライン経由でマシュが説明し達哉も納得する。

 

「彼女こそ、現在ロムルスに委託され、臨時ローマ皇帝に就任してる、エリザベート・バートリー帝さ」

「・・・嘘だろ」

 

ゼットの言い様と共に達哉が絶句し呟き

そして全員がこう思う、ギャグで言っているのか?と。

それがカルデア全員、無論バックアップも含めての総意である。

何故にエリザベート・バートリーが臨時ローマ帝なんてやっているのだ。

なぜこのようなトンチンカンな事になっているのだと思うのは道理であろう。

といってもよく見ればエリザベートは半泣きかつやけくそ状態だった。

 

「私だって・・・・好きでやってるわけじゃないのよぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」

 

その叫びにカルデアの人々は達哉を筆頭に何も言えなくなっていた。

オルガマリーは特に共感できる立場でもあった。

なんせ押し付けられたのだから当然ともいえよう。

 

「しかし、彼女筋は良いぞ?」

 

カエサルはそういって微笑むが。

好き好んで誰が座るか、そういうのは大望やら革命を望む生粋の馬鹿か俗物だけだとオルガマリーはリベレーターを抜きそうになるが、

オルガマリーの心境を理解している達哉とマシュが必死になって止める。

 

「あのその・・・それでなんてお呼びすればいいのでしょうか?」

 

あんまりと言えばあんまりすぎる展開に、カルデアの意思を代弁するようにマシュは問う。

 

「エリザで良いわよ。良くも悪くも」

 

いつも通りでいいとエリザベートはため息混じりに言った。

良くも悪くも望んで座っているわけではないし、

堅苦しいのも嫌いだったからだ。

でなんでこうなったかと言うと。

大樹が形成されローマが完全隔離されたのち。

当時召喚されたばかりのエリザベートは、孔明ことロード=エルメロイ二世から説明を聞いて、

ロムルスを渾身の思いを込めて殴った。

衛兵たちがエリザベートに剣を向けようとするが。

ロムルス本人がそれを制する。

 

「あいつが望んでたのはねぇ、そんなんじゃないのよ!! ただ認めて欲しかった、それだけなのよ!! 間違っているってひっぱたいて欲しかった。それだけなのよ!! アイツの死後をお前は知らない、暴君だのなんだの言って後悔塗れになって愛されていないと思い込んで、月でようやくアイツはぁ!!」

 

そう啖呵を切ってロムルスの顔面に右ストレートを叩き込んだ。

本来であれば不敬罪も良い所なのだが。

 

「お前らもそうだ!! 都合のいい指導者が出て来て満足なわけ?! 空回りしてる皇帝を止めようと思わなかったわけ!?」

 

ロムルスを殴った次は近衛たちに罵声を浴びせる。

切れて殺そうと思うというレベルではない気迫だ。

サーヴァントたち以外全員が震えるか無様にエリザベートの気迫に押され誰も手を出せないでいた。

再び矛先がロムルスに向き

 

「救ってやれるくせに、超越者目線で物事を語るなぁ!! 普通に伝わらないのよォ!! 勝利がどうのこうの言うなぁ!! あいつが望んでいたのは闘争の果ての光じゃなくて、自分が作った平和の光を認めて欲しかったのよォ!!」

 

エリザベートはロムルスを殴る。

だが彼は微動だにしない、真摯にネロの友人としてのエリザベートの怒りと嘆きを受け入れている。

 

「何に軍隊嗾けて、追い詰めてサァ!! 何様のつもりよ! なにが愛だぁ!! ふざけるなぁ!! この腐れ愚王がぁ!!」

 

エリザベートは悔しかった。

今のネロは知らないとはいえ、エリザベートにとっては親友だったから。

それを荒野うろついて迷子で助けるのが間に合わなかったなんて死にたくなるのも当然。

 

「すまない」

 

ロムルスはエリザベートを真直ぐ見て言う。

影にもさんざん言われていたから、理解できているし、拳を通してエリザベートの怒りを理解した。

これ以上は不味いとダレイオスがエリザベートを羽交い絞めにしに。

 

「今の私は皇帝にふさわしくない、樹の維持もある、よってエリザベートよ、臨時ローマ帝となってくれるか?」

「え?」

 

と言うことでそうなった。

 

「てな感じでロムルス殴ったら・・・臨時ローマ帝に・・・」

 

カルデア、全員顔が引きつる。

理由を聞いてもなんでそうなったしとカルデア一同は思いつつ。

オルガマリーは似たような経緯で所長の座に座る羽目になった。

リペアラーを引き抜こうとするのをマリー・アントワネットとマシュが止める。

要するに今回のこの始末はロムルスの責任ともいえる。

現に当初の黒幕であるレフ=ライノールを始末できる立場にもいたにもかかわらず、ネロを追い詰め。

そこをニャルに付け込まれて大惨事だ。

ロムルスも樹の維持のため思念体を短時間顕現させるのがやっとでローマ連合を纏め上げられる力はなく。

皆の前でロムルスを殴り弾劾し啖呵を切って見せたエリザベートが就任である。

オルガマリーからすればそれは責任逃れも良い所だというほかないが。

これ以上できないのだ。すれば間違いなく破綻する。故に二人に抑えられながら歯ぎしりするにとどめた。

もっともマシュも言いたいことがあった。気持ちは皆同じなのだ。

だが責任追及したからと言って、状況はよくならないのは道理である。

 

「兎に角、エリザ説明を頼めるか?」

「いいわよ、孔明サポートよろしく」

「心得た」

「あのちょっといいかしら?」

「なに?」

「そいつ孔明じゃなくて、現代魔術科の講師よね?」

「レディ、今の私はウェイバー・ベルベットでもなければロード=エルメロイ二世ではない」

 

彼はオルガマリーのごもっともな指摘を受け、

男性はカッと目を見開き言い切った。

 

「今の私は諸葛亮孔明の役割を押し付けられた時計塔の二流講師だ!!」

「いや、やっぱロード=エルメロイ二世じゃない!!」

 

括りなのかギャグなのかそういう孔明に対し、オルガマリーはつっこんだ。

が、孔明はこれをスルーする。

 

「主・・・もうこれは孔明で通さないと。堂々巡りになる」

「そうね・・・」

 

何時ものダヴィンチとオルガマリーのやり取りよろしく。

ちゃん付けしろと言い合うようになる。それよりも諄くなること請負なので。

もうこの場は孔明で通すことになった。

 

「それでなにがあったんですか? 孔明さん」

「我々にも分からない」

 

端からそれであった。

 

「といってもすべてがというわけじゃない、ネロ率いる正規ローマ軍の装備がいきなり潤沢なり出しローマ市内の発展が急速に行われたのだ。ありえない話だ、物資の流れ的にな・・・黄金劇場も本当に金で完成されたのだ」

 

余りにも不可解な物資の動き。

さらに続けて市内では突拍子もない奇跡が起きまくり。

市場が目まぐるしく変わっていたことや、死んだはずの人間が生き返ったり。

この時代には無いようなものまでが出現していたということを孔明は語る。

分析しようにも魔術以上に突然すぎて孔明も得意の分析が出来なかった。

まるで一般市民が権能でも振いだしたかのような感じだったらしい。

 

「この都市でも不可解な物資の動きとかは?」

「? ないことも無いが・・・遠方からたまたま商人が来たりしているだけだが」

「そう都合よく、望んだ物資を抱えた商人が来るわけないだろ・・・」

「・・・それもそうか、それがローマ市を中心としたテクスチャの崩落に関係があるのかね?」

「噂結界だ」

「噂結界?」

 

達哉の結論に孔明が首をかしげマシュが説明を引き継ぐ。

 

「噂結界とは文字通り噂が真実であると思いこまれた場合、結界内部ではその噂が真実として具象化する結界です」

「噂が具現化する? そんな魔術があり得る・・・のか?」

 

噂が真実だと認識されれば真実として具現化するなど。

都合の良すぎる結界は神の力に等しい。

だが類似の力がないわけではない、タタリ、あるいはワラキアの夜と呼ばれる吸血現象がそれに類似するものの。

生憎とその元凶となった。ズェピアと呼ばれるアトラス院の院長はこの世界では存命中であり。

タタリは発生していないゆえに、類似ケースの情報が孔明にはない。

 

「心当たりは私にはないが」

「先生・・・なんかカエサルが目をそらしているけれど何か知っているんじゃないかな?」

 

マシュの説明に心当たりは孔明はなかったがアレキサンダーの言う通りカエサルが目を反らした。

そう言えば嫌に物資やら潤沢だったなと孔明は思い出す。

 

「・・・カエサル、君は」

「いいや私は知らなかったよ・・・、士気を鼓舞するためにホラを吹いたがそれが噂として流れ・・・たという事なのだろうな・・・」

「カリスマスキルと知名度補正でカエサルが言うなら本当と思ってしまったというわけか!?」

 

カエサルはホラを吹きまくった。

無論、それは後々で何とかする予定ではあった。

つまり有利であるという情報を流布し、士気の前借を行ったのだ。

カエサルお得意の手法である。

だがそれが悪手になった。カエサルというビックネームにカリスマスキルが合わさって民衆が真実と思い込んでしまった結果。

それらが具現化してしまったのである。

それがきっかけでロムルス率いるローマ連合軍は潤沢な物資を手に入れてしまった。

 

「ロムルスさん」

「ロムルスでいい抗う者よ」

「ではロムルス、向こう側にニャルラトホテプがいたんだな?」

「ああ、気配を極限まで殺しネロの副官として宰相の立場にいた」

 

後は言わずもかな、その不可解すぎる物資の動きを掴んだニャルラトホテプは噂が具現化するという事をネロに吹き込み。

乱用させたのである。

ネロも皇帝としてのカリスマ全開でだ。

無論真実として認識され受諾し願いは叶い。

さらにニャルラトホテプは市民にこっそり噂が具現化しているとネロ達には黙って吹き込み。

噂結界を情報統制させないようにしてこの様である。

場に沈黙が下りる。

最初に言葉を切ったのはアレキサンダーだった。

 

「その噂結界のリスクは?」

「使いすぎると、現実と妄想の境界線があやふやになって阿頼耶識に飲み込まれるか世界が滅ぶ、崩壊は始まったんだ。今はロムルスがそういう世界になるという起点を押さえているから大丈夫だが」

 

あんまりと言えばあんまりな達哉の回答だった。

現実に、ローマ市の内部は地獄と化していた。

ロムルスの情報曰く、何もかもがあやふやになっており、夜の帳が下りて宮殿だけが黄金色に輝いている。

中央には巨大な聖杯が安置され、ネロが寝ているとのことだった。

住人は棺に納められ仮面をつけたアメーバ状の人型が蠢き這いずりまわっているとのことである。

つまりネロが世界を滅ぼし作り変える様な事を望み、噂の飽和によってそういう世界に作り替えられかけた。

ロムルスが起点となったローマ市を隔離することによって、現状は何とか持っているが。

 

 

「映像は出力できるか?」

「無論、そっちの計器経由で出すことが出来る」

「なら頼む」

 

映像が出力される。内部はロムルスの言う通り悍ましい者たちが徘徊する都市となっていた。

これが嘗てのローマの中心かと思うほどにだ。

 

「・・・なら私達の敵はネロ皇帝?」

「いや、ネロは都市を脱出した。今は引きこもっている。エリザベートが世話をしているが・・・引きこもり状態だ」

 

オルガマリーの問いに孔明がそう言った刹那。

達哉が顔を顰めた。

ネロがここにて、ローマ市内にもネロがいるとすればもう答えは一つだ。

 

「とすると・・・ローマ市の方のネロはシャドウか」

 

達哉のつぶやきを聞いた達哉の事情を知る者たちは顔を盛大に歪める。

知らぬ者は首をかしげるばかりだ。

 

「シャドウとはなんだね?」

「シャドウとは心理的もう一人の自分、所謂心の影が具象化した存在だ。こっちにいるネロは本来のネロで、向こうにいるネロはネロの心の影そのものが擬人化した存在と言っても過言じゃない」

「心理学的もう一人の自分と言う奴だな」

「ああ、だが問題はシャドウと言うのは擬人化しているとはいえ、もう一人の自分であることに変わりはない。本人がいないところでシャドウを倒すと・・・」

「倒すと?」

「シャドウの本体の人物が廃人化する」

 

シャドウとは如何に否定しようとも本人を構成する大事な構成部品だ。

故に本人を対峙させたうえで倒さなければ、その大事な構成部品を勝手に引き抜くのと変わらない。

所謂、ロボトミー手術と同等の結果しか得られず。

本人を対峙させたうえで倒さなければ廃人化するのである。

 

「と言うことはネロさんを連れて行って倒さなければ人理崩壊と言う事ですか?」

 

ブリュンヒルデの問いに関係者一同が頷く。

危ない所だった。事情を知って無ければ真直ぐ殴りに行ってジ・エンドのデストラップが用意されていたという事である。

今更ながらに、現状のローマ市攻略を考えていた孔明とカエサルは冷や汗を流した。

 

「さらに言うなら、ローマ市を徘徊している怪物も多分、住人のシャドウだ。ソレを殺し過ぎてもアウトだと思う」

 

達哉の言葉に場が沈黙する。

徘徊しているのはローマ市民のシャドウだ。故にシャドウを殺せばローマ市民を一人殺すのと変わりがない。

つまりこうである、ネロをメンタルケア後、事情を説明して

なるべくローマ市民シャドウを殺さずにネロをネロシャドウの元に送り届け。

受け入れさせるなり、交戦して倒すなりしなければならないということだ。

ただ突っ込めばよかった第一特異点とは違う上に。

 

「・・・・」

 

マシュやオルガマリーが沈黙する。

ここに来て初めて、明確に殺人しなければならないという事実を突きつけられていた。

如何に殺さない方がいいとはいえ、シャドウ化し狂暴化している以上、ある程度殺さなくてはいけないのは道理である。

マッシリアに待機していればニャルラトホテプの餌食になる恐れもある為、突っ込まなければならないのは当たり前の話だった。

そんな二人を一度は置いて置き、次の質問にシグルドが移った。

 

「ところでロムルス帝よ、あの聖杯は一体? 当方には神格にしかみえぬのだが・・・」

「私もシグルドと同意見です、あれは聖杯の名を借りた概念神のようにもみえます」

 

巨大な聖杯は神話勢からすれば主神クラスのナニカにしか見えないものだった。

ロムルスもそれは同意見ではあったが正体すらつかめないのである。

だが主神級の力があることは誰もかれもが理解する事だった。

つまり、ネロシャドウをどうにかしたとしても、この聖杯を倒さねば終わらぬという事である。

 

「つまり総括すると。ネロのメンタルケア後にネロを伴いつつなるべくシャドウを殺さないように躱しつつ突破して、ネロシャドウと対峙させてどうにかしたら、主神級のナニカをどうにかしなきゃこの事態は収まらないという事でしょうね」

 

オルガマリーが総括する。

と言っても問題はまだあるのだ。ローマ市に突入した時、無論邪魔になるシャドウはどうにかして殺さなければならない。

要するに選んで殺せという事であり。ネロを伴う以上、それを見せつけるという事でもあるのだ。

自国領民を自分が仕出かした罰として殺される様をニャルラトホテプは見せつける気なのだろう。

つまり最悪道中はネロのメンタルケアもしつつ行かないといけないわけである。

 

「道中に魔王とかの顕現は?」

「それは確認できていないね」

 

ローマ市内に悪魔及び魔王クラスの悪魔の顕現はと言う達哉の問いに、

ゼットが無いという。

なんでお前が断言できるのかと言うカルデアの視線に対しゼットは。

 

「僕の魔術は悪魔召喚が主軸だからね。ロムルスの映像で確認したけれどそういう類の物の顕現は確認できていなかったよ」

 

自分の魔術はそういうものだからと説明を付けて実践して見せる。

それでカルデアの追求は収まったが。

ロムルスと組んだとはいえレフから聖杯を奪い取り、柱とかしたレフをロムルスと共に瞬殺していた為。

ロムルス以外のローマ組からはゼットは信用されていなかったりする。

閑話休題。

 

「ところで・・・あの大樹はどれくらい持ちそうなんだ?」

 

崩落した部分に蓋をしている状態が長く続くとはクーフーリンは思えなかった。

故に聞くわけだが。

 

「一週間から二週間だ」

 

ロムルスの言葉にカルデア勢は絶句する。

今回は兎にも角にもネロに自信を持たせつつ下準備を整えるのが肝だ。

長期戦にもつれ込ませたいのに、

一週間から二週間とは短すぎるのである。

鬱病に近い症状を下手したら患っているネロを最長二週間でどうにかするのは不可能だ。

 

『もうコンバットドラッグでも使うか?』

『駄目に決まってるだろアマネェ!!』

 

もうめんどくさいから薬(劇物)でも使ってハイにさせて特攻させるかというアマネの過激な発言にロマニが怒り心頭に叫ぶ。

因みにカルデア内通信であるためローマ陣営には今の会話は聞こえて居なかったりする。

それはさておきまだ問題はある

 

「閉じこもっているネロ皇帝をどう引きずり出すかよねぇ」

「強引に行くか?」

「駄目よ、自主的に出てくることを諭さないと余計に精神衛生が悪化する」

 

そう閉じこもっているネロの方が問題だ。

食事などは最低限で誰とも取り合わないという。

達哉的に想像してみたが、ニャルラトホテプの使った手はおそらく自分たちと同じ手だろう。

親か友人かを演じ懐に潜り込んで盛大に裏切って全部奪い取ったのだ。

今の彼女は誰も信じられないような心理状況にあるであろうことは理解できた。

オルガマリーも達哉が来るまではそんな状態であった。

 

「あと噂結界ですけど、やはり前みたいに全域に張られていると思いますか?」

 

マシュの質問に達哉は渋面で答える。

 

「まぁそうだとみるのが普通だろうな。結界内部で飽和したところを中心に崩壊するから。このまま何も手を打たないと、マッシリアも第二のローマ市になる恐れがある」

「情報統制は無理よ。政治を急に変えたら革命よ、革命」

 

今の今までエリザベートがやってこれていたのはロムルスが太鼓判を押した事と。

カサエルと孔明のサポートを受けつつ善政をしいていた。

それを一般市民からすると意味不明な緘口令を引けば不信感が募りアウト。

ニャルラトホテプという神がそういう風にしているからと大々的に言えばもっとアウトだ。

 

「絹糸でジリジリ絞殺されるような気分ですな」

 

宗矩はため息を吐いた。

第一特異点は良くも悪くも、向こうが分かった上で効率よく殴ることに注視していた為。

やることが一つでよかったが。

今回は匙加減を調整したうえでやることが多い。

だがイライラ棒と一緒で一つ間違えればドカンだ。

 

「ところでカルデアにいないの? そういう心理サポートの専門家」

「いないです、全員レフ教授の爆破テロで・・・」

「マジかー」

 

何度も言う通り、心理医療師の類はレフの手で殺されている。

カルデア全員、レフは何がしたいんだ&余計なことしやがってと内心で毒付いた。

お陰でメンタルケア周りで苦労して、苦肉の策で達哉は此処に突入する前にアマネと宗矩に説得され。

オルガマリーの私室を少し改装し、マシュとオルガマリーとの三人で共同生活する羽目になった。

その上現地でもメンタルケアをしなければならないとかふざけているにもほどがある。

達哉は何も言えず。

シグルド、マリー・アントワネット、ブリュンヒルデ以外のカルデア組はオルガマリーも含め。

お前らが好き勝手やったせいでネロが追い込まれてこの様じゃないかとロムルスをにらむ。

マシュも状況を認識し偉人には基本憧れの目線を向けるのだが今回は珍しく軽蔑のまなざしだ。

それを直接処理するのが自分たちなんだから堪った物ではない。

ロムルスもその通りだと甘んじて彼らの視線を受け入れた。

 

「悪いがそろそろ、私は戻らせてもらう」

 

ロムルスの本体はあの大樹であり、此処にいるロムルスは思念体であるが。

長く投射できるわけではないので、彼は幻影のように消えていく。

だからこそ臨時のローマ帝が必要だったわけだ。

それが何故エリザベートなのか知るのはロムルスばかり。

神性が高いロムルスの内心を理解するのは難しい物である。

 

「兎にも角にも、ネロを穏便に引き摺り出す案を考えよう、エリザ、政治の方は任せて良いか?」

「乗り掛かった舟だもの、もちろんよ、勉強になるし」

 

カルデアはあくまで当面、ネロのメンタルケアに集中することをエリザベートは快諾した。

なんでも今彼女は微細特異点の領主もやっているらしくその勉強も兼ねているとのことだった。

皮肉である。嘗ての暴君が己を見直し名君として成長しているからさもありなんという奴である。

 

「さて、どうやって引きずり出しましょうか」

 

強硬策はさっきも言った通り悪化するだけなので却下。

だがもしもの際は素巻きにして引き摺ってでもローマ市へと突入。

強引に相対させたうえで、ネロシャドウを討伐し、聖杯を破壊するプランも視野に要らなければならない。

無論ソレをやったらやったでニャルラトホテプがえげつなく刺してくることは眼に見えている。

第一特異点で達哉がそれでロンギヌスに刺されているのだから、今回もそれに匹敵することをしてくるだろう。

だからあくまで強硬策は本当に最後の手段である。

 

カルデアの居住区はとりあえずマッシリア臨時ローマ宮殿の一角を使うこととなった。

部屋割りはカルデアと一緒である。

こんな時までまとめて共同生活は勘弁してくれと達哉は思うほかなかった。

 

 

 

 

 

 




本作におけるシャドウはP2使用です。迂闊に殺すと大本が廃人化します。

と言う分けでロムルスをぶん殴った挙句啖呵を切ったエリちゃんが臨時ローマ帝に就任しました。
月やら本編FGOでネロちゃまの親友やって、自分が何をしたかを受け止めた今作のエリちゃんからすりゃローマのスタンスはふざけるな案件です。
自分自身言わず何もされずこんな様晒しているのに、矯正できる大人が超越者気取ってネロの苦悩を理解もせず愛だのなんだの上から目線で言ってい居ればそりゃ殴るわけで。
しかも事後処理できない仕方がない状況とはいえ、エリザベートにローマ帝なんて押し付けているから所長も切れるし。
第一ではジルも狂うまでは責任取ろうとしていたし、味方陣営全員が責務を全うしていたからね。
そしてパーティメンバー以外の連中が歴代Pシリーズやらメガテン主人公に責任押し付けた結果生まれたのが邪ンヌとかいうシャレにならん怪物であるというのもマシュは見てしまったため不信感を抱くというね。
第二の敵側って本当に人理保全と言う意味合いでは責任放棄してるんですよね。
ロムルスはレフ瞬殺して聖杯奪還での修復出来るにも関わらずネロの作った国を試すために軍隊嗾けていますし。
カサエルは格上のロムルスに逆らえないし間違い指摘していないし。
孔明ですら自分の夢を叶えるために焼却側に加担していましたし。
叔父上は叔父上やってネロを困らせているし。
レフはレフだったし。
だからニャルに良い様に付け込まれて責任取れよと嗤わられるというオチが付く。

因みに本作ではカリギュラは出ません、噂を補強するためにニャルラトホテプに始末されています。



と言う分けでカルデアの勝利条件はこうです。
統制神事態は兄貴やエリちゃん、眼鏡夫妻に最悪宗矩の魔剣があるから火力も間に合っているのでまだまともにやれるが
ネロシャドウはネロ本人を相対させるか受け入れさせるかしないと。
シャドウ事態がP2使用なため、P5よろしくネロガン無視ししてシャドウだけを討伐するとネロが廃人になって人理完全崩壊というトラップがあります
加えてローマ市内のシャドウも同上でシャドウを殺す=ローマ市民を殺すということなので殺し過ぎると人理崩壊待ったなし。
と言ってもネロ・シャドウをどうにかしないと統制神は何もできないし、同時に破壊不能なので。
まじで厳しい条件をクリアしたうえでどうにかするほかありません。
まぁ勝利条件として早い話が、ネロのメンタルケアを終わらせてローマにカチコミ。
ローマ市内のシャドウをなるべく殺さず、ネロとネロシャドウを相対させて受け入れさせるなり撃破するなりして統制神をぶったおせば勝ちです。


ニャル「もっともそんな簡単に勝ちなんざさせねぇけどな!!」




あとゼット・ゼブは本作オリキャラじゃないです、メガテン作品の魔王の誰だかさんが偽名名乗っているだけです。
本格的に手出しはしてきません、緊急事態と言うことでロムルスには手を貸してレフを酷い目に合わせましたけど。
今回特異点では傍観者です。

今回の特異点は前半戦がネロとローマ陣営とカルデアのコミュ中心。
後半戦がネロパレス攻略戦となります
話し事態は第一特異点よりも短くなると思います、所長が特攻持ちになる予定なので戦闘面で苦労はしません。
もっとも精神面では第一特異点よりキツイ感じで行きます。


今回こそ10話後半台で終われればいいなぁと思っています。
第一特異点は邪ンヌの回想挟み過ぎて予定の倍以上になったからね。


次は遅くなると思います。


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二節 「闇鍋」

あらゆる心配はワインで減少する。

アミット・カランツリー


ゼットは宮殿の屋上の縁に腰かけ、カルデアを見ていた。

普通の人間なら補足不可能なのに彼はマッシリアのすべてを見て認識している。

 

「手は出さぬのかね」

 

そこにカエサルが来る。

右手には黄金の剣だ。

ゼットはお付きという立場であるが、ロムルスとエリザベート以外のローマサーヴァントには信用されていない。

当たり前だ。

レフをロムルスが殺す際に手伝い聖杯を奪った立役者であり、柱と化したレフをロムルスと共に殺した存在である。

単純に考えて人間ではないのに、人間のようにふるまい人間としてしか認識されぬ不気味な存在。

カルデアの機材でさえ彼の正体を見破れなかった。

さしずめ、”役を羽織る者(プリテンダー)”ともいうべきであろうか。

 

「僕らはさしずめ観客だよ。彼がどうやって彼の者がどうしてどうなるかを見届ける為だけに此処にいる、出来ることは舞台が壊れないように野次を飛ばし乱入客を劇場からたたき出すだけさ。コレはあくまでも彼らの物語なんだから。」

 

彼は微笑みつつそういう。

相も変わらず不気味な存在だった。

ロムルス曰く「手を出すな」という命が将にもいきわたっている。

所謂ニャルラトホテプとは別の意味で危険な存在ではあるが手出ししない限りゼットは観客に徹する、とのことだった。

その時である。

ふいに、ゼットが空を見上げた。

 

「またか・・・」

 

そうため息を吐いてゼットが立ち上がる

 

「またかとは?」

「僕らみたいに観客に徹しない不届きものもいるってこと。僕らも一枚岩じゃないし、天使共は恥知らずだ。名も無き神々は光を目指し集まり、希望だけを嘯く亡霊共も蛾が火に飛び込むように集まる。”穴”が開いて”光”があればわかるとなれば仕方がないということもあるという事さ」

 

そういってゼットは縁から飛び下りる。

カサエルが縁の下をのぞくが誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで現在、まずはネロを部屋から引きずり出すにはどうするかという事になる。

 

「どうする? 拡声器で親御さんが泣いているぞと呼びかけるか?」

 

達哉の冗句混じりの意見は無論却下された。

 

「ネロ帝は両親とは確執だらけですし、生まれも特殊なんです、多分効果はないかと」

 

ネロの生まれは特殊だ。所謂家庭版案件とかいう奴である。

下手すりゃカリギュラとアグリッピナとの間に設けられた子供である可能性すらあるのだ。

そこら辺を突くのはよろしくないこと請負であろう。

であるならどうするかという話だが

 

「岩戸作戦で行きましょう」

 

オルガマリーは突拍子もなく言い切った。

日本神話の再現である。

幸い、料理に腕のあるエミヤとオルガマリーが居るのだ。

食材だって付近の市場やらオルガマリーの私物を引っ張り出せば十分に美味い物が作れる。

その匂いをネロの引き込むる部屋に業務用扇風機で送り込みつつ、目の前でどんちゃん騒ぎをして自ら出ることを促すという作戦だ。

 

「ふっ、やっと私の本領というわけだな」

「いや、エミヤさんはアーチャーですよね? 狙撃が本領ですよね?」

 

エミヤの言葉にマシュが突っ込む。

と同時にマシュは思った。

特異点突入までは、エミヤが投影魔術が得意且つ特異ということが発覚し。

そりゃもう洗脳されたうえでダヴィンチ達によってたかってカルデアの復旧に酷使されたのである。

生前の学校内での修繕作業の比ではなかった。

おかしくなるのも道理ですかねとマシュは失礼なことを想うほかなかった。

 

「じゃ。俺はちょっとベルベットルーム行ってガスコンロ買ってくる」

「お願いね、私はダヴィンチ達に連絡して私物の鍋や調理器具に食材送ってもらうわ、あとタツヤ、ガスコンロだけじゃなくてレトルトと酒類買ってきて」

「俺・・・未成年」

「此処まで来てそれは無しよ、サーヴァントのみんなも飲みたいモノあったら言ってちょうだい」

「俺、ビール!!」

「俺はぁ、ワンカップでいいぜ」

「長可殿と同じで」

「儂も長可と宗矩と同じもので」

「私とヒルデは葡萄系のチューハイで」

「当方はクーフーリンと同じくビールで」

「私は何でもいい」

 

クーフーリンとシグルドはビール

長可と宗矩と書文はワンカップ清酒

マシュは身体機能に異常が出るかも知れないとのことで炭酸飲料。

女性陣は葡萄系の酎ハイ

エミヤは飲めればなんでもと言った感じだ。

達哉もマシュと同じく炭酸飲料で行こうとするが、達哉は抱え込む気質であり、今のうちにはそう言った蟠りを吐かせてしまえということで医療班からもGOサインが出てチューハイかビール決定という事になった。

もうあれでアレである。ネロを引きずり出すのを名目に飲み会の空気だ。

そんなことに苦笑しつつ、達哉はクーラーボックスを抱えてベルベットルーム経由でサトミタダシに向かう。

 

「マシュ、ヒルデはメモに書いてある食材を出来るだけ調達してきて。シグルドにクーフーリン、あなたは二人の護衛ね。宗矩と書文は市内を探って来て、よからぬ噂が立っていたら潰したいから」

 

マシュとブリュンヒルデにシグルドとクーフーリンは買い出しだった。

メモに記されたマッシリアの市場で購入できるものを買ってくることになった。

宗矩と書文はマッシリア内部の内偵である。

よからぬ噂の発信源を事前に潰すことを命じられた。

臨時ローマも大急ぎで極秘裏に情報統制を進めているが所詮気休めであるし。

エリザベートは膨大な量の陳情に圧殺されかかっていたというのもある。

 

「残りは私と一緒に料理準備でOK?」

「マスター、王妃に料理の手伝いさせるのかね?」

 

マリー・アントワネットは皇族である。

あからさまに向いていないというか皇族に料理の手伝いをさせるのはとエミヤが渋るが。

 

「いいのよ、いま私にできることとい言えばそれくらいだし、幸いに第一でオルガちゃんに手料理習っていたから、多少は出来るわ」

 

当の方人がやる気満々だった。

こんなに楽しいなら生前やっておけばよかったとは本人の弁である。

それはさておき、この時代に最新鋭のキッチン機器なんぞ望めないので。

台所周りは見ておきたかった。

鍋にするにせよ、他の物も作っておきたいのだから当たり前と言えよう。

 

 

 

 

 

 

というわけでマシュ達は買い物に出てきていた。

噂結界の効力か新鮮な野菜と魚介類が手に入っている。

酒や肉はカルデアが自前で用意するので購入はしなかった。

 

「これでも人は減った方なんだぜ」

 

ある店で野菜の購入がてら情報収集していると、店長はそう言った。

ロムルスが復活し、ローマ連合を編成し正規ローマ軍都のぶつかり合いが続き、

噂が流れ始めた。

今のローマ市は黄金に彩られた都市でありネロ皇帝の意向で安定した生活が約束されていると。

そんな噂が流れてから、人の流通はローマ市がああなるまで続き。

不安定なこの情勢下、戦には関わりたくない人や難民たちはローマ市を目指したとのことだった。

さらにローマ連合首都は巨大な柱のような怪物がいきなり出現し、ロムルスとゼットが何もさせず封殺したはいいものの柱の怪物が自爆し、ロムルスが被害を抑え込んだが魔力汚染などによって首都機能が消失。

さらに駄目押しとばかりにローマ市があんなことになったため。

マッシリアに首都機能を移設し、臨時皇帝としてロムルスに指名されたエリザベートが臨時ローマ帝となったとのこと。

故に賑わってはいるが全盛期のマッシリアの賑わいっぷりからすれば寂しくなったとのことであった。

 

「そうなんですか」

「でもエリザ帝の治世は悪かねぇよ、俺たちの声はちゃんと聴いてくれるし、圧政にもちゃんと理由を説明してくれる、好き勝手やってたネロ帝より遥かに良い」

 

エリザベートは間違った側の人間で。それを反省しているタイプだ。

だからやってはいけないことは分かるし、やってほしいこともよくわかっている。

されど、時には横暴的な事もしないといけないというのも分かっており。

その横暴もちゃんと民に説明していた。

偉大なりしはカサエルの考えた説得カンペであるのだが。

それでも兎に角合理性をある程度追求し柔軟性を持たせたエリザベートの手腕は見事と言うほかない。

無論、そこには孔明という尊い犠牲的サポートがあってこそではあるが。

才能があるのも確かなのだ。でなければここまでできるはずもない。

そんなやり取りをしつつ、男衆が荷物を持ちながら、昼時になったので適当な飯屋へと入る。

マシュはワクワクした。この時代の飯事情がどうなっているか気になったからである。

だが

 

「すいません、今満席でして」

 

生憎と満席だった。

如何に陰っているとはいえ人は多いのだ。

この時間帯は混むに決まっている。

仕方がない、宮殿に戻って適当に何か作ってもらおうとクーフーリンが提案した時である。

 

「こっちの席は相席いいですよ」

 

そう言う声がした。

 

「ゼットさん?」

「やぁ、奇遇だね」

 

ゼットがそういってニコニコ微笑み、片手を上げて手招きしていた。

此処なら同席OKだと言わんばかりにである。

シグルドとブリュンヒルデは嫌悪の表情だった。

といっても不気味なだけで敵対行動していないので、

シグルドとクーフーリンにブリュンヒルデは何も言えず。

 

「ゼットさん、良いんですか?」

「うんいいよ、一人でエールを飲むのも寂しい物があるしね」

 

マシュの確認にゼットはそう笑顔で了承した。

各々が席に着く、ゼットは気前よく全員分のエールを頼んだ。

時代的にはアルコール成分が薄いとして市内で提供される酒類まで目くじら立てるのはアレということもあり、

マシュも人生初めてのお酒と相成ったわけだ。

 

「ていうか、テメェ、エリザベートのお付きなんだろ? こんなところで油売っていていいのかよ」

「やることはやってるから問題ないよ、あとは彼女の判断さ。皇帝向けの陳情にゴーサインを出すのがお付きじゃ拙いだろう? だから僕の仕事はまとめて出して案を出すまでさ。所謂中間職の書類仕事だよ」

 

ゼットはお付きではあるが宰相レベルまでの権限は与えられていない。

あくまで市役所の職員レベルの対応までが仕事であった。

だから聞いた陳情に対する対処案を練って、あとはそれをエリザベートに上げるだけであると。

 

「貴殿は有能であると当方は考えるが・・・」

 

日々大量の陳情が舞い込んできているのに。こうも余裕があるのだから。

かなりの有能レベルなはずである。

ならもっと上には行かないのかとシグルドは遠回しに問う。

ゼットはあっけからんといった。

 

「僕は悪魔召喚が魔術だからね。元々は放浪の身で宮殿内部では嫌われているし、ここでそういった業務もロムルスに拾われたから恩返しのつもりでやってるだけだしね」

 

といった感じにはぐらかされる。

そして料理が運ばれてきて互いに他愛のない話で時間を潰す。

 

「時にだけど。マシュ、君は何で戦ってるの?」

「え?」

 

ゼットが唐突に言いだした。

 

「君の所の所長は現在の状況から抜け出したいという一念と責任を全うしたいという思いで戦っている、達哉・・・彼は既に覚悟できているね。罪と罰の清算と守りたいもの前に進みたい生きたいって戦っている、二人ともそこに発生する責務は認識したうえで戦っている、所謂芯があるんだけど。君にはそれがないから迷っている。」

「―――――――」

「だから不思議なのさ。君にはその芯がない、迷っているし、怖い、けれどって無理してる感じだ。だったら出ない方がいい、違うかい?」

 

図星であった。

マシュはずっと迷っている。あの時の感覚と殺意が染みついて消えない。

そして同時に何のために戦っているのか分からなくなってしまった。

達哉たちを守りたいという思いはあるが彼ら自身が戦闘力があり盾持ちとしての存在意義を発揮しきれているかどうかマシュは思っていたから。

そしてクーフーリンとシグルドが動こうとする。

コイツは拙いと思ったからだ。影ほどではないにせよ人を惑わし陥れる何かだと察し。

次の瞬間、ゼットの一瞥にクーフーリンたちは動けなかった。

背中に電極を突っ込まれたように走る。

それで三人とも動けなくなった。金縛りにあったように。

ゼットはそれを見て、視線をマシュに戻す。

 

「戦う理由がないやつが出て来ても、生かしてくれるほど世界は優しくはない、カルデアだって君が無理といえば無理ってちゃんと待機にしてくれるだろう?」

「ゼットさん、確かにそうかもしれません。でも嫌なんです、見ているだけなんて」

「うんわかるよ、でもね半端だ」

 

第一特異点のあの光景を見て思う。嫌なのだ、見ているだけの無力な自分が。

だったらせめて出て後悔したいとマシュは言う。

だが半端だとゼットは指摘する。

確かにそういう理由も理由になる、突き詰めればの話だ。

だが今のマシュは違う。突き詰め切れていないのだ。

 

「・・・まぁその気持ちも僕にはわかる、昔、無理に傍観に徹して中途半端に介入してこっぴどく怒られたしね、だからね半端は駄目だよ」

 

ゼットは懐かしむように言いつつ半端は駄目だという。

一時的な避難所になりこそすれど、影の策謀の前では嵐に晒される藁小屋だ。

軽く吹き飛ばされてしまう。

 

「ちょっと言い過ぎたかな。でもいずれこの先、君の力が必要なると占いでは出てたしね。ゆっくり歩いていて行けばいい、でも概要だけは掴んでおくことをお勧めするよ。あの牢獄でソレを問われるからね」

 

そう言って立ち上がる、全員分の食事代の金貨を置いてだ。

それで三人の金縛りが解ける。

 

「最後に聞かせてください」

 

立ち去ろうとするゼットにマシュが問う。

 

「あの樹の中で行われていることを知っているんですか?」

「さぁ詳しいことまでは知らない、牢獄と評したのも、住人が棺に閉じ込められている状況からだし、閉じ込められて魅せられている夢なんて大概都合のいい物と言う僕の推測からだからね」

 

ゼットはそういいつつ右手をヒラヒラと振い、

店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たのむから手伝ってよ~! プロデューサー!!」

「エリちゃん・・・私、料理で忙しくて無理よ」

「手伝ってぇ!! オルガマリー!!」

「マリーと同じで私も無理よ!!」

 

 

皆が皆、食材集めやらキャンプ用の調理機材を運び設営する中で、

エリザベートは二人に泣きついていた。

多すぎる陳情、ぶっ倒れる孔明。

カエサルは煙に巻く様に逃げやがったときている

ゼットはやることはちゃんとやって定時上がりで姿も見えない。

つまり残る業務をエリザベートが一人で現状処理していた。

一度間違えた身である、今度はちゃんとできているのは言わずもかなであるが。

トップダウンという王政という政治体系上、如何に文官が頑張ったところで最終的に物を決定するのは皇帝であるエリザベートである。

頼れる三人が使えないということもあって今現在政務はエリザベート一人が陣頭指揮を執りつつ、

最終決裁処理をしていた。

善政を引くがゆえに過労するというのは古今東西みられることであり。

エリザベートもそのたぐいにもれず。カルデアに泣きつくが。

オルガマリーもマリー・アントワネットも岩戸作戦のために手が離せない状況である。

 

「なら達哉ァ、助けてよォ!」

「無理言うな」

 

挙句の果てには政務ド素人の達哉にまで縋る始末である。

 

「本当にヤバいのよォ・・・こんな時に限って孔明はぶっ倒れるし、カエサルはいないし、ゼットのヤツは定時上がりするし!?」

「エリザベート」

 

弱音を漏らすエリザベートの両肩を両手で背後からエミヤが掴む。

 

「無理は噓つきの言葉だ。サーヴァントなのだから、我々に疲労の概念はない!」

「いや精神的疲労は蓄積するでしょう!? というか、アンタ目が怖いんだけど!?」

「さぁ戻りたまえ。皆が待っている」

 

エリザベートの弱音に、エミヤはカルデアでの酷使されたトラウマが奇想されたのか。

虚ろな目で説得を始めるどころか、

自分の持ち場を離れてずるずるとエリザベートを引きずっていった。

 

「・・・なぁ所長」

「なぁに?」

「ダヴィンチはどれだけ、エミヤを酷使したんだ・・・」

「さぁ? でも大方の施設修繕が終わっているくらいだしね・・・」

 

エミヤが来て八割方の施設修繕が完了した。

もっとも正規の部品とかではないので油断はできないが今のところ順調に動いているのを見て、

かなり酷使されたことは予想につく。

 

「オルガちゃん、エミヤの作っていた料理とかどうするの?」

「日本食は私の管轄外だしねぇ・・・タツヤ、悪いけど連れ戻してきて」

「あの状況のエミヤをか!?」

「ええ、もう設営も良いから、エリザベートの手伝いもして来て頂戴な」

「そんな無茶な・・・」

「礼装越しに私とカルデアもサポートするから」

『ちょっとまって、私たちもかい!?』

「ネロ皇帝の事をよく知っているのは、エリザベートよ、説得要員としては絶対に必須」

 

そういうわけでエリザベートを放っておくわけにもいかず。

達哉は煤けた背を向けてエミヤを連れ戻しに行く。エリザベートの手伝いもかねて。

そして月や主要時間軸ではネロとは親友という間柄故に、ネロの人となりを一番知っているのもエリザベートであり、彼女がネロの説得の鍵となる。

故に彼女には是が非でも仕事を終わらせてこの宴会に参加してもらわねばならない。

何が悲しくて料理しながら政務なんぞしなきゃならんのだという思いもあるが。

これも人理の為、仕方がないという奴であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネロはうっとおしいと思った。

先ほどから自分の閉じこもる部屋の前で誰かたちが宴を行っている。

嗅いだことも無い未知の料理の芳醇な香りが先ほどから部屋に入ってくるのも神経を苛立たせる一因であった。

頭が痛い、こういう時は鉛を入れた甘い葡萄酒でも飲みたかったがそんなものは生憎となかった。

 

『本当に意味わかんない!! なんでいきなり拳銃自殺すんのよ!!』

『まぁまぁ所長落ち着いて』

『落ち着いてられますか!! 突然全部押し付けられる気にもなれって話よ! まったく』

『それは分かるかな・・・・』

『先輩?』

『ほら俺の父も冤罪の件があっただろ? あの時言ってくれればとか思ってしまうわけだ。当時の俺は真相がわかった後にももっと早く言ってくれればって思ったからな、家族を守る為にしてもな・・・』

 

外では愚痴の言い合いだった。

オルガマリーと呼ばれる少女の両親はロクデナシだったらしい。何もかも放り投げて押し付けられたそうだ。

だが望まれている分だけいいではないかとネロは思うが、

その思考にも次の瞬間否定される。

 

『所長の父親だって死にたくて死んだわけじゃ、というか刻印の影響で魔術師って死ににくいんだろう?』

『ペルソナ使い程じゃないけれどね、でも魔術刻印には冠位指定って呪い染みた物が在るのよ、根源を目指すための先祖の妄執じみた呪いよ。だから普通の魔術師は刻印を継いだ時点で自殺の自の字も浮かばない。だから自殺するはずがないの。でもね、あの糞親父はその呪いを跳ね除けてしまう様な致命的な失敗かあるいは自死で到達できるからという理由で冠位指定を受け入れて自殺したんだと思う』

『ああん? なんで嬢ちゃんはそう思うわけよ』

 

達哉と呼ばれる者とは別の男性の問いにオルガマリーは。

 

『以前からその気があったもの、私を見る目は上っ面だけ笑み張り付けて作った人形を見るかの様な眼だったし、糞親父が私に親らしいことなんてしてくれたのは一度もなかった』

 

そう寂しげに答えた。

ネロ自身と同じく道具としか見られていなかった。

 

『私が到達に必要な道具だったんでしょうね・・・・それが失敗したか出来るから糞親父は死んだのよ。もっとも私は冠位指定外れたんですけどね!!』

『オルガマリー、そういう呪詛は外れない物だと私は思うのですが』

『それはねヒルデ、たぶんペルソナの力よ、アレに目覚めてから魔術のくだらなさが心底わかるようになったし』

 

ヒルデと呼ばれた女性の言い分にオルガマリーはそう言った。

ペルソナは一種の自我の確立の力ともいえる。

これにより個我を侵食する刻印の力を跳ね除けられるようになったというべきであろう。

それによる拒絶反応も起きるかなとロマニにオルガマリーは相談したこともあったが、

魔術刻印は依然として馴染んでいるし機能しているのでそのままだ。

あくまでも刻印に刻み込まれた冠位指定と言う呪いだけが外れたかのようだった。

閑話休題。

暗い話続きという訳でマシュと呼ばれる少女が強引に方向転換を行う。

シグルドとブリュンヒルデの出会いとか告白とかどうだったのかと言う話題だ。

これにはちょっとネロも気になり扉越しに耳を澄ました。

所謂ひとめぼれだったらしいのがきっかけだったが。

シグルドとブリュンヒルデの悲恋にシフトして。

拙いと感じた長可と呼ばれる男が過去は過去にして今はどうなのよという風に話題をさらにシフトアップした結果。

 

『来るがいい!! 我が愛よ!! 当方はどのような愛でも受け切って見せる!!」

『嗚呼、シグルド!! 嗚呼、シグルド!! 私の愛しい人ォ!!』

『取り押さえろォ!!』

 

何がなんだかどうなったのかなんか、達哉と呼ばれた青年の絶叫が響き。

鈍い音と破砕音が響き渡る。

ネロもこれには思わず突っ込む形で扉を開ける。

そこには、両手を広げばっちこいと言わんばかりの酔いのまわったシグルドを書文、長可、宗矩が必死に動かさんとしていて。

クーフーリンはケラケラと腹を抱えて笑っており。

ブリュンヒルデは巨大化した槍を振り上げ、それを必死に押さえつける達哉、マリー・アントワネット、オルガマリー、マシュ、エリザとエミヤというカオスな光景が広まっており。

それら全員がネロが出てきたことを認識。

 

「確保ォ!!」

 

ネロは確保され、大人しく美味しい鍋をつつきつつ、未来の酒を提供されたこともあってか身の上話をし始めた。

 

 

 

「そりゃ小賢しいわ」

 

缶酎ハイを呷りつつネロの母の事に対してオルガマリーは同意した。

アグリッピナは要するに傀儡政権を作りたかったらしい。

男尊女卑が強い時代だ。元老院とのやり取りもある。

あくまでもネロは防波堤で実権を握るのは自分であると吹き込んでいたらしい。

ネロもネロで乗せられて皇帝の座に座ったが、そういう風に道具として扱ってくる母を疎ましく思っていたのは事実である。

典型的な毒母だなと長可は思うし、

オルガマリーは小賢しいと思いながら、人形として扱われていたことに対して共感を抱いていた。

そりゃそうである。オルガマリーも実父に道具として扱われていたのだからそうだろう。

 

「オルガマリーもか?」

「ええ、魔術師の家系だからねぇ、子供は親の財産ってわけよ、ほんとやってられないわ、こんな呪いまで押し付けられるんですもの」

 

オルガマリーは自分の額を指して言う。

彼女の額に刻み込まれた魔術刻印をだ。

 

「だが呪いは外れているのであろう?」

「ええ、ざまぁみろ糞親父、全部終わったら嫌がらせに墓暴いてシュールストレミング投げ込んでやる!!」

 

ネロの問いにそう言いつつ本気なのか冗句なのか分からないことを言う。

いやきっと本音だなとここにいる全員が思った。

因みにシュールストレミングがどんなものかをサーヴァントたちは抑止経由での知識で知り顔を青ざめさせた。

無論達哉は止めた。どうあっても死人は死人だからそっとしておけと。

それもそうねとオルガマリーはため息を吐いた。

所謂遅れてきた反抗期と言うのにマリスビリーは晒されていた。

南無と言う奴である。

 

「余は父を知らぬ故、どういっていいのか分からない・・・」

「私もそうよ、親父の本当なんて知らない」

「俺も知らなかったしな」

「私にはそも父がいませんし」

 

ネロの悲嘆にオルガマリー、達哉、マシュがそう言ってフォローする。

オルガマリーはさっきも言った通り父の本当の顔を知らない。

達哉はつい最近まで冤罪事件の真実を知らず父の事も勝手にレッテルを張り付けて見ていなかったし、もう会えない、謝る事さえできないのだ。

マシュはデザインドチルドレンとしてビーカー生まれである。

代理母すらいないのだ。

 

「そなたたちでさえもか」

「親子の驕りなんて今も昔も一緒ってことだよ」

「長可殿の言う通り、拙者も、アレには苦労しましたからなぁ」

 

親の心子知らず、逆もまた然りと言う奴で親子間の相互関係で苦労するのはどこも一緒である。

そう言った意味では我が子関係で大人組サーヴァントは苦労しているのだ。

もっとも眼鏡夫妻とエミヤには縁が無さすぎる話ではあったが。

と言ってもマスター陣営は親子関係に関しては間が悪かったりなどの要因もあって幼少期は灰色も良い所だった。

義理とはいえ、自分は恵まれていたのだなとエミヤは胸を抱えている。

ついでに達哉の青春話を聞けばエミヤは過去の自分をぶん殴りたくなるだろう、なんで彼より恵まれた青春送っているのにこんな様になってしまったんだとだ。

 

「それにね、依存するってのは友情と違うわけよ、私も同じことしてこんな事態だしねぇ」

「なぬ?」

 

ストゼロを飲みつつオルガマリーがネロをいたわる様に自虐する。

その事実にネロは眼を見開いた。

だって彼女はいい友人、理解者に囲まれている。そんな風には見えなかった。

無論、それは今の話しで過去は違うとオルガマリーはネロに説いた。

 

「達哉たちが来る前は。私は一人を除いて信頼していなかった。レフ・ライノールって人物以外はね、聞いたことあるでしょ?」

「それはそうだが」

「当時は本当に追い詰められていて、レフだけを信じていた。結果、あなたと同じように世界を吹っ飛ばした。笑えない冗句よ」

 

そう言った意味ではオルガマリーとネロは似ている。

地位を望んだか否かはおいて置いて、誰も信用できない中に突如降って湧いた理解者。

その理解者に依存し足元の爆弾に気付けず、結果炸裂させる。

本当に皮肉というレベルで似ていた。

 

「そういった意味では達哉の親友もそうよね」

「・・・まぁそうだが」

 

オルガマリーの問いに渋面で達哉は肯定した。

淳も同様の手口で付け込まれ、ジョーカーとなって自分たちに牙をむいたのだから。

 

「私もあなたも間違えた。でもさ生きてるじゃない」

「それは」

「だからやり直せる、今はまだ。やりなおせるのよ、ネロ、見たくない物を見なきゃいけないのは辛いのは分かるわ。けれどそうしなきゃ勝てない」

 

だがいくらミスして吹っ飛ばそうが生きている以上、やり直さなくてはならない、償わなくてはならないのだ。

それが生きている者の責務でもあり罪と罰の清算でもあり、勝利の仕方だ。

 

「オルガマリーの言う通りよぉ・・・私なんか死んでもこの様よォ」

 

ベロンベロンに酔っ払ったエリザベートはそういいつつオルガマリーに同意した。

疑似的に生きているのだからやれと言わんばかりにやらされているのだからたまった物ではないだろう。

もっともそれをいえば達哉もだ。

彼は全部終わったと清算のために孤独に帰ったら、この世界に引きずり込まれて、未だに世界規模の災害解決のために奔走する羽目になっている。

 

「エリザベートは余より上手くできているではないか・・・」

「そりゃぁ、生前間違いまくったからねぇ・・・やっちゃダメな事とかみえてくるわけよぉ~。プロデューサーもそうでしょう?」

「エリザちゃんの言う通りよ~、私とエリザちゃんは間違えた回答案から、正解が見いだせているだけよォ~」

 

そしていまだなお拗ねるネロの自虐に、酔っぱらったエリザベートがそう返しつつほろ酔い気分の元王妃がそう返す。

二人は間違った側の人間で、間違ったがゆえに正解を知っているからこそうまくできているだけの話だ。

さらに言えばできる人材がいるからうまく回せているというのも大きいのだ。

 

「間違った側の人間として言わせてもらうけれど、ネロは我が強すぎなのよォ~。独りよがりの政策だらけじゃそりゃそっぽ向かれるわ。だから周りの人間の声を聴いて。何度も修正掛けて行かないとネー、それが面倒くさいんだけどね!!」

「さらに時には自分を貫いて引っ張んなきゃいけない時もあるからねー、ほんと政治家とかアコギよ」

 

周囲の言葉を聞きすぎれば今度は民衆の傀儡。弱腰暗君なんて呼ばれる。

必要な時にはリーダーシップを発揮し自分の政策を押し通さねばならない時もある。

どれが正解で不正解なのかが分からないのが政治の世界だ。

その上、権力は魔物同然でそこははっきりいって無駄である、権力抗争なんてものもおきるのだ。

しかも時世や運まで絡んでくる。

有史以来賢君で通し切った者はゆえにこそ少ないのだ。

 

「まぁ今は休暇だと思ってリラックスしたほうがいいわ」

「しかし、一刻も早くローマを」

「急いでは事を仕損じるし、今は置いておきなさい、また後ろから刺されたいの?」

「それはそうだが・・・」

 

一刻も早くローマへと戻りたい気持ちは皆が分かる。

だが今はその時ではないとオルガマリーが言う。

このまま戻ったところで心理的に後ろからぐっさりだ。

 

「所長の言う通りだ、嫌なことは置いておいてリラックスしてから、目を向けてゆっくり処理してからじゃないと俺みたいに刺されるぞ」

「達哉見事に刺されてたものね」

「先輩見事に刺されていましたからね」

「二人とも、あの時俺もテンパって向こう見ずだったからな・・・」

 

達哉がオルガマリーの言葉を引き継いで実感のある言葉を紡ぎ。

酔っぱらったオルガマリーと、炭酸飲料と間違えて酒を飲んでしまい酔っぱらったマシュに茶化されるように言われる。

要するに詩織の件だ。

向こう見ずに走った結果、ニャルラトホテプに付け込まれあの様だからだ。

因みに達哉もある程度酔っぱらってるのか、マシュが酒を飲んでいることには気づいていなかった。

 

「兎に角、今日は宴会なのだからネロも飲むべきだ。タイムリミットはまだあるからな、休める時に休んでおかなきゃな、ほらネロも未来の酒には興味あるだろ?」

「達哉・・・」

 

そういいつつ達哉はグィっとビールを飲み干し次の缶を開けてネロに手渡す。

ネロは渡されたビールを何を思ったか一気に飲み干す。

おお~と声が上がる。

 

「今日は嫌なことは置いて置いて、ただのネロとして余は飲むぞ!! 達哉、次はチューハイとやらを持てい!!」

「はいはい」

 

とりあえず今日は嫌な事を横に置きつつ吐き出しながら飲むぞと宣言し。

達哉にチューハイを頼む。

達哉がクーラーボックスを探ろうとすると既にエミヤが葡萄チューハイを取り出しており、

それを達哉の代わりにネロに手渡した。

そして皆で鍋を突きつつ、愚痴やら失敗談に笑える話を送っていく。

特にエミヤがぽろっと漏らした、自身の女事情は皆から袋叩きにされたり。

孔明が生徒の愚痴を言って、天才への教育って大変だよねと宗矩がうなずく。

ついつい生前の度数感覚でストゼロを飲んでいたシグルドとブリュンヒルデが再度暴走。

全員総出で再度止める羽目になったり。

長可VSカエサルのウォッカ飲み合い対決などが在ったりして夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ペルソナに目覚めた魔術師は魔術刻印の冠位指定が外れるよ!!
呪いから解き放たれるよ!! やったね!!
その代わりニャルフィレに目を付けられて試練に放り込まれるけどね!!
刻印の呪いのままに魔術探求するのとニャルフィレのロクデモナイ試練、果たしてどっちがマシなんだろうか・・・

まぁそんなことは置いて置いて何故かメンタルケア組織と化したカルデアの巻き。
あとゼット、マシュをつつき回す。
まぁ本当に何故戦うのかを決めないと第一特異点の焼き増しになるからね、副王のお節介と言う奴です。

青春度で言うとたっちゃんよりエミヤの方が恵まれている不具合。それを自分手で台無しにしたからエミヤ的にはたっちゃんにどう接していいか分からないという具合(ニャル愉悦)

エリちゃん、カーミラと統合し過去の己の所業を受け入れ有能化。
結果、カサエルと孔明のサポートがあるとはいえ過労死レベルで働いている。
過去のミスがあるからこそそこまで有能化しているわけだけれどね。

そして岩戸作戦。
これしかねぇんだもんよ。ネロの家族って家庭版案件だし。セネカはニャルに極秘裏に始末されているか、戦乱に巻き込まれて遠い所に逃げたかのどちらかなので説得要員いないからね。
エリちゃんは親友だけれど、それは月の話しや本家FGOの話しで生前のネロはエリちゃん知らないから説得要員に成れない。
だからギャグ回に突っ込むレベルで派手にやって出てきたところを強制確保。
ストゼロなんかを飲ませて酔っぱら沸冴えて内情を吐き出させるという手段しかないわけで。
後は交流次第と言う奴です。



ニャル「よし、いいぞぉカルデア、もっと交流しろ、彼女に同情し賛同し賞讃を示して自分たちの内情もぶつけて絆を作れェwwwwwww」


もっともその上で選ぶのはネロですけどね。
絆を得たうえでそれを見越してニャルは準備中です。

あとレフ出番がないのもアレかなぁと思ってゼットの回想と言う形で出そうとしたけど。
どうあがいても蹂躙戦にしかならんのでボツに。
まぁこっぴどくボコボコにされたと思ってください。悪魔と言う種族の最上位である魔王+ロムルスとかいうタッグに柱ていどが勝てるわけないんだよなぁ。
もっともレフは置き土産に自爆して首都機能を移設させなきゃならん魔力汚染を残していきましたが。
まぁレフの件はボツにしたけど。見たい人がいるなら次の話しでちょこっとするよ。

追記:10月1日をもってアンケートは締め切らせてもらいます
沢山回答ありがとうございました。



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三節 「遅れてやってきた青春」

青春期を何もしないで過ごすよりは、青春期を浪費する方がマシである。

ジョルジュ・クルトリーヌ


時間をさかのぼる。

具体的にはローマ市が樹で覆われる一時間前くらいの事であった。

ローマ連合宮殿でレフは苛立っていた。思ったように事が進まない。

ネロ軍が勢いを取り戻したがゆえに戦線が硬直状態へと移行しているのである。

眼で見てみたがネロの最も信頼する宰相であるソーンは姿形もなく。

補足不可能でネロとソーンを狙った暗殺者は返り討ち。数少ない生き恥晒して帰ってきた奴は例外なく精神を病み自殺した。

おかしい、なにかがおかしいと苛立ちながら廊下をあるいていると気づく。

不自然なほどに誰もいないことにだ。

馬鹿なとレフは人除けの結界かと、自分の探査能力を超えられる者がいたことに驚愕しつつ。

探査術式を張り巡らした。結界などは張られておらず単純に誰もいない異質さが場を覆っている。

だがそれは結界などの効果ではない。

 

―とてつもなく恐ろしい気配がする―

 

レフの脳裏にそんな言葉が浮かんだ。

生物は本能的に霊的にもとどまってはいけない場所という物を察知する能力がある。

言うなれば人が本物の霊地に踏み入ってしまった境界線を越えた感覚。

故に今この場所は無意識に人が避ける危険地帯へと変貌していることに他ならないのだ。

存在するだけで近づくだけで拙いと思わせるナニカがいるのだと。

だがその恐怖される側にカテゴライズされる自分が恐れるなどあってはならぬと憤りを感じた時である。

 

「鈍いね」

 

声、鈴の様な声に蠅音が混じるような声が響き渡る。

レフがハッと前を見れば、

そこにはゼットがいた。

レフは思考する、ロムルスの連れて来た悪魔召喚師の一族のただ唯一の生き残りで放浪者であるとのことだった。

つまりただの人間というカテゴリライズなのだが。

今ゼットは明らかに人間ではないナニカであった。

だが視覚や探査魔術だけは人間と伝えてくる。

雰囲気だけが異様だったのだ。

 

「誰だ貴様・・・」

「ゼット・ゼブ、君たちのオリジナルの一つさ」

 

オリジナルと言うものの

何処をどう見ようが人間でしかない、基本設計、魔術回路の数と質。この時代の魔術師としては優れている物の。

あくまで人間の範疇でしかない存在が自分たちのオリジナルを名乗るなどおこがましいにもほどがある物だ。

レフが腕を振るう。

それはゼットを殺せる魔力弾頭であった。

彼は避けるも何もせず甘んじて受けて頭部付近で爆発する。

これで頭部のなくなった死体が一つ出来上がると思っていたのに。

ゼットは健全だった。傷一つすら負っていなかった。

 

「なんだい? この程度? 本物のフラウロスがお前を見たらもう彼の腹の底だ」

「ッ・・・貴様なんな・・・!?」

 

ゼットの挑発に二発目の魔力を射出しようとするものの。

レフが気づけばゼットはレフの横を通り過ぎていた。

そしてゼットの右手には金色の聖杯が握られている。

いつの間にと振り返りつつ腕を振り抜こうとするが、レフの右手は宙をまってボトリと床に落ちる。

 

「これはもらっておこう、もう君はこの舞台に必要がない。参加できたと仮定しても、君はオルガマリーに殺されるか、同行を許されたところであの牢獄に閉じ込められて何もできないからね」

 

聖杯を弄び

いよいよ異質な空気が濃くなっていく。

昼間だというのに影が濃くなり虫・・・あるいは蠅の羽音が酷くなってくる。

拙いと思い、伸びた影が足に触れて。

右足が内側から食い破られた。

 

 

「がぁぁあああああ!?」

「仮にも魔神を名乗るならこの程度で叫ばないでよ、情けない」

 

ゼットはそういって嘲笑した、たかが腕の一本や二本程度、ちぎれただけで泣き叫ぶのは魔に有らずだ。

拙いと判断しレフは右足を切り離し無様に叫びつつ倒れ込んだ。現在進行形で右足の内からナニカが上ってくる。

切り離された右足は蛆と蠅に食い荒らされ、さらには即座に真っ黒に腐食していく。

影が伸びてくる。

取り囲まれていた。

影に触れただけでこうなるのだから言わずもがなと言う奴であり。

もう目の前の存在を認識のままに人間と思うようなことは流石にしなかった。

身命を賭して屠る必要のある魔性であると認識し、

レフは魔神柱としての本性を現した。

瞬間、レフの肉体が膨張し、肉塊の様な柱が凄まじい魔力を放ち影やら建物やらを突き抜けて顕現する。

それでもゼットは左手を懐に突っ込み、右手で聖杯を弄びながら、それを見届ける。

 

「へぇ、これが君たちの本当の姿なんだ。悪魔というよりはスパコンの筐体に見えるね、まぁ悪魔と言うよりシステムとして僕らを模倣して生み出された君たちには相応しい姿かもしれないけど。」

『黙れ、黙れ、黙れ、不明なバグめ、我が焼却式で魂まで消えると良い』

 

もっとも言われたくない例えにレフは激昂した。

だが吹っ飛ばされた影が胎動しレフに再び伸びていく。

このままでは拙いと判断し。

且つ、ゼットが力を使ったせいか、彼自身の隠蔽が解けかけており。

レフはゼットの中身を少し見た。

薄く辛うじて見える程度だが、昆虫のような光の翼を生やした巨大な蠅の様な影が蜃気楼のように揺蕩っている。

拙い、あれは拙い。存在してならぬ者だとレフは認識し。

全てを消し飛ばす意味を込めて全力を放った。

 

 

―焼却式フラウロス―

 

普通のサーヴァントであれば霊基を一瞬で焼き尽くし蹂躙する絶対の炎、範囲も広く、温度的にも物理的消去能力も優れている。

そんな人間なら余波だけで死ねる様な狂う炎をゼットは可愛げな赤子のじゃれつきを見るかのような瞳で見て。

 

両手の指を鳴らした。

 

それだけで焼却式フラウロスがその場で魔神柱を巻き込みながら爆発。

自らの攻撃で瀕死になるとかいうフザケタ様相を呈する。

無論、ゼットは無傷だ。

ただただ嘲笑うかのようにレフを見ている。

レフからすれば今起こった攻防自体があり得なかった。焼却式に一瞬のうちに介入し乗っ取りを掛けて、

指向性を操作し炸裂させたのである。

最早人間業ではなく、神にも等しい所業ではあるが。

相も変わらず、ゼットはレフの眼には人間としてしか映らない。

 

「君たちは個にして群だけど、並列化の影響か厳密には意識を統合した個体だ。そんな君たちがいくら議論を重ねても、鏡に向かって言葉を投げているのと変わらない、そんなんで自分は間違えていないとなぜ検証できるんだい?」

 

ゼットが彼の本体に向けての皮肉と批判を送っている間にも。

それでもレフ、フラウロスはその巨躯をしならせ立ち上がり、

その無数の眼光から攻撃を射出するものの。

 

「弱い、弱すぎるよ、お前達、それで世界を変えられると思っているのか?」

 

ゼットには傷一つすら付けられなかった。

傷つけられるはずもない、彼は本物の悪魔なのだから。

 

「無理だね、力も無ければ事の本質を理解する頭も無い。だから君たちは”獣”なんていう影の駒になり下がっているのさ。現に――――――」

 

そして第一、ゼットは最初からレフにそこまで構う気はなかった。

何故なら、殺すなら最初の段階で飲み込んで消すか。自身の権能で消し飛ばしている。

そうしなかったのは自分の上司からの命令があるから。

本来ならレフには手を出す予定はなかったが、

緊急事態という事もあってロムルスにそれを説明したうえで今回限りの契約を結んだ。

自分の業務に抵触しないギリギリの干渉である。

つまり、これが彼の現状における最大の譲渡の結果であり。

 

「頭上注意だ」

 

その契約内容はレフの本性を引きずり出して、完全にゼット自身に意識を釘付けにして隙を晒させることである。

現にレフの頭上、扇の如き槍を構えるはロムルスである。

既に宝具を解放していた。

レフは気づくがもう遅い。迎撃手段は間に合わず、この身体では回避能力はないのだから。

 

「すべては我が槍に通ずる!!」

「キッ」

 

レフの頭上を押さえていたロムルスによる全力の宝具行使。

一時的な仮契約とはいえゼットから送られる魔術師では考えられぬ魔力量に、その宝具は規格外の規模を持って炸裂。

それは一瞬にして大樹となり、巨大な質量を持って、魔神柱フラウロスを文字通り圧殺せしめた。

最後にナニカをレフは言おうとしていたが、その断末魔は成立しなかった。

ハッキリ言えばゼットはレフの始末に大仰に乗り出せないでいた。

本性を表せば契約違反となるからだ。自らが仰ぐ明星と、明星と取引した影とのだ。

故にロムルスを説得し仮契約までしてレフの抹殺を遠回りにこうやって行う事になったのだ。

 

「助かった、慈雨と雷の神よ」

「それ・・・嫌味で言っている?」

「否、純粋に賞讃である」

 

悪魔の成り立ちからしての前の異名を呼ばれたことに思ってもいないのに嫌味かとゼットが問いただし。

されどロムルスが返したのは賞讃と礼だった。

 

「だが、アレを知っていたのなら話は別である」

 

ロムルスの瞳に初めて殺意が宿る。

ローマ市の空がガラスが砕けるように崩落し闇の帳を降ろし始めていた。

ゼットは聖杯をロムルスに投げ渡しこともなげに言う。

 

「知るわけないでしょ。僕が受けた命は緊急事態に際してなるべく手を出さず、ロムルスのやる気を出させるようにしろって事だけだ」

「そうか」

「随分簡単に信じるんだね?」

「貴殿の眼は嘘を言っていない、それに悪魔とは契約に真摯であるのだろう?」

 

そこでようやく、仕事がひと段落したことにため息を吐くゼット。

彼の仕事は先ほども言った通り緊急事態が起こった場合にロムルスのやる気を出させるのは無論だが。

あの浸食固有結界ともいっても過言ではない噂を媒介とした獣性の発露を食い止めるための聖杯奪還を行いロムルスに預けることまでが第一段階であり。

第二段階はアマラ回廊から介入せんとする者たちと第六から介入を強める天使へのけん制がまだ残っている。

 

「さて」

「ぐ」

「君本当にしつこいね」

 

下半身が消失し猶も逃げようとするレフをゼットは見逃さなかった。

潰される瞬間に魔神柱としての形態を解除しギリギリの所で生き延びたのである。

もっとも霊基の大半が圧殺され、虫の息と言った様子であるが。

それを見下ろしつつゼットが行かせまいとレフの前に立ちふさがる。

 

「最後に君たちの本体に伝えておいてくれよ、人間の本質を知りたいのなら人間を見ているだけではいけないよ、人間が何を見ているのかに注目しないと、今回のように容易く足元を掬われるとね」

「知るか・・・貴様は此処で死ぬのだ」

「あのね―――――」

 

そう言った瞬間、レフの霊基が爆発した。

大爆発したのである。

プライドの高い連中だからしないと思い込んでいたのがいけなかった。

一瞬ではあるが、光が広がり、爆破を包み込む。

だがそれの発動が遅かったというのもあって。見事に宮殿が吹っ飛び。

その周辺は呪詛を含んだ魔力に汚染された。

だというのに二人は無傷だった。

ロムルスの霊基強度では消し炭になるレベルだが咄嗟にゼットが庇ったから無事だった。

無論、冠位を持ち出していればロムルスもこの程度の爆発は余裕で耐えられていたが。

 

「ちぃっ、油断しすぎた。僕もなまってるのかなぁ・・・。それよりも時間がないよ、君が行かないと疑似創世が始まってしまう」

「心得ているが・・・」

「この状況は僕と孔明の方でどうにかしておく。早く行きなよ、じゃないと本当に何もかも台無しになるよ」

「・・・すまぬ」

 

そのやり取りの後ロムルスは飛翔しローマへと向かった。

その後十分もしないうちにローマは大樹の天蓋によって封鎖されることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在。

達哉は困っていた。非常に困っていた。ものすごく困っていた。

 

「ぬぐぉぉぉぉぉ・・・」

 

低い声で呻きつつ脱出を試みる。

何から? 決まっている、自分に関節技やら組み付きを掛けているマシュ、オルガマリー、ネロの三人からだ。

昨日の宴会は最後まで何とか達哉は記憶を保っていた。

マシュは間違ってコークハイを飲んでしまい、気づいたときにはもう何本も開けており。

オルガマリーとネロは完全に出来上がっており、飲んでいる者もストゼロに完全シフト、泥酔状態である。

エリザベートと孔明は愚痴の言い合いで盛り上がっていたし。

クーフーリンとダレイオスは腕相撲を始めていた。

書文と宗矩にアレキサンダーは長可とカエサルの飲み対決にもりあがっていた。

そんな連中に厄介絡みされては生来酒が強いのもあるのだろうが、そんな状態では酒を飲もうがそりゃ酔いきれないわけで。

兎にも角にもお開きとなったのだが。

ネロが一人で寝たくないと駄々こね出したので自分たちの部屋に招待となった。

達哉は頑張って三人を担ぎ部屋に戻った。

部屋にはトリプルベッドがあったが男である自分は床で寝ると言っていたので、

実際に使うのはマシュとオルガマリーのみとなった。

誰が好き好んでラブコメに行くのかと言う話である。

だが、今回はそれが功を奏した。トリプルベットは三人が寝て丁度いいサイズだからだ。

ひぃこらと言って担いできた三人を寝かせるにはちょうどいいサイズである、

マシュ、オルガマリー、ネロの順に羽毛を扱うように三人を寝かせた達哉は、現地調達した水をアポロで熱消毒してビャッコでキンキンに冷やし、飲んで酔いを落ち着けてから寝ようと思い、ベットを背にした瞬間である。

後ろから手が伸びてきてベットに引き摺りこまれ、仰向けに倒れ何かの感触、おそらく三人の内の誰かの額か顔面に後頭部を打ち付けてしまい

達哉も酔っていたということもあって気絶。

現状に至るわけである。

美女三人に組み付かれる、大の男なら夢であろう。なんせ合法的に女性との接触が可能だからだ。

現に胸、太腿 腕が接触してきているのである。

だが件の三人は何かしら強化補正が入っているのだ。

オルガマリーはペルソナ補正

マシュはデミサーヴァント補正

ネロは自らのシャドウの影響か身体能力が英雄クラスにまで底上げされている、

さらにオルガマリーとマシュはアマネや宗矩、書文にCQC 組み技、寝技を直々に仕込まれているのだ。

もし現状の三人に組み伏せられたのが達哉以外の男性であれば全身複雑骨折の変死体か締め上げられての窒息死体の出来上がりというわけであり。

現に達哉が目を覚ましたのもその苦しさと痛さからである。

抜け出そうにも、流石に四方八方から固められては達哉も脱出のしようがない。

だから、もう殴られてもいいから誰か起きてくれと固められた首と喉を必死に動かしモゴモゴと低い唸り声を上げていた。

幸いに首の周辺は緩めな拘束だから良いが、他は違うなんか骨が軋み上げてる。関節が地味に痛い。

均衡が動けば壊す方向へと流れていく。

だから必死になって唸っているのだ。

 

「マスター、皆が呼んで・・・・」

 

そこにシグルドとブリュンヒルデがやってくる。

余りにも起きてくるのが遅いので迎えに来たらしい、ちなみにこの眼鏡夫妻、酔った勢いのままにあの後も楽しんだのか。

シグルドの方がなんか血まみれだった。

ブリュンヒルデは恥ずかしそうにしつつシグルドの後ろから部屋をのぞき見している。

助けが来たと達哉は内心小躍りした。

唸って必死に右手を伸ばし助けを求める。

二人はそんな達哉の様相を見て、シグルドとブリュンヒルデは顔を見合わせ。

何度か頷き合った後。

 

「マスターたちもお楽しみの様子だったようだ。行こうか我が愛よ」

「そうですね、シグルド、邪魔してはいけませんし」

「ふごぉぉぉぉ(違う!!)」

 

お楽しみ(意味深げ)と盛大に二人は勘違いした。

長可がいれば『いやいやテメェラみたいな特殊性癖夫婦じゃあるまいし』と突っ込みを入れていただろう。

なお長可は完全に昨日の飲み合いでぶっ倒れていた。

つまり彼は此処に来ない。

完全なる詰みであった。

 

 

 

 

 

「で遅れたわけね」

「すまん」

 

そこからさらに一時間ほどでようやく達哉たちは玉座の間に来たのだ。

アルコール度数の高い酒を入れた何名かは頭を痛そうにしている。

全員二日酔いと言う奴であった。

だが達哉の顔にはひっかき傷やらビンタの後があった。

あの後目を覚ました三人から解放されたは良いが、反射的に行動に走ったオルガマリーとマシュには案の定こんな目にあわされたが。

無論、すぐに達哉がこんなことをするはずがないと気づいたオルガマリーとマシュは引っ搔いたことビンタしたことを謝ったが。

ネロだけは達哉に何するわけでもなくキョトンとして、美男美女が複数交わるのは普通じゃないのと言ってのけた。

性が奔放のローマ人ならではの認識であるが、間違っても彼等はしていないのである。

本当に只達哉は昨晩貧乏くじを引かれてこんなことになっただけなのだ。

 

「シグルドから聞いたぜ? お楽しみだったんだろ? ならもっとゆっくりしていてよかったじゃねぇか」

「いやしてないしやってない。酔っぱらっていた彼女たちに組み伏せられてただけだ」

「・・・達哉、そりゃそうだがそこまでされて食わねぇってのも問題だぜ、男としてヨォ」

 

クーフーリンに達哉は遠回しにお前は不能か不感症かと言われればさしもの達哉も頭を抱えつつ。

 

「いや俺のはちゃんと起つし、ちゃんと女の子とか好きだからな・・・ でも女の子を襲うマネはいただけないだろうが」

「身持ちが硬いことで」

「皆が軽すぎるんだよ」

 

ある意味現代と古代の価値勘違いと言う奴でもあった。

今では身持ちが硬い事が美徳とされているが。

昔は出生率も低く数を撃たなければならなかったし、娯楽も少ない時代だったのだからしょうがないというのもある。

もっとも避妊具や避妊方法の発達もあって現代でも身持ちが硬いのは美徳と言う価値観が崩れつつあるのは達哉はしらなかったりするのだが。

一方の加害者三人組は。マシュは顔を赤らめて両手で頬を負押さえつつ「先輩にあんなことを、あうぅぅぅ」とうねっているし。

オルガマリーは顔を赤らめつつ達哉から顔を背けていた。

ネロはそんなの関係ねぇとばかりにそれよか二日酔いの方が問題だと頭を抱えていた。

まぁ皆そうなのだが。

 

『皆二日酔いが酷いみたいだから。アルコール分解剤送っておくね。アマネの伝手で手に入れた強力な代物だから常用は出来ないよ、次からは気を付けるように』

 

と言う分けで全員、特殊部隊向けの極秘開発され試験運用されていたアルコール分解剤を投入し。

朝食となった。

 

「なぁなぁ、オルガマリー、これは何なのだ?」

「クロックムッシュよ」

 

オルガマリーが持ってきた朝食にネロは眼を輝かせた。

当初はエミヤが作ると言ったのだが、この男、日ごろ鬱憤がよほど溜まっているからか料理で発散して凝った物を作りかねないとして。

オルガマリーが一人で作った。

もっとも手間のかかる物でもないし、持ち込んだ食材で作っているので衛生面も気にしなくていい。

彼女が作ったのはクロックムッシュと言う物だった。

トーストの一種である。

パンにハムとグリュイエールチーズを挟み、油代わりのバターを引いたフライパンでカリカリに表面を仕上げ、表面にベシャメルソースを塗ってパンが冷えないうちに刻みチーズを乗せて完成である。

西洋人のネロであればとっつきやすいであろうとしてオルガマリーがチョイスした。

チーズもたっぷりで、これ一つで昼食まで持つから手間もかからない。

朝食にしてはお重めだがアルコール分解剤の影響で皆が問題なく食べられた。

 

「さて腹ごしらえもしたし健全な話と行きたいのだけれど」

「私としてもそれは同感ね」

 

健全な話とは。

誰がどう行動するかについての事である。

今やマッシリアはエリザベートの政治方針によって拡大傾向にあった。

人手は全盛期に比べれば少ないと言われているが。

それでも一都市としては多いのである。

故に前監督官が放置気味にしていた政治政策を断行する羽目になって現状に至っているというのが現状である。

政治と言うのは近代に連れて清廉されていている一種の体系であり。

エリザベートはローマより先の人間であるし、特異点チェイテでは政治本を頭痛めつつ読み漁ったという事もあって。

この時期には考えられぬ合理性で動いている物の。

その分負担が三倍となっているのだ。

エリザベートとしては是非にも欲しい存在がオルガマリーなのである。

もっとも本人からすれば絶対に御免被ることでもあった。

普段も書類仕事をしているし前の第一特異点でも開戦前は書類仕事に会議での説得交渉までやっていたのである。

第二に来てまでしたくない感が犇々と出ていた。

 

「あのなエリザよ、余も手伝いたいんだが」

「「「「「「駄目に決まってるだろ」」」」」」

 

そこで声を上げたのがネロである。

自分も何か手伝いたいと言いだしたが、全員が却下する。

鬱病の初期段階だ。そんなやつを働かせていい結果が出るとはお思えないし。

何より本人の為にならないのだ。

残された時間は最大で二週間、最小で一週間である。

鬱などの精神的病理が悪化しては堪った物ではない。

直すまでとは言わずとも立ち直るくらいになってもらわねば、それこそ保安部が緊急時に使うコンバットドラッグを使うコースになる。

それは拙いので皆却下するというのは当たり前だった。

 

「余が無能だからか?」

「ちがぁう!! アンタ今ビョーキなの病気!! 精神由来のね!! だから今は余裕のある私たちに任せて。大人しく休んでらっしゃい!!」

 

遠回しに言っても伝わらないとしてエリザベートはぶった切る勢いでネロに言う。

鬱の初期症状が出始めているので、故に出始めの治療がものをいうのだ。

ただでさえ治療に時間が必要な病気なのに一週間から二週間そこいらでどうにかしなきゃならないのだから。

ネロを政治にかかわらせるのはアウトである。

此処が踏ん張りどころだとエリザベートは気合を入れ直してきぱきと指示を飛ばす。

 

「オルガマリー、そっちの人員は借りるわ、悪いけれど結構ヤバめの案件に対応しなきゃならないから」

「ヤバめ?」

「ええカルトよカルト」

 

エリザベートは言った。カルトであると。

この時期のカルトと言えばまぁ某宗教なのだが。

 

「そっちとは別口のカルトよ。ローマがああなった噂のインフルエンサーを担っていたカルト」

 

それとは別口のカルトが出来ているらしい。

故に此処に来た当初から衛兵や密偵が多く街の中で見られたという事だった。

それに関してはカエサルが説明を引き継ぐ。

所謂、ネロを勝手に祭り上げたカルトであり永遠の都を目指している集団であるらしい。

当初は小さく木端のような集団だったが。特異点化とソーンの断頭を気に一気に勢力を増しているとのこと。

現在は予言が成就したということもあって事態が鎮静化・・・するわけもなく。

樹へのアクセス手段を模索しテロリストと化しているとのことだった。

勧誘も悪質である上に。

 

「一部の人間はペルソナを使えるみたいだ。取り押さえるのにも苦労物だよ」

 

一部の人間はペルソナを出せる麻薬までキメてまで抵抗してくる始末。

鎮圧に赴くのはダレイオスの不死隊でなければ鎮圧できぬ事態になっており手を焼いているのが現状だった。

故にカルデアの手を借りたいということである。

それにはオルガマリーも文句はなかった。

 

「と言うことで、達哉、マシュ、オルガマリーはネロとマッシリア観光を楽しむなり。カルデアから送られてきた娯楽品とかで楽しんできなさい」

「だが「悪い頼む」

 

猶も食い下がろうとするネロを遮りつつ達哉はエリザベートの好意に乗っかった。

達哉もマーラ事件とか同室事件とかで、気が休まる時間がなかったからである。

自身も休めて切り札となるネロも休めるのならそれに越したことは無いとしてである。

昨晩の事もあって寝た気もしていないし。

正直休みが欲しかったのだ。

サーヴァントの皆には悪いがそういう事もあって了承したのだ。

無論皆がそれを肯定した。

と言う分けでマスター勢とネロは休暇である。

だがさっそく問題が発生した。休暇と言っても何をすればいいのか分からないのである。

時代背景的にマスター勢の趣味はこの時代にはない。

ネロは演劇でもどうかと言ったが。

このマッシリアには劇場はなかった。と言うか不死隊とアイオーン教団が大乱闘を引き起こし絶賛封鎖中である。

 

『なら、礼装経由で映画やらアニメやら流すから、それで映画とか見た後で外をぶらつくってのはどうよ』

 

盗み聞きしていたのか、カルデアからムニエルの通信が入る

プランが浮かばないのなら映画でも見て。

外でもぶらついたらどうだということになった。

これはネロが食いついたという事もある。未来の演劇もとい映画に興味津々であるし。

アニメーション作品にも興味を示したからだ。

丁度良い息抜きとしてムニエルに作品を選んでもらい。

送られてきた映像投影礼装(本来は潜入任務とかで使うデコイ)を使い見ることとなった

それから数時間後

 

 

「あーそろそろ・・・外行かない?」

 

オルガマリーがそう言う。

 

「今良い所なんですよ!?」

「ブランドンどうして・・・・」

 

それを跳ねのけるのは食い入るように見ていたマシュとネロだった。

最初は復讐物だと思っていたが、裏社会で生きる男たちの友情と裏切りを描いた傑作アニメである。

今丁度過去編に入り、登場人物の過去と心情が明かされていくシーンであった。

マシュは此処で切るのかと声を上げ。

ネロは主人公がヒロインの好意を彼女の幸せのために会えて振り切るシーンに愕然としている。

ネロからすればラブロマンスものだと思っていたら、これなんだとどうしてともいいたくなるだろう。

もっとも達哉は主人公の気持ちは痛いほどわかった。

分かってしまう物なのだ。自分の器を知ってしまえば愛した者が幸せになれるのかと。

言ってしまえばいくら幹部格とはいえ主人公はヒットマンだ。

故にしっぺ返しは帰ってくる、ヒロインの幸せを想うのなら自身が父と慕う組織の長に譲るのは痛いほどわかっていたし。

同時に主人公とその親友の友情の歯車のずれも分かった、分ってしまった。

故にこのままだと、男たちの挽歌だとかゴッドファザーを履行している達哉とオルガマリー以外の二人は胃もたれしてしまうと達哉は判断し。

 

「所長の言う通り外に出よう、目がシパシパしてきたしな」

 

眼が映像ものを長時間みた固有の現象に見舞われているため外に出ようとオルガマリーの意思に同調する。

 

「タツヤのいう通りよ、それに私達集中しすぎて昼飯もろくに食べてないじゃない」

「それも・・・そうですね、ネロさん、此処は一旦外に出て「ブランドンどうして・・・」 拙いです所長、先輩、ネロさんが思いのほか以上にショックがでかすぎて亡失状態に」

「とりあえず引っ張って行こうか・・・」

 

ショックがでかすぎたのか。茫然自失状態のネロを引っ張りつつ。

四人は市場へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達哉にとってはこうも荒事が関わらず友人と街を練り歩くなんてどれだけ久々の事だったか。

それこそ下手すればあの火事が起きるまでの小学生以来と言う奴である。

もっとも男が自分ひとりと言うのは胃にくるものがあったが。

なんでネロ皇帝まで女性なんだと男一人とはきついものがある。

あのセクハラ魔王がカルデアに現れてから女難が一層厳しくなったような気がして。

達哉はマーラを恨んだ。

 

余談ではあるが観測に入っているマーラは達哉の疑似ハーレム状態に血涙を流していたと某宰相が語っているがどうでも良い事であろう。

ニャルラトホテプは笑い転げていたが。

閑話休題。

 

 

「ブランドン~なぜだぁ~」

 

ワインを煽りつつネロがいまだにショックを引き摺りながら嘆く。

やはりあの光景はさぞショックだったのだろう。

 

「そうですよね・・・長年思っていった女性を振るなんて・・・どうして・・・」

 

人の機微にうといマシュも顔を曇らせ気味に同意する。

因みに彼女は持ってきたぶどうジュースを飲んでいる。

そんな最中、達哉だけは外に目をやって、ベルベットルームで購入した麦茶を飲みながら。

外に目をやる。

 

『近隣警邏移駐のみんなへ、不審人物発見、データを送る、捕縛されたし』

『一番近いのは当方か・・・了解捕縛に向かう』

 

先ほどから自分たちをつけ回している奴らがいる。

補足した感じ薬物中毒者だ。

それらが数人連携を取って追跡してきたのだ。

眼の礼装の録画機能で対象を撮影し、捕縛命令を出す。

近場のシグルドが対処することになった。

それにふぅとため息を吐きつつ達哉はエールを胃に流し込む。

この時代、衛生観念から言えば酒が安全であった。蒸留技術の発展具合からアルコールも少ないので致し方なしにと言う奴である。

 

「先輩は・・・ブランドンさんの気持ちが分かりますか?」

 

アニメの話題でワチャワチャしていた三人が突然と達哉に話を振う。

 

「まぁ分かるかな・・・結局のところ分かってしまうんだよ、自分がやってることを自覚していると」

「そう言う物なのでしょうか?」

「そうだ。マシュ。幹部候補とはいえ殺し屋だ。人の命を食い物にしている以上、復讐やら報復ってのは付きまとうんだ。現役とくれば猶更だろう、ブランドンは彼女の幸せも考えてビッグダディにマリアを託したんだ。愛する人の幸せのために。それに」

「それに、なんだというのだ達哉?」

「彼は友人と上がる事も考えていたからな、両方切り捨てられない以上そうするしかない」

 

そう言った意味では彼のとった行動は自分の幸せこそ二の次だったが。

最善策であると達哉は思う。

と言ってもあそこからあの現代につながる事や。

主人公とその親友の独白がズレ始めているのが達哉的には気になった。

あそこから相当拗れるのだろうと思う。

 

「しかし、未来の世界とはすごい物よな。絵をああいう風に動かす技術や役者を派手に動かす技術は凄まじい物が在る」

 

そこから話がそれて、ネロは現代の映像技術に感銘を受けていた。

人間ではできない動きを可能とする各種技術にえらく感銘を受けているのだ。

 

「CGもいいけれど、日本の特撮もすごいわよ。ゴジラVSビオランテの操演も圧巻だった」

 

オルガマリーが意外な事を言いだした。

彼女ゴジラを見たことがあるというのは実に意外だった。

 

「ほう、そんなにすごいのか?」

「ネット映像のクリップがあるからそれを見せるわね」

 

礼装経由でオルガマリーは自室のPCに接続、映像クリップを展開し見せる。

植物の怪物であるビオランテがゴジラに突撃するシーンだった。

 

「これ全部人力なのよ」

「すごいです」

「本当なのか?」

 

マシュとネロはこの動きがノンCGと言うことに驚きを隠せないでいた。

機械工学などに詳しい達哉も関心してみている。

 

「うーむ、余のプロデュースする劇でも出来ぬものか・・・」

「無理よ、歌劇のステージ程度の広さじゃぁね・・・それにワイヤー技術も無いでしょ」

 

やりたくてもそも、使うワイヤーの精製技術が無ければお話にならないわけで。

加えて出来たとしても操演とは多人数の連携プレーがものをいう。人材を集めただけでは駄目である。

まぁどうあがいたところで、この時代ではできないわけで。

 

「でも操演も、CG技術にとってかわられちゃったのよねぇ」

「まぁそれは仕方が無いだろう、CGの方が金掛からないし」

 

しかし如何に卓越した匠の技とは言え、それに代替且つコストも少なくより細かい動きを出来るCG技術にとってかわられるのは仕方の無い事であろう。

 

「まぁそれは置いて置いてだ、余は、これを見たいぞ」

「・・・やめておいた方がいいと思うわよ」

 

ネロがゴジラVSビオランテを見たいと言いだすが当のオルガマリーが止める。

それには理由がった。

 

「シリーズものだから平成シリーズ見ないと理解できないし、ビオランテはオチがねぇ」

「まぁ俺も見に行ったからわかるが・・・あのオチは流石に・・・」

 

最後のオチでミスったのがビオランテである。

当時平成ゴジラ全盛期の頃だった達哉は映画館に足を運び、オルガマリーはDVDを購入し愕然としたものである。

当初ギャグかと思ったほどだ。

シリアスぶち壊しにされて余韻も糞もねぇのである。

 

「なんとシリーズものなのか?」

「ええ、ここ最近はやって無いけれどね。たぶんお金とかの問題で」

「あの、所長、一応ハリウッドがやってましたよね・・・ゴジラ」

「あんな鮪食ってる奴はゴジラじゃないわよ!、ジュラシックパーク見た方が有益だわ!!」

 

マシュの指摘にオルガマリーはキレ気味である。

どれだけ酷かったんだと達哉は思った。

1999年以降のゴジラがどうなったのか、彼は知らなかったからである。

鮪食うゴジラって何だと、逆に興味の沸く達哉であった。

ゴジラとガングレイヴという共通の話題で四人は盛り上がりつつ。遅めの昼食を取って。

宮殿へと戻り、再びガングレイヴの視聴に戻る。

今度はサトミタダシで購入したビールとチューハイ、あとネロのリクエストで再びオルガマリーが作ったクロックムッシュを食べながら。

四人はワイワイやりつつ、時間が過ぎて行った。

 

 

 

 




ロストジャッジメントやっていて遅れました。本当に申し訳ない
あとちょっとメガテン色強すぎた反省してます。
後半戦はパレス攻略なのでペルソナやるから許してください


ゼット超絶舐めプ、レフ右足を腐食捕食したのは自分の領地を展開する固有結界をごく小規模展開。
攻撃のハッキングは赤犬理論でレフは魔術式でゼットは魔王として格が上であるため容易に可能。
レフの攻撃が効かなかったのは単純にゼットはゼット本体が超気合い入れて作った遠隔操作端末の様なもので、ゼット本体とほぼ同性能の分霊という霊基密度を持っているためです。
倒したかったらライドウやメガテン主人公とかデビルチルドレンとか双子の悪魔狩人片割れかその兄貴の息子などの内の誰かを呼んできてください


そしてペルソナ名物カルト教団です。
薬物キメてペルソナしてくる厄介な連中です、なお幹部たちはネロパレスに居るので事実上無力化されているけれど。
樹の開封の為に下っ端連中が暴れているのが現状です。
サーヴァントやペルソナ使いであれば鎮圧は楽ですが、相手は薬中なので一般兵士の手には余ります。
キメてる薬は、桐条が作ったペルソナ抑制剤の応用で逆に強引にペルソナを引き出す代物。
用意したのは教団を裏で操っていたソーンことニャルが用意しました。

因みに四人が見てたのはガングレイヴアニメ版ですね。
あれ見たら誰だって泣くよ、名作だよ本当に。
ムニエルがたっちゃんの好みに合わせました。所長もゴットファザーとか履行していたんでムニエルが気を利かせました。



次は今回より遅くなりますのでご了承ください。







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四節 「剣の苦悩 輝かしき青春 妄執蹂躙」

人間破滅に向かう時はいつのまに転落する。
そうなると落ちるところまで落ちきるまで復活の目は出てこない。
地獄の入り口から戻ってやる。

押尾学


第二特異点に突入してから数日が経過していた。

ネロの病状も一時的ではあるが回復傾向にある。これは意外なことにネロとオルガマリーが予想以上に相性のいい感じだったからだ。

二人はマシュや達哉も巻き込みつつ親友と言っていい間柄になっていった。

実にいい傾向である。

これならば突入時期も近々決定すると言うものだ。

だがそんな明るいニュースの傍らで夜の宮殿の屋上でエミヤは珍しく飲んだくれていた。

カルトの鎮圧はエミヤ的にも来るものがある。

ISと呼ばれるテロ組織の鎮圧と似たようなものがあるからだ。

生前を思い出して、嫌気が差すのはさもありなんという奴で。飲まねばやっていられないという奴である。

 

「珍しいな、テメェが飲んだくれているなんてヨォ」

「ランサー」

 

そこにランサーがやってくる。

右手には酒類の入ったレジ袋をもっていた。

達哉から渡された代物だとのことだった。

それはさておき、クーフーリンからすればエミヤがやけ酒を煽るなんてのは初めての光景だ。

基本、この格好つけたがりは酒をこうも人目の付きそうなところで鱈腹飲むなんて真似はしないはずだと思っていたがゆえにだ。

 

「私とて、酒の手を借りたいときはあるさ・・・」

「なんか嫌な事でも・・・まぁあったけどよォ」

 

アイオーン教団の拠点に今日の昼にカチこんだのである。

そこはまさしく酷い有様だった。達哉ならまだ大丈夫かもしれないが、オルガマリーやマシュにはとてもじゃないが見せられない光景が広がっていた。

阿片窟に売春窟をプラスしてさらにはサバトまでたしたカオスな光景である。

間違いなく並の人間なら吐くだろう。

桃源郷と言う名の地獄が広がっていた。

その様相を聞いた、エリザベートは顔を顰めるだけで済ませていた。

これは強靭な精神力ではなく生前にシラフでやってしまった彼女だからそれだけですんだ話で。

人間堕落と退廃を極めればそこまで残酷になれるのだ。

閑話休題。

エミヤもそういう類は生前散々見てきたのだ。今更である。

明日の鎮圧作戦には達哉も参加するという話だが、そこはある程度の信頼があって問題視はしていない。

寧ろ、オルガマリーとマシュは意図的に外された。

多分耐えられないからだ。

という訳で二人はネロと近しいので彼女のケアを続行しつつ第一特異点における精神的外傷を癒すことも目的であった。

一石二鳥という奴である。

また話がそれたので戻すとして。

エミヤの苦悩としては。

 

「マスターたちにどう接していいか分からないのだよ」

「・・・下らねぇ」

 

エミヤはどう達哉やオルガマリーに接していいか分からなかった。

マシュはまだいいが達哉とオルガマリーとどう接していいか分からないのだ。

エミヤはどちらかと言われれば恵まれている側の人間である、それを振り切って正義の味方を目指し破滅した人間だ。

 

「私には皆がいた・・・、じいさん、藤ねぇ、桜、イリヤ、凛、慎二、一成・・・ 今思い返せば全部あったはずなのにな・・・」

 

そう全部あった。恵まれていた。

だがしかし夢の為に振り返らず、全て切って捨てて道を独走した。

しかも間違った方向にだ。

人を救いたいのなら別の道が正しかった。断じて剣を取って振う事ではない。

古代においては英雄的行為かも知れないが。現代に置いて人を救いたくば医者やらNPOにでも入ればいいだけの話。

剣を振い権力者をその後のビジョンなしに殺し廻るのはただのテロ行為でしかないのだ。

それこそ世界を変えたくば政治家になれという話である。

故にそこを散々付け込まれ理解した。

 

「私は彼等が望む物を切り捨てて間違えた側の人間だ。どういえばいいのだ・・・」

 

幼少期は恵まれずさらにすべてを失い孤独になった達哉。

同じく幼少期に恵まれず、人を最近まで信じることのできなかったオルガマリー。

温室育ち故に何も知らないマシュに対して。

何をどう言って良いか分からない。

幾ら答えを出そうが過去からは逃げられないのだ。やったこと言ったことは追いすがって我が身を見ろと呪詛のように纏わりついてくる。

彼は救いこそしたが導こうとしなかった故のツケと言う奴である。

無論、鼻先でクーフーリンはそんな悩みはくだらないと一刀両断であった。

 

「結局怖いだけだろうが、あの二人になんか言ってブーメラン帰って来てくんのが怖いんだろ?」

「君は少し言葉をオブラートに包むという概念を知らんのかね?」

「テメェのような奴に包むオブラートを俺は持ち合わせちゃいねぇよ、第一にな、此処にいる全員、達哉やオルガマリーに胸張って生きられるような生き方してきたかよ」

「それは・・・」

「してねぇよ、誰もかれも後悔塗れだ。俺だって息子の事や師匠の事もある、長可でさえ影があるんだ。王妃さまにエリザベート何かどうよ?」

「・・・」

「だから俺たちはあいつらに二の轍踏んでほしくないって思うわけだ。マリーなんかは特にそうだ。あいつら三人とも戦いにはむいていねぇ」

 

そうエミヤをクーフーリンが諭しつつ、達哉に頼んで購入してきてもらった酒類のはいったレジ袋からストゼロを取り出し、一缶一気に飲み干す。

前から言われている事だった。

三人とも致命的なまでに戦闘できる才能はないと。

無論、それは技術を覚える才能が無いという事ではない。むしろ達哉以外は有り余っている。

だがメンタル的素養が致命的に向いていないのだ。

殺し合いとは絶対的に一方を切り捨てる行いである。

多数と1ならまだ割り切れるし言い訳も効くが、1と1、どっちが大事なのかと言う逃げ場のない言い訳も効かない修羅場なのだ。

第一特異点は敵戦力が人間ではないということもあってまだ表面化していないが。

今回は違う。あのローマ市に突入した時点で殺人をマシュとオルガマリーは経験しなければならないのだ。

かと言って前に出さなきゃ、なにされるか分かったもんじゃない。

出しても第一特異点はニャルラトホテプに良い様にされたのだから。

 

「だからオメェも腹を括れ。自分が傷つくことを恐れちゃ、あいつらは救えねぇよ」

 

だからこそ腹を括れとクーフーリンが言う。

彼等を救いたいのなら自分の傷をさらけ出し傷つくことを恐れないことが必要であると。

傷ついた彼らの傷を直視しなければ癒せるものも癒せない。

それを見て自分の過去が抉られ様とも彼らを救いたいなら自分が傷つくことを恐れてはいけないのだ。

 

「君が」

「あん?」

「君が騎士団に慕われた理由が今分かったような気がする」

「今更かよ」

 

クーフーリンとて王であり騎士団の長である。

コミュニケーションのイロハは理解していた。

彼は救い導いたのだから。

 

「まぁ今日は飲もうぜ・・・明日は俺も反吐が出そうな場所にカチコミなんだ」

「それもそうか」

 

明日は、アイオーン教団のマッシリア支部があるとされている場所に乗り込むのである。

薬物でトリップしている連中を相手取るのだからだ。

総指揮はカルデアのアマネが執る。

達哉やオルガマリーにマシュ、ネロに余計な責任を背負わせないため。

此処は大人である自分たちが片づけるほかなかった。

第一に闘争と言う者は元来そういうものなのだ。ただ己のエゴ、大衆の意志の代弁の為に他者を排斥する悍ましい行為でしかない。

故に明日行われるのは殲滅戦だ。誇りも糞も無い自分たちを守る為だけに相手を踏みつぶすという事である。

気が重くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食と言う物は時代によって大いなる差異があるという物である。

当然と言えば当然なのだ。

酒の味だって違う。発酵技術、蒸留技術の発展が味をいい物にしてきたのだ。

そこらへんのうんちくは置いておいて。

カサエルに仕事押し付けて、久々の休暇と洒落込んだエリザベートも。

そう超絶メシマズの彼女も絶句するするほどの物が今目の前にある。

 

そうカミキリムシの幼虫、つまり鉄砲虫である。

 

達哉は日本人らしく食えるのかという疑問だけを持ち。

マシュとエリザベートは無論悲鳴を上げた。

オルガマリーは私物のワインを送る様に指示を出していた。

 

「意外なほどに動じないな所長」

「南米の取引先でミルワームの素揚げとか食べたことあるからね、以前から興味はあったのよ」

 

ストレス解消に取引先の各国で護衛を付けての食べ歩きとかしていたため地味に昆虫食に抵抗は無かったりする。

達哉もまぁ噂結界でゲテモノ料理を出されたのに比べればましと思えば頑張って思えば行ける

達哉が幼少期は蝗の佃煮とか現役だったというのもあるからだし、日本人は蜂の幼虫なんかも行けるゆえにだ。

ネロはローマ皇帝である、この時代の鉄砲虫料理は皇族しか食えぬ贅沢品でもあるから抵抗は一切ない。

と言うか用意したのがネロ本人なのだから抵抗も糞も無いわけで。

ギャーギャー言っているのはゲテモノ食いしたことのない二人である。

 

「・・・オーク(樫の木の事)で育てた余のおすすめの逸品なのだが・・・だめか・・・」

 

ネロ涙目である。

そりゃ自分が出来る範囲で用意した最高級品が否定されればこうもなろう。

ネロの鬱気も酷くなるので、マシュとエリザベートは涙目になり口を引きつらせつつ覚悟を決めたいが決めきれないという様子だった。

 

「んもう・・・虫でいちいち騒がないでよ、結構ワールドワイドなのよ、昆虫食って」

「そうなのか?」

「そうよ。と言うか。ジャパンだと蝗をソース煮にして食べてるんだから、タツヤはそうでもないでしょ」

「佃煮とソース煮はちがうんだが・・・」

 

そんなことを二人は言いつつ折角だからと言うことで達哉とオルガマリーが先陣を切って食べた。

 

「あら、意外に良いわね、高級バターって感じで、付け合わせが欲しくなるし。ワインによく合うわ」

「俺からすると、トロっぽいなぁ、酢飯に乗せて食べたい」

 

二人はそういいつつ次に手を伸ばす、これにはネロも胸をなでおろした。

因みにバックアップのカルデアスタッフ何人かは口元を押さえていたりする。

アマネは相変わらずの鉄仮面ぶりだ。

ダヴィンチは興味津々だった。

 

閑話休題

 

マシュもエリザベートも何とか食べて美味しいとわかれば次に躊躇はなかった。

人間とは誠に現金なものである。

 

「それで・・・ムニエルさん、色々見せてもらったけれど。残弾まだある?」

 

色々な作品に目を通したは良いが。

残弾の問題がある。

だがムニエルは不適に微笑みつつ。

まだあるという。

下手な鉄砲数撃ちゃ当たるというように未来は娯楽で溢れているのだから。

 

『と言う分けで、アメリカ版ゴジラを「ぶっ殺すわよ、この揚げ物野郎」すーませんでしたぁっ!!』

 

冗句でアメリカ版ゴジラをと言ったムニエルに対し。

オルガマリー絶対の殺意で答える。

これにはムニエルも全力の謝罪だ。

達哉は本当に何があったとアメリカ版ゴジラに思いをはせたがすぐに胸の内にしまいこんだ。

なおデビルマン(実写)とかいう巨大な糞に比べればまだましである。

 

『じゃぁ・・・攻殻機動隊なんてどうよ』

 

攻殻機動隊、日本SFの金字塔の一つである。

原作と映画は乖離が激しいものだが、まぁそれはさておき映画版は文字通り世界レベルで有名だ。

名前だけならオルガマリーも知っている。

 

「じゃいいわよそれで」

「オルガマリー SFってなんだ?」

「サイエンスフィクションの略よ、架空科学などを題材にした娯楽作品・・・って達哉、なにその、今知ったって顔は」

「いや気にしなくていい(そういう略称だったのかと今気づいたとは言えない・・・)」

 

達哉的には少し不思議の略だと思っていったらしく。

それが顔に出ていたという事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達哉たちがそんなこったでわちゃわちゃしているころ、マッシリアのスラム街は掃討戦の露呈を呈していた。

アイオーン教団との本格掃討作戦が決行されたのである。

逃がすわけには行かないのでカルデアから引っ張り出された最新鋭爆薬やらドローンまで駆り出されていた。

スラム街を不死隊とローマ兵が囲い込み、蟻一匹通さぬ包囲網である。

内部にはカルデアと不死隊の精鋭たちが突入し、

陣頭指揮をアマネと孔明が行って行われる大取モノに発展していた。

 

ザシュリと音がするわけではなかった。

ボッという音の方が表現的には正しい、血は霧に変換され対象の頭部が消失する。

 

「はぁ・・・これでラストか?」

 

クーフーリンは珍しく疲弊した感じで言った。

と言うよりもこの場にいる誰もが疲弊しているようにも感じ取られる。

老若男女皆殺しの皆殺しだ。

アマネ曰く、こういう類は大人、子供に関わらず救いが一切ない。

寧ろ逃せばそこからまた感染し拡大を行う故である、都合のいい妄想と薬物に濡れたカルトは質の悪い病原菌と一緒だ。

消毒作業と評して殲滅作業をおこわなければならない。

無論、ブリュンヒルデとマリー・アントワネットは反対したが。アマネの正論と経験談。彼女が体験した地獄をデータ化した物(緊急時にアマネが米国を脅すためのネタとして所持していた物を)見せられては文句も出なかった。

 

「室内で人を使って妲己の酒宴が如きとはな」

「噂に名だたる三木合戦が如き様相がこうも」

 

東洋の二人組はそういってため息を吐いた。

こう言った様相は何度か歴史上で行われているがゆえに教養知識として知っている。

室内で人を薪ににしたキャンプファイヤー。

薬で痛覚を消しつつ半狂乱で襲い掛かってくる女子供。

薬のキメすぎで現実の境界線があやふやになった者たち

古代英霊達ではお目に掛れぬ地獄絵図であろう。

 

「薬とは真恐ろしいものですな。胴を分離しても上半身のみで襲ってくるとは」

 

だがそれよりも恐ろしいのは薬の効力だ。

なにせ頭部を潰すか分離しなければ文字通り飛ばない。

薬の主成分と過剰分泌された脳内麻薬各種がオーバーランしており、瀕死の傷程度では戦闘を続行してくるのだから溜まった物ではないのだ。

 

「問題は適性値があればペルソナを使用できるつぅー点だけどな」

 

長可もため息交じりに言う。

この薬は適性さえあればペルソナを呼び出せるのである。

無論、達哉やアマラ回廊でLvアップしまくったオルガマリーのそれに比べれば幼稚なそれである。

故に如何に相手がペルソナ使おうが、不死隊も展開しているし、こういった任務の専門家でもあるアマネに古代の名将たちも揃い。

滞りなく事態は収束する。

すでに時刻は夕方となっていた。

だが・・・

 

「『おかしい』」

 

アマネと孔明が疑問を漏らす。

カルデアのライン経由でリアルタイムで情報を共有していた指揮官の二人は違和感に気付いた。

居る筈の奴がいないのである。

 

『なにがだい?』

『バイヤーとか製造している連中とかが、居ない』

 

ロマニの問いにアマネはそう答えた。

施設内部には製造所があったが。大量生産できるようなものではないとは言え。

そう言った人員、統率するための人材がごく少数しか残っていなかったことにである。

 

『宗矩』

「なにか?」

『意識の残っている、えらそーな阿呆な奴は四肢切断しても捕まえろって言ったが。そういう奴いたか?』

「いましたぞ、シグルド殿に素手でボコボコにされてはいますがな・・・」

『尋問できそう?』

「回復を待たないことには・・・」

『・・・ロマニ、私の指定する薬物を現地に送れ』

『わかったって、全部危険物じゃないか!?』

『薬中にくれてやる慈悲はない、宗矩、今から送る薬物を説明書通りに使って連中の意識を覚醒させて尋問に掛けろ』

「?? どういうことですかな?」

『そこの主要人物には逃げられたということだ。速いところ、居場所やら行先を聞き出して追撃しないとまた増えるぞ』

 

要するに主要人物にはまんまと逃げられることが発覚したわけである。

取り急ぎで行き先を吐かせねば。また厄介なことをやらかすのは通り。

孔明は孔明でアテがあるのか。ダレイオスに頼み込み不死隊を既に動かしている。

そちらで当たればいいが当たらなければ終わりなので。

尋問は必要だった。

薬物による一時的依存症からの覚醒を行ってからの尋問である。

手段は問うなとアマネは言い切った。

薬中と薬物製造者にくれてやる慈悲を彼女は持ち合わせていないからだ。

本音を言えばアマネ自身が現地入りして尋問と言う名の拷問にかけてやりたかった。

そうすれば宗矩より素早く吐かせてやることが出来たからであった。

 

『私が現地に要ればな・・・』

 

アマネなら薬中からでも情報を聞き出せる、これは経験によるものだ。

説明書だけでは手際よくできるはずもない、もっとも宗矩ならうまくやるだろうとは思っているが。

まだまだ一日は長そうだとアマネはため息を吐いた。

カルデアの管制官たちのため息とそれが重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「永遠とは何だろうな・・・」

 

ネロはそういって黄昏ていた。

古今東西永遠をテーマにした作品は多い。だがそのすべてでアンチテーゼは言われている。

故にここに来て、遥か未来の作品に触れたことによって。

ネロにも変化が訪れようとしていた。

 

「永遠ていうのは・・・同じことを繰り返し続けることだ」

「・・・」

 

ネロのつぶやきに達哉は言った。

 

「同じような楽しいことをずっと続けたいってことなんだ」

 

達哉の言い様にマシュもオルガマリーも口を結んだ。

何故ならそれは彼が一番望んでいたことだからだ。

 

「だが、それをやっているうちに飽きが来るのも人間で、最終的には疲れるだけなんだよ。永遠とは停滞だから、だからこそ人は変化を望む。明日を望むんだ」

 

だが永遠とは停滞である。同じことを何度も繰り返す。

それは楽だろう、思考放棄とも取れるが、やり切れないのもまた人間だ。

青春とはそう言った永遠を振り切りながら成長していく過程なのだ。

 

「・・・だが、明日に踏み出すということは。その変化とやらが必ずしもいいものとは限らない」

 

ネロがそういう。多少いい明日をと望んだはずが絶望の様な変化に晒されることだってある。

無論それは仕方がないの事だ。だがそれを受け入れ歩いていけるようになることが大人になるという事であるということを達哉は知っている。

 

「まぁ確かに明日に進んだり大人に成長しても良いことは多くはないさ。けれど良いことも無いとは言い切れない」

 

嘗て去り際に自分にそう言って激を飛ばしてくれたパオフゥの言葉をアレンジしつつ言う。

確かに大人になれば気苦労や決断することも多い、子供の時とは違う。だが良いこともあるさと。

だから達哉は永遠を半ば捨てていた。忘れはしない。だがもういいのだと。

今はまだ心の傷は癒えない、パオフゥの心の傷とて癒えていないのだから当たり前だ。

けれどそれでも前に進みたいと今は達哉は思えるのだ。

 

「最終的には疲れるですか?」

 

マシュが最初の方の達哉の言葉に疑問を言う。

楽なのに疲れるとはどういうことなのかと言うことだ。

 

「マシュ、君は面白いからって四六時中、シャーロックの同じ一冊だけを読み続けられるのか?」

「無理ですよ、飽きますって絶対に」

「そうだろう? だから次の巻や、別の本を手に取る。それに飽きたら本屋に行って別の本を買う、それと一緒さ」

 

永遠とは同じ本を読み続けていると同じようなものだ。

絶対に飽きが来るし何やってるんだろうかと言う気分になるのも当然である。

永遠とは変化が無い停滞その物だからだ。

故にマシュは達哉の説明に納得がいく。

ネロも納得したようだった。

無論生きるという永遠と本を読む永遠は違うのだが本質は一緒で。あくまで達哉が分かりやすく例えただけに過ぎない。

それでも分かりやすい為、三人の少女は納得したのである。

その時だ。

 

「――――――」

 

達哉が自身の脇に置いていた孫六を手に取って立ち上がり、鯉口を切った。

 

「マシュ、所長、ネロ、エリザ臨戦態勢。隠れてないで出てこい」

 

達哉の恫喝にザザと足音を立てて、達哉たちを囲む黒の一団が出現する。

全員フード付きの黒装束に剣を持っている。

相当に訓練された存在であるが、一人を除き口端から涎を垂れ流し歯をむき出しに軋ませている。あたりに腐臭が立ち込めた。

それよりも達哉を不快にさせたのは。

リーダー格の理性がまだある男が被る仮面である。

プリンストーラス、仮面党の佐々木銀次の被っていたのと同じものだ。

 

「ネロ陛下、お迎えに上がりました」

 

もっとも声からして佐々木銀次ではなかった。

永遠と言う概念にドハマりした名も無きローマ人だろう。仮面まで同じなのだから。

佐々木銀次と同じようなコンプレックスを持っていると達哉は考える。

今はそんなことはどうでもいい。

明らかにネロ以外に敵意を向けてきているのだから。

 

「ついていくと思うか?」

「思いませんねぇ、ですが全部アナタが始めたことでしょう? やり切ってもらわねば我々民としても困るのですよ」

 

プリンストーラスは痛いところを付いて来る。

全てお前が始めた事だろうと。

ソーンに操られていたとはいえだ。

ネロが望んでやったのだと攻め立てる。

 

「それはお前たちもだろう」

 

達哉は呆れたように言い返す。

彼女が望んだ。ああ望んだだろう。

だが彼女だけではない、都合のいい妄執を信じたのはお前らもだと達哉は突き付ける。

噂結界とは一人の妄執や思い込み程度では動かないからだ。

民衆が真実であると望まなければならないのである。

故に責任は民衆にもあるわけだ。と言うよりも噂結界は全員に責任が極論あると言ってもいい。

 

「達哉の言う通りね」

 

専用ホルスターからリペアラーを引き抜く。

マシュは盾を、エリザベートは槍を取り出し臨戦態勢だ。

 

「そんなに嫌なら、日本で言うツメバラ覚悟で陳情すればよかったじゃない」

「そこの淫売が聞くと思うか!?」

 

そんなにネロの政治が嫌なら詰め腹切る覚悟で物を行ってからにしろと言うオルガマリーにプリンストーラスはそもそも聞くわけないだろうと吠える。

 

「なぁオルガマリー、ツメバラってなんなのだ?」

「王とかに陳情する前に、腹を切っておいて命がけで陳情する事よ」

「さすがに余もそこまでされたら考え変えるぞ!?」

 

まぁネロも悪けりゃ陳情しない連中も悪い。

王政の悪い部分が出ている上に元老院糞と言うのもある。

一概にネロだけを責めるのも酷だ。

 

「では力づくでいかせてもらうとしましょう。ペルソナァ!!」

 

―ルリム・シャイコースー

 

プリンストーラスの呼び出したペルソナは醜悪に尽きた。

肥え太った。巨大な白蛆のような姿を取り、空洞のような両目からは血の結晶が滴り。

口は裂けたような三日月状であった。

得体のしれない恐怖が具象化した存在ともいえばいいか。

 

「「「「「「ペルソナァ!!」」」」」

 

そして取り巻き達も己がペルソナを呼び出す。

どれもこれも冒涜的で直視に堪えぬ怪物たち。

ビヤーキー

クトーニアン

ムーンビーストなどなど。

この世界では埋もれた冒涜的恐怖を体現する眷族の形であるが

 

 

だがそれがどうした?

確かに何かしらの補正を受けていなければ常人なら見ただけで発狂するペルソナのオンパレードである。

だが此処にいるのは、そもそういった物を乗り越えてきた達哉。

祭神を見て精神耐性が出来ている上に、アマラ回廊で鍛えたオルガマリーとマシュの二人。

ネロは嘔吐寸前だったが戦闘に支障はない。

第一にである

 

「ノヴァサイザー」

 

周防達哉相手に中級ペルソナ使いがかなうはずもない。

時止め対策も無しに突っ込めばどうなるかなんて明白すぎる。

質量の差が桁違いな上に技巧もこなす一種の英雄たる達哉に対して舐めているのかという杜撰な対応である。

炸裂するノヴァサイザーは停止時間最大八秒。

内四秒で、コンセレイトの乗ったアポロの収束式マハラギダインがルリム・シャイコースの腹に至近距離からゴッドハンドも乗せて炸裂し。

プリンストーランスの首を孫六で跳ね飛ばす。

残り四秒で周囲にマハラギダインを掃射。

時間の流れが元に戻ると同時に。

連携慣れしている、マシュとオルガマリーが動く。

プリンストーラスは即死し、至近距離で四倍マハらギダイン+ゴッドハンドを叩き込まれたルリム・シャイコースは即死したものの。

他が問題だった。

薬物使用のお陰か、体が炭化しかけているというのに動く奴。

そも、使用者が死亡しつつのペルソナが独立し暴走を開始している奴もいた。

故にこの場では戦闘続行。

 

「メタトロン!!」

「セイリュウ!! マハブフダイン!!」

 

達哉はメタトロンにペルソナをチェンジ。

オルガマリーはLvが上がっているのでセイリュウを呼び出しマハブフダイン

それで生き残りの大半を薙ぎ払う。

 

「シールドストライク!!」

 

シールドに備え付けられていたブーストを吹かしつつ八極家の動きでマシュが光と氷の中を突っ切りながら、敵に盾を叩き込む。

と同時にマシュの掌に広がるのは相手の骨と肉を粉砕した感触だ。

それを今は振り切りつつ大盾が叩きつけられたことによって、衝撃と浸透頸の原理をもって相手の骨と内臓を粉砕。

と言うかミンチに変換する威力を発揮する。

運よくオルガマリーに接近出来た狂信者は短刀を振りかざすが、オルガマリーはリペアラーのマズルスパイクで殴りつけるように短刀を反らし。

もう片方のリペアラーのマズルスパイクでアッパーカット、相手の顎を粉砕しつつ、二丁のリペアラーの銃口を向けて引き金を引く。

.357神経マグナム弾が吐き出され胴に直撃、大穴をあけても動く為、

そのまま身を旋回しつつ回し蹴りを相手の側頭部に叩き込み頭蓋を叩き割り殺す。

そういうわけで一瞬で相手は総崩れだ。

アマラ回廊で鍛えた能力は伊達ではないのである。

まばらになった狂信者たちを各個撃破に持ち込む。エリザベートが無数の拷問器具を召喚し敵をすりつぶして行く。

もう薬を使おうが絶対的に覆せない戦力差である。

数分も掛からず敵戦力の撃滅は完了した。

残心を解きながら武器を全員が治める。

 

「どうやって侵入してきたのよ」

 

エリザベートがため息交じりに言って達哉以外の全員が同意した。

宮殿内の警備は厳重だ。ゼットもいるし、魔術的トラップや警備体制も引かれているはずだからだ。

 

「おそらくこれだろうな」

「・・・アマラのアイテム?」

「そうだ」

 

カエルの様なフィギュアをプリンストーラスの死体から見つけ出した達哉がそれを見せて言う。

所謂転移系のスキルを封じ込めた代物であった。

座標指定し転移する使い捨てのアイテムである物の。

転移できるとくれば確かに警備など意味が無いだろう。

 

「流石に細かな指定はできないはずですけど。こっちのいるポイントさえ見極められれば、大雑把でも奇襲は成立します」

「屋上だものねここ」

 

マシュの言い様にエリザベートが同意。

気疲れを癒すために宮殿屋上で休んでいたのが仇となったわけである。

ペルソナ使いであれば適当な場所から屋上にいる自分たちを補足しアイテム使っての転移からの奇襲強襲は楽なものだ。

轟音に気付いたローマ兵たちが屋上に来る。

エリザベートが状況を説明し死体の処理を指示。

 

『所長、此方で問題発生』

「ちょっとそっちでも?!」

『そっちでもって、所長の所もかい? こっちは敵の幹部連中逃がしちゃって・・・今、市内を捜索中なんだ』

「・・・それなら気にしなくてもいいと思うわよ」

『?? どういうこと?』

「そいつら多分全員こっちに突っ込んできて、撃退したから・・・」

『・・・わかったアマネにそう伝えて置く』

 

そのタイミングで来た通信も徒労感漂うことになってしまった。

一応教団の殲滅作戦はこれで終了することになるが。

予断は許されないため、完全な殲滅作業が本当に確認できるまではダレイオスに頑張ってもらうほかないだろう。

 

「? マシュどうした?」

「はい?」

「手が震えているぞ」

 

達哉が指摘する、マシュの手は震えていた。

 

「―――――なぜ?」

 

マシュにはまだわからなかった。

自覚症状が無かった。相手は薬中で絶対的な悪だ。

だが達哉の記憶を除いたときの光景がリフレインする。

ただ幸せになりたくてカルトにしがみ付いたクーデター派の人間の事をだ。

同時に怒りも湧き出てくる。

思い浮かぶのは須藤の嘲笑。

これが・・・・

 

「大丈夫です。先輩、問題ありません」

 

ジャンヌ・オルタが思っていたことなのかと想い、幻想だと頭を振って振り切って。

大丈夫だと、マシュは言った。

そして誰も気づかなかった。だってそれは現段階だとマシュにしか認識できないもの。

彼女ですら認識していないから不完全なソレが彼女の背後に、影のように浮き出て私服姿のもう一人のマシュがいることに。

その目は赤色に染まり、無表情でマシュを見つめていた。

 

心臓からは漆黒の様な杭が伸び、その周囲はアイビーとスノードロップで飾り付けられ。

右手には鉄板をくり抜き持ち手にしたような歪な漆黒の鉄塊が握られていた。

 




自分が幼稚園児の頃の昼食に蝗の佃煮出されていたので、学校給食とかでたっちゃんも食べていたと思います。
オルガマリーは取引先で好奇心から買ったから食べたからへーきへーき。
マシュとエリザベートは絶叫。
でも美味しいとわかれば次からは行ける人間って現金だね


エミヤンとたっちゃんって真反対なんですよね。
エミヤン 恵まれた青春期、友人に親戚 だがそれらを聖杯戦争へて全部捨てて夢の為に振り切る
たっちゃん ドイヒーな青春期 リンチ ハブ 家庭内不和で孤独、最終的に全てを取り戻すが切り捨てざるを得なくなる。

恵まれた者と恵まれなかった者、望んでやった者と望まなかった者。
最終的には孤独になり周囲から疎まれ裏切られたエミヤン。
最終的には孤独と引き換えに守りたいものを守り抜いたたっちゃん。

故にエミヤン的にはたっちゃんにどう接していいか分からない苦悩。
なんせ彼は生前、彼の王と同じく救いこそしたが導くことをしなかった。
故に大人としてたっちゃんや所長、マシュを導けないことや、恵まれていたのにすべてを望んで切り捨てたことも相まってたっちゃんに何か言うとエミヤンには全部ブーメランとして帰ってくるというとね。

フィレ「答え得たんでしょ!! だったら大人として頑張って伝えなよ!!」
エミヤン「」
ニャル「そう簡単にできるわけねぇーだろーwwwwだってコイツ過去の自分を殺して過ちを手っ取り早く消そうとしてたんだぞぉwwww、ちょいっと考えれば色々手段有るのにヨォwwww」

ちょっとエミヤン、ニャルフィレに囲まれてるんですけど、誰か助けろよ!!



そしてカルト鎮圧作戦
カルデアマスターズとネロはアマネが意図的に省きました。
そりゃ年頃の少年少女に殲滅を主眼とした作戦の陣頭指揮なんて任せられないし。
間違いなくトラウマになるからね。カルテル襲撃とか極秘でやってたアマネが陣頭指揮を執るのは当たり前よ。
たっちゃんも新世塾の研究所とかの襲撃で慣れているけれど、精神的に良くないのは変わらないので外されました。
まぁ酷い惨状ですよ。アイオーン教団はローマ版ISですからね。
ニャルがばら蒔いた薬は、ソーンを使って噂で取り寄せした代物です。
新世塾の人工ペルソナ技術をP3の桐条が完成させた代物
抑制できるなら無理やり引き摺り出す薬剤もあったはずと考えて出しますた。
無論使うと破滅する代物ですけどね

因みにプリンストーラスは佐々木銀次じゃありません。
ニャルが嫌がらせで。アイオーン教団幹部は全員仮面党幹部のコスプレしています。

たっちゃん無双
たっちゃんの前の対策なしで突っ込むとこうなる典型例。
第一特異点じゃ、邪ンヌは第一形態は再生能力、範囲攻撃で封殺、魔人形態は達哉との共同戦闘経験からの癖読みなどから停止タイム読んで間合いを開けるという神技で封殺
電波はそもノヴァサイザー使えるから封殺可能。
第二特異点じゃネロシャドウ相手には使えばネロちゃま廃人コースなので使えない
統制の聖杯はサイズ違いすぎて時止めが意味がない。

つまり、上記の様な理不尽持っていない場合、たっちゃんと殺し合うなら最低限でも炎と光、物理無効持ってないと初手ノヴァサイザーで詰み。
耐性持っていても有利な間合いやら背後とってなんやらで時止め解除からのペルソナチェンジでの不意打ちまであるとかいうクソゲー


マシュ・シャドウ「<●><●>」
マシュ「なんか、背筋が寒いんですが・・・」

マシュはまだ情緒が不完全であるためシャドウも不完全です。
と言っても順調に成長しているので、それに合わせてシャドウも成長してます。
もっともマシュシャドウが本格参戦するのは第三からですけどね。
それでえらいことになる、こんなことになったのは殺意を全開でマシュに叩きつけた邪ンヌと余計なことしたフィレモンのせいだったり。

そして。
所長、マシュ、ネロによる青春劇。
次回でコミュ回は終わりの予定です。

そしてネロちゃまも登ったら落ちるだけ、咲きほこったら枯れるだけですからねぇ


ちょっと自分の方もヤバい感じで。医者には障害者年金使えと進められるわ・
家族には入院した方がいいと言われるLvです。
次回の更新も遅れますが。
第二のコンセプトはコンパクトなのでなんとか頑張りたいものの・・・・鬱のお陰でハロウィンイベントスルーしてしまいました。
昔はソシャゲ複数掛け持ちしてもイベント完走できる気力があったのに。
今はもうない・・・どうやったら疲れって抜けるんでしょうかね・・・

と言う分けで次も遅くなります

あと次回でコミュ回も終わり、次々回からネロパレス攻略戦に移ります。



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五節 「友情/落葉花」

赤子は水遊びを喜ぶ。
・・・いつまでもさせてやりたい。
しかし、季節は変わるのだ。

ドラッグ・オン・ドラグーンより抜粋


そういえば忘れていたとばかりに、ネロ達はガングレイヴ後半戦を見ていた。

あの後、結局後半戦を観ずに別のに手を出していたからである。

 

「「あぅぅううううううう・・・・」」

「おおぅ、身に染みる・・・」

 

ネロ、マシュは号泣である。

達哉は胸に迫る物が在ったのか苦しげだ。

オルガマリーも涙ぐんでいる。

 

『なぜ、俺を助ける? 俺を殺しに来たんじゃないのか? 復讐のために蘇ったんじゃないのか?』

「違う・・・ちがうぞ・・・ハリー」

「もう気付いてくださいよぉ」

 

映像で展開される惨劇に二人はもう耐えられないと言った様子だ。

それでも映像は悲劇的な方向へと流れていく。

 

『お前が愛していたマリアも殺した。ビッグダディもこの手で命を奪ったんだ。俺は貴様の! 仇だろう!!こうして目の前に仇がいるのに! 銃まであるのに! 何をしている!! 俺を馬鹿にしてんのか!! お前は!!』

 

ハリーの言う通りだ。復讐なら躊躇なく引き金を引くべきであった。

違うのだ。ブランドンはそういった理由でここにいるわけではない。

だがハリーにはそれが分からない、何故ブランドンが此処にいるのかを

 

『ふ・・・ふははは・・・ そうか馬鹿は俺か・・・リーやボブ、ベアも文治いない。俺のすべてを賭けたオーグマンも全滅だ・・・ シェリーさえも・・・ もはや俺には何もない、殺せ、これ以上生き恥を晒すのはごめんだ。殺せブランドン・・・ 頼む殺してくれ』

 

そしてハリーは自分を嘲笑うように嗤い、自重し懇願する、殺してくれと。

それでもブランドンはハリーを見ている。

握った銃は向けられない。

全てを失い無様な姿になったことか、裏切ったブランドンに見つめられることに耐えられなかったのか。

ハリーは耐えられず叫ぶ。

 

『殺してくれぇええ!!』

 

ハリーの慟哭が響き渡ると同時だった。

爆薬でかつての思い出の場所が爆破され、ブランドンが何とかハリーを庇い助け。

突入してきた部隊を相手に、崩壊する体に鞭を撃ちながら戦い。

そして・・・

 

呆然と立ちながら血まみれになって倒れるハリーを見るブランドン。

だがハリーの指がピクリと動き。

安堵したかのように、ブランドンの足が文字通り砕け、仰向けに倒れる。

ハリーは這いずりつつ、ブランドンに近づき顔を覗き込んだ。

 

『ブランドン・・・ ブランドン・・・ この死にぞこないが』

『俺は間違ってしまった』

『え?』

 

そうハリーが間違えたようにブランドンもまた間違えたのだ。

 

『ミレニオンではなく、ハリー・マクドゥエルを選んでしまった・・・ でも今は後悔していない。』

 

そう最後まで彼が信頼し選んだのが組織ではなくハリーだった。

そしてできなかった。親友を・・・撃つという選択肢だけは。

 

『お前を撃つなんて・・・できないよ』

 

撃つなんてどんな理由があってもブランドンには出来なかった。

 

『すまない!! ブランドン! すまないっ! うぁぁああああああああああ!!』

「「うわぁああああああああああ」」

 

彼の吐露を聞いてマシュとネロは大号泣である。

達哉とオルガマリーも涙腺に来たのか一筋の涙を流しつつ真剣に見ている。

 

 

『戻りたいな・・・ あの頃に。何もかもが自由だったあの頃に・・・』

『帰ろう・・・ ハリー・マクドゥエル』

『そうだな、ブランドン・ヒート』

 

それでも映像は流れて、最後に二人は互いに銃を向けて。

 

『ハリー・・・』

『ブランドン・・・』

 

自由だったあの頃に帰るべく引き金をと言うところで視点がヒロインに変わり、エンディングへと流れていく。

 

「やばいわ、マジ感動できた」

「ノワール系のお決まりってやつだな、泣ける」

 

ハンカチで涙を拭きつつ、二人はそういうが。

マシュとネロはブランドン&ハリーショックで号泣中だった。

 

「しっかしこうも連日、アニメやら映画やらだと体が固まるわ~」

「俺は、そうでもないが・・・」

「そりゃ、タツヤは早朝に特訓しているからそうじゃないかもしれないけれどさ」

 

連日連夜の鑑賞会である、流石に運動したいとオルガマリーは背伸びをしつつぼやく。

だが達哉はそうではなかった。

彼は三人よりも早く起床し、朝から訓練である。

準備運動をたっぷりとして、宗矩やシグルドと稽古だ。

体が固まる筈もないといっても。

 

「だが流石に目は疲れたぞ」

 

流石に目には答えたらしい

眉間を右手で揉みつつそういう。

連続して何時間も映像娯楽に興じればそうもなろう。

 

「じゃぁ・・・景色でも楽しみに行く?」

「アテはあるのか?」

「港都市でもの、海原を見ながら釣りっていうのも乙じゃない」

「まぁ確かに」

 

マッシリアは現代で言うところのマルセイユである。

海に面した港都市だ。

釣りのポイントなんていくらでもあるし、絶景ポイントも腐るほどあるのだ。

 

「餌は当てがあるが・・・釣り具はどうする? カルデアの備品にも無かったはずだろ?」

「エミヤに投影させるわ、アイツ、自分は贋作の剣だけ~とか言っているけどカルデアの修繕の功労者だから絶対ほかにも投影できるだろうし、釣り竿くらい朝飯前でしょ」

「・・・便利だな投影魔術」

「普通はそこまで便利な物じゃないのだけれどね、普通の投影魔術なら修正力でずっと残ったりしないから、やっぱエミヤも規格外の英霊ってわけよねぇ」

 

投影魔術は本来、エミヤが作ったもののようにずっと残ったりしないし、真に迫るほどの超精密までは不可能なのである。

故に廃れているのだが。エミヤクラスまでくると封印指定レベルな代物だった。

それはさておき。

達哉はそういうこともあって、エミヤに釣り具一式の投影と餌調達の為。

先に部屋をでたのだった。

 

 

 

 

 

 

こういう風に日々は過ぎる物だ。

ネロは思う、”永遠に続けばいい”と。

だってそうだろう?

心の置ける友がいる。皇帝じゃなくてネロとして見てくれる人々がいるのだ。

一度の裏切りでもその甘さからは逃れられない。

だが真の友情と言う者を彼女は理解しつつあった。

つまりニャルラトホテプ的に言えば、チョコレートとケーキの区別が出来るようになっていた訳で。

だが・・・逃げられないのも確かなのだ。

とまぁ事態もひと段落ついたところで。

外に出ることにした。そりゃもう何時間もこもりっぱなしと言うのもよくはない。

カルト教団の浄化作戦は終了しているから問題は無いだろう。

何より、マッシリアは港町でもあるのだ。

海に行かないという手はない。

気温は温厚で泳ぐにも問題ないが無論四人とも泳ぐ気にはなれなった。

 

「そう言えば先輩の家も海と近かったですよね? 夏場は泳ぐとかしていたんですか?」

「幼いころはな・・・といっても俺は山派だったし、兄さんも同じでよく山で虫取りとかの方が多かったよ」

 

確かに海は近かったが近所の裏山で遊んでいたことの方が達哉は多かった。

父が冤罪で首になるまでは父も忙しかったというのもある。

後は皆で仮面党なんて作って日が暮れるまで神社で遊んでいたから海で泳ぐということが無かったし。

もっとも冤罪後は後で家庭環境が悪化し家族団欒なんてしていなかった。

その後は達哉自身バイクにのめり込んでいた

故に達哉が海をまともに泳いだのは須藤絡みの時ぐらいである。

つまり、噂で飛行船を飛ばし落下させて。真冬の海を寒中水泳だったのだから。

そんなあんまりな思い出話をしつつ。

四人は港で釣りに勤しむ準備をしていてた。

ルアー釣りではなく生き餌釣りである。

 

「しかしこの釣竿、見たことない素材でできているが・・・」

 

ネロは釣り竿一式を見て呟いた。

因みに南極大陸で釣りなんぞできるわけもないので。カルデアの備品ではない。

エミヤが投影した代物である。

剣しか投影できないという割には盾は投影できるし軽い小物なら投影できるのだから実に破格だったりする。

オルガマリーはエミヤはよく封印指定にならなかったなと内心思っていたりするが。

そこはまぁ凛やルヴィアなどの時計塔の学友たちがどうにかしただけなのだが。

知るわけもない。

閑話休題。

と言う訳で釣り具の扱いに慣れていない三人の代わりに達哉は手早く釣り具を組み他立てていった。

先も言った通り。山で遊ぶ経験はあり、川釣りはやったことがあるから手馴れているのである。

 

「それで先輩、餌はなに使うんです?」

「これだ」

 

タッパーを開けてマシュに達哉は中身を見せる。

マシュは硬直した。

なになにとマシュの反応に気になったネロとオルガマリーもマシュの背後から覗き込んで。

 

「「ぎゃぁあああああああ!?」」

「いや、過剰反応しすぎだろ!?」

 

女子には似合わぬ反応をした。

当たり前である。タッパーの中にはミミズの様な生き物。

つまりアオイソメが無数に蠢いていたからである。

達哉は川釣りで虫とかミミズとかで川魚を狙っていたこともあるので慣れているが。

釣りなんぞしたこともない三人の女子からすればまぁトラウマ物だろう。

 

「ロマニさん」

『なんだい? 達哉君?』

「マッシリアでは何が釣れるんだ? 歴史データとかあると助かるんだが・・・」

『だったらマッシリアは現在で言うところのマルセイユだから、マルセイユの漁獲データを送るよ、それにしてもなんでまたそんなデータを?』

「いや毒魚とか怖いじゃないか」

 

ゴンズイやらヒョウモンダコ。如何にペルソナによる毒耐性や感染症対策のための免疫ナノマシンを打っているとはいえ怖いものは怖いのである。

特にネロには上記の二つは適応されていないのだから注意するに越したことはないし。

達哉は海での釣りは詳しくないし、故にデータを欲したわけだ。

ロマニは納得しマルセイユの漁獲データを達哉の礼装に転送する。

 

『あと大きなお世話かも知れないけれど海釣りマニュアルも送っておいたから有効に使っておいてくれ』

「助かるよ」

 

一応とのことだったが。達哉は川釣りにはなれてはいるが、海釣りに慣れていないので正直助かった。

後方では女性陣がキャーキャー言いながら木の棒でアオイソメを突いている。

 

「オルガマリー!! 本当に本当に! これを使うのか!?」

「使うしかないでしょ!? ルアーないもの!? マシュどうにかしてよぉ! デミサバでしょ!?」

「デミサバ関係ないですよコレ!!」

 

そんなやり取りを見つつ達哉は自分が全員分やらないと話が進まないなと思い。

大人しく全員分の針にアオイソメを慣れた手つきで通していく。

躊躇なくアオイソメを手に取る達哉の慣れた手つきに女性陣ドン引きだった。

オルガマリーに至ってはパニックになりデミサーヴァントだから余裕でしょとマシュに言い。

デミサーヴァント関係ないじゃないですかとマシュは半ギレ気味に突っ込む。

これではラチが開かないとして、達哉はため息を吐きつつ、三人の竿の糸先の針に慣れた手つきでアオイソメを潜らせ付けた。

 

「手馴れてますね先輩」

「川釣りでミミズとかアカムシとか使って釣りしてたからな・・・まぁこの位は」

「流石です。私は無理ですよぉ」

「いや嫌なら無理にしなくてもいいだろう・・・男でもダメなときは駄目だからな、昔の栄吉もギャーギャー言ってたしな」

「え? 栄吉さんがですか?」

「ミシェルやらパンツ番長名乗る前はアイツ気が弱かったんだぞ」

 

幼いころのリサと栄吉もだめだったなぁと思いながら恥ずべきことではないと言いつつ。

全員分の針にアオイソメを通し終えて。

アオイソメのぬめりと臭いが付いた手先を海に手を突っ込んで洗い流す。

 

「ロマニさんから漁獲データを貰ったから全員に共有する、毒魚とかには気を付けてくれ」

「了解です」

「わかったわ」

 

礼装経由でデータ共有、ネロにも礼装は渡されているので無論共有される。

さぁ釣りである。

と言っても釣りは運が絡む。

 

「達哉、また釣れたから餌を付けてくれ」

「はいはい」

 

ネロ絶好調である、サーヴァントの時の幸運Aは伊達ではなかった。

色々釣っていた。

 

「なんで・・・カサゴばっかりなのよぉ!!」

 

オルガマリーはカサゴばっかり連れている、そりゃもうイジメかと言うレベルだ。

毒サカナではあるがエミヤに投げつければ美味しく調理してくれるのが救いだろう。

と言っても30匹も投げつけられればさしものエミヤも疲弊するだろうが。

そこはそれと言う奴である。

マシュはそこそこ釣りながら。

 

 

「・・・これもまたローマなり・・・」

「・・・」

 

達哉&いつの間にか釣りに興じていたロムルスは坊主だった。

見事なまでに坊主、圧倒的坊主である。

開始から二時間が経過し一匹もつれていない。

ロムルスは一応幸運ランクBはあるいのだが何故か釣れない。

達哉はまぁ幸運をあえてランクにするとE相当なのでどうしようもないと言えばそうなのだろうが。

 

「ところで、ロムルスはなぜここに?」

「ああ、愛し子たるネロに謝りたくてな・・・といっても今彼女たちは友情をはぐくんでいる、割って入るのも無粋と言う物」

「確かに」

 

ロムルスの来訪目的はネロに一言謝りたいという事だった。

がしかし、今は女子は女子で盛り上がっているのである。そういうのに割って入るのは無粋として。

達哉の隣に座って大人しく釣りに興じていた訳だ。

一応、破損するかもとして用意していた予備の釣り竿があったからそれを貸し出している形である。

それはそれとして男二人、しつこいレベルで言うが坊主である。

虚しいったらありゃしない。

 

「達哉よ、謝るというのは気が重いものだな」

 

珍しくロムルスは愚痴った。

当たり前だ。もう謝罪どうのこうのと言う限界点を超えている。

その中で謝るなんぞ自己満足にしかならない。

故に気が重くなるし状況が首を絞めてくる

達哉もやっちまった側であるしその苦しみはよく理解できた。

だがしなければならないことも理解している。

歩み寄るのは難しい、だが一方的価値観や嫌悪感で歩み寄りを否定するのは争いの発生源であるし、愚か者のすることだ。

それを怠ったから、現にロムルスはニャルラトホテプを殴り飛ばした後で奴の巡らしていたバックアッププランに見事に嵌ってしまい、自身の弟を殺める羽目となったのだから、なおさらと言う奴だろう。

 

「それにどう言えば良いか分からぬ」

 

やったこともやったことだ。

軍隊を嗾けるなんて真似をしておいて、はいごめんなさい、仲直りの握手と言うのも恥知らずではないだろうか。

 

「・・・謝るのはあくまで切っ掛け作りでしかないと思います」

「そうか・・・」

「問題はそこから何をどうするかでしょう、違いますか?」

「いいや違わぬ」

 

故に謝るというのは切っ掛けに過ぎないのだと痛感した身の達哉はロムルスにそう言う。

問題は切っ掛けからちゃんと有効な手を打てるかどうかだ。

散々拗れた兄弟中でも最終的には和解できるのだからそこに尽きると言う物であろう。

 

「達哉~ 餌がばれてしまった付けなおしてくれ~」

 

そんなことをやり取りしていると。

ネロが餌がばれたと言ってやってくる。

これで何度目かと達哉が苦笑し付け替えようとすると。

 

「貸してみるがいい、愛し子よ」

 

ロムルス、動く。

達哉はあえて身を引きいきさつを見届けることにした。

 

「しっしかし神祖様の手を煩わせるのは」

「関係ないぞ、今や此処にいる私は、只の人の身だ・・・・ だからこそすまなかった許してくれ」

「神祖様・・・」

 

ネロの釣り竿にアオイソメを付けながらロムルスは頭を下げた。

ネロはどうしてい良いか分からぬのが現状だった。

だがしかしいい方向に動きつつはあると達哉は思う。

今はぎこちなくとも、いずれは驕りは解消できるだろうなと思うのだ。

 

「なんでこうも毒魚ばっかりなのよぉ!!」

 

その一方でオルガマリーは毒魚ばかりを吊り上げていた。今度はヒョウモンダコである。

煮ても焼いても食えないし蛸は下ごしらえに時間も掛かる。

マシュには・・・

 

「なんでイカなんですか・・・」

 

今度はイカが掛かっていた。

おかしい話である、アオイソメでイカも蛸も釣れるわけではないのだが。

それでも女子には軟体魚類はキツい物が在るのか、ギャーギャーと騒いである。

自分が外しに行くかと達哉は椅子から腰を上げて。

不器用な親子のようなやり取りをしているロムルスとネロをしり目に、オルガマリーとマシュの元に向かった。

 

 

 

 

 

釣りは夕日が出てくるまで続いた。

クーラーボックス一杯々に釣った。

大量である、最も釣り上げたのは女性陣で。

達哉&ロムルスは坊主だった。

加えてクーラーボックス一個はカサゴで占拠されていた。

これにはエミヤも男泣きしながらカサゴの煮物を量産するほかないだろう。

いつまでたっても変な過労から逃げられない男エミヤは泣いてい良いと思う。

そんなこんなでロムルスは樹の維持のため消え失せて。

釣り具とクーラーボックスを達哉は担ぎ、マシュは残ったクーラーボックスを二個両肩に担ぎつつ。

釣りの成果を達哉、マシュ、オルガマリーで盛り上がつつ夕日のさす街中を行く。

ネロは一人、少し三人から距離を離しつつ歩いている。

考え事のように、彼女の表情は不安に彩られていた。

そして意を決っしたように口を開く。

 

「なぁ・・・オルガマリー」

「なによ?」

「余はソナタたちの良き友であれるか?」

 

夕日をバックにクーラーボックスを背負いながら街中を行く、達哉たちに対し一歩引いてネロは問う。

ソーンに裏切られた恐怖がまだへばり付いて離れない。

 

「今更ですけど、私達って友人ですよね」

「マシュの言う通りだと思うよ、俺は」

「友達作りってそんなものよ、切っ掛けがあればなっているようなものだもの」

 

友とは作る物だが自然になっていくものだと思う。

作ろうと思うのは切っ掛けの一つでしかないのだ。

気付けばなっている者である。あとは当人たち次第であり、決して数値化していいものではない。

確かな基準点がない故に人は不安に思うのも確かなのである。

だがその不安を払しょくするかのように彼らは微笑んで友ではないかと言う。

ネロもそれに安堵の吐息を降ろした。

 

「なぁ・・・」

「まだなんかある?」

「ああ、もしもだ・・・余が間違っていたら・・・その時は」

 

―おぬしたちも余を殺すのか?―と言いかけて。

オルガマリーはネロの言わんとしていることを即座に理解し言葉を紡ぐ。

 

「殴ってでも止めるわよ」

 

殺しはしない、されど殴ってでも止めてやると。

事の条理を言う。

言っても聞かないなら殴ってでも止める。

当然のことだ。

 

「そうか・・・そうであるか・・・」

 

彼女の言い様に胸をネロは撫でおろし、ようやく本来の笑顔を取り戻す。

宮殿に帰って釣り成果を見て軽い宴となった。

無論、エリザベート&孔明&カエサルは公務で無慈悲に出席は叶わなかったし。

大量のカサゴに案の定、エミヤは頭を抱えていた。

その大量のカサゴの調理はエミヤに押し付けられ。

オルガマリーはその他の魚を使って、ブリュンヒルデやマリーアントワネットに捌きや調理法を教えつつ。

イタリアン料理に仕立て上げていた。

酒は相変わらずの物だが、エリザベートがワインを入手していたらしく達哉がそれを購入し。

豪華なものとなった。

現代料理に古き英霊たちは舌鼓を打ちつつたわいのない話で花を咲かせながら宴は進んでいく。

途中からエリザベート達も参加し賑わいに賑わった。

気分を良くしたネロが一曲披露しそうになって、自分も音痴且つネロも音痴と言うことをエリザベートは知っているため。

口八丁で何とかネロの歌は聞かずに済んだ。

オルガマリーは孔明の愚痴に頷き。

達哉は長可やマシュと共にバイクの話しに花を咲かせている。

ブリュンヒルデとシグルドのノロケが限界突破、いつものようになったので全員で取り押さえるのはご愛敬と言う物であろう。

そして全員が満足したころ合いで、ロマニがドクターストップをかけて。宴会は解散となった。

 

だが咲き誇る花はいずれ枯れるが定め、幾ら英知を凝らし築き上げた像であっても風の力には勝てぬ。

 

この時ばかりは彼女はカルデアがどういうもので人理修復がどういう物なのかを忘れていた。

 

そう別れは来るのだ。すべて忘れて、現実への帰還と言う残酷無慈悲な避けられぬ結末があるというのを。

 

だから影が沸き出てくる。

その日の夜、ネロは屋上に出ていた。

酷く胸騒ぎがしたからだ。

夜風にあたり心を落ち着けて眠りたかった。

そして声が聞こえてくる

 

「やぁ」

 

数秒、空に浮かぶ月が雲で陰り。

雲が去って月光が差すとネロの背後に伸びる影のようにソーンが現れ声をかける。

 

「何をしに来た・・・下郎」

 

ネロは剣を抜き放ち切先を向ける。

宮殿は厳重警戒だ、カルデアの探査とクーフーリンとブリュンヒルデの原初のルーンによる防衛網が張られているにもかかわらず。

ソーンはそんなものは通用しないとたばかりに此処に現れた。

それでソーンはただただ微笑む、滑稽な事をして楽しんでいる子供を慈しむように。

ネロの刃なんて効果はない。

その不死性は明星でさえ殺しきる事は不可能と断ずる超性能である。

攻撃性能では魔王たちに軍配が上がるが不死性では彼らを凌駕する人間と言う魔物だからだ。

故に一度でも彼を混沌の海に沈めた。かのペルソナ使い達は称賛に値すると言える。

まぁそれはさておき、なぜ彼女が此処にいるのかと言えば。

ただただ。聞きに来ただけだ。

 

「私は聞きに来ただけだよ」

「なに?」

「それでも選べるのかと言う問いをね」

 

そしてネロに主要時間軸の映像が投影される。

もう終わった物語。だが災厄の旅路であるがゆえに参考資料としてはとてつもない効果だろう。

絆で得た光が今、漆黒に反転する

 

 

 

 

 

 

 

 

達哉は目を覚ました。

となりに置いて置いた孫六を手に取とる。

奇しくも同室のオルガマリーもマシュも同じだった。

異様な気配が宮殿を包んでいる。

深淵の香りだ。

クーフーリンやシグルドたちも跳ね起きている。

 

『達哉、オルガマリー、奴が来たぞ!』

「分かってるわ。総員起床!! 第一戦闘配置!! コンディションレッド!! 繰り返すコンディションレッド!! 管制室反応を割り出して、今度こそ叩き返してやる」

『こちら管制室、シャドウ反応を検知、屋上だ。ネロ陛下も一緒だ!?』

「「「「「「「なんだって!?」」」」」」

 

クーフーリンの叫びに呼応しオルガマリーが通信機に向かって叫ぶ。そして管制室から帰ってきた返答は最悪の事態だった。

ニャルラトホテプとネロが一緒にいるという。この時点でなにがあるか分かった物じゃない。

気配の大本である屋上を合流ポイントに設定し全員が走る。

そして屋上に全員が到達してみたのは

 

呆然と両膝をつくネロ、それを見下して笑うソーンと言う姿だ。

 

「ニャルラトホテプ、貴様何をした!!」

「ただただ。主要時間軸を見せただけだよ。その表と裏をねェ」

 

ソーンは嘲笑いながらシャドウを召喚する、足止めになればいいとしてかなりの数をだ。

須藤の時と同じである、宮殿には勤め人も今の時間帯はいるのだ。

加えてネロがソーンの近くにいる高火力では薙ぎ払えない。

ノヴァサイザーも届かぬ距離だ。

 

「余・・・余はわたしは・・・」

「ネロ、奴の言葉に耳を傾けるな!!」

「もう遅いぞ、周防達哉、いいや間に合ったというべきかな? さぁ賽の目をどう出す?」

 

ブン、とソーンの背後にドライブシアターのように映像が展開される。

冬木から第一特異点終了までの映像だ。

ネロが見た主要時間軸とは明らかにズレまくっていた。

状況は悪化している、あれ以上の試練が待ち受けていることは火を見るよりも明らかだ。

 

「もうここまで差異が出ているんだよ、ネロ、主要時間軸にように私は手加減したりなどしないよ」

「―――――――――」

「ネロ、アイツの言葉を真に受けちゃダメ!!」

「何がどう違うんだい? オルガマリー・アニムスフィア、状況が終了したらお前らは此処にはいられない。ネロはお前たちを忘れる」

 

そう、ソーンはネロに原作を見せただけである表と裏をそれですら地獄的だ。

だが、此処はそうじゃない。主要時間軸は最低限という状況ケースで可能性を作る世界。

つまり難度イージーだ。

なら戦える達哉がいる此処をニャルラトホテプがそのままの難度にしておくわけもない。

先を見せてはいないが、第一特異点は主要時間軸の比ではないくらい難度が跳ね上がり。

達哉が生死の境をさまよう羽目になった。

此処もそうだ。既に獣は目が覚めつつある。

酷いことになることは眼に見えていて。

それ以上の事がここから先連続するというのだ。

 

「さぁ選べよ、自動的な忘却に身を任せて親友と呼んだ彼らを見捨ててもいいし。忘れたくない失いたくないのだから下らない永遠に放り込むもよし、好きな方を選びたまえよ」

 

故にソーンはネロに突き付ける。

地獄の二択、くだらない永遠に彼らを閉じ込め安楽死させるか、或いは血反吐と出血と喪失を伴う終わらないマラソンに送り出すかをだ。

ベアは撃てなかった。ブランドンもまた撃てなかった。

だって大事な親友を撃てるわけがない。

死地へと彼らを送り出すという銃の引き金を彼女もまた。

彼女たちとの絆故に失いたくない。

そして忘れたくない一人に成りたくないという願望もそれを一押しする要因となった。

 

「余は、私は・・・忘れたくない・・・忘れられるものか。ソナタたちを送り出し失わせる目に合わせるくらいなら」

「アハハハハハハハ!! おいおい。まるであの時のたっちゃんのようだなぁ。なぁ喜べよ、周防達哉、二人目の理解者だ」

「貴様ァ!!」

 

焼き増しである。

あの時、そうあの罪の物語と一緒のシチュエーションだ。

忘れたくないから世界を滅ぼしかけるという愚行の焼き増し。

今、ネロは達哉と同じ間違いを犯した。

彼と同じ心理状況でだ。

故に理解者、同じ愚行を犯したことによる共通意識の保持である。

ジャンヌ・オルタの次に作った達哉の”理解者”と言う奴である。

アポロの右手が真っ白に染まる。

ネロの意識が落ちる、シャドウと合致したためだ。

ソーンはそれを見て嘲りを深めながら気絶したネロを抱き抱えつつ後退した。

 

「では黄金牢の都市で待つよ。カルデア諸君」

「逃がすかァ!!」

 

怒りに任せてアポロの放たれた収束熱線でモーセの如く切り開いたシャドウの群れをノヴァサイザーで最大時間停止し駆け抜け。

精神的疲労を怒りでガン無視し。達哉は自身最高の速度で孫六を横一閃に走らせる。

ソーンは左手でネロを抱えつつ。

右手のタクトを槍に変異させ達哉の剣を反らし、背後に展開した転移魔法陣に倒れ込むように入り込む。

ソーンの転移が完了と同時に魔法陣が消え失せて。

現出したシャドウは消え失せた。

 

「――――――クソッ!!」

 

達哉は悪態を吐きつつ左手拳で床を殴りつける。

そうも言いたくなる、こうも一方的にやられるとは思ってもいなかった。

ニャルラトホテプの脅威を知る者たちは改めて影の危険性と悪辣ぷりを再認識し心を検め。

対峙したことが無い者はあれほど悪辣かつ巨大な神と戦わなけばならないのかと思い、一度勝利を収めた達哉の偉業に戦慄さえした。

 

 

 

 

 

 

 

「駄目だったよ」

 

そして物陰でそれらを見届けていたゼットが携帯端末を耳に当てながら通信相手に言う。

だが通信相手は失望した様子は一切なかった。

 

「アナタも酷いお人だ」

 

何故ならこの予定こそ通信相手も望んでいたことだから。

剣を研ぐべく極上の研磨石を用意するのは当たり前で、それが使用されずに状況が終了する事こそ失敗だからだ。

だから酷いお人だと苦情混じりにゼットは言う。

ゼットは特段悲劇が好きではない。

寧ろ子供じみた英雄譚の方が好きだ。

それはさておき。

 

「さて始まりますよ、一足早い、ビーストⅥL&R討伐戦が、でもまぁ彼等なら乗り越えられるでしょう」

 

既に達哉のタガは外れてい居る、ニャルはその獣性に致命傷を負わせ勝てる隙を作った。

だからあとはカルデア次第だ。

 

「我ながら嫌になるよ全く」

 

そうぼやきつつゼットはばれる前に場を後にした。

ネロがさらわれた以上、ローマ市攻略をしなければならない。

地獄の底と化したローマでの戦いが今始まらんとしていた。

 

 

 

 




何とか書けたよォ・・・
疲れたので次も遅くなります、ようやく障害者保険の書類が発行されるらしいので。
それからの申請やらなんやらがありますんではい。

それとガングレイヴ、アニメ版も面白いからみんなみようぜ!!

