大樹の妖精、神となり (公家麻呂)
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01 テンプレスタート

 

 

眩しい。

朝日が眩しい。

この前、草で編んだ日よけのカーテンの隙間から朝日が入ってきているようだ。

 

朝起きてから10分ほど経った。

朝が弱いのは昔からだ。しばらく、ホゲーっとしてから毛皮を纏う。

 

頭がクリアになってきたので、自己主張しておくと私は転生者だ。

前世は人間だったような気がする。

もう、ほとんど覚えていないけどね。

 

ツリーハウスというか、家が木の中にあります。

このツリーハウスと言うか。この木がでかい・・・とにかくでかい。

 

気になる気になる木ですからの、あの木よりでかい。

 

日よけのカーテンを除けて、外に出る。

 

ぴょんと・・・

 

あぁ・・・そうだった。私、人間じゃあないんですよね。

ん~人間じゃなくて妖精?虫の様な羽が背中についてるし?

 

なんか・・・「やー。」ってやれば手からなんかこう・・・光線とか?ビームとか?かめはめ破―みたいなのが出るよ。

 

つまりは、人間じゃないんだな。妖精さんなんだよ。

俺つえーができる?ナントカチートできる?

うーん・・・できるかもしれないけど。どうなんだろうね?

文明レベルが原始時代だし…、出来るかもしれないね。

でも、究極的な0スタートってもうどうしようもないんだよね。

 

だから、自分の周りでボチボチやろうかなって方針なんだなぁ・・・。

 

「あ、おはよー。」

 

「あ、ティタさまだぁ。おはよー。」

「オハヨー!」「わーい!ティタさま!」

 

同族の子たちが集まってくる。

あ、ティタ様って言うのは私の名前で正式にはティターニアって言うんだって暫定的に妖精の女王様やってるよ。

 

転生した当初はたくさんいる妖精の一人だったんだけどね。

女王様になった要因がやってきたよ。

 

「ウッホウッホ!!」「ティ様!ティ様!」「アォアオ!」

「ウボンバ!ウボンバ!」「カミィ!カミィ!」「ウッホッホ!!」

 

この、お猿さんたち・・・私がたまたま火を起こしてるのを見てたから教えてあげたら懐いちゃったんだよね。

 

 

お猿さんたちがくれた果物を絞ってジュースなんかを作ったりしたよ!おいしい!

 

石のコップに氷を入れて・・・。

ん?原始時代に氷?それは・・・。

 

私のお友達に氷の妖精さんがいるんだよ!

 

「ティタ!遊びに来てやったぞ!」

「ティタ様・・・おはようございます。」

 

元気よく挨拶してくれた子がチルノちゃん!

もう一人の大人しそうな子が・・・えっと・・・えっと・・・だ、だ・・・だr・・・大ちゃん!!

認知症かな・・・、いろんなことが唐突にひらめくけど・・・前世の事とか一昨日の朝ごはんとか最近物忘れが激しいな。まぁ・・・いいか。

 

で、その氷を入れたジュース・・・うん。キンキンに冷えてやがる!前世のネタかな?元ネタは忘れた。皆でジュース飲んだ!うまい!

 

「よし!遊びに行こう!」

 

チルノちゃんを先頭に唐突に遊びに行くよ!

妖精になってから、ほぼ乗りと勢いで動くことが増えた。

人間の頃はいろいろ考えてしまう性格だったけど。今のような生活もこれはこれでいいね!

 

今日はどこに行こうかな!

て言うか・・・未だに自分がこの世界のどの辺に住んでるのか知らない。

まぁ、特別困らないしいいよね!

 

 



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02 ちょっと進歩

 

 

特に目的地はなく、あっちにフラフラこっちにフラフラ。月単位で家に帰らないなんてざらだよ。

 

何カ月かして帰ってきたよ。

「ここが!ティタの家なのね!」「お邪魔するわね。」「ティタさまのお家広いのねぇ。」

 

「ティタの家は大きんだぞ!」

「皆さん、のど乾いたでしょうし果汁をどうぞ。」

 

チルノはどうしてこんなに偉そうなんだろう?ここは私のお家だよ?

大ちゃんも私の秘蔵のジュースをどこから持ってきたんだろう?

あ、最初に喋った妖精の子たちは同族の子たちだよ。

三妖精のリーダー格で、3人の中で最も行動力があり、表情豊かで明るい、元気な子がサニーミルクちゃん。

おっとりとしたと言うかすこし知的に背伸びした感じの子がルナチャイルドちゃん。夜中に外に遊びに行ったりして夜遊びをする子だよ。

そして最後の子がスターサファイアちゃん、この子は捉えどころがない性格?なんかこの子も落ち着いた感じなんだけど縁の下の力持ちと言うか三妖精の影の纏め役って感じの子かな?

 

「あたしたちもこんな立派な木に住みたいわね!」「そうね。」「えぇ!私達も探してみましょう。」

 

今日は皆で仲良くお話会だよ!

内容はどこでどんな木の実や果物が取れるとか?いろいろだね!

お猿さんたちにいたずらをした話なんかもしたよ!私の周りのお猿さんたちは果物や肉や魚なんかをくれるから、あんまりひどい悪戯はしないでね。

 

「ウッホウッホ!!」「ティ様!ティ様!」「アォアオ!」

「ウボンバ!ウボンバ!」「カミィ!カミィ!」「ウッホッホ!!」

 

今日もお猿さんが何か持ってきたみたいだよ。

鹿と兎みたいな小動物数匹か。

とりあえず火を通して・・・ん?この肉血抜きしてないじゃん・・・てか自分たちの分を直接火で焼いて食べてる。

 

私が肉を吊るして血抜きしていると、妖精のみんなとお猿さんたちが何してるのと言った感じでこっちを見ている。

 

肉は血抜きした方がおいしいんだよー。

 

肉から生臭さが取れて・・・。

 

「「「「「おいしい!」」」」」

「「「ティ様!ティ様!」」」「「「カミィ!カミィ!」」」

 

みんな、喜んでくれたよ!

 

ん?そういえば、お猿さんたちの持ってる武器。石斧とか石剣とかだけど、良く研磨されてるなぁ・・・前はそのままくっ付けた感じだったのに。

成長してるんだなお前らも・・・なんか感動。

 

そういえば、ここも大きくなったなぁ。

掘っ立て小屋みたいなのや草を編んで土で固めたようなのも含めて色々あるなぁ・・・。

そういえば、同族もお猿さんたちもたくさんいるなぁ・・・。

 

 

 

 



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03 暇を持て余した永琳の遊び

 

 

今日は妖精のみんなとお猿さんたちととある場所の調査です!

 

お猿さんたちは武器を持ったかな~?

 

「「「「ウボンバ!!」」」」

 

妖精のみんなは~?

 

「「「「お~!」」」」

 

よぉしっ!出ぁ~発っ!

 

 

どうやら、到着しましたよぉ。

 

現代建築、いやSF未来都市がありました。

なんだこれ・・・世界観をぶち壊しに来てるなぁ。

とりあえず、中の方へ ドタドタと

 

「あら?あなた達、この都市はもうすぐ放棄されて土に還るわよ。」

 

 

建物の中やら外やらを探検していると、プラチナシルバーの髪を三つ編みに纏めた美人な女性の方がいらっしゃいました。少々奇抜なファッションではありますが・・・。

 

少しお話をしてから、素直に立ち去ることにしました。

この美人なお姉さんは八意永琳さんで、この超未来文明の学者な偉い人だそうで超未来的な文明人な方々は月に引っ越すそうで、永琳さんが最後の一人だったそうです。

 

「まぁ、せっかく来てくれたのに何もお土産が無いのは可哀そうよね。よかったら、これでも持っていきなさいな。」

 

そう言って彼女が渡してきたのは・・・渡してきたのは・・・え???・・・なにこれ?

 

 

 

SIDE 八意永琳

 

最期の脱出ポットで月に行こうとしていたら、お客さんかしら妖精が原人と一緒に放棄前の都に入ってきたのね。

廃棄処分中だから結界が崩れているのかしら?

戯れに接触してみるのもいいわね。

 

妖精の少女、ちょっと面白そうね。

この子、妖精にしては頭が切れる、他の妖精や原人に指示を出しているわ。

ちゃんと、建物や周囲の安全を確保しようとしている。それに気になるのは妖精の持つ根源の力が他の子たちとは少し違うみたいね。時間があれば連れて行って調べたいけど・・・。

 

「あら?あなた達、この都市はもうすぐ放棄されて土に還るわよ。」

 

たぶん無いだろうけどいつかまた地上に戻ってきたときのために唾を付けとくのも面白いかもね。

 

「まぁ、せっかく来てくれたのに何もお土産が無いのは可哀そうよね。よかったら、これでも持っていきなさいな。」

 

姫様に上げようと思った玩具だったんだけど、姫様は要らないって言うし・・・我ながら凝った作りだっただけに捨てるのはもったいない。この子にあげちゃいましょ。容姿的にも悪くないわ。

 

SIDEOUT

 

 

永琳さんから貰ったのは本当に何だこれオーパーツってレベルじゃねえぞ!

装飾過多なバトン状の杖を渡される。

 

「これは私のしゅm、ゴホンゴホン!!研究の一環でつくった魔法のバトンよ。」

 

「ま、魔法のバトン?」

 

先端にハートの飾りがついてるのはいい・・・柄の部分が太い、なぜか熨斗紙が巻いてあり紅白の水引で装飾してある。なお全体的にピンク、持ち手部分は普通。

 

「ティターニアちゃん、この魔法のバトンで変身すると魔法の力が使えるわ。プリティ・ティターニアに変身よ♪」

 

なんか最後の方ノリノリじゃない?やっぱ、あんた・・・趣味で作ったろ・・・。

 

「プリティ・ティターニアに変身よ♪」

 

なぜ、2回言った。

ふむふむ、魔法の力ねぇ・・・毛皮1枚の生活も卒業したいし・・・洋服とか出せるかな。

 

「ま、まぁ・・・ちょっとだけなら。」

 

「気に入ってくれたみたいね。よかったわ。ちなみに変身のキーワードは ぷりてぃー みゅーてーしょん まじかる りこーる よ♬」

 

ま、まじかよ・・・

は、はずかしいぞ・・・それは・・・

 

 

「「「「きゃー!?」」」」「「「「アババー!?」」」」

 

あ、暴れナウマンゾウだ!!

皆が襲われてる!!

 

「ティターニアちゃん!!プリティ・ティターニアに変身よ♪」

 

 

大事なことなので3回言いましたってか?サムズアップはやめろ!遊んでるだろ!!

そう言いながら、脱出ポットに乗り込む永琳さん。

脱出する感じですね。はい、わかりますよ。

あーやりますよ!やればいいんでしょ!!

 

 

「プリティー ミューテーション マジカル リコール!!」

 

 



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04 プリティ魔法はグロテスク

「ティターニアちゃん!!プリティ・ティターニアに変身よ♪」

 

ドドドドッドド!!脱出ポッドが天高く飛翔していった。

 

やりますよ!やりますったら!!

 

「プリティー ミューテーション マジカル リコール!!」

 

うわぁ・・・若干露出の高い衣装。魔法少女なんだなぁ・・・有史初・・・有史より前、原始時代だよ・・・今・・・。

 

必殺技とか・・・あとで説明書読んでおこう。

とりあえずはバトンに精神力を込めて殴ったりビーム出したりしよう!

 

ボカ!バキ!ドカ!バキ!・・・・・・グチャア!?・・・ミンチよりひでぇや・・・。

頭蓋が割れてお味噌まる見え。

 

「「「「「おぉー!」」」」」「すげぇ・・・。」「さすがはティタさま」

「「「「「「ティ様!!カミィ!!」」」」」」

 

なんか、皆の畏敬の眼差しが痛いよぉ~。

 

翌日から、狩りがヌルゲー化した。

 

VS 鹿

 

「プリティ~!バッテイング!」

 

バトンを大きく振り被ると衝撃派が発生。

衝撃波が鹿の群れを飲み込む。

風圧で鹿の皮が引き裂かれ、立位を維持できなくなった鹿の足がへし折れる。

ビリ!ベリ!バキ!ゴキ!

鹿の肉塊が風で吹きあがり、ちょっとした血の雨が降る。

 

なにこれ・・・グロ・・・プリティ要素皆無だな。

 

VS 野兎

 

「プリティビーム!」いわゆる単発弾幕。

 

パァン!

 

野兎・・・はじける。

挽肉だよ~・・・・・・あはは・・・。

 

 

VS サーベルタイガー

 

コワイコワイコワイ!?肉食獣は無理!?

 

ガォオオオオ!!!

 

「ひぃいいい!!」

 

と、飛び掛かってきた!?

 

バトンを振り回して抵抗。

 

ポコン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシャラバァ!!!ベッチャラ!!グッチャラ!!バチャボチャ!!

 

頭部が吹き飛んで肉片が飛び散った。

 

 

 

 

暫しの思考中・・・

・・・

・・・・・

・・・・・・・・

 

俺TUEEEEEEE!!!!

 

調子に乗って、周辺の動物を狩りまくった。

アドレナリン大放出、動物大虐殺。テンションが上がりまくってましたよ。

 

ただ、森一つを殲滅して一息ついた時・・・ふと、思ったんですよ。

私、ヤバイ奴じゃね・・・って・・・。

 

どう見ても、ヤバい奴です。ケラケラ笑いながら動物殺しまくってサイコパスです。

本当にありがとうございました。

 

周りからは荒ぶる神扱い受けてるんだけど~うける~あひゃひゃひゃひゃ・・・ちがうちがう・・・落ち着け・・・落ち着くんだ。

 

 

 

そうだ、こういう時は土をいじるんだ。

土を捏ねて心を落ち着かせるんだ。

 

ペッタン・・・ペッタン・・・ペッタン・・・ペッタン・・・

 

なんとか、荒ぶる神ポイントを下げておかないと・・・

チルノは「かっけぇ!」って言って憧憬の眼差しを向けてくる、それはいい。

大ちゃんは「ティタさまはティタさまですよ?」と言ってくれた優しい子だな~。

大ちゃんは一緒にペッタンしているよ。ほんといい子だなぁ~。君は本当にいいお嫁さんになるよ。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

そういえば、大ちゃんは昔っから敬語だね。ちゃんとしてる感じの?

 

「ティタさまは妖精の女王様じゃないですか?」

 

君はそういう子だったねぇ。君は妖精の中でも特に真面目でキチンとした子だったね。

お婿さんはちゃんとした子を探してこないといけないなぁ。

 

ちなみに、他の子たちはビビッて露骨なへたくそ敬語を使うようになったよ。

 

ペッタン・・・ペッタン・・・ペッタン・・・ペッタン・・・

 

あぁ、癒される。

 

 

 

 

 



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05 第一次産業チート実施

 

荒ぶる神ポイントを下げるために、今日も今日とて土いじり。

 

ペッタン♪ ペッタン♪ ツルペッタン♪ ヨウジョ♪ ヨウジョ♪ ツールペタヨウジョ♪

 

 

この、粘っこい土を焼くぞ~。野焼き~!

素焼きの土器の完成で~す!

 

とりあえず、穴窯を建築中だ!

他の窯は未来の誰かに期待だ!

 

釉薬は粘土を水で溶いたものに木灰・わら灰を加えたもので、灰や粘土の中に含まれる金属成分によって色を付けるんだ。

 

その釉薬を土器にぬったくって独自性を、自分たちのアイデンティティを押し出そう~!

 

 

まぁ・・・この頃にはお猿さんたちもだいぶ人間になって来てたよ。

 

露骨なチートはほぼ出来なかったよ。妖精になってから頭の良さが落ちてきてるからね。

まあ、塩漬けとか燻製だとか食糧保存とかは教えといた。

製鉄技術が無かったのでリヤカーは作れなかったけど大八車擬きは作れたのでそれも教えといた。木工だからあれは気合とか根性で作れたよ。

農業チートは有名な二毛作から初めて三圃式農業や輪栽式農業に発展させることもできたよと言っても全面更新ではなく、それをやってる農家があるって感じ・・・。妖精は自然にちからをちょっとだけ分けることが出来るから、農業や林業なんかとは相性がいいね。

 

 

 

「大樹様、貢ぎ物にございます。」

 

なんかこう、お猿さんたちと言うか人間たちから神様扱いを受けてるんだよね。

 

この農業チートのおかげで稲・麦・粟・稗・豆・野菜・果実何でも作ったよ。

そんでもってすんごい裕福な土地になったんだ。

水源地の河川や湖があって、とっても豊な土地になったよ。未来のためにも自給率爆上げを狙うぞ~!

漁業だって漁網を採用!魚介類の養殖も研究中だ!海苔は作れた!鰻の養殖は絶対だ!鰻が未来では高く小さくなってしまう!!この未来だけは引き起こしてはいけない!!蒲焼はおいしい!!白焼きも乙にうまいぞ!!い、いかん!?発作が・・・落ち着くんだ。

 

おっと・・・周辺の国から交易の人たちが来たよ。

 

西の方の国からは鉄器が、西の奥の方からは布や技術なんかが来たよ。

 

麻布がほとんどなんだけど、私達妖精は服に染色してりしてファッション性を出して来たよ。

 

西の方の国のおかげで竪穴式住居が作れるようになったよ。後高床式倉庫ってのも教えてくれたよ。

西の奥の国のおかげで、鉄鍋や鉄釜に鉄瓶とか農具も鉄製が増えたよ。鉄製品があったからあんまり流行らなかったけど青銅器もあるよ。青銅器は西の国の技術だったよ。

 

 

そんな時だったんだね。

 

あれを見つけたのは・・・

 

でっかい船、永琳さんたちの文明の置き土産だったのかな?

木造船だったんだけど、空を飛ぶんですわ。

なお、原理は不明。魔法のバトンと連動する、理由は不明。

 

これで、いろんなところに行ってみたいなと・・・

 

そして、ここなんだけど日本っぽい。

 

周辺国治めてる人たちが、日本神様っぽい。

 

西の国を治めてるのは洩矢諏訪ノ神様て言って山の神であり、遥かな昔からミシャグジ様を束ねて洩矢の王国を築き女王様として君臨してたんだ。

 

北や東の地域にも国や集団があるみたいだけど、有名どころはあんまりないみたい。あのあたりはまとめて蝦夷って呼ばれてるよ。

 

西の奥の国を治めてるのはかの有名な天照大神様だよ。大和の国を治める太陽の女神さまだ御親族にDQNがいたり性格に難がある人が多いらしいよ。この人が引きこもると朝が来なくなります。西の方は大和の国のみで超大国だよ。ただ最近になって周辺の国々を侵略しているらしいよ。怖いね。

 

 

 

 

 



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06 大樹の国

私の治める国について紹介するよ~。

私の治める国は対外的にも内部的にも大樹の国と呼ばれています。

 

私の国の人間のみんなは私の事を「大樹様、大樹様。」と呼びます。

理由は単純で私が大昔からある大樹に住んでいて、その大樹と周囲に住んでいる妖精の中で一番偉いからだそうです。

 

 

『掛けまくも畏き     かけまくもかしこき

大樹野椎水御神     たいじゅのづちみずみかみ

无邪志国の大樹の袂に  むさしのくにのたいじゅのたもとに

禊ぎ祓へ給ひし時に   みそぎはらへたまひしときに

生り坐せる祓戸の御神  なりませるはらへどのおんかみ

諸々の禍事・罪・穢   もろもろのまがごとつみけがれ

有らむをば       あらむをば

祓へ給ひ清め給へと   はらへたまひきよめたまへと

白すことを聞こし召せと まをすことをきこしめせと

恐み恐みも白す     かしこみかしこみもまをす』

以下略

 

神官長にあたる人物とそれに連なる神官が私に捧げる祝詞を読み上げる。

個々の妖精の力を持ってすれば、少しばかりの地力を上げる事が出来、私を中心とした妖精たちが協力して力を込めれば、その土地は豊穣に恵まれるのです。

 

 

サニー達光の三妖精と光や火に関する力を持つ妖精が後光の演出をしてくれます。

 

『わたりの祈りに応へて 大樹の社にて 大樹野椎水御神様が 降臨さる

目を覆はぬばかりの 光に包まれし 光ゐ わたりが目を開くと

大樹野椎水御神様の神々しきお姿が そこなりき。 』

 

私は人々に「大樹の国は豊作ですよ~。」と言ってあげたらみんな安堵してくれたよ。

そうしたら、みんなが喜んで宴会を開いてお酒を飲んだり踊ったりしたよ。

 

『大樹野椎水御神様 わたりに豊作を知らせし わたりは安堵しその年の豊作を祝ひき。 』

 

「ティタ様~果実酒をどうぞ~。」「ありがとう~。」

 

スターちゃんが私にお酒を注いでくれたよ。おいしい!

今日は三妖精の子たちが御酌をしてくれたよ。

これが済んだら、最近お友達になった諏訪子ところに遊びに行こう。そのついでで足を伸ばして天照大神様に挨拶に行っておこうかな。

 

『大樹野椎水御神様 三光の巫女侍らせ 酒宴に興ぜられしのち 洩矢ノ国・大和ノ国へと旅立たれき。 』

 

 

「大ちゃ~ん!田畑の実りを良くしないといけないけど。その前に諏訪子に会いに行ってくるよ。あと、天照大神様の所にご挨拶に行ってくるね。お留守番お願い!」

「うん、わかったよ。私達でもできる範囲で田畑を温めておくね。」

 

『諸国をありく間の 国の摂政一切を 大巫女に 委任せり。 』

 

「ティタ様、一人で行かせるのは心配だからチルノちゃんを連れてってね。」

「私一人で大丈夫だよ。」

「ティタ様は、女王様なんだからそれらしくしなきゃダメだよ。」

 

『大巫女 大樹野椎水御神様に 氷巫女 の 同行を 進言しき。 』

 

とにかく支度して明日には発たないとなぁ。

 

 

 

 

※『』文章、国立国会図書館蔵書 大樹記写本より

 

 




『』は古文書風を演出してみた。
あくまで風なので変なところがあっても気にしないで~


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07 洩矢ノ国にて

 

大樹の国の神様の行幸と言うことで友好国である洩矢の国では、それなりの歓待を受けました。

 

洩矢の国の通りにたくさんの人が見物に来てたよ。私が好きな動物のサイが日本にもこの時代はいたんだ。だから大樹の国では何匹か買うことにしたんだ。全体数は少ないから珍しいみたいだね。大ちゃんに言われた通り、チルノちゃんを先導役にして大名行列っぽくしていくことにしたよ。

お馬さんに乗ってチルノちゃんが胸を張っていたよ。

 

「悪い奴がいたら、あたいがやっつけてやるからな!」

 

チルノちゃん、カッコいいよ!って言ったら頭を掻いて照れ臭そうにしてた。

かわいいぞ。

 

手を振ったけど御簾に隠れて外から見えないってことに後から気が付いた。ちょっと、はずかしいぞ。

 

 

『 大樹の国の女王 一角の獣に引かれし 御車に乗り 

その姿は外よりは見るが出来ざりき。 

巫女たちは光る羽を持ち 人ならざる者 なりと やがて分かりき。』

 

 

 

 

湖畔のそばに立つ大きな社では諏訪子たちが出迎えてくれたよ。

 

「おーい!諏訪子~!遊びに来たよ~!」

 

御車から降りて駆け寄ると諏訪子も手を振って声を掛けてくれた。

 

「来たな!待ってたよ!ティタぁ!」

 

「来たよ~!来ちゃったよ~!諏訪子~!」

 

「おぉ!よく来た!よく来たなぁ!」

 

素の部分の精神年齢が限りなく近い私と諏訪子は変にハイテンションに再会を喜ぶ。

過去に何度か会ってるけど、あんまり合わない友達と久しぶりに会うと変にハイテンションになるよね。

 

お酒や季節の実りを堪能し、ほろ酔い気分で盛り上がる昼下がり。少し千鳥足になっちゃった。お花も咲かせて彩り豊かに~。

 

私と諏訪子はほろ酔い気分よろしく踊り子たちに交じって、ホレヨイヨイと踊って見せる。

それ三回転捻りだ~♪

 

テンションが上がってくる~!諏訪湖の湖面でアイススケートよろしく色々やっちゃうぞ~!おぉう!拍手喝采!!よ~し、弾幕で彩付けちゃうぞぉ~!

 

「お!なかなかやるね!よ~し!手長足長!ちょっと手伝って!!」

 

諏訪子のやつ!?ミシャグジ達まで使ってアピールしちゃってる!よーし、こっちも!

 

「チルノー!!こっちも派手に決めるよ!!」「よし!まかせろ!」

 

 

『民が太鼓を鳴らし喜びを踊り 

大樹野椎水御神様が 湖畔の草花を咲かせて彩られ。 』

『洩矢諏訪ノ神様・大樹野椎水御神様 各々の神器を手に取り踊りを披露す。

お二人は夜宴を舞ゐ 空を光で彩られ 

ミシャグシと光羽人(妖精達の事を指す)が その周りで輪を描きて踊りき

 人々はその姿に心揺さぶられ 信仰をなほ強めた。 』

 

 

 

 

※『』諏訪大社蔵書 諏訪洩矢書記 二神様の神遊びより抜粋 

 

 

 



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08 阿波国に招待されました。

洩矢の国には1週間ほど滞在して、その後大和の国に行ったよ。

 

大和の国では洩矢の国と違って大した歓迎は受けなかったよ。

何と言うかこう、ピリピリしてた気がする。

 

大和の国は周辺の国々を併合して、洩矢の国と戦う気でいるみたい。

洩矢の国は製鉄技術が発達してるから、勝つのは難しいと思うよ~?

 

大和の国と言う慣れない土地で、私達大樹の国の面々を世話してくれたのが羽山戸神様と大気都比売神様で山の神様と食物の神様でした。

 

お二柱ともとても親切な神様で、たくさんの美味しい食事を出してくれたんだよ。

お二柱のご実家は四国にあるそうでその足で四国まで行ってきたんだ。

 

「国の豊穣をよく願われることが多くて・・・いろいろしてるんですけど。水害の多い土地柄不安で・・・。私、一応土地神様なんですが妖精上がりで神力の使い方が上手くなくて・・・。」

 

私が自身の国の統治の不安を話して相談するとお二柱は親身に考えてくれました。

 

「それは、大変ですね。よろしければ、わたしの娘に豊穣と秋を司る子たちがいるのだけど大樹の国へ遣わせましょうか?」

 

「え、いいんですか?」

 

「構わないと思うよ?君みたいな良い子が一生懸命にやってるんだ。先輩としても見過ごせないからね。あとで効率の良い茸や山菜取りの仕方を教えてあげよう。」

 

湯飲みのお茶を飲みながら、そんなことを言ってくれる羽山戸神様がなんかお父さんみたいだななんて思ってしまいました。

 

「あ、ありがとうございます!じ、実は大和に来たとき大和の皆さんがピリピリしてて少し怖かったんです。でも、お二人のように優しい方々に会えてよかったです。」

 

「あらあら素直でかわいらしい子ね。このままうちの子になる?」

 

ちょっと、照れくさくてもじもじしながらそんなことを言ったら大気都比売神様が、こんなこと言うんだもの・・・困っちゃうよ////

 

そんなこんなで、大和の国にはあんまりいなかったけど四国の羽山戸神様と大気都比売神様の社で数日間ばかりお世話になったよ。

 

 

『大和の国にて 怯えてゐし 大樹野椎水御神を 哀れに思ひし 

大気津比売神は 夫の羽山戸神に 大樹野椎水御神 を 招き入るる様に 言ひ 

羽山戸神も これを承諾しき。

 

大気都比売神は おもむろに 様々なる食物を 大樹野椎水御神に与へき。

大樹野椎水御神は 痛く感激し 二柱と 多くを語りき。

その後に 二柱は 娘二柱を 大樹の国へ 遣わすと 約束しき。 』

 

 

 

 

天照大神様には会えなかったけど、御二柱が上手くとりなしてくれるって話してたし心配ないね。

そういえば、二柱の娘さんって誰が来てくれるのかな?

 

 

 

 

 

※『』上一宮大粟神社所蔵文献より

 

 



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09 秋比売神静子・穣子

洩矢の国と親交を深める一方で、羽山戸神と大気都比売神の夫婦を介して大和の国にも尻尾を振る今日この頃。

 

羽山戸神様と大気都比売神の娘さんが来てくれる日になった。

来てくださったのは秋比売神姉妹でした。

 

姉の方は静子さん、妹の方が穣子さんって言うんだよ。

 

二柱が大樹の国に滞在し始めてから数日、さっそく地力のあげ方を教えてもらう。

 

「広く不特定多数の植物に送りたいなら雨をイメージするといいのよ。」

 

「へぇ~、流し込む感じじゃないんだね。」

 

「それは単体の場合だけよ。そんなことしたら地力過多になっちゃうわよ。」

 

二柱の指導は上手で丁寧、それに優しいから妖精の子たちからもおおむね好評。

農業の生産率がさらに上がったよ。

 

逆に技術的な面ではこちらが上だったので、感心してたよ。

 

 

 

SIDE  秋穣子

 

お母さまに言われて来てみたけど、お母さまの好みそうな子だなぁってのが直近の感想だった。

神力の使い方に拙さが残ってるけど、それを補おうと色んなことに挑戦して私達の加護地に勝るとも劣らぬ豊穣の土地に育ってるわ。

田畑の実りがあなたに感謝の言葉を言ってるわよ?

 

それに・・・あたしのこと・・・

 

 

「なんだか、おねえちゃんみたい。」

 

だって~!!静子姉さん!!聞いた!!聞いてたでしょ!!

かわいい!!大樹ちゃん、かわいい!!こんな妹が私も欲しいわ~!!

 

 

大樹ちゃんは自分が妖精上がりの神様だってことをすごく気にしてるみたいだけど、実力はある子なのよ!なんとか、自信を付けてあげなくちゃね!静子姉さんも手伝ってよね!!

 

SIDEOUT

 

SIDE 秋静葉

 

大樹ちゃん、豊穣の神様見習い?ってところかしら…。

この土地にずっと昔からいる子みたい。

 

土地の人達は彼女たちの事をとっても大切にしてるわ。妖精たちも大樹ちゃんを中心に纏まってる。

妖精ってとってもいたずら好きで、やりすぎて人間たちと軋轢があったり、距離があったりするんだけど。彼彼女たちにはそういったものが無くて、ちゃんと共生してる。

 

大樹の国では人と妖精が共に生きているのね。

人と妖精と言う力弱き存在が、纏まって力を合わせて困難を乗り越えようと言う姿はすごく心に響くものがあるわ。

 

大樹の国の役人は大和朝廷の使者が忠信を迫った時、回答を保留した。

敵意が無いのは解っていた。なぜと言う思いがあった。大樹の国の人間にとって妖精は家族だったのよ。大和の神々は人間に加護を与えて、人に仇為すものを排除した。それは人にいたずらをした妖精達も含まれていた。だから・・・彼らは・・・。

 

大樹ちゃんたちが残そうとしているものは、この大和の国に絶対に必要なものよ。

大樹の国を大和朝廷は、洩矢の国同様に滅ぼそうとしてる。大樹の国を見て思うの、国を一つにまとめることは重要なこと。でも、私利私欲のために動く蛮族でもなく大和朝廷に楯突くでもないかの国々を滅ぼしてまで手中に収める必要が本当にあるの?

 

SIDEOUT

 

SIDE 大樹の国の民

 

豊穣祭

豊穣の神様が来たとあって、里はいつも以上に騒がしい。

自分は北の方から流れついた人間だったが、ここの人たちは光羽の巫女様たちのおかげで実り豊かだ。

自分もここに来てからは、里の人たちと一緒に畑仕事をしてきた。

畑が豊作になった時の喜びは知っているので、豊穣神様にはもちろん感謝している。

 

大和の神様たちは最近周りの国々を攻め取ってるって聞いてたが、秋の二柱様が豊作を祝いに来てくれたんだから安心だな。あんなに綺麗な紅葉を大樹様と彩られておられるんだから!

 

SIDEOUT

 

豊穣祭では私達三柱で木々を紅葉に変えたよ!

とってもきれいな紅葉と秋の実りで、国のみんなも喜んでたよ。ありがとう!

豊穣祭が済むと秋のお姉さんたちは冬になる前に帰るって言って帰っていった。

冬は疲れやすいんだってさ。

 

また、次の春には来てくれるよね。

 

 



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10 綿月の二姫

 

羽山戸神様と大気都比売神、秋比売神姉妹らとの交流で大和の国と大樹の国の関係は回復しつつあった。

 

大樹の国と大和の国のお互いに行き来するようになりました。

そんな時に私の住む大樹の国の社に美人な姉妹とお姉さん方の旦那さんが訪ねてきたのです。

 

「大樹野椎水御神、姉が産気づいてしまいました。どうか、暫し宿を貸していただけないでしょうか。」

 

そ、それは大変だ。

みんなぁ!この方たちに部屋を用意してあげて!!

 

「まぁ!大変!みなさん!こちらへどうぞ!」

 

大ちゃんが、慌ててお三方を部屋へ案内する。

慌ててたから、少し遅くなったけど妊婦さんは豊玉姫、妹さんは玉依姫と言う方でした。

豊玉姫の旦那さんは火折尊って言うらしいよ。

.

 

 

 

 

 

「絶対に中を覗かないようお願いします。」

 

豊玉姫様は私達にそうお願いしてきたので私は産湯を用意して待ってますね。

 

「本当に何から何まで有り難う御座います。」

 

豊玉姫様は一足先に部屋にこもってしまったので妹の玉依姫様が代わりにお礼を言ってくれた。

 

「大丈夫なのか!?大丈夫なんだよな!!」

 

山幸彦様は忙しなく部屋の周りをうろうろしているよ。

 

ガタガタと部屋の中から大きな物音がする。よっぽどの難産なのかな?

玉依姫さまも山幸彦様も心配そうだ。でも入るなって言われてるし・・・大ちゃん、御二柱にお茶をお出ししてくれない?

 

「わかりました。」

 

私も大ちゃんと一緒にお茶の用意を手伝いに行く。

 

「もう我慢できん!!!豊玉姫!!戸を開けるぞ!!」

 

山幸彦様の大声が聞こえると同時に、豊玉姫様に貸している部屋からものすごい音がしてすごく騒がしい。大ちゃん、少し様子を見てくるね。

 

どうかしましたか~?

 

「ぎゃあああああああ!!!化け物!!!」

 

あっ痛ぁ!?

 

山幸彦様がもの動い勢いでぶつかって来て突き飛ばされちゃったよ。

痛いなぁ・・・もうっ!

 

そうだ!!豊玉姫様たちは!?

私が急いで様子を見に行くと・・・。

 

「火折尊様・・・ひどいわ・・・覗かないって約束したのに・・・。」

「姉さん・・・。」

 

泣き崩れる豊玉姫様とそれを支える玉依姫様。

 

「なんで…どうしてよ!!もういやっ!!」

「ちょ!?待って姉さん!!」

 

豊玉姫様も激昂して走り去っていき、玉依姫様もそれを追ってどこかに行ってしまった。

 

いったい何があったの!?部屋がめちゃくちゃだよ~。泣きたいのは私だよ・・・。

 

「うぅぅ・・・おぎゃあああああああああ!!」

 

え!?赤ちゃん!!ちょ!?ちょっと!!皆さん!!お子さんをお忘れですよ!?

 

 

 

『豊玉姫は妹の玉依姫を連れて陸にやりてきし そこに住まう土地神の 

大樹野椎水御神に社を借りて 豊玉姫は出産に臨んだ 

豊玉姫は絶対に中を覗かなきやう言ひし されど敢え~せられぬ山幸彦がこっそり覗くと 豊玉姫は和邇に姿を変へたりし 山幸彦は恐れおののき逃げ去に 

姫はのぞき見られしを恥じて海に去に 妹の姫もそれを追ひし 

残されし大樹野椎水御神は暫しの間 生まれし子を育てることとなりき。 』

 

 

※『』宮内庁書陵部蔵 日本書紀及び同書写本より

 

 



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11 妖精は幼さを捨て

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

 

な、泣かないで~。おんぶ紐で赤ちゃんが落ちないようにして私はでんでん太鼓を鳴らして赤ちゃんをあやしてるんだけど・・・。やっぱり本当のお母さんじゃなきゃ、泣き止んでなんかくれないよね。

 

「あぁああ!!」

 

おしめかなぁ?さっき替えたばっかりなのに・・・、やっぱり違う・・・。

おっぱいかな?どうしよう私じゃ出ないよぅ・・・。

 

「あわわ!」「牛の乳じゃ駄目よね?」「ヤギもダメだぁ!」

「どうしよう!?」「ひえぇええ!!」「お粥はもっとダメだぁ!!」

 

妖精のみんなも大混乱だよ。

 

そ、そうだ。大樹の国のに住むお母さん方から母乳を分けてもらえば!!

 

そんなこんなで4年の時が経ちました。

 

「ははさま。」

「うがやふき。」

 

4年もたてば赤ちゃんも立って歩き話せる様になりましたよ。

そのうち私のより背が高くなるかも・・・。

 

 

そんな時でした・・・玉依姫が大樹の国に再び訪れたのは・・・。

 

「大樹野椎水御神様・・・その節は・・・。」

 

妖精巫女に案内されてきたのは玉依姫様は私にお礼と謝罪をしてきました。

玉依姫は私に、赤ちゃんを引き取ることが出来ないことを伝えてきたのでした。

 

「地上の穢れを吸ってしまった鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)は月に連れていけないのです。」

 

そんな!?

 

「ですが、幸いにも私自身は月の浄化術に長けておりますので、時折様子を見に来ようかと思います。」

 

こうして、私では教えられない天津神としての作法や大和の流儀を教えるために、年に何度かこの地に来られるようになられたのでした。

 

その何度かの作法指南の先生なわけで、教師と生徒の禁断の関係を築き上げて子供をこさえてたのは予想外の事でしたけどね。

よく考えるとあんたたちの関係って叔母と甥じゃないか!?近親婚じゃないのよ!やだ~!

 

二人の子供はうがやふきの強い訴えもあり地上で暮らすことになったよ。

 

また、そのすぐ後にうがやふきの父である山幸彦の母、要するにうがやふきのお祖母ちゃんにあたる神様、木花之佐久夜毘売様がいらっしゃいました。最初から最後まで緊張しっぱなしだよ~。

 

「私の不詳の息子が、とんだご迷惑を・・・。」

 

そ、そんな!?あ、頭を上げてください!?私の様な妖精上がりのものに頭など!?

 

「いえ、鵜葺草葺不合命をここまで御育ていただき感謝しています。大した礼も出来ず・・・」

 

い、いえそのような!?うがやふきは我が子も同然です。

出来る事なら、大和に戻った後も顔を合わせることをお許しいただきたく。

 

「もちろんです。鵜葺草葺不合命も喜びます。つきましては大樹野椎水御神様に内々にお願いしたいことが・・・。」

 

は、はい!?なんでしょうか!?

 

「鵜葺草葺不合命の養育の経験を生かして、その子・・・彦火火出見の養育・・・いえ、後見をお願いします。これは勿論、天照大御神様の賛同を得ての発言です。」

 

な、なぜ!?そのような!?

 

「このところ葦原中国における穢れの増大は一部の神々の危惧するところとなりまして、月読尊の一派などは一足早く月に浄土の都を築き、そこに居を移しました。わたくしたちの中からも高天原に帰るべきとの声を上げるものも現れております。まだ、数えるほどではありますが人の子として形を成そうとしている神の子たちも現れてきているのです。大和朝廷が権勢をふるえたのは力持つ多くの天津神がその圧倒的な力を持って土地神たちを抑えたからに他なりません。そして(じき)にそれは通用しなくなる。そうなる前に葦原中国を統一しなければならないのです。」

 

私は、大和の国の天津神それも上位の神様に私のできる限り最大の殺意を飛ばした。

 

・・・・・・佐久夜毘売様、それは私が洩矢の国の洩矢諏訪ノ神と親交を結んでいると知っていてそれを言うのですか。

 

「鵜葺草葺不合命を我が子と彦火火出見を我が孫と言ってくださるのなら、後見の件・・・お引き受け願いたく思います。」

 

佐久夜毘売様、ずるいですよ・・・。妖精と言う子を為せぬ種族に生まれながら母と子の情愛を知ってしまったこの身に・・・それは・・・断れるはずがないでしょうよ。

 

「・・・わかりました。天照大御神様にお伝えください・・・私、大樹野椎水御神は彦火火出見いえ・・・、たしか即位後は神武を名乗るのでしたね。神武天皇の後見の件・・・謹んでお引き受けします。」

 

 

この数日後大樹の国は解体し、大和の国に忠信を誓った。

 

 

 

 

 

そして、この時『日本書記』『古事記』『風土記』他多くの歴史文献において強い意味を持つ名詞が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『天皇養母兼摂政 大樹野椎水御神』

 

 



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12 神武東征・大樹西征

SIDE 大和朝廷

 

「かの地、豊葦原瑞穂の国の平定と統治の偉業を大きく広げ、皇の徳を天下の隅々まで広げるに素晴らしい土地は、塩土老翁がいう東の地に違いなし!そこが世界の中心となろうぞ!」

 

彦火火出見は兄たちや家臣たちに建国の決意を語った。

諸々の皇子たちはこれに賛同し兵を移動させる。

 

速吸之門を越え岡山へ進軍。同地に高嶋の宮を建てて拠点とし3年間を期限に兵糧備蓄・軍船建造を行う事とした。

 

SIDEOUT

 

 

 

大和の国より戻った私は、大ちゃんに正式な名を与えた。

 

『大緑光ノ精』

大ちゃんは以後、公式記録ではこの名前で記されることになりました。

 

「あ、ありがとうございます。私に・・・名を・・・名を・・・うくっぅ。」

 

大ちゃんは泣きながら喜んでくれた。ごめんね大ちゃん・・・私の我儘に付き合ってね。

 

 

SIDE 大妖精

 

「あ、ありがとうございます。私に・・・名を・・・名を・・・うくっぅ。」

 

あぁ、大樹様!! あぁティタ様!!

私に、私に名をくださった!!

 

今までの愛称だった大は真名にせよと仰せになられました。

女王様!!女王様!!あぁ、我ら妖精のいと尊き女王様!!

真名をくださった!!女王様の特別!!私が!!特別になれた!!うれしい!!

 

女王様!!私はいつまでも貴女のそばにいます!!この身朽ち果てるまで!!

 

 

『 「大樹様。名をたまへはべりし恩義、さらなる忠誠でお応えしはべり。」

大緑光ノ精 忠義の意志を より一層 強く誓ひき。 』

 

SIDEOUT

 

チルノ、貴女には戦巫女(いくさかむなぎ)300と天磐船を任せます。

彦火火出見の力になってあげて・・・。

 

「わかった!あたいにおまかせだよ!!」

 

大ちゃんは兵1000を率いて蝦夷への牽制を任せるからお願いね。

 

「おまかせください!蝦夷の一人とて行かせません!」

 

 

 

残りのみんなで西征軍の編成をして、彦火火出見の軍とで挟み撃ちにしてしまいましょう・・・。

 

 

 

3年後

大和・大樹連合軍は長髄彦・洩矢と言った土着の勢力と開戦した。

天狗や河童に狐狸の類と言った妖怪たちも必然、この戦に巻き込まれたのであった。

 

『遠江の木の葉天狗は いち早く大樹方支持を表明し 敵方の磯天狗の三河へ 攻め入りき。 』

 

『遠州灘にて 戦巫女頭 氷精散瑠乃 率ゐる天磐船に 田縣の土着神の軍勢が 

襲ゐ掛かったが 大樹方に味方する 木野宮妖木の軍勢 活躍によりて 天磐船 無事 熊野灘にて 合流を果たししものの 彦火火出見の兄弟たち 皆 討ち死にしたりしを 知りし散瑠乃 は 急ぎ 大樹野椎水御神 伝令を飛ばしき。 』

 

 

このチルノが送った伝令は神武東征のこれらの戦いをさらに激しいものに変えるものとなった。

 

 

※『』文章、大樹大社蔵書 大樹記大樹西征編より

 

 



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13 神武東征妖精大戦争

 

チルノからの知らせを聞いた私の心は凍り付いた。

私の養子・・・愛おしいうがやふきの子。彦火火出見、私の孫・・・。

私の子を守らなくちゃ・・・何としても・・・。

 

誰か!誰か!

 

「「「はい!ただいま!!」」」

 

三妖精のサニー、ルナ、スターが慌ててやってくる。

今から言う言葉を書にしたためて、妖精同胞の各集落に届けさせて!!

 

「「「どうぞ!」」」

 

「妖精女王 大樹野椎水御神 ティターニア が 豊葦原瑞穂の国 の すべての同胞 に 命じる!! 決起せよ!! 養孫 彦火火出見 に 勝利を献上せぇい!!」

 

 

妖精女王の大号令が発せられる。

 

「「「女王様!!万ぁあ歳ぃいいいい!!!」」」

 

熊野荒坂で朝廷軍を退けつつあった長髄彦方の軍に現地の決起した妖精たちが突撃していく。

 

「な、なんだ!?こいつらは弱いくせに!?次から次へと!!」

 

「「「わぁあああ!!突撃ぃいいい!!」」」

「「「彦火火出見王!!万歳ぁああぃ!!!」」」

「「「栄光あれぇえええええええ!!!」」」

 

「くそっ!!離れろ!!まとわりつくな!!な!?こいつら体内のマナを逆流させてる!!自爆する気だ!!ぐわぁあああああ!!」

 

 

「これぞ、大樹母上の援軍ぞ!!皆の者!!押し返すのだ!!」

「「「おぉおおおおお!!」」」

 

神霊、妖怪、妖精、人間と種族問わず多くの者たちが闘い争い傷つけあったこの戦いで不利にあった朝廷軍は拮抗するまでに態勢を整えることに成功した。

 

宇陀宇賀志まで朝廷軍が制圧した事で天照大御神は彦火火出見の夢に立ち

「天香山の土で祭器を二つつくり、一つは天神地祇を祭り、もう一つで妖精達の鎮魂をせよ」と伝えた。彦火火出見はその通り実行した。

 

この時、現地の住人熊野高倉下は韴霊(かつて武甕槌神が所有していた剣)を彦火火出見に献上した。剣を手にすると人・妖精の軍衆は起き上がり、進軍を再開した。

 

すると、天照大御神の加護と八咫烏の先導を得た朝廷軍は連戦連勝し国見丘、忍坂、大室でも勝利を収め。ついには長髄彦を誅殺するに至ったのであった。

そして、畿内一円の敵対者を討滅した。

 

畿内平定が終わったので畝傍山のほとりに全軍を招集し奠都の詔を高らかに宣言した。そして畝傍山の東南橿原の地に宮殿をつくらせた。そこが今の橿原神宮である。その後、事代主神の娘の媛蹈鞴五十鈴媛命を正妃とした。

橿原宮に初代天皇として即位した。そして正妃を皇后とした。

 

畿内の平定を済ませた朝廷軍であったが、未だに洩矢の国は朝廷と敵対しており朝廷方の大樹の国の軍勢と戦っていた。

神武天皇は八坂刀売神を総大将とした討伐軍を派遣した。

洩矢の国は西から八坂刀売神、東から大樹野椎水御神に攻められることとなる。

 

 



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14 神武東征八ヶ岳の戦い

大樹の国の軍勢は大和朝廷に遣わされたもの達と、蝦夷への牽制に北部に遣わされたもの達、そして諏訪攻めに加わった大樹野椎水御神の本隊がある。

大樹記に載っている一連の戦いで最も激しかった戦いと言えば、八ヶ岳の戦いを上げる人が多い。

 

 

八坂刀売神は木曽川沿いに洩矢の国へ進軍を開始。

大樹野椎水御神は茅ヶ岳に布陣し八ヶ岳の洩矢諏訪ノ神の軍勢と対峙した。

 

妖精の数を頼りに攻め立てたが、鉄を武器とするミシャグジの軍勢は大樹の軍勢を容易くし返す。

大樹の国の主たる武器は青銅。さらに参集した妖精たちの武器はさらに雑多な竹や硬木、打ち合えば折られ力の差は歴然であった。

 

ミシャグジに追い立てられた大樹の国の軍勢は散り散りに追い立てられて行く。

 

「大樹様!お下がりください!!」

 

サニー達の言葉を無視して、私は一歩前へと歩み出る。

バトンを握り、大きく振り上げた。

 

私の求めに応じて樹木草木が寄り集まり、一つの姿に纏まっていく。

 

巨大な無数の根が蛇のようにしなり、ある物は鋭い牙の生えた口を持った姿に変えていく。

寄り集まった樹木は幹が青く若々しい、一本一本が太い若幹が寄り集まりさらに一本へと纏まろうとして折り重なり天高く伸びていく。

 

私の思いに応えた木々らは一つ姿に具現する。

幹の頂上に咲く巨大な赤い花。

 

『守護華獣 碧奧蘭蒂(びおらんて)』

 

あまりの巨大な姿にミシャグジたちは足を止め呆けていた。

 

やれ…。

 

巨大な根が降り降ろされた。

ミシャグジたちは圧倒的な巨体に為すすべなく、今度は彼らが散り散りにされる番であった。

巨大な根と蔓が振り下ろされ、地をうねる。牙を生やした蔓に噛みつかれて砕かれる。

 

 

 

諏訪湖に座す洩矢諏訪ノ神からも八ヶ岳を削り崩れんばかりの土煙と言う形で見えたと言う。

 

※余談であるが、昔話の富士山と八ヶ岳の背くらべにおいて背比べに負けた八ヶ岳の男神が大樹の女神に「昔お前が暴れなければ・・・。」と文句を言うシーンがあり、この諏訪大戦における八ヶ岳の戦いの事を指していると言われている。

 

 

八ヶ岳のミシャグジたちを蹴散らした私は、手勢を率いてすでに諏訪子と戦っているであろう八坂刀売神の下へ軍勢を進めたのです。

 

 

 

 

SIDE 大和朝廷

 

一方の八坂刀売神は木曽谷の戦いにおいて、諏訪子の腹心であるミシャグジ手長足長を討ち取り、さらに奥へと軍をすすめ奈良井川を挟み再び対陣した。

 

「大樹様の軍勢、八ヶ岳で諏訪勢を破り茅野へ進軍する構えを見せております。」

 

一見有利に進んでいる戦いも、梅雨になり暴れ狂う川と様々な形で大和の軍を蝕んでいくであろうミシャクジ神の祟り、時間をかければかける程不利になる戦況。諏訪の民という存在。

そんな中で唯一にして最大の朗報。

 

 

 

彼我の戦力差、時季天候、諸々考慮した結果、八坂刀売神が下した決断は。

 

「大樹様の陣へ・・・短期で決着させる旨を伝えよ。大樹様は南より茅野へ攻め上がり諏訪勢の動きを抑える様お伝えせよ。」

 

短期決戦を決めた。

 

翌日、八坂刀売神の軍勢は大軍を擁して渡河を行い諏訪勢の山麓に点在する砦へ攻めあがった。

 

斜面に木の防壁が巡らされているのが目視できる所まで、大和の軍は歩を進めていた。

これこそ洩矢諏訪の社の防壁、ここを突破すればもう洩矢の本陣である。

何の攻撃も受けずにここまで来られた事が、却って不気味でもあった。

そろそろ矢の射程に入るぞ。皆、心せよ!

高低差があるため、諏訪勢の矢は飛距離が伸びるが、こちらからの矢は届きにくい。大和軍にとってはここを如何に抜けるかが正念場であった。

 

SIDEOUT

 

 

八坂刀売神の伝を聞いた。

私は、南側より洩矢諏訪の社へ向け軍を進める。

 

ゆっくりとした動きでうぞうぞと這いずる様に前に進む華獣碧奧蘭蒂を先頭に、じわりじわりと兵を進める。

 

先の八ヶ岳の戦いで、恐れをなしてしまったミシャグジたちは遠巻きにこの大樹の歩みを見ている事しかできなかった。

 

・・・この茅野に布陣し相手の動きを見ます。

諏訪子・・・友の契りを結んでおきながら大和に付いた私を見てどう思う。

大和に魂を売ったと裏切り者とののしるか・・・それとも・・・

どんなに君に恨まれようと、祟られようとも・・・

 

諏訪子・・・許せとは言いません。

大和の国の為・・・うがやふき・・・愛おしい子の為、孫の為・・・これからも紡がれる子々孫々の為に・・・為さねばならないことがあるのです。

 

 

 

 

 

 



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15 神武東征諏訪決戦

 

翌日、私は碧奧蘭蒂の上に立って大樹野椎水御神としての威を見せつけるため。わざと堂々と茅野より諏訪へ向けて進みだす。

 

八坂刀売神率いる大和朝廷軍は多大な損害を出しながらも塩尻峠を越え諏訪湖外苑部に至り、諏訪子を挟み撃ちにする動きを取っている。

 

大和朝廷軍も大樹の軍勢も質より量と言わんばかりの兵力を洩矢の国に差し向けていた。

大和朝廷軍と洩矢の国の兵力差は10倍以上、大樹の国も単純な兵力差はそれ以上であった。

大和・大樹の連合軍を合わせれば30倍近い兵力差となる。

 

これだけの差があってこれほどの時間を掛けたのは、洩矢方の地の利のみならずミシャグジたちの容貌魁偉にして、常人を遥かに超える膂力、戦闘技能にあった。

 

そんな彼らでも流石に30倍の兵力は退ける力は無かった。

 

時間が経つにつれ連合軍は洩矢の軍勢を湖畔の際まで追い詰めていた。

 

私はバトンを振り下ろし最後の総攻めを命じようとしていた。

 

その時、合流した大和側の長である八坂刀売神より、ある申し出を受ける。

 

「洩矢の民に極力被害が出ない様に、一騎打ちで片を付けたい。」

 

・・・そう・・・ですか・・・では、私が・・・

 

「いえ、摂政たる大樹野椎水御神が・・・そのようなことをするべきではありません。この軍神である八坂刀売神にお任せいただければ。」

 

豊穣神である自分が行くよりは、良いのでしょうが・・・。

 

「ケジメとでもお考えですか?自分のお立場を御理解頂ければ誰が一騎討ちに打って出れば良いかお判りでしょう。貴殿はこの後も大和の摂政として、やって頂かなければならぬことがございます。お立場をお判りいただけますでしょう。」

 

ままならぬものですね。

わかりました・・・八坂刀売神・・・、大和の為・・・諏訪子を、いえ洩矢諏訪ノ神を・・・討ちなさい。

 

 

 

諏訪湖の上空で洩矢諏訪子と八坂刀売神は戦った。

諏訪子は鉄の輪を両手に持ち、次々と八坂刀売神へと投擲するが、それを何処からか取り出した御柱を振り回して弾くと、諏訪子に向けて全力で投げつけた。

 

「なかなかやるね、八坂神奈子!」

「まだまだ、こんなものじゃないよ!」

 

私がそこにいられた未来もあったと言うのに・・・

今の自分の立場を考えれば、親しい相手でも略名は使えない。

諏訪子が御柱を回避したところに八坂刀売神は御柱を何本も投げつける。それを諏訪子は柔軟な体の捻りで回避すると鉄の輪を持って一気に接近するとそのまま振りかぶり、切り付ける。これが若さか・・・

 

「あまい!」

 

 八坂刀売神は御柱で防ぐと左手を諏訪子の持つ鉄の輪に向ける。すると、みるみる鉄の輪は錆び付き、崩れ落ちてしまった。

 

「…チッ!」

 

諏訪子はすぐにその場を離れて新しい鉄の輪を作りだした。

力は互角、しかし若干諏訪子が不利なようである。

 

「はんっ!口ほどにもないねぇ…小さいからって逃げてるだけかい!?」

「そっちこそ、やたらとデカイ柱ばかり振り回してるけど全然当てられないじゃないか!」

 

言葉による挑発で相手を刺激してミスを誘う。これも戦いにおける戦略の一つなのだが…

 

「ふ…ふふ…言ってくれるじゃないか、この幼女が!」

「ふふ…その幼女より年下のくせに随分と老けて見えるけどねぇ?」

 

挑発の内容が段々と幼稚になっている気がするが・・・まぁ、それは置いておくとして・・・

諏訪子は八坂刀売神の振り回した御柱の直撃を受けてノックアウト……

諏訪大戦は大和朝廷の勝利で終わったわけである。

その後は原作通りに表向きは神奈子だが本当の祭神は諏訪子であるという形になり、和解した私達は夜中に三人で酒をのんでいる。

しかしながら、私は諏訪子への引け目から話しかけることが出来なかった。

諏訪子は私の耳を両方とも引っ張ってきた。

 

「な~に、しみったれた顔してんの!」

 

どうして・・・。

 

「あ~もう!あんたってやつは!自分の子供のためにやったんでしょう!だいたい、あんた!わたしにも洩矢の血を継ぐ巫女がいる事を忘れちゃいないかね?」

 

あ、たしかに・・・いや、でも・・・

スッ・・・スパぁ・・・鉄輪が私の方を掠る。

 

「わたしがいいって言ってんだから・・・イインダヨ・・・ワカッタ?」

 

はっはひぃいいいい!!

 

「あははははは!!仲がいいね!あんたたち!!あと、私の事は神奈子でいいからね。」

 

さすが祟り神の諏訪子だよ~こわい~。

それと八坂刀売神・・・じゃなくて神奈子、諏訪子と仲が良いのは認めるけど。これを見てそう思うのはどうなんだろう?

 

まぁ、今は和解できたことを喜ばないとね。

よーし!飲むぞ~!

 

 

 



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16 欠史の時代神性の希薄化

 

神武東征が終わり、大樹の国は完全に大和朝廷の支配下にはいった。

私自身、大樹の本社と難波宮近くの分社を行き来することが増えた。

 

この時代は歴史書に記すにはあまりにも過酷すぎる時代でもあった。

 

神奈子らと一緒に大国主神に対し国譲りを迫ると、大国主は息子の事代主神が答えると言い自身は政治より手を引いてしまう。天津神に完全に大和の国を渡してしまう事に対する僅かばかりかの抵抗であった。事代主神は大和朝廷に従う姿勢を崩さず。

 

ひとまず、大和朝廷は安定化していく。ただし、この世の穢れは広がっていき天津神の高天原への退去は進んでいき、国津神たちの顕在化をも阻むものとなった。

 

神武天皇の崩御後、手研耳命は異母弟の神八井耳命・皇太子神渟名川耳尊(のちの第2代綏靖天皇)を害そうとしたことから始まる天皇後継争いによって権威の低下がみられたのだ。

また、神武天皇以降の天皇はその神性を失いはじめ、瓊瓊杵尊が木花之佐久夜毘売のみを娶り石長比売を送り返したせいで岩の様な長寿を得られなかったせいなのか。神武以後の天皇の寿命が縮まり始めた。

 

そう言った神々の弱体化はその威に抑えられていた異形の者たちを活発させた。

それは海向こうでも同様であり、西洋神話の神々も各々の世界に戻って久しく世は乱れていた。この時代に異形(妖怪)が人を襲うのが自然の摂理と言う定説が根付いた時期でもあった。

 

さらには海の向こうから同胞たちがこの大和の国を目指して大移動を始めたのだ。東方の地で確固たる地位を手に入れた妖精女王の下に集まるために・・・。そのせいなのか海向こうの土地は広さの割に思ったより緑に乏しくなっていくのである。

 

欠史八代とも呼ばれたこの時代は記録が少なく、後の世に伝える余裕すらないほどに乱れた時代であった。

 

このままでは、大和朝廷存続の危機であった。そんなころに生まれたのが日本武尊であり、彼は八岐大蛇の討伐や最初の蝦夷討伐、西の勢力の沈静化など先祖返りではないかと思う程に高い戦闘力を持っていた。彼の欠点を上げるとただ一つ究極的に指示待ち族だったことだろう。

 

尊・・・、西に不穏な動きがある。牽制できぬだろうか?

「はい!大樹様!」

 

しばらくして・・・

「大樹様!熊襲の首をお持ちしました!」

 

私が言ったことには恐ろしく忠実(曲解)なことであり、西で不穏な動きをしていた弟熊襲健の討伐を命じれば迷いなく行い、普通ならたじろぐような八岐大蛇討伐すらやってのけた。

 

彼の武威をもってして、不穏な空気を振り払ったのです。

これ以降は現代に至るまで、緩急はあったものの歴史は流れていくのでした。

そして私自身も、妖精としてよりも為政者としての自分が強くなっていくのでした。

いえ、少し違うかもしれませんね。でも、似たようなものよ・・・。

 

 

 

 

 



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17 仏教布教 豊聡耳神子と乙巳の変

 

仏教の流入、かの宗教は国をまとめる為に大いに役立った。

 

「人心の乱れを正し、すべてを受け入れる事が修行なんて、為政者の為にあると言っても過言ではないでしょう。」

 

豊聡耳神子・・・、なかなかの知恵者よ・・・。

仏教の教えは、まさに政治利用するに都合のいい・・・。それにあの修行内容を完遂できるもの等そうはいまいて・・・

 

「さすがは大樹様であらす。・・・いえ、ここは滅多なことは言うべきではないですね。仏教

の根付けは大樹様が影から思うままに主導するのがよろしいかと・・・。」

 

あら、御子が主導してはくれませんので?

 

「ご冗談を・・・私は人の子ですよ。仏教を根付かせ統べるまで、とても生きてはいられませんよ。ははは・・・」

 

あぁら?道教の仙人崩れとよろしくしてるのは、不老不死となり現人神ならぬ現神に至る道ではなくて?

 

豊聡耳神子は、顔をこわばらせた。僅かに後退っているようにも見える。

御子は頭を床に着け弁明する。

 

「大樹野椎水御神、決してそのような事は・・・!」

 

責めてはおりませんよ?貴女ほどの知者ならばそう考えるのも当然。罷りなりにもその方法を見つけるに至ったのは貴女だけですがね。

で、いつそうなるのです?貴女に天皇位を用意せねばなりませんからね。

 

「では、大樹様。賛同していただけるので?」

 

勿論です。この国は神武から始まる神の国、さかのぼれば天照大御神様に伊邪那岐尊にいたる尊い血族。御子はその尊い血を引く存在、それが神性を得るのです。これほどに国を統べるに適任な人材はいませんよ。して、いつになるか?

 

「青娥殿に聞いてみますが、非常に時間がかかるとだけ・・・。」

 

娘々とも話しておくべきかな・・・。

そうですか・・・貴女には大いに期待しますよ豊聡耳神子。

 

 

 

暫く経ち、大きな改革の芽を出させた後、豊聡耳神子がこの世を去る。一時的な物ですがね・・・。

豊聡耳神子が表舞台から去ることで、問題が起こった蘇我氏台頭である。

蘇我氏の横暴は目に余り、上宮王家を滅ぼしてしまう。蘇我氏も古人大兄皇子を擁していたが実態は蘇我氏の傀儡であった。

 

このままでは、日本は蘇我氏の物にされてしまう。

危機感を覚えた私は中臣鎌足を推して中大兄皇子を擁するよう動いた。

 

「大樹様、蘇我の横暴は見るに堪えません!今こそ蘇我を討つときです!」

「大樹母(皇族が大樹を呼ぶ場合の専用名詞)様!ご決断を!!」

 

ついに当時の御所である大極殿にて決行される。

 

『古人大兄皇子が側に侍し、蘇我入鹿も入朝しき。入鹿は猜疑心が強く日夜剣を手放さざれど、側役人に言ひ含めて、剣を外させたりき。中大兄皇子は衛門府に命じて宮門を閉じさせき。奏上役が上表文を読みき。中大兄皇子は長槍を持ちて殿側に隠れ、鎌足は弓矢を取りて潜みき。

 

中大兄皇子は部下らが入鹿の威を恐れて進み出られなきなりと理り、自らおどり出でき。大樹のお墨付きを知らぬ部下たちと違ひ中大兄皇子は天皇家養母の命を忠実に実行に移し、飛び出して入鹿の頭と肩を斬りつけき。入鹿が驚きて起き上がると、鎌足の部下が片脚を斬った。入鹿は倒れて天皇の御座へ叩頭し、

 

「私に何の罪があるや。お裁き下され」

 

と言ひき。

 

すると御座の奥より童女の声が聞こえき。

 

「貴様は皇族を滅ぼして、皇位を奪おうとしき」

 

御座の布が払はれ皇極天皇の座の後ろに控えた童女。

その童女には薄き羽が生え、発せられる威は尋常ならざりき。

 

大樹様なり。

 

「寶皇女(たからのひめみこ)、理解できたりな。」

 

皇極天皇は無言のまま殿中へ退きき。

 

御座の横にゐし巫女ら、彼女らも巫女服より薄羽が見え隠れしたりし彼女たちが入鹿の下に歩み寄り、入鹿を斬り殺しき。

 

この日は大雨が降り、庭は水で溢れてゐき。入鹿の死体は庭に投げ出され、障子で覆いをかけられき。 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで邪魔者は消えた。

 

 

 

 

※『』国家機密指定文書 藤原鎌足日記

 



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18 仏教布教 壬申の乱と妖精

『二年春正月甲子朔、賀正の礼畢る。則ち改新の詔を宣べて日く。其の一に日く、昔在の天皇等の立てたまへる子代の民,処々の屯倉、及び別には臣・連・伴造・国造・村首の所有てる部曲の民、処々の田庄を罷めよ、仍りて食封を大夫以上に賜ふこと各差あらむ。隆りては布帛を以て官人、百姓に賜こと差有らむ。

其の二に日く、初めて京師を修め、畿内国司・郡司・関塞・斥候・防人・駅馬・伝馬を置き、及び鈴契を造り、山河を定めよ。 』

 

乙巳の変により蘇我本宗家を排除し、中大兄皇子・中臣鎌足(藤原鎌足)らは天皇を中心とした政治を目指し大化の改新を断行。

 

私は皇族や宮廷貴族の一部が国難の際に必ずお伺いを立てる天皇家の影の守護者としての地位を確固たるものとした。

 

それから時が経ち壬申の乱が起こる。

以前の私は皇族の血を絶やす様な騒乱でない皇族同士の争いには口出しも手出しもしなかった。しかしこの時の私は豊聡耳神子と語った仏教の有用性から大海人皇子(後の天武天皇)に味方した。天皇の権威を確固たるものにする一心で・・・。

 

壬申の乱のとき、挙兵して伊勢に入った大海人皇子は、迹太川のほとりで天照大御神を望拝した。天照大御神様は神々の中でも別格なのだろう、高天原にいてこの葦原中国に分霊体とは言え顕在できると言うことは・・・。

 

そう言ったことがあったからか。天武天皇は神道を日本古来の神の祭りを重視し、地方的な祭祀の一部を国家の祭祀に引き上げた。これは私やこの人の世で果てる覚悟を決めた一部の神々への畏敬の思いから来たものでもあった。

即位前には出家して吉野に退いた経歴を持つからか、私の仏教保護の提案は受け入れられ手厚いものがあった。

 

そして時はさらに流れる。天武天皇の次の次の天皇は都城を藤原京から平城京へと移す。

この時代、隋の600年頃から続く朝貢の使者は遣唐使に変わり894年の計画を最後に、遣唐大使の菅原道真の建議により休止され、907年に唐が滅び、そのまま消滅する形となった。その間に桓武天皇の勅命で平城京から藤原京へ、さらに藤原京から平安京へと都が移っている。その際に、蘇我馬子が飛鳥に建立した日本最古の本格的な仏教寺院である法興寺が元興寺と名を変え平城京内へと転移した。これは、蘇我氏への弾圧以上に仏教の保護を優先した結果と言えた。

 

また、遣唐使の真の目的は先の妖精の大移動によって隋もしくは唐まで到達した妖精たちの受け入れが目的とされていた。その為、遣唐使の規模は大きかった。

 

 

「女王様、我ら妖精同胞一同。東の遠国にて理想郷を起こしたと聞き、女王様の慈悲に縋りたく・・・。」

 

都の分社にて同胞達が頭を垂れ忠誠を誓う。

 

「同胞達よ。よくぞここまで来てくれました。私は貴女方を歓迎しますよ。」

 

「「「「女王様ぁ!!」」」」

 

妖精達が私に忠誠を誓ったのであった。

 

 

SIDE とある不作の村

 

「おーい!大樹大社の巫女様が来てくださったぞ!!」

 

村の青年の声に村人たちが一斉に顔を上げる。

村人たちの歓迎を受けて、童女程の見た目の巫女が村の祠で祝詞をあげてから田んぼや畑の土に手を入れる。

 

「終わりましたよ。」

 

巫女様が儀式を終えると村長が礼を言う。

 

「巫女様・・・、ありがとうございます。これで村は安泰ですじゃ。巫女様はこんなにお小さくいらっしゃるのに立派ですな。」

 

「えへへ、ありがとう!・・・ございます。」

 

年相応にかわいらしい姿は農村の民の心を癒していた。

もちろん、地力の回復もできている。

 

妖精の存在は日本の人々に受け入れられつつあった。

 

SIDEOUT

 

 

この国を緑豊かにするためには、この世界に残り覚悟を決めた秋比売神姉妹だけではこの国全土を包みきれない。

 

妖精たちはそれを補完する役割をこの国では持ち、大樹本社や分社で巫女として働き、不作地の地力回復に勤しんでおり民たちにとっても好ましい存在として扱われていた。

 

 

 

※『』北野天満宮蔵 日本書紀写本 第二十五巻より

 

 



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19 菅原道真

894年、最後の遣唐使が派遣される。

その、遣唐使たちは重要な密命を帯びていた。超長期的な諸国の見分であり、正規の遣唐使に混ざり大樹大社より使者として数名の巫女たちが派遣された。

 

『遣唐使船に乗り込んだのは 陽光巫女 月光巫女 星光巫女 の三人なりき

彼女たちが 派遣されしを最後に 遣唐使制度は廃止されき。

彼女たちは ついぞ 戻ってくるはなかりき。 』

 

公式上派遣された巫女たちは現地に取り残されたことになったが、彼女たちには諸国を検分する旅をする任を任されたのであった。彼女たちは長い時を経て重要な役割を担うこととなるのでした。そして、再び歴史上に彼女たちの名が出るのは18世紀の話である。

 

 

 

901年、菅原道真が濡れ衣をかぶせられて大宰員外帥に左遷される。

 

「東風吹かば 匂ひをこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」

 

彼が京都を去り暫くして・・・彼の子供4人が流刑に処された。

左遷後は大宰府浄妙院で謹慎していたが、翌々年大宰府で失意のうちに亡くなり、安楽寺に葬られた。

 

しかしここで話は終わることは無かった。

ここから不可解な出来事が続発する。道真の左遷にかかわった人物の相次ぐ死、日照りによる作物の不作、流行病など次々と降りかかる天災に京の都は大混乱。ここに道真の怨霊による祟りであった。

道真の霊に左遷前就いていた右大臣に復帰させるとともに正二位を贈るなどしたが鎮まらず。

 

 

墨を流したような真っ黒な雲に覆われた京で激しい雨とともに雷鳴がとどろき渡り、ついに道真が平安京に姿を現すこととなる。

その顔は怒りと憎しみに囚われ、雷を操った。

 

「帝、帝!出てこい!殺してくれる!」

 

怒りにおぼれる彼と私は対峙する。

 

道真殿、鎮まりなさい。敦仁(醍醐天皇)のしたことに怒りを覚えるのは解ります。貴方の名誉を守るためにこの大樹ができることは何でもしましょう。

 

「おお、貴女がうわさに聞く大樹殿であったか。天皇家の守護神たる貴女を倒せば。天皇家はお終いであるな!」

 

私は彼の雷をバトンで払いのけつつ応戦する。

 

定省(宇多上皇)は貴方を助けるために奔走しましたし、貴方の子らは失敗しましたが貴方の妻や娘は生きながらえています。それに免じて怒りを鎮めてもらいたい!

 

そして私達が争い1時間半ほど過ぎたころ、一瞬の閃光と轟音とともに清涼殿に雷が落ちたのだ。

 

 火災とともに崩れ落ちる清涼殿。さらに雷は紫宸殿にも落ち、宮廷内は逃げ惑う公家、女官らで大混乱となっていた。そして怯える人々の中には斉世親王とその妻(道真の娘)がいた。さらには宇多上皇の後院亭子院からも大樹と菅原道真の戦いが見えていた。

 

 

道真公・・・彼らの身は大樹が保証する。だから怒りを鎮めなさい。

 

さらに戦いは10時間に及び、決着はつかなかったが漸く道真は平静を取り戻し・・・

 

「北野の地に祀ってくれれば報復の心も安らぐことでしょう。」

 

と告げて消えた。

 

こうして北野の地に朝廷が社殿を造営し、道真を祀った北野天満宮が完成し、道真が亡くなった大宰府の墓所の地には安楽寺天満宮(のちの太宰府天満宮)が建てられ、ようやく京の都は平静を取り戻したのでした。

 

北野天満宮や大宰府天満宮の造営には大樹大社の大樹の一部が使われたと言う。

 

また、太宰府天満宮へ大樹大社より鎮魂の巫女が派遣されることとなり、小さな分社が敷地内に設けられている。

 

その巫女には彼となじみ深い梅の木の妖精が派遣された。

梅の苗木を持って、彼女は太宰府の道真の下を訪れる。

 

「道真公・・・。」

「貴女が大樹大社からの巫女であるか。」

 

道真は彼女と彼女の持った苗木を見てハッとする。

 

「大樹様も粋な計らいをする・・・。その苗は京の私の所の梅の苗木ではないか。」

 

道真は彼女の神代(かみしろ)にされている梅の花を見て、確信した。

 

「では、貴女は私の所の梅の木の妖精か。」

「はい、お会いできてうれしいです。」

 

 その後も怨霊として恐れられた道真だが、200年ほどたつと慈悲の神に。さらに歌人、学者としての面が注目された江戸時代ごろから、学問の神として信仰されるようになったという。その背景には太宰府や北野天満宮で梅林と言う名の巫女がおり、その巫女に道真公の霊が勉学を教えている姿が目撃されたと言う話がある。

 

 

※『』国立国会図書館蔵書 大樹記写本より

 

 



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20 承平天慶の乱寺社連挙兵

 

菅原道真の件、昌泰の変が終わり30年程経つと関東にて平将門による大反乱が発生した。

事の発端は関東一円を支配する平氏の一族内での争いに原因があった。この背後には源護がいた。

最初に仕掛けたのは源護と平国香、将門を待ち伏せして襲撃しました。

しかし、襲撃は失敗。逆に将門が源護と平国香を追い詰めます。将門は、逆襲で国香の館まで侵入し、叔父の国香を討ち取ったのでした。

 

国香は、平家一門の最年長者であり、平家一族の族長でした。その人物を将門は逆襲によって滅ぼしてしまったのです。関東平氏の一族は大きく混乱するのです。

その後、郡司と受領の間で揉め事が発生し朝廷でも関東の不穏な空気を察して懸念されていた。

土着の郡司と受領の間での揉め事は、一度沈静化した関東平氏の争いも再燃したのです。

将門はこれに乗じて関東一円の敵対者を一掃、関東全土の掌握に乗り出します。

敵対者を殲滅した将門の次の標的は関東の騒乱に対し静観を決め込んでいた中立勢力である寺社衆でした。

一つは下野有数の僧兵を抱える日光山輪王寺、そしてもう一つが皇室との繋がりが深い武蔵最大の権威・・・大樹大社。

 

将門の恫喝に大樹大社は大きく反発、939年大樹大社は周囲の寺社に檄を飛ばしたうえに決起。

 

大樹大社より戦巫女衆を中心とした600の兵が挙兵。これに三峯神社、根津神社、秩父神社など多くの神社が呼応。これに刺激を受けたのか輪王寺も僧兵を集結させ始めたのでした。

 

大樹大社が動いたことで周辺神社から戦禰宜や戦巫女らが集結し、その兵力は1000にまで増大した。

将門からは度重なる解体命令が出されたが大樹大社を中心とした神社連合はこれを悉く無視、そして輪王寺が挙兵し日光周辺を抑え始めた。その為、当初民衆から支持を得ていた将門であったが寺社からの否定を食らって支持を失い始めたのであった。

 

関東では朝廷が動く前に大樹大社を中心とした寺社連合が将門軍と小競り合いを各地で繰り広げ始めていた。

朝廷はようやく将門の行動を重く受け止め、将門追討令を出した。また、大樹大社と関わりの深い諏訪大社や浅間大社は大樹大社支持を表明しており、朝廷は破格の恩賞をチラつかせ、三上山の百足を討伐した藤原秀郷や平貞盛といった有力武将たちを将門討伐へ向かわせました。

 

 

 

大里にて大樹大社が、今市にて輪王寺がそれぞれの兵を率いて将門の軍と対峙する。

 

 

『「将門は 卑しくも 天皇位を 望み 天照大御神様 より続く 天津神々の 血を引く 天皇家を 害そうとしたる 天津神々を 祀る 我々は これを認めなき 将門は 恐れ多くも 帝に弓ひき 世を乱そうとする 神々は これを望まなき 神々より世の安寧を 託されしもの達の末裔たる 我らは天に代はりて 将門を討つのにはべり」

 

大妖精は 戦列の前に立ち兵たちを鼓舞しき。 』

 

※『』大樹大社蔵書 大樹記承平天慶の乱編より

 

 

 



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21 承平天慶の乱神々の謀

朝廷軍、遂に討伐軍を発する。

寺社連合他の争いも途中である中、大急ぎで手近な軍勢をそろえて対抗しますが、将門軍はあっけなく貞盛・秀郷に負け敗走。

 

 

 

将門は、藤原秀郷の手により打ち取られてしまいます。軍勢が手薄なタイミングをうまく狙った作戦勝ちというところでしょう。また、朝廷の恩賞につられ、将門から離れる人々もいたようです。将門軍も一枚岩ではなかったということです。

 

 

こうして、新皇を名乗った平将門が朝廷軍と戦ったことを平将門の乱と言います。

 

武士をないがしろにしては、いつどこで大反乱が起こるかわからない。そんな恐怖心が朝廷内に生まれます。こうして、武士は、朝廷内でも一定の地位を確立できるようになりました。

武家の時代の到来でした。

 

「武家どもめ…刀を振りかざすばかりの粗野な者たちめ・・・」

朝議に参加した高位貴族の一人が歯噛みした。

 

 

しかし、武士をうまく利用すれば、強大な戦力になりうります。

彼らの力、世のために奮わせればよいのです。

 

「さすがは大樹様・・・。」

 

 

朝廷は寺社衆を統括し、武家の上に立つ存在。

しかし、武家の力は見過ごせない。であれば、彼らの力を利用する方法を考えればよいのです。

 

 

 

SIDE  諏訪大社

 

「なかなかの男だったろう・・・?藤原秀郷は?」

 

藤原秀郷は神奈子の眷属である大蛇の願いで大百足を退治した。蛇足ではあるが「俵藤太物語」の百足退治伝説として現在まで逸話が伝えられている。

その経緯もあって、戦神である神奈子の推薦もあって将門討伐の筆頭武将に藤原秀郷が当てられた経緯があった。

 

あっという間でしたよ。あの将門をこうも容易く討ち取るとはなかなかできることではありませんよ。あれにはそれなりの役職を与えやろうかと思っていますので・・・。

 

 

それを横で聞いていた諏訪子は軽くふざけた調子で聞いてくる。

 

「ティタ~太っ腹だね~。で~本音は?」

 

暫くは、私のひざ元に置き関東の鎮撫をさせる。その功を盾に奥州の蝦夷や朝廷に非協力的な者への抑えにするつもりですよ。

 

「こわ~い。」

「なかなか、腹黒いねぇ。」

 

京の政に謀と関わるとこうもなりますよ。

 

これらの功により藤原秀郷は同年3月、従四位下に叙され、11月に下野守に任じられた。さらに武蔵守、鎮守府将軍も兼任するようになった。かの子孫は奥州藤原氏として奥州の支配者となるのだ。

 

 

『かくて、討ち取られし将門の首は京都の七条河原にさらされき。

将門の首は何か月たつとも腐らぬ、生けるかのごとく目見開き、夜な夜な「斬られし我の五体はいづこなりや。ここに来。首つなぎていま一戦せむ!」とののしり続くれば、京の民どもに恐怖せぬ者はあらざりき。

 

さる時に、暗き藍色の狩衣を着し壮年の貴族男性といわけなき10世前半の巫女装束の童女の晒されたる首の前になれり。

 

「この者が将門公なりや。」

「その様なりかし。」

 

男が童女に尋ぬと童女はそれに軽く応じき。

 

「よほどこの世に未練ぞあらむ。蛇を殺ししきはの男に負けしには納得がいかんか・・・?梅林、いかが思ふ?」

「・・・・・・・・・・。」

 

男の言の葉に童女は応ぜざりき。首ばかりの将門がギロリとまもりしやうに感ぜられき。

男は尺を胸に当てて歌を詠む。

 

「将門は こめかみよりぞ 斬られける 神々等が はかりごとにて。」

「神とは、いづこの神なりきや?」

 

男の詠みし歌に対して、将門の首の口開きて尋ぬ。

 

「大樹野椎水御神、八坂刀売神、洩矢諏訪ノ神・・・。」

「して、そなたは?」

 

将門の首がなほ尋ぬと男はなほ応ず。

 

「菅原道真。」

 

「こは勝たれぬよしなり!!大樹野椎水御神、八坂刀売神、洩矢諏訪ノ神、天満大自在天神とは!!かかる大物を相手によく戦ひしものよ!!」

 

将門は豪快にからからと笑ひだす。かくて道真はなほ将門に言ふ。

 

「よき戦たよりに、関東の護持してかの神の行く末見て見ぬか?我はさて大宰府なれど?」

「わかれり!わかれり!我も残りやる!かの神々に伝へよ!」

将門はなほ豪快にからからと笑ひ、すなはち朽ち果てき。 』

 

 

『』太宰府天満宮蔵書 梅林日記より

 

 

 



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22 源平合戦

承平天慶の乱の後、女真族の集団が壱岐対馬を襲撃し被害が出たが大宰府の兵が返り討ちにした。(刀伊の入寇)

 

奈良時代から進んでいた文化の日本化が国風文化として結実し、漢字を元に生み出された平仮名・片仮名が使われていくようになり、「源氏物語」・「枕草子」に代表される物語文学などが花開いた。密教や末法思想が広く信じられ、神仏習合が進み、寺社仏閣が多く建てられ神宮寺と言う習合的なものも登場した。

 

東北では平忠常の乱が3年続いたが、京の都や大樹大社に大きな影響がなかったために私達の介入はなかった。この頃の出来事に私達の介入はない。なお、延久蝦夷合戦にて東北を平定した。

 

源義親の乱を制した平家が台頭する。その後の保元の乱で摂関家を中心とした朝廷権威が弱体化、平家を抑える存在が無くなり、平治の乱を契機に平家政権が誕生した。

本来は貴族の番犬でしかない武家でありながら強大な権力を手中に収め、この世の絶頂を極めている平氏の棟梁。「平氏にあらずんば人にあらず」と言う言葉が生まれるような程に増長を極め、大樹こと私の苦言を無視し現神大樹野椎水御神をも軽んじ始める。また、別の問題も浮上し始める。保元の乱・平治の乱を引き起こしたのが玉藻前と言う九尾の妖狐だったのだ。

また、この玉藻前自身も白河の金剛勝院御所において安倍泰成に退治され、殺生石として封印されるに至っていた。

 

「陰陽頭安倍泰成、大陸の大妖討伐ご苦労様です。」

「大樹様、お言葉痛み入ります。・・・陰陽頭としてお知らせしたき事がございます。」

 

玉藻前との戦いでだいぶ弱った彼の声はかつてに比べて弱々しく感じた。

私は彼の言葉に耳を澄ます。

 

「玉藻前は間違いなく石に封印しました。ですが、石からの瘴気が収まる気配がございません。私にはこれで終わりとは思えないのです。大樹様、お気を付けください。」

 

 

 

平清盛が後白河上皇を幽閉し、以仁王と源頼朝が挙兵した際も私は中立を維持した。

実際の所、平氏の側にも高倉天皇(後に上皇)などの皇族が味方に付いており高倉上皇と後白河上皇の権力争いの側面もあったからだ。ただし、高倉天皇と後白河上皇のどちらが大樹野椎水御神に近しいかと言えば上皇の方であった。これまた複雑怪奇である、玉藻前に操られていた側の上皇の方が近しいのである。高倉天皇に接近と言う選択肢はない何せ平氏に完全に寄っている。

 

こういった理由から、上皇との連携に支障をきたし一時は上皇が平氏との権力争いに劣勢となり、朝廷を介した介入が難しくなってしまったのだ。

 

神々と言うのはかなり俯瞰したものの見方をする割には、初動が遅かったり派手に失敗したりする。私はその中では妖精上がりの神であり、高天原の純然たる神ではないためそれに当てはまらないと思っていたのだが、私も神々の例にもれなかったようで・・・。

 

気が付いたときには日本のあちこちで平家と源氏を中心とする反対勢力が争う大乱が起きていた。そして、安倍泰親は病床となり陰陽師の実力者が不在となって日本の霊的守りに綻びを見せる事にもなってしまうのです。以後の陰陽寮が霊的に使い物になるまでに戦国時代あたりまで待たねばならない。

 

しからば直近の問題である平氏を片付けようと思い、影響下にある寺社衆に平氏討伐を命じた。神勅である。甲斐源氏決起の際に諏訪大社の戦禰宜及び戦巫女衆が決起。富士川の戦いにおいて浅間大社の戦禰宜と戦巫女衆が参陣し、源氏の勢力は盛り返していく。私も京の都を脱し、熊野三山を決起させた。その足で、狹岡神社の秋比売姉妹と合流し三柱で関東へと向かった。大樹大社も金砂上の戦いから参戦し源氏優勢へと一気に傾いた。私自身も鎌倉で頼朝と面談し、武蔵大樹大社に入った。

また、天狗や河童に妖狐狸に対しても参戦要請を出したが、まだ、現時点ではこれに関しては形ばかりの援軍が集まったのみとなった。

 

近江の反乱を潰した平家軍は挙兵した尾張美濃源氏の討伐を行う。これに対抗し尾張美濃源氏の軍勢に秋比売姉妹は影響下にある妖怪タンコロリンや木の子らを集めて参戦するが敗北。この戦いで秋比売姉妹が負傷し、全国の豊穣の儀式を取り纏めが不在となり養和の飢饉が発生した。

続いて起こった伊予の挙兵において陰神刑部狸率いる八百八狸がこれに加わり、源平合戦末期まで戦いが続いた。また、平家は源氏方に加わる動きを見せた東大寺や興福寺の焼き討ちを行う。ここに来て仏教徒の多い天狗たちが挙兵。大軍を擁する平家の軍勢を翻弄する。その後は源平ともに勝ち負けを繰り返したが、人間としての源氏方は負けが多かった。

 

しかし、源義仲が倶利伽羅峠の戦いで平家軍に勝利したの機に、膠着していた状況が源氏に傾く。

ただし義仲は入京後の政争で、敵となり粟津の戦いにて戦場の露と化す。また、宇治川の戦いにて鞍馬天狗が推薦した源義経が活躍し、以後の戦いでも功績を上げる。源氏内の内紛に関して私は静観を決め込んでいた。

 

倶利伽羅峠の戦いで源義仲に敗れた平氏は兵力の大半を失い、安徳天皇と三種の神器を奉じて都を落ち、九州大宰府まで逃れたが大宰府の菅原道真の執拗な落雷を受けながらも再編し瀬戸内海を制圧し、西日本の反乱を沈静化させ、数万騎の兵力を擁するまでに回復していた。静観を決め込んでいた私であったが三種の神器を盗むのは許せることではなかった後白河法皇を介して、頼朝に平家追討と平氏が都落ちの際に持ち去った三種の神器奪還を命じる平家追討の宣旨を出した。

 

「天皇家を私物化した平家に鉄槌を下せ!!」

 

一ノ谷の戦いでは源氏方人妖に加えて神が加わって70000、平氏方120000と言う今までにない大規模な戦いとなった。

また、平家方にも妖怪の姿が確認され正に人妖大戦争と言った感じであった。

 

一ノ谷の戦いで源氏方が勝利し、河童たちが源氏方で参戦。瀬戸内海海戦が勃発。

この戦いの源氏の主力は天狗と河童であり、公式記録ではなく大樹記と諏訪洩矢書記にのみに源氏方の指揮官が烏天狗の黒鴉と射命丸文と河童の河城某と表記されている。また、この戦いから日和見な妖怪たちの多くが私が味方した源氏に与したのであった。

 

 

 



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23 壇ノ浦の戦い

 

 

両軍合わせて4000隻の軍船が壇ノ浦で両軍は衝突して合戦が始まった。

人間、妖怪、妖精、そして神をも巻き込んだ大戦は平家の滅亡を持って終わりを告げる。

 

 

SIDE 射命丸文

 

瀬戸内海の戦いから大天狗様の命令で人間の戦いに肩入れしている。

最初は人間相手の詰まらない戦に神様からの強制的な命令でいやいやだったんですが・・・。あやや、これはこれは・・・敵の総大将平宗盛ではないですか?

大将首なら私達天狗の評価も上がるでしょうし一仕事しておきましょうか。

 

「そこの人の子よ・・・おとなしく?おやぁ?あなた人間じゃないですね?」

「くくく、バレては仕方がない···天狗、貴様の魂を喰らってやる。」

 

敵の妖怪は夜叉。

夜叉は髪を振り回しそれを武器に襲い掛かった。

正体を現した平宗盛周囲の源氏方の兵士から魂を奪い喰らいながら文の腕を捉える。

 

「文様!ご無事ですか!」

「文殿を援護しろ!」

射命丸の腕に絡みついた髪を大剣で切り払い、射命丸の前に躍り出た彼女は犬走椛。

さらに迫る髪を錫杖で振り払ったもう一人は烏天狗の黒鴉。

二人は部下たちと共同し夜叉宗盛を囲う。

 

「大量の魂を食らった私にとって貴様ら等、雑魚も同然よぉ!」

 

夜叉宗盛は今まで喰らった魂を力に変えてさらに強力に髪を振るう。

 

「っく!つ、つよい。」

「なんと言う力だ・・・。」

 

二人の陣形が崩れたのを見た射命丸の顔に冷汗がつたう。

 

「二人とも下がりなさい。ここは大天狗様よりお借りした羽団扇を使うしかないでしょう。」

 

射命丸が羽団扇を振るうと無数の風の刃が発生し夜叉の髪を切り刻む。

 

「な、なんだと!倭国の妖怪にこの私が負けるなど!?くそっ!!この借りは返すぞ!」

 

夜叉宗盛は船から飛び降りて海の中へと消えた。

 

 

「ちょ!?文!?大丈夫なの!?」

 

まさか、敵の将が妖怪だったとは・・・。しかも、なかなか強い・・・なんとか退けましたよ。

腕をやられましたね。ちょうどいいところに・・・はたてさん・・・少し肩を貸していただけますかねぇ・・・。

 

「あはは、ちょっと油断しましたよ。敵将が妖怪だったとは・・・恐らくあれは大陸の妖怪・・・夜叉ですかね。」

「本当に大丈夫なのよね。・・・でも、夜叉?・・・なんで大陸の妖怪が?・・・これは大天狗様に報告した方がいいわね。」

 

夜叉の件はとにかくこの戦いの勝敗は定まったようですね。

彼女たちの耳には源氏方の鬨の声が聞こえていた。

 

SIDEOUT

 

 

 

「大樹母よ。なぜ御子をお見捨てになられたか・・・。」

私は二位尼の問いには答えなかった。

 

二位尼は死を決意して、幼い安徳天皇を抱き寄せ、宝剣を腰にさし、神璽を抱えた。安徳天皇が「どこへ行くのか」と仰ぎ見れば、二位尼は「弥陀の浄土へ参りましょう。波の下にも都がございます」と答えて、安徳天皇とともに海に身を投じた。

 

それを見届けた私は河城某に命じて三種の神器を回収させた。

 

 

その後、義経が追われる身となり、奥州藤原氏が滅亡したがこちらに関しては関わっていないため特に気にすることではないでしょう。

武門藤原氏の系譜は残り関東を中心に多くの傍流を残しているのだから、神奈子が珍しく興味を示した人間として、それと将門の時の義理は十分に果たしていると考えていいでしょう。

 

大樹記、諏訪洩矢書記、源平盛衰記、平家物語、玉葉、吉記、百錬抄、吾妻鏡と言った多くの文献に描かれている。

 

 



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24 鎌倉幕府と大陸妖怪の影

壇ノ浦の戦いの後、山城国愛宕神社にて大樹野椎水御神と大妖怪たちの間で話し合いが持たれた。鬼の四天王、九大天狗、隠神刑部狸、白蔵主、ぬらりひょん、水虎河童と言った大物たちが集った。

 

「平氏方に大陸の妖怪が加わっていただと?」

「夜叉と言えば、それなりに名の知れた妖怪だ。他にもいた大陸妖怪はかの者の支配下か?」

「そやつは・・・あれほどの大陸妖怪を率いるのか?」

「むむむ、大陸の妖怪についてはわからんことが多い。」

 

鬼たちは難しいことは任せると言う感じで何も言わない。

他の妖怪達は遠慮しているのかあまり喋らない。

天狗たちが議論の中心になって話を進めている。

 

「大樹様は何かお考えでもありますか?」

刑部狸が場の流れを変えようと私の顔を伺う。

 

そうだね。大陸事情に詳しい専門家を呼んでいる彼女の話を聞きたい。皆、よろしいか。

 

私が合図すると愛宕神社の壁が円形状に切り取られてふたが取れるかのように外れる。

鬼たちや一部の物たち以外が驚き一斉に身構える。

 

「あら、少し悪戯が過ぎたわね。ごめんなさいね。」

青娥は軽い調子で謝る。

どうみても本意ではない。

 

青娥娘々。たまたま、日本にいてくれたから都合よく大陸の情報を解説してもらおうと招いたのですが場違いでしたね。でも、適任者は彼女しかいないし・・・。

とにかく、解説してください。

 

「はいは~い。大陸の妖怪たちは最近まで覇権争いで群雄割拠それはそれは荒れてたのよ。それが最近纏まって来てねぇ・・・と。それは置いておいてその今の大陸妖怪の総大将がチーって言う九尾の狐よ。」

 

青娥の説明を聞いた者たちの多くが、驚きの表情を浮かべる。

九尾の狐、天竺、殷王朝を滅ぼした後に日本へと渡り、鳥羽天皇に取り入り国を滅ぼさんとした大妖怪を彷彿とさせた。

 

「きゅ、九尾・・・。」

「玉藻前・・・。」

 

彼らの様子を見て青娥は、まじめな表情になって危機感を煽る。

 

「チーはその玉藻前の弟、大陸を制した暁にはかつての大陸妖怪九尾の後継を謳う都合上、日本の殺生石を手に入れたいのでしょう。そしてこの国も・・・。」

 

 

皆の衆、これで理解できたでしょう。次の戦いに備えねばなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都の朝廷と地方の荘園・公領はそのままで、源頼朝が鎌倉殿として武士の頂点に立ち、全国に守護を置いて、鎌倉幕府を開いた。頼朝は時の権力者として、大樹大社の機嫌を損ねることを恐れていた。そのため、大樹大社に使者を立て敵意のない証拠として相模国足柄(現在の小田原)のあたりに社を寄進する約束をした。相模大樹宮と呼ばれる大規模なものである。

以後の武家政権は政権樹立の際に大樹大社へ社の寄進を行う慣わしが出来た。

 

 

鎌倉幕府は頼朝の主導で体制を固め、1192年3月に後白河法皇が崩御し、同年7月12日、即位した後鳥羽天皇によって頼朝は征夷大将軍に任ぜられた。

 

頼朝死後の鎌倉幕府は、源頼家、源実朝と続いたがいずれも短命の政権であった。その後の鎌倉幕府は有力重臣同士の権力争いを経て北条氏へと継承される。将軍位は摂関家子弟や皇族がつき、執権職を北条家が任ざれる形となった。

 

その後、後鳥羽上皇が討幕の動きを見せたが朝廷内の多くは不支持、私・・・大樹野椎水御神も興味を示さず。後鳥羽上皇の起こした乱は失敗に終わった。(承久の乱)

 

 

私としては鎌倉幕府が私の邪魔をしないと確約している時点でどちらが勝っても構わなかった。仮に後鳥羽上皇が勝ったら以前のように朝廷に自分の意志を伝え動かせばよいだけなのだから。それに予想通り鎌倉幕府が勝つのなら、大陸妖怪との競り合いが予想できる現状武家をより容易く動かせる武家政権は時期的に都合も良いのだ。

 

承久の乱の後で、傀儡になっていた摂関家出の将軍が執権北条家と争い負けた。

まったく、朝廷は健在なのに出先機関の鎌倉の権力などあったところで煩わしいだけなのに、私が朝廷でも幕府でも意のままに従うようにしているのだから要らんことはしないで欲しいものです。

 

「大樹様・・・後鳥羽院が敗れました。」

大ちゃんが私に耳打ちで報告する。

 

皇族を死罪にするような愚を幕府が犯すとは思えませんが、北条には釘を刺しておきなさい。

 

「はい。」

 

私の意向を汲んでか、幕府の当初の予定だったのか。後鳥羽院は壱岐に流される直前に法皇となり隠棲した。

その後の幕府は評定衆に引付衆を設置し支配体制を盤石に固め、法典を発布し実績を作りを行っている。

 

 

次期将軍は討幕に加担した藤原が嫌なら、皇族を引っ張りなさい。大樹の膝元である関八州なれば、朝廷も嫌とは言いはしないでしょう。

 

 

「っは!大樹様の心遣い感謝いたします。」

 

北条時頼は畳に頭を擦り付けていた。

 

京より招く皇族には、幕政には口を出させませんよ。今は大陸との戦に備えるのが第一です。

 



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25 短編閑話集

草薙剣

 

『僧道行が草薙剣盗み、新羅に向かひて逃げき。

されどその途中の畿内にて、山道の途中に童女泣き崩れたれば、僧は声を掛けき。

僧は童女に声を掛く。

 

「娘ぞ。など泣けるなり。」

「主人より、預かりし宝なくしにけるなり。」

 

童女は僧差し出だしし手思ひ切り引っ張り、僧を崖下に落としき。

崖に落ちて息絶えしそう見て、童女は言ひき。

 

「今、失せ物戻りゆきき。」

 

童女は僧の盗みし草薙剣抱へて空へと消えき。

 

 

※『』伊勢神宮蔵書 題名不明書物

 

 

 

 

 

 

命蓮の姉尼

 

『帝(醍醐天皇)は清涼殿落雷騒動驚くとこれ以後体調崩し、病篤くなる中に嘗て自身の重き病を快癒させき。僧侶命蓮の事思ひ出だしき。

 

帝は再び使者やり信貴山より命蓮を招くために使者の蔵人が信貴山へやりき。

 

蔵人が信貴山の命蓮のゐる寺を尋ぬと、命蓮の姉なる白蓮を名乗る若き尼僧出迎へき。

蔵人は尼僧に帝への快癒祈願の事を伝へで去にき。

尼僧は若かりし、若かりけり。命蓮の年を考へば若過ぐるなり。

蔵人は畏くなりて惑ひて信貴山去に、帝はこの世を去にき。

 

そのことを聞きし大樹野椎水御神はかこちあはれがりき。

「老いを超越する際の術者に頼らざりきとは、なにとくらき事か。」 』

 

※『』奈良国立博物館所蔵 信貴山縁起絵巻

 

 

 

 

 

 

西行の娘

 

『風の噂、西行の死を知りし後鳥羽院は西行の菩提を弔ふために、はつかなる供ぐし吉野山の奥千本にある西行庵へ向かひき。その道中に道に迷へりと西行の娘と出会ひ西行庵の墓前へ案内せさせ菩提を弔ひき。

 

とばかりして、西行の菩提樹なる桜の木に多くの者どもが亡骸を共にせりと聞き、西行の娘の事が気になり再び、訪れき。

 

すと、西行庵は閑散とせり桜の菩提樹のあるのみなりき。

娘見当たらねば、近くの民に声を掛く。

 

「ここの娘はいづこなり?」

「娘? 西行の娘は西行死にてすなはちかくれき。」

 

後鳥羽院の会ひし西行の娘とは何者なりけむや。 』

 

※『』能楽作品 西行の娘

 

 

 

 

 

 

 

『平安時代末期、うへのゐる内裏・清涼殿に、晩ごとのごとく黒煙と共におどろおどろしき鳴き声響き渡り、近衛うへがこれに恐怖せり。いよいようへは病の身となりてしまひ、薬や祈祷もちてすともしるしはあらざりき

 

源頼政が山鳥の尾に作りし尖り矢を射ると、悲鳴と共に鵺が二条城の北方あたりに落下し、宮廷の上空には、郭公の鳴き声が二声三声きこえ、静けさが戻りきたりといふ。

 

鵺は淀川下流に流れ着き、祟りを恐れし村人どもが母恩寺の住職に告げ、ねんごろに弔ひて土に埋みて塚を建てさせき。

その住職、二ッ岩マミゾウの化けし姿なりき。マミゾウは村人の返りし後に掘り返し鵺をにがしき。 』

 

※『』新潟県県庁資料保管室所蔵 二ツ岩文書

 

 

 

 

 

 

大樹と向日葵

 

『華獣碧奧蘭蒂、その横に静かに佇む女性。

月ごろ前よりかくして碧奧蘭蒂の横にうちいづるやうになりき。神官どもは人の放つ圧倒的なる妖気に恐れなして近寄らむとせざりき。実害もあらねば放置せるが実情なり。

 

いつまでも放りおく訳にもいかず。現地の神官どもは大樹野椎水御神に謀りき。

大樹野椎水御神は件の女妖怪の下訪れ、人に尋ぬ。

 

「碧奧蘭蒂の事が気にったのか?我に用事やある?」

 

「はい、大樹の神ぞ。神獣の雄々しき姿に見惚れたりき。汝の加護を受けし土地はいづこも青々としてなまめかし。」

 

彼女が手を向けると近くの向日葵が二人の方を向く。

 

「草花に少しばかり言ふこと聞きてもらふべきが、我の能力ぞ。」

「めでたき力なりとぞ思ふ。花の妖怪ぞ。もしなんぢにその気があらば我に・・・いへなればもあらぬ。花は自然なればこそにすね・・・。」

 

花の妖怪はあからさまにせる笑みに返し、いづらへと去にき。

 

「風見優香・・・我の名ぞ。その時が来せばまた会はむ。」 』

 

※『』国立国会図書館所蔵 大樹記写本

※風見優香と名乗る彼女は後に最強妖怪の一角として扱われる。

 

 

 



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26 文永の役 元寇襲来

 

北条時宗が執権となった前後の1268年、モンゴル帝国第5代大ハーンのクビライが高麗を通して朝貢を要求してきた。朝廷は対応を幕府へ一任し、幕府は回答しないことを決定、西国の防御を固めることとした。

 

 

SIDE 大樹大社

 

大ちゃんが御簾越しに報告を上げる。

 

「大樹様、朝廷と幕府より大陸より朝貢要求の使者が来たとの知らせが、時宗殿は大樹様の指示通り可能な限り引き延ばすとのことです。また、西国の防備を固める指示を出しました。それと蝦夷の妖たちですが樺太に渡り大陸妖怪と一戦交えているようです。」

 

ついに、来ましたか・・・。

大宰府の道真に九州の妖怪たちを指揮して防備を固めさせるように伝えなさい。

それと、白蔵主と刑部狸には手勢をすぐに動かせるように準備をさせなさい。九大天狗、にも兵を大宰府に送らせなさい。それと可能ならば高麗を偵察させるように、軍船や兵の動きをつぶさに報告させるのです。河童や人魚たちは海を警戒させなさい敵は人ばかりとは限りません。

琉球や南方の有力妖怪に使者を立てるのです。運が良ければ大陸妖怪たちの足を引っ張らせることは出来るでしょう。蝦夷の方にも使者を立てておきましょう。味方は多い方が良い。

 

鬼の方々は好きにするでしょう。あれは権威におもねるようなことは好みませんので口を出すよりは勝手にさせればよいです。鬼たちは不義理は働きませんから・・・。

 

それとぬらりひょんをここに呼んできなさい。

 

 

数日が経つと私の呼び出しに応じたぬらりひょんが側近の朱の盆を連れてやってきた。

 

「大樹野椎水御神が御呼びと聞き、このぬらりひょん・・・急ぎ参りました次第でございます。」

 

 

ぬらりひょん、私の求めに応じてよく来てくれましたね。

して、ぬらりひょんよ。想像は出来ているでしょうが貴方には種族として纏まっていない・・・所謂、雑多な妖怪達とかその他の妖怪と呼ばれるようなもの達を纏め上げてほしいのですが良いでしょうか。

 

「おぉ!そのような大任を任せていただけるとはこのぬらりひょん感無量ですぞ!!」

「よかったですね!ぬらりひょん様!!」

ぬらりひょんは少々大げさとも思えるほどに喜んで見せた。横にいる朱の盆も顔を真っ赤にして喜んでいる。もともと赤いですね・・・。

 

 

しかし、いくら優秀な貴方でも敵の上陸予定地である肥前、筑前、長門、石見をすべて事細かに任せるのは難儀かと思いまして、私の方で何名か選抜してみたのですが?

 

ぬらりひょんは私が渡した書簡に目を通す。

 

「どれどれ、たんたん坊と・・・誰だったかな。あぁ幽霊族のあいつか。それに風見まで招聘に応じたのか。」

 

ぬらりひょん、何か質問でも?

 

「大妖風見は確かに最強妖怪の一角ですが、将としては・・・。それにあれは他人に従うとは・・・。」

 

私も遊撃と考えています。後者については個人的な誼で協力してくれるはずです。

 

「であれば構いませんが・・・。将としては私含め3名ですな。敵は恐らく筑前長門のどちらかに上陸するでしょう。であれば、筑前長門に兵を集中させ上陸地によって石見や肥前へ兵を動かせば良いでしょう。」

 

そう言ったことは貴方に任せましょう。京の守護は万年竹に任せましたので・・・それと私も元襲来時には出ますので私が来るまではしっかりと元を抑えておきなさい。

 

「それと、大樹様・・・出雲の守りはどうするのです?あそこも他に比べれば低いとはいえ上陸はありますが?」

 

あそこは大丈夫です。八坂刀売神や洩矢諏訪ノ神が護りに付きます故。

 

SIDEOUT

 

SIDE ぬらりひょん

 

かっかっか!!遂に儂も多くの妖怪たちを指揮する立場か。

大樹様からのお墨付きまで頂けたのだ。

この戦の功績如何では妖怪の征夷大将軍も夢ではないな!!妖怪幕府でも作るか!!

 

かっかっかっかっか!!

 

SIDEOUT

 

 

その後も何度か大陸との使節のやり取りは続いた。

その途中で、三別抄と言う朝鮮の反乱軍が加勢を要請してきたが風前の灯火だったので朝廷と幕府は捨て置き、私の方も天狗の様な空を飛べるもの達に限り示威行為程度の嫌がらせなら元に仕掛けても良いと伝えるにとどまった。

 

そして、遂に・・・元が・・・いえ、大陸妖怪の襲来の知らせが届いたのです。

 

 

 

 




短編閑話集 新短編 大樹と向日葵 追加


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27 文永の役 元寇上陸

 

 

 

対馬・壱岐の状況が大宰府に伝わり、大宰府から京都や鎌倉へ向けて急報を発するとともに九州の御家人が大宰府に集結しつつあった。京とからも天狗たちが駆けつけてきた。

大樹は九州所々の寺社衆に動員をかけ、あらかじめ渡海支度を済ませていた八百八狸の軍勢は瀬戸内海を渡り九州に上陸した。

 

京にいた私自身も白蔵主の軍勢とあらかじめ終結させていた各神社の妖精巫女たちと共に京を発った。

 

「大樹様、肥前沿岸に元が襲来し松浦党の者たちは・・・悉く討ち取られたとのことです。」

 

白蔵主は私に報告するその顔は苦渋に歪んでいた。まだ何か伝えていないことがあるようですね。何かあるのなら聞かせてください。

白蔵主はさらに顔を歪めて告げる。

 

「壱岐対馬から逃げ延びた者たちからの知らせですが・・・島内の民衆を殺戮、あるいは捕虜とし、捕虜とした女性の手の平に穴を穿ち、これを貫き通して船壁に並べ立てていたとのことです。」

 

じょ、女性は・・・それ以外は・・・どうなったのです。

 

「皆、殺されたと聞いております。いくらかは隠れ潜んでやり過ごしたり逃げ延びたものはいますが・・・。そ、それと女性と言っても若い女性の話で、老いた者や幼き者も殺されたとのことです。」

 

こ、この外道どもめ・・・。大妖精、急ぎ大宰府に伝令を天狗にやらせても構いません。この天津神々より続く神聖なる我が国の土地を一片たりとも連中にくれてやるなと・・・。可能ならば、連中の船に囚われている壱岐対馬肥前の民を助け出せと・・・伝えなさい。それと出雲の護りに廻っている神々にも九州へ戦力を振り分ける様に要請を出してください。

白蔵主、国家の一大事である。行軍速度を速めなさい!

 

「「っは!」」

 

 

 

SIDE 大宰府

 

大宰府の防人の霊たちを呼び起こし、九州全土の妖怪達を集結させ、有力神社に派遣されていた妖精達も着々と集結してる。

ぬらりひょん殿、本州の妖怪達も筑前に集結しつつあり、空の護りは天狗たちや他の飛べる妖怪たちが守り、海にも河童や人魚が守りにつき万全を期していた。

時が経てば鎌倉や四国、大樹大社からの援軍も来る。

 

天狗たちからの知らせが入る。

 

「博多湾に元襲来!!」

 

それを聞いた道真は伝令を聞き、指示を出す。

 

「ついに来たか。河童族や人魚族に船を襲わせるのだ!!」

 

伝令天狗が続報を告げる。

 

「烏帽子島の方にも複数の軍船が現れており、画皮や飛頭蛮と言った妖怪が周囲を守っております。」

 

床机を叩き怒鳴りながら指示を出す。

 

「チーの本命は唐津だ!!」

 

それを聞いたぬらりひょんがいち早く指示を出す。

 

「ものども!!唐津に向かえ!!敵を追い返せ!!」

「「「おー!!」」」

 

「ぬらりひょんの手勢に後れを取るな!!我らも行くぞ!!」

「「「おー!!」」」

 

幽霊族の戦士たちもそれに続く。

 

 

 

それを見送った道真は、道鎮西西方奉行少弐経資を呼び出した。

 

「道真様。」

「こちらの手勢は唐津に充て、博多は少弐殿に任せる。」

 

それを聞いた経資は不安を述べる。

 

「赤坂で元と戦った菊池武房は、元の兵が遺体の腹を裂き、肝をとって食べ、また、射殺した軍馬も食べたと申しておりました。博多の軍勢にも大陸の妖怪が混ざっているのでは?」

 

それを聞いた道真は一考し

 

「わかった、八百八狸の軍勢は博多に充てる。」

「それがよろしいかと・・・。」

 

道真は今度は大宰府の御付き巫女梅林の方に向き直り指示を出す。

 

「梅林、大樹様に急ぎ知らせをだすのだ。敵は強大なり、神々の来援を切に願うと・・・。」

 

道真の言葉に従って梅林は使いを走らせるように指示を出した。

 

 

 

SIDEOUT

 

 

筑前の御家人たちを蹴散らした元は博多湾全域に渡って陣を広げた。

翌日には高麗の援軍を加えてさらに肥大化した。

 

その様子は大宰府からも、少弐経資が布陣した大野城からも見ることが出来た。

 

 

 

 

 



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28 文永の役 博多・唐津の戦い

 

博多と唐津では人妖入り混じった壮絶な戦いが繰り広げられていた。

 

 

軍船に乗っていた大陸妖怪達が下りてくる。

台形状の岩の上に陣取ったたんたん坊が大声で檄を飛ばす。

 

「押せ!押し返せ!大陸妖怪を海の向こうまで押し返せ!!」

 

 

「いまだよ!かまいたち!!」

「まかせろ!!」

 

黒い牛頭の巨人の腕を二口女が髪で絡めて抑え込み、かまいたちがそれを切り刻んだ。

 

「よし、このままいくぞ!!・・・ぐぉ!?」

 

たんたん坊は慌てて飛び退いた。彼のいた台形岩は砕け散る。

 

「ガヒー!!」

 

巨大な空飛ぶ頭が雄たけびを上げる。

 

「俺とほとんど同じ見た目のくせに!!空なんか飛びやがって!!叩き落してやる!!ップ!!ップ!!ップ!!」

 

画皮はそれを交わすが、代わりに飛頭蛮などの大陸妖怪にあたって石化して落ちる。

 

「くそー!!躱してんじゃねー!!」

「ガヒー!!」

 

 

 

 

「それ~!!突撃じゃあ~い!!」

 

一反木綿に率いられた化けガラスや唐傘お化けが、大陸妖怪の飛行部隊に突撃していく。

 

「そこらの妖怪に負けてられないぞ!!天狗衆!!蹴散らせ!!」

黒鴉の号令で烏天狗たちも錫杖や刀や槍を構えて攻めかかった。

 

 

射命丸は辺りを見回してから「ちょっと貸しなさい。」と言って側にいた天狗から槍を受け取り投げつける。

 

画皮が串刺しになり、地面に縫い付けられる。

 

「そこの大きいの!!あれを石化して壊して仕舞いなさい!」

 

射命丸に言われたたんたん坊は石化の唾を画皮に吹きかけてから、空を見上げて話しかける。

 

「あぁ!!わかった!!あんたすげぇじゃねえか!!助かったぞ!!」

「あたりまえです!私は天狗の中でも上役の方ですよ!!」

「いわれてみりゃー、人の容姿だもんな!!今度、手下に菓子折りでも持って行かせる!!」

「それは!楽しみにさせていただきますよ!!」

 

上位妖怪たちはそれなりに余裕がある様だ。

 

 

 

「そらそらそらそら!!どうした!!なっちゃいないねぇ!!」

「大陸妖怪って言っても大したことないねぇ!」

「二人とも、油断は禁物ですよ!!」

 

「「「ぐえ~!た、助けてくれ~。」」」

 

伊吹童子、星熊童子、茨木童子の三人の周りには大陸妖怪の骸が山のように積みあがってた。

大陸妖怪の角端獣は背骨がへし折れ、刑天と言う頭部が無い代わり胴の前面が顔になった巨人の姿の妖怪は顔面が判別できない程の撲殺死体になっていた。ちなみに鬼の四天王四人目は京都でお留守番である。

 

 

ぬらりひょんの妖怪軍主力が到着し、唐津を包囲する形で包囲殲滅を指示した。

 

「戦況は優勢じゃぞ!!さすがは鬼の四天王と天狗の精鋭!!右翼左翼足並みを崩さずに前進!!唐津に土足で踏み込んだ大陸妖怪を殲滅するのじゃ!!!」

「全軍、進めぇ!!」

 

ぬらりひょんの命令に従い、朱の盆が大声で号令を掛けると妖怪たちが前進していく。

日本妖怪の勝利は確実となった。

 

 

 

 

一時は大宰府や大野城まで迫られ、水城大堤や小水城まで撤退した幕府軍であったが、唐津に上陸した妖怪軍団が壊滅した事を知った少弐経資は八百八狸の援軍と合流し、大宰府の防人霊軍を加えた幕府軍は博多の元軍勢への逆襲に出た。

 

刑部狸は幕府軍の参謀として少弐経資の横に控えて指示を出す。

 

「二ツ岩に猯たちを率いさせて敵の鉄玉の仕返しをしてやるのだ!」

 

猯や野衾たちを率いた二ツ岩マミゾウは猯たちに元のてつはうの爆発音を覚えさせ戦場は爆発音で溢れ、野衾たちが空からの投石で襲い掛かった。

 

「戦況は我らが有利となったぞい。刑部殿に合図を出せ!」

 

マミゾウの指示で狼煙が上がる。

 

「む、二ツ岩殿からの合図!少弐殿!!号令を出すのだ!」

「わ、わかった!!今こそ反撃の時ぞ!!全軍掛かれ!!異族を討ち取れ!!」

 

玄蕃狸、団三郎狸、お富狸ら八百八狸の将である狸たちが化け狸たちを率いて元に攻めかかり、それを見た御家人たちも我先にと攻めかかる。

 

「掛かれぃ!!」「「「おぉおおおおおお!!!」」」

 

水城の防衛線から攻めかかった幕府軍に押されに押され、元寇は元の本隊は勿論のこと漢人の軍勢や高麗の軍勢もさんざんに打ち負かされ博多湾の港まで押し返された。

 

 

 

 



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29 文永の役 神風

 

 

SIDE 大樹の軍勢

 

大樹大社の妖精巫女や各神社付きの妖精巫女たちからなる戦巫女衆を中核に白蔵主の手勢と、野次馬根性丸出しでついてきた青娥娘々のキョンシーたちを加えた軍勢は備中水島灘にて泡塩水軍、村上水軍の協力を得て、豊前企救半島に上陸した。

 

企救半島の港で風見幽香が出迎えた。

 

幽香さん?遊撃をお願いしていたはずですが?

 

「あ~、唐津の方は粗方片付いてるし・・・ねぇ。博多の方も一時は大変だったけど刑部狸が頑張ってるから大丈夫そうよ?九大天狗のお歴々も宗像大社で指示を出すに留まってるし・・・。」

 

大勢は決したとみてよいのでしょうかね。

宗像と大宰府どちらを先に顔を出した方がいいでしょうか?

 

「大宰府の道真公はこの戦を主導されておりますので労らわれてはいかがでしょうか?道真公も喜ばれ大樹様にさらなる忠誠を誓うでしょう。」

 

大ちゃんは私に道真の労をいたわるように進言してきた。

そうですね。道真はよくやってくれました・・・。何か礼を考えておきましょう。

では、大宰府の方へ向かいましょう。

 

SIDEOUT

 

 

私達が大宰府に到着したころには博多での戦いも幕府軍の優位に変わっており元を博多湾まで追い詰めていた。

 

道真、よくぞこの地を守ってくれました。

道真公・・・この度の褒美として、私より大宰府天満の神紋を授けましょう。

私は紙に描かれた星梅鉢紋を見せる。

 

「おぉ・・・大樹野椎水御神様!!一度は刃を向けた私なんぞに過大な褒美!!大宰府は大樹様を永劫にお支えしますぞ!!」

「道真様・・・この梅林もこの身朽ち果てるまで大宰府で護国を誓います。」

 

道真は星梅鉢紋の描かれた紙を抱き感涙を流し、梅林は泣き崩れる道真を妖精の小柄な体で必死に支えた。

 

 

道真殿、梅林が重そうにしているので・・・。

 

 

「あぁ・・・、これはすまない。大樹様、大宰府は大樹と共にあります。そのことをお忘れなきよう・・・。」

 

はい、胸に刻んでおきます。

 

 

「元が撤退していきます!!」

 

伝令の妖狸が指をさしながら告げる。

それを聞いた私は命令を下す。

 

九大天狗を呼び寄せなさい!!私が直々に指揮を執り追撃を掛けます。道真殿、貴方も手伝ってくれますね。

 

「勿論です!!我が迅雷を存分に照覧あれ!!」

 

 

 

 

這う這うの体で博多湾を出る元の軍船。

それを空から俯瞰する私達。

九大天狗を中心に優秀な天狗たちが前列に並び、その後ろに私と道真が並んで立つ。私の護衛といった風にチルノたちや幽香が控える。

 

私は彼らに命令をするだけですが、この国の主神である私がいることが重要なのです。

 

「大樹様、号令を・・・。」

 

道真が私を促す。

わかっていますよ。

 

私は声を張り上げ、号令を出す。

 

「天狗たちよ!!風を起こせぃ!!道真!!雷を落しなさい!!我らの国を犯すもの達は何人も許さぬ!!この神風を持って大陸に知らしめよ!!」

 

天狗たちの風が一つとなり竜巻を起こし波が荒れ、道真の雷が合わさり嵐となり元の軍船を飲み込んでいった。

 

 

 

『日本軍が水城へ敗走せる後 松原に陣を布く元軍に 神勅を受けし妖怪狸どもが一気呵成に攻めかかり 恐れ慄ありし元軍は海に逃げ その御光臨されし 大樹野椎水御神と天満大自在天神が天狗ども引きぐして降臨され 嵐驚かして元軍討ち払ひき。 』

 

※『』宮内庁書陵部蔵 歴代皇紀

※大樹記、八幡愚童訓、金剛仏子叡尊感身学正記、勘仲記、薩摩旧記、等に細部に差異があるものの同様の記述が残っている。

 



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30 弘安の役 再襲来

 

元の襲撃を退けた幕府は再度の元の襲来に備えるための石築地(元寇防塁)の築造を進め、同時に異国警固番役を強化し、引き続き九州の御家人に元軍の再襲来に備えて九州沿岸の警固に当たらせた。異国警固番役は三か月交代で春夏秋冬で分け、春は筑前・肥後国、夏は肥前・豊前国、秋は豊後・筑後国、冬は日向・大隅・薩摩国といった九州の御家人が異国警固番役を担当した。

 

幕府の高麗征伐計画が石築地(元寇防塁)築造が肥前・筑前から周防、石見の一部にまで延長したために頓挫すると、大樹野椎水御神の主導で傘下の妖怪達に蝦夷への援軍と琉球防衛のための派兵命令が出され、蝦夷や琉球で現地の妖怪達との共闘体制を確立し周辺勢力との連携を強めた。また、霍青娥を通じて南宋に味方している仙人、道士たちへの支援を行おうとしたが霍青娥が邪仙だったこともありこれはうまくいかなかった。

また、大宰府の防衛体制を強化すると同時に大樹大社では関東守護を任せていた平将門に亡霊武者の軍勢を用意するように命じ、次なる戦に備える様に傘下の者たちに命じたのであった。

 

1275年2月、クビライは日本再侵攻の準備を進めるとともに日本を服属させるため、使節団を派遣した。

使節団は長門国室津に来着するが、その対処の為に執権・北条時宗は大樹野椎水御神へお伺いを立てるが、大樹野椎水御神は時宗にただ一言だけ告げた。

 

切れ

 

時宗は使節団を鎌倉に連行すると、龍ノ口刑場において、使者の杜世忠以下5名を斬首に処した。

 

翌年、南宋が降伏し首都・臨安を無血開城する。なお、その残党は1279年まで抵抗を続けた。

 

1279年、チーから日本が樺太のアイヌに助勢していることを知ると再びクビライは日本侵攻を計画し、南宋の旧臣らを服属の使者として派遣する。日本と友好関係にあった南宋の旧臣から日本に元への服属を勧めるという形をとったが、彼らは博多において周福ら使節団一行を斬首に処された。

 

これに前後し、大樹野椎水御神は朝廷の朝議において姿を現し以下のように発言した。

 

『異族の襲来に際せば朝廷 幕府 臣民の貴賤 人妖に問はず一致団結して事に当たる様に・・・。

天津神々の起こし 日出国を異族の悪しき魔手より守り抜くことは この国に生まれし者の義務なり。 』

 

チーに操られていたクビライは日本侵攻中止を求める家臣たちの諫言の悉くを聞き入れず、侵攻準備を推し進めた。そして、チー自身も配下の妖怪達に長さ44丈(約137m)、幅18丈(約56m)、重量8000t、マスト9本もある妖怪大軍船を建造し大陸妖怪の精鋭を出陣させる準備を進めた。

 

 

1280年、春。元軍の再来を南宋からの渡来僧・無学祖元によって齎された北条時宗は朝廷の朝議に参加して後宇多天皇、大樹野椎水御神と今後の対策について協議した。

また、無学祖元より今回の元の侵攻が前回のものを遥かに上回ることを知らされており国を挙げての大戦になることを覚悟した。

 

協議の翌月、北条時宗は九州の御家人のみでは荷が勝ちすぎると判断し、全国の御家人に対して大陸側沿岸警固令を幕府より発令し、日本海側の御家人を除く全国の御家人に動員命令を出した。

また、大樹野椎水御神は平将門を大将とした亡霊軍を長門国へ派遣し、諏訪大社の八坂刀売神と洩矢諏訪ノ神へミシャグジの軍勢を率いての出陣を要請した。

 

さらに翌々月には大樹野椎水御神は京入りし鬼の四天王ならびに九大天狗に対して再度の出兵を要請した。また、同時期に入京していたぬらりひょんを大陸妖怪征討大将軍に任じて肥前、筑前、周防、石見、出雲の防衛を命じた。この大将軍に任じられたこともあり、ぬらりひょんは以後日本妖怪の総大将を自称するようになる。

また、大樹野椎水御神は同盟関係にある琉球の妖怪達に援軍を要請した。蝦夷の妖怪達は既に大陸妖怪と交戦中の為、日本が国を挙げて大陸の侵攻を迎え撃つことを知らせるに留め、蝦夷に派遣していた雪女郎の軍勢はそのまま留めることを約束した。

 

 

元の軍勢と日本軍は肥前、筑前、周防にて相対することとなる。

1281年、5月末。対馬、壱岐を攻め落とした元の軍勢は肥前唐津・伊万里・平戸、筑前博多・小倉、長門下関に上陸した。元の軍勢は前回の兵力をはるかに上回り、50万。その内訳は元・東路軍、旧南宋・江南軍、旧大理・雲南軍、旧金・女真軍、高麗・三翼軍、チー・妖怪軍である。

対する日本軍は17万。その内訳であるが、大樹野椎水御神・全寺社戦巫女僧兵連合軍、胤仁親王(後伏見天皇)・朝廷軍、北条時宗・幕府諸国総軍、八坂刀売神及び洩矢諏訪ノ神・ミシャグジ軍、秋比売神姉妹・神霊軍、菅原道真・大宰府軍、平将門・亡霊軍、少弐経資・鎮西西方軍、大友頼泰・鎮西東方軍、宇都宮貞綱・六波羅探題派遣軍、ぬらりひょん・妖怪軍甲軍団、たんたん坊・妖怪軍乙軍団、水虎河童・妖怪水軍、愛宕山太郎坊・四十八天狗連合軍、鬼の四天王、八百八狸・隠神刑部狸、稲荷妖狐軍・白蔵主、アカマタ・琉球妖怪派遣軍、ランスブィル・南方妖怪義勇軍と日本の総力を挙げた軍勢であった。

 

※『』宮内庁書陵部蔵 歴代皇紀、大樹大社蔵書 大樹記、国会図書館蔵書 大樹記写本

※朝廷軍は貴族子弟の寄せ集めの建前上の軍。

※八百八狸と稲荷妖狐軍を合同して妖怪軍丙軍団。

※琉球妖怪と南方妖怪を合同して妖怪軍丁軍団。

 

 



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31 弘安の役 玄界灘の戦い

 

元の大軍勢は対馬を占領した。

東路軍、江南軍、雲南軍、女真軍、三翼軍、妖怪軍が集結するのを待って南進を開始。

これに対して日本側は玄界灘で五島松浦・豊後若林・門司櫛来・坊津島津・赤間関白井を中心とした九州及び周防の大小様々な海賊衆と水虎河童が率いる妖怪たちの水軍連合、さらに愛宕山太郎坊の四十八天狗連合軍が加わった軍勢が、壱岐及び北九州沿岸・諸島上陸阻止を狙い仕掛けた。

 

元寇妖怪軍の妖怪大軍船を旗艦とした1万3000隻の軍船に対して2400隻で立ち向かった。

前回同様、画皮や飛頭蛮もいた。しかし、今回は羽民(うみん)や化蛇(かだ)と言った飛行妖怪も加わっており、前回以上の大軍勢だった。

 

「前回同様、敵の妖怪共は大したことはありませんよ!!全軍掛かれ!!」

射命丸の号令で大陸の飛行妖怪を翻弄する天狗たち。

 

海上でも狗頭鰻(くとううなぎ)と言う巨大鰻の妖怪を河童や人魚たちが束になって接戦を繰り広げ、水軍衆も倍以上の敵と勇敢に戦っていた。

 

SIDE 妖怪大軍船

 

妖怪大軍船の中にある玉座に座るチーは、部下たちの報告を聞きながら手にした望遠鏡で外の様子を見る。

 

「日本妖怪もなかなか頑張っているようだ。だが、前回のは小手調べ・・・今回は前回の様にはいかないぞ。」

 

一人で口にすると部下たちの方を向き、ニヤリと口角を歪めながら嗤う。

 

「雍和(ようわ)、あの方々に出陣していただけ。日本妖怪を絶望の淵に叩き込んでくれる。」

「っは!ただいま!!」

 

雍和と呼ばれた黄色い猿の妖怪が船室を出て行く。

 

 

 

「チー様より、出陣のお願いを申し上げます。」

 

妖怪大軍船の広い一室、調度品が飾られた豪華な部屋にいた四匹の妖怪に雍和は深く頭を下げてお願いする。

 

「うむ、日本の妖怪どもを殺し尽くしてやるか。」

「少しばかり、いたぶってやろうぞ。」

「人間どもも大勢いるなぁ。食いでがありそうだ。」

「ふははは、我らに任せるが良い。」

 

四匹の妖怪が船室を後にする。

それを確認した雍和は膝をつく。

 

「なんという、強大な妖気。恐ろしいお方たちだ・・・。」

 

SIDEOUT

 

 

 

元寇艦隊と戦っている射命丸達は妖怪大軍船からの異様な妖気を感じ取って距離を取る。

 

「な、なんです!?あの巨大な妖気は!?」

「文様!!」

 

危機を察知した犬走椛が射命丸の前に盾を構えて立つ。

別の戦域戦っていた黒鴉やはたて達も仲間の天狗たちと守りを固めた。

 

「下がれ!!これは並大抵の妖怪ではないぞ!!」

 

射命丸達の上司である愛宕山太郎坊が先頭に立ちそれを中心に大天狗たちが前に出る。

 

「来るぞ。」

 

妖怪大軍船の中から現れた四匹の妖怪。

 

「日本妖怪がこんなにたくさん。殺したい放題ぞ・・・。」

 

脚が六本と六枚の翼が生えた黒い巨大な犬の様な姿をした「渾沌」(こんとん)。

 

「これはこれは、おいしそうではないか。」

 

体は羊で目がわきの下にあり、曲がった角、虎の牙、人の爪、人の顔などを持つ「饕餮」(とうてつ)。

 

「いたぶって、嬲って、ぐちゃぐちゃにして殺す。」

 

虎に似た体に人の頭を持っており、猪のような長い牙と、長い尻尾を持っている「檮杌」(とうこつ)。

 

「ふむ、あの程度の連中に負ける等・・・情けないな。消えるがいい。」

 

翼の生えた虎「窮奇」(きゅうき)の放った一撃が狗頭鰻ごと河童や人魚たちを薙ぎ払いその余波が水軍衆の船を破壊した。

 

 

「奴らは貴様らの手に負える相手ではない!!黒鴉、他の者たちを連れて撤退するんだ!!射命丸、韋駄天のお前は大宰府に控える大樹野椎水御神様にお伝えしろ!!四凶が、大陸の四凶が現れたと!!急げ!!」

 

「わかりました!!」

「は、はい!!」

 

太郎坊が射命丸達に撤退を命じ、他の大天狗たちと四凶に立ち向かった。

 

「ほう、貴様らが相手か。」

「楽しませてくれるかの。」

「殺しがいのありそうな奴らだ。」

「くくく、貴様ら如きが舐められたものだ。」

 

 

「いくぞ!!お前たち!!」

「「「「「「「「応!!」」」」」」」」

 

四凶と九大天狗が激突した。

 

 



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32  弘安の役 神集島の敗北

 

大宰府で、神奈子に諏訪子、そして道真や将門たちと戦況を見守っていた私達は天狗の少女射命丸文の急報で事態を理解した。

 

「急伝です!!大天狗様よりの緊急伝です!!元軍に四凶あり!!大天狗様たちが戦っていますが戦況はよろしくありません!!後退しながら戦っています!!直に元軍は上陸するでしょう!!すぐにお仕度ください!!」

 

 

これは私達が前面に立って戦わないといけませんね。

神奈子と諏訪子に目配せすると二人は黙って頷いた。

道真殿、将門殿九州軍の指揮は頼みます。

「任されよ!!」「お任せください。」

 

伊吹童子、星熊童子、茨木童子、皆さんには檮杌の相手をお願いしても良いですか。

 

「檮杌・・・相手にとって不足なしだね。」

ニカッと八重歯を見せて笑う伊吹童子。

 

「いっちょやってやろうかね!」

拳をパンッと打ち鳴らしやる気を見せる星熊童子。

 

「油断できる相手ではないですよ。ですが・・・。」

髪を靡かせる茨木童子。

 

 

太宰府天満宮の楼門が全開に開かれる。

大妖精を中心に妖精巫女たちが唱和する。

 

「「「「「「大樹野椎水御神様、八坂刀売神様、洩矢諏訪ノ神様ぁあ!!御出陣!!!」」」」」」

 

 

 

大天狗たちは押されに押され、玄界灘から唐津湾の神集島まで追い詰められていた。

 

「食うぞ!食うぞ!!食うぞ!!!」

「なかなか頑張ったではないか。」

「こいつらは、飽きた。殺そう。」

「くはははっは!!敵ながらあっぱれとでも言うべきか。とどめを刺してやろうぞ。」

 

「窮奇!!俺、あいつら喰いたい!うまそう!!」

「饕餮、わし直々に止めを刺してやろうかと思ったが悪いなぁ。饕餮の奴が腹を空かせておる。すまんが喰われてくれ。」

 

窮奇が大天狗たちにそう言って、饕餮がその飽くなき食欲を持て余し大天狗たちを喰らおうと迫る。

 

「ぶぎゃっ!?」

 

饕餮の顔面に御柱が食い込む。

 

「悪いね!こいつらは貴様に食わせるほど安くはないんだ。」

二本目の御柱を構える神奈子。

 

「あー、こんな下品な奴。ミシャグジにだって居やしないよ。」

諏訪子が鉄輪を構える。

 

「大陸の妖怪たちよ。分不相応な考えは捨てて国へ帰ってください。」

私もバトンを構える。

 

 

 

「神と戦うのは初めてだが、所詮は矮小な日本の神・・・捻りつぶしてくれる!!!」

檮杌が猪の様な長い牙を向けて突っ込んでくるが・・・。

 

ドゴォ!!

 

横合いからの一発で横転する。

 

「だ、誰だ!!この俺様を殴ったのは!!」

 

檮杌は自分を殴った相手を睨みつける。

 

「いや~、すまないね。あんたの相手はあたし達さね。」

「強そうな相手じゃないか!!楽しそうだぁ!!」

「猪突猛進は猪の角だからですか?馬鹿ですね。」

 

星熊童子が拳を構え、伊吹童子が瓢箪の酒を煽って拳を握る。茨木童子は手刀を向ける。

 

「このアマぁあ!!ぶっ殺してやる!!」

 

檮杌は三鬼たちの挑発に乗って突っ込んでいった。

 

 

 

「い、痛い・・・。顔が痛い・・・。怒った!!お前喰えば怒り納まる!!喰らってやる!!」

 

饕餮が神奈子を睨み、狙いを定める。

 

「はんっ!お前如きに喰われる気はないね!!意地汚いお前は御柱でも喰らってな!!」

 

神奈子は二本目の御柱を撃ち放ち、すぐに減った分の御柱がどこからともなく現れる。

トリックとしては東松浦半島に布陣している妖怪軍乙集団のカマイタチが現地で必死に丸太を加工して御柱を製造しているのだが・・・。カマイタチには頑張れとしか言いようがない。

 

 

 

「私の相手は土着神か・・・。外れかもしれんな。」

 

諏訪子を見て馬鹿にした渾沌。

 

「ふ~ん、そう言ってられるのも今だけかもよ?」

 

諏訪子の方も安い挑発には乗らずに笑って返した。

 

 

そして、私は四凶の首領格である窮奇と相対する。

 

「渾沌はあぁは言ったが、鬼三匹に戦神と祟神・・・それに比べて戦いが苦手な豊穣の神・・・その上、元は妖精・・・一番の外れはワシではないか。軽く捻ってくれる。」

 

窮奇は前足でくいくいと掛かってこいと言ってきた。

 

「私だって、古より生きてきた神の一柱・・・戦えます。」

 

 

 

私達は東松浦半島の方まで戦いながら移動していた。

元の軍勢は肥前、筑前、長門にそれぞれ上陸。数を頼りに攻め寄せた。

各地を守る妖怪や御家人たちは必死に戦いい一進一退の攻防を繰り返していた。

しかし、戦況は一変する。

 

バトンが折れ、立っているのもやっとだった。

 

「くっ。」

 

「妖精よ。頑張ったが所詮はこれが限界よぉ!!」

 

窮奇の鋭い爪が私の体を捉える。

 

「あぎっ!!」

 

御腹の辺りが熱い、それに続いて猛烈な痛みが走る。

 

「ごふっ!」

 

私の口から血が溢れる。

そして、意識は薄れ空を飛ぶ力すら失い地面に吸い込まれるように落ちて行った。

 

 

「なっ!!大樹!!」「ティタ!!」

 

神奈子と諏訪子は御柱と鉄輪を構えそれぞれ渾沌と饕餮を相手取りながら、窮奇の前に立ち、立て直そうとするが・・・。

 

 

 

「た、大樹様・・・。」

「なんてことだ・・・。」

 

下で戦っていた妖怪や人間たちがその様子を目撃してしまったのだ。

 

「大樹様がやられてしまった!!」

「だ、ダメだ!!撤退!!撤退だ!!」

「退け!退けぇ!!」

「に、逃げろ!!もうだめだ!!」

「うわあああああああ!!!」

 

肥前の幕府軍と日本妖怪たちは総崩れとなってしまったのだ。

 

 



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33 弘安の役 玉名の奇跡

 

大樹野椎水御神、討たれる。

死んだところが確認されたわけではないが、窮奇に敗れ地に落ちていったのを多くのものに目撃されており、生存は絶望的であった。

肥前の日本軍は総崩れとなり、敵は脊振山地を越えて肥前を分断しようとしていた。

この悲報を受け取った大宰府でも大混乱が生じ、糸島半島のぬらりひょんの甲集団が大宰府まで撤退し、肥前を守っていた鎮西東方軍、刑部狸と白蔵主の丙集団も筑紫平野まで撤退し即席の土塁を構築。たんたん坊の乙集団と鎮西西方軍も北松浦半島・東松浦半島を失陥し後退を続け肥前南部経ヶ岳で抵抗を続けている。アカマタら丁集団は壊乱状態に陥り散り散りとなった。

 

大宰府では、道真、将門、ぬらりひょんが緊急の協議を開いた。

諏訪勢のミシャグジたちを借り出して大宰府近郊は維持していたものの不利であることは変わらず。協議では元寇に水城まで越えられたため大宰府を放棄することまで話し合われた。妖精巫女たちの間で動揺が広がっていた。

 

その中で、唯一優位だったのは周防での戦いであり見事に元寇を叩き出していた。

その周防にも大樹野椎水御神、討たれるの報は届いており、秋比売姉妹と幕府及び諸国の御家人を率いてきた北条時宗の間で協議が開かれた。

そんな最中、お飾りのために協議に参加していなかった胤仁親王(後伏見天皇)の夢枕に天照大御神が立たれ、大樹野椎水御神が筑後玉名で生きている事を告げたのであった。

 

「余の夢枕に、天照大御神様が御立ちになられ大樹母様が肥後玉名で傷を癒しておられる!!余は!!帝より預かった神器の数々を大樹母様にお届けせねばならん!!時宗殿!!直ちに関門を越え直方平野を突破し、筑紫平野を越えて肥後玉名まで行かねばならん!!軍勢を肥後玉名へ進めよ!!」

 

胤仁親王の言葉を受け、時宗は関門越えを即決。秋比売姉妹の手勢を周防と筑前小倉に配し、幕府軍本隊で関門を越え、鎮西東方軍・六波羅探題派遣軍を纏め上げた時宗率いる幕府軍は直方平野の元寇を粉砕。時宗は大宰府入りした。大宰府で、胤仁親王より大樹野椎水御神の存命を伝えられた。大妖精はチルノと共に妖精巫女精鋭50を率いて胤仁親王に同行することを決めた。

時宗は再度全国の御家人に緊急の動員を命じ、朝廷もそれを追認した。

 

 

筑紫平野を守っていた白蔵主や刑部狸の軍勢は劣勢であり、それを見た時宗は胤仁親王の軍勢に幕府軍より一部の手勢を割いて玉名へと向かわせ、自身は筑紫平野の白蔵主と刑部狸に加勢した。

そして、胤仁親王は梅林天満宮で傷を癒していた大樹野椎水御神に会うことが出来たのであった。

 

 

ところで、東松浦で消息を絶った大樹がなぜ肥後の玉名にいるのかと言うと・・・。

 

 

窮奇に敗れた大樹は琉球及び南方妖怪の丁軍団の本陣に落下した。

本陣で目撃していたアカマタも総崩れ状態の軍勢を纏めることを諦めて、逃げようとしていたところであった。

目の前に落ちてきた大樹を抱きかかえたアカマタは大混乱状態で総崩れの日本妖怪や御家人の誰かに告げる事も出来ずに肥前から逃げ出した。

彼についてきたキジムナーたちもだ。

 

「な、なんとか安全なところまで逃げてこれたが、どうすればいいんだ!!」

 

筑紫平野の先にある玉名の地まで逃げおおせたが、大樹野椎水御神は今にも死にそうなほど顔色が悪く、出血も続いている。

 

同じ琉球妖怪のチンポが「とりあえず社に連れてけば、なんとかなるじゃないか。」と言う一言でそれに従い近くの社。玉名天満宮に駆け込んだのだ。

 

日本の神様だけあって、霊地的加護を受けたのか神社のご本尊で傷を癒すと血が止まり少しずつ治り始めていた。

琉球妖怪たちは大樹の回復を願って踊って祈りをささげた。それが数日続いたある日・・・三種の神器を携えた胤仁親王が朝廷の神官たちを連れてやってきたのであった。

 

「大樹母様はここにおられるか!!」「大樹様!!」「ティタ!!」

 

 

 



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34 弘安の役 神器集結

 

神器集結

 

胤仁親王が玉名天満宮に着いた頃には、私の傷もだいぶ癒えて意識も戻り会話もできる程度には回復していた。

 

「大樹母様!!御無事でっ…!!」

 

申し訳ありません…。わ、私は負けてしまいしました。

 

「大緑光ノ精様、これをお使いください。」

「はい」

 

胤仁親王から塗り薬を受け取った大ちゃんはその薬を私の患部に塗っていく。

胤仁親王は薬についての説明をし始める。

 

「昔の話でございます。垂仁天皇の妃に極々わずかな期間でしたが月の御仁をお迎えしたことがございました。その妃さまは垂仁天皇と結ばれてすぐに月へ戻らなくてはならなくなり、その詫びにと二つの霊薬を置いて行かれました。一つは良く知られている不死薬、これは富士の山で焼かれております。そして、もう一つの霊薬は手元に残され代々天皇家に引き継がれていきました。どんな傷でもたちどころに癒す薬で黄色粉末で水と混ぜて使います。その黄色い見た目から時の帝たちはこれを蒲黄(かまのはな)と呼んでいます。」

 

胤仁親王の説明通り私の怪我はすっかり良くなりました。ですが・・・

魔法のバトンも壊れてしまいしました。どうやって戦えばよいのでしょう。

 

「神杖が折れたのですか・・・。大樹母様・・・神杖が折れることは予想しておりませんでしたが、私は帝より・・・大樹母様のお力になればと神器を預かって参りました。」

 

胤仁親王が漆箱のふたを開けさせ神器の数々を見せる。

 

こ、これを使っても良いのでしょうか。

 

「天照大御神様を始めとした天津神々がお使いになられた神器の数々です。肥前、筑前の戦いに敗れ・・・皇国の存亡の危機を迎えた今。皇国を守るためならば高天原へ行かれた神々も、きっとお許しくださるでしょう。帝はそう思い、万一の際にはと私に託したのでしょう。」

 

わかりました。天照大御神様、此花咲夜姫様、他多くの神々から託された私の責任です。今一度武器を取り大陸の悪意と戦いましょう。皆さん、戦支度をお願いします。

 

胤仁親王と大妖精それに従っていた妖精巫女、宮廷神官たちが一斉に頭を下げた。

 

宮廷神官たちが漆箱や桐箱から布にくるまれた神器を取り出す。

 

私は立ち上がり、両手を広げる。

大ちゃんと妖精達が私のボロボロの巫女装束を脱がしていき、新しい物へと着替えさせる。

 

「秋比売の二柱様が手ずからお作りになられました。黒御縵でございます。」

妖精巫女が二人左右に廻り私の髪に飾り付ける。

 

 

 

「皇大神社より借り受けました。千入の靫です。天照大御神様がかつて須佐之男命襲来に備えた際に背負い携えた物です。そして、こちらは腰に携えた五百入の靫。これは私が使います。」

 

大ちゃんは千入の靫を私の腰に括り付けると自分の腰に五百入の靫を装備した。

大ちゃん・・・大ちゃんは・・・そんな危ないことしなくていいんだよ。

 

「大樹様、私は神武東征のおりこの身朽ち果てるまで貴女についていくと決めています。だから、置いて逝かないでください。お願いです・・・。」

 

大ちゃんの涙交じりの強い視線を受けて、すぐには何も言い返せなかった。

だけど、なんて答えればいいかはわかったんだ。

うん、ちゃんといるよ。私はずっと大ちゃんといるよ。どこにもいかないから・・・。

 

 

「ごほん・・・。」

胤仁親王の咳払いで、二人の世界から引き戻される。チルノたちがニヤニヤしながら私達を見ていた。少し恥ずかしいけど気を取り直してと。大ちゃんに変わり神官たちが解説を続ける。

 

「瀧原宮よりお借りしました。稜威高鞆です。」

私の両腕にその籠手を装着していく。

 

「伊勢神宮よりお借りしてきました。八咫鏡です。」

少し重いこの鏡を革紐で通して首にかけられる。

 

「帝よりお預かりしました。八尺瓊勾玉です。」

これが私の腕に結わい付けられていく。

 

「名のある鍛冶職人たちが奉安した天羽々矢を模して作られた矢です。」

私と大ちゃん、それに妖精達の靫に収められていく神聖な矢。

 

「それと、廣田神社から借り受けた天之麻迦古弓は道中わたしがお持ちします。」

そう言って天之麻迦古弓を大ちゃんが肩にかける。

 

「鵠沼皇大神宮よりお借りした。天石楯です。」

その盾を背負わせる。

 

「そして、こちらが伊勢神宮よりお借り受けした草薙剣です。ご武運を・・・。散瑠乃殿は石上神宮からお持ちした天羽々斬をお使いください。」

鞘に入れられた剣は私の腰の辺りに結ばれた。

 

 

行こう。みんな、今度は負けない。

 

 

 

 



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35 弘安の役 伊万里・久留米の激闘

 

唐津湾で窮奇に大樹がやられて日本軍が壊乱した後、何とか軍を纏めた神奈子と諏訪子。

彼女たちはたんたん坊や少弐経資と合流し肥前基肄城で指揮を執っていた。

 

「鹿島神宮よりお使者です。至急、八坂刀売神様にお会いしたいと・・・。」

 

鎮西西方軍の大将少弐経資が膝を付き、使者の到着を知らせる。

 

「鹿島からだと・・・遅かったじゃないか・・・。」

 

鹿島神宮からの使者は二振りの剣を差し出す。

伊都之尾羽張と布都御魂剣の二振りであった。

 

鹿島神宮の祭主の枕元に建御名方神、建御雷神が枕元に立ち八坂刀売神に力を貸すように言われたと告げた。なお、布都御魂剣の方は石上神宮から託されたものだと告げられた。

また、諏訪子にもヒヒイロノカネで作られた鉄輪が届けられた。

 

「我が夫、建御名方神。それに建御雷様感謝しますぞ!!」

 

自分の夫が、自分の自分よりも強い一応ライバルでもある建御雷に頭を下げたのであろう夫の姿を想像し、クスリと笑った。

神奈子は、今は高天原にいる夫とその兄貴分に礼を述べたのだった。

 

鹿島からの使者は、胤仁親王が大樹野椎水御神にありったけの神器を持って向かっていることが告げた。

 

神奈子と諏訪子はそれぞれの新たな武器の手なじみを確認して、言い放った。

 

「よし、ここは打って出るぞ!」

「いくよ!あんた達!!」

 

次に起きるであろう。友の大反撃の成功のために自分たちが敵を引きつける為。

 

 

たんたん坊率いる妖怪軍団と少弐経資率いる鎮西西方軍、地元の有馬氏、大村氏の協力を得て反撃に出た。反撃に出た神奈子たちは鹿島、嬉野、川棚で勝利し佐世保と白石まで押し返し、筑紫平野佐賀で抗戦していた白蔵主と刑部狸たちと戦域を重ねることが出来た。

 

その数日後、肥後玉名にて大樹野椎水御神の生存の知らせと檄が飛ばされ。

日本軍の大反撃が行われるのであった。

 

「伊都之尾羽張と布都御魂剣の二振りで貴様を倒させてもらうぞ!」

「東夷の小神が!!喰らってくれる!!」

 

「ヒヒイロノカネの鉄の輪であんたを切り刻むよ。」

「小さな島国の土地神風情が生意気な!!」

 

神奈子と諏訪子の相手には渾沌と饕餮。

 

「日本妖怪の意地を見せてやる!」

「「「「「おおおお!!」」」」」

 

「我こそは!!鎮西西方軍を預かる少弐経資である!!異族め!覚悟!!」

「「「「「おおおお!!」」」」」

 

 

「ガヒー!!!」

「我ら夜叉の一族の恐ろしさ見せてくれる!」

「倭国の兵など撃ち滅ぼして、奴隷にしてくれる!!」

「「「「「「「「「「おおおお!!」」」」」」」」」」

 

妖怪も画皮や夜叉の一族が相対し多くの妖怪を引きつけていた。

伊万里の戦いも非常に激しいものであった。

 

筑紫平野久留米でもぬらりひょんの軍勢と鎮西西方軍、六波羅探題派遣軍の軍勢がぶつかり合い。同地に配された伊吹童子、星熊童子、茨木童子に加え彼女らの部下である熊童子、虎熊童子、金童子、石熊童子と言った鬼たちも集まっていた。

 

この地には檮杌が出てきた。

 

「こいつは馬鹿だから、取り囲んで死角から攻撃すれば案外うまくいく!」

「たぶん、四凶最弱だ!!」

 

茨木童子と星熊童子の言葉に続いて伊吹童子が鬼たちに号令を掛ける。

 

「とにかく、囲んで殴り倒せばいい!お前たち、やっちまいな!!」

 

「「「「「「「おう!」」」」」」」

 

 

 

 

 

「ぬらりひょん様ぁ!どの戦域でも皆、奮闘し優位ですよ!」

 

久留米の舘で指揮を執るぬらりひょんの下に朱の盆が戦況を伝えに駆け寄る。

 

「でかした!水虎河童に伝令じゃ!!」

「はい!ぬらりひょん様!!」

 

久留米の舘から天狗の伝令が飛び立ち響灘まで後退していた水虎河童率いる妖怪水軍と村上・下津井・塩飽・淡路・土佐の瀬戸内・四国の増援水軍を加えた連合水軍に玄界灘への進出を命じた。

 

 



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36 弘安の役 筑紫平野の決戦

玉名にて、身の健在を伝える宣言が行われる。

四国の御家人たちが到着。全国各地の御家人たちも集結して日本軍の混乱は収まり、戦線の再構築がなされる。日本側の動員総数は30万とも50万とも言われているが詳細は不明。

戦場は肥前伊万里と筑紫平野と大宰府福岡平野の3カ所である。

時宗が二番目に号令を掛けた者たちは幕府と奉公の関係にない者たちであり、彼らは自主的に集まって来た者であり、幕府はその詳細を把握できていなかった。

 

大宰府での戦いは防戦主体だったのに対し、筑紫平野の戦いは双方の主力が激突した非常に大規模なものであった。筑紫平野の決定的な戦いが行われたのは六角川、佐賀、久留米である。

 

御家人を始めとする武士や雑兵、天狗や河童など数多の妖怪達が見守る中。私達は佐賀にて相対した。

四凶の窮奇と私達はにらみ合う。戦線が広がった分、四凶たちもバラバラに配置された様だ。

 

私が戦う筑紫佐賀の地は妖怪なら白蔵主と刑部狸の軍勢と天狗たち(天狗の軍勢は細分化されている。)、人間の軍勢は北条時宗の主軍が付いている。

 

元軍の弓から放たれた矢は弧を描いてこちら側に降り注ぐ、鉄製の盾が殆どない彼らは即席で木や竹で盾を作りそれを構えて身を守り、それすらないものは身を低くし丸くなり耐えた。

 

元寇軍の弓射撃が終わり、兵たちが前進を開始する。

今度は幕府軍の番だ。

弓を構えた御家人、僧兵、武装神官たちは弦を引き絞る。

 

「放て!!」

 

時宗ら将たちの号令で一斉に放たれる。

 

和弓と呼ばれる全長七尺三寸(約221cm)の弓から放たれる矢は真っすぐに進んでいき前進する元寇の歩兵達を仕留めていく。

 

弓の撃ち合いが終わると、御家人たちも刀や槍などの武器を持って掛けていく。

激しい打ちあいが繰り広げられる。

地上の妖怪達もこれに参加し始める。妖怪同士で戦う場合もあれば一人の妖怪が複数の人間を相手に戦う場合もある。

 

「「「これ以上、貴様らの好きにはさせん!!」」」

 

岩魚坊主と呼ばれる僧服を着た妖怪が元の歩兵に錫杖を向ける。

 

同数や逆の場合もある。

 

「どりゃー!!うりゃー!」

 

猿の妖怪狒々は同じく大陸の猿妖怪雍和を投げ飛ばし、雍和の手下である玃猿(かくえん)たち相手に勇戦していた。

 

 

 

 

私も精鋭を率いて窮奇のいる陣地まで突入します。

 

「弓を構えよ!!」

 

大ちゃんの号令で妖精たちが弓を構える。

私達妖精は小柄なので私の天之麻迦古弓以外は桃の木で出来た小弓でした。

 

私と大ちゃんは靫から天羽々矢を模した破魔矢をつがえる。

私達は弓を引き絞り狙いを付ける。

 

「上にいるぞ!!射殺せ!!」

 

地上で指揮を執っていた虎人(こじん)と言う黄虎と白虎の毛色の獣人が元寇兵に弓を向けさせる。

すると、私が首に掛けた八咫鏡から目を潰さんほどの眩い光が放たれる。

 

「ぐぁ!?目が!目がぁ!!」

「眩しすぎる!」

「目を開けられん!!」

 

私達は引き絞った弓から手を離す。

矢はみるみると大陸妖怪達に吸い寄せられるように当たっていく。

 

「ぎゃ!」「ぐぁ!」「げひぃ!」

 

巫女たちの矢は薄っすらと光の尾を描き降り注ぐ。

それは端から見れば光の雨の様であった。

 

光の雨が降り注いだ大陸妖怪たちの陣地は死屍累々であった。

 

 

元寇妖怪軍の陣地が蹂躙される様子が遠くからも見えた。

 

「いまぞ!好機!!」

「者ども!!突っ込め!!」

 

白蔵主と刑部狸は好機と見て全軍に突撃命令を下す。

 

「「「「うぉおおおおお!!」」」」

 

 

突撃していく妖怪達を見た御家人たち。

 

「続け!我に続け!!」

 

騎馬武者の号令に御家人たちが元寇の兵士を切り捨てながら進んでいく。

 

 

「怯むな!!行け!!ここで我らが奮戦すれば!!大樹野椎水御神様の助けとなる!!」

 

時宗も自ら前線に出て刀を振るった。

 

 

異常を察知した大陸妖怪の飛行妖怪たちが集まり出す。

大ちゃんは天狗の助っ人たちの隊長射命丸文に声を掛ける。

 

「射命丸さん、お願いします。」

「任せてください!この程度なら一捻りですよ。」

 

羽民、化蛇、飛頭蛮と言った飛行妖怪達は護衛の天狗たちが相手する。

護衛の天狗たちは精鋭で、彼らは一斉に切り掛かり、大陸妖怪達を圧倒し追い回した。

 

私達は全ての矢を討ち尽くすと、私は草薙剣を鞘から抜き、チルノちゃんは。

大ちゃんと妖精達は桃の棍を構える。

 

「よし!行くよ!!」

 

チルノちゃんが天羽々斬を抜き、突き進んでいく。

私達はそれに続く。

 

「オン・キリ・キリ・バサラ・ウン・ハッタ!」

 

一反木綿や唐傘の掴まって私達についてきている陰陽師たちも真言を唱えて、私達の降下を援護し、続いて降りていく。彼らは安部氏や加茂氏を中心とした陰陽寮の精鋭達だ。

 

「皆、がんばりんしゃい!!おいどんらも天狗様たちの手伝いに行ってくるけん!!」

陰陽師たちを下ろした一反木綿たちはその場を離れて行った。

 

「オン・アミリテイ・ウン・ハッタ!・・・巫女様方をお守りせよ!!」

 

陰陽師たちと妖精たちは共に奮戦し、地上に降り未だ混乱する大陸妖怪達を相手に優位に戦うことが出来た。

 

人面馬脚で赤い身をし、嬰児のような声を上げ人を喰らう窫窳(あつゆ)に数人の妖精が取り囲み四方八方から殴り掛かる。

 

「えぃ!」「せぃ!」「たぁ!」「りゃ!」

「ぐぇひぃ!!」

 

玃猿達をとも接戦を繰り広げる。

 

「攻め立てるんです!!」「「「おー!!」」」

「やっちまえ!!」「「「ウキー!」」」

 

「よし!俺たちも行くぞぉ!」「「「うりゃうりゃ!!」」」

 

勢いでついてきていた南方琉球の妖怪達も攻めかかる。

 

混戦する中、強大な妖気を隠すことなく現れた窮奇。

二人の虎人を率いて現れる。

 

「ずいぶんと、色々と引っ下げてきたものだ。お仲間と武具に頼った程度で勝てると思っているのか。羽虫が・・・。とは言え横槍が入ってくるのは癪だ。お前ら相手をしてやれ。」

 

「「っは」」

 

 

虎人二人は私の横に立つチルノちゃんに襲い掛かっていった。

 

チルノちゃん!?

 

「大丈夫!ティタ!あたい頑張るよ!」

「「小癪な!!」」

 

さらに後ろから刑天たちが現れる。

 

「「「わぁああああ!!」」」

 

「やらせません!!皆!!」

「「「やぁあああ!!」」」

 

大ちゃんの号令で妖精たちが刑天たちに立ち向かう。

 

 

二人の虎人は如意棒を振り回し、連携しチルノを追い詰める。

 

「っく!このままじゃ!」

「死ね!小娘!」

 

如意棒が迫る。

 

ガキン

 

チルノに迫った如意棒が飛んできた銭剣に弾かれる。

 

「ぐぉおおお!!し、痺れる!?だ、誰だ!!」

 

「誰だとは、つまらないお言葉ね。女の子相手に2対1で襲い掛かるような連中に気の利いた言葉を求めても難しいかしら?」

 

「き、貴様!」

「なにだと!」

 

虎人が視線を向けた先には桃の木剣と構えた霍青娥が立っていた。

 

「男のくせに、そんな手を使うならやり返しても文句は言えないわよね。」

 

青娥が手に持った鐘を鳴らすと、一斉にキョンシーたちが飛び掛かる。

 

「く、くそっ!誰か!!あれを何とかしろ!!」

 

「「「ぶるぁああ!!」」」

 

数体の窫窳がやってくる。

 

「あらぁ・・・じゃあ、貴方達は窫窳の相手をしてきて頂戴な。」

 

キョンシーたちは頷くと窫窳の方へ向かって行った。

そんな、二人に青娥は頬に人差し指をあてる。

 

「すこし、困ったわ。でも、少しだけね。」

 

そう言ってもう一回鐘を鳴らすと1体のキョンシーが現れる。

 

「芳香ー!やっちゃってぇ!」

「ワカッター!」

 

青娥の命令に従った芳香が飛び掛かる。

 

「ぐぉ!?こいつ並のキョンシーではないぞ!」

「か、固い!!だが!!」

 

虎人二人と接戦を繰りひろげる芳香。

 

「でもって、貴方達の相手は芳香だけじゃないのよ。」

「そういうこと!!」

 

チルノが天羽々斬で切り掛かり、青娥も呪符を飛ばす。

 

「3対2でも十分きついんじゃないかしら?」

 

「「おのれぇ!!」」

 

 

 

一方で私と窮奇は・・・

 

「一度負けたくせに、懲りずにまた挑んでくるとは・・・さすがは神の端くれと言ったところか。だが、何度来ようと同じ事。」

 

窮奇、今度はそうはいきませんよ!今です!!

 

「「「謹請し奉る、降臨諸神諸真人、縛鬼伏邪、百鬼消除、急々如律令!!!」」」

 

陰陽師たちの言上は符に乗って窮奇に殺到し、閃光を放つ。

 

「ぐぉ!?生意気な!!人間風情が!!」

 

窮奇の牙が陰陽師たちを捉えんとする。

が、それを守る様に私の構えた草薙剣がそれを防いだ。

もう一方の腕の稜威高鞆と八尺瓊勾玉に力を込めて窮奇の牙を殴りつける。

 

バキン

 

と、音を立てて窮奇の牙が折れる。

 

「ぐぉおおおおお!?き、貴様ぁ!!」

 

窮奇が腕を振り上げて鋭い爪のついた腕を振り下ろす。

そこから飛び退いて、窮奇の下に潜り込もうと滑り込む。

 

「羽虫の小娘がぁ!」

 

窮奇の斬撃が私の背に襲い掛かるが天石楯がそれを防ぐ。

しかし、勢いは消せず殴り飛ばされる。

 

っぐ!まだです!

 

「「「オン・マニ・ハンドマ・ウン!・・・蓮華の宝珠よ!悪しき者を捕らえよ!!」」」

 

陰陽師たちが放った術が楔を為して窮奇を捕らえる。

 

「ぬっ!!この程度!!ぬるいわ!!」

 

ガシャンと音を立てて、窮奇は楔を払い除ける。

私はこの隙を見逃さない。彼らの作ったこの隙を!

窮奇の喉元に滑り込み、草薙剣を突き刺した。

 

「ぐはぁ!?・・・この儂が・・・四凶筆頭のこの儂が・・・こんな羽虫の小娘にぃ・・・。」

 

勝った。勝ちましたよ!

 

私は窮奇の背に乗って草薙剣を突き刺す。

窮奇はピクリとも動かない。

 

私は鬨の声を上げる。

 

「四凶筆頭!!窮奇!!討ち取ったり!!」

 

 

 

 



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37 弘安の役 元寇軍壊滅

伊都之尾羽張と布都御魂剣の二振りで屠られた饕餮は、止めに御柱で背骨を圧し折られ、顔面を潰し神奈子は饕餮の羊毛を毟り取って雄たけびを上げた。

 

「しゃあぁあああああ!!饕餮は死んだぞ!!」

 

渾沌の方も、諏訪子のヒヒイロノカネの鉄輪で切り刻まれ大量の血を流して崩れ落ちる。

 

「渾沌、敗れたり!」

 

これを見た画皮や夜叉たちが逃げ出し、他の大陸妖怪も我先にと逃げ出す。

元寇の軍も潰走し始め、たんたん坊や鎮西軍に追い立てられる。

 

久留米の方でも、徹底的に殴る蹴るされた檮杌が無残な姿で撲殺されていた。

四凶の檮杌と言えども最強妖怪の一角たる鬼たちに四方八方から殴り廻されれば、ひとたまりもないと言うことであった。

 

 

四凶が敗れた元寇は潰走を始め、日本軍が追撃を開始する。

頭部が大きな口だけで全身毛に覆われた、寸胴の大蛇の妖怪。野槌(のづち)はあたりの敵兵をてつはうが爆発しようが、矢が飛んで来ようと怯まず敵を吸い込んでいく。

 

「いいぞ!やっちまえ!」

 

他の妖怪達も追撃を弱めず港から敵を追い出していった。

 

各地で日本軍が勝利し、元寇軍は各地の湾から多くの軍船が出港していく。

 

 

妖怪大軍船を中心とした元寇水軍に日本連合水軍が攻撃を仕掛ける。

 

水軍衆の軍船が元寇の軍船に接舷し乗り込み、剣と刀、槍と矛・戟がぶつかり合い。

弓や弩から矢が射ち交わされる。

 

三翼軍の水軍を日本水軍とぶつけている間に妖怪大軍船他の大陸の水軍は沖に逃げ出す。

 

「追え!逃がすな!!」

 

水虎河童は仲間たちに追撃を命じる。

河童や人魚、船幽霊たちに加えお化け蛤の殻で出来た軍船でカワウソの一族がは元寇の東路軍や雲南軍の軍船に襲い掛かる。

 

その様子を見ていた船幽霊のひとり村紗水蜜も東路軍の軍船に柄杓で水を流し込んでいたが、切がないと軍船に乗り込んだ。

 

河童や半魚人、カワウソらが乗り込んで乱戦している中で見回すと軍船の錨が目に入った。

これだ!

 

村紗は錨を担いで振り回す。

東路軍の兵士達を吹っ飛ばし、叫ぶ。

 

「この船、沈めるぞぉ!!見てろよ!!」

 

村紗が軍船の床に錨を叩きつけると錨は床を突き破り船底まで一気に突き破った。

 

「元寇の軍船を一撃で沈めてやったぞ!!」

「「「「おおおお!!」」」」

 

村紗の勝ち鬨に他の船幽霊も柄杓や手桶を掲げて応じた。

以後、村紗は船幽霊の纏め役として名を上げるのであった。

 

 

 

 

そして、妖怪大軍船にも・・・

 

「行け!化け鯨!!」

「クォオオオオン!!」

 

水虎河童の言葉に合わせて白い骨格のみの姿をした巨大な鯨が姿を現した。

あたり一面は骨だけの姿の魚どもで満ち溢れ、さらには妖しげな骨鳥が姿を現す。

 

お化け鯨はその巨体を妖怪大軍船に叩きつける。

妖怪大軍船の艦首がへし折れ、前に沈んでいく。数多の大陸妖怪達が海に投げ出さられ河童や人魚たちに海に沈められていくのであった。

 

「キュオオオオン!!」

 

お化け鯨の第二撃が妖怪大軍船の船腹に叩きつけられる。

妖怪大軍船は船腹の穴から海水が流れ込み沈んでいく。

 

元寇軍壊滅の瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃・・・

大陸妖怪の首魁チーは江南軍の軍船にいた。

 

「今回の侵攻は失敗したが、我の邪魔となる四凶が死んだだけでも良しとしよう。次こそは日本を手中に収めてくれる。」

 

 



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38 鎌倉幕府の終焉 暗雲

九州に上陸した元寇を叩き出し、勝利した日本は勝利に沸き立った。

 

この戦いに貢献した五柱。大樹野椎水御神、八坂刀売神、洩矢諏訪ノ神、秋比売静葉、秋比売穣子は日本の民に慕われ、各地に大樹神社、諏訪神社が多く造られた。また、主神として祀られていなかった秋比売姉妹も大和国五條に秋大社が建立された。

 

そして、その建立された秋大社の本殿で大樹野椎水御神の差配にて、各勢力の長達や功績を上げた者たちへの恩賞についての話し合いが開かれた。鬼たちは褒賞を辞退し、天狗たちは彼らを祀る社への朝廷と幕府からの寄進を約束した。水虎河童は彼らのための鍛冶屋町の建築を約束した。

 

また、朝廷と幕府は大樹野椎水御神を祀る桃園大樹宮を尾張那古野に、琵琶湖大樹神社を琵琶湖の武島に建立した。

二つとも規模こそ大したものではなかったが、特に桃園大樹宮は短期間で建立され神器返還の儀式が執り行われた。

元寇の戦いでは妖精たちが桃の棍と桃の小弓で戦ったことに由来して、建立された社には神楽堂に併設された小さな桃園が造営された。

その桃園大樹宮には御神体として直径1尺(26㎝)程の紅玉と碧玉が奉納された。紅玉と碧玉にはそれぞれ大樹大社の神紋である葉を広げた大樹の紋と天皇家の菊紋が刻まれており、これが天皇家養母大樹を意味しているとされる。

 

 

 

刑部狸に対しては四国探題奉行職を与え、四国妖怪の大将として正式に認めるものとした。

 

「ありがたき幸せ!奉行職の任・・・拝命いたします。」

 

刑部狸と共に筑紫平野の戦いで手柄を上げた白蔵主は畿内探題奉行職と伏見稲荷大社の警固役の役職を与えた。

 

「っははぁ!!この白蔵主!!畿内の地と秋比売様方を全霊を賭してお守りします!」

 

頼りにしてますよ。白蔵主・・・。

 

「この刑部も大樹様がお困りの時は瀬戸内の海を越えて駆け付けますぞ!」

 

ふふ、刑部殿も頼りにしてます。二人とも私の忠臣ですよ。

 

「「大樹様ぁ!」」

 

たんたん坊、貴方には東北探題の役職を与えます。それともう一働きして欲しいの・・・

 

「な、何でございましょうか?」

 

たんたん坊、チーの脅威は完全に去ったわけではありません。それに第二第三の彼が現れることも考えられます。此度の戦では敵の大軍船に苦慮しました。敵の移動拠点は脅威と言えます。我々もそう言った物を築く必要があります。

たんたん坊、貴方には移動城塞・・・名付けて妖怪城の築城を命じます。完成の暁には城主にもなってもらいたいのです。

 

「おぉ!!これはお役目甚大ですな!!お任せを!!」

 

 

ぬらりひょん、貴方は妖怪軍の総指揮を執ると言う大任を全うしてくれました。

貴方には関西探題の奉行として西の守りを頼みたいのです。

 

「関西探題奉行職、謹んで拝命いたします。」

「っははぁ。」

 

ぬらりひょんは深く頭を下げ、その横に控える朱の盆も頭を深く下げた。

 

 

菅原道真には大宰府の損壊部の修繕費用と騎馬として雷獣を贈った。

また、道真の寵愛を受ける妖精梅林の名を玉名天満宮に着ける許可を願い出て、それを許可した。玉名天満宮は梅林天満宮と名を変え梅林がその巫女頭に就任した。

平将門には将門の塚の慰霊祭を行い。関東探題奉行職を就任させた。

 

 

大樹野椎水御神は妖怪達を心服させ、妖怪達をも大樹の陰に迎えたのであった。

 

 

 

 

その半月後。

大樹大社に戻った大樹は、御神木の前での神事が執り行われた。

 

御神前の席に座り、私は大ちゃんが祝詞を読み上げるのを聞き、京から来た力士が相撲を奉げた。さらに幕府の腕自慢が流鏑馬、競馬を奉げ、妖精達が神楽舞を披露する。

そして、神事の最期に私が土地と海の豊饒を願い御神木から加護が発せられ土地に力が付与される。

 

その豊饒祈願の言葉を参列者たちに告げる。

 

「无邪志国の大樹の袂より 大樹野椎水御神は 

土地の穢れ 土地の厄災を祓い 清めくださいと申し上げることを

聞き入れます。 私の半身たる神木よ 我が想いを 大地に届けよ。」

 

私の想いと力が 御神木を通して広がっていく。

その途中で胸の辺りが強く痛みだす。苦しくて意識を保つこともままならず倒れてしまうのでした。

 

すぐに、他の神々に知らされ神奈子たちが私を診にやってくる。

 

「神器の反動だね。あれだけの神器を扱ったんだ。反動も相当だろう、養生すると良い。だが、永い年月の養生が必要だ。当分は神事で力を使うことは控えることだよ。」

「あんまり無理するなよぉ。」

 

神奈子と諏訪子は彼女を労り、武蔵国を後にした。

 

「豊穣の神である私達が大樹の分まで頑張るしかないわね。」

「そうね。穣子・・・、土地の力が続く限りは実りを維持できるから・・・。」

 

翌日に見舞いに来た秋比売の姉静葉はこの後に起きるであろう世の乱れを予感して憂いた。

 

 

 



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39 鎌倉幕府の終焉 正中の変・元弘の変

 

静葉の不安はあたり、大樹野椎水御神と言う国家の支柱が倒れたことで世は乱れに乱れた。

大樹野椎水御神の加護が途絶えた関東の地は今まで抑えていた厄が一気に押し寄せた結果・・・。

鎌倉大地震が発生、2万人以上の民が死に絶えた。さらに翌月からは旱魃が発生し年々規模は拡大していった。全国各地で飢餓が発生するのであった。

 

全国的な不作に伴い民百姓含め、皆が貧困に苦しむ中で時の執権北条貞時は徳政令を発布。

それに端を発した定時邸焼き討ちで世はさらに乱れた。生活に困窮した御家人の不満を幕府は力で抑えたため表面上は幕政は安定したものの、霜月騒動や平禅門の乱など専制を強める得宗家と御家人の確執は深まり、安藤氏の乱において御内人が当事者の双方から賄賂を取り立てるなどといった事があり、幕政の腐敗、次第に幕府から人心が離れていくようになった。

朝廷の衰退は皇位継承を巡る自己解決能力をも失わせ、結果的に幕府を否応無しに巻き込む事になった。幕府は両統迭立原則によって大覚寺統・持明院統両皇統間における話し合いによる皇位継承を勧めて深入りを避ける方針を採ったが、結果的に紛糾の長期化による朝廷から幕府に対する新たな介入要請を招き、その幕府の介入結果に不満を抱く反対派による更なる介入要請が出されるという結果的に幕府の方針と相反した悪循環に陥った。

大樹大社の大樹野椎水御神も、政に介入するだけの体力を失っており事態を収められる存在はいなかった。他の神々も政治に明るいものはいなかったのだ。

 

その結果、大覚寺統傍流出身の後醍醐天皇直系への皇位継承を認めないという結論に達したとき、これに反発した後醍醐天皇が、これを支持する公家と幕府に対して不満を抱く武士達の連携の動きが現れるのを見て、叛乱を起こす討幕運動へと発展する事になった。

そして、その倒幕運動に妖怪達には大樹大社より不介入を言い渡されていたが妖怪達の野心を抑えきれず介入を許してしまうのであった。

 

 

後醍醐天皇は、自分の立場が中継ぎの天皇にすぎないことを知ると、邦良親王や持明院統はもとより、幕府に対しても激しく反発した。そこで後醍醐天皇は、六波羅探題南方・大仏維貞が鎌倉へ赴いている隙に討幕を行うことを企て、これをうけて側近の日野資朝や日野俊基らは諸国を巡って各地の武士や有力者に討幕を呼びかけた。

しかし、畿内を任されていた白蔵主がこれを察知し、六波羅に知らせた。

密かに上洛していた土岐氏の当主の土岐頼貞と頼兼父子と一族の多治見国長、足助氏の当主の足助貞親にもとへ白蔵主は手勢を差し向け、四条付近で激しい戦闘が行われた末に両将を自害に追い込んだ。

 

報告を受けた六波羅の追及は朝廷にも及んだが、資朝・俊基らは自ら罪をかぶって鎌倉へ連行された。資朝は佐渡島へ流刑となり、俊基は赦免されて帰京したが以後は蟄居謹慎の日々を送った。一方、後醍醐天皇は側近の万里小路宣房に釈明書を持たせて鎌倉へ下向させ、その甲斐あってか今次の変とは無関係ということで咎めはなかった。

 

だが後醍醐は、処分を免れた側近の日野俊基や真言密教の僧文観らと再び倒幕計画を進めた。

 

 

 

そして、二度目の討幕計画が企てられた時。

後醍醐天皇は側近とともに京を脱出した。幕府軍の追跡をかわすために天皇に変装した花山院師賢は比叡山へ向かう。天皇は四条隆資らとともに奈良東大寺を経て鷲峰山金胎寺に移りその後、笠置山に至った。

そして、妖怪達も動き出す。京のある畿内を任せられていた白蔵主は笠置山を包囲し幕府軍を待った。幕府軍の陶山義高らが山に放火したことによって天皇側は総崩れとなり、笠置山はついに陥落。数日で後醍醐天皇や側近らは幕府軍に捕えられた。

 

後醍醐天皇の皇太子とされていた持明院統の量仁親王(後の光厳天皇)を三種の神器のないまま即位した。

一方でぬらりひょんは後醍醐天皇に付き、自らの手勢で畿内へ乱入。三種の神器を手中に収め光厳天皇へ渡した。

翌年、楠木正成は河内国金剛山の千早城で挙兵し、ぬらりひょんと合流、同月、護良親王も吉野で挙兵して倒幕の令旨を発した。さらに翌年には六波羅、畿内勢を摂津国天王寺などで撃破し、幕府方に味方した白蔵主を伏見稲荷大社に謹慎させた。

鬼、天狗、河童と言った者たちは、中立の立場を取り静観を決め込んだ。

 

幕府軍は正成の悪党仲間の平野将監入道・正成の弟楠木正季らが守る上赤坂城へ向かった。上赤坂城の守りは堅く幕府軍も苦戦するが、城の水源を絶ち、平野将監らを降伏させた。同じ頃、吉野では護良親王が敗れ、幕府方に付き境港に上陸しようとした刑部狸をぬらりひょんが交戦し、瀬戸内の海で橋頭保となる淡路島を奪い合った。

 

正成がわずかな軍勢で篭城する千早城を残すのみとなったが、楠木軍は鎧を着せた藁人形を囮として矢を射掛けるなどといった策により、再び幕府軍を翻弄した。幕府軍は水源を絶とうとしたが、千早城では城中に水源を確保していたため効果はなかった。楠木軍は一部が打って出て包囲方を奇襲し、軍旗を奪って城壁に掲げ嘲笑してみせるなど、90日間にわたって幕府の大軍を相手に戦い抜いた。

 

幕府軍が千早城に大軍を貼り付けにしながら落とせずにいる、との報は全国に伝わり、各地の倒幕の機運を触発することとなったのだ。

 

 

播磨国では赤松則村が挙兵し、その他の各地でも反乱が起きた。中でも赤松則村は周辺の後醍醐方を糾合し京都へ進撃する勢いであった。このような状況を見て、後醍醐天皇は隠岐島を脱出し、伯耆国の船上山に入って倒幕の綸旨を天下へ発した。

 

ここに来て刑部狸は瀬戸内海より手を引き、四国に籠った。

 

幕府は船上山を討つため足利高氏、名越高家らの援兵を送り込んだ。しかし、名越高家が赤松則村に討たれ、足利高氏は所領のあった丹波国篠村八幡宮で幕府へ反旗を翻す。足利高氏は佐々木道誉や赤松則村らと呼応して六波羅探題を攻め落とし、京都を制圧した。北条仲時、北条時益ら六波羅探題の一族郎党は東国へ逃れようとするが近江国の番場蓮華寺で自刃し、光厳天皇、後伏見上皇、花園上皇は捕らえられた。

 

この時、奈良の秋大社が秋比売姉妹の連名で天皇拘束の事を抗議したが聞き入れられなかった。

 

その後、新田義貞が上野国生品明神で挙兵した。新田軍は一族や周辺御家人を集めて兵を増やしつつ、利根川を越えて南進した。新田氏の声望は当時さほど高くはなかったが、鎌倉時代を通して源氏の名門と認識されていた足利氏の高氏(尊氏)の嫡子千寿王(後の足利義詮)が合流したことにより、義貞の軍勢は勢いを増し、新田軍は数万規模に膨れ上がった。幕府は北条泰家らの軍勢を迎撃のために向かわせるが、御家人らの離反も相次ぎ、小手指ヶ原の戦いや分倍河原の戦いで敗退し、幕府勢は鎌倉へ追い詰められた。

 

この戦いは諏訪大社も大樹大社も不介入であった。

大樹野椎水御神が静養中であったこともあるが、天皇家の養母を自任する大樹野椎水御神が二つの天皇家が存在し、双方に天皇家の息がかかっているもしくは直接動いている以上、天皇家内の内紛でありどちらにも味方しないと言う選択が、大樹野椎水御神の代行である大妖精の判断であった。

 

新田軍は極楽寺坂、巨福呂坂、そして義貞と弟脇屋義助は化粧坂の三方から鎌倉を攻撃した。しかし天然の要塞となっていた鎌倉の切通しの守りは固く、極楽寺坂では新田方の大館宗氏も戦死した。戦いは一旦は膠着し、新田軍は切通しからの攻略を諦めたが、新田義貞が海岸線(稲村ヶ崎)から鎌倉へ突入した。幕府要人が数多戦死した市街戦ののち、生き残った北条高時ら幕府の中枢の諸人総計800余人は、北条氏の菩提寺であった東勝寺において自害した。

 

この一連の戦いで後醍醐天皇の討幕運動は遂に成功を見た。後醍醐は京都へ帰還し、元弘の元号を復活させ、念願であった天皇親政である建武の新政を開始する。だが元弘の乱の論功行賞において、後醍醐の側近が優遇されたのに対して、赤松則村をはじめとする多くの武士層が冷遇された。こうしたことが新政への支持を失わせ、足利尊氏の離反と室町幕府の成立へと結びついていく。

こうして日ノ本の国はさらに混迷を突き進むのであった。

 

 



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40 南北割れる天皇家 混沌の始まり

鎌倉時代の後半から半世紀にわたって両統迭立という不自然なかたちの皇位継承を繰り返した皇統は、すでに持明院統と大覚寺統という二つの相容れない系統に割れた状態が恒常化するという実質的な分裂を招いていた。それが倒幕と新政の失敗を経て、この時代になると両統から二人の天皇が並立し、それに伴い京都の北朝と吉野の南朝の二つの朝廷が並存するという、王権の完全な分裂状態に陥った。南北朝はそれぞれの正統性を主張して激突し、幾たびかの大規模な戦が起こった。また日本の各地でも守護や国人たちがそれぞれの利害関係から北朝あるいは南朝に与して戦乱に明け暮れたのであった。

 

この南北朝の内乱は、先の戦いに参加した白蔵主と刑部狸を含めてその多くが介入を避けた。だが、逆に積極的に介入したものが存在したぬらりひょんである。

 

天皇親政を掲げる南朝の失敗により、天皇家など旧勢力の権威は失墜し、南朝天皇家を見限ったぬらりひょんは北朝に接近。足利尊氏と盟約を結んだ。

一方、北朝の公家も、ぬらりひょんが背後についた室町幕府将軍足利義満によって、警察権・民事裁判権・商業課税権などを次々と簒奪されていった。南北朝が合一したとき、後に残った勝者は南朝でも北朝でもなく、足利将軍家とぬらりひょんを中心とする室町幕府と守護体制による強力な武家の支配機構だった。

 

 

2代将軍足利義詮が死去し、10歳の義満が3代将軍となり、ぬらりひょんが室町幕府の副将軍として権勢を奮い始める。このころまでに反幕府方の畠山国清・大内弘世・上杉憲顕・山名時氏らが幕府に降っており、九州では後醍醐の皇子・征西将軍懐良親王が中国明朝より「日本国王」として冊封を受けてなお勢力を拡大していたものの、中央の南朝方は抵抗力をほとんど失っていた。ぬらりひょんは幼い将軍を巧みに操り辣腕を振るい南軍の将楠木正儀を寝返らせ、九州の南朝勢力排除のために今川貞世を派遣、内政においては新興の禅宗である南禅寺と旧仏教勢力の比叡山との対立問題の対応や半済の実施などを行い、幕府権力の安定化を推し進めていった。康暦の政変で管領細川頼之が失脚させ、後任にはぬらりひょんの息がかかった斯波義将が就任する。ぬらりひょんの助言で義満は奉公衆と呼ばれる将軍直轄の軍事力を整え、有力守護大名の山名氏や大内氏を挑発してそれぞれ明徳の乱、応永の乱で追討し、将軍権力を固めて、明徳の和約によって南北朝を合一し、天皇に迫る権力を確立する。

 

足利義満が急死すると、4代将軍の足利義持は斯波義将に補佐され、義満に対する太上天皇の追号を辞退し、勘合貿易での明との通商を一時停止するなど義満の政策を否定し幕政を守旧的なものに改める。これは貴族色が強まった義満晩年の政策に反感を抱く武士達の不満に応えたものであった。応永30年(1423年)に実子の足利義量に将軍職を譲るが義量が早世し、さらに義持自身も後継者を決めないまま死去する。6代将軍は籤引きで選ばれることとされ、義満の子で僧門に入っていた義円が還俗して足利義教を名乗り、将軍に就任する。

この時点で幕府は将軍をお飾りと見做し、ぬらりひょんが牛耳っていたのであった。

 

 

その後、足利義満が南北朝合一を達成し幕府権力を絶大にしたものの、義満急死後は大名合議制に戻り相対的に将軍の権力も低下した。更に民衆による土一揆の発生や後南朝による南朝再興運動など、幕府にとってはかつてない事態に遭遇するようになった。そのような中で諸大名にとっても領国統治の必要上、将軍のこれ以上の権威の低下は避けたいとの思惑もあった。比叡山座主であった足利義教がくじ引きで将軍になると、土岐氏・赤松氏・大内氏らの有力守護大名の後継争いに積極的に干渉し将軍権力の強化に努めた。更に幕府に反抗的だった鎌倉公方足利持氏を永享の乱で、その残党を結城合戦で討伐すると全国に足利将軍に表向きに刃向かう勢力は無くなり、一見社会は安定に向かうかに見えた。

 

8代将軍足利義政が就任する。幼少の将軍が続いたためぬらりひょんの独裁で幕政が運営された。義政は子供に恵まれなかったために弟の義視を養子として後継者に指名したが、正室の日野富子に息子・義尚が生まれると、将軍後継問題が発生した。

義政は義視を中継ぎとして就任させてから、その上で義尚を将軍にするつもりであったが、義尚の養育係であった政所執事伊勢貞親は義視の将軍就任に反対であった。文正元年(1466年)、貞親は斯波氏の家督争い(武衛騒動)に介入し斯波義敏に家督を与えるよう義政に求め、義政もこれに応じた。しかし有力大名の山名宗全は斯波義廉を支持し、これに反発した。貞親は義敏に加え、日明貿易の利権をめぐって細川勝元と対立していた大内政弘も抱き込み一大派閥を結成した上で、義視に謀反の疑いありと義政に讒言し義視の排除を図った。しかし義視が勝元邸に駆け込み救援を求めると、勝元と宗全は結託して義政に抗議し、これにより貞親は失脚し京を去った(文正の政変)。側近である貞親の失脚により義政は将軍親政を行うことが不可能となり、義政の権威は失墜した。

 

この時点で室町幕府はぬらりひょんの制御の外になってしまい畠山政長と畠山義就による畠山氏の家督をめぐって発生した家督争いを憂いた秋比売静葉が細川勝元を介して行った介入によってさらに悪化する。天津神である秋比売姉妹の姉の介入に焦った足利義政はこれを収めようと、山名・細川両名に畠山家への軍事介入を禁じ、義就と政長を一対一で対決させることで事態の収拾を図った。勝元は義政の命令に従ったが、宗全はこれを無視し義就と共に政長を攻撃した(御霊合戦)。政長は敗走し、勝元の屋敷へと逃げ込んだ。派閥の領袖としての面目を潰された格好となった勝元とその後援者である静葉は、宗全との全面対決を決意した。

 

やがて、両者の対立は全国の大名の兵力(享徳の乱の最中の関東を除く。この乱のために大樹大社は中央に介入できなかった。)を政治の中心地である京都に結集して遂に大規模な軍事衝突を引き起こした。これが応仁の乱である。陣を構えた場所から細川方を「東軍」、山名方を「西軍」と呼ぶ。勝元の後援者である秋静葉は妹穣子を巻き込み朝廷勢力の力を借りて義政に迫り東軍に将軍旗を与え、西軍を賊軍とさせた。これにより東軍は正当性の面で優位に立ったが、大内政弘が入京すると西軍は形勢を盛り返した。更に義政が貞親を政務に復帰させると、これに反発した義視は西軍へと奔り、西軍諸将は義視を新将軍と仰いだ。これにより足利将軍家は二つに分裂した。その後、戦局が膠着状態に陥ると両軍の間に厭戦感情が広がるが、東軍の赤松政則や西軍の畠山義就は和睦に反対であり、勝元も宗全もこうした和睦反対派を説き伏せることが出来ずにいた。勝元と宗全が多くの大名を自陣営に引き入れた結果、参戦大名が抱える問題の解決や、彼らが求める利益分配に応えることが困難となり、陣営をまとめることが出来なくなっていた。結果的に首都で延々と11年間も決着が付かない軍事衝突を断続的に行うことになった。秋大社が焼き討ちされ、両軍の総大将である勝元と宗全が相次いで病死しても、義政が息子の義尚に将軍職を譲って隠居しても、諸大名は兵を撤退させることは無かった。兵を撤退させることになったのは、余りの長い戦争に耐え切れなくなった領国で不穏な動きが相次いだからである。結果、応仁の乱は首都・京都を焦土としただけで何ら勝敗を決することなく終結したのである。だが、この乱をきっかけにした戦闘は応仁の乱終結後も地方へと拡大し、関東の享徳の乱も更に10年近く戦いが継続された。

 

「うぅ・・・お姉ちゃん。」

「ごめんね。穣子・・・私が下手に手を出したばかりに・・・。(大樹ちゃんなら、もっとうまくやれたのかしら・・・。)」

 

大社を焼き払われた秋比売姉妹は細川家の掌握に失敗し、諏訪大社へ一時身を寄せ、関東が安定すると大樹大社の庇護下に入った。

その後足利将軍家では、義政が義尚への政務の移譲を宣言し東山山荘に移り住んでからも、実際には権力を保持し続けたため室町殿(義尚)と東山殿(義政)の二重権力状態が続き、室町幕府を牛耳っていたぬらりひょん自身も持て余し始めるのだった。

 

 

また、室町幕府の末期から再び白蔵主や刑部狸と言った妖怪達が介入し、巻き込まれ日本は一世紀近く騒乱状態となった。

 

 



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41 傀儡室町幕府

応仁の乱以降、多くの守護大名が京都を離れ在国するようになり、守護在京制が形骸化した。理由の一つは幕府の権威が失墜したため、京都に残って幕政に参与する意義を見出し辛くなったためである。もう一つは、幕府の権威が失墜したことでそこに由来していた守護としての統治権が揺らぎ、大名は己の実力で領国支配を維持しなければならなくなったためである。配下であった守護代や国人衆による下克上、更には加賀一向一揆や山城国一揆に代表される民衆の一揆からもその領国支配を脅かされるようになっていくのである。

 

 

応仁の乱で将軍の権威は大きく失墜し幕府の権力は衰退したが、軍事的な実権はある程度保たれていた。義政が隠居した後、ぬらりひょんは義尚を諭して六角行高を討伐するため、守護大名や奉公衆の軍勢を率いて将軍親征を行った。しかし、義尚が陣中にて若くして病没したことで討伐が失敗。10代将軍の座に就いた義視の子・足利義材もまた義尚と同様に六角征伐に失敗し、義材と対立していた細川政元は、富子や伊勢貞宗と示し合わせて義材が京を離れた隙に挙兵し、堀越公方足利政知の息子である清晃(足利義澄)を11代将軍に擁立した。孤立無援となった政長は正覚寺で自害。義材は捕縛され、上原元秀の屋敷に幽閉されたが後に逃亡。一方で、このクーデターを認めず義材の方こそが正当な将軍であるとみなした大名もいた。

 

ぬらりひょんもこの足利家内の分裂で手を拱いて、自身の立場を曖昧にして足利将軍家と堺・阿波の公方家を放浪した。

 

 

家臣である管領が将軍を廃したこの事件で、政元は細川京兆家による管領職の世襲化と独占状態を確立、さらに将軍の廃立権をも手中に収めたが、程なく自らの後継者を巡る家中の内紛で暗殺された。以後、政元の養子である澄元と高国が細川京兆家の家督を巡って争いを始めた。これを知った前将軍義稙は、大内義興と共に中国地方の長門から上洛、細川高国の出迎えを受けて将軍位に復した。だが、大内義興が本国情勢によって帰国すると大内の軍事力を失った高国方は一時劣勢となり、澄元と三好之長に攻められ近江坂本まで後退する。この状況を見た義稙は高国を見限り澄元方へと鞍替えした。しかし、六角定頼の支援を取り付けた高国は再び京へ進軍し之長を破った。その後、高国の追撃を受けた澄元は阿波にまで追いやられそこで病没した。高国は亡命先で没した義澄の遺児・足利義晴を12代将軍に擁立して義稙を廃した。

 

だが、その細川政権も三好長慶に倒され、第13代将軍足利義輝と対立しつつも三好が政権を取りつつあった。

 

 

 

一方で元寇討伐成就後の祭礼を最後に、民の前に療養中の大樹野椎水御神が姿を見せることは無くなり、政にも謀にも軍事にも大樹大社はほとんど介入することは無くなった。その後の大樹大社はあまり一般に開かれることが無くなり、存在感を失っていた。朝廷、皇族や摂関家とのつながりは維持していたが、朝廷の権威が形骸化しており世の中を動かせるほどの力はすでに無かった。

 

また、妖怪たちの多くは神々の制御を離れ、傍若無人に振舞いだした。これに対抗する形でこの時代の退魔、破魔の術が磨かれ神鳴流や博麗の巫女と言った術者が台頭するようになる。

 

 

 



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42 戦国群雄割拠 荒れる時代

天文12年に大隅国の種子島に伝来するより30年ほど以前・・・。永正7年相模国の小田原に帆船が漂着した。船内には異国の娘たちが多数と少数の男たちが乗っていた。地元の役人たちは大樹大社の巫女や旅の還俗僧がいたこともあり、小田原城の北条早雲と引き合わせる様に取り計らった。

代表者を名乗るものは4人おり、元興寺の縁者を名乗る還俗僧と大樹大社巫女を名乗る3人であった。

 

早雲は彼彼女らの願いを聞き入れて、大樹大社に知らせを出した。

大樹大社は近年俗世に関わらなくなっていたが独自の武力を持つ独立勢力、早雲は大樹大社を味方につけ関東一円を掌握したかったのだ。

また、この船に乗っていた3人の少女巫女は大樹大社の伝承伝わる大陸へ渡った三光精巫女の名前に似ていたこともあり。その伝記の内容を偶然にも知っていた早雲は何かを感じていた。

 

大樹大社からの使いは数日のうちに小田原を訪れる。

その使者が、大樹大社巫女頭大緑光ノ精であり出迎えた北条の家臣たちは仰天した。

 

「左京大夫早雲殿、この度の私どもの巫女たちを保護していただき感謝いたします。」

 

「うむ、異国から戻られた巫女殿や僧から事情は聞いている。600年余りの時を経て・・・。」

 

『遣唐使船に乗り込んだのは 陽光巫女 月光巫女 星光巫女 の三人なりき  ・・・ 彼女たちは ついぞ 戻ってくるはなかりき。 』

 

早雲は大樹記写本の内容を思い出す。

 

あの異国船に乗っていた巫女は・・・、まさか。

ありえん、600年も昔だぞ。だが、三光精巫女の子孫だとしても大樹大社巫女頭が直々に出向くほどか。早雲は思案したが答えを見出すことは出来なかった。

 

 

先の山内上杉家の内紛に乗じた戦いで扇谷上杉家の逆襲による敗戦から体勢を立て直した。

早雲は、岡崎城を攻略し、相模の有力大名三浦義同を逗子へ敗走させ、勢いに乗って住吉城も落とし、義同は息子義意の守る三崎城に逃げ込んだ。早雲は鎌倉に入り、相模の支配権をほぼ掌握する。扇谷家、上杉朝良の甥の朝興が江戸城から救援に駆けつけるが、早雲はこれを撃破する。さらに三浦氏を攻略するため、鎌倉に玉縄城を築いた。

義同はしばしば兵を繰り出して早雲と戦火を交えるが、次第に圧迫され三浦半島に封じ込められてしまった。扇谷家も救援の兵を送る大樹大社の妨害を受けた上にそのことごとくが撃退された。

 

翌年、扇谷朝興が三浦氏救援のため玉縄城を攻めるが早雲はこれを打ち破り、義同・義意父子の篭る三崎城に攻め寄せた。激戦の末に義同・義意父子は討ち死にする。名族三浦氏は滅び、早雲は相模全域を平定した

 

その後、早雲は上総の真里谷武田氏を支援して、房総半島に渡り、転戦している。その後、家督を嫡男氏綱に譲り、1519年(永正16年)に死去した。

その氏綱は扇谷上杉氏や山内上杉氏他諸勢力との攻防を繰り返し、その過程で武蔵南部から下総にかけて勢力を拡大することに成功した。

さらにその息子氏康の代では河越城の戦いと言う一大合戦に勝利し扇谷上杉氏を滅ぼし、数年のうちに山内上杉氏当主憲政を越後にたたき出し上野を掌握し、さらに下総の半分以上をおさえ、古河公方がを足利義氏擁立で後北条氏の傀儡と化すると敵対者の過半が降伏したのであった。

しかし、それ以降北条氏は積極的な行動を控え天下に名乗りを上げるような大それたことはせず武田・今川と同盟関係を結ぶに至り関東の一大勢力として落ち着いてしまう。また、後北条氏からは大樹野椎水御神が期待した中央への関心と言った欲求が一地方領主の域を出ず己が想いを叶える力が無いと解った大樹野椎水御神は次第に後北条氏との関わりを減らしていった.

 

北条家を通じて中央への政治権力の回復を狙った大樹野椎水御神の狙いは完全に外れてしまうのであった。

 

 



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43 戦国群雄割拠 桶狭間の戦い

天文21年(1552年)以降の三好政権を作り上げた三好長慶は連歌を愛好し、禅を好み、源氏物語などの古典に親しむ風雅の士でもあり、キリシタンに対しても寛容な対応を示すなど、仏教、神道、キリスト教など幅広い宗教を認めた。そのため、仏教内部の対立は沈静化した。

この手法は、かつて大樹野椎水御神が思考した物に近く大樹大社と三好政権は長慶の代の一時的にではあったが友好関係にあった。

そのためか、関東の大樹大社の庇護下にあった元興寺の還俗僧侶が秋大社再建を目的に京入りした。

また長慶の有能な弟達を各所に配置し、大きくなった勢力を統治した。応仁の乱以降の長い戦乱で荒廃した都を復興し、堺の町を一大貿易港として整備するなど精力的に活動した。

 

 

天文23年(1554年)、今川義元は嫡子・今川氏真に北条氏康の娘(早川殿)を縁組し、武田氏・北条氏と互いに婚姻関係を結んで甲相駿三国同盟を結成した。これにより後顧の憂いを断った。

永禄3年(1560年)義元は上洛を決意。今川義元は自ら2万の大軍を率いて駿府を発ち、尾張を目指して東海道を西進した。そして尾張国への侵攻を開始した。

 

「これより我ら今川は西進を開始する。向かうは尾張、織田が囲いし豊かな土地よ。大うつけと噂される当主信長の器量、この義元が測り、見極め・・・・・・そして、必ずや飲み込んでくれようぞ。」

 

義元は織田家を完全に屈服させ、京都への道を切り開こうとしていた。

 

 

SIDE尾張津島港

 

今川が攻めてくる。

この事態を聞いた尾張の民はたいそう動揺した。

勿論、運悪く居合わせた旅のものも同様だ。

 

「えらいこちゃ!織田様もお仕舞じゃ!」

「もう、鳴海の方は攻め落とされたらしいぞ。」

「近江の方にでも逃げるか・・・」

「わしらの様な行商や旅人はまだしも、ここに住んでる皆の家財はどうするんだ?」

「戦になれば、乱捕りで酷い目に合う・・・困った。」

「どうしたものか・・・。」

 

話し合う人々、町人たちは肩を落とし困り果てる。

そんな中、小箱を持った幼げな童女が話に入ってくる。

 

「それなんだけど…実はわたし、制札の写しを持ってるんだ。」

 

町民たちはニンジンを模した首飾りをした彼女に喰いつくように話しかける。

 

「ほ、本当かい!!」

「お嬢ちゃん、いったいどこで?」

 

町民たちの言葉に少しおどおどしながら彼女は答える。

 

「うん、前に今川の重臣の家で奉公してた時に、こっそり書き写したの。良ければ売ってあげるよ。」

 

「それは本当に今川様の乱捕り留めの制札なの!?」

 

「疑うなら買わなくてもいいよ。欲しい人間はいくらでもいるウサ。」

 

制札を疑う者もいたが、彼女の答えに彼らは決断した。

 

「ま、待て!買う!いくらでも買うから売ってくれ!」

「買った!いくら払えばいい!」

「俺もだ!」「私も!」

 

(うししし・・・儲かったウサ!)

 

制札を売り切った彼女は隠していた兎耳をぴょこんと晒して、元来た道を戻っていく。

その途中で彼女と同じような耳をした少年少女たちが寄り集まってくる。

 

「よぉし!あんた達!他の尾張の町でも制札を売れただろうね!」

「もちろんでさ!てゐさん!」

「ガッポガッポですよ!尾張の人間ども町人でも結構持ってましたよ!」

 

てゐと呼ばれた彼女は笑って応じる。

 

「尾張は景気の良い国だからね!こういう時は結構吐き出してくれるよ!これなら、結構な間やってけるだろうさ!何せ月の御仁は雅だからねぇ・・・お金がかかるのさ!」

 

 

 

SIDEOUT

 

「と、殿、お待ちくだされ!!」

「何じゃ!」

「あまりに急なご出立ゆえ、兵が集まっておりませぬ!」

「よし、ここで小休止じゃ。権六、後続の兵を纏めい!」

 

松平元康と朝比奈泰朝は織田軍の丸根砦、鷲津砦に攻撃を開始する。前日に今川軍接近の報を聞いても動かなかった尾張の小大名織田信長はこの報を得て飛び起き、幸若舞「敦盛」を舞った後に出陣の身支度を整えると、明け方に居城清洲城より出発。小姓衆5騎のみを連れて出た信長は朝頃、その後軍勢を集結させて小休止に入った。

 

「殿いずこへ?」

「少し考え事をしながら歩きたい。時間はかけぬ故、権六はそのまま後続を纏めておけ。」

「っは!」

 

ふらりと歩き出した信長に家老の柴田勝家は不審に思い声を掛けた。

が、信長は軽く勝家を手で制しながら気にするなと告げて歩き出して行った。

 

ふらりと歩いていくうちに信長は鳥居の前までたどり着いた。

 

「確か、ここは、神社だったか・・・。神主は不在か?」

 

神主はいないのかと信長は周囲を一回りすると、ひょっこりと巫女が顔を覗かす。

 

「あら、参拝の方ですか?こっちに来る方はめずらしいですね。」

 

巫女は少々幼く見えたが、何か思わせる雰囲気があった。

巫女は神楽舞の鈴を社において歩み寄ってきた。

 

「立ち寄っただけだが、そういえばここはどう言った神を祀っているのだ?」

「大樹野椎水御神様と言って土地や水の力を清め強める豊饒の神様ですよ。」

「そうか。」

 

巫女は信長に微笑んで見せた。

 

「・・・・・・・巫女よ。籤引きはあるか?今川との戦の吉凶を占いたい。」

「少しお待ちくださいね。」

 

そう言って巫女は神殿の方に入っていき、比較的すぐに籤引きを持って戻ってきた。

信長は籤を引いて中身を確認する。

 

 

「うむ・・・。」

巫女は信長の御神籤をのぞき込んで読み上げる。

 

「吉兆ありて、福増してなお日すすんで望み事の多くは心のままになる。しかし、思いがけぬ災いに気を付けられたし。・・・・・・・・今川の戦は勝てそうですね。」

 

「最期の方が凶兆にも感じるのだが・・・」

「油断しなきゃ勝てるってことでは?」

「そうか・・・邪魔をしたな失礼する。」

 

信長はそう言って社を後にした。

 

「きっと、貴方の勝ちでしょう。」

 

巫女も社の中に戻っていき、鈴の音が聞こえてきた。神楽舞の練習を再開したのだろうと信長も鳥居を越え元来た道を戻って行った。

 

 

ふらりと戻ってきた信長に勝家は声を掛けた。

 

「殿、どちらへ行っておられたので?」

「あぁ、随分幼い巫女であったがな。そこの神社で吉凶を占ってもらったのよ。なかなか良い結果であったぞ。」

「そうでございましたか。でしたら次は城の近くの桃園大樹宮に行っては・・・ん?あそこの神社は去年老神主が亡くなって誰もいないはずですが?」

「・・・・・・何?」

 

 

 

 



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44 大樹信長記 桶狭間の戦い

「人間五十年・・・下天の内をくらぶれば・・・夢・・・幻の如くなり。・・・・・・・・・・・・些事に囚われた生のうちに、欲するものを掴めるか。・・・・・・否・・・・・・ただ心の欲するままに、この野望、遂げてみせるっ。」

 

空が曇り、雷鳴が轟く。

そして、雨が降り勢いは増し豪雨となる。

信長は軍を進め、義元の陣を見つけ出す。

 

「全軍、聞け!この雷雨だ、敵はまだ我らに気付いておらぬ!この好機を生かし、敵本陣に切り込む!願うは、義元の首ただ一つ!全軍!掛かれ!」

 

信長は2000の兵を率いて義元の付近の諸隊もろとも突き破り、本陣へ切り込んだ。

今川軍は突然の襲撃に混乱した。小勢の織田軍が大軍を翻弄している。

信長の兵は、敵総大将、今川義元の姿を探した。この戦いは、義元を倒せるか否かにかかっているのだ。

 

天の導きか。

雲の切れ間から光が注ぐ。

 

「天が我らに味方しているぞ!あそこに義元がいるぞ!進め!」

 

彼らは導かれるままに、光を目指した。

その先で遂に信長たちは義元を見つけた。

 

「寄るな!下郎め!」

 

義元は槍を持った兵士達に包囲される。

 

「御覚悟めされ!」

 

兵士達の槍が義元を捕らえた。

 

「うぐっ!!」

 

今川義元は桶狭間に散った・・・

 

「義元討ち取ったり!」

「「「えい!えい!おー!!」」」

 

伝令とともに歓喜の声が戦場を走る。

織田信長は奇跡的な勝利を得たのである。

 

 

 

桶狭間からの帰路で信長は行きに立ち寄った大樹神社へと立ち寄った。

 

「そこの、この社に巫女の童女がいたはずだが?」

 

「はて、そのようなものはおりませぬが?ここは神主が亡くなってから誰も。時折、自分ら村の者らがくるだけです」

 

村人の言葉に信長は、天を仰ぎ呟いた。

 

「まさに天の導きであったか。」

信長は銭を賽銭箱に放り込み、再び帰途についた。

 

 

 

 

秋、信長は那古野の桃園大樹宮へ参拝する。

信長は家臣たちを伴って、修繕のための寄進を行い新嘗祭の祭祀に参列した。

神饌や供物、幣帛が奉げられ、神主が祝詞を読み上げる。

 

『掛けまくも畏き 大樹野椎水御神 无邪志国の大樹の袂に 禊ぎ祓へ給ひし時に   

生り坐せる祓戸の御神 大地の禍事・厄・穢 有らむをば 祓へ給ひ清め給はり 民諸々の感謝の意を 受けたまへ。』

 

祭礼の大半が終わり、参列者たちは桃園大樹宮の神楽堂の周りで宴会を始めていた。

桃の木々の木陰で各々が酒を飲み、民たちが用意した料理に舌鼓を打った。

 

 

信長も酒を飲み酔いが回り、少しばかり酔いを醒まそうと比較的静かな本殿の裏で休もうと裏に回ると、いつぞやの幼い巫女が縁側で平べったい形の悪い桃を頬張っていた。

 

「むぐむぐ。」

 

「お前はいつぞやの巫女ではないか。息災であったか?」

 

「ごほごほ!?」

 

巫女は信長に声を掛けられてたいそう驚いたようで、咽込んでしまった。

信長は巫女の背を擦ってやり、水筒の水を飲ませる。

 

「大丈夫か?巫女よ。」

「けほけほ、あ、ありがとうございます。」

 

信長は巫女が落ち着くのを待ってから話しかける。

 

「お前は、ここの者であったか」

「そう言われればそうですね。私、織田様が神社を去った後、御勝ちになるまで神楽舞を舞ってお祈りしていたんですよ。勝てて良かったです。」

 

信長は彼女との会話を続ける。

 

 

「お前の様な、小さい巫女ではどこまで効いたのか疑問だがな。」

「あうぅ・・・。」

 

信長は彼女の頭に手を置いてワシャワシャと撫でると笑った。

 

「わっはっは!冗談だ!お前の祈りも効いたのだろうよ!このうつけだけでは神も見捨てたかもしれんからな!」

 

彼女は少し頬を朱に染めて、答える。

 

「尾張の民を飢えさせず豊かにしている織田様ですから、大樹野椎水御神は頼まれなくても織田様を助けてくれたと思いますよ。きっと次の戦もその次も頼まれなくても助けてくれますよ。」

 

信長は立ち上がり、彼女に語り掛けた。

 

「嬉しいことを言ってくれる小娘よ。そういえば、大樹野椎水御神は護国の神でもあったな。

見ていろ小娘、俺がこの日ノ本の民全てを、尾張の民のように飢えなく豊かにしてやる!」

「ふふ。」

 

彼女の微笑む声に振り返ると彼女の姿はなく桃が残っていた。

信長は縁台に置かれた桃を齧った。

 

「いない。話の途中でいなくなるとは小娘め、・・・・・・甘いではないか。」

 

 

 

斎藤道三亡き後、信長と斎藤氏との関係は険悪なものとなっていた。

桃園大樹宮での祭礼の後、桶狭間の後も両者は激しく対立していた。道三を討った義龍が急死し、その息子龍興が後を継ぐと信長は好機と見て攻勢に出て、伊勢にも手をかけ始めたのであった。

 

 

 



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45 大樹信長記 契機

 

大樹大社から出かけるところで、雑談をしていた秋比売姉妹に話しかけられた。

 

「大樹様?また尾張に行かれるのですか?」

 

うん、そうだよ。

 

「あらまぁ・・・大樹は織田の殿様にご執心ね。」

「微笑ましいわね。」

 

静葉さんと穣子さんが優しく微笑みながらこちらに視線を向けてくる。

 

なんだか、むずがゆいのです。

 

「これは穣子姉さんが織田の殿様を見極めないといかんかね!」

「穣子、野暮なことは言わないの。」

「ちょ!?ちょっと!!お姉ちゃん!?冗談だって!?引っ張らないで~~。」

 

静葉さんは穣子を連れて大社の奥へ引っ込んでしまった。

見送りに来ていた大ちゃんが心配そうに言ってくる。

 

「大樹様いってらっしゃいませ。・・・・・・大樹さま、いくら公務をお控えになられているとは言え俗世の人に関わりすぎるのは・・・。」

 

わかってるよ。大ちゃん・・・有能な人間には簡単な繋ぎを付けるのは悪い事じゃないさ。

その後も信長と大樹は何度か桃園大樹宮で密会を繰り返した。

 

「信長様、これを・・・。」

 

私は信長にお守りとして持っていて欲しいと頭の黒御縵を渡した。

信長は拒否するでもなくそれを受け取った。

 

 

 

 

 

領国を広げる度にする戦いの中で、信長は同盟国を必要としていた。

そして、信長が目を付けたのは北近江を治める浅井家であった。

 

交通の要衝である小谷城を同盟勢力にすることで上洛経路の安全を確保すると言う目的は勿論、英邁と噂に高い浅井長政を盟友として取り込む目的もあった。

 

信長の下に、大樹大社より使者がやってきた。

大樹大社の使者は尾張桃園大樹宮、近江琵琶大樹大社の宮司らであった。

 

「神前で婚姻を誓わせるとな。」

 

「天津神々の前で誓わせることで、両家の結びつきは固いものとなるでしょう。」

 

この時代の結婚式は平安貴族の通い婚の様な例外を除けば、両家で宴会をする程度の今でいう人前式に近いものであった。

 

「その様なことできるのか?」

 

信長の疑問に宮司が答える。

 

「古くは伊邪那岐命と伊邪那美命の国生み・神生み神話ではオノゴロ島に天の御柱で夫婦の契りを結んだと記されております。浅井様とお市の方様にはそれに倣った物を執り行っていただき良縁を結んでいただければと、思案した次第にございます。」

 

信長はこの同盟を是が非でも成し遂げるために信長は、大きな決断をした。

 

「わかった。浅井との婚姻の契りは神前で執り行う。」

 

お市の方を浅井長政へ嫁がせた。

琵琶大樹大社には親族と織田浅井の重臣が参列した。

 

信長が大社の神殿の方を見ると、神前に誓う長政とお市の前にあの幼き巫女が座っているように見えた。再び目を凝らすとその姿はなかった。

同じく参列した勝家や他の者たちも気にした様子は無かった。

信長は首をかしげながらも平静を装い二人の式の成り行きを見守った。

 

 

 

二人の結婚式は琵琶大樹大社が主催した神前式で執り行われた。雅楽が奏でられ、巫女の舞が奉納された。

浅井長政とお市の方は琵琶大樹大社の神殿で、玉串を奉納し大樹野椎水御神に夫婦の契りを誓い合った。

 

こうして新進気鋭の浅井長政と絶世の美女と評判のお市の方、尾張・近江にあまねく知れ渡り民衆の祝福と羨望を一手に集めたのであった。

 

 

 

 

 

神前式終了後の琵琶大樹大社。

 

「我々が、口を出さずとも織田と浅井は同盟を結んだのでは?織田に肩入れしているようにも・・・。」

 

困惑気味の宮司の言葉に私は切り返す。

 

「肩入れしていると言えばその通りです。かつての源平合戦でも勝つ方に肩入れした。かの元寇襲来の時も勝ってもらわねばならぬ幕府に協力した。この時代の勝者なる資格が織田家・・・織田信長にはあると私が判断したのです。そして、織田の上洛は必ず成功してもらいます。浅井如きに煩わせられるのは不愉快、浅井の若大名は相応に有能です。織田に永らく恭順してもらい天下を支えてもらいたい。だから、織田との同盟は崩れるものでは困る・・・故にこの婚姻は神に誓わせたのです。」

 

神に誓ったことを反故にする真似はあの義理堅い浅井の若大名はしないはず。いえ、出来はしない。

 

 

 

 

その頃、室町幕府第十三代将軍足利義輝は、応仁の乱以降衰退の一途をたどる幕府権力の回復のために精力的な活動を続けていた。

義輝の活動は幕府の傀儡化を望むぬらりひょんに取って見過ごせないものになっていた自前の傀儡公方の足利義栄の使い道を失い自分が返り咲くことを困難とする義輝の存在は是が非でも排除したい存在であった。

そこで、ぬらりひょんは中央での実権拡大を狙う三好三人衆と松永久秀を焚きつけた。

足利義輝を討つべく、彼らは兵を率いて義輝の二条御所を包囲したのである。

 

燃え上がる二条御所を前にぬらりひょんは不気味に嗤う。

 

「傀儡は傀儡らしく紐で繋がって踊ればよいものを・・・。バカなことを考えた物の末路じゃな。」

「ぬらりひょん様。」

 

ぬらりひょんは朱の盆が継いだ酒をクイと喉に流した。

 

「ようやく、傀儡幕府に戻せるわい。人間風情が調子に乗るからに・・・。」

 

包囲軍の本陣でぬらりひょんは酒を飲みながら義輝の死を鑑賞した。

 

「義輝を殺すのは儂らではない。」

 

ぬらりひょんの言葉に応じたのは隣の席に座る松永久秀。

 

「ですな。世の流れを見ず、己の心を満たすのに汲々とし空回りした義輝自身ですな。」

「そのとおりじゃ、久秀殿。」

「ククッ・・・・・・時代の変化に気が付いておる大名がどれだけおることやら…。」

「神すらも気づいておらん・・・気付いていても手を拱く現状じゃ。並の大名などに気が付けるものではないぞ。カッカッカッカ!!」

「今の三好とて我らの手駒でございますな。ククククククッ」

 

邪悪な笑いを上げる二人。そこに、伝令の兵士が駆け込んでくる。

 

「申し上げます!足利義輝、相果てました!」

「ようやく死んだか・・・・・・どのような最期か?」

 

それを聞いた久秀は義輝の最期を聞いた。

 

「畳を剥がし盾とし、四方より押し包んで討ち取ったとのことです。」

 

久秀はニヤニヤと笑い義輝を愚弄する。

 

「存外、手こずったものだ・・・・・・。しかし、達人でありながら雑兵に圧されて死ぬとは・・・。いかにもあの男らしい無様な最期よ!ふっふっふっっふ、はーっはっはっは!!」

 

そんな久秀を尻目にぬらりひょんは立ち上がり、兵士に何事かを命令する。

 

「ぬらりひょん殿、如何された?」

「せっかくだからな、腰の刀を新しくしたいと思ってな。剣豪将軍の異名を持つあの男の刀を使ってやるのも一興じゃろう。」

 

朱の盆が兵士数名を連れて二条御所の宝物殿へと向かって行く姿をぬらりひょんは見送った。

 

こうして、室町幕府の権威回復に奔走した十三代将軍足利義輝は死亡。幕府は三好家・・・ぬらりひょんの傀儡に戻り独自の勢力を保つことは出来なくなった。

 

 

 

義輝が討ち死にし畿内が混乱する最中、義輝の弟であり奈良興福寺の高僧であった覚慶は将軍家を再興させるべく還俗。義昭を名乗り、諸大名に援助を要請した。その中には織田信長もいたが威厳を失った将軍家のために、動く様な大名は現れなかった。

 



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46 大樹信長記 神に愛された覇王

永禄9年(1566年)、信長は、木曽川を渡って河野島(現在の岐阜県各務原市)へ入った。それを知った斎藤龍興は直ちに河野島へ進軍し、織田側は川べりまで後退して布陣した。斎藤側は、境川を限りとして守備したが、翌30日に木曽川が洪水となったため、両者は動きが取れなくなった。漸く、川の水が引き信長は渡河を兵に命じた。

 

織田軍が渡河を命じて、しばらくゴゴゴと音が聞こえると引いていたはず水が押し寄せてきたのであった。

信長は慌てて引き返すように命じ、自身も戻ろうと踵を返したが時すでに遅し川の水はすでに目前まで押し寄せていた。

 

すると、信長が懐に入れていた黒御縵が川に落ちてしまう。

拾おうと手を伸ばした瞬間たちまち蔓が伸び枝が生え、押し寄せる川の水をせき止めたのであった。

 

織田軍はそのおかげで撤退することに成功した。

 

信長は、清州城に戻るとすぐに桃園大樹宮へ走った。

 

「巫女の娘よ。」

 

信長は巫女の姿を見つけるとそのまま駆け寄った。

 

「巫女よ・・・おぬしは・・・。」

 

大樹は信長に渡したはずの黒御縵が無い事に気が付きすべてを察した。

 

「気づいてしまったのですね。」

 

大樹は悲しそうな顔をして妖精の羽を広げた。

 

「信長様、私は貴方の気質を理解しています。貴方は独立独歩の強い人、私のしたことも好ましくは思わないのでしょう。ですが・・・!?」

 

信長は大樹の細腕を強く掴み、天高く舞い上がろうとした大樹を引き戻した。

 

「我が命を救った者を、誰が憎く思うものか!そもそも俺は桶狭間でも、此度でもお主に救われた。浅井との同盟でも一計が加わっていたのは気付いていた。自分に好意で手を貸してくれるものを邪険にするほどのうつけではないぞ。」

 

信長は私をそのまま神殿の床に押し倒した。

 

「俺もおぬしほどの存在に目を掛けられるほどに才を認められていたのか。」

「はい・・・っっ!」

 

信長は私の顎をクイと反らせると、唇を奪った。

 

「あぁ・・・。私は、貴方がこの国を導くにふさわしいと・・・。」

「為政者として嬉しい言葉だ。だが、それじゃあない。」

 

私の胸の鼓動が激しくなる。吐息が熱くなるのを感じる。

 

「わ、私は・・・の、信長・・・貴方をお慕いしています。」

「そうだ、それでよい。大樹野椎水御神、いや大樹!」

 

信長の鎧が外れガシャンと音が鳴る。

私の巫女服が脱げ肌があらわになっていく。

 

「はい。」

「お前はこれから俺のそばで俺の天下取りを手伝ってくれ。」

「喜んで・・・。」

 

私達は、神殿の中でお互いを強く求め合った。

この国を変える男とこの国を守る女が一つになった。

 

翌年、斎藤龍興を伊勢国長島に敗走させ、美濃国平定した。

稲葉山城を岐阜城と改めた信長の横には薄羽を生やした幼い巫女の姿があった。

 

 



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47 大樹信長記 上洛軍

美濃を平定した信長は遂に上洛を決断する。

永禄11年(1568年)、軍勢を整えた信長は1万5000の兵を引き連れて岐阜城を出立し、これに三河の徳川家康は5000、飛騨の姉小路良頼が派遣した頼綱勢500、美濃尾張三河の大樹大社系の武装神官と戦巫女600、この大軍勢が上洛を開始したのである。その道中でも天狗や河童などの妖怪が少しづつ加わった。

足利義昭の下に集った幕臣とその手勢は後発の軍勢に組み込まれた。

 

また、この頃から大樹大社の勢力は信長に味方する動きを見せ始め、伊勢の北畠氏に対する仲介。飛騨姉小路氏との交渉と飛騨の天狗たちへの協力要請、上洛途上の河や湖にいる河童たちへの協力要請を行った。妖怪達の反応はまちまちであったがそれは一変する。

 

元寇の時代より前を生きていた妖怪達は大樹の存在を感じ取っていたのだ。

故に信長の軍勢を目にして理解した。

 

道中の木曽川で大軍を擁した渡河行軍の支度をしていると信長たちの前に木曽川の長を名乗る老河童が他の河童たちと平伏していた。

 

「そこな、河童よ。なにをしている。」

河童たちは平伏したまま信長の問いに答えた。

「中臣鎌足公、源頼朝公、北条時宗候に続く勤皇勤神の御方でございます。織田様に微力ながらお力添えをしたく思いお持ちしました。」

 

河童たちはボロ布に包まれていたそれを差し出す。

砂金がボロボロと零れ落ち、キラキラと光を反射する。

信長は近くの社を借り受け、木曽川の老河童と会談を持つ。

 

彼らは、信長を前に・・・否・・・その横の私を見てさらに床に穴を開けんばかりの勢いで平伏した。

信長の横に座っていたのは大樹野椎水御神、その神であった。

 

 

「おぉ・・・遂に・・・遂にこの日が・・・。」

 

大樹は凛とした表情で老河童に話しかけた。その姿からは神々しさがあふれ出ており、その神に選ばれた時代の革命児織田信長も強い覇気が伺われた。

 

「木曽川の翁よ。・・・河童たちよ・・・永らく待たせました。元寇の戦いの傷を癒すのに時間を掛けすぎてしまいました。私の知らぬ間に天皇家が割れ、簒奪者が猛威を振るいました。多くの下々が辛酸の苦渋に耐え忍んでいます。しかし、そのような時代は終わらせなければなりません。木曽川の翁よ・・・河童たちよ・・・今再び、私の下で力を貸してくれるか。」

 

「っは!っはは!!」

 

一連の会話の最後に信長が大きな声で発する。

 

「此度の上洛は大内や細川、三好が行った室町幕府のための物にあらず。義昭など一時の傀儡。この信長の真の目的は大樹野椎水御神を奉じ上洛し、朝廷を説得し天下に号令を出すためである。天皇を・・・この大樹を中心にした政を行うためである。上洛途上の河川の河童たちに知らせて回れ!神政を執り行うと!」

 

河童たちは散り散りに駆け出して行った。

 

 

 

数日後、北近江の浅井長政勢3千、近江大樹大社系武装神官と戦巫女200が加わり、愛知川北岸に進出した。

 

愛知川では木曽川の河童たちから知らせを受けた琵琶湖系河川の河童や山童たちが集結していた。

川幅を優に超える数の河童たちが川から顔を覗かせ、川縁の岩場からも姿を見せる。その周囲には天狗たちが空を飛び交って、山林の影からそのほかの妖怪達が様子を伺っていた。

 

 

上洛軍と彼らは正面に相対する。

信長は馬を進め、その横に私が付いていき私は彼らに言葉をかける。

 

「皆の者、天津神々への忠に応えた妖たちよ!今の世は私利私欲に動かされ乱れに乱れている!故に、私は戻ってきた!!この乱れた世を我らの手で正しく導くために!!皆々!!私の下に集い再び世を治めん為に力を貸してもらいたい!!」

 

 

 

愛知川に集った妖怪達が歓声を上げる。

河川は震え、木々は揺れ、大地を割かんばかりの歓声が響いた。

 

「神の加護を受けたのか。信長殿はどこまでやるつもりなのだ。」

「義兄上・・・、人ばかりか神・物の怪すらをも味方につけられるのか。」

 

 

家康と長政は、神の加護を受け妖怪達を味方にした信長を恐れ、頼もしく思った。

かつての源頼朝、北条時宗もかの神の庇護を受け天下を治めた。古の歴代天皇家を庇護してきた大樹野椎水御神と言う存在は織田・徳川・浅井の同盟の轍となるのであった。

 

 

 



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48 大樹信長記 上洛の戦い

本陣の観音寺城に当主・義治、父・義賢、弟・義定と馬廻り衆1千騎を、和田山城に田中治部大輔らを大将に主力6千を、箕作城に吉田出雲守らを武者頭に3千をそれぞれ配置し、その他被官衆を観音寺城の支城18城に置いて態勢を整えた。

 

 

織田軍は愛知川を渡河すると、3隊に分かれた。第1隊が和田山城へ、第2隊は観音寺城へ、第3隊が箕作城へ、残りの者たちが周辺の各城や砦に向かった。

 

戦端は箕作城でひらかれた。木下隊2千3百が北の口から、丹羽隊3千が東の口から攻撃を開始した。この箕作城というのは急坂や大木が覆う堅城で、吉田出雲守隊の守りも固く、苦戦を強いられていたが午後三時頃に加わった天狗たちの助勢により門戸は討ち破られ、

夜までには敵を本丸まで追い詰めた。7時間以上戦ったその日のうちに夜襲を仕掛けてくるとは考えてもいなかったのか箕作城兵は驚き、防戦したが支えきれず、夜明け前に落城してしまった。200以上の首級が上がった。

翌朝、箕作城の落城を知った和田山の城兵は敵に備え防御を固めたが敵の姿を見た城兵は我先に逃げ出した。

彼らの視界に移ったのは空を舞う天狗たち、城の正面で隊列を組む妖怪達。

その中央では葉を広げた大樹の紋が描かれた旗を掲げる神官が立っておりその陣の周りを守る様に武装神官と戦巫女らが武器を持って整列していた。

 

尾張桃園大樹宮の宮司と近江琵琶大樹大社の宮司が陣内で妖精巫女の言葉を聞きつつ指揮を執っていた。

 

「和田山の兵達よ!上洛は神意である!これに抗うは天津神々の意向に背くと理解せよ!

これより一刻より城を明け渡さなければ!神罰を下すものである!!」

 

神罰を恐れた城兵は農民上がりの雑兵から、武士たちまでたちまち逃げ出したのであった。

また、砦の多くが上洛軍の各軍に攻め落とされて行った。

 

 

その過程で、織田軍に加わった美濃衆1万、尾張の後詰1万、徳川の派遣軍第二派5000、足利義昭の手勢200、三河美濃尾張近江の妖怪達およそ5000、その総計は5万超えた。

さらにその頃には河童の隠れ里より届いた火縄銃3000丁が織田軍に献上された。

 

 

迫りくる人妖合わせた5万超えの大軍勢を前に、六角親子は周囲から敗走してきた兵達を搔き集めた4千の兵では観音寺城を守り切ることは出来ぬと思った六角承禎は息子の義治と共に戦わずして夜陰に甲賀へ落ち延びた。

当主を失った18の支城は、1つを除き次々と織田軍に降り、ここに大勢が決した。

 

六角家老臣の蒲生賢秀は、敗北を聞いてもなお1千の兵で日野城に籠もり、抵抗する様子を見せていた。しかし、賢秀の妹を妻としていた織田家の部将・神戸具盛と大樹大社の妖精巫女・水楢が日野城に乗り込んで説得した結果、賢秀は降伏し、信長に人質を差出して忠節を誓った。この人質が後の蒲生氏郷である。

 

六角氏は観音寺城を失ったが、それでも織田軍に対して抵抗の姿勢をみせた。しかし、本領を失った六角氏の勢力は奮わず、小規模な戦闘が精一杯であった。戦国大名としての六角氏の没落は決定的なものとなった。

 

 

観音寺城陥落と同時期、武装した妖精巫女たちが京入りした。

向日葵の髪飾りに向日葵の飾り彫りが施された薙刀や小太刀、弓を装備した一団は大樹恩顧の大妖・風見幽香から直々に手ほどきを受けた精鋭の集団、向日葵衆であった。

彼女たちは京都を支配する三好やその背後のぬらりひょんの目を掻い潜り、白蔵主が幽閉されている伏見稲荷大社へ入った。

 

大樹大社の使者である彼女たちを白蔵主は秘密裏に迎え入れ、大樹野椎水御神よりの書簡を受け取った。

 

「大樹野椎水御神へお伝えください。我ら妖狐の一族は御神の上洛を心より歓迎します。我らは上洛に合わせて決起いたします。」

 

白蔵主は畿内に潜む一族の妖狐たちに武装化を指示し山城国へ集結促し、各地の稲荷神社に潜むように命じた。

 

 

 

対する京のぬらりひょん及び三好政権では足利義栄と三好三人衆が京の守りを固め、ぬらりひょんは境港まで引いていたが手勢の一部を山城国へ派遣し、上洛軍に盾突く動きを見せていた。

 

一方で三好政権の宿老松永久秀に対して、大樹大社の神官を使者に立て筒井順慶らを諭し戦わせ上洛の戦いに関わらせないようにした。

さらに三好政権内で勢力を失いつつあった三好義継を懐柔し、上洛に協力させた。

 

上洛軍が瀬田川を越えた頃、伏見稲荷大社の白蔵主が周囲の稲荷神社に潜ませていた配下の妖狐たちと共に決起。

 

「者ども!!大樹様を!!織田候を京へ迎え入れるのだ!!」

 

京都の各所で戦端が開かれた。

 

三好政権軍は背後の敵と上洛軍の大軍に挟まれて、白蔵主の手勢に京より追立られ、

三好三人衆と足利義栄は苦も無く上洛軍に一蹴され阿波へ逃げ延びた。

 

翌週には白蔵主より連絡を受けた四国の隠神刑部狸は、先んじて使者を送ったたんたん坊に次いで配下の親分衆を率いて上洛し、大樹と信長に拝謁賜った。刑部狸は暫く京に残り大樹の補佐に廻り、配下の化け狸たちに四国で三好攻めを行うため最近勢力を伸ばしつつある長曾我部氏と結び、軍勢を用立てるように命じた。

 

時を移さず正親町天皇は信長に禁中警衛の綸旨を与え、さらに翌月足利義昭を正式に征夷大将軍に宣下した。

 

 



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49 大樹信長記 京の政

 

 

上洛を果たした信長は京へ織田の軍勢2000を義昭の護衛に、1万を禁中および京都警護の兵として配し、東寺へ入り上洛軍は一度解散された。

 

信長は大樹の意を酌んで朝廷の施設である朝堂院、内裏の七殿五舎の再建を約束し、秋大社再建の寄進を行い、将軍邸の造営を行った。

 

「将軍は手中に、朝廷は私が協力させました。信長・・・今や貴方の天下布武を阻むものはいませんね。」

「京都の者どもは日ノ本六十余州の事など全く念頭にない・・・笑止の限り。」

「お恥ずかしい限りです。ですが、これから変えていきましょう。」

 

大樹の言葉に信長は頷き、信長は襖を開けて廊下に出ると別室に待機する家臣たちに命令を下した。

 

「摂津・和泉・大和を始めとする畿内一円の寺社に矢銭を命ぜよ!いずれも千貫以上!ただし石山本願寺と堺衆は五千貫と二万貫以上じゃ!」

 

「なんと!他はともかく、本願寺と堺はいかな大殿とて従いませぬぞ!」

 

驚く家臣たちの言葉に信長は笑って答える。

 

「はっはっはっは!!望むところじゃ!!兵を動かすと言うのなら相手になってやろう!!」

 

 

 

 

一方の大樹は摂関家の一条内基と結びつき、朝廷勢力の掌握を画策した。

この頃の大樹は直接朝廷に姿を見せることはなく一条内基を挟んで自身の謀政を執り行っていた。

 

「内基殿、私は禁裏軍が欲しく思うのです。」

「大樹殿は織田の軍では足りぬと申すか。」

「軍事力としてではありません。政治的な意味合いで欲しいのです。今の世において朝廷の言葉を蔑ろにする者は多く、武力で捻じ曲げるものすらいる。そう言った者たちから身を守るため、勤皇の者たちが駆け付けるまでの時を稼ぐための軍が欲しいのです。」

 

「それに、土佐の身共の家の者らが必要と申すことであらしゃいますな。」

「土佐の一条家から長曾我部家へ土佐を穏便に引き渡すことを織田家が仲介する形を取れば、長曾我部家は織田家に借りを作ることが出来ますので・・・。」

 

「四国の大半は長曾我部にくれてやると申すことであらしゃいますやろか?」

「すべてとは言いませんが、土佐と阿波はくれてやっても良いでしょう。四国には刑部が居ます。・・・部不相応に欲しがるようなら相応に処分されるまでです。」

「それは、天意に背く様な真似・・・恐ろしい事であらしゃいますな。怖い怖い。とにかく、遅くならあらへんうちに土佐の一族の手勢を呼び寄せおす。」

 

「うまく手引きしてくだされば、関白就任も手に届きますからね。期待していますよ。」

 

 

その後、秋大社再建の指揮を執るために自身の直臣であるぐわごぜの元興寺に居を移し、白蔵主と刑部狸を呼び出した。

 

「大樹様のご尊顔拝謁しまして、光栄の限りでございます。」

「我ら、八百八狸衆も京より離れた四国の地が本拠ではありますが微力を尽くさせていただきます。」

 

白蔵主と刑部狸は平伏し臣下の礼を取る。

 

「私も、俗世に深く関わらねばならぬ時が来たようです。人の世は織田殿が、人ならざる者たちの世を選ばれた妖怪達が、そしてそれらを私が治めようかと思います。しかしながら、ぬらりひょんは姿を隠したまま反旗を翻し、鬼たちは不干渉を貫き、天狗たちは意見を纏められず不透明、たんたん坊は東北の地にあり遠すぎる。白蔵主、それに刑部狸よ。私のために、俗世に関わるのなら私と言うよりは妾の方が様になるか・・・。ごほん、妾のために尽くしてはくれぬか。」

 

「た、大樹様!!」

「そのお言葉は・・・!!」

 

「妾のためにその手腕を振るい妖怪達を纏めてはくれぬか。」

 

「「っははぁ!!謹んでお引き受けします!!我ら妖狐狸の一族は大樹野椎水御神様に絶対の忠誠をお約束します!!」」

 

 

大樹は着々と朝廷の掌握に駒を進め、妖怪達の再度掌握に動き出していた。

 

 

 

 

上洛を果たし、征夷大将軍の座に就いた義昭は、幕臣・細川藤孝、一色藤長、三淵藤英、和田惟政と言った幕臣たちを集め、義昭を奉じた信長と会見した。

 

「そちの武勇、天下第一じゃ!ふひゃひゃひゃははは!!儂が将軍となれたのは織田殿のおかげよ!!その礼にそちを管領に任ぜようぞ!!」

 

信長は黙って首を横に振る。それを見た義昭は

 

「ん?管領では不足か?では、奮発して副将軍でどうじゃ!!」

 

信長は含み笑いをして、義昭の話を固辞した。

それを見た義昭は、卑猥な笑みを浮かべ上座から降りて信長に近寄る。

 

「なんじゃ・・・欲のない男じゃのぉ・・・。ふふふ、女子か・・・都の見目麗しい女子がた~んとおるぞ!ふひゃはははっはは!!!」

 

有頂天になっている義昭を尻目に細川藤孝が声を上げる。

 

「織田殿の事ですよって、もののひと月もおしたら畿内の不埒共を一掃する準備、整わはるでしょうなぁ。」

 

「この信長、もとより京に織田の旗、打ち立てるつもりでした。そして、織田の軍旗を京に打ち立てた今、我らを阻むものはおりませぬ。不埒者どもの一掃は安心してお任せください。」

 

信長は松永久秀が筒井城落城させる前に筒井順慶に援軍を派遣し、若狭武田の内乱に干渉する等して天下の支配者としての実権を握りつつあった。

また、妖怪達の手綱を握りつつある大樹も武田上杉の戦いに相互する姉小路家内の問題を煩わしく思い。飛騨の天狗たちに姉小路家の地盤を固めさせるように命じた。

 

 



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50 大樹信長記 にとりと秀吉

戦国時代って書いてて楽しいです


信長は畿内の統一を目指す一方で永禄12年(1569年)、南伊勢の北畠氏を下す為、丹羽長秀を大将に滝川一益、池田恒興、木下秀吉を中心とした6万の軍勢を発した。

 

「神を味方に引き込んだ信長様に負ける要素などなかろう。」

 

長秀は満を持して岐阜を発った。

この頃の織田家では宿老階級の重臣たちは大樹の存在を知らされていた。

ただ、それ以外の者たちにとって信長は妖怪すら操る得体の知れない存在であり、後に名乗った第六天魔王などはまさしくであった。

 

そして木造城主・木造具政が織田側につく。織田の武将・滝川一益の調略であった。対する北畠具教は木造城を包囲し攻撃するも、滝川、神戸氏、長野氏の援軍もあり、

長秀本隊の到着まで木造城は持ち堪えていた。

 

長秀本隊が到着した時には北畠軍は既に囲みを解いており、1万6000の兵を天然の要害である大河内城とその支城に分散させ籠城していた。大河内城の北畠軍の兵数は8000であった。

長秀は軍を分散させ、支城包囲を命じた。

織田軍の木下秀吉が阿坂城を攻撃、落城させると言った活躍を見せるがそれ以外の支城は攻め落とされることなく持ちこたえていた。

 

大河内城を包囲する丹羽長秀は配下に命令を出す。

 

「石火槍衆を連れて来い。」

 

長秀の命令で大河内城包囲軍に巨大な武器を持った山童の集団が加わった。

彼らが用いるのは明で発明された火槍(ハンドガンの一種)の改造品で、後装式にした物であった。

 

大砲程の威力は無いが、鉄砲以上の威力で城壁や城門の一部や装飾部分を破壊した。

 

ドカン、ガツン、ガシャン

 

攻撃が加えられるたびに少しづつ崩れ傷ついていく城壁や城門。時折、城内の蔵や櫓にあたり、当たり所によってはそれを破壊していく。

長秀はその光景を見て感心した。

 

「山童の石火槍衆、見事な働きだ。国崩しに相応しい。」

 

この包囲は一カ月ほど続き、信長の次男である茶筅丸(織田信雄)を具教の息子具房の養嗣子とすること。大河内城を茶筅丸に明け渡し、具房、具教は他の城へ退去すること。

 

という、織田側に有利な条件で織田家と北畠家は和睦した。

 

 

この戦いで解る様に河童及び山童の隠れ里は軒並み大樹の命にしたがい織田に協力した。

大樹が導いた織田の畿内統治に妖怪達も態度を次第に鮮明にしてきた。

 

鬼の四天王は完全に中立の立場を取り静観を決め込んだ。

東北のたんたん坊は京までの上洛とはならなかったが関東の大樹大社に参内し、大樹大社を預かる大妖精に大樹方に付くことを約束し、妖怪城の完成が近いことを報告した。

河童や山童の隠れ鍛治里はほとんどすべてが、大樹と織田家に臣忠すると約束しすでに沢山の火縄銃と焙烙火矢、そして彼らの独自兵器石火槍の納品が始まっていた。

彼らは攻城兵器の製造も請け負い、屋根と車輪のついた破城槌や移動式の攻城櫓の製造も行われた。

また、彼らの研究意欲が高いことに着目した信長は彼らに新兵器の開発を命じた。

すると彼らは徳利に可燃性の液体を充填した、初歩的な焼夷爆弾を開発して見せたのだ。

信長はさらに西洋の兵器であった大砲の開発を命じると臼砲形式の射石砲を開発した。

中世に用いられた最も初期の大砲の一種であったが独力で短期間でそれに追いついたことを信長は大層喜び、褒美に彼らの望む鍛冶道具や炉を優先的に用意し、これらの製造を命じた。

 

信長に河童山童との交渉を任せられた木下秀吉は河城氏族の河童の鍛冶里を訪れた。

着々と数をそろえる兵器群であったが、信長は堺攻めの為に更なる増産を望んでいた。

 

「河城の長老さんよぉ。製造速度を上げることは出来んのか?」

「申し訳ございませぬ。我ら河童山童の氏族全てが総力を挙げて製造に心血を注いでおりますが、これ以上は難しいのです。」

 

秀吉はふと河城氏族の娘が石射砲の開発を取り仕切っていたことを思い出す。

 

「河城の長老さんや。確かこの里には石射砲の開発を取り仕切っていた者がいたはずだが?」

「儂の三番目の息子の娘じゃったか。それが何か?」

「直接会って、意見を聞きたい。これだけのもんを作る者なのだから、良い案を提案してくれるかもしれん。よかよかぁ!早く連れてきてくれ。」

 

長老は秀吉に頭を下げるとその河童の少女を呼びつける。

 

「にとり!にとりや!織田家の木下様が御呼びじゃ!」

「わかったよ!じいちゃん!今行く!」

 

河城の長老に呼びつけられた河童の少女にとりは煤で汚れた顔を手近な布で拭うと、秀吉の下に駆け寄ってきた。

 

「木下様!なにか私に御用事ですか?」

 

快活な言葉に、元農民だった秀吉は思わず。威厳ぶった言葉遣いを忘れ素の言葉遣いに戻る。

 

「おぉ!元気な娘っ子じゃなぁ!オラの嫁の寧々も結婚したころはこれくらい元気じゃった!今じゃ、随分と武家の嫁に染まっちまってなぁ・・・。じゃなかった!?河城の嬢ちゃんや、これらの武器をもっとたくさん用意することは出来んか?近々、堺衆と戦うかもしれん。あいつら、銃や砲を仰山抱え込んどるからな!何とかしたいんじゃ!」

 

秀吉の頼みを聞いたにとりは少し考えると口を開く。

 

「木下様?堺の町衆との戦いで必要とおっしゃいましたか?」

「そうじゃ?」

 

「その戦いのみの使い捨て前提であれば案がありますよ。」

「なんじゃと!それはいったい!!」

 

にとりの答えに秀吉は喰いついた。その目は爛々と輝いていた。

 

「銃は無理ですが、砲に限っては材料を鉄でなく木や竹をくり抜いて縄で補強すれば代用は可能です。耐久は落ちますが、堺の戦いのみで必要とあらば数をそろえるのは簡単です。木や竹をくり抜いたり縄で補強するのは、そこらの民百姓でもできますので彼らの副業にでもしてやれば簡単に数が揃いますよ。」

 

「なんと!それは名案じゃ!にとりの嬢ちゃん!あ~りがとうっ!!」

「うわわ!?抱き着かないで!!猿顔のおじさんが抱き着いてくる~!?」

 

動揺するにとりは勢い余って秀吉を突き飛ばしてしまうが、秀吉は笑って許した。

 

「さ、さすがは河童・・・若い娘っ子でも強いなぁ・・・。」

 

織田軍は秀吉とにとりの献策によって、堺衆と戦えるほどの火力を揃えることに成功するのであった。

 

 

 

 

 



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51 大樹信長記 闇の福音 堺制圧戦

織田軍は大和国・松永久秀、摂津・池田氏及び荒木村重、

六角残党と言った畿内の敵対勢力を悉くを撃破撃退或いは恭順させた。

だが、堺衆は織田軍との対決姿勢を強め潤沢な資金で兵を雇い、兵糧を運び込んだ。

堺には諸侯に売り飛ばす予定であった火縄銃1万丁あまりと大筒100門があり、三方を囲む堀に水を流し込み、斎藤龍興らの残党を囲い込み、三好の援軍を持って信長の軍勢を迎え討とうとしていた。

 

「堺の会合衆め、矢銭を断ってきたか。おもしろい、矢銭としてこの信長に差し出す銭はなくとも戦を構える銭はあるらしい。」

 

「如何いたしましょう?本願寺は矢銭を差し出してきましたが・・・。」

 

「権六に堺を攻めさせぃ!今こそ信長の力を天下に示さねばならん!敵になる者には恐怖を植え付けねばならんのだ。」

 

「っは!」

 

 

畿内を平定するには堺を平定するしかなかった。

 

 

和泉国・織田軍本陣

信長は堺攻めに柴田勝家を総大将に、前田利家、佐久間信盛、織田信張と言った歴戦の将を派遣し、大樹も側近の白蔵主と刑部狸の手勢、それに風見幽香に向日葵衆を付けて派遣した。

 

「堺は銭で兵集め、南蛮の傭兵や異国の妖怪まで居ると聞く。」

「斎藤龍興も恨み晴らすと息巻いている様だ。」

「しかし、我らも堺衆に張り合えるだけの砲や銃を用意できた。」

「勝機は十分にあろうて。」

 

織田の将が陣内で話している頃、陣の外では白蔵主と刑部狸が堺の町から強大な妖気を感じ取っていた。

 

「強大な力を感じる。これは妖気だけではないな…。」

「魔力とでもいうのか…。異国の術士が使う力をも感じる。白蔵主殿これは一筋縄ではいかんかもしれんぞ。」

「あぁ、刑部殿。この戦い、身を引き締めねばならん。我らは大樹様の期待を背負っておるのだ。」

 

話し合っている二人の背中に若い女性の声が掛かる。

 

「お二人さん、お話もいいけど。そろそろ戦が始まるわよ?」

 

風見幽香である。彼女の姿は暗い赤色をした和服と番傘と言う戦場に似つかわしくない姿であった。

 

「すまない、今行く。」

「おぉ!すぐ手勢を動かさねば!」

 

そんな彼女に対して何も指摘することなく、普通に応じる。

強い妖怪は人の形をとる。妖狐狸の様に自身の伝統的な姿形を尊ぶ者も多いが強い妖怪は総じて人型であった。

 

 

軍議が執り行われる。

前田利家が地図を広げて諸将たちに説明をする。

 

「堺衆に雇われた将を倒せばこちらの勝ちです。軍の指揮を執る将は斎藤龍興。三好の援軍は四国で決起した刑部殿の軍勢によって無くなりましたが、雑賀衆の援軍が到着したとのことです。」

 

「南蛮の傭兵はいかなる用兵を仕掛けてくるかわからん。油断できぬ敵じゃな。」

織田一門の戦上手の老将信張は注意を促す。

 

「信張殿、そのとおりです。また、武勇において注意すべき者もいます。」

「それは・・・。」

 

信盛の疑問に利家は答える。

 

「異国の妖怪にございます。彼らは人の生き血を啜る妖怪で、吸血鬼とも呼ばれています。」

「してその名は何という?」

 

刑部狸は利家を促し、白蔵主も視線を鋭くする。

 

「南方の吸血妖怪ピーとその側近の女吸血鬼。そして彼が率いる吸血妖怪ランスブィル、ペナンガランと言った妖怪を率いているようです。」

 

「南方の妖怪か。元寇の戦いの折に轡を並べたがその中にはいなかった連中だな。」

 

白蔵主はそう呟いた。

 

「また、西洋の吸血鬼もいるようです。名はエヴァンジェリンと言うようで西洋魔術に秀でているとの事です。」

 

「それの相手は私がしましょう。」

 

風見幽香の言葉に勝家が応じる。

 

「おぉ!それは心強い。これで異国妖怪の問題は片付いた・・・我らは敵の軍勢を討ち取り、堺会合衆を制圧するのだ!!」

 

後詰の大樹野椎水御神が後方に布陣したのを確認すると、勝家は堺攻撃の命令を出した。

 

堺の港町を包囲する織田軍、両軍の砲が火を噴き、双方の術や銃弾が飛び交った。

石火槍衆が放った一撃が防壁を破壊し堺の町の外環部分への道を開き、勝家の号令で織田方の兵が殺到していく。

 

「邪な野望を抱きし者どもよ!!立ちはだかるなら容赦はせんぞ!!全軍掛かれ!!」

 

かくして、堺の戦いは市街戦へと舞台を変えた。

 

 

 

 

堺の町の各所に木柵や竹束で防壁が築かれていた。

織田軍と堺の浪人衆や賊の間で堺の各所で銃撃や弓射撃による射撃戦が繰り広げられ、その間を縫って白兵戦が繰り広げられた。

 

織田信張と佐久間信盛の軍勢が斎藤龍興の軍勢を挟み撃ちにする。

 

「ここが年貢の納め時よ!龍興覚悟!!」

「一気に攻め立てるのじゃ!!」

 

「えぇい!織田の軍勢なんぞ!!押し返してくれる!!」

 

 

各所で繰り広げられる戦いの最中、前田利家率いる一隊が堺内環を囲う水門を解放。

 

「水門を解放したぞ!者ども!!乗り込め!!」

 

 

白蔵主と刑部狸の軍勢が水が抜け浅くなった堀を先陣切って越えていく。

 

「内環に布陣するのは異国妖怪ぞ!!我らに任せてもらおう!!」

「渡れ渡れ!!大樹様の意に背く愚か者を討ち取れ!!」

 

「ぎえぇえええ!!き、来たな!!お前ら!!日本妖怪に我ら南方妖怪の恐ろしさをおしえてやれぃ!!」

「「「うぉおおおお!!」」」

 

 

堺内環の別の場所では、西洋の吸血鬼であり闇の福音の異名を持つエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと風見幽香が相対する。

 

「東洋、神秘の島国の妖怪達を纏め上げる大樹野椎水御神・・・。この私が確かめてやる!」

 

エヴァンジェリンの言葉に幽香は微笑んで返す。

 

「うふふ、それは困るわ。あの子、病み上がりな上に元々戦闘向けの子じゃないから私が相手してあげるわ!」

 

エヴァンジェリンは魔導書片手に、幽香は傘を突き付けて返す。

 

「あの、傀儡人形の相手は我々が!!」

「オレハ クグツニンギョウ ジャネー ッテノ!!」

 

向日葵衆の妖精巫女たちとエヴァンジェリンの従者人形であるチャチャゼロが刃物を激しく打ちあわせ始める。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!氷爆!!」

「蔓よ!あれを叩き落とせ!」

 

エヴァンジェリンの出した氷の塊を幽香は巨大な植物の蔓で叩き落す。

幽香のステゴロ戦法を躱しつつ距離を取り詠唱する。

 

「百本、集い来たりて敵を切り裂け!氷の矢!!さらに闇の矢!!」

「ふん!ぬるい!」

 

追尾する氷の矢を躱し、闇の矢を開いた傘で防ぐ幽香はそのまま傘から巨大な光線を放つ。

 

「な!?三十枚!!氷の盾!!っくそ!氷の盾28枚も破った!!」

「じゃあ、続けて!!私の魔法も受けなさい!!マスタースパーク!!」

 

エヴァンジェリンはマスタースパークと撃ち合うために早口で詠唱する。

 

「ウェニアント・スピーリトゥス・グラキアーレス・オブスクーランテース・クム・オブスクランティオーニ・フレット・テンペスタース・ニウァーリス(来たれ氷精、闇の精。闇を従え吹雪け常夜の氷雪)!!闇の吹雪!!」

 

マスタースパークと闇の吹雪が相殺され、二人は再度向き直りかち合おうとするが、それは遮られる。

 

「双方そこまで!」

 

大樹の一声で戦いは中断され、その両脇には白蔵主と刑部狸が武器を構えて控えていた。

そして、堺の勝敗も決しており柴田勝家らはすでに捕虜を捕らえ堺各所の相当を始めていた。

 

大樹に幽香、白蔵主と刑部狸に包囲されたエヴァンジェリンは大人しく両手を上げる。

 

「寛大な処分とやらに期待だな。」

 

 

 

大樹の本陣に引っ立てられたエヴァンジェリンであったが、彼女を縛る縄はすぐに解かれた。

 

「私は妖精でもありますのでわかります。貴女ほど精霊に愛されたものが、宣教師共が言う様な悪人とは思えません。このまま、私に仕えてみませんか?」

 

「妖精の女王が、異教の神となっていたか。おもしろいな、しばらく厄介になる。」

 

大樹の言葉に軽く悪い笑顔を浮かべて返した。

 

堺より帰還する軍勢、大樹方の隊列には客将待遇で馬に乗るエヴァンジェリンがいた。

 

 

 

「な、何と言うコトダ・・・。織田のトノサマはダーク・エヴァンジェルと結びついた。否、異教の化物ともダ・・・。何という邪悪ナ・・・!すぐに本国へシラセネバ。」

 

堺を脱した宣教師一人がはキリシタンの多い九州へと去って行った。

 

 

 



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52 大樹信長記 長政の決断

忠実バイバイ!こんにちは仮想戦記!


京都・将軍邸。

 

「えぇではないか。えぇではないか。儂は将軍になったんじゃ、もはや天下は、儂の物、我が栄華を存分に祝うんじゃ!」

 

義昭は屋敷に女たちを連れ込み放蕩に耽りながら、明智光秀の報告を聞いていた。

その態度に、義昭を妄信している一色藤長は別として、細川藤孝ら他の幕臣はあきれ顔だ。

堺での勝利の報告を聞きながら酒と女にうつつを抜かす義昭に光秀は報告を終えると早々に立ち去ろうとした。

 

「光秀よ。最近付き合いが悪いではないか?儂との約束、忘れてしもうたか?」

「いえ。」

「そうか、ならば早くやれ!ぬらりひょん殿が朝倉義景上洛を整えてしまうぞ。」

「朝倉が・・・・・・。」

 

それを聞いた、光秀は義昭を軽く睨む。

 

「公方様・・・。」

「おっと、すまん。藤長、これはまだ言うべきではなかったな。ふはははは!」

 

 

 

信長は乱世平定のために新しい秩序を打ちたてて行った。

しかし、将軍を頂点とする幕府政治を志向する公方義昭は信長を疎み、密かに排除を画策。

大樹の排除を目論む、ぬらりひょんと利害が一致し越前・朝倉義景の上洛を計画した。

 

この知らせは明智光秀よりもたらされる。

 

「上洛だと?朝倉がか?」

「いかにも。」

 

信長は暫し思考し、指示を出す。

 

「長政に知らせろ。出方を見る。」

「裏切られるやもしれませんぞ?」

「それを見るためでもある。」

 

信長はわざと浅井に朝倉上洛を知らせて、出方を見ることにし信長は軍を率いて金ヶ崎で朝倉と戦うことを決断した。

その際に、朝倉攻めを知らせる書状を浅井家へ届けた。

その書状には天下布武に織田木瓜の紋章、そして葉を広げた大樹の紋章の印象が押されていた。

 

 

小谷城は荒れに荒れていた。

浅井家の評定では、織田家に追従せよと長政が声高に叫び。隠居してもなおも発言力を持つ先代当主・久政は強硬に朝倉方につくべきであると主張し紛糾した。

 

「長きに渡る同盟にある朝倉に味方すべし!」

「信長殿は義兄ですぞ!婚姻同盟の結びつきは通常の同盟より深いのですぞ!」

 

普段の長政であれば、久政の意見に折れることもあっただろうが長政は久政の言葉に決して首を縦に振らなかった。長政の手には先ほど読み上げられた書状が握られていた。

長政にとって、織田家の紋章と一緒に押された大樹の紋の意味は大きかった。

上洛に同行した長政を中心とする武将たちにとって大樹の紋は信長の行動が神意であることを痛いほど理解させた。万が一にでも久政の意見を受け入れて朝倉に味方するなどあってはならないことであり、浅井家の終焉を意味していた。

上洛の戦いで妖怪達の戦いを見た長政たちと、それを見ていない久政たちの考え方の差は大きく、平行線の評定を中断した。長政は一度本丸の自室に戻り久政も自身の居住する京極丸へ引き返した。

 

長政は本丸の自室に、側近の海北綱親、赤尾清綱、雨森清貞、磯野員昌、遠藤直経らを呼び集めた。

呼び集められた側近たちは、長政の姿を見て驚愕した。

長政は鎧兜を身に着け、刀を腰に差して待っていたのだ。

 

驚き言葉を失う家臣たちを一瞥し長政は口を開く。

 

「織田に御味方する。このままでは父上が朝倉に走りかねない。そのままにしても、私が居ぬ間に挙兵されても困る。私は神罰はくらいたくない。愛知川で見た妖怪共と戦うなど冗談ではない!これより、皆で京極丸へ攻め入り父上を拘束し牢へ繋ぐ。抵抗すれば、切り捨てて構わん。皆の者、すぐに武器を持て!京極丸へ攻め入るぞ!」

 

長政ら、諸将と近侍や近習が刀を抜いて京極丸に押し入る。

 

「何事です!久政様のお住まいであるぞ!」

 

久政の側近たちが止めに入る。

 

「控えよ!浅井家当主の言葉である。朝倉に通じる久政を捕らえる。とっとと道を開けよ!」

 

「久政様は御父上ですぞ!なんということを申しますか!」

 

その声に、久政の側近たちが集まってくる。

長政の前に初老の男が両手を広げて立ちはだかった。

 

「無礼者が!!」

 

長政はその男を切りつけた。

切り付けられた男は血しぶきを上げ事切れた。

 

長政の後ろに居並ぶ諸将たちも抜刀し、槍を構える。

久政の側近らも抜刀し身構える。

 

「当主に刃を向けるか・・・。構わん!叩き切れ!」

 

京極丸で長政と久政の側近同士が切り合いに走る。

三の丸の者たちが変事に気付き様子を伺ったときには、久政の手の者は討ち取られ、久政自身も負傷しながらも縄をかけられた姿になっていた。

 

 

 

金ヶ崎へ行軍する途上で小谷城の変事の詳細を聞き及んだ信長は、長政の英断を讃えた。

 

「さすがは、我が義弟!よく決断してくれた!浅井家の栄華も約束されたも同然ぞ!」

 

 

 

 

 



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53 大樹信長記 一乗谷陥落 朝倉家滅亡

長政が織田方に付き朝倉家へ同盟解消の使者を出し、久政の影響を排除するため多くは出せないが援軍を送る旨を浅井家の使者から聞いた信長は、満を持して朝倉攻めに取り掛かった。

 

元亀元年(1570年)、織田軍は天筒山城、金ヶ崎城、木の芽峠、疋壇城、栃木峠と次々と陥落させた。敦賀を抑えた信長は朝倉攻めのためにさらに兵を動員した。

.

信長本隊3000、柴田勝家4000、丹羽長秀2000、池田恒興1000、前田利家1000、佐久間信盛3000、木下秀吉2000、明智光秀2000に加え、摂津の池田勝正2000、荒木村重1000、朽木谷の領主朽木元網500、浅井より援軍の阿閉貞征1000、田中吉政500、藤堂高虎500、徳川家康率いる5000を持って朝倉へ攻め上がった。

この兵力を持って日野川に沿って攻め上り小丸城を落城させ、越前府中と足羽山に布陣した。

 

ただし、柴田勝家の軍勢は若狭・武田元明の下へ反旗を翻した武藤友益討伐へ向けられたが、この頃には若狭武田家との武藤討伐は完遂され、勝家は若狭武田氏の軍500を加えて朝倉攻めに加わった。

 

織田方約2万9000は足羽川を挟んで朝倉軍と対峙する、朝倉軍を率いて出ていたのは朝倉景鏡と朝倉景健、朝倉景恒率いる軍勢であり、それぞれの周囲に魚住景固、河合吉統、富田長繁、前波吉継、鳥居景近、高橋景業、加藤新三郎と言った朝倉諸将が布陣。後方に朝倉義景の本隊が見えた。

義景ら朝倉一門が3000づつ、朝倉諸将が2000づつで合計2万6000であった。

 

この戦いは織田としては想定外でもあった。朝倉の諸城の抵抗があまりにも弱く、面白いように道が開け、あれよあれよと一乗谷まで迫れてしまい。あと一押しで朝倉を滅ぼせると判断した信長は、若狭に向かった勝家や若狭武田氏、摂津の諸将、徳川家へ援軍を求めるに至った経緯があった。

それが困る訳ではなく、いずれは滅ぼす相手である朝倉の命日が早まっただけであった。

 

織田が渡河を始めると当然、朝倉軍は渡河の妨害を行うためにさほど深くない足羽川の河周りが戦場となった。

だが、この戦いは織田の有利であった。

 

「ぎゃ!?」「あ、足が!」「お、溺れる!!」「助けてくれ!!」

 

戦いの途中、大樹を介して河童氏族の長である水虎河童の仲介で足羽川、それに繋がる九頭竜川、日野川の河童たちが織田方に味方をし、朝倉方の兵を川底に引きずり込んだ。

 

渡河を終えた織田軍は朝倉方を追い詰めていく。

 

「おのれ!信長!化け物どもまで引っ張り出して朝倉を滅ぼしに来たか!!」

 

大太刀を構えた大柄の侍が三人、迎え撃ってきた。

真柄直隆と弟・直澄、子・隆基であった。

人間がやったとすれば相当な数の織田兵が倒れていた。

 

彼らの相手をすることになった秀吉は、大声で指示を出す!

 

「銃で穴だらけにしろ!あんなの相手にできるか!」

 

よく見れば、河童たちも何人か倒されている。

河童と言えば相撲が得意な力自慢でもある。この前自分を突き飛ばした若々しい少女の河童ですらあれだけの怪力だったのだ。大人の河童は相当なはずであり、それを倒した真柄一族は超怪力の持ち主であるはずだ。

 

秀吉お抱えの河童銃兵が一斉に銃を射かける。いくら個人の勇が優れていても殺到する鉛玉には勝てず。秀吉の言葉通り穴だらけになって真柄一族は断絶した。

 

一時押し返した真柄一族が全滅したのを見た朝倉軍は混乱を極め潰走し始める。

 

「この戦、勝ったぞ!もっと、攻めよ!」

 

一方の朝倉義景は

 

「このままでは、織田がここ押し寄せ討ち取られてしまう。一乗谷へ退却する、一乗谷に籠れば安全じゃ!」

 

立ちはだかる朝倉の兵を草でも刈るかのようになぎ倒していく織田軍を恐ろしく思ったのであった。義景は足利義昭の口車に乗るべきではなかったと、今更ながらに後悔した。

 

 

 

 

 

朝倉軍は一乗谷に籠った。

織田軍はそれを包囲した。

 

「大樹様の号令にて、近隣の山々より妖怪どもが集まって来ております。包囲軍に加えてはいかがでしょう。」

 

提案してきた池田恒興の案に、丹羽長秀がさらに付け加える。

 

「調略を入れましょう。」

「長秀・・・して、誰を?」

 

信長の問いに長秀は稚拙な発言だと思いつつ淡々と答える。

 

「誰でも良いでしょう。伝手のある者すべてに、降参すれば本領安堵の条件で、知人、親族、何でもです。知っている限りの人間に使いを送れば、だいたいが調略に掛かるでしょう。」

 

一乗谷の人々は恐怖に震えた。

一乗谷を取り囲む織田軍と有象無象の妖怪達、空には天狗や化け鴉、唐傘お化けが宙を舞い。

まるで、この世の光景ではなかった。

それを見た人々の中には恐怖のあまり発狂する者すら現れた。

今の朝倉は昔の織田以上の弱兵であり、戦場の経験がある物も少なかった。そんな彼らが久しぶりに戦った相手が織田軍であったのはもはや悪夢でしかなかった。

 

 

「返り忠の儀に於いては本領安堵の事約定致す者也」

「左衛門督が御首級持参の砌は恩賞を宛行う者也」

 

朝倉方には織田の盟友である浅井と関係の深いものが多い。

数日も待てば、朝倉方は面白いように調略に掛かっていく。

朝倉の重臣から内応返信が返ってくるようになり、さらに数日建てば雑兵たちが塀や堀を越えて逃げ出し始める。

 

さらに日が経つと一乗谷内で雄たけびが上がる。

この現状に精神の限界を迎えた者たちが身の安全を確保するために朝倉義景に反旗を翻したのであった。

 

蜂起した者の中には、朝倉一門の景鏡もいた。

 

「化け物どもに殺されたくなくば!義景の首を手土産にするしかないぞ!!」

 

朝倉家重臣前波吉継は目を血走らせて、義景を探して一乗谷を掛けまわった。

 

「いたか!」「ここにはいない!義景め!どこに隠れた!!」

 

一方からやってきた魚住景固も抜き身の刀を握ったまま吉継に話しかける。

ふたりは諦めて、一乗谷の門を開けて織田を迎え入れることにした。

この功績を持って本領安堵を約束させようとしたのであった。

 

義景の首を上げたのは朝倉家家臣の堀江景忠であった。

まず最初に義景を見つけたのは富田長繁であった。

彼は偶然にも一乗谷で逃げ回る義景を発見し、自分の横に着けていた一刀流の有段者である親族の景政と共に義景の供廻りを一刀両断した。

 

しかし、義景はその隙に逃げてしまったのであった。

その騒ぎを聞きつけた堀江景忠は、義景を見つけて背後から飛び掛かり持っていた脇差で義景の喉を掻っ切った。

 

「死ねやぁああああ!!」

 

 

義景が討たれたことを知った朝倉義鏡は、一門である自分の身を案じて同じく一門の景恒と景健の首を手土産に織田に降伏した。

 

唯一、朝倉景紀だけは意地を見せ僅かな手勢で織田軍に切り掛かりその中で果てた。

多くの家臣から裏切られ名門朝倉家の最期としては、あまりにも情けない最期であった。

 

 

 

 

 



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54 大樹信長記 信長包囲網

信長は乱世平定への戦いと舵を切る。

大樹も長く席を空けたために起きた無法な妖怪達の跋扈に終止符を討つ為に白蔵主、刑部狸、たんたん坊、水虎河童、ぐわこぜと言った側近妖怪達を掌握しぬらりひょんとの対決姿勢を打ち出していた。

 

一方、公方・義昭は信長と協調する姿勢を見せながら、ぬらりひょんと結び、三好三人衆、松永久秀、丹波・波多野氏、丹後・一色氏、斎藤や六角の残党、雑賀衆、本願寺一揆衆と甲斐・武田信玄を動かした。

 

その力を持ってして織田軍の包囲殲滅を図った。

 

また、織田派と公方派で割れた勢力もあった。

例えば伊賀衆。百地三太夫は織田との対決姿勢を明確にしたのに対し、織田の盟友徳川家康に仕える服部半蔵の一派は織田派であった。

寺社衆も中立が大半であったが、大樹大社を中心とした神道陣営が織田に協力的だったのに対し、比叡山延暦寺や長島願証寺などの寺院衆は敵対的であった。

 

古参妖怪達は軒並み大樹の傘下に入ったが、新進気鋭の無法妖怪はぬらりひょんへ傾いた。

そんな中で、大天狗たちは大分裂を起こした。

天狗たちの多くは仏教徒であり、源義経を見捨てたと言うしこりのある鞍馬天狗を筆頭に大樹傘下を離脱するものが現れた。愛宕山太郎坊のように大樹恩顧の姿勢を押し出して収拾しようとするものもいたが、中立を決め込み静観する者も少なくなく大天狗たちの中で内戦状態に発展した。

 

そう言った事情で、一時は大樹側に寄っていた朝廷も足踏みし中立の態度を取り始めた。

 

また、三河遠見の徳川家、北近江敦賀の浅井家、若狭武田家、飛騨・姉小路家、大和・筒井家、河内半国紀伊・畠山氏は織田方に立って味方した。

 

根来雑賀衆に名目上の守護として担がれていた畠山昭高は紀伊の主権を取り戻すため挙兵。河内半国の手勢を信長に合流させた。

信長より大和の国の国主に指名された筒井順慶は興福寺僧兵500と連合し、さらに滝川一益を中心とした伊勢衆6000を迎え入れた。筒井軍は6000で合計は1万2500であり、その兵力を持って多賀山城を攻撃。

 

「宿敵、松永を討つ好機!者ども!!掛かれ!」

 

筒井家重臣・島清興及び松倉重信の活躍は著しく。序戦において筒井城を奪還し、十市城を攻め落とす。さらに松永方の城となっていた窪之庄城を奪回し、多聞山城へ迫る。

 

「敵襲!敵襲!」

 

百地三太夫率いる伊賀忍軍が筒井家と織田家の陣を襲撃する。

 

「おのれ!公方方の手のものか!」

 

陣所を襲撃された順慶は清興や重信に守られつつながら刀を手に抵抗する。

順慶の横にいた小姓は胸に苦無を刺されて順慶に覆いかぶさるように倒れる。

 

「殿!」

 

清興が声を上げるが、順慶にも忍の魔手が迫った。

伊賀忍者の背に巨大な風車手裏剣が突き刺さる。

 

「甲賀中忍、長瀬梢。滝川一益様の命を受け・・・推参しました!」

「うむ!よく来てくれた!助かったぞ!」

 

清興は順慶を助け起こしつつ、ねぎらいの言葉を掛けた。

 

「御礼には及びませぬ。このまま、伊賀の忍びたちを追い返しましょう!」

「あい、解った!皆の者!甲賀忍軍と協力して伊賀忍軍を追い払え!」

 

甲賀くノ一衆を率いる長瀬の手勢が伊賀忍軍の忍者を退けていく。

織田・筒井の兵達は混乱から回復し、援軍の甲賀忍軍と共に伊賀忍軍を撃退した。

 

伊賀忍軍を撃退し、甲賀忍軍の協力を得た織田・筒井連合軍は松永久秀の多賀山城を攻め落とし、久秀の本軍を信貴山まで追い払った。

 

 

 

丹後の一色義道は、若狭武田氏の武田元明及びその援軍の浅井家の赤尾清綱3000、織田家の佐々成政3000が加わった軍勢が一色軍と対峙した。

 

「一色の手勢では若狭は落とせん!落ち着いて対処せよ。」

「赤尾殿の言う通りだ。落ち着いて対処せよ!」

 

もはや、足利義昭と織田信長の対決は避けられないものとなった。

 

 

 



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55 大樹信長記 比叡山焼き討ち 

比叡山延暦寺は六角と斎藤の残党軍を迎え入れた。

これに対して信長は、自身を総大将に据えた柴田勝家、明智光秀、池田恒興、佐久間信盛、木下秀吉、中川清秀、丹羽長秀の3万が比叡山延暦寺を隙間なく包囲した。

 

包囲から数日後、織田領の大樹大社系を中心とした織田に味方する神社の武装神官と戦巫女が神輿を担ぎ、比叡山延暦寺の僧兵たちが担ぐ神輿と睨み合いを始める。

 

神社と寺院がお互いを非難し合い罵り合う光景は、神と仏が争い合うと言う庶民の不安を煽る光景であった。

 

これに8千の兵を率いて合流した長政は、信長と同じ指揮所で伝令や忍からの報告を聞いていた。

 

比叡山は一向衆と共闘の形を形成することが出来たが、大概の場合は他宗教他宗派との折り合いの悪い一向宗は、足利義昭の御行書を盾に傍若無人に振る舞い織田に味方した寺社以外の中立的な寺社にも高圧的で反感を買った。

 

「寺を焼かれた平泉寺門徒宗は白山神社に立て籠もり、一向宗と睨み合いを始めています。」

「禅宗の村々は比叡山に同調した天台宗寺院への兵糧の供出を拒否し対立しております。」

「一向一揆は御味方の神社を焼き払っております。」

「光仏寺派と専修寺派の者たちは村に立て籠もって本願寺派と戦う姿勢を見せており、日蓮宗の町衆も、寺に土塁を巡らせ堀を穿ち備えを固めております。」

 

報告を聞いていた長政は天を仰いだ。

 

「正に、一国騒擾とはこのことか。」

 

この様な事態に陥っても義兄上は表情一つ変えない。

義兄上は何かを待っている様だ。その横に控える大樹野椎水御神も先ほどから薄っすらと笑みを浮かべるだけで発言は無い。

長政は不吉なものを感じ始めた。

 

ゆっくりとした足取りで織田家の事務官僚のトップである村井貞勝が入ってくる。

貞勝の左右には薄羽を覗かせた巫女服の妖精巫女が二人控えていた。

 

「正親町天皇は伊勢神宮へ永尊宮様を伊勢斎宮として下向させることをお約束されました。これを聞いた伊勢神宮は仲介した大樹様への御返礼としてご神物を奉じた神輿をこちらへ向かわせたとのことです。」

 

「で、あるか。」

 

信長は短く答えた。そして、大樹は・・・小さく声を出して笑い出した。

 

「うふふふふふふ、やっと・・・やっと腰を上げてくれたわ。神道の最高峰伊勢神宮、神輿が来る・・・神輿を守る伊勢の神官たちも来る。その姿は正に・・・天津神々全てが私達の行動を認めたも同然。」

 

長政は背筋が凍るような思いで、声を絞り出す。

 

「義兄上、大樹様・・・ま、まさか・・・お二方は・・・。」

 

「1000年も昔、仏教は海を越えこの国に伝わりました。その過程で神道と仏教は争い、今の形に収まりました。神仏習合・・・、仏教は神道を侵食し仏教が主、神道が従であると言う考えが広がりました。平安の世には神前での読経や、神に菩薩号を付ける行為なども多くなりました。日ノ本で仏、菩薩が仮に神の姿となったとし、阿弥陀如来の垂迹を八幡神、大日如来の垂迹が伊勢大神であるとする本地垂迹説が台頭し、鎌倉殿の世にはその理論化としての両部神道が発生しました。もちろん、神道側からは神道を主、仏教を従とする反本地垂迹説が出されましたが、もはやどうにもなりませんでした。仏教は日ノ本全土を席巻し、強訴と言う形で朝廷の政をも歪め、今の日ノ本の混沌の一因となったのです。妾が天照大御神様から託された日ノ本をめちゃくちゃにした・・・妾の愛した日ノ本国を・・・・・・。ですが、仏教は日ノ本に深く馴染んでしまった。もう、この国から取り除くことは出来ない。ですが!これだけは成し遂げる!成し遂げねばなりませぬ!日ノ本の国では仏教が主、神道が従にあらず!神道が主、仏教が従である!酒池肉林におぼれる腐敗した叡山を焼き払い!人々を煽動し世を乱すようなやり方を選び妾にこの様な手段を取らせた石山本願寺は絶対に滅ぼす!絶対にだ!」

 

長政は大樹の気に押され、床几から転げ落ちてしまう。信長以外の諸将たちも皆気圧されていた。

 

信長は立ち上がり、長政を助け起こしてから声を掛ける。

 

「山本山下の僧衆、王城の鎮守たりといえども、行躰、行法、出家の作法にもかかわらず、天下の嘲弄をも恥じず、天道のおそれをも顧みず、淫乱、魚鳥を食し、金銀まいないにふけり、六角・斎藤をひきい、ほしいままに相働き、京の鬼門を封じている延暦寺は滅ぼさねばならん。」

 

 

元亀2年(1571年)9月12日、織田信長は全軍に総攻撃を命じた。まず織田信長軍は坂本、堅田周辺を放火し、それを合図に攻撃が始まった。

 

信長は包囲を狭め、腐敗した叡山の僧たちを切り捨てさせた。長政も覚悟を決めて、これに加わった。

 

比叡山の焼き討ちの後、本願寺を除く殆どの寺院が反信長の旗を降ろし信長に恭順した。

これにより、神仏習合の考え方も変わり神道が主、仏教が従であると言う考え方に変わっていくのであった。

 

 

 

 



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56 大樹信長記 義昭の企み

 

比叡山焼き討ちの影響は思いの外大きく、すでに敵対している本願寺は信長を仏敵に指定。徹底抗戦を決断した。それ以外の寺院は破戒僧溢れる叡山について腹にある物はあったが、信長の行動に恐怖し表立った行動を控えた。さらに各宗派の代表者たちは信長の動きに伊勢神宮、大樹大社、浅間大社と言った神社衆が支持を表明したことに驚きが隠せなかった。

 

この事態を少しでも緩和させるために東大寺の一角を借りて、大樹野椎水御神はある人物と会談に臨んだ。聖白蓮、命蓮聖の姉であり妖怪との融和を考える派閥の長であった。真言宗でもかなりの影響力を持つ彼女との会談で、仏教内の穏健派を取り込もうとしたのだ。

 

「妖怪と友好的な関係を築く大樹様のお考えは一定の理解を持って受け入れられるものでしょう。多くの部分で意見の一致を見ました。」

 

白蓮との会談は一応の成功を見た。

 

「大樹様は神道が主、仏教が従とおっしゃいましたが日ノ本においてこれの上下を決めるのは無意味な争いを生みます。神仏習合の考えにおいてはこの部分はあえてあいまいにしておくべきではないでしょうか。」

 

一定の課題を残したが、大樹、織田信長は真言宗の協力を得ることとなる。

 

 

 

 

 

一方、三好義継を擁した三好三人衆は摂津に上陸し瞬く間に制圧、石山本願寺の蜂起に伴い一向一揆衆が決起、信貴山の松永久秀と協調する動きを見せる。この動きに根来衆・雑賀衆が同調し、織田方の畠山昭高を紀伊から追い出した。河内国へ戻った昭高であったが状況は悪化し、大和国へ逃げ込んだ。

 

大和国の筒井順慶は織田に味方することを決断。東大寺大仏殿放火など三好方に敵対的な大和国の寺社衆は筒井家に全面協力を申し出た。そのため、多くの僧兵の協力を得た筒井家は大和国の国境を固め松永を中心とした敵方の侵入に備えた。

 

 

また、足利義昭は比叡山より落ち伸びた斎藤龍興と六角親子を匿い決起に備えた。

 

「石山本願寺に一向一揆衆、三好に松永は和泉と河内、摂津の過半を掌握。紀伊の畠山を叩き出した根来衆と雑賀衆。一色氏、波多野氏、包囲は仕上がりつつあります。後は信玄公の上洛を待つばかり・・・。」

 

一色藤長が義昭や他の幕臣たちに説明する。信玄公上洛の目途もつき、勝利を確信していた。

 

「藤長、大義であった。」

「ありがたきお言葉です。」

 

義昭は龍興の方を振り返り彼らも労う。

 

「龍興殿に六角殿もここで無念を晴らせるだろう。うんうん。」

「絶対、織田を滅ぼしてやりますでがなぁ。」

「南近江に伊賀の領国、取り返して見せます。」

 

義昭は周りに挨拶を済ませてから、藤長を連れて席を立つ。

屋敷の裏庭まで行くと、赤いでかい顔の妖怪と風格のある老人が待っていた。

 

「おぉ~。お待たせしましたぬらりひょん殿!」

「うむ、義昭殿?手筈はいかがかな?」

 

「信玄公が動いてくださいましたぞ。」

「諏訪大社が邪魔をしなかったのか?」

「信玄公もなかなか、諏訪家を力で黙らせて、快川上人ら仏法の術者と鬼道衆を使い諏訪大社を封じたらしいですな。」

 

その話を聞いたぬらりひょんは信玄が掌握する神すらをも封じる退魔の者たちに警戒を覚えたが、そのことは顔に出さずに義昭との会話を続ける。

 

「それは重畳、こちらも天狗共が内輪もめをしている隙に両面宿儺の封印を解いてやったぞ。」

「ありがたい。これで京の狐狸どもは問題にならなくなった。幕府再興にも手が届きましたな。」

 

 

 



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57 大樹信長記 信玄上洛 天竜川の戦い

甲斐・武田信玄、動く。

足利義昭、本願寺顕如の上洛要請を受けた信玄は遂に軍勢を纏め上げ3万の兵力を持って

甲斐信濃を発った。

これより先、天下を掌握すべく武田信玄は兵を進めていた。徳川領に侵攻した武田軍は怒濤の勢いで諸城を陥落せしめ、領内を席巻。

 

徳川軍主力を三方ヶ原に誘い出し、完全に叩き潰した。徳川勢を叩き潰した武田軍であったが、徳川の援軍に動いた織田軍はすぐに徳川領へ援軍を送った。信玄は織田の素早い動きを警戒し一時浜松より後退し天竜川を挟んだ磐田に陣を敷いた。

 

「主、いずれか有道なる?」

「武田!」

 

「将士、いずれか有能なるか?」

「武田。しかし、織田も劣る存在ではなし。」

 

「理法、いずれか得たる?」

「武田じゃ!」

 

「軍令、いずれか行なわる?」

「武田と織田、互角と見る。」

 

「兵衆いずれか強き?」

「妖怪が味方に付いた織田が上と見た。」

 

「士卒いずれかならいたる?」

「武田と織田、互角かと・・・。」

 

「賞罰、いずれか明らかなる?」

「互角かのう。」

 

七計を持って織田と武田を天秤にかけていた信玄は顔を曇らす。

七計問答は、強国となった最近では将の士気を上げる儀式に近くなっていた。

そもそも、士気上げの儀式の為、武田に贔屓目なはずなのだ。

 

「七計問答で、ここまで喰らいついてくるとは・・・謙信ぶりであるな。」

 

信玄は七計問答でここまで不安を感じる織田信長と言う存在に不気味なものを感じたのであった。

 

 

 

対する信長は、三好含む西への対処を後回しにして戦力の大半を信玄との対決へと向けた。

信長は尾張・美濃・伊勢志摩・越前織田領から兵力を抽出した兵と河童山童他妖怪による5万と、徳川家康の2万であった。

 

織田方の陣では景気づけの宴会が開かれた。

 

「余裕ですね、笑ったりして・・・。」

「勝利を確信しているからな。長政が1万8000の兵を率いてこちらに来ておる。これで信玄坊主を討ち取ることが出来る。」

 

織田方の陣には連日河童の里から鉄砲が運び込まれる。

その数は織田がすでに保有している鉄砲と合わせて1万丁、その数は今も増え続けている。

石火槍や徳利焼夷弾も同時に運び込まれている。

信玄も所領から援軍を呼び4万まで膨れ上がったが、織田・徳川・浅井の連合軍はそれ以上に膨れ上がっていた。

また、美濃に送り込んでいた手勢は織田方の天狗たちの攻撃を受け敗退し思うような結果を得られなかった。

 

「いかに武田が精強であっても、時の流れには抗えない。」

「新しい風は、信長・・・貴方ですか。」

「俺だけじゃない。俺の下に集ったあいつら全員だ・・・。」

 

人と妖怪が酒を酌み交わし轡を並べ、道を同じくし一つの時代へと進む。

そんな思いが、私には伝わってきた。この人を選んで良かった・・・そんな思いが私の心を占めていた。

 

元亀2年(1571年)12月16日、天竜川を挟んで両軍が対峙する。

連合軍は武田軍の渡河中に鉄砲による大規模射撃を行い初撃で大打撃を加える戦術を展開していた。しかし、予想していたより天竜川の水位が低い。

 

「大変でございます!敵は天竜川の上流で水をせき止めております!」

「しまった!水が腰辺りになれば渡河もそう難しくない!鉄砲が有効に使えん!」

 

「大殿、武田は狼煙で合図を送っているようです。狼煙で合図を送ると言う事はそう遠いところにあるとは思えません。」

 

織田軍の軍師・竹中半兵衛が信長にそう伝えると信長は戦術を切り替える。

 

「サル!お前は上流へ向かい川をせき止める武田を追い払え!鉄砲隊は一撃を加えたのち後退!その後は兵の数を生かして武田を飲み込む戦術を取れ!」

「っは!お任せを!」

 

連合軍は約10万、武田の4万と比べれば倍以上であった。

妖怪兵を除けば、人間の兵で考えると武田兵の強さは随一であった。

 

戦いは連合軍の鉄砲隊が先手を取ったが、初撃は予定より短い射撃時間により大打撃を入れることに失敗した。

両軍の騎馬と歩兵がぶつかり合う、織田軍にしては精彩に欠ける戦いが始まった。

徳川浅井は互角に渡り合っていたが、織田は押され始めていた。織田軍には妖怪兵がいる為に織田軍も敗退することは無かった。妖怪達の戦いぶりは称賛に値する。

織田方の丹羽長秀、前田利家、川尻秀隆と言った諸将も武田相手に勇戦している

 

「信玄の陣が前に出ています。」

 

私の言葉で、察した信長は・・・。

 

「打って出るしかあるまい。」

 

信長の馬廻りと私の向日葵衆が前に出る。

ここで信玄を討てば、こちらの勝ちだ。この時ばかりは幽香や白蔵主、刑部狸を他の対処に充てたことを後悔する。

 

「団三郎!団三郎狸はおるか!」

「ここに!」

 

私の呼び声で、団三郎狸が駆け寄ってくる。

団三郎狸は刑部狸の側近であり、妖怪としても優秀な中堅妖怪だ。

 

「これより、妾は織田の大殿と共に信玄坊主の本陣に切り込む。団三郎よ妾にお供し先陣を切れ。」

「っは!お任せあれ!」

 

団三郎狸を先頭に信長の天下布武の大将旗と私の大樹紋の旗が、信玄の大将旗へと動き出す。秀吉の隊が河城にとりの隊と共に上流に布陣していた秋山信友の隊を陸と河で挟み撃ちして追い払ったと言う報告が伝わる。

川の中ほどを越えたあたりにいる信玄はせき止められた水がもうすぐ迫ってくることを察してかこのまま渡河しようと進んでくる。

信玄の隊と私達の隊の距離が縮まっていく。

両軍の総大将が、ぶつかり合うこの場所は自然両軍の将兵が集まって来て激しい戦いが繰り広げられる。

 

武田方の槍兵が槍を構え、道を阻む。

 

「突撃!突撃!突撃ぃいい!!」

 

団三郎狸の怒号が飛び、妖怪狸が腹を膨らませる。

武田兵の槍が何本も突き刺さり、妖狸たちの表情が歪むんだ。

 

「怯むな!押せぇ!!」

「「「ぬぉおおおお!!」」」

 

彼らは全身に槍を受けながらも武田兵を押し出した。

彼らはその身を犠牲にして、大勢の武田兵を捲き込んで川底へと沈んだ。

川の水位が少しずつ上ってきている。

 

信玄の姿が見えてくる。

板で囲い、屋根を付け乗るところが通常の二倍はありそうな輿が見える。信玄も老齢だ馬にはもう乗れないのだろう。

その周囲には60人程の祈祷僧がいる。

 

「本願寺の坊主共が引っ張り出す理由もわかる。信玄坊主め、妾が巫女の大将ならば奴は坊主の大将と言うことですか。者ども!敵の大将は目の前です!討ち取れ!・・・!?」

 

私の方にいくつもの法術が飛んでくる。これに対して向日葵衆の妖精巫女たちが結界を張り攻撃を防ぐ。彼女たちも巫女の端くれ、術の類は使えるのだ。術が飛び交う。

 

「おのれ!鬼道衆か!臆するな!敵の大将は目の前です!!」

「怯むな!押せ!押せ!」

 

私と団三郎の声がこだまし、武田の馬廻りの将が「押し返せ!」と怒号を上げる。

信長の馬廻りも追いついて武田の馬廻りと戦い始める。両軍の侍と足軽が入り乱れ乱戦の様相を呈してくる。カワウソが印字射ちの要領で礫を放つ、鎧面積の小さい鬼道衆や祈祷僧には十分効果がある様で信玄の輿の結界が壊れる。

 

「今だ!撃て!」

信長の号令が響く。

信長の周りには河童や山童たちが鉄砲や石火槍を構えて、一斉に放った。

担ぎ手のひとりが倒れ、姿勢を崩す。

 

「第二射!撃て!」

 

再度の射撃で輿に命中し、それが原因なのか。信玄の乗る輿が渡河を諦めて撤退していく。

輿の割れ目から血が滴っていた。

 

水位はさらに上がり・・・

 

「限界だな。下がれ!」

信長は素早く指示を出し、兵を下げ始める。

信玄の方も下がっていく。

 

水位が戻り、戻り切れなかった武田兵が流されていく。

水嵩が増した天竜川は河童やカワウソにとっては独壇場だ。

逃げ遅れた武田兵が川に沈められていく。連合軍の一部が追撃を開始する。

武田軍が撤退を開始し始める。

 

ここに来て、武田に勝ったことを自覚出来てきた。

 

「この戦い!我らの勝ちだ!勝鬨を上げろ!」

「「「「「えい!えい!おぉおおおお!!」」」」」

 

信長の一声で連合軍から勝鬨が上がった。

 

天竜川の戦いで武田信玄を破った連合軍は解体され、家康は遠江の武田残党を狩り、駿河は北条と分け合うことになるだろう。長政も加賀越中の一揆衆を織田の援軍と共に討ち取ることになるだろう。

 

 

「儂の命・・・今日で終わった。三・四年は死を隠し・・・国内の備えを固めよ。織田家の勢いはただごとにあらず。だが、奴の勢いは必ず衰える。その時こそ、京に出でて武田の旗を・・・たて・・・よ。」

 

武田信玄の命ここに尽きる。

将星の一つが地に落ちたのだ。

 

 

武田軍を打ち破った織田軍は、連合軍を解散しそれぞれの問題の解決に乗り出した。

徳川家康は遠江の掌握と駿河の刈り取り。この刈り取りには代替わりした北条氏政も加わっており、駿府では徳川と北条が奪い合うように刈り取っていた。

一方の浅井長政も加賀越前越中の一向一揆対策に乗り出した。また、越前は織田と浅井の折半である。

 

そして織田信長は、兵の一部を尾張美濃の守りに残し3万を率い佐久間信盛らとの合流を急いだ。

大和国を掌握した筒井順慶に対して、紀伊・南河内の畠山秋高は守護代の遊佐信教に殺害される。遊佐信教はそのまま三好軍に合流し信長と敵対する。

信長は筒井順慶、畠山残党らと合流。河内和泉へと急いだ。

 

 

 



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58 大樹信長記 復活 両面宿儺

 

信長率いる3万と筒井軍及び畠山残党1万は河内を掌握し、和泉・摂津へと軍を向けた。

堺港は刑部狸の手勢が守りを固めており、無傷であった。

 

信長は信貴山攻めに筒井軍1万と池田恒興5000を差し向ける。この戦いには聖白蓮を介した真言宗系の僧兵が一部参陣し、松永久秀が籠城する信貴山城を包囲した。

 

織田軍は信長率いる2万5千と和泉で防戦している佐久間信盛の軍勢5千、摂津の織田方の軍勢で三好軍を挟み撃ちにしようと動いた。

高屋城を陥落せしめ、堺を再度保護下に置いた。

しかし三好軍は讃岐・阿波から援軍を得て、さらに雑賀根来衆の援軍を得て膨れ上がる。

また、石山本願寺を軸に本隊は動かなかったが一部の一揆衆も前に出て織田軍と交戦した。

 

四国から援軍を迎えた三好軍は1万2000、本願寺軍2万、雑賀根来衆からの援軍2万、遊佐軍2000、摂津の三好方(詳細不明)と言う5万越えの大軍であった。

また、鉄砲や大砲の保有数は堺、国友、日野、河童の鍛治町を抑える織田軍の鉄砲保有数は群を抜いていたが、雑賀根来衆の銃火器保有数は織田に迫るほどであり、旧政権であった三好軍も侮れないものがあり、それらと協力関係にある本願寺も無視できない程であった。

 

その為、織田軍はそれまでのように火力に頼った戦いで有利に立つことが出来なかった。

和泉・摂津の各戦場で両軍が銃火を交え、戦国時代とは思えないような激しい銃撃戦が行われた。この2倍もの敵に渡りあえたのは織田・大樹軍の保有する個人の最強戦力である大妖怪たちの存在であった。

 

しかし、信長も手を拱いていたわけではない。

信長は美濃や尾張から援軍を呼び寄せ、柴田勝家、稲葉一鉄らは命に従い軍の編成を進めている。

また、元興寺の妖怪住職ぐわごぜは真言密教総本山西大寺に働きかけ、織田軍へ援軍派遣を約束し、焼き討ちの報復と言わんばかりに華厳宗東大寺も僧兵派遣を約束した。

 

 

 

また、大樹大社は天狗の内乱にも積極的に介入し関東の内乱に対して大樹は大樹大社保有の武装神官及び戦巫女だけでなく妖怪軍を投入した上に、北条氏政に圧力を掛けて、天狗の反大樹派の討伐を命じた。

 

日光山は一早く寺院衆を通して恭順を誓ったが、箱根山や秋葉山は恭順を拒否。

大樹大社、大神官である大妖精の命を持って討伐が命じられた。

秋葉山には日光山と高尾山の天狗たち、そして大樹恩顧の妖怪衆がこれにあたり、箱根山には北条軍1万、大樹大社から1000の兵力が投入された。

 

箱根山の戦いは激しい物であり、風魔忍軍の投入も行われ、翌月には徳川家より3000の援軍が到着。種族の能力的な力の差を投入した兵力による人海戦術で押しつぶした。箱根山は各所で火の手が昇り、天狗の法術と北条・徳川連合軍の銃と弓が激しく射ち交わされ、錫杖と刀が打ち合わされた。

この戦いで大樹は反大樹派の妖怪たちに自身が影からではなく正面から天下を掌握しつつある織田家、関東の有力大名他大大名を動かすだけの力を持ったことを示したのであった。

 

 

飛騨・近江・大和・山城の天狗衆の多くは関東で大名家を動員した反大樹派の徹底した弾圧と大樹大社の使者が織田家・浅井家・筒井家・姉小路家を激しく行き交う様を見て、こちらでも討伐の準備が進んでいると察し、神の怒りを買うことを恐れ次第に沈静化していった。

反大樹だった天狗もほぼすべてが、大樹に詫びを入れ中立を誓うか大樹方に廻った。

 

 

 

 

 

織田軍は公方・義昭が策した和泉河内摂津の三好軍、本願寺、松永軍に苦戦する様を見て遂に京で挙兵した。

室町幕府の力を結集し、自ら信長を打倒しようとしたのだ

 

 

足利義昭の挙兵。

義昭はぬらりひょんに付いた妖怪達と共に京の制圧に動き、京都の治安維持のために残された織田軍と白蔵主の手勢と交戦し彼らを退けた。

 

白蔵主及び愛宕太郎坊よりの使者が到着し、事と次第を伝えた。

 

「足利義昭挙兵!ぬらりひょんの手勢と共に京を掌握!ぬらりひょんは斑鳩流術師と共謀し両面宿儺を操り進軍中!白蔵主様は洛外にて軍を再編しておりますが、望み薄く大樹様の来援を望む次第にございます!」

 

「鞍馬山がこれに同調し、他の大天狗が討伐を行っております。鞍馬山の暴挙は天狗衆の意にありません。どうか、御理解ください。」

 

再建中の秋大社に宿を取っていた私達は信長の危機を聞き、兵を動かそうとしていた矢先の事でした。

 

「っ・・・河童たちは和泉・摂津の戦いに赴いていましたか。」

「・・・私の手勢は小勢ですので・・・・・・周囲の妖怪達を搔き集めたとして、それから洛外の白蔵主の手勢と合わせ2000が精々かと。・・・風見殿を越中・加賀一向一揆の討伐に向かわせたのは間違いだった。」

 

私の横に控える刑部狸は苦肉の表情を浮かべながら返答した。

 

「向日葵衆や他の妖精巫女たちはどうです。周囲の寺社衆を集めては?」

「向日葵衆や妖精巫女たちを搔き集めて500、すぐにでも呼び集めるべきです。ですが寺社衆は・・・所詮、人の軍。両面宿儺の前ではどうにもなりますまい。であれば尾張美濃からの援軍を待ってからでも・・・。」

 

それを聞いた私は刑部狸の案を却下する。

 

「それは成りません。両面宿儺の様な鬼神を放置しては京の民に犠牲が出てしまいます。それに両面宿儺の封印を解くような連中です。帝にすら手を出しかねません。」

「大樹様!それは成りません!大樹様は未だ力を完全に取り戻したわけではありません!御身に何かあってはなりませぬ!」

 

私は京へ向かう意志を刑部狸に告げると、刑部狸は血相を変えて猛烈に反対する。

 

「私は約束したのです!天照大御神からこの国を託されたのです!」

「な、なりませぬ!なりませぬ!先ほども言ったように貴女様は万全ではないのです!そんな状態で戦ったら!御身が滅んでしまいます!せめて、諸国の妖怪達の終結をお待ちください!」

 

私は刑部狸の言葉を無視して障子に手を掛ける。

私が障子を開ける前に、スパーン!と音を立てて障子が開かれる。

 

「お前ら、私の事を忘れていただろう?堺では随分派手に戦ったんだがな?」

 

「あ、あなたは・・・。」

「えばんぜりん殿か?確かに風見大妖と渡り合える実力、共に戦っていただけるなら心強い!!」

 

目の前に現れたのは私と見た目の年齢がほぼ変わらない程度の金髪少女。であった時はボンキュッボンの美人吸血鬼だった。エヴァンジェリンさんだった。

堺の一件から大樹大社の客分として、過ごしていた彼女だが確かに彼女の実力ならば両面宿儺と戦えるかもしれない。

 

「どうした。驚いているのか?呆けた顔をして?・・・さっそく行こうではないか。両面宿儺とやらの討伐に。」

 

 

 

 

 

「きゃーーーー!」

「逃げろーーー!」

 

幕府軍の尖兵として斎藤龍興や六角親子が両面宿儺を前に出して、織田に協力的だった名士や商人たちを惨殺して回る。

 

「織田に与する奴らに慈悲はいらん!」

 

彼らの周りには挙兵した足利の兵だけでなくぬらりひょんの手勢の妖怪達もいた。

義昭率いる室町幕府軍は、過激な行動が目立ち人心が一瞬で離れて行った。

これを見た細川藤孝は義昭に諫言するが聞き入れられない。

 

「かようなふるまい!幕府から人の心が離れてしまいますぞ!」

「ん?そちは怖気づいたんか?あ!?信長に通じておるのか!?」

「松永久秀、動けず。武田が引いた今・・・いくら、両面宿儺を従えたからと化け物1体で軍には勝てませんぞ!織田には神々が味方しておりますぞ!諏訪の戦神らが動いたらもはや勝ち目はありませんぞ!」

 

義昭はそれを聞いて大笑いする。

 

「ふひゃひゃひゃはは!!大丈夫、戦神は諏訪からでれん。残る豊穣の神ごときで両面宿儺を倒せるわけないんよ。ぬらりひょん殿も協力してくれる・・・この策は万全なんよ。」

 

 

 



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59 大樹信長記 京都決戦

京の町では織田狩りを称して町衆に乱暴狼藉を働き、多くの貴族達が被害を恐れて御所に避難していた。

 

一条内基は四国一条家から引き揚げさせた武士たちをそのまま内裏の守りに回していた。

 

「幕府よりの使者である。門を開けよ!」

 

幕府の使者を拒否する内基。

 

「帝のお目通り願いたくば、京での狼藉をやめなはれ!」

 

 

内基の視界の奥には両面宿儺が京都の町を蹂躙していた。

 

 

 

荷駄にはよう!千両箱をのせなはれ!商品はこの際おいてってええ!命あっての物種とは言え金が無ければ、商人は廃業おすからね!。」

 

茶屋四郎次郎清延は番頭や手代たち奉公人を叱咤し逃げだそうとしている最中だった。

京都の豪商の多くは逃げだしていた。彼はその中でも最後の方であった、彼は義昭の横暴にで多くの歌人、華人、茶人、絵師が失われることを懸念し、自分と共に逃げるように説いて回っており、そのため時間がかかってしまったのだ。

 

「皆さん!少々乗り心地は悪いかもしれきぃひんが、堪忍や。番頭さん、早く出してくんなさい。・・・あ、あぁ・・・。」

 

 

 

「茶屋殿、どこへ行かれるのです。」

「幕府の治める京で勝手なふるまいはいけませんぞ。」

 

残党を率いた六角親子がいく手を阻む。

六角義治の放った矢が茶屋の丁稚に当たる。

 

「あぎゃ!?」

 

年端も行かない丁稚の少年がその場に崩れ落ちる。

 

「子供に手を上げるんか!あんたらは外道や!」

 

誰かが言った言葉を無視し、義治は二本目の矢をつがえる。

 

「このガキの様になりたくなければ・・・。大人しく出て来い!楽に死なせてやる。」

 

茶屋たちは完全に腰が抜けて動けなかった。

放たれた矢は彼らに命中することは無かった。

 

「危なかったわね。大丈夫・・・?」

「戦う力のない人たちに手を上げるなんて、貴方達は本当に武士なの?」

 

六角の残党の前に立ちはだかったのは秋静葉と秋穣子。

丁稚の少年の傷が癒えていく。

 

「お、お姉さん・・・?」

 

丁稚の少年が気が付いたのを確認して、手代の男に預ける。

 

「大丈夫そうね、さてと・・・。」

「無辜の民を守るのも神の仕事ってこと!」

 

 

「っぐ!者ども臆するな!数で押せ!」

「あれは豊穣の神で戦神ではない!」

 

静葉と穣子は薙刀を構えて六角義治と六角承禎と向かい合う。

 

 

 

将軍御所

 

「ひゃひゃははははは!!将軍家の威光に従わぬ者はまとめて倒してしまえ!」

 

義昭は興奮気味に声を上げる。

 

「如何かな?両面宿儺・・・仁徳天皇の時代に飛騨に現れたとされる異形の鬼神。かの力を持ってすれば、神々とは言え時を経て衰えた存在・・・両面宿儺を持ってすれば討ち取れるだろうて・・・。」

 

ぬらりひょんの言葉に横にいた蛇骨婆は「ふぇふぇふぇ」と嗤って答える。

 

「足利の幕府に敵対すれば誰だろうが討ち滅ぼされるんよ。神だろうとなんだろうと!ひゃひゃははは!」

 

「報告申し上げあげます!妖怪共およそ2000が京に入りました!各所にて戦端が開かれております!」

 

伝令の言葉を聞いた一色藤長は義昭に変わり指示を出す。

 

「来たか。妖怪の軍勢・・・恐らく織田の最強戦力・・・ここで討ち取れば織田の快進撃も止まる。全軍、妖怪共を迎え撃て!」

 

足利家の組頭や足軽大将らは大樹たちを迎え撃つ。

 

「掛かれ!」

「「「うわぁああああ!!」」」

 

 

「行け!大樹様の道を切り開け!」

「「「わぁあああああ!!」」」

大樹恩顧の妖怪と妖精達が各所で衝突する。

 

 

 

 

 

数百年前に陰陽師によって朝廷を追われた者たちである呪禁師たちが、両面宿儺を制御しながら進んでいく。

 

彼らの前を行く斎藤龍興は刀を振るってその勢威を見せつける。

 

「行けや!行けや!織田に与するもんを皆殺しじゃあ!化け物どもも殺せや!」

 

足利と斎藤の兵が大樹たちを取り囲む。

 

「大樹様!雑魚の相手はお任せを!」

「白蔵主殿!蹴散らすぞ!」

 

2000は越えるであろう兵士達を相手に二人は大太刀周りを演じる。

 

 

 

 

そして、大樹とエヴァンジェリンは室町幕府軍と対峙する。

 

 

「出でよ。碧奧蘭蒂・・・。」

 

大樹の声に反応して木々や草花が集まり絡み合い、枝葉が伸びていき、花が咲き実がなって枯れていく。恐ろしい勢いで繰り返し、神武東征の折り洩矢の国を攻めミシャグジたちの心胆を寒からしめた巨獣が再び顕現した。

 

木々草花の獣、守護華獣・碧奧蘭蒂。

 

60メートルの巨体に二つの顔と四本の腕を持つ鬼神に大樹は向き合い。碧奧蘭蒂と両面宿儺は互いを敵と認識すると、威嚇するように睨み合う。そして、ついに2体の巨獣がぶつかり合った

 

「キシャー!」

「ウォオオオオン!」

 

数多の蔓が両面宿儺を捕らえ、ハエトリグサを想起させる牙の生えた蔓は噛みついた。両面宿儺は蔓を振り払い引きちぎる。

巨獣同士が激しく戦う。

 

私は意識を集中し、エヴァに力を注ぎこむ。

 

「これなら、いけるぞ!・・・ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス・エクステンダントゥル・アーエーリ・トゥンドラーム・エト・グラキエーム・ロキー・ノクティス・アルバエ!来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を!」

 

大地から巨大な氷柱が飛び出し両面宿儺を貫く。足を地面に凍結され身動きがとれなくなる。

碧奧蘭蒂は動けなくなった両面宿儺に牙の生えた蔓たちを向ける。

蔓たちの口が開かれ口から樹液が放たれる。

シューと言う音を立てて両面宿儺の体が解け始め、二つの顔が苦悶を浮かべる。

 

「グォオオオオオ・・・。」

 

両面宿儺は生きながらにして溶かされると言う生き地獄を味わいながら消滅した。

そして、碧奧蘭蒂の方も蔓を下ろす。

エヴァの氷の魔法に巻き込まれたのだ。

寒さに弱い植物の巨獣は主人の命令を守るために力を使い果たした。

 

「ありがとう、碧奧蘭蒂。」

 

碧奧蘭蒂に生える霜は彼女をより美しく白く飾り、ゆっくりとその巨体を下ろしていった。

 

 

『守護華獣・碧奧蘭蒂と鬼神・両面宿儺の戦ひは あまりにも違いすぎて、我々は何も考えられなありき。京のわたりは圧倒され唯々見たるばかりなりき。』

 

 

両面宿儺は倒された。

 

幕臣、細川藤孝が武器を下ろし刀を捨てた。

「公方様にはついていけまへん。細川は織田に下らせていただきます。」

 

三淵藤英は騎手を返して我先にと逃げ始める。

「両面宿儺がやられた・・・。もうだめだ!お終いだ!逃げろぉおおお!!」

「助けてくれ~!」「ぎゃあああ!!」「ひえぇ!」「うわあああ!?」

 

京の幕府軍は雪崩のように一斉に逃げ始める。

 

1万を超える京の幕府軍は僅か2000の手勢によって散々に討ち払われ京を叩きだされた。

 

 

帝がおわす御所の中、御所を守る一条内基。そして、御所の中から弓を構えた近衛前久。

普段のきらびやかさは鳴りを潜め、帝のいる寝所を守らんと使い慣れない武器を持って戦う気でいた彼らの前には秋静葉、秋穣子の豊穣神二柱、白蔵主、刑部狸、ぐわごぜと言った恩顧の大妖怪を従えた。大樹野槌水御神の姿があった。

 

 

『和泉への道中よりされど かの神の戦ひのけしきは伺へ 雷鳴 業火 氷柱 が京都飛び交へど遠めに見えき。』

 

 

※京都府資料室所蔵 『兼見卿記』より

※織田家家臣記録保存会所蔵 『柴田軍記』より

 

 

 



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60 大樹信長記 織田軍再編中

戦記は一区切りにする布石回。


 

和泉での戦いは柴田勝家や稲葉一鉄率いる援軍が到着した事によって、数の差を戻した織田軍が優位に立った。天正元年(1573年)に若江城の三好義継を自害させたのを機に三好軍は撤退、一揆衆は石山本願寺まで撤退し、雑賀衆も紀伊もしくは石山本願寺に撤退していった。摂津の戦況も織田方に優位に傾いていた。

義昭は丹波を抜けて西へと去って行き、信長包囲網は瓦解した。

 

この頃から、織田信忠、信雄、信孝と言った信長の子供達が初陣をして表舞台に立ち始めた。

大きな敵対勢力がいないこの時期、織田家は勢力の回復に努めた。

また、逃亡した義昭の足取りは掴めず、ぬらりひょんも畿内から姿を消していた。

信長は実質的には「天下」主催者としての地位を継承し、安土城の築城、馬揃えの企画、名器狩りなどの天下人の嗜みをやり始める。

また比叡山に大樹大社の建立(後に延暦寺も再建され神宮寺の形態に収まる)、秋大社の再建が行われた。

 

つかの間の平和を甘受した時期でもあった。

京都所司代に村井貞勝、堺の代官に松井友閑、右筆(秘書)に武井夕庵が配され領内統治に力を入れる一方で、楽市楽座などを中心とした革新的な経済政策を推し進めると同時に京に堺・清州・大湊などの商業の栄えた港や街を掌握し、徳川・北条・浅井の抱える港町とも連携し経済の発展に努めた。また、浅井との連携のために琵琶湖の水軍の掌握も行い安土と敦賀の交易も盛んに行った。

 

また信長は仏教に対して敵対的なそぶりを見せることもあったが、これは仏教徒に敵対者が多かったためであり降りかかる火の粉を払ったまでである。さらに付け加えるなら仏教側も織田家に積極的に味方した勢力も少なくない。また、信長は神道の保護に積極的であり秋大社の再建に始まり、石清水八幡宮の修造、比叡山の大樹大社建立、伊勢神宮の式年遷宮の復興を計画するなど厚遇した。キリスト教に関しても比較的寛容であったが後にキリスト教でも過激な傾向のカトリック教会とは関係が悪化している。

神道優遇の理由としては信長と親密な関係を築いている大樹野椎水御神は豊饒の神であり、その友人兼姉貴分である秋比売神静葉・穣子は豊穣の神であった。この神々の加護を積極的に受けた織田領国の石高は高水準を維持した。土地を強くする大樹野椎水御神の加護なのか採掘物の品質も埋蔵量も高い水準を維持していた。

 

また、軍事においては信貴山城に籠る松永久秀は降伏させ、信貴山城以外は取り上げ織田家と筒井家で折半とした。丹波・波多野氏や丹後・一色氏は織田家に敵対を続けておりこれの征伐のために明智光秀を総大将とした軍団の編成が行われている。若狭国である敦賀側半国が浅井家、残りの半国を若狭武田氏当主武田元明に安堵するが一色家への牽制のために織田家の兵が常駐したため若狭武田家の権威は低下する一方で、明智光秀の丹波・丹後攻めが終わると武田元明は後瀬山城周辺の小大名へと転落した。若さ半国の大半は織田家に組み込まれることとなる。

また、石山本願寺への備えに佐久間信盛に大軍を与え包囲を継続させた。

羽柴秀吉の軍団を編成し、摂津の安定に充てた。これは織田家に別所家や赤松家が臣忠したため近々行う播磨攻めの布石でもあった。

武田攻めの準備も始めており織田信忠と柴田勝家の2軍団をこれに充てる予定であった。

北陸方面であるが、浅井家が任されることとなる。

軍団長に任じられなかった主要な武将たちは2000~3000程度の遊撃軍を任せられた。

その中の丹羽長秀らは筒井家の援軍を加えて紀伊攻めを行う予定である。他にも遊撃軍は飛騨・姉小路氏の援軍や各軍団の補完などが任務とされた。また、長島の一揆軍に対しても遊撃軍が対処する予定である。

 

包囲網が瓦解し、織田家は畿内の掌握が約束され今後の隆盛の展望も見えておりその準備のための休息期間と言える時期がやってきたのである。

 

 

天竜川や京都での戦い以後、大勢は決し私が戦場に立つ必要が薄れ、朝廷と織田家の関係は非常に良好、妖怪達の軍事関係は側近・刑部狸、白蔵主が担っている。私のやることは大樹大社の神事と他の神社との繋がりの維持だ。諏訪大社の方だが、鬼道衆他、武田方の寺院に封じられているが神奈子たちを倒せる力はなく「心配無用、気長に待つ」と分社を通じて余裕のある連絡があった。

 

 

まあ、ひとまずは良しとしましょうか。

 

 

 

 

 



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61 大樹信長記 日常編①茶屋四郎次郎

日常編を書いてみましたが、戦記が抜け切れてないなぁ。


 

比叡山大樹大社の完成まで秋大社を間借りし、琵琶大樹大社・尾張桃園大樹宮を行ったり来たりしている。時折、武蔵の大樹大社にも顔を出す生活が続いている。

 

狩野松栄・永徳親子が京都での戦いに感銘を受け、大樹京都戦図屏風を制作していると言う。

私は彼らに会えればと思い、今彼が工房を置いている奈良の町へ向かうことにした。

その行程に信長が同行することとなった。

 

私も大ちゃんたちを呼び寄せて、ちょっとした休暇と思って商家や文化人の下に足を運んだりしようかな。勿論、お忍びで・・・。

 

 

最近は武将や大名たちの間で茶の湯が流行っている。

つい最近まではあまり興味もなかったのだけど、信長が嵌っていて茶会に誘われてしまいました。女性が茶席に招かれるのは珍しいのだけど、そう言ったことを気にしないのはさすが信長と言ったところなのでしょうか。

 

信長の茶会には私の他に2人ほど連れてくるように言われていましたので秋比売姉妹を同行者に誘ってみたところ。

 

「あら、懐かしいわね。禅宗の茶礼の事よね。」

 

静葉がそう答えると穣子がそれを訂正する。

 

「姉さん、今は茶礼って言わないで茶の湯とかわび茶って言うのよ。」

「穣子、もしかして私の持ってる茶器って今だと使えないかしら?」

 

そう言って仕舞い込んでいた茶器を出して見せる。番茶を入れるような茶器が出て来る。

 

「静葉さん、今の茶の湯は抹茶が主流ですよ。」

 

私がそう答えると、静葉は困った様で・・・

 

「どうしましょう。私の持ってるのは今風のじゃないわね。」

 

そう言って悩まし気に首を傾けた。

 

「じゃあ、商人を呼んで茶器を揃えてもらいましょうよ!京都で助けた商人さんに頼んでみましょうよ!私もそろそろ新しいものが欲しいの!」

「穣子ったら、無駄遣いはダメよ。」

「姉さん、これは必要経費よ。」

 

私も、二人と一緒に買っておこうかな。

 

「じゃあ、京都の商家に足を運びましょう。」

 

私がそう言うと二人とも賛成してくれて、京都に行くことにしました。

 

 

 

籠を雇って、付き人の妖精を数人連れて京都の商家茶屋へお邪魔することに。ここの店主である茶屋四郎次郎はこの前の戦いで秋姉妹が助けた商人さんだそうで交友関係があるそうです。

 

「お邪魔します。」

「茶屋さん、いる?」

 

秋姉妹に連れられて、店の中に入ると気が付いた番頭が大慌てで駆け寄ってきた。

 

「秋比売様!!ようこそいらっしゃいました!!すぐに主人を呼んでまいります!!お~い!すぐに旦那様を呼んできてくれ!秋比売様がいらっしゃいましたよ!」

 

丁稚の少年が店の奥へ消えた。他の奉公人たちも慌ただしく整列し始めた。

そして、ほぼ待つことなく店主の茶屋四郎次郎がやってきた。

 

「秋比売様、ようこそいらっしゃいました。えっと、そちら様は?」

 

茶屋四郎次郎は私の方を見て静葉に私の事を尋ねた。

 

「この子はお友達の大樹ちゃんよ。」

「大樹、大樹・・・!? 大樹野椎水御神様でいらっしゃますか!?」

「この子、信長様と好い仲なのよ。」

 

彼はすこし頭の中で情報を整理した結果、目を一瞬見開いて仰け反った。

 

「そ、それは・・・・・・・。」

 

秋姉妹はあまり気にした風ではないが、今彼の頭の中は爆発寸前だと思う。

もう手遅れだけど、これ以上余計なことを話される前に話を進めよう。

 

「あの、私達三人に茶器を見繕ってくださいませんか?」

「た、大変光栄でございます。御三柱に適う様な名物を見繕ってみます。」

 

私の言葉に彼は何とかと言った体で答えた。

 

「四郎次郎さん、大樹ちゃんには特に良いものを選んであげてくれるかな?たぶん、大樹ちゃん信長様の茶会なんかの会合に今後はいっぱい出るだろうから。場合によっては茶器以外の物なんかも見繕ってあげてね。」

「かしこまりました。」

 

穣子の言葉を聞いた彼は深く頷きながら答えた。

静葉と穣子は番頭さんたちと商品の品定めをし始めた。私は、茶屋さんについて品物の説明なんかを聞いている。

 

「信長様は派手好きですので、唐物を模写した粟田焼で作らせた天目茶碗などがよろしいかと思います。」

そう言って彼は霧箱から茶碗を取り出して傾けて説明してくれる。

「内側のこの部分をご覧になってください。曜変が内側の一部に出ていまして、信長様のお持ちの物には劣りますがここまでの物はまずお目に掛かれないと自負しております。」

 

私達は商品棚を回ったり、奉公人が奥から持ってきた商品を見せてもらったりして買うものを決めていく。

 

「では、それをいただきましょう。あと、何点か持っておきたいですね。」

「では、唐物で青磁と白磁の物を用意して、井戸茶碗も持っていた方がいいでしょう。和物は美濃焼や信楽焼などは基本ですので見繕わせましょう。あと、茶筅に茶杓は竹のものが良いでしょうな。茶巾と茶筅は新しい方がいいと言いますし多めに用意しなくてはなりませんね。茶釜は天明釜か霞釜がよろしいかと・・・。茶壷は・・・富士茄子を奥からお持ちしましょう。良いものです・・・。それと香炉ですね。」

 

富士茄子はあまり売りたくないんだろうな。口が重い。でも、見せられたら欲しいですよね。

 

「では、それらを一式頂きましょう。」

「はい畏まりました。では漆細工の茶箱は差し上げましょう。護衛を付けて店の者に届けさせますが秋大社でよろしいですか?」

「構いませんよ。」

 

私が会計を済ませていると秋姉妹も終わった様で話しかけてくる。

 

「済んだかしら?煎茶の道具も買っちゃたわ。」

「私達も終わったところよ。行きましょうか。」

 

二人の問いかけに私は頷きながら答えた。

 

「そうですね。でも、せっかくだから他も見て見たいわ。」

 

すると、茶屋が芸術家の狩野永徳の所に行ってみるのはどうかと言ってきた。

私たちも興味があったので、行くことにすると茶屋さんが気を利かせて知らせの使いを走らせてくださいました。

 

私達は途中で書物の店で書籍を数点買ったり、小物をいくつか買ったり見たりして永徳の工房へ向かったのです。

 

 

 



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62 大樹信長記 日常編②狩野永徳

 

 

狩野永徳の工房にはすでに先客がいたのでした。

 

「あれ、堀殿?」

 

信長の側近のひとり堀秀政殿が軒先で待機していました。

 

「あ、大樹様いらっしゃいましたか。信長様が中でお待ちです。」

「え、信長が中にいるのですか?」

「えぇ、お待ちしておりますよ。お入りください。」

 

それを聞いた、秋姉妹は少々わざとらしい感じがしましたが気を利かせてくれたようで・・・

 

「あ、ちょっと急用が!ね!姉さん!」

「そ、そうね!じゃあ、後はごゆっくり~。」

 

とりあえず、私たちはここで別れて私は信長の待つ工房の中へ入っていくのでした。

 

 

 

「お、来たか。本当はもう少し後でと思っていたが丁度ここに向かっていると聞いてな。」

「信長、これは・・・。」

 

狩野永徳は巨大な屏風絵を仕上げていた。

永徳は弟子たちともに寄って来て頭を下げる。

 

「あの時は、私も京の都におりまして大樹様の勇壮な御姿が目に焼き付きまして・・・この事を後世に伝えたいがために筆を執った次第にございます。」

 

私が数多の妖怪達を率いて鬼神両面宿儺に立ち向かう姿が描かれており、洛外よりの場所では六角の残党を討滅する秋姉妹や、室町幕府軍に立ち向かう織田軍や妖精巫女たちが描かれていた。

私の前には氷の塊を放つエヴァ?らしき姿が描かれており、永徳がだいぶ近くから目撃していたことも理解できた。

 

「これを、安土に建てる城に飾るぞ。」

「安土だと色んな人に見られてしまいますね。少し恥ずかしいですね・・・。」

 

「不満か?」

「嫌ではないのですがこそばゆいと言いますか・・・。神様を長くやっているので敬われたりするのは慣れているのですが・・・、信長の場合は私が困るのを面白がっているような気がします。」

 

信長はニヤリと笑って答える。

 

「そうだな、たまにお前のそういった顔が見たくなる。」

「むぅ・・・子供みたいなことをして・・・桃園でよく会っていた頃はもう少し大人だったのに・・・。」

 

すると信長は私を壁に押し付けて、壁に手を押し当て顔を寄せる。

 

「なら、大人の様な事をしてやろうか。」

「あうぅ・・・。」

 

このあと、近くの農家を借りて(農家の人は一晩野宿) にゃほにゃほ した。

 

 

この頃は、武田攻めの総大将を長男信忠に定め信長は政治に注力することが増え京や築城の関係上安土にもいることが増えた。今までは私が清州の桃園大樹宮へ行くと言う建前で岐阜に立ち寄ったが、最近はお互いに時間を合わせることが容易になった。

今まで以上に、一緒にいることが増えたような気がする。

 

信長が私に背を向けて煙管をふかしている。私は汚れてしまった巫女服から信長の小姓が用意した着物に着替える。

 

「石山の破戒僧たちはいつ片が付くのかしら?」

「奴ら、思った以上に硬い。むしろ武田を下す方が容易い気がするな。徳川が武田と激しく争っている上に貴様の口添えで北条も武田を攻めておるし、美濃からも圧迫しているからいずれ武田は息が切れるだろう。毛利水軍が木津河口に現れて俺の水軍がやられてしまったわ。次は負けんが石山に勝つことは確実だが時間が必要だな。」

「最近なんだか疲れやすいわ。」

 

私は肩や腰を擦りながら話すと信長は・・・。

 

「しばらくは戦に出なくて良い。暫し養生するといい。」

 

それから、しばらくして安土城が完成した。

天正3~4年(1575年~1576年)、武田家と長篠で戦端が開かれ織田・徳川の連合軍が大勝利した年でもあった。

 

 

 



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63 大樹信長記 日常編③丿貫

 

 

翌日、静養も兼ねて日本文化に嵌っているエヴァを連れて山科の知人の家へ訪問することにした。

 

「私の友人宗易殿から紹介された御仁でしてね。侘び数奇者としてはこの国で一番の人物ですよ。」

「ほぉ、それは興味深いな。」

 

そう言いながら私とエヴァは粗末な厩に縄を結んで馬を置いて歩き出す。

エヴァも私や他のものと茶会を開いたりして侘び数奇に関して、多少の目が利くようになっていた。

私とエヴァは茅葺の門へ向かう。エヴァは周囲に目を向けながら目利きをしているのでしょう。

でも、そうやって目を凝らしてよそ見ばかりしていると・・・。

 

「のわぁああ!?」

 

ほら、彼の趣向を凝らした歓迎に見事に引っかかてしまうんですよねー。

日焼けして少々肌が黒くなっているここの主が姿を見せる。

 

「やぁ、オアヨ。大きな水溜りにはまられましたのぉ。大樹様もよぉ来なさった。」

「えぇ、ちょっと侘び数奇に興味を持った友人を持て成そうと思ってね。貴方の所に連れてきたのよ。それにしても、足に泥がかかって汚れてしまったわ。」

「そりゃあ、そりゃあ。汚れた体をどうぞ清められよ。そちらの泥まみれのお嬢さんも・・・。」

 

彼はエヴァを引っ張り上げるための手を伸ばした。

私は泥だらけになった彼女を見て服の裾で口元を隠して少々にやけてしまいました。

 

「な、なんだおまえらぁああ!!」

 

エヴァのご機嫌が斜め。何気にチャチャゼロもニヤついてる。

こういう場合は御主人を助けたりしないのだろうか?

これを指摘すると、エヴァとチャチャゼロがケンカし始めそうなので口には出すつもりはありませんよ。

 

 

私はもてなし上手の彼の事が気にっているので、時折一人で訪れている。

最初の時は私も彼の大きな水溜りと言う落とし穴の洗礼を受けた。妖精的に懐かしい基礎中の基礎の洗礼に見事にはまってしまった私は初心に帰る気持ちを思い出して大笑いしてしまったのは比較的新しい記憶だ。信長を連れて行くとキレて丿貫殿を切り捨ててしまいそうなので連れてくる予定はない。ちなみに以前、暇をしていた信雄(信長次男)を連れてきた時の反応は「ぷぎゃあ!?」だった。

 

私とエヴァは大きな木桶に沸かされた湯に浸かって身を清める。

私たちは手ぬぐいで体をふき着物を着終えると、丿貫老人が木の器に水を入れてやってきた。

 

「あら、いつも気が利くわね。」

 

受け取った器の水を飲み干す。エヴァは私に視線を向けた後。

 

「お、おい。それは厩の後ろにあった井戸のではないのか。埃が入っていないか。」

 

と器の水を見つめる。

 

「異人さんや。それは裏山から運んだ藤尾の水ですじゃ。安心して飲みなされ。」

「そういうことです。ここの主は少々悪戯好きですから、私の妖精心も疼いてしまうのよ。」

 

丿貫殿から出された雑炊と少量の漬物で空いた小腹を満たし少し休ませててもらっていると、小さく切った西瓜を着皿に盛り付けた物を置いていく。

 

「これは塩ですね。」

「今年の西瓜は出来が悪うてのぉ。これを振りかけてたべられよ。」

「うむ、わかった。」

 

まずい西瓜には塩が良いのですね。今度自分も試してみよう。

 

「タバッコもある裏で採れた麻の葉っぱでも喫われよ。疲れもほぐれるぞ。」

 

竹煙管で一服してから丿貫殿と茶席を設ける。

雑炊に使った手取窯と簡素な木の椀での茶席でしたがこれが侘び数奇なのだろうと思っているので特に思うところはない。

 

丿貫殿を交えて3人と人形1体で世間話をした。

チャチャゼロはほとんど会話には参加しない。殺戮人形だしね・・・。

 

数奇についての会話では信長の派手な数寄も利休や丿貫の詫び数奇も好ましく思うので後の世に残しておきたいと言うと

 

「神様は欲張りですじゃのぉ。」

「そうですねぇ。私は仏教の御仏や基督教のイエズスの様に清貧を貴ぶ訳ではありませんしねぇ。良いものは良いし、好きなものは好きなのですからねぇ。」

「なんというか。お前らしいな。」

 

暫く、世間話などをして話に花を咲かせた。

流石に四畳半間に泊めてもらうわけにもいかないので近くの農家で宿を借り秋大社へ戻った。

 

後日、信長から安土城が完成した旨が書かれた書簡が届き、そこには安土城に私の住む場所も造ったのでこちらに来ないかと書かれていた。

それを読んだ私は安土に居を移すことにした。いつまでも元興寺のぐわごぜや秋比売の姉さんたちの所に居候し続けるわけにもいかないし、天台仏教の比叡山に住むのもいい気持ちじゃないし、桃園大樹宮は京に少し遠い。琵琶湖大樹大社は小島なので不便だし大社と名乗れるほどのものではないし、近いうちに神社とか単純に社とかの呼び名に変えるだろう。

とにかく、関東の大樹大社から暫く本拠を安土城に移す事に決めた。

 

 

 

 




そろそろ戦記に戻ります。
たまーのたまに日常編も書いていきますかねぇ。
そういえば、短編の更新が無いな。


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64 大樹信長記 武蔵国里帰り

 

東海道の辺りから武田の脅威が去り、私こと大樹野椎水御神は安土城に本格的に住居を移すことに、武蔵国の大樹大社に戻って荷物を纏めることにした。

その為に先だって、使者が大樹大社に送られ大樹大社にいる妖精達に引っ越しの支度をするように伝えられた。

 

ぐわごぜ、白蔵主は京や畿内の政や治安維持に努めさせている。他の織田領や同盟国領も大天狗たちや水虎河童たちの天狗や河童の上役に任せている。

刑部狸は長曾我部家と最近織田に下った旧三好筋の十河家との折衝を任せている。長曾我部家の一条家領併合は平和裏に行われた。一条家の旧臣たちは朝廷の北面武士として近衛となっている。

 

風見幽香は浅井軍の北伐に加わっている。越前越中の一向一揆は掃討して、越前越中の織田領、能登畠山家や飛騨姉小路家と協力して対上杉の戦いに備えるのだろう。

 

エヴァンジェリンは客将なので特に何かある訳じゃないけど、引越しの手伝いをさせるのは少し気が引ける。それに異人であるエヴァは信長を始めとする諸将の南蛮趣味(基督教以外)に付き合っている様だ。200年ばかり吸血鬼としてヨーロッパで暮らしていれば南蛮趣味にも詳しいのだから当然か。

 

私は向日葵衆と供廻りの妖精達が同道し途中、浅井・徳川・北条に接待を受け武蔵国の大樹大社に至る。

 

大樹大社で引っ越しのために重要な宝物や祭具を葛籠や漆箱に仕舞われていく。

妖精巫女たちが荷造りをしている横でお茶を入れて大ちゃんたちとお茶を飲みながら久しぶりの再会を喜び雑談に花を咲かせる。

 

「久しぶりに戻ってきたのに・・・またすぐに安土に行かれるのですね。」

「ごめんね。大ちゃん…わたし、好きな人のそばにいたいんだ。」

「なんだか、ティタは大人になった感じがするね。」

「いずれはここに戻るつもりだけど・・・それまではここを守ってほしいんだ。」

「うん、わかったよ。ティタが戻るまで私がここを守るよ。」

「ありがとう、大ちゃん。」

 

大ちゃんたちと3週間過ごし、安土に戻る期日が近づきつつあった。

その頃の私は日々続く、吐き気などで体調不良が続いたが安土に戻る予定は変更しないことにした。

 

大ちゃんはチルノと一緒に大樹大社に残り、亡霊軍の平将門と共に関八州の守護することとなった。一方でサニーミルク・ルナチャイルド・スターサファイアの三妖精は私と共に安土へ入る運びとなった。

 

ただ、今もって続ている体調不良の為に空を飛んでの早い移動はなかなか出来ず従来の大名行列のような形での大移動となった。

 

大樹大社の神体である私が遷するわけで、正式な遷宮遷座に当たる行列であった。

この内訳は向日葵衆、大樹供廻り衆、三妖精付き妖精巫女衆(陽光組、月光組、星光組)の妖精約700、妖狐理ら150、河童山童ら100、天狗50、亡霊100。これに加え、各大名家の護衛50~100。1000人越えを擁する大規模な神幸行列であり、行くところ行くところに庶民たちが人だかりを作り見物しに来ていた。

 

安土への道程の大半で私は大型の駕籠の中で布団を引いて横になっていた。

 

「下にー、下にー。」

 

行きは2週間弱でしたが、帰りは5週弱の期間を掛けたゆっくりとした旅路でした。

 

 

徳川領浜松城にて、私は徳川家康の招待を受け浜松城で1泊することになる。

 

家康と言葉を交わす中、家康は私のお腹をしきりにちらちらと見てくる。

少しばかり気分を害した私は家康に強い口調で尋ねる。

 

「家康殿先ほどから女子の腹など見て少々失礼ですよ。なにが気になるのです?」

 

家康は遠慮がちに返答する。

 

「なんというか。大樹様、その腹は・・・なんといいますか。膨らみが小さいとは言えまるで御子を身籠ったように見えまして・・・。」

 

私は妖精ですから、身籠ると言うことはないはずです。

 

「まさか。」

 

「ですが、大樹様が行きに立ち寄られたときは随分お疲れでしたし・・・。密柑や柚の様な酸っぱいものを好まれていましたし・・・。」

 

家康との宴席は御開きとなり、翌日浜松を発った。

 

次に佐和山城で浅井長政、昼食を御馳走になると言う名目で立ち寄ることに・・・。

家康が早馬で知らせた様だ。ご丁寧にお市の方まで長政殿と一緒に来ています。

 

「御子がいらっしゃいますな。めでたきことです。」

「長政様!今動きましたわ!」

 

マジですか?そういうことした男って信長しかいないし・・・。

そういう事なんですよね・・・。

 

・・・今頃は信長も知っているのでしょうね。

 

 

 

 



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65 大樹信長記 実子誕生

 

 

安土城は築城と同時に城下町建設をはじめ、天主へ向かう大手道や、その両側にある家臣団の屋敷が整備され、楽市・楽座を設け、町人の課役免除の他、商人の通行を義務づけたり、国中の馬の売買を同町で行うなど、城下町の発展を図った。安土城のあたりは琵琶湖の水運を利用して京まで出るのに便利で、中山道や北陸道にも通じて一帯は陸運水運双方の交通の要衝として繁栄した。

 

安土城は従来の「戦うための城」ではなく、「見せるための城」の要素が非常に強かった。

五重七層の天主を持ち、総石垣でぐるりと囲まれた巨大な城。麓に計画的に城下町が規則正しく配された都市計画の先駆けと言える城でもあります。

城の外観は、階層ごとに壁が塗り分けられているのが特徴です。黒い漆塗りの窓が配された白壁の層や、赤く塗られた層、青く塗られた層がある他、最上階は金色になっています。

 

この城の内部は、1階から3階までの各階に、6畳から12畳の部屋が複数あったと言われています。壁には花鳥や中国の故事を題材にした絵が描かれていたとされています。

ただし、4階には絵が描かれていなかったのだとか。

 

5階は八角形の形をしていて、外側の柱は赤色、内側の柱は金色でした。壁には釈迦が説法をしている絵が描かれている他、部屋の周囲を囲む縁側には、鬼や餓鬼の姿もあったそうです。

 

そして6階は、3.3㎡の広さでした。部屋の壁は金色で、外側に手すりがあった他、扉には鉄を張り、漆が塗られていたそうです。壁には狩野永徳が描いた中国神話の帝王や孔子、七人の賢人などの絵が描かれいました。

 

内部には当時信長が狩野永徳を中心に描かせた「金碧障壁画」、金箔10万枚を使用した外壁、金の鯱をのせた大屋根など絢燗豪華な安土城、山上の常御殿は大名の政務の場としての比重が高いだけでなく、重臣たちも日常的に訪れた場所でした。

瓦は青く見え、前列の瓦には丸い頭がついています。

 

安土山のすぐ東側には、かつての守護・六角氏が築いた観音寺城があり、信長が築城する前の安土山には観音寺城の支城があり安土の戦うための機能は損なわれておりません。

 

私は安土城の敷地内にある御幸の御間と言う箇所が割り当てられました。

 

詰る所、安土城がいかに金を掛けた豪華絢爛な城であり、信長がいかに派手好きかと言うこと・・・。そこから推測するにしてもこれは想像できませんでした。

 

日が沈み始め薄暗い空の中、安土城や城下町を提灯にてライトアップし、唐人や南蛮人から教えられたのであろう花火が打ち上げられて派手な歓待を受けたのでした。

城下町では本当に何を祝っているのかも怪しいくらいに酔っ払った庶民たちが可能な限り華やかな衣装で着飾り、または仮装を身につけて、鉦や太鼓、笛などで囃し、歌い、踊り踊っている。酒は恐らく安土から振る舞われたのだろう。

 

「大樹!よく戻ってきたな!今日は目出度い!まことに目出度い!お前ら!存分に飲め!歌え!踊れ!存分に楽しんでくれ!」

 

私との会話中にいきなり周りに喚き出しましたよこの人は・・・。下戸のくせにどんだけ飲んだんですか?