そしてたっちゃん、悲しい海の記憶。
幼少期は多分。神社の裏山とかで遊んでいたと推測できるので海とか少ししか言ったことないと思う。
そのうち二つは飛行船墜落からの寒中水泳とか泣ける模様。






上姉様&キャットの出番はなし。
噂結界下で好き勝手やってりゃ祟り神扱いされて零落からの化け物コンボが成り立って兄貴の槍とたっちゃんの最大火力、眼鏡夫妻のツープラントンのどれかで出オチ終了なので。
抑止力 フィレ 人理からは選考外対象にされているので呼び出さていません。
ニャル的にもこの二人は蛇足なので呼んでいません。
もっとも第三の下姉様はアステリオスくんと一緒に頑張ってるけどね





付きつけられる二択。
今ここですべてをご破算にしてくだらない永遠に友を閉じ込めるのか。
或いは彼らをニャルが翳す戦争に見送り自分は退場するのかと言う二択となっております。
くだらない永遠か血反吐を吐きながらするマラソンか。
そのどちらかに親友たちを送り出さないといけないという二択。
無論正解は後者だが今のネロに彼らを見捨てて血反吐を吐きながらするマラソンに送り出せるわけも無くて。
しかもそこに忘れたくないという願いも合わさり
だったらくだらなくても都合のいい永遠をその絆と友情故に選んでしまったというわけです。

ニャル「ほれ、たっちゃん!! お前の理解者その2だぞ!! 喜べよ!」
達哉「(#゚Д゚)」


と言う分けで次回から地獄が始まります。
精神的地獄ですけどね。



ネタバレになるかも知れんが、メガテンV、聖四文字が物語始まる前に閣下に敗北してるのはワロタwww

あとFGOアーケードの方でプロット崩壊が発生しました。
FGOACは田舎住の自分ではできないので動画見て把握していたんですが。
なぜ。このタイミングで、ビーストⅥ?!
見事にネタ被りしたので、世界違い故の差異とニャルが手を加えたことで原作とは違うという独自路線でなんとかやっていこうと思います


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六節 「突入」

これ以上世界は成長する必要はない。
無限の月読の中でただ、眠っていればいい・・・


NARUTOより抜粋。


事態は最悪の方向へと転化していると言っても過言ではない。

ネロがニャルラトホテプの手中に堕ちたからである。

それと同時に樹内部の世界が膨張、現状このままいけば三日で破裂し。

人理焼却された地表をネロの望む永遠のテクスチャが流れ出すことになるとのことだった。

しかも最も最悪なのは、この時間軸と同時並行の類似世界にすら影響が波及しかねないという緊急事態である。

世界の時間軸やら境界線があやふや故に他世界にも影響が出ると試算されたのだ。

つまりこの年代以降の世界は樹内部の世界と同じになるという滅亡の瀬戸際である。

 

「それで私達は行くとして・・・」

 

カルデアは総出で樹内部に突入は確定だ。

そのために此処に来たのだし訓練も積んできた。

ニャルラトホテプとの対峙だっていつかは訪れる事も覚悟していた。

問題はない。

全員が出来うる限りの装備をしている。

 

「私は行けぬな」

 

カエサルはボヤく様に言った。

 

「カエサルさん?」

「マシュ嬢、私には大きな後悔がある、クレオパトラとカエサリオンの事がある。そこを突かれ無様を晒さないとは約束できないのだよ」

 

カエサルは自分はいけないという。

マシュは疑問で返すがカエサルは至極当たり前のように事情を言った。

妻と子に対する慙愧。

今でも拭えぬ傷跡だ。

マリー・アントワネットと同じではあるけれど。カエサルは彼女ほど強くはいられないという。

そこを突かれて足手纏いになるのは明白だ。

第一に彼は戦闘系ではない。

ローマ市内での戦闘はなるべく非殺傷が心掛けなければならぬゆえに大軍勢を率いて出の攻略ではなく。

少数精鋭での一点突破になるからである。

そういった意味ではダレイオスも突入組には参加できないのだ。

 

「だからローマからは、私、アレキサンダー、孔明が出るわ」

 

故に臨時ローマからはエリザベート、アレキサンダー、孔明の三人だけが参加することとなる。

孔明も戦闘系ではないが、宝具やスキルが足止めにもってこいだからだ。

アレキサンダーは孔明専属の護衛であり、エリザベートはネロの説得要員兼戦闘員でもあるからである。

 

「ネロを引きずり戻すまで臨時ローマの政治は任せるわよ。カエサル」

「言われずともそれくらいはこなすとも」

 

そういう分けでメンバーは決まった。

後は突入あるのみである。

ローマ市付近までは、万が一を考えダレイオス指揮する不死隊のエスコートを伴いつつ馬車で移動だ。

それはさておき。

全員が装備を確認。

特にオルガマリーは物騒だ、普段の私服に似せたアトラス礼装の上にSOEタイプのタクティカルベストにタクティカルベルト。

防刃防弾使用のロングコートだ。

ロングコートの裏には切り詰められたショットガンやらマシンピストルに各種手榴弾が括りつけられている。

無論、物騒さという意味合いではマシュも負けてはいない。

オルテナウス強化外骨格のメカメカしさは近未来兵士のようであり。

盾にも補助機、緊急使用のボルトバンカーに折り畳み式のカーボンアックスが二本盾に取り付けられている。

一方で我らが達哉はいつも通りのカルデアの野戦服と言う格好だ。

獲物が刀であるからゴテゴテと身に付けなくてもいいというのもある。

まぁ流石に、ジャケットの裏は数個のフラッシュバンが括りつけられている。

サーヴァント各々も準備は万端だ。

夜明けを待って出撃する。

故に眠気を覚ますために皆がエナジードリンクやら珈琲に手を伸ばし飲み干していた。

宮殿の空気はヒリ付き、戦がこのマッシリアで行われるような空気を醸し出している。

 

「夜明けだ」

 

そして達哉のつぶやきと同時に夜が明ける。

各々が武器を持ち立ち上がった。

出陣である。

 

 

 

ローマ市に近づくたびに、その樹の全容は大きくなっていく。

 

「まるで世界樹やアトラスのようです」

「ああいう連中って同じくらい巨大だったのかしら」

 

マシュの感想に同意しつつオルガマリーもぼやく様に言う。

嘗て世界を支えた樹やら巨人たちはあれほどに巨大だったのかと。

そのくらい大きいのだ。

現に雲を突き抜け天辺が見えぬし、ローマ市全域覆うように生え。

地表に露出している根も下手なビルディングより巨大である。

一応、現時点では神代は終わりつつあり、物理法則へと移行しつつある時代なのだが。

此処だけ切ってみれば神話の世界そのものだ。

魔術師であっても摩訶不思議と呼べる光景だろうが。

達哉は一切動じていなかった。

当たり前だ。自分の住む町が箱舟となって浮上し挙句、グランドクロスの完成によって地球の自転が停止、世界が滅亡するという神話染みた体験をしている。

その後も、竜が暴れるわ、また街が箱舟化するわ。モナドの深奥でニャルラトホテプと交戦するわで。

今更、衛星軌道上まで伸びる樹なんぞでは動揺しない。

 

「問題は樹内部の状況変化だ」

 

それよりも問題は樹内部の状況の変化である。

シャドウたちがより強力な物に変化しつつあった。

さらには内部の概念的圧力が強くなる一方と言う事であった。

そこにカルデアが焦った理由がある。

ロムルスの宝具の容量をもってしても持たせるのは三日が限度。

ただ段階的にその概念的ナニカは加速しており、実際のところは二日を切る可能性があったからである。

悠長に時間を浪費すれば、樹が炸裂。

樹内部の概念的ナニカが津波となってこの特異点を塗り替えてしまう。

さらに出力の上昇率から言って。この特異点に収まらないことも判明している。

つまり人理焼却を塗り替えて炸裂する永遠の津波が世界を襲い世界を塗りかえることは容易に想像可能であった。

だからもう時間はないという事である。

 

「前方敵影!! ちょっとあれって!?」

 

馬車の行者をやって馬を制御していたマリー・アントワネットが叫ぶ。

全員が馬車から顔を出して前を見て仰天した。

仮面党の構成団員の仮面をかぶった軍勢が待ち構えていたのである。

無論正規兵と民の混成軍だ。

 

「全部掃除したはずじゃ・・・」

「マッシリア以外にもいたという事だろうよ、どうするマスター!?」

「時間がない、ダレイオスさん、任せて構まいませんね!?」

「■■■■■!!」

 

がそんな連中相手している時間なんぞないのは火を見るよりも明らかと言う奴であるし。

こう言うケースを想定したがゆえのエスコートだ。

ダレイオスも不服とはいえ若者たちの道を切り開くとに異論はない。

咆哮と共に不死隊を薬中軍団へと向かって殺到させる。

無論、アイオーン教団も黙ってはいない。

ペルソナを使える物はペルソナを使って応戦し、そうでないものは薬物効果に身を任せて。

痛覚を消し飛ばした上での特攻である。

ダレイオスは達哉たちの馬車を守る様にかつ一点突破の輪形陣の変形系を敷き達哉たちの突破のみを重点とする。

ダレイオスも自分はついていけないと思ったからこそ成すべきことを全力で成し遂げんとしていた。

そして。

 

―無礼るなよ、薬中共、我が不死隊を崩せるものは一人のみだと知れ―

 

吹き飛んだ理性の中でダレイオスはこう咆哮する。

我が軍勢を崩せるのはイスカンダルのみだという矜持を掲げて突破口を切り開く。

ダレイオスの敏腕のお陰かカルデアは無傷で樹のふもとまで到着した。

 

「全員戦闘スタンバイ!!」

 

後はロムルスが樹を一部開き、内部に突入するだけだ。

全員が馬車内で武器をオルガマリーの指示通りに構えるが。

それでも不死隊を無視した連中が殺到する。

 

「所長、俺が降りてスキルを掃射「その必要はないよ」」

 

状況が状況だ。

此処は達哉が対応すると自分自身で言いかけた時だ。

鈴のような声に蠅の羽音が混ざったような声が響きたる。

いつの間にやらゼットが馬車の後部の天井の縁に座っていてそういってきたのだ。

誰もがいつの間にとも思う暇もなく、ゼットは縁から降りて大地に両足を付ける。

 

「多分、僕と君たちは此処で分かれることになるしもう二度と会うことも無いだろう、故に聞くよ。この先にあるのは君たちが最も望む物だ」

「ゼット、なにを・・・」

「言っているというのはナンセンスだよ。僕は見ているだけ、この援護も結末が変わるほど劇的な物じゃない、ただ君たちがどのような道を行くのかという行為に叩き落すための行動だ。だから礼を言われる筋合いはない、故に問おう、君たちが踏み込むのは楽園だ」

 

ゼットの真剣だ。悪魔の誘いのように見えて。それでも挑めるのかという問いである。

 

「逃げちゃいなよ、そうすれば―――――」

「死んで楽になるか?」

「そうだとも」

 

ここで逃げれば死んで楽になれるという達哉の問いにゼットは即座に頷く。

 

「第一君たちが関わる方がおかしいんだ。何のための抑止だと思う? この状況を収める為の抑止力だろう。それをこうまで好き勝手にやっているのはナンセンスだ。そこはボクは影と同じスタンスだよ。死人が今更出張って来て仕事も出来ずに。自分の好きなように動き、責務を君たちに押し付ける、醜悪極まりない。ロムルスがちゃんと動いていればこんな様にはならなかった。そんな先達の失敗を尻拭いするような真似をする義務は君たちにはない」

「論点を間違っているぞ、おまえ」

「・・・へぇ、どう間違っているんだい?」

「確かにお前の言う通り、先達が上手い事やってくれよとは常々思っている、特異点とはそういうものだからだ。だが死んで楽になるなんてのは話が違うだろう」

 

それこそ論点のすり替えであると達哉は言いきる。

ああ確かにもっと上手くやれよと思ったことはあると言えばある。

第一はどうしようもなかったという思いがあった。アマラから帰還した魔人が大暴れなのだ、英霊であっても手に余る事態であろう。

だが第二の此処は違う、その気になればロムルスが全てを片づけられるポジションにいたのは明らかであり。

そういう思いが強く出るのは当たり前のことだ。

だからと言って、死んで逃げれば楽になるのは違うだろう。

達哉にはやるべきことがある、なさねばならない贖罪がある、そしてここで生きると決めて此処にいるのだ。

故にどのような形であれど世界が消し飛ぶ様な事を容認できない。

マシュもオルガマリーも見捨てられない。彼女たちだって生きて平穏を手にしたいはずだから。

 

「そして、ネロとの約束もある、間違ったのなら殴ってでも止めると約束した」

 

そしてネロとの約束もある。

それだけで十分なのだ。運命に挑むなんて。

ゼットはため息を吐いて微笑み。

 

「そうか君たちには進む理由があるんだね、だったらこれが最後だ。中途半端は駄目だよ」

 

バッとゼットの背中から巨大な光の翼が生える。

 

「それが後悔となって奴の刃となるからだ」

 

そこに居るのは絶対的魔だ。

大いなる意志によって創られた者の一人。

悪魔と天使を俯瞰する浮遊する者にして明星の右腕。

偽りの神、這う蟲の王が顕現する。

 

「君たちの行く先に後悔の無い結末があるのを祈っているよ」

 

誰もが圧倒される魔はそういって羽根を羽ばたかせる。

それと同時に羽根から液体が射出され雨のように降る。

ただし慈雨ではない、敵の一切を腐食せしめ滅殺する神の怒りに匹敵する裁きであった。

不死隊を無視し達哉たちに殺到する敵を問答無用で腐食せしめ大地ですら腐らせる

これでカルデアに対する脅威はこっちに来れず。

またカルデアも退路が断たれた。

腐食した大地にはあらゆる呪詛による汚染が広がっているからだ。

 

「ではサラバ!」

 

そして魔は飛び去る。

唖然とする者たちを荒野に残して。

 

「いったいあれは・・・」

 

ゼットの力の一角を見たブリュンヒルデは唖然とする。

下手をすれば主神すら凌駕する強大な魔だった。

全力を出せば瞬時に、この特異点で起きていることを単騎で終わらせられる存在だ。

ハッキリ言えばサーヴァントでは話にならぬ化け物が。

今の今まで自分たちの感知を潜り抜けて人間の皮をかぶっていたことに驚愕する。

だが達哉はどうでもいいとばかりに叫ぶ。

 

「ロムルスさん!! 樹の開腹具合は!?」

『もういつでもいいぞ、そっちは無事であるか!?』

「ゼットのお陰で時間は稼げました。それでも急いでください」

『案ずるな周防達哉よ、決壊だけは避けねばならん、開いた端から突入してくれ』

「了解しました!! マリーさん馬車を開口部に突入させてくれ!!」

「わかったわ!!」

 

未だ直、全部明け切ったわけではないが。

下手に開通し切った状態に持つとそこから決壊しかねないとして。

突入を断行する。

孔に入れば即座に後ろが閉じた。

目の前が見えないため軍用のライトを使って照らす。

先は自動ドアのように達哉たちの進行速度に合わせて開閉、通り過ぎれば閉じていった。

 

『あーテステス、此方カルデア管制室、皆聞こえているかい?』

「聞こえていますよ、どうしたんですいきなり?」

 

行き成り通信テストを始めたカルデア管制室にマシュが疑問を提示する。

 

『君たちが樹内部侵入と同時に通信が遮断された。今ロムルス経由で魔力供給や電波などの各種通信、レイシフトアウトの機能、存在証明を実行中なんだ』

 

要するに樹内部は通信が不可能とのことだったが、ロムルスが何とかしてくれたとのことだった。

彼を経由しての通信なら可能と言う事である、ついでに存在証明とレイシフトアウト時の回収もだ。

 

『だが、それだけだ。その他の転送機能は全てが不全と言うか、ロムルスも一杯一杯でして・・・その所長の弾薬自動装填術式は機能しません』

「知ってた」

 

もうここまでくればオルガマリーも理解できると言う物。

虎の子の無限弾倉は使えないということだ。

もっともその為に、ベルトやらベストやらコート裏に予備の弾薬括りつけてきたのだから大丈夫と言う見込みではあるし。

それら装填訓練もみっちりとやらされている、故に些細な問題と言えよう。

 

「それより、いつになったら抜けるんだこれ?」

『あと一分ほどで抜ける』

 

かれこれ十分はドストレートに来ているのだ。

そろそろローマ市内に入ってもいいころ合いであると達哉はぼやき。

ロムルスはあと一分ほどで突入すると忠告する。

 

「全員戦闘態勢!! 突入と同時に敵が押し寄せてくることも考えられるからしっかりとね!!」

「オルガちゃん、一応、普通の馬で牽引しているし、私の宝具で彼らに具足を履かせるけどいいかしら?」

「いいわよ、許可するわ」

 

馬車を牽引しているのは普通の馬だ。

その馬の能力をマリー・アントワネットがブーストしているので通常の馬より遥かに早く馬車を牽引しつつ走れるのだが。

防御力は据え置きである。

故にやられた時にシャレにならないのは当たり前のことだから。

マリー・アントワネットの宝具で防御力を向上させるのは実に功利的なことだから、オルガマリーはノータイムで使用許可を降ろす。

その指示を聞いたマリー・アントワネットは百合の王冠に栄光あれを起動し。

硝子の防具と具足を馬に装着した。

そうしている間にも馬車は進みついにローマ市へと突入する。

その時である。

 

「なっ」

 

それは誰の驚愕だったのかは分からない。

タール状の液体の津波と、漆黒のスモッグが彼らの視界に広がっていった。

個の不意打ちには誰も対応できず、成すがままに飲まれてしまう。

馬車が横転しタール状の液体が全員を外に押し出し、まるで渦潮の中に放り込まれたかのように攪乱され。

皆が離れ離れになる。

そこで全員の意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒く淀んだ廊下をオルガマリーは気づけば歩いている。

姿形は現在の物ではなくかつての幼少期の姿でだ。

そこに見覚えはよくあった。

慣れ親しんでいると言っても過言ではない。

アニムスフィア家の本家の屋敷だったからだ。

幼少期を彼女は此処で過ごした場所だった。

いいことなんて一つもなかった。

来る日も来る日も魔術の特訓やら訓練、年頃のお遊びなんて容認されない。

そればかりかそういうのをやっている暇があるというのなら高等教育を叩き込まれた。

礼節は無論のこと経済学、帝王学、政治学。

大よそ年頃の少女扱いではない。

それでもこなしていたが周りからはため息が漏れるばかり。

同期に自分を超える天才がいるから比較され見下されていたのだ。

トリシャが同情していたのも気に障った。

此処に何一ついい事なんて無かった。

故に違う。

これは彼女の黄金期ではない。

構築途中だったそれらが一旦停止する。心の奥底から違うと思っているかこそだ。

ならば次はカルデアでのことだった。

オルガマリーの姿はカルデア赴任当初の物に変化していた。

無論こっちはもっと最悪だ。

やりたくもない役目を押し付けられ、天才がより身近になった物だから余計に比較されたし。

どいつもこいつも隙あらばと言う奴だ。

心の安寧なんてないに等しい。

食事をしてはトイレに駆け込む日々、マシュの純粋な視線も恐怖に変換されていた日々に安息なんてあるはずがない。

故に再度、景色の情景の構築が終わり、苦だけ捻じれるように変化する。

今度の姿は現在の物に変化していた。

今度は比較的現在か、達哉がいてマシュがいる、皆がいる自分の愛するカルデア。

 

「違う」

 

景色が軋む。

何故ならばここが黄金期かと言われればオルガマリーは否だと言うだろう。

確かに安息は手に入れた。

だが世界滅亡シナリオは現在進行形で進攻中なのだ。

これでいつ安息を得られるというのだ?

それでも誰かがこの安息にゆだねろとささやいてくるが。

これのどこが安息だと心の奥底から思う。

何故なら最悪な状況が続いているからである。

次の瞬間には達哉が死ぬかもしれない、自分のせいで。

次の瞬間にはマシュが死ぬかもしれない、自分のせいで。

次の瞬間には誰かが死んでいるかもしれない、自分のせいで。

地獄は続いている、戦争はまだ終わっていないがゆえに気が抜けない。

これのどこが安息だとオルガマリーは歯ぎしりしながら。

 

「消え失せろ」

 

と啖呵を切った。

それと同時に心のどこかに罅が入ったような音が響く。

だが頓着している暇はなかった、世界が砕けて、視界に広がるのは漆黒、漆黒、漆黒の海。

タールの様な液体が喉から胃に、胃を満たせば肺へと入って。

溺れ死ぬと思った瞬間、開ける視界。

立てられた棺桶の蓋が開きタールのような液体と一緒にオルガマリーが棺桶から出る。

 

「オウェ!! ウァ――――――ッ!!」

 

そのまま両膝と手を突いて、肺と胃に入ったタール状の液体を吐き出す。

何度か嘔吐しつつ、明滅する視界が戻ってくる。

そのまま何とか立ち上がりつつ、周囲を見ればシャドウの群れだ。

 

『『所長!! 所長!!』』

 

通信機からダヴィンチとロマニの声が聞こえてくる。

突然の通信断絶に向こうはパニック状態だった。

 

「五月蠅いわよ、ダヴィンチ、ロマニ、こっちは二日酔いみたいで気持ち悪いのよ、オウェ・・・・」

『す、すまない』

『ちゃんを付けてくれ給えよ、所長』

「そんなことはどうでもいいわ、状況は?」

 

オルガマリーはコートの袖からショットガンを取り出す。

ベネリM4 ソードオフ仕様だ。

それはさておき状況を聞くと拙いことになっていた。

 

『達哉君とは辛うじて連絡が取れた。今彼は夢から脱出の手段を模索中。他とは完全に通信が断絶しています』

「夢? アレの事かしら?」

『分かりません、全員自覚無しに黄金期の様な疑似体験空間に放り込まれているみたいでして。達哉君のように自覚がないと通信もままならなくて』

「全員の位置は?」

『すいません、それも不明です、脱出しないと完全な特定は不可能みたいなんです』

「全員バラバラってわけか・・・最悪」

『だけど所長はどうやって脱出したんだい? サーヴァントですら捕らわれる疑似体験空間なんだよ?』

 

ダヴィンチは疑問だったことを口にする。

自覚していても脱出困難な疑似空間だ。

達哉でさえ疑似空間の中に捕らわれているのに。

明らかに達哉よりもメンタリティが下のオルガマリーが何故、一番に脱出できたのか疑問だった。

 

「ダヴィンチ、私に過ごしたい黄金期なんてないのよ、現状も糞だしね」

 

オルガマリーが脱出できたのは単純に、過ごしたい黄金期がないという事だけだった。

屋敷で過ごした幼少期もカルデアで達哉と出会うまで過ごした期間も糞であり。

達哉やマシュという親友が出来た今でも、世界滅亡が隣り合わせと言う糞の様な時間である。

故にすぐに脱出できただけのことだ。

さらにオルガマリーは自分の身に起きたことから。その疑似体験がどういうものかを割り出した。

要するに個人が持ち合わせる幸せの絶頂をアレンジして投影する空間だ。

ずっと続いてほしいという時期を投影し疑似体験させるものなのだろう。

そして。

 

「疑似体験中は本人のシャドウが表を代行するわけね。夢から覚めさせないように」

 

そして疑似体験中の人物を守るのはその人物のシャドウと言うわけだ。

一応本人が不在であるため、下手にシャドウを撃ち殺すとなると疑似体験中の人物を廃人にしてしまうとのことだ。

最悪である、シャドウはどれもこれも似たり寄ったり。

形は複数種類存在するが、言ってしまえば両手指でカテゴライズできる種類数でしかなく、あとは色違いなどで没個性的だ。

故に誰が誰なのかを見極められない。

襲い掛かってくるシャドウに結局発砲できず、なんとか潜り抜けながら漆黒の帳降りるローマ市を走る。

 

「ロマニ、シャドウの一番少ない場所は!?」

『中央の宮殿です、そこが一番シャドウ反応が少ない』

「分かったわ。この数シャレになっていないから中央に向かって待機するわ」

『ですが、中央には巨大な魔力反応とシャドウ反応があって、そこも危険なんですよ!?』

「誰かを撃ち殺しましたなんて事よりはマシでしょ!!」

『おいおい、そんな覚悟も無しに突っ込んできたのかい? オルガマリー・アニムスフィア?』

『『「ニャルラトホテプ!?」』』

 

少しでも犠牲を出さないために中央に急ぐオルガマリーを嘲笑うが如く。ソーンが通信に介入してくる。

以前も第一特異点の最後の惨劇を生中継出来た能力があるのだ。

これくらい赤子の手を捻るよりも簡単な事である。

 

『たっちゃんは選び続けた。秤にかけて大事な方を取って殺したのに。お前は随分都合のいい道を行きたいみたいだね。なら』

『シャドウが移動を開始。所長、早く中央に!?』

『アハハハハハ、此処がどういう場所か。蠅王が事前に忠告してくれただろう? 中途半端は駄目だとね!! たっちゃんを理解したいなら。彼が味わった殺人の選択と言う苦悩と苦痛も理解しなきゃ!! アハハハハ!!』

「このッッ!」

『だが今は気分がいい、一つだけ良いことを教えてあげよう。周防達哉とマシュ・キリエライトのシャドウは此処にはいないよ、安心して殺すと言い』

「馬鹿言うな!! 一般人やサーヴァントの皆のシャドウは逆説的に居るって事でしょソレ!!」

『そうだとも、だが今更、死者に気を使ってどうする? さらに言うならば此処がこんなことになったのは一般人のせいでもあるんだよ?』

 

オルガマリーの反論にも帰ってくるのは嘲笑のみだ。

死者であるサーヴァントに今更気にしたってしょうがないではないかと。

さらに言えば。こんな状況になったのはサーヴァントやネロばかりのせいでもない。

都合のいい事に乗った一般大衆にも責任があるのだ。

そんな連中なんぞ気にしてどうする?

気にしていれば自分か親しい人が死ぬ羽目になるぞ。

故に選んで殺せ、嘗ての周防達哉のように、夢を持つ人を踏みにじり殺せ。そして理解しろと言っているのだ。

 

「~~~~~~~~~ッッ!」

 

こう言うやり取りをしている間にも、シャドウの群れは増大している。

苦渋をかみ砕き飲み干す勢いで、オルガマリーはショットガンを接近していたシャドウにぶっ放す。

響く断末魔と同時に。

 

『なんで・・・俺はただ幸せに・・・』

 

シャドウの断末魔は本体の断末魔だった。

シャドウが砕かれるということは黄金期も粉砕されるということにほかなら故に。

唖然となぜ終了するのか呆然としながら。死んだのである。

 

「ラプラァス!!」

 

ギチギチと心が罅割れていく。

それを象徴するかのように、呼び出されたラプラスには全身にひびが入りタール状の液体を垂れ流していた。

ラプラスは大鎌で敵を引き裂きながら。真紅の瞳でオルガマリーを見る。

 

―これがお前の望むことなのか?―

 

とだ。オルガマリーの渇望、それは決まった楽な未来を歩いていきたいといものである。

それを自らかなぐり捨てたがゆえに、ラプラスの制御が離れつつあった。

だが今のオルガマリーがそんなことを理解できている筈もなく。

ショットガンを乱射、血路を開き走り出しながら弾切れになったベネリM4を敵シャドウに投擲。

自動装填機能は機能停止だった。ショットガンの予備弾はそれ在りきなので無用の長物と化したがゆえに今更手元に残す意味はない。

そして人型の巨人タイプのシャドウは顔面にそれがぶち当たりタタラを踏むのを見ると。

付いた踏み台に、後ろ越しから引き抜いたリペアラーのマズルスパイクで相手頭部に右フックを叩き込みつつ。

引き金を引いてマグナム弾を叩き込み。

駄目押しとばかりに右足による空中回し蹴りを叩き込み巨人型シャドウを張り倒す。

断末魔は先ほどシャドウを薙ぎ払った時と同系の物である。

 

「ッッ、クソッ!!」

 

悪態を吐きながら、張り倒した巨人シャドウの背後に着地。

さらに左手にもリペアラーを持ち、背後にはラプラスを維持したまま。

彼等の断末魔を振り切るかのように、或いは聞かない様に、オルガマリーは走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さぁ地獄の釜が開いたぞぉ。
全員突破できるかなぁという分けで今回は此処まで。
オルガマリー そもそも黄金期と呼べる時代がない、今が黄金期ともいえなくはないが糞のような状況であるためそこから脱出し達哉たちと過ごしたいと思っているため、閉じ込められても即座に脱出できた。
達哉、達哉的には戻りたいが、罪に背を向けないと誓い。そして失ったのだと受け入れていた為。悪戦苦闘中
エリザベートや孔明にマリーアントワネットや初期カルデア組のサーヴァントも時期に気付く
まぁあとはどっぷり嵌っていると思っていてください。
詳細は次回からとなります。
ゼットも此処で退場です、たっちゃん達との再会は第二部になるかなぁと思います。



あと次ですが、正月休みで母の鬱病が悪化したたことや、次話はまだ書いていないので遅くなると思います。
本当に申し訳ありません。

では次回でお会いしましょう。





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七節 「黄金牢Ⅰ」

私は思い出にはならないさ


FF7ACより抜粋。


達哉は目を覚ました。

 

「ここは・・・」

 

周囲を見渡す、そこは母校の七姉妹学園だった。

かつて自分が所属していた教室である。

 

「・・・何が起こって・・・」

「情人、どったの?」

「リサ・・・」

 

目の前にはリサがいた。

ありえない光景である。

だって彼女は、もう自分の事を忘れているはずだから。

 

―そんなことはない、自分はあの事態}jhjfghmcンbdjmbj、hjmjgk-

 

達哉の脳内にあふれ出す、ありえない記憶。

ペルソナ使いなのだ。外部介入は手に取る様に分かるゆえにそれを跳ね除ける。

 

「栄吉が待ってるよ、バンドの練習するんでしょ?」

「・・・」

 

ああ確かに神社で舞耶を閉じ込めるという愚行を止めることが出来ていれば。

あの時、ロンギヌスの一撃をよけていれば、或いは忘れていれば。

趣味で栄吉のバンドに参加していたかもしれない。

涙が出そうになる、だがありえないのだ。

この光景ももうない、自分自身で選択して壊したのだからありえないのだ。

 

「悪い・・・リサ、少し一人にさせてくれ」

「情人・・・。さっきからおかしいよ?」

「ああ、色々、あってなうん、ガードレールにバイクをこすりつけてな」

「情人が? 珍しいこともあるもんだね」

「動物が出てくればそうなる・・・、だからちょっとな、栄吉にも言っておいてくれ」

「うんわかった、私もダンスレッスンあるから、じゃね」

 

そういって去っていくリサをしり目に達哉は動いた。

急いで駐輪場に向かって、バイクを走らせる。

行く先は全ての元凶のあの神社だ。

こればかりは感である。状況的に都合のいい夢に放り込まれていることくらいは。

ペルソナによるレジスト以外にも、右腕を見ればわかる。

何故なら奴の刻印がべっとりと刻み込まれているからだ。

故に自分は失敗し、罰の物語、向こう側で孤独に過ごした日々、カルデアに来て未だなお世界の危機に挑んでいる方が夢ではなく本物だと気づけたのだ。

都合のいい奇跡は無いとニャルラトホテプに散々教え込まれたのも聞いている。

きっと皆は外で戦っているはずだ。

自分も夢から覚めなければならないと、その手段を模索する。

その時だった。

 

『所長!! マシュ!! 達哉君!! みんな!! 誰でもいいから応答してくれ!!』

 

不思議なことに外部からの連絡が届いたのである。

 

「ロマニさん?! 状況は?!」

『達哉君!? 良かった・・・ローマ市に入ると同時に存在証明以外の追跡手段と通信手段が途切れたんだ・・・こちらからでは状況を掴めていない何があったんだ!?』

「俺も分からない・・・、いま故郷にいる」

『珠閒瑠市にかい!?』

「・・・多分偽物だ。リサも栄吉もみんないる、そんなことありえないのに・・・」

『・・・仮想体験って奴か・・・』

「おそらく、しかも洗脳のオマケ付きだ。自覚無しだったらヤバかった・・・」

 

自分自身の黄金期のアレンジ再生。しかも精神操作付きだと達哉は推論を述べる。

自覚があれば即座にレジストくらいはできるが。出方が分からない。

それでも十分に拙い、自覚がない場合問答無用で脱出不可能な甘い甘い夢だ。

 

「こっちは脱出手段を模索している、俺の事はいい。こうして繋がっているんだ。皆への呼びかけを行ってくれ・・・所長やマシュが拙い」

 

達哉は決めている、もう目を背けないと誓った自分にも罪と罰にも。

だから自覚は出来た。

だがオルガマリーやマシュには効果覿面のトラップだ。

まだ人生半ばの彼女たちにこれをレジスト出来るかと問われれば疑問符と心配が先行する。

 

『わかった・・・・っと所長が脱出したみたいだ』

「所長が? こっちに通信繋げられるか?」

『余裕がない!?』

「ならいい!! こっちで何とかする。・・・まてよ、所長は脱出したんだよな?」

『そうだけれども・・・』

「なら令呪が使えるはずだ。ダメ元で一人一画を使って自覚を促すなり引き摺り出すことは可能なんじゃないか?」

『その手があったか!』

「無論、安全地帯に移動が大前提だ。そっちは所長のサポートを重点的にお願いする」

『わかったよ! 所長もニャルラトホテプの手で一杯一杯だからお言葉に甘えるけどいいね!?』

「それでいい!」

 

オルガマリーは無事に脱出した。

バイクのハンドルを切りつつ達哉はオルガマリーに関しては心配する必要性はあまりないと割り切りつつ。

自分も急ぐ。

装備や備品はカルデアで揃えているため、そのまま直行する。

愛車に跨るのは大よそ一年ぶりだった。

ライフラインが寸断され燃料ですら希少だった故に乗っていなかったからである。

IFを再構築したがゆえに悪戯されていると言う事もなく。達哉のバイクは機嫌よさげに快調に飛ばしていくが。

心は沈殿していくだけだった。

神社の前に到着する。

自覚症状が出て来たのか、達哉の衣類はカルデアの野戦服に変わり、腰の剣帯には鞘に収まった自身の愛刀である孫六が収まっている。

神社の階段脇にバイクを止めてヘルメットを乱雑に脱ぎ去りつつ装備チェック。

問題なし、続けて装備チェック、問題なし。

 

「ハァー・・・・ハァー・・・・」

 

だが動悸は激しい。

まるで自分自身の口内に銃を突っ込んで引き金を引かんとする自殺者のそれだ。

嘗ての理想郷か今の地獄か。

どっちにも大事な物はあってそれを選ばなければならないのだ。

普通なら人は前者を選択するだろう。

だが達哉は違った。誓ったのだ。もう自分自身にも犯した罪にも背を向けないと。

今あるがままにあの世界で生きるのだと決めていた。

だがそれでもキツい物が在る。

幾ら覚悟していたところで、キツい物はキツい、痛いものは痛いのだ。

これを痛みとして感じないのはよほど過去に執着がないか、元から人格が破たんし過去を観ない光の奴隷くらいな物だろう。

だが達哉は凡夫だ。

剣の腕は事前に鍛えていたからものになっているだけであって実際は平凡。

幾ら覚悟を決めていたからと言って痛みを感じないほど彼の感性はどこぞの英雄のように破綻しておらず、故に平凡だ。

魔術回路なんてものもない、レイシフト敵性もマスター適性もペルソナと言う外付け回路があるからできているだけで魔術師としてみれば適性以前の問題である。

彼は何処までいっても凡人なのだ。

されど揺れ行く流れの中で抗うさまはある意味超人と言っても過言ではない。

人理の婿、人理の花嫁なんて主人候補生も夢のまた夢であり、そんなものないゆえにすべての英雄と心交わすなんて不可能だ。

だがしかし、現に見たくも無いもの、流れに身を任せる局面でも懸命に足掻いている。

故に心が軋み、自然に涙が流れようとも、彼はそれを拭って人間のままに歩みを進める。

その姿は、どんな補正や肩書きよりも眩しく見える超人のような生き様だろう。

そうそれこそ、蝶や影の求める物なのだ。

補正の無い人間が超人足り得るかどうかという実験に置いて、特権を持たぬ周防達哉を選んだのにはそれこそ理由なのである。

故にある意味、そういった意味で達哉は神社に誰がいるのかを想定できてしまった。

初恋の呪いは呪縛と言って過言ではない。

ああ彼女は自分と分かたれた。今頃、幸せになっているだろう。

だがそれとは別の慙愧が湧き出てくるのは当たり前。

此処はそういった慙愧ですら黄金に変える牢獄だ。

故に――――――

 

「久しぶりね、達哉君」

「だろうなとは思っていた・・・・」

 

現れるのはどうしようもないもの。

つまり天野舞耶であった。

 

「ねぇ達哉君、此処の何が気に入らないの? もう君を傷つける人はいない、影は無いんだよ? 仮面党も新世塾もラストバタリオンもなにも」

「ああ、何もない、なにも無いんだよ」

「?」

「こんなもの現実逃避の産物だ。自分の慙愧の意識が生み出した疑似体験空間だ。無様な自慰行為でしかない。そんなことしている間にも現実は動いているんだ。だから此処には何もないんだよ・・・・」

「私も偽物だって断言するの?」

「するな、何度もいうが此処は俺の慙愧の空想上の産物だ。だからアンタも偽物なんだよ」

 

そう全ては偽物。

この黄金牢は本人が過ごしていたかった最全期をアレンジし無限に再生する黄金の牢獄だ。

逆に言えば閉じ込められた本人の空想上の産物でしかない。

それがないオルガマリーは即座に脱出できたのがそれを証明している。

所詮は虚しいものでしかないのだと。

第一に達哉は誓っている、もう自分にも犯した罪にも背を向けないと。

だからこの黄金牢に留まるということはその誓いを汚す行為でしかない。

だが正しい事は痛い事なのだ。

人間、気合や根性で慙愧を拭えれば苦労しない。

幾ら誓っていても完全に切り離すことは不可能とも言ってい良いのだ。

だから。

 

「でも本当は出たくないと思っている」

「ッ」

「幾ら言葉にしても分かるわよ、ずっと本当は此処にいたいって思っているでしょ?」

「それはそうさ。あの日俺たちが目指したのはこの結果だから」

「なら―――――」

「だが、そうはならなかった。ならなかったんだよ! 舞耶姉ぇ!!」

 

叫び拒絶する。

ああ普通ならそうはなっただろう。

だがそうはならなかった。

舞耶は槍に刺されて死んだ。自分たちは忘却と言う都合のいい選択肢選びながら、自分自身は拒んだのだ。

過去には戻れない故に今がある。それを否定するということは、自分の罪から逃げることだから。

だからそうはならかったのだと引きはがすほかない。たとえどれほど望もうとも自分自身で台無しにしたのだから。

 

だから―――――――――――

 

「そこをどいてくれ、舞耶姉ぇ・・・」

「無理よ、だってアナタは十分苦しんだじゃない、だから見捨てられない」

 

刃を向け、そう告げるが、切り離せない以上。

戦って切り離すしかない。

 

「そうだよ、情人は苦しんだよ。もう良いんだよ、頑張らなくたって」

「リサ・・・」

「銀子の言う通りだぜ、たっちゃん、十分じゃねぇか」

「栄吉」

「無理しなくていいんだよ」

「淳」

 

物陰から現れるのはリサと栄吉に淳だ。

だが先ほども言った通り、これは達哉の諦めたいという気持ちその物の具象化である。

 

「それでも、大事な物がまた出来たんだ」

 

だが失ったがゆえに得たものがあった。

それを守りたいという気持ち、この困難を乗り越えて笑い合いたいという気持ちに嘘はない。

 

「だからその代わりに私達を切り捨てるの? 達哉君?」

 

舞耶がと言う、新しく出来た物の為に古いものは切り捨てるのかと。

だが何処までも達哉の視線は真直ぐに彼女たちを見据えて、こう宣言する。

 

「切り捨てもしなければ、忘れる物か。全部背負っていく!! だから―――――思い出の中でじっとしていてくれ」

 

切り捨てる事なんて出来る物か。忘れる事なんて出来る物か。

故に背負っていく、この重さを背負って罪と罰を抱きしめて歩いていくのだと宣言し。

故に思い出の中でじっとしていてくれと言う物の。

 

「「「「嫌だよ」」」」

 

ギチギチと牢獄が駆動音を流す。

達哉の覚悟によって今、切り捨てながらも受け入れるという矛盾を成したことによって達哉は黄金牢から脱出しかけていた。

だが逃がさぬとばかりに黄金牢は駆動する。

オルガマリーの時とは違い彼の後悔の念は大きいゆえに明確な脅威として具現化する。

四人の形が溶け合い歪に融合していく。

それは四人が組み合わさった黄金色の人型だった。

嘗てのニャルラトホテプの化身、グレートファーザーに酷似している。

元が達哉のシャドウだからかご丁寧に黄金色のメタル化使用だ。

さしずめグレートメタルフレンズとでも言うべきか。

物理攻撃は無効だろう。

 

 

「―――――――」

 

だが達哉が臆することはない、もう乗り越えた物だ。

後は夢の奥底にしまい込むだけである。

孫六を鞘から抜いて担ぐように上段に。

何時もとは違い一撃重視の構え。

呼び出すのは最も攻撃力の高い。

 

「来い、サタン!!」

 

サタンなのは道理だろう。

射出される光子砲、それと共に射出されるグレートメタルフレンズの攻撃。

各々が得意にしていた属性の本流だ。

それと光子砲が衝突し拡散、周囲をなぎ飛ばす。

次手既に達哉は選択していた。

衝撃波に抗いながら全力疾走。グレートメタルフレンズに肉薄。

 

即するわ、即ち魔剣・兜割り―――――――とはいかなくともアマラであった悪魔召喚師に伝授された技がある故だ。

 

即ち合体スキルならぬ合体剣。

一定以上の歴史がある剣であるならばできるだろうとのことだった。

悪魔召喚師とは違い、わざわざ悪魔と連携を図らなくとも、ペルソナで十分である。

ただし連続しては使えぬ。

刀が持たぬであろうことは明らかだが。

だがペルソナパワーを最大限に活用できる。

ペルソナをアポロにシフト、グレートメタルフレンズは次射の体制であるが。

 

「ノヴァサイザー!!」

 

ノヴァサイザーによる時間停止5秒が起動。

同時にコンセレイト乗せたマハラギダインが孫六に宿る。

それでもと、炎を身に纏いながら振り下ろされる孫六の峰をワザとアポロのゴットハンドで殴らせ加速。

ある意味全部自分がやっていることなどで、本来は複数人が神がかり的連携でやることを一人でこなし切る。

振り下ろされる刃は断頭刃の如く垂直に、グレートメタルフレンズの鋼の如き体を溶断して炸裂した。

 

『―――――――――――』

 

真っ二つにされたグレートメタルフレンズは唖然とした。

そのまま黒く染まってグレートメタルフレンズは掻き消える。

達哉としても過剰な対応を取ってしまったと思うほどのあっけなさだ。

元々達哉が覚悟を決めて受け入れていたというのもあるのだろう。

これならアポロでボコり倒す方がよかったかと思うほどだ。

達哉の心に入り込み黄金牢を形成していた中核であるグレートメタルフレンズが倒されたことからか、達哉の黄金牢が砕けていく。

それと同時に、目が覚めれば案の定、オルガマリーと同じくタールに溺れかけながら目が覚めて。

棺からたたき出される。

タールを吐き出しながらも、アポロを維持し、襲撃に備える。

 

『達哉君。無事かい?』

「ええ何とか・・・ところでダヴィンチちゃん、所長は? 後彼女が誰に令呪使って起こそうとしたのかも知りたい、無駄撃ちはしたくないからな」

『何とか・・・中央に移動は完了したよ。あと令呪の件だけども、所長は戦力優先にしてクーフーリン、ブリュンヒルデ、シグルドに使ってたって、あ・・・』

「あってなんです、問題が?!」

『その問題が起きたんだ!、所長のすぐそばに強力なシャドウ反応を検知、なんだこれ!? クーフーリンクラスの霊基測定なんだけども!?』

「急いで所長につなげ、状況を知りたい!」

 

自分の黄金期の次は所長の危機だ。思わず達哉も敬語をかなぐり捨てる。

 

『ちょっとなに!? 今自分の事で忙しいんだけども!?』

「俺だ達哉だ。今すぐそっちに向かう、耐えられそうか!?」

『タツヤ? 目が覚めたのね! 遅滞戦術はしているけれど、くぅ!?』

「ダヴィンチちゃん!! 最短ルートを寄越せ!!」

『でもね、達哉君、最短ルートは敵がごった返していて・・・「やり様は幾らでもある、早く出してくれ!!」分かった』

 

オルガマリーの様子から状況は拙いと達哉は判断し、最短ルートをダヴィンチに要求。

無論最短ルートは敵によって埋め尽くされているが。

身体能力をフルに使えば最小の殺傷で抜けられるであろうことを算出し。

躊躇なく走りつつ、マシュ、宗矩 書文の三人に令呪を切って起きるように仕向ける。

令呪の残弾がある以上、戦力として成り立つ存在を優先するのは当たり前の話しだった。

長可は地力で即座に起きれると達哉は信頼していた為、此処はあえて確実に宗矩と書文を起こしておきたかったゆえである。

故に達哉は走る、今度こそ取りこぼさないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてシグルドの話を語ろう。

結果を言えば彼は令呪の効力を受けながらも目覚められなかった。

なにせ二度も失敗しており、その慙愧の大きい差は達哉ほどではないにしろ大きい。

加えて、事前にブリュンヒルデとカルデアで再会してしまった事も大きく目覚めを妨げる要因となってしまった。

人は一度、甘く美味な物を味わうと癖になると言ったように。

カルデアでの再会が最悪の悪手となって眠りから起きることを妨げてしまったのである。

それほど奇跡的なのだ。愛する者との再会と言う類は、まして彼等は主要時間軸でのカルデアでの生活を忘れている。

それも一押しになってしまっている。

愛する者との再会と日常はそれほどまでに甘く麻薬的だ。

抜け出す困難が補強されまくって。

ニャルラトホテプが主要時間軸で聞いていたシグルドの三回目は間違わないという言葉受けてか。

シグルドはブリュンヒルデと共に黄金牢に閉じ込められ前述の要素も相まって抜け出せないでいるし。

そも自覚すらしていなかった。

ある意味で達哉とシグルドの境遇は似ている。

彼もまた孤独だった。ブリュンヒルデと出会うまでは。

彼女と出会ったからこそ彼の世界は開けたと言っても過言ではない。

達哉が神社で彼等と出会ったように。

シグルドもまた。あの燃え盛る館で彼女と出会ったがゆえに世界が開け。

そして両者ともに世界は喪失を強要したのだ。

今、シグルドが立たされているのは忘却を選ぶか否かと言う達哉と同じ状況だ。

幻想の幸せを棄却し、事が終わればまた離れ離れになるという選択肢を取るか否かと言う状況なのだ。

だが、それゆえに、シグルドは無自覚気味に幻想を選んでしまった。

先も言った通り。その都合のいい幻想に抗えるほど人は強くはない。

なぜ現実を選ばなかったと非難している奴はそういう選択肢にあったこともない無知蒙昧だろう。

話しがズレたので修正させてもらう。

それほどまでに。彼にとって取り戻したい物だったということに尽きる。

あの時の黄金期を取り戻したいと切に切に願っていたのだから。

それが此処にある、故ソレを取らぬ理由がないのだ。

だから三度目の挑戦にも失敗した。

今度はニャルラトホテプがネロを介しての直々のデザインだ。

脱出できるのは本当に受け入れて猶も足掻く者だけなのである。

それだけでも難度は知ってしかるべきだ。

故にシグルドという大英雄も神格に匹敵するブリュンヒルデも影の手にからめとられて脱出が出来なくなってしまっているのである。

ここはそういう過去の黄金期への思いを抉り出し牢獄とする。万人が欲す永遠が此処にあったるのだ。

では現在二人がどのような状況下に置かれているのか語ろうではないか。

 

――――――――――

 

声、声がしたような気がして起きた。

生まれたままの姿。要するに全裸状態のシグルドはベットから半身を起こす。

 

「・・・誰かに呼ばれ様な気がしたのだが」

 

声は幻聴か或いは気のせいかと修正され。

ああ気のせいであるとシグルドは思った。

朝はまだ肌寒く昨夜の熱気は消え失せている。

さっさと普段着に着替えて、シグルドは寝室から出て館の食堂へと向かう。

嘗て炎上していた屋敷は炎がなくなり、今はシグルドとブリュンヒルデの二人で過ごしていた。

余りにも広すぎて使用人が欲しい所なのだが、今はまだ二人での時間が欲しいということで。

館の住人はシグルドとブリュンヒルデのみとなっている。

苦はあるが辛くはなかった。

そして食堂に降りるとすでにブリュンヒルデが朝食の準備を終えて。

食事の乗った皿と具入りのスープの入ったお椀に葡萄酒の入ったグラスをセットしている所だった。

 

「おはようございます、シグルド」

「ああおはよう、我が愛よ・・・、ところでそれは?」

 

シグルドがさらに乗った朝食を見た瞬間ノイズが走る。

ノイズは気のせいかと思いながら、皿の上に乗った食事は黒パンを広めに切った物に刻んだ干し肉を乗せて焼いて。

細かく刻んだチーズがたっぷり乗った物だった。

確かに見たこともあるし食ったこともあるような気がして。

 

―修正、そんな事実はありません―

 

またもやノイズが入るが気にもならない程度だったので気のせいだったかと思い至る。

 

「私の創作料理です、昨日いい干し肉とチーズが手に入ったので」

「そうか、それは楽しみだな」

 

愛する妻の手料理だ。

刻んだチーズも焼かれたパンと干し肉の熱に当てられてトロトロに解けている。

クロックムッシュと言うれっきとした未来の料理でありオルガマリーがブリュンヒルデに教えた物なのだが。

そういった事実でさえ捻じ曲げられていしまっており気づけない。

 

トロトロのチーズと程よく焼かれた干し肉とパンの組み合わせはバッチグーだ。

さすがだと褒めるとブリュンヒルデは小恥ずかしそうにしていていた。

そんなところも愛らしいとシグルドは思う。

 

「そう言えば今日の予定は」

「ふむ、森の方に魔熊が出たそうでな、その討伐依頼位だ。うまくいけば昼過ぎくらいには帰ってこれるとおもう」

「・・・では、昼餉は向うで食べますか?」

「いいや戻って来てから食べようと思う、手間を掛けさせるが許してくれ。我が愛よ」

「気にしてませんよシグルド」

 

こう言った感じで彼らの日常は続いていた。

彼等が一度得て、いまだに求める黄金期。

失ったにもかかわらず取り戻せると思い夢に耽る姿は滑稽かなと言う物であろう。

そして現実では。

 

 

「ハァーハァー・・・・」

 

オルガマリーは何とか敵陣を突破し宮殿へとたどり着いた。

宮殿と言うよりも階段が天高い玉座までに続く大階段が存在するだけで宮殿と言っていいかは疑問である。

そのすべてが黄金で構築されている。

まるで天に上る為の階段だと思った。

シャドウの連中は宮殿の一定範囲に近づけないのか、或いはオルガマリーを見失ったからか、ニャルラトホテプの采配故か。

宮殿周辺にはシャドウはいない。

もっとも階段の先の天上の杯の近くには巨大な反応があるという。

神霊、シャドウ、英雄の反応がごちゃ混ぜになって判別不可能と言う事だった。

だから一旦、オルガマリーはボロボロになったコートを脱ぎ捨て。

銃弾を使い切った。或いは防御やら殴打武器として使用し使い物にならなくなったマシンピストルやアサルトライフル、ショットガンを無造作に捨てる。

残るのは愛銃のリペアラーのみとなった。

マガジン数に余裕はあるし、接近戦も想定した作りになっているため、此処まで耐えれたのはリペアラーの二丁だけだ。

此処からはこの拳銃を二丁使ったガン=カタとでもいうべきアマネやエミヤと共に練り上げた武術が物を言う段階へと入っていく。

そして―――――――――

 

殺気

 

嫌な予感がして頭を下げて姿勢を低くしつつ真横に飛ぶ。

刹那の前に自分の首があった場所を光の刃が通り抜けつつ壁を抉り。

さらに返す刃でオルガマリーの居た位置に光の刃が振り下ろされて地面に食い込む。

対応が遅れれば、自分の首は跳ね飛ばされていたか、或いは首狩りを回避しても返す刃で縦一閃に引き裂かれていたかのどちらかであろう。

回避行動終了と同時に強襲者へと二丁の銃口を向けて銃弾を放つ。

発砲音と同時に金属音。

振り回された光の刃が.357マグナム弾を切り落とす。

そして相手を正しく認識してオルガマリーは驚愕した。

襲ってきたのは自らのペルソナである「ラプラス」だったからだ。

黄金牢を脱出して移行、罅割れた全身の傷が広がりタールの様な漆黒の液体を傷々から垂れ流している。

 

「なんで・・・」

 

当然んの疑問を口にする。

それと同時に脳裏からラプラスの反応が消える。

完全に制御が外れていた。

 

「だってあなたが私を拒絶したんでしょう」

 

ラプラスがオルガマリーと同じ声色で喋る。

覚醒時に口上を述べた時とは明らかに違う反応だ。

ケタケタとラプラスが嗤っている。

そしてついに罅が結合の限度を迎えたのか剥がれて床に落ちた。

陶磁器が罅割れて、ラプラスが持つ大鎌以外が砕けて外装がはげ落ちていく。

ペルソナとはもう一人の自分である。その自己を成り立たされている要因から目を背けた時。

ペルソナはシャドウとなって己自身に牙をむくのは道理と言えよう。

オルガマリーの渇望それは「決まった楽な道を歩みたい」である。

故に覚醒したペルソナはラプラスなのだ。

ラプラスの悪魔という提唱された概念の悪魔の具現となっている。

だがあの黄金牢でそのチャンスを不意にした。

全ては糞だからとレッテルを張り付けて、まるで食わず嫌いのように拒絶し脱出した反動で。

自信の渇望から目をそらしてしまったがゆえに。ペルソナがシャドウに反転する。

あれこそお前の望んでいたものではないかと問いかけ断罪するためにである。

 

「都合のいい道がそこにあったのに」

 

外装が剝げ落ちて大鎌を持つのはもう一人のオルガマリーだ。

つまりオルガマリーシャドウだ。

もっとも頭部の右側面から円形状に伸びる主角、そこから王冠のように起立する支角を生やし。

両目の瞳は真紅に染まって、表情は皮肉気に歪んでいる。

そんな彼女は都合のいい道、あの黄金牢なら多少融通くらいは聞かせてくれるはずだろと言う事実を突きつける。

 

「それで閉じ込められて、都合のいい夢ばっか見て、今を手放せって? 自慰に耽って今を取り逃がす方が御免被るのよ!!」

「その都度に痛い目にあっても?」

「ッ・・・」

 

幾ら否定しようがどこかで求めていたことには変わりはない。

此処に来るまで散々味わったではないかとシャドウは告げる。

此処に来るまで数多くのシャドウを葬り聞きたくもない断末魔を聞いて踏みつぶした責任を背負うことになっているではないかと。

 

「けれど、それ選んだら。全部無駄になっちゃうじゃない」

 

カルデアでの責任、第一特異点での責任。ネロの慟哭と葛藤。

特にネロは友人だ止めてやらねばならないから。

 

「それで選びたくもない道を選んで。無様に傷ついてアナタはまた。タツヤやマシュにすがるの?」

 

オルガマリーシャドウは嘲笑いながら指摘した。

責任を取るだのなんだの言って。友人を助けるだのなんだの言って。

またそうやって親友二人に縋るのかと。

 

「今度は女でもフル活用してタツヤに押し付ける? 抱きしめるなんてカンフル剤じゃ足りないから。抱いてもらう? 出来るでしょうね彼なら」

「黙れ」

「嫌よ、本当は責任逃れしたくてたまらない癖に。抱いてもらって女であることを盾にタツヤに押し付けて気が楽になりたいかしら?」

「抱いて貰いたいなんて思った事なんかないわよ!!」

「嘘、男としてアイツを見てる癖してどの口が言うの? アイツ以外なかったわよね、自分を助けて引っ張り上げて心配してくれる男なんて。レフですら上っ面だけだったなわけだしね」

「違う、それは気の迷いで「本当に?」

 

オルガマリーの反論にもニヤニヤ笑ってオルガマリーシャドウは問い正す。

本当にかと、好意を持っていないことは本当か?と。

 

「マシュと遊んでいる達哉を見て嫉妬していたくせにねェ」

「それは、ち、違――――「とは言えないわよね? だってアナタは」」

 

違うとは言わないよなと。オルガマリーシャドウは指摘する。

何が何であれ、マシュに対し嫉妬していたことは事実なのだから。

 

「そして責任をいくらでも背負ってくれる都合のいい男が彼だもの、逃がしたくないわよねぇ」

「――――――」

 

最期の一刺しと言わんばかりに言うオルガマリーシャドウのその言葉だけは聞き捨てならなった。

達哉がいくらでも背負ってくれる都合のいい男とは思っていない、寄り添える相手の理想像としては認めてよう。

だがそんな都合のいいトラックの荷台なんかと同じように達哉をオルガマリーは見たことはない。

それだけは断言できるのだ。

そしてニャルラトホテプ影響下でのシャドウは悪意を持って歪めてくるのも学習済みである。

自分の思っていることをこうも悪意を持って歪めてくると逆に白けると言う物だ。

嗚呼、達哉に対する好意は認める、マシュに対する多少の嫉妬心もこの際認めよう。

故に。

オルガマリーはリペアラーの右手で持つ一丁の銃口を向けてトリガーを引く。

その放たれた銃弾をオルガマリーシャドウは大鎌で切って落とす。

 

「あは♪ ムカついたかしら本当の事を言われて?」

「ええ本当の事よ、けれどねぇ・・・あいつをそんな便利染みた男とは思ってもいないわ」

「へぇなぜ?」

「だって逆だもの、大事だから背負わせたくない!!」

 

そう大事だから背負わせたくないのだ。

責任の重さで縋りついたことさえ、彼女にとっては無様な行為でしかないというのに。

便利染みているから背負わせるなんて恥知らずに死んでもなりたくなかった。

背負わせたこと第一で自覚しているからこそである。

 

「だから今度こそ、自分の責任は真っ当したいのよ、今度こそあいつの背負う荷物も背負ってあげたいのよ!! だからそこを退けよ、弱い私!!」

「弱い?弱い? それはアナタでもでしょう。今の私はアナタより強い」

「ホザくな、私!! 大人しく私の中に帰れ!!」

「くぅ、この、まだ言うか私ィ!!」

 

オルガマリーとオルガマリーシャドウの構図が逆転する。

達哉の記憶映像で見たシャドウの在り様、第一での試練を通していたがゆえにその逆転劇が発生する。

そして何よりもそれらを通して見た大人たちの選択が、舞耶、克哉、うらら、パオフゥなどの生き様を見たからこそ。

自分の弱い部分だと認識し認めることが出来たがゆえに立場が逆転したと言っても過言ではない。

彼等の奮闘の記憶は無駄にならず、今オルガマリーに引き継がれて。弱い自分を受け入れて戦うという行動を起こさせることが出来たのだ。

大鎌が振られる。

だが長物である以上、間合いを詰めて張り付けば脅威ではないとオルガマリーは突撃した。

弱い己を受けいれて恐怖に立ち向かうように。

大鎌と二丁の拳銃のマズルスパイクが交差して火花を上げた。

 

 




気が付けば50話目になったですたい。
いったいなん話で完結するのだろうか(白目)

たっちゃん「でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ。だからこの話は此処でお終いだ(血涙)」

たっちゃんメタルシャドウをシバキ倒して無事脱出。
たっちゃんが覚悟決めていたということもあってグレートメタルフレンズは火力はグレートファーザー級だがHP及び防御力は紙ですんで、ライドウが伝授した技術もあって容易く討伐出来ますた
夫妻はどっぷりなため脱出不可能。所長の令呪届かず。
さらに所長、自らのペルソナの成り立ちを否定したがためにラプラスがシャドウ化、交戦開始。

次回はクーフーリンの回想 森くんの回想で行きます文字数の関係上一人増えるか所長VSシャドウ所長入れるかも。

ニャル「大wwwww草wwwwww原wwwwwwww生えるwwwwwwwwww」

ニャルは全員の黄金期を嘲笑いつつ、統制神の縁に腰を下ろしてワイングビーしながら描写ないけどネロを虐めています。


と言う分けでこんな感じの回想回が続きます。
穏便にやれば夢は何もしない。
ただ無理やり剥がそうとすると。メタルシャドウが沸いてきます。
マシュの方はあれですネ、ちょっと酷い事になるかも知れません。
後眼鏡夫妻の活躍は期待しないでくさい、二人で棺に放り込まれているので余計に自覚したくない状況ですしね、夫妻の方は。
その代わり、第三と第四で活躍させますから許してください!!



あと次も遅くなります。
最初は週一で投稿が目標でしたが。今じゃ一ヶ月とか二週間に一回が限度です。
そこらへんはご了承ください。


ではまた―ノシ


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八節 「黄金牢Ⅱ」

脳味噌が空揚げになっている。

いや、そう言うよりは、熱い油に漬けてそのままにし、油が冷めて、ねっとりした脂が脳のひだひだで固まったのだ。

それに、緑がかった紫色に閃く苦痛も添えられている。

ウィリアム・ギブスン「ニューロマンサー」より抜粋。



森長可は人から外れている。

ああ、無論それは身体がと言う意味ではない。

心と精神性が外れていると言っても過言ではない。

故に生まれてこの方、心の奥底から悲しんだということが無かった。

白状すれば、本能寺で大殿たる信長が死亡したと聞いたときは怒りだけで悲しみはなかったかもしれない。

死ねば皆無価値だ。

そこから先に進むという事がないから。

ああ無論、他者が当人の意思を引き継ぎ先に進めるということを否定しているわけではないのだ。

だが、大義や意思の大きさに比例し、要求されるスペックが跳ね上がるのは道理。

古今東西、前王が有能でも後釜が暴君だったなんて話はごくありふれている。

そういった意味では、秀吉もそうだった。

途中でトチ狂い後継者争いをミスって天下を狸に取られる真似を許したのだからまさしく諸行無常。

そして信長のやりたかったことを狸が引き継いでやり遂げたのだから皮肉が効いているのもさもあらんというやつだ。

だからこそ、長可は自分は終わっていると思っているし。

織田も豊臣も徳川の世すら終わって薪木になって今があると思っている。

だからこそ結末を覆すなどと言う後悔塗れの念を持っていなかった。

即ち、いい意味で長可は無頼なのだ。

終わった物に頼らない縋らない割りきってしまう。

無論いくら良い意味でも普通の人間基準で言えば破綻している人間の思考だ。

だから戦場では鬼武蔵としておそれられた。

迷わない詫びない引かないという無慙無愧は戦場で殺戮機械として彼を稼働させたのだ最後の最後まで。

と言ってもこう思った事がないわけではない、人間になりたいと。

だから家族や部下の前では人間らしくあろうとした。

それで生まれてから人間としてどこぞの武将ほどではないしろ外れていた長可の最後はそういった意味では無残な物だったかもしれない。

だが後悔はなかった。全部全力でやった。やるべきことも妥協もだ。

だったらそこに後悔を持ち込むことなんてできないわけであり。

実際にないわけだった。

そんな人間が黄金牢に放り込まれるとどうなるかというと。

 

「ほら、飲め飲め、今日は無礼講である」

「大殿、さっきから飲み過ぎだって」

「わははは。これが飲まずにいられるか!!」

 

どこぞの大戦での大勝での評定である。

皆自由に飲んだり食ったりしている。

日頃のブラック勤務故か皆タガが外れていた。

ああ懐かしいなと長可は思いつつ酒を飲む。

もう彼自身、気づいていた。

何度も言う通り自分は終わったのだと彼は心の奥底から思っている。

それにいま仕えているのは大殿ではない、マスターである達哉だ。

故に彼は脱出の手段を模索していた。

一つ、脱出方法を考えた。

要はこの場の連中を皆殺しにすることである。

もっとも長可自身が速攻で内心否決した。

理由は単純で、この場に居るのは織田家の長可の父が抜けた後の全盛期の家臣団だ。

一人二人は取れるが、どうあがいても信長の首を取るのは不可能であるし。

勝家がタンク役にでもなって自分自身がボコられるのが関の山である。

それで退場なんてのは馬鹿が過ぎると言えるだろう。

致命傷を負って死亡でカルデアには戻れるだろうが。霊基修繕で三日は離脱すること確定だ。

そうなれば決戦自体が終わっている。

 

(つーてもこのままでも終わりそうだけどなぁ)

 

と言ってもどんどん、何かが揺らいでいるのは感じ取っていた。

黄金牢が揺らいでいるのだ。

オルガマリーは黄金期が無かったから即座に脱出できたわけだが。

長可の場合あると言えばある、こうして黄金牢が展開されているわけであるが。

本人割り切り過ぎて、展開された黄金牢が揺らいでいるのである。

どの様な甘さを突きつけようとも、終わってるだろうの精神だ。

黄金牢がズタボロなのである、この分で行けば一時間くらいで勝手に自壊するくらいにはぐらついていた。

と言っても一時間でも十分に拙い時間である。

現実は夢に微睡む長可を置いて走っていくのだから。

 

(こいつぁ感だが・・・誰か一人でも抜ければヨーイドンだ。下手すっともうおっぱじまっているかも知れねぇ)

 

黄金牢から誰か一人でも抜ければそこから戦端が開かれるだろうことは犇々と感で感じ取っていた。

達哉当たりならもうとっくに抜け出しているだろうと辺りを付ける。

実際にはオルガマリーが一番乗りでランボーやってる頃なんだが。

今の状況で外を確認する術はない為、気づけるわけもない。

 

「急がねぇとな」

 

兎にも角にも急がねぇと思いつつ。

全員が酔い始めたころを見張らかって宴会場から出る。

とりあえず出来ることはやってみようの精神だ。

城から出て安土領脱出を目指す。

その時だった。

 

「おい、長可よ。何処に行く気だ」

「ほんとーに、最悪だなおい、引き留める為なら何でもするってか? なぁおい」

 

長可は飽きれ半分、怒り半分の表情でソレを見た。

それは、長可の父「森長成」だったからである。

宇佐山城の戦いで討ち死にした自身の父だった。

浅井連合を食い止めるべく奮戦し遅滞戦闘に成功。

浅井連合は信長軍の背後を突くことが出来なかった結果を作り出した功労者でもある。

無論、この時間軸には居ない筈の人物であり。

長可を食い止める為に黄金牢が何とかひねり出した過去の残滓である。

 

「何を言っているのだ・・・、長可よ?」

「いや、こっちの話だ。俺はちょいと用事があるんでな。わりぃけどここを去らなければならん」

「何を言っている」

 

ラジオかよと内心長可は天を仰いだ。

長可の知る長成は気持ちを組んだうえでならなんだかんだ言って心情的尻を蹴り飛ばして送り出すというの。

此処まで察しの悪い人間ではないのだ。

自分の見てきた父の背中でさえこうも歪めて冒涜するのかと、長可は内心キレる寸前だった。

だが駄目だ。確実に脱出しなければならないというのが分かっている。

襖一つ向こうには何度も言う通り織田家臣団が全盛期で居るのだ。

何なら今なら途中脱落した連中も下手をしなくても混じっているかもしれない。

 

「やることがあるつーてんだよ、それは大殿の為にもなることなんだよ」

 

未来を紡ぐ、それは確かに信長が残そうとしたものを先につなげる行為であるし。

今を足掻いて生きようとしている子供たちを見捨てる気はさらさらないわけである。

故に未来を断絶する行いを認めるわけにもいかない。

だが状況は切羽詰まって来ていた。

どうあがいても逃がす気はないみたいだった。

 

「愚かなり、我が息子よ、今は此処にいある大殿の天下は此処にあるのだ」

「ねぇよ、全部終わって次につながった。俺たちはもう舞台を降りた。かりそめの客なんだよ。出来ることはそう、今を先に進めるだけさな」

 

長成が槍を構える。

長可も自分たちの時代は終わり既に先に進んでるがゆえに自分たちはかりそめの客なのだと言いつつ人間無骨を呼び出しかまえ。

 

「つぅーてもよ、勝てるわけねぇから、此処でサヨナラだ親父」

「なにをッ? 待て!! 長可!!」

 

長可は戦術的に徹底抗戦は避けた。

万が一、家臣団がサーヴァント補正を受けていれば勝ち目がない。

一人二人程度ならどうにかできるが、それ以上は何度も言う通り袋叩きにされかねないからだ。

柵を乗り越え屋根伝いを飛び下りるように移動する。

サーヴァントの身体補正は生きていることに、長可はほっとした。

生前の身体能力ではこのような義経めいたことなんぞできるわけもない。

 

「このまま全力疾走だな」

 

既に天守閣はパニックの様相を呈している。

森長可ご乱心と誰かが叫んでいるからだ。早急に阻止線が張られるだろう。

馬屋は抑えられていると見た方が良いか・・・

だが今はバーサーカーの身だ。ライダーやセイバーと違い。騎乗スキルがないので自力で走った方が早い。

そのまま身体能力に任せて。忍び顔負けの動きで安土城を脱出する。

10kmを大よそフルマラソンで走りきり。

ススキ野原にでて一息つく。

忌々しいまでに月が美しく上がる夜だった。

だが同時に背景に罅が入る。黄金牢が長可を引き留める手の品が切れたのだ。

 

「これで終わりってーわけにはいかねぇよな・・・なぁ親父」

 

だが最後の足掻きとして長成が目の前にいた。

彼は愛槍を握っているどうあがいても逃がす気はないらしい。

 

「長可よ「うるせぇ!! 死ねェ!!」」

 

口上を垂れる長成に対し長可は躊躇なく、人間無骨の真名を解放し一突き。

長成は持っていた槍で人間無骨を弾く。

長可の表情は狂気に揺らいでいた。

 

「俺もアンタも死人なんだよォ、それを今更出て来てウダウダと、アイツらの邪魔するなら、邪魔だから死んどけやぁ!!」

 

そう叫ぶと同時に、バキリと音がした。

さぁてこれから親父殿と殺し合いと思っていた長可の意識が浮上する。

理由は単純で長可の良くも悪くも割り切の良さゆえに黄金牢が番人を出すまでもなく。

輪郭を維持できないのだ。

世界が砕ける、そして漆黒の黒が長可の視界に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クーフーリンの青春・・・青春と言うより凄春と言えるほど血なまぐさいものである。

それくらいスカサハのしごきは厳しかったし、影の国の魔物は手ごわかったと言える。

それでも皆で馬鹿をやったり、時には真面目にルーン学の勉強にも励んだ。

スカサハに悪口言っては追っ掛け回され。

罰として魔物狩りだ。

ああ、なんと輝かしきかな我が凄春と言った風情である。

 

「ああとっくに終わっていたのか」

 

クーフーリンはベットの上で納得していた。

心のどこかで思っていたのだ。もう終わっているのだと。

青春もなにもかも終わっているのだと現実を突きつけられていた。

オルガマリーの令呪が届いたのである。

最初から違和感は感じ取っていた。

何処かでもうその時代は過ぎているのだと思っていた。

だが抜け出せなかった。

スカサハに対する慙愧、息子に対する慙愧があった故にだ。

影の無い人間なんかいない、そうパオフゥは達哉の記憶の中で言っていたではないかと。

自分は大丈夫とどこか高をくくっていた。なんて無様だ。

下手すればオルガマリーの令呪が無ければどっぷりだったであろう。

危ない所だった。

だとすれば。兎にも角にも脱出せねばと心を決める。

どうやってと言う事が付きまとう。

息子は未だ生まれていない、時期的にはオイフェが攻めてくる前だからだ。

かと言って油断はできない。下手すりゃと言う奴で用心に越したことはないのだ。

覚悟は決めていた。たとえコンラが出てこようとも殺す覚悟をだ。

令呪が効いているということは。達哉たちは既に脱出済みで既に戦闘に入っている。

死人が死人に引き摺られて生者の足を引っ張りましたなんて話はケルトの戦士として恥も良い所だ。

座にいるかつての同胞たちにぶん殴られるだろうと思いながら。愛槍を呼び出す。

いわば思い出にケリを付けようという奴である。

目指すはスカサハの居る玉座だ。

最悪、親友や叔父も殺すことを視野に入れていたが。

城事態は不気味に沈黙している。

覚悟を決めた瞬間、無人の廃墟となったかのように。

だが油断はできない。

慎重に歩みを進めながら。目指すは玉座だ。

 

「俺の最大の後悔って言えば。やっぱこれしかねぇか」

 

玉座の間はなんというか、やはりというか彼女が待っていた。

だが既に臨戦態勢だった。

もう抜け出す覚悟はしているがゆえだ。

クーフーリンの中の記憶のスカサハが最後の防衛機構として出てくるのは当然と言えよう。

現にアルスターサイクル最強の戦士であるクーフーリンを止められるのは、彼の息子のコンラか。

師匠のスカサハくらいなものである。

なら勝てるだろう?と言われればそうでもない。

サーヴァントとは所詮、座からのデットコピー体だ。

近代英霊は物理法則の現実を生きていたゆえに、身体能力の件では神話英雄に劣るが話が盛られて生前より上に召喚される場合がある。

逆に物理法則よりも神秘法則下で育った神代の英霊だと強力になり過ぎて座の本体よりも弱くなる傾向にある。

クーフーリンもその例外ではない。

剣も城も戦車もないし身体能力に至っては生前の方が上だ。

故に、過去の残影を完全再現したスカサハに勝てるかと聞かれれば疑問符が付くのも道理と言えよう。

座の本体であればしばき倒せるが。サーヴァント体では聊か不安が過る。

勝てるか? 勝つしかしねぇだろとクーフーリンは意を決する。

何もここまで来るまでクーフーリンも惰眠を貪っていた訳ではない。

達哉やマシュ、オルガマリーの教導のついでに彼もまた宗矩や書文から体さばきと足運びを盗み出し。

アマネにCQCを教えてもらったのだ。

座に帰ればこれら身に着けた技術は記録になり下がる物の。

今回の現界の身であれば技量に関しては生前より上になっている。

されど下がった身体能力が足を引っ張る。だが無いものは無いのだ。

持っている手札でどうにかしなければならない。

 

「やっと来てくれたか、セタンタよ」

「今はクーフーリンだ。師匠。わりぃが、ちゃっちゃとどいてくれ。」

「相変わらず釣れぬな」

「優先事項があんだよ」

 

覚悟は決まっている、ならばあとは問答無用だ。

所詮は自分の記憶の産物。

そんなものにくれてやる感傷などクーフーリンは持ち合わせていない。

記憶の整理整頓ついでの掃除でしかない。

問題は他の連中だが先ほども言った通り余裕はこれっぽっちもないのだ。

タンと音を立てて瞬時にスカサハが鮭飛びの要領で瞬時に間合いを詰める。

一種の足運びの技巧だが、言っては何だが宗矩の縮地の技法よりはマシだ。

無論間合いの関係があり、一概にどちらが優れているかを論ずることはできない。

あえて言うなら肉体の資質に左右され現代では習得不可能な鮭飛びのほうが優れていないと言えるかもしれない。

縮地は瞬間移動に見えて実際には相手の視界を奪う業だ鍛えれば神話だろうが現代だろうが出来るのである。

現に、アマネも視界を奪う縮地は身に着けている。

宗矩も書文も称賛する女傑であるが、閑話休題。

間合いが最適化される。

スカサハの槍にも朱色の魔力光が漂っている。

この勝負はいつどこで、ゲイボルグをねじ込むかが肝になり。

そのための間合い取りと牽制が肝になる。

そしてスカサハの視界からクーフーリンが消え失せた。

厳密には消えていない。体運びと足運びで死角に潜り込むのだ。

これが元来の縮地と言う技である。

真正面からの不意打ちを可能とする魔技に近い技だ。

偏に魔技と評されないのは技術体系化されて練習すれば誰でも覚えられる技である。

カルデアマスターズとマシュも日々の鍛錬によって習得しつつある。

因みにクーフーリンは見て覚えた。さすがはアルスターサイクル最強の英雄である。

日本サーヴァント勢が怪物と呼ぶのも納得の才気であり。

さらに鮭飛びと組み合わせて瞬時に間合いを詰める。

間合いは内に内に。

近すぎるがゆえに逆に槍の間合いではない間合い。

槍での連続突きで引きはがされる前に懐に潜り込んだ。

この間合いならゲイボルグの因果接続は成り立たない。

同時にクーフーリンはゲイボルグを手放していた。

スカサハも対応しようとする物の、もう遅い。

先手はクーフーリンが取ったのだ。左手、打掌でスカサハの額を撃つと同時に。

顎には右手によるフックを0.1秒差の瞬間的に敵に多段ヒットさせる。

互いに間合いを詰めてていたがゆえに足が前に行っていたスカサハは頭部を中心に後ろへの倒れる力が働いたことによって。

そのまま縦回転でもしたかのように床に張り倒される。

加えて頭部と顎を撃たれたことによって瞬間的に意識が白濁。受け身すら取らせなかった。

アマネ直伝のCQCである。

本来なら、腕絡みからの武器の取り上げや、宗矩から習った柔も絡めたかったが。

スカサハが握る槍もゲイボルグである。

取り上げたところで持ち主の手元に戻る為無駄になるので今回はCQCによる基本形の相応の間合いにおける張り倒しと言う形になった。

それでは終わらないのはクーフーリンである、長可から習った組手甲冑術へと移行。

これだけ脳を揺らしたのだ。如何に不老不死と言えど脳にこうも衝撃を上手く伝えられてはスカサハとてバランス感覚が歪む。

加えて体の経験測に任せて脱出を図ろうにもCQCと組手甲冑術は未知の技術。

即座に脱出と言うのは不可能な話だった。

その隙を突いて。元来ならば小太刀やナイフが望ましい物のそんなもの手元には無い。

故にゲイボルクを一度手元に戻し、柄を短く握って即座に三連打。

頭部、咽、心臓を貫く。

スカサハは不老不死ではあるが、殺して死なないというわけではない。

故に致命傷だ。

と言うかオーヴァーキルに入っているが一応、念のためと言う奴である。

 

「はぁ・・・」

 

スカサハの息の根が止まったのを確認し。クーフーリンは立ち上がる。

こんな形で決着付けたくはなかった。やるなら本物と言うのが彼の心の影である。

槍を一回転してスカサハの死体から離れ。

さて次は何だと身構える。

 

「さて、次は誰だ? コンラか? オジキか? メイヴか? 出てくるんならちゃっちゃとしろ」

 

未だ黄金牢の崩壊は起こらず。

次は息子か叔父かかつての宿敵かどれかと身構える。

が違う。

クーフーリンは頭からすっかりすっぽ抜けていたことがあった。

スカサハの魂は腐り肉体面にも影響が出ているという事を、四六時中人間体を保っていた故か。

彼女の本性を忘れていた。

嫌な予感が走り、後ろを振り返る。

 

「やべ・・・忘れてたわ」

 

そういって振り返ってみれば。スカサハが立ち上がっていた。

傷口から真紅の茨が漏れ出し背中からも同様に翼のように茨が広がる。

両手にはゲイボルグ。

眼は虚ろでクーフーリンを見ていない。

怪物としての彼女の方。数多くのモノを殺し切ったがゆえに怪物に成り果てた彼女の内面が具象化する。

 

神喰らいのスカサハ、顕現

 

これにはクーフーリンも堪った物ではなかった。

体内から生え伸びる茨が鎧となる。

両手に持つゲイボルグも連動しより禍々しき姿へと変貌し。さらに背後に無数のゲイボルグが出現し変形。

グリードの外骨格の形を取り戻し茨と結合、彼女の鎧具足となり。

両目からは炎のように真紅の眼光が揺らいでいる。

人の形を取った龍、神獣、鬼神、戦女神と言わんばかりの姿だ。醜くとも悍ましく美しい姿である。

 

「わりぃ達哉、オルガマリー、マシュ」

 

クーフーリンは自身の主人たちへの詫びを口にする。

本来なら無傷で出たかった。

故に先ほどの初見殺しを躊躇なく行った。

元来であれば自分がスカサハから習った技術で殺してやりたいのが本心だったが。

今は優先すべきこともあるし、目の前のスカサハはクーフーリンと黄金牢が生み出した過去の残影だからだ。

それで終わると思っていったが。

まさか第二形態まで出してくるとはクーフーリンも思わなんだという奴である。

状況は悪化した。

 

「無傷は無理そうだわな」

 

勝てると問われれば勝てると言いたいところだが。

実際に確率は五分五分を切る。

夢で負った傷が現実でも適用されないことを祈りつつ。

何時ものように槍を構える。ここからはカルデアに来てからの技術は通用しない。

此処からは大物狩りの技術がモノ言うだろうからだ。

どちらかと言えば達哉やシグルドの技術の方が有効的であろう。

故にクーフーリンが身を預けるとすれば自分が生前培った技術のみとなる。

クーフーリンは槍を構えて真直ぐ突進。

茨が無数に走る。

それを寸断する、あるいは引きちぎる様に振るいながら間合いを詰める。

さらに呪い除けのルーンを多重展開。

これでゲイボルグによる心臓狙いを封殺しにかかる。

触手のように蠢く四本のゲイボルグ。

空中に展開されたゲイボルグの因果逆転の呪いを捻じ曲げる。

ゲイボルグの対人仕様の一撃はあくまでも権能一歩手前の呪いの様なものだ。

呪いの部分は故に原初のルーンの組み合わせによる呪い除けでどうにかできる。

もっとも物理的に殺到するゲイボルグは自力でどうにかしなければならない。

であるならと、雷のルーンと探知のルーンを組み合わせて刻み込み電磁波を掃射。

無論相手への妨害ではなく、攻撃を察知、知覚するためのレーダー波として使ったのだ。

これは生前ではなく現代に来てから開拓した新技術だ。

本当に技と技を組み合わせ新しい技術を仕立て上げるアマネの思考にはクーフーリンも舌を巻く。

古代に生まれていればアマネは英雄になれただろう。

閑話休題

そんなことも相まって、ルーンの新しい使い方や技術系を使って単純に最短ルートで殴りに行く。

迫りくるゲイボルグの原器の群れと茨の鎖をクーフーリンは己が愛槍と四肢で効率よく弾きながら流星の如く真直ぐ突っ込む。

刹那の攻防、約100手。

それが瞬時に行われ。同時に激突音が機関銃の砲撃の如く響き渡り、クーフーリンが殺到する攻撃を足代わりに宙を行く。

 

(取った!!)

 

その槍衾を潜り抜け、スカサハの頭上を飛び越えて背後を取ると同時に彼女の後頭部に穂先を差し込むと同時に真名を解放。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)

 

因果逆転。必殺の呪槍が駆動。

差し込まれた傷口から心臓を目指し槍が生物のように蠢いて目指すものの。

それがレジストされた。ジャンヌ・オルタと同じ原理である。

膨大な魔力と呪詛喰らいの機能。呪い除けのルーンによって無効となった。

ゲイボルグの呪いで本来なら癒えぬ筈の傷も魔力量に物言わせて強引に治癒。

ギョロリとスカサハの視界が動き。

 

「まっ」

 

拙いという間も無く、鞭のようにしなったスカサハの無数のゲイボルグと茨がクーフーリンを打ち据える。

都合10m後退させられた。

と同時に攻撃の直撃を受け宙に投げ出され、地面に着地するというより叩きつけられるまでの、

数瞬にも満たぬ間に、数十連撃。

クーフーリンが地面に叩きつけられつつ受け身を取って何とか着地し。

クーフーリンとスカサハの間にクーフーリンの血液がぶち撒けられる。

 

「ッッ」

 

治療ルーンがフル稼働、戦闘続行スキルによる意識の強制覚醒と維持。さらにはガッツ礼装も起動している。

無論、鞭のようにしなる攻撃ばかりではなく。

刺殺を目的とした攻撃もあったがそれは何とか回避し。鞭の様な攻撃も受ける際に急所をずらして致命傷は回避したが。

それでもなお瀕死状態だ。

先も述べた通り治癒のルーン 戦闘続行スキル ガッツ礼装が無ければクーフーリンは死んでいた。

それでも血達磨にされるという凄惨な光景である。

これらの装備やスキルがない場合、神話トップ英霊でさえ殺し切る怪物。

それが今のスカサハなのだ。

 

「ガハッ」

 

意識は既に刈り取られた。だがまだ彼の意識は呆然としながらも上記の理由で駆動し続け。

クーフーリンが血反吐を吐く。

もう上半身の革鎧は機能していない。

文字通りの肉袋だ。

それでも戦える。

ならば、あの化け物を一撃で仕留める方法は――――――――ある。

 

即ち抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

今の今までカルデアのメイン火力を担ってきたクーフーリン渾身の投擲。

だがあくまでも、使用はカルデア式魔力供給および達哉やマリーアントワネットが有する超高性能治癒スキルがあったからこそ使用できるものだ。

それが無ければ、自壊して退場する恐れがあった。

あくまでもカルデアの豊富な支援手段があったからこそ、ランサークラスでの使用も可能だが。

死に掛けのこの状態で使えば自爆になる可能性が大である。

間違いなく瀕死状態になるのは確定だ。

 

(こんなことならッッ、最初から使っておけばよかったぜ、くそ、おれも鈍ったな。宗矩の爺さんや書文の奴にダメ出し喰らっちまう)

 

早々に使っておけばこんなことには無かった。

だが直進すれば危険、迂回すれば安全かも知れないという二択を人が迫られれば人は大概後者を選択する物だ。

されどうなろうが危険な状況になっていれば前者を選択すればよかったと後悔するのもまた人の在り様だろう。

ともすれば、あとはどうするか?

四方八方塞がれて、何もできない状況。

一応の切り札はある。ともすれば賭けるほかないだろう。

よろよろと立ち上がりながらも足並みはしっかりと。

構えるは一撃決殺の構え。

スカサハもそれに答えるべく構えを取る。

 

抉り穿つ(ゲイ)

 

時間はない、押問答している暇なんぞない。

なけなしの幸運Eに祈りながら。

 

鏖殺の槍ゥ(ボルク)!!!」

 

スカサハはゲイボルグと茨を殺到させ。

クーフーリンは自壊を厭わぬ大投擲を行う。

閃光の如く走るゲイボルグは多重展開されたスカサハのゲイボルグや茨を引きちぎりながらも勢いを衰えさせず炸裂。

まだ終わらないとばかりに、スカサハは外骨格を膨張させ防御を試みる物の。

 

「――――――――」

 

それに接触、一瞬、抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)が停止する物の。

そこまでだった。

威力は減衰したが、主神のオリジナルの投擲すら上回るとエミヤが評した投擲に嘘はなく。

一旦停止した物の、外骨格を貫通せんと槍自体は前進を続け、スカサハの外骨格を粉砕。

そんな中、スカサハが一瞬だけ微笑んで。

槍が炸裂し衝撃波を発生させ。スカサハのみならず、彼女を主点として後方の建造物を消し飛ばし炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュリと音が立つ

既に数十体は切り殺した。

達哉は駆け抜けながら、シャドウを切り殺す。

主体は剣術。ペルソナは補助だ。

長可は脱出したとの報告が上がり達哉の元にシャドウを無視しつつ駆け付けてくれる予定だった。

ロムルスとカルデアの管制もフル稼働中である、

合流まで1分を切った。

だが問題は殺傷による人理定礎の悪化である。

片端からシャドウを殺せば崩壊へと天秤は傾いてく。

かと言って時間は掛けられない、いまだに樹内部の概念力と言うべきものは増大しており。

足元を濡らすタールの量も増えつつある。

このまま悠長に時間を食っていると。今度は樹自体の維持が不可能となり、特異点が大崩壊を起こし。

概念の津波が地球を覆う。

故に取捨選択をしなければならない、殺すべき時は殺し殺さないときは殺さないという選択だ。

達哉も出来うる限り殺さずに来たが。

ここに来て囲まれ突破口を開くために殺すことを選んだ。

足元を漬すタールから討伐したシャドウの思念が流れ込んできて精神を蝕む。

頭が痛い。

心は悲鳴を上げている。

分からないから殺しやすいだけで。分かってしまえば殺しの手が鈍る。

故にここは無視するか己の傲慢さで踏みつぶすのが正解なのだが。

凡人の達哉にはそれが出来ない。

故に技も鈍ろうと言う物である.

 

「くそ!!」

 

そう言いながら悪態をつきつつ刀を振るっている

それでもシャドウの群れは増大の一歩だ。

こうなれば一度ペルソナの高火力で薙ぎ払うしかないと思った時。

ガボという音と共に達哉が遮蔽物に使っていた棺桶の蓋が開く。

 

「クーフーリンさん!?」

 

そして中から出てきたのはクーフーリンだった。

全身から血を流し上半身の革鎧は機能していない。

 

「くそ!!」

 

再度悪態を付きつつ、アポロを召喚。

マハラギダインで周囲を薙ぎ払い。クーフーリンの後ろ襟首を掴んで引っ張り、

棺桶を遮蔽物にするべくその後ろに潜り込む。

懐から気付け用の薬、いわば即効性のモルヒネを取り出しクーフーリンの首筋に打ち込む。

うっとうめき声を上げてクーフーリンの意識が覚醒する。

 

「出れたのか・・・? 達哉か・・・現状は、ゲホゲホ」

「喋らないで!! ああっ糞!!」

 

意識が戻っても傷までは癒えていない。

スカサハから受けた攻撃と抉り穿つ鏖殺の槍《ゲイ・ボルク》の反動で全身が無茶苦茶だ。

具体的にはマシュがジャンヌ・オルタに蹴られ内臓破裂した時よりひどい。

生きている方が不思議と言うレベルだ。

これまでの傷ならリカームにプラスしてメディラハンでも完全治癒まで数秒メディラハンを維持しなければならない

それでも治療用のアムルタートにペルソナを切り替え、リカームからのメディラハンでクーフーリンを治癒する。

その時である

 

『戦士よ!! 高速でそっちに敵影が接近、10時方向数3!!』

 

ロムルスからのナビゲートが飛んでくる。

だが高速で移動しているというのは間違いないらしく。

既に達哉に接敵、治療に集中しているのが仇となり、加えて先程までの精神攻撃と負荷によって迎撃に精彩を掻く羽目になる。

加えてクーフーリンが致命傷だ。治療中にそもアポロに切り替えるのは不可能。

さらには此処で迎え撃たなければクーフーリンが仕留められる。

最悪、自分が怪我をする前提で迎撃策をくみ上げ覚悟を決めた時である。

殺到する巨漢のシャドウの後方の建物の屋上から。

 

「イィィィヤァァアアアアアアアア!!」

 

雄たけびと共に全力疾走しながら屋上伝いを飛ぶように達哉に合流せんとしていた長可が間に合ったのだ。

彼は人間無骨を振り下ろすと同時に、一体の巨漢のシャドウを仕留めながら。

人間無骨を一文字に振るって二体のシャドウを吹き飛ばす。

 

「間に合ったようだなぁ! マスター!!」

「ああ助かったよ」

「ところで、他の連中はどうした?」

「俺、所長 クーフーリンに森さん以外はまだ・・・」

「・・・そっか、クーフーリンがそんな様になるような防衛機構も程度の差はあれどあるし、誰もかれも過去は上手い事切り離せないわな」

 

長可は仕方がないことだと言いつつどこか不機嫌だった。

サーヴァントである以上、優先すべきはマスターであり。マスターをほっといて夢に浸っているのは彼の不義理ポイントにあたる。

と言っても誰もかれもが過去を思いっきり振り切れるというのも疑問なので。思いっきり怒りはしなかったが。

不快感が表情に出ていた。

それを見た達哉は令呪まで切っていますというのは言わない方がいいだろうと思った。

それこそ令呪きってまで呼び出しているのに目覚めないつぅーのはどういうことだと、長可の場合切れかねないからである。

 

「ところで、クーフーリン大丈夫か? 俺から見てもやばそーだけど」

 

そして長可から見てもクーフーリンは戦線に出れるほど健康状態ではないのは見て取れた。

傷が逆再生するようにメディラハンで治っていく物の。

本当に大丈夫なのかと心配になるのは当たりまえと言えよう。

 

「抜かせよ若造、この程度でどうにかなる俺じゃねぇよ、傷も回復しているしな」

 

それに心外であるとクーフーリンは言いつつも大人しく達哉の治療を受けながら言う。

コノートの戦争、罠に嵌められても最後まで単騎で戦い抜き、自分の臓物を洗って再度腹に収めて縄で石柱に己を縛り付け最後まで立って戦ったのだ。

傷も癒えつつある今は生前より遥か楽な環境であると啖呵を切る

それもそうかと長可は納得しつつ謝罪を一つ言って、接近してくるシャドウを切り払っていく。

 

「よし、これで動けるな」

「ああ、すまねぇ達哉、それで状況は?」

「所長が中央で自分自身のシャドウと遅滞戦闘中だ。急いで向かわないと拙いかもしれない」

「マジか、なら急がねぇとな」

「最短距離を共有する、殺しも拙いんだ。ロムルス曰く危険領域の10分の4を切った」

「そりゃ拙いな・・・」

 

殺しも拙い事を知って、クーフーリンは顔を歪める。

 

「中央はシャドウはどうなんだ?」

「所長のシャドウ以外はいないらしい」

「・・・なら向かうっきゃねぇな!! 建物の屋上は数も少ねぇ、建物の上をダッシュでそれでいいな!!」

 

長可の問いに達哉はそう答え。

なら中央に向かうしかないと長可が叫び決断する

建物の屋上伝いを行けば少ない。

故にそれでいいかと問い、達哉もそれを了承し。

三人は建物の屋上伝いを走る事にして、場から離れ。

屋上伝いを走る、ものの今度は飛行可能なシャドウが待っていましたとばかりに殺到し出す。

 

「さっきは来なかったのによぉ!!」

 

長可はそう叫びつつ、三人は足を止めずとりあえずできうる限り無視しながら中央に向かう。

有効手段が出来れば引っ込めていた手段でニャルラトホテプは嘲笑いながらそれを潰しにかかってきていた。

そしてまだ目覚めぬ者は目覚められず、状況は悪化していく。

 

 

獣の目覚めも刻一刻と近づきつつあった。

 

 




先頭描写が多すぎた件について、自壊からはねっとりと精神的にやっていきたい。


安心と信頼の森くんですた。
だって森くん割り切り過ぎて、ノッブが敵側に出て来ても普通にマスターの方を優先する人ですからね。
自分たちは終わったかりそめの客ってことを自覚し。
生前、やれることはやったので今更黄金期を見せられても動じないというね。



兄貴はまぁ師匠関連で振り切れなかった。
というわけで師匠(偽)の登場。
実力は過去のスカサハです。
と言っても宗矩やら書文やらカルデアマスターズとの共闘、アマラ回廊マラソンで技術レベルアップして、アマネからCQC 宗矩&森くんから組手甲冑術学んで、ちゃっかり宗矩やら書文の技を盗んだ兄貴であればサーヴァント体というハンデがあっても圧倒可能です。
ぶっちゃけ初見殺しを多重展開ですからね

宗矩「まこと才気の暴力ってやつですな」
兄貴「それを初見で見破って捻じ伏せてくる東方系鯖がいうな」
アマネ「どっちもどっちだろJK」
達哉&所長&マシュ「お前らが言うな」

スカサハ第二形態
クリードコヘイン装備+茨アンデルセンと言った感じのい師匠です。
公式で師匠第二形態って出るんですかね? 臨場感を出すために本作では出しましたがどうなることやら(ガクブル)
宗矩さんには縮地スキルは搭載されていませんが生前身に着けた技術としての縮地なら使えますんでA++の機敏さも合わさってスキル縮地と大して変わんなかったり。

と言う分けで回想回と言う名の地獄は続くよ何処までも。
一応、次あたりで回想キンクリして出てこれるのは書文とアレキサンダーくらいな物なんですよね。
書文は悔いがなさそうだし、アレキサンダーはそもイスカンダル状態じゃないから黄金牢が意味をなさないというね。
逆にエルメロイ二世は拙いかもしれません。
まぁどうなるかは、作者のノリとニャルのニャル具合によりますのであしからず。
案外あっさり脱出させるかもしれないし、全方位敵にするかもしれません。
まぁまだ書いてないからどうなるかは決めてませんけど。
まだ迷っている段階です。


それでなんですが。次話を途中まで書いて、25日から3月終わりまでエルデンリングと就活にモチベーションの回復集中したいので。その期間は休載させてもらいます。
身勝手な理由で申し訳ありませんが。ご了承ください。


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九節 「黄金牢Ⅲ」

失敗によって得られるものは成功では無く、同じ失敗を繰り返さない方法である。

マルチョン名言集 格言集より抜粋。


夢はいつか終わるものだ。

既に終わっているのだからそう思う。

マリー・アントワネットはそう思う。

酷く大事だから急激に削ぐようなことしなかったしできなかった。

出来たとしても力不足で夢に引きずり込まれるような恐れがあったから。

マリー・アントワネット自身、自分の力量は理解している。ダイン級を使える、固有スキルを持つというからって。

周防達哉に勝てと言われたら首を横に振るうだろう。もとより純粋な戦闘系ではないのだから当たり前であるし。

ここ最近はオルガマリーにも抜かれつつある。

だから内心、カルデアマスターズや同僚たちに懺悔しつつ。

ゆっくり削ぎ落すかのように、過去にケリをつけていくことにした。

彼等を信じ、急がず自分も確実に抜け出るためにだ。

 

「マリー」

「なぁに?」

「紅茶。拙かったか?」

 

嘗て住んでいた宮殿の一角で夫と紅茶を飲んでいた。

それでも表情に出ていたのかそう言われて苦笑する。

 

「いいえ、言ったでしょう?」

「”私達は終わっているかぁ”、そうだよな」

 

ルイ16世はカップを置いてため息を吐く。

ゆっくりとなじませるように切り離しているから牙をむかない。

他が性急すぎるから牙をむく。

だがこうゆっくり説得するように馴染ませていけば牙をむくことはない。

もっとも第一条件として長可に迫るレベルで終わっているという条件が付くが。

マリー・アントワネットはそこらへんも覚悟済みだ。

ニャルラトホテプの試練を受け切って。乗り越えて。それでもなお最善を尽くしながら悲劇的最期をを迎えて良しとした女傑である。

未練はある。だから、未練はないという奴だ。

黄金牢が揺らぎ幻想がマリー・アントワネットの心に引き摺られていく。

自分自身も説得するようにだから黄金牢は何もせず。

過ぎ去る日々の如くに徐々に崩れ始めていた。

 

「なぁマリー」

「なぁに、アナタ?」

「僕と結婚して幸せだったかい?」

「幸せじゃなきゃこうなってないじゃない、馬鹿言わないで」

 

ルイの弱音発現にそうも幸せじゃなかったらこうもなって無かったと言い切る。

全く、相変わらず肝心なところで弱気だなとマリー・アントワネットは思うのだ。

そう思いながら子供たちは視線の先で遊んでいる。

ああもしもと思ってしまう。

でもそうはならなかったのだ。

寧ろ、恨まれて当然の選択をしたのは他ならぬ自分だったから。

 

「子宝にも恵まれて、生活も苦労しなかった。当時の労働者の皆さまからすれば恵まれすぎて恨まれて当然よ、それで文句を言ったら。”パンがないならケーキを食べればいいじゃない”なんて言っていない言葉を言ってしまったことになるわ」

 

パンがないならケーキを食べればいいじゃないという言葉は広くマリー・アントワネットが言ったように残されているが。

実際の所嘘っぱちである。

ルソーの著書で述べられた都合のいい記述を。当時の民衆が自分たちを正当化させるために引用しでっち上げた物でしかないのだ。

寧ろ、マリー・アントワネットは格差の是正を行おうとした側である。

無論、自身の無知と周囲位の反発、汚職貴族の妨害に民衆の愚行で成し遂げられなかったが。

それでもやろうとしたのだ。

でも成し遂げられなかった。全ては終わって。

だからこそ今ここにいる。

 

「私は強くないから、こうやって過去にケリを付けなきゃね・・・」

 

無論心の強弱を言っているわけではない。

武力的問題だ。

達哉であればかつて自分が対峙した悪魔と化した神父を単騎で攻略できるだろう。

クーフーリンであれば神格クラスが出てこない限り何とかする。

書文と宗矩は己が技量で影を引き裂くだろう。

だがペルソナ込みでマリー・アントワネットの実力は現状のカルデアの中でも下の方だ。

高レベルの悪魔やシャドウを単独で相手取るとなると厳しいのだ。

支援があればそうでもないが、現状それは見込めるわけもなく。

故に無理して切り離して自分の対処できない相手が出て来て詰みましたなんてなったら笑えもしない。

だからこうやって過去の慙愧にケリをつける。

達哉たちとは逆にやりたいことをやって黄金牢を加速させネタ切れへと追い込んでいくのだ。

無論、それは簡単ではない。

前提条件としてまず自分は終わっていると認識していなければならない。

今やっていることがあるという認識が必要なのだ。

そこがシグルド夫妻との違いだ。

終わっている、故にやり残しの未練に決着をという意気込みをマリー・アントワネットは思っている。

故に、黄金牢の最大の特徴であるループ機構が効かないのだ。

 

「さて次の演目は何かしらね?」

 

さぁ次の演目は何だ?

大方の事はやり尽くしたぞとマリー・アントワネットは目を細めた。

残るはパリからの脱出劇か。

ある意味、彼女自身の最大の失敗である、ターニングポイントである。

そこからオーストリアでの亡命生活なんてありもしない物に叩き込む気か?

やれるものならやってみろ。あえて失敗してやると心に決めている。

例え子供に恨まれ様ともだ。

何故ならその行動で贖罪なんてやったら、達哉に失礼である。

彼は背負っている、罪も罰も背負って歩んでいる。

故に、彼女も自分の犯した過ちは背負う腹であった。

この夢をもってありもしないIFでも描いて贖罪した気になって罪と罰から目を背ける様な事はしない。

座にある限り、この後悔と嘆きだけは背負っていくのだと決めている。

その時であるバキリと音がした。

黄金牢が機能停止寸前だったのである。

やりたいことをやって、そして過ちを認められるがゆえにオーストリアに亡命出来た場合のシュチュエーションが明確に思い浮かべられないため。

次には行けないのだ。

文にしては短いがマリー・アントワネットは体感時間では年単位を消費している。

兎に角やりたかったことを片っ端から片づけていればそうもなろうものである。

焦らず耐えきった彼女の勝利だ。

 

「本当に行くのかい?」

「ええ」

 

ルイ16世の問いに頷く。

空が割れる、何もかも割れて砕け散っていく。

その場に残るのは家族だけだ。

ああ、やっぱりこの未練だけはどうしても切り離せない。

だけどそれでもと。

 

「「また僕/私を置いていくの母さん?」」

「ごめんなさい、今はそうする、けれど今度は約束するわ、座が終わった先の綺麗な場所で絶対にまたあなた達を生むわ。だからその時まで待っていて」

 

涙を流し抱きしめながらマリー・アントワネットはそういう。

聖杯で過去のやり直しは不可能と分かっている。

第一に過去のやり直しがきいても座に縛られた身では意味がない。

だから座が停止して、抑止力が不要となった世界で生まれたら絶対にルイの生まれ変わりを見つけ。

絶対にあなた達を生むのだと宣言し決意して、別れの言葉を涙を流しながら告げる。

 

「貴方も待っていて、絶対に見つけ出すから」

「待っているよ、いつも通りにね」

 

過去は受け入れられ、今を歩まんとする気概と誓いに黄金牢が崩壊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う分けでマリー・アントワネットの穏やかな脱出劇とは打って変わって宗矩は刀を翻していた。

鎬と鎬がぶつかり合って火花を散らす。

幾ら仏教やら茶道やら悟りやらを持っても取れないしこりが彼には会った。

対峙するのは、右目に眼帯をした偉丈夫である。

即ち、宗矩の息子である柳生十兵衛だ。

曰く鬼子。

曰く神童。

曰く天倫。

剣に愛され愛されたがゆえに。宗矩をして隔絶する才能を持つ大天才が宗矩に襲い掛かる。

宗矩は放り込まれた時点で、夢であることを察していたゆえに初期での脱出が可能だった。

だが黄金牢は彼に残っている心のしこりを巧みに具現化した。

即ち、息子へすべてを教えたいという欲求と、生前木剣で立ち会って本気を出さざるを得なかった。

ならば真剣で立ち会いたいと思う心が、柳生十兵衛を具象化させたのである。

しかも宗矩が知り得る限りでの全盛期の十兵衛だ。

持つのも真剣とくれば教導といってもこの夢の牢獄の特性上。

宗矩を出さぬため、殺し合いを呈する惨状と相成るのは当然のことである。

満月が伸びるススキ野原で彼らは舞うが如く剣を応酬する。

この様を見て普通の人であれば美しいと形容するが。

一たび武に通じるものが見れば背中に氷柱でも突っ込まれたかのような怖気に襲われるか。

或いは闘争本能の赴くままに高ぶるであろう光景である。

まずどれをとっても、一手一手が殺しの技だ。

回避と防御行動、捌きをミスすれば。そこで決着がつく殺しの技術の押収である。

レベルの高さで言えばぺルソナやら宝具抜きにすれば、達哉やクーフーリンとて入っていけぬ殺し合いである。

当カルデアで介入できるのは書文くらいな物だろう。

出会った敵だったら。全盛期のジャンヌ・オルタくらいだ。

それだけ応酬される技量が隔絶していると言っても過言ではないのだ。

振り下ろされる白刃は全く同じ技をもって相殺されていく。

互いに殺しどころは此処だと決めているがゆえに、そうなる形であった。

ああこういう場合、異能があればどれほど楽かと宗矩は内心思う。

ペルソナ能力、宝具による超絶極まる機能性。

如何に技を宝具能力領域まで引き上げているとは言え、技術は技術だ。

互角の技量の持ち主かつ身内が相手となると技術の優位性である奇襲性が失われる。

故に技量が伴う異能ほど怖いものは無い、考えても見てほしい、超絶技巧の応酬中に無拍子に炎や因果逆転なんてものをされれば回避が困難であり、殺傷圏内にもっていくのは実に容易となる故だ。

さらに言えば異能は技巧の差を縮める。

故に技量限定で言えば書文や宗矩がカルデアのツートップとなるが異能を有りとするとクーフーリンや達哉の方に戦闘能力は軍配が上がるのだ。

と言ってもその二人からすれば宗矩が異能を使い始めた時点でただの悪夢だと声を上げたくなるだろう。

複数種類の魔剣を保持している身でなにを言うのかと言う奴である。

 

閑話休題

 

と言う分けで脱出にてこずるのは当たり前だ。

互いに千日手の露呈を呈する。

そのお陰で脱出が難しくなっていた。

 

「親父殿、腕を上げたか?」

「上げるに都合がいい場所だったのでな」

 

白刃が交差し弾き合い。

互いに間合いを取る。

両者ともに額に冷や汗を一滴たらす。

宗矩は無表情、対する十兵衛は獣の如き笑みだ。

その笑みをもって十兵衛は宗矩に腕が上がったかと問いかける。

まぁ腕が上がらない場所ではないのだカルデアは。

座に帰れば記録になり下がるとはいえ。

現状の宗矩は生前より技術を磨き上げている。

神話クラスの英雄、それに匹敵しつつある教え子、並ならぬ相手、尋常ならざる異形を相手取り。

宗矩の腕は上がっている。

故にそこに相違はないと宗矩は精神を水面の如く落ち着かせている。

剣聖には届かなかったか準剣聖の彼の心と剣は高ぶらず、何処までも相手を解体する事だけに注力していた。

そしてこれが生前の後悔でもあるのだ。

十兵衛をこの領域まで連れてこられなかったことだ。

先天的才能によって十兵衛は心が共わずともこの領域に至っているだけの剣聖モドキである。

即ち想定外の事で驚くことは脳にやらせて置き、反射神経を指揮下に肉体を隷属させてプロセスを成せるという才能だ。

剣聖のたたずまいを才能で成せる体の機能プロセスではあるが。

所詮はモドキ、本物の夢想の境地に至っているわけでもないのである。

もし彼が本当にその領域に至っていたら宗矩に勝ち目はない。

故に有利なのは宗矩だった。

夢想とも呼べる柳生の秘伝を天覧剣技として十兵衛は収めていないのである。

生前であれば確かに見向きもしなかった魔剣だ。

たかが兜を両断し殿様を喜ばせる剣技に意味があるとはと宗矩も思っていたこと。

されど人外を相手取ったことによって、その意味を知って彼は更なる高みへと至ったのだ。

故に、宗矩は生前開眼した自分だけの魔剣の構えを取る。

剣を鞘に納め鯉口を切りつつ、両手をだらりと下げて、棒立ちの姿勢を取った。

 

彼が生前開眼した魔剣。

 

即ち剣術無双・剣禅一如である。

無想の境地から放たれる絶対の一撃―――――――とは聞こえはいいが。

その境地に至った反射能力を使った理論的に組まれた魔剣である。

まずこのたたずまいからしてもはや手中なのだ。

限定された姿勢からは限定された斬撃のみしか出せない。すなわち敵手に対する選択しを見せて防御手段を限定的にすることから始まる。

この場合は居合、敵手からみて左側の斬撃だと思わせる。

あるいはそこから避けた際に小太刀抜きによる追撃で切り捨てると思わせる

とすれば、相手は防御か捌いてからのカウンター狙いとなるわけだ。

だが防御となると至難だ。一太刀防いだとしても小太刀の間合い入られて切り捨てられる。

ならば捌きか? こちらの方がまだ現実的と言う物である。極まった居合の使い手の居合は意の先を行くと言われる。

捌くのは困難・・・というわけでもないのだ。

自ら姿勢限定による斬撃軌道の限定化は当然自分にも及ぶ、故にいつ無拍子で放たれるか分からないソレを弾くという行為の山張りは相手の呼吸と間合いで十分に読める。

無論それですら罠だ。、それをやった瞬間、宗矩も弾きの要領で自らの刃に相手の捌きの運動ベクトルを乗せたうえで刃の軌道を変更し切り捨てる。その動作の様が美しすぎていかな姿勢からでも一太刀で相手を切り捨てるように見えているというおそろしいものなのだ。

ようするに相手の選択肢を徹底的につぶすのがこの技のキモになるのだ。

無論相手が無知ならば前者のように切り捨てるのみ。不用意に間合いに攻め込んでくれば無拍子の居合が切り捨てに掛かる

理論上、無敵に近い魔剣、昼に上がる月にも勝るとも劣らぬ魔の所業とはこの事か。

 

だが魔剣とは個人の才覚に依存し、わからん殺し、或いは初見殺しになることが多い。

生前、宗矩の薫陶を受けていた十兵衛が分からないということはない。

十全の対策は出来ていた。

無刃取り、十文字、弾き。

それらを活用した魔剣殺しである。

この対魔剣技は十兵衛は、宗矩にお披露目したことはない。

なにせ魔剣の使い手である宗矩が病没しているゆえにだ。

故に、この時点で宗矩に勝ち目はない。

手の割れた手品ほど滑稽なものは無いのである。

魔剣 秘剣 妖剣の類は秘められ、個人才能に依存するがゆえに伝承が行われること自体が少ないともいえる。

だから十兵衛は八相の構えを取って、間合いを詰める。

使用する刀のサイズは同じ。

故に間合いも同じだ。

宗矩が刃を抜く。

十兵衛はそれよりも早めに刃を振るっていた。

居合の速度に対応するためにである。

無論、人は三寸切り込めば死ぬのだ。

十分な殺傷間合いである。

そして刃が重なった。

此処から宗矩は弾きに移行するだろう、狙いは胴体ではなく額を三寸切り刻むと。

自分の剣の軌道性から十兵衛は見抜いていた。

刃と刃が接触。

だが十兵衛の刃には手ごたえがなかった。

大概に交差し横を駆け抜ける。

十兵衛が己が刃を見る。

 

故にこう思う。

 

己の――――――俺の刃は―――――――

 

十兵衛の愛剣は。

 

―どこに行った?―

 

半ばからごっそりとなくなっていた。

折れたのではない。無くなっている接地面を見る限り、あまりにも美しく切り捨てられていた。

 

「すまぬな、十兵衛、生前はお前の問いに応えられなんだ・・・」

 

生前の問い。天覧剣技である技を宗矩はかつて自分が父に問うた如く息子の十兵衛にも問われ。

ついぞまともな答えを言えなかった。

十兵衛もこの技は収めていなかった。天覧の為の剣技を収めてなんとするかと。

 

「だが今は言える、柳生の秘剣、決して天覧の為の剣技にあらず、魔を屠る為の物だった」

 

宗矩はそう言いつつ剣を収めた。

同時に十兵衛が倒れる。

宗矩が駆使していたのは剣術無双・剣禅一如ではなく、兜割りの方だった。

刃が重なる直前で。既に宗矩は刀を両手持ちにチェンジしていたのだ。

剣術無双・剣禅一如は十兵衛には対応される、ならば弾き方次第では弾けず。

刀事切り捨てることのできる魔剣である兜割りを行うのは当然のことである。

腹を横一文字に引き裂かれ十兵衛は倒れつつもどこか嬉しそうにしながら。

 

「そう言う・・・ことは―――もっと早くに言って―――くれよ。親父」

 

ああ自分ももっと早く伝えればよかったよと内心を押し殺し。

息絶えた十兵衛に一瞥して。

宗矩は砕け、露になった闇に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「税金改革だ!! オラァ!!」

「ひぃ!?」

 

一方のエリザベートは税務担当官をつるし上げていた。

と言うか物理的に殴っていた。

夫も乱心かとエリザベートの拘束に走ったが音波攻撃で即座にノックアウト。

自分の財もきちんと領地に還元し過分に摂取していた税収の正常化はしていた

 

「物価の見直しだ!! オラァ!!」

 

そして行商人にも手下を連れて突撃。

物価の正常化にも努める。

暴君が一晩にして賢君的暴君化したことに領民は眼を剥いた。

ブラッドバスはやらかしてしまったので正式に謝罪。

各方面の改革と正常化に引継ぎが済んだら自分は火あぶりにを甘んじて受けると公約している。

連れ去った村娘などは責任を取ってちゃんと雇用した。

要するに脱出する手法はマリー・アントワネットの亜種である。

やりたいことをやって過去の責任を背負ってケリをつけるという事である。

よって、大ナタを振るいまくった。

僻みに出てくる貴族もあったが。

ここでは政治学を学びカエサル仕込みの政治手腕及び自身の剛力をもって強引に突破していく。

それで黄金牢は揺らいだ。

好き勝手放題やりたいことをやっている上に無茶苦茶にされれば黄金牢も上手く機能しない。

甘い蜜を垂らそうが乗りに乗ったエリザベートを止められるはずもないのだ。

それは月で某策士がやってしまったことと同じである。

良くも悪くも走ると決めたら変な方向にドリフトかましつつ障害を強行突破するのがエリザベートの精神性である。

真っ当になってもそれは変わらない。

今更、美少女の血で若返ろうなんて思ってもいないし、やってしまったからこそ黄金牢は正すべき過去であり背負うべき罪として大ナタを振るってぶっ壊しまくるのだ。

夫は地下牢に封じ込め、先ほども言ったように領地改革を断行していく。

無論、心の影は快楽を望むが理性でねじ伏せて進むのだ。

まぁ過程はトンチキだが。

何度も血風呂を浴びたい衝動に駆られるが。

それをしてはならないのは理解済み。

覚悟は決まっている、だからやりたいことをやるのだ。

例え本性がそうであっても、背負っていくという理性でねじ伏せ進むのである。

徐々に黄金牢が崩壊を始めている。

エリザベートの無茶ぶりについていけなくなったのである。

それに感付いたのかエリザベートも手を緩めない。

だが最終セーフティが起動する。

 

「ふぅ」

 

今日も帳簿と官僚と教会の神父殿怒鳴り合いという会議で終わった。

激動の日々を早回しにして疲れ果てていた。

ミニマムサイズにされ小物的、置物として作られた鋼鉄の処女がインテリアとして無数に置かれた部屋で。

彼女は椅子に座ってため息を吐く。

 

 

―血風呂でも浴びたい?―

 

同化した本性がそう語りかけてくる

 

「馬鹿言わないでよ、今気づいたのだけれど不衛生よ・・・」

―それでも浴びたいんでしょう? 頭痛が和らぐから―

「悪化した原因だとも思うのよ、だからこれはそんなお馬鹿な小娘に対する罰、甘んじて受け入れるわ」

 

そういうと本性が消える。

そうこれは愚かな自分が受けるべき罰だ。

頭痛も当初は精神性のナニカだったのだろう。

それを血風呂や吸血行為という不衛生なことをして悪化させたのだと。

エリザベートは生前を考察していた。

親友のネロだって鉛中毒で頭痛を悪化させていたのだ。

知らなければ知り様がないともいえるが。

知ってしまった今は人道的にも衛生的にも罪と罰としてもやってはいけない。

 

「あの、エリザベート様」

「あら? どうしたの? 定時上がりしていいって言ったわよね?」

 

そこに使用人が一人部屋に入ってくる。

その手にはナイフだった。

料理包丁と言っても良いか。

恨みでも晴らしに来たかと、ため息を吐いた。

だが死ぬわけには行かない今はまだ。なにも成し遂げていないのだから。

身体能力はサーヴァントのままだ。料理包丁持った小娘程度傷もつけずに鎮圧できる。

後は誰もいないことを良いことに御咎め無しだ。

それだけのことをやってきた自信はあるのだから。

だが・・・・彼女は。

 

「―――――――」

「なにやってんのよぉ!?」

 

自分の喉元に料理包丁を突き立てようとしたのだ。

危うくと言ったところでエリザベートが彼女の手首を掴んで阻止する。

いったいどうしてこうなった!?と内心絶叫した。

ついでに頭痛がより一層ひどくなる。

 

「だってエリザベート様がいなくなったら此処はどうなるんですか? またまえにみたいになるって保証はないですよね? 最近、上がった給料で祖父を医者に見せることもできるようになったんです。ですが頭痛も酷くなっているのでしょう? このままエリザベート様が死んでしまったら私は許せません、だから私の血を・・・血を」

「てい!!」

「あう」

 

とりあえず使用人を気絶させる。

歌で鼓膜と脳を揺さぶったのだ、衝撃波的な意味で。

無駄になんかこういう事ばかりになるわねとエリザベートは使用人の身体をチェックする。

 

「これ・・・阿片?」

 

普通のチェックでは何も出てこなかったが。

独特な匂いがわずかながらにする。所謂、阿片と言う奴だった。

民間療法や麻酔薬としてエリザベートが生前の頃は使われていたが。

文字通りの麻薬である。その効力も知っている。

先の錯乱ぷりから見るに阿片の接種が原因だろう。

だが無論、物価の見直しと同時に阿片市場にも介入して取り締まりと伊津部の物にしか使えない様にしていたはずだ。

生前、拷問用にも用いた物は主文している筈。

故にあるはずがないと思った時である。

 

「俺を拒むのか? エリザ」

 

咄嗟に一歩引く、剣が振り下ろされる

 

「・・・どうやって脱出したのよ、アナタ」

「いざと言う時の保険は掛けて置く、貴族のたしなみだ。エリザベート」

 

剣を振り下ろしたのは、彼女の夫であり、今は地下牢で何不自由なく暮らしている筈の夫のフェレンツ二世だった。

夫であり、エリザベートの拷問術の師でもある。

英雄でもありその残虐嗜好から黒騎士の名で呼ばれる存在でもあった。

彼は彼の伝手で地下牢を脱出したのである。

 

「それよりなぜ、彼女の血を受けない、以前のお前なら」

「お前達、全員蓄音機なわけ? もう何度も説明するのも疲れるんだけども? 不衛生な事をやって余計に悪化させちゃ世話無いわいわよ」

「頭痛は酷くなる一方なのにか?」

「ええそうよ、血を浴びるより精神安定剤飲んだ方が良いわ、ああ今度、カルデアとゆっくり話せる時が来たら処方してもらいましょうかしら? それで・・・なんのよう? 離婚届は出したはずだけれど?」

「なぜ・・・君はそうなった・・・、以前の君はもっと美しかったのに。無邪気に血を浴びる様はあれほど美しかったのに・・・今では民の奴隷ではないか」

「血を浴びながら税金を貪る馬鹿貴族よりは今の方が断然美しいと思うのが普通だと思うわ。それにやりたいことを苦労しながらやって何が悪い、もう私はアナタの操り人形じゃないのよ」

 

生前、ある種、エリザベートは彼の操り人形だったかもしれない。

残虐行為は彼から教えられた物だったから。

無知な彼女をフェレンツェは嗜虐の女王に仕立て上げて自分の理想の女にしたのである。

無知な頃はそれでよかったかもしれないが。

今の彼女は成長したがゆえにもはや彼の人形ではない。

 

「人形遊びがしたいなら他の場所でやってないさいよ、私は私の罪と罰を背負って正しい道を行く」

 

やったことは消せない、だから今度こそ間違わない様にやっていくと宣言する。

空間に罅が入り始めた。

黄金牢がついに崩壊を介していく。

その前に、リセットを掛けるべくフェレンツェ二世を使ってエリザベートを倒し再洗脳を掛けるべく。

彼を駆動させる。

 

「なら・・・今の君は美しくない、であるなら俺が美しくしてやろう」

「ほざいていなさいよ、第一」

 

フェレンツェ二世が怪物となる。それと同時にエリザベートは槍を呼び出し。

仕込みマイクを起動、思いっきり歌声を上げる

すると彼の視点からすると、いきなり地面が自分自身に向かって迫る様に叩きつけられた。

インテリアとして置かれていた小物の鋼鉄の処女の腹が開かれスピーカーが露出していた。

この部屋自体が何かあったら即応可能な状況に整えている。

政治家の類は常に暗殺に備えればならない、それが独裁者であれ賢人でアレ。

愚者は一定数いるのが世の常だからだ。

カエサルから学んだことだ。エリザベートとしても事を成す前にブルータスは御免だったからだ。

 

「私は私だ。だから先に進む」

 

そう言って倒れたフェレンツェ二世だった物をエリザベートは槍で頭部を貫き。

黄金牢が砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誘導されているなとオルガマリーは心のどこか遠くで思っていた。

なぜそうなのかと問われれば。

相手の攻撃を捌くことで一派いっぱいだからである。

オルガマリーシャドウの振るうスキルの中に拙い物が在った。

ヴォイドザッパーと彼女は言っていたスキルは理不尽の体現だったのである。

空間どころかテクスチャごとぶった斬り抉るスキルだ。

防御事態が不可能、あらゆる耐性を無視するスキルだ。

一撃当たれば即死確定である。

まさしく死神の大鎌の如き威容だ。

懐に潜り込めばいいと思うが、相手は棒術を収めているのか。

刃の内側に入っても棒術で押される、実はオルガマリーもやろうと思えばできる業だ。

カルデアの特訓に置いては対抗策を講じる為ある程度は齧らされている。

シャドウは心の存在なのだから己の最善行動を本人が本格的に収めて居なくとも行うことが可能。

故に達哉たちも罪の物語の時に囲んで袋叩きにするという戦法を使っても手古摺ったのである。

だからこそオルガマリーは現状単騎での相対だ。

どうやっても後手後手に回るのは必然で。回避行動と防御行動に集中するがゆえに。

相手の良い様になされている、

故に位置を取られ、回避行動を行うと階段を駆け上がる様に誘導されている。

既に中腹を過ぎた。

頂点までは近い。

達哉たちもオルガマリーの援護に向かってはいるのだが。

ここに来てアイオーン教団幹部連中の手によって足止めを喰らっている

達哉とクーフーリンがいれば突破は楽なはずだった。

書文も合流し万全の体制だったはずであるが。

そうは問屋が卸さなかった。

四人の前に立ちふさがったのは残る幹部3人だったのだが、ペルソナを起動と同時にペルソナに乗っ取られ。

菅原の様な末路をたどり、暴走したペルソナはシャドウ化と悪魔合体したかのような悍ましき物に変貌。

ご丁寧に無限再生能力まで備わって徹底的に足止めされていたのである。

故に援軍は望めずに、成すがままのオルガマリーという現状が出来上がってしまっているのである。

後、二、三人人手が増えれば突破できるとのことだったが。

令呪を切って目覚められない連中を当てにするわけには行かなかった。

 

「死ね!! 死んで私が私になる!!」

「お前は私でしょうが!!」

 

オルガマリーシャドウの言い分に反論しながら体を傾け刃を回避と同時に両腕を突き出し二丁のリペアラーから銃弾を射出。

さらにセイリュウを呼び出しブフダインを叩き込むが。

銃弾は回転させた大鎌の柄の部分で弾き。ブフダインをヴォイドザッパーで斬りかき消す。

千日手だ。

有効打を出せていない。

銃弾は棒術と体捌きで回避と叩き落され。

ペルソナスキルはヴォイドザッパーで相殺されるどころか手持ちが三体既に削られている。

故に頭痛や幻肢痛のフィートバックも酷くオルガマリーを蝕んでいる。

がオルガマリーシャドウが完全有利かと言われると実際はそうでもない。

苦しくても明日へと行きたい、そしてそこで皆と笑い合いたいという渇望が発芽し。

且つシャドウを否定せずに受け入れているためか。

オルガマリーシャドウの動きも緩慢になりつつあり、さらには吸収される形で存在が揺らぎ始めている。

第一に完全拒絶でもすれば、オルガマリーシャドウは人の形ではなく、化け物に変異しているのが相場であろう。

なんせ己の醜い渇望の具現だから。

だが受け入れている以上、シャドウも本気を出せず、オリジナルに吸収されるのは当然の事なのだ。

故にオルガマリーシャドウも速攻をかけねばならない。

 

「なんだかんだ言って、本当は楽な道行きたいのでしょう? わざわざ茨の道に突っ込んで痛い思いしてなんになる!?」

「突っ込まなきゃ、穏便どころの話しじゃないでしょうが!! 世界吹っ飛ばして意味無いじゃない、いつまでも逃げているわけにはいかないのよ!!」

「そうやって今度は要らない責任取らされても!?」

「支払いの準備は出来ているのよ!!、たとえ辛くても痛くても、私はその先の明日に行きたい、それがたとえひどい目に合うのだとしても少しの安息って言う出目が出るまで賽を振い続けたいのよ」

 

正しいことは痛い、生きることは辛い、誰かに正義というエゴを振り下ろすのはキツイ。

責任は進むごとに重くなっていく。

だがそれでも、辛くとも痛くとも重くとも役目を全うして。

その先の少しだけの穏やかな日常で達哉やマシュと笑い合いたいのだ。

それがたとえ決められた楽な道を歩み外してでも。

それでも決まった道を歩みたいという渇望は残っている。

だからどうしようもなくても大鎌を振い子供のように駄々を捏ねる存在はどうしようもなくとも自分なのだと彼女は受け入れる。

 

「だまれぇぇえええええええええええええ!!!」

 

オルガマリーシャドウの絶叫、ついに臨界点を超えたのだ。

怒りに任せて刹那五月雨斬りを放つ。

多次元屈折現象一歩手前の斬撃にオルガマリーは真っ向から迎え撃つ形を取る。

敵は錯乱し、チャンスは此処しかないと踏み込んだ。

師であるアマネの言葉を思い出しながら。

 

―相手が真正面から同時攻撃をしてきた場合、如何に回避できる数まで減らすかがポイントになる―

―数を減らす?―

―そうだ、10方向同時攻撃、回避は不可能、だから攻撃を潰して回避できる数まで減らす―

 

そんなことを思い出しながら。ペルソナを出して盾にした。

 

「づっ」

 

激痛に会え劇ながら瞬間的に首狩りの一撃。肩から脇腹を抜ける一撃。

足元を狙った一撃を潰す。

膝を屈折させ、姿勢を低くし踏み込みの勢いと遠心運動でスライド。

一気に距離を縮め。相手の脇腹に右手のリペアラーを叩き込む。

リペアラーのマズルスパイクが食い込んだのを感覚で確認、残っている弾丸をセミオートで速射。

.357マグナム神経弾五発が脇腹から体内に侵入。

絶大なストッピングパワーでオルガマリーシャドウを仕留めに掛かる。

オルガマリーシャドウは血反吐を吐きながらもまだ交戦の意思は緩めない。

ならばと、体を捻りつつ、かがめていた膝を垂直に伸ばし。

右足を垂直に蹴り上げる

魔術強化マシマシ。ペルソナ補正と強化も相まってサーヴァントでも当たり所が悪ければ即座に退場と呼べる。

零距離における垂直上段蹴りだ。

それがオルガマリーシャドウの顎を打ち抜き。

確かな手ごたえと共に弧を描く様にオルガマリーシャドウを吹っ飛ばす。

 

「はぁ・・・はぁ・・・まだ。やる?」

 

右手のリペアラーの残弾は無し。

今はマグチェンジしている暇もないので。残弾の残っている左手のリペアラーをシャドウに向けながらそう聞く。

 

「いえ・・・私の負けよ」

 

オルガマリーシャドウの全身に罅が入って砕け散っていく。

 

「でも負けるとは思っていなかったあの頃より強くなったわね私、でも喜ばないでよ光と影は表裏一体、決して切り離すことはできない」

「良く知ってる」

 

そうよく知っている、達哉の記憶を見て彼らのシャドウは散々同じことを言っていたからだ。

 

「精々足掻きなさい、私はアナタの”獣性”の先触、この先何処まで受け入れて行けるか楽しみにしているわ、特にこの先に居る獣はアナタのサカシマなのだから」

 

そう嘲笑いながらオルガマリーシャドウが消え失せた。

それと同時に、オルガマリーの脳裏に新たなペルソナが現れる。

 

『我は汝、汝は我、我は汝の心の海より出でし者。事象の境界線上を行くチェシャ猫、シュレディンガーなり』

 

新しく表れたのはラプラスの進化系。

つまり後期型ペルソナである。

姿は赤い法衣を身に纏い、光刃の刃を持つ大鎌を持ち。フードをかき分け側頭部両方から後頭部に掛けて円柱の角を持つペルソナ。

有耶無耶な事象を指し示し、その中を行く覚悟と渇望から形成されしペルソナ「シュレディンガー」だった。

 

そして通信で安全連絡よりも嫌な怖気が走る。

即座にリペアラー二丁のマグチェンジを行い身構え周囲を確認する。

気付けば天辺に駆け上がっていた。

鎖に雁字搦めにされた巨大な聖杯からは汚濁が滝のように流れ、その汚濁の通っていない縁にソーンは座り嘲笑い。

そのふもとに居るのは祈る様に歌っているネロだった。

ただし姿形は違う側頭部から巨大な角を王冠のように伸ばし真紅のドレスに身を包んでいる。

通信機からロマニの悲鳴が上がる。

そりゃそうだろう、聖杯とネロは違う、二等級惑星と言う出力を持っていたのだ。

気付けなかったのはニャルラトホテプの意図的ジャミングが掛かっていたからだ。

オルガマリーの直接観測によって状況がカルデアにも伝達し、中央の巨大な反応はニャルラトホテプが彼女たちを隠すためのヴェールとして使っていたものだ。

そして両者ともに出力はまだ引きあがっていく。

彼等の根源であるニャルラトホテプは嘲笑ながら彼女たちに獣性を無尽蔵に注ぎ込んでいく。

並行世界、特に安楽死を望む剪定時空などにつなげて、彼女を育て上げる。

そして歌が止んだ。

ネロが振り返る、オルガマリーに。

そして彼女が来てくれたことが嬉しかったのか優しく微笑む。

 

「遅かったではないか、オルガマリー」

「ネロ・・・どうして・・・」

 

今こうして再び彼女たちは交差することになる。

石ころが坂を転がり始めた。あとはそこに堕ちて行くのみ。

 

―グルルルルー

 

そしてオルガマリーも自分の脳裏が獣の如く唸り声を上げていることをどこか遠くの出来事のように想いながら。

獣と相対する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と言う分けで今回は宗矩 マリー エリザの3人でお送りしました。
マリーは脱出に時間をかけているため、第二特異点でも後半に脱出となっています。
時系列が前後して申し訳ないです。
宗矩は即脱出できそうだったけれど十兵衛登場で大苦戦。
エリザは影を受け入れているが領地経営の影響で領民見捨てられず大苦戦と言う感じです
書文先生は人生に後悔なさそうなのでキンクリ。
アレキサンダー君もイスカンダル状態じゃないのでキンクリすると思います。

因みに魔術王(仮)さんはジャミングで現地情報見えていません。

魔術王(仮)「なぜ現地情報が見れぬ!?」
ニャル「だってそういう類の汚濁を見たくないって望んだの”お前ら”じゃんwwwwwwwww」

てな感じでたっちゃん達が現地入りしたりニャルの仕込みが起動した特異点は魔術王(仮)の千里眼ではジャミングで見えません。
だって彼らが自身が見たくないと願ったわけですし人類の汚濁(ニャル)を観たくないと願ったのはね。
まぁ魔神柱を通して一応は見れますがニャルが徹底的に現地サーヴァントに排除させる方向や魔神柱自体が自滅する方向に動かしているので結局、なにが起きたのかは完全に把握していません。
そこにアマラの魔王たちの妨害もありますし、第六はそも天使たちが好き勝手し放題やっているのでと言うわけです。

あと所長VSシャドウ所長も決着。
後期ペルソナに覚醒し、より所長は拙い状態に。
彼女も■ですから、ほんと、この作品のカルデア爆弾だらけ。

ビーストネロちゃまですがニャルが十全にバックアップしているせいでとんでもないことに。
所長も正規No持ちですからまだ勝ち目はあります。
と言うかネロちゃまのアンチユニット化してますからね現状の所長って。
後期覚醒の余波で一時的に■のスキルを使えます。





あと就職活動ですが。
何の成果もえられませんでしたぁ――――――ッッ!!


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十節 「黄金牢Ⅳ」

とにかく、始める事が行動の原動力であり、始めさえすれば、それだけで行動の半分を達成したことになると思うの。

ホイットニーヒューストン


孔明は目を覚まして、驚愕した。

それもそうだろう。姿が若いころの自分そのまんまだからだ。

カレンダーを見れば、自分が参加していた聖杯戦争開始からキャスターのやらかしを調査しているころだった。

何でこんなことにと孔明は思いつつ、ふと思い当たる。

カルデアの言いようだと、ローマ市民は棺桶に閉じ込められ表を代行しているのがシャドウというものであると。

とするなら棺桶で見せられているというのは自分にとっての最盛期の都合のいい夢であるということを導き出すのは簡単な話だった。

だが他が強烈な洗脳じみた行為を受けているのに自覚が早かったのには理由がある。

孔明ことウェイバーベルベットあるいはロードエルメロイ二世はまだオケアノスの果てを目指している真っただ中であるのだ。

年は食ったが夢を目指す少年とある意味大差がない。

つまり壁に挑んでいる最中であり黄金牢とかいう都合のいいものに縋っている余裕はないのだ。

ライダーは去った。と言う自覚はあるし彼の臣下としてきちんとした振る舞いをしなければないと思っているからである。

とういうか、夢の為に焼却側に加担したことにエリザベートにカルデアが来るまでに指摘され塩対応された挙句、罰として職務を押し付けられ都合のいい物に縋っていたことを自覚した事と。

孔明という憑依サーヴァント状態で黄金牢が上手く機能せず

黄金牢の再洗脳が果たされなかったのが吉と出たのである。

それらをもって、此処は幻想だと孔明の思考は行きついた。

 

「と言ってもどうすればいいのだ・・・」

 

孔明の力ではどうしようもない。

寧ろ若干の制限が掛かっている節がある。

ループ空間を抜けるには自分では力不足感が否めない。

ガーゴと欠伸を上げて寝るイスカンダルをしり目に孔明は頭を抱えた。

どう選択すればいい、矮小の身でだ。

 

「・・・とにかく一周してみるか」

 

兎に角検証は必要である。この聖杯戦争を同じように回す。

そのうちで検証し突破口を見つけるのだ。

何時だってそうやってきた。時間をかけロジックを見極め理論で解体し事件を乗り越えてきたのだ。

故にとりあえずは一周だ。

結末を変えるような真似はしない。だってこれが自分の夢の始まりなのだから。

それを歪めてしまえば自分が自分でなくなってしまう。

故にあの頃のように多少無能な自分を演じることにしたのだ。

だから・・・

 

 

「やはりか」

 

兵共が夢のあと。

固有結界は粉砕された。

原初の地獄という世界を掘削する剣に固有結界は粉砕され。

最後に残ったライダーがアーチャーに突貫し止めを刺される。

いつかの光景、されど自分が誇るべき光景だ。

同時に終わって。少年が青年へと成長し夢を得た切っ掛けでもある。

後悔はあるが、されど悔いはないのだ。

 

「雑種、貴様は力があるというのになぜ使わなかった?」

 

幻想の英雄王が言う、なるほど彼が言いそうなものだ。

これまでに自分が経験したことと乖離が起きているのは明白だった。

何も感も都合のいい事が起きまくった。

そうなればなるほど、ライダーは勝てたというくらいに。

その都度に孔明はかつてのようになるように修正し誘導したのだ。

彼は黄金牢のロジックを完全に理解したがゆえにあえてこうしたのだ。

この空間は後悔や慙愧の類を媒介に都合のいい夢を仮想現実として見せつけ体験させ絡めとる牢獄であると。

故に自分が経験した現実をなぞる様に動くことによって。破綻を狙ったわけである。

 

「確かに私は、かつての私とは違う。だがそれを使って勝利するなど言語道断だ」

「ほう?」

「貴方に勝つときにはライダーと共にウェイバー・ベルベットとして挑みたいのだ。それが夢なんだ。今度こそ、純然たる私が我が王に英雄王に勝利を齎せたいのだよ。孔明という振って沸いた力を使わずとも、私は私として積み上げたものとライダーとで貴方という偉大な王に挑戦したいのだ。」

 

故に今回の勝負で決着をつけるのはナンセンスだった。

自分自身の積み上げたもので挑みたいのが本心だからだ。そこに嘘はない。

 

「だから今はその時ではないし、都合のいい夢に任せている暇はないのだ」

 

だからこそ今はその時ではないのは明らかである。

まだ走っている途中なのだから。

 

「だからまだ。貴方に挑む時ではない。だが今度、対峙したのなら今度こそ乗り越えて見せる」

 

今度こそ乗り越えてやるとウェイバー・ベルベットとして啖呵を切った。

当然、ギルガメッシュの人となりもあの戦争を通して知っている。

故に、ギルガメッシュは剣を降ろす。

それと同時に、黄金牢が崩壊した。

痕は無言のまま、ギルガメッシュは立ち尽くし、ウェイバーは走った。

夢から覚める為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだ・・・」

 

声は若き日の己、口調は守護者となっての物。

ふらりと布団から立ち上がって鏡を見る。

そこにあったのは若き日の己の姿だった。

 

「何があったというのだ・・・」

 

訳が分からない。

ローマ市に突入と同時にスモッグとタールの津波に襲われ。

気付けばこんなことになっていた。

つまりエミヤは衛宮士郎として目を覚ました。

まるで守護者時代とそれに至る過程が夢のように思えてくる。

自分はまだ正義の味方にならず冬木市の一市民として将来は消防士か救命隊員になろうとしていたころに、

姿形が戻っていた。

さらに言えば記憶がグチャグチャだ。

故に達哉たちとの出会いが守護者としての記憶は夢だったように感じる。

それは衛宮士郎ではなくエミヤシロウとして経験した繰り返される四日間事件を彷彿とさせる。

 

「だとするならば・・・」

 

それが良い方向に働いた。エミヤシロウは黄金牢と同じ体験をしているのだ。

有耶無耶だった記憶が元に戻っていく。順序良く整理整頓されていくが。

 

「ぐっ」

 

そこに直接、薬物でも注入されたかのような感触。

自白剤を過剰摂取したうえで覚醒剤やらLSDでも注入されたかのような感覚だ。

記憶が再度ごちゃまぜになり、自分がそうであって欲しかった方向に引っ張られていく。

これは拙いとエミヤは這う形で布団から出て、机の上に置いてある鉛筆を手に取って。

手の甲に突き刺す。

 

「うぐがぁ」

 

うめき声を上げながら痛みで強引に意識を覚醒させ、ついでにあやふやだった記憶を繋ぎ留め整理整頓する。

何だってこんなことにと思いながら。

救急箱から消毒液を取り出し傷口にぶっ掛けてガーゼを当てて包帯で巻き上げる。

とりあえずの応急処置だ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・本当に一体何どうなっている」

 

応急処置を済ませて、机の上の血を拭い取り、血臭を消すためにリセッシュをかけて痕跡を消しつつ思考を張り巡らす。

とりあえず此処は現実ではないのは理解できた。先ほどの強制的記憶の改竄と繰り返される四日間を経験したことによる経験則でだ。

とりあえず情報収集は必要だろうと、のそりと身を上げた。

時期にもよるが、桜が来るし、セイバーは召喚後は既に起床している時間帯だ。

何があるか分かったもんじゃないため、衛宮士郎として振る舞いつつ。

状況を観察する必要があったからだ。

だが。状況判断と言いつつもこうなっているのはエミヤ自身がまだ振り切っていない証である。

自覚が足りないのだ。

だから黄金牢の良いようにされかけたのだ。

それはさておき。

セイバーはいつも通り起きて道場で竹刀を振るっていた。

竹刀ではなく木剣やら真剣を持ち出すカルデア式は苛烈すぎて、セイバーとの竹刀稽古は今思えば優しい部類なんだなぁと思いつつ。

型稽古に精を出すセイバーをそのままにして起き、朝飯の準備に取り掛かろうとしたとき。

丁度、桜がやってくる。何気にライダーも一緒で珍しいことに慎二も一緒だった。

相も変わらずも皮肉気な慎二の言い様をにっこり微笑んで窘める桜。

慎二はその様子に怯えている様子だった。だとするならば、ここはあの繰り返される四日間なのかと思ったが違う様子で。

聖杯は解体予定、サーヴァントは待機するようにという事だった。

そのついでに間桐臓碩は各種、魔術の紳士協定違反と言うことで粛清され桜と慎二は解放されたとのことだった。

忘れていたのかと桜に心配された。

それでなぜ慎二も衛宮家に来たのかと言うと。弓道部のインターハイの朝練があるから。ついでに自分の家で食っていけと言ったのはエミヤ自身じゃないかと言われた時には面を喰らった。

まぁ生前の自分なら言いだしそうかと思い納得。

左手に包帯を巻いていることも二人に驚かれたが、昨晩、ちょっと片付け中にミスをしてけがをしただけとごまかし。

朝餉の準備に桜と共に取り掛かった。

過去会った日常、いつまでも続いてほしいと願い、自ら切り捨てた物。

当時は何とも思わなかった。夢に夢中だったから。

だが夢は終わり覚めて罰を受け今ここに存在して振り返ってみればどれだけ大事な物だったのかを理解させられる。

 

―ああ本当は―

 

内心そう思いつつも自ら出した答えに背くわけには行かず紡ぐことが出来なかった。

 

「士郎~さっきからずっとボケーとしてるけど大丈夫?」

「ん、ああ。大丈夫だよ藤姉ぇ」

「そうは言うけどさ、昨日の夜も片付けでボケーとしてそれでしょ? 本当に大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫、ほら将来の事とかちょっと不安に思えて来てさ」

 

そういって話をはぐらかす。

今はこの空間から脱出する方が先決だった。

黒桜はない、あの妖怪爺は時計塔の粛清にあったとこの空間ではそうなっている。

ともすればセイバーの目を欺かなければならない。

凛もこの空間にはいない。

ともすれば自分もいない故に最大の仮想敵だ。

固有結界の奥の手を引っ張り出して勝てるかどうかの勝負である。

内心、高速思考をぶん回しつつ離脱の機会を伺っていた。

とりあえずいつものように振る舞いつつ学校にも赴き。

何時ものように過ごす、それら一つ一つが刃となって心を抉り、尚且つ今ここにあるとしてエミヤは泣きそうになった。

取り戻せない過去を取り戻したようになれば誰だってそうなる者だろう。

そのたびに黄金牢は介入しあの手この手でエミヤの精神を硝子を加工するかのように切り取っていく。

嘗てニャルラトホテプがエミヤに告げた通り、夢の為に夢を切り売りしているという言葉が身に沁みてくると言う物だ。

だから涙をぬぐいながら。

エミヤは薬局から調達した睡眠薬を晩飯に混ぜた。

如何に抗魔力Aとはいえ、只の薬物までは防いでくれない、神秘強度による物理法則防御も形のある銃火器兵器のみだ。

セイバーが眠ったのを見張らかって家を早々に後にした。

タクシーに乗り、街を出るように指示する。

そして・・・

 

「運転手」

「なんですか?」

「ここはどこだ? 町の外には違いないが」

 

そう言いかけて、タクシーに衝撃、寸前の所で、エミヤは反射的にタクシーの扉を蹴り破って外に転がり出ると同時に。

タクシーが爆発炎上。

そして、本当に見るべき過去が今、彼に追いついてきた。

衛宮士郎をどうこうではない。

ニャルラトホテプ的に言えば、自分で救ってきた者を顧みなかった結果の事である。

救っては踏みにじり、道を踏み外し絞首刑だ。

魔術と言う特別性故によって人を救えると勘違いした人間の末路がエミヤシロウである。

だから彼は彼自身を憎んだ。衛宮士郎と言う存在は正義を振りかざし、犠牲を出すだけの物だと決めつけた。

だがそれは彼の学の無さと視野の広さに起因する。

 

達哉と同じだ。主人公というポジションであるがゆえに完璧さを求められ。誰にもその心を救われることが無かった。

 

誰かが気づいて精神科に叩き込むべきだった。

それが一番手っ取り早い衛宮士郎を殺す方法である。

 

閑話休題。

 

それでも多くの物を救ってきたのは事実なのだ。

間違っていても。彼の行動で救われた人もいるだろう。

ではその中で一番踏みにじられた人は誰だろうか?

実に簡単だ。

 

「―――――」

 

エミヤはパクパクと陸に上がった魚の如く酸素を求めて口を動かす。

理想の為に何もかもを切り離した。

だが最後の最後まで切り離せなかった人物はいるのだ。

燃え上がる炎をかき分けるように出てきたのは。

 

「ねぇ・・・士郎」

 

ひゅんと薙刀を旋回させる。

漆黒のスーツ姿、頭には猫耳。

トンチンカンではあるが見違えるはずもない、だってそれは―――――それは

 

「藤ねぇ?」

「そうだよ士郎」

 

藤村大河、エミヤシロウ及び衛宮士郎の日常の象徴。

最後の最後まで切り離せなかった人だから。

 

「またそうやって私を置いていくの?」

「そんなこと「あるよね?」」

 

ずっと彼を待っていた。彼が帰ってくるのを待っていてくれた人だ。

嘘だとは言わせない、定期的に手紙、連絡が付くときは電話もしてくれた。

故郷に帰れば必ず出迎えてくれた人だからだ。

 

「ずっと嘘を言っていたわよね・・・NPO法人の仕事だって。でも違う。現地ゲリラやレジスタンスに混じって革命運動してたんでしょ」

「それは・・・・」

「髪の毛も真っ白になって、肌も黒くなって・・・・、ずっと戦い続けてきた」

「それは違うよ、俺が俺としてやりたかった事なんだ」

「うそ、だってシロウは士郎を否定したじゃない」

 

それはいつかどこかでの光景。

自分と対峙し拒絶した。

裏を返せばそれは自分は間違っていたと肯定する行いに他ならない。

 

「でも多くの人を救ってきた」

 

されど何度も言う通り彼の行いで救われた人もいるのだ。

彼が彼自身、顧みず理想と言う絶対数以外を認めず顧みなかっただけの話しで。

だからこそ過去はやってくる。

振り返らなかった代償として。罪と罰を今ここに具象化するのだ。

 

「もういいじゃない。士郎はよく頑張ったよ。もう何もしなくていいんだよ?」

 

甘い毒となって具現化する。

エミヤは歯を食いしばる。ああ君はこんな気分だったのかと。

座に座る前に見せられた達哉の過去の映像の真意を知って歯を食いしばる。

愛しい人にも親しい人たちにも別れを告げて彼は孤独に堕ちた。

ああはならないと影に吼えたが。

本当は羨ましかった。自らと引き換えにすべてを救って見せた彼の姿が。

だから特異点冬木では力を試すだのなんだの言って協力せずセイバーに同調し彼を痛めつけた。

であるなら達哉と同じ気持ちを味わえと言わんばかりに。彼と同じくこの黄金牢を突破するために愛しい人が敵として具象化するのは当然の理である。

無論、ニャルラトホテプは手を加えてはいない、黄金牢の仕組みはネロの統括であるがゆえにだ。

全てエミヤシロウ、否、衛宮士郎が望み選択し出た賽の目だ。

だが脱出できないわけではない。

同じケースは存在している。そう達哉は同じような状況に置かれて脱出したのは読者の方々も知っての通りだ。

であるならば、エミヤに出来ないわけがない。

第一に達哉と違って無自覚に切り捨てているのだ。できないとは言わせない。

 

「くっ」

 

苦虫を潰した表情でエミヤは干将・莫耶を両手に投影し振るわれる薙刀を捌き防ぐ。

そのたびに心に罅が入るような感覚だった。

でも分かってしまうものだ。生前鍛えた上げた感覚と英霊としてブーストされている感覚が真実を伝える。

この目の前の存在を倒さないとこの空間からは脱出できない。

逆に負ければ今度は再洗脳されてまた戻されるということをである。

故に刃を振う。

実力はエミヤの方が上だ。戦場を駆け抜けた場数が違うのだ。

ブーストありきの二流程度に負ける要はない。

そう負ける要素はないのだが・・・

 

「くっ」

 

押されているのはエミヤだった。

相手は自分にとって太陽のような存在。かつ大事な人だったという事実が刃を鈍らせる。

かつて正誤で敵か味方を判別していたゆえに。

此処で突き付けられるのは、幻想の人を切り離してでも、守るべきもののために戦えるかという事である。

生前はなかった究極の選択肢。

身内が巻き込まれなかったから選べた理念が今ここに否定され、清算すべき過去として襲い掛かる。

故にこれは心の試練なのだ。

この黄金の思い出を過去の物として眠らせるか葬るか、あるいは屈し都合のいい夢に浸るかの瀬戸際なのである。

だから、エミヤは気づいた。

答えは得た。やることも決心した。あの戦いに向かない子供たちを守るのだと決意したのだ。

ならば―――――――――

 

「シッ!!」

「!?」

 

エミヤの刃が鋭くなる。

ここに来てエミヤは腹を括ったのだ。答えは得た。決心も付いた。

過去は取り戻せないのだともう理解している。

 

―ああ、だからごめんよ、藤姉ぇ―

 

心の中で懺悔しつつ、振るわれる薙刀に対して刃を滑らせるように走らせ。

エミヤは大河の首を跳ね飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マシュ・キリエライトが黄金牢から脱出できるのかと言われれば否である。

まず人格が成長していない、いや厳密にはしているのだが、まず一定基準値を満たしていないと言った方がいい。

辛い痛いキツいという人生経験を味わい人は成長する。

その点が足りていないのだ致命的なまでに。

他者に対する明確な殺意、邪魔だから殺す退かすという淡白な物ではなく。もっと煮えたぎった殺意すら最近になってようやく育まれつつあるのだからさもあらんと言う奴だ。

故に再生されるのは人理焼却前のカルデアである。

そこに達哉はいない、黄金牢の記憶処理で存在自体がすっ飛んでいる。

だが影は逃がしはしないのだ。

だって心の奥底では気づいているはずだ。理性が辛い事を拒んでいるだけに過ぎないのだから。

影が沸いてくると言う物である。

普通ならそうはならない、だが■と契約した以上。自身の影が沸いてくるのも当然なのだ。

そして夢の終わりが来る。

何時ものように朝を迎え私室を出る。するとそこには。

 

「え?」

 

カルデアの皆が殺されていた。

廊下だけではなくあらゆるフロアに血がぶちまけられ死体が放置されている。

一切の慈悲はなく一刀一殺と言った風情で、首を斬り飛ばされ、胴を切り離され、或いは両断されて死んでいた。

マシュは思いっきり吐いた。

死体の醜悪さからくるものではない。

もっと根源的に悍ましい物を見たような気がしたからだ。

何故なら自分がやったことの様な気がして動悸が収まらない。

故に、生存者を探しながらふら付く足取りで管制室に向かう。

そこには。

 

「あら? 遅かったじゃないですか」

 

マシュ・キリエライトがいた。いや厳密に言えば彼女のシャドウである。

心臓部から棘を生やし、右腕にはモザイクが掛かってゴッホの作風の如き手甲を装着し

その手には同じように戯画めいた大剣を逆手に持っている

これは単純にマシュの情緒が育ち切っていないため、シャドウもちゃんとした形を取ることができないのだ。

現に握っている漆黒の武器も子供が粘土細工で歪に作った大剣のような形をして蠢いている

それで最後に残った生存者を叩き潰すように両断していた。

そして衣類には無数の返り血が付着している。

間違いない、やったのはこいつだとマシュは八極拳の構えを取り問いかける。

 

「何・・・をしているのですか?」

「何をしているのですか? アハハハハハ!!」

 

シャドウは嘲笑う。

まだ理解していないのかと笑っている。

 

「だってあなたはこんなもの望んでいないじゃないですか。だから壊しただけですよ、私は私の本能に乗っ取ってね」

「違う私は望んで・・・・」

「じゃぁ先輩や所長を見捨てて引きこもり続けるのがアナタの望み何ですか?」

 

シャドウが嘲笑いつつ指摘する。

だってこのカルデアには、達哉もオルガマリーもいない。

そうだなんで気づかなかったのだと言わんばかりにマシュは眼を見開き。

シャドウは腹を抱えて嗤いながら真紅の瞳を欄々と輝かせて指摘する。

それでも思い出せない先輩がだれで所長が誰なのかを。

 

「――――――」

「彼らを見捨てて、自分だけは都合のいい夢に逃げるんですの?」

 

彼女たちと仲良くなったのは事態がこうなる前だからいなくて当たり前なのだ。

彼女の平穏に彼らはいなかったから。

 

「彼等って・・・誰」

「本当に呆れるほかありませんねぇ。先輩は周防達哉、所長はオルガマリー・アニムスフィア、あなたの初めての親友でしょうに」

 

言葉を交わす事にシャドウとカタルシスエフェクトの形が整い

マシュの殺■が成長するごとに彼女は実態を得ていく。

夢に微睡み、都合の悪い記憶は消去される。

確かな覚悟が無ければこの牢獄はそうする機能を持ち合わせているのだ。

脱出するには達哉のように求めつつももうないと認識するか、オルガマリーのように欲する過去の経験がないことである。

だから覚悟の無い、いまだ揺らめくマシュは牢獄に捕らわれ記憶を改ざんされ都合のいい夢を見せ続けられているのだ。

自分が傷つかない優しい夢と言う黄金の牢獄の中で。

されど二人を想う気持ちはまた本物、今は幸福感や辛いことから逃げたいという気持ちが勝っているだけの話で。

脱出したいという気持ちをマシュ・シャドウが代行している状態なのである。

 

「親友・・・なんで」

 

忘れてと言いかけて。ふと気づく。

牢獄が再起動したマシュ・キリエライトを捕らえる為に。

永遠なんてずっと同じことの繰り返しとは達哉の言葉でその事を思い出し、再び吐しゃする。

永遠の本質が理解できてしまったからだ。

牢獄は悲鳴を上げて忘れろ忘れろ忘れろと語りかける。

そうすれば傷付くことのない今日がずっと待っているのだと。

でもマシュが望むのはそれではない。彼女は望んだ。明日を見て見たい、吹雪が止んだ晴れ間を見て見たいと。

故にこう思う邪魔するな、私は明日に行くんだと。

 

「今はそれでいい、それでね・・・だから」

 

偽りのカルデアが崩壊する。

孔に堕ちて行くマシュにシャドウは警告を残す。

 

「明日に行くということは傷つくことだ。貴方が目を覚ました瞬間に現実は選択を迫ってくる」

 

そう現実に戻るということは傷つくことを選択したという事。

故忘れるなと、マシュ・シャドウは言う。

 

「殺意を抱くことからは避けられない。他者を傷つけられずにはいられない、手を血で染め上げることからは逃げられない、美しい結末などどこにもない」

 

綺麗な物など自分を含めてどこにも存在しないのだとマシュ・シャドウは嘲笑い。

マシュ・キリエライトは現実に堕ちて行った。

その先にあるのは辛い選択であることに気付かずに。自分がどれほどの殺意を持つのか気づかずに。

故にマシュ・シャドウは今は待った。

主人格が成長し切ったその時に、自分は自分を殺して自分になるのだと。

故に今は待とうと宣言する。

その宣言はマシュに届くことはなかった。

今はまだその時ではない。だが次はそうはいかないのだ。

 

 

 

もう何度目の吐瀉になるだろうか・・・

マシュは胃に溜まったタールの様なものを吐き出し。

それを認識する。

通信機越しに怒声が飛び交っている。既に状況は沸騰していた。

ローマ市内は戦場の様な有様だった。

中央付近で火柱が派手に上がっている。おそらく達哉のマハラギダインであった。

 

『マシュ! マシュ!! 起きたんだね!?』

「は、はい、状況は・・・」

『今現在、達哉君とクーフーリンが宮殿前で魔王級個体と交戦中、シグルド夫妻はまだどこかの棺桶の中で他は目覚めて中央に殺到するシャドウ相手に遅滞戦闘中だ!!』

「所長は?」

『所長は・・・その』

 

オルガマリーの所在を聞けばロマニが言いよどむ。

それを見ていたアマネがマイクを分捕り端的に言い切った。

 

『所長は中央宮殿内部でネロ陛下と交戦中だ』

「そんな!? なんで!?」

『彼女はシャドウに屈した。だから所長が説得しつつ交戦に入っている、マシュも中央に向かえ。幸い、建物の配置は歴史通りだ。最短ルートをこちらで出す』

 

マシュの礼装に最短経路が映し出される。

 

『兎に角急げ、ネロ陛下が盛大に拗らせているせいでシャドウたちも見境なしだ。連中に取っ捕まるとまた棺桶の中に戻されかねん』

「分かりました」

『頼むぞ』

 

通信を終えて、マシュは盾を担ぎ最短ルートを走ろうとする。

周囲にはシャドウが溢れている。

そこでふと思う。

 

―シャドウを殺したら―

 

そうシャドウを殺したらどうなるか。

思い出されるのはマッシリアでの光景だ。第一特異点でのティエールの情景だ。

シャドウを殺せばその日何も知らずに過ごしていた一般人を己の手で手に掛けることになるのだ。

分かっていたはずだ。何度も言われていたはずだ。故に覚悟がないとは言わせない。

あの不完全な自分のシャドウはそう警告したからだ。

 

手が震える、何も知らない民間人を手に掛けることに。

だが、味方は押し込まれつつある。

故に躊躇すればまた、そうオルレアンでアタランテと交戦した時と同じように誰かが死ぬ。

それがオルガマリーや達哉だったらどうするのだと。

怯える心のほかに煮えたぎるようななにかが訴えかけてくる。

 

―殺さなきゃ、誰か死ぬ―

 

もうわかり切っていたはずだ。

現実に置いて無垢で生きることなどではしない。

誰だって自分の手を直接的にあるいは間接的に血で汚している。

違いはそれを自覚しているか否かである。

故にマシュに突き付けられた選択肢は二択、だが片方を選べば破滅は必至である。

不殺主義なんぞこういった極限状況下では役に立たない。そんな技量も無いのだ。

第一にそれを選べないくらいにマシュは自覚無しに煮えたぎっていた。

あんな安っぽい物に行燈としていた自分自身に。そして未だなお楽だからと言う理由で眠る者たちに。

 

「どいてください!!」

 

盾を横なぎに振いシャドウを蹴散らし、彼女は大地を蹴る。

自覚はなかったがその両目は細められ鋭い殺意に染まっていた。

 

盾が軋む。

まるで蝶が羽化する蛹の殻を破るような音にとてもよく似ていた。

 

「どけぇぇえええええええええ!!」

 

マシュが叫ぶ、盾が振るわれシャドウが潰される。盾裏から取り出した折り畳み式のハンドアックスを左手で振ってシャドウを叩き切る

達哉とオルガマリーを守るという己のエゴで。

他人を殺したのだ。ただただ幸せな今日を望んでいた人々をだ。

この日彼女の両手は真っ赤に染まった。

もう逃げられない。

 

 

 

 

 

 




今回は孔明、エミヤン、マシュで行きますた。
と言うのもFate本編は兎にも角にもエルメロイの事件簿は金と田舎という世知辛い事情で最終巻まで読破し切れてません、と言っても鬱のせいで買った小説は積み重ねているわけですが。
ネット購入は自分古い人間ですし病寮中と言う事もあって金もねぇ、読む気が出てこないという事情と。前の職場でのトラウマで車運転するのが最大30分が限度で遠出もできないので、そこは勘弁してくださいマジきついんですよ。
あと捻くれた人格してるもんでアニメも純粋に楽しめなくて鬱が悪化する始末ですし、本当に孟子うわけない。
それはさておきマシュの爆弾にも導火線着火、第三章で爆発する予定です。
マシュシャドウもたっちゃんと所長大好きなので自分より優先する傾向上があるのと。
明確な出番があることを裏でニャルに聞かされているので、強引に脱出させてくれました。
あと書文&アレキサンダーはキンクリします。
だって書文は後悔なさそうですし、アレキサンダーはイスカンダルじゃないですしね


ニャル「日常を強制否定するならば、日常の象徴を切り捨てるのは当たり前だよなぁ!!(ニチャァ)」
エミヤン「血涙」
フィレモン「答え得たんでしょ!! なら前に進めるでしょ!! 偽物相手に何手古摺ってんの!? たっちゃんならできたぞ!!」

エミヤン、まさかのダークネスジャガーマン(シリアス)を倒す羽目に。
たっちゃんなら出来たぞと言わんばかりである。
相変わらずニャルフィレによるいじめである。エミヤンは泣いても良い。
ただしボブになることは許さないのがニャル
なおこの光景を待機所で見てワイン決めているコトミーが居たり。


孔明の方はまだ目指している途中ですからね。黄金期に構っている暇なんてない。
と言うか焼却側に加担していたことをエリちゃんにマジレスされて指摘されている上に塩対応されて反省していますそのお陰で速攻自覚できました。エリちゃんマジファイプレー。
故に目指すはオケアノスの果て。かの征服王が待つ場所ですから。
と言う分けで。
次回からは大混戦が始まります。
まだニャルには教団以外の手駒がありますからね。そう取り込んだネロちゃま側のサーヴァントという手駒がね!!


所長早いですが、ニャルが物語を加速しているという事。
アマラ回廊のレベリングで、60Lv後半台に乗ったことや。
事故ナギレベルで魔改造したラプラスも力不足と言う事。
ネロの獣性に引き摺られる形で早期に覚醒しました。
ネロがビースト化しなければまだ目覚めなかったりするが。
本作では覚醒してしまったので覚醒しました。
と言う訳でオマケで所長の後期ペルソナステ

シュレディンガー
アルカナ 月
Lv67
斬耐 突耐 銃耐 炎弱 核耐 地― 水― 氷― 風― 衝― 雷― 重無 闇無 光無 精― 体無
力44 魔57 耐30 速57 運25
スキル
ヴォイドザッパー 固有スキル万能闇属性貫通属性持ちで単体に特大ダメージをい与える、作中ではテクスチャ事刈り取る対空間攻撃。
メギドラオン
デスカウンター
コンセレイト
無属性ハイブースター。
刹那五月斬り
空間殺法
マハムドオン

限定スキル
■■・■■■■■
まだシュレディンガーが覚醒したてと言う事と制御し切れていないという事とネロがビーストとなったため、その獣性にアテられる形で限定的に発現したスキル。
ネロ戦以降は使用不可能となるが、彼女に対するアンチスキルとして機能する。
だがこれは同時に彼女もまた■と言う証であり正規No保持者という事である。
まだ孵化はしていないが。ペルソナという触媒を使うことによって一時的に孵化した状態と同等のネガを一時的に出力する。






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十一節 「波濤の乱戦」

大切なのは未来だ。
過去は変えられない。
だが今を大事に生きれば、過去はきっとオマエに従う。

米田淳一「プリンセス・プラスティック ~母なる無へ~」より引用


「くそ!!」

 

それは誰の声だったのかはわからない。

オルガマリーは未だ上層で遅滞戦闘中で。達哉たちも、いまだ前に進めない。

癌細胞を分裂させたうえでペルソナと融合した悍ましい形容しがたい怪物に、教団幹部連中は成り果てている。

また癌細胞を主軸に強制分裂させているのか無限に再生してくるのである。

その特性故にリソースがなくとも再生する。

もっとさらに言えば弱点と言う物が存在しない、心臓を射抜くクーフーリンの槍も効力がないのだ。

いや厳密に言えば達哉がロンギヌスに刺された時と同じように、再生不可能になった部位を切り離して再生するのである。

これでは呪いどうのこうの言ったところで意味はない。

なにせトカゲのしっぽ切りと同じ原理なのだからだ。

故に誰が悪態を吐いたのか分からない。

三人とも同じような悪態を吐いていても仕方がない。

単純すぎる能力は時に脅威と化すのだ。

 

「これで!!」

 

達哉、四倍のマハラギダインを叩き込む。

須藤に言った通りビルを燃やし尽くす業火だが。

 

「GAROOOOOOOOOOO!!」

「くそ、これでもだめか!!」

 

今一殺傷ラインに乗り切れない。

確かに全身丸焦げにしているのだが一部が残っているためそこから再生される。

再誕するかの如く再生されては本当に溜まった物ではないのだ。

それに四倍マハラギダインは切り札の一つで、そう何発も打てる代物ではない。

では、抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)ではどうかと言うと。

無駄である、威力は確かに申し分がないが。

炸裂弾的威力でははっきり言って相性が悪いのだ。

バラバラにしたところで即座に再生されるのがオチである。

では合流したてのエリザベートの音波はどうか。これもまた意味がない、再生力で上回られる。

かと言って第一特異点のように城でも落せればいいが、そうは問屋が卸さない。

この場にいる全員を巻き込むことになるからだ。

故に此処で必要なのは光学的火力、純粋的な火力が物を言うのであるのだが。

それをもつシグルド夫妻は未だ目を覚ましていない。

加えて書文や宗矩にアレキサンダーに孔明とも合流したが。

彼等は火力を持たない。広範囲を一撃で薙ぎ払える火力を持っていないのだ。

故にこうもじり貧となる。

 

 

「孔明なんか策はないのか!?」

「単純極まりない理不尽再生能力持ちに策も糞もあるか!?」

 

孔明に策を要求する達哉であるがそう返されては何も言えない。

孔明も魔術の弾幕を張っているが、その威力はサーヴァントの力を得たとはいえ。

達哉のダイン級をナパーム弾とすれば蝋燭の火に等しい。

つまりは些細な物でしかないし、地形が地形だ計略も糞もないのであれる。

さらに書文の一撃必殺の発頸や八極拳をもってして内臓破壊という一撃必殺も。

再生能力の前には無意味だ。

とにかく削り切る手段がないのである。

 

『こちら管制室、エミヤ、マシュ、マリー・アントワネットが覚醒した。エミヤの方は援護砲撃しつつ向かわせるがどうする?』

「野郎、やっとお目覚めか! 達哉、援護砲撃は良いから野郎をこっちに早く寄越す様に言ってくれ、一つ手段がある」

「わかった。クーフーリンの言う通りにして、エミヤはこっちに向かわせてくれ、最優先だ」

『了解した。エミヤにはそう伝えておくよ! あとシャドウの動きも変わって中央に殺到中だぁ!』

「交戦まであと何分!?」

『第一陣が到着するまで十分程度!!』

「了解した!!」

 

シャドウの動きが変わったということはニャルラトホテプがテコ入れを始めたという事だろう。

人理定礎の事もある、早く目の前の敵を片づけなくてはと達哉も焦る。

 

『しっかし見れば見るほど米軍時代に処理した物ににているなぁ』

「アマネさん、なにか対策が?」

 

アマネの良いように達哉が思わず問いただす。

彼女は前にも言った通り米軍の非正規と特殊作戦部隊のリーダーだ。

大統領直轄の対テロ及び対異能に対処するための特殊部隊の長である。

そしてなんやかんやあって米国から切り捨てられ部隊ごとカルデアに所属している故にこういう相手とも戦ったことがあるのだ。

故に聞く価値ありだと判断した物の。

 

『言っておくが此処まで再生能力があると言う訳じゃなかった。まぁ重機関銃程度だと再生するくらいだった。あの時は細胞分裂阻害効果と代謝阻害効果の弾薬つかった後にキャンプファイヤーで仕留めたんだ。参考にならん』

 

がしかし参考にならなかった。

再生能力は当時対峙した生体兵器の上位互換であるし。

専用弾薬を使って再生能力を阻害し、火炎放射器とテルミットによるキャンプファイヤーで倒したとなれば参考にできるはずもない。

手元には専用弾薬はないし。

相手は火炎放射器とテルミットを超える火力と放射時間を持つ達哉のマハラギダインを受けても再生能力で上回っている。

具体的な例を言えば、第一特異点の暴発するまえのジャンヌ・オルタレベルの再生能力だ。

どうあがいてもアマネの殺し切る手段が通用しない相手である。

聞くだけ無駄だったので。達哉は言葉が終わると同時に戦闘態勢へと戻り、即座に戦線復帰。

 

「なら、これなら!! サタン、光子砲!!」

 

アポロからサタンへとチェンジ。

コンセレイト込みでの精神力を過剰供給、四倍光子砲をぶっ放す。

光が炸裂し、文字通り敵を一体消し飛ばす。

がしかし。

 

「くっ」

「達哉、大丈夫かよ!?」

 

膝を屈しかける達哉のフォローを行いつつ長可が語り掛ける。

コンセレイト込みの四倍光子砲は威力は聖剣級とはいえ、使用者に多大な負荷を齎す。

事実達哉の精神力は今のですっからかんになりかけていた。

 

「大丈夫・・・だ・・・」

「無理すんなよォ、くそ!! 色ボケ夫婦は何してやがる!?」

 

達哉は大丈夫と言いつつ、失った精神力を多少でも回復するためチャクラドロップを数個口に放り込みかみ砕く。

チャクラポットでは飲むのに隙が出来る。

なら片手間で尚且つ飴状でかみ砕けば効果の出る即効性を持つチャクラドロップを効果はチャクラポッドより少ないとはいえ使った方がいい。

戦闘可能領域まで達哉は何とか回復しつつ。

未だに目覚める気配もないシグルド夫妻に長可は悪態を吐いた。

何故ならあの夫婦の火力が生きる場面が此処なのだ。

二人が目覚めないせいで。マスターに余計な負担が掛かり過ぎている。悪態も付きたくなると言う物。

 

「ああもう、いったん下がって仕切り直しってのはなしぃ!?」

「儂もエリザベートに同意したい、こうも殺しにくいのであれば仕切り直して、エリザベートの城落としを敢行すべきではないか?」

 

エリザベートの提案に書文も乗っかるが。

 

「駄目だ。今シャドウもこっちに殺到してきている、仕切り直す余裕はない!!」

 

宗矩が却下を入れる、シャドウが殺到してきているのだ。

下がれば敵軍に埋もれさらに不利になる。

仕切り直しは出来ないのだ。

 

「待たせた!!偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!」

 

だがエミヤが間に合った。

黒弓に偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)を番え掃射。

固有結界無ではエミヤの手持ち火力の最大級である。

それ+壊れた幻想も無論付与。

炸裂する贅沢すぎる矢であるが、聊か攻撃範囲が直線状だ。

敵の巨体を飲み込めるほどの物ではない。

普通なら致命傷だが、相手は逆再生するかのように肉体を再生する

これにはエミヤも舌打ちするが、クーフーリンが叫ぶ

 

「よく来たぁ、エミヤァ、デケェ剣、十数本投影しろ!!」

「何に使う気かね!?」

「こうすんだよぉ!!」

 

クーフーリンのリクエスト通りの投影をエミヤが行い。

投げ渡す代わりに射出、いったん槍を消したクーフーリンがそれらをキャッチし投擲。

投擲された不死の怪物どもの胴にぶっ刺さり、壁に縫い付ける、さらに駄目押しとばかりに。

四肢へと投擲、完璧に壁に縫い付ける。

クーフーリンの行動の原理が分かったエミヤはそれに合わせ長細い剣を投影、弓に番えて射出。

さらに動きが取れない様に壁に縫い付ける

スカサハの弟子入りの際に戦わされた不死の怪物に対する対処法だった。

死なぬならば。壁に縫い付けて動けなくすればいいという神話の再現である。

あの時は柱だったが、今回はエミヤの投影した巨剣で代用した形であり。

エミヤのフォローも入って完全に壁に縫い留めている。

 

「流石はケルトの御子だな、こうも上手く縫い付けるとは」

「不死相手にはこの手に限るからなぁ、動けなくさせてしまえば、不死も糞もねぇ」

 

エミヤの勝算を素直に受けつつ、クーフーリンはため息を吐いた。

不老不死相手には殺せる手段がない場合、こういった動きを封じ込める手段が最も効果的であることを彼はよく知っている。

これでようやくひと段落ついて、オルガマリーの援護に行けるからだ。

 

「皆、飲んでくれ」

 

次の戦いに備える為、この場にいる全員にマッスルドリンコを投げ渡し、達哉自身はチャクラポットを飲み干す。

それでは次だと思った瞬間だった。

地面から棺が三つ現れる。

全員臨戦態勢に入った。猛烈に嫌な予感がしたからに過ぎない。

それは当たっていた。

棺が開かれ現れたのは。

 

「圧政ぃぃぃいいいいいいいいい!!」

 

筋肉の名状しがたい怪物だった。

最初から宝具が暴走し人型の形をたもっていないスパルタクス。

さらに。

 

「これ以上踏み込ませる物か、賊軍めが!!」

 

アヴェンジャー状態に入り全ステータスがアップし宝具が変更。さらに精神状態が独立戦争時の時に戻っているブーディカ。

 

「■■■■■■■!!」

 

さらにリミッター解除している呂布である。

だが状況が悪化するのはまだまだこれからだった。

ロムルスから報告が届く。ついに恐れていた事態が発生したとのことだった

押さえるのに限度が近づきつつあるという事。

シャドウが市民の数よりも超えて増殖中とのことだった。

状況は刻一刻と悪くなる。

これでは溜まった物ではない。時計をチラ見すれば敵第一波との接触まで二分を切っていた。

オルガマリーもネロとの交戦に入っている。

このままでは数の差で押しつぶされてしまう。

 

「圧政!!」

「達哉!?」

「しまっ!?」

 

戦術思考に考えを取られ、目の前の相手をおろそかにしてしまった。

巨人化と見違えるほどの巨碗が達哉に襲い掛かろうとして。

達哉はノヴァサイザーは間に合わない、現在ペルソナはサタンだ。

だがサタンの物理耐性は完璧だ。防御行動を間に合わせれば何とでもなる。

故に咄嗟に防御の姿勢を取った瞬間だった。

 

疑似展開/人理の礎(ロードカルデアス)ゥ!!」

 

建物の屋上から弾丸の如く飛翔したマシュが身を回転させながら疑似展開/人理の礎(ロードカルデアス)を展開しつつ。

そのままスパルタクスに盾をぶち当て、巨体事宮殿の壁に押し付け圧殺せんとする。

無論筋力差があるが、マシュの魔術回路がオーバーランを開始、増大する魔力量によってマシュの身体能力も極限まで強化し。

メンタルの強靭性がそのまま硬度として出力される疑似展開/人理の礎(ロードカルデアス)は冬木以来の硬度を発揮する。

オルテナウスの各種駆動ギアが悲鳴を上げるように駆動し、マシュを一歩一歩ずつつ進めさせ。スパルタクスを万力に挟み潰す様に締め上げていく。

 

「あっ圧政・・・「五月蠅い!!そのまま死ねぇ!!」

 

鈍い音を立ててそのまま物を言わさず押しつぶさんとするマシュだが、スパルタクスの宝具はダメージを受けるたびに威力が上がる。

だがそれでもマシュの展開する光盾の方が強度が現状上で一切の反逆を許しはしない。

スパルタクスとて黄金牢によって精神は当時の物に宝具威力は過去最高長に高められているというのにだ。

これは異常の一言に尽きる。

無論、マシュがだ。

どうやればそこまで狂人的メンタルを超えるのか分からない。

彼女のメンタルは今現在、追い詰めに追い詰められて狂気すら振り切る領域にあるとでもいうのか。

それが分かるのは彼女くらいな物であろう。

 

「来たれ応報の軍勢よ!! 国土を荒らす蟲共を今再び蹴散らさん!約束されざる復讐の大軍(アヴェンジ・オブ・ブディカ)!!」

 

スパルタクスはもうだめだと見切りをつけたブーディカが宝具を起動、

彼女の背後に血がうねり、亡者たちのような存在達が一人一人サーヴァント規格として具現化する。

 

「なんだいアレ、先生」

「君の大人の姿の亜種的宝具か」

 

王の軍勢の亜種的宝具である、アヴェンジャーだからこその宝具であった。

王の軍勢を質とするなら約束されざる復讐の大軍は数で押すタイプである。

一般兵ユニットもサーヴァント化しているが一人一人の性能は王の軍勢の一般兵以下ではあるが。

数が尋常ではない、反乱軍として最大限に膨れ上がった時の数、約23万である。シャレになっていない。

救いなのは何度も言う通り彼らは正規軍ではなく復讐に燃え上がる群衆と大差がないという事だろう。

如何にサーヴァント化していても、王の軍勢と比べた場合一人当たりの性能さが月と鼈だ。

仮に王の軍勢と約束されざる復讐の大軍がぶつかった場合王の軍勢に軍配が余裕で上がる。

ブーディカは復讐者であって王ではなく軍略家でもない、王であり軍略家でもあったイスカンダルには勝てないのだ。

それはさておき、それでも現状、数が追加されるというのは実に辛い状況である。

シャドウ第一陣との交戦まで一分を切った。

その時である。

 

「ごめん待たせたわね!!」

 

マリー・アントワネット合流だった。

 

「マリーさん!! 外のシャドウを食い止めてくれ。孔明さん宝具を展開。魔力波長をマリーさんのペルソナと合わせて展開してくれ!!」

 

しめたとばかりに達哉が叫ぶ。

マリー・アントワネットが来てくれたおかげで。シャドウの軍勢はどうにかできそうになったのだ。

マリー・アントワネットはペルソナ使いで。その気になれば他者との魔力同調を可能にし合体宝具を使えるからである。

 

「わかったわ!! 孔明さん、私に合わせて」

「しかしだな」

「魔力波長の同調だけやってくれればいいわ、あとは私の方で何とかするから!!」

「了解した」

 

マリー・アントワネットの言い様に孔明は頷き宝具を展開する。

マリー・アントワネットもそれに合わせて宝具を展開しつつペルソナを呼びだす。

愛すべきは永遠に(クリスタル・パレス)石兵八陣(かえらずのじん)が同時起動。

さらにペルソナ・ジュノンのクリスタル・パレスが起動し、この二つが高度に融合し宮殿を取り囲む硝子の城壁と硝子の迷宮が完成する。

これで相手のシャドウの進軍を食い止めるのだ。

さらに23万の軍勢も所詮は烏合の衆、エミヤが躊躇なしに潤沢な魔力背景にもの言わせて対軍宝具を多重展開。エリザベートも無数にアイアンメイデンスピーカーを展開し音波を浴びせかけ蹂躙する。

呂布には長可 宗矩 書文の東洋三トリオが抑えにかかり。

ブーディカ相手にはクーフーリンが抑えに回った。

その時である、大爆発、ついに宝具の容量限界を超えてスパルタクスが大爆発をしたのである。

ただしその爆発をもってしてもマシュの宝具は貫けず爆発自体は小規模に封殺されたが。

これで彼は勝手に自爆し退場した。

 

「次ッ」

 

マシュは殺意に濡れた目で、近場にいたブーディカに目を付ける。

無論、20万の軍勢がいるが。先ほどのように宝具を使えば蹴散らせる。

オルテナウスの調子もよく、自身の調子も良い。

であるなら次の敵はブーディカかと見定めた時だった。

 

「達哉、マシュ連れて先に行け!!」

「大丈夫なのか?!」

「カルデアのバックアップもある!! もうこれ以上時間をかけてらんねぇ」

 

クーフーリンの槍が炸裂しつつ。

達哉とマシュは先に行けと言う。

 

「ですが」

「俺たちの作戦目的を思い出せ、マシュ! ネロとオルガマリーの救助だろうが!!」

 

作戦として既に破綻済み。

刻限のデットラインも近づいている。誰かが先に行かなければならないのは実に明白な話だ。

ここは既に多少マシな方にマスターを送り込むのは妥当な判断と言えよう。

 

「それにこんな雑兵共で俺を、俺らを取れると思うのは心外だぜ」

「わかった。此処は任せる」

「おう、行ってこい」

 

故に此処で暴走サーヴァントを食い止めるのは自分たちの役目なのだ。

無論、ブーディカも軍勢を動かし行かせまいと達哉たちの前に配置するが。

 

「「どけ!!」」

 

自重なしの光子砲と宝具を展開しながら盾を振り抜いたマシュの一撃によって。

敵勢は吹っ飛ぶか消し飛ぶかの二択だった。

ブーディカが振り返らんとしたとき。

槍が突き出される。

 

「っ・・・」

「この程度の軍勢で俺を止められるとでも?」

 

何度も言う通り、所詮は数だけの烏合の衆だ。

近衛は別だろうが、それでも嘗て自分が相対したメイヴの軍勢に比べれば数段劣るという事すら烏滸がましいレベルで劣っている。

メイヴは古今東西の勇者を集め、完全に統率して見せたがゆえにだ。

 

「その心臓、もらい受ける」

「ほざけぇ!!」

 

故に囲まれていてもクーフーリンは余裕綽々に宣言し。

怒り狂ったブーディカは己が愛剣でクランの猛犬を迎撃しに入った。

 

一方そのころ。

長可、宗矩、書文の東洋三トリオは困り果てていた。

呂布が強すぎるのである、さすがは三国時代における個人戦力最強の一角だが。

武器が変形しまくっている。

それをすべて十全に使いこなすのだから溜まった物ではない。

加えて魔力が潤沢すぎるのか多少の傷を与えても意味はない。

さらに言うなら。

 

「本当に人間か?」

 

書文も唖然となりつつ後退。

八極拳の奥義である絶招猛虎降爬山を背後から心臓部を狙って炸裂させたのである。

それでも彼は生きている、普通なら心臓部を中心に肺を潰され人間ならば即死。

サーヴァントであっても一撃決殺と呼べる威力を発揮するというのに。

呂布は多少がたついただけで戦闘を続行してくる。

余りの異質さに書文は呂布のカウンターをかわし損ねてしまい方天戟で脇腹を多少抉られる。

無論この程度なら筋肉を動かし強引に傷口を埋めるという行為で止血可能だ。

所謂マッスルコントロールの流用である。

 

「アマネ殿が対決した機械化装甲猟兵に似ておりますな」

 

そして呂布の動きから宗矩がそれを見破る。

一種の機械化人間であるとだ。

多少人間ではありえない筋肉の動きや動作から見破ったのである。

そして分かり安いように座学の時間でアマネが教えていた機械化装甲猟兵と酷似していると答える。

機械化装甲猟兵とは肉体の一部を人工筋肉や骨を特殊合金に換装、外骨格を身に纏うことで戦闘能力を増強した部隊の事であり。

魔術も多少応用されて作られたサイボーグ兵士の事である。

ロシアとの小競り合いでそれらと対峙し戦闘を行い殲滅したのがアマネだ。

閑話休題。

兎にも角にも、そいつらと似ているということは呂布は体を機械化した存在だという事であろう。

 

「柳生の爺さん、奴のその割合は!?」

「見た感じですが、大よそ八割前後を機械化しているかと」

「すげぇな中国、人体を機械化できるなんてヨォ!」

「いいやそんな話聞いたことないですからな、宗矩殿!!」

 

方天戟を何とかかわした所で長可が宗矩の予測に驚き声を上げ。

いやそれ自分も初耳と書文は誤解無きように声を上げる。

書文にとっても呂布はサイボーグなんてのは初耳であるし寝耳に水だ。

これではお得意の浸透頸もなるほど通用しないわけであると納得。

その時である。長可が人間無骨を書文に投げ渡し、自分は腰の愛刀を抜き放った。

 

「今は書文の爺さんが使え、その方がいい。俺が抑えっから、爺さん二人は何でもいいからこのロボット野郎を確実に仕留めてくれ」

「かたじけない!!」

 

エミヤは槍を投影する隙がない、八極拳よりも槍を使った方が得策であると長可は判断し。

自分の人間無骨を一時的に書文に託す。

槍術の腕は無論書文の方が上であるし、今の彼では素手で呂布相手にはキツい物が在るだろうから。

さらに言えば呂布と長可は同じタイプ故に長可の方が劣っている。百段がいれば別だろうが居ない者は居ないのだ。

泣き言を言う暇もない。

故に長可は自分のすることはとにかく呂布の目を引き攻撃を受けることにある。

後は兜割りを持つ宗矩、人間無骨を借り受けたことで生前の槍術が使えるようになった書文が何とかしてくれるだろうと考える。

そしてその考えは正解だった。

荒れ狂う乱撃の中で呂布が隙を晒す、バーサーカーとして召喚されたがゆえの隙だった。

袈裟切りに刀を放つが。

 

「■■■■■■■!!」

「ちぃ! やっぱ駄目か!?

 

刃は肉こそ断ったが鎖骨が立ち切れなかった。

刃に伝わるのは、鉄の感触。チタン合金が如き硬さだった。

 

ーこいつ、骨まで換装してやがるのか!?―

 

刃が通らない、故に刀を引き、即座に後退し方天戟の一撃を回避。

だが回避し切れたわけではなく。鎧の胴当てに方天戟の切っ先が掠めると同時に胴当てが吹っ飛んでいく。

この威力まともに当たったらたまったものじゃねぇと思いながら、防御札を増やすべく脇差も抜いて二刀流の形だ。

二刀流とは一対一というシチュエーションでは攻撃よりも防御よりの型であるがゆえである。

自身の攻撃が通らない以上。防御に徹するのは道理ともいえるし。

攻撃を通せる二人にぶん投げるのは当然の事だった。

帰ったらダヴィンチに叱られるなと思いながら乱撃を必死に本当にギリギリの所で捌きながら刻を待つ。

無論二人も待っているだけではなかった。

宗矩も書文もブーディカの軍勢を相手にしながら機を待っているのである。

如何にエリザーベートとエミヤが掃討戦に等しい蹂躙を行っている上にブーディカはクーフーリンが抑えたとはいえ数の暴力は健在であり実行中なのだ。

無論、東洋三トリオの方にも殺到してきている。

本来なら呂布に集中したいがそうもいかない、故にこうも思考分散をしなければなず苦しい状況だ。

アレキサンダーも馬を召喚し蹂躙しているがそれは外部からのシャドウの軍勢を阻む孔明とマリーアントワネットに敵を近づけさせないためである。

それでも何度も言う通り数の暴力が過ぎて完璧とは言っていない。

孔明もマリーアントワネットも片手間に迎撃していたのである。

クーフーリンがブーディカを始末できれば話が早いのだが。

執念で技量と格差を埋める彼女の剣に予想以上にてこずっているというのが現状だ。

故に防戦しながらタイミングを合わせて隙を作るという難業を長可は成し遂げなければならない。

つまり宗矩と書文の状況にも気を配らなければならず。

状況は一向に好転しない、であるなら達哉たちがネロの説得に成功すればいいのかと言われればそれも話は違い。

まだ奥にはネロと同等かそれ以上の怪物が控えているのだ。

ネロの説得が完了した時点でそれが起動するだろう、ニャルラトホテプならそうするという憶測が決定され保証されているのである。

故にこの場を収めなければならないのは当然の話しで。

サーヴァントの撃破は必須条件だ。

このまま奴が起動し乱戦にでも持ち込まれればもう最悪だ。

宮殿の一部が崩壊でもしてみれば、壁に縫い付けている不老不死の怪物どもも戦線復帰だ。

連中は倒したわけじゃない。あくまでクーフーリンが機転を利かせて行動不能に陥らせただけなのだから倒したと言う訳ではないのだ。

そう言った意味ではマシュがスパルタクスを倒したおかげでまだ気楽な方である。

理想を言えば初期の分断と黄金牢による足止めが効いている形だ。

本当であれば一丸取れば対処はまだ楽だったかもしれない。

でもそうはならず、現状は混沌とした様相を呈している。

足元のタールも水位が上昇している、当初は靴底くらいだった物が足首を漬すまでになっているのだ。

時間もないのも伝えられている。

何でこうギリギリなのかと思いつつ。兎に角さばく。

呂布の一撃は受け止められるものではない。

防御に鍔迫り合いなんてもってのほかだ。ジャンヌ・オルタと同じく押し切られる。

彼女の場合、極限疲労状態だったから鍔迫り合いに持ち込めただけの話で。十全だったら話が違っていたのだから。

故に防御に徹し続けその時が来た。

 

「「「―――――――――――」」」

 

三人の視線が交差、達哉たちの技術訓練で一体多人数と言う想定で練り上げられた連携が行われる。

この時を待っていたとばかりに長可は振るわれる方天戟をスウェーで回避。

強引に攻め込む。

無論、呂布の意識は長可に向かう。

バーサーカー故の悪癖だ。理性が飛んでいるがゆえに目の前の相手に意識を向けざるを得ない。

故に意識外から飛んでくる致死の刃に気付いたのは土壇場になってからだった。

 

「兜割りぃ!!」

 

唐竹割りに繰り出される因果崩壊の魔剣、当たらねば風車であるが、当たれば万物を切断する夢想の魔剣である

 

「■■■■■■■!!」

 

咄嗟に拙いと呂布は腕を犠牲にする覚悟で防御。

チタン骨格を断ち切れる物なら断ち切ってみろとばかりに右腕を割り込ませるが。

無論想定が甘い、と言うか兜割りという空想の技術を想定しろというのが頭おかしい所業である。

宗矩の想定ではこのまま腕ごと呂布を真っ二つにする算段であったが。

刃が腕に食い込むと同時に呂布は腕を振るった。

刃に切られる感触。それはいやおうなしに切断されると直感がささやいた故にである。

故に須藤がやったように切断される前に腕を振るって刃をブレさせつつ宗矩を吹っ飛ばす。

が既に骨まで断たれており、右腕は筋肉と皮で紙一重で繋がっているのが現状だった。

ならば左腕でと考えている間に、左腕に長可が関節技を仕掛けていた。

如何に強固な骨格と筋肉とはいえ関節駆動系の脆さを突く関節技だけは防げない。

メリィと音を立てて肘関節が外されあらぬ方を向く。

それでも怒りのままに呂布が左腕を振り抜こうとした刹那。

 

「発ァ!!」

 

書文がそのガラ空きの胴を狙い放つ。

確かに今の身はアサシンであれど。長可から借り受けた人間無骨では放つは神槍无二打。

クーフーリンの魔槍にも匹敵する絶無の一撃なり。

正確に放たれたソレは骨格の間をすり抜けて呂布の炉心と霊核を確実に破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

クーフーリンは乱撃を放つ。

既に十数合打ち合っている、十分に詰ませているはずだが。

 

「このぉ!!」

 

憎悪に塗れた女王はまだ戦闘を続行してくる。

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)で心臓を破壊したはずだが戦闘を続行してくる。

いや厳密に言えば外されていた。

執念と言う奴で因果逆転の絶技に抗ったのである。

それでも肺部分に直撃はさせた。片肺は血の海で陸で溺れる様なものだ。

窒息死してもおかしくはないが執念だけで戦闘続行してくるのだからたまった物ではない。

 

「チッ」

 

クーフーリンは舌打ちをしつつ槍を振り回し兵士の首を斬り飛ばしつつ後退。

さらっと恐ろしいことをやってのけるのは流石、ケルト神話最強格と言ったところであろう。

だが手詰まり感が否めない。

執念というのは恐ろしいものだ、死兵とは恐ろしいものだ。

自分はどうなってもいいから相手を必ず取るという執念一つで状況を引っ繰り返すのだから。

嘗ての自分もそうだったなと思いつつ、槍を一閃周囲の敵兵を吹っ飛ばし、槍を逆手に持ち、跳躍。

 

「この一撃、手向けとして受け取れぇ!!」

 

時間が押している、出さない理由もない。

故にクーフーリンは宝具を起動させたのだ。

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)はあんまり効果が見込めない、どんな傷を負おうとも相手は戦闘を続行してくるからだ。

ならば抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)を使うか? 愚手である。

使用の前提が達哉やマリー・アントワネットのペルソナの治癒能力が大前提となるからだ。

本作では連発しているので忘れがちであるがペルソナ使いが居なければ体を自壊させながらぶっ放す自爆技であるから当然と言えよう。

達哉はこの場には居ないし、マリー・アントワネットも現状一杯一杯だ。

故に放つのは無し。

だからと言って火力がないわけではないのである。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)ゥ!!!」

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)をバンカーバスターと形容するなら突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)はクラスターボムだ。

無論その威力はクラスターボムの比ではない。

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)がおかしいだけで突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)もエミヤの投影する熾天覆う七つの円環(ローアイアス)を貫通しオリジナルのグングニルの投擲を上回るとエミヤに評される威力を発揮する。

穂先が枝分かれし広範囲に展開。

ブーディカごと薙ぎ払わんとするが。

 

「今度・・・今度こそはぁ!! 守って見せる!!約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)!!」

 

ブーディカは約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)を展開。

盾変わりの車輪がファランクスの如く展開し突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)と衝突するが。

大英雄、渾身の投擲である。防げるわけもなく。

いつかどこかのように、無慈悲にその陣形を食い破り槍がブーディカに直撃した。

 

 

「終わりかね」

「ああやっとだ」

 

エミヤがクーフーリンの隣にやってきて言う事にクーフーリンは同意し。

自身の視線を、数m前にやる。

視線の先にはブーディカも消えかけているが残っていた。

 

「私、なにやってんだろ」

 

ぼそりとブーディカが呟く。

何もかもが中途半端だった。

復讐のためというなら人理焼却側に加担すべきだったし。

彼女を許すというのなら抱きしめてやるべきだった。

だがどれもせず眺めて、黄金牢に捕らわれ暴走し。

挙句、カルデアの邪魔をすることになった。ニャルラトホテプに良いように踊らされ都合のいい足止めの手駒として使い捨てられたのである。

だがそんな結末こそ自分には相応しいのではないかと思ってしまう。

中途半端に選んでしまったからこそ、報いと言う物は遅れてやってくるのだ。

 

「ねぇ・・・一つお願いできるかな」

「なにをだ」

「ネロの事をお願い、彼女は―――――」

 

中途半端だったがゆえに最後の言葉は言葉にならなかった。

だが大よその見当はつくと言う物。

 

「わかったよ」

 

クーフーリンはそう頷きつつ、達哉たちを先に行かせて正解だったと思う。

この場に彼らが居たら余計な荷物を背負い込む羽目になっただろうからだ。

失った物からの懇願ほど重い荷物になるものだからだ。

 

「はぁー、はぁー、しんどい・・・」

 

エリザベートも疲弊済みだ。ずっと叫びっぱなし歌いっぱなしなのだからそうもなるだろう。

シャドウはまだ活性化しているので孔明とマリー・アントワネットは外壁の維持で動けない。

故に残った人員で攻め込むことになる。

 

「しんどいのは俺達もだよ、トカゲ娘」

「トカゲ言うな、元ロボ武者!! つぅーか、呂布はどうしたのよ」

「仕留めたよ、なんとかな」

 

エリザベートと長可のそういったやり取りを他所に、宗矩と書文も合流する。

 

「ご無事ですかな」

「ああ皆無事だよ」

「あの色ボケ夫婦以外はな!! 全部終わったら殴ってやらぁ!」

「長可殿落ち着きなされ」

 

無事の確認後、長可は思わず毒を吐いた。

こんな状況なのに一向に目覚める気配なしのシグルド夫妻にだ。

それを宗矩が落ち着かせる。

こりゃカルデアに帰ったらひと悶着あるなと思った時だった。

 

「ちょ」

「うわ?!」

「今度はなんだぁ!」

 

体感震度6度くらいの振動が都市全体を襲う。

サーヴァントたちが震源地を見た。

そこには褪せた黄金色のロボットの様で下半身から七つの巨大な顎が付いた触手を伸ばす巨人が存在していた。

 

今ここに獣が起動する。

 




時間軸が前後して所長VSネロ戦をお送りします。

兄貴&たっちゃん無双、そしてついに防御宝具を攻撃に転用し始めるマシュ。
マシュが「死ね」とか殺意マシマシで叫ぶのウチくらいなんではなかろうか
黄金牢に放り込まれ暴走状態体のネロサーヴァンズでお送りしました。
兄貴、ケルト版ヘラクレスだからマジで回しやすいのよね、しかも精神力強いし
逆に使いずらいのが書文だったり、相性悪い相手ばっかだから活躍させずらい。
夫婦は火力面で優秀ですが再会できたことで精神面が脆くなっているのもあるけど火力がある為。
下手に使うとTASが始まるので実に使いずらいですな。

ブーディカさん、アヴェンジャーモードで精神が完全に独立戦争時代に戻っており。霊基も神霊に近い物が在ります。
FGO本編では優しいママキャラだけど。
現実のイギリスでは日本で言うマサカド公ですからね。
いわばイギリス版マサカド公なので弱いわけないです。
スパルタクスはApoの筋肉怪物モード。
呂布はまぁ大して変わらんかもしんない

スパさんは暴走マシュに圧殺。
呂布は東洋三トリオに仕留められ。
アヴェブーディカさんは兄貴の手によって仕留められ。
エミヤとエリザベートは大軍戦闘。
マリーアントワネット&孔明&アレキサンダーは殺到始めたシャドウの足止め。
所長は現在ネロと交戦中。
達哉とマシュは向かっている途中と言った感じ。


状況も最終局面にまで一気に動きます。
悲劇的になるでしょうが心の部分で勝ちますので完勝ですヨ。

第二特異点は十四話か十三話くらいで収まりそうです。
予定道理ですね、と言うか第一特異点が長くなり過ぎた。
ホンマ、なんであんな話数になったのやら・・・


あと次も遅れます、生活リズムがもうズタズタで。あとパートの通知にドキドキして日頃ちょっとストレスが溜まっていますので。


ではまた次回もよろしくお願いします。






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十二節 「鋳薔薇の園にて」

いるべき場所、いるべき時間にそこにいるようにしな。
着るべき服、言うべき言葉、整えるべき髪形、身につけるべき指輪と一緒に。


沖方丁「マルドゥック・スクランブル」より抜粋


「自らが持つ仮面と統制杯をもって夢幻郷を広げ黄金期を貪り繰り返し人類の過去への憧憬を貪る人類悪、以上の特性をもって彼女のクラスは決定された。薔薇の皇帝と言う名は偽りの名、基は人類史の黄金を繰り返し最も飽和させる大災害、その名をビーストⅥ/R 淫蕩の理を持つ(敗北者)である、ククク、アーハハハハハ!!ようやく望む物になれたんだ喜べよ、そして彼らを飲み込むがいい、ハハハハハハハハ!!」

 

 

                 人類悪 絢爛

 

 

ケラケラと影が嗤う中で二人は対峙し運命は再び交差する。

二等級惑星というジャンヌ・オルタすらも凌駕する魔力量ではあるが

それは彼女のように攻撃性を持った物ではない。

只管に黄金牢を生成し続け世界へと広げる物だ。

故に攻撃性は低いと言える。

 

「ネロ・・・もう止めましょうよ、不毛だわ」

 

オルガマリーは銃口を下げて言葉を紡いだ。

此処で争って何になるというのだと当たり前な思考だ。

自分たちが争ったところで、その銃で、その剣で。

互いを害したところで喜ぶのは聖杯の縁に座る影の化身だけだから。

 

「なぜ? 世界は痛みで満ち満ちているというのに?」

「そうだけど! アンタの作る世界は虚無の世界、何もないただの阿片窟染みた妄執の世界じゃない、そこに行って何を喜べるというの? そこが出来て何を成し遂げられたと胸を張って言えるの?」

「オルガマリーよ、そもソレをやる意味が何処にあるというのだ?」

「なにを・・・」

「頑張れば報われる、それは人の尺度によってマチマチではあるが、大半は報われない、であるなら阿片の作り出す夢に溺れて朽ちればいいではないか?」

 

正しいことをやれば馬鹿を見る、弱者は強者に奪われ、大国は小国を食い物にする。

未だなお変わらぬこの世の心理。

であれば。弱者はどう行動すればいい。

出来る者も失意のうちに食い漁られるならどうすればいい?

答えは簡単だ。強者も弱者も英雄も悪役もない、この都合のいい阿片のような夢のような牢獄で平等に幸せと言う名の幻想を無限に享受し続ければいいのだとネロは語る。

 

「そんなの、虚しい自慰行為よ・・・、ねぇネロ、あくまでそれは脳が作り出した幻想でしかないの。当人たちは関係がない虚無よ、私や達哉のように夢に浸れない人間はどうすればいいのよ・・・」

 

だがそれはただの虚無だ。

あくまで脳がこねくり出したただの幻想に過ぎない。

何処まで行っても虚しい自慰行為でしかない。

本物は救われない、自覚がある以上夢には浸れない。

達哉はそうだった。何度スモッグとタールをかぶせたところで夢から目覚めるだろう。

きっとそれはオルガマリーも同様だ。

彼女には黄金期がないのだから。

 

「ならば、こうする」

 

ネロは狂気と虚を宿した双眸でオルガマリーを見て手を振り下ろす。

聖杯から流れ出ているタールが津波の如く押し寄せ。

同時にネガスキルが起動する。

これだけで並大抵のものは再び黄金牢送りだ。

だがしかし

 

今も過去も繰り返す尊き薔薇園(オブリトゥス・ロサエ・テアトルム)

 

ネガ・エンド

 

「ヴォイドザッパー!!」

 

■■・■■■■■

 

津波の如く襲い掛かる黄金牢に引き釣り混むタールの津波である今も過去も繰り返す尊き薔薇園(オブリトゥス・ロサエ・テアトルム)が、彼女の願いたる永遠の存在を否定し棄却するネガ・エンドと共に炸裂するが。

終わりを否定するネガが■■・■■■■■の乗った空間やらテクスチャをぶった切るヴォイドザッパーで真っ二つに引き裂かれ。

モーセの十戒の如くに津波を引き裂く。

タールの津波が後方へと抜け。

ネロは眼を見開き。オルガマリーは頭を左手で抱える。

またの感覚だった。自身のペルソナを制御しきれない感覚。

シュレディンガーがシャドウとして顕現した時のような感覚だった。

頭痛は酷く、視界は明滅している。

拙いと感じてもいた

何か。まだ見ていないものが這いずり出てこようとしている。

無論それは出て来てはいけないものだと感じてはいたし、とにかく抑え込むまでもなかった。

相手のネガを粉砕した後は頭痛も引いてきた。

なら・・・

 

「ネロ、もう止めましょうよ・・・少なくとも私も達哉も都合のいい夢に浸っているつもりはないわ・・・だから・・・」

 

銃口は下げたままだ。

オルガマリーは説得に入った。

ネロはまだネロだ。獣に堕ちたとはいえ彼女なのだ。

親友なんだ。銃口を向けて引き金に指を掛ける真似なんてできないから。

第一に夢に浸っているという決心や誓いに背を向けるような真似は出来ないのだと遂げる。

ネロにもそれは言っていた。

だが。向けられたのは切先。

返答は真紅の刃。

咄嗟にオルガマリーは反応しリペアラーのマズルスパイクで弾き流しつつ後退。

 

「ネロォ、なんで!?」

「余は私は諦めてしまった。選んでしまったんだ。そして願った。ソーンに、ソナタたちがニャルラトホテプと呼ぶ神に」

 

ゆらりと幽鬼の如く真紅のドレスを揺らし、右手で無造作に剣をもって。

ハイライトの消えた瞳から涙を流しつつ歪み切った薄ら笑いを浮かべながらネロはそういう。

 

「だってそうだろう? 全てが終わったら・・・私はソナタたちを忘れるのだろう?」

「それは・・・」

「全てが終わったら。ここ以上に辛い旅路を歩まなければならないんだろう?」

「そうだけど」

「だったら辛い明日なんていらぬ。ソナタたちが傷ついて失われる明日なんていらない」

 

第二特異点が終わったら。

ネロは全てを忘れる。それは絶対だ。

孤独の中、ようやく得た親友を手放したくない一人になりたくないと思い願うのは当然の摂理だ。

そう嘗ての達哉のように。

だがそれ以上にネロを打ちのめしたのは、主要時間軸の出来事と現状である。

主要時間軸はニャルが言う通り一般人が突破可能なケースを作る最低限の難度でしかない。

それですら辛すぎる物なのに。

ここの世界では達哉たちの力に合わせての最高値をニャルラトホテプが悪意を持って調整しているのだ。

ただでさえ激痛を伴った主要時間軸が温いと言える難度。

それがこの先ずっと続くとかいうフザケタ状況なのである。

元々、剪定予定だった世界、人理も抑止も星でさえも”新たな可能性”を作る為に一切の容赦はないのだ。

この世界の第一特異点を見ればそう理解できる。

冥府の聖女、ジャンヌ・オルタ。

達哉が居なければ彼女は早々に魔人として覚醒し、カルデアを蹂躙できたであろう存在だ。

達哉と言う慙愧が居なければ、ハナから詰ませる実力と精神性を持っていた。

つまり達哉と言うメタユニットがいたから何とかなった。或いは覚醒を遅延できたというだけで。

達哉が居なければAチーム総動員でも詰んでいる。

ジャンヌ・オルタは生粋の逆襲者にして復讐者であり、ニャルラトホテプでさえ殺意の究極系と言わしめる怪物だ。

本当に達哉がメタユニットとして存在して尚且つ最善手を打ち続けて瀕死状態と言うのが最善の結末だったのだ。

それゆえに第一では誰も欠けなかったという奇跡があった。

確かに達哉は死の淵を彷徨ったが死んではいないのだから。だが次からはそういくとは誰も保証できない。

それを理解したからこそ、ネロは親友たちをそんな死地に向かわせるくらいなら下らぬ永遠に閉じ込めるというのはある意味必然の選択肢だったのかもしれない。

そう誰も保証できないのだ。誰も欠けもしないことなんて。

だから保証されない明日をネロは捨てたのだ。

 

「だから・・・。オルガマリーも諦めて。ソナタとてこれから先の辛い目に合うなんていやだろう?」

「・・・そりゃそういうのは嫌よ」

「なら」

「それでもねぇ・・・欲しい明日と、清算するべき責任があるのよ!」

「・・・本当に優しいなぁ、ソナタたちは。私はソナタたち以外を諦めたけれど、ソナタたちは諦めないのだな、なら―――――――全員この黄金牢に閉じ込めればいい」

 

諦めて都合のいい事だけを摂取できればどれほど楽か。

されど責任と自分が成し遂げたいことがそれを許すことはない。

両手で二丁のリペアラーの装弾状況を片手コッキングで確認。

重量でも確認する、散々、キルハウスで撃って模擬戦で撃ったのだ。

今は弾が満タンであることはオルガマリーには理解できる。

最早、リペアラーは彼女の身体の延長まで馴染んでいるのだ。

と言っても発砲する気はさらさらなかった。

あくまでネロの説得。

絆故に引き金を引けないという事態は続行中だ。

影がそれを嘲笑いながら見ている。

達哉たちも苦戦していている。

いまやローマは地獄の釜の底、あるいは末期のソドムとゴモラが如き露呈を呈している。

しかし天使たちは介入できない。大手の連中は円卓と融合しており、故に手先の小童風情が蠅王に勝てる道理はなしと言う奴だ。

閑話休題。

既に場は煮詰まっている。

 

「さてどうする? どう説得する? 都合のいい物はいないぞ? オルガマリー・アニムスフィア」

 

クツクツとその手段を現状ただ唯一正解を知る影は傍観に徹する。

そのあざけりに呼応しギチギチと聖杯を縛り上げる鎖が軋むが。

それですら影にとってはメインディッシュを彩るスパイスでしかない、お前はそういうものでそう望んでそう望まれて生み出された物だと嘲りを込めて笑うのだ。

そうこうする間にも、オルガマリーとネロの武闘は続く。

殺せぬ以上、オルガマリーが防戦一方になるのは当たり前だ。ペルソナも使用できない。

ラインナップは現状のオルガマリーの最高値であるし、魔法スキルは達哉ほどの精密に出来ない。

特にラプラスを塗り替える形で新しく己が専用ペルソナとなったシュレディンガーは目覚めたばかり故に加減が効かない。

固有スキルのヴォイドザッパーは空間どころかテクスチャですら抉る対空間スキルとしては最上位である。

殺傷能力が高すぎて使えないのだ。

 

「ペルソナァ!!」

「!?」

 

ネロが叫び、胸部から漆黒の杭が現れる。

そこから延びた漆黒がネロの愛剣に絡みつき黒く染め上げ、さらに茨となって具現化する。

 

「ソナタたちだけかと思ったか? これが私のペルソナ、私の獣性、自分以外の何もかもを黄金に引きずり込むこの剣をもってソナタのペルソナを引き裂けば私の紡ぐ黄金牢に閉じ込めることが出来る、だから」

「っ」

「私とここにいて!! お願いだ!! オルガマリー!!」

 

ひゅんと風切り音、ネロの絶叫と共に乱雑な一撃が放たれギリギリの所でオルガマリーはその一刀を捌いたが・・・

 

「なんでっ!?」

「そんな武器ではな!!」

 

マズルスパイクが破損した。

まだ機能はかろうじて保っているが。本来受け切れるものではない。

なんせ元々はただのチタン合金を加工した物に過ぎない。

キャスターであるダヴィンチが対サーヴァント用の強化処置を施しているが。

ビーストと化しペルソナ補正まで受けているネロの剛力を受け切れるほどではないのだ。

がしかし、ネロは剣は下手である。もとよりextraでは皇帝特権で強引にセイバークラスでの召喚だったのだ。

正規訓練を技量お化けたちによってしこたま受けられ元来の才能で強くなりつつあるオルガマリーには通用しない。

無論、それは防御に徹さず、攻撃を行うということが大前提となる。

マズルスパイクで腹を抉り、銃弾で心臓を打ち抜き、蹴り技で頭部を蹴り飛ばす。

今のオルガマリーなら獣の権能とネガスキルを無効化した以上、ネロ程度の相手なら余裕で可能だ。

だがそれは殺傷を意味する。加減すれば死ぬのはオルガマリーだ。

 

「ッッ、ネロ、やめてお願いよ」

 

リペアラーでは防ぎきれないと判断し、シュレディンガーの大鎌を振って相手の攻撃を捌く。

強度的には大丈夫であるが、ペルソナ同士の激突故か、ネロの嘆きが一合ごとに流れ込んでくる。

辛くて苦しい一人に戻りたくない辛い明日に行きたくない、友を忘れて死地に送り出したくないという絶叫だ。

 

「ヅッアァァァァァアアアアアアア!? ハァハァ・・・ネロお願い・・・それを捨てて、でないと」

 

オルガマリーは絶叫しつつその嘆きを振り解くかのように獲物とペルソナを振う。

両者にとって骨身を削る説得だ。

 

「アハハハハハ!! 形成された自我と自我は永遠に交わることはない、友情、絆、都合のいい御託を学べようと、魂の昇華と言う幻想を持ち出そうとも、反発しあい己の身を食み合う、それすらも分からず、世界を焼却したか? 世界を漂白したか? その果てに理想郷が訪れると思っているのか? クハハハハハハ!!」

 

皮肉もってソーンは嘲笑い、それを黙れとオルガマリーとネロも拒絶する。

だが真実そうなのだ。

高位体に移行しようが何をしようが人は争うのだ。

かと言って感情と言う機能性を切除すれば人間ではないのだ。

この次元では多くのモノ達が永遠と永劫を謳うがそれで平和になるだとか本気で信じている滑稽さをニャルラトホテプは皮肉り。

実際に作って見せて皮肉っている。

永遠が約束されているこの薔薇園の黄金牢でいまだなお人は刃を交わしているではないかと。

 

「アハハハハハハハハハハハハ!! 滑稽だ。実に滑稽かな、滑稽かな、武器と武器、我らが作り上げた悪意の具現。自らを間引きするための自滅の道具、それをもって説得しようとはなぁ。永劫に至っても人はまだそれをもって争い続ける。こんなことも理解できずに、私に世界を売り渡したか。なぁ■■■■■、天草、アインツベルン、エインズワース、貴様らが望んだ地で猶も刃は交わされる!」

 

それでもなお影の嘲笑は終わらない。

だってそうだろう?

誰某がとは言わないが。間違えているのだ。

ここも見ようによっては楽園だ。多くの人が望んだ自分だけの夢に飼いならされる世界だ。

幻想を使ってやっているか。或いは科学的統治システムによる絶対統制という違いでしかない。

ディストピアも見方を変えればユートピアだ。そして逆もまた然りなのである。

だからこそこの楽園をもって、ソーンはニャルラトホテプは、どこかの先で過去に唱えた彼らの幻想を否定する。

お前らの目指した世界でもなお、人同士の反発は止まず武器は交わされるのだと。

故に間違い、故に敗北者の愚行だと嘲笑い。そう言った失敗の後始末は今ここで現実と戦っているカルデアに押し付け。

血涙を流し血反吐を吐いているのはカルデアなのに。

そういった連中こそ良い空気を吸って退場していく。

これを滑稽と言わずしてなんといえばいい。

故に連中には罰が下されるべきだ。

妥協したといえど都合のいい物を選んだネロにも当然だ。

英雄譚を彩る悲劇となれ。

彼等を成長させる試練となれ。

燃え上がらせ荒野の地平を彷徨う最初の一に誘うための薪木となるがいいと。

聖杯の淵に座って二人を見下ろしながら嗤い続けていた。

 

一合交わすごとにリペアラーのマズルスパイクが砕けていく、故にシュレディンガーの大鎌に頼らなくてはならず茨の剣がぶつかり削れ。

心理的にオルガマリーを蝕んでいく。

 

「オルガマリー、私の可愛いオルガマリー・アニムスフィア! お願いだ。もう諦めてくれ!!」

「諦める・・・わけには・・・行かない。だからお願いよ、ネロ! お願いだから私の話を聞いて!!」

 

ネロが叫ぶ諦めろと。

でもオルガマリーは諦められない。達哉の慟哭を知って。第一で多くの責任を背負い。大事な物を見て得て手放したくない。

彼等と明日に行きたいと思うから。それがたとえ酷い物だとしても

 

「なんで抗う!? どうしてだ!? もう怯えて泣いて恐怖して嘆くこともないのに!! 達哉のような悲劇やジャンヌ・オルタのような惨劇もないのに!? だからこの世界であなたと二人で、ねぇマリー!!」

 

遂にネロが馬脚を現したなとオルガマリーはどこか遠い事のように思う。

ネロと付き合いの長いのはカルデアの中ではオルガマリーが一番だ。

要するにコイツは達哉やマシュを出汁にしてオルガマリーを引き込もうとしている。

それも仕方が無いだろう、物事に優劣はつきものだからだ。

選ぶ際に比較による優越の決定は必要となる。

それを悪と断じるならそれこそ傲慢の所業だ。

誰だって選んでいるのだ、血を流す流さないに関わらず、物事を比較し優越性を図り決める。

生物としての基本設計である。

 

「二人ってねェ・・・それじゃダメなのよ、約束したじゃない、私はアナタと。また皆で釣りに行こうって!!」

「行けないではないかぁ!!」

「行くのよ!! 約束だもの、今は出来ないかもしれない、それでも!! この先で会って約束を果たすのよ!!」

「出来るわけがない!」

「そうねぇ・・・できないかもしれない、それは今の話しよ!! ウチの召喚式は運式でねぇ、狙って呼べない分、抑止力に捕らわれず呼ぶことが出来る、全部終わったら私はアナタを呼ぶまで回す、だから!! お願い、そのペルソナを消して!」

 

カルデアの召喚式は運式だ。

その分抑止力に捕らわれず誰でも召喚できる、運が絡むがやってやれないことはない。

だから未来でまた会いましょう、その時こそ約束を果たす時であると。オルガマリーは説得するがしかし。

 

「それは絶対ではないではないか!」

 

そう絶対ではない、運が絡む以上絶対ではないと。

それでは約束が果たされないとネロが叫ぶ。

放たれる剣の軌跡は無茶苦茶だ。

素人剣術も良い所。だが力任せに振われるそれは致死の威力だ。

破損したマズルスパイクとシュレディンガーの大鎌で捌く。

そしてこう思う、どうすればいいと。

選択肢は二つに一つであるがどれも正しくはない。

ネロを殺傷すれば、人理崩壊。

かと言ってこのままでも人理崩壊。

詰まされている。

だが、まだ選択肢はある。

ネロを説得し、獣性からの解放と言う選択肢。

無論それを選ぶが。どうすれば彼女を説得できる。

どうすれば彼女を納得させることが出来るのだと、オルガマリーは思考を回す。

 

「ええ絶対じゃないけれど、私は絶対向こうでアナタと再会するまで回す、だからお願い、武器を降ろして・・・出ないと!!」

 

言っていることが矛盾してきた。

不良漫画の川辺での喧嘩が如き無茶くさだ。

自分でも何言っているのだろうと心の中で思う。

さらに精神が煮立ってきた。故に心が弱気に傾く。

殺して楽になりたい、してやりたいと思えてくる。

 

「なら此処でもいいではないか! ここにはすべてがある黄金郷だ!! 苦しむことも悲しむこともない!! 永遠は此処にあるんだ」

 

そうここには何でもあった。それはネロの言う通りだ。

でもそれだけだった。

自分が望むままに発生する都合の良い現実。

それが夢であると言わずしてなんというのか。

幸いなのか最悪なのか、オルガマリー・アニムスフィアは現実を知ってしまった。

それならまだ良い。

だが・・・

 

―もう俺を一人にしないでくれ―

 

あの悲痛な罪の叫びを知ってしまった。

 

―俺たちは心の海でつながっているいつでも会えるさ―

 

辛き現実から目を反らさずに歩んでいる友人を知っている。

それと出会い手を貸してもらって生きているという事実が、オルガマリー自身に永遠を許さなかった。

 

「はっ―――ハァ―――――」

 

だからこそ思い出す。

この状況の今回的感情は愛だ。

ネロの両親に起因する、彼女自身が求める他者からの愛情の渇望。

愛されていなかった抱きしめてもらえなかった此処にいて良いよと言われなかった。

それが根幹的原因だ心理的病理と言っても過言ではない。

まさしく愛されぬ子どもが大人になった典型例とも呼べる。

それはオルガマリーとて同じ、両親には都合のいい道具扱い、隔絶した天才が居たがゆえに周囲からは疎んじられ、誰にも愛されず、抱きしめられず、此処にいて良いよとも言われなかった。

それがオルガマリーの過去。

だけど今は違う、此処にいてもいいのだと言われ、自分の意志で此処にいる、天才の代用としてではなく変えの聞かぬ存在として自分の役職を全うしている、親友も出来たんだ。

だから、嗚呼、だからそして。

カルデアスに放り込こまれる瞬間。

自分の手を握って助けてくれた人を覚えている。

彼の掌のぬくもりを今でも覚えている。

 

「――――――――」

 

そしてオルガマリーは愛を伝える方法を見つけ出した。

決して都合の良いものではない。下手すれば自分は死にかける。と言うか最悪死ぬしネロは拗らせて暴走するかもしれない。

かと言って分の悪い賭けでもない。

通信礼装は今でも混線中で状況を伝えて来てくれる。

達哉たちが此処に向かってきているのだ。

彼が居れば何とかなる。

後は自分が痛みに耐えきれるかどうか、それと即死しないかどうかにかかっている。

今のネロは癇癪を起した子供だ。刃物を持って駄々を捏ねる子供だ。

故に必要なのは決死の覚悟だ。

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ、達哉とマシュは必死になって階段を駆け上がっていった。

段数が予想以上に多い、数分駆け上がっているが未だに中腹程度だろう。

そこまでは順調だったのだが。

上からタールの津波である。

今も過去も繰り返す尊き薔薇園(オブリトゥス・ロサエ・テアトルム)だった。

あくまでオルガマリーは自前で防いだから無事だっただけの話である。

空間断層で防いだという事もあって後方に抜けたのまで全て防いだわけではない。

運悪く、後方に抜けたのが階段方向だったということもあって。達哉たちに殺到してきたのだ。

津波の威力は本物だ。数mの津波に飲まれれば人は無事じゃすまないし。

飲まれればおそらく黄金牢戻りなのは容易に想像がつくところである。

 

「マシュ、宝具展開!!」

「了解!! 真名疑似登録、疑似展開/人理の礎(ロードカルデアス)!!」

 

マシュが疑似展開/人理の礎(ロードカルデアス)を展開。

津波を防ぐ、だが今の彼女は頭が冷えたのか、スパルタクスを押しつぶし殺した時の様な過剰出力は出せず。

津波の質量に押しつぶされそうになるが。

達哉と達哉の召喚したクリシュナが共に盾を支え何とか、津波に押しつぶされることを防ぐ。

突入時の時と同じように無拍子に襲ってこないだけマシと言えよう。

 

「上では一体何が起きているんだ・・・」

「この様子だと拙そうですよね・・・急ぎましょう」

 

なんとか津波を防ぎきり二人は急ごうと足を速めようとするが。

残った粘液からシャドウが沸き出す。

仮面をつけたスライム状の存在から人型サイズの物、球体に口が付いたものに机状のものまでだ。

 

「これ以上、関わってられるか!!」

「先輩に同意です!!」

 

されどこれ以上関わっていられないのも道理だ。

時間がないし事は進んでいるからである。

これ以上精神力を使うのもあれなので。達哉は懐から数個のメギドラストーンを取り出し投擲。

炸裂させシャドウの群れを吹っ飛ばす。

が怖気つかない存在もいるらしく突進してくる。

そう言った相手には。マシュがバンカーボルトを叩き込んだ。

本来は盾を保持するために地面に食い込ませる掘削用だが。

炸薬式の強力なパイルバンカーとしても機能する。

本来想定されていない使い方だが、威力は保証されている。

炸薬音と共に大型シャドウの胴を貫き即死させつつ、バンカーを戻し震脚と共に八極拳の応用で盾を横に振り抜き。

シャドウの群れを吹っ飛ばす。

 

「マシュ、後退しろ!」

「了解!」

 

そう言いつつマシュは達哉と入れ替わる形で交代。

達哉がアポロにチェンジしノヴァサイザーを起動。

停止時間三秒、その間のシャドウの群れに向かってありったけのメギドラストーンを投げつける。

 

「行くぞ、マシュ!」

「はい!」

 

時間が動き出すと同時に達哉は上を目指すべく足を動かす。

マシュも達哉の声に答えて、足を動かし。

この黄金の階段を一気に駆け上がる。

そして駆け上がった先で彼らが見た物は。

 

「「所長!?」」

 

何時もの姿に戻り懺悔の言葉を口にしているネロと腹部にネロの剣が根元まで突き刺さり、横になって倒れているオルガマリーの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ては単純な事なのだ。口にするより行動することがここでの最善策なのだ。

達哉がぬくもりを冬木や第一特異点でくれたように。

ネロにも同じことをすればいいだけの話しなのだと。だとすれば覚悟は決まった。

今から酷いことになる、ネロを傷つけることになるだろう、カルデアの皆からは説教だ。

達哉のトラウマを抉るかも知れない、マシュは泣いてしまうかもしれない。

それでもやらなければならないのだと。覚悟を決める。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ネロ」

 

ジャキリとリペアラーを構える、ネロもそれに答えた。

シュレディンガーは消す。今から行う行動にペルソナは必要ないから。

 

「もう終わりにしましょう」

「いいや終わらぬ、終わらせてなる物か!!」

「いいえ、終わりよ、そしてここには何もないことを教えてあげる」

 

そう言って自分自身を背負って彼女は一歩踏み出した。

ネロも間合いを詰める、斬りではなく突きの構え。

ああっそれならよかった。バッサリやられるよりはマシだからと思ったから。

故にオルガマリーは歯を食いしばって・・・。

両手に持ったリペアラーを放り投げて両手を広げる。

彼女を受け止めるために。

切先は既に突き出されている。だがネロは動揺し、刃の切っ先を少し下げたが・・・

間合い的に間に合ず。

 

ゾブリと音が響き。

 

剣は

 

「コフ――――」

 

オルガマリーの腹部を貫いた。

 

「オルガマリー、なぜ・・・なぜこんなことをォ!?」

 

ネロが呆然とする

剣は鍔元まできっちり食い込み。

剣を握るネロの手をオルガマリーの血液が滴って汚した。

 

『なぜ疑問に思うのだ? お前が望んだ永遠だろうに。彼らを壊し牢獄に閉じ込めておきたいと願ったのは誰かな??』

 

影が嘲笑う。お前の望んだことだと。

何を悲しむ? 最初からしたかった事だろうと。

 

「こうしたかったからよ」

 

そんな影の嘲笑に強くオルガマリーは返しつつ。

激痛に喘ぎ喉を上る血を唇の端から滴らせながらオルガマリーは微笑みながら。

ネロを抱きしめる。

 

「本当に馬鹿よね、私も、ちゃっちゃとこうやってしまえばこじれる事なんてなかったのに。互いを見ているようで見ていない」

 

本当に馬鹿と自嘲しつつオルガマリーは強くネロを抱きしめる。

 

「ここにはすべてがあるとアナタはいうけれど、此処には何もないわ。永遠と繰り返しているだけ、明日に行くのはそりゃ怖いわよ何が起こるか分かったもんじゃない、けれどだからこそ良いことと悪いことは等価なのよ、悪いこともあればいいこともきっちりとあるのよ。繰り返し続けたら。新しい楽しい事を楽しめないじゃない?」

「――――――――――あ」

 

そう繰り返し続けるということは新しい事を行えないという事である。

そして繰り返すことに意味はない、いずれ誰もが飽きる。

娯楽は一過性であるべきだしそれ以上でもそれ以下でもないのだ。

故に何もないのだ。ただただ楽なだけ。

だから人は明日を望む、恐怖しながらも明日を望むと言う物なのだ。

 

「こんなところにアナタを放っておけない、だってアナタは親友だもの、ここじゃ約束は果たせないし、新しいことやみんなでお茶したりバカやったりできない、映画だって見れないのよ?」

「オルガマリー・・・」

「だから一緒に行きましょ? 嫌なことがっても皆が居れば乗り越えられる、楽しいことがあれば・・・皆で・・・楽しめば良い」

 

親友だからこそ見捨てられないと彼女を強く強く抱きしめる。

その愛を理解したのか、彼女の頭部から角が外れた。

オルガマリーの決死の献身によって獣性が解体され、ビーストとしての特性が消失したのである。

 

「すまない、オルガマリー、すまなない!!」

「気に・・・しないで・・・やりたくてやったことだから・・・」

 

そしてついにオルガマリーも我慢の限界を超えたことから力が失せて。

ネロが剣を手放しているというのもあって、横倒しに倒れる。

 

「「所長!?」」

 

丁度、そこに達哉とマシュが来た。

懺悔の言葉を口にしているネロと、瀕死状態のオルガマリーを見て二人はすぐに駆け寄る。

 

「ネロさん、大丈夫ですか?」

「マシュ・・・私は・・・余は・・・オルガマリーを・・・」

「マシュ、タツヤ、ネロを怒らないで上げて・・・私が・・・やったことだから・・・」

 

二人の怒りがネロに向かわない様に、途切れ途切れにオルガマリーはフォローを入れる。

下手をすれば怒りのままにと言う奴であるが。

 

「この惨状を見てれば怒るのは所長、アンタにだ。よくもこんな無茶を」

「向こう見ず時代の・・・アンタよりはマシ・・・よ」

 

状況を見れば明らかにネロが故意ではないくらい分かると言いつつ。

無茶しすぎだと達哉がオルガマリーに苦言を呈すれば。

冗句を返す様に苦笑しながら、向こう側時代の達哉よりはマシだと返す。

それでもネロはあたふたしているので。

マシュが懐から精神安定剤を取り出す、無論軽めの代物だ。

コンバットドラッグも万が一を考え配布されているが今はネロに使うべきではない。

 

「ネロさんも落ち着いてください、これとこれでも飲んで」

「しかし・・・」

「これくらいならどうにかなりますよね? 先輩?」

「リカームとメディラハンの併用でどうにかなる、ロンギヌスに刺された訳じゃないからな」

 

治療不可能のロンギヌスで刺された訳じゃないのでペルソナ能力の治癒範囲だ。

達哉がアルムタートを呼び出しつつ、自身のジャケットの袖を斬りつつ簡易的猿轡に加工する。

 

「所長、これを噛んでくれ、今から剣を引き抜いて治癒させるからな」

「わかったわ」

「マシュ、まず剣を引き抜く、所長が暴れてもい良いように押さえておいてくれ」

「了解しました」

 

舌を噛まぬように猿轡を噛ませて、激痛で暴れても良いように達哉の指示でマシュがオルガマリーを押さえつける。

そして達哉はネロの剣の柄を握りしめ。

 

「~~~~~~~~~ッッ!?」

「所長、動かないでください!!」

「もう少し、もう少しだ!!」

 

剣を抜く激痛に喘ぎ暴れる所長をマシュが必死に抑え。

達哉が剣を引き抜いていく。

数秒もしないで剣は引き抜けたが、今度は血が噴き出した。

達哉はアムルタートを呼び出しリカームとメディラハンを唱え、オルガマリーの傷を癒す。

 

「これで大丈夫だ。もっともすぐには動けないが・・・」

 

達哉が一息ついてそういう。

 

「だがすぐには動けないだろう、血が結構出たし繋げたばかりだからな」

「先輩、一応造血剤打っておきますか?」

「ああその方がいい」

 

マシュの提案に達哉も同意する。

見た目以上に血が抜けていた。

幾ら回復スキルでも血までは作ってくれない。

故にオルガマリーはしばらく動けないだろうからだ。

マシュは懐から造血剤の入ったペン型注射器をオルガマリーの首頸動脈に打ち込む。

これで事態は終了し大円団となるわけもなく。

 

「よく頑張ったね、カルデアの皆様方、たっちゃんもトラウマを払拭する良い機会になっただろう?」

「貴様・・・」

「では次だ」

 

まだ影は存在し、獣もまた存在する。

起動するのはかつての大取、人の怠惰が生み出した代物。

ソーンが座る大聖杯が軋みを上げて駆動を開始した。

 




第六の獣Ⅵ/R 討伐完了
本作ペルソナなんで人類悪の根源であるニャルとフィレが居るから前倒しと登場。
そして達哉とマシュによって愛されるという事を知った所長の手によって討伐されました。
所長が人類悪を討伐するという皮肉よ。

ニャルの言っていたっ通り。言葉だけでは本当の愛は伝わらない
ちゃっちゃと抱きしめてちゃんと愛されているという事を周囲が教え込めばこんなことにはならなかった。
ブーティカか神帝あたりがやっておけば第二特異点はレフ単独とはいえほぼ原作通りになっていました。
神帝は尊敬できるっちゃ尊敬できるんですが、言ってることが抽象過ぎて伝わらないし行動に移せていないばかりか軍隊嗾けているのでニャル的にはどの口が言うんだよ!! だから弟ぶっ殺す羽目になって学習してねぇじゃねぇか!!と言う反省を促す意味で惨状の引き金を引き。

結果、神帝はこの結果を受けて

神帝「ぐだよ、アルトリアを好きと言えぃ!!」

と言う感じ、間接的に巻き込まれたぐだは泣いても良いと思いますん


補足、相性的にネロは絶対所長に勝てません。だって所長、ネロと同じ正規No持ちでメタスキル持ちですもん、本人自覚無いけれど。
そして各種スキル無効されている状態なのでネロよりも技量的に所長の方が上で。説得と言う選択肢を選ばなければ所長のマグナムキックやら銃撃で試合終了です。
いい勝負になっているのは純粋に撃てないから、殺せないからに過ぎない。
紡いだ絆が盛大に足を引っ張っているのが現状ですね。あと殺傷したら人理的にもアウト判定ですかね
本作ではニャルが関与する以上、絆とか友情の負の側面も盛大に書いていきます。
だからこそ、コミュランクシステムは本作でオミットされているわけですしね。
フィレも下手に絆だとかを数値化するとニャルに先手撃たれかねないというのが分かっているのでオミットしているわけです。
あと楽に勝てましたが、所長がメタユニットしているのは上記の通りで、アーケードとは違い特性を並行世界に侵食するという事にガンぶりしているため、本体の攻撃性能はサーヴァント程度だったからです。
少なくともロムルスが堰き止めていないと、周辺の並行世界事巻き込んで剪定時空認定からの世界が数十個消し飛ぶくらいにはヤベー存在。



第一特異点の補足。
本作、邪ンヌはたっちゃんがいないと速攻で迷いを払拭。
実力&技量 SJの頃の最全期 ペルソナあり、固有スキルありの出力第一特異点初頭と同じ超出力&再生能力。
メンタルも完全モードでさらに体力も充実で全力全開で殺しにやってくるとかいうクソゲーが始まるし、邪ンヌ砲もい外すことは無かったりする。
悪魔でたっちゃんが居たから迷走しまくりメンタルガタガタで対処できただけだったりする。
一応邪ンヌの方は第四終了後のイベ特異点で全盛期モードで出てくる予定です。

さて、ビーストⅥ/R戦が終わったので、たっちゃん怒りのビーストⅥ/L討伐戦を閉めます。


ネガ・エンド
終わりの在る物の能力、宝具を遮断する。
サーヴァントとて霊核を破壊された場合死亡する為。この能力の範疇にあるし、死を持つ人ではこの能力を突破することは不可能だが。
現在、オルガマリーの■■・■■■■■で無効化されている。



次は全く書けていないのと就活で今月中の更新は無理です!!
その辺はご了承ください。
ではまた次回~


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第二章幕引き 「永遠の定義は個人の内で完結し、決して他人と共有することはできない」

人間にとってただ3つの事件しかない。
生まれること、生きること、死ぬことである。
生まれるときは気づかない。死ぬときは苦しむ。
そして生きるときは忘れている。

ラ・ブリュイエール


 

ソーンが嘲笑う。

無論達哉たちではない。

それをしなかった者たち全員に対してだ。

愛を伝えるというのは実に単調な事なのだ。

幾ら言葉を弄そうとも行動が共わなければ伝わるわけがないのだと。

 

「愛するということはぬくもりを伝えるということだ。口先だけでは何とも言える、本当に愛しているのなら抱きしめてやればよかった」

 

故にこうなったのだと嘲笑う。

一歩踏み間違えれば、オルガマリーは死んでいただろう。

達哉とマシュが間に合ったから一歩手前で済んだ。

そして本来、彼女に愛を与える配役は神帝か月に狂った王の役割だったのだ。

抱きしめて愛を伝える。

それだけでニャルの計略は簡単に崩れ落ちた。

だが誰も彼もがしなかったからこんなことになったのだと。

 

「そう言った意味では。よくぞ成長したって話だね」

「そうか・・・」

 

故に皮肉交じりにソーンは賞賛を口にする。

ジャキリと達哉は刃を構える。

ネロはシャドウを受け入れて眠りに入った。

ここに第六の獣は打倒されたのに。まだ。ああまだ蠢く者が一つ。

 

「まだ終わっていないんだろう?」

「その通り、第六の獣は打倒された。しかしまだ冠を抱く者は死んでいない」

 

そう言ってソーンが聖杯の縁から飛び下り床に着地。

それと同時に軋む音

gigigigi・・・・

まるで錆びついたブリキの歯車が強引に廻る音。

 

「ニャgfhdhfk。、x・!!」

「この世界のビーストⅥは左右の概念で成り立っている、即ち赤き衣を身に纏う大淫婦は此処に打倒された。だが聖書曰く大淫婦はあらゆる栄華をほしいままにしたが、乗っていた獣に裸に向かれ身を引き裂かれ喰われ。神の裁きを受けるという」

 

ノイズ交じりの絶叫。

緋色の衣を身に纏う淫婦が跨る獣に仕立て上げられた怠惰の聖杯が絶叫する。

音を立てて錆びついた体を変形させ、汚濁をまき散らしながら巨大な獣人へと変貌していく。

だが巻き付けられた鎖が拘束しており上手く変形できないでいた。

 

「故に大淫婦の役目は終わり使っていた獣が目覚め彼女を食わんとするのは道理で既に願いの制御核はアレだ。アレを潰さないことには終わりはない」

 

それは誰かに全てを任せて、自分は特に何もせず何も考えず生きていきたいという人類の願いを叶える汚れた楽園の統率者。

以上の特性をもって彼の存在のクラスは決定した。

姿形はバビロンの大淫婦が跨る獣即ち黙示の獣を模倣し神の名を騙るがその名は違う。

基は人類が呼び出した、人類史を最も効率よく運営し怠惰の海に沈める大災害。

即ち『怠惰』の理を持ちし獣。ビーストⅥ/Lである

 

 

                   人類悪 起動

 

 

 

「さて、一応は大取を務めていた存在だ。今の君では手に余るが。」

 

仮にも人類悪の心臓部分として駆動しているのだ。

無論、達哉一人の手には余る。普通なら

だがアポロの両腕は白く染まっている。手甲は漆黒に染まっていた。

大物取りが得意な英霊もいる。

火力不足で窮地に陥っていた怪盗団とは状況も違うのだ。

十分に葬れる条件は整っているのである。

そう嘗ての統制神ならば今の面子で殺し切れる、英霊と宝具はそれほど規格外なのだから。

だが今は無理だ。ネガスキルが存在する。

ネロのネガはオルガマリーの■■によって無効化されたが。

それは相性によるものであって、統制神のネガを無効化できるものではない。

とまぁ、怪盗団が対峙した時とは違いネガスキルと言う絶対防壁が存在するということがネックになっていた。

だがしかし。

 

「この分なら問題ないね」

 

ソーンは達哉のアポロのあり様を見て接続力域を確認し十分に負の感情が増幅していると見るや否や。

踵を返し、怠惰の聖杯に歩み寄り鎖を解除した。

同時に衝撃、怠惰の聖杯がその巨躯を地面に落下させた衝撃である。

変形は完了し、己自身をこんな体に貶めたニャルラトホテプことソーンに憎悪を向けてその巨腕を振り上げた。

 

「まて!!」

「では次で会おう、カルデアの皆様方」

 

逃げるつもりだと達哉は理解した。

普通なら自殺行為なのだが、影に終わりはないのだから。

自傷行動そのものがデスルーラ―染みたものでしかないのである。

両腕を広げ、その巨腕の一撃を受け入れて。

潰された。

砕けた瓦礫と怠惰の聖杯の掌の間から血がにじみ出る。

実に悪趣味な演出だと。

振動の中で達哉は思いながらアポロを呼び出す

 

「先輩、私も「いや、マシュはネロと所長を守ってくれ、二人がここで死んだらアウトだからな」

 

マシュも共に行こうとするが、達哉は否と言う。

当たり前だ。ネロと所長は絶賛気絶中なのである。逃げ場がない以上、

彼女たちを保護する人材が必要なのは当たり前である。

故に防御宝具を持つマシュが残るのは当たり前だったが。

達哉の背はまるで日輪丸で負傷した時と同じ背中で自ら孤独に行ってしまう様な背中で見て居られなかった。

だが達哉の言い分は反論できない正論と言う奴で。

マシュは奥歯を噛み、手を握りしめるほかなかった。

 

「マシュしかできないんだ。頼む」

「・・・わかりました」

 

マシュは納得できない。ああもっと力があればとさえ望んでしまう。

そして振動が収まる。

ヤルダバオトに嘗ての神々しさはない。

下半身から巨大な七つの首を生やしそれには人を余裕で丸呑みできる巨大な顎が付いている。

そして彼は怒り猛っていった。

こうも弄ばれ都合の良い装置として利用されればヤルダバオドとて怒ると言う物。

だからこそかつての時より強い。

ある種、某宇宙のようにアマラもまた怒りに支配されている宇宙である。

故に光があり、玉座が存在する。

もっともすぐれた思想と言う名の怒りを持つ者が大いなる意志の導きの元、玉座へと至るのである。

人はそれを救世主と呼ぶのかもしれない。

或いは英傑、或いは魔人、或いは――――――――

まぁ要するに玉座に至る物は大概が怒っているのである。

明星や聖四文字なんかがその最先方だろう。

この二人は怒りに怒って、互いで世界を股にかけて殺し合っている。

人修羅もであろう。

彼もまた大いなる意志に対し怒り狂っていたからこそ明星を受け入れた。

そしてジャンヌ・オルタも怒り狂っていたがゆえに到達点へと到達したのだ。

秩序や自由、中庸というラベルが貼り付けられていても誰も彼もが怒っている。

 

 

 

故に達哉も例外なく怒っているのだ。

 

 

 

その怒りは玉座に座ることを良しとするもの。

万人に道を示す物であり彼の答えであり怒りである。

故に、影と蝶が目指す物はそれだ。

怒りを振り切った先の解脱か或いは怒りを極め切った先の個を圧倒する独覚である。

その果てに生まれる剣を所望する。

そしてその偉業は達哉にしか成せぬと思うから彼らは此処にいる。

故にこれも一つの試練だ。

大衆の怠惰が生み出し影が作り上げた概念神にして今は黙示の獣。

この状況下では彼の力は最大限に満ち満ちている、いつぞやのように都合のいい方に流れる大衆の意志を利用した逆転劇は発生し得ない。

奇跡はなく、絆もまたない。

故に思う、自分は兎にも角にもどうして親しい人々が巻き込まれればならないのか、なぜ自分は守れないのかと怒りをあらわにして。

深く、そう深く、ペルソナの接続力域を深めていく。セレファイス、レン、ガタス、その深く深く蝶や混沌が鎮座する場所へと接続する。

怒りは負の接合器具となりて深く深く接続する。

するとどうなるか? 単純だデメリットはあれど高出力化する。

既に達哉のアポロは反転の一歩手前の出力を発揮していた。

貯め込んでいた怒り、そして■■■■によってまだペルソナの体裁を保ちつつ第一特異点での須藤のリバース・イドの出力を超えていた。 

 

―アハハハハ!! もっと怒り狂え!! 己の本質を観ろ!! その答えの果てを直視するがいい、そう、そう、その先にはすべてを焼き尽くし、灰と化して次世代へと紡ぐ祈りなのだから!!! アハハ!! 滑稽かな、滑稽かな、救いたいモノを灰にしてでも先を望むか救世主よ!! クククク、アハハハハハハハハ!!!―

 

影は整った場を見てせせら笑いつつ問うた。

この圧倒的存在を前に。周防達哉、君はどういった物を見せてくれるのかと。

知っているくせに滑稽だと嘲笑いながら。

 

アポロの両腕が肩まで黒と白のコントラストに染まる

そして醸し出している雰囲気はヤルダバオドにも勝るとも劣らない。

経路がつながり出した。底に深く深く。

第一で須藤によってタガを外されたがゆえに彼は止まらない。

そして怯まない。

刀を何時ものように構えて、その殺気の温度を絶対零度に落す。

 

―ネガ・メサイヤー

 

起動したヤルダバオトは下半身から七つの顎を持つ不気味で巨大な首をもたげさせる。

ニャルラトホテプが付加した機能だ。

今や統制神はバビロンの大淫婦の持つ聖杯であり、彼女が乗る黙示の獣なのだから。

十の王冠と七つの首が無ければ獣とは言えまいという皮肉も込めてだ。

ついでに正規Noに該当する為、ビーストスキルすら持ち合わせている。

と言っても持ち腐れ感は否めない。

何故ならネガ・メサイヤは救世主を否定するネガだ。

これが結城理だったら効果覿面だろうが。

彼はまだ救世主でも英雄でも魔人でも無い、故に効き目がない

だが英霊のスキル、宝具、機能は無効化されてしまう。

英霊としての根本的機能の否定。

それがヤルダバオドのネガだ。

ペルソナも一種の降霊能力であるためかその範囲に入るのだが。

 

「―――――――――――」

 

達哉のアポロだけは違った。両腕にマハラギダインを宿し。

放たれる波動を抑え込みまるで壁に指を食い込ませるかのように動かし。

 

「ガァ!!」

 

そして襖を開けるが如く引き裂いたのである。

スキルにいつの間にか追加されていた炎貫通のスキルで。

強引にネガ・メサイヤをこじ開けたのである。

貫通とはアマラの絶対王権だ。無力化だとか威力減衰だとかを完全無視するスキル。

故に炎攻撃限定ではあれど、あらゆる防御スキルが今の達哉の前には通用しない。

それはネガスキルとて例外ではない絶対的機能だ。

と言ってもネガスキルの影響を受けないのは達哉だけで他のサーヴァントは違う。

普段の10倍もの重力を課せられたかのような感覚であった。

加えてスキルが使用不可能。まともに戦えるのが東洋トリオ及びクーフーリンだけとなってしまった。

後の大半はスキルや宝具が封印されてまともに動けない状況である。

故に硝子の迷宮が崩れ去った。

ならシャドウたちが押し寄せてくるかと思いきや、増水したタールに溶け込んで襲ってくることはなかったものの。

タールに触れれば拙いことになると直感し、現在、全員が達哉の所に向かって避難行動中であることだった。

加えてタールの増水により決壊までのタイムリミットが大幅短縮、残り20分ほどで決壊するとのことだった。

故に現状、達哉一人でヤルダバオドに立ち向かわなければならない。

だが先ほどにも言ったとおり接続領域は深まっている、火力も増大中だ。

 

―第一の刻印―

 

鎌首をもたげ巨大な顎が襲い掛かる。

それだけで人なんぞ丸呑みだが。

 

「アポロ、マハラギダイン!! ゴッドハンド!!」

 

迫りくる顎に英雄の如く対峙し、アポロを走らせゴットハンドを叩き込む。

ネガスキルすらも貫通し衝撃を与える

開かれた顎がかち上げられる形で一瞬で閉じて、真上に上げられる。

達哉は脚力をすべて使って跳躍。相手の首が上がる速度よりも早く跳躍し。

刀を大上段に構え、マハラギダインを宿した刀を振り下ろし、首をはねた。

 

「まず一つ」

 

首はまだ存在する、相手の巨躯は健在だ。

首一つ、切り落としたところで多少楽になった程度に過ぎない。

現に相手は剣を振り下ろしてきた。

 

―断罪の剣―

―歪んだ虚飾―

―歪んだ淫欲―

―歪んだ強欲―

 

竜種の神獣クラスですら両断しかねない巨大な剣である。

さらにペルソナの耐性が全変更、弱点化する、さらに空腹、魅了などが炸裂する。

故に神なのだ。人が抗いようのない存在なのだが。

 

「だからどうしたァ!!」

 

だからどうしたというのだ?

達哉もまた■■■■保持者である。

階位という土俵では負けていない。

魅了を根性論でねじ伏せ。極限の飢餓状態なんぞ既にライフラインが寸断された向こう側で慣れ切っている。

戦闘に支障なし。

ペルソナ耐性も全弱点となっているが、これもまた別問題。

腕を切り飛ばされたり、腹を銃弾で抉られるのも慣れている。第一、攻撃なんぞ回避するか防ぎきってしまえば問題ないという理論を履行する。

先ほどのデバフのせいで繰り出される剣の一撃は真面に受け切れない。

ああ。だからどうしたと耐性をズタズタにされながらも。達哉は真っ向から、剣をアポロで受け止めた。

無論真っ当な方法ではなく、耐性が機能していないのであれば、パワーリソースに任せたごり押しである。

アポロが振り下ろされた巨剣を両手で白刃取りのように受け止め、無理やり横に反らすという防御より受け流しの方法でだ。

 

―銃刑―

―神意の高揚―

―第二の刻印―

―第三の刻印―

―第四の刻印―

 

それでもヤルダバオトの攻撃は止まない。

胴体部に光が灯り明らかな大規模攻撃の前触れである。

攻撃できる部位が多く現状ペルソナ一体しか使えない達哉の攻撃回転数を上回る。

三つの顎が鎌首をもたげ喰らわんとする。

さらに銃と言うより大砲に変形した腕が達哉に向かって無数の銃弾を放った。

明らかに時間稼ぎ。攻撃予備動作が終われば聖剣がちっぽけに見える攻撃が敢行される。

時間がない、下手に隔壁をぶち明けられたら。この怠惰の世界が外に漏れだす。

されど、達哉にはこのスキルがある。

 

「ノヴァサイザー!」

 

ノヴァサイザーによる時間停止領域までの超加速だ。

風景の色が反転する中で、四方八方から同時に襲い来る攻撃を停止。

放たれる銃弾を足場に跳躍、相手の頭上を取り。時間の流れが元に戻る。

当然、獲物を追ってヤルダバオトは上を見て反撃に出ようとするが。間合い的にもう遅い。

ゴッドハンドにマハラギダインを宿したアポロの鉄拳をそののっぺらぼうの如き鏡の顔面に叩き込ませると同時に仰け反らせ。

自らも刀を突き下ろす。

凄まじい炸裂音と共にヤルダバオトの顔面に罅が入り。大きく後ろに仰け反り倒れ。

その倒れる間に達哉は罅割れたヤルダバオトの顔面の罅に刀を差し込む。

ヤルダバオドの絶叫。

それと同時に巨体が完全に倒れ伏しタールが巻き上がり、さらに統制の光芒が真上に放たれ樹の天蓋に大穴を開ける。

威力的にはジャンヌ・オルタの暴発と顕色無い一撃だ。

真面に受ければ骨の髄まで消し飛ぶ一撃である。

それを見届けながら達哉は刀を差し込んだまま、さらに安定感を増すべく。

ジャケットの裏からサバイバルナイフ(ダヴィンチ謹製の対サーヴァント用)を抜き放ち。

罅に差し込んで体を固定。

そのまま。

 

「ぶっつぶれろぉ!!」

 

アポロによるゴッドハンドによるラッシュだ。

体力を削られるが接続力域が深すぎて消耗は無しになっている。

これにはたまった物ではないとヤルダバオトも首を振り、振るい落とそうとしながら立ち上がるが。

先ほども言った通り刀とサバイバルナイフでしがみついているため、なかなか振り落とせないでいた。

ならばとヤルダバオトは腕を動かし直接排除する方向へと動く。

人が蚊を潰す様に四本腕で達哉を押しつぶさんとするが。

達哉もそれを察知し噛み合わせていた刀のかみ合わせを解除。

スルリと刀を抜くと同時にノヴァサイザーを0.1秒発動し両脚部に力を込めて離脱。

サバイバルナイフまで気を回す余裕はない為刺したまま手放した。

達哉は離脱。ヤルダバオトは自らの顔面を思いっきりひっぱたくことになるという間抜けさだ。

しかも自ら顔面をぶっ叩いたがゆえにあらゆる防護スキルが通用せずダメージとなる。

 

「わりぃ遅れた」

 

宮殿の天蓋に着地と同時にクーフーリンが達哉の隣に来る。

 

「ほかの人たちは?」

「俺以外、神話サーヴァントじゃねぇからな。マリーはまだましだが、他の連中は生前の身体能力に引き戻されて戦闘どころじゃねぇ」

「・・・なんでクーフーリンは無事なんだ??」

「身体能力に限っちゃ、俺の場合は生前の方が動けるからな」

 

クーフーリンが無事なのはいたって単純だった。

確かにネガ・メサイヤはサーヴァントのスキルや宝具に身体補正を棄却し弱体化させるが。

クーフーリンの場合、サーヴァント体よりも生前の方が身体能力は上なのである。

故にステータスの弱体化補正を抜けることが出来た。

変わりに宝具とスキルが機能不全に陥っていたが生前身に着けた純粋な幻想抜きの身体能力でどうにかできると言った具合である。

 

「宝具は?」

「使用不能だ。槍がただの槍になっちまったかのような感じだ」

「そうか」

「でも行けるぜ。宗矩もやる気満々だ。今はマリーを先導役に位置取り中だよ」

 

クーフーリンの他にも動けるとして宗矩とマリーアントワネットも動いているとのことだった。

 

「クーフーリン、魔力を俺と同調させろ」

「? いいが宝具は「多少マシに出来るかも知れない」わかった」

 

クーフーリンは魔力を同調させる。

槍の穂先に炎が灯りネガから脱却する。

つまりサーヴァントとしての力が十全に戻ったのだ。

 

「おいおい、こんな便利なスキルがあるなら早く言ってくれや」

「言っては悪いが、自覚したのはさっきで、しかもあくまでも魔力同調が出来る距離までしか、繋げられない、精々5m前後だ」

「そりゃまた」

 

巡りに巡って本来のサーヴァント運用の戦いに戻ったわけだ。

本来、サーヴァントが正規の聖杯戦争で戦う場合、マスターを魔力供給の都合上隣で戦わせる至近距離戦だ。

がしかし、今回は抑止に応じた本物の戦争でありかつ魔力補給はカルデアの炉持ち、ラインもまたカルデアの統制下にある限り、カルデア統制下にあるサーヴァントは疑似的単独行動スキルを持っているのに等しいのだから。

故に今原初の方式に戻っているというのは皮肉の聞いた話である。

 

「それより、ロムルス、天蓋に穴が開いたが大丈夫か?」

『天蓋だったのが幸いだった、コップの蓋を開ける様なものだ。だからまだ大丈夫だが・・・横に穴をあけられたら決壊は免れん』

 

達哉の心配に穴が開いたのが天蓋でよかったとロムルスが言葉を漏らす。

今の状況は蓋の開いたコップだ。

許容容量を超えない限りコップからは水が溢れないのは道理。

故に天蓋で一安心だったが。

これがまともに撃たれ横に穴でも開いたら、今度こそ決壊だ。

直撃すれば消し炭、避ければ決壊ともう洒落になっていない。

 

『仮にも神殺しである、手札は?』

「シグルドとブリュンヒルデが居ない時点でジョーカーはないよ」

 

そして挑むは神殺し。

されど切り札と言う鬼札は手元には無い。

カルデアにおける最高実戦戦力が達哉とクーフーリンならば。最大火力要員はシグルドとブリュンヒルデだ。

幾ら統制神であってもこの二人とクーフーリンの最大火力を達哉が現状の最大出力で合体しぶつけさえすれば一撃で粉砕可能。

主要時間軸では現にスルトを粉砕しているのだ。

そのツープラントン攻撃に+α(過剰気味)があればいかな統制神とて治癒スキルが機能する前に粉砕できる。

故に鬼札がない状況だった。

それと同時に時間がないとクーフーリンは内心焦っていた。

決壊の事もあるが。

それ以上に拙いのは達哉の状態である。

こっちも負けず劣らずに底なしに出力が上がり続けている。

それと同時に深淵の香りが強くなり、かつアポロのカラーも変わり広がっていく。

今や非戦闘系の神霊であればアポロでボコり倒せる出力にまでなっていった。

洒落になっていない。このままいけば達哉は自分自身の怒りで暴走する。

そうすればビーストに負けず劣らずの大災害が出てくることを犇々とクーフーリンは感じ取っていた。

速攻でケリをつける必要性があるが。

 

「ペルソナチェンジできそうか?」

「他のペルソナは降魔すらできない、アポロがこうまで来ているのは、多分、炎貫通持ちのアポロだけが奴のスキル影響下から抜け出ているからだ。」

「炎貫通ねぇ」

 

達哉の言い様に炎灯る自分の愛槍を見ながらクーフーリンは思考する。

ともなれば抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)は使用不可能だ。

完全に使用ペルソナを制限されているのだから当たり前だろう。

何度も言う通りペルソナの回復スキルがあるから放てているだけに過ぎないのだから。

本当にあの夫婦が居ないことに歯噛みするほかない。

だがやるしかないわけで。

ヤルダバオドが再起動する。

 

―刻印の創造―

 

達哉の切り落とした下半身から延びる顎が復活を遂げる。

回復スキル持ちとくればいよいよ後がない。

時間もない体力で負けて継続戦闘能力でも負ける。

このままではじり貧も良い所だ。

 

「一気に潰すしかないか」

「同意だ」

 

クーフーリンのぼやきに達哉は同意。

ある程度削ったら賭けるという意味だ。

また分の悪い賭けをする羽目となる。

 

「ほんと毎度毎度だなぁ、おい」

「いい加減嫌になってくるな、ほんと」

「俺も同感よ。さらに終わっても、今度は仲間の仲裁だぜ」

「? なんでまた?」

「長可の奴がシグルド夫妻にぶちぎれてんのよ・・・こんな状況だしな」

「・・・」

 

必要なのは殺し切る火力だ。

だというのにメイン火力にしてジョーカーの二人が眠りこけているというのだ。

長可がブチギレているとのことだった。

気が滅入ることが多過ぎであるという事である。

だが気を重くしては居られない。

敵が動き始めた。

先ほどの統制の光芒など撃たれて樹の横腹に穴が開いただけで敗北が確定するのだから。

時間がない即座に攻め立てる必要がある。

そして統制神が再起動する。

 

―断罪の剣―

―銃刑―

―福音―

―神罰―

 

四つの腕が蠢き、攻撃スキルを起動。

威力は言わずもかなと言う奴で、直撃すればただでは済まない。

そして断罪の剣に関しては物質化寸前のエネルギーが剣となって形成する物であるため。

現状の達哉のアポロのように超高密度エネルギー体として召喚されているアポロ以外は麦を狩るが如く刈り取られてしまう。

無論、断罪の剣の迎撃はそういう観点から達哉が迎撃する。

ゴッドハンドで振り下ろされる断罪の剣を反らし。

炸裂する神罰と福音を移動しつつ回避。クーフーリンとの間合いは無論5m弱を維持。

そこに銃刑が襲い掛かるが。

その程度で臆する二人ではない。

達哉は刀をクーフーリンは槍を使って銃弾を叩き落とす。

伊達に孤立奮闘したシュチュエーションを経験した二人ではないのだ。

達哉的には四方八方から日輪丸で銃弾の掃射を受けた経験があるし、クーフーリンとてコノートの戦いで弓の名手たちから四方八方から矢を撃たれた経験がある。

故にこの程度は何のそのと言う奴である。

そして兎にも角にも、相手に対し攻撃を確実に通す必要性が生まれる。

一撃決殺をもってして殺し切るしかない。

 

「クーフーリン、抜けた二人の分は俺達で埋めるしかない」

「わーてるよ。マスター」

 

攻撃を捌きつつ二人は意を決する、殺し切れる手段がないわけでもないのだ。

ただしやはり無茶という概念が付属するが。

ビースト云々に関わらず、殺し切る手段が用意されれば、事態はあっけなく終わる物だ。

連中、即ち神とか不死の防護とか絶対防護とかそういうを身に纏っている連中程それが通じる。

一種の特別性と言う物を剥ぎ取られた段階で連中はそこらの雑兵と同じとなる。

要するにそれに頼り切りだ。

故に弱性が露呈する、如何に優れた師に師事していたところで、その戦闘技術は生まれ持った加護とやらに依存するからだ。

当然、そこに大前提が存在し、破られないことを前提に置いている。

ギリシャの某何某が良い例だろう。

余りにも敗北経験が無さすぎて何度かトロイア側に不覚を取っているのだから当たり前だ。

故に前述通り、ビーストもその例外ではない。

優位性を剥ぎ取られた時点で脆くなる。

だが素体はヤルダバオト、かの怪盗団で、そのサイズ故に火力不足に陥り苦戦を強いられた神だ。

今も火力不足極まるがそれは強引に埋めていくほかない。

つまり達哉は出力を上げ、クーフーリンは宝具の連発である。

相手もそれを理解してか首をすべて駆動させる。

ハードな時間になるなと思ったその刹那。

 

「チェストォ!!」

 

宗矩が腰にワイヤーを括りつけて相手の首を一本斬り飛ばす。

 

「主殿、蛇の如き連中は拙者にお任せを!!」

 

マリー・アントワネットは天蓋を走って位置を操作し宗矩は腰のワイヤーを片腕で掴み類寄せるように操作微調整を行いつつ。

兜割りである。ネガは生前身に着けた技術まで及ばないのだから使えて当たり前だ。

宗矩はターザンも真っ青なワイヤー捌きで位置取りをしつつ首を七本相手取る算段なのだ。

因みにこのワイヤーはオルガマリーの装備だ。万が一を考えてタクティカルベルトにダヴィンチが仕込んでおいたものである。

本人が絶賛気絶中であるため、今は宗矩とマリー・アントワネットが達哉たちの援護の為に使っている。

そして宗矩はワイヤー操作で横回転しながら二本目の首を斬り飛ばす。

マリー・アントワネットは顔を真っ赤にしながらワイヤーを保持しつつ移動する。

その様相は怪獣映画で操演するスタッフか何かを彷彿させた。

されど相手は巨大だ。宗矩では荷が重い。兜割りも一定のタメが存在する以上連発は出来ないが。

十分に引き寄せてくれている。

であるなら、此処からは狩りだ。

如何に大仰な名を冠していようとも所詮は獣なのだから地金を晒した時点で駆られる宿命である。

 

「まず腕を落す、いい加減鬱陶しい」

「それには同意、行くぜ。達哉」

 

やることは決定しているのだ。

だったら遂行するのみ。

達哉はマハラギダインを刀に宿す。

クーフーリンの槍には既に灯っている。故に二人は走った。

 

「jhckぢぃkゅぎtrly;おうyvx!!」

 

断末魔の様な叫びを上げながら断罪の剣を横なぎに放つ。

達哉とクーフーリンは跳躍し刃の面に乗りそのまま直進。

 

「「まず一本!!」」

 

腕の肘関節部分まで駆け上って刃を振り下ろし寸断。

剣の腕を破壊する。だが残り三本。

銃の腕が達哉を狙う。

既に崩れ落ちる剣の腕から離脱するべく空中に跳躍済み、ノヴァサイザーはクーフーリンを見捨てることになりかねないため使用不可能。

しかし問題なくマハラギダインで相殺。

炎と銃撃が衝突し派手に爆発。その爆炎を引き裂く様に、クーフーリンの槍が飛翔。

 

「これで二本目!!」

 

銃の腕に直撃。手先から肘まで貫通し腕を破壊する。

両者ともに何とか元の位置に着地。その刹那、ワイヤーが緩んでしなる。

閃く銀閃が鐘の腕を斬り落した。

下手人は宗矩だった。

見れば七本の首を叩き切っていたのである。

もっともその代償として本人はズタボロだ。左腕が消失し全身がズタボロである。

故に限界、回復手段もないのでマリー・アントワネットが引き上げていたのだが。

最後の一撃として無理して何とか鐘の腕を持っていったのだ。

 

『あとは・・・頼みますぞ・・・』

 

通信機越しにそう告げて宗矩は意識を落す。

だがそれで終わるようなら獣を名乗る資格はなし。

 

 

―剣の創造―

―銃の創造―

―鐘の創造―

―刻印の創造―

 

 

本体がある限り何度でも再生可能。

加えて本体も高い再生能力があるのは先ほどの事で判明している。

だからどうしたというのだ。

何度も言う通り殺し切る火力はあるのだ。

現状一度っきりの行動になる為、隙をこじ開ける好機を作り上げる為待っていたにすぎない。

腕は再生中、十分に機能するのは本の腕のみ。

故に狙える、十二分に殺し切れるのだ。

クーフーリンが槍を逆手に持ち投擲体制。

呼吸一つで筋肉が限界まで活性化、筋力のリミッターを解除し筋肉が膨張。

さらにそこに革鎧の裏に刻まれている各種ルーンが最大起動する。

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)ゥ!!」

 

炸裂する鏖殺の朱槍、それは炎を纏いながら閃光となって一直線に統制神の胴部に炸裂する。

無論、本の腕を割り込ませ防ごうとしたが、本の腕なんぞ紙細工が如く突き破って胴体部に直撃。

だがしかし、完全滅殺とはいかなかった。呪いの影響で全身に棘が入ったものの罅を入らせるのがやっとだった。

怪盗団の物語、その大取である。

如何に零落し堕落しようともその神威は本物だ。

本来、誰の手に負える者でもない、勝てるとすれば。

 

「――――――――」

 

同じ階級に上がりかけているものくらいか。

達哉が時を止めて、突き刺さった槍の前に存在していた。

 

「これで!!」

 

アポロの両腕からフレアの如き炎が舞い上がりジェット噴砂となって炎を身に纏ったゴットハンドが炸裂する。

その威力はクーフーリンの抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)にも負けていない威力だった。

バンカーバスターが二度同じ地点で炸裂したのと同じである。

 

「終わりだぁぁぁぁぁアアアアアアアアアアアア!!」

 

振り抜かれる拳は槍の石突きを捕らえ、そのまま釘を金槌で押し込むように刺さり込み。

そのままの勢いでアポロの拳も押し込み減り込ませ。

炎が炸裂。同時にため込んでいた統制神の魔力も炸裂し。

この暗がりの世界に光が走って。

何もかもが崩れ去って元通りになっていった。

 

 

 

 

 

 

「第六の獣は此処に討伐された」

 

蠢く混沌は深淵の底で蠢きながらあざ笑うかのように宣言した。

第二特異点の問題はこれで解決、異常を起こしていた獣が二匹討伐されたのだからそうだろう。

 

「第一これは予習だ。滞りなくこなしてもらわねばね」

 

そして影にとってこれは予習でしかない。

最悪の最善、行き止まりの理想郷を排除するための予習だ。

この特異点のローマで起きたこともある種の理想であり行き詰まりの理想郷であるのは変わらないのだ。

その王やら神やらを排除することも、その住人を手に掛ける事も、全ては先にある異聞帯排除のための予行演習でしかないのである。

だからすべての結果は未だなお順調に進んでいると言っても過言ではない。

 

「まぁ再演を望むなら叶えてやろう」

 

だがしかし再演を望むなら叶えてやろうと。

末期のネロの前に影は黄金の杯を転がしてやった。

後は彼女の勝手だ。杯に毒酒を注ぎ自分から史実道理に果てるのか。

或いはこんな結末良しとしないとして黄金の杯を使うなら。今度こそカルデアには彼女の首を跳ねてもらうまで。

だがそれはどちらでもいいしどっちでもいい。

影はいつでも後ろで見ているし足を引っ張る物なのだ。

どうなるかなと、ケラケラ笑いながら。

影は七本の蝋燭が建てられた燭台を見る、Ⅵと刻まれた蝋燭に火が灯った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗な木漏れ日よりだった。

 

「・・・」

 

同時に落陽でもある。

民衆の反感、元老院の陰謀。

それらに屈し、ネロはパオラの別荘に逃げ込んだ。

だが多くの親しい人々がその過程で死んだ。

今も追撃隊を阻止している部下たちは死んで行っているのだろう。

そして自分に迫ってきている音がする。

 

「・・・」

 

そんな彼女の前には、黄金の杯があった。丁重に横には毒酒が入った筒もある。

どうする、どうすればいい?

そう思い続ける。

黄金の杯、見ただけで分かる魔の杯だ。

この杯に願いを言えばかなえてくれる予感がある。それと同時にそれは裏切りであり。

いつか見た忘れてはいけない人たちを傷つける行為であるような気がしてならない。

脳裏にノイズが走る。確かにいた誰かと誰かと誰か。

嗚呼、大きな間違いだってした様な気がして、どうしても杯に頼る気にはなれなかった。

忘れても心か突き動かすのだ。

今度こそ間違えてはならない。永遠はなく、いずれ全てが変わりゆくのだと。

 

そう思って、親友だと自分が誇っていた銀髪の美しい少女の姿が脳裏を横切って。

 

ネロは、黄金の杯に毒酒を入れて、一気に飲み干した。

 

そして死ぬ瞬間に彼女は思いだす。

色々あった事を、そして誇れる友が居たことを。愛されていたという温もりを。

そして彼女は先に皆が居ることを知って。

安らかに眠る様に死んだのだった。

 

 

 

 

 

第二特異点 定礎復元完了

 




第二特異点終了。雑になったけど就活で色々あったんですホント勘弁してください。
ネロはこの後、特異点の記憶をなくし落日へと歩みますが、史実とはちょっと違って慕ってくれる人々が脱出の手助けや御供をしてくれるので前向きに死にます(そこは無慈悲)


人理「ニャルよ、ちょっと結末変わったんだけれど?」
ニャル「第一に比べれば誤差でしょうがwwwww」

これでも人的被害は最小限です。
たっちゃん達が酷い目にあいましたが、人は原作より死んでません。
ニャルがやらかして全員特異点でシャドウ化して軍事行動自体が行われていませんでしたし、シャドウがP2使用ということもあって殺傷人数も抑えられたので。





Q、なんでこんなにたっちゃんパワーアップしてるの?
A、ペルソナシステム事態にニャルフィレがアマラの最新鋭システム及び型月の法則を組み込んだ上にたっちゃん自身が■■■■持ちのせいで阿頼耶識のニャルフィレ領域から力をぶっこ抜いているせいです。
それで一時的にペルソナのパワートルクが上がり炎貫通スキルを会得しています
なおリバース・イドになるとこれ以上の惨事となります、というか第四特異点でなります。
まだたっちゃんプチ切れ状態だからね、ブチギレまでは程遠いですよ。

因みに統制神はプチ切れたっちゃん+兄貴と夫婦の合体宝具で一撃で殺しきれたりする。
そりゃスルト葬れる夫婦のツープラントンに兄貴の槍とプチ切れたっちゃんの火力が合わさればそりゃね。

次回で第二特異点は幕引きと言うか終わった後の後始末と言う感じです。
特異点化の元凶が現状ネロちゃまと統制神の二人ですから。
ネロちゃまの獣性は鎮火、統制神は粉砕されて、別れを告げる間も無く気絶中のネロとカルデアは分かれます。

ついでに次回からインターバルを兼ねたチェイテイベ特異点をやってから第三特異点に移行します。
チェイテイベはまぁほのぼのパニックカオス劇で行かせてもらいますし、ペルソナ2側からもゲストだすよ!!
お陰でよりカオスなことになるけどもな!!