 

堀久太郎と森蘭丸は困ったように首を横に振っていた。

帰蝶様や他の奥様方は悪酔いした信長から距離を取っているのかな。もしくは何かしら理由を付けて奥へ引っ込んだんだろうな。

 

 

翌日も賑わいは変わらず能楽者や踊り子、商人に力士が訪れ安土城下は賑わいを見せていた。

内においては、妊娠している私の身を案じた信長が外の騒ぎを終わらすようにお触れを出し、漢方医や中条医(産科)、出産経験のある信長の妻や諸将の妻たちが集められ、その時に備えた。その翌日には三妖精を中心とした妖精巫女たちが安土城に入城。

 

日が経つと徳川家や浅井家、北条家などの近しい諸大名から懐妊祝いとして滋養強壮の食べ物や薬が届けられた。

 

2か月後、大樹野椎水御神が二児を出産。たくましい男の子と可愛らしい女の子であった。

男児は神精丸(じんじょうまる)、娘は祀(まつり)と名付けられた。

 

 

 



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66 大樹信長記 大樹の御子

 

 

賑やかな城下の様子とは打って変わり、安土城内は静寂に包まれていた。信長と私、成人している信忠、信雄、信孝の3人、親族の信包、長益、信張、信弌、信澄ら一門連枝衆が集合していた。さらに、遠征に出ていない柴田勝家・丹羽長秀、滝川一益、水野元信、森可成と言った重臣たちも集められる。そして朝廷より内大臣・一条内基と先の関白・近衛前久や高位神祇官ら派遣されてきた。

 

ちなみに明智光秀、若狭四半国を与えられた細川幽斎(藤孝)と共に丹後丹波を攻めている。佐久間信盛は摂津衆とともに本願寺包囲を継続しているが、本願寺包囲軍の副将として池田恒興が登城。また、柴田勝家は北陸攻めが控えていたが佐々成政と前田利家に任せて安土に登城した。中国攻めが控える羽柴秀吉も秀長や竹中重治に任せて登城した。村井貞勝、松井友閑、武井夕庵、島田秀満ら織田家有力官僚たちも登城している。

大樹大社勢力からもサニーら光の三妖精、重臣妖精の梅林と水楢、白蔵主、隠神刑部狸、水虎河童が登城。天狗衆からは大天狗の出席は無く使者として射命丸文が登城した。鬼の四天王は基本世俗に関わろうとしないので登城しなかった。

 

 

「俺と大樹の娘の事だ。」

 

信長は開口一番で本題を切り出すと誰が発したかわからないが小さい声でありながら全員に聞こえた言葉。

 

「神の子・・・。」

 

「順当に考えれば、皇族に輿入れさせるか織田家の血筋内で囲い込むのが順当であろう。だが、娘は神・妖精の血が濃いようでな。神精丸は幸い人間の血が濃いので織田家の者として育てる。」

 

信長は私が抱いている祀の見て、私は少しだけ祀を動かして見せる。

 

「「「おぉ・・・」」」

 

彼女の背に生えた妖精の薄羽が人の血を拒んでいるかのように見えた。

 

「では、帝への輿入れが順当ではあらしゃいませんか?帝は豊玉姫様から続く神の血族。」

 

近衛前久はそう訴える。

 

「だが、神と妖精の血が濃い祀姫様は人間とは比べられぬほど長命になるのでは・・・。」

 

大樹恩顧の妖怪である白蔵主が疑問を口にし、大宰府の菅原道真に仕える妖精梅林はその問題点を指摘する。

 

「大樹様は天皇家の養母であらせられ、最初期の摂政。関白や太政大臣と言う役職が整備される前の形骸化した役職とは言え、後にも先にもお一人しかおりません。祀様はこの国で唯一、摂政に就任する権利を持っておられます。」

 

「それは、良き事ではなかろうか?」

 

一条内基の言葉に朝廷側の人員が頷いて賛意を示す。

 

「妖精の血が濃いのです。」

 

その言葉に、聡いもの達が顔を青ざめさせたり眉間に皺を寄せ始めた。

 

「人間の婚姻と違って子を孕みにくくなる。」

 

信長の長男信忠が呟いた。

 

「そして、祀様は長命ですが我々の見立てではその御子は人間の血が濃くなるでしょう。つまりは摂政が二人になり、主家は子が生まれにくくなる。それでいて、いと尊き血。」

 

ルナチャイルドが信忠の言葉に付け加える。

 

「組み込むには濃すぎる神・妖精の血。持つ権威は絶大。もし、かじ取りを誤れば国が割れる。」

 

元々、血統が重視されるためそこらの女子を手あたり次第という訳にはいかない。しかし、出生率が落ちるわけで・・・。

半妖や半神の血は子々孫々へと血を繋げることは難しい。神の血を継ぐ天皇家はある意味で例外中の例外と言える。

羽柴秀吉が頭を畳に擦り付けた平伏したまま発言する。

 

「お、恐れ多くも申し上げます。いずれかの大樹神社に預け、時を待つのが次善と愚考します。」

 

「いずれかの社に預け育てさせるが良きかと、恐れながら某も同様に考えます。祀様の血は神にも妖精にも近すぎます。」

村井貞勝も平伏した。

 

「で、あるか・・・。」

 

信長はそう一言だけ述べるのだった。

 

その後も、沈黙混じりに話し合いが続いたが祀姫の処遇は大樹大社傘下の神社に預けられることとなった。

 

その神社の禰宜古明地氏の養子としてである。また、古明地氏は平泉大樹神社(藤原秀郷子孫である藤原清衡が寄進)を源流とした陸奥国で大きな影響力を持つ一族であった。将来的にはこの神社の社格を上げて大社として、そこの巫女頭として内定していた。また、大樹の中ではそこで血を薄めた後に皇族の血統に血を入れることも案にあった。

 

 

天正5年(1577年)のことであった。

 

また、神精丸は一門として織田信忠の家臣になることが内定していた。

 

 



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67 大樹信長記 紀州攻め

 

 

 

天正5年(1577年)、後に安土会議と呼ばれたこの会議のすぐあとで、羽柴秀吉の中国攻めが始まった。織田信忠にも紀州征伐が命じられ、明智光秀の丹波攻めと佐久間信盛の本願寺包囲も継続される。そして、能登国七尾にて上杉と事を構える浅井長政への援軍として柴田勝家率いる軍勢が進発した。

 

子供が生まれたことで、大樹は大きく動き出した。

大樹は信長の官位の取得を仲介で右大臣兼右近衛大将にしたが、さらに上の官位を引き出そうと朝廷との調整に動いていた。

信長は大樹に勧められた三官のいずれかへの任官に難色を示した。

古来からの権威に囚われない政を目指す信長としてはこれ以上の官位は不要と言う思いがあったのだ。

 

そこで、大樹は信長の為だけに新官位を創設することを決めたのだ。

大樹は朝廷を説き伏せ新官位を創った。

 

一時的に話題を逸らすが織田信長と大樹野椎水御神に積極的に協力する妖怪勢力は河童と妖狐理であるが、この時期それ以外の妖怪勢力に大樹神紋と織田木瓜・天下布武の印が捺された参戦要請や命令指示が書かれた書簡が届けられている。

 

 

『我 大樹野椎水御神は 天皇養母兼摂政なる自身の王配として 織田右大臣信長に 朝廷より新たに創られし 官位・治天下覇王 に推挙するものなる この官位は 関白・征夷大将軍・太政太政大臣の上なる摂政と同列の位に 織田信長 に のみ与へらるる官位なることを 第百六代天皇方仁 及び 天皇養母兼摂政大樹野椎水御神 は 織田信長による府の開闢を 認むることを ここに宣言す。

 

東北探題 痰々坊に対して、織田天下の下なる各大名家援助し それに抗ふ逆賊の討伐を命ず。』

 

ぬらりひょん等の敵対姿勢を見せている者たちを除く妖怪衆の長たちに上記の様な書簡が届けられた。

 

北方の諸大名の多くは織田家に従う様子であったが、佐竹家を中心とした南陸奥及び北関東の諸氏が反抗的であり、上杉家・武田家も敵対姿勢を見せていた。また、現在攻め込まれている山陰山陽方面に加え本願寺・紀州も必然的に敵対的であった。

四国も仲裁待ちだったが、織田家には敵対的ではなかった。九州諸大名は距離的地政的にも中立もしくは無回答であったが大宰府はその地ならしに九州諸大名への諜報工作を開始した。

 

 

天正5年(1577年)4月、織田信忠率いる尾張・美濃の軍勢、信雄・信孝・信包配下の伊勢の軍勢3万と筒井軍・紀伊畠山旧臣1万5000が進軍を開始。これに山童衆が加わり総勢5万を超える大軍勢は16日には和泉に入り、翌17日に雑賀衆の前衛拠点がある貝塚を攻め落とした。

18日には織田勢は山手と浜手の二手にそれぞれ2万の兵を投入して侵攻を開始した。

 

浜手の織田勢は淡輪から三手に分かれて孝子峠を越え、雑賀側の防衛線を突破して南下し、中野城を包囲した。2月28日に信忠は淡輪に本陣を進め、同日中野城は織田方の誘降工作に応じて開城した。3月1日、織田勢は平井の雑賀孫一の居館を攻撃した。

 

山手の織田勢は風吹峠を越えて根来に進み、紀ノ川を渡って東側から雑賀に迫った。これに対し雑賀衆は雑賀城を本城となし、雑賀川(和歌川)沿いに弥勒寺山城を中心として北に東禅寺山城・上下砦・宇須山砦・中津城、南に甲崎砦・玉津島砦・布引浜の砦を築き、川岸には柵を設けて防衛線を構築した。

 

 

24日、山手側の織田軍は雑賀川を挟んでの射撃戦を開始。双方の渡河部隊や千早船に被害が出た。雑賀川の先鋒大将である堀秀政は山童の石火槍衆を投入したうえで新兵器を投入。

 

「棒火矢!弾込め!」

 

堀秀政の号令で鉄砲足軽たちと山童たちが、大鉄砲と呼ばれる大口径化された火縄銃に焙烙玉を球状ではなくロケット状にして、さらに小型化したものを装填して行く。

 

準備が終わったのを確認した秀政は刀を振り下ろす。

 

「撃て!」

 

ヒューと甲高い音を上げて、雑賀川を越えて行く棒火矢。

棒火矢が敵軍に命中、爆発し炸裂した容器の破片が敵兵に突き刺さる。敵兵は絶命するか、突き刺さった金属片にのた打ち回る。炎での攻撃は威力が低かったと思われるが火傷や焼死する者がいなかったわけではない。雑賀衆の士気を下げるには十分だった。

 

「撃ち続けろ!」

 

秀政の号令通り耐え間なく撃ち続けられ、対岸の雑賀衆の陣は大混乱に陥った。

 

「機を逃すな!敵陣に乗り込め!」

 

雑賀衆はあらかじめ雑賀川の底に逆茂木・桶・壺・槍先を沈めておいて渡河の妨害を図ったが、それを狙い撃つ雑賀衆は織田軍の攻撃で大混乱に陥っており効果的な攻撃が出来ず織田軍の渡河を許したのであった。

 

渡河を終えた織田軍は雑賀衆の支城や砦を包囲を開始したのであった。

 

 

 

※『』文章、平泉大樹神社保管資料より

 

 

 



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68 大樹信長記 西国侵攻

 

 

羽柴秀吉の軍勢は山陰道山陽道双方の道筋での中国攻めが命じられており、これに動員された軍勢は新参の播磨衆や但馬衆に尼子再興軍を加えた10万を超える大軍勢であった。

 

山陰道山陽道それぞれに約5万づつ振り分けられた。山陰道側の山名氏は羽柴秀長や蜂須賀正勝らが率いる軍勢に押され、山陽道の播磨の有力氏族赤松氏は瓦解寸前であり政治力を持って織田家に飲み込まれ、別所氏や小寺氏・宇野氏を従属させていった。

さらに、後続として白蔵主ら妖狐衆2万が続いた。

 

しかし、ここでぬらりひょんと足利義昭が動いた。

大樹野椎水御神が明確に天皇以外の存在に肩入れし、明確に天下掌握の意志を見せた。

各地の有力妖怪のもとに届いた書状の存在を知ったぬらりひょんは危機感を募らせ、ぬらりひょんに従った妖怪や大樹に盾突いた妖怪たちは追い詰められていた。足利義昭もまた焦っていた。

 

「えぇい!毛利も本願寺も不甲斐ない!このままでは織田にしてやれれてしまうではないか!」

「落ち着きなされよ・・・公方様。我々の手の者が着々と支度を整えておりますゆえ。」

 

気が立っている義昭をぬらりひょんは冷ややかな目を向けながらも宥めた。

(公方様も仕舞よのぅ。潮時よな・・・包囲網も綻びを見せているからの。)

 

「荒木・別所・波多野が予ねてよりの密約に応じました。」

 

二人が身を寄せている部屋に一色藤長が入って来て荒木村重と別所家、波多野家が寝返った事を知らせる。

 

しかし、この三者はそれぞれ各個撃破される結果となる。

波多野家は丹波征伐中の明智光秀に滅ぼされ、荒木村重は配下の中川清秀や高山右近と言った者たちに裏切られ翌年には荒木の勢力は崩壊した。

 

一方で有岡攻めを任されていた池田恒興1万を率い、有岡陥落後に秀吉の山陽道方面の一部と合流し三木攻めを決行した

 

秀吉であるが播磨諸氏への対応を黒田官兵衛(親織田派の播磨国衆取り纏め)と浅野長政(中国征伐山陽方面軍指揮代行)に任せ自身は山陽方面より2万5000を率いて池田恒興1万と合流した。

 

述べ3万5000の軍勢が毛利の援助を受けていた別所家の支城や砦を落として行く。

秀吉と恒興は別所の本城三木城を兵達が包囲し兵糧攻めを行う最中、二人は世間話をする。

 

「時折現れる毛利水軍が邪魔ですな。」

「毛利の奴、本願寺にも運び込んでおるからなぁ。」

「本願寺・・・7年・・・そろそろ8年か。ここが済んだら本願寺の方に加わる事になるだろうよ。」

「とは言え、本願寺もそう長くないでしょうなぁ。」

「筑前殿、少々気になりますぞ?何を御存じなので?」

 

秀吉の言葉に興味を惹かれた恒興が続きを話すように促した。

 

「大樹様と信長様の間に御子が生まれました。男児は織田家の人間に、女児は高位神官へとなられましょうぞ。その血は遠い先の織田宗家の当主として国を治める者の血に入っていることは確実。大樹様はより一層、信長様の天下統一に手を貸すでしょうな。」

 

秀吉の言葉に恒興はなるほどと答える。

 

「次の本願寺攻めは畿内の妖怪達が本格的に戦働きを見せてくれることになると。」

「左様です恒興殿。この兵糧攻めで三木城が落ちれば次は本願寺の番でしょう。わしはそろそろ中国攻めに戻らねば、配下の者を残します故。城攻めの差配は任せますぞ。」

「うむ、任されよ。」

 

秀吉の目には時折の砲撃で天守が半壊している三木城が映っていた。

 

 

銃火器の扱いに長ける河童山童衆は羽柴秀吉と織田信忠に多くが従軍した。狸衆の多くは四国の親織田勢力の援助に付き、畿内の守りを任されていた狐衆は明智光秀の丹波攻めと信忠の紀州征伐にも兵を出していた。それ以外の妖精や妖怪達も織田木瓜の旗に集まりつつあった。

 

天正7年(1579年)1月、三木城は多くの餓死者を出して陥落した。

 

 



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69 大樹信長記 第二次木津川口の戦い・石山本願寺決戦

天正6年(1578年)6月、九鬼嘉隆ら水軍衆は河城氏族の河童衆技術集団の協力を経て鉄鋼船が完成した。

奈良興福寺の塔頭多聞院の僧である俊英が書き記した『多聞院日記』によるとその大きさは縦22メートル・横12メートルあったとされ、船体を厚さ3mm程度の鉄板で覆い、村上水軍が得意とした焙烙火矢に対する装甲とした。河童の技術力を結集した戦国最強の軍船と言えた。

 

九鬼嘉隆ら水軍衆はこの鉄鋼船6隻と安宅船や関船と言った軍船を率いて大阪湾へと向かう。その隙間を縫うようにお化け蛤の軍船や人魚や半魚人と言った水棲妖怪が続く。

 

「こりゃすげぇ・・・。」

 

途中、淡輪もしくは雑賀の海上で雑賀衆など多数の小船が攻撃をかけてきたが、九鬼は敵を引きつけて大砲で一斉砲撃するという戦術を使い、これを撃退した。

半魚人のひとりの言葉はこの後の毛利村上水軍との戦いにも当てはまるのであった。

 

 

 

 

「よぅし!狙えぃ!撃てぇええ!」

 

嘉隆の怒号を押しつぶすほどの轟音が鉄鋼船に積まれた大砲から煙を上げながら放たれる。

無数の鉄球が毛利村上水軍の軍船を貫いていく。

 

ドカーンと言う音が織田水軍から発せられ、バキンだとかガシャーンだとかの軍船が破壊される音が毛利村上水軍から聞こえた。

その音は幻影ではなく現実、毛利水軍が一方的に織田水軍に打ち倒されていく。織田水軍の砲撃と織田水軍に味方する水棲妖怪達の妨害で毛利水軍は本格的に物資を届ける事は無かった。

 

毛利村上水軍は焙烙や鉄砲を射掛て抗戦するが鉄張りの大船はものともしない。従来の兵力ならば前回の織田水軍のように敗れ去ったことだろう。しかし、新生織田水軍は毛利村上水軍を圧倒、その砲撃で毛利村上水軍の軍船を破壊し、鉄の軍船の圧倒的な巨体は敵の安宅船を押しつぶしていく。

 

鉄鋼船団が、毛利村上水軍の中央を引き裂いていく。6隻の鉄鋼船に続いて織田水軍の安宅船や水棲妖怪達が続いていき毛利村上水軍を中から食い破っていく。

 

「なんだぁあの軍船は!?」

「て、鉄・・・鉄の軍船だ!!反撃しろ!!」

「だ、ダメだ!焙烙も鉄砲も効かない!?」

 

「「「ぐわぁああああ!?」」」

 

炎に包まれた軍船や沈んでいく軍船と言った敵の姿を鉄鋼船の櫓から眺めている嘉隆は辺りを一望した。

 

「この鉄鋼船があれば、日ノ本の海を織田水軍が制する日は近い。船大工に河童たちも加わってもらうべきだな。」

 

本願寺への物資の運び込みを防ぎ、毛利村上水軍を撃滅した一連の戦いは木津川口の戦いと呼ばれた。ちなみに以前敗戦した方を第一次、今回の戦いを第二次と呼称された。

 

有岡城の荒木村重を下し、三木城も天正8年(1580年)に下している。

天正7年(1579年)6月、明智光秀による八上城包囲の結果、ついに波多野秀治が捕らえられ、処刑される。光秀は同年中に丹波・丹後の平定を達成した。

 

 

「石山本願寺は倒さねばならぬ。」

 

本願寺攻めの決行が目前に迫っていた。

 

「これは石山本願寺との戦いと言うだけではありません。その背後の足利将軍家・・・そして、それを操るぬらりひょんとの戦いです。」

 

天正7年(1579年)9月、信長と大樹に激しく抵抗する仏教勢力本願寺との決戦は本願寺の総本山たる石山本願寺包囲戦となった。木津川の戦い他の勝利によって本願寺を援助できる勢力は最早無かった。しかし、本願寺側も持てる戦力を総動員し徹底抗戦の構えを見せた。本願寺側の戦力は雑賀衆の抗戦派や畿内の反織田勢力の残党の寄せ集めを含め3万。対する織田軍は信長を総大将とした諸将の軍勢に大阪周辺の織田方の付城の(明智光秀、丹羽長秀、佐久間信盛、池田恒興、森利成、堀秀政、稲葉一鉄、細川藤孝、他)10万に加え浅井家と筒井家からの援軍1万5000。さらに、大樹大社の妖精巫女衆5000、畿内のぐわごぜ率いる大樹恩顧の狐狸を中心とする妖怪衆3000。河童山童らは織田軍の各部隊に一定数随伴している。

 

「おのれ!信長!無間地獄に堕ちるが良い!」

 

石山本願寺は、門前町が栄える本山・本願寺ではなく、本山・本願寺を中心に濠や土居で囲まれた寺内町を有する一種の環濠城郭都市であった。しかし、大砲や石火矢を多く有する織田軍にとっては絶対的な城郭都市ではなかった。また石山本願寺は51城に及ぶ支城を配し防御面を強化していたが、織田方に大樹恩顧の妖怪衆が参戦し、その多くが陥落していた。

 

後衛の大砲部隊は兼ねてより包囲軍の指揮を執っていた佐久間信盛の指揮の下、鉛玉をたらふく叩き込んでいる。

石山本願寺を囲う塀や土居は次第に崩されていく。大砲や石火矢の様な重火器は織田軍が圧倒していたが火縄銃の様な軽火器は雑賀衆や堺の商人ともつながりのあった石山本願寺もかなりの数を有しており激しい銃撃戦が繰り広げられていた。

 

 

 

「長秀様、準備が出来ました。ご命令を・・・」

 

山童の一人が陣で指揮を執っていた丹羽長秀に指示を求める。

投石器に焼夷徳利が装填されていた。

 

「うむ、投擲を開始せい。」

「はい、仰せのままに!」

 

投擲が開始され寺町に焼夷徳利がばら撒かれ、各所に火の手が上る。

 

「か、火事だぁああ!!」

「に、逃げろぉお!」

 

本願寺門徒の一揆衆が逃げ惑う。

武装集団とは言え所詮は農民や町民の集まりであり、織田軍やその援軍の本職の武士のような常備軍とは比べるもなく本願寺方の一揆衆の陣は壊乱状態になり、鴨射ちも同然の状態となった。

 

「蹴散らせ!槍隊前へ!」

 

足軽大将の音頭に合わせ太鼓が打ち鳴らされる。

 

長槍を装備した足軽が前進、それに徒士武者や槍を持たない刀足軽が続く。

逃げ惑う一揆衆を取り囲む様に進んでいく。

 

一部の一揆衆が意を決して飛び込むが槍足軽の長槍が叩き下ろされ一揆衆の頭蓋をかち割る。

 

長秀の陣以外でも同様の後継が広がり本願寺の一揆衆は壊滅した。

石山御坊には砲撃に加え、天狗たちの空襲が行われ精鋭の僧兵たちも疲弊していた。

 

「法主様、もはや抗戦かないませぬ。」

側近の下間頼蓮の言葉に本願寺の法主顕如は重い口を開く。

 

「織田の降伏勧告に従う。」

 

天正年8(1580年)2月、年を跨ぎ半年以上籠城をした石山本願寺は織田の大火力を前に遂に下った。

翌月、信貴山命蓮寺が周囲の真言宗寺院衆を率いて織田方に参戦。織田家包囲網に加わっていた松永久秀の居城を筒井家の軍勢と共に包囲し落城させた。さらにその翌月には紀州攻めの織田信忠の下に雑賀衆鈴木氏が織田家に服属し、紀州の戦いは雑賀衆内の親織田派と反織田派の内戦にそのまま信忠の軍勢が介入する形で織田方が勝利を収めた。

 

 




そろそろ・・・あの変が・・・


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70 大樹信長記 甲州征伐

 

畿内を完全に掌握した信長は西国の毛利、甲斐武田、伊賀衆と言った(まつろ)わぬ者どもの討伐を高らかに宣言し、討伐の出陣を前に京にて大馬揃えを挙行せんとした。それは戦国乱世の終焉が近づいたことを全国に示すものであった。

 

大馬揃えには織田に実質的に臣忠した浅井、徳川、北条、長曾我部、筒井、姉小路と言った大名家からの兵も行列に加わり織田の威光を天下に見せつけるものであった。さらにこの大馬揃えには大樹野椎水御神の側近として有力な妖怪達とその手勢も加わっており、織田家とその背後の大樹大社の威光が人間以外にも及んでいることを示していた。

 

織田政権が盤石な物となり始めたこの時期、妖怪達の中でも織田政権の介して世俗化する妖怪達の姿が見られた。

 

刑部狸(四国探題奉行職)、白蔵主(畿内探題奉行職)、たんたん坊(東北探題奉行職)、ぐわごぜ(関東探題奉行職《新設》)と言った恩顧の妖怪達は大樹大社より与えられた役職を有り難がり、独自の社会や思想を持つ天狗や鬼社会と距離ができ始めていた。また、天狗社会においては大樹に迎合する世俗派や天狗独自の社会を維持しようとする独立派、ぬらりひょんの妖怪中心社会に迎合する過激派と割れに割れていた。河童や山童たちも旧来の天狗に従属する派閥と大樹及び織田政権に従属する派閥で割れ始めていた。また、風見幽香や八雲紫と言った独自色の強い妖怪達も大樹に協力する者もいれば独自路線を突っ走る者達に敵対路線を取る者と多様で人間社会同様に渾沌として来たのであった。

 

 

 

天正8年(1580年)6月、織田信忠を総大将した5万の軍勢が甲州武田の討伐に向かった。信忠の軍勢には大樹に請われ参陣を了承した信貴山命蓮寺の手勢が聖白蓮自ら率いられて帯同した。

この戦いには別動隊として織田信孝の軍勢3万と浅井家・姉小路家の援軍6000、大樹恩顧の妖怪衆3000、織田領大樹大社妖精巫女衆及び秋比売神姉妹の手勢3000が美濃木曾口より侵入する手筈であった。

信忠本隊は徳川家の2万5000とその援軍の北条家2000、織田領及び徳川領大樹大社妖精巫女衆5000が合流し設楽原に布陣。

また、北条家も甲州征伐に本腰を入れ4万の兵を動員しこれに関東の大樹大社の妖精巫女衆5000が加わった。この背景には甲州武田氏とその背後の鬼道衆に囚われている洩矢諏訪神諏訪子と八坂刀売神神奈子の救出を目的としており大樹野椎水御神肝いりの戦いであった。

 

北条軍と大樹大社の軍勢は三増峠を武田領内へと侵攻する。

 

「織田・徳川、そして我ら北条の3方向から大軍を持って甲斐を落す。武田の命運もこれまでよ。」

「氏政様、敵は鬼道衆を擁しております。努々、油断為されませんよう。」

「はい、解っております。大緑光の巫女様・・・。」

 

北条軍の総大将北条氏政に大妖精は忠告し、氏政は丁寧に応じた。

どの侵入口でも侵攻側の織田徳川北条の連合軍が優位に進めていた。

織田軍の侵攻の始まった月に浅間山が噴火した。浅間山の噴火は東国で異変が起こる前兆だと考えられ、さらに噴火の時期が朝敵指名および織田軍侵攻、さらには織田軍に浅間大社が同調すると言った事が重なってしまったために、武田軍は大いに動揺してしまった。

 

天正8年(1580年)9月、織田信雄を総大将に5万の兵で伊賀国に侵攻した。

伊賀攻めに赴いた織田軍には滝川一益率いる甲賀衆の忍びや元伊賀衆の服部正成を徳川家より借り受け伊賀衆から内通者を募った。忍者衆を率いた5万の大軍勢は織田軍は各地で進撃し同月11日間でほぼ伊賀国を制圧した。

 

 

伊賀陥落後、百地三太夫は足利義昭の側近一色藤長に伊賀の敗戦を伝える。

 

「藤長様、我ら完膚なきまでに叩かれてしまい、参陣は叶わなくなりました。」

「・・・しかたあるまい。その方は時が来るのを待つが良い。」

 

 

その頃、信忠の本隊は長篠城・鳶ヶ巣山での戦いを経て設楽原での決戦に至った。

戦いは昼過ぎまで続いた(約8時間)が、妖怪妖精軍を擁する織田・徳川軍に対し武田軍は2万以上の犠牲出し織田・徳川・北条軍の勝利で合戦は終結した。

 

織田・徳川・北条軍他には主だった武将に戦死者が見られないのに対し、『信長公記』に記載される武田軍の戦死者は、譜代家老の内藤、山県、馬場を始めとして、原昌胤、原盛胤、真田信綱、真田昌輝、土屋昌続、土屋直規、安中景繁、望月信永、米倉丹後守など重臣や指揮官にも及び、被害は甚大であった。

 

勝頼はわずか数百人の旗本に守られながら、一時は菅沼定忠に助けられ武節城に篭ったが、信濃の高遠城に後退した。

 

長篠における勝利、そして越前一向一揆平定による石山本願寺との和睦で反信長勢力を屈服させることに成功した信長は、「天下人」として台頭した。また、徳川家康は三河の実権を完全に握り、遠江を攻略していき領土を拡大した。また、武田家は天目山の戦いで当主武田勝頼が自刃したことで滅亡し、以降は残党狩りとなる。

 

そして、この残党狩りには大樹大社と鬼道衆が雌雄を決した諏訪盆地の戦いがある。

天目山の戦いで武田勝頼を自害に追い込んで武田家と言う表の支配者を下したのであるならば、諏訪大社の戦いで裏の支配者鬼道衆を下したのと言える。

 

織田信孝を総大将とした人妖混在の総勢4万越えの軍勢は信濃の木曾義昌に先導させ信濃国諸城を攻め落としていった。南側から攻め入った信忠の軍勢も同様に多くの城を落している。

 

安土にて信長と共に諸々への檄や指示を飛ばしていた大樹は諏訪大社の神官長の家系守矢氏を通じて当時の上社大祝の諏訪氏以外の氏族に内応を約束させた。守矢氏はこの功績で以後諏訪大社の大祝として振る舞うこととなる。

諏訪氏は武田勝頼の母が居り、武田氏との深い関係から切り捨てられた形となった。

諏訪湖を挟み上社に鬼道衆及び武田残党、下社に織田軍が陣を敷き睨み合っていた。

この戦いは人間の意志以上に神々の意志が介在した特殊性の高い戦いであった。

織田軍の陣幕内には側近蜂屋頼隆や津田信澄の他に秋比売神静葉穣子、新たに引き立てられた厄神の鍵山雛が軍議の席にいた。

 

諏訪盆地の戦いは、終始織田軍優位に進んでいる。

信忠軍・信孝軍、北条軍の進軍に合わせて武田諸将は戦わずして下る者も少なくなく(無論武田家に殉じた者もいる)。さらに武田家に擁されていた鬼道衆によって抑え込まれていた妖怪達の多くが決起し合流した。その為、侵攻軍は最終的に数だけなら倍近くまで膨れ上がった。

諏訪盆地の戦いにおいても信孝軍は出征時は4万2000程であったが諏訪盆地に至るまでに6万近くまで膨れ上がっていた。

対する防衛側は1万に満たず、敗北は必須であった。

対陣中も武田方からは脱走者が相次いだ。守屋山、御射山などの八ヶ岳の諸々を巡る前哨戦で鬼道衆以外の多くが逃げ出し、諏訪大社上社を巡る戦いでは千に満たない鬼道衆を6万の大軍勢攻める凡そ戦いとは呼べるものではなかった。

 

「追い詰めなさい!」

静葉の号令で妖精や妖怪達が上社の鬼道衆と戦い始める。

秋比売姉妹の率いる妖精・妖怪達3000でも十分に数的優位を維持して鬼道衆をすり潰していく。上社を捨てて逃げようにも信孝の軍勢が蟻の子1匹逃がさない布陣であり、ここに鬼道衆は事実上壊滅。以後は小規模な隠れ里を維持する飛沫勢力として細々と命脈を保つ存在になり下がった。完全に滅ぼされなかったのは武田に擁された頃の鬼道衆は派閥が存在する程度に大規模勢力であり、その少数勢力に早々に降伏した穏健勢力があったからである。

 

守屋山に籠る武田残党を、鍵山雛率いる軍勢5000が包囲した。

武田残党の一部が本宮の御神体である守屋山に火を掛けようとしたために雛は守屋山に立て籠もる武田残党を全て厄殺した。

厄殺された武田残党の将兵らは守屋山を源流とする沢川に流された。この事は沢川周辺の地域に流し雛の風習が残るのはこの為である。

 

天正9年(1581年)10月、鬼道衆に封じられていた諏訪大社は解放され八坂刀売神と洩矢諏訪神は救出された。以後、武田に協力した諏訪氏は没落し、守矢氏が台頭し現在まで続くこととなる。信忠、信孝は甲州征伐を終えて帰還している。

 

 

 



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71 大樹信長記 御館の乱

 

天正10年(1582年)3月9日。上杉謙信、春日山城で「卒中」により死亡。翌月、上杉家の家督の後継をめぐって、謙信の養子である上杉景勝(長尾政景の実子)と上杉景虎(北条氏康の実子)との間でお家騒動が起こる。

 

景勝方には以下の諸将が加担した。直江信綱や斎藤朝信、河田長親といった謙信側近・旗本の過半数と新発田・色部・本庄といった下越地方の豪族である揚北衆の大身豪族が加担した。

 

景虎方には前関東管領・上杉憲政や上杉一門衆の多くが加担した。越後長尾家は長年一門同士の権力争いが激しく、特に上田長尾家と古志長尾家は謙信時代にも敵対しており、上田長尾家出身の景勝が上杉家当主となることは、古志長尾家からすれば到底認められるものではなかった。このほか、上杉家臣団では大身である北条高広も加担し、本庄秀綱ら謙信の旗本・側近で景虎に味方した者も少なくない。揚北衆の一部も加担しているが、これには本庄氏や新発田氏との対立関係も影響している。周辺の大名がことごとく景虎方に加担している。血族である北条家や織田家とその同盟関係の浅井家・徳川家・姉小路家、奥羽からは同じく北条家と同盟関係にあった伊達家に加え、蘆名家・大宝寺家が加担している。

 

6月、能登畠山氏の自然崩壊後、能登加賀を掌握していた浅井長政と柴田勝家の軍勢が越中の上杉領に侵攻を開始。これは上杉景虎の援軍として佐竹・宇都宮連合との戦の真っ最中だった北条氏政の要請を受けたものであった。織田・浅井軍の越後来援は時間の問題と考えられていたが、ここで毘沙門天の介在によって景虎優位が覆る。

越後に迫りつつあった織田・浅井軍の前に毘沙門天の弟子寅丸星が立ちふさがったのであった。大妖怪を擁していなかった織田・浅井軍の軍勢は寅丸星に蹴散らされ越後来援は息詰まってしまった。

 

そこで、信長は甲州を任せていた滝川一益、川尻秀隆、森長可らに出兵を命じたが武田残党の掃討中で大した兵力を割けなかった彼らは、甲州で布教中だった聖白蓮ら僧兵衆に形ばかりの兵力を付けて出兵するように要請した。聖白蓮はこれを承諾し越後に進軍する。ここで彼女は寅丸星と知己を得て以後彼女と行動を共にするようになるが詳細は割愛する。さらに、このお家騒動の結果も言ってしまえば景勝の勝利である。

 

なぜ、上杉家のお家騒動を大幅に省くことになったのかであるが、この時に天下を揺るがす大騒動である本能寺の乱が発生した為であった。

 

 



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72 大樹信長記 本能寺燃ゆ

 

 

この時の織田家有力一門や重臣、近在の大樹恩顧の大妖怪らの動向を明記する。

柴田勝家、前田利家らは越中に布陣し上杉景勝軍と対陣中。滝川一益、川尻秀隆らは甲州掃討中。羽柴秀吉は西国征伐中。織田信孝、丹羽長秀は長曾我部の援軍準備中。織田信忠は京都二条城で少数の手勢と休養中。織田信雄は光の三妖精らと琵琶湖で舟遊び中。

大妖精、チルノらは関東大樹大社へ帰還中。陰神刑部狸は四国派兵に伴う準備のために四国へ戻る。ぐわごぜは佐竹・宇都宮連合と対陣中の北条家への援軍の準備のために尾張入り。正規には大樹傘下ではないが風見幽香は甲州にいたとされる。エヴァンジェリンも西洋妖怪の勢力の使者である吸血鬼エリートとの会談のために堺にあった。この時、京の都にいたのは白蔵主だけであった。

 

本能寺の乱においてその首謀者は明智光秀であり、その背後の存在については諸説あるが光秀首謀者説が最有力である。

8月1日、信長より西国攻めの援軍を命じられた光秀は2万の手勢を率いて丹波亀山城を出陣した。信長と大樹は僅かな供を連れて治天下覇王の正式な就任式の為に本能寺に滞在していた。

 

「上様!む、謀反にございます!!」

 

信長に酌をする大樹の手を止めさせ信長は、森蘭丸に問いただす。

 

「如何なるものの企てだ。」

「水色桔梗、明智光秀と見えます!」

 

信長の横で大樹は配下の妖精に二条城の信忠を脱出させるように命じた。

 

明智軍が燃え上がる本能寺になだれ込み蘭丸を中心とした僅かな供周りが応戦している隙に信長と大樹は地下の通路へ向かう。その地下の通路にも火が回っていた。

 

「あと、一歩でしたな。されど、その一歩が遠い。」

「夢は現・・・現は蝶の夢のごとし・・・儚いものでございます。」

 

「光秀・・・。」「ぬらりひょん・・・。」

 

「滅びれば・・・夢も現もありますまいて・・・。」

 

ぬらりひょんの言葉が合図だったようだ。光秀と10数人の鉄砲足軽がこちらに銃を向ける。

 

「俺は長い夢を見ていたのかもしれん。人と神が子をなし、共に天下を治める。良い夢であった。」

 

信長の言葉で大樹は信長が自分のために死のうとしていると悟った。

信長は目をつぶった。

10数の銃声が響いた。

 

信長は死を覚悟した。しかし、銃声はしたのに全く痛みが来ない。目を開けるとそこには血だまりに沈む小さな体、大樹の姿があった。

 

「大樹・・・なぜ。」

「貴方はこの国に必要な人間。神は不変の存在、故に安定をもたらすの。でも、何も変えることは出来ない。この国を変革できるのは信長・・・貴方だから・・・。」

 

「愛する二人を永遠に別つ無粋とは思いますが我が野望の為。」

「御覚悟を・・・」

 

ぬらりひょんと光秀が刀を抜く。

 

しかし、その間に突如なぞの空間が現れる。

その空間は無数の目があり悍ましく思えるものであった。

 

ぬらりひょんと光秀は警戒し距離を取る。

 

大樹を抱えたままの信長は距離を取れずその空間に落ちてしまった。

 

「ここは・・・。」

 

信長の疑問に答える様に金髪の怪しい女性が姿を現す。

 

「ようこそ、大樹様、織田様・・・。ここは私の隙間の中よ。別に貴方達に害を為そうとは思ってないわ。ふらふらしてたら丁度、燃え上がる炎を見て様子を見に来たらこんなことになってるじゃない?この国を支える大樹様の危機、お助けするのは当然でしょう?この功績でそれなりの褒美が出ればって言う打算もあるけどね。」

 

信長のいぶかしむ視線はあったが、彼女の言葉を信じて大樹を助けることが先決と判断した信長は彼女の助けを借りることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

明智光秀謀反、織田信長と大樹野椎水御神の生死不明の知らせは衝撃となって全国を駆け巡った。光秀の謀反に呼応して毛利軍は羽柴秀吉を攻撃し、大敗を喫した秀吉は淡路島へのがれた。四国の刑部狸らも反織田勢力が息を吹き返し、四国を動けずにいた。さらに北越では上杉軍が浅井長政・柴田勝家を攻撃、武田残党の蜂起で滝川一益、川尻秀隆、森長可を甲斐、信濃に釘付けにした。四国の後詰の為に堺に集結していた織田信孝・丹羽長秀も三好残党の急襲によって混乱していた。また、有力同盟国の浅井・徳川・北条であるが、浅井は上記の理由で、北条は佐竹・宇都宮軍と対陣しており動けずにいた。残る徳川も武田残党や一向衆残党の蜂起で動けずにいた。

 

 

信長を取り逃がしたものの室町幕府・三好残党を取り込み、ぬらりひょんと合流した光秀は、京洛外の戦いで白蔵主ら妖狐衆を撃破したが、白蔵主らは洛外の戦いで信忠を安土に逃がす時間を稼いだ。信忠は安土で信雄らと合流、迫る光秀の軍勢を迎撃する為に安土城を出陣した。

 

 

光秀は1万7000を率いて安土へ、対する信忠も1万5000であった。

光秀軍の内訳は光秀の手勢1万2000、ぬらりひょんの妖怪軍5000、信忠軍は京都を脱した信忠の手勢2000、三妖精の手勢と糾合した周囲の大樹神社の妖精兵と大樹恩顧の妖怪5000、安土の守備兵と信雄の手勢5000、日野城の蒲生氏郷と佐和山城の磯野員昌らの援軍3000。

 

明智軍と信忠軍は守山で激突した。

光秀の軍勢の妖怪軍はぬらりひょん直々に率いる精鋭軍であった。

西近江路から大樹神社の援軍が光秀を挟撃しようと向かっていたがぬらりひょん派の邪魅の軍勢の襲撃を受けて壊滅し、若狭街道からの援軍も旗色を鮮明にしない細川家を警戒し街道を抜けられずにいた。

守山の戦いはぬらりひょんの精鋭軍との乱戦に大樹大社軍が退けられたことによって勝敗は決した。

 

「信忠様(兄上)!お早く!!」

「おのれ!光秀め!」

信雄とスターの呼びかけに信忠は憎々し気に明智軍を睨みつけていた。

信雄は足を挫いたルナを背負いながら、信忠に告げる。

「兄上、私は三妖精の皆と小谷に向かい近江の大樹大社を纏め上げて、浅井の援軍を引き出してみようと思う。」

「うむ、わかった。自分は岐阜へ行き尾張のぐわごぜと合流し、美濃衆・尾張衆を纏めることにしよう。」

 

信忠は蒲生氏郷と日野城を放棄した蒲生賢秀に守られて岐阜城へ退避した。

信雄と三妖精は磯野員昌と佐和山城に留まり、防戦したが小谷城へ敗走した。

小谷城は長政の嫡子輝政が守っていたが、浅井領内では光秀の調略に乗った阿閉貞征が反乱を起こし光秀を攻撃できる状況になく、守勢に回ることになった。

 

守山の戦いで織田軍を蹴散らした光秀は怒濤の勢いで織田領の大部分を制圧していった。

天下は光秀を中心に回ろうとしていた。

 

 

 



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73 大樹信長記 織田軍再編

 

 

本能寺の変から2カ月、信長と大樹は八雲紫の助けで岐阜の信忠と合流することに成功した。

しかし、大樹の傷は思いの外深く、立ち上がることも困難であった。

八雲紫の説明によると、光秀らの銃の弾丸は蠱毒の呪詛等のあらゆる穢れを込めた呪弾であり、それが彼女を弱らせているのだと聞かされた。

それを聞いた信長は「であるか・・・。」と答え大樹のそばを片時も離れなかった。

 

そして、本能寺の変から2カ月後。大樹は一時的に目を覚ます。

 

「信長・・・うぅ・・・貴方を失いたくなかった。」

 

その言葉を聞いた信長は大樹の差し出された手を握って答える。

 

「お前と言う蝶をやっと捕まえられたな。」

「私も・・・貴方と言う風に・・・やっと乗れた気がします。」

 

大樹はそう答えると再び目を閉じた。

 

「大樹!死ぬな!」

「織田様、大樹様はお休みになられただけです。」

 

動揺した信長を八雲紫は静かに宥めた。

 

「そ、そうか。」

 

 

 

 

 

 

 

羽柴秀吉は毛利軍に敗れた後、淡路を経由し四国に流れ着いた。流れ着いた先で刑部狸と連携し長曾我部元親や十河存保らを説得し、水軍衆といくらかの兵を借り受け、堺・大阪の織田軍を拾い上げ、瀬戸内海を抜け尾張伊勢の港に上陸し信長と合流を果たした。

 

「信長様ぁ~!!よくぞご無事で!!この猿めが!!四国より援軍を率いて駆け付けました!!」

 

信長直々に出迎えを受けた秀吉は感涙しながら信長に駆け寄っていく。

そんな様子を見ていた蜂須賀正勝は横にいた河城にとりに呟いた。

 

「信長様が亡くなっていたら・・・あるいは彼奴が天下を取っていたかもしれんな。」

「そうかもしれないけど、秀吉にとっては信長様の猿でいるのが幸せなんだよ。」

 

それを聞いた黒田官兵衛が「かもしれませんな。」と応じて、他の秀吉の家臣らと信長と秀吉の姿を眺めていた。

 

さらに北条家は東北の最上家・伊達家と同盟を結び北国諸大名への睨みを利かせたことにより、徳川家や諸将は蜂起した残党を征伐し、岐阜の信長の下へ兵を率いて合流しつつあり、信濃真田家(甲州征伐の際に降伏し、本領安堵となった。)の仲介により越後上杉家と一応の和睦が為されたことにより、柴田勝家も信長の下へ向かっていた。浅井家は明智方と接している面が多く近江国坂田柏原と高島朽木で明智軍と睨み合っていた。長政は伊吹山に逗留していた伊吹萃香ら鬼衆を説き伏せ坂田柏原の自陣に招きいれたことにより自軍の倍にも及ぶ敵軍と対陣し続けた。また、飛騨姉小路家は信長の安否が判明した翌月には援軍1000を岐阜に送っており、刈谷の水野信元も本能寺の変後自ら500を率いて尾張の神精丸を守る為にと清州城前に布陣した。

 

光秀は足利義昭率いる室町幕府軍を招き入れた。足利義昭を擁する室町幕府軍の主力は毛利家と宇喜多家の軍であり他に山名家や赤松家の残党で構成されていた。室町幕府の古参の臣は既にほとんどいなかったが、ぬらりひょんが義昭を神輿に指定し諸将がこれに便乗した為、光秀の主導権が失われつつあった。

 

岐阜を起点に勢力を回復した織田軍は反撃を開始、織田方と明智方は近江を起点に二分された。

 

丹後を領有していた細川家は明智(室町)方に与していたが、丹後の半領を義昭の最側近一色藤長に与えたことで、不満を持ちその動きは意図的に緩慢であり、裏では織田方に内応していた。一方では領土の大半を取り上げられていた若狭武田家は領土を回復し、積極的に明智方に協力した。四国の十河家に三下り半を突き付けられた三好三人衆ら三好残党は室町幕府の将として権威を回復。また、本願寺も一部が明智方に合流したが顕如が姿を隠したため合流したのは過激派のみであった。雑賀衆であったが領内で揉め事を起こすことを嫌い反織田・親織田双方がそれぞれに兵を派遣する形で応じた。筒井家であるが、当主順慶は未だに旗色を示さず中立を守っていた。明智方は九州諸将に参陣要請したが音沙汰は無かった。

 

 

岐阜を起点に勢力を回復した織田軍は反撃を開始、織田方と明智方は近江を起点に東西に二分された。

 

織田と明智は全国の大名たちを巻き込み、それぞれ東軍西軍に分けられた。

天下分け目の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 



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74 大樹信長記 天下分け目の関ケ原

天正11年(1583年)3月28日。

滝川一益、森長可、川尻秀隆、真田信繫(のち幸村であり、昌幸のより兵を預かる。)らが岐阜に到着した。彼らは諏訪大社の使者として大祝の諏訪氏の分家である東風谷氏の巫女が2柱より依り代の守り矢を授かり、それを奉じての合流であった。

 

この時、授けられた守り矢を御神体に創建されたのが守矢神社である。

 

また、徳川家からは家康自らが率いる2万が、北条家からは当主氏政の代理として嫡男氏直が5000の兵及び大樹大社と浅間大社の妖精巫女3000の合計8000を率いて岐阜へ向かっていた。

 

全国各地の諸大名が激しく動き始めていた。

 

どちらかと言えば西軍よりではあったが中立の立場をとっている上杉家。上杉家は中立を宣言し、国境の兵を撤収させた。

東北においては、この東軍西軍に分かれた東北諸大名が激しく争った。同年の3月17日、二本松城主畠山義継が伊達輝宗を拉致して両者とも死去した事件がきっかけで、東軍の最上家・伊達家・田村家・相馬家・小野寺家の連合軍と西軍の蘆名家・佐竹家・岩城家・二階堂家・二本松家・白川結城家・石川家が摺上原及び安達郡本宮の人取橋付近で激突した。

関東においても北条家・里見家・小田家の連合軍と佐竹家・宇都宮家・那須家の連合軍も沼尻岩船山で戦った。ちなみに東軍に属した南部家は九戸政実や大浦為信の独立や西軍の和賀家・稗貫家と戦った。不思議なことに九戸も大浦も東軍に付く旨を宣言している。土崎湊では東軍の安東家と西軍の戸沢家・大宝寺家が戦った。

西軍に付いた葛西家・大崎家であるが東北妖怪のたんたん坊と雪女郎の手勢に攻め立てられていた。

 

四国は長曾我部家を中心に西園寺家・十河家が東軍に付き、西軍は河野家のみであったが毛利家の軍勢が三津浜に上陸し、ぬらりひょん配下の七人同行が参戦したため戦闘は膠着した。

 

また、九州は島津家と相良家が東軍に、大友家・伊藤家・阿蘇家・有馬家が西軍に属し、龍造寺家と松浦家・宗家は中立であったが目立った争いは発生していなかった。

 

 

 

 

天正11年(1583年)9月14日。

明智光秀・蛇骨婆は石原峠を背後に南東の方角に向け山の尾根の先。西軍側から見てその右に三好三人衆。さらにその右、松尾山の麓に・明智秀満・斎藤利三。松尾山に細川藤孝と筒井順慶。足利義昭とぬらりひょんは小関山に本陣を置き、一色藤長ら先手は小池村の前に柵を立て陣を敷く。毛利輝元は栗原山。吉川元春は南宮山。明智光秀の左に宇喜多直家・山名豊国・辻神(ぬらりひょん配下妖怪)の布陣であった。

 

先陣のチルノは明智光秀の軍勢へ向かい、徳川家康・北条氏直はチルノ隊を出し抜いて山名豊国と辻神と交戦。

 

「お!?こいつ、たいして強くないぞ!?」

「ちくしょー!妖精の小娘め!氷の塊が!?危ねぇ!?」

 

「さすがは、音に聞こえる氷精巫女殿!!徳川殿!!山名の軍勢を包囲殲滅しましょうぞ!!」

「三河武士の力を照覧あれ!!」

 

 

光秀隊には大妖精・陰神刑部・丹羽長秀・蒲生氏郷・池田恒興の各隊が殺到し三好三人衆には織田有楽斎・織田信包・滝川一益・藤堂高虎隊が向かう。

 

「光秀の首を取れ!掛かれ!」

「日向守様をお守りするのだ!!」

 

「蛇骨婆め!!大樹様を裏切りおって!!この刑部が討ち取ってくれる!!」

「ふん、神頼みの軟弱者共が!!」

 

「「「「「わぁああああああああああああ!!!」」」」」

 

 

辰の時に始まった戦闘は巳午(10~12時)になっても勝敗が決しなかった。 羽柴秀吉の手引きで裏切る手筈であった細川・筒井が動かないのを不審に思った信長は様子見のため筒井の陣に向け銃撃を行うが、それでも変化は表れない。

 

「細川に筒井め!!日和おったか?猿!!火縄銃を射かけてやれ!!」

「上様?よろしいので?」

「敵か味方かはっきりさせればよい!!敵に回らば纏めて潰すまでだ!」

 

 

しかし滝川一益に内通していた宇喜多直家が利三・秀満隊に攻めかかると細川・筒井隊もこれに続く。秀満は切腹、利三は討ち死し、光秀隊は三好三人衆を突破した4隊をも相手にしてしばらく持ちこたえるが西方方面へ敗走。西軍全体の潰走がはじまる。

 

「御味方の勝利にございます!!」

「よし!猿!権六!毛利を追撃せよ!!」

「「っは!!」」

 

毛利輝元は一色藤長からの出陣要請に応えようとしたものの、毛利勢先鋒の吉川広家が信長に内通して動かなかったため戦闘に参加出来ず、勝敗が決すると足利義昭は上方へ向け戦場を離脱。西軍の戦死者は約32600名で、戦闘終了は未の刻(午後2時ごろ)。吉川元春の隊も戦わずして山を下り始め、翌16日未明には撤収完了。朽木口より浅井軍が京都二条城攻め開始した。

 

 

 

 

 

「北面武士の面目躍如ぞ!義昭を捕らえよ!!」

 

一条兼定の号令で配送してきた義昭と藤長の隊を入京していた浅井軍と挟み撃ちにする。

 

「えぇい!!ぬらりひょんめどこに逃げたのだ!!妖狐衆!!草の根かき分けて探せ!!」

 

白蔵主も西軍狩りに参加した。天下分け目の戦いの勝敗は東軍の勝利で幕が引かれたのであった。

 

東軍・織田信長方に加担した武将の論功行賞と、西軍・明智足利方へ加担した武将への処罰が行われた。織田方の多くが加増され、明智方の殆どが改易され、改易を逃れた者も減封された。また、中立諸侯も減封された大名家が殆どだった。明智光秀は九州に逃亡したが足取りは掴めていない。

 

 

京都二条城にて捕らえられた足利義昭・足利義尋(義昭嫡子)・一色藤長・明智光慶(光秀嫡子)は大坂・堺を引き回され、京都六条河原において斬首された。首は三条大橋に晒された。

彼らの処刑には大樹野椎水御神ら大樹大社の重鎮たちが見守る中で執行された。

 

「ぬらりと現れ、ひょんと消える・・・奴を取り逃がしたのは後の禍根となるかもしれませんね。」

「申し訳ございません。狐狸衆を総動員して足跡を負っていますが手掛かりは無く・・・。」

「仕方ありません。あれはそういう妖怪です。」

 

 

 

信長は天皇より新官位『治天下覇王』に任じられた。信忠は『関白』に、以降の人物は『征夷大将軍』に就任している。

治天下覇王の就任後、信長は大名間の私闘を禁じた『惣無事令』を発した。

安土幕府が開闢、安土桃山時代の到来である。

 

所謂、惣無事令である。

 

この命令は、全国に大名に朝廷(関白である信長)への臣従を誓わせ、全ての戦闘を私戦として規定し、私戦の禁止と朝廷による裁定を仰ぐべしとするものだった。

 

そして、これに違反するものを朝敵として厳しく罰するとした。

 

惣無事令は信長が出した最初の全国的な法令であり、以後、織田家による全国支配の基本原理・基本方針として踏襲されることになる。

 

戦国の覇王が発した天下の大号令としては異色としか言いようがない。

しかし、後継者のための地固めとして、信長に残された時間を考えると大きな意味もある方針転換であると言える。なお、安土幕府の成立は北九州・島原の乱や雑多な反乱勢力を一掃した1603年とされる。

 

とは言え、長らく続いた戦国の世の終焉は遂に到来したのであった。

 

 

 



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75 安土大阪時代 妖怪親書

予告とは違って新章突入


 

これは天正11年(1583年)のエヴァンジェリンと西洋妖怪の使節である吸血鬼エリートの会談とそこから繋がった大樹への謁見から得た情報からであった。

 

エヴァンジェリンと会談を果たしたエリートは、数日のうちに安土大樹宮へ招かれ大樹野椎水御神と謁見した。安土でエリートは大樹自らのエスコートを受けて歓迎された。

 

エリートは大樹との宴席において大樹神話の馴れ初めを聞かされた。

この話を聞いたエリートは大樹に強い親近感を覚えた。一介の妖精から神に成りあがった彼女とただの蝙蝠から吸血鬼の上役に上り詰めた自分と多くの点で重なるものを感じたのであった。

 

「ミセス大樹。私も貴女のようにありたいと思いますよ。」

 

2人の間柄は非常に良好な物であり、彼は彼女にある種の憧憬を抱いた。彼は彼女の前では非常に饒舌であり協力的であった。以後、彼は西洋妖怪と日本妖怪の間を取り持つ外交官的な立ち位置となる。この時、エリートは大樹に西洋妖怪は西洋人間社会とその背後の魔法世界社会と対立し、魔法世界社会が妖怪達とは相容れないものであると熱弁した。さらに西洋のイスパニアが過激な異端狩り主義国であり、日本に野心を抱いていると警告した。

 

「近頃のキリスト教圏では異端狩りが頻繁に行われています。昔から良くないが僕ら妖怪にはとりわけ厳しい・・・、ベアード様を筆頭に十字騎士団やそれに連なる輩との争いが激しく、最近はムンドゥス・マギクスの連中が何かにつけて手を出してくるのです。バチカンの教皇に余計な知恵を付けているのは全く持って不愉快としか言いようがありません。」

 

「・・・ムンドゥス・マギクスといいますと?」

 

大樹の問いにエリートは「これは失礼」と説明する。

 

「そちらには魔法世界と言った方が解りやすいかもしれませんね。この世界に寄生虫のように張り付く異世界ですよ。私も本職ではないので詳しくは解りませんがこちら側の魔女が言うにはこの世界の養分を吸って生きる寄生虫の如き異世界と説明されました。」

 

「エリート・・・間違いではないが、いささか悪し様に言い過ぎでは?少なくても、我々に敵対的なのはメセンブリアの連中で、ヘラスは亜人国家でこちらには手を出してこないし比較的好意的ではないか?」

 

エヴァの苦言にエリートは格上のエヴァに気を使って返答する。

 

「そうかもしれませんが、ヘラスなど傍観者でこちらからは存在感のかけらもない。ベアード様からは東洋の重鎮たる大樹様と親交を持ち連中と対抗したいとお考えです。何卒、大樹様からは色よい返事をいただきたいものです。」

 

天正11年(1583年)、西洋妖怪の有力者バック・ベアードは吸血鬼エリートを使者に東洋の重鎮とも言える大樹野椎水御神へ親書を送った。

 

この時、大樹は親書の返信を保留しエリートを一時留め置いた。大樹としても即答できかねる内容であり、当初は色よい返事をする予定ではなかったと言われている。

 

しかし、大樹野椎水御神とバック・ベアードの関係は時を追うごとに発展していく。

最終的に強固な同盟関係に発展するのだが、その発端はすぐに訪れる。

 

大友宗麟を中心としたキリシタン大名と明智軍残党の決起である。

そして、それに力を貸したイスパニアと魔法世界、以後長きに渡る因縁の始まりであった。

 

 



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76 安土大阪時代 島原・北九州の乱

天正12年(1585年)1月9日、島原城。

 

「ぬらりひょん・・・貴様の役目はここまでだ。」

「ほぅ・・・光秀殿・・・それは一体どういうお考えで?」

 

光秀の背後から数人の人影が現れる。

宣教師たちであった。だが、彼らの手には杖が握られている・・・魔法使い・・・キリスト教の背後でうごめく異端狩り集団であった。

 

「・・・愚かですねぇ・・・まぁ、いいでしょう。私はこの辺りで手を引かせて頂きましょう。」

 

ぬらりひょんは煙のように消えていなくなった。

 

「逃げたか・・・。」

「ミツヒデサマ、5年ゴ・・・イスパニアの艦隊クル。マホウノクニのセンシ達もキョウリョクする。ヴァンパイア・・・闇の福音ヲ殺シテクダサイ。」

 

 

天正18年(1590年)10月25日。

安土幕府開闢より7年、国家宗教として神道が採用され、次いで仏教が続いた。

全体主義的な気風のあるこの国でキリスト教は迫害こそされなかったが、白眼視されるものであった。キリスト教は徐々に徐々に信徒を失っていく。

 

そんな中で、起こったのが北九州の乱である。

 

「キリシタンを率いて信長を討つ!!」

 

明智光秀を挟んでキリシタン大名の大友宗麟と有馬晴信らはイスパニアと手を結び国家の転覆を計画。

 

天正18年(1590年)10月25日、博多湾にイスパニア船10隻が来航。

イスパニア船団より降りたイスパニア士官は大友宗麟と謁見。

 

大友家・有馬家の合同でキリスト教国として安土幕府よりの独立を宣言した。

幕府は当然これを認めず大友・有馬の討伐を諸大名に命じた。

 

この時、信長はすでに病床の身となり実権は信忠に渡っていた。

 

先鋒の島津・毛利の諸大名より魔法使いの存在を把握した信忠は幕府軍を編成する一方で毛利家(関ケ原の戦いで減封)、島津家、龍造寺家といった諸藩に大友家討伐令を発した。

 

信忠より知らせを受けた大樹の行動は素早かった。

 

吸血鬼エリートの警告もあり、北九州の乱への対処は迅速であった。

 

 

結論から言えば有馬家は龍造寺家・相良家・島津家の三方から攻められ陥落した。イスパニア軍や明智残党を擁する大友家は九州諸大名と援軍の四国諸大名と毛利家そして織田幕府軍によって攻め立てられた陥落した。

 

しかしながら、その代償は当初の予想を裏切るほどの大きさであった。

 

大宰府からの通報が最初に届いた大樹大社は大妖精を中心とした妖精巫女衆が派遣される。

大宰府は大樹大社の影響下にあり、大友家が敵にまわっているため情報が遮断され、異常を察知した神社系勢力が歩き巫女の形で妖精巫女を派遣した結果。大友家を中心としたキリシタン大名の裏切りが発覚、最初に情報を掴んだ大樹大社が最初に兵を派遣したのであった。

 

天正19年(1591年)1月28日、太宰府天満宮を包囲する大友軍1万5000に大妖精率いる大樹大社軍精鋭5000が奇襲攻撃を仕掛けるも。

 

大友家の軍勢に交じる魔法使い達の集団儀式魔法による大魔力魔法の射手の一斉掃射によって多くの妖精達が討ち取られる。

 

「っくぅ・・・そ、そんな・・・強い。」

「大妖精様!チルノ様が!?」

 

妖精巫女の一人の言葉に大妖精は愕然とした。

 

「ち、チルノちゃん!?」

「だ、大ちゃん・・・えへへ、失敗しちゃったよ。」

 

 

太宰府天満宮の菅原道真は渋面を作った後。

自身の御付きの妖精巫女梅林に指示を出す。

 

「天満宮を放棄する。大緑光ノ精様たちをお守りしつつ、佐賀城まで撤退する。佐賀の龍造寺隆信と合流し立て直す。」

 

 

翌月には菅原道真らは佐賀まで撤退し龍造寺軍と合流し立て直しを図るが、龍造寺家の南に位置する有馬家が大友側に付き龍造寺家を攻撃する(松浦家や宗家は小藩で申し訳程度だが龍造寺家救援の兵を出している)。その一方で幕府の討伐令に応じた島津家、相良家、伊東家は北上を開始。阿蘇家は島津家他の北上に対して申し訳手度に抵抗したが、早期に降伏している。

 

門司港には村上水軍の協力を得て毛利家と宇喜多家及び羽柴秀吉率いる幕府軍が、佐伯港には長曾我部家と前田利家と丹羽長秀がそれぞれ率いる幕府軍が上陸した。さらに大樹恩顧筆頭の妖狐狸衆が中津港に上陸を開始。

その頃には島津家、伊東家、相良家の連合軍が大樹の檄文に応じた現地妖怪達を加え北上を続けた。

さらにその翌月には幕府軍及び諸藩軍の援軍が派遣される。

 

最終的に幕府軍及び諸藩軍と北九州賊軍(大友家、有馬家、明智軍残党、過激派キリシタン)の戦力差は25万対5万と言う大きすぎる差が開き圧倒的な数の差で賊軍を討ち取ることとなる。

 

また、イスパニア船団に対しては九鬼嘉隆率いる幕府水軍連合(九鬼水軍や村上水軍と言った日本中の水軍衆は統一過渡期にあり、水軍衆の大半は幕府に組み込まれ、一部が諸藩の沿岸防護規模の水軍になった)に和製ガレオンを加えて当たらせた。

 

「なぜ、あの男は神に愛されるのだ・・・。」

 

大友宗麟は自害、明智光秀も討ち死した。光秀は討たれた際、怨嗟の声を上げたと言う。

これ以降は幕末まで国内での大規模な戦いは起こらなかった。

しかし、この戦いを期に大樹は幕府要人相手や大樹大社の非公開神事にしか姿を見せなくなる。

 

この戦いにおいて、大樹の側近である大妖精、チルノや光の三妖精らが討たれてしまい(今でいうピチュる)記憶の多くを失ってしまったのである。

 

「チルノちゃん。」

「あんた誰よ?」

 

「大ちゃん・・・。」

「あ、あのあまり覚えていなくて・・・ごめんなさい。友達だったんだよね。」

 

特にチルノの記憶喪失はひどく大樹大社の最強の戦闘妖精であった経験が完全に失われていた。光の三妖精も政治に参画できるだけの能力を失い、比較的記憶の欠落が少ない大妖精も大樹大社の妖精で現役を引退し東北の隠れ里(後の幻想郷)に記憶を失った妖精達と共に下った。また、数年後にはエヴァンジェリンも日本を離れて旅に出る。

 

「大樹・・・俺はこの国にお前のためにと尽くしたつもりだった。だが、お前個人には何かできたのだろうか。それだけが心残りだ。」

信長の最期の言葉に大樹はただ黙って彼の手を握った。

 

「・・・・・・・」

 

千年来の友人たちを失い、その翌年には唯一愛した人間である信長もこの世を去った。彼女の心の傷は深く、300年程歴史の表舞台に立つ事は殆ど無く、幕府への提言助言もさほど多くは無かった。ただし、刑部狸や白蔵主を筆頭に恩顧妖怪達は外国勢力(特に欧州圏や魔法世界勢力)への敵愾心を燃やし、幕府軍やその次の帝国軍と密接なつながりを持つこととなる。蝦夷開拓や琉球併合は文治派恩顧妖怪筆頭の白蔵主の案である。

 

 

慶長元年(1594年)。大樹は留め置いていた吸血鬼エリートを呼び出し親書の返礼を送る。

 

上座に座る大樹とその左右に控える大樹恩顧の大妖怪達たち、取り次ぎ役のぐわごぜが大樹に変わり声を発す。

 

「吸血鬼エリートよ。同盟締結の件、了解した。ついては詳細を詰めたく思うと伝えなされぃ。」

 

「わかりました。大樹様、我が主ベアード様もお喜びになりましょう。」

 

バック・ベアードら西洋妖怪と大樹率いる東洋妖怪(当時は日本妖怪)による東西妖怪同盟が成立した。

 



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77 安土大阪時代 拡張の始まり

 

慶長5年(1598年)。信長、信忠と幕政は安土で執り行われていたが外国との交渉などの理由で港湾に近い場所が便利であると言った理由等で石山本願寺跡に築城が行われていた大阪城がやっと完成した。羽柴家に任されていたものであるが優先順位が低く設定されていた為にこの時期の完成であった。安土城は以後織田宗家の居城もしくは将軍の隠居先として機能することとなる。この大阪城は近世に江戸城へ政府機能が移転するまでの長きに渡り幕府の政治の中心となった。

 

軍事において、オランダ船のリーフデ号漂着から始まる一連の出来事で織田海軍の和製ガレオンは完成形へと至り、海軍を整備するに至った。さらに、幕府は三代秀信の時代には外交の主体をオランダに移行した。また、リーフデ号の乗員であったウィリアム・アダムスは「三浦按針」と言う名を与えられ織田家の家臣となっている。

 

また、安土幕府がキリスト教勢力を危険視したのは北九州の戦いをして当然と言える。当時、安土幕府の政務顧問となっていた聖白蓮や金地院崇伝や天海僧正といった日本古来の仏教勢力の巻き返しという側面がある。この結果、神道に完全に傾きかけていた日本の宗教は仏教と神仏融合の曖昧さを持って仏教の形を残した。

 

また、対日貿易を独占したかったオランダがポルトガルやスペインを排除するため、両国に関係が深かったイエズス会などの宣教師が侵略の尖兵であるとした言の影響も大きい。

 

後者については九州に上陸したイスパニア軍(ルソンの総督府の独断であった)の存在もあり、危機感をもって受けいれられていたのである。

 

また、1511年のポルトガルによるマラッカ征服は幕府も承知しており、外国勢力による侵略は十分、ありえる話だった。しかし、大きなブレーキがかかった南蛮貿易は、一時的な停滞の後、大きく回復した。

 

理由は専ら単純で、貿易が黒字転換したためである。

幕府の金蔵には、御用商人から冥加金として新大陸産の輸入銀が積み上がり、国内の銀流出は完全に停止、それどころか銀がダブついてその扱いに苦慮するほどであった。

黒字転換が実現したのは、羽柴家が領する摂津での技術革新に依るところが大きい。

 

この技術革新は、多方面に渡り、その内容を網羅して紹介することは困難であるが、変革の旗手となったのは羽柴家と縁のあった河童の氏族の名前が残っており、その名前は現代まで残っている。「家電からロケットまで!」が宣伝文句の河城重工業である。

 

摂津はその立地条件から淀川水系、瀬戸内海上交通、四国航路の結節点として商業的な繁栄の時を迎えることとなる。

 

1614年の羽柴家による反射炉建設はその象徴とも言える出来事だった。

 

しばしば誤解されることであるが、1614年に建設された日本初の反射炉は銅製錬のものであって、製鉄用のものではない。摂津での大規模な製鉄は1644年の高炉及び転炉法の完成からである。この製鉄能力を以て幕府は銃や大砲の生産を行い幕府の軍事力の裏付けとなっている。

 

さらに、秀信は拡張戦略を進め。オランダと同盟を結びルソンを巡りイスパニアと争った。

また、山田長政や由井正雪を筆頭とする浪人たちを東南アジア諸国や東インド会社に傭兵として送り込んだ。マラッカやバンドンに対しても現地国家へ日本人傭兵を送り込み領土的野心をちらつかせていた。また、南方妖怪は元寇襲来の際に共闘した歴史的経緯もあり、西洋諸国を侵略者と見ていた南方妖怪は幕府から高度な自治を約束され、南方妖怪は幕府に協力する旨を大樹に伝えている。

 

そして、アジア近傍で強力な海軍力を持ち、人ならざる者たちが控える日本を絶対、敵に回してはならないと考えたオランダの東インド会社は日本と共存共栄の道を選んだのである。

 

だが、常に利害が一致するわけではなかった。

高砂(台湾)問題である。

 

 



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78 安土大阪時代 明朝台湾と東インド会社(蘭)

「国性爺合戦」といえば、18世紀初頭の人形浄瑠璃の傑作として名高い。

この物語は史実を一部、脚色、改変したものだが主人公は実在した人物であり、鄭成功といえば、台湾王国の開祖である。

 

17世紀の東アジア最大の事件といえば、明朝の滅亡(1644年)となる。

明朝は、1368年の朱元璋による建国以来、東アジアの最大最強の国家であった。

2世紀を超える明朝の歴史に紆余曲折がなかったわけではないが、その最後をまとめるなら内紛と財政破綻、そして農民一揆による首都占領と皇帝の自殺と言う救いようがないものだった。

 

その農民一揆も指導者の力量に欠いていたため新政権を築くことができず、皇帝の自殺によって無政府状態となった中華大陸を征服したのは、ツングース系女真族のヌルハチによって建国された後金(清)であった。

 

明の財政破綻の原因は、清との抗争に備える軍備拡張による自滅であったが、明朝は清朝によって滅ぼされたと言っても良い。

 

明の滅亡後、明朝遺臣による亡命政権(南明)の樹立と抵抗運動が始まった。

 

その明朝遺臣の一人が、前述の鄭成功であった。

 

鄭成功の名が日本に広まったのは、3代目織田秀信の時代に、明朝救援の使者として来日して、秀信と会見(1648年11月)したことがきっかけとなる。

日本の平戸で日本人女性と漢人商人の間に生まれた鄭成功は、生まれ故郷に援軍を求めたのである。

 

秀信は滅びた主家に忠義立てる鄭成功を褒め称えたが、援軍や参戦要求については全て断った。漢民族の明朝は中華妖怪の首魁チーが背後で操る国であり、大樹の心情を推し量った秀信としても非漢民族の後金の方が良いと考えていたところがある。

 

鄭成功は明朝復興の暁には領土割譲などを交渉材料と提示したとされる。

 

しかし、この申し出は秀信にとっては迷惑でしかなかった。鄭成功の空手形は大老織田樹長(大樹と信長の息子、神精丸の元服後の名前)は不審がらせ、他の幕閣たちに「反清復明は不要」と言い含めてさせるほどであった。

鄭成功が割譲予定の土地として提案したのは、満州等の女真族の領土であり、完全な空手形な上に、そんな土地をもらっても何の利益もなく、火中の栗を拾う様なものと影で切って捨てたのであった。

 

幕府の関心は、明から間接貿易で手に入れていた絹や陶磁器、漢方等の製薬原料の輸入だったのである。そのため、援軍は断ったが鄭氏を通じて絹などが輸入できるとわかると武器と絹のバーター貿易を成立させた。

 

援軍が得られなかったことに鄭成功は落胆したが、滅びた主家に忠義を尽くすその姿に全国から同情や喝采が集まり、多くの浪人が雇用を求めて殺到したのは予想外だった。

 

鄭成功の傭兵として、大陸に渡った日本人の数については正確な統計があるわけではない。しかし、一説によれば5万人に上ると考えられている。幕府としても時と場合によって不穏分子に成りかねない浪人を追い出せると言う事で大陸浪人の増加は気に留めることは無かった。そもそも、外に自主的に出て行く浪人は無能な働き者であり、要らぬ人材であった(優秀なら幕府や諸藩が引き取るはずであり、無能な怠け者は勝手に死ぬはずである)。

 

日本人傭兵軍と大量の鉄砲火器を得たことから、南明は南京を奪回するなど清の膨張を押し返すことに成功した。ただし、清と関係悪化をしたい訳でもないので清の使者が来た際も貿易の門戸は開いていることを告げ、密貿易を希望するようならそれに応じた。大陸に渡った浪人は棄民と切って捨てている。

 

大陸浪人を棄民と切って捨てたことは得策であった。日本人傭兵は自身の賃金の確保や武器の代金を支払うため南京を略奪し、占領地に重税を課したことから農民一揆が頻発したからである。

 

江南、江西などでは一部の藩主たちの密命を帯びた傭兵が、景徳鎮で略奪や陶工の誘拐を行っている。この時、流出した技術が日本に伝わり、伊万里や瀬戸で美しい陶磁器が焼かれることになった。こうした日本人の暴虐に関して大樹を始めとした者たちは元寇の意趣返しと考えて黙認していたようである。

 

南明は完全に民心を失ってしまい、清軍の反撃もあって台湾に撤退を余儀なくされた。

台湾は、当時、オランダ東インド会社の支配下にあり大陸から逃れてきた鄭成功軍とオランダ東インド会社軍が激突した。

ちなみに東インド会社軍の主力は日本人傭兵で、台湾の地で日本人同士が戦うことになった。

 

オランダ東インド会社は幕府に救援と鄭成功軍の日本人傭兵に戦闘中止を要求し、全く同じ要求が鄭成功から届いたため、幕府は頭を抱えることになった。

四代信朝は、停戦を斡旋し、使者として五大老の羽柴秀時を遣わした。

秀時は、初代秀吉の孫にあたり、秀吉の再来として辣腕を奮っており、外交にも明るいことからこの人選は適当なものだった。

 

講和斡旋に際して、東インド会社が台湾の統治権を手放す代わりに貿易特権を得るなど妥協策を提示し、講和を成立させた。

東インド会社軍がゼーランディア城を退去したのは、1661年6月のことである。

以後、台湾は鄭氏の治めるところとなり、現在の台湾王国へと続いている。

 

鄭成功自身は、大陸への反攻「反清復明」を果たすことなく、翌1662年6月23日に熱帯病により病没した。

以後の鄭氏は「反清復明」を掲げるものの清の圧迫が強まり、日本が再び講和を斡旋して、1683年に「反清復明」の旗を下ろして、清の冊封下に入った。ただし、ここで大樹は中国妖怪の総大将チーへの嫌がらせに、台湾妖怪(中国妖怪の反チー派)の総大将に邪仙霍青娥を擁立した。以後、中国台湾間で妖怪同士の諍いが多発することとなる。

 

台湾は冊封体制に組み込まれたが、日本との関係は維持した。

鄭氏には、日本から羽柴秀時の娘が嫁ぎ婚姻同盟が結ばれた。また、生き残った日本人傭兵が台湾王国の要職につき、日本から親族を招き寄せ土着化していった。

台湾王国は、冊封体制下に入ったものの内政の独立を維持し、朝貢貿易と日本の間接貿易の拠点となることで18世紀から19世紀初頭にかけて繁栄の時を迎えることになる。

 

 

 

 



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79 安土大阪時代 日独妖怪姻戚同盟

歴史が改竄されていきます


 

1685年にはイスパニアとルソンを巡って争っていた幕府に対して業を煮やした大樹恩顧武断派筆頭陰神刑部は同じく武断派のたんたん坊と共にルソン出兵を決断した。

なお、大樹恩顧武断派の大妖怪に分類される風見幽香の足跡を示す資料は少なく、客将もしくは相談役の様な立場であり大樹勢力の傘下という訳ではないからとされる。

 

ルソン沖海戦において、イスパニア征討軍の総大将陰神刑部狸は開戦における速攻を狙い化け鯨を参戦させることに成功しイスパニア東洋艦隊を食い破り、ダメ押しに船幽霊の襲撃で文字通りイスパニア東洋艦隊を壊滅させた。

残りの治安維持程度の戦力しか持たないイスパニア陸軍や植民地兵たちの殆どは降伏し、一部の抵抗は歯牙にもかけずに粉砕し、ルソンのみならずヴィサヤ諸島やミンダナオ島をも掌握し周辺の島々も手に入れることとなった。

 

この戦いが巡り巡ってイスパニアの衰退へ繋がったのである。

 

 

陰神刑部、たんたん坊、ぐわごぜは大樹恩顧の妖怪3万からなる大軍はルソンのイスパニア軍を殲滅させ、後続の幕府軍と共にパプワニューギニア(大南島)とその周囲の島々を支配下におさめた。こうした大樹らの動きに南洋妖怪は概ね好意的に受け取られた。18世紀には東北諸藩が長年開拓し続けた北方航路はアラスカに至り、ロッキー山脈沿いの太平洋岸を領有(新大陸を植民地とした欧州とは違い先住民を日本国民に組み込む形で人口を増やした)した。また、オセアニアを巡ってイングランドとも対立していた。享保11年(1726年)8月、イスパニア・イングランドと対立する上でその背後の魔法世界との対立も激しくなり、その関係で大樹大社の恩顧妖怪達は西洋妖怪との同盟強化を模索し始める。その結果、大樹の実の娘である古明地祀の西洋妖怪総大将バック・ベアードへの輿入れが現実となった。

当時のバック・ベアードは妖怪至上主義者であり、なにを持ってこの婚姻が成ったかは謎が多いが、結果としてはベアードも彼なりに人間との折り合いをつけて態度が軟化していることから良い結果であったと言える。

 

 

鬼界ヶ島にて行われた結納において、バック・ベアードは大樹側の出席者に幕府将軍織田信邦が列席しているのを見たベアードは大樹に彼らを術で操っているのかと問うた際に、大樹は「家臣の様なもの」と答え人妖を影響下に置く大樹を見て、東洋妖怪の女帝と認識したバック・ベアードは自身を雑多な集団のボスとしてでなく、西洋妖怪の皇帝として意識しだす切欠ともなった。これを機に妖怪と言うよりも人間よりな魔法使いがベアードの配下に加わった。

 

なお、式の様式としてはベアードを中心に神聖な存在に誓う式に不快感を示したことから、日本の神前式に似た今でいう人前式に近いものであった。

 

「このようなよき日を迎えることが出来たのは・・・」

 

その150年後の明治9年(1876年)、バック・ベアードと古明地祀の間で第一子さとり、その5年後には第二子こいし誕生。バック・ベアードはプロイセンを地盤に勢力を拡大。

1893年には古明地祀と2人の娘は一時里帰りを行い傷心中の大樹野椎水御神の下で10年ほど過ごした。その十年で大樹は心の傷を癒す事が出来たようで再び表舞台に立つことが増えて来るのであった。

 

西洋と東洋(中華系を除き、東南アジアや一部の南洋系を加えた)の妖怪の同盟関係、この存在は魔法世界系魔法使い、キリスト教系勢力の警戒を強めることになる。

東南アジアや南洋フィリピン系の妖怪らの認識としては積極的に日本妖怪と同じ東洋妖怪と言う考えは薄く、あえてと問われればそうなのだろうと言う認識である。

 

享保11年(1726年)の西洋妖怪の首魁バック・ベアードと大樹野椎水御神が長女古明地祀の婚姻が為され裏社会における妖怪大同盟成立を契機に、安土大阪幕府は抜本改革を決意させるに至る。

 

 



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80 安土大阪時代 妖怪の国

 

海外植民地の獲得と余剰人口の移民事業は、享保16年(1731年)におきた亨保の飢饉が深刻であったことから、強権発動、あるいは武力行使も辞さない強引なものであった。

 

とはいえ、にわかに海外植民地の獲得が始まったわけではなく、亨保年間以前に既に海外探索はある程度行われていた。

 

その目的は製糖のためにサトウキビ栽培地の確保と木材資源、毛皮、鯨油の調達であった。

 

サトウキビ栽培は、琉球、台湾、呂宋の独壇場であった。その利益は独占的なものであり、新たに砂糖販売に乗り出すには別にサトウキビ栽培地を得る他なかった。

 

砂糖貿易の巨利に目をつけ商人たちは、自費で多くの探査船を派遣して、太平洋各地を探索した。サトウキビ栽培が可能な土地を探して、スペイン領のマリアナ諸島や、その南に位置するカロリナス諸島を訪れた。そこからさらに南下して大南島パプア・ニューギニアに至っている。この際に南洋妖怪たちを庇護下においている。彼らには高度な自治権(放置)を与えている。

 

 ただし、大南島は熱帯雨林と湿地が続き、赤道の無風地帯でもあり、帆船時代にはほぼ利用価値がなかった。一応、日本語の標識などを立て領有を宣言しているが、宣言しただけで植民は行っていない。

 

探査船は現地人と苦労して交渉して水や食料を補給し、さらに南下してオランダ人が先に見つけていた南天大陸オーストラリアにたどり着いた。

 

最初に南天大陸を訪れたオランダ人は不毛の土地として植民を諦め、地図にその場所を記すにとどめているが、日本の探査船は砂糖栽培地を求めてさらに大陸沿いに南下。ついに農業が可能な土地を発見した。

 

 また、周辺に大量のクジラが生息しており捕鯨に適している場所だった。

 

 しかし、元禄年間には僅かな寄港地を設ける程度で南天への植民は行われていない。

 

 この時点では南太平洋への植民はコストの面から否定されていた。まだ日本国内で開発できる地域が残っており、植民地建設は不要だったのである。

 

 だが植民地可能な土地として幕府の御文庫には記録された。

 

 

 

一方の欧州ではベアードを中心に西洋妖怪はプロイセンを中心に貴族などの有力者に成り代わり、プロイセンを影から掌握した。

 

1866年の普墺戦争にて妖怪達を前面に押し出し、ケーニヒグレーツの戦いでプロイセン軍がオーストリア軍に完勝し、圧倒的な力を持ってオーストリア軍を撃滅。

 

僅か7週間で勝利した。

この頃よりベアードは欧州の掌握を目指し行動を開始した。

また、この戦争で一躍英雄となった参謀総長モルトケはベアードの軍師であるヨナルデ・パズトーリが成り代わった存在である。ベアード自身もオットー・ビスマルクに成り代わっており、ロシア大使時代にはクマ狩りにはまり、クマを殺して周り魔法使い達にマークされてしまう要因となった。

 

 

駐日大使吸血鬼エリートの一時帰国の際に、旅の途中のエヴァンジェリンと会いプロイセンに立ち寄った。

 

「いやいや、闇の福音エヴァンジェリン・A・K・マクダヴェル。魔法使い共は随分と目の敵にしているようだね。」

 

「あぁ、随分と嫌われたものだよ。我々吸血鬼は・・・。」

「ベアード様の御命令でこの国の有力者の大半は、僕ら吸血鬼と入れ替わってるからね。眷属も軍部や政府に散っているからね。」

 

「ふん、この前の戦争で随分と暴れまわった様だな。メガロの魔法使い達に目を付けられるぞ。」

「ベアード様は織り込み済みさ。次の戦争で純血魔法使いがこちらに付く手筈だよ。アルカナ家とかグルマルキン・ロンロンと聞いている。」

 

純血魔法使いと言うのは魔法世界の魔法使いではなく。この世界にいる一子相伝の魔法を代々継いだ家系で、いわゆる悪魔と契約したなどの魔法世界の様な学術的で体系化した魔法以外を得意とするこの世界特有の魔法使いである。

 

「マクダヴェル女史はベアード様にお会いする予定かな。」

「いや、その予定はない。どうせ顔を合わせれば、自分の配下になれと煩いからな。」

 

プロイセン軍各隊に散りばめられるように下級吸血鬼(グール)が配属され、なりそこないの人狼(半人半狼)が騎兵扱いで軍に組み込まれている。

 

大樹に倣ったやり方のようだが、大樹以上に妖怪を前面に押し出したベアードのやり方は過激なものに見えた。

 

 




アルカナ家は6期の家系。
グルマルキン・ロンロンは固有名詞、グルマルキン4期魔女とロンロン1期魔女を名前苗字で合体させたオリジナル設定です。


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81 近世 動き出す帝王





 

普墺戦争の大勝利によってドイツ東西のプロイセン領の統合を達成し、オーストリアを統一ドイツ(現段階では北部ドイツの統一)から排除した。一方、オーストリアは翌1867年にオーストリア=ハンガリーを成立させ、ドナウ河流域の統治に専念することになる。

 

オーストリア=ハンガリー二重帝国はハプスブルク家(ハプスブルク=ロートリンゲン家)の君主が統治した、中東欧の多民族連邦国家であり、国家連合に近い。1867年に、従前のオーストリア帝国がいわゆる「アウスグライヒ」により、ハンガリーを除く部分とハンガリーとの同君連合として改組されることで成立した多くの地域を抱える大国だった。そして、オーストリア=ハンガリーはプロイセンの影響を大きく受けることとなる。

 

オーストリア=ハンガリー成立の翌年、オーストリア皇帝はハンガリー国王を兼ねる存在(同君連合)とされ、軍事・財政・外交面は依然として皇帝が直轄していたが、プロイセン(ベアード)の影響は皇帝の下に宰相を設けると言う形で現れる。

スカーレット家の馬車がホーフブルク宮殿の前で泊まる。壮年の吸血鬼と幼い容姿の吸血鬼が使用人を伴い降り立った。

 

「お父様、ここが皇帝の住んでいるところなの。」

「そうだ。レミリア、スカーレット家の長女として恥ずかしくない振る舞いを心掛けなさい。」

 

「もちろんですわ。お父様・・・でも、紅魔館から引っ越しするのは残念です。気に入っていたのに・・・。」

 

ギュスターヴはレミリアに優しく言い聞かす。

 

「代わりと言っては何だがシェーンブルン宮殿を使っていいことになっている。あそこは環境がいいし、フランの心にも良い影響を与えてくれると思うよ。」

「そうですわね。お父様。」

 

そのような会話をしながら、宮殿の中を進む二人は皇帝フランツ1世への挨拶を澄ましシェーンブルン宮殿へ居を移しオーストリア=ハンガリーの政治・軍事・外交を動かすのであった。

 

ギュスターヴ・スカーレット侯爵の宰相就任。彼は西洋妖怪軍団の最高幹部であり、首領であるバックベアードとは親友同士の関係でもある初代ドラキュラ公爵の血縁であった。

 

スカーレット家は吸血鬼内でも名族に分類される良家であり、本家のドラキュラ公爵家が最高幹部であるので必然的にスカーレット家も上位幹部階級にある。また、プロイセン王国(西洋妖怪軍団)の半傀儡状態のオーストリア=ハンガリー二重帝国の国家宰相に差し込まれるギュスターヴ・スカーレットの信頼は篤い。

 

1868年に送り込まれたスカーレット侯爵はドラキュラ公爵よりオーストリア=ハンガリー二重帝国の維持を命じられた。当時のオーストリア=ハンガリーは普墺戦争を含む多くの戦争で連敗し続けており急速な支配力の低下が懸念されていた。彼はオーストリア=ハンガリーの維持のためにアウグスライヒであったりナゴドバ法だあったりと人種間問題で多くの妥協を行った。

 

1889年、ギュスターヴの実権掌握を受け入れた皇帝フランツ1世と違い反目する皇太子ルドルフを暗殺する等、政敵には強硬な対応を行った。これはフランス自由主義勢力からの影響を受けたルドルフを嫌ったが故の行動であった。また、フランスは魔法世界勢力の影響が強い国でありベアードの懸念する事であった故でもある。

ルドルフの背後関係を調べるうちにフランツ1世も一枚かんでいたことに気が付いたギュスターヴは1898年に皇帝への見せしめとして皇后エリーザベトをも暗殺した。

 

「皇帝陛下、勘違いなされますな。貴方の代わりはいくらでもいるのです。なんなら、貴方を眷属にして奴隷にすると言う選択肢もある。それが御嫌なら大人しくしていて欲しいものですな。」

 

ギュスターヴの恫喝を受けたフランツ1世は皇帝は激しく怯え、政務に没頭するようになった。

 

 

 




ギュスターヴはオリキャラです。
次回辺りから、ベアード軍団や魔法世界の動きが見えてくるか・・・


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82 近世 普仏戦争

 

 

ベアード影響下のプロイセン王国は魔法世界影響下のフランスとの対立激しく、表の理由においてもスペイン王位継承問題でプロイセンとフランスの対立が高まる中、プロイセン首相(北ドイツ連邦宰相)ビスマルクは「エムス電報事件」でフランスとの対立を煽り、また北ドイツ連邦と南部諸邦の一体化を図った上で、1870年7月19日フランス側に開戦させ、緒戦ではフランスがザールブリュッケンを占領して勝利したが、以降はプロイセン及び同盟軍の優勢で推移した。

 

ナポレオン3世は自ら戦地に赴き、9月1日のセダンの戦いに臨んだが、プロイセン軍は戦線に穴を空けた南方から迂回し、セダンから首都パリへの退路を断つ包囲行動に出ていた。

 

迂回路の戦いではベアード配下魔女グルマルキンと魔法世界の魔法使い達が激しく戦った。

三角帽を被った鉤鼻の魔女グルマルキンは箒に乗って、魔法世界(メガロ・メセンブリア)の魔法使いを待ち構えていた。

 

彼女は魔法世界の魔法使いたちを視界にとらえると「アパラチャノモゲータ!」と呪文を唱える。すると空中に召喚魔法陣が無数に浮かび上がる。「「「ケケケ」」」と言う笑い声が響くと巨大な鎌を持ったかぼちゃ頭の召喚魔パンプキンたちが現れ魔法使いたちに襲い掛かる。

 

「ふぇっふぇっふぇ、異世界の魔法使いは腑抜けばかりだねぇ・・・。さて、地上の雑魚どもも一掃するとしようかねぇ。」

 

そう言ってグルマルキンは箒についた笛を吹く。奇妙な音色に合わせて地面が盛り上がるとそこからゴーレムとガーゴイルが次々と現れる。

 

「お前たち、フランス兵どもを皆殺しにしてやりなぁあ。」

 

 

フランス軍はセダンで完全に包囲され、開戦からわずか1ヵ月半後の9月2日、ナポレオン3世は10万の将兵とともに投降し捕虜となった。この一連の出来事は妖怪要素が取り除かれる形でフランス市民に伝わり、2日後の9月4日、ナポレオン3世の廃位が宣言されるとともに、国防のための臨時政府の設立が決議された。

 

プロイセン軍は、各地の要塞や残存部隊による小規模な抵抗を各個撃破しつつ、パリへ進撃した。9月19日、遂にパリが包囲された。

 

プロイセン軍は背後にあるメス要塞の攻略を決断した。メス要塞攻略は、ベアード四天王の禿頭に長い白ヒゲ腰布一枚という絵に描いたような巨人ジャイアントと手を使わなければ開けられないほど大きな瞼を持つブイイと上位幹部の狼男のヴォルフガング率いる魔犬や人狼の軍団が攻めかかり力攻めでメス要塞を陥落せしめた。

 

「所詮人間は人間、剣であろうと銃であろうと小細工でしかない。その無駄な努力は認めてやろう。100年前よりは殺しがいがあるからな。」

 

ヴォルフガングは爪に血を払って吐き捨てた。

 

これはメス要塞の虐殺として歴史に残っている。

 

1871年1月5日、パリに砲撃開始。1月18日、パリ砲撃が続く中、ヴェルサイユ宮殿鏡の間で、プロイセン国王はドイツ皇帝ヴィルヘルム1世として推戴され、ここにドイツ帝国が樹立された。

これは欧州においてバック・ベアードの、妖怪帝国の誕生を意味した。

 

 

1月28日、休戦協定が署名された。5月10日、フランクフルト講和条約締結により、戦争は正式に終結した

 

普仏戦争において、ベアードの操るプロイセンはフランスに勝利し、魔法使い勢力を追い落とした。結果、フランスの帝政は崩壊。フランスの魔法使いたちはイギリス、ロシアなどに渡っていった。

 

 




世界を巻き込むあの戦争の前にアジアの方の戦争ですかね~


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83 近世 日本幻想の歩み

 

 

普仏戦争において、ベアードの操るプロイセンはフランスに勝利し、魔法使い勢力を追い落とした。結果、フランスの帝政は崩壊。フランスの魔法使いたちはイギリス、ロシアなどに渡っていった。

 

同時期に日本でも幕府の弱体化は大政奉還と言う英断を幕府に決意させた。討幕派が一定の勢力を持つようになり、それを牽制し幕府を擁護する形で大樹による介入が行われ、公武合体が成された。安土幕府は緩やかに解体が始まり、近代化を成し遂げた新政府大日本合藩連合帝国への移行が始まった。また、妖怪達の世俗化が進む一方でそれに乗れない者、拒むもの達は八雲紫が行った幻想郷計画によって現世から幻想の濃い土地へ移ることとなる。河童のほぼ半数、天狗の大半と鬼の全てが、それ以外の妖怪達も少なくない数が幻想郷へと流れて行った。幻想郷は当初は隠れ里の形式で現世と隔離された存在ではなかったが、時代が進むにつれ現世から妖怪排斥及び科学技術の発達からくる神秘の風化によって幻想郷は八雲紫の管理する強固な結界に守られ現世から乖離した小世界を作り上げた。

 

 

また、文明開化や産業革命によって衰退の兆しが見えた妖怪達についてであるが、日本に残った妖怪達の大半は熱心な大樹恩顧の妖怪たちであり、妖狐衆、妖狸衆のほぼ全て。植物系の妖怪達の多くが幻想郷へ移住せず大樹大社の傘下におさまった。また、ぐわごぜや雪女郎、たんたん坊と言った役職持ちの妖怪達の配下の妖怪達も大樹大社の傘下入りが確定している。河童の氏族たちは様子見をしている者が多く、幻想郷との出入りが規制されるまではどちらとも決めかねているのだろう。天狗の氏族も幻想郷移住を決めた者が多いが、出入り自由の間はこちら側にも影響力を残しつつ手を出してくるだろう。しかし、かつての大樹の最大支持基盤であった妖精達の多くは幻想郷移住(神秘の低下によって存在の維持も妖しくなった為)、むしろ疎開に近い移住を決断し大樹の下に残ったのは能力の高い妖精たちであり、精鋭化した面もあった。秋比売姉妹などは幻想郷に隠棲する旨を大樹へ伝えている。豊穣の神と妖精と言う日本の実りの象徴が去ったことは日本と言う国に飢饉や災害と言った形で影を落とし始める。また、ぬらりひょんの勢力も足跡が掴めていないがそれなりの勢力を維持しているものと思われる。時代と共に妖怪の勢力は衰退していたことは事実であったが、人間<妖怪なのは未だに不変の法則であった。

また、一見勢力としては衰退したものの大樹恩顧の妖怪による一枚岩体制の形成は深い意味では勢力の精鋭化であり強化された側面もある。

 

そう言った意味でも、日本と言う国は大樹と言う存在をもって国家という組織の中に妖怪が居る世界でも類を見ない存在であった。制約も多いが、ある意味で妖怪と人間の成功国家であった。

 



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84 近世 大日本合藩連合帝国概略

大日本合藩連合帝国の勢力は以下の通りである。

本国、古代大和朝廷時代の律令制の時代から日本の支配地と認識されてきた弓状の火山帯からなる列島である。九州、四国、本州、蝦夷地及び付属の群島等の事を指す。18世紀半ばに始まる亨保の改革(移民政策)の結果、津軽海峡の向うにある蝦夷が開拓され、更に樺太までが日本の本国として拡張されることになる。

 19世紀後半においてもこの枠組に変更はなく、日本人が本国と呼ぶ場所は、概ね本州、四国、九州、蝦夷と付属の群島等までである。公武合体後、財政赤字だったり御家騒動など様々な理由で国内藩の多くが藩政奉還を行い概ね国内は天領と呼ばれる幕府直轄となっているが、尾張藩(織田信雄家)や小田原藩(北条家)に薩摩藩(島津家)のような国内藩も残っている。

 

蝦夷の大部分は亨保以後に拓かれた海外藩扱いであり、行政機構的には別立てとなっているが、松前福山城で行われた幕府とアイヌ民族の代表たちの間で行われた松前合議以後、アイヌ民族が日本に取り込まれていった最初の異民族であり、大和民族以外で初の日本人認定を受けたこともあり蝦夷を本土として扱う考えが主流である。

松前合議は当時1669年当時、アイヌ民族の代表シャクシャインを中心とした勢力が反幕府(松前藩)の下に団結し決起目前を控えた頃、平和を願う蝦夷大樹神社の巫女の姉妹ナコとリムがシャクシャインと松前藩主の前に出て戦争を止めたクンヌイ(現長万部町国縫)の奇跡によって成し遂げられた近代日本神話の一つである。

 

合議の内容はアイヌの神(カムイ)の一柱として大樹野椎水御神を信奉の対象に加え、共通の神様を信奉する仲間(ウタリ)だから仲良くやっていこうと言う強制力はない紳士同盟であったがこの盟約は現在に至るまで破られることは無かった。

近代日本神話における大和愛努の盟約では

 

『アイヌ妖精の勇気ある行ひに感銘を受けし 大樹野椎水御神はてづから蝦夷の地まで行かれ アイヌ妖精交へて癪輝きらアイヌの民とやられし幕臣や松前藩主らの仲取り持ちき』

 

と記された書物が残されており、近代日本神話においてはナコとリムはアイヌ妖精(コロポックル)である。

 

大日本合藩連合帝国の勢力区分の解説に戻るとする。

 

琉球王国・台湾王国・ブルネイ王国・アチェ王国・マギンダナオ王国、スールー王国、阮朝(北部ベトナム)。これらの国は大日本合藩連合帝国の連合に加盟する国家である、属国と評する資料もあるが、公式上れっきとした独立国である。琉球王国や台湾王国は安土大阪時代の初期から交流があり、琉球王国は19世紀後期まで清の朝貢国と掛け持ちをしておりアヘン戦争以後日本に急接近し、義和団事件を機に連合帝国1本に絞った。台湾王国は建国の経緯的にも清と敵対する上で日本との同盟は絶対であり、安土大阪時代初期から続く友好及び同盟関係の延長で自然と連合帝国に加盟する形となった。ブルネイ王国・アチェ王国・マギンダナオ王国、スールー王国は安土大阪時代中期より欧州各国による植民地化に対抗する上で日本にすり寄ってきたと言う経緯と日本人傭兵の定着による日本化の産物と言える。かの国の独立が維持できたのは日本の融和的な姿勢と無理な併合はしないと言う幕府の方針によるものである。

阮朝は近世になって急接近し加盟した国であり詳細は次回後述するものとする。

これらの国々に対して幕府は宗主国の義務を果たし、彼らが対処しきれない倭寇海賊や私掠船団、欧州の侵略軍から彼らを守り、かの国らの近代化にも手を貸している。その為、かの国々は日本に非常に好意的で協力的である。

 

 

 

呂宋(フィリピン)。江戸時代初期に拓かれた海外藩といえば、呂宋藩と田南朋(ダナオ)藩である。呂宋藩は江戸幕府開幕後に豊臣姓に変えた羽柴秀吉と息子秀頼によってつくられた。立藩当初はの摂津藩の支藩扱いであったが、豊臣家3代秀邦は豊臣家の本領を呂宋に定め参勤交代の枠組みから外れることで摂津藩は幕府に返上されている。これが最初の前例となり海外藩は原則参勤交代の対象外となる。

 

また、立藩したを完遂したのは秀頼の代であり秀吉・秀頼親子は藩祖としてマニラにある呂宋神社に神として祀られ、現在も厚く信仰されている。

 なお、呂宋大樹神社は呂宋繁栄の象徴として、秀吉から続く豊臣家が信長の西洋被れの影響を受けつつ、秀吉の成金的な趣味を引き継いだ結果。度々建て替えが行われ、改築の都度に建築様式が変わる寺院建築である。また、豊臣以前に呂宋を支配していたスペインのカトリック教会建築やフィリピン南部のイスラムや豊臣代々当主達がその時々の流行の建築要素を取り込んでおり、千言万語を費やしても足りない変化に富んだ威容を誇る。

21世紀現在、呂宋神社はユネスコの世界遺産に指定されている。呂宋藩の支配領域は、呂宋島のみならずフィリピン群島の全域に及んでおり、閨閥関係から取り込んだ田南朋藩のような支藩を有する。

 

田南朋藩も江戸初期に立藩した海外藩の一つで、フィリピン南部征伐で名を挙げた由比正雪が藩主が藩祖である。なお、フィリピン南部とはミンダナオ島北部でありマギンダナオ王国とミンダナオ島を分割統治している。

 

 

 

 

北米大陸諸藩。亨保年間の移民政策で拓かれた地域で、面積は北米大陸の4分の1に達しており、カナダ自治領、アメリカ合衆国と合わせて北米三国と呼ばれる。

 

ただし、高緯度の領土が多く、北限はツンドラや永久凍土になっている。南部の有砂のような礫砂漠もあり、あまり暮らしやすい環境とは言えない土地が多い。

 

スペインからのカルフォルニア(加州)買収を皮切りに、100年かけて東へ進んで富士山脈(英ロッキー山脈)の東峰まで開拓が進んだ。

 毛利家や尼子家が切り開いた加州(カルフォルニア)を筆頭に、有砂藩(アリゾナ)、尼吐汰藩(ネバタ)、湯田藩(ユタ)、間保藩(アイダホ)、折金藩(オレゴン)がある。

 

 また、北部を切り開いた伊達家を筆頭とする奥羽越の大名はは新越後藩(ニューエチゴ)、新仙台藩(ニューセンダイ)、新会津藩(ニューアイズ)、新庄内藩(シンショーナイ)阿羅斯加藩(アラスカ)がある。なお、新会津藩は織田信長3男信孝の家系である。

 北部は東北の大名が開拓に動員されたためか、出身地の地名をつけることが多い。これは寒冷な北部が人口希薄地帯で、スペイン人などの先入者がいなかったためである。インディアンの言葉をそのまま当て字にするのは難しいという事情もあった。

 

 南部の開拓地には先着のスペイン人がつけた地名あったので、それを当て字して使うのが一般的で、南部には多くのスペイン文化遺産が残っている。

 新墨藩(ニューメキシコ)、頃蘭土藩(コロラド)、文棚藩(モンタナ)でそれぞれアメリカ合衆国と国境を接している。カナダとは新仙台藩が国境を接しており、北部には大陸横断鉄道が走っている。アメリカ合衆国と接している3藩の藩主は前田利家次男利常と三男利治、豊臣秀吉の甥である秀次の家系で、北米の最大勢力は、加州藩で、次いで新仙台藩である。

加州では19世紀末に大規模な油田発見があり継続的な発展が見込まれている。

人口は本国に比肩する5000万人を擁し、さらに増加中である。

 

この地域における近代日本神話は北米伊達家の所管する北米開拓記における大雷鷲(サンダーバード)の章がこれにあたる。

 

『大樹大社の巫女が 植民の成功を願ふ神事執り行きし際に 雷を司る巨大なる鷲の精霊うちいで 彼らを歓迎せる これを見し先住民どもは  ワキンヤンの祝福を受けし民として 彼らを歓迎せり』

 

 

 

 

南天大陸・南洋諸島。南太平洋に浮かぶ南天大陸は亨保年間から移民が始まったが、同時期にイギリス人もこの地をオーストラリアと呼んで、流刑地に使っていた。

 

 両民雑居状態だったが、日本人とアボリジニの友好関係が深まるにつれイギリス人居留地は幕府軍やアボリジニの攻撃に晒され、大半の居留地が焼き払われているため、日本人の支配が暫定的に確立していた。

 

イギリス人は流刑地を変更し、南天の隣にあるニュージーランドを使い始めたので、英領としてニュージランドが残った。

 

オーストラリア・南天の帰属問題は、19世紀後半の現在も続いている。

イギリスもオーストラリアに興味がないわけではなかったが、実力行使に動かなかったのはイギリスが南洋方面に余力が出来た頃には中国の植民地化がしており、そちらに力点を置いたイギリスが譲歩した形である。また、現地の白人人口が全体10%程度で、人口比からイギリスの支配を正当化するのは困難な状況だったということもある

 

南天大陸を開拓したのは、真田信繁の家系であり新上田周辺で砂金を発見して南天最大の大名家に発展した。本土信州藩の藩主は兄信之の家系であるが、公武合体後の藩政奉還後、新信州藩(シンシンシュー)の支藩新上田藩(シンウエダ)として立藩している。また、土地面積が最大のウルル藩は建国を望まなかったアボリジニのためのアボリジニ自治区であり藩主はアボリジニである。もうひとつのアボリジニ自治藩はバリングラ藩であり二つとも巨大な1枚岩がシンボルである。

 

 

その他

勘察加(カムチャッカ)、ツングース藩(沿海地方およびハバロフスク地方南部)。

勘察加(カムチャッカ)は北米に進出した東北諸藩の経由地。主な土地資源が無く無価値な土地として扱われ幕府が形ばかりに天領とした土地。ツングース藩は蝦夷及び樺太開拓の延長として開拓したものの持て余し現地の先住民族の自治藩とした。

 

以上が大日本合藩連合帝国の内訳である。

 

 



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85 近世 仏清・仏日戦争





1883年、ベトナム(越南)領有を巡るフランスと清との間の戦争が勃発する。

フランスは1840年頃よりベトナムが南部に設置していた幾つかの行政区を武力併合し、それらを統合して仏領コーチシナを形成、東南アジア進出の拠点とした。当時のアジアの宗主国的存在は2つ清王朝と大日本合藩連合帝国である。

しかし、アヘン戦争とアロー戦争において清と言う国が眠れる龍ではなく死に体の龍であり、口ほどにもない存在であることが知られ、欧州各国のアジアでの横暴を止める存在ではなくなっていた。また、当時の日本は安土大阪時代より欧州各国と中小規模な競り合いを繰り返しており、一目置かれてはいるが大規模戦争は無く。日本自身も欧州と積極的に事を構えるようなことはしなかった。さらに欧州各国の東洋蔑視もあり、列強未満の扱いであった。

 

アジアの大国である清王朝と大日本合藩連合帝国は欧州から見て劣った存在と見做されており、欧州各国はアジアにおいて横柄なふるまいが目立っていた。

 

その最たるはフランスの行動であり1858年からのコーチシナ戦争に始まり、1859年にフランス軍がサイゴンを急襲して武力占領。1861年にはベトナム南部のザーディン、ビエンホア、ディントゥォンの三省を占領。1863年にカンボジアを保護国とする条約を結んでおり、仏領コーチシナをカンボジアと連結させるため、1867年ヴィンロン、チャウドク、ハティエンのコーチシナ西部三省を武力占領してコーチシナ全域を支配下に置いた。

 

フランスは魔法世界の影響を強く受けた列強国の一つであり、コーチシナ地域における南洋妖怪たちの討伐を始める。これに反応したのは日本妖怪達である日本妖怪と南洋妖怪の友好関係は古く鎌倉時代から続くものであり、弘安の役の神集島で大樹が窮奇に敗れた際に大陸妖怪の目を掻い潜り玉名まで大樹を守りぬいたのは他ならぬ南洋妖怪たちであった。そんな彼らの危機に大樹を中心に日本妖怪たちは立ち上がったのであった。

 

1874年の第2次サイゴン条約でコーチシナ六省に対するフランスの完全な主権を阮朝が承認した後も、魔法世界系及びフランス系魔法使いと現地南洋妖怪及び日本妖怪の援軍によるコーチシナのフランス人居留地を巡る攻防やメコン川流域で泥沼の戦いが繰り広げられ、それが将来的には東南アジア全土を巻き込む独立戦争に繋がっていくのだが、近世においては仏清戦争が山場の一つである。

 

「異人共を追い出せ!!」

「化け物どもを皆殺しにしろ!!」

 

南方妖怪のペナンガランは魔法使いに噛みつき、剣士風の魔法使いと日本の天狗の剣と錫杖が交差する。ケンパス蛇は魔法使いの体に巻き付き揉み合いになっている。

近代に人間たちが独立戦争を起こす前から彼らは戦い続けるのであった。

 

さらに、この妖怪と魔法使い間で発生した戦いと国家としてのフランスと阮朝の戦争が絡み合い、中国南部の軍閥黒旗軍と清王朝が加わり、さらに台湾と日本が巻き込まれる大規模な戦争に発展するのである。

 

事の発端は、フランス海軍士官アンリ・リビエールの独断が原因であった。1881年末、現地のフランス商人に対するベトナムの反発を調査するように命じられたアンリは、小規模の軍勢を連れてハノイに進み、そこで上官命令を無視して独断で阮朝軍のハノイ砦を占領。

フランスの脅威がベトナム北部に迫ったのである。

これに反応したのは同地域に根を張る吸血鬼ピー。

魔法使いたちは普仏戦争で多くの吸血鬼がプロイセンに加わっていたことや魔法世界で悪名を轟かすエヴァンジェリンなどの影響で吸血鬼を目の敵にする傾向がある。

 

「もう!!我慢できないぞ!」

 

同地域のピーも最初は無視を決め込むつもりであったが度重なる討伐隊の攻撃でしびれを切らしフランス人居留地を襲撃し同居留地のフランス人たちを吸血鬼奴隷にして居留地をのっとってしまう。

ピーの決起を好機と見たのは庇護国に進出するフランスに不快感を抱いていた清王朝、中国南部の軍閥黒旗軍を唆し南下させ、既に崩壊しつつあった阮朝軍に代わってフランスに対峙させた。

 

ピーの吸血鬼奴隷や黒旗軍に武器や資金を援助した。

 

1882年、雲南省など南部で主に動員された清帝国の遠征軍がベトナムに入り、ランソンなどトンキンの重要拠点に次々と駐屯を開始した。

 

1883年に黒旗軍・清軍・阮朝軍・ピー軍と決戦を行うべく多数の兵士を連れて進撃を開始した。3月、ナムディン砦の戦いで勝利、リビエールは黒旗軍・清軍・阮朝軍に対しては装備差による戦力優位を、ピーの吸血鬼奴隷軍には普仏戦争で確立した対吸血鬼魔法が有効だと確信した。続いて敵軍の攻勢によってハノイ砦近郊で発生した戦いにも勝利を得た。

 

1883年4月、清朝軍の唐景崧将軍は黒旗軍・清軍・阮朝軍・フランス軍の兵士の死体を無理やり吸血鬼化することでゾンビに近い劣化吸血鬼を大量に用意しての攻勢実施するように説得した。1883年5月10日、3,000の劣化吸血鬼がフランス軍を攻撃、5月19日に両軍はハノイ近郊のコウザイ地区で衝突。フランス兵はコウザイ地区に掛かる橋に陣地を築いていた黒旗軍に反撃を受け、指揮官リビエールが戦死して敗走した。

 

コウザイの戦いでの勝利に酔ったピーは南部コーチシナへ逃げ込むフランス軍の追撃を独断で決めた。

 

「このまま、南部を解放して東南アジア妖怪の盟主になってやる!!いけぇええ!!」

 

しかし、1883年8月20日、フランス軍の遠征隊指揮官となったアメデ・クールベ提督の遠征軍がピー軍不在の北部ベトナムに上陸、阮朝軍に多大な損害を与えた。フランス軍の本格侵攻を前に、嗣徳帝の死で混乱していた阮朝は癸未条約の締結を了承、事実上フランスに降伏した。

 

ピー軍と黒旗軍・清朝軍は南北で分断された。

勢いに乗るフランス軍はダイ川に展開する劉永福の黒旗軍に攻勢を仕掛け、フーホアイの戦いとパランの戦いで大損害を与え、黒旗軍はソンタイ川付近の陣地へ後退した。

ピー軍もコーチシナの駐留軍と南下してくる遠征軍の別動隊の挟み撃ちを受け数を減らし、コーチシナのケンパス蛇率いる反乱軍と合流した。

 

フランスは年末に黒旗軍に止めを刺すための大攻勢を計画しつつ、黒旗軍の後ろ盾である清朝に対して単独講和を打診し始めた(一方で他の欧州主要国にも参戦を促して回った)。しかし清朝政府は駐仏公使の曾紀澤から「フランスは全面戦争に踏み切る勇気がない」との報告を受け、フランスの駐清公使と李鴻章が行っていた交渉を打ち切った。

 

彼らの戦いは欧州列強から東南アジアの全ての国々が独立を果たす1970年代まで続き、妖怪達の間で南洋百年戦争と呼ばれる地獄の戦争が始まったのである。

 

 

フランス政府が焦る中、清朝は前線から撤兵を拒否。清では攘夷運動が各地で発生し、特に運動が盛んだった広東省では広州などでフランスのみならず欧州商人全体への襲撃が発生、各国が自国住民保護の為に砲艦を派遣した。

 

機を見計らっていた大樹はドイツのベアードに鎮遠・定遠の建造を早めるように要請した(建造は仏清戦争に間に合っていない)。前線ではトンキンデルタで幾つかの新たな拠点を確保して勢力を拡大。黒旗軍との戦闘がいずれ清朝とも戦うことになると予想したが、早期にトンキン全土を併合すれば既成事実的に相手方が領有を認めるだろうと判断したフランスはトンキンでの新たな攻勢はクールベ提督を総司令官に据え、1883年12月に1万を越す大軍がソンタイ川に向かって攻撃を開始した。

 

 

ソンタイ川の戦いは特に激戦だった。清軍やベトナム人兵士は余り戦いの趨勢に関与せず、3,000人の黒旗軍が主力として戦い、12月14日にフランス軍の攻勢を一旦は撃退した。黒旗軍がクールベ軍の追撃に失敗する中、体勢を立て直したクールベは、大砲による援護を行いながら12月16日にソンタイ川へ二度目の突撃を敢行。同日午後5時、フランス軍外人部隊と海兵部隊の一部がソンタイ川の防衛線を突破して市内に突入、劉永福は残存軍を連れてソンタイ川後方へと撤退した。

 

フランス軍が数百人の死傷者を出す一方、黒旗軍も半数近い兵士を失った。清軍とベトナム軍が戦いに加わらなかった事から劉永福は両国の捨駒にされたと憤慨し、以降の戦いには積極的に関わらなくなった。

 

1884年3月、フランス軍はシャルル・テオドール・ミロー将軍をアメデ・クールベに代わる新たな総司令官にして事態の好転を図った。総戦力は2個旅団に増強された。第1旅団はセネガル総督のルイ・ブリエール・ド・リール少将、第2旅団はアルジェリアのイスラム教徒の反乱を鎮圧したオスカル・ド・ネグリエ少将が旅団長を務めた。フランス軍は作戦目標を清国広西軍が守備するバクニンに定め、攻撃を再開した。今回は清軍が主体だったが、士気の低い広西軍は形だけの抵抗で撤退。両軍合わせて3万人(フランス軍1万、清軍2万)の大会戦でありながら、両者の被害は僅かに100人程度に終わっている。黒旗軍が積極的に参加せず、戦力を温存していたこともバクニン占領を容易にし、ミロー将軍はバクニンに残された幾つかのクルップ製の大砲を接収した。

 

清軍が成果を出さなかったため対外強硬派の張之洞らの力が落ちた。フランス軍によってフンホア(興化)とタイグエン(太原)が攻め落とされると一層に李鴻章ら和平派が力を持ち始め、清の西太后は天津で李鴻章と司令官代理フルニエとの交渉を開始させた。

 

8月中旬、両国間で続けられていた和平交渉は決裂、22日にフランス軍はアメデ・クールベ提督の極東艦隊に対して福州に集結していた清国福建艦隊との決戦を命令した。1884年8月23日、馬江海戦が勃発。福建艦隊22隻の内、旗艦の一等巡洋艦「揚武」を含む11隻は西洋式の最新艦艇であったが、13隻のフランス海軍の前に約1時間でほとんどが撃沈か大破し、水兵死者数も3,000人を越したと思われる。一方のフランス側は軽微な損害しか受けなかった。フランス海軍の圧勝であった。

 

9月上旬、福建艦隊の残存艦のジャンク船と台湾海軍のジャンク船の誤認から始まる第二次馬江海戦が勃発、台湾海軍艦艇の半数が沈められた。台湾王国は大日本合藩連合帝国の連合加盟国であった。大日本合藩連合帝国征夷大将軍織田信茂は早晩、大樹より呼びつけられ海軍の派遣と断固とした対応を求められた。しかし、信茂の煮え切らない態度に業を煮やした大樹は台湾海峡に海の妖怪最強と謳われる化け鯨を差し向けた。

 

9月17日、仏日戦争の火蓋が切られた。馬江海に現れた化け鯨は体長数百メートルの巨躯でフランス隊に突っ込んで行き。

 

「キュオオオオオン!!」

 

第一次・第二次と1隻の損害も出さなかったフランス艦隊は6隻もの沈没艦を出して敗北した。第三次馬江海海戦はフランスの大敗であった。

 

10月初旬には台湾と阮朝の保障が記された門司条約がフランス王国と大日本合藩連合帝国間で結ばれた。一方、清仏間の交渉は拗れ1885年6月9日に締結された講和条約である天津条約が結ばれるまで泥沼の戦いが続いた。なお、以後も妖怪魔法使い間の戦いは継続している。

 

 




西洋情勢解説回執筆中。


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86 近世 西洋妖怪軍団欧州を席巻す

西洋妖怪軍団の成り立ちと幹部種族について解説する。

西洋妖怪軍団は勢力としては13世紀初頭より歴史書などに記載され存在が確認できる(口伝の伝承を含めればそれより前にも存在が伺える)。この西洋妖怪軍団が存在感を示し始めるのは16世紀末頃である。それ以前は西洋の妖怪勢力は群雄割拠しており妖怪の戦国時代であった。そして西洋妖怪を統一したのはバグベアの一族であり、その一族の長であるバック・ベアードであった。

 

黒い球体に触手が放射状に生えた一つ目の妖怪寄りの妖精であるバグベアは目から魔法を放つと言う攻撃手段はあるものの全体から見れば弱い種族であった。その種族の中に突然変異ともいえる存在が誕生する。バック・ベアードである(彼の誕生は詳細不明だが恐らく15世紀末と考えられる)。後の西洋妖怪軍団の首魁となるかれは同族は勿論、妖怪と言う枠組みの中で見てもずば抜けた戦闘能力と知恵を持っていた。

彼は誕生からすぐに同族を纏め上げることになる。同族を纏め上げ一角の勢力の長となった彼は妖怪戦国時代の長の類に漏れず勢力拡大に勤しむことになる。そこから暫く順当にゴブリンやオーク、グレムリンと言った存在を支配下に置きそれなりの大勢力となった彼に転機が訪れる。

 

フェアリー種の妖精であるエタニティラルバ、クラウンピースとの出会いである。西洋においてどの時代を通してもであるがフェアリー種の妖精は戦闘能力が低く妖怪にも人間にも弾圧される存在であった。フェアリー種の妖精は自分たち妖精の理想郷である東方世界(日本の事)を目指し民族移動を繰り返していた(自然に力を与える存在が東に逃げていくので西側世界は自然災害が多く、日本を中心に自然豊かな世界が広がる(東方幻想思想の原因))。また、エタニティラルバ、クラウンピースはベアードの配下には入ってない。エタニティラルバは妖精移民の東進政策を大樹の庇護の下、取り仕切っており実質大樹の配下である。クラウンピースは『人を惑わす程度の能力』を活用し西洋妖怪軍団の幹部待遇を受けている。彼女の能力は敵国を不穏にするなどの工作に向いており、ベアードは非常に重宝していた。

 

バグベアは種として妖怪に寄っているとは言え妖精である。この繋がりでバック・ベアードは東方世界の伝説(主には大樹に関わる諸伝説。)を知る。

バック・ベアードの勢力は西洋でも量的な面では大半を占めつつあったが、吸血鬼・人狼種を傘下にすることが叶わずにいたのであった。彼らにとって上に立つ者で重要なのは血統である。妖怪としては比較的若いベアードに対して素直に頭を垂れるのはプライドが許さないと言う事もあった。そこでベアードはその高貴なる血統を外から取り入れることを思いつく。それが1726年のバック・ベアードと大樹野椎水御神長女古明地祀との婚姻である。

東洋とは言え神の血である。高貴さにおいて神と妖怪には天と地ほどの差があると言っても良い。また、この婚姻同盟締結に寄与した吸血鬼エリートはこの功績を持って吸血鬼としては、卑しい生まれであったにも関わらず西洋妖怪の幹部に就任している。ただ、彼はこの時点ではベアードの直臣ではなくフリーの吸血鬼でたまたまベアードの依頼を受けて交渉にあたっただけである。彼が正式にベアードの配下に入ったのは1900年代である。それまでは客人扱いであり、西洋で成り上がり扱いを受けることを嫌い西洋妖怪の大使として日本で活動している期間が多い。

 

また、ベアードの事であるが大樹野椎水御神と言う神の親族(義理の息子)である。古明地祀は純粋な神ではない(大樹も元を正せば妖精)がそのような話はこの際、微々たることだ。バック・ベアードは妻に神の血族を迎えたのだ。ギリシャ神話や北欧神話でもよくある話だが神と人間が恋をして結婚するとその人間も神もしくは亜神になることがある。詰まるところバック・ベアード自身も神になる可能性を秘めているのだ。また、フェアリー種の妖精の神である大樹への気遣いから始めたフェアリー種の庇護政策によってベアードの勢力圏の地力が向上し勢力の強化につながる。

 

この頃になると、欧州の大半の勢力がバック・ベアードの配下になっていた。

この時代に代々のワラキア公であった初代ドラキュラ公爵は人間社会の名声の維持やワラキア公の肩書を邪魔に思い始める。いつまでも欧州諸国やトルコと戦うだけで国土は大きくならないと言う面倒な役職に感じ始めたのであった。シュテファン・カンタクジノ(18世紀初頭のワラキア公)からのワラキア公は傀儡の下級吸血鬼に据えて本格的に妖怪としての活動に専念している。詰んでいるワラキア公は邪魔な役職になりつつあった。

 

なにせ、西洋妖怪の戦国時代は終焉を迎え始めている。18世紀にはバック・ベアードが神の血と言う高貴な血を取り入れたことで血の血族である吸血鬼と遜色ない立場に上り詰めた。さらに欧州の大国の一つプロイセン王国を実質乗っ取ったのだ。もはや吸血鬼の一族と言えど、これ以上張り合っては、今後の吸血鬼の地位にも影響すると考えた初代ドラキュラ公はバック・ベアードの軍門に下ることを決める。

彼が用意した手土産は軍門への遅参を容易に取り返せるだけの功績が必要であった。ドラキュラの一族(親類縁者やその配下)の忠誠と言うのも悪い条件では無いが決め手に掛ける。

そこで、彼は一計を案じる。

 

そこで登場するのがカミーラと言う女吸血鬼である。彼女はマーカラやミラーカと言った偽名を使い貴族社会や軍の将校たちのコミュニティに潜り込み彼らを奴隷吸血鬼に仕立て上げオーストリア帝国の一角を掌握した。さらに、これに対抗しようとした人間たちをカルンスタインの礼拝堂で皆殺しにした。この時点で彼女の悪事を知る存在はいないはずであったが、当時ベアードの傘下入りを決めた初代ドラキュラ公爵はカミーラの事を聞きつけて彼女を自身の配下に引き抜いた。彼はオーストリアをベアードへの手土産にするつもりでありカミーラの掌握するオーストリア勢力を欲したと言う背景がある。

カミーラ自身も西洋妖怪軍団内での地位を約束され、初代ドラキュラ公の計画に乗ることにしたのだ。

 

その結果、普墺戦争では大勝利。この戦争自体にも自身の従弟のギュスターヴ・スカーレットに指揮をとらせ戦闘での勝利に寄与。東西プロイセンを統一の決定打と言う功績を上げ、傀儡化したオーストリア=ハンガリー二重帝国を献上したのだ。

 

その次の普仏戦争の準備段階でもフランスを地盤にするラ・セーヌを取り込み普仏戦争の勝利に貢献している。

 

また、吸血鬼の有名どころを上げるとヴラド・ドラキュラ公爵(初代ドラキュラ公)、ギュスターヴ・スカーレット侯爵、カミーラ女伯爵、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの四人がすぐに上がるが、うち3人は西洋妖怪軍団の上位幹部である。人間社会を乗っ取るためには吸血鬼の協力は不可欠であった為である。

 

 

 

つぎに人狼であるが、人狼の有名どころは2人ヴォルフガング・ジェヴォーダンとルガール・アセナである。

ヴォルフガングは苗字からも理解できると思うがマルジュリド山地周辺に現れ、100人以上の人間を殺したジェヴォーダンの獣である。フランスに根を張る彼はフランスにおける妖怪化した狼を支配下に置き人間たちを襲撃させた。15世紀のパリ襲撃は彼の配下妖狼が行ったものである。

 

ルガールも人狼であるが西アジア及び中央アジアに跨る人狼族の首長である。ルガールが首長である人狼族はテュルク神話に登場する雌狼アセナを祖としている人狼族の貴族である。

テュルク神話ではテュルクの祖先は大きな戦いに敗れ、少年一人だけが生き残った。アセナという名の、空のように青いたてがみをしたメスの狼が傷ついた彼を助け傷をいやした。やがてオオカミと少年の間に10人の子供たちが生まれた。狼と人間の血をひく、アセナに率いられたこの子供たちがやがてアシナ氏族を築き、突厥帝国の中核となったという伝承があるのだが、10人の子供たちの中でも狼の血が濃かったもの達が野生化し妖怪化しルガールら人狼族として繁栄したのである。

 

彼らはトルコでは丁重に扱われており、ルガールが西洋妖怪軍団の傘下に入る際に彼らに引っ張られる形でトルコとドイツが急接近した。ただし、普仏戦争の翌年露土戦争でオスマントルコ帝国は敗北することになる。結ばされたサン・ステファノ条約は多額の賠償金を払うことになり、多くの地域をロシアに割譲し、ルーマニア、セルビア、モンテネグロが独立しブルガリアやボスニア・ヘルツェゴビナへの自治権付与などとオスマン・トルコの勢力を削ぐことになり、ベアードへの献上品としては不良債権であった。

しかし、1897年ギリシャとの戦争に勝利し莫大な賠償金とテッサリア国境付近の要地を受け取った為にベアードにゴミを献上する失態は免れたのであった。

 

 

 

魔女に関してであるが魔女は種族ではなく魔法使い個人であり、使う魔法も家々で違いがある。西洋妖怪軍団の傘下入りの経緯もそれぞれである。吸血鬼と縁を持っていた者(パチュリー・ノーレッジ)だったり、外法よりの魔法で魔法世界で肩身が狭い思いをしていた者だったり。あるいは一子相伝で外部との接点がほぼなく魔法使いのコミュニティに入りそびれた者など様々である。

 

ヴィクター・フランケンシュタインは西洋妖怪随一の科学力を有する極悪非道かつ猟奇的な性格のマッドサイエンティストであり、彼が頭角を現したのは17世紀初頭であり、自身を人造人間に改造したり合成生物や人造人間を多数作った。この事が異端と判断され教会と敵対し討伐隊を返り討ちにした。その後、ベアードからスカウトされた。彼に与えられた環境は人間の倫理観に縛られない最高の環境であったと言える。

 

幹部階級の妖怪としてはこれ以外にゴーゴン、ブイイ、ジャイアント、こうもり猫、ヨナルデパズトーリがいる。また、こうもり猫とヨナルデパズトーリは新大陸出身である。

 

ほとんどの新大陸妖怪は大樹の勢力か西洋妖怪軍団の勢力に所属している。

 

 

そして、あえて最後に回したが古明地家の立ち位置であるが古明地家は西洋妖怪軍団においては王族扱いである。ベアードを王とするのなら、妻の古明地祀は王妃である。そして、その娘の『さとり』と『こいし』は王女である。彼女たちが誕生した際に誕生祝として火車の妖怪と地獄鴉の妖怪が執役として送られており、『火焔猫燐』『霊烏路空』と名付けられて活躍することになる。特に長女さとりは後に西洋妖怪軍団の一軍を任せられる程の存在となる。

 

 

 

そして、現在の欧州は2つに割れていた魔法世界やキリスト教教会の影響を受けるイギリス帝国、フランス共和国と言った国々。そして、西洋妖怪軍団の影響下にあるドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー二重帝国の二つに割れつつあった。

欧州に関わる有力国の情報であるが、ロシア帝国は欧州側は魔法世界勢力の影響を受け、東方側は大樹の勢力の影響を受けつつあり国内で真っ二つになりつつあった。そのうえで民衆の支持が低下している。ロシア帝国は権威を示すために東側の親妖怪勢力の弾圧に動いていた。

アメリカ合衆国であるが、新興国である。一応は英仏寄りであるが、国内の勢力は魔法使い派閥と妖怪派閥他群雄割拠である。

そして、オスマン・トルコは人狼族との関係から独墺に接近していた。

さらに、大樹の実質的な統治下にある大日本合藩連合帝国は自身の血族がいる独墺に寄っているのは当然と言える。

 

そして、ベアード自身欧州における覇を唱え始めており、西洋妖怪軍団は勿論のことドイツ帝国やオーストリア=ハンガリー二重帝国を使い欧州を席巻しよう解いていた。そして、それをイギリスやフランス、その背後の魔法世界メガロ・メセンブリアも認めるはずもなく対立は日増しに激しくなっていくのであった。

 

 



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87 近世 日清戦争と日露戦争前夜

 

 

大日本合藩連合帝国は隣国清が瀕死になる横で近代化を進めた。また、この時期に関東大樹大社のそばに麻帆良学園(この当時は単なる教育機関)が創設された。

1894年(明治27年)7月25日、日本と清国の間で戦争が勃発。なお、李氏朝鮮の地位確認と朝鮮半島の権益を巡る争いが原因となって引き起こされ、主に朝鮮半島と遼東半島および黄海で両国は交戦し、日本側の勝利と見なせる日清講和条約(下関条約)の調印によって終結した。 基本的に日清戦争は妖怪たちは関わっていない。清朝はチーと相性が悪く、他の裏勢力が関わっても利益が出ない程に清の腐敗が進みすぎていたので、人間同士の戦争で終わってしまっている。

 

講和条約の中で日本は、清国に李氏朝鮮に対する宗主権の放棄とその独立を承認させた他、清国から遼東半島を割譲され、また莫大な額の賠償金も獲得した。しかし、講和直後の三国干渉により遼東半島は手放す事になったが、戦争に勝利した日本は、アジアの近代国家と認められて国際的地位が向上し、受け取った賠償金は国内産業の発展に活用されて日本は本格的な工業化の第一歩を踏み出した。

 

大国を陰から操る大妖狐であるチーであるがその後発生した義和団の乱が止めとなり清と言う大国が力を失い空中分解すれば自然と影響力を失ってしまい。その代わりを用意することも出来なかった彼が再び行動を起こすのは当分先の話であった。

 

 

大日本合藩連合帝国はロシア帝国の南下政策による脅威を感じていた。ロシア帝国は南下政策の一環として連合帝国のツングース藩を狙っていることは明らかであった。連合帝国は妖怪関係を取り仕切る大樹大社より一計を授けられる。ツングース藩にロシア系妖怪派閥の長を誘致し、ツングース藩の差配を依頼すると言うものであった。日本の氷系妖怪の長である雪女郎による数年に及ぶ交渉の末そのものはツングース藩に自身の勢力を留めることを決めた。1903年11月、ツングース藩にある妖怪が到着する。レティ・ホワイトロック、ロシアを中心に冬の猛威を振るい続けた冬将軍の異名を持つ妖怪である。

ロシア帝国やロシア侵略経験国が恐れる彼女が日本の影響下に入ったのである。

ロシア帝国やその背後にいるメガロ・メセンブリアは大日本合藩連合帝国との開戦を決意したのはこの時であった。

 

ちなみにレティ・ホワイトロックは雪女の亜種であるとされ、ベアードよりも近縁種族の説得に応じたのは当然の流れであった。妖怪達もこの頃には世界的に見ても独立独歩の小勢力や単独はほとんどおらず。西洋のベアードか東洋の大樹に纏まり始めていた。

 

 



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88 近世 安土幕府開闢300年式典

1894年1月4日露仏同盟が締結される。急速な日露関係の悪化に仏日戦争で日本の足を引っぱりたいフランスはロシアの対日行動の援助を表明、英仏VS独墺の対立関係から独墺と親密な大日本合藩連合帝国に対してイギリスもロシアの援助を表明している。

 

1904年(明治37年)、日露戦争が勃発した。この戦争は妖怪が背後にいる大日本合藩連合帝国と魔法世界の魔法使いが背後にいるロシア帝国が戦った。東洋妖怪と魔法使いが激しく戦った戦争である。

この頃の大樹は積極的に国政に指図を出していた。

日本の領土は、日本列島から呂宋、北部ボルネオ、スマトラ島、太平洋中央諸島群、南天(オーストラリア)大陸、東シベリア、アラスカ、北アメリカ大陸の太平洋岸までに及び環太平洋の広範に広がっている。

その領土はロシア帝国、大英帝国に比肩する一大帝国であった。

 

 赤道を跨ぎ、日付変更線を超えるほど広がった国家の誕生の背景には信長の時代より続くヨーロッパ諸国の植民地支配の影にあったキリスト教と魔法世界勢力による妖怪弾圧を跳ね除け、彼らから南方妖怪を中心とした先住妖怪達を解放した大樹の妖怪勢力による支配を先住妖怪達が歓迎したことによるものであった。

 

文明開化の代償としてかつての様な神々の加護が弱まり、自然災害も増えてきた。

諏訪大社や秋大社の神々も、盛時の力を失い地元の守りに入る中で大樹は幕府及び帝国政府の国政に指図を出し元老の上の摂政として影響力を発揮した。

 

 

日露戦争の前年、1903年、安土幕府の開幕から約300年目となる節目の年であった。

 

神君織田信長が覇王職に任じられた10月25日は以前から開幕記念日として国民の祝日に指定されていた。

 

1903年は開幕300年記念の年であり、副首都江戸では帝国の総力を挙げた祝賀祭が開かれる予定で、膨大な関係者が各方面でその準備に汗をかいていた。

 

開幕300年記念の目玉は鉄筋コンクリートで作り直された江戸城天守閣のお披露目式で、京都から天皇が日本史上初の関東行幸する予定になっていた。

 

新たに作り直された天守閣はエレベーターやエスカレーターがあり、河童の先端技術と最新の技術を組み込んだ蒸気力と電気力で動く鋼の城だった。

 

 

天気のよい日なら、この天守閣は遠く横浜港からでも見ることができた。城郭建築としては世界最新にして、最後のものであった。

 

天皇行幸に並行して世界各国から様々な来賓が江戸に集まるため、江戸は開幕記念式典に間に合うように大規模な再開発工事が進んでおり、都市全体の整備に余念がなかった。

 

再開発の中心は江戸東京駅の大改築で、完成の暁にはロンドン駅を超える世界最大の駅舎となる予定だった。

 

この大改築に並行して蒸気機関車の並ぶ地上プラットホームに加えて、最新の交通機関である電気式鉄道も建設されている。

 

大江戸駅の駅舎は各国来賓を迎える玄関口として、膨大なガラス材と鉄骨を組み合わせた豪華絢爛なものだった(現在の京都駅に近い)。

 

「まるで地上の竜宮城の様です。」

 

と大樹より招かれた人魚族の長である乙姫はそう発言した。

 

 この栄光ある日を迎えた安土幕府の公方は・・・現在は天皇による任官ではなく、民衆の選挙によって選ばれる征夷大将軍、織田慶信だった。公武合体により幕府の解体が決定し欧州から民主議会政治の思想が輸入され、国民の総意を反映した国家元首と言う新しさのある元首を時代が求めたと言う背景もあった。大樹の専制の実情だが表向きの変化を狙って実施された。議会制は欧州列強で取り入れられており日本も列強入りを狙って組み込まれた。

とは言え、摂政大樹の意向が反映されており、超然内閣の形式ではあった。実際、民主政治は腐敗のリスクがある分超然内閣の形式で正解なのである。

 

 開幕記念300年には様々な式典が開催されたが、その中でも特に慶信を喜ばせたのは相模沖で開催された大観艦式である。

 

 慶信の座乗する御召艦を出迎えたのは、複数の戦艦を中心に、装甲巡洋艦等を加えた日本海軍自慢の艦隊であった。

 

 列強国を名乗って遜色ない日本海軍だったが、観艦式において世界の海軍を恐れさせたのは海軍の軍艦ではなく妖怪であった。

 

化け鯨。日本海軍の艦隊と共に泳ぐ体長数百メートルにも及ぶその骨だけの巨大鯨は沢山の妖怪魚や化け海鳥を引き連れて観艦式に姿を表した。

 

政府の役人曰く、ロシア海軍のバルチック艦隊が攻めても勝てると断言できる戦力である。

 

慶信は海軍の観艦式のあと陸軍富士大演習を閲兵している。

 

日本陸軍は平時編成70個師団を達成してさらに質的な増強が続いていた。

 

 屈辱の三国干渉から、数年後にはこれだけの戦力を揃えた日本は、この翌年にロシアと戦争に突入することになる。

 

 

 



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89 近世 日露戦争 ハルビン防衛線

日露戦争の戦闘は、1904年2月8日、旅順港にいたロシア旅順艦隊に対する日本海軍駆逐艦の奇襲攻撃に始まった。

 

 

日本陸軍先遣部隊の第12師団黒田旅団が日本海軍の第2艦隊分艦隊の護衛を受けながら朝鮮の仁川に上陸した。分艦隊所属砲艦星輦は翌2月9日、仁川港外にて同地に派遣されていたロシアの巡洋艦ヴァリャーグと砲艦コレーエツを攻撃、ヴァリャーグを撃沈しコレーエツを拿捕した。

 

なお、ヴァリャーグは砲艦星輦艦長村紗水蜜による錨の投擲によって中央部に大穴を開けられたことによる沈没であった。また、コレーエツは衝角突撃から始まる乗り込みによる白兵戦での制圧である。これに活躍したのは従軍尼僧雲居一輪と見越し入道の雲山であり、体格に勝るロシア兵を一歩的に討ち取った。

 

ここで注意しておきたい事だが星輦は信貴山命蓮寺寄贈の病院船である。また、彼女らの所属する信貴山命蓮寺は平安時代から存在が確認されている由緒正しい破戒尼寺院である。

 

 

 

 

 

2月23日には日本と大韓帝国の間で、日本軍の補給線の確保を目的とした日韓議定書が締結される。

 

連合艦隊は2月から5月にかけて、旅順港閉塞作戦を実施したが失敗している。

 

3月に入るとロシア陸軍による大反撃が実施される。ハルビンへのロシア軍の冬季攻勢であった。

 

 

 

 雪煙を巻き上げて現れたロシア軍に、日本軍は苦戦することになる。

 

 

 この時期の北満州は、戦争には不適な季節であることは誰にでも明らかなことであり、冬季戦の研究を進めていた日本軍でさえ、雪中行軍の訓練中に大事故を起こしているほどだった。

 

 

 雪解けの4月までは冬ごもりをして春から戦争をするのが北満州とシベリアの常識で、3月の開戦は日本軍にとって誤算だった。

 

 

 コサック騎兵の大集団がハルビンを包囲し、日本軍はいきなり苦境に陥る。

 

 後方へ進出した騎兵により電信線をズタズタにされ、日本軍は後手にまわり続けることになった。

 

 ハルビンは北満州における日本軍の最大の拠点であり、ハルビンを失えば、日本軍は沿海州との連絡を遮断され、一気に突破されてしまう。対する日本軍はハルビンという北満州の大都市を都市要塞と見なして徹底した市街戦を挑んだのである。

 

 

 

 ハルビンの重厚なレンガ作りの集合住宅や商業施設、工場、倉庫は全て日本軍の防衛拠点とした戦場は防衛側の一方的な優位があるはずであった。

 

 

 

「魔法の射手、雷の三矢!!」

 

「風精召喚、剣を取る戦友!!」

 

「魔法の射手、氷の五矢!!」

 

 

 

 

 

魔法世界からたくさんの魔法使い達が義勇兵として参戦してきたのだ。彼らの正義の魔法使いと言う考え方から悪の化け物どもが支配する日本と言う国は悪の帝国であり、この戦争に多くの魔法使いが参戦する結果となった。

 

 

 

彼らの参戦は秋山好古少将が守るハルビンは陥落と言う言葉が影を落としていた。

 

 

 

対する日本軍は大樹によって、日本軍の統帥権を『天皇養母兼摂政 大樹野椎水御神』として掌握。傘下の妖怪達に檄文を飛ばし妖怪達の参戦を促した。

 

 

 

「大樹野椎水御神様ぁああ!!バンザアアアアイ!!」

 

「「「「「万歳!!万歳!!万歳!!万歳!!万歳!!」」」」」

 

 

 

3月下旬、東国鎮台のたんたん坊と雪女郎傘下の北国鎮台の計2万がハルビンへ出兵。

 

たんたん坊は東北探題より始まり、安土大阪時代の功績にて東北地方に加え甲信越や北関東を任され東国鎮台奉行となる。雪女郎は北海道と樺太、千島、アラスカ(アラスカの支配にあまり積極的でない)を任され北国奉行に就任している。余談として畿内探題の白蔵主も近畿地方と北陸東海を任され中央鎮台奉行に、ぐわごぜも関東鎮台奉行に任じられている。

 

 

 

 約1ヶ月に渡る攻防戦は、日本軍の増援部隊到着と解囲によって終了し、乾坤一擲であったコンドラチェンコ攻勢はあと一歩のところで失敗に終わった。

 

 

 

 ハルビンの解囲が成功したとき、秋山支隊は残存兵員は1,000名足らずとなっており、日本軍にとってきわどい勝利だった。

 

 

 

 しかし、この失敗でロシア軍は迅速な攻勢を担いうる優秀な兵士を大量に失い、計画立案者だったコンドラチェンコ中将も狙撃され死亡するなど、致命的な敗北となる。

 

 

なお、補足になるがツングース藩への攻勢はレティ・ホワイトロックとその配下の活躍ですべて失敗している。ツングース藩はロシアに対して最後まで優勢であった。

 



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90 近世 日露戦争 諸々戦線で優位なり

 

 

4月30日から、さらに勢いがついた日本陸軍柴田勝隆大将率いる第1軍は大樹大社御親兵(妖精巫女)を伴い朝鮮半島に上陸し、戦闘で、鴨緑江岸でロシア軍を破った。

 

「さすがは霊験あらたかな大樹様の御親兵。総員!帝国陸軍は神の加護がある!!恐れるな!!前進せよ!!」

 

大樹大社御親兵の妖精たちがロシア軍へ魔弾を放ち、地上の第1軍と陸空で連携して翻弄した。

 

5月26日、続いて上陸した北条氏望大将率いる第2軍が旅順半島の付け根にある南山のロシア軍陣地を攻略した(南山の戦い)。

6月14日、旅順援護のため南下してきたロシア軍部隊を得利寺の戦いで撃退、7月23日には大石橋の戦いで勝利した。

 

日本の妖怪軍投入にロシア軍はバルチック艦隊の極東回航を決断した。これに対して大樹は船幽霊の首領村紗水蜜、竜宮城の乙姫や河童氏族の頭領である水虎河童に対して水棲妖怪達の参戦を命じ、参戦命令を受けた河童や半魚人、人魚と言った者たちは抱え魚雷や刺突機雷を持って東郷平八郎率いる海軍艦隊と合流させ連合艦隊を編成し旅順艦隊や回航中のバルチック艦隊を迎え討たんと待ち構えた。

 

5月29日、乃木希典大将を軍団長として陰神刑部狸を副団長に据えた第3軍を編成を命じた。さらに8月7日、河童や半魚人を軸に編成された特務連隊によって旅順港の艦艇が破壊され8月10日、海軍陸戦隊によって旅順港は封鎖された。

 

また、陰神刑部は四国探題から始まり安土大阪時代の功績から管轄領域を四国のみならず九州や山陽山陰を加え西国鎮台奉行職として大樹最恩顧武断派筆頭の名声を手にしている。

 

 

8月末には前田利通率いる第四軍が加わり満洲の戦略拠点遼陽へ迫った。ロシア軍の司令官クロパトキン大将は全軍を撤退させ、日本軍は遼陽を占領したもののロシア軍の撃破には失敗した。

 

 

 

 

また、ツングース戦線の戦況であるが3月の開戦よりレティ・ホワイトロックを総大将に据え、ナナイ族、ウィルタ族、オロチ族、ネギダール族、ニヴフ族と言ったツングース諸民族からなる藩軍が出動し沿海州戦線(ロシア側呼称:プリモーリエ戦線)を構築。藩軍と言う名の諸民族連合軍の武装は弓矢主体で銃もマッチロック(火縄)式やマスケット式銃が主でボルトアクション銃など藩主直属の日本人士族が装備するだけだ。砲兵に配備されているのは江戸末期に解体された国内諸藩の引き払い品の青銅砲ばかりだ。

 

しかし、ロシア軍に優位に立てたのはレティ・ホワイトロック傘下のイエティ(日本では雪男)たちの活躍であった。

彼らの毛は剛性に優れ小銃段程度なら容易に防ぐことが出来、怪力で俊敏であった。レティ・ホワイトロックに付き従ったイエティたちは氷の槍を巧みに操るレティと共にロシア兵を千切っては投げの八面六臂の大活躍であった。また、逐次ツングース藩へ向かって来るイエティや妖精の移民集団がロシア軍の背後を散発的に襲撃を仕掛けて来ることもあり、ロシア軍の戦線は安定しなかった。

 

「東洋の女神である大樹野椎水御神様は決断されたのだ。大日本合藩連合帝国を妖怪と人間が等しく暮らす理想の地とするために、正義の一撃をロシアへ打ち込んだ!ロシアとそれに与する者たちは大地を穢す。かの神はこのレティに命じられた・・・もはや、我が手により真の自由を手にするために・・・!悪しき思いに縛られた者たちに正義の鉄槌を下すため!我がツングース藩軍はロシア軍を食い破り西進しつつあり!!」

 

終戦までロシア軍は大量の血を流したが、ツングースの地を犯すことは無かった。むしろ、ツングース藩軍は戦線を拡大しつつあった。

 

 



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91 近世 日露戦争 旅順要塞攻略戦第一次総攻撃

 

9月1日、旅順要塞攻略戦が始まる。

 

旅順は元々は清国の軍港で、露国が手中に収めた時点である程度の諸設備を持っていた。しかし防御施設が旧式で地形も不利な点を持つことを認識し強化に着手した。1901年より開始されたこの工事は、当初は下述する203高地や大孤山も含めた十分に広い範囲に要塞防御線を設置し、常駐の守備兵も1万8000が配備されていた。

 

 

 

しかし、この要塞防衛線は港湾部に近すぎ、要塞を包囲した敵軍の重砲は、防衛線内の砲台から狙われない安全な位置より港湾部を射程距離内に収めることが出来ると言う弱点を持ち地形上、防衛線外の大孤山や203高地、南山坡山(通称海鼠山、203高地の北)などから港湾部の一部もしくは全域の弾着観測ができた。そのため開戦後にはそれら防衛線外も前進陣地や前哨陣地を設け防御に努めたが本質的に完全ではなかった。

 

 

 

これらの問題点を抱える旅順要塞であるが主防御線はコンクリートで周囲を固めた半永久堡塁8個を中心に堡塁9個、永久砲台6個、角面堡4個とそれを繋ぐ塹壕からなりあらゆる方角からの攻撃に備え、第二防衛線内の最も高台である望台には砲台を造り支援砲撃を行った。さらに突破された場合に備えて堡塁と塹壕と砲台を連ねた小規模な副郭が旅順旧市街を取り囲んでいた。海上方面も220門の火砲を砲台に配備して艦船の接近を妨害するようになっていた。

 

 

 

開戦時、ロシア軍が満州に配備する戦力は6個師団程であったが、その三分の一に当たる2個師団約3万名が旅順および大連地域に配備された。これに要塞固有の守備兵力、工兵、要塞砲兵なども含め最終的に4万4000(これに加え義勇兵1万、海軍将兵1万2000)が立て籠った。

 

ロシア軍では、この要塞を含めた地域一帯を防衛するロシア関東軍が新設され軍司令としてアナトーリイ・ステッセリ中将が着任した。

 

 

7月12日、旅順艦隊を無力化した日本海軍は艦隊を派遣し、要塞の海上方面軍と砲火を交えた。天狗の偵察部隊によってもたらされた情報は事前情報が不足していた陸軍の要塞地図を更新修正し、準備を整えた第三軍は7月26日旅順要塞の諸前進陣地への攻撃を開始し、主目標はそのうちの東方の大孤山とした。3日間続いた戦闘で日本軍2,800名、ロシア軍1,500名の死傷者を出し、30日にロシア軍は大孤山から撤退した。この頃乃木は、来るべき総攻撃の期日を、増援の砲兵隊の準備が整うのを待って8月19日とする決断をした。

 

 

 

大礼服に身を包んだ陰神刑部狸が大ぶりな刀を振りかざし号令を掛ける。

 

妖怪を加えた第一次総攻撃である。

 

 

 

「我ら大樹様より神勅授かりし、我ら軍隊狸!!神州狸の力を露助と異国の術士共に見せつけん!!いざ突撃!!」

 

 

 

ラッパや太鼓の狸囃子が鳴り響き、日本領の各地域から搔き集められた化け狸たちが各々得意とする変化の術を駆使してロシア軍の塹壕や陣地を攻め落とし始める。

 

 

 

「「「「「おぉおおおおおおおお!!」」」」」

 

 

 

大樹が天皇家護持を掲げて行動を起こした最初期から大樹に付き従い数多の戦いに参加した化け狸たちは忠誠篤く、大樹を妄信する筆頭の妖怪と言えた。

 

 

 

「きぇええええ!!」

 

 

 

塹壕の中で大鉈を振り回し、スコップや銃剣で抵抗するロシア兵の脳天をかち割り、切断された腕や足が宙を舞う。竹伐狸とその郎党狸たちが暴れまわる。

 

 

 

「戦いの歌!!」「風精召喚、戦の乙女17柱!!」

 

 

 

魔法使い達の反撃である。

 

 

 

「異界の夷敵、討つべし!!者ども行けぇええ!!」

 

「「「おぉおおおお!!」」」

 

 

第一次総攻撃で連合帝国軍はロシア軍に猛威を振るったが、旅順要塞を陥落させるには至らなかった。

戦いは激しさを増していく。

 

 

 



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92 近世 日露戦争 旅順要塞攻略戦第二次総攻撃

19日、第二次総攻撃が実施される。

 

第1師団の攻撃が開始された。第9師団が龍眼北方堡塁の占領に成功したという一報が入る。奮起した同隊は第4堡塁へ突撃を敢行しこれを占領、更に第28山童攻城砲兵連隊が第1堡塁へ砲撃を開始し敵は沈黙、午前11時には水師営の全堡塁は日本軍の手に落ちた。中央隊も山頂で金長狸率いる妖狸衆の奮戦もあり午後5時には南山坡山を占領した。

 

 

 

天狗などの飛行型の妖怪による爆撃が実施されたが、この時の爆撃は後の爆撃機や攻撃機が行う様な強力なものではなく手榴弾や擲弾の投下であり、心理的な効果を除けば大した戦果は上がっていない。しかしながら彼らが護衛する飛行船から降下してくる妖怪達は要塞砲台をいくつか占拠した上に要塞守備隊に少なくない出血を強いた。

 

 

 

飛行船の護衛に付いていた射命丸文は地上戦の様子をメモ書きした。自身の文々〇瓦版に乗せるための物だ。

 

文は普段は幻想郷に住んでいたが、大天狗の命令でこちら側の様子を報告する為に従軍していた。

 

 

 

「外に残った妖怪は随分と俗っぽくなったと思いましたが、それに加えて・・・血に飢えているのでしょうかね?幻想郷の人食い妖怪より人を殺していますよ。」

 

「文様?」

 

「椛は白狼天狗たちを率いて要塞砲台を落してきなさい。苦戦してるみたいですし・・・ね。」

 

 

 

 

 

さらに、東京湾(江戸の呼称がこの頃より東京に移り変わりつつある)要塞および芸予要塞に配備されていた旧式の対艦攻撃用だった二八センチ榴弾砲が戦線に投入されることになり最終的に18門が配され、旧市街地と港湾部に対して砲撃を開始。河童・山童の砲兵の助力もあり、南山坡山を観測点として湾内の艦船にも命中弾を与え損害をもたらした。

 

 

 

「ぐぉおおおお!!押せ!!押せ!!」

 

「天皇陛下万歳!!」「大樹野椎水御神様万歳!!」

 

 

 

二龍山堡塁の斜堤散兵壕を占領し坑道掘進を開始する日本軍は二龍山堡塁の外壕の破壊に取りかかる。しかし敵塁からの集中射撃と魔法使い達の側防射撃に阻まれ占領地を確保するのがやっとであった。午後1時、工兵隊の爆破した突撃路を使ってたんたん坊率いる東北鎮守突撃連隊が突入。たんたん坊はロシア軍と魔法使い相手に圧倒的な力を見せつけ僅か10分で堡塁を制圧する。松樹山もたんたん坊配下のカマイタチの隊によって制圧された。

 

 

 

これらの戦果で勢いづいたのだが、それ以上に被害は大きく第二次総攻撃は中断された。

 

 

 

しかし、バルチック艦隊がリバウ港を出航した事を受け、乃木は砲弾不足を承知で第三次総攻撃を行わざるを得ない状況下におかれた。

 

 

 

26日夜半、有志志願による特別突撃隊(第1師団の妖怪、妖精及び人間)「白襷隊」が歩兵第2旅団長を、中村覚少将の指揮のもとに攻撃を行った。この突撃隊は夜間の敵味方の識別を目的として、隊員全員が白襷を着用していた。白襷隊は午後5時に薄暮の中行動を開始、集結点で月が昇るのを待ち、午後8時30分、目標へ動き出した。

 

 

 

午後8時50分、白襷隊は一斉に突入を開始した。しかし目標の松樹山第4砲台西北角には幾重にも張り巡らされた鉄条網があり、その切断作業中に側背より攻撃を受ける。白襷隊はひるまず突入し散兵壕を目指すが前方に埋めてあった地雷により前線部隊はほとんど全滅してしまった。

 

 

 

「大樹野椎水御神様万歳!!」

 

しかし、後続の妖精部隊が爆薬を抱えて散兵壕に特攻を行ってから形勢が変わる。

 

 

 

午後10時30分頃、指揮を執っていた中村少将が敵弾を受けて負傷したものの、その後の指揮を引き継いだ二ツ岩マミゾウの指揮により翌27日午前2時頃まで激戦を繰り広げ敵陣突破し、この時点での第三軍の損害は約7千名に達した。しかし、妖怪主導の全力突撃は徐々にロシアの防衛線を食い破り、これを好機と判断した陰神刑部狸は乃木希典大将に人妖全軍に総攻撃命令を下すように具申し乃木もこれを承諾したのだった。

 

 

 



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93 近世 日露戦争 旅順要塞攻略戦第三次総攻撃・日本海海戦

 

第三次総攻撃が実施された。

 

日本軍は重要拠点である虎頭山や堡塁への攻撃を開始し、午後になって占領した。

 

 

 

さらに203高地攻防などでは、山童砲兵が徹底的に砲撃し陥落させた。

 

海岸線より半魚人や河童の陸戦隊が編成され上陸を開始した。

 

主要保塁が落ちたことで旅順要塞司令官ステッセリは遂に抗戦を断念し、1月1日16時半に日本軍へ降伏を申し入れた。

 

 

 

こうして旅順攻囲戦は終了した。日本軍の投入兵力は延べ10万名、死傷者は約8万名に達した。

 

 

 

 

 

2月21日には奉天にて双方あわせて60万に及ぶ将兵が18日間に亘って満州の荒野で激闘を繰り広げ、世界史上でも希に見る大規模な会戦となった。

 

3月9日、ロシア軍の司令官クロパトキン大将は撤退を指示。日本軍は3月10日に奉天を占領したが、またもロシア軍の撃破には失敗し、日露戦争全体の決着にはつながらず、それには5月の日本海海戦の結果を待つことになる。

 

 

 

 

 

日本海軍の連合艦隊は、すでに明治37年(1904年)8月10日の黄海海戦でロシア太平洋艦隊主力の旅順艦隊に勝利し、8月14日の蔚山沖海戦でマガダン艦隊にも勝利したことで極東海域の制海権を確保していた。また旅順要塞の陥落および旅順艦隊の壊滅の後、艦艇を一旦ドック入りさせるとともに、入念に訓練を行い、バルチック艦隊の迎撃殲滅に自信を付けて行った。

 

 

 

津軽海峡は日本側の機雷による封鎖が厳重になされていた。このようなことから連合艦隊司令長官東郷平八郎大将は、バルチック艦隊は対馬海峡を通過すると予測し主力艦隊を配置するとともに周辺海域に警戒網を敷いた。

 

 

 

5月14日、バルチック艦隊はフランスの援助を受けカムラン湾などでの補給を受けた。しかし、バンフォン湾で南洋妖怪たちの襲撃を受け、追い出されるように出港。この際、南洋妖怪にフランス軍が交戦しバルチック艦隊を援護している。

 

 

その後も南洋妖怪たちから複数回にわたり襲撃を受けた。この奇襲攻撃は昼夜問わず行われロシア水兵の心身を疲弊させた。

 

 

 

22日頃、同盟国台湾王国よりバルチック艦隊の宮古海峡通過が通報された。東シナ海に入り対馬海峡通過は確実のものとなった。

 

 

 

27日6時頃、連合艦隊は出港を始めた。戦艦「三笠」は大本営に向け『敵艦隊見ユトノ警報ニ接シ聯合艦隊ハ直チニ出動、コレヲ擊滅セントス。本日天氣晴朗ナレドモ浪髙シ』と打電した。

 

 

 

「三笠」は沖ノ島付近での邀撃を目論み南下していたが、波が高く水雷艇の航行に支障をきたしていたため8時50分には水雷艇を三浦湾に退避させた。

 

 

 

「総員海戦用意!!」

 

 

 

13時39分、南南西に航行していた「三笠」は北東微北の針路に進むバルチック艦隊を正面艦首方向に視認し、三笠は戦闘旗を掲揚して戦闘開始を命令した。

 

 

 

『皇国ノ興廃、コノ一戦ニ在リ。各員一層奮励努力セヨ』

 

 

 

14時02分、さらに三笠は左に変針して針路を南西微南にとり、第1戦隊は北東微北の針路をとっていたバルチック艦隊に対して反対の針路に入り、そのまま反航戦を行うかのように装った。海戦図からの推定ではそのまま両国の艦隊が直進すれば先頭の旗艦同士がすれ違うのは14時10分頃で間隔は6,000mとなる。

 

 

 

14時04分、機雷が先端に付いた長槍の刺突機雷を装備した人魚や半魚人たちからなる特別強襲隊がバルチック艦隊を奇襲せんと連合艦隊の戦列を離れた。

 

 

 

その姿を連合艦隊司令長官東郷平八郎ら海軍士官たちは艦橋から見送った。

 

 

 

このころロジェストヴェンスキーは第1戦艦隊の殿艦である戦艦「オリョール」が第2戦艦隊の先頭艦である戦艦「オスリャービャ」の前まで出たと判断し、第1戦艦隊を第2戦艦隊の針路上に割り込ませていたが、実際には「オリョール」と「オスリャービャ」は並走している段階であった。

 

 

 

14時05分、敵を南微東に距離8,000mで臨んだ時、東郷は急転回での左回頭(=取舵一杯の命令を下した)を命じ14時07分に先頭の三笠は回頭を終え東北東へ定針した。敵の先頭を斜に圧迫し「三笠」は右横ほぼ正面に「クニャージ・スヴォーロフ」を望んでいた。

 

 

 

14時06分、「クニャージ・スヴォーロフ」が中央から爆発し真っ二つに割れる。特別強襲隊の攻撃であった。バルチック艦隊第2装甲艦隊に肉薄した特別強襲隊は第2装甲艦隊の艦艇を次々と攻撃しバルチック艦隊の足並みを崩した。

 

 

 

14時08分、「三笠」に続いて「敷島」が東北東に定針したその時、バルチック艦隊は砲撃を開始。第2装甲艦隊も傷を負いながらも砲撃を行い「三笠」に攻撃を集中した。日本側はすぐには撃ち返さず距離が縮まるのを待ち、14時10分に「三笠」が距離6,400mをもって発砲を始めた。その後、第1戦隊は回頭を完了した艦から発砲を始めた。

 

 

 

「三笠」に攻撃を集中したバルチック艦隊であったが、すぐさま有効な砲撃は行えなかった。「三笠」は「オスリャービャ」と「アリョール」の左前方約30度の位置であったため後方の砲が向けられず。

 

 

 

損耗した第2戦隊はこれ以上の被害を抑えるために右変針で敵からやや距離を取った後、14時15分から回頭を開始し第1戦隊の航跡の後ろに付き、再度発砲を始めた。

 

 

 

14時20分、第2戦隊所属の装甲巡洋艦「浅間」が被弾により舵機を損傷し戦列から離れた。しかしこれを除けば、連合艦隊は各艦の戦闘力を維持した。さらにバルチック艦隊の中央にお化け蛤の妖怪軍艦が多数浮上、蛤の口が開き砲門を覗かせ一斉に攻撃を仕掛ける。これに対してバルチック艦隊主力艦は多数の被弾により急速に戦闘力を失っていった。しかし、的中ど真ん中に浮上したお化け蛤船団はバルチック艦隊からの砲撃をもろに受け多くが沈み、沈没を免れたお化け蛤も殻が大きく割れ無残な形となった。お化け蛤の乗員であるカワウソたちはお化け蛤を捨てて海に飛び込んで行った。また、バルチック艦隊主力後方の艦は徐々に先行する「三笠」へ向けて砲撃が困難となり、前方の艦も被弾で砲撃が減り、「三笠」の被弾は峠を越えた。

 

 

 

14時35分、連合艦隊第1戦隊は東へ転針を行った。14時43分には東南東へ転針を行った。これによりウラジオストックへ向かおうとする同艦隊の北進路も遮蔽していった。この間にも連合艦隊の砲弾は舷側を撃ち抜くなど着実にバルチック艦隊各艦をとらえ、14時50分、第2装甲艦隊旗艦「オスリャービャ」は甲板上や艦内の各所で火災を起こしながら右へ大きく回頭して戦列から離脱した。「オスリャービャ」は舷側被弾口からの浸水への対処が進まず沈没した。

 

 

 

この30分間の砲戦で、バルチック艦隊は攻撃力を甚だしく失った。参謀長の秋山はこの30分間で勝敗は決したと評している。ここからは追撃戦であった。

 

28日の夜明けには残敵掃討を終え勝利宣言を出した。

 

日本海海戦の勝敗は決し大日本合藩連合帝国の大勝利に終わった。

 

 

日本海海戦のあとに外務大臣小村寿太郎らはアメリカ合衆国に仲介を依頼し、1905年6月6日に日本・ロシア両国に対し講和勧告を行い、ロシア側は12日に公式に勧告を受諾した。

 

 



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94 近世 第二次仏日戦争  

 

6月10日、ロシア帝国の援助国フランスに対し大日本合藩連合帝国政府はバルチック艦隊護衛において日本軍(南洋妖怪)と交戦した事実をもとに賠償を請求。これを拒否したフランスに宣戦を布告した。

 

連合帝国は阮朝の連合加盟を受けて第10代皇帝である成泰帝の要請を受諾し傀儡化が進む北ベトナム解放を決断(ハイフォンに要塞が築かれる等フランスの横暴がうかがい知れる。)。

これに対し、天狗や唐傘お化けや一反木綿に妖精と言った航空兵団を派遣し、翌月には精鋭の妖怪郡である西国鎮台と中央鎮台の妖狐狸衆が派遣された

この際にコーチシナの南洋妖怪勢力に決起を促し連合帝国の阮朝庇護が本気であることを示した。

 

吸血鬼ピーやケンパス蛇などのコーチシナの妖怪反乱軍もこれでもかと言うほどフランス軍の足を引っ張り、北部に上陸した連合帝国軍を支援した。

 

上陸から数日で阮朝正規軍や民兵がこれに加わり23日にはドンダン進駐を果たす。

 

 

北部側からも南洋妖怪の義勇軍が合流して26日ランソン進駐を果たした。ランソンヘ向かって線路脇を行軍する陸軍部隊は住民から飲み物をもらう程に解放軍として歓迎された。

 

29日、仏印沖に停泊するフランス軍の軍艦を連合帝国の航空妖怪隊が襲撃。ハイフォン沖仮泊するフランス軍艦艇に大打撃を与えハイフォン沖より追い出した。数日後には日本海軍の駆逐艦隊が停泊した。そして、日本陸軍より乃木希典大将を総大将に据えた軍団が派遣される。山間のトーチカから発砲する仏印軍、仏印軍陣地に砲門をひらく連合帝国の歩兵砲。両軍はぶつかり合い。7月2日、連合帝国軍(本国軍、)ハイフォン要塞へ攻撃開始。復讐に燃える阮朝軍と南洋妖怪軍の猛攻は強力で幾つもの防塁や塹壕を突破した。連合帝国陸軍や妖怪軍も負けず劣らず奮戦し、21日ハイフォン要塞を陥落させた。

 

連合帝国軍及び阮朝軍は南下しようと動いたもののコートシナにメガロ・メセンブリアやイギリス等の義勇軍が到着し南洋妖怪反乱軍は沈静化しており、鉄壁の守りを固めていたため南下を中止。8月1日、ランソン省のドンダン市鎮にて終戦協定が結ばれる(ドンダン条約)。

 

第二次仏日戦争の裏で、連合帝国の諜報機関及び夜道怪や八雲紫と言った異次元異空間に精通している妖怪の協力を得てイギリスやフランスなどの国々の虜囚の身となっている東南アジア諸王朝の王族およびその子女を救出(ビルマ・コンバウン王朝ティーボー国王、ラオス・チャンパーサック王朝チャオ・ニュイ国王、カンボジア王国シソワット国王、ハワイ王国リリウオカラニなど)した。

 

 

7日、阮朝フエ宮殿にて成泰帝主催の解放式典が開かれる。この式典には東南アジア諸国(ラオス・ルアンパバーン王朝及びチャンパーサック王朝、カンボジア王国、タイ・トンブリー王朝、ビルマ・コンバウン王朝、ハワイ王国)や同盟国及び準同盟国(ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー二重帝国、オスマン・トルコ帝国)に連合加盟国や諸藩藩主が招かれていた。さらに西洋妖怪軍団からはバック・ベアード名代としてさとり第一王女とこいし第二王女、御付きや同行者の有名どころとして火炎猫燐、霊烏路空、カミーラ、エリートの姿があった(お燐と空は王女の御付き、エリートは駐日大使として、カミーラはその上司として参加)。南洋妖怪達も参列している。

 

西洋妖怪軍団の中でも最高位の存在が参列している時点で察することが出来るだろうがこの式典には大樹野椎水御神が参列した。日本と言う国が確立して2000年近い月日が経って初めて、彼女が国外に出たのだ。それ以前に天皇をはじめ皇族や日本の時の天下人やその側近たちしか見たことが無く。その姿は絵画ぐらいでしか知られていなかった存在である。

 

成泰帝のエスコートを受けた彼女は上座に案内されて玉座に座るように促される。

玉座に彼女が座ると成泰帝は下座に降りる。宮殿は静寂に包まれ、各国王朝の王族や同盟諸国の元首級が彼女の一挙一動に注目する。

 

「私たちの住む東洋は危機に瀕しています。イギリスやフランス、ロシアと言った国々、貴方達が白い悪魔どもと称する存在です。見なさい、かつての東洋の擁護者たる清帝国は最早亡国に等しい・・・東南アジアや南洋の国々は奴らの跳梁跋扈で滅びが迫っています。」

 

同意するように頷くもの達がいた。

 

「我が国は、幕府開闢よりそう言った脅威を跳ね除け先住の民たちと融和協調の輪を広げ連合帝国の礎としました。我が国には『和を以て貴しとなす』と言う言葉があります。我が国には多くの民族がいます。大和民族、アイヌ、琉球、ニウヴ、イヌイット、アボリジニ、新大陸の先住民たち、他にもたくさん。それに妖怪達も日本妖怪を始め南洋妖怪や西洋妖怪多くの者たちが繋がっています。連合帝国の和は輪となり大きく広がりを見せています。彼らは連合帝国を恐れ戦争を仕掛けてきました。清と同じ憂いを受けるかもしれませんでした。ですが、連合帝国は勝利しました。それは偏に連合加盟国や諸藩、諸民族、人と妖怪が一致団結したが故です。ですが、この戦いの勝利で選別主義、差別主義者たちの脅威はさらに強くなりました。その証拠に、奴らの横暴さは増し、この場にお集まりの方々の国々も亡国の方もいらっしゃいます。ここに来て私は、連合帝国の・・・否、東洋の団結が必要なのだとここに理解しました。そして、そしてその輪をさらに広げドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー二重帝国、オスマン・トルコ帝国と結びさらに強固な力を持つことが出来ました。これが我々の、そしてこれからの歴史です。」

 

大樹の声のトーンが上がる。

 

「対して、イギリスやフランス、ロシアと言った国々はどうか?あれは侵略者の破壊者の歴史です。1492年、コロンブスがアメリカ大陸を発見したときから始りました。大航海時代に伴う、白人の植民地政策で残虐非道な行為が行われました。新大陸、アフリカ、そしてアジア、中南米では奴らの侵略によって、一世紀足らずの間に、それまで独自の文明を打ち立てて、平和で幸せに暮らしていた罪のない先住民をほぼ全滅させてしまいました。先住民に対する白人の残虐無法ぶりの一例です。300万人の先住民が住んでいた地域が、コロンブスが来てから50年後の1542年には、この美しかった地に生き残ったのは、ただの200人だったと・・・。なぜそうなったのか?奴らは先住民をすべて奴隷を牛馬のように使ったからです。尊厳も何もかもを踏みにじり、重い荷物を背負わされ100キロ、1000キロの道を歩かされた先住民の背中や肩は、重い荷物ですりむけ、まるで瀕死の獣のようで、奴らは鞭や棒や平手や拳固で、容赦なく彼らを痛めつけたのです。奴らは先住民を野獣として扱ったのです。アフリカでは、16世紀から18世紀にわたり、白人達は奴隷貿易を行い、欧州、アフリカ、新大陸の三大陸にまたがる貿易によって欧州に莫大な利益をもたらしました。そして、東洋にも奴らの脅威は迫っています。その現状は、他の地域と同じく原住民は過酷に殺戮、搾取され、奴隷状態の悲惨な状況です。植民地支配者に対しての反乱については、きびしい弾圧と虐殺があります。このままでは世界が奴らの奴隷にされてしまいます。」

 

欧州諸国の奴隷の歴史を強く非難し、欧州諸国のありようを否定する発言をする。

 

「奴らの科学と言う物質文明の際限ない欲望に根差した考え方は非常に危険です。彼らは際限なく木々を伐採し、それを燃やしその煙でロンドンの空はいつも曇りの様だと聞いています。そして、そのような光景は欧州の各所で見受けれられつつあります。一部では海に工業廃水を流し込んでいると言う話も聞く。今はまだ、母なる大地と父なる海がをその慈愛溢れる揺り籠で浄化しています。ですが、それにも限界はあります。

かつて人類が精霊や神霊と言った超自然的な存在と共にあろうとしたのは大地が人の欲望の重みに耐えることが出来ないことを理解していたからです。

しかし人類は物質科学文明を極めるや精霊の力を力技で従わせることで人類そのものの力を手にしたと誤解してしまった。人類は精霊や神霊と共にあることでその能力を広げることが出来ると言う事をなぜ忘れてしまったのか。こう言った考えを奴らは野蛮で遅れた考えと言う。だが、母なる大地と父なる海を苦しめる奴らの方が遥かに野蛮であると理解できるでしょう。」

 

さらに彼女の発言は英仏ら欧州諸国の背後に隠れるメガロ・メセンブリアに向けた内容も述べられる。

 

「英仏やその背後にいる存在は、業の深すぎる欲望に従い世界を食いつぶそうとしている。今ここで、それを食い止めねばこの清らかな水と青々とした木々に満たされた世界は無くなってしまうのです。それほどに世界は疲れきっている。今、誰もがこの美しい世界を残したいと考えている。ならば自分の欲求を果たす為だけに、寄生虫のようにへばりついていて、良い訳がありません。欲望に根差した存在の一部はこの世界を捨てた存在です。それが今更しゃしゃり出て、独り善がりの思想を押し付ける。それこそ悪であり、人類を、世界を衰退させていると言い切れる。そのようなことは許されることではないのです。私はこれ以上、大地を、海を、空を汚すなと言っている。・・・この度お集まりの皆様方に伏してお願いする。今、一度私に力を貸して欲しい!!私に!連合帝国に、否!!この美しい世界を守るためにどうか力を貸して欲しい!!」

 

 

フエ宮殿の演説は公式の記録は残っていない。一部の国の王族が知るに留まっている。

この時の事を彼らは後にこう語っている。

 

「この日、世界は二つに割れた。」

 

 



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95 近世 枯れた世界樹

 

日露戦争を前後して大樹の発言や行動の過激化が目立つ。実際、この後の大規模な戦争においても彼女は非常に攻撃的とも言える決断を多々している。

 

その背景としていくつかあげられる。近年まで、よく挙げられるのはサラエボ事件であるが詳細は次回に語るとして、その次に上げられる事例を紹介していく。

この世界には超自然的な精霊が存在し、大日本合藩連合帝国の領土内にも多く存在されると言う。例えばアメリカ先住民ポピ族の信奉する精霊カチナ、アボリジニの信奉する精霊バンイップ、他にもハワイやポリネシアの精霊がおり、連合帝国領域外にもアフリカや欧州にも精霊が存在していたのだが、その勢力は近世以前と比べても激減しており、大樹の援助がある連合帝国領域はそれでもマシな方だったが、それ以外ともなると壊滅的であった。そもそも、精霊の多くは顕現できるような強い存在ではない。故に大樹も明確な会話を交わせるわけではなく喜怒哀楽と言った感情を感じ取れるだけであった。