ドコモかしこも爆弾だらけ
達哉、マシュ、所長の導火線には火が付いたし。
チェイテイベではみんな大好きなあの人の導火線にも火が付きます。
因みに現状のシグルドのメンタルはライナー銃フェラ状態だったりする。
そりゃね・・・みんなが頑張った挙句、辛い事を切り捨てて脱出した中で都合の良い夢に浸っていましたなんてなりゃそうなるわけで。


と言う訳で次もよろしくお願いします。





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インターバル「チェイテカオスパニックミュージックフェス」
01 懺悔と虚海


告白とは、浄化ではない。
誰かに荷物を背負わせて、それをどこかに捨ててもらう行為だ。
その役目をなすのは、犠牲として捧げられる救世主、あるいは人柱だ。
その役割が、あらゆる誰かに等しく割り当てられるならば、救世主も英雄も必要でなくなる。
英雄を求める社会は、病んでいる。

小説版DEATEH STRANDING 下巻より抜粋


「・・・しっかし行き成りなんでまた」

 

芹沢うららは病院の喫煙室で溜息をついた。

 

「そうよね・・・なんでいきなり」

 

さしもの常にポジティブが信条の舞耶も疲労と驚愕を隠せないでいた。

病院には見舞い客が来ている。

南条圭に桐条一族。

そして今回の事件を解決した仲間たちだ。

 

周防克哉とパオフゥこと「嵯峨薫」が突然の意識不明となり病院に搬送されたのだ。

桐条財団の一件による死の神の降臨は未然に阻止された矢先である。

 

「結果が出たぞ」

「それで?」

「現代医療学的には問題は無し。むしろ魂の方に問題があるらしい。いわば肉体から魂を抜き取られているそうだ。神隠しやら輪入道の被害にあったような感じか」

 

意識不明の二人の状況は魂を抜かれたという事である。

無論、二人とも手練れのペルソナ使いだ。

薫に至っては元復讐者と言う事やペルソナ必要なのかというレベルで鍛錬した武術があるのだ。

そんな二人を出し抜いて魂を引き抜くなんぞ。

到底無理難題に等しい。まだ殺す方が数段楽まである。

 

「ニャルラトホテプかしら」

 

舞耶がぼそりとつぶやく。

彼女たちが捜査した今回の桐条の事件だってそうだ。

桐条の長の側近の一人の名前が「アイザック・N・アシモフ」というわざとらし過ぎる物であったことや。

特徴やら新世塾の技術者としてかつては席を置いていたという事実から。

主犯は簡単に見いだせる。

 

ニャルラトホテプが黄昏の羽という未知の物質を引きずり出して。偶然を偽装し神秘を与え欲を満たすように誘導し。

自らの化身を派遣し。満たす心を目的のアノミー、即ち富める者の首吊りにすり替えた。

そして尚且つ。黄昏の羽の大本が持つ強大な力に魅入ってしまい妄想が暴走しつつあった。「幾月修司」にあらぬことを吹き込んでいくらでも舞台を引っ繰り返せるように配置していたのは。

終わった今だからこそ理解できる。

 

「おそらくな。奴はおそらく。何かしらの舞台を用意するために。その主要目的から葛葉とヤタガラスにフリーの私たちの目を反らすために仕組んだことだろう・・・」

「ちょっとまって、裏では自衛隊が汚名返上の為に特殊作戦群まで動員したこの作戦がデコイ?」

 

さしもの規模のでかい囮にうららも目を見開いて呆然とするほかない。

先の事件で自衛隊は多大な失態を犯し。その汚名返上の為に。

今回の作戦に極秘裏に協力し戦闘にまで参加してくれたのである。

動員された戦力は舞耶たちとエルミンのOBたち、スプーキーの面々、ヤタガラスの実働部隊と四天王を二人も投入。

警察も公安部とSATの投入に自衛隊から派遣された特殊作戦群三個小隊が事態の鎮圧に乗り出した。

やんごとなきお方直属の近衛兵まで出張る始末であった。

これによって桐条の根城である港台桐条エルゴノミクス研究所周辺に各種妨害結界を展開。

国による情報規制やらなんやらも、完璧に行われ一方的奇襲が行われた。

無論。逮捕状も用意し銃を突きつけた穏便な逮捕が念頭だった物の。

案の定。こういう事態の黒幕は武力を用意している物であった。

試作段階として放棄された対シャドウ制圧兵装と。なぜか湧き出てきたシャドウによって妨害工作やら人払いをしたとは言え市街地戦レベルじみたことをすることになる。

一般職員も救助しながらという不利に立たされた面々を援護するべく。正規ロールアウトされた対シャドウ制圧兵装Ⅶ「アイギス」とその二世代前の型である「ラビリス」を内通者である「岳羽詠一郎」が起動し援護してくれたおかげで何とか鎮圧出来た。

がしかし連中自爆装置をこしらえており、研究所は爆散し瓦礫とクレーターに変貌。

そんな大規模な作戦と失敗時には世界滅亡という大規模な物が、デコイでしかないと知れば誰だっていやになる物だろう。

 

「あるいは暇つぶし感覚かも」

「真実を知るのは奴のみか」

 

この場にいる三人は重い溜息を吐く。

だが彼らは役者ではない、故に手が出せない。

だから祈るほかなかった。

 

 

 

 

 

 

所変わってカルデア。全員がレイシフトアウトになり。

目覚めたシグルドに対し長可が助走をつけての渾身の右ストレートをシグルドの頬に直撃させたのだ。

 

「シグルド」

「そこで黙ってみてろや、アバズレ!! テメェはシグルドの後だ!!」

 

鬼神が如き表情で長可がブリュンヒルデを静止し、錐揉みとんだシグルドに追撃をかけようとする物の。

 

「森殿落ち着かれよ!!」

「離せや!!」

 

書文が後ろから長可を羽交い絞めにする

オルガマリーは待機していた医療スタッフに担架で医務室に運ばれ。

無理をした宗矩とクーフーリンは霊基修繕室も兼ねたダヴィンチの工房に即座に搬入されている

エミヤも静止に参加するが、運悪く暴れる長可の肘が顔面に直撃、そのまま気絶し慌ててマリー・アントワネットが駆け寄って治療する。

コフィンから出てきた達哉とマシュは目の前の乱闘騒ぎに唖然とするほかなかった。

 

「書文の爺さんも分かってんだろうが!! あの状況でこいつらはッ・・・あの状況で・・・!」

 

怒髪天とはこの事か生来の狂犬の側面が出ている。

全員が気張った。オルガマリーは正解をもぎ取った。

達哉に至っては黄金牢を二番目に脱出したのである。

この中で一番過去を取り戻したい達哉がだ。

それだけでもサーヴァントたちは過去に絡められ出遅れているだけでも無様を晒し。

ビーストⅥLである統制神戦ではサポートと殺到するシャドウに対する遅滞戦術を行うばかりで役に立てなかった。

それでも抗う事だけは皆止めなかった。

最善手を激痛を伴いながら行使した。

だというのに。

 

「やめてくれ森さん!! 俺だって自覚がなければ・・・」

「じゃあよ言わせてもらうがよ、その自覚が大事なんじゃねぇか、俺達にはよ」

 

達哉の制止にそう返す。

自分たちは死人だ。影法師だ。仮初の客だ。

だからこそ過去は取り戻せないのだと自覚しなければならない。

マスターが自覚して血涙流して偽物とはいえ嘗て愛していた人を切り殺し。

脱出までして神に立ち向かわせたのである。

故に脱出できて最善手を尽くした奴らはまだ長可的には許せるが。

それらを片目にサーヴァントとしての在り様、覚悟、結末を無視して。

文字通り血を流して戦った我らがマスターを無視して取り戻したかった過去を貪るというのはナンセンスな話であった。

達哉は拙いなと思う、武力行使しかなくなると思った時である。

 

「そこまでにしろ、大馬鹿共」

 

文字通りのフル装備の保安部が出張ってきたのである。

ダヴィンチがカスタムした装備で身を包んでいる

先頭にはアマネだ。

ただし何時もの虚無顔とは違う、呆れ半分怒り半分と言った様子である。

姿勢も無謬を気取りながら、いかなる手段も講じられる無形の構えを取っていった。

伊達に彼らがカルデアの保護と粛清を担当する部署ではない、装備が伴い総出ならば宝具抜きの英霊に優位を取れる。

さらに長可の人間無骨の特性上、長可が万全であっても優位を取れるのだ。

しかも全員が死にぞこないの死にたがりのキグルイ共である、アマネ一人ならどうにかなるが部隊単位となると長可ではどうしようもない。

それくらい恐ろしい戦闘集団なのだカルデア保安部は。

それはさておきアマネは淡々と言う。

 

「長可・・・お前の怒りも分からんでもない、だが今はやるべきではない、達哉たちに余計に負担を敷く気か?」

 

確かにシグルド夫妻は無様を晒した。

だが糾弾する状況でもないとしてアマネが出張ってきたのである。

ここで好き勝手怒鳴り散らされてメンタリティの悪化を懸念してのことだ。

保安としてそういう不和を招く要因は見過ごすことはできない。

保安部はいつだってサーヴァントよりもマスター勢を優先するからだ。

ここで仲間割れの大喧嘩をして達哉とマシュのメンタリティ低下を容認できない。

そして保安部全員と長可がにらみ合う。

 

「・・・チッ」

「説教の機会は設けてやる、腹に拗ね変えているのはお前だけじゃないんだよ・・・・っと、達哉にマシュ」

「・・・なんですか」

「なんでしょうか?」

「オルガマリーの傍にいてやれ。友人を失ったんだ、精神的ショックは彼女の方が大きい。友達なんだから見てやってくれ」

 

長可が暴れまわるのをやめてから、二人はオルガマリーの傍に居てやれとねぎらう。

一番心情的にきついのはオルガマリーだ。時を超えた親友を見捨てたのだから。

正しい歴史でネロは死ぬ、元老院によって孤独に死ぬのは確定事項だ。

それを覆すと新たな特異点となる、故に結末を知っているからこそ。

一番苦しんだのも彼女だろうと。

世界をとるか親友を取るかと言う選択をしたのはネロだけではない。

オルガマリーも足掻き選択し切り捨てたのだ。

それを自覚していない阿呆ではないゆえにオルガマリーもキツい状況なのである。

それを理解したからこそ達哉は苦虫を噛み潰した表情でマシュは人理定礎の修復の本質を理解し顔を青ざめさせつつも了承し。

二人は医務室へと歩みを進めた。

 

「ほら、他の連中も散った散った。見世物じゃないんだ」

 

アマネは一連の状況を見て解散宣言をする。

長可は不満そうに場を後にし書文もそれに続く。

マリー・アントワネットの治療によって起こされたエミヤも難しい顔で場を後にし、マリー・アントワネットは皆を心配しながら場を後にする。

 

「アマネ殿・・・当方は」

「言い訳や懺悔は達哉たちにしろ、私はあくまでもここで指揮管制をやっていただけだからな」

 

ブリュンヒルデに支えられ起きたシグルドの言葉をそうハッキリ拒絶する。

何故なら間接的当事者であるからだ。

直接的被害を被ったのはあくまであの三人なのだから謝罪は三人にしろと言うのは当然である。

ブリュンヒルデを伴ってシグルドも場を後にしたのを確認し。

アマネはため息を吐きつつ懐から煙草を一本取り出し、口に咥えて火をつけ一服。

肺に紫煙が満たされると同時に溜息と共に吐き出して。

一言。

 

「死ぬかと思った・・・肝が冷えたよ」

「同感ですよ隊長、自分も二度は御免です」

 

幾ら勝てるからと言って損耗がゼロに出来るわけじゃない。

戦ったところで不毛な損耗が出るだけ。

第一レイシフトルームでドンパチなんぞできるわけもない。

外した弾丸が冷凍保存中のコフィンに直撃すれば目も当てられないのだ。

だが長可は自分たちの実力を知っている、故に分の悪い賭けではなかった。

即ち武力をチラつかせて脅し妥協案を引き釣り出すという事である。

多少手荒だが先ほども言ったようにここで暴れられてコフィンが大破しましたなんてシャレになっていないからだ。

 

「死ぬならもっと良い戦場で死にたいものだ」

「同感です」

 

アマネの狂気に隊員が同意する。

そして保安部も引き上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室、そこで検査を終えたと同時にオルガマリーは眼を覚まし。ベットから上半身を起こしてボーっとしていた。

全てが夢のように感じていた。

いわばレイシフト酔いと言う奴だったが起こったことは現実かつ選んだこともまた事実なのだ。

それがオルガマリーにレイシフト酔いを起こさせた要因でもある。

一種の現実逃避と言っても過言ではない。

今回の件は彼女のキャパシティを超えつつあったから。

ペルソナの後期型への移行。

ネロの慟哭と己が獣性の先触。

本当に巻き込まれたくない運命とやらに巻き込まれたと思う。

そして親友には未来で会えるとは言ったが。

その末路を容認したことで心が痛かった。

人理修復と言う観点から見れば実に正しい判断だ。

無論、個人的観点を加えればそんなことしたくなかったという気持ちも無論ある。

だって親友なんだ。あんな終わり方を認めるなどと口が裂けても言えない。

だが同時に正しさを振りかざさなければならない痛みに耐えていたのだ。

選んで切り捨てる。日常的に行っていた行為がこうも近しい物を切り捨てることは激痛が走る物だった。

故に不思議と涙があふれてくる。

分かっていたはずなのに・・・

 

「所長・・・大丈夫じゃなさそうだな・・・」

 

そして達哉がマシュを伴い医務室に入ってくる。

彼は所長の様子を見るなりそういった。

 

「所長、吐き出すなら吐き出した方がいいです」

 

マシュもオルガマリーにそう言う。

今のオルガマリーはマシュから見ても危うい様相を呈していた。

放っておけば何もかも終わらせるという危うさと、どこかに消えて行ってしまうのではないかと言う儚さが同居している。

友達として放っておくことなんてとてもじゃないができないのが達哉とマシュの心情だった。

 

「私、先を知っているのに黙っていた」

「・・・」

「その上で綺麗ごと一杯言ったし。おまけに強引に止める為に彼女に刺された」

「それは俺達の為ってのもあるんだろう?」

「ええそうよ! でもさぁ・・・それってネロを切り捨てるってことなのよ。私はどっちも大事だもの。本来なら選びたくなんてない!!」

 

大事な人と大事な人を天秤に掛ける事すらしたくなかった。

だがしなければならない。さらに世界の命運も掛かっているのだ。

それでもカルデア所長としては失格かも知れないが。オルガマリーは世界の命運を望んで選んだのか。

達哉たちカルデアかネロかどっちかを選んだのだ。

 

「したく・・・無かった・・・」

 

運命なんて後出しの預言と言いたかった。

でもそれは無理だった。達哉と同じように一個人の存在が世界の是非に繋がっている以上。

博打すらも最初から不可能だ。

抜け道もニャルラトホテプが全て潰した以上選ばねばならなかった。

 

「ごめん・・・選ぶ余地もなかったタツヤに言う事じゃなかった・・・」

「いや、いいよ俺も本当は選びたくなかったよ」

「・・・」

「本音を言えば忘却なんて御免だった。一人になるのだっていやだった。だかそれが罪なんだ。俺は一生この心の痛みを抱えて生きていくんだろう、それでいい、誓ったからだ。だから所長は正しい選択をしたんだ。俺とは違う」

 

気休めでしかないが失敗した自分を持ち出し。オルガマリーは正しい選択をしたのだと達哉は告げる。

彼はその天秤で失敗した。だがオルガマリーは結果的に正しい選択をしたのだ。

だから今こうやって会話できている。

失敗すればこんなにも呑気に会話できている状況ですらないのは当たり前の事なのだ。

一種の諦めの観念かもしれないが正しいは正しい、間違っては負けるそれだけだ。

時に負けることすら正解に含まれる今日。

どれが正解で不正解なのか分からない中でオルガマリーは自覚しつつ世界をもぎ取ったのだ。

それは賞讃に値する事なのだ。

それでも辛いものは辛い。いくらきれいごとを並べようとも辛いものは辛いのだ。

今、真の意味でオルガマリーとマシュは達哉の理解者となった。

オルガマリーはその辛さの意味を知り。

マシュは人理定礎復元の無常さの意味を知る。

それによってある種、人理定礎を崩壊させかけて異聞帯を作り出した達哉の苦悩を二人は。

心の芯から知ったわけだ。

なぜどうして。彼が正解を選べなかったのかと言う根源的理由を二人は知ったのだ。

 

「・・・ねぇ・・・」

「なんだ?」

「なんですか?」

「泣いていい?」

「当たり前だ」

「当たり前です」

 

オルガマリーの宣言に二人はそう答えた。

理由はもう散々述べた。

だからもうこれ以上の言葉も必要ではない。

オルガマリーは達哉とマシュにしがみ付き泣いた。

生まれてはじめて強がりとか最初からかなぐり捨てて二人を抱きしめて泣いた。

箍が外れて壊れた楽器のように。あるいは決壊したダムのように漏れ出す。

本当はこんなことしたくなかった。都合の良い未来が欲しかった。

でも同時に未知の明日が欲しかったのだと。

ただただ泣き叫ぶしかなかった。

その隅の陰で影はにっこりとほくそ笑む。新たな理解者が出来たではないかと。

ケラケラと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

今回の特異点でシグルドとブリュンヒルデは酷く狼狽していた。

当たり前だ。活躍の機会すら得られず、更に足を引っ張ったのだ。

その無理の代償が、オルガマリーは検査入院、宗矩とクーフーリンは無理がたたり修復ポットに叩き込まれるという事態である。

長可も思わず殴りたくなる物だろうと二人は納得していた。

だが違う。長可が言いたかったのはそういう事ではないのだと。

故に夢に微睡む二人にマスターの真実の悪夢が襲い掛かった。

 

『お姉ちゃん』

 

燃える神社、殺人鬼の狂嗤。

具象化するペルソナ。

友の絆の崩壊。

そして父の冤罪、崩壊する家庭。

 

『テメー生意気なんだよ!!』

『透かした面しやがって!!』

 

理不尽な理由で殴り蹴られる自分たちのマスター。

彼が何をした。何もしていないのにいい加減なイチャモンを付けられ暴力を振るわれる。

シグルドとブリュンヒルデは何とかしようとする物の。

此処は夢。観客に手出しは許されない。

 

『ペルソナァ!!』

 

そして暴発する怒りがペルソナを呼び出し、不正な暴行者共を焼き払う。

悲鳴と絶叫。声によって寄せられてきた生徒や教員の阿鼻叫喚。

遠くからなるサイレン、呆然とする達哉。

その事件よりどんどん孤独を深めていく。

そして高校三年。

ひょんなことから運命の車輪が回り出す。

再会する仲間たちは記憶を封印していた。無論達哉もだったが。

嘲笑う殺人鬼 仮面党、それらを通し過去の真実を思い出し影の手に絡めとられた親友を助け。

最後の戦いに赴くが。

最後の最後で舞耶が刺される。

 

『フハハハハハハハハ!! お前たちは、一つ大きな事を学んだぞ。どうにもできない事もあるという、この世の理をだ!!』

 

全てが影の掌の上。

取り戻した絆など意味がない。如何に臨もうとも、噂結界が民主主義的多数決制を取っている以上。

既に運命はどう足掻こうとも確定していたのだ。

つまり既に後の祭り。どうしようもない事なのだ

 

『私は、お前達人間の影だ。人間に昏き心がある限り私は消せん』

 

故に影は人々の昏き願いを叶える。

 

『這い寄る混沌の最後の試練を受け取れ!!』

 

その刹那地球の自転が停止した。

その衝撃で地表のあらゆるものが衝撃波で吹き飛ばされ薙ぎ払われる。

無事なのは箱舟と化したシバルバーのみとなっている。

影は嘲笑と共に退散し。

蝶が残った彼等に提案する。

この状況をなかった事にする方法。

それは十年前の出会いをなかった事にし、記憶を放棄することによる過去の改竄と並行世界の創生だった。

達哉たちは最後の抵抗としてそれに乗った。

ナノに。

 

―忘れるな―

―忘れるな―

―忘れるな―

―忘れるな―

 

達哉に対する忘れるなの四重奏。

加えて彼らは救われたが達哉は何一つ救われていない。

悪化した家庭環境も良くならなければ最愛の人でさえなくしている。

残った絆でさえ失われそうとなっている上にこれだ。

 

『駄目だ。忘れたくない、忘れられるものか』

 

故に紡ぎ出されるのは拒絶、忘却できないとい選択肢を取ってしまった。

 

『みんな、行かないでくれ、もう一人にしないでくれ』

 

ずっと一人ぼっちだった。

 

『いやだ。嫌だ。嫌だァ―――――――』

 

だからあまりにも惨く悲惨な結末だった。

シグルドは何も言えず絶句し、ブリュンヒルデは口を押さえた。

それでも忘却は完了し。

 

『『――――――――』』

 

駅前で舞耶と達哉がぶつかり彼だけが思い出す。

そして運命の車輪は再び駆動し始めた。影が悪意を持ってレールを敷いていく。

忘却を拒んだ結果。達哉だけが思い出し特異点と化して再び滅亡へ世界は歩んでいく。

だが今度は同じとはならなかった。

兄と和解し大人たちの手を借り再び詩織という悲劇を味わっても立ち上がり。

影を追詰めたのだ。

 

『生に意味などないと知るがいい!答えなどどこにもないと泣くがいい!故に闇があり影がある!私は、お前たち人間そのものだ!!』

『俺は、もう二度と背中を見せない・・・犯した罪にも・・・自分にもだ!!』

『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』

 

誓約の言葉と共に達哉と大人たちが影と対峙し戦いをはじめ。

そして勝利する。

だが後始末は終わらず。それを終わらせるために誰もいない世界に達哉は帰っていった。

されどここで終わりではない。

孤独の中を過ごしていた彼は突如としてこの世界に転移し、再び世界を守るべく武器を手に取った。

その中で第一特異点の映像が流れ。第二特異点での黄金牢の映像が流れだす。

 

『ねぇ達哉君、此処の何が気に入らないの? もう君を傷つける人はいない、影は無いんだよ? 仮面党も新世塾もラストバタリオンもなにも』

『ああ、何もない、なにも無いんだよ』

『?』

『こんなもの現実逃避の産物だ。自分の慙愧の意識が生み出した疑似体験空間だ。無様な自慰行為でしかない。そんなことしている間にも現実は動いているんだ。だから此処には何もないんだよ・・・・』

『私も偽物だって断言するの?』

『するさ、何度もいうが此処は俺の慙愧の空想上の産物だ。だからアンタも偽物なんだよ』

 

本当はこうなってほしかった。だがそうはならなかったという事実を受け止めて。

嘗ての愛しい人に達哉は刃を向ける。

そして血涙を流しそうな形相で達哉は刃を振い過去を振り切った。

どれだけ愛しくても守りたいものが現実にあるから。

だからどれだけ辛くても自覚し彼は夢を抜けたのだ。

 

「・・・・」

 

二人は同じベットの上で目が同時に覚めて上半身を起こす。

なぜ長可に殴られたのかを今をもって本当の意味で思い知る

ブリュンヒルデはベットを飛び出しトイレに駆け込み。

シグルドは両手で顔面を覆った。

 

「当方はなんて事を・・・・」

 

凄まじい無様っぷりをここに来て本質として理解する。

あのマスターはある意味自分たちを超えた辛さを味わいながらそれでも正解を選んだ。

彼は英雄ではないただの人間であるがゆえに。

英雄で大人の自分たちはなんてことを選択したのだろうと思う。

 

「すまない」

 

後悔と懺悔が吐き出される、しかしもう遅い、事はなってしまったのだ。

幾らここでそういう言葉を吐こうが。

後は当事者たちに言うことでしか贖罪はなされないし。

此処からどう行動していくかが肝であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

オルガマリーと言うか三人の私室。

一種のメンタルケアプログラムでオルガマリーの私室は改装され。

達哉、マシュ、オルガマリーが住む一部屋に改造されているのは皆が知っての通りだ。

リビングとキッチンを隔てて三人の寝床が用意される形である。

何時もならリビングで雑談やこれからの事を相談しつつ、オルガマリーが料理に精を出し。

達哉は雑誌に目を向け。マシュは日記を書くというのが通例だったが。

今日はオルガマリーは検査入院のため不在。

リビングで雑談と言う気分ではなかったため。達哉は寝床に戻りベットの上に身を預けていた。

酷く疲労している、今回も色々あった。

そしてアポロの過剰出力に引っ張られる形で精神力を多大に使用している状況である。

あの後、アポロのカラーも元に戻り、炎貫通のスキルも消失し完全に元に戻っている。

だが脳に穴でも開いたかのような感覚が残っていた。一応の検査結果だと脳神経が一部変異しているとのこと。

だが日常生活には問題ないとのことで検査後戻ってこれたのだ。

まぁそれはさておきと、達哉は上半身を起こす。

ベットの隣の机の上に置いて置いたミネラルウォーターを飲み干す。

単純に眠れず喉が渇いたからそうしただけなのだが。

その時だ。コンコンと扉をノックする音が響く

 

「どうぞ」

 

ここには自分とマシュしかいない。とすれば扉向うはマシュだろうと思うのは当然で拒む理由もない。

達哉の声に反応してマシュが寝衣姿ですごすごと入室してきた。

 

「マシュどうした?」

「あのその・・・」

「眠れないのか?」

「はい・・・一人だと、どうしても不安になってしまって」

「そうか・・・男の俺が言うのもなんだが一緒に寝るか?」

 

一人だと眠れないというマシュに対しての気持ちを察し。

達哉がそう提案する。

自分もそうだし。マシュもそうなんだから此処は気持ちを組んでやるのが吉だろうと思ったし。

マシュの口から言わせるのも男が廃ると言う物だからだ。

幸いにもベットは二人で寝る分には不足はない。

 

「遠慮することはないぞ」

「はい・・・では失礼して・・・」

 

達哉が避けたスペースにマシュが入り込む。

そのまま二人で寝る形だ。

 

「不安なんです」

「・・・」

「この先も見捨てなきゃならないかと思うと」

 

マシュが不安を口に出す。

その不安は予想できたものだった。

今回の件で人理修復の本質を知ったのだ。

修復の為にはどのような惨劇を迎えた人間でさえ見捨てなければならないと。

救えばそれが特異点となる。

達哉のミスと同じように世界の危機となってしまうからだ。

 

「私はどうすればいいんでしょうか?」

「俺は死んでも正しい方を選べと言う人間じゃない」

「先輩?」

「俺は間違えてしまった・・・・」

「はい」

「だから言う資格なんて無いんだよ。だがな一つだけ言わせてもらうなら後悔する選択肢だけは絶対に選ぶな・・・すこし考えてくれ、そうすれば自ずとわかるはずだから」

「激痛が伴ってもですか?」

「それでもだ。マシュは俺のようにはなりたくないだろう?」

「・・・そうですね」

「だったら俺たちは地べたを這いずりまわってもそうするしかない、今を生きているんだからそうなんだ」

 

今を生きている以上、痛みは当然なのだ。人間だから当たり前なのだ。

故に必死に地べたを這いずりまわって痛みを伴いながらもそこから選択肢を選ぶほかない。

誰もかれもが己の天秤に他者を乗せて比較しながら生きている。

それが当たり前なのだ。

 

「だが痛みを当然の物としてないように生きるのは間違いだ」

「そうなんですか?」

「ああ、感覚がない人間は痛みを感じず間違いと気づけもしないのと同じようにな・・・正誤を見極めるうえで痛みは必須なんだ。そして痛みがないやつは人間ですらない」

 

正誤を図るうえで痛みは必須である

それがない物はもう人間ですらない。

されど―――――

 

「そんな痛みの中でも、良いことは多少はあるさ」

「そうでしょうか?」

「そうだとも、俺も色々間違えてきたが。マシュや所長、カルデアの皆に出会えたしな」

 

それでも多少は良いことはあるのだと達哉は言って。

マシュは苦笑しながら同意する。

その後は二人で雑談し、気づけば二人とも眠りへと堕ちて行った。

 

 

 

 

 

 

眠った達哉が夢に見るのは過去の情景だ

さくさくと雪を踏みつけ、音を立てながら、リュックを背負って。

達哉は荒廃した街を行く。

嘗て行った己が罪への罰だ。

誰も居なくなってしまい、湖の街しか存在しなくなった世界で彼は歩き続けている。

 

「今日はこんなところか・・・」

 

搔き集めた。食料を手に取って。

降る雪から身を守るために。

彼は古いガレージへと入っていく。

ここしばらく拠点にしている場所である。

 

「・・・自活も考えなくちゃな」

 

今は冬だ。

ここ一年で資材や資料に食物の種もある。

来年からは自活して、サイクルを作っていかねば何れ食料は尽きるからだ。

それはとりあえずと。

搔き集めた薪の束に藁を敷き詰めてジッポで新聞紙に火をつけて着火する。

ガレージのシャッターは開けっぱなしだ。

二酸化炭素中毒や煙を気にする必要性は薄い。

兎に角、暖を取らねば凍死だ。

灯油を使ってストーブを焚くのも良いが。

今は間に合わせで節約していかねばならない。

 

「さてと・・・」

 

達哉は乾パンの缶の蓋を開けた。

飲み物はミネラルウォーターだけだ。

もう一年、これで過ごしている。

飽きて、口にするたびに吐き気が来る段階を超えて。

もう味も分からなくなっていた。

本当に活動するための最低限の栄養摂取という様である。

外には悪魔やシャドウもうろついている。

気は抜けなかった。

 

「ふぅ・・・」

 

乾パンを食べて、乾いたのどを潤し。

一息付く。

パチパチと薪木が鳴った。

 

「・・・」

 

いつまで続くのだろうと思う。

人はおらず、悪魔とシャドウが跋扈する状況下である。

並大抵の人間ならへし折れているであろう状況にも達哉は折れながらも立ち上がって。

懸命に生き抜いていた。

だが今は疲労で何も考える余裕もなく。

達哉はいつも通りに意識を落としていった。

 

 

 

「ククク」

 

 

 

虚数空間。

生命の生存を許さぬ虚無に影は存在し嘲笑っていった。

 

 

「その所業故に居場所を追い出され、孤独に耐えて歩き続ける。似ているではないか。ああ良いとも。欲しければ与えてやろう」

 

 

影はそれこそどこにでも存在する。

人間が関わってしまった知性体やシステムに食い込むのだ。

それは神も例外ではない。

虚数空間に沈んだ原初の母神もまた。

人に関わる大いなる装置であるがゆえに逃げることは出来ない。

寧ろ”獣性”を持ってしまったがゆえに影の手に掴まれて操り人形にも等しい。

だからこそ影は嘲笑いながら。

母神の望まぬ物を与えると嘯くのだ。

母神が関与しえない異世界の生命体であり人間を番いとしてだ。

 

 

「似たもの同士、お似合いの夫婦になるだろう、本来の役目を果たし国生みを成すがいい。最果ての彼岸の岸で私自ら祝福を施してやる、光栄に思えよ?」

 

 

そういって、達哉の夢と母神の意識をつなげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――?」

 

達哉は睡眠から浮上した。

サクリと掌に広がるのは砂の感触。

だが目に映る光景は全てが白黒だ。

地も空も海もすべて。そうすべてが白黒。

 

「此処は・・・」

 

色がついているのは達哉と彼の眼先に居る巨大な角を生やした水色の髪の毛が特徴的な女性だけだ。

その女性は海岸の水に足を浸して天空を見ている。

ただペルソナが震えた。

 

「ッ―――――」

 

巨大な魔がそこにいると震えている。

だが不思議と脅威は感じなかった。

 

「Ar?」

「君は?」

「・・・」

 

女性と青年が向かい合う。

海と地を境界線にしながらモノクロの世界で二人とも向き合う。

女性は首を左右に傾げ達哉の元にやってくる。

達哉は浜辺に腰を下ろしており。女性も歩み寄り達哉の隣に腰を下ろした。

 

「キミハ、ダレ?」

「俺か? 俺は周防達哉、君は?」

「ティアマト」

「そうか」

 

女性の名はティアマトと言うらしい。

しばらくの無言、互いに語ることもないので無言だった。

そうしているうちに。

 

「キミハドコカラキタノ?」

「分からない。寝たらこうなっていた」

 

そう言って、達哉は身の上を説明した。

色々合った事も。罪と罰の物語も、現状の事も。本来ならおいそれと話すようなことじゃないが。

今の達哉は心が摩耗し誰かに身の上を聞いて欲しかった。

最初は無表情だったティアマトは悲しそうな顔へと変化させていった。

達哉の境遇に感応する物が在ったのか。

ティアマトはそっと達哉を抱きしめる

 

「ティアマト?」

「Ar―――――――――――♪」

 

そして達哉の頭を膝へと乗せてティアマトは歌う。

美しい歌声だった。セイレーンも裸足で逃げ出すようなとても美しく悲しき旋律。

そしてそのまま達哉は意識を落していった。

 

 

 

 

 

 

 

彼女の元から彼は消えた。

生まれてはじめて自分が関与しない生物であり異性はそう消えた。

もう二度と出会うことも無いだろうと、彼女は立ち上がり。

 

「会いたいなら何度でも合わせてやろう、お前の望む形、お前の待ち望んだ真なる異性に人としてな!!」

 

背後の漆黒が現れ、彼女を飲み込んだ。

そして気づけば。

 

「Ar」

 

神としての力を失い人として彼女はどことも知れぬ森で立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしこんな形で故郷の星に行くことになるとは・・・」

 

宇宙船の中でモミアゲとスモークがキツメに入った眼鏡が特徴的な灰色スーツの男性がそうボヤく。

 

「正確には故郷ではないのでは?」

 

騎士王によく似つつもどこか違う様相を呈する眼鏡をかけた少女が操縦桿を握りその言葉に返した。

そう男性はこの世界の人間ではない。

サーヴァントユニヴァースの人間でもない。

なぜかサーヴァント体としてサーヴァントユニヴァースに他世界から飛ばされてきた人間だった。

そして飛ばされた先で冷凍睡眠装置で眠っていた少女を助けバウンティハンターまがいの事をしつつ。

今はサーヴァントユニヴァースとは並行世界にあたる世界へと来ている。

目的はエリザ粒子の供給停止とエリザ粒子を悪用する一党の逮捕だった。

危険な粒子であることは明白で、その生産元の世界から漏れ出ている原因を突き止めできれば供給と繋がってしまった理由を突き止め。

粒子を悪用する人権帝国軍を食い止めるべく二人はこの世界に来訪したのである。

その二人の名は周防克哉と謎のヒロインXオルタと言った

 

 

 

 

 

 

 

 




作品時間軸

P2罪┬┬たっちゃんが創生→P3時間軸に
   │└たっちゃんがニャルに目を付けられて型月時空へ、創生の失敗により向こう側滅亡
   └P2罰→ソウルハッカーズなどに分岐 P3事前インターセプトルート
こんな感じで分岐すると本作では考察しています。
と言う訳で罰時空は桐条のやらかしは罰の大人たちやカツオ、ヤタガラスにインターセプトされた影響でP3が起きなかったり、P4やP5にも介入が入るので別物になっています。

罪時空はたっちゃんが創生後 P3原作時空へとと言う感じです。

本作時間軸では創生直前に型月時空に引っ張られているので向う側は空きスペース残して滅亡てな感じです。

そしてアームストロング上院議員ばりの右ストレートを噛ます森君

追撃とばかりにシグルド夫妻にプレゼントされるたっちゃんの過去+今回の夢の顛末。

さらにティアマトにちょっかい掛けるニャル

ニャル「え、なに? 婿ほしいいの? 一人は嫌なの? ならその願い叶えてやるよwwwwwたっちゃんも似たような境遇出しお似合いだよwwwwwwwww」

そんな感じでじぃじにインターセプトさせないために本作始まる前に夢の中でたっちゃんとティアマトは出会っています。
ニャル的には嘲笑MAXでティアマトが関与していない生命体なため息子としてみることは出来ず対等存在つまり明確な異性として見ることができ、境遇もそっくりお似合いの二人だよねと言う事と。第七の難度爆上げするための仕込みです。


シグルド夫妻の心情。
シグルド&ブリュンヒルデ「英雄の姿か? これが? …生き恥」

まぁこうなる。たっちゃんができて周囲の皆も出来ているのに自分たちだけ微温湯に浸かっていりゃねぇ。
そこにたっちゃんの助言がスゥーと効くわけですよ



と言う訳で次回からチェイテイベ始めます。
かっちゃんも参戦しつつセイバーウォーズも絡み
チェイテドスケベ事件も発生。

なお現在えっちゃんの時間軸としてはセイバーウォーズⅡとグレイルライブの間の感じ。
地味に藤丸たちとの交流があるかっちゃんだったりする。
現在かっちゃんはサーヴァント体で元の世界に戻る為えっちゃんと賞金稼ぎをしつつ戻る方法を模索している感じです。

チェイテ特異点のジャンルはメタカオスパニック劇となります。
メタネタが苦手な方は本作を切ってくれて構いません。

果たしてカルデアとエリちゃんたちは無事音楽フェスを開催できるのか。ご期待ください

あと次回は面接次第ですが遅くなると思います




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02 混沌の序曲(ギャグ的な意味で)

ポピーーーーーーーッ!!


ギャグマンガ日和より抜粋


「不明特異点?」

『はい』

 

 

退院から数日後、オルガマリーはストレスを料理にぶつけていた。

彼女なりの気分転換と言っても良い。

食材の賞味期限が拙いならスープやらデミグラスにしてしまえばいいじゃないの精神だ。

故にコンソメとデミグラスの制作に移っていた。

エミヤが見れば倒れるほどの高級食材のオンパレードであるが。

オルガマリー本人の腕も確かで鍛えている、そこらのプロ顔負けの腕はあるゆえに至高の品が出来るだろう。

閑話休題。

そんな最中、不明特異点の報告がロマニから上がってきた。

不明特異点とは人理に干渉しない特殊な特異点だ。

現在世界が炎上中だから出てくる異界の様なものと形容してもいい。

東京で出たり消失を繰り返しているのは、寧ろ深度的に黒幕が作ったのもよりも拙い深度である。

故に東京消失特異点(仮)は不明特異点とは呼ばず。

安定したら真っ先に介入対象となる。

 

「別に人理に影響がないなら放っておいていいじゃない」

『それがですね、これを見てください』

 

別に人理に影響がないなら放っておけばいい。

当たり前だ。カルデアのリソースは常にカツカツだ。

余計なところに介入する余力なんてものは一ミクロンも存在しないのだが。

これを見てくれと、投影される光学ディスプレイにには。

 

『ボケステェェェエエエエエエエエエエエ!!』byエリザベート

 

と必死さが滲む叫び声が再生された。

 

「エリザ・・・が原因の特異点なわけ?」

『みたいです、あ、今詳細が送られてきました』

「詳細?」

『はい、えーとですね』

 

送られてきた詳細をムニエルが読み上げる。

今、エリザベートはその不明特異点で領主をやっており祭りイベントを企画したとのこと。

その規格が予想に反して大きく膨れ上がり過ぎたことやら悪魔の介入があったこと。

故にカルデアの手を借りたいという事だった。

報酬として不明特異点で採取された膨大なリソースと何故か転がっていた聖杯を渡すとのことだった。

 

「罠の可能性は」

『アマネさん曰く「騙す理由も無いだろう」とのことです』

「まぁそうよね」

 

音声精査の結果エリザベートの物と一致している。

それに彼女がこちらに害する気はないのは送られてきた詳細からも明らかだった。

音楽フェスというかエリザベート単独ライブフェスをしようとしたら運営の人材が足りないときた。

それを手伝うだけで膨大なリソースが手に入るのだから食いつかないわけにはいかないと言う物。

エミヤを酷使しようが無い物は無い、資材、食料、魔術リソースが足りていないのである。

第一では盛大にリソースをばら蒔き第二で問題が発覚した為、施設の改修作業及び再度の修繕作業でカツカツなのである。

故に全員が無理して動きリソースを微細特異点から搔き集めているのが現状だったりする。

故にこのリストに提示されているリソースが手に入るのなら問題の半分は余裕で解決できるレベルの量だ。

食いつかないわけにはいかないし、エリザベートの現状の人柄を理解しているカルデアとしてはだまし討ちも無いだろうと決断できる材料がそろっていた。

第二は終わったが次の特異点である第三特異点も控えている。

主要七つの特異点の内、第一、第二を攻略したがニャルラトホテプの策謀が渦巻いていた。

故にリストに載っている資源に関しては喉から両手が出るほど欲しいのだ。

今やカルデアは人理修復だけではなく。黒幕たる影の策謀にも立ち向かわなければならないゆえにだ。

とまぁやるべきことは何時もと変わらなかったりするのだ。

オルガマリーは一旦仕込みを終えて。

管制室へと向かうのだった。

 

 

 

アマネには容赦だとか躊躇と言う概念が存在しなかった。

 

「今日はマウント取り講座だ、レバーカウンターを防ぐためにまず相手の両手は封じろ」

 

そうって実験台に選ばれたというか本人が志願した為、シグルドが投げ飛ばされマウントを取られる。

両手を封じろと言う通り胴体よりちょい上程度にのしかかり、

伸びた両腕を折りたたんだ脚で両方押さえつける

 

「無論これは体格やパワーが対等条件なのは必須だ。シグルド、君だったらただの人間の私にこうされてもパワーで振り解けるだろう?」

「まぁたしかに」

 

そも英霊と人間ではパワーが違う。

例えるなら手持ち式のピックとパワーショベルの破砕ピックという次元の違いと言えば分かるだろう。

といっても今回は講義である抜け出せないことが前提条件となる。

それはさておいてと組み伏せてからの殴り方をアマネは言いだした。

 

「拳で殴るのが基本だが普通に殴っても良いが、その場合、頭突きによるカウンターで骨を折ることがある、だから額は狙わず、両目や顎を狙って普通に殴る様にではなく、拳を作って金槌を振り下ろす様にな」

 

そうすれば指の骨折を考慮する必要性が無く咄嗟の状況にノーリスクで殴れるという事である。

 

「両目を狙うのは目つぶしは副産物的物でそこからの骨を粉砕しての脳挫傷を狙える。顎狙いの場合は確実に顎を破壊できる、ああだからと言って口は狙うなよ? 抜けたり折れたりしたりする歯が手に突き刺さる可能性があるからな」

 

アマネの説明を聞いて、英霊たちはえげつないという感想文が脳内で一致した。

現代の殺人格闘術はそれだけ古代の物より洗礼され無駄がなく躊躇が無くえげつなくなっていった。

古代の下手に極まった魔法じみた技術より、教え込めさえすれば誰でも行使が可能。かつ性能も古代基準でも一定以上かつ無駄がない。

恐るべきかな現代人と恐れるのは当然の事だった。

だが達哉からすれば新鮮程度である。

兄である克哉に刀や体術が習ったのが彼の基礎の根幹だ。

古代より現代よりなのだから当たり前だろう。

神秘という建前さえなければ現代技術の方が洗練されているのは当たり前だ。

もっとも神秘を纏った現代技術がアマネの理想である。

サーヴァントたちが近代技術を振えばより恐ろしいものになるし。

戦力アップも狙える。

 

「まぁこんな塩梅だ」

 

軽く言うが、成すべきことは難しい。

彼女の技量にはサーヴァントも喉を唸らせる。

本当にそれだけ生まれる時代を間違えたのがこの女と保安部なのだ。

現代最高峰、最強の対魔術、対テロ部隊の異名は伊達ではない。

シグルドから除けつつそう言って、パチパチと拍手が鳴る中で、通信が入る。

それはオルガマリーに入った物と同様の物だった。

伝えるのはダヴィンチという違いはあったが。

 

「今回の鍛錬はこれで切り上げだな。問題が起きたらしい達哉とマシュは管制室に行け。他はレイシフトルームで待機だ」

 

そういうこともあってこの場は解散となった。

 

 

 

 

管制室。そこにはもう見慣れた顔ぶれが勢ぞろいしていた。

ヤルことが微細特異点と同じなのだからそうなのだろう。

だが今回のケースは不明特異点の攻略と言うより。

 

「完全にお手伝いよねこれ」

「フェスの手伝いってなんです?」

「と言うか音楽フェスと言うよりライブだろこれ」

 

今回は戦闘よりもエリザベートの手伝いだ。

フェスと言うよりライブに近い形式出ることがA4紙数枚にわたって書かれている。

ついでにエリザベートの音楽のサンプルCDも付属していた。

それはさておき。

 

「今回の特異点は採取作業と戦闘は無しと、まぁ気楽に行けるか」

「先輩の言う通りですね。お祭り準備と言う作業がありますが。それが終われば私たちも客の方に回れますし」

「マシュ、タツヤ、油断は駄目よ油断は」

 

久々に気が抜けるかもと言う二人の意見をオルガマリーが反対する。

確かに普通ならばお祭り気分で参加できる特異点ではあるが、勘が鋭くなったオルガマリーはどうも嫌な予感がしていた。

 

「事務処理終わったら参加できるとか甘いことは考えない方が良いわ、エリザベートの叫びとリストの資材欄を見れば一目瞭然よ」

 

膨大な報酬+エリザベートの叫びにそんな甘いことになる物かと所長の座に座るオルガマリーは指摘する。

誠意ある報酬には対価としての労働が付属するのは当然の事なのだ。

仕事の早上がりなんてのは夢想と言う諸行無常である。

さらに言えばニャルラトホテプの事もある。

アイツは何処にでもいるのだ。始まりはエリザベートの援軍要請だったかもしれないが。

そこに混ぜ込んでいるとは言い切れないのだ。

と言っても疑えば切りが無いのも事実、気を抜きすぎないように気を張りつつ特異点を進めることにして。

 

「レイシフト前に、今回渡したいものがある」

「これは?」

 

ダヴィンチはそう言ってトランクケースを開き二人にと在る物を渡す。

達哉とオルガマリーに渡されたのは拳銃の様なものと弾倉底からケーブルが伸びて分厚い文庫本サイズのハンディカムCPに繋がれた。

奇妙な拳銃だった。

 

「これはサモライザーという、霊体化の原理で英霊をデータとして圧縮、このハンディカムCPに封じ込めて置いて。必要に応じて出力、召喚できる代物だ。拳銃部分は出力機、こっちは封入機としての役割を持つ。これによって必要な時に英霊を出したり引っ込めたり、必要な数、必要な人員を出すことが可能と言う訳さ」

 

ダヴィンチの説明を信じるのなら実に利便性に優れた代物となる。

今の今までは英霊も直接レイシフトしていたのだから。ある意味大雑把で効率が悪く。

必要場面に応じての展開が叶わなかった。

特に第二特異点なんかがその顕著てきな具体例に準じている。

全員を展開していたばかりに罠にかかった。

第一特異点でも同様である。

故にこれは必要に応じて英霊をその場に呼び出すことがかのうとなる代物である。

 

「もっと早く投入出来ればと良かったんだけれどね。スティーブンの奴、召喚プロセスプログラムの所をブラックボックス化してたから時間が掛かっちゃってね、すまないね所長」

「良いわよ、スティーブンのプログラミングの腕はダヴィンチ以上だったでしょう? それは皆から聞いているから」

「そう言ってくれると助かるよ、あと所長、ちゃんを付けてくれたまえ」

 

そしてサモライザーの説明と言うかセイフティーの説明が、ダヴィンチから説明される。

召喚は登録された。使用者の音声、指紋認証、生体魔力認証を三つ同時にクリアしなければ。サモライザーは起動しない。

偽装を得意とするキャスターが居ることからそういったセキリュリティアライアンスは当たり前で。

それらをパスしたうえで英霊の召喚選択は音声認証で行われるとのことだった。

 

「つまり、名前を叫びながら引き金を引けという事ね」

「戦隊ものの必殺技じゃないか」

「しょうがないだろう、セキリュティの問題とサーヴァントの召喚選択をスムーズにするためには必要な処置だからね」

 

音声認証に関してはセキリュティだけではなく、召喚をスムーズに行う事のついででもある。

さらに此処までセキリュティが強固に組まれているのは。

この三つのロックが無ければだれでも気軽に使えてしまうという事もあるからだ。

誰でも使えるというのは聞こえはいいが。逆に言えば敵にも使えるという事である。

使用制限を掛けてあえて特定個人にしか使えない様にするというのは当たり前のことだ。

 

「さらにスティーブンの遺産でマシュのオルテナウスもパワーアップしたよ」

「え、そうなんですか? 見た目は全く変わっていないようですが・・・」

「ソフトウェアと駆動系を交換したんだ。アイツの遺産結構残っているからねぇ」

「すごい人だったんだなスティーブンって」

 

達哉も瞠目し言葉を漏らす。

達哉の周りではスティーブンという人の名は良く聞く。

オルガマリーの先代であるマリスビリーの右腕にしてキリシュタリアが先生と慕うほどの大天才と。

事実、開発部を統括しつつカルデアの副所長の座に居たのだ。

そういうことはよく聞くが。

同時にそこまでだった、達哉もオルガマリーもスティーブンの事はそこくらいまでの情報しかない。

何故なら、デミサーヴァント計画でスティーブンとマリスビリーが派手にもめてそれ以降半ばスティーブンは計画から外されていたのだ。

 

「カルデアの管制システム 地脈召喚式システム エネルギー分配駆動システムets.ets。全てのプログラムや構造体の設計に関わっている大天才だよ、カルデアという施設を作り上げた大天才さ。私も電子工学分野、プログラム分野では劣っている。それどころか月と鼈だ」

 

特定分野では万能の天才でも手も足も出ない大天才だったという最大の賛辞をダヴィンチは言う。

閑話休題

 

「それはさておいて。まぁマリスビリーとの仲違いして刺し殺されるまでは、隠者みたいに独自開発した物が多々残されているのさ」

 

マリスビリーとの決裂後、隠者の如く多くの装置、装備を独自開発しキリシュタリアに教えを教授しつつ最終的に密室となった自室でめった刺しになって死んでいたという。

一応は迷宮入り、カバーストーリーとして自殺として処理されたものの。

死の真相は謎のままである。

 

「それとサモライザーにオルテナウスの新パーツに解析不能のブラックボックスがある。留意してくれたまえ」

 

そしてここに来て爆弾が投下された。

サモライザーやオルテナウスの新パーツにダヴィンチの腕をもってしても解析不能のブラックボックスが搭載されているというのだ。

 

「ちょ、使ったら爆発とかしないでしょうね!?」

「それはない、ブラックボックス自体がとりあえず乗せているっていう状態なんだ」

「・・・それはどういうことだ?」

「使用に際するシステムや駆動系に一切干渉しない場所にただ置かれている、システム的干渉はあらゆる検証結果無いと判断した。けれど万が一もあり得る。今回の特異点は危険性が薄いから実戦テストにもってこいってわけさ」

「まぁアマラ回廊や微細特異点でテストする気にはなれないけどさぁ」

 

と言う訳で新装備のテストも兼ねて、まんまとリソースにつられてレイシフトすることとなった。

無論、エリザベートの言うことが本当ならば、先に述べた通り達哉、オルガマリー、マシュの精神安定につながるとしての期待もあった。

そういう打算が絡み合い三人は新装備を携え。

チェイテ領へとレイシフトしたのである。

レイシフト先は郊外の森だった。

街中にいきなりレイシフトしては混乱が起きるかもと言う。恒例的配慮に乗る形である。

されど。

 

「・・・ダヴィンチ」

『ちゃんを付けてくれ給えよ所長』

「随分外れた場所じゃない此処」

 

事前的特異点の全景のマップデータはエリザベートから提供されていたが。

転移先が盛大にずれ込み森の奥と相成っていた。

 

『おかしいな・・・機材の不具合?』

『いいえ、技術局長、機材の不具合は確認されていません』

『常時相互監視型の監視プログラムが走っているんです、不具合が出た時点で報告が上がってきます』

『というより、空気中に魔力とは似て非なるパワーリソースを検知、肉体、魔術的臓器に異常はないようですけどなんだこれ?』

『・・・ふむ、おそらくその魔力に似て非なるパワーリソースがレイシフトに干渉したのかなぁ?』

 

盛大に位置ずれしたのは、その謎のパワーリソースのせいであるとダヴィンチは結論付ける。

なにせ皆初めて見た物なのだから。

もっとも主要時間軸ではエリザ粒子と呼ばれる物なのだが。

それはさておき。

 

『まぁそれはさて置いて。採取したリソースはチェイテ城についてからでも送ってくれたまえこちらで解析する』

「了解・・・それとだけどソッチでの探査に映っている?」

『・・・まぁばっちりと、普通の人間的反応だから言わなかったけれど』

「万が一があるかもしれないからね」

 

気配、確かに殺意などはない。

だが明らかにみられているという感覚はあった。

無論、オルガマリーだけではなく、達哉もマシュも既に感付いている。

視線の元へと三人は振り返り各々の武器を使用可能へとしていた

 

「そこにいるやつ出てこい、出てこなければ武力行使する」

 

達哉が孫六の鯉口を切りつつ警告を出す。

一秒か二秒か、視線の主はそそくさと出てきた。

元から抵抗する気が無かったのだろう。

 

「Arr・・・」

 

うめき声の様な美声を上げて出てきたのは足元まで美しい銀細工を彷彿させるような水色の髪の毛が特徴的な美女であった。

だが全裸だった。

 

「「「!?」」」

 

これには三人もショックを隠せない。

行き成り全裸の美女が出てきたら誰だってびっくりする。

エロ同人じゃあるまいしとかおもいながら、達哉は速攻で適当な木々に目線を移した。

じっくり見つめてセクハラ行為&マシュとオルガマリーに殴られたくなかったのだから当たり前の行動である。

 

「マシュ、所長、任せた」

 

そういって一応の事情聴取を二人にぶん投げる。

 

「わ、わかったわ。一応このまま聞くけど、貴方誰」

「ティアrrrr」

「なぜこんなところにいるんの?」

「わarrrrかrrrrrarrrrr」

「所長、この人、上手くしゃべれないみたいですよ」

「・・・でも言いたいことは分かるわ大体だけれどね」

「分かるんですか?」

「聞き取れる言葉とジェスチャーでなんとか。名前はティアまでしか読み取れなかったけれど、時計塔でハイトリップした馬鹿と会話するよりは楽よ」

 

そういうオルガマリーに内心二人は昔から苦労してたんだなこの人と思い。

その言葉を飲み込んだ。実に懸命である。

 

「このまま放っておくわけには行きませんし、体格的にはアマネさんが近いですから、彼女の私服を借りるというのは同でしょう」

「そうねそれが良いわね、カルデア、聞こえる?」

『聞こえているよ』

「アマネに繋いで」

『了解』

『なんだ所長?』

「アンタの私服、貸して頂戴、パンツにブラも」

『それは良いが、何か問題でも?」

「身体障碍者が森にほっぽり出されていたのよ。体格がアンタに近いから、私服を貸して頂戴な」

『了解した。だが碌なものが無いのは覚悟してくれよ』

「そう言えばアンタの私服って趣味の悪いTシャツに普通のデニムだったわね」

 

ハンドメイドで時間が掛かるのは当たり前で、だったら体系の似ているアマネの私服を送ってもらうのは道理ともいえる。

しかし、彼女の私服のシュミはある意味悪い。

日本やらアメリカで買いあさった意味不明な言葉がプリントされているゲテモノTシャツに普通のデニムズボンかジーンズといった組み合わせだ。

シンヨコなんてプリントされているTシャツを身に纏っているのはカルデアでも彼女くらいな物だった。

キリシュタリアが何処で買ったのか自分も欲しいなどと休暇を過ごすアマネに聞いていたのをオルガマリーは見ていたので、アマネと言う存在の服のシュミは理解しているつもりである。

因みにそれ以外は仕事着でコンバットスーツとかそういう類のしか持っていない。

と言うわけで、全裸の彼女の服装は悪くなるのは決まりと言う奴である。

そして送られてきたのは。

右腕袖部分にはQuick表記され、左腕袖部分にはArtsと表記され。

胸部付近にはBursterデカデカと表記された見事なダサTシャツと普通のデニムズボン、そして何故かピンク色のサンダル。

 

『『『ダサ・・・』』』

 

それらを何とか女性に着せて三人の心の声が一致した。

本当にダサいのである。

アマネの私生活は謎に包まれているが、あんまりと言えばあんまりな私服であった。

だが無いものねだりは出来ないのでこのまま四人で、チェイテ城へと向かうことにした。

 

「ここ本当にスロバキアのチェイテ村なのか?」

「先輩、不明特異点は座標こそ一緒ですが、ほぼ無関係の異界に近い構造なんです。ですので現実のチェイテ村とは無関係なんですよ」

「そうなのか」

 

マシュの説明に達哉がうなずく。

不明特異点は一種の現世や人理に影響のない異界に近い特異点形式だ。

テクスチャの上に新しいテクスチャを張りつかせるのではなく浮かせて置くという形式である。

故に形状は当時のチェイテ村をいアレンジした物だが。

実際のスロバキアには何の影響もないと言っても過言ではない。

速い話が現世にちょびっと近づいた異界なのだ。

そんな事を話しながら。チェイテ村に入る。

待ちは祭りの前夜祭と言うことで飾り付けや人や人に害のない異形やらゴーストやらで賑わっていた。

サーヴァントもちらほら見れる。

本当に異界なんだなと達哉が思っていると。

 

「私は悲しい、私の馬鹿さ加減が悲しい」

「何を言いうか、トリスタン卿、馬鹿かげんなら私も大概だぞ~」

 

すっごく酒臭いサーヴァントとすれ違った。

一人は見たことが無い。もう一人はどこかで見たことのある顔だった。

もし長可がこの場に要れば、黒鎧を着こんでいる方をシグルドをぶん殴ったように殴り抜けるような人物なのだが。

生憎と達哉は見たことがある程度。

それも戦場の一瞬程度の話でありそこまでの事だったからスルーする。

酔っ払いに絡んでいる暇もないし。

ついでに言えば、立喰師に絡まれた時のようなことは御免だったからだ。

 

「そう言えば酔っ払いと言えば」

「どうかしたの達哉?」

「いや淳と夜に家を抜け出して遊んでいた時に、司法試験に合格したパオフゥに絡まれたなぁっということを思い出してな」

「ああ、そういえばあの時の彼酷くよっぱらってたわね」

「そりゃ司法試験一発合格だからな・・・ そりゃ酔いたくもなるんじゃないか?」

 

司法試験は難問である。落ちるパーセンテージも高い。

それに一発合格なんてすれば誰だって羽目を外すのは明らかと言う奴だ。

 

「そんなもんなんですかね」

 

マシュが疑問を口にする。カルデアから出たことのない。

義務教育なんかもエスカレーター式のマシュでは絶対に合格しないというそこらへんの機微が分からなかったのだ。

 

「嬉しいものだぞ。望んだ物を手に入れるという高揚感は。俺も七姉妹学園の試験が通った時嬉しかったからな」

 

達哉はそういう。

彼はバイクショップを開くことを夢としていた。

だから都内では進学校として有名な七姉妹学園を合格した時は珍しく舞い上がった物だったから。

パオフゥのアレも今となればよく理解できるのだとマシュに言う。

実際問題一発合格と言う物は嬉しいものだし、目的の物を掴めたら嬉しいものだ。

その言葉にマシュはちょっと考え込みつつ『参考にします』と考える風だった。

全てが終わったらエスカレーター式ではなくなる故にだ。

アニムスフィア家に入ったらそれからは自分で考え自分でつかみ取らなければならないことも多くなる故である。

 

「ちょっと憂鬱なこと言わないでよ。私も人理焼却が終わったら調理師免許取りに行かなきゃならないんだから」

「そう言えばそうでしたね」

「というか、魔術使えば偽造できるんじゃ・・・」

「タツヤ馬鹿言わないで、今どきのCP管理と書類管理を抜けるほど世の中甘くはないのよ」

 

魔術に置いて偽造は今どき出来る物ではない。

コンピューター管理の側面には魔術師は手も足も出せないのだ。

アトラスなら別だろうが時計塔の魔術師では無理筋であり。

現に最近の在野の魔術師の狩り具合の割合が増えているのもそこが原因だ。

最早魔術のみで隠匿できる範囲を技術が飛び越えていったといっても過言ではない。

もう偽造は不可能だ。

それこそ、現実的闇社会の手を借りなくてはならない。

そんな連中の手もコネも欲しいとは思わない。

後ろ暗い付き合いは今で十分であるゆえにだ。

そして城へと到着する。

 

「なんか思っていたのと一緒で反応に逆に困りますね」

「絵本の悪役の城そのまんまだものね」

 

マシュの言葉にオルガマリーが同意する。

チェイテ城は絵本の悪役の城、そのまんまだった。

 

「・・・」

「先輩どうかしましたか?」

「いや、なんかピラミッドと日本式の城がチェイテ城に乗っている白昼夢みたいなのを見たんだ」

「大丈夫ですか? レイシフト酔いか疲労ですよソレ。戻ったら休暇申請した方がいいですよ」

「・・・かもな」

 

ジッポの蓋を鳴らしながら、トンチキ染みた白昼夢を見たと言えばマシュにそう言われ。

そこまで働き詰めってわけでもないと内心思いつつ、一応同意しておく。

そして門番に話しかけて門を通してもらう。

内部の構造は普通の城と言う形で最低下の不審者迎撃用の魔術式トラップ以外は本当にごく普通の城だ。

エントランスを抜けて玉座の間ではなく会議室へと案内される。

今、エリザベート達はそこに全員で集合し会議中とのことだった。

達哉は会議室に行く途中の廊下の窓から中庭を見る。

そこには建築途中であろうライブステージが未完成のままで放置されていた。

脳裏に嫌な予感が過る。

がそれも気のせいだと思いたいと思い込みつつ。

会議室前まで来て扉を開ける。

 

「うぁあああああああ・・・」

「たりない、たりないですぞぉ・・・」

「頭が痒いぃぃいいいいいいいい!」

 

達哉たちは中の惨状を見てそっと扉を閉じた。

 

「Arrrrrrr?」

「ティアは見ない方がいい」

「先輩の言う通りです見ない方が良いかと」

「今更来た事を此処まで後悔するとはね・・・」

 

一番後列にいたティア(暫定)は何かあったのかと言った風情で声を上げたが。

返ってきた声は三人とも此処に来た事を後悔する言葉だった。

室内は深夜テンションでどいつもこいつもおかしくなった奴ばかりだったからである。

誰だって突入なんてしたくない様であるし、面倒事に絡まれたということは明らかだ。

 

「でも帰れないわよねぇ」

「所長の言う通りです、リソースは必須です」

 

カルデアのリソースはカツカツだ。

引き返すという選択は無い、実際某夢魔の支援は主要時間軸とは違いないのだ。

故にリソースは幾らあっても足りないのが現状なわけで。

開発部も頑張っているのだから自分たちも頑張らないと、と、自分たちに発破をかけて会議室に突入した。

因みにティアも行く場所が無い為、流れに身を任せる形で一緒に部屋に入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

某所、チェイテのどこかにある地下施設。

そこは中世期には似つかわしくない近未来的、つまりは機械的な部屋だった。

様々なカプセルや機器が並び設置され、エリザ粒子をかき集めている。

その部屋の奥の玉座に一人の少女から女性に移り変わるくらいの女性が鎮座していた。

手には聖剣と同レベルの剣。

そして全身を黒甲冑が包み込み顔面もマスクで覆っている物だから女性とは気づけないだろうが。

辛うじてマスク越しの声で女性と気づけるのである。

彼女はコーホと息を立てながらせわしなく動くサーヴァントやら研究員に目を付けていた。

 

「エリザ粒子の鋳造はどうか?」

「はい、陛下、今のところ順調じゃないよ~」

 

そして進展具合を和服と現代服を合わせたかのようなサーヴァント「刑部姫」に問う。

彼女は女性の同士だ。何がとは言わないが。

女性は本来、こういう性格ではない。己が内のシャドウに乗っ取られこういうダースベ●ダーの様な格好をして。

エリザ粒子を使ってある物を作ろうとしている。

 

「やっぱ最大出力で生成するにはフェスを行う必要があるよ、エリザ粒子はエリエリの高ぶりに応じて出力されるからね」

「やはりか」

「霊基統合最適化されてから彼女落ち着いたからね、いいよねホント」

「それはいい、なんとしてもフェスを迅速に行うのだ」

「わかってますよー、そのためにカルデアも巻き込んで作業させる予定だからね」

 

だがエリザ粒子はエリザーベートのテンションで生成されるものだ。

カーミラとの霊基統合により大人になった彼女は落ち着いており精製が芳しくないのは当たり前。

そんな彼女のテンションを上げさせ粒子を大量精製するには大規模な催しが必要になってくる。

だから刑部姫はそうなる様に、チェイテの面々をスパイしつつ誘導したのだ。

人材不足に陥ることも想定済み、故にカルデアの面々に救助要請を出すことも想定済みと言える。

 

「分かっているな、刑部姫よ」

「はいはい~ 全ては我々の人権化のために」

「そして糞運営を黙らせるためにだ」

 

そう全ては自分たちが人権サーヴァントになる為の大戦略だ。

エリザ粒子を使ってのだ。

彼等の策謀はまだカルデアは感付いていない。

ただただ影だけか隅の方で爆笑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるサーヴァントの日記。

 

 

#$月%$日

娘のように思っていた存在は大きく育った。

もう小娘とも呼べぬし、領主としてふさわしい風格を身に着けたと思う。

それに対し私は第一でやらかした身だ。

この罪どう償えば良いのか・・・

 

&#月($日

彼女が第二から帰還した。

酷く憔悴しきった様子だった。

親友の事で何かあったらしい。

しばらく部屋にこもっていった。

 

&%月%#日

音楽フェスを開催すると彼女が言いだした。

フェスとは言ってもプライベートライヴと規模は変わらぬが。

この特異点初めての祭りと言うことで皆の乗り気だ。

サリエリが楽曲や音楽設備関係を、何故かいる黒髭とエリザベートの友人である刑部姫が広報を担当することになった。

私も衣装制作をすることになった。

彼女の歌も上手くなったことだし気合を入れて作ろうと思う。

 

%&月)$日

どうも服の制作が上手く行かない図面を引いても熱を込められない。

第一でのやらかしが精神的に響いているのだろうか?

今日は休もうと思う。

 

&%月=%日

駄目だ駄目だ駄目だダメダ。

図面ヲ引いてもうまく書けない。

何故か露出度重視の衣装になってしまう。

無論彼女にも駄目だしサレた。

月では今の比ではないくらい露出していた奴にイワレタクナイのだが。

とにかく図面を引くことを続行する。

 

$”月$#日

サイキン、これでいいとも思えるようになってきた。

露出こそ心理、ゲンカイギリギリの絶対領域コソ。

男のモトメルモノダト。

違うチガウ チガウ、ワタシの作る衣装は・・・

 

)「月6$日

エロヲツクル、キワドサヲモトメル

チガウチガクナイチガウ。

ああワタシのアタマノナカデナニカが蠢いている

エロをもとめて

 

&%月=#日

どス

 ケべ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アマネの英雄近代化計画。
神秘を身に纏った現代技術程恐ろしいものは無いというのはZEROで散々描写されていましたし。
達哉やマシュ、所長も現代技術を身に着ければ神秘部分はペルソナやデミサバで埋めれるので恐ろしい使い手となるでしょうからね


と言う訳で始まりましたチェイテイベ。
東京特異点の方は邪ンヌが単独で大暴れして上手く定着できないためこんな感じ。
第四終了まで関わる事もないでしょう。

ティア(一体なに地母神なんだ・・・)も参加します。
黒髭も第三に向けて先行参加。フェスイベ何でこいつが居ないと始まらないと思うので出しました。

ニャル「一人は嫌なんだろう? 人権鯖になりたいのだろう?(誰だかんと誰だかさんを煽る)」
マーラ様「デュフフフ(誰だかさんの頭の中でうごめきながら)」

ニャルは厄介事放り込むだけ放り込んで導火線に火をつけて静観。
マーラ様は出番が来るまで全力待機中

サモライザーについて、言わずもかな悪魔召喚プログラムの改変版です。
ついでにスティーブンは死んでません、型月世界に彼を殺せる人物なんていないですからね。
メガテン世界にも同様です。メガテン主人公四人と戦って生き残っているんですもの。
格が違います。
と言う訳で彼も、どちらかと言えばニャル側、必要最低限の事をしたので死を偽装して退場。
今、閣下とか四文字とかと酒飲みつつ観戦モードと言うのが真相です。
あとメガテンファンの自分としてなら出したかったCONPやデビライザーの亜種であるサモライザーです。
これで適切にキャラを戦線投入や撤退できる便利な代物ですので。
大勢のキャラを回すFGOと言う特性上、どうしても出したかった便利アイテムです。
なおスティーブンが某七大兵器レベル物の厄ネタをブラックボックス搭載している物用。
もっとも通常仕様には干渉しない代物だからそのまんまでは現状使用できないですけどね(できるかもわからぬ第二部向けの伏線)



そして作者の近況ですが準社員として(正社員昇格あり)元の手に付いた仕事に戻ることに成功し増しましたが。
やはり一年と半年のブランクはきついです。
昔なら汗もかかずに余裕ぶっこいて出来た仕事がひぃひぃですわ。
そう言う訳で休日のみ執筆となるので遅くなりますのでご了承ください。


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03 突然の再会

マジで!?

ボボボーボ・ボーボボより抜粋。


「最初は、本当にそれこそ個人ライヴ感覚とお祭りの一助となればいいいと思っていたのよ」

 

エリザベートが告解するように四人に言う。

因みに四人の内訳は達哉、マシュ、オルガマリー、ティアの四人だ。

そして続けて言う。本当に当初は祭りを盛り上げる一ファクターでしかなかったはずなのにと。

 

「折角ですからな、座の英霊も呼ぼうとしたのですぞ、言っては何ですがエリザ氏の歌は前は下手でしたから。動画サイトにアップロードしても少し人数が増えるだけかと、拙者は思っていた訳ですが」

「それがバズってこの様ってわけですか?」

「いやぁ、世の中本当に何が受けるか分からないですな」

 

元凶は黒髭ことエドワード・ティーチの提案が元凶だった。

祭りの参加人数を増やすために。エリザベートの歌を動画サイトにアップしたのがバズってこの様と言う奴である。

もっとも提案したのはティーチであるがアップしたのは刑部姫だったりする。

因みにマシュは拗ねており若干塩対応気味だった。

名だたる妖怪の刑部姫が引きこもり上等のヒッキーで大海賊の一人であるティーチがオタク化していたことにである。

第一、座でネットモドキが出来ているというのはどういうことだという奴である。

そんな便利機能があるのなら生前のわだかまりも座で解決できるだろうとマシュは思う訳で。

まぁそれはさておき。

予想以上にバズったせいで、参加英霊が爆増。

ライヴも、当初は城の中庭で行う予定が、収容人数オーバーで城の外に箱を新たに作って行うことになったわけだが。

 

「・・・楽曲と衣装は出来ているが。振付やら箱の設営やらが全然終わっていないと」

 

達哉の言う通り規模が無駄にデカくなったせいで雑務も増え。

振付や箱の設営などが終わっていない。

加えて。

 

「楽器奏者が居ないって駄目じゃん」

「当初はそういう形式じゃなかったのよ」

 

楽器奏者が居ないとくればいよいよ詰んでいる。

 

「電子ピアノは私が担当する予定だ」

 

電子ピアノは特異点の影響からか無辜の怪物スキルが外れたサリエリが担当。

だがドラム、ギター、ベースの三人が不足している。

 

「そう言えば先輩はギターが引けましたよね?」

「まぁギターかベースは行けるな」

 

達哉はギターを弾ける。

ベースもその要領で弾けるのは言わずもがなと言う奴である。

 

「じゃ、達哉ギター担当ね!」

「ちょっと待て。プロレベルで弾けると言う訳じゃないぞ。あくまで趣味の範疇だ!?」

「それでもいないよりはマシよ」

 

エリザベートのごり押しによって達哉、ギター確定。

達哉は泣きたくなった。なぜこうなったと。

 

「マシュとオルガマリーはどうなのよ」

「私は音楽は聴く側で奏でる側じゃないから、出来るわけないでしょ」

「貴族だからバイオリンとか行けるかと思ったのよ!」

「そこまで優雅な青春時代なんか私には存在しないのよォ!!」

 

オルガマリーがエリザベートの物言いに逆切れである。

中半見捨てられた形で育てられたのだ。

そりゃ普通の教育だけでバイオリンとかオシャンティな物を習った事なんかない。

 

「それでマシュは?」

「ト、トライアングルとカスタネットなら何とか」

「なんでそんな微妙なチョイス!?」

 

マシュは何故かトライアングルとカスタネットならいけるという。

何故にそんな微妙なチョイスかと言うと教育の問題だった。

そこでロマニが授業に簡単な楽器と言うことでトライアングルとカスタネットと相成ったわけである。

所謂、ロマニのチョイスであった。

 

「トライアングルを叩く要領でドラム「無理ですからね!!」

 

こうなればトライアングルを叩く要領でドラムにとエリザベートが言い掛けマシュは無理だと突っぱねる。

当たり前であるがトライアングルとドラムでは訳が違う。

叩くなんて不可能に近い。

 

「となれば出来そうなサーヴァントを呼び出すか」

「先輩・・・ いましたっけそういう存在」

「いや、居ないよ、だがすぐにでも覚えれそうな存在には心当たりがある」

 

そう言いつつ達哉は後ろ越しからサモライザーを引き抜く。

 

「Call!! クーフーリン!!」

 

呼び出したのは、クーフーリンだった。

 

「おう、達哉、敵か?」

「すまないそういう訳じゃない」

「ならなんだよ?」

「ドラムを叩けるようになってくれ」

「へ?」

 

あんまりと言えばあんまりだったが。

ドラムの映像を見て。

 

「まぁあとは適切な指導がありゃ行ける」

 

と豪語する当たり流石はクーフーリンと言うべきか。

一応王族であるため音楽も多少はたしなんでいたらしい。歴史には記されない事実と言う奴である。

と言う訳で早速練習にサリエリと共に去っていった。

 

「問題は振付ね」

 

オルガマリーがぼやく様に言う。

大まかな形は出来ているが所詮は素人仕事。

此処はプロを雇い入れるべきなのは明らかな話である。

振付師に現状の振り付けを洗礼し再度エリザベートに叩き込む必要性があるのだ。

 

「所長の言う通り・・・あ」

「あっって、マシュ心当たりでもあるの?」

「よくよく考えれば宗矩さんって能の達人でありますし、マリー・アントワネットさんも王族ですからダンス得意じゃないですか。あの二人の能力が合わせればリハーサルまでには間に合うと思いますよ」

「ああそういえば宗矩ってそんな逸話があったわね」

「宗矩さんなにやってるんだ・・・」

 

マシュの言う通りである。

マリー・アントワネットは王族だ。無論ダンスは出来るし本人も得意と公言している。

さらに宗矩は能、現代で言うダンスの達人でもあり。知り合いの家に押しかけて一日中踊ったという逸話もある。

二人の能力が合わされば振り付けも短期間内に完成し適応できるとマシュは言い。

そういえばそんな逸話があったなとオルガマリーは納得。

逆に達哉は何やってんだと頭を抱えた。

と言う訳で。達哉が再びサモライザーの引き金を引く。

 

「なんだか不意打ち喰らった気分ですな」

「宗矩に私も同意するわ。突然と違う場所に出されるんですもの」

 

サモライザーの呼び出しは無拍子でもある。

確かに突然と呼び出される感覚にはなれないと言う物だ。

 

「それで呼び出した理由はなにかしら?」

「一見戦闘ではないようですが・・・」

「二人にはエリザベートの振り付けをしてほしいのよ」

「「振付?」」

 

オルガマリーの言い様に二人とも首を傾け疑問符を浮かべる。

それで、オルガマリーが今までの経緯を説明し二人は納得した様子だった。

と言う訳でお手並み拝見と言うことで。DVDを見て。

二人が踊る。

マリー・アントワネットは上手かった。流石元王妃、伊達ではないという事であろう。

されど驚愕すべきは。

 

「恋はドラクル~♪(CV 山路和弘)」

((((めっちゃキレッキレッだ!?))))

 

宗矩のダンスのキレッぷりであろう。

ハッキリ言って一見見て完コピにとどまらずアレンジを加えて。

マリー・アントワネットの一段上のキレの良さを見せつければ誰だって驚愕を通り越して、ドン引きものだった。

 

「ふぅまずはこんなものですかな・・・修正すべき箇所は多々ありますが」

「いや十分じゃない?」

「否、詰めるべきところは詰めるべきですぞ!!」

 

十分な出来だったが宗矩にとっては即興も良い所。

故に宗矩はもっと洗礼すべきだと熱烈に所望する。

 

『宗矩さんてこういうひとだったか?』

『歴史書では他人の家に勝手に入り込んで満足するまで能を踊り続けたひとですよ・・・ダンスに対する熱意はインド系にも勝るとも劣らないかと思いますよ、はい』

『そうなのか・・・』

『ですから好きなようにさせてはいかがでしょうか? 拒むと話が長くなりそうですし』

『そうだな・・・』

 

マシュの言い分に達哉も同意する。

こう言うタイプには下手に拒絶やら適当なことを言うと短くて小一時間くらいは余裕で消費出来るレベルで、オタク知識を話すが如く話してくる。

故に下手に出るよりも宗矩の提案に乗っかることにしたのだ。

と言う訳で、マリー・アントワネットと宗矩は詰めるところを詰めるべく部屋を後にしていった。

 

「こうそろってくるとバックコーラスも欲しいわね」

 

エリザベート、まさかのここで欲が出て来たのかバックコーラスまで欲しいと言いだし始めた。

 

「おいおい、これ以上は」

「安心して、出来ればの話しよ」

 

だが昔のように無理強いはしなかった。あくまで出来ればの話しである。

そんな人材居る筈もなかったのが。

 

「Arrrrr・・・」

「あら、いい声ね、アンタ」

「Ar!?」

「エリザベートさん、彼女上手くしゃべれなくて・・・」

「ダイジョーブ、音程弁えてアーアー言ってもらえればいいから。でも出来れば発音練習も並行しましょうか」

「教育係は誰がすんのよ・・・」

「サリエリ先生に任せるわ、楽曲と譜面も書き終えて暇だろうし」

 

ティアは確かに言葉の発音が上手くは出来ない。だが、拙いながらもやろうと思えばできる。

ならばあとは習熟の問題として今、楽曲作りと譜面制作が終わり。

セッションと打ち合わせ以外は暇なサリエリを教育係とすることによって問題は十分に解決できる算段であった。

それにはカルデアの面々も何も言えず。

ティアはバックコーラスを担当することに急遽相成ったわけだ。

そして次の問題、箱の設計、建築、監督問題であるが。

 

「それならシグルドとブリュンヒルデを呼びましょう」

 

オルガマリーがそういう。

シグルドには叡智の結晶があり、設計、監督には問題ない。

ブリュンヒルデもシグルドが絡んだ場合、宝具最大出力10tの槍をブン回す筋力。

そして主神オーディンの使徒としての知性と知識もある。

箱の建設には二人とも打って付けの人材と言えよう。

と言う訳で、今度はオルガマリーがテストがてらに自身のサモライザーを引き抜き、二人を呼び出す。

 

「Call!! シグルド!ブリュンヒルデ!」

 

そして呼び出される二人。

なんか達哉から視線を若干反らしている。

この前からそうなのだ。無論の事達哉にはそうされる心当たりがない。

ニャルラトホテプに何かされたかと聞いてみたが。

すまないとばかりで根本的解決には至っていないのが現状だった。

それはさて置いて。やはり突然と召喚される感覚には二人とも困惑気味だった。

 

「呼び出されたから戦闘かと思ったのだが・・・」

「私もシグルドと同意見です。身構えていたら」

「「建築とはな/ですとは」」

 

そして命令されたことも箱の建築作業である。

気が抜けると言う物だった。

 

「まぁ話をごちゃごちゃしても仕方がない、エリザベート殿。作業員のリストと進捗状況をくれると助かるのだが」

「殿は付けなくていいわよシグルド、堅苦しいのは嫌だし」

 

そんなこんなで役割分担を決めつつ。

ようやくひと段落ついた。

 

「さて目下の問題はベースね、達哉分身できないの? ペルソナ能力とかで」

「ペルソナ能力はそこまで便利な物じゃない。無理だ」

 

残るはベーシスト問題だが。そこで振られる無茶ぶりに達哉は飽きれつつ無理と言う。

確かにペルソナ能力はLvに左右されるとはいえ最上位の使い手である達哉は最強のペルソナ使いの候補であれど。

能力自体に利便性があると言う訳ではない、悪魔でも攻撃、回復、補助と各種異界突入能力、外付け魔術回路程度の機能しか持ち合わせていないのだ。

分身だとか分裂だとか特殊能力に匹敵するスキルは専用ペルソナの固有スキルの分野になる。

達哉は時止め。

オルガマリーはテクスチャごと抉る攻撃がそれにあたる。

つまり分身なんかできないわけで。

 

「あっ先輩、今思いついたんですが。先輩がペルソナ出してベースを弾くというのはどうでしょう?」

「それも無理だ。常時出しっぱなしというのもきついし。それでベースを弾くなんて精密作業は無理だ」

 

第一ライヴやフェス事態も長丁場になる。

まず前提としての精神力が持たない。自分はギターを弾いてペルソナにベースを弾かせるという精密動作をさせると消耗も倍だ。

その気になれば一週間は展開できるジャンヌ・オルタの精神力が異常とは言えど、そこらへんがカタルシスエフェクト型と通常型の違いともいえる。

前者は武器として展開するがゆえに燃費が良く、後者の通常型ペルソナ使いは人型を呼び出すため燃費が悪い。

 

「そうですか・・・無理を言ってすいません」

「気にするなって」

「そうよ、誰だって知らないことは知らないんだもの」

 

気落ちするマシュを励ます様に達哉とオルガマリーがフォローに入り彼女を慰める。

だがベーシスト問題は深刻の極みだった。

なんせ居なければライヴが出来ないという瀬戸際なのだから。

録音合成音声を流しつつパフォーマンスなんて無様な真似はエリザベートにはできなかった。

その時である。

会議室の扉が爆破された。

 

「なんの爆発?!」

 

エリザベートの絶叫と共にマシュは盾を取り出し、達哉とオルガマリーは自身のペルソナを呼び出す。

それと同時に、漆黒のマントを靡かせどこかアポロの面影を残したペルソナが疾駆。

アポロと腕を組み拮抗状態に移行。

そして突入してきた人物は。

 

「全員動くな!! エリザ粒子の不正精製の罪で全員現行犯逮捕だ!!」

「克哉さん、私たちは警察じゃないんです。バウンティハンターなんですから現行犯逮捕はないと何度言ったら」

「そういうな、えっくん長年の癖だ」

「はぁ・・・もう分かりましたよ。ですが克哉さんの言う通りです。エリザ粒子の許可なし精製は銀河連邦法第375条で禁止ですのでいくら世界観が違うとはいえこの世界に潜伏中の銀河人権帝国軍に関与している嫌疑が皆さん掛かっていますうごかないでください」

 

ニューナンブを構えたどこか達哉に似たスモークのキツいサングラスをかけグレースーツを着こなす男性と。

黒コートを身に纏いながらビームソードを持つどこか騎士王に似た存在がそう言いつつ動くなと言う。

そして、互いを完全に認識した時だった。

 

「兄さん・・・?」

「達哉・・・? 君、向こう側の達哉なのか!?」

 

グレースーツの男性「周防克哉」の弟である達哉は自身を兄貴と呼び。あの事件でその弟に憑依した向こう側の達哉は克哉を兄さんと呼んでいた。

故に一瞬ありえないとは思っても。アポロの力強さはかつて克哉が感じた物と同質の物。

 

「ああ、向こう側の達哉だよ、兄さん」

 

達哉がそういうと克哉もニューナンブの銃口を降ろしヒューペリオンを消す、達哉もアポロを消した。

えっくんと呼ばれた少女も自身のマスターの知り合いかとビームソードを一旦収めた。

 

「達哉、君は向こう側に帰ったはずじゃ・・・」

「ニャルラトホテプにこの世界に引きずり込まれて帰る場所も吹っ飛んでしまって。今はこの世界でカルデアって組織で働いている。兄さんにも紹介するよ、カルデアの所長のオルガマリー・アニムスフィアと自分の同僚のマシュ・キリエライトだ」

「オルガマリー・アニムスフィアです、タツヤには世話になってます」

「マシュ・キリエライトです、先輩には世話になっています」

「これまたご丁寧に・・・達哉の兄の周防克哉です。弟が迷惑かけていないようで何よりです」

 

そんなこんなで互いに自己紹介を済ませる。

ちなみに騎士王によく似た少女の名は「謎のヒロインXオルタ」と言うらしい。

トンチンカンかつ呼びづらいので克哉は略してえっくんと呼んでいた。

その流れで他の5人は彼女をえっちゃんと呼ぶ流れとなった。

それで全員が再び会議室の椅子に着席。状況説明となったわけである

克哉が何故この世界にいるのかと言うと。本人にもよくわからないらしい。

桐条財団での死の神降臨を未然に防いだということで。パオフゥと高級バーで傷酒をしてたらしいのだ。

幸いなことに有給も堪っておりそれを上司に消費しろと言われていたので。それを使って次の日も休みだったからだ。

偶にはいいだろうと思ったのもそういう意図があった。

そして話が盛り上がり。見事に寝落ち。気づけばこの世界とも並行世界にあたるサーヴァントユニヴァースとかいう宇宙に飛ばされ謎のヒロインXオルタを助けて現状に至ると言う訳であるらしい。

 

「それでエリザ粒子ってなんだ? 兄さん?」

「既存法則を歪めてしまう粒子の事だ」

「ざっくりすぎますよ、こういえば良いでしょうか、粒子影響下にある物は攻撃を喰らっても爆発アフロになったりするとかが代表例でしょう、いわばギャグ補正の具象化した粒子と言えばいいでしょうか」

「えっくんの言う通りで概ね間違いない。宇宙船の緊急時に対応するための装置だとかにも使われている」

 

エリザ粒子は影響下にある物をギャグ補正じみた物に変換する。

故に不慮の事故が起こった場合、その特性を利用して事故や不慮の事態をそもギャグ化して死傷者を防ぐ装置としても使われているのだ。

 

「だが多大なエリザ粒子は周辺環境に悪影響を及ぼす。おもにギャグ的な意味で」

「ギャグ的な意味でって」

 

さしもの克哉の説明にオルガマリーがそう唖然として瞠目する。

当たり前だ。物理法則が粒子一で書き換えられるのだ。主にギャグ的な意味で。

下手すれば死人が不死者に成り果てる。これには第三魔法もびっくりな効能と言えよう。

故にあらゆる科学技術が発展したサーヴァントユニヴァースでも扱いが最重要危険物とされるほどの代物なのだ。

この意味を魔術師であるオルガマリーが理解できないはずがない。

 

「それで・・・その違法製造とかいうのが俺達と何の関係にあるんだ?」

 

そこで達哉の疑問である。

無論。エリザ粒子の生成に達哉たちは関わった覚えはない。

あくまでエリザベートが提供するリソースの為に手伝いに来たので粒子精製なんて知らないしやった覚えもない。

エリザベートもそうだ。

全く心当たりがない、だって彼女、うっぷん晴らしでライヴやるって決めただけだもの知る由もないのは当たり前の話だった。

 

「現に宇宙船で使われている緊急救出装置の量の三倍の量がこの特異点に蔓延、そのさらに10倍の量がエリザベート、あなた自身から検知されています」

「わッ私からぁ!?」

 

そんなびっくり粒子がエリザベートから検知されているとのことだった。

5人がエリザベートから咄嗟に距離を取る。

 

「ちょっと待って私知らない! そんな粒子知らないし、というかなんでティアまで引いてるの?!」

「Arrrrrr(特別意訳 私の権能となんかにてるから)」

「それはさて置いて、と言う訳ですから此処に銀河人権帝国の生成装置があると思ったのですよ」

「そう言う訳で踏み込んだわけだ」

「兄さん・・・ちなみに聞くが、いいや聞きたくないが銀河人権帝国ってなんだ?」

 

達哉はもう一杯一杯だったエリザ粒子の頓珍漢っぷりにだ。

そこにさらに銀河人権帝国なんて用語が出てくれば疲れると言う物である。

 

「銀河人権帝国、または人権帝国軍はエリザ粒子を使いサーヴァントの違法スキル改変および霊基改造などの違法行為に手を出してきた連中だ。また帝国とは名乗っているが銀河警察本部襲撃などを筆頭とした数々の政府主要施設に襲撃を仕掛け成功させているテロリスト集団だ」

「これにより事実上、銀河警察首脳部は事実上の再起不能で宇宙全体が大混乱です」

「「「「な、名前に反して超過激派だ」」」」

「け・・・んか・・・ダメ・・・・Ararrrrrr・・・」

 

ふざけ切った名前に対して超過激派であった。

しかも敏腕なのか銀河連邦の主要施設を襲撃し成功させ。

特に銀河警察本部は念入りに爆破炎上させて首脳陣を爆殺、現在再建させている途中らしいが上手く行っておらず。

事実上の再起不能、壊滅状態とのことだった。

もうどこぞの銀河戦争だよと全員が頭を抱えた。

 

「と言う訳で悪いが彼女を検査させてもらうぞ。無論男の僕がやるわけにいかないから別室かつ、えっくんが検査をしてくれたまえ」

「分かりました。では行きましょう」

「え、ちょ」

「私たちも明日の生活が懸かっているんです、ささこちらに」

「こちらにってここ私の城ォ―――――――!!」

 

そんなこんなでエリザベートは謎のヒロインXオルタに引き摺られて別室へと連れていかれるのだった。

それを見送るしかなかった6人である。

 

「あの拙者そろそろ喋っていいですかな?」

 

今の今まで空気読んであえて何も言わなかったダサT男事、黒髭「エドワード・ティーチ」がオズオズと右手を上げつつそういう。

 

「なによ、黒髭」

「なんでそんなに塩対応ですかな!? オルガマリー氏!?」

「貴方がそんな様ですから所長もそうなりますよ・・・こんなのあんまりです・・・」

「マシュ氏まで!?」

 

ティーチ男泣きである、まさかの女性二人からの超絶塩対応である。

まぁ歴史の偉人、悪党の中の悪党が日本文化に染まり切ってオタク化しているとなればそうもなろうというものだ。

 

「はぁ・・・まぁもうそういう言う対応にはなれているでございますがな・・・エリザ氏は無実なのは分かり切っている事ですし、ベーシスト問題をですな、解決せねばなるますまい」

「あっそうだったな、兄さん」

「なんだ?」

「今、フェス準備中ってのは説明したよな」

「ああされたな」

「と言う訳で、兄さん、ベーシストとして出てくれないか?」

「それは良いが、僕らにも此処に潜伏中であろう銀河人権帝国の捜索に力を注がねばならない」

「・・・銀河人権帝国がここに来ているというのは本当なのか?」

「知り合いの確度の高い情報だ。人理焼却下と言う状況とエリザ粒子を使えば座にも影響を及ぼせるらしい、机上の空論だがね。あと何十にも偽装された連中の船のビーコンラインを追ってきたんだ。間違いなく連中は此処のどこかにいる」

 

信頼できる情報屋の情報とさらに相手の船の何重にもビーコンラインを偽装して、その中から見つけた本物だ。

間違いなく銀河人権帝国はこの特異点のどこかに潜んでいるという確信が克哉にはあった。

刑事の勘もビンビン唸っている。

どこかにいるという事だろう。

そんなこんなで。

 

「うう・・・もうお嫁にいけない」

「エリザさん誤解を招く様な言い様はよしてください、と言うか既婚者ですよね? 貴女」

「そうだけどもぉ」

 

涙目のエリザベートとエリザベートの言い様に溜息つきつつ謎のヒロインXオルタが戻って来た。

息があったようである。もう漫才を出来るくらいにはなっていた。

 

「それでえっくん。彼女には何があった?」

「彼女の霊基が問題だったようです。エリザ粒子製造装置の回路に酷似しています、いえ時代考証するならば。装置がエリザの霊基に酷似しているというべきでしょうか」

「つまりエリザベート君そのものが・・・生きた製造装置と言う訳か?」

「はい、ですが通常の装置に比べて安定性が全くありません、今の状態では問題ないかと」

 

エリザベートからエリザ粒子が大量に検知されたのは。

精製装置と彼女の霊基が酷似しているからと言う事である。

手っ取り早く言うなら生きたエリザ粒子精製装置と言っても過言ではないという事だった。

しかし検知装置で検出される量は異常であるが。本物の精製装置に比べれば現状10分の1にも満たぬ量である。

放置していても問題ないという量だった。

 

「なんでこうなった・・・」

「さぁ・・・ねぇ・・・」

「なんかどっと疲れました」

 

カルデア組はそう言って溜息つきつつ肩を降ろす。

フェスの手伝いがどんどん大事になっている気がするからだ。

第一と第二とは別の意味で疲れる物が在る。

さらには実の兄との突然の再会だ、達哉的には来るものがあった。

如何に心の海で繋がっていると言っても実際に再会することはもうないと思っていたからである。

 

「兎に角、連中が何処に潜んでいるか分からないのが現状だ。調査のために此処に駐留したい、いいかな、エリザベート君」

「ああ、もうベース弾いてくれるならいいわよ。えっちゃんもティアと一緒にバックコーラスね!!」

「え、嫌です」

「ただ飯喰らいを置く気はありませーん、というかアンタ大喰いそうだし」

「失礼ですね、私は小食です」

「・・・えっくん、我が身をよく振り返ってみたまえ、僕の知る限りじゃ菓子をいくら作らされたことか、既製品など買っていたら僕らの貯蓄が吹っ飛ぶくらいに食べるじゃないか・・・」

「克哉さん、お菓子は別腹です、オルタリアクターの稼働には必須なんです必要経費なんですよ」

 

実際、克哉は謎のヒロインXオルタに菓子作りが趣味とばれてからは大量の菓子を要求された。

某CMでとんかつガン無視してキャベツばかりを頼み腱鞘炎になって腕がァと叫ぶ店主の如き様相になったことが実はあったりする。

 

「とりあえず・・・そうだな、また会えてうれしいよ達哉」

「俺もだよ兄さん、まぁこんなトンチンカンな状況だけども楽しくやろう」

「ああそうだな」

 

トンチンカンな状況であるが本来ならありえない再会である。

噛みしめるなと言う方が無理であろう。

それでもいつまでも味わっているわけには行かない。

 

「はい感動の再会は此処まですぞ~ ヴラド殿が衣装とスタッフ用の衣装を準備してくれてますからな、試着してきてくれですぞ」

「そういえば、小父様数日前くらいから全然姿を見て居ないのだけれど・・・、ティーチ、アナタ心当たりある?」

「さぁ拙僧もしらないでござるな、部屋にこもっているのは分かっているけども」

 

衣装担当のヴラドが数日程姿を見せていない。

そのことについて部屋に乗り込んでおくべきだったと後にオルガマリーとマシュは語る。

何故ならここでこのヴラドを問い詰めなかったことで彼女たちは恥ずかしい思いをフェスが終わるまで味わうことになるのだから。

達哉も目のやりどころに困ったことになったと。

さらに言えば、エリザベートのエリザ粒子精製能力を舐め過ぎていたと謎のヒロインXオルタは回想している。

つまり、この後に問題が盛大に起きるわけであるが。

この時、あんなことになろうとは誰しもが予測していなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メインボーカルエリちゃん、ギターたっちゃん、ベースかっちゃん、電子ピアノサリエリ先生、ドラム兄貴。
兄貴本当に便利ですね。
まぁ王族だし、ケルト版ヘラクレスだから行けるっしょと言う感じ。
振り付けは宗矩&マリーアントワネット。
バックコーラスはティア(いったい何地母神なんだ)とえっちゃんという超豪華特盛仕様です。

ちなみにかっちゃんはえっちゃんと組んでバウンティハンターやってました。
故に原作勢と地味に面識があったりする。
まぁニャルフィレが用意したメンタルケア要因ですけどね彼は。
ちなみに銀河警察の本部はガチ目に爆破されました。積年の恨みって怖いね。

パオフゥは今現在、鯖化した織と手を組んで空の境界の街で行われている聖杯戦争(仮)に参加中です。
まぁパオフゥは第四の後ですけどね出番。

Pシリーズで登場するのはあとは理とアイギスくらいかなぁ(邪ンヌ関係が片付いていないため)
メガテンからはあとは明星と聖四文字となります。

メルブラとP4U2との混合特異点もやりたいけれど。
作者、格ゲーやると指の皮がズル剝ける上にコマンド入力とか苦手なので。
そう言った事情もあってゲーム自体できないので断念しました。






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04 チェイテドスケベ事件

俺や野明がどんな思いを、青春の光と影をもてあそびやがってあのくそ中年
遊馬かわいそ
呪ってやる!


パトレイバー THE MOVIEより抜粋


「開けろっつってんだろぉ!! バカヤロウ!!」

「早くこの衣服をどうにかしろって言ってんですよ!! コノヤロウ!!」

 

ゲシゲシではない。凄まじい爆発音と炸裂音。

撃鉄が唸り、薬莢が床に転がる。

カルデアの各種銃火器が、扉を塞ぐ巡廻式結界を狙ってぶっ放されていた。

巡廻式結界とは魔力の渦を結界として構築して応用した代物で。

ぶっ壊せど循環する魔力自体を断たなければ再び再構築されるという現代魔術師どころか神代魔術師にも無理な代物だ。

これは偏に、魔力の要求値が隔絶しているからである。

人間と言う生物では扱えない代物だからだ。

 

「・・・止めなくてよろしいのですかな? 主殿」

「宗矩さん・・・今の彼女達を止めに入って銃火器と書文さん仕込みの八極拳の餌食になるのは誰だと思います?」

「十中八九、主殿でしょうなぁ・・・」

「だろ?」

 

鬼かヤクザの如き顔面崩壊しつつ作画も劇画風になっているオルガマリーとマシュの怒りは収まらない。

なぜこんな事になっているのか。どうしてこのようなことになってしまったのか。

それは30分ほど前までにさかのぼることとなる。

 

 

 

 

30分前

まず目の前の小事から片づけていくべきだと思うのだから当然ともいえる。

達哉は更衣室の中に入り。

自分の仮装服はどういうものかを見て唖然とした。

 

「着ぐるみじゃないか・・・」

 

着ぐるみ、そう着ぐるみである。

所謂ジャックフロストの着ぐるみであった。

まぁ祭りが祭りだ。

スタッフ用の仮装服だから着ぐるみもその中に含まれているのだろう。

本来ならギター弾きなんかする予定じゃなかったし。

故に仕方がないという奴だろうと。試しに着込んで見た。

 

「意外と快適だな」

 

そんなもこもこの着ぐるみに身を包み。

達哉は部屋を後にした。

一方そのころ、マシュとオルガマリーはというと。

 

「ハロウィンじゃないんだから」

「赤ずきんと魔女の衣装ですよね」

「ええ、しかも無駄に凝っているし」

 

自分たちの衣装をみて、何故にハロウィン風と思っていった。

無論、今の時期はハロウィンではない。

がしかしチェイテ村がそういう外観でもある。

あえてそれに合わせたのだろうと二人は推測した。

それはさて置いて服自体のデザインもすばらしいし、公演当日のスタッフ衣装も兼ねているわけだから試着しないともいかないわけで。

マシュは赤ずきんの衣装を。

オルガマリーは魔女の衣装を手に取って着込んだ。

まるで採寸したかのように彼女たちの体格にあっていた。

無論、そう言う事を知る人間は自分自身か礼装などを作るダヴィンチくらいな物のはずだった。

ヴラドが知るわけもないはずなのだ。

この時、それに気づいて置けばと二人はすぐに後悔するすることとなる。

衣類を着替え終えた刹那。

 

 

―――――――――――カチリ

 

 

「え?」

「は?」

 

変な音がして二人とも唖然とする。

だが何も異常はなかった。

無かったのだ。

気のせいかと言う事にして二人はその音を脳の片隅のゴミ箱へと放り投げ。

更衣室をでる。

 

「ちょ、タツヤwww」

「先輩www なんですその恰好www」

「笑うなよ二人とも・・・・これが俺の衣装らしい」

 

更衣室を出てみれば。ジャックフロストの着ぐるみを着こんだ達哉がおり。

愛くるしい見た目とは裏腹に、達哉の体格に合わせているからジャックフロストの数倍のサイズ感となっている。

正直邪魔だったりするが。それがおかしくて二人とも噴き出してしまった次第であった。

 

「それは置いて置いて。二人ともよく似合っているぞ」

 

素材が良いし服の設計と無駄に凝った物が合わないはずないのである。

良く似合っていると達哉は言った。

 

「魔術師が魔女の格好をするのもあれだけどね」

「でも所長に会ってますよ」

「そう言ってくれるのはうれしいけど。魔術師が魔女の格好と言うのは滑稽と思ってね、でもマシュもよく似合っているわよ」

「そう言ってくれると―――――――――――」

 

―Cast off―

 

そうやって互いを賛美しあっている瞬間だった。

電子音鳴り響き。オルガマリーとマシュの衣類が弾け飛んだ。

達哉は呆然とする。

二人は固まっていた。

何故なら衣装が局所を隠すような形でしかないような痴女衣装へと変換されたのだからそうだろう。

所長は局所を隠す黒い前ばりと首から肩を覆う小さめのマントと言った風情である。

マシュに至っては毛でふさふさのマイクロビキニ、頭には猫耳のカチューシャと言った感じだ。

ハッキリ言って痴女である。

その事実を認識した時に。

 

「「キャァァアアアアアアアアアアアアア!!??」」

 

二人の叫びがチェイテ城に木霊し。

理不尽にも達哉の顔面に二人の見るなという意志が乗った右ストレートがめり込んだ。

着ぐるみのお陰でノーダメージではあったが。

予想の突かぬ場面故か男としての性ゆえかショックが大きく呆然としているほかなく。

そして振動。

 

「今度はなにが?!」

 

もう何が何だかわからない。

状況が急転に次ぐ急転だ。

へこんだ着ぐるみの頭部を達哉は元に戻しながら。

状況把握に努めるもののそれすら置いて落着音。

凄まじい音と共に連結音が城に響き。

 

「・・・なんだこれは」

 

外で作業していたシグルドも唖然となる。

寧ろ外にいた者たち全員が唖然としていた。

何故なら上空から突如振ってきたポエナリ城がチェイテ上層部に落下し食い込み連結したのである。

全く意味が分からない。

そしてその上空に映像が投影される。

 

『フハハハハハハ!! エリザ粒子と全世界のヴラドはドスケベと言う認識をもって我降臨!!! 故に現時刻をもってこの特異点は、このマーラヴラドが乗っ取ったぁ!!』

 

肌が緑色になり双眸を赤く輝かせるヴラドがそう宣言すると同時に。

民間人に貸し与えられていた仮装服が女性だけ吹っ飛び痴女服に変換され

状況は一転しパニック状態と相成ったわけである。

 

 

 

 

 

 

そして冒頭から10分後の現在、アウトレイジのヤクザみたいになっていた二人が弾切れになるのを見計らって。

達哉は何とか二人を宥め説得、一時、チェイテ城の会議室に戻って来ていた。

主要人物たちが全員集められていた。

 

「あのさぁ、達哉」

「なんだ?」

「あの二人止めなくていいの?」

「男の俺に止める権利があるとでも?」

「そうよねぇ・・・」

 

会議室の隅っこ。

唯一カルデアで被害にあった。オルガマリーとマシュが絶対零度の表情でカルデアから送られてきた武器の山を点検していた。

絶対に殺す、ぶち殺してやる。乙女の尊厳を汚しやがってと言う感じがありありと見て取れる。

そりゃ年頃の女の子が異性を前にキャストオフからの痴女衣装とくればそりゃ恨みマシマシと言う奴である。

 

「克哉さんは何か言うことは?」

「僕も達哉同様権利はないと断ずる、がしかし、マーラヴラドは見過ごせない、強制猥褻で現逮だ」

 

謎のヒロインXオルタの問いにそう怒りを込めて克哉は言った。

彼は天然こそ入っているし当初はパティシエを目指していたが警察官としての正義感は本物だ。

年頃のうら若き乙女が痴女服を強制的に着せられている上に特異点住人も被害を被っていると言えば見過ごすことはできない。

それに犯人はチェイテの上に乗っかる形で連結したポエナリ城上層部で待っているし、犯行宣言した上で自分が犯人であると自白しているのである。

十分に現行犯逮捕の範疇だ。

 

「ですが。ポエナリ城の攻略と同時にライヴの準備も進めなければなりません」

 

謎のヒロインXオルタはそういう。

既にポエナリ城には乗り込んでいるのだが。

 

『一定量のエリザ粒子が精製されなければ、この城の玉座の間につながる扉の数々は開かんぞォ!! フハハハハ!!』

 

一階の広間までは突破。

オルガマリー及びマシュの怒りの進撃である。

が先ほども言った通り、いかな攻撃でも破れぬ循環型魔力結界で先に進めず。

マーラヴラド曰くエリザ粒子が一定以上精製されなければどうやっても次へと行くことはできない。

であるなら、どうするか?

実に単純である。ライヴの準備を進めつつ、エリザベートのレッスンを進めることだ。

この特異点の粒子製造はエリザベートが行っているのだから当然ともいえる。

彼女のテンション上げ幅で生成量が上下するのだからそうするほかない。

 

「しかし、あの二人はどうする・・・」

 

負のオーラを噴射しながらカルデアから送られてきた銃火器の数々の整備点検をしている。

来ている服が服も合ってB級ホラーかガンアクションじみていて正直言って怖いというかシュールでもある。

 

「もうこの際放って置こう」

「君の同僚だろうに」

「兄さん、男が女の事情を完全に知るなんて無理だ。だから痴情の縺れとかあるわけだし、下手に突っ込むと飛び火確定だしな」

「確かに一理ある・・・」

 

克哉は達哉の言い分を認めた。

今の彼女たちに慰めの言葉なんてセクハラにしかならない。

下手に物を言って指さして言ってみれば。即座に鉄拳制裁だろう。

飛んでくるのがテクスチャ事ぶった切る空間破断の斬撃か或いは書文仕込みの極まりつつある鉄拳のどちらかだ。

達哉的にはどっちも嫌なのは真理と言う奴である。

と言うか男でさえ痴女衣装を着るの嫌なのに、着る羽目になった彼女たちの心境はいかばかりか。

ちなみに痴女服の上から服を着れば解決とはいかない。

着込んだ場合強制キャストオフが発動。

なら痴女服を脱げばいいと思われるが、風呂に入る、トイレに入る以外では着脱できない仕様だった。

これには二人も放送禁止スラングを天に向かって叫ぶほどだった。

 

「Arrrr・・・」

「ティアは変わりないのですね」

「彼女の衣装は予定にはなかったからな」

 

ティアはここに来てからのダサTの格好まんまだった。

元々謎のヒロインXオルタと同様に招かざる客故にである。

故に二人とも痴女衣装を回避できたわけだ。

 

「・・・ふーむ」

「えっくんどうした?」

「いえ、兄弟だからよく似ているなぁと思いまして」

 

謎のヒロインXオルタはそう言う。

ある意味、彼女は原作のジャンヌ・オルタと同じ経歴だ。

銀河を揺るがす理想のヴィランとして騎士王の遺伝子からクローニングされたデザインチルドレンだから。

だから本物の兄弟がどういう風に似ているのかが気になって観察していたのだ。

正義感とか責任感の持ち方が良く似ている。

でも克哉の方が大人の余裕やきちんとした物を持っていられるように感じれた。

だからと言って達哉が無責任と言う訳ではない、良くも悪くも抱え込むタイプに見える。

克哉も抱え込む方だが大人として割り切れる形である。

故に達哉には危うさを感じた。

それはさて置いて背負い込むタチは兄弟そっくりだなぁと謎のヒロインXオルタは思ったわけだ。

閑話休題。

 

「それはさて置いてだ。時間も時間だ。達哉、飲みに行かないか?」

「兄さん、俺未成年・・・」

「ここは日本の法律外だ。飲酒基準もカルデアでは低いときいている、郷に入っては郷に習えともいうし、こうして再会できたんだ。弟と飲むという僕の夢を叶えてくれよ」

「・・・色々吹っ切れたんだな、兄さんは」

「ああ、あんなことがあったからな、色々吹っ切れたさ」

 

達哉の吹っ切れたという言葉に色々吹っ切れたと苦笑交じりに克哉は言う。

あんなこと。ニャルラトホテプの陰謀、桐条財団襲撃やら色々だ。

色々合ったから夢にケリをつけ刑事の道に集中することにしたし喫煙も再開したのだ。

と言う訳で奇跡的再会を祝して飲むくらいは神様も許してくれるだろう。

と言うよりも天に座する神より、目の前の鬼女の方が怖いのが真理であるからして。

時間も時間だしと酒場に折角だから謎のヒロインXオルタとティアを伴って四人で飲みに行くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ずみませんでしだ!!」」

 

酒場前。顔面をボコボコにされた赤毛の長髪の糸目の男と紫髪をオールバックにした美丈夫が正座させられ。

達哉たち四人に謝っていた。

事の発端は実に簡単だ。

パニックも一時的だった。エリザ粒子の影響か住人も乗りがいいらしい。

達哉と克哉としては若干目のやりどころに困る街歩きになってしまったが。

今更の話しである。と言う訳で事前にエリザベートに飲むなら此処と言われていた店の前に到着したのは良いが。

 

「我が王、我が王がなぜここに、自力で脱出を!? 我が王ォォオオオオオオオオ!!(ハルト並感)」

 

と赤毛ロング糸目に謎のヒロインXオルタが絡まれ。

 

「ヘイそこの彼女、私と茶でもしない?! するよね!? しようね!?」

 

ティアが紫髪オールバックに絡まれた。

二人とも酷く酒臭かった。

恐らく数m離れても臭ってくるほどの酒臭さだった。

ドンだけ飲んだんだという話であるが。今回ばかりは相手が悪いというほかない。

サーヴァントユニヴァース最高のヴィランとして設計された謎のヒロインXオルタと某何某神だったティア相手にナンパするという愚行がどれほど恐ろしいものか。

ティアが本来の力を使えばこの二人を捻じ伏せられる。

といっても力を失っている以上それはない。

謎のヒロインXオルタもまた事を荒立てるつもりはなく。

力で抑えようとはしなかったし、自分は自分であると定義しているので間違われ様が気にはしていなかった。

だが二人は答えようとしない二人に少し力を見せてやるつもりで獲物をだした。

その刹那である。

 

「アポロ」

「ヒューペリオン」

 

二人の眼中に入っていなかった達哉と克哉が同時に動く。

歴代でもトップクラスのペルソナ使いだ。

神代の英雄ともやり合える理不尽に指先を掛けている克哉とサーヴァントたちの教導によって片足突っ込んでいる達哉が動けばどうなるか?

答えは至極単純である。

二人とも高名な英霊なのだが酒が判断力を鈍らせ達哉と克哉の攻撃に気付けなかった。

結果、ボコられた。

達哉としては無理に女性を連れて行くなど男として見過ごす気にはなれないし。

克哉としては犯罪が目の前で行われているのである。達哉と同じ理由と犯罪と言う事もあって躊躇する気はなかった。

結果、二人の取り出した獲物は真価を発揮することなく。

アポロとヒューペリオンの拳が顔面に突き刺さり。

どんもりうって仰向けに倒れたところで。達哉の孫六が紫髪オールバックの首筋に添えられ。

克哉のニューナンブが銃弾を吐き出す寸前までトリガーが引き絞られ銃口は赤毛ロングヘヤーの糸目の額に標準されていた。

これ以上は拙いとティアは後ろから達哉を抱きしめて止めて。

謎のヒロインXオルタは克哉の肩を背伸びしつつ両手で抑え止める。

それでため息吐きながら二人とも武器とペルソナを収め。

 

「正座」

 

克哉がドス効いた声で二人にそう言って現在に至ると言う訳であった。

 

「な・・・んで・・・・そんなに飲んだ・・・の?」

 

拙い言葉でティアが問う。

なぜこんなに悪酔いしているのかと。

彼女からみて不思議なことだから頑張って発音したのだ。

 

「簡単だよティア、要するに嫌なことあったか自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしていたんだろう」

「Ar」

「そう言う物さ。俺もまぁ酒の味を知ってるからなぁ・・・。自分の馬鹿さ加減を知ってしまうと酒に逃げたくなる気分はわかるよ」

「酒の味が分かるって達哉、おまえ飲酒してたのか? こちら側の達哉と一緒のように」

「いやいや、酒の味を知ったのはこの世界に来てからだよ兄さん! 向こう側では一滴も飲んではいない、こっちに来てからはカルデアの国際法が適用化だったから仕事で・・・」

「そうかそうならいい」

 

話しがそれて来たなと克哉と達哉は正座させている二人を見る。

二人とも何故か泣いていた。

いい年こいたサーヴァントが酔っぱらってセクハラまがいのナンパして人間にボコられ。

何故酔っていたのか成人寸前の青年に言い当てられるという情けなさ全開なシチュエーションである。

情けなくなって泣きたくなる気持ちは分からんでもないが、公衆の面前で泣き始めれば無様極まるというものだ。

 

「ここでは拙いです。目立ちすぎます。事情は店内の隅っこの席でも借りて聞きましょうよ。克哉さん」

「えっくんの言う通りだな、二人とも泣いてないで立て、いい大人なんだから、話くらいは聞くぞ」

 

そう言う訳で六人は酒場に入った。

そのまま隅の席を借り酒とつまみを注文する

 

「僕はブラントンのブラックをロックで、達哉は何を飲む?」

「俺は・・・まぁビールで良いか」

「分かったえっくんとティアさんは何にする?」

「私はカルーアミルクとイチゴタルトで」

「Arrrr」

 

達哉以外は度数高めの酒を頼んだ。

ティアは注文票を指さしてスカイ・アンド・シーとチーズを頼む。

 

「そこの二人には酔い覚まし用の水をジョッキで」

 

酔っ払い二人には酒は与えず水だった。

克哉的にも酔っ払い二人に奢る気はなかったし。

世は無常なのである

 

「それで君たち名前は?」

「ランスロットだ・・・」

「トリスタンです」

「・・・二人とも高名な円卓騎士ですね、悪い意味で」

「アーサー王伝説は王様の剣しか知らないからな、達哉は?」

「仕事上で古今東西の英雄の勉強はしているが・・・神話だけで創作物までは押さえていないよ」

「王の伝説は創作物では!!」

「今はそんなことはどうでもいい。君たち自分たちの立場を理解しているのか?」

 

アーサー王伝説は創作物ではないと反論しかける二人だがそれを克哉が鋭くにらみつけて静止する。

世界が違うのだ。達哉たちの住んでいた世界では創作物でも。

此方では実際にあったということもあるだろう。だが今はそこを論じる場合ではない。

如何に高名な騎士とはいえ、克哉にとっては二人そろって犯罪者でしかないのだから。

 

「君たちは我々のツレに軽犯罪を行った。現代日本だったら拘留か科料支払い、そこに条例違反も加われば一年以下の懲役または100万円以下の罰金だぞ」

「いや、克哉さんたちが過剰防衛で相殺ってパターンでは?」

「話を広げるなえっくん、あくまでも例えだ。殴って事情を聴いてチャラと言いたいんだ僕は」

 

あくまでもたとえ話。懲役だの罰金だの殴って事情を聴いてチャラだ。

こんな事でエリザベートの手を煩わせるのも阿呆らしいし。

もっとも現代日本でやったなら、克哉は躊躇なく拘留所に叩き込んでいただろうが。

 

「ランスロット・・・ランスロット・・・」

「Arrrr?」

「いやどこかで聞いたことのある名だと思ったんだ・・・。そう言えばアンタだ。一特異点でジャンヌ・オルタと一緒にいたやつだよな?」

「――――――」

 

達哉の問いにランスロットは目を泳がせる。

まえにも述べた通りペルソナ使いの居る場所のサーヴァントの記憶は座に記憶として継承され。

同じペルソナ使いの居る場所には記憶としてしっかり覚えている。

つまり、第一のやらかしをきっちりと覚えているわけで。

 

「達哉さん、第一でなにがあったかは知りませんが・・・話が大きくなるので」

「そうだな」

「まて達哉にえっくん、とするとこいつは人理焼却の片棒を担いだ犯罪者じゃないか、現捕だ!! 現捕!!」

「兄さん、俺は気にしちゃいないし現状黒幕は別だ!?」

「それでも共謀罪にあたる!!」

「ですから、今は横に置いて置いて、話を聞きましょう! 克哉さんの悪い癖ですよ!!」

「ううむ・・・そうなのか?」

「そうですよ、この天然」

「えっくん!?」

 

話しが盛大に横滑りしつつドリフト決めそうだったので何とか謎のヒロインXオルタが軌道修正を敢行。

第一の事も相まってヤバいことになりそうであったが何とか話を軌道修正することに成功したわけだが。

何故、悪酔いをしていたのかと言う理由を聞けば。

お前ら馬鹿じゃねーのと言う話に移る。

トリスタンは生前、王の元を去る際に「王は人の心がわからない」と吐き捨てて場を後にしたようだが。

あとになって判明する事実を突きつけられ引き摺りまくり。

なぜあのようなことを言ったのかと現在進行形で後悔中。

ランスロットはギネヴィアとの不貞騒動やら逃走劇騒動やらを起こしまくり結果円卓を割ったことを後悔中とのことだった。

これには憤怒の形相の克哉である。

 

「つまりあれだな。いい大人がこぞって理想の王を主人に押し付けたげく自分たちは好き勝手放題やって自爆したあげく責任を全部主人におっ被せたと・・・ いい年こいた大人が何をやっているんだ」

「「ゲファ!?」」

「円卓会議ってアレですよね、民主主義の会議みたいなものでしょうに、平等に意見を述べる場なのに、なぜ王を事前にいさめず、妥協案も出さなかったんですか。あんたらの頭には1か0しかないんですか?」

「「グフォ!?」」

「少し考えれば王も人間だ非情な決断を下さなければならないこともある。逆もまた然りだ部下が王を止めなければならないこともあっただろうに、王を絶対視し過ぎだ。上司をフォローするのも部下の仕事だし、聞いた限り君たちの王も意見を聞き入れないなんて器量の狭い人じゃ無かったろうに、だからいい大人なんだし状況が状況なんだからよく考えて動くべきだ。なのにこれは達哉の言う通り自分勝手すぎる」

「「メゴシャ!?」」

「Arrrrrrr!!(特別意訳、もう止めて!! 二人の残りライフはゼロよ!!)」

 

達哉の身もふたもない例えに吐血。

謎のヒロインXオルタの言葉のアッパーカットに仰け反り。

克哉のよく考えて動くべきだったという総括と言う名の言葉の右ストレートにノックダウン。

さらに駄目押しが三人からさらにでそうだったのでティアが静止に入る。

 

「「ティア殿・・・」」

「・・・」

 

ティアは自分たちの味方かと歓喜極まった二人だが。

ティアの特徴的な瞳を見て二人は固まった。

なぜならティアの瞳は三角コーナーのネットを見るような目である。

単刀直入的に言うと汚物の入ったネットを処分するときの主婦の眼であった。

それだけ自分勝手なことをしたのだ。

達哉は自分がやったこともあるからまだマイルドだが、他の二人は容赦なし。

フォローに入ったティアも敵に回ったとくれば四面楚歌だ。

 

「我々はどうすればよかったのですか」

「考えて優先順位ちゃんとつけて行動しろ。王が大事なら詰め腹切る覚悟で止めに入るのも役目だろうに。結果王は踏み外したそれだけだ。それだけなんだよ。ランスロットにトリスタン。考えることを放棄して直視すべき現実から目を背け。結果起きたことなんだ」

 

達哉は自分の罰を踏まえた上でそう断言した。

直視すべきことを放棄した。聞くことを放棄した。言うべきことを言わなかった。

結果破局を迎える。

達哉と同じように。自分もどこかで寂しさをあの時吐露できていれば。向こう側の騒動も無かった筈だからだ。

 

「目を背けるな、背ければ背ける程、影は付け入って来るぞ」

 

そして達哉はアーサー王伝説の裏で奴が蠢いているのを感じ取った。

余りにもタイミングが良すぎるのである。人の思考を読み切り梯子を外し、出会わせるべく相手を出会わせる。

全てが負の側面で噛み合うこの感覚は達哉は無論のこと克哉も味わったことだから良く分かると言う物だ。

つまりアーサー王伝説の英雄譚や悲劇がフィレモンとニャルラトホテプの演出によるものだろう。

それは二人も嫌と言うほど分かっていた。

投影されたカムランの丘でアルトリアを嘲笑する嘗て彼女の姉だった者。

発狂した末に影に取り込まれ化身とかしたモルガンの笑みが忘れられないから。

 

「達哉殿は「トリスタン!!」」

 

達哉もまた王と同じなのかとトリスタンは聞こうとして。

ランスロットが静止する。

彼も見たのだ。ジャンヌ・オルタの受肉の燃料とされる中で。彼の慟哭を、罪と罰を。

故に静止する。

これ以上は克哉の怒りを買うし、自分たちに聞く権利はないと否応でも分からされたからだ。

民衆と騎士と言う違いはあれど大多数に食い物にされ世界の為に生贄にされた達哉とアルトリアは似すぎていたから。

故にその姿似をもって分からぬと嘯けば木偶にすら劣る物に成り果ててしまうからである。

違いは当の本人が生きているか死んでいるかの違いにすぎぬが。

此処まで来て分からぬとほざく方が阿呆なのだ。

自分たちのやったことも分かったようだしと克哉も溜息をもらす。

それでもティアと謎のヒロインXオルタの軽蔑の視線は止まなかった。

 

「すまぬ達哉殿、克哉殿、込み入った事情を聞いてしまって」

「気にしてないよ、これは俺が背負うべきものだ。俺がやってしまい、やらかした事なんだ。アンタたちが気にすることじゃない」

 

謝罪に達哉はそう答える。

自分が選んでやらかした事なのだ。

何をどう取り繕おうと、取り戻せないのだから。

だから目を背けず背負う、一生苦しむことになるのだとしても目を背けない決意と共に。

故にトリスタンとランスロットはこう思う。

 

―なぜ今なのだ。あのキャメロットの地に達哉が来てくれれば―と

 

そう言うこともあったかもしれない。

だが達哉は来ず、今になってカルデアに来てしまった。

もしもはありえないのである。

 

「我々もそうありたいものです」

 

トリスタンがしんみりと閉める

なぜお前なんだというのは無粋だ。

こう言うのは当事者でなければ分からぬがゆえにだ。

 

「Arrrr」

「次にその王様に会ったときは土下座と説得ですね」

「えっくんの言うとおりだ。まず謝った方がいい」

 

兎にも角にも謝罪しないと円卓勢は拗らせる故にティアと謎のヒロインXオルタは釘刺しを行い。

それを克哉が楔として打ち込む。

 

「そうでしょうか?」

「座は世界を跨ぐんだろう? だったら出会う機会もあるだろうし、その時はそうすればいい、そこから新たに関係を始めるのも悪くはないはずだ。違うか?」

「いいえ、違いませんね」

「そうだなトリスタン卿」

 

終わってしまったものは二度と戻ってこないのが現実にして真理。

故にそこからどうするかが問題なのだ。

だから謝って。拗らせているようなら説得して、そうでないようなら思い出にでもして新しい切っ掛けとしてやっていく他ないのである。

 

「すっかり酔いがさめてしまったな」

「なら我々も飲みなおすとしますか、ランスロット卿?」

「そうだな」

「二人ともそれは良いが、悪酔いするまでは止めてくれよ、止める僕らの身にもなってくれたまえ」

「ははは、そこまでは飲みませんとも、克哉殿」

「殿はいらない、克哉でいいよ」

「では自分の事はランスロットで」

「ランスロットに同じくトリスタンで結構ですよ、達哉殿、克哉」

「俺も兄さんと同じく殿はいらないぞ」

「ならこの特異点での出会いとなると思いますので達哉と呼ばせてもらいます」

 

そんなこんなで打ち解けた六人だが。

 

「あのーお客さま」

「なんだい?」

 

ウェイトレスが頼んでいた酒とつまみを持ってくると同時に困り顔で訪ねてくる。

 

「席にこの席しか空きがないので二名様ほど相席願いたいのですが、構いませんか?」

「いいよ僕は別に他の人は?」

 

ウェイトレスことマタ・ハリの頼み事は相席願いだった。

対応した克哉の問いに全員が問題ないと返す。

 

「問題ないみたいです」

「ありがとうございます~」

 

そう言って満面の笑みのマタ・ハリが引き返していき数十秒後。

 

「「「「「「「「-----------」」」」」」」」

 

また場が重い空気に包まれた。

やってきたのはシグルドとブリュンヒルデ夫妻である。

達哉に思いっきり後ろめたさがある為、場の空気が再度降下した

なんでこうなるんだ。と言うか英霊は拗らせていないといけないのかと、克哉は天に向かって絶叫したくなった。

どうすんだよこの空気とティアはあわあわとしている。

達哉はもう慣れたのか溜息吐くばかりだ。

謎のヒロインXオルタは本当に自分は恵まれていると思った。

彼女の出自は言わずもかな、だが親友がいた。

良き理解者たちに恵まれた。黒騎士君もいたし、こうして慕うに値する克哉とも出会えた。

出会いに恵まれていた。生まれてから理想のヴィランにと呪詛と訓練を積まされたが。

その出会いによって破滅ではなく人間として生きていけることに。どこかの神様に謎のヒロインXオルタは感謝した。

だが正直この天丼展開はどうにかして欲しい。

普段空気読まないランスロットまで沈黙しているではないか。

 

(達哉、あからさまに二人とも君を見て気落ちしているがなにがあった?)

(第二特異点でもしもの幻想に取り込まれてな・・・ そこの二人を除いて脱出したんだが、そのことを気にしているらしい・・・)

(それは・・・気にしすぎじゃないか?)

(状況が状況だったのと。ニャルラトホテプに突かれてこの様だよ)

(改善は?)

(試みようとしたんだが向こうから避けてるんだ。こっちも施設修繕やら訓練やらリソース集めでこっちも暇がない)

(・・・人類最後の瀬戸際だからな。それはしょうがないか・・・)

 

ぶっちゃけ改善しようとは試みたのだが。達哉たちにはその余裕がなかった。

しようとすればこの特異点である。

どうしようと言うのだという話であるのは間違いない。

 

(ならこれは機会だ。余裕もないのだったら今の内に蟠りを解決しておけ)

(わかっているよ兄さん)

 

そうこれはある意味蟠りを解決できるチャンスでもある。

早いうちに解決しておかなければ、それこその影に刺されかねないがゆえにだ。

達哉は意を決し二人に聞いてみる。

 

「なぁ二人とも、奴に何を見せられたんだ?」

 

まごついても仕方がない。

故に単刀直入に聞く。

数瞬の沈黙の後。シグルドが口を開いた。

効けば案の定だったのである。

 

「奴も俺を出汁にしてカルデアに精神攻撃するのやめてくれないかなぁ・・・」

「とことん出汁にされているな」

「できなかった人と出来た人を比較させることによって自分を矮小化させ自己嫌悪を発生させる、シンプルですが理にかなった手口ですね」

 

達哉の過去と行いを出汁にして全否定。

ここ最近のニャルラトホテプが使う手ではあるし使い古されている常套手段であるが。

使い古されている分。効果は保証されているということだ。

こと英霊には効果覿面だろう。

大概が己に誇りを何かしらの形で抱いているのだから。

それを粉砕し、ペルソナと現状の身体能力抜けば一般人の達哉が出来て自分たちが出来なかったという事実を突きつければ。

この策は成るのである。

 

「すまない・・・マスター当方たちは・・・」

「あー気にしないでくれよ・・・。現実にみんな生きているじゃないか」

「そうだが・・・」

「達哉の言う通りだ。気にしないというのはアレだが事実から目を背け歩みを止めるのはナンセンスだ。失敗は只受け入れて次の糧にすればいい、それが大人の特権だ」

「「グフォ!?」」

「克哉さん、二人に流れ弾が直撃してます」

 

達哉の言葉のフォローをかぶせる克哉である年季の入った大人の言葉だった。

克哉とて何もかにも成功させてきた人間ではない。年相応に失敗もしてきたのである。

無論それができず自分の考えた騎士道なんてものに邁進してきたトリスタンとランスロットに流れ弾となって直撃するが謎のヒロインXオルタの指摘は全員が無視。

指摘した張本人も棒読み気味に言っているからどうしようもない。

円卓と言うのは自分の考えた騎士道に邁進してある意味好き勝手やった連中だ。

太陽の騎士も月での行いでそれが露呈しているのだからさもありなんと言う奴である。

 

「ですが達哉さんはなぜ。あの黄金牢を切ることが出来たのですか? 言っては悪いですが・・・一番過去を取り戻したいのはアナタのはずです」

「確かにブリュンヒルデの言う通りかもしれない。だが今を俺は生きている。そして戦っているし背負うべきものを背負っている、それに誓ったんだ。もう犯した罪にも自分にも背を向けないと。だからあの光景を受け入れて眠ってしまったら誓いに背くことになる」

 

ブリュンヒルデの言葉に力強くそう達哉は返した。

あの時誓ったのだ。もう背を向けたりはしない自分にも犯した罪にも。

だからあの光景は自分がそうであって欲しかったまやかし、あるいはどこか遠くの世界のIFであり。

自分がいる現状ではないのだと。故に黄金牢に身を預けることは自分自身に科した罪や自分からも背を向けることになる。

もう帰る世界はないがこの世界で生きたい、人理焼却を乗り越えて明日の喜びを皆と分かち合うという自身の欲求に従っただけである。

 

「それに俺たちは心の海で繋がっている。いつでも会えるさ」

 

そして最後の強がり。

生きている限り心の海で繋がっているのだから。いつでも会えると強がる

それを眩しい物を見るかのようにシグルドとブリュンヒルデは見ていた。

 

「そして生きていれば、こういう事もある、兄さんとも奇跡的に再会できたわけだしな」

「だな、世の中悪いことだらけではない、座は世界を跨ぐといえど、僕と達哉の再会のようなこともあるだろう。だから君たちは諦めちゃだめだ。現に今こうして再び出会えているのだからね」

「そうだな・・・」

「そうですね・・・」

 

座は世界を跨ぐ、悪い出会いもあるだろう。

がしかしこういう出会いもあるのだから、続けていけばいいと克哉は言う。

それに二人は頷いた。

失敗した時は糧にすればいい次に生かすため。

成功すれば二人で抱き合って抱擁すればいい。

それだけの話しなのだ。チャンスはまだあると二人は思うし。

続ける以上、自分たちもまたマスターと歩み成長しなければならないのだと思い知らされる。

 

「たとえ死が二人を分かつともという奴だ。俺たちは次があるその時に失敗しなければいい」

「了解したマイマスター」

「了承しましたマイマスター」

 

そして此処に真の主従関係は成る。

二人は覚悟を決めたのだ。

今の言葉で、マスターを守るのだと。

三人とも戦う術には優れている。だが心がそうではないのだというのは理解しているから。

次こそ失敗しないためにマスターの剣となり盾となろうと決意する。

この素晴らしき少年少女たちを守るのだと。

自分たちに覚悟と心意気を与えてくれた代わりに。

 

「さて辛気臭い話はここまでにして飲もう。僕の夢の一つだったんだ達哉と飲むのが」

「兄さん、それはそっちの俺にもしてやってくれよ」

「ああ無論さ」

 

そして奇跡的再会を肴に飲むことを宣言する。

夢の一つだった。一足早い段階で弟と飲むことが出来るのだから。これほどの酒の席も無いとして。

こうして飲み始まったわけだが。

問題はまだ解決していない。

現在もなお進行中なのであるということを達哉と克哉も忘れていた。

と言うかこの場にいた全員が忘れていた。

だがしかしこういう時間もまた必要なのだろうと時間は進んで行って戻ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本作ではたっちゃんはN―N マシュはNーL 所長はN―Cという属性設定です。
中庸 光 闇と言うバランスですね。
三人いるからこそバランスが保たれているし属性の極致に振り切れていない感覚です。
特にたっちゃんは重要存在です。彼が居なくなったらヒロイン二人とも振り切れますので(悪い方向に)
その結果がやれるとすれば本作第二部に繋がっていたりします。
まぁ作者の体力的に1.5部と2部は無理でしょうが。

と言う訳でエロ衣装事件ですた。
所長は月天女服(レインVerのエロゲー版) マシュはデンジャラスビーストとなっております。
まぁ原作でマシュのエロ衣装は完成されていたからね。
所長は闇繋がりでシルヴァリオサーガのレインの月天女服をチョイスしました。
両方共に前張り状のエロ衣装なんで。
風呂とかトイレ以外は脱げぬマーラ様渾身の一作です。
上着を着こむと強制的に上着がキャストオフする使用。
なお魔王が憑依したヴラドが作っただけあって礼装としては超性能だったりする。

そしてナニスロと鳥公は合流、二人にもこのトンチキ特異点に巻き込んで。
第六の円卓割りを手伝ってもらうというニャル采配です。
ニャルにとって円卓は割るもの(白目)


そしてたっちゃん シグルド、ブリュンヒルデのコミュ。
これで二人は吹っ切れました。
覚悟も完了、故に第四でシグルドとブリュンヒルデは・・・

さて第一の事件勃発、降ってくるポエナリ城によってチェイテポエナリになりましたが。
まだ降って来るものもあるので名称増えると思います。

次回の更新も遅れると思います。



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05 開演に向けての一週間

えーい、もうわかんねぇから、てきとうでいいか!!

ピューと吹く!ジャガーより抜粋


さて良いことがあれば悪いことも世の中重なると言う物だった。

皆でほろ酔い気分になって解散とはいかなかった。

 

「実は」

「帰るところが」

「「ないのです」」

 

ランスロット&トリスタン、はぐれサーヴァントとして帰る場所がなく。

仕方がなくだが合流させることにした。

トリスタンは音楽関係にも精通している、最も琴だから音程調律などの機材回り担当となった。

ランスロットもそつなくこなせる男である、伊達にアーサー王伝説最強格の騎士にしてプレイボーイではないのだ。

平時にもてるだけの真摯さがあるし、故にそつなくこなせる。

そして全員が城に帰ったわけだが。

 

「へぇじゃあなに? 私達が苦労してエリザベートのレッスンを強行させている時にアンタらは楽しく飲んでいたわけだ―――――――――――――。 ふざけんな!! バカヤロウ!! コノヤロウyつjykytktgしくkyなんかなjdhrfjk。lhcきlであってhbヴlkyych;lなんうktyくjl。いjぃ;おういお;c!!」

((((((アカン))))))

 

帰って来て待ち構えていたのはオルガマリーだった。

負のオーラマシマシと言う奴である。ちなみに両目の焦点が合っておらず、罵倒も聞き取れないレベルで無茶苦茶になっていた。

言語崩壊レベルはティアですら分からない異界の物となっている。

これには痴情心MAXのマシュも我に返るほどだった。

つまるところ、キリシュタリア&ムニエル、ボーボボ全巻殴打事件と同じ時と同じ切れ方をしていた。

しかも今彼女が手に持っているのは対サーヴァント及び魔術師様に魔改造されたガリルエース52である。

あの時よりも拙いのは銃を握りしめているいるということだ

 

「それに仕事サボって飲みに行って下半身が本体なサーヴァント連れてきてるっていうのはどういうことだ? このヤロウ!?」

「ガハ!?」

「達哉ァ――――――!?」

 

達哉の頬をオルガマリーはガリルエース52の銃床で殴打。

普通の人間なら歯が折れるし、顎も骨折か粉砕だ。

レベル差もあろうが、物理無効ペルソナを装備していた為、ほぼ無傷で済んだが吹っ飛ばされ、克哉が悲鳴を上げる。

 

「やめないか!! 所長!! これ以上は君の乙女の尊厳にかかわる!!」

「うるせい!! このヤロウ!! gjつyぉいくっよ;いおうyちぅこjp::¥k!! つぅーか、腕が胸にあたってんだよ!!」

「グフォ!?」

 

そしていつの間にやら呼び出されていたエミヤが所長を羽交い絞めにして止めるが。

その肘が所長の前張りだけの御胸に直撃、結果やわっこい感触を感じた刹那にセクハラ認定され。

ペルソナまで使われ強引に払われ。ストックでぶん殴られ吹っ飛ばされた。

ペルソナ使いがガチキレで見境なく暴れまわっているのである。

達哉が暴走するよりよりはマシだろうが、レベルが60後半台のオルガマリーは今や普通の英霊にも匹敵しつつある。

少なくともマリー・アントワネットでは手が付けられず、筋力の低く日ごろの訓練で手札を知られているエミヤでは止めようがない。

そもそも此処まで切れているのは珍しかったりする。

カルデア時代は、まぁヒステリックに鬱方面に切れることは多々あったが。

こうも直情的に切れたのは先ほども言った通りボーボボの件くらいな物だが。

今回は様々な要因が重なった。第一での人材損耗の責任、第二で親友を見捨てたという負の感情。そして達哉やマシュに縋りついて何とか自己を保つという後ろめたさ。

これで一杯一杯だったというのに。

追撃でトンチンカンなマーラヴラドによるドスケベ衣装強制装着である。

そこでついに暴発したのだ。

マシュも同様ではあるが先にオルガマリーが切れたのでかえって冷静になれたのである。

 

「ど、どうしましょう?」

「マシュ、全員で取り押さえるしかない」

 

マシュの言葉に頬を摩りながら達哉が立ち上がりつつ言う。

オルガマリーの理性は焼き切れている、これでは言葉を話す以前の問題だ。

彼女を無傷で鎮圧する。

個別に行けば上記の通りだ。ならば数の暴力で取り押さえるのが最善手であると述べる。

故に全員で行くしかないと達哉は言うが、それを右手で克哉が制止した。

 

「僕と達哉でどうにかしよう」

「できるの?」

「ああ、出来るとも。達哉、もし彼女がペルソナを出して来たらノヴァサイザーでペルソナを止めてくれ。あとは僕がどうにかしよう」

「了解」

 

克哉は自分と達哉でどうにかできるという。

エリザベートの心配をよそに、達哉は克哉のヒューペリオンの固有スキルの事を思い出す。

確かに通常戦闘では使いにくいが。

相手の命を奪わない制圧戦では優秀なスキルだからだ。

それを思い出し、達哉は克哉の言葉に了承する。

 

「やるかゴルァ!! シュレディン「ノヴァサイザー」

 

オルガマリーが叫びヴォイドザッパーを宿したシュレディンガーを呼び出すと同時に無慈悲なノヴァサイザーによってアポロでシュレディンガーを拘束。

そして背後から足払いを決めてオルガマリーを仰向けに倒すと同時に。

 

「ジャスティスショット!!」

 

ヒューペリオンの固有スキルを叩き込む。

ジャスティスショットは相手を瀕死にするスキルだ、ダメージが超過しても必ず相手を瀕死にする。

いわば絶対相手を非殺傷で鎮圧できるスキルと言っても過言ではない。

質量の大きい相手には無意味だが。

この場合同じペルソナ使いということとLv差も相まって確実に鎮圧できるのだ。

 

「グフォ!?」

 

オルガマリーが呻き声を上げて口から泡吹きつつ白目になって倒れて鎮圧完了。

 

「一応医務室に運びなさい」

 

エリザベートがそれを見届け配下の騎士に溜息交じりに命令を出して搬送させた。

 

「よほど来ているみたいだな」

「そりゃ、兄さん、特殊性癖者でもないとあの格好は堪えるって」

「わかっている。マシュくん、君は大丈夫かね?」

「現在進行形で超絶恥ずかしいですが、ああも怒っている所長を見たら、一周回って逆に冷静になりましたよ」

「それならそれで何より」

 

もう状況的に溜息しか出ない。

今日はとにかく解散となったのだが。

 

「マシュ殿」

「? なんです?」

 

ランスロットがマシュに声をかけた。

またセクハラまがいのナンパかと誰もが思ったが。

ランスロットの難問を前にした学生のような表情がそれはちがうと告げている?

 

「どこかで会ったことがありますか?」

「いえないですね」

「そうですか・・・うーむ」

「どうかしましたか?」

「いえ以前に一度会ったことがあるような気もすれば無いような気もするという、アナタを見ているとそういう不思議な気持ちにさせられるものでして」

「そうですか」

 

ランスロットは不思議な気持ちを味わっていった。

出会っていない感覚と出会っていた感覚。両方味わうことになるとは思っていなかったのである。

そう言われても当のマシュは困惑気味に生返事を返すことしかできないわけで。

 

「まぁそれはそれとして。マシュ殿、その衣装、良く似「フン!!」ボヘミア!?」

 

そしてそれはそれとして、衣装がよく似合っているとランスロットが余計な一言を言おうとした瞬間。

書文とアマネ仕込みの死角に入り込む歩法からのそれはもう見事な、書文が見ていれば「技一つ仕上がったか!!」と驚嘆するでき前の崩拳を瞬時に叩き込み。

ランスロットを吹っ飛ばし壁にめり込ませた。

エリザ粒子というギャグ補正が無ければ退場物の威力である。

 

「私も人の事言えた義理ではありませんが。ランスロット卿、一言多すぎますよ」

 

ポロロン♪と自らの琴兼弓を引きながらトリスタンはボヤいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日から皆での大仕事が始まる。

まずセッションでのすり合わせだった。

これが思いのほか問題だったのである。

 

「――――――――♪」

 

例えばそう、幾らサーヴァント補正があり生前より強化されているエリザベートであるが。

その才能は本物だった。

一億人に一人とされる声質、運動選手並みの肺気量、古典音楽家並の絶対音感。

個々にすれば誰かは持っている、されどすべてを持っている人物は歴史においても数えるほどしかいない。

いや加護有りとかの話になれば数十人とか種族違いとなれば別の話だが。

現状、人類の究極系に指を掛けているのが彼女である。

そんな彼女が歌下手と言うのは心理的問題と歌唱表現の問題。

いくら優れた物をもってい居ても使い方を間違ったんじゃ話にならんと言う話である。

所謂、野球の技術をサッカーで使っているような物であった。

あと心理的問題も絡んでくる。

歌も芸術の一つ、自分自身を出しつつも他者へと共感させる術を持っておらず持とうともしなかった。

さらに言えばストレスによるストレス解消のカラオケボックスで酔っぱらって歌うが如き痴歌をすばらしいと思い込んでいた美的センスのズレも致命的だった。

だから巧いのに下手という拗れた物になっていたのである。

だが今は違う。霊基統合を果たし、己を受け入れたことによって。前述の才能をいかんなく発揮できるようになってきたのである。

さらにそこに熟練の歌唱技術も身に着けようとしている。

確かに才能と言う点ではサリエリは天才アマデウスには勝てないが。教育者としての軍配はサリエリの方に軍配が上がる。

つまりサリエリというアマデウスの天才とも呼べる曲を余すことなく伝えることのできる教育者の手によって彼女は飛躍したのだ。

逆に言えば伴奏担当を行う者たちにとっては堪った物ではない。

天才を知り尽くし天才が何たるかを知るサリエリなら兎にも角にも、趣味の範疇&今始めたばっかの連中が彼女の歌についていくのは苦痛の伴う作業だった。

 

「はい。駄目ですね」

 

外野としてサブ教導員として付いていたトリスタンが待ったをかける。

達哉と克哉、さらにはクーフーリンにティア、謎のヒロインXオルタが付いていけず不協和音になる寸前で中断を掛ける。

達哉も克哉も息が荒い、指先がしびれる。

 

「あれ? また音痴になってった?」

「いえ、エリザベート殿には問題がありませんよ。克哉と達哉に問題が起きましてね」

「「つ、着いていけない・・・」」

「もうそろそろセッションも20曲目です、少し休憩を挟みましょう」

 

そうかれこれ20曲をセッションしてきたのだ。

達哉も克哉もその道に対しては凡人である趣味の範疇でよくこうプロ集団についてきたものがあるし。

ティアも謎のヒロインXオルタも光るものはあるが、まだ素人も良い所、故によくついてこれる。

サリエリは本職だ。かの天才アマデウスとかち合っている別種の天才であるし熟練の技術がありついていけている。

そしてクーフーリン、お前は何なんだと全員が言いたくなる物だった。

そりゃもう全員が一定の努力をしている中、半日でジョン・ボーナムの技まで披露し始めた。

本当にケルト版ヘラクレスは才能お化けである。

現代音楽に半日で追いつきつつあった。

もっとも本人からすれば「俺ァまだ。ジョン・ボーナムにおよばねぇよ」とのこと。

半日で世界の天才ドラマーの一角に追いつける方が怖いまであるのだが。

そこらへんズレているなと思う次第であった。

これが一日目の出来事である。

 

 

二日目。

ダンスレッスンである。

達哉はトリスタンとサリエリ監修の元ギター練習、ティアはバックコーラス後に合流予定ではあるが克哉と謎のヒロインXオルタはは単独で銀河人権帝国の調査で居ない。

そして別室にてパフォーマンス練習をしているのである。

そのパフォーマンスレッスンが苛烈を極めていた。

 

「1、2、3、ターン、1、2、3、ポージング、一拍遅い!! 最初からもう一度!!」

 

宗矩の失喝が激となって飛ぶ。

曲を歌いながらダンスパフォーマンスは呼吸のタイミングが難しく。

どうしても一泊遅れてしまう。

スッ転んだエリザベートは文句を言わず立ち上がり。

宗矩は曲をリセットし最初からまず自分が手本となって教え。

次にエリザベートが実践する形となっていた。

宗矩は完璧に歌って踊りながらをこなしていた。

歌のLvはエリザベートよりも段違いに低いが。それでもそれは才能と鍛錬の差である。

負荷は同等なのだ。

それでいてダンスのキレはエリザベートよりニ、三枚上を行くのだからエリザベートも文句は言えない。

上は上で学ぶことがあるのならグチグチ文句を垂れているより。

相手の技術を吸収するのが先であるとエリザベートは思うがゆえに文句は言わない。

 

「はい! コーチ」

「その息だ。では行きますぞ」

 

曲がスタートして。

ぶっ倒れるまで。その日は踊り謡い続けた。

 

 

三日目

ようやくオルガマリーが目を覚ましたという。

ジャスティスショットの影響と言うよりは精神的疲労の方が原因だった。

まぁ色々あったのだからしょうがない、ネロの事もあるその上でこれだ。

誰だって顔面崩壊&語彙力崩壊は当然と言える。

そりゃそうだ。達哉はそもストレスに対する容量が大きいから大丈夫だが、こればかりは経験の差であり。

マシュはストレス容量は低いが、オルガマリーの醜態を見て正気に戻っている。

逆に言えばそれほど凄まじい爆発だったわけで。

 

「ごめん・・・達哉」

「いや、俺は気にしてないよ、あーその、なんだ。誰だってそういう格好を強制されればそうなるだろうしな」

「うん・・・」

 

達哉のフォローにそう言ってしょぼくれるオルガマリー。

まぁ仕方が無いだろう、下手すりゃけが人どころか死人が出ていてもおかしくはない錯乱ぶりだったのだから。

銃床で殴られたのが物理無効ペルソナ持ちでよかったと言える。

にしても目に毒だと達哉は内心嘆いた。

相棒の二人、つまりマシュとオルガマリーは抜群にスタイルが良い。

そんな二人が前張り状の痴女服を着ているのは実に性欲を持て余す。

 

「マシュも大丈夫か? 男の俺に何処まで出来るかどうかは分からないが二人とも相談に乗れることがあるなら乗るが・・・」

「「それはいいです」」

「まぁそうなるか」

「いえ頼りになるかという問題ではなくてですね、ねぇ? 所長」

「マシュの言う通りよ、恥ずかしいのよアンタ以外にに今の格好みられるのが・・・って何っているのよ私!? ねぇマシュもそうでしょう?」

「錯乱して私に飛び火させないでくださいよ!!、そりゃまぁ・・・先輩以外にはゴニョゴニョ」

「二人とも、そりゃどういうことだ?」

「「・・・」」

「おいどうした?」

「まだ分からいけど」

「そうですわからですけど」

「「この鈍感」」

「なんでさ!?」

 

達哉になら大丈夫と言う精神状態が分からないというより若干目を背けている二人にこの気持ちは分からない。

達哉も困惑した表情で返す、なぜ自分なら大丈夫なのかと。

それに対しての答えがまだ自分の心を分かっていない二人の鈍感返しとお決まりのなんでさと言う奴である。

言っては悪いが三人ともまともな色恋沙汰を経験していないのである。

自分に対しても相手に対しても鈍感ならざるのは無理からぬことであろう。

良くも悪くもある種のそういった類のまともな青春をいないがゆえに鈍感なのだ。

その後はぷりぷりと怒ったオルガマリーとマシュに引き摺られて、ポエナリ城部の攻略に付き合わされる達哉の姿があったとか。

 

 

 

 

四日目

エリザベートのテンションと緊張感は最高潮に達しつつあった。

宗矩も納得のいくパフォーマンスである、達哉と克哉のギターとベースも形となった。

これには理由があって、スパルタをしなければエリザベートについていけないと二人が判断したからである。

故に要望に応えて、サリエリとトリスタンは二人に追い込みをかけた。

何十回というセッションでようやく形になった様である。

一方の謎のヒロインXオルタはかまってもらえず単独調査で臍を曲げて。

オルガマリーとマシュ率いるサーヴァントたちはポエナリ城の攻略を進めていた。

マーラヴラドに取り込まれた兵士たちはスケベ発言とセクハラ発言&セクハラ行動をとりまくり彼女たちの神経を逆なでしたのだ。

故に顕現するのは焦土地獄真っ青な鉄火場である。

オルガマリー率いるポエナリ城攻略勢は、最新鋭の重火器と己のペルソナを駆使して。マシュは盾と八極拳に装備されたハンドアックスを駆使して敵陣を突破していた。

途中、サーヴァントクラスの敵が出てきたが無視してひねりつぶして進む。

セクハラに加担する連中に躊躇の躊の字なんてものを彼女たちは持ち合わせていなかったからだ。

だがエリザ粒子に生成はある意味順調であり、あとはリハーサルでも行えば最後の扉を突破できるところまでは来たのである。

というわけで飲み会だった。一息付こうというわけである

会場は依然に達哉たちが利用した酒場である。

 

「そういえば」

 

達哉が思い出したかのようにブラントンのブラックが入ったグラスを傾けながら克哉に問う。

 

「兄さん、舞耶ねぇとの仲は進展したのか?」

「ブフォ!?」

 

達哉が気になっていたのは兄と舞耶の中の進展具合だった。

克哉も舞耶を好いていたはずである。

というわけで自分がいなくなった後が気になっていた。

もう一人の達哉、克哉の住む世界の達哉はグレていたし杏奈と付き合っていたことは憑依していた影響で分かっている。

自分もある程度、舞耶への思いは決着をつけつつあるし。

兄なら舞耶を幸せにできると思っている。

舞耶なら兄を幸せにできると思っている。

故に不詳の弟としては兄と姉のような存在がきちんとお付き合いできているのか気になるわけで聞いてみた。

反応は酒を吹き出しそうになる克哉で大体察した。

 

「まさか・・・そんなに進んでいないのか? 兄さん」

「・・・仕事がすごく忙しくてな互いに、あの事件以降オカルト事件も増えて対処することも多いんだ。この前なんかパオフゥの持ってきた仕事のおかげで余計な・・・仕事で顔合わせることは多いけれども、ああだがしかしだな、食事に誘ったり、こう何度かデートはしてるんだぞ本当だぞ!!」

「もう告白してしまいなよ、兄さん」

「お前もこちら側の達哉やら同僚やらパオフゥたちと同じ反応するんだな」

 

どうやらもう結婚してしまえと克哉の世界の達哉にもせっつかれているらしい。

あー片から見ると甘ったるくてもどかしい奴だなというのがこの場にいる全員の反応だった。

まどっろこしいのは兄弟一緒かと無意識にオルガマリーとマシュは思う。

それ以上に意外な反応をしていたのはなぜかついてきた謎のヒロインXオルタだった。

克哉に意中の相手がいると聞いて硬直し、イチゴタルトを皿の上に落してしまった。

 

「えっ克哉さんってお付き合いしている女性がいるのですか?」

 

そのまま呆然とつぶやくように言う。

克哉は若干赤面しつつサングラス眼鏡の位置を修正し。

 

「まぁいるよ・・・それがどうかしたのかい?」

「いやいやそれはないでしょう、克哉・・・」

「???なにが??」

「マジですか・・・気づいてませんよ」

 

それはないだろうとランスロットが突っ込むがどこ吹く風で返される。

それにトリスタンはドン引きした。

鈍いってレベルじゃねぇ―ぞという話である。

 

(えっちゃんには悪いが、兄さんは舞耶ねぇに首ったけなんだ)

 

達哉はフォローすべく、レイライン回線を克哉と謎のヒロインXオルタ以外にONにしてそういう。

二人を除いたのは二人が混乱するためと判断したからだ。

こういうのは周りがひっそりとフォローするしかない。

 

(ああなるほどそういうわけですか)

 

付き合っている女性に首ったけで気づけていないようだというだけの話。

鈍いというわけではないのだ。

トリスタンも似たようなことで破滅している。

最も克哉はそんなタマじゃないから。

だがフォローは必要だ。

はっきり言って謎のヒロインXオルタは克哉に脳が焼かれている。

そりゃ生まれが生まれだしある意味多感だ。

そんな少女に克哉というスパダリを与えればどうなるかは上記に述べた通り。

友情だの信愛だのは謎のヒロインXから謎のヒロインXオルタは学んだが。

自己を確立させ生きるすべを教えたのは克哉だ。

故に好意を抱くの必然である。

 

(まずいな、フォローを入れないと克哉殿が・・・)

(いやそこまではさすがにないんじゃ)

(いいえ達哉、それは甘々です、私は私で刺されましたが納得はしているのです、そういうことをしてしまった自覚が・・・ですが天然誑し&身持ちが固い克哉殿に気づけというほうが無理なのです)

 

トリスタンが早急にフォローを入れなければと述べるのに対し、達哉は暢気染みたことをいうが。

当のトリスタンが否定する。

それは彼の最後に由来することからくる経験則だった。

気づかねば痴情のもつれで刺される。

あの時のトリスタンは何もかもを受け入れた。

そりゃそうなるだろうと思ったからだ。

だが克哉は違う、お付き合いしている女性がおり首ったけだ。

加えて公僕ということから。年下の謎のヒロインXオルタを自分の倫理的に女性としてみていない。

せいぜいが手のかかる血のつながっていない妹くらいなものだろう。

謎のヒロインのクローン=アルトリアのクローンだ。

しかもモードレッドとは違い超未来技術で作らており精度はモードレッドより上である。

下手すればアルトリア固有の重い愛も継承している可能性が高い。

それが転じてヤンデレになるなんてことも十分あり得るのだ。

 

(ですが・・・克哉さんにそれを気づかせるのは酷では?)

 

マシュはオレンジジュースを飲みつつそれは酷と言うものではといった。

そりゃそうだ。天然入っている克哉にそれを告げたところで事態の悪化は見えている。

 

(クーフーリン、アンタなんか気の利いた袖の振り方教えなさいよ)

(嬢ちゃん、あのな俺の時代と婚姻事情ちげぇだろ・・・)

 

オルガマリーがクーフーリンに助けを求めるが。

そんな気の利いたことを言える女性履歴ではなく、ほしい女は口説き落としたし、そのために無茶もやった。

それにクーフーリンの時代は一夫多妻制が王族の間では当たり前の時代だった。

出産確立および出産の安全性を考慮しての事である、死産なんてのも珍しくない時代だ。

というわけでクーフーリンにもできないことはあるというわけである。

ちなみにシグルドは何も言えない、媚薬を仕込まれブリュンヒルデに最後の最後まで気づけなかったから当たり前である。

兄の女性関係に意外な人物が名乗り出て、どうすんだよといった空気だったが。

 

「すいません!! イチゴケーキワンホール!! チョコレートケーキワンホール!! カルーアミルクジョッキで2!! お願いします」

 

だが謎のヒロインXオルタは聡明な少女だった。

淡い期待を寄せつつも。どこかで彼には慕う女性がいることは会話の端々でやんわりとは思っていたわけで。

伊達に一年のバティ生活を送って気わけではないのだ。当たり前である。

しかしやはり改めて突き付けられるとキツイものがあるのだから。

やけ食いに走ろうというものだ。

 

(今です!! 全力で乗っかって場を流すのです!!)

(いやトリスタン、それって状況をうやむやにしただけじゃ・・・)

(いえ違います、オルガマリー、こういう時はかえって勢い任せに有耶無耶にしておくのが吉、あとは落ち着くところに落ち着くでしょう)

(ええ~本当?)