その彼女が感じ取った感情こそが怒と哀の感情であり、精霊を通してこの世界の悪い異変を感じ取ったことが原因とする資料も存在する。

 

 

そして、これこそが真実と言えるものであろう。

それについては真実の一端を知るバック・ベアードと西洋妖怪軍団の有力妖精であるサラマンドラ、ノーム、シルフ、ウンディーネらの会話を織り交ぜて解説する。

 

「大樹義母上のフエ宮殿での発言は私も驚いている。まさか、あそこまで過激な発言をされるとは思っていなかった。だが、これを見ればその言葉も理解できる。」

 

ベアードたちの目の視界に映る巨大な大樹。だが、大樹は枯れ果て折れ朽ちている。

 

「これが・・・生命の木、ユグドラシルなのか?」

 

天まで伸びる枝葉、大地の奥深くまで張るその根は冥界まで届くと言われる。この世界の生命の源である。世界樹、宗教によってはこの世界を支える重要な存在。

母なる大地の象徴。

その世界樹が枯れ朽ちていた。

 

「彼女は、これを知って行動を起こしたのか。人類が欧州の人間が世界樹を腐らせたと考えているのか?」

 

「おそらくは・・・。」「ですが、世界樹が果てたのはもっと昔です。」

 

 

「では、何が原因だ?」

 

 

「わかりません。」「ですが、世界樹の多くが朽ちた現状で日本の蟠桃だけで支え切れるかは・・・」「予防的な意味合いもあるのでは?」

 

 

「世界樹は何本残っているのだ?」

 

 

「大樹様の護る蟠桃がこの世界に残っている最後の1本です。」

「ここユグドラシルも枯れ、アズ・エーギグ・エーレ・ファもアアチュ・アナもモドゥンも朽ち、イルミンスールもオークもイロコもアクシャヤヴァタも折れました。この世界の世界樹は蟠桃ただ一つです。」

 

高位妖精の言葉にベアードはぽつりと呟く。

 

「白い悪魔たちの欲望は・・・1本の世界樹ではとても支えきれないと言う事か。」

 

 

「ベアード様のように妖怪化した御方は喫緊の問題ではないでしょうが、私達妖精には危機的状況なのです。私達はそう遠くない未来、大きな決断に迫られるでしょう。」

 

 



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96 近世 20世紀初頭の状況

 

日本合藩連合帝国とその同盟国全体の人口は20世紀初頭の時点で、約1億5千万人となり、世界第3位となっていた。1位の中国や2位のインドは人口は多いがどちらも列強の植民地である。

 

 列強国としては文句なしの1位のであり、2位のアメリカ合衆国の2倍の人口を有し、日露戦争では妖怪と言う強力な兵を動員し、ヨーロッパ最大の人口大国であるロシア帝国を相手に圧倒する戦いを見せた。

 

 大英帝国とほぼ同等の経済力を持ち、神秘学においても最先端を走る日本が大人口を有することは、他の列強国にとって脅威であった。

 

 その北米諸藩や南天大陸には今だに発展途上であり、連合帝国と同盟国の経済力はさらに伸びしろがあると考えられていた。

 

 いずれはアメリカ合衆国、大英帝国を抑えて日本合藩連合帝国が20世紀中に世界最大の経済国として浮上することは確定的だった。

 

 強大な国力を持ち妖怪と言う化け物どもを束ねる連合帝国は、強力で膨大な軍を編成することは造作もないことである。

 

 実際、ロシアと戦いながらも、アメリカ・カナダの国境線に相応の守備兵力をおいておく余裕があり、アメリカ合衆国がロシア寄りでなければ、さらなる兵力投入とて可能だっただろう。

 

 しかし、それができれば苦労はないわけで、日本にとっての軍事的な悪夢とは、日本が他の場所で戦っているときに、アメリカ合衆国が西海岸へ攻めてくることだった。

 

 ロシアとアメリカ合衆国のような大国と国境を接しているため、常に2正面作戦を考えなくてはならない点が日本の戦略環境の不利だった。さらに言えば北米諸藩や他諸藩や連合加盟国は日本本国や天領ほど精強な兵力を抱えてはいない。

 

 イギリスもそれを理解しているので、ロシアと日本とアメリカ合衆国の対立を煽る方向で常に行動している。

 

 対抗策として大日本合藩連合帝国はドイツ帝国の勢力との連携を人妖共に強化していた。

 

 日本の対ヨーロッパ外交の基本は、ヨーロッパにおいてイギリス、フランスと敵対する誰かとの協力であり、イギリス、フランスと対立を深めるドイツ帝国は裏の関係を差し引いても正に適役だった。 

 

 ドイツにとってもロシアを背後から脅かす日本は好都合であり、ドイツと日本は安土大阪時代から始まり三国干渉を契機にさらに急接近したのである。

 

 

また、アメリカ合衆国と大日本合藩連合帝国の関係は悪化の一途をたどる。

1620年代に西海岸とアラスカより日本の開拓民が、東海岸に奥州の白人入植者たちがそれぞれ入植してきた。一方は類似した神を信奉し精霊の名のもとに融和協調を深めゆっくり生活圏を広げ、もう一方は安くて豊かな土地を求め暴力を持ってそれを急速に奪って行った。

白人勢力とインディアン(先住民)の戦争はこの時すでに始まっていた。その戦いに北米の日本人たちが加わるのは時間の問題であった。

 

日本は神道の八百万の神と言う精霊に類似したそれを信奉している。インディアンたちも精霊を信奉している。さらに言えば北米諸藩の大樹系神社の神事は妖精が取り仕切るものであった。北米諸藩の大樹神社の神事にはインディアンの『聖なるパイプ』の儀式が取り入れられている。

 

妖精は自然の具現化である。可視化した精霊と言ってもいいだろう。彼らインディアンにとって日本人と白人、どちらが天の使いで、どちらが悪魔なのかは一目瞭然だっただろう。

インディアンを野蛮と断じた白人とは異なり、彼らの宗教観や文化に寛容に接する日本人はインディアンの現状に心を痛め義憤に燃えるものが現れるのは自然な流れであった。

1768年のテカムセの戦争には北米諸藩がインディアン側に武器を輸出していた。

 

 

そもそもの白人とインディアンとの戦争は、クリストファー・コロンブスの上陸に始まるものである。コロンブスは中米のインディアン諸部族を艦隊を率いて数年にわたり虐殺し、その人口を激減させた。インディアンたちを黄金採集のために奴隷化し、生活権を奪ったためにインディアンたちは飢餓に陥り、疫病が蔓延し、その数をさらに減らした。白人のもたらした疫病がインディアンを減らしたのではない。コロンブスによる大量虐殺が、疫病によるインディアンの激減を招いたのである。

北米諸藩の日本人たちは約300年に渡るインディアン戦争の目撃者であったし、時には介入もした。心情的にはインディアンに味方したかったが本国の慎重な方針に従いアメリカ合衆国と決定的な対立に至る事だけは避けていたのであった。

 

1879年にはサンドクリークの虐殺と呼ばれる悪名高いインディアン虐殺が起こった。

1891年、ダコタ・ゴールドラッシュがブラックヒルズに巻き起こった時に、最後の重大なスー族戦争が起こった。ブラックヒルズ一帯は「ララミー砦の条約」では、スー族の不可侵領土だったが、金が出たあとはまったく無視され、白人の荒らし放題だった。合衆国軍はついに条約を自ら破り、スー族の掃討作戦に出たのだった。

20世紀に入ってインディアン条約が合衆国側から破棄され、北米諸藩はアメリカ合衆国へ外交特使を派遣し『先住民寛典処分嘆願書』と『先住民条約破棄に対する抗議文』を提出しアメリカ合衆国を強く非難した。

 

 

 

北米諸藩とアメリカ合衆国の亀裂が深まる一方で、織田慶信がロシア征伐の終了と高齢を理由に隠居を宣言した。

 

 こうした逆風の中、1908年の征夷大将軍選挙に出馬した織田信達は清州織田(信雄)家の出身で、宗家継承者ではなかった。慶信は在職中から征夷大将軍は世襲しないと公言してきたので、慶信の実子が継いだ徳川宗家から出馬できる人材がいなかったのである。実のところ織田家の本命は関東織田家(大樹長男家)の織田大長を出馬させる予定であったが病弱を理由に辞退してしまっている。

 

 対抗馬は、平民出身の原敬であった。

 

 選挙結果は、織田信達の勝利であったが、世襲批判や不況の逆風で政権発足当初から多難な前途が予想された。

 

 また、平民出身者の原敬が選挙で、織田一門衆と互角に戦って、あと一歩まで追い詰めたことは多くの人々に時代の変化を予感させる。

 

 だが、そうした変化が具体化する前に、サラエボで轟音が鳴り響き、未曾有の大戦争が勃発してしまう。

 

 第一次世界大戦である。またの名を第一次世界樹大戦と言う。

 

 



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97 近世 サラエボ・サクリファイス

 

1914年6月28日午前10時10分。サラエボで轟音が鳴り響いたとき、それが世界を二分する大戦争になるとは誰も思っていなかった。

 

 

オーストリア大公とその妻。そして、西洋妖怪の王であるバック・ベアードの妻古明地祀とその娘2人は軍事演習を視察するためにボスニアへ渡り、その後サラエボの国立博物館開館式典の立ち合いを計画した。

 

オーストリア=ハンガリー二重帝国内のスラブ人地域から第三の王国を形成し、二重帝国を三重帝国へと改編し、国家規模の拡大を計画していた。スラブ系民族による第三の王国は、セルビア民族統一主義に対する防波堤なるとも考えられた。

 

そのためにセルビア民族統一主義者らは脅威として認識していた。セルビア国内に敵が暗躍する素地はでき上っていた。

そして、ボスニアの軍事演習では西洋妖怪軍団のアルカナ家の魔女より発案されたブリガドーン計画の検証実験が行われる手筈であった。

 

 

1914年6月27日、視察団はボスニアの演習場で囚人たちを使ったブリガドーン実験によって囚人たちが妖怪奴隷に変貌する様を確認した。

 

衰弱する魔女を尻目に現場を監修していたドラキュラ公はベアードに報告する。

 

「計画は順調です。今回の実験でブリガドーン現象が正しく発生発動することが確認できました。ヴィクター、ヨナルデ・・・ベアード様に詳細を説明して差し上げなさい。」

 

ベアードは計画の詳細を2人から説明される。

ベアードは自身の計画が順調に進んでいることを理解し大いに満足した。

 

そして、ボスニアの演習場を後にした翌日。1914年6月28日、視察団は最初に駐留軍の兵舎を訪れ、簡単な視察を済ませた後、午前10時00分に兵舎を出発し、アペル・キー通りと呼ばれる川沿いの道を通ってサラエボ市庁舎に向かうことになっていた。

 

視察団の車列はミリャツカ川沿いの通り(アペル・キー)に入った。

午前10時10分、視察団の車が通り抜けようとした。

その時はやってきた。沿道の各所から群衆に紛れて何個もの爆弾が投げつけれた。

ぱ落ちた。爆弾は時限起爆装置によって護衛の後続車の下で爆発し、別の爆弾は窓を突き破り車内で爆発した。この車は古明地祀と娘のさとりとこいしが乗る車両であった。

今後の計画を詰めるために重臣らと別車両に乗っていたベアードはその光景をただ黙って見る事しか出来なかった。

車列は乱されて走行不能となり、オーストリア大公夫妻の乗る車の踏み板に乗って拳銃を乱射する襲撃者たち。

その合間を縫ってメガロ・メセンブリアの魔法使いが攻撃を仕掛けてくる。

ベアードは触手で襲撃者たちを串刺しにして返り討ちにした。

砂埃が舞、視界が悪い中で長女のさとりを見つけると彼女は泣き腫らした目をこちらに向けて、こいしを抱きしめてすとんと地べたに座っていた。

 

「お、お父様・・・、こ、こいしの目が・・・、か、母様が・・・。」

「うぅ・・・。痛いよ・・・。」

 

こいしの第三の目の瞼は閉ざされ血が流れていた。

そして、さらに視線を変えると妻の・・・祀の無残な姿が晒されていた。

 

「母様は・・・私達を庇って・・・。」

 

さとりの言葉は途中から聞こえなかった。

ベアード、慟哭した。そして、悲しみの感情はすぐに怒りに変わった。

 

「ぬぉおおおおおおおおおおおお!!!許さん!許さんぞ!!人間どもめ!!!」

 

西洋妖怪の帝王バックベアードの妻であり、東洋の女神大樹野椎水御神の実の娘、古明地祀の死は、歴史と言う祭壇に捧げられ、新たな時代を切り開く贄となったのだ。

 

 

 

 

 



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98 近世 第一次世界大戦 ベルギー陥落

 

サラエボで銃声と轟音が鳴り響いたとき、それが世界を二分する大戦争になるとは誰も思っていなかった。

 

 バック・ベアード妻である古明地祀を暗殺したセルビア人テロリストやメガロ・メセンブリアのセルビア系魔法使いたちとて、その引き金が全世界で一千万の人妖を鬼籍に送ることになると知っていれば、恐れ慄き暗殺を中止しただろう。

 

 なにしろ、襲撃の結果、セルビア王国は滅亡してしまうのだから。

 

 

ベアードの怒りようを推し量ったドラキュラ公はスカーレット候を通してオーストリア=ハンガリー帝国にセルビアへ宣戦布告をさせた。汎スラブ主義に基づきセルビア独立を支持するロシア帝国がセルビア防衛のために総動員を開始。

 

もちろん、ベアードの直接的な影響下にあるドイツ帝国も即座に総動員を開始した。

フランスもイギリスもドイツの総動員を見て、総動員を開始した。

もちろん、大日本合藩連合帝国もロシアの総動員に反応する形で総動員令を発動している。

 

 

 

連合帝国征夷大将軍織田信達が大樹にサラエボの件を伝え、各国の動員状況に応じて連合帝国も総動員体制に移行する旨を伝えた際に大樹は

 

「わかりました。仔細お任せします。」

 

と答えた。普段通りの落ち着いた表情で落ち着いた声で応じていた。

彼女の手にあった扇子がミシミシと音を立てていた。

 

 

 

 

ドイツ帝国は8月2日にベルギー王国に対し、軍の通行権を要求した。しかし、ベルギー国王アルベール1世は中立国としてこれを拒絶した。

 

1914年8月4日にベルギーに侵攻した。

これは、シュリーフェン・プランに基づいた行動であった。

8月5日、ドイツ軍の歩兵はリエージュ要塞前面に到達し、要塞東側の4個の堡塁を攻撃した。だが歩兵に随伴していた小口径砲による砲撃は何の効果もなく、ドイツ兵は堡塁からの機関銃の射撃にさらされ次々となぎ倒された。

 

不甲斐ない人間の軍隊に対して、ドイツ第二軍に随行していた西洋妖怪軍団吸血鬼化歩兵連隊を率いていたカミーラは第二軍のカール・フォン・ビューロウ元帥に第二軍の進軍停止を命じた。ビューロウ元帥はカミーラの命令に従って2日間進軍を停止した。

 

「ラ・セーヌ、あいつらはうまくやっているのでしょうね?」

「あいつらだって吸血鬼の端くれだぞ。血を吸いまくって吸血鬼を増やす簡単な仕事だし、質を求めなければ成り損ないのグールでもいいんだ。2日もあれば十分だと思うぞ。」

 

その2日でベルギー東部、ミューズ川とウース川の合流地点に位置する都市であるリエージュの様子は一変した。

 

要塞を取り囲むグールやそれ以下の存在であるゾンビたち。なんともグロテスクな化け物の群れがベルギー軍3万が引きこもるリエージュ要塞を取り囲んでいた。

 

「化け物どもめ!これは悪魔の所業だ!」

 

ベルギー軍将校は叫んだ。

 

リエージュ要塞を取り囲むゾンビやグールの軍勢の正体はリエージュ近くのヴィゼ、ダレム、バティスと言った諸都市や村々の住民であった。要するにカミーラとラ・セーヌは配下の吸血鬼たちに無差別に周囲を襲わせ、そこの住人達のことごとくを眷属化させたのであった。しかし、下級の吸血鬼たちのやる事、眷属化と言ってもゾンビやグールになってしまい成り損ないばかりであったがこの戦闘における捨て駒なのだから問題は全くない。

 

後方の第二軍の420ミリ榴弾砲や砲兵が305ミリ臼砲を装備した砲兵による砲撃が開始された。

 

「ビューロウ元帥が砲撃を始めたみたいね。じゃあ、こちらも突撃させなくちゃね。」

 

砲弾の雨が降り注ぐ中、ゾンビやグールたちが要塞攻めを始める。

その傍らではリエージュ市の市民たちが捕らえられゾンビ化させられ、逐次戦場に放りこまれていく。

 

砲撃で要塞線に空いた穴にゾンビたちが流れ込み、塹壕内で感染が広がりベルギー軍の兵士達もゾンビ兵に加わる。

 

 

8月11日、リエージュ市は壊滅し住民の大半がゾンビになった。リエージュ要塞も砲撃により脆くも崩れ去り、要塞内のベルギー兵は悉くが玉砕し、残りは全てゾンビとなった。

 

 

8月16日にリエージュが陥落した後、ドイツ軍右翼は18日に本命となる攻勢を開始し連合国軍を包囲するよう進撃した。ドイツ軍が早くもブリュッセルとナミュールに押し寄せると、ベルギー軍の大半はアントウェルペンの要塞に退却、そこから2か月間にわたるアントウェルペン包囲戦が始まった。20日、フランス軍はロレーヌとザールルイ地域への侵攻を開始したが、ゾンビ軍団に阻まれてしまった。ナミュールも20日には陥落している。

 

カミーラとラ・セーヌのゾンビ兵団は使い捨ての軍団であり現地において即席で簡単に用意できる兵団であり、元ベルギー国民をゾンビにしてそのままフランス軍に叩きつけるのであった。武器を持って戦う脳が無い、ゾンビたちは歯や爪で襲い掛かるので単体としては脅威ではないがベルギー国民や侵攻先のフランス市民をそのままゾンビに転用した結果、ゾンビ兵士達は100万はいたとされる。

 

ベルギーの軍民が国内の鉄道網を破壊したため、シュリーフェン・プランに基づいた左翼から右翼への輸送が困難となった為に、ゾンビたちをフランスへ先行させて侵攻させた。

ドイツ軍の足を引っ張る目的で行った行為であったが、その行為はカミーラら吸血鬼たちをベルギーに留めさせることとなり、ひいてはベルギー国民のゾンビ化虐殺に繋がる結果となってしまうのであった。

 

 

 



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99 近世 第一次世界大戦 アジア植民地体制崩壊

 

ルクセンブルクおよびベルギーの抵抗を粉砕しつつ、ドイツ軍は進撃を続けていた。8月後半になるとドイツ軍部隊はフランス北部に到達し、その地域で待ち受けていたジョゼフ・ジョフルの率いるフランス軍およびジョン・フレンチ率いるイギリス海外派遣軍との間でフロンティアの戦いが発生した。夥しい数のゾンビ軍団に英仏両軍は飲み込まれるように敗北しシャルルロワの戦いおよびモンスの戦いなどに大敗北した連合国は後退を余儀なくされた。

 

さらにル・カトーの戦い、モブージュ包囲戦、ギーズの戦いなどの戦闘においても英仏両軍に多量の死傷者が発生した。ドイツ軍はパリまで70キロの地点にまで到達したが、9月6日から12日までの第一次マルヌ会戦において進撃が停止した。莫大な損害を顧みず反撃に転じたフランス軍によって、ドイツ軍はエーヌ川のラインにまで後退し、塹壕を構築し始めた。緒戦においてドイツ軍(西洋妖怪軍団)の圧倒的強さを見せつけられたフランスとイギリスは持久戦の構えを見せた。

 

1914年10月15日のことだった。

ついに、欧州の全体を戦場としたこの戦いは世界規模のものに変わる。

大日本合藩連合帝国、中央同盟国陣営として参戦。

 

 

北米大陸ではカナダ自治領と北米諸藩の間で北米戦線が開かれることになる。

とは言え、厳冬期に近く両軍ともに陣地構築に終始した。

アメリカ合衆国が即座に宣戦布告してくることはなかったが、アメリカも徴兵制を敷いて大軍を編成しつつあり、いつ参戦してくるか分かったものではなかった。

 

イギリスがアメリカ合衆国の参戦を督促していることは日本も掴んでおり、アメリカが参戦してくることはすでに想定されたことであった。

 

既に総動員態勢に入っていたフランス。北アメリカ大陸ではカナダ軍と連合帝国の北米諸藩が睨み合い。アフリカ植民地は泥沼と化し、頼みの綱であったインドの大陸軍は太平洋から進出しようとする連合帝国軍への抑えとして大きく動かせずにいた。それにニュージーランドは封鎖されてしまった。

状況はさらに深刻化して行く。

 

 

 環太平洋に広大な領土を持ち、イギリスに比肩する海軍力をもつ日本が参戦すれば、イギリスは海軍を極東へ回航せざるをえなくなる。極東には中国の植民地疎開やマレー半島、ニュージーランドと言った有用な植民地もある。環太平洋の植民地は失うには痛い。

 

青島のドイツ東洋艦隊如きはイギリス極東艦隊で捻りつぶすことも可能であった。

しかし、日本の艦隊は別格だ。そのことはイギリスも重々承知であり、日本は極東で通商破壊を行うドイツ東洋艦隊にスマトラ島や北ボルネオの日本領で補給活動が行われていることを把握していた。そう言った経緯もあってイギリスは極東に海軍艦艇と回航させるに至った。

 

対する大日本合藩連合帝国もシンガポールと目の鼻の先にあるスマトラ島のパレンバンや北ホルネオの油田地帯が、イギリス戦艦の艦砲射撃を受けるなど悪夢以外何者でもなかった。また、イギリス海軍の大規模な極東回航の情報も掴んでおり、連合帝国の先制攻撃は当然と言えた。

 

中国沿岸にあるイギリス、フランスの拠点は短期間のうちに一掃され、1915年1月には仏印の3個所に海軍に護衛された上陸部隊が殺到し、3個師団を投じて仏印を制圧した。

 

 第二次仏日戦争の傷が癒えていない弱体化した兵力しかおいていなかったフランス軍は南下してくる阮朝軍と海上から上陸してくる連合帝国の上陸部隊、さらに足元には吸血鬼ピーなどの妖怪反乱軍に包囲されて一方的な敗北を喫し降伏するしかなかった。

コーチシナはこの時に一度解放されている。

 

 仏印のフランス軍が降伏するとアジアの戦いはマレー半島を残してほぼ片付ついた。

なお、僅かばかりの領土を持つ蘭印領及びタイ王国の(日本寄り)中立は尊重された。

 

その時、ドイツ海軍が大挙して出撃すれば、大西洋の制海権が確保できると考えられた。

 

南太平洋に位置する数少ない欧州の植民地ニュージランドやニューカレドニアも南天艦隊による攻略作戦により、現地のイギリス、フランス軍を圧倒できるだけの数的優位を確保して攻め寄せ、これを陥落させている。ついでと言わんばかりに南天に僅かに残っていたイギリス入植地も現地諸藩によって陥落させている。

 

 

イギリス海軍は日本勢力圏から近すぎるこれらの根拠地の防衛を早々に諦め、日本本国から遠くはなれたインド洋で、雌雄を決する戦略だった。

 

 マレー半島への上陸は、1915年2月のことであり、ラオス・ルアンパバーン王朝及びチャンパーサック王朝、カンボジア王国の中央同盟国として参戦後2ヶ月程度の戦闘でシンガポールは陥落する。

 

 日英海軍の一大消耗戦となるインド洋の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 



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100 近世 第一次世界大戦 大攻勢

 

 1915年の春、国家総力戦はその全貌を明らかにしようとしていた。また日本、ドイツ、オーストリアを中心とした勢力を中央同盟国。イギリス、フランス、ロシアを中心とした勢力を連合国と呼ぶようになったのも、この時期である。

 

 ヨーロッパの片田舎にあったイーペルという村では、喜びの春にあって不気味な静けさの中に、数千の死体を積み上げていた。

 

西洋妖怪の首領バックベアード。黒い球体に巨大な一つ目と枯れ枝のような多数の触手を備えた姿をさらしていた。

 

「愚かなる人間どもよ。惨たらしく苦しんで死んでいくがよい。」

 

ベアードの体からガスが発生する。無論そのガスは人体に有害な毒ガスであった。

ガスマスクを持っていなかったフランス軍は数千人が10数分のうちに死亡した。

 

フランスの若者たちは、目には見えない恐怖と戦うことになった。ガス雲の中を無我夢中で走り、窒息し、苦しみのたうち回って死んだ。積み上げられた膨大な数の死体は、恐ろしい死に顔を晒していた。清浄な空気は汚染され、金属の味がした。

 

 戦線を不気味な沈黙が覆い尽くした。

 

「うわぁああああああ!!」「に、逃げろ!!」「こんなバケモン相手に出来るか!?」

 

 

沈黙を破ったのはフランスの第87師団と第45アルジェ師団。

恐慌を起こして一目散に逃げだし始める。

 

「全軍、追撃。」

 

ベアードの号令で西洋妖怪たちが追撃を始める。

 

四天王のこうもり猫の体内に飼われている吸血小妖怪ウーストレルやポルターガイストが解き放たれる。

 

「おまえらぁ!やっちまえ!」

 

「いやだぁ!?」「助けてくれ!!」「死にたくない!」

 

ウーストレルに纏わりつかれたフランス軍兵士が一瞬でミイラのように干からびて絶命する。ポルターガイストに空高くまで浮かび上がらされた兵士が無慈悲に地面に落とされ赤い肉シミを地面に作る。

 

西部戦線は地獄のような光景が支配した。

 

 

 

 

 この時、ドイツ軍の主力は、ロシア戦線にあって大規模な攻勢作戦を計画していた。

 

 東部戦線では前年のタンネンベルクの戦いで、ロシア軍の1個軍団が壊滅しており、ドイツ帝国とオーストリア=ハンガリー二重帝国の連合軍が全般的な優勢を確保した戦場だった。

 

 タンネンベルクの戦いの要諦は、鉄道網を駆使するドイツ軍の機動力の高さにある。

 

 ドイツは、優勢な西部戦線と異なり膠着状態に入った東部戦線を早々に片付けた後に満を持して西部戦線に全力を傾ける方針をとった。

 

 こうした方針が採用されたのは、シベリアから西進する連合帝国軍の存在が大きい。

 

 1915年5月、いよいよシベリア戦線でツングース藩を軸にした連合帝国軍の攻勢を発起。国境を越えて、バイカル湖西に街を広げるイルクーツクへと殺到した。

 

 既に前年の宣戦布告から半年以上が経過しており、極東ロシア軍は塹壕を掘って日本軍を待ち構えていたので日本軍の攻勢は防ぎ止められることになった。

 

 とはいえ、彼我戦力差からして突破されるのは目に見えていた。

 

 ロシア軍は主力を対ドイツ戦に投じており、シベリア防衛に20個師団が投入された。

ロシア軍は、広大なシベリアの大地そのものを利用し、ナポレオンを破った後退戦略で連合帝国軍に対抗しようとしていた。しかしこれは、連合帝国軍には有効ではなかった。ツングース藩は冬将軍ことレティ・ホワイトロックが率いるイエティの軍勢がおり、本国妖怪軍北国鎮台より雪女郎の軍勢が加わっていた。

 

広大なシベリアの寒冷地帯は氷雪の妖怪たちには障害として機能しなかったのであった。

氷雪妖怪たちにシベリア戦線を食い破られ暴れまわられることになり、連合帝国軍の本格攻勢が始まる頃にはシベリア戦線はすでに崩壊状態であった。

 

そんな、シベリア戦線に止めを刺したのはバイカル湖南の広大なモンゴル高原を支配する辛亥革命で清朝から独立したばかりのモンゴル国であった。

連合帝国政府の誘いに乗ったモンゴル国は連合帝国に無害通行権を与え、陸軍6個騎兵師団を通過させた。さらに、陸軍の支払う高給に惹かれて多くのモンゴル人が家族や一族総出でこの遠征に参加している。巧みな馬術で馬を操るモンゴル人達は羊やヤギを連れてゲルで生活しながら軍需物資を運びつつ日本軍の後に続いた。半ば日蒙連合軍と化したその雑多な集団は、蘇ったチンギス・ハーンの軍勢そのものだった。

 

さらに、この軍勢には妖精の騎兵団が参加していた。この妖精騎兵が乗るのは馬ではなく犬であるクー・シーと呼ばれる犬妖精は全身に長い暗緑色の毛を生やし、丸まった長い尾を持つ牛並みに大きな犬で全く音をたてず、滑るようにして移動する。元々はアイルランドの妖精たちであったが、妖怪妖精の排斥が進む欧州から日本に亡命してきた移民軍であった。

欧州の妖精たちはクロムレック(環状列石)に拠点を築き抗戦していたが1708年のストンヘンジの戦いで欧州妖精勢力の組織的な抵抗が終了してからはベアードか大樹の勢力へ合流する流れになっている。

そんな、妖精勢力の一つである彼女たち妖精騎士団は郷土奪還を願い西洋勢力との戦争に積極的に参加している。

 

青々とした若草が茂る広大なユーラシアの大地を、騎馬の大軍が銅鑼とチャルメラと馬蹄を打ち鳴らしながら西へ西へと進んでいった。

 

なお、日本人とモンゴル人は顔立ちがよく似ているので、遠くから見ても、近づいて見ても殆ど区別がつかない。

 

「モンゴル人が攻めてきたぞ!」

 

と言う叫びはロシア全土を震撼させた。

 

ロシアをタタールのくびきにおいたモンゴル軍ほど恐ろしいものは、ロシア人にはなかったのだ。

 

チンギス・ハーンが蘇りモンゴルが攻めてきたという噂はサンクトペテルブルクのニコライ2世の舌にまで登ったという。

 

 ちなみに、騎兵軍団総司令官の秋山好古大将であり当たり前だがチンギス・ハーンではない。

 

騎兵軍団はシベリアの大地でツングース藩軍と合流しシベリア戦線を完全に崩壊させた。

その後は、残敵掃討が主任務となった連合帝国陸軍本隊が悠々と西へ西へと進んでいくのであった。連合帝国軍西進の先鋒として秋山騎兵軍団とツングース藩軍は大活躍したのだった。

 

なお、ロシア軍はシベリア鉄道の鉄橋やトンネルを爆破して日本軍の侵攻を阻止しようとしたが、騎兵主体で馬に乗って進む遊牧民の軍団にとっては大した痛手ではなかった

 

 また、橋を爆破しても、日本海軍海兵隊の河川艦隊が軍需物資を運搬したので日本軍の進撃は止まらなかった。

 

崩壊したシベリア戦線のロシア兵は降伏し捕虜となった。

捕虜たちには破壊した橋の修復やインフラ整備の労働を課した。強制労働が自国のインフラ整備であり地元が潤う訳で素直に連合帝国に従ったのであった。

 

シベリア戦線を崩壊させた連合帝国軍はさらに西へと進撃を始めるのだった。

 

 

 



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101 近世 第一次世界大戦 ユトランド沖海戦・セイロン島沖海戦

 

 

連合帝国陸軍が、シベリアの大地を西へ向かって進んでいる時、連合帝国海軍もまた、インド洋を西へ向かって進んでいた。

 

 日本海軍のインド洋展開は、シンガポール陥落前の1915年4月から始まっており、マレー半島のペナンや、スマトラ島のメダンが主な根拠地とであった。印度洋艦隊司令長官は加藤友三郎大将である。

 

 最初にインド洋に進出したのは、半魚人や人魚、河童などの水棲妖怪たちであり抱え魚雷や刺突機雷を用いた海中ゲリラ戦法で通商破壊を開始した。

その後、日本海軍の装甲巡洋艦や防護巡洋艦、軽巡洋艦、仮装巡洋艦などの巡洋艦艦隊が加わって通商破壊戦を開始した。これら巡洋艦隊を拠点とした天狗や唐傘、化鴉などの飛行妖怪たちも加わり、連合国への被害は甚大なものとなった。

 

ペナンから近いベンガル湾には水棲妖怪たちによる強襲上陸作戦が展開され一時は主だった港湾が制圧されるなどの被害を受け、イギリス軍の反撃が始まると水棲妖怪たちは海中に逃げ込んで躱した。この繰り返しが行われ英印軍ならびに駐留海軍を疲弊させた。

 

また、5月末に生起したユトランド沖海戦は戦局の転換点となった。

 

 イギリスはとドイツは双方ともに弩級、超弩級、準弩級戦艦や巡洋戦艦と言った戦艦約20隻を大艦隊(グランド・フリート)と大洋艦隊(ホーホゼーフロッテ)に集結させていた。

 

 英独艦隊の戦力は双方ともに総勢大小様々な艦を揃え100を超え、ほぼ互角に近づいており、高速の巡洋戦艦に至ってはドイツ海軍の方が有利だった。

大艦隊は日本海軍の増強を受けて、主力艦の一部をインド洋に送ってしまった。そのうえ、主力艦以外の戦力においても日本の通商破壊戦で、多数の軽巡、駆逐艦がインド洋に引き抜かれ、イギリス本国の大艦隊は弱体化していた。

 

 このためドイツ海軍は、今こそ艦隊決戦を挑む絶好機と考えられていた。

ここでイギリス海軍の撃滅できれば、北海の制海権を確保しイギリスを海上封鎖できる可能性があった。

 

新たにドイツ大洋艦隊司令となったラインハルト・シェア提督は、5月31日に全力出撃を命令した。

一方、イギリス大艦隊を率いるジョン・ジェリコー提督も総力を挙げて出撃。

 

ユトランド沖にてヨーロッパ至上最大の艦隊決戦が行われた。

 

ドイツ巡戦部隊は、イギリス巡戦部隊をおびき罠に嵌めたにも係わらず、主力艦隊到着までにこれを撃滅することができなかった。

 

また、日本の妖怪軍より西洋妖怪軍団の水棲妖怪(半魚人や人魚等)に抱え魚雷や刺突機雷の技術を提供していたが、ユトランド沖海戦では海上航空戦力として英国系及びメガロ・メセンブリアの魔法使いが哨戒にあたり西洋妖怪軍団の水棲妖怪を抑え無力化した。

 

結果、双方の主力はほぼ正面からぶつかることになり、主力艦隊同士による決戦を行う事となった。

 

この戦いでイギリス海軍は巡洋戦艦3隻を喪失、対するドイツ海軍は戦艦1隻、巡洋戦艦1隻を失っている。この他に両国ともに殆ど全ての船が何らかの損傷を負って、修理が必要な状態となった。

 

 損害という点ではほぼ互角の戦いだったが、無傷のロシア海軍とフランス艦隊が連合国陣営には残っており、北海の制海権を奪取するには至っていない。

 

 

 

日英のインド洋決戦となったセイロン島沖海戦は、7月7日に発生した。

根拠地のペナン、マダン、シンガポールを出撃した日本海軍印度洋艦隊は、洋上で

お化け鯨ら水棲妖怪たちと合流すると、さらに先発する上陸船団と合流して西進した。

 

 こうした日本海軍の大規模出撃は、当然、イギリス軍に察知されることになる。

 

 残地の諜報活動や無線傍受で日本海軍の出撃を察知したイギリス海軍インド洋艦隊も全力出撃して決戦の地へ向かった。英軍インド洋艦隊の指揮官は1915年1月のドッガーバンク海戦でドイツ海軍を蹴散らしたデイヴィッド・リチャード・ビーティー提督である。

 

天気は晴朗で視界は冴え渡り、波は穏やかで、理想的な海戦日和。両軍それぞれがお互いの艦隊を視認するに至った。

水上砲戦の定石どおり、お互いが相手の頭を抑えるため、高速の巡洋戦艦が突出し、最初に砲火を交わすことになった。

 

続いて、お化け鯨ら水棲妖怪が衝角突撃もかくやの突撃を敢行する。

イギリス海軍巡戦部隊を食い破らんとするお化け鯨に巡戦部隊の砲撃が集中する。

 

「御鯨様をお助けするのだ!砲撃ぃいい!!」

 

お化け鯨の作ったチャンスに日本海軍の巡戦部隊が動いた。

巡洋戦艦同士の水上砲撃戦は熾烈を極め、双方の砲弾が砲塔や艦橋を撃ち抜いて爆沈させた。

 

『キュオオオオオン!!』

 

砲撃をもろに受けたお化け鯨のあばら骨が折れ、悲鳴を上げる。

 

日英の巡洋戦艦部隊の多数が沈没し、他の巡洋艦、駆逐艦も無傷の艦は一隻もいないという惨状を晒すことになった。

 

セイロン沖海戦は引き分けに終わった。

戦いそのものの終わりには成らなかった。

 

 両国のインド洋艦隊は傷だらけの戦艦を修理のため後方に下げると残った戦力で戦争を継続する方法を模索することになった。

 

 一度の決戦で戦争の決着がつく時代はとうの昔に終わっていた。

 

 文明の発達による工業生産能力の拡大は短期間で戦力の拡充を可能としており、国家総力戦という全く新しい戦争形態が姿を現そうとしていた。

 そして、不敗神話を持つお化け鯨に傷をつけたと言う事実は海軍将校たちの中にも一抹の不安を覚える者たちが現れ始めた。この不安はすぐに表れることは無かったが、その予感は数十年後に的中することになった。

 

 



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102 近世 第一次世界大戦 英国の凋落

 

 

日英によるセイロン島沖海戦は引き分けに終わった。

そして、その年の12月20日早くも日英海軍の第二ラウンドが行われる。

インド洋海戦である。

 日本海軍は運命のセイロン島沖に、再建成った印度洋艦隊を用意した。

先のセイロン島沖海戦で失った艦艇群を呂宋藩や南天諸藩の艦艇で補填する形で再建させたのだ。さらに本国で建造された超弩級の新造艦もこれに加わっている。

その戦力は、超弩級、弩級、準弩級戦艦、9隻、巡洋戦艦4隻である。さらに連合加盟国や諸藩の保有している前弩級戦艦も3隻が加わる手筈にあった。

 

妖怪軍に関してであるがお化け鯨が養生の為、戦線を離脱したが南洋妖怪や水棲妖怪の多くが戦列に加わりその穴を埋めた。

 

 

これに対して、英インド洋艦隊は苦境にあった。

先のセイロン島沖海戦の生還組と増援合わせて超弩級戦艦6隻と巡洋戦艦2隻では心もとない。前弩級戦艦4隻が増援にあったが気休めでしかない。

 

1916年12月23日、ついに日本軍の上陸船団がセイロン島に姿を現す。

 

 前弩級戦艦による艦砲射撃の援護下、大発、小発舟艇に乗った海兵隊が海岸に殺到した。

 

 上陸海岸の戦いは日本側が圧倒なレベルで火力の優勢を確保しており、妖怪軍も加わった上陸軍は防衛側に対して圧倒的有利に回った。

 

 英インド軍の通報を受け、日本軍上陸船団の位置を特定した英インド洋艦隊は上陸地点に向けて突撃を開始する。

 

 日本海軍印度洋艦隊はコロンボからイギリス艦隊が出港済であることは把握していたが、その所在については掴んでいなかった。

 

 そのため、厳戒体制を敷いてその出現を待ち構えていた。

 

 索敵のために天狗や唐傘などの飛行妖怪を満載した飛行船船団を動員して空からの索敵に努めていた。

 

 さらに日本艦隊の巡洋艦や戦艦には、半個小隊から小隊規模の飛行妖怪による偵察隊が付随しており、航空偵察の有効性に気が付いた日本海軍も水上機の搭載が試験的に行われており、これは空母を用いない艦隊としては異例の数値であり、1916年時点で日本海軍の航空戦力運用は世界最先端に達していたと表現しても過言ではないだろう。

 

偵察機の通報により、日本艦隊はイギリス艦隊の正確な所在を掴み、全力で迎撃に出動するのである。

 

その、前哨戦として水棲妖怪と水雷戦隊による夜襲が行われ敵戦艦の漸減に成功している。

その日の明け方には日の出とともに日本海軍による追撃に近いでのインド洋海戦が幕を開ける。

 

もうすでに、撤退の途上にあった英インド洋艦隊。提督のデイビッド・ビーティー大将は旗艦クイーン・エリザベスと動ける戦艦を率いて追撃してきた日本艦隊へ果敢にも突撃した。

自らの犠牲を持って他の艦艇をコロンボの軍港へ退避させるためであった。

 

追撃する日本艦隊の前に立ちふさがった6隻の戦艦群は集中砲火を浴びて艦全体が火だるまになった。また、旗艦クイーン・エリザベスはその状態からでも3度主砲を放ち日本海軍は大いに苦戦し、日本海軍は戦艦群を仕留めたものの他の艦艇群は逃がしてしまったのであった。

 

英インド洋艦隊の敗北で、セイロン島の戦況は絶望的となった。

 

 セイロン島で3ヶ月は持久できるはずだったのだが、イギリスの植民地支配に反感を持つインド兵やインド住民は英国に対して非協力的で、日本人と命がけで戦うつもりなど全くなく、形勢不利となればあっけなく降伏、逃亡したのである。

一応、 本国兵とグルカ兵だけは最後まで抵抗したが、日本軍は数も、装備も、士気も圧倒的に勝っていた。

 

 セイロン島東側のトリンコマリーが陥落したのが翌年1917年1月上旬、西側のコロンボ陥落は下旬だった。

 

1月31日、セイロン島全域が完全制圧され、イギリス軍守備隊が降伏した。

 

アジア諸所の植民地陥落とロイヤルネイビーの2引き分け1敗と言う歴史的敗北と言う弔旗と訃報に包まれたイギリスは、2月を迎えるとさらなる凶報に襲われた。

 

ロシア帝国で、長引く戦争に国民の不満が爆発し、大規模なストライキと暴動が発生。

責を負って皇帝のニコライ二世が退位したのである。

 

ロシア2月革命の勃発だった。

 

なお、臨時政府はドイツ、日本との戦争継続を表明したので、即座にドイツ軍の全てが西部戦線に向かってくるわけではなかったものの、ロシア軍は大混乱に陥っていた。

 

 革命前から既にボロ負け状態だったロシア軍が、さらに弱体化して、戦争継続が可能な訳が無く臨時政府は水面下で既に和平交渉が始めていた。

 

イギリスはその動きを掴んでおり、ロシアが戦争から脱落しないようにあらゆる外交手段を尽くしていた。しかし、ロシアを戦争から脱落させないと言うのはロシアの現状を考えて土台無理な話であり、既にイギリスの努力は詰んでいた。

 

ロシアの戦争からの脱落は時間の問題となる。

 

一方のドイツ帝国はロシアの混乱をさらに加速させるため、スイスに亡命中だったロシア人革命家ウラジーミル・レーニンをペトログラードに送り、さらなる混乱を煽った。後に、それが致命的な誤りだったことにドイツは気付き、他国にも余計なことをと思われるわけだが、それはまた別の話である。

 

ロシアが戦争から脱落すれば、日本・ドイツの全軍がイギリス、フランスへ向かってくることになる。フランスはイギリスよりも先に追い詰められており、既に死に体であり、イギリスは追い詰められていた。

 

 

ドイツもイギリスの海上封鎖で国民生活は破綻寸前まで追い詰められていたが、ロシア革命と日本軍のインド洋制覇で、この戦争に明るい兆しを見ていた。

 

日本はさらに楽観的で、インド洋を押し渡って中東、エジプトまで進撃する計画やインドに上陸してインドを解放する計画を立てていた。インド洋に残ったイギリス海軍残存部隊は、遠くインド北部のカラチまで逃亡しており、インド洋航路は日本軍によってズタズタだった。

 

 船会社も、船員も出港を拒否し、インドの港から一隻の船も出そうとしなかった。国籍によっては連合国でない国はむしろ、大日本合藩連合帝国にしっぽを振る有様だった。

 

仮にイギリスやフランスが護衛つき大規模な船団を組んでも、優勢な日本海軍によってまるごと殲滅される可能性の方が高かった。

 

 これによってインド経済はイギリス本国と切り離され大混乱に陥ったのだが、インド人の生活窮乏は植民地政府への不満に転嫁され、暴動が相次いだ。

 

日本軍も暴動を煽り、独立派に武器弾薬や活動資金を気前よくばら撒いたので、上に現地の妖怪たちを焚きつけたのでインドでは連日の爆弾テロによって治安と民心が極度に悪化していった。

 

暴動がインド独立戦争に転化するのは時間の問題と見られていた。

 

インドが独立すれば、その影響は広大な植民地をもつイギリスにとって計り知れない政治的な破壊力を持つことになる。

 

 

大英帝国崩壊、ついでにフランス崩壊も極めてリアルな未来予測として話題に上がるようになった(既にロシア帝国崩壊と言う前例もある。)。

さらに、魔法世界(メガロ・メセンブリアを中心とした)の義勇魔法使いの派遣規模縮小が検討され始めた。崩壊のカウントダウンが始まった。

 

 だが、イギリス人にとっての悲観と日本人にとっての楽観は裏切られることになる。

 

この大戦の蚊帳の外にいた多くのアメリカ先住民を巻き込み、アメリカ合衆国と大日本合藩連合帝国の開戦の決定打となる事件が起こる。

 

リトル・ビッグ・ホーンの虐殺。

約300年に渡るインディアン戦争と世界大戦が結びついた大事件の勃発であった。

 

 

 



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103 近世 第一次世界大戦 日米開戦・インディアン戦争

 

 

大日本合藩連合帝国の国教である神道とアメリカ先住民の自然崇拝は相性が良く、日本人とアメリカ先住民の関係は良好であった。また、北米諸藩の中心藩である新会津藩藩主織田泰孝(やすたか)や加州藩藩主毛利秀就(ひでなり)と言った藩主たちは、スー族のタタンカ・イヨタケ(シッティング・ブル)と親交を持っている者も多く。新越後藩藩主上杉茂憲などは親睦の集いにおいて模擬試合で上杉家の腕自慢と立ち会わせた際に勝利した褒美としてタシュンケ・ウィトコ(クレイジー・ホース)に日本刀を与えている。さらに、文棚藩藩主羽柴秀紀(ひでのり)はアパッチ族のジェロニモ(ゴヤスレイ)の娘リナを側室に迎えている。また、領民間でも先住民と婚姻を結んでいる者も多く、非常に結びつきが深かった。

 

対するアメリカは私利私欲で先住民との約束を反故にしたり、強制移住を強いるなど凡そ人の道に外れた行為を行い。先住民、北米諸藩からの反感を買っていた。

 

そう言ったこともあり、アメリカと北米諸藩の関係は決して良好ではなかった。

 

 

そして、本国の抑えで不用意な行動を起こしていなかった北米諸藩の最期の一線を越えさせる出来事が発生する。

 

リトル・ビッグ・ホーン河畔の虐殺であった。

 

スー族、シャイアン族、アラパホー族が北米諸藩の大樹神社の神官を招いて大規模な宗教儀式を行おうとした際に、それをインディアンの反乱軍と誤認したアメリカ合衆国軍が奇襲攻撃を行い儀式参加者の多くが殺害されてしまったのだ。その死傷者の中に妖精巫女(ぴちゅっただけで死んだわけではない。)が四肢を引き千切られ強姦された状態で発見されたことで、怒り狂った北米諸藩藩主たちは本国の許可を取らず独断でグレート・プレーンズへ軍を派遣し進注した。

 

グレート・プレーンズ進駐である。

 

グレート・プレーンズに進駐した第一陣は新墨藩(前田吉利)、頃蘭土藩(前田利友)、文棚藩(羽柴秀紀)であり、文棚藩は秀紀がジェロニモの娘と結婚している関係上アパッチ族の戦士たちが自主的に参陣した。

 

グレート・プレーンズは北米諸藩とアメリカ合衆国の緩衝地域に近く、先住民の領地として双方が認めていたものであったが、ブラックヒルズ戦争で既にアメリカ合衆国が反故にしていたこともあり、緩衝地帯としては形骸化していた。

 

しかし、北米諸藩に一部動員が掛かり新墨藩、頃蘭土藩、文棚藩が進駐した時点でアメリカ合衆国は連合帝国との長大な国境線の警備には平時から多くの兵士が従事していたが、全面戦争となるとアメリカ軍の装備は質、量ともに不十分だった。

 

 何しろ、北米諸藩は職業軍人である旗本衆を国境線を並べていた。この内の新仙台藩、新越後藩、新庄内藩、阿羅斯加藩カナダ軍と対峙しており、新墨藩、頃蘭土藩、文棚藩がアメリカ国境で防備を固めていたのである。新会津藩他はその補填であった。

 

グレート・プレーンズ進駐に対し、アメリカ合衆国も動員がかかる。こうなってしまえば、本国からの歯止めは効かず。やらなければやられると判断した北米諸藩が国家総動員体制に移行するのは当然であった。

 

北米諸藩の軍勢がグレート・プレーンズに進駐し、シッティング・ブルの呼びかけに応じて多くのラコタ族、シャイアン族、ナコタ族、アラパホ族が集結しつつあった。

 

さらに、ジェロニモの息子ロバート・ジェロニモはアメリカ南西部でアパッチ族やナバホ族を集結させグレート・プレーンズの北米諸藩及び先住民諸部族連合と挟撃しようと動き始める。また、オクラホマ州でもチェロキー族とセミノール族、チョクトー族、クリーク族がオザーク高原に集結し始めていた。また、エスキモーの有志が阿羅斯加藩と合流し対カナダの姿勢を鮮明にした。奇しくも、北米諸藩が国家総動員体制に移行して、先住民族の多くの戦士たちがアメリカ合衆国との対決に臨む動きは合衆国政府から見て先住民も総動員状態に入ったように見えたのであった。

 

大樹も現地のネイティブ・フェアリー(先住の妖精)に対し対米参戦を命令、現地の妖精代表者もこれを承諾。精霊具現の妖精たちは多くの先住民を感化させ反米感情を高めた。

 

暫定的な大酋長に祭り上げられたタタンカ・イヨタケは虐殺のあったリトルビッグホーンの地で集まった著名な戦士たちに呼びかけた。

 

「やつらは我々から大地を奪い、獲物を奪い、穀物や果実を奪い、この上呼び名まで奪うのか!殺し合いは沢山だと思い、子や孫たちを生かすため、心を抑えて従ったと言うのに!?伝統、習慣、生き方全てを変えられて我々に何が残るのか!?我々には二つの選択肢があるこのまま大人しく奴隷になるか。武器を取って戦うかだ!」

 

さらに、その翌日にはハワイ諸島にてハワイの妖精メネフネたちによる決起が発生。ハワイ先住民をも巻き込んだ騒乱状態に突入した。また、現地の人魚族や魚人族が通商破壊を始めていた。

 

 

アメリカ合衆国大統領ウッドロウ・ウィルソンは一連の動きに危機感を抱き連邦議会に日本の侵略が間近に迫っており、国家防衛のために止む得ない措置として対日宣戦布告を求めた。

 

「アメリカ合衆国は、大日本合藩連合帝国による意図的な侵略行為を受けた。合衆国は、同国との間に平和的関係を維持しており、日本の要請により、太平洋の平和維持に向け、同国の幕府政府及び天皇との対話を続けてきた。実際、北米の日本人たちがグレート・プレーンズに侵攻を開始した1時間後に、駐米日本大使とその同僚は、最近米国が送った書簡に対する公式回答を我が国の国務長官に提出した。この回答には、これ以上外交交渉を続けても無駄と思わせる記述こそあったものの、戦争や武力攻撃の警告や暗示は全くなかった。

 

次のことは記録されるべきであろう。このグレート・プレーンズへの侵攻は日本人とインディアンが示し合わせて行ったのは明白である。数日前、あるいは事によると数週間前から、周到に計画されていたことは明らかである。この間、日本政府は、持続的平和を希望するとの偽りの声明と表現で、合衆国を故意に欺こうとしてきた。

 

ハワイ諸島の大反乱は、米国の海軍力と軍事力に深刻な被害をもたらした。残念ながら、極めて多くの国民の命が失われたことをお伝えせねばならない。さらに、サンフランシスコとホノルルの間の公海上で、商船団が魚雷攻撃を受けたとの報告も受けた。

 

昨日、日本軍とインディアンたちがグレート・プレーンズに集結した。

 

昨夜、インディアンたちがオザーク高原に集結した。

 

昨夜、インディアンたちが南西部に集結した。

 

昨夜、日本軍はハワイを煽動している。

 

そして今朝、日本軍はミッドウェイ島に上陸した。

 

つまり、日本は太平洋全域にわたる奇襲攻撃を敢行したのである。昨日と今日の事件が全てを物語っている。米国民は既に見解を固めており、この事件が自国のまさに存続と安全とを脅かすという事実を充分理解している。

 

陸軍及び海軍の最高指揮官として、私は自国の防衛のため、あらゆる措置を講ずるよう指示した。

 

だが我々全国民は、自国に対するこの猛攻撃が如何なる性格のものであったかを、決して忘れない。

 

この計画的侵略を打倒するのにどれほど時間が掛かろうとも、米国民は正義の力をもって必ずや完全勝利を達成する。

 

全力で自国を防衛するだけでなく、このような形の背信行為が今後2度と我々を脅かさないようにせねばならない。私のこの主張は、議会と国民の意志を反映していると信じる。

 

戦闘行為は存在する。もはや、国民や国土や国益が重大な危機にあるという事実を無視することはできない。

 

軍への信頼と我々国民の限りない決意をもって、我々は必ずや勝利を収めてみせる。合衆国に神のご加護を。」

 

 

 

 アメリカ連邦議会は、1917年3月9日にアメリカ参戦を承認する。

4月、国境に200万の大軍を集めたアメリカ軍は国境線を超えて、日本領に雪崩込んだ。

 

 

 

 



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104 近世 第一次世界大戦 グレート・プレーンズの戦い

 

 

 

国境に200万の大軍を集めたアメリカ軍の大攻勢はアメリカ合衆国の生産力を見せつける凄まじいものだった。

対する大日本合藩連合帝国北米諸藩の兵力は士族卒族で構成された番方の兵力に加え、徴兵された領民たちで構成された民兵で70万程だ。

 

カナダ側にも兵を置いており70万はギリギリの兵力であった。

北米諸藩は本来なら本国軍の援軍が必至であったが、対ロシア、対イギリス、対フランスに陸軍は出払っており、交戦状態には無いが清国との国境にも兵を立てる必要があり、対米戦に本国軍を大規模に送る余裕は無かった。これは妖怪軍にも言えることであった。

もちろん、他地域の諸藩や連合加盟国に外征能力は殆ど無い。

 

そんな、窮地に立った北米諸藩を救ったのは先住民諸部族であった。グレート・プレーンズに布陣した北米諸藩軍に協力した先住民は1万前後であったが100~1000前後の小集団が休みなく奇襲を仕掛けて来るわけであり、アメリカ合衆国陸軍の背後を脅かし、北米諸藩軍の戦線崩壊を防ぐのに一役買っていた。

 

 5日間の準備砲撃の後に1,600kmに及ぶ国境を超えたアメリカ軍は、月面のようになった国境だったものを目にして、日本兵は一人も生き残っていないと確信したとされる。

 

しかし、塹壕戦の知識は直接的なものでないにしろ本国からの経験が組み込まれた分、北米諸藩軍に軍配が上がった。アメリカ軍の砲撃を耐えた北米諸藩軍はアメリカ軍の歩兵が攻撃のために塹壕から姿を現すと諸藩軍の反撃が始まった。

 

諸藩軍の民兵は銃を用いた標準的な兵隊であったが、諸藩の常備軍である番方衆は戦国時代から続く士族卒族階級であり剣術等において何かしらの流派の有段者や皆伝者で白兵戦ともなると体格差を感じない八面六臂の戦いぶりであり、「塹壕戦で日本刀を構えた侍と対峙した場合は背を向けて逃げながら銃を撃て」と言われるほどで「決して銃剣やナイフで応戦するな」と言われるほどだった。

 

諸藩軍の決死の抵抗はアメリカ軍の前進を阻み、本国より供与されていた機関銃と迫撃砲も成果を上げていた。また、アメリカ軍の精神を削ったのは大樹大社御料兵と現地のネイティブ・フェアリーによる特攻で「タイジュノヅチミヅミカミサマ!!エイコウアレ!!」「タイジュサマ!!バンザイ!!」と奇声を上げて全身に爆弾を巻いて上空から陣地に飛び込んで爆発すると言う狂気じみた戦法だった。

現代では誤解されがちだが妖精がぴちゅる際にはゲームのように光の粒子が飛び散って終わりと考えるものが多いが、現実はゲームではないので致命傷を受け光の粒子に代わる過程において、血が飛び散り臓物をぶちまける過程が加わる。

そのためアメリカ軍の兵士たちの精神はガリガリと削られ、戦後精神を病むもの達が続出した。

さらに言えば記憶が飛ぶと言う不都合はあるが、妖精には死と言う概念が存在しないのだ。

目視と言うアナログではあるが精密な爆撃によって敵陣を攻撃し効率的にアメリカ軍の戦線を傷つけていった。

 

「撃て!撃て!なんなんだ!?あの頭のおかしい連中は!!」

「バンザァイ!!」

 

体に巻き付けた爆弾に命中し空中で爆発四散する妖精。

兵士達に内臓が飛び散り降り注ぐ。

 

「253陣地がやられたらしい!6匹も突っ込んできたらしいぞ!!」

「あの、カミカゼフェアリーめ!!」

 

北米大陸の先住民領域は自然が多く妖精も多い。それでいて多くの神々が現世を去り、精霊が弱っていく中、現世に残る妖精を庇護する唯一の存在である大樹への忠誠は狂信近くなっていた。

 

 

あらゆるものを奪われた復讐と精霊の頂点である大樹による実質的な聖戦に燃える先住民やリトルビックホーンの虐殺で敵愾心と義憤を燃やしている北米諸藩軍の士気は極めて旺盛であり、対するアメリカ軍の戦意は早くも下がり気味であった。

 

しかし、約3倍の200万の敵を相手に持ちこたえることは出来ず北米諸藩軍の国境防衛陣地は徐々に占領されていく。

そう言った塹壕陣地で諸藩兵とアメリカ軍兵士が狭い塹壕内で拳銃や歩兵銃で撃ち合い。

銃剣を突き付けるアメリカ軍兵士複数人相手に日本刀を振り回して大太刀周りする士族士官。トマホークを振り回しアメリカ軍兵士の頭をかち割るラコタ族の戦士。

 

「死なば諸共よ!!」

「この、黄色い猿どもめ!!」

「聖地はわたさんぞ!!」

「邪悪なインディアンどもめ!!」

 

全身を撃ち抜かれながらも10人ほどのアメリカ軍兵士を切り伏せて崩れ落ちる士族士官。

生き残ったラコタ族の戦士に士族士官が息も絶え絶えで腰の脇差を渡す。

 

「む、息子に・・・。」

「わかった。」

 

脇差を受け取ったラコタ族の戦士は塹壕の外に出てまだ無事な陣地を目指していった。

残された塹壕にはアメリカ軍兵士、先住民、北米諸藩軍兵士問わず夥しい数の死体が転がっていた。

 

戦地へと赴くパレードの際、子どもと握手したアメリカ人兵士たちがこの悲惨な光景を想像出来ただろうか。血走った目付きで機関銃や迫撃砲を発射し、歩兵銃を乱射するアメリカ人兵士たちは想像は愚か。もはや、思い出す事すら出来ないだろう。

 

「撃ち落とせ!!」

 

妖精兵を見つけて、アメリカ軍兵士たちが高射砲を発射する。

 

 

「敵の頭を抑える!!行くぞ!!」

 

腰に差した日本刀と騎兵銃を構えた新仙台藩の騎兵部隊は騎乗した状態でアメリカ軍の騎兵隊に銃撃を浴びせて機制を制し、腰の日本刀を抜く、それに続く先住民騎兵もトマホークや大鉈を掲げ、サーベルを抜いたアメリカ軍騎兵と切り結ぶ。

北米諸藩軍と先住民の連合軍は近接戦闘においての勝率は非常に高かった。

騎兵同士の戦いはもちろん、塹壕制圧における近接戦闘でもアメリカ軍の被害は多かった。

 

 

1917年4月から、5月までの間にアメリカ軍の各部隊は平均して50kmの前進に成功し、最大では100kmも進撃に成功したが、その間に戦死した兵士は50万人を超えて、完全に攻勢能力を喪失することになった。

 

後に「血の30マイル」と呼ばれる屍山血河である。

 

1km前進するのに約1万人が死んだ計算だった。

 

この数値は、4年間続いたアメリカ南北戦争の全期間に発生した戦死者の数を僅か1ヶ月で塗り替えるアメリカ軍史上最低最悪の大損害だった。

 

この結果にアメリカの世論は割れるあまりの戦死者数に厭戦気分が広がる一方で、彼らが蔑んできた黄色人種に一杯食わされたことが気に入らず復讐を望む声で二分した。

 

アメリカ軍は膨大な死傷者のみならず、補給の欠乏に苦しんでいた。

グレート・プレーンズの戦線には日増しに先住民諸部族の義勇兵が集まりつつあり、合流を断念した先住民はアパッチ族のジェロニモJrを中心にアメリカ各地で破壊活動を行った為であった。

アメリカ軍にとっての悲劇はまだ始まってすらいなかった。

 

 

アメリカ軍の攻勢停止を待って、北米諸藩軍は反攻を開始する。

補給が滞り砲兵戦力が機能していないアメリカ軍は北米諸藩軍の反撃に為す術もなく、後退をしていった。

北米諸藩軍はアメリカ軍の疲弊を待っていたのである。この作戦の立案者は竹中清兵衛、竹中半兵衛の子孫であった。

 

反撃開始から1ヶ月でアメリカ軍は元の国境まで押し返され、さらに死傷数を30万人追加することになった。

 

対する日本軍の損害も膨大で、30万人が死傷している。その内の20万人が反撃開始から1ヶ月間に生じた損害だった。また、先住民の死者数は参戦数も把握できないので詳細は不明だが1万はいたとする資料も存在する。

 

およそ3ヶ月間に渡る攻防戦により、北米諸藩軍も大損害と補給が追い付かず攻勢が停止した。

 

初期の対アメリカ戦は大軍を擁して攻めかかったが北米諸藩軍と先住民連合によって押し返された上に国内で散発的に発生する無差別攻撃の不安におびえさせられる結果となり終了する。

 

 しかし、本当の脅威は海からやってきた。

 

 アメリカ海軍大西洋艦隊がパナマ運河を越え、太平洋航路へ進出し通商破壊戦を開始したのだった。

 

 

 




今後は少しづつ戦闘シーンを増やしたい。
そろそろ、モブやオリキャラ以外の原作キャラも出したいな。


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105 近世 第一次世界大戦 ロシア分裂

アメリカ海軍が保有する弩級戦艦、超弩級戦艦は約20隻。

 

 

 

巡洋艦や駆逐艦、旧式砲艦、水雷艇主体の北米諸藩艦隊や南天防護艦隊の戦力で対抗できる相手ではなかった。

 

日本海軍が全力で当たらなければならない強敵である。

 

しかし、二度に渡るイギリス艦隊との戦いは日本海軍を疲弊させていた。

 

 

 

 ドイツ海軍の大洋艦隊はイギリス海軍の大艦隊が封じ込めているので、アメリカ海軍は20隻の戦艦を全てをパナマ周辺に集めて、日本海軍を牽制した。

 

 

 

 日本海軍が太平洋に回すことができたのは、超弩級戦艦6隻、弩級戦艦4隻、準弩級戦艦2隻、弩級巡洋戦艦2隻、超弩級巡洋戦艦4隻、合計18隻だった。

 

 

 

しかし、ロシア・バルチック艦隊を打ち破り、2度もイギリス艦隊を制した日本艦隊との決戦を躊躇したアメリカ海軍は日本海軍との直接的な決戦を避けた。一方の日本海軍も2度に渡るイギリスとの艦隊決戦に勝利したが辛勝であり、その傷は癒えておらず水棲妖怪たちも旧来の蛤軍船では今の軍艦に太刀打ちできないことは日本海海戦で証明されており、最大戦力のお化け鯨は先のイギリス艦隊との戦いの傷を癒すために戦列を離れており、半魚人や人魚、河童などでは戦艦並みの火力は期待できず。抱え魚雷や刺突機雷による奇襲で航路破壊を行うと言った海上におけるゲリラ攻撃を主体の戦術に切り替え始めていた。

 

つまり、日本海軍もアメリカ海軍との決戦を望まなかった。

 

 

 

日米の海での戦いは互いの通商破壊に終始していた。

 

通称破壊戦は小回りが利き隠密性の高い水棲妖怪による特別強襲隊が絶大な強さを誇り、水棲妖怪優位は一応の対策が出来た平成令和の現代でも変わらない程であった。

 

 

 

 

 

日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、何れの大海軍国も主力艦隊は睨み合って港に逼塞し、海軍ではこの戦争を終わらせることができないことが明らかになった。

 

 

 

戦争行く末は陸の戦いに委ねられることになったのである。

 

 

 

それも、イギリス、フランス、ドイツが直接対峙する、西部戦線が鍵を握っていた。

 

 

 

 

 

日本、連合帝国は本国妖怪軍より東国、北国の2鎮台を動員しレティ・ホワイトロック率いるロシア系妖怪のツングース藩軍を支えシベリア戦線で快進撃を続けていたが、ドイツはロシアと相対する東部戦線では今だにロシア軍が頑強に粘っていた。同盟国のオーストリア=ハンガリー二重帝国は期待以上の働きはしなかったうえに、後出しで参戦して来たくせにロシアにもイギリスにも返り討ちにあったオスマントルコ帝国は足を引っ張るだけの存在で肉壁にでもなってくれとしか言えないくらいの役立たずで、瀕死の病人と言うか死体で二人羽織しているような惨状だ。むしろ、義勇軍派遣や外交的に連合国と敵対してくれたバーラクザイ朝アフガニスタン首長国の方がいい仕事をしていた。

 

 

 

東部戦線が泥沼では西部戦線でも決定的な攻勢を発起できないでいた。西洋の中央同盟国ではベアードの西洋妖怪軍団が圧倒的猛威を振るっていたがそれ以外が完全に先細っていた。

 

 

 

 

 

シベリア戦線を突破したツングース藩軍や東国北国鎮台軍、秋山日蒙騎馬軍団、他本国援軍部隊(以後は連合帝国西進軍)はエカテリングブルクまで進撃することになった。ヨーロッパとアジアの境にある街である。

 

 

 

 連合帝国西進軍は3年かけてシベリア踏破を成し遂げたのである。

 

 

 

 軍団長にはレティ・ホワイトロック、副団長に秋山好古元帥を据えて、連合帝国西進軍はアジアとヨーロッパを分かつウラル山脈を越えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 騎兵主体の軍隊が、これほどまでの長距離侵攻を成し遂げたのは、チンギス・ハーン以来の快挙である。侵攻速度を考えれば、チンギス・ハーン以上であった。

 

 

 

「大樹様は、このレティ・ホワイトロックに命じられた!!…もはや我が腕により正義の鉄槌を下すため西進すると!!我々は戻ってきた!ある者はたどり着いた!!ここから始まるのだ!!白き世界の栄光が!!皆、我が戦線に続け!!我らが連合帝国西進軍は、既にして橋頭保を欧州方面に構築し、西方を平らげるべく進軍しつつあり!!」

 

 

 

 北方ユーラシアにおける伝説的な妖怪であるレティ・ホワイトロックについてきたモンゴル人達は感激し、今度こそモンゴルは地果て、海尽きる場所へたどり着くとしてレティ・ホワイトロックやその上にいる大樹野槌水御神への忠誠を新たにし、戦意を高揚させていた。雪や霜と言った氷系の妖精達に彩られてたレティ・ホワイトロックは幻想的でありその演説に酔い痴れた。

 

 

 

 

 

兵達はいつまでも終わらない行軍に疲れを見せていた。

 

 

 

日本兵以上に疲れていたのはロシア兵達だった。

 

 

 

 革命の混乱で、もはや何のために戦っているのか分からなくなったロシア軍の兵士達は、冬将軍の軍団に次々と投降して自分自身の戦争を終わらせた。

 

あまりにも捕虜の数が多すぎた。

 

 

 

 1917年末までに連合帝国西進軍が得たロシア軍捕虜は150万人を越えている。

 

ロシア各地の農村から徴兵されて連れてこられた捕虜達はシベリアの農地開発に充てられた。秋の収穫は、全て連合帝国軍の買い上げとなったが、膨大な売上金が捕虜達の手元に残った。重税や貴族の搾取に喘いでいた農村出身者は、まともな値段で農産物が売れたことに、驚き、呆れ、最後に秋山、レティ、大樹を崇拝した。

 

 

 

 シベリア鉄道の沿線に、自活のために多くの捕虜村が作られたが、そのまま居付いてしまった捕虜は多く、シベリアに親日家が多いのはこの為である。

 

 

 

捕虜の開拓村やシベリア鉄道で得た補給をもとに西進を継続する連合帝国西進軍。

 

 

 

モンゴル人達は家畜に草を食べさせる牧草地さえあれば、特に補給の問題はない。

 

妖怪たちも自給自足が可能なものが多かった。

 

 

 

1917年12月、日本軍はロシア皇帝ニコライ2世を捕虜にしてしまう。

 

 

 

ロシアはレーニン主導の10月革命で2月革命による臨時政府が倒れ、ボルシェビキ政権が成立していた。このとき臨時政府はエカテリンブルク郊外に皇帝一家を幽閉していたのだが、臨時政府崩壊でこの処遇について混乱が生じて移送と言う事になる。

 

 

 

日本軍の手に渡さないように皇帝一家の身柄を別の場所に移そうとしたところ、日本軍の騎兵に見つかって捕虜になったと言うのが事実である。

 

 

 

報告受けた大樹はレティ・ホワイトロックにこういった内容の文面で返信した。

 

 

 

「ラスプーチンをやってみてはいかがか?」

 

 

 

レティ・ホワイトロックはこの誘惑に乗った。

 

 

 

 

 

人生に絶望し、疲れ果て、抜け殻のようになった皇帝だった老人を入れこませるにはそう時間はかからなかった。

 

 

 

レティ・ホワイトロックの協力が得られる理解したニコライ二世は現金にも元気になってしまった。

 

 

 

「冬の将軍の軍勢がついておる!」

 

 

 

などと、興奮してまくし立てるので、周りの人間も徐々に本気になってしまったのだ。

 

 

 

レティ・ホワイトロックは秋山元帥を抱き込み、ロシア帝国を傀儡にと画策し始める。

 

 

 

幕閣や政府要人たちはこれを奇貨としてシベリア戦線の強引な幕引きを画策する。

 

北米戦線がいよいよ厳しさを増しており、幕府及び帝国政府はロシアとの戦争は早期終結を計ったのだ。

 

 

 

 さっさとニコライ二世が復位させて、皇太子のアレクセイ・ニコラエヴィチを次期皇帝に内定させてエカテリンブルク帝国再興を宣言させた。

 

 

 

再興宣言時の写真で皇帝ニコライ二世と皇太子アレクセイを挟みレティ・ホワイトロックと秋山好古元帥が並ぶ姿はロシア帝国が対外的に傀儡になったことを宣言するようなものであった。

 

 

 

そして皇帝の最初の仕事は日本と講和条約を結ぶことで、実質的な白紙講和を結んだあとは、日本の支援を得た新ロシア帝国軍がウラル山脈に沿って、ボルシェビキ政権と対峙することになる。開拓村などを中心に以外にも新ロシア帝国の支持者は少なくなかった。

 

 

 

 連合帝国西進軍は解散され、その兵力は3年かけて西進してきたシベリアを鉄道で逆戻りして、船に乗って北米大陸に向かった。

 

 

 

 なお、秋山元帥やレティ・ホワイトロックは軍事顧問や影の宰相としてロシアに残った。

 

 

 

レティ・ホワイトロック、以外に子供好きだったのかアレクセイ他の皇太子や皇女に何かと頼りにされ、そのままエカテリンブルクに居付いてしまった。彼女の周りには氷系統の妖精達も多く寄り添っていた。

 

 

 

また、遠征したモンゴル人もまたモンゴル高原に帰らず、そのままエカテリンブルクに住み着いている。

 

 

 

また、レティ・ホワイトロックは史上初の共産主義国家、ソビエト連邦を間近で見聞きし、その他に例のない残虐性に最初に気付いた有力妖怪となった。

 

 

 

 ボルシェビキ政権は権力を確立すると反革命の名のもとに、ロシア帝国の皇族や貴族、ブルジョワを超法規的に処刑し、戦時共産主義の名のもとに経済テロルが横行してヨーロッパ・ロシアでは数百万人が餓死した。また、徹底的な宗教否定の名のもとに魔法文化を巻き込んで妖怪も何もかもの神秘を全否定するソビエトをレティ・ホワイトロックは終始敵視していた。

 

 

 

もともとツングース藩を東方共和国として独立させる案はあったが、その案を拡大してロシア帝国を傀儡化させるとはだれも予想できなかっただろう。

 

 

 

とにかく、ロシアは2つの国家に分裂して第一次世界大戦を終える。

 

 

 

 ヨーロッパ・ロシアのソビエト社会主義共和国連邦とウラル山脈から東に広がるシベリアで再出発した新ロシア帝国(実質的な連合帝国傘下)である。

 

 

 




第一次世界大戦は後3話くらいで終わらせる予定。


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106 近世 第一次世界大戦 戦争の終わり

 

 

1918年3月、ドイツ帝国はボルシェビキ政権とブレスト=リトフスク条約を結んで、ようやく東部戦線を終わらせることに成功した。

なお、この時ドイツはボルシェビキ政権に過酷な条件を突きつけ、フィンランドを独立させ、エストニア、ラトヴィア、リトアニア、ポーランド、ウクライナ及び、トルコとの国境付近の地域に対するすべての権利を得た。

 

 対する日本は実質的な白紙講和だった。と言ってもロシア帝国は今や大日本合藩連合帝国の実質的傘下国だ。

世界の対立構造は解りやすいものとなった。

大樹・アジアVSアメリカ合衆国(拮抗)、ベアード・ドイツVSイギリス・フランス(どちらも衰弱)、ホワイトロック・ロシアVSソビエト・ロシア(どちらも衰弱)だ。

 

大日本合藩連合帝国とアメリカ合衆国はお互いに気炎を上げていたが、他は音を上げていた。

大日本合藩連合帝国は北米大陸にロシア方面から抽出した兵を送り出し、アメリカ合衆国も更なる動員を決めた段階であった。

 

ロシア内戦や欧州戦線は戦闘がストライキ状態だったが、北米戦線はほぼすべての先住民が決起し、北米諸藩藩主が「城を枕に討ち死にだ!!」などと発言し手が付けられなくなっていた。

 

1918年3月25日に始まった日本軍の春季攻勢は、同時期に始まったドイツ軍の春季攻勢皇帝攻勢(カイザーシュラハト)に絡めて、大樹(ユグドラシル)攻勢と後に称されることになる。

 

大樹攻勢は本国軍、妖怪軍、大樹御料兵、北米諸藩軍、先住民連合軍で構成された100個師団を越える大規模師団を投入した大掛かりなものであった。

 

北米戦線は本国から派遣された天狗たちや飛行妖怪たちを巻き込んで日米両軍の航空戦力が今次大戦最大の大空戦を展開した。

スパッドとニューポール、ヴィッカース、ソッピースと言ったライセンス機を大量に投入した。一方の日本側の戦闘機は開戦初期はフランス製のニューポールのライセンス機(戦前にライセンスを獲得)の改修機甲式四型戦闘機を使用していたが自国開発生産の九〇式単座封用戦闘機を生産ラインに乗せることに成功し本国軍は更新済みであった。自動的にライセンス機及びライセンス機改修機は諸藩や加盟国に払い下げられている。日米の航空戦は領ではアメリカ優位、質においては日本優位であった。

また、この戦争において日本独自の兵科である航空銃翼兵が採用された。

この兵科は天狗や妖精と言った者たちが主体であった。天狗や妖精以外にも飛行能力を持つ妖怪はそれなりの数がいたが、兵科や軍隊として組織化できたのが独自社会を形成する天狗や大樹を中心とした組織を持った妖精だけであり、雑多な妖怪の部隊運用のノウハウが未成熟であった為である。そう言った妖怪たちは後に航空補助兵などとして運用が始まるが今次大戦では雑多な妖怪の部隊運用の記録は無い。

また、今次大戦で経験を積んでいた航空銃翼兵は班もしくは分隊行動が厳守されていた。

天狗の様な強い妖怪であれば航空機にも優位に立てたが、敵も1対1で戦う真似はしなくなり、複数で挑んでくるようになり自然と天狗妖精その他飛行妖怪もチームで戦う事になった。その過程で集団行動で高評価だったのが天狗や妖精(基本能天気でおバカなところがあったが紅魔館でメイドができる程度には理解力がある。後の無能の評価は不当である。)であった。

 

ナショナル・ギャラリーに寄贈されているグレート・プレーンズ大空戦の様子が描かれた絵画は近代的な戦闘機と前時代の幻想である妖怪たちの戦いの様子が描かれており、幻想と現実の過渡期の歴史的な価値が評価されている。

 

 

陸における日米の主戦場はグレート・プレーンズであった。

対ロシア戦線から転換された本国軍が投入され、アメリカ軍およびカナダ軍は劣勢となりつつあった。

 

航空銃翼兵や先住民たちが敵の戦線を抜け戦線後方に侵入し、施設破壊工作及びゲリラ攻撃を開始したことでアメリカ・カナダの戦線が混乱状態に陥った。

 

1918年4月、この大樹攻勢によってグレート・プレーンズ戦線の制空権は大日本合藩連合帝国が掌握するに至る。しかし、アメリカ軍は空軍の逐次投入や鉄道輸送を駆使して大量の増援を送り抵抗し、大日本合藩連合帝国軍のグレート・プレーンズ突破を阻んだ。

 

1918年7月、カナダ側の戦線が遂に大日本合藩連合帝国によって突破される。

前線を堅固までに固めていたが、突破されてしまう。アメリカと違いカナダは人的資源は豊富という訳ではない。一度突破を許すと歯止めが利かなかった。9月にはカナダの首都オタワにも迫ることとなり、カナダ国境を越えてアメリカ領土にもなだれ込めるようになるのだ。

 

大樹攻勢で90個師団の壊滅した合衆国軍は既に州兵の動員も決めており、悲壮な覚悟の決戦が目前に迫っていた。対する日本軍の損失も大きなものであり、約40個師団が壊滅しているので、間違っても容易い戦いではない。

 

大樹攻勢より半年間、日米の戦争は日本に勝機が見えてきた。

だが、その半年間の間に、世界情勢は大きく回天することになる。

大日本合藩連合帝国軍と同時期に始まったカイザーシュラハトは、パリを目前に攻勢が停止。その後、イギリス、フランス軍の総反撃を受けて、ドイツ軍は敗走したのである。

 

 

攻勢失敗の原因には諸説がある。

イギリス、フランス軍の戦力がドイツ軍のそれを上回ったというのが解りやすい結論だろう。

 

 なにしろ、1918年時点で、西部戦線に展開するイギリス・フランスの航空戦力は合計5000機を越えており、さらに増えつつあった。この数相手でははさすがのベアード率いる西洋妖怪軍団でも分が悪い。実際、この航空戦力の3割が対西洋妖怪軍団に充てられたと言う。対するドイツ帝国は、約3,600機を保有していたが、性能面で劣り、さらに数的な優位もなかった。

日本軍陸軍航空隊とて、イギリス・フランスからすれば、まだ田舎の空軍であると言わざる得ない規模だった。日本の航空隊は航空銃翼兵に依るところもあり機械化は遅れ気味だった。

 

日本軍が戦線投入前の戦車ですら、英仏は6000両以上保有していた。

ドイツ軍も戦車を前線に配備していたが、その数は100両足らずだった。

日本軍がシベリアで戦っている間に、西部戦線の英仏軍はそこまで軍備を高度機械化していたのである。

 

 

 

 

 

 

カイザーシュラハトの当初こそ、航空戦力の集中でフランス軍を圧倒したものの、巻き返しが始まると均衡を保つのが精一杯となり、やがて戦力が枯渇し劣勢に転じた。

上空援護がなければ地上戦がままならないのはもはや西部戦線の常識であり、ドイツ軍の進撃停止は必然だったのである。ドイツ軍の航空戦力は枯渇して二度と回復せず、英仏軍航空部隊は消耗を乗り越えて続々と戦力が増強されていった。

 

1918年のドイツの工業生産は材料の枯渇で、戦力の損失を回復することは全くもって不可能になっていたのだ。食料の欠乏はさら深刻で、配給制度を敷いて維持管理に努めていたが、配給は常に不足していた。食料を巡る暴動や略奪も頻発していた。

連合国の反攻が始まったとき、ドイツ軍に戦う力はもう残されていなかった。

第二次マルヌ会戦、アミアンの戦い、第2次ソンムの戦いと敗北を重ね連合国軍はドイツ国境に迫り、ドイツ軍首脳部に、全滅か、休戦か、2つの出口を突きつけることになった。

相次ぐドイツの軍事的敗北に驚いた幕府政府は、ベルリン大使をヴィルヘルム二世の元に送り、ドイツが単独講和しないように求めた。大樹のルートでも同様に求めたものの、

ヴィルヘルム二世は徹底抗戦を約束したものの、数日後、日本に無断で連合国と休戦することに同意してしまう。

 

1918年11月にキール軍港の水兵の反乱にはじまるドイツ革命が勃発するとヴィルヘルム二世は財宝で溢れかえった特別列車でオランダへ逃げた。ベアード率いる西洋妖怪軍団も12月にメガロ・メセンブリアより送られた大規模義勇軍の投入を機に戦闘の継続を断念し欧州各地での潜伏に舵を切った。

 

ヨーロッパの戦争は終わったのだ。

勝利が見えた矢先に敗戦の兆しが見えた。

 

大日本合藩連合帝国は、全世界を敵に回すことになった。

 

 

 



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107 近世 第一次世界大戦 ロンドン講和会議・前編

 

全世界を敵に回す。

この未曾有の事態を前に、連合帝国幕府幕府は早急な対応を求められた。

 

この御前会議の席には大正天皇や征夷大将軍慶信はもちろん大樹野槌水御神、ぐわごぜと言った裏の重鎮達も列席した。

 

幕閣、閣僚の議論は、概ね2つに割れた。

一つは、戦争を継続して幕府の武威を示し、より有利な条件で講和する。

もう一つは、即時講和だった。

 

どちらにせよ、最終的に講和せざるえないという点は変わりなく、いつ講和するかが議論の焦点であった。もはや勝利を求められる状況ではないことは確定的である。

 

 

ドイツ海軍封鎖の任を解かれたイギリス海軍は海軍全力をインド洋に投入することができる。対して、太平洋でアメリカ海軍主力と向き合っている日本海軍に差し向けることができる兵力は皆無だった。加えて、北米諸藩艦隊や南天防護艦隊、その他の諸藩や加盟国の艦隊を欠き集めてもイギリス艦隊に太刀打ちできないのは明白だった。

 

環太平洋国家である日本合藩連合帝国のアキレス腱は海上交通路である。

もし、イギリス艦隊がインド洋を突破し、スマトラ、呂宋、台湾、本土へ海上封鎖しかけたら枯死するしかない。

 

 首都である東京(江戸)は人口過密都市で、食料の備蓄もないため海上封鎖を受けると3日で市中から食料が失われ、1週間以内に暴動が発生。2週間以内で無政府状態になり、政府転覆、革命勃発は確実と危険視されていた。

 

ドイツが降伏した時点で、幕府の戦時国債の起債が不可能となり、買い手がつかず国債が紙切れとなった。要するに、戦争の先行きに投資家や銀行家が見切りをつけたのだ。

こうなってしまっては、軍人や士族、極右勢力がどれだけ徹底抗戦を叫んだところで、戦争継続は不可能だった。

企業は無料では武器を作ってくれない。より正確には、企業の従業員は無料では働いてくれないのだ。

 

戦国時代やそれ以前なら話が違っただろうが、この時代は金がなければ何もできないのは、個人だろうと、世界帝国だろうと何も変わらなかった。

 

だが、日本が連合国に求めたのは降伏ではなく、講和であると繰り返し強調された。

このまま戦争を継続することは簡単だが、それは日本にとっても、世界にとっても不幸なことであり、日本は苦渋の決断と忍耐によって世界の平和を回復を目指すとしたものであった。

 

一方で大樹はベアード率いる西洋妖怪軍団へは再戦の好機を見定めるための講和であると説明し、幻想郷の八雲紫には次の戦争での勝利した際は連合国の領土刈り取り自由などの空手形を発して自陣に引き込もうと工作を始めていた。また、傀儡ロシア帝国ではレティ・ホワイトロックの地位を盤石とするため北国鎮台軍を継続して留め置いた。

大樹は5鎮台の奉行である大妖たちを集め、軍拡を指示した。

 

神秘の低下の影響を受けていた神霊菅原道真や平将門は力を蓄えるための養生期間として暫しの間眠りについた。そのため、天満宮や将門塚付きの妖精達が大樹御料兵として組み込まれた。また、西洋における幻想神秘の否定は進み妖精たちは有力妖精だったエタニティラルバやクラウンピースなどを中心に大日本合藩連合帝国勢力圏への民族大移動を断行した。

また、幻想郷に対する交渉は八雲紫だけにとどまらず、天魔天狗や鬼たち、その他有力な妖怪たちにも行われた。

 

とは言え、これら大樹の行動は次の戦争を見据えた動きである。

このまま戦い続ければ、最終的な、壊滅的な敗北は不可避であることは明らかであり、即時講和で話を進めることとした。

表向きは講和、実態としては条件付きの降伏という難しい外交交渉が、イギリスの首都、ロンドンで開催される。

 

 

戦後の太平洋新秩序を定めたロンドン講和会議である。

 

 

 

1919年3月、イギリスの首都ロンドンで第一次世界大戦の対日講和条件を討議する国際会議が始まった。

 

ロンドン講和会議である。

 

第一次世界大戦における日本合藩連合帝国の最大の交戦国は、言うまでもなくイギリスであり、次点はアメリカ合衆国である。ついでロシア、フランス、その他である。

 

一方でフランスのパリでは対ドイツ講和条件を検討するパリ講和会議が開催されていた。 この会議を主導したのはフランスであり、フランスはドイツ帝国最大の交戦国であり、同時に国土を戦場にされた最大の戦争被災国でもあった。

 

会議を主導するのは、ある意味当然と言える。

 

戦争被災国というなら、ロシアも酷いものだったが革命政権のソビエト連邦は内戦の最中で、それどころか、ヨーロッパ各国は軍隊を送って革命に干渉しているところである。日本もロシア帝国側に援軍を派遣している現状である。さらに共産主義国という異質の政体を持つゆえにパリ講和会議から排除されていた。

 

ロシア帝国は、エカテリンブルクを新帝都として存続したが、新生ロシア帝国は日本の傀儡と看做され、やはりパリ・ロンドン両講和会議から排除されている。

 

対日講和会議も、パリで行うべきだとフランスは主張したが、イギリスはこれを丁重に謝絶して、ロンドンで別立ての会議を行うつもりだった。

 

理由は言うまでもなく、イギリスがこの講和会議を独占したいからである。

 

そもそもフランスの対日戦における存在感のなさは異常だった。

 

仏印インドシナ半島や他仏領で戦いでは、フランス軍は全く日本軍相手に粘れず、まともに戦ったのは正味1週間程度だった。その前の仏日戦争で既に戦っていると言う言い訳はできるが・・・、それは置いておく。

 

多くのイギリス政府、軍関係者は、フランスには対日講和会議の参加資格さえないと考える者が圧倒的多数であった。とはいえ、フランスも連合国の一角であるから、ロンドン講和会議に代表団を送り込んでいる。

 

 しかし、ロンドンでの会議はイギリスとアメリカ合衆国主導で進むことになった。

 

 なお、イタリアも戦勝国として、代表団を送ってるが、フランス以上に対日戦には無関係だったので、事実上何の発言権もなかった。その他の国はいるだけである。

 

 

講和会議において、日本は代表として一門衆から織田信邦(信孝家)、国務奉行織田三樹介(大樹織田家)、さらに軍部を代表して海軍奉行に就任していた東郷平八郎と軍令部総長伏見宮博恭を会議に送った。

 

暴発の危険があった軍部の押さえ役として、伏見宮と東郷は適役だった。

 

 

日本は降伏したわけではないので、賠償金の支払い義務はないというのが日本の主張であった。

日本の0回答を受けて、アメリカ代表団はいきり立って戦争再開も辞さないと恫喝した。

 

この講和会議において、日本は実質的な敗戦国とは思えない強気姿勢で臨んでいた。

 

 

武人の東郷はもとより、文官で国務奉行の三樹介でさえ、一切悪びれることなく堂々と英米の代表団に相対し、幕府の武威を示していた。

 

日本側の強気は、戦費の都合さえつけばあと2年、最大3年は戦争が継続できるという計算によるものだった。また、大樹の意を受けていた三樹介はこの交渉が反故になった場合、大樹が主導的に戦争指導に乗り出すであろうことを理解していた為、交渉を日本に有利に傾けたい思いが強かった。

 

人的資源が枯渇し、工業生産も半減して、全く継戦能力を残していないドイツと今だに軍事的抵抗力を大きく残している日本は全く交渉の前提条件が違っていた。故に日本側は殆ど譲歩する様子が無かった。

 

 

 



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108 近世 第一次世界大戦 ロンドン講和会議・後編

ロンドン講和会議が暗礁に乗り出している頃・・・

 

スンアド(オリンピック)山脈、大樹御料兵と先住民のクイルラユー族に守られて大樹野槌水御神は足を踏み入れた。彼女の周りには先住民諸族のシャーマンたち、そして大樹の補佐をするリリーホワイトやリリーブラックと言った高位妖精たちが追従していた。そしてその様子を見ようと北米諸藩の藩主たちも見守っていた。

 

 

シャーマンたちの指示を受け先住民たちが木々を並べて護摩焚きの支度を始めていた。

 

妖精巫女の一人が藩主たちに説明する。

 

「この度の儀式は諸尊・善神を召し集めるための鉤召法を用います。」

 

また、諸部族から捧げられた供物の彩りとして彼岸花が大量に添えられた。

彼岸花は別名雷花とも呼ばれる植物だ。

大樹はアイヌの雷に纏わる宝刀クトネシリカを依り代にして神楽舞を奉納する。

 

大樹を中心に、ネイティブ系や本国系、アイヌ系と様々な妖精巫女たちが集まり踊り、シャーマンたちが円を描くように座り、楽器を奏で始める。

 

大樹が謡うのに続いて、妖精巫女と先住民のシャーマンたちが謡う。

 

 

『永遠の生命 ワキンヤンよ』

「「「「「「永遠の生命 ワキンヤンよ」」」」」」

 

大樹を中心に暖かい空気が流れる。

 

『我が祈りに応えて 今こそ 蘇れ』

「「「「「「悲しき下僕の祈りに応えて 今こそ 蘇れ」」」」」」

 

大樹の言葉に他の者たちが続いて、謡い続ける。

神事を執り行っている者たちは一種のトランス状態に入っているのが解った。

 

『ワキンヤンよ 力強き生命を得て 彼らを守れ 平和を守れ』

「「「「「「ワキンヤンよ 力強き生命を得て 我らを守れ 平和を守れ」」」」」」

 

オーブ状の光が漂い始め、力の弱い精霊たちが引き寄せられてくる。

空気は暖かいを越して熱いほどだ。

北米諸藩藩主の一人羽柴秀紀は不思議と高揚しているのを感じた。それは他の者たちも同様だろう。

 

『平和こそは 永遠に続く 繁栄の道である』

「「「「「「平和こそは 永遠に続く 繁栄の道である」」」」」」

 

 

大樹の祈りに応えてそれは姿を現した。

 

「キェエエエエエエエエエエン!!!」

 

ワキンヤン、巨大な嘴をもち、目は火のように燃え滾っている。羽の色は雷のようであり、当たりに雷鳴が轟いている。

 

「ワキンヤン!!」

「「「ワキンヤン!!」」」

「「「「「ワキンヤン!!!」」」」」

 

先住民たちが興奮して歓喜の叫びをあげる。

 

大樹はつぶやく。

「雷を司りし大精霊ワキンヤン・・・。私に力を御貸しなさい。」

 

飛び立っていくワキンヤンを見送る大樹はの瞳には強い意志が宿っていた。

 

 

 

舞台はロンドンに戻って、講和会議の場に戻る。

 

「我が国はこれ以上の譲歩は出来ない。」

全権の織田信邦が憮然とした表情で言い放つ。

 

「話にならない。戦争再開だな。」

 

アメリカ代表のロバート・ランシング国務長官は信邦ら日本交渉団を睨みつけた。

イギリス代表のアーサー・バルフォア外相は綱渡り状態で双方の利害を調整しギリギリまで譲歩した。ここまで頑なな日本交渉団に対して不穏な気配を感じていたのだ。

 

バルフォアの耳に部下から耳打ちが入る。

バルフォアは思わず、日本交渉団を二度見してしまう。この国は何枚切札を持っているんだ。

 

ランシングにもバルフォアの耳に入った情報が届いた様だ。

 

「これは先制攻撃か何かかね?」

 

ランシングの言葉を受けた信邦は鼻で笑って応える。

 

「我が国は別に貴国に砲弾どころか銃弾一つは放っていないはずだが?」

 

「ふざけるな!あんなものを見せつけて!!あんなものを見せびらかすのは貴国ぐらいだろう!!」

「ははははは!!合衆国は高々でかい鳥にここまで落ち着きを失くすのか!?だが、これだけは言える。我が国は戦闘を継続する余力が十分にある。」

 

ニューヨークを旋回する巨大な大鷲の姿。

落ちた雷がニューヨーク・ワールド・ビルディングに直撃し、半壊させた。

 

 

大日本合藩連合帝国の背後にいる大樹野槌水御神の力を見せつける形で、講和条約を結んだ。

しかし、米英仏も力尽くには抵抗を見せる。脅しではあったが英仏も戦闘継続の素振りを見せたことで日本交渉団も始めて妥協した。

 

ロンドン講和条約は締結され以下のようになった。

 

イギリスは領土賠償として、スマトラ島西半分、ボルネオ北部を得た。また、南天大陸諸藩はオーストラリアと名を変えてイギリスの保護国になった。

 

アメリカ合衆国は領土賠償として、ハワイ諸島と太平洋中部の島嶼も得た。

 

フランス、南太平洋の島嶼及び大南島を得た。

結果、パプアニューギニア(大南島)と名を変えた。

 

また、日本をなだめる為かドイツアジア植民地が譲渡された。

中国疎開領土関係に関して、大日本合藩連合帝国は米英仏との領土は戦前へ戻すものとし、大日本合藩連合帝国の諸藩や連合加盟国は全て独立となった。

大日本合藩連合帝国の実質的解体、有力な海外藩は全て独立した。

呂宋藩は独立して呂宋共和国となった。北米大陸諸藩も各個に独立したが、独立藩同士の連合体である北米阿列藩同盟に改変された。

他に琉球王国・台湾王国・ブルネイ王国・アチェ王国・マギンダナオ王国、スールー王国、阮朝が連合帝国庇護を外れて独立。日本の協力国であるラオス・ルアンパバーン王朝及びチャンパーサック王朝、カンボジア王国、タイ・トンブリー王朝、ビルマ・コンバウン王朝も独立の維持は認められた。大戦中に決起したハワイは鎮圧されているが日本の宗主もしくは準宗主としての維持は見せた形だ。

しかし、合藩連合帝国でなくなった日本は皇国を名乗るようになる。

 

 

大日本皇国と呼ばれる国となった。

 

 



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109 近代混乱期 大樹軍閥の形成

主人公、若干のダークサイドへw


後に第一次世界大戦と呼ばれた凄惨な殺戮劇は幕を閉じた。世界はようやく平和を取り戻したのである。

しかし、終戦を迎えたことにより米英仏と日本の対立は人ならざる者たちを許容するものとその存在を認めぬものたちの対立へと形を変えつつあった。

 

皇国は先の講和条約によって一定の権利を認めさせ、大幅な譲歩を連合国に強いさせることに成功した。しかし、人間至上主義で染められた連合国にそれは受け入れられるものではなかった。連合国は静かに戦力の回復を待ち。反撃の機会を伺っているのは疑いようのない事実であった。国力の要所を削られた皇国にとって連合の戦力回復は破滅を意味するものであった。

 

しかし、戦いを望む各国上層部と言えど平和を望む世論には抗えず。

第一次世界大戦後にアメリカ合衆国大統領ウォレン・ハーディングの提唱でワシントンD.C.で軍備制限と太平洋極東問題を協議するワシントン会議を開催した。

 

米・英・仏・伊(海軍軍縮条約のみ)・日による、太平洋における各国領土の権益を保障し、太平洋諸島の非要塞化などを取り決めた米英日仏の四カ国条約が締結され、ワシントン海軍軍縮条約が締結された。海軍軍縮については後にジュネーブやロンドンでも開催された。

 

また、中華民国の領土保全、門戸開放、新たな勢力範囲設定を禁止する九カ国条約が締結され、大日本皇国は山東還付条約で山東省、山東鉄道を中華民国に還付することで解決し、山東半島や漢口の駐屯兵も撤兵し、年々大日本皇国を弱体化させようとしていた。

 

 

 

 

第一次世界大戦後が終わった時、日本国内は混乱の極みにあった。

ロンドン講和会議を終えて、天命を使い果たしたのか第一三代征夷大将軍織田慶信は老衰で亡くなった。

終戦直後の征夷大将軍不在は国内の混乱をさらに深刻化させるのだった。

この事態に征夷大将軍臨時代理として国務奉行の織田三樹介が対応している。

 

その後、征夷大将軍選挙が開催され、新たな将軍として原敬が選出された。

 

平民大君、原敬の元で、日本は新たな船出となったが、その先行きは険しいものだった。

戦後の日本は不況続きで失業率は高い水準が維持している。

これに対して大樹大社やその他寺社が抱え込んでいた蓄え米を放出し餓死者だけは出ずにいた。

 

そこに追い打ちをかけたのが、1923年9月1日に発生した関東大震災である。

大樹大社を中心に復興支援を行っているが、もはや対症療法なのは明白である。

 

1925年11月8日に、征夷大将軍原敬は東京駅で暗殺される。

 

更に1929年の世界恐慌の影響で国内に大きな打撃を受けていたタイミングで、日本では井上蔵相の下、1930年に金本位制への復帰を宣言してしまう。世界恐慌という事象を甘くみすぎていた事が仇となり、金本位復帰後すぐに国内から正貨が大量に流出した。また、輸出で賄っていた企業は、主要輸出先であるアメリカ等が不況であった為に大打撃を受け、物が売れず、戦前でも最悪のデフレ状態となってしまう。農村では生糸の輸出が主な稼ぎだった家庭も多く、そういった家庭では娘の身売りなどが起き、政府に対する不満は高まっていった。 そんな中、1932年に金本位制をうったえていた井上前蔵相等が右翼団であった血盟団によって襲撃、殺害される血盟団事件が発生。 同年には当時の征夷大将軍であった犬養毅の自宅や警視庁、変電所、日本銀行等を海軍青年将校が計画的に襲撃、同時に犬養将軍(当時)らを殺害する五・一五事件が発生。しかしこれらの事件の実行犯は嘆願書等の事由により、軽い刑罰で済んだ。この事が後に軍部の発言力を増す要因になる。

 

 

しかし、これは次の大戦を意識した大樹にとっては好都合と言えた。皇国軍の掌握を急ぐ大樹は陸軍内の二つの派閥の調整に動く。現在陸軍は統制派が主流になりつつあるが、自身や天皇への忠誠が篤い皇道派と言う派閥は実に都合の良い存在であった。

 

故に大樹は皇道派将校を自分の手元に置こうとしていたのだ。

 

1934年(昭和10年)12月12日、士官学校事件の磯部浅一、村中孝次ら皇道派青年将校を大樹による特赦によって釈放した。さらに、1935年7月の皇道派の教育総監真崎甚三郎大将の更迭に対して、立案者の陸軍大臣林銑十郎大将に対して、岡田啓介将軍(当時)を介して強い懸念を示した。また、荒木貞夫大将と真崎甚三郎大将を大樹大社御料兵団に招致して御料兵の近代化と皇軍教育を導入した。彼らは陸軍内において別枠組織である神祇軍事参議官に就任し一定の地位を維持した。

 

また、1935年3月25日には関東大樹大社にて永田鉄山、東条英機、荒木貞夫、真崎甚三郎ら双方の重鎮を集めて以下のような妥協をすることになった。

 

陸軍そのものは統制派の永田鉄山や東条英機に任せ、皇道派は大樹預かりとして一部の識者層を御料兵団顧問官や西国鎮台顧問官として取り込み、それ以外の者たちも陸軍内では主流からは外れたものの皇道中枢へ接近することが叶い彼らの自尊心を満足させて暴発を防ぐものとする。

 

以後も度々陸海軍の重鎮達を集めて不定期に大樹御前会議が開催されている。

 

 

妖怪軍においてはロンドン講和会議の後で関東大樹大社にて大樹五鎮台奉行を招集し、各鎮台の戦力強化を命じた。

 

各鎮台の奉行が行った戦力強化策はそれぞれ独自のものであった。

 

北国鎮台の雪女郎はロシア帝国のレティ・ホワイトロックと共同し氷の魔力及び妖力結晶を蓄えた。

 

東国鎮台のたんたん坊は自身の預かる妖怪城の大改造を断行する。妖怪城そのものを天守とし、火・水・風・土の塔を建築し、さらにその強化策として人柱を設けることで城主が無敵になる機能を追加した。その過程で妖怪城は僅かだが自我にも目覚めたのであった。

 

関東鎮台のぐわごぜは政治家・官僚よりの妖怪であった。関東鎮台はこれと言った動きは無かったが、ぐわごぜ自体は天満宮や将門塚、浅間大社や出雲大社付きの妖精巫女たちを大樹御料兵への再編手続きや南洋妖怪との連絡などを行っている。

 

そして、中央鎮台の白蔵主は妖狐衆を束ねる大人物である。妖狐は安倍晴明の母、葛の葉狐や八雲紫の式である八雲藍と言い陰陽術や符術に長けた者が多く、彼らはそう言った方向で戦力強化を図った。そのため、他の術師集団から警戒されることにもなった。

 

西国鎮台、妖狸衆を纏め上げる隠神刑部狸の鎮台である。各鎮台の中でも近代国家との戦闘経験が豊富な鎮台である。隠神刑部狸は大樹に対する忠誠篤く、その忠誠心は他の奉行を凌駕するほどである。刑部狸は大樹の軍拡命令を最も的確に受けとったのである。刑部狸は以前より配下の軍隊化を進めており、すでに明治陸軍軍装で軍隊狸として機能していたが、軍拡命令を機に銃火器による武装化を断行し、兵器開発に乗り出した。

 

戦国時代より銃火器の製造を続けていた河童衆に兵器開発を打診、水虎河童や河城翁と言った河童たちは妖力や魔力を絡めた改造型の三十八式歩兵銃など武器を開発した。5鎮台の中で近代化に成功した西国鎮台は大樹の計らいで陸軍皇道派との連携を進めることになった。西国鎮台、陸軍皇道派、大樹御料兵団は尊王尊神思想において共感するところが多く大樹の手足となってよく働いた。また、関東鎮台や航空銃翼兵も御料兵団と近しい立場にあり近代化に舵を切っていた。なお、鎮台軍、陸軍皇道派、大樹御料兵団、航空銃翼兵と言った大樹恩顧の派閥を纏めて天津神々の一柱(天照や月夜見などの最高神の信任が厚い大樹は名誉天津神でると言うこじ付け)である大樹野槌水御神に導かれた天導派とする書物も存在する。

 

なお、鎮台軍や御料兵団の武装の生産は幻想郷の妖怪の山の河童達が担っていた。河童たちの多くは幻想郷に移住している(派閥としては幻想郷大樹派と言える)。

 

1936年2月26日、ある事件が勃発する。幻想郷史における重大事件とされる大樹野槌水御神による幻想郷進駐である。

 

 



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110 近代混乱期 幻想郷2・26事変・前編

かつて、人間の勢力が増して幻想郷の社会のバランスが崩れることを憂いた妖怪の賢者・八雲紫は「幻と実体の境界」を張り、妖怪の勢力を他から取り込むことでバランスを保った。

やがて明治時代になると、近代文明の発展とともに非科学的な事象は「迷信」として世の中から排除され始めたのだが、大樹勢力が神秘性の維持もしくは排除行動の減速に成功した為、ずるずると幻想郷と現世の開通状態を維持してしまった。

 

第一次世界大戦終結後の大樹は再戦に向けて、影響下の妖精妖怪に軍拡を指示し幻想郷にもその御触れが出ていた。しかしながら、先の大戦での妖怪側の犠牲を鑑みた八雲紫は大樹の再戦への意向に反発し、幻想郷と現世を強力な結界(博麗大結界)で完全に切り離し、次の大戦からの足抜けを計った。

 

この事は幻想郷の一部重鎮しか知りえなかったが、その一人である天魔天狗の配下の大天狗衆の側近天狗から漏れ、大樹の耳に届いたことで発覚。

 

妖怪軍近代武装工廠を幻想郷に置いていた大樹は八雲紫の実質的な裏切り行為に激怒。

関東大樹大社に幻想郷のもう一人の賢者である秘神摩多羅隠岐奈を呼び出し、摩多羅隠岐奈の関東大樹大社到着と同時に本土に駐留していた西国・中央、東国の3鎮台に動員をかけた。

 

「大樹様、摩多羅隠岐奈様がご到着しました。」

「鎮台軍に博麗大結界を越えるように命じなさい。それと、風見幽香・伊吹萃香・星熊勇儀と言った有力者は丁重に扱いなさい。」

 

妖精巫女に次なる命令を託して、隠岐奈を通すように命じる。

 

「随分と、物々しいな?大樹よ・・・。」

「そうですね。少しばかり切迫していましたのでね。」

 

大樹は調度品の影に隠していた草薙剣を引き抜いて切先を隠岐奈に向ける。

それと同時に御料兵の妖精たちが乱入して銃口を向ける。

 

「鎮台の工廠は幻想郷の妖怪の山に置いていることを理解しての行動なのでしょう。こうなることぐらいわかると思うのですが?」

 

隠岐奈は何も答えなかった。

 

「何も答えませんか。いいでしょう・・・外のものたちの上位指揮官は?」

「野中四郎大尉です。」

 

「では、その野中に隠岐奈を引き渡しなさい。あまり意味はないでしょうが足止めにはなるでしょうから、適当に封はしておきなさい。」

「わかりました。」

 

隠岐奈を一瞥した大樹は妖精巫女に外の兵の指揮官を呼ぶように命じた。

 

関東大樹大社の敷地内外には陸軍士官が指揮下の兵達が警戒に当たっている。

たなびく旗には『尊神討奸』と書かれていた。

 

「野中大尉であります!!」

「ご苦労様です。彼女を手近な牢に繋いでおいてください。」

 

「了解しました!!引っ立て!!」

 

「大樹・・・そううまくいくかな?」

 

陸軍兵士達に連行され用としている隠岐奈は吐き捨てる。

 

「すべてが予定通りとはいかないのは理解しています。ですが、物事には時機と言うものがあるのです。貴女方はその時機を誤った。」

 

 

 

 

 

1936年2月26日、妖怪の山において航空銃翼兵である青年天狗たちが決起。

決起当初は大天狗ら主流派によって鎮圧されると考えられていたが、妖怪の山が保有する大結界の穴を決起天狗たちが占拠したことで状況は一変する。

 

決起天狗たちが占拠した穴より鎮台軍が侵入を果たす。

侵入した鎮台軍は玄武の沢に妖怪城を据え鎮台総軍指令所とした。

玄武の沢や大蝦蟇の池と言った妖怪の山各地は一気に制圧され、最重要目標の工廠地域や河童の支配領域も制圧下に入った。

 

「たんたん坊様。こちらです・・・」

「おぅ!」

 

決起天狗に案内されたたんたん坊は天魔天狗に接見する。

 

「こうして会うのは弘安の役以来か。」

「・・・そうだな。」

 

「天魔よ。妖怪が現世に留まるには大樹様の下、一つにまとまる必要がある。八雲に付いて逃げに回るなど。天狗の誇りはどうしたと言うのだ。」

「たんたん坊・・・その敵する人間たちは日に日に力を増している。負けるつもりはないが、それで犠牲を出して、その犠牲を持って得たそれは・・・そこまでの価値があるのか?別に八雲の仮初の楽園とて十分ではないか?無意味に犠牲を払う必要があるか?」

 

「何を腑抜けたことを言う!」

「連中の武器を見たであろう!?否、人間たちの武器を見たであろう!先の月での戦いで玉兎共が使っていたそれにそっくりではないか!!妖怪がいずれ追い抜かれる時代が来るぞ!!仮に今勝てたとしてその次は!?それ又次は!?勝てる保証は無いのだぞ。天狗たちやそれに連なる者たちを預かる身として軽はずみなことは出来ん。」

 

「天魔・・・腰抜けめ。君側の奸め!!カマイタチ!!天魔を連れて行け!!」

「わかりました!たんたん坊様!」

 

配下のカマイタチが天魔を連れて行くのを見送りながらたんたん坊は、二口女に指示を出した。

 

「大樹様を我ら臣下がお支えせねばならぬ時に、あの様な勝手な振る舞いは許されん。八雲の口車に乗った者たちは捕らえて牢に入れよ!沙汰は大樹様のご到着を待て!」

「っは。」

 

 

 

 

 

東国鎮台が妖怪の山を制圧し防御を固めたのを機に、西国・中央鎮台軍が周辺へ進出。

中央鎮台は霧の泉を制圧し、魔法の森にも手を伸ばした。

西国鎮台は魔法の森近くの廃洋館を接収し、人里を包囲した。

 

そして、博麗神社にも天導派の陸軍将校の部隊が突入した。

 

相沢三郎中佐が率いる天導派士官で構成された一個連隊は博麗神社を制圧し、当代博麗の巫女を拘束した。

 

「あななたち・・・こんなことをして。」

「大樹様の討勅だ!!反抗は許されん!!」

「待て、安藤君!!大樹様の命令は拘束だ。」

「っは!申し訳ありませんでした!!」

 

安藤輝三大尉が拳銃を突き付けるのを相沢は制止する。

 

「八雲を交渉の席に着かせるのに必要と大樹様は仰られている。もうすぐ荒木大将が大樹様をお連れする。皇国軍人として恥ずかしい行いは厳に慎め!」

「っは!」

 

 

また、人里を包囲している西国鎮台に橋本欣五郎大佐が率いる部隊が合流した。

 

「刑部殿!!人里は早期に掌握すべきです。兵を進めましょう!!」

「うむ、人里事態に脅威はないであろう。隊列を組み人里の正面から行進して人里の上役衆に脅しを掛ける!」

 

 

人里を包囲していた西国鎮台軍は天導派橋本隊と合流。

武力を見せつける形で人里を無血占領した。

 

 

 

その頃

 

 

「例の話、大樹様のお耳に入りましたかな。それは結構な話です。日本妖怪としては当然のことをしたまでです。」

 

電話の受話器を下ろすぬらりひょんの横で邪骨婆が嗤う。

 

「計画通りか?ぬらりひょん?しゃしゃしゃ。」

 

 

 




仮想戦記が続きます。日常系に期待してた人はごめんなさい。

ただ、会話シーンは増やして行くつもりです。
第二次世界大戦は短くするつもりです。


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111 近代混乱期 幻想郷2・26事変・後編

 

 

 

 

ザッザッザッザッザッザッ!

ザッザッザッザッザッザッ!

 

静粛に包まれた人間の里。

だが、それを破る軍靴の音が人里の門をくぐりの中を突き進んでいた。

 

外の軍隊の里進入の知らせによって稗田阿八は、着替えを済まし後、部屋の中で静かに座っていた。

 

「稗田阿八さんですね。陸軍の辻政信大尉であります。西国鎮台奉行隠神刑部狸様の要請で貴女をお連れするように命じられてきました。」

「そうですか。解りました・・・あまり手荒な真似は・・・。」

「ご安心ください。上官より、くれぐれも丁重にと命令されています。」

 

人里を制圧した天導派は、長老衆や稗田阿八を手中に収める。

住民たちは公会堂に集められた。

 

『本日2月26日、我々は幻想郷の自治権を一時剥奪し臨時的処置として軍政下に置くものとする!これは大樹野槌水御神様の意志によるものであり御神勅である!これに対する異議申し立ては一切認めない。』

 

そこで、陸軍士官によって文書が読み上げる声が聞こえてくる。

人里は完全に沈黙した。

 

 

大樹恩顧の者たち天導派による幻想郷進駐。

人里や騒霊洋館、妖怪の山、霧の湖、魔法の森は瞬く間に掌握された。

 

幻想郷進駐より2日、大樹野槌水御神の到着と同時に人里の天導派駐屯地にて八雲紫はその式八雲藍と共に武装を解除し大樹傘下に収まる旨を伝えた。

 

幻想郷からは妖怪の山で決起した天狗の若い衆や河童の一部などが大樹妖怪軍に組み込まれる形となり幻想郷の八雲紫の意に沿わない過激派を追い出す形になった。

 

大樹はかつて本能寺の変にて紫に助けられた借りがある。

故に後ろめたさは大きかった。

 

「大樹様・・・程の御方があの程度の世迷いごとに騙されるとはと思いましたが・・・わざと乗りましたか。」

「ぬらりひょんのやり口は解っています。尻尾を掴もうと思ったのですが・・・」

「失敗したのですね。」

 

大樹に対して紫は冷たい視線を向けた。

 

「お恥ずかしい限りです。」

 

その為、大樹は紫に対して謝罪し幻想郷の統治は一時的なものであると伝え、八雲紫にいずれ返還すると伝えた。

 

幻想郷が荒廃したりするようなこともなく、大規模戦闘が発生したりするような目立った被害は無かった事と大樹と八雲紫は私的には友人関係にあったこともあり、比較的穏便な解決が図られたのであった。

 

 

 

 

「思ったより大事にならなかったようじゃが?ぬらりひょん?」

 

邪骨婆に尋ねられたぬらりひょんは悔しがったりするような素振りは一切なく、落ち着いた様子で邪骨婆の問いに答える。

 

「あの二人なら、多少揺さぶっても大した混乱は起こせない事は想定の範囲内です。あの二人に挑むなら長期戦を覚悟せねばなりません。邪骨。」

 

「ほぅ・・・何か考えがあるようじゃな。」

「もちろんです。皇国と幻想郷の上はしっかり繋がっていますが・・・下はそうでもないと言う事ですよ。」

 

内へ内へと籠っていく幻想郷と外へ外へと向かおうとしている皇国。目指すところが違う2つの勢力は今は安定しているが、いずれその蜜月は崩れ去るだろう。その過程に矛を交えるか否かは別としてこの二つの決別は確定路線であった。

軍部急進派や右翼団体を中心にその勢力を拡大する天導派は、その性質上海外との関係もあまり良好とは言えず。アメリカ合衆国やイギリス・フランスと戦火を交えることは明白であった。幻想郷が次なる大戦に付き合いたくないと言うのは本音であり、八雲紫が皇国と幻想郷の接続点を減らしているのは偽りない事実であった。

 

大樹が幻想郷から兵を引こうとした際も鎮台奉行や軍部高官から反対意見が出たが、最初からの約定通りであり八雲に非は無いと反対意見を封殺した。

 

 

 

 

また、大樹は知古の一人でもある風見幽香に参戦を促したが断られてしまう。

しかし、その代わりとして風見幽香より戦争に協力してくれそうな二人の悪魔を紹介される。

 

「以下の内容で、条約を締結させて頂きます。」

「えぇ、構わないわ。悪魔は約束は守るのよ。ねぇ夢月?」

「はい、姉さん。」

 

幻月夢月姉妹である。彼女たちは風見幽香の別宅がある夢幻世界の創造主であるとされ、魔界の神である神綺には及ばないとしても、それに次ぐ実力者であることは間違いなかった。

 

彼女たちとの交渉にあたったのは関東鎮台のぐわごぜであった。ぐわごぜは幻夢姉妹が自分より遥かに格上であることを理解し、基本的に彼女たちの好きにやらせることを認める約定を結び戦争に協力させることとした。この行為は悪魔とも結んだとして魔法世界のメセンブリーナ連合を警戒させた。

 

 

 



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外伝 岡崎教授講義

 

 

 

「はい、では今日の講義を始めます」

 

教壇に本講義の講師である髪から服まで紅いどこぞの彗星のオマージュかと言いたくなる様な岡崎夢美教授が立ち、その横でティーチングアシスタントの北白川ちゆりがプロジェクターの準備を始める。

 

講義が始まり先週のおさらいを始めてから今日の内容へ進む。

 

「え~、先週は大樹征西や神武東征などの『大樹記』の代表的なエピソードを幾つか現代語訳してもらいました。この『大樹記』は我が日本国において非常に貴重な歴史的、文化的資料であり、君達も名前だけは知っているだろう『古事記』や『日本書紀』に比するものなんです。」

 

オカルト知識を織り交ぜつつ講義をする彼女の授業は面白いと評判で人気が高い。

夢美の専門は比較物理学なのだが、本職の講義より戯れで始めたこの講義の方が人気なのは夢美としては嬉しくない。

 

「え~、大樹記は土着神を中心にした説話集です。土着神としては日本で最も有名な土着神様ですね。大樹野槌水御神・帝汰阿爾亜(ティターニア)、大樹野槌水御神や大樹様と言う呼び名がメジャーです。」

 

プロジェクターに絵が映る。ちゆりが早く本題に映る様に手振りで促す。夢美は手を軽く振って返す。

 

「彼女の出生は古く古事記や日本書紀にも登場します。土着神というは、簡単に言えばその土地に昔からいる神様だと思ってください。有名所だと、長野の諏訪大社なんかは御左口ミシャグジ様と呼ばれる土着信仰がありますが……っと話がズレましたね。っと、そういえば、神様についてですが、実在したのではないかと言われています。あら、別に宗教の勧誘だとかじゃありません、そんな風に引かなくてもいいじゃない。」

 

彼女が軽く咳払いをしてから、話を続ける。

 

「古事記、日本書紀などにも神様が沢山でてきますが、これら日本神話の神様はその土地を支配していた豪族であると考えられています。つまり、日本神話は大和政権を築くに至った征伐の記録でもあるのです。ですが、大樹野槌水御神に関する資料は信長公記にも記されています。それどころか幕府の公式記録にもその名前が確認できるそうです。一説には第二次世界大戦の政府資料にも記載があり、今もどこかに生きているなんて都市伝説もありますね。少しずれてしまいましたが彼女は日本書紀や古事記に書かれた豊玉姫の神産みに立ち合い鸕鶿草葺不合尊の養母となりました。また、豊玉姫の妹の玉依姫は鸕鶿草葺不合尊と契り初代天皇の神武天皇を産みました。彼女は神武天皇の養母にもなりました。以降歴代天皇の養母となり、歴史上唯一の日本の摂政となりました。以降は朝廷、鎌倉幕府、安土桃山幕府と歴代の天下人の横にいました。大樹野槌水御神は世襲制なのではと言われていますね。」

 

「少し話を戻しますね。大樹野槌水御神は天津神々と誼を結んでいます。その中には秋比売がいまして彼女らは豊穣の神で、大樹野槌水御神は豊饒の神です。豊の神々によって日本は近世まで飢饉知らずでした。そう言えば、近世では軍部や政府が挙国一致したさいにその旗印に大樹野槌水御神を奉じていました。近世までの大樹野槌水御神の力が時の政権にまで至っていたのです。平成令和時代にも大樹野槌水御神を旗印にしたクーデター計画があったなんて…おっと、あぁ、今日はもう時間がないか……。今日はここまでにしておきますが、次回からよく大河ドラマでも題材にされる信長公紀の内容に触れていきたいと思います。」

 

 

「興味がある人は研究室まで来てください。好きなだけ語ってあげます。それでは、本日の講義はここまで。」

 

 

 



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112 近代 次なる大戦へ 軍拡・徴兵

大樹野槌水御神宣下にて大樹大社妖怪陸軍の編成と討夷大臣就任を仰せつかった隠神刑部狸は大臣として国内における妖怪密集地である幻想郷で徴兵演説を行った。

 

「大樹恩顧の同胞諸君!!妖怪同胞諸君!!大樹野槌水御神様が慈愛による庇護の下、我ら日ノ本の国は夷敵に侵されたことは一度としてなく、敗北したこともない!!先の大戦においてもそれは変わらない!!だが、勝てもしなかった・・・。いいか!!お前たち!!今が正念場なのだ!!日ノ本の妖怪が一致団結して戦わねばならん時が来ているのだ!!古き妖怪たちよ。元寇の戦いを思い出せ!!今こそ、大樹野槌水御神様の名の下に日ノ本妖怪の全精力を結集し夷敵を討ち果たすのだ。大樹野槌水御神様の王配総見院信長公の仰った天下布武を成し遂げる!!それこそが真に目指す世界なのだ!!妖怪同胞諸君!!大義の為に大樹様の軍勢に加わるのだぁあ!!」

 

菊花紋章と大樹紋の描かれた大樹大社大馬印を横に隠神刑部狸は演説を行い、周りには天下布武の将旗や皇国陸軍御国旗、大樹紋の旗指物が立てられていた。

大樹大社大馬印は妖怪社会における錦の御旗であり、戦国期や安土大阪期、日清日露戦争、先の大戦に参加した国内大樹恩顧の妖怪のそのほとんどが集結した。

 

「「「「「大樹野槌水御神様!!万歳!!万歳!!万々歳!!!」」」」」

 

隠神刑部狸に続いてたんたん坊も声を上げる。

 

「怨敵米英仏を夷滅せよ!!大義は我らに!!」

 

「「「「「夷滅せよ!!夷滅せよ!!夷滅せよ!!大義は我らに!!」」」」」

 

 

 

 

 

幻想郷での騒動の翌年1937年2月の大樹大社朝議にて皇国の兵役法の解釈を妖怪にも広げると言う案が西国鎮台長官白蔵主より提案され、これが可決された。原則として皇国妖怪・妖精の全てに兵役の義務を課すものであった。表立った反対意見は無かったが兵役逃れをする妖怪も少なくなく自治の認められた幻想郷やその他隠れ里への逃亡が見受けられた。

 

また、同年4月には関東鎮台が解体され、徴兵された妖怪と混成され妖怪陸軍として再編成された(極少数はぐわごぜの護衛兵となる)。岩魚坊主や泥田坊、畑怨霊などの雑多な妖怪たちも多く組み込まれた。河童や山童、天狗と言ったメジャーな者たちは航空銃翼兵(天狗)や山童の山岳猟兵、河童による砲兵、銃火器を装備した妖狸の近代化歩兵と符術の兵装化による妖狐の妖術兵と大樹妖怪軍古参集団の近代化が進んでいた。妖怪陸軍の兵も銃装備が進められ歩兵化しつつあった。

 

 

 

 

 

 

妖怪の山の麓に立ち並ぶ工廠群。

河城家を筆頭とした河童の氏族たちと協力して皇国の学者や技術者たちが妖怪軍の兵器群を開発生産して行く。

 

西国鎮台と御料兵は濃紺色の軍服を採用している。

大礼服を身に着けた討夷大臣隠神刑部狸を筆頭に御料兵団団長梅林、同副団長水楢、西国鎮台の将校である二ツ岩マミゾウや団三郎狸、金長狸、六右衛門狸、屋島禿狸と言った妖怪達が続く。

コンベア式の最新機械を導入した工廠では多くの武器兵器が作り出されていた。

 

試験場に案内された彼らは河童の兵士が三十八式歩兵銃の改良型妖力銃の試射を行う。

銃弾が標的を貫く。

 

「大変結構。自動小銃はあるのか?」

 

刑部が頷いてから次を促した。それに応じたのはこの当時は珍しい女性の研究者である朝倉理香子と機械技師の里香だ。

 

「もちろんなのです。自動小銃に騎兵銃、狙撃銃と派生型は多く用意しているなのです。」

「うむ、我が西国鎮台や彼女たち御料兵団に充足させることはできるな。」

「えぇ、半年中には…。」

 

 

刑部狸から銃を渡された梅林は銃底部に使われている木が桃木であることに気が付く。

 

「桃木ですか?」

「大樹様の軍ですから神聖な桃木を使うべきかと。」

「良い心掛けです。」

 

その横にいた二ツ岩マミゾウが奥の方で作られているものに気が付き、それに機械技師の里香が答える。

 

「あれは…?」

「それは本工廠の切札、華型中戦車とそれを小型化した華型豆戦車なのです。」

 

第二次世界大戦期において『フラワー戦車』と呼ばれ、ブラッドフラワーなどと忌み嫌われた妖力戦車であった。

 

 

 

 



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113 近代 次なる大戦へ 諸勢力の衰退

軍事外交においては1931年に関東軍の独断による柳条湖事件を契機に満州事変が勃発し、1933年には国際連盟及び国際労働機関を脱退し、翌年にはワシントン海軍軍縮条約を脱退。司法省は、ナチス・ドイツ関連の論文を発行し始めた。 満州事変後、中国と日本とは一旦は停戦協定を結ぶものの、1937年に盧溝橋事件が発生し日中戦争が勃発した。米英は日本の行動に反発し、軍国主義の台頭する日本は次第にナチス・ドイツへの接近を強めていった。

 

ナチス・ドイツへの接近に関しては大樹はかなり迷っていたようであり、これは西洋妖怪軍団の動向を気にしていた事が挙げられた。

 

 

第一次世界大戦後、ドイツやオーストリアでは、多くの人々が職業を失い生計を立てるために移民としてアメリカに移住した。

西洋妖怪軍団も移民の流れに乗り組織を二分する規模で欧州からアメリカに移住する者たちが増えたアメリカは連合国ではあったが、建国から歴史が浅く渾沌としており裏の勢力がひしめていた。そう言った情勢を組みし易しとベアードは判断していたようである。

 

西洋妖怪軍団は第一次世界大戦後急速にその支配領域を失って行った。ベアードは新天地としてアメリカ合衆国への拠点の移転を画策するも世界恐慌によってこの計画は中途半端な結果に終わる。アメリカ合衆国と欧州に点々と分布する勢力として現代まで存在しているが一つの拠点でしっかりと指示を出すようなことは出来ず。ベアード率いる幹部陣も各拠点を転々としていた。

平成令和の世には勢力として確固たる存在になるが、この時期の西洋妖怪軍団は正に衰退期であった。

 

大樹はベアードに協力要請を出したが、一応協力要請を受諾すると回答したがこれと言って具体的に何かをすると言う事はほぼなかった。軍団所属の個人が個人の意思でゲリラ的戦闘をするに留まった。

 

第一次世界大戦の実質的敗北は西洋の妖怪勢力を急激に減衰させた。

この時点でベアードが失脚しなかったのは、大戦前にベアードの築いた勢力はベアードの力に膝を付き手綱を掴みきっていた事。大樹との伝手を持つベアードのみが北米諸藩を通じてアメリカの西洋妖怪軍団勢力の維持支援をすることができるからであった。

 

「ベアード様、ドイツの再支配は一応の目途が立ちました。」

「帝国時代の二番煎じだな。」

 

ドラキュラ公の言葉に冷めた声で答えるベアードであるがドラキュラ公の方も大して期待はしていないようであった。

 

「えぇ、二番煎じです。ですが、容易く操れるのですから操っておいた方がいい。親族のスカーレット候に任せています。」

「それでよい。アドルフ・ヒトラーと言ったか。あの男程度では演者として役不足だ。ドイツ皇帝の方が従順な分、役に立った。」

「あれは自己顕示欲が強すぎますな。スカーレット候にも適当にやってよいと言ってきましょうか。」

「それでかまわん。」

 

 

ベアードはこの時、自身の勢力の維持に全力を注いでおり他に手を回す余裕が無かったのであった。

 

「合衆国の勢力はいかがですか?」

「良いとは言えぬが・・・、地盤は確保できている。北米諸藩と合衆国の小競り合いやその他不穏分子の存在で付け入る隙は大きい。時間はかかるが十分だ。」

「では軍団主力は合衆国へ渡らせた方が良いですかな。」

「うむ。」

 

ドラキュラ公はベアードに確認するように尋ねる。

 

「では、大樹様への援助はいかがしますか?」

「妖精難民をそのまま送るしかないだろう。17世紀から続く姻戚同盟の相手と言えど我が軍団が滅んでしまっては元も子もない。」

 

この選択が運命の分かれ目とも言われており、かの勢力が今次大戦への介入に消極的であり新勢力圏の構築に腐心したことは後の世に大きく影響を与えたが、それはまた別の機会に語るとしよう。

 

諸外国の同盟妖怪勢力としては冬将軍レティ・ホワイトロックがいた。彼女も大樹寄りの考えを持ってはいたが対ソ戦を意識した戦線形勢を主軸にしており大樹の太平洋戦域における戦いに関与する余裕は無かった。そもそも、ロシア帝国の国力はソ連に比べて大きく劣っておりロシア帝国軍はレティ・ホワイトロックの妖怪軍と皇国本土より派遣されている北国鎮台軍に依るところが大きかった。

 

他に残る妖怪勢力は中国妖怪と南洋妖怪であるが、中国妖怪は現在の中国における軍閥の大分裂同様に妖怪戦国時代であり、基本的には反日的であり親日(傀儡)勢力の霍青娥の勢力は台湾島に限っている。さらに西洋諸国の植民地を拠点とした妖怪狩りの魔法戦士たちを加えて大混乱中だ。

もうひとつの妖怪勢力である南洋妖怪は弘安の役から続く親密な友好関係にあるが彼らの土着の神でもあるお化け鯨が先の戦いの傷が響いて生死の境にいることもあり、南洋妖怪たちは地元を離れることを警戒しており、皇国の攻勢計画には消極的だ。彼らは郷土防衛にのみ注力し始めていた。

 

大樹は敵対勢力に対して再戦を行うために残存戦力の結集と再編を急いでいた。しかし、彼女の直轄である鎮台軍や御料兵以外の戦力の動きは鈍かった。

 

 

 



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114 近代 第二次世界大戦 開戦

1932年に傀儡国家満州国を成立させる。日本の大陸の利権拡大を良しとしない列強国との対立から、ついに1933年には国際連盟及び国際労働機関を脱退。1934年には帝国弁護士会がワシントン海軍軍縮条約の破棄を求める声明を発表し、これも脱退を通告。1936年にはロンドン海軍軍縮条約からの脱退を通告。海軍軍縮についての条約は実質的に失効し、世界は制限なき軍艦建造競争の時代に突入していった。

 

日本、ドイツ、イタリアの三国間では連携を求める動きが顕在化し、1936年には日独防共協定、1937年には日独伊防共協定が結ばれた。

 

近衛文麿内閣は1940年に東京で国際博覧会と同時に開催される予定だった東京オリンピックの開催権を1938年7月15日の閣議決定により返上するなど、軍部の要求から国民総動員で臨戦体制を固めてゆく。

 

1939年9月のドイツのポーランド侵攻後、1940年中頃には同盟国のドイツ軍がフランス全土を占領したことに伴い、日本軍はフランス領インドシナへ進駐したものの、この進駐にアメリカやイギリス、さらに本国をフランスと同じくドイツに占領されたオランダなどが反発し、これらの国々と日本の関係は日に日に険悪さを増していった。1941年4月、日本は後顧の憂いを断つために日露中立条約を締結する。

 

 

1941年11月27日に、裏では日本軍による南方作戦準備が着々と進む中で、アメリカのコーデル・ハル国務長官から野村吉三郎駐米大使と、対米交渉担当の来栖三郎遣米特命全権大使、に通称「ハル・ノート」が手渡された。

 

内容的には日本側の要望はすべて無視したものであったことから、事実上の「最後通牒」と認識した大樹は大本営会議の席にて

 

「開戦やむなし。」

 

と発言し大樹傘下の各鎮台や妖怪軍各隊に臨戦態勢に入るように命令した。

12月1日の御前会議で日本政府は対英米蘭開戦を決定する。

 

「大樹様、南方のアカマタより今次大戦に大樹様の傘下として加わる旨が記された誓約書が届きました。」

「して、彼らは今どうしている。」

「英領ならびに蘭領の攻略に動いている頃かと・・・」

 

日本本土から比較的距離の近い対イギリスやオランダ植民地に対しても隠密裏に進軍を開始し、南方妖怪の軍勢がイギリス領マレー半島とオランダ領東インドを目指して動き出した。

 

東南アジアの南方妖怪を主力とした大部隊が脅威的な速度でマレー半島を進撃して行った。

 

 

『臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部12月8日午前6時発表。帝国陸海軍は本八日未明西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり。帝国陸海軍は本八日未明西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり。』

 

 

幻想郷のマヨイガでは八雲紫と藍の二人が炬燵に入ってお茶を飲みながら過ごしていた。

 

「紫様、始まりましたね。」

「そうね。」

 

 

真珠湾攻撃を伝えるNBCラジオ放送 。

『これは演習ではありません。本当の戦争です』

 

アメリカの拠点の一つに滞在していたベアードは日本皇国の開戦を知る。

 

「合衆国陸軍が北米諸藩領を越境を確認しました。」

 

ヨナルデの言葉にベアードは鷹揚に応じる。

 

「ついに動き出したな。我が軍団も動くぞ。まずは北米諸藩の妖怪たちと合流し統一戦線を形成、地下組織を形成させる。状況によっては欧州に戻ることも考慮しておけ・・・。」

 

 

 

 

 

 

「大本営が設置された市ヶ谷に大樹様が入ったそうですよ。ぬらりひょん様。」

「そうですか。大樹様が今次大戦の指導に入ったのですね。」

 

朱の盆の知らせを聞いたぬらりひょんは「よろしい」と言った感じで応じた。

 

「ぬらりひょん、連中に伝えるのか?あれに利することをするのも良いとは思えんが・・・。」

「そうですな。ですが邪骨婆、あちらにも知らせてあげなさい。大樹様が指導されるのはあちらも望むところでしょう。あれらの計画通りに行くほど日本妖怪は軟弱ではないですよ。そこまで心配する必要はありません。約束通り伝えてやりなさい。」

「そうかえ?ぬらりひょん、主がそう言うのならそうしよう。」

 

ぬらりひょんの言葉を聞いた邪骨婆は些か不服そうだがぬらりひょんの言葉に従った。

 

「あぁ、もう外に来ているようじゃ。」

「おや、そんなところにいらっしゃいましたか。デュナミスさん、ここで聞き耳を立てていらしたなら知っているでしょうが、大樹様が大本営入りしたそうですよ。色々手回しはしたのです。よろしく頼みますよ。」

 

顔を仮面で隠している長身のローブ姿の魔術師はぬらりひょんに声を掛けられたデュナミスと呼ばれ、ローブの下の表情は読めず。感情を読ませないようになのか無感情に返答する。

 

「これでマスターの計画の障害を排除できる。失礼する。」

 

 



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115 近代 第二次世界大戦 南方作戦始動

大本営入りした大樹らは東条英機ら陸海軍の参謀総長、軍令部総長、参謀次長、軍令部次長、作戦部長・課長に出迎えられた。

 

「大樹野槌水御神様、御成りです。」

 

衛兵の声で、列席者たちが起立し大樹を出迎える。

大樹が着席する。

 

「皆さん、社交辞令は結構です。作戦の概要を作戦参謀。」

 

大樹の言葉に作戦部長が立ち上がり説明し始める。作戦課長はその補佐に回る。

 

「では、これより大東亜戦争における作戦説明を行う。まず、この戦争で重要な南方資源地帯の確保を行います。ボルネオ島・スマトラ島は石油資源が豊富にあり、旧領の採掘場は今も稼働しています。また、マレーシアを含む地域は世界有数のゴム資源地帯です。ここを抑えることで我が国の兵器生産速度を上げることが出来、敵には大打撃与えられます。」

 

作戦部長が概要説明を行うと次は作戦の詳細を説明し始める。

 

「南方資源地帯の制圧です。まず、山下陸軍中将率いるマレー半島を南下。すでにマレー半島ではこちらに協力を約束している南方妖怪が決起し英軍の対応を妨害し容易に占領できると考えております。シンガポールを抑えてマレー半島を掌握後はフィリピン・ボルネオ島、スマトラ島に上陸を敢行、上陸に呼応し各島々の妖怪たちが決起する運びです。また、本作戦の援護には小沢提督率いる第二主力艦隊を投入。砲撃や空母艦載機による支援を行う予定です。上陸に成功したのちすみやかに島全体を制圧し第一段階を終了します。すぐさま第二段階に移行します。第二段階はインドおよび東南アジアの制圧。第二段階終了後はオーストリア、ニュージーランド、ハワイなど制圧。その後、アメリカ上陸作戦を行い北米諸藩と共同しアメリカを降伏させます。作戦は以上です。」

 

 

大樹が立ち上がり締めの言葉を述べる。

 

「各員奮励一層努力せよ。」

 

 

 

『臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部12月8日午前6時発表。帝国陸海軍は本八日未明西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり。帝国陸海軍は本八日未明西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり。』

 

 

1941年12月、皇国はアメリカ、イギリスなどの連合国に宣戦を布告。

宣戦布告と同時に攻勢を開始。

 

「フィリピン攻略部隊は上陸に成功。港湾部を確保し、戦線を拡大中。」

「ボルネオ島ではブルネイ王国が我が国の側に立って連合国に宣戦を布告。ボルネオ攻略部隊の支援に回りました。」

「スマトラ島上陸成功、現地妖怪軍と東西で連合国軍を挟み撃ちにすることに成功しました。」

「マレー方面も山下中将率いる陸軍部隊が順調に南下しておりシンガポールに迫りつつあります。」

 

大本営では第一段階が順調に進む内容の報告が上がって来ていた。

 

「太平洋方面航空銃翼戦隊より入電。『アメリカ艦隊 見ユ。 艦隊 イオウジマホウメン へ ムカッテイル モヨウ』」

 

「第一主力艦隊はすぐに行けるのか!?」

「公海上では接敵は難しく硫黄島近海で迎え撃つとのこと。」

 

「間に合いそうですか?」

 

大本営要員の会話に口を挟む大樹。

 

「申し訳ありません。鋭意努力するとしか・・・。」

 

大樹は側仕えの妖精に命じる。

『お化け鯨を軸とした水棲妖怪たちにアメリカ艦隊攻撃を命じます。』

 

 

 

先の大戦の傷が癒えていないお化け鯨を動かしたのは大樹にとって苦渋の決断であった。

 

大樹の米艦隊討伐の勅命が太平洋の人魚、魚人と言った水棲妖怪の長達に下った。

カロリン諸島に現れたお化け鯨に骨魚や骨鳥が自然と集まり、それを目印に太平洋の各所から水棲妖怪たちが集まりながら、北上し硫黄島方面へ向かうアメリカ艦隊をマリアナ諸島沖で捕捉。

 

「敵接近!!」

「詳細を報告しろ。」

 

アメリカ海軍の艦上では艦隊司令が敵接近の報告を受ける。

 

「インペリアルモンスターズ!!皇国の妖怪軍団です!!」

「来たぞ!!化けも共だ!!艦載機を飛ばせ!!バードマン共にクソを撒かれないように追い払え!!砲戦用意!!海上のでか物を沈めるぞ!!」

 

 

第二次世界大戦最初の海戦は人間対妖怪で始まった。

 

 

 

 

 

アメリカの艦上戦闘機と張り合う航空銃翼兵の天狗たち。

艦隊の下に潜り込もうとする人魚達を爆雷投下で追い払おうとする駆逐艦。

うっかり集団で顔を出すと敵艦の砲撃で木っ端みじんにされてしまう。

魚人達は敵艦に取り付き艦上で米兵と白兵戦を行う。不利を悟った駆逐艦が魚人達を巻き込んで自爆する。

巡洋艦の対空機関砲が天狗に命中し羽が千切れ錐揉み回転で海に落ちていく。

 

 

『キュオオオオオオ!!』

 

空母に体当たりをしたお化け鯨に戦艦三隻から砲撃が放たれる。

 

ズゴーンと言う大きな音を立ててお化け鯨の骨がへし折れる。

 

『クォオオオオオン!!』

 

お化け鯨は悲鳴とも雄たけびとも聞き取れる鳴き声を上げて、戦艦の一隻を道連れに海に沈んでいった。

 

アメリカ艦隊は妖怪たちの攻撃に晒されつつも北上を断行するが、硫黄島沖で待ち構える山本五十六率いる第一主力艦隊に捕捉され海戦を開始。敵は妖怪たちの攻撃を受けながらも戦艦4隻、空母2隻を維持した大艦隊だったが硫黄島から多数の航空機と航空銃翼兵が援軍として駆け付け、水棲妖怪から受けたダメージに加え山本五十六の巧みな指揮により海戦は我が方有利に進み。空母1、重巡3、補助艦39隻を撃沈する大戦果であった。

 

大してこちらは旧式駆逐艦3隻のみであり艦隊の被害は軽微であった。しかし、妖怪側の被害はお化け鯨の討ち死を始め多数の死者が出た。妖怪>人間の図式に変化が現れ始めたのであった。

 

 

その後シンガポールの陥落と共に英領マラヤが降伏。マレー沖海戦では英国東洋艦隊をサイゴン及びツドゥムの航空基地から陸上攻撃機と航空銃翼兵の混成大編隊が襲来しこれと戦闘に入り東洋艦隊を撃破した。英国艦隊は日本の航空戦力に対して期待を集めた対空火器ポンポン砲を装備していたが有効に機能することは無かった。

ボルネオ島やスマトラ島も順調に進撃しており各地で掃討戦が始まっていた。さらに米傀儡のフィリピンが降伏。戦力に余裕が出たことでスラウェシ島やパプアニューギニア島にも上陸を敢行、現地妖怪に決起させることも同時に行われた。

東南アジアの連合国拠点を次々と陥落させていった。そして、蘭領東インドが陥落。残存部隊を掃討しつつインド攻略の準備を始めたのであった。

 

 

 

 



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116 近代 第二次世界大戦 真珠湾攻撃

『トラ・トラ・トラ ワレ奇襲ニ成功セリ』

 

真珠湾攻撃は基地施設及び港湾設備の破壊を目標に実施された。

南雲中将率いる第一航空艦隊を中心とした真珠湾攻撃艦隊は艦上爆撃機や艦上攻撃機による航空隊が港湾設備爆撃を実施、後続の航空銃翼兵の編隊が対人攻撃や設備の破壊工作を行い、特殊潜航艇甲標的や河童による特別攻撃隊が停泊艦船を攻撃した。

これに戦艦の艦砲射撃も加わった。

 

この一連の攻撃によりハワイの太平洋艦隊の基地港湾施設は貯油タンク含めて大損害を被った。

 

 

 

 

「副大統領、下院議長、上院議員及び下院議員諸君。

昨日、1941年12月7日――この日は汚名と共に記憶されることであろうが――、アメリカ合衆国は、大日本皇国の海軍及び空軍による意図的な奇襲攻撃を受けた。

合衆国は、同国との間に平和的関係を維持しており、日本の要請により、太平洋の平和維持に向け、同国の政府及び天皇との対話を続けてきた。実際、日本の航空隊が米国のオアフ島に対する爆撃を開始した1時間後に、駐米日本大使とその同僚は、最近米国が送った書簡に対する公式回答を我が国の国務長官に提出した。この回答には、これ以上外交交渉を続けても無駄と思わせる記述こそあったものの、戦争や武力攻撃の警告や暗示は全くなかった。

次のことは記録されるべきであろう。ハワイから日本までの距離を鑑みれば、昨日の攻撃が数日前、あるいは事によると数週間前から、周到に計画されていたことは明らかである。この間、日本政府は、持続的平和を希望するとの偽りの声明と表現で、合衆国を故意に欺こうとしてきた。

ハワイ諸島に対する昨日の攻撃は、米国の海軍力と軍事力に深刻な被害をもたらした。残念ながら、極めて多くの国民の命が失われたことをお伝えせねばならない。さらに、サンフランシスコとホノルルの間の公海上で、米国艦隊が魚雷攻撃を受けたとの報告も受けた。

昨日、日本政府はマラヤへの攻撃をも開始した。

昨夜、日本軍は香港を攻撃した。

昨夜、日本軍はグァムを攻撃した。

昨夜、日本軍はフィリピン諸島を攻撃した。

昨夜、日本軍はウェイク島を攻撃した。

そして今朝、日本軍はミッドウェイ島を攻撃した。さらに先ほど、太平洋上で我が国の艦隊と日本艦隊が交戦状態に入った。つまり、日本は太平洋全域にわたる奇襲攻撃を敢行したのである。昨日と今日の事件が全てを物語っている。米国民は既に見解を固めており、この事件が自国のまさに存続と安全とを脅かすという事実を充分理解している。

陸軍及び海軍の最高指揮官として、私は自国の防衛のため、あらゆる措置を講ずるよう指示した。だが我々全国民は、自国に対するこの猛攻撃が如何なる性格のものであったかを、決して忘れない。この計画的侵略を打倒するのにどれほど時間が掛かろうとも、米国民は正義の力をもって必ずや完全勝利を達成する。

全力で自国を防衛するだけでなく、このような形の背信行為が今後2度と我々を脅かさないようにせねばならない。私のこの主張は、議会と国民の意志を反映していると信じる。戦闘行為は存在する。もはや、国民や国土や国益が重大な危機にあるという事実を無視することはできない。軍への信頼と我々国民の限りない決意をもって、我々は必ずや勝利を収めてみせる。

神のご加護を祈る。議会に対しては、以下のとおり宣言するよう要請する。1941年12月7日の日曜日に日本の一方的かつ卑劣な攻撃が開始されたため、アメリカ合衆国と大日本皇国の間に戦争状態が開始したと。』

 

 

ルーズベルト大統領は予防的措置として北米諸藩に宣戦を布告。これに合わせてカナダも同様に北米諸藩に宣戦を布告した。

 

 

 

 

アメリカの対日宣戦布告に合わせて、魔法世界メセンブリーナ連合では大規模な義勇軍の派遣を決定。太平洋戦線、欧州戦線それぞれに派遣されその総数は1万を超えるとされ、いくつかの魔法兵器すら投入されたと言う。

 

「マスター、メセンブリーナ連合議員たちを介して旧世界に派遣できる最大戦力を送らせました。」

 

デュナミスがマスターと呼んだ男は、旧世界(地球世界)の情勢報告を聞いて、いくつかの書類を軽く目を通してから口を開く。

 

「大樹野槌水御神、我が計画において現状、最も大きな障害となる存在。実質的に旧世界の妖怪の頂点に立ち、将来的には旧世界の人間たちをも纏め上げられる唯一の存在。そうなる前に彼女を引きずり降ろさねばならない。」

 

 

 



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117 近代 第二次世界大戦 皇国の斜陽

南洋諸島を手中に収めた皇国軍は日泰(タイ)攻守同盟を締結。東南アジアの各地域を解放して行った。その過程で香港などの連合国の疎開植民地を次々と占領した。

皇国軍はタイ王国、ビルマ王国軍他東南アジア諸国軍を統合し大東亜共栄圏同盟軍を編成。

日本皇国軍、インド国民軍、大東亜共栄圏同盟軍、妖怪軍の戦力を持ってビルマの国境を越境し英印軍と交戦状態に入った。

 

1942年4月、日本軍はインド攻略の足掛かりにセイロン島占領を目論み、南雲中将・小沢中将の率いる艦隊を派遣した。これに対して英国とオランダ海軍が迎え撃つも空母1戦艦1重巡3その他補助艦艇多数沈没と言う惨憺たる結果に終わった。日本軍はセイロン島に上陸これを占領した。

 

 

 

3月時点で日本軍はラバウル、サラモアを占領していたが、5月上旬に発生した珊瑚海海戦の痛み分けの結果、皇国海軍は無視できない損害を受ける。

その影響で一時はポートモレスビー及びツラギ攻略を目標としたモ号作戦の延期が大本営会議にて話し合われた。

 

しかし、これに対して大樹は猛烈に反対した。

 

 

「ラバウル攻略後はラエやサラモアなどニューギニア島東部へ進出すべし、南洋の妖怪たちはお化け鯨亡き後の士気の低下が目立つ。ここで皇軍の姿を彼らに見せて、彼らと共にあることを示さねば。南洋妖怪たちが今次大戦から離脱してしまいます。南洋諸島の確保は彼らの協力失くしては成しえません。艦隊兵力が無いのならば太平洋中の水棲妖怪を搔き集めて戦力を編成するのです。」

 

「で、ですが彼らも硫黄島沖ならびにマリアナ沖海戦で損害を被っております。」

 

「では、本土の河童たちやそれ以外の水棲妖怪を動員したうえで航空戦力に航空銃翼兵と

御料兵を動員してモ号作戦を強行するのです!」

 

5月中旬には西国鎮台と妖怪陸軍四国旅団、中部師団隷下の1個連隊、九州師団隷下2個連隊を乗せた輸送船団が皇国海軍の護衛艦隊と水棲妖怪連合軍と航空銃翼兵及び大樹御料兵に守られて、ニューギニア島を中心とした南洋諸島へと向かった。

 

珊瑚海海戦でこの周囲には日米双方の主力艦隊が撤退しており臨時時編成の上陸艦隊は一時的にできた空白を縫ってニューギニア島ポートモレスビーに上陸を果たした。

 

 

ポートモレスビーに上陸した本土妖怪軍はポートモレスビーを根拠地化し、そこを拠点に周辺地域ならびに周辺の島々を制圧していくのである。

 

ポートモレスビー制圧を果たした翌日。

1隻の駆逐艦が入港する。

タラップの周辺に隠神刑部狸ら西国鎮台の重鎮や妖怪陸軍の旅団長や連隊長、南方妖怪の長であるアカマタらが整列して出迎える。

 

駆逐艦から降りてきたのは大樹野槌水御神その人、否、その神であった。

 

「アカマタ、案内していただけますか。」

「はい、こちらです。刑部、あなたは南方妖怪たちと南洋諸島奪還に注力しなさい。」

「っは」

 

大樹は御料兵の妖精とアカマタと数匹のキジムナーらを伴い、小舟に乗って目的の島に向かう。30分程舟に揺られて着いた島はアカマタたちの本拠地であり、実質的な南方妖怪の首都である。首都と言っても島は都市がある訳でもなく熱帯密林で占められ、僅かに原始的な生活をする先住民が居るのみであった。

 

「大樹様、ここがバルル島です。」

 

バルル島の山奥の天然プールに案内された大樹たち。

プールには巨大な骨があった。

 

「お化け鯨・・・いえ、ゼオクロノドン、大海獣なのですね。」

「はい。」

 

プールの「命の水」は強力な妖力を備えている。しかし、ゼオクロノドンを復活させるにはまだ足りない。

 

「アカマタ、これを。」

「これは。」

 

大樹は風呂敷を解き、包まれていた木片を渡す。

 

「私の世界樹、蟠桃を枝分けした苗です。私の祈りも込めています。これを泉の一角に植えて育ててください。命の水の濃度が増すはずです。」

「あ、ありがとうございます。この御恩・・・いつか必ず。」

 

「「「大樹様!ありがとうございます!」」」

 

チン〇、ヤシ落とし、アドバラナらが歓喜の礼を言う。そして、南方妖怪たちの代表としてアカマタが大樹に話しかける。

 

「大樹様、この度はご足労頂き感謝いたします。セオグロノドン様もお喜びのはずです。」

「彼の件は私の落ち度。この程度のことしか出来ませんが・・・。」

 

大樹はアカマタに頭を下げるが、慌ててアカマタたちが止めさせる。

 

「あ、頭をお上げください!?我々は大樹様に感謝こそすれ頭を置下げになるようなことはありません!!この度の大樹様がなさってくださったことは南洋の妖怪たちとの結束をなお一層固めるものになりましょう。」

 

南方妖怪南洋閥の妖怪たちは自分たちの神であるセオグロノドンの復活の目途が立ったことにより南洋の妖怪たちは郷土防衛に燃えることとなる。大樹はそれを見てから本土に戻った。

 

また、大本営参謀辻政信中佐は東部ニューギニアのオーエンスタンレー山脈を越え、直線距離にして220キロを陸路をポートモレスビーと繋げ、周辺の連合国陸軍一掃を画策した。

辻政信中佐は陸軍天道派に属する軍人であり、陸軍上級士官らで大樹の存在を知り大樹の意向によって動く軍人でもあった。この当時は陸軍の天道派上級士官や将校らが軍の要所に配置されていた。

 

「山脈を越えて島の東西を繋げ連携することで、島の掌握は早まる。ここを維持することは米豪の連携を妨げることもできのだ!大東島(ニューギニア島)の残存を一掃したら他もだぞ!」

 

 

5月末には日本軍はビルマの英国割譲領地を奪還し、インド国境を越えた。南洋の大半は日本の制圧下に入った。犠牲は出たがうまくいっている・・・そのはずだった。

 

1942年6月初旬、ミッドウェー海戦で日本海軍は投入した空母4隻とその搭載機約290機の全てを喪失し敗北するまでは・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドウェー海戦の敗北。その前の珊瑚海海戦で日本海軍の基幹戦力である空母が5隻も失われた。

 

一方、ミッドウェー海戦で勝利を収めたアメリカ海軍は逆にラバウルを奪還するため、手始めに同年6月、ソロモン諸島に拠点を構えようと、ガダルカナル島占領を目指すウォッチタワー作戦を計画、8月7日にはガダルカナル島に上陸した。また、南西太平洋方面連合軍司令官ダグラス・マッカーサー陸軍大将はフィリピン奪還のためにオーストラリアを拠点にした反攻を計画した。そのため、オーストラリアの前哨ともいえるポートモレスビーの安全を確保することは重要であり、ニューギニア島を占領するにもポートモレスビーの基地が重要な役割になることが予想された。マッカーサー大将はオーストラリア軍最高司令官トーマス・ブレーミー陸軍大将と共同しニューギニア島の奪還を計画し実行に移した。

 

 

1942年8月7日午前4時、アメリカ海兵隊第1海兵師団を主力とし、オーストラリア軍の支援を受けた約1万の海兵隊員が、艦砲射撃と航空機の支援の下でガダルカナル島テナル川東岸付近に上陸を開始した。また、同時にツラギ島方面にも1500が上陸した。

 

同地の日本軍は壮絶な玉砕戦が行われたのだった。

 

ガダルカナル島の戦いに勝利した連合軍はソロモン諸島方面及び東部ニューギニア方面で本格的反攻に転じた。

 

 

 

連合国はニューギニア島及び周辺群島奪還の為に連合国(アメリカ、オーストラリア)軍17個師団規模、約40万の兵力を投入した。

対する日本側も10個師団以上の規模、約20万を投入した。さらに妖怪戦力は近代化している2個師団規模の西国鎮台や御料兵、航空銃翼兵団と近代化していない本土妖怪軍2個師団弱規模の約5万。詳細な数は不明だが相当規模の数を誇る南方妖怪が迎え撃った。

 

南洋に侵攻した連合国の兵士達は日本側の激しい抵抗を受ける。

 

「我らの土地に一歩足りとも踏み入れさせてはならん!!連合国を何としても撃退するんだ!」

 

ヤシ落としの投げたヤシの実が米兵のヘルメットを頭蓋ごと変形させ、密林の各所に潜むキジムナーたちが火球をがむしゃらに吹き放つ。

 

「撃て!撃てぇ!」

 

連合軍兵士たちは小銃や機関銃で応射した。

 

「ポー!!」「擲弾投下!!」

 

「高射砲はまだか!!」

「まだ後方です!!」

「早く持って来てくれ!!」

 

妖怪チン○や銃翼兵の天狗たちが空から襲い掛かる。

 

「西国鎮台の練度の高さを見せてやれ!」

「山童第28砲兵団へ座標送れ!」

 

鎮台軍や妖怪軍の一部の近代化軍は連合国軍と銃撃戦を繰り広げる。

 

『ニューギニアはラグナロクの一場面の様だ。』

 

連合国の兵士達は南方戦線をこう話した。

 

日本陸軍や本土妖怪軍、南方妖怪はその総力を結集して戦った。

ニューギニア、インドネシア、フィリピンと言った南洋地域の抵抗は尋常ではなかった。

しかし、米国の物量による力攻めは確実に日本軍を締め上げ徐々に南洋の拠点を奪われていった。

 

 

 

 

 

 



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118 近代 第二次世界大戦 侍達の最期

1942年5月下旬、アメリカ合衆国軍及びカナダ軍は北米諸藩に対する本格攻勢(作戦名:タイクーンダウン)を開始。多くの先住民と北米の妖怪妖精を抱える北米諸藩と言えど主体となる人間の軍隊の装備は国体同様に旧態依然とした藩諸侯では、第一次大戦後の世界恐慌などの中で生き残ることは出来ても大日本皇国の様な軍制改革や兵器の更新は出来なかった。北米諸藩の軍備は第一次世界大戦で止まっていた。

 

6月には先住民が一斉決起し、アメリカ合衆国と交戦状態に入る。

7月、合衆国政府はタイクーンダウンの早期終了を計り例外的措置として州軍の動員を決断。

州軍を加えた合衆国軍は8月中旬には新墨藩、頃蘭土藩、文棚藩が陥落。藩主前田利幸、前田利安、羽柴秀亮は自害。徴兵によって民兵の混在していた藩兵の多くは加州藩などの富士山脈(ロッキー山脈)周辺の諸藩まで撤退し抗戦を継続した。

 

7月下旬には新墨藩、頃蘭土藩、文棚藩陥落を受けたバック・ベアードが北米大陸の西洋妖怪軍団を北米諸藩に集結させ北米諸藩の妖精妖怪たちを組み込み統一戦線を形成し、連合国軍を食い止めることに成功した。

 

8月、北米西海岸カルフォルニア沖の戦いにて旧式艦主体の諸藩海軍を粉砕したアメリカ海軍は加州藩に上陸。アメリカ合衆国とカナダに包囲された北米諸藩の命運は尽きようとしていた。

 

11月から翌年の1943年2月にかけて加州、有砂藩、尼吐汰藩、湯田藩、間保藩、折金藩が陥落。連合国は新越後藩、新仙台藩、新会津藩、新庄内藩攻略に動き出した。

この時点でバックベアードは配下の西洋妖怪軍団とそれに続く妖怪妖精達は自らの敗北を予感し始めた。

この安土大阪時代から続く武士たちは城を枕に玉砕する事決めた。

この時、北米諸藩同盟軍の盟主である新会津藩藩主織田長孝はバックベアードたちが臨席する軍議の場で以下のように発言した。

 

「誠に口惜しい事ではあるが、我らの敗北の定めは覆らないこと。ここにいる諸侯らは完全に理解した。ここに至っては、我らが信奉する大樹野槌水御神様の血を引くさとり様、こいし様の身の安全を確保するためにベアード殿には諸侯の地を離れていただく。他に去りたいものあらば去るが良い咎めはせぬぞ。」

 

長孝の言葉に返したのは新庄内藩藩主の蒲生氏時である。

 

「皆、覚悟の上のこと。むしろ、この様な大戦に望める事こそ本望!」

「諸藩士卒の総意は米帝クソ喰らえです!」

 

 

 

1943年4月3日、北米諸藩最期の戦いの火ぶたが落とされた。

 

アメリカ合衆国の前線部隊が北米諸藩の残る4藩に侵攻開始。

 

「者ども!侍の誇りを胸にいざ参らん!!」

「「「応!!」」」「「「いざ!」」」

 

臨時徴兵が行われた末期の状態であり軍服が用意しきれず、城の蔵から古の鎧や胴丸が持ち出され、武器も安土大阪期の火縄銃から中折れ銃まで多種多様だった。

 

かつて、大日本合藩連合帝国の構成国として旺盛を極めた北米諸藩も歴史の流れに取り残され歴史の荒波に飲み込まれようとしていた。

 

北米諸藩は、急速に近代化した本国とは違い近代化は緩やかで列強国と比べると劣ったものであった。本国では形骸化した武士の魂や滅私奉公の精神が脈々と受け継がれており、彼らの気高い精神は連合国への意地、大樹への信仰心、北米と言う故郷への想いやそこに住んでいた先住民たちへの仲間意識と言った様々なものが複雑に絡み合い。北米諸藩に最後の咆哮を上げさせた。

 

北米諸藩4藩は北米諸藩の残骸を空き集めて最後の抵抗を行った。

 

「突撃!!」「「「うぉおおおおお!!!」」」

 

騎兵銃を乱射しながら連合国軍の陣地に食い破ろうとする新仙台藩の伊達鉄砲騎馬隊の名残を残す騎馬武者軍団と先住民の騎馬隊。

彼らは最後の一騎になるまで戦い続けた。

 

侍の死に花を咲かせようと士卒の中には戦国時代もかくやと言わんばかりの旗指物を刺した者たちもいた。毘沙門天の旗指物は新越後藩の士卒たちだろうか。

 

「せい!切り込め!!」「「「やぁあああ!!」」」

髷を結った士族の兵士がアメリカ軍の塹壕に切り込むみ、銃剣を付けた兵士達や鎧を付けた老武者が続いた。

 

「いっけぇええええ!!」「「「わぁあああああ!!」」」

人間たちに紛れて郷土を離れることを拒否した妖怪や妖精達も激しく抵抗していた。

 

新会津藩では最期の一兵に至るまで戦い抜いて、本拠の朱鷺岡城を枕に皆討ち死にした。

 

 

 

 

北米を離れるベアードは滅びゆく彼らを見ていた。

 

「ベアード閣下。」

 

ドラキュラ公が見たベアードの瞳には燃え上がる城下町が写っていた。

 

「ドラキュラ公。大日本合藩連合国は我ら妖怪と、共存を望む人間たちにとって完成された国家であった。彼らは共に歩むに相応しい善良な者たちであった。・・・だが、彼らは死んだ。世界の過半の人間たちは邪な人間であり、彼らが世界を欲しいままにするならば・・・。大樹様は甘すぎる・・・ならば、私も我が娘たちに、妖怪の未来の為の世界を作らねばならん。」

 

「ベアード様の思うようにされるが良いかと。軍団の妖怪たちはベアード様に従いましょう。」

 

この日、西洋妖怪軍団は大樹と袂を分かち妖怪の為の世界を作り上げるための戦いを開始したのだった。

 

 

 



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119 近代 第二次世界大戦 敗戦

ガダルカナル島のすぐ北に位置するフロリダ島の入江にある3つの小島(ツラギ、タナンボコ、ガブツ)に日本海軍の横浜海軍航空隊(水上機部隊)と陸戦隊(第八十四警備隊)の800名弱が駐留し、水上機による周辺の哨戒活動を行っていた。8月7日、アメリカ海兵隊が上陸し、激戦となったが翌8日に占領された。日本軍は少数の捕虜を除き全滅した。

 

8月7日にガダルカナル島に海兵隊10,000名を上陸させて、さしたる抵抗も受けずに飛行場を占領した。またこれと同時にフロリダ島、ツラギ島、ガブツ島、タナンボゴ島に対しても陸海共同の占領作戦が行われた。ウォッチタワー作戦と呼ばれるこれらの作戦は、太平洋戦線のアメリカ軍にとっては初めての攻勢であった。こうしてそれまで注目されていなかったガダルカナル島は日本と連合軍(主力はアメリカ軍)の激戦地となった。

 

「散弾装填!!敵を近づけるな!!」

妖怪狸の兵士達、妖力銃を駆使して応戦した。

 

「キジムナーども逃げるな!!耐えろ!!故郷を失いたくなくば!!戦え!!戦って守り抜け!!」

「「「「「キー!!」」」」」

 

銃弾、特殊弾、火球、ヤシの実、石礫が飛び交っていた。

 

「爆裂弾頭装填完了!」

「撃て!!」

 

日米双方の砲兵が激しく撃ち合い。

山童砲兵隊は河城重工製の妖力弾頭が投入され連合国に出血を強いた。

 

 

アメリカ軍のガダルカナル上陸に日本軍は直ちに反撃行動を起こし、第一次ソロモン海戦が発生した。8月12日ソロモン群島要地奪回作戦(カ号作戦)の日本陸海軍、本土南方妖怪軍が共同する奪回作戦が決行される。 しかしアメリカ軍が日本から奪取した飛行場を巡る地上戦では、連合軍が追加派遣したメセンブリーナ連合義勇軍の参戦によって敗北が確定し、1942年12月31日に日本はガダルカナル島からの撤退を開始した。翌2月までに撤退を完了させた。この戦いで双方に4万近いの戦死者を出した。日本軍はガダルカナル島での戦いに敗北し、以後戦況は悪化の一途をたどる。

 

 

日本軍のガダルカナル島撤退後、連合軍はカートホイール作戦を発動。

また、アリューシャン方面、ギルバート・マーシャル諸島など各地で連合軍の反抗作戦が発動し、そのほとんどの戦闘で敗北した。

 

劣勢に立たされた大日本皇国が本土防衛上確保及び戦争継続のために絶対国防圏を設定した。しかし、マリアナ沖海戦とサイパンの戦いをはじめとするマリアナ・パラオ諸島の戦いで大敗を喫してマリアナ諸島を失ったことによって、攻勢のための布石は無意味となり、日本は防戦一方となった。絶対国防圏が破られたことによって、敗戦はほぼ時間の問題となった。

その頃には日本海軍も多くの空母などの艦船を失い。戦闘機などの航空戦力を失い制空権を奪われつつあった。

 

妖怪軍も本土撤退を失敗する集団も現れ、大樹の指揮系統が乱れ始めた。

日本軍撤退後の南方妖怪は密林の奥地に潜伏し抗戦を継続し、ロシアに派遣されていた北国鎮台軍は本土の指示を待たず本土への撤退を開始。

東国鎮台軍や本土妖怪軍、狐狸以外の中央・西国鎮台の妖怪は各地での戦闘で消耗し、勢力下の妖怪たちが次々と離脱し本土各地へと潜伏し、各地で中小様々な隠れ里を形成した。この時に形成された隠れ里ではゲゲゲの森が有名である。

本土妖怪軍や西国・中央鎮台の一部には南方諸島で取り残された者達もいた。

 

また、沖縄戦が始まった1945年4月には八雲紫が開戦前に締結した大日本皇国と幻想郷の協力関係を白紙化し博麗大結界を完全発動し外界との接触を断った。

 

大樹の最大同盟勢力西洋妖怪軍団は北米諸藩降伏後より姿を隠し、連絡が取れず実質的に精力として活動を休止していた。

 

大樹に対して絶大な忠誠を誓う妖狐理たちの西国・中央鎮台も南方など戦地に取り残されて分裂しており盛時の力を失っていた。

 

5月7日には西洋妖怪軍団傀儡のナチス・ドイツが降伏。

大樹野槌水御神と八雲紫の間で妖怪妖精の希望者を幻想郷へ移住する定数を決める話し合いが行われる(博麗神社会議)。

 

 

8月6日、9日の広島長崎の原爆投下は御前会議で大樹が天皇家養母兼摂政として皇国降伏を促すには十分な出来事であった。

 

「もはや、これまで。我が首一つで矛を収めて欲しいものよ。」

 

 

 

 

 

 

 

その後の関東大樹大社で開かれた大樹大社御前会議では隠神刑部狸やたんたん坊と言った強硬派が大樹に戦争継続を求めて詰め寄った。

 

「その様なことは成りませんぞ!」

「降伏などすれば御身に厄降りかかるは必定!お考え直しを!」

 

 

「もはや、決めた事。それに貴方方はそのつもりでも下がついて来れないでしょう。」

 

大樹の言葉に反対していた二人が黙る。

妖怪軍も精神論の段階に来ていたのだ。

未来の見えぬ状況に誰もが口を開けずにいた。

 

全てを諦めて天を仰ぐ者、押し黙って歯を食いしばる者、呆然とする者と様々であった。

8月10日、大樹野槌水御神は傘下妖怪へ降伏受諾の旨を発表した。

 

 

 



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120 連合国占領下 大樹体制の崩壊

8月15日、 日本国民へ玉音放送。

 

『朕は時運のおもむくところ、堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍び、もって万世のために太平を開かんと欲す。』

 

「妾たちは北国の雪国へ戻ろうとしよう。」

 

雪女郎は疲れたように呟いた。

北国鎮台は武装解除を行い鎮台軍を解体した。

雪女たちの派閥は軍組織としての機能は失ったが、コミュニティとしてのノウハウを維持し北国の一隠れ里として存続することとなる。

 

北国鎮台の援助を受けていたロシア帝国のレティ・ホワイトロックの勢力も後退し、レティ・ホワイトロックはロシア妖怪の強権的な盟主の座を降り大樹経由で主に冬季は幻想郷へ拠点を移すことにした。これは今後予想される妖怪への当たりを考慮し魔法世界人などの排斥主義者を刺激しないための措置でもあった。ただロシア帝国政府は帝国内に留まる様に願ったための折衷案であった。

 

 

「辛い時代が来るぞ。身の振り方を考えねばな。」

 

ぐわごぜは天を仰いだ。

大樹と言う後ろ盾の失墜が見えたことで自身の権威も自動的に失墜することになるだろうことが理解できた。大樹の妖怪社会における政治有力者であったが今後は狙われる側となる。自身の子供を守るためにも暫し身を隠し新たな強い主に付かねばならぬと思い姿を消した。

 

 

 

『朕はここに、国体を護持しえて、忠良なる汝臣民の赤誠に信倚し、常に汝臣民と共にあり、もしそれ情の激するところ、みだりに事端をしげくし、あるいは同胞排擠、互いに時局を乱り、ために大道を誤り、信義を世界に失うがごときは、朕もっともこれを戒む。』

 

東北の山奥ではたんたん坊が石の演台に上って配下の妖怪たちに告げる。

 

「真に気にくわないが、今は耐えるのだ。各々、故郷へ戻り次の機会が巡るまで待つのだ。」

 

「そ、そんな!」「負けたってのか!?」「俺たちはまだ戦える!」「「「そうだそうだ!」」」

 

配下たちから不満の声が上がるがたんたん坊は大声で黙らせる。

 

「黙れぃ!大樹様の言葉だ!!機を待て!機を待つのだ!!時が過ぎるのを待ち世の中が不穏になった時。その時こそ、我々が再び世に出る時だ!!その時まで待つのだ!!」

 

こうして、妖怪たちの多くは不満を抱えたままではあるが夜の世界へ戻るのだった。

織田幕府開闢より四百年、大日本合藩連合帝国、大日本皇国と続いて光りある世界に飛び出た彼らは再び闇の世界に押し戻された。

 

西洋妖怪軍団は新大陸に主な拠点を移し、勢力の回復まで身をひそめることとした。

逆に勢力の回復の兆しが見え始めた中国妖怪は大陸掌握に暗躍し始める。南方妖怪たちはインドネシアやベトナムなどの諸国の独立派と繋がって連合国と争いつつも南方妖怪の存続を模索し始めた。

 

 

 

『よろしく挙国一家、子孫、相伝え、よく神州の不滅を信じ、任重くして道遠きをおもい、総力を将来の建設に傾け、道義を篤(あつ)くし、志操を固くし、誓って国体の精華を発揚し、世界の進運におくれざらんことを期すべし。汝臣民、それよく朕が意を体せよ。』

 

 

「隠神刑部、白蔵主、たんたん坊、雪女郎、ぐわごぜ。軍及び鎮台の解体、ご苦労様でした。」

 

「「「「「っは」」」」」

 

鎮台長官及び同等扱いの五妖怪は恭しく首を垂れる。

 

「皆の者、これまでの忠勤大義でした。此度の戦いに敗れ、妖怪の皆には苦難を招く結果となり誠に申し訳ありませんでした。」

 

首を垂れた彼らの方からすすり泣くような声が聞こえた。

 

「この国を守護する者の長として防人として励んでくれた下々の妖怪たちを守る。これを私の最期の仕事としたく思います。」

 

「「「「「はい。」」」」」

 

大樹より五妖怪に恩寵の品が下賜され、儀礼的な者が進行して行った。

 

 

ロシアより復員船に便乗し日本本土に戻ってきた旧北国鎮台の冷凍妖怪たち、中にはロシア妖怪も紛れていた。

東南アジアや南洋諸国からも復員船に乗って妖怪たちが戻ってきていた。

彼らは暗い面持ちで自分たちの隠れ里に戻っていった。隠蔽性の無い里の妖怪は隠蔽性のある里へ身を隠したりした。中には変化の力を使って人間社会に溶け込もうとした者たちもいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

1945年8月30日、幻想郷における最後の大規模幻想入りが行われる。日本本土にいた妖怪の約半分と言われ、その数は千を超えるとも言われているが詳細は不明だ。

幻想郷における正門である博麗神社は境界の中から外に続く大行列であった。

列に並ぶ妖怪妖精たちは一様に顔を伏し、表情は暗かった。

 

そんな彼らを上空から見つめるのは幻想郷最強妖怪とも噂される大妖怪風見幽香であった。

幽香に突く様な言い方で話しかけた八雲紫だったが、彼女の分かりやすい挑発には乗らずに幽香は答えた。

 

「貴女が彼女に付き従えばまた違った結果になったかもしれないわね。」

「私が外で戦ったら、そりゃ大虐殺でしょう。でも、戦争は1対1の指しの勝負ではなくなったわ。私が勝っても、他の幾つもが負けたらそれは負けなのが今の戦争よ。私が戦っても意味がないわ。」

 

紫が少しだけ目を広げて驚いて見せ、今度は目を細めて一言。

 

「風見幽香、貴女・・・丸くなったわね。」

「そう・・・かもしれないわね。それに今そこにいる妖怪や妖精たちはあの子が守ったものなのよ。植物を司る大妖怪として、彼女の意は汲み取ってあげたいのよ。」

 

彼女たちの視界には博麗神社から幻想郷内の各地に散らばっていく妖怪や妖精たちが映っていた。彼らの一部はこちらに気が付いて頭を下げてくるもの達もいた。

 

「大妖怪風見幽香が後見である彼らを表立って負け犬と誹るバカはいないでしょう。」

「そうね。」

 

 

 

 

 

 

霧の湖では大妖精たちが新たにやってきた妖精の同胞たちを歓迎していた。

 

「つらかったね。よく頑張ったね。もう大丈夫だよ。ここはいいところだよ。」

「「「大妖精様・・・うわぁあああん!!」」」「私たち大樹様を・・・大樹様を・・・。」「逃げてしまいました。」

 

氷の剣を振り回しながらチルノが妖精たちに笑って話しかけると、妖精たちはようやく笑顔を見せた。

「悪い奴らは皆、あたいがやっつけてやるよ!!だから皆は安心しな!!」

 

 

 

 

 

「刑部様・・・。」

「構わん、やれ。」

 

敗戦となり大樹野槌水御神の権威に陰りが見え始めていた。

連合国の占領下に入れば大樹野槌水御神の処刑も現実になる可能性もあった。

 

 

妖怪たちの多くは夜の闇や幻想の中に身を隠すことを選んだ。

しかし、大樹恩顧の隠神刑部狸や白蔵主と言った妖怪たちは戦い続けることを選んだ者たちも少なくなかった。本土妖怪の中には日本本土に戻らず南洋諸島や東南アジア諸国に残留する残留妖怪軍が存在したのだった。

 

 

 



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121 連合国占領下 残党軍

10月10日、大樹の威が通じる東久邇宮内閣が解散し、完全な傀儡の内閣に引き継がれる。

これによって、これまで大樹の威によって抑えていたものが爆発する。

 

 

「京都の破魔勢力が大樹様の統制を外れ攻撃を仕掛けて来よった。妖狐たちを搔き集めよ!」

 

大樹体制下において抑えられていた破魔の勢力が大樹の失脚と共に京都及び畿内掌握に動き出した。

解体中だった中央鎮台軍や旧妖怪軍部隊を集結させようとしたが妖怪軍の多くは逃亡し、解体中であったがために武装も満足になかった中央鎮台軍は各地で敗走。

 

「人は狡く意地悪く、生き物の中では一番偉いつもりでいる。大樹様を裏切り、我々を背後から撃つ。大樹様の理想を理解しないどころか。このような事まで…恨めし、憎し…口惜しや……。白山坊はおるか。」

「ここに。」

「中央鎮台はこれまでよ。妖狐衆はそれぞれの氏族率いて各地に身をひそめよ。変化を得意とする者は人の世に潜み機をうかがえ。」

 

 

信貴山命蓮寺が僧兵によって包囲される。

 

「人心を悩乱せしむは、聖白蓮!!覚悟せよ!!」

「御仏の本願、一切衆生救済にあり人妖の分け隔てなし!!」

 

数千を超える僧兵や術師たちを相手に長時間大立ち回りを演じるも、力尽きて膝をつく白蓮。

 

「私の志すは人妖問わず御仏の慈悲にて救済すること。妖怪ことごとく日の本より逐われし時、御仏の導きにて我必ずや復活します。法界にて自らの修行とします。星、皆。暫しの別れです。」

 

白蓮ためらわず大呪を唱え、自らを法界へと封じたのであった。

 

 

 

 

 

10月22日、GHQは大樹野槌水御神を世界樹蟠桃に幽閉を決定。

伊勢神宮、富士浅間大社や諏訪大社、大宰府天満宮と言った神社諸々から妖精たちが退去して行った。すでに多くの妖精が幻想郷へ去った後であり、これら妖精は大樹に対して深い忠誠を持っていた妖精達であった。彼女たちがどこに去って行ったかはすぐに露見することとなる。

 

 

また、大樹の幽閉が決定された際には関東近郊の妖怪や妖精の決起が発生したが散発的でまとまりは無くGHQ付の魔法使いたちによって討伐された。

 

GHQは魔法使い達を蟠桃の監視に置いた。これが麻帆良学園都市へと姿を変えて関東魔法協会を形成するのである。

 

 

 

 

 

 

 

その数日後。

 

妖怪の一団が呉海軍工廠を襲撃。妖狸の兵士が海軍工廠の警備兵を次々と無力化、戦場帰りの妖狸と内地勤務の警備兵では練度が違う。)3月の呉軍港空襲によって軍港機能を削られ重要その下がった場所に配備される警備兵と非戦闘員である造船所職員が相手なら建造中だった大和型戦艦紀伊を奪取することは容易であった。

 

あっという間に奪取された戦艦紀伊は呉の軍港を脱出、大樹を信奉する河童や山童は制圧下戦艦紀伊に乗り込み艦橋や機関室を掌握した。瀬戸内海から太平洋へと航海し、すぐに日本海軍や連合国海軍の哨戒網から逃れることに成功した。

 

戦艦紀伊の太平洋脱出が成功したのは日本海軍内の天道派の協力であったり、連合国を快く思わない海軍軍人のサボタージュなどが挙げられる。

 

武器弾薬の入った木箱や鉄箱が甲板の各所に積み上げられていた。

妖狸たちとそれを上空から見守る航空銃翼兵団の天狗や妖精たち。彼彼女らの視線は大礼服を着た大樹最恩顧の大妖怪と目される隠神刑部狸に集まっていた。

 

「我らが愛する大樹野槌水御神様は今、世界樹・蟠桃の底に幽閉されている。大樹様は我らの為にその身を挺してお守りくださった。そして、私、隠神刑部に恩寵の品としてこの蟠桃の香木をくださった。大樹野槌水御神様はその名の通り大樹の妖精を始まりとしていることは知っての事であろう。大樹大社において桃が神聖なものであり、蟠桃はその頂点であると言える。つまり、この香木は自身の魂の一部なのだ!!私は大樹様を誰よりも信奉しておる。これを託されたと言う事は!!大樹様を信奉する者の頂点に立てと言う意味だと理解したのである!!御料兵団は我に従うことを約束してくれた。諸君らは私を認めるか!!異議がある者は、今ここで発言せよ!!」

 

隠神刑部狸は辺りを見まわす。

刑部狸の背後には蟠桃の大きな香木が聳えていた。

異議を唱えるものなどいなかった。

 

 

「私は、大樹野槌水御神様を信奉する者として・・・誇りある日本妖怪として誓う!!あの悪しき者どもから大樹野槌水御神様をお救いし、奴らに勝利するその日まで・・・決して武器は下ろさぬと!!我が戦友諸君もその力を貸してくれようとしてくれている。我々に神国日本の命運が懸かっているのだ!!よって・・・私は今、連合国及びメセンブリーナに対して徹底抗戦をここに宣言する!!」

 

「「「「「うわぁああああああああ!!!!!」」」」」

妖怪狸、天狗、妖精と言った妖怪たちが武器を掲げて雄たけびを上げた。

 

 

 

 

 

さらに数日後、マッカーサーらが詰めるGHQの司令部に上げられた報告書を呼んだマッカーサーは渋い顔をする。

 

『復員船の失踪案件についての最終報告』

 

「マジシャンどもの口車に乗って火遊びをしたら火が消せなくなってしまったな。人間同士の戦争は仕舞にして後はマジシャンどもに責任を取ってもらえ。クソが」

 

マッカーサーは書類をそのまま暖炉に放り投げた。

 

 

 

 

 

 



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122 連合国占領下 戦後へ

大樹の蟠桃幽閉後の日本は表面上は大きな混乱なく想像より平穏だった。

これまで君臨していた天皇が完全に象徴になり、教科書の黒塗りや伝統文化の排斥に基づく書籍の焚書、文学作品に日本神話について記述したものは検閲により削除された。これらの事が些末な事と考えるなら正に平和だっただろう。

 

日本から連合国への敵対心をなくし、特に親英米的な国に作り替える方針の下、アメリカ軍占領区域では占領軍として進駐していたアメリカに対して好感を持つような世論誘導が行われ、その一例としてアメリカ軍の兵士が、ガムやチョコレートを食糧難に喘ぐ子供たちに与えることにより、「無辜の民を殺戮した」残虐な日本軍と、「食べ物を恵んでくれた寛大なアメリカ軍」という図式を作り、親米感情の醸成を試みた。飢餓の原因を作ったのがその連合国なのは無知な子供には理解しえぬことだろう。

そうやって親欧米化された結果が平成令和の日本なのだから、この懐柔策は大成功と言えよう。

また、大樹大社を貶める情報操作も行われた。しかしながら、これに関してはあまり結果を出すことは無かった。天照大御神に並ぶ日本の代表的な神である大樹野槌水御神の権威は絶大であったし、天皇家・源氏・鎌倉北条家・織田家と日本史に必ず記載される英雄の血筋の家々の抵抗もあり、書籍からの検閲削除や焚書などで影響力を低下させるに留まった。

 

人間たちはこれに対して抵抗も敵愾心も燃やしていなかったが、それを息をひそめて見ていた妖怪や妖精の一部はその胸中に沸々と黒い炎を灯らせ。大樹恩顧と目され勢力を維持するたんたん坊や反人類のぬらりひょんに合流する者たちも現れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

5月、GHQによる占領政策の一環として関東大樹大社の解体が決定される。

関東大樹大社を管轄していた旧関東鎮台は解体され、最後に残っていたぐわごぜは自分の娘を連れて挨拶に来てた。

 

「大樹様、御世話になりました。」

 

「ぐわごぜ、今までの忠勤ご苦労です。」

 

「最期までお付き合いできず…。」

「いえ、いいのです。貴方にはこの子がいるのでしょう。」

 

大樹は愛おしいそうに目を細めてぐわごぜの服の裾を掴んでいる幼子の頭に手をおいて撫でる。

 

「カロリーヌといいます。」

「そうですか?母親は?」

 

「西洋妖怪です。ですが、あいつはこの子を産んだ時に・・・。」

 

辛そうに答えるぐわごぜに大樹は気を遣って、ぐわごぜの娘に簡易なものであるが祝福を与えた。

 

「…貴方は貴方の大切なものを守りなさい。・・・この子の未来に幸多からんことを。」

 

ぐわごぜとカロリーヌは頭を下げてから静かに退出した。

 

 

大社の神紋の描かれた旗布を御料兵に渡し、御料兵達が去ると大樹は箒を持って境内を掃き清め始めるのであった。

 

しばらく、すると背広を着た役人と数人の魔法使いと米兵がやって来る。

 

「大樹様・・・。」

「はい…そろそろ行きましょうか。」

 

日本人役人の声は震えて、喉をつかえさせたかのように黙ってしまう。

大樹は役人に気を使って、自分から行こうと答えた。

 

新緑の季節、山や森の緑がみずみずしく感じられる一方で焼け野原となった家々が対照的な景色を目に焼き付けながら大樹は蟠桃の内に封ざれるのであった。

 

 

その翌日、GHQのブルドーザーやショベルカーが関東大樹大社に神殿の解体を始めた。

多くの人間や妖怪の崇拝を集めた大樹野槌水御神の権威の失墜を思い知らさせるものであった。大樹大社跡は現在進行中の学園都市計画用地に含まれる事となった。

 

 

国内の妖怪勢力はぬらりひょんやたんたん坊の様な過激派もそれ以外の穏健派も大きな行動は平成令和に至るまで起こしていない。国内において纏まった兵力を持っていた白蔵主の中央鎮台及び畿内の旧大樹勢力圏の崩壊が他の諸派閥を警戒させたのだ。

 

 

この時期に行動を起こしたのは大樹妖怪軍残党最大勢力である隠神刑部狸率いる集団であった。

 

この残党最大勢力のこの勢力は終戦直後より行動を開始していた。

畿内の変事の裏で旧西国鎮台軍や御料兵団、航空銃翼兵団、河童や山童たちの多くを首魁隠神刑部によって再統合されたこの組織力はそこが知れず。1946年8月復員船の任を解かれた軽空母鳳翔が解体のために日立造船築港工場へ向かう途中で失踪。12月30日、戦時賠償艦として中華民国へと引き渡される第一陣を残党軍の艦隊(終戦後日本に戻らず洋上で引き渡されたりした艦や民間船を武装した艦などで構成される。)が襲撃し、これらを強奪すると言う事件が発生。強奪された艦は駆逐艦雪風を筆頭に駆逐艦3隻、海防艦4隻である。ソ連に行き渡される予定だった戦時賠償艦の一部も強奪の被害に遭っており駆逐艦響を筆頭に駆逐艦2隻、海防艦3隻、輸送艦1隻とされる。

 

また、紀伊は桜花搭載艦として空母回収される案もあり紀伊強奪の際に多くの桜花も持ち去られた。また、呉軍港に係留されていた蛟龍潜水艦も数隻消息を絶ったとされ未確認だが陸軍の兵器も失踪している。

 

この時点でこの残党勢力へ旧日本軍陸海軍からかなりの武装が横流され、もしくは意図的に強奪させるなどの行為があったとされる。

 

 

 

 

 

ジャワ島中部南岸で戦艦紀伊とともに姿を見せた。この事から戦後日本軍の中では天道派が未だに息をひそめているのではと噂されてた。また終戦直後には未確認だが各地の大樹大社から長年溜め込まれて財貨は世間へ炊き出しやら各種援助の形で放出されたのだが、そのうちの何割かが隠神刑部狸率いる集団に引き渡されたと言われている。この運び出しの指揮をとっていた妖精御料兵団が失踪し、後に隠神刑部狸率いる集団に合流している。

 

 

1948年12月、ジャワ島中部南岸に戦艦紀伊を中心とした軍艦数隻と共に出現しジョクジャカルタのマグオ空港を爆撃しようとしていた爆撃隊を撃墜し、地上から侵攻しようとしていた、オランダ海兵隊と蘭印軍を砲撃した。

 

インドネシア独立戦争中に起こったオランダ軍主力壊滅はオランダ軍に外交的敗北と軍事的敗北を与え、インドネシア独立を早める結果となった。

 

その後も第一次インドシナ戦争中のフランス軍を攻撃し、存在感を見せつけた。

圧倒的な損害を強いた上に妖怪由来の妖術で霧のように消えて所在を掴ませない彼らを欧米諸国は『インペリアル・タイジュ』と呼んで恐れた。

 

 

インペリアル・タイジュは南洋妖怪勢力と協力関係にあり、インペリアル・タイジュの隠れ家を提供していた。また、南洋諸国は独立戦争に勝利したこともあり南洋妖怪への国からの忖度もあったようである。

 

 

第二次インドシナ戦争やラオス内戦などは共産勢力を隠れ蓑にした中国の大妖怪チーとアメリカ軍他勢力の争いの側面が強かったし、その後のカンボジア・ベトナム戦争やカンボジア内戦では王党派に南洋妖怪やインペリアル・タイジュの支援があった。中越戦争を含む所戦争では南洋妖怪とインペリアル・タイジュは終始協力関係にあった。

 

 

先の大戦をきっかけに歴史は大きく動き出す。

 

次なる戦いのための終戦。

 

破壊のための建設。

 

この一時の平和も、また新たなる混沌への休息でしかなかった。

歴史の果てから続く、この愚かな行為は人類が存在し続ける限り続くのだろうか。

 

この世界を照らすのは人々の希望ではなく、戦いの炎なのだろうか。

一体何がこの暗闇に包まれた世界に光明を齎すのだろうか。

1951年9月8日、日本政府は「サンフランシスコ講和条約」に調印し、日本は正式に国家としての全権を回復した。

しかし、人々の平和への願いとは裏腹に戦いは予期せぬ第二幕を迎える。

 

 




次回よりしばらくの間、メイン原作をゲゲゲの鬼太郎にします。


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123 昭和 ゲゲゲの鬼太郎

やっと鬼太郎の登場


1954年(昭和29年)、彼らは太古から続いてきた幽霊族の生き残りの夫婦が死んだ。

夫婦の墓から片目の赤ん坊が這い出してきた。腐った夫の亡骸から落ちた目玉に、手足のようなものが生えてきて動き始める。奇怪にも喋るその目玉は墓の方へ行き、鬼太郎と呼ぶその赤ん坊を連れて、縁のある人間を頼った。頼られた人間は人間社会に馴染まない鬼太郎親子に対して彼の立場もある故に家から出ていってくれと鬼太郎に言う。

 

目玉親父は、不自由な人間の世界からは抜け出そうと鬼太郎に言い、二人は一緒にあてもなく足の向くまま旅に出るのだった。

 

そして、彼らは去る森深くに居を構えてそこで生活するようになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

1963年11月23日、大樹は幽閉されている蟠桃の奥に持ち込んだテレビでケネディ大統領

暗殺の報道特番を見ていた。

 

『アメリカのケネディ大統領が暴漢に撃たれて死亡しました。テキサス州ダラス市内でケネディ大統領は自動車で進んでいる時、暴漢に銃弾で2・3度撃たれて間もなく今朝4時に死亡しました。ジャクリーン夫人はケネディ大統領を抱きかかえるようにして悲痛な叫び声をあげ・・・』

 

ジョン・F・ケネディ、 「人類の月侵攻」を大々的に叫ぶ大統領。

月の天津神々の逆鱗に触れたか。

 

『目撃した記者は大統領の頭から血が噴き出るのを見たと…、え~使用されたのはライフル銃の様だとの情報が入っており・・・。』

 

豊玉姫様、玉依姫様・・・。私の育てた鸕鶿草葺不合(うがやふきあえず)の母親と妻。

3000年間もの間守り抜いた皇室が壊されようとしている。

お二人はどう思うのだろうか。

自身の血統が絶えて悲しまれる?それとも情けない私に失望されるでしょうか?