(本当ですとも!! このトリスタンのいうことが信じられませんか)

(オメー自分の過去の言動振り返ってみろよ)

(グフォ・・・それは効くのでやめていただきたい)

 

勢いで場を流せというトリスタンの助言にオルガマリーが胡散臭そうに返して。

それに信じられないかとトリスタンが言うがクーフーリンから致命傷の一撃をもらい悶絶する。

そして面倒ごとが重なり続けたがゆえにもうどうにでもなれ―という空気が蔓延。

場は一気に宴会のごとき無礼講の場となった。

故に次の日の朝、全員重度の二日酔いになり、第二特異点でも使われた軍用のアルコール分解材が支給され。

全員、ロマニからのありがたい説教が飛ぶことになった。

 

 

 

 

5日目

朝から早々、アルコール分解材を入れてロマニに説教された一行であったが。

 

「なんで地下がウィザードリィみたいになってんですか」

 

達哉、マシュ、オルガマリーは克哉&謎のヒロインXオルタに付き添って銀河人権帝国の拠点があると思われる、チェイテ城地下に来ていた。

そして状況はマシュが言った通り地下迷宮化しているのである。

エリザベートがここの領主になってから、拷問やら監禁部屋であふれかえっていた地下は。

酒などを置くセラーに改造したとのことだが。

そんなセラー室から一気にエリザベートの気づかぬ間に地下迷宮へと変貌していたのだ。

ここ最近忙しかったということやエリザベートが健康に気を使って酒を控えていたことがあだとなり誰も気づけないでいた。

結果、克哉たちが気づくまで地下部屋が大迷宮に変貌しているなんて思ってもいなかったのがエリザベートの本音である。

当う言うわけで当初は克哉と謎のヒロインXオルタで探索していたのだが。

下に降りるごとに迷宮が広大かつえぐいトラップやサーヴァントユニヴァースから持ち込まれたと思われる魔獣やらなんやらが跋扈し始め。

挙句、悪魔まで出現する始末となった。

 

「ウィザードリィってマシュ、随分ハードコアなゲームやってるのね」

「暇つぶしにとムニエルさんからの差し入れです」

 

リペアラーを連射しマシュの盾に隠れながら随分ハードコアなゲームをやっているもんだとオルガマリーがごちる。

無論マシュが自分で購入したわけではなく、ムニエルからの差し入れというやつだった。

 

「もっとも、最初に手を付けて理不尽さであきらめてからやってませんけどね!!」

 

迫りくるリザードを盾ではじき返しつつそういう。

ウィザードリィは初心者向けのゲームではない。

案の定始めて速攻でコントローラーを投げたのはマシュだけの秘密である。

そんなこんなで地下迷宮を進んでいく五人だが。

途中で物資や自分たちの精神力も底をつきそうだったので途中で引き上げることにした。

 

「いやぁ、見事に引っ掛かって草」

 

その様子を迷宮の各所に配置していたカメラを通して自室で見ていた刑部姫はそういって笑う。

もとよりそういう類の妖怪だ。

迷宮を作るなんざ朝飯前。

確かに自分たちの拠点へと通じているが、通じているだけではないのである。

いわば最深部にあるのは人が通れぬ、小窓だけ。

その小窓こそ釣り餌なのだ。

これほどの迷宮だ、克哉たちはサーヴァントユニヴァース製の探査機器を使っているに違いない。

だからこそ小窓を通路と勘違いして地下迷宮の探索に赴くことは読めていた。

だが本命は刑部姫の部屋に隠された転移装置のみがただ唯一の正規通路だ。

それを隠すために大迷宮なんてものを仕込んだのだ。

 

「エリザ粒子の生成も予定通り・・・まぁマーラヴラドとか予想外ですけどね」

 

エリザ粒子の生成も順調だ。

故に事が終わる頃には事が成っていることだろうと刑部姫はほくそ笑んだ。

 

 

 

 

6日目

ステージ完成である。

というわけでステージの音響、照明、強度の調整と確認のために軽く流す形でリハーサルと相成った。

これにはカルデアも協力し、ステージ全体につけられたセンサや遠隔機器類でサポートと監視を行うのである。

本番のリハーサルは明日となる。

 

「うん各種問題なし」

 

音楽に強いカルデアのミックは一連の作業を見届けため息つきながらヘッドフォンを外し眉間をもんだ。

ステージ強度。照明の強さ、回転。

音楽回りの音質と音量共に問題なし。

向こうからはパフォーマンスも言って以上に仕上がっていると宗矩とサリエリから太鼓判を押されている。

 

「お疲れ様」

「ありがとうございます、医療主任」

 

ロマニがミックをねぎらいつつ、コーヒーを差し出し。

それに礼を言ってミックはコーヒーカップを受け取る。

流しとはいえ、細部チェック作業だ。嫌でも気をもむというものである。

 

「いよいよ明日のリハーサルを挟んで明後日が本番か」

「どうしました、医療主任、心配事でも?」

「ほら克哉君のいう銀河人権帝国に動きがないのと。明日はリハーサル終わったらエリザ粒子の生成量が予定通りにいけば・・・マーラヴラドとの決戦だ。心配にもなるよ」

 

ロマニが心配していたのはそこだった。

明日のリハーサルが終わりエリザ粒子が予定通り生成されれば戦うマーラヴラドの事だった。

 

「相手はそりゃセクハラ野郎だけども、腐ってもインド神話およびブッタに試練を投げつけた正真正銘の大魔王なんだよ? 核が標準クラスのインド系列の神ってだけでそりゃ心配にもなるさ」

 

マーラの出展はブッタ関係ではあるがインド神話のカーマとも紐付けられておりインド神話の神ともされている。

明らかに達哉の世界から来訪している節があるりこちら側とは別存在かもしれないうえに。

今はヴラドを乗っ取りサーヴァント体に零落しているとはいえ、決して油断できる相手ではないのだ。

いくら達哉にクーフーリン、シグルドにランスロットとはいえ、腐っても神格レベルの相手と戦うのは心配が先に来るというものである。

 

「でも一応所長たちがゴキブリ退治みたいな感じで撃退してましたよね?」

「あれ下位分霊でもなかったらしいから・・・今回は少なくとも中級分霊クラスがとりついていると見たほうがいい・・・ってアマネが戦力分析してたよ」

「まぁあの人が言うならそうなんでしょうね」

 

アマネはその道のプロフェッショナルである。

古代に生まれていれば全員が名を残す英雄になれたといわれるカルデア保安部の長だ。

その彼女の分析だ。悪い方向に外れたことはないのだ。

そして運命の七日目。

リハーサルは滞りなく行われた。

まだ銀河人権帝国という不穏分子の存在はあるが目下の問題であるマーラヴラドの掃討作戦が実行されようとされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




マシュがランスロットに対する態度、ランスロットがマシュに対する態度が原作と違うのは第三で判明します。
ペルソナが絡んだからこその差異って奴ですね。
どこかの誰かさんが余計な事したせいとも言う。

あと今回キャラ崩壊が著しいマシュと所長ですが。
着ているものが水着の方がましという代物なんで、まぁ痴情心が限界にきて切羽詰まってます。
つまりマシュは兎にも角にも所長がぺこらを罵倒している邪神ちゃんLvで顔面崩壊&語彙力崩壊しているのはこれが原因。

ジャスティスショット
ヒューペリオンの固有スキル銃撃属性でダメージを与え、確率で相手のライフを一とする。
さらに本作ではダメージが超過した場合でもライフを一にするという効果を追加
達哉が時止めによる攻撃特化なら、克哉は相手を生かして鎮圧することに特化している。
ただしBOSSキャラとかにはダメージを与えるスキルとしか機能しない。

あとえっちゃんにかっちゃんという年上のスパダリを与えればこうもなろう!!(鉄仮面並感)
飛ばされてからえっちゃんとかっちゃんは一年はかっちゃんの体感時間的に過ごしてますんで、こうもなろうというものです。
なおかっちゃんがこん睡状態のP2罰世界線では一年もたっていなかったりする。
飛ばされた世界戦軸の時間のずれというやつですね、はい。
あと大迷宮ですが作ったのは謎の誰かさんです。
悪魔まで出ているのはマーラ様の影響ですね。

では次回はマーラヴラド戦&フェス挟んでからの銀河人権帝国の逆襲をお送りします。

イベ特異点ですからサクサク行きたい。

と言ってもうつ病が悪化しているので今年度中の更新はないかもしれません。
気分転換で外伝やら番外編やらはpixivのほうに投稿するかもしれませんが。
まぁ遅れるのでご了承ください。







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06 少女たちのアウトレイジ

「私に上半身裸で尻尾つけろってわけ? 嫌よ、恥晒しじゃない!」
「アニメのイベントで私のコスプレをしてくれた猛者に謝れ!」

邪神ちゃんドロップキック第二期より抜粋


「野郎ども、カチコミの時間よ」

 

ドスの効いた低い声でオルガマリーがベネリM4の持ち手をスライドし初弾を給弾しながら言う。

表情も冷え切っており。

ぶっちゃけ男性陣と謎のヒロインXオルタは引いていた。

マシュはまぁオルガマリー同様被害者である。

殺気を出しながらオルガマリーの言葉に同意しつつシールドに仕込まれたバンカーボルトの点検を行っていた。

 

「7.62x51mm弾で奴のドタマ(二重の意味で)カチ割ってやるわよ!!」

 

オルガマリーの宣言に男性陣の股間と額に冷たい風が駆け抜けたタマヒュン的な意味合いで。

そしてオルガマリーを先頭にマシュが続き。

そのあとに戦闘員たちが続く。

 

「Arrrr」

 

なぜかティアも同行していた。釘バットをもって。

ここ最近の交流で彼女はまだうまく言葉をしゃべれてはいないが表情が豊かになってきたなぁと達哉は思う。

おかげで表情とジェスチャとつたない言葉でのコミュニケーションが成り立つようになっていった。

サリエリ曰く地頭は悪くない、むしろいい部類にはいるので。

フェスが終わったら本格的に言葉の発音と意味の授業でもしようかと彼はぼやいていた。

もはやポエナリ城には敵はいない。

なぜなら憂さ晴らしにオルガマリーとマシュがそりゃもう派手に蹂躙したからだ。

フェス準備に忙しかった面々はその騒音に気づくことはなかったが。

ともまぁ楽々と最後の間まで来たわけである。

 

 

「よくぞ来た。カルデアの戦士よ!!」

 

 

そしてそこには赤褌だけのマーラヴラドがポージングをとって待ち構えていたのだ。

片からすれば間抜けな光景、ヴラド本人が見たら憤死しかねない格好であるが。

それはスキルが発動しているということである。

 

―ファイナルヌード―

 

全体魅了系の最高峰スキルの一つが面々に襲い掛かるが

 

「ばっかじゃないのぉ! 対策と事前準備なんていくらでもしてくるわよ」

 

確かに魔王の権能は強力だ。

だがそれを凌駕するのがアマラの品々でありペルソナ能力。

事、ペルソナ能力は心の力である。

故に精神耐性がある場合、他の出力で突破可能な無効耐性などとは違い神格の権能すら跳ね除ける性能を発揮する。

それこそニャルラトホテプのように権能とかではなく直接的にかつ直に心えぐる手段を持ち合わさなければ。アマラの戦士たちには対策をされるのだ。

それに各種治療薬も悪魔、天使、神からの傷を癒すように調整されているのだから。

アマラの宇宙が強いのはそこに理由がある。

全員が超人、神殺しに至る可能性を秘めているゆえに。

気づかずに神殺しの品を用意できる点にこそあるのだ。

達哉の世界はニャルラトホテプが無茶苦茶にするまでは平和だったが。

IFの世界では核弾頭が発射され、悪魔と天使の戦場となった。

受胎ではそれらをめぐる神々の戦争。

玉座を争う戦いでは超越者同士の紛争である。

最もそれらを主催した者たちからすれば、大いなる意思を殺すための”試行錯誤の過程”にすぎぬし副産物でしかないのだが。

今はどうでもいい。アマラの品は神格にも通用するものがあるのである。

故に精神耐性のあるペルソナと魅了無効を付与するアクセサリーにさらには自前の礼装まで装備しているのである。

サーヴァントの体に寄生しなければ性能も発揮できないマーラでは突破不可能な過剰装備だ。

というか神体をもった権能さえ無効化できるだろう。

ぶっちゃけ事前情報とペルソナ使いとの相性が最悪ということを加味すれば。

高位分霊か本体が出れば話は別だが。現状では詰んでいると言うほかない。

 

「乙女の尊厳汚しまくってぇ、苦しんで死ねよやぁ!!」

 

言葉が若干無茶苦茶になってるぅと全員が思うのもつかの間。

オルガマリーとマシュが躊躇なく、RPGー7(対魔術師用を対サーヴァント用に魔改造した代物)を発射。

直撃、使って残った発射機を投げ捨ててさらに背負っていた残りのRPGー7も二人で乱射である。

RPGー7がなくなったら。

オルガマリーはガリルエース52を二丁両手に持って腰だめに構えて乱射。

マシュはM240Gをもって乱射だ。

それも切れたら今度はベネリM4やら手榴弾やらグレネードランチャーやらを躊躇なく叩き込む。

 

「俺ら出番あるか?」

「ないんじゃないかなぁ」

 

クーフーリンの疑問に達哉はそう答えるほかなかった。

並の英雄どころか上級英霊ですら特殊な加護による防護がなければ消し炭になる弾薬量である。

ぶっちゃけ資源の無駄使いだが。

 

 

「ククク」

「「なっ」」

 

そんな爆炎をよそに響いてくるのはマーラの嘲笑である。

 

「残念だったなぁ、小娘ども、我は銃吸収よ!! グワハハハハハハ!!」

 

マーラ様の耐性は銃吸収であるすなわち銃火器および銃スキルを吸収し体力へと変換するのだが。

 

「なら物理で殴ればいいですよね?」

「えちょ話を「誰が聞くかぁ!!」

 

だがマーラは忘れれていた。

オルガマリーは確かに銃火器の扱いにたけるが殴打武器として機能するリペアラーを使いこなすオールラウンダーであり、マシュは八極拳と盾を組み合わせたガチガチの近接戦闘者である。

つまり魅了も効かない、物理大得意な皆様方に囲まれている時点でマーラは詰んでいたのだ。

だがそれで往生際よくするのであればマーラはマーラではない。

 

「暴れまくり!!」

「くッこの」

 

衝撃波を包囲に射出。

マリーアントワネットが慌ててテトラカーンによるバリアを形成。

寸前のところで前に出すぎていた、オルガマリーとマシュをクーフーリンと達哉が回収してテトラカーンの範囲内に瞬時後退するものの。

 

「なんで人の話を聞こうとしないんじゃ、きさまらぁ!!」

 

マーラ逆切れである。

 

「戦隊ものやら仮面ヒーローものじゃないんですよ、こうも隙をさらせばボコるのは当然じゃないですか」

「文学少女がお約束を否定したらあかんやろと我思うの、まぁそれはいい。我はお前たちの事を思ってやっているのに、なぜボコり倒されんといかんのだ!!」

 

マシュのまさかのお約束否定に突っ込み入れつつ、マーラヴラドは頓珍漢なことを言い出す。

いきなりお前たちのためにやっているだのなんだの言われて理解不能もいいところだった。

 

「何が俺たちのためだ。おかげで所長やマシュがどれほど苦労したと思っている!!」

「達哉のいう通りだ。貴様は強制わいせつ罪を行ったんだ。現捕物の事を年頃の少女に強制したんだぞ」

 

周防兄弟がどの口でと詰め寄るが、マーラヴラドは笑みを深めるばかり。

 

「ククク、影の言っていた通りだなぁ、故に我が一肌脱いだというわけよ」

「なに?」

「周防克哉、気づいていないのか? 愛する人を守れず、世界を滅ぼしかけて、いや滅ぼし、その後罪と罰を背負って孤独な世界に帰り、自分を直視し、なおかつ一年も孤独に過ごした人間の自我がまともに機能しているはずないだろう?」

 

影のいっていた通りだとマーラヴラドは達哉を分析し。

どういうことだという克哉の声にマーラヴラドは自分の分析を言う。

当たり前の事なのだ。自分を直視し続け、なおかつ一人孤独で生きる。

たとえるなら一つの部屋に閉じ込められる、だが食事には一応の問題はなく、風呂もトイレもある。

だが電話がなく誰とも話すこともできない。

普通の人間なら精神を間違いなく病む。

ロマニはいくら医療部門統括とはいえ外科や内科が専門だ。

精神までは抑えていない。

ダヴィンチは天才だ。そもそも感性が違う。

アマネはもう摩耗しきっていて逆に気づけない。

 

「そんな男が自分自身を愛せるはずもあるまい、自分自身を愛せないということは真の意味で他人を愛せない、そしてリビトーを解放できないし摩耗させて機能不全に陥らせている、そうつまり性欲!! 愛欲!! それらが一切機能していないということになぁ!!」

「・・・」

 

性欲も愛欲も愛も恋も他者愛は無論であるが自分に自信をつけるくらいの自己愛必須である。

何事もバランスで成り立っているのだからそうだろう。

愛にも恋にも他者愛と自己愛がバランスよく成り立ってようやく成り立つものだからだ。

そういった意味では達哉はごっそり自己愛が消えうせかけていた。

彼は自分を愛せなくなっていた。

だからこそ。影はマーラにチクりを入れたわけである。

 

「自分を愛せない男では、ああなるほど!! ■■■■を持っていても意味はあるまい」

 

クツクツと笑う。

 

「だからこうやって擦り切れた愛欲、あるいは封じ込めたものを再び燃え上がらせるために我は来た。ついでにそこの3人の情操教育のためになぁ」

「貴様に情操教育されるほど俺の保体の成績は悪くはない!」

「クククッそうかなぁ、二人は天秤の上だぞ?」

「・・・なにを言っている?」

「フハハハハ! 気づいているようだなぁ、履行済みと言いうわけか。まぁそれはそれでいい恋は最大火力で愛はじっくり弱火で煮るものだからなぁ。この我が直々に恋愛観すっ飛んだ貴様に事実をたたきつけてやろうというのだよ」

 

要するに自覚させてやろうということである。

 

「お前がそこの少女二人に対して恋愛感情を抱いているということをなぁ!」

「なにを」

「おっととぼけるのか? うれしかったんだろう? 頼られるのが? 自分を認めてくれたことが? 背負っているものごと受け入れてくれたのがうれしくてしょうがないんだろう?」

 

重すぎる罪と罰。

その果てにようやく手に入れた場所。そしてそんな自分を受け入れてくれた少女。

好意を抱くなと言われるほうが無理がある。

二人のやさしさに惹かれていないと言えばそれは嘘だ。

 

「オルガマリー・アニムスフィア、貴様もそうだろう? うれしかっただろう、初めて心の奥底から自分の孤独を理解してくれる存在が、弱さを含めて抱きしめてくれる存在が!! マシュ・キリエライト、貴様もだ!! 外の理に一緒に耐えてくれる存在が、自分を助けてくれる周防達哉という存在が!!」

 

次々に彼女たちの心を切開していく。

影のカンペありきとはいえ、快楽において右に出るものはいないのだ。

ある意味、どこぞの聖職者よりも快楽に精通している。

アレは家族愛を知らぬがゆえにマーラに及ばない。

 

「故に抱いてやれよ。それがいい男の条件というものだしいい女という条件だ」

「恋すればすぐ抱くだの抱かれるだのに結び付けるんじゃぁない!!」

 

彼の言い分通りなら自分は彼女たちに好意を抱いているのは間違いないのだろうと達哉は受け止めつつ。

それとこれは違うだろうと反論する。

愛しているからすぐ性交渉とか頭が阿呆な奴の戯言だ。

愛は人それぞれなのだから外野がとやかく言うべきことではない。

 

「性交渉は種を残すという行為の一つではあるが避妊手段の増えた今日ではコミュニケーションツールの一つなのだよ、三人共。あと過去からの事情で今日の性事情を知らぬ英霊共。もたもたしているのは我からすればある種の不健全なの。それとも周防達哉、貴様、不感症か? それともインポテンツなのか?」

「俺は不感症でもなけければ、インポテンツでもない!!」

「ならロリコンかペド趣味とか? もしくはホモとか?? いい男そろってるものなぁカルデアは、そしてはっきり言ってマシュと添い寝しておいて手を出さぬほうがおかしいと我思うの、口では何とでもいえる故に、はっきりこの場で証を示せ!!ついでに言えば影は教えてくれなかったもののティアも貴様に好意を抱いているようだぞ?」

「いやそのだな、というかティアまでなんで?!」

 

ティアに粉かけた気はない達哉としては錯乱寸前だったが何とか思考を持ち直し、脳をフル回転させる

不感症とインポイテンツにホモは軽く否定できるが。

ホモにロリ趣味、ペド趣味を否定すれば、やましいことを二人に持っていますと宣言するようなもの。

逆をすれば性癖異常者の烙印を押されるという究極の選択だ。

特に影のカンペには達哉、マシュと添寝済みと書かれているのは事実だ。

マシュはその時のことを思い出し顔を赤らめながら俯かせ。

オルガマリーとティアは無意識のうちに嫉妬を込めてマシュを見る。

自分もそうしたかったという無意識の行動だった。そして一連の動作後。

二人の視線は達哉へと向く。

添寝までして役得の一つもしない達哉は性癖異常者かあるいはただの身持ちが固い硬派なだけなのかという証明を今この場で達哉はしなければならない。

無論はぐらかしは悪手にしかならない。

 

「達哉」

 

信じているぞという克哉の視線

 

「タツヤ」

「先輩」

「Arrrrr」

 

オルガマリーとマシュさらにはティアの信頼の視線。

 

達哉追い込まれる。

下手な返答をすればホモかロリかペド趣味扱いだ。

ああいや、影からカンペもらっているマーラの事である。

余計に事態をひっかきまわしピグマリオンコンプレックスなど数ある性癖を持ち出し場を混乱させるかもしれない。

嗚呼――――――故に。

 

 

「俺は普通だぁ!! おっぱいとか大好きだからぁ!! いたって普通だ!! いや脱いだ生のは見たことないけれど。それでも普通なんだぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

この状況、自らの性癖をカミングアウトしなければ脱却の機会はないと判断し。達哉は涙目になりながら性癖をカミングアウトする。

達哉、終わったと思いながら、叫ぶ。

そしてそれが終わると同時にヘロヘロになり仰向けに倒れそうになりそうなのをティアが達哉の背後に回って受けとめる。

達哉の背にティアの豊満な胸部装甲が当たるが。今の彼はそこまで感じ取れる余裕はなかった。

なんせ自分の性癖カミングアウトである。

オルガマリーやマシュに失望されたかもしれないという恐怖とカミングアウトの疲れでそれどころではなかった。

 

「なるほど・・・つまり両手に「ARRRRRR!!(特別意訳※うっさい死ね!!)」ちょわ!?」

 

そして達哉を克哉にティアが預けつつ。

まだしゃべらんとするマーラヴラドに向けて釘バット(護身用)振り下ろす。

 

「クフフフ、愛しの男がひどい目にあわされてお冠か、ならさっさと「これ以上の口は閉じたまえ」

 

いい加減見苦しいとばかりに克哉がヒューペリオンを呼び出しジャスティスショットを叩き込む。

がしかし。

 

「天丼展開で当たるか、マヌケェ!! マラマラダンス!!」

 

変な踊りを踊るがごとくくねくね動いてジャスティスショットを回避。

そこで身を反転し口から何か吐き飛ばす。

 

「たたり生唾!!」

 

要するに唾なのだが、それはウォーターカッターとして炸裂する。

狙いは克哉で水耐性持ちのペルソナにチェンジ防御姿勢をとるものの。

謎のヒロインXオルタが直感でまずいと感知。

克哉の右肩をつかみ即座に位置をずらすように引っ張る。

 

「えっくん?!」

「克哉さん、アレ多分水属性じゃない、防ぎ様がないビジョンが浮かびました」

「すまない助かる」

 

直感ランクは低いとはいえ、それは信頼に値する情報だ。

克哉は拳銃ではなくヒューペリオンを呼び出し。

謎のヒロインXオルタはネクロカリバーに光刃を展開。

達哉を筆頭にカルデアの面々も近接戦闘に移行する。

 

「馬鹿め、ここはわが領土、快楽の海に沈め!! 極刑王の地獄突き!!」

 

ヴラドの宝具を取り込み自身のスキルへと昇華させた槍の群れが炸裂する。

あるものは自力で回避し、あるものはスキルで相殺し、あるものはスキルで防ぐが。

 

「セ、セクハラじゃない!?」

 

その槍の穂先を見た瞬間、マリー・アントワネットが優雅な口調をかなぐり捨てて叫んだ。

槍の穂先が大人の玩具になっている。

具体的に書き記すと、小説タグにこの話のためだけにRー18をつけなきゃいけなくなるのであえて明言は避けさせてもらう。

というか下手すりゃヴラドの尊厳を破壊しまくっているマーラである。

今更感がすごかった。

 

「えーと、なにがセクハラなんです?」

「マシュは知らなくていいから!! 無垢なそのままでいて!!」

「え?なに? そこな少女はこの素敵な大人の玩具を「黙れ!! 死ね!!」」

 

ロマニの保体教育でゴムの使い道までは知っているが大人の玩具を知らないマシュは穂先になんか変なのついている程度の認識でしかないが。

性魔術の魔術書を教育の一環で見たことあるオルガマリーはそれが何なのか理解できてしまった。

故に親友に余計なこと教えるなと、シュレディンガーを召喚しヴォイドザッパーを放つ物のくねくねした動きで回避される。

うざいったらありゃしない。

 

「くそ、広範囲スキルを使いたいが・・・こうも高速戦闘の中では・・・」

 

克哉が悪態をつく。

なにせ10人以上で攻撃を同時に仕掛け、音速領域での戦闘が行われているのだ。

もっと場所が広ければ。、あるいは連携人数があと5人ほど少なければ広範囲スキルのマハ系で薙ぎ払えた物をと悪態をつくほかない。

さらにふざけた動きではあるがマーラヴラドは槍裁きも一級品だった。

クーフーリン、宗矩、書文+αという豪華メンツに囲まれても余裕綽綽で攻撃を捌いてカウンターまで叩き込んでくるのだ。

シャレになっていない。

スキルのラインナップも下ネタに全開に走っているくせに強力なものがラインナップだ。

その出力に押されて魅了無効のアクセサリーにひびが入り。

ペルソナの無効耐性を突破しおはじめる。

 

「このままじゃ」

「グハハハ!! さぁどうするカルデア!! このままではソドムとゴモラにしてしまうぞぉ」

「シャレになっていない!!」

 

ジリ貧もいいところ。

このままではエリザ粒子にのっかりマーラのスキルが拡散。

ソドムとゴモラがごとき様相を呈する。

なんでギャグの様なのに世界規模になっているんだと思った刹那。

 

ゾブリ・・・

 

そんな音がして。

マーラヴラドは己が胸部を見る。

心の臓腑と霊核を一本の日本刀が貫いていた。

ノヴァサイザーによる時止めからの一撃である。

つまり達哉が背後からぶっさした形になる。

マーラヴラドはそのまま倒れ、消えていく。

 

「ククク、我を倒したからすべてが解決と思うなよ」

「なに?」

「なぜなら、その服はエリザ粒子影響下では脱げんからだぁ!!」

「「なっなんですってぇ!?」」

 

驚愕の真実、マーラヴラドを倒したからって痴女服が脱げるわけではないということであった。

つまりは痴女服続投かよと叫びながらオルガマリーとマシュは崩れ落ちる。

そんな二人をよそにまだマーラヴラド、否、マーラは嘲笑いながら続ける。

 

「それにだ人理焼却を乗り越えようとも火種は腐る程ある、その時こそ我は完全体としてこの世に降臨するだろう!! いいな覚えておくがいい!! 我こその人類の性的リビトーの化身なのだ「いい加減死んどけ・・・」ウヴォァァァアアアアアアア!?」

 

達哉無上の追撃によって後頭部に孫六を突き立てられたマーラはついに消滅した。

ついでにヴラドも巻き添え食って消滅である。

Apの焼き増し的結果にニャルラトホテプもご満悦だったりするがどうでもいい話だ。

なぜならカルデアはApのこと知らないし。

そしてマーラの消滅を確認というロマニのアナウンスと共に達哉が膝をつき。

マシュとオルガマリーにティアが慌てて駆け寄り後ろから支える

 

「先輩、大丈夫ですか?」

「達哉大丈夫?」

「ああ大丈夫だが・・・さっきの答えは保留にしておいてくれ」

 

実際まだ達哉も自覚し始めたばかりなのだ。

それで答えを出せ、どちらが好きかなんて答えは出せないだろう。

 

「私たちもまだわからないのよ」

「いろいろありましたしね」

「だからお相子ってことで」

「所長のいう通りです、あとで答え合わせをしましょう」

 

正直なところ三人ともまだ好意が芽吹いたばかりだ。

まだまだ。愛とか恋とか言える段階ではない。

二人はまだ自覚したばかり、ティアはまぁ言わずもかな。

達哉は舞耶の傷がいえていないのだからそうだろう。

 

「疲れた…いろんな意味で」

 

達哉のそんなボヤキが今日の出来事を表していていた。

というわけで今日は解散となり、ついにフェス当日と相成ったわけである。

 

 

 

 

フェス開幕は夜になっている。

故に日が出ている内にはただの祭り騒ぎと相成っていた。

町には出店が出て様々な物品や食事、娯楽が並び。

酒場は夜に向けてテンションを上げるために幻霊、英霊でごった返していた。

マシュとオルガマリーはダウン、昨日の事がよほど来ていたらしくまだ眠っていたし。

そのままにしておいたほうがいいだろという判断で達哉はティアを連れて街を練り歩いていた。

様相はさっきも述べたとおりで賑わっている。

 

「Arrrr?」

 

ティアがふと気づき、指をさす。

その指先につられて達哉が視線をやると。

 

「克哉さん、なに前進したり後退したりしてるんですか・・・早く金払ってお好み焼き受け取ってくださいよ」

「しかしだねえっくん。これには深い事情があるわけで」

 

屋台の前で財布握りしめて前進後退を繰り替えしている克哉が存在していた。

なぜこんなことになっているのかというと。

店員さんはタマモキャットだった商売魂たくましく、お好み焼きの屋台を出していたらしい。

屋台ではいかに商品を魅せて、あるいは食べ物の匂いで客を釣るのかが重要となる。

故に看板に気づかずおいしそうであれば店で購入するのが祭りの人情というものだ。

だからこそ寸前まで気づけなかったのだ克哉は。

店員が犬か猫かわからぬ属性を持つ獣人だったことに。

一度気づきそして看板を見るとタマモキャットのお好み焼きとなっているではないか。

故に克哉はいったん後退したが本人の自己申請により前進、だがやはり猫なのではという疑念がありサイド後退している。

 

「Arrr」

「兄さん、重度の猫アレルギーなんだ」

「Ar!?」

「猫好きなんだが本当にひどくてな、うん」

 

達哉のいう通り、克哉は重度の猫アレルギーである、少なくとも触れないレベルでだ。

故に前進 後退を繰り返しているわけである。相手が猫なのか犬なのかわからぬがゆえにだ。

 

「キャットは一応、キツネであるし、故にイヌ科であるよ」

 

店主それがわかればカミングアウトせずにはおられず。

一応告げると克哉は安心した様子でタマモキャットに近づきお好み焼きを二人前頼んで料金を払う。

それを見ているとティアも鉄板の上に並べられたお好み焼きに眼が行き。

口端から自覚なしによだれを垂らしていた。

達哉はその様子に苦笑しつつタマモキャットから自分の分とティアの分もお好み焼きを購入する。

 

「Ar?」

「ああ、食べていいぞ、そのために買ったんだ」

「Arrrr!」

「喜んでくれたようで何より、兄さんたちもそこで一緒に食べないか?」

「うん? いいぞ」

 

こうして達哉は克哉たちと合流しベンチに四人で座ってお好み焼きを食いつつ売店で買ったラムネサイダーを飲みながらだ。

 

「こうして祭りで兄弟で参加して食べるのも久しぶりだな」

「そっちの俺はしてくれないのか? 仲改善したんだろう?」

「将来、警察官になりたいらしくてな、今までサボっていた分の勉強をやっていて忙しいんだ」

「そうか・・・」

 

達哉の夢は克哉の世界の達哉と致命的に差異がある。

まず克哉の住む世界の達哉は不良だった。喫煙飲酒なんでもありだった。

憑依した我らの達哉も憑依したときにこれには頭を抱えた。

まぁそれはさておき、こちら側の達哉が憑依したおかげで克哉の世界の達哉は改心し警察官になる夢を持った。

そこまではいいが。

こっちの達哉は元々大学進学志望で夢を持っていた。故に学業にはまじめに励んでいたわけで。

だが克哉の世界の達哉は違う、家庭環境がこっち側の達哉よりも悪化した結果不良化しており勉強なんてろくすっぽしておらず現在進行形で苦労しているわけである。

身から出た錆であるが下手すりゃ自分もそうなっていたわけで達哉は背を震わせた。

 

「そういえば達哉、二人を好いているっていうの本当か?」

 

克哉が切り込む、無論、達哉を心配してだ。

 

「好いてはいるのだと思う。けれどラブか親愛なのかわからない」

「そうか・・・、急くなよ達哉。そういうのはじっくり詰めていくべきだ」

「それは兄さんの意思か?」

「いいや、父さんからの受け売りだ。父さんが若いころ、そういったトラブルがあったらしい」

「そりゃまた・・・」

 

好意自体はじっくり詰めて確認すべきだと克哉はいう。

父からの受け売りだった。

なんでも父が若いころ、それこそ警官になりたての頃にスピード婚した奴がいたらしいのだが案の定トラブルに発展。

離婚騒動に相談に乗っていった父も見事に巻き込まれえらいことになったらしい。

その教訓と受け売りだった。

そして拙い箸捌きでお好み焼きを食べていたティアが一瞬ビクンとする。

達哉に好意を寄せているのは彼女もまた同じだ。

複雑な思いがあるのだろう。

 

「だからって、兄さんは奥手すぎるんじゃないか? 舞耶ねぇともっと距離詰めてもいいだろ?」

「本当に仕事がたがいに忙しいんだよ。有給使いたくても使えん」

「どうしても?」

「お上様からの直々の呼び出しも増えたしな・・・オカルト関連に対応できる人材は貴重すぎるらしい」

 

ため息交じりに克哉はぼやいた。

あの一件以降、あの時のメンバーはほぼヤタガラスにロックオンされ有能な人材として認識されているらしく。

オカルト絡みがあると、上からの呼び出しがよくあるらしいとのことだった。

マンサーチャーをやっているパオフゥなんかは半ばヤタガラス専属になりつつあるらしい。

それでも人手不足ゆえに仕事が忙しくなかなかデートとはいかないのであった。

実に世知辛い世の中だった。

達哉は人理焼却への対応と暗躍するニャルラトホテプへの対応で色恋沙汰なんかしているレベルではなく。

克哉も一歩間違えば世界滅亡とか神格のいらぬお節介や裏組織やら企業の裏事への対応でそれどころではない。

二人ともそういう星の下。

あるいはニャルラトホテプに見初められたがゆえにそういう人生なんだろう。

 

「とにかく向こうもしっちゃかめっちゃかだ。僕もいつまでもこうやっているつもりはない」

 

帰れる方法はサーヴァントユニヴァースの頃から調べている。

だが一向に確実に戻る方法はいまだ見いだせていない。

あるいは事が終われば。帰れるかもしれないが行動は必須だ。

都合のいいことなんて世の中にはないのだから。

だから謎のヒロインXオルタもお好み焼きを食べる手を止め俯いた。

彼はいずれ帰るという現実をようやく直視したためだ。

彼女の食べるお好み焼きはちょっとしょっぱかった。

そうこうしている間にも時間は過ぎ去るというもの。

そのあと達哉と克哉は別れ夜に向かって英気を養うべく、達哉はティアを連れて。

克哉は謎のヒロインXオルタを引き連れて街を練り歩きそれぞれの楽しみ方で英気を養う。

 

そして夜が来る、フェスの時間だ。

 

「時は来た」

 

玉座に座り一人の女性がつぶやくように言う。

エリザ粒子の鋳造は上がっている。つまり自分たちの望むことが近いということだった。

混沌の祭りはまだ終わっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヴラド尊厳破壊回。
赤褌一丁の姿。
セクハラ発言しまくり。
宝具が言ったら18禁みたいな形状に。
Apみたいに体乗っ取られてしたくないことをやらされた挙句、あっさり消滅。
ヴラドは泣いていいと思いますん。





ニャル「はいこれ」
マーラ様「ナニコレ?」
ニャル「現在のカルデア女性陣とたっちゃんの心理表と行動表ね、あとティアの心理表」
マーラ様「これでなにせよと?」
ニャル「恋愛方面で好き勝手に連中を弄って良いよ」
マーラ様「いいのな? 我好き勝手にやっちゃうぞ?」
ニャル「思いっきりやっていいよ、じゃねぇとこっちの計画も破綻しかねんわけだしかつてブッタを惑わそうとした手腕に期待してるよ」
マーラ様「まぁ貴様と明星と四文字と超人が珍しくスクラム組んで行っている計画は知らんが、少年少女の恋心を自覚させることくらいは朝飯前よ、それよりだ」
ニャル「なに?」
マーラ様「我が顕現するのに必要な”触媒”を用意はできているんだろうな?」
ニャル「それはもう極上の”獣”という”触媒”を用意しているよ」

某菩薩「あのなんか私、なにか寒気がするんですけど」

できるかもわからぬ1.5部への前振り完了、マーラ様って女神体もあるんだよね・・・


マーラ様、完全にメタられる。
そりゃ知名度的に前提情報揃えやすいお人ですので。
マーラとかいう魔王相手ってわかってるなら精神無効&耐性ペルソナに魅了無効アクセに魅了解除スキルもったペルソナで固められるよ・・・
さいしょから勝ち目なんてなかったんや。
なお高位分霊は精神貫通とかいう糞スキル持ちなんで。
マーラ様本体やそれに匹敵する高位分霊には対策練っていてもこうはいかんですけどね。



あと今年分の投稿はこれで最後になると思います。
今年もいろいろありましたね、はい。
というわけで来年からもたっちゃんグランドオーダーをよろしくお願いします。

あと今更ですが、アーマード・コアⅥ発売決定おめでとぉぉぉおおおおおおおお!!

いやぁリンクスになってからレイヴンになってミグランドやって身としては本当にうれしいですたい。
PCもちょうどゲーミングPCに買い替えたのでタイミングもグーですよ!!

でも鬱は治らない、何でですかほんと・・・日に日に悪化している件について・・・
まぁ大きな病院にいって診断結果次第では入院するかもしれません。
その場合はご了承ください。

というわけで、早すぎますが皆さん良いお年を~ノシ






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07 宇宙でのくだらない争い

連中の流した汗をズルして踏みにじるような真似は…したくないな。


異世界おじさんより抜粋


フェス開幕まで十分を切っていた。

会場の熱気は最高潮にまで達しつつある。

エリザベート主催というのに動画で彼女の歌がうまくなっていればそうもなろうものだ。

達哉たちも楽器の点検を念入りに行い、エミヤやシグルドたちも各所に配置済み。

 

「ガチガチガチガチガチガチガチ」

「「「「「「」」」」」」

 

なのだがエグイくらいにエリザベートが緊張していた。

考えてみればわかることで霊基統合前は良くも悪くもノー天気だったが。

自分を見直し霊基統合が完了したということで自分を見直せる機会ができたわけで。

それで過去の自分を直視すれば如何に恥ずかしい行為をしており。

今日この時、自分はうまくできるかという反応になるわけだ。

要するに過去の所業を見返したことによってひどく緊張しているというわけである。

今なら彼女の口に胡桃を放り込めば、3秒ほどで荒粉に精製してくれるくらいには彼女は緊張で歯を鳴らしていた。

まずい兆候である。

これから本番だというのにこれでは無理である。

 

「ど、どうすんのさ!?」

 

刑部姫が焦ったように言う、当たり前であるこのままではフェスがつぶれる・・・

 

「これでは落ち着かなければ話にならないな」

 

サリエリもいう。

兎にも角にも乙つかせなければ話にならないと。

 

「なら、安定薬か」

 

サリエリのつぶやきに呼応するかのように克哉が言う。

誰しもがというか。1%にも満たないが有名な歌手は影で薬物を使っていた。

作者的に擁護する気はないが。それはひとえにパフォーマンスの維持及び向上を目的としているのは明らかである。

故にここでカルデアから精神安定剤を持ち出すのが最も間に合う手段だ。

安定剤なら法にも抵触しない

 

「いや・・・もっと手軽な方法がある」

「そんな方法があるのか?」

「酒っていうやつがあるだろ、兄さん」

「「あっ」」

 

その手段があったかと克哉とサリエリは瞠目する。

強めの酒を入れて気分を上げる。

邪道ではあるが今しないよりましだ。

もっとも泥酔させてはいけない、ほろ酔いさせてもいけない、微妙なラインをつかねばならない。

 

「エミヤ、聞こえているか?」

『ああ、聞こえてはいるが・・・・本気かね?』

「それしか手段はない。カクテル準備、エリザに飲ませろ」

『・・・了解したマスター』

「あとマシュ」

『はい! 何でしょうか?』

「すまないが・・・生贄になってくれ」

『へ?』

「君のジャグリング芸で時間を稼ぐ、あとトリスタン、マシュの種切れと同時にアンタのソロ演奏で場をごまかす」

 

心苦しいがマシュのジャグリング芸で時間を稼ぐ算段だった。

残弾が切れたらトリスタン出撃のプランまで考慮済みではあるが。

これは一重に酔いが回る時間を考慮してである、酔う前でもダメ、かといって酔いがさめるまでもダメ

故に大体の人がほろ酔いになるい30分の時間稼ぎが必要だった。

やはりデンジャラスビーストなマシュを舞台に立たせるのは心苦しいものがある。

だがマシュはいい子でもあった。

 

『わかりました何とかやってみます、ですがエミヤさん私にもアルコールをお願いします』

『わかりました。わが王にヘルシェイクトリスタンと呼ばれた演奏の手前。お見せしましょう、黒ひげ殿、すいませんが音響関係は戻ってくるまで任せてよろしいでしょうか?』

『もーまんたいでござるよ、いやちょっときついでございますがな、これもフェスのため、俺も気合入れようじゃねぇか』

 

第一、第二でろくに役立ててなかった後ろめたさもあろうが友人のために力になりたいという思いは本物だ。

マシュも覚悟を決めてつなぎとして舞台に出ることに他のだ。

と言っても恥ずかしさで手元が狂うかもしれないので多少のアルコールを要求する。

エリザのためにきつめのを一杯と本当に酒に弱いのでブランデーを一、二滴ほど垂らした紅茶をエミヤは用意する。

トリスタンは演奏準備のため、場を黒髭に預け、演奏のための準備に入った。

 

「すまない、シグルド、舞台アナウンス、10分は機材トラブル、それでも続くから20分機材トラブルのつなぎとしてマシュのジャグリングとソロ演奏を挟むという方向でことを進める、時間アナウンスタイミング間違うなよ」

『了解』

「あと、マシュとトリスタンの照明と音響演出は完全アドリブで行く、ミックさん黒髭さん任せて大丈夫ですか?」

『ライヴハウスのラップバトルよりはましだ。いけるぜ』

『兼任するのは慣れてらぁ、どんとこいってもんよぉ!!』

 

そして混迷の状況下でバトンリレーが始まった。

マシュは酒に弱いのは周知の事実である。

緊張感をなくす程度の酔いにするには問題があった。

なぜなら缶チューハイ一杯飲んだだけで酔っぱらうのである。

下手すりゃ空気酔いですらする。

ならばと取り寄せた缶酎ハイからスポイトで採取。

水の入った大ジョッキに入れて。それをマシュが飲み干す。

 

「ではいってきます、先輩、所長」

「行ってらっしゃい」

「楽しんできなさいね」

「はい!!」

 

それでもほろ酔い気分でマシュは達哉とオルガマリーの応援を背に意気揚々と舞台へと上がっていった。

 

「私、マシュの将来が心配だわ」

「俺もだよ・・・」

 

大ジョッキ水割りチューハイで酔っぱらうマシュの事を二人は心配した。

だが心配は杞憂だったようで。

ツー・イン・ワンハンドから始まり次々と高難度技を連結してマシュはクラブを自由自在に操って場を言任せていく。

組み合わせも順調だ。手によどみはなく。

十分にプロレベルでも通用するような手さばきである。

これには第一特異点後、達哉の芸に触発されて暇を見ては実はこっそり練習していたのだ。

と言っても人前で見せるにはまだ緊張感が邪魔をする。

だからこそ酒の力だ。

ほろ酔い気分で酔っていれば客なんて案山子に見えてくるようなものだ。

まぁそれはさておき大人になれば酒飲みなどの付き合いもある、故に二人はマシュの酒の弱さゆえに悪い男ににあれこれされないか心配で気が気でなかった。

 

「それよりも・・・ヘルシェイクってなんなのよ」

「・・・まぁ俺もそれは気になっていった」

 

10分後舞台袖からマシュがやり遂げたのを見届けつつマシュと入れ替わる形でトリスタンが前に出る。

疲れ切ったマシュを出迎えつつ。なんでトリスタンの異名にヘルシェイクなんて頓珍漢な異名がついているんだかと思う二人であった。

そしてそれに解説を入れるのは照明機材のコントロールチェックに来たランスロットだった。

 

「単純ですよ、かつてキャメロットで行われた諸国の王族を招待しての演奏会、その中でトラブルが発生し今回のようにトリスタンが単独で演奏しなければならない状況に追い込まれ、彼はトラブル解決までの時間稼ぎのために単独で演奏をしました。弦が切れて最後の一本が切れるまで鬼気迫る演奏をするさまは地獄を揺さぶるが如きでした。故にその功績をたたえ、宮廷魔術師のマーリンが呼んだのが始まりなんですよ」

「「「へー」」」

「至極どうでもよさそうですね!?」

「いや現実どうでもいいです、はい」

 

もう三人の歴史観はズタボロだった。

達哉はまだましだ。並行世界だからしゃーないで片づけられる。

だがオルガマリーとマシュはこの世界の住人だ。自分たちの住んでいる時代に伝わっている情報が嘘だらけでもうどうでもいいわと投げやり気味だった。

特に読書趣味で歴女のマシュは自分の歴史観がガラガラ崩れていくことに耐えられずこんな塩対応である。

というか内心、歴史家たちはちゃんと性別やら人柄くらい残しておいてくださいよと文句を思うほかないわけであった。

だがトリスタンの演奏は見事なものがった。

控えているサリエリも時代が時代であれば音楽系の英霊として名を残せたというほどである。

それだけ見事な演奏だった、緩急付けての幻想的な技術と演奏は聞くものを感嘆させる。

さながら上質なクラシック演奏を聴いたかのようなという感想しか出てこない。

そんなこんなで30分を何とか消費。

エリザベートの様子はというと。

 

「大丈夫・・・いけるわ」

 

エミヤの調整は抜群だった緊張感から算出し、それを込みで酔わせることによって素面にする絶妙なアルコール加減で彼女を素面に戻したのだ。

 

「じゃ、行くわよ!!」

 

マイクを握りしめた彼女の声と歩みにメンバー全員が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、そうよエリエリ、歌いなさい思うがままにってね」

 

ライヴ会場は熱気に包まれている、エリザベートのテンションもMAXだ。

加えて歌が下手だった時とは違い観客も共鳴するため、エリザ粒子は加速度的に生産されていく。

今までの遅れを取り戻す勢いでだ。

 

「でも本当に奇麗だなぁ」

 

真剣に歌うエリザベートを見ながらつぶやいた。

1億人に一人とされる声質、サーヴァントでも上位に位置する肺活量、古典音楽家並の絶対音感、そして熟練の歌唱技術に表現法。

今の今まで取っ散らかって嚙み合ってなかったそれが。

霊基統合とサリエリの熟練の教育によって噛み合い完成した、音楽の怪物だ。

もし生前、サリエリや達哉たちの様な人々に恵まれていたのなら世界最高峰の歌手として名を遺すというスペックは伊達ではないのだ。

今や彼女は血の滲む様な努力とサリエリの教導によって己が才能をものとして振るっている。

会場の熱気を押し上げながら彼女は高みへと昇っていく。

たまったものではないのが、達哉と克哉と謎のヒロインXオルタだ。

一週間そこいら詰めた程度で付いていけるような状況ではない。

三人ともがんばってはいるが遅れだした。それでもくらいついていく限界を超えて。

他の面々はというと、才能の暴力で付いていくクーフーリン、アマデウスと競い合い彼についていける努力しいまだに名教師として名を馳せるサリエリ、言葉をしゃべれて技術を身に着ければエリザベート以上の才を持つと評されるティアたちは汗を流しつつもついていける。

だが苦労しているのは彼らだけではない設備の制御、演出を担当するティーチとトリスタン率いる裏方も、万が一を間違えるわけにはかない、ワンテンポの遅れが致命的なミスとなる。

故にこのライヴはぎりぎりだ。

だからこそ素晴らしい、人が限界を絞り出すからこそできるハーモニクス。

故に観衆は圧倒され熱狂するのだ。

だからこそ刑部姫は羨み嫉妬する、自分は影の存在だから。

 

「だから悪いけどエリエリ」

 

最後の曲が終わり歓声が上がると同時に。

 

「ぶち壊させてもらうわ」

 

規定量のエリザ粒子を生成貯蔵完了、マイクロウェーヴ方式で送信開始と衛星軌道上のデストロイヤー級スターシップ「ドゥ・スタリオンMk=X」へと送信を開始するためにボタンを押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ライヴが終わると同時にだった。

 

「ちょっとなによこれ!?」

「エリザ!!、君の城が!?」

「ええ!?」

 

すさまじい振動が会場を襲った。

その震源地はまさかのチェイテポエナリ城だったのである。

今、かの城は真ん中からきれいに真っ二つになり左右にスライドしていた。

さらに地下から送信用の巨大なパラボラアンテナ上がってくる。

まるで意味が分からない。

いや地下になんやらかの設備があることはわかっていたが。まさか城ごと魔改造されているとは思わなかった。

 

「まずいです、スカウターが計測不能なレベルのエリザ粒子を検知してます」

「なに!? 戦術レベルのエリザ粒子まで計測できる代物なのにか! 達哉、サーヴァントのみんなにあれを破壊してくれと言ってくれ!」

「心得た。エミヤ、クーフーリン!!」

「了解した」

「わかった!」

 

 

互いに宝具を解放。

さらにそこに達哉が四倍マハラギダインを発動させ。

合体宝具を発動する。

カラドボルグⅡとゲイボルグが重なり回転し炎を身にまとって炸裂するが。

城周辺にプラズマ式の防壁が展開する。

この壁の強度、具体的にはインド核を悠々と防ぎきる強度を保持していた。

原理を描くと面倒なので同じ原理の防壁を展開するされ竜の雷環反鏡絶極帝陣でググってみればわかる。

それはさておき渾身の一撃が防がれた以上、場を切り上げて乗り込むことになるのは道理だったが。

 

「オッキーに連絡しましょう!! あいつ城にいるはずだから」

「その手があったか!!」

 

プラズマ防壁は強力な分、長時間の展開はできない。

が代わりに必要最低限の発動によって連続発動を可能としているはず。

その設備は城内にあるのは明白だった。

なら内部にいる刑部姫に設備を破壊させようとするのは道理と言える。

引きこもり妖怪といえどその実力は本物なのだから。

だが彼女が裏切っているというのは全員想定外だったのは今でもない。

それが発覚したのは、彼女に連絡をつけてからだった。

 

『エリエリどったの?』

「どうしたもこうしたもないわよ、この騒動よ!! オッキー悪いんだけど城の変なパラボラ『ごめんねエリエリそれはできない』え、どうして?!」

『もう我慢できないって話よ、姫だけろくでもない強化もらって・・・なんでエリエリは霊基統合していいスキルもらってるんだって話』

「なにいって・・・」

『ごめん、だから私は向こうに付くわ、宇宙の船で決着けましょう、出来たらの話だけどね』

「オッキー!!」

 

ぶつんと消える通話、それと同時に。はるか上空にうっすらと映る宇宙船。

そしてパラボラアンテナから射出される推定戦略級のエリザ粒子の光。

それをはるか上空の宇宙船が余すことなく受け取る。

 

「してやられた。連中の狙いはこれか」

「克哉さん、すぐに追撃に移らないと、逃がすとなんかまずいことが起きます」

 

エリザベートのテンション具合次第であるが生成される量をなめ切っていたことに公開する克哉。

だが後悔している暇はない、謎のヒロインXオルタの直感が告げるのだ。

このままだとまずいことになると。

 

「すまないが達哉、手伝ってほしい」

「わかっているのよ、乗り掛かった舟だ。所長もマシュもいいか?」

「ええもちろんいいわよ」

「世話になってますからね私たちも」

 

達哉に世話になっていることもあるが、見せられた達哉の記憶の映像で克哉の言葉が励みになっていることもある。

それもあるが、サーヴァントの直感スキルがまずいということを言っている以上見過ごすわけにもいかない。

第一にだ

 

「宇宙なんてどうするんだ・・・」

 

達哉の言葉に誰も何も言えない。

レイシフトを使おうが宇宙には受けないのである。

だがここで声を上げるものがいた。

 

「私たちの使っているスターシップ・ラムレイで一気にいけます」

 

それは謎のヒロインXオルタだった。

惑星間航行戦闘機、スターシップ「ラムレイ」であるなら。

地球の傍に寄せているスターデストロイヤー級「ドゥ・スタリオンMkーX」にすぐさま到着できるとのことことだった。

 

「だが戦闘力は・・・」

 

相手戦艦だ。いくらワープ航法のできる船とはいえ民間船ではキツイものがあるはずだと達哉は言おうとするが、克哉がそれを制する。

 

「その点は大丈夫だ。第4.5世代級の武装と戦闘力は持っている」

「兄さん、そういわれてもいまいちピンとこないんだが・・・」

「そうだな、スターデストロイヤー級が相手でも真正面から乗り込むことはできるくらいの戦闘力はある」

 

大枚叩いて買った自慢の小型高速宇宙船だ。

こういうものには出し惜しむなという克哉のアドバイスで謎のヒロインXオルタは購入を決意した。

かなり購入代金はかさんだが。高額賞金首やら宇宙マフィアを討伐したりでかなりの金額が入り、ローンは完済済みである。

まぁそれはさておき、宇宙戦艦級のハッチに乗り込むことぐらいはできる性能があった。

 

「郊外に光学迷彩で隠してあります、急ぎましょう」

 

だがまたその時にというやつである。

 

「人権鯖ァ死ねぇ!!」

 

機械が掛かった声と共にバイクの駆動音。

顔面が思いっきりメカなバイクに乗った大量の謎のヒロインXが会場を強襲したのである。

早い話、大量のメカ謎のヒロインX軍団が会場になだれ込んできたのだ。

会場の状況はまだ多くの現地人 幻霊 英霊が残っている。

無駄に戦闘能力があるもんだから会場は大乱闘状態とかした。

 

「自立人型兵器ディアブロじゃないですか!?」

「それってそっちの兵器ですか?!」

 

謎のヒロインXオルタがそれを見て叫ぶ。

自立人型兵器ディアブロ。

サーヴァントユニヴァースにおける量産兵器である。

彼らの利点は特定個人を簡単にコピーできるといことにある。

しかも製造コストも安い。

ただし単一命令しか受け付けず、いくらコピーと言っても所詮はデットコピーでしかない。

性能のいいバトルドロイド程度だと言えばわかり安いか。

故に旧式の兵器として廃れていたのだが。

コストの安さとこういった状況、すなわち敵を足止めしたいのなら有用な兵器だった。

なにせ向こうは時間を稼げればいいのだから。

 

「カルデアで出しているサーヴァントは皆、サモライザーに戻すわ」

「その心は?」

「こうもごっちゃ替えしているなら街中も一緒よ、だったら大勢で移動するより少数に限定して動いたほうが最短距離を抜けられるわ」

 

オルガマリーはそう状況を分析した。

混沌としているのはここだけではない。

テレビ中継だってされていたし町のいたるところに観戦モニターが設置されているのだ。

故に外も混乱とした状況が続いているだろう。だからこそ大勢で行かず逸れるリスクを減らすために少数で突破を図るべきだと考えた。

さらにはラムレイの搭乗人数である。

サーヴァント出しっぱでは全員が乗り切れないからだ。

 

「クロヒー」

「なんですかな、エリザ殿」

「この場とティアをお願い、私もカルデアと行くわ」

「なんでまた・・・いや無粋ですかな、オッキーの事ですな」

「そういうこと、悪いけどあとよろしく」

「しょうがないですなぁ、来年度のサバフェス優待券で手をうちますぞ」

 

刑部姫を見捨てられないということでエリザベートも参加。

ティーチは仕方がないといった風で納得

 

「ささティア殿こちらへですぞ、何時何か飛んでくるかわかりませんからな」

「Arrr」

 

ティアをとりあえず控室に案内し。

カルデアの面々を送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

何とかカルデアの面々は混沌とした場を抜け出すことができた。

サモライザーにサーヴァントたちを呼び戻しておいて正解だった

郊外に隠され停車されていたラムレイ号に全員が乗り込む。

だがいくら惑星間移動を前提としている機体とは言え居住性は二の次だ。

なぜなら戦闘が主任務とした機体だからである。

コクピットには二人が限界、居住スペースも二人分のベットが二段になっておかれている程度である

後はシャワー室一つにトイレ一つ簡易キッチンが一つ程度で。

後は惑星間航行用装備と満載された武装で埋まっている。

 

「では皆さん行きますよ」

 

学生服からいつもの戦闘服に着替えた謎のヒロインXオルタがそういいつつ発進のためコンソールをいじくる。

克哉も同様だ。

なおコクピットは二人乗りなため、カルデアトリオは睡眠室の柱にベルトで体を固定し。

エリザベートは必死に適当なパイプにしがみついていた。

理由は単純、重力制御機構がついていないからである。

いや厳密にいえばついてはいるが、それは機体自体が大気圏内で飛行するためのもので。

さらに言えばパイロット保護を目的としたものだ。

故に居住区に乗り込んでいる四人には適応されない。

フィンと反重力機構が起動し、ラムレイ号が宙へと浮く。

それと同時にラムレイ号が謎のヒロインXオルタのレバー操作によって垂直へと姿勢を変えて。

 

「ラムレイ、発進!!」

 

一気に上昇を介した。

その凄まじく数秒で大気圏を突破する。

コクピットは兎にも角にも他の部屋は内装品維持のための耐G機構と一応の重力制御しかないため。

達哉たちにはすさまじいGが掛かった。

ペルソナ使いかデミサバかサーヴァントでなければ内臓がかき回されている感覚に陥るくらいにはだ。

そして無事大気圏を抜け、軌道衛星上へと昇る。

 

「地球は青かったと風情に浸れる状況じゃないな」

 

そしてドゥ・スタリオンMk=Xと対峙すると同時に克哉はぼやいた。

絶賛地球は炎上中、真っ赤っ赤であるし。

今対峙しているのは戦艦である。

いわば対戦車兵器を持った歩兵VS自動迎撃システム付き戦車といったような戦力差がある。

 

「冗談言っている場合じゃないですよ、カルデアの皆さん、すごい無茶しますんでしっかり気を保ってくださいよ」

 

故にこっからは多少の無茶をしなければならない戦闘機動的な意味でだ。

 

『大丈夫だ全員覚悟はできている』

 

達哉の返しに克哉と謎のヒロインXオルタはうなずき。

謎のヒロインXオルタはフットペダルとハンドレバーを全開にした。

ラムレイ号が一気に加速する。

それに合わせ敵戦艦、全砲門オープン、主砲のレーザー水爆 レールカノン レーザー機銃に、対艦ミサイルで弾幕を張る。

 

「艦載機が出て来ないな」

「大方動かせる人材がいないんでしょう、普通のディアブロ程度では戦闘機を動かせる性能はないですから」

 

スターデストロイヤー級は空母も兼ねている。当然である。

だがしかし艦載機の発進の様子がない。

これは至極当然な理由がある。

戦闘機を動かせる性能を持つディアブロはほとんどが地上に回されている。

相手が幻霊やら英霊相手なのだからいくら数で押すにしたって一定の性能が必要であるが故である。

故にドゥ・スタリオンMk=Xの操縦要員以外は全員が降下し下で戦っているのだ。

艦載機を出す余裕が単純にない。

それでも弾幕は濃い、普通のパイロットなら落とされているだろうが。

操縦するのは謎のヒロインXオルタであるこの程度こなれたものだがと言いたいが。

 

「弾幕が濃すぎる! バリア維持率50%!!」

「わかって・・・ますよ!!」

 

さすがに一対一では分が悪いどころではない。

それでも機体のバリアを50%まで維持している時点で凄腕だ。

伊達にスペース神陰流の旗艦とやりあったわけではないのである。

あの時は僚機がいたが今回はそうもいかないのが痛いところだ。

 

「ですが、このままいけば突入できます、克哉さん機体前方に残りのバリアを集中、私の合図と一緒に火力も集中してください」

「わかった」

 

だが戦闘機としては順調にコースを進んでいる。

後は銀河連邦の開示した情報を信じて進むほかない。

ハッチの場所さえ合っていればOKなのだから。

火力を増強する暇はあってもハッチなどの移設作業はしていないと信じていないとやっていられない。

だがその信用は的中したようだ。

ハッチ自体は閉じられていたが、まだ機能している。

故に当初の予定道理に突入を開始した。

まず外角を覆っているバリアを自分たちのバリアを一点集中してぶつけ、突破する。

さらに閉じているハッチに対し火力を集中、ハッチを破壊。

 

「緊急着地でいいんだな?! えっくん!!」

「はい! 穏やかに着地なんてしている暇なんてありませんから!!」

 

速度そのまま、ランディングギアを下ろし重力制御式ブレーキと油圧式ブレーキにディスクブレーキを全開。さらにエアブレーキも全開だ

火花を散らしつつランディングギアが悲鳴を上げて減速。

しかしランディングギアの想定しない速度での着陸である。

一定数は持つが、それ以上は持たない。

加えて突入時にディアブロの軍勢に体当たりをかましているのである。

機体にすさまじい衝撃が走った。

それと同時にランディングギアがへし折れてそのまま格納庫をドリフトしつつ胴体着陸に移行。

激しい火花を上げてようやく原則し止まる。

コクピット内部もえらいことになっていった衝撃に備えていたとはいえ通常ディスプレイと光学式ディスプレイにエラーとワーニングの文字だらけである。

これは賞金がまた修理費に飛んでいくなと謎のヒロインXオルタは機体を固定するためのワイヤーを射出させたのち、自爆を防ぐため必要最低限の機能以外はシャットダウンしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ、こうも勇敢に乗り込んで来るとはな、人権云々前に心が躍る」

 

くだらないと言えばそうなのだろう。

フィン・マックールはそう思いつつも参加していた。

当たり前だ。最初はもはや塩性能、やっとこさヤケクソ強化もらってまともに運用されると思えば同ランク、同属性かつ完全上位互換とかいうパーシヴァルの実装である。ふざけているのかと言いたくもなるし。

第一まともなストーリーが閻魔亭だけってどういうことだと問いたい。

故に参加したのだ。

突っ込んできた相手は勇士、だが当時のカルデア(原作)と思い込んでいるフィンはすっかり戦力比を誤解していたのである。

彼の宝具「親指かむかむ智慧もりもり(フィンタン・フィネガス)」は自分の視認および認識している情報から正しい回答を導き出すというものであり。

認識している情報に誤りがあれば正しい情報は出されないのである。

当時のカルデア(原作)という認識であるがゆえに、達哉たちの存在を知りえなかった。故に。

 

 

「オルタライトニング!!」

「ペルソナ! ザオウゴンゲン!!」

 

コクピットのキャノピーがすっ飛ぶと同時に謎のヒロインXオルタと克哉が飛び出て広範囲攻撃を見舞う。

フィン以外は反応もできず真紅の雷とマハラギダインに飲まれ消し炭になった。

何とか回避したフィンだったが。

 

「「コール!!」」

 

サイドハッチから遅れて飛び出てきた達哉とオルガマリーがサモライザーの銃口をフィンに向けサーヴァントを呼び出す。

 

「クーフーリン!!」

「シグルド、ブリュンヒルデ!!」

「その心臓もらい受ける!!」

「魔剣完了・之なるは破滅の黎明!」

「特別ですよ?」

 

召喚と同時に宝具使用による最大火力をたたきつけるための人選だ。

事前に相談済みであり連携によどみはなく。

回避もできずフィンに宝具の三連撃が直撃し一瞬で彼を消し炭にした。

乗り込んでサーヴァント相手にするのは覚悟していた。

故に質と数による圧殺劇である。

もうここまで来て相手の誇りがーだとか感じてはいられない。

所詮自分がいい空気吸いたいだけの連中の集まりだ。それで迷惑被っているのだから卑怯だろうと圧殺する手段をとるというのは当然ともいえた。

 

「格納庫制圧完了、ここからどうする? 予定通りでかまわないか?」

 

故に格納庫は即座に制圧された。

そして達哉が一応の確認をとる。

これだけ大きい船だ。

破壊するのは難しい、第一にこれほどの巨体が地球上に落ちたら炎上中の人理がまずいことになる。

破壊するならブリッジ制圧だが。

エリザ粒子の件もある、下手に自爆させて大量のエリザ粒子が地球上に降り注ぐ可能性だってあり得るわけで。

そうなったら人理焼却どころではない、エリザ粒子で世界が剪定される恐れだって出てくるのだ。

故にここでは自沈させるわけにもいかない。

だからこそここではあえて手を分けて同時に制圧する必要性がある。

 

「エリザスカウターです、これでエリザ粒子が一番多い場所を探し出せるはずです」

 

そういって謎のヒロインXオルタがスマートフォンの様なものをオルガマリーに手渡す

 

「わかったわ。カツヤさんたちはブリッジの制圧、私たちはエリザ粒子の貯蔵装置の確保、タツヤたちはメインブースターの破壊ね」

 

というわけである。

敵を逃がしてはいけないし船を壊してもいけない、エリザ粒子を貯蔵している物を確保しなければない。

故にブリッジ制圧による制御系の奪取、残り二つはブリッジ制圧失敗時の保険としてエリザ粒子の貯蔵施設の確保、逃げられないようにメインブースターの破壊という三つの作戦を同時進行せざるを得なかった。

というわけで、別れて行動せざるを得なかったため、克哉、達哉、オルガマリーは各々の仲間を連れて別々に走り出した。

 

 

 

 

 

 

抵抗は驚くほど簡単に排除できた。

所詮は機械だ。部分的に壊せば動かなくなる。というか機械であるがゆえにジオ系の通りがよい。

電撃一発で相手を鎮圧できるのだ。

 

「と言っても・・・相性がね」

 

オルガマリーはぼやく、相性普通のトールではいつものペルソナより燃費が悪い。

魔術師ということでSP値は高いとはいえ長期戦には向かない。

 

「そのための我らです」

 

シグルドの一閃がディアブロたちを数体まとめて斬り飛ばした。

 

「そうです、本来ならマスターが前線に出るのは言語道断です、故に下がっていてください」

 

ブリュンヒルデもシグルドに同意つつ雷の原初のルーンを多重展開し援護。

ディアブロの軍勢を薙ぎ払う。

本来マスターは後方にすっこんで援護か指示を出すのが主だ。

前線に出て殺し合いしているほうがおかしいのである。

というか第一および第二ともにマスターが前線に出ないと逆に死ぬような状況だったため。

オルガマリーの認識がバグっている。

というか最高戦力が達哉な時点でカルデアはおかしいことになっているのだ。

と言っても責められない事柄でもある、ニャルラトホテプの手管はそんな安楽椅子にマスターを置くことを許しはしない。

戦えないなら速攻で食いつぶされる故にだ。

 

「そういってもね・・・数が数じゃない」

 

チェイテで暴れているタイプとは違い、精密な思考行動はとれない分、数が多い。

とにかく薙ぎ払うほかない。

 

「鉄の処女!! 十連壊れた幻想!!」

 

エリザべートも魔力がカルデア持ちということも相まって、投影型宝具鉄の処女を壊れた幻想込みでミサイルのように射出、爆発敵陣を薙ぎ払う。

これでようやく活路が開けた。

無数の機械の残骸を踏みしめながら。

オルガマリーも進む。

すでに拳銃捌きは熟練したものだ。銃弾を使わなくたってマズルスパイクと自身の脚でディアブロを破壊していく。

故に順調に事は進むのは道理。

そしてたどり着くのは。

 

「これは」

 

巨大な砲身が格納されている格納庫だった。

 

「惑星間砲撃主砲システム ロンゴミニアド」

 

それらを呆然と見つめる皆を傍らに、一人の女性が現れる。

言わずもかな刑部姫だった。

 

「オッキー・・・アンタなにを・・・」

「これを使って星の中枢核にエリザ弾を撃ち込む、私たちの望む思いを刻み込んで、そこから根源経由で座とサーヴァントユニヴァースに干渉、私たちの性能と物語を書き換えて人権鯖になるの」

「それって世界改変じゃない!?」

 

この世界だけではない、根源に干渉する以上、平行世界も巻き込むこと確定だ。

抑止の守護者が具現化していないのが不思議なくらいだが。

それはひとえに人理焼却下、時間軸や世界境界線でさえあやふやな状況だからこそ成り立つ手法だった。

 

「そんなに強くなりたいの?! そんな方法で目立ちたいの!?」

 

エリザベートが叫ぶ、そこまでして強くなりたいか、そこまでしていい空気吸いたいのかと。

 

「エリエリにはわからないわよ、良い出番もらって、そこそこやっていけて人気もあって。そのどれでもない私の気持ちなんて」

「いや何を言っているのよ!?」

 

いいイベントでの出番なし、性能だってQサポに見せかけて単騎特化な刑部姫と。

メインストーリーにメインキャストとして参加、毎年イベントをもらえてしかも星四配布。

しかも全員がそこそこ強いときているのに。

今作ではニャルのキャスティングでいい役もらって挙句自分を乗り越えて受け入れ霊基統合からの全盛期化。

準人権鯖級の性能を持っているエリザベートと比べて。

刑部姫は惨めなものだった。

 

「鯖の性能は自分の逸話の具現でしょうが・・・生前から引きこもっているアンタがキーキー吠えて私たちに迷惑かけてんじゃないわよ」

 

だが刑部姫の魂の訴えもオルガマリーには届かない、むしろオルガマリーは怒りのあまり額に青筋浮かべている始末だ。

あこれ、オルガマリーの地雷を踏みぬいたなとシグルド、ブリュンヒルデ、マリー・アントワネットにエミヤは思う。

ただでさえ気苦労しているのに自業自得をもみ消したいからの過去改変したいですと言われた上に現在進行形で巻き込まれれた挙句世界の危機にされれば誰だって切れる。

故にもはや同情の余地なし。

断罪の刃を振り下ろすべしとオルガマリーは心に決めた。

ジャキリと両手のリペアラーを構え、背後にシュレディンガーを呼び出す。

 

「ちょっとオルガマリー説得ぐらい」

「エリザ、こういうやつは自分の過去を棚上げしてどこまでも被害者面するから無駄よ」

「その言い方にはカチーンと来るけど。オルガマリーのいう通り姫は引く気はないわ」

「オッキー・・・悪いけれど。力で押し通させてもらう」

「やってみろ!! 姫は山の翁ほどじゃないけれど単騎性能は高い!!」

 

 

そんな自虐を前にしつつ躊躇なくオルガマリーは開戦の一撃となる銃撃を繰り出し。

双方が激突する。

 

 

 





刑部姫心からの叫び。
親友が気づかぬうちに星5になっていた上に。クティカル30%アップ、NP配布スキルに女性限定バスターバブ 引っ提げてほぼ準人権レベルになってりゃそりゃね。

パフェエリチャンのスキル内約

冷血のカリスマ A 味方全員攻撃力アップ+NP20%チャージ 女性サーヴァントの場合 バスターアップ
チェイテの夜 B 原作と同じ。
全盛回帰 A+ 自身にガッツを付与、味方一人ににスター集中&クリティカルダメージアップを付与


宝具
破砕魔城「ハウリング・エルシェーベト」
対軍宝具 B
属性 バスター
敵全体に強力な防御無視および無敵貫通による攻撃




さらにおまけ
ラムレイ号
4.5世代型惑星間航行戦闘機。
銀河連邦で正式採用されている第五世代型惑星間航行戦闘機の一世代前。
4.5世代と表記されているのは一部を改修および改造しているからである。
居住性は二人乗りであることを前提とした最低限なもので、ドゥ・スタリオン号やマアンナ号より下である分。
戦闘能力は上、戦艦級ともある程度やりある上にワープ航行距離も長い。
ちなみに購入経緯は自分たちも船が必要ということで中古市に顔を出したらたまたまあったものらしい。
克哉の持っていた宝石などで前払いしてあとはローン払いであるが。
スペースイシュタル事件にも参加した影響で多大な賞金が舞い込んだため現在はローンを完済しつつ。
修理ついでに4,5世代型の今の姿となった。
修理費や改修代金も前述の賞金で賄い切ったらしいが。そのせいで現在謎のヒロインXオルタの懐はかつかつである

ドゥ・スタリオンMk=X
銀河連邦のネームドシップ予定だったスターデストロイヤー級宇宙戦艦。
人権帝国軍に奪取されてからは彼らの本拠地兼旗艦にされている
性能は宇宙戦艦ヤ●トのアンドロ●ダとスターウォー●のスターデ●トロイヤー級足して二で割ったような形状


かっちゃんが原作勢に言及しなかったわけ。
藤丸とは出会っているが最後の最後まで彼が原作主人公かつカルデア所属と知るタイミングがなかっただけである



えーこんかいでこの特異点は終わりにする予定でしたが。
文字数が膨大になってキリがないため、今回では終わりません。
次回で終わり、そのあとカルデアでの日常風景とエリザベスとのコミュ挟んで第三に移行する予定となりました。
ですがプロット消失のため次も遅れます、いつもすいません。
アンケートを終了します たくさんの回答ありがとうございます


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08 饗宴の終焉 別れと悲劇

お墓をつくってあげよう・・・この子のお墓を。
うちの庭に、立派な。立派な・・・・

GTOより抜粋


ザンッ!!、その音とともに数体のディアブロが崩れ落ちる。

ネクロカリバーは両刃剣だ。

熟達した使い手が使えば複数人を一気に制圧できる。

加えて克哉のペルソナパワーを込めたニューナンブは一発で楯列に陣を構えていたディアブロ数体を撃ち抜く。

 

「全く数だけは多い」

「このタイプは数で押すのが、常ですから」

 

確かに数は多い、だが極まったペルソナ使いと最高のヴィランとしての英才教育を受け実戦経験を積み重ねた存在には鎧袖一触されるだけだった。

量が質を圧するという言葉があるように、逆もまた成立するものだ。

質が量を圧する、なにも珍しいことではない。現実ではそうもいかないがサーヴァントとペルソナ使いとなるとその方程式は成立するのだ。

故に数押しタイプのディアブロなんぞ二人の敵ではないのである。

だからこそ順調に敵を片付けて奥へと進む。

目指すはブリッジ、多くの制御系が並ぶ場所でもあり敵の玉座でもある。

礼装越しの通信では状況は優勢であった。

達哉の率いるチームは推進室の制圧まであと一歩というところまで来ているし。

オルガマリー率いるチームも刑部姫に苦戦中ではあるがリソースの削りあいに移行した以上制圧も時間の問題だった。

要するにテロリストなんぞこうである。

正規の部隊には勝てないと相場が決まっているのが当たり前だ。

 

「さてカードキィなんて僕たちはもちろん持っていないわけだが・・・」

「カードキィならここにあるでしょう?」

 

ブリッジの扉の前まできてそう冗句を交わす。

二人は無論ブリッジに入るカードキィなんて持ち合わせていない。

だがマスターキィに相当するものを持っている。

謎のヒロインXオルタが持つネクロカリバーだ。

この程度の扉ならネクロカリバーでロックを破壊し、二人の蹴りでこじ開けることは容易である。

だからこそ謎のヒロインXオルタは扉の中央にネクロカリバーを差し込みジジッという音とともにロック部分を溶断。

そして二人で蹴りを加えこじ開け、ブリッジにたどり着く。

 

「やはり来ましたか、周防克哉、謎のヒロインXオルタ」

 

そしてそこにいたのは白いヘルメットマスクに白いマントに青を基調とした戦闘服を身に纏っている女性だった。

脇には漆黒のディアブロ。

ディアブロの最高級モデル。サーヴァントに匹敵し得る数ある軍用の中でもワンオフに近い諮問官モデルが二体控えている。

 

「当たり前ですよ、この世界の技術基準で来れるのは私達だけです。そして」

 

謎のヒロインXオルタはそういった。

確かに、米国が秘密裏に神の杖を配備している世界ではあるが。

それでも大規模な施設なしには宇宙に上がれない。

個人が宇宙に飛ぶというのはまだ無理な世界だ。

故にこういうほかないのは道理。

それはさておきながら謎のヒロインXオルタは――――――

 

「何やってるんですか、X」

 

白マスクの正体を見破った。

いやでもわかる。元は同じ霊基より生み出された双子の様な存在だからだ。

故に正体を見たりというやつだ。

 

「やはりアナタを誤魔化すのは不可能ですか・・・」

「いやせめてボイスチェンジャーくらい使え、僕でも一発でもわかったぞ」

「シャラップ!! 今いい場面なんですから! そういう突っ込みは後にしてください!!」

「ええ・・・」

 

克哉の突っ込みにシリアスやってんだから黙っていろと叫ぶ。

 

「決まっているでしょう? 未来の私が銀河警察とかいう内実ブラックな場所に就職してあんな様になるなら、こんなこともしようもんですし。政治家共の糞っぷりを見もすればこうもなろうというものです」

 

自分をふりまく糞っぷりに嫌気がさしただけだと。

ある日突然現れた影に真実を見せつけられ嫌気がさしたのだという。

 

「ニャルラトホテプか・・・だが君のそれは至る可能性というだけであって、今の行動を見直せば避けられる行為だった」

 

克哉は一発で謎のヒロインXがそうなった経緯を見抜いた。

ニャルラトホテプの仕業であるとすぐに理解できたからだ。

あの事件を通して謎のヒロインXと首謀者たちの姿がうっすらと重なったからだ。

 

「ええ、あなたのいう通り、彼に私は至る未来を魅せてもらいました、故に認められません、あんなブラック企業に就職して疲れたOLみたいになる運命なんて!!」

「・・・それでも君が自分自身で選んだ道だろうに」

 

克哉は哀愁を漂わせながら謎のヒロインXの言葉を切って捨てた。

なぜなら自分もそうしたからだ。

親の事もあった、弟の事もあった、いろいろあった。

だから後悔はあっても未練はないゆえに、そう切って捨てたのだ。

もしかしたらの自分の姿がそこにある。

だが受け入れなければ弟の達哉に申し訳が立たぬし、そのうえで否定しなければ今の自分を否定することになるからだ。

そして克哉の事情も謎のヒロインXオルタは理解している。

一年も同居生活しているのだ。

思わぬはずがない。菓子作りを趣味としているのに喫煙していることを不思議に思って聞いたことがあるからだ。

そしたら身の上も話されたのだから知っていて同然だ。

克哉はその道を誇っている。

故に甘えに走り世界改変なんぞに走った謎のヒロインXを謎のヒロインXオルタは許せない。

それぐらいに克哉が宇宙の星々を見ながら語った彼自身の歩みと影の起こした事件は苦しく光り輝いていたから。

そうだとも、彼らのように生きたいと謎のヒロインXオルタは思ったのだ。

誰かに言われたわけではない自分がそうしたいのだと願ったからだ。

無論それに付属する影に翻弄されることも覚悟している。

故に自分が選んだ道、克哉が歩いてきた道を謎のヒロインXオルタは謎のヒロインXが侮辱しているようにしか聞こえなかった。

 

「もう私の知っているXはどこにもいないのですね」

「ええいませんよ、ここにいるのは型月ナンバー1ヒロインの謎のヒロインダースXですからね!!」

「知ったことではありませんよ、そんなこと、私から見ても型月ヒロインなどではなくヒドインですよ今のあなたは」

「・・・ほざくな!! えっちゃんは私がやる、ディアブロは克哉を抑えろ!!」

『『了解』』

「えっくん!!」

「大丈夫です、任せてください」

 

そういってダースヒロインXは剣を構え、消えた。

瞬間的に謎のヒロインXオルタは反応、ネクロカリバーで受け止める。

ジジと光刃同士が激突スパークする。

それと同時に諮問官モデルが二体同時に克哉に襲いかかった

 

「貴女はいいですよねぇ!! やけくそ強化でオルタ兄貴と同レベルのバーサーカー性能なんですから!!」

「いやいや、今時兄貴オルタって!? 今の主流はオルジュナですよね!?」

「うるさい黙れ!! 単騎Q宝具だってスカとスカ水着で復権、おまけにイベボイスでは超優遇待遇、キャラストだってそうです、あなたはアイドルまで行って私しゃ社畜ですよ!? こんなのあんまりじゃないですか!! ひどすぎるじゃないですか、ふざけるなぁ!! それで今はあれですか!? 初恋失恋確定ですけど、次のピクシヴに番外編投稿するならアナタと克哉との宇宙冒険譚ですか。なんで何時も何時もアナタだけが優遇されて私だけ、某赤い人のように情けないを晒す羽目になった挙句。ブラック企業に就職したOLキャラなんぞになっているんでしょうか! おかしいでしょう!? 常識的に考えて!!」

「金に釣られて銀河警察なんてブラックまっしぐらな職場に着いたのは、アナタ自身の意思でしょうに!! 下調べしてないあなたが悪いとしか言いようがないでしょうが!! というかアイドルって何です?!」

 

境遇での八つ当たりではないかと、謎のヒロインXオルタが刃を返しつつ謎のヒロインダースXXはエクスカリバーで返される刃を受け止める。

だが謎のヒロインXオルタの攻めの手は緩まない。

元々両刃剣とは棒術を主体とした攻め手だ。

防衛より攻めの続けるほうが理に適っているのである。

そこに片刃を消しては表しを繰り返し相手を幻惑する

だが手が鈍る、相手が親友であることは無論起因しているが第四の壁を越えたネタを連発されるせいで困惑するほかないわけで。

 

「下調べしても情報が出てこないからこんな羽目になってるんですよぉ!!」

「いや、出てくるでしょう、大方、丼勘定とかで自分ならすぐ上に上がれるとか思って受けたんじゃないですか!?」

「ギクッ」

「図星ですか!? ふざけないでください!! 世の中家族のために選択を妥協する人だっているんです!! それなのにあなたは適当に職を選んで八つ当たりとか、ふざけるな!!」

 

エクスカリバーをはじき後退、左手からオルタライトニングを射出。

謎のヒロインダースXはエクスカリバーでそれを受け止め苦悶の表情を浮かべた。

 

「うるさい!! それ以外に職業適性がない私の悲哀があなたに分かりますか!?」

「そんなに気軽に過ごしたいならバウンティハンターとかの自由業があるでしょうに、あなたはそうです、何時も何時もズボラに適当にやってはしりぬぐいさせられるのは私だった!!」

 

学生時代の話を持ち出しつつオルタライトニングの出力を上げる。

それに比例して負けじと謎のヒロインダースXも聖剣の出力を上げた。

 

「そして今度は職場待遇だのスキル調整がどうのこうのストーリー扱いが悪いだの、文句言うな!!」

「なにを・・・それは恵まれている者の意見です!! アサシンと言えば今はカーマ タマモ光の二択じゃないですぁ!! 私と同じ顔ばっか量産した挙句、シリーズの中では一番の不遇ぐらいの扱いをされている私の気持ちがあなたに分かりますか!?」

「バーサーカーポジの私も出番ないですよ、それ言ったら」

「スカスカで復権した奴が何言うか!!」

「それはあなたも一緒でしょう!?」

「星稼ぎもジャックに負け、攻撃力補正値の低いアタッカーアサシン、限定的特攻持ちの私が見向きもされないのは当たり前でしょうが!!」

「それは極論です!!」

「うるさい!! 運営が好き勝手、セイバー顔生産した挙句塩漬け性能にするなら、私も好き勝手するまで!!、この鋳造されたエリザ粒子弾頭を星の中枢核に打ち込み、根源に干渉、スキルを人権にする!!そうです・・・」

 

オルタライトニングがはじかれ互いに後退。

そして謎のヒロインXオルタは見る。かつての親友の表情が狂気に歪んでいることに。

 

「強力なステータス!! コマンドカード一色三枚!! 威力があり汎用的特攻の乗る宝具!! カッコいいバックボーン!! 下半身に直撃する絵!!」

 

突然としてメタ的意味不明なことを言い出す。

マスクからチラ見する彼女の双眸は赤く真紅に染まっていた。

シャドウに乗っ取られつつあると謎のヒロインXオルタは感じる。

シャドウの原理、それは克哉がすでに話していたからだ。

 

「あとはそこに人権キャスターと私以外のサーヴァントが下方ナーフ修正されば、完成する!!」

 

「ならば答えろ、私とお前、何が違う!! やけくそ強化を貰っていいバックボーンを付けてもらい他のサバを殺したお前!! 碌な強化を貰えないから私自らの手で強化し他の鯖を殺そうする私!! 無自覚の殺人と自覚ある殺人、どこが違うというのか!!」

 

「分からんか?」

 

「分からんか!?」

 

「ウヒャハハハハ!! 高難易度の特別エネミーを真正面から小細工抜きで単騎で攻略する!!」

 

「痛快で爽快、だから人権なんだ!! これが美だ!!」

 

「分からんか? えっちゃん、分らんだろうなぁ!! 謎のヒロインXオルタァ!!」

 

もはやシャドウも主人格も狂って交じり合い訳の分からないことメタ的にほざき始めた。

だが問題は、制御システム諸々を握っているのはコンソールではない。

現に誰も彼もコンソールに触っていないのに勝手に動いている。

いうわゆる脳波制御システムだ。

今謎のヒロインダースXがかぶっているマスクによって遠隔操縦されているのである。

止めるにはマスクをはぎ取るか彼女の首を斬り飛ばすしかない。

前者は物理的に困難、こうも高速戦闘をしながらマスクだけを狙うのはほぼほぼ不可能。

技量が極まっている宗矩や書文にクーフーリン、そして時止めを使える達哉なら可能かもしれないが。

少なくとも謎のヒロインXオルタではそれができない。

であるなら必然的に後者となるのだが。それも今まで気づき上げた絆が足を引っ張ってできはしない。

いくら狂おうが友人は友人なのだ。殺すことなんてできはしなかった。

 

「ヒャハハハハハ!! 撃ちーかたはじ・・・・」

 

狂気のまま引き金を引いた瞬間だった。

克哉と謎のヒロインXオルタの通信機に連絡が入る。

 

『こちらオルガマリー、エリザ粒子弾頭の確保&星間砲撃システムの鎮圧に成功』

『こちら達哉、ブースターユニットの確保に成功した。そちらに合流する』

 

すでに謎のダースヒロインXは裸の王様だった。

砲撃ユニットを抑えられ、ブースターユニットですら抑えられた。

つまり打てないし仰角をとれない。

これには訳がある、いかに刑部姫とはいえ単騎でオルガマリー軍団を相手どるというのは無理なことだ。

ブースターユニットも同じ理由である。

質と数で両立されたなら勝ち目がないのは至極当然であり。

ユニット奪還のためのクラッキングツールをオルガマリーと達哉に事前に謎のヒロインXオルタは渡しておいたのだ。

そのことに唖然となった謎のヒロインダースXの側頭部に謎のヒロインXオルタの上段蹴りが叩き込まれ壁際までふっ飛ばされる。

壁を陥没させるほどの威力だが、追撃として克哉のニューナンブの四連射が謎のヒロインダースXの四肢を貫き行動不能に陥らせた。

いくらサーヴァント級の戦闘能力を持つとはいえ極まったペルソナ使いには上位サーヴァントクラスでなければキツイものがある。

現に諮問員は黒煙を上げて行動不能になっていった。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・・」

「なぜ・・・だ私」

「確かにそうあればいいですね・・・けれどそれは違うでしょう私・・・」

「皆、苦労している、小細工抜きで生きていけるほど世の中は甘くない」

 

そう皆苦労して攻略法を積み上げてきた。そこに人権だのなんだのはないのである。

好きな風に戦い好きな風に勝つ、それがそれぞれの戦いであるがゆえにだ。

 

「もうじき達哉やオルガマリー達も合流する、あきらめるんだな」

 

克哉がニューナンブの弾倉を露出し排莢しつつ、そこらのプロが裸足で逃げる速度で装填しながら降伏勧告を行う。

 

「そうです、逃げることはできません、上位サーヴァントを連れたペルソナ使いのマスターがこちらに向かってきてます、それにここはサーヴァントユニヴァースじゃない、もう私たちが大立ち回りなんてする必要がないんですよ」

「・・・まだだ!! 何も終わっちゃいない!! 何も終わっちゃいないんだ!! 私にとって戦争はまだ続いたままなんだ!! 現に第二部終わったと思ったら次があったじゃないですか!! そしてXX化したら皆好き放題いいやがる!! あいつらなんなんだ!!何も知らないくせに!!」

「時代が悪かったんだとしか言いようがない」

「悪かった!? ちっとも現状良くないっどころか主要時間軸では最悪の引き延ばし展開、この世界線ではニャルラトホテプが暗躍して難度上昇!! ふざけているのか!!」

「だったら最高のヒロインって栄誉を捨ててこんなところで死ぬんですか?」

「私だって最初は推してくれる人がいてメインを務めていました!! ですがアルトリア顔が増えるたびに人は移動して、挙句未来は疲れたOLそしてORTへの使い捨ての鉄砲玉扱い!!、この時間軸アーサー王はやらかしの元凶!! 帰ってくるんじゃなかった!! 必要とされるのはいつも最優戦力だけでした。それでもですが戦場には仲間がいたんだ!同じ待機組って仲間が!!」

 

そして謎のヒロインダースXは膝を抱えて泣き出した。

だが誰も責めることはできない、誰だって自分を必要としてくれる場所を探しているからだ。

だから泣く謎のヒロインダースXを謎のヒロインXオルタは黙って抱きしめた。

 

「兄さん、無事か!?って全部終わったのか・・・」

「ああ終わったよ・・・」

 

そこに達哉とオルガマリー達も合流する。

全ては終わった後は引き揚げ作業やらなんやらの事務的手続きにと思った瞬間である。

船が揺れた。

 

『いやはこの土壇場で日和るとは全く情けない執念だ』

 

モニターにアルビノの美青年の顔が映し出される。

同時に各モニターにワーニングの文字が浮かび警報が鳴り響く。

 

「アナタは、マキシマ・・・」

『そうだよ、久しぶりだね謎のヒロインX、どうしたんだい? 君の目的はかなうんだ』

「え?」

『君の目的には鋼の大地とサーヴァントユニヴァースに分岐する起点への干渉による改変だ。あとはこの燃えた大地でエリザ粒子を爆散させれば・・・作業は完了だ』

 

マキシマと名乗るニャルラトホテプはコロコロと嗤いつつそういう。

人理の分岐点、その結末は地表をエリザ粒子で満たすことによって完成するのだと。

 

『試作品だ。盗まれるくらいなら自沈させるプログラムくらい組んでいる、それを解除したのは僕で。どのような状況になろうとも君の願いが叶うようにした。喜びたまえよ』

 

その瞬間、さらなる振動。

船が地球へ向けて下降し始めた。

さらに落着と同時に自爆する機能まで作動。

このままでは船の核融合炉エンジンの爆発とエリザ粒子の飛散もあいまって地表がエリザの冬が訪れる。

そしてそのままニャルラトホテプの通信が終了し。

全員がまたかよと思いながら席に座る。

達哉とマシュは操縦桿を握りしめて、オルガマリーはクラッキングツールを突っ込みつつシステムをカルデアへとつなげる。

いかんせん根本的クラッキングとなるとオルガマリーとクラッキングツールでは役不足もいいところ。

高度も下がりカルデアとの通信も回復したため、そういうのに得意なスタッフの力も借りることにするのは当然の処置とも言えた。

 

「所長、自爆解除までどれくらいかかる!?」

「6分待って!!」

「そのくらいなら何とか・・・」

「ですが先輩、船を地表に落したらそれだけで人理崩壊ですよ!!」

 

未来船が地表に落下。

軟着陸時点でも相当にやばいのはマシュのいう通り事実だ。

だが達哉には冷や汗かきつつも当てがあった。

 

「幸いにもこの船はチェイテ特異点とのつながりがある、このまま特異点のチェイテ村に落す」

 

そうこの船はチェイテ特異点とつながっている幸いにもだ。

出なければエリザ粒子の転送輸送なんてできるはずもない。

そしてチェイテ特異点はその方式上人理に影響しない、落とすには絶好の場所である。

 

「え、ちょっと待ってよ!! 街中に落すとか言わないでしょうね!?」

「そこまではしない、落すとすれば外れの墓場だ」

 

エリザベートの抗議に達哉は当たり前のように答えた。

市街地に落す気はない、人間として人理修復者として、よほどの事がない限り人員の欠損は認められないからである。

それを容認すればただのテロリストに過ぎないがゆえにだ。

だからこそ全員が最善を尽くすのはいつも通り。

いつも通り過ぎて通常運転みたいになっているが必死さは決して嘘ではないのだ。

と言ってもバイクのコントロールとはわけが違う。

騎乗スキル持ちのマシュのほうがうまくやれるだろうが複数人で操縦する以上いないよりはましだろう。

 

「俺はマシュのサポートに回る、マシュ頼めるか?」

「そうは言いたいですが、脳に回ってくる情報が多すぎて」

「マシュちゃんに私も同意、ちょっと無理があるわ」

 

騎乗スキルに反して彼女自身のスキルが追い付いていない。

当たり前だ。バイクや馬のシュミレーションはやったが、宇宙船の操縦なんてしたことがない。

騎乗スキルによる知識と操縦のバックアップがあるとはいえ限度がある。騎乗の形式が古代と違う。

まだバイク程度なら何とかなろうが複数人で制御される宇宙戦艦を一人で制御するのはいかな高位騎乗ランク持ちでも分身でもしなければ不可能だ

それはマシュよりも高い騎乗ランクのマリー・アントワネットも同じだ。

 

「結局俺か! マシュ、マリーさんサポートを!!」

「当方たちは何をすればいい、マスター?」

「シグルドはオルガマリーの補佐、他はまだ稼働中のディアブロがいるかもしれないから第一種戦闘態勢で待機!!」

「「「「「了解」」」」」

 

操縦桿を握りブースター出力を最大限にしつつまずは星を一周する。

だがいくらブースター出力を最大にしても出力は下がる一方だ。

ニャルラトホテプが組んだプログラムは強固でオルガマリー&シグルド+カルデアのプログラマーチームが総出で当たっても五分五分という状況である。

 

「こうなったら・・・ブースターユニットを起爆させる!!」

 

どう考えても地表に落下すると判断した達哉はブースターユニットの自爆させる判断を下した。

 

「でもそれじゃ余計に」

「大丈夫だ、ブースターユニットを暴走させて指向性を持たせた上で自爆させる、そうすればスピードも出るしあとは姿勢制御用のスラスターとスイングバイで特異点に落せるはずだ!!」

 

出力が低下している以上、もうブースターユニットは使い物にならない。

ニャルラトホテプが仕込んだプログラムを解除してというのも時間がないのだ。

なんせ今船の自爆プログラムを解除するのでやっとこさなのだから。

だったらわざと自爆させて一時的推力を得る、そのほうが賢明だ。

後はスイングバイで特異点を目指す。

 

『演算結果だしたよ!! 参考にしてくれ!!』

「助かる!!」

 

ロマニが軌道演算予測を達哉の礼装に転送する。

正確な航路が映し出された。

 

「というわけで。クーフーリンに長可、メインブースターユニットを適度に壊してきてくれ。それで強制的に自爆システムを起動させる」

「了解」

「あいよぉ」

 

推力が低下しているなら意図的に壊してブースターユニット自体を臨界に持っていく。

そのため。達哉は再度二人をブースターユニットに派遣する。

いわゆる動かぬなら人力で意図的にというやつだ。

そこからの作業は皆無言だった。

いうことは言ったし。あとはやるべきことをやるだけである。

それで何分たっただろうか? マシュがモニターを見つめるとメインブースターユニットに異常が発生。

臨界までというやつにになっていった。

 

「先輩、クーフーリンさんたちは上手くやったようです!!」

「よーし、二人とも場を離脱してくれ」

『塩梅よく壊せるか不安だったが上手くいったようだな! 長可離脱すんぞ』

『わーてるよ、このまま宇宙の藻屑になりたかねぇからな』

 

二人が離脱したのを確認し、自爆と同時にブースターユニットを切り離す。

タイミングが重用だ。地味にノヴァサイザーで0.1秒停止を繰り返しつつタイミングを計る。

もとより門外なのだ。こうでもしなければ達哉でも厳しい。

そしてすさまじい衝撃音が響き渡ると同時に船が加速。

カルデアの提示した軌道ラインへと何とか乗せる

 

「所長、兄さんそっちは?」

「順調って言いたいけど」

「うまくはいかんな、こういう時に薫の奴がいればいいんだが・・・」

「薫?」

「パオフゥの事だよ、あいつあの一件以降本名を名乗ることにしたんだ」

「克哉さん、しゃべっていないで手を動かしてくっださい」

「すまん、えっくん」

 

思い出話に移行しそうになったのを謎のヒロインXオルタはたしなめつつ、自身も手を動かす。

厭味ったらしいプログラムだと悪態をつくほかない。

だがニャルラトホテプの化身にはチクタクマンという機械に精通する化身も存在する。この程度のプログラムは悪戯の範疇だろう。

本気になれば最初から詰ませられたのだから。

そして目標ポイント到着まであと一分を切った。

すでに大気圏に降下している、達哉は緊急停止のための各種固定ワイヤーを射出準備した時だった。

 

「よっし!! プログラム解除成功!!」

 

オルガマリーの声が響く。

それと同時である、別のプログラムが起動する。

いわゆる連鎖プログラムだった。

船の姿勢が一瞬にして入れ替わるぐあんと音を立てて船の先端が下を向くのだ。

 

「ちょぉぉおおおおお!?」

「全員身近なものにつかまってください!!」

 

ブリッジが悲鳴の嵐になる。

モニターに映るのは高速でスライドする地表だ。

さらに上下真っ逆さまになったことでスピードが減衰し。

計算上、このままだと。

 

「くっそ、このままだとチェイテ村のど真ん中に落ちる!?」

「ええ!?」

 

達哉のいう通りチェイテ村のど真ん中コースとなった。

 

「そんなの認められないわ!!」

 

エリザベートからすれば住人に大損害が出る場所に落すなんて言語同断だ。

何か手はと達哉もマシュもマリー・アントワネットも手を尽くす。

そして思いつく、最終手段。

 

「一応の手はある」

「あるの!?」

「・・・君の城に船をぶっさす」

「え? ええええええぇぇぇぇえええええええ!?」

 

エリザベートの驚愕をよそに説明する。

姿勢制御用の重力姿勢制御装置を使えば十分に勝算はあると。

エリザベートは瞬間迷うが。

 

「領民に犠牲が出るよりはましね・・・やって頂戴」

「わかった!!」

 

達哉の提案を支持、即座に城に落すように言う。

 

「ロマニさん、城の人たちに避難勧告を!」

『もうやってるよ!! そしたら全員フェスに出ているから城は無人だって!!』

「わかった!!、目標まで30秒、全員対ショック姿勢!!」

 

怪我の功名か、何かの導きか、今城に人はいないという。

なら好都合だとばかりに。

まだ手の付けられる姿勢制御スラスターと重力姿勢制御装置を使って速度を殺していき。

落着。振動に揺さぶられながら達哉は船の姿勢固定用ワイヤーを射出し、船を地面に縫い付けたのっだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかメーデーやる羽目になるとは思わなかったわ」

「私もですよ、所長」

「二人とも、メーデーってなんだ?」

「航空事故に関するドキュメンタリー番組ですよ、先輩」

「そうか・・・」

 

そんなやり取りをしつつサーヴァントはサモライザーに戻し。

全員で這う這うの体で何とか船から脱出。

城の部分に抜けて一息ついて、外に出てみれば。

チェイテポエナリ城に見事にドゥスタリオンMk=Xが突き刺さって。

チェイテポエナリドゥスタリオンMk=X城となっていった。

 

「お墓をつくってあげましょう・・・この子の為に、立派な・・・」

「まずいです先輩、エリザベートさんがあまりの惨状に訳の分からないことを・・・」

「そっとしておこう」

 

そして城の惨状を見てエリザベートは泣きながら笑いつつ意味不明なことを口走って。

この場は解散と相成った。

 

 

 

さてその後は滞りなく進んだ。

謎のヒロインXオルタは自身の船を修理が終わるのと銀河連邦警察が到着するのを待つことになった。

謎のヒロインダースXはチェイテの地下牢に放り込まれ監視されている。

カルデアの面々はいろいろ終わったということもあって多少の羽伸ばしと相成った。

フェスの後祭を楽しみつつ過ごした。

だが何事にも終わりは来るものだ。

 

「これは・・・」

 

克哉とティアの体が粒子状の光となって消え失せていく。

即ち両方の役目が終わったということを意味していた。

 

「役目は終わったということか」

「Ar」

 

両者ともに自身の体に戻っていく感覚がする。

ニャルラトホテプの呪縛が抜けたのだ。

 

「克哉さん・・・行ってしまうんですか?」

「ああ」

「・・・」

 

謎のヒロインXオルタは当たり前のことを聞いて克哉は躊躇なく言い切った。

この出会いこそ偶然、いずれは別れがセットなものなのだ。

いずれは来ると思っていた。だがいざ直面すると何と言っていいかわからない。

克哉には克哉の生活基盤があり居場所がある。

ここではない。だがしかし一年彼と過ごすうちに彼を好きになってしまった。

だがそれも彼は別の人を愛している。己の気持ちは伝わらない。

もしくは伝えてはならぬだろう。重荷になるからだ。

どうしていいかわからず立ちすくんでいる内に、

克哉の下半身が粒子状になって消えていく中で彼は彼女に近づき。

 

「えっくん、この一年は助かった・・・本当にありがとう」

「はい」

「ここで僕たちは別れる、今生の別れになるだろう。だからひとつ言わせてくれ、僕たちは心の海を通してつながっている。いつでも会えるさ」

「本当にッ・・・そういうとこ卑怯ですよ、克哉さんはッ・・・さよならです、ですがいつかまたきっと偶然があるなら良きところで会いましょう」

「ああ、それと達哉、みんな元気にやっている、お前も納得のいくようにやれ」

「わかっているよ兄さん。俺はこの世界で生きていく、もう背は向けない犯した罪にも自分にもだ。だから俺は元気にやっているって伝えてくれ、それじゃさようなら兄さん」

「ああ、さようなら達哉」

 

そして克哉が消える。

風が染みると謎のヒロインXオルタは夜空を見上げた、彼女の頬には一筋の涙が流れていた。

そしてティアも。

 

「Arrrr」

「ごめんなさいね。振り回すことになっちゃって」

 

オルガマリーがティアにそういいつつ手を握る。

マシュも達哉も同じように握って手の甲が重なる。

 

「今度会えるなら少し落ち着いたところがいいな」

「先輩に同意です、ここはちょっとやかましかったですから」

 

そして手を放しティアも粒子状になって消えていき最後に。

 

「ソレデモたのしかったです。アナタタチにデアエテよかッタ」

 

微笑んで消えた。

 

「それじゃ私たちもカルデアに帰りましょうか」

 

オルガマリーの言葉と同時にレイシフトアウト。

まだ第三特異点の位相をつかみきっていないということもあってしばらくは通常運転だろう。

そしてあわただしい音楽フェスは幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティアことティアマトは自分自身へと帰った。

そこに待ち受けるのは影だった、ニタニタと彼、あるいは彼女は嗤い。

そして告げる。

 

「どうだった? 私が用意した男は、なかなかの物だろう? そう! 英雄として」

「エいゆうとして・・・?」

「そうだとも、彼らは傷つき嘆き、神を殺すための駒、英雄譚の最後は悲劇と相場が決まっている」

「・・・!?」

「そしてこれが現状彼らが乗り越えた戦場だ」

 

そこにあったのは悲劇だ。

 

ジャンヌ・オルタ 冥府の聖女、殺戮の聖人。  皆殺しの荒野

 

ネロ・クラウディウス 紅き衣を身に纏う大淫婦。ビーストⅥ/R

 

ヤルダバオト 統制神 大淫婦のまたがる獣。  ビーストⅥ/L

 

そして達哉が槍で貫かれるシーンとオルガマリーが剣で貫かれるシーンが投影され。

戦場と化した特異点の映像が流れていく。

 

「ナンデ・・・・」

 

どうしてとティアは思う。

彼らがなんでこんなひどい目に合わなければならないのか?

 

「なぜ? どうして?? 当たり前だろう? 彼らは素晴らしい人間だが、所詮は光と闇の境界線を行く只人だ。少し押してやればどちらかに転ぶ砂上の楼閣でしかないのだよ、そんなものに意味なんてないのだ」

「イミ? イミダト?! ソレヲオマエがキメルノカ!?」

「決めるのは連中だとも、そしてそれに見合った試練を用意するのが私の仕事だ」

 

自分の定義すら揺らぐものに意味はないと嘲笑い。

ティアマトは怒りのままにニャルラトホテプの胸倉をつかみ上げて問いただす。

それでも彼の者は嘲笑うばかり。

 

「お前もその一人だ。獣に落ちた時点でそれを取り巻く人間模様を混沌とし、超越者を錬成するための火種なのだよ、そして”怒ったな”?」

「!!??」

「いいぞもっと怒れよ、その果てに滅びが波のように押し寄せてすべてを零にするだろうさ、その彼岸の果てで生き残るであろう周防達哉と見合わせて言祝いでやる、貴様と周防達哉ほどの”王”が無から作る世界、さぞや素晴らしいものになるだろう、安心しろ今度は捨てられることはないぞ、アプスーの屑と周防達哉は違うからなぁククク、ハハハハハハハハハ!!」

 

ティアマトが怒れば怒るほどその本性は暴れだしていく。

抑えるのがやっとだ。

ニャルラトホテプは胸倉をつかんでいるティアマトの両手を振りほどき嘲笑いながら消えていく。

そしてペタンと両ひざをついて両手でティアマトは自身の顔面を覆う。

すでに意識してなければ本体との融合が始まってしまうかもしれないからだ。

それだけギリギリだったのだ。

何とかせねばと思考を張り巡らす、そして脳裏に流れるのはあの優しい人たちと人々。

自分が怒ってしまうことによってすべてが消えてしまうことを自覚した。

 

「ナントカシナキャ・・・」

 

だから手持ちの札でどうにかする。

最後に手をつないだ三人からこっそり採取していた遺伝子マップ。

そして自身の自滅因子ともいえるがん細胞染みたものを混ぜ合わせる。

 

「オネガイ、ミナをタスケテ」

 

そして混ぜ合わせて兵器として生み出したソレヲ一瞬目覚めて外界に解き放ちまた眠りに入る。

あとは賢王に任せるしかないと。暴れ狂う本心を鎮めながら。

彼女はまた眠りに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてところ変わってバビロニア王都 王城ジグラッド

 

「3uqt@64xjw@rt?」

 

ジグラット宮殿に現れたのは黒衣を身に纏い羊のような角を持つアルビノの美少女だ。

無論。何を言っているのかは誰も理解できない。

 

「・・・誰だ貴様?」

「0qdfof]、we3jskbw@r。tygs3ych=d84d8dwd=zh;s/e=4:jdq。」

 

だがしかし敵ではないということは理解できる

何者からか命を受けたらしいということはほんわかと理解できる。

しゃべるのは異世界言語だがジェスチャーも交えているので。

そこらへんはギルガメッシュもほんわかと理解できた。

さてどうするかとため息をギルガメッシュは漏らす。

如何に敵意はないと言えどいきなりこうも押しかけられては不敬もいいところ。

面倒ごともこれ以上ごめんだったので首でもはねてやろうかと蔵から刃一つ取り出したところで

 

「ちょっと待ってくれ!! 彼女はティアマトの自滅因子だ!! この子を殺すと冠位を持ってくるしか」

「・・・どういうことだ!! このたわけぇぇぇえええええええええええええええええ!!」

 

マーリンが慌てて飛び込んできて制止する。

英雄王は絶叫するほかなかった。

突然の切り札。

されどそれは研磨されていない剱。

刃を研ぎ澄ますには経験が必要であり。

同時に刃を握る宿命を持つモノはまだ第2の試練を超えたばかりであった。

 

 

 




これでギャグ特異点も終わりです。
レッスンやライヴの様子ももっと詳しく書きたかったのが反省点ですが。
それするとジャンルが別ジャンルになりかねないのと阿呆みたいに長くなるのと作者の病状の事情で断念しました。
というわけで立った一年でチェイテポエナリドゥ・スタリオンMk=X城爆誕回でございます


えっちゃんは初恋が失恋に終わりながらも明日へと歩き出すことで大人になりました。
かっちゃんは元の世界に戻って今作では退場となります。
まぁニャル的にはガス抜きと自己愛と他者愛を自覚させるために作った特異点ですからね。
あとティアの災害規模が増えるための特異点です。


ニャルられた後のティア

ティア(本能)「オォォォォオオオオオオオオオン(暴走エ●ァ状態)」
ティア(理性)「どうしよう!? このままじゃ・・・みんなが・・・せや!!(こっそり採取したたっちゃん&所長&マシュの遺伝子マップに自らの自滅因子を見ながら)」
ティア(理性)「それらを私の権能でこうしてこれして・・・、よし、あとは頼んだよ、私達の娘!! ラハム!!(教育は賢王とノッブに丸投げ)」

知らぬ間に娘が人知れずできているたっちゃんと所長とマシュのまき
ラハムはラフムの姉にあたる存在です、伝承にもちゃんと書いてある、最も本作のラハムは使った遺伝子マップやらなんやらでラハムはちゃんとした美少女型ですねはい。
ティアマトを殺せるがん細胞の役割を持ってますが、教育されていないため、能力は不完全、彼女が完全になるには賢王とノッブの教育手腕にかかっています。

賢王&ノッブ「休みを・・・休みをクレメンス・・・」
ニャル「計画道理(ニチャア)」

なおニャル的にはそれも計画道理です。
じぃじ? 来れるといいですね(暗黒笑顔)
あとORT初公開でしたが圧巻ですね。
本作ではインフレが進むのとスティーブンが残してくれたもので何とかなりそうです。
もっとも自分が第二部できる気力が残っていればですが。


あと水着イベントですが第四終了後のイベ特異点終了後に書こうと思っていましたが。
イベント連続じゃぁなということで。
第三特異点終了後に書くことにしました。

あと作者の近況ですが、日常生活にも支障が出るレベルで状態が悪化しているので。
次も遅くなると思います。




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09 穏やかな日常/敗走

やめろぉ、ジョッカー!!ぶっとばすぞぉ~!!

とんねるずのみなさんのおかげですの仮面ノリダーより抜粋


時間帯的には朝、人理炎上中は夜も昼もねぇというか、日の届かぬ施設に籠城している身としては。

時計で体感時間を合わせるほかない。

そして三人の中で一番早起きなのは達哉である。

いわば朝稽古というやつだ。

そして二番目に起きるのはオルガマリーだった。

三人で同棲生活の様なものを送っているのだ。

部屋にも一流キッチンがあるのは前にも述べた通りである。

故に食堂にはいかず三人分の朝食を作るのは彼女の役目であった。

 

「あー面倒くさい」

 

あれだけトンチキなことがあった後なのだ。痴女服着る羽目になったり城が増築したりメーデーやる羽目になったりと多い忙しだった。

そして衣類も現在いつもの朝の恰好に戻っているYシャツにスカート、サンダルといった朝の恰好だ。

これか朝食も作らないといけないので腕まくりにエプロン装着という姿である。

されどようやく着脱できた痴女服の精神的疲れは抜けきっておらず面倒くさくなるのも当然ともいえよう。

 

「ここはパパっと作っちゃいますか」

 

というわけですごく簡単なものを作ることにした。

まずフライパンを用意する、オルガマリーが丹精込めて育てたフライパンだ。

コンロの上においてよく熱する。

その間に自家製の燻製ベーコンを冷蔵庫から取り出し。

厚切りにして一人三枚分を切り分ける。

フライパンが適度にあったまってきたので適量のオリーブオイルを投入。

少し熱して泡が出てきたところにベーコンを三枚投入し、外がいい焦げ目がつくまで焼き塩コショウで味を調える。

そうして焼いたらベーコン三枚をフライパンのはじに寄せて、卵を三個投入し目玉焼きトリプルを作る。

後はフランスパンを切り分けてトースターで軽く焼いて、適当にサラダ作って終わり。

ボリュームは兎にも角にも実に手を抜いているが、シンプルであるがゆえにうまそうである。

 

「ただいま」

 

そこにちょうど達哉が帰ってくる。

身支度についてはトレーニングルームにもシャワーはついている。

汗は流されているが格好はタンクトップに黒の軍用ズボンとスニーカーといで立ちだ。

さらに首元にタオルをぶら下げいつもはちゃんと整えているメティカットも湯上りということで乱れている。

達哉は美丈夫なのだ。鍛え上げられた肉体、甘いマスクに声。

故に女性には目に毒な恰好ではあれど、共同生活やって一か月は経過している。

オルガマリーもマシュも当初こそ顔を赤らめてはいたが今はもう慣れた。

と言っても若干ながらオルガマリーにも、もし起きていたらマシュにも見過ごせないことはあった。

魔法スキルによる治療跡ところどころに残り若干赤らんでいる。

半日もすれば消えるであろうが、治療前は最低でも骨に罅が入る傷を受けたということだ。

達哉の技術は我流の剣術、体術に柳生の受けと流し十文字と合撃を組み合わせ融合し型を調え研磨している段階だが 、

いわゆる才能の問題にぶち当たってしまっている。

達哉はオルガマリーやマシュの様な才溢れる人間ではない。故にここからは型稽古と実戦形式の荒稽古で体感させて覚えさせるしかないのだ。

故に生傷が絶えないのはしょうがないともいえる。

だが恵まれてもいる。腕が捥げ様が即座につなげられる回復スキル持ち故に、即死さえしなければペルソナでどうにかできる。

骨折なんか、一日寝てれば治るのだから。

と言っても見てはいられないのは当然だ。

達哉はそういった問題故か、訓練内容はオルガマリー達の二倍も濃い。

 

「今日も随分激しかったみたいね・・・大丈夫?」

 

オルガマリーは達哉の事を心配しつつ。

焼きあがったベーコン&サニーサイドアップをさらに移しオリーブオイルを敷きなおして先ほどの工程を繰り返しつつ労う。

 

「うん? ああこの程度ならまぁ支障はないよ」

 

痛いと言えば痛いが切った張ったよりは全然ましと達哉はオルガマリーの心配を他所に言い切った。

歴戦の兵故に慣れきってしまっているのである。

というか彼が今に至るまで受けてきた傷に比べれば骨折程度なんぞマシなほうだったりする。

 

「それよりマシュは? まだ寝ているのか?」

「彼女も彼女で大変なのよ、オルテナウスに異常が見えられたからね第二で」

「?? そうなのか?」

「ええ、本来オルテナウスは安定した霊基運用を主眼とした安定装置なのよ」

「・・・強化外骨格というわけじゃないんだな」

「ええ安定装置としての側面が強いわ、ダヴィンチが再調整した結果の報告書を読む限りだけど。だけど第二でオルテナウスは不可解な動作をした」

「不可解な動作?」

「ええ、マシュの霊基増幅に対して、増幅したエネルギーを効率的に運用発現する方向にもっていったのよ」

「それはいいことなんじゃないか?」

「そうでもないよ、安定運用っていうのいうのは10の力を10のまま安定させて運用する想定なの、それ以上の力が発揮される場合はマシュの肉体負荷に問題が出るかもしれないから放出する機能がついているはず、というかついているのよ。それが第二ではその機能がOFFになって増幅&その増幅分を奇麗に使える機能が起動したのよ、問題にもなるわ」

 

 

つまるところオルテナウスには開発者のスティーブンにしかわかっていない機能がついていて、

その調整にマシュとダヴィンチは大忙しだったということだ。

ここ連日の調整作業はそれが原因である。

 

「駆動系とその命令中枢ユニットにOSプログラムにはそういうプログラムは盛り込まれていなかった。だからダヴィンチも頭抱えているわけでね」

 

だがいくら調整しようにも。OSからして問題はない。

どういじろうとも、摩訶不思議な増幅は分離したユニットが行っているべきだとして。

ロマニとダヴィンチから調整とオルテナウスの再調査の申請が上がっていた。

それもチェイテ特異点前の話だったが。

 

「それで・・・見つかったのか? 欠陥」

「原因は分かった。だからマシュのチェイテ特異点攻略を私が認可したわけだしね」

 

そして原因は突き止められた。

 

「ただし根幹的改善は不可能よ」

「と言うと?」

「基礎フレーム 駆動フレーム あらゆるフレームにナノサイズの脳波受信チップが練りこまれていたのよ。それが原因」

「脳波受信チップ?」

「ええ、ナノサイズだから誰も気づきようがなかった。趣味で作った一品っていうこともあって、仕様書も適当だったらしいしね」

 

適当に書き記された仕様書。早期投入の必要性、フレームに練り込まれたナノサイズのチップ。

気づけというほうが無理がある。

全体解析に懸けてようやく判明した仕様なのだ。

 

「けれど問題のチップは使用者の安定運用及び思考フィートバックによる従前なるフレーム稼働を目的としたものであって、出力アップの代物じゃないと思われているけれど、そうも言えない。仕様に謎が多すぎるのよ」

「要するに、あのスパルタクスをつぶした出力は不明と・・・」

「いえ、オルテナウスが原因であることは判明しているわ、第一で須藤に見せた出力アップより増幅させつつもマシュの霊基に負担をかけないトルクカーブを描いたのよ」

「・・・ならなんの問題もないのでは?」

 

オルテナウス装着前の須藤戦でも急激な出力アップは引き起っている。

だがスパルタクスの時も同じようなことが起きつつ須藤戦以上の物を引き出しながらトルクカーブは奇麗に落ちて安定していた。

なら問題は問題であるはずがないと達哉は思うわけだ。

 

「そうなのよ、何も問題はないのよ、欠陥に見える増幅機能も上昇値や補正に安定性を見る限りおそらく仕様なのよ。なのにロマニやらダヴィンチが過敏に反応しすぎている」

 

負担なく出力上昇をサポートしている。間違いなくオルテナウスは優れた安定機材でもあり増幅装置なのだが。

何かを恐れているようにロマニとダヴィンチは過敏に反応しつつ必死にオルテナウスとマシュの体調調査に精を出している。

そのことが不思議でならないが万が一を恐れての事だろうとオルガマリーが思っていると。

 

「おはようございます」

 

マシュが起きてきた。

そういうこともあって一旦思考を打ち切りつつ話題も打ち切って。

マシュの分のベーコン&サニーサイドアップを皿に盛りつけつつ朝食となり話題は別の物にシフトすることとなる。

 

「そういえば、今日は新しいサーヴァントを呼ぶんですよね?」

 

そう今日は召喚日なのだ。

第二で搔き集めたリソースにチェイテ特異点でのフェス報酬、さらにはドゥ・スタリオンMk=Xからこっそり盗んだリソースで英霊召喚を行うことになったのである。

理由はただ一つ、人材確保だ。

火力はシグルド夫妻で補強されている。故にここでほしいのはキャスターである。

バーサーカー? ニャルラトホテプが介在するこの時空ではある意味カモなためできるだけ来てほしくない存在だ。

そう言った意味では長可は特異なバーサーカーである。

ニャルのレスバについていける希有なバーサーカーなのだ。

それはさておき。

兎にも角にも人材確保は必須、通常時であれば外部からアマネやオルガマリーの伝手を使い人材を各方面から引っ張ってこれるが、人理焼却下なのでそれはできない。

故に英霊召喚に懸けるしかないわけで。

 

「狙い目はどうする?」

「候補としてはアインシュタイン博士とかが欲しいわね」

 

言わずと知れた世紀の大天才アインシュタイン博士。

彼の業績を鑑みるに英霊になっている可能性は高く、おそらくニャルラトホテプにも強い札となるだろう。

 

「エジソンとかテスラとかダメですか?」

 

オルガマリーのその要望を聞いて。マシュもまた意見する。

エジソンとかテスラではダメかと。

両方とも合衆国を代表する偉大な発明家ではないかと。

だがオルガマリーは首を横に振ってベーコンを切り分け一口口に運び、よく噛んでからお茶と共に飲み干し。

一息ついてから不採用理由を言う。

 

「エジソンは発明家というより起訴ってイメージが強いし、テスラは偏屈な発明家、特に晩年がよろしくない、間違いなくニャルラトホテプに刺されるわ。言っちゃなんだけど、こちらでも呼べる奴は絞りたい。夫妻の様な面倒ごとはごめんよ・・・」

 

エジソンは発明家というより起訴王としてのイメージが強くテスラは偉大ではあるが偏屈な発明家というイメージが強い。

というか。

 

「アインシュタインでさえ危険なのよねぇ・・・ニャルラトホテプの化身の可能性もあるし」

 

ニャルラトホテプの特性を考えると発明家全員がアウトラインに入る故である。

あのダヴィンチでさえ接触があったと証言しているほどだ。

ほぼ間違いなく地雷や化身という可能性すらある。

と言ってもだ。

 

「えり好みする余裕は俺達にはないけどな」

「そうですね、ランダムガチャ方式ですし」

「二人ともそれは言わないでよ・・・」

 

そもそも当てるか以前の問題である。

何度も言う通り、ここのカルデアの召喚方式はガチャだ。

確率がすべてなのだ。縁式召喚?なにそれ?おいしいの?食べれるの?というレベルである。

つまり、いくら会議しようが選べない。

ここまでが運が良すぎたとも言える。

特にメンタル強者たちが集まってくれたのもいいところだ。

夫妻も覚悟を決めたのかメンタル面の側面は改善されている。

だが前衛ばかりで後方担当が少ないのも事実、キャスターが欲しいのは切実すぎる台所事情であった。

確かにカルデアは8割の機能を復旧しているがそれはニコイチ修理&ダヴィンチとエミヤに技術スタッフ、挙句の果てには電子機器に強い保安部まで総動員の酷使無双で成り立っているのである。

すでに何人か過労でぶっ倒れて医務室送りになっている事実さえあるのだ。

なにも施設修理だけではない、管制、測定、その他もろもろ。

スタッフが足りなさすぎるのである。

であるなら達哉たちも参加させるべきだと述べる人はいるかもしれないが。

彼らは最前線で負けれない戦いをしなければならない。カルデア運営を手伝わさせて負けましたなんて笑い話にもならないのだ。

確かに達哉は極まったペルソナ使いであるしオルガマリーもマシュも天才であるが。

それでも万全は喫さなければならないのである。

それでもやれることはやる。あまり疲れさせるわけにはいかないのだ。

多少の事をオルガマリーだって微細特異点から採取した魔獣の類の肉やらを食材にエミヤと共に加工し。

達哉は施設整備や装備点検。

マシュは観測の手伝いだ。

それ+訓練である、万全がかろうじて維持できるところを飛行しているに等しいのである。

と言ってもそのギリギリがあまりにも続きすぎて平常運転になりつつあることは誰も気づかなかった。

 

「今日の予定は訓練無し、各々の作業の前に英霊召喚か」

「今日も頼みますよ先輩」

「今日も頼むわよ、タツヤ」

「だから俺は運が悪いって!!」

 

名だたる英霊を引き当てた達哉に熱い二人の視線が突き刺さり。

達哉は自分自身の運は悪いほうだと線引きせざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ドンッドン、パフー

<キェェェェアアアアアア!!

<パフッパフ

 

もうそんな感じだった。

召喚ルームに所狭しと並べられた触媒+変な音が流れているラジオ。

それらが敷き詰められていた。

触媒による触媒召喚を狙うためである。

無論すべてが無意味だ。

体感の問題でしかないのにそれにすがるしかない、そうガチャで最高レアを狙うように。

だが緊急時であることには変わりはない。プラシーボだろうが何だろうが利用するものは利用する。

じゃなければやってられないのだ。

 

「どんどんカオスになっていくな、召喚ルーム」

「それだけ皆必死なんですよ先輩」

「そりゃわかっているが、こうもカオスだとなぁ」

「言わない約束です」

 

本当にカオスになっていく召喚ルームにため息を吐きつつ所感を述べる。

帰ってくるのはマシュのいつも通りのセリフだった。

もっともこの惨状を許可しているのはオルガマリーに他ならない。

プラシーボだろうが確率高めるためならなんだってするのだ。

というわけで恒例の召喚回である。

 

「タツヤ、今回は二十連分用意したわ」

「二十連って。チェイテからのリソースは十分だったはずだが、所長?」

「設備の完璧修理に結構持っていかれ気味なのよ、新装備の件もあるしね」

 

新装備とは。マスターの補助の為に製造されている品である、超長距離高機動バイク「アスモデウス」の事であった。

如何にマスター三人がサーヴァントレベルの音速戦闘を可能にしているとはいえ。30kmとか生身で走れと言われたら無理であり。

その移動手段確保のための超大型バイクの事である。

サーヴァントにも追従できる加速性能と速度性能、さらには機動性さえ兼ね備えたモンスターマシンだ。

しかもレイシフトに同行できる高性能っぷりである

ただし設計図とフレームのみが完成しており、実践投入はまだまだ先の段階だ。

第五までには投入を完了させるとのことだが本当だろうかと。

まぁいずれにせよ。

回さないことには当たらない。それがガチャの鉄則である。

求めよ、させば与えられんというやつだ。

がしかし。

 

「残り一回転」

 

19連、すべて礼装。20連回したんだから低レアくらい出ればとかいう甘えは本作にない。

見事な礼装テーブル!! 圧倒的礼装テーブル!! というやつである。

最初から達哉が回していたが。今回は上手くいかなかった模様である。

ほれ見たことかという表情の達哉と。人員補充がならなかったことに対する絶望の表情の技術部とオルガマリー&マシュ。

運任せなんだからしゃーねえわなという保安部という各々の経験と人生が違う故に反応が違うのだ。

そして残る一回転で。

 

「キタキタキタキター!!」

 

来たのだ。

 

「サーヴァント、諸葛孔明だッが!?」

 

そしてキャスターと認識されるや否や。

孔明は後頭部に衝撃を感じ倒れる。

薄れゆく意識の中ケタケタ嗤いバットを持ったダヴィンチの表情と。

憐憫の表情の表情を浮かべるマスターたちと謎の小動物。

自分はこれから何されるのだろうと思いながら孔明は意識を落とした。

そして目覚めると。

 

「こっこれは・・・」

 

四肢と頭部が完全に拘束された椅子の上に乗せられていた。

 

「おやぁ、起きたのかい?」

 

二コリとほほ笑えむダヴィンチ。

されどその笑みには狂気が宿っていた。

1日におおよそ30時間の作業という矛盾、いかに肉体疲労のないサーヴァントであっても精神的には疲労する。

故に狂気に走っている。

 

「なにをする気かね!?」

「安心したまえよ、ちょーっと霊基をいじくるだけだ。そう彼のように」

「彼?」

「そう彼だよ」

 

モニタに映し出されるのは両眼から血涙出してぐったりするエミヤの姿だった。

譫言のようにボク、エミヤ、カイハツガンバルと呻いている。

洗脳が完全に溶けたから、再洗脳されたようである、南無。

そして孔明の両瞼が閉じないように強制させる器具を取り付けられる。

 

「これが今度のサーヴァントですか・・・」

「ああそうだよ。疑似が着くけれどね」

「大丈夫なんですか? サーヴァント用の洗脳装置を使って?」

「大丈夫さ、疑似とはいえ耐久面はサーヴァントと変わらない、では始めよう」

 

そういってダヴィンチは躊躇なく謎のボタンを押す。

 

「やめろー!! カルデアァ!!」

「暴れたって無駄だよ。君も過労死枠になるのさ」

「イワァァァアアアアアアアアアアクゥゥゥゥゥウッ!?」

 

それと同時に、機械式アームが動き、先端の投射機からレーザーが射出され。

孔明の洗脳作業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな悲惨な状況から数日。

 

「くっ。表面心理だけではなくトラウマとして深層心理に行動原理を刻み込むとか君たちは悪魔かね!?」

「人理がそれで解決できるなら結構だな。本来ならシールズ式訓練を予定していたんだ。手軽に済ませたダヴィンチには感謝したまえよ」

 

孔明の表面上の洗脳は抜けていた。

あくまでダヴィンチ式洗脳は深層心理にトラウマを切り刻むことを主眼としている。

表面層の物は副産物の様なものだ。

心が強いのか孔明はそれが現状抜けきっていたが、深層心理の事は抜けきってはいない。

本人でさえ気づけば無意識で作業している有様である。

なんだここは地獄かと言いたいが、ダヴィンチはエミヤと孔明以上に働いているし技術スタッフ、機械に強い保安部でさえデスマーチだ。

文句を言おうにもそういった背景があるため文句は封殺されるほかない。

というか特異点攻略前ならサーヴァントは全員普通なら過労レベルで働いている。

なぜなら肉体面での疲労はないに等しいからだ。

精神的疲れも美味い食事と睡眠、適度なレクリエーションで解決できるならマスターを優先するのは道理である。

そして今、孔明は射撃場に連れて来られていた。

戦場が推移する以上、陣地を暢気に構えている暇はなく。

戦況分析を現地で行いつつ指揮担当諸々するクラスと言っても過言ではない、

故に必然的に、指揮官となるオルガマリーの護衛も兼ねるのだ。

よって以上の戦闘能力は必須。孔明にはそれがない。

故に狙撃銃の講座としてアマネに手取り足取りの訓練が施されている。

使うのはDSRー50、DSRー1対物ライフルにスケールアップした代物で。

カルデアにおけるスナイパーには標準装備である。

さらにサブアームとしてLARグリズリーの訓練だった。

無論、孔明は人間の頃もこんなものを使ったことはない。

魔術師で近代兵装を使うのは魔術殺しとして悪名高い衛宮切嗣か獅子劫界離の様なもの好きくらいなものであるが。

いざ使ってみればその威力に驚かされてばかりだ。

対物ライフルの威力は通常の人体に向けては過剰威力だが、魔術師であっても通常弾使用でも十分殺傷圏内にもっていくことが可能であり。

今使っている弾は対サーヴァント使用に魔改造された銃弾を射出する上記二つはすさまじい威力を持っていた。

だが。

 

「本当にへたくそだなお前」

 

孔明、銃の扱い方下手糞だった。

いや、アマネの選抜基準とオルガマリーに保安部の狙撃手やら宗矩とクーフーリンがおかしいだけで。

様にはなっているのだ孔明も一米軍兵の一般狙撃手くらいには鍛え得られている。

だがここはカルデア、人類最後の砦でであり最終防衛ラインだ。

そのような性能で満足するほどアマネは緩くない。

現に3kmを狙える特殊弾使用で命中率でオルガマリーに劣っているのならば話にもならない。

 

「君は軍師であると同時に、オルガマリーの護衛の任務にも就く。これではお話にならないな」

「そういう君はできるのかね?」

「これだけの装置を組み込んでいるんだ。できないほうがおかしい」

 

孔明の反論にもどこ吹く風で言い返し。

アマネはDSRー50を孔明から奪い取り弾倉を交換、想定距離3kmという超長距離射撃を慣行する。

スコープに魔術礼装のアシストもありとはいえ孔明も同様の物を使っている。

言い訳は効きはしない、明確に腕はアマネのほうが上だった。

エミヤでさえ弓なら兎にも角にもDSRー50の扱いならアマネのほうが上だった。

孔明はこう思う、こいつ本当に人間かと。

もっともそれは全員が思うことであり、達哉に至ってはパオフゥという例外を知っているため無反応だが。

全員の見解はアマネは生まれる時代を間違えているというのが一つの見解である。

 

「君、本当に人間かね?」

「魔術礼装の補正さえあれば私なら4kmまで行ける、ウォンの奴なら5kmから6kmまでは固いだろうな」

 

そんなセリフを聞いて孔明絶句。

アマネの専門はポイントマンだ。あくまで保安部指揮官という役職上。全兵種を抑えているだけでポイントマンが本職である。

故にスナイパーとなれば。保安部員にして古参部下のウォン・カイコーのほうがスナイプ技術ではアマネのより上だ。

現にスコア票でもウォン・カイコーが狙撃スコアでは二位だった。

ちなみに一位はぶっちぎりでエミヤの10kmである。礼装を取り付けた魔改造弓でそれをなしたのだ。

だが読者の皆様方には勘違いしないでほしいのだが、これはダヴィンチとスティーブン謹製の魔術礼装と専用弾があるからである。

素面で現代機器での狙撃となるとアマネは対物ライフル持ち出して1kmが限界、ウォン・カイコーは2kmが限界なのだ。

それはさておいて。

 

「じゃ次は射撃場に入ってP90を5ケース打ちまくれ、ノルマは命中率80%だ。その次はキルハウスに入ってTOP20位に入るまでやるぞ」

「私、キャスターなんだが!?」

「オルガマリーはこなしたぞ、サーヴァントである貴様にできないはずがないだろうが、やれったらやれ」

 

キルハウスでの順位はオルガマリーは10位。

射撃テストでも90%を片手マグナムでキープ。

故にサーヴァントならこれくらい楽勝だろうとアマネは容赦なく孔明に訓練を施したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はカリブ海?」

「はいA.D.1573年のカリブ海です」

「状況は?」

「カリブ海以外が封鎖、そして海流が無茶苦茶になっています。神代回帰していると分析結果が出ていますね」

 

モニタを見つつオルガマリーは分析結果を見てロマニに問う。

そして帰ってくる答えはまた頭の痛い問題だった。

カリブ海の面積は275万4000平方メートルである、単純に広すぎだ。

加えて、カルデアは現在、水面移動航行可能な装備を持っていない。

陸送関係は現在達哉も参加し開発試作運用が微細特異点で運用開始されているがそれだけで何の役にもたちゃしない。

 

「特異点化の原因は?」

「フランシス・ドレイク船長率いる海賊船団が航行中の時期です」

 

歴女のマシュがそう答えた。

ちょうど。ドレイク率いる船団がカリブ海に来ているということを。

 

「それも一つの原因かもしれないけど。海がギリシャ神話レベルまで後退していまして。ドレイク船長&神代回帰の影響で特異点化したかと思われます」

「神代回帰するほどの奴に聖杯がわたっていると・・・」

「もう物理法則に至っている時代ですから。神霊でも自分の復権や顕現をするなら聖杯なしで事をなすは無理かと。だから聖杯が使われたのだと思います」

「該当する神格は?」

 

マシュの解説を聞きつつロマニにオルガマリーは尋ねるが。

 

「詳細な資料は残っていません、植民地時代とかの歴史の影響で混乱してるんです」

「マシュのいう通りです。土着信仰も漁っては見ましたがめぼしいものは何一つ・・・」

「つまり現地入りしてみないことには何もわからないと?」

「そういうことです」

「わかったわ。糞親父の臍繰りの出番ね」

 

そういってオルガマリーは左手のバングルから残りの金塊残量を調べる。

マリスビリーの臍繰りだ。

物資調達の為に第一第二でも使ったが全体的総量からすれば微々たるものである。

むしろカルデアにある私財なんてマリスビリーがマネーロンダリングした総資産の十分の一にも満たぬ物だ。

使い切っても懐は痛くない。むしろよく金塊で残してくれたとオルガマリーは思う。

なぜなら現代と過去では紙幣の形式が違うのだ。

その中で金塊は古代から現代にいたるまで価値が保証されている希少金属である。

レイシフト先でも十分に金に換えられる、万能通貨である。

 

「とりあえず出発は二日後ね」

「了解しました」

 

一日は訓練、二日目は休息、三日目には出撃という段取りで特異点攻略開始となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三特異点内

 

 

 

「ククク、アハハハハハハハ!!!」

 

巫女服を身に纏ったアルビノの美少女が嵐の中笑い。

膝をつくフランシス・ドレイクを見下げた。

 

「ちっ、っどうなってんだい!?」

「サーヴァント化していないから自覚はないかもしれないけれどアナタは奇跡を起こす力がある。絶対的な布陣を敷いても奇跡を起こして勝利をつかむ、なるほどなるほど、けれどね一度起きたら起きないのが奇跡なんだよ、何度も起きるなら絡繰り仕掛けの物でしかない。ならどうする? 逆張りをしてあげればいい、絶対的布陣を敷いて、あなたが思う奇跡を想定し出だしにつぶせばそれでおしまい。海賊が追い込み漁で取られるのはいつも時代のつねだよ。奇跡を起こすスキルを持っていてもそれは変わらない。おごったね、アハハハハハ!!」

 

星の開拓者、意図的に不可能を可能とするスキル。

だが逆に言えば可能とする部分を想定できるのなら事前に潰せるのだ。

要するに少女は絶対の布陣を敷いて尚も奇跡を起こすと信じて奇跡の出だしをつぶし。

ゆっくり丁寧にドレイクを追い込んだのである。

 

「それに私だけに掛かり切りでいいのかな? お仲間様も押されているようだけど?」

 

場は嵐として大荒れ。

しかも足場は恒星間移動用の装甲材ということもあってよく滑る。

何人かの仲間は大荒れの嵐の海にふっ飛ばされ。

そしていまだなお戦う仲間たちは推されていた。

 

「ウフフフフ」

「アハハハハ」

「ヘラクレス!?」

 

その仲間というのがアルゴノーツと黒髭海賊団という面々で。

出現したポセイドンの霊体と異形の片腕を持つゴシックロリータに身を包む双子の手によって押さえられていた。

しかも双子の攻撃はヘラクレスの十二試練を貫通していた。

十二試練は一度受けた攻撃に耐性を付与しBクラス以下の攻撃をシャットアウトするというもの。

それを紙細工のように少女たちの大口径機関砲と大型振動剣は切り裂いているのである。

不条理と言えば不条理だ。

そしてイアソンを筆頭とするアルゴノーツの面々もポセイドンが抑えている。

 

「うそだ。ありえねぇだろ!! ヘラクレスなんだぞ!! ギリシャ最強の英雄ヘラクレスなんだぞ。それがなんで、そんなガキ二人に殺されかけてるんだよ!!」

 

イアソンは絶叫し発狂しかけていた。

何よりもヘラクレスを信じているのはイアソンに他ならない。

なぜなら彼にとっての最強であり親友だからだ。

 

「そりゃ、君が女の後ろでバトル解説しているしか能がないからじゃないかな? ああ君の場合ホモだから男の影か、アハハハハ!!」

 

ドレイクに杖先を突き付けながら少女「ミァハ」は嘲笑う。

現に男の影でバトル解説しているしか能がないではないかと。

その瞬間、ヘラクレスは一種の悟りを得る。

 

―もう無理だー

 

残機も削られこうまで場が悪化してはひっくり返しようがない。

なまじドレイクが奇跡を起こせたとしても想定内にミァハは収めているだろう。

敗北したのだ我々はと。

ならばとヘラクレスは――――――――

 

「■■■■――――」

「ヘラクレス殿・・・わかったぜぇ。業腹だがなぁ!!」

 

共に戦っていたティーチに目配せしティーチもそれを読み取り。

実行に移す。

イアソンの腹をぶん殴り気絶させ、自身のペルソナでドレイクを回収

 

「野郎ども、ずらかるぞ!!」

 

作戦が失敗した以上、逃走の一手だ。

 

「しかし」

「しかしもへちまもねぇんだよ!! エリザ殿!!」

「わかったわ!!」

 

エリザベートが咆哮する。

敵陣が一瞬ひるむ、とにかく動けない奴は動ける奴を担ぎ離脱する。

この神体に横付けした自らの船に飛び乗り、固定用のロープを切断。荒れた海を敗走していく。

 

「さて邪魔者は消えました、始めましょうポセイドン様」

『うむ』

 

ミァハはポセイドンにそう進言しポセイドンも了承する

失われた大陸と機神が現地人と現地サーヴァントたちの敗北で浮上を開始。

今ここに滅びが具象しようとしていた。人々の望む形で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三特異点 A.D.1573 「浮神異聞海域 オケアノス 嵐の航海者達」 人理定礎A

 

 




えー本作オルテナウスは、ダヴィンチちゃん謹製ではなく100%スティーブン謹製です。バケツスーツの技術やナノサイズのチップを練り込んだ心理感応波受信機能付きフレーム採用の結構厄うい物だったりします。
なお、スティーブンの趣味というかマリスビリーに対するいやがらせでスティーブンが作り上げた模様。
スティーブンからすればデミサバ計画自体が馬鹿の発想そのものだから。
あとアスモデウスもスティーブンの設計です、メガテン主人公とかP主人公たちが運用するのを前提とした超絶モンスターマシン。サーヴァントが使っても大満足な代物。
形状はFFⅦACのフィンリル。
故にどこの国の車検も通らない超大型バイクですね。長距離移動が前提な第五とか第二部で使用予定です。
現状フレームだけだからねちかたないね


オルガマリーの作った朝飯
軽くトーストしたフランスパン
特製燻製ベーコン&サニーサイドアップ
適当野菜サラダ特製ソース和え


孔明 約束された過労死回
自衛できないと話にならないからね、魔術だけではなく彼には銃器の扱いも心得てもらう。
あと安定のダヴィンチちゃんによる洗脳

あと訓練のほかにもオルガマリーやたっちゃん、マシュも本作では働いてます。
所長は書類委整理、情報分析、魔獣の食肉加工とかですね。
食料も無限じゃないしエミヤと一緒に魔獣の食肉加工と化してます。
たっちゃんは設備修理に大規模特異点向けての機材調整
マシュは観測班の手伝いなどもしています。

ダヴィンチ「お前も過労するんだよ!!」
孔明「タスケテー!!タスケテー!!」
アマネ「まだ基準値を満たしてないからもう5セットな、私ができてサーヴァントができない道理もあるまいに」
孔明「タスケテ・・・タスケテ・・・」
グレイ「師匠ー!!」

アマネのサーヴァントに対する要求値はデカいです。魔術礼装と専用弾に強化外骨格使えば人間の最高峰スナイパーなら5kmから6km狙えるんだから。
サーヴァントはスキル、礼装込みでそれ以上の射撃ができて当然と思っていたりしする。
人間にできて鯖ができないとかないですから。
ちなみに本作におけるエミヤンの弓につけられる標準装置礼装のおかげで最大射程地も大幅アップ、10km前後大を狙撃できるようになりました。
あとグレイも一緒に召喚される予定でしたがAZO後の外伝考えて没にしました。
まだまだ先になるかもしれませんがやれるんだったらそっちはpixivに投稿します。

装備開設
ダヴィンチちゃん&スティーブンが開発した照準器
軍用よりもごつい
単眼鏡として使うことも考慮し10kmを想定している。標準調整も自動で行ってくれる優れもの
コンタクトレンズ礼装と連動しておりスコープを除かなくても使用可能。
さらにそこから脳神経に働きかけて手振れ防止機構も搭載している優れもの。
なお一個当たりの値段が新車を買えるくらいの値段になってしまった。

50口径対サーヴァント用神経弾
あたるなら3kmでもサーヴァントを殺傷化。魔術師であれば7kmまで実用範囲に入る。
50口径弾を改造しただけなので通常の弾より経費はかさむ程度程度のコスパである


作者の近況としては折角復帰しましたが、職場やめて治療に入ろうと思います。
もう疲れましたし、行政に税金払うのが今日の現状ばかばかしく思えてしょうがないのです。
最近、自殺未遂かまして近所や家族にも迷惑かけましたし。
職場もあってないと医者から退職進められましたし。

もうなんだか疲れましたよほんと・・・

では次回から第三特異点始めます



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第三章 A.D.1573 「浮神異聞海域 オケアノス 嵐の航海者達」 人理定礎A
一節 「合流・金塊ビンタ・再建任務」


お金というのは力であり、自由であり、心痛を和らげるクッションであり、また、あらゆる悪の根源でもあるが、いっぽう、最大の幸福にもなるのである。

カール・サンドバーグ


今回のレイシフトは全てが予定道理だった。

サモライザーの投入もあって団体行動で目立つこともない。偽装礼装のお陰で若者三名程度となっているし。

衣類もあわされている。目立つ要因がないと言えた。

レイシフト先は小さな島の港町だった。

だが活気は薄い、人が町の規模に対し純粋に少なすぎるのだ。

 

「人が少ないですね」

「ええ、老人と子供にやる気のなさそうな若者だけ・・・ね」

「まぁ一応聞き込んでみよう」

 

兎にも角にも情報収集だ。

第一、第二のように切羽詰まっているわけでもない。

というか出だしからして難度がおかしかったのは言うまでもないし。

第一では殺傷特化、メガテン世界巡礼済みのジャンヌ・オルタとかいうメガテン&DMCの準主人公とかいう怪物が相手だったし。

第二では人類悪と対峙である、手札と手駒がそろってなければ圧殺されていた。

そういう緊急事態もあって一致団結、現地サーヴァントたちがそうなっていたから。政治の中枢核に食い込むのはさほど難しいことではなかった。

だが今回は違う、いや忙しいのは事実であるが。

接触する中枢核となる人物がいないのだ。

神代回帰による大陸の分断及び小島化によって行政は動いていないに等しいゆえにである。

だからこそ中枢核なんてものないし、地道に情報収集して海上の移動手段を確保するのが第一目標と言えた。

というわけで街中で情報収集と海上移動のための足、すなわち船の購入の為に街中にでる。

 

「皆、アトランティスに行っちまったよ」

「アトランティス?」

 

聞き込みの結果、町に住む漁師の老人はそう言って。

達哉が呆然とするの無理はない。

第一にアトランティスとカリブ海がどう関係しているかさえも分からなかった。

 

「アトランティスって地理的にも魔術的にも存在否定されてるわよねぇ」

「そうですね、痕跡が一切ないことから、各種学問からも全否定です」

 

オルガマリーの疑問にマシュも同意する。

アトランティスは表でも裏でも存在しないという証明が成り立っているのである。

ギリシャ神話の痕跡が魔術世界でも残っているというのにアトランティスだけは一切残っていないのだ。

海中調査だって裏表の両方でしている、つまり表でも裏でも架空の大陸なのだ。

第一、カリブ海とは絣もしない地域である。

行ってしまえば達哉の世界でも、この世界でも架空の大陸でしかない

そりゃ混乱するのも訳ないわけで。

 

「アトランティスに行けば不死が与えられる、食うことに困ることもねぇらしい、娯楽も腐る程あるようだ」

「「「・・・」」」

 

アトランティスに超技術はつきものだが不死なんぞ聞いたことがない。

三人はそろって顔をひきつらせた。

噂結界による、曲解されたアトランティスが具象化しているのである。

道理で資料にあたはまらぬはずだ。

道理で海流が異様なはずだ

 

「だから多くの若者はアトランティスを目指して帰って来なかったよ」

「そう・・・ですか」

 

特異点のサーチ結果、中央付近の海流は特に異様なまでに乱れていた。

一つの大渦潮を形成し、雲が竜巻のようにうなりを上げていたから。

それでも自分を取り巻く環境から脱却したい類の人種や生活基盤を持たぬあるいは失った若者たちはアトランティスを信じ目指した。

そこに幸運があるのだと信じて。

中には年老いた家族さえ捨て去っていく者までいるという。

それに絶句したようにマシュは呟き。

オルガマリーと達哉は悲痛の表情を浮かべるほかなかった。

古今東西家族問題とは重度の心理的病理でもある。介護疲れなどがその代表格であろう。

今のご時世、健忘症、認知症、医療の発展により老人が生きてしまい平均寿命の延びなどで引き起る共倒れを外を知らないマシュは実感できていない。

オルガマリーと達哉は外を生きていたのだからそういう類の話はよく聞く話だった。

だからこの時代では普通なのだ。

そういった病魔に蝕まれた老人をどっかに捨て去るなど、吐いて捨てるほどある。

日本で代表するなら姥捨て山が代表格である。

生きることすら難しい時代のやむを得ない知恵というやつだ。

老衰し役に立たぬ人間は切り捨てられる、精神疾患で気狂った人間は屠殺される。

現代では批判されてしかるべき事柄だが昔は生きるための知恵だった。老い先短く子供もなせぬ老人よりも若く子を残せる若者が優先されるのは当たり前の現実なのだから。

そして老人に礼を言いつつ金貨をチップ代わりに数枚手渡し。

次に行くことにする。

目指すは酒場。この時代、情報の坩堝といえば酒場なのだ。

働き手が一斉に集まる場所なのだから当たり前問いも言える。

されど、この時間帯昼の真っただ中。皆仕事に出ているのではと思う方々もいらっしゃるだろうかもしれないが。

なにせ海流が荒れているのである、一流どころ以外は酒場に集まっているし。

その一流どころもアトランティスを目指して場を離れているのは聞いている。

残っている若者共のたまり場も教えてもらっていた。

そこを目指すのは道理とも言えた。

そこで噂のド具合を確かめるのだ。

なぜかっていえば。間違いなく老人との会話で噂結界が全域に張られていることを確信したからである。

さらに言えば一度アトランティスに出向いて戻ってきた一団が屯っているらしいので、その話も押さえておきたい。

船大工がいればさらに最高だ。

船の調達もうまくいくかもしれないのだ。

行かないという選択肢はなかった。

故に大通りに戻りその酒場を目指す一行だったのだが。

 

「あっ、やっぱりきてたのね!!こっちよ~」

 

そして偶然というかすでに投入され、何やら買い物でもしていたのかパンやワインが入った紙袋を抱えていたエリザベートとばったり出会う。

第一、第二に前の特異点の事もあって、内心またかよと三人は思いつつも。

なんだかんだ言って重要な情報握っているため無下にはできない。

 

「ハァイ、エリザ、あの騒動ぶりね。こっちでも主要な情報抑えたの?」

「うーん、まぁ抑えたと言えば抑えたかなぁ、フェスの後すぐにこっちに来て騒動に巻き込まれたわけだし」

 

オルガマリーはあいさつしつつ、主要情報を抑えたのかと聞くと。

エリザベート曰くフェス終了後、即座にこの特異点に召喚されたらしい。

 

「クロヒーも召喚されていたから、今は黒髭海賊団として活動中よ」

「・・・海賊ということは、略奪行為とかしたのか?」

「先輩、この時期の海賊は国同士との代理戦争および、航路破壊などを代行する一種の傭兵的な存在です」

「そうなのか? 悪い疑って」

 

この時期の海賊と言えば確かに略奪は行うがそれは所属する他国に対してへの攻撃としてだ。

いわゆる交通妨害、国との代理戦争。

現代風にいうならばPMCによる代理戦闘の様なものだ。

だから海賊と言えば略奪だけではなく自分のシマの防衛だって行う。

ヤクザとPMCが混ざったかのような存在なのだ。

 

「っていうか、ティーチも来ているのか?」

「あんたたちが帰ってすぐに、意識が落ちて気づけば二人そろってここにきてたのよ。かれこれ二か月前になるかしら」

「ちょっとまて。俺たちからすればあのフェスは二週間前だぞ」

「タツヤ、ここは特異点、しかも外は焼却中で人理やら時間軸やらが無茶苦茶だからね、それくらいズレていてもおかしくはないのよ」

「あーうん、納得した」

「それなら良いわ、話し進めても」

「「「はい良いです」」」

「じゃ現状から話すわね、と言っても落ち着けるところで話しましょ」

「いや俺たち●●酒場を目指しているんだが」

「ああ、なおさらちょうどいいわね、そこいま私たちの拠点だから」

「「「そーなの?!」」」

「そうよ、いろいろ派手にやったから、酒場買い取って拠点にしているのよ」

 

なんと目指していた酒場はエリザベートたちが拠点にしている場所だったらしい。

であるなら話は早いとばかりに4人は酒場へと赴いた。

 

 

「・・・・なぁ」

「言わないでください!! 先輩、お願いだからその言わないで・・・」

 

だがそこで襲い掛かる現実はマシュの心情を圧殺しようとしていた。

なぜならひたすらに酒に管を巻くイアソン、アタランテなんて誰が見たいだろうか?