 

皇室を解体させてしまおうとする外国勢力が背後にいる左翼の陰謀。

 

月への害意を見せたアメリカ大統領はあっけなく暗殺された。

 

時代の流れに取り残されたような気持ちだ。今まで自分は時代の中心にいただけに何も出来ないことがこうももどかしいとは・・・

グルグルといろんな考えが頭の中を掛け巡っては消え、駆け巡っては消え、私は思考の中に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ、1985年(昭和60年)。

その2年前には魔法世界の大戦が終戦し、ナギ・スプリングフィールドを中心とする「赤き翼」が一躍有名になった。とは言え魔法世界の事象はこの世界には大した影響はなかった。

 

実質的に世界中の妖怪の頂点に立っていた大樹野槌水御神の権威の失墜は彼女が君臨することで抑え込んでいた妖怪たちを解き放つことに他ならなかった。

 

中華人民共和国は共産党政権の暴政の影でチーを暗躍させ、西洋妖怪軍団はアメリカ合衆国の裏社会で暗躍し人類に敵対的な行動に走らせ、南方妖怪は南方地域で横暴を働く先進国国民に不信感を抱いた。そして日本妖怪も大樹の復権を望む者、自身の権力拡大を望む者、今ある平和の維持を望む者と統一感に欠けた状態にあった。

 

それでも日本は戦後復興から高度成長へと進み、バブル経済へと発展した。

日本は平和と言えば平和であった。

 

しかしながら、バブル期のネオンの影では妖怪たちが人に害を為そうとすることも少なくは無く。鬼太郎は幼少期に人間に育てられたこともあってか人間と妖怪の橋渡しをしたいと言う思いを持った。

 

鬼太郎はその森を拠点に人に害を為す妖怪を懲らしめたり、逆に妖怪を苛める人間に罰を与えたりしていた。そうしていると…

 

ゲゲゲの森の妖怪ポストに警察などに解決できない問題を手紙にして入れるとどこからともなく鬼太郎が来て妖怪を退治したりして解決してくれると言う噂が流れるようになった。

 

 

「近頃、全然手紙が来ないな~。」

「妖怪退治を頼まれないってことは平和じゃって言う事じゃよ。」

 

「それならいいんですけど。なんか気になるなぁ。」

「お前も心配性じゃなぁ。こういう時こそのんびりせんと。」

「それもそうですね。」

 

 

「それよりもお湯を足しとくれ。少しぬるくなったぞ。」

「はい!父さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

とある遊園地

 

「あ!ピエロだ!!」

「ちょっと!待ちなさい星郎!」

 

一人の少女が、急に現れたピエロについてミラーハウスに入ってしまった弟を追いかけてミラーハウスに入っていった。そして、その中で・・・妖怪に襲われる。

 

「ずうっと、ずうっと待っていたんだよ。」

 

鏡に映ったピエロは鏡から手を伸ばす。

 

「い、いや!放して!きゃああ!」

 

 

 

 

 



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124 昭和 天童夢子

 

男の子が妖怪ポストに手紙を入れようとしている。

男の子は遊園地で襲われた女の子の弟である星郎だ。

そんな彼に声を掛けたのはローブのような布一枚を体にまとった姿で、ねずみに似た顔。

ねずみ男、人間と妖怪との間に生まれた半妖怪である。

 

「お金がないならポストは使っちゃダメだな。」

 

星郎から手紙を取り上げて丸めてしまう。

 

すると、離れたところから大きな声が聞こえてくる。

 

「こら!ねずみ男!あんた何やってんのよ!」

 

紫髪を大きなリボンで頭の後ろにシニヨンで纏め、赤いワンピースとハイヒール。

顔つきもスタイルもかなり大人っぽい外見の少女。

 

「あんたまた、こんなことやってる!」

「ぎゃー痛ってぇええ!!」

 

彼女はねずみ男の顔を鋭い爪で引っ掻いてお仕置きした。

 

「あなた、鬼太郎に用事なの?わたし、鬼太郎の友達なの。」

 

猫娘の言葉に星郎は小指を立てて

 

「ガールフレンドですね。」

 

「ちょ、ちょっと!?何ってんのよ!」

 

顔を赤くする猫娘であったが、照れ隠しに小突いたら星郎少年の服が少し破れてしまって冷静さを取り戻した猫娘はバツが悪そうに眼を逸らした。

 

「案内するわよ。」

「は、はい…。」

 

あんまりからかうと怖いなと感じ取った星郎少年は黙って着いていくことにした。

ねずみ男は視線を逸らした。

 

 

 

 

 

 

「妖怪ポストは妖怪と人間が仲良くするために作ったんだぞ!」

 

鬼太郎に怒られたねずみ男は言い訳をし始めるが猫娘に威嚇されてしおらしくなった。

 

 

「おねえちゃんが妖怪に攫われちゃったんです!」

 

星郎少年の話を聞いた鬼太郎は、攫われた星郎少年のお姉さんが居なくなったと言うミラーハウスに行くことにした。

 

「ここだよ。鬼太郎さん。」

 

 

「微かに妖気を感じます。」

「気を付けるんじゃぞ。」

 

目玉おやじから気を付けるように言われた鬼太郎は慎重にミラーハウスに入っていった。

 

鬼太郎は歩いているうちに何かにぶつかった。

ぶつかった何かを取り押さえようとするが「きゃ!?やめて!」顔を引っ叩かれてしまう。

 

力加減と言い声と言い明らかに妖怪ではなく。むしろ…

 

「助けてください!私、天童夢子です!」

 

 

 

 

透明な姿になった夢子を星郎と一緒に家に連れて行った。

 

妖怪の事は口伝で聞いていた彼女の母親はすんなりと鬼太郎たちを家に上げ、父親の方は「妖怪って本当にいたんだな。」と驚いていた。

 

鬼太郎たちは母親から姿を失った夢子の写真を見せられる。

 

(かわいい…俺のタイプ…)とはねずみ男の感想。

 

「ううむ。これは美少女ばかりを鏡に取り込む鏡爺の仕業じゃな。」

「鏡爺は子供たちを見守ってくれる妖怪だと私の実家では聞いていましたが?」

 

夢子の母の言葉に目玉おやじは

 

「殺伐とした世の中じゃ。性格が変わったのかもしれんの。」

「まぁ」

 

 

「任せてください。夢子ちゃんは必ず助けます。」

 

鬼太郎の言葉に猫娘が若干ジェラシーを感じているのに気が付いたねずみ男が茶化すとねずみ男の顔はまた引っかかれ傷だらけにされてしまった。

 

(なんでこうなるの?とほほ)

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

「名付けて猫に鰹節。鏡爺に美少女作戦じゃ!」

 

 

目玉おやじの作戦で猫娘を囮にすることに・・・。

とは言え美少女判定を受けた猫娘は満更でもなさそうだ。

 

しかし

 

鏡爺は全く現れる様子が無かった。

美少女好きの妖怪なのに自分が行ってもうんともすんとも言わないのは、猫娘としてもかなりムカついたのだろう。

 

「おい、出てきなさい鏡爺!鏡を割るわよ!!」

 

美少女目的で夢子の姿を奪ったわけではなく。自分を大切にしてくれた少女に似ていた夢子だからこそ興味を持ったのであり、あんまりと言えばあんまりだ。

 

「そうはさせんぞ!鏡地獄に落としてやる!」

 

「ウニャアアアアア!!」

「ぎゃー痛い!」

 

猫娘に引っかかれた鏡爺はのたうち回る。

 

「今よ!鬼太郎!!」

 

「ぐぅうううう。おのれ、鬼太郎。じゃがこの子の姿は返さんぞ。」

 

そう言って鏡爺は逃げ去ってしまった。

 

 

鬼太郎たちは夢子の母の実家を探すことにした。

 

 

鏡爺の真価が発揮できない闇夜に出かけて鏡爺の本体のある鏡を見つけ意志で叩き割ろうとする鬼太郎であったが、鏡爺から懇願され鏡爺の言い分を聞いてやることにした。

 

鏡爺は不意打ちで鬼太郎を倒そうとしたのだが、戦いの中で夢子そっくりの写真を見つけた目玉おやじ。

 

「鏡爺!この写真を見るんじゃ。」

 

「夢子ちゃん?」

「違う、あれはお花ちゃんじゃ。」

 

「そうじゃ!夢子ちゃんとこの写真の子はそっくりすぎるとは思わなかったのか?」

 

「どういうことだ!?」

「妖怪のくせにそんなこともわからなかかったのか?お前の目は節穴か!」

 

 

 

「そうか!あの子はお花ちゃんの孫!?」

 

夢子はお花の孫であると指摘され、己の不明を恥じた鏡じじいは夢子の姿を返して鏡の中に戻っていった。

 

その後鏡爺は、廃村近くの村の公民館に大切に保管されることになった。

 

 

 

 

後日、夢子と鬼太郎たちはお礼も兼ねて街を案内してもらうことになった。

 

「本当に僕のタイプ。」

「あら、ねずみ男さんたらっ。冗談ばっかり!」

 

ねずみ男に言い寄られるが軽くいなす夢子は気あろうに話しかけた。

 

「妖怪が人間に恋してどうすんのよ!」

「あら、そんなことないわ。猫娘さん、これからは妖怪と人間仲良くしなくちゃ。ねっ鬼太郎さん!」

 

「っむ。」

 

夢子に対して俄かに嫉妬する猫娘であった。

 

 

 

 



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125 昭和 大妖怪ぬらりひょん

 

 

ディスコに、大勢の若者が入りきれないほど押し寄せ、ダンスを踊っていた。

そんな、場所に朱の盆が現れその場にいた人々を襲う。

 

「「「わぁあああ!?」」」

 

若者たちが逃げ出しているとディスコの入っていたビルが炎に包まれて倒壊した。

 

町で次々に起こるビル崩壊事件。

原因不明で警察や消防の対処は後手に回っていた。

 

 

それは自分の経営する建築会社に利益を与えるため、妖怪・ぬらりひょんが仕組んだものだった。

 

「んふふふふふふはははははは。」

 

 

大樹失権後の日本は今まで大樹の統制のもとに安定していたものが崩壊。

今まで妖怪たちを抑えていたものが無くなり、ある意味カオスな高度成長期後のバブル期は妖怪たちが暴れられる環境にあった。

 

これらに対処するべき存在は、警察・自衛隊・各地の破魔勢力であった。

しかし、自衛隊は発足から30年程度。さらには警察・自衛隊には未だに天道派の末裔が潜んでおりクーデター計画が存在すると実しやかに囁かれていた。破魔勢力も神社本庁や関西呪術協会を筆頭に日本古来の勢力と敗戦後のGHQのゴリ押しで居座り続ける関東魔法協会の間で対立が続き内輪揉めで動きがとりにくくあった。

 

また、目に見えて新左翼の台頭に加え旧左翼も右翼団体も活発であり成長を続ける日本の負の側面を見せつける形でもあった。

 

 

 

その隙をぬらりひょんを筆頭とする大物妖怪たちは見逃さなかった。

自分たちを圧する存在の枷が緩んだのが解ると大妖怪たちは動きだした。

ぬらりひょんは日本社会に溶け込み資金力を増やし権力も武力も付けていた。

その方法は少々、いや、かなり強引であった。

 

手下の妖怪・朱の盤のみならず、大金をチラつかせてねずみ男も利用してビルを爆破する。

 

「これで、儂の建築会社が大儲けできる。何事にも金が必要だからな。」

 

しかし最大の障害である鬼太郎に、ついにその悪事がバレてしまった。

そこでねずみ男を使って鬼太郎を誘い出しす。

 

「困るのですよ。仕事の邪魔をしてもらっちゃあ…。死んでもらいます。」

 

鬼太郎の目の前に住将型の爆弾が現れ、その爆発で土砂にねずみ男諸共埋まってしまう。

 

「ふむ。朱の盆。」

 

朱の盆がミキサー車を運転しコンクリートで固めてしまう。

 

「これで鬼太郎も終わりです。お!?」

 

鬼太郎の手が飛び出しぬらりひょんを掴んだ。

 

「ぬぐぐぐ、しぶとい奴め。」

 

固まった鬼太郎に掴まれた時、妙なアザが残ってしまう。

 

 

 

 

鬼太郎に掴まれた方の体が言うことを聞かなくなってしまい。

ぬらりひょんの旧知の中であり医術の心得もある邪骨婆を頼ることにした。

 

「これは鬼太郎憑きじゃな。鬼太郎の魂がお前の毛穴から入っているんじゃな。」

「コンクリートの中でも死なないのか。」

 

ぬらるひょんは鬼太郎を完全に無力化するために鬼太郎を壺に封じてしまおうと考えた。

 

 

ぬらりひょんは鬼太郎を罠に掛けようとしたのだが逆に罠に掛けられてしまい。古代の石臼で先祖流しの術を受けて恐竜の時代に飛ばされてしまったのであった。

 

「おのれ鬼太郎!!覚えておれよ!」

 

 



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126 昭和 暗躍する妖狐たち

最近父親の様子がおかしいと従姉の春子から相談された夢子は妖怪の存在を感じて鬼太郎に相談することに。

 

「鬼太郎さんに相談してみましょう。ね!」

 

砂かけばばあが占ってみると、15年前に事業に失敗し自殺を図った春子の両親の前に妖怪・白山坊が現れ、16歳になった春子を嫁にする条件で事業を成功させていたのだ。

 

 

 

山王日枝神社では二人の妖狐が密談していた。

布をまとった白い狐の妖怪白山坊。そして、神主の格好をした白狐の妖怪白蔵主。

 

「うまくいっている様だな。白山坊。」

「はい、順調です。今月も指定の口座に売り上げの一部を入金させましたのでお確かめを。」

「わかった。部下にやらせておく。金の事は心配しておらんが、要らぬ欲をかくのは関心せんぞ。」

「娘を生贄にもらうと言う奴ですか。人を喰らうは妖怪の本能…大目に見てほしいものです。」

 

白山坊のこれまでの貢献を鑑みても人間の娘一人くらい目を瞑っても良いだろうと判断した白蔵主。

 

「まぁ、良いだろう。だが失敗は許さんぞ。」

「はい。解っております。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白蔵主の心配は見事に的中し、白山坊は春子を連れ去ろうとするが鬼太郎に邪魔をされる。

 

「えぇい!お前ら!やってしまえ!」

 

白山坊の合図で沢山の妖狐が現れる。

 

「来る気を付けるのじゃ!奴らは鎮台の妖狐じゃぞ!」

「はい!父さん!!」

 

妖狐たちの術を躱して、砂かけ婆や小泣き爺たちと協力して倒してゆく。

春子の屋敷で繰り広げられ戦いは白山坊を屋根の上まで追い詰める。

 

「えぇい!このまま、恥をかくわけにはいかんのだ!!死ね鬼太郎!」

 

白山坊は剣を抜いて鬼太郎に切り掛かる。

鬼太郎は身を翻して白山坊に剣のようにしたちゃんちゃんこを一太刀浴びせると白山坊は苦しみだしてから気絶した。

 

「砂かけ今だ!」

「ほいきた。」

 

砂かけ婆は蜂を焚きつけて白山坊に止めを刺した。

 

 

「どういうことなの?」

 

夢子はどうして白山坊がやられたのか理解できず目玉おやじと砂かけ婆に尋ねた。

 

「ちゃんちゃんこの先に奴に弱点のジガバチと毒をぬったのじゃ。」

「そしてわしがヒメバチに蛾の卵を注射してもらったのじゃよ。」

 

「蛾の卵?」

「蛾の卵は白山坊を中から食べ尽くして成虫になり飛び立っていく。その過程を1日でやってしまう様にしたんじゃよ。」

 

翌日、夢子と鬼太郎たちは春子に見送られて屋敷を後にした。

白山坊の成れの果ての蛾が飛び立っていったのが一反木綿に乗った鬼太郎たちからも見えていた。

 

ッボ

 

蛾が突然火だるまになり、消えた。

 

「あ、あれは!?」

 

鬼太郎の視線の先には神主姿の白い妖狐である白蔵主の姿があり、白山坊の蛾が焼け崩れるとすぐに姿を消してしまった。

 

「あれは、妖狐の長…白蔵主じゃ。何も起こらねば良いのじゃが…。」

「父さん…。」

 

 



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127 昭和 のっぺらぼう

東海地方のある村で人間の顔が消えるという奇怪な事件が続発し、困った村は鬼太郎に助けてもらうために手紙を出した。地方の村などでは今だに大樹時代の人妖共生の名残もあってか人間に味方する妖怪に頼ると言う文化が残っていた。

 

しかしその手紙をねずみ男が盗み、自分が金儲けしようとその村へやって来てしまう。ねずみ男はこの事件の犯人がおとなしい妖怪・のっぺらぼうの仕業だと知り、簡単にだませると思ったからだ。夜中の墓場で待ち伏せし、のっぺらぼうを見つけるねずみ男。

 

「のっぺらぼう!話があるんだよ!」

「はぁ?」

「はぁ?じゃねぇよ!話があるって言ってんだよ!」

「はぁ?」

 

のっぺらぼうはねずみ男に呼び止められても相手にせずに住処の古寺に戻っていった。

ねずみ男が古寺に入るとのっぺらぼうは人魂を天ぷらにして食べている所だった。

 

「物は相談なんだが、黙ってこの土地離れてくれねえかね。顔だって一時貸してくれればいいからよ。なんだったら村人からの謝礼の半分をくれてやってもいい。」

「…断る。」

「なんでだよ!!」

 

話が纏まらなかったことでねずみ男が大声で怒鳴ると衾の向こうから声が聞こえてその向こうから声の主が姿を現す。

 

「私の許可が必要だからだ。」

 

のっぺらぼうに悪事を働かせていたのは、あのぬらりひょんだったのだ。

 

「ぬ、ぬらりひょん!?」

「悪く思わないでくださいよ。大先生に協力したら店の開業資金を出してもらえるんです。」

 

「ぎゃー!?」

 

 

 

 

 

村からの依頼を受けた鬼太郎は森の中で顔を失ったねずみ男を見つける。

 

「のっぺらぼうにやられたのか。」

「奴だけじゃねぇ!ぬらるひょんもグルだ。」

 

鬼太郎はこの場にいるはずのない妖怪の名を聞いて驚いた。

 

「ぬらりひょん!?あいつは古代の石臼で先祖流しにしたはずだ!?この村に来ているって事か!?」

「いるんだから仕方がねぇだろ。そうだよ!来てるんだよ~ぬらりひょんが。」

 

「だいたい、ねずみ男。お前が勝手に手紙を・・・」

「か~、今は説教なんて勘弁してくれよ~。後生だから俺の顔を取り返してくれ~。」

 

 

 

鬼太郎はぬらるひょんとのっぺらぼうがいる古寺に飛び込んだ。

 

「来おったか。ゲゲゲの鬼太郎…ここであったがと言いたいところだがここが潮時か。さらばだ!」

 

ぬらりひょんは懐から煙玉を出して煙にまみれて逃げ去った。

 

「な、な、鬼太郎の相手なんて一人でできるわけない。逃げろぉ」

 

のっぺらぼうも森の中へ逃げて行った。

 

 

「・・・・・・・・ひとまず、あいつらもこの村で悪さをすることは無いでしょう。」

「そうじゃなぁ。またどこかで悪さをするかもしれん。」

「その時はちゃんと悪さをしない様にお仕置きしてやりますよ。」

 

 

 



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128 昭和 オベベ沼の妖怪

 

ぬらりひょんの暗躍は続いていた。

 

「白蔵主殿、今は我々が争っている時ではありませんぞ。」

 

「日本を天道派の治世に戻す前に、鬼太郎は倒すべきか。」

「そうです。妖怪至上主義を標榜する私と大樹様を中心とした人妖の政を目指す貴方ですが、人間の為の世の中の現状維持を良しとする鬼太郎は共通の敵ではないでしょうか。ここで我々がいがみ合うのは…」

「下策と言う事か。」

「はい、その通りです。」

 

ぬらりひょんは白蔵主と不戦協定を結んだのであった。

 

 

 

 

 

 

校外学習の一環で夢子たちは農村で田植えをすることになり、そのことを鬼太郎に話すと鬼太郎も偶然にもその農村に用事があり、現地で会うことになった。

 

「鬼太郎さんもぜひ田植えに参加してください。」

 

そして、なぜか鬼太郎たちも農家の人に勧められて校外学習の田植えに参加することに

 

「ね?鬼太郎さんも来てよかったでしょ?」

「うん、都会でスモッグを吸っているよりもずっといいや。」

 

鬼太郎たちが夢子たちと田植えをしている間に目玉の親父は村長から依頼を聞いていた

 

「悪戯妖怪に悩まされておりまして。」

「ここはオベベ沼と言ってカワウソが住んでいたはずじゃが。」

 

 

夢子が友達たちと止まらせてもらう予定の農家に向かっている時。

 

 

「釣った魚を売ってかーちゃんの入院費用を稼いでいるんだ。」

「おめー貧乏なんだな。」

「ここまで聞いたんだから力になってくれるよな。シジミを取ってくれよ。」

「おう!任せとけ!」

 

少年の為にねずみ男が親切にしている所に遭遇した。

夢子は優しい子である。少年の話に同乗した彼女たちは少年に頼まれて近くで野イチゴを詰むことに

 

 

 

 

「なんかかゆいな。」

 

歩みを覚えたねずみ男が腕を上げると、腕にびっしりとヒルが食いついていた。

 

「ぎゃー!」

「あ、ここヒルの巣だった。あとでっかい亀もいるんだ。おじさんくらいの大人がおびき寄せるにはちょうどいいんだよ。」

 

 

「きゃー!」

「あ、そっちは蛇がいるんだった。」

 

ねずみ男がのたうち回り、夢子たちは蛇に驚きてんてこ舞いしているのを少年は腹を抱えて笑っていた。

 

「もう、その辺にするんだ。ひどいことはもうやめるんだ!」

 

鬼太郎が割って入ってかわうそを捕まえようとすると

 

「くそ!」

 

かわうそは口から水鉄砲で鬼太郎に応戦した。鬼太郎とかわうそは沼で激しい格闘戦を行い。

 

「「勝負だ!」」

 

鬼太郎とかわうその勝負は鬼太郎の勝利に終わり、かわうそはちゃんちゃんこで縛られてしまうのだった。

 

「どうして、こんなことをしたんだ?」

 

かわうそは強情に口を開かなかった。

それを見たねずみ男は鬼太郎に「ちょっと俺に任せてみろ」と言ってかわうその前で鮒を釣ってそれを火で焼き始める。

 

「ふ、鮒!…うまそうだなぁ…。」

「欲しけりゃ、正直に理由を話せ!」

「ひ、卑怯だぞ!」

「どうだい?この匂い、我慢できまい。」

「あ~わかったよぉ。言うよ~。」

 

鮒の誘惑に負けたかわうそがぽつりぽつりと口を割る。

 

「近頃の人間はおかしいんだ。山を捨て、野を捨て、皆遠くに行っちまう。おれ…なんだか寂しくて…。」

 

「鬼太郎さん…。」

 

かわうその言葉に同乗した夢子たちも鬼太郎に視線を寄せる。

 

「かわうそ、ゲゲゲの森って場所があるんだ。そこは日本中のどこにでもあるけど、どこにもない。僕たち妖怪の隠れ里みたいなところなんだ。二度と人間にいたずらしないって約束するなら連れてってやるよ。どうする?来るかい?」

 

かわうそは瞼に涙を浮かべて答える。

 

「うん!」

 

 

 



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129 昭和 くらえ指鉄砲!!妖怪邪魅

ガマが淵で泳ぐねずみ男の前に、言葉を話すカエルが現れた。

報酬につられ言われた通り封印石を動かすねずみ男。

するとカエルは妖怪:邪魅へと姿を変え、反対にねずみ男はカエルになってしまう。

この石は動かした者をカエルに変えてしまうのだ。

元に戻りたいがため、鬼太郎を騙すねずみ男。

さらに鬼太郎を救うため目玉親父がカエルに…。

 

 

鬼太郎は泣きながら、ねずみ男を捕らえて話を聞きに行こうとしますが、そこに怪しげな女が現れ封印石の話をしようとします。

ところが、妖気を感じて化け物呼ばりすると鬼太郎に襲いかかるのだった。

女は200年間溜まった恨みを鬼太郎の力を使って思い知らせようと考え、襲いかかってきた女により鬼太郎はしもべにされてしまうのであった。

 

 

 

「あら、手紙だわ。蝦蟇ヶ淵で事件が起こったので出かけます。でも、もうこんな時間なのに?」

 

その頃、夢子は鬼太郎の家に着き張り紙を見ていないことを知ります。

ねずみ男は町で鬼太郎と会うと殴られ、更には鬼太郎が魚屋を襲いタイを奪うのを目撃。

夢子もガマが淵の近くに来ると泥棒をした鬼太郎を目撃して信じられない状態に。

なんとか話を聞こうとするが無視をする鬼太郎にユメコは悲しみます。

 

「夢子ちゃん!こっちこっち!ワシじゃよ!夢子ちゃん!」

「そ、その声は!?目玉の親父さん!?」

 

それから、夢子は鬼太郎を想いながら歌を歌って落ち着こうとしていると、歌声を聴いた目玉おやじがガマの姿で夢子に話しかけ訳を知ります。

 

「と、いう訳で鬼太郎の奴。あいつに操られておるんじゃ。」

「かわいそうな鬼太郎さん。何とか助けてあげられないの?」

「うむ、知り合いの妖怪に協力を仰ぎたいのじゃが…ちと遠くてな。」

 

夢子は鬼太郎を助けるために目玉おやじと協力すると言い出したねずみ男はその知り合いの妖怪の下を尋ねることにしたのであった。

 

夢子は家族に訳を話し、次の日にその知り合いがいると言う長野県の廃村にある閑散とした神社を尋ねた。

 

さびれた感のある神社であったが不思議と人の手が届いており廃墟には見えなかった。

社には博麗神社と書かれていた。

 

「あら、目玉おやじと…これはこれは可愛らしい人間のお嬢さんね。」

 

ふと、現れたのは大きなリボン付きの特徴的な帽子を被った女性。ねずみ男に対しては軽く視線を向けてからすぐに逸らした。

 

「…八雲殿。手を貸してくれぇ…鬼太郎が、儂の鬼太郎が…」

「目玉の…皆まで言わなくても良いですわ。状況はだいたい把握してますわ。」

 

容姿こそ幼さの残る少女寄りの女性だが、その実“賢者”の異名を持ち千を越える時を生きる大妖怪、八雲紫である。

 

事情を聞いた八雲紫は少しだけ悩んでから、鬼太郎の洗脳を解くことを約束した。

 

八雲紫を加えた4人は蝦蟇ヶ淵に向かった。

幸い邪魅は穴倉にいるようで淵にいたのは鬼太郎だけだった。

 

「じゃあ、鬼太郎君を助けてあげましょうか。」

 

八雲紫は鬼太郎を隙間に落とした。

夢子とねずみ男は一瞬見えた隙間のでぎょろぎょろと動く目玉を見て、目をこわばらせた。

 

「ちょっと待ってね。こういう術は最近はかける側が多くて解くのが久しぶりなのよね。えっと、確かこうやってこうしてこう!できましたわ。」

 

隙間からッペと鬼太郎が吐き出される。

 

「き、鬼太郎!無事じゃったか!!」

「えぇ、何とか。でも、こういうのはこれきりにしたいです。」

 

鬼太郎は八雲紫に礼を言う。

 

「八雲さん、助かりました。ありがとうございます。」

「どういたしまして、鬼太郎くん。洗脳を解くついでに潜在能力を少し引き延ばしてみたんだけど?調子はどう?」

 

「はい、体か軽いです。」

「じゃあ、こう手を構えて…妖力を集中させて。」

「こうですか?」

 

八雲紫の指示通りに指を構えると妖力の光が放たれた。

 

「これは、指鉄砲よ。貴方のお父様も使っていた幽霊族の技よ。私もこれを素案にちょっとした揉め事の解決手段を作っているのよ。っと、鬼太郎君…敵のお出ましよ。」

 

 

 

穴倉から邪魅が姿を見せる。

鬼太郎はちゃんちゃんこや下駄で戦うが球体になりながら襲ってくる邪魅に苦戦。

 

「鬼太郎!指鉄砲じゃ!」

「はい!父さん!」

 

「指鉄っっ砲!!」

 

「ぎゃああああああ!!」

 

邪魅ははるか彼方に飛ばされてしまうのだった。

 

 

一件落着となり、夢子に感謝する鬼太郎。

お礼なら紫さんにというが既に姿はなくいない。

そこに声だけ響く。

 

「気を付けなさい、悪意はすぐそこまで迫っています。」

 

 

最後は、魚屋さんなどに迷惑をかけてしまったお詫びをする鬼太郎は1週間魚屋さんのアルバイトをすることになり、もちろんねずみ男も一緒に精を出すのでした。

 

 



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130 昭和 対決!!日本国天道派 前編

ぬらりひょんから鬼太郎と八雲紫が接触したと言う話を聞いた白蔵主は、ゲゲゲの森の勢力と幻想郷が繋がってしまう前にと行動を起こした。

 

「真崎陸将に連絡を取りなさい。行動を起こすようにと…。」

「では…」

「作戦名『女神のいない八月』を決行しなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、夢子ちゃんたちの家族旅行に同行していた鬼太郎たちは京都旅行の行程を終えて帰るところであった。

 

「楽しかったわね。鬼太郎さん。」

「うん、そうだね。」

 

 

 

「夢子ちゃんのお父さん。この度は儂らも京都旅行に招待してくれてありがとう。」

「いえ、夢子がお世話になっていますので。」

 

目玉おやじは夢子の父親に礼を言った。

鬼太郎親子と夢子たちは家族ぐるみの付き合いになっていた。

 

 

切符を駅員に見せてからホームに並んだ鬼太郎たち。

列車の扉が開き、天童一家や猫娘や砂かけ婆と子泣き爺が乗り込んでいき最後に鬼太郎が乗り込もうとしたときに鬼太郎は別の乗車口から乗り込んでいった一団が一瞬気になった。

 

『寝台特急さくら発車します!』

 

「鬼太郎さん?早く乗らないと置いてかれちゃうわよ。」

「今乗る!」

 

車掌の声が聞こえ、夢子の呼ぶ声を聞いた鬼太郎は慌てて乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

白蔵主の指示を受けた妖狐たちは行動を開始。

 

「古の神よ。暴れ狂う神よ。今ここに暴虐の場を与えん。存分に暴れよ。」

 

妖狐たちは、京都の旧洛外地域の祠で円陣を組み、呪文を唱える。

 

既に討たれてから500年近く経過していたが、狐たちが呪文を唱えるとボロボロの亡骸が起き上がる。

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!』

 

かつて戦国の世で京都の戦いで討たれた両面宿儺が怨嗟の声を上げて復活したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼太郎は乗車前に見かけた男たちの事が気になり車内を探索する。

次の駅で停車した列車の中で鬼太郎は列車の外で何かをしている男たちを見つけて、怒鳴りつける。

 

「何をやってるんだ!」

 

男たちは慌ててどこかに行ってしまった。

席に戻った鬼太郎は一反木綿に車両の外を調べるように言った。

 

「そんな~、鬼太郎。電車の外は寒いんよ。」

「頼むよ。一反木綿。」

 

「鬼太郎さんがそこまで言うなら、調べてみますよ。はいそうしましょ。」

 

 

 

 

 

鬼太郎はさらに探索を進めていたが夢子が様子を見に来て鬼太郎に声を掛ける。

 

「どうしたの鬼太郎さん?」

「うん、少し気になることがあって…。」

 

鬼太郎は振り返って夢子と席に戻ろうとしたとき…。

 

「き、鬼太郎さん!?あれって!?」

 

夢子の驚いた声で再度振り返った鬼太郎の視界には自衛隊の戦闘服を着て64式小銃を持った男たちが写り込んだのであった。

 

 

 

 

 

 



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131 昭和 対決!!日本国天道派 中編

内閣会議室

 

「以上、京都妖狐の決起、両面宿儺の復活などの各情報を精査した結果。相当規模のクーデターが発生する可能性が極めて強いと言う判断に至りました。」

 

ざわつく会議室

 

「防衛大臣、防衛庁の方では何か掴んでいないかね。」

「陸海空ともに変わった動きは見られません。」

 

「かつての三島事件や三無事件の様な背後関係はありそうかね?」

「京都の事態は所謂天道派が主導している。自衛隊内の隠れ天道派が行動を起こすのでは?」

「自衛隊内の天道派の存在は所詮噂です。言いがかりはよしていただきたい。」

 

「天道派の悲願は麻帆良に幽閉されている。かの御方の解放であろう?彼女を中心とした保守政権の樹立と言ったところか。」

「米英や魔法使い達の目もあるんだ。そう滅多なこと…。」

 

「だが、現に関西の天道派は決起したではないか。他の地域の天道派や・・・万が一にもインペリアル・タイジュが出てきたら手に追えんぞ。連中は軍艦を持っているんだからな。」

 

「そうなる前に手をうたねばなりません。麻帆良の方には警告を出しておくとして、自衛隊内の選別をしておくべきでしょう。」

 

 

 

 

防衛庁、関東魔法協会合同指揮所

 

「警視庁より入電、不審大型トラックから自動小銃320丁、手榴弾400、5.56mm機関銃、迫撃砲、バズーカ砲各1基を押収したと連絡がありました。」

 

「御殿場から連絡、第一戦車大隊の一部に不穏な空気ありとのことだ。」

「なに、戦車も来るのか?」

 

 

情報が交差する中で待ちわびた知らせが届いた。

 

「敵の作戦計画書です。真崎陸将の自宅から見つかりました。」

「真崎は逮捕したのか?」

「いえ、踏み込んだ時には拳銃で自殺していました。」

 

 

『女神のいない八月』と題された作戦指示書には参加戦力や作戦内容が書かれていた。

白蔵主率いる中央鎮台残党を中心とした戦力が陽動の為に大規模な破壊活動を行い、その隙に関東の天道派残党及び天道派自衛官によるクーデターによって一気に政権を掌握すると言った内容であった。

 

クーデター軍の編成は旧関東大樹大社儀仗隊(妖精)、利根川水系河童衆、王子稲荷妖狐衆、宗固狸傘下の化け狸を中核部隊とし、これに旭川・青森・相馬原・静岡・広島・北九州からの決起自衛官を動員した3000である。また、このクーデター計画は旧東国鎮台のたんたん坊やインペリアル・タイジュの隠神刑部の傘下は確認できなかった。

 

8月15日正午を期して一斉に各目標を制圧する手筈になっていた。

 

首相はクーデターの詳細を知るや否や、統合幕僚長以下3軍幕僚にクーデターの速やかなる鎮圧を命じ、関西呪術協会に対しても畿内の妖怪クーデター軍制圧を命令した。また、都内の妖怪クーデター軍鎮圧には関東魔法協会の協力を依頼したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ケノテートス・アストラプサトー・デ・テメトー(来れ、虚空の雷、薙ぎ払え)。」

 

斧の形状をした雷が両面宿儺に直撃する。

不完全な形ではあったが古の神でもある両面宿儺、伝説級のそれこそ安倍晴明クラスでもないと倒せるはずのない存在。自衛隊が全力を持って戦わなければならないような化け物。

 

それが、一撃の下に粉砕されている。

 

「ば、馬鹿な。」

「白蔵主様!!軍勢は壊滅です!!撤退!!撤退しましょう!!次を!!次の機会を待ちましょう!!」

 

唖然とする白蔵主は側近の宗旦狐に呼びかけられて我に返る。

 

「くぅううううう・・・無念、誠に無念なり、この恨みはらさでおくべきか。・・・退けぇ!!退けぇい!!」

 

 

 

 

「おい!待て!こいつら!!」

 

「ナギ、その辺りで良いでしょう。それにこちらも無傷ではないのですから深追いは禁物です。」

 

ナギと呼ばれた赤毛の青年にその仲間と思しき禰宜装束の剣士青山詠春が呼びかける。

 

「それにしても、あれの対処法をエヴァンジェリンさんが知っていたのは意外です。」

 

詠春の言葉にエヴァンジェリンは淡々と答える。

 

「ああ、2度目だからな。」

 

この頃、エヴァンジェリンは赤い翼と短期間だが行動を共にしていた。彼女は逃げ去る白蔵主たちを視線に捉え、虚しさとも何とも言えない感情が過った。

 

「助かったぜ。」

「そ、そうか!なら良かった。」

 

赤毛の青年に誉められた彼女は年甲斐もなく浮かれていた。

 

そして、この飄々とした青年がただものではないことは明らかだろう。彼こそはナギ・スプリングフィールド、魔法世界の戦争においてメセンブリーナ連合を勝利に導いた英雄である。

 

「っち、しかたねぇか。」

 

そう言って彼は関西呪術協会の神殿に戻っていった。

 

 

 

 

 

首相官邸

 

首相は不安げな思いを抱きつつ、秘書官や側近らが首相に報告を上げて指示を受けていた。

 

「京都の大規模決起は関西呪術協会ならびに関係各所の協力もあり鎮圧に成功したとのことです。」

「他は?」

「国道21号線上で決起部隊を乗せたバスを第10師団第35普通科連隊が鎮圧しました。」

「すでに決起した部隊がいたのか。」

「未決起部隊に武装解除を迫る予定です。」

「そうしてくれ。」

 

首相はため息をついて天を仰いだ。

 

「あぁ、本当に面倒なことになった。これでまた、麻帆良の魔法使いや米国に融通しなくてはならなくなる。」

 

 

 

 

 

鬼太郎たちの見つけた集団もそう言ったクーデター軍の一部なのであった。

 

「夢子ちゃんは、戻って父さんたちに知らせるんだ。」

「わかったわ。」

 

夢子に仲間たちに知らせるように頼むと鬼太郎は男たちの様子を観察する。

男たちは無線機で外部と連絡を取り始め、しばらくすると

 

「戦闘準備。」

「了解!戦闘準備!」

 

 

指揮官らしき男が指示を下した。

 

「これより、この列車を制圧する!」

 

 

 

 



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132 昭和 対決!!日本国天道派 後編

「これより、この列車を制圧する!」

「「「「「了解!」」」」」

 

「藤崎一尉、我々中央鎮台は京都での戦闘に敗北したそうです。白蔵主様は決起中止を命令されました。」

 

藤崎と呼ばれた決起部隊指揮官は中央鎮台から派遣された妖狐経蔵坊(キョウソウボウ)に伝えられたうえ、無線で別の決起部隊が全滅したと言う連絡を受け、怒りに燃え、経蔵坊の言を無視して藤崎は戦闘準備の命令を出す。

 

全員自衛隊装備に着替え、全車両の制圧に動こうとしたその時。

 

「待て!お前たち!!」

 

「なんだ?こいつらは?」

「き、貴様は!?」

 

不思議そうにする藤崎とは対照的に経蔵坊は驚愕した。

 

「ゲゲゲの鬼太郎!!くそ!なんて間の悪い!!掛かれ!!」

 

経蔵坊の言葉で経蔵坊の部下の妖狐たちが鬼太郎に襲い掛かる。

あっという間に妖狐たちが倒されてしまった。

 

バン!

 

「!?」

 

鬼太郎の耳元に銃弾が通り過ぎる。

 

「次は外さないぞ。」

 

藤崎の周りに部下の自衛官が集まり小銃を向ける。

 

「手間を掛けさせる。」

 

藤崎は拳銃を鬼太郎に向け、隊員たちも銃口を向ける。

 

「鬼太郎さん!!」

「くらえ、目つぶしの砂!!」

 

夢子の声に合わせた砂かけ婆が大量の砂を浴びせかけ砂埃が巻き上がる。

 

「くらぇえ!」

 

子泣き爺が石化して自衛官たちに体当たりをする。

 

「「「ぐわぁあああ」」」

 

ちなみに夢子は一緒に様子を見に来た父親に後ろの車両に非難させられた。

「た、大変だ!!トレインジャックだ!!」車掌は他の乗務員に外部に連絡するように指示を出し車両を閉鎖した。

 

再度起き上がった妖怪狐たちも交えて砂煙の中での乱戦は鬼太郎たちに軍配が上がろうとしていた。

 

銃撃戦の最中、藤崎は爆弾の起爆スイッチを押した。

 

カチリ

 

だが、無反応。

 

カチリ、カチリ、カチリ

 

「なぜだ!?なぜ起爆しない?」

 

「やぁああ!!!」

 

動揺する藤崎に鬼太郎は殴り掛かった。

 

「どうして、今ある平和を素直に受け入れないんだ!」

 

殴られ壁に叩きつけられた藤崎は鬼太郎に言い返す。

 

「お前の言う平和はクズだ。東京見てみろどこに美しさがある!どこに秩序がある!我々は憲法を改めて、かつてあった美しい秩序と美しい精神を築くんだ。」

 

経蔵坊もそれに続いて叫んだ。

 

「そうだ!クズ共をぶち殺せ!無秩序な東京を焼き払ってやる!俺たちは知っているんだ今よりも良い時代を!!何も知らない若造妖怪が知った様な事を言う!」

 

それを聞いた鬼太郎は顔を真っ赤にして怒る。

 

「バカヤロー!あの時、戦争をやめなかったら本当に日本が無くなってたかもしれないんだぞ!!そうなったら日本妖怪も日本人もあったもんじゃないんだぞ!!それを解っていたからお前らが信奉する大樹野槌水御神様はこの平和を甘受したんじゃないのか!?やっと平和になったのにわざわざ火をつけて回るようなことをして!!ここにいる関係のない人たちまで巻き込んで!!お前たちは!!」

 

「もう、その辺にしておきなさい。天狗警保局が来ておるし、時期に人間の警察も来るじゃろう。」

 

激昂するする鬼太郎を目玉おやじが諫め。

興奮気味の鬼太郎の背中をさすってあげる夢子。

 

 

 

 

経蔵坊を天狗警保局(天狗警察もしくは天狗ポリス前身組織

に引き渡し、藤崎たちを警察に引き渡して事件の幕は下りた。

 

「昔の事に引きずられても仕方がないのに…。僕と夢子ちゃんみたいに妖怪と人間は仲良くできるはずなんだ。」

「そうね、鬼太郎さん。わたしもそう思うわ。だから、ね!一緒に頑張りましょうよ!」

「うん、そうだね夢子ちゃん!ありがとう!」

 

そんな二人を昇り始めた陽の光が照らすのであった。

 

 

 



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133 昭和 鏡地獄、雲外鏡の野望

まだまだ寒さが勝るものの、僅かに花や土や水の香りがまじりあった空気の甘さ南から吹く強い風。

鬼太郎のもとに夢子がやってくると、春一番の強い風に乱された髪を鏡を見ながら整える。

 

鏡を見て、鬼太郎と初めて会ったミラーハウスの事を思い出す夢子は、鏡爺がどうしているのかなと思いだす。

 

「大変でぇ!」

 

すると、ねずみ男がやってきて第2の夢子ちゃん事件だと言い鏡の中に入った女の子を見せるのだった。

 

しばらくして、鬼太郎たちは少女を助けるために普段のメンバーに加え、かわうそや呼子などの仲間たちの協力を得て妖怪たち妖力で救い出す方法で鏡をこじ開けようとした。

 

「「「「「「やー!」」」」」」

 

妖力の力技のやり方だが比較的簡単なやり方で合理的なのだ。

鏡に異変が起こり少女の手が出てくる。

 

「うりゃ!」

 

砂かけ婆が手助けして少女が鏡の外へ出ると少女は雲子と名乗ります。

詳しく話を聞くと、どうやら鏡爺が閉じ込めたらしい。

 

「そんな!?鏡爺さんは人のいい妖怪さんよ?」

 

夢子の言葉を筆頭に信じられない話ではあったが、被害者の少女がそう言っている訳で信じざるを得ない鬼太郎たち。

すると、雲子が鬼太郎を見つめると急に鬼太郎は鏡爺を許せないと言い今度こそ完全に封印すると言いだしたのだ。

 

それに対して、夢子は少し不安を覚えて原宿の古道具屋に向う一行に同行したのだった。

鏡爺が眠る鏡を攻撃すると、雲子は間違いないと言う。

それに対して、夢子は鏡爺に逃げてと言うが、鬼太郎がオカリナ笛を使って捕らえてしまう。

 

「どういうことだ?」

 

鏡爺はなんのことかサッパリ分からない中、雲子が早く封印してと言う。

 

雲子の姿を見た鏡爺は雲子に向かって杖を投げる。

 

「待て!そいt!?」

 

だが話を聞いてもらう間も無く鬼太郎たちは鏡爺を封印する事にし、鏡を固めてぬりかべ封じをする。

 

夢子は鏡爺が何も知らないことに気が付き止めようとしたが、聞いてもらえず。

鏡爺は封じられてしまう。

 

「鬼太郎さんなんて大嫌い!」

 

と言って夢子は去っていってしまうのだった。

 

 

 

そんななか、雲子はお礼にパーティを開くと言いみんなで参加することに。

 

「なんだか、皆あのおなごに乗せられているみたいだばい。」

 

一反木綿は鏡爺を鏡神社の鏡塚に納めに行くため別行動をとることに、そこで公園で夢子を見かけ声を掛けることに。

 

「こんな時間まで・・・あぶなかばってん。」

 

心配した一反木綿は話を聞くと、夢子は今回の鬼太郎たちの行動に対して反対であって、鏡爺はちょっとエッチでロリコンだけど心の底から悪い妖怪ではないと言って、何かの間違いだと涙を流した。

 

『夢子ちゃん、夢子ちゃん』

 

鏡爺が夢子に向かって話しかけ鬼太郎たちは何かに騙されていると言う。

中でも怪しいのは雲子だと言うが…。

 

 

 

「あ~ダメだね。この霧じゃあ。こっから先は歩くしかねえなぁ。」

 

一方、雲子の家に向かう鬼太郎たちは霧が酷くなり、ねずみ男の車では無理なため歩くことに。

無事に家に着くと変な感じがする一行。よく見ると時計の文字盤が逆で鏡の世界だと気付いた。

 

「文字盤が逆じゃ!」

「鬼太郎!ここはひょっとすると鏡の世界やもしれん。」

「しまった!閉じ込められた!」

 

鏡爺を封印したのに鏡の世界に閉じ込められた一行。

異変に気が付くも、ねずみ男はクモコのもとにおり、雲子は雲外鏡という偉い妖怪だと言いい、雲外鏡は鬼太郎たちの妖力が消えるまで鏡の世界に閉じ込めるつもりで、鬼太郎に変わって妖怪と人間の上に君臨するつもりだと言うのだった。

 

「そうはさせないぞ!!リモコン下駄!!うわぁ!?」

 

そんな雲外鏡にリモコン下駄で攻撃する鬼太郎だが、跳ね返されてしまう。

砂かけ婆の砂攻撃も同様に自分たちに降りかかるのだった。

 

「わしの砂や鬼太郎の妖術が通じないとは雲外鏡め・・・並みの妖怪ではないな。」

 

「ふははは!鏡の中で干乾しになるが良い。ははは!」

 

 

 

 

 

その頃、夢子は一反もめんに乗って雲外鏡についての話を聞き、どうするか考えていると、鏡爺が出雲大社にある照魔鏡を使えば鬼太郎たちを救い出されると言う。

ついでに磯女の所にも寄ってくれと頼む鏡爺にはある作戦があった。

だが、放っておけば益々悪さをする雲外鏡は人々を襲い始めるだろうと急いで行動するのだった。

 

「ありがとう、鏡爺さん。私たち、皆であなたに濡れ衣を着せたのに…」

「雲外鏡は鏡妖怪の風上にも置けぬ悪い奴じゃ!放ってはおけん!・・・それに、夢子ちゃんには借りがあるからの。」

 

鏡爺は雲外鏡への憤りをあらわにした後で、夢子に対して優しい笑顔を見せた。

 

「鏡爺さんはやっぱり優しい妖怪さんね。」

「ちいっと、エッチでロリコンじゃそうだけんど。」

 

「なんじゃと!!そんなひどいことを言っておったか!!雲外鏡め!!」

 

一反木綿の一言にだいぶ切れていた鏡爺を見て、自分の失言は全て雲外鏡のせいにして心に収めた夢子であった。

 

 

 

 

 

 

出雲大社に着いた夢子たちであったが、出雲大社も破魔勢力の一角。

大樹統治時代とは違い妖怪がおいそれと入れる場所ではなかったし、常識的に小学生の夢子が出雲大社の祭殿に上がれるわけもなく。

 

鳥居の辺りで右往左往していると女の人に声を掛けられた。

 

「今時、珍しい組み合わせだね。何か困りごとかい?」

 

3人は溢れんばかりのカリスマ、背にしめ縄と御柱を背負ったすさまじい見た目に圧倒された。

 

「実は…

 

夢子はいち早く気を取り直して御柱を背負った女の人にすべてを打ち明けた。

 

「照魔鏡ねぇ・・・。ちょっと待ってな借りてきてやるよ。」

 

彼女はスタスタと出雲大社の奥に入っていく。その途中ですれ違った神官たちは一応に頭を低くしていたのが遠くからでも見えた。

 

10分もかからないうちに彼女は照魔鏡を持って来て事も無げに渡した。

 

「明後日には返して欲しいってさ。あたしももう帰るところだったんでね。じゃ、ご武運を・・・。」

 

そう言って、天高く舞い上がりどこかへ去って行った。

 

 

「どうしようかと思ったばってん。だけんど、八坂様が協力してくれて助かったわい。」

『そうじゃな。神様から武運長久を祈られたなら幸先も良いというものじゃ。個人的には八坂様より洩矢様にお会いしたかったの。』

 

それを聞いた一反木綿は小声で・・・「そういうところがロリコンて言われんの」と呟いた。

夢子は状況がつかめていなかったのか「なんだか、すごい方なのね。」と言っただけだった。

 

 

 

 

 

 

それから、出雲大社で照魔鏡を手に入れた夢子は閉じ込められたままの鬼太郎たちのもとへ。

しばらくして照魔鏡の力で雲外鏡の鏡世界を攻撃する夢子。

日が昇り照魔鏡の力が増すと鬼太郎たちは無事に助かり、雲外鏡の雲状の本体が姿を現わす。

すると雲外鏡が夢子に襲い掛かったため一反もめんに乗っていた夢子は鬼太郎と交代する。

 

「夢子ちゃん!あとは任せて!」「鬼太郎さん!頑張って!」

 

雲外鏡に立ち向かう鬼太郎は、雲外鏡の妖力光線を照魔鏡で跳ね返すと雲外鏡は地上に落下する。

そこで目玉おやじがアドバイスをし、銅鏡は塩分に弱いということで塩水をかける事にするが、こんな山奥に塩水は無い。

そんななか、ねずみ男がしょっぱければいいのだろと小便をかけるも、その程度の塩では意味はないと復活した雲外鏡は鬼太郎に襲い掛かってきた。

 

「この程度で俺は倒せんぞ!」

 

無尽蔵の海の塩水でもかけないと無理、だが山奥では無理だと諦めます。

 

片や、鏡爺が奥の手があると言っていたと夢子が呟くと、鏡爺は海で磯女と会っており、磯女の竜巻の術をお願いする。

一方で雲外鏡と戦う鬼太郎は攻撃を受け照魔鏡を崖下に。

ちゃんちゃんこでなんとか耐えていると、雨が降り出す。

これが塩水の雨で磯女による術のおかげでもあり鏡爺の奥の手であった。

 

「ぐぎゃああああああ!!」

 

そして大量の塩水を浴びた雲外鏡は弱まり退治されるのであった。

 

最後は、鬼太郎たちが鏡爺に謝ると、鏡爺は雲外鏡の能力で正しい判断ができなかっただけだと言い、全ては塩水に流そうと言います。

これには夢子も、鏡爺はやっぱり優しい妖怪ねと優しく返すのでした。

 

これに「ロリコン」とちゃちゃを入れようとした一反木綿であったが顔面に漆喰が飛んできて黙らされてしまう。一反木綿はぬりかべに文句を言ったが、鬼太郎は見ていた。夢子の手に漆喰を固める左官用具があったことを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、エヴァンジェリン、ナギに「登校地獄」の呪いをかけられ、麻帆良学園中等部に籍を置きながら警備員の仕事をすることになる。ナギにストーカーじみて付きまとった彼女にも非はあるので、麻帆良で顔を合わせた際、恋敗れたエヴァ(本人は絶対認めない)と結婚し子孫もいる大樹では少々話しづらかった。

 

「ひ、久しぶりだな。」

「え、えぇ。」

 

 

 

 



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134 昭和・異次元妖怪の大反乱 ぐわごぜとぬらりひょん

ぬらりひょん一派、西洋妖怪軍団、中国妖怪、南方妖怪、幻想郷、諏訪大社勢力、八百八狸、妖狐衆、ゲゲゲの森、天狗警察、北方の雪女勢力、各河川の河童勢力、それに加え数多の小勢力があり妖怪の勢力は情勢不安の状況にあり、ある種の戦国時代に突入していた。

 

かつて、これらの妖怪たちの多くを統治もしくは影響下に置いた存在がいた。

大樹野槌水御神、戦前日本で最も有名な国津神であったが人間社会においてはその知名度は低下しつつあり、先ごろのクーデター未遂事件で政府も積極的に存在を伏せようとしている忘れ去られつつある存在。

しかし、そんな彼女であるが妖怪たちの支持は未だに絶大であった。

 

彼女を支持する妖怪たちは日本国内外に数多く存在する。先ごろのクーデター未遂事件で決起した妖狐衆もその一つである。

 

妖狐衆、八百八狸、南方妖怪の大多数、旧航空銃翼兵団、旧大樹大社系妖精衆、河童衆や山童衆と言った大樹恩顧と呼ばれる少なくない数の妖怪・妖精たち。

安土大阪幕府、大日本合藩連合帝国、大日本皇国の妖怪軍として大樹野槌水御神の偉業を目の前で見続け、その恩恵を受けてきた彼らにとって幕府時代、連合帝国時代、皇国時代の約400年近い年月は間違いなく人間と妖怪が手と手を取り合い人間と妖怪が共に暮らす理想が現実となった時代であった。

 

そんな時代を見てきたからこそ失ったもの取り返そうとする妖怪たちは多く、敗戦国日

独伊も先進国入りを果たし、近代先進国に多い高慢な人間たちは世界中に増え、高慢な人間社会に圧された彼らは時が経つにつれ先鋭化していった。

 

 

白蔵主率いる妖狐衆の決起は具体的な一例に過ぎず。人間の横暴にしびれを切らせた妖怪たちは人間を攻撃した。

 

メセンブリーナ連合やアメリカ・イギリスの影響を受けた時の政権や関東魔法協会、政権の影響を受けた関西呪術協会などは敵対する姿勢を崩さなかったが派閥争いなどで内ゲバ状態であった。

 

白蔵主の妖狐衆の決起は人間社会内にいた天道派を巻き込んで壊滅した。

これはぬらりひょん一派にとって好機であった。

 

「ぐわごぜよ。もはや、人間たちは昔の様はならん。大樹様のお力が及ばない今、破魔勢力は我らを滅ぼすだろうよ。」

「しかし、貴様が妖怪皇帝になると言うのは・・・。」

 

ぬらりひょんは少々面倒そうにぐわごぜを説得する。

 

「貴様が妖怪の総大将になるのか?」

「い、いや…自分にそのような器量はない。だが・・・」

 

「白蔵主は先の決起失敗で失墜、刑部狸は国外、貴様は成らんとなると儂しかおらんだろうが・・・文禄と弘安の役で儂は妖怪征夷大将軍の位にあったのだぞ。大樹様をお救いした暁にはその功績を持って赦免を貴殿に取りなしていただきたい。南北朝や室町幕府の頃は意見の相違もあって大樹様に背いたこともあったが、妖怪の為の政を為そうとする思いは間違ってはいないはずだ。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「異世界の魔法使い共と国内の破魔勢力が内輪揉めをしている今しかない。この国の傀儡政府など打倒することなぞ造作もない。」

 

 

 

ぐわごぜはぬらりひょんとの会談を済ませ、自分たちの隠れ家に戻る。

そこには自分の娘のカロリーヌと2人の少女がいた。

カロリーヌはぐわごぜの姿を見つけると笑顔で駆け寄ってくる。

 

「あ!パパ!」

「お~、愛しいカロリーヌよ。よい子にしていたか。」

 

「うん。お姉ちゃんたちのいうことを、きいていいこにしてたよ。」

「お~、そうかそうか。」

 

カロリーヌを抱きとめて満面の笑みで頭を撫でるぐわごぜは顔を上げて2人の少女に視線を合わせる。ぐわごぜの視線に気が付いた2人は話しかける。

 

「貴女方は、私の切り札だ。ぬらりひょんと手を組むと決めたが、奴に主導権を渡す気はない。夢幻世界の力、存分に奮っていただきたい。」

 

天使のような羽を持った少女とメイド服を着た少女の姉妹、幻月と夢月の姉妹は妖しく嗤う。

 

「50年前より関わって以来ですね。姉さん。」

「そうね。先の戦争ではあまり活躍できなかったぶん、お役立ちしないといけないわね。ふふふふふ。悪魔は約束を守るものよ。」

 

 

 



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135 昭和・異次元妖怪大反乱 怪気象に潜むは

木枯らし吹きすさぶ秋深い頃。

 

『小笠原諸島に突如発生した台風の調査に気象観測船はるさめが向かっています。観測結果は後程お伝えします。』

 

鬼太郎たちは季節外れの台風に違和感を持って見ていた。

 

 

 

 

「な、なんだあれは!?うわぁあああ!!」

 

はるさめの調査隊は、大海蛇の妖怪に襲われ沈められてしまうのであった。

 

『人間どもめ!お前たちの時代は、もうお終いだ。これからはこの妖怪皇帝様が支配するのだ。』

 

 

 

 

 

「父さん!強い妖気を感じます!」

「こりゃ、只の台風じゃないぞ!」

 

台風の調査をすると妖気を感じ、目玉おやじがこれは怪気象だと気づきこのままでは危ないため仲間に協力してもらうことに。

 

「千年に一度起きると言われる怪気象じゃ!仲間に伝えて協力してもらおう。」

「はい!」

 

 

 

 

 

そして、怪気象に潜むのは妖怪ばかりではなかった。

 

「夢月様、悪魔軍団が到着しました。前衛は妖怪共に任せ、このまま中衛に布陣させます。」

「ご苦労です。わたしは姉さんに代わって軍団全体の統括を執ります。ベリアル、貴方はここで私の補佐をしなさい」

「っは!・・・ですが中衛の指揮は誰が?」

「ヘルマン卿あたりに取らせればいいでしょう。あれの使い魔のスライムたちもヘルマンの補佐ができる程度の知能があると聞いています。」

 

「幻月様、夢月様の御意に従います。」

 

悪魔ベリアルは恭しく頭を下げると、下級悪魔たちに担がせた神輿玉座でジュースを飲む幻月が軽く手を振って笑顔を向けた。

 

「幻月様、この度の侵攻は我ら悪魔による地上支配を目指したものなので?」

「そんなわけないでしょ?楽しそうだからに決まってるでしょ?」

「は、はぁ…左様でございますか。む、夢月様、では我々はどの程度の事をすればよいのでしょうか?」

 

「は?好きに暴れればいいのでは?好きなだけ殺していいと思うわ。」

「随分と雑なのですな。」

「人間の命なんか、なんとも思っていないのよ、私。いくら殺そうが知った事じゃないわ。手を貸せって契約だもの詳細は言ってないのだから、やり方にケチを付けられる謂れはないわ。」

 

夢月の言葉を聞いたベリアルは妖しく嗤う。

 

「それは大変結構なことで。では、その後は好きにしていいと・・・。」

「そういうこと、貴方達は地上を破壊しつくしてもいいし、人類を奴隷にしてもいい。私たちはこんな世界に興味はないから帰るけど。」

 

悪魔の軍団は怪気象に乗って日本に上陸しようとしていた。

 

 

 

 

 

しかし、人々に怪気象が迫ると伝える鬼太郎たちだが誰も話を聞いてくれない。

 

「あやしい奴め!」

 

挙句に警察官たちに追いかけ回される始末。

それを助けたのが漫画家の水木氏。

戦時中に妖怪に助けられたことがあった彼は人間と妖怪の友好のために鬼太郎を手助けした。

 

 

 

「怪気象で東京が滅びちまう!死にたくなきゃ、このサバイバルセットを買った買った!」

 

一方、怪気象が東京に近づいているなか、ねずみ男はお札付きのサバイバルセットを売って一儲け。

 

 

「怪気象って本当なの?ねずみ男さん?」

「まぁな。鬼太郎たちが大騒ぎしてたけどね。」

「大変、どうしよう。」

「なにが?ってあれ?これは・・・・・・ぎゃあああ!逃げろ~!」

 

そんなねずみ男を見かけた夢子は心配するなか、ぐわごぜら妖怪たちが現れるたので夢子とねずみ男は慌てて逃げ出した。

 

「いくら焦っても怪気象からは逃げられないぞ。あっはははは!」

 

先行して上陸していたぐわごぜ達は肩慣らしと言わんばかりに人間たちを脅かして回っていった。

 

 

 

そんななか、政府は高野山から高僧を呼び出し怪しい雲を見てもらう事に。

 

そして、逃げ惑うねずみ男たちの前にはがしゃどくろが現れる2人は地下鉄に乗って逃げることに。

 

高僧は怪しい雲を怪気象だと見抜くと妖気を出している謎の生き物を退治するしかないと助言。時の首相である田中は先のクーデター未遂事件もあり自衛隊だけでは不安に感じ、自衛隊と国内破魔組織の法力僧たちを使う事にするのだった。

 

一方、地下鉄に乗ったねずみ男たちでしたが、地下鉄にも妖怪の魔の手が・・・

 

キッーーーー!!!

地下鉄が急停車する。

ねずみ男と夢子は先頭車両まで様子を見に行こうとしたがガツンと大きな音がすると運転席が土蜘蛛に襲われ運転手が丸吞みにされていたところであった。

 

「わぁあああ!!」「逃げろ!逃げろ!」

 

乗客たちが一斉に逃げだしていた。

 

ねずみ男も夢子の手を引いて逃げようとするのだが、女の子が泣いているを見つけて助けるのでした。

 

ねずみ男ですが外に出ると今度は大海蛇が襲い掛かった。

 

そこに鬼太郎がやってくると髪の毛針で応戦、一反もめんにねずみ男たちを安全な場所へ連れて行くように言うとオカリナを使って大海蛇を翻弄し、電線に感電させて焼きはらったのだった。

 

「大海蛇の表面は油だらけで火に弱いと思ったんです。」

「さすが我が息子じゃ!」

 

 

その様子を見ているぐわごぜ。

 

「鬼太郎め、やりおるわ。だが、必ず追い詰めてやつけてやる。ははははは。」

 

 

助けた女の子を水木氏の家に連れて行った一行、途中で助けた女の子は外人なのか話しかけても返事がありませんでした。

 

自分を助けてくれたねずみ男の怪我を治療しようと夢子から消毒液のついた綿を受け取って傷の手当てをするのでした。

 

「せめて、名前が解ればいいんだけどな。」

 

そんなねずみ男に女の子は答えます。

 

「カロリーヌ。」

 

「そうかい。俺、ねずみ男ちゃん。」

「ねずみ男ちゃん?」

 

「そっ、俺、ねずみ男っての。カロリーヌちゃん」

「ねずみ男ちゃん。」

「カロリーヌちゃん。」

「ねずみ男ちゃん。」

「カロリーヌちゃん。」

 

自分の名前を呼んでもらえたねずみ男は嬉しくなって女の子の名前を呼ぶと彼女もねずみ男の名前を呼び返します。

 

女の子には優しいねずみ男はしばらくいっしょに遊んであげるのでした。

 

「案外、気が合ってるんじゃない?あのふたり。」

「これで、ねずみ男も女の子に優しかったりするからの。」

猫娘の言葉に同意する目玉おやじ。

 

そんななか、水木の妻がテレビを見るように言うとテレビには妖怪総理大臣を名乗るぐわごぜが映り、妖怪皇帝からはメッセージが発せられたのであった。

 

『馬鹿な人間どもに遠慮して生きる時代は終わった。東京を妖怪の国にするのだ。だが、我が理想を邪魔する輩がおる大悪党ゲゲゲの鬼太郎だ。』

 

東京を妖怪の世界にするという妖怪皇帝を見て、目玉おやじも妖怪皇帝を知らないとその存在を奇妙に考え。

 

「なによ!悪党はそっちじゃない!」「そうよ!」

 

そんな妖怪皇帝は、鬼太郎を大悪党だと言うと猫娘たちは怒り爆発させた。

 

 

一方で、怪気象の前には自衛隊が集結しそこには戦車が砲塔を向けていた。

そして、自衛官が整列する先頭に法術師の集団が

 

「これより、妖魔討滅の為、妖気象に入る。」

 

 

 

 

 




まえにもチョイ役で出しましたが東方旧作キャラ出しました。


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136 昭和・異次元妖怪の大反乱 最凶悪魔姉妹襲来

 

「これより、妖魔討滅の為、妖気象に入る。」

 

完全武装の自衛官たちと共に妖気象の影響下にある霧の中に入っていく法師たち。

天台宗の実働兵力である法術師たちであった。

天台宗は比叡山焼き討ちを中心に織田家の天下統一を拒み織田幕府から繋がる旧国家政府の全てに圧されていた存在であり、旧国家政府のやり方を全否定している現政府に積極的に賛同していた。逆に旧国家に優遇されていた真言宗は現政府に圧力を掛けられている。

 

戦車や装甲車をも連れだった討伐隊が妖気象に侵入して行った。

 

 

 

 

 

しばらくして、水木の家には鬼太郎を匿っているだろうと一本だたらが水木氏の家に押し入ってきた。

後ろから他の妖怪たちも続く。

 

「おのれぇ!鬼太郎!時代送りにされた恨み晴らしてくれる!」

 

さらに、蛇骨ばばあも押し入り家の中を探し出すので鬼太郎は表に出て戦うことに。

 

一番最初に乗り込んだ一本だたらは猫娘の切り裂き攻撃を受けて悶え、その後ろから夢子がゴルフクラブで滅多打ちにした。

 

「よし!ここで見てなよ!ねずみ男ちゃんのかっこいい所を見せてやるからな!さぁ!どっからでもかかってこい!」

 

ねずみ男も参戦し、邪骨婆とその手下妖怪を臭い息と屁で撃退したのだがその隙にカロリーヌが白溶裔(しろうねり)に捕まってしまいます。

鬼太郎が一反もめんに乗って追いかけるのですが、白溶裔の毒息に苦しみ見失ってしまいます。

 

しばらくして、テレビにはカロリーヌの姿が。

ぐわごぜはカロリーヌの命を救いたかったら1人で国会議事堂に来いと鬼太郎に伝えるので、ねずみ男たちには水木の家を守るように言い鬼太郎は国会議事堂へ。

その間に、仲間を呼ぶために怪気象を抜け出そうとする目玉おやじと一反もめんですが、行ったり来たりで怪気象からは出る事ができない。

 

 

そんななか、怪気象に侵入した自衛隊の討伐隊が妖怪たちを倒していると、上方から悪魔たちが襲い掛かる。

 

「うわぁあ!?応戦!!応戦しろ!」「撃て!撃ち落とせ!」

 

 

「ッ破!」

「「「グゲェエエ!?」」」

 

法術師たちが法力で悪魔たちを打ち負かす。

自衛隊の銃火器も悪魔たちに一定の効果があり、このまま悪魔たちを押し返すと思われたが・・・

 

「ふはははっはは!!この、ベリアルにそのような児戯は効かんぞ!」

 

悪魔ベリアルの登場で戦況は一気に悪魔たちの傾き、討伐隊が一方的に蹂躙され始めた。

 

 

 

 

その頃、地下から抜け出そうと下水道を通った目玉おやじはそこで自衛隊の討伐部隊が全滅したことを知り、怪気象内の悪魔たちの存在を知りなんとかしなくてはと急ぐのでした。

 

 

 

 

 

場所は変わって、国会議事堂の前では小豆とぎが鬼太郎を偵察し姿を見つけるとぐわごぜに報告した。

多くの妖怪の姿があるなか鬼太郎は1人で立ち向かいますが白溶裔(しろうねり)に捕まり妖怪たちに襲われてしまう。

そこをオカリナを使って白溶裔を切り捨て、脱出し妖怪たちと戦うなかぬりかべも現れて形成を整えるのだが、今度は自衛隊の討伐隊を倒した悪魔軍団が戻ってきたのだった。

 

「おぉ!よく戻ってきた!鬼太郎を倒してくれ!!」

 

ぐわごぜの頼みに幻月はベリアルに手で行くように示す。

 

「っは!お任せください!」

 

今度は鬼太郎たちは悪魔軍団と戦い始めたのだった。

 

 

そして、妖怪皇帝ぬらりひょんが行動を開始。

 

「朧車、しばらく怪気象作りは中止だ。悪魔どもと戦っている鬼太郎を後ろから襲ってやれ。」

「わかった。」

朧車に怪気象作りはしばらく中止と伝えると鬼太郎の後ろに朧車が現れ、鬼太郎をかばったぬりかべが石膏のように動けなくなり、ぐわごぜが鬼太郎にペンダントをぶつけ隙を作ると鬼太郎も朧車の攻撃で石膏みたいに固まってしまったのだった。

 

「やったわい、鬼太郎をやつけたぞ!」

 

「どうかしら?ぐわごぜ?悪魔たちは役に立った?」

「もちろんだ!このまま、日本全土を乗っ取ってしまおう!」

「それは楽しそうね。姉さん。」「ふふ、そうね。」

 

ぐわごぜは歓喜の声を上げ、それを幻月、夢月は不敵に笑って眺めていた。

 

 

そしてぬらりひょんは朧車に怪気象を広めるように引き続き命令、ぐわごぜは理想の国家を作るのに一歩近づいたと歓喜しますが、目を覚ましたカロリーヌがそれらを目撃。

父であるぐわごぜに鬼太郎を倒すために自分が使われたと思ったカロリーヌは悲しみ泣きふさぎ込むのであった。

 

 

 

 

 

その頃、麻帆良学園の学園長室では悪魔出現と言う事もあり、政府より援軍を出すように要請されたのだが、ベリアルやヘルマンと言った高位悪魔の存在もあって並大抵の援軍では役に立たないと言う事もあった為、学園長の近衛近右衛門はエヴァンジェリンに特例的に対処してもらおうとしたのだが、彼女の出した交換条件に頭を抱えていた。

 

「私を出すなら、大樹も連れて行きたい。」

 

エヴァンジェリンが東京の事態の対応の為に出ることを聞いた大樹はエヴァに自分も連れて行くように頼んだ。

この事態の首謀者はぬらりひょんで因縁の相手、さらに協力者は元側近ぐわごぜである。

大樹自身、何か異常事態を感じ取っていたこともあったのか。エヴァに「気になることがあるんだ。」と告げただけであったが、親友の頼みを素直に聞いてやるのはエヴァの身内に甘い性格と大樹とエヴァの長い付き合いからのものであった。

 

「嫌なら、私は行かんぞ。」

 

近右衛門は少し唸ってから観念したように応じる。

 

「わかった、わかった。じゃが、常に判を押し続けねばならんのじゃ。早く戻って来てくれよ。」

 

戦後初めて大樹は学園の外を見ることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそんななか、国会議事堂のマンホール下ではねずみ男が様子見を。

ミサイルはあと30分で発射するなか、怪気象を抜け出した目玉おやじと一反もめんは夜行さん、子泣き爺、砂かけ婆と合流し救出作戦を考えてることに!

ねずみ男はカロリーヌを助けようと下水から国会議事堂に侵入して、カロリーヌの名前を呼んで探し回っていると「ねずみ男ちゃん!」と声が聞こえ、扉を体当たりで突き破って助け出します。

そのまま逃げようとするねずみ男であったがカロリーヌが鬼太郎を助ける方法を知っていると言うのでカロリーヌに案内されて朧車のもとへ向かうのであった。

 

 

 

そして、場面は変わって国会議事堂では

 

「た、大変だ!新手だ!めちゃくちゃ強えぇ!」

 

伝令の妖怪は「ひぃいいい!!」と悲鳴を上げて議事堂の中に逃げて行った。

 

「ふははははははっはは!!久しぶりに思う存分暴れられるぞ!

 

テンション爆上げのエヴァンジェリンは雑魚妖怪や下級悪魔を蹴散らし、ベリアルを劣勢に追い込んでいた(ヘルマンは既に撤退)。

 

「大悪魔であるこの私が!?妖怪如きに!?」

 

ベリアルに止めを刺そうとエヴァが氷の槍を投げつけたのですが、その槍が圧倒的な魔力の奔流に飲み込まて消滅する。

 

「あらぁ・・・闇の福音ダーク・エヴァンジェルがこんな極東の国で何をしているのかしら?」

「?魔法使いの犬にでもなりましたか?」

 

光の奔流が消えてそこから現れたのは2人の少女。それを見たエヴァは呟く。

 

「最凶の悪魔・・・幻月、夢月。」

 

 

 

 

 



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137 昭和・異次元妖怪の大反乱 カロリーヌ

幻月、夢月姉妹の登場から場面は戻り。

 

「パパに言われてみんなの所に行ったの。そこで事故に遭って・・・。わたし、鬼太郎さんをやつける為なんて知らなかったの。」

「ん?パパって?」

 

「ぐわごぜなの。わたし・・・きらい?」

 

朧車の涙を使えば元に戻るというカロリーヌに、彼女が詳しすぎることを不思議がるねずみ男はここでカロリーヌがぐわごぜの娘だと知るのでした。そして、ねずみ男は彼女の涙を払ってやって。

 

「カロリーヌちゃんはカロリーヌちゃんさ。」

 

 

 

 

 

 

そして、ペンダントを渡され、朧車の涙を手に入れようとねずみ男が自慢のガスをぶっかけようと近づきますが転んでバレてしまう。

カロリーヌの協力で涙を手に入れることに成功したのですが、朧車に体当たりを受けてたカロリーヌは壁に叩き付けられてしまうのでした。

 

「ねずみ男ちゃん。パパを許してあげて・・・本当は優しいパパなの。」

「許す!許す!なんだって許しちゃうっての!だから、しっかりしてよ。カロリーヌちゃん。」

 

ねずみ男がカロリーヌを助けて逃げ出しますが思った以上に重傷のカロリーヌ。

 

「それに鬼太郎さんにごめんなさいって…。」

「なぁに、あいつは大丈夫だよ。」

 

「ねずみ男ちゃんに会えてよかった。もし、妖怪に生まれ変わったらお嫁さんにしてくれる?」

「ああ!!もちろん!決まってるじゃないか!!」

「うれしい・・・。」

 

そのまま息絶えてしまうのでした。

 

「な!?そんな!!冗談だろ!!カロリーヌちゃん!目を開けてごらんよ!!お願いだからよぉ!!やだよ!こんなの嫌だよ!こんなの嫌だぁ!!」

 

泣き叫ぶねずみ男。カロリーヌの亡骸を傍の腰掛に横たえた。

怒りも高まり、まずは鬼太郎を助けるために妖怪たちをばったばったと殴って鬼太郎のもとに向かうねずみ男。

 

勢いのまま、妖怪皇帝に向かうねずみ男の前にぐわごぜが立ちふさがる。

 

「ぐわごぜ!お前は馬鹿だ!バカ親父だ!カロリーヌちゃんはなぁ!カロリーヌちゃんは朧車に殺された。」

「な!?なぁ!?まさか!」

「なにが、まさかだ!バカヤロー!!」

 

ぐわごぜは愕然として膝をついた。

 

「わ、わたしはただ・・・娘にあの頃の様な時代に生きて欲しくて・・・・・・。あの子の為に・・・二人で幸せに暮らしたかっただけなのに・・・。わたしはどこで間違えてしまったのだ。」

 

カロリーヌが亡くなったことをぐわごぜに伝え最後までパパを許してあげてと言っていたことを伝えカロリーヌの優しさに気付かせたのでした。

 

『娘一人に騒がしい。国の為だ我慢せい。』

 

ぬらりひょんの言葉を聞いたぐわごぜは激高してぬらりひょんに殴り掛かかろうとした。

 

『ふん、馬鹿ものめ。取り押さえ、引っ立てろ。』

 

他の妖怪たちに組み伏せられ、国会議事堂の中に連れて行かれてしまった。

ぐわごぜの行動でねずみ男から注目が逸れた。

 

その隙に、朧車の涙の入った入れ物を、鬼太郎とぬりかべに投げつけて元に戻すねずみ男。

地下の朧車が怪気象の犯人だとねずみ男から知った鬼太郎はさっそく退治しに行こうとすると地震が起こり、地下から妖怪戦車が現れる。

これは夜行さんの発明で輪入道と野槌が合わさった戦車だ。

 

そこに、辻神が現れ議事堂の頂上へ逃げるぬらりひょん。

野槌を使った妖怪戦車はがしゃどくろや土蜘蛛を吸い妖怪たちを次々と吸い辺り一面を一掃。しかし、妖怪軍団の次に現れた悪魔軍団のベリアルの雷撃で妖怪戦車が壊されてしまう。

 

「東洋の妖怪など恐れるほどではないわ!この悪魔ベリアルが捻りつぶしてやる!」

 

「み、みんな!」

『よそ見などしてられるのか!鬼太郎。』

 

ぬらりひょんの剣撃は鬼太郎と拮抗していた。

 

 

「こちらは任せてもらおうか!来たれ氷精!爆ぜよ風精!弾けよ凍れる息吹!!氷爆!!ニウィス・カースズ!!」

 

「「「ぐぎゃああああああ!!」」」

 

「っ!?おのれ!吸血鬼の小娘が!!このベリアルが相手になってやろう!」

 

だが、そんなベリアルであったが悪魔軍団を蹴散らしながら現れたエヴァンジェリンに逆に圧倒されてしまう。

 

「大悪魔であるこの私が!?妖怪如きに!?」

 

 

そして、鬼太郎とぬらりひょんは戦いの最中。

 

「人間よりも優れている妖怪が人間世界を支配するためだ。」

 

と、言い。それを聞いた鬼太郎は

 

「妖怪には妖怪の、人間には人間のいいところがある!だから、助け合って生きていくべきだ!」

 

と返したのでした。

 

「っぐ!」「うぅ!」

 

そして、その直後、眩いばかりの光量の魔力の光でぬらりひょんと鬼太郎は目を充てた。

 

「あら、魔法使いのパシリにされた吸血鬼に、極東の雑兵妖怪じゃない。」

 

鬼太郎の攻撃で傷付いたぬらりひょんはそのまま国会議事堂のてっぺんから幻月、夢月姉妹に声を掛ける。

 

『ちょうど良いところに・・・。おぬしら、ぐわごぜではなく儂に付けばよい!』

 

「それは契約違反なのよ?でも、ぐわごぜの契約通り暴れてあげるから。」

 

『まぁ良い。だが、あの吸血鬼の相手はしてくれよ。』

 

 

 

 

 

 

その頃、議事堂内では朧車を倒した大樹は議事堂の廊下でカロリーヌの亡骸を見つける。

 

「この子は・・・間に合えばいいけど。」

 

カロリーヌの亡骸に手を添えて力を注ぐ大樹。

 

「よかった。一命は取り留めたみたい。」

 

大樹が一息ついているとぐわごぜの声が聞こえ、他の妖怪に連行されているぐわごぜの姿であった。

 

大樹はぐわごぜを捕らえていた妖怪たちを組み伏せた大樹はぐわごぜにどういう事か声を掛け説明させた。

 

「ぐわごぜ・・・娘に会いたいですか。」

「はい、会いたいです!せめて、もう一目!!」

「では、鬼太郎さんを助けて、他の皆を止めなくてはなりませんね。」

「そ、それはどういう・・・!?」

 

泣き腫らし、大樹に縋るぐわごぜの後ろからスッと姿を見せるカロリーヌ。

 

「か、カロリーヌ!!た、大樹様!!貴女がお救いくださったのですね!!ありがとうございます!ありがとうございます!!」

 

大樹はカロリーヌの背を優しく押してやる。

 

「もういいのパパ。大樹様と行って、皆を助けてきてあげて。」

「ああ、わかった。」

娘と話を終えたぐわごぜは覚悟を固め、事務方に廻ってから触れもしていなかった錫杖を手に取って、大樹の前を歩きだす。

 

「大樹様、ご案内します。」

「よしなに。」

 

 

 

テクニックもクソもない純粋な魔力の奔流が光の柱となってエヴァを狙い、その隙を縫って氷撃を放つ。

 

「っく」

 

「あらあら?二つ名持ちがこの程度なんてね。闇の福音の二つ名が泣いてるわよ。」

「最強妖怪の一角である吸血鬼がこの程度とは・・・。」

 

「うるさい!二つ名も持ちで神格級の悪魔が言えたことか!!」

 

 

 

次第に押されていくエヴァ。

まだか!?大樹!!

 

焦りが少し見え始じめ、追い詰められてしまった。

 

「っく!?」

 

「さて、止めですよ。」

夢月の言葉を遮る様にぐわごぜの声が響く。

駆け足でここまで来たぐわごぜは少々息を切らせながらも声を出した。

 

「契約違反だ!!」

 

幻月がぐわごぜを睨みつける。

 

「契約違反ですって?私達に?聞き捨てならないわね。」

 

「け、契約書には私と娘の為に暴れろと言った。だが、儂の為にもなっていないし、一度は娘の命を失う羽目にもなった。契約違反だろう?」

 

「それは、解釈の違いでは?」

夢月の言葉を遮って幻月、夢月に大樹が言葉を挟む。

 

「それに私との客将としての契約もある。二重契約は禁止ではないが悪魔業界では褒められたことではないのでしょう?」

 

「そ、それは!!」

夢月を遮って幻月は手を広げて降参のポーズをとる。

 

「参ったね。今回は手を引いてあげましょう。契約者が契約の不履行を望むんですもの仕方ないわね。それに大樹様は幽香から良くしてと頼まれてたし大目に見るわよ。どうせ、この世界に執着がある訳じゃないし、夢月、ベリアル帰るわよ。」

「わかったわ、姉さん。」

「っは!幻月様!」

 

悪魔たちが去り、妖怪皇帝のぬらりひょんに注目が集まった時にはぬらりひょんは既に姿は無く、その名の通りひょんと消えていたのであった。

 

『この勝負は暫し預けておこう。ふははははっは。』

 

 

 



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138 昭和 妖怪諸勢力動向

妖怪皇帝ぬらりひょんの野望は挫かれた。なお妖怪皇帝は自称である。

 

この蜂起に参加した妖怪の殆どはぬらりひょん派の過激派妖怪であったが、ぐわごぜの配下も加わっていた。それ故にこの蜂起は日本妖怪の最大派閥旧大樹派の一斉蜂起の可能性も秘めていた危険なものであった。

 

 

大樹は、これに際してぐわごぜの派閥の解散を命じてお茶を濁す形での幕引きを図った。

 

実際、主戦力はぬらりひょん派であった。悪魔姉妹と自身の関係には口をつぐんで、自衛隊も破魔組織も歯が立たなかった悪魔を撃退した功績を持ってして幕を引かせることとなった。

 

この様な形での幕引きが成されねば、旧大樹派の諸勢力は有形無形の弾圧を受けることとなり壊滅してしまう事は容易に想像できた。旧大樹派の一部は中堅国以上の戦力を保有している者たちも多く下手に弾圧すると暴発する恐れもあったのだ。

 

また、本来ならばこういった事象には魔法世界が介入してきそうなものであったが魔法世界における『大分烈戦争』が終戦して日が浅く、国内と言うよりも魔法世界全体の混乱のため地球世界に介入できなかったことも大きい。

 

ただ、この行為は旧大樹派においては比較的小派閥であったぐわごぜの派閥とは言え解体させられた事実は旧大樹派の中で衝撃を持って受け入れられた。

 

 

桃の園。太平洋某所、暗礁海域に存在する撃沈された戦艦等の残骸を中心に、暗礁海域に漂う様々なジャンクを曳航して建造されたインペリアル・タイジュの軍事拠点である。

 

「刑部様!!大樹様が!ぐわごぜの旧関東鎮台の解体命令を出しました!!こ、これは!?」

「これは策だ。大樹様の策だ。ぐわごぜの失策の被害が我らに及ばぬようにするためのな」。

 

動揺する団三郎狸に刑部狸は諫める様に言う。

 

「幻想郷に侵攻した際に入手した博麗大結界の技術の一部を流用し、人魚族の竜宮同様の隠匿拠点である桃の園。アメリカ・イギリスはおろか魔法使い共にも見つけられまい。」

 

刑部狸はぐわごぜの組織の解体にはさして興味を示さなかった。

 

「玄蕃狸、例の件はどうなのだ?かの御方らと接触できたのか?」

「はい。潜伏している先遣隊の一部と接触しています。彼らも警戒しているようであまり進展は・・・。」

 

玄蕃狸は刑部狸の問いに答えた。それを聞いた刑部狸は落ち着いた声色でなるほどと答えた。そして、刑部狸は少しだけ暗い表情を見せた。

 

「そうか。ゆっくりでも進んでいるのなら良い。事は慎重に進めねばならん。ところで南洋の連中はどうだ。傀儡政府がちょっかい出して無ければよいが、普段は大人しいがバルル島が関わると一気に火が付く。我々のような大樹様の臣下は足並みを揃えること必定よぉ。」

 

刑部狸は天井を仰ぎ見て呟く。

 

「皇軍の装備と艦艇を持ち出して継戦を掲げて40年ばかり・・・。時間が我らの敵になっている。忍耐の時ではあるがこのままでは何もしないで滅んでしまう。我らはそうはならん、40年前に勝利するその日まで武器は下ろさんと誓った。だが、その武器が錆び付き始めている。我々に・・・残された選択肢は少ない・・・。だが成し遂げてみせる。為さねばならぬのだ。」

 

インペリアル・タイジュの妖怪たちの戦意は未だに高く、非常に精錬された戦力のままであった。

 

 

 

日本国畿内南部某所、妖狐衆。

 

「旧鎮台の中でぐわごぜの組織が最も小さい。元々の勢力としてもぐわごぜの勢力は生粋の文治派だ。武断派や我らの様な両道派を残すための措置であろう。妖狐衆の幹部たちにもそう言って落ち着かせるように。」

「わかりました。臨時幹部会でそのように発しましょう。ところで、こちらの書類を・・・」

「ん?なになに・・・。」

 

白蔵主の言葉に宗旦狐はおちついた様子で応じ、妖狐衆の再編計画が書かれた書類を提出した。

 

 

中国某所

 

「首都の官庁街を占領し建国宣言、悪い手ではなかったが、惜しかったがね。首都占領して建国宣言は不確実だ。奴にしてはこじんまりとしている。やるならもっと大規模にやるべきだろう。そんなことより・・・」

 

ぬらりひょんたちの決起に中国妖怪の首領チーはそう評した。

そして、周りの部下たちを見回してから、今度は不機嫌さと苛立ちを隠そうともしないで正面の人物を睨みつけた。

その男の座る前の執務机には幾つもの生首が並んでいた。

 

「全く、この紅衛兵の残党はわたしの領地を荒らしまわってくれたぞ。腐って手足は完全に除去しないとこうやって本体の害になる。大体君は3回もそう言った恩情みたいない甘い態度で失脚したではないか。だから、こういったダメな連中は早々に始末しろと言ったはずだ。」

 

チーの怒りに触れ萎縮した男こそ中華人民共和国最高指導者鄧小平であった。

 

「も、申し訳ありません。チー様、早急に排除します。」

 

「それに、愚かな学生どもが言論の自由だ経済の自由化だなんだと騒いでいるがあれも何とかしてほしい。耳触りで喧しい。」

 

「っは!あぁ言った輩には徹底的に対処しますのでご安心を!」

 

「徹底的にとはどのような対処なんだ?」

鄧小平の返答に対してチーは疑いの視線を向けつつ問いただす。

 

「え、警察による徹底的な対応を・・・。」

「相当数のデモが予想されるようだが警察だけで大丈夫なのか?」

 

冷や汗を流す鄧小平。

 

「場合によっては、じ、人民解放軍を・・・ど、動員するつもりです。」

 

最後の方は尻つぼみな声ではあったがチーは納得した様であった。

 

「それなら安心だ。そうしてくれるならな。わたしも役立たずに甘い汁を吸わせてやるつもりはないのでな。」

 

チーは部下たちを連れて山西省の本拠に戻って行った。

鄧小平はすぐに受話器を取って各部署に連絡を入れ始める。

 

「学生たちへの弾圧は徹底的に、穏健派の趙紫陽は邪魔だ。時機に失脚するように仕立てるんだ。山西省の楽園にお住いの御方がそれを望んでいる。意味は・・・わかるな。」

 

 

その一方でチーは部下の妖怪に指示を出す。

「鄧小平もそろそろ終いだな。次を決めておくか。それとお前、妖怪反物用の丸薬を作りたいのだが、材料の健康な人間の臓器を集める手立てを用意してくれ。これは急ぎではないが抜かるなよ。」

 

1989年6月4日天安門の事件より1年程前の話であった。

 

 

 

人間の愚かしさを凝縮したような国、アメリカ合衆国は軍事・経済において世界第一位を誇る国家であった。

その実情は不安定でありケネディ大統領暗殺事件及びアポロ計画が齎した月の都との潜在的な敵対関係、海外大樹残党勢力との終わりのない戦闘。そして、ベトナム戦争以後表面化する厭戦論や人種問題。その後もイラン・イラク戦争と新たな戦争を行っている。

一見アグレッシブに見えるが勢いが止まらなくなっている。アメリカは裏の勢力が日々蔓延っていた。例えば、この西洋妖怪軍団の首領バック・ベアードなどは工業地帯のスモッグや発電所の電力を力に変えるすべを得て妖怪としての力をさらに増していたし、魔法世界特にメガロメセンブリアの勢力は既存の先住民系の裏勢力が戦後壊滅していることもあり魔法学校の創設や民兵組織を置くなど幅を利かせていた。また、裏深くまで掘り下げなくても右派左派カルトのミリシア(非正規軍)が存在する時点でカオスが伺える。

 

 

通信機を用いて隠神刑部狸と連絡を取るベアード。

 

「刑部殿、別に貴殿と争う気はない。鬼界ヶ島までの航路上の保証をしてくれればいい。さすがに超弩級戦艦と戦う気はない。」

通信機の向こう側では刑部が渋っているのが解る。

「もちろん、貴殿に損するようなことはない。さとりは我が娘で大樹様の孫娘、さとりを前妖怪の頂点に据えるのはおかしな話ではないだろう?無論、大樹様をお助けする際には貴殿らに兵を貸すつもりだし、陽動もしてやるつもりだ。」

交渉は難航してるが進んでいるようで少しは進展しているのが伺える。

「いや、鬼界ヶ島のあれに関しての危惧はわかるが、不適切な存在が手にしてしまうよりは我々の誰かが手にしてしまった方がいいに決まっているではないか。私やさとりが不適切とでもいうのかね。」

 

 

「ふむ、ははっ。そうか・・・それならよいのだ。この礼は何れ・・・。」

 

暫く交渉が続きベアードの満足いく結果が得られたようで通信が切れる。

 

 

「どうだったのです?ベアード様?」

ベアードの横で秘書官然として控えていたカミーラが尋ねる。

 

「ふむ、インペリアル・タイジュは黙認してくれるそうだ。ただ、彼らの互助関係勢力の南洋妖怪には手を出すなと言われたよ。それと、さとりの旧地獄管理者就任の祝いの言葉ももらった。とにかく、鬼界ヶ島への道すがらの邪魔者はいない。兵力を集めよ。」

 

 

ベアードは旧大樹勢力に一定の気遣いと警戒はしていたものの、鬼界ヶ島に眠る地獄の鍵を手に入れようと硬軟様々な手段を用いて行動を始めていた。(西洋妖怪軍団と旧大樹勢力は旧同盟勢力。大樹政権崩壊と共に同盟関係は事実上白紙化しているが、一定の交渉窓口を維持する程度には友好的。)また、ベアードは初代ドラキュラ公爵に密命を託し、地獄の門を開けようとしていた。また、その工作によって古明地さとりが地獄から切り離された旧地獄地域の管理者に着き、ベアードは着々と計画を進めていた。

 

旧大樹派の残党や海外の妖怪勢力の多くは冷静に受け止めて対処したが、一部の暴走は止められなかった。

 

 

暴走や瓦解が起こったのは旧東国鎮台たんたん坊の治める派閥であった。

血の気の多く、攻撃的な妖怪が多かった東国鎮台ではたんたん坊が抑止に動いたが、一部が暴発してしまう。

東国鎮台のたんたん坊が鎮台の精力を傾けて建設した妖怪城。その妖怪城の試作版ともいえる小妖怪城、あるいは妖怪砦を配下の一人であった目目連が乗っ取りそのまま、ぬらりひょんに寝返ったのだ。

 

 

 

 



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139 昭和 目目連の乱

「少々使い古された策ではあるが、手堅い策だ。これで鬼太郎をやつけるのだ。」

「はい、わかりました。ぬらりひょん様。」

 

ぬらりひょんが朱の盆と鬼太郎をやっつける作戦の話し合いをするとすぐに朱の盆が行動に移す。

学校終わり、帰宅する夢子の前に朱の盆が現れ驚かせるが夢子は驚かない。

 

「あれぇ?驚かないの?」

「私はもう、そんなことでは驚いたりしません!」

「ごめん、ごめん。これが俺の挨拶なんだ。」

「鬼太郎さんのお仲間の妖怪さんでしょ?」

「う、うん!そうなんだ。実は頼まれごとでさぁ。」

 

鬼太郎の仲間の妖怪だと思った夢子はすんなりと鬼太郎の頼まれごとと聞いて廃屋に向うのでした。

そこで電気を付けようとすると明るくするでないと声が聞こえる…

 

「明るくするんじゃない!」

「きゃあああ!?」

 

それは妖怪目目連の声で目目連は夢子に襲いかかるのでした。

 

 

 

しばらくして夢子の弟の星郎が鬼太郎の家に。

夢子は預かっているという手紙を持ってきて、霊園まで来いという内容とヨヨヨの妖怪と言うふざけた偽名の相手からだと確認。

学校から帰ったら天童家のポストに入っていたと言われ鬼太郎は急いで霊園に向かいます。

そこで、星郎が夢子姉ちゃんと叫んでいると鬼太郎は妖気を察知し、地震が起こる。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ!と言う音と共に

 

霊園に妖怪城がそびえ立ちます。

 

「ハハハッハハハ!」

 

さらに、姿を現わすぬらりひょん。

 

「約束通り来てやったぞ!早く夢子ちゃんを返すんだ!」

 

夢子も居るのを見ると夢子を返すように鬼太郎は言います。

 

「なら、ここまで取りに来い!」

 

ぬらりひょんは悪事を繰り返す妖怪で、その都度、鬼太郎に邪魔をされるので怨んでいる。

油断できない鬼太郎だが、すぐに妖怪城に突入。

 

一方で夢子が攫われたと言う事を知ったねずみ男は夢子の危険を知り別のルートで侵入。

 

『よく来たな。せいぜい歓迎してやる。』

 

城に入った鬼太郎はというと、扉が閉まり妖怪の声を耳にする。

だが、姿は見えない…。

さらに、階段を登ると朱の盆が待ち受けているためオカリナ笛で立ち向かい、階段の下に落とした。

ねずみ男も城の中を探し回ると怪しげな部屋を見つける。

 

「うわわわわわわ!?」

 

だが、中には目目連が待ち受けていており服に取り憑かれるため服を脱いで逃走します。

 

その後も鬼太郎は階段を登り続けると上層部に到着。

 

「ふははははは、よく来たもんだ。だが、お前もここまでだ!」

 

そこで妖怪の声が聞こえると扉や柱が襲ってきて壁中に目が現れるのでした。

それを、目玉おやじが妖怪目目連だと説明し、物に取り憑いて自由自在に物を操る妖怪ともいいます。

 

「これは、目目連じゃ!だが、この城の主は別にいたはずじゃ!」

 

もうすっかり妖怪城は目目連の巣のようで、タンスが飛んできたり城全体が生きているようだと躊躇う鬼太郎。

 

一方で、夢子は捕らえられたままのところ、朱の盆が料理を運んできます。

夢子は鬼太郎にやられた朱の盆の酷い傷を見ると食事の為に縄を解かれたのを切欠に朱の盆に絆創膏を貼ります。

朱の盆は、ぬらりひょんに「役立たずめ!」と怒鳴られたと話し、人を驚かすことしかできないのがコンプレックスだとも話をするのでした。

 

そんななか、鬼太郎は目目連の攻撃から逃げ続けておりオカリナ笛で仲間の妖怪を呼ぶが、そしてしばらく経つと城の城門を破壊する音が聞こえてきた。

 

「お前ら!突っ込めぇ!!謀反妖目目連を血祭りに上げろ!!」

 

カマイタチの音頭でなだれ込んで来る沢山の妖怪たち。

彼らは東国鎮台の妖怪たちであり、たんたん坊の許可なく城を動かして好き勝手やった目目連を倒そうと乗り込んできたのでした。

 

「くそ!予想より早すぎる!!」

 

目目連は驚き声を上げる。

妖怪城の迎撃で応戦するが妖怪たちは仕掛けを破壊し暴れまわっていた。

 

「なんだお前!!目目連の仲間か!?」

「ち、違うよ!!僕は夢子ちゃんを助けに来たんだ!」

「夢子?誰だそりゃ?いいから、邪魔しないで出ってくれ!目目連の行動にたんたん坊様はお怒りなんだ!!」

「うわぁ、ちょっと待ってくれ。」

 

敵ではない東国鎮台の妖怪たちと戦うわけにもいかず、外に出て仲間の妖怪を待つことにする鬼太郎。

そこで目玉おやじは目目連の弱点を鬼太郎にこっそり教えます。

 

それから、鬼太郎は屋敷の外へ出ると、砂かけ婆、子泣き爺、一反もめん、ねこ娘、ぬりかべに用意してもらいたいものがあると伝えます。

その頃、夢子は朱の盆の話を聞き続けて慰めます。

 

「この世の中に、要らない妖怪なんていないわ。私、鬼太郎さんに出会って分かったのよ。」

「君はなんて優しいんだ!よし!決めた!君は逃げるんだ!案内するよ!」

 

それから、夢子の優しさに感謝する朱の盆は逃げ道を案内することに。

 

しかし妖怪城内は東国鎮台の妖怪たちと目目連の目や妖怪城の絡繰りが激しく争っていた。

妖怪たちが目目連の目を一つ一つ追い詰めて潰していた。文字通り虱潰しだ。

 

夢子を探し続けるねずみ男に遭遇するとレディーの前で裸のねずみ男に失礼だぞと言って叩きながら出口に案内する朱の盆。

 

「もう行きな。俺も逃げるよ。あれじゃあ、ぬらりひょん様の計画は失敗だ。」

 

それから再び乱戦状態の妖怪城に鬼太郎たちが屋敷に突入。

虫眼鏡を手に持っており光を当てると目目連が苦しみだします。

さらに、夢子が瞳に当てるのが効果があると朱の盆に聞いた事を話すと次々に光を当てていく鬼太郎たち。

目目連を一箇所に追いやると遅れてやってきた一反もめんが妖怪カメラを鬼太郎に渡しカメラのシャッターを切るとストロボが目目連を小さな光の粒にして妖怪カメラに吸い取り、最後は妖怪フィルムに焼き付けます。

 

東国鎮台の妖怪たちも、鬼太郎の活躍に声援を送る。

 

そうなれば、後はぬらりひょんを追い詰めるだけ。

ぬらりひょんは妖怪城の屋根に逃げるため鬼太郎も追いかけると、ぬらりひょんは仕込み杖を使い鬼太郎はオカリナ笛を使っての一騎打ちに!!

 

「鬼太郎!ここで貴様を始末するまでよ!そりゃ!」

「はぁ!!」

 

その時、妖怪城全体が揺れる。

「な!?」「!?」

「ぬらりひょおおおおおん!!貴様っ!!よくも舐めた真似を!!」

 

衝撃で鬼太郎の手からオカリナ笛が転がり落ち追い込まれるてしまう。

 

「隙あり!」

「そうはいくか!」

 

しかし、鬼太郎はちゃんちゃんこでぬらりひょんの視覚を奪い落下させます。

たんたん坊の突進で妖怪城崩れ始めた。

 

「許さぁあああああん!!」

 

怒り狂うたんたん坊は続けざまに妖怪城(実は妖怪城を模した砦)に体当たりを続け破壊を続ける。

 

「みんな、逃げるんだ!」

 

地面に沈みギリギリで鬼太郎は脱出し、みんなも逃げ切ることに。

なお、東国鎮台の妖怪たちは既に外に退避している。

 

「出て来い!ぬらりひょおおおん!!お前ら!!草の根分けて探し出せ!」

 

雄たけびを上げるたんたん坊に目を付けられる前に、そろりそろりと後にする鬼太郎たち。

 

失敗したと怒るぬらりひょんも共に脱出して逃げてますが、朱の盆は天使と出会ってしまったと夢子のことを想いながら惚れ惚れするのでした。

最後に、夢子も朱の盆の事がなんだか可哀想と呟き、朱の盆にもっと自信を持つのよ、貴方はダメな妖怪じゃないからと密かにエールを送るのでした。

 

 

 

 

 

 



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140 昭和 ミシャグジ手長足長

山谷の開発が進む地で手長足長の封印が解けてしまう。

封印が解けた手長足長は、封じられた恨みを晴らそうと暴れまわり始めたのでした。

 

鬼太郎の家で鬼太郎の弟子希望のシーサーが鍛えていると夢子がやって来て、鬼太郎に会うとショーを見に行こうと誘う。

 

「ね。行ってみましょうよ。」

「おもしろそうじゃないですか。」

 

夢子とシーサーに誘われた鬼太郎は猫娘や砂かけ婆たちも誘って行くことにするのでした。

 

ショーはタコタコ大変化というもので、ねずみ男から貰ったチケットだった。

すぐにみんなで覗きに行く事にすると、世にも珍しい犬ダコ、猫ダコが芝居をするということで大盛況。

夢子たちが会場へ入ると、犬ダコ、猫ダコ、豚ダコ、猿ダコのショーが始まり、まるで本物のタコそのもの。

 

「どこで、あんなのを手に入れたんだ?」

「いやな。海に打ち上げられてるのを引っ張って来ただけだよ。元手はタダだし、まぁどこぞの妖怪が悪さしてるんだろうけど。知ったこっちゃねぇしな。儲かったってもんだ。やましい事は何一つねぇってこった。帰った帰った。」

 

ねずみ男はなんにもやましい事はしていないと言うため鬼太郎は直接タコに聞く事にします。

 

それから楽屋の変なタコに話を聞くと、海に妖怪が出た事を知る。

脚の長いやつが手の長いのを背負っていると言われ、それは手長足長だと言う目玉おやじ。

足長という恐ろしく強いやつが手長という妖力使いを背負っているもので、手長足長は300年前に封じ込められたはずだとも言う。

 

しばらくして、鬼太郎たちは手長足長が出たという海岸に向かうと海岸から声が。

そこには奇妙なタコが沢山いて鬼太郎に助けを求めるのでした。

タコたちから話を聞くと、先祖が倒した手長足長が復讐しに来た事を知る。

手長足長を封じこめたのは大ダコで、目玉おやじが聞いた話では手長足長が海の生き物に悪さばっかりするのでみんなが海に住む妖怪・大ダコに頼んで二度と悪さができないように浜に封じ込めたらしい。

しかし、大ダコはもう歳で昔みたいに妖力が使えず海の底を歩くのでやっとだそう。

 

そんななか、手長足長が姿を見せると、目玉おやじを捕らえてしまう。

 

「わしらの邪魔をしようとはどういうつもりだ。」

「ただじゃおかないぞ!」

 

タコたちを助けようと立ち向かう鬼太郎を同じ妖怪だと知る手長足長は、なんでタコたちの味方をするのかと言う。

すると鬼太郎はただの弱いものいじめだと言うと弱いものいじめを辞めないなら僕が相手だとリモコン下駄で攻撃。

ところが足長の足に捕まり何度も蹴られ蹴り飛ばされてしまう。

そこでシーサーがリモコン下駄を借りて立ち向かうもののあっさりやられてしまう。

 

それから手長足長は夢子、ねこ娘、砂かけ婆、目玉おやじたちをタコにしてしまうのでした。

 

「タコどもの仕置きが済んだら、次は人間だ。」

「そう言えば、社を壊したのは人間だったな。」

「おうよ!人間たちにバツを与えてやらにゃならんだろう?」

「そうだな。やっちまうか!」

 

そう言って、手長足長は戻って行った。

 

 

タコにされた夢子たちは「こんな格好じゃ恥ずかしくて明日から学校に行けないわ」と涙す。

鬼太郎が必ず仇をとって元の姿に戻すと言うものの、目玉おやじはそう簡単に倒せる相手では無いと言う。

だが、確実に奴を倒せる方法があると言って目玉おやじたちは諏訪大社へ向かう。

 

「手長足長は今でこそ妖怪扱いじゃが、遥か大昔は諏訪を支配していた神の一柱でな。つまるところ手長足長の主人に連れてってもらおうと言う事じゃ。」

 

諏訪大社の敷地に入った3人は、緑髪の巫女さんに取次ぎを頼んで暫くすると髪型は金髪のショートボブ。青と白を基調とし、服の各所に鳥獣戯画の蛙が描かれている「壺装束」と呼ばれる服装を着て、足には白のニーソックスを履き、市女笠(いちめがさ)に目玉が二つ付いた特殊な帽子を被った少女・・・と言うよりは幼女。見た目だけなら夢子より幼く見える女の子が出てきた。

 

「俺たちは洩矢様を待ってるんだ。君みたいな女の子じゃないぞ?」

 

シーサーがそう言って幼女を追い払おうとすると

 

「こら!シーサー!失礼を言うんじゃない!この方が洩矢諏訪ノ神様じゃ!」

「えー!?」「そ、そうなんですか?」

 

目玉おやじに叱られた二人は驚きの声を上げると、諏訪子は笑って許してくれた。

 

「まぁ、この容姿じゃ、そう言う反応をされることは少なくないさね。目玉の親父もそんなに怒らなくていいよ。若い妖怪は皆そんな感じさ。」

 

「そう言ってくれると助かりますわい。」

「それはそうと、目玉の親父?何か用事があって来たんだろう?」

「そうじゃったわい。洩矢様・・・実はかくかくしかじか・・・

 

一方、夢子たちは泣き続けるため一反もめんが自らをハンカチがわりにします。

しばらくして、諏訪子を連れて戻ってきた鬼太郎たち。

 

 

「こらぁ!!手長足長!!市井の民や動物たちに迷惑を掛けて!!」

「「ひぇ!?」」

 

諏訪子の声を聞いた手長足長は一気に背筋をピンとさせると、その場で手足を地べたに着けて土下座を始めます。

 

「「で、ですが洩矢様ぁ…社が壊されてしまいました。」」

「あんたは昔っから人様に迷惑を掛ける。大物忌神にも迷惑を掛けて気を使わせたこともあるんだから大人しくしなさいよ。結構な神様でしょうに・・・壱岐の一の宮なり、うちにあるあんた達の社に引っ込めばいいじゃないの。」

 

諏訪子に叱られた手長足長はシュンとして縮こまり、それを見た諏訪子は出来の悪い部下を諭してやる。

 

「あんまり敬ってくれないからって暴れ回る時代じゃないのよ。その辺の対策講座は神奈子がやってるからあんた達も勉強しなさいな。」

「「はい。」」

「じゃあ、帰るからね。」

 

そう言って、諏訪子は手長足長を連れて帰ろうとするのでしたが、その前に・・・

 

「おっと、忘れるところだった。あんた達、あのタコの呪いを解いてやりな。」

「「わかりました。」」

 

みんな元どおりになり大団円。

 

「悪かったね。みんな、あたしの家臣がやんちゃしちゃって…、今回は大目に見て頂戴な。それと、そこの半妖怪・・・人間社会に溶け込もうとするのは大変結構だけど、あくどい商売は程ほどにね。」

「ひぃいいいいいいい!!すいませんでしたぁ!!」

 

木の影で様子を伺っていたねずみ男に祟り神独特の怖い視線を送って注意すると、そのまま去って行くのでした。

 

 

 

 



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141 昭和 鬼道衆!!鬼巫女の鬼太郎抹殺作戦!!

 

半魚人と人魚の王族の結婚式。

地球海洋世界における水棲妖怪勢力図における主流派人魚族と魚人族である。その他分類に海坊主やスキュラ等があげられる。船幽霊は幽霊なので妖怪に分類するかは微妙である。

また、河川系主流派は河童である。ちなみに西洋の河川主流派はケルピーなどの妖精系である。さらに言えば河川系の人魚もいる。

 

とにかく、水棲妖怪の主流である人魚族と魚人族の王族同士の婚姻は水棲妖怪全体の一体化が進むと思われる。大樹統治時代においても妖怪海軍水軍の中核であったが広い分布もあり勢力としては纏まっているとは言えなかったが、この婚姻で一大勢力になる可能性が出てきたとも言える。

 

人魚と半魚人の王族の結婚式では、大樹野槌水御神や旧大樹派大妖怪の祝電もあった。

出席者としては最近名を上げている鬼太郎ファミリーとその友人の人間である夢子が出席していた。

 

「半魚人さん、わかさぎ姫さんを大切にしてあげてくださいね。」

 

わかさぎ姫と言えば河川系人魚の筆頭王族である。

海洋系人魚の王族ではないあたりが、壁を感じされるが人魚と半魚人と言う水棲妖怪主流派の統合の走りとしては十分と言えた。

 

だが、怪しげな雲行きになりあたりは暗くなる。

 

「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 」

 

奇妙なお経と共に怪しい集団が現れると半魚人を攻撃してわかさぎ姫を連れ去ろうとする。

鬼太郎が攻撃して追い払うと、奴らは鬼道衆だと目玉おやじが言う。

 

「大丈夫?」

わかさぎ姫が半魚人を気遣い半魚人は気丈に振る舞い息巻いた。

 

「俺の嫁さんに何をするんだ!!」

 

 

「奴らは鬼道衆じゃ!」

 

 

目玉おやじの話では1000年も昔からいる妖怪狩りのエキスパートだそうだ。

かつての天竜川の戦い、甲州征伐における諏訪方面の戦いで壊滅していたはずだったが長い月日を掛けて復興していたようだった。

 

 

 

「八尾比丘尼様。鬼太郎に邪魔をされ失敗してしまいました。」

 

鬼道衆の一行は八百比丘尼の前に姿を見せると鬼太郎に邪魔をされたと報告。

女王人魚の肉を食べないと八百比丘尼とその霊力で生きてきた鬼道衆も死んでしまうそうだ。

 

「大樹が失権しやっと我らが台頭する好機と言うに、おのれ鬼太郎!!っぐ!?」

 

そんななか、苦しみだす八百比丘尼。

 

「鬼巫女の術を使うのだ。それしかない!」

 

鬼太郎を倒すには鬼巫女の術を使うしかないと言って社に籠る事にして鬼道衆たちは再び鬼太郎たちのもとを目指すのだった。

 

 

翌日、夢子が森の中を歩いているとねずみ男が現れ、昨夜の奴らは人魚の肉を狙っていたと話す。

 

「夢子ちゃん!なんでも昨日の連中は鬼道衆って言ってね。人魚の肉を狙ってたんだってよ。その昔、八百比丘尼という尼さんが人魚の肉を食べて800年も生きたそうなぁ。奴らきっと漢方の薬にでもするつもりなんだろうぜ。」

 

「怖い、わかさぎ姫さんが心配ね。

 

と心配する夢子。

 

「鬼太郎たちや姫さんの友達の妖怪がっているから大丈夫。」

と言うねずみ男は夢子にラーメンを奢ると言うが、ねずみ男が奢ってくれるなんて珍しいわねと言うと気持ち悪いから帰ると言って去ろうとする夢子。

 

「きゃあああ!?」

 

ところが鬼道衆が現れてユメコを連れ去ってしまうのだった。

連れ去られた夢子は捕らわれ、八百比丘尼にお前は鬼太郎に騙されていると言われる。

妖怪と人間は天と地が開かれて以来敵同士なのだと言う八百比丘尼に対し

 

「違うわ、妖怪と人間は友達よ。鬼太郎さんはいい人よ。」

 

と言う夢子だが、鬼太郎は人間の敵だと言われて術にかけられてしまうと鬼巫女にされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、わかさぎ姫の友達の今泉影狼と赤蛮奇は大樹に助けを求めて麻帆良学園の敷地に入ったはいいが魔法使いに追い回されていた。

 

「ちょっと!!勘弁してよ!!貴方達とやり合うつもりはないんだ!!大樹様に合わせて欲しいんだよ!!」

「そうなのよ!!助けて欲しいだけなのよ!!」

 

ふたりはそう言って麻帆良内を逃げ回っていた。

その様子を聞いた近衛近右衛門は埒が明かないと感じ、エヴァンジェリンに対応を頼むのだった。

 

「ふふふふ、麻帆良に忍び込んだ妖怪ってのはお前たちか。」

 

カッコつけて相対そうとしたエヴァンジェリンだったがエヴァンジェリンを見た彼女たちが

 

「あー!!!えばんぜりん様!!お取次ぎを!!お取次ぎを!!大樹様にお取次ぎを!!」

「わかさぎ姫が私たちの友達で人魚の皇女のわかさぎ姫が、鬼道衆に狙われているんです!!えばんぜりん様!!400年前に京都での御勇姿を拝見しました!!お会いできて光栄です!!」

 

 

今泉影狼と赤蛮奇はエヴァンジェリンに大樹への取次ぎを求めた。

何気に影狼がエヴァンジェリンにファンです宣言をしていたがエヴァはその辺をスルーした。エヴァも何気に歴史上の戦いで活躍しているので妖怪の中にはファンもいたりする。

 

 

そして、学園長室で近衛門とエヴァ、大樹は今泉影狼と赤蛮奇の話を聞いてどうしようか話し合ったのであった。

 

「鬼道衆はある意味因縁ではあるからの。大樹様に助けを求めるのはわかるが・・・。」

「私が動けば魔法世界や連合国にあらぬ疑いを掛けられますからね。」

 

大樹と近衛門はしばらく悩んでいると大樹が手をポンと叩いた。

 

「そうです!エヴァ!貴女が行ってきてください!!大丈夫、貴女も日本妖怪の中では有名人ですもの!大丈夫よ!」

 

それに近衛門が一言苦言を呈した。

 

「エヴァンジェリンもあまり外に出していいわけではないのじゃが・・・・・・それに、判子押し続けるの手が痛くなるから嫌なのじゃが・・・」

 

「そんなこと言わないで、私も手伝うし、何だったらぐわごぜにも手伝わせるから!大丈夫!魔法印の偽造くらいできるわ!神様だもの!!ぐわごぜも私の下で400年近く筆頭文官してるから出来るはずよ!」

 

それを聞いた近衛門は目を丸くした。

 

「そんなことできたなら早くいって欲しかったの。儂、腕が腱鞘炎になりかけてるんじゃが?」

 

「・・・私、表舞台から引退してるし、ぐわごぜだって子育てに専念したいって言ったから・・・。」

 

大樹と近衛門がコントをしているとエヴァが白けた視線を送った。

 

「私は行くとは言っていないのだが?」

 

「行ってくれないの?」

 

悲しそうな目で大樹はエヴァを見つめた。

 

「えぇい!そういう目で見るな!!行ってやる!!行ってやるから!!」

 

「エヴァのそういうところ。私好きよ?帰りにちょっとくらい寄り道してもいいから・・・ね?」

 

「う、うるさい!!そこの妖怪!!とっとと案内しろ!!」

 

「「は、っはい!!」」

 

ちょっとばかり、エヴァに八つ当たりされる今泉影狼と赤蛮奇であったが、なにはともあれわかさぎ姫の頼もしい助っ人を確保することに成功したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ねずみ男は鬼太郎に夢子が拐われたと伝えると鬼道衆が姿を見せてお経を唱える。

鬼太郎たちが立ち向かうが手も足も出ずやられてしまう。

 

「鬼巫女様、止めを・・・」

 

そこに鬼巫女が姿を現わすと、トドメを刺し鬼太郎は妖怪殺しの奥義を食らってしまい魂が絵馬のなかに。

 

 

「きゃああ!!」

 

鬼道衆は王族半魚人と家臣の半魚人達や人魚たちをなぎ倒し、そのままわかさぎ姫を捕らえてしまうのでした。

 

そして、鬼道衆の半数はわかさぎ姫を連れ去り、残りが鬼太郎の仲間たちや海の妖怪たちを葬り去ろうとしたとした時だった。

 

「みんな!!助けに来たよ!!」

「お待たせ!!助っ人を連れて来たよ!!」

 

今泉影狼と赤蛮奇がエヴァンジェリンを連れて戻ってきたのでした。

 

「何奴!!」

「我ら鬼道衆が相手だ!!」

 

鬼道衆と相対した3人。

今泉影狼と赤蛮奇も妖怪としては強い部類であるので足手まといにはならない。

 

3人が鬼道衆を撃退するのだが、目玉おやじ達にわかさぎ姫が連れ攫われてしまったことを聞くのでした。

 

 

 

 

 

 

「800年ぶりの人魚の肉・・・。これで妾もまた幾百年生き永らえる。」

 

怪しく哂う八尾比丘尼に対してわかさぎ姫は

 

「私の命は捧げますが仲間の人魚や妖怪たちに手を出さないでください。」

と願ったが、それはできないと言う八百比丘尼。

 

「あぁ!?」

 

そんななかわかさぎ姫は窯で茹でられるのだった。

 

一方、妖怪殺しにあった鬼太郎を助けるためにエヴァンジェリンやわかさぎ姫の友達のふたり、鬼太郎ファミリーたちは一路。鬼道衆の隠れ家に向かうのだった。

 

一反もめんが結界にぶつかると、わしら妖怪はここから先へは入れないと目玉おやじが言う。しかし急いで絵馬を取り戻さないと鬼太郎もわかさぎ姫の命も危ない。

 

「ふむ…この程度なら何とかなりそうだな。少し下がってろ。」

 

エヴァはそう言って皆を結界から少し離れさせる。

 

「くらえ!集え氷の精霊 槍もて迅雨となりて 敵を貫け! 氷槍弾雨(ヤクラーティオー・グランディニス)!!」

 

大量の氷の槍で結界が突き破られる。

 

「よし!皆行くのじゃ!」「「「「「おー!!」」」」」

 

目玉おやじの号令で一行は突入した。

 

一行は鬼道衆たちとの乱戦に入る。

 

「やれ!!」「このぉ!!」「妖怪どもめ!!」「くらえ!!」

 

その拍子に絵馬を奪おうとするねずみ男により絵馬は飛び、シーサーが絵馬を叩き割ると鬼太郎の魂は解放されて元どおりに戻ったのであった。

 

「おのれ!!この八尾比丘尼が相手をしてやる!!」

「ほぉ…400年前は両面宿儺を相手にしたが、貴様どれほどか。この闇の福音が相手になってやろう!」

 

「鬼太郎さんたちはわかさぎ姫を助けに行って!!」「早く!」

 

今泉影狼と赤蛮奇は八尾比丘尼の取り巻きたちに向き合いつつ鬼太郎たちに先に向かう様に促すのでした。

 

侵入する鬼太郎は一反もめんに乗って先に進むとわかさぎ姫を見つけます。

けれども、また鬼道衆が立ち向かってくる。

 

そんななか鬼太郎は同じ手は二度と食わないと技を避け、砂かけ婆たちも後から追いつくと鬼道衆たちと戦うことに。

鬼太郎は鬼巫女の前に立つと、鬼巫女が術で火を繰り出して攻撃。

人間とは戦いたくないという鬼太郎だがそっちがその気ならと戦う気に。

 

「だめ!その人は夢子さんなのよ!」

 

するとわかさぎ姫が鬼巫女は夢子だと教える。

鬼巫女は再び術で攻撃すると手出しができない鬼太郎。

それでも、鬼巫女である夢子に話しかる。

 

「妖怪と人間が仲良く暮らせるように戦ってきたじゃないか。」と説得。

 

鬼太郎の呼びかけで鬼巫女の動きが止まる。朝日が昇り、何もしない鬼巫女に痺れを切らした鬼道衆が鬼太郎めがけて飛び道具で攻撃。

鬼巫女が咄嗟に鬼太郎を守ると鬼巫女の面が割れる。

 

それを見た八尾比丘尼に隙ができ、エヴァの攻撃を受けて消滅するのであった。

また、八尾比丘尼が消滅すると、鬼道衆たちも一斉に朽ち果てるのだった。

 

「かつて、大樹と信長が妖怪と人間の楽園を築き上げた。だが、人間たちはその楽園を自ら壊して妖怪たちに刃を向けた。妖怪と人間は・・・・・・。」

 

エヴァの言葉に、夢子がそれは違うと答えた。

 

「私と鬼太郎さんは仲良しよ。それに今まで鬼太郎さんに助けてもらった子たちも妖怪と仲良くしたいって思ってる。だから・・・そんなこと言わないで・・・。」

「そうですよ。僕と夢子ちゃんは仲良しですよ。だから、また妖怪と人間は仲良くなれます。」

 

 

夢子と鬼太郎の姿を見て、エヴァンジェリンはふとその姿が大樹と信長に重なって見えた。

 

「っふ、そうかもしれないな。まだ、希望はある。」

 

 

最後は、わかさぎ姫も無事に半魚人のもとに戻り幸せな生活を送るようになるのでした。

 

 

 



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142 昭和 ゾンビフェアリー誕生

当作品のゾンビフェアリーは原作とは違う設定です。
ご了承ください。


大樹の君臨していた東洋世界は妖怪社会との融和を始め精神文明を昇華し、月の世界に続く高次元文明への第一歩を踏み出すはずだった。

 

しかし、そうはならなかった。

 

第二次世界大戦の敗戦。

 

大樹野槌水御神と言う東西の洋を問わず世界に多大な影響を与えた彼女は、麻帆良に幽閉され彼女の政治力は形骸化した。

 

富や科学技術、巨大建築や兵器の水準のみ高く、個々の成員および共同体全体が精神的に堕落している物質文明の思想が西洋から東洋を飲み込み。大樹が育んだ精神文明への種子を完全に破壊したのであった。

 

人類は約束されていた明るい未来を放棄し、目先の利益を求めて愚かにも暗い未来へと嬉々として進んでいくのだろうか。

 

20世紀終盤、愚かにも人類は自然改造の名の下に自分本位な自然破壊を繰り返した。

例えば、ソビエト連邦と言う国家は無謀な計画によって湖を干上がらせ、森林を枯らした。砂漠を広げさせた。

 

森林破壊、大気汚染、水質汚染、海洋汚染、土壌汚染、生態系の破壊、これらの人類の愚かしい行為は、この世界に新しい種族の妖精を誕生させた。

 

ゾンビフェアリー。

元々は、ごく普通の妖精であった彼女たちは環境が破壊された時点で消えゆく運命であった。

 

 

「鳥も動物もどこにいったの?」

「濁った河には魚も虫もいなくなった。」

 

 

ぼろの服を纏い。健康的な肌をした妖精たちは青白い不健康な見た目に変わってしまいまっていました。

 

「生きもの、みんないなくなって野原からも山からもみんなの声が聞こえなくなっちゃったよ。」

 

岩場にあおむけに倒れた妖精は息も絶え絶えで空を見あげた。

 

黒いスモッグに覆われた。空は彼女たちに太陽を拝むことすら許さなかった。

 

「私たちの森はどこにいったの?」

「お友達の動物たちはどこに消えたの?」

 

本当はわかっているんだ。動物たちは逃げるか死ぬかしてしまったのだと。

故郷の森や泉は、人間たちの環境破壊で見るも無残な姿に変えられたのだと。

 

自分たちはこのまま消えてなくなるのだと。

 

こわい・・・。恐ろしい・・・。

今までの様にぴちゅるとか一回休みとかじゃない。消えてなくなってしまうのだ。

 

 

 

 

すなわち、死だ。

 

 

 

 

嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だいやだ嫌だイヤダヤ嫌だイヤダ、死にたくない!死にたくない!死にたくない!死ニタクナイ!シニタクナイ!シニタクナイ!助けて助けて!タスケテ!タスケテ!!どうして私たちがこんな目に!わたしたちは悪いことはしていない!何になんで死ななきゃならないんだ!!

 

妖精たちの中で感情があふれ出し始める。

 

ここの声が口から出て来る。

 

 

わたしたちの声をあの方は聞き届けてくださった。

 

「「「「ベアード様!!」」」」

 

 

 

 

 

スモッグや汚染水を吸収し、力と変えていくのと引き換えに、空は晴れ青い空を覗かせた。濁った水も心なしか透き通ってきたようだ。

 

 

『妖精達よ!お前たちを苦しめたのが誰か・・・。青い海を、青い空を、緑の野を、緑の山を奪ったのだ誰か。諸君らは解っているはずだ。』

 

ベアード様の声に妖精たちが声を上げる。

 

「にんげん!人間だ!」

「そうだ!人間だ!」

 

 

ベアードの背後から吸血鬼たちや魔女に人狼と言った西洋妖怪たちが姿を見せ始める。

 

『妖怪も妖精も多くの物を奪われ続けている。もう、十分だろう。我々が我慢してやるのはもう十分だろう。どうだろう?そろそろ返してもらおうではないか。』

 

「そうだそうだ」西洋妖怪妖精たち双方から声が上がる。

 

『人間たちに言ってやる。青い海を返せ!青い空を返せ!緑の山野を返せ!と!』

 

「「「「「かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!」」」」」

 

『そうだ!お前たち!人間を恨め!憎め!それこそ力となる!だが、人間たちも強大な敵だ!奴らは核と言う世界を焼き払う炎を持った。それに対抗するにはさらに強力な炎が必要だ!そう、地獄の炎が!!人間たちを焼き払う地獄の炎が!!』

 

 

 

 

ベアードに先導された妖精たちは人間を憎み恨んだ。

死を待つばかりだった彼女たちは人間たちを憎み恨むことで怨霊としての素養を

獲得し生き永らえた。死の淵から人間たちに復讐するために甦った妖精。

 

ゾンビフェアリー。

 

 

 

 

『征こう!人間を焼き払う炎、地獄の炎を我が手に!!炎を手に入れん!!東洋の鬼界が島へ!!諸君!!私に続くのだ!!』

 

「「「「「かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!おぉー!!!」」」」」

 

 





ゲゲゲ鬼太郎は3期5期6期+αで4期な感じにしていく予定です。


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143 昭和 襲来!西洋妖怪軍団、鬼界ヶ島の戦い!!

西洋妖怪バック・ベアード率いる軍団が日本国奄美群島の鬼界ヶ島への侵攻を開始した。

道中の沖縄系・東南アジア系の南方妖怪やインペリアル・タイジュ等の旧皇国残党妖怪たちはバック・ベアードの行動をそれぞれの理由で黙認し西洋妖怪軍団の通過を見逃した。

 

 

 

 

日本政府は怪気象時に妖怪に対する効果的な対抗手段が無い事を理解し自衛隊や警察で対抗することをやめ、主な妖怪の仕業とされる事件の発生場所が地方の田舎に集中していたことをいいことに妖怪の存在を公式で否定し見て見ぬふりをし、破魔組織に丸投げすることにしたのだった。

 

ただし、今回の鬼界ヶ島の件には辺境の島と言う事で丸投げされていた破魔組織の方も介入を避けたのだった。

 

そして、その鬼界ヶ島には妖怪の中でも比較的人間に近い種族のアマミ一族が居を構えていた。

髪の毛に交って触角がある、首元に水中生活用のエラがあるといった妖怪的特徴しかなく人間と同じように年を取る等と妖怪にカテゴライズされるがほとんど人間の様であった。

 

 

『アマミ一族よ。諸君らに伝わる秘宝を大人しく引き渡したまえ。』

 

西洋妖怪軍団の大軍勢は鬼界ヶ島を包囲し、ほぼ制圧したのでした。

 

 

鬼界ヶ島のアマミ一族は孤立無援の窮地に立たされようとしていたのだが、西洋妖怪が鬼界ヶ島に向かっていることを沖縄の妖怪たち伝手に聞いた鬼太郎たちはアマミ一族を助けるために鬼界ヶ島へ向かうのでした。

 

鬼界ヶ島ではグレムリンが島民を強制労働させ地下を掘削し始めていた。

フランケンシュタインや魔女グルマルキンに脅され土砂を運ばされ、掘削作業をさせられる島民たち。

 

そこに、鬼太郎たちは砂かけ婆や子泣き爺やぬりかべに加え他の猛者たちの協力を得て鬼界ヶ島に上陸を果たすのでした。

 

「バック・ベアード!!アマミ一族を解放して島から出て行くんだ!」

 

『ほぉ…君が鬼太郎か。うわさは聞いているよ・・・だが、何も知らない君の様な若造が出る幕ではないのだよ。帰りたまえ。』

 

バックベアードは鬼太郎など歯牙にもかけるつもりも無かった。

だが、鬼太郎は西洋妖怪たちがアマミ一族に手を上げるのを見て居てもたってもいられず。

西洋妖怪軍団との戦端を開いたのであった。

 

「ドラキュラ二世、ここは貴様に任せる。」

そう言ってベアードは後退して行った。

ベアードは本気で鬼界ヶ島を手にするつもりはまだなく、今回は小手調べの様なものであった。

 

しかし、任されたドラキュラ二世などはベアードに場を任された音もあり積極的に攻勢に出たのでした。

 

人造人間フランケンシュタインとぬりかべが取っ組み合いの力比べをする横では、子泣き爺が腕を石化して狼男たちを殴り倒し、砂かけ婆も魔女グルマルキンと戦った。

鬼太郎自身もゾンビフェアリーや下級吸血鬼をちぎっては投げちぎっては投げの大太刀周りをして見せます。

 

「鬼太郎!私が相手だ!」

 

鬼太郎とドラキュラ二世の戦いが始まります。

鬼太郎とドラキュラの戦いは長時間続いた。

 

太陽が上り始める。

 

「ぬ!?眩しい!?」

 

鬼太郎を相手にしていたせいで軍団の指揮が疎かになり、雑兵の大半がやられていたことに気が付いたドラキュラ二世。

 

「抜かった!?あと少しと言うところで・・・、っち。今回は初めての試み・・・イレギュラーはあるだろう・・・。撤退だ!!」

 

ドラキュラが睨みつけている方向にはゲゲゲの森の仲間妖怪たちの援軍が見えていた。

 

「鬼太郎を助けろ~!!」「「「お~!!」」」

 

その様子を見送る鬼太郎たち。

 

「今回はなんとかなりましたが・・・強敵ですね。父さん・・・。」

「うむ、西洋妖怪たちが遂に日本まで手を伸ばしてきよったか。鬼太郎・・・今後は気を引き締めねばならんぞ。」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃

 

西洋妖怪の一部が陽動の為に麻帆良学園にも攻撃を仕掛けていた。

とは言え、陽動故に既に撃退済みではあった。

 

大樹はその戦いには参加せず静観に徹し、室内から様子を見るだけであった。

そんな彼女の表情は暗かった。

彼女の耳に残る同胞妖精たちの成れの果てであるゾンビフェアリーたちの怨嗟の声。

 

「大樹様ぁ!!何故我らをお見捨てになったのです!!」

「水は穢され、地は汚れ、木々は折られ、我らは多くを失いました!!私たちは全てを!!命すら人間たちの贄にせねばならないのですか!!」

「我らが神!!妖精女王!!豊穣の女神よ!!お答えください!!」

 

 

(私は・・・間違えてしまったのでしょうか・・・。)

 

 

 

 

 

「60年前に徹底的に叩き潰すべきでしたな。」

 

「な!?ぬらりひょん!!貴方!どこから!?」

 

大樹の背後からぬらりと姿を見せたのはぬらりひょんであった。

 

「私はそう言う妖怪です故。ぬらりと現れ、ひょんと去る・・・そう言った存在です故。・・・おや、そう怖い顔をしないでください。別に貴方と戦いに来たわけではありませんよ。今日はご挨拶です。」

 

そう言って、大樹に包みを渡す。

 

「ご挨拶に・・・これを貴女がかつて所有していらした天目茶碗です。戦後、大英博物館に収められていましたが、取り返すのは苦労しました。盗んだもののくせに、強欲な奴らです人間と言うのは・・・。」

 

大樹は少し逡巡したが、戦国時代・・・今は無き信長や幻想郷に去った秋比売姉妹とお茶に興じた記憶がよみがえりそれを手にして、そのまま抱えた。

 

「連中は、身勝手なものですな。信長公が作った世を改悪したばかりか、彼の歴史も歪めた。比叡山全山殺戮、一向一揆殲滅を強調し彼を残虐な存在として今の子供たちに教えている。彼の功績は数行に纏め、小中の学校では彼が残酷な人間だったと教えている。ひどい話です・・・。おや、世間話・・・この場合は私の独り言が過ぎましたな。ここで失礼を・・・。」

 

そう言ってぬらりひょんは姿を消す。

その後すぐに部屋の扉が開き、エヴァンジェリンが顔を出した。

 

「大樹・・・。」

 

エヴァンジェリンはゾンビフェアリーの言葉が大樹を傷つけただろうと心配し様子を見に来たのであった。

 

「エヴァ?私は平気よ。ほら・・・。」

 

そう言ってくるりと回って見せた。

 

「そうか、ならいいんだ・・・。少し気になっていたんだ。」

 

大樹はエヴァと言葉を少し交わしてから、床に就いた。

その前に、大樹はテーブルの影にとっさに隠した天目茶碗を手に取る。

 

信長や多くの者たちと紡いで来たこの国の歴史。

今その努力や研鑽の結晶が砕かれつつある今・・・。

 

「私は・・・。」

 

 



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144 昭和 鬼太郎の危機、本所七不思議の計

 

ぬらひょんたちは赤坂の料亭を貸し切って密談をしていた。

ぬらりひょんは建設会社経営、政財界には政治献金などを行い、裏社会に精通し暴力団にも影響力を持っていた。かつて大樹が皇族、政府、財界、軍に絶大な影響力を持っていたのに比べれば大したものには思えないかもしれないが、他の組織の長が人間社会に影響力を持っていない。もしくは小さい事を考えると、ぬらりひょんは妖怪勢力の長として頭一つ飛びぬけていた。

 

 

「戦後、大樹野槌水御神の権威は失墜。雪女郎やたんたん坊は己が里に引きこもり、隠神刑部狸は南洋の辺境から未だに戻れず。人間社会に多かれ少なかれ影響力を持っていた白蔵主やぐわごぜの勢力は決起に失敗し形骸化している。破魔組織の二大巨頭である関西呪術協会と関東魔法協会は未だに内輪揉め動きが鈍い。それ以外の破魔組織も多少力があった鬼道衆が壊滅した今、障害にはならん。警察や自衛隊など儂ら妖怪の敵ではない。それは先のぐわごぜの一件が証明している。儂らの最大の障害・・・それは・・・ゲゲゲ鬼太郎。奴さえ何とかすれば、日本妖怪の総大将は名実ともに儂となろう。・・・朱の盆!!邪骨婆!!今こそその時だ!!」

 

「っははぁ!!ぬらひょん様ぁ!!」

「ふぇふぇふぇ・・・ぬらりひょん・・・。主、やる気じゃの。」

 

 

ぬらりひょんは決意した。

そ鬼太郎を抹殺する一大作戦を行うことを…。

 

 

ぬらりひょん派の妖怪たちが再び人間たちを攻撃した。

燃え盛る町を駆けるかまなり、火車、邪魅、魍魎といった妖怪たち。

 

「火遊びはこのくらいにして、早くいこうぜ!」

「ああ、他の皆もきてるだろうからな。」

 

皆が集まっていると言ってスタジアムに向かうとそこには大勢の妖怪が…。

中央ではぬらりひょんが自身の支持妖怪たちに向かって演説を打っていた。

 

「集まったものの気持ちは皆同じだ!地球は人間どもによって汚くなる一方だ!そんな人間に遠慮し隠れて暮らすことは無い!自分たちだけが生き物だと思っている人間たちを叩き潰し消し去り、この地上に妖怪王国を築くのだ!!!その為にはまず人間に味方する鬼太郎を葬り去らなくてはならん!!すべてはそれからだ!!」

 

と言うと魍魎がぬらひょんに問う。

 

「ぬらりひょんの大将、そうは言うがどうやって倒すんだ?」

 

「倒す手は考えておる。見ておれ・・・。」

 

と言う。

 

鬼太郎は家で自称弟子のシーサーと一緒に居ると、鬼太郎はある事を考えていたと言う。

このところあちこちで起こる火事のことで、ニュースでは原因不明の火事とされているが、鬼太郎は妖怪が犯人ではないかと疑っている。

 

すると

 

ポン!ポン!ポン!