加えて妙に店長姿が板についたドレイク(女)などなどだ。

歴史家たちが見れば発狂もんだろう。

というかドレイクについては明確に男として伝わっているのに女でしたなんて通るはずもない。

 

「もうアーサー王が女だったって時点で流しなさいよマシュ」

「所長のいう通りだ。流したほうがいいぞ」

 

もう歴史家たちの証言が当てにならないことはすでに実証済みであり。

いい加減流せと二人は言うものの、こうも言い伝えや資料と違うと歴女のマシュとしては泣きたくなるものがある。

故に流せだ。

これから先、歴史書道理に偉人が書かれている保証なんてどこにもないのだから。

 

「達哉氏、オルガマリー氏、マシュ氏、こっちですぞ」

「ティーチ」

 

店長兼マスターをやっているティーチが三人を見るや否や、こっちだと手招きをしつつ。

カウンター席に座るように促す。

 

「折角ですからな、何か飲むと良いですぞ。一通り酒はそろっております故な」

「今は仕事中よティーチ、それより状況を教えてほしいのだけれど・・・」

「おっと拙者としたことが失敬失敬。主要メンバーを集めますからな、ちょっと待ってくだされ」

 

ティーチに何か酒でも飲むことを進められるが。

今の時間帯に飲むものではないとオルガマリーが代表して拒否。

それもそうかとティーチは納得し、店の前に定休日と看板を出して誰も入ってこないようにする。

そして大きめの丸テーブルに主要人物を集めた。

カルデア三人組は無論の事、アルゴノーツ代表としてアタランテ、ドレイク船団からは無論の事フランシス・ドレイクだ。

さらには女海賊として名を馳せたアン・ボニーにメアリー・リード。黒髭海賊団からは無論の事ティーチである。

ヘクトールは自棄酒しているイアソンをフォローするのに精いっぱいだがそうそうたるメンツだ。

名無しの部下も含めればさらに膨れ上がるらしいのだが。

他のメンツは船の修理やその資金稼ぎに追われておりこの場にはいなかったりする。

 

「ねぇ僕はビースト討伐歴のあるメンバーが来るって聞いていたけれど三人だけ?」

 

メアリーがそう指摘する。

ビーストは元来、一人に対し七騎の冠位が投入される大厄災である。

故に最低でも十人前後はサーヴァントの援軍が来ると思っていたら三人だけ。

無論彼らを舐めているわけではない三人とも一流だというのはわかる。

特に周防達哉は脅威だと生物的恐怖が襲い掛かってくる。

だがそれでもビーストという大厄災には不足が過ぎるのはわかるのだ。

 

「ビーストの件は運が良かっただけ。相手の心理状態に付け込んで鎮圧、もう一匹はタツヤの言い分によると外部介入があったから討伐できただけだし全員が気張った結果よ」

「その全員がどこにいるか僕は知りたいわけ。戦力の把握はしておきたい」

「ここに全員いるわ」

 

ビーストの件は運がよかった。相性が良かったのと口には出さないがニャルラトホテプかフィレモンの介入があったからどうにかなった。

無論皆の奮戦ががなければそれが在っても勝てなかった相手なのは無論である。

そして戦力もここにいるとベルトの横腰に装着されたハンディカムPCを中指で小突いて指さす。

つまり全員サモライザーの中という事を説明する。

 

「未来は発展してるわね~」

 

アンが気が抜けたように言うが。

サモライザーは科学技術と魔術技術の一品ものだ。

現存するのがすべてとなっている。ダヴィンチでさえ現状複製不可能だ。

なにせカルデアの霊基保存システムを小型化し最適化しているのだから当たり前である。

 

「現状9名、順次最適に投入可能よ、いつでもね」

 

カルデアのサーヴァントは順次いつでも最適に投入可能。

ティーチから事前にカルデアの戦力を聞いていた者たちはそれで納得する。

 

「それはたのもしいねぇ」

 

ドレイクも納得している様子だった。

特異点化の影響でサーヴァントレベルまで強化されているとはいえ。

サーヴァントの理不尽さは見てきている。

失った戦力を補充して余る戦力だ。

しかし。

 

「だがポセイドン相手ではな・・・」

 

第一特異点の事もばっちり記憶に残っているアタランテが気まずそうに敵の首魁の存在を口にする。

ポセイドン、海神だ。

ゼウスの次にアレな事で有名である。

 

「神霊でゼウスに次ぐ実力者だったか・・・」

 

達哉がぼやくように言う。

とすると対界宝具ぐらい持ち合わせているかもしれないからだ。

と言ってもそこはギリシャ神話、ゼウスが最強というのもあればタイマンならハデスというものもいるし。

いいやヘラクレスこそ最強というものもいる。

議論は終わらず出会ってみなければわからぬが。

それでも強大な敵には違いないのは確かであるのだ。

 

「それでそっちの状況はどういうことになっているわけ?」

 

敵の戦力把握よりも今は自分たちの戦力把握のほうが先である。

それで何ができるか、何ができないのか、現状の盤上はどういった状況なのかがわかる故にだ。

 

「じゃ説明しますぞ」

 

ティーチが説明役を買って出た。

あのトンチキフェス後、ティーチとエリザベートは即座にこの特異点に放り込まれたらしい。

それでもことは性急だ。何とかアン・ボニーとメアリー・リードを聖杯探索の中で回収。

孤島で取り残されていたヘクトールを回収し、黒幕製聖杯を保持しているのがアルゴノーツだという事を突き止め。

強襲を仕掛けるものの、ものの見事にそれにドレイクを巻き込んだ挙句、謎の第三勢力の急襲により。

聖杯は謎の第三勢力というかポセイドンの手下どもに奪われ

噂が広まり状況悪化。

乾坤一擲を狙って荒れ狂う海を乗り越えアトランティスに向かうが復活したてのポセイドンと聖杯を奪った謎の双子にもうくたばって、知名度もないから英霊にも幻霊にも慣れないはずの一部関係者からは恨まれているポセイドンの巫女にいいようにされ。

大駒の戦力をつぶされた挙句、船もズタボロにされ金もないもんで。

船の修理代金捻出の為になけなしの金を出して空き家になったバーを買い取って何とか船の修理代金を稼ぐのが現状という奴だった

 

「つぅー訳さ」

『『『元も子もなかった!?』』』

 

確かにサーヴァント複数機もいれば並大抵の敵は屠れる。

それに今回はドレイク船団、黒髭海賊団、アルゴノーツの少数が集まったのだ。

魔神柱とて袋叩きにされて試合終了である。

黒髭とエリザベートが状況が状況である故に頑張ったお陰なのだが。

まさか敵の作り出した聖杯と天然ものの聖杯+噂結界の効力でポセイドンが完全復活しかけており。

さらにはマシュを幼くしたような異形の力を使う双子の手によって主戦力のヘラクレスが倒されかけ。

仕方なく撤退を選択、ひーこら言いながらなんとか安全圏まで脱出し今の島まで脱出できたが。

問題は戦力の大幅なダウンと。

 

「現状、アルゴー号、拙者のアン女王の復讐に黄金の鹿号をニコイチにしても中央の海流を乗り切ることは不可能ですぞ」

「それだけ海流が変則かつ激流ってことか?」

「それもありますがな、達哉氏、前哨戦で三隻ともボロボロでありましてな。どうも噂通りに進まなければ現状どうしようも無いのが現状ってわけですぞ」

 

普通ならどんな海流であっても三隻ニコイチすれば行ける。

だが噂結界の効力とポセイドンの海流操作のおかげで無理と来ているのだ。

 

「黒髭のいう事が真実ならニコイチしたうえで幻想種の素材使って生まれかわらせないといけないらしいね」

 

そこで幻想種の素材による補強である。

 

「さらに言えば噂による検問もあるから、ポセイドンに認められかつ噂を信じるものしかとおれないらしいねぇ」

「うげぇ面倒くさい」

 

そこでさらにとドレイクに条件を出されゲンナリ気味になるオルガマリーだが。

 

「噂結界のほうは大丈夫だろう」

 

達哉は噂結界の方の検問は大丈夫だと所感を述べた。

 

「どういうことです?」

「噂結界というのは何度も言うが認識の具現だ。結界が張られている時点でそういうの起きてると認識して信じているからOKという事なんだよマシュ」

「そういえばそうですね・・・にしても条件緩すぎはしませんか?」

「そういうもんなんだよ、見たろ・・・俺の世界」

「そうですね」

 

というわけで後は噂の検問がどういうものかチェックするだけだ。

問題はポセイドンの海流操作の方だ。

そっちは噂関係なくポセイドンが海流操作しているため。

船を強化する必要がある。

 

「その船の強化が問題なのよねー、単純にお金ないし」

 

ボニーがそうぼやく、ニコイチ修理でも金はかかる。

金がないからこんな場末で飲み屋なんかしているわけで。

 

「その点なら大丈夫よ、タツヤ」

「わかった」

 

オルガマリーの指示で持っていたジュラルミンケースを開ける。

そこにはギチギチに金塊が詰められていた。

船をニコイチ修理するくらいなら余裕の金額である。

これには海賊一同面食らった。

金持ちだなカルデアと思うほかない。

 

「でも船の強度を上げるには幻想種の素材が必要なんでしょう? なら周辺の島めぐりしつつ幻想種を狩って素材にしましょう」

 

だが修理費だけでは無論駄目である。

根本的強度が足りず中央のアトランティスに乗り込めば轟沈だ。

故に神代回帰しているため湧き出た幻想種を狩って船の強化素材にする必要がある。

 

「ついでに行く先々で噂をばら撒いて周辺海域の安定化も図ろう、そうすればアトランティスへの航路も落ち着くかもしれない」

 

達哉はついでに行く先々で噂をばら撒いて周辺海域の安定化を目指そうと提案する。

全員それに乗っかった。

今はそれしかないし、噂結界のエキスパートになりつつあるのだカルデアは。

というわけで船は三隻を合体してのニコイチ修理は明日、船大工と交渉するにしても。

 

「あのイアソンさんの許可は・・・」

 

マシュがそういいつつ指さす先ではイアソンは痛飲していた。しかも完璧に出来上がっている。

 

「まぁヘラクレスにカストロ&ポルクスにアスクレピオスにカイニスまで落とされたからな」

 

アタランテがため息を吐きつついう。同時にカルデアの面々は目を見開いた。大御所が落されまくっているのだ。

どういったやつが敵にいたのかと言いたくもなる。

 

「どういったやつが敵なのよ・・・ヘラクレスを落とすって・・・」

「ミァハだ」

「「「ミァハ?」」」

 

聞いたこともない名前だった。

 

「あー以前に聞いた話ですと。ポセイドンの野郎の巫女で神話には残らなかったですが、裏で暗躍していた存在とアタランテ氏からは聞きましたな」

 

要するに舞台裏で暗躍するタイプの人間だったらしい。

英雄たちには積極的に絡みトロイア戦争でも暗躍し破滅へと誘引させ。

それでも大勢の人間の目には当たらなかったがゆえに。

英霊にも幻霊にもならなかった生粋のトリックスター。

それが今になって出てきている。

ともすれば。

 

「先輩、それがニャルラトホテプの化身という事でいいですかね?」

「間違いなくそうだろうな」

 

貌のないスフィンクスならぬ貌のない巫女とでもいえばいいか。

なんにせよ悪辣だ。

向こうは人理維持と人類進化という大義名分掲げて好き放題できるのだから。

 

「あん、アンタら、あいつの知り合い・・・ッッ」

 

トロイア戦争で妹のカサンドラ、さらには弟のパリスを盛大に嵌めた憎き相手である。

そりゃいつもは気のいいおじさんで通しているヘクトールも若干悪対応気味だ。

 

「あんた、その入れ墨・・・あいつの・・・」

 

そして達哉の右腕を覆うニャルラトホテプに魅入られたものの証を持つ入れ墨を見るや否や。

戦闘態勢に入ろうとして。

 

「違うぞ、ヘクトール!! 彼はある意味この中で一番の被害者だ!!」

 

アタランテが慌てて止める。第一特異点の記憶バッチしだ。

達哉が被害者であり悔しいが奴のいう通り加害者であることは知っている。

 

「それはどういう・・・」

「・・・俺はこの世界の人間じゃない」

 

そして達哉の説明が始まった。

もう何度目だと気が重くなるのも当然の身の上だった。

さしものヘクトールも怒気を引き下げ気まずそうに、

 

「すまないねぇ、おじさんも奴にろくな目にあわされていないからさぁ、ついイキっちゃった。本当にすまん」

 

謝罪する。世界滅ぼしてふっ飛ばしかけて、何とか勝ちをもぎ取り贖罪で滅んだ世界に独りぼっち。

そして気づけばこの世界に落され再び世界の救済の最前線で戦わされているのだ。

同情するなというほうが無理であるし。第一ニャルラトホテプに一度は敗北としたとはいえ一度は勝利している。

それ自体が驚愕に値する行為だ。

英霊誰しもというわけではないが関われば破滅させられているのだから。第二回戦に持ち込んで勝ったというのが驚愕物なのだ。

 

「ところでアタランテの姉さん、どこでそれを?」

「いろいろあったんだ・・・色々な」

 

アタランテはヘクトールの問をはぐらかした。

まさか第一特異点でジャンヌ・オルタに呼応しカルデアの敵やっていた挙句、ジャンヌ・オルタの怒りに汚染され大暴走してましたなんて生き恥もいいところだ。

だがジャンヌ・オルタとは友人ともいえる関係だったのも事実だ。

故にアタランテはあの後が気になっていた。

 

「達哉すまないが、あの後彼女はどうなった?」

「俺が殺したよ」

「・・・そうか」

「だがそれでよかったと思えるよ。傲慢な物言いになるかもしれないが無理してたからな彼女」

 

ジャンヌ・オルタは殺し合いが好きなわけではない殺す殺されるを好むわけでもない。

手段がそれしかなかったからそうしていただけだ。

そうしなければ自分の怒りが収まらなかったからだ。

 

「最後は多分、解放されたと思う」

「それは・・・よかった」

 

アタランテの心残りだった。

ジャンヌ・オルタが自分自身すら憎む憎悪から解放されたのかを。

それを確認し彼女を殺し看取った達哉に対し不謹慎ではあるが胸を撫で下ろした。

あまりにも見てもいられない様だったから。

本音を押し殺しての冥府魔道。

皆殺しの丘の暁に一人立つという末路なんてひどすぎたからだ。

だが達哉にもそれは言える。カルデアの面々にも言える。

皆必死で耐えているのに。

一向に試練という嵐はやまず、影は耐えている彼らをド付き回しているのが現状だ。

閑話休題。

兎にも角にもここからどうするかという話である。

 

「うちのサーヴァントも修繕に参加させましょう、ダヴィンチ」

『だからちゃんをつけてくれ給えよ所長。それで何さ?』

「エミヤ、孔明に造船技術の知識をインストールして頂戴。サモライザー内での霊体化中なら生身の時より洗脳は簡単でしょう?」

『まぁね、プログラムを霊基にインストールすればいいだけだからね。じゃ早速やるよ、ポチッとな』

『『イワァァアアアアアアアアクゥゥゥウウウウ!?』』

「あのー拙僧、その銃見たいのから悲鳴が聞こえた気がするんでござるが」

「奇遇だねアタシもだよ・・・」

「必要な犠牲よ。気にしない気にしない」

 

黒髭とドレイクの苦言に優雅にオルガマリーはミルクを飲む。

まるでいつもの事のように、いやいつも通りなのだが。

ちなみにシグルドは英知の結晶、ブリュンヒルデも原初のルーンがなければ同じコースだった予定なのはオルガマリーとダヴィンチ以外知らない事柄である。

書文は日曜大工の経験があるから組み立て組に参入だ。

 

「じゃ、さっそく職人たちのところに行きましょうか?」

 

コップを机の上においてオルガマリーは優雅に微笑み号令を下す。

後に黒髭とかその他のサーヴァントは語る、悪魔ってああいう笑みするんだなぁと。

というわけで造船に店で使っている荷馬車を使って移動。

組合長に合う

 

「それで、嬢ちゃん。何の用だ?」

「今、ニコイチで直している船があるでしょう?」

「ああ、あるな、つっても損傷がひどすぎて治せるかどうかわからんが・・・」

「それを三日で直してほしいのよ」

「・・・何言ってやがる」

「金は出すわ」

 

三日で直せと言われて怪訝な表情になる組合長だが。

達哉がトランクケース一個を机の上にのせて中身を見せる。

これには組合長も度肝を抜かれた。

金塊がぎっしり詰められていたからだ。

 

「い、いやぁ、これほど貰えるならそりゃこっちだって三日で直したい、それは本当さ」

「これ前金よ、作業完了したら、もう一つ分を明け渡す用意があるわ」

「もう一ケースだと?」

 

金塊がぎっしり詰まったケースがもう一個。

そうなればこのすたれた造船所も活気づくし。

何より働いている連中に良い給料を出せる。

だがそれでも。

 

「三日は無理だ。人員が足りてねぇんだわ」

「それならこっちからも5名ほど出せるわ。肉体的疲労のない超人よ。夜通し使ってくれてかまわないわ」

 

人材まで出してくれるという、しかも夜通し使ってもつぶれない人員らしい。

そんな奴がこの世にいるのかと組合長は思うが。

オルガマリーここで脅しの為に、少しペルソナパワーと魔力を放出。

組合長をビビらせる。受ける方向に落すために。

組合長は唸るように喉を鳴らして一分ほど悩み、人材などの配置状況や受けている仕事に資材状況を考えて。

 

「わかった。やってみる、だが」

「二日三日程度の遅れは容認するわ。最速で三日って話だしね。ちょくちょく見に来るからよろしく。ああ、あとね従業員さんの皆様方が仕事終わりに来る酒場なら●●酒場をお勧めするわ。店長と知り合いでね。お友達価格にできるように頼み込んであげる」

「そりゃありがてぇ。じゃ悪いが早速仕事に取り掛かる」

「わかったわ、じゃとりあえず前金としてこのケースは置いていくから。よろしく頼みますわよ」

 

組合長は金と急ぎではあるが好待遇の条件に屈し。

オルガマリーが満足げにうなずき達哉を伴って場を後にする。

それと入れ替わりで作業の為にシグルド、ブリュンヒルデ、書文、エミヤ、孔明が入ってたが。

エミヤと孔明の眼は死んでおり、ぶつぶつとシュウゼンガンバルとか言っていて怖いありさまだった。

 

「なぁあんちゃん、あの二人大丈夫か?」

「ちょっといろいろあってバグっているだけだから大丈夫だ。それよりもマスターたちのオーダーもある。遠慮なく当方たちを使ってくれ。ああだがしかし、従業員に徹底して言っておいてくれ彼女、我が愛ことブリュンヒルデにセクハラはしないでほしい、当方も剣を抜かざるを得なくなる」

「お、おう」

 

なんか珍妙な人材が来たぞと組合長は頭抱えた。

だが金をもらっている以上は真摯に仕事はしなければならない。

海関係の仕事をしている人々は基本暴力沙汰に慣れている。

故に分かるのだ。オルガマリーを怒らせればどうなるか。

さらに言えば派遣されてきた従業員たちもやばいことを見抜いていた。

受けるべきじゃなかったかなぁと金と好待遇に眼がくらんで受けたことを今更後悔する組合長だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は敵が少なめです、ドレイク、アルゴノーツ、黒髭が合流して行う冒険譚の様な話をコンセプトにしてますので


ミァハ
出展「ハーモニー」
ニャルの化身、ギリシャ担当の一人、ポセイドンの巫女というポジを利用しポセイドンを都合のいいように操っていおり。さらには数多くのギリシャ神話事件で暗躍した。
メドゥーサやカイニスにポセイドンを嗾けたのがこいつと言えばその悪辣ぷりがわかると思う
本作では第三特異点担当として第三に出現。
以前のように言葉巧みにポセイドンを操り、民衆が噂を使わせるために暗躍
ギリシャ神話において様々な悲劇を演出した。

マシュによく似た双子。
詳細は後々で語ります、強いて言うなら貫通持ち
故に前話で幼女なためバサクレスのトラウマ刺激しまくりで本気出せない上に十二試練が貫通でぶち抜かれるため相性最悪な相手。
さらには技量や再生能力持ちであるためバサクレスでは勝つのは無理、アチャクレスで呼べば無力化できていた。
ちなみにニャルが用意したマシュ虐め用の駒である


ニャル「第一ではたっちゃん、第二ではオルガマリーときたら第三ではマシュだよぁ(ニチャア)なぁ!! ■■■■にダヴィンチ!!」
■■■■&ダヴィンチ「~~~~~~~~~ッ!!!」

あと座のギリシャ組合はポセイドンVSギリシャ神格&英霊勃発中、特にペルソナ通して見守っていたアポロンが一番ブチぎれていたりする





さてニャルのいう通り、第一が達哉、第二がオルガマリーの試練場だったのでマシュの試練場ともなります。

あと活動報告でも書きましたが精神状態がよろしくない上に体がここ最近動かなくなってきたので次もだいぶかかります。

そんな中で頑張ってアケコラボ完走しきりましたが。一言
運営さん、ロクスタもっと早く出してくださいよ、そうすれば第二特異点もっと面白く書けたのに・・・ニャル的な意味合いで。

というわけで次回もよろしくお願いします。



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二節 「出港準備」

乗り越える困難が大きいほど大きな名誉を手にできる。
優秀な船乗りは嵐の海で評判をえた。


エピクテトス


船の修理は十全に進んでいた。

急ピッチでニコイチ修理が進められているが。

十全に上手く行っているのはシグルドとエミヤと書文の活躍が大きい。

無論三人とも建築系ではないが、シグルドはフェスの件と英知の結晶、エミヤは強制挿入された建築知識プログラム、書文は生前の日曜大工経験があるからである。

ブリュンヒルデも無論活躍していた。その怪力と原初のルーンで活躍できていたのである。

もっとも孔明は。

 

「し。死んでる!?」

 

酒場のテーブル席に身を預けて口から魂が抜けかけるような有馬様だった。

如何に疑似サーヴァント化して体力に余裕ができたとはいえそれは人間基準であり。

サーヴァント基準としては下の下である、元から体力がない上に憑依したサーヴァントもキャスタークラスだ。

肉体労働はキツイにもほどがあるのは当然ともいえる

というわけでその様を見たマシュは驚くのは当然といえよう。

 

「あちゃー、いくら疑似サーヴァントっていっても体力貧弱で有名なエルメロイ二世には無理だったか」

 

オルガマリーは片手を額に当てつつ無理だったかと割り切っている。

ペルソナ使いになり、アマネ達の猛特訓を受けて大幅に大量増強した手前。

疑似サーヴァントなら余裕だと思ってしまっていたのだ。

 

「でもどうします? そろそろここ引き払う準備始めなきゃですよね?」

「まぁね」

 

あと一日でニコイチ修理は終わる。

イアソンはアタランテ監視下での元小型のヨットを運転させている。

これは復帰訓練だった。

黒髭たちの活躍によって事前に防がれたが人理焼却犯の駒になっていたメディア・リリィの裏切りとポセイドンとの海戦でヘラクレスらなどの自慢の船員が落されたショックですっかり自棄酒するだけのダメ親父になっていたからである。

だが彼の操舵技術はこのメンツの中でも一番だ。

使わない手はないのだ。

というわけでアタランテが心情的にも肉体的にもイアソンの尻を蹴り上げ。

それでも文句を言うイアソンに。

 

「てめぇはそんだけ仲間を誇っているくせに弔い合戦くらいする気力もねぇのか!! それにここから全部ガキどもに任せて自棄酒か!! 自分が情けねぇ!!と思わねぇのか!」

「相手はポセイドンなんだぞ!! どう勝てっていうんだよ!!」

「それ以前の問題だろうが!! 勝たなきゃいけねぇからここにいるんだよぉ、そのために呼び出されたのもわからねぇのか!! この野郎!! そんな認識修正してやらぁ!歯ァ、食い縛れぇ!! このドヘタレがぁ!!」

「オブフゥッ!?」

 

長可渾身の右ストレートが炸裂、イアソン弧を描いて空中に吹っ飛び壁に激突、ノックダウンした。

そりゃそうだ仲間をやられてやり返す気力もないどころかぐちぐち文句を言っているうえに。

抑止のサーヴァントとして呼び出されたはずなのに、メディア・リリィにいいように誘導されかけ、実質人理焼却に加担しかけるわ。

ポセイドンに勝ち目がないからって僕関係ないとばかりに自棄酒である。

そんな様を見れば我らが戦国DQN事、長可が切れないはずがないのだ。

その後さらに数発の追撃を受け完全にイアソン、気絶。

顔面がえらいことになっていた。

ナントカ達哉たちが長可をいさめて。

その場は収まった。

次の日、顔を腫らしたイアソンはしぶしぶながらに船の操舵を請け負うといった。

あそこまで言われて殴られれば然しものイアソンであっても火が付いたらしい。

というわけで溜まりに溜まったアルコールを抜くためにカルデアから送られてきたアルコール分解剤の入ったペン型注射器を首筋にお注射後。

錆を取るという目的で、小さなヨットを借りて錆落としをしているというわけである。

閑話休題。

そういうこともあって着々と出港準備は進んでいた。

 

「さて・・・・」

「大丈夫ですか孔明さん? まだ休んでいられた方が・・・・」

「そうもいっていられん状況だろう・・・、改めて状況整理と我々がすべきことを確認すべきだ」

 

のそりと起き上がりため息を吐きながら懐のシガレットケースから葉巻を取り出し。

葉巻の先端をギロチンで挟んで切り取り、もう片方を口に咥えマッチで炙り、火をつけながらそういう。

やることのおおむねは一日目で実際できていた。

だがあくまで骨子という段階で肉付け作業ができていない。

つまりこれからする行動の+面-面、戦場の摩擦が起きた場合の対処法。

敵の戦力の詳細などなどがある。

 

「まぁそれは皆が戻ってきてからの方が良いんじゃないか?」

「それもそうか・・・なら少しゆっくりさせてもらうよ」

 

達哉が急ぎすぎだというとそれもそうかと孔明はゆっくり紫煙を吐きうなずいた。

実際、この酒場は引き払いが終わりつつあり。

メンバーのほとんどがこの場にいない。

買い出しやらなんやらで出払っているからだ。

と言っても時刻は夕刻、皆が戻ってくるのにはそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「では改めて説明するぞ」

 

海図を広げ、孔明が説明を開始する。

 

「まず噂結界を使っての航路の安定化による、アトランティスへの道のりへの開拓だ」

 

周囲の航路を安定化させて必然的に噂で引っ張るように、アトランティスへの航路を安定化させる。

 

「それができない場合には?」

「幻想種の素材などで船を補強し強行突破する」

 

メアリーの問いに孔明はそう答えた。

周囲の海域の安定による噂の引っ張りが起きなかった場合の最終強硬手段だ。

船に関しては豪華メンツがそろっているし、船自体も宝具のニコイチの様なもの。

十分勝算はあるのである。

 

「だったら最初から強硬でよくなぁい?」

「エリザ君、言っておくがこの島には幻想種はいない」

「あっそうだった」

 

そんなニコイチ船であっても補強材料がなければ現状アトランティスに乗り込むのは不可能である。

だから海域の安定化ついでに無人島なども回って幻想種などの素材を回収し船を補強する必要があるのだ。

 

「だったら噂に乗る形での突入はダメですの?」

 

ボニーがそういう。

噂に乗る形でアトランティスに行けばいいじゃないかと。

だがそれに否を唱えたのは達哉だった。

 

「それはダメだ。噂に乗る形で突入した場合。アトランティスで適応されている噂が俺たちに付与される可能性が高い」

「ただでさえ不老不死とかろくでもない噂たってるもんねぇ、それらがエンチャントされたら不利になるのは私たちよ、アトランティスに行ったら黄金になりました。なんていやでしょう?」

 

達哉が噂が付与される可能性を説き。

その不老不死の中身がわかっていない以上、ミダス王のようになるのは嫌でしょうとオルガマリーが引き継いで言う。

同じギリシャ系サーヴァントは口をひきつらせた。

確かにアトランティス上陸したと同時に意識ある金塊になんて誰もなりたくないからだ。

故に現状のアトランティスへの噂に乗る形での上陸はなしである。

 

「故にこれから、アトランティス海域を中心に据えてその周辺に存在する島々をめぐり海域の安定化を目指す」

「それはわかったんだけどさ。あんなに食料やら金品買い込んでどうするきだい?」

 

ドレイクの質問に孔明は答える。

 

「交易用だ。噂を広げるには交易も抱き合わせの方が早い」

 

つまるところ交易も絡めて噂をばら撒き浸透しやすいようにするという手法である。

この時代。商人は貴重な情報源の一つだった。

故に交易も絡めたほうが噂も広まりやすい。

 

「幻想種の肉なども売っていくぞ。幸い加工できる人材はいるしな」

 

補強用の物を除いて肉などは食用に加工しうっぱらう方向で行くことになっている。

加工できる人材もいるからだ。クーフーリンとかが筆頭候補である。

 

「さらに噂を効率よく真実味を持たせるためにほかの商人の護衛業務や航路の往復も行う」

 

一回こっきりでは噂に真実味を持たせられない故に往復も行うとのことだった。

噂結界とは大衆が真実と思う事で起動する故にだ。

故に往復作業も視野に入れなければならない。

 

「そして、完了後は速攻だ。人理定礎を間違いなく悪化させる行為だからな」

「え、なんで安定させるのに。悪化するんですか?」

「マシュ、いくら安定と言っても、それは我々の都合のいいように海流を安定させることであって。時代の海流に戻すという事ではないのだよ」

「あ」

 

そう海流の安定はあくまでアトランティスに乗り込むための物。

この時代にそぐわぬ行為そのものだ。

故に、施行すればどうなるか? 簡単である。

定礎が悪化する。

噂結界事態に敵味方はないのだ。無論定礎の正常化やら悪化にも両方に作用する。

第二がすでにアレだったためすっかり、マシュの頭から抜け落ちていた。

というかフェスのアレっぷりに忘れていたといった方が良いか。

第一のジャンヌ・オルタは上手く使っていたことを思い出し。

マシュは身震いすると同時に実感する”今回も綱渡りをするがのごときギリギリをついていく”のだと。

現に達哉は難しい顔をオルガマリーは眉間に座を寄せている。

噂をぶちまけ過ぎれば第二の二の舞だ。

ギリギリのコースをついていくのが本特異点の肝となるのだ。

 

「さて憂鬱な話しはまだ続くぞ。ティーチ、君たちがアトランティスに向かおうとしたとき襲ってきたのはポセイドンなのだな?」

「ポセイドンって言っていいのか? アレ? 拙者にはどう見ても鋼の咆哮とかに出てくる超兵器にしか見えなかったござるが・・・」

「「え、なにそれ? 怖い」」

 

ポセイドンの話のはずなのにいきなり出てきたのは超兵器戦艦。

つまり科学技術の様なものだったのだ。

オルガマリーもこれには困惑。

ついでに孔明もだ。

 

「神代の資料は非常に少ない、アタランテ、イアソン、ヘクトール、ギリシャの神々ってロボだったのかね?」

「「「いいやちがうぅ!!」」」

「どういうことなのだ」

 

これには全員が困惑。

当事者たちも知ることはないだろう、なんせセファール関係で、セファールに破壊されるまでは宇宙戦艦とかロボの類だったなんて知る由もないのだ。

 

「だけどな、あの神威は本物のポセイドンだったぜ」

 

だがあれはマジモンのポセイドンだったとイアソンは証言する。

だったら本物のポセイドンなのだろうと全員が思い。ヘクトールが蓄えた顎髭をなでながら思ったことを口にした。

 

「あー、トロイの木馬がロボだったし・・・もしかしてだよ? ゼウス様達って元ロボだったりするんじゃない?」

「「「トロイの木馬がロボ!?」」」

 

カルデアマスターズ三人驚愕の事実に驚愕する。

 

「だがギリシャの神々がロボという証拠はどこにも残っていない。そこまでの超技術、幻想を纏うほどのものが現在まで残っていないのはおかしい話だ」

「孔明、抑止でなんやらかの理由で残らなかったという可能性もあるわよ」

「まぁその線も捨てきれないか。いったんこの話は置いて置こう。歴史研究をしている暇はないからな」

 

そういって一端ポセイドンの事は横に置いて置き。

次の敵の話に移る。

 

「ヘラクレスたちを蹂躙したという双子についてだが。心あたりはあるかね?」

「アタシはないねぇ」

「拙者もないですぞ」

「ギリシャの面々は?」

「ないな、あれほどの実力があれば英雄として名が残っているはずだ」

「第一腕と一体化している近代兵器みたいな武器はやばい感じだったというか、あれはまずい。ヘラクレスの十二試練をぶち抜いているうえに魂食らいの機能までエンチャントされているみたいだからねぇ」

「というか服装が現代でいうゴシックロリータみたいな時点で我々とは関係がない」

 

双子も全員が見覚えがないという、ただ腕と一体化している武器が超性能かつ使い手の双子もトラウマで動きが鈍っているとはいえヘラクレスを圧倒するLvなのだ。

決して油断はできぬという事である。

そしてイアソンは顔を顰めて。

 

「むしろカルデアの方が因縁あるんじゃねぇの? そこの嬢ちゃんを幼くしてたような感じでそっくりだったぞその双子」

「ええ?! 私ですか?!」

「イアソンのいう通りだったよ。瓜二つだったとオジサンも思うよ。姐さん、たしかあの双子なんて呼び合っていたっけ?」

「左腕が銃火器ほうがシメオン、右腕が刃で構成されていた方がアンドレアだったか・・・」

 

耳のいいアタランテはあの乱戦下で二人が名前で呼ぶのを聞いていた。

左腕が銃火器なほうがシメオン、右腕が刃なのがアンドレアというらしい。

男らしい名前だが列記とした少女だったとか。

問題は、マシュを幼くして瓜二つにしたかのような感じだったらしいのだが。

 

『馬鹿な!?』

 

そこで大声を上げたのがロマニである。

ダンと両手で机を叩いて立ち上がる。

 

「ロマニ・・・アンタ、なんか知っているの?」

『あ、いえ。その知ってはいますが・・・。デミサーヴァント計画の後期に生み出された子供たちです、言わばマシュの妹に値する子供たちですが。度重なる失敗とマシュの適合後に計画そのものが凍結破棄されていて。僕が知った頃には、その、もうこの世にはいないはずだ・・・。』

「そう、あとでじっくり話を聞くから、覚悟しておいてね。マシュ・・・大丈夫?」

「いえ、そのはい・・・大丈夫です」

「大丈夫じゃなさそうだぞ、ティーチ、悪いが気付けになるものを」

「了解しましたぞ」

 

まさか自分に妹のような存在がいたことを聞かされてショックだったのか顔色が降下、ふらつき、達哉がそれを支えて。

ティーチに気付けになるものを頼みつつ。

後で追及するからなとオルガマリーはロマニに釘をさしておく。

といってもだ。

 

「そういうわけだからウチ関係ないわよ」

「どうしてそう言える」

 

関係ないとオルガマリーが言い切りヘラクレスの事もあってかいらだち気味にイアソンが聞き返す。

 

「そもヘラクレスをぶっ倒せる奴作れたらデミサバ計画やらマスターによる特異点制圧なんて必要ないでしょ」

 

ヘラクレスをぶっ倒せる人材を意図的に作れたとしたら。

それはカルデア運用が根本から覆る。

だってそうすればマスターもサーヴァントも不要になるからだ。

作れなかったからこそ現状があるのだから。

 

「双子の戦力も分かったことで次はミァハだったか・・・。ニャルラトホテプの化身として。奴は何をやってきたんだ」

「「「「わからん」」」」

「ええぇ~」

 

ミァハとはどいう存在なのか、どういうことが得意なのか孔明はギリシャサーヴァントたちに問うが。

帰ってきたのは分からないという事だった。

 

「要するに嵌められて気づいて破滅段階で奴が現れて煽り散らして帰っていくから何がどこでどう嵌められたのかがわからないんだ」

「その通りだ破滅するまで決して表には出てこないんだ。まぁヒッポメネスの友人経由で事を吹き込んだらしいが」

「船に潰される瞬間、見下して嘲笑われたよ、畜生めが!!」

「とにかく他者を経由、状況を支配し操作することに長けているというのは分かった」

 

だからこそミァハはギリシャ神話に名を残していない。

他人経由で英雄の近しい者にあらぬことを吹き込み気づけば事態を悪化させているという悪辣な存在だ。

決して自分の手ではことを行わない。

あくまで本人たちが自滅するように仕組むのがミァハの手管だからだ。

 

「あと最近分かったことだが戦闘能力も十分に高いことは分かった。なんせドレイクとカイニスの二人掛かりを余裕で捌いていたからな」

 

先のポセイドン海戦。

ミァハはドレイクとカイニスを相手どった。

最もカイニスは面倒くさいとばかりに煽り散らされ頭に完全に血が上ったところをアンドレアがお遊びとばかりに斬首して終了。

ドレイクは星の開拓者のスキルを逆手に取られ行動を読み切られ、ティーチが回収してなければまずいところまで行ったのだから。

戦闘力も伊達ではないという事だろう。

 

「戦闘スタイルは?」

「曲剣の二刀流、アラビア剣術とかに近いかも言しれませんな」

 

孔明の問いにティーチが答える。

これで大方の戦力把握はできた。

 

「双子の方は、別段問題あるまい」

「へぇ、なんでだ?」

 

ヘラクレスを倒した相手に問題ないと言い切る孔明にイアソンが青筋立てつつ問いただす。

 

「我らがマスターの達哉なら余裕だからだ」

「ああそういえば彼にはアレがあったな」

「アレってなんだよ、アタランテ」

「彼は時を数秒止めることができる」

「「「「はぁ?!」」」」

 

カルデアメンバーと知り合いサーヴァント以外はその理不尽能力に驚愕する。

双子は確かに強力な相手だ。

だが時間停止して首を跳ね飛ばしてしまえば問題がない。

誰も彼もジャンヌ・オルタのように極まった怪物とか、そもそもヤルダバオトのように理不尽サイズを持っているわけではないのだ。

普通のサーヴァントどころか概念防御持っていない上級サーヴァントならタイマンという条件下ではノヴァサイザーで終了である。

それが宝具ではない上に最大停止時間から調整も可能と来ている。

しかも発動に使うのは精神力と来ている。

理不尽すぎるものがあった。

というか神々の権能の様なものをほいほい使える時点でいろいろおかしいのだが。

それが悉くメタられてきた戦場が多いもんだからカルデア勢はそこまで理不尽に感じていなかった。

閑話休題

 

「それ以外にも、書文、宗矩、クーフーリン、シグルド、ブリュンヒルデ、テクスチャごと空間をえぐることのできるオルガマリー所長がいるんだ。君たちもいる、完全に殺しきれる布陣ではある。あとはポセイドンが何をしてくるかだが、君たちと交戦したときは乗り込んできただけで。戦いはミァハや双子にまかせっきりだったのだな?」

「ああ、そうね、ポセイドンはステージ提供して高みの見物って感じだったわ」

「うまいこと手札を伏せられたな・・・とりあえずロボである以上乗り込み口が存在するはずだ。海戦でのりこんで「いいやそれはしなくていいじゃないか?」どういうことだね? 達哉」

 

ここはポセイドンに横付けして直接乗り込むかと考える孔明だが。

達哉はそれはしなくていいじゃないかという。

 

「なにか案があるんですか? 先輩」

「いや案も何も、エミヤの固有結界に取り込んで座礁させてしまえばいいじゃないか」

「いやまて!! マスター、いくら何でもそれは無茶だ」

 

相手が海中戦闘を得意としているのは目に見えているという事。

なら相手を陸に挙げてしまえばいいと達哉は言う。

その方法がエミヤの固有結界に取り込んでの座礁である。

それは無理だとエミヤは叫ぶが。

 

「あっそれいいかも。令呪6画とカルデアからの魔力供給+石割機使えば広範囲展開も可能でしょ」

「しかし、相手はポセイドン、対界宝具くらい持っていそうなもんだが」

「そこはリソースのごり押しで、崩された端から石割機使って魔力供給して再展開すりゃ問題ないわ。どうせ時間との勝負だし」

 

エミヤの必死の説得にもオルガマリーはどこ吹く風で言い切った

 

(持ってくれよ私の魔術回路)

 

故にエミヤは死んだ魚の様な目で自身の腕を見ながら内心ぼやく。

 

「相手の手札がこれ以上わからない以上、こんなところだろう。これを基本方針に動いていこうと思うが異存はあるかね?」

 

孔明の問いに全員が異存はないと答えた。

現にこれ以上の案の出しようがないからである。

これ以降は今会議で結論付けられたものを高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変していくほかないわけだ。

 

 

「出来上がったぜぇ」

 

造船所は突貫作業でふらふらな従業員であふれかえっていた。

無理もない金塊ちらつかせてフル稼働させたのだから当たり前と言えよう。

 

「感謝するわ、これが約束の報酬よ」

「おいおい、二倍になってるぜ、お嬢ちゃん」

「実際のところ三日でものになるとは思わなかったからね、それに」

 

オルガマリーは金塊の入ったケースを机の上に置き組合長に渡しつつ。

横目でちらりと見ると大量の荷物を運びこむのを職員が手伝っていた。

 

「いい人たちみたいだし、長い付き合いはしたいの、あと貸し借り話にしたくないから色を付けたの」

 

単純にいい人たちみたいなのと荷入れを手伝ってくれるという事。

あとは三日は無理させすぎたという借りをなかったことにするために報酬に色を付けたのだ。

この世で只ほど高いものはないし、金や物が介在しない貸し借り程重いものはない。

だからそういったものはちゃっちゃと金か物で精算しておくべきという事をよく知っている。

そういう世界で生きてきたから政界は魑魅魍魎の巣箱であることは痛感している。

一方そのころ達哉は、カルデアから送られてきた医療品をチェックしていた。

ペルソナ使いだからと言ってスキルだよりだけではもしもがあった場合には笑えないからであし、今回は長旅になるからだ。

だから達哉もマシュもオルガマリーも念のため各種病原菌対策用のナノマシンを体に入れているし。

送られてきた医療キット箱の中には各種鎮静剤やら医療キットが包まれ。

特にこの時代の問題である長期間の船旅で問題となる各種ビタミン不足からの病に対応すべく各種サプリメントが多く入っていた。

これは達哉たちだけの分ではない、ドレイクとその部下たちにも配る量だ。

ドレイクとその船員たちは生身だ病気になったら目も当てられない。

この時代が特異点化しているのはなにもアトランティスだけではなくドレイクたちも巻き込まれているというのが問題なのである。

故に彼女の身も最優先事項だった。

 

「加えてか」

 

達哉はペン型注射器を一個手に取る。

数量こそ少ないが送られてきたもののひとつだ。

内容物はコンバットドラッグ、サーヴァントにも使える優れものだった。

効果も意識の高揚だけではなく、代謝を活性化させ肉体の傷の治癒すら可能な優れもの。

サーヴァントにも適用可能なそれに改良されているがこの世界の米軍の特殊作戦群では正式採用されているとか。

無論、まだ表に出せない劇物とのことだ。

一度使えば直した傷の分だけ寿命が縮むそんな代物である。

それを一度も使う事の無いように達哉は祈りつつケースへと戻し次の部屋へ行く。

 

「ん? 達哉もチェックかね?」

「孔明も?」

「ああ、今じゃこうでもしないとすっかり体落ち着かん、加えて運用が海上だ入念にチェックせねばな」

 

孔明は自身のDSRー50とガリルACE52をチェックしていた。

周辺海域には海賊も出没しているとのことだ。

使うときは必ず来る故に入念にチェックしているのだ。

 

「達哉は刀使いなはずだが・・・」

「一応弾薬の確認だ。所長もマシュも積み込みで忙しいからな」

「そういう事か」

 

達哉は刀使いであるしペルソナ使いである遠距離中距離はペルソナで、近距離は自前の孫六でカバーできる。

故にここに来たのは手配した弾薬がちゃんとリスト通りにあるかの確認だった。

手慣れた手つきで達哉はウェポンボックスを開けて中の弾薬を数える。

孔明から見ても手慣れた様子で素早く数を数えリストの帳面に丸印を書き込んでいく。

 

「随分手慣れているようだが?」

「ん、バイクパーツの確認の応用だよ、趣味でバイク改造やっていたんだ俺」

「バイクかね」

「・・・なんかあったのか?」

「いやね、ロードなんて仕事をしていると、見栄を張らなければならん、車一つで舐められる世界だからな」

 

車のグレード一つで下に見られる。

いつの世も何処も一緒であるがゆえに孔明にとっては頭痛の種だった。

 

「いい車を買っても、こう荒事の多い世界だ。毎回大破するから出費がな」

「それは、ご愁傷さまです」

「そういった点ではムジークの御曹司が羨ましいよ、なんせ専用のカーレースチーム持ちだ。もっとも全部ひとりでやってるらしいが」

「それは何といえばいいか・・・」

「そうだな・・・むっ、こんな時間だ。私は所長とドレイク船長とイアソンと航路の最終確認をしてくる、達哉はどうする?」

「俺は見回りですかね、浅学なもんで。戦闘以外は役立てそうにありませんし」

 

その時である、振動、

それと同時に着水音。

積み込みが終わり、船が海に出されたのだろう。

積み込み終了と同時に海に出すとオルガマリーが言っていたから達哉はそう思った。

進水式はない、そんなまったりとしている状況でもない。

とりあえず格納区画を出て甲板へ、時間的に夜の出航と相成ったが風向きに問題はなく。

帆が張られていた、帆先ではメアリーが単眼鏡をのぞき周囲の確認中だった。

 

「こうゆっくり出るのは初めてだな」

「なんだい坊主、アンタ、いつも慌ただしく出てたのかい?」

「うぉ!? 船長びっくりさせないでくださいよ」

 

日輪丸に乗り込んだ時を思い出しつつ黄昏ているといきなり後ろから声を掛けられ。

達哉は肩を跳ね上げる。声の主はドレイクだった。

こう邪気がないから気づきようがないのだ。戦闘なら話は別だが。

 

「そうまでびっくりするなよ、折角の船出なんだ、で坊主も船に乗ったことがあるのかい?」

「前に説明した通り、ニャルラトホテプの件で、これより小さい船に乗ってテロリストの乗った客船に襲撃しかけたんですよ」

「ハハハッ、なんだいアンタも立派な海賊行為してるじゃないかい!!」

「面目ない」

「なんで謝るのさ。乗り込んだ船には敵だけ、その敵も確かに奇麗な祈りを持っていたかもしれないがねぇ、やってることが世界の滅亡だ、故に掛かるは世界の命運、立派だよ」

 

確かに幸せになりたいとか願ってああいうことを天誅軍はしたのかもしれないが。

いくら祈りが奇麗であっても、やってることはただのテロかクーデター、さらには世界の命運がかかっているという状況である。

故によく成し遂げたとドレイクは達哉の肩を叩いて励ました。

 

「それに念願の船出だ。景気よく行かなきゃ損だろ?」

 

右目でウィンクをしつつドレイクは達哉をそう諭す。

達哉はそれに頷いた。

 

「さぁ野郎ども。挑むは海神と悪神だぁ、気合入れていくぞぉ!!」

 

ドレイクの号令と共に歓声が上がり船が海へと出た。

海神に挑むため、楽園に到達するための旅が始まる。

 

 

 

 




ハーモニー読んでウーロン茶飲みまくってたら頭がフル回転始めたので早めに仕上がりました。
今回は戦術、戦略 船出回

それとオルガマリーのマリスビリーの株が底を割る会でした。
原作でもありそうなもんな話なんですよね、マシュの黒い姉妹やら兄弟関係。
あと時間関係とかはマシュもロマニとダヴィンチとグルになって隠しているのでまだ発覚はしません。

あとギリシャ神話勢の死にざまにぷぎゃってくるニャル、これはうざい。
特にカイニスには大爆笑してもよう、原点の死にざまからしてアレでしたしね彼女。
恰好の餌食となりました。
オジサンはライバルに家族全員ニャルられたからね。
そりゃ多くのギリシャ勢からニャルは恨まれてます。本人はそれでも嘲笑ってますが。

今回は異様になんか頭が動いたので速攻で書き上げましたが。
次回は間違いなく遅くなります、ご了承ください。





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三節 「航路と怪物の住む無人島」

……誰かが、ほんの少し優しければあの子たちは──
学校に通い、友達を作って、幸せに暮らしただろう。
でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ、ロック。
だから──この話はここでお終いなんだ。

BLCK LAGOONより抜粋。


航海の大半が時間との勝負である。

それは早いからではなく遅いからだ。

目の前に広がる海原は代り映えしない景色だ。

間違いなく飽きるし、いくら帆に風を当てても進んでいる気がしないというのは精神衛生上来るものがある。

無論そんな中でも位置把握や突然と嵐に見舞われることもあるが。

それよりも大半は位置把握とその暇との戦いなのである。

現代であれば船の性能はダンチなうえに衛星のGPS誘導もあるし何より娯楽や新鮮かつ豪華絢爛な食が味わえる技術がある。

現代では暇つぶしに事欠かないし、位置把握も昔に比べれば楽なものだ。

それらをなしに、海という自然災害やら位置把握が困難な海を乗り越えてきた者たちは本当に英雄の名を関するに値する英傑と言えよう。

と言ってもカルデアの面々にとっては都合のいい時間であることも変わらない。

カルデア内ではマスターたちも設備修繕や微細特異点からのリソース回収業務などがある。

故に今は悠々と時間を使うことができる。

 

「――――――ッ!!」

「―――――――――」

 

揺れる船の上、いつもとは違うシチュエーションで訓練を行えるという事だ。

だからこそ達哉と宗矩、さらにはマシュと書文、オルガマリーとエミヤの手合わせが行われている。

中でも激しいのは達哉と宗矩の手合わせだ。

木剣が超高速で振るわれる。使っていいのは十文字と合撃のみという互いに縛りプレイだが。

その正確さは恐ろしく冷たい。ヘラクレスでもこうも正確に斬撃を放てるかどうかとイアソンも驚愕に眼を見開いていた。

いや奴なら宗矩に師事すれば三日でその鋭さと正確さに術理を身に着けるとは思うが。

剣の腕だけなら現状宗矩に軍配が上がる。

ヘラクレスは未来で自分を超える剣士が出てくるとイアソンに語っていたが本当だったのだ。

 

「お、これはボクたちの勝ちかな?」

 

メアリーが達哉が攻め立てているのを見て賭けは自分たちの勝ちかとぼやくが。

 

「いいや、ありゃ遊ばれているだけだな」

 

長可が否定する、あれは遊ばれているだけだと。

確かに達哉は十文字と合撃で攻め込んではいるがそこに焦りの様なものを浮かび上がらせている。

逆に宗矩も手段を十文字と合撃の技をもって達哉の剣劇を捌くがその様子は湖畔のごとく澄み切っていた。

実戦形式の型稽古はどれだけ冷静であれるかどれだけ精密に斬撃を放てるかが肝である。

故に達哉が攻め立てて優勢に見えるが実際のところ逆。

宗矩が冷静に剣を合わせて絡めとって達哉の体幹を削り取っていた。

すでに50手にも及ぶ応酬だが、長可の目測ならあと数手で達哉が詰む。

というよりも剣術限定であれば訓練で無くて実戦であれば初手で詰みだ。

宗矩はそれほどの怪物なのである。あくまで合撃と十文字を会得して欲しいからこそ合えて手を抜いていた。

マシュと書文の訓練も同様である。

 

「マシュ、タイミングのズレが甘い、それと両足をもっと内股気味に締めて八の字の作るように!!」

「はい!!」

 

一見、大盾使いのマシュが有利に見えるが実際はそうではない。

書文の拳で浸透勁を打たれれば、手が衝撃でマヒし盾を手放してしまう。

いうなれば大盾崩しともいえる技法を書文は行えるのだ。

それ以外にも真芯で受けてしまった場合も同様である。

だからこそ真芯をとらえられた場合に備えインパクトの瞬間に盾を若干傾けたりなどして衝撃を逃がす訓練だ。

これがなかなか難しい、大盾は防御力こそ高く武器としても機能するがその大きさから使い手自身にも負の側面は大きい。

例えば純粋に重いゆえに取り回しが悪く操縦性が悪い。

身丈をすっぽり隠すような大きさゆえに相手を視界内に置きづらい。

故に反撃のウィークポイントや相手の攻撃を把握するには不向きな装備ともいえる。

現にグランドオーダーが始まった頃の最初期には書文の拳一発で盾がはじかれ拳を叩き込まれたのだ。

だからこそここまでよくぞ成長している。

ほとんどの技も習得済みだ。マシュは三人の中で一番才能がある故に。

故に指摘と、今回は船上という不安定な場所で戦うために空手でいう三戦の構えに似た足場が不安定な場所での戦い方を教えるに済んでいるが。

書文は訓練では本気な方で打ち込んでくるためマシュも気が抜けない。

ひとたび気を抜けば一気に持っていかれるのは明白だった。

故に汗を流しながら必死に書文の攻撃を捌き続ける。

 

そしてオルガマリーの方だが。

これは意外に互角だった。

これは純粋にエミヤの剣の運用法は守りに特化傾向にあるからである。

剣で守り相手の隙が生じたところを投影した高火力宝具で射貫くのが基本戦術だからだ。

堅実ではあるが手札が割れていればそう怖くはない。

一方のオルガマリーは超攻撃系である。

これはエミヤと共に教練に参加しているアマネの影響が大きい。

武器だけが驚異的ではなく足技、関節技、CQCがもととなり、相手を一方的に嵌め殺すスタイルである。

しかも守りができないわけではない。マズルスパイクによる疑似二刀流を教えたのはほかならぬエミヤだからだ。

互いに手札を切るタイプではあれど、強力なカードは訓練であるがゆえに使えないのがエミヤに響いている。

だが、絶対的にオルガマリー有利というわけではない。

それが経験差と体力という大きな壁だ。

こればかりはどうしようもない。自分で鍛え戦場を練り歩いたものにしか付かぬ物であるがゆえにだ。

故にアマネはいろいろおかしい。

それはさておき。

 

「ここまでですな」

「ぐっ・・・」

 

達哉の手甲に宗矩の木剣が直撃、骨が折れる音と共に達哉の木剣が甲板に落ち、宗矩の木剣が達哉の首筋に添えられる。

 

「ありがとうございました」

 

達哉は右手首を抑えつつアムルタートを呼び出し折れた骨と裂けた皮膚を即座に治療しつつ。

礼を取る。

 

「いや、達哉殿も成長なされた。もうじき私の教練も必要なくなるでしょう」

 

新陰流にはまだ技はある、だが実戦レベルまで昇華された達哉の我流には新陰流の基礎であり奥義、十文字と合撃だけを教えつつ我流剣術を磨き上げる方向にしているから。宗矩としてはあと少しで教えることはない。

強いて言うなら自分の魔剣である剣禅一如と兜割を教えたいくらいだった。

もっともそこからは境地の話になる、会得できるかは達哉次第なところも大きい。

マシュも遂に真芯をとらえられ盾をはがされ。

そこからは肉弾戦に移行するが。渾身の崩拳を捌かれ、鉄山靠を叩き込まれてふっ飛ばされて、それで空中で体勢を立て直し着地する物のそのまま倒れてしまいギブアップという有様だった。

まだまだ武の道のりは遠いというわけである。

だがエミヤとオルガマリーは違った。

 

「シッ」

「ッ」

 

エミヤが追い詰められ始めている。

無呼吸連打の亜種だ。

アマネの切り札の一枚。初見という条件下に限られるが。複数のパターン攻撃を用意し相手に予想通りの防御を強いる技である。

煉獄とも某漫画では言われる技法をアマネは会得しオルガマリーに伝授していた。

これにはアマネと初手合わせした書文ですら対応できずに轟沈するほどである。

無論、アマネ曰く次は絶対に通用しないとのこと+書文本人が対処できると語っていたことから本当に初見殺しの技なのだ。

動きが急にそれに代わったことから、エミヤは最初の動きに対応しきれず直撃をもらう。

反射防御を統計という数字でくぐりに抜け次も直撃、その次も同様。

それがオルガマリーの息切れが続くまで続く。

それまではオルガマリーの檜舞台だ。

逆に言えば全力を出し切る技なので。使ったら後がない。

しのぎ切ればエミヤの勝ちだ。

もっともしのぎ切ればの話だが。

書文でさえ初見ならば凌ぎ切れない連撃をエミヤがどう凌ぐというのだこの縛りの中でだ。

だがここで出るのは純粋な体力の差と呼吸の上手さだ。

アマネはもう幼少期から銃を握りしめて戦場を練り歩いてきた。

オルガマリーはここ数か月間の戦場と訓練しか経験していない。

体力と呼吸の上手さだけは才能は埋めてくれない、踏んだ場数と訓練時間が物を言う。

故に。オルガマリーの連撃が弛んだところでエミヤは彼女のリペアラーを干将莫邪でからめとって弾き飛ばし決着と相成ったのだった。

マスター三人とも敗れるという結果になったが。

縛りがなければどうなったかわかったもんじゃない。

マシュはまだいいとして、二人はペルソナ能力を今回は使っていないし、達哉も切り札たるアポロのノヴァサイザー、オルガマリーもシュレディンガーの切り札であるヴォイドザッパーも使っていない。

純粋な技術勝負で一級サーヴァントに肉薄しつつあるのだから末恐ろしいというものである。

それはさておき、場は歓喜と慟哭の叫びで満ち溢れていた。

暇人どもがどちらが勝つか単勝、三連単で賭けていたのである。

そりゃ有り金が消えるのだからそういったこともあるだろう。

生前、賭け事を趣味にしていたマリー・アントワネットは大穴も良いといえる三連単の組み方をしていたので轟沈。

元王妃ならぬ悲鳴を盛大に上げていたのは完全に余談だ。

 

 

 

 

そして三日程度の航路、体感時間的に最新鋭の船に慣れた者、船旅に慣れていない勢はそれ以上に感じたが。

何とか最初目標にしていた無人島へと到着する。

資材も豊富な状況で上陸する意味は一つだ。

最初の島で噂に流れていたのだ。この島には化け物が大量にいると。

ならば噂結界の効力も含めて幻想種の楽園になっていることは違いないとのことで上陸を目指した。

上陸早々案の定という奴である。

 

「うわ、デカい」

「あれは料理にも使えなさそうね」

 

人型サイズ、あるいはそれ以上ヤドカリとかカニが浜辺に群生していた。

早速バトルであるが。

 

「飛竜の鱗よりはるかにもろい・・・」

「これは強化材には使えませんね」

 

巨大ヤドカリからひっぺ剥がしたヤドの部分をシグルドとブリュンヒルデが見分し使えないと判断する。

なんせオルガマリーのリペアラーやマシュのハンドアックスでかち割れるし、海賊たちの銃弾でも撃ち抜けるのだ。

それでは強度不足もいいところである。

ヤド自体はそうなのだが一部個体は鉱石やら宝石で飾りつけをしていた。

そちらは交易に使うものに回すことになった。

ヤドカリ本体はオルガマリーとエミヤが料理したが、食べれることは食べれるが、その食べれるレベルに持っていくまで多大な工程を得るため捨てることにした。

本当に手間に見合っていないほど大味なのである。そしてすさまじく強い磯の臭いにアンモニア臭とくれば破棄するほかない。

これなら普通のエビカニを素潜りで取った方がまだ時間的にも有意義だった。

 

「それでどうするね? マスター」

「ヤドカリ食うのは無し、手間とコストがシャレにならないし足も速い、これならワイバーンの肉の方が数倍マシだわ」

 

ワイバーンの肉は黒くすさまじくついた脂身を除けば美味な肉である。

巨大ヤドカリとは違い脂身をこそぎ落とせば十分食用に耐えうる物なので比べるのは失礼だが。

そういうほかない。

というわけで。

 

「狩りと探索の時間じゃ」

 

サーヴァントを全員呼び出しつつ他のメンツも呼び出し。

敵を掃討してから船を本格的に上陸させ、浜辺に指揮所兼簡易作業所を組み立ててから。

オルガマリーと孔明を残しスリーマンセルでばらける形で島の中へと入っていった。

島の森の中は熱帯雨林に近い。

同じチームの達哉&マシュ&アタランテはある意味きつかった。

いやアタランテは正確には除外してもいいだろう、彼女はサーヴァントなのだ。

気候の温度変化に肉体がついていけなくても肉体に支障がきたることはない。

逆に達哉とマシュは人間なのだ。

この熱帯雨林の環境は脱水症状および熱中症を引き起こしやすい環境なのである。

如何にペルソナ能力とデミサーヴァント能力があるからと言ってそこまでカバーしてくれない。

最も危険域になる前に体内に入れておいてある各種抗体ナノマシンが目に張り付けたコンタクト型礼装に表示してくれるため。

うっかり脱水症状および熱中症になるという事は防いでくれる。

が、しかしだ。

 

「こうも俺たちだけとなるとな」

「ですね、クーフーリンさんやシグルドさんチームは魔猪やワイバーン狩ってますしね」

 

他は順調だったが達哉たちは順調でもなんでもなかった。

小動物は見かけるが肝心の幻想種に遭遇しない。

アタランテの感知範囲にも居ないと来た。

 

「もう少し奥に行くか? アタランテ、意見を聞きたい」

「汝のいう通りだな。一匹だけでも仕留めなければ狩人の名が泣く上に徒労に終わってはな・・・」

 

少なくとも一匹でも仕留めておきたいというアタランテの答えにこたえつつより奥へと進むことにした。

進む都度に木の密度が高くなる。

それと同時に湿度も高くなっていく、温度も同時にだ。

風通りが悪く蒸し暑くなっていく熱帯地帯だ。

 

「はぁ、はぁ・・・」

「マシュ、水分補給しておけ」

「ですが礼装には・・・」

「礼装はあくまで目安だ数字と精神的きつさは違う、飲めるとき飲んでおけ」

「はっはい!」

 

達哉の指示に従いマシュは水筒のふたを開けて水を飲む。

水分はすぐに体に浸透しキンキンに冷えた水が五臓六腑に染み渡った。

そこでふと気になる、隣の達哉は汗こそ掻けど水分補給をしている様子はなかった。

 

「先輩は水飲まなくていいんですか?」

「? ああ俺は慣れているからな、この程度で疲労したりしないよ。まぁさすがにあと数分後くらいには飲むけどな」

「? 慣れているってどうしてです?」

「ほら日本には梅雨があるだろう? それにしなくたって夏場で山の中で遊んでいたんだ自然に慣れるさ」

「そういえば日本は四季ごとに寒暖差やらなんやらが激しい国でしたね」

 

日本は四季がきっちりしている分、寒暖差もまた激しい国である。

さらに地域によってさらにそれらも異なるためある意味、自然の辛さがある国であるのは皆さまの知っての通りだ。

梅雨の山の中で遊んでいたとくればこの状況下で遊んでいたことにもなり。

多少慣れているのは当然と言えよう。

 

「しかしあまりにも獲物がいなさすぎる」

 

そんなこんなで奥地に歩を進めるが狩るべき獲物がいない。

それをアタランテは不審に思っていた。

 

「領域を超えたって感じはしないが」

 

アタランテの言葉に達哉はそう返す。

領域とは現世と異界の領域の事を指す、普通の町と高尚な神社の境界線の様なものだ。

この場合は山神などの領域に入ったという事をさすが。

何度も悪魔蔓延る領域と町を行き来した達哉で感じ取れないなら。まだそういう危険ラインには入っていないだろう。

日本の概念を適用するなら山の数だけ山神がいるという事なのだ。

神代回帰している現状、そういった神との接触もあるかもしれないから気を使っている。

だが今のところそういう風なこともなく、もくもくと山を歩いている。

 

「鳥や小動物はいる。大型幻想種と思われる痕跡もある。なのになぜいない」

 

小動物はいるにはいるし、大型幻想種の痕跡もあることにはあるのだが。

存在そのものがいない、まるで狩りつくされたかのようにだ。

あまりにも不自然すぎる。

そして。

 

「神殿?」

「随分くたびれているみたいですが・・・ギリシャ様式ですね。内部構造が複雑すぎてスキャナーが複数反響、マップが作れません」

 

その建物に近づくと同時にスキャナー礼装を起動。

ただし内部構造が複雑すぎるためか探査波が反射しあい干渉し表の表層の身しかスキャニングできなかった。

現に中心部までの構造がハチャメチャに表示されている。

 

「アタランテ、なにかこういう建物に心当たりは?」

「ミノタウロスの迷宮くらいか。実際に見たことはない言い伝えでの伝聞で聞いたことしかないが」

「という事は、ミノタウロスがいる可能性があるという事ですか?」

「反英霊として座に登録されている可能性は十分にあるし噂結界の事もある、この島には化け物が住むという噂で召喚されてるやもしれぬな」

 

噂が機能し召喚された可能性はあるとのこと。

 

「所長・・・こちら達哉、ミノタウロスの迷宮と思しき建物を発見した。命令を頼む」

『こちらオルガマリー、話が通じないようなら撃滅一択ね、後ろから刺されたらたまったものじゃないわ、追加戦力の有無は?」

 

オルガマリーからすればどのように後ろから刺されるかたまったものではない

だが話ができれば話は別だ。

交渉し、仲間に入れることも視野に十分入る。

いくら人食いの怪物と言えど。それしか食うものがなかったのだからしょうがない面があることもオルガマリーは認めていた。

話せる前提という話で望み薄かもしれないが食料での交渉が可能かもしれない。

サーヴァントは食べる必要はないが。生前のままの思考回路だったらもしかしたらという可能性も捨てきれないからである。

 

「あー、アタランテどうすればいい?」

「いらぬと思うぞ。汝ほどの勇士、マシュほどの使い手はそうそういない」

「それは過大評価だと思うんだが・・・・」

「そうでもない、実際あのジャンヌを殺せるならそのくらいだ」

 

それほどまでにあのジャンヌ・オルタは規格外と化していた。

初戦は思考力の低下と無理に使ったこともない獲物を短期間の訓練で使って戦っていたがために敗走。

二戦目は十全だったが疲労困憊という条件が重なったからこそ勝てたのだ。

それでも、勝てること自体が異常なことに変わりはなく。

あのジャンヌ・オルタをぶっ殺せるなら余計な戦力は余分であるとアタランテは判断した。

大多数で迷宮に乗り込んで何人か迷いましたじゃ笑えないし閉所での戦闘になる。

数は邪魔で少数精鋭で行くのがベターであるというのもあった。

 

「というわけで追加戦力は要らない。こちらで何とかする」

『OK 了解』

 

そういって通信を切って。礼装を起動。

ウォークマップ機能を起動させる。これは魔力探査ではなく歩いた場所を軌跡にして地図を零から作っていくマップ機能だ。

オフライン用機能でもあるため、これ自体が妨害される恐れはない。

つまり今回はこれが達哉たちのアリアドネの糸になるわけである。

余談ではあるがジャンヌ・オルタの時は撤退ができない状況だったので使わなかっただけだ。

というわけで三人は迷宮へと乗り込んだ。

すると案の定、ジャミングが掛かり、カルデアおよび簡易指揮所との通信が途絶。

ウォークマップ機能がよりどころとなる。

達哉、マシュ、アタランテの順で縦に並びながら奥へと進む。

迷宮内は暗い。LEDクリップライトで照らしていても薄暗さを感じさせる。

加えて。魔物が尋常でないレベルで跋扈しているのだ。

 

「ふう」

 

ため息を吐き刀を振りぬき血を払い達哉は鞘に納刀する。

 

「合点がいった。周囲に幻想種がいなかったのは・・・ここの魔物が狩ってここに持ち帰っていたからか・・・」

 

アタランテもため息を吐きながら己が礼装につけられたダヴィンチ謹製の近接用のスコープに手を加える。

周辺に幻想種がいなかったのはこの迷宮の幻想種が狩りに出て獲物を連れ帰っているらしかったのだ。

 

「とにかくマップにピン付けしておきますね」

「ああこの量は持って帰れないからな」

 

故に迷宮内ではゴロゴロと獲物が取れる。

この量はさすがに回収しきれないからだ。

大方の探索を終えたなら、あとで皆で回収するために後々共有するためにマップにピンマーカーをマシュがさしておく。

それは兎にも角にもだいぶ奥まで来た。

今度は逆に獲物がまた少なくなってきた。逆に残骸の様なものも減ってきている。

形成途中のマップからして中央付近に近づいてきていることは分かっていた。

そして。

 

 

―じゃらり―

 

 

鉄と鉄がこすれる音はマシュと達哉も補足。

 

「何かこちらに向かってくるぞ」

 

アタランテがさらに足音も補足し警戒を促す

そして、その巨体が姿を現す。頭部を覆う兜、頭の左右から生えてる角に。

動物の毛のように長く生えた白髪、圧倒的筋肉量を誇りつつ3mにも匹敵する巨躯。

そして両手には一本づつ、つまり戦斧を二刀流といういで立ちの人間が出てきたのだ。

 

「あれがかの有名なミノタウロスか」

 

アタランテが弓を番え。マシュが盾を構え前に出る。

 

「すまないが、聞いてほしい、俺たちは・・・「オオオオオオォォォォオオオオオ!!」くそ!!聞く耳持たないか!?」

 

達哉が悪態をつきつつ剣を抜きながらぼやく。

ミノタウロスは雄たけびを上げながら突進。

だが進路をマシュに妨害され。

 

「發!!」

 

戦斧と盾が衝突する瞬間に震脚からの八極拳も交えた盾捌きで衝撃を丸ごと相手に返し。

ミノタウロスよりも小柄かつ筋量、体重も全然対比にならないマシュが完全にミノタウロスを押し返すという光景にアタランテは瞠目しつつも。

弓に矢を番え、まだ対話は打ち切っていないため急所を外して数発弓を放つ。

ミノタウロスも迎撃にでるが如何に恵まれた得体を持っているとはいえ、そこには武の鍛錬がなく。

なぶるはいつも弱者ばかりだ。

故にアタランテの射撃もすべて迎撃できるわけではなく肩などに直撃する。

マシュが更に踏み込み。

 

「たぁ!!」

「ゴァ!?」

 

ズドムという鈍い音と共に放たれた崩拳がミノタウロスの腹に食い込んだ。

普通なら分厚い筋肉に守られマシュの崩拳など通用しないが、浸透勁も編み込んだ特殊な拳である。

筋肉を衝撃が抜け内臓を直接痛めつける。

もっとも痛めつける程度に終わったこれが書文であれば内臓が内から破裂する威力なのだからまだマシュは功夫が足りていない証であろう。

崩拳、半歩崩拳は物にしているが浸透勁についてはまだまだなのだ。

思わず猫背になりつつたたらを踏みながら後退するミノタウロス

 

「聞いてくれ、俺たちはお前を狩りに来たわけじゃない」

「・・・守る」

「なに?」

「エウリュアレ守るぅ!!」

 

そう叫びながら吶喊。

マシュが二振りの戦斧を受け止める。

乱雑に振るわれるそれらを受けきる。

オルテナウスの駆動ギアが唸りを上げてマシュの筋肉にかかる負担を軽減。

更に、芯に打ち込まれぬように盾で受けるのを若干ずらしながら連撃を受けきる。

 

「マシュ、大丈夫か?」

「この程度なら一日中受けていても捌ききれます!! 先輩は説得を!!」

「いいや、このままじゃ埒が明かない」

 

相手は完全に血が頭に上っている。

キレている長可と変わらないと判断した達哉はチャキリと抜いた刀を反転させアポロを呼び出し。

 

「相変わらず汝のソレは反則過ぎだ。というか説得するのにこれはやりすぎだ」

「私もアタランテさんに同意です」

 

次の瞬間にはミノタウロスはズタボロになって地に倒れ伏した。

ノヴァサイザーによる時止めからのフルボッコである。

孫六の刀身を反転させ峰打ちで滅多打ち&アポロの拳で滅茶苦茶に殴ったのだ。

いくら筋肉密度が高かろうが、名刀での滅多打ち+アポロの通常の拳とは言え連撃である。

普通の人間なら死んでいるだろうがミノタウロスはサーヴァントであるし、何より生まれからして違う。

故に死ぬことはない。

最も全身、峰打ち跡や拳の跡だらけで裂けた皮膚から血が流れオマケに兜まで割られ、額からなども出血。

特に足回りは執拗にやられたのか立っておられず血達磨になって地面に倒れ伏す。

これには二人もドン引きだった。

 

「いや、だって完全にこっちの話聞く気なかったようだし、とりあえずこれ位しないと黙らせなかっただろうし、この程度の傷位なら完全に治癒できるし」

 

そんな二人に言い訳しつつもミノタウロスは。

 

「ま、守る、ぼくがまもるんだ・・・」

 

それでももがき動き続けようとしていた。

その様子に達哉はかつて自分の幼少期を思い出す。

須藤に自分と舞耶を殺されかけたあの日の夜を。

故に苦虫を嚙み潰した様子で達哉はまだ足りないかと峰の部分を向けて。

ここで一旦気絶させてから回収して、簡易指揮所で説得かと思い。

刀を振り上げた瞬間。

 

「まって!!」

 

浅紫色の髪色が特徴的なツインテールの美少女が突如として割り込んできた。

 

「狙いは私でしょ!! これ以上彼を傷つけないで!!」

「え? はぁ?」

 

狙いは自分でしょうというが生憎と達哉たちは少女の存在は知らなかったし知る由もなかった。

故に突然にこの状況訳が分からなかった。

 

「あのー 状況的にミノタウロスさんが呼び出されていると判断して一応の対話は可能だと思いまして。彼をスカウトしに私たちは来たんですが・・・」

 

マシュが状況説明を行うものの

 

「嘘おっしゃい!! 特にそこの男、ミァハの奴に呪われているじゃない、その入れ墨が何よりの証拠よ!!大方、ミァハに嗾けられたポセイドンの下っ端でしょアンタたち!?」

「いいや、奴に見入られているのは事実だが。敵対しているほうだ俺たちは!?」

「だったら証拠見せなさいよ!!」

「証拠って言ったって・・・」

「先輩、ここは私たちの交戦記録を見せるのが手っ取り早いと思います、幸い礼装のメモリー内に現状説明用の資料として先輩の経歴もインプットされていますし」

 

彼女もまたニャルラトホテプの被害者だったのか。達哉の入れたくもないのに入っていた入れ墨。

即ちニャルラトホテプに魅入られた証である深淵令呪を見て奴の手先として判断され場が混乱。

達哉が敵対していると言っても聞いてもらえずマシュがこういう場合の時のための資料として。

バングルに封入されている説明用の資料を見せることを提案する。

それしかないかと達哉もため息を吐き。

説明が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

「ごめん・・・」

 

少女とミノタウロスは率直に頭を下げた。

ちなみにミノタウロスは治療された。少女曰く自分がいれば大丈夫だとかでである。

相手の信頼を得るため達哉はアムルタートを呼び出し即座に治療して見せた。

少女にもこれは驚かれたのと神卸の使い手と認識されより疑念を持たれたが。

状況が説明されそれも吹っ飛んだ。

なんせ一番の被害者が達哉だったのだから何も言えなくなるというものである。

 

「それで・・・あー、君の事はなんて呼べばいい?」

 

達哉がミノタウロスに困ったかのように聞く。

 

「好きによべばいい・・・だからたつやはなんで困ってるの?」

「いやあからさまに化け物と呼ばれて不快じゃない奴なんていないだろう?」

 

達哉が困っている様子を理解できず、そう問いかけ達哉は不快になるだろうと返す。

その様子にミノタウロスは困惑している様子だった。

自分が対峙してきた者たちとは違うからである。

 

「アステリオス」

「うん?」

「ぼくのなまえ、アステリオス」

「わかった。今度からそう呼ぶよ」

 

ミノタウロス改めアステリオスと呼ぶことになったそうなった。

 

「ところでそこの少女はいったい何者なんだ」

 

アタランテが問う、見た目美少女、ただし神気を身に纏っていることから神霊に付随する類かと全員が思っていたのだが。

 

「アンタたち本当に物知らずね、私はエウリュアレ、男たちがこう美しくあれと望まれた美の神よ」

 

少女、エウリュアレは不快そうというか若干拗ねた様子で言い切った。

 

「ゴルゴーン三姉妹の次女か・・・」

「そうよ、文句ある?」

「いや無いが・・・」

 

達哉はそう言ってごまかす。

達哉の住んでいた世界と、この世界の神話事情が違うことも多い。

故に地雷を踏まぬようにそう言ってごまかしたのだ。

 

「所で、アステリオスを戦力としてスカウトしたいから来たんでしょ? ポセイドンとやりあう気?」

「やらなきゃ先に進めないからな」

「滑稽ね、神とは本来恐れ敬い奉るのが本質よ、倒そうなんて烏滸がましいにもほどがあるわ、分別を知りなさい人間」

「それでもだ。第一神に匹敵する人間もいたじゃないかヘラクレスとか」

「あれは例外でしょ」

「それでもしなきゃならないからな、例外になれというならしてやるさ」

 

そういわれては仕方ないとエウリュアレは黙った。

 

「ところでなぜに私たちが人さらいならぬ神さらいと思われたんですか?」

「何度かポセイドンの配下と思われる下郎どもが来たからよ、というかここに来るまで私は追われていたわ。アステリオスのお陰で退けることができたけれどね」

「なんで・・・ポセイドンがエウリュアレを狙う? 利がないはずだが・・・」

「私にも分からないわ。私自身の権能だってそこまでじゃないし」

「ポセイドン神の事だ・・・その下半身的事情では?」

 

エウリュアレは奇跡的にアステリオスに保護される前は、ポセイドンの配下に付け狙われていたという。

だが狙うメリットがポセイドン側に一切ない。

如何に神霊系サーヴァントと言えどエウリュアレは戦闘能力をほとんど所持していないからだ。

ぶんどるメリットが一切ない、これがアテナ当たりなら話は違うのだが。

だが理由を知るものがここにいた。そうアタランテである。

ギリシャの神事情については詳しいのだ。

ポセイドンもゼウスに負けず劣らずの下半神であるからにしてそういった事情で付け狙ったのではないかと推測する。

その推測は実に笑えなかった。

 

「だからと言ってお二人をここに放置するのも良いことと思えません」

 

マシュがそう言い切る。

 

「あら? アステリオスがいれば雑兵くらいなら」

「神のわがままさは汝自身が知っているだろう、雑兵でダメなら近衛、それでもだめならミァハかあの双子が出張ってくるぞ」

 

アステリオスでは戦力不足であることをアタランテは指摘する。

身の上の証明の為に過去話は無論、現状についても話しているためエウリュアレは喉を唸らせた。

ミァハは出てくることはないと思うがハッタリ効かせるためにワザと言ったのだった。

 

「だから俺たちに付いてきてくれないか? 君の安心も保証するし寝床や食料だって保証する」

「私は良いけれどアステリオスは・・・?」

「無論彼もだ。元々戦力を欲して彼をスカウトに来たんだから」

 

だからこそ付いてきてほしいと達哉は言う。

腐っても神霊系サーヴァントのエウリュアレだ。

権能は大したことはないとはいえ、向こうはそれ以上の神格。

何か使い道がある可能性がある、確保していた方が良いという判断で彼女もスカウトする。

エウリュアレはそれに乗った。

ここにいてはいずれ攫われるからだ。ならば達哉たちに付いていった方が良いと判断したまでだ。

だがアステリオスはどうするのかと問い。それも問題ないと達哉は言った。

元々。アステリオスを倒すかスカウトするかという話だったので。

スカウトできるとわかればスカウトしたいわけで。

故に問題なしで二人を船に案内することになった。

 

「嗚呼、後だな、この迷宮で倒した幻想種の搬出もしたいから、宝具解除してくれると嬉しいんだが」

「ごめん、たつや、それするとぼくの宝具だから崩壊する」

「なに?」

「この迷宮自体が彼の宝具なのよ、それを解除すると迷宮自体が崩壊するわ」

「・・・なら一旦外に出て皆を呼ぶしかありませんね」

 

完全に余談となるが宝具の解除と同時に迷宮が崩壊するため。

仕留めた幻想種の搬出完了まで宝具を解除できず、外に出て一旦皆を呼ぶ羽目になった。

 

 

搬出は驚くほどスムーズに進みカルデアの陣営は快くアステリオスを受けれた。

海賊たちも気にしていない様子だった。

アステリオスもこれには困惑。

なぜに皆よくしてくれるのだろうとぼやくと

 

「ドナー隊やらウルグアイ空軍機571便遭難事故も食人を行った。生きるために」

 

オルガマリーが一歩前に出て言い切った。

緊急避難的な意味での食人行為は近代でも行われているし。

それこそ過去の大飢饉など起きた中世期は珍しくもない話だ

アフリカでも部族の宗教的意味合いで人食いを行う地域だって存在する

それにだ。

 

「言っちゃなんだけどアンタの悲劇は、チャウシェスクの子供達のように政治と親の責任転換の産物も良いところじゃない。誰が責められるっての? ねぇ同じ境遇に置かれて生き延びるために人肉を食わないってのはナンセンスな話し? ねぇすっごく気になるんだけど」

 

オルガマリーが述べたようにチャウシェスクの子供達やらドナー隊の件やらウルグアイ空軍機571便遭難事故と同様に選択肢が事実上の一択しかないそれに尽きるのだ。

ついでに言えばミノス王が自身の罪を自戒しアステリオスをちゃんと育てていれば起きなかった無用の悲劇である。

何処までも世界で浪費される悲劇の一端でしかない。

それをなぜ悪と断じられるのか。責任を取る者が責任を取らなかった結果アステリオスをミノタウロスに仕立て上げた。それだけなのだ。

断罪されるべきは本人ではなく、そう仕立て上げた本人たちであろう。

テセウスには悪いが、彼は後始末をして哀れな幼子を叩き殺したに過ぎない、己が名誉の為に。

そしてもし誰かが優しければアステリオスはミノスの次期国王候補になっただろう。

きちんと知恵を教え、手加減を教え、道理をおっしえてくれる人がいればそうはならなかった。

だが現実、そうはならなかった、話はそれでおしまいという世界中で消費し浪費される悲劇になっただけだ。

 

「・・・」

「それに反省する気もあるんならとやかく言わないわよウチじゃ」

 

それに本人自体が好き好んで人肉を食っていたわけでもなく。

本人が反省の意を示しているならもう済んだこととして受け流すしかない。

 

「やってしまったことはもう取り返しがつかない。だからこれからの贖罪はどう行動することでしか示すことができないのよ」

 

それをオルガマリーはよく知っている。達哉という身近な存在が過去に最大のやらかしをしてしまったからだ。

だから達哉が向き合って背負って生きているのをオルガマリーはよく知っている。

故にアステリオスがするべき贖罪はどう生きるかで示すしかない。

それが贖罪というものだからだ。

短き道ではない、それは永劫背負っていくものだから。

 

 

 

 




船上の訓練という事で若干ハッスル気味の三人に達哉、マシュ、オルガマリーボコられるの巻き
天然の不安定な足場での戦闘経験というのはやっぱりほしいと三人は思っていた様子。
三人とも善戦はしましたがやはりペルソナ抜きとなるととたんに苦しくなるのでまだまだといった様子でっすね。
もっとも教練相手が技術お化け過ぎるだけで普通のサーヴァント程度なら斬殺できるレベルには達しているんですけどね。
あとマリー。アントワネットですが生前結構な賭ケグルイだったみたいで賭け事大好きだったみたいです。
なお実力は覚醒しないカイジレベル程度だった模様です。


当カルデアではアステリオス君は結構すんなり受け入れられる気がする。
だってあれ全部親父が悪い者。人食いにも養護できるけるし。ドナー隊の悲劇を+したブラックラグーンの双子と同じ境遇だしね。ぶっちゃけ世界で浪費されている悲劇の一つでしかない。
双子との決定的な違いは贖罪意識があることだと思います。
本来ならミュウツーのように逆襲しても許される立場だからねアステリオス君。
だが誰も知恵を授けないことで彼は怪物になってしまった。
神話だから有名なだけで本質的には世界中であふれて消費される悲劇の一つでしかないからね。
Fateだとジャックちゃんとかもそうでしょう。
原作だと下姉様が何とかしたけど。
教養の大きいカルデアでは受け入れられてます。ちゃんと喋って理解してくれるからねアステリオス君
彼自身なんの知識もないし生き延びるために放り込まれた生贄食って必死になって生きていたってだけだから極論いうと。
故にアステリオス君はすんなり受けいられてますね。
まぁ彼には頑張ってもらいますけども。
なおイアソンがあっさり受け入れた理由がヘラクレスの存在が大きいし話がちゃんと通じるからですね。
話しと聞いてたやつと全然ちゃうやん、むっさええこんやん的な感じです



というわけで次回は蹂躙戦のち次の島にという感じですが。気圧の変化やら猛暑やらでダウン気味なのでプロットも出来上がっていないので次回は遅れますし。
8月25日から最低一週間はアーマードコアⅥをやり込むために執筆できません。
いやでも遅れるのでご了承ください。


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四節 「雑魚散らし&マグロ&将来の事について」

自分の身とひきかえならば・・・
どんな違法も通るという誤解・・・
それで責任をとったような気になるヒロイズム
とんだ勘違いだ・・・・・・
責任をとる道は身投げのような行為の中にはない 責任をとる道は・・・・・・
もっとずーっと地味で全うな道・・・・・・


天 天和通りの快男児より抜粋。


皆は海賊同士の海戦と言われたどういう戦術を思い浮かべるだろうか?

大砲を打ち合いながら接近し白兵戦を挑み、敵を皆殺しにして宝物を奪う。

きっとそんなところだろう。

だがカルデアはよりセメントという奴だった。

 

「よっしゃ、頭、目的の船を見つけやしたぜ」

「よーし、全員戦闘配置!! 女になるべく傷はつけるなよ、売値が下がる!」

 

故にそんな下卑た海賊はある意味不幸だった。

視認範囲に入り。戦闘配置、砲撃戦からの白兵戦、女は奴隷に、男は殺し、たんまり積まれた資材は自分たちの物。

いつも通りの略奪思考だった。

がしかしである。

 

ビシャリ。

 

その次の瞬間、海賊の船長の頭部が消失した。

 

「せ、船長?」

 

船員が唖然としていると。

その船員の頭部も消失した。

 

「わぁおさすが12.7×99mmNATO弾」

 

一方の狙撃を敢行したオルガマリーはその威力に驚愕する。

ダヴィンチとスティーヴンによって改造強化された保安部正式採用狙撃銃DSRー50の12.7×99mmNATO弾はその超長射程によって甲板の海賊共の頭部を消し飛ばしていく。

そこにアタランテ&エミヤによる弓射撃も加わるのだ。

故に海賊たちは勘違いしていた。補足射程範囲に入った時点で狩られる側に回ったのは自分たちであると。

もっともこれ以上近づけば達哉のクリシュナによるメギドラオンかサタンによる光子砲で消し炭であり。

白兵戦ともなればサーヴァントがそろっている現状海賊共に勝ち目がないわけである。

どうあがいても彼らの詰みだ。

それでも遠距離からの一方的にスナイピングを仕掛けるのは。

海賊船に輸送中の奴隷たちを救助する目的である。

これは黒髭やアン・ボニー、メアリ・リードの経験談からくる実話であり戦利品として奴隷を抱えている可能性が高く。

無駄な犠牲を出さぬために仕方なくやっていることである。

第一第二でニャルラトホテプは躊躇なく三人のメンタルを懇切丁寧にズタボロにしたのだ。

今回もそうなるとは言い切れず。メンタル負荷を考えての戦術なのだ。

 

「総員白兵戦よーい!! 奴らの宝根こそぎうばうよ!!」

 

故にドレイクが号令を出して。白兵戦だ。

目的は先も述べた通り奴隷や捕虜の救出及び物資の略奪である。

身の程も弁えないならず共に同情の余地なしだ。

生かす理由もいない、一方的な殺しが始まる。

と言ってもマスター二人とマシュは出なかった。黄金の鹿号でお留守番。

下手に手を汚しメンタル悪化されたらたまったものではないというサーヴァントたちの判断だった。

ついでにアステリオスやエリュアレも留守番だ。

前に合った襲撃でアステリオスは盛大に暴れ散らかした結果敵船が目的達成までの前に沈没という状況になりかけたからである。

まぁ仕方がないという奴だ。

カルデアのサーヴァント抜きでもオーバーキルな戦力比ではあるが海戦経験なしのアジア圏サバたちがこれも経験という事で書文や長可に宗矩まで突っ込んでいく始末。

クーフーリンとシグルド、ブリュンヒルデは過剰戦力という事でサモライザーの中で絶賛待機中だ。

孔明は護衛兼指揮官として船に残り狙撃をエミヤやアタランテと共にしつつ指揮を飛ばしている。

マリーアントワネットは看護婦の真似事だ。

当たり前であるヒーラーとしては一流だからである。

生前ならペルソナチェンジできたから前衛も張れたが。

現在はサーヴァントとしての制限故にペルソナチェンジができず孔明同様一歩下がっての補助が本領だ。

最前線に突っ込んだ第一と第二が緊急事態だったのである。

それはさておき。

船が隣接、白兵戦に移行し戦力差もあってか蹂躙で終わった。

 

「あーこれ以上。捕虜や奴隷を囲い込むのは無理があんぞ」

 

イアソンは接収を終えて達哉とオルガマリーにそういった。

いくら。三隻ニコイチの船とはいえ。収容には限度というものがある。

加えて交易用及び奴隷や捕虜に渡すための食料を除く通常食料はこれ以上人を乗せれば限界ラインに達していた。

捕虜と奴隷は何も救助してハイおしまいという話ではないのだ。

解放後、職に就くまでの一定の食料を渡す必要がある。

無論それは救出した責任を果たすのと同時に、恩を売りさばいて置き。噂をばら撒き拡散させるための手段の一つでもあるからだ。

まぁそれでも限度はあるというものだ。

収容人数が限界に達しつつある位以上これ以上の収容はイアソンとしても認められない事なのだ。

次に海賊船と交戦したら火力で分からせて追い払うしかないだろう。

そうしなければ共倒れだ。

必然的に捕虜や奴隷も見捨てなくてはならない。

イアソンから見ても三人は普通のメンタルだ英雄のようにガンギマリではない。

故にさっさと次の島に到着し、救出した人たちに金品持たせて解放して空きを作りたいのが本音だった。

故に今のボヤキである。

 

「そうですなぁ。イアソン殿のいう通りですぞ。いつまでも穀潰し共を養っているわけにはいきませんからな。手切れ金と噂を渡して早く解放せねば。マスターたちのメンタル面の悪化に直結しかねねぇからなぁ」

 

それにティーチも同意。とにかく死んでもマスターとマシュのメンタルは守る。

ニャルラトホテプという存在がいる以上メンタリティ勝負の側面もあるのだから当たり前だ。

そして当の三人は黄金の鹿号の隅っこでカップヌードル(日清)をつつきながら談話していた。

 

「タツヤ、ぼくたちものりこまなくていいの?」

「いいんだ。過剰戦力になりつつあるしな」

「先輩のいう通りです、これじゃどっちが海賊かわかりません」

 

敵船から聞こえてくるヒャッハー声は味方の物、代わりに聞こえてくる悲鳴は敵の物とくればもうどっちが良いもんなのか悪もんなのかわかったもんじゃない。

そんないつもの光景は開始十分もせずに終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで闘争が終わり。

不要な人材をサモライザーに戻して達哉は甲板で仕事をしていた。

オルガマリーとシグルド、それとブリュンヒルデは特製の氷室(魔術で再現した現代と同等の氷室)の中で魔獣の解体作業や皮の鞣し作業に従事しているし。

マシュも孔明と記録の整理などを行っていた。

そこにエミヤが甲板に出てくるなり

 

「マグロ!! ご期待ください!!」

「どうした? 急に?」

 

エミヤの宣言に真顔で達哉が突っ込んだ。

エミヤの姿はいつもの服装に腕まくり、頭には布鉢巻といったありさまで。

両手には投影したマグロ用の釣り糸と針が握られていた。

もうちょっと装備をマシにすれば大間のマグロ漁師に見えるだろう。

そのくらいエミヤの様子はおかしかった。

 

「いい加減私は魚が食べたい、海流がおかしい今ならマグロも取れるかもしれない、そうだろ!? マスター!!」

「いったん落ち着け!!というか第二でカサゴの煮つけ食べただろうが!!」

「刺身とかタタキとか生系の魚料理が食いたいのだ!!」

 

エミヤ完全に錯乱状態である、

これには理由があった。

黄金牢でのストレスである。本来ならエミヤがデミヤになるようなことを行った。

如何に幻影と言えど大河の首を斬り飛ばしたのだ。

加えてただ幸せになりたいと教団に縋った人々を殺したこともある

そして常日頃施設修繕に酷使される扱い&強制洗脳である。

そしてカルデアの食事事情だ。

マスターとマシュ以外は基本レトルトか何かをトチ狂ってしまったのかアマネが制止したのに前所長が購入を強行。

おそらく栄養価でのみ評価され購入されたそれらは保存庫に大量保存されている。

米国軍製の糞まずいレーションと来ている。

素材が余った場合のみ、保安部で身の上事情がなければ殺し屋にならず、アマネに拾われて軍に所属しそれ経由でカルデア保安部にならず、中華料理屋で大成していたとされるウォン・カイコーと。

我らが和食の達人ではないにしろなかなかの腕前を持つエミヤが食堂に立つという機会は実に少ないのだ。

故に暴走した。

深層心理まで刻み込んだ洗脳とトラウマ&やりたいことができないという事でついに暴発したのである。

もうお前英雄降りて料理人にでもなれ案件だが。

 

「と言うわけで。達哉もアステリオスもマグロを釣るのだ」

「ぼくも!?」

 

そして達哉と一緒に作業していたアステリオスまでエミヤの暴走に巻き込まれる羽目になる。

 

「今、海域は神秘で満ちているはずだ!! 大物が釣れるぞぉ、クク、ハァァハハハハハ!!」

「エミヤ着いていくから肩から手を放してくれ!! 痛いぞ!!」

「イタイ!! イタイ!!」

 

暴走状態のエミヤは筋力がオーバーフローでもしているのか達哉は兎にも角にも巨体を誇るアステリオスですら片手で引きずって船尾へと連れて行くのだった。

 

 

 

 

 

黄金の鹿号は無論マグロ漁船ではない故にマグロ釣りの装備はない。

故にエミヤが投影した釣り具を使うことになる。

以外ではあるが。釣り竿で100kオーバーの大物を釣ることは可能なのだ。

ロッドは7フィートの物をチョイス、リールは30000(PE12号)台の物を使用。

そのほかもエミヤが生きていた時点で目にした最新鋭の物を使用した本格仕様だ。

 

「マグロ! ご期待ください!!」

「ねぇタツヤ・・・エミヤずっとあんなふうだけど大丈夫?」

「もう成るがままだろうってやつだ。」

 

エミヤの狂乱状態は収まらない。

ずっとこんなテンションだけど大丈夫?とアステリオスは心配するが。

達哉はあきらめの境地に達していた。

あと釣ったとしても絶対オルガマリーに怒られるんだろうなとも思っていた。

如何に現代の冷蔵庫を魔術などで再現したりペルソナでの瞬間冷凍が可能とはいえ。

この時代の外国ではマグロは主食ではない大物を釣り上げたところで余るのは目に見えている。

何無駄に時間浪費してんだと怒られるのは目に見えていた。

マグロ一本釣りの経験は達哉にはない。アステリオスにもない。

無論エミヤに当然あるはずもなく。下手しなくても坊主の可能性は実に高い。

第一。魚群を捕えなければ話にもならない訳で。マグロ漁が積極的に行われるようになるのは明治を待たなければならないのである。

故に一本釣りなんぞ不可能だ。だからプロという職業が成り立つわけで。

案の定。

 

「マグロ・・・ まぐろ・・・」

「タツヤ、エミヤの様子がおかしくなっちゃったよ?」

「そりゃ彼此二時間は経過して釣れないからな」

 

坊主である。全てがマグロ特化の装備だ。

まぁカツオくらいは掛かるかと思うが世の中そんなに甘くはない。

そろそろエミヤばかりにも付き合ってられない、達哉には達哉のアステリオスにはアステリオスの仕事があるのだ。

 

「アステリオスに達哉なにやってるの?」

「あ、エウリュアレ」

 

そこにエウリュアレがやってくる。

言っては何だが彼女、技能スキルがまったくもってない。

それはサーヴァントとしての戦闘スキルとかではなく。それらに表示されないスキル。

家事とか物を作るとかの生前身に着けていたごく普遍的なものである。

元々女神だった彼女は周囲からの貢ぎ物もあったし、面倒ごとはメデューサにぶん投げである。

故に精々できるのが歌って皆を鼓舞することくらいか。

だから暇して船内をうろついて誰かにちょっかいをかけるのが今のところの趣味だった。

なお、料理中のオルガマリーに手を出して、包丁両手、顔面般若顔になったオルガマリーに全力で追っかけられ半べそを描きながら達哉とマシュに仲介をお願いしたのは完全な余談だ。

 

「つりしてるの・・・エミヤがどうしてもって・・・」

「そう、わかったわ。あの狂乱に引きずられたのね・・・」

 

アステリオスの説明に狂笑しているエミヤを見てエウリュアレは状況を理解。

ああいう爆発してしまったサーヴァントの行動に巻き込まれれば抗いようがないのもうなずけるというものである。

英雄の類は狂乱すれば災害と変わぬが故だ。

そしてその時である。

エウリュアレの幸運EXが効いたのかアステリオスの竿に反応あり。

 

「エミヤ、タツヤ、つりざおにハンノウがきた!!」

 

そう叫びながらアステリオスが合わせる、糸が激しく動いた。

完全に針が食い込んだ証拠である。

 

「よし逃がすなよ!!」

「といわれてもぉ!?」

 

エミヤはガッツポーズをするが、アステリオスは腕に汗を浮かべて必死に格闘していた。

アステリオスのパワーでも釣り竿ごと持っていかれないので精一杯の引きなのである。

どんな怪物マグロがかかったのか達哉もエウリュアレも気になることだった。

エミヤと達哉がちゃっちゃと自分たちのリールを巻き取り、アステリオスの補佐に入る。

その瞬間だったリールが動かないどころか三人かかりで引きずられていく。

 

「なんだこれは・・・ッ!?」

 

達哉もアステリオスも歯を食いしばる。

尋常ならざる引きに圧倒された。

はっきり言っておかしいのだ。

考えても見てほしいサーヴァント二人に最上級ペルソナ使いである。

身体能力と体力は人類の範疇に似ないのだ。

それが一方的に負けているというのは実におかしい状況だった。

 

『ちょっと、達哉君!! 海中から大型魔力反応検知!! 船尾後方からくるから。気を付けて!!』

 

各種センサ系から送られる情報をロマニが読み上げ達哉に警告。

となるとリールの先には大型の幻想種の可能性が高い。

更にこちらに向かってきているという、それは糸が緩むという事だ。

獲物が疲れたと誤認したエミヤとアステリオスはここぞとばかりにリールを巻く。

エウリュアレが暢気に応援してさらにブースト。

あれ? これまずくないかとと思った時である。

 

『敵影接近、来るよ』

 

事態がさらに悪化。

もう釣り上げる気で満面の笑顔のエミヤとアステリオス。

そしてまるで大型爆弾が海面で炸裂したかのように水飛沫を上げ現れたのは。

 

「「「ク、クラーケンだぁぁあああああ!?」」」

 

今自分たちが乗船している黄金の鹿号に匹敵する巨躯を持つ大王イカ。

神秘濃度の上昇で異常発達し巨大化した幻想種とかしたものである。

即ち、数多の船乗りの間で語られる幻想の怪物「クラーケン」だった。

そして振動、クラーケンの足が船に巻き付いたのだ。

 

「コール!! クーフーリン!!」

 

サモライザーを抜き放ち。ケルト版ヘラクレスにして化け物退治の専門家たるクーフーリンを呼び出す。

 

「なんだ? 今は出番はないはずって、なんじゃこりゃ!?」

 

今頃マスターたちは優雅な船旅している頃だとてっきり思っていったクーフーリンは目の前の状況に驚愕。

そうしている間にも、足の一本が振りかざされ叩きつけられんとする。

 

「シヴァ! 冥界波!!」

 

それを達哉がシヴァ呼び出して切断し阻止。

クラーケンの質量で叩きつけでもされたらたまったものではない。

船が一撃で轟沈しかねないのだ。

更に船も締め上げられており、このままじゃ沈没一直線だ。

加えてぶった切った足が即座に再生する。

とんでもない怪物に当たってしまったものだと。達哉は鞘から孫六を抜き放ちため息を吐いた。

 

「アンタたちぃ!? 何やらかしたぁ?!」

「所長、俺たちはマグロ釣りを「だまらっしゃぁい!!」」

 

そして船の振動に驚き、ロマニから状況を聞いたオルガマリーとブリュンヒルデにシグルドが飛び出てきた。

案の定仕事ほっぽり出してマグロ漁なんかしていたことにご立腹である

 

「事が終わったらアンタたち説教ね!!」

「ちがっ、俺とアステリオスはエミヤに無理やりやらされたんだ!!」

「タツヤのいうとおりだよ、ぼくたち無理やり引っ張り出されただけで・・・」

「そうよ、アステリオスと達哉はエミヤに無理やりに引っ張り出されただけで仕事はそれまでキチンとしてたわよ!!」

「え!?」

 

まさかのエミヤ責任の擦り付けに合うの巻き。

いきなり全責任を擦り付けられたエミヤは唖然の声を上げるが。

いや誰だってぶち切れオルガマリーの説教に合いたくない。

マシュから達哉は以前聞かされていた切れたオルガマリーの説教は長時間に及ぶことを。

故に全力で擦り付ける。アステリオスも同様、エウリュアレも援護に入る。

というか無理やり引っ張り出されたのは実際に事実なわけで。この場の責任はエミヤにあると言っても過言ではない。

 

「そんなことはどうでもいいから、てめぇらも見てねぇで手伝え!!」

 

そうこうしている内にクラーケンの対応はクーフーリン単騎で行われていた。

半ば涙目で応戦するクーフーリンを見て皆が現状を思い出し。

戦闘態勢に入る。

 

「イカなんてねぇ・・・一撃でシメれんのよ! ロマニ、クーフーリンと私の視覚を同期させて。クーフーリンは宝具抜きで全力投擲準備!! 目標は私の視覚焦点に合わせて頂戴!!」

『了解しました!!』

「わかったぜ!!」

 

動作と作業は一瞬にして完了。

視覚が同期されオルガマリーが狙っている場所が分かったからそこを狙ってクーフーリンが槍を全力投球した。

狙いはクラーケンの両目の間少し上の部分である。

そこに槍が直撃。クーフーリンの剛力と投擲方であれば通常投擲でも下手な宝具を凌駕する。

それがクラーケンの眉間少し上に直撃し貫通した。

いくら巨大であっても所詮は軟体動物は自重を支える筋力しかないティエール騒乱で出てきた祭神より遥かに弱いのである。

故に槍の一撃がクラーケンを貫きシメたのだった。

ようはイカを絞めるのと同じ原理である。

イカには神経系がありそこをナイフとかで突き刺せば締めれるように。

クーフーリンの一撃クラスの投擲が炸裂すればクラーケンとて弱点は変わらないので。

一撃で倒せるという寸法だった。

ゆっくりとクラーケンが巻き付けていた足を解き仰向けに倒れ再度水飛沫を上げつつ水面に倒れた。

ぷかぷかと浮ているが。

 

「どうする? 回収するか?」

「大王イカなんて食えたもんじゃないし、無視で」

「承知した」

 

シグルドの問いにオルガマリーは放置を選択。

大王イカはアンモニアの入った液胞を持ち独特の臭みがある。はっきり言ってしまえばしょんべん臭いし塩辛い。

それでもスルメとかにすれば何とか食えるが。

クラーケンほどの巨体となればおそらくではあるが食えたもんじゃないのは確定しているし。

船の補強材に使える部位があるとも思えないからだ。

故に放置一択となる。

それはさておきと。

 

「エミヤ、アナタ、サモライザーに戻って”再調整”ね」

 

にっこり事態を引き起こしたエミヤに対して処刑宣告を告げた。

今回の事態は暴走するエミヤに責任があると言っても過言ではない。

 

「タツヤ、アステリオス、アンタたちも説教ね」

 

だがかと言って止めなかった達哉たちにも非がないとも言い切れない。

説教は避けられなかった。

がっくりと項垂れる達哉とアステリオス。

そして。

 

「再調整はいやだぁぁああああ!!」

「尋常にしてくれエミヤ殿」

「シグルドの言うとおりです、おとなしくしてください」

 

格上につかまれ再調整は嫌だと叫びながらもがくエミヤと。

ため息交じりにエミヤを捕縛するシグルド夫妻。

そしてにっこりとほほ笑むオルガマリーは自身のサモライザーを抜き、標準をエミヤに合わせ。

彼をデータバンクに戻した。

 

「ダヴィンチ、エミヤの再調整よろしく」

『ちゃんをつけてくれ給えよ、けれど再調整ってのはやりすぎじゃ・・・』

「再洗脳ってことを言ってるわけじゃないのよ。黄金牢で何かあったんでしょ? それをエミヤは消化しきれていない。とりあえずあいつの腹割らせて話し合ってフォロー入れておいてこっちはこっちでいっぱいいっぱいだから」

『そういう事なら、あらほらさっさー了解しましたよ所長』

 

再調整といっても実際はカウンセリングだ。

迫られたらそりゃ洗脳も容認するが今はそういう状況じゃない。

エミヤも達哉と同様抱え込むタイプだ定期的に腹割って話さないとこう暴走するからカウンセリングの為にサモライザーに戻したのだ。

再洗脳した方が楽だろうが、それをすれば外道に落ちるし本人のポテンシャルが発揮しきれない。

人形と化したサーヴァントを引きつれて勝てるならそうするだろうが。

相手はニャルラトホテプ。己が人生という答えで立ち向かわなければ勝てぬ相手だ。

だからサーヴァントを使い魔としてではなく隣人として戦友として扱うのもそういう理由がある。

達哉は一度打ち勝ったとはいえまだ人生半ば次も確実っというわけでもない。

そしてオルガマリーもマシュもまだ歩き始めたばかりなのだ。

故に英霊たちの保持する人生観というものが必要になるのは必須と言う訳であるし。

第一洗脳なんて個人尊厳を傷つける手段を取りたくないというのはオルガマリー掛け値なしの本音である。

彼女の魔術師としての枷は外れている、故に一魔術師としては甘くとも正道の選択を取れるのだ。

 

「さて」

 

オルガマリーが達哉とアステリオスを優雅な微笑みで見据えた。

 

「説教よ」

 

達哉とアステリオスは項垂れるほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説教が終わり夜が来た。

達哉は疲れこそしたがまだ体が動いていた。夢見も最近悪い。

こういう時に限ってよくない事が起きると経験則が告げている。

故に甲板に出て趣味の星見でもしようかと思ったわけだ見回りも兼ねてだ。

そうするとランタンの明かりを頼りに本を読むマシュと。

それを覗き込みながら雑談するオルガマリーがいた。

二人が仲良く語り合っているのだ。邪魔するのもアレかなと達哉は別の場所で天体観測でもしようかと思い立ったが。

 

「あっ先輩」

 

マシュに感づかれた

 

「俺なんか気にする必要はないぞ」

「タツヤはまたそういうことを言う、良いからこっち来なさい」

 

気にする必要はないと達哉は言うが。

そういうところが悪い癖だと遠回しにオルガマリーに言われ。

苦笑しつつ彼女たちのもとに向かい無造作に隣に座った。

星々は美しく輝いている。だが人理光帯の不気味さは相変わらずだ。

初日はオルガマリーは吐いたが今は慣れたのか気にする様子もない。

いちいち空を見上げて吐いていてはしょうもないし、いい加減なれるというものだ。

 

「それで二人は何をしてるんだ?」

「マシュがね、夢を見つけたんですって、だから相談受けていたわけ」

「そうなのか?」

「はい、でも先輩を除け者にしたわけじゃないんですよ? 相談しに行こうと思ったら、所長が通りかかったので絡まれまして、はい・・・」

 

マシュがそういう。オルガマリーはほろ酔っていた。

昼間の疲れを癒すためだろう。

酒を入れたのだ。

悪い癖になりつつあるなと達哉は苦笑しながら。

この特異点の攻略後。ロマニに治療を訴えるべきだと決意した。

飲酒は程々にという奴である。

そして星を見上げつつ達哉はマシュに問うた。

 

「将来の夢、決まったんだって?」

「はい、作家になろうと思ったんです」

「作家か?」

「いろいろ考えてみたんですけど。私がこれだって思える職はこれしかなくて・・・」

「いろいろ書きだめているのか?」

「はい、まずはフィクション扱いでジャンルはファンタジィでこの人理修復の旅を本にしてみたいんです」

 

まずはフィクション扱いでこの旅路を本にしてみたいとマシュは語る。

ノンフィクションでは誰も信じないし魔術協会も動くがフィクション扱いなら誰も気にせず娯楽として受け止めるだろう。

 

「皆さんの苦行や覚悟に信念をどのような形であれ残しておきたいんです」

 

歴史書では語られなかった英雄たちの苦難、覚悟、信念、答えをどのような形であれ残しておきたいという事もある。

この旅を通して触れてきたことすべてを残しておきたいと。

おそらくは私の書く本もまた。私の生身の肉体と同様にいつかは死ぬことになるだろうっと誰かが言ったが。

実際に死ぬことはない。

書籍の電子化が激しい今日、国境を超え電子の海で保存され続けるのだから。

売れさえすれば本に蓄えられた言葉や知識が死ぬことはない。

もっとも国々の翻訳の言葉のずれで湾曲解釈が死とすれば死なのだろうが。

それでも残すことに意味がある。

マルクスの共産主義とて一見見方を変えれば邪悪な本も、見方によっては反面教師として使えるから残っている。

ヒトラーの自伝だってそうだ。

一度生まれたものはそう簡単には死なない、絶対に何かしらの形で残るものだからだ。

だから作家になって残したいというのはマシュの願いであり夢だった。

英雄たちに触発され彼らのように後生に何かを残したいという願いを持ったのだ。

 

「良いんじゃないかな? マシュに合う職だと思う。」

 

達哉はそう肯定した。

マシュは小まめに日記を書き記している。

文法も問題ないだろう。

と言ってもオルガマリーは心配だった。

 

「でもねぇ達哉、好きを仕事にすると大変よ?」

「まぁそれはそうだが、俺も所長も、マシュの夢に文句言えた立場じゃないだろ」

「うっぐ、そりゃそうだけどさぁ」

 

達哉もオルガマリーも好きなことを職にしたい人間だ。

マシュを非難する資格はない、あえて言うなら助言程度か。

 

「それでも。もしこの話が受けたとして次があるじゃない? それに何がウケるかわからない今日、話しの幅とストックは重要じゃないのよ」

「確かに所長の言う事も一理ある、そこらへんはどうなんだ? マシュ?」

「この旅の事は日記を清書すればいいだけなので。あとは推理物やファンタジーも実は少しずつですけど書き留めています」

 

マシュはそういった。

好きな事を職にするのは辛いが、そこに明確なプランがないから辛くなるだけで。

プランさえ上手く行けばそうでもない。

実際達哉やオルガマリーは現実的プランを立てていた。

最も達哉の場合はオルガマリーに引きずられる形ではあるけれども。

これが終わったらそうすると決めている。

マシュも実際、この旅が終わったらアムニスフィア家預かりとなるわけだから作家をするのに支障はなかった。

そして他の話も骨子は作っていった。

カルデアはネタに尽きない場所でもある、一人のサーヴァントから話を聞くだけでインスピレーションがわいてくるのも道理とも言えよう。

 

「なら安心だな」

「ええ安心ね」

 

ウケるかはどうかは分からないが友人が慎重に夢を目指していることにホッとする二人。

 

「あっ」

「どうしましたか? 所長?」

「どうかしたか? 所長?」

 

突然思い出したかのように声を上げた。

 

「あの、そのね、公的状況では所長でいいけど。プライベートの時はタツヤやマシュにはオルガって呼んで欲しいな~って思ってさ」

「そりゃまたなんでです?」

「肩凝るのよ、それに親友だもの愛称で呼んで欲しいって気持ちもあるわけ。わかった?!」

「わかった今度からそうする」

「先輩に同意します。プライベートの時はそう呼ばせてもらいます」

 

若干顔を恥ずかしさから赤らめさせてそういうオルガマリーに二人は気軽に同意した。

よく考えればプライベートを共有する身でもある。

そこまで所長呼びではオルガマリーの心理的肩が凝るだろうと潔く二人は同意したし。やっと本当の意味で親友になれた感覚も悪くはなかった。

その時であるどすどすと音を立てて、肩にエウリュアレを乗せたアステリオスが甲板に出てきた。

 

「あっアステリオス~、アンタも眠れないの?」

「ん、そうだけど」

「なら一緒に飲みましょうよ」

「でも」

「いいじゃない、アステリオス、向こうからのお誘いなんだし乗ったら?」

「エウリュアレは?」

「無論、相乗りするわ、現代の酒、どれほどの物か気になるし」

 

オルガマリーはそういって二人を誘う。

そういえば飲んでたなオルガマリーと内心で思いつつオルガマリーの手元を見るとシャトー・オーブリオン・ブランの当たり年に作られた15年物の高級ワインだった。

まだ半分ほどしか飲んでおらず複数人に振舞うくらいには残っている。

ちなみにこれ、マリスビリーから遺産相続された物の一つでオルガマリーのとっておきだったりする。

それがエウリュアレ的には気になったらしい。

ツマミはオルガマリーの手作りの鯛のアクアパッツアだった。

身をあらかじめほぐして食べやすいようにしている。

ご同伴に預かり。エウリュアレもワイングラスを渡され一口飲む。

 

「未来ってすごいのね。技術だけでここまで出せるなんて」

 

神秘を含まずここまで出せることに驚愕していた。

時代が時代なら神に献上するべき品でと同等である。というか神代でこれレベルの味が出てきたらケラウノス確定である、神秘を零落させるとして。

そのレベルだからこそ神秘含有率無しかつ神秘的工程をえていないのだから女神としては驚愕物だ。

 

「それで二人ででてきたってことは悩み事か?」

 

最近のアステリオスは悩んでいる風だった。

一緒に仕事をしていた達哉が感じていることでもあった。

所謂、同類の匂いをかぎ取ったのである。

 

「うん、ぼくはいっぱいたべてきた。ひとをいっぱいくいころしてきた」

「それは「待て所長・・・俺が引き受ける」タツヤ・・・」

 

ここでオルガマリーやマシュでは説得力が出せない。

当たり前だ。まだ何一つやらかしていないのだから。

罪を知るものを導けるのはまた罪を背負う者ゆえにだ。

 

「アステリオスいいか? 贖罪の道に終わりはないんだよ」

「タツヤ」

「許されるのは人生が終わった時だけだ。厳しい言い方をするが。世界ふっ飛ばして俺がまだ生きているように。英雄の座に登録されたこと自体が断罪なんだよ」

 

そう死は逃げだ責任ほっぽり出して逃げる行為でしかない。

罪には相応の罰が下される。どんな形であれ必ず運命は贖罪を迫ってくるものだ。

達哉はいまだなお生きて英雄譚を走らされていること。

アステリオスは英雄の座に登録され化け物として断罪され続けることなのだ。

 

「だから罪ばかりに目を向けるのもよくない、罰にちゃんと目を向け生きて生きてどうするかを示さなければならないんだ」

「タツヤ」

「俺は楽しさに付随するこの痛みも背負って生きていく、楽しいことがあっても罪で苦しみながら罪を背負って生きていくそう決めた。だから厳しいことを言うかもしれないが怪物という言葉に逃げないでほしい、人間というアステリオス個人として戦い抜く。それしかないんだ」

 

そう贖罪に甘えは許されない幸せを手に入れたとしても付随する罪悪感の業火に焼かれながら生きていくほかないのだ。

そしてどう生きて生き様で示すしかない。それが贖罪となるがゆえにだ。

贖罪とはいっぺんに清算できない。故に長い道のりとなるのだ。

いっぺんに清算しようとするから、平行世界で行われる聖杯戦争の類はひっどいことになる故だ。

 

「・・・タツヤはそれでいいの?」

「ああ、それでいい、自分のしでかしたことも真実だ。だからこそ誓った。俺は、もう二度と背中を見せない、犯した罪にも自分にもだ」

 

この重い真実と罪と罰、自分を直視し背負っていくとアステリオスに言い聞かせて見せた。

 

「・・・」

「どうかしましたか?エウリュアレさん」

 

そのやり取りを若干の渋面で見ていたエウリュアレの様子に気づいたマシュが気遣う。

 

「いやね、もっと早く彼やアナタたちと出会いたかった。そうすればアステリオスもこんな様にならなかっただろうし、私もメデューサを・・・」

「エウリュアレさん・・・」

 

エウリュアレも慙愧を抱えている。メデューサの事だ。

故にこう思うわけだああなる前に彼らと出会えていればと。

だがそうはならなかった。

なる前に終わった、幕は引かれ英雄たちは座に座った。

それだけである。

 

「あーもう、後ろ暗いことばっか行ってないでよ、酒が不味くなるじゃない」

「すまない」

「謝らないでよ、それが真理ってやつだし、とにかく今は飲んでこれからを明るく前向きにどうするか考えましょうよ!! ね!!」

 

とにかく暗い話題になりつつあったので負のスパイラルになりそうだったので。

オルガマリーが強引に話題を打ち切り二本目のワインを出す。

余談となるが五人とも二日酔いになったのでロマニの説教が飛びつつ特異点攻略まで過度な飲酒は禁じられるのは完全な余談であった。

 




マシュの夢、英国版、奈須きのこになりたいってよ。
それはさておき、すいません遅れました。なんせパソコン室にクーラーないもんで。
鬱が夏バテで悪化して倒れておりましたのとACに集中しておりました。AC6面白すぎんだろ!!
あと最近とある理由で四肢を全力稼働を久々にしたもんで筋肉痛で動かせなくて遅れました
というわけで今回は日常回。
マップが広大だからこういう何もしないこと船を動かすという専門技術が必要だからたっちゃんたちがすることがねぇというわけです。
まぁ第三特異点の日常回は今回だけ書いて置いて次回からこういった地味日常回はキンクリしますけどね。

あとデミヤの過去が判明しましたね。
そのせいで本作だとデミヤ、案の定ニャルラトホテプに絡まれより悲惨なことになってます。
主に藤姉周りの悪化、レスバでの敗北等々でボコボコに。
そのあとはまぁ原作通りですがキアラを倒す際にニャルラトホテプの化身を倒すためにニャルラトホテプと契約したせいで守護者入り。


デミヤ「血涙」
キアラ「お可愛さそうなことwwwww」(両肩ぽん)









キアラ「え?」
ニャル「オメーも只で済むと思うなよ!!wwwwwww」
マーラ様「我が世の春がキター!!(*´ω`*)」






キアラ「え?」




というわけで次回もよろしくお願いします。
次はある意味たっちゃんと縁深い月の女神様とぬいぐるみ回でお送りしたいと思います。


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五節 「月の女神とジッポ」

世の中で一番大切なもの、人間にとって最も大切なもの、それは「思い出」ではないか。


中坊公平


救助した奴隷や捕虜には一か月は余裕で遊んで暮らせるくらいの金を一人一人にわたした。

元々強奪した金品だ懐は痛まない。

それに多くの若手がアトランティスにわたってしまった以上、各島は人手不足だ。

職業に就くにも困らない。

そして会得した幻想種は肉は加工して売り捌き、素材に使える部位は船の強化に回した。

 

 

「女神の島ぁ?」

 

第一の島と第二の島、第三の島を大体3から4往復して航路を安定化させ噂を流し。

海流の安定化にも努めた。道中の海賊も掃討し、噂結界によって安全な航路を確保し。

次の目的地はどこか確認しているときに剽軽な噂がまた彼らの元に舞い込んできたのである。

次の島には絶世の美女の様な女神がいる。

強引に襲おうものなら射殺されるなどの噂が流れていた。

 

「次のルート開拓で必ず通る島だ。女神が相手だとどうすべきか・・・」

 

孔明はオルガマリーと共に頭を抱えた。

と言っても神霊クラスであっても殺しきれる手札はある。

されどそれまでに出る損害が目が眩むレベルだろう。

ポセイドン相手にするのに全員が揃ってようやくベストメンバーだ。

神霊さえ超える何かゼット・ゼブ、神獣としては上位。魔王としては中堅どころのフロストカイザーを基本にその中間くらいの性能かなと予測を立てれば。

そりゃ被害が出るのも当たり前の話だったが。

 

「いや無視すればいいじゃないか?」

「なんでまた?」

「噂が伝えている、こっちから襲いさえしなければ射殺はしてこない。なら無視でいいだろう」

 

そう噂である。信仰心という心理的エネルギーを糧としている以上、神霊だって噂結界の力からは逃げられないのだ。

これがニャルラトホテプの恐ろしい所である、人間と接触し心理を共有した時点で浸食される。

それは無差別だ。地球外生命体やら世界の裏側の幻想の住人であっても、人との営みに関われば浸食され彼らの影となる。

故に強制力は神霊であっても信仰心を糧にしている以上作用するのだ。

神であれ魔であれ人であれ、平等に奴からは逃げられないのである。

 

「面倒くさすぎる!?」

 

孔明はそう叫びながら頭を抱えた。

改めてニャルラトホテプと戦うという意味が理解できた。

更に滅ぼすことが不可能であると聞いてもいるので頭を抱える。

 

「面倒くさいのは今に始まったことじゃない」

 

ある意味、ニャルラトホテプと付き合いの一番長い達哉はため息交じりに言い切った。

事あるごとに精神をえぐられてきたのである、怒りこそすれどいい加減慣れてきた感があった。

まぁそれが奴の存在意義でもある、人類の進化、矛盾を容認し進化し続けていく完璧な人間の創生。

もっともニャルラトホテプ的にはそんな使命はゴミ箱にぶん投げて悪意ある試練を次々に課してくる訳だが。

それはさておき次の目的地が決まった。

商売も上手く行って金も増えた。

救助した捕虜や奴隷には一か月は遊んで暮らせる金を渡し解放。

条件として噂を流れさせ、第一から第三の島までの海流と航路の安定化、海賊の掃討の噂を流れさせて航路と海流を安定化させた。

そして船の強化も行い。余った素材や加工した食料は第三の島。

ごく普通の島で売り払った。

交渉に出たのはオルガマリーと意外な人選としてエリザベートだった。

今のエリザベートは領地経営の経験、臨時ローマ帝としての経験。カエサル仕込みの詐術めいた交渉術と金のやりくりを覚えているのだ。

故に交渉に駆り出され効率よく物は売り捌けた。

それこそ捕虜たちに金をやり、船の強化費を引いてもプラスに転じるレベルでである。

そして捕虜や元奴隷たちは新たな雇用と消費を生むのだ。

アトランティスに行った者たちに代わっての人材補填という奴である。

そんなこんなで第一から第三の島までの安定化は完了。

第三の島に向かう前日の会議でそんなうわさが出てきたという。

だがまぁしかし噂としては穏当だ。

向こうにも攻撃制限が掛かるなら気にしなくてもいいというのは達哉の言い分である。

こちらから手を出さなければ攻撃できないともいえるからだ。

 

「攻撃制限が掛かっている以上、こちらから手出ししなけければ問題はない。あと女神が居るという縛りもある、向こうは島から出れない」

 

達哉のいうとおりで噂で移動制限まで掛けられているのだ。

アステリオスとエウリュアレと違い、件の女神は島から出れないのである。

故に精々不戦協定を結ぶのがベストな選択肢となるだろう。

というか女神とか誰も抱え込みたくないというのが心情だったりする。

達哉も魔術への対策として孔明から魔術の基礎を教わっている。

そのうえで妖精はサイコパス、神の類はシステマティックかあるいは大きな力を持った赤ん坊の類であることを聞かされているのだ。

魔術師であるオルガマリーは無論、歴女のマシュでさえ神の類のひどさは知っている。

できるだけ接触は控えたい。

噂が働いている以上向こうからの手出しはできないと推測できる。

なら無視で良いではないかと思うのは当然の事だ。

 

「オルガマリー、全行程終了したわよ~」

 

気だる気にエリザベートが会議室に入ってくる。

それ即ち奴隷や捕虜の解放と噂の散布、要らないリソースの売却に船の強化事業が終わったことを意味していた。

この島にもそれらの作業を終わらせるため四日ほど滞在している。

作業が終わった以上。もうここに用はない。

次の島を目指す時が来たわけなのだ。

 

 

 

 

 

 

そして三日後。

目的の島に付いた。

船を浅瀬に付けてボートで上陸、簡易指揮所と寝床を確保する。

 

「この島にはアステリオスたちがいた島のようにヤドは居ないようだな」

 

刀の鯉口を戻しつつ達哉が言う。

アステリオスとエウリュアレの居た島には凶暴な巨大ヤドカリが群生しており。

狩れども狩れども湧き出てきたヤドカリが不思議なことにいない。

だから安心して寝床と簡易指揮所は即座にくみ上げられた。

アン・ボニーにメアリー・リード。ティーチは海賊が来た場合に対処するために船に残っている。

本人達は上陸したがっていたが適材適所という事で、オルガマリーが酒で釣って納得させた。

 

「それでどうしますかな? ここはひとつ水練でも」

「トレーニングしてる暇はないでしょ、宗矩・・・ まぁやることはやることは変わらないわ」

 

いつも通りの狩りの時間である。

 

「ロマニ、サーチ結果教えて」

『了解・・・。サーチ結果を送るよ、サーヴァントが一体と幻霊かなぁ? それが一体、島の中心深部に大型竜種の反応が見られるね』

「おお、それは良いわね、シグルド、ブリュンヒルデ、そんでタツヤ」

「なんだ?」

「なんであろうか?」

「なんですか?」

「島の中央付近にいる、竜種ぶち転がしてきて。大型竜種は良い素材になるから」

「いや当方的には大型種、あるいは長命種はきついのだが・・・」

 

島の中央に居る竜は大型種である可能性が高い。

基本個体にもよるのだが。通常の竜は体格の大きさから生きた年月を推測できる。

通常の大型種なら良いのだが。通常種が大型種レベルの体格を持っている場合長命種とも呼ばれ。

基本1000年越えの年齢を持つ。

そうなれば基本普通の英霊が複数人いてもキツイのだ。

と言ってもだ。

 

「いや、シグルド、アンタは大英雄で専門家なんだし、ヒルデに至っては神霊クラスだし。達哉は何でもありならウチの最高戦力なのよ。長命種クラスでも余裕とはいかないにしても普通に倒せるでしょ?」

 

シグルドは生前にジークフリードと同名の悪竜を倒している。

ドラゴン退治と言えばいまだにシグルドかあるいはジークフリードの名が現代でも鉄板だ。

そこに何でもありならマスターなのに現在カルデアの最高戦力の達哉と。

神霊クラスでありワルキューレのなかでも賢人として名高いブリュンヒルデをつけるのだ。

不足はないはずである。

現に第一でファブニール相手にジークフリードありきとはいえ、成長前のオルガマリーも皆と連携しそこそこ遣り合えていたのだから。

今はこのメンツで問題ないと思うのは当然だろう。

いくら長命竜とはいえ一たまりもないメンツなのだ。

達哉はまぁシグルドが居れば大丈夫だと胸を撫で下ろし。

ブリュンヒルデは生でシグルドの竜退治の手腕が見れるとキラキラした目でシグルドを見ている。

それに対してシグルドは冷や汗をダラダラとながしていた。

 

「ん、シグルド、どうしたのです? 竜退治はアナタの専門でしょう?」

「それなんだがな。我が愛よ。必死に剣をふるっていたら倒せていた・・・故に弱点とかわかるが効率的な倒し方などはわからんのだ。」

「「「「はぁ!?」」」」

 

実際伝承においてシグルドが倒したのはファブニールだけである。

ワイバーン? あれは竜種とは言えぬ空飛ぶ蜥蜴だ。勘定の内にはカウントされない。

それだけ。大型種、特に長命種は隔絶している実力なのだ。

悪竜現象で人から竜に転じた種族も同等だ。なんせ人間の悪意と知性を保ったまま竜に転じるのだから。

故に単騎で対峙した場合は死に物狂いの殺し合いになる。

ファブニールは徹底した籠城作戦を取っているのだ。

始末するためには穴倉に乗り込んで真っ向勝負するしかない。

故に、どう倒したとか必死過ぎてシグルドはよく覚えていないのだ。

 

「じゃなんでまた心臓を食ったりしたんですか?」

「我が愛よ、竜の心臓は妙薬になると知られていたではないか」

 

じゃあなんでまた必死になって倒した竜の心臓を食べたのかという疑問が残り、それをブリュンヒルデは口にしたが。

真っ向からシグルドは反論を返す。

竜の心臓は妙薬になるではと。

 

「あの時の当方は重傷を負っていた。町に帰還することも難しかったので。心臓を食べれば傷も癒えるのではないかと思ってな。結果こうなったわけだが。妙薬になるというのも嘘ではなかったらしい、体の傷は癒えたぞ」

 

案の定、新鮮なしかも悪竜現象の高位竜の心臓とくれば。体を癒すには不足はなく。

身体は癒えて、叡智の結晶がひょっこり生えてきたわけだが。

 

 

「・・・不安ね、アタランテ、彼らについていってあげて」

「心得た」

 

というわけでそんな有様なので。一抹の不安がよぎったため一応、狩人として勘の鋭いアタランテをつける。

これで感知方面は補強された。

 

「あの私は・・・」

「マシュは他のメンツと組んで魔獣狩りね、たまにはそうでもしなきゃ勘が鈍るもの」

 

オルガマリーはそう告げる。

達哉たちにはブリュンヒルデがいるのだ。

防御もルーンで代用できる。

故にたまには他のメンツと組ませて違う経験をオルガマリーは積ませておきたかった。

第一にマシュは達哉の指示に依存しすぎるきらいがある。

戦場ではいつも一緒という訳にもいかないのだから、あえて切り離したのだ。

マシュには自己判断能力を培ってほしいがためににだ。

現に第一と第二では分断されて各個撃破の危機に直面している。

いつも一緒というのは癖になるし、それでは違うセットで分断された場合、達哉以外との連携も考慮しなければならない。

他の人との連携訓練はカルデアで行っているが。

訓練で得た経験は実戦でしか磨かれない。

故に今回はあえて分断する選択肢をオルガマリーは選んだ。

油断はできぬがこの島にはちょうどいい実験体がいるがゆえにだ。

 

「という訳で散開。各自の健闘を祈るわ」

 

指揮官として孔明を伴いオルガマリーは簡易指揮所に残るとして。

他の面々はオルガマリーに言われた通りに散開したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてなんやかんやあって昼食時。

 

「当方思うのだが、罰ゲームか何かか? これ?」

「ねちょねちょモソモソ、私たちの文明の時より酷いとは・・・どうなってるんです?」

「オルガマリーやエミヤの作った手料理は美味かった。なのになぜこんなまずい飯を?」

 

携行重視で持たされていたMREを食って。サーヴァント三人組は絶句していた。

未来の携行保存食がこんなに不味いとは思ってもいなかったのである。

この場に青王が居ればこう言うだろう『ブリテン以下の物が存在しているなんて』と。

されど栄養やカロリーは普通の健康食より上だ。

そうスペック表を見れば優秀なのである味という見えないものを抜きにすればの話ではあるが。

達哉は乾パン生活も長かったためか。こういう栄養だけのまずい飯を胃に詰め込むすべは身に着けていた。

つまり無心になって喉が渇いたり詰まりそうになったり戻しそうになったりすれば水で流し込む。

生きるか死ぬかの瀬戸際だったんだからしょうがないっちゃしょうがないのだ。

つまり在庫処分である、必要意外なこういうシチュエーションではいちいち手料理を作るよりMREで済ませたほうが迅速だからだ。

それだけMREは倉庫の中で眠っているのである。

 

「そうか? これ位なら、とにかく胃に突っ込んで、水で流し込めばいいだろ?」

「マスターは・・・・そうでしたね」

 

夢で達哉の過去を知っているブリュンヒルデが何かを言いかけて口を閉じた。

同情は彼に対する侮辱だからである。

そんなわけで沈黙しつつモソモソとMREを完食し終えた一行は竜の居る洞窟へと向かう。

すでに島全体の大まかなスキャニングはやっているのだ。

相も変わらず敵手は動かないご様子。

なら後は刈り取るだけだ。

メンツがメンツである。超高出力でペルソナを12種類使える達哉。

北欧の大英雄のシグルド夫妻。カリュドンの狩人であるアタランテ。

誰もかれもが戦闘特化、極め付きには達哉は回復及びバフ特化のアムルタートを降魔できるのだ。

如何に長命種あるいは大型種であっても負ける要素がまずない。

いくら強力であっても大英雄と最上位ペルソナ使いに囲まれれば竜種とて絶対ではないのである。

そんなわけで礼装に表示されるガイドラインに従って、小走りで面々は進む。

最も移動基準はサーヴァントだ。小走りだけでも普通の馬程度の速度は出る。

故に素早く、隠密に進むが。

 

『達哉君、サーヴァント反応の方が両方同時に動き出したよ』

「なに? 噂もある、神様がわざわざ俺たちに接触する意味はないと思うが・・・」

 

向こうからこっちに接触させるような阿呆な真似は達哉たちはしていない。

領域に踏み込むような馬鹿はしてないし、何より興味を引くようなことをしていない。

神に関わると面倒ごとになると孔明には口酸っぱく言われているからだ。

 

『サーヴァント未満の方が動きが早い、接触まで10秒』

「ちっ、皆、一応武器は収めて、神の眷属という可能性もある」

「思わずやってしまったら面倒になるからだな? マスター」

「そういう事だ」

 

余計な刺激はできない。

現在こちらに向かってきている幻霊以上英霊未満の存在がもし神の眷属なら。

攻撃はできない。

もし攻撃すれば、相手に攻撃することを許してしまうからだ。

だが万が一もある、武器は収めつつ、全員が臨戦態勢を整え、彼の者が出てくるのを身構え。

 

「お姉ぇさぁぁああん、その豊満なボディで俺の想いを受け止めてくれぇぇぇえええええええええ!!」

「ふん!!」

「ぎゃらばぁ!?」

 

人形サイズの熊?が飛び出てきてブリュンヒルデに飛びつこうとして。思わず瞬時に状況を理解したシグルドの拳によって殴り飛ばされ、近くの木にたたきつけられる。

その後すぐに。

 

「ダァーリィン、そうやって女性見つけると抱き着く癖なんで治らないかなぁ!!」

 

そして次の瞬間には怨叉の様な声が響き、無数の矢がクマの様なぬいぐるみに炸裂。貼り付けにした。

振り向いてみれば煽情的な服に身を包んだ薄水色の美しい髪の毛をともなった美女が頭部に青筋浮かべた笑顔で弓を構えていた。

 

「あの・・・すいませんどういう状況か教えてくれませんか?」

「何言っているの糞弟・・・アレ? 君誰?」

「いやそんなこと言われても?」

 

恐る恐る達哉が磔にした人形を強引に引っ張って剥がそうとしている女性に話しかける。

すると女性は達哉を見るなり糞弟と言いかけ。違う存在だと気づき首を傾げ。

達哉の存在を問うた。

礼装からは目の前の女性がサーヴァント、磔にされた熊?のぬいぐるみが幻霊以上、サーヴァント未満の存在だと。

ロマニがこっそり教える。

とすると目の前の女性が女神かと全員が当たりをつける。

 

「あの・・・マスターが弟とかどうとかどういう意味ですか?」

「だってさぁ、明らかに糞弟と同じ気を身に纏っているんだもん観測用の分霊でも送ってきたのかなぁって思う訳でしょ? でもよく見たら糞弟の気が一番強いけど他の神の気もあるし、何より姿かたちも魂の形が違うわね。そんな訳でアナタは誰?」

「俺は達哉、周防達哉だ」

「周防・・・達哉?」

 

達哉の名を聞いた途端に女性は目を見開いた。

 

「君ってあの周防達哉!? 君の事は糞弟から聞いているわ!あの影をぶん殴って阿頼耶識の底に初めて沈めた人間でしょ!?」

「いや、あれは皆の力添えがあったから出来たことで。俺自身は大した事してないぞ」

「それでも初事例は初事例なんだよ!! ゼウスが虎視眈々と星座にしたがっているし、君の活躍を知っている神々は君を欲しがっているのよ!!」

 

なんか女神はアイドルのオタクが如きしぐさで達哉の両手を握って手をぶんぶん振っていっている。

シグルドとブリュンヒルデとアタランテは女神の言葉にん?と思った。

 

「達哉を欲しがっている?」

「そりゃ当たり前でしょ。神という存在は例外なく奴の影響を強く受けて成り立っているのよ。倒そうと思っても倒せないし、そもそも補足自体が難しいのよ。気づいたなら嵌められていたなんてざらだもの。倒そうって思った人間も要るみたいだけど、問答無用で嵌められたわ。けれど達哉くん、アナタは違う、一度は間違えど二度目で倒して世界を救った。別世界だけど奴を最初に倒した最初の事例、故に神霊たちはアナタを思い求めている」

「そりゃなんでまた・・・」

「現行人類滅ぼしてアナタをもとに構成した人類を生み出せれば影倒せるじゃねって思ってるわーけ。奴の言い分なんか引用したくないけど、人を育てるのは環境なのにね、君をクローン培養しまくって生み出した人間が影を倒せるはずないなんてわかるもんだけどねフツー」

 

女神の言ったことは女神自身が否定するような行いだ。

人を育てるのは環境である。

故にクローンを生み出し記憶を移植したところでそれらはある種の方向性こそ維持できるとはいえ。

環境次第で変わっていく。

達哉自身も生きているのだ。彼もまた変わっていく。

人間とは変わりながら生きて死ぬ生き物なのだ。

それが悪徳であり良いところでもあるのにそこらへんよくわかってないわよねーと女神は言う。

 

「じゃあなにか? 俺が死んだらどこかの神に連れ去られるのか?」

「その可能性は低いかと、座に登録された人以外には裏からの接触はありません、死後も通常の物に乗っ取るでしょう。マスターが阿頼耶識と契約し守護者にならなければの話ですが」

「その守護者ってなんだ?」

「我々はガイアの守護者に属します。いわば星に認められた英雄という事ですね、多少阿頼耶識の影響も受けますが、基本そういったものは契約ではなく功績で選ばれるのです。ですが近代に入って世界滅亡なんてものは簡単になってしまいました。核ミサイルなどの影響で・・・、故に世界を一度救った程度では選定されないのでガイアの抑止力には関係ないでしょう。問題は阿頼耶識の抑止力の方です、エミヤが該当例にあたり願いを一つだけかなえる代わりに人類存続の為に永劫戦わされる存在です、こちらはなるのはガイアに比べれば簡単で、阿頼耶識と契約すればなってしまいます」

「ならフィレモンと契約した俺は死後守護者入りか?」

「そうはならないでしょう、あくまでも相互契約ですので。ペルソナ契約は人類進化のためです。守護者契約とは別物でしょうね、まぁどちらも割に合わないという点は共通していますが」

 

ブリュンヒルデがそう説明をする。

ペルソナ契約は阿頼耶識が直に行う実験の様なものだ。

あくまでも自己確立のための物でしかない。

逆に阿頼耶識の守護者契約は願いを一つだけかなえる代わりに永劫の闘争を強いるものだ。

性質事態が違う。

早く言えばペルソナ契約は自己確立への試練であり試験。

守護者契約は願いを一つ叶える代わりに永劫の掃除屋雇用だ。

人類成長と人類保持。

役割が違う。故に達哉が死後、守護者になるという事はない、オルガマリーも同様にだ。

 

「だが、神々に狙われているんだろう?」

「それも大丈夫かと。基本的に裏から表には手出しできないはずですから」

「だが我が愛よ、現状焼却で境界線があやふやになっている、現にポセイドンが出てきているのだ。手出しできるのではないか?」

「あ」

 

だが神の手出しは話が別だ。

人理焼却による世界線の揺れと歪み、それには時間にまで及んでいる。

都合抑止が動いているのは阿頼耶識と人理のみだ。

故に物理法則を気にせず神々が干渉してくる恐れがあるという事だ。

そのシグルドの言葉にあっと口を開くブリュンヒルデ。

だがそれを否定したのは女神本人だった。

 

「あっそれなら大丈夫よ、本霊が出てくると特異点待ったなしだし、私もサーヴァントレベルまで霊基出力落してダーリンと此処に召喚されたわけだしね」

 

ダーリンと呼ぶ熊のぬいぐるみ?から矢を抜きつつ、そこは大丈夫だと女神は言う。

 

「だが現にポセイドンが出現しているではないか?」

「アレは奴の仕業だろう、噂結界で呼び出したんだ。」

「ああそういう」

「ちょっとーそれどういう事よ」

 

シグルドの疑問に達哉がそう答える。

影が暗躍している以上、噂結界で本体に近い分霊を呼び出すことは可能だ。

後は影の檜舞台である。分霊に聖杯を与え噂結界で力を増幅させ特異点化させるなんて朝飯前だろう。

なんせ生前は従順な化身として表向きは仕えていたのだ。

正体自体が死んだ神か英霊たちにしか割れていないのである。

余裕でやるだろう影なら。

 

「噂結界ね本当ッッッに厄介な奴!! 私にダーリンを撃ち殺させたときの糞弟のようなやつね!!」

 

自分の逸話を例え話にしつつ女神は影を罵った。

 

「・・・なんだか本当に済まない」

 

アポロを卸している身としてはなんだか身に覚えはないとはいえ糞の様な事をしてしまったことに際悩まされつつ。

女神に達哉は謝る。

 

「あっ気にしないで君がやったわけじゃないんだし、君、糞弟を卸しているわりに本当に性格似てないわよね。というか女難の相以外似てないわ、うん」

 

それにとっさに女神はフォローを入れる。

と言っても女難の相以外似てないと言われても嬉しくもなんともないのだが。

 

「ところで一応確認させてもらう、御身の名は一体」

 

遂にアタランテが自分自身にとってのパンドラの箱を開けてしまった。

効かなければいいものを、いや時間の問題だったので今更の話だが。

獲物が弓、自称女神、自身の夫を殺させた糞の様な弟、そして達哉の卸しているアポロが弟の欠片とくれば大体が察しが付く。

 