 

「少し様子を見てきます!」

 

怪しい音が聞こえて様子を見に行く鬼太郎。

 

鬼太郎が外に出ている間、目玉おやじはシーサーに昔、江戸の本所というところに七不思議が有ったと話し、その一つに狸囃子というのがあると言う。

 

「太鼓の音に聞こえるが実は腹をぽこぽこ叩いている音なのだが音の方に近づいていっても誰もいなかったという話じゃ。」

「ふ~ん。あ!!お前たち!?うわぁ!?」

「な!?お前たちは!?ひゃぁ!?」

 

そんななか、鬼太郎の家ではシーサーと目玉おやじが何者かに襲われてしまいます。

 

一方で竹林の中に入っていく鬼太郎だがそこには誰もいない。

気のせいでしたよと言って帰ってくる鬼太郎が家で見たのはシーサーが倒れている姿。そして目玉おやじはいない…。

残っていたのは、「目玉親父を生きて返してもらいたかったら一人で柳川の土手へ来い」というメッセージ。

急いで柳川の土手に向かう鬼太郎はそこでねずみ男と出会うと鬼の様な形相でねずみ男を問い詰める。

 

「父さんの事には関わりが無いんだな。」

 

すると、ねずみ男は何か食べさせてくれと言って近くの蕎麦屋の中に入ると、誰もいないが美味しそうな蕎麦がある。

ねずみ男は蕎麦を食べだして、鬼太郎も中へると提灯から火が出て蕎麦屋が燃え始める。

 

「「熱!?アチチ!!」」

 

そこに雷獣が姿を見せると鬼太郎に攻撃して痺れさせるため怖がるねずみ男はその場を去る。

 

「キシャー!!」

「お前か!!父さんを連れ去ったのは!!」

 

 

鬼太郎は雷獣が連れ去ったのではないと分かるとリモコン下駄と髪の毛針で攻撃し退治する。

 

「死ねぇ!!」

 

すると今度は狐者異(こわい)が姿を見せ鬼太郎に襲いかかるため、妖怪ムチで倒すが鬼太郎は川に転落してしまうのだった…。

 

「うわぁ!?」

 

その頃、足洗い屋敷では捕らわれた目玉おやじがぬらりひょんと朱の盆から鬼太郎が本所七不思議の刑にあっている事を知る。

一方で川から出ようとする鬼太郎は、おいてけ堀に捕まり水の中で息ができなくなってしまう。

 

「体内電気!!」

 

そこで、雷獣に注ぎ込まれた電流に鬼太郎のエネルギーをプラスしておいてけ堀を退治すると陸に上がる鬼太郎だった。

別の場所では逃げたねずみ男が墓場で蕎麦を食べていると、鬼太郎の命も今夜限りかと声を聞く。

そこでは、かまなり、邪魅、火車、魍魎の話し声がし、目玉おやじを人質に鬼太郎を本所七不思議の刑で始末する事を聞くのでした。

 

また、鬼太郎の家では砂かけ婆、子泣き爺、一反もめん、ねこ娘、夢子が集まっており、シーサーはみんなで助けに行くしか無いと言うが、朱の盆に襲われたという事はぬらりひょんの仕業だとし、鬼太郎が居ないのにどうしたものかと悩む。

その頃、鬼太郎は笹林を歩いていると今度は草鎌鼬が姿を見せる。

「この草鎌鼬があの世に送ってやる。」

 

鬼太郎に向かって攻撃してくるため、逃げて隠れてから隙を突いて妖怪ムチで攻撃をして退治します。

すると拍子木の音がして送り提灯が姿を見せると、目玉おやじのいる場所を知っていると言って、案内すると言います。

鬼太郎は怪しみながらも付いていくと送り提灯は居なくなっては姿を現わしたりしてぬらりひょんの居る古屋敷に案内するのでした。

 

一方でねずみ男は鬼太郎の家に到着。

仲間たちに本所七不思議の刑だと話すと、相手はぬらりひょんのためどうするか悩む仲間にこの際ぬらりひょんの方についた方がと言うためねこ娘に叱られてしまいます。

そんななか、本所七不思議を思い出した砂かけ婆は、目玉おやじは足洗い屋敷に連れて行かれたかもしれないと話し、そこには恐るべき妖怪・足洗いがいると言うのでした。

 

 

 

それから、鬼太郎は送り提灯についていき、鬼太郎の姿を確認した朱の盆はぬらりひょんに報告。

目玉おやじは茹っている釜の上に吊るされているなか、鬼太郎は送り提灯の案内で足洗い屋敷の中へと入っていく。

そこで目玉おやじの入ってはならんと言う声を聞くと、ぬらりひょんがここまで来いと言う。

ぬらりひょんは、妖怪王国を作るには鬼太郎が邪魔だと企んでおり、鬼太郎を退治したくてたまらない。

一方で目玉おやじは

 

「仲間と力を合わせてぬらりひょんの野望を打ち砕くのだと言うと、人間と妖怪が仲良く暮らす道を途絶してはいけない、その為なら死んでも悔いはないぞぉ!」

 

「そうか。死んでも悔いはないか。」

「茹で目玉にしてやるぞ。」

 

朱の盆が目玉おやじを煮えたぎる湯に入れようとするとぬらりひょんの前に姿を見せる。

すると、足洗いが襲いかかってきて鬼太郎を踏みつぶそうとするのだった。

 

「鬼太郎を踏みつぶせ!!」

 

ぬらりひょんは足洗いに命じたのでした。

 

 

 

 

そんな時、砂かけ婆たちはジッとしてはいられないとして、一反もめんとシーサーに仲間を集めることにさせ、夢子もみんなと鬼太郎を助けに行くと言うとねずみ男もついていく事にします。

足洗いに襲われる鬼太郎。

足洗が暴れた拍子に目玉おやじは飛ばされぬらりひょんに捕まってしまう。

鬼太郎も足洗いに踏み潰されてしまうと大ピンチになるのでした。

そこにぬりかべが助けに現れると鬼太郎をサポートし、一反もめんに乗って砂かけ婆とシーサーも現れるとぬらりひょんに攻撃をし、ぬらりひょんの手を離れた目玉おやじをねこ娘が助けます。

朱の盆はねずみ男に殴られると、足洗いには子泣き爺や助けに来ただるま、座敷わらし、まくら返し、ひでり神、あかなめ、呼子、がんぎ小僧、傘化けたち鬼太郎の仲間が取り押さえる。

 

そして鬼太郎は一反もめんに乗り、足洗いの後ろへ回るが、暗闇の中では実体が無く手の打ちようが無い。

ところが足洗いの攻撃を避けると屋敷の屋根が崩壊し、足洗いは陽の光を浴びて滅びてしまうのであった。

 

「ぐわぁあああああ!!」

 

 

 

 

それから、ぬらりひょんはもう一度出直しだと言って逃げると、朱の盆がボンネットに飛び乗った為、前が見えずにそのまま崖下に転落するのであった。

 

「降りろ!前が見えん!崖が!?うわぁ!?ばかもぉん!?ぎゃあああああ!?」

 

 

 

「ありがとう!みんな!」

 

最後に助かった鬼太郎は仲間たちに感謝をする。

 

「良い仲間を持ったお前は幸せもんじゃ。」

 

と目玉おやじが言うと、夢子に

 

「人間にも良い人もいる悪い人もいる妖怪だっておんなじじゃ。お互い良いところは見習い認め合って生きていくのが一番じゃぞ。」

 

と語り、みんなで仲間たちとゲゲゲの森に行くのでした。

 



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145 昭和・三種の神器編 ぬらりひょん派の進撃

12月年末、御用納めの時期。

ぬらりひょんがアジトに使っている自社ビルの屋上に設置している日本屋敷。

 

 

「本所七不思議の妖怪たちがやられては手詰まりじゃぞ?ぬらりひょんよ。」

 

邪骨婆は眉をひそめて怪訝そうにぬらりひょんの顔を見る。

朱の盆は黙ってふたりの様子を伺っていた。

 

「うむ。鬼太郎めがここまでやるとは思わなんだ。儂も少しばかり危険を冒す必要がありそうじゃな。そこで儂は三種の神器を手に入れようと思っておる。」

 

「ほぉ・・・それはそれは・・・して、首尾は?」

 

「上々・・・熱田に向かわせた鉄鼠と辻神たちから草薙剣を奪ったと先ほど連絡があった。」

 

「ぬらりひょん様!!それは!!」

朱の盆が声を上げる。

 

「そうだ!三種の神器はこの国の皇が代々受け継いだ由緒正しいもの!三種の神器を手にすればこの国を支配したも同然!!次は伊勢神宮の八咫鏡だ!!」

 

そこにタイミングよく草薙剣を奪ってきた鉄鼠たちが現れる。

 

「おぉ!よくやったぞお前たち!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総理!一大事です!!」

「何事かね?」

 

秘書官が総理に何やら耳打ちする。

 

「なんと!?それは一大事じゃないか!!直ちに自衛隊に・・・いや待て・・・自衛隊はいかん!いかんぞ!アメリカを刺激しかねん。うむ、そうだな。ひとまずここは警察力で三重の機動隊に周辺県警の機動隊を援軍に向かわせて守りを固めよう。あと、三重はどっちの管轄だったか?関西か関東か?」

「関西です。総理。」

 

総理は手をポンと叩き秘書官を指さして命じる。

 

「であれば、君!その関西に至急伊勢の死守命令を出したまえ!!」

 

秘書官がさらに付け加える。

 

「総理、三種の神器が狙いならば。八尺瓊勾玉も危ないのでは?」

「なら、そっちにも県警機動隊を派遣すればいいだろう!それと呪術協会の連中にもだ!」

 

「総理、八尺瓊勾玉は皇居の剣璽の間です。」

「じゃあ!関東の魔法協会に伝えたまえ!そのくらいの気を利かせたまえよ!君!」

 

「いえ、皇室関連の事象は大樹大社へも通達する慣例があります。」

「大樹大社ぁ!?あ・・・あれか。うむ、そうか。確か、今は麻帆良の小神社であったか?」

 

梅下総理は大樹大社の名前を聞いて少しだけしおらしくなる。

梅下を総理に推した元老議員の何人かは大樹大社の熱心な信者もいたからだ。

しかしながら、大樹信者の議員がいる一方で、魔法使いやアメリカに媚を売る議員もいるわけで・・・。

 

「また、面倒な・・・。関西で片を付けさせよう。陛下も最近御身体の調子がよろしくない。下手にご心労をおかけする必要もないだろう。うん、それがいい!君、関東への伝達は明日でいいぞ!」

 

楽観的なことを言う総理であった。

 

 

 

 

しかし。

 

「総理、伊勢神宮の八咫鏡が奪われました。」

「な、なんだと!?・・・・・・こうなった以上、麻帆良のやんごとなき御方にお頼みするほかあるまい。」

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳じゃ。大樹殿、お願いできるかの?」

 

学園長の近衛近右衛門は手を合わせてお願いする仕草をして大樹の方を見る。

 

「三種の神器を二つも盗られては、私でお役に立てますか?」

 

大樹が心配そうにしているとエヴァンジェリンが横から口を出す。

 

「私が付いて行っても良いが?」

「エヴァは三種の神器がどれほどの物かわかっていないから楽観的なのね。あれは中国の四凶すらも倒す力があるの。闇属性のあなたとの相性はあまり良くないわよ。」

「とは言え、お前ひとりでと行くよりはいいだろ?」

 

大樹の不安視する言葉で近右衛門とエヴァンジェリンはそれを否定することが出来ずに押し黙ってしまう。

 

『とは言え、大樹。貴女が引きこもったままだと万策尽きるのは事実なのよ?』

 

そんな言葉と共に、何もない空間が咲けて道士服を着た女が姿を見せます。

その妖怪は八雲紫であった。

 

「久しぶりね大樹、それにエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。闇の福音と言えど神器二つを相手取るのはキツイわよ。」

 

あっけに囚われている近右衛門に対して、スカートの裾を持って挨拶する。

 

「お初にお目にかかります。幻想郷の管理者八雲紫と申します。お見知りおきを・・・とは言え、私ができることは少ないわ。援軍を送る事だけよ。」

 

そう言って、隙間からスポポンと言った擬音が聞こえそうなモーションで二人の妖精が飛び出してきた。

出てきた二人の妖精を見て大樹は目を丸くした。

 

 

「大ちゃん!!チルノも!?」

 

「え、ここは?え?ティタ!?」

「痛たたた…なにすんのよ!!あ!ティタ!?」

 

 

 

「かつての貴女の重臣を置いていくわ。この子達、貴女の事を思い出してるから、きっと助けになるわ。」

 

八雲紫はそう言って隙間を閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、大樹たちは総理の要請もあって八尺瓊勾玉警護の為に皇宮へと向かった。

大樹大社のナンバー2であった実績を生かして、大妖精は周辺の妖精達を搔き集めて臨時の巫女衆を結成した。

 

「麻帆良の周辺は魔力が濃いから神秘もそれなりにあるみたい。妖精の子達もそれなりにいたわ。みんな、協力してね。」

 

「おー!」「まかせろー!」「わぁい!」

 

 

間の抜けた掛け声を聞いたエヴァは「大丈夫なのか?」と一言。

 

「ま、まぁ。いないよりはマシでしょ?」

 

妖精集団に交じり氷の剣を作って剣舞風の動きをするチルノを見ながら大妖精は答えた。

 

「光の三妖精の子達はまだ思い出せてないのよ。それに、こっちにいるはずの梅林や水楢にも声を掛けたけど返事が無かったのよ。」

 

「ケケケ、先が思いやられるッテカ?ご主人?」

「うるさいぞ・・・。」

 

エヴァンジェリンは手を頭に当てて、天を仰いだ。

 

「エヴァ、大ちゃん?どう様子は?」

「やれるだけの事はしたけど…ごめんね。あんまり順調じゃないよ。」

 

 

「大妖精の言う通りだ。やれるだけのことはやった。爺が言い含めてくれたから警察も麻帆良の魔法使いも、こっちに変なちょっかいは出さないが・・・。」

「協力も期待できないって事か。・・・・・・ん?」

 

 

大樹が何かに気付いて、空を見上げる。

 

「皆さん!事情は紫さんからの手紙で聞きました!!僕たちもお手伝いします!!」

「大樹様!!えばんぜりん殿!!それに大妖精様にチルノ殿もいらっしゃったか!!ぬらりひょんとは浅からぬ因縁、儂らゲゲゲの森の妖怪たちが御味方しますぞ!!」

 

 

一反木綿に乗った鬼太郎と目玉の親父が居りてきた。他の妖怪たちは烏たちに運んでもらったり自力で飛んできている。

 

それを見た大樹は鬼太郎たちにお礼を言う。

 

「皆さんありがとうございます!皆さんが来てくれて心強いです!」

 

 

 

「へ~、シーサーから洩矢の諏訪子様も小さい女の子って聞いてたけど、大樹様も小さい女の子なのね。神様ってみんなそうなの?」

「え!?他の神様はもっとお姉さんだったり、大人だったりするんですけど。それに私も諏訪子も年は・・・えっと・・・。」

 

「猫娘さん!神様が困ってますよ。」

 

そう言って、救急箱を持った夢子が顔を出す。

 

「あれ、貴女は人間?よね?」

「はい、私も何かお手伝いしたくて…。邪魔にならないようにしますから手伝っていいですか?」

 

大樹は少しばかり頭を悩ませた。

 

「夢子ちゃんやぁい!包帯とか薬は儂の鏡の中に入れておくといいぞ。儂の鏡の中は広いからな。あっれまぁ~大樹様じゃぁあ~!ありがたや、ありがたや。」

 

鏡爺が夢子に声を掛けた拍子に大樹の姿を見つけて拝み始める。

それに大樹は苦笑交じりに尋ねる。

 

「あなたはこの人間の女の子と仲が良さそうですが、この子はどんな子なんですか?」

「夢子ちゃんはとってもいいこじゃよ。儂ら妖怪にも優しいし、きっと妖怪と人間の懸け橋になってくれる子なんじゃと皆、思っているんじゃよ。」

 

それを聞いた大樹は微笑んで、許可を出して部下のぐわごぜを呼びつける。

 

「ぐわごぜ、彼女を救護所に連れてってあげて。」

「は、はい!って貴女は・・・あの時の・・・あの時は悪いことしたすまなかった。」

「カロリーヌちゃんのお父さんですもの、悪い妖怪じゃないってわかってますよ。」

「そう言ってくれると助かるよ。ありがとう。」

 

「あら、ぐわごぜとも知り合いなのね。なら、心配いらないかしら?じゃあ、お願いね。」

「はい、お任せください。カロリーヌ、この子と一緒に救護所に行くから早く来なさい!」

 

「は~い!」

 

ねずみ男と遊んでいたカロリーヌを呼びつけてぐわごぜと夢子は皇宮の門の内側に入っていった。久しぶりにカロリーヌと会えたねずみ男はだいぶ興奮気味に喜んでいた。

 

「人と妖怪が仲良くすること・・・・・・まだ、希望が持てそうね。もう少し頑張ってみるわ。」

 

 

 

 



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146 昭和・三種の神器編 皇宮襲撃

大樹は侍従に案内を受け、吹上御所へ向かった。

道中では特型警備者やバス型の輸送車、放水車と言った機動隊車両が外苑部をぐるりと囲み、その周辺を一般警察車両が車列を成して巡回している。御所内の要所にも警察車両でバリケードが築かれており、ジェラルミン盾をずらりと並べて隊列を組んで警戒していた。

 

皇宮警護の名目で警視庁機動隊を軸に隣県の千葉・神奈川の機動隊が援軍として派遣され、皇宮警察と連携しているようだった。自衛隊は政府内左翼勢力の猛反対を受けて待機状態ではあるが前面には出さない様だ。

 

また、関東魔法協会から派遣された魔法使いや東西の確執からゴリ押しで関西呪術協会から派遣された術師、存在感を見せたい神社本庁や仏教各宗派が各地の弱小飛沫組織を統合して法師や術師の連合部隊が配置されていた。

 

つい最近まで緊密な関係にあった神社本庁や仏教連合会は別として、それ以外の魔法使いや術師たちからは敵対的もしくはそれに類する感情を感じる視線を送って来ていた。

 

 

私やエヴァ、それに大ちゃんが集めてくれた旧大社の巫女衆名目の寄せ集め妖精だけでは心もとなかったし、アウェー感が否めなかっただけにゲゲゲの森からの援軍は正直頼もしかった。幻想郷の八雲紫や目玉の親父殿には感謝しかない。

 

それだけにこういった視線に彼らを晒すことになったのは後ろめたい想いが強かった。

 

吹上御所に案内された大樹はある人物と対面する。

 

「御久しゅうございます。大樹様」

 

「・・・だいたい、40年ぶりかしら?こうして膝つき合わせて話すのは?」

 

大樹が懐かしそうに話す相手は、病臥の身であり数日前には吐血しておりベットから身を起こしての対話であった。

 

そう、彼こそ昭和と言う時代の今上天皇であった。

 

「あの後、大樹母様には大変な苦労をおかけしてしまいました。今も多大なる苦労をおかけしています。」

 

「いいえ、この国に住まう者すべてを見守っていこうと心に決めたのは私自身です。豊玉姫様の御子を産湯に着けたあの日・・・天皇家を支えていこうと決意し・・・信長様と天下布武を果たしたあの日、この国の万民に遍く光をなど思っていたのですがね・・・。」

 

大樹はその言葉を口にすると、表情に影が差した。

 

「思い上がりだったのでしょうか・・・。」

 

その姿を目にした彼は大樹の手を握って話しかける。

 

「皇室は貴女の御恩を忘れた日は御座いません。織田家や北条家、源家と言った歴史を持つ家々の者たちも貴女様の事を気に掛けない日は御座いません。」

 

彼は侍従たちの手を借りて立ち上がり、窓辺の方へ進んでいく。

苦しそうに呼吸をしている所を見るに相当無理をしているのが解る。侍従たちが無理をしない様にと声を掛けるが彼はそれを抑えて窓の縁を支えに外の方を示す。

 

「この国の多くの民が、かつての在りし日を忘れてしまっているのは事実です。ですが、まだ終わりではない。そう思いませんか?大樹母様?」

 

彼の視線の先に、鬼太郎たち妖怪や妖精と楽しそうにしている少女、天童夢子の姿があった。

 

「そうですね。あれはかつてありし日の姿・・・、そして理想の未来。」

 

彼の目に写った大樹の姿は影が差し、大戦中に見た凛々しい姿は影を潜め儚さと危うさとでもいうのだろうか。暗いものを本能的に感じてしまったのであった。

 

「あの、大樹母様・・・。」

「私はこれで・・・。」

 

彼は声を掛けようよしたがそれよりも早く大樹が退室の言葉を述べて退室してしまったのでした。

 

 

 

 

その翌日の31日の大晦日。

 

「うっ!?」

 

今上天皇の容態が悪化、意識はあるがとてもまともに会話できる状態ではなかった。

宮内省はこの情報を徹底的に遮断し、関係各所に徹底的に管制を敷いた。

 

皇居全体に静かに動揺が広がる中で、ついにぬらりひょん派の総攻撃が始まった。

皇居周辺の公共の道路部分や敷地に進入禁止措置が取られマスコミがシャットアウトされているので、一般人が中の様子を知ることは無い。

 

警戒線の警察官の空気が張り詰めているのを記者たちも感じているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

鬼太郎の頭頂部の毛髪がアンテナ状に逆立つ。

 

「皆!!来るぞ!!」

 

周辺から機動隊のM39拳銃との発砲音が聞こえてくる。

魔法や術を放った時特有の収束音や放射音が続いて聞こえてくる。

 

 

鉄鼠と子分のねずみ妖怪たちが因縁ある天台宗の法師達をなぎ倒していく。

 

「やっちまえ!おまえら!!」

「「「チュッ!シャー!!!」」」

 

 

 

邪魅や魍魎と言った妖怪たちが機動隊の銃撃を物ともせずに突っ込んで行く。

各所での戦闘は激しくなりついには特殊部隊の短機関銃の発砲音が響き始めた。

 

外の方では警戒線の警官たちがニューナンブ拳銃を抜いて皇居側を向き始めた。

報道関係者が異常を察知しカメラを廻そうとし始める。

 

「カメラが回らない!?」

「どうなってる!!電話が通じないぞ?」

 

報道関係者に混乱が広がる一方で、パトカーの無線機を操作する警官が上司の警官に皇居側と連絡がつかなくなっていることを知らせた。

 

 

そんな様子を影から見ていたぬらりひょん。

 

「八雲の仕業か?余計なことをしおってからに・・・。まぁ、いいでしょう。」

 

通信障害が八雲紫の仕業と見抜いたぬらりひょんであったが、これが八雲紫の妨害の限界であると見抜き総攻撃の合図を送る。

 

「さて、総攻撃です。」

 

そう言ってぬらりひょんは大量の煙幕弾を報道陣の居る雑踏に放り込む。

 

「な、なんだ!!」「火事か!?」「ガスだー!?」

 

ぬらりひょんは人ごみの中をぬらりと進んでいく。

 

「私とて男ですからね。性に合わないと解っていても少しばかり暴力的にやってみたくもなると言うものです。それに本気じゃなかったとしても、ここまでうまくいくと行けるところまで行ってみようと言う気にもなるのですよ。ふはははははは!!」

 

 

 

 

 



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147 昭和・三種の神器編 吹上の戦い

「髪の毛針!!!」

「あいしくるふぉーる!!」

「魔法の射手(サギタ・マギカ)!! 氷の17矢(セリエス・グラキアリース)!!」

 

 

鬼太郎、チルノ、エヴァンジェリン達が大奮戦し、邪骨婆率いる主力を圧倒する。

 

 

「おのれ!!何という強さじゃ・・・寄せ集めと侮るべきでなかったわっ!!」

 

苛立たし気に地団太を踏む邪骨婆であったが、すぐに表情を変えてニヤリと笑う。

 

「じゃが、お前たちを引きつけると言う目標は達成済みじゃから問題は無いわっ!!」

 

「それはどういう意味です!?」

 

その場を指揮していた大妖精が尋ねる。

 

「シャシャシャ!ぬらりひょんがここにいないってことがそのままの意味じゃよ!!な、なんじゃ!?」

 

 

邪骨婆が悦に浸ろうと気を許した瞬間にエヴァンジェリンとチルノが大技を繰り出す。

 

 

「解放・固定(エーミッタム・エト・スタグネット) 、千年氷華(アントス・パゲトゥー・キリオーン・エトーン)!!」

「ぱーふぇくとふりーず!!」

 

 

「「「「ぎゃあああああ!!」」」」

 

ぬらりひょん配下雑兵妖怪たちが氷漬けになる。

 

 

「鬼太郎!!吹上御所だ!!吹上御所に行け!!奴はそこにいる!!」

「わかった!!」

 

エヴァンジェリンの言葉に従って鬼太郎はその場を離れる。

 

「鬼太郎を逃がすな!!ぬあ!?」

 

邪骨婆が鬼太郎を攻撃しようとしたがエヴァンジェリンとチルノがそれを阻んだ。

 

「本家の闇の魔法(マギア・エレベア)がお相手しようか。ぬらりひょんの参謀殿。」

「あたしたち、氷のサイキョータッグが相手よ!!」

 

「私は闇を前面に・・・いや、何でもない。氷の魔法で相手をしようか。(チルノ・・・安土時代より馬鹿になった気がするな。)」

 

 

 

 

「「「えいか!えいか!とぉ!!」」」

「もっと!」

「「「えいか!えいか!とぉ!!」」」

「もっと、前へ!!」

 

そのすぐ近くでは通常よりも長い桃の棍を装備した妖精達を大妖精が指揮して、妖怪たちを撃退していた。

 

「砂爆弾じゃ!!」「おんぎゃー!」「締め上げちゃる!!」「ぬりかべ~!!」「ニャー!!」

 

鬼太郎ファミリーの面々も大活躍だ。

 

 

 

 

「えぇい!!ぬらりひょんも神器を得て強くなってる!!鬼太郎一人増えても何とかなるわい!!貴様らも怯まずいかんか!!」

 

そう言って督戦する邪骨婆だが、当人はちゃっかり辻神に乗って戦線離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「雷光剣!!」

 

「ほぉ…神鳴流の剣士ですか。なるほど、なるほど…今までの私なら脅威でしたが、草薙剣と八咫鏡を手に入れた今の私なら、脅威至りえませんな。このようにぬらりくらりと躱して・・・こう!」

 

「っぐぅ…」

 

神鳴流の剣士である近衛詠春は扉に叩きつけられ気を失う。

叩きつけられた扉はそのまま後ろに倒れ、室内があらわになる。

 

ベットを起こした状態で国璽の入った漆箱を抱え、ぬらりひょんを睨みつける今上天皇と八尺瓊勾玉を首に掛け、桃の柄の薙刀を向ける大樹の姿があった。

 

「これはこれは、今上陛下。三種の神器の三つ目、八尺瓊勾玉とその国璽を頂きにまいりましたぞ。」

 

「こ、これは貴様の様なものが持ってって良いものではない!絶対に渡さん!護衛官!!」

今上天皇の言葉で皇宮警察の護衛官の拳銃が一斉に放たれる。

 

「無駄です!」

 

八咫鏡を中心に膜状の障壁が現れ、銃弾を防いでしまった。

 

「大樹様、人間に期待をするなんて無駄なことはおやめなさい。この国は妖怪が政の中心にいた方がよくなりますよ。」

 

「そうかもしれません・・・ですが!!それは貴方ではない!!」

 

大樹が薙刀を振り下ろす。

 

「ぬ、貴女は戦神ではない。立ちすじは素人に毛が生えた程度・・・。」

「てぇい!!」

 

ぬらりひょんは大樹の攻撃をぬらりくらりと躱していく。

 

「私ですが、仕込み刀で剣術は少々たしなんでいましてね。戦国時代には三好での抗争で刀を振るったことも多かった。」

 

ぬらりひょんは大樹を追い詰めていく。

 

「援軍の見込みは無く、三種の神器の内、二つはこちらにある。大樹様、詰みです。」

「っく」

 

ぬらりひょんは大樹に止めを刺そうと剣を引いて突き刺そうとする。

 

「人間ばかりを贔屓して、妖怪の為には何もしない・・・出来ない神など。不要・・・です。」

 

 

 

 

「リモコン下駄!!」

 

「っぐぁ!?おのれ鬼太郎!!どこまでも私の邪魔をする!!」

 

苛立たし気に鬼太郎を睨みつけるぬらりひょん。

 

鬼太郎はオカリナ剣とちゃんちゃんこを棒状にした二刀流で身構える。

 

「勝負だ!ぬらりひょん!」

「望むところだ!ゆくぞ!」

 

 

鬼太郎とぬらりひょんが何合と武器を打ち合わせ続ける。

 

「えぇい!ここでは国璽を壊しかねん!外で相手をしてやる!!」

「待て!!」

 

ぬらりひょんが外へ飛び出し鬼太郎がそれを追う。大樹も侍従に助け起こされてから、その後を追う。

 

 

神器二つを相手に鬼太郎も次第に押され始め、ぬらりひょんは調子に乗り始める。

 

「ふあははは!!!妖怪に破邪の神の力はきつかろう!!儂とてピリピリするでな!!」

 

それを聞いた大樹はぬらりひょんに飛びつく。

 

「な、大樹!?何のつもりじゃ!!」

「ぬらりひょん、貴方ほどの大妖怪でも神気は辛いようですね!!なら、私の神気も食らいなさい!」

 

大樹は自身の神気を草薙剣と八咫鏡に流し込む。

 

「熱い!?痛い!?なんだこれは!?や、やめろ!!」

「止めだ!ぬらりひょん!!」

 

鬼太郎の掛け声で危機感を感じたぬらりひょんは草薙剣と八咫鏡を投げ捨てる。

 

「こんなもんいるか!?危なすぎるわっ!!」

 

鬼太郎と大樹の双方に神器を投げつけて、逃亡を図るが失敗してしまう。

 

「ぬらりひょん・・・、大人しく天狗ポリスに捕まるんだ。同じ妖怪の誼・・・殺したくはない。」

「ほぉ…、私に情けを掛けるか。気に入らんな…それに、人間たちはそのつもりはなさそうだぞ。」

 

ぬらりひょんは煙幕を張ってそのまま逃げて行った。

 

ぬらりひょんはいなくなった。

しかし様子がおかしい、機動隊や魔法使い達の銃口と杖が向いたままだった。

 

「武器を下ろしなさい!!下ろせと言っている!!」

 

大樹の一喝で機動隊の方は銃を下ろす。

しかし、昔から因縁のある魔法使い達の杖先が降りない。

 

「妖怪は殺すべきだ!!ぬらりひょんを逃がしたこいつも同類だ!!」

「そうだそうだ!」

 

人間った位の方から非難の声が上がる。非難の声は警察側からも上がる。

 

大樹・鬼太郎と魔法使いや警官たちの間に一人の少女が割って入る。天童夢子である。

 

「こんなのおかしいわ!!鬼太郎さんたちは人間を助けてくれたのよ!!どうして、こんなことするの!!間違ってるわ!!」

 

 

彼女の言葉に心打たれた機動隊の隊長が武器を下ろすように言う。

魔法使い達も渋々武器を下ろした。

 

難局を乗り越えて緊張の糸が切れた夢子は膝を付き、鬼太郎がそれを支える。

 

「ありがとう、夢子ちゃん。」

「鬼太郎さんこそ大丈夫?」

「うん。」

 

 

仲睦まじそうにする二人を大樹は微笑んで見つめる。

 

人間と妖怪はきっと仲良くできる。

純粋な心を持つ光のような少女、彼女の様な子がいればきっと・・・大丈夫。

 

 

パーーーーーン!!

 

 

一発の銃声が響いた。

 

 

1発の銃弾が歴史を変える。

 

 

 



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148 昭和・三種の神器編 暗雲

「あぁ!?夢子ちゃん!!」

 

鬼太郎の悲痛な叫びが響く、彼女の胸からは赤い染みが広がっていく。

 

現場は破魔組織も警察も蜂の巣を突いたような大混乱になっていた。

夢子は今上陛下の計らいもあって宮内庁病院に運ばれたが、間に合わずあと一歩でというところで息を引き取ってしまうのでした。

 

手術台に運ばれた直後に息を引き取ってしまう夢子。

 

「そんな・・・。」

 

力なく膝をつく鬼太郎。

 

ダメ!彼女を死なせたらダメ!

 

大樹が鬼太郎を押しのけて、神気に妖精特有のマナと言ったあらゆる好天的な力を注ぎこんでいく。

 

「天童夢子、貴方を死なせるわけにはいかない!」

 

 

ピッ

 

 

心拍計が反応する。

息を吹き返したのだ。

 

「よかった。」

 

鬼太郎たちや集まって来ていたゲゲゲの森の妖怪たちからも歓声が上がったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

そして、数日後。夢子は病室で目を覚ます。

 

「ん…あぁ…ここは。」

 

「宮内庁病院の病室だよ。」

 

「あら?鬼太郎さんたちは・・・。」

 

だが目の前にいるはずの鬼太郎たちがいない。

医師は一瞬だけ眉をひそめた。

 

「天童さん…君は・・・・・・、そうだ、もう少ししたら検査をするよ。」

 

病室のテレビには神器を盗もうとした不届き者が都内を逃亡中と言うニュースが流れていた。

 

 

そんな状況に、夢子は夢を見ていたのかもと思う。

 

『子供の優しい心だけが見られる夢、大人になったら忘れなくちゃいけない夢…。さようなら私の夢。』

 

あら?

向かいの木に一瞬だけ、鬼太郎さんが映ったような。

気のせい・・・なの?あれは、夢・・・だったの。

 

 

 

 

 

 

 

 

夢子さんは一命を取り留めた。

でも・・・、銃で撃たれた後遺症・・・はたまた、私の込めた力が悪かったのか。

私たちの事が見えなくなっていた。

彼女は私達のことを夢幻と思い始めている様だ。

 

「夢子さん」

 

大樹は麻帆良に戻ると学園長室にも寄らず。

図書館島への道を行く。

 

いくら希望を見出しても・・・

人類と妖怪の未来に差し込んだ光明であっても、多くの人間の持つ暗く深い心の闇がすべてを飲み込んで、結局はこんな悲しみだけが繰り返されていく。

 

幻想郷に戻る大妖精たちとも顔を合わせることは無く。

図書館島の下層へと続く階段を下りて行く。

 

かつて、日本の人間たちは妖怪たちと楽園を築き上げ、希望の光に満ちていた。

日本人たちは海の向こうにもその光を広げようとその戸口を開いた

 

この考えに賛同した異国人や異国の妖怪たちは大勢いた。

そういう意味では、確かに世界に希望はあったのだ。

だが、希望足りえる人間たちは次々といなくなっていく・・・。

希望を見出しても行き着く先がこれでは・・・。

 

 

なら、わたしは・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇居、吹上御所。

 

「そうですか。天童さんは命に別状はない。よかったです。」

 

今上天皇は病床からほっと息をついた。

 

「ですが・・・。」

 

侍従長の次の言葉を聞いて絶句する。

 

「見えなくなってる・・・。あの事を・・・ゆ、夢だと・・・思っているのです。あぁ・・・そんな。大樹母様は、大樹母様にお会いせねば・・・っ!」

 

侍従長は今上天皇のただならぬ様子を見て麻帆良学園に連絡を取った。

そして、侍従長は今上天皇に言うべきでない言葉を告げた。

 

「大樹様は図書館島の最下層に籠られ、誰ともお会いしないとのことでした。」

それを聞いた今上天皇は天を仰ぎ、嘆いた。

 

「あぁ・・・これは、こんなことが・・・、なんという、何と言う事だ・・・。これは、この先は・・・あぁ・・・ダメだ。こんなことがあっていいのだろうか。これは、あまりにも、あんまりにも・・・・・・・・・ぐっ!?うぅ・・・ぐはっ」

 

今上天皇はひとしきり嘆くと吐血して意識を失った。

 

「へ、陛下!?誰ぞ!誰ぞ医者を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病室の向かいの木から夢子の病室をのぞく鬼太郎。

 

「一命を取り留めたようじゃの。儂らの事が見えなくなって忘れてしまうかもしれんのう。」

目玉の親父は悲しそうに呟いた。

 

「僕は夢子ちゃんが無事で良かったと思いますよ。それに、いつかきっと・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1989年1月7日、昭和天皇崩御。昭和と言う時代が終わり平成へ。

 

 



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149 平成 未練は残り、希望もあるが…

 

 

 

官房長官から告げられる新元号。

 

「新しい元号は、『平成』であります。」

 

昭和天皇崩御の日(1月7日)、内閣総理大臣梅下登の承認を得て、新元号は平成と定められた。

 

『地平かに天成る。』

国の内外、天地とも平和が達成されると言う意味であり。

 

狭山事件、瀬戸内シージャック事件、よど号事件、三島事件、三無事件、三里塚闘争、さくら号事件、あさま山荘事件、三菱重工爆破事件、三種の神器事件と警察の実働部隊や一部自衛隊が関わる重大事件が多く発生し、官民問わず少なくない数の犠牲者が出た時代であり、地祇の時代は何事もなく平らかな時代であって欲しいと言う願いが込められた元号であった。

 

カルト教団が引き起こした事件や阪神淡路大震災があった90年代は過ぎ去り、テロとの戦いが始まるのが2000年代。と、それはさておき・・・

 

2000年になる直前の頃だったか。

近衛近右衛門学園理事長から、日本史の非常勤講師にと打診を受けた。

私としては断るつもりでいたが、懐かしい顔が麻帆良に現れた。

 

「教育実習生として、こちらに来ました。天童夢子です。皆さん仲良くしてくださいね。」

 

私は学園長に直接、辞退の意向を伝えるために麻帆良学園本校女子中等部の教室を通り過ぎた時に聞こえた言葉だった。

私は思わず教室の中をのぞいてしまった。

 

あの頃と比べて大人になった今では背格好も、声だって声変りがあるのだから違っているのだが判ったのだ。

今私が見ている彼女は、あの天童夢子だと言う事が・・・。

彼女の身が纏う妖怪との繋がりが強いものから伝わってくる陰の気が、かなり薄らいでいる事も、分かっている。だが、彼女は天童夢子なのだ。

 

かつて、私が人間と妖怪の友好の未来を見出させた人間天童夢子なのだ。

それが今、何の因果か私の前に再び現れた。神である自分が言う言葉ではないが運命を感じてしまうではないか。

 

だから私は近右衛門の打診に対してこう答えてしまうのだった。

 

「麻帆良学園都市の非常勤日本史講師の件・・・お引き受けします。」

 

 

私はその後、麻帆良学園都市で非常勤の日本史講師として学園本校や聖ウルスラ、大学付属中高の非常勤講師としての活動が続いた。

 

戦後からは大樹大社祭神としての仕事はGHQや戦後政権によって骨抜きにされたのでほぼ無かった。戦後、関東大樹大社が取り壊されてからは清州城の近くにあった桃園大樹宮と安土城敷地内にある大樹宮が神道大樹派の主要拠点であった。それ以外は源頼朝が寄進した相模大樹神社や浅井家が寄進した琵琶大樹神社、藤原氏の誰かが寄進した平泉大樹神社が挙げられるだろう。

 

2002年に私とは縁のある植物系の大妖怪風見幽香が幻想郷でひと騒動起こした様だ。幻夢界の悪魔姉妹もこれに便乗したとかで大騒ぎだったらしい。

幽香は妖怪としては隠居よりで大人しくなったと聞いていたのだけど、偶には暴れたいときもあったのだろうか?

あと、2003年の始め?もしかしたら2002年の終わり頃には幻想郷と魔界の間で小競り合いがあった様だ。で、その後すぐにスカーレット家の当主レミリア率いる集団が向こうでは紅霧異変と言う異変を起こして、博麗の巫女にボコボコにされたらしい。

戦後すぐに先代ギュスターヴの訃報が入ってからはすっかり御無沙汰の吸血鬼名門でしたが、西洋妖怪の駐日大使であるエリートが安土大阪時代に別邸と言う拠点を築いてから、実に400年ぶりに出来た西洋妖怪の日本国内拠点だ。国内に西洋妖怪の拠点があることは鬼太郎たちに伝えるべきなんだろうけど、その気にはなれないわね。

 

話が脱線してしまったが、私自身は大きな変化があった訳ではない。本校中等部、エヴァンジェリンが入部している茶道部の顧問をさせられたことくらいだろうか。

夢子ちゃんのことだが、麻帆良で教育実習を済ませた後は調布市の学校に赴任してしまった。ただ、私自身の未練もあったのか教育実習生だった時に、連絡先を交換しており2,3カ月に一度くらいではあるが連絡を取り合っている。あくまでも麻帆良で働く教員仲間としてだが・・・。

なんだかんだで、私とてメールも携帯通話使いこなせたりするのです。

 

「ねぇ、エヴァ?赤外線通信ってどうやるの?ケーブルなんて買った箱にはなかったけど?」

「赤外線通信は無線だ!ケーブルなどいらん!」

 

さすがは現役女子中学生、流行に詳しいわねぇ。

 

日々平穏に過ごしていると、ある日のことだ・・・

 

 

 

 

 

昭和63年の事件以後、鬼太郎たちの妖怪と人の融和の為の活動に消極的になってしまった。むしろ、西洋妖怪の情勢を知っているのに教えない時点で非協力的かもしれないが、ぬらりひょんのやり方を肯定する気は毛頭なく敵対しているわけじゃない。

鬼太郎の仲間たちとの関係もだらだらと続いてはいた。だから、彼が私のところに挨拶に来るのはおかしい話ではないわけで・・・

 

 

 

「一人で行くのはおやめなさいな蒼坊主。あなた、極度の方向音痴でしょ・・・。」

 

大樹の目の前にいる男前と言えば、まぁ男前の青い衣を着た行脚僧姿の青年妖怪は蒼坊主。

人間の行脚僧として振舞いながら生活しているが、実は悪妖怪の封印を巡視する役目を持ち、日本各地を旅しているのです。

 

「つっても妖怪横丁は同じ都内だろ?大丈夫だって、大樹様は心配性だぜ。」

「はぁ、タクシー呼んだから近くまではそれで行って、そこから先は呼子を呼んで連れてってもらいなさいよ。」

 

まったく、大妖怪とかそれに類する妖怪って何かしら欠点があるわね。

蒼坊主の場合は、その驚異的な方向音痴が麻帆良の結界の穴を通り抜けるって言うエキセントリックを決めたから、私の前に来たわけで・・・。

 

「もうとにかく、ゲゲゲの森と横丁の妖怪たちよろしく言っておいてね。」

「おうよ!ありがとな、大樹様!」

 

そう言うと蒼坊主はタクシーに乗って去って行った。

この鬼太郎の兄貴分でもある青坊主は、戦後私の統制から外れて派手に暴れまわった妖怪たちに頼んだわけじゃないけど自主的にお灸をすえている実力者なので、そういった意味では心配してないのだけど。

 

「ものすごい方向音痴なのよねぇ。さてと・・・」

 

 

大樹はそういって青坊主が来る前に書きかけていた手紙の続きを再開したのでした。

 

 

 

 

タクシーから降りると速攻で「やっほー!」と大声を上げて呼子を呼び出した。その過程で不審者扱いを受けるのは御愛嬌だ。

 

そこから、蒼坊主は鬼太郎の家に立ち寄って目玉の親父に挨拶をする。

 

「蒼坊主、立ち寄らせてもらいました!」

「うむ。」

 

蒼坊主は鬼太郎たちに飛騨の天狗たちから託された古今東西妖怪図鑑を託す。

その日は歓迎の宴をして翌日にはゲゲゲの森を一人で去ろうとする蒼坊主だったが、鬼太郎に見つかり見送られることに。

 

 

そこで、彼らは見つけたのだ。

都会の明かりを吸収して巨大な炎を纏った火取魔に・・・。

 

 

二人は火取魔を操るぬらりひょんを見つけるのだった。

 

「行燈や火鉢の炎を吸っていた時とは文明が違うのだ。現代の熱エネルギーを吸収し続けたお前は無敵・・・。さぁ!鬼太郎たちをやつけるのだ!」

 

 

ぬらりひょんが火取魔を操り鬼太郎打倒を目指し火取魔に鬼太郎を呑み込ませる。

すると火取魔は自身の力に気づきぬらりひょんの言うことを聞かずに暴走を開始。

 

 

一方の蒼坊主もぬらりひょんに不覚を取り、一時撤退。

妖怪横丁に戻って封印の札を古今に用意して、横町の仲間たちと協力し、封印術を使って火取魔を封印するのでした。

 

ちなみに、ぬらりひょんはどさくさに紛れて逃走した。

 

「ここまでくれば、大丈夫じゃろう。朱の盆、車を廻せ。」

「あれ、レンタカーなんで返してきちゃいました。」

 

「なら、邪骨婆か旧鼠に迎えに来させろ。」

「あ、火取魔に携帯の電池吸われちゃってます。」

 

「馬鹿もんがぁ!!」

 

そう怒鳴ってぬらりひょんは朱の盆を杖で殴るのだった。

 

あと蒼坊主ですが、封印した火取魔を石川県に持っていくところ何故か鳥取砂丘に行ってしまうほどの方向音痴っぷりには呼子ですら呆れてしまうのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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150 平成 鬼界ヶ島の紅い霧

2003年現在、ぬらりひょん含め日本妖怪の組織的な紛争あるいは暴動は発生していない。

昭和の末に皇宮襲撃まで行ったぬらりひょんの勢力も、今はちまちまと社会の混乱を誘発させるだけであった。

 

また、三種の神器事件という大失態をしてしまった関東魔法協会と関西呪術協会に対してこの勢力の仲違いを日本政府のテコ入れで無理矢理に表面上は成し遂げて、国内の不穏な妖怪たちに向けさせることに成功したことも挙げられる。

 

今なお、日本政府は公式には妖怪の存在を否定しているが現場の自衛隊や警察にとって、その存在は暗黙の了解だ。

 

もちろん妖怪の融和派穏健派の鬼太郎たちゲゲゲの森の妖怪たちの存在も大きい。

逆に大樹は政治的な介入をすることが全くなくなり、国内での彼女の権威は形骸化しつつあった。ただし、刑部狸などの大樹恩顧の妖怪たちにとってはいまだに彼女は奉じ奉る存在であった。

 

また、幻想郷も危ういバランスの上で成り立っていた。

戦後、八雲紫は外の世界との関係を完全に断ち切る気でいたが幻想郷内の大派閥である天狗の派閥が外の世界への未練を断ち切れずに外の世界につながる道を維持し続け、八雲紫もそれを容認した。また、思いのほか博麗大結界の穴も多く自身や式神の蘭で日夜継ぎ接ぎ修理をしている状態であった。

 

そういった隙もあってか魔界や夢幻界の介入を許し、2003年下半期には西洋妖怪の幹部の一人であるレミリア・スカーレットに霧の泉の一部を割譲し別荘地を構えさせることにもなってしまっている。ただ、西洋妖怪の前線基地になるのは八雲紫の許容外でもあったので本当に別荘地として使用している様だ。

 

 

さらにその年の、西洋妖怪軍団による鬼界ヶ島攻めは熾烈を極めた。

 

西洋妖怪の吸血鬼派閥ナンバー2を巡る内部争いが発生し、紆余曲折を経て先代ナンバー2の娘であるレミリアに内定したのだが、その実績作りとしていくつかの功績づくりが行われ鬼界ヶ島攻めが企画されたのだ。ちなみに幻想郷での一件も実績作りである。

 

 

 

 

レミリア・スカーレットは今回の鬼界ヶ島攻めの司令官に就任、妹フランドールの面倒があるのでパチュリー・ノーレッジと十六夜咲夜を幻想郷に残し、紅美鈴と小悪魔そして、ゴブリンどもやメイド妖精たちを直掩戦力とした。

 

また、自身の軍師参謀役でもあったパチュリーを連れて来れず小悪魔では少し心もとなかったこともあり、軍師参謀役に西洋妖怪軍団からカミーラを充てると、人間の従者を連れている共通性からそれなりに親しいラ・セーヌや元西洋妖怪軍団駐日大使のエリートにを招聘したようだった。

 

「この度は侯爵位継承おめでとうございます。」

「あぁ、そういうのはいい。本題を進めてくれるかしら?」

 

レミリアは尊大な態度とともにカミーラを促した。

 

「そうですか。では、早速ですがこれを・・・ベアード様よりですわ。」

 

レミリアはカミーラから受け取ったベアードからの手紙を一読。

 

「ブリガドーンか。100年くらい前に概念実証をして、それきりだったが完成したのか。」

「魔女たちの一子相伝の魔術の情報はなかなか出回らないので詳しいことはわかりませんが、完成したと聞いています。」

 

あまり、はっきりとしてない返事にレミリアは少し嫌そうにして応じる。

 

「プロトタイプとかの実証実験に付き合わされるのは嫌なのだが?」

 

レミリアは幹部陣の列にいるアルカナ家の魔女に視線を向ける。

 

「ご心配には及びません。ブリガドーンは確実に機能しますので…。」

 

全く、自分が死ぬというのに眉ひとつ動かさんとは肝が据わっているな。

レミリアは感心してか。「期待している。」とだけ返した。

 

自身のゴブリンやメイド妖精に加え下級吸血鬼、下級人狼に吸血蝙蝠、魔犬、デュラハン等、着々と西洋妖怪の集団が集結しつつある中で、視界の脇に写る艦船を目で指し示す。

 

 

「ところであれは?日本の海軍か?」

 

「あれは、日本の沿岸警備隊の船です。鬼界ヶ島の我々の戦いを時折遠巻きに見ているだけの取るに足らない存在ですわ。」

「正確には海上保安庁と言いまして、装備は機銃程度ですのでカミーラ様がおっしゃるように気にする必要はないでしょう。過去の例を見ましても彼らやその上の自衛隊が介入した例はありませんので…。」

 

カミーラの回答に被せて補足を加えたのは吸血鬼エリート。第二次世界大戦までは同盟関係にあった大樹勢力に対する駐日大使として日本に長く住んでいたこともあり説明は詳しい。大樹勢力の瓦解により正式な同盟関係は失われたが、旧大樹派残党勢力と話を詰めて彼らの鬼界ヶ島に対する介入がないのはエリートの功績だったりする。そのエリートも長らく日本から離れていたが平成に入って日本でのロビー活動を再開させたという。

 

「人間ごときが私を脅かすとでも?」

「し、失礼しました。そのような意味では!?」

 

レミリアが不機嫌になったのを察したエリートは慌てて謝罪する。

 

「まぁ良い。お前は、この場を離れて外交活動を継続しとくといい。」

「は、はい。」

 

エリートはそそくさと戦列から離れていく。

 

日本(幻想郷)に拠点を置くレミリアと同じ方向に去っていくところから、エリートは日本でのロビー活動を行っているのがレミリアには理解できた。

 

「さて、私も場を整えるとしようか。」

 

レミリアはパチュリーから預かった魔法の込めてある小瓶を開き空に撒くと眼前に見える鬼界ヶ島に指をやり掻き回すような仕草をする。すると、紅い霧が発生しだし鬼界ヶ島を包み込み始めた。

 

 

 

「では、私はブリガドーンの発動をさせるように魔女の方に指示を出してきます。」

 

カミーラはその場を後にする。

 

紅い霧の向こうで紫雲が発生し鬼界ヶ島のみならず周辺の島々をも飲み込んだ。

 

「ほぅ…すごいな。ブリガドーン、これはなかなか・・・。」

 

西洋妖怪軍団を監視していた海上保安庁の巡視船が舵を失いふらふらと航行している。

 

鬼界ヶ島や周辺群島では元の住人たちが奴隷妖怪になってしまった。

鬼界ヶ島では元人間の奴隷妖怪がアマミ一族を襲撃していた。

 

「おや、これは私が手を出さずとも勝ってしまうのでは?」

「そろそろです。お嬢様。」

 

レミリアの横に控えた紅美鈴が声をかける。

美鈴の指示した先にはいくつもの筏で鬼界ヶ島に上陸していく日本妖怪たち。鬼太郎たちだった。

 

 

 

 

「な、こ、これは。」

「酷い。」

 

そこに住んでいた人間たちは妖怪奴隷へと姿を変えていた。

鬼太郎たちは、その惨状に衝撃を受けた。

 

「アマミ一族の皆はまだ無事のはず。せめて彼らだけでも助けてやらねば。」

 

目玉おやじの言葉に頷いて、鬼界ヶ島のアマミ一族の里を目指すのでした。

 

 

 

 

鬼太郎たちを見つけたレミリアは面白いものを見つけたと哂ってラ・セーヌに指示を出す。

 

「霊夢みたいに、面白そうな奴がいるじゃないか。おい、ラ・セーヌ。兵隊をけしかけてみろ。」

「っは。ゾンビとグールどもを前に!蝙蝠どももけしかけさせろ!」

 

 

西洋妖怪軍団の雑兵たちの襲撃を凌ぎつつアマミ一族の里を目指す。

 

 

「鬼太郎!こっちは任せろ!」

「蒼兄さん!わかりました!」

 

 

鬼太郎たちはゾンビやグールを蹴散らして見せる。

それに続く人狼軍団やほかの妖怪たちも蹴散らす。

 

「これだけの人間どもをあの世にやったんだ、功績としては十分だろう。ラ・セーヌ、この場の指揮はお前がやれ。ブリガドーンも十分な成果が出ただろう鬼界ヶ島以外の奴隷妖怪を回収すればじゅうぶんだろう。カミーラ、貴様もそこから先を求めてはいないのだろう?」

「えぇ、まぁ。」

 

レミリアの問いにカミーラは困り顔をして返す。

 

カミーラは西洋妖怪軍団の吸血鬼派閥に属するのだが、初代ドラキュラ公爵を頂点とする派閥のピラミッドから外れ、バック・ベアードの側近衆に属する立場であった。

ちなみにレミリアは父ギュスターヴが初代ドラキュラ公の最側近と言うこともあって、初代ドラキュラ公爵の派閥の実質上のナンバー2だ。

 

「妹みたいな言いようではあるが、私はあれと遊んでみたいんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

紅い光の雨が降り注ぐ。

 

「うわぁ!?」

「避けろ鬼太郎!」

 

 

「お前がこいつらの親玉か?」

「正式にはベアード様だが…まぁ、似たようなものだ。それと貴様の相手は私の部下がお相手しよう。」

 

 

蒼坊主の問いにレミリアは応じるが本命は鬼太郎なのだ。

蒼坊主に美鈴が手首をくいとやって挑発する。

 

「お嬢様のご命令だ。相手になってやる。」

「おっと、そいつは光栄だね!俺は結構手ごわいぞ!」

 

 

 

 

 

 

「たいして月も紅くなし、軽く遊んであげるわよ。」

 

「鬼太郎!気を付けるんじゃ!奴は吸血鬼の貴族じゃぞ!」

「はい!父さん!」

 

鬼太郎たちを見て、嬉しそうにレミリアは哂う。

 

「ふふ、幻想郷では弾幕ごっこが主流だから、こうしてやり合うのも楽しいものよ。」

 

 

 

レミリアと鬼太郎の戦いは拮抗する。

レミリアの方が手加減している感はあるが…。

西洋妖怪軍団の雑兵の数が少なくなって来たのでレミリアは終いと言わんばかりに手をパンパンと打ち鳴らす。

 

「っく、強い!」

「あなた、なかなか見どころがあるわよ。」

「お前なんかに言われても…!!」

 

悲しいわ。と、までは言わないが連れないじゃないかとお道化て見せるレミリア。

 

「あー、一応言っておくがこの惨状の主犯は私じゃない。ベアード様だからな。お前みたいな見どころのある奴を殺すのは惜しいし、私と遊んでくれたお礼にここは引いてあげましょう。私もこの戦争の矢面に立つ気はないのよ。いい別荘を手に入れたし別荘を本宅にしたいのよ。」

 

レミリアとの空気と言うかノリの違いに鬼太郎は困惑する。

 

「殺伐とした世の中を生きるより、楽しい幻想世界を謳歌するのも悪くはないものよ。」

「は、はぁ…。」

 

困惑している鬼太郎に代わって目玉おやじが話しかける。

 

「では、スカーレット殿は儂らとは敵対しないのじゃな?」

「そう言うわけにはいかないでしょう?私も派閥の関係やビジネスライクな関係ってものがあるのよ。紅魔のお嬢様はファニーウォーがお望みよ。それと、さっさと行ってあげたら?アマミ一族ってあなたの近縁種なんでしょ?」

 

 

レミリアは一方的にそう言い放って西洋妖怪軍団の手勢の撤退を開始し始めた。

 

 

その帰りの道中。

 

「スカーレット侯爵、先ほどの物言いはベアード様に対する翻意とも取れますが?」

 

カミーラの言葉にレミリア、こともなげに返答する。

 

「ベアード様とて吸血鬼派閥の私が鬼界ヶ島を取るよりも子飼いの幹部かプリンセスの手柄にしたいでしょう?私はアシストに回るのよ。今回の戦いで日本妖怪もだいぶ参ったでしょうし、日本政府も手を叩かれてもっと静かになるんじゃないかしら?」

 

レミリアは座礁した巡視船に視線をやる。

破魔勢力は分らんが、腰砕けの日本政府は自分の耳目を塞ぐでしょう。

 

「ふふふ、幻想郷に拠点も作ったし、こうして仕事もしたのよ。ベアード様もご理解くださるわ。知ってる?幻想郷にも地獄につながる旧地獄ってのがあって、旧地獄ってのがプリンセスが領有してる地獄なのよ。姉友のプリンセスを手伝ってあげようっていう。麗しき友愛ってのをベアード様もご理解くださるわよ。」

 

レミリアを問い詰めるのを諦めたカミーラは黙って西洋妖怪軍団の本体を連れて去っていったのでした。

 

 

 



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151 平成 西洋妖怪軍団襲来 前編

その後も規模の大小はあったが西洋妖怪軍団の侵攻を何度も跳ね返した。

 

2000年代は過ぎ去っていき、その後の東日本大震災では津波による被害などの出したが、何とか乗り越えようとしている。2010年代も中盤に差し掛かりつつあった。

 

髑髏彼岸の花が咲き、西洋妖怪の襲来を告げた。

 

 

 

「大丈夫、大丈夫よ。」

 

一方の鬼界ヶ島では西洋妖怪たちに捕らえられた島民の子供たちを励ますアマミ一族の生き残りの姉弟の姉であるミウ。12年前の悲劇からようやっと復興したというのにこの始末、ミウは自身の不甲斐なさを恨んだ。

そこにドラキュラ三世が姿を見せる。

 

 

「素敵ですよ。ミウさん、あなたは美しい。日本と言う国は辛気臭くてあまり好きではないのですが女性だけは格別だ。あぁ、もう我慢できない!血を僕に下さい!な!?」

 

ドラキュラ三世がミウに迫ろうとするとドラキュラ三世の首の何処からか白い布が巻き付き後ろに引っ張られる。

 

「栄光ある吸血鬼一族が節操のない。先代が泣くぜ?」

「お恥ずかしい限りです。女性が絡むと後先考えなくなるのが困りものですね。」

 

ドラキュラ三世を引っ張ったのはミイラ男のバルモンド。そして、その一歩後ろでため息をついたのは、さとり・K(古明地)・ベアード。

この軍団を率いる長であった。

 

「ふん、血が吸いたきゃ島の連中でも吸っとけ。」

「やめて!この子たちには手を出さないで!」

 

バルモンドは弟が居らず牢に穴が開いておりそこからわずかに海水が出てきたのに気が付いた。

 

「あぁ、そういえば。お前ら姉弟は俺たちと同じ妖怪だったけ。」

「バルモンド殿もアマミの巫女を挑発するのはやめてください。全く、先が思いやられる。ドラキュラ三世、私は旧地獄の手勢と伝手を頼って兵隊を借りて来るために暫しこの場を離れますが、勝手な行動は慎むように・・・。わかりましたか?」

 

さとりは出来の悪い子供にでも言い聞かせるようにドラキュラ三世に話しかける。

 

「プリンセスのお望みのままに・・・。」

 

なおも傍若にふるまうバルモンドと色欲に負けやすいドラキュラ三世に一抹の、否、かなり大きい不安を抱いたさとりであった。

 

 

 

 

一方で東京の河川敷まで逃げ延びたミウの弟カイを追って魔女グルマルキンが現れる。

グルマルキンはカイとそれを助けたねずみ男を襲いますが、危機を察知して現れた鬼太郎に撃退されます。そして、グルマルキンを捕らえるのですが別の魔女にグルマルキンを解放されて逃げられてしまうのでした。

 

「あいたたたった。魔女見習のお前に助けられるなんて、私も年かねぇ…。」

「おばあちゃまも年なんだから、もう休んどいて。さとり様期待のニューヒロインのザンビアが頑張っちゃうから!」

「平気かい?鬼太郎は手ごわいよ。」

「平気よ。だって私、もう子供じゃないもん。」

 

 

そして、鬼界ヶ島に戻ると仲間の出迎えを受ける。

 

「あら、バルモンドは?」

「女のところだ。」

「彼女取られちゃったんだ。プレイボーイ、いい気味。」

 

「ねぇ見て見て、このネイルアート自信作なのォ。」

「色が最低、センスゼロ。」

「腹立つわね。ちょっとばかり、あたしより可愛いからって調子に乗って!」

 

戻った彼女はドラキュラ三世と狼男のワイルドに速攻で毒舌を浴びせかける。

 

「ところで、姫様は?」

「あぁ、プリンセスは兵隊を取りに旧地獄まで行ったよ。」

 

「あら、鬼太郎がもうすぐ来るのに…。」

「プリンセスは勝手な行動は慎めとご命令だ。」

 

「え~なんだか不満。ここで鬼太郎をやつけてさとり様に私たちが有能だって証明するのよ。」

「しかし…。」

 

ザンビアを諫めようとしたドラキュラ三世であったが、そこにバルモンドが割り込む。

 

「いいじゃないか。どのみち、姫が戻る前に鬼太郎が来ちまうんだったらやっちまっても問題ないじゃないか。(あのことを多少なりとも知ってそうだからなベアードの娘は。)」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、横町では髑髏彼岸の開花で西洋妖怪の襲来を予期した鬼太郎たちが修業に励み襲来に備えたのであった。鬼太郎たちが鬼界ヶ島に向かう当日、地獄から五官王が援軍を連れてきたのであった。

 

「地獄の是非曲直庁から援軍を連れてきた。」

 

五官王の巨躯で隠れていたが、その背後から2人の女性が姿を見せる。

 

「幻想郷で閻魔職をさせて頂いている四季映姫です。こちらは部下の小町です。」

「あたしは死神の小野塚小町だよ。よろしく頼むよ。」

 

 

「こりゃあ、すさまじい援軍が現れたもんじゃぞ。」

 

地獄からの援軍に目玉おやじは驚きながらも心強く思うのでした。

そして、鬼太郎、子泣き爺、砂かけ婆、一反木綿、ぬりかべ、猫娘、四季映姫、小野塚小町の8人は鬼界ヶ島へ向かうのでした。

 

 



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152 平成 西洋妖怪軍団襲来 中編

そして、鬼太郎たちの筏が鬼界ヶ島をベストメンバーで目指しているころ。

 

 

 

 

ヤングジェネレーションズを率いる立場にあったさとりは幻想郷でレミリアからメイド妖精やゴブリンと言った一部兵力を借り受け、自身が治める旧地獄に伏せていたゾンビフェアリー軍団を率いて鬼界ヶ島へ向かう前に、紅魔館のレミリアを介してパチュリーの協力を得て、麻帆良の図書館島地下に籠る大樹に通信をつなげたのであった。

 

 

大樹は世話役の妖精巫女から水晶玉を媒体にした通信球を受け取って、紅魔館の一室を借りたさとりからの通信がつながる。

 

通信をつなげるために紅魔館の食客の魔女パチュリー・ノーレッジが一瞬移るがすぐに画面外に移動して、通信に異常が出たら呼ぶように告げるとどこかに行ってまった。

 

 

孫娘さとりとの会話内容に入る前に幻想郷の立ち位置について説明しておく必要がある。

現在の幻想郷は人間社会とのかかわりを完全に断ち切っている。妖怪の餌を確保するために人間を誘拐しているようだが、居なくなっても問題なさそうな人間を選ぶなど八雲紫もかなり気を使っている様だ。ただし、妖怪社会の関りは幻想郷の秘匿を維持するうえで外部の協力は不可欠なこともあり継続中である。是非曲直庁の幻想郷支部があり、西洋妖怪軍団のレミリア・スカーレットやさとり・K(古明地)・ベアードと言った西洋妖怪軍団の重鎮に別荘地設けさせたり、是非曲直庁と西洋妖怪軍団の複雑で政治的な事情によって設けられた旧地獄の所領、戦後の日本妖怪の大移住など色々な妥協を受け入れているが局外中立を謳っており、八雲紫派閥(?)の天狗衆の天魔の兵力や彼女自身の式や彼女の一声で集まってくる妖怪などがいるので武装中立的側面も持っている。また、彼女の式である九尾の八雲藍はどの程度の縁戚かは知らないが、白面金色九尾狐と縁戚であるらしく中国妖怪の首領チーとの窓口もあり、中国妖怪と西洋妖怪の衝突があった際に幻想郷の仲介で幕引きされた事例もある程、政治的にも重要な立ち位置にいる。

 

レミリアやさとりがそれぞれの所領に私兵を伏せているのは八雲紫のルーズな面が出ていると言えばそれまでだが、八雲紫とその協力者の戦力が強大である故にレミリアやさとりの私兵の存在を見逃しているとも言えるのである。また、さとりが幻想郷創設時の協力者の一人である私の孫娘であるという忖度もあるかもしれない。ただ、私は創設時のメンバーではあるが1936年の幻想郷侵略の主犯であるので幻想郷での評価と言う株は創設時に比べ落としてしまっているだろうが、有力者であることは変わらないだろう。

 

話を戻して、さとりとの会話が始まる。

 

「久し振りですね…さとり、お仕事は順調?。妹のこいしとは仲良くやっていますか?」

「はい、お祖母様。ご存じかとは思いますが、私・・・お父様に新しい軍団を任せて頂けたんですよ。色々大変でしたが、お燐もお空よく私を補佐してくれます。」

 

嬉しそうに話す孫娘さとりに思わず顔を綻ばせる大樹。

 

「ただ、こいしは・・・心の目を閉ざしてから年々、存在が薄くなって私もお父様もこいしの存在が掴めなくなって・・・。」

「そうなのですね。」

 

「ですが、ご心配なく。私の軍団が名を挙げて知名度が上がれば私の妹としてのこいしの知名度が上がって存在が濃くなるはずですから!」

 

さとりとの会話は弾み2時間近く話し込んでしまった。

さとりにも仕事があるのだからと大樹は話を切り上げようとした時、さとりは少しだけ表情を硬くして大樹に話し始めた。

 

「お祖母様は100年前極東の島に妖怪と人間の共存する理想郷を作り上げました。」

「今は滅び去った過去の話です。」

 

さとりの言葉に大樹はすぐに否定して返す。

 

「その最たる大日本合藩連合帝国は東洋の大半を掌握し、お父様もそれに倣いドイツ帝国やオーストラリア、トルコを掌握して、1910年代にはお父様の勢力圏と共同し実質的に世界国家の形を作りつつありました。」

「結果は惨憺たるものになったわ。」

 

「ですが、お祖母様は一度は世界に妖怪の理想郷を完成させた。」

「それは過程の話です。」

 

「お母さまも最期までその世界の為にお父様を支えました。妖怪や妖精の未来のために・・・。」

 

普段の彼女からは想像できないほどに感情が出ているさとりに大樹は痛いところを突かれたと苦い顔をする。

 

「お祖母様。今、世界は人間の傲慢によって酷いことになっています。世界中で大勢の妖怪や妖精たちが辛い思いをしています。もし、お祖母様が御立ちになるのなら世界中の妖怪が、妖精がお祖母様に従うでしょう。お祖母様、今こそ私たち妖怪、妖精の為に道をお示しください!」

「今のは聞かなかったことにします。」

 

さとりの言葉を聞いた大樹はそう言って通信機のスイッチを切った。

 

物言わなくなった通信球を大樹はただただ見つめた。

環境破壊が進み、人間たちの無配慮な開発が妖怪や妖精たちの住処を奪い、ゾンビフェアリーと言う妖精の怨霊とも呼べる存在を生み出した。心ある人間たちは年々その数を減らし、この世界が確実に悪い方向へ進んでいることも頭では理解している。

 

だが、天童夢子をはじめ大樹に人間の心の光を示した者たちがいるのも事実なのだ。

麻帆良には近衛学園長をはじめ大樹に理解ある人間が多くいた。

この学園で教師として子供たちと接し、子供たちにある種の光を見ていたのは事実だ。

だが、それが実を結んでいるかと言えば…答えることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「お祖母様・・・。」

 

切られた通信球を目に、さとりは俯いた。

 

「お祖母様が、私たち妖怪の最後の希望なのに…。」

 

 

 

少しして、レミリアが顔を出した。

 

「その様子じゃあうまく行かなかったようね。」

「えぇ、ですが…。」

 

さとりが次の言葉を続ける前にレミリアが言った言葉にさとりは驚いてしまう。

 

「君の部下たちが、君の指示を待たずに日本妖怪たちと戦闘を始めたようだよ。」

「なっ!?」

 

「ハハハハ!!独断専行は戦の華とはよく言ったものだが、ゲゲゲの鬼太郎はそう容易い相手ではないぞ。ヤングジェネレーションズには少々荷が勝ちすぎているし、あのバルモンドとか言うエジプト妖怪は信用ならなそうだ。はやくいってやったほうがよいのではないか?」

「・・・・・っ!?レミリアさん、ここは失礼させていただきます。」

 

さとりは足早に紅魔館を後にした。

 

パチュリーの言葉にレミリアは愉悦を混じらせた笑みを浮かべる。

 

「楽しそうね。レミィ。」

「見える運命は朧気で一つに絞れないが、どう転んでも面白そうではある。」

 

 



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153 平成 西洋妖怪軍団襲来 後編

鬼界ヶ島では鬼太郎がバルモンドに敗れ、ミウの前に引きずり出された。

バルモンドは地獄のカギの在処を言わないミウに苛立ち、ミウを殺そうと喉元に鋭く尖らせた包帯を突き立てようとした。

 

「これ以上お前たちなんかにみんなを傷つけさせてたまるかぁ!!!」

「な!?」

 

鬼太郎の渾身の指鉄砲の乱射でバルモンドの腹部を貫き怯ませた。

 

「わぁあああああ!!」

 

指鉄砲の乱射で西洋妖怪の雑兵たちの大半を倒して、西洋妖怪を撤退させたのであったが鬼太郎も力尽きて海に落ちてしまうのでした。

 

 

 

海に落ちた鬼太郎を引き上げたミウは、鬼太郎に地獄のカギを授け鬼太郎の命を救った。しかし、ミウは鬼太郎の無事を仲間たちに知らせに行く途中でバルモンドに捕まってしまうのです。

 

 

さらにバルモンドは自らの回復のためにドラキュラ三世や狼男ワイルドに魔女ザンビアの揚力を奪い取ります。

 

「わたしはバックベアード様と姫様のお気に入りなんだから、そんなことをしたら後悔するんだから!」

 

「ベアード?さとり?あんな歴史の浅い妖怪になぜこの俺様が従わねばならんのだ!それにその娘は日本の妖精の母を持つ混ざりものではないか!!・・・?なんだ?この汚い妖力は「私、ビビビのネズミ男」要らん!!」

 

 

放り出されたネズミ男は仲間たちに助けを求め、子泣き爺や砂かけ婆たちが駆けつける。

ミウは地獄のカギを渡さぬようにと四季映姫の下に駆け出す。

 

「五官王様からは鬼太郎のために戦えと言われてましたからね!」

「よくやりましたよ!小町!この少女は白!真に正しき者です!」

 

小野塚小町の大鎌がバルモンドの胸を貫き、四季映姫の悔悟の棒がバルモンドを張り倒す。

そして、満身創痍ながらも鬼太郎が姿を現す。

 

「これ以上は好きにはさせない。バルモンド。」

 

「くそ、だが、そんな姿じゃ指鉄砲はもう使えんだろう!ここで貴様らまとめて皆殺しにして西洋妖怪の頂点に立ってやる。」

 

 

バルモンドは吸収した妖力を使って巨大化し鬼太郎たちに襲い掛かる。

 

そして、戦いの中でついに鬼太郎に託された地獄のカギが発動する。

 

「開け鍵よ!来い!地獄の業火よ!うわぁああああああああ!!」

 

「ぐわぁぁあああああ!!」

 

自身の髪に宿った灼熱地獄の業火がバルモンドとその配下のミイラたちを焼き尽くした。

 

「あれはこそ、地獄究極奥義獄炎乱舞!」

 

 

 

 

 

 

 

「ん!?っひ!?」

 

ザンビアたちが目を覚ますと鬼太郎に取り囲まれていた。

 

「ここが年貢の納め時じゃな。」

「観念せい!」

 

子泣き爺と砂かけ婆にそう言われたザンビアたちであったが不敵に笑う。

 

「まだ、それは早いみたいよ。」

 

 

 

ザンビアが上を見上げると数千はいるだろうゾンビフェアリーと妖精の大軍勢。

 

「私の部下たちが世話になったようですね。」

 

その中心に見えるフリルの多くついたゆったりとした水色の服とピンクのスカート。紫色の髪と瞳、そして何よりもベアードの娘であることを象徴するサードアイが頭の赤いヘアバンドと複数のコードで繋がれている。

 

「お仕置きが必要のようですね。」

 

さとりが手を前に出し、妖力弾を放つとそれに合わせて数千のゾンビフェアリーと妖精たちも魔力弾を斉射する。

 

「え、ちょ!?私たちまで!?」

「うそぉ!?」

「こ、これはプリンセス・・・相当にお怒りなのでは?これは拙い、ひとまずは逃げてそれから謝りますよ!!」「「賛成!!」」

 

第2射、第3射と弾幕の雨が降り注ぎ、地面を抉っていく。

 

「き、鬼太郎!?」

「み、皆、岩場に隠れるんじゃ!」

 

 

さとりたちの攻撃は緩まることなく苛烈に続いている。

 

「さてさて、これにて止めにしましょうか・・・っ!?」

 

さとりが止めを刺そうとした瞬間。

 

「おっと!それは出来ねえ話だな!」

 

さとりの居たところに一撃を加え、さとりはすんでのところで回避する。

 

「「「「「蒼坊主(蒼兄さん)!!」」」」」

 

「日本妖怪の援軍?」

 

さとりが蒼坊主のその先を見ると、そこには呼子やカワウソたちを乗せた日本妖怪の第二陣が迫っていた。

 

「このまま背後を取られてはよろしくないですね。」

 

 

さとりは反撃か撤退か少し悩んでから撤退を決断した。

 

「彼らの若気の至りとミイラの勝手で計画とはすでに違っています。ここは撤退し立てなおした方がいいでしょう。ヤングジェネレーションズ、撤退しますよ。」

 

そう言うと、さとりは踵を返した。

 

「「「っは、はい!!」」」

 

さとりの視線を受けた3人は背筋をピンとして返事をすると、そそくさとさとりに続いて去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さん、彼女はいったい。」

「姫とかプリンセスとか呼ばれていたようだが?」

 

鬼太郎と蒼坊主の問いに目玉おやじは少し考えてから、思い出して話始める。

 

「西洋妖怪で姫と呼ばれるのは、おそらくはさとり・K・ベアード、バック・ベアードの娘じゃ。彼女がここまで来たのじゃ。鬼太郎、蒼!西洋妖怪との戦いはこれからもっと厳しくなるぞい。わしらもこれまで以上に鍛錬せにゃならんのぅ。」

 

「はい!父さん!」

「おぅ!任せとけ!」

 

鬼太郎たちの返事を聞いた目玉おやじは頷いて応じた。

 

(さとり・K・ベアードはバック・ベアードの娘。そして、大樹野槌水御神様の孫・・・大樹様はどう思い、どう動かれるか。)

 

さとりの登場に目玉おやじは一抹不安を覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西洋妖怪軍団日本侵攻軍根拠地、東南アジアの某所である。

そもそも東南アジアの過半が南方妖怪の影響かだが、第二次世界大戦後期間を拒否した旧日本皇国妖怪軍残党、東南アジア諸国に圧力をかけた中国の流れに乗って食い込んだ中国妖怪、冷戦時代に民主派勢力の背後に隠れて流入した西洋妖怪と様々な勢力が食い込んでいる。

 

西洋妖怪軍団の拠点はそう言った西洋妖怪系の所領を徴発したものだった。

 

「本当に申し訳ありませんでした!!このドラキュラ三世、深く謝罪申し上げます。」

「姫様、すいませんでした。」

「ごめんなさい!許してください!」

 

さとりに平身低頭するヤングジェネレーションズの3人。

 

「今回はバルモンドの件もありましたし不問としましょう。別に想起でお仕置きしたりはしませんから怯えないでください。わたしも若い貴方たちに一生もののトラウマを植え付ける気はありませんし…ね。」

 

さとりはそう言って視線を動かす。

その先にはバック・ベアードの姿があった。

 

「「「ば、バックベアード様!?」」」

 

「ヤングジェネレーションズ、今回の事はさとりから聞いているよ。さとりがそう決めたのだから私からは特にいうことはないよ。私は少々、欧州でやることがあるのでね。しばらくは日本侵攻の件はさとりに任せる。だから、ヤングジェネレーションズの働きに期待している。諸君らは吸血鬼、魔女、人狼の名家の者たちだそれぞれの家名に恥じない働きをするのだぞ。火炎猫、霊烏路も娘たちのことをよろしく頼むぞ。」

 

「「「「「っは!」」」」」

 

 

さとりはふと思い出したように、ドラキュラ三世に尋ねる。

 

「そう言えば、さきの鬼界ヶ島の戦いの名乗りは随分とセンスの良いものでしたね?私やお父様のはあるのかしら?」

 

かなりの無茶ぶりにドラキュラ三世は戸惑いながらも口上を述べる。

 

「で、では僭越ながらバック・べアード様から・・・何者よりも恐ろしく、残忍で冷酷。

死者は蘇り、犠牲者の血が空を紅く染めあげる。我らが黒き太陽、絶対なる我らが王…バック・ベアード様!!」

 

「・・・。」

「ほぅ・・・なかなかセンスがある。娘のはどうだ?」

 

ベアードからの好感触に気をよくしたドラキュラ三世はさとりの口上も謳いあげる。

 

「では!日本侵攻の大任を預かり、怨霊も恐れ怯むその智謀。若く才気溢れる西洋妖怪を率いる麗しきダークプリンセス。そして、この世界の正統後継者!!我らがさとり・K・ベアード姫殿下!!」

 

「・・・。」

「悪くないな。敵方に名乗りを上げるのは東洋の侍と言い西洋の騎士と言いわかりやすい文化ではあるからな。一騎討ちはしなくていいが、敵に威を知らしめるためにも次回はさとりの向上も述べてもらった方がよいと思うぞ。」

「ぇ?えぇ…あ、はい。」

 

西洋の一部の妖怪が持っているキザな文化に一定の理解を持っているバック・ベアードとは言えそれを勧められるとは思ってもみないさとりであった。

 

 



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154 平成 妖怪島の戦い

 

先の襲撃が失敗して束の間、さとり率いる西洋妖怪軍団の先遣隊は次なる一大作戦を決行に移した。

 

 

「姫様、ゴーレムたちに穴掘りなどさせてどうなさるので?」

 

お燐のといにさとりはお燐を含めた配下の妖怪たちに説明を始める。

 

「集めているのですよ銅鏡の欠片。いえ、カギを・・・。」

さとりはテレビから流れるている北海道にゴーレムが襲撃したと言うニュースを見つめて言う。

 

『臨時ニュースです!先ほど大阪、鹿児島にも同様の存在が現れたとの事です!』

 

ニュースを読み上げるキャスターからもその緊迫感が伝わってくる。

 

その、世間の混乱こそがさとりの策の一環なのだ。

 

「それに経緯はどうであったとしても、あれを手に入れられれば。私たちにとっては好都合です。故にお父様の軍団本体からも増援を呼んでいます。」

 

「姫様、欠片の方・・・集まりましたぞ。」

 

そこににゅうっと現れた小さな毛玉の様な妖怪ヨナルデ・パズトーリであった。

 

「Dr.ヨナルデ、手筈は?」

「整ってございますぞ。それに軍団本体の増援も到着しましたぞ。」

 

さとりの眼前には自身の手勢やヤングジェネレーションズたちだけではなく西洋妖怪軍団本隊の援軍の妖怪たちが揃っていた。

彼女はをその大群の指揮をとり、東京湾にその戦力を終結させた。

 

 

 

「さぁ、邪悪の源、妖怪島を現出させるのです。」

 

さとりは儀式担当の魔女グルマルキンとザンビアに妖怪島の封印を解くように命じる。

 

「はい!」「っは!」

 

水面に魔方陣を描いていた二人はさとりの言葉に従い封印を解く。

 

 

「「アパラチャノモゲータ!!」」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ!!と言う轟音とともに赤く燃え滾る様なおどろおどろしい岩塊が現れ、そこからみるみると大きな島が出現したのだった。

 

そして、その島には岩を切り崩した様な城がそびえたっていた。

妖怪島と妖魔城を足掛かりに日本を墜とす。

 

 

「な、なんだあれは?」

「油断するな鬼太郎!あれは妖怪島!!すべての邪悪の源じゃ!!」

 

「ものすごい数じゃな!御婆!油断ずるでないぞ!」

「誰に言っておるのじゃ!みんな行くぞ!」

 

「「「「「おー!!」」」」」

「日本妖怪の意地を見せるでごわす!」「ぬりかべ~!!」

 

鬼太郎たちが鬼太郎ファミリーに加えてほかの仲間たちを率いてやってきた。

 

 

 

「一番手はげげげの鬼太郎ですか。ヤングジェネレーションズ、先代方・・・、鬼太郎たちの相手は任せます。」

 

「「「「「「っは!」」」」」」

 

 

ヤングジェネレーションズとその親たち、そしてその配下は鬼太郎たちに襲い掛かる。

 

 

「お燐、お空・・・次が来ました。」

 

「さとり様、あれは?」

 

お燐の問いにさとりは淡々と答える。

 

「あれは日本国自衛隊、表社会の武力です。威力偵察と言ったところかしらさすがに首都と目と鼻の先では彼らも動きますか。お空、行けるかしら?」

 

「ヴィクターやDr.ヨナルデは不安定だから気をつけろって言ってたけど。出力の制御に気を付けて高威力砲として撃つ分は構わないって言ってた。よし!この力で溶かしてやるわ!」

 

 

お空の腕に填められた軍団製のコードなどが見える制御棒から静電気を飛び散らせながら灼熱の弾幕が戦闘ヘリ群を飲み込んだ。

 

自衛隊のヘリが何機か墜落していく、撃墜を免れたヘリも撤退していく。

 

 

自衛隊の偵察隊を撃退し、いまだに拮抗する鬼太郎たちをと遠目に見るさとり。

 

自衛隊は陸地に防衛線を構築しているようね。腰抜けどもはの次の手は予想できる。

 

自衛隊から被害を出したくない政府が頼るのは麻帆良。そして、西洋妖怪軍団でも上位の私たちと戦えるのは限られている。恐らく、やってくるのは・・・。

 

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。」

 

エヴァンジェリンとさとりたちは互いに向かい合う。

 

「大樹の孫とは言え、さすがに手心は加えられんぞ。」

「でしょうね。あなたの事です・・・私に対するすべも用意しているのでしょう。」

「そちらも予想済みのようだな。ではどうするというのだ?」

 

自信ありげのさとりにエヴァは挑発的な視線を向ける。

そしてさとりもそれに応じる。

 

「故に私はお父様の軍団本体から彼らを呼び寄せたのです。西洋妖怪四天王を!」

 

さとりを中心に雷鳴が鳴り響き、海面が凍りだす。

ちなみに四天王の一人は先代魔女=魔女グルマルキンで鬼太郎たちと戦っているのでこの場にはいない。

 

「お前がかの有名なダーク・エヴァンジェルか。四天王の俺様たちが相手になってやるぜぇ!」

 

火焔猫お燐と違って人型ではなく蝙蝠の羽を生やした黒猫、こうもり猫があたりを旋回する。

 

「俺は西洋妖怪が四天王の一人ブイイ、俺が来たからには貴様の負けは確定しているぞぉ。お前はここで死ぬ!」

 

水面から氷塊を押しのけて手で大きな瞼を持ち上げながら現れた悪魔ブイイ。

 

「俺様は西洋妖怪四天王を束ねるジャイアント!!貴様の墓場はここだ!!ふははははははは!!!」

 

そして、雷雲の中からゆっくりと降り立った四天王最強の巨人ジャイアント。

 

「っく、なかなか丁重な扱い全くありがたくないがな。」

 

 

 



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155 平成 激突西洋妖怪四天王

「貴女が魔法使いとしても妖怪としても最強の一角であることは解っていました。なればこそ、相応しい戦力を用意させてただ来ました。ジャイアント、あれはお祖母様の片腕ともいえる最強妖怪の一角、努々油断しませんように。」

 

「うむ、ベアード様より姫様の指示に従うように仰せつかっている。こやつの相手は我らに任されよ!ハハハハッハハ!!」

 

 

 

「行くぜぇ!ウニャー!!」

 

開口一番、エヴァンジェリンに突撃していくこうもり猫。

 

「やれ!ウーストレル!!ポルターガイスト!!」「「「「「「キシャー!」」」」」

 

「来れ氷精 爆ぜよ風精 弾けよ凍れる息吹!!氷爆(ニウィス・カースス)!!」

 

空気中に多量の氷が現れる。凍気と爆風でウーストレルとポルターガイストたちが氷漬けにされ吹き飛ばされる。

 

「ギャー寒い!寒い寒い寒い~!!ガクガクガクガク!!」

「情けないぞ!こうもり猫!!もうよい!!下がっていろ!!あとはブイイと俺様がやってやる!!」

 

「うぅ・・・すみません。」

 

 

ジャイアントの叱責を受けて早々に退散するこうもり猫に代わってエヴァンジェリンに襲い掛かるブイイ。

 

「フォオオオオオ!!」

 

海面があっという間に凍り付き

 

「ゴ、ゴシュジン…ドジ チマッタ」

 

エヴァンジェリンの相棒であるチャチャゼロが凍らされて海に落ちてしまう。

 

「こ、こいつ!?」

「海だけじゃない。お前たちもぉ凍ってもらうぞぉ。」

 

ブイイの凍気がエヴァンジェリンをも凍り付かせる。

 

「もぉ、お前たちは動けまい。凍ったまま粉々に打ち砕いてやろうかぁ。一思いにかみ砕いてやろうかぁ!フヘエヘアハハ!!」

「それとも俺様がこの拳で粉砕してやってもよいぞ!!フハハハハハハハハ!!」

 

ブイイとジャイアントが大声で笑っていたがすぐに氷が割れてエヴァンジェリンが魔法を唱える。

 

 

「来れ氷精(ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス) 大気に満ちよ(エクステンダントゥル・アーエーリ)白夜の国の(トゥンドラーム・エト) 凍土と氷河を(グラキエーム・ロキー・ノクティス・アルバエ)こおる大地(クリュスタリザティオー・テルストリス)!!」

 

 

海面から鋭い氷柱を何本も出してブイイとジャイアントに放った。

 

「ふん!!ぬん!!このようなもの俺様には効かん!!」

 

ジャイアントは放たれた氷柱を殴り砕いてしまった。

しかし、ブイイの方は

 

「うぐぅわぁ!?い、痛いぃ!?た、たまらん!?」

 

ブイイは叫び声をあげて海の中にもぐって逃げてしまった。

 

「ふん!ブイイの腰抜けが!!魔法使いの吸血鬼が!!俺様が相手になってやる!!うぉおおお!!」

 

ジャイアントは雄たけびを上げてその強大な妖力で幻術で惑わそうとするがすぐに幻術が破られてしまう。

 

「幻術は私も結構詳しいんだよ!!魔法使い相手に術の類を使うなど愚かだぞ!ジャイアント!大口をたたいた割にしょうもない!でかいのは態度と図体だけか!!」

 

「ぬう!!貴様!!だが、俺様も幻術が頼みと言うわけではない!!俺様は巨人だ!!巨人なら巨人らしく力押しで相手してやる!!ハア!!」

 

エヴァンジェリンの氷魔法をジャイアントは氷ごと殴り蹴って砕いていく。

 

「フハハハハハハハハ!!このような氷の粒で俺様は倒せんぞ!!」

 

「そうかい!!ならとっておきだ!!契約に従い(ト・シュンボライオン) 我に従え(ディアーコネートー・モイ・ヘー) 氷の女王(クリュスタリネー・バシレイア)来れ(エピゲネーテートー) とこしえの(タイオーニオン) やみ(エレボス)!えいえんのひょうが(ハイオーニエ・クリュスタレ)!! 全てのものを(オムニア・イン) 妙なる氷牢に(マグニフィケ・カルケレ) 閉じよ(グラキエーイ・インクルーディテ)こおるせかい(ムンドゥス・ゲラーンス)!!」

 

「な、なんだと!?この、俺様が!?」

 

ジャイアントは一瞬で凍り付き、氷柱に閉じ込められて海に落ちていった。

 

 

「っち、さすがは四天王を名乗るだけあるか。あいつらに先越されたな。」

 

エヴァンジェリンは自分より先にヤングジェネレーションズを撃退して妖魔城へ突入していく鬼太郎たちを見送るのだった。

 

 

 

 

 

岩山を削った比較的単純構造の妖魔城、調度品と植物が飾られたさとり・K・ベアードと火焔猫お燐が控える玉座の間。

 

「まもなく来ますよ。」

「えぇ…ゲゲゲの鬼太郎。」

 

この場の最高位者であることを示すようにさとりは玉座に座り、お燐はその横に秘書官然として佇んでいた。

 

 

 



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156 平成 妖魔城崩壊

鬼太郎たちが妖魔城へ急襲を掛ける。道中のゾンビフェアリーや雑兵妖怪たちを蹴散らして玉座の間へと一直線に向かっていく。

 

「来ます。」

 

さとりの一言と同時に玉座の間の扉が強引に開かれる。

 

「ここまでだ!!さとり・ベアード!!」

「あら、勇ましいことで・・・。ですが・・・。」

 

さとりが言葉を言い切る前に玉座の周りに飾られていた植物がボコボコバキバキとおぞましい音を立てて変貌していき、上半身が単眼で足が根っこの青黒い姿へと変わる。

 

「鬼太郎!!気を付けるんじゃ!!あれは吸血樹の分身体じゃ!!」

 

「えぇ、よくわかりましたね。ここまで来られたからには私は引きましょう。ですが、あなたたちはこれで終わりではありませんよ。」

 

さとりが玉座から立ち上がり奥の扉を開けて部屋を出る。

 

「待て!」

 

鬼太郎がそう叫ぶと同時に玉座がボコりと盛り上がり、一本の禍々しい木が現れる。

 

「あれは吸血樹の苗木!西洋妖怪め!分身体があるからまさかと思うたが、あんなものまで連れ込んでおったのか!鬼太郎!!蒼!!気を付けるんじゃ!!」

 

「はい!」「おう!」

 

十数体の分身体に包囲される鬼太郎たち。

一方のさとりたちは

 

「鬼太郎たちも終わりですね。さとり様。」

「そうはならないでしょう。あの吸血樹は小笠原の吸血樹の苗木です。いくら環境の良い妖魔城で育てたとはいえ苗木では勝てないでしょう。」

 

「なぜ、本体を連れてこなかったんですか?」

「まさか、ドラキュラ公爵のご親戚を軽々しく引っ張っては来れないわよ。」

「そうだったんですね。・・・さとり様。」

「えぇ、わかってますよ。こそこそとドラ猫がいるようです。」

 

さとりたちに隠れていることがバレてしまった猫娘。

 

「逃がさないよ!!ヴニャアアアア!!!」

「おっと、さとり様には触れさせないよ!!ニャアアアア!!!」

 

お燐と猫娘の激しい格闘戦、猫だけにキャットファイト等と言うバカな感想を抱くことは無くさとりは躊躇なく大量の弾幕を二人の間に放ち土埃が舞い上がった。

 

煙が晴れると猫娘の前からさとりとお燐は姿を消していたのだった。

 

 

妖怪樹の苗木を倒して、猫娘と合流する鬼太郎たち。

 

「大丈夫か!猫娘!」

「鬼太郎!こっちは大丈夫よ!でも…。」

 

猫娘が視線を向けた方向にはすでに遠くを飛ぶさとりたち。

 

「全軍に撤退命令を・・・。」

「あいさ!了解!」

 

西洋妖怪軍団の撤退とともに崩れ去る妖魔城、そして妖怪島も崩れ沈み消えていく。

鬼太郎たちも崩壊から逃れたようだ。

 

 

「これだけ派手に陽動したのです。お父様も策謀の根を張り巡らせたことでしょう。」

 

西洋妖怪軍団の軍勢を寸分の狂いなく統制された状態で、整然とした隊列を組ませた状態で撤退させていく。鬼太郎たちに撃退されたとは思えないほどに毅然としていた。

 

 

 



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157 平成 時代の転換の前触れ

2015年、鬼界ヶ島の戦い、東京湾妖怪島の戦いと西洋妖怪軍団の大規模な攻撃が実施された。いずれも鬼太郎たちによって撃退された。しかし、西洋妖怪軍団の襲撃などはあくまでも妖怪たちの引き起こした騒乱の一例であった。現状に不満を抱えた妖怪たちはこの国の闇深くで蠢いていた。そして、この国の外からも虎視眈々と狙う者たちはたくさんいた。

 

 

「バックベアード様、日本国内にグレムリンたちを潜ませました。次期に奴らから決行準備の進捗が知らされるでしょう。」

「うむ、そうか。ドラキュラからの連絡とブリガドーンの第二射の準備は・・・?」

 

ベアードの問いにヨナルデ・パズトーリは書類束を読みながら答える。

 

「ドラキュラ公爵からは万事抜かりなくとのことでした。それとアルカナの魔女の娘たちも相応の年になりました故、コアは問題なく。あとは祭壇や指輪と言った儀式の準備次第ですな。」

「ドラキュラ公爵もうまくやっている様だし、順調なら構わん。ぬらりひょんの奴めも動き出しておる。」

 

ベアードは応用に頷いて見せ、ヨナルデは新たに不安要素ともいえる報告をする。

 

「実はそれ以外にも先んじて潜入しているゴーゴンやエリートから魔法世界、完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)の手の者が何やら不穏な動きありと報告を受けています。それと、友好関係にある旧大樹家臣団筆頭の隠神刑部も我々に隠れて何やら動いているようです。」

 

「むぅ・・・・・。今後数年は物事が大きく動くだろうな。」                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぬらりひょんが所有するビルの一室。

 

「そうですか。百々爺はうまく乗ってくれましたか。慈善家面をしてますがその実、非常に欲深い、実に単純で操りやすい男です。ところで邪骨婆、中国妖怪は何と?」

 

「姉を解き放てるのならと非常に協力的じゃよ。じゃが、中国妖怪と手を組んで良いのか?奴らは信用ならんぞ?」

 

邪骨婆の忠告を聞いたぬらりひょんはお茶をすすりながら応じる。

 

「当たり前だよ。中国妖怪は信用できん、捨て駒にするに決まっておろう。」

 

襖の向こうから朱の盆の声が聞こえた。

 

「ぬらりひょん様、たんたん坊様がいらっしゃいました。」

「そうですか。朱の盆、たんたん坊さんを早くお通ししなさい。」

「はぁい、ただいま。」

 

朱の盆がたんたん坊を迎えに行って暫く。

 

「ぬらりひょん、久しいな…。」

「妖怪の権威復権のためには互いに協力し合うことこそ必定。人間たちも良くない動きがある、いがみ合っている場合ではないでしょう。事実、この日本国内で厳然とした戦力を持っているのは我々だけです。妖怪たちを守れるのは我々だけなのです。」

「うむ、妖怪城を使う時が来たのかもしれん。」

 

 

 

幻想郷では春雪異変、永夜異変と言うものが発生し博麗の巫女によって解決した。

また、諏訪大社の巫女が疾走する事件が起きた。これは八坂神奈子、洩矢諏訪子の幻想入りが発端の出来事であったが、普段麻帆良に幽閉されている大樹がそのことを知ったのはすでに幻想入りした後のことだった。

そして、永夜異変から3年後の2018年。

妖怪の賢者の八雲紫が月へ仕掛けた戦争、第二次月面戦争。

紫の計画は、霊夢たちと自身は月の使者の陽動役に徹し、その隙に月人に怪しまれない幽々子を月の都に潜入させ月の使者のリーダーの屋敷に対し工作を行うというものである。この企みは成功している。と言えば破壊工作か何かの諜報活動に感じるだろうが単に酒泥棒である。この第二次月面戦争は八雲紫と永夜異変を起こした逃亡月人勢力の八意永琳の謀略戦であった。八雲紫と八意永琳は互いに二手三手を読んだ高度な諜報戦であったが、この第二次月面戦争はいくらかの月人たちの興味を幻想郷含めた地上に向けることになり、八雲紫も八意永琳も想像してもみなかった展開を迎えようとしていた。

 

 

綿月家は地上の監視を担う家柄であり、綿月家に所属する月兎たちはいざとなれば地上の者たちと戦えるように鍛えられている。

 

 

綿月姉妹の下に届く報告や情報は、自分たちに関係のない地上の国々の動静や幻想郷の様子であった。

この日、寄せられた報告の中に姉妹の気を引く報告があった。

 

「姉さん・・・。」

「わかっているわ。」

 

報告の中には援助、要請と言った文言が記されていた。

穢れを嫌う月人たちは地上に住まう者たちと関わるのは避けることが当然であった。

しかし、豊姫も依姫もこの名を聞いては無視する気にはとてもならなかった大樹野槌水御神。

以前の報告では二回にわたる大戦後、敗戦国の元首のセオリーである幽閉の憂いにあることは知っていたが自分たちが手を出すことは自重していた。

 

しかし、機会は巡ってきた。

20年ほど前から地上に派遣していた月兎たちと接触し、私たちとの謁見を望んでいた。

 

通信機のモニターの先から声が聞こえてくる。

 

「この度は月の尊き貴人の方々と拝謁賜れたこと感謝の念に堪えません。我々は千年以上と大樹野槌水御神様とともに歩み、その御偉業を微力ながら御支えさせていただきました。ですが、我々は欲深き者たちに敗れ臣としての恥辱に塗れ、打つ手はなく。情けなくもあの方をお助けすること叶わず今に至るまで生き恥を晒してきました。このままでは欲深き者たちは地上を完全に穢れた世界にするでしょう。それこそ、あなた方が許容できなくなるほどに・・・。大樹野槌水御神様こそが地上を澄ませすことができる唯一無二の方なのです。この世界の希望を潰えさせるわけにはならんのです!なにとぞ我らに雪辱を果たす機会をお与えください!!我らの願いをお聞きと届け願いたい!!月の御貴神らの御慈悲を!!なにとぞ!!なにとぞぉお!!」

 

声の主は古い軍の高官服を着た姿で画面の向こうで頭を床にこすりつけていた。

綿月と大樹の関係は非常に深いものであった。触れ合った期間こそ長くはなかったが綿月と大樹の間にあったことは二人にとって無視できるはずがなかった。

 

月の要職の立場上、動くことはできなかったが介入する建前があればすぐにでも手を出していたはずだ。そして、ついにたまたま機会が巡ってきたわけだ。

 

綿月豊姫にとってはやむにやまれぬ事情で泣く泣く地上に置いて行った息子を、自分に代わって育て今の時代にいたるまでその血筋を繋いだ恩人なのだ。そして依姫にとっても自分の夫であり甥っ子であり、息子である者たちを育て育み今につないだ恩人である。

 

私たち姉妹と大樹のつながりは永琳様を除けば他の神々の比ではないだろう。

仮に永琳様の反対を受けたとしても、ぎりぎりまで手を貸しただろう。

故に、この決断は必然だった。

 

豊姫は画面の向こうに声をかける。

 

「面を上げなさい。大樹家臣団筆頭陰神刑部狸。」

 

 

 

 

 

 

 

2018年、これまで政権を担ってきた保守系政権が転落、妖怪だったり日本古来の呪術師たちに忖度してきた政権は野党に転落し、メガロメセンブリア礼賛の左翼政党が政権を取った。

 

「日本初の女性総理、連舫新総理の誕生です!」

 

そういった時期だったがゆえに、魔法世界の英雄の息子とは言え無茶苦茶な忖度が通ったともいえる。

彼がこの国に渡ってきたことは、良い方向へ進むか。はたまた、悪い方向へ進むか。

この幼さすら残る少年が歴史にどのような影響をもたらすのかは、まだわからない。

 

 

 

 



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157 平成 副担任になる

近々、原作表記をネギまに変えます。
鬼太郎回も並行していく予定ですのでご安心を


 

麻帆良学園にはあまりにも広大なスペースの移動のために電車などの交通機関が発達している。

 

そこから見える風景は日本にして西洋風の建物が広がっておりまるで異国にいるかのような光景だ。都市構想計画のモデルの中にイタリアのフィレンツェを参考にしているらしく、初期段階においてGHQが主導した名残とも言える。

 

学園長に呼び出されて普段、籠っている図書館島から中等部にある学園長室に呼び出された。なんとなくだが、何の話かは予想できた。

学園長室には高畑先生、タカミチ・T・高畑がいた。普段私が学園長室に呼ばれる時はだいたいエヴァがいるのだがいない。私の予想通りなら、彼女はいい顔をしないだろう。

 

「近々、大戦の英雄ナギ・スプリングフィールドの息子のネギ君が麻帆良で教師をやることになる。このタカミチ君と交代にじゃ。もとよりタカミチ君は悠久の風の仕事で学園で教鞭を取ることは少なかったしちょうど良いじゃろう。」

 

私はソファーに座り、出されたお茶とお茶請けの菓子を食べながら話を聞いた。

 

「そこでじゃ。大樹様には1-Aの副担任になって欲しいのじゃ。大樹様はネギ君に先んじて3月からA組を担当してくれんか?」

 

近右衛門の話を聞いた大樹は疑問を口にする。

 

「高畑先生の後任の新任教師の補佐をするのはなんとなくわかります。非常勤講師とは言え教員経験は長い方ですからね。ネギ・スプリングフィールドの魔法学校の課題の補佐というのは、私には不適任では、私は旧敵国の実質的元首ですよ。」

 

私とてかつては政治に関わった身、これが厄介ごとなのは解っている。正直関わりたくない。

 

「大樹様の危惧は最もじゃ。じゃが、太平洋戦争から約70年、大分裂戦争から30年程。急進派は減っておるとは言え油断もできぬ。しかし、こちらから手を打つ余裕もできたわけじゃ。ネギ君を通じて色々と改善できることもあるじゃろう。悪い話ではないと思うのじゃが・・・?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

魔法世界の政治的な事情が絡まっていることなのは容易に予想ができる。とは言え戦争英雄を完全ではないとはいえ平和になってきた時代にまで祭り上げようとするのは中世的と言うか血の気が多いというか、高度な文明を持つ魔法世界が持つ欠点ですね

 

とはいえ、現政権は魔法世界礼賛のいけ好かない政権。

一定の敬意をもって接してくれたこれまでの保守系政権とは違い、何度か不愉快な思いもした。これまでは自由に会えた天皇家との接触を邪魔してきたり、保守系政権が維持してきた妖怪たちとの距離を悪い意味で破壊しようとしているような政策が目立つ。これまでの保守政権も山林開拓事業などの妖怪や妖精たちの場所を奪うような行動が見られたが、私が苦言を呈すればある程度の忖度があった。しかし、今の首相は聞く耳を持たないどころか。私が政府の様子を見ようとすること自体に拒否感があるようだった。だから、数年前よりもさらに暇が増えたのは事実だ。

現政権のバックの魔法世界を軟化させることで現政権の力を弱める必要も出てきている気がする。普段幽閉されている私の耳にも日本在住の妖怪たちの憤りの声が聞こえてきている。彼らのためにも早めに手を打つべきだろう。と言っても妖怪の時間の感覚だ。今日明日の話ではなく10年20年の話だ。ネギ少年を通じて魔法世界とのまともな窓口を作って現状を打開するのに10年もあれば十分だろう。

 

現状に行き詰まりを感じていたのは事実だ。ネギ少年の話はよい機会だろう。

A組は出来た当初から意図的なものは感じていたが、ネギ少年の話が出るまで深くかかわろうとは思っていなかったので知っていても手を出してはいなかったが、こうして考えてみると私としても彼女たちと縁を持つことは悪いことじゃないだろう。

 

こうして考えてみると、第二次大戦後いや信長の息子たちがこの世を去ってからは一個人に深くかかわろうとはしていなかったような気がする。

ネギ少年は英雄の息子であったし、興味惹かれる存在ではある様な気がする。副担任として多くかかわることにもなるわけだし…まぁ、悪い話ではないのかな。

 

「そう…ですね。お引き受けしても良いのでしょうねぇ…。はい、お引き受けしますよ。ただ、10歳のネギ少年が担任として教務をできるかはわかりませんし、私も教鞭はとって来ていますが非常勤でしたし、業務の引継ぎはちゃんとしてくださいね。高畑先生。」

 

私がかなり熟考していたので急に話しかけられた。高畑先生は少し動揺していたようだった。

 

「は、はい、それはもちろん。」

 

エヴァンジェリンにこの話を伝えても、反対とかはしないだろう。

私は、近右衛門に引き受ける旨を伝えて退出した。

 

 

私はエヴァのログハウスに寄って、副担任の話をしたエヴァはネギ少年の話は知っていたようで、私がこの話を引き受けることもなんとなく予想していたようだった。反対もしなかったが積極的に喜んでいるわけでもなかった。消極的には喜んでいるかもしれない。茶々丸が喜んでるって言ってたし。

 

 

よく考えると高畑先生ってクラスで気だしなぁ…子供先生で不満がでそうな気はしないでもないが、なんか面倒になると嫌だし、私が副担任になることを予防線としてそれとなく伝えてもいいのかな。

 

そういえば、図書館等に出入りしているA組の子がいたし、何度か話をしたことがある。その子たちと仲良くなって助けてもらえるといいな。なんて考えていたり…。

 

こういった、行動・・・スケールが違うけど大昔の謀略を思い出すな。

 

 

 



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158 平成 A組の生徒たち

 

 

そして、その翌月の3月初めに私が出張が多い高畑先生の補佐と言う形でA組に赴任した。

 

「大樹水御(おおきみずみ)先生だ。今後は僕がいないときは彼女が面倒を見てくれるから仲良くしてくれよ。」

「「「「「はーい!」」」」」

 

「皆さん、よろしくお願いしますね。」

 

そこから始まる質問攻め。

「先生質問~!」「あたしも、あたしも~」「彼氏いるの?」「どこ住んでるの?」

 

「ほらほら、先生が困ってるじゃないか。麻帆良のパパラッチこと、朝倉和美が代表して聞いてあげよう!」

 

「お、お願いします。」

 

げ、元気な子たちですね。

 

「でははじめは住んでるところは?」

「え~と、図書館島ですね。」

 

「図書館島って人住めるの?」

「えぇ、まぁ・・・。」

「人住めるのか?初めて知った。」

 

 

「図書館島は非常に深いことも有名ですが、平面的な広さもかなりの物です。居住スペースがあっても不思議じゃないです。」

「そういえば、図書館島で大樹先生によく会ってたのって…。」

「あそこに住んでたからなんですね。道理で図書館島に詳しいわけね。」

 

図書館探検部の綾瀬夕映と宮崎のどかは長年の小さな疑問が解けた。

 

「次の質問はやっぱり、これだよね?ずばり、先生は彼氏いますか!!」

「彼氏と言うか。夫がいます・・・。」

「「「キャー!!」」」

 

この質問は少々恥ずかしいものがありますね。

 

「旦那さんってイケメンですか!?」

「い、イケメンですね…。」

 

大樹が少し顔を赤らめたのを見た朝倉和美はこのネタで掘り下げることにした。

 

「旦那さんのお仕事は?」

 

征夷大将軍は信長の代じゃないし、天下人?いや待て、今の子たちに天下人って言っても伝わらないよね。官僚?公務員?軍人?どれだろう…とりあえず・・・。

 

「公務員です。」

 

 

 

 

「子供っている?」

 

えっと、神精丸と祀よね。あれ鵜葺草葺不合命は養子だから子供よね。

 

「あ、えっと3人ほど、孫もいます。」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

ここで大樹の見た目だが、ローティーンである。

合法ロリな見た目で、実年齢は少なくても皇暦より長く、もしかしたら3000超えている。

見た目年齢なら12・13歳くらい。

そんな彼女が3人の子持ちで孫もいる。実際はその先のひ孫玄孫にもっと先もいるのだが、この人何歳っていう疑問がわくだろう。

質問攻めが続く、女子中学生の若さの力に大樹は押されていた。

 

と言うか。孫発言は墓穴である。

大樹が返答に困っていると。

 

「こらこら、女性に年齢を聞くのは女同士でも失礼なんじゃないかな?」

 

自己紹介トラップを高畑先生の助けで何とか切り抜けたのだが…。

 

 

 

 

 

授業が終わり、放課後エヴァのログハウスにお邪魔したのだが…

 

「ははははははっは!!ばぁか!!ははははは!!」

 

エヴァに指さされて腹を抱えて笑われる私。

 

「いや、お前、もっとうまく隠せんのか!その見た目で子持ちってのも変なのに孫って!?」

 

私は少しいじけながらも

 

「だって、今まではそんな隠す必要がある相手なんて、ほとんどいなかったから…つい。」

 

「あ、お前。よく考えたらとんでもない箱入りだったんだな。」

 

これまで朝廷と幕府を行ったり来たりしていた。近代化後も国家の中枢から離れることがなかった。ここに来て、彼女が少し一般からズレていることに気が付いたエヴァであったが、致命傷にはならないだろうし、学園長のじじいが頭を抱えるだけで、大樹も面白いことになるだけだと思って、そのままにすることに決めた。

 

 

「お送りしましょうか?」

 

茶々丸の気遣いに感謝しつつお断りする。

 

「大丈夫です。図書館島の書架に用があるので…調べ物があるので…今日は大丈夫です。」

「そうですか。では、お気をつけて。」

 

 

 

図書館島、一般書架。

禁書とかそういうのが置いていない図書館島浅層部。

 

日本史の資料を読みながら、授業の資料作りだったり、歴史研究の一環と言う建前で昔の思い出に浸って過ごしていた。次の巻を取るために席を立とうとしていると、ふと声をかけられた。

 

「大樹先生。」「こんにちわです。」

「あ、宮崎さんと綾瀬さん。こんにちは。調べものですか?」

 

二人の様子を察するに綾瀬さんの手伝いに宮崎さんが付き合っている様だ。

綾瀬さんの持っている本の表紙。週刊寺社安土城内の大樹神社の表紙に目を奪われる。

 

懐かしい。

 

「あら、綾瀬さんそれは?」

「週刊寺社ですよ。先生もそういったものに興味があるですか?」

 

「えぇ、織田家と大樹大社の関係とか調べたことがありますよ。」

※当事者である。

 

「では、桶狭間の戦いの前に織田信長が先勝祈願をした際に、大樹野槌水御神が勝利を予言する神託を下したというのはご存じですか?」※神託を下した本人である。

 

「えぇ、もちろんです。では、織田軍上洛の際には尾張桃園大樹宮と近江琵琶大樹大社が協力しているのですよ。これはご存じですか?」

 

私は綾瀬さんと歴史談議に花を咲かせ、読書が趣味と言う宮崎さんともそういった関係で良好な雰囲気でお話をしました。

 

これをきっかけに、私は二人と仲良くなり、図書館探検部の近衛さん(学園長のお孫さん)、早乙女さんとも付き合いができましたよ。

 

 

そして、早くも月日が過ぎていきます。

 

 

非常勤時代や政権相談役を兼務していた頃は生徒さんとはそこまで深いつながりがなかったので、これはこれで新鮮ですね。よく考えると自分の子供以外の子供とこうやって関わったのは記憶にないくらい久しぶりですね。今まではタクシー通勤でしたが、駅前で綾瀬さんや宮崎さんたちと待ち合わせして通勤することもあるんですよ。

 

さてさて、今日はあの魔法世界の英雄の息子であるネギ・スプリングフィールド君が来る日なんですが、どんな子が来るんでしょうか?

 

 

 

 



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159 平成 若い息吹

2-A中等部の校舎に到着する。冬休み明けの1月中旬。

あらかじめ、ネギ君と顔合わせすることになっていまして、学園長室に向かいます。

 

「大樹先生、来てくれたのか。」

「はい、彼がネギ君ですね。」

 

私の目の前には私よりもさらに小柄な少年がいた。赤い髪で小さい眼鏡を掛けた。かわいい男の子がいました。

 

「よろしくお願いします。ネギ君。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。」

 

そのネギ君にどうやら御立腹なようすでいるのは、A組生徒の神楽坂明日菜さんとその付き添いかな近衛木乃香さん(お見合いのなんちゃらの話をしていた)。

まぁ、なんと言うか。明日菜さんのバックボーンは私も学園長たちから聞かされていますが、運命の糸が引き合っているんですかね。

 

 

 

 

 

学園長室での悶着は一応終わりにして、高畑先生と私、ネギ君で教室に向かいます。

高畑先生がネギ君に先に行くように促しました。

 

あ・・・

 

教室のドアに黒板消しが挟んである。

高畑先生は戦場慣れしてて感覚マヒしてるから大丈夫なんだろうけど。

 

ネギ君の頭に黒板消しが直撃。

張ってあるロープに躓く、転ぶ。

バケツ(水入り)が落ちてくる。濡れる。転がる。

教卓にぶつかる。

 

うわぁ…。これはかなり強烈、メンタル弱いと心折れるからなぁ。

私は、半分当たって泣きまねして生徒たちを困らせてやった。

 

「子ども?」「大丈夫!?」「ごめんね!!大丈夫!!」「平気!?」

.

生徒たちが駆け寄ってきましたね。

そろそろ、間に入って収拾してあげないと・・・。

 

「えっと、衝撃的な出会いになっちゃったけど。彼が新任の先生なの。さて、自己紹介をしてね。」

「ネギ・スプリングフィールドです。担当教科は英語です。」

 

 

ネギ君の自己紹介に始まり、恒例の質問攻め。

今回は合法ロリ先生の私以上に違法(特例措置で違法じゃない)ショタ先生の注目度は、こういったときに仕切りたがる朝倉さんすらただの質問者になるほどに興奮材料のようだ。

 

さすがにあの中に入りたくないな。

 

「ちょっと!あんた!さっきの黒板消し変だったわ!ちょっとおかしくない!」

 

神楽坂さんがネギ君に絡んでいきますね。これは良くない。

 

「いいかげんになさい!先生がお困りになってるでしょ。」

 

さすが、優等生のクラス委員雪広あやかさんです。うまく纏めて・・・

 

「あなたみたいな凶暴なおさるさんに・・・(略

 

「なんですって!!」

 

くれなかったよ。

 

 

そういえば、高畑先生の担当してた英語の履修要綱って・・・・・・うわっやっば。遅れてるじゃん。大丈夫かなネギ君。副担任って担任の補佐だったし、手伝わないといけないんだよね。

英語はキツイわ。どうしよう…。

 

「ちょっと!待った!ここまで!!ネギ先生!!英語の授業を進めましょう!!高畑先生のわけわかんない出張(嫌味)で、新任の子供先生にはかなりエグイレベルで授業スピードが遅れてるから!!早く始めないと皆さん自動的に英語の通信簿の評価が赤点になりますよ!!(やり逃げはさせんぞ!高畑先生!睨み!)」

 

さて、英語は門外漢の私がやるよりは、高畑先生にネギ君の授業を補佐させるのが良いでしょう。高畑先生の前なら生徒たちも無茶しないでしょうから。

 

 

その日の放課後は図書館島でたくさんの本を抱えた宮崎さんを見かけたので、手伝ってあげながら帰った。その途中で綾瀬さんと早乙女さんが宮崎さんと合流したのでそのまま、寮まで送ってあげました。

 

「先生、この前の資料はすごくおもしろかったです。」

「鎌倉年代記ですね。伝手を頼らせていただきましたよ。他の人には内緒にしてくださいね。」

 

歴史に興味を持ってくれるのは何と言うか…。うれしく思いますね。

 

「先生、もしよければ図書館探検部の顧問もやってくれませんか?」

「今の顧問は名前貸しで、実体がないです…。」

 

「図書館島ですか?ほかの先生たちより詳しいと思いますし…いいですよ。」

 

そう答えると3人は嬉しそうに礼を言ってきた。

 

「ありがとうです。先生。」

「ありがとうございます。」

「やっぱ、大樹先生は優しいね!」

 

 

 



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160 平成 妖怪の見えた日

その後も、ネギ君が惚れ薬を作ったり、ウルスラの高等部とドッジボール対決をしたり、近衛木乃香さんのお見合い騒動があったりしましたが、相も変わらず麻帆良は平和でした。

 

 

その一方で、学園の外。

渋谷のスクランブル交差点に森が出現。

街行く人々が突然木に変身してしまう不可思議な現象が発生していた。

 

 

 

そんな中、中学生の犬山まなが半信半疑で妖怪ポストに手紙を出すと、カランコロン下駄を鳴らす音とともにゲゲゲの鬼太郎がやってきた。

 

「手紙をくれたのはお嬢さんかね?」

「ひぇえええ!?め、目玉がしゃべってる!?」

 

鬼太郎の髪の中から姿を見せた目玉おやじにびっくりして距離を取るまなに、鬼太郎が近づいて「驚かしてごめん。これは僕の父さんだ。」と声をかけた。

 

混乱するまなに目玉おやじは

 

「見えている世界がすべてじゃないぞ。見えない世界と言うものもあるんじゃ。」

 

と言い聞かせて、納得させた。

 

まなの話を聞いた鬼太郎と目玉おやじは、まなに連れられて渋谷の現場に向かい調査した。何百年も昔に封印されたはずの妖怪の仕業だと確信。

 

そして、スマホからネットの投稿動画の中から動画配信者がのびあがりの封印された祠を破壊する動画を見つけ、原因を探るため都市の地下貯水施設へと向かうがそこで鬼太郎とまなを待ち受けていたのはのびあがりであった。

 

まなにはのびあがりの姿が見えず、のびあがりからまなを守ろうとした鬼太郎が木に変えられてしまったのであった。ですが、鬼太郎は死んでおらず。実になって出てくることが分かった目玉おやじはまなに妖怪の事を語るのだった。

 

「わたしには何も見えなかった。」

「まなちゃん、今の人間は自分たち世界がすべてだと思っておる。じゃがな、見えてるものがすべてじゃない。見えんけどおるんじゃ。その中には悪い奴もおるんじゃ。そいつらは人の心の闇に惹かれる。わかるかね?」

「・・・わかんない・・・でも・・・解りたい。」

 

 

そして、鬼太郎が吸血木から脱した後。

鬼太郎は再びのびあがりに戦いを挑もうとまなの下を去ろうとした。

 

「まだ、わからないのか?のびあがりは危険なんだ。」

「でも、でも、着いていきたい。わたしにも何かできることがあるはずだよ!」

 

まなは、無理にでもついていこうとして鬼太郎もそれ以上は止めなかった。

そして、地下貯水施設でのびあがりと戦う鬼太郎。その姿はまなにもしっかりと見えていたのでした。

 

そして鬼太郎を助けようとして、まなが投げた空き瓶があらぬ方向へ飛んで行ったかと思うと、積み上げていた建材を崩し、パイプを壊し、クレーンが動き伸びあがりにぶつかって、のびあがりが怯るみ逃げた。

 

「なんという偶然力じゃ!」

 

 

 

逃げるのびあがりを追いかける鬼太郎は髪の毛針と霊毛ちゃんちゃんこの連携、そして指鉄砲で止めを刺して倒すのだった。

 

しかし、のびあがりに勝った鬼太郎を背後から狙う仮面の人ならざる者。

 

 

 

 

 

 

 

不意を突かれて背後から矢を打たれてしまう鬼太郎。

 

ゲゲゲの森までまなに連れて行ってもらった鬼太郎は仲間たちに介抱されて回復したのだった。

 

 

さらにそのすぐ後のことだ。

 

何者かの手によって見上げ入道の封印が解かれたのだ。

 

見上げ入道はアイドルのコンサート会場に現れ、そこにいた人間を霊界に飲み込んでしまったのであった。

鬼太郎とねこ娘が駆けつけると、偶然まなも会場にやってきたところだった。

 

「人間は妖怪のことに関わるな」

 

まなを遠ざけようとする猫娘だったが、「友達が行方不明になっているから」と帰ろうとしない。

 

鬼太郎は仕方がないとまなを連れて会場にもぐりこむと、そこには来場者たちを吸い込んで膨れ上がった妖怪見上げ入道の姿が。

 

 

5万弱の人間を霊界送りにして強くなった。見上げ入道を相手にした鬼太郎は霊界送りにされてしまう。

 

「鬼太郎なら大丈夫!あんたは早く逃げな!」

 

猫娘はまなを逃がすために見上げ入道に挑みかかります。

しかし、見上げ入道は猫娘を相手にはせずにまなを霊界送りにしようとし、猫娘が身代わりに。

しかし、自力で脱した鬼太郎のリモコン下駄で見上げ入道を怯ませ、霊毛ちゃんちゃんこで見上げ入道の喉を突き破り、まなの「見上げ入道見こしたり!」の言葉で倒されるのだった。

 

その帰り道では「猫姉さん!かっこよかった!」のまなの一言ですっかり気を許してしまう猫娘だった。

 

「ま、まぁね。」

「でも、まな・・・これ以上は関わらない方がいい。本当に危険なんだ。」

 

鬼太郎も猫娘も人間と距離を置こうとしている。でも、天童夢子と仲良くしていた過去を見ても解るように彼らは人間が好きなのだ。どこかで心を許してしまうのは必然であったと言えるだろう。

 

 



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161 平成 大樹先生のスパルタ特別授業

本作最初期のギャグ路線を取り入れ用とする試み。


「え、ネギ君たち図書館の地下にいるんですか?助けに行った方がいいんじゃないですか?」

 

近衛近右衛門に事実を知らされた大樹は当たり前の返答をした。

 

「うむ、心配は要らんよ。その場所はわしが管理しているところじゃから危険はないのじゃよ。」

 

「そ、そうですか?」

 

大樹は近右衛門に疑いの視線を向けた。

大樹が安全性に疑問を持っているのは近右衛門でも、想像できた。故に話を逸らそうと話を振る。

 

「ところで、大樹先生。」

「な、なんですか?いきなり?」

 

 

「大樹先生は副担任なわけで、ネギ君のサポートも仕事のうちなのじゃ。ネギ君が図書館島で特に成績の悪い子たちと特別合宿をしてるわけじゃか。残ってる生徒たちも優秀な子たちばっかりと言うわけじゃないのじゃが、そっちは大丈夫なのか?」

「え!?」

 

いきなり、その話題は予想していなかった大樹は動揺してしまう。

 

「ネギ君には2-Aを学年トップにしないと課題不合格になると言う罰則があるわけじゃが、大樹先生には何もないのは不平等じゃな。ネギ君が課題クリアできない場合、学園外への外出禁止なんてどうじゃ?」

「え、えぇええええええ!!ちょ、ちょっと!それは!?」

 

「なに、2-A成績をどうにかすればよいことじゃ。簡単じゃろ?ほれほれ、大樹先生。こんなところでぼさっとしてなさんな。急いで行動あるのみじゃよ。」

 

それを聞いた大樹は慌てて学園長室を後にした。

 

「あ、課題の内容・・・学年トップじゃなくて最下位脱出じゃった。・・・まぁ・・・大丈夫じゃろう。あのクラスにはそれくらい発破をかけた方が効くじゃろう。」

 

 

 

 

数時間後

スパーン!!!教室の扉を豪快に開けた大樹は大声で生徒たちに席に着くように促す。

 

「はいはい!!みんな座って!!今回の学期末試験の成績は爆上げしないといけません!!ビシバシ行きますよ!!」

 

普段の緩い大樹先生とは違う空気を感じた生徒たちはここはおとなしく席に着いた。

 

「とは言え!!私だけではちょっとむつかしいと思いましたので!!外部から特別講師をお連れしました!!」

 

大樹は教室のドアを開けながら叫ぶ。

 

「菅原先生!!どうぞ!!」

 

「うむ、菅原m「ゔふぉ!?ごほっごほ!?」・・・。」

 

盛大にむせ返るエヴァンジェリン。大樹がズレていることは把握していたがここまでとは・・・。あのじじい・・・大樹はああ見えて外圧に押されやすいんだ。変に煽りすぎたな…恨むぞ。事情を知ってる私が抑えに回らねばならんではないか!!

 

 

そして、同時刻ネギ君のついでにと覗いていた近右衛門も盛大に吹いてむせていた。

 

「な、なんじゃとぉおおおおお!!あの神様なにやってんの!?」

 

逸話を見れば解るように神様と言うのは時折ぶっ飛んだ行動をする。大樹もそういった神様の一人なのだ。

 

「いくら、成績上げるためにって大宰府から菅原道真を呼びますかぁ!?」

 

 

と言うわけで、ネギたちが英語でツイスターをやったりゴーレムと戦ったりしている頃。

残った生徒たちは

『間違えた子たちにはビリビリ電気椅子!?お仕置き!!数学大会』『間違えたら梅の枝でお尻を叩いちゃう!?古文現国読み解こうゲーム!!』『高畑先生の本気の英語教室!!(急遽フォロー側として呼び戻された)』

 

と言うスパルタ授業が展開されていたのだった。

 

ちなみに、悪いのは最下位脱出と学年トップを伝え間違えた学園長だ。

そういうことにしておこう。

ネギ先生の特別合宿と大樹先生のスパルタ授業どっちがきつかったか。

それは本人たち胸の中。

むろん、菅原先生は期末試験後はお帰りになりました。

最下位脱出余裕でした。

 

 

 

 

 

 

東北某所

 

「たんたん坊さま、襲撃の準備順調に進んでおります。」

 

二口女の言葉にたんたん坊はうむと応じた。

辺りには雑多な小妖怪たちが集まっていた。

 

「暫し、時機を見てと思っておったが、勘弁ならん!人間どもの増長は目に余るものがある!」

 

辺りには荒らされ、建材が飛び散り、重機が損壊し散らばった工事現場の姿が広がっていた。

 

「東京の進出予定の場所なのですが…。変なものがありまして…」

「変なもの?」

 

小妖怪たちが錆付いた槍や刀を持って妖怪上に入っていく。

 

「はい、逆五芒星の印なのですが…。」

「害はないのだろう。大事の前の小事、捨て置け。わしは人柱を集めてくる。」

 

 

 

 



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162 平成 オコジョ妖精のカモミール

カモくんの不人気にワロタ。



2019年4月2日、ネギ少年は晴れて3-Aの担任教師になった。

その頃、ちょうど桜通りの吸血鬼の噂が生徒たちの間で広がっていた。

 

駅前では小柄の男性がギター演奏でストリートミュージックを披露していた。

その横をたくさんの学校の生徒たちが駆け抜ける。

 

そんな毎年恒例の光景。

 

いつも通りだ。

と、思っていたのだが・・・

 

生徒の一人が保健室に運び込まれていた。

佐々木真希絵さん、うちの生徒ですね。うまく隠してあるけど・・・。

首の跡と言い、エヴァ・・・何クラスメイト襲ってるの!?

 

と言うわけで彼女を問いつめてみたのですが・・・

 

「目の前に呪いを解く血が転がってるんだ。手を出したいのは当然だろう。」

 

いや、まぁ・・・解らなくはないですけど・・・。」

 

「安心しろ。お前ほど酷いことはしない。大宰府から雷神を呼ぶ様なぶっ飛んでるお前のようなことはしない。」

 

うぐっ・・・痛いところを・・・、うぅ・・・ちょっとだけですからね。

 

「すまないな。恩に着るよ。」

 

 

 

 

 

エヴァが行動を起こしたことが切欠で思い出したが、ネギ君のパートナー選びも手伝ってあげないとだよね。近右衛門もそれとなく言ってくることがあるし…。

 

大樹は超包子のキッチンカーで飲茶セットを頼み、ぼっと考える。

 

パートナーねぇ…。

ネギ君が魔法使いとしての相棒、パートナーをこの中から選ぶ。それは想像するに容易い話だ。極端な話、クラスメイト全員と契約するのだってあり得る話だ。

 

現実的には神楽坂さんが最有力、本人の意思とかそういうのは置いといて戦力と言う面で考えるなら一般人の古菲さん、長瀬さん、佐々木さんもありっちゃありかな~。案外、このクラスに置いているってことは近衛さんもありってことかな。こちら側って意味では明石さん、春日さん、桜咲さん、龍宮さんがいるわね。資金源て意味では雪広さんも候補に入れていいのかな?本人もノリノリで承諾しそうだし…。

そういえば、長瀬さんって滝川一益の部下だった子の子孫だよな。気配と言うか面影あるもん。あれぇ?古菲さんも青娥が最近、脳筋過ぎて術は教えなかった孫弟子ってのと特徴そっくり、あの人も最近は台湾以外のところをふらふらしてるらしいし、ここにも来るかもね。

 

「あ、どうも。」

 

四葉さんが運んできた点心をつまみながらジャスミン茶を楽しむ。

そういえば、ザジさんって魔族だよね。神綺様か幻夢姉妹に問い合わせてみるかな。

 

しっかし、今までは旧敵国の文化関係は知識としてしか考えてなかったから、ここまで積極的に取り組むことになるとはねぇ。ネギ君だっていい子だからやぶさかでないけど…。どう考えたって無力な一般人もいるから気を付けてほしいわ。その辺り、近右衛門とは考えが合わないわ。とは言え綾瀬さん、宮崎さん、早乙女さんが就職困ったら自分のところの巫女になんて考えてる辺りは人の事言えないかな。

 

「さてと、四葉さん。お代はここに置いていきますね。」

 

彼女がコクンと応じたのを確認して大樹は席を立つ。

そうだ、綾瀬さんに大樹記西征編を貸してあげる約束をしていました。

帰る前に寮によっていきますか。

 

綾瀬さんに前の資料と交換に大樹記を貸してあげた帰り道。

珍しいな、こんなところにオコジョなんて…。

よ~し、おいでおいで~。何か餌になりそうなものは・・・。さっき、スーパーで買ったイチゴをお食べ~。

 

お~シャクシャク食べてる。あまおうをあげちゃったのはもったいない気がしてきた。

・・・・・・・?このオコジョって妖精だ。同族かな?珍しいなぁ。

 

「オコジョ妖精さん。珍しいですねぇ。ここに何か御用ですか~?」

 

キュ~???

 

「とぼけなくても大丈夫ですよ~。同族ですからぁ。」

 

少しだけ隠蔽を解除して妖精の羽を見せる。

すると、すごい態度を豹変させるオコジョ妖精。

 

「なんだ、同族かよぉ。珍しいのはおたがいさまじゃねえかよぉ。ちょうどいいや、あんたネギのアニキを知らねぇか?ネギのアニキに用があってよぉ。ネギのアニキはネギ・スプリングフィールドって言って魔法世界の英雄ナギ・スプリングフィールドの息子なんだ。能天気なフェアリー族の妖精だって魔法世界の英雄は知ってるだろ?その息子なんだぜ!俺っちはそのネギ・スプリングフィールドの一の子分なんだぜ!」

 

「あら?ネギ君のお友達なんだね。」

 

「ん?あんた、アニキを知ってるのか?だったら、話が早いてなもんだ!ネギのアニキのところへ連れてってくれよ!」

 

ネギ君の関係者みたい。悪い奴じゃなさそうだけど…。

ここは少し話を聞いてみましょうか。

 

「へぇ~ネギ君の子分なんだ。私も今ネギ君のお手伝いをしてるのよ。」

「あんたがアニキの手伝いをしてるって!?あんたみたいな抜けてそうなのがアニキの手伝いって大丈夫なのかよぉ!」

 

し、失礼な。私はちゃんとやってますよ。

 

「それは、大丈夫ですよ。ところで、オコジョさんはネギ君とはどうやって知り合ったの?私はもともとここに住んでて地元民として色々手伝ってるのよ。」

「そうなのかい?アニキも土地勘がないだろうからちょうどいいのかな?俺っちとアニキの出会いは・・・(略、要するに罠にかかってたのを助けてもらった恩義ってことらしい。)

ところで、アニキのパートナーはもう決まったのか?」

 

学園の警戒網を敗れるような実力はなさそうだし、近右衛門の手引き込みってとこかな。

 

「何人か候補はいますけど・・・。まだ、いませんよ。」

「おっと!そいつはいけねえ!魔法使いと言えばパートナーは必須だぜ!アニキには早く男になってもらいたいぜ!パクティオでぶちゅ~とな!!」

 

「あらあら。」

 

ちょうどネギ君が向こうから、使い魔志望みたいな感じだしいいか。

 

「ネギ先生。お知り合いの方を連れてきてあげましたよ。」

すると、ネギ君はこちらを向いて駆け寄ってきた。

 

「あ、大樹先生!こんにちは。あ、カモ君!!」

 

なんだかんだと再会を喜ぶ二人。そして、話はパートナーのことに・・・。

オコジョさんの名前はアルベール・カモミールって言うんだそうです。

流れでネギ君の学生名簿を見ちゃいますよ~。あら、色々書いてる。

 

「アニキ!この人っス!!俺っちのセンサービンビンっすよ!」

 

あ、宮崎さん。この子は良い娘よねぇ。ネギ君はうぶなところあるし、仮カード作りだけならいいかな。最初の勢いをつけさせてあげるのは悪いことじゃないし、宮崎さんもネギ君のこと好いてたし・・・。

 

ちょっと、手伝ってあげるかな。

私が宮崎さん。カモミール君がネギ君を連れて来る手筈で・・・。

一肌脱ぎますよ~!

 

 

さてさて、場所のセッティングもしたし、ラブレターも仕込んだしあとは待つだけですね。

 

「それにしても、フェアリーの嬢ちゃんは先生だったんだな。良かったのかい?こういうのって学校の先生的にいいのかい?年齢差とか・・・?」

 

「年の差なんて、大したことはありませんよ。私だって見た目年齢なら夫との差は相当ですよ。それに、私も夫とのそれは床ドン!顎クイッ!からの~キャ!」

 

「へ、へぇ~そうなんすか・・・。あ、二人ともそろった見たいっすね。」

「あ、じゃあ私は向こう側にいってますね。」

 

 

あ、キスするのね。もどかしいわね。早くすればいいのに最近の男は勢いがないのよ!

あの人みたいにもっとガッと行きなさいな!

 

って、神楽坂さんの乱入!?あら、もうダメねぇ。

あんまり、生徒には裏の事は知られてないし、ここは静かに去ろうかしらね。

スススッ

 

「ま、待ってくだせぇ!!姐さん!!これはオオキ先生のお墨付きなんッスよ!」

「えっ!?大樹先生!?って、いないじゃない!!」

「あ、あれ!?先生!?先生!?・・・ま、待って!?ぎゃああああ!!」

 

 

 

 

そのあと

 

大樹を見つけて文句を言うカモミール。

 

「なぁ、逃げるなんてひでえぜ。オオキ先生。」

「ごめんなさいね。生徒の子たちには私の裏の事、原則教えてないのよ。ごめんね。」

 

そう言って、高級ひれ肉ステーキを皿に乗せて差し出す。

ムシャムシャと食べ始めるカモミール。

 

「だったらさきに言ってくれよ~。遠縁は言え同族のよしみで許してやるッスけど。うめぇ!!マジ、うまいッス!!」

「それは良かったです。」

 

肉を頬張りながら、何の気なしにカモミールは大樹に尋ねた。

 

「そういえば、あんたの旦那さんってどんな人なんでぇ?」

 

「織田信長。」

 

「へ?」

 

「織田信長。」

 

「え、えっと?どこの織田信長さんで?」

 

カモミールの声がわずかに震えている。

 

「尾張の国の織田信長さんですねぇ。」

 

「・・・えっと、もしかしてその織田信長さんって天下とっちゃたりは・・・。」

「してますねぇ。第六天魔王名乗ってましたね。」

 

妖精なら彼女の事を知らないなんて生まれて間もないか。モグリだ。

カモミールは彼女の正体を察した。

 

「生言って、申し訳ありませんでしたぁああああ!!!」

 

土下座。

それはもう、見事なオコジョ土下座でした。

 

「このことは、くれぐれも御内密にお願いしますね。」

「は、はぃいいいいいいい!!」

 

 

 

 

 



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163 平成 吸血鬼エリート

 

 

ネギ君とエヴァの戦いはエスカレート。

茶々丸を不意打ちしようとしたのはよろしくないですがギリギリで思いとどまってくれたのですから、良い方向に成長してくれてるみたいです。

 

カモミール君から、手伝ってほしいって言われたけど。

私、エヴァとはお友達だし…今回は中立ね。

 

茶々丸から事前に麻帆良大橋で停電起こして戦うってお知らせを受けたし・・・、ちょっと様子を見にってもいいかな。

 

私は麻帆良大橋の方へ歩いていく。

おやおや、佐々木さんたちが集まっていますね。

エヴァも久しぶりに吸血鬼っぽい事をして・・・ふふふ。

佐々木さんに、明石さん、和泉さん、大河内さんね。記憶が残る様なへまをするようなエヴァじゃなし、任せましょうか。私は観客に・・・。

 

その後から、ぞろぞろと他のクラスの生徒たちがゆっくりと群れをなして・・・、ウルスラや芸大付属に大学生もいる。用務員さんも?いくら何でもやりすぎでしょエヴァ!?

 

 

 

すこし、速足で歩いていると私の方に、少し赤み掛かっていてクリンとした可愛げな眼の吸血蝙蝠が方に止まる。エヴァの眷属じゃないわね。でも、昔は頻繁に会っていた吸血鬼の感じ、この蝙蝠って確か・・・。

 

「ジョニーの妹蝙蝠じゃない!?」

 

 

 

 

 

 

明日奈と仮契約したネギはエヴァンジェリンと接戦し、麻帆良大橋の戦いはエヴァの想定より早く停電が復旧した事で川に落ちそうになったエヴァンジェリンをネギが助けて、ネギの価値と言うことで終わりそうだった。

 

「エヘヘ、さぁこれで本当に僕の勝ちですよ!もうこれで、悪いこともやめて授業にしっかり出てきてくださいね!」

「わかったよ…坊や。」

 

「呪いのことなら、僕がうーんと勉強して解いてあげますからね。」

「な!?」

 

エヴァンジェリンがネギに文句を言おうとした瞬間だった。

 

チャラ~ン

何処からともなくギター演奏が響く。

そして、歌も・・・。

 

 

『お聞きなさい この調べ~。 胸締め付ける ギターの糸~』

 

さっきの4人以外の人たちが集まってきてネギとエヴァンジェンたちを取り囲む。

 

「ん!?この歌は!?お前たち!!歌を聞くな!」

「え、なんですかこれは!?」

「ちょっと、あんた!どういうことよ!!」

「あ、アニキ!?」

「周囲の索敵を開始します。」

 

『私の指で 貴女の心 解いて あげよう~ おやすみなさい 私の肩で~』

 

「わたしの操っていた人間たちじゃない。なぜ、あいつが・・・。」

「マスター。」

 

エヴァンジェリンのただならぬ態度に、ネギと明日菜も身構える。

 

「そう、奴の名は・・・」

 

『上弦の月が 真上に上り この屋敷を 照らすだろう 貴方の真赤な ワインで 乾杯 そう私は 』

 

『「吸血鬼エリート」』

 

 

 

「やぁ、久しぶりだね。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。」

 

少々小柄ではあったが、ギターを背負いタキシードを着て身なりの整った男が姿を現したのだった。

 

 

「貴様、なぜこんなところに・・・。」

 

エヴァの言葉にエリートはつまらないことを聞くなと言わんばかりに答える。

 

「この学園にはあのお方がいるではないか。僕はあのお方をお迎えに上がったんだよ。いつまでも、人間どもに束縛されていいお方ではないんだよ。あのお方は・・・。まぁ、物のついでにこの学園の優秀な子供の血も頂戴しようかとも思っているがね。都合よく、魔法世界の英雄の息子なんて言うのもいるんだから、今日はついているな。」

 

「ほぅ、さすがに堂々とそのようなことを言われるとはな。ここの警備要員もしている私としては見逃せんな。」

 

それを聞いたエリートは軽蔑のまなざしを送り、エヴァンジェリンを罵る。

 

「真祖だなんだと、大層なことを言う割には飼い犬が似合っているではないか。裏切者の面汚しが・・・。」

 

「裏切者?面汚し?ずいぶんな言い草だな。」

 

「そうさ、当然だろう。あのお方の寵愛を受けておきながら、あのお方を押し込める輩に与したんだ。」

 

「お前のような蝙蝠上がりが、ずいぶんと大きく出たな。」

 

エリートはエヴァを睨みつけ注射器を取り出す。

 

「やかましい!あのお方だけが!あのお方だけが!僕を御認めになってくださった!あのお方だけが僕を正しく評価してくれた!あのお方を貶めた連中は皆殺しだ!それに与する貴様も同罪だ!この注射の中にある溶解液はなんでも溶かす。僕の邪魔をするのなら、同族とは言え死んでもらう!さぁ、下僕たち奴らを殺すんだ!

 

エリートの命令に操られた人々が襲い掛かってくる。

 

「なんなのよ!こいつら!」

「明日奈さん!気を付けてください!!」

 

「マスター!彼らは吸血鬼化していません!」

「わかっている!殺すなよ!!」

 

操られた人々を退けたネギたちは改めてエリートに向き直る。

 

「ここまでです!」

「観念するんだな。」

 

ネギとエヴァに追い詰められたはずのエリートは余裕を崩さない。

 

「確かに、雑徭は退けたみたいだが・・・、僕のギター催眠は聞き始めたみたいだな。」

ネギとエヴァはギターの催眠攻撃を受け動けなくなる。

茶々丸も吸血蝙蝠たちの攻撃を受け身動きが取れなかった。

 

「さて、エヴァンジェリン。君をドロドロに溶かした後は、英雄の息子君の血を堪能しようじゃないか。」

 

「っひ。」「っく。」

 

二人を手に掛けようとした瞬間。

 

スパーン。

 

明日奈の見事な膝蹴りが決まる。

 

「ぐっが!?なんだ貴様!?なぜ、僕のギター催眠が効かないんだ!?

「なにが、ギター催眠よ。ただの、ギター演奏じゃない!」

 

 

「くそっ」

 

エリートは明日奈の攻撃を避け続けてはいるが押されているのは明らかだ。

 

「蝙蝠たち!この娘の血を吸い尽くせ!」

 

エリートの命令に蝙蝠たちが殺到するが、間に入った蝙蝠によって蝙蝠たちは明日奈への攻撃をやめてしまう。

 

「ティナ!!なぜ、兄ちゃんの邪魔をするんだ。」

「キー!キッー!」

 

ティナと呼ばれた蝙蝠の示す方を一瞬だけ見たエリートは一気に態度を豹変させた。

 

「あぁ!貴女の糸は私にはわかりませんが、貴女様が御望みならば・・・私は引きましょう。我々は貴女様が再び君臨なさる日を待ち望んでおります。100年前の夢の続きをいつか見せてください!」

 

そう言って、エリートは吸血蝙蝠たちを連れて空へ去っていった。

エヴァンジェリンはすぐに追いかけようとしたが、エリートが見た方向を見てからすぐに追跡はやめた。

 

横やりが入ってしっちゃかめっちゃだったが、ネギたちと別れたエヴァは人気のない小公園に入り、声をかける。

 

「大樹、どういうつもりだ。」

「彼は、かつての東西同盟の立役者です。いくら、あなたでも彼を殺すことは許しませんよ。」

 

大樹とエヴァの視線が交差する。

先に折れたのはエヴァだった。

 

「昔から、そういうところは変わんな。昔のよしみだからと情に流されすぎると自分を苦しめるぞ。」

「私は、一度自分の下に来た者を自分の都合で捨てる気にはなりません。」

「・・・・・・。」

 

 



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164 平成 竹の精・星華

ゲゲゲの森、一反もめんが短冊に願いをかける

「たのむ~。なつみちゃ~ん、ゆうかちゃん、よかけーん、ワシとデートしちゃり~。」

と一反もめんが短冊に願いを込める。

その横ではぬりかべが女房と子供たちと一緒に短冊に願いを込めていた。

 

(星華さん、元気でやってるかな。)

 

ぬりかべは思い出していた。数年前の彼女との思い出を・・・。

京都のとある笹林。

心優しき笹の精が住まうその笹林は今や伐採工事のための規制線が張られ、ご迷惑をお掛けしますの文言が書かれた看板が掲げられていた。

 

悪い妖怪の話を聞いて、退治するために鬼太郎たちと一緒に笹林に向かう予定だったが、用事で遅れてしまう。さらには道中で、脚の怪我で歩けなくなっていた。

 

「どうしよー・・・」と困っているぬりかべに「あんたもさっきのやつらの仲間だね」笹の精の女の子が近づく。

 

「とっとと!……あんた、怪我してる…」

 

ぬりかべが怪我をしていることに気が付くと

 

「はぁ…笹の葉の密から作った薬だよ、それ塗って早くここから帰んな。」

 

薬だけ手渡し去っていく女の子。

 

「…ありがと~」と礼を言うぬりかべ。

 

 

その頃、工事現場の人間や彼らに雇われていたねずみ男から

 

「このあたり一帯の笹の精なんだがな、昔から闇雲に人を襲う悪いやつなんだよ」

 

と説明を受けた鬼太郎たちは、その前にすでに彼女から攻撃されていたことでねずみ男の話を信じてしまうのだった。

 

一方でぬりかべは笹の精・星華と親交を深めていき・・・。

 

 

また、建築業者の自作自演の演技に騙された鬼太郎たちは星華を誤解する。

しかし、そんな中でぬりかべだけが彼女を信じ、彼女についていったのだった。

 

 

一方で本件の黒幕ともいえる妖怪あしまがりは以前星華に封印された過去を持ち恨みを晴らすべく彼女を自身の手で直接消し去ろうと黒雲を使い、笹林を焼き払ってしまう。

 

その後、あしまがりは鬼太郎とねこ娘の活躍によって無事に退治されたものの、笹林はあまがりの手によって殆ど焼き尽くされてしまい、彼女を護ろうと必死に庇ったぬりかべの奮闘も虚しく瀕死状態だった彼女は、自分に寄り添うぬりかべに。

 

「あんたとまたこうして手を繋ぎたいと」

 

告げ静かに目をつぶると光となって消えていった…。

 

建築業者の者たちも役所からの指示で建築許可が撤回されて工事中止となり退去していった。

こうなる以前星華はこの地域の神様に助けを求めていた。

秋比売神・静葉、穣子である。

彼女たちは当時繋がりのあった農林水産省に圧力をかけ

 

「1993年の米騒動の時に骨折って日本中の田んぼに加護を与えてやった時の借りを返しなさい!」

「あの地域の山林は手を入れるなと言ったはずよ!」

 

当時の農林水産省担当者にものすごい剣幕で詰め寄ったこともあり、開発計画は撤回されたのであった。計画撤回が発表されたときにはすでに、星華は・・・。

 

 

そのことを知った彼女たちは、この地方一帯を纏める妖怪である万年竹と協力して、星華復活に手を貸した。そのお陰もあって翌年には少々容姿が幼くなってはいたが復活を果たし、ぬりかべとの再会も果たしたのだった。

 

 

ぬりかべはひとしきり思い出に浸ったあと、手を止めていた短冊の飾りつけを再開し始めた。今となっては、自分の家族を含めた家族ぐるみの仲だ。

 

「ぬりかべ!」

 

名前を呼ばれたぬりかべは顔を向ける。

 

「星華さん!?どうしたの?」

 

息を切らせた星華は所々怪我をしている。

それ以上に焦っているのが分かった。

 

「鬼太郎さんたちに伝えて・・・万年竹様が危ないの!助けて!」

 

 

 



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165 平成 京都修学旅行①

 

 

紆余曲折ありましたが修学旅行は京都になりました。

正直に言えば、修学旅行先はハワイの方が良かった。

私個人も京都に行きたくないわけではないが、この件に関しては近右衛門とは激しく対立した。かなり激しい口論をしたため少々険悪な空気が魔法職員会議で流れていたと言えば、その通りだったと思う。そのせいで近衛学園長を当分近右衛門と呼ぶことは無いだろう。

麻帆良を本部とする関東魔法協会と、京都に本拠を構える関西呪術協会は仲が悪い。

そこで近衛学園長はネギくんに親書を持たせ特使として派遣する、という形を取ることにしたそうです。これで近衛学園長は当面の問題は解決したと思っている様だが、これは認識が甘すぎると言えるでしょう。東西の協会の問題として、両組織の長が近衛家の人間と言う時点でデキレースだ。力関係的に関東寄りの物であると理解できる。

 

近衛学園長の親書に書かれている「自分の部下も抑えられないとは何事じゃ!」と叱咤する内容であった。内容にも問題があるが、近衛詠春に部下を抑える能力などないのだ。

そもそも、近衛詠春は近衛家じゃない。青山の人間なのだ・・・。

本来、関西呪術協会の長は近衛家の血が流れている詠春の妻か、その子供じゃないといけないのだ。

皇后しかり、伊勢神宮や平安神宮といった神殿の斎主や宮司しかり、血筋や家柄は重要なのだ。

青山も術士や剣客としては名家だろう。だが違うのだ、そういった歴史ある術師の家々を纏めるのは貴族やそれに準ずる名門の家系でないといけない。政治ができる人間でないといけないのだ。英雄だろうが何だろうが、所詮は一兵卒だ。そう言った意味では青山家など神鳴流の師範以上の価値はないのだ。

そんな者に従うような奴はまずいないのだ。関西呪術協会の目に見える内部分裂はなるべくしてなったと言える。最低でも近衛木乃香をお飾りにしてでも近衛家の摂関家の正統性を押し出すべきだったのだ。それが無理なら、最低でも清華家あたりからでも長代行を引っ張ってくるべきだったのだ。

 

話がそれたが、関東魔法協会と関西呪術協会以外にも畿内には火種がたくさんあるのだ。

例えば比叡山天台宗と信貴山真言宗は命蓮寺(実は真言宗系)の件もあり今でも対立しており、天台宗のバックに関西呪術協会が、信貴山真言宗のバックには南紀に勢力を維持し続けている妖狐衆が付いており、無論バックの関西呪術協会と妖狐衆は敵対している。また、かつて相当規模の僧兵を擁していた寺院仏閣は攻勢に出れる規模ではないのが、ほとんどだが今でも裏の戦力を保有している。また、京都には私の従神であった碧奧蘭蒂の陵墓があり、そこを守るのが畿内一円の植物妖怪の長である万年竹だ。さらには、詳細はつかめなかったがぬらりひょん派の拠点もどこかにあるはずだ。今後起こるごたごたに絶対一枚かむはずだ。

だが、近衛学園長はそのあたりの理解に乏しいのだ。

 

そう言った火種がありながらも修学旅行先は京都になったのだ。

 

 

 

 

 

 東京駅を出発した新幹線の中、一つの車両丸々を貸し切る形で、麻帆良学園が京都への修学旅行の為に、新幹線を利用しているのだ。

 

 

「他の車両に迷惑をかけないようにしてくださいね。」

 

 

と注意事項を告げると席に戻り、騒がしい修学旅行生たちに我関せずを貫いた。

 

生徒たちは、さらに騒がしくなり始めた。中には、席を移動してゲームをし始めて騒ぎ出す者もいる。とはいえ、それも学生たちにとっては醍醐味の一つ。ネギくんを始めとした教師たちも口うるさく注意することなどはしなかった。

 

 車両内に蛙が行き成りわらわらと湧いて出て来るというハプニングはあったが、想像より遥かに生易しい関西の妨害の対処はネギくんにもできるだろう。

 

実際、拙いながらも対処できた。ひと段落ついて私は今回の引率教員のまとめ役である新田先生に許可を取るために彼の下に向かう。

 

 

「あの、二日目の班別行動のことなんですが・・・。」

「あ、旦那さんとお子さん方の墓参りでしたか。学園長から聞いていますよ。我々の事は気にせず行ってきてください。」

「ありがとうございます。」

 

 

無事京都駅を降りたネギたち教師と麻帆良学園御一行は、まず清水寺へバスで向かった。

 

バスを降りてネギが最後尾で追いかけて漸く追いついた時には、3-Aのメンバーは持ち前の元気さで、清水の舞台で騒いでいた。

 

 中学生である彼女たちにとって美しい光景や希少な歴史よりも、その先に有る物の方が強く興味を惹かれるのだろう。恋占いで有名な地主神社や音羽の滝の話を、綾瀬さんから聞き、そちらに駆けて行ってしまった。

 

置いてきぼりを食らった綾瀬さんはふと足を止めて私の方を向いて話しかけてきた。

 

「水御先生。明日の班別行動なのですが良かったら先生も一緒に回りませんか?」

「ごめんなさいね。綾瀬さん、先生じつは2日目は事情があって引率抜けるのよ。本当にごめんなさい。」

 

「いえ、大丈夫です。」

 

そう言って、綾瀬さんも友達の下に駆け寄っていった。

 

 

 

 



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166 平成 京都修学旅行②

 

 

「目が回る~」

「うぃ~ひっく~」

 

 

私やネギくんが異変に気付いたころには、3-Aのほとんどの生徒が前後不覚の状態で酔い潰れていた。 

 

「な、何が起きたの!?」

 

 

 何が起きたかわからずパニックになりかけたネギくんだが、後ろから慌てて走ってきた人物に声をかけられて、少しだけ冷静さを取り戻す事が出来た。

 

 

 

「ああ、ネギ先生に大樹先生丁度良いところに」

「あら新田先生、この状況はどういうことなのでしょうか?私たち、最後尾の引率で今追いついたところで・・・。」

 

 よほど急いでいたのだろう。後ろの方で生徒たちを見ていたはずの新田教諭が、額に汗を光らせ肩を震わせたまま立ち止まる。

 

「どうやら……お二人はまだお知りではないようですね。観光客に対する悪質な悪戯で、酒が滝に混ぜられていたと。それを生徒たちが誤って飲んでしまい、倒れてしまったそうです。大樹先生、私は事態を把握してから警察に……届け出をしますので、酒を誤飲してしまった生徒を旅館に連れて行き、休ませてあげてください」

 

「は、はい」

 

 新田教諭は私たちにそう告げて、呼吸が落ち着く間もなくふらふらと倒れた生徒たちの元へ走って行った。

 

 

私たちは酔った生徒たちをホテルまで連れて帰り介抱した。

幸い急性アルコール中毒などの重症者はおらず、少し休めば回復する程度だった。

 

関西呪術協会の妨害は正直大したものではない。新幹線にカエルをばらまく、音羽の滝に酒を混ぜるなどのDQNの悪戯程度のものだ。昭和には寝台特急をトレインジャックして爆弾を仕掛けた自衛隊のクーデター未遂事件や皇居敷地内で激しい戦闘をした事件を見聞きした身としては、その程度かと言ったところ。

 

子どもなネギくんにはちょうどいい試練なのかもしれない。

逆に関西呪術協会は融和派敵対派ともに大丈夫なのかと言いたくなるほどに拙い気がする。

音羽の滝を所管する清水寺は北法相宗に属するが、清水寺はその経緯が複雑で宗旨は、当初は法相宗で、平安時代中期からは真言宗を兼宗していた。明治時代初期に一時真言宗醍醐派に属するが、1885年に法相宗に復し、1965年に独立した。つまり清水寺は法相宗と真言宗に深いつながりを持っている。そんなところで関西呪術協会の人間が問題を起こせば法相宗と真言宗は間違いなく激怒する。表の意味合いでも観光名所での不祥事は京都府も不快感を示すだろう。特に真言宗は命蓮寺の件以来、関西呪術協会と天台宗にはいい感情を持っていないし、そのバックの妖狐衆も何かしらの動きをするだろう。京都と言う地域は魑魅魍魎跋扈する魔境と言われているが、政治的にも魔境なのだ。

 

そのあたり、今の関西呪術協会の政治力はお粗末なものに成り下がっているのが容易に想像できる。そうでなければ、政治下手な近衛詠春が長に等なれないだろう。

 

嵐山ホテルの窓から見える京都の街並みを見ていると、小さな影が見える。

 

「あれは・・・ゲゲゲの鬼太郎。」

 

何やら嫌な胸騒ぎを感じる大樹であった。

 

 

 

 



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167 平成 京都修学旅行③

鋭利な竹が地面に何本も突き刺さる。

 

『おのれぇ!!許さんぞ!!不届きな墓荒らしどもめぇ!』

 

陵墓を守る妖怪、万年竹の絶叫が響き渡る。

その攻撃にさらされる白髪の少年は汗一つ流さずにその攻撃を躱す。

 

『貴様ら!!この地をなんと心得るかぁ!!この地は大樹野槌水御神様が従神碧奧蘭蒂様の眠られる陵墓なるぞ!!』

 

「フェイトはん!結界張れましたえ!!」

 

この件の首謀者格である天ヶ崎千草の声に応じて結界が展開されると万年竹は結界に閉じ込められる。

 

「これで、落ち着いて儀式の支度ができるわ。フェイトはん、おおきに。」

「あぁ。」

 

 

 

 

京都市から少し離れた山のあばら屋に、ゴシックロリータを着て腰に二刀の脇差をさした可愛らしい少女が囲炉裏の前に座り、扉を開けて入ってきたフェイトは少女が来客として対応していた人物の様子に少し視線を向けた。

 

「お邪魔していますよ。」

 

フェイトの視線の先には老人と顔がでかい赤鬼。

ぬらりひょんと朱の盆がいた。

 

「そちらの計画は順調のようですな。何よりです。」

「なにか、用件があるのでしょう。どうぞ。」

 

フェイトの言葉にぬらりひょんはゆったりとした仕草で袖口から煙管を出して、葉っぱに火をつけ煙を燻らせる。

 

「いやはや、近頃の若者はせっかちでいけませんね。前任のプリームム殿の方が対応は丁寧でしたね。」

 

ぬらりひょんの嫌味に対しても一切反応しないフェイトにぬらりひょんはつまらなさそうに話を続ける。

 

「私としては心配してるのですよ。付き合いの長い完全なる世界の方々も世代交代のご様子。若い方々でうまくやっていけるかどうか。」

 

「あなた方が心配するようなことは無いはず。」

 

「えぇもちろんですよ。貴方が優秀なのは十分承知です。ですが、彼らには大樹様が付いています。失墜した権威と舐めてはいけませんぞ。老婆心ながらに忠告させて頂きますとこの国で事を起こすなら、この三つには十分気を付けなされ。ゲゲゲの鬼太郎と八雲紫、そして大樹野槌水御神。こと、この畿内では裏においても表においても複雑に絡み合っていますのでね。たった一つの行動で一見関係のないような者共が激しく動いたりしますのでな。努々、侮りなされるな。年寄りの戯言と哂ってくださって結構ですぞ。ふはははは。」

 

そう言って、ぬらりひょんは立ち去ろうと腰を上げる。

フェイトと月詠、そして天ヶ崎千草はそれを見送ろうと門までついていく。

 

「それと、今回の皆さんの行動に乗じて私の方でも動こうと思っています。おっと、そう警戒しなさるな。邪魔はしませんよ?邪魔は・・・。何でしたら、時折連絡を入れますよ。何せ我々は同盟関係でありますからな。はっはっは。」

 

 

 

ぬらりひょんは朱の盆が運転する黒塗りの高級車に乗り込む。

車が発進して暫く、ぬらりひょんが口を開く。

 

「破魔の連中も世代交代を繰り返して質が落ちたようですな。畿内の情勢も読めず。異世界人と組むなど。異世界人は独りよがりの奴が多い。世界が自分中心に回ってるとでも言いたいようだ。全く愚かです。奴らの大将がどのような存在であれ、そう言った考えを持っているようじゃあ。この世の中じゃ勝者にはなれんよ。何せこの世界は神様だって手を余らせたんだから・・・。支配するのではなくうまく転がす。それが利口なやり方と言うものです。・・・あ、そうでした。朱の盆、社会民主党鳩矢間幹事長と会談したい。セッティングを頼めますかな?」

 

「はい、かしこまりました。ぬらりひょん様。」

 

 

 



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168 平成 京都修学旅行④

修学旅行2日目。

生徒たちは各々で計画した京都の名所で観光を楽しんでいた。

 

綾瀬夕映の5班もその中の一つであった。

5班はネギが合流することになった。本当はこれに親友の宮崎のどかのネギ先生への好意を応援してくれると言った大樹先生を誘って協力してもらうつもりだったのだが、彼女は私用で別行動をとることになっていた。

 

夕映は残念に思いながらも気持ちを切り替え、班の仲間たちと京都の名所を回ったのだった。

 

そんな時であった。

 

大徳寺の境内で喪服姿の大樹先生を見つけたのは・・・。

他の班員と別れてトイレに立ち寄った彼女は大樹先生を見つけた。

声をかけても良かったのだが、彼女の服装と悲し気な雰囲気を感じて思わず隠れてしまう。

 

夕映は、こっそりと付いていこうとしたがその途中の総見院前で、「今はここには入れませんよ。」と僧侶に阻まれてしまうのでした。

 

夕映はどうしてか引っかかる思いを感じ、メールで他の班員に後から合流する旨を伝えて、総見院の前で大樹先生を待ち伏せることに。

 

しばらくして、門から出てくる大樹先生を見つけた夕映は声をかけたのだが・・・。

 

「水御先生っ・・・・・・?な、泣いているですか?」

 

急に声をかけられた大樹は取り乱しつつも、それに応じた。

 

「え、あっ綾瀬さん!?」

 

大樹は動揺しつつも、夕映と近くのベンチに座った。

 

「なんだか恥ずかしいですね。家族の菩提で泣いている姿を見られるなんて…。」

 

居心地悪そうにしている夕映に気を使ったつもりであったが大樹は失言をしてしまう。

 

「いけませんね。まだ孫たちは生きてるのに…。」

 

夕映はバカレンジャーのブラックと呼ばれているが、実は頭が非常に切れる才女である。

ゆえに彼女は大樹の言葉の裏にあるものに気が付いてしまう。

 

孫は生きている。

つまり、自己紹介の時に話していた夫や3人の子供たちはもう・・・。

夕映が自身の失言を機敏に察したことに気が付いた大樹は機転を利かせ言葉を紡いだ。

 

「夫も子供たちも死んでしまいましたが、私は幸せなんですよ。孫たちも優しいいい子ですし、今は皆さんのような可愛い生徒たちもいます。悲しんでなんていられませんよね。」

 

夕映ともぎこちないながらも会話する程度には立て直し、タクシーを拾って奈良公園で5班のメンバーと合流した。大樹は奈良公園で夕映を下ろすとそのままタクシーで別の場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

夕映と別れた大樹は伏見稲荷大社でタクシーを降りた。

 

降りた先には旧中央鎮台の長官である大妖狐白蔵主と上位の妖狐たちが神官服を着て出迎えた。

 

大樹は黙って歩を進めると、妖狐たちもそれに続いた。

稲荷山中腹の千本鳥居を歩きながら、やっと大樹は口を開いた。

 

「白蔵主・・・久しいですね。」

「はい、大樹様。」

 

「さすがは洛外洛中と言ったところでしょうか。ずいぶんと騒がしい・・・」。

「異界の夷人どもが、派手に乱してくれてますので。」

 

「あなた方が何をしようと私は一度身を引いたのです。口出しはしませんが・・・。」

「大樹様が安土にいた頃が懐かしいですなぁ。あの頃に戻れたらと・・・今でも思います。そう思う者たちは少なくない。いや、多いのではないでしょうか。」

 

白蔵主は千本鳥居の間から差し込む陽光を見て、眩しそうにしながら続ける。

 

「鎌倉の源頼朝に北条時宗、安土に幕府を開いた織田信長。常に世の中を動かしてきたのは、一握りの敬虔な、妖怪と人の橋渡しを出来る者たちでした。今の世はどうでしょう。」

 

白蔵主はバカ騒ぎをしている修学旅行生や観光客たちを冷ややかに見つめる。

 

「愚者で溢れかえっている。凡人であればまだよかった。平凡あらば純真だ。愚者ではだめです。こちらの足を引っ張り、おのれの欲望に忠実で際限なく、この国を・・・現世(ううつよ)を食い尽くす。」

 

「人間の中にその橋渡し役が・・・導き手が現れない以上。人も妖怪も、より良く導かれねばならんと思うのです。指導する絶対者が必要だ。例えば大樹様・・・貴女のような・・・。」

「白蔵主、冗談はよしなさい。」

 

大樹はそのようにあしらったが、白蔵主が冗談で言っていないことは解っていた。

 

「400年前、闇の住人だった我々を日の当たる世界に引き上げてくださったのは貴女ですよ。大樹様・・・、我々にはあの世界は実に甘美なものでした。あの戦争に敗れ失って、初めて思い知らされましたよ。我々はあの世界に戻りたい・・・。ぬらりひょんが何やらよからぬことを企んでいるのは把握しています。ですが・・・」

 

大樹は白蔵主から憂いや悲しみの感情を感じた。そして、その感情が次の言葉と同時に怒りと憎しみに変わったのも感じた。

 

「だからこそ、異世界人とそれに迎合した連中を・・・、我々をあの暗く冷たい世界に押し込めようとするあいつ等を許すことはできない。」

「白蔵主?」

 

 

「・・・あの暖かい世界に戻る。・・・我々がそれを望み、行動する。当然のこと、何もおかしいことはありゃあしない。ですので、これから先の事は大樹様には預かり知らぬ事。・・・申し訳ございません。」

 

そう言って白蔵主たちがなんの幻術か知らないが霧の様に掻き消えてしまった。

大樹は慌てて、白蔵主を捕えようとしたが伏見稲荷大社は妖狐たちのテリトリー。

白蔵主を中心とした妖狐たちは一斉に掻き消えるのだった。

 

「いったい何をするつもりなの・・・。」

 

 

 

 

 

 

 



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169 平成 京都修学旅行⑤

もう、夕方。白蔵主の不穏な発言を聞いて不安を感じる大樹であった。

嵐山ホテルに戻る途上、本当に偶然なのだがゲゲゲの鬼太郎に会うこととなる。

 

直接会うのは昭和63年の皇宮での戦い以来であった。

 

「大樹様?なぜこちらに?」

「修学旅行の引率ですよ。今は少々私用で動いてますが・・・。」

 

「そうでしたな。大樹様は今、学校の先生をやっていると聞いたことがあったのぅ。」

「えぇ…楽しくやらせてもらってますよ。ところで、目玉おやじさん。京都・・・いえ、今の畿内は少々厄介なようですよ。私の方でも少々厄介ごとを抱えてまして、お互い協力できるところは協力していきましょう。」

 

目玉おやじは鬼太郎の頭の上で考えを纏めて答える。

 

「そうですの・・・。」

「父さん・・・お互いの情報を出し合って、状況を整理しましょう。」

 

私たちは、すぐ近くにあった喫茶店に入り話し合う。

猫娘や子泣き爺、砂かけ婆などの人間形態の妖怪たちも同席している。

 

「和歌山の方でも動きがありそうですが、そちらはまだ猶予がありそうです。直近の問題は万年竹のことですね。」

 

「あそこは、碧奧蘭蒂様の陵墓。何かが起こっておるのは間違いないぞ。」

 

砂かけ婆の言葉に頷いて見せる。

 

「聞くところに、万年竹を襲撃した者たちの中には人間の術者がいるらしい。この修学旅行で襲ってきた術者同様に呪術師・・・何か繋がりがありそうじゃ。ふ~む」

「万年竹を助ける必要がありますね。少し、腹案がありますので任せて頂けますか?」

「何か考えがあるようですな。大樹様、お任せしてもよろしいので?」

「えぇ、ちょっと伝手を頼ろうかと・・・。」

 

 

 

「こりゃ、思ったより大事になりそうじゃぞぉ。」

「鞍馬山の大天狗には話を通しておいた方が良いかもしれんのぉ。」

 

と言う子泣き爺と目玉おやじ。

 

「ですね。あの、猫娘さん・・・私が要請の書類を書きますので別れたら鞍馬山への使いをたのめますか?」

「はい、わかりました。」

 

大方の方針が決まったので、ここで一度解散だ。

あら、もうこんなに暗く・・・新田先生にはどう言い訳しようかしら?

瀬流彦先生は魔法先生だし、私の夫が信長だって知ってるから地元の高僧や有力者に引き留められてって嘘ついて新田先生丸め込むの協力してもらおうかしら。

 

などと考えていると・・・、ロビーで正座してる3-A生徒たち。

 

「全くお前らは!」

 

雷を落としている新田先生。

うわぁ…、これは・・・参ったな。わたしも戻る時間からだいぶ遅れちゃったからなぁ。

 

「大樹先生。こっちこっち。」

 

瀬流彦先生が物陰から手招きしている。

 

「A組の子たちがね…かくかくしかじか。」

「まるまるうまうま・・・っと。」

 

 

うちのクラスの朝倉さんが企画した『くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦。』なるイベントと言う名の教師への労働提供が発生していたのでした。

 

あー、パートナーそういう感じで集めるんですか?

あのオコジョ妖精・・・そんな地引網みたいな大雑把な・・・なんか、雑・・・。

もうちょっと、こう。わたしが推してる宮崎さんみたいに恋愛感情をね。軸にしたり、もっとこう中身のある人選をするべきじゃないかと思うんですけど。

 

事情をある程度知っている瀬流彦先生に不満を漏らす私でしたが、次の言葉で考えを変えるのでした。

 

「あ、でも。ここにいるネギくんはデコイでしたよ。」

「そうですか。」

 

「新田先生も、3-Aに掛かりきりですから僕から話を聞いたことにして、うっかり新田先生に会いに行くのを忘れて僕と巡回してたってことにしましょう。」

「助かります。あとで飲み物奢りますね。」

「ごちそうになります。」

 

その後も遠くから様子をうかがっていると、ネギデコイが4人現れて、新田先生が気絶して、生徒たちが集まって暴れて、なんだかんだで宮崎さんがネギ先生に告白してカップル成立の新田先生が目を覚ましてその場の全員をロビーで正座させて、私たちはしれっと合流した。

 

その後に、オコジョ妖精には仕事が雑なんだよと嫌味を言ってやった。

 

 

 

 

 

 

嵐山ホテルでちょっとしたエロイベントが起きていた頃、南紀一帯で変事が発生していたのでした。

 

 

 

 



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170 平成 星蓮船の変

「大樹様が、この京にいらっしゃいます。この機を逃す手はない。今こそ白蓮を救い出す時です!」

 

信貴山の命蓮寺の跡地。

旗下の妖怪たちに号令を出しているのは毘沙門天の代理を称する虎の妖怪、寅丸星。

 

彼女の両脇には、妖怪鼠のナズーリン。舟幽霊の村紗水蜜、妖怪入道の雲山がいた。

この世界線において、彼女たちの味方は少なくなく。南紀を領する大樹恩顧の大妖狐白蔵主、さらには真言宗の諸派をまとめ上げた尼僧雲居一輪の姿もあった。

 

この雲居一輪は聖白蓮の弟子であり白蓮同様に魔法の術によって老いから逃れた存在であり、終戦時の真言宗がGHQを中心とする敵対者から守り抜いた権威であった。

 

そして、号令の演説は寅丸星から雲居一輪に引き継がれる。

 

「大樹様が抑され、心ある者たちの力が失われた今のような末法の時代。聖白蓮のような誠に清廉なる者が必要なのだ。今こそ、われら真言宗の総力を結集し、聖人復活を成し遂げるのです!!」

 

「「「「「おおおおおおおおおお!!!!」」」」」

 

南紀の妖怪と真言宗僧兵の連合軍はついに決起したのだ。

 

裏世界において京都事変と並んで有名な星蓮船の変の始まりである。

 

 

南紀州、現在の和歌山県は畿内において安土大阪時代より大樹の権威が非常に強い土地柄であった。この地域には大樹野槌水御神とつながりが深い秋比売神姉妹を祀る秋大社があり、熊野三山を例に神社衆は軒並み大樹礼賛であった。戦後の大樹否定の時代においても隠れて礼賛を続けるほどであった。

 

そんな大樹と縁の深い聖白蓮の復活に神社衆は協力を惜しまず。形骸化しつつある兵力ではあった数少ない巫術師たちを提供した。

さらに天台宗攻めにはもう一つの武力組織が参戦した。

紀州織田家、この世界において明治維新による討幕が起きなかった副産物であり現代においてすっかりその勢いは失われていたが、それでも今に残る士族たちであった。彼らは丁髷を結っているわけでもないし、和装でもなく洋服やスーツの上に鎧を着ており、専業の武士ではなく、リーマンや自営業者の兼業者ではあったが滅私奉公の精神で今も大名家に仕える現代の武士たちであった。

 

ここで、現在の武士の立ち位置を解説する。現在の武士は名誉職の一種で、消防団の警察バージョンのような存在だ。とは言え、彼らも銃刀法の影響下にあり帯刀などしていないし、日本刀を所有している割合もそう多くない竹光侍の集団に成り下がっている。武士の年俸も侍大将ですら10万いかない程度であり、酷いところだとお米券なんて家もある。ちなみに上杉家はいまだにお米の現物支給だ。それゆえに士族を離脱するものは少なくなく年々減少傾向にある。世間一般からも田舎の金持ちの私兵と言う印象が強く、滅びゆく存在であった。

 

この日の和歌山県は戦国時代もかくやの状態であった。

県議会は紀州織田家の影響下議員が与党第一党の独裁状態にあり、県より県警及び所轄へ尋常ではない圧力が加えられ開店休業状態だったし、一般人も紀州織田家を第一党にするあたり信心深さが伺えるだろう。家から一歩も出ないし、商店街はシャッターを下ろしたままだ。

 

善福寺や長保寺には連合軍の僧兵や士族らが丸太の破城槌で山門を破壊しようと殺到していた。天台宗寺院への襲撃の傍らで、信貴山の寅丸星たちは聖白蓮の復活の儀式を進めていた。

 

 

「白蓮大僧正の復活と同時に奈良へ!!そして京都へ!!上洛を果たすのです!!魔法使いの傀儡どもを引きずり下ろし、畿内の清浄を取り戻すのです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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171 平成 京都修学旅行⑥

和歌山の事態は関西呪術協会にも伝わってはいたが、和歌山の支部は壊滅し、周辺県も寺社衆諸派の実働部隊が各自展開しており、下手に関西呪術協会が動けば偶発的な交戦もあり得る。それが西日本全体に飛び火しかねないこともあり、関西呪術協会は動けずにいた。また京都の総本山自体も天ヶ崎千草の行動によって鈍化していたことも挙げられた。

また、妖怪たちも陵墓襲撃や和歌山の事態のこともあって気が立っていた。

 

 

修学旅行3日目。完全自由行動日。

大樹はネギが明日菜と関西呪術協会の総本山へ親書を届けに行ったことを知って、ひとまずは安心と思い。一教諭としての各所の見回りの建前の下、独自の行動を起こすのであった。

 

大樹は観光地の一つである太秦シネマ村で合流することにした。

時代劇のセットのようなテーマパークなので、彼らと合流するのしても市内の繁華街で待ち合わせるようなバカげた悪目立ちはしないはずだ。

 

代官所の前で待っていると声を掛けられる。

 

「大樹様、お待たせ致しました。大天狗様より遣いで参りました烏天狗の黒鴉と申します。」

「今来たところです。黒鴉、この度はよろしく頼みます。」

 

「っは、天狗ポリスの総力を持って大樹様のお力になるよう努力させていただきます。」

「うむ、よしなに頼みます。他の者たちは?」

「代官所の中で、すでに待機させています。ささっ、中へ。」

 

天狗ポリス・・・、昭和の時は天狗警保局を名乗ってたのに急に現代的な名称を使うようになったわね。

黒鴉に案内されて代官所へ入っていくと大勢の烏天狗や白狼天狗たちが待機していた。

 

「彼らが、大樹様の下へ派遣された者たちの第一波です。第二派、第三派も逐次合流予定です。」

「わかりました。」

 

黒鴉ら指揮官級の天狗たちと打ち合わせをしていると、下っ端の白狼天狗が報告を上げてくる。

 

「報告します!この先の日本橋エリアにて件の襲撃者の一人と麻帆良の旅行生2人が接触!後続の旅行生らは一般人の模様!またそれ以外の一般人も野次馬に集まっています!」

 

「な、なんですと!?」

 

大樹は少しだけ考えてから黒鴉に指示を出す。

 

「何か衣装はあるかしら?」

「い、衣装ですか?でしたら代官の衣装がこちらに。」

 

青染の武家装束を差し出される。

あ、これってあの有名な奴かしら?

 

「大樹様、タトゥーシール貼りますので手を出してください。」

「こうですか?」

 

差し出された衣装を着て、その他支度をしてから大樹は代官所を飛び出す。

 

「貴方達、私に続きなさい!」

「「「っは!」」」

 

 

 

 日本橋の橋の中央、30分前に果たし状を渡し、刹那が来るまで月詠は相変わらず人形じみた笑みが顔面に張り付け、可愛らしいその顔立ちは逆光によって影が作り出され、不気味さを際立てさせていた。

 

 

「ああ、来てくれはったんですね。楽しいひと時になりそうです。ほな、始めましょう? 先輩。それと助っ人の皆さん」

 

 

 刹那は何も語らずに一歩踏み出す。

 前へ進んでいく刹那へ何か語ろうとした木乃香であったが、刹那がそれを押しとどめる。

 

「大丈夫です。木乃香お嬢様」

「せっちゃん……! うん!!」

 

 

不安だらけだった木乃香の顔に、笑みが取り戻された。

刹那は気持ちを整えて、月詠と向かい合う。

そこへ乱入者がらわれる。黒鴉ら天狗ポリスの面々であった。

 

「御用だ!!御用だ!!京町奉行所の者だ!!」

「京町奉行所だ!!神妙にせぃ!!」

 

一部の天狗たちが一般人に「映画撮影の邪魔になるから」と離れるように言って野次馬を追い返す。ただ、麻帆良生は雪広あやからの3班であり、遠巻きにはなったが追い返すことはできなかった。

 

「京町奉行・大樹左衛門尉様、ご出座~!!」

 

黒鴉の呼び声とともに姿を見せる大樹。

 

「そこの異人の服を着た娘とその仲間、東海道新幹線への営業妨害。音羽山清水寺での迷惑行為、修学旅行生への嫌がらせ行為。京都におけるその他もろもろの不埒な悪行三昧!神妙にお縄につきなさい!!者ども!!引っ捕えよ!!」

 

 

「これは、また。お相手してくれてうれしいんやけど。今は時間がないんですわ~。私のかわいいペットに相手してもらいましょう『百鬼夜行』」

 

 

 

 現れたのは妖怪たちを象った式神だった。

 

「っち、あの様な式神を用いるとは…。我らを愚弄するか!者ども!紛い物に後れを取るな!行くぞ!」

「「「おぅ!」」」

 

 

 

黒鴉たちが式神たちを相手に激しい攻防を演じる。

3-Aの生徒達が心奪われるのも仕方がない。ほかにいた観客たちも、その妖怪たちをCGと思い込み、感心している。ここがシネマ村であるという事が秘匿という意味でプラスしていた。

さらに、映画撮影を装った大樹たちの機転も効果を発揮していた。

 

「桜咲さん!」

 

天狗たちに指示を飛ばす大樹の呼び声に刹那は目配せと頷きで応じて返した。

刹那自身、大樹の経緯は全く解っていなかったが以前から裏の住人であったことは知っており、敵ではないことは承知していた。

 

自分のクラスの副担任がたくさんの天狗たちを率いて助けに来たことには正直面くらっていたが、刹那自身裏の要因であるのでこの程度は臨機応変に対応できて当然と言えた。

 

 

「このかお嬢様、ここをから離れられないように」

 

 

刹那が木乃香のいる場所へ符術を使う。守りの符から膜状の結界が展開し木乃香を包む。

安心した刹那は愛刀である大きな野太刀「夕凪」の柄に手をかけて走り出す。それに呼応して、月詠も刹那との距離を急速に詰める。

 

「斬鉄閃」

 

 

 

大太刀を振るい、月詠を吹き飛ばし欄干へ自身もまた飛び乗る。刹那の刀は十分な間合いを持っている。しかし月詠が持つ二振りでは間合いが足りず、刹那と拮抗する。

 

日本橋の欄干から振るう太刀と下から掬いあがる小太刀。獲物こそ違うがそれは義経と弁慶の五条大橋での大立ち回りの様だった。

 

 月詠も不利を無くすために欄干へ移ろうとするのだが、それを刹那はさせない。橋の上を走りながら刀を振るい続ける二人。刃のかち合う音が続く。一瞬の隙が命を奪う殺し合い。

 

「ぐへへへ!こりゃめんこい娘じゃな。」

「おいおい、ぬらりひょん様からはこの娘を攫う様に言われてんだ。喰うなよ。」

「わかってる!わかってる!」

 

突如、姿を現した二体の鬼。

赤悪鬼と黒悪鬼は醜悪な哂いを浮かべる。

 

「お嬢様!?っく!うぁ!?」

「先輩、よそ見はいけませんよ~。」

 

一瞬の脇見を月詠は見逃さず刹那の野太刀を弾いてしまう。慌てて拾うが大きな隙を作ってしまう。

 

「先輩、おかくご~。」

 

月詠の小太刀が刹那を狙う。

しかし、間一髪のところで大樹が薙刀を振るいそれを阻む。

 

「大樹先生!?」

「桜咲さん!私の腰の刀を使ってください!それで、近衛さんを!!」

 

 

天狗たちが鬼の相手をしているが種族差は如何ともし難く、圧倒的に不利でじりじりと木乃香へ近づいていく。

 

「鬼の相手なんて・・・。」

 

刹那の弱気な発言を聞いた大樹は発破をかける。

 

「近衛さんを守るんでしょう!鬼から姫を守るのは童話の王道しょう!しっかりなさい!」

 

「!!・・・はい!!」

 

大樹は改めて月詠に向き合う。

 

「破魔の神鳴流の剣士が己が魔に魅入られたか。」

 

「あら、私より小さいお姉さんが相手ですか?先輩より弱そうですね。」

 

月詠の言葉に大樹は笑って返す。

 

「ふふ、まぁ武術は確かに素人に毛が生えた程度ですね。なのでね…自分が有利になるようにやらせてもらいますよ!」

 

大樹の言葉に合わせて黒鴉ら天狗たちが月詠を取り囲む。

 

「あの娘、かなりの手練れですよ。」

「時間を稼げれば構いません。」

 

黒鴉の忠告に無理はしなくていいと返す。

 

「掛かれ!」

 

「今度は殺陣ですか~?これも趣があって楽しいです~。」

 

大樹たちと月詠の戦闘が始まったころ。

 

 

 

 

刹那は気を張り詰めて赤悪鬼、黒悪鬼と相対した。

刹那は愛刀「夕凪」と大樹から借りた刀の二刀流で向き合う。

絶対的な不利を覚悟した刹那であったが、刹那の構えた刀を見た鬼たちはギョッとした顔をする。

 

「っげ!?お、おい!黒!?」

「こ、こいつ!!わかってる!!だが、ぬらりひょん様命令だ!やるぞ!」

「っち、ちくしょう!」

 

鬼たちは金棒を振り上げて迫る。

 

「「ぐおりゃあああ!!!」」

 

「二刀連撃斬鉄閃っ」

 

「「ぐぎゃあああああ!!!」」

 

鬼たちはその場に崩れ落ちた。

 

刹那は木乃香に駆け寄ろうと刀を鞘に収めようとする。

大樹から借りた刀の柄が割れ、刀の付け根に刻まれて銘が露になる。

 

『髭切』

 

なぜ、北野天満宮にある御神刀がここに?