「ん? 私? 私はアルテミスって、アナタ、よく見たらアタランテちゃんじゃないのおっひさー!」

 

女神アルテミスという名を聞いてアタランテは膝から崩れ落ちた。

まさか自分の心底信仰している存在が、実弟を糞呼ばわりして、こうキャピキャピしているとは思ってもいなかったのである。

憧れは理解から最も遠い感情だとは誰かが言ったがまさにその通りと言いう奴であった。

 

「そんでこっちが私のダーリンのオリオンでーす」

「よ、よろしく」

((((え、えぇ~))))

 

まさかおまけで夫候補のオリオンをこうまで矮小化させて二人で一人のサーヴァントとしてくるとは思ってもいなかったし。

なぜにぬいぐるみにしたと疑問が出たところで。

第一にもう各部が千切れるまで矢をぶち込む必要があったのかと誰もが思う。

オリオンまでぬいぐるみ顕現とくればアタランテ、完全に白目向いていた。

 

「・・・周防達哉ですよろしくお願いします」

「敬語は良いよ、達哉君!! 普通に接して、私もその方が気楽だから!! 周囲の英雄さんたちもそうしてくれると私嬉しいかな~」

「わかった。周防達哉だ。よろしく頼む、アルテミスにオリオン」

 

こうして自己紹介を終えてカオスな時間が過ぎ去り。

アルテミスとオリオンを加えて竜退治だったのだが。

 

「すっごく簡単に云ったな」

 

素材を得るために宝具抜きでの討伐である。

苦戦すると思っていったが女神に大英雄二人、英雄一人、最上位ペルソナ使いという戦力を前に竜は蹂躙された。

それだけ手札があるという事である。

なんだか想定していたよりも手っ取り早く倒せたのだ。

竜は長命種で体格は大型種に並び人語を理解する程の物だったが慢心王していたのが大きな敗因でもある。

お陰で時間は食ったが被害は少なく倒せた。

 

「問題は、この巨体と財宝だな」

 

竜とは財宝をため込むものだ。どこから調達したのか知らないが金銀財宝の山である。

加えて竜の骨や鱗などなどの肉以外は船の補強材にも使える。

肉は現地食料分は取っといて、残りはカルデアに食料として転送することになった。

 

「どうする? マスター?」

「所長に連絡して人員を回してもらおう。アステリオスなんかが居なきゃ無理だぞこれ」

 

竜種は巨大なのは言わずもかな。

持ち出すには相応の手間がかかる。

という訳で達哉はオルガマリーに連絡し人員を回してもらうことにした。

 

「待たせたわね」

「・・・所長、そして宗矩さん、その恰好は一体?」

 

そしてやってきた所長は肉解体業者の様な恰好で両手には肉切り包丁。

尚宗矩も同様の格好だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、何とか解体、搬出を終えて、すっかり日が沈み。

夜へとなっていった。

船に戻るのも面倒なので、皆でバーベキューと洒落込んでいた。

竜の肉はぜいたく品だが量が多く魔猪よりも臭みがなく食べやすい、

バーベキューにはうってつけと言えるだろう。

小分けにした竜の肉を串に野菜と共に刺してオルガマリーが焼いていく。

ちなみにこのバーベキューセットはオルガマリーの私物である。カルデアでの所長業がひと段落着いたら。

フランスの観光地あたりでやりたいと思っていたから購入したものだ。

ちなみに船からは全員降りている。

いわば一休みという奴だ。

それぞれが肉をほう張り、ベルベットルームやらサトミタダシで購入した発泡酒を楽しんでいる。

こういうとベルベットルームも車内販売しか利用してないように思えるが。

実際にはアマラ回廊で手に入れたスキルカードやらペルソナ、不要な概念礼装をスキルカード化させたりなど。

ちゃんと本来の意味での使い方もしている。

特にオルガマリーはまだペルソナ使いとしては中堅なのでスキル調整やペルソナ合体はキッチリやっているため使用頻度は高い。

サトミタダシも無論薬品調達としてフルに活用している。

何もカップラーメンだけではないのだ。

オルガマリーはステーキも焼いていた。

骨付きの1.2kgの大型ステーキである。

討伐した竜種の肉には寄生虫が居ないのも確認済みだ。故にミディアムレアでの新鮮な肉である。

最もオルガマリーは熟成させたいようだったが、この際文句は言っていられない。

その大型ステーキをちょっと離れたところで達哉は味わいつつ食べていた。

お供の飲み物はキリン生である。

すっかり飲酒にも慣れてきたころ合いである。

オルガマリーは必死に肉を焼き、海賊や英霊たちは薪を囲んで絶賛キャンプファイヤー中だ。

マシュも混ざってげらげら笑っている、時にはこういうことも良いだろうと思いつつ。

木の板上に熱した鉄板を乗せてその上にさらに乗せられた肉塊をナイフで切りオルガマリー自家製のステーキソースをちょびちょび掛けながらフォークで口に運ぶ。

実に美味いなと思いながら夢中になって食べる、白飯も欲しいところだがそういう状況じゃないので我慢。

喉が渇いたり口の中が脂ぎってきたところで、それらをビールで流し込む。

ああたまらない父さんや兄さんが夢中になるわけだとまた一歩大人になる達哉であった。

そんなわけで黙々と一人で食べていると。

そこにアルテミスとオリオンがやってくる。

 

「達哉君、こんなところでなにしてるのー?」

「うめうめ、焼いた肉うめ」

 

アルテミスはふよふよと浮ている。オリオンは肉汁が滴って彼女にかからないように器用に串肉を食べている。

 

「いや時々こう一人で食事をしたときがあってな」

「あー孤独のグルメってやつー?」

「・・・? 孤独のグルメ?」

「アレ? 達哉君知らないの? 表では有名な漫画だよ」

「ああ、それなら年代がずれているからかも」

 

達哉が過ごしていた世界の年代は1999年で時間が止まっている。

達哉以外が居ないのだ文明の発展がしようもなかった世界だ。

そしてこの世界は2015年。達哉の居た世界よりも時間が進んでいる。

達哉の知らない漫画があっても不思議ではないのだ。

最も達哉が高校一年の時に単行本が出ている作品なわけだが家庭事情でそんなことをしている場合でもなかった。

というか当時はマイナーだったのだ孤独のグルメ。

 

「まぁそれは置いて置いて、忠告に来たんだ私」

「忠告?」

「ええ、忠告、昼間、神々に狙われてるって話したわよね?」

「ああ」

「アレ冗談じゃないから、神は奇麗で強い心に惹かれるの、私がダーリンに惚れたみたいにね」

「は、はぁ・・・」

「だから、主神クラスなら現状、君を利用しての新世界創生まで行かないとはいえど星座にするくらいはやるかもしれないし、美女神ならコレクションとして求めてくる可能性があるわ。現に私だってダーリンほどじゃないけれど惹かれている、アナタの在り様は強すぎる、英雄とは別ベクトルで。人とはこうあるべきと思い知らされる」

「俺は・・・そこまで大した人間じゃない、一度は滅ぼしているし、二度目は兄さんたちの助力があったからこそ決心がついただけだ」

「ペルソナという神卸を使い時を止めあらゆる魔を屠る力を得ても、自分は等身大の人間と言えるほど人間強くは出来ていないのよ。当たり前のことを当たり前に。英雄としてではなく人間として使命を全うするというのはまた英雄とは別の強さなのよ、英霊は武の極致ではあるけれど、人間としての強さは別、人間としての強さが英雄にはないから影に踊らされて悲劇を演じて失意に沈む、けれど君は立ち上がれた。それは称賛される行いと同時に神が欲っしてたまらないものだもの、神なら脳を焼かれるわ」

 

 

英雄と超人の強さは別ベクトルの強さだ。

達哉は英雄ではなく、一時的にとはいえ超人としての精神を発揮した。

故に影を追い返し阿頼耶識の底に沈めることに成功したのだ。

だからこそ神々は求めるだろう、達哉の心の強さに魅せられ彼に要らぬちょっかいを掛ける奴も出てくる。

新たな人類の設計図として。あるいは強く美しい魂に惹かれてコレクションしたがる奴もいるかもしれないのだとアルテミスは忠告する。

現に世界の境界線があやふやだ、本霊とはいかずにしても分霊がアルテミスのように呼び出されている可能性も高いのだ。

現にアマラの魔王たちは裏技使って干渉してきているがゆえにだ。

そんなことを告げられ、達哉はいったん食事の手を止めて、懐からジッポを取り出し、蓋を開けて閉じて音を鳴らす。

 

「そう、その火付けの器具もそうよ」

「このジッポの事か?」

「ジッポっていうのねそれ、まぁそれも狙われる原因。権能的でもなく魔術的なものでもなく、心のみで込められた絶対的契約が祈り込められている。それは神にとっても万物の宝石に勝る輝きなのよ。アフロディーテあたりなら奸計張り巡らしてでも殺してでも強引に奪いたくなる代物でしょうね」

「・・・悪いがこれは譲れない、誰であろうとだ」

「それだから余計に両方欲しがってくる神がいるってわけ。私は月の女神だからそこまでもないけれど美神あたりならさっき言った通りになるわ」

 

一度は破ってしまった誓、だからこそ今度は破れぬという誓。

魔術的にも、権能的な契約もない、破ったところでなんのデメリットもないけれど。

それでも破れば本人の精神がズタズタになるくらいには重い重い誓と想いがこもったジッポは。

奇麗で不変的な思いと誓が籠っているがゆえに神々の目を奪う代物だった。

だからこそ神々は自分たちが持つにふさわしい供物として見定めているだろう。

美神なんかは下手すれば殺してでも奪い取るとなりかねない代物だった。

 

「・・・冷えたから温めなおしに行ってくる」

「そう、じゃ私からの忠告はここまでだから。皆と楽しんでらっしゃい」

 

こうして達哉は冷えたステーキを抱え、今だ食事にありつけず、ヤケクソになりながらビールを飲みつつ肉串をかじりつつひたすら肉を焼くオルガマリーの元に向かい、ステーキを焼き直してもらいに行く。

そんな後姿を見ながらオリオンはポツリと一言。

 

「ほんと、なんであんな普通の小僧が神々に魅入られるような存在になるかね」

「それが私たちの目指したモノだからだよ、ダーリン」

 

皮肉だった。彼が望んでいたのは普通の物だった。

だが手に入れるためには強くなるしかなかった。

普通を望んでいるのに特別にならざるを得なかった。

嗚呼、それはなんて。

 

「皮肉だな」

 

皮肉の利いた物だとオリオンは思うほかなかった。

 

 




アルテミス「たっちゃん、糞弟にこんなに似てないのに何でペルソナ、アポロなの?」
アルテミスの逸話と姉弟関係洗っていたらアポロンクズ過ぎてワロタ。
そりゃアルテミスもこんないい子がアポロが専用ペルソナとか女難しか似てねぇ!!って困惑しますわ。
あと名無しの長命竜さんですが慢心王したのでキンクリです。
基本本作のモブで慢心王したらキンクリされます、あしからず。

女神からするとたっちゃんのジッポは宝石に勝るとも劣らぬ代物です。
そりゃ奇麗で破れない思いが籠っているものですからね、アルテミスも警告しますよ。それこそアフロディーテやイシュタルあたりならたっちゃんから殺してでも奪い取る足りうる品物です。
下手したらたっちゃんの魂もセットで奪い取りかねない案件です。
なお第四後のイベ特異点で超強化される三人相手にこれするとまぁひどいことになりますが

ああデミヤの過去が明らかになるたびに心の中のニャルがぴょんぴょんするんじゃ~(▼∀▼)

やばいな先にCCCコラボやりたいくらいだすわ。キアラとデミヤがひどい目に合うけど。

でもね第一部のスケジュール埋まりきってんですよねぇ。

ギリギリ、お虎さんが幼少期の頃のぐだぐだ越中国にやれるくらいかな。
幼少期のお虎ちゃんとたっちゃん達が出会い上杉家でグダグダしつつお虎ちゃんの脳をたっちゃんとオルガマリーとマシュがこんがり焼くお話。
あとはZEROコラボ特異点かなぁ、結構スケジュールギリギリです。
他のイベントは本編と変わらないのでキンクリしますのであしからず。

あと本カルデアでは黒王のような文句を言ったら一か月間はMRE強制接種の刑にされます。
たっちゃんたちはメンタル優先という事とオルガマリーが食材ため込んでいるので毎食オルガマリー手製の手料理ですが。
他はリソースが少ないため、たっちゃん達に頼み込んでベルベットルームやサトミタダシなどで狩ってきてもらったコンビニやら駅弁。
リソースが少し残った時、食堂をエミヤとウォンが開いて日本食か中華か時々食える仕様です。
故に文句を言ったらMRE一か月の刑が待ってます。


そんで次回は再登場、奥様の回になります。
イアソントラウマ再発回、またたっちゃん、オルガマリー、マシュがメンタルケアに奔走するの巻き。

あー早く第四特異点やりてぇー、第四特異点はニャルがニャルやる特異点ですからねぇ。
でもその前にこの第三特異点と水着イベやんなきゃ(泣き)
という訳で体調がなぜか前に戻りまして一日中寝たきり状態ですので次回も遅くなります。
それではまた次回によろしくお願いします



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六節 「魔女の島」

裏切られるってことは、自分を鍛える経験でもあるんだよ。
人間色々、仕事も色々だってことを身に染みて知ることになるし、自分がしちゃいけないことを教えてもくれる。
実体験は重みが違う


岡野雅行


常識とは共通認識である。

多くの大衆が共通して規範にする行動原理。

故に常識外れの物を民衆は迫害しタブー認識し迫害し排斥するのだ。

それを間違いというのは酷だろう。

生存競争において大多数を生かすために少数を排斥するのは無論の道理。

もっともそれが全て正しいと言うのは無論傲慢だ。

魔女の概念とかがそれにあたる。

魔女が邪悪なのは某宗教の弾圧が大きい。

実際には民間医療を司る癒し手がほとんどだった。

だが民間に広く深く浸食した宗教概念は彼らを駆逐した。

それは都合のいい湾曲に他ならない。

酸っぱい葡萄だからと切り捨て弾圧したに過ぎないのだ。

某宗教の原初の聖人は悪くなくとも。周囲が好き勝手に曲解し都合のいいように捻じ曲げ悪い者認定して切り捨てに掛かったのが魔女狩りの歴史である。

人間、楽であれば都合のいい物に目を向け曲解する。

そこのところを某聖者は見誤っていた。

と言っても島民の治療やカウンセリングにいそしんでいた女性に関係はない。

裏切りに裏切りを重ねた女性に上記の理論は当てはまっても。自業自得という概念は追ってくるものだ。

おとなしく退場しておけばいい物を、幼き自分はまた選択しなかった。

故に現状があるわけだ。

遠見の魔術で海岸線を見る、そこには三隻合体ニコイチで修復され、幻想種の骨や鱗、皮で補強された船が迫っていた。

 

 

 

 

「ロマニ、次の島に着いたのだけど反応は?」

『人類種と思われる反応が多数点在しているよ』

「メアリー、偵察結果は?」

「双眼鏡で見た感じ船乗りの寄り合い所みたいな感じかな、小さな湾口設備がある、早い話、小さな漁村ってな感じだね」

 

カルデアのスキャニング&ダヴィンチ謹製の双眼鏡でメアリーが偵察した結果、小さな漁村があることが判明した。

 

 

「まぁ無人島連荘よりはマシですかな拙者、いい加減船降りて、ゆっくり釣りでもしたいですぞ」

「黒髭のいうとおりだ。所長、ここは皆で休息取った方が良い、アルテミスの頼みもあるしな」

 

黒髭のいう事に達哉も同調した。

アルテミスの住む島からかれこれ4日は船の上だ。嵐にも会いサーヴァントやマスターは兎も角、人間のドレイクたちが持たないと判断したのである。

もっと長期的に船に乗っているドレイクからすれば大きなお世話なのだが。

ドレイクに死んでもらったら困ると黒髭が説得。

さらに相手は強大な敵だ。

念には念を込めてだ。

ついでにアルテミスのお願いもあった。

それ即ち、島を脱出したいとのことだった。

何度か神霊特有の飛行で島の脱出を企てたそうだが、案の定見えない壁に阻まれ脱出不可能。

宝具まで使って見えない壁を壊そうとしたが、宝具は素通り。

ニャルラトホテプの権能はまさに盤石だった。

故に脱出できるように島には女神はいないという噂を流してくれとアルテミスとオリオンが頼み込んできたのだ。

特にオリオンはなぜか必死だった。

という訳で女神の島という噂も解除しなければならない。

だがアルテミスにオリオンという女神と大英雄の力を借りれるのだ。

やらない理由がない。

という訳で面倒ごとが増えた。

噂を広めるのも一苦労だ真実であるかのように語り他者へと伝染させなければならぬから。

現代であればツイッターやSNSでバズらせれば一発だが。

そんな便利なもので特異点内の住人が生活しているわけもなく。

こうやって手に塩かけてあらゆる手段を使って噂をコントロールしなければならない。

だが先ほども述べた通り、情報伝達技術が発展していない分だけ広めるのには苦労するが。

逆に言えば後のコントロールは楽なのである。

これが現代であればSNSやらツイッターで爆発的に増殖し制御は非常に難しい。

過去だからこそ広めるのは手間だが逆に言えば鎮火や制御もまたし易いというジレンマだ。

それはさておき。とにかくの一間の休息である。

行く島々では噂の散布と資源確保のための交渉事。

船旅では海賊への対処と仕事、揺れる船上ではマスター二人とマシュの心も落ち着かず。

故に久々に適当に噂を流布して陸地で休めるとなれば、これほど楽なことはない。

上陸決定だった。

珍しく海上での襲撃もなかったため。

幻想種の肉を売り捌くだけで済んだ。

まぁこんな小さな港湾施設がある島が存続している時点で海賊の襲撃なんて近海ではないに等しい。

なぜなら海賊が近海にいたなら、こんな小さな町なんてとっくに襲われているに違いないからだ。

なんだかんだで小休憩は挟んでいるのも事実だが強行軍気味であるのも事実である。

三日ほど滞在し少しはのんびりしようという事になった。

島に船をつけて必要最低限の人員を残し下船。

普通の船員は人間であるため有事の際には第一で使った通信礼装と照明弾で連絡を取ることになった。

という訳で下船し全員に小遣い持たせて各々で楽しむことにした。

 

「それは良いのだがマスター。君はすぐ気を抜くと一人になろうとするな」

「それはすまない、長年の癖の様な物なんだ」

 

そして案の定一人でどこかへとふらりと居なくなってしまった達哉に皆が気づきパニックにとはならない。

達哉の来歴なら仕方がないことであるし第一探査範囲から外れているという訳でもない。

それに盗賊の類なんぞに襲われても余裕で対処できる。

それにオルガマリーとマシュだけには話は通していたらしい。

岩場で一人釣りでもしてると。

達哉は今のところ頼られる側だ。多くの物を抱え込んでいるのに第一第二での負い目もある。

チェイテ特異点で克哉に愚痴り多少は解消されたが。その分を取り返すが如くの追撃である。

そりゃ一人になって考え込みたい時もあるという物。

ここ最近は一人になる回数も増えている。

これはいけないとエミヤは考えていた。このままでは思考の袋小路に陥ると思いエミヤはクーフーリンに相談したのだが。

 

―言っておくが俺はなにもできねぇぞ、俺はケルト思考だからな好きに生き理不尽に死ぬ、それをよしとする人間だ。だから達哉のおごりはある程度はどうにかできるが根っこの部分はどうにもできねぇ―

―随分弱気なことを―

―俺は孤独を孤独と感じられねぇ人間だからな、良くも悪くも人間関係に恵まれていた。だがテメェはちげぇだろ―

―・・・―

―俺もできうる限りのことはする、大人としてな、だが悔しいが奴のいうとおりできねぇことはできねぇんだよ。孤独であることの辛さはオルガマリーの嬢ちゃんも知っちゃいるが、今のところ達哉の荷物を分け合える余裕はねぇ、両方、いや三人ともか。分け合った荷物と自分の手荷物で手一杯だ―

 

そう達哉、マシュ、オルガマリーは互いの心理的荷物を分かち合い背負っている。

それでもう手一杯なのだ。

達哉もオルガマリーが背負っている荷物の重さを知っている。逆にオルガマリーも達哉の背負っている荷物の重さを知っている。

故に互いに譲りあってしまいこのざまで。

ならサーヴァントの誰かが手を貸すべきなのだろうが。

生憎と達哉とオルガマリーの孤独を理解できる人材は限られている。

その部分はマシュでさえ手が出せない領域なのだ。

生まれこそ恵まれていないが周辺の人間の心理的環境に恵まれていたのがマシュだ。

すれ違いもなく人間の善性を信じられるいい子になった。

それは裏を返せば社会的人間の心の闇に触れてこなかったという事である。

その闇こそ裏を返せば孤独というものである、達哉やオルガマリーの感じてきた孤独をいまいち理解しきれていないのだ。

故にそこの部分に共感できず背負いづらい。

他のサーヴァントも同様だ。孤独とはある種無縁の生活か割り切れてしまう環境にいたから背負えないし手を貸せない。

だがエミヤは違う、別種でありながら同族に位置する孤独をしているからこそ。

 

―テメェがキーマンだ。何とかしたいならテメェでぶつかってみろ。フォローはするからよ―

 

だからこそクーフーリンはエミヤに達哉の事を託した。

無論全投げではない、フォローも入れると確約した。

大人として最大限できることをクーフーリンも、カルデアサーヴァントや抑止のサーヴァントたちも行うことを決意している。

これはサーヴァントたちの物語ではなく達哉たちの物語だから。

せめて多少でもいい結末の為に全力を注ぐのは当然の事である。

だからエミヤは第二特異点での指摘と今回の課題を乗り越えて背負うべく達哉と対峙したのだ。

どっこらせとエミヤは達哉の横に座る。

 

「自分が嫌になったかね?」

「そうかもしれないな・・・というか疲れているのかもしれない、自分でもよくわからない」

 

達哉とて過去の反省を踏まえて周囲によく相談している。

だがそれが逆効果になりつつあるのだ。

自分が周囲の負担になっているのではないかと。

 

「もし君が。自分が周囲の負担になっているのではないかと考えているならばそれは見当違いも良いところだ。むしろ我々こそ頼りにしているのだよ」

「そう・・・なのか?」

「君のお陰で目が覚めたサーヴァントも多い、君は十分頼りにされている側だ。むしろ荷を負わせてないか皆心配してるのだよ」

「俺はそこまで・・・いやそれこそ傲慢か」

 

謙遜も行き過ぎればそれは傲慢である。

まぁどこぞの王のようにプライドエベレストでも傲慢の極みだが。

何事もそこそこに収めるのが良い。

 

「そうだ。私もどこぞの王の事は言えん、謙遜と考え無しの押し付けという傲慢の人生だった」

「そうなのか?」

「それでこんな様だとも。当時の私はこの魔術で誰かを助けられたと思いあがっていった。結果奴に嵌められた。無様なものだよ、剣を振るえば人が死ぬという当然の結果がわからなかった。そこに発生する恨みの強さもな」

「それでどうなったんだ?」

「仲間に売られて絞首台送りさ」

「・・・それでも」

「うん?」

「それでも誰かを救ってきたんだろ? 世の中法で裁けない悪がいる、政治家は言うに及ばず、この世界には魔術師なんてものがいるし、誰かが手を汚さなきゃ救えない命があるはずなんだ」

 

エミヤの気持ちも達哉は若干わかる。

法では裁けぬ悪はこの世に存在する、新世塾を運営し極端に言えば世界征服をもくろんでいた須藤竜蔵やその取り巻き共なんかがそうだろう。

そういう連中がこの世界にはうようよいるのだ。

世界平和だの人類進化だの根源到達だののためなら何でもやるろくでなしが腐る程いる。

加えて魔術協会三大部門の内の一つである時計塔は世界各国の政治界にもがっつり噛んでいるのだ。

危険な封印指定魔術師を隠匿できているうちはいかに一般人に犠牲が出ようと露見するまで手出しもしない。

だからエミヤは確かに殺してきただろう。されどそういった連中も片づけてきたのだ。

結末こそ妥当とは言え。

それは救えるだけ救って後の面倒を見なかったからこそ起きたある種の悲劇であり。

故に悪か正義かを断ずることは誰にもできない。

現に誰かが手を汚しているからこそ現状の世界は均衡を保っている。

必要悪は必要のように正義の味方もまた必要なのだ。

だから間違ったなんて言わないでほしいと達哉は言う。

出なければ誰かを助ける上で出た犠牲と救った誰かが浮かばれないではないかと。

故に抑止の守護者であってもエミヤは確かに誰かにとっての英雄なのだと。

 

「ハハ、励ますつもりが。励まされてしまったな、ああだからか」

 

そして構図は逆転していた。

エミヤが当初、達哉を励ますつもりが。

達哉がエミヤを励ますという構図になっていった。

そこがエミヤと達哉の違いなのだろう。

達哉は周囲の人を顧みて人として強く成長した。

エミヤは周囲を顧みず英雄としてなりはててしまった。

それに自嘲の苦笑をエミヤは漏らす。

 

「なにがだ?」

「いや個人的なものだ。とにかくだ私たちは君たちの為にここにいる、そう決めているし覚悟も皆出来ている」

 

マスターとマシュの三人を守り切りこの旅路を完遂させる。

長可も宗矩も書文もマリー・アントワネットもシグルドもブリュンヒルデもクーフーリンも孔明もだ。

召喚された皆が人理とその保全に挑むマスターとマシュの為に全力をなげうつ覚悟でいた。

聖杯で願いを叶える訳でもなくマスターたちとマシュに忠を尽くすと決めていた。

エミヤも今ここで腹をくくった。

彼らの為にともに全力で駆け抜けると。

 

「だからこそ君はもっと周囲に甘えても良いんだ。でなくば私みたいになるからな」

「そうか」

「そうだとも、だから君たちは真っ直ぐ進め、道は私たちが切り開く」

 

それが大人の役割だからだ。

 

「そうかそうだよな、なら遠慮なく甘えさせてもらうよ、エミヤ、木刀の投影できるか?」

「それくらいは容易だが。何する気かね?」

「互いに色々、あるし、俺はエミヤと打ち合ったことがない。互いに汗流して頭空っぽにする」

「ハハ、それは良い、だが私とて英雄の端くれだ。付いてこれるか?」

「付いていくさ」

 

二人で愚痴りあってもドツボにはまる。

ならここは汗でも流そうという提案にエミヤも苦笑気味に乗った。

そしてエミヤも理解する。宗矩の気持ちを未来ある若人に己の技術を託し、道しるべとする。

いい物だなと。

オルガマリーとの鍛錬では気持ちは曇っていくばかりだったが。

吐きだし希望を見出した以上、それらが反転する。

この特異点が終わったら自身の近接技術をオルガマリーに叩き込むことを決めた。

地味にオルガマリー地獄確定であった。

それからしばらくして。

港に戻ると。

 

「よーしゃ!!」

 

銛を持った長可がどこぞの無人島生活の芸人のごとく、海に潜って魚を取って桟橋に上がってきていた。

桟橋に上がってきていた。

他の男鯖もパンイチになって海に潜っては海産物を取っている。

珍しくヘクトールも参加してはいるが釣りスタイルの方が良いと釣り竿を垂らしていた。

 

 

「おっマスターにエミヤ、何をしていたのだ?」

 

シグルドは髪を片手で書き上げつつ、桟橋にやってきた二人に問う。

案の定シグルドも素潜りしてカルデアからリストアップされた食べられる海産物を男衆で取っていた。

 

「浜辺でエミヤに稽古つけてもらっていた。」

「そうか・・・」

「ところでそんなに海産物取って良いのか? 日持ちしないだろ」

「所長とエミヤが速攻で料理するから大丈夫との話だが・・・」

「ちょっとまて。私もか?!」

 

海産物は足が速い、いかに船に氷室を用意しているとはいえ限度というものがある。

だから海産物は取ったその日のうちにというのは鉄則だった。

それゆえに調理スキルを持つエミヤやオルガマリーがそこらへん酷使されるのは当然というほかないわけで。

 

「休みを!! 休みをくれぇ!!」

「いや、貴殿はこの前のバーベキューで仕事を放棄して、所長に仕事を押し付けていたではないか」

「ちょっとまて、それはそれ、これはこれだろう!?」

「諦めた給えよエミヤ殿、ちらっとあの時様子を伺ったがかなり切れ散らかしている上にヤケクソだったからな」

 

エミヤの休みをくれ発言に全員が首を横に振るう。

バーべキューの時にせめて調理に参加していればこうもならなかった。

なんせ料理できるサーヴァントと言えばエミヤだけである。

マスターではオルガマリーだけ。

カルデアに帰れば身の上事情が無ければアマネの部下にならず、中国か台湾あたりで自分の店を持って行ったIFが想定できるくらいには腕のあるウォンと実際結構

料理できる人材が少ない。

故に前の島でのバーべキューの際に調理に参加しなかったエミヤに対しオルガマリーは並みならぬ恨みを抱いていた。

悉く地雷踏むエミヤが哀れである。

 

「そういう訳だ。諦め給えよ」

 

書文がエミヤの肩をぽんと叩くとエミヤが崩れ落ちる。

別に拳技を使ったわけではない。

あまりの仕事量に崩れ落ちただけだ。

カルデアでは24時間の酷使。

特異点では技術的酷使に加えて食材加工の酷使。

そして本特異点ではポセイドンを向かい撃つべく固有結界の酷使が待ち受けている。

しかも固有結界が破られたら令呪やら石割機による再展開も待っている。

故に気分はフォアグラ加工されるアヒルの様な気分だった。

だが全員、それぞれの役目に邁進し働いているため文句も言えない。

孔明だって魔術師というだけで、洗脳と知識の強制インストールによる酷使無双である。

カルデアではオルガマリーだって特異点の出来事の書類改ざん作業に鍛錬、採取した食材の加工。

達哉は鍛錬や座学は誰よりも行っているし、施設修繕や特異点に投入可能な装備の試作運用をしている。

マシュでさえ鍛錬にセレシェイラを筆頭とする記録係たちと共に特異点内での記録改竄作業とカバーストーリーの構築もしている。

ロマニだって忙しい、カルデアでは特に破損の激しいAチームとBチームの式島律のコフィン維持と修理、特異点内では医師的観点からのアドバイスと医療指導があるのだ。

ダヴィンチ? 酷使無双されて発狂するレベルでエミヤより酷使されているのである。

カルデアスタッフも無論の事だ。

という訳でエミヤは何も文句言えない訳で崩れ落ちる他なかったわけである。

 

そんな時である。

 

『こちらマシュです、先輩方男衆は指定のポイントに集合してください』

「なにかあったのか?」

『イアソンさんが絶賛発狂中です、女手では足りないので。来てもらえると助かります」

「イアソンさんが発狂?」

『はい、消滅したはずのメディアさんが晩年の姿で再召喚されていて。この島で薬師をしていて、今道でばったりと出会って・・・はい・・・』

「・・・わかった、今そっちに向かう」

 

所謂連鎖召喚、あるいは代替召喚という奴だった。

サーヴァントの姿は基本全盛期に呼び出されるものだが。

どの側面をもって全盛期と呼ぶかによってズレが生じる。

術師として極まっているのがメディア・リリィではあるが策謀家としての全盛期は晩年期であろう。

まぁどちらにせよイアソンのトラウマには変わりがない。

特にシチュー関連とか。

という訳で、現場に急行、他の男どもは関わりたくないとばかりにノルマ達成できていないと拒否。

素潜りやら釣りやら続行する形へとなっていった。

そして現場に付くと。

 

「俺も親父みたいにシチューにする気だろ!! 親父みたいに!!親父みたいに!!」

「しないわよ!!」

 

夫婦喧嘩が繰り広げられていた。

オルガマリーは無論の事、護衛として随伴していたブリュンヒルデやマシュは困り顔である。

今更、兄の言葉が返ってくるとは思わなかった。

痴情のもつれは繊細で扱いが難しいと今の目の前の光景を見て達哉は思う。

 

―父さんよくこれに似た事例を解決できたな―

 

と内心思いつつ頭を抱えた。

 

「状況は?」

 

それでも話さなきゃ話は進まない。

メディアと言われればまず、その策謀術が有名である。

躊躇なく弟をぶっ殺して。敵軍の気を逸らしたり。

イアソンの王位を認めなかったペリアースを若返りの秘術の工程をすり替えて娘たちに謀殺させたりなど。

あとイアソンの浮気の件で盛大にやらかしたのだ。

そりゃイアソンにとってはトラウマだ。

本特異点では裏切り前提で若いころの姿で召喚され反省なんてしていない無慙無愧な状態の頃のメディアの悪辣っぷりを見て実際にポセイドンやら黒髭海賊団&ドレイク船団の介入がなければ魔神柱行きだったのだからそりゃ晩年の苦労をして改心したメディアであっても信じられないだろうことは明らかである。

まぁぶっちゃけこの神話的案件についてはイアソンの政治力の無さ及び甲斐性の無さに起因する事でもあるため。

イアソン2、メディア3、ヘラ5くらいになるのだ。

元話と言えばヘラからアフロディーテにエロス経由での策謀が根幹にあるのだから仕方ないと言えば仕方ない。

神が介入しなければイアソン4、メディア6くらいの悪さなのだが。

まぁそれはどうでもいい、古今東西、男女の揉め事なんてのは面倒ごとというのは決まっている。

 

「メディアさんとイアソンさんがここで再会してからこれです。アタランテさんは森に向かって狩りに向かっている上に救助要請に応じないため、こんな事態に」

「・・・誰も首を突っ込みたくないだろ痴情のもつれに」

「まぁ、今さっきよく理解しましたけど。・・・これでは所長があんまりです」

「孔明はどうした?」

「サモライザーから出されるなり口八丁でにげました」

「おおう・・・」

 

孔明、状況を見て。島の情勢を知るという名目の元逃走。

令呪で強制させても良いが、令呪の再装填にはカルデアに戻らないとできないため。

ポセイドン戦が控えている以上使えずこのような状況になっている。

 

「二人も不味いが。それ以上に所長が不味い」

 

そして痴話喧嘩を繰り広げているイアソンとメディアの横でオルガマリーは作画・武内崇ではなく作画・所十三になっているレベルで切れている、具体的には武丸君と同じ表情だ。

こうなった原因は一切二人がオルガマリーの説得を聞かず、孔明が敵前逃亡したのが原因で顔面武丸になっていた。

決して女子のしていい表情ではない。

というか後ろ腰にぶら下げた特注品のホルスターに収められているリペアラーに両手を伸ばしつつあった。

握られたが最後、イアソンとメディアの顔面がRー18禁レベルのグロさになることは確定してしまうと達哉は判断。

それ以上に状況がヒートアップしている。

イアソンは剣をメディアが短剣を取り出した。

同時にオルガマリーが後ろ腰のリペアラーに手を伸ばす。

 

「そこまでだ」

 

瞬間移動したかのように達哉がイアソンとメディアの間に割って入る。

すでに二人の武器は叩き落としていた。

それと同時にマシュも動きオルガマリーの両手を握って拘束する。

 

「坊や、いったい何を・・・」

「時止めできるって話本当だったのかよ」

 

イアソンだって如何にカリスマ特化と言えど逃げに徹すればヘラクレスから逃げ切れるくらいには爆発力はすさまじい。

故に周りがすごすぎるだけでイアソンだって一流の戦士だ。

達哉の剣の数撃くらいは見切れる。

メディアとて神代級の魔術師だ。感知結界を張っている以上、達哉の動きくらいは察知できる。

両者の感知網を搔い潜り、武器を叩き落とすとなれば至難だ。

それを軽々と達哉は成す。

ノヴァサイザーによる時止めと鍛え上げた剣術によってだ。

 

「というか。アナタ。アポロン神の気が強すぎる、アポロンの使徒ではなくて?」

 

だがメディアの警戒は解けない。

卸しているペルソナがペルソナだ。

アポロンの所業を知っているサーヴァントならまず警戒される。

 

「これでいいか?」

「!?」

 

メディアが驚愕に眼をひん剥いた。

一瞬にしてアポロン神の気配が弱まり、別の神格の気配が強くなる。

達哉的にはペルソナをチェンジしただけだ。

アポロからシヴァにだ。

神卸とは本来、多大な修行に信仰訓練が必要だ。

それこそ一族の秘術とかそんなレベルである。

達哉やオルガマリーのようにポンポン変えれるようなものではない。

最もペルソナ使いと神卸の術は根幹から異なるものでペルソナは異能に近いのだが。

早い話神卸は技術、ペルソナは異能といった感じ。

生憎とメディアはペルソナ使いと出会ったことがなく区分分けができていなかった。

目の前で卸して憑依させている神が速攻で変わったようにしか見えない。

 

「貴方、ソレなに? 一瞬で纏う気が変わったけれど・・・」

「ペルソナって言う異能だ。自身の人格に合わせてそこからつないで深層心理に揺蕩う神格の欠片を卸すって言う感じだ」

「・・・坊や、それはそれですごいことなんだけど・・・」

 

最もそれはそれで異様な異能だ。

イゴール曰く、最近、フィレモンを介さずともペルソナ使い増えたものの、それでも基本的にワイルド以外は一人一体で後期型に進化するというのが原則だ。

故にフィレモン契約型は異様なのである。

契約すれば相性はあれど基本的に複数のペルソナを所持し卸し制御できるのだから。

故に興味深そうにメディアは達哉を見た。

現状が一旦冷える、それを見逃さずオルガマリーがため息吐きつつ言った。

 

「それで、過去の事をほじくり返して。痴話喧嘩はやめてほしいのだけれど?」

 

くだらない過去を持ち出して痴話げんかはやめてほしいと苦言を言う。

本人達からすれば切実な問題なのだが。

状況がそれを許してくれるはずもない。

 

「だってこいつは親父を・・・」

「アンタがちゃんとした根回ししてなかったのがわるいんじゃない? 第一にセルフギアススクロールくらい交わしなさいよ。知り合いにそれくらいできる魔術師いたんでしょ?」

「ぐっ」

 

其処を突かれるとイアソンも痛かった。

イアソンが親父を説得できなかった、馬鹿正直に言う事を信じた。

現代魔術師においてそれはただの馬鹿である。

言葉に頓智効かせてだまし討ちなんて日常茶飯事だからだ。

本当に王位が欲しいならセルフギアススクロールくらい交わしておけというのがオルガマリーの言い分である。

スクロールの調達も現代の魔術より簡単なんだから出来るだろうという話だ。

神秘が満ちている時代なんだから当たり前だろうという話であろう。

 

「それにいくら何でもシチューはな」

「タツヤの言うとおりよ。策謀家なんだったらもっとスマートにやりなさいよ、スマートに」

「あのね、そういわれたって女の情熱は」

「感情に任せてやった結果が、晩年の結果でしょ?」

「そーだ! そーだ!」

「イアソン、アンタ。浮気の件は同様に擁護もできないからね」

 

メディアに対し心理的レバーブローを加えていたオルガマリーに対し自分は何も悪くないと同調していたイアソンに今度は矛先をオルガマリーは向ける。

嫁をフォローするのが旦那の務めという物。

如何に邪険にすれど、振るならささっとしろと言う話であり。

そこまでメディアを追い詰めた神とフォローも入れず何もしなかったイアソンにどうのこうの言う資格はない。

 

「はぁ全く、父さん、よくこの問題を弁護士抜きで解決できたな」

 

達哉もいい加減嫌気がさして来たからこその台詞だ。

現代では法整備もされて弁護士連れてくればいいのに兄の克哉曰く巻き込まれてよく独力で解決したなとか思う訳で。

痴話喧嘩なんて本当に犬畜生も食わないと思うわけだ。

 

「とりあえず。メディアの家でゆっくり話しましょう」

「おい、正気か? カルデアのマスター?! 相手は」

「それは承知の上よ、大丈夫、礼装は装備しているしペルソナもある。精神汚染や呪詛は食らわないわ」

「ほんとソレね、神卸相手に私の魔術が効くかどうかだし、持っている礼装も神代クラスだしでお手上げよ」

 

普通ならばメディアの根城で暢気に話すなど自殺行為だ。

特に策謀に秀でて神代魔術の最高峰の一角の名に連ねるにふさわしいメディアの工房に行くなんて正気沙汰ではない。

だがペルソナとアマラの礼装は彼女の魔術も容易にはじく。

故にメディア的にはお手上げ。マシュを人質に取ろうものなら。

達哉のノヴァサイザーが炸裂し首が飛ぶか、メディアは知らないがオルガマリーの固有スキルのヴォイドザッパーで工房事真っ二つにされるかの未来が待っている。

故にやらないしやれない。

カルデアと邂逅した時点でメディアは詰んでいた。

故に基本キャスタークラスのサーヴァントがペルソナ使いと相対するのは非常に不利なのだ。

アマラのアクセサリーで武装しているなら猶更である。

向こうでは神霊跋扈する戦場が主戦場で主な舞台となる故にアマラのアクセサリーの類はこちらの神霊クラスにも十分通用する代物だ。

物さえ用意できればサーヴァントの精神支配くらいどうとでもなる。

閑話休題。

という訳で5人はメディアの工房へと訪れることとなった。

内装は錬金術師の工房と普通の占い館を合わせたような構造をしており。

多重に結界が敷かれていいる。

使い魔の竜牙兵が魔術でプログラミングされたとおりにせっせと作業をしていた。

メディアはそれらに椅子を用意させ自分で茶葉を淹れて、お茶を作る。

紅茶でも烏龍茶でも緑茶でもないそれは何なのか。

万が一もあるため、オルガマリーが右米神を右人差し指で叩いてコンタクト型レンズの分析機能を立ち上げて主成分を確認。

現代では健康用意品に使われる薬草の類をおそらく天日干しにして作ったものであり主成分としては問題なし。

達哉とマシュにレイライン通信でそれを伝え、何もないことを伝える。

いくら礼装とペルソナで固めているからと言って油断はできないからだ。

沿うこともあって全員が落ち着いて席に座り卓を囲む。

 

「わぁ、美味しいです」

「そういってくれるなら、私も手に塩掛けて作ったかいがあるわ」

 

お茶は普通に美味かった。

マシュが普通にほめてくれてのかメディアの表情も綻ぶ。

 

「よく魔女が淹れた茶なんて飲めるなお前ら」

「はん、みんなを都合よく扇動して使っていた男がよく言うわ」

「てめぇ・・・」

「ハイハイ、口を開けば喧嘩するのやめなさいな、ね?」

「「スイマセン・・・・」」

 

オルガマリーがシュレディンガーを呼び出しヴォイドザッパーを起動。

シュレディンガーの大鎌の刃部分が陽炎のように揺れ空間を削り取っていることを確認した二人は謝るしかない。

万が一があってはいけないと、達哉もマシュもオルガマリーを取り押さえるべく一瞬身構え。

二人が謝り倒したという事もあってオルガマリーは矛を収め。

マシュと達哉は椅子から浮かした腰を再度落ち着ける。

そして事情説明が開始され、是非にメディアの手を借りたいという事を説明したが。

メディアから帰ってきた返事は否だった。

 

「一応、幼いころの私の記録も座に刻まれているから言っておくけど、私じゃ力にならないから断るのよ」

「なんでまた」

「ミァハ、いやニャルラトホテプだったかしら? 生前に一敗、今回で一敗、加えてそいつが操っている黒幕に一敗だもの、そして今回の相手はミァハとポセイドン。言っては悪いけれど私では足手まといになるわ」

「それ言ったら魔術の腕なんて私とメディアじゃ月と鼈なんだけれど」

「オルガマリーのお嬢ちゃん、魔術の腕は関係ないわ、アナタたちはペルソナやデミサーヴァントという私も凌駕する強力な力があるし、心が強い。だから私なんて必要ないわ」

 

言っては悪いが。メディアはパオフゥたちやらとは違って出来た大人ではない。

故に今でも聖杯を求めているのは否定できないし、故に付け込まれて敗北をすでに喫している。

子供たちの為に力になってやりたい、それも本音だが。

疼くのだ。冬木の聖杯戦争で、影と蟲爺の策略にはまり愛しいマスターを殺してしまったという記録。

そして本特異点でも影に一敗、影の操る黒幕に実力で一敗、生前に一敗。

最早心がぽっきり行ってしまっていった。

これにはイアソンも同情した。

ミァハに徹底的に絡まれるとこうなるのかと。

尚、影に絡まれてもっとひどい目に合っているのが達哉だという事を知らないのはイアソン的には幸せなのだろうか。

 

「図太さはお前の長所にして短所だろうに、それはどこ行った」

「此処までコテンパンにされれば嫌でも謙虚になるわよ」

 

そういってメディアはため息を吐きつつティーカップを置いた。

まるでそれは疲れ切った老婆のように見えた。

 

「そうか・・・」

「そうよ」

 

イアソンもそれに納得し。

先ほどの痴話げんかしていた血気はどこへやら。

しんみりした空気が流れだす。

 

「また。あの雰囲気を味あわされるのだとしたら私は震えて立ち上がれない」

 

ニャルラトホテプの策略を味わい殴られ立ち上がれるものこそごく少数なのだ。

普通ならば立ち上がれない、心が折れて耳を閉じ口をふさぎ孤独に暮らす。

晩年のメディアのように。

だが達哉はそうはならなかった。周りのフォローがあっても立ち上がる選択をしたのは達哉自身の強さだから。

達哉やマリー・アントワネットと強い心の持ち主がいるから錯覚しそうになるが。

立ち上がれないものは立ち上がれないのだ。

 

「だからごめんなさいね、私はついていけないわ」

「そう、分かったわ」

 

オルガマリーはすんなりと同意した。

つい最近まで倒れている側だったから。達哉やマシュが手を差し伸べてくれなければ立ち上がれなかっただろうからだ。

座っていたい気持ちはよくわかる。

 

「所長・・・いいんですか?」

「いいのよ」

 

その苦しみがまだわからぬマシュの問いにオルガマリーは答える。

だがメディアはそれでもと。

 

「でも後方支援位はするわ、幸いにも幻想種の素材の扱いにはなれてはいるし、薬作りの知識はある、素材さえ持ってきてくれれば、船の強化、薬の製造位は受けおってあげる」

「ええ、十分よそれで」

 

メディアは戦闘不能でも最善手は尽くすと言った。

オルガマリーはそれに頷き協定はここになったのだった。

そして4人が立ち上がりメディアの工房を後にしようとしたとき。

 

「ああ、言い忘れていたけれど。次の島にもサーヴァントがいるわ。そいつは是が比にでも仲間にしておきなさい」

「なぜ、というかなんでそんな情報を」

「隣の島が気になってね。以前来て隣の島に向かうって言っていった商業船の船員に使い魔をつけてみていたのよ。そしたら次の島にはサーヴァントが居て神霊も屠れる宝具を持っているいことが分かったわ」

「そいつの名は?」

「ダビデ、五発の石の投擲で巨人ゴリアテを倒した存在にしてかのソロモンの父、そして十戒が封じ込められた禁忌の箱を持つ男。名はダビデ」

 

ダビデと言えばゴリアテを倒した逸話が有名だが。

それがなぜポセイドンに対する切り札になるかわからなかったが。

メディアが言うなら、自分たちも知らぬ切り札を持つのだろうと達哉、マシュ、オルガマリーは思う。

絶望的な戦いに一筋の光が見えたような気がした。

最も後に本当にとんでもない物を持って来たなと頭を抱えることになるのは知る由もないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すいません病状が去年と同じ状態になったのと公開予定未定のCCCコラボのデミヤ部分だけ書いていて遅れました。
久しくニャルニャルしてないからそっち方面に創作意欲が爆発しまいました。
まことに申し訳ない。

特異点内だと噂の拡散に時間が掛かるんですよね、第一の場合はフランス上層部を抑えたから素早くできましたし第二の場合、ニャルがカエサルやらネロのカリスマを利用して一気に披露目させていましたが。
第三特異点だと島巡りをしながらなので効力発揮に時間が掛かります。
現代だとSNSやらX使えってバズらせれば一発で済むんですが。
逆を言うと現代でニャルを相手した場合、SNSやらXでの情報操作で手軽に終末起こせるニャルが相手という訳で。
情報伝達技術が高まるたびにニャルも強大になっていくまさに皮肉ですね。


メディア・リリィ「私をリリースして、成長した私を召喚!!」
メディア「幼いころの私ぃ!? 私を巻き込むんじゃねぇ!?」
イアソン「シチュー怖い、シチュー怖い、シチュー怖い!!」



ちなみにメディアではペルソナ使いには勝てなかったりする。そりゃ各種無効どころか反射まで持ち出してくるからそもキャスタークラス事態がペルソナ使いと相性最悪。
と言っても今回は一から十まで反省している、ノーマルメディアなので後方バックアップの約束は取り付けましたが。
彼女自身、ニャルにコテンパンにされた挙句、魔術王(仮)に実力でコテンパンにされたので、仲間には加わらない感じです。
と言っても説得の前段階で二人して所長の説得聞き入れなかったから所長、表情武丸君って顔芸してますけど。
所長キレ芸できるキャラだから使いやすいのよね顔芸的な意味で。

ニャル的には第二でやりたいことやったから第三得点は実際放棄済み、試練になるからとダラダラやっておりニャルニャル展開がそんなにないんですよねぇ。
強いて言うならマシュをニャルって覚醒させるという役割の特異点だけだったりする。
即ち全部マシュの為に用意されたものだったり
まぁそれも第三終盤ですんでニャルニャル展開はまだ先です。
ちなみにアルテミスは相手がニャルラトホテプの化身&本霊に近いポセイドンと聞いて何か仕込みをした様子。

次回は襲撃か羊飼いかどちらか決めかねてますん。
それで今年の更新はこれでラストになるかと。
鬱気が本当に酷くて更新どころじゃないです。
というか家族がアレで特に弟が阿呆過ぎてスネイルみたいに私が企業だになりかねません。

インフル疑惑があるのに出勤するとか阿呆なの、ウチの弟、接客業してのに馬鹿なの死ぬの?

これ以上愚痴を描くとスネイル化しかねないのでやめときます。

では皆さま少し早いですがよいお年を~


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七節 「羊飼いと禁忌の箱」

船荷のない船は不安定でまっすぐ進まない。
一定量の心配や苦痛、苦労は、いつも、だれにも必要である。


ショーペンハウアー


「驚いたわね」

 

メディアはそう嘆息しつつ、ティーカップを机の上に置いた。

目線の先ではゼイゼイと喘いでいるオルガマリーと。逆にかめはめ波を出そうと必死になっている小学生の如き様相を呈している達哉がいた。

出航まで暇だという事もあってメディアが魔術の稽古を孔明代わりに二人に着けていたのである。

前にも話した通り達哉は一般人だ。

特別な才能など無いと言われる。

それこそ主要時間軸の主演たる藤丸よりないだろう。

なぜかと言えばコミュニケーション能力とて一種の才能だ。

あらゆる英雄を絆させるという才能に加えて素でレイシフト適正がMAXなのである。

それに貧弱ではあるが魔術回路を持ち合わせている。

では達哉はどうかと言われると。ない。

そう何もないのだ。

剣術が優れるのは幼少期に兄に仕込まれ。ニャルラトホテプと対峙するべく鍛え上げたからでありもとより才能はない。

レイシフト適正やサーヴァントへの魔力供給もフィレモンと契約しペルソナ能力を得たからこそペルソナで代用しているに過ぎない。

コミュニケーション能力も明確に劣っている。

達哉は誰とてでも仲良くはできない。

故にメディアに魔術を教えられても使えないのが現状だった。

ハードウェアに対してソフトウェアが貧弱と言えばいいか。

対してオルガマリーは魔術師的血の家系で古き手段で調整され生まれてきた天才である。

キリシュタリアという大天才が横にいたから霞んではいるが、十分彼女だって向こう側の人間だ。

魔術抜きでの才能ならキリシュタリアより上でもある。

閑話休題

故に其処にペルソナ能力も加わればメディアクラスの魔術だって鍛錬すれば現代でも行使可能だ。

最も先ほども述べた通り時間があればの話ではあるが。

現状薬草学以外は劣化の劣化も良いところ。

如何に神代の魔術、一長一短に覚えられるほど生温い物ではないのだ。

だからぜぇぜぇと喘ぎ声をあげてオルガマリーは仰向けに倒れて伸びているわけで。

 

「坊やは才能無いわね、本当に」

「なんかスイマセン」

「謝らないで頂戴、できないことはできないのだから。けれど対策を練るために知識を得ようとする姿勢は嫌いじゃないわ」

 

まず物事への対処法というのは知恵をつけることから始める。

知らなければ物事に対応できないのは当然なのだから。

だから才能無くとも実践できなくとも対応できるために知識として身に着けようという達哉の姿勢はメディアは嫌いにならなかった。

むしろ好ましい部類に入る。

 

「それより所長にはきつくやっていたようだが・・・」

「教えれば行使できるなら私もキツク行くわよ。というか私の師匠も知恵を教え込むなら兎にも角にも実践編となればこの三倍はきつかったし」

 

メディアは遠い目をしながらそういった。

彼女は彼女なりに手心加えていたらしい。

 

「まぁそれより、今日の鍛錬は此処までね」

 

二人ともへばっている。

達哉は勉強と多少の実地で済んでいるがオルガマリーは両方できる生徒なためメディアも熱が入った。

それにカルデアとの契約もある。

ここいらが潮時という奴だった。

という訳でへばったオルガマリーを達哉が背負い。

メディアと共に港へと移動する。

其処では忙しなく竜牙兵が作業し強化の為にシグルド、ブリュンヒルデ、クーフーリンも忙しなくルーンを刻んでいく。

無論強化魔術出来るエミヤはバーベキューの時のお返しとばかりに酷使されていた。南無。

 

「お疲れ様です。先輩、所長」

「ゼーハ・・・ゼーハァ・・・船の進捗状況は?」

「所長、すっごい疲れているようですけど。大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、魔術回路と刻印とペルソナを魔術回路として酷使しただけだから・・・」

「それでも限界まで酷使してますよね? その様子だと」

「体力的には問題ないわ、冷えピタを額に張っておけば一時間くらいで何とかなるわよ」

 

魔術の鍛錬は神経の酷使に近い。

故に体力的には消耗はないのだが。神経を酷使する以上、プロ将棋やチェスみたいな消耗は発生するのである。

つまり冷えピタはって食事をとれば抜ける疲れだ。

だから体力的には問題ない、されど精神的疲労はすさまじい。

 

「今日はおとなしくしておけ。その様子じゃ返って邪魔だ」

「・・・そうかしら?」

「所長、先輩の言うとおりです、邪魔になるんでおとなしく寝ていてください」

 

そんな日々が続き。

メディアと別れを告げ次の島へと向かう。

 

「驚くほど順調だねぇ、いやな感じだ」

「ああ驚くほど順調だ。逆に寒気がしてきたぜ」

 

次の島へと向かう道中は驚くほど順調だった。

海賊との交戦があるわけでもなくかと言って帆船特有の風にになやまされる事態という事も少なく航路が安定していた。

噂結界の効力が出ているのか偶々なのかは今のところ判別がつかない。

凪のような状態のお陰でカルデアスタッフも何時もより休憩時間多めのルーティンワークで過ごせているから。

ありがたいと言えばありがたいことだが。

故に誘い込まれているかのような気がして船乗りとしての経験が二人の脳裏に嫌な気を流してぼやかせるわけである

だが結局は杞憂だったのか数日の航海を終えて次の島へと到着したわけである。

カルデアは通常運営にに戻った。

 

「ダヴィンチ、島内のサーチをお願い」

『ちゃんを付けてくれ給えよ所長。それなら数分で終わる。目的はダビデだね?』

「ええ、そうよ、でも一つ気になるわ」

「ポセイドンに対する切り札の事ですね?」

「ええそうよ、ダビデにそういった逸話はないはず」

 

羊飼いから身を起こし数々の偉業を成し遂げてイスラエルの王となった男。

魔術史においては表の歴史よりも重要視され多くの魔術師が基盤として使っている魔術の祖とも言える存在、ソロモン王の父でもある。

だが立志伝とは言うなれば血塗られた歴史である故に彼の神殿建築は許されなかった。

総合してみると故に文武両道。

英雄にふさわしい功績の持ち主である。

技量に関してもゴリアテを倒した投擲術、筋力に関しても鉄を曲げて鎧を作ったという剛腕。

軍を率いてイスラエルを取った手腕。

確かに味方にできればこの上ない良物件ではある。

だが対ポセイドンにおいて切り札持ちとなると首を傾げずには、全員、居られなかった。

確かにダビデは上位サーヴァントに数えても良いだろう。

だが大火力持ちという逸話はどこにもない。

何が切り札になるのだろうかと誰もが思う訳で。

 

「まさか石の投擲がかめ●め波みたいなやつで、五発目には対象特攻の気波みたいな奴だったりとか」

「先輩、いくらなんでもそれは・・・」

「いやだってな。マシュ、エクスカリバーなんかが特にその類だったじゃないか、原点だと壊れない剣ってしか記述ないのにビーム出したし、クーフーリンに書文さんや宗矩さん以外、全員伝承にはなかったりズレていたり変化していたりで当てにならないじゃないか」

「それはそうですけど」

 

伝記や過去の記録は予想図にしかならない。

アーサー王やドレイクに黒髭、その他多数が頓珍漢になっている以上。

達哉の荒唐無稽な想像も下手すりゃ的を得ている可能性だって捨てきれないことに。

マシュは項垂れるしかなかった。

そりゃ歴女のマシュにとって拡大解釈もやり過ぎだという事も多々あり。

彼女の歴史観はもう無茶苦茶である。

彼女の心境を簡単に言い表すなならばアーネンエルベの一日を見ようと思って買った本が中身がアキバ冥土戦争だったという衝撃と同じくらいには衝撃的だったりする。

それぐらい齟齬が酷いのだ歴史家仕事しろというレベルであろう。

最もそう思っているのはカルデアスタッフとオルガマリーにマシュで達哉自身は世界違いの齟齬くらいにしか思っていなかったりする。

尚、達哉の世界は世界でもっと混沌としているのだが本人は知らなかったりする。

閑話休題。

 

「交渉は私、マシュ、タツヤで行くわ」

「マスターそれは危険すぎじゃないかね?」

 

マスター二人とデミサーヴァント一人で交渉に挑む。

確かに危険な構図ではある。メディア曰く、ポセイドンにすら有効な宝具持ちだ。

即応出来きる時止め持ちの達哉や防御特化のマシュがいるからと言って不安になるのも当然と言えば当然だろう。

だが。

 

「エミヤよぉ、心配しすぎだぜ。三人とも戦力になるLvだし。達哉が居るんだ。万が一ってことはねぇだろ」

「しかしだだね長可・・・」

「じゃ、おまえ、何でもありの実戦形式で達哉に勝てんのかおめぇ」

「いや無理だが・・・」

 

何でもありの白兵戦なら達哉はカルデア内で最強である。

ノヴァサイザーによる時止め、ペルソナによる超火力、宗矩が矯正し十文字に合撃や弾きも加えさらに磨きのかかった殺人剣術。

分野では劣るが総合力ではいまだなおトップだ。

特にノヴァサイザーされたらどうしようもない。

最近、宗矩と書文はジャンヌ・オルタと同じで止めた秒数を見切って間合いを取るという方法で破りつつあるが。

それでも今はまだ上手く行っていない。

ジャンヌ・オルタは本当におかしかったという証明である。

あれでも全盛期にはほぼ遠い状態だったのだからさもありなんという奴だ。

閑話休題。

とりあえず交渉で過剰戦力用意しても威圧感を与えるだけでいい事はない。

マシュの盾もある。

何かされたら達哉とマシュが即応するので問題はないと言えた。

 

「じゃ、ぼくらはつうじょうぎょうむでいいんだね?」

「そうらしいね、アステリオス、槍稽古とかどうだい?」

「やる!!」

 

いつの間にやら槍使いを暇つぶしにアステリオスに教えていたヘクトールやら。

その他々は通常業務に戻っていく。

 

「さて俺たちは俺たちの仕事をしますか」

「ですね」

「そうよね」

 

と言うわけで。ここはマスター二人とデミサーヴァントの出番で仕事と相成るわけだ。

先ずは町で情報収集という形を取ったが。

 

「速攻で居場所割れたわね」

「だな」

「ですね」

 

この島内では有名人であったらしく。場所は速攻で割れた。

街はずれの平原で畜産業を営んでいるらしい。

時たま来る船乗りに羊や牛の乳を売ったりしているとか。

それにしてもなぜに羊?と達哉は思い。

マシュも思いこむ。

真実知っているオルガマリーは盛大に顔を引き攣らせた。

 

「羊なんて何で船乗りが買うんだ? 知っているかマシュ?」

「そこまでは私もわかりません、世界史や国ごとの歴史には自慢ではないですけれど詳しい方ですが、海洋学には詳しくありませんから何とも」

「そういえば黄金の鹿号にも羊飼うスペースがあって飼っている「あーはいはい、無駄話はそこまでよ!!」

「無駄話ってオルガは何か知ってる「女の口から男性の性処理事情なんて言わせないで!!」あっ(察し)」」

 

豆知識豊富なオルガマリーはなぜ船乗りが羊を買うのかを知っていった。

そしてオルガマリーの言葉に察する二人。

要するにダッチワイフ(意味深気)の代わりという奴である。

こういうことは歴史の豆知識と言う奴で然しもの歴女のマシュもジャンル違いであるがゆえに知らなかったという訳である。

達哉? 1999年代の男子高生にテストにも出やしない事情を察せと言う方が酷であろう。

そしてオルガマリーの言葉に二人とも察してしまったわけで。

なお我らが日本人はそういう目的で羊を送られたのに。ジンギスカンに加工して食ってしまったという歴史の裏話があるのだが今は関係のない話だ。

 

「そういえば先輩はそういう事大丈夫なんですか?」

 

マシュ爆弾投下。

気になるものは気になるから仕方がないのである。

 

「・・・言いたくないが・・・最近そのなんだ、あれだ。息子が起動しないんだ。やる気も出ないし」

 

その爆弾投下に対し。

さらなる爆弾が投下される。

達哉の息子、起動しない問題である。

 

「・・・そりゃあんなことあってトラウマ植え付けられて。一年ライフラインが途絶えたところでサバイバル・・・その上人理焼却ですものね、枯果てる以前の気もするわ。ロマニ聞こえてる?」

『聞こえているよ所長』

「全部終わったらそこらへんの治療できる?」

『難しいね。達哉君の場合身体的問題じゃなくて心理的問題だいからね。精神カウンセリングとそういった類の投薬やら理解ある恋人作って直していくしかないよ、だから人材がね、居ないんだよ、ね、レオナルド?』

『ロマニの言うとおりさ。まぁ必要があれば起動する薬や妊娠しない薬くらいは作るけどいる?』

「いいやダヴィンチちゃん要らないよ、息子が起動しないことは今の状況下ではある意味いい事だ、処理の手間も省けるしな」

『いいや! 医者の観点から言わせて言わせてもらうけど大問題だよぉ!!』

 

カルデア勢は知っているし心配もしているし、達哉とオルガマリーとマシュの仲が進展しない事にやきもきしていた。

マーラ事件やらチェイテ事件で一安心もしていたが。

さすがにPTSDによる息子の機能不全とは誰もが思っていなかった事である。

そりゃやる奴はやってる。

魔術には避妊魔術もあるのだ。

それはなぜかと言えば一重に血の選別のため、優秀な母体と個体を選別するという目的があるからである。

ブラッドスポーツ的側面も持つ魔術師の御業という奴であろう。

無論、見過ごせない問題ではある。

チェイテドスケベ事件事件などでマシになったと思っていたら、この有様である。

観測員や記録員が頭を抱えた。

本人がそれでいいと思っているのも質の悪さを増長させる。

 

『この特異点攻略が終わったら医務室に来るように、分かったね達哉君!! 専門じゃないけど何とかできるように僕頑張ってみるよ』

「別にいいじゃないか?」

『問題は問題だよ!!』

「それで治ったとして次の特異点でもしもが起きて処理中に所長やマシュに見られたら俺の尊厳崩壊するんだが?」

「「上手く見えない所で処理してしてなさい/ください。タツヤ/先輩」」

「おっおう・・・」

 

このままにしておいた方が良いのではないか、逃げ場はねぇのかと達哉は頭を抱えつつ、三人は情報通りにあぜ道を進んでいく。

すると開けた場所は広大な草原が広がっていた。

そこには羊や牛などが放牧されていた。

 

「牛や羊って放牧されていた方がストレスなく上質な肉にできあがるのよねぇ」

「そういえば所長って肉好きですよね、自室の隣ぶち抜いて専用の冷凍部屋兼冷蔵部屋にその他機材入れてるくらいですから」

「まぁ肉は好きよ大好きよ、特にイタリアに出張したときキアニーナ牛のビステッカの名店トラットリア・デル・フォルノでビステッカは本当においしかったわ、65日間熟成させた肉を伝統の焼きで焼くのよ。さすがにカルデア内じゃできないから他ので代用してるけどね。あーあと日本のヤキニクも食べてみたいわね。なんだかんだで日本での会食じゃ寿司とかが主だったし。いや寿司も美味しかったけど」

「所長、私が外に出るの禁止なのに出張でいろいろ食べまくってたんですね」

「そんな目で見ないでよマシュ・・・仕事の一環だもの。時には食べた気しなかったし。行くも戻るも大変なんだから勘弁してよ」

 

マシュはつい最近まで軟禁処置だった。

施設内を出歩くのさえ一年前まで禁止されていたのである。

故に各国の魔術のお偉い方と会食で美味いもん食っていったという事実にジト目をマシュはオルガマリーに送るが。

当の本人は当時は気が気ではないのだから勘弁してくれと弁明する。

 

「この特異点終わったら秘蔵のキアニーナ牛出してあげるから勘弁して頂戴」

「あるのか? キアニーナ牛」

「あるわよ~熟成もちょうどいい感じだったから美味しいわよ、最も炭火で焼くわけにいかないから本家には劣るけどね」

 

そんな食事談義をしつつ三人はついにダビデが居ると思われる、コテージの元にたどり着く。

丁寧に呼び鈴がついていたので鳴らしてみるが。

 

「留守か?」

 

呼び鈴を鳴らしても出てこない。

人の気配、英霊特有の気配がないことから留守かと達哉は思ったのだが。

 

「先輩、所長、見てください牛や羊がこっちに向かって移動してきています」

「という事は帰ってきたという訳ね」

 

羊や牛たちが小屋に向かって帰ってきていた。

戦闘には杖を持った美青年が一人。

おそらくアレがダビデだろうと辺りをつける。

 

「おー。また船乗りのお客さんかい? 今日も良い羊あるよ」

「残念だけど。そういう客じゃないわ。私たちは人理保障機関カルデアの物よ」

「・・・人理絡みか、ちょっと待っておくれ。羊や牛を小屋に入れたらゆっくり家の中で話そう。長話になりそうだし、扉の鍵は開いてるからリビングで待っていてくれたまえ」

「わかったわ」

 

そして案の定の当たりだった羊購入する船乗りと思われたが。

其処はオルガマリーが訂正し、ダビデは人理から得た知識で達哉たちが何者かであることを知る。

そういう話になるなら長話になりそうだと。

一旦、達哉たちを家に上げて置き。牛と羊を小屋に収納する。

リビングに案内され10分くらいたってだろうか。

ダビデがリビングに入ってきて、ホットミルクを人数分出してくれる。

皆で軽く自己紹介を済ませて交渉に入る。

 

「人理知識で一応の状況は知っているつもりさ」

「ならなぜあなたは動かなかったのかしら?」

「それは単純。航海経験がないし足もない、これで島々を渡るってのは自殺行為だろう?」

「まぁ確かにそうね」

 

ダビデがカルデアが来る前の前哨戦たる黒髭海賊団inアルゴノーツ&ドレイク船団VSポセイドン戦に参戦できなかったのはこれが理由だ。

本人に航海スキルが全くない。

故に合流もくそもなかった訳で。

仕方なく放り出されたこの島で、畜産業者と化していた訳だ。

 

「だから僕はここで畜産業をしているわけだ。随分と儲からせて貰ったよ」

「それはなんでまた」

「羊は需要がある牛の乳のチーズもね、羊は船乗りにとって自慰「あーあーそれは分かっているわ」それは何よりで」

 

先ほどの話が穿り替えそうだったので。オルガマリーが言葉を挟んで止める。

 

「でもまぁチーズやバターは保存食として優秀だ。牛も羊もね」

「だから稼がせて貰っていると?」

「耳が痛い話だが、達哉君の言う通りさ。人理のバックアップもあって知識は豊富にあるし。さっきも言ったとおり、試す時間は腐る程あったからね」

 

達也の言う通り、ダビデには得た知識を経験に血肉にする時間があった。

人間、知識だけポンと渡されても出来ないものだからだ。

だがダビデは羊飼いとしての経験があったし応用と学習の時間があった。

故にこういう商売しているだけの話だった。

 

「それで僕としては君たちに付いていくことに異存はないよ」

「そりゃ話が早くて助かるって話じゃないわね・・・」

「おや僕が信用できないかい?」

「サーヴァントは一癖も二癖も癖が強いからね、人間としてあっさり許諾されても信用できないわ」

 

良くも悪くもサーヴァントは癖が強く我が強い性格だ。

これまではニャルラトホテプが奸計を張り巡らし状況がヤバいという状況下で協力できていた物の。

逆に言わせればそれが薄い場合、何かしらの要求をされる可能性をオルガマリーは考慮していた。

達哉もそれは同様である。無条件の奉仕程高いものはなくまたありえない。

第三特異点は確かに熾烈ではあるが第一と第二に比べれば余裕がある。

故に何か要求されるとは思っていったが、まさかの要求無しの即決、まず裏を疑うだろう。

 

「はは、それは確かにそうだ。といっても信じてもらえるか分からないけど。僕は生前やり切った感があってね、そういったことに興味はないかな。しいて言うならナンパして女性と一晩を共にしつつ次の日には別れて畜産業をやって琴を弾き同じことを繰り返すくらいしかないなだ。という訳でそこのお嬢さん二人、今晩でも」

「残念だけれどタイプじゃないわ」

「私も所長に同意見です」

「ありゃ、そりゃ残念」

「いやに引き下がるのね」

「嫌がる娘と過ごして何が楽しいのかって話だよお嬢さん二人、それに怖い兄さんいるしね、でも協力はするよ。僕も引きこもっているのにはいい加減飽きてきたしね」

 

ダビデ的には嫌がる女性を口説き一晩共にする気はない、ナンパはスマートにと言うのが彼の信念だ。

それに嫌がる二人を無理にでもとすれば達哉に下手すれば首が飛ばされるということを肌で感じ取ったというのもある。

最も達哉としては話を拗らせたくない。

軽いナンパ程度は流していたが。

戦力という意味合いでの驚異度はダビデに見抜かれていた。

彼だって伊達に軍を率いて戦った王だ。

それくらいは見抜く。

 

「ちょっと達哉」

「いやまて、所長、俺は何もしてないぞ」

 

ここで達哉が剣気でも飛ばしたのかと問いかけるが。

無論そんなことはしていない、先も述べた通りダビデ自身が見抜いたのである。

 

「そんなことは気にもしてないしどうでもいいから、仕事の話しない?」

 

事態が変な方向に行きそうだったのでダビデが軌道修正し話を戻す。

 

「それでさ、気になったんだけどそっちの戦力は聞く限り十分なはずだ。付いていくと言った手前。付いてはいくけど、正直僕は役不足だと思うけど」

「イスラエルを統一した王が戦力不足ってことはないと思うぞ」

「それでもね達哉君、僕個人の武勇はゴリアテを倒した事くらいだからね。宝具も自分でいうのもなんだけど癖が強いよ」

 

確かにダビデはイスラエルを統一した偉大な王ではあるが個人武勇で有名なのは巨人ゴリアテっを倒したという事くらいが有名である。

 

「そのゴリアテって巨人だったんだろう?」

「正確には巨人族の先祖返りってやつだね、本物には遠く及ばないよ」

 

残った記録から算出されたゴリアテの身長は2m38cmだとされ。

ダビデもそれくらいと今言った。

この身長は栄養学や食が発展した現代でも滅多に見ないレベルである。

所謂、巨人族の先祖返りという奴で、見た目よりはるかに筋力はあったとダビデは語った。

 

「正直二度とやりたくないね。最初に兵士嗾けたら溶ける溶ける。だから最終的に僕が単独で賭けに出て勝った訳さ」

 

遠い目でダビデは当時を思い出すように語る。

英霊から聞くそういう虚飾が施されていない事実のほとんどがこれだった。

何処までも泥臭く必死にあがいてやり遂げたのだと。

華麗に戦い荘厳に勝つなんてものは、後世が付け加えた嘘だ。

出なければ話が面白くならないという事もあったからだろう。

それらがあったからこそ今があることを三人はかみしめ、オルガマリーはホットミルクを一口、口に含んで飲み干して、交渉を続ける。

 

「貴方にはポセイドンを屠れる切り札があると聞いたわ、是非に見せてもらいたいんだけど」

「ええ!? これまでの話で相手が神だってのは分かっていたけど、僕の宝具にはアレくらいしか無いよ、と言うか、なんで僕がアレを持っていることが分かったんだい?」

「此処から比較的近い島の魔女のメディアに教えてもらったのよ、と言ってもアレが何なのかは分からないけれど。メディアも遠目に見てヤバい代物ってことくらいしかわからなかったらしいし」

「ああ隣の島の魔女から聞いたのか。それなら納得。言っておくけど、アレは僕の中でも特大に厄ネタでね、こっちに来てくれ、倉庫に保管してあるよ」

「保管って常時展開型の宝具なわけ?」

「その通りさ、ついでに所有者権限も移せて下手すると残り続ける厄介な代物だよ」

 

ダビデがそうつぶやき立ち上がる。

付いてこいとばかりだったので。達哉たちも立ち上がり。

ダビデの後ろについていく。

倉庫と言われる場所に近づいていくたびに達哉は寒気がした。

この先、不味い物がある、触れてはならないものがあると直感が囁きかける。

それはオルガマリーもマシュも同じだ。

オルガマリーは魔術師としてペルソナ使いとして、マシュはデミサーヴァントとしてある種の確信があった。

そして倉庫の扉が開かれる。

 

「うっ」

「これは・・・」

「シャレになっていないわよ」

 

扉が開かれた先には棺桶サイズの木箱が鎮座していた。

だがそれが問題ないのだ、神代にも匹敵する超高の魔力。

更に箱から負の瘴気とも呼べるものが、ズゴゴゴと出ているのである。

カルデアの探査に引っ掛からなかったのが不思議なレベルだ。

どれだけヤバいかと言うと魔術回路なしの人間でも不味いと感じるレベルの呪物クラスである。

 

「これが僕の宝具の一つ、契約の箱さ。使用権を譲渡できるししたら残るヤバい奴」

「・・・なにを収めているのかしら? そういった逸話ないでしょ?」

「中身は十戒を刻んだ石版だよ?」

「なんで!! 聖遺物が!! 汚染聖杯よりも!! 真っ青な代物に!! なってんのよ!!」

 

触れれば不味い代物だった、達哉の高位ペルソナ耐性でも貫く呪物になっていた。

つまり触れれば人生終了である。

洒落になっていない。これなら確かに神も殺せるだろう。

キリスト教徒の元祖に通じる神が作りし物だ。

キリスト教徒が仏教、イスラム以外の神話の神々を駆逐したから他の神々も行けるが。

逆に言えば自分たちも自爆させかねない代物である。

そして逆に言えばそういう即死的逸話も噂もない十戒を収めた箱がなんでこんな呪物になってるのか三人は頭抱えた。

 

「触れたら全員アウトですよね・・・これ」

「そうね、マシュの言う通りよ。タツヤァ何とかできない?」

「うーん、伝承の愛称を考えるとメタトロンで行けるかって予想が立てられるくらいだ」

 

メタトロンは小ヤハウェとも呼ばれ聖四文字の代行者でもある。

故に十戒関連であっても大丈夫と予測を立てるが予測は予測だ。

触れた瞬間にデデーンなんて落ちもありうる。

そんな賭け、カルデアの一角を担う達哉にさせることはできない。

だがダビデはこういう。

 

「一応、詠唱すれば僕の近くに呼び出せるし僕なら触れられるよ」

 

詠唱さえできれば手元に呼び出せるし触れることもできるというのだ。

ならそれらを頼りに戦術を組み立てればいいかと、オルガマリーは冷や汗を袖で拭い。

 

「それでもいいから私たちに付いてきてくれる?」

「もちろんさ、それが僕の今すべき仕事だからね」

 

こうして切り札は手に入り、新たな仲間が加わった。

島もここで最後、あと何回か往復を行い。航路を安定させ。

後はアトランティスへと突入を掛けるだけとなった。

 

 




前にも言った通り専用ペルソナは神の欠片みたいなもんなので神代の魔術回路として機能し。
あらゆる異界突入能力を使い手に保持させます。
いうなれば超高性能魔術回路保持、各種異界突入能力、レイシフト適正MAX
故に才能あるオルガマリーは劣化とはいえメディアの奥の手や魔術を学び実践できるんですね。
でも逆にたっちゃんは元々魔術の才能無いから。
レイシフト適正、魔力供給、異界突入能力、レイシフト適正をペルソナで補っているので。
オルガマリーのようにメディアから教えらても、せいぜいがウェイバークラスが限界。
分かりやすいように言うなら。
オルガマリーはハイエンドPCのハードウェアにハイエンドソフトウエアを完備、周辺機器も万全。
逆にたっちゃんはハイエンドハードウェアだけで他のソフトウェアダメダメという感じです。
故にどうあがいてもサーヴァントに対する魔力補給は一流クラスですが型月魔術の腕前はウェイバークラスがたっちゃん的に限界値です。
それでも対策のための知識として孔明の授業はまじめに受けてます。

そしてやっぱさすメディ。
大型竜の素材もあるので船を一気に強化しきりました。
其処にブリュンヒルデと兄貴も加わりますんで船は一気に仕上がった感じですね。


あとたっちゃんの息子、PTSDで起動しない。
マーラ事件とチェイテドスケベ事件で多少は改善されていますが起動しません。
そりゃあんなことあったら、起動する物も起動しませんし恋愛観もぶっ壊れて粉々になってます。
いまは修復中。
1.5部が始まるころには治っている予定です。

あとオマケ
所長の使っているリペアラー詳細
意外な適性を見せたオルガマリー専用に開発された魔改造拳銃。
ベースはLARグリズリー
搭載弾は.357マグナム弾を神経弾に改造した物を対サーヴァント用にさらに魔改造した神経弾。
瞬時に近接戦闘に移行させるためフレームと一体化した大型マズルスパイクを搭載。
さらに自動供給システムが停止した場合に備えて17発搭載可能なロングマガジンを搭載。非常に重い物となっているものの。
それによりマズルスパイクでの近接戦闘能力が向上し相手の武器に対応も可能となった
マズルスパイクは所長の戦闘スタイルも考慮し叩き割るあるいは叩き切るという想定がなされている。
マズルスパイクも特注品でありエミヤが投影した剣をダヴィンチが加工し改造作った代物であるため。
サーヴァントに対しても十分な殺傷能力を得ている、第二後で一度マズルスパイク部分が破損したためか。
ダヴィンチの手によってさらに強化、強度向上が図られた。
銃全体はホワイトに塗装され銃身にはオオアマナのエングレーブが刻印されている

この塗装や刻印にはタクティカルアドバンテージをあえて考慮せず。

自分たちは修繕者なのだから無駄な殺生や殺戮は控えるようにという戒めの為にアマネがあえてペイントしエングレーブを掘った戒めの証である。

設計ベースはアマネ、それをダヴィンチが清書し洗礼、職人芸で完成させた逸品である。


次回は突入&襲撃回となります、いわゆる前哨戦ですね、ポセイドン兵と双子が襲撃してきます。

それではまた次回よろしくお願いします。






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八節 「狗軍」

人が成長するためには、多くの踏み台が必要だ。
誰かの助けがなければならないのだ。


ジョゼフ・ボナンノ


「いいかね、諸君? 絶対にこの木箱に触れてはならんからな?!」

 

航路の安定化も終わり。

船の強化も終わった。

遂にアトランティス海域の突入に入る段階で孔明はそう船員たちに言った。

ダビデが仲間となり、船にアークが搬入されてからの当初からキツク言い聞かせていたが。

今回の作戦では対ポセイドン用に使う。

故に再度の警告はキツイものだった。

なぜに十戒を収めた箱がこんな汚染聖杯も真っ青な呪物化しているのか全員が頭を抱えたが。

今はこれが有効に役立つ時が来たのだ。

つまりポセイドン内部に侵入し中核にこれを叩き込んで一撃で葬る作戦である。

しかしリスクヘッジの問題からポセイドンはサブコアを外部にも作っておりそれも破壊しなければならない。

つまり突入組と外部制圧組、そして座礁させるための居残り組に分かれることになった。

オルガマリーは突入組、ダビデ、ティーチ、アタランテ、アステリオス、ヘクトール、エウリュアレ、長可、書文にさらにはやっとこさ島を抜け出せたアルテミス&オリオンを引き連れて突入する。

達哉とマシュは外部破壊組だ。シグルド、ブリュンヒルデ、クーフーリン、宗矩、アン・ボニー&メアリー・リードを引き攣れることになる。

居残り組は固有結界担当のエミヤは無論、船の防御を担当するマリー・アントワネットに現場総指揮を執る孔明も残り死なれては不味いドレイクや船員も居残りだ。

 

「作戦は前にも話した通り、基本的な立ち回りもだ」

 

対ポセイドン戦略及び戦術は何度も議論して煮詰め切った。

後は相対するだけの話である。

ダビデやアルテミスの参加によって楽にはなるが油断はしない。

相手は神だ。油断しろと言う方が無理である。

 

「甲板にとりつくのは良いとして内部にはどう突入するんでござるか? やっこさんの装甲、真上で高火力宝具ぶっ放しても無傷だったんでござるよ?」

「それについては問題ない、どんな装甲でもバターのようにマスターが引き裂ける」

「達哉氏がですかな?」

「いいやオルガマリーの方だ」

 

そうオルガマリーの固有スキル「ヴォイドザッパー」である空間どころかテクスチャですら切断する空間切断攻撃だ。

危なすぎてカルデアのシュミレーターでさえ使用禁止である。

これさえあれば理論上どんな装甲すらも抜ける万能斬撃である。

 

「相手を座礁させたところで、カルデア側で入口を探し、見つけたらオルガマリーのヴォイドザッパーを使ってこじ開ける」

 

この作戦にはカルデア管制官も参加する。

カルデアから遠見で常に相手の状態を把握し孔明に伝えるという重大な仕事が任された訳だ。

 

「達哉たちは打って変わって、達哉のペルソナに乗っかり甲板にとりつき4つのサブコアを破壊する」

 

そして達哉たちは内って変わって装甲上部のサブコアを破壊するという任務に就く。

 

「サブコアにも障壁仕掛けられているのでは?」

「そのための選出だ。ギリシャ的に相性のいいペルソナを卸せる達哉くん、何でも切れる宗矩殿、超火力のシグルド夫妻で何とかなると私は判断した」

 

上陸組の選定基準ももしもサブコアに障壁張っていたらぶち抜けるメンバーを選出したのだ。

神話関係で神秘概念マウントを取り尚且つ最悪、サタンのコンセレイト四倍光子砲でどうにかできそうな達哉。

力と技のシグルド夫妻、そして魔剣使いである宗矩。

他の随伴は彼らの護衛となる

ドレイクは留守だ、なぜかサーヴァント級の身体能力に星の開拓者スキルが生えているが。

前の戦いでいいように嵌められ殺されかけた以上留守になるのも仕方がない

手段は全て整った、ダビデの契約の箱とアルテミス参戦はさすがに予定外だったがいい方向に働いていると言える。

手札はそろった。ブラックジャック的に言えば、あとは相手がバーストか自分たちの数値以下の手札を出してくれることを祈るほかない。

 

「手札はそろった。あとは勝負に出るだけだ」

 

その為に島々を巡り仲間を集め噂をばら撒き船を強化したのだ。

やれることはやった。

後は勝負に出るだけなのだ。

 

「嵐が完全に消えた訳じゃねぇが、弱まってる。各島からもこれ幸いにとアトランティスに向かう住人も増えているそうだ。時間がねぇぜ、孔明氏」

「ティーチ殿の言う通りだ。噂で嵐が弱まった分。アトランティスへの渡航者が増えつつある」

 

航路の安定化と突破しやすいように嵐にまで手を掛けたのが裏目に出た。

渡航者が増えたのである。

ハリケーン級の嵐から普通の嵐(日本基準)にまで落としたのがいけなかった。

それが裏目に出たのだ。

本当に噂結界の調整は難しい。

 

「時間はない、嵐も弱まった以上、強行突破する、そのために一日休息を入れて即座に出向する」

 

時間が無くなった。

あとは何度も言う通り天に運が来るように祈るだけ。

激戦になるだろうと。

だから一日だけ休息を入れて嵐海域を強行突破することになる。

いくら弱まったとはいえ嵐の中を強行突破するのだ。

疲労も出るゆえに一日だけ休息を入れることにしたのは当然の事と言える。

 

 

そしてその日は一日皆休んだ。

アトランティスに強行軍である。

然しもの海賊たちも酒を抜いた。

大嵐の中を強行突破するのだから当たり前だ。

ワンミスが命取りになりえることもある。

カルデアスタッフも半日交代で十分に休憩した。

羅針盤と海図はあるがもしもがある、ナビゲーションをミスるわけにはいかぬからだ。

イアソンは借りたヨットに乗って操縦の練習をしていたし。

マシュと達哉は軽く訓練だ。

オルガマリーは適度にダラダラしていたが。

そんなこんなで一日と言う休息日はあっという間に終わり。

いよいよ嵐の中に突入する。

 

「それよりいいのこれ?」

「そうですわね、気前がよろしすぎじゃないかしら、カルデア」

『使える時には使い捨てでも使う、それが流儀だ。肉体的感触から精神的な疲れは如何にサーヴァントでも

蓄積する、船操舵は外部で行われるのだから着込める奴は着こんどけ』

 

外部員に支給されたのは特殊部隊が使うレインコートだった。

主に潜入任務及び狙撃任務で使われる特注品。

民間の既製品以上の耐水性を持ち、まさに豪雨の中でも装着したものを雨から守ってくれる優れものかつ。

サーモセンサーにも映らないステルス用装備でもある。

何かあったらという事でマリスビリーに購入を頼んだは良いが。

魔術師やら死徒やらが攻め込んでくるという事もなく、結局、ダヴィンチとスティーブンが魔改造したスケルトン強化外骨格とチタンセラミック装甲服(プロテクトギアを現代技術で作り上げダヴィンチとスティーブンが更に強化した代物)で代用可能と来ているので。

倉庫で誇り被っていた代物だから有効に使いつぶされるなら保安部としても文句はない。

という訳で外働きするサーヴァントやマスターにはこの特殊レインコートが全員に支給されたのだ。

そしてアマネの予感は的中した。

 

「これで弱まってる方って、僕らが生前経験した嵐より酷いんだけど!?」

「保安部の皆様から貰っておいて正解でしたわね」

 

メアリーの悲鳴に本当に保安部の装備を一部借りておいてよかったと二人は思うくらいに豪雨と強風の嵐だ。

 

「アステリオス!! もう少し力を入れて引っ張れ!!」

「うんわかった!!」

「くっそ、いかに強化したからってマストの方が先に逝っちまいそうだ!!」

 

イアソンは各員にテキパキ指示を飛ばす。

さすがは元アルゴノーツにして船長兼操舵手だ。

意地を張るがそれより船が持つのかとも不安に思ってしまう。

なにせ弱まったうえでこれなのだ、神代でも早々お目に掛かれない大嵐である。

孔明の予測は当たっていた。強化前かつ噂で航路を安定させ嵐を弱めた上でこれなのだ。

強化無しに強行突破しようもんなら風と渦潮と波にやられていただろう。

噂に乗る形でか侵入できないのも道理だ。

一日中はいいとして最悪数日間はこの状態が続く。

サーヴァントは良い、肉体的疲労は無しだからだ。

代わりに精神的疲労が加わるが、損傷さえしていなければ精神力の持つ代わりにいつまでも動ける。

だが達哉やオルガマリーにデミサーヴァントのマシュは肉体的疲労も蓄積する。

されど現状そんな人物たちでさえ使わなければ話にならない。

最も、オルガマリーは孔明と共に部屋に引っ込んではいたが。

 

『こちらカルデア、ムニエルだ!! 船の11時方向接触まで10分くらいの距離に三機程度の飛翔物確認!!』

「この中で飛ばせるって言いましたら」

「ミサイルくらいしかないだろ!! マシュ、宝具準備!!」

「了解!!」

 

カルデアからの連絡。

飛翔体複数を確認、この嵐の中で飛ばせる航空機はないと判断し。

ポセイドンがメカならミサイルの類かと達哉は判断。

それは実に正しい判断である、普通ならばだ。

 

「飛翔体確認、けれどあれ、ミサイルじゃないよ!!」

「なに!?」

「飛行機らしきものだな」

 

メアリーが飛翔体を確認。

すでにアーチャーズの射程距離内だが。

確認した結果飛翔体ではなく飛行機の様な何かだという。

それを確認しエミヤを召喚、アタランテとさらに部屋にこもっていったオルガマリーも呼び出す。

 

「迎撃は可能なの!?」

「無理だ。こんな嵐の中では至近距離なら兎にも角にも狙撃は無理だ!!」

 

至近距離なら兎にも角にも矢で狙撃となると500mクラスでもこの嵐の中では矢事態が煽られ逸れてしまう。

エミヤも無理であり嵐の中での狙撃経験がないアタランテも同様だ。

 

「500mもありゃ十分よ」

 

だが500mでも有効射程距離っを保てるなら文句はないとオルガマリーは了承。

同時に狙撃指示を行う。

マシュはもしも二人が撃ち漏らした際のための最後の防護壁だ。

二人が渾身の力を込めて目を細め。弦を引き絞る。

そして解き放つ。

 

『命中、残り1。距離100m!!、いや待て、飛翔体が増殖、含めて数5!!』

『敵は戦闘機に類似、エミヤ、アタランテ、宝具を使用し迎撃しろ』

 

ムニエルの悲鳴になれた手つきでコーヒー啜りつつアマネが指示を飛ばす。

両者ともにそれに答えた。

 

訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)!!」

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

放たれる高火力の矢と無数の矢。

それは超音速ミサイル事無人機を迎撃する。

これだけ濃い弾幕とマルチロールミサイル以上の破壊力を持つ弓だ。

これで迎撃できないものはないのだが。

 

『反応急速感知、距離10m!?』

「なんで気づけなかったの?!」

『ムニエルも所長も慌てるな。・・・恐らくアクティブステルスと光学迷彩の併用仕様だ。両者ともに見覚えはある、多国籍軍現役時はまだ研究段階だったが。相手はロボを実用化できる文明だできてもおかしくはない、がティルトローターでこの嵐の中ホバリングできる技術はないぞ』

 

迎撃した飛行機はデコイであり。

本命はこちら、アクティブステルスと光学迷彩機能を搭載したティルトローター機だったのである。

すでに三機ほどに取りつかれ猟犬の様なガスマスクに黒のロングコート、左腰には刀っを収めた鞘をぶら下げ。

両手で保持するのはFN社のP90に酷似したPDWを保持した黒ずくめの軍団だった。

降下ロープもなく高さ10mから直接飛び降り着陸していることからかなり強化されていることがうかがえる。

 

「白兵戦よ!! オールコール!!」

「了解、オールコール!!」

 

オルガマリーの叫びに達哉が呼応し二人とも。

サーヴァントを最大数呼び出しながら己の得物を抜き放つ。

ついでに船室で待機していた戦闘組も呼び出す。

 

「ついに出番かいって余裕こいてる場合じゃないか」

 

軽口叩きそうになり気を引き締める。

 

「アイツラ、いやな予感がする、エウリュアレやみなにはちかづけさせない」

 

アステリオスもやる気だ。

だがそれ以上に相手が不気味すぎる。

感情らしいものが一切見えないのだ。

宗矩の分析では無の境地ではなく人形のように最初から存在してないかのような感じだった。

 

「イアソンとドレイク船長の居る船室には絶対近づかせないで!! 各員持ち場を死守!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

だがそれでも考えている暇はない。

戦場は常に推移する、オルガマリーの指示と敵兵の銃撃音はほぼ同に鳴り響き開戦と相成った。

 

 

 

 

一方そのころ海中では。

 

『ねぇーシメ、上じゃ始まったみたいだよー』

『ダメだよ、このまま遊びに行ったらミァハお姉さまに怒らちゃう』

 

海中。数機の小さな潜水艦に手足をつけたような機動兵器の内の二機に登場している幼子は袖長のゴシックロリータという場違いな格好をして搭乗していた。

その様子は年相応であるが実に退屈そうである。

まるで自分は戦闘ではなく遊び場に入れないようにしか思っていない。

そしてその要望はマシュを幼くさせオッドアイにしたかのように似ていた。

 

『でも楽しみだね~。何年振りだろうマシュお姉ちゃんと会えるの?』

『何年振りだろうね~。人修羅のお兄様曰く、時間軸がずれてるからね』

 

二人はそういう存在だった。

と言うより作らない方がおかしい。

マシュがデミサーヴァントになる実験以前よりそういうデザインドチルドレン計画が動いていたのだから。

そしてマシュ以前の個体の失敗があり。

故に後期型が作られた。その後マシュの適合実験をもって計画は終了。

後期型は全員お払い箱となり殺処分される筈だったのだが、そこはニャルラトホテプ。

スティーブン経由で使えそうな二人の後期型を回収し。明星に預け。

戦力として今投入したわけである。

故に情緒の成長がマシュ以上に歪んでいる。

 

『だから楽しもう、アン』

『そうだねシメ』

 

そう戦闘は楽しむお遊びとしか二人は認識してなかった。

なんせ戦闘を教え込んだのが気乗りしない人修羅だ。

彼が高ぶるのはよほどの強敵出なければならない。だから認識が歪んだのだ。

そして船上での戦闘も混沌を極める状況になりつつあった。

 

「このぉ!!」

 

状況は銃撃戦から白兵戦へと移行していた。

オルガマリーが訓練してきた二丁拳銃とペルソナの平行使用で敵を倒していく

ヘクトールも刀を抜いて襲ってきた狗兵を相手にして獅子奮迅の活躍をしたはずだったが。

 

「アレ? いまオジサン。アンタの両腕折ったよね?」

 

とっさの出来事だった。

刀を振り回す狗兵の両腕の中に槍を入れて一回転。

ヘクトールの剛力が乗った回転だ。手ごたえ的にも両腕をへし折ったはず。

現に刀は取り落としている。

だが即座に袖に仕込まれたナイフで反撃に出てきたことに驚愕する。

異変はそれだけではない。

 

「皆、注意しろ!! 連中、ムラマサコピー持ってる!! ペルソナ能力どころかスキルが無効化されかねない!!」

 

達哉が叫び警告を出す。狗兵共の刀はムラマサコピーだった。

斬りつけられると、ペルソナ能力が一時的に使えなくなる。

ニャルラトホテプの事だ。その使用不能範囲はスキルにも及ぶと思っていいと。

達哉は叫ぶのだ

 

「くっ」

 

シグルドやら宗矩やら長可たちも苦い顔だ。

有効打を与えられるのが書文しかいない。

なぜなら渾身の斬撃を加えても、半ばで刃が停止する、その上で狗兵は生きていた。

狗兵に蹴りを入れ剣を引き抜き一歩後退する。

何処も似たようなものだった。

肉体から再生の湯気を上げて、狗兵たちが立ち上がる。

オルガマリーの魔術やらペルソナパワーを込めた弾丸ですら傷口から排出再生する。

明らかに人間離れしている防御力と再生能力だった。

 

『最新鋭の防弾防刃装備にチタンセラミック合金製の具足や胸当てをコート下に着ているなこれは』

 

アマネが分析を入れる。

英霊でも寸断できないとなるとそう考えるしかない。

米国でも歩兵用装備として風の噂で聞いたことはあったのだ。

其処にスケルトン式外骨格やナノマシンやら投薬による感情抑制による強化兵士を作ろうとしていることも風の噂で聞いたことはある。

相手はオーパーツ的などこぞから来たことも知れぬメカポセイドンだ。

そういった装備を整えていることは別段不思議ではない。

問題は斬られようが撃たれようが再生する治癒能力の方が問題と言える。

 

『再生能力も問題だが、頭すっ飛ばされて生存できる人間はいない、首を跳ねるか、頭部を完全破壊しろ。頭部装備はもろくなりやすい、故にそうすれば連中も止まるだろう』

 

アマネの経験上の話である。

相手を殺す手段を用意して胴とか撃って殺しきれないなら。

頭部を物理的に分離させるか完全破壊が主流だったからだ。

 

「聞いたわね!! 総員頭部を潰しなさい!!」

 

その言葉を聞いたオルガマリーは即座に行動。

狗兵一人の顔面にマズルスパイクを叩き込みつつトリガーを引き銃弾を叩き込む。

後ろから接近してきた狗兵数体はシュレディンガーのヴォイドザッパーでまとめて首を斬り飛ばす。

そのまま両手を広げて左右から攻め込んできた狗兵の頭部を撃ち抜く。

結果はアマネの言う通りだった。

頭部を破壊された連中は何度か痙攣したのち動かなくなった。

敵の弱点が露呈して士気が上がる。

状況的にドレイクもカルデアから支給されたガリルACE52二丁持ちで応戦するくらいには押し込まれていたのだ。

故にこの状況、手品が割れた以上、反撃のチャンスともいえる。

如何に防護を固めても首などの可動域を守っている部分は手薄だし。

普通なら狙ってやるのは難しいが。相手はどうも人格が薄く教本通りの戦い方しかできない。

弱点さえ押さえれば木偶の棒だ。

カルデアのナビゲーション、しっかりしたドレイクとアン・ボニーにアタランテにマリーアントワネットの後方支援もあって、前線組は躊躇なく動ける。

 

「よっしゃあ!! 弱点がわかればこちらの物ですぞ!! ペルソナ!! ドリルクロヒゲ!! アンダードリル!!」

 

ティーチもペルソナ「ドリルクロヒゲ」を呼び出し反撃、そのドリルで数体の狗兵の頭部をミンチに変換。

フリントロック銃はないのでカルデアから支給されたガリルACE52で襲い掛かってきた二体の狗兵の頭部を撃ち抜く。

全員が反撃に移り。

順調に敵兵を駆逐していくが。

狗兵は相も変わらず感情がないかのように動揺せず。むしろ仲間の死体まで盾にしだした。

やり辛いったらありゃしない。

 

「アパム! 弾持ってきな!!」

「ですが、姉御、これカルデアの備品・・・」

「そういってられる状況じゃないさ! それに連中は遠慮なく使えと来てるんだ。今使わなくて何時使うんだい! いいから持ってきな!!」

「アイ、アイサー キャプテン!」

 

一方のドレイクも何時ものフリントロック式の短銃ではなくガリルACE52を使い。

空になった弾倉を投げ捨てつつ、部下に武器庫にある弾薬を持ってこいと叫ぶ。

フリントロック式の銃では狗兵の防御を純粋に貫けないのだ。

サーヴァントになり無限弾倉化している、アン・ボニーも威力の関係上。

フリントロックの愛銃ではなく。今回に限っては本来はオルガマリーが使用するはずだった対サーヴァント用の神経弾が装填されているDSRー50を使用している。

銃撃音やら剣撃音はいまだにやまない。

はてこんなに数が居たかと思っていると。

 

「くっそ、連中こっそり兵員輸送している、アタランテ、エミヤ、どうにかできないか!?」

 

ステルスティルトローター機によってこっそり兵員輸送されていたのだ。

アクティブステルス及び熱光学迷彩で、サーヴァントもカルデアも察知できないのだ。

いくら熱光学迷彩が水によって分別がつくとはいえ。この豪雨の中では無理がある。

 

「「何とかする!!」」

 

二人はそういって狗兵を蹴り飛ばし、今まさに狗兵を降下させようとしているティルトローターを弓で叩き落とす。

アタランテの通常射撃はAクラスで速射可、エミヤも射撃用の宝具を連続投影し直接飛ばして叩き落とす。

計5機を叩き落とすが。

寸前のところで狗兵が降下、甲板に着陸する。

 

「宝具が使えりゃな!!」

 

クーフーリンが愚痴る。

対空なら兎にも角にも狗兵にぶっぱせば船にダメージを与えかねないからだ。

故に船上では高火力宝具のほとんどが封じられている。

シグルドとブリュンヒルデが強気に出れないのもそういった理由だ。

一方のアステリオスはヘクトールに槍裁きを教えてもらったのか。

自慢の剛力を生かし二槍を思う存分振り回して無双している物の。

近づく相手は兎にも角にも、近接戦に移行せずサブマシンガンを使っている相手にはいい的だった。

マリー・アントワネットがフォローを入れているが、他の面々のフォローも行わなければならないため。

付きっ切りと言うわけにもいかない。

何時頭部が狙われるか冷や汗ものだった。

そして時間は達哉たちの味方でもあった。

基本量が質を圧倒するというのは戦略的、戦術的基本ではあるが。

それはあくまでも基本的なものでしかない。

戦場の摩擦を語るのであれば質が量を圧する場面も確かに存在するのだ。

例えばこの戦場なんかがそうである。

狭く、戦闘員の展開人数が限られている場合、質より量を取らざる側は戦力の逐一投入という愚をどうしても侵さねばならないからだ。

逆を言えばこの状況では少数精鋭が有利であるという証明でもあるのだ。

という訳で勝利の天秤は達哉たちに傾けかけてきたわけだが。

問屋がそうは下ろさない。

 

『海中に複数の反応を検知! 上がってくるぞ」

 

ムニエルが警告すると同時に。

水中から急速浮上の勢いを利用し甲板に複数機の小さな潜水艦に手足をつけたような機動兵器が登場する。

 

「Xー2だと!?」

 

達哉は無論それに見覚えがあった。

新世塾が抱き込んだ自衛隊一部が運用していた水陸両用パワードスーツ「Xー2」だったからである。

最も形状はさらに水中での航行効率に特化され。

推進系も変更されている。

 

『さながらXー3と言ったところか』

 

アマネの分析は的を射てる。

噂とポセイドンの持つ技術で作られた機動兵器だからだ。

無論技術はXー2のパワーアップバージョンとも言える。

つまりだ。

 

「刃が通らねぇ!?」

 

本体装甲強度は達哉が対峙したXー2よりもはるかに上だ。

英霊の攻撃でさえ弾いて見せる。

 

「関節を狙え!! そこなら脆い!!」

「簡単に言うがなぁ、こっちは当たったらお陀仏だぞ!!」

 

Xー3の右腕に装備されている水陸両用機関銃が唸りを上げる。

無論、対サーヴァント用の加工が施されているのだろう。

概念防御持ちはこちらにはいない。直撃したら死だ。

 

「もしくは雷攻撃だ。それがよく通る!!」

「できる奴、達哉とオルガマリーとブリュンヒルデくらいしかいないじゃぁねぇか!」

「だから俺たちで突破口を開く!! 所長、ブリュンヒルデ聞こえているな!!」

『聞こえているわ』

『聞こえてます』

「所長は雷持ちをブリュンヒルデは雷のルーンを、その後、俺たちで突っ込む」

『つまり感電させて動きを止めたのちカミカゼバンザイアタックね!?』

「そうだ所長!! 全員タイミングは雷発射後だ、後方組はありったけ弾丸ぶちこめ!!」

 

生き残った狗兵はX-3の随伴歩兵として陣形を組んで。

Xー3と共に銃を撃ちながら近づいてきている。

物陰に隠れた達哉たちに対し牽制射を浴びせ続けながら。

故に相手のリロードタイムのタイミングを狙い。

 

「オーディン!! マハジオダイン!!」

「トール!! マハジオダイン」

「雷のルーン!!」

 

雷を放つ。

無論全力全開でぶっ放したら甲板が丸焦げどころじゃ済まなくなるので加減はした。

それでも効力は十分だった。

如何に各種防御が施されていると言っても耐えるには限度がある。

オルガマリーも成長しているので高位のペルソナであるトールも卸せるようになっている。

狗兵もXー3も動きを止めた。

 

「出るぞ! マシュ、万が一があるかもしれない、先頭に出ろ!!」

「任せてください先輩!!」

「私は格納庫から、DSRー50取ってくるわ、リペアラーじゃXー3には力不足だし」

 

先陣はマシュが行う事となった。

当たり前だこういう時のためのシールダーである。

接近する前に相手が立ち直った場合。防御役が必要なのだ。

故に先陣はマシュが最適。

オルガマリーは一旦後退、狗兵なら兎にも角にもXー3の装甲が抜けないのである。

故に対物ライフルであるDSRー50を取ってくるのは道理と言えよう。

そして近接戦が得意なものたちが前に出ようとした瞬間。

二機のXー3のハッチが開き、二つの影が飛び出てくる。

一つは黒い影、もう一つは白い影だ。

それは二人でマシュに蹴りを繰り出し。

寸前のところでマシュが大楯で防御。

ただし威力は凄まじく、数歩分後退する事となった。

 

「久しぶりだね、マシュお姉ちゃん」

「そうそう久しぶりだね」

 

その二人は本当にマシュを幼くしてオッドアイにしたかのように似ていた。

二人はとっと静かに甲板に降り立ちつつそう言う。

まるで既知の間柄であるがように。

マシュの背に冷汗が流れ、脳が震える。

間違いなくマシュ自身はこの二人を知っているはずなのに誰なのか思い出せない。

そして脳裏に砂嵐だらけの記憶。

記憶処置、憑依事前テスト、再生施術。

適性● 適性● 適性●という無表情な作業員。

ベットの上に拘束される自分。

それが終わり部屋と言うか大部屋に戻ると自分とそっくりな存在達。

男女、若干年上もいれば年下もいる。

 

「アナタたちは誰ですか?」

「えー酷い、私たちの事忘れたの?」

「あんだけ遊んでくれたのに・・・」

「くぅ・・・」

 

頭が痛かった。まるで頭部を切開でもされた気分だった。

そうありえない話なのだ。

デミサーヴァント計画という非合法な実験で素体が一体だけというのは実に都合のいい妄想だろう。

普通なら用意するはずなのだ。複数体。

実験が失敗してもいいように。

 

「マシュ!!」

 

マシュがハッとなる。

達哉に肩を掴まれてその背の後ろに。

白いゴシックロリータが右手から指のように生やした五本のナイフに襲われるのを防ぐ。

 

「アポロ!! ゴッドハンド!!」

「アハ! ブレイブザッパー!!」

「ちぃ!?」

 

そしてアポロを召喚。ゴッドハンドを放つが。ナイフ代わりに腕ごと刃と化した大型の刃で放たれたブレイブザッパーと相殺される。

 

「グランドタック!」

 

それに気を取られている隙に、後方にから跳躍した左腕が巨銃へと変貌した少女のグランドタックによる銃撃だ。

対物ライフルの威力なんか容易に超える銃撃である。

ペルソナをアポロからヤマトタケルにシフト。

 

「怪力乱神!!」

 

怪力乱神で銃弾を逸らす、逸らされた銃弾は甲板に大穴を開けた。

二人が後退しながら武器をいったん収める。

それと同時に達哉が感じ取っていた悪魔の気配も薄れる

 

「アハハハ、君が達哉お兄ちゃんな訳だね!!」

「元異聞帯の王様!! ルイの小父様から聞いてたよ」

「元異聞帯の王? それはどうでもいい、お前ら何者だ」

「私はアンドレア・キリエライト!!」

「私はシメオン・キリエライト!!」

「「よろしくねー達哉お兄ちゃん」」

 

二人は無邪気に笑いながらそう自己紹介する。

キリエライトという事はもうマシュの姉妹確定だ。

体格から言えばマシュの後期Noの製造個体、つまり妹なのだろうと当たりをつける。

 

「マシュ大丈夫か?」

「少し頭痛がしますが大丈夫です」

「なら行くぞ。もう始まってる」

 

狗兵やXー3と英霊たちの交戦も始まっている。

自分たちも気を抜いてはいられない。

いくら幼子とはいえ、武装展開したときには強力な悪魔の気配を漂わせていたのだから。

 

「ねぇアン、お兄ちゃんたち本気で遊んでくれるみたいだよー」

「ならこっからは私たちも本気で遊ぼうか。ねぇシメ」

 

二人は猟犬を思わせるような笑みを浮かべ。

 

「「スーパーカーネイジタイム!!」」

「来るぞ!!」

「分かってます!!偽装宝具/人理の壁(ロードカルデアス)!!」

 

 

二人での合体攻撃に達哉とマシュも真っ向からぶつかり合った。

未だ嵐は収まっておらず、激戦は燃え上がるばかりであった。

 

 




久々に戦闘シーン糞真面目に描いたから疲れた・・・
次回も遅くなると思います。

狗兵。アトランティス内部でニャルが広めた噂で生み出された兵士にポセイドンの強化を入れた存在。
ポセイドン兵事狗兵のスペック
平均的英霊よりちょい上、ただし再生の能力持ちかつポセイドンやミァハの命令道理にしか動けない。
人格は戦闘特化に塗り替えられ個我を持っていない。その為達哉と宗矩曰く教科書通りの戦い方しかできないため柔軟性は低い。
装備はポセイドン謹製サブマシンガン(形状はP90に酷似)ニャルラトホテプ謹製ムラマサコピー 袖仕込みナイフ×2。
多目的ガスマスク、防弾防刃コートにチタンセラミック製胸当てと言った感じ、コートの下に着込んでいる服なども気休めの防刃防弾仕様の各種衣類
まぁ早い話がDOGS / BULLETS & CARNAGEの狗兵とメタルギアのカエル兵を混ぜた感じ。
因みに素体はアトランティスにたどり着けなかった連中やアトランティス内部から適性の高いものが選ばれ。
ニャルの噂やポセイドン・クリロノミアで強化処置が施された元人間である。



Xー3
ニャルラトホテプがポセイドンに横流したデータで製造された水陸両要パワードスーツ。
ポセイドンの手によって装甲材や内面機能がパワーアップしているが。
外見は多少形状の違うXー2の色違い。
武装もペルソナ2と変更点は無し

ムラマサコピーはゲーム風に言うと。
斬りつけた相手のペルソナを3ターン使用不能 スキルを3ターン使用不能にするするスキルである。


なんで双子に稽古つけたの人修羅さん?

人修羅「悪魔王に頼まれたから世話しただけで、あんなん戯れだよ、本格的訓練するなら二三回はパトらせてるちゅーの」

双子からすれば地獄の特訓だったが人修羅さんからすれば暇つぶしの座興だった模様。
そのスタンスだから双子の戦闘に対する認識が歪んでいる訳です。
人修羅さんが遊ぶならこれも遊び的な。

あと双子の武装や喰人能力ですが閣下が後付けしたものです。


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九節 「ハーモニー」

君は私と、同じ素材から出来ているんだよ。
霧慧トァンさん。

伊藤計劃「ハーモニー」より抜粋


凄まじい金属音が鳴り響いた。

双子の合体攻撃である。

熟達した盾使いを誇るマシュでさえ、衝撃を逃がしそこね。

体勢が一瞬崩れる。

それを双子は逃がしはしない。

シメオンの銃撃を防げばアンドレアの刃が。

逆もまたしかりである。

片方防げば詰まされる誤差の無い連携だ。

双子だから出来るのか血がにじむような特訓でもしたのか。

だが達哉にとっては関係がない。

マシュの気分がすぐれない。このままでは押し切られてしまう。

如何にもしかしてマシュの妹たちであっても、こちらを殺しに来ている以上。

やらねばやられる。故に覚悟を決めて

 

「アポロ! ノヴァサイザー!!」

「マハコウガオン!!」

 

停止時間は5秒。二人の首を跳ねるには十分な時間を停止させる。

がしかし停止しようとした瞬間。

達哉の視界一杯に広がる閃光

マハコウガオンによる非殺傷鎮圧使用である。

攻撃性がない分、通常のマハコウガオンと違い範囲が広い目くらましだ。

如何に時止め中でもこの光の中では攻撃は目が眩んで攻撃ができない。

それに通常のマハコウガオンでは達哉に余裕で避けられるしマシュには防がれる。

だからこその眼暗ましとして使用したのである。

そうこうしている内に停止時間が終了。

双子が挟み込むように攻撃を仕掛けてくる

 

「五月雨斬り!!」

「イノセントタック!!」

「ちぃッ、アポロ!! ゴッドハンド!!」

 

孫六を攻撃から防御へ、その瞬間、アンドレアの刃が動き刀と接触、達哉は宗矩の教えを履行。

刃を絡めとるように運動ベクトルを変更させるように弾く。

そしてその合間を縫うように付いてきたシメオンのイノセントタックをアポロのゴッドハンドで相殺する。

マシュも即座に動く。停止した時間内では確かに動けないが。

それが終わったと同時に動く訓練は反射レベルで叩き込まれていたからだ。

 

「アハハハ!! お兄ちゃん、それは対策済みだよ~」

 

以前も述べた通り対抗策は第一特異点のジャンヌ・オルタが取ろうとした対策のように。時止めしようとも回避不可能な広範囲火力で薙ぎ払う、再生力に物言わせてゴリ押す、あるいは相手の停止タイミングと間合いから停止時間を逆算し算出し距離を瞬間的に取るなどがあげられるが。

どれも人を辞めているか魔技染みた手段だ、一朝一夕でできるものではない。

だが二人は悪魔の様な物、人間ではない。

対抗手段として光属性によるフラッシュバン的運用なども可能。

時を止める瞬間を狙って場を光で満たし達哉の行動を封じる事は十分に可能だ。

双子は達哉とマシュを中心にぐるぐると周りながら絶妙な連携で攻撃を入れてくる。

ノヴァサイザーは対策済み。

故にここから物をいうのは達哉とマシュの連携練度が二人を上回れるかどうかだ

双子の猛攻を凌ぎながら達哉とマシュは背合わせになり対応する。

 

「守ってるだけじゃ、勝てないよ! お姉ちゃん!!」

「そうそう、ちゃんと攻めてくれなきゃ、アハハ♪」

 

好き放題言いやがってと達哉とマシュの内心が一致。

こちらが攻めに転じると双子の片割れが絶妙なタイミングで妨害してくるゆえに下手に攻撃に転じられないのだ。

加えて船上だ。サタンとかメタトロンによる高火力スキルも事実上封じられている。

これではなぶり殺しに合う上に千日手だ。

どう状況を打開しようかと思ったその時でである。

 

「キャ!?」

「うわ!?」

 

双子が突然そんな声を上げると同時に。連携を乱して回避行動に移る

 

『うそぉ、この距離で躱せるなんて!?』

 

原因はDSR-50を引っ張りだしてきた、オルガマリーだった。

DSR-50を構えて二人の援護に回ったのだが物の見事に回避された。

連携練度以外にも獣染みた危機察知能力までもってやがるのかと舌打ちする。

だが自身のペルソナとDSR-50を使ってオルガマリーが援護を開始。

状況の天秤が達也側に傾いていく。

数の暴力の差もあるだろうが達哉、マシュ、オルガマリーの連携訓練は死ぬほどやった。

それこそ双子の連携を超える域で差し込みを行う

さらにサーヴァントたちは最早なれたと言わんばかりに狗兵とXー3を解体していく。

種の割れた手品程滑稽なものはないという奴だ。

いまだ数はいるが、押し始めている。

特にアステリオスが無双し、そのフォローにシグルド夫妻、ヘクトールが入っているのだ。

駆逐まで3分掛からないだろう。

 

「いけない! シメ~、そろそろ時間だよ」

「ええ!? ”もう時間”!?」

 

達哉たちの猛攻を受けても楽し気に戦っていったアンドレアが時間を確認しシメオンが口惜し気に言う。

時間、時間とはなんだと思っている瞬間にも達哉とマシュは攻めに転じるが。

その瞬間、双子の近くに二機のXー3が海中から跳躍、甲板に着陸。

ハッチを開き。双子は素早くそれに乗り込む。

 

「じゃ、お兄ちゃんお姉ちゃん生きてたらまた遊ぼうね~♪」

「今日は楽しかったよ~♪ 生きてたらまたね!!」

「逃がすか!!」

「先輩後ろ!!」

「ッノヴァサイザー!!」

 

達哉の背後から切りかかってきた狗兵二人に対し、ノヴァサイザーで対応。

孫六で切り捨てる。

そして時の流れがもとに戻ると。

Xー3が機銃を乱射し後退、達哉に向かって銃弾を放つがマシュがそれを防ぐ。

水柱を上げならまんまと双子は逃げおおせた。

 

「逃げられたか・・・」

「ですね・・・って先輩!?」

「これは!? 総員退避!! 退避しろー!!」

 

マシュも達哉も全員が気づく。

狗兵の後ろ首当たりから陽炎が漏れて、生きている狗兵も死んだはずの狗兵が痙攣する。

最悪の事態が考慮でき、達哉の警告もあって全員が後退。

万が一があってはいけないのでマシュも宝具を展開する。

それと同時に狗兵たちが爆発、宝具ランクにしてCにプラスして壊れた幻想ほどの威力の爆発が起き。

嵐の中に一瞬閃光が走りぬける。

交戦区域の甲板はボロボロになっていた。

幸いなのが幻想種の素材や魔術の重ね掛けの影響で航行に支障はないが大分やられた。

その時である。

 

『高度一万にミサイル状の飛翔体確認、高速落下、位置船上!』

『魔力反応特大、おそらくではあるが、高出力魔力炉心だったか? 魔力生成する炉それでいいんだよな?ロマニ?』

『ああ、それで間違っていない』

『よかった。とにかくカルデアの感知範囲外からの射出だ。それと聖杯には及ばないにしても、その船をふっ飛ばすくらいのエネルギーを持った魔力炉心を弾頭にしたSLBMと推測。宝具で防がなきゃさっきも言った通り船ごとふっ飛ばされるぞ』

「了解!! マシュ、マリーさん宝具とスキル準備、合体宝具で防ぐぞ!!」

「「了解!!」」

 

二人とも宝具を展開。

形状はSLBM。カルデアの感知外からの射撃だ。

恐らくポセイドンからの攻撃だろう。

弾頭の反応を確認したところ。高出力魔力反応を検知。

準聖杯レベルの魔力を内包したそれは。直撃すれば。いかに強化した黄金の鹿号であっても吹っ飛ぶ威力を誇っている。

故に一応をもって、達哉。マシュ。マリー・アントワネットの合体宝具による絶対防御壁を張ることにした。

 

偽装宝具/人理の壁(ロードカルデアス)

愛すべき輝きは永遠に(クリスタル・パレス)

 

二人が宝具を展開。さらにそこに。

 

「アポロ! ノヴァサイザー!!」

「ジュノン! クリスタルパレス!!」

 

ジャンヌ・オルタの時と同様。ペルソナスキルと宝具の魔力を同調させた。

時間停止という絶対防御壁を張り巡らす。

 

「「「愛するべき刹那を永遠に(ノヴァ・クリスタル・カルデアス)!!」」」

 

接触すれば時間停止と言う絶対的防御。

これをぶち抜くにはジャンヌ・オルタ級の火力を持ち出すほかない。

本家本元の一撃はテクスチャ事撃ち抜いたアレ級の火力。

如何に神霊と言えども易々と用意できるものではない。

 

『3、2、1、インパクト』

 

アマネのカウントダウン終了と共にこの海域の嵐が吹っ飛び青空を見せるほどの閃光が周囲を覆った。

それから10分後。

 

「くそ!!してやられた!!」

 

会議室でドンと机を叩き孔明が頭を抱える。

結果的に船は無事だった。さすがにジャンヌ・オルタ級の火力はなかったのか。

ミサイルによる損傷は無し。

ただし狗兵とXー3による被害はある意味で甚大だった。

宝具抜きとはいえ甲板で盛大にドンパチやったせいであちこち銃痕、剣傷にXー3という重量級が複数機暴れ話待ったせいなのと狗兵の自爆でボロボロだった。

加えてサーヴァントたちも無傷と言うわけにもいかない。

幸いにも達哉のアムルタートとマリー・アントワネットのジュノンにオルガマリーのパールヴァティという回復役がいたことで何とかなったか。

過敏に反応しすぎた。

 

「こちらの手札が割れてしまった」

 

狗兵と双子が乗ったXー3以外のXー3は撃破したが。

逆に言えば双子の乗ったXー3は取り逃がしたわけで。

おもくそに敵に戦力がばれてしまった。

加えて「愛するべき刹那を永遠に(ノヴァ・クリスタル・カルデアス)」は現状最強の防御手段である。

これがばれたのが痛い。あの程度なら「愛すべき輝きは永遠に(クリスタル・パレス)」で十分だった。

故に過敏に反応しすぎた結果。次の弾頭はもっと高火力になってもおかしくないのだ。

それを「愛すべき輝きは永遠に(クリスタル・パレス)」で賄えるかと言うと疑問符が付く。

 

『ああ、その件だが。アメリカやロシアが開発中の新型弾道ミサイルに酷似していたな。タイプが二種類あって本体自体は高度5000mで炸裂、それ以下の物をクラスターを広域散布するタイプと燃料気化爆弾の要領で薙ぎ払う代物だ』

「なに? それは本当か?」

『本当だとも、試射会にマリスビリーがお呼ばれしたときに護衛で付いていってこの目で見たからな。実用化の難しい核弾頭や水爆弾頭の代用品らしい、データを見た感じミサイルの概要は後者だろう威力はおおよそその時に見た奴の二倍はあるが。ジャンヌ・オルタの暴発に比べれば可愛いもんだ』

 

だが現代兵器に詳しいアマネが知識を出し心配し過ぎだと言う。

現代兵器風の攻撃であればデータを見れば正しい解釈ができるのが彼女の強みだ。

元非正規特殊作戦群として働いていたことは伊達ではない。

古今東西の開発中、試験運用中、歴史の闇に葬られたヤバい兵器やら魔術師やら相手どってきた歴戦の兵士だ。

現代兵器の様なものを相手が持ち出してくればデータと目視情報さえあれば速攻で分析できる。

 

『飛行していたのはプレデタータイプの無人機だな、搭載ミサイルは対空対地のマルチタイプ、兵員輸送をしていたのは、前にも言った通りだが、積んでる推進器が違うなアレは見たこともなければ、風の噂で開発していると聞いたことはない、おそらくポセイドン製のオーパーツだろう』

「アマネ氏、すっかりポセイドンの事を兵器扱いしておりますな」

『そう判断するのが、的確だろう? 黒髭、アルテミスやヘクトールの言い分を正しく解釈すると、連中宇宙から飛来した超文明だろう? 神霊の在り様曰く元からあったものが神になったもの、神として生まれ変わったもの、そこにあったものが神と定義されたものなのだから、ギリシャ神は証言と合わせておそらく三つ目のタイプなのだろうとな、ともすると現代兵器の未来版が攻撃手段なのも納得がいく』

「古来より宇宙から来るものの痕跡は魔術界隈でも恰好の研究材料で存在証明は成されている。最もギリシャ神がロボやら宇宙戦艦の類なのは想定外だったがね」

 

アマネが解説し孔明が補足を付け加える。

アルテミスから真体のことを聞かされてさすがに全員が頭抱えたが。

真体自体はすでにセファールとの攻防戦で破壊されているとのこと。

だからこそおかしいのだ。ポセイドンだけが真体を取り戻しているという事に。

もっともそれもすぐにわかった。流されている噂にポセイドン関係がありそれで真体を取り戻したのだと推測される。

そういう訳で閑話休題とばかりに次の話に移行する。

 

『とまぁ楽観視はできないが想定道理の戦力で大丈夫だと思うぞ、もっとも元軍人として言わせてもらうなら、遊ばせておく戦力が欲しいところだが』

「私もそう思うが敵の戦力がはっきりしないことにな、アルテミス、もう一度聞くが。真体に関する情報を持っていないのかね?」

「ごめんなさいねぇ、私も真体失った衝撃やら信仰で体を取り戻した影響やらで当時の情報はほとんど持っていないのよ」

 

アルテミスから情報を抜こうと思ったが真体が破壊された影響で情報消失。

信仰の力で何とかバックアップボディを形成し神格として成り立ったものの、そのおかげでデータバンクとして機能していた真体が消失。

過去のデータは完全ではないにしろ大部分が消失しているため。

ポセイドンのスペックは不明だった。

 

『だが、物差は必要だろう。一応基準となるものがある、絶対ではないが参考になるはずだ』

 

そこで似たような物を物差にすべきだとアマネがUSBを懐から取り出し。

その内部データを公開させる。

其処に写されていたのは超大型潜水艦と言うべきものであった。

 

「アマネさん、こんなものをどこで?」

『いろいろあってロシアに奪取されたソレぶっ壊す羽目になってね、その時の雇用主から開示されたデータだよ、もうかなり前になる、ちなみに現状の紛争レベルだとオーバーキル過ぎて予算も食うわで三機作られ、一機がさっきも言った通り私たちがロシアのドッグに入ったところをテロリストに偽装してジャックしてぶち壊して、残りの二機は試験運用終了後スクラップ行だ』

 

達哉は若干引きつつ情報の出所を問うとアマネは懐かしそうに言った。

やっぱこいつおかしいよとカルデア鯖たちはドン引きだ。

海賊たちはすげぇなこいつとビール(アサヒスーパードライ)を飲みながら笑っている。

オルガマリーはそんだけ実力あれば。全員単位で雇うわこりゃと眉間を右手で揉んだ。

 

『まぁ相手は元宇宙戦艦だ。参考程度にとどめておいてくれ』

 

提示したのはあくまでも潜水艦、相手は元宇宙戦艦だ。

本当に参考程度にしかならないしさせてはならない。

まんまのスペックで算出戦闘すると痛い目見るからだ。

だからここはフワッと参考にとどめておくのが吉だろう。

 

「イアソンさん、あとどのくらいでアトランティスに付きそうですか?」

「あと二日三日ってところだな。台風の風で早く動いてるしな、この船」

「その間、さっきみたいな奇襲やらポセイドンやらの襲撃が無ければいいけれど・・・」

 

マシュの言葉にイアソンはそう答える。

そのついでに憂鬱気味にオルガマリーがぼやいた。

確かに、残り到着時間が二日と三日と言われれば誰だって憂鬱になる。

なんせ相手は弾道ミサイル持ちだ。

射程はアーチャーの平均射程距離の比ではない。

相手は一方的に殴れるのだ。

加えて今回の様な奇襲攻撃も可能となれば気が重くなろうというものだった。

 

「兎にも角にもアトランティスを目指し、そこで一旦休憩だな」

「船の修理もね」

 

とりあえず奇襲を警戒しながらアトランティスを目指し。

アトランティスに付いたら休息と船の修理をしなければならないという事に、全員気が重くなった。

 

 

 

一方そのころ。

 

『やらなくて良いのか?』

「いいでしょう。直接対決になったとしてもまだ狗兵とXー3に各種ミサイル。さらにはプレデターですらあるのですから」

 

ポセイドンの問いに怖気すら感じるほどの美貌で微笑み。

ミァハはそう返す。

カルデア陣営は奇襲を警戒しているが。それはアトランティスに付くまでずっと気を張っていなければならないという事である。

肉体的疲れはサーヴァントに発生し得ないが精神的疲れは別だ。

それにこの嵐の中を如何に強化した船とはいえ行くのには精神的疲れも別口で累積する。

故に何時奇襲するか分からないという情報を押し付けるだけでカルデアは大幅に疲弊してくれるのだ

 

「だからあの場で私たちは大きく手札を開示し情報を押し付けた。あとは勝手に損耗してくれるでしょう」

『しかしアトランティスに付いたらどうする? 我が民たちを統制するシステムは魔術王の聖杯で駆動しているのだぞ?』

「まぁそれは確かにそうでしょうね。ですが神であるアナタ様は軽く決断できますが。島民を皆殺しにするという選択をただの人間が取れると思いで?」

『だが万が一という事もある』

「アハハ、それは人間を信頼しすぎだよ、人間とは基本的に責任は背負いたくないもの。だから神霊なんてものが生まれる。利益を享受するためのイコンと装置として、そして不幸なことがあれば神はそういうもであるから仕方がないと諦めをつけて責任を押し付ける装置でしかないのだから」

 

そう神とはそういうものだ信仰すれば利益を享受させる、反面、理不尽が起きれば神のせいにだってできる。

現に神は理不尽を強いる場合もあった。

神とはそんなものなのだ。信仰という形で生み出された人にとっての都合の良い物。

希望と諦観を押し付ける都合の良い装置でしかない。

 

『ふむ・・・それもそうか』

「だから安心して、彼らに手を下す余裕はない」

 

ポセイドンを安心させるかのようにミァハは説く。

ポセイドンも安心したようだったが。

 

(まぁそんな奴らだったらここまで来れるはずないんだけどね)

 

ミァハは内心嘲笑していた。

やはりポセイドンも所詮は神だ。人間の意志力と言うものをなめ切っている。

それも仕方がない側面もあろう。大多数の人間が彼に縋りついて来たのだから。

だが彼らは違う、一部成長過程にはいるが達哉は背負うだろう。

故に思うのだ滑稽だと。

達哉には取らずとも良い責任を背負う滑稽さを。

そして自分たちは楽でありたいと他人に責任おっかぶせる民衆を。

やりたいことの為に責任を発生させておきながら自分では取りもしない特異点の中枢核連中と黒幕を。

そしてそれ等こその負の側面こそ影の領域であるがゆえに自分自身も含めて嘲笑い。

影はそれら全員を試練に叩き落とす準備を始めていた。

 

 

そして三日後

 

「あーしんどかったぁ」

「しんどかったのは確かだがな所長、目の前の光景から目を背けてもらうのは困るぞ」

「わーってるわよ、タツヤ」

 

あの後、一行はアトランティスに到着した。修理ができるサーヴァントは船に居残りとなっていた。

後は敵の本拠地アトランティスに乗り込むという事もあって護衛出ていた。

主に三人を護衛するのはシグルド夫妻だった。

黄金の鹿号をドックに入れる。

だがそのドッグや街並みが問題だった。

明らかに第二次世界大戦以降の街並みだ。

いや一部技術は現代をも凌駕している。

歪と言えば歪だった。特に電子機器の発展は目覚ましい。

住人がタブレット使っている上に、体内に入れたナノマシンで己の健康状態を確認しているという有様だった。

故にアトランティスは不気味なところだった。

更に住人が不気味だった。やり取りに手ごたえがないまるでテンプレートをなぞるような感じなのだ。

 

「これが人間と言えるのでしょうか?」

「いいや言えんな群体生物に近い」

 

マシュの疑問に孔明はそう答えた。

表上誰もが普通にしているゆえに違和感しか感じなかったのだが。

途中で気づいた。人間特有の混沌とした様相がない。

ついでに言えば顔面の造形、髪型まで均一化されており体格もある程度カテゴリライズされている。

さらに言えば意思たるものが感じられない、用意されたテンプレートの様な受け答えをされては誰だって違和感に気づく。

つまるところ、アトランティスの住人の人格設計、肉体造形は均一化され、意志衝突の発生しないようになってしまっていた。

つまるところ個人個人の自我なんぞ存在せずなんやらかの方法で他人同士の自我の衝突を取り除き一体化、共鳴させて一括的に総合合体している群体生物に等しい。

 

「だがどうやって・・・。噂結界では不老不死、苦しみのない世界程度だぞ。俺の時のように新人類に進化する噂なんて立っていない」

「いいや達哉。それらと新人類は同値なのだよ」

 

達哉の疑問に答えたのは孔明だった。

 

「つい最近ギリシャ基盤の魔術が衰退傾向にある。なぜだかわかるかね?」

「表には出せない科学技術が出た影響って話だけど。それが噛んでいるのかしら?」

「SOPシステムという事に聞き覚えは?」

「いえないわ」

『私はあるがな』

 

孔明の問いに聞き覚えはないとオルガマリーが返したのも束の間で。

返した張本人はアマネだった。

 

『正式名はSons Of the Patriots(愛国者の息子達)だったか、衛星経由でのナノマシンによる全体管理と兵士の感情抑制、火器管制システムだな、マスキングシステムより楽であるから一部部隊で極秘裏に運用中だっただとか。私の部隊は運用前に切り捨てられたから、詳しいことは知らんが。まぁ問題が起きて現在でも研究中との事らしい』

「そうそれだ。近年まれにみるギリシャ基板の衰退、今回の事で納得がいった。米国が極秘裏に推し進めるその計画がギリシャ基板を衰退させたのだ。根幹にあるのはナノマシン技術であることがよくわかったからな」

「それで・・・そのSOPシステムと今回の噂性にいったいどのような関連性が?」

「感情の意図的コントロール、他者との摩擦を起こす感情の切除。さらには徹底した健康管理による寿命と美容の非常的飛躍による疑似不老不死にそれに耐えれるだけの感情制御システム。それらが噂の曲解とポセイドンが齎した技術で出来上がったという訳なのだよ」

 

数式を分解するように孔明はそう解説する。

近年のギリシャ基板の魔術の衰退が加速するのは文明の発展に比例して。

彼らの文明に近づいているからだとか。

 

『というかマスキングシステムってなんだい? アマネ』

『ロマニ、アンタが知らんでどうする? ベトナム戦争以降の帰還兵問題解決のために作られたセラピープログラムから発展して特殊部隊向けに。投薬と催眠術にメンタルセラピーを使って兵士の感情を抑制する。人力感情抑制システムだ。投薬の影響で痛みだけを消してくれる、ただ不完全ではあるから研究はNASAで極秘開発されたナノマシンを利用したSOPに取って代わられたらしいがな、もっとも先ほども言った通りある問題が解決できずにいて。SOPが廃止になり、マスキング技術の方を伸ばす傾向にあるらしいが、まぁ今は関係ないな』

 

アマネはそうロマニに言って会話を打ち切って煙草を吸う。

そして町の広場に到着した時だった

民族衣装に身を包んだ悍ましいほどの美貌を持つ少女がやってくる。

 

「皆さんお久ぶり、そして初めまして、私がミァハだよ」

 

二コリとほほ笑んでそう自己紹介する。

まさか黒幕が出張ってくる

その場にいた全員が武器を抜き放つ。

民衆は少し驚きこそすれどすぐさま元の日常に戻っていくという異常っぷりを発揮する。

さっきも述べた通り、感情の摩擦を失っているからだ。

争いごとと言うのが理解できない領域まで来ている。

 

「随分早いご登場のようだが・・・何かマジックでもあるのかね」

 

飛びかかろうとした三人とシグルド夫妻を止めるかのように孔明が前に出て問う。

因みにいつものウェイバーらしく足が若干震えていたが。

此処で五人に暴れられてはたまったものではないと矢先に立つのだ。

 

「マジック、そうだね。マジックの種明かしかな、付いてきなよ、この特異点の真相と根源を教えてあげるよ」

「孔明」

「マスター、一旦武器を収めろ、ここは往来だ。住人がどう反応するかわからん。それに種明かしをしてくれるというのなら着いていっても損はないだろう」

「孔明の言う通りだよたっちゃん、何も害するだけが私たちの試練の在り方じゃないってよく知っているでしょ」

 

孔明が達哉を押しとどめ、ミァハは挑発するように言う。

達哉は苦虫を嚙みつぶしたような顔で鯉口を戻す。

怒っていては勝てないのをよく知っているからだ。

だが他は違う。オルガマリーもマシュも暴発寸前だ。

第一第二でのことが許せないのだ。

シグルド夫妻は第二での件があるため逆に意気消沈していた。

だが二人が暴発しそうなのも事実、同時にエルメロイ教室のいつもの光景でもあるため孔明必死に抑えることにした。

 

「君も無用な挑発は止めたまえ、大人げない、阿頼耶識の黒神と聞いてはいたが呆れるぞ」

「ごめんごめん、これが私たちの役目でもあるからね。法を垂れ流す存在だからこそ法に縛られるという法則は知っているでしょ?」

 

全てを嘲笑い者と言う特性上、この程度の挑発はジャブだとコロコロ微笑みながら尚もやめないミァハ。

孔明はため息を吐くしかない。

 

「故にだ二人とも一々付き合っていたらキリがない、武器を収めたまえ」

「ですが!!」

「もう終わったことだ。過ちは認めるべきなのだマシュ。他人に擦り付けていい物ではない、ただ受け入れて糧にするのだ。でなければ奴には勝てない」

「っ・・・わかりました・・・」

 

なんとか孔明がマシュを押さえつける。

オルガマリーは分かってはいるのか自発的に抑えた。

良くも悪くも人間性が出る、情緒の成長具合の問題か達哉は言わずもかな、オルガマリーは世間にもまれているが、マシュは温室育ちだ。

今まで人の汚い部分を見てきて悪意にさらされ続けた事がないゆえにストレス値が限界にきているのである。

現に何度か暴発している。

今の今までは敵に向けられたが暴走して味方にまで脅威を振りかざしたらたまったもんじゃないという話だ。

とにかく、この場は収まった。

故に全員がミァハの後ろをついていく。

通り過ぎるのは日常会話をしている住人達。

だが言われようのない不気味さが漂う、どことなく人間とは違う精神構造のようで。

不気味の谷みたいだなと孔明は思った。

そして進先には巨大なコンクリート作りの塔だった。

厳密に言えば高層ビルディングのような建物でピンク色の不気味なものが血管のように張り巡らされている。

狗兵が警護していたが。

ミァハのお陰で顔パスだ。

ビルに入りエレベーターに乗り込んで地下30階を目指す。

その間は皆無言だ。いいやミァハだけ鼻歌を歌っていった。

古い洋楽で詳細は誰もが知らないマイナー曲だった。

そして地下30階に到着する。

其処は広大な白い地下施設で巨大な円筒状の白いサーバーのみが置かれていた。

 

「これがこの特異点の元凶の一つ、ハーモニープログラムだよ」

「ハーモニープログラム?」

「そう、例えば人間の意識っていうのはね脳の欲求を表すエージェントと理性を表すものがぶつかり合ってその摩擦で生じるものが魂や意識って呼ばれている物なわけ、あるいは魂自体がハードウェアで人生と言う物で見聞きした情報から作り上げたソフトウェアから成り立つのが意識だとする。だから大まかに人格を分類するとできるけど、細かいところまで分類すると十色で無数に分岐する、だからそこから起きる君は僕とは違うというのが理由になって戦争や紛争、喧嘩、場末の殺し合いが起きるんだ」

 

そう戦争、紛争、場末の殺し合いから痴話げんかまで。

僕は君とは違うというのが根幹にあるのだ。

それを解決しない事には人類の完全統一なんてできないだろう。

其処に過去の怨恨、宗教観、富の格差、etc.なんてものが加わって混沌模様を紡ぎだす。

故に争いは止まらない。

 

「だったらその表面意識を消し去ってしまえばいい」

「馬鹿な、そんなことをすれば全員廃人ではないか!?」

「そうじゃないんだなぁ、表層意識をナノマシンコントロールすることによって均一化、さっきも言った衝突するエージェントと言うべきものを抑え込む。そして表層意識の衝突をなくすことによって人類は均一化できる、そして表層意識がナノマシンコントロールによって消えるというより抑え込まれても無意識化の選択で人は必要不可欠なコミュニケーションと日常生活を送るってわけさ、ちなみに動力は黒幕の聖杯だよ」

 

最低限の選択肢は無意識で。それをさらにナノマシンコントロールすることによって代行。

他者との意識同士の衝突をなくし争いを限りなくゼロにし完璧な社会福祉をなすのがこのハーモニープログラムという訳だ。

 

「こんなのただの動く肉塊生成機じゃない!!」

 

だがよく考えれば人類の意識を殺しナノマシンと言う装置を使っての強制操り人形システムの様なものだとオルガマリーは吠える。

 

「所長の言う通りだ。これは俺たちの先人が積み重ねてきた高徳に対する冒涜だ。第一に自分で選んで抗うのが人間だろうと貴様が嫌味交じりに言っていったじゃないか!!」

 

達哉もオルガマリーに同調し言葉を口にする。

お前の言っていることは自分自身にぶっささるブーメランだと指摘する。

 

「うん、君たちの言っていることは実に正しい、だけどね現実君たちと同様に戦える人なんて少ないんだよ。だから君たちはあの本体気取りに選ばれここにいる」

 

現実と戦える人間なんてごく一握りだ。

現代に入り、おおよその価値観が飽和した現在。

何が正しいのかという永劫の問いと戦い続けられるほど人類は強くはない。

現代でもそれなのだ。航海時代の一部の海賊の華やかさに目が行きがちだが実際のところ。

何時襲われるかも分からず富まずという一般人にはつらい時代でもある。

眼を背けてハーモニープログラムに逃げたくなるのもわかるという物であるが。

一度受けたが最後、それは自分自身の人間性を捨てるという事に他ならない。

 

「そこをどけニャルラトホテプ」

 

達哉がアポロを召喚し、鯉口を切る。

システムの事はよくわかった。

要するにこのシステムが時代を歪ませている元凶の一つなんだろうと思い。

破壊を決意する。

 

『やめろ達哉!!』

 

それを制止したのはアマネだった。

 

「なぜです、アマネさん」

『今ここでシステムを破壊すれば、アトランティスの住人が全員死ぬぞ!!』

「さすがは元米国非正規特殊作戦群タスク404の長、システムをよく理解しているね」

『黙れ、貴様、破壊した後で事実を告げるつもりだったな?』

「問題ないでしょう? なんせ特異点を直せば全員戻ってくるんだもの。気兼ねなく殺してもチャラなんでしょう?」

『それはそうだが・・・』

「アマネ、住人が全員死ぬってどういうこと?」

『先も話したSOPシステムの欠陥だよ、所長、なんやらかの形でシステム化から離れると、今までナノマシンコントロールしていたストレスや恐怖や後悔がぶりかえして。良くてPTSD発症、悪くて廃人だ。SOPより強力なナノマシンを使っている以上、もしシステムが停止したら・・・』

「―――――――」

 

そうハーモニープログラムで使われているナノマシンはSOPより数段凶悪な代物だ。

もしシステムを停止させれば火を見るよりも明らかである。

ストレスによる発狂からの自殺、最悪は脳の神経が切れてからの脳溢血まであり得るのだ。

加えて肌から感じる五感もコントロールしているとすれば、いきなり住人からすれば灼熱の砂漠か極寒の表土に叩きだされることと同意義である。

 

「まさか貴様、これを狙って選ばせるために!!」

 

孔明がミァハを睨みつければ、彼女はコロコロと嗤っている。

 

「いや施行初期ならそうはならなかったんだよ、でもね君たちは日数を掛け過ぎた。結果住人たちはシステムに慣れ切った訳だ」

「・・・っ」

「さぁ選びなよ、アトランティスの住人か人理か。誰がどう責任を背負うのかしら?」

 

クスクスとミァハが絶句する一同を嘲笑う中で。

達哉が鯉口を切る。覚悟は決まった後は背負うか否かだけだと苦渋の表情で決心し。

その肩を掴んで止めるものがいた。

シグルドだった。

 

「君はまだ若い、こんなものを背負う必要はない」

「しかし」

「だからこその我々がいるのだ。達哉。責任を背負うために」

 

そう大人としての役割を果たすために呼ばれてきたのではないかと。

故に達哉を制止し背負う覚悟をシグルドは決めた。

 

死がふたりを分断つまで(ブリュンヒルデロマンシア)

 

そして夫と重荷を分けて背負うという決心と共に。

ブリュンヒルデが宝具を発動、サーバーの外装をえぐり飛ばす。

そしてその中にはあらゆるコードにつながれた聖杯があった。

 

「シグルド!!」

「応!!」

 

そしてシグルドがすかさず右手を突っ込み聖杯を掴んで引き摺り出す。

コードがブチブチと引き千切れられ。

聖杯が完全に引き摺り出されると同時にサーバーが機能停止した。

 

「ふぅんそういう結果になるか、成長したね二人とも」

「貴様に言われても嬉しくないがな」

「次はアナタでしょうか、悪神」

「いいや私はここで一旦退場させてもらうよ、ポセイドンに君たちを通したことがバレたら事だからね、それじゃ次はポセイドンで会いましょう」

 

そういってミァハは霧のように消えていった。

それと同時にカルデアから通信が入る、ロマニだった。

 

『聞こえるかい、六人とも!! 湾口施設にミサイルが叩き込まれた。それと同時に膨大な魔力を沖の10km先に感知!! 反応とスキャン結果を言うとポセイドンだと思われる!!』

「船は無事なの!?」

『アントワネットが防いでくれたから安心して、君たちが其処から着くころには出航の準備が整っているはずだ』

「わかったわ、急ぎましょう」

「ですね、特異点最後の異物、ポセイドンを倒して」

「ええ人理を修繕するわ」

 

この特異点の異物は二つあった。ポセイドンのナノ技術と噂と黒幕の聖杯で具現化したハーモニープログラム。

そして野良聖杯を持ち、尚且つ噂によって真体を取り戻したポセイドンの二つだ。

6人は脱出する。

外はひどい惨状になっていった。

ナノマシン制御を失い、発狂して他者に襲い掛かるもの、首を吊るもの、刃物で自害する物に。

他人と殺しあうもの、皆理性が吹っ飛び地獄の様な様相を呈している。

 

「駆け抜けるぞ」

 

だがそれに付き合っている時間はない。

全員で一気に駆け抜けるぞと指示を達哉が飛ばし。

全員一斉に走り出す、孔明は純粋に身体スペックが低いのでシグルドに抱えてもらっていった。

そしてマシュはこの光景を見て思う。

ハーモニープログラムは人を殺すと、適応すれば争いこそないが意識を殺しテンプレートだけを行う人形に仕立て上げてしまう、笑顔が其処に合ってもそれは全くの偽物だと。

そして適応外になってしまえばストレスで自死だ。

笑えない冗句でもある。

更に怒りが沸いた、ミァハに対してだ。

もしシグルド夫妻が背負わなければ民を皆殺しにしたという責任を負わされていたかもしれないからだ。

状況を操作し、選ばなければならないを強要するニャルラトホテプに対し怒りがこみ上げる。

同時に何もできない自分に対する情けなさも出てきていた。

だって現状。こうやって苦しむ人々を見捨て、襲い掛かってきた奴は盾で殴り飛ばし、見捨てる。

 

―ああ、もっと力があるなら―

 

そう思っても仕方の無い事だった。

ドックに近づくと、船に残った全員がバリケードをヘクトールの指揮下の元作り上げて防衛線を張っていった。

黄金の鹿号には「愛すべき輝きは永遠に(クリスタル・パレス)」が張り巡らされている

ミサイルの直撃から守ったのは本当らしい。

 

「皆早く!!」

 

ヘクトールが腕を振るって6人を誘導。

6人がバリケードを超えたのち、陣地を放棄。

船に乗り込んで急いで出航する。

マリー・アントワネットは次弾が来ないのをカルデアに確認し「愛すべき輝きは永遠に(クリスタル・パレス)」を解除。

船がそれと同時に出向する。

 

『こちらカルデア観測班、8km地点に超大型の反応あり、迎撃準備されたし』

「オルガマリー了解、ダヴィンチ、石割機の準備は?」

『ちゃんをつけてくれ給えよ所長、準備は出来てるいつでも』

「タツヤ令呪準備、エミヤも固有結界の展開準備!」

「「了解」」

「他の面々は作戦会議通りの配置についていつでも乗り込めるようにして、じゃあいくわよぉ!!」

 

第三特異点の最後の攻防戦が始まる。

 

 

 




二回も文章が消し飛びかけたので焦った自動保存はありがたいですねほんと。


という訳で徐々に敵ネームドに通用しなくなってきたノヴァサイザー。
まぁニャル&閣下&四文字のネームド手駒は対策持ってるから仕方ないね。

ポセイドンの装備は独自設定です。
本作のカルデアはエミヤを酷使することによってポセイドンを座礁させる&障壁突破の手段があるので。
盛らせてもらいまいした。
モデルは言わずもかな空のACの方のシンファクシ級潜水空母です

ハーモニープログラムはまぁニャル的には黒幕さんの理論否定と第五異聞帯の否定のための予習ですね。
苦しむ航海時代の人間にプログラムの噂を流し広いめて黒幕聖杯とポセイドン技術を融合させて具現化させました。
優しいですねニャル様(白目)
あとがっつり用語としてSOPシステムも出したのですが今回っきりの一発裏設定なのですのであんまり気にしないでください。
型月世界の軍事の裏側じゃSOPシステムやマスキングシステムくらい実用化か試験運用されている可能性は高いです。
なんせ神の杖を実用化しているみたいですし。

という訳で次回から戦闘回が連続します。
マシュがブチギレする日も近くて作者の自分としてもわくわくすっぞ。
つまりどいう事かって?
シャドウによるマシュ虐めが入ります。
そこにニャルが煽りを入れてキレさせます。
そんでマシュシャドウが大暴れして
ポセイドンが巻き添え食ってひどい目に合います。



ここ最近結構早めの投稿が出来ていますが。
次回は脳みその中に虫が這いずっているような感覚が取れず。
多分遅くなると思いますご了承ください。


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十節 「波涛際の攻防」

よし今なら私の消えかかっているデータの再構築をッ!?