だが、あの鬼を簡単に倒せたのも納得がいく。平家物語で鬼を倒した『髭切』ならば鬼相手に優位に立てたのも納得だ。

しかし、なぜ先生がこんな貴重なものを?刹那が疑問を抱いたその瞬間であった。

 

 

 

「せっちゃん!?」

 

刹那の胸に、一本の矢が突き刺さる。

木乃香の悲痛な声が響く。

 

血が刹那の服を染めていく。困惑した表情を浮かべ、それでも最後に木乃香を見て安堵した顔になり刹那は欄干から落ちていった。

 

「せっちゃん!!」

 

(あぁ、約束守れんでごめんね、このちゃん。でも、無事で良かった)

 

川に落ちそうになる刹那を木乃香は手を止めて防ごうとするが一緒に落ちてしまう。

 

「嫌や、せっちゃん!!」

 

莫大な魔力が指向性もなくただ暴れだす。行き場のないほど濃密な魔力は、刹那の体に流れ込み、刹那の傷はみるみる塞がっていった。

 

 

「お、……嬢様?」

 

「せっちゃん!」

 

 

 木乃香は刹那に抱き着いた。

 

「卑怯な手を使う。」

 

大樹はシネマ村にある城の上にいた天ヶ崎千草を睨む。

千草は辻神に乗って去ろうとするところであった。

一応、天狗たちに追うように命じたが恐らく撒かれるだろう。

 

一方の月詠も天狗たちを蹴散らしてその場から姿を消していた。

 

大樹はその場のごまかしの締めとして一言。

 

「これにて!一件落着!!」

 

そう言って、その場の全員を連れて代官所のバックヤードまで撤収した。

 

桜吹雪、見せ忘れた。

 



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172 平成 京都修学旅行⑦

バックヤードまで連れられた刹那と木乃香。途中でネギの式神とも合流した。

木乃香はほぼ一般人でこの状況を理解していない。なんなら、天狗たちに話しかけるくらいだ。

逆に刹那の方が動揺している。恐らくは味方なのだろうが、天狗ポリスの天狗たちは妖怪法

の執行者と言う立場上、並み以上の天狗たちだ。どれも地方の伝承に登場できる様な実力者だ。

 

「大樹先生・・・。か、彼らは?」

「・・・味方です。この度の修学旅行の一件は想像以上に悪い方向に向かっています。正直今すぐにでも中止させたいくらいです。」

「味方なのは解ります。聞きたいのは大樹先生のことです。」

「興味本位で聞くべきことではありませんよ。桜咲刹那、裏に関わる者なら解るでしょう。好奇心だけで詮索はするべきではありません。どうせ、すぐにバレそうな気もしますけどね。それと刀は今は返さなくていいですよ。まだ使いそうですし。」

 

刹那は大樹の口ぶりから大樹が長を呼び捨てできる程度に親しいか。大物であることを察して詮索することはひとまずやめた。

 

 

大樹はネギの分身体に声をかける。

「ネギくんは今、関西呪術協会の本山にいるのですね。無事でよかったです。でも、他の子たちもいるのは困りましたね。・・・ふぅ、近衛さん達を連れてそちらに行きますので詠春に伝えておいてください。それと詠春に一言、やってくれましたねとも言っておいてくださいね。」

 

大樹が少し怒っていることに気が付いた式神ネギの向こうのカモミールとネギはびくっとしていた。

 

大樹は木乃香と刹那に話しかける。

 

「話は聞いていたと思いますが、本山に行きますよ。引率の私の言うことを聞いて付いてきてくださいね。」

 

「わかったえ。」

「わかりました。先生」

 

大樹はよしよしと笑顔で返して今度は黒鴉に話しかける。

 

「少々面倒なことになりましたね。関西呪術協会には私が出向いて調整しないといけませんが、和歌山の件も放置はできないです。それに鬼太郎くんとも合流したいです。」

 

大樹の話を聞いた黒鴉はそれに回答し意見具申をする。

 

「鬼太郎さんには我々の方で使いを出しましょう。和歌山の方にも天狗ポリスの者を使者に立てましょう。」

 

「官憲組織の天狗ポリスでは彼らが警戒しそうですが・・・。」

「ですが、それ以外・・・。」

 

大樹と黒鴉が思案する中、おずおずと刹那が声をかけてくる。

 

「あの、3-Aにも私のように裏に関りを持つ者はいます。彼女らに協力を依頼しては?」

 

「教師としては生徒に危険なことはさせたくないのですが・・・・・・背に腹は変えられないか。」

 

大樹は生徒の名簿を思い出して、誰に協力を依頼しようか思案し始める。

確か、ホテルにいる裏の関係者は魔法生徒の春日さん、スナイパー?傭兵だったかしら龍宮さんもいるわね。それに甲賀中忍の長瀬楓さんも適任かもしれないわね。

 

そういえば、万年竹の竹林には鬼太郎たちが行くって言ってたけど。どうなってんのかしら?そのことも踏まえて黒鴉に聞いてもらわないと・・・。

 

っと、脱線してしまいました。

さてさて・・・色々考えなおして・・・。

 

「近衛さん、桜咲さんにはこのまま、関西呪術協会の本山に行ってもらいましょう。白蔵主のところには私と黒鴉が出向くとして、鬼太郎さんのところに行ってもらいましょうかね。」

「万年竹のところですか?鬼太郎が居るとは言え、万年竹の気がかなり立っていると思いますが・・・。」

 

少しだけ考えたが、大丈夫でしょう。

 

「大丈夫でしょう彼女なら・・・。桜咲さん、長瀬さんの番号でかけてもらえますか?」

「あ、はい。わかりました…。」

 

桜咲さんは長瀬さんに電話をかけて、二言三言話すと私に代わった。

 

「もしもし、長瀬さんですか?」

「いかにも、でござるよ。大樹先生・・・、まさか忍びとしての拙者に御用とは・・・以外でござるよ。」

 

麻帆良学園ではエヴァとの付き合いや学園長との付き合いで裏を匂わせてはいたが、これと言って表立ってはいなかったので、意外な人物からのオファーでしたでしょうか?

若干警戒しているような気もしますね。甲賀の忍びなら、私の命を断るとは思いませんが・・・。

 

「えぇ、細かく言うのなら丸に竪木瓜の旗の下にいた笹竜胆の忍びにですけどね。」

 

私の言葉を聞いた電話向こうの長瀬さんが息をのんだような気がします。

当たり前と言えば当たり前、今の私は古い権力者が使う忍びの暗号のようなものを言ったのだから・・・。

 

丸に竪木瓜の旗、表の意味合いなら譜代大名滝川氏の旗。裏の意味なら・・・。

幕府忍軍頭領家滝川氏の旗であり、笹竜胆は長瀬家の家紋だ。

 

「っ!」

 

幕府忍軍が使った古い符牒を並べて、私がどういった人物かを匂わせる。

忍び符牒を使ったので桜咲さんはよくわかっていない様子。

電話向こうの長瀬さんの周りに誰かいても忍びでなければ意味は伝わるまい。

 

「筒井が功で立身した長瀬家には、得意分野では?ある種の人助けですよ?」

「あはは・・・、大樹先生がどのような人かはなんとなく察せたでござるよ。忍び符牒はもう十分・・・この符牒を使うのは滝川家か公方様の直系、あとは皇族の方々くらいでござるよ。」

 

少々自分を大きく見せましたので長瀬さんが身構えてますね。

 

「いえいえ、大したことは無いんですよ。ちょっとしたお使いと道案内ですよ。」

 

長瀬さんに万年竹の竹林にいるゲゲゲの鬼太郎を関西呪術協会の本山に連れてくるように頼むのでした。それと注意事項を伝えないと・・・。

 

「それと竹林の主さんは今、非常に気が立っていますので竹林に入る前に血を一滴だけ竹に付けて名乗りを上げてください。貴女のご先祖は昔この辺りが担当でしたし、彼も覚えているでしょう。あぁ、それと横にいるお友達を連れて来ても構いませんよ?援軍は多い方が助かりますので・・・。よろしいですか?」

 

「御意にござるよ。」

 

電話をかけ終わってスマホを桜咲さんに返す。

 

「大樹先生は・・・あの・・・その・・・長並みに・・・、もしかしたらそれ以上の御方なのでは・・・。」

「なぜそのように?」

 

「さっきの電話もですが・・・、プライドの高い天狗たちに指図を出して彼らも素直に従っています。天狗は召喚術を介しても色々と条件が付きますので・・・、もしかして・・・。」

 

大樹は困ったように頬に手を当ててから、人差し指を彼女の口にあてる。

 

「う~ん、惜しいところいってるような気がしますが答えは口にしないでください。まだ、その時じゃないんですよ。・・・さて、天狗たち本山の麓まで護衛をさせますので、近衛さんと一緒に先行っててください。」

 

「は、はい。」

 

さて、手筈は整えましたし・・・。

 

「黒鴉、私たちは白蔵主の方に行きましょうか。」

「っは。」

 

 

 

 



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173 平成 京都修学旅行⑧

狗神使いの少年、犬上小太郎を退けたネギたちは映画村にいた刹那たちに連絡を取り、刹那達と合流。その過程で大樹先生も刹那に遅れて合流する旨を伝えられた。

その後、どういうわけか魔法関係を知らないはずの他の5班の生徒たちが関西呪術協会の本山に入ってきており、このままにするよりはと彼女たちと合流した。

 

「「「おかえりなさいませこのかお嬢様!」」」

 

本山の山門を越えると、幾人もの巫女たちが整列し笑顔を浮かべて待ち構えていた。

 

巫女たちは柔らかい笑顔で木乃香に挨拶を返す。

さすがは摂関家の姫と言ったところか。所作の一つ一つに高貴さが伺える。

 

 

「ただいまやぇ~。」

 

 

 その歓迎ムードが理解できないネギと明日菜は、刹那に詰め寄った。

 

 

「これはどういうこと!?」

 

「ええと、つまりはですね。ここは関西呪術協会の総本山であると同時に、木乃香お嬢様が生まれ育った場所なんです。」

 

 

ネギたちが通されたのは謁見の間で、古来よりこの国に伝わる楽器が鳴り、古めかしい武装をした女性たちが厳めしく儀礼的に立ち並んでいる。

 

 

奥の方から頬が痩せこけて青白い顔をした男性が降りてくる。それを見た木乃香は立ち上がり男の胸に飛び込んだ。

 

 

 

「お父様久しぶりや~」

「これこれ、このか。お客様を待たせてしまうよ」

 

 

まんざらでもない様子で木乃香を受け止めた長は、ゆっくりと彼女を降ろし続いてネギがおずおずと差しだした文書を受け取った。

 

「確かに承りました。ネギ君、大変だったようですね」

 

 そう言いながら、長は親書を開き中身を確認する。そこには二枚目までは公式な書として書かれていたが、三枚目は私的な事が書かれていた。

苦笑いを浮かべた詠春は、手紙を懐にしまう。

四枚目と言うか、刹那から差し込まれた大樹の苦言が書かれた書面には一瞬渋顔をし、尚且つ引き攣っていたのを刹那は見逃さなかった。

 

「分かりました。東の長の意を汲み、私たちも仲たがいの解消に尽力すると伝えてください。任務御苦労でしたネギ・スプリングフィールド君!!」

「は、はい!!」

 

 

 喜ぶネギに、よく分からないが目出度い気配を感じとり騒ぎ出す生徒たち。その姿を見た長は、落ち着くのに時間が掛かりそうしと、ネギへ提案する。

 

 

「どうでしょう、ネギ君。今から山を下りると日が暮れてしまいます。君たちも今日は泊まっていくといいでしょう。歓迎の宴をご用意いたしますよ」

 

「で、でも僕達修学旅行中だから帰らないと」

「それは大丈夫です。私が身代わりを立てておきましょう」

 

 

 喜んでいる生徒と案内を買って出た長に促され、ネギも結局泊まる事に賛同した。長自ら案内を買って出たのであった。

 

 

 

ネギたちと対面するより数時間前。

近衛詠春はある人物と対面していた。むしろ、その会談は詰問に近いものであった。

 

「わかっているのかぁ!?関西呪術協会の長さんよぉ!?近畿南部の不穏分子、早々に排除してもらわんと困るんだよぉ!!」

 

先ほどから詠春に唾を吐き散らかしているこの男、現政権与党第一党民従党幹事長鳩八馬友紀夫。

 

「メガロの方々への友愛は非常に評価しているよぉ。でもね、妖怪とか言う畜生どもにいつまで時間をかけているんのぉ!。連中に与する連中もクソムシも同然だろうがよぉ。それでも天下の破魔組織ですかぁ?あぁ!?」

 

「まぁまぁ、鳩八馬くん。関西呪術協会さんも色々大変なのでしょう。今回はついでに立ち寄っただけですので・・・。これくらいにしておいては?それに彼らには今後も頑張って頂きたいですからね。昨今は妖怪によるテロ行為もありますからね。政府と協会が協力しませんと・・・」

 

黒の和服を纏った老人にそう窘められた鳩八馬は180度態度を変える。

 

「はい~、奴良大先生がそうおっしゃるなら~。・・・おい、近衛の・・・奴良大先生の寛大な心遣いに感謝するんだ。大先生の人類友愛の精神、感銘します。」

 

老人が席を立ち、鳩八馬がそれに続いて退出した。

 

 

 

二人は、階段を下り山門を潜る。

 

「奴良大先生、近くのお茶屋さんを取っておりますので・・・舞子遊びなどいかがですか?」

「はっはっは・・・鳩八馬くん。それは楽しみですね。(彼らの催しを少し離れた貴賓席から見るのも悪くないでしょう。)」

 

山門の柱に寄りかかっていた白髪の少年にぬらりひょんは視線で合図を送った。

 

(結界に穴をあけておきましたよ。あとはご自由に・・・)

(あぁ、そうさせてもらうよ。)

 

 

 



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174 平成 京都修学旅行⑨

ネギたちが関西呪術協会で歓迎を受けていた頃、大樹たちは春日大社に訪れていた。

 

天狗ポリスを伴って、鎮圧の動きを見せた大樹と、決起した寺社衆及び南近畿一帯の妖怪による連合との間で交渉の席が持たれたのであった。

 

「いやはや、なんとも大それたことを・・・。」

 

大樹の反応は一見呆れているようにも見えたが、感心してもいた。

今回の反乱行為に明確に敵対反応をしたのは天台宗だけであり、その多くは中立を守った。

信長の菩提寺の宗派の臨済宗はこちらに合流していた。

 

敵意を受けるでもなく、大樹は連合軍の品定めをする。

 

「大樹様・・・。」

 

沈黙を破ったのは白蔵主。今回の首謀者だ。

 

「決起と言うのも解らなくはありません。裏で済ませようとしたのは良策でしたね。私としても良い落としどころを見つけられました。」

 

「と、言いますと・・・。」

「もとより、日本古来の破魔勢力は陰陽寮、今もその後継たる関西呪術協会が担ってきましたが、戦後を機にみるみる弱体化していきました。関西の・・・日本の破魔系の治安維持能力にも疑問がありますね。・・・しかし、本当にいいタイミングでいい人が来てくれましたよ。」

 

大樹はその席にいた人物に視線を移す。

 

「聖白蓮。」

 

「道徳が廃れ、世は、大騒ぎして派手に目立った者こそが正義という末法の世界。私が封じられていた半世紀程でずいぶんと世界は様変わりしたようです。」

 

白蓮の言葉に大樹は笑顔ではないが口角を吊り上げて、「あはは」とごまかすように笑って見せた。

 

「実際酷いものです。わが身の不徳の致すところと言ったところでしょうか。」

「貴女を不徳とするのなら、それはもはや世が処置なしと言うこと・・・悲惨極まる。」

 

「至らぬとも至らぬなりに手を打とうと思っています。貴女が封印を解いて世に出でたのもある種の思し召し。」

「わたしに何をしろと言うのです。」

「なに、大したことではありませんよ。真言宗十九本山総大長者たる聖白蓮殿ならば・・・。」

 

白蓮は大樹の怪しげな目つきに馴れ合い程度に眉をひそめる。

 

「大樹様は昔から謀を好む。私がこの時期に封を破ることもお見通しでしたか?」

 

大樹は軽く笑みを浮かべて答える。

 

「謀は密なるを尊ぶと言いますでしょう。ことを起こしてしまえば、政権もメガロも手は出せませんよ。」

 

大樹と聖白蓮の対談の成果はすぐにわかる事となる。

 

 

 

 

 

 

その頃

 

「京都との連絡が付かないですか?府庁からの報告は?」

「総理、裏関係の内容ですので府庁では対応できません。ここは関西呪術協会の連絡を待って対応しましょう。」

 

首相官邸では官房長官を交えて近畿の事態への対応を迫られていた。

 

「この際、我が国の暴力装置・・・。自衛隊を使ってみるというのは?」

「こういったことであれを使うのは、周辺国との友好が傷つきかねません。それに通常火器が妖怪どもにあまり有効ではないことは過去の騒乱で確認済みです。」

 

官房長官の仙石由渡は左翼系の人間ではあったがメガロへの忖度からか自衛隊とぶつけるべきと発言した。

 

「我が国の勢力圏内で妖怪どもの勢力に勢いが付くのは宜しくない。麻帆良学園側に介入を要請しましょう。」

「なるほど、麻帆良はメガロの出先機関。メガロの介在があっての失敗なら彼らも強くは出れないというわけですね。」

「えぇ、そうです。魔法使いたちには矢面に立ってもらいましょう。ですが、我々も動いておかないと後で何か言われかねませんのでね。引き続き関西呪術協会へ対処を求めつつ、警察で対応をしましょう。」

 

連舫総理の言葉に従い仙石官房長官は麻帆良と連絡を取り戦力の支援を求め、引き続き関西呪術協会に対処を求めた。

 

 

 

 

 

 

京都の隣滋賀県の大津市では逢坂山トンネルを前に京入りを果たそうとする浅井家の武士団と真言宗や一部浄土真宗の僧兵がこれに合流し、これを食い止めようとする警察機動隊のにらみ合いが発生。

 

「許可のない集会は禁止されています!!ただちに解散しなさい!!」

 

大阪では都市部と言うこともあり目立った動きはなかったが、大阪府警が雑踏警備に所轄を動員し、大阪府の機動隊部隊を出動準備状態にした。諸寺社勢力も兵力を動かす支度はしていたが敷地外に出ることは無かった。三重、兵庫、福井も同様であった。

 

 

 

 

 

 

京都府庁本庁庁舎緊急対策室。

 

「なんて無茶苦茶な指示なんだ。避難指示もダメ、自衛隊は出動させるな。警察で対処しろだなんて。」

 

京都府知事は頭を抱えつつ嘆いた。そもそも京都は文化財が多数存在し、そんな場所での戦闘行為自体が御法度なのだ。

 

「そもそも、警察で対応できるのかよ。」

「近畿管区機動隊を総動員します。それと中部管区から援軍が来る予定です。」

 

京都府警察の本部長が知事に警察の対応を告げた。

 

「全く!無茶苦茶な政府も、役立たずの呪術師どもも、妖怪どもも迷惑極まりない!それに確か電力会社の事件で機動隊の銃対が返り討ちにあっただろ?本当に大丈夫なのか?」

「それに関しては、やくざの組長を市長にしてしまう選挙制度の穴と、電力会社に許可を出した当該の県庁にも問題があるのでは・・・。」

「っ・・・そ、それは・・・。」

 

知事は違法な電力会社絡みの事件を発端に発生した妖怪カミナリの事件のことを上げて府警本部長に追及した手痛い反論を受けて押し黙った。

 

「とにかく!対策を考えてくれ。」

 

 

 

 

 

 

天ヶ崎千草とフェイトの襲撃によって本山の巫女たちは瞬く間に石化され無力化された。

本山自体が関西呪術協会の京都の中心と言うこともあり従来敵襲は想定されていなかった為に武装巫女衆の儀礼的なものばかりで練度が低いことも襲撃がうまくいた要因である。

 

そして、油断していた長である近衛詠春も同様であった。

 

「連合の英雄も落ちたものだね、青山詠春」

「なっ!!?」

 

 書き物をしているその背中に向かって放たれた石化魔法はレジストこそされたものの、確実に石にしていく。事態のまずさに、逃走の一手に手にした刀で壁を切り裂き、飛び退く。

二人は詠春に出来る事がなにもないなど分かったから見逃す。その程度の人間に関わるほど暇ではない。

 

「錆びついた刃に価値はないよ」

 

 フェイトは詠春の逃げた方を見て、そう呟いた。

 

「これで、ええ。あとはお嬢様だけや」

「いや、まだだよ」

 

「うん? ああ、そうか。まだ一般人がおったんか。何をホンマ考えていたんやろうか。裏の本部に表の人間連れ込んで」

「さあ、知らないよ。」

「……さよか。」

 

 

 

 詠春は固まる足を引きずりながら、人を探した。真っ先に助けを求めた詠春の忠臣は全員石化されており、助けにはならない。

それでも諦めずに歩き続けた詠春は運よく近くにいたネギと刹那に出会えた。

 

「二人とも、も、申し訳……ない。本山の結界を些か以上に過信していたようで。か、かつてのサウザンドマスターの盟友が情けない」

「長ッ!!」

「ネギ君、刹那君。気を付けなさい。白い髪の少年は別格だ。助けを呼びなさい。すまない。木乃香を、木乃香を」

 



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175 平成 京都修学旅行⑩

 

 

 夕映は枝を振り払いながら山を走っていた。

 

 カードゲームをしていたら数分前、夕映たちは白髪の少年に襲われた。部屋の入り口から入ってきた少年が何か呟いたと思うと、いきなり白煙が出てきてそれを浴びたハルナが固まり、のどかすら石となった。全員が石と化す前に朝倉が機転を利かせて夕映だけは逃がされた。言葉でまとめてみても、理性がそれを否定する。そんな事有り得ないと。しかし実際にはそんな馬鹿げた行為が起きている。

 

 朝倉のお蔭で逃げられた夕映は、とにかく石にされた彼女たちを助けたかった。

 

 どうすればいい。いくら麻帆良での異常事態に慣れているといえ、こんな事を話したとしても警察が本気にするはずがないと分かる。考えに考えた結果、携帯電話で彼女はある人物へと連絡を取った。

 

 その電話を取ったのは、長瀬楓だ。

 

 

 

「おや? バカリーダー? 落ち着くでござるよ。ふむふむ。ほう……なるほど。つまり助けが必要でござるな。拙者たちも今そっちに向かってるところでござるよ。」

 

 

 

 

さらに、その電話の向こうでは

 

「アイヤ~、カラスで空を飛んだり、布に乗って空を飛ぶなんて思ってもみなかったよ。」

「コットン100%のおいどんをただの布なんて呼ばんでくんしゃい。おいどんは一反木綿って言うばい!」

「ゴメン、アルよ。」

 

「・・・・・・。(大樹先生も裏の人間と聞いていたが、そっち方面だったか。)」

 

古菲と一反木綿は普通に言葉を交わす。その横で龍宮真名は大樹について思案していた。

 

「鬼太郎殿!!少し急ぐでござるよ!!」

 

「わかった!一反木綿!みんな!急ぐぞ!」

 

「コットン承知!!」「「「カー!!」」」

 

 

 

 

 

 それと同じく全く別の場所でも電話が鳴る。麻帆良学園の学園長室で、囲碁を打っていた。

 

「何じゃと!? 西の本山が……! 婿殿までが!? 助っ人か。し、しかしタカミチは今海外じゃ。大樹先生と電話がつながらないとなると、いますぐそちらへ行け戦力となる人材は・・・あ!」

 

 そこまで言い、近右衛門は気が付いた。目の前にいるのが魔法使いの中でも最強であるエヴァンジェリンであることを。さらに彼女は昔京都に住んでいたこともあり、そっちの古い事情にも詳しい適任者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネギ、明日菜、刹那の三人の後ろの空中に突如少年が現れる。微妙に変わった風の動きに、刹那は背後に何者かがいることを悟った。さらに少年が攻撃をする直前だということも。

 

 振り向きざまの攻撃を繰り出した刹那だが、その腕は少年によって軽くいなされ、逆に強化された反撃の一撃を喰らい吹き飛ばされる。床と壁に何度もぶつかって跳ね返り、もう一度壁に叩きつけられた。さらにその壁に亀裂が入り、刹那はようやく止まる。

 

 温かい湯気の中に、刹那の苦痛の息が漏れだす。

 

「っくぅう。」

 

「刹那さん!! ま、まさか君が!!こ、このかさんをどこにやったんですか?」

 

ようやく敵に気が付き、その姿を見たネギは眉根を寄せ叫ぶ。

白髪の少年は表情ひとつ変えることなくネギたちを見ている。

 

「みんなを石にして、刹那さんを殴ってこのかさんをさらい、先生として・・・・・・友達として・・・・・・僕は許さないぞ!!」

 

 

怒気をみせるネギだったが、それでも少年はなにも変わらずにいる。力の差は歴然、一々そういった有象無象を相手にするのは馬鹿馬鹿しく、付き合っていられないものだ。

 

 

「ネギ・スプリングフィールド。やめた方が良い。君程度で僕は倒せない」

「あっ待て!!」

 

 ネギの声にほとんど反応せず、少年はそのまま水を媒介にした瞬間移動を行う。

 

 カモはその魔法を使った少年に泡を食っている。彼が知る限り、なにかしらを媒介にしてでも瞬間移動を行える魔法使いは数少ない。あそこまで簡単に扱える、それだけでどれだけの力があるか分かる。弱者ゆえに知恵をつけているカモゆえの反応だ。

 

 ネギもまた魔法使いとして格の違いを見せつけられ、顔を歪ませる事しか出来ない。

 

 

 

「だ、大丈夫ですか明日菜さん……」

「う、うん。刹那さんこそ」

 

 刹那が腹を抑え、ふら付きながらも立ち上がった。

 腰の引けたその体になにかが掛けられた。

 

「えっ?」

 

 それはネギが念力で運んできたタオルだ。正直、女の子を裸に剝くクシャミのせいで忘れられがちだが、彼はいい意味で英国紳士だ。

 裸を見ないようそっぽを向き、しかし今までにないほど強い意志を持ってネギは言う。

 

 

「このかさんは必ず取り戻します」

「う、うん」

 

 少しどもった明日菜は胸の鼓動を強めネギの横顔を見ている。

 

「と、とにかく追いましょうネギ先生! 気をたどれば……ぐっ」

 

 殴られた箇所が痛み、刹那は横腹を抑えずにはいられなかった。ネギはそれを見てすぐに治療魔法を行うことを提案したが、刹那はそれを拒否して無理に動こうとする。そんな時間があるならばお嬢様を、と。結局理詰めで無理やり丸め込み、ネギは傷を治療していく。そのわずかな時間でも有効に使うために、カモが提案をした。

 

「だけどよ、どうする兄貴たち。このまま無謀に突っ込んでいっても、勝てねぇぜ」

「重要なのはお嬢様です。お嬢様さえ取り返せれば、後は逃げ続けるだけで他の地域からの応援が来るでしょう」

「そうか。だとしても、どうやって木乃香のお嬢ちゃんを取り返す?」

 

せめて戦力がもっとあれば。そう口にして、カモは気が付いた。戦力を手っ取り早く簡単に増やせるであろう方法を。

 

 

 

「そうか、これなら!」

「なにか策でも思いついたんですか!!」

 

 

 

 それに真っ先に喰らい付いたのは刹那だった。身を乗り出して、詳しく聞き出そうとしている。

 

 

 

「簡単なことさ。刹那の姉さんと兄貴が仮契約をすればいい。そしたら気と兄貴の魔力で戦力は上がるって算段さ!」

 

 胸を張っているカモに、しかし刹那は顔を紅くするだけで、なにも答えない。カモは刹那が年相応感情を抱いていることを察して訴える。

 

「部の悪い賭けだけど。今はこれに掛けるっきゃねぇぜ!妖怪どもは姐さんと刹那の姉さんが引き付けておく。兄貴は一撃離脱でこのか姉さんを助ける!あとは戦略的離脱ってやつでさ!」

 

刹那も裏の人間だ。ある程度は踏ん切りがついた様だ。

ネギと刹那は緊急事態と言うことで仮契約を行う。

 

「っ・・・行きましょう。皆さん。」

 

後ろの光景を振り切り、刹那は先を急ごうとする。あわててネギもその後を追いかけた。

 

 

 

 

 森の中に湖がある。揺蕩う水音とかすかに香る杉の香りが漂う湖面の上に月詠はいた。夜空に登る月の輝きを反射する刀に、その顔が映る。 

 

「ああ、来たようですねぇ」

 

刹那が木々の奥から飛びだし鋭いまなざしを月詠へ向ける。

ネギと明日菜も息を切らしながらであるが、刹那に追いつく。

 

 

「さて、では殺り合いましょう。あはははははは!!」

 

月詠が地面を蹴り駆け出す。

 

 

「ネギ先生、先に行ってください」

 

「で、でも」

「行ってください、お嬢様を頼みます。」

「わ、分かりました。明日菜さん、すみません」

 

ネギは明日菜をこの場に残すのを躊躇った。

 

「私の事なら安心しなさい。アンタはちゃっちゃと木乃香を取り返してきなさい」

 

 

 だからこそ、明日菜はネギを送るために胸を張った。ネギの顔を明るく、力強くなる。

 

 

「は、はい!」

 

「俺ッチと兄貴に任せてくれ!絶対に助け出すからよ!」

 

 箒で飛ぶネギたちを見もせず、月詠は刃を構える。

 

 

「お話は終わりましたかぁ~。では行きますよ。」

 

「さっさと貴様を倒させてもらうぞ」

 

 

 

 一歩刹那は踏み出し、刀を振りかぶり前へ進む。いくら大太刀でも離れすぎた間合いではなにも出来ない。だからその選択は間違いじゃない。神速にはおよそ届かないにしても、疾風と見間違うほどの踏込の速さだが、月詠もそれに難なく付いてくる余裕を見せる。

 

「え?」

「遅すぎます」

 

 振り下ろされる刀。とっさに前へ行こうとした体を無理やり横へと逸らす。

 

「お前――「話している余裕があるんどすか」っ!」

 

 刺突された二撃目を、刹那は夕凪で逸らしながらなんとか躱す。しかしこれでもう終わりだ。完全に体勢を崩しており、既にもう一度月詠が振りかぶっている刀で切り裂かれる。

 

「でやぁああああ!!」

 

 神楽坂明日菜がいなければ。

 

ハリセンが月詠の顔を横から風を起こしながら迫る。それを避けるために月詠はバックステップで刹那から離れて行った。

 

「2対1・・・そういうのも悪くないどす。」

 

 

 

 あれだけの馬鹿げた技量を見せながら遊びだと言う月詠に、刹那は化け物を見る目をした。そこには確かな怯えすらある。剣を知っているからこそ、刹那は目の前でたたずむ剣鬼を信じられず、恐ろしく思う。鍔迫り合いなどしようものならば、夕凪ごと斬り捨てられる。それを理解したがゆえの怖おそれだった。

 

 だがそれでも戦わなければならない。木乃香を取り戻すために。心が熱く燃え上がる。恐怖も何もかもを捨てて、刹那は前へ飛ぶ。

 

 

 

「ぉおおおおお!!」

 

「はは!そう言うのも楽しいですねぇ!先輩!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森を流れる水が辿り着く静かな湖畔の中央に、厳島神社の高舞台のように神楽舞を踊るための舞台がある。その前には巨大な岩があった。その岩は注連縄をされ、磐座いわくらのように扱われている。その舞台に、天ヶ崎千草と犬上小太郎、そしてフェイトがいた。

 

 

 

「なあ、姉ちゃん。俺ずっと気になってたんやけど、なんでさっきから補助術式ばかり幾十とかけてんの? そこの嬢ちゃんが持つそないな魔力ならば、いくら神と言われる存在でも御しきれるやん。」

 

 

 

 頭の後ろで腕を組み、小太郎はつまらなそうに作業を見つめながら千草へ尋ねた。

 

 確かに千草は木乃香を攫ってから一向に召喚の術を使わず、それどころか馬鹿みたいな量の術式を補助するために存在する補助術式を作動させ続けている。これだけの術式があれば、一人で地形を変えられる魔法を行使できるとまで思えるほどの量を。

 

 

 

「阿呆抜かせ。お前は、ああ、そうやな。仕方がない。あんさんみたいなやつならば、そう思うのも仕方がないか。今からやるのはな。東洋、殊更日本においては絶大な影響力を持った神の従神であり、諏訪大戦の神話と歴史上の京洛の戦いと言う幻と現の両方に名が記された神、華獣神碧奧蘭蒂(ビオランテ)・・・・・・。日本神話と歴史書の両方に載る大神や。操れるとは思うとらん。蘇って暴れりゃえぇ。」

 

 

 



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176 平成 京都修学旅行⑪

 

 

「いいか、兄貴。無理はダメだ! 俺たちは木乃香嬢ちゃんを救い出す。それ以上は救援が来るまで逃げればいい。その為には魔力がすっからかんになっちゃダメだ!難しいけど、姉貴に送る魔力も最低限にしてくれ!」

「うん、分かってるよカモ君」

 

 

 額から流れる汗。苦悶に歪む表情。莫大な魔力を精密に扱うという無茶をし続けなければならない負担。それらが重くのしかかり、ネギを押しつぶそうとする。

 

考えにふけていた。だからカモは気が付けなかった。

 

「しまっ! カモ君!」

 

カモはネギの胸元に抱きかかえられる。 

 

「兄貴!!」

「風よ!」

 

カモは、素早く肩に登り、周囲を警戒している。

 

「兄貴、なにが」

「後ろから黒い影のようなものが来て、杖を攻撃したんだ」

「狗神っちゅうんや!それは。」

 

杖を構え、周囲をうかがっていたネギは、すぐさま後ろを振り向く。そこには先ほどまでいなかった犬上小太郎が立っていた。

 

いやな空気を感じ取っていた。

 

小太郎を中心に、草木が外向きになぎ倒されている。黒い霧のような、濃密な魔力が彼を中心に渦巻いていた。濃度は非常に濃くネギでは到底真似できないほど、彼の周りは魔力が色濃く存在している。

 

「俺は、ネギ! お前と戦いたいんや! 同い年くらいで、同じくらいの強さ! 初めてやで!」

 

「た、戦いなんて意味ないよ・・・試合だったら、後で」

 

「ざけんなや! 俺にはわかるでネギ。お前は今やないと全力で戦わん。俺は全力のお前と戦りたいんや。今ここで、この場所で!」

 

 

 

 

 

びしぃっ、と、僕を指さす小太郎。

 

「うらぁああああ!!」

 

昼間よりもその動きは速かった。

小太郎は爪を振り上げてネギの喉を貫こうとする。

 

 ネギの目だけが、その手をとらえていた。だが、体が動かない。

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 小太郎の爪は気で覆われており、鋭く固い剣のようになって威力を脹れあがらせる。ネギの魔力障壁を呆気なく切り裂こうとした。

 

「リモコン下駄!!髪の毛針!!」

 

ガン!下駄が小太郎の手にあたり、爪の軌道を逸らす。

その後に続く毛針を避けようと小太郎はネギから距離を取る。

 

「君!大丈夫だったかい?」

 

長髪で左目を隠し、特徴的な髪型と古めかしい学童服と縞模様のちゃんちゃんこを着た少年、ゲゲゲの鬼太郎がネギと小太郎の間に入る。

 

「話は彼女から大体聞いているよ!早く、捕まっている子たちを助けに行くんだ!!」

 

鬼太郎の後ろには長瀬楓が苦無を構えており、小太郎も天ヶ崎千草から預かったのであろう式神を展開させた。

 

「で、でも君や長瀬さんは!?」

「兄貴! 今、俺たちがここで足止めされたら、木乃香の嬢ちゃんはどうなるんだ! 俺たちを信頼してくれた姉さんも、木乃香の姉さんにも面目が立たねぇ!」

 

カモの言葉に肩を震わせてネギは叫ぶ。

 

「分かりました!ですが、約束ですよ、楓さん。絶対に怪我ひとつしないでください!先生として許しません!!それと、初めて会った君も負けないでください!!」

「あぁ!任せてくれ!!」

「うむ。ではがんばらねばならないでござろう」

 

懐から出した苦無を駆け寄ろうとした小太郎へ投げ付けて牽制し、楓は言う。

楓の牽制で生まれたその僅かな隙に、ネギはまた空を飛んでいく。鬼太郎はオカリナソードを形成して構える。

 

「そもそも、お前らなにもんや!!」

 

小太郎の言葉に二人は答える。

 

「ゲゲゲの鬼太郎。」

「甲賀中忍、長瀬楓。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようならぇ」

 

「刹那さん!!」

 

 

 

 

 

金属音が響き渡った。

 

月詠の刀は刹那の肌を薄皮一枚切ったところで止まり、彼女は振り下ろされる刀から逃れるために後ろへ跳んだ。

 

 

 

 

 

「らしくないじゃないか、刹那」

 

 

 

 

 

 声がする。刹那には聞きなれた声が。

 

 

 

「た、龍宮!?」

 

「おお、なんだか知らないアルがとてもまずそうネ!」

 

「クーフェ! なんであんたがここに!?」

 

「なに、助っ人さ神楽坂」

 

 

 

 

 

 

 

木々の影から、褐色の肌をした二人の人物が現れた。一人は龍宮真名。裏の世界に住む銃を主力兵装とした傭兵。そしてもう一人は、古菲。中国からやってきた拳法家。表の世界の住民なれど、その実力は裏にも十分通用する。

 

 

 

龍宮は、月詠へ銃を向け目線を話さず、刹那へ語りかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうした刹那、こんなところで。お前ならば『お嬢様』とすでに駆けだしているのではないか?」

 

「そ、それは」

 

 

 

 

 

 ふっと笑い、龍宮は告げた。

 

 

 

「仕方がない。私が格安でこの場を受け持ってやろう。お前は早く近衛を助け出せ」

 

「だが! 月詠は!」

 

「言っただろう。私はこの場を受け持った。なに、傭兵なんぞ死にぞこないがなるものだ。今回も精々死にぞこなうだけだ。さっさと行け。今の集中しきれていないお前よりかは、生き残れるさ。」

 

 

 

「龍宮」

 

 

 

 

 

「それに今回は、外部からの援軍もあるんだ。」

 

 

 

龍宮の言葉で視線を動かすと、近くの木から飛び降りてきた紫髪のおかっぱ頭にワンピース姿の顔つきもスタイルもかなり大人っぽい少女が飛び降りてくる。龍宮同様に大人びて見える女学生なのだろうか。

 

 

 

「まぁ、ずいぶんと狂気に飲まれてるわね。あの子・・・。銃メインの貴女や強い一般人じゃあ、荷が重いかもね。だから、あたしがここに回されたわけか。ま、任せて頂戴。あの子の言った通り時間を稼いであげるわ。」

 

 

 

猫娘はシッシと手払いをする。彼女がただ者ではないことは尋常な長さではない長さまで伸びた手の鋭利な爪が物語っていた。

 

 

 

「お婆と爺もいるぞ。」

 

「まぁ、そういうことじゃ。ここは任せるんじゃ。」

 

 

 

白髪に和装、大きな目が特徴的な老婆と腹掛けと蓑を身に着け、赤ちゃんの様な童顔の爺がぬっと姿を現す。彼らもただ者でないことはすぐ理解できた。

 

 

 

刹那は僅かに見える龍宮の瞳を見て、夕凪を鞘に戻した。

 

 

 

 

 

「行きましょう、明日菜さん」

 

「え、で、でも大丈夫なの?」

 

「大丈夫です。龍宮ならば絶対に」

 

 

 

 

 

 

 

 



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177 平成 京都修学旅行⑫

祭儀場で千草はとうとうビオランテの力を召喚する最終段階へ入った。

 

 神楽が舞われ、祝詞が挙げられる。その光景は神秘的で、場を気とも魔力とも判別できない力であふれ、あたりへ浸透していく。

磐座が力強く眩い発光をし、徐々にそこから莫大な力が溢れ出す。光を発している場から、四方に向けすべてを吹き飛ばすかのような強風が吹き、水面を揺らす。

 

踊り狂う千草の顔には表情がない。いわゆるトランス状態へ入っている。こうなっては、周りがなにをしてももう儀式は止められない。

 

 舞が終わりに近づくにつれ、磐座の光が形を取り始める。幾度かその形を大きく崩したが、それでも形をゆっくりと形成していく。周囲の木々や草花を絡め巻き込み、一つの存在へと姿を変えていく。草花や木々を纏めて形成された太い蔦のいくつかは牙を生やしカチカチとそれを鳴らす。

そして、無理な召還をされた。神は伝承とは違う姿へと形を変えて表す。

美しく巨大な薔薇の花は無くより獣らしく禍々しい姿へ。口角にイノシシのような牙を生やしたワニ状の巨大な頭部が咆哮を上げた。

 

『キュオオオオオオオオ!!』

 

「ふふふ、喚び出しは成功やな。伝承よりも強そうな見た目やし、もう怖いものはありまへん!関西呪術協会の援軍も東の西洋魔術師も一網打尽やわ!あはははははは!」

 

千草は碧奧蘭蒂の召喚成功に狂喜し、一頻り哂うと自身の左右に控えていた。ぬらりひょんの部下の鬼たちに命じた。

 

「赤悪鬼さんも黒悪鬼さんも日和見するのは止めにしてあの目障りなガキどもを叩き潰してくれなはれ。」

 

「お、おう。」

「わ、わかった。」

 

あまりにも強大な存在に呆けていた二人の鬼は金棒を持って、雑多な取り巻き妖怪たちを率いて石段を下り祭壇の向こうで戦っている他の者たちの加勢へ向かった。

 

 

 

 

 

京都の茶屋の障子戸を開け、関西呪術協会を臨むその視界には巨大でそして禍々しい姿となった木々草花の獣、守護華獣・碧奧蘭蒂の姿が見えた。

 

「憐れですね。かつてこの国の礎となり散った聖なる存在が、人間の傲慢に利用され醜く姿を変えられて使役されようとは・・・。人は昔より進歩した。それと同時に高慢に、自己中心的になり、斯様にも心を腐らせてしまうものなのですねぇ。さて、芸者遊びはお開きとしましょう。」

 

不完全な碧奧蘭蒂の表皮や一部が崩れ飛んできて付近の家屋に被害を出している。

ぬらりひょんは手をパンパンと鳴らすと芸者たちに立ち去るように促し、彼女たちはそそくさと茶屋を後にする。この騒ぎだ、芸者たちも店じまいだろう。

窓の外から声を掛けられ、ぬらりひょんはその声に応じる。

 

「ぬらりひょん様ぁ!お迎えに上がりました。」

「待っていましたよ。朱の盆。」

 

ぬらりひょんは温和そうな表情を浮かべ同席者の鳩八馬に挨拶をする。

 

「鳩八馬くん、今日はどうもありがとうございました。ここは危ないようです。そろそろ帰った方が良い。」

「そ、そうはいいますが・・・。」

 

ぬらりひょんはすたすたと車に乗り込む。

 

「では、また。・・・・またがあればですが・・・。」

「え?」

 

ぬらりひょんの言葉に言葉に詰まる鳩八馬。

発進する車を見送る鳩八馬は自身の秘書に迎えに来させようと携帯に手を伸ばそうとした。

 

「あ。」

 

鳩八馬の眼前には巨大植物の一部が落下し、押しつぶした。

 

 

車内でぬらりひょんは一言。

 

「与党幹事長を死なせてしまうとは関西呪術協会の管理不行き届きは致命的です。これで関西呪術協会の影響力は落ち、後継も関西ほどの力は持ちますまい。少々で異様の魔法使いどもの影響が強まるかもしれませんが、手は打っています。計画通りとは行かないまでも良い方向に向かっていますな。」

 

碧奧蘭蒂召喚の儀式の余波で周辺家屋に被害が出ており、少ないながらも人的被害が出始めている消防のサイレン音がようやっと聞こえ始める。

 

 

「しかし、ゲゲゲの鬼太郎まで出てきたか。あ奴らの企み、ここまでかもしれんの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊毛ちゃんちゃんこ!!」

 

鬼太郎のちゃんちゃんこが獣化けした小太郎を雁字搦めに縛る。

 

「っくっそー!!」

 

「ここまでだ。どうしてこんなことをしたんっ!?」

「っ!?」

 

 

 

『キュオオオオオオオオ!!』

 

祭壇の方から巨大な怪物が姿を現した。

 

「千草の姉ちゃんが蘇らしたんやな。あの、碧奧蘭蒂とか言う神様を・・・。」

 

 

「び、碧奧蘭蒂じゃと?伝承とは姿かたちが違うようじゃが・・・?様子がおかしい・・・皆、気を付けるんじゃ!」

 

鬼太郎の髪の中から目玉おやじが顔を出す。

 

「危ない!」

 

むやみやたらに振り回された蔓が振り下ろされるが、間一髪のところで楓の放った大型手裏剣で逸らされ自分たちの隣にあった鳥居が破壊された。

 

「これは、山頂の方で何かあったのは間違いなさそうでござるな!」

「行こう!!」

 

鬼太郎と楓は小太郎を放置して石畳を駆け出す。

 

 

 

 

 

 

一方で先んじて祭壇に向かったネギであったが、神楽坂明日菜の援軍もあったが白髪の少年フェイト・アーウェルンクスによって足止めされ天ヶ崎千草の碧奧蘭蒂召喚を許してしまうのであった。

 

「君たちは善戦した。だけど、体力も魔力も限界・・・ここまでだ。」

 

さらに、天ヶ崎千草に送り出された赤悪鬼と黒悪鬼までもが現れて絶体絶命のピンチに陥ってしまうのでした。

 

「おうおう!あの姉ちゃんが行って来いって言ったが、残ってるのはボロボロのガキと小娘じゃねぇか!」

「完全に出遅れちまったな。」

 

ニヤリと加虐的な笑いを見せる赤悪鬼と黒悪鬼。

 

「今回の俺たちはお客様の様なもんだ。ガキどもを嬲り殺しにして憂さ晴らしといくかぁ!」

「悪かねぇな!ガハハハッ!!」

 

 

「くぅ・・・明日菜さん・・・逃げて・・・ください。」

「置いてけないわよ!!でも、すごいピンチよね。これは・・・」

 

 

倒れこんだネギを守るようにハリセンを構える明日菜。ネギも立ち上がって杖を構えようとする。

 

「僕が彼らを石化させて終わりにしようと思ったのだけど・・・。」

 

「いいじゃねぇか!見守りばっかで少しばかり血が見たいって思っちまったんだよ。」

「俺ら、悪鬼は人間を嬲り殺しにするのが大好きでな。」

 

フェイトは赤悪鬼と黒悪鬼に不服そうに言うが、彼らは軽く応じながらフェイトの前に出る。

 

「・・・・・・勝手にすればいい。」

 

そう言って、フェイトは一歩下がる。

 

「嬲り殺しだぁ!」

「苦しめ!」

 

 

 

 

 

「それは、やめて頂きます!」

「悪鬼封滅法 破!!」「「っぐぎゃああああああ!?!?!?!?」」

 

「おぉ、ずいぶん派手にやったな!」

 

ネギたちとフェイトたちの間に無数の弾幕が降り注ぎ、立ち込めた煙の中から姿を表したのは大樹と聖白蓮、そしてエヴァンジェリンだった。

 

 

 

魔人経巻を構えた聖白蓮。

八苦を滅した聖人あり、覚者。

法力僧としてはもはや世界最高の実力者である彼女の一撃を受けた赤悪鬼と黒悪鬼は声にならない悲鳴を上げながら、山門の向こう側に弾き飛ばされぶつかった木々や障害物に赤い何かが付着していた。

 

「殺生は本意ではないのですが、久し振りなので力加減を間違えてしまいましたが、あれを相手にするのなら加減は不要ですね。」

 

そう言って白蓮は復活した碧奧蘭蒂を見据える。

 

「碧奧蘭蒂が、苦しんでいます。救ってやらなくてはなりません。出来るでしょうか。」

「火力的に自信はありませんが、やってみようかと。」

 

格好をつけておいて大樹に本音を問われると少々気弱発言。

しかし、白蓮は「ですが」と区切って大樹に答えた。

 

「火力に関しては彼女に任せればいいでしょう。」

 

そう言って、彼女たちの真上で高笑いを上げているエヴァンジェリンに視線を向け、大樹に戻す。

 

「はははははは!!雑魚はそっちでやってくれ!!補助は任せたぞ!」

 

エヴァンジェリンの言いように「っふ」っと笑った大樹は白蓮の方に話しかける。

 

「えぇ・・・任されましたよっと。あ、聖はあの白髪の少年を相手してください。」

「任されました。」

「やれやれ、私自身は荒事はそう得意ではないんですがね。」

 

 



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178 平成 京都修学旅行⑬

 

「これだけの式神と魑魅魍魎を相手にするのは酷と言うものじぇありまへんか?あきらめぇ。」

 

視線の向こうでは不利を察した天ヶ崎千草が待てるすべての式神と、ぬらりひょんから借りた雑兵妖怪たちを大樹たちに差し向ける。

 

一方で関西呪術協会本山外環を包囲していた妖狐たちが結界術を展開し、本山を封鎖。周辺への被害を抑え込む。

 

「大樹様、結界を展開。周辺への被害の心配はありません。」

「ご苦労です白蔵主。そのまま警戒を続けなさい。」

「っは。」

 

大樹はそのまま正面のフェイトとその奥の天ヶ崎千草に向かい合う。

 

精鋭と思われる妖狐数人が大樹の前に並び、呪文を唱えると上空にちょっとした打ち上げ花火の様な光が上がるのを合図に、その上空から錫杖を携えた天狗たちが姿を現す。

 

「ネギくんに他の子たちも、雑魚とあの大きい子は任せてください。・・・天狗衆!!総攻撃です!!」

 

天ヶ崎千草の手勢はかなりの数であったが大樹は上げていた腕を振り下ろす。

ほら貝の音が鳴り鳴り響き、それを合図に天狗たちが天ヶ崎千草の手勢を攻めていく。まさに乱戦であった。状況は飲み込み切れていないが、チャンスだと理解した刹那は戦いの隙を縫って木乃香を助け出すのだった。

 

「さてさて、エヴァ。魔力は渡すから、お願いね。あれは私の功臣です。なるべく苦しまないようにお願いします。」

「・・・ずいぶんと大変な注文だな。まぁ、考慮する。」

 

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!ト・シュンボライオン  ディアーコネートー・モイ・ヘー クリュスタリネー・バシレイア!!(契約に従い我に従え 氷の女王 とこしえの闇、永遠の氷河!)」

 

 パキパキと音をたてて、世界が凍る。碧奧蘭蒂とその周囲が凍りつく。さすがは稀代の魔法使いに、上級の魔法。その威力は凄まじい。

植物は寒さに弱く、碧奧蘭蒂もその通例に外れることは無かった。

 

「キュオオオォン・・・。」

 

碧奧蘭蒂は弱弱しく泣いたのを最期に崩れ落ち動かなくなった。

 

「・・・・・・。」

 

大樹はそれを黙って看取ったのでした。

その背中は悲哀を感じさせるものであった。

 

刹那に助けられた木乃香はネギと仮契約を結び、その治癒術の才能を開花させるのでした。

パクティーオの効果を確認した木乃香に大樹は声をかける。

 

「さてと・・・木乃香さん。貴女のお父さんやここの巫女さんたちの石化を解かないといけないので協力してくださいますか。」

「え、あ!?はい!!大樹先生!!」

 

大樹は、余計なお世話と思いながらも刹那にも声をかける。

 

「白とは古より神の化身あるいは神の使いの動物を象徴する神聖な色。神に捧げられる幣帛や幡も白色です。白を忌み嫌う文化は異国から入ってきたもの、確かにその色は目立ちますが悪い意味ではないのです。先ほど木乃香さんが言ったように天使・・・天の使いの様な清らかで神聖なものなのです。これからは卑下するのではなく誇りと思って精進してください。」

「は、はい!」

 

大樹は刹那が自身の出自を気にかけていたことも知っており、半妖や混血に関して昔から何かしらの差別があったことも知っていた。その上に自身も生粋の神族ではなく妖精が転じて神となった存在。さらに言えばその過程で妖怪化もしており自身も混血であるからこそ、彼女の苦悩は少しは察せるものがあった。ただ自分は立場上彼女ほどの問題は抱えることは無かったのだが・・・。

 

白蔵主が大樹に「そろそろ…」と耳打ちすると「わかりました」と応じてその場を離れようとするが、エヴァンジェリンがチャチャゼロに何か指示を出しているのに気が付く。

 

「エヴァ?何かするのですか?」

「ん?あぁ、逃げ出した女術士を捕まえておこうかと思ってな。」

 

大樹は視線を宙に彷徨わせてから冷淡な表情を浮かべてエヴァに伝える。

 

「不要です。あれの扱いは万年竹に任せました。」

 

大樹の言葉に何かを察したエヴァは「そうか。」と応じてチャチャゼロに命令取り消しの旨を伝えるのであった。

 

 

 

 

「っひ、ひぃい。な、なんやあれは!?」

 

竹林の中を逃げ惑う天ヶ崎千草の後を竹人間と呼ばれる竹の妖怪たちが追いかけてくる。

 

「うあ!?」

 

竹の根が彼女の足に巻き付き転ばせる。

 

「た、たすけて!?」

 

『貴様は我らの神の眠りを妨げ、愚弄した。人間如きが神を愚弄した。人間の小さき都合で神を弄んだ罪。その命をもって償え!!』

 

何本もの竹が彼女の体を貫く。

 

「ぐぎゃああああああ!!!」

 

竹林の中で彼女の恐怖の色を帯びた悲鳴が響いた。

彼女の亡骸は翌日、関西呪術協会の竹林内で発見され内々に処理された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結構な被害を出した天ヶ崎千草の企みを潰し、ぬらりひょんの介入を退けた。大樹は魔法世界の不穏分子の匂いを感じ取った。

 

畿内京都と言う古き時代の権威の影響が他の地域よりも有効だったこの地域の混乱を鎮めることは、大樹の名を使うことで比較的容易に行えた。

 

大樹自身、今回の件では自身の権能を十全に発揮し事態の抑え込みを図った。

 

「近衛詠春、此度の一件。関西呪術協会だけの責任とは言いませんが、関西呪術協会の責任は非常に重い。」

 

関西呪術協会の本山ではその日の深夜には協会の重鎮たちや周辺組織や機関の代表や代行が集められこの度の一件の裁定が下されようとしていた。対象都道府県の知事やその代理も出席しているが今回はオブザーバーだ。

 

「重々承知しています。」

 

その責を問われた詠春の表情は重く暗い。

他の関西呪術協会の支部長たちも状況を受け入れて沈んでいる者もそうではなく反抗的な感情を持っている者も総じて暗いものであった。

 

「関西で意見が割れている現状も宜しくない。関東と仲違いをしろとは言いませんが距離感を保つべきです。近衛詠春、貴方は過去の経歴に現在の職歴を見ても貴方の能力では関西呪術協会の長として十全に手腕を発揮できていない。陰陽寮時代のそれを引き継いでいるとは思えない。近衛詠春・・・、貴方はこの役職に相応しくない。私、大樹野椎水御神は宮内庁引いては天皇陛下より託されている権限を持って近衛詠春。貴方の長の役職を罷免とします。」

 

協会の関東との融和を臨んでいない派閥の支部長たちが一瞬顔を綻ばせたが、次の言葉で関西呪術協会の所属の者たちは表情を引きつらせる。

 

「関西呪術協会の長の後任は娘、木乃香とする。」

 

詠春含め、関西呪術協会の者たちは意外な後任に驚きを隠せていない。さらに続く言葉で彼らの混乱は頂点となる。

 

「また、関西呪術協会は日本の裏社会の治安組織として大きな問題を露呈するに至り、現状関西呪術協会では治安の維持は難しいと判断するに至り、関西呪術協会が保有している権限の大幅な削減を行うものとする。以降は神社本庁並びに仏教各宗派の本山の合同組織である神仏護国会議を組織し、これが国体護持を担うものとする。なお、神仏護国会議の長はそこの聖白蓮とします。」

 

大樹は関西呪術協会の事実上の解体を宣言した。

呪術協会側から反対意見が多く出たが大樹の

 

「あなたたちは裏の関係で起きたさくら号事件や三種の神器事件、そして今回の事件も貴方方は未然に防げるはずのものを内ゲバで手を打てなかった。これを不適格として何が問題か!」

 

大樹の一喝で協会の多くの人間は押し黙る。

しかし、詠春はなおも追い縋る。

 

「こ、木乃香はこちら側に関わらせたくありません。」

「五摂家の近衛家に生まれた者の宿命です。諦めなさい・・・。どうしても裏に関わらせたくないのなら近衛も青山も名乗らずに生きるほかないでしょう。それに、勢いを失い下部組織となった関西呪術協会のお飾り・・・座布団の上に座っていればいい名ばかり職。これでも貴方の気持ちも汲んでいるつもりです。」

 

「ですが、義父さっ・・・いえ、近衛近右衛門氏はどうなのです。」

なおも追い縋る彼にいささかの煩わしさを感じ、冷たく突き放す。

 

「関西呪術協会も関東魔法協会も新設の神仏護国会議も宮内庁所管の組織であり、名目上は私や陛下の下にある。たかが、下部組織の長が上位組織のそれも陛下や私の意向もある決定を私的な理由で反故にしようとは何事か!!」

 

関西呪術協会は事実上解体され詠春も更迭される。

西日本に大樹支持の大勢力が誕生し、これを機に大樹の権威は回復の兆しを見せる。

これは、ぬらりひょんや魔法世界勢力、そして現政権に衝撃をあたえた。

 

 

 

 

関西呪術協会で一泊し、ネギたちが目を覚ました翌朝には裁定は下った。

詠春の長としての最期の務めは、ネギたちを関西呪術協会管理下のサウザントマスターの書庫に案内することだった。以後は一剣士として活動することとなった。

 

しかし、エヴァ・・・昨日の夜から未明までの会議にしゃべりことしなかったが参加してたのに、ネギ君たちを連れて京都観光に行くなんて元気よね。

 

まぁ、私も修学旅行4日目は完全に別行動だ。新田先生たちへの建前は、今回の修学旅行生が起こした問題行動について関係各所への謝罪と根回しと言う建前で、野党第一党自由国民党や野党第二党華族会の有力者たちとの接触するのでした。

 

翌日にはネギくん他の生徒の皆は麻帆良に戻り普段の学生生活に戻っていたのですが、私は京都に残り人間の協力者や白蔵主や赤嵐坊ら西日本の有力妖怪たちと会合を行い今後についての対策を話し合って1週間ほど経過してしまうのでした。

 

 

 

 




修学旅行終了〰️


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179 平成 変化、再動

 

 

私が戻った頃にはネギ君がエヴァと古菲さんの弟子になっていました。

そして、帰って来て早々に図書館島に詳しい私に、宮崎さんや綾瀬さんの引率を手伝ってほしいとネギ君に頼まれてしまうのでしたが・・・。

さすがにほとんど寝てないので後から追いかけると約束して床に就くのでした。

 

昼過ぎまで寝た私はネギくんたちを追いかけて図書館島の深部を降りていると茶々丸さんに合流しました。

 

「どうしてここに?」

と聞くと

 

「なんででしょうか?」

と疑問形で返してきます。

 

ロボットって基本無意味なことをしないのではと思い、少しづつ付喪神化してるのかなと茶々丸さんを眺めていると

 

「大樹先生!あれを・・・。」

 

茶々丸さんの視線が向いている方を見るとドラゴンに襲われているネギ君たちが!?

 

「助けましょう!」

「はい!」

 

私と茶々丸さんがドラゴンに応戦しながらネギ君たちを撤退させます。

茶々丸さんが宮崎さんと綾瀬さんを抱えて私とネギ君がドラゴンを牽制しながら、なんとか撤収するのでした。

 

「ね、ネギくん・・・ドラゴンを相手にするのはまだ早いと思うの。」

 

息を切らせている私ですが、私は神様とは言え戦闘向けでは無いのでドラゴンの相手は辛いのです。それでもネギくんはエヴァに向けるそれには劣るものの

 

「大樹先生もお強いんですね!」

 

とか言っているので・・・

「てい!」

頭をひっぱたいてやりました。

 

「痛い!?な、なにするんですか?」

 

私はネギくんたちが持っていた地図を見せつけながら、正座させる。

 

「この地図にもドラゴンが書いてあるじゃないですか!!いくらナギ・スプリングフィールドが残した地図だからって自分の実力を考えて行動なさい!それに魔法生徒ならまだしも一般生徒を危険な場所に連れて行くのもどうかと思います!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

私は宮崎さんと綾瀬さんにも一応注意する。

 

「あと、二人ともネギくんはお父さん関係になると見境がなくなりますので、もう少し考えてあげてください。」

 

「「は、はい。」」

 

ネギくんも子供とは言え大人としての対応を求められ、それを出来るだけの器量はあるのですから努力してもらいたいです。本人にその気があれば大人もフォローできるというものです。

 

 

 

 

 

今回の京都での事件は、妖怪社会に様々な影響を与えている。

人間と妖怪の関係が変わりつつある、あまり良くない方向にだ。

天ヶ崎千草の行動が人間の驕り高ぶりを見せつけてくれた。人間は己が欲望のために妖怪をそして、神々をも恐れずに利用しようとしている。そして、妖怪だって人間の都合の良い存在に成り下がるわけがない。

 

南北朝時代から始まる戦国時代よりも、この国はぐちゃぐちゃになる。

あの時は天皇家が二つに割れ諸大名たちが大分裂を起こした。妖怪たちはそれを一歩離れて見ていて、見るに耐えない状態になって手を貸しただけ。

 

今の日本は魔法世界の出張所たる麻帆良、護国会議や呪術協会の様な旧来の破魔勢力。

在日米軍の様な旧連合国の影響力。現政権も諸外国勢力に媚びうる連舫政権、その政権も宮内庁をはじめとした官僚勢力と対立している。国内の武装組織である自衛隊も旧軍のように私の影響力が十全に及んでいるわけではない。警察や海上保安庁も同様と言える。戦後占領政策で逆コースをGHQが採用したおかげで僅かながらに影響力は残っているがその程度だ。幕府時代の残滓たる華族武家の勢力は戦力としては心もとない。

 

妖怪たちの過半数が私に対して好意的なのは幸いでした。ですが、私の意に沿うことはあっても従うまでには至らない者たちも多い。わが孫娘率いる西洋御妖怪軍団の方面軍もある程度の忖度はすれど、人間との敵対姿勢は崩していない。中国妖怪が敵対関係なのは昔からなのはしょうがない。刑部狸率いるインペリアル・タイジュ(大樹皇軍)は私を奉じてはいるものの私を奉じて日本を再占領しかつての最大範図である合藩連合帝国を再興しようとしている。これに南洋妖怪が同調しているのも不安要素だ。

国内においてはぐわごぜや白蔵主、万年竹を再度直接指揮下に置いたことで国内妖怪の半分に少し足りないがだいたい半分を手中に収めたのは良かった。

ぐわごぜは先の反乱のせいで勢力としては力を失っているが、私の政務担当としての権威は残っている。白蔵主や万年竹は術師たちとのいざこざは抱えているが近畿周辺域の領域をしっかりと抑えている大妖怪である。少し状況が変わるのは四国、名目上の首領である刑部狸は戦時中の残党を抱えていまだに外地におり、現在は金長狸が代行している。刑部狸が日本の現政権を敵とし、現在も魔法使いたちや連合国とバッチバチに火花を飛ばしている反面、金長狸は内地の妖狸衆を纏め折り合いをつけているが現政権に良い感情を持っていない。九州は天狗ポリスや河童衆の有力者や現地妖怪の有力者が群雄割拠していて九州を一括するような大妖怪はいないところに不安が残る。だが、概ね西日本は私の意思がしっかりと通る状況になったと言っていいでしょう。

 

しかし、私の居る麻帆良のある関東以東以北は私の指示が通らない状態だ。関東などは麻帆良を警戒して目立つような動きは全くないし、比較的大きな組織があるのは解るが私にすら連絡を寄越すことがない。河童の一部やゲゲゲの森がせいぜいか。妖怪同士の連絡線が関東以北以東で寸断されてしまっているのだ。

だが、なんとか影響は与えられるのが幸いか、北の雪女郎には鬼太郎たちを介して何とか連絡が付いたが、たんたん坊は連絡が付かない。昔から武断派として辣腕を振るい先鋒で戦った彼が戦後全く行動を起こさずにいたのは不気味とすら言える。そして、連絡が付かない現状・・・。

 

遅かったかもしれない。

 

幻想郷は中立と謳っているが、そろそろ、手を打たないと博麗大結界の維持にも問題が出てくるはず。八雲紫との関係は比較的良好だが、幻想郷そのもの特に天魔天狗衆や天人、そして古参妖怪の多くとは関係は悪い。100年近く前の侵攻が尾を引いている。新興の妖怪勢力はそうでもないのだが・・・まぁ、それは良いでしょう。幻想郷の問題は喫緊の課題と言うわけでは無し。

 

 

問題はぬらりひょんと魔法世界の秘密結社ども、そしてそれの傀儡たる現政権だ。

一見私の味方が多い盤面だが、実際は味方の様な敵や敵の様な味方が多く使える手札が少なすぎる。私が退いていた50年でここまで崩れるとは・・・。

 

そして、ぬらりひょん・・・何を考えているんでしょう。

私は、テレビをつけてニュースを見るというよりは眺める。

 

『頭に皿の様なものを乗せた謎の集団に襲われ大変なことになっています!!』

 

どっかの馬鹿が河童に奴隷労働をさせて河童がぶち切れたのでしょうね。

思った以上に大事になってるわね。

 

「あの~大樹様?何卒お力をお貸しいただけますでしょうか?はい。」

 

この目の前にいる半妖怪は・・・。

ねずみ男、これからなんだかんだで厄介ごとを持ち込みそうな奴ですよ。

 

 



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180 平成 河童の労働闘争前編

 

 

「ねずみ男、もう色々手遅れでしょう。鬼太郎に怒られたくないから私に相談して手を打つって言うのは失敗してるでしょうに。」

 

リモコンで河童の大暴動が映し出されているテレビ画面を指し示す。

 

「それに、貴方・・・。そそのかした河童は太郎丸だけじゃないし、送り込んだ企業も例の企業だけじゃなさそうね。正直に言ってみなさい。まぁ、板前姿の河童を見ればどこか想像つくけど・・・。」

 

ねずみ男は伏し目がちにかなり小さい声で答える。

 

「クワッパ寿司です。」

「あーやっぱり。最近の人間は金銭欲が馬鹿みたいに高いから困りものです。」

 

ニュース映像が切り替わり、クワッパ寿司の正社員が半殺しにされて看板の回転部分につるされている映像とともに、ニュースでは「非常に凶暴ですので屋内に避難してください!!」

 

「しかし、これだけ大事なら鬼太郎君も動いていると思ったのですが・・・。」

 

机においてある固定電話が鳴る。電話の相手が表示される。

 

アオボウズ

 

彼にシニア携帯を持たせておいたのは正解でした。

スマホはきっと操作できないでしょうし、ちょうど良かった。

 

『大樹様!大変だ!!河童たちが!!』

「知ってます。ニュースは見ました。」

 

『それだけじゃねぇ!鬼太郎がやられちまった!!』

「なんですって!?いくら何でも数が多いからと言って鬼太郎君が後れを取るなんて・・・。」

 

「そいつはおかしいぜ!俺が紹介した河童の数はたかが知れてるぜ!鬼太郎の奴を倒せるなんておかしいぜ!」

 

スピーカーにしていたので私たちの会話にねずみ男が割り込んでくる。

 

『ねずみ男。お前がカモにしてた人間からつまみ出された後で、あの社長、関連企業や知り合いに河童雇用を教えたんだよ!だから、捕らわれた河童が多いんだよ!』

「こいつは拙いぜ!大樹様よ!すぐに行かねえとかなりヤバいぞ!!人間は河童社会の事を知らねえ!!これだけの河童を奴隷みたいにしたのが広がったら・・・。」

 

そう、ねずみ男の言う通り河童は社会を形成している。

個人レベルなら割と簡単に収められるが、今回の度を越えた行為は河童社会への攻撃とみなされるのだ。

 

「蒼坊主、私もすぐに向かいます。ねずみ男!貴方の撒いた種です!!付き合いなさい!!ぐわごぜ・・・、西の白蔵主と護国会議に西の抑えは任せると伝えなさい。」

 

それまで、影に徹して控えていた ぐわごぜ が申し訳なさそうに応じる。

 

「おそらく、西の河童の大将たちはすでに関東入りしていると思われます。決起を抑えることは可能ですが大将たちとともに精鋭が先遣隊として関東に入っているものと思われますが・・・。」

「仕方ないか・・・。それで構いません。」

 

私たちは図書館島の私室をでるのでした。

とは言え、私は戦闘は苦手なので、まずはエヴァンジェリンの別荘に行きます。

 

 

 

雑役の妖精たちとぐわごぜ、それにねずみ男を引き連れて早足でエヴァンジェリンの住むログハウスに向かいます。私の部下たちをぞろぞろと魔法世界の出張所である麻帆良で引き連れて出歩くのはあまりいいことではないのですが、ここの長である近衛近右衛門はこちらとは協力関係にあり友好的な派閥なのであまり気にすることもありません。生粋の至上主義者は麻帆良からは弾き出されており、外国や戦闘地域の最前線送りになっているので問題ないのです。

 

 

しかし、エヴァンジェリンのログハウスの敷地はかなり広いのです。

直接、ログハウスに向かっても誰もいなかったので敷地の林をかき分けて探します。

彼女の趣味なのか壊れかけの煉瓦壁も多く、めんどくさい。

 

「あ、いました!」

 

うち一人の妖精が示した方向に視線を向けますと、ちょうど修業中だったようです。

エヴァに茶々丸、チャチャゼロ。それとネギくんと彼と契約した神楽坂さんと近衛さん、桜咲さん、宮崎さん。それに古菲さんと綾瀬さんがいますね。

 

あれは対物魔法障壁ですね。訓練中のようですがもうほとんど実戦で通用しそうですね。

ぞろぞろと引き連れた部下たちにちょっと驚いた反応をする生徒たちはひとまず置いておいて、エヴァに事と次第を伝えます。

 

かくかくしかじか。

まるまるうまうまっと・・・。

 

エヴァに一緒に来るように伝えると、エヴァは少々思案します。

 

「河童か・・・。後れを取っても死にはしないだろうし・・・ちょうどいいか。よし!お前たち!実践演習だ!!一緒に行くぞ!!」

 

エヴァの一声でその場の全員が一緒に行くことに、ここ数日修業漬けでニュースなんて見ていない生徒たちには道中でラジオをつけて状況を教え、河童たちの暴れる東京都心へ向かうのでした。

 

 

東京都台東区松ヶ谷曹源寺、かっぱ寺の別名を持つこの寺に河童の名士たちが集まっていた。九州のガラッパ、四国のシバテン、関東の禰々子(ネネコ)、東北のメドチ、そして河童の頭領水虎が集まっていた。

 

「泣きながら仕事をさせられている。給料は1日1本のキュウリだけ。正社員は、河童たちが逃げたりサボったりしないよういつも監視している。恐怖心を植え付けるため、時々無意味に電気ショックを与えたりする。」

 

河童たちの訴状を読み上げるシバテンは読み終えると同時に訴状を威ぎりつぶす。

怒りに震えているのだ。

 

「河童たちの暴動も当然だ。彼らの為にも我々が立ち上がり、人間たちに痛撃を与えるべし。」

「そうさね。関東河童の多くはすでに暴動に加わってる。後には引けないよ!」

ガラッパと禰々子がそれに続く。

 

「しかし、人間たちも手強いぞ。軍隊が出てくるかもしれん・・・。」

メドチが慎重論を述べる。

 

かっぱの四天王である4人の視線を受け河童の頭領水虎が口を開く。

 

「関東河童を止めるつもりはない。他地方の決起も致し方なし。戦支度を始めよ。」

 

 

 

 

合羽橋の交差点で警察機動隊と河童たちが激突する。

 

『河童と機動隊が合羽橋で睨みあいを続けています!!』

 

ジェラルミン盾を並べて警棒で打ち鳴らし威嚇する機動隊。

相対する河童たちも口からジェット水流を放ち機動隊の隊列を崩す。

上空をマスコミのヘリが飛び報道を続けている。

 

『あ!今、機動隊が突撃していきます!!』

 

金属製で伸縮式の特殊警棒、もしくは警杖を振り上げた機動隊員が河童たちに突撃していく。

金属製の棒が河童に振り上げられ皿を割る。河童たちもやられるばかりでは無く機動隊員の尻子玉を抜き無力化し、一進一退の激しい攻防が繰り広げられていた。

 

同様の光景が東京の各所で見られたのであった。

 

 

蒼坊主と合流した私たちは、その足で鬼太郎たちと合流。後れを取った鬼太郎だったが妖怪いそがしの協力を得て腑抜け状態を脱している様だ。

 

「河童の首魁は曹源寺にいるはず。そこを抑えるしかないじゃろう。」

「そうだな。それが良いだろう。行くぞお前ら・・・。」

 

私を除いた年長者である目玉おやじとエヴァンジェリンの相談で曹源寺へ向かうことに・・・。

 

道中では河童と機動隊や警官隊が激しく争っていた。

体と体や警棒がぶつかり合う嫌な音や怒声が常に聞こえていた。

河童によって占拠された場所も出始めており、警察側の場所では救急車や警察車両が行き来していた。

 

私は電話に集中するため、茶々丸さんにお姫様抱っこで運んでもらっています。

 

「銃火器の使用は絶対ダメです。河童たちが抜いてるのが尻子玉だけで水流もウォーターカッターじゃないのは、彼らとて本格的に私たちと争う気がないからです!!」

 

私が電話をかけているのは国家公安院長で私の息がかかっている数少ない人物であった。

 

「彼らは恐らく、一部の人間による搾取への反抗です。数十年前の少々過激な労働闘争の様なものです。ある種の春闘ですから彼らとは条件によっては話し合いで解決ができます!だから、銃器の使用はご法度ですよ!!いいですね!!内閣は妖怪をかなり敵視していますが、軽々しく連中の口車に乗ってなりませんよ!・・・・・・そ、それは」

 

 

公安院長からの情報で今日中に自体が収束しない場合は射殺許可が下りるだろうとの事だった。人間側が一線を越えるなら河童たちだって越えるだろう。

大樹の裏工作によって戦力の立て直しのために一時後退するのだった。

だが、それは銃火器戦闘への移行の準備でもあった。車両の中にあったH&K MP5機関拳銃を取り出し装備する機動隊員。大型防弾装甲車両の銃器対策警備車から特殊急襲部隊、通称SATの隊員が降車し整列する。一般の警官たちも拳銃の弾丸を確認する者たちがちらほら現れていた。

 

 

 



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181 平成 河童の労働闘争後編

 

 

曹源寺に到着した一行であったが、河童たちは人間たちと戦う意思を明確にし始めていた。

 

「「「「「戦争だ!戦争だ!戦争だ!」」」」」

 

河童たちは皿をぺちぺちと叩き興奮気味に叫んだ。

 

「人間たちと本気で戦争なんてしたら、それこそとんでもない犠牲が出てしまいます!馬鹿な真似は止して河童の隠れ里に戻るのです。」

 

だが河童たちは、納得せずさらに大きな声で抗議する。

 

「「「「「戦うぞ!!戦うぞ!!戦うぞ!!」」」」」

 

「本当に死んでしまいますよ!よしなさい!」

「「「「「戦争だ!戦争だ!戦争だ!」」」」」

 

 

大樹の声が搔き消されかけたその時。

 

「我らを止めたいのならば!!その聖なる土俵で我らに勝って見せよ!!」

 

長老ある水虎河童の一声で河童の四天王と土俵上で戦うことになるのでした。

 

「偶数じゃ引き分けになるだろうが!3回試合だろう!?」

 

4人試合にしようとしてエヴァに突っ込みを入れられる一幕はあったが何はともあれ、第一試合。河童の行事が声を上げる。

 

「東~!ガラッパ~!西~ねずみ男~!見合って見合ってはっけよい!のこった!!」

 

「あ痛ぁ!?ぎゃああ!!ぎょえええ!?うひぃ!?」

 

第一試合のねずみ男はボロ負けだった。

正直なところ、今回の事件の発端の責任を取ってボコボコにされて来いと言ったところであった。これで彼のことは許してあげましょう。

 

 

第二試合。

 

「東~メドチ~!西~ゲゲゲの鬼太郎~!見合って見合ってはっけよい!のこった!!」」

結果から言って鬼太郎の勝ちだ。さすが界隈で有名な鬼太郎君です。

ここは手堅く勝ってくれました。

ただ、今回は尻子玉抜かれて腑抜け状態だったのですが妖怪バリバリに憑りついてもらってのドーピング状態、後日の反動がきつそうです。今度お見舞いにでも行きますか。

 

 

さて、最期の鳥です。

ここはエヴァの推薦でネギくんが戦ってくれるようです。正直、少し心配でしたが「私の弟子だぞ?この程度で負けるなら私が血を吸い尽くしてやるさ。」などと言って自信ありげでしたのでここは信じて送り出しましょう。がんばれネギくん。

彼はエヴァの弟子ですが、古菲さんの弟子でもあり功夫を修めていますので大丈夫とは思いますが・・・。

対する河童側も外観は身長1メートルほどの小さな子供のようで、全身に毛深い体毛が生えているシバテンと言う河童です。見た目的にはつり合いも取れているのですが・・・。

 

「東~シバテン~!西~ネギ・スプリングフィールド~!見合って見合ってはっけよい!のこった!!」

 

シバテンは全身に毛深い体毛が生えている身長1メートルほどの小さな子供のような外観で、背丈的にネギくんの対戦相手には適当な人選と言えるでしょう。

しかし、その見た目に騙されると痛い目を見ますよ。何せ大人を上回る力は勿論、一晩中相撲を取っても息切れ一つ起こさないスタミナは長期戦になればなるほどネギ君には不利となりそうです。

とは言え、ネギくんだって負けてはいません。単純な戦闘センスはエヴァにスパルタ的に磨かれていますし、古菲さんに中国拳法を習っていますので押されてはいますが、シバテンの張り手をすべていなしています。普通の相手ならネギくんが敵を疲れさせて逆転勝ちと言う流れなのですが、今回の相手は破格のスタミナの持ち主です。どう戦うのか・・・見ものですね。

 

お、ここでシバテンがさらに攻め手を強めます。

 

「くらえ!へのかっぱ!!」

 

屁と共に張り手連打を放つと言うシバテンの必殺技です。

キュウリ臭い。

 

ネギくんはシバテンの張り手の腕を思いっきり引っ張りました。

 

「うおっとっとっとっと!?うわっ!?」

 

確かあれは、八極拳の六大開「頂」と言う技で本来なら、ここから別に技に繋げるらしいのですが今回は土俵上の戦い。土俵から相手を落とすのが勝ちですし、相手の力を受け流す技と言うのは力比べ主流の妖怪の戦いには珍しいですが卑怯とかではないので、シバテンも素直に負けを認めました。

 

「お前、人間のくせに強ぇえな!!」

「貴方こそ、すごい力です!!」

 

シバテンに声をかけられたネギくんはお互いを称え合います。男の友情的なものでしょうか?美しいですね。

 

 

と言うわけで、河童の大暴動は河童の長たちの連名で収束宣言が行われ解体となりました。

ブラック企業の経営者がつるし上げられて、看板に括り付けられたり、ゴミ箱に放り込まれたりしていましたがいい薬でしょう。どうせ叩けば埃が出てくるような輩です。

 

さて、ネギくんたちを連れて帰りましょうか。

 

「あ!そうだ!良いこと思いつきました!ネギくんたち、たまに鬼太郎君のお手伝いをしなさい!エヴァは頻繁には麻帆良外には出れせんし、実戦訓練も兼ねて鬼太郎君の負担も減る!名案ですよね!」

 

「危険ですよ?妖怪たちは河童のように手心を加えてくれるような奴ばかりじゃない。」

 

大樹はとんとん拍子に話を続けようとしたが鬼太郎は乗り気ではない。

最近の鬼太郎くんは人とのなれ合いは昔ほど好まなくなっている。

この返答は予測済み、さすがの鬼太郎君も私相手だと強くは出れない。

 

「ですが、この前だって結構な戦力になったでしょ?今回も・・・ねぇ?」

「それに、こいつらは私の弟子だ。それでも不安か?それにこいつのことだ。悪いようになならないだろう。いや、させないだろう?」

 

おや、エヴァが援護射撃してくれるのは予想外でしたが、助かりますよ。

重要なところを私に投げてくるのはちょっとでしたが・・・。

 

「う~む・・・そうじゃのぉ・・・。」

 

目玉おやじさんは、かなり悩んでいるけどギリギリ賛成してくれそう・・・。

私はさらに畳みかけます。

 

「それに、鬼太郎君は以前もシーサーを弟子にしてたじゃない?」

「いや、それはシーサーが勝手に付いて来ただけで僕が何か教えたわけじゃないですよ。」

 

鬼太郎君も傾いてますね。ネギくんも目をキラキラさせたりして鬼太郎君を見ていましたし、そう言ったところはシーサーに似てるところもある。なんだかんだ言っても鬼太郎君、面倒見がいいしゲゲゲの森の妖怪たちも良い妖怪ばかりで信用できる。ねずみ男はまぁ・・・えっと・・・いい奴だよ。蒼坊主に頼むという手もあるが、送り出したら生徒たちが卒業できなくなりそう・・・迷子で・・・。

 

とにかく、鬼太郎君に先輩県兼友人ポジションをして欲しいと言うところがある。

エヴァも自由に麻帆良を出れないので、今回のは学園長が判子推し続けると言う京都同様の対応中だ。彼の腕を助けるためにもウンと言ってほしいところなんですよね。

 

「それに、貴方人間嫌いってわけじゃないでしょ?見上げ入道がドーム占拠したときに助けた子と仲良くしてるらしいじゃない?」

。」

 

鬼太郎の仲間たちがちょっとニヤッとしてる。

 

「まぁ・・・いいんじゃないの?」

「わしも構わんよ?」

「じゃな。」

「おいどんも別に構わんとよ~。可愛い女の子たちも大勢いるし眼福と~。」

「ぬりかべ~(賛成している)。」

 

 

仲間たち全員の後押しを受けて鬼太郎も何とか納得してくれる。

 

「危ないと思ったらすぐ逃げるんだ。君たち人間は妖怪とは違う・・・そこだけは気を付けてくれ。」

 

「あと、概ねわしも構わないと思うのじゃが・・・あの子たちは元気すぎじゃの。エヴァンジェリン殿や大樹様が必ず引率してくだされ。」

「え、あ?はうぁ!?」

 

目玉おやじさんが困った顔を向けてきたので視線を動かすと河童たちとキャッキャワイワイしている生徒たち。

 

「河童のお皿って乾くと大変なんでしょ?」

「甲羅ってカメと同じなの?」

「わぁ、口が嘴になっとる。」

 

あー別の問題がありますね。まぁ、そこはなんとかしますよ

 

「皆さーん!?あんまり、河童さんをいじりすぎないでくださーい!」

「ネギ君も見て見なよ?」

「え、うわ。」

 

ネギくん、先生でしょうが・・・。

 

「子供が元気なのは良い事じゃよ。あはは。」

 

目玉おやじが笑う。

 

「本当に皆さん!!ちょっと、やめなさい!!河童さんたちも困ってますよ!!エヴァも手伝ってください!!」「断る、そう言うのはお前の仕事だ。先生?」「ぐっ」

 

 

 

 

 

 

結局我々は罷りなりにも関わっていた人間社会から追い出されてしまった。

河川下流中流域にいた河童たちも、上流の山林地域への移住を選択する者たちが増えていった。

同胞たちも過激に反応したことは悪かったと思う。だが、もとを正せば人間たちのやり方に問題があったのだ。この件に関わった人間たちも大なり小なり裁かれ失うものがあった。しかし、失ったものは我々の方が遥かに多い。

 

河童たちや山童たちが人気のない山道を登っていく。

 

大樹様の計らいもあって、今のこの国としては丸く収まったと思う。今のこの国としては・・・だ。昔は良かった。人間も妖怪も互いに尊重し、互いを侵さないように気を使い合っていた。大樹様の顔を立てるためにも、今回は矛を収めた。

 

途中で山道を外れ獣道、それ以下の道を藪をかき分けて進む。河童の長老水虎河童が先頭を進む。付き従う者たちも各河川や山林領域のリーダー格ばかりだ。

 

地方だって山林開発で住処を奪われる一方だ。観光と言う名で水源を汚されることもあった。大樹様を疑っているわけじゃない。そう言うわけじゃないのだ。

 

彼らは洞窟の前で止まる。大きな岩で蓋をされている。

 

住処は奪われ続けている。今回は尊厳を奪われかけた。次は何を奪おうとする気なのか?

人間たちは・・・。大樹様は今も信じている。だが、人間は信じられない。

 

「岩をどけるのじゃ。」

 

水虎河童の指示で、ガラッパや他の者たちが岩をどける。

 

次は何を奪われる?否、次はない。次はないのだ。

 

洞窟の中から鈍色の輝きが見える。

 

「次はない、次はないのじゃ。これらを各地の同胞に・・・。」

 

洞窟の中に外の光が差し込み洞窟の中が露になる。

大砲や鉄砲、70年程前のあの戦争で使った古の武器がほとんど無傷の状態で積みあがっていた。

 

「我々はこれ以上は耐えない。次はないのじゃ。」

 

 

 

 



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182 平成 妖怪城のたんたん坊前編

 

 

 

 

さてさて、今日は朝からネギくんたちは雪広さんに誘われて南の島に行ってしまいました。

私やエヴァはお留守番ですね。エヴァも私も最近は比較的緩くなりましたが、さすがに海外へは色々手続きが大変なので学園長から土下座で勘弁してくれと言われたので諦めることにしました。

 

 

 

ただ国内に限っては、エヴァさんよりは私の方が制約は少ないのでね。ちょっとくらいなら遊びに行っても、多少目をつぶってもらえますのでね。

 

と言うわけでゲゲゲの森に遊びに行きます。

途中、妖怪横丁を見て回ってそこで簡単なお見上げを買って鬼太郎君のところにお邪魔します。ゲゲゲの森は幻想郷に入りそびれた妖精たちも結構住んでいるので近況確認も兼ねてますよ。

 

「こんにちは~。」

「おや、大樹様。どうかされましたか?」

「ちょっと暇だったので、遊びに来ただけですよ。」

 

目玉おやじに挨拶をしてお土産のべとべと亭のキャンディを渡す。新発売の妖怪花の実味とか言ったかしら。

 

「おや、飴ですか。」

「えぇ、道中でアマビエちゃんに会っておすすめを聞いたんですよ。」

 

私と目玉の親父が世間話をしていると、先客にいた猫娘の視線が飴の方に向かっているのに気が付く。女の子は好きですよねスイーツ。

 

「みなさんもどうぞ?」

「いただきます。」「どうも。」「いただくかの。」

 

鬼太郎君がお茶を入れている間に、猫娘が飴をお皿に入れる。

「なんか、夫婦みたいに息が合った動きですね。」って言ったらすごい猫娘が動揺していた。

照れ隠しに睨まれてしまった。

 

「ところで、私が来る前から何か話してたみたいだけど?どうしたのかしら?」

 

「あ、それは・・・」

 

何やら、最近妖怪の仕業と思われる子供の誘拐事件が続いているらしい。

ちょっと、首を突っ込んでもいいかな~。

 

「じゃあ、わたしも少し協力しましょうか。」

 

 

 

情報提供をしてくれた人間の子供に会いに行くわけですが・・・。

 

「鬼太郎!猫姉さ~ん!」

 

元気な声で彼らを呼ぶ少女。

あー、あの子が犬山まなさんか。なるほど、なるほど天童夢子とはまた違うタイプの子ですね。ですが、何か似てるところもありますね。妖怪に対する垣根が低いところとか・・・。

 

「猫姉さん?」

「まなが勝手にそう読んでるのよ。」

 

すでに、猫娘とも仲良くなっているのか。

いよいよ、夢子ちゃんを彷彿とさせるますね。

 

「ねぇ、この子は?」

「この方は大樹様と言ってとっても偉い神様なのじゃよ。」

 

「どうぞよろしくね。犬山さん。」

「まなでいいよ。大樹ちゃん・・・さん?」

 

いや~、久しぶりにちゃん付けされた気が、敬語でないのは久しぶり過ぎて何か新鮮。

まなさんから、10人近くの子供たちが消息を絶っていることを聞いた鬼太郎は彼女にこれ以上関わらない方がいいと釘を刺した。

 

 

「妖怪と人間は友達にはなれないよ。」

 

彼の言葉が胸に刺さる。

 

「妖怪の世界に近づいていけば、妖怪の方も近づいてしまう。」

 

そんなことは無い。それの何が悪いと言いたかった。だけど・・・

 

「でも本来は妖怪の世界と人間の世界は交わらない。」

 

自分が糊代の役割をしてくっ付けた結果、何が起こったかを覚えている。

 

「交わっちゃいけないものなんだ・・・。お化けや妖怪はちょっと離れてる方がちょうどいいのさ。」

 

これが、今どきの妖怪の考え方なのかな。

うん、なんだか悲しい想いが胸を締め付ける。

 

目玉おやじと目が合ったが目を逸らしてしまう。

なんだかんだで理由をつけて別行動で調べよう言って誤魔化して別れることに・・・。

 

 

なんだか、帰る気にならなくて町中をうろうろしていると。

 

「なんだ、大樹様じゃねーか。あんたみたいなご立派な方がこんな繁華街で何してんです?」

 

ん?ねずみ男?

 

「大樹様。夕飯はまだですかい?もしよかったら奢ってくれませんかね?ここ数日何も食べてなくて・・・。もちろん大樹様が食べたいもんでいいですよ!!へへっ」

 

じゃあ、蕎麦がいいですねと言ったところ。いい店知ってますと言って案内された蕎麦屋、店主がのっぺらぼうでした。彼も以前は人間に手を出して鬼太郎にやられて更生した妖怪なのです。

 

私も少々、心が揺らいでいたのでしょうね。ねずみ男相手にだいぶ酔っぱらって愚痴をこぼしていました。のっぺらぼうも店の暖簾を下ろして店の奥から日本酒の一升瓶を出してきました。

 

「俺は別に妖怪だ、人間だっていちいち何かする必要は有りも無しもないと思うぜ。離れ過ぎたら半妖の俺、生まれてないし。近いだ何だって言っても、親しき中にも礼儀ありを破った奴が痛い目見たってことだろ。」

 

「いろんな考えがあると思いますが、当人の問題でしょう。大樹様が深く悩むような事でもないですよ。」

「あー、なるようになるってことよ!」

 

すると、店の扉を激しくたたく音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

まなは建造中の五輪スタジアムの見学中にスタジアムの中央に不自然に生える石柱を見つける。その石柱は他の子たちには見えていなかった。まなは改めて夜になってから忍び込んで自分に見える石柱を調べるのだったが・・・。

 

「きゃああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラス戸が割れんばかりの音が聞こえる。

 

のっぺらぼうが扉を開けると妖怪赤舌を中心に雑多な妖怪たちが首を垂れていた。

 

「大樹様、御久しぶりでございます。たんたん坊様が御待ちしております。是非・・・お目通りください。」

 

赤舌を中心に集まっている妖怪たちは東北の妖怪。

東国鎮台の決起が迫っていると言うのか?まさか、ここ最近の子供の失踪は妖怪城の贄・・・。

ねずみ男はテーブルの陰に隠れているが、のっぺらぼうは調理器具を構えて私の前に立ちふさがった。

 

その心意気は買いますが、さすがにこの数は無理でしょう。

 

「赤舌・・・、わかりました。・・・案内しなさい。」

「大樹様、私も付いていきます。あまり良いことが起きる気がしないです。」

 

そう言って、のっぺらぼうはねずみ男も引きずってくる。

のっぺらぼう、平成になって変ったわね。

 

「いろいろありましたので・・・。」

 

 

赤舌に案内されて国立競技場に案内される。

そこには13本の石柱、人柱。

妖怪城。

そして、たんたん坊。

 

「お久しぶりです!大樹様!!」

 

そして、なぜそこに貴様がいる。

ぬらりひょん!

 

「久し振りですな。」

 

 

 

 



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183 平成 妖怪城のたんたん坊後編

 

 

東京のど真ん中で妖怪城が姿を見せる。

さすがにこれだけ大きければ、人間にも見えるだろう。

人間たちも異常に気が付いたか。警察が包囲を始めている。

 

「たんたん坊、自分が何をしているのかわかっているのですか?ぬらりひょんのような輩とつるんで!!」

 

大樹の一喝を受けて少しだけ仰け反ったがすぐにこちらを見据える。

 

「もちろんでございます!!大樹様!!この世は人間のほしいままに汚され、歪められ、傷付いています!!わしは思ったのです!!世界を元に戻すのです!!あの頃のように美しく!!真っ直ぐで、純粋な!!あの頃に戻すのだ!!悪しき人間どもは、この妖怪城で妖怪にして!!美しい世界を取り戻すのだ!!大樹様!!大樹様がまた、我らの頂点に君臨しあの頃に戻るのだ!!我々は戻るのだぁ!!」

 

たんたん坊が興奮しているのがわかる。最初は敬語だったのに言葉が崩れてきている。

 

「たんたん坊!!待つのです!!やめるのです!!そのようなことをしたところで、変わるほど世界は単純じゃないのです!!昔のように力技でなんとかなる時代じゃないのです!!」

 

たんたん坊は私の古くからの忠臣、ぬらりひょんの口車に乗せられているだけなのです。

 

「なぜ!?大樹様はそのようなことをおっしゃるか!!妖怪城さえあれば人間の軍勢など一捻りだぞぉ!!それにある程度事が進めば東北の妖怪たちも続々と決起する!!

どうして、我らとともに来てくれぬのか!?」

 

 

 

「たんたん坊!!まなをどこにやった!?」

 

鬼太郎が乗り込んできます。ってまなさん!?

 

「まなさんがどうかしたのですか!?」

「まなが攫われてあの柱に閉じ込められているんだ!!」

 

私と鬼太郎の話を聞いたたんたん坊が間に割って入る。

 

「あぁ!!わかった!!これは失礼をした!!」

 

たんたん坊が突然私に謝りだす。

 

「大樹様の寵愛を受けた子供がいたのか!!だから、あの様な事を仰る!!うむ、では寵愛なき愚かな人間どもを妖怪に変えてしまえばいい。代わりの子供を探せばよい!!」

 

「そういうことではっ!」

 

「大樹様を蔑ろにし、辱めた愚かな人間や何も知らずにのうのうと生きている愚か者などまとめて滅ぼしてやる!!そうすれば!!世界には貴女様を敬う者たちしか残らん!!元通りだぁ!!」

 

「たんたん坊殿。大樹様は人間社会に毒されてしまわれているようです。我々でお救いして差し上げねば。であれば、人間に味方するゲゲゲの鬼太郎を葬り去らねばなりません。」

 

ぬらりひょんの言葉にたんたん坊が大きく同意する。

 

「おぉ!!そうだったのか!!大樹様!!今、お救いしますぞぉ!!鬼太郎たちは殺せ!!大樹様はなるべく傷つけないように捕え・・・じゃない。保護するのだぁ!!者どもかかれ!!」

 

鬼太郎たちとたんたん坊の軍勢の戦いが始まる。

 

 

最初の競り合いでちゃんちゃんこを鋭くしてたんたん坊の脳天を貫く。

 

「ぐぉおおおおお!!」

 

しかし、たんたん坊はすぐに復活する。

 

「妖怪城の石柱のおかげで奴は不老不死なのか!!鬼太郎!!」

 

目玉おやじの声を受けて鬼太郎が石柱の方へ向かう。

 

「赤舌!!止めろぉ!!」

「うぉおおおおおお!!」

 

赤舌は鬼太郎を食べようと襲い掛かる。

鬼太郎は赤舌の水分を獄炎乱舞を使って倒す。何気に、承認時の先で閻魔大王の第一補佐官が「今、手が空いていないので幻想郷支部に回します。」って言ったのはネタかと思ったが、四季映姫が映って慌てて承認印押したのは、お役所なんだな~って思った。

 

獄炎乱舞でからからに干からびた赤舌は、鬼太郎に退けられ。鬼太郎は石柱を破壊する。

さらに獄炎乱舞の炎が妖怪城に燃え移ります。

 

「城が!?拙い!!お前ら、鬼太郎を抑えろ!!」

 

たんたん坊は配下の雑兵妖怪たちに命令して、口から妖怪城のコントローラーを吐き出し、操作し始める。

 

「早く!!早く!!助けに来い!!」

 

しかし、たんたん坊が妖怪城の操作をするよりも鬼太郎が地獄の炎を纏った指鉄砲で撃ち抜かれ、火だるまになって落ちていったのでした。

 

国立競技場が延焼し妖怪城もどこかへと姿を消した。

鬼太郎たちはまなさんを連れて、脱出した。私も後を追おうとしたのだが、たんたん坊の姿を見つける。火傷がひどく傷だらけだ。

 

「あぁ・・・大樹様・・・来てくださったのですね・・・。あぁ・・・これで・・・元通りだぁ。」

 

たんたん坊の目はすでに焦点が合っていない。せめて、最期くらいは・・・。

 

「そうですね・・・。これで大丈夫ですよ。」

 

「そういえば、あの頃も・・・理想郷を・・・壊そうと露助や鬼畜米英が襲ってきた・・・。あぁ・・・また敵が来る・・・儂らが守らんと・・・・・・ここを守らんといかん・・・なぁ・・・。」

 

彼は私の忠臣でした。少々頭が回らないだけで・・・、悪い奴じゃなかったんですよね。

 

「大丈夫ですよ。私が何とかしますから・・・。」

「ほんとうですかぁ・・・・・・・・・それ・・・な・・・ら・・・あん・・・し・・・ん・・・・・・だぁ・・・。」

 

どうして、こんなことに・・・このままじゃいけない。何とかしないと・・・私が何とかしないと・・・。

 

 

 

 

騒ぎに紛れて脱出したぬらりひょんであるが、気に掛ける朱の盆に対して大きな声で哂って応じた。

 

「旦那、これですかい。」

 

そう言ってカマイタチがぬらりひょんに妖怪城のコントローラーを渡す。

 

「あぁ、そうだ。これだよ。たんたん坊の奴、なかなかこれの在処を吐かなくてな。だが、ようやく手に入れたぞ。」

 

ぬらりひょんはカマイタチから受け取ったコントローラーを地面に刺し、コントローラーが反応する。

 

音を立てて妖怪城が姿を現す。

 

「焼け落ちた部分は妖怪城のほんの一部、すぐに修理できる。見よこれが妖怪城の真の姿だ。」

 

ぬらりひょんの声に合わせて妖怪城の本体が禍々し姿を見せたのだった。

 

「あれこそが妖怪城の本体・・・パワーの源なのだ。」

 

火・風・水・土の天守が姿を見せる。

 

「鬼太郎・・・お前のおかげで妖怪城を手に入れることができたぞ。ぬははははははは!!!」

 

 

 



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184 平成 魔なる者たちの襲撃前編

 

 

「ここまでだ!」

「ふふふ、どうでしょうか」

 

天狗ポリスの天狗たちを一瞬で石に変えた女。

蛇女ゴーゴン。

 

「日本の治安の守り手はこんなに弱いなんて・・・情けないですわ。」

 

「なーにかっこつけてんのよ!ベアード様と姫様から命令が来てるでしょ!!鬼太郎を石にして連れて来いって!!」

 

そのゴーゴンに挑発的に問い詰めたのは魔女ザンビアだ。

 

「なのに何のんびりしちゃってるわけ?」

「私が何年も日本に潜伏していたのはもともと別の目的の為ですもの。急に鬼太郎を倒せと言われても色々と準備が必要なんですの。それに、近々私の親しい友人が尋ねてくるのよ。そっちが先ですわ。」

 

自分の敬愛する上司を後回しにされたザンビアはゴーゴンに悪口を言ってしまう。

 

「アンタみたいな時代遅れのおばさんに頼まなくても、鬼太郎なら私が!!」

 

「お子様には無理ですわ。それにこれ以上私を侮辱するのは許しません。」

ゴーゴンの目が光る。

 

「ふっふ~んだ!!そんな時代遅れな戦法に!そ~れ!アパラチャカニラチャノモゲーター!」

ザンビアは定石通りの鏡の対処法でゴーゴンに対抗するのだが・・・。

 

石にされてしまう。

 

「そう、石にされても意識はあるの。このまま砕かれたら痛いですよ。」

 

ゴーゴンはザンビアを持ち上げて言う。

 

「私の部下が失礼をしました。さすがにそれ以上はご容赦願いたいですね。」

「あら、プリンセス。ご覧になっていたので?どうしてそこに?」

 

路地の裏からさとり・K・ベアードが姿を見せ、ゴーゴンの問いにさとりは表情一つ変えずに答える。

 

「悪魔の貴族がいらっしゃると聞いてご挨拶を。あ、そうでした。私たちの方は彼の件が住んでからでいいですよ。」

「あら、さすがは西洋妖怪のプリンセス。事情通ですわね。そう、今日は私の古い友人が訪ねてきてくださるのヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン。爵位持ちの貴族悪魔の方がね。」

 

さらに物陰からもう一つの影が現れ会話に加わる。

 

「おや、メデューサ?迎えに来てくれたのかね。うれしいよ・・・。ところで、彼女はバックベアードの・・・。」

「そう、さとり様・・・ベアード様の御長女様よ。」

 

ヘルマンがそう言うとゴーゴンが彼にしなだれかかる。

ゴーゴンは悪魔ヘルマンの現地妻なのだ。

 

「ほぉ・・・そうであったか。これは失礼、ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン氏がない没落貴族ですよ。少しばかりこちらでお世話になります。よろしく、プリンセス。」

 

「では、プリンセス。これから私のホテルでディナーなどいかがです?」

 

「・・・・・・。」

 

悟りが言葉を濁しているとゴーゴンが「これは失礼。」とザンビアの石化を解く。

 

「っひ!?」

 

石化を解かれたザンビアが慌ててさとりの服の裾を握って、背に隠れる。

 

「あらあら。」

「多少邪気を抜かれたのでしょうな。」

「ふふふ。」

 

ゴーゴンとヘルマンは面白いものを見たと言わんばかりだ。さとりも面白がっている様子だった。

 

さとりは2人の誘いに乗り会食に応じる。ザンビアも同席しているが邪気を抜かれた影響か借りてきた猫のようにおとなしい。さとりも普段からこれくらいならちょうどいいのですがなどと思いながら、視界の隅に追いやり2人と歓談を進める。

 

「では、ヘルマン殿は新しい契約に基づいて麻帆良を襲撃すると・・・。ゴーゴンはそれの手伝いですか。」

 

「概ねその通りですな。」

「できれば、プリンセスにも手を貸してほしいのですけど・・・」

 

「そうですね。せっかく日本にいるのに御祖母様に会えないのはさみしいですもの。いい機会ですし私も麻帆良にちょっかいを出そうかしら?」

 

「よ、よろしいのですか姫様?ベアード様からのご命令では・・・。」

「いいのよ。あの計画はヴィクター・フランケンシュタインの主導ですから、補佐の私たちが手を抜いても支障はないわ。ヘルマン卿のお遊びにお邪魔させていただく手前、御膳立てくらいはしないといけないでしょう?」

 

 

 

 

 

 

「ではさとり様。いってらっしゃいませ。」

「さとり様、いってらっしゃい。」

 

空とお燐現在進行中の計画の補佐に残して、息抜きと相手の麻帆良襲撃の為にヤングジェネレーションズを率いて麻帆良へ向かうのだった。

 

「ヤングジェネレーションズ、着いてらっしゃい。」

「「「っは」」」

 

 

道中で狗族の少年をいたぶっているヘルマン卿とゴーゴンを見つけたさとりは声をかける。

 

「あら、これは余興ですか。」

「あぁ、余興だよ。」

 

さとりとヘルマンらが話込んでいる間に狗族の少年は姿を消していた。

 

「よかったのですか?」

「余興ですから、これから起こる事へのちょっとしたスパイスだよ。」

「刺激的ですわ。」

 

 

 

 

「貴女も日本住まいは長いのでしたね。麻帆良にも不動産があるなんてねぇ。」

「麻帆良の土地も戦後直後の混乱してた時期に資産家として買ったものですので少し古いですがなかなかいい物件ですわ。」

 

さとりの問いになんてことないと言った空気を出して答える。

 

「しかし、姉妹喧嘩で日々争っている貴女が、それ以外のことで積極的になろうとはね。」

「それはそうですよ。今の私、お姉さま方に一歩先んじたんですもの。」

 

女なれば、この優位は大きいですか。

 

「ヘルマン卿ですか?」

「あら、わかります。ちゃんとした恋人を得たのは女として最大の優位ですもの。」

 

ここはお祝いの言葉を送っておきますか。

 

「石像作りの趣味は同じですからね。お似合いですよ。」

「あら、お褒めに預かり光栄ですわ。」

「ははは。」

 

ヘルマン卿はゴーゴンを遊び相手にしか考えていなさそうですが、そこはおいておきましょう。さて、行きましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「犬上小太郎は懲罰のために能力の一部を封じられているわ。」

「これなら楽勝じゃな~い。」

「ヘルマン卿、ご命令の変更は?」

 

さとりより遣わされたヤングジェネレーションズの3人を率いたヘルマンが彼らに指示を出す。

 

「変更はないよ。君たちは予定通り作戦を実施したまえ。それと、闇の福音には気を付けた、まえ。介入されると作戦を大幅に変更しなくてはいけないからね。」

「お任せください、主の名誉を汚す真似は致しません。」

 

ヘルマンの指示に3人の代表として了承の意を示すドラキュラⅢ世。

彼らは行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

「で、最初の仕事が入浴中の女子を誘拐するってやつだけど?」

「・・・いや・・・命令だし・・・。」

「美女を誘拐するというのは王道じゃないか。たまには、こういうのもいいじゃないか。」

 

 

ザンビアの不満混じりのツッコミにバツが悪そうに言葉を濁す狼男のワイルドとは対照的に美女に目がないドラキュラ三世はノリノリだ。本人は隠しているつもりだろうが、口元がわずかに緩んでいた。

 

「おい、エセイケメン…キモいのよ。顔がやらしいのよ。」

「んな!?と、とにかく!!姫様からのご命令だ!!小娘どもをヘルマン卿のところまで連れて行くぞ!!」

 

痛いところを疲れたドラキュラ三世は大声をあげて胡麻化して、話を区切る。

だが、ザンビアに言われて事を気にしてか。誘拐ではなく連れていく等、言い回しを変えていた。ただ、大浴場の脱衣場での会話なのだから、どう考えても閉まらないものがあるのだが…。

 

「アパラチャカニラチャノモゲーター!・・・・・・スライムにやらせていいでしょ。」

 

ザンビアはスライムを召喚し浴場に侵入させる。

 

「もったいない、もう少し遊んでも・・・。」

「なんか言った?」

「いや何でもない。」

「ドラキュラ三世・・・その女癖、少し直した方がいいわよ。」

「っく」

 

 

ザンビアに絶対零度の視線を向けられ、ワイルドにも呆れの視線を向けられたドラキュラ三世は肩身が狭そうに俯いた。

 

 

 

 

 

 

「アデアッっ」

「さて、神鳴流の剣士と聞いていましたが不意を打たれては手も足も出ないと言ったところですか?」

 

ゴーゴンは石化した刹那の頭を持ち上げる。

 

「あら、最近の石化は意識が残るのですよ?驚きましたか?貴女の友人方やお嬢様とやら酷い目に合うのを特等席で見ると言うのはいかがですか?我ながら楽しい趣向と思いますよ。」

 

ゴーゴンは石化した少女を引きずってヘルマンの下へ向かう。

 

 

 

 

雨の中、女子寮の中からネギが飛び出していったのを確認したさとりは瓶の蓋を開ける。

中から出てきたスライムたちが少女の形を取り始める。

 

「さて、スライムさんたちお仕事ですよ。」

「「「ラジャー」」」

 

 

 

 



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185 平成 魔なる者たちの襲撃後編

 

「石化させてしまったのかい?」

「剣士は自由にさせると面倒なのよ。体術も結構使えるし・・・。」

 

誘拐した少女を石化させた状態で連れてきたゴーゴンに少し不満を持ったヘルマンだったが、すでにさらった少女たちの怯えた姿を見て「まぁ、これはこれで」と思い直してネギたちの到着を待つ。

 

「そういえば、ゴーゴンさん?鬼太郎にマークされているって聞きましたが?」

「それなら、一応大丈夫ですわ。今日明日でバレるようなミスはありませんよ。それに、この後は私の番ですからお楽しみにですわ。姫様。」

「何か、催しが?」

「えぇ、麻帆良祭で狂宴をお見せできますわ。」

 

トントンとゴーゴンが足元を靴で示す。

 

「さすがはゴーゴンさんです。楽しみにしていますよ。」

 

 

 

 

 

 

『魔法の射手!!戒めの風矢!!』

 

魔法攻撃をヘルマンが片手で防ぐ。そして、向かい合う様にネギと小太郎が構える。

ヘルマンは手始めにザンビアが召喚したものを含めたスライムたちをけしかける。

とは言え、スライムたちは雑兵枠だ。難なくではないが順当にネギと小太郎がヘルマンに迫る。

 

その様子を観戦していたさとりであったが、上空の方に視線をやってから何かに気が付いたようにゴーゴンに声をかける。

 

「舞台は整えると言いましたからね。少し、外しますよ。」

「そうでしたね。では、お願いしますわ。」

 

そう言って、ヤングジェネレーションズの3人を連れてその場を離れる。

 

いわゆる空中戦だ。飛行能力のない狼男のワイルドは魔女ザンビアの補助を受けて浮遊している。私たちの周囲にゾンビフェアリー、吸血蝙蝠、パンプキンと言った飛行可能な雑兵たちを展開させる。

彼らの視界には騒ぎを聞きつけた麻帆良の魔法使い達が集まってきていた。

 

「麻帆良の警備要員ですか。皆さん、前哨戦です。お相手して差し上げなさい。」

「「「っは!」」」

 

 

 

 

 

スライムたちを全滅させたネギと小太郎はヘルマンと直接対峙するが封印の手立ては逆に封じられ、本性をさらしたヘルマンに圧倒されつつあった。

ヘルマンの真の姿に見惚れていたゴーゴンは捕えていた少女たちの魔法発動を許してしまう。

 

「「「「「火よ灯れ!!(アールデスカット!!)」」」」」

 

脱出した彼女たちは明日菜を利用した魔法封印術式を解除し残る雑兵スライムを蹴散らした。

 

そして、ヘルマン自身もネギと小太郎の連携で押され

 

「雷の斧!!!(ディオス・テュコス!!!)」

 

倒された。

 

 

上空で一進一退の攻防を繰り広げるヤングジェネレーションズと麻帆良の魔法使い達。

 

その中央で対峙するさとりと大樹。

二人の間を激しい弾幕が行き交う。

 

「お祖母様・・・人間の業を背負う必要は有りません。人と妖怪の間を繋ぐ人間はもういない。かつての様な理解ある人間はもういないのです。」

「さとり、貴女は性急だと思います。まだ、繋ぎ手の成りてはいます。」

 

「そうやって、人間に希望を見出し潰え、その繰り返し・・・もうこの流れは変わりませんよ。今、この世界を牛耳る人間どもはゴミだと聡明はお祖母様なら分かるはずです。」

「っ・・・人間は貴女が思うほど。愚かな存在ではありません。」

 

地上ではネギと小太郎、そして生徒たちが協力してヘルマンを倒す様子がうかがえた。

さらに大樹が助けを求めたゲゲゲの鬼太郎も一反木綿に乗って向かってくる様子がうかがえた。

 

「ここまでのようですよ。もう、下がりなさい。」

 

大樹の言葉にさとりはおとなしく従うようだが捨て台詞ともとれる言葉を放つ。

 

「私たちはここで引き揚げましょう。ですが・・・もういくつか波乱が起こりそうですよ。」

 

そう言って、さとりはヤングジェネレーションズを連れて撤退していった。

撤退するさとりたちを大樹は見つめていた。

 

「大樹様、遅くなりました。」

「少々、入るときに手間取りましての。」

 

鬼太郎と目玉おやじの言葉に、暴力こそ無かったが手間取ったのだろうと察した大樹は魔法使いたちに視線を向ける。負い目もあるのだろうが魔法使いたちは目を逸らした。

 

「いえ、今からでも十分そうです。」

 

大樹はゴーゴンに視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘルマンを倒し喜び合うネギたち。

 

「おう!ネギ!」「小太郎君!」

「やったアル!」「明日菜大丈夫?」「なんとか・・・」

「勝てたです。」「やった!」

 

 

そんな彼らの前に少女の石像が投げられる。

 

「せっちゃん!?」

 

石化された刹那が転がされる。

 

「あぁ、ヘルマン卿・・・オネエサマタチにジマンデキルト思ったのに!!オマエタチ!ユルサナイ!ユルサナイ!!ユルサナイ!!憎い!ニクイ!!忌々しい!!こうなったら、邪心の塊をここにオトシテやる!!」

 

髪の毛一本一本が蛇になっているギリシャの神格級の妖怪ゴーゴンが真の姿をさらしたのだった。そして、ゴーゴンの用意した邪心の塊が巨大な渦を巻いていた。

 

「姉ちゃんたち!俺とネギの後ろに隠れときぃ!」

「皆さん僕らの後ろに!!」

 

ネギと小太郎が生徒たちを守るために前へ出て構える。

その前にエヴァンジェリンが立ち声をかける。

 

「神格級の蛇女の相手はガキには荷が勝ちすぎるだろうが!お前らも下がれ!!大樹!!鬼太郎の準備はできてるのか!?」

「もちろんです!!地獄のカギを開いてください!!私たちの補助があれば被害は抑えられます!!」

 

エヴァが上空に声を上げると大樹の返事が返る。

 

 

「フハハハハハ!!タノシミダワ!!オネエサマたちが2千年前にホロボシタノはアレキサンドリアの町だったカシラ!!ここだったら3万人死ぬかしら、ソレモ若い男女バカリがフヒャヒャヒャ!!」

 

ゴーゴンの狂った嗤いが響く。

 

「任せてください!地獄究極奥義!!獄炎乱舞!!うりゃあああああああ!!」

「ミナゴロシヨォオオオオ!!!」

 

 

ゴーゴンの邪心の塊を鬼太郎の地獄の炎が飲み込んでいく。

 

「エヴァ!!」

「任せろ!!全てのものを妙なる氷牢に閉じよ!!(オムニア・イン マグニフィケ・カルケレ グラキエーイ・インクルーディテ)」

 

地獄の炎に飲み込まれたゴーゴンを炎ごと氷に封じるが地獄の炎で溶けて炎が漏れ出す。

 

「さすがは地獄の炎…もう一度だ!全てのものを妙なる氷牢に閉じよ!!(オムニア・イン マグニフィケ・カルケレ グラキエーイ・インクルーディテ)・・・あぁ!クソ!大樹!!魔力補助だ!!何度もやらんと抑えきれん!!近衛の娘も魔力補充を手伝え!!あれを倒せば桜咲の石化も解ける!!」

 

「わかりましたよ!」「わかったぇ!」

 

 

その後、10回以上もこおるせかいを発動させ漸く抑え込んだのだった。

 

 

 

 

 

そして、どこかの西洋妖怪軍団の拠点では…。

 

新四天王として取り立てた狼男のヴォルフガング、吸血鬼のカミーラ、マッドサイエンティストのヴィクター・フランケンシュタイン、魔女アデルが控え、参謀のヨナルデ・パズトーリが並ぶ空間で、麻帆良での戦闘を覗き見ていたバック・ベアード。

 

「グレイトだ…地獄のカギ…。それに、注意すべきは大樹野槌水御神や闇の福音に鬼太郎だけではないことも分かった。ゴーゴンとあの悪魔を捨て駒にした収穫は多い。魔法世界の英雄の息子、そしてそのパートナーたちも警戒するに値するな。どういった形で関わるかは分らんがいずれ相対することになろう。お前たち、気を抜く出ないぞ。」

 

「「「「「っは!」」」」」

 

 

 

 



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186 平成 襲来!西洋妖怪!!

 3-Aに存在する幽霊相坂さよは地縛霊となって60年経つ、別段悪さをしたいとも思わずそれどころか誰かと友達になりたいと思っている。

 

 しかしさよ自身が暗い性格であり、幽霊なのに夜の学校が怖く学園都市内のコンビニで朝が来るまで待つと言う変わった幽霊である。

 

のだが・・・

 

 

「最近全く見かけないと思ったら・・・。なんかとんでもないことになっているな・・・。」

 

私が持って来た手紙を見て、エヴァはジト目でこちらを睨みつけてくる。

ちなみに、生前の彼女と面識を持つ近衛門は白目をむいている。別に死んでいるわけではない。

 

「だいぶ前に、お前が積極的に話しかけていたのは知っていたが・・・。大樹、お前は仲人おばちゃんか!?」

 

エヴァはビシッと手紙を指さす。

そこには・・・。

 

『私たち結婚しました!』の文字と新婚旅行感を前面に出した男女のツーショット写真。

ちなみに、これが届いたのは半年以上前だ。

 

ついでに、つい2・3日前に悪霊騒動を経て今はクラスメイトの朝倉和美の守護霊をやっている。

 

「そりゃあ、60年誰にも相手にされていない彼女がようやっとクラスメイトの中に入り込めたんだ。よかったなってなるだろうさ。これを見つけなきゃな!!」

 

エヴァはさらにまくし立ててくる。

 

「朝倉和美の守護霊になった。まぁ、いい。夫婦そろって守護霊になるってどうよ。」

「仲睦まじいことでよいではないですか。それに、道真は妖精の梅林を愛妾に囲ってるじゃない。でも、彼はいい人いなかったから・・・。」

 

エヴァは呆れた様子で話してくる。

 

「おまえに悪気があったとは思わん。相坂も学生の成りだが年齢的にはいい年だ・・・・・・でもな。自分の生徒に日本三大怨霊の一人である平将門と結婚させるのはどうかと思うぞ。」

 

「亡霊同士とはいえ積極的に話せる相手を見つけたことで、学校でも友達を作ろうと前向きになったのですから・・・結果往来ですよ。」

 

将門塚では戦前か戦後の古い制服を着た女学生の例が目撃されるようになったのでした。

自分の夫と将門をさよに紹介された朝倉和美も顔を引きつらせていたのは麻帆良的には笑い話だ。ある意味、認識疎外の結界に助けられた様な気がする。結界ナシなら発狂しそうだと言うのはエヴァの談。

 

 

ぼちぼち麻帆良学園祭の準備期間となりまして、この麻帆良の街も慌ただしくなってきましたね。準備期間中も茶々丸さんの付喪神化がずんずん進んでいましたね。感情豊かといいますか。ただ妖気を感じないので、付喪神というより昨今のSF的なAIの自我の目覚めみたいなものなのでしょうか。

 

余談ですが、麻帆良の外ではねずみ男が石妖と入籍しかけた時にひと騒動ありましたね。

昭和から会う頻度が落ちたとはいえぐわごぜの娘のカロリーヌちゃんと清い交際をしていたことを忘れてたのかしら?あいつビジネスからむと回り見えなくなるから・・・。

 

しかし、麻帆良の学園祭は学園都市で大規模にやるから注目度が高いのよね。西洋妖怪に中国妖怪、日本妖怪の過激派も行動するなら絶好のタイミング。

少しばかり鬼太郎君のところにも顔を出しておこうかしら。

 

妖怪横丁で蒼坊主と呼子に会う。

蒼坊主は全国行脚のたびに出て各地の様子を探っている。

 

「南方妖怪は組織としてはもうバラバラ。難民になってこっちに来たのまでいる。独立独歩なのは沖縄くらいなもんだぜ。西洋妖怪の奴ら東南アジアの妖怪たちに臣忠を迫ってる。もうピーなんかは下ったって話しだ。それに外地の日本妖怪たちも勢力を盛り返しているみたいだ。南方妖怪の中にはこっちに下った奴らも結構いる。噂じゃあ西洋妖怪、それもバック・ベアードの本隊が日本に向かっているらしい。」

「あぁ、東南アジアの親米政権が転覆しているのはその影響かしら?」

 

私と蒼坊主が難しい話をしていると興味なさそうにしていた呼子が鬼太郎たちを見つけて大声で呼びかける。

 

「やっほーーーー!!鬼太郎!!」(呼子)

 

呼子同様に私たちの会話にまったく興味を示さなかったもう一人の同行者小太郎君。

方向音痴な蒼坊主、麻帆良の外の常識に関して若干のずれがある私、エスコートに呼子もいたのですがちょっと不安があったので暇そうにしていた彼を連れてきてしまいましたよ。そういえば、彼は半妖だからなし崩し的に察してるけど。他の子たちには誰にも教えてないんだよね。まぁ、そのうち気付くでしょう。

それはさておき。

人間を連れてくると怪訝そうな顔をする妖怪もいますので、半妖の彼なら適役ですよね。ねずみ男という選択肢もありましたが、一緒に行くなら容姿も大切でしょ。あいつ臭いし。

 

「大樹様、結構きついですね。」

「あら、口に出てた?」

 

蒼坊主は苦笑いを浮かべて言ってくるのに対して、口を押えて微笑んでごまかす。

そして、妙な気配を感じる。

 

 

「こいつは・・・。」

「蒼坊主、小太郎君・・・急ぎましょう。呼子は他のみんなに知らせてきて。」

「せやな・・・。」

「わかった!」

 

 

 

 

タイミングが良いのか悪いのか。

鬼太郎君たちボロボロじゃないですか?鬼太郎君以外は満身創痍、動けそうにありません。

ゲゲゲの森に雑兵なしでの攻め入るとは、この人狼・・・相当強い。

 

私の左右で蒼坊主と小太郎君は戦闘の構えを取ります。

私たちが少し前に出て捕らわれた鬼太郎たちと南方妖怪を庇う様に立ちふさがる。

南方妖怪たち話しで聞いていたより少ない。おそらくは目の前のこいつにやられましたか。

 

「貴方、ベアードの手のものか?見たところ幹部階級のようですが・・・貴方の様に強硬なものを取り立てるとはベアードめ何を考えているのやら。」

 

情報を引き出すために少々の挑発をすると軽口交じりに相手は挑発に反応する。

 

「これはこれは旧同盟勢力の長で在らせられます大樹野槌水御神様・・・お初にお目にかかります。ヴォルフガング・ジェボーダン、西洋妖怪軍団新四天王を拝命しております。」

 

「さようですか。日本は我が膝元、さらに言えばそこの長耳も連合帝国由来の庇護下。貴様、私の顔に泥を塗るか。」

 

「そのような意図はありませんが、今となっては貴女様の御手も南方までは広がってはおりますまい。日本ですら包み切れてなさそうですな。・・・これは失礼。失礼ついでに私はここで仕事に戻らせてもらいましょう。アニエス様を連れて帰らねばなりません。」

 

微妙に状況を読めませんが鬼太郎たちがアイコンタクトでダメだと合図を送ってくる。

 

「そう言うわけにもいかせられないようですよ。」

「では、私も実力行使とさせていただきます!」

「っく、蒼坊主!小太郎君!!あと、きついでしょうが鬼太郎君も手を貸してくださいよ!!わたし、ひとりだと少々自信がありませんからね!!」

 

 

私の声を合図に私含めて四人でヴォルフガングと戦う。

しかし、いわゆる鬼太郎ファミリーを圧倒した奴を相手にするのはきつ過ぎます。

私たちも負けてはいませんが勝ちでもない。拮抗してしまっています。参りましたね。

 

「これを!!」

 

状況はわかりませんが魔女の少女が鬼太郎に何かを投げ渡しています。

あれは、銀の銃弾!

 

なるほど、狼男は銀の銃弾が弱点でした。

鬼太郎君の銀弾指鉄砲でヴォルフガングを撃退します。

しかし倒すことはかなわず。転移の魔法で逃げられてしまいます。

 

「アデルに伝えて・・・私は運命と戦う。」

 

アデル・・・アニエス・・・聞いた名前ですね。

・・・あ・・・面識はないですが・・・。

 

「貴女はもしや、アルカナの家の者か?ブリガドーンとなにか関りがあるのですか?」

私の言葉にものすごい勢いで振り返る少女(アニエス)。

 

「ブリガドーンやアルカナを知っているの!?」

 

「だいぶ情報は古いですが、多少は・・・ですけどね。ブリガドーンはある意味彼らにとっては核のようなもの、質の悪い大量破壊兵器です。アルカナの血はそのカギです。」

「確かに、ブリガドーンは昔のカギは指輪じゃなくて血液そのものだったわ。貴女はいったい?」

「大樹野槌水御神、100年程前はベアードとも蜜月でしたので古い情報ならかなり持ってますよ。アニエスさん、事象を聞かせてもらえますか?内容によっては力になれると思いますよ。」

 

大樹の名乗りを聞いて目を丸くして驚くアニエス。

 

「貴女が、東洋の支配者・・・大樹。」

「元ですよ・・・。」

 

 

 



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187 平成 嵐の前

「さとり様、軍団本隊の件でご報告があります。」

 

自身の最側近である火炎猫お燐がいくつかの書類を携えて報告に現れた。

 

「お父様が来ることは把握していますし、東南アジア諸国で人妖双方で動きがあることも把握しています。ゴーゴンの勝手働きの尻拭いで煩わしいのです。それにあえて乗った私も強くは言えませんが些事は省いて欲しいのですけどね・・・。」

 

さとりは把握しているとお燐の報告を省こうとしたのだが、お燐は続ける。

 

「さとり様、本隊先遣の新四天王がゲゲゲの森を奇襲したのをご存じですか?」

「続けなさい。」

 

さとりは手で追い払うしぐさを促すしぐさに変えて続けさせ、お燐から受け取った書類に目を通す。

 

「南方支配領域の反逆者追討という建前ですが・・・その実・・・。」

「身内の失態か。」

 

さとりの読んでいる報告書にはブリガドーンのコアが新四天王の最上位者である魔女アデルの妹アニエスによって盗まれたことが記載されていた。

確か、その少し前に彼女たちの母親がブリガドーンの贄としてインドネシアで起爆していたのを思い出す。確かあの地域は反抗的で独立した勢力が抑えていた場所だ。インドネシア政府は独立初期のような妖怪に忖度する様なことはなく、態度を硬化させ米国などにすり寄っていた。ブリガドーンの発動は妖怪への態度を硬化する東南アジア諸国に対する警告を兼ねたものでもあった。インドネシア政府は地震による津波被害として発表している。このブリガドーンによる人間への被害は1万近くインドネシア政府は米国と距離を置き、我々に近い南方妖怪へ取次ぎを求めているありさまだ。

 

「お父様から、彼らを援護するような指示はあったかしら?」

「いえ、特には・・・。」

「じゃあ、お父様からの命令は当初の予定通りね。ブリガドーン計画とあの計画は完全に別枠ですからね。どちらが本命かは知りませんが、どちらもかなり強引な気はしますが・・・。今は世界が大きく動いています。私たち西洋妖怪も今は動くときということでしょう。人間たちもこざかしく動き回っているようです。」

 

『アメリカ第7艦隊は西太平洋上にてアメリカ第3艦隊と演習を行う計画を発表。すでに両艦隊は合流地点へ向かうために母校を出港したとの情報が・・・。』

 

ニュースの映像が流れる。

 

「さて、関係各所に連絡調整かしらね。確かお祖母様も日本の半分を再掌握したと聞いていますし、日本妖怪のぬらりひょんも何やらせかせかと動き回っているようです。何か大きなことが起きたり起こしたりしそうですね。お燐。」

「はい、さとり様。」

 

 

 

西洋妖怪軍団本隊

 

「申し訳ありませんでしたベアード様。」

「次こそは必ず。」

 

四天王のリーダー格である魔女アデルが最初に頭を下げ、続いて人狼ヴォルフガングが続く。

 

「いえ、次は我々四天王全員が・・・。」

 

そうアデルが言おうとするのをベアードが遮った。

 

「いや待て。ゲゲゲの森を攻撃することも、アルカナの指輪も必要だがもう一つの計画も進めなくてはならん。ゲゲゲの森だけと言うような単一目標ではダメだ。攻撃目標は日本国首都東京とその周辺各都市!!日本妖怪、否!日本の首根っこを押さえ付け、さらにその奥深くをも手中に収めるのだ!!ヨナルデ!!」

 

ベアードの呼び声に応じたヨナルデ・パズトーリが声を上げる。

 

「占領下の南方妖怪たちは先鋒として編成は完了。オセアニア方面軍は現在北上中、レティ・ホワイトロックは中国妖怪の抑えに対して快諾の旨が届いております。細かい取り決めは無いですが刑部狸率いる外地日本妖怪も大枠協調することに異存なし。姫様の軍勢も行動を開始するとのこと。我が軍団も四天王の皆様以外の諸兵力を含めすでにご命令を待つばかりにございます。」

 

ヨナルデの返答に満足げに頷くベアード。

ベアードは全軍に号令をかける。

 

「そうか。ならば・・・征け!我が精強なる軍団よ!!」

「「「「「ベアード様の御名の下に!!!」」」」」

 

 

 

 

 

日本国首相官邸

 

「奴良先生。情報提供、非常に感謝しております。先生の様にそういった関係に通じた方にご助力いただけて非常に助かります。」

 

日本国の連舫首相の前に座っている奴良を名乗ってはいるが日本妖怪の総大将を自称する大妖怪ぬらりひょんだ。

自身の計画のためにも西洋妖怪も大樹の勢力も日本国もまとめて揺さぶってやらんとする意図を伺える。

 

「いえいえ、日本の危機・・・国体護持の為にこの老体がお役に立つなら何より。して、総理?策はあるのですかな?」

 

ぬらりひょんに促されるままに答える連舫首相。

 

「対妖怪の武器はいまだ開発途上ですが・・・」

「おや・・・。」

 

「幸いにも、東太平洋上でアメリカ合衆国の二つの艦隊が演習中。我が国には日米安保条約というものがありますので・・・使い時といったところと考えております。もちろん、襲撃が予想される地域は政府が総力を挙げて対処に当たる予定ですが・・・。」

 

ぬらりひょんは満足げに頷くのであった。

 

「それなら安心というものですな。」

 

「国際学園都市である麻帆良の学園祭は都市規模のイベントです。その経済効果は万博や五輪に並ぶ大規模なものです。それを妖怪如きに邪魔をされるわけにはいきませんので・・・。」

 

 

 

 

 

南洋諸島旧日本妖怪軍根拠地。

 

軍装の妖狸や天狗、妖精たちが慌ただしく動き回っている。

複数の軍艦に木箱や鉄箱が積み込まれる。

 

そう言った物資の一つである木箱を境に大妖狸隠神刑部狸と部下の妖怪が挟むように向かい合っている妖怪兎たち。

 

刑部狸の部下たちが箱を開けて中身を確認し終えると、刑部狸が妖怪兎から渡された書類にサインをする。

 

「確かに、月の都防衛隊より武器の受領を確認した。月の御女神様に最上級の感謝を・・・。必ずや地上を大樹の御代に戻すことかないましょう」

「それは良いことです。月夜見様も綿月様も喜ばれましょう。」

 

 

 

 

 

 

「戦 民草 根無し草 燃え広がりて焼け野原。憎しみこそが こよなき甘露。」

面を被った黒い影がつぶやく。

 

 

 

 

 



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188 平成 麻帆良学園祭

 

 

あれから数日。

 

日本政府も麻帆良学園もいくつかの理由で学園祭を中止するには至らず強行することとなる。テロ警戒の名の下に、連舫首相は警戒警備の為、完全武装の警察官を街頭に立たせ。自衛隊も即応態勢に入っていた。無論、在日米軍も合衆国本国とその後ろにいる魔法世界の影響で有事には介入する気でいるようだ。

 

 

 

そんな首都圏の物々しさなど関係ないと言わんばかりに麻帆良祭は開催されるのでした。

 

生徒の皆さんも出店者側としても客として、銘々思い思いに楽しんでいるようでした。

 

 

 

警備要員に回されなかった私としては実質休日のようなもので、何をしていてもいいわけで・・・。

 

こういった時期だから・・・少々気になることが多いのですよ。

 

午前中は麻帆良で過ごすとして、午後からは敢えて麻帆良の外で過ごしてしまうのも良いでしょうね。

 

 

 

さて、まずは3-Aのお化け屋敷などを見て回るのも良いでしょう。

 

 

 

「わぁああああ!?」「きゃあああ!!」

 

 

 

結構本格的な様子・・・さすがですね。

 

 

 

「先生!こっちに来てたんですね!」

 

 

 

そう声をかけてきたのは明日奈さん。刹那さんが頭を下げて挨拶。

 

さらに木乃香さんからご提案も・・・。

 

 

 

「あ、大樹先生。うち・・・そこで占いやってんねんよ。占ってみん?」

 

「それは、面白そうですね。是非に・・・。」

 

 

 

そう私が答えると、そこにネギくんが突っ込んできます。

 

私たちはさっと避けたのですが、ネギくん・・・明日奈さんの胸にダイブ。

 

か~らの・・・後はお察しです。

 

 

 

しかし、ネギ君お疲れですね。

 

 

 

「ネギ君?さすがに徹夜は堪えましたか?」

 

「は、はい・・・少し。」

 

「無理はいけませんよ。保健室で休むとよいですよ。私が連れて行ってあげましょう。」

 

 

 

私がネギ君を保健室に連れてこうとしたのですが・・・。

 

おっと、さすがに私の体格ではネギ君の支えになるのはつらいですね。

 

 

 

「大樹先生、私もついていきます。」

 

「刹那さん。ありがとう助かります。」

 

 

 

明日奈さんと木乃香さんと分かれて、3人で保健室へ・・・。

 

こうして話のは珍しいかもしれませんね。

 

 

 

「そういえば、悪い妖怪退治のお手伝いがあまり出来なくてすいません。」

 

「いいんですよ。君はエヴァがご執心ですから・・・代わりに小太郎君に頑張ってもらってますから・・・。」

 

 

 

私がそう答えると、少しばかり頬を膨らましたネギ君。

 

嫉妬かな?

 

 

 

「ふふふ、でもエヴァがここまで手取り足取り教えてくれるのだって貴重な経験ですし、結構なことじゃないですか?私の手伝いは修行の意味合いよりは・・・人間と妖怪の距離感を学んでくれればと思ってのことでしてね。うんぬんかんぬん・・・うまうましかしか・・・

 

 

 

ネギ君も刹那さんも分かっているとは思いますが、妖怪のすべてが悪いわけじゃない。悪事を働く妖怪が悪いのですよ。まるまるうまうま・・・あーだこーだ・・・

 

 

 

ですから・・・人間も己の領分を外れて他の領分に無遠慮に踏み込むのは悲劇の下になるのですよ。・・・・・・・・・寝ちゃいましたか。二人とも・・・年寄りは話が長いのが玉に瑕ですね。学園祭もまだ二日ありますし、今日はゆっくり休んで明日に備えてくださいね。」

 

 

 

私はそう言ってから保健室を後にした。

 

 

 

 

 

保健室を後にした私は蟠桃の警備をしていた龍宮さんと、偶然にも合うことができました。

 

 

 

「龍宮さん?警備の状況はどうですか?」

 

「ん?大樹先生か?御覧の通り例年通りの告白者だよ。」

 

 

 

「いえ、そっちではなく。侵入者のほうです。」

 

「そっちも多いような気はするが・・・。そういえば、ウルスラ女子の高音・D・グッドマンがグレムリンをいくらか始末したそうですが・・・。」

 

 

 

「グレムリン・・・ですか?」

 

「珍しいですね。西洋の妖怪は・・・。」

 

 

 

グレムリン・・・西洋妖怪軍団の尖兵。

 

 

 

「そういえば、先生は武闘会に参加しないのですか?」

 

「あぁ、超さん主催の奴ですか?私は出ませんよ。荒事は好きではないですし・・・。」

 

「そうなんですか?先生。」

 

「えぇ。」

 

 

 

その後もお化け屋敷やらパネル展示とかいろいろ回りました。

 

まほら武闘会の予選会は見に行ってません。私、スポーツとかはそんなに興味ないし結果をスポーツニュースで見るだけで満足な感じなのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太平洋沖合 米国太平洋艦隊旗艦ブルーリッジ

 

 

 

「妖怪!オーストラリア海軍の哨戒網を抜けた模様!!」

 

 

 

オペレーターの報告を聞いたウィレム・サミュエル・パパロ中将は詳細を聞いて指示を出す。

 

 

 

「規模は?」

 

「非常に大規模!1万近いです!!」

 

 

 

周辺の士官たちが動揺している。

 

 

 

「こちらは第7艦隊と第3艦隊の統合艦隊だ!!世界に冠たる現代の大艦隊だ!!時代遅れの怪物などに遅れはとらん!!総員戦闘用意!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西洋妖怪軍団本隊

 

 

 

「太平洋上で合衆国の軍隊が陽動に掛かりました。」

 

 

 

カーミラの言葉に頷いて応じるバック・ベアード。

 

 

 

「あれが本命と間違わせるために本隊からも増援を送ったのだ。連中の足くらいは止めてもらいたいものだ。」

 

「あれだけの兵です。足止めは問題ないかと。」

 

「そうか。」

 

 

 

ベアード率いる西洋妖怪軍団本隊は日本に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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189 平成 分かれ道

なんだかんだで3日目となりました。

結果だけを麻帆良駅の街頭テレビで見ていましたが、蟠桃に住人がいたのですね。

クウネル・サンダースとか名乗ってるけど。アルビレオ・イマだよね。

挨拶くらいしてくればいいのに、こちとら先住民ですよ。

それに、あの演出ならネギ君を優勝させてあげてもいいような・・・。

まぁ、魔法記録みたいだけどお父さんに会えてよかったのかな。

 

 

「大樹野槌水御神様ですね。」

 

不意にかけられる声。

声の主に視線を向ける。

 

「玉兎・・・月の兎が地上に何の御用で?」

 

 

 

 

 

 

 

 

学園地下

蟠桃の根が張る広大な地下遺跡のさらに先。

春日美空、ココネ・ファティマ・ロザの二人が見つけ、撃退された。

このロボットの格納庫に彼女たち二人を尾行してたどり着いた者たちの姿が・・・。

 

「ふ~ん?これはなかなか興味深いね。純粋科学だけでここまでできるなんて!僕の合成魔獣にも取り込みたいくらいだよ。」

 

「ヴィクター・フランケンシュタイン?流用は可能かね?」

「もちろんだよ!ドクターヨナルデ!僕は科学者だよ!こういったことも専門のうちさ!」

 

「それならよいのですじゃ。ふへひひひ!!グレムリンたち・・・プロフェッサーをお手伝いして差し上げなさい。」

「助かるよ。ドクター・・・技師は多いに越したことはないからね。脆弱な日本妖怪に無能な魔法使いと侮っていただけになかなか強力な第三勢力がいたもんだね。」

 

「それを利用するわけじゃがのぉ。」

 

 

 

 

日本領海

 

「刑部様、敵の哨戒網を抜けました。」

「うむ。」

 

米軍、自衛隊の哨戒網を抜けた刑部狸率いる旧日本妖怪軍残党。

過去の亡霊、否、歴史の陰に沈んでいた過去の妖怪が再び表舞台に立たんと、こそ淡々とその時を見計らっていた。

 

「先行部隊の報告待ちだな。合図に合わせて攻撃開始だ。裏切者に不忠者どもに忠臣たる我らが鉄槌を下す。63年、63年・・・妖怪の生にとっては大したことのない月日・・・だが、この63年は我らにとってあまりにも長かった。我らはこの日が来るのを一日千秋の思いで待っていた。待っていたのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

麻帆良学園祭3日の夜、花火が上がっていた。

ネギ君は超鈴音の野望を阻止する決意を決めたようだ。

エヴァは最初の約束通り、超鈴音に協力したようだ。

 

私は思い出す。

超の持つ情報の全貌を把握した時のことを・・・。

それを知ったのは本当に最近だ。昨日今日の話だ。

それを届けたのはぬらりひょん、本当にどこにでも現れる。いけ好かない奴だ。

絶対もっと前から知っていたのだろう。私の選択肢を潰すためにこのタイミングで伝えたのだろう。嫌な奴だ。悪知恵が働くのは八雲以上だ。

 

「かの者が未来人だと言うことですよ。」

 

魔法世界は崩壊しており、地球人との戦争状態だった。地球の人類は地上をたたき出され月に拠点を移していた。そして、地球人が月の表面に穢れを持ち込まれたことで月の動きは封じられる。可能性の一つだが、ぬらりひょんが持って来た。

高い可能性だ。

いや、遺憾ながら放っておけばそうなるのだろう。

 

 

ぬらりひょんとの密談で超の計画も凡そ把握できた。

魔法の公表、最悪の未来は避けられる。しかし、その次は別の最悪が来ただけだったのだ。

 

「しかし、割りを食うのは我ら妖怪。人間・・・人間・・・貴女は人間を可愛がられる。私はともかく貴女に尽くした妖怪たちに報いてやる時期が来たのではないですかな。」

「・・・・・・・・・。」

 

今からじゃ、私にできることなんて。

ぬらりひょん、貴様の狙いに乗らざるを得ない。

確かに、そうかもしれない。

南洋に籠る刑部狸からの書状。西洋妖怪軍団の動き、国内の妖怪と人間の揉め事の大半は人間に非があることは認めざるを得ない。

 

ネギくんたちに希望を見出していたが、その希望を潰えることを知ってしまった。

 

『人を恨んで恨み抜く。妖を恨んで恨み抜く。世を憎しみて焼き払い。残るものは何も無し、荒廃、滅び、無。』

 

面をつけた影のような妖怪はひらひらと舞っているのが見える。

 

「随分と大きいノツゴですね。あれも、私を利用するか。忌々しい。」

「何か気になることでも?」

 

あぁ、ノツゴはぬらりひょんとは無関係なのか。

 

「いえ、大したことではありません。行きましょう。」

「御意に…。」

 

私とぬらりひょんはベランダに立つ。

 

 

ネギ君たちと超鈴音の戦いはネギ君の勝利で終わったようだ。

最後は超さんを主役に送別会。

翌日の朝、ネギ君たちはエヴァの水晶玉の中で遊んでいるのだろうか。

もはや、語るまいて・・・。

 

私はぬらりひょんを連れて大学の研究棟に入っていく。

そして、超さんが所属するロボ研の研究室に入る。

そこには、他の誰もがおらず彼女だけがいた。

 

 

「超さん、魔法を世界に公表すれば、魔法使いたちが大手を振って表を闊歩するでしょう。世の中には知らないほうが良いこともあるし、必要上に荒らすべきでない物事があるのです。超さん、今からでもデータを改竄してなかったことにできませんか?」

 

魔法公開のデータの入ったフォルダ送信にエンターボタンが押されていた

 

「もう、遅い。世界はより良い方向に・・・悲劇は避けられるネ。」

「いいえ、一つの惨劇を避けるために大きな行動を取れば、別の大きな波が経つ。世の中はそんなに簡単ではない。世界なんてこんなはずじゃなかったなんてことばかりです。」

「せ、先生は・・・先生はまさか・・・。」

 

超さんは怪しげな笑みを一気に凍らせる。

私は、扇子を超の胸に突き出す。とっさに超さんは体を捻る。

扇子が彼女の脇腹をえぐる。

 

「っぐ・・・うぅ・・・こんなことになるなんて・・・。」

「さすがは劣化版とはいえ綿月様の扇子・・・か。」

 

私はとどめを刺そうと近いたのですが、彼女はカシオペアを起動して何処へともなく消えていった。

 

「逃げられたのですか?」

 

背後の扉が開かれ数人の玉兎と妖狸が入ってくる。

 

「かもしれませんね。ですが、もはや止められるものではない。刑部には好きにやれと・・・ベアードとも話をしたいので席を作ってください。それと・・・月夜見様によしなにとお伝えください。」

 

きっかけなんてものは、案外些細なものなのだ。たった一人の少女の行動が歴史を変えることだってある。

 

 

 

 

 



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190 平成 第三次世界大戦

 

 

きっかけは少女一人に依るところは大きい。

しかしながら、少女の動きを知っていた妖怪は二人、吸血鬼エヴァンジェリンと妖怪の陰謀家ぬらりひょん。

吸血鬼の方は少女の策謀を掴みきっていないがために・・・。

妖怪の陰謀家は自らの野望の為に・・・情報を小出しにしていた。

 

ゆえに、魔法世界という異なる世界を表舞台に引きずり出したことは、月に住まう天津神々を刺激したのだ。これが地球人類と火星人類の戦争で在れば、共倒れを狙った静観を行っただろう。しかし、地球各国政府の要人は魔法世界と癒着しているものも少なくなく、多少の混乱はあっても将来的には一つの強大な勢力となることだろう。彼らに抗う大きな勢力にそうなる前に月は動いたのだ。

 

「月夜見様、大樹は我々の要求を飲みました。」

「であるならば、彼女の忠勤に報いてやりなさい。」

 

月の都、宮殿のベランダから見える地球を遠くに眺めた。

月夜見は淡々とした声で控える綿月姉妹の姉豊姫に伝える。

 

「大樹を地上の総督に据え、彼女を地上の支配者とすれば・・・。月を害する存在はなくなりましょう。」

「かの者の我らへの忠はこれまでの彼女自身が証明しています。」

 

「己が血族の血筋を今の今まで守り続けた。あの小神・・・贔屓するのは当然か?」

「いえ・・・そのような。」「っ…」

 

「冗談ですよ。我ら天津神々に忠を尽くす…かの国津神なれば災星との戦いの先陣を任せられる。」

 

 

 

2018年6月22日 大樹野槌水御神とバックベアードによる会談。西洋妖怪軍団すべての作戦行動を中止、大樹の傘下に収まる。

同日深夜、旧日本妖怪軍、日本本土上陸侵攻開始。

 

 

妖力変換式銃火器を手にした妖狸たちが深夜の東京の中を走り回る。

眠らない町、東京とはいえ深夜帯人の姿は疎らだ。しかし、人はいる。

 

だが、妖怪の存在は信じていない。ゆえに多くの人は何が起こっているかわかっていなかった。

 

「大樹様。警視庁、主要テレビ局、主要公官庁制圧完了しました。」

 

警察庁警視庁の窓ガラスが割れ、拳銃の発砲音とその倍の銃声が響く。

 

「総理、敵がすぐそこまで!!」

「っく!!」

 

秘書に急かされて連舫首相はヘリに乗り込む。

 

「妖怪どもめ。」

 

 

同年6月23日、本土妖怪の多くが日本政府を攻撃。

月の都より地上潜入部隊に作戦開始命令が発令。

 

 

河童の長老が杖を振り上げる。

 

「戦争じゃ!人間たちと戦争じゃ!!」

「武器を取れ!!外地の同胞と協力して人間どもから我らの土地を奪い返せ!!」

「「「おおおお!」」」

 

6月24日、欧州及びアメリカにて西洋妖怪軍団が無差別攻撃を開始。

ロシア帝国にてレティ・ホワイトロックが帝位を継承、妖怪主権国家誕生。

ロシア帝国、ロシア連邦に宣戦布告、戦争状態へ。

東南アジアおよび南洋諸国にて南方妖怪と戦争状態に突入。

 

「我、バックベアードは東洋の女神大樹野槌水御神の傘下に入り…ここに、東西の妖怪の統合を宣言し…人間どもに宣戦を改めて布告する。」

 

 

6月25日、関東地方より以西の地域が大樹政権軍の手に落ちる。日本国、閣僚から

も死者が出ているため臨時政府が仙台にて組閣される。

 

大樹は大徳寺の祭具殿に織田木瓜の描かれた品々をしまい込む。

大樹は品々を一瞥した後、大徳寺を立ち去った。

 

その数時間後大樹は京都に設置した新首都にて妖怪たちを集める。

大樹が姿を見せた妖怪たちは歓声を上げる。大樹は手で抑える。

 

「かつて、世界に対して我々の居場所を求めた。100年前のあの戦争だ。その結果は諸君らの知っている通りである。我々は、あの戦争で力を示した。しかし、彼らはあの手この手と卑怯な手を使い。我らの力を削いだ。その結果、人間どもは増長し世界を汚していった。このままではダメだ!我々はそう思いもう一度戦った。だが、すべてが遅かった。我々は負けた。それは連合国、そしてその背後の災星の跳梁を許した。それが、最大の誤りだった。ここに至って私は人類が今後絶対に地球を汚すことが無いようにとすべきだと確信したのである。それが、私が起った目的である。私はバックベアードに対してブリガドーンの無制限使用を認めた。諸君、私は災星の魔法使い…そして、私利私欲の為に奴らに連なったこの星の害悪たる者どもの粛正をここに宣言する!!」

 

 

大樹は全世界に対し宣戦を布告したのであった。

 

 

 

 

6月26日、中華民主主義人民共和国に対して中国妖怪による宣戦布告、戦争状態へ。

アメリカ合衆国、太平洋上の西洋妖怪軍団に対し核兵器を使用。西洋妖怪軍団、ブリガドーンをニューヨークにて起爆。西洋妖怪軍団、アメリカの魔法使い学校を制圧。

 

ホワイトハウスでは合衆国大統領が執務室の席を立ち大勢のシークレットサービスや補佐

官たちを連れ、軍の将校が黒いブリーフケースを持って地下の緊急指揮所へと移動する。

 

そこに到着した一同は席に着く。

しばし無言の時間が流れる。

いくつもの液晶画面の内のテレビの映像を流している画面からの声だけが嫌によく聞こえ

る。

 

 

『大惨事です。いまだかつてないレベルの大惨事です。歴史上はじめてアメリカの都市が

敵の手に落ちたのです。それも、大都市を含む複数の都市がです。』

 

 

大統領の前に軍の将校が持っていた黒いブリーフケースが置かれ、ケースが開けられる。

大統領はロックの暗証番号を読み上げると、さらにもう一枚のカバーが外れる。

 

大統領は首にかけられたカギを、ケースの中のカギ穴に差し込み。周りと自分に言い聞かせるように話し始める。

 

「我々はこの現実を直視し、この惑星に存在する別の知的生命体の台頭と言う。これまでにない厳しい状況に立ち向かわなければならない。アメリカ合衆国に…いや、人類に神のご加護があらんことを。」

 

大統領はカギを一気に回す。

緊急戦争命令は当該の基地に伝わり、核ミサイルが発射される。

 

 

6月28日、劣化ブリガドーン弾頭の生産開始。

 

「要は魔力の凝縮です。質の低下を了承いただければ。ブリガドーンに似た現象は雑多な魔法使いから搾り取ることで可能です。」

「であるならば、戸惑うことなく実施したまえ。」

「っは。」

 

ヴィクター・フランケンシュタインの言葉を聞いたベアードは計画を実施するよう命じる。

 

 

6月29日、中国政府、国内の妖怪占領地域に核弾頭を発射。

 

 

6月30日

ネギ・カモ・明日菜・木乃香・刹那・のどか・夕映・ハルナ・千雨・楓・古、麻帆良祭最終日(6月22日)から一週間後の妖怪と人間による世界大戦の世界に飛ばされる。

 

 

 

 

 




世界大戦世界には長居しません。


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191 平成 未来を変えろ

2018年6月30日、麻帆良に転移した彼らの視界に移った光景は唖然とするものであった。

 

麻帆良学園都市のありとあらゆる建造物の窓が割られ、壁が崩れていた。

 

 

 

くぐもった音を鳴らすひしゃげたパトカー。

 

さらに麻帆良の向こう側からも煙や炎が上がっているのだ。

 

東京スカイツリーが真ん中からへし折れている。

 

 

 

「い、いったいなにが…。」

 

「こ、これはいったい?」

 

 

 

 

 

「貴様ら!!魔法使いだな!!天誅!!」

 

 

 

ネギたちの視界に武器を持った妖怪たちの姿が目に入る。

 

 

 

「問答無用!!掛かれ!!」

 

 

 

「な!?」

 

 

 

不意を突かれる形だった彼らはちょっとした隙を見せてしまう。

 

 

 

「髪の毛針!!」

 

「「「「うぎゃあああ!!」」」

 

 

 

「大丈夫だったかい!?」

 

「き、鬼太郎さん!?」

 

 

 

助けに入ったのはゲゲゲの鬼太郎。

 

その奥で周囲を警戒してたタカミチから声がかかる。

 

 

 

「ここはいつ敵が現れるかわからない。ひとまず安全な場所へ。」

 

「そうですね。」

 

 

 

鬼太郎側の仲間やタカミチら魔法使いたちがいる隠れ家に向かう。

 

 

 

「い、いったい何があったんです。」

 

 

 

ネギたちの疑問にゆっくりと答えるタカミチはネット上に残る数日前の映像を交えて説明を始める。

 

 

 

ネギたちが去ったあと超によって魔法の存在がばらされたこと。

 

その後で進出してくるであろう魔法世界に対して強い拒絶反応を起こした世界中の妖怪たちが決起し大樹を祭り上げて人間と妖怪による第三次世界大戦が勃発したことを。

 

 

 

大樹をめぐる戦闘で関西呪術協会を中心とした裏の勢力が壊滅したこと。

 

陰神刑部狸率いる旧日本妖怪軍残党によって首都東京が占領されたことを。

 

そして、アメリカや中国といった国は核を使用し、妖怪側もそれに準ずる攻撃をおこなったことを。

 

 

 

「超さんのことでも混乱していますけど。どうして大樹先生が出てくるんですか…。」

 

 

 

タカミチ自身も漠然と知っているだけで完全にわかっているわけではない言葉を詰まらせる。そこで、タカミチよりは状況を理解している目玉おやじが代わりに話し始める。

 

 

 

「大樹様はご自身でお話ししたわけではないから知らないのじゃろうな。何人かは断片的に知っているようじゃが。」

 

 

 

目玉おやじは刹那などの幾人かに視線を向けるが視線を戻す。

 

 

 

「超と言う少女が魔法を公開したのは、彼女に変えたい何かがあったからじゃろう。ただ、結果は別の厄介ごとが起きたわけじゃがのう。」

 

「別の厄介ごと?」

 

 

 

「魔法を公開されて魔法使いがこっちの世界で大手を振るうようになるとワシら妖怪は住みにくくなるからのう。」

 

 

 

どういうこと?と言いたそうないくつかの視線でタカミチが魔法使い界隈の事情を説明する。

 

 

 

「メガロ本国や欧州の魔法使いは…妖怪とか怪物は…なんというか嫌いだったからね。」

 

 

 

ウェールズ育ちのネギは何となく理解した。

 

確かに、こっちに来る前は妖怪は悪魔同様に討伐対象だったことを思い出す。

 

 

 

「100年前まではワシら妖怪も妖怪として大手を振って外を歩けたからのう。それが二度の戦争で、ここまで押し込まれてしまったわけじゃ。妖怪は本来日陰の存在じゃが、あの頃を知っている者たちの中には力づくでも取り戻したいと思う者もいた。それ以上にこれ以上奪われたくないと思った者がいたようじゃ。森から出ていった者たちもいた。人間たちとの今の一応平穏な関係を絶ってもな。」

 

 

 

 

 

今の日本は首相たちが仙台まで退避して指揮を執っている。

 

日本各地で妖怪と自衛隊が交戦していた。これが世界に広がったわけで…。

 

 

 

「いやぁ…参ったよ。これは完全に予想外だったネ。」

 

 

 

声の向こうには、超が松葉杖をついた上に三角巾で腕を支えて立っていた。

 

 

 

「大樹先生にきついお叱りを受けたすぐ後に妖怪の襲撃ネ。たまらないヨ。」

 

 

 

超は困った顔をしてから続きを言う。元凶が彼女なわけでタカミチたちの表情は複雑だった。

 

 

 

「この事態を避けることは意外と簡単ネ。私たちが過去に戻って私が何もしなければいいだけネ。ただ、別件の問題もあってね。情けない話、私のロボット…あれ、妖怪たちに学園祭の時点で乗っ取られてるみたいで…。過去に戻って魔法を公開しなくても、一部妖怪の決起は起こるみたいネ。だから、君たちにはそれを何とかしてもらいに行ってもらって、その間にワタシが大樹先生にお話しして協力してもらおうと思うネ。」

 

 

 

「大樹先生は敵の親玉なんでしょ?大丈夫なの?」

 

 

 

明日奈の疑問に目玉おやじが答える。

 

 

 

「それに関しては大丈夫じゃろう。魔法の公開が彼女にこの行動を取らせて要因じゃ。それがなければ問題ないわい。じゃが、今後は大樹先生とももっと親しくしてやってはくれんか?あの方はあまり昔のことを話したがらないからのぅ。」

 

 

 

 

 

一応の行動指針が決まり、次はどう行動するかだ。

 

ネギたちのカシオペアは動いていない。

 

だが、それに関してはもう解決済みのようだ。

 

 

 

「カシオペアについては大丈夫アル。最初は大発光から1週間経った心もとない世界樹をとも思ったけど。こちらの目玉おやじ殿のおかげで何とかなりそうネ。というかなったネ!」

 

 

 

超は目玉おやじに「一応あの説明はしておきましょ」と話しかける。

 

超に対して目玉おやじは何とも言えない表情ではあったが、その説明とやらを始める。

 

 

 

「あれだけ手を入れればもう別物じゃろうて…。これから呼び出すのはまぼろしの汽車。時を遡ることができる。ただしワシの命と引き換えにただ一度だけ呼べる汽車。そして、この汽車の存在を明かした者は必ず死ぬ。そういう約束になっているのだが、この者が改造しまくったせいで別物になってしまったのでそういったことはない。じゃが、過去に戻れば改造はなかったことになるわけじゃ。向こうに戻ったら絶対に口に出してはならんぞ。彼女が言うには汽車は向こうに戻れば矛盾が発生して消えてなくなるそうじゃ。」

 

 

 

「敵がすぐそこまで」という言葉でタカミチと鬼太郎たちは行ってしまう。

 

残った超と目玉おやじがネギたちを地下の開けた場所に案内する。

 

 

 

「ここなら呼び出せるじゃろ。古き約定に基づき我が命を賭して乞う!いでよまぼろしの汽車!」

 

 

 

すると汽笛が鳴り響き汽車が現れる。

 

 

 

「さぁ行くヨ。すこししゃれた乗り物で時間旅行ネ。」

 

 

 

超に促され乗り込むネギたち。

 

汽車は出発してトンネルへと入って行くと異空間へと移動する。

 

 

 

「さあ行け!世界を救ってくれ!」

 

 

 

異空間に見送った目玉おやじの声が響いた。

 

過去に戻ってすぐに実行委員会の飛行船に衝突して飛行船もろとも汽車は水面にダイブ。

 

ネギたちのいつものノリがそこにあったような気がする。

 

 

 

 




世界大戦世界はもう終わりです。


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192 平成 西洋妖怪の進撃①

「とまぁ、派手にやってくれたようじゃが…超くん。これは本当かね。」

 

場面は変わり 

 

学園長は超の心変わりにすっかり驚いていたが、超の情報を提供されて納得した。

 

妖怪たちの大規模決起が迫っている。

 

大樹をめぐる戦いが始まろうとしているし、別の厄介ごとも同時に起ころうとしている。

 

 

 

「確認するまでもないか。」

 

 

 

学園長は警備から次々と上がる妖怪たちの侵入の報告で理解していた。

 

 

 

「水面下で全部解決するしかないだろう。幸い、大樹はこっちに来ているし、彼女のつての援軍もそのうち来る。」

 

「そうじゃの…。」

 

 

 

学園長はちらりとエヴァの尻の下で合気道の技を決められている大樹のことは見えないことにした。その場の先生たちもだ。

 

 

 

「いたいいたいいたい!!!ちょっと!まだにもやってない!?」

 

「うるさい!未来の話でも不意打ちで私を無力化するなんてムカつく!!からだ!!」

 

「理不尽!!いったぁああい!?なんか!?ミシミシ言ってる!?ひぃいいい。」

 

 

 

 

 

 

 

余談なので詳細は省くが、前の世界でのエヴァンジェリンは大樹の不意打ちによって不覚を取り、フェムトファイバーで拘束されていた。それを聞いたエヴァは不機嫌となり、八つ当たり気味に大樹に合気道の技をかけていた。

 

 

 

「各所からの報告をまとめたものですが、グレムリンや来客に紛れた下級の吸血鬼の存在が報告されています。」

 

 

 

皆がタカミチらがまとめてきた報告書に目を通した。

 

 

 

「おそらく、学園祭で行動を起こすのは西洋妖怪だろうな。」

 

「ただし、外環部に集まっている他の妖怪たちは西洋妖怪有利と見れば、こちらに仕掛けてくるでしょうね。あの妖怪たちがぬらりひょんの息が掛かっているか。まではわかりませんが。」

 

 

 

エヴァの言葉にかぶせるように技から抜け出した大樹が続き、重い口を開く。彼女独自の情報網から入手した情報であった。

 

 

 

「それと、かつての私の配下陰神刑部狸率いる軍が日本の領域内にいるようです。」

 

 

 

「部下なら、変なことしないように大樹先生が言えばいいんじゃ。」

 

 

 

明日奈の言葉に大樹は申し訳なさそうに答える。

 

 

 

「昔はそれができたでしょうが、今となってはかつての部下たちはそれぞれ勝手に動いていて私の影響力はほぼ皆無ですよ。近衛さんの知っている護国会議はかつての残照の一部を寄せ集めたものです。私が関与しているのは事実ですが関与しているだけです。」

 

 

 

話題に上がった近衛木乃香と彼女に近しい桜咲刹那に一瞬視線が集まるが近衛近衛門の咳払いで脱線せずに話を進める。

 

 

 

「陰神刑部狸はこの国の現状に強い不満を覚えているようです。西洋妖怪の動きによっては彼らも動くでしょう。それと、西洋妖怪のいくらかがゲゲゲの森を襲撃したそうです。西洋妖怪は思った以上に大規模な動きをしています。」

 

「超が計画を中止するというのだから直近の危機は西洋妖怪だろう。まずは奴らを倒すべきだ。妖怪ってやつは超の様に緻密に過ぎる策を弄さない分、幾分はましだよ。」

 

 

 

「じゃが、奴らが何をしようとしているのかはわからん。西洋妖怪の大集団が米国艦隊と太平洋上で接敵したとの話も聞いているのじゃ。警備要員の諸君、ネギ君たちも最初から後手に回るが奴らの動きに逐次対処していくしかない。よろしく頼むぞ。」

 

 

 

学園長の締めの言葉を合図に退室していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園長室で今後の方針が大体決められた後で、大樹はエヴァンジェリンに半ば連行されるような形で彼女のログハウスに連れていかれた。

 

ログハウスにはエヴァと超鈴音の姿もあった。

 

 

 

「以前よりゲゲゲの鬼太郎と交友があり、旧貴族系の議員には差異はあれど影響力を持っており、最近では国内の退魔組織を統括する名誉職にある。それに近衛のような魔法使いの良識派ともつながりを持っている。あと幻想郷ともだったな。それが私の把握しているものなわけだが…。それだけじゃないだろ。超の話では世界大戦を主導する体制を築き上げた。大樹、他に誰と関係を持っている。正直に言え…。私も今お前が人類に見切りをつけて世界を大分断させる大戦争を引き起こそうとしているとは考えていない。」

 

 

 

「…。」

 

 

 

「はぁ……私とお前の付き合いはかれこれ400年近いか。他の連中と違って友人としての付き合いだ。お前がそう思ってくれているかは分らんがな。」

 

 

 

「わ、わたしはエヴァのことを大切な友人だと思っています。」

 

 

 

「なら、正直に言ってほしい。お前の力になりたいんだ。」

 

 

 

付き合いの長い友人であるエヴァだからなのだろう。大樹の肩に手を置き優しく諭すように話しかける。

 

大樹は観念したように重い口を開く。

 

 

 

「刑部狸や南洋の妖怪たち…いわゆる皇国時代の妖怪軍、旧妖怪軍残党とは終戦時から細々とではありますが連絡を取りあっています。白蔵主とも京都のことで暴発するまでは似たような感じでした。それと天狗警保局…あぁ、今は天狗ポリスですね。あれに対する指揮権も多少持っていますよ。」

 

 

 

「それだけじゃ。世界大戦は引き起こせないと思うヨ。抱え込むのは良くないネ。」

 

「まだあるんじゃないか?私たちも知っておかないと今後の対策が立てられん。」

 

 

 

超の言葉とエヴァの追及にさらに口を開く。

 

大樹は少々目を泳がせる。

 

 

 

「ここからは私がどうこうできる内容ではないのですが……。」

 

「貴様の手が及ばない話か。目は届くようだが…。」

 

 

 

 

 

「えぇ…まぁ…西洋妖怪の中には私の親派がいるので行動を起こす前に情報を流してくるのですよ。巻き込みたくはないといったところなのでしょうけどね。………あと、稀にぬらりひょんが接触してきたこともありますね。あと、最近は減ってるけど八雲紫も…。そういえばロシアのレティがなにやら動いているとも…。」

 

 

 

エヴァのスマホが鳴り、それに応答する。

 

 

 

「大樹、悪いがお前の家に茶々丸たちを行かせてる。家探しさせた。」

 

「茶々丸が色々、見つけてるあるヨ。扇子。」

 

 

 

大樹は言葉を詰まらせる。

 

 

 

「つ、つ…月から接触がありました。」

 

「月?」「…。」

 

 

 

エヴァは大樹の言葉に疑問符を浮かべ、超は漠然と予想していたのか無反応だった。

 

 

 

「月は月夜見尊が作った都です。かの神の血族とそれに近しい神々が住まう地です。」

 

「大樹はどちらかと言えば天照大御神に近しい存在だったと記憶してるネ。」

 

 

 

「天照大御神様は高天原にお戻りになりこちらに声をかけることもほとんどありません。神代紀の保食神のくだりにもあるように天照大御神様は月夜見尊様とあまり仲が良くありません。私自身、月のことを知っているのは月に綿月の豊姫様と依姫様がいらっしゃるからです。」

 

 

 

超はこの月にかかわる内容が大樹の凶行の原因ではないかと考えた。

 

 

 

「その月に関してですが、第二次世界大戦以後地上に対して不快感を抱いています。アメリカのアポロ計画に始まり、中国の嫦娥計画に対してはかなりの不快感を示していました。私も当時はJAXAのセレーネ計画で分離投棄する衛星に親書を仕込んだこともありました。アメリカのアポロ計画への報復はJFKですからね。月の都に対して敵意がないことを示す必要がありました。なので航宙能力を有する艦艇を保有する魔法世界の地球進出は決定打だったのではないかと推察します。超さんの見せてくれた資料には月の介在があったと思われる私の手勢の強化が伺えました。超さんが魔法を公開しないのであれば月の過剰な介入は避けられるかと…。ただ、私と懇意にして頂いている綿月様はどちらかと言えば穏健派なのです。それが少々引っかかるところです。…そもそも、ぬらりひょんは月の情報をどうやって手に入れた。月の尖兵は幻想郷は置いておいて、こちらには60年代あたりに手を入れだしていた。だが、月の動きを知れるのは綿月様と縁のある私ゆえのはずだ。ベアードはおろか八雲とて知れるものではない。」

 

 

 

話し出してしまえば頭の回転も速い大樹である。考察も踏まえて多くを語りだした大樹であったが、そのまま思考の海に沈み始めた。そして、しばらくして顔を上げる。

 

 

 

「月に関しても探りを入れる必要がありそうです。ぬらりひょんの奴め…もしの未来とはいえ私にその様なことをさせるなんて…あいつは本当に嫌いだ。とはいえ、目下の課題をどうにかしなくてはなりませんね。」

 

 

 

大樹はおもむろに立ち上がると、二人に声をかける。

 

 

 

「さて、行きましょう。まずはベアードをどうにかしなくてなりませんよ。」

 

 

 

 

 

 



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193 平成 西洋妖怪の進撃②

 

 

 

 

大樹は図書館島の自室に向かう。

 

途中でネギパーティーの面々とも合流する。

 

 

 

図書館島の私室は配下の妖精たちと茶々丸たちが戦った形跡が生々しく残っていたが、大

 

樹は特に意に介した様子はなく。妖精たちに必要な書類やらを指示して運び出させる。

 

 

 

「大ちゃんの方がこういったことはよくやってくれたんだけどね。」

 

「音に聞こえし大緑光ノ精様と比べられるとは光栄でございます。相模大樹宮に妖精たち

 

と隷下の妖怪たちを集結させています。あそこは源氏、北条氏と我々に懇意の者たちの土

 

地、現政権の膝元とはいえ融通はかなり利かせられます。」

 

「…あなたも十分優秀ですよ。水楢。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麻帆良学園祭は当たり障りのない日程で無事最終日を迎え、翌日の振り替え休日。

 

日本に上陸していた西洋妖怪軍団ベアード本軍とさとりの方面軍が行動を開始した。

 

 

 

西洋妖怪たちはまたたく間に東京タワー、東京スカイツリーを制圧。

 

麻帆良にある学園大電波塔をもその手中に収めようとしていた。

 

 

 

この3つの場所でグレムリンたちが怪しげな装置を組み立てていく。

 

転送装置と探査レーダーであった。

 

 

 

東京スカイツリーを襲撃したのは今や、西洋妖怪軍団地獄侵攻軍総司令官に昇進した。さ

 

とり・K・ベアードであった。

 

 

 

「これより、日本の地獄を占領する。これにより、地獄の炎を手に入れ我ら西洋妖怪の力

 

を確たるものにするのです。」

 

「「「「「っは!」」」」」

 

 

 

「ドラキュラ三世、地獄に潜伏している公に連絡。時は来た我らに呼応し決起せよ。」

 

「ただちに。」

 

 

ドラキュラ三世が頭を垂れて引いていき、それと入れ替えに火焔猫お燐が質問する。

 

「しかし、さとり様。これほどまでに大規模な策です。大樹様や鬼太郎たち、それにぬら

 

りひょんどもとて行動を起こすのではないでしょうか?少々厄介では?」

 

さとりは妖しく笑ってそれに応じた。

 

「そう、非常に大規模な策です。万全の用意をしてきました。ぬらりひょんとは不介入の

 

密約を結んでいます。中国妖怪にはロシア妖怪たちが目を光らせています。ゆえに、ぬら

 

りひょんとその同盟関係の中国妖怪への備えは出来ています。鬼太郎達にはお父様を中心

 

とした新四天王の精鋭があたることになっています。ブリガドーンの関係上そうなるでし

 

ょう。それ以外には刑部狸さんがあたってくれます。」

 

「よく刑部狸が、大樹様に刃を向ける気になってくれましたね。」

 

「えぇ。」

 

 

 

 

 

さとりは思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私に大樹様に刃を向けよと申すか!大樹様のお世継ぎたるお方とは言え、言葉が過ぎま

 

すぞ!」

 

「だからこそです。御祖母様の理想実現の為には、多少の強硬手段をとらざるを得ないの

 

です。私たちは御祖母様ではないのです。私たちに御祖母様のような御力はありません。

 

ゆえに私たちは私たちのやり方でより近い現実を勝ち得なければならないのです。御祖母

 

様にその意思がない以上、誰かがこれを為さねばなりません。かつて御祖母様は世界の業

 

を背負い東西の妖怪と多くの人間たちを光ある理想郷へ引き上げてくださいました。です

 

が、私たちを闇の世界に押し戻そうとする輩。そして、御祖母様を後ろから撃った輩によ

 

って私たちは再び闇の世界に押し戻されてしまった。再び私たちがあの頃に戻るためには

 

誰かが業を背負うことになるでしょう。」

 

さとりの言葉に刑部狸は驚きの表情を浮かべ、すぐに神妙な表情になる。その表情には強

 

い敬意も含まれていた。そして、さとりから渡された作戦計画書に目を通し始める。

 

「私は、事がなった暁には東洋と西洋の統合の象徴として、御祖母様の後継として妖怪の

 

頂点に立つつもりです。もちろん、お父様を上に置くつもりはありませんし、御祖母様に

 

は相談役になっていただきを無下に扱うつもりはありません。これを持って私の覚悟とし

 

て受けていただけますか。」

 

刑部狸が重くなった口を開く。

 

「大樹の若樹様は、本当に美しく輝かしくお育ちになられた。そして、お強くなられた。

 

わかりました…この度の西洋妖怪軍団の戦い…我らがお力をお貸ししましょう。」

 

「無理な願いをお聞きいただき、ありがとうございます。」

 

頭を深く下げたさとりに刑部狸は強い口調で伝える。

 

「もとより、本土奪還の計画はあった。たまたま、時期が重なったのだ。」

 

「本当にありがとうございます。」

 

 

 

 

 

 

 

自分は偉大なる父と祖母の跡を継ぐのです。

 

 

 

 

 

 

 

 



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194 平成 西洋妖怪の進撃③

 

 

 

 

大樹達は二つのグループに分かれた。

 

旧日本妖怪軍の日本上陸を阻むグループと鬼太郎達と合流して西洋妖怪軍団を阻むグループだ。

 

 

 

 

 

 

 

学園の会議室を仮設の司令部としてブリーフィングが行われる。

 

ネギたち以外にも学園長を中心に魔法先生や魔法生徒たちも多くが参加している。

 

 

 

司会進行は茶々丸が担当しており、横には超とエヴァが座っており、エヴァは少しばかり退屈そうにしていた。

 

 

 

「現在関東南部で西洋妖怪他多数の妖怪による攻撃が始まっています。陥落している場所は東京スカイツリー、東京タワー、麻帆良大電波塔等の電波施設です。このことから彼らは科学的な要素を組み入れた何らかの儀式を執り行うものと思われます。私たちはこれを阻止すべく行動を開始します。敵軍は東京一帯を襲撃している西洋妖怪軍団、旧日本妖怪軍残党。旧日本妖怪軍には旧西国鎮台軍、航空銃翼兵団、大樹大社御料兵団の姿が確認されています。友軍は自衛隊、在日米軍、警察…そして。」

 

 

 

茶々丸が口を開く前に学園長が皆の方を向いて話しかける。

 

 

 

「おほん、すでに聞いているものもいるだろうし思うところがあるものもいるだろう。しかし、今は首都陥落もあり得る緊急事態じゃ。異議のある物もいるじゃろうが異議は後で聞く。今は目の前の問題解決に力を貸してもらいたい。」

 

 

 

学園長は自分の話を言い終わると茶々丸に割り込んだことを軽く謝罪して、続けるように促した。

 

 

 

「では続けます。友軍は自衛隊、在日米軍、警察。そして、ゲゲゲの森の妖怪たち。大樹様配下の関東大樹大社妖精巫女衆、神仏護国会議関東支部です。警察は妖怪に対抗できる戦力ではなく、自衛隊や在日米軍は先の急襲で展開が遅れ、神仏護国会議関東支部も創設から日が浅く練度に不安があります。ゲゲゲの森は西洋妖怪の攻撃を受けており。関東大樹大社妖精巫女衆は東京湾に展開中です。第一グループは東京湾へ、第二グループは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けて!」

 

「わかった。」

 

 

 

一方で西洋妖怪の先遣隊を退けた鬼太郎達は魔女アニエスから助けを求められ、彼女の知るブリガドーン計画の全容を知り、西洋妖怪軍団と戦うことをゲゲゲの森や横丁の仲間たちと改めて決意するのでした。

 

 

 

 

 

 

 

そして、調布に現れたアルカナの指輪を巡って攻防を繰り広げる鬼太郎達と西洋妖怪軍団。

 

その隙を利用して、政府と都庁は東京湾岸の住民の避難と間に合わせ周辺に外出禁止令をだし、各所で麻帆良や護国会議の戦力が戦闘を開始するのでした。

 

 

 

そんな中、偶然にも道に落ちている指輪を犬山まなが見つけます。

 

彼女は好奇心から指輪をはめますが、抜けなくなってしまいます。焦るまなの後ろに、名無しが立っていました。

 

 

 

「抜けぬ指輪は魔女の物。魔女なら抜ける 指輪なら人には抜けぬ 理も当然…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、アデルがまなの前に現れる。

 

 

 

「その指輪をよこせ。」

 

「ま、まさか、アデル?」

 

 

 

 

 

アデルはまなに攻撃します。危ない! しかし、そこで鬼太郎が現れて、まなを助けます。鬼太郎はまなに霊毛ちゃんちゃんこを渡して、目玉おやじにまなを連れて逃げるように言った。

 

 

 

アデルは鬼太郎にまなの事を問い。鬼太郎もそれに答えます。

 

 

 

「彼女はアニエスの友か。」

 

「そうだろうな。」

 

「魔女が人の子と友人になれるわけないだろうに…。」

 

「その決めつけがアニエスを不幸にしているんだろうに!」

 

「お前に、魔女の何が分かる!」

 

 

 

二人の戦闘が再開され、鬼太郎を結界に閉じ込めたアデルがまなを追うのだった。

 

そして、まなを他の四天王が襲うのを鬼太郎の仲間たちが阻止していきます。

 

 

 

 

 

そして、その中でまなはアニエスと再会するのであったが、アデルに追いつかれ指輪を奪われるのでした。そしてアニエスも囚われの身に…。

 

 

 

「ハハハハハハハ。」

 

 

 

そして、ついに姿を現すバックベアード。

 

 

 

「ベアード様。」

 

 

 

アデルの示した方向から自衛隊の戦闘ヘリ群が迫ってくる。

 

戦闘ヘリはベアードの周りを包囲する。

 

 

 

「こうるさいハエめ。落ちろ!」

 

 

 

ベアードがそう発すると同時に、ヘリのパイロットたちが硬直し操縦不能となり次々と落下していく。

 

 

 

 

 

鬼太郎も捕られ、アルカナの指輪もアニエスもベアードの手に落ちた。

 

 

 

「我がブリガドーンを邪魔するものはもはやいない。これでいよいよブリガドーン計画を始められる。アニエスをコアにしてブリガドーンを始めよ。」

 

 

 

ベアードから命令されたアデルはベアードに返事をした後でアニエスに話しかける。

 

 

 

「承知しました、ベアード様…。アニエス…お前は魔女の定めから逃れられると思っているのか。」

 

「定めとか!運命とか!そんなものを大事にするアデルなんて大っ嫌い!」

 

 

 

 

 

「ふん、大っ嫌い、か」

 

 

 

 

 

何か、寂しそうな目をしたアデルは自らがアルカナの指輪をはめて、ブリガドーンの呪文を唱えたのでした。

 

 

 

 

 

「アニエス。お前だけは、魔女のくびきから逃れよ。母上も、それを望んでいらっしゃったはずだ。」

 

 

 

 

 

アデルは最初から、アニエスの代わりにコアになるつもりだった。

 

 

 

「これで、お前は自由になれる!」

 

「お姉さま・・・」

 

「こんな私でも、まだ姉と呼んでくれるか」

 

「なんで、私は家族を失わなければならないの?」

 

 

 

 

 

「お前は、私にその苦しみに耐えろというのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さま!」

 

「魔女の定めは、私で終わらせる」

 

 

 

しかし、ブリガドーンの光が消えます。アデルの魔力では、コアには適さなかったのだ。

 

 

 

「お前がアニエスの代わりになろうとしたことぐらい。分からないと思っていたか。」

 

バックベアードは、すべてお見通しだと言って、アデルにお仕置きします。悲鳴を上げるアデル。

 

 

 

ベアードはアデルと鬼太郎を人質にとり、アニエスに

 

 

 

「アデルと鬼太郎の命が惜しくば、ブリガドーンを実行せよ」

 

 

 

と迫るのであった。

 

 

 

 

 

追い詰められたアニエスは、とうとうブリガドーンを唱えるのだった。

 

 

 

「ランツイ・ワナ・ケーイク・コダーミ・デ…ブリガドーン!」

 

 

 

 

 

 

 

すると、調布の人たちは訳の分からない怪物になってしまったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

そこへ遅れてやってきたのは大樹野椎水御神であった。

 

 

 

大樹は妖怪奴隷となった調布の人達を見る。

 

傷つき倒れる鬼太郎とアデル。そして、ブリガドーンを発動し膝をつくアニエス。

 

それを見て大樹は愕然としてベアードに問うた。

 

 

 

「妻の祀を失い、その娘であるさとりとこいしの間は裂かれた。そんな貴方が彼女たちを見て何も躊躇しなかったのか。」

 

 

 

「躊躇?躊躇などするはずがない。」

 

 

 

「妖怪が善か悪かと問われれば、やはり悪に寄っていることは仕方のない事だ。だが、お前自分と同じ苦しみを、好き好んで味あわせるような真似…。むごい…、あまりにむごい。」

 

 

 

ベアードは当然と言わんばかりに、そして冷たく言い放つ。

 

 

 

「大樹野椎水御神、豊穣の神よ。甘い、貴女は甘すぎる。ゆえに重要な局面で情に絆され対極を見誤る。」

 

 

 

「そ、そんな…。」

 

 

 

ベアードは大樹の言葉を遮る。

 

 

 

「100年前のワシントン講和会議の結果を受け入れず戦争を継続していれば…戦況は変わったはずだ!70年前損害度外視で徹底抗戦していれば根負けしているのは連合国の方だった。貴女は目先の流血を恐れるばかりに大局を見誤った。私は貴女と同じ失敗はしない。魔女たちの犠牲は必要だった。そして…。」

 

 

 

ブリガドーン発動のエネルギーに反応してスカイツリー、東京タワー、麻帆良大電波塔の装置が共鳴する。

 

 

 

「地獄の炎を手に入れる必要があったのだ。」

 

 

 

そして、時空の穴が生まれる。

 

 

 

「地獄の門は開かれた。」

 

 

 

 

 

 

 

東京スカイツリーのある墨田区上空で地獄の門が開く。

 

 



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195 平成 西洋妖怪の進撃④

東京スカイツリーのある墨田区上空で地獄の門が開く。

 

 

 

 

 

 

幻想郷に伏せていたゾンビフェアリーや怨霊をお燐と空が集結させ、ヤングジェネレーションズの3人も己が手勢と方面軍の妖怪兵を整列せている。

 

 

それを確認したさとりは号令を出す。

 

「全軍!進め!日本の地獄を手中に収めるのです!」」

 

「「「「「っは」」」」」

 

 

 

さとり率いる軍団が地獄の門をくぐり進撃していく。

 

「ま、待ちなさい!っ!?」

 

さとりに呼びかけようとする大樹であったがベアードの触手に邪魔される。

 

「随分と余裕のようだ!だが、ここは私の相手をしていただこうではないか!」

 

 

まずい、弘安の役の時のような万全な状況では無いのに、ベアードのような大妖怪を相手にしなくちゃならないなんて…。せめて、鬼太郎が動けるようになるまで…。

 

 

 

「ベアード!力だけですべてが解決できる時代は終わったのです!」

 

人間を殺し過ぎては、その恨み辛みで後に引けなくなる。そうなれば、殲滅戦だ。

勝手も何も残らない。

 

「いつの時代も変わらんよ!どんなに理想を語ろうとも!この世は勝者が決めるのだ!」

 

「っぐ」

 

ベアードの触手が肩を抉る。

 

「あの戦争のあと、箍が外れた人間が何をした!世界屈指の湖を枯らし、木々をなぎ倒し世界をぐちゃぐちゃにした。どれだけの妖怪や妖精が住処を奪われたことか!!」

 

「ですが、我々とともに生きようとしてくれた人間たちが居たではないですか!!」

 

ベアードの触手を払いのけた大樹が弾幕で応じる。

 

「そういった人間たちはあの戦争でみんな死んだ!!貴女が見捨てたからだ!!我々と共に歩める人間は皆、死んだ!!今残っている人間なんぞ地上を汚すゴミだと貴女程の存在がなぜわからん!!」

 

「私は貴方ほど人類に絶望してはいません!!私たちと共に生きようとしてくれる人たちは私たちが思うよりずっといるはずです!」

 

ベアードの攻撃はさらに激しくなる。

 

「だが!いるだけだ!!思っているだけだ!!彼らは無力だよ!!大樹!!今の貴女のように!!」

「あがっ!?」

 

触手が大樹の首に巻き付き締め上げる。

 

「…私は要らない人間を地獄の炎で焼き払う!!そして、残った人類を支配して、貴女の目指した帝国以上のものを作り上げる!!」

 

ベアードは大樹の心臓に鋭く尖らせた触手を突き立てようと振り上げる。

 

 

「来たれ雷精、風の精。雷を纏いて吹きすさべ南洋の風(ウェニアント・スピーリトゥス・アエリアーレス・フルグリエンテース・クム・フルグラティオーニ・フレット・テンペスタース・アウストリーナ)!!」

「大丈夫か!?」

 

大樹の危機に駆け付けたのはネギと小太郎だった。

 

 

「ぬっ!?魔法使いか…。貴様らはいつも我らから奪っていく。住処、同胞。そして、我妻、祀もだ!」

 

ベアードの反撃を小太郎に引っ張られて躱す。

 

「避けろ!ネギ!」

 

2人に避けるように言いながらベアードに地獄奥義を放とうとするが…。

 

「二人ともどいてくれ!地獄奥義…!?」

 

何故か、地獄奥義が使えない。

 

「ふははははははっはは!!地獄奥義が使えないか!そうだろうな。地獄は今頃…。」

 

鋭利な先端を3人に突き立てようとするベアードであったが、その攻撃は防がれることになる。

 

「…っ」

「アデルか。従順なだけが取り柄の小娘が…、私に歯向かうか。いいだろう、貴様ら全員まとめてとどめを刺してくれる。」

 

 

 

「鬼太郎!受け取れ!」

 

鬼太郎はアデルが投げた宝石をキャッチします。

そして、アデルはネギの方にも声をかける。

 

「魔法使いの少年!!鬼太郎が撃つ指鉄砲を貴様の雷魔法に乗せるんだ!!」

「わかりました!やってみます!」

 

鬼太郎がベアードに逆転の一撃を放ちます。

 

「指鉄砲!!!」「魔法の射手!!特大雷の一矢!!」

 

 

「なんだと!?ぬぅああああああ!?おのれ!!小癪な真似を!!…だが!!」

 

鬼太郎達の合体攻撃で体が抉れたベアードは衝撃波を放つ。

すると、3つの転送装置が破壊される。

 

「さすがは大樹様が目を掛けるだけある。だが私を退けようとも、地獄の炎は間もなく我が手に落ちる!それまでせいぜい悔いのないように過ごすのだな!!ハハハハハハハ!!」

 

 

バックベアードは部下たちの形勢が傾きつつあることを察し撤退し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総理、まもなく青森の三沢より爆装させたF-2が到着します。」

 

「やりなさい。」

 

 

 

ベアードにF-2からの空爆が始まる。

 

「ぐっ!?人間どもめ…。」

 

 

 

「ベアードさま!」

 

狼男のヴォルフガングなどから声が上がる。

 

 

 

大樹やネギたちから西洋妖怪軍団は離れており、距離があったが、そこからでも様子はうかがえた。

 

 

練馬や朝霞の陸上自衛隊の部隊も体勢を立て直して、反撃体制に入っていた。

 

 

「西部エリアの維持困難です。アデルの方は?」

「目的の半分は達成できた。撤退でいいだろう。・・・あの魔女はもういい、利用価値はもうない。捨て置け・・・。」

 

「っは。」

 

ベアードはカーミラに西洋妖怪軍団の混乱を抑えさせる。

 

「人間どもの被害が思ったより小さいようです。」

「そうだな。だが、このまま彼らに引き継げば問題ないだろう。しばらくは奴らの注意を引いておいてやろう。大樹も最良のエンディングは迎えられないことが分かるはずだ。」

 

 

 

その直後、麻帆良の方で爆発が起こる。どうやら、我々を陽動に使って浸透していたようだ。

 

「奴らを倒せなかったのは残念だが、目的は果たした。西洋妖怪軍団!!作戦は成功だ!