《ヒッサツ!! マッテローヨ!!》

待て・・・待ってくれ!待つのだ、剛!偉大な私の頭脳をこの世から消してはならない!!

《イッテイーヨ!!》

剛!!
逝っていい・・・ッてさ・・・
待ってくれ! 剛! 待て・・・待つのだ! 落ち着け! やめろぉ! 止めろ、剛! ふ、うああ、あああ……うぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁ!!

《フルスロットル!!》

剛ぉぉおおおおおおおーッ!!
さよなら父さん、俺の未練・・・

仮面ライダードライブ46話「彼らはなぜ戦わなければならなかったのか」のより抜粋。



船に乗り込んで。混沌して崩落するアトランティスから脱出後。

面々は早々にポセイドンを相手にするという無茶ぶりだった。

 

I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

 

エミヤはタイミングを合わせるかのように詠唱を開始する。

ポセイドンとの接触まで残り2kmだが。

ポセイドンが一度勢いをつけて飛んだ。

 

Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で 心は硝子)

 

大きさはアマネの開示した大型潜水空母の何倍もある。

伊達に元宇宙戦艦やっていたわけではないのだ。

そんな巨体が飛び、再び落着する。

それだけで対軍、対都市レベルの宝具の範囲を生み出す大津波を生み出す。

 

「タツヤ! シグルド! 合体宝具行くわよ!!」

「「了解!!」」

「圧迫、浮遊、詠唱省略! ペルソナァ!! シュレディンガー!! ヴォイドザッパー!!」

「ペルソナ!! サタン!! 光子砲!!」

「絶技用意。太陽の魔剣よ、その身で破壊を巻き起こせ壊劫の天輪(ベルヴェルクグラム)!」

 

グラムの最大起動及びオルガマリーのシュレディンガーの最大技&達哉の手持ち最強クラスの火力。

それらを魔力同調させ高度に融合、合体宝具として起動する。

 

「「「嵐を穿て壊劫の天輪(ストームブレイクベルヴェルクグラム)!!」」」

 

そして炸裂する光一条は津波を消し飛ばし地平線上の嵐をも穿った。

されどポセイドンには直撃せず。

ポセイドンは潜行することによって回避したのである。

 

「後を考えるとそう何発も撃てんぞ!!」

 

シグルドが叫ぶ。

合体宝具は威力は凄まじい分。燃費が極悪だ。

魔力供給しているカルデアの負担にもなるし、加えてペルソナを行使する側にも負担は掛かる。

撃ててよくて2,3発程度だ。

ポセイドン本体に直撃させれば潜水は不可能にできるくらいの穴は開けられるだろうが。

とにかく状況が状況だ。

急いでポセイドンを座礁させないと此方が沈むと全員理解したのである。

水中VLS発射なんかされたらもうたまらない

 

「ええい! わかってるわ、エミヤ、詠唱早くして!!もしくは省略できないの!?」

「出来ればやっている!! もう少し待て!!I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

「カルデァ!!こっちにポセイドンの位置情報回せ!!」

 

場は混沌となる。

オルガマリーが無理難題をエミヤに言いながら。イアソンは必死こいて操舵しつつ契約時につないだカルデアとの音声通信に向かって。

位置情報を寄越せと叫ぶ。

体当たりされたら終了なのだ。

当たり前の事である。

 

Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく)Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)

 

とにかくエミヤが詠唱を終えるまでが勝負だ。

何時も似まして全力の早口で唱えるが神代の高速詠唱には及ばない。

イアソンは必死にカルデアから伝えられる位置情報を基に右に左に舵を切ってマストに風を乗せ。

ポセイドンの体当たりを回避。

その都度起きる大波に達哉たちは対処を強いられる。

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイボルク)!!」

 

クーフーリンも抉り穿つ鏖殺の槍を使い波を穿ち叩き割る。

さすがはケルト版ヘラクレスである。

だが抉り穿つ鏖殺の槍は身体の損壊をガン無視する投擲方だと何度も語ってきた通り。

カルデアや達哉やマリー・アントワネットの支援下にあるからこそ使える代物だ。

自爆技である以上、何発も連射を想定していない。

船が揺れマリー・アントワネットも必死で各方面を支援している。

アステリオスなんかマストの操作で汗だくだ。

 

Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)Yet,those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味はなく)

 

詠唱も次の節で終わりだ。

イアソンが舵を切って浮上するポセイドンを回避。

連なる、大波をクーフーリンが相殺。

 

「今よ!!タツヤ、令呪全切り!!」

「了解!!」

「「我が同胞に令呪を以って命ず!! 結界でポセイドンを包み込め!! 第二の令呪を以って命じる結界の最大高度を維持せよ!! 第三の令呪を以って命ず!! 自分たちが脱出するまで結界を維持せよ!!」」

So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.(その体は、きっと剣で出来ていた)!!」

 

タイミングはばっちりという奴だった。

固有結界が展開、海原から無数の剣が突き刺さり歯車が空っを覆う荒野へと変貌する。

 

「着陸装置起動!!」

 

イアソンの掛け声とともに内部待機していたヘクトールがレバーを引っ張る。

すると船の両翼からランディング装置が出て荒野に姿勢を維持したまま着底。

 

「総員、突撃ぃ!!」

「オルガマリー!! 私は居残りでいいのだな!!」

「そうよ、エミヤやマリーを援護してやって!!」

 

アタランテは当初突入組だったがミサイルやら無人機の事もあって居残り組になった。

撃ち落とすにはアーチャークラスの力が必要だからである。

ダビデはアーチャークラスと言えど連射や長距離射撃ができるような宝具持ちではない。

アン・ボニー&メアリ・リードも同様だ。

 

「令呪を切ってもらってなんだがね結界維持は20分が限度だ。それ以上でも30分が限度だ」

 

そして無駄話している暇もない。

いくら令呪を切って聖晶石で持たせているとはいえ、維持限界はある。

エミヤ曰く20分が限度。それを超えると霊基が回路と一緒に崩壊しかねないとの事だった。

崩壊も込みで30分が限度。

達哉たちはバングルのタイマー機能を立ち上げ、時間を20分にセット。

各種機能も立ち上げ完了。カルデアのバックアップも十全だ。

 

『所長、メインコア手前に膨大な魔力量を検知。波形形状からしてサーヴァントと判断する』

「メインコアの前にボスってわけね」

「所長大丈夫か?」

「アンタのとこより大勢で一点突破だから大丈夫よ」

 

戦術リソースもポセイドンの先遣隊との交戦後入れ替えてある。

イアソンとアタランテは留守組に、宗矩はメインコア破壊組にだ。

クーフーリンには宝玉持たせて宝具を単独で打てるようにしてある。

準備は十全。あとはイレギュラーが起きないことを祈るばかり。

カルデアで召喚したサーヴァントをサモライザーに収め。

個々に目標ポイントと定めた地点へと突撃していく。

そのあとの事だった。

 

『ポセイドン、無人機射出及び弾道ミサイルの発射を確認、迎撃せよ』

 

アマネは淡々と事実を告げる。

ポセイドンのVLSハッチから弾道ミサイルと大量の無人機が射出されたことをだ。

もう作戦は始まっている、今更動揺したって仕方がない。

それにだ。

 

「アタランテぇ! 何とかしろぉ!!」

「分かっている!! だが嵐が無いのであれば・・・!」

 

今は固有結界の中。ほぼ無風である。

故にアタランテだけでも対処可能。

指の間に矢を挟み番え射出。次々と無人機と弾頭ミサイルを叩き落とす。

空に光と火球が灯る。

その間に達哉たちがポセイドンに接敵。

 

「ペルソナ! シュレディンガー!! ヴォイドザッパー!!」

 

障壁をオルガマリーのヴォイドザッパーが紙細工であるがごとく切り裂き突入口を切り開き全員がポセイドンに乗り込む。

 

「所長、そっちは任せたぞ!!」

「タツヤも死なないでね!!」

「心得ている、ペルソナ!! コウリュウ!!」

 

達哉はサモライザーに入らない現地勢をコウリュウに乗せ自身も跨り。

上部甲板へと飛んでいく、目的は四機のサブコアの破壊だ。

後部から乗り込むため後部サブコアを破壊した後、三手に分かれて残ったサブコアを全機破壊する手はずになっている。

そしてオルガマリーも達哉同様にサモライザーに収められるカルデア組のサーヴァントを収めて。

カルデアのサーチで発見したハッチをヴォイドザッパーで切り裂き内部に侵入する。

オルガマリーは閉所での戦闘が主になる。

コアユニット手前のボスかポセイドンがいる部屋まではそう多くは戦力を出せない。

なぜなら狭いからだ。

通常通路で大勢を出してもいい的だし同士討ちの危険性もある故にだ。

 

「アルテミスとエウリュアレにダビデは後方に控えて、エリザとアステリオスは中衛、3人を死ぬ気で守って、ヘクトールと黒髭は私と一緒に前衛よ」

 

アステリオスは前に出せなかった。

純粋に体格がデカい使ってる得物が得物なので味方を巻き込みかねないというのもある。

そして体格がデカいゆえに狗兵が出てきた場合いい的になりかねないのだ。

だったらサブコア破壊組に回せばいいと思うかもしれないだろうが。

純粋に積載量越えになってしまうため無理だったというのもあるが。

サーチ結果を見るに広場っぽい場所にボスが控えている。

対抗するにはアステリオスが必要だと判断したまで。

という訳で内部に潜入成功。

 

『内部サーチ完了したよ、礼装に地図表示するから参考にしてくれ』

 

ロマニから通信と同時に礼装に地図が転送されてくる。

外部スキャニングはすぐできるが内部は朧気だったのを、今正確にし終えたのだ。

敵の妨害がなくスキャニングできた。あるいはこれから妨害する前にできたのだろう。

珍しく前向きになれるスタートダッシュである。

と言っても敵の勢力に関してはまだ謎が多い。

狗兵は科学技術を使用しておりスキャニングの範囲外だからだ。

スキャニングの範囲に入ったのはコアユニット及びボスサーヴァントと思うべき存在だけ。

狗兵がどこに潜んでいるかは分からない。

そして振動。

 

『達哉君たちが後部サブユニットを破壊、達哉君たちは作戦第二フェーズに移行したよ!』

 

盛大にぶちかましたのだろうか。

四つあるうちの一つを破壊、あとは三手に分かれての破壊を行う。

本来戦術において戦力分散は愚の骨頂と本作では何度も描いたが。

そうしなきゃ勝てない敵の戦力だり。強制分散なんてされてきた。

今回は時間がない、エミヤが固有結界を展開していられる時間は20分。

退去覚悟で魔力をドカ食いして30分なのだ。

エミヤの退場はまだ認められない、まだやってもらわねばならぬことがたくさん残っている。

故にエミヤを使い潰すのはNGだ。

実質20分。だからこそ戦力分散をしてでも短期間での攻略が必要となる。

一丸となって、メインコア、サブコアを破壊して回っている時間はない。

だからこその戦力分散による同時襲撃しか手がなかった訳で。

 

「いっつも、戦力分散してるわね。偶には戦力集中して一気に敵をなぎ倒したい」

「エリザ殿からは、聞いてきたでござるがな、そういっている暇はなさそうですぞ」

「げぇ・・・狗兵、連中、ハーモニープログラムの停止で全滅したんじゃ・・・」

「オジサン的に考察すると。やっこさん、別システムの系統なんじゃないかなぁ、ハーモニープログラムと違ってポセイドンが管轄するシステム下にあるんじゃないかと思う」

「まぁいいわ、手品は割れているしね」

 

オルガマリーの愚痴をしている間に向う通路から狗兵が殺到してきて。

それをティーチが指摘。

オルガマリー的にはハーモニープログラムの停止に伴い全滅してたと思っていたが。

ヘクトールの考察通り。ポセイドン管轄下の別システムの施術を受けているのかピンピンとしている。

だが手品は割れているのだ。

凄まじい再生能力を持っているとはいえど頭部を破壊及び胴から分離すれば死ぬ。

つまり首を分断するか。頭部に弾丸叩き込めば死ぬのだ。

それに銃自体の衝撃までを無効化する訳もなく再生にラグがある。

 

「こうすれば文句ないでしょう!!」

 

全身を魔術で強化、同時に浮遊を掛けて壁と天井を足場に一気に駆け抜け。

右手のリペアラーで思いっきりぶん殴りぬけ相手の隊列に穴をあけ中衛に入る。

 

「シュレディンガー! ブレイブザッパー!!」

 

そのままシュレディンガーを召喚し大鎌を一閃複数体の狗兵の首を物理的に分離。

しゃがんで回避行動を取った相手にはリペアラーの銃口が向けられた。

さながら輪舞でもするかのように腕を動かし、ステップを踏んで体の位置を素早く入れ替えて。

最短で相手の頭を次々と撃ち抜いていく。

狗兵一匹が接近素早く足払いを掛けつつスピンしながら倒れかけている狗兵に加重の乗ったリペアラーのマズルスパイクを叩き込み頭蓋を粉砕する。

 

「リベリオン顔負けのガン=カタですな」

「そんなこと言ってないで私たちも前に出るわよ!!」

「マスターだけにまかせっきりなのもあれだしねぇ」

 

其処に前衛組が突入、即興で動きを合わせる。

普通ならば訓練しなければできないのだが彼らは英雄だ。

長年培ってきた戦闘経験による感の積み重ねがある。

合わせることはできた。

その時である、今度は後方より狗兵が接近。

オルガマリーが舌打ちし一旦右手のリペアラーを収めサモライザーを使おうとするが。

 

「ここはオジサンとアステリオス君で何とかするよ」

 

ヘクトールが言うなり。アステリオスと後衛が入れ替わっている。

アステリオスが巧みな槍裁きで次々と狗兵共を駆逐していた。

元々は才能のある子なのだ。

少し槍裁きをヘクトールが教えたが教えた分だけ覚えた。

本当に実に惜しい。まっとうに成長すれば大英雄くらいにはなれたと思いながら。

唯一アステリオスとの連携が効くヘクトールも後衛に入る。

 

戦場が狭い。だが狗兵は銃を使ってこなかった。

閉所での戦闘である跳弾が怖いと見える。

最もオルガマリーは自前の空間把握能力と魔術刻印及び回路による超速演算を使って跳弾ですら。

狗兵の顔面に叩き込むスーパープレイをしながら。

銃弾の雨を抜けてきた狗兵をシュレディンガーで薙ぎ払う。

その姿を見ていたサーヴァントたちも奮起する。

 

「狗兵ばっかで嫌にやるでござるよ」

 

されど相手が相手だ物量には疲弊する。

再生能力持ち、最新鋭装備、ムラマサコピー装備なのだ。

特にムラマサコピーが厄介だ、切り付けられた深さ分だけペルソナ能力及びスキルの発動を妨害する。

 

「オルガマリー、アンタのヴォイドザッパーで壁ぶち抜いて直進ってのはなし?!」

「アレ、そう何発も打てないのよ、精神力はチューニングソウルやらチャクラポッドがぶ飲みすればどうにかなるけど脳に直接負担がかかるみたいでね!!」

 

狗兵に飛び蹴りをかましそのまま両足で挟み込み体を回転。

無理やり相手を倒してそのまま倒れた相手の首を両足で固定してマウントポジションを確保。

左右のリペアラーのマズルスパイクを叩き込み頭部をミンチにしながら、オルガマリーはエリザベートの疑問に応じる。

確かにヴォイドザッパー連発して壁ぶち抜いてメインコアルームに行く方が効率的ではあるが。

他のペルソナスキルと違い。ヴォイドザッパーは何故かオルガマリーの脳に負荷が出る。

故に精神力回復剤のチューニングソウルやらチャクラポットをガン食い&がぶ飲みでゴリ押すことは不可能なのだ。

十発撃てば確実に昏倒できる自信があるくらいには頭痛が酷くなる。

閑話休題。

そんなこんなで。

誰一人欠けることなく、突破ボスルームに突入するとそこには。

 

「なんなのよアレ」

「・・・なんなのよってアレ、ヘラクレスじゃない!?」

「うそぉ!?」

 

広大な円形状の部屋だった。

まるでローマのコロッセオを彷彿とさせる部屋の中心には。

モノリスに縛りつけられ、無数のチューブが接続されたヘラクレスがいた。

もっとも。体格は数倍に肥大化しており側頭部からは一対の角が生え、全身の皮膚は赤くひび割れている。

 

「うそぉって言いたいのはこっちもよ、共闘したときはあんなんじゃなかったのに・・・」

 

カルデアが来る前にすでに共闘済みなのだ。

故にその異常さがわかる。

 

「奴はすでにわが手の内よ、故に奴の名はヘラクレスではない我が最強の使徒、メガロスである」

「アンタが・・・」

「そう我こそポセイドン、人を浄化し、真に救世する神である」

 

そしてその異常状態のヘラクレスを見ている間に。

一人の男、否、神が姿を現す。

ミケランジェロが作り上げた彫像の如く黄金比を体現したかのような肉体。

服装は腰布のみだが、それだけで他を圧倒する美があった。

放たれる神気も尋常ではない。

相手は全盛期のポセイドンそのものなのだから。

だが、オルガマリーだけは口を釣り上げ皮肉を返す。

 

「一地方の神がえらそうに言うな、それにあんなのはただの肉塊製造でしょ。お人形遊びがしたいなら他所を当たってくれるかしら?」

 

ポセイドンは海の神なれど地中海の神だ。

如何にオリュンポス十二神なれどその支配地域は広いように見えて実際は狭い。

それこそ信仰の具合でいえば窯の女神、ヘスティアに劣るだろう。

まぁそれは置いて置いてそんな限定的地域の神風情が人間語るなと皮肉交じりに返す。

人からあらゆる欲を排除すれば確かにニャルラトホテプの言う通り平和が生まれる。

だがそれをすればもはや人ではない、だとするなら人の望む平和とは何か?

それを探すのであれば人はなんであるかを探し問わねばならない。

故に現状、ポセイドンがニャルラトホテプの化身たるミァハに諭され行った行いは。

人から人であるかを取り除いた動く肉塊製造計画に他ならない。

オルガマリーから言わせればそんなの壮大な人形劇だ。

 

「だとするならば貴様は人間の本質は見えているのか?」

「間違いを指摘された革命家は極論に走る、私は人類に絶望も失望もしちゃいない、確かに愚かだけれど着実に前に進んでいる、今を一瞬で変える事より人類には時間が必要なのよ」

 

そう人類には時間が必要だ。

遠い旅路に血路になるだろう。

その果てに答えを見つけるだろうからだ。

だから今に絶望し急激な確変をもたらしたい革命家の類はデッドエンドな極論になることが多い。

そんな物認められるかという話である。

あくまでも極論は緊急時に置ける避難手段として用いるのが普通だ。

極論は文字通り極致でしか意味をなさない。

極論を極論で語るので有れば人類救済など必要ない、人類が滅びても星は廻る。

 

「今を変える方法はない。だから私、いえ違うわね、タツヤが相対したジャンヌ・オルタは全てを滅ぼしにかかっていった」

 

そうだから。あの彼女は全てを滅ぼしに掛かっていった。私怨と自身の思想に絶望したからだ。

そこに妥協はなかった。

そういった意味ではポセイドンより純粋だったのだろう彼女は。

 

「我が不純だと?」

「ええ不純よ、いい迷惑。どっか遠くでやっていて、いい迷惑なのよ、極論を振りかざしておきながら。ジャンヌ・オルタの様な自覚もない、ふざけるな」

 

どれだけ泣き叫んだのだろうか、ジャンヌ・オルタは。救いたくても救えず。奇跡は人に食い物にされ続けて絶望して。ここまで来てしまった。

結果純化されたのだ。皮肉にもほどがある。

第一だ。

 

「神名乗るくらいなら、人理焼却くらいどうにかして見せなさいよ!! 神なんでしょう!?」

 

そう神を語るのであれば人理焼却くらいどうにかできるだろうと。

 

「タツヤの絶望をなんとかしてよぉ!! マシュの苦悩をどうにかしてよぉ!!」

 

少女は叫ぶ。

二人の苦悩をどうにかしろと。

マシュは実は万全ではない、記憶処置が解けかかっていて苦悩している。

次双子と出会えば最悪の事が起きるとマシュの身の上を知らずとも予想できるがゆえに。

達哉は一生罪悪感に蝕まれる人生だ。

それは永劫許されぬ罪だ。全て忘れてしまえばよかったのに一人だけ忘れたくないと思ってしまったがゆえに世界を滅ぼしかけたのだから。

でも神を名乗るくらいならそれくらい解決できるだろうと、オルガマリーは叫ぶ。

なんせ神なのだからそれくらいは楽勝だろうと。

それも出来ぬなら”此処で終わってしまえ”とも思ってしまう。

本物の神なら達哉を許し元の世界に何の問題もなく帰すことができるはずだと。

本物の神ならマシュの苦悩をどうにかして日常に気することができるはずだと。

本物の神なら人理焼却という未曽有の大災害をどうにかできるはずだと。

オルガマリーは弾劾の言葉を涙流しながら走らせる。

だが返されるのは沈黙だけ。

 

ああそれでくだらない妥協案出して私たちの足跡を邪魔するというのなら。

嗚呼許せるはずがない。

 

「所詮は影風情に操られる一地方の神モドキか。なら・・・・」

 

オルガマリーの瞳に殺意が宿る。

 

「此処で死ねぇ!! 全員宝具展開!!合わせなさい!!」

 

仮にもオリュンポス十二神の一柱に弓引こうというのだ。

全力全開なのは当たり前の話である。

オルガマリーの気迫に押され、有無を言えず総員宝具やらペルソナを展開。

ヴォイドザッパーを起点とした合体宝具がポセイドンに炸裂する。

 

「くっ、貴様の大鎌、ハルペーレベルの物か!?」

「違うわよ腐れ神、ここで死ね」

 

指し物、ヴォイドザッパーを起点にした大ナタともいえる合体宝具の前にはポセイドンもなすすべもなかった。

一撃で致命傷寸前まで行った。

此処までしないと致命傷にならないポセイドンがすごいのか。

逆に神を致命傷に追い込めるオルガマリーが凄まじいのか。

まぁ今はどちらでもいい。

ポセイドンは追い込まれつつあった。

すでにオルガマリーは間合いに入っている。

速さを競えば間違いなくオルガマリーに分がある。

如何に神とは言えど武を磨いているわけではない、悪く行ってしまえば力でのゴリ押ししかできないのだ。

故に古今東西の英雄に現代の英雄に殺しの技術を仕込まれたオルガマリーに技の速さで劣ってしまうのは心理である。

シュレディンガーがオルガマリーの背後に出現しヴォイドザッパーを構える。

リペアラーの二丁の銃口がポセイドンの霊核に向けられる。

最も相手の本体はメインコアだろうと当たりをつけているので。

此処での殺傷は無意味とオルガマリーは思っているが。生かしておいてもそれはそれで厄介事になりそうなのでキッチリ殺す気であった。

だが・・・

 

「メガァロォス!!」

「!?」

 

ポセイドンがメガロスを起動させる。

その瞬間。リペアラーの引き金を引きヴォイドザッパーを叩き込んだのだが。

其処は腐っても神か。一瞬の隙ををついて致命傷だけは回避。

瞬時に転移で逃げ切って見せる。

そして走るメガロスの一撃、達哉クラスのペルソナ使いで尚且つ物理無効でも持ってなければ即座にミンチだ。

 

「セクハラ御免!!」

 

だがそこをティーチがフォローする。

即座に駆け抜けぬけて、オルガマリーを抱きかかえ。

飛びぬけてオルガマリーを安置まで移動する。

 

「黒髭もさっさと退避して、イアソン!! ヘラクレスの宝具の詳細知ってるんでしょ?!」

 

それでも追撃が走る。

オルガマリーを押し倒す形式になっていったが。

このままダラダラとしているとヘラクレスことメガロスに殺されかけない。

ティーチは即座にその場を飛びのき。

オルガマリーは自身の身を横転させ。メガロスの唐竹割を回避する。

そして瞬時にサーヴァントたちの援護が入り。

オルガマリーはイアソンに通信を入れた。

イアソンなら宝具の詳細を知っているだろうからだ。

 

『バーサーカーのあいつの宝具は十二の試練(ゴッドハンド)だ!! 簡潔に言うと十二回蘇生&B以下クラスの攻撃をシャットアウト、死ぬたびに耐性が付く!』

「なにそれ。反則も良いところじゃない!?」

 

聞いた時点で目が眩んだ。

十二回殺さないといけない上に、耐性まで付くんだってんだからふざけるなと言うほかない。

第一現状ナノマシンによる理性が狂化のスキルアップにより完全蒸発。

それで強化された肉体で暴れまわっているのだ。

ここまでくると懐に入れるのは手持ちだと宗矩及び書文くらいなものである。

 

「双子はどうやってお遊び感覚で殺しきるまで行ったのよ」

『それがわかれば苦労しねぇ!!』

 

普通なら無理難題。

だが双子は貫通スキルを持っている。

ぶっちゃけバーサーカーヘラクレスは鴨だった。

十二の試練の概念防御&耐性付与を一方的に無視できるのだから。

そんなことは知らない一同は一気に窮地に追い込まれていた。

 

『だが容量以上のダメージを与えれば、複数の命は吹き飛ばせるはずだ』

 

イアソンはそうは言うができれば楽ではない。

何度も言う通りメガロスに突っ込む事態が無謀の極みだった。

 

「それなら私が何とかするわ」

 

言い出すのはアルテミスだった。

弓に番えるのは膨大な魔力量を含む紫電の矢。

 

「と言ってもチャージングが必要だから発動に時間がかかるのよね」

「何分!!」

「3分ほど!!」

 

3分、だがメガロス相手には長すぎる時間だ。

加えて膨大な魔力を感知されて躱されたらたまったものではない。

 

「聞いておくけど、一発撃ったらガス欠とかいうオチはないわよね?」

「・・・ぶっちゃけ今の霊基で一発撃ったらガス欠で退場するかも、最低でも動けなくなる」

 

そこでさらに本人からの追い打ち一発撃ったら退場か動けなくなるという。

だがやらねばならない。

 

「ダビデ」

「なんだいっ!?」

「最悪、箱も使うわ準備よろしく」

「そんな無茶苦茶な」

「無茶でもやるしかないのよ」

「コアユニットはどうするんだい?」

「そんときは合体宝具でどうにかするわよ!!」

 

それでも間に合わない場合、契約の箱を使うしかない。

それだけ強敵なのだメガロスは。

もうメインコアはその場に合わせてヤケクソ合体宝具かヴォイドザッパーでどうにかするほかない。

そう叫びながら力任せの一撃の嵐を掻い潜りつつそう叫び。

一旦リペアラーを腰のホルスターに戻し。

サモライザーを引き抜く。

 

「コール!! 宗矩!! 書文!!」

「やっと出番かと思えば・・・」

「これは骨が折れる」

 

指し物武錬の極みにいる二人もお手上げな様子だった。

 

「攻撃は凌げるが、突撃はどうしようもありませんぞ」

「しかり、氾濫する川に飛び込むようなものだ」

 

そういいながら二人は別々のやり方で真っ向からメガロスの攻撃を弾いて逸らす事を行う。

もう何言ってんだお前という奴である。

 

「やっぱおかしいでござるよ、あの二人」

 

これにはティーチもドン引きだが、オルガマリーは別の様相に見えていた。

 

「いえ紙一重よ、天秤が傾いたら藁家のように吹き飛ばされる」

 

そう紙一重のところで済んでいた。

防御に徹しているからこそ、凌げているだけで攻撃に転じられない。

さらに言えばもし力ずくに突破なんてされようもんなら突破される。

 

「とにかく後二分、効こうが効かまいが、宝具使って足止めよ!! まずヘクトール!!、第一と第二の順にブチかまして!道は彼らが切り開く!」

「まかされて!!」

 

ヘクトール突撃。魔力装填、カルデアからの供給開始

 

『石割機行くよ!! 衝撃すごいから、注意して』

 

ダヴィンチが警告。

それにヘクトールは了承。第一宝具を展開。

メガロスは目標をアルテミスからヘクトールに変更。

 

「「させぬ!!」」

 

だがヘクトールに向いた攻撃を書文と宗矩が軌道を逸らしてヘクトールの攻撃ルートをこじ開ける。

 

不毀の極剣(ドゥリンダナ・スパーダ)ァ」

 

炸裂する輝く剣、のちにデュランダルと呼ばれる伝説の名剣にふさわしい切れ味を発揮する。

それは突き出されヘラクレスの心臓を穿った。

 

「これで一回、三人とも一時後退、ブチかませエリザ!!」

「了解!! マイクセット!! スピーカーメイデン最大展開!! ボリュームマックス!!破城魔嬢(ハウリングエルジェーベト)!!」

 

空中に呼びされていたアイアンメイデンから衝撃波となって彼女の声が射出。

ランクがB+だったのでメガロスを一回殺傷させつつ一瞬気を飛ばし。遅延させる。これで二つ

だがそれも一瞬の事。

即座に起き上がり耐性をてアルテミスの元に向かおうとするが。

 

「やれやれヘラクレスの旦那、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ。標的確認、方位角固定――不毀の極槍(ドゥリンダナ・ピルム)』!!――吹き飛びなァ!!」

 

ヘクトールの右の籠手とドゥリンダナが変形。

籠手から火が吹き上げジェット噴射。ドゥリンダナは柄が伸び槍に。

そしてそれが射出される。

槍の名手たるヘクトールの投擲だ。

ランクAーであるメガロスの十二の試練を貫通し胸元を穿ちふっ飛ばしアルテミスとの距離を開かせる。

これで三つ。

オルガマリーはこれだけやってまだ三つと言う事実に気が遠くなった。

アルテミスが番える矢はいまだに魔力が増大中、聖晶石数個分にカルデアの魔力、オルガマリーの魔力を回してもチャージがまだ終わらない。

さすがはサーヴァント化してオリオンの霊基を間借りしているにもかかわらずそこは神霊と言うべきか。

 

「アステリオス、構えて。私も出るわ。危機察知能力でアルテミスに突撃しかねない!!」

「わかった!!」

「エウリュアレは援護!! その歌声で鼓舞して、なんか攻撃上昇効果があるみたいだし」

「わかったわ」

「私わぁ!?」

「エリザは私と一緒にカミカゼバンザイよ!!」

「ひーん、やってやる!! やってやるわよぉ!!」

 

もうヤケクソだ。アルテミスに一点賭けも良いところ。

予備プランもあるが、ここは意地でも押さえておきたいところなのだ。

残り一分。時間が長く感じる。

その間に。

 

「柳生新陰流奥義――――鎧通し」

 

なんと宗矩が兜割の変形系、鎧通しでメガロスの命を一つ奪っていった。

その切っ先、メガロスの心臓を穿つ。

ランクはないのだが因果破断レベルの突きには加護も無意味に等しい。

と言っても離脱も含めての一撃だったので奇跡的に通ったに過ぎないのだが。

これで四つ。

即座に蘇生したメガロスが宗矩を狙うが、振り下ろされる一撃を前に何とか剣を引き抜き離脱。

だが、躱しきれなかったのか宗矩の額から血筋が流れる。

あと一刹那遅かったら真っ二つも良いところだ。

だが気がそれた。それで十分。

 

「七孔噴血……撒き死ねい!!」

 

書文が背後に回り无二打を放つ。

防御無視の一撃だ。ただ相手はメガロス、心臓が破裂する程度で終わる。

だがこれれで一回殺した。これで5つ。

これだけやってもあと七回は殺さないという事に気が遠くなる。

 

「チャージ完了!! こっちはいつでも!!」

「アステリオス!! ティーチ!!」

「わかった!!」

「心得たぜ、ドリルクロヒゲ!!暗黒黒髭伝説!!」

 

アステリオスが全力で槍斧を振るい。 

ティーチが自身の最大級のペルソナ能力を使い。

メガロスに一瞬ではあるが足止めを慣行。

鑪を踏んだメガロスを確認し離脱。

同時に。

 

「ダーリン耐えてね!!」

「やってやるさ!!」

「「汝、星を穿つ黄金(シューティングスター・オルテュギュアー)!!」」

 

かつての神の審判の光。

もっとも霊基がサーヴァントクラスまで落とされているため威力はかつて物ほどではないが。

メガロスを滅殺できる威力は誇っていた。

炸裂する極光。

それは部屋の壁すらぶち抜き。何層にもわたってポセイドンの体内を貫いた。

光が止み、煙が晴れていく。

 

「やったのかしら」

「これでやってなかったら打つ手なしだよマスター」

 

急き込みつつやったのかと思いながらオルガマリーは身を起こしつつ言う。

同時にダビデはこれでやってなかったらどんな理不尽だと言う。

 

「あのぅ、場にそぐわないですからあまり言いたくないでござるが、フラグ立てるのやめた方が良いかと」

 

そして振動

 

「なにがあった?!」

『オルガマリー、もう20分過ぎたよ!! エミヤが限界だからこっちで固有結界停止させた。サブコアも達哉君たち担当の残り一つだから急いでメインコアの破壊を!!』

「もうそんな時間って―――――」

 

「■■■■■―――――――――――!!」

 

メガロスは生きていた。

普段のヘラクレスなら死んでいただろうが。

ナノマシンで純粋に強化されているメガロスは死ななかった。

時間もないのにまだくたばらないのかと内心悪態をオルガマリーが付く。

 

「まずい、アルテミスを「いいよ」!?」

 

先ほどの真名解放で霊基に想定以上の負荷をかけたことで動けなくなったアルテミス。

それに向かって怒り心頭で向かうメガロス。

全員にフォローをと叫びかけたオルガマリーにアルテミスはもういいと言い。

斧剣が振り下ろされ。

 

「げほ・・・下手に神様やってると、死にきれないなぁ」

 

それでもアルテミスは生きていた。

最も体はぐちゃぐちゃだ。

如何しなくても退場は確定だろう。

だが怒り狂っているメガロスは今度は外しはしないと斧剣を振り上げ。

 

「だから、あとをお願いダーリン」

「ああ任せておけ」

 

アルテミスは霊基を生贄とした英霊召喚を行う。

そこで入れ替わるように。新たなサーヴァントが出現した。

いや、本来の姿に戻ったというべきだろうか。

アルテミスが消え筋骨隆々な男が出現する。

即ちオリオン、狩りにおいて右に出るものはいないとされ超人的筋力を持つ存在だ。

それはメガロスの攻撃を両手で白羽取りし。

 

「テメェ、人の女に手ぇだしてただで済むなと思うなよッ!!」

 

メガロスを殴り飛ばした。

その意図するところを理解したオルガマリーは即座にリペアラーを構えなおし。

 

「総員突撃!! ダビデ、私たち全員でメガロスを押さえつけるからアンタはメガロスの直上に飛んで箱を落として!!」

「ええ」

「やれったらやれ!! アルテミスの一撃で葬れなかった以上、時間もないしそれしか手段がないのよ!!」

 

もうこうなったらヤケクソだと言わんばかりであるが、

勝算は十分にある。

メガロスをオリオンとアステリオスが組み伏せ。

宗矩が兜割で足の健を断ち。エリザベートがアイアンメイデンで押し付けて。

ヘクトールが剣をメガロスの右腕に突き刺し完全拘束。

そしてダビデが跳躍。

 

「その『聖櫃』にゆめ触れるべからず。祭司にあらざる者、レビの名を持たざる者は死の贄を覚悟せよ。されば其は智天使の護りし十戒。シナイの頂において賜りし信仰の証ならば。来たれ――契約の箱(アーク)

 

そしてメガロスの上に契約の箱が転移する。

同時に全員離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ我が仮想体が此処まで破壊されるとは!!」

 

ポセイドンはメインコア内に戻り悪態を吐いていた。

アバターの修復が一行に収まる気配がない。

だが同時に相手の固有結界の展開も切れた。甲板上で暴れまわっている連中も水中に潜れば一掃できると考え。

コアルームの扉が引き裂かれ蹴り破られた。

 

「なっ」

「良い様ね。ポセイドン」

 

シュレディンガーを背後に出現させ、両手にはリペアラー、顔面は無表情だが怒りに染まり切っており眼孔がガン開きだ。

最も衣類はボロボロだったが。

同時に背後に現れるのは彼女が従えるサーヴァント軍団である。

無論、誰もかれもボロボロだった。

 

「防御兵器の類はなしね、詰みよ」

 

カツカツと音を立ててオルガマリーがメインコアに接近する。

がしかし防壁が起動する。

後は狗兵たちの到着を待てばとポセイドンは口を釣り上げ。

ヴォイドザッパーでいとも簡単に引き裂かれた。

オルガマリーはそれを一瞥し悠然とメインコアに近づいていく。

 

「待て、待つのだカルデア!! ここで偉大な私の実験を消してはならない!!」

「・・・その結論は決着ついてるでしょ、ただの動く肉塊生成で終わり、はい論破」

 

ポセイドンの口攻撃をオルガマリーは一蹴。

一歩一歩踏みしめるように近づいていく。

 

「我が息子よ!! お前ならば我が偉大な「分からないね、感想としては嬢ちゃんと一緒だ。親父殿」ッ――――――――――――!?」

 

さすがに今回の事は擁護できないとオリオンも一蹴する。

感想はオルガマリーと一緒だったし嫁であるアルテミスも無茶したのだ。

さすがのオリオンも腹に据えかねている。

 

「みんなは?」

 

オルガマリーが足を止めてサーヴァントの皆に問う。

返ってくるのは無言の頷き。皆オルガマリーの結論に賛成していた。

 

「だってさ。じゃぁもうアンタ逝っていいわよ。この腐れ神」

「待ってくれ! カルデア! 待て・・・待つのだ! 落ち着け! やめろぉ! 奴らを止めろ、オリオン! ふ、うああ、あああ……うぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁ!! カルデアァァァアアアアアアアアアア!!」

 

ポセイドンの命乞い虚しく。ヴォイドザッパーが乗った大鎌の一撃が。

まるで死神が命を刈り取るようにメインコア事両断した。

 

「さよなら、夢だけ高い夢想家さん」

 

そう吐き捨て撤退準備を始める。

出来る事なら達哉たちの援護に行きたいところだが。

この体力では離脱するだけで精いっぱいだ。

 

「オリオン、アンタ全員引っ張って泳げる?」

「ったりめーよ、狩人なめんなよ、あでもアステリオスは体格的に無理かも」

「アステリオス、アンタ泳げる?」

「ごめんちょっと無理」

「・・・おとなしく救助艇探しま」

 

救助艇を探そうと言いかけて。直後振動。

 

『おい、カルデア聞こえてるか!?』

「イアソン?! 外でなんかあったの!?」

『詳しいことは知らねぇが、ポセイドン前方のサブコア付近の空に巨大な光の剣が落着してポセイドンが割れた!! 急いで脱出しねぇと皆海の藻屑だぞ!!』

「なんですってぇ!? オリオン、悪いけど全員引っ張る準備して頂戴!!」

「まじでか!?」

「じゃないと全員死ぬ!! 全員とにかく外に出るわよ! イアソンは私たちの位置情報を基に船を待機させておいて!!」

『わかった!! 死ぬなよ!!』

「生きてやりたいことがあんのよ!! 全員全力で走るわよ!!」

 

パニック状態になりながらも全員に指示を出し。

急いで外に出るためのハッチへと向かう。

最悪泳ぐ準備をしていたが、救助艇があるハッチだった。

全員が飛び乗り、ポセイドンから離脱する。

 

「そういえば達哉たちは!? ロマニ、ダヴィンチ!!」

『反応は追えているし生きてはいるが完全に崩壊に飲み込まれたみたいで・・・この海流に乗って移動中だ』

「サーヴァントたちは?!」

『自力で泳いでそっちに向かってる!!』

「達哉たちを救助させなさいよ!!」

『この崩壊では無理だ!! 祈るしかない!!』

「くそぉ!!」

 

親友二人が死ぬかもしれない。

そんな状況でオルガマリーは手短なものに拳を叩きつける事しかできなかった。

嵐が晴れ太陽の光が入ってくる。

何とか崩壊から逃げれたクーフーリンやシグルドたちに八つ当たりするが。

それも無意味だと拳を下げた。

カルデアの管制室からは生きていると告げられ。

黄金の鹿号にくたくたのずぶ濡れになって乗り込んだ時に伝えられる。

 

『マシュと達哉君だが・・・』

「・・・」

『生きているよ!! 元アトランティスに漂着したみたいだ!!』

「ホント!?それ!?」

『ああ本当だ。近くの島だし海流が早くてそっちに漂着したみたいだ。もっとも意識はないみたいだけど』

「わかったわ、イアソン、アトランティスに戻って」

「はいはい、と言ってもすぐ着くぞ」

 

現在地域はアトランティスから5kmほど離れた場所だ。

すぐにつく。

だから上手く海流に乗れた二人はアトランティスに漂着したのだ。

だがしかし、二人が生き延びていたことに安堵しすっかり頭から抜け落ちていた。

異常が修復されればカルデアメンバーとサーヴァントたちは即座に退去なのだ。

つまり、まだ誰かが異常の原因を握っているという事。

その事実に照らし合わせるならミァハことニャルラトホテプが十中八九持っているであろう事実がすっぽり抜け落ちていた。

故に今、マシュは殺意に染まりその手を真っ赤に濡らさんとしていた。

 




人数が人数が多すぎる、回しきれねぇ!!
とまぁそんな愚痴は置いて置いてヘラクレス生きてました。
最もナノマシン注入されて精神汚染無効だろうが洗脳無効だろうが無視して洗脳する直接肉体に効果を発揮するナノマシン注入されて洗脳されてますけどね。
更に強化施術が加わってメガロス化。
十二の試練ありとかいうチート。


そしてポセイドン、オルガマリーにイッテイーヨされるの巻きでお送りしました。
救世主気取ったうえに全能気どりしてオルガマリーの逆鱗の上でタップダンスしたからちかたないね。
なお裏世界の本体のポセイドンはヘスティアやらゼウス筆頭にした神格連中にイッテイーヨされたのもちかたないね。
こんだけの事やらかしたんだから残当よ。アポロンからはロードローラー(神様専用)落されてます

次回はたっちゃん視点ででお送りします。

サブコア数え間違いだったので八節 「狗軍」に修正入れました。
あと第一章二十五節 「魔王の顎 人々の剣」でエリザベートの宝具名が間違っていたので修正しました。

後次回は遅れに遅れると思います、マウスのホイールドラッグが壊れたせいでスクロールに苦戦しまくってますはい。
予備も半月で破損、なんで一年に一回は壊れるのか・・・
それも狙ってホイールドラッグだけ、なぜだ。




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十一節 「根絶の裁剣」

だいぶ前、太陽系に来たことがある。 その時は、地球はまだ火の玉だった。
冥王星にだけ知的生物が生きていた。
我々の他に、そんな生物の生存は許せない。 根絶やしにしてやったよ。


ウルトラセブン 第19話『プロジェクト・ブルー』より抜粋。


歯車で覆いつくされた夕日の元。

達哉たちはポセイドンの後方甲板に着陸する。

 

「オールコール!」

 

そして着くなり達哉はサモライザーを抜き放ち、サーヴァントを呼び出す。

クーフーリン、シグルド夫妻、森長可が呼び出された。

 

「長可さんはクーフーリンとメアリとボニーで左舷を、シグルドとブリュンヒルデはすまないが二人で右舷のサブコアを破壊してくれ、先頭部は俺とマシュで破壊する」

「我が愛とならどんな敵も倒せる自信はあるが・・・マスターは火力が足りるのか?」

「そこはシヴァやサタンでどうにかする」

 

シグルドの言う通り、火力的に厳しいのは達哉組である。

なんせ最大火力がサタンかシヴァなのだから。

と言っても光子砲は下手な聖剣よりも火力はある、勝算は十分にあった。

 

「まぁそれは置いておいてだな」

 

クーフーリンが話題を変える。

目下の問題を目の前にしてのびのび雑談なんかしている暇すらありはしない。

 

「とにかく一度試してみよう、来いサタン!!」

 

なぜなら目の前に後方甲板のサブコアがあるからだ。

加えて近くのハッチから狗兵が出てきており。

甲板に特殊ワイヤーで固定されたXー3がワイヤーを切り離して動き始めているからだ。

だが貫通限界は調べておかねばなるまい。

万が一貫通し破壊できなかった場合のプランを出さなければならないからだ。

そこで達哉はサタンを呼びだしコンセレイト込みでの収束発射を行う。

それは一撃でサブコアの障壁を貫通し破壊した。

 

「総員、決められた割り当てで散開!! 時間も押している、一気に押し込むぞ」

 

このくらいなら破壊できるという目安ができた。

シグルドの宝具、クーフーリンの宝具で十二分に破壊できるとの証明だ。

故に全員決まった割り当ての編成で散開。

各々の目標に向かって走り出す。

だがしかし先ほども言った通り易々とはいかない。

狗兵とXー3が動き出した。

しかし。

 

「ヴィシュヌ!! メギドラオン!! オーディン!! 真理の雷!!」

 

ここは黄金の鹿号の上ではない。

ポセイドンの上なのだ。自嘲する理由がなく。

圧倒的火力で狗兵とXー3を達哉はねじ伏せていく。

無論、ペルソナチェンジの隙を狙い、達哉に銃口を向ける生き残りもいるが。

マシュが大盾で防ぎつつ前進。

大盾裏に装備されているハンドアックスで狗兵の頭をカチ割り。

大盾を使い鉄山靠を叩き込んでふっ飛ばす。

そこを達哉が刀で切るなり、ペルソナで高火力を叩き込み絶命させていく。

誤射すら気にする必要がないのだ。達哉、マシュの連携はそこまで徹底している。

故に駆け抜ける、狗兵たちはアポロの炎に焦がされ絶命し、Xー3はオーディンの雷に打たれ。

それでも抜けてきた者達はマシュの大盾やら崩拳にハンドアックスに達哉の刀術で駆逐されていった。

 

「先輩、前方にVLSハッチ確認です!!」

「潰すぞ、マリーさんやエミヤの負荷を軽減したい!!」

「了解です!!」

 

前方に開かれたVLSハッチ。

それはまさにミサイルを発射しようとしていた。

此処でこれを潰せるならエミヤたちにとって大いに負担軽減になると達哉は判断。

面ではなく点でヴィシュヌによるメギドラオンを炸裂させる。

それと同時にマシュが前に出て宝具を使用。

爆発と誘爆から達哉を守る。

ミサイルが爆発しVLSハッチは使い物にならなくなる。

しかしだ。

 

『どんだけ頑丈なんだ・・・』

 

アマネが溜息を吐く通常ならこれで大体の船やら潜水艦は吹っ飛ぶ。

だというのに、損傷はVLSハッチ程度の損傷で収められた。

次弾は発射機が壊された影響で発射できないであろうが。それでも船が真っ二つにならないのはおかしい強度である。

さすがは元宇宙戦艦と言ったところか。

 

「時間がない、進むぞ」

「了解です、先輩」

 

だからと言って贅沢は望めない。

残り10分時間が切っている。

もう半分も時間を使い切ったのだ。

これ以上はさすがに構っていられない。

最も遠くのサブコアの破壊が使命なのが達哉たちなのだから。

海水で濡れて滑るような甲板の上をこけない様に走り抜ける。

そして道中の狗兵やXー3を無慈悲に葬り。

先頭のサブコアについた先には。

 

「アハ♪ 遅かったね達哉おにーちゃん、マシュ姉ちゃん♪」

 

件の双子がいた。

すでに武装を展開している。

達哉は調整に調整を重ねたアポロにペルソナをシフトする。

此処からはほぼ、アポロでの戦闘になるからだ。

第二特異点で達哉が一時会得していた力、即ち貫通の力を二人から感じるゆえにだ。

下手にペルソナの各種耐性に頼ると、それごとぶった切られるか撃ち抜かれかねない。

故にここは絶対回避をある種約束してくれる時止めを持つアポロに固定するのは当然の事だった。

今のアポロはレベルが上がっており、上昇ステータスもサタンやヴィシュヌにシヴァ、メタトロンにも見劣りしていない。

スキルもゴッドハンド及びマハラギダインなどで物理、魔法耐性どちらにも対処できるのだ。

 

「もう・・・言葉は不要だろ・・・」

 

達哉はいつもの構えを取る。

脇の下段、宗矩には居合のほうがあっていると訓練はしているが今だには完成に至っておらず。

故に抜き身であるし何時もの構えを取るのだ。

戦場で付け焼刃を披露する程、達哉も馬鹿ではない。

そんな物、命のやり取りの場では何の役にも立たないことを知っている。

ジャンヌ・オルタ戦で披露した合撃もそうだったがノヴァサイザーでどうにかしたに過ぎない。

 

「違うよ達哉お兄ちゃん」

「そうそう、私たちはマシュお姉ちゃんに昔のお姉ちゃんに戻ってほしいだけ」

「何を言っている」

「達哉お兄ちゃんはしらないよねー」

「まぁ別世界から来た存在だしねー」

 

双子はそう言いつつケラケラと嗤う。

ただ自分たちはマシュが昔みたいに自分たちに優しくしてくれて遊んでくれる姉に戻ってほしいのだと。

 

「人修羅の兄様から聞いたけど。定期的に記憶を消すなんて酷いよー」

「え? 私はルシファーの小父様から聞いたけど、アン?」

「そうなの? シメ?」

 

人修羅やらルシファーやらなにをゴチャゴチャと言っていると達哉が敵に向かって走り出そうとして気づく。

マシュの様子がおかしいことに。

右手で頭を抱えて今にも蹲りそうに震えていた。

 

「マシュ?」

「だ、い、じょうぶ、で・・・うぅぅ」

 

マシュの脳裏にあふれ出る過去の記憶。

ロマニが彼女を救い出す以前、デミサーヴァント計画が動いていた時の記憶だ。

殺菌された大部屋、少しの娯楽、自分と似たような容姿をしている兄弟姉妹たち。

日を追うごとに人数は少なくなっていく。

そういった日常。

 

「くそ!! どういう事だ?!」

「アレー?達哉お兄ちゃんは、マシュお姉ちゃんの事聞かされてない?」

 

元より徹底的にデミサーヴァント計画はもみ消された。

当事者はマシュしかおらず適合以前の記憶もメンタルを強制安定させることと反乱分子が生まれることを防ぐために記憶の消去処置が施され。

マシュ自身も知らないことが多い。

だが双子はそういった処置を悪魔王直々に外しているから全て思い出している。

そしてニャルラトホテプの精神攻撃でそれが緩んでいる。

故に双子と接触したときから封印された記憶の扉が開きかけているのだ。

如何に魔術とて完全な記憶消去処置は不可能に近い。

何かしらの切っ掛けがあれば脳はバックアップしていた記憶を思い出せるのだから当たり前だ。

魔術+ナノマシンコントロールや薬物投与でもできればそうではないのだが。

英霊を降ろす以上、それはできない相談だったのである。

故にスティーブンは根幹から破綻しているとしたわけだったが。

それは聞き入れてもらえず。現状に至るという訳である。

根本から破綻寸前なのが今になって破綻する時が来ただけの話だ。

 

「じゃいくよ~!!」

 

シメオンが開戦の号砲を打ち鳴らす、射出されるグランドタック。

それをマシュが防ぐが精彩を欠いていた。

即座にマシュの後ろに回り込んでいたアンドレアがその刃を振り下ろす。

 

「ちぃ!!」

 

グランドタックで釘付けにされ動けぬマシュのフォローに達哉が入り。

刃を上手い事弾く。

アンドレアの刃は高周波ブレードだ。

真っ向から防ぐと得物事叩き切られない性能を所持している。

故に捌き弾く、出ないと如何に孫六であろとも物理法則的に真っ二つだ。

 

「ねぇーねぇー思い出してよ、一緒に絵本読んだじゃない」

「そうそう、絵も描いたよー」

「あっくぅ・・・」

「お前ら、いい加減しろ! アポロ!! マハラギダイン!!」

 

炎が渦を巻き二人を薙ぎ払おうとするが軽やかなステップで回避されてしまう。

そしてついにマシュが頭を両手で抱えて膝を付いた。

 

―マシュお姉ちゃん、この本読んでー―

―マシュお姉ちゃん、一緒にお絵かきしよう!―

 

脳裏によみがえるのは二人と過ごした日々だ。

だがある時を境に人が減っていく。

 

―No1からNo18まで駄目だったか―

―何がダメなのだろうか? 素体の要求スペックは満たしているぞ―

―それにスティーブン技術局長がダメ出しを入れている、何時まで素体を生成できるか―

―それだがマリスビリー曰く、現行の素体では問題があるとしてNo26以降の後期ロッドには強化施術を施すらしい―

 

 

偶然聞いた当時の会話。

すでに18人もの同胞が死んだことを表す言葉だった。

 

―な、No25?! 聞いていたのか?―

―慌てるな取り押さえろ、所詮は小娘だ保安部の連中に知られるわけにもいかんしな―

 

そしてそのまま記憶を処理され。

また無知な自分に戻る。

 

―マシュお姉ちゃんどうかしたの?―

―いつもと様子が違うよ―

 

周りにも心配され当時は困惑しつつも何とか自分を演じていた。

 

―また失敗するんじゃないか?―

―前期ロッドは彼女で最後だ。これで成功しなければな―

―後期ロッドがいるだろう?―

 

そして自分の番がくる。

研究者たちはそんなことを言いつつマシュを連れ。

召喚台に固定して行った。

 

―これより第二十五次英霊降霊実験を行う、各員持ち場に付く様に―

 

マリスビリーがそう宣言し実験が始まる。

マシュの中に降ろされた英霊は高潔だったが。

それでも自我の薄いマシュには耐えかねない精神的激痛が走った。

精神が燃やし尽くされてしまうと思ったところで。英霊はマシュの身体を使ってひと暴れしたのち。

何かしらの交渉をマリスビリーと交わした後。

マシュの心の奥へと引っ込んだのである。

その後は簡単だ。マシュに再度の記憶処置が施され。

デミサーヴァント計画は破棄され。

後期ロッドは全員破棄処分。

双子だけがひっそりと悪魔王に選ばれ極秘裏にアマラに救い上げられた。

事の顛末をロマニが知ったのは全てが終わってからこのとであった。

 

 

そして無色な日々を過ごし、外の世界にあこがれ。

 

―あ、じゃ自己紹介します!! 私はマシュ・キリエライト、ここの職員みたいなものをしています。よろしくお願いします、先輩!!―

―先輩?―

―はい、ええっと年上みたいですし、ダメですか?」

―いいや気にしない。それでだ。マシュ、適当に休めるところがないか。まだ意識がはっきりとしないんだ―

―あっ、じゃこっちです、休憩所がありますので―

 

あの日ついに少女は運命と出会った。

 

 

「マシュ!!」

 

そして意識が現実に引き戻される。

自分が夥しい死体の山の中から生まれてきたことを知ったことに混乱し。

現状が見えていなかった。

そう目の前に振り下ろされる刃。

かつて絵本を読み聞かせてやったり絵を描いたりしたかつての同胞は悍ましい笑みを浮かべて。

此方を殺傷してくるという現実を。

自身のオリジンを知り取り戻し。呆然となる。

それがあまりにも致命的で、達哉もシメオンに抑えられている以上致命的で。

死が迫って。

 

「こなくそ!!」

 

達哉に庇われた。

達哉は咄嗟に右腕でマシュを突き飛ばしたのだ。

 

「あっ」

 

空中に舞うは刀を握っている達哉の右腕。

血が一瞬遅れて噴射しながらくるくると回り。

看板上に落下しそのままポセイドンの下へと落ちていく。

 

「アムルタート!! メディラハン!!」

 

切断された上腕部から血が噴射するが即座にアムルタートを呼び出し傷を治癒する。

だが悪魔で傷口を完全封鎖し生命活動に問題がない様にしただけだ。

斬り飛ばされた腕があれば、即座に引っ付けて戦闘続行も可能だが。

生憎と腕事態がポセイドンの下に落下してしまった。

コレでは回収も出来ず、傷口をふさぐことしかできない。

更に状況が悪化、固有結界が解けて、再び嵐の海原へと戻ってきたのである。

 

「せ、先輩!!」

「俺の事は良い!! 自分の身を守ることに集中しろ!!」

「ですが!!」

「いいから!!」

「っ―――――――――」

 

達哉は上手く起き上がれない。

右腕の消失と共に体幹が崩れて無様に転げまわるだけだ。

マシュは泣きたい気持ちを抱えつつ実際半泣き状態で大盾を握りしめて立ち上がる。

 

「これでお邪魔虫はいなくなったねぇ」

「そうだねアンドレ、それじゃお姉ちゃん」

「「遊びましょ♪」」

「こっちは遊びでやってんじゃないんですよ!!」

 

オルテナウスのフレームが軋みを上げ駆動系ギアが咆哮する。

マシュと双子が走り歩み激突する。

パワーは上がっているが怒りに思考を支配されたマシュの動きは単調だった。

相手はあのバーサーカーヘラクレスに対応できる双子である。

パワーが上がった程度で対処できるような楽な相手ではない。

 

「クソクソォ!!」

「そんな棒振りじゃ当たらないよ!」

「棒振りじゃなくてこの場合盾振りだよシメ」

「そうかなぁ・・・そうかも、まっどっちでもいいか!!」

 

やることが悉く空回りし双子に翻弄される。

このままだとと思いながらも冷静さを取り戻せない。

これればかりは訓練でもどうにもしがたい。

実戦経験で覚えていくしかないのだから。

そして大振りになった盾を銃身で引っ掻けグランドタックを撃ち込もうとするシメオン。

咄嗟に身をよじって何とかするマシュ。

だがその隙をついて。

 

「はい、鬼神楽、どーん!!」

 

アンドレアが体当たりの鬼神楽をマシュの腹に叩き込む。

内臓にダメージ、多少の吐血と共にマシュの意識が飛び―――――闇に落ちた。

 

―私の祈りはこんなにも弱いのですか? 嗚呼力が欲しい―

 

そんなことを願いつつ闇に落ち。

闇に落ちた先で。

 

『それを実現できる力をあなたは持っているのに』

 

黄金の瞳になった私服姿のマシュが嘲笑っていた。

 

―あなたは―

 

『ああ私ですか? 我は影、真なる我、アナタの本音の部分ですよ』

 

もう一人のマシュはそう自己紹介する。

 

―あなたが私?―

 

『そうです。邪魔になる存在を問答無用でぶち殺したいと思っている本音の私です』

 

つまりマシュのシャドウ。

心の奥底に秘めている邪魔な者をぶち殺したいという排他的欲求そのものである。

 

―私はそんなことは思っていません!―

 

『嘘はいけないですねぇ。だって今だって思っているはずですよ、盾ではなく”剣”ならば戦力として活躍できたのにと』

 

―それは・・・―

 

シャドウのいう事は本当であった。

現に盾と言うのは殺傷兵器としては使いづらい。大盾なら猶更の事だ。

大盾より優れた武器なんていくらでも存在する。

 

『ね? そうでしょ? 皆を守れない盾よりも効率よく相手を殺した方が味方を守ることにつながる、本当は気づいているんでしょうもう一人の私』

 

戦闘や戦争においては如何に相手よりも攻撃目標を制圧するかが味方の損害規模にもつながる。

早く制圧すればするだけ味方の損害は減るのだ。

盾でチマチマ守っていることより当然の事。

だが。

 

『惑わされてはいけない』

 

其処に霧のようにあやふやな存在が出てくる。

ああこいつは私に卸された英霊なのだとマシュは直感した。

あやふやなのは自分の覚悟が出来ていないか。

あるいはと考え、騎士は言葉紡ぐ。

 

『これは悪魔の誘いだ。剣なんて一度握れば戻れなくなる』

『悪魔とはひどいですね、アナタもよっぽどですよ、ちゃっちゃと真名を告げてれば先輩を守れていたはずなのに・・・今更出てきて高尚な聖人ぶってるんじゃないですよ』

 

騎士の事を鼻先で笑い一蹴するシャドウ。

だがシャドウの言う通りでもある自ら名乗り出てさっさと霊基を定着させればこんなことにはならなかったと。

 

『そうすれば君自身の時間を削ることに『言い訳するな』ッ』

 

そうマシュには時間がない。

霊基を定着させ宝具を十全に使えれば使うほど時間を削ってしまう。

シャドウもそのことは百も承知。

だから鼻先で笑い飛ばせるのだ。

 

『もう一人の私もそう思うでしょう? 時間やら何やら気にしすぎて、守れなかったなんて笑い話を実現したくないでしょう? 只でさえもう一人の私は弱いんですからねぇ?』

 

―なにを根拠に?!―

 

『根拠なら沢山あるじゃないですか、第一ではマリーアントワネットを自爆させ、救助に向かうもニャルラトホテプに良い様に掌の上で転がされて先輩は死にかけて。第二では夢と気づかず夢に入り浸り、私が介入して強引に引きずり出さなきゃ、今でも棺桶の中だったし、オマケに所長が致命傷を負う事案じゃないですか、そして今回はさっさと知るか死ねしとけばよかったのに、故人に引っ張られて先輩の足を引っ張った挙句、右腕を犠牲に庇われる、それを無様と言わずして何というのです」

 

―あッ、あぁぁぁぁああああああああああああ!?―

 

そうここまでの総合点を見るにマシュは盾役として活躍できていない。

誰かが大怪我をする、あるいは致命傷込みで自爆特攻だ。

それを自覚し叫び嘆く、自分が何の役にも立っていないことに。

あれだけ盾役を自称しながらも滑稽な結果である

 

―私はぁ・・・私は・・・―

 

『さてその上で問いましょう、アナタの欲するものは”剣”ですか? ”盾”ですか?』

 

そうマシュの目の前にあるものは剣と盾。

シャドウは問う、何方を選ぶのかと。

本性の剣か、あるいは理性の盾か。

 

―私は――――――

 

マシュは思考を走らせる、ジャンヌ・オルタの殺意や技術、達哉が聖槍に貫かれた事、ネロの慟哭に、身を投げうってオルガマリーの示した愛。

そして今は、達哉の右腕が自身の過失で消失したこと。

だからこそ盾を担いで貝のように閉じこもっているだけではダメだ

 

『ダメだ!! その剣を手に取るな!!』

 

騎士は言う、剣を手に取るなと。

確かにそれは正しい、一度人を殺せば殺戮者か英雄の道を歩むことになるがゆえに。

だが騎士は真の意味でそれを理解していない。

もう盾でマシュは殴り倒しているのだ。

高尚で純白な心に眼を焼かれた騎士にはそれが理解できない。

失ってしまう恐怖をこの騎士は使命と自身に言い聞かせて目をそらして来たから。

故に少女が願うは。

 

―剣が欲しい―

 

そう剣と言う力を今は何よりも望んでいた。

だからよこせと言う、自身や相手に対する憤怒と殺意のままに。

ああ、あの時私はジャンヌ・オルタを否定したけれど。彼女も同様の気持ちだったのかと理解し。

今、この瞬間、マシュは力を欲する。

 

『アハハハハ!! もう遅かったみたいですね!! 騎士様!! いつまでも良い空気吸っているから私は私に染まった!!』

『――――――――――』

『そう睨まないでよ騎士様、それとも全員が奇麗なものを抱えてると思っていたのですか? だとすれば実に滑稽!! 白の反対は黒なんですよ? それを理解できずに人形のままくたばったのがアナタなのです』

 

騎士に自身の弱さに妥協したマシュをシャドウは嘲笑う

 

『―――――――――――!!』

 

騎士の姿が遠くなる、必死でマシュを止めようとしているが。

役立たずは邪魔だと言わんばかりに遠くに押し流されていく。

 

『そう喚かないでください、遠くもない未来、アナタも絶望しやらかす側なのですから、さて、もう一人の私』

 

―なんです?―

 

『少し”混ざって”あげましょう、私と私が相対するのは少し先の事ですけれど、先輩が死んでもらっては困りますものねぇ』

 

これは影を受け入れ克服したわけではない、理性と本性。

即ち本人とシャドウの利害が一致したことによって一時的に使用できるようになっただけだ。

そして理性と本性が混ざり合い、マシュの意識が浮上する。

遠くから必死に叫ぶ騎士を無視しながら。

彼女は殺意に染まり。鉄塊の様な剣を手に取った。

 

 

 

 

色々あって明かされた出自。

それはきっと奇跡だったのだろう。

だがその果てに積み上げられた犠牲はいかばかりか。

現代だってそうだ。

品種改良という名目であまり喚かないポメラニアンを作るのに。

一千頭以上の破棄処分という名の流血の上で商品が作られている。

故にありえないのだ。

マシュ・キリエライトという個体が生まれるまで屠殺された同胞がいないとは言わせない。

彼女が失敗すればと生み出されたスペアがいないとは言わせない。

マシュ・キリエライトは確かに失敗したが。彼女に乗り移った英霊はそれを許さなかった。

だから一定の成功例として彼女は生かされ後続の個体は屠殺された。

ニャルラトホテプと悪魔王の手によって引き上げられた二人以外は。

 

「ふはぁ」

 

そしてそんなこと知ったことではないという風に彼女は”混ざって”起き上がった。

心臓からアイビーとスノードロップを飾った杭が生えていた。

そして右手には持ち手の部分が鉄塊を刳り貫いて作った感もような漆黒の鉄塊が逆手に握られ。

背は骨格の様な鎧に覆われ右背から突き出た器官から片翼の光の翼を形成する。

マシュの右目が黄金色に変貌する

 

 

「え? え?」

「ハァ―――――――」

 

ランランと片目の瞳を黄金に輝かせながらマシュはため息交じりにアンドレアの大剣を漆黒の鉄塊で殴りつけるように受け止めかつ真ん中からへし折る。

その光景にアンドレアは呆然とし。

マシュはニヤリと嗤い。左腕でカウンターの崩拳をレバーブローのようにアンドレアの脇腹にねじり込む。

その技は完成されていた。

確実に相手の命を奪う行為であり普段のマシュからはあり得ない行動でもある。

今の彼女は彼女であって彼女ではない。

いわばシャドウが生存のために主人格変わって混ざりながら浮上してきた状態である。

故に完全な制御とはいかない。

だからこそ暴走しているのだ。

 

「―――――――」

 

吹っ飛び血反吐を吐きながらも頭部さえ破壊されなければ再生する能力を持つアンドレアだが。

今の一撃が重かった、打たれた場所の内臓は破裂し再生に時間を要する。

それまで動けない。

故に殺意の籠った声を吐き出しながらマシュが近づいて、その鉄塊を逆手に持ちアンドレアの首と胴を分離させて殺すべくだ。

 

「アン!!」

 

その様子を見たシメオンが銃撃してくる、吐き出されるグランドタック。

だがマシュはそれを冷静に見定め逆手に持った鉄塊で全てを叩き落とし平面で受ける。

そして瞬時に縮地を使って詰め寄って、鉄塊を逆手に持った右手でシメオンの左腕の銃身を思いっきり殴りつけ破壊する。

砕ける銃がバラバラになり鉄の破片が宙を舞った。

そのまま左足を軸に半反転「打開」を左腕を使って叩き込み肺などを破壊したのち。

それでもくたばらないという手ごたえ。

吹っ飛んで仰向けに倒れるシメオンは回復に手間取っているのか、数秒起きれないでいた。

マシュはそれを逃さず、シメオンとの間合いを詰め。

震脚の要領で右足でシメオンの胸元を踏み抜く。

心臓と肺に肋骨が完全粉砕され背骨も逝かれてしまうほどの踏み抜きだ。

もう少しマシュが完成度を上げていればマシュの足の大きさくらいの穴が開いていただろう。

だがそれでも生きている。

双子は人間ではない喰人と呼ばれる悪魔人間だ。

頭部を物理的に切り離すか完全破壊しなければ死ねない。

 

「―――――――」

 

マシュが殺意を滾らせ喉に狙いをつけて鉄塊を振り下ろす。

 

「うわぁぁぁああああ!!」

 

其処に恐慌状態のアンドレアが飛びかかってくる。

折れた刃を振り下ろすが。

いとも容易く、鉄塊で弾き飛ばしアンドレアをふっ飛ばす。

そして再生中のシメオンをいったん無視してアンドレアの方に疾駆。

 

「マシュ、これ以上は・・・」

 

右腕を切り飛ばされ体のバランスが取れずもがく様に這いつくばりながら。

マシュを止めようとする達哉だが。敵と味方の彼我の距離が小さい。

これでは誤射しかねずペルソナでの援護は不可能。

加えて近距離スキルも射程外だ。

手が出せない、つまり彼女の暴走を止められない。

故にどんどん殺意に染まっていき、やることが過激になっていく。

マシュは乱雑に振り回されるアンドレアの刃を鉄塊でパリィし。

左手でアンドレアの首を鷲掴みにして。強引にねじ切りにかかる。

 

「絞め殺す―――――――」

 

愉悦の表情と三日月状に口端を釣り上げマシュが笑いそう宣告する

只では殺さないと。

アンドレアの首を万力の如く締め上げる。

 

「アガ、ガッ、ガシュ・・・アガ・・・・」

 

ギチギチと音を立ててさらに首を締め上げられアンドレアは白目をむき泡を吹いている。

だがその瞬間、アンドレアの右腕が震えた。

マシュは咄嗟にアンドレアから手を放し身をよじる。

瞬間アンドレアの右腕から五本の小さな刃が出現しマシュを貫こうとしたが。

肝心の致命傷は避けられた、だが致命傷こそ避けられただけで心臓を避けて刃こそ刺さり。

マシュは吐血したものの。

 

「痛いですねぇ!!」

 

刃が刺さったまま鉄塊を斜め袈裟斬りに叩き込む。

身体の半ばまで切ったが力を入れ過ぎてそこで鉄塊からアンドレアの身体がすっぽ抜け。

そのまま一回バウンド。復帰したシメオンがアンドレアを受け止めて一旦後退。

刺さった刃はスペツナズナイフのような使い方もできるためかそのまま切り離され。

マシュの胸に突き刺さったままだったのだが。

彼女はそれを強引に引き抜く。

すると双子のようにとはいかないまでにしても傷口がふさがっていった。

鉄塊もまたペルソナである。その鉄塊の持つ大治癒促進で自動回復しているのである。

そして視界の先には怯えた双子が一組。

 

「――――殺しきる」

 

肺に溜まった血を吐き出しつつそう宣言する

もう生温い手は使わない。

自分自身の手の最大手で殺しきると思考し。

鉄塊を空に放り投げる。

生れてはじめてだった。

 

「クッ」

 

認識して心が黒く、黒く染まって堕ちて行く。

 

「アハッ」

 

元よりそこに合ったのだ。

周防達哉との契約による切っ掛けで。彼女は既にフィレモンと接触している。

情緒が育ち切っていないがゆえに。影は薄かった。

力は発揮されず。霊基と一体化したペルソナは出てくることが無かった。

だが。ジャンヌ・オルタの憎悪、ネロ・クラウディウスの慟哭。ニャルラトホテプの悪辣な奸計によって。

純白の少女は黒く染まり切った己を見る。

 

 

 

 

「まったく、フィレモンも酷いことをする」

 

クツクツと

ニャルラトホテプはポセイドンの管制室からそれを見て嗤う。

今の今までマシュは誤認されていたデミサーヴァントだと。

事実は違う、自身のペルソナと英霊の霊基を融合したデミサーヴァントモドキで厳密に言えば英雄の力を振るえるペルソナ使いだ。

 

「英霊の霊基とペルソナを融合し、出力を反転や世界と宇宙以外の既存システムを凌駕するペルソナ」

 

そう、反転領域や世界に踏み込まねば、威力や範囲はともかく宝具クラスの強度を出すのは不可能である。

現に達哉の出力は対軍などに匹敵するが。

概念的強度が足りないため、セイバークラスの防御系スキルやせめぎ合いには弱い。

宝具を打ち倒すことは不可能だ。

ジャンヌ・オルタは反転の領域を超えて魔人の領域にあったためあのような理不尽がなせた。

ネロはビーストの正規No持ちであったがゆえにペルソナシステムを使ってビーストが現出したからこそ成せただけ。

故にマシュの出力は異常だった。

 

「英雄の宝具の方向性を反転させ攻撃に転用する。絶対に殺すという殺意、人々が短いながら持つ影」

 

マシュの宿した英霊は守りに特化したタイプである。

その宝具の出力は心で変わる。

ああなるほど。これほど都合の良い物も早々ないなと。ニャルラトホテプは納得する。

結果。生まれたのは心で出力する剣。

殺意を強度に如何なるものを貫く不屈の刃。

 

「だがな、悲しいな。愚かしいな。本当にタダで済むと思っているのかな?」

 

殺意が純粋であればあるほど。そのスキルの強度は上がり続け、切れ味は増し続ける。

ニャルラトホテプが見ても。

ポセイドンの張る障壁を突破したうえで。

この真体を貫くには十分だ。

だがそれをやっておいてタダで済むかと言われれば別問題である。

ただでさえ強引につなぎ合わせているのに。そこにさらに押し売りの強引的改造だ。

当然ただで済むはずがない。

 

 

 

 

 

そして宙に放り投げられた鉄塊がはじけ飛ぶ。

厳密に言えば外装を外したという表現が正しいだろうか。

弾け飛んだ鉄塊の中から光る球体が出てきて。

マシュがそれに向かって手をかざすと剣の形へと変貌し、巨大化していく。

その大きさはマシュの殺意に準じて大きくなっていく。

所謂、限定的無限出力だ。心の力を彼女の殺意を倍加させ出力化する。

相手を殺したければ殺したいほど剣の出力は上がっていく。

 

 

 

 

                 「裁剣、抜剣」

 

 

 

 

剣を抜く

だがかかる負荷は偽装宝具/人理の壁(ロードカルデアス)の比ではない。

なぜならペルソナに目覚めた段階でアマラにおけるLvシステムを食い込ませられる。

MAGやマガツヒを媒介とする負荷の無い魂喰らいシステムが強制インストールさせられると思ってほしい。

オルガマリーはそれこそ生まれ的には、真っ当ではないものの人間的規範に沿う形で生み出されており。

インストールには問題はなかった。

だがマシュは違う。デミサーヴァント前提の身体として設計されたため根幹が違うのだ。

つまるところ、OSの違いゆえにオルガマリーと違いインストールされたソフトに対応できないのを強引に動かしている。

さらに体のいびつさゆえにペルソナが生み出す高負荷に耐えられないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

    「イノセントォ!! ダストォォオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

だが今のマシュこと表に出てきているマシュシャドウにとっては関係のないことだ。

自分の過負荷をガン無視して殺意を叩きつけるかのように掲げた右腕を双子に向かって振り下ろす。

その動作に連動して固形化寸前の超高出力エネルギーの剣の切っ先が落着。

一瞬にして双子を影もなく蒸発させ。

 

「アハハハハハハハハハ!」

「マシュ!! マシュ!!」

 

彼女の叫び笑いと共に足場にしているポセイドンすら貫き。

盤面が崩壊。

カルデアの面々はパニック状態だ。

なんせエミヤの固有結界はすでに切れており下は水面だ。

飲み込まれればどうなるか分かったもんじゃない。

メインコア、サブコア、双子を破壊したが聖杯を回収できていない。

まだ終わっていないのに、こんなに盛大に破壊したらレイシフトアウトも出来はしないがゆえに。

だからマシュを呼び止め回収しようとする達哉だが。

先ほども言ったとおり腕を斬り飛ばされ体感バランスが上手く取れず、すっころびもがくことしかできない。

彼の叫びもマシュと大嵐と崩壊の音に搔き消され飲まれていった。

 




マシュ大暴走回ですた。
同時に彼女の中の某騎士さんマシュのペルソナに取り込まれているの巻き。

そして、ニャル「真っ白な組織なんてこの世にはねぇーんだよ、バーカwwwwww」
マシュ(呆然)

案の定のカルデアブラックネタ、なおまたしても何も知らず頑張ってホワイト経営してたオルガマリーの図。
というか原作でマシュ周りのブラックネタなんでやらないんでしょうか、そういった試練と真実を受け入れてこそ成長と呼べるのに(頭ニャル)
まぁカルデアがブラックなのはオルガマリーが悪いわけではなくマリスビリーが全部悪いわけですけど。
現に原作でもヒステリックながらオルガマリーの方はホワイト経営しようと頑張っていたみたいですし。
これもそれもマリスビリーが悪いんだ!!(確信)

そしてマシュInシャドウ「防御ばっかりじゃ無くて攻撃に役立つ宝具寄越せや!!(右ストレート)」
某騎士さん「ホゲラァ!?」

現状だと攻め手がないせいでシメオンに抑え込まれ隙突かれてアンドレアの攻撃からマシュをたっちゃんが庇った結果右腕ポーンなわけだし。
そりゃ盾よりもたっちゃんと並び立てる剣の方を所望するよねって話。
あと某騎士さんが喚いていますが、大分前の正月特番アニメでやらかすことが示唆されている上に。

ニャルからの批評が「騎士とかいう人殺しを職業としていたくせに聖人とか何ほざいてんのwww」という評価ですね。

マシュのペルソナはジャンヌ・オルタと同様、カルタシスエフェクトタイプです。
某騎士さんが取り込まれたせいで超高出力化してます
実はこれニャルがやったんじゃなくてフィレがやりました。
新しいタイプの開拓と力の具象実験も兼ねて特異点Fに入るときに干渉しました。
特異点F第一話の冒頭のシーンですねはい。
で契約、覚醒した騎士さんは取り込まれマシュのペルソナとなったわけです。
皆デミサバだと思っていたら実はペルソナ使いになっていったでござる。
英霊の霊基も取り込んでいるからデミサバと誤認してしまったわけです。
マシュのペルソナはペルソナ+英霊霊基の複合品ですからある意味特別製ってわけですね
と言ってもまだ影や騎士さんと対峙してないから盾を中途半端にしか使えないし剣に至っては使えないというね
まぁ今回はシャドウがたっちゃんのピンチに、理性の私と喧嘩してる場合じゃねぇ!!って混じった結果。
限定的に後期ペルソナの剣と固有スキルを一時的に使える状態になったけです。
マシュシャドウもたっちゃん大好きですからね。
固有スキルも宝具と同じ性能です、暴走収まって自身の取り込んだ騎士さんと向き合えばロードキャメロットが使えます
まぁ、自由に使えるようになるのは第四以降のイベ特異点クリア後になりますけどね。
シャドウの使っていた鉄塊はいわゆる後期型になるのでシャドウと相対する上記と同じタイミングで使えるようになる予定です。
今回はシャドウの方が主導権を握っているため使えてるだけ。
鉄塊(仮)は逆手で握って殴るソル・バットガイの聖騎士時代の鉄塊がモチーフです。
固有スキルはロードキャメロットのキャノン砲版ことイノセントダスト
本人の殺意や決意が高まれば高まる程、出力が上昇する馬火力仕様ですね。はい。
やろうとおもえば某神星さんみたいなことも出来たりする。
ただし現状ではマシュの時間を削る諸刃の剣です




次回第三特異点終了となります。
マシュ個人の怒りが引きずり出されたおかけでまだ切れてます
具体的にはジャラジ戦レベルの五代レベルで切れる。
ロマニ&ダヴィンチ、所長に吊るしあげられる、鯖から不審な目で見られる回ですかね。

ペルソナらしくギスギスしてきたぞぉ。

最も元非正規特殊作戦群のアマネが見過ごすはずないですけどね。
戦闘員のギスギスで戦闘力が低下するのを見過ごすことはしません。


次回は構想はあるけれど、文字起こししてないので。すんごく遅れます!!
早めの更新は期待しないでね!!
定期生存報告はするんでそれで勘弁してつかーさい。

という訳で次回もよろしくおねがいします~ノシ


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第三章幕引き 「殺意の果ては荒野しかなく」

ぼくは、生まれて初めてマジに心の底から神様にお祈りした…
「どうか、このぼくに人殺しをさせてください」……と。

ジョジョの奇妙な冒険 第四部ダイヤモンドは砕けないより抜粋。


マシュが気づけば。

アトランティスの浜辺だった。

だが奇麗だった浜辺もハーモニープログラムの停止によって。

脳損傷を負って死んでいた住人の死体の山だった。

 

「先輩。先輩は・・・ゲホゲホ!!」

 

そして肺に入った海水を吐き出しながら。

周囲を見渡す。だが心配する必要はなかった。

達哉はすぐ近くに倒れていた。

どうやら海水を吐き出した後気絶したらしい。

今では規則正しく息をして倒れている。

良かったと思わず胸を撫でおろすマシュ

 

『マシュ! タツヤ! 二人とも応答して!!』

 

其処にレイライン通信が入る。オルガマリーからだった。

 

「所長? 無事だったんですか!?」

『なんとかね・・・、それにしてもマシュ、アレはなに?』

「アレは私にもよくわかりません・・・英霊の力なのか・・・別の力なのか」

『・・・そう、取りあえず状況を教えて』

「私は無事です、ですが私のせいで先輩の右腕が消失しました」

『出血とかは?』

「大丈夫です・・・自力で傷口部分をふさいだみたいですから」

『わかった・・・回収しに行くからちょっとまって「それでいいの?」!?」』

 

通信でそんなやり取りをしていると。

マシュの横隣にミァハが立っていた。

ケラケラと嗤いながら。

 

「まだ状況は変わっていないよ?」

 

彼女の右手には聖杯。

黒幕産ではなくポセイドンが手に入れた純正聖杯である。

それに生命の無意識下の悪意の化身が願いを込めればどうなるか火を見るよりも明らかだった。

ザッザッとマシュの脳裏にノイズ交じりに走る光景。

達哉の慟哭のシーンが再生される。

その時にすでにマシュの意識は怒りに支配されていた。

今度はシャドウではなく自分自身の意識で怒りを発露したのだ。

 

「さて次の試練はどうしましょう? ジョージ・オーウェルの1984年見たくしてしまいましょうか、フフフどれも楽し「うぁぁぁああああああ!!」アハ♪」

 

ミァハの挑発に返すは右手拳。

無論全力右ストレートだ。

ミァハはたたらを踏みつつも返すは笑みと嘲笑。

 

「なんだ。ファイトクラブがお望み?」

「黙れぇぇええええええええええ!!」

 

左レバーからの右フックのコンビネーション。

それをミァハはわざとまともに食らう。まるでお前では殺せないのだと言わんばかりに。

そのままマシュは、一歩間合いを詰めてCQCでミァハを張り倒しマウントポジションを取って。

我武者羅にミァハの顔面を殴りつける。

 

 

「ハァァァアアア!! ウァァァァアアアアア!」

「ウフフフフ」

 

それでもミァハは嗤うばかり。

滑稽で仕方ない、第一目標を忘れているぞと嘲笑っているのだ。

現に聖杯はまだミァハの手の中にあるし介護すべき達哉の事も忘れて殴りかかっている。

ミァハは横に回転し、マウントポジションから脱出。

すぐさまマシュから背を向けて立ち去ろうとする。

 

「逃がすかぁ!!」

「ハハハハハ!!」

 

滑稽、滑稽、滑稽、実に滑稽と嘲笑い。

挑発するかのように時折、ミァハは振り返り聖杯をこれ見よがしに見せつけ嗤いながら。

二人で追っかけっこの様相を呈する。

最もそれは美しくもなんともなく。

浜辺は死体だらけ。マシュは鬼のような形相で、ミァハはそれを指差して笑っている。

そしてマシュがミァハを捕まえては殴り。再びミァハが抜け出してを繰り返す。

マシュの脳裏には第三特異点まで犠牲になった人々の映像が流れていた。

無論、カルデアの爆発で亡くなった人たちの記憶も。

それが彼女の怒りを増大させる。

盾はいつでも呼べるが、それがすっ飛ぶほど今の彼女は怒り狂っている。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

だが怒りに身を任せ全力で殴り続けてきたのだ。体力が限界に来る。

 

「フフフ。もう終わり?」

「まだ、まだぁです!!」

「その割には息が切れているみたいだけれど。クスクス」

 

ミァハはそう言いつつ浅瀬に手を突っ込み何かを拾い上げた。

それは達哉の得物の孫六だった。

偶然にしては出来過ぎている。

そしてレイライン通信。

 

『こちら達哉、こっちは所長たちと合流した。マシュ! 何があったんだ!! 応答しろ!!』

 

達哉からだった。

オルガマリーと無事合流し意識が回復したが隣にいたマシュがいないことに驚き通信したのである。

もっとも通信を無視しマシュはミァハと相対していた。

 

「私を殺したい?」

 

ミァハは孫六をマシュのすぐ足元に投げる。

マシュは躊躇なく、地面に突き刺さり起立した孫六の柄を握りしめて見よう見まねで達哉と同様の型を取る。

 

「喜びなさいな、それで私を切った瞬間、お前が敬愛するあの男と一緒の人種になれる」

 

クスクスと嗤う。

まるで達哉が殺人者かの言いようだ。

だが真実そうだろう、彼は殺している。

其処にどんなお題目があろうがそうなのだ。

一人殺せば殺人者、10殺せば殺人鬼、100人殺せば英雄、自分以外全て殺せば神という奴である。

だが本質は変わらない、人を殺せば人殺しなのだ。

其処に区別はない。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 

だがそうなるまで追い込んだのはお前だろうと、マシュは怒り刀を振りかざす。

だが刀はただ振るえば斬れるという便利道具ではないのだ。

専門の技術が必要になる。

肉は断てて骨までは断てない。

中途半端な斬撃を食らいながらミァハは嘲笑うのをやめず無防備に受け止め言葉を紡ぐ。

 

「結局、君も自分のエゴで生きている! 自分の邪魔になるものを傷つけながら生きている一人間だ! 喜びなさいよ、君はどこまでも人間だと!!」

「だまれぇぇ!!」

 

人間らしく慣れたじゃないかと祝福するミァハと絶叫しながら黙れと無茶苦茶に剣を振るい斬殺さんとするマシュ。

ついにミァハが倒れる。

そしてマシュがミァハの上に立ち逆手で無茶な運用をしたため刃毀れし歪んだ刃になった孫六の切っ先をミァハの心臓部に向ける。

 

「これで分かったでしょう? 美しき世界なんてどこにもないと! 故にこの汚れた世界で生きあがきなさいな、でも忘れないで。アナタの手や顔、そして体に付いた血は決して消えはしない!!」

「うぉぁぁああああ!!」

 

そして孫六の切っ先がミァハの心臓を抉り背まで貫通する。

マシュの顔と体に返り血が付く。

そして目標は達したとばかりに、ミァハの右手から聖杯が滑り落ちた。

 

「フフフ・・・これがアナタの感情の起点、成長は始まったばかり。・・・・・また会いましょう・・・・」

 

そして事切れるミァハ。

ただただ呆然とマシュはそれを眺め。

 

「うぁ・・・」

 

両目から涙が溢れ出す。

何が何だか分からなかった。

怒りと悲しみがごちゃ混ぜになって涙が止まらない。

やってしまったという事実もある。

なぜなら死体は消えずそこに残っていたから。

 

「うわぁぁあアアアアアアアア―――ッ!?」

 

そしてやってきた事実を再度確認しマシュは泣き叫んだ。

 

「「マシュ!」」

 

其処に皆がやってくる、達哉とオルガマリーの叫びが聞こえてくる。

二人は心配そうにマシュに寄り添い。

クーフーリンが転がった聖杯を回収する。

そしてレイシフトアウトが開始された。

 

 

 

第三特異点 定礎復元完了

 

 

 

 

達哉、オルガマリーは早々に医療室に叩き込まれた。

オルガマリーは全身打ち身。

達哉は右腕消失という重症である。

現在ダヴィンチが達哉の新しい腕として万能細胞に達哉の遺伝子を組み込み前の腕と変わらない生体義手を作っているところだった。

今現在の前。

つまるところ一日前はそれどころじゃなかった。

ロマニが吊るしあげられたのだ。

 

「デミサーヴァント計画について全部話しなさい!! 何があったのかを今すぐここで全部、マシュの状態もね!!」

 

ロマニは壁際に追い詰められオルガマリーは右腕でロマニの首を壁と挟み込むように吊るしあげつつ圧迫し。左手にはリペアラーを握りしめて銃口をロマニの額に当てながら。

殺す気で吊るしあげていた。

サーヴァント全員が引きはがしに掛かるよりも速く。

アマネが動く。

 

「グッ・・・ハァ!?」

「少し頭冷やせ所長、ロマニを殺した所で何の得にもならん」

 

リペアラーのスライドを掴みスライドさせ発砲を不可能にし。

そのまま腕をねじり上げ。足払いに顔面に掌底を食らわせつつアイアンクローに移行しながら。

オルガマリーを張り倒しつつ残った左手にLARグリズリーを向けつつ。

オルガマリーが取り落としたリペアラーを蹴り飛ばし彼女を無力化する。

見事なまでに卓越したCQCだった。まさに一瞬の早業という奴であった。

まだまだCQCのレベルはアマネの方が遥かに上だったという訳である。

 

「だが説明責任は果たしてもらうぞ。保安上の関係にもかかわる」

 

そしてアマネは後日説明しろと言った。

英霊たちも納得していなかったのだから後日説明しろという事で落ち着かせたのである。

 

「とりあえず、メディック、所長と達哉を医務室に叩き込んでおけ」

「「「「了解」」」」

 

ロマニではオルガマリーの怒りが再燃しそうだったので。

アマネは部下の衛生兵たちに達哉とオルガマリー達を医務室に叩き込ませる。

その後は解散となった。

ロマニは憂鬱な気持ちでダヴィンチに励まされつつ廊下をとぼとぼと歩いていると。

シャワーを浴び私服に着替えたマシュと接触する。

 

「マシュ、どうしたんだい?」

「ドクターとダヴィンチちゃんにお願いがあってきたんです」

「「お願い?」」

「二人には酷なお願いになりますが聞いてください。私の時間の事は黙っていてほしいんです」

「「!?」」

 

二人は驚愕した。バレていないはずだと。

当時の資料は全てロマニが破棄した筈だからだ。

 

「私、全部思い出したんです、大勢の同胞の犠牲の上に生み出されたんだって。そしてその時同時に研究者が時間について言及しているのも思い出したんです」

 

全てをもう思い出している。

双子との接触による記憶のフラッシュバック。

シャドウが表に出てきたことによる反動。

執拗なミァハことニャルラトホテプの煽りによる怒りで。

完全に記憶消去が解けていたのだ。

だからこそ願う。

周りの人々には時間の事は秘密にしておいてくれと。

ただでさえ負担が達哉とオルガマリーには降りかかっている。

これ以上自分の事で気を遣わせたくないという思いがあった。

逆に言えば怒り狂った醜い自分を見られた以上。

これ以上自分のどうしようもない部分を見られたくないというのが本音でもあった。

無論、下手に時間の事を言って戦線から外される恐怖もあったし二人に負担を掛けたくないというのも掛け値なしの本音だった。

 

「だからお願いです・・・どうか・・・どうか時間の事は・・・」

「「・・・」」

 

もうロマニもダヴィンチも何も言えなくなっていた。

まるで絹糸で首を絞められるような感覚だった。

 

「わかった。マシュの時間に関しては言わないでおこう」

「レオナルド!?」

「だってさ考えても見なよ、言ったら最後、マシュの戦線投入の決断は最終的に所長が決定することになる、所長は悩んで達哉にも相談するだろう、結果二人に責任おっかぶせることになるんだ」

 

ダヴィンチの言う通りだった。

此処で黙っていないと。最終決断はオルガマリーが行う、そして達哉も巻き込まれるのは確定事項だった。

 

「黙っておくしかないか・・・」

「そういう事、という訳でマシュは安心してくれたまえ」

「ですがいいんですか?」

「バレた時にはまぁおとなしく所長に二人で殴られるさ。アマネもいるし殺されはしないだろうしね」

「まって!! 殴られるの前程?!」

「それだけの事をしたんだから甘んじて受け入れるべきだよ。私たちはあの子たちに重荷を負わせすぎている」

 

ダヴィンチは黙っておくしかないかと言う。

あっさり自分の嘆願が通ったことにマシュはオロオロとしつつダヴィンチが理由を簡潔に述べる。

言えど地獄、言わねど地獄という奴であり。だったら現場の負担にならないようにするのは当たり前。

バレたらもう潔く殴られようと腹を括るという事だった。

第一に彼らを欺くような真似を最初にしたのはロマニとダヴィンチである。

バレて殴られるくらいの罰があるのなら、甘んじて受け入れるべきだというのは実に当たり前の事だった。

 

そして現在医務室。

 

「ところで、なんで腕を元に戻すことにしたの?」

「機械義手とかはいやでね」

 

医務室でオルガマリーと達哉はそんなやり取りをしていた。

達哉の右腕の事に関して出てある。

達哉は結局、万能細胞に自身の細胞を植え付け。前と変わらない生体義手を選択した。

ダヴィンチが持って来たカタログにはいろいろな義手があったのだが。

案の定のゲテモノだらけだった。

右腕だけが通常よりも高スペックと言うのはバランスが崩れるとして。

結局薬局、万能細胞に達哉の細胞を移植、増幅させて元の右腕を作ることになったのである。

ぶっちゃけ機械義手とかよりも作るのは大変だったので移植手術は二日後になるとの話だった。

 

「というか体幹バランスが崩れる。見てみろよこのラインナップ」

「うげ。ゲテモノだらけじゃないの・・・」

 

カタログを渡されオルガマリーは呻いた。

確かに達哉のパワーアップは出来るだろうが。体幹バランスが崩れるものだった。

と言うか下手すれば移植した機械義手自体ただ一度使えば自壊しかねない代物だったのである。

両手で刀を使う達哉からすれば。元の腕が培養でき、生体義手として移植できるなら。

それこそ元の腕と同等の生体義手の方が良いだろう。

第一下手に機械義手を接続して現地で壊れてメンテですなんてのは阿呆のすることである。

故に生体義手にしたわけだ。

機械は壊れたらそのまんまだが。

生体であれば壊れることも少なく治癒もできる故にである。

 

「でもまぁ、後悔はしていない、腕一本でマシュを守れたんだ。普通の戦場だとこうはいかない」

「それは言えているわね、タツヤ」

「それより、オルガはいつまでここに? 全身打撲程度なんだろ?」

「全身打撲を程度に言えるのはある意味感覚が麻痺ってるって保安部の連中に言われたわよ、外の入り口じゃ保安部が見張っていて三日静養しろって外にも出れはしない」

 

達哉は後悔してなかった。

腕一本で親愛を持てる相手を守れたのだ。

当たり前だろう。かつて世界を一つ滅ぼしかけてようやく一人と三人を救えたのだ。

腕一本ぐらい安いものと考えていたし通常の戦場では腕一本で仲間を守れたら安いものだとも思う。

ペルソナ使いは何度も言う通り頑丈だ。大抵の重症でも治癒スキル使って一日寝込めば大抵の傷は完全治癒する。

腕が切り飛ばされた今回のケースだって。斬り飛ばされた腕が海に落ちなければその場で接合できたりするのだ。

だから感覚がずれている。

お陰で達哉たちは笑って必要経費、仲間が守れればOKと思いこんでいるが。

マシュから見れば二人とも自分を守っての大怪我である。

つまり三人の間の認識に致命的なずれがあるわけだ。

マシュは負い目を感じ空回っていることを二人は知らない。

 

「三日もか?」

「私は大丈夫って言ったんだけどね、アマネが許可してくれなかったのよ」

 

現在、医療部は一般スタッフと保安部からの出向のメディック達によって運営されていた。

これにはロマニを出して下手な刺激を与えたくないというアマネの思惑が絡んでいたからである。

今はキツイ期間だからアマネが踏ん張らなければならない時でもあった。

だが元は非正規特殊作戦群の長であった女傑である。そこは苦にもしていなかった。

伊達に少女兵から今の境遇にのし上がったわけではないのである。

 

「フォーウ」

「あら、またアナタなのね、ごめんなさいね、今日はベーコン作れないのよ」

 

其処にトコトコとフォウがやってくる。

カルデアに住む不思議動物のようで見える人には見える見えない人には見えない存在らしいが。

今のオルガマリーには見えていた。

最も達哉が来る前はそんな噂を気にしている余裕はなかったので。フォウの名前は知らなかった。

朝、ベーコンを焼いていると物欲しげにやってくる魔術生物程度にしか思っていなかったのである。

あの爆破があるまでカルデアは魔術師の巣窟でもあった。

故にこんな生物もいるくらいにしか思っていなかったのである。

 

「フォーウ、フォウ」

 

今日はベーコン目的じゃないよと表現するかのように。フォウは首を横に振る。

皆無事だったのかと言った風に。心配そうな目線で二人を見つめていた。

 

「久しぶりだな、フォウ、もうかれこれ一か月近くはあっていないのか」

 

フォウのそんな思いを知らずか、久しぶりとフォウに返す。

なんせ強行軍だったとは言え第三特異点は大海原を旅する大航海だったのだ。

それでは久しぶりともなろう。

だがそれはそれとしてオルガマリーには気になることが一つ芽生えた。

 

「アレ? この子、達哉のペット? 勝手に飼うのはよしてよね」

「良いや違うぞ、マシュのペットだと思う」

「マシュの?! 今までそういうそぶり見せてなかったんだけどあの子!?」

 

フォウの特性を知っていれば出現パターンとかわかるのだが。

どこぞのロクデナシが放り込んだ超生物であることが分からない現状ではどうしようもない事だった。

 

「いや、マシュ曰くある日突然現れたらしいぞ。つねにカルデア内ほっつき歩いているから会えるのはレアなことだとか、ただマシュのところには頻繁に来てるっぽいな」

「そうだったの、なら報告くらいしなさいよ」

 

という訳でフォウの処遇の決着はついた。

マシュに事後報告させるという事と自分のペットはちゃんと面倒見なさいという奴だった。

 

「密閉空間だから各種予防接種もさせないと」

「フォウ!?」

 

密閉空間になりつつあるカルデアで動物飼うにはそれこそ各種ワクチン接種は重要課題である。

 

「まぁそれはロマニにあとで言っておくわ」

「フォーウ!! フォウ!!」

「あっ待て逃げるな!!」

「まぁまぁ、落ち着けオルガ。マシュ曰く人理焼却前から居たらしいから変な病原菌は持ってないと思うぞ」

「そうなの? まぁそれならいいか」

「フォ・・・」

 

注射されたくないのか逃げ出そうとするフォウだったが。

達哉のフォローのお陰で注射は免れたことに安心するフォウ。

そして四日後。

 

「どうだい達哉君、腕の調子は」

「新しい腕なんだがやっぱり過去からは逃げられないか・・・」

「・・・」

 

ダヴィンチが製造した生体義手を達哉は移植され。

感覚を確かめるように右手を開いたり閉じたりしている。

だがニャルラトホテプの刻印は移植完了と同時に元に戻った。

如何に腕を新しく治そうと過去からは逃げられないという啓示かのようである。

 

「神経や骨がつながるには時間が掛かるはずなんだけど・・・なんでもうつながっているの?」

 

そしてロマニの疑問。

普通移植手術でつないでも完全癒着まで一週間はかかるし、完璧に使いこなせるまでリハビリが待っているはずなのだが。

其処はペルソナ使いだった。

 

「麻酔切れて起きてからメディラハン連打して繋いだよ」

 

起きてから回復スキル連打&ペルソナ使い特有の回復力で繋いだという。

元々、斬り飛ばされた腕が海に落下し行方不明にならねばその場で繋ぐことは可能だったのだから。

もうロマニとしては頭を抱える通りこして呆れもする。

 

「だが違和感はある・・・」

「だったら医者として言っておくよ。違和感が消えるまでは戦闘訓練及び微小特異点やカルデアの修復手伝いも禁止だ」

「分かってますよ」

「ならいいんだけどね・・・達哉君」

「なんですか?」

「ここに来て。帰れなくなって後悔していないかい?」

 

達哉は選択の余地すらなくここで働いている。

だから後悔はないのかとロマニは達哉の愚痴を聞き出そうと言葉を紡いだ。

それに対し達哉の返答は。

 

「さあ・・・どうだろう・・・ ただここに来ていろんな人たちにまた助けられた。奴が言う汚れた世界であっても、そこで血まみれになっているのだとしても、俺は贖罪も兼ねて己が願いも込めて生きてみたいと思う」

 

前向きになった返答だった。

以前の達哉なら贖罪意識全開だったが。

今は少し前向きになっている。オルガマリーやマシュ、そしてカルデアの人々に数々のサーヴァントがそうさせてくれたのだろう。

 

「ならよかったよ。僕。所長の診察もあるから行くね」

「ああ、所長お冠だったから気を付けて」

「マシュ・・・のことでかい?」

「全身打撲で三日医務室に放り込まれることになったことにだ。仕事が溜まりまくってコノヤローって怒っていたぞ」

「うへぇ・・・そりゃまた・・・」

 

はぁまた雷かと両肩を落とすロマニに達哉は苦笑しつつ。

次の瞬間には厳しい目線になる。

 

「だがマシュの事も同様以上のLvで怒っていたしサーヴァントの皆も説明要求を出しているし、保安部も同様に説明要求している、俺も同様だ」

「・・・やっぱり?」

「所長は最終意思決定はマシュにさせたいと願っているが。それも説明しなくてはな・・・、仕事がひと段落着いたら。説明要求を行うそうだ」

「・・・そうか、そうなるよね、じゃ僕も気合入れて資料作りしないと」

 

デミサバ計画はそれこそ気密性の高い計画だった。

なんせ保安部にですら知らされていなかったのである。

技術部のスティーブンは自らの手で嗅ぎ付けマリスビリーに直談判していたようだが。

それさておきと。

 

「ロマニさん、俺もう退院でいいよな?」

「うんいいよ、でもさっきも言った通り戦闘訓練とかはだめだからね!」

「分かってますって、じゃこれで」

 

そういって達哉は診察室を出る。

残ったロマニは壁に右手拳を叩きつける。

 

「どうすればいいんだ!!」

 

どうすればいいんだ。どの口でと。

その時である。空間が灰色になった。

そして俯いていたロマニの前には瞳が黄金になり皮肉気に歪んだ表情をしたロマニが存在していた。

 

「君は・・・誰だ」

「誰? 誰だと? お前は私の事をよく知っているはずだ」

「もしかしてもう一人の僕ってやつかい?」

「クハハハ!! ある意味ではあってるぞ! だが私はお前たちそのものだよ」

「まさかニャルラトホテプ?!」

「そうとも」

 

ロマニの前にニャルラトホテプが直々に表れた。

 

「警備システムは!? 保安部は!?」

「そんな物、意味をなさない私は何処にでもいるのだから。達哉を当てにしても無駄だぞ? 気配を消しこの空間の位相をずらしている、どうあがいても助けはこない」

「僕を殺す気か?」

「そんなことしてなんになる、私はただ助言しに来ただけだよ」

「助言?」

「そう助言だよ、話す機会が出来たのだ。すべて吐き出してしまえ」

「・・・マシュの事かい?」

「それは無論ある。だがそれ以外にもあるだろう?」

 

マシュの事は無論だが。それ以外にも隠している事実があるだろうと嘲笑いながらニャルラトホテプは指摘する。

既知感はやまず、変わらずロマニに教えているのだから

 

「まぁ好きにすればいい、だが治癒が遅ければ遅いほど悪性腫瘍と言うものは増大する」

「・・・」

「あと自覚しろ、最早”お前の知る人理焼却ではないのだから”ではまたな。クククク」

 

そう言ってニャルラトホテプは姿を消した。

空間も元に戻る。

 

「なにをどう話せっていうんだ!!」

 

再び壁を叩く。

だが言っても信じてもらえないという建前を盾に皆に失望されたくないという本音をロマニは押し殺したのだった。

同じようで別の物語

つまり周防達哉ではなく藤丸立香の物語を生き抜いたのだと言えるはずもなかった。

そしてこの二つの物語、その藤丸の方をすべて思い出したわけじゃないが。

第三終了まで思い出していた。

そして話さなかった事をロマニは後に後悔することになるのだが。それは少し先の話となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ達哉はと言うと。

炭酸飲料と雑誌を左手で持ってリフレッシュルームへと向かっていった。

リフレッシュルームは誰も使っていなかった。

理由としてはデジタルなリアルグラフィックによる景色を見てのセラピー効果が期待できる施設なのだが。

カルデアがこんな惨状である、休暇が入ったら最近ようやくエミヤとウォンが切り盛りして稼働し始めた食堂で美味いもん食って。

オルガマリー&達哉経由でサトミタダシかエリザベスから買った物を自室で楽しみ寝ると言う方が圧倒的多数派なので今の今まで使われていなかった施設である。

気晴らしにはちょうどいいかと向かっている次第だった。

基本施設のセキリュティはカードリーダータイプを採用(指紋認証とかだと魔術で偽装可能なため)している。

そして達哉はリフレッシュルームのカードリーダーにカードキィをスライドさせ扉を開くと。

 

「おっマシュ」

「・・・先輩」

 

マシュが部屋の隅の椅子に腰かけて俯いていた。

 

「どうした元気ないぞ?」

「・・・すいません先輩。あの時、記憶のフラッシュバックで動けなくてその結果先輩の腕が・・・」

「死んだわけじゃないんだ、腕一本程度、気にしすぎだよ」

「ですが!! 運が悪ければ腕一本どころじゃなかったじゃないですか!! というか腕一本でも大した負傷ですよ!!」

 

マシュに言われて達哉は気づく。

また悪い認識を自分はしてしまったなと。

ペルソナ使いだから頑丈ではあるが。普通なら致命傷なのだ。

腕もカルデアと言う施設があったからこそ取り戻せただけで。

下手すりゃ欠損である。

達哉が海上で戦闘経験があるのは第三特異点除いて日輪丸に一人で特攻しかけた時くらいなものだ。

後は陸地、腕が吹っ飛んでも即座に回復スキルでくっ付けられる状態だったのも大きいのである。

 

「先輩は少し自分自身の身の事にも気を使ってください・・・」

「・・・それでも腕一本で仲間を守れるなら安いさ」

「先輩!!」

「すまないなマシュ、どうしても、舞耶姉の時のトラウマが抜けきらないんだ」

「・・・ッ」

 

達哉は救えなかった。

だからこそIFの想像が止まらない。

あの時、岡村真夜の妄執に気づいていればニャルラトホテプの策略に気づいていれば等。

ぱっと思いつくだけでこれだ。細分化すればもっと多くなる。

それでいて世界すっ飛ばしましたなんてなれば容易に抜けきれるものではない。

そして達哉はまた得てしまった親愛なる同胞を。

それが失われるなら腕の一本や二本と思ってしまうのも仕方の無い事だろう。

 

「だからマシュ、本当に無事でよかった」

「いいえ、先輩、私が、私がもっと強ければ。ジャンヌ・オルタさんのように強ければ!!」

「マシュ!」

「はいぃ!?」

「俺やジャンヌ・オルタの様な強さを求めるのはやめろ!!」

「なんでですか!!」

「俺やアイツの強さは失ったから強くなろうとしただけなんだよ。手遅れになってさらに力を渇望する、それは修羅道だ!! 時期に手段と目的が逆転するんだよ! 俺だって宗矩さんや長可さんに指摘されなきゃ危ないところだった」

 

そう今までの訓練が無ければ目的と手段が逆転する可能性だってあった。

その末路がジャンヌ・オルタである。彼女の強さに目を引かれるのも事実ではある。

だがそれは守りたいものを失い続けた結果、力を求めて結果殺戮に乗り出す本末転倒な末路である。

そこまで行けば本人も止まれない。

確かに強くはあるが間違った強さなのだ。

マシュが求めていい物ではない。

 

「だったらどうすればいいんですか。私は皆に失って欲しくない・・・」

「だから協力するんだ。いつもそうだったじゃないか。そしてゆっくり強くなろう、俺とマシュとオルガの三人で・・・」

「はい・・・あの先輩一つ良いですか?」

「なんだ?」

「泣かせてください・・・」

「いいぞ」

 

達哉はマシュの願いに了承し、彼女を抱きしめる。

マシュは達哉の胸元に顔を埋め泣いた。

ただひたすらに泣いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてそこからさらに二日後。

会議室に全サーヴァント、達哉、オルガマリー、マシュ、ダヴィンチ、ロマニ、保安部代表のアマネが集められていた。

 

「こんな」

「馬鹿な」

「計画が」

「なぜに」

「通った」

 

オルガマリー、ブリュンヒルデ、宗矩、孔明、エミヤが言葉を合わせるかのように言った。

 

「マリスビリーは馬鹿かね? 白のキャンパスに黒の塗料を垂らし、白を維持すると言っているようなものだぞ」

「これなら普通に英霊召喚して交渉を重ねたほうが良いですね」

「こんなやれば失敗することが分かっている計画なんぞ行ってどうするんだ」

 

そしてさらに孔明、ブリュンヒルデ、エミヤが言葉を重ねる。

デミサーヴァント計画は成り立ちからして破綻の要因を抱えていた。

人工授精から生成したデザインドチルドレンに強化処置を施し。

英霊をその身に降ろして兵器として運用する。

極端に言ってバカの発想である。

まず生れ出たばかりの魂に英霊を降ろせば間違いなく被験者の魂が破損どころか粉砕するのは目に見えている。

幻霊級くらいならどうにかなるかもしれないが。あくまでどうにかなるかもしれないというだけで失敗は目に見えていた。

孔明が例えたように真っ白なキャンパスに漆黒塗料垂らして真っ白を維持するという矛盾しすぎて火を見るよりも明らかに失敗することが目に見えている。

なら魂を成長させるために今度は人格育成すればいいと思われるだろうが。

今度は人格を育成しきった所で降ろす英霊との相性というものがある。

それが合わなければ結局、人格粉砕、魂破損と言う事実は覆せない。

これなら普通に英霊召喚して価値観の擦り合わせして兵隊として運用する方が遥かにコストとしてもすぐれている。

オマケに本来の出力出せないならオルテナウスで補う?

それでは本末転倒も良いところだろうという話である。

 

「馬鹿かぁ!!」

 

オルガマリーが切れた。

手に持っていたボールペンを思いっきりテーブルに叩きつけて叫んだ。

 

「保安部!! こういう時のための保安部でしょう!!」

「いやさすがに私たちにも何も知らされていなかった」

「それを知って止めるのが保安部の仕事でしょうが!!」

「所長言っては悪いが私たちは暗部じゃない、あくまでも任務はカルデアの治安維持だ」

「畜生!! 言い返せねぇ!! それよかなんでスティーブンは・・・アイツ私が着く前にくたばっていたわね畜生!! ロマニィ!!」

「は、はいぃ?」

「当時の関わっていた技術者や魔術師連中はどうなった訳!?」

「さきのレフの爆破で既に死亡済みですしより深い部分に関わっていた連中は前所長が逃がした様子でして」

「糞親父ぃ!! 何、やらかしてんじゃぁぁああああああ!!」

 

オルガマリー完全発狂である。

それからも出るわ出るわオルガマリーからの口からマリスビリーに対する愚痴が。

全員、ドン引いていたがマリスビリーが元凶なので何も言えない。

とにかく、今は久々にヒステリックに切れているオルガマリーが落ち着くのを待つしかなかった。

10分ほど叫んでオルガマリーは落ち着いたのか。

ゼェゼェと息を切らしつつ着席する。

 

「で? 現状でマシュの容体はどうなの?」

「取り込んだ霊基は不安定ですがオルテナウスで安定はしています」

「じゃ、アレは何? ポセイドン叩き割ったアレも想定の内?」

「いえ違うでしょう、あの時、マシュをモニタしていた時に判明していた事実ですが、達哉君や所長がペルソナを使っているときの脳波パターンに近く。おそらくマシュのペルソナかと」

 

デミサーヴァント計画のコンセプトは分かった。

なら次はマシュの状況をオルガマリーは聞いたが。

ポセイドンを砕いた力は要約するとペルソナに近い何かとしか判別できなかったらしい。

その後、細かいところを聞いて。

とりあえず全員は納得した。

マシュも約束は守られたようで胸を撫で下ろした。

そしてその場は解散。

若干の不信感を抱えながら。カルデアは聖杯に記された次の特異点攻略準備へと取り掛かるのであった。

 

 




毎回、誰か医務室送りになってんなこのSS!!


それはさておき良くも悪くもマシュの基準はジャンヌ・オルタなんですよね。
第一特異点の一戦とその後のデータを見てそう結論付けちゃいました。
現実、目の前の敵を倒さなきゃ味方を守れなかったわけですし。
書文や宗矩にアマネも精神的鞘を作ることに急ピッチで行っていましたが間に合いませんでした。
それだけジャンヌ・オルタの存在はマシュの中でデカいです。

ニャル「もっとも世界をも殺す殺意を持ったジャンヌ・オルタでも誰もまもれなかったけどなーwwww」

たっちゃんはP2の事があって鞘は完成済み(暴走しないとは言っていない)ですし。
オルガマリーも伊達にカルデアの所長をやってきたわけではないですし周りのフォローもあって精神的鞘は出来てます(なお暴走しないとは言っていない)
ぶっちゃけマシュはそんくらい邪ンヌがトラウマになってしますし。データが擦り切れるレベルでたっちゃんVS邪ンヌの戦闘データとやり取り見ているので。
良くも悪くも邪ンヌの強さを渇望してしまった、それがどんな意味かを知らずにって感じ。
結果、武人組が早く鞘作るより早く、邪ンヌの様に殺意マシマシで殺しに掛かった方が早いのでは?と思ってしまったわけです。
其処を的確にニャルが暴発するように的確に設置したのが今回のあらまし。
ぶっちゃけポセイドンも双子もそのための生贄、無論ミァハという化身ですらです。
マシュシャドウの根底には邪ンヌが間接的に関わり、暴走にもかかわっている次第です。
ぶっちゃけ邪ンヌが悪い。
それを見て嗤っているのがニャル。
本作では邪ンヌ、某地母神の事は結構後まで引く予定です。
それこそ戦闘単位がボスサーヴァントが1邪ンヌ、ボス神霊が1某地母神と言うレベルで。


そして今回のマシュの暴走はシャドウ抜きにマシュ自身で行いました。
イノセントダストが直撃と同時にシャドウもとりあえずは去っています。
つまりいつものマシュに戻っていますが怒りが収まらずジャラジ戦の五代レベルで切れた結果。
ニャルに煽られこのざまですよはい。
そのせいでマシュ記憶をすべて思い出すという惨事に。

そして所長に吊り上げられるロマニ&ダヴィンチ。
時間の事は意地でも言わないで下さいと言うマシュ。
不信感は一応払拭したもののまだ何かあるのではと思うサーヴァントたち。

あとフォウ君はつい最近、第二が始まる直前当たりから所長の元に現れてました。
無論ベーコン狙いと言うのもあるのですが親友やペルソナ能力得て変わったからですね。
こっそり現れていたので所長からはどっかの誰かが作った使い魔程度に思われていた様子。
今回初めてフォウの名を知った様子である。
なお認識は誰かが作って捨てた使い魔をマシュがペットにしていると思い込んでいる。
なおオルガマリーが真実知ったらマーリンがボコボコにされる模様。
そして。

ニャル「ロマニィ、まだ思い出したくない、話したくないというのなら、こちらで最高のタイミングで暴露してやろうじゃないか(ニチャア)」

ロマニ。爆弾のスイッチをニャルに手渡して宝生永夢ゥの準備整うの巻きでしたー



という訳で次回 幕間の水着イベ開幕です。五話か三話くらいで終わると思います。
精神的に休めないと皆疲れちゃうからね(厄介事が増えないとは言っていない)


次回はもっと遅くなるよ!!
舞台は選定してるんだけども・・・皆が納得いくような話を作れる気がしねぇ・・・



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インターバル「マツシマサマーウォータズプレイ」
01 そう牡蠣です(食べれるとは言っていない)


そうハゼです。


ミニパトより抜粋


カルデアのゴタゴタも落ち着いてきた。

達哉も右腕の違和感が取れ完全癒着をロマニが確認し。

通常業務に戻っていた。

そして珍しく食堂で昼食を取っていた。

理由としてはオルガマリーの作る料理はイタリア料理を主軸に時々フランス料理と言った感じなので。

食堂では日本食をエミヤが、中華料理を手が空いた日には保安部一の狙撃手のウォンが作って提供していたので。

偶には日本食か中華料理が食いたかったので。

立ち寄った訳だ。

因みにマシュは達哉経由で伝わった強さを求める理由と目標の相手が相手なだけに宗矩、長可、書文、さらにはアマネですら出張って価値観の矯正に乗り出していた。

それだけジャンヌ・オルタの価値観は歪んでいるのだ。目指していい強さではない。

それに彼女自身の焦りもある。

故に価値観の矯正と実力アップを自覚させることによって修正する気だったのだ。

オルガマリーは仕事が一段落ついたとはいえ。

先の第三特異点ではリソース開放祭り&施設酷使、情報改ざん作業など、仕事が色々溜まっているので。

ほぼ執務室に缶詰めだ。

今頃、ベルベットルームのエリザベスから仕入れた駅弁「越前かにめし弁当」をかっ込みつつ半泣きになりながら書類を捌いていた。

記録班はもっと大変だ。最新鋭の技術駆使していかにもオルガマリーが活躍したかのように映像改ざんと記録改ざんしなければならないのだから当然である。

下手に達哉の事とかマシュの事が協会に漏れたら。

悪名高い悪習である封印指定になりかねないのだから皆全力だ。

そんな日々が続き。

 

「休暇申請ね・・・」

「はい・・・」

 

ロマニがオルガマリーへと書類を出す。

それは職員全員の休暇処置申請書だった。

無論全員が一斉に休むわけにはいかぬのでローテションを緩和する方で行く。

ついでにマスター組やマシュの精神安定の為に都合の良い微小特異点が見つかったという事もあって。

ここいらで休暇にしようという事だった。

 

「いいでしょう、許可するわ。だけど私たちだけバカンスになるけど皆はそれで納得してるの?」

「比較的現代に近い年代という事もあって、現代品を大量に手土産にすることでOKだそうです」

「・・・いいわリストを見せて」

 

微小特異点が比較的現代に近い時代という事もあって。

欲しい物を買うなら良いよという結論であった。

まぁ仕方ないかとため息を吐きつつオルガマリーはそのリストを見る。

そしたら書かれてるわ書かれてるわ。

いくらベルベットルーム経由でのサトミタダシ&エリザベスの販売物にはない物ばかり。

まぁ買い物も息抜きになるかとオルガマリーは許可した。

 

「それでマシュは?」

「アマネを筆頭にしたサーヴァントたちにこってり絞られているようで」

「タツヤから事情は聴いていたけれど。そこまで性急にすること?」

「僕は門外なので分かりませんしあまりやってほしくはないですが。一度心を折っておく必要があると、そして今回のバカンスでメンタリティを癒しつつ再構築するだとか」

「嫌な話ね、というかマシュってそんなにジャンヌ・オルタを目標値にしてたわけ?」

「はい、少なくとも数百回はアーカイブを見ているようで」

「そりゃ危険だわ」

「所長?」

「アマネから教えてもらったのよ、ああいうのは救いがないって。事情を説明してもらったら納得もするわ」

「所長はアマネから何か聞いていた?」

「アマネの半生となっちゃいけないような存在の例とかね、理由もわかりやすかったし、何より実例が目の前にいたから」

「実例が目の前に?」

「アマネ自身よ、彼女の戦場でのメンタル維持の方法を聞くたびに、ああこうなったらおしまいだなってね」

 

アマネも一種の怪物である。

いや保安部全員がそうなのだ。

連中は死に場所を求めている、それもとびっきりの舞台を。

最高の死に場所を、己が性能を出し切って死にたい。

そういう死者の群れだ。

そんな保安部を統括しているアマネ自身が壊れ切っている。

皆、多くの理不尽跋扈する戦場を生き抜き壊れ、そういう思想に染まった。

されど皆自覚はあるので他者に強要はしない。

だからマスター二人とマシュの教練では口酸っぱく自分たちと同じようにはなるなと言い続けている訳で。

だが誤算があった。

まさか、ジャンヌ・オルタの様な復讐鬼を目標設定するとは思っていなかったのである。

だから徹底的に目標を変更させるためにアマネは心を鬼にした。

故に現在ボコボコ中である。

 

「とにかくフォローはしておくしバカンスも承認するわ、欲しいものが後から浮かんだらいけないから随時リスト更新も忘れないように」

「わかりました。所長」

 

そしてロマニが退室する。

それを確認し。

 

「ほんと・・・寒いわ」

 

そうぼやき。マシュのフォローに向かうべく。

早めに仕事を終えるためにPCに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い」

 

アマネは何度目かになる同じ言葉を吐いて。

マシュの喉を突いた。

訓練は保安部総集合による訓練、実戦形式でのゴム弾を使用し装備は強化外骨格装備の軍隊を相手にするという。

事実上のリンチだった。

一応達哉が控えており死人はできうる限りでないようにしているが。

出る時は出る。

故に仲間を大盾でぶつという事に一瞬遅れるのだ。

 

「ゲホ! ゲホ!」

「なにを迷っているんだ? ジャンヌ・オルタの様になりたいのだろう? ならば目標達成のみ頭に置けば容易い事だろう? 復讐者とはそういうものだ。お前の求める強さの思考とはそういうものだ」

 

そしてジャンヌ・オルタの強さの秘訣を語る。

 

「いいか? 彼女なら障害になるものの人間性、思想、立場を一切考えず殺しに行くぞ、なぜなら鈍るからだ。その鈍りが目的達成の上で一番の障害となるからだ」

 

マシュの脇腹に蹴りを入れ無理在り立ち上がらせ襟首をつかみ互いの瞳が覗き込めるようにしつつ。

アマネが言う。

 

「わ、私は・・・そんなつもりでは・・・」

「だが望んだ。挙句あのざまだ」

「ッ・・・」

「いい加減理解しろ、アレは失って我が身を削げ落とした強さだ。誰かを守れる力なんかじゃない。もっと別の事に思考を注力しろ」

 

ジャンヌ・オルタの本質を最も見切っているのはアマネだ。

部下にもああいう手合いが何人かいる。

最も本人たちは復讐を果たしきって虚無になりかけているところにアマネが誘いをかけて現在に至らせている訳だが。

故に本質を語れるのである。

 

「”盾”が欲しければジャンヌ・オルタを基準にするな、マリー・アントワネットを基準にしろ”剣”が欲しければ宗矩を基準しろ」

「うううううう」

「私からは以上だ。達哉すまないが何人か負傷した。回復魔術を頼む」

「・・・了解」

 

達哉は分かっている。

アマネの意図するところをだ。

故に歯を食いしばり、あえてアマネには何も言わなかったのだ。

マシュは言っては悪いが一度へし折っておく必要がある。

最も本職のメンタリストがいれば折る必要はないのだが。

いまは居ない。

故に仕方の無い事だった。

一度へし折っておかねばまた暴走しかねない。

そしてアマネとアイコンタクト。あとの心理的フォローを頼むと言った感じである。

へし折った後は達哉たちに任せることによって速やかな心理的応急処置を可能とするがゆえにだ。

アマネではそれは不可能だ。現状インストラクターで保安部部長、マシュにとってはそれ以上でもそれ以下でもないがゆえに。

対して達哉はマシュに親愛以上の心情を抱かれている。

あとはオルガマリーも同様だ。

其処に付け込んで、メンタルを再構築するというやり方である。

 

「マシュ、大丈夫か?」

「はい・・・大丈夫です」

(いくら何でもやり過ぎだよ、アマネさん)

 

負傷した保安部の人々に回復スキルを掛けて。

その後マシュにも掛けて場を後にしつつ、マシュと共に場を後にする。

そりゃもう派手にやった。

身体面でも精神面でもボコボコにしたのである。

CQCで肉体面を実戦形式であるがゆえに心の隙を突きズタボロにする容赦なき口攻撃。

最初は反抗心で張り合っていたマシュも数十分でぽっきりだった。

アマネは元非正規特殊作戦群の長だ。選抜対象の心の折り方なんてものは容易い物だった。

その後、廊下を歩きつつ達哉は四苦八苦しながらマシュのメンタルを立て直すべく言葉を掛けていた。

其処にオルガマリーがやってくる。

 

「オルガ・・・」

「こってり絞られたようね、マシュ」

「はい・・・」

「・・・自分の弱さが嫌になった?」

「はい・・・」

「でもそう簡単に強くはなれないし、強くなったからって全部守れるわけじゃないのよ」

「そんなことは!! 現にオルガは・・・」

「多少は強くなったわよ。だけどそれだけ、第三ではアルテミスに無理させた挙句死なせた」

「・・・」

「もう何度も言われてるじゃない。急いたって急激に強くなることは出来はしない。全部守るなんて傲慢よ」

 

 

マシュの思想は傲慢である。

それも仕方が無い事だった。

なんせ失ったことがない。

マリー・アントワネットを一度は見捨てたが。

彼女は召喚される形で戻ってきてしまった。

そこでリセットが掛かったのである。

同時に恐怖も焼き付いた。

達哉やオルガマリーは死んだら戻ってこないのだと。

それを刻み込んだのはジャンヌ・オルタや例の双子にニャルラトホテプだ。

恐怖は焦りとなり、自分が守らればと言う自己愛の傲慢さを会得するに至る。

人間らしくなったと聞こえはいいが。力を与えられ、それがチープな万能感に負け力に振り回されている幼子でしかない。

達哉はその段階をすでに通っている、一人ではどうしようもないことがあると知っている。

オルガマリーはすでに学んでいた。これは生まれの差からくる認識違いが生むものであった。

 

「ですが!!」

「いい加減にしなさい!!」

 

オルガマリーがマシュの頬を引っ叩く。

 

「オルガ・・・」

「タツヤは今黙っていて。これは女の話よ」

「・・・わかった」

 

手を出すのはやり過ぎだと言おうとする達哉であったが。

オルガマリーに黙らされる、これは女の話でもあるのだと。

叩かれた頬をマシュは左手で抑え俯く。

 

「もう・・・実はわかってるんでしょう?」

「はい・・・それでも私は強くなりたいんです」

 

もうすでに嫌と言うほど分からされた。

マシュはジャンヌ・オルタのようにはなれない。

必要とあらば友情の為に友情を投げ捨てた彼女のようにはなれないのだ。

だけどもそれでも強くなりたいと彼女は語る。

 

「一人では駄目よ、一人じゃ限界がある」

 

オルガマリーがそう諭す。そう人間一人ではどうしても限界があるのだ。

その限界を超えてしまったとき、人として終わる。

アマネもジャンヌ・オルタもそうだ。超えた結果鬼になったのだから。

鬼になってさらなる悲劇を紡いできた。紡いでしまったのだから。

 

「じゃぁどうすれば・・・」

「三人で強くなりましょ」

「え?」

「だから三人で強くなればいいだけじゃない。足りない所を補完しあって生きていくのは人間として当然の事だもの」

「・・・」

「だから抱えこまないで、悔しいのは私たちも一緒よ、強くなりましょ、まだ時間はあるタツヤと私とマシュの三人でね」

 

一人では限界があるが、そこを補完しあって寄り添いながら生きていくのが人間である。

だから三人で強くなろうという。

 

「すいません先輩、オルガ・・・私は・・・私はッ!!」

「あーはいはい、今は泣きなさい」

「はい・・・あと怖かったんです、刀を握った感触が手から離れなくてそれで、それで!!」

「そういうことも含めて早く相談しなさい、タツヤと私も力になるし、そういう事はアマネが一番対応してくれるからね」

「はいっ、はい!!」

 

マシュはオルガマリーの胸元にしがみついて泣きはらしながら謝る。

それと同時に初めての自覚のある殺人に悩んでいたことを吐露する。

オルガマリーはマシュを強く抱きしめながら、他者を頼れと諭す。

そして10分くらいでマシュは落ち着き。

とりあえず三人でリフレッシュルームに行き。

三人で話す、マシュの不安などに答えながら。

 

「とりあえず峠は乗り切ったか」

「損な役回りとはいえ。少々やり過ぎではないか?」

「こういう時にこそ徹底しないと後でやらかす、もう何度も見てきたよ、いやというほどね」

 

廊下の曲がり角で三人のやり取りを覗き込んでいたアマネが溜息ついて煙草をくわえ火をつけて。

煙を吐き出しつつ胸を撫で下ろす。

マシュのメンタリティ的峠は越えた。あとは修繕するだけだと。

最もやり方が過激すぎ、達哉たちの友情を利用したことに、書文は苦言をアマネに呈するが。

こういう時こそ徹底してやらねばまた暴発すると言い、書文の言いようを一蹴した。

 

「だが、良いのか? 間違いなくマシュには嫌われたぞ」

「嫌われているのは慣れている。それで生き抜いていける強さを身に着けられるなら喜んで嫌われるよ。もっとも苦手意識を持たれると教導にも影響が出かねないから、後でマシュのメンタルケアも兼ねてちゃんと話すさ」

 

必要以上に嫌われても困る、だからマシュのメンタルケアも兼ねて謝罪+ちゃんと話すと言い残し。

アマネはそう言いつつ吸い殻を携帯灰皿に放り込み場を後にした。

 

「まったく、損なお人だ」

 

書文もボヤキを一つ吐き場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「休暇ですか?」

「そう休暇よ!!」

 

あれからさらに数日。

書類&データ地獄から解放されたオルガマリーはマシュの問いにそう返した。

久々の本格休暇である。訓練も何もしなくて良い完全なる休暇であるのだ。

そして現在食堂、たまには楽したいと全員が集合していた。

 

「丁度いい微小特異点があるから、そこでバカンス!! 時代も2014年代の七月!! 絶好のバカンス日和ってやつね、しかもジャパンのマツシマで!!」

「日本三大風景の名所じゃないですか!! 私も行ってみたいところでした!!」

「そう行けるのよ!! ヒロシマのカキは食べた事あるのだけれどマツシマのカキは食べたことないのよねー」

「松島の牡蠣の特徴と言えば甘味と旨味が強くて身が引き締まっていて加熱しても身が縮まらないのが特徴でしたっけ? 私楽しみです!」

「そうなのよぉー、ヒロシマカキは身が大きくてぷりっとした味わいだったけど。それとは違う感じだから楽しみなのよねー」

「カキって美味しいんですか?」

「そりゃもう、美味しいわよヒルデ」

「そうですか楽しみです」

「オルガちゃんが言うなら私も楽しんでみたいわね、ジャパンのカキ」

 

女性陣集まって初々しく牡蠣談義に発展している。

確かに松島は日本でも有数の牡蠣養殖地で味も世界でもトップクラスだ。

元に松島の牡蠣の種は世界にも輸出されるほど優秀なのである。

 

「生牡蠣ですか、私も興味が出る。生前は焼き牡蠣でしたからな」

「儂は食べたこともない、それほどまでに美味い物なのか?」

「美味いぞ。私も自棄酒したい時にはよくオイスターバーに行く」

「そうなんですか? 孔明殿?」

「ああ、飲まなきゃやってられないことが多くてね、酒のつまみには最高だ」

「カキは当方にとっても初めての食べ物だ胸が躍る」

 

皆牡蠣一色の話題で持ち切りである。

なおエミヤと達哉は憂鬱気味だった。

 

「なぁエミヤ、この話題にどう水を差す?」

「まず差す前提なのか? マスター?」

「当たり前だろ、今の時期に牡蠣小屋なんてやっていない事実があるんだぞ」

「それもそうだが・・・」

 

牡蠣の旬は基本冬である。

夏にやってる訳なんざあるわけがない。

だが騒いでいる連中は土地柄、年代柄、家柄でそも知識が無いゆえに年柄年中食えると思っている。

だが実際、この夏の時期食えるのは真牡蠣ではなく岩牡蠣の方なのだ。

と言うか牡蠣の生食は明治以降の話でもある

故に特異点の期間に行った所で牡蠣食べれる訳じゃないのだ。

 

「笹かまなら年柄年中やってるんだけどな」

「それは分かっているマスター、美味しいがな笹かま」

 

冬が季節の牡蠣なら兎にも角にも笹かまなら年中やっている。

まぁそれはさておき牡蠣食べれないよとどう切り出すかが問題だった。

達哉が行くかエミヤが行くかである。

正直、皆ウキウキ空間に突っ込み水を差すには躊躇がある。

 

「せめて塩釜ならなぁ」

「言わないでくれ・・・」

 

エミヤのボヤキに達哉は言わないでくれと言う。

そう塩釜なら問題なかった。

なぜか? 単純、そう塩釜なら岩牡蠣が丁度旬なのである。

そっちなら食えたのだが松島では食えないのだ。

悲しいねという奴である。

 

「あー皆、良いか、落ち着いて聞いてくれ」

 

達哉特攻である。

エミヤはマジかと言う顔をしていた。

 

「真牡蠣の旬は冬だから、7月の松島じゃ。牡蠣食えないぞ」

 

エミヤは当時を振り返ってこう語る。

まじめにその場が時が凍ったかのようだったと。

その後、観測員に塩釜が特異点化してないかと問い詰めるオルガマリーとサーヴァントたち。

一部の冷静なサーヴァントと保安部と達哉が鎮圧と説得が敢行されることとなった。

 

 

 

 

という訳で。

時期は夏、牡蠣食えない分、屋台などで海鮮物の焼き物を楽しむことにして。

後は旅館などで心を休め、海で様々なレクリレーションを楽しむことにしたのだった。

と言ってもだ。

 

「私たちの水着とかはダヴィンチが作ってくれたからいいとして、サーヴァントの皆の服装はどうするのよ?」

 

如何に光学迷彩などの誤魔化しが効くと言え。

悪魔で偽装礼装の誤魔化しは視覚のみに限定される

向うでは海を実際に泳いだり浜辺を走ったりするのである。

それでは楽しめる物も楽しめないとしてオルガマリーが声を上げた。

 

「ああそれなら大丈夫、サーヴァントの霊基に影響する霊衣システム作り上げておいたからさと言うか、スティーブンが作っておいたんだけどもね」

「どういった理由で作ったのよ・・・」

「衣類を変更しても同等性能レベルを維持する為みたいだよ? スティーブンは真っ向からデミサバ計画に反対していたしね。だから用意していたのだと思う」

 

霊衣システムは完成していた。

と言うよりもスティーブンが用意したそれをバカンスに向けてダヴィンチが完成させただけである。

ポットに入ってデータ入力するだけであら不思議。

霊基の武装などを改変し、一般衣のように仕立て上げることを可能にしたのだった。

 

「それはさておき、達哉君、オルガマリー、マシュの水着礼装は作っておいたから現地で海で泳ぐ場合はそれを使ってくれたまえ」

 

そういってダヴィンチは三つの水着型礼装を三人に手渡す、達哉のはぱっと見、ボクサーパンツ型の黒をメインカラーとして白のストライプが描かれた礼装。

オルガマリーは黒のビキニで。マシュは黄色を基調として黒のアクセントが加えられたスポーティービキニの水着だった。

 

「水着か・・・学校の水泳授業でしか着たことないな・・・」

 

前にも述べた通り、達哉の故郷は海沿いの町だったが。

基本山派だったと言うこともあって、水着をまともに着用したのはプールでの授業だけである。

 

「私もですね」

 

マシュもレイシフト要員として鍛えるためにトレーニングルームの水泳施設を使ったときの競技用水着しか着用したことないので、こういうスポーツタイプのレジャー系列系の水着は初めて+海で泳ぐこと自体が初めてだった。

 

「今、思い出したのだけれど」

「どうかしたか? 所長?」

「いえね・・・考えてみれば私泳いだこと自体がないのよ」

 

その言葉に達哉&マシュ驚愕。

だが考えても見てほしい、幼少期から政治学や帝王学やら魔術をしこたま教えられ。

時計塔に至っては普通の学校とは違う、プール授業なんてない。

ようやく自分の時間取れる時期になった瞬間にマリスビリーが自殺。

カルデア所長就任、当時は仕事忙しい上に周りの人間を信用していなかった。

だから教えられることもなかったし泳ぐという発想すらもなかったのである。

 

「アレ? 第三特異点って結構私ヤバかった?」

「船から落ちたら終わりだったな、間違いなく」

 

地味に常時命の危機だったことに今更になって気づく。

 

「えっとまぁ、現地に付いたら泳ぎ方教えますから、ね! 先輩!」

「ああそうだな」

 

という事になった。

そして当日、レイシフトスーツに達哉は礼装に改造されたかつての私服を登録。

マシュも礼装に改造された私服を登録、オルガマリーも同様である。

後はオルガマリーの私物のBBQセットを運び込み。

サーヴァントたちも霊衣を変え。いざ出撃準備が整った。

足りない分は現地調達という方式を取る。

最も一日目は皆で買い出しだった。

 

「煙草の要求値が多いですな」

「皆ストレス抱えてるからね、健康に悪くても一時凌ぎにはなるし、カルデアって喫煙室と保安部の詰所以外禁煙だったから全館喫煙化にしたのは緩めたほうなのよ」

「ちょっと待ってくだされ、煙草が健康に悪い?」

「?悪いわよ、詳しいことはロマニに聞いてちょうだい」

「!!??」

 

宗矩驚愕。

彼の生きていた時代はまだ実は煙草は健康用品だった時代なのだ。

現代の様に紙煙草を喫煙所以外で吸おうもんなら犯罪者扱いの様な時代とは違うのである。

宗矩は愛煙家でもあったがゆえにそのカルチャーショックはすさまじいものがあった。

と言うのもさておき。

レイシフトが開始され。現地到着。

まず一日目は相も変わらずインゴットを現金に換金し。頼まれ物リストに載ったものを買いまくるという訳だ。

後は泊まる旅館の手配だ。

女性用品なども含まれるためそっちは女性陣が買うことになり。

男女で別れることになった。

そんな中で男五人は街中を大荷物抱えて歩いていた。

ぶっちゃけ誰も自動車免許持っていなかったので必然とそうなった。

 

「なぁマスター、これ一日はつぶれるぞ」

「当方もその意見である」

「まぁ二人とも一日目は観光じゃなくて買い物だって決めてただろ」

「だがまぁ二人の言う通りでもある、少し休憩しないか? マスター」

「ちょっと待て、柳生の爺さんと書文の爺さんどこ行った?」

「そういえばさっきから姿見えないが・・・」

 

若干二名、姿が見えない。

旅館手配はオルガマリーがしているのでそういう訳ではないのだが。

故におかしい、二人はどこ行ったという話である

 

「ムニエルさん、二人がいない、逸れてしまったかもしれないから位置情報をくれ」

『OK、OKって・・・今二人、笹かま直売所に要るみたいだけど」

「・・・」

「逃げやがったな爺二人」

「今度叩きのめして・・・いやできるかな? 師匠レベルでつえーしあの二人・・・」

 

まさかのサボタージュである。

宗矩と書文、スキル使ってこっそり抜け出して海鮮焼きやら焼き立て笹かまやら楽しんでいた。

 

『おい、今、所長たちも関係のない場所にいるぞ』

「・・・場所は?」

『マリンピア松島水族館だな』

「「「「「・・・」」」」」

 

まさかの真面目にやっていたというのは自分たちだけでしたというオチだった。

 

「任務を放棄する訳にはいかない・・・兎に角、買い物終わらせて俺たちも観光と洒落込もう」

「「「「応」」」」

 

悲哀をにじませ怒りを発露しながら男たちは買い物を素早く終わらせるために能力を全開にした。

一方女性陣はと言うと。

実際サボっていたわけではない女性用品とか結構限定されていたので早めに買い物が終わっただけだ。

という訳で偶には女子会、つまるところマリンピア松島水族館でキャピキャピやっている訳である。

施設は古いがそれでも彼女たちは楽しんでいた。

 

「わぁ、すごいです」

 

アシカショーを見てマシュは感嘆の声を上げる。

アシカショーの派手さでいえば金満な水族館の方が上がるが。

伝統も長きこの水族館では洗礼された素晴らしさがあるのは当然の事。

王道は使い古されているとは言うが逆に言えば安パイ的に客を楽しまさせられるという事である。

アシカショーを見終わった一行はペンギン見たり。

クリオネ見たりして水族館を一周。

売店で新鮮な浜焼き、食いやすいという事で螺の串焼きを頼みペンギンを見ながら癒されていた。

螺串に焼き牡蠣に酒があれば最高だなとオルガマリー達は思いつつ水族館を後にする。

すぐ近くには笹かまの直営所もある。

そこで出来立てホヤホヤの笹かまやら浜焼きを買って三大風景を見つつ食べるのも乙なものだと思い立ち。

女性陣は移動を開始。

直売所近くの海辺が見えるベンチで。

 

「いやはや三大風景とはよく言った物、素晴らしいですなぁ」

「私も始めてきたもので、これほど素晴らしき景色なら早めに来ておくべきでした」

「では、次は遊覧船観光なんか、いかがかな」

「それもいいですなぁ、書文殿」

 

笹かまやら浜焼き各種をツマミに酒を飲む技量特化のスキル悪用して逃げ出してきた二人が談笑していた。

 

『オルガマリー、宗矩さん、書文さん、今何をしてる? 観光は明日って話じゃなかったっか?』

 

そんな二人に怒りかかろうととしていたオルガマリーの背筋も冷える。

達哉からのレイライン通信である。

言葉の強さ的に怒っていると。

女性陣と男性二人はものの見事に背筋を凍らせたのだった。

 

「あはははは、タツヤ、私たちは真面目に買い物は終わらせたわよ、ねぇマシュ?」

「所長の言う通りです、私たちは要求された作戦行動を終了させました。ねぇヒルデさん!!」

「オルガマリーとマシュの言う通りです、私たちは買い物を終わらせました、そうですよね? マリーさん」

「ブリュンヒルデ、ここで私にキラーパス!?」

『もう言い訳は聞きたくないのが俺たちの本音だ・・・旅館の予定取れたんだろうな?』

「ちょっと待って!! 今各方面に問い合わせ中だから!! ね!!」

『後、こちらから宗矩さんと書文さんが逃げ出した。そっちの近くにいるらしいんだが。認識範囲にいるか?』

「いるわよ目の前に!! 酒飲んでツマミに笹かまと浜焼き食ってる、二人が!!」

「「オルガマリー殿!?」」

『よぉく分かった、二人を拘束しておいてくれ。すぐに向かうしこっちでどうにかする』

「わかったわ、やっておくわ!!」

「「オルガマリィー殿ぉぉぉぉおおおおおお!?」」

 

如何に技術の極致とはいえ、酔っぱらっている上に。

多人数相手では分が悪く捕縛。

二人は抵抗するものの町中では剣を持ち出すわけにもいかず、オルガマリーのペルソナの前に轟沈。

達哉たちが来て意図的に買い物量を減らし残っていた分を男性陣に押し付けた女性陣と書文、宗矩が説教となって。

何とか旅館の予定も取れて、その日はお終いになったとさ。

 

 




アマネ「変な方向に育ったから一度へし折って再教育やな」

元米国非正規特殊作戦群の元長。容赦なしです。
自分たちが壊れていることを自覚しているから。そこらへんの塩梅は上手いですし。
達哉たちの友情も利用して矯正させました。
最も彼女的には不本意で本職が生き延びてたらへし折らずにゆっくりひん曲げつつ本職と連携取って早急に立て直してました。
でも本職全滅してるから。あえて嫌な大人という汚れ仕事を演じていました。
大人って辛いねバナージ

因みにイドを見たニャル。

ニャル「生温いことやってんなぁええ?(某二人の背後に立ちながら)」
人理君「無茶はやめて!!」


そして舞台は松島へ。
ちょうど夏時期。
故に牡蠣の旬って冬なんですよね、即ち牡蠣小屋やってるわけもなく。
最も岩垣は夏が旬らしいですが、松島じゃなくて塩釜方面なので結局薬局食えないというオチに。
これには達哉とエミヤ以外のオルガマリーもマシュもサーヴァントたちもガッカリ。
因みに作者、海鮮類みて食べたいなーと思うけど食べるとゲロリにトイレに駆け込むくらいには海戦食べたいけど体が受け付けねぇ。
新鮮なサンマの刺身提供してくれたかつての行きつけの飲み屋さんに牡蠣のムニエルを提供してくれた行きつけのお好み焼き兼鉄板屋さんには本当に申し訳ない。
昔かっらなんですよね、お陰で食べれるのが螺と烏賊と蛸しか食えんのです。
まぁそれはさておいて、水着イベ開幕です。
マシュの水着はダイブ・トゥ・ブルー+上着。所長は黒ビキニ、たっちゃんは白黒のぱっつりじゃないボクサーパンツタイプで行きます。



牡蠣美味しく食べれるような味覚と体になりたいなぁ・・・


次回厄介事との出会い。


次回は遅れますからね!! 震災の事の事も絡むので慎重に組み立てたいんです。


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