 

!すみやかに撤退せよ!!フハハハッハハ!!我々は舞台裏に回って娘の戦いを鑑賞しよ

 

うではないか。それに旧軍との同盟関係は依然継続中、形勢は依然として我らに有利だ。」

 

 

 

空自や海自の追撃を振り切って、悠然と去っていく西洋妖怪たち。

この戦いは勝てたが、問題は山積みだ。

 

 

わたしも色々と動くしかなさそうです。

 

 

 

 

 



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196 平成 大樹と日本

直近の問題としては地獄の侵略を開始したさとり達。

 

 

 

今は五官王たちが防戦しており、しばし余裕があるみたい。

 

 

 

今回の戦いにも姿は見せたが大規模な行動を起こしていない旧軍の妖怪たち。

 

 

 

西洋妖怪軍団の先鋒集団として姿として姿を見せた南方妖怪。南方妖怪は西洋妖怪や旧軍妖怪に組したという事か。

 

 

 

日本から撤収したとはいえ西洋妖怪軍団の本軍も損害は小さい、いつまた手を出してくるかわからない。

 

 

 

今回は介入してこなかったがぬらりひょんも気になる。介入してこなかったという事は戦力を温存したという事で、奴は中国妖怪や魔法世界の完全なる世界と同盟関係。直轄戦力ではないが敵対勢力としては最大規模だ。それに奴はベアード以上に溝が深い。

 

 

 

 

 

 

 

この前の戦いでは友軍扱いをしたが在日米軍は国内の妖怪たちを警戒しての側面もある敵ではないが見方とは言えない。自衛隊や警察だって友軍であって自軍ではない。

 

 

 

そう考えると麻帆良学園の魔法使いだって学園長の近衛近右衛門が懇意的であるから結構

 

 

 

 

 

 

 

融通が利くけど自軍じゃなくて友軍だ。

 

 

 

護国会議だって聖の直轄以外はやはり友軍ですし、その友軍の統制で聖直轄の戦力で自由が利く戦力は極僅か。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、考えると私が自由にできる戦力は極端に少ない。

 

 

 

 

 

 

 

「大樹様。空中庭園でのお茶会の招待状が来ていますが?」

 

 

 

 

 

 

 

図書館島の私の領域における執務室にいると側近の水楢が招待状をもってやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「お茶会?その程度なら直接言うか電話ですればいいのに?」

 

 

 

 

 

 

 

「図書館島最下層部のイマ様ならびにマクダウェル様の連名です。それと堅苦しい話をし

 

 

 

 

 

 

 

たいので正装で来るようにとのことです。」

 

 

 

 

 

 

 

正装ねぇ、大樹先生じゃなくて大樹野椎水御神として話をしたいってことかしら。

 

 

 

エヴァンジェリンは魔法にも妖怪にも精通するけど・・・、アルビレオ・イマが居るってことは魔法関係よね。何か進展があったのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

「行くと伝えてちょうだい。正装には支度が掛かるので午後2時以降と伝えてちょうだいな。」

 

 

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちが支度を整え空中庭園に着くと、そこにはネギ君たちが居た。

 

 

 

私の事を多少知っている子もいるとはいえ、この姿を晒させるとは少し不快です。まだ見せたくはなかったのですけど。

 

 

 

 

 

 

 

「っち!」

 

 

 

 

 

 

 

思わず舌打ちが…いけませんね。おほほほほ

 

 

 

 

 

 

 

「手下を連れてゾロゾロと悪の大首領様のご到着ですね。」

 

 

 

 

 

 

 

アルビレオ・イマ…本心ではないのだろうけど。

 

 

 

人を茶化す性格は面倒ですね。

 

 

 

 

 

 

 

「無礼な!」

 

 

 

 

 

 

 

私に同行していたぐわごぜが錫杖を突き出す。

 

 

 

 

 

 

 

「やめなさい!子供たちが見ています。」

 

 

 

「申し訳りません!!大樹様!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね。私の部下が…ですが、イマ殿もお人が悪い。火星の方は私を目の敵にされる方が多い、あれの真似事はやめてほしいですね。」

 

 

 

 

 

 

 

やれやれ、生徒たちの前ではこういった謀略者の側面はあまり見せたくないんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、話はある程度聞こえてましたから…英雄の息子の師匠に悪人というのは悪くはないでしょう。中世の勇者ではないのですから、世の中の正しい面だけを見ていればいいわけではありません。嫌でも政治にかかわらなくてはならないのなら世の中の汚い面を知る悪に師事を受けるのは悪い事ではないでしょう。考えなしにイギリスへ行ってきますってのもないとは思いますが…。」

 

ちらりとネギくんの方を見ると少し恥ずかしそうに顔をしかめた。

 

アルビレオ・イマとは変ななれ合いはしたくないので自分で椅子を引いて勝手にお茶を入れる。

 

 

 

側廻りの妖精がお茶請けの菓子を運んでくる。

 

 

 

 

 

 

 

「本当にその格好でこいつらの前に出たって事は…覚悟を決めたって事だな。」

 

伝統的な巫女装束として白い小袖(白衣)に緋袴、黄櫨染と黄丹の刺繍が施されている。その上に神文の文様が施された千早を羽織っている。ティアラ状になった天冠を頭につけている。

 

「悪の大首領が本格的に動くとなれば魔法世界も旧世界も慌ただしくなるでしょうね。旧世界で魔法世界の深くに食い込んだ完全なる世界を張り倒せるのは貴女だけでしょうからね。」

 

 

 

 

 

 

 

エヴァンジェリンが妖しく嗤い、アルビレオが茶化しながら言う。

 

 

 

しかし、アルビレオ…フライドチキンチェーンのパクり名を偽名に使うのはふざけ過ぎでは?

 

 

 

 

 

 

 

「悪の大首領って言うのはやめてほしいわ。」

 

 

 

「魔法世界の人間から見れば貴女は悪の大首領でしょう。旧世界の約半数の国家と妖怪たちを率いて残りの半数の国家と魔法世界を相手に二度の大戦争を起こした貴女は。」

 

 

 

「それはイデオロギーの対立からくるもの。自由主義と社会主義然り、あの頃はこれにファシズムなんかもありましたか。まぁ、他所から見ればあの頃の日本は歪に見えたのでしょう。日本は大成功を収めた神権政治国家…そういわれていましたね。『王権は神から付与されたものであり、王は神に対してのみ責任を負い、また王権は人民はもとよりローマ教皇や神聖ローマ皇帝も含めた神以外の何人によっても拘束されることがなく、国王のなすことに対しては人民はなんら反抗できない』だったかしら、王様のやりたい放題でしょう。こんな政治じゃあ、フランスあたりで民衆革命もあって当然ですね。」

 

ここにきて歴史談義、生徒たちも一応聞いているようですね。綾瀬さんなんかは歴史好きということもあって食いつき気味ですね。

 

 

 

「日本はそうでもなかったようですが?」

 

「そうでしょうとも、居ますから王権を付与し監督する神様が…。」

 

大樹はそのまま続ける。

 

「今の現状に至るまでの経緯、小さな島国であった日本が何故ここまでの有力国になったのか。お話ししましょう。生粋の魔法使いの方々は少々思うところがあるかもしれませんが取りあえずはすべて話させてくださいね。とはいえ、口伝いにお話しするのも大変でしょう。多少端折るつもりですが長いな話には変わりありませんし、場所を変えましょう。図書館島の深部歴史書庫へ…、あそこなら映像記録もあるでしょうし解りやすいでしょう。」

 

 

 

エヴァの機転もあって転移魔法でさっと移動しました。

 

さて、話す前にちょっと周りを見てみましょう。

 

エヴァと茶々丸は旧知の仲とその従者。わかっていたので反応は薄い。

 

アルビレオ・イマは知ってって当然ですが性格が悪いのでうっすらとニヤニヤしてますね。そういう人ですからね彼は…。

 

側近のぐわごぜや側回りの妖精たちはいつも通り静かに控えています。

 

さて、ここからはネギくんたちですね。

 

まずはネギくん、私のことなど知らないのでしょうけど神妙な面持ちでこちらを見ています。生真面目な子ですからね。

 

小太郎くんは関西の術士でしたし、最近は何度か鬼太郎くん関係の妖怪の諸問題を手伝わせていましたし、何かは感じているのでしょう。結構真剣な感じがしますね。

 

幽霊の相坂さんは夫の将門から何かしら聞いてるんでしょうけど。いつも通りのぽやんとした感じですね。幻想郷の西行寺さんもそんなところありますし幽霊ってそういった性格の方が多いんでしょうね。

 

朝倉さんはジャーナリストを目指しているだけあってカメラやレコーダーを持ってスタンバってます。さすがに公表厳禁ですので、後で回収させてもらいましょう。

 

夕映さんは歴史好きでかなり詳しいですし、私の衣装で何かしらは察したのでしょう。強張ってますね。

 

神楽坂さん、古菲さん、長谷川さん、のどかさんは完全な一般人ですし、いつも通りの明るく元気な感じでキョロキョロしてます。

 

近衛さんは知ってるはずなんだけどなぁ。それを感じさせない雰囲気、将来は大人物になりそうです。従者の桜咲さんはガッチガチなのに…。長瀬さんもかなり緊張していますね。あー甲賀忍者の元締めは滝川家でその上司は織田家、その上は私ですからね。形式的な知識でしょうけど正体を察しましたね。

 

そういえば、あのカモミールって言うオコジョ妖精は知ってたなぁ。広義の同族だからかな。

 

 

 

そういえば、ここにいるメンバー以外で私のこと知ってそう。もしくは知ることができそうなのは未来人の超さんは知ってて当然として、彼女の協力者の葉加瀬さんはどこまで知ってるのでしょうか?龍宮さんは裏の魔法傭兵的にも表の神職的にも結構正体に近いものを知ってそう。春日さんは魔法生徒だけど正体は知らないし察してないでしょう。カトリック教徒なわけで私の正体知れば何かアクションを起こしそうな気もするけど。素の性格的に気が付いても見て見ぬふりしそう。何とかこちらに引きずり込んで妖怪関係の仕事の手伝いをさせたいな。あと、ザジさんも絶対知ってるよなぁ。魔界神の神綺様の送り込んだ工作員かなっと思ってるんだけどアクションが全くないんだよね。あと雪広さんも社会的地位的にはかなり無理をすれば辿り着けそうではあるけど。そういえば彼女、ネギくんのお父さんのことを調べてましたね。やっぱりある程度魔法世界とかの知識はあるんでしょうか。

 

 

 

なんて考えていたら準備ができましたね。

 

焚書されてて普通にはまず見つからないけど、図書館島なら割と簡単に見つけられますね。

 

さて、久しぶりに見ますね尋常小学校3年の国史の教科書。

 

「さて、教科書を開いてください。とりあえず何ページか捲ってください。えっと豊玉毘売命の出産の当たりですね。豊玉姫様がネグレクトしてしまったのでその場にいた国津神が生まれた子を育てましたって話です。その後も鸕鶿草葺不合尊(うがやふきあわせずのみこと)、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)と言うよりも神武天皇と言えばわかる人もいるのではないでしょうか。」

 

 

 

何人かは頷いている。お馬鹿さんな子もいるのでまちまちですが…

 

「。この後も国譲りや乙巳の変とか壬申の乱といろいろ続きますが、この要所要所で摂政として朝廷に助言をしている神様がいますね。大樹野椎水御神、これですね。戦前生まれならみんな知ってる存在なんですが今の子たちは知らないですよね。はい!これ!私です!」

 

「「「「「「「「ふぁ!?」」」」」」」」

 

「じょ、冗談でしょ!?」とは神楽坂さん。

 

「冗談じゃあ、ないんですよね。」

 

そういって妖精の羽なんぞを晒してみる。以前見た人もいるけど驚いてる人は驚いてるなぁ。

 

「あ、あの神武東征の外伝的立ち位置にある大樹西征に関してなのですが…?」

 

夕映さんが質問してきますが

 

「ごめんなさい。そこは省きますので次の機会にお話ししますね。」

 

さて源平合戦や蒙古襲来は飛ばして、織田幕府あたりからかな。

 

「とまあ、織田幕府が開闢しました。その頃に西洋妖怪と同盟関係になりました。この関係は皆さんがよく知る第二次世界大戦終結まで続いてます。ここまでで質問は?」

 

夕映さんが恐る恐る手を上げます。

 

「あの、先生の旦那さんって…」

 

「織田信長です。」

 

えぇー!とかすごいとかの反応がありますね。

 

「あ、あの先生の娘さんやお孫さんの子孫って…。」

 

おや?何か、調べたことでもあるのかな。

 

「まぁ、分からない子もいますし近代や近世は映像資料もありますし、それを使いましょう。」

 

 

 

サラエボ事件、第一次世界大戦勃発。

 

ワシントン講和会議後、織田三樹介大樹織田家当主過労にて死亡。断絶。

 

「先生…」

 

今のはのどかさん辺りかな。長男の家系が断絶したのに衝撃を受けたのでしょうか。私自身は折り合いをつけてるんですが、私も人に寄り添っていますがそういった所がズレているのかもしれませんね。

 

日露戦争あたりから妖怪が近代戦に参加している映像資料がちらほらと。

 

日露戦争…この戦争での勝利が妖怪たちを本格的に戦争の時代へと引きずり込んだ。旅順攻略後ロシアが降伏して、水師営でロシアのステッセリ将軍と乃木将軍の会談が行われた。乃木将軍の横には日本妖怪のたんたん坊や刑部狸も並んでおり、ロシア将兵がおびえている様子が映っていた。

 

 

 

映像が変わる。

 

 

 

これは第一次世界大戦あたりか。フランスの レイモン・ポアンカレ大統領の回顧録だ。

 

 

 

『世界に人類の運命を決する大きな危機が近づいている。その最初の戦いは有色人種の日本人とわれら白色人種のロシア人との間での戦いだ。白色人種は不幸にも敗れた。日本人は怪物たちと手を組み、白人を憎んでいる。白人が悪魔を憎むように憎んでいる。思想の違いなのだろう。我らにとって日本そのものが危険なわけではない。統一されたアジアのリーダーに日本がなり、さらに全世界の化け物たちがこれに与することだ。これが我らにとって最も危険なことである。』

 

私自身も映像に目が行ってしまう。

 

『我が国とカナダに隣接する日本の衛星国群はアメリカ大陸に同化することができない。彼らは野蛮な先住民たちと同化しその勢力を広げようとしている。アメリカにとって危険な存在なのだ。非常に勤勉で低い生活水準に耐え楽しみに金をかけることもなく長時間働く。お互いに助け合い団結する姿は異常なほどである。日本人はアメリカ大陸に黄色人種を繁栄させようと決意している。そのためには化け物たちとすら団結して見せた。これは我が合衆国、そして隣国カナダにとって非常に危険なことである。』

 

これは北米列藩のことか。アメリカの日本人排斥運動の映像だ。第二次世界大戦後北米列藩は地図から完全に消滅した。そういえば、あの国はベアードのお気に入りの国だったな。

 

北米諸藩とアメリカ・カナダでの関係悪化と小競り合い。そして、日本本国と欧米列強の対立。そして始まるのが第二次世界大戦だ。

 

 

 

 

 

『今、宣戦の大詔を拝しまして、恐懼感激に堪えません。私、小なりといえども、一身を捧げて決死奉公、ただただ宸襟を安んじ奉らんとの念願のみであります!』

 

 

 

映像をほとんど戦場の映像やプロパガンダだ。

 

 

 

『国民諸君もまた、己が身を省みず、醜の御盾たるの光栄を同じくせらるるものと信ずるものであります!』

 

 

 

日本兵の中に交じって狸やら狐やら天狗やらと言った人ならざる者の姿が映り込んでいる。

 

 

 

『およそ勝利の要決は、必勝の信念を堅持することであります。建国二千六百年、我等は未だかつて戦いに敗れたことを知りません!』

 

 

 

第二次世界大戦時の首相東条英機の演説。

 

その東条英機の演説を小振りながらも立派な玉座に座り聞いている人物こそが私だ。

 

 

 

『大樹野椎水御神様!!万歳!万歳!!』

 

 

 

 

 

「とまあ、彼女は大悪党も大悪党。悪の大首領様だったわけですよ。」

 

「おい。さすがに口が過ぎるぞ。アル」

 

「これは失礼。ですが、連合国視点ならそういうことです。ですが皆さんも思っているのでしょうけど。所詮は人がやったことで善悪なんて後から勝った方が決めるんですよ。」

 

 

 

皆が皆考えさせられるような内容だった。

 

すぐに返事が返ってくることもなく沈黙が支配する。

 

やっぱり衝撃が大きすぎましたかね。

 

この子たちも私から離れてしまうのかな。

 

 

 

「まぁ、なんて言うかエヴァちゃんとは別の意味ですごい人ってことでしょ?」

 

 

 

神楽坂さんは場の空気を緩めようとしたのか。これが素なのかわからないけど事実場の空気が緩む発言をした。

 

 

 

「そういうこっちゃね~。」

 

「昔のことだな。」

 

「後で、歴史の裏側なんか教えてくれます?」

 

 

 

あれ、意外と反応が軽い。

 

 

 

「杞憂だったな。大樹、こいつらはこういうやつらだ。」

 

 

 

エヴァが私の肩に手を置いて笑いかける。

 

 

 

「大樹先生…すごい人だったんですね。」

 

 

 

魔法世界の住人であるネギくんも思った以上に軽く受け流しましたね。少し意外です。

 

 

 

「カモくんがかなり濁しながらですが大樹先生のこと話してくれたことがありましたし…。未来に行ったときにそれっぽいことがありましたし、心の準備とかはできてました。」

 

 

 

「俺たちもなんだかんだで想像できてたし…。」

 

 

 

小太郎君談。桜咲さんもコクコク頷いている。

 

 

 

 

 

あ、そうなの。私の考えすぎってことだったのね。

 

 

 

「そうでござった。大樹先生の話が終わったのでこれを…。上司から密書を預かっていたのでござる。」

 

 

 

長瀬さんがここで懐から書簡を出してくる。

 

丸に竪木瓜、滝川家の家紋。現在は公安部の上層に根を張っていたはず。

 

政権ではなく私に知らせるとは…。

 

 



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197 平成 皇国再興計画①

 

 

私は書簡に目を通す。

 

 

 

「う、うそでしょ。」

 

 

思わず、口から思っていることがこぼれてしまう。

 

 

「長瀬さん、この書簡は読みましたか。」

「いえ、読んではござらんが。」

「でしょうね。だからこそ、平静でいられる。」

 

 

拙い、日本人と日本妖怪。元に戻ろうとする力が強すぎる。

これは拙い。

早く手を打たないと、いえすぐに行動に出ないいけない。

これは、とんでもないことになる。

 

『陰神刑部狸率いる旧日本妖怪軍、日本侵攻の兆し。

これに同調する者有り。陸上自衛隊東部方面総監林田浩二、警視庁副総監永森圭史、以下30名余り、他調査中。』

 

 

「長瀬さん!!至急滝川に嫌疑段階のものも含めたすべての情報をあげさせなさい!!ぐわごぜ!!雪女郎、白蔵主、赤嵐坊に配下の状況を確認してください。同調者が出るかもしれません!!勿論、関東全域の妖怪たちの動きも再確認急いで!!あと、護国会議の白蓮にも!!水楢!!民自党と華族会の連携議員代表と席を作りなさい!!大至急!!民政党のバカ総理には悟らせるな!!あと抑えるなら市ヶ谷か…市ヶ谷にも連絡、私の方で抑えるので強硬手段はとるなと…。桜田門は…そうですね。私が直接話した方がいいか。」

 

重要事項を大声で回りを一切気にせず伝え指示を出す。混乱しつつも状況を整理し、すぐ打てる手を考える。

 

「あ、茶々丸!超さんと葉加瀬さんに地下のロボット、再掌握できてないのは全部処分するように伝えて。」

「え、いいんですか?先生?」

 

エヴァが自分を無視した会話を始めた私たちに少し不満そうだが、今はエヴァのケアをしてる余裕がない。少し我慢してください。

茶々丸の方も、地下の超さんのロボットを自分の戦力化したいと言う考えを超さん伝手に知っていたので意外そうだった。

 

「しかたないでしょう。この前の西洋妖怪軍団の襲撃時にロボットがハッキングされていたのは確実。どれがそうで違うのかがわからない以上、確実に大丈夫なもの以外は処分しないと拙いですから。」

「わかりました。」

 

私の言葉に納得した茶々丸は自身の通信機能で超さんと連絡を取り始める。

そして、私はネギくんたちの方をにっこり笑って、正確には電子精霊を保有する長谷川さんの肩をつかむ。

 

「ちょ、ちょっと手伝ってほしいかな~。先生、すごく困ってるの~。」

「えー。」

 

長谷川さん、すごく嫌そう。彼女はコスプレをする程度にオタク、こう言えば協力してくれるかな。

 

「断らないでね~。あなたが助かっても日本はバラバラよ。」

「考えたなちくしょー!」

 

よし!ネタで釣ったら引っかかってくれたわ。

※DBネタを使わなくても彼女は頼まれたら引き受けてくれたでしょう。

少しばかり空気が緩み、生徒たちが話しかけてくる。

 

「先生、なにがあったんですか?」

 

桜咲さんが何が起きているのかと尋ねてきた。

近衛さんの護衛役であるのだから当然の発言といえるでしょう。

 

「旧日本軍の妖怪による侵攻が迫っています。」

「旧日本軍の妖怪って?」

 

早乙女さんは旧日本軍の妖怪という言葉に疑問を述べた。

私は早乙女さんの問いに答えつつ説明を続ける。

 

「あの戦争で各地に派遣されたの日本妖怪たちの一部は敗戦を認めず、潜伏を続けていました。そして私の側近であった陰神刑部狸を中心に70年という時をかけて各地に散った日本妖怪たちを糾合。抗戦派の南洋妖怪を加え、西洋妖怪と共闘体制を確立。そして、機が熟すのを待ち国内の協力者と示し合わせていたのです。」

 

「気を熟すのを示し合わせていた…。」

 

私のそばで片膝をついたままの長瀬さんが反芻する。

 

「えぇ、その協力者は自衛隊、警察、官僚、政治家多岐に及んでいます。国内の妖怪たちも協力する者もいるでしょう。皆さんにも協力してもらってよろしいですね。」

 

ネギくんたちは頷いて肯定の意を示してくれました。

エヴァは拒否しなかったから協力してくれるでしょう。

さて、肯定も否定もしていないアルビレオ・イマですがここまで首を突っ込んで傍観者でいようなんて虫の良い真似はさせませんよ。

 

「アルビレオ・イマ。」

「今の私はクウネッ「お遊びは終わりです!」…おぉ怖い。」

「おそらく、警察が今回のクーデターに加担したのは30年前の事件が原因です。魔法使いが関わって。警察の溜飲を下げさせるには先ずは近衛学園長を説得しなければなりません。エヴァにも協力してもらうつもりですが向こうの英雄の一人である貴方の言葉も必要です。いいいですね。」

「わ、わかました。今回は確かにあなたの言う通り協力するべきでしょう。」

 

私のクーデターと言う言葉にアルビレオ・イマも少しばかり真面目に応じてくれたようです。

 

「僕たちは何をすればいいでしょう。」

 

ネギくんが生徒たちを代表して聞いてきました。

 

「そうですね。長瀬さんは滝川との連絡を確保、滝川家の指示に従ってください。あと、龍宮さんを雇い入れますから連絡をつけてください。長谷川さんはネットやメディアが騒ぐのを防いでください。」

 

「わかったでござる。」

「いやいや、いち学生にやらせることかよ。まぁ、やってみるけど。」

 

「お願いします。」

 

取りあえず、エヴァたちとアルビレオ・イマは学園長との会談に立ち会ってもらうとして、ネギくんたちは関東近郊の決起妖怪の鎮圧をお願いしましょうか。

 

「ネギくんたちは関東近郊の決起妖怪の鎮圧をお願いします。多分途中で鬼太郎君たちと合流することになるかと思います。あ、早乙女さんはこっちに残って雑兵を書き続けてください。」

 

ネギくんたちは戦力的にも遊兵にするのは惜しいけど、戦闘系の子たちはそれでよいとして…。早乙女さんは趙さんのロボット軍団が使えなくなった穴を埋めてもらいましょう。

 

「のどかさんに夕映さん、学園長たちとの話し合いがすんだら私についてください。」

「は、はい!」「はいです!」

 

宮崎さんの能力は私の横に置いた方が役に立つでしょう。綾瀬さんも先頭の矢面に出すには未熟ですし、私のそばに置いておきましょう。思考を回転させているとエヴァが私に小声で話しかける。

 

「敵の規模は?」

「地方の敵は人妖ともに抑え込めると思いますが、関東近郊は難しいです。」

「直近で詳細を言ってくれ。」

「旧日本妖怪軍に関東近郊の妖怪の小集団がいくつか……それと陸上自衛隊第一師団、警視庁、神奈川県警、千葉県警、埼玉県警の実働部隊。」

 

 

 

 

 

エヴァは少し顔をしかめる。

 

「おい、それはかなり拙いだろう。」

「だから、学園長と会談をするんです。」

 

 

 

 



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198 平成 皇国再興計画②

エヴァは少し顔をしかめる。

 

 

 

「おい、それはかなり拙いだろう。」

 

「だから、学園長と会談をするんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

状況をつかみ切れていない子たちもいたようですが、事態は風雲急を告げています。

 

ネギパーティー、便宜上そう呼称しましょう。

 

 

 

「ネギパーティーの戦闘要員の皆さんは鬼太郎君たちに連絡しますので彼らと合流して陰神刑部の敵本陣を叩いてください!!」

 

 

 

「ん?ネギパーティー?戦闘要員?」

 

 

 

あ、私の頭の中で組み立てた言葉でした。

 

 

 

「ほら、ゲームとかってこう言うグループってパーティーって言うじゃないですか。ネギくんがリーダーっぽいですしネギパーティーかなぁって思いまして…戦闘要員とかっていうのは…以下略。」

 

 

 

急に思ったことを言ってしまうと伝わらないことってありますよね。

 

 

 

彼らの戦闘要員、ネギくん、神楽坂さん、古菲さん、桜咲さん、長瀬さん。

 

補助要員、近衛さん、早乙女さん。

 

後方要員、長谷川さん、相坂さん、朝倉さん、のどかさん、夕映さん。

 

 

 

と、言ったことを説明しました。

 

 

 

「と、とにかく!!戦闘要員は敵本陣を叩いて!早乙女さんはいっぱい兵隊の絵を書いて雑兵を作ってください!!長谷川さんは電子戦担当でそれ以外の皆さん一先ずは私についてきてください!長瀬さんは連絡を取りながらできますよね?お返事は!?」

 

 

 

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

 

「拙者だけ、仕事が多いでござるがやるでござるよ。」

 

「け、腱鞘炎になりそう。」

 

 

 

 

 

良い返事です。

 

ネギパーティーに指示を出したら今度は…。

 

 

 

「茶々丸は超さんのところの使えるロボットたちと関東近郊の治安維持に回してください。水楢は巫女衆の動員編成を早乙女さん作の雑兵の指揮も任せます。ぐわごぜは政治関係のセッティングをお願いします。」

 

 

 

「わかりました。」

 

「「御意に!!」」

 

 

 

「エヴァも戦闘要員ですが学園長との会談が済むまでは私といてください。イマ殿も交渉要因です!!」

 

 

 

「あぁ。」

 

「はいはい、わかりました。」

 

 

 

アルビレオ・イマ。

 

すすすっとどこかに行こうとするの、本当に不安になるからやめていただきたいですね。あ、イマのやつエヴァに白い目で見られてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はエヴァやアルビレオ・イマなどのメンバーを連れて学園長室へ乗り込んだ。

 

学園長室ではタカハタ先生やガンドルフィーニ先生や葛葉先生などの筆頭格の魔法教師たちが集まっていた。その様子から、事態の全容こそ掴めていないものの事の重大さは理解しているようで対策会議を始める直前だったようだ。

 

 

 

「近衛学園長。いえ、メガロメセンブリアの全権委任者である関東魔法協会の長である近衛近右衛門に天皇家養母兼摂政大樹野椎水御神として会談を申し入れる。」

 

 

 

 

 

 

 

近衛近右衛門は当代の摂関近衛家の人間である。彼女の巫女装束に施された黄櫨染と黄丹の刺繍の天皇や皇族に許された色を使っている意味は理解できていた。彼女が天皇の上にいる神であり、この国の本来の最高権力者であるということだ。

 

 

 

その絶大な権力を使っての交渉だ。

 

要求も相当のものだろう。近右衛門も覚悟を決めて会談に臨んだ。

 

しかし、その要求は非常に難題と言えた。

 

 

 

「関東魔法協会は直ちに護国会議の傘下に入り、関西呪術協会他と同様に護国会議の統制下に入ること。これ以上、日本国内で外国勢力が我が物顔で跋扈することは看過できない。」

 

 

 

 

 

私の言葉に学園長の周りにいた魔法教師たちが身を固くする。

 

私の言葉は聞きようによっては敵の発言と言えたからだ。

 

 

 

 

 

「それは無理難題じゃ。むしろ、聞けぬ話よな。」

 

 

 

私は学園長の言葉を鼻で笑って応じる。

 

 

 

「よく言う、GHQのごり押しで日本に割り込んできた異世界国家の出先機関が。」

 

「じゃが、それは日本がかつての帝国主義に走らぬようにという予防措置じゃろう。」

 

 

 

「その予防措置がやることなすこと裏目に出ているではないですか。」

 

 

 

学園長が渋い顔をする。

 

 

 

「関西呪術協会を中心とした土着機関との内ゲバ、かつての妖怪同士のコミュニティを寸断し人に害為す妖怪の跳梁跋扈をさせる切っ掛けとした。さらには魔法世界の問題であるはずの完全なる世界…コズモ・エンテレケイアがこちらでも蠢動するに至り。そして、今回の大規模決起です。この大決起の責任はあなた方魔法使いに寄るところが大きいのではないですか。」

 

 

 

私の言に異議を唱えようとする魔法先生たちの声に被せて声量で打ち消す。

 

 

 

「昭和63年12月31日。」

 

 

 

学園長も思うところがあるのだろうか押し黙った。

 

 

 

「日本の警察に撃たせましたね。国民を守る盾であるはずの日本警察にやらせてはならぬことをさせましたね。」

 

 

 

学園長は何も言い返せなかった。他の教師たちは何を言っているか理解できなかった。

 

 

 

「貴様ら魔法使いが機動隊員の一人を操って天童夢子を撃たせたなと言っている!!」

 

 

 

「なっ」

 

 

 

「…あれは仕方がなかった。本国の命令だったし、実行したのは本国から派遣された担当官じゃった。」

 

 

 

私の言葉と学園長の反応に教師たちは驚愕している。

 

あの事件にかかわったエヴァも驚いていた。

 

 

 

「近衛。あれが無ければあの後どうなる予定だったかご存じですか?」

 

「いえ。」

 

 

「昭和天皇は病床の余命少ない御身の最後の仕事と気力を振り絞っていました。あの頃は皇室の影響力も社会に大きな影響を持っていましたし、まだ完全に骨抜きにされるようなことも無かったから、ある意味最後の機会と言えました。」

 

 

 

学園長は俯いたまま顔を上げられなかった。

 

 

 

「過激派の妖怪の襲撃を人間と融和派の妖怪が協力して防ぐ。そして、それを取りまとめた人間の少女。彼女は人妖融和の象徴となるはずだった。」

 

 

 

学園長の取り巻きの教師たちも言葉が出ない。

 

 

 

「昭和天皇は彼女の功績をして、人妖の融和の第一歩とし、公式に融和を社会に訴えかけるという物語が出来ていたのです。それを台無しにした。そして、あろうことか日本警察に罪を擦り付けた。…近衛近右衛門。貴方は火星の魔法使いなのか摂関家の人間、いや日本人なのかどっちだ。」

 

 

 

学園長は声を震わせて答える

 

「…京都生まれの日本人、近衛家の人間です。」

 

 

 

「そうですか。近衛近右衛門、この先はわかりますね。」

 

「やりすぎたということか…。関東魔法協会は護国会議の傘下に入り、謹んで従います。」

 

 

 

大樹はソファーに沈み込んだようにもたれ掛かる学園長に続ける。

 

 

 

「近右衛門、先の陛下を弑逆した逆賊の誹りを受けることは、回避できましたね。」

 

「それはいったい?」

 

 

 

学園長は何の話だと呆けた様子で聞き返す。

 

 

 

「さきほど、皇居に控えさせていた妖精巫女から連絡がありました。宮内庁長官の身柄を拘束したと…。なんでも、クーデター発生後の革命政権を容認する発言をしたうえで、魔法協会を名指しで批判する声明を出す予定だったそうですよ。」

 

 

 

大樹の言葉に顔を引きつらせる学園長。

 

そして、それをしり目にため息をつく大樹。

 

 

 

「はぁ…。調べれば調べるほど大物が出てくる。あなた方…戦後日本を好き勝手にやったツケが回ってきましたね。……私には何もしなかったツケが回ってきたわけですが…。さて次は、警察との交渉ですか。」

 

 



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199 平成 皇国再興計画③

大樹たちは警察関係が入っている中央合同庁舎第2号館の隣中央合同庁舎第3号館に入った。

 

 

 

警視庁副総監が警察の首謀者であることはわかっていたが、その上の警視総監や警察庁の高官たちも、距離感的に黙認しているだろうと踏んだ大樹は警視総監に連絡を取った。案の定、彼は中立の立場をとっておりクーデターを黙認するつもりだった様だった。

警視総監を通じて首謀者の副総監らクーデターの関係者や中立容認派の高官たちと話し合いの席を設けられた。

 

会談の席が設けられたのが中央合同庁舎第3号館だったことに大樹は頭が痛くなるのを感じた。

 

中央合同庁舎第3号館は国土交通省所管の建物で地下で2号館と繋がっている。

 

とりあえず…会談の席に現れた人物たちをつなげていく。

国土交通省事務次官、技監。海上保安庁次長。中央合同庁舎第2号館にも運輸系の部局が入っていて、そこから繋がって総務大臣補佐官と事務次官。それらの内部部局部局長数人。警察庁からは人は出てこなかった中立黙認とのことだ。毛色が違うのだと郵便公社の社長がいる。

 

なるほど、郵便公社がクーデターに加担してたのか。

滝川の忍衆が掴み切れないわけだ。郵便関係の隠蔽が起こってるわけだから。

 

 

そして、永森副総監ら警察関係者。

 

「本来警察には軍の暴走を未然に抑えるという考えもあったような気もするのですがね。何も知らない国民を騒乱の中に放り込む片棒を担ぎますか。」

 

「確かに国民を巻き込むことに抵抗がないと言えばウソになる。だが、奴らがこの国の法治に関わるのなら我々がその意思を曲げることはありません。」

 

 

 

無数のパトカーと警備車が堀の外苑を包囲していた。

パトカーに先導された特型警備車からポリカーボネート製の盾を構えた機動隊員たちが何か所か堀にかかる大橋の前面に整列する。MP5を装備した隊員が縦の隙間から銃口を覗かせている。

 

 

 

「学園長、麻帆良は完全に包囲されています。生徒達には外に出ないように通達しました。」

「……大樹様が上手く話をまとめてくださるのを祈るしかあるまい。」

 

麻帆良駅の電光掲示板は運行休止再開未定の表示が出ている。

外延部のビルの屋上に狙撃手たちが配される。

 

 

 

大樹たちの会談は続く。

 

「皆さんはやはり魔法使いが日本の法治にまで口や手を出すことに不満があると…。」

「無論です。日本であって日本でない今の体制は法治国家として異常なのです。我々は軍ほどロマンチストではありません。戦前のように戻せるとは思ってはいません。ですが、国民の無理解無関心に一石を投じる必要はあると考えます。多少荒療治であっても、今のこの国には変化が必要です。」

「であれば、クーデターである必要はない。それにここにいる方々は魔法世界の影響力を落とすことが目的なのですね。」

 

 

 

家電量販店に置かれているテレビが一斉に放送停止の信号を発し始め、ラジオも同様に砂嵐しか流れなくなる。

 

「少しづつだけどネットに情報が上がってきてるな。駐屯地が騒がしいだとか、交通規制が多いだとか、駅構内になぜか規制線が張られたとか。」

 

電子精霊を操る長谷川ちうは学園の電子戦担当教員弐集院と協力して情報の改竄操作に尽くしていた。

 

「テレビやラジオの放送がストップしたよ。彼らの規模は相当なものみたいだ。」

 

次の瞬間、電子精霊たちが画面買いにはじき出されてくる。

 

「ど、どういうことだ?!」

 

同様するちうをしり目に弐集院は推測する。

 

「クーデターに加担した勢力が大手サーバーを落としている。ネット社会でも実社会でも情報を封鎖して闇を作っているんだ。」

 

 

麻帆良大橋にブルドーザーが運び込まれる。

 

 

 

 

 

「麻帆良の影響力の低下すればいいということですね。」

「えぇ、形ばかりのものではなくです。」

「ここに、関東魔法協会会長の直筆で関東魔法協会が護国会議の傘下に入り従属状態に入ることを承知した内容の書類があります。」

「そ、それは。」

「協会長のサインと印は押されています。あとは私とあなた方のサインと印があれば、これは成立します。いかがでしょうか。」

 

ここに来て、今まで動じなかった永森副総監が初めて動揺を見せた。

 

「す、少し時間をいただきたい。」

 

そういうと彼は私から書類を見せられ、ほかのクーデター派官僚たちと話し合いを始めた。

 

「お早い回答を。時間があまりありませんので…」

 

「わ、我々は今回の決起は見送ることとしました。ただし、妖怪たちや自衛隊のそれに関して我々は一切関与をしないものとしたく思います。」

 

つまりは、クーデター積極参加から消極的になって中立に回ったということか。

 

「私としては、この後のことを考えているのですが…。」

「ここにいる一同、御神心に従います。」

 

 

 

警察機動隊の麻帆良包囲が解除され、麻帆良に向けられた銃口が降ろされる。

 

「警察の部隊が撤収しているようです。」

「大樹様と警察決起部隊との交渉が成功したようじゃな。」

 

学園長たちの会話に割り込んだアルビレオ。

 

「まだ、半分だよ。いや、半分も言っていないな。」

 

アルビレオの言葉を聞いた学園長はタカミチに指示を出す。

 

「包囲が解けたわけじゃ。ワシらにも大樹様から指示があるやもしれん、魔法先生や警備に参加している練度の高い魔法生徒たちにいつでも動けるように指示を出してくように。」

「わかりました。関係各位に通達します。生徒の選別は各教導教員に任せます。」

「それでよい。」

 

 

 

 



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200 平成 皇国再興計画④ 蹶起

 

練馬駐屯地では駐屯地の廊下を連隊長ら数人が師団長室に向かって歩いていた。

全員が全員完全武装であった。

 

「駐屯地を第三種勤務体制に移行させ、1普連、後方支援連隊、通信大隊、化学防護隊を緊急出撃準備させてください!目的地は永田町です!総理公邸を占拠します!」

 

「な、なにを言っているんだ?そんなことできるわけないだろう。陸幕長からの命令は来ていない。どこからその話は来ているんだ?」

 

師団長は少々脅えた様な声になった。

 

「東方総監です。自分が許可を得ました。連舫内閣は潰します。師団長はこの基地だけでなく他の駐屯地の部隊にも動員命令を出してください!都心を制圧しこの国をあるべき姿に戻すのです。」

 

連隊長は9ミリ機関銃のボルトを引きながら師団長に迫った。

 

「ク、クーデターじゃないか!馬鹿な真似はやめろ!」

 

「警衛指令!師団長の身柄を拘束しろ!」

「っは!」

 

連隊長に随伴していた警衛指令が師団長を拘束し連れ出していった。

連隊長は随伴していた中級指揮官たちに向き直り宣言する。

 

「これより、第一師団は決起する。東方総監はの許可は得ている。師団長は決起に反対したので、身柄を拘束した。自分が師団長に替わって指揮を執る。もうじき、皇軍の妖怪たちも到着するだろう。彼らと合流し都心を制圧、その足掛かりとして貴官らは総理官邸を占拠、永田町制圧作戦を起案せよ。」

 

 

 

すでに強力な妨害電波が発せられており、テレビラジオは不通であり、ネット回線も不具合が生じており情報は寸断しつつあった。

 

ぶつ切りの様な真偽不明の情報が錯綜する中の一つ。動画共有サイトUTubeに投稿されたものであった。

 

「で、でけぇ…戦艦大和にそっくりだ。すごい数だ…」

 

横浜ベイブリッジの下を古の大戦艦を中心とした軍艦が通過していく。

途中、ボーと汽笛を上げる音が現実の光景であると理解させられる。

 

かつて、日本を出た陰神刑部狸率いる旧日本妖怪軍が戦艦紀伊を中心とした大艦隊を率いて東京湾に侵入していく。

 

『達する。非常呼集。繰り返す非常呼集。各部隊は発信待機せよ。』

 

慌ただしい基地内で連隊長は特殊無線の受話器を取り、連絡を取る。

 

「お待ちしておりました。刑部殿、第一師団はこれより貴軍の指揮下に入ります。本作戦において、警察が作戦参加を見送ったため作戦の修正が必要です。1普連は日比谷公園を本部とします。これは永田町、霞が関に近いからです。第一中隊は総理公邸を襲撃、総理の身柄を押さえます。永田町及び霞が関の制圧に当てます。第四第五中隊、重迫中隊は貴軍と合流させ麻帆良攻略に当てるのが妥当でしょう。また、埼玉及び都心部の制圧自体は第32普通科連隊が行います。魔法使い等の敵航空戦力に対しては各所に神奈川警備隊区の第一高射特科大隊の部隊を呼び寄せます。一応、お伝えしますが第十二旅団は中立の立場を表明。東北方面隊と北部方面隊は準備を始めております。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、そうか。」

 

長老河童が腰を上げる。

 

「関東は利根川の禰々子だったか。大義に従えと伝えよ。我らも加勢する。メドチ、ガラッパ、シバテンを呼んでくるのじゃ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「刑部様。一部が日和りましたが本土の同志たちが行動を開始しました。」

 

東京湾に係留した旧日本妖怪軍残党艦隊。

 

「電波通信妨害装置が正常に機能しています。関東圏の通信機能は破壊できているようです。」

「よろしい。航空銃翼兵団を態度不鮮明な入間、百里、浜松に送れ、横田の米軍基地の方は破壊していい。怪しい動きを見せたら攻撃しろ。古参御料兵は東京ヘリポートだ。報道機関のヘリがウロチョロされて騒がれるのは好ましくない。それと念のため警視庁航空隊を見張らせよう。」

 

刑部は艦橋の司令官席で参謀の妖怪狸たちに指示を出していた。

 

「横須賀港前面への機雷敷設完了。米軍基地には蛟龍を特攻させました。」

「千葉方面よりヘリコプター群、第21航空群…友軍です。」

「そうか。横須賀に回せ、刺突爆雷を装備した魚人たちもいるが、潜水艦対策に第21航空群にも哨戒させる。鬼畜米英の米軍だ。怪しい動きがあったらすぐに沈めろ。」

 

 

「護衛艦いそかぜ、うらかぜ。巡視船あきつしま、おおすみ。横浜港より出港、こちらに合流するとのこと。」

「待っていると返信しておけ。」

 

東京湾及び浦賀水道に布陣している残党艦隊は大和型戦艦四番艦紀伊を旗艦とし、軽空母鳳翔、駆逐艦雪風以下5隻の駆逐艦と7隻の海防艦、武装小型船13隻、大型輸送船1隻で構成していた。

 

「輸送船を東京港へ、兵を上陸させろ。決起同志と共闘し首都を陥落させる。あまり、民間人には被害は出したくない。我らの大義が失われる。」

「1号輸送艦を港に接舷させます。」

 

刑部は妖怪狸たちが上陸するのを確認する。

 

「鳳翔に命令。桜花、すべて発射…目標麻帆良学園都市。忌わしき夷敵を焼き払え。」

 

 

 

 

 

民自党の連携議員代表との話し合いを終えた大樹は空を白い線を描いている飛行機雲を見つける。

 

「遊兵の妖精巫女たちを武装させ東京各所に配置、水楢には主力を率いて永田町へ何とかにらみ合いで時間を稼がせて。」

 

ぐわごぜが携帯電話を掛け麻帆良に連絡を取っているようだ。

 

「止められなかったか。」

 

 

2019年7月6日22:14 自衛隊決起、皇軍上陸。

 

 

 



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201 平成 皇国再興計画⑤ 鎮圧

 

地下鉄出入り口からあふれ出るように現れた軍服の妖怪狸たちは総理公邸に横付けした陸上自衛隊第一普通科連隊の第一中隊とともに公邸に突入し、連舫首相を拘束した。

 

「あなたたち、何をしているのかわかっているのですか。」

「重々承知しています。首相には当分、ここにいてもらいます。」

 

 

その後も特に目立った戦闘はなく、各公官庁や報道局が制圧されていく。

 

 

 

 

 

 

麻帆良ではアルビレオ・イマの張った結界によって自爆特攻機桜花の群れを凌ぎ切った。

 

「なんとか凌ぎ切りましたが…。」

「次が来たようだな。」

 

アルビレオの言葉にエヴァが被せた。

 

 

すでに警察部隊は撤退していた。代わりに現れたのは自衛隊であった。

82式指揮通信車を先頭に73式トラックが何台も続く。さすがは訓練された軍隊、歩兵部隊がすぐに降車し迫撃砲が並ぶ。さらには決起に加わった関東近郊の雑多な妖怪たちも集まって来ていた。

 

 

「一般生徒たちを中央会館に避難、大橋以外の橋はすべて落とすのじゃ。全魔法先生たちは麻帆良大橋に集結、魔法生徒たちは一部を除き一般生徒たちを守らせるのじゃ。」

「はい!」

 

無反動砲を構えた自衛官たちが大橋の向こうの扉に狙いを定める。

「撃て!」

 

麻帆良大橋の外壁の大扉が吹き飛ぶ。

中隊長が攻撃開始を叫んだ。

 

「全隊攻撃開始!!麻帆良を制圧せよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

大樹は民自党会館を後に、永田町から皇居に避難した。

皇居の堀を挟んで永田町の決起軍と睨みあっていた。

大樹は手持ちの妖精巫女と皇居付きの妖精巫女、皇宮警察を掌握。

 

「大樹様、陸上総隊の司令部は抑えられましたが、第一空挺団、中央即応連隊、特殊作戦群は超法規的措置として大樹様の指揮下に置くとのことです。」

「即応連隊は宇都宮、到着まで時間がかかる。実質的には第一空挺団と特殊作戦群が手駒ですね。」

 

東京湾の方も爆音や閃光が見える。

ネギくんや鬼太郎君たちが刑部狸がいる残党艦隊に攻撃を仕掛けたようだ。

荒川を挟んで河童たちが第32普通科連隊と睨みあったことで、都内の完全制圧は防げた。

河童たちがこちらに味方したのは幸いでした。

 

そして、すぐ近くでも銃声が聞こえ始めた。

 

「ここでも始まったか。」

 

決起軍と大樹率いる籠城軍の火ぶたが切り降ろされた。

決起軍は完全武装の自衛隊と同じく武装した軍隊狸たちであった。

練度的にも不利だったが、戦力的に拮抗したのは茶々丸と彼女に率いられたロボットたちだ。超が用意していたロボットの9割強は処分したが1割弱は残った。この1割弱の未来ロボットの存在が永田町の決起軍を抑え込んでいた。

 

 

通信がほぼ完全に停止している中、東京都が機能不全の政府に替わり戒厳令を発令した。

『いったい何が起こっているのですか!?目の前で銃撃戦が起きているのに!とにかく一般人を外に出さないようにはします。警察では歯が立ちませんよ!!それに警察は中立だと言っています!このままでは民間に被害が出てしまいます!』

 

「わかっています。ですが第一高射特科の一部が永田町に入ったので第一空挺団が使えませ…ん。」

 

いや、永田町にいる高射特科は対空ミサイルじゃない。あくまで機関砲、機関砲程度なら…。

 

大樹は都知事との回線を切ってすぐに妖怪の水晶通信を開く。

 

「天狗ポリス関東管区隊!」

『こちら、関東管区隊隊長三浦坊。』

 

「現在の状況は理解しているか?」

『はい、もちろんです。』

 

「永田町制圧のための降下作戦を行う。関東管区隊は永田町の高射特科を引き付けられますか?」

『もちろんです!お任せください!』

 

 

大樹は大天狗赤嵐坊に連絡を取り、天狗ポリスの指揮権を行使することとなる。

 

 

 

 

 

東京湾係留中の残党艦隊。

 

自衛隊から合流した決起艦をも相手に鬼太郎たちとネギパーティーは大太刀周りを演じていた。

 

護衛艦や巡視船、残党軍の艦船のCIWSや機関砲を躱し、距離を詰めるネギたち。

 

「銃撃が激しくて近づけないわ!」

「僕の魔法の盾じゃミサイルや砲弾は受けきれませんし、機銃弾もたくさん当たれば割れてしまいます。」

 

 

「さすがに、軍艦相手に指鉄砲じゃ敵わない。」

「どうしたものかの。」

 

ネギと鬼太郎たちがどうしたものかと悩んでいると、高速でその間に飛び込んできた少女。

 

髪は黒髪セミロング。左右の紐に白いポンポンをつけた赤い山伏風の頭襟。

黒いフリルの付いたミニスカートと白いフォーマルな半袖シャツ、履いている赤い靴は底が天狗の下駄のように高くなっている。

 

天狗ポリス所属の天狗たちとは違い人間に寄った容姿をしているのが彼女高位の天狗であること理解させる。

 

「幻想郷最速!いえ、世界最速の射命丸文が皆さんにお届け物を持ってまいりました!!」

 

「これは?」

 

鬼太郎の問いに射命丸が答える。

 

「天石楯です。八雲妖より届けるように言われましたので、お届けしました!」

「おぉ、これは天狗の記者どの。お手数かけさせますのぉ。」

「いえいえ、こちらも八雲から見返りはいただいているのでお気になさらず。」

 

目玉のおやじの例になんてことないと家電量販店の商品券の束を見せるて応じる。

 

「それにあれを相手にするのは骨が折れるでしょう。ここは幻想郷の精鋭天狗たちが協力しますので、あとはちゃちゃっとやっちゃてくださいな。椛!」

 

「はい!!」

 

射命丸の呼び声がちょうど良いタイミングで配下の白狼天狗たちを率いて追いついた犬走椛が返事を返す。

 

「さて、ここは私たちに任せてほら!」

 

 

 

射命丸に促されてネギと鬼太郎たちは天岩盾を構えて戦艦紀伊に突貫し、無事乗り込んだ。

 

『甲板に侵入者!各員応戦せよ!』

 

甲板に上陸されたことに気が付いた妖怪狸や山童や河童たちが小銃や軍刀を手に取り応戦してくる。

 

甲板の妖怪たちを蹴散らした彼らは鉄扉をけ破って艦内へと乗り込んだ。

 

「撃て!撃て!これ以上行かせるな!!」

 

 

 

天狗ポリスの天狗たちが決起軍高射特科に対して陽動を開始する。

 

「このままにらみ合いを続けましょう。」

 

皇居に籠城する大樹たち。

 

 

 

ネギと鬼太郎たちは刑部狸のいる戦艦の艦橋に至った。

艦橋に乗り込んだ彼らを見た刑部は「もはやこれまでか。」と息をついた。

そして、降伏する旨を告げた。

 

もっと、激しい抵抗があると予想していたネギと鬼太郎たちは少し拍子抜けではあったが、一応の降参なので受け入れることにした。

 

 

皇居では戦艦紀伊が陥落した知らせを受けて、高射特科を無力化し、都内に空挺部隊が投入された。そして、大樹は通信水晶の前に立ち、妖精巫女が文書を読み上げる。

 

「決起軍並びに皇軍妖怪兵士官に告ぐ。

 

神命が發せられたのである。既に大樹野椎水御神の御命令が發せられたのである。

お前逹は上官の命令を正しいものと信じて絶対服従して誠心誠意活動してきたのであろうが既に大樹野椎水御神の御命令によってお前逹は皆復歸せよと仰せられたのである。此上お前逹が飽く迄も抵抗したならばそれは神命に叛抗することになり逆賊とならなければならない。正しいことをしていると信じていたのにそれが間違って居たと知ったならば徒らに今迄の行き懸りや義理上から何時までも叛抗的態度を取って大樹御神に叛き奉り逆賊としての汚名を永久に受けるようなことがあってはならない。今からでも決して遅くはないから直に抵抗をやめて大樹御旗の下に復歸する樣にせよ。そうしたら今までの罪を許されるのである。大樹野椎水御神様もそれを心から祈っているのである。速やかに現在の位置を棄てて帰ってこい。」

 

 

麻帆良学園都市を包囲していた決起部隊に対して学園保有の飛行船が回遊て見せた。

飛行船に記されていたのは一言『神命下る神旗に手向かうな』。

 

 

天狗ポリスの大編隊と護国会議の実働部隊が都心を包囲していた。

 

2019年7月7日4:48明け方 反乱鎮圧

 

 



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202 平成 地獄攻防戦①

皇軍妖怪たちは武器を捨て天狗ポリスへ下り、決起部隊も次々と原隊へ復帰する。

 

この反乱騒ぎであったが、情報封鎖の為か外国へ詳細情報が洩れる前に解決したため。

 

現政権との裏取引で反乱騒ぎそのものをなかったものとして扱うこととなった。

 

現政権の裏取引と言っても、反乱発生を認めたら現政権が吹き飛びかねないこと。総理が決起諸部隊に罰を望むのであれば、大樹は次は介入しないと言い放ったこともあった。

 

 

 

「しかし大変だったわ。」

 

 

 

図書館等の大樹の居住スペースでワイングラスに注がれたワイン片手に愚痴をこぼす八雲紫。

 

 

 

「しかし、麻帆良の認識疎外の魔法もあったとはいえ貴様の境界を操る能力。ここまで効果的だとはな。」

 

「さすがに私ひとりじゃないわ。藍にも手伝わせたし、人里のワーハクタクにも手伝わせたわよ。」

 

 

 

大樹の恩赦としてこの度の事件はなかったことに、幻想郷の援軍もあり蹶起騒動は大事になる前に未然に防がれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

だが、地獄での戦いは徐々にさとり率いる西洋妖怪軍団に天秤が片付きつつあった。

 

 

 

地獄ではさとり率いる軍団が攻勢を強め、地獄勢は防戦一方となっていた。

 

そんな混乱を利用して、閻魔庁の建物内を歩く老人が一人。否、妖怪であるその名はぬらりひょん。そして、もう一人中国妖怪の首領チーである。

 

 

 

「さすがにこの混乱とあっては、地獄の通常業務はストップですね。罪人たちが待ちぼうけを食らってます。これを逃がしてしまっても良いのですが、せっかくなら大物を逃がしたい。そうは思いませんかなチー殿。」

 

「ぬらりひょん、お前が何を企んでいようと構わない。姉上をお出しできるのならそれが最良だ。」

 

 

 

そう言って二人は通路を進む。

 

 

 

「おじさんたちは何してるの?」

 

 

 

「!?」「何者!?」

 

 

 

2人の前に姿を現したのは薄く緑がかった癖のある灰色のセミロングに緑の瞳。 鴉羽色の帽子に、薄い黄色のリボン。

 

 

 

「貴様!地獄の住人ではないな!!」

 

 

 

チーが警戒心を強め、丸薬を口の中に投げ込もうとしたのだが、一瞬で姿を消してしまった。

 

 

 

「なんだったんだ?今のは?」

 

「さぁ…ですが、今はあれに構っているのも良くない。チー殿、とにかく地獄の三将を解き放ちましょう。」

 

「うむ、そうだった。急ごう。」

 

 

 

 

 

二人は目的地へ向かった。

 

二人は早々に黒坊主と伊吹丸らを解き放ち、最大の目的地に到着した。

 

 

 

「ここが…。」

 

「そうです。あなたの姉君、玉藻の前…妲己、褒姒(ほうじ)或いは華陽太后ですね。」

 

「今はおそらく玉藻の前を名乗られるだろうな。ムン!!」

 

 

 

チーが力を籠めると玉藻の前を封印していた石が砕ける。これと同時に現世の殺生石も砕けた。

 

 

 

「…ふぁ~石の外は1000年ぶりよのぅ。チー、我が弟よくやったぞ。」

 

「いえ、当然のこと。」

 

 

 

「ん?そちらは誰です?」

 

 

 

玉藻の前の問いにチーが答える。

 

 

 

「この度のことに協力してくれた日本妖怪の…。」

 

「ぬらりひょんにございます。九尾様。」

 

 

 

「その方にも何か褒美をやらねばならんか?」

 

「いえいえ、九尾様のお役に立てたのならそれで充分です。」

 

 

 

ぬらりひょんは社交辞令をしてすぐにその場を離れようとする。

 

 

 

「私は、一度所用を片付けたく…。」

 

「ん、そうだったな。ご苦労だったぬらりひょん。」

 

 

 

チーの言葉の後にぬらりひょんはすっと姿を消して去る。そして、チー達もそのまま去った。



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203 平成 地獄攻防戦② 

 

「この度の責はすべて某にあります。咎はすべて自分が受けます故、私に付き従って来た者たちには何卒寛大な処置をお願いいたします。」

 

刑部狸が床に額を擦り付けて配下の者たちの助命を願った。

刑部狸は大樹から授かった香木と恩寵の刀を差し出すが大樹はそれを突き返した。

 

「松山城での謹慎を命じます。沙汰は追って伝えます。今後も変わらぬ忠誠を期待します。」

 

「た、大樹様・・・。」

 

クーデター騒ぎを比較的穏便に収束させた大樹であった。

 

 

「貴女も大概に甘いのね。」

「刑部は平安時代からの功臣です。」

 

隙間から現れた八雲紫に大樹は毅然として答える。

 

「紫、何か用があるのでは?今はお互いに忙しいはず。」

「えぇ、ただ私ではなく彼女がね。」

 

紫が視線で示す先には幻想郷の閻魔である四季映姫の姿があった。

 

「四季映姫殿、此度は何用で?」

「実はご相談…いえ、お願いがございまして…。」

 

映姫の話では宋帝王が五官王を西洋妖怪の内通者として五官王を牢に入れ、拘束したというものであった。西洋妖怪に攻め入られてるただ中に地獄で政変ですか?

 

「私に介入しろと言いますか。」

「明け透けに言えば…そうなります。」

 

地獄の政変に首を突っ込んでも大きな問題にならないのが、今なお現世で絶大な影響力を持つ私ということでしょうか。大きな問題にならないだけで問題がないわけではないのですが…。それを踏まえても四季映姫が助けを求めてくる程度に地獄の状況が悪いのでしょう。

 

「それに、宋帝王様も他の縦横であらせられる秦広王様や初江王様たちが性急すぎると反対しても耳を貸そうともしないのです。大樹様ならと思い…こうしてご助力を願いに来た次第です。」

 

動かざるを得ないのですが…。

側に控える水楢とぐわごぜに目をやる。

 

「仕込みは済んでいますので、地獄の政変に介入してもよろしいかと…。」

「地獄の件放置するには、危険すぎます。」

 

二人とも介入に反対しなかった。

 

「わかりました。地獄に関しては手を打ちましょう。妖怪狸たちの取り纏め役は二ツ岩マミゾウに任せます。そういえば紫、あの子たちの様子はどうですか?」

 

「あの子たち?あ、妖精たちのことね。傷は癒えたと思うわ。今一度取り立てるのならブランクはあるでしょうけど問題ないと思うわ。それに、あの子たちも喜ぶと思うわ。」

 

「今後は政治、軍事、経済、外交…すべての面でやるべきことが増えていくでしょう。旧臣たちを集めなくてはなりません。旧臣と言わずとも協力してくれる者たちを集めなくては…。」

 

地獄に行くにしても西洋妖怪たちと戦う必要がある。

 

「ぐわごぜ、水楢、兵をすぐに集められるだけでいいので集めなさい。二ツ岩マミゾウにも同様に伝えなさい。」

「四季映姫殿。それに紫…幻想郷に対して通行権を要求します。」

 

そして、二人は大樹に対して幻想郷の通行権を認めることとなった。

しかし、軍を編成するには時間が掛かる。

一先ずは鬼太郎たちに連絡を入れ、先行して対処をお願いした。

鬼太郎たちも顔無しだか名無しだか言う巨大なノヅコとの一件があったばっかりで大変なはずなのだが、快く引き受けてくれた。

 

 

 

 

 

 

クーデター事件から時間も経ち、ネギくんの父親探す部=ネギま部(仮)(仮じゃなくなりそう)も出来ました。私が顧問の先生です。エヴァは名誉顧問だそうです。

 

「ナギに関するすべての情報は寄越してもらう。」

 

エヴァ・・・未だに振られた男に未練があるのかしら。

 

その後に、ネギくんたちもエヴァ謹製の特訓を受けてさらに強くなりました。

 

民自党や華族会の議員たちと何度か会談をしたり、民政党に謀略を仕掛けたり、野党第二党である日本改革会にも触手を伸ばしてみたりしています。そんなこんなで数日が経ち…。

 

 

 

 

 

長野県白岳。富山県警察・長野県警察によって完全に封鎖され余人が入る余地のないこの山に二ツ岩マミゾウ以下妖怪狸500、白蔵主以下妖狐200、水楢以下妖精200、天狗ポリスからの派遣部隊である黒鴉以下50、聖白蓮以下僧兵の1000近い軍勢が大樹に率いられていた。

 

 

長野県白岳の某所の大穴の前にこの軍勢は集結していた。

 

「ここは幻想郷につながる道の中で最も大きい場所。ここならこれだけの兵力でも通れるというものです。」

 

ネギくんたちはエヴァ謹製の隔離タイプの特訓をしていたために連れて来れませんでした。

エヴァもネギ君の特訓の師事もあって離れられないとのこと。

 

大穴を超えた先は森だった。さらにその先に進むと小ぶりな神社が建っていた。鳥居に記された名は『博麗神社』。

 

 

「あー、ちょっとそこの団体さん。紫から話は聞いてたけど、さすがにその人数は境内に収まらないわ。代表の人以外は出てってくれない?」

 

黒のまっすぐな髪、茶色の眼、やや高めの身長。

そして何より目を引くのは袖が無く、肩・腋の露出した赤い巫女服。後頭部に結ばれた模様と縫い目入りの大きな赤いリボンもワンポイントなのだろうがやはり目を引く腋。

博麗の巫女なのかな~。

 

「若いわね~。」

「??・・・とにかく、こんな大勢で長居されると異変みたいになるから、さっさと行きましょう。あと、界隈から援軍が来てるわよ。挨拶とかは移動しながらにしてちょうだい。」

 

 

 

博麗神社で待ち構えていたのは団体で言うなら妖怪の山からの援軍の天狗河童山童。それと幻想郷在住の妖精たち。著名な個人としては妖怪の山からの援軍を率いて来た。それぞれの隊長各である射命丸文と犬走椛、河城にとり、山城たかね。私の旧臣にあたる大ちゃんこと大妖精にチルノ、サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア、リリーホワイト、リリーブラック。なんか野次馬参加のクラウンピースって子もいた。あと、戦国時代にはかなり大暴れした風見幽香も駆けつけてくれた。

 

それ以外のお初な感じの子たちは幻想郷在住の魔女である霧雨魔理沙さん、アリス・マーガトロイドさん(この子って魔界神の神綺様の娘さんじゃ?)。あと、東風谷早苗さん。彼女は幻想郷に隠居している八坂神奈子と諏訪子の寵愛を受けた巫女で多分諏訪子の子孫にあたる人物だと思う。二人の紹介状を持って来ました。

 

『楽しそうなことをしてるじゃないか。一枚かませろよ。』

 

といった内容の書状だった。

 

 

 

 

「じゃあ、霊夢あとはお願いね。」

 

そういって隙間に引っ込む紫。

 

「えー。」

 

ちょっと嫌そうですね。

 

「あ、あのうちの分社を置いてもいいですよ?」

「分社とか守屋神社で間に合ってるから、いらないわ。」

 

むっ

 

「うちは年間の賽銭総額が5億ありますよ。」

「っ!?ぜひ、内に分社をどうぞ。なんでしたらご神体でも。」

 

紆余曲折はありながらも博麗霊夢の先導を受けて地獄へ向かうことに。

 

結構な早送りで幻想郷を通過。是非曲直庁幻想郷支部で小野塚小町と庭渡久侘歌、牛崎潤美ら幻想郷支部の戦力が合流。その総兵力は3000(主力は妖精)に膨れ上がっていた。

 

 

「えっと、地獄には畜生界を通っていくから。あそこはつい最近、大人しくさせたばかりだから問題ないでしょ。」

 

何か言いたげな四季映姫を一先ずは無視して先を急ぎます。

 

「こっちじゃ、一騎打ち形式の弾幕戦闘が主流なんだが今回は集団戦になりそうだな。」

「貴女の開幕の一撃は貴女のマスタースパークが良さそうね。乱戦になれば私のドールズウォーの使い勝手がいいと思うけど。」

 

少し聞き耳を立てていると魔理沙さんとアリスさんがそう話しています。

 

「あ、あの大樹様は神奈子様や諏訪子様の古いご友人なんですよね。お二人の昔話なんかを今度聞かせてください。」

「えぇ、いいですよ。諏訪子とは諏訪大戦より前から知り合いで・・・・・・・・・略・・・。」

 

早苗さんと話しながら進んでいると、先に進んでいた霊夢さんが戻ってきます。

 

「畜生界の奴らとは話をつけて来たから。」

 

霊夢さんがそう言って視線の先の3人を指し示す。

 

「ふむ。そうですか・・・。」

 

畜生界、その本質は目先の利害にとらわれ、理性が働かないでしたか。

 

「外界よりの敵がすぐそこまで迫ってきています。先手必勝、奴らの背後をつき一気呵成に責め立てる。貴様たちも各々の兵を持ってこれに加わられたし。」

 

ストレートに敵を倒すと言えば、着いてきそうな気もする。

これが意外に効いたのか。以前の博麗霊夢の所業が効いたのか。あるいはその両方か・・・。

 

畜生界の主要な勁牙組、霊長園、鬼傑組の3勢力の兵力を一時傘下に置くことに成功した。

畜生界に詳しい3人の誘導を受けて、西洋妖怪の背後を突くことに成功するのだった。

 

 



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204 平成 地獄攻防戦 初代ドラキュラ公爵

 

これは・・・地獄に到着したタイミングも最高だったようで・・・。

宋帝王に擬態した初代ドラキュラがその本性を見せるタイミングだった。

 

「ほぅ・・・初代ドラキュラ公爵か。」

 

その姿を見たエヴァが目を細める。

 

「そうだ。わが友バックベアードの頼みで数十年前、宋帝王に成り代わりジワジワと血の池地獄の力を吸収し続けてきた。時はきた・・・。」

 

初代ドラキュラに私は降伏を迫る。

 

「公爵、旧同盟勢力のナンバー2たる貴殿を倒すのは忍びない。貴軍は地獄の軍と我が軍に前後から挟まれ圧倒的に不利であり、包囲され目論見はすでに絶たれた。大人しく降伏しなさい。」

 

公爵は少し考えるそぶりをするが

 

「ふむ、確かに不利だ。なので、奥の手を使わせてもらおう!!いでよ!!ここまで育った我が僕たちよ!!」

 

「「「ギーーー!!」」」

 

まるで西洋の竜の様な凶悪な姿に育った吸血蝙蝠たちが血の池地獄から飛び出してきた。

 

「さぁ!!行け!!敵の軍勢を全て薙ぎ払ってこい!!そして、地獄の炎を我ら西洋妖怪のものとするのだ!!」

 

公爵の命令で蝙蝠竜たちがこちらに襲い掛かってくる。

公爵の後ろにいたさとりが口を開く。

 

「と、言うわけです御祖母様。私たちはまだ負けたわけではありません。まだ、これからです。全軍攻撃再開!!地獄の炎を!!妖怪の核を我が手に!!」

 

「っち!こちらも応戦せよ!!全軍戦闘開始!!総兵力はこちらが上です!!鶴翼の陣を持って敵を囲い込め!!」

 

 

弾幕や妖力の銃弾が双方の間を飛び交う。

 

初代ドラキュラ公爵の相手は鬼太郎がしてくれるようだ。

結構ボス臭い蝙蝠竜は博麗霊夢といった幻想郷の強者たちが相手をしてくれている。戦闘は拮抗状態、いえ兵力が多い分こちらに有利と言える。

 

 

だが私自身、私の本陣まで攻め込んできたさとりと一騎打ちをする羽目になっていた。

 

彼女の放つ茨を桃の木剣で巻き取り、引き寄せる。

 

「妖怪としても将として優秀であることは間違いなし。だが、若い!」

「押されているのに余裕ですね!御祖母様!」

 

「確かに、一騎討では押されている。私は戦働きは不得手でしてね。ですが、軍を…国を率いるものとして大局を見据えています。我が夫、信長もかつて配下の蒲生氏郷に言っておられた。一軍の将が前に出て大将首を上げようなど愚かと……。」

「何を!?」

「故に、視野が狭くなり機を逸するのです!!」

 

私は木剣ごとさとりを突き返し弾幕を放ち距離を取る。

そして、視線を移す。

 

解放された五官王と本物の宋帝王が地獄を支え、閻魔大王が直々に初代ドラキュラ公爵と戦っていた。実はこの場で最も強い閻魔大王が剣をふるっている時点で勝敗は明らかとなった。蝙蝠竜たちもすべて倒され、こちらの勝ちが確実となった。

 

「今こそ奴らに、真の地獄の罰を与える!」

 

閻魔大王がの一撃が初代ドラキュラ公爵を閻魔大王の獄炎乱舞が襲う。

 

「ぐわぁああああ!」

 

初代ドラキュラ公爵が倒れたことで西洋妖怪たちが撤退を始める。

 

「追撃はしなくてよい。」

 

私は供回りを連れて陣を離れる。

 

鬼太郎くんたちは閻魔様の方に行ったのだろう。

こちらには誰もいなかった。

 

 

「ぐぅううう。」

「こちらへ、初代様。」

 

「姫殿下、私はこれまでです。お逃げくだされ…我が友ベアードに面目が経ちません。」

 

私に気が付いた初代ドラキュラ公爵がこちらに剣を向ける。

と言ってもその剣は折れている。

 

「もはや勝負はついている。争う気はないし、見逃してやっても良い。ただし、バックベアードに言伝を頼みたい。」

 

初代ドラキュラ公爵は剣を置いて私の言葉に答える。

 

「言伝は伝える。ただし、ベアードが貴女の望む答えを返すかは分らんが、それでよいのなら…。」

「よい。・・・では、今から言うことをしっかり伝えてくれ。・・・昨今の人間社会の在り方はこの大樹を以てしても危ういものを感じており危惧するものである。故に人類社会に一石を投じることにした。この一石によって人類社会はもとより妖怪社会にも好天的に作用するであろうと考えている。もうじき、私が社会に投じた一石が目に見える形で現れるだろう。この結果を以て婿殿には我々との関係を再度考えてもらいたい。以上です。」

 

さとりと初代ドラキュラ公爵は頷いてから飛び去った。

私はそれを黙って見送った。

 

 



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205 平成 大逆の四将

 

この地獄での戦いは西洋妖怪軍団との日本での戦いにおいてある種の決戦と言って良いものであった。

西洋妖怪軍団においてバックベアードに続いてナンバー2・3である初代ドラキュラ公爵とさとり・K・ベアードが手傷を負い西洋妖怪軍団は組織としての動きは鈍くなるだろう。

 

この戦いの後で、筆頭幹部である初代ドラキュラ公爵と大樹は日本より撤退する西洋妖怪軍団を追撃しないという取り決めをいくつかの条件のもと結び。

さとり率いる西洋妖怪軍団の日本撤退が実行に移された。さとりが率いていたのは東部アジア方面であり対中国妖怪の橋頭保である香港澳門領域、南洋妖怪・旧日本残党妖怪の混在する東南アジア地域の拠点はそのままである。ただし、東南アジア地域は旧日本残党最大勢力であった刑部狸率いる軍団が解体されたためその領域の支配者は大樹の援助を受けた南洋妖怪に戻りつつある。

ヨーロッパ、南北アメリカ大陸、オセアニアに加えアジアとアフリカの一部地域を支配もしくは影響下に置いていた世界最大の妖怪勢力の弱体化は今後、妖怪たちの世界情勢に大きな影響を与えるだろう。

 

また、四季映姫から地獄で大逆の四将なる妖怪が解き放たれたことを知らされた。

 

「さきの戦いの混乱で地獄に封印されていました危険な四体の妖怪が解き放たれました。対応は閻魔様がある条件をもとに鬼太郎と取引をして彼が請け負うものとしております。一応、大樹様にもご一報をと思い参りました次第です。」

 

最近は四季映姫が閻魔様からの使いとしてよく来る。時折、代理の代理で小野塚小町が来ることもあるが、地獄の方も事後処理で混乱しているらしい。

 

「四季殿も大変なご様子で…。」

「幻想郷の方は大した影響はありませんでしたが、本庁の仕事がこちらに割り振られるようになりましたので…。」

 

ん?そういえば。

 

「時に四季殿?鬼太郎と閻魔様の間での条件とは?」

「あぁ…それは・・・。」

 

四季映姫が言葉を濁す。

 

「何か言えないような内容なのですか?」

「い、いえ。」

「なら話していただきたいですね。」

 

四季映姫が観念して話す。

要約すると巨大なノヅコ、彼らの間では名無しと呼ばれていたようだがその妖怪との戦いの過程で猫娘が殺され、彼女をよみがえらせる条件として閻魔と大逆の四将の封印を請け負ったらしい。また、蘇った猫娘が幼児化しているとのことだった。

 

鬼太郎君たちも大逆の四将の捜索で忙しくしているようだ。

名無しとの戦いの後で大変だった時に協力してくれた鬼太郎君には私の方でも何かお礼も兼ねて協力してあげるべきかもしれない。

 

「大樹様、時にお伺いしますが?幻想郷から旧臣や一部の妖怪たちを連れ帰っているご様子。何かしらご計画があるようで?八雲紫や妖怪の山も何かと慌ただしく動いているのをお見受けしましたが?」

「まぁ、何かと忙しくなりそうでね。こちらも…。」

 

今回、通過点としてでしたが幻想郷に寄った際、大ちゃんを中心とした旧臣たちが私の下に戻って来てくれました。妖怪の山からも河城にとりや山城たかねら河童と山童が加わり、天狗からも大天狗の一人である飯縄丸龍を大将とした天狗衆の派遣が決まっている。

 

今回のこともあって、戦後手綱が緩んでいた大樹による妖怪たちへの統制が強化される傾向になっており、天狗ポリス・旧北方鎮台の雪女たち、護国会議に組み込まれていた妖狐衆、外地組との再編中の妖狸衆などの大樹傘下への正式な編入が始まっていた。

 

 

地獄の炎をめぐる戦いが終わって、数日。

ネギくんたちは他の生徒さんたちと海水浴に行ってしまいました。

紫には幻想郷からの援軍の選定をお願いしておいた。

 

「た、大樹様!!陰神刑部狸様、松山城の謹慎先にてご自害!!」

「い、いったいなにが・・・。」

 

大樹は陰神刑部狸に最後に会った二ツ岩マミゾウに話を聞いたが

 

「刑部の最後の言葉はお伝え出来ませんが、彼の名誉のために誓って大樹様への恨みや害意は一切ありません。それだけはご理解ください。」

 

というだけだった。

かつての忠臣の死に寂寥感を抱くのだった。

 

「大樹様…。」

大ちゃんが私に耳打ちしてくる。

 

「大逆の四将の一人、黒雲坊が復活し天狗ポリス本部を襲撃しているとのことです。」

「護国会議の兵力を天狗ポリスへの第一陣の援軍として直ちに派遣してください。第二陣として四国の妖狸衆を。今は自衛隊を動かすわけにはいきません。警察には十分に警戒をするように伝えなさい。」

 

大樹が戦力を整えて向かったころには、すでに京都では護国会議や大樹傘下の妖怪たちが黒雲坊の呼び出した水神擬きの水龍丸や偽朱雀の松明丸(こいつは沢山いる。)の多くを撃退していた。

 

天狗ポリスのエースである黒鴉に取り付いて黒雲坊の怨敵であり黒鴉の父替わりであった大天狗の赤嵐坊を襲わせるのだが正気を取り戻した黒鴉、それに「呪われた血に汚れた手であろうとも・・・、強い気持ちを持ち続けていれば、必ず洗い流せる。この人が・・・、この人から貰った言葉だ!その言葉の正しさを証明するために、この人は私を・・・、私を育ててくれたんだ!厳しく私を叱り続けてきたのも全ては・・・そのために!私は・・・、この人から貰った言葉の正しさを証明する!」黒鴉の言葉通り黒雲坊を撃退するのだった。

 

 

少し離れた山奥。

 

「おのれ、よくも。こうなれば、もう300年ほど耐えてまた復活してやる。」

 

復讐を誓う黒雲坊であったが、何者かに貫かれてしまう。

 

「さて、それはどうかな。」

「っが!?」

 

一本ずつ赤い線が通った無数の跳ねた毛の黒髪と鋭い赤いつり目、両耳の青いピアス、近頃の若者よりのファッションで思わせるが、白いパーカーから覗かせる腕の呪装術が一般人でないことを示していた。

 

 



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206 平成 政戦① のっとり

翌日。

なんでも、昨日からネギくんの幼馴染の子が来てるらしいけど、まだ会えていない。

午後6時くらいからは用事があるけどそれまでは暇だし、少し見に行ってみようかな。

最近は半ば公然の秘密状態で、学園の結構な生徒さんたちからも私が実は国のお偉いさんって言う情報が流れてるみたいなので、堂々と大名行列もどきをしています。八雲紫が幻想郷から旧臣たちを連れ出してくれましたので、かつての並びになりましたね。

 

私を先頭に大妖精、チルノ、光の三妖精、リリー姉妹、水楢、梅林。妖怪の側近ぐわごぜと側回りの妖精巫女たちがぞろぞろと続く。認識疎外もありますし、これでも一般人は違和感程度しか感じないようです。

 

 

 

 

それにしても、行ってみると修行の最中で何やらにぎやかです。

あの、燃えるような紅い髪の女の子がネギくんの幼馴染なのかな。

 

「こんにちは。」

「ん?」

 

完全な興味本位で声をかけてみました。

 

「あ、先生。」

 

夕映さんが気が付いて、私を紹介してくれます。

 

 

「大樹水御(おおきみずみ)先生です。ネギ先生のクラスで副担任をしているです。先生も私たちの師にあたるですよ。ただ、エヴァンジェリンさんと違って座学担当ですが…。あぁ、そうでした。大樹先生は本当はこの国の神様で大樹野椎水御神と言ってすごい神様なんですよ。」

 

夕映さんの話を聞いた紅髪の彼女はむせ込んで少し下がります。

 

「ぶっ!?じゃ、邪神大樹。二度の世界大戦を引き起こして世界を乗っ取りかけた!!邪神大樹!?」

 

「あ、あー。そっちの方だったのね。確かにそっちから見ればそうですけど…。」

 

彼女の反応を見て、少々対応を誤ったかと怯んでいたのですが

 

「不死の魔法使いを師匠にしてるんですもんね。びっくりしたけど、ま!まぁ!?大丈夫よ!?」

 

かなり混乱しているように見えますが、整理をつけてくれたようです。

 

「あ、アンナ・ユーリエウナ・ココウァです。」

「これはご丁寧に、大樹野椎水御神と申します。ネギくんたちにこの世界の裏事情を教えてあげてます。今はネギくんのお父さん探しを手伝っています。」

 

 

私とエヴァという悪い意味の魔法世界におけるビックネームです。

ドン引きされたのでしょうけど思ったより回復が早い。

さすがはネギくんの幼馴染といったところでしょうか。

 

その後もいろいろお話させてもらいました。

ネギくんとアーニャちゃんが甘酸っぱい青春の話とか。前日にもネギくんハーレムに嫉妬した彼女が暴走した話とか聞かせてもらいましたよ。

 

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもの。少々暗くなってきましたので私はこれで失礼しますね。

 

 

「あれ、この子どこの子かしら?」「学園の子じゃなさそうです。」

「うち、木乃香いうんよ。あなたは?」「ここで何をしているのですか?」

 

少し距離が開いてしまってよく聞こえませんが、なんだか騒がしそうですね。巻き込まれる前に退散しましょう。

 

「私?私はこいしだよ?」

 

 

 

 

 

 

エヴァのログハウスにお邪魔しています。

たまたまテレビが壊れたこともあります。

直接、赤坂グランドプリンセスホテルに出向くことも考えてのですが露出は少ない方がいいと思いエヴァのところにお邪魔居ました。

 

エヴァは全く興味なさそう。私も普段は興味ないいですが・・・

 

テレビには民政党の前の政権だった民政自由党の総裁選の様子が映っていた。

 

『岸辺氏が伸び悩み川野氏へ岩破派の票が回る可能性が出ています。また、安倍川派は鷹市氏に付き麻田派の中でもベテラン層中堅層が鷹市氏に若年層が川野氏支持に回ったようです。』

『おそらく岸辺氏と川野氏の決選投票になるのではないでしょうか?』

 

テレビではコメンテーターがあれやこれや語っている。

 

『開票結果が出たようです。』

『川野太郎君議員票72票、党員票101票、岸辺文雄君議員票170票、党員票110票。鷹市遅苗君議員票120票、党員票163票。土田成子君議員票20票、党員票20票。以上を持ちまして岸部君と鷹市君の決選投票とします。』

 

ニュースでは事象有識者たちが予想を外したことで混乱しているようだった。

エヴァが私に何かやったなという視線を送る。

 

「議員票では元総理が付いてますし、持ちこたえると思ってました。問題は党員票ですよね。ですが、2年前から仕込みを入れてましてね。自衛官、警察官、地方の農林業従事者、うちの氏子を党員に滑り込ませたんです。要は母数を増やしてこっちに回したんです。決選投票ですが、結構な知事さんが名前の有名税もあってか地方選挙ではべらぼうに強い華族会系の旧大名たちなんです。地方票は過半数を取ってますよ。」

 

決選投票の結果が告げられる。

 

『民政自由党新総裁は鷹市遅苗氏!!』

 

「民自党を乗っ取らせていただきました。」

 

もう少し仕込みが必要ですが、華族会に民自党。

民政党自体にも仕込みはしてある。

これなら、政権をひっくり返せる。

 

「そういえば、もうすぐですね。ネギくんたちがイギリスに行くのは。」

「そうだな。」

 

私の言葉にエヴァが相槌を打って応じる。

 

「魔法世界に行くわけではないのですが私も欧州に野暮用がありまして…。途中までネギくんと同行しようかと思っています。」

「ん?イギリスのどこだ?ロンドン辺りでベアードと会談でも開くのか?」

 

「いえ、ドラキュラ公にメッセンジャーを頼んで昨日の今日ですよ?そんな簡単に話は進みません。私はベルギーのブリュッセルです。今回の騒ぎで私への枷も形骸化しました。フットワークも軽くなりますよ。」

 

軽く手足を動かしアクティブさを表現して見せる。

エヴァはそれ自体は軽く流して尋ねる。

 

「しかし、お前も今までにないくらいによく動いてるみたいだな。」

「えぇ、ネギくんや鬼太郎君といった若い子たちが頑張っているんです。わたしも頑張らないといけませんからね。」

 

そういった話をエヴァとしていたら朝になっていました。

 

ログハウスのドアを叩く音が聞こえた。

「大樹ちゃん。迎えに来たよ。」

 

ドアの向こうから大妖精の声が聞こえる。

茶々丸がそれに応対に向かった。

 

「おや、夜更かしをしてしまいましたね。」

「あぁ、私は少し休むことにするよ。お前はどうするんだ?」

 

「今日はゲゲゲの森に用がありまして。」

 

エヴァはそれを聞くと軽くあくびをして寝室へ行ってしまうのでした。

 

 



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207 平成 ねずみ男の転機

 

麻帆良から調布の方へタクシーを走らせ、途中から徒歩である神社に入る。

藪をかき分けて進む。

 

私の後に妖精たちも続く。

神社の敷地以上の距離を進んでいる。

もうここはゲゲゲの森だろう。

さらに進むと家々が並んでいる場所に出る。

江戸時代の長屋然とした建物が多い、少々昭和の偽西洋建築の建物もある。

妖怪横丁についた。

アマビエやカワウソたちと談笑していた砂かけ婆が私たちを見つけて声をかけてくる。

 

「大樹様、ようおいでなさった。ねずみ男は二階の奥の部屋に待たせておる。しかし、大樹様がねずみ男に何の用じゃろうか。」

 

 

私たちはねずみ男のいる奥の部屋に入った。

対するねずみ男は神様である私に指名されて呼び出されたことのあり委縮していた。

 

「た、大樹様。言われた通り、俺が今かで手掛けた事業の資料をまとめてきました。」

 

ねずみ男から受け取った資料をその場で読んで確かめる。

 

「だ、だけど…ほとんど失敗してるし、失敗してないのだって利益はあんまりない奴ばっかりですぜ。」

 

妖怪による電力事業、人材派遣、付喪神のレンタルなんてのもあるのね。違法だったり、失敗事業だったり使えないのもあるけど。半妖であるねずみ男が昭和、平成と行った事業の数々のデータは有効ですね。妖怪のUTuberデビューもおもしろい。

 

「そうですね。一人の力でこれだけの事業を起こしたのですから、あなた自身も優秀なんでしょうね。」

「え、そ、そりゃあ…まぁ。ですけど、大樹様がこういったものに興味を示すとは思わなかったですよ。」

 

「実に興味深いと思いますよ。利益というのも無きにしも非ずですが、このシェアハウス事業とかは人と妖怪の距離を知事めるのに一役買いそうですし、他のだって融和政策の目玉になりそうです。」

 

ここでねずみ男は大樹との会話がかみ合っていないことに気が付く。

 

「大樹様?出資していただけるなら、自分が専属コンサルタントとしてお手伝いしますが?」

「何を言っているのです。コンサルティングしていただけるのはありがたいですが、これは全部公共事業としてやるものですよ。次の選挙で民政党政権が解体したあとの政権でやるんです。私の主導のもと各省庁で連携し行政の管理のもと行います。そうそう失敗はしないでしょう。営利を求めすぎたゆえの失敗が目立ちますし非営利でやればうまくいきそうなものが多く見受けられます。給料も出ますしねずみ男、貴方もぐわごぜの娘さんのカロリーヌちゃんっていう良い人がいるんだから、このあたりで真面目に公務員になって身を固めてはいかがです?」

 

「!?」

 

大樹の言葉にねずみ男は凍り付いた。

私たちの陰に隠れていた。ぐわごぜの娘カロリーヌが前に出てねずみ男に話しかける。

 

「ねぇ、ねずみ男ちゃん…。私たち付き合い始めて30年過ぎてるのに・・・。石妖さんや骨女さんのこともあって私・・・心配なの。」

 

ねずみ男、完全に言葉に詰まってますね。

なんだかんだ、結構な性格をしていますけど。彼女に対しては清い交際を続けてるんですから本物なんだと思いますけど・・・。

私はねずみ男の肩に手を置いて言葉をかける。

 

「まぁ、なんていうのかしらね。もういい加減、身を固めちゃいなさいな。後で電話しますから、とりあえずは彼女と話でもしてあげなさいな。」

 

そういって私は妖怪横丁を後にしたのでした。

余談だが、ねずみ男もこの辺りで漸く男を見せて身を固める覚悟を決めたようでした。

 

 

 

その後でゲゲゲの鬼太郎の家へ行きます。勿論ねずみ男も後から合流させますし、道中で偶然会った青坊主とも合流(一緒にいないと絶対行方不明になる)してます。

 

ちょうど、花子さんが猫娘を送り届けたところだった。

温泉で妖力を回復したのでしょう。ロリではなかったです。

家の中には鬼太郎はもちろん、子泣き爺や砂かけ婆ら鬼太郎ファミリーが揃っていました。

この様子からして、これから身内の会話が始まる感じですね。

部外者は要件を告げて帰りましょう。

 

「猫娘さん、お体の加減はよさそうでなによりですね。」

「えぇ、温泉に入って以前より良くなったような気がするくらいよ。」

 

猫娘さんは無事に回復したようです。

目玉の親父さんと鬼太郎君の方に視線を向けます。

 

「色々とご迷惑をおかけしますが、とりあえず西洋妖怪とは一時停戦となるでしょう。地獄における一大作戦が失敗しましたのでようやっと交渉の席に着きそうです。そちらにも協力はしていくつもりですが、今後はそちらの方に手を回さなくてはなりませんので、鬼太郎君の方はそっちで何とか頑張って頂きたいです。」

「わかりました。後は僕らの方で何とかしてみます。」

 

鬼太郎君はもとよりこちらに頼りきりになるつもりはなかったようで凛として応じた。

 

「それと、目玉の親父殿と砂かけ婆さん。遠方・・・近いって言えば近いのかな?幻想郷からの客人を招く予定ですのでいくつか仮住まいを用意していただけると助かります。」

 

ゲゲゲの森の纏め役である目玉の親父と横丁長屋群のオーナーである砂かけ婆に幻想郷からの客人の仮住まいの斡旋をお願いし、ゲゲゲの森を後にする。

 

そしてその足でネギくんたちの見送りと自身の海外訪問のために成田空港へ向かうのでした。

 

 

 

 



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208 平成 政戦② 新たなる社会運動

 

 

途中でネギくんと合流し成田までご一緒します。

 

「大樹先生はイギリスには来ないんですか?」

「ごめんなさいね。イギリスにも行く予定はあるのですが先にベルギーで済ませたい用事がありまして…、ネギくんを見送るのは難しんですよ。」

「そうなんですか。残念です。」

 

ネギくんと軽く話してからお互いの飛行機の搭乗窓口に向かう。

そこには数人の議員が待機していた。

 

「自由民政党の麻田です。お待ちしていました。」

「ご苦労様です。」

 

この麻田やここにいない安倍川は皇族の遠縁であり、私の息が予め掛かっていた自由民政党の大物議員である。

 

「政権の目もあります。大丈夫なのですか?」

「民政党の力が弱っていますので、こういったことも可能なのです。」

 

私は窓の外の特別機に視線を向ける。

 

「民政党の瓦解も始まっているようで、実のところ政府専用機を使っても大丈夫そうな空気はありましたのでご安心を。」

「そうですか。勝ち筋が見えているようでなにより・・・。」

 

「あ、そうなんです。先日、妖怪たちとの協力体制の構築についての会合で、一部の妖怪が独自に人間たちと交友関係を持っていまして、その中で利用価値の高いものがいくつかありました。そこで先方に連絡を入れたところ何件かと連絡がつきまして協力が得られました。」

「あら、そうなんですか?」

 

私たちは機内へ移動する道すがらで話をする。

 

「現役のアイドルや大物Utuberだったりと有用な人物もいました。それに過去に鬼太郎氏が助けた人物の中にも秘密裏に協力を打診しています。」

「正直、発信力がものをいうこの時代、マスメディアが信用できない以上独自ルートの開拓は必須ですね。」

 

特別機が離陸する。

 

大樹は機内で陰神刑部狸の最期を看取った二ツ岩マミゾウを呼び出して問い詰めた時のことを思い出した。

 

「大樹様!刑部は最期まで貴女に忠を尽くしたことをご理解ください。彼の名誉のために仔細は話せませんが、彼は死してなお貴女に忠を誓っていました。なにとぞ、誤解なきようにご理解いただきたく…伏してお願い申し上げます…!」

 

刑部、なぜ貴方は死を選んだのか。

生きて、私を補佐してもらいたかった。

 

 

 

ベルギーに到着した私たちはとある組織との会合を持つ予定であった。

グローバルブルー、通称青の党世界連合。

世界各地に点在する環境政党の総本山である。

エコロジーとか人種差別撤廃、脱物質主義、多文化主義といった理想論を掲げる集団であるが、国会に議席を持っていたり、連立与党にいたりと馬鹿にできない理想論者の集団である。

 

夢見がちな理想論者であり、実現不可能なことを宣う集団だが、彼らの理想を実現可能なものにするために私が知恵を授けるわけで、実行力を得た理想論者ほど強いものはなく。強力な協力者たり得るだろう。

 

こういったグループは日本では昭和後期に現れ始めたが、この頃は左翼色が強すぎてこちらとの関係構築は困難を極めたが時が進むにつれて、環境政党として先鋭化していき農村部で密教的に匿われていた妖精たちと合流する者たちが現れていた。

私の与り知らぬところで末端同士が絡み合いつながりが出来ていたのだ。

 

ただ、こういった者たちは環境過激派に傾倒しつつあったが先日のクーデター騒ぎで末端の再統制の名のもので行われた調査で発覚したものだ。

渡りに船であったが、使えるものは使う。正しい行為である。

 

とにかく、近年勃興した国際的な環境政党グループと私というアニムズムを統合したような存在が合流しようとしている事実は世界に衝撃をもたらすであろうし、その先の結果も世界の命運を左右するものであろう。

 

そして、私自身も把握している最中であったが世界の妖精や妖怪の一部は第二次大戦後、継戦派と隠棲派に分かれていたが継戦派のうち、ベアードや刑部といった大勢力に流れなかった者たちがグルンビーンズやマリンドックと言った環境過激派グループに入り込み人間社会への嫌がらせをしていたことが発覚したわけで、これらをふるいに掛けて取りまとめて大樹の影響下に入れ、過激思想の穏健派としてグローバルブルーと接触する運びとなった。

 

ベルギー、ブリュッセルの空港では現地の妖精たちと合流して先んじて会合の席が設けられる。大樹はそこでいくつか語っている。

 

「二回の世界大戦を経て時代は人間の時代に移り変わったと言っても良い。時代によっては神であったり、妖怪であったり、はたまた妖精であったり、時代の主導者はコロコロ変わっている。人間の番が来たのは道理ではある。ただ、人間は少々早熟過ぎた様で諸所に問題が見れる。大戦以前は私たち妖精や妖怪を敵視し、戦争を経て我々を追いやったわけです。先ほども話したようにそれはいずれあるだろうとは思ってはいました。ただ、やはり思うのです。少々早すぎた。時代の過渡期として混ざり合う時代というものが必要だったのではと…。」

 

妖怪の中にはこれは笑って一蹴する者もいるだろう。

だが、人間という生き物は少々狂暴だ。我々という外敵がいなくなった後、その前からあった様な気がするが、より激しく人間同士で争うようになった。

肌の色だったり、文化の違いだったりで…。

 

「強者がはっきりしているうちはまだ良かった。表面上落ち着いて見える。しかしながら昨今は多民族国家内では差別する側の者たちが眉を顰めるレベルで被差別者側に手を差し伸べる程度には倫理観を持ったようで米国は亀裂が入っている。同情心だけで受け入れた難民に手を焼いている欧州。弱者を叩き潰す世の中を肯定はしません。世界の変化は良いことです。故に私たちが付け入る隙も出来たということです。」

 

妖精たちも理解力のある何人かが頷いている。

 

「先の大戦は世界の主導者に君臨しようとした私たち妖精妖怪、その支持者である東洋人と妖精妖怪が主導権を握ることで権益を失う西洋人と当時妖怪妖精といった亜人種を奴隷化し見下していた魔法世界人による争いでした。私たちは衰退しましたが、東洋社会の経済や国力は上昇し、西洋社会は衰退し亀裂が入っている。魔法世界も自世界内のテロリズムが少々活発化しているように見えます。図らずも人間社会が私たちにとって都合の良い状況になってきている。このような千載一遇の好機はもうないでしょう。私はこの好機にすべてを掛け、再び表舞台に立つつもりでいます。おそらく、これまでで最大の介入・・・いえ、直接手を…姿をさらすこととなるでしょう。そのためには妖精諸氏の協力が必要なのです。」

 

先遣的に行った妖精たちとの会合ののち彼女たちの伝手で作った欧州青の党連合の議会上で演説を行う手筈であった。無論、私のような超常的存在は一般の理解を超えるので非公開非公式のものでした。

 

「人類による物質的豊かさを求める時代は頭打ちで終焉が近いことは皆様方理解を頂けるでしょう。次は妖怪による精神の豊かさを追求する時代です。勿論、その世界には人類の活躍する機会は多くあります。」

 

大樹は欧州青の党連合の議会での演説ではねずみ男にまとめさせた日本での事業を説明していく。

 

「妖怪の文明は元来変化に乏しく、停滞性の強い文明です。これらの事例は人類の発展性の強い物質文明と妖怪の精神文明の融合例であり妖怪と人類の共存の道であると確信しています!であるからして   以下略。」

 

この演説はこの環境政党を通じて世界中に広がりを見せることになるだろう。

理想という種子は撒いた。実利という肥料を与えた。

 

あとは、大輪の花を咲かせるのを待つのみ。

 

 

 



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209 平成 欧州外遊

 

2019年8月13日 欧州青の党連合 議会にて演説。

 

この日の夜。

「大樹様、秘密裏に交渉したいと…。」

「どこですか?」

 

大妖精が私文書の入った書簡を見せてくる。

 

「英国女王。」

「我が国の皇室経由で接触してきました。」

「まだ、日付も変わっていないと言うのにあの国の諜報機関は優秀すぎですね。まぁ、良いでしょう。では、内密にですか。」

「はい。」

 

 

 

翌日、英国側の用意したプライベート機でいくつかのダミーを経由したのち王室直轄領であるシリー諸島、セント・メアリーズ島にある御邸に案内された。向こうも相当内密に動きたいというのがわかる。大物が釣れたといった所かしら…

 

屋敷の門前では女王陛下とその側近少数名が出迎えに立っていた。

 

「お招きいただきうれしく思います。大樹様に代わり御礼申し上げます。」

大妖精が私に変わって挨拶を行う。

伝統を重視する国だ。異教であろうと神は神、人の上に立つ存在。軽々しく話すわけにはいかない。

 

ここで足元を見られるのは良くない。私は口を開かず大妖精たちに任せよう。

 

会食形式の話し合いだ。

ゆっくりとコース料理が振舞われ、途中途中でお酒も出る。

酔えば口も軽くなるということか。かの国の強かさも垣間見えたが人間以外にこの手法は通用しません。酒の強弱で言えば一部の例外を除けば人間は最弱ですし…。

 

彼らとの会話で分かったのはかの国の諜報機関の優秀さ、東洋の妖怪勢力の範図が確定しつつあり、私の主導権が強くなったこと。実質的に西洋妖怪軍団と停戦状態に入ったこと。

日本国内でも私が権威を取り戻しつつあることを把握している。

 

私の付き人である妖精が耳打ちしてくる。

 

イギリスの魔法世界へのポートが襲撃を受け運行不能状態。他のポートの大半も同様に襲撃を受けていた。

 

 

ん?

英国は私に探りを入れているのか。

私は魔法世界の英雄の息子であるネギくんと懇意にしている。

だが、状況はまるで完全なる世界とグルであるかのようにも見える。

実際、あれと繋がって居るのはぬらりひょん。だが、ぬらりひょんのことを英国が正確に把握しているかは、まだわからない。こちらからも探りを入れるか。

 

「貴国と魔法世界をつなぐポートが襲撃されたようで大樹様はとても危惧されています。幸い我が国のポートは小規模なものですがある程度の協力はできると思います。と大樹様はおっしゃっております。」

 

「我が国としてはまだ重大な問題にはなっていないと判断しています。むこうとこっちは時の流れに違いがありますのでしばらくすれば回復するでしょう。」

 

 

魔法世界関係は一応の警戒は緩められたでしょう。

 

話題は変わり内容は環境問題やエネルギー問題に。

これこそ、こっちの強力な手札です。

脱原子力によって代替エネルギー求めている世界に対して魔力や妖力を基にした火力・水力・風力・熱などのエネルギーを安定的に提示できる。かつてねずみ男がカミナリを利用して作った発電所。あれを応用すれば幅広い種類の電力供給が可能だ。

 

それに、魔法技術なんかも新技術として世界にお披露目できるはず。

もちろんこれは日本の独占技術。大方は公開するとして重要なものはこちらで握ればいい。

 

森林破壊や砂漠化が進む世界にとって緑化のカギとなる妖精たちは世界に対して強く出れるはず。またこれに起因する食糧問題も同様だ。

 

交渉は比較的スムーズに進んだ。さすがは英国とでも言えばいいのだろうか、日本が今後世界をけん引することは容認して二番手は自分たちと、腹黒ですね。

 

魔法世界と強いつながりを持つ英国だ。

今後日本を軸に自分が復権すれば、必ず魔法世界と対する時が来る。その時に極力平和的な解決を図るために魔法世界との交渉役として英国は申し分ない。

 

 

日英は新技術導入において秘密裏に協力し、利益を享受しあう関係となり世界を牽引し、魔法世界との折衝は英国が窓口となることで合意。

 

2019年8月15日 日英間で秘密協定が結ばれたのであった。

 

こちら側で多くのことが進展している一方で、問題も発生していた。

 

「我が国のゲートを残してすべてのゲートが破壊されたのですか?フランスやほかの国が管理するゲートも?」

「英国諜報機関からも同様の知らせが入っていますのでまず間違いないかと。」

 

大妖精が耳打ちをする。

 

「学園長はなんと?…守れるのかという意味です。」

「難しいですが何とかしてみるとのことです。」

 

私は麻田に視線を向ける。

 

「総選挙で結果が出るまでは、我々に自衛隊や警察を動かす正式な権限はありません。特に自衛隊は目立ちますので、秘密裏にというのも困難です。」

「では当面は警察を配置しなさい。」

「根拠はどうしますか?」

「…まぁ…あの学校は特殊ですから、恥ずかしながら学生闘争のようなものが起きそうとか何とか理由をつけてしまいましょう。」

「学生闘争・・・それなら何とか機動隊までは動かせそうです。」

 

麻田の回答を聞いて、大妖精に視線をもどす。

彼女が何か言いたそうにしていたからだ。

 

「さきほど、フランスのミクロン大統領から秘密裏の会談の申し込みがありました。どう対応しますか?」

「あの国も長期政権ですから私の存在を察知していたのでしょう。私としては、このようなことが無ければいろいろテコ入れをしたかったのですが…。最低限バックベアードの所に顔を出してある程度話しておきたい。仏は帰国の際に空港の飛行機内から電話会談をしましょう。他のゲート所有国から会談申し込みがあった場合は帰国後に応対します。」

 

 

 

 

 

その日の夕方 西洋妖怪軍団 バックベアードとの会談

 

実質的な停戦状態であったが現状は敵対関係。

最悪の事態も想定されたが会談の空気は比較的穏やかであった。

 

形式としては培養液で養生中のベアードに対する親族としての見舞いという形がとられた。

 

「久しいですな。御大樹殿。」

「えぇ、ベアード。」

 

お互い立場があるため、下手な尊称や敬称は使えない。

しかしながら、お互いに歩み寄りの意思はあるということだ。

 

「さすがといった所か。欧州を丸め込もうとされておりますな。まさか、貴女が再び表舞台に立とうとは…。」

「私とて絶望に飲まれるつもりはありません。それに開けない夜はないのですから。」

 

ベアードは私と視線を合わせてその真意を察するとため息をついて応じる。

 

「よい。停戦には応じよう。いろいろな意味で時間は必要だ。それに、軍団内でも昔を懐古し日本妖怪との歩み寄りを訴える者たちも現れている。厭戦状態だな。しかしながら・・・。」

 

ベアードが話しきる前に私の口が動く。

 

「超,sファイルですか。あれのおかげで、西洋諸国を丸め込めています。」

「うむ。その超,sファイル・・・使いどころを間違えると大変なことになる。」

 

魔法世界と地球世界の星間戦争の預言書。

麻帆良学園祭のごたごたで流出したこの文書は、いくつかの情報機関の知るところとなり、これを入手したいくつかの国が慌ただしく動き出していた。英仏などはその典型と言って良かった。

 

「この文書通りなら地球人類の敗北は確定。各国の軍拡の動きは道理。」

「だからこそ、私を復権させて矢面に立たせようという英仏の思惑も理解できます。」

 

「西洋妖怪の長としては、魔法使いどもとの関係は地球規模で極度に悪化するリスクを踏まえても、貴女がかつて目指した理想が再び現実味を帯びてきたという点では私自身も喜ばしくは思っている。だが、やはり不安に思うところは多い。アメリカなどは人種差別問題で国内が分断している。これに妖怪と人間の種族問題が加わればさらに不安定になるだろう。それに中国だ。妖怪も人間も自意識過剰で協調性がまるでない。中国妖怪どもはぬらりひょんなぞとつるんで何をしでかすかわからん。人間たちとていくつかの国が急に軍拡を始めた為に回りも引っ張られている。それにロシアに関しても連邦と帝国の間が不穏だ。ホワイトロックからも支援要請が再三来ている。貴女の方はどうだ?」

「実はこちらにも何度かあった様です。」

 

「それと、何やら魔法使いどもの世界でも内戦とまではいかずとも騒乱の兆しをつかんでいる。おそらく、こちらにも火の粉が掛かろうて・・・。」

「私としてはそれは危惧するところです。嘗てのように東西の妖怪の連携をとれればと思っています。」

「うむ、矛を向けあったこともあったが、その前は同じ理想を目指した仲だ。また同じ夢を見ることはできるだろうか。」

「はい。私たちもそうであることを信じています。」

 

西洋妖怪軍団はトップからナンバー3までが養生中で、組織としては守りに入っているという裏事情もあってか対立する様子はなく。建設的な会話が続いた。そして、最後にバックベアードはこうも言っていたのであった。

 

「大樹さ、あ、いや大樹殿。あの、ぬらりひょんには気を付けた方がいい。あれは危険だ。私は超,sファイルをばらまいたのは奴ではないかと考えている。あ奴は地球と魔法世界を戦争に持ってこうとしているのか。あるいはさらに危険なことをしようとしているのかわからんが、とにかくとてつもなく恐ろしいことをやろうとしているのではと思う。貴女の勢力も息を吹き返したばかりだ。身辺には気を使った方がよい。」

 

 

 

 

その日の夜。

英国の仲介で主要各国の閣僚級もしくはそれ以上の要人たちが特使として可能な限り秘密裏に集まり会談を開きたいと提案があり、大樹はこれに了解した。

 

 

翌朝早朝

フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダの要人たちが英国入りした。

遠方からはアメリカ、カナダ、トルコからも特使が向かっているとの事だった。

 

大樹の滞在するホテルのロビーで早めのブレックファーストの形式でフランス大統領と会談の席を設ける。

 

「このような形でお話しすることができて喜ばしいことです。プレジデントミクロン。」

「はじめまして、女神大樹。 以前は行き違いもありましたが、今のフランスは貴女の復権を歓迎します。」

 

 

そして、そこから離れてすぐの通り。

人通りは時間的にまだいないが、もうじき朝の通勤時間帯となり混雑するであろう。まばらだが早い出勤のビジネスマンがちらほらと歩いていた。

 

「我々は同盟者です。要請とあらばお受けしましょう。さて、皆さん・・・始めるとしましょう。」

「ふん、せいぜい派手にやってくれ。」

「そうですな。デュナメスさん、ではさっそく。」

 

そこに、ぬっと現れた小集団。

日本妖怪反体制派の首魁ぬらりひょんとその配下の妖怪。そして完全なる世界の幹部デュナメス。その横にはフェイトから借りて来たのか月詠の姿もあった。

 

 

 



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210 平成 ロンドン襲撃

 

2019年8月16日

 

「女神大樹、貴女の提示した魔法や妖力を軸にしたクリーンエネルギーは我が国にとって非常に魅力的です。現在、我が国の発電電力量に占める原子力の割合は7割を超えている。原子力過多な現状、それらの技術は我が国にとって非常に魅力的です。」

「フランスは、石油、天然ガスなどの化石燃料に恵まれず。原子力導入以前は主要な国内電源は石炭、水力のみであったと記憶しています。私たちは水力や風力、太陽光と言った技術においても改良の術を持っていますのでお役に立てるでしょう。ですが、フランスは魔法世界との関係が深いです。」

 

ミクロン大統領は大樹の言葉の含みを察して受け答える。

 

「それは心配には及ばないでしょう。多くの民衆は魔法使いなど知らないし、あれに肩入れしている連中の多くは魔法世界と関係を持つことで利益を得ていた者たちがほとんどだ。王国時代は思想的狂信があったと聞き及んでいますが、今のフランスは民衆の国です。御心配には及びません。」

「そうでしたか。それは「伏せて!!」kっ!?」

 

ミクロン大統領のSPが大統領に覆いかぶさって伏せる。

大樹の方の護衛役の妖精たちも同様に動いた。

ホテルの窓を激しく揺らす爆発音、そして1台の車がホテルの入り口に突っ込んでくる。

そしてその車は爆発した。

 

「大樹様こちらへ!!ここは危険です!!直ちに非難します!!」

 

大妖精と水楢が護衛役の妖精たちと私を守るように囲い込みながらその場を離れる。

フランスの警護員もミクロン大統領を同様に避難させようとしていた。

 

「いったい何が起こっているんだ!?」

「わかりません。ですが、周りを見るにかなり大規模な騒乱の様です。」

 

周囲ではそこかしこで煙が立ち上り、緊急車両のサイレンがけたたましくあちこちで鳴り響いていた。さらに、銃声や破壊音が聞こえていた。

 

 

事態は急転していた。

 

 

「シュタインメッツ首相が切られた!!ドイツの首相が切られたんだよ!!二刀流のガキに切られた!!ダメだ!頸動脈を切られている!!」

 

警護員が必死に傷口を塞いだが即死であった。

 

 

 

『カナダ、モルドー首相の乗った飛行機が大西洋上で消息を絶ったと先ほど情報が入りました。ロンドンで発生している同時多発テロとの関連が疑われます。』

ニュース速報。

 

 

シティ空港。

 

「マルコーニ大統領!!直ちに機内に戻ってください!!テロです!!」

「な、なんだと!?」

 

イタリア首相を乗せた専用機が武装したテロリストの集団に襲われる。

 

英仏海峡トンネルを抜けようとしていたスペイン首相を乗せた車列。

突如として崩れ落ちるトンネル。一般車を巻き込みトンネルが崩落する。

「うわあああああ!?」

 

『トルコ、エセンボーア国際空港にて爆弾テロ発生、ロンドン臨時会議に向かう予定であったエル・ドアト首相の安否不明。民間人にも被害が及んでいる模様。』

ニュース速報。

 

 

海峡を船で渡ったオランダ首相はロンドン港で事態を察知した。

 

「ルッツ首相。非難を・・・」

「緊急事態か?」

「ロンドンで同時多発テロです。」

「わかった。」

 

短い応答で会話を終えたルッツ首相は警備艇に守られながら海峡への脱出を図る。

 

「な、なんだあれは!?」

「あ、悪魔だ!!悪魔が空を飛んでいるぞ!!」

 

魔法陣からあふれ出す下級の悪魔たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

上がってくる報告やニュース報道を聞いてデュナメスは動揺する。

「ぬ、ぬらりひょん!?確かに派手にやれとは言ったが、ここまでしろとは言っていないぞ!?」

 

デュナメスが振り返った先にはぬらりひょんの姿はすでになく。

声だけが響いた。

「命令の内容に誤りがあった様ですな。とは言えいつまでも隠れてばっかりの秘密結社じゃダメでしょう。せいぜい派手にやりましょう。はっはははははっはっはははは!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ロンドン市内はロンドン市警と周辺警察の応援部隊、陸軍近衛師団の兵士たち、各国の警護員が完全なる世界のテロリストたちと市街戦を繰り広げていた。

 

「大樹様・・・。」

 

大妖精も判断に困った様で私に指示を仰いでくる。

 

「英国首相と連絡は取れますか?状況の確認を取ります。鎮圧の目途が立っているのなら、脱出を図りましょう。フランスの方々も同行されますか?」

 

ミクロン大統領らは肯定の意を示す。

 

すぐ近くの日本大使館へ向かうために仏大統領専用車に便乗させてもらう。

大樹の護衛である妖精たちと仏警護員らが車両を守りながら大使館へ移動する。

大使館側も臨時駐在武官として20程いた妖狐狸らが沿道まで出張っていた。

 

大使館内では日本大使と同行していたぐわごぜが出迎えた。

 

「大樹様、ご無事で何よりです。」

「状況を確認したい。敵は何者です?ほかの首脳たちは?英国政府は機能しているか?警察が対応しているようだが軍は?特別機のあるシティ空港までは行けそうか?・・・それと仏の御一行を丁重にもてなしてあげてください。お疲れの様です。」

「大使、ミクロン大統領閣下を奥の休憩室へご案内して差し上げなさい。」

 

ぐわごぜは大使に仏一行への対処を任せて、質問に答える。

 

「おそらく敵は各国のゲートを破壊した魔法使い側の勢力『完全なる世界』と思われます。各国首脳の状況ですが何らかの被害を受けているのは確実ですが情報が錯綜しており詳細は不明です。英国政府は機能しております。すでに周辺警察の応援部隊が続々と市内に入っております。次に軍ですが近衛師団が戦闘に加わっているのを確認しております。時期に周辺基地の部隊も加わるのではないかと。シティ空港ですが、あそこは襲撃を受け特別機に甚大な損害が発生したとのことです。」

 

「ふむ、脱出を考え・・・いや、ちょっと待ってください。」

 

大樹は数秒思案して考え直す。

 

「至急、英国首相とベアードに連絡を取りたい。できるか?」

 

1時間後、大樹より提案を受けた英国首相は大樹の案を受け入れる。

 

「ベアード、ご協力頂けますでしょうか。」

『今後の為にも必要なことか。・・・よかろう、英国内の完全なる世界の魔法使いたちの討伐・・・お引き受けしよう。』

「協力に感謝します。」

 

 

 

 

 

通信を切ったベアードは周囲に控えていた部下たちに向き直る。

 

「聞いていたな。お前たち。これより、我が西洋妖怪軍団は異世界の魔法使い勢力『完全なる世界』の討伐を行う。これは長年敵対関係にあった欧州各国との共同作戦となるであろう。人間たちと共闘することに含みを持つものもいるだろうが、これが政治と言うものだ理解せよ。・・・・・・これより、西洋妖怪軍団全軍に対し完全なる世界の討伐令を発令する。」

 

「「「「「っは!!」」」」」

 

部下たちが下がる中、ベアードは初代ドラキュラ公を呼び止める。

「ドラキュラよ。欧州の指揮は貴様に任せたい。我はアメリカに向かおうと思う。」

「なぜ?と聞いても良いか?」

「修繕が可能だったり、極小規模な出入りは可能だとしても、もはや現状大規模な行動を起こせるのは日本の麻帆良だけだ。大げさかもしれんが決戦はかの地だろう。能力を疑うわけではないが我が娘とヤングジェネレーションズに任せるのは無責任だろう。決戦に備えてアメリカの兵たちを纏め上げておこうと思う。」

「そうか。確かにその通りだな。私も療養中の身とは言え指揮を執ることはできる。欧州は任せてくれ。」

「うむ、頼んだぞ。」

「100年前に挫折した夢想が現実になるかもしれんな。」

「あぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、私たちの脱出の手段はないのですか?」

 

大樹はぐわごぜに脱出の手段はないかと問う。

 

「いえ、シティ空港に確認を取りましたところ。雪広家のプライベートジェットがありましたのでこれを借り受けることにしました。」

「ん?雪広家?あやかさん?」

 

ここで雪広家の名前が出てくるとは、やはり3―Aとは縁がある。

 

「あ、はい雪広家の御令嬢には連絡済みです。おそらく現地で合流できるかと・・・。」

 

「そうですか。では早速向かいましょう。」

 

 



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211 平成 脱出、そして

 

ロンドン・シティ空港

 

あやかさんと空港警察の警察官たちが短機関銃を始めとした重装備で出迎えて来た。

 

「申し訳ございません。現在滑走路はテロリストと交戦中で使用不能となっております。」

 

空港警察の責任者から状況を確認した大樹はぐわごぜと大妖精、水楢に命令を下す。

 

「護衛の妖怪たちと妖精たちを武装させて空港内の敵殲滅に協力します。」

「っは」「「はいっ」」

 

「いくら、警官たちがいるとは言え危ないですよ。皆さん・・・こちらへ。」

まさか、白き翼のネギくんたち以外の殆どの3-Aの子たちが来ていたとは、少しこれ予想外です。

 

 

時間が経つにつれ空港内のテロリストたちが制圧されていく。

イタリアのマルコーニ大統領も負傷しているが無事なようだ。

 

大樹の護衛の妖狐狸兵の参戦で拮抗していた空港内での戦闘の形成が一気に傾く。

大樹の護衛の妖狐狸や妖精たちは第一次第二次の世界大戦に従軍した歴戦の戦士でもあるのだ。警官や経験の少ない軍人たちは勿論、そんじょそこらのテロリストとは格が違うのだ。

 

「滑走路上の防護陣地を占領、敵はすべて殲滅しました。」

 

妖怪妖精兵の投入により空港内の敵陣地を制圧していき、最終的には完全に奪還するに至った。その過程で大河内さんが得意の水泳で空港外環部の水堀上のテロリストボート陣地に対するマークスマン役を務めたり。柿崎さん、釘宮さん、椎名さんのチア3人娘が得意のチアリーリングで敵の注意を引いたり、鳴滝姉妹が地味に忍者っぽいことをしたり、那波さんを年増呼ばわりしたテロリストの関節がすべて砕けていたりと3-Aの生徒たちの活躍シーンも多々あったがご割愛。

 

 

 

「あやかさん?飛行機の離着陸の準備はできていますか?」

「いつでも行けますわ。」

 

トーイングカーが雪広家のプライベートジェットを引っ張ってくる。

 

「麻帆良が心配です。皆さん急ぎましょう。」

 

3-Aの生徒たちが乗り口に移動していく。

 

「あ、あれにのるのかね!?」

「何か・・・男の子の写真がプリンティングしているが?」

 

伊仏大統領、ネギくんジェットにドン引きです。

うん、わかる。わかるよ。

私も極力考えないようにしていました。

でも、これしか損傷が少ない機体がないんだから仕方ないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行機の窓から様子をうかがう。

各所から煙や炎が昇っている。

西洋妖怪軍団の妖怪たちが姿を見せている。

ベアードは要請を履行してくれたようだ。これなら、英国の騒乱はじきに収束するだろう。

 

「大樹先生?この飛行機はどこに向かえば良いのでしょうか?」

「ミクロン大統領をシャルル・ド・ゴール空港までお送りして・・・その後はどうすべきか。」

 

雪広さんの問いに私も答えられずにいた。

 

「であれば、我が国に1日ばかり滞在してはどうだろうか?今回のことで事は一刻を争う物だと理解した。イタリア大統領として教皇猊下との面会を何としてもセッティングするので是非、我が国に寄ってほしい。」

 

ドーバー海峡を渡っているとフランス空軍のラファール戦闘機がすれ違う。

機内のテレビでは血の滲んだ包帯を巻いているオランダ首相が非常事態宣言を出している映像が流れている。これに追随するようにベルギーやデンマークなどの英国と海を挟んで接している国々が次々と非常事態宣言を出し始め。対岸の英国から流れ出してきた災厄を自国に入れまいと動き出した様だった。

 

生徒の皆さんも不安気?に外の様子を見ているような気がする。

いや、結構はしゃいでるようにも見えなくもないような気もするが・・・。

 

「先生?この状況について少しご説明を頂きたいのですが?ここで話し辛ければ。仕切りの向こうでも構いませんので。財閥の次期党首としても、クラス委員長としても。」

「そうですね。さすがにこの状況で話さないというのも良くないでしょう。」

 

一部の私の正体を知っている者たちは別として、それ以外の生徒たちも次期に否が応でもかかわらざるを得ないわけですものね。

 

「さてさて、どこから話せばよいのやら。」

 

なんだかんだで、話をするのですが何と言うか以前もあった様な気がしますが、本当に彼女たちは面白い反応をしますね。

 

「えぇ!?大樹先生って古文や日本史の教科書に載ってるあの神様なの!?」

「ネギくんは魔法使い!?しかも、英雄の息子!?」「お父さんもイケメン!?」

「都市伝説で有名なゲゲゲの鬼太郎ってホントにいるんだ!?」「ていうか学園祭の前日の騒動って妖怪なんだ!?」「大樹先生は妖精で妖怪で神様なの!?」

 

うぅ・・・結構な質問攻めもあって疲れてしまいますね。

思わず窓の外を見て遠い目をしてしまう。

イタリア領空に入るころには英国と欧州を隔てた海峡上での空戦の情報や沿岸沿いでの上陸阻止の情報が流れていた。戦況は欧州各国側に有利であり、イギリス本土での混乱も収束しつつあるようだった。

現状も話しておかないと・・・いけませんよね。

 

「省略・・・・・・・・・・・・と言うわけなんです。」

 

「「「「「「「「「「なんだってー!悪の組織と戦うために世界中の国や種族をまとめ上げてるだってー!」」」」」」」」」」

 

いや、もう・・・なんて言うか想像通りの反応です。

 

 



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212 平成 崩壊寸前の門

 

 

 

ローマ教皇との会見は以外にも即座に開かれることとなった。

 

教皇を中心に協会の司教司祭たちがひどく狼狽しているのが見て取れた。

「まるで、ヨハネの黙示録が現実になった様です。」

 

青ざめた顔のウェネデクト教皇の言葉に私は致し方ないと感じつつ対応する。

 

「確かに、黙示録の12章にありましたね。『天で戦いが起こった。サタンが地に投げ落とされる。』でしたか?」

 

魔法世界と言う天で戦いが起こり、まさにサタンの様な完全なる世界の悪意の体現のような存在が噴出してきましたからね。彼らが黙示録を連想するのはおかしくない。

 

「えぇ、その通りです。『赤い竜が神の民を迫害する。』赤い火星の者たちが地球の民を迫害する。そう言った未来もあり得たわけですから・・・。我々の危惧もご理解していただけるでしょう。」

 

・・・これは・・・彼らも主要国の代表者同様か。

メガロ・メセンブリアの魔法使いたちが信用ならないうえに使い物にならないと踏んで私にすり寄ってきたか。ここは、彼らの本気度合いを試してみるかな。

 

「まぁ、ある程度は・・・。ですが、貴方方とてかつては私を大淫婦バビロンなどと指して来たではありませんか?そのような私が仮に好意であっても手を出しては貴方方の対面が

傷つきませんか?」

「そ、そのようなことは!?いま世界がまとまらなくては人類は、世界は・・・超sファイルに示されたように崩壊してしまいます!?」

 

ほぉ・・・彼らの危機感は本物ですね。

「私はかつて世界区分で言うなら東洋を庇護してきた存在。今でも妖怪たちや信奉者たちを庇護しています。貴方方は私たちを当て馬に使うのでは?」

 

「い、いや。そ、それは・・・その様なことは決して!?」

「ふふ、冗談ですよ。黙示録かラグナロクかは解りませんが今この世界に大いなる災いが迫っていることは間違いありません。故に地球に住まう者同士でいがみ合う余裕も無いのです。」

 

「確かにその通りです。異教の神、大樹。貴女は人ならざる神の視点で何が見えているのですか?主はお答えにはなりませんでした。ですが、主は大地の穢れの今を知る者こそが、最も真実に近づいているだろうと仰いました。」

 

「デウスも世界の危機は見逃せぬと言ったところでしょうか。」

「ファテマ第三の預言の一部です。」

「あの神の上位存在ですからね。私よりも先が見えているのでしょうが、偉い神様はどうして私を使い走りにするのか。」

 

大樹はため息をつくが嫌そうではなかった。

 

「どこの宗教でも最高神は現世を見捨ててはいないが愛着も薄れているようですね。ヒントは出すが答えは教えない。」

「コホン、我が神に親しい異教の神よ。」

 

愚痴っぽくなっていたことに気が付いた大樹は少々バツが悪そうにした。

 

「あー、失礼。魔法世界で起こっていることがこちらに波及している。こちらとしては打てる手は少ない。だが幸いにして主だった大きいな道は断たれています。故に塞がれた道の隙間からあるれるであろうそれを、徹底的に叩くのみ。ただ問題は塞がれた道から流れ出す力は、向こうから押し出そうとする力。別の新たな穴、もしくは割れ目が開いてしまうことでしょうか。それに、今もって繋がっている道は麻帆良だけ。そこを何とかすれば・・・。」

 

「じ、実はもう一つあるのです。」

「?」

 

教皇はそっと下を指さした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ローマのゲートは非常に頑丈でした。と言うよりも大規模ポートを破壊するような超人級の手練れはそう滅多にはいないのです。故に私は封印を指示しました。ですが、超sファイルにあった様な逆流が起きれば封印など吹き飛んでしまうでしょう。」

 

「エネディクト教皇。残念ですがその時はローマを捨てるしかないでしょう。」

「やはり、それしかありませんか。教会の総力を以てしても塞ぎきれない。わかっていました。」

 

「ここに至っては各種族、国家の垣根を越えて対処せねばならないと考えます。教皇猊下としましても全世界への呼びかけをお願いしたく思います。」

「わかりました。教会として全力でご支援いたします。」

「ありがとうございます。今日は本当に建設的な話が出来てよかったわ。」

「はい、全くです。何とか幸先は良い出だしになりましたね。」

「えぇ」

 

 

 

2019年8月19日

ローマ教皇との会談を済ませて翌日にはすぐに飛行機で立った大樹たちは19日には日本に帰還していた。

国家元首を失った国や国民に被害を出した国があったが欧州の混乱も表面上は収まった。主要各国の首脳たちは次があることを理解している。故に多少強引にでも収めたというのが真相だが、今はそうでもしなければ乗り切れないのだから正しい行為でしょう。

でも、それは一時のこと。

恐らく、完全ある世界の造物主は静かに魔法世界内で魔法世界を滅ぼすつもりだったのでしょうが、ぬらりひょんが弄繰り回したお陰で計算が狂ったようですね。

ですが、彼らも時間がない。多少の被害は目をつむるか。地球に住まう私たちには迷惑どころの騒ぎじゃないですけどね。

時折、伝わる向こうの話でもどうやらネギくんたちも相当な大冒険を経て、完全なる世界との戦いも佳境に迫っているようだった。

 

 

魔法世界の危機はぬらりひょんの悪意に惹かれ肥大化し、地球を、妖怪や妖精たち数多の種族を巻き込みさらに多くの連鎖を引き起こそうとしていた。

 

 



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213 平成 闇の先の光明

 

日本に帰国した大樹は今までにないほどに精力的に動き回る。

帰国後に最初にやったことは妖狸衆の長である刑部狸の後任に二ツ岩マミゾウを指名することであった。

 

「妖狸衆の変わらぬ忠誠に期待します。」

「っは。」

 

源平の頃より大樹に従った妖狸衆は妖怪の種族組織としては最初に大樹に従った集団であり、妖怪の中では最古参の集団であった。

 

首を垂れるマミゾウに大樹は語り掛ける。

 

「しかし、刑部…早まった真似をして…しばらく隠棲させてから帰参させるつもりでしたのに。」

 

刑部狸は間違いなく股肱の臣であった。間違いなく人妖融和の理想に共感していた。故に世界大戦の敗北によって自分たちの理想が崩壊したことを受け入れられなかった。

 

マミゾウは首を垂れたまま聞いている。

 

「なぜに死んでしまったのでしょうか。まだまだ、やってもらいたいことがあったのに…。あれの2000年前は私の後を追いかけてくる賢しい子狸であった。付き合いは八雲紫や妖精たちに並ぶのだ。私の思いを汲めぬはずがないのです。二ツ岩、あれは死の間際に何か言っておりませんでしたか?」

「申し訳ありません。私からは話せるようなことはございません。」

 

狸は愚直なのだ。一つの理想を見つければただ純粋に進んでいく。

私への忠誠は妖怪の中でも頭一つ飛びぬけてる。

 

深く首を垂れたままのマミゾウに大樹は何度か促したが頑なに答えなかった。

ため息をついて

 

「そうですか。」

 

とだけ答えてその場を後にした。

 

まあ、少なくても・・・妖狸に叛意はないことは確認できた。

隠し事はありそうだが・・・私に害意はないのなら、目を瞑りましょう。

 

 

 

 

幻想郷 マヨヒガ

 

「紫様、大樹様から幻想郷から外に送り出してほしい者たちのリスト一覧です。」

「どうでだった?様子は?」

 

紫に尋ねられた藍は思ったことを素直に伝えた。

 

「人間も妖怪も妖精も、そとではこれまでにないほど慌ただしく動いていましたよ。」

「でしょうねぇ。本人は認めないでしょうけど大樹様って昔っから謀とか政が大好きだから。」

 

藍は少し眉をひそめる。

 

「ですが大丈夫なのですか?魔法世界の妨害がありそうなものですが。」

「大丈夫でしょうよ。完全なる世界連中がゲート全部壊しちゃったから。こっちに残ってるやつらじゃ大樹の足だって引っ張れないわよ。藍、彼女の周りをよく見ておきなさい。流れが変わっていくわよ。いえ、もう変わり始めているはずよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや~驚きました。衆院選を控えている今、民政党が分裂とは…』

 

テレビの流れる映像を見ていた大樹は赤坂プリンスの小ホールに集まっていた。

 

「流れが出来ましたな。」

 

出席者の一人安倍川元首相がつぶやく。

それに大樹が応じ、さらに華族会の党首織田信春が答える。

 

「民政党が護憲民政党や国民民政党やらいろいろと大分裂して連立の共社党との不協和音はこちらに利すりますからね。それに革新の党の合流も決まりましたので…。」

「まさに翼賛状態ですね。」

 

「ははは、大政翼賛会ならぬ大神翼賛会と言ったところですな。」

「ふふふふ。」

 

「しかし…失礼ながら、大樹様を前面に出すやり方ですと戦前の右翼のあまりよろしくないイメージが付きまといます。戦後、諸外国や国内メディアのネガキャンが国民の意識内で尾を引いています。」

「それについては、妖怪や妖精を前面に出します。ファンタジーの華やかなイメージを日本の未来に当て込んで有権者の目を引き付けましょう。私たちには国力増強・経済成長・技術革新の実現ができるという明確な強みがあります。今までの蜃気楼を追うような虚ろなものではないのです。この際です寡頭政治となっても問題ありません。」

 

そういえば、ネギくんが戻ってくるであろう夏休み明けは約半月後。トラブルに巻き込まれたであろうけど彼らなら何とかなると信じています。

そして、その頃は選挙戦も終盤といった時期ですね。いっそのこと魔法世界のことを公表するのも面白いかもしれません。おっと、あまりやりすぎても危ないですね。

 

何の脈絡もなく隙間が割れるとそこから八雲紫が現れる。

 

「大樹、頼まれてた幻想郷の住民たちを連れて来たわ。」

 

紫の後から続々と姿を見せる幻想郷の住人たち。

さて、とにかく見栄え良く派手にやりましょう!

 

 

 

 

 

 

 

東北地方で自身の地元で遊説し支持を得るために回る。この時期の議員たちのルーチンワークのようなものだ。しかし、この選挙戦は歴史的に見て異質であった。

 

「応援ありがとうございます!我々が政権を取った暁には!食料自給率を直近で3倍に上げます!将来的には趣向品も含めてすべてを国内で自給します!!お集りの皆さん!!彼女たち妖精たちの協力があれば!!日本の農業林業の未来は明るい!!」

 

議員がそう演説し、妖精たちを手で指し聴衆の視線を集めさせる。

 

「ご覧ください!!彼女たちの力を!!」

 

妖精たちが畑に手を突っ込み力を籠める。

すると畑の作物が不自然に育ち始める。それはまるでハイスピードカメラの映像だ。

みるみるうちに作物が大きくなり、鈴なりに実ををつける。

 

「我々が政権を取れば、この国の繁栄を待ったなし!!是非に1票を!!」

 

聴衆であった農家たちが妖精たちに手を合わせて拝み始める。

「奇跡だ!!御使い様じゃ!大樹の神さんの御使い様じゃ!!ありがたやありがたや!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

北関東のとある森の中、深く大きな縦穴の中にロープを垂らして下りていくのはねずみ男。

色々あって彼は今、大樹の下で働いている。

 

「相変わらず。深い穴だなぁ…よっと」

 

ねずみ男は懐中電灯で辺りを照らす。

 

「おー、居た居た。」

「なによ。何しに来たのよ!」

 

「まだ、やさぐれてたのかよ。姑獲鳥。」

 

多少丸みのある大きな鳥の妖怪がいた。

 

「あの一件で、人間に嫌気が刺したのは知ってるけどよ。まぁ、なんだ少し考えなおしちゃくれねえか。」

「あんた、鬼太郎みたいなことを言うのね。」

 

「っか~!あんなくっせぇ事いうような奴に見えるかよ。俺様が?仕事だよ仕事、今や俺様もしがない宮仕え。大樹様がなお前さんに仕事を頼みたいんだとよ。」

 

ねずみ男は背負っていたリュックサックからパンフレットの様な冊子を渡す。

 

「じどうようごしせつ?NPO?子供を見守る会?」

「身寄りのない子供たちをある程度の年になるまで育てるっていう仕事だよ。お前さんにはピッタリだろ?大樹様次第なんだけどよ。うまくいけば、お前にそこで働いてほしんだとよ。また来るからちょっと考えといてくれや。またな!・・・・・・・・・・・えっと次は白神村の雷獣か。」

 

そういって、ねずみ男はもと来た道を引き返していった。

 

「あたし…また、子供の面倒をみていいの。」

 

 

 

 

 

大樹は自身の姉貴分にあたる二柱と面会していた。

 

「はい。お二人にはそれぞれ農林水産省の農産局と林野庁で省のオブザーバーとして計画に参加してほしいんです。静葉様、穣子様。」

 

「大樹ちゃんの頼みだもの!任せなさいな!ねぇ?姉さん!」

「えぇ、私たちでできることなら協力するわ。」

 

「お二人とも協力してくれた感謝します。」

 

大樹は国内の緑化計画や自給率向上計画のために幻想郷から秋姉妹に協力を要請したのだった。

 

 

また、他にも大樹は幻想郷で八坂神奈子らが企画した発電事業を逆輸入して妖怪たちによる幻想水力風力火力原子力電気公社計画が進行中であった。

 

 

 

また、別の場所別の時間。

 

ホテルのホールを借り切った決起集会。

大樹がシャンパンの入ったグラスを掲げ音頭をとる。

出席者には民自党、華族会、改革の会と言った翼賛会議員以外にも妖怪や妖精の姿もあった。

 

「人間に妖怪、それに妖精や精霊たち。数多の者たちが手を取り合いより良い時代を目指すのです!この選挙戦、皆さん勝ちましょう!!えいえいおー!乾杯!!」

 

「「「「「えいえいおー!乾杯!!」」」」」

 

 

 

 

 

某所

 

「ぬらりひょん様ぁ。」

「ぬらりひょん…少々拙いのではないかえ。」

 

上座に座るぬらりひょんに朱の盆と蛇骨婆が心配そうに訴えかけるが、それに困った様に応じているのはぬらりひょん。だが、その口元はにやついていた。

 

「あぁ、少しばかり驚いた。いや、非常に驚いた。まさに復権・・・いや、欧州の国々も抱き込んでいるあたりで戦前以上の影響力を僅か半月で得るとは流石としか言いようがないのぉ。じゃが、どうにもならんわけじゃあないんじゃよ。そろそろ、わしも手札を切っておこうか。」

 

 

 

 



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214 平成 月の影

 

 

2019年8月20日

大樹たちは幻想郷にいた。

八雲紫から式の藍を案内役に遣わされた一行は迷いの竹林へ。

 

妖狐狸の兵士や武装した妖精巫女たちが隊列を組んで竹林前に並んでいた。

藍とは別に雇われた竹林内での案内役である藤原妹紅も藍と顔を見合わせて

 

「さすがにこの人数は・・・ねぇ。」

 

妹紅に振られた藍は仕方なしと苦言を呈すると大樹も困った様に応じた。

 

「大樹様…数がいささか多いように思います。」

「えぇ、梅林と水楢、それにぐわごぜたちも心配して護衛を多くつけろとうるさくてね。」

 

幻想郷在住だった大妖精たちも困惑気味であった。

 

「第一中隊は左へ!第二中隊は右側へ向かえ!砲兵は榴弾から焼夷弾に切り替えろ!」

「ま、待ってください!玄蕃狸!別に密林戦をするわけじゃないんですよ!」

 

初っ端から戦闘ありきの指示を出す玄蕃狸に大妖精が慌てて待ったをかける。

 

「しかし、竹林を進むときに奇襲をされてはひとたまりもないぞ。」

「これだから、南洋帰りは・・・戦争ありきで話を進めないでください。あくまでも交渉なのですよ。」

 

 

 

「そうです。大妖精の言う通りです。あまり目立ったことをすると2・26の再来などと騒がれかねません。」

 

「申し訳ありません。先走ってしまいました。」

 

大樹に叱責された玄蕃狸はシュンとして頭を下げる。

 

 

 

竹林外延部でうるさくしていると永遠亭の妖怪兎たちが集まって来ており、自然と睨みあいが始まった。

 

永遠亭は月出身者の勢力であり、かなりの旧式ではあるが月の武器を装備している。そのため幻想郷では珍しい近代化した勢力であった。

 

つまるところ、土嚢やら塹壕が築かれ銃口を向けあう一触即発状態になっていた。

しかし、幸運なことに永遠亭の兎たちのリーダーの因幡てゐは白兎神社の祭神として、大樹と面識があった。

 

「え、大樹野椎水御神様じゃないですか?」

「尼子家の氏神様の白兔神のてゐさんよね。懐かしいですねぇ~2、300年ぶりですかねぇ?」

 

色々あって何とか衝突を避けて、永遠亭との交渉に入ることができた。

ただ、永遠亭に入るための交渉でその主たちとの交渉の席を設けるための交渉があるのだが…。

 

何度かの話し合いで大樹と随行員数名という形で永遠亭に招待された。残りは竹林外で待機となった。

 

 

永遠亭の亭主である蓬莱山輝夜は八意永琳の上司であるのだが、大樹は国津神でありながら天照大御神ら一部の有力天津神から名誉天津神に召し上げられた経緯から一部の天津神をやたら持ち上げたがる気質がある。

 

八意永琳は八意思兼神その神であり、大樹がやたらと気を使うであろう枠組みにいる。

まあ、実際大昔も大昔であるが面識もある。

 

「あ・・・あ・・・あ・・・どうも、お久しぶりです。」

「え~と、何千年ぶりかしら?」

 

「たしか、人間がまだ猿だった頃ですから万年単位ですよ。」

「さすがに思い出せないわね。貴女もまだただの妖精だった頃だし。」

 

「え、えぇ、そうでしたね。」

「そういえば、あの時渡したステッキはまだあるのかしら?」

 

大樹は永琳の問いにバツが悪そうに答える。

 

「あれは、源平の…じゃなかった。2回目の元寇が攻めて来た時に壊れてしまいまして…確か・・・壊れた後は・・・玉名天満宮に仕舞ったはず…。」

「あら、そうだったの?今度持ってきたら直してあげましょうか?」

 

「え、いいんですか?是非お願いします。ただ、変身機能は省いて頂けると…。」

 

永遠亭、意外に直節間接問わず知古が多いかもしれない。

 

 

 

 

「こちらの部屋です。輝夜様がお待ちです。」

 

永琳がふすまを開けると円形の大きな座卓が置かれた部屋だった。

配置的に上座下座がわかりにくくなっている。

あえてだろう。

 

それぞれに私と蓬莱山輝夜が向かい合う形式に整えられてあった。

中央に鍋が置かれていた。

 

「会食形式でいいかと思ってね。私たちは月から降りた身、あまり気を使わないでちょうだいね。」

 

もともと持ち合わせていた気品ある雰囲気と、その場のアットホームな雰囲気が何ともいい感じの空気を作っていた。

 

輝夜たちに進められる形で大樹たちも鍋の輪に加わる。

 

 

お互いの昔話に花が咲いた。

ちなみに竹取物語はほぼほぼ実話だ。

 

「輝夜さんに入れ込んだ天皇って持統天皇?それとも天武天皇かしら?」

「あんまり覚えてないわね。どっちだったかしら?」

 

「そういえば、貴女たちを案内してくれた白い髪の娘がいたでしょ?」

「はい。」

「あの娘は藤原妹紅って言って不比等の娘だったんだけど気が付いた?」

「え、そうなんですか?因果なものですね。天智天皇が中臣鎌足に下げ渡した子の娘が今も生きているとは…世の中は奇妙なことばかりですね。」

 

大樹の顔がほのかに赤い。

大妖精は大樹に水を勧めた。

 

「大樹ちゃん。お水飲んどいたほうがいいよ。なんか今、歴史的にすごい発言があったよ。」

「え、そうですか?」

 

とりあえず、会談はおおむね良好に進んだ。

永遠亭からは技術協力と、一部兎たちの派遣が約束された。

永琳を介して結構古い情報だが綿月の御姉妹の近況の様なものが聞けた。

神武天皇の頃を最後に会った記憶がない。今もお元気にしているようで何よりです。

 

会談も終わりに差し掛かった時に永琳さんが差し出してきた手紙。

 

「そこの八雲紫がつい最近月にちょっかいを掛けましてね。事後処理含めてそのごたごたが終わった時に綿月の姫より預かったものです。」

「ありがとうございます。あとで、読ませていただきます。」

 

「懐かしい話が出来て楽しかったわ。また近いうちにいらっしゃいな。」

「そうしたいのですが、しばらくは私も忙しくて…近いうちに積もる話もありますのでお会いしたいのですが、なかなか・・・。」

「意外と、すぐに会えるかもしれないわよ。」

「?」

 

輝夜たちと別れの挨拶の時、永琳さんが意味深なことを言っていたけど何だったのでしょうか?

 

 

 

帰りの道すがら手紙の封を切り、内容に目を通す。

 

これは・・・

 

『月の都の一部に地上に対し善からぬことを考える者たちがいる。注意されたし…。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに、永琳の予言通りすぐにまた会うことになった。

と言うよりほぼUターンだ。

 

「綿月さまと連絡を取りたい。可能なら八意様のお知恵もお借りしたい。」

「あの手紙を読んだのね。思ったより早く動いたのね。」

 

「はい。喫緊の問題であると判断しました。」

「えぇ、そうね。理解が早くて助かるわ。月の綿月姉妹との連絡は時間がいるの。でも、私も彼女たちも手は打っているわ。すでにうどんげに連絡を取ってもらってるからすぐ来るわよ。」

 

永琳と話し合っていると鈴仙が二人の玉兎を連れて来た。

 

「貴女たち、そっちの金髪の子のは情報管理担当だったかしら…結構な権限を持ってるわよね。」

「えぇ、まあ。情報管理担当ですから…それなりに。」

 

永琳がその隣の青髪の玉兎に視線を向けると

「鈴瑚はイーグルラヴィの実質的な隊長です!」

「あ、おま!?清蘭!何、バラしてんの!?」

 

永琳が鈴瑚と呼ばれた玉兎に指示っぽい言い方で話しかける。

 

「じゃあ、指示書来てるんじゃない?開封しなさい。」

「え、あ、はい。」

 

「えー、綿月家分家に対する要綱。神武天皇即位紀元、綿月家の末裔にあたる国家の始祖たる神武天皇の摂政兼養母である大樹野椎水御神に対し、綿月家として援助を行うものとし綿月家の私戦力の一部を貸与するものとする。大樹野椎水御神の要請を受ける形を取り、各種作戦行動を請け負うものとする。・・・つまりは地上調査中隊イーグルラヴィは大樹様の指揮下に入るという意味です。」

 

「綿月様のご配慮感謝いたしますとお伝えください。それで鈴瑚さん、地球に害意を持っている月の民の派閥とは?」

 

「月の都が女王月夜見様が第一子都久親王殿下。」

 

 

 

 

 

 

 

帰路の車の中で大樹は思案に耽る。

 

月の強硬派、魔法世界の完全なる世界、ぬらりひょん一派・・・。

点と点が線で繋がっていく。

 

旧日本妖怪軍残党には明らかに地球外の技術が加わった形跡があった。

クーデター鎮圧後、刑部狸をはじめとした高位幹部級の古狸たちの大半が自決している。

残党軍はベアードと同盟関係にあったから、その関係から何かわかることがあればいいのですが・・・。

そもそも、残党軍とは名乗っているが一つの組織ではなく終戦を認めなかった部隊や個人の大小さまざまな寄り合い所帯、調べる必要がある。政権を取れれば日本の公安や内調などを使えるがそれまでは今ある手駒でやるしかないですね。

 

 



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215 平成 暗闘の表面化

 

2019年8月21日

 

『緊急ニュース速報 グランドインタラクティブホテルで会合中の政治家を狙った思われる 爆弾テロが発生。会合中の議員含む複数の被害が出ている模様。』

 

ニュース速報を見た大樹は図書館島地下の自身の執務室で各所に指示や連絡を出していた。

大妖精が報告を上げてくる。

 

「警察の方からはやり方が、この前の大塚議員爆殺と似ていると言っていました。」

「大塚・・・土転びの件ですか。あれは確かぬらりひょんが絡んでいましたね。」

 

「ですが、規模が違います。こちらの方が被害が大きいです。重体の方もいますし、おそらく何人かはこのまま・・・」

「・・・・・・。」

 

ぐわごぜの言葉に大樹は顔を歪めた。

ぬらりひょんめ、この時期に仕掛けてくるか。選挙戦に影響を出したかったのか?あるいは魔法世界か月の動きに連携しているのでしょうか。

 

 

 

 

 

某所

 

「選挙戦で大樹様の派閥が大勝してしまうのはよろしくない。切り札ではないですが手札を切らせてもらいましょう。」

「おや、あれは切り札ではないのかえ」

 

蛇骨婆の問いにぬらりひょんは答える。

 

「まさか?これは幾つかある手札の一つですよ。それとイタリアに遣った旧鼠から仕込みは済んだと連絡がありましたよ。」

「それは結構、結構。そういえば、朱の盆の姿が見えんが?」

 

「あ?あぁ、朱の盆は国内の私の派閥の妖怪たちを集めて蹶起の支度をしてもらっていますよ。これだけ派手な舞台を用意したのです私とて踊りたくなるものですよ。ふっふっふ。」

 

暗躍し続けていたぬらりひょんも遂にその腰を上げ舞台に立とうとしていた。

 

 

 

 

2019年8月22日

 

この日も大妖精やぐわごぜを交えて会議漬けであった。

「現政権は先の爆破テロを妖怪関連事件と吹聴しています。」

「馬鹿な。妖怪が爆弾なんかそうそう使うものか。」

 

「ですが、現政権に近しいマスコミはこれに便乗しています。幸いにもソーシャルメディアの方は以前より妖怪友好の情報が浸透していましたので慎重な声が聞かれています。」

「イーグルラヴィに対テロ戦を命じます。旧鎮台衆を始めとする恩顧妖怪たちには地元の治安を堅守せよと・・・伝えなさい。それと兵がいる華族たちにも協力を要請なさい。それに、対メディア戦は既存メディアに対抗してネットメディアを駆使しなさい。妖怪がやったという証拠がないのです。MUKAKINN氏やチャラトミ氏と言ったこちらとの協力を了承してくださった有力チューバーの方にも拡散をお願いしてください。そのあたりで攻めてやればよいでしょう。」

「ご随意に。」

 

 

 

「未確認の情報と前置きしますが、警察より反妖怪の人間たちのテロ行動が予想されています。お気を付けください。」

「言われずともです。」

 

 

 

「そういえば、幻想郷の八坂様が地元に妖怪式の原発を誘致したいと言っていましたね。」

「そ、それは早計です。原発自体、このご時世で不人気です。それでしたら元々あの地域は水力やバイオマスが有力です。それらを先に注力していただかないと・・・。八坂様の電力事業を地元の基幹産業にしたいというのは気が早すぎます。」

「だが、県の役人たちは乗り気なのです。」

「・・・・・・・では…原子力は最期にしてまずはバイオマスやソーラー、風力水力なんかを中心にしてくれと伝えてください。これなら、選挙の追い風にもなりますし・・・良いでしょう。」

 

 

 

「そういえば、大逆の四将とやらは?」

「すでに、黒雲坊は討伐済みです。最近、鬼太郎が討伐したと。」

「では、伊吹丸と九尾ですね。鬼太郎くんに任せてよいでしょう。」

 

「大樹様、魔法世界の件なのですが・・・。」

「ネギくんたちの方はあまり良い情報を聞かないけど。何とかなると思いましょう。エヴァが太鼓判押しているのです。」

 

 

2019年8月27日 日中

 

数日後、警察及び自衛隊が治安維持に努める中での厳戒態勢下の選挙戦が始まる。

その裏では

 

どたどたとビルの中に大樹恩顧の妖怪たちが押し入る。

 

「問答無用!!押し入れ!!」

 

別のビルでは警官隊が

 

「突入!!突入!!突入!!」

 

ぬらりひょん名義のビルや屋敷に問答無用で押し入った。

選挙結果が自分に有利な政権が勝利すると確信した大樹は遂に力業の実力行使に動いた。

 

「奴良土木建設、奴良利商事、奴良土地開発不動産他。別荘等邸の制圧完了しました。ただ、ぬらりひょん他、幹部級の妖怪たちは押さえられませんでした。」

 

「でしょうね。」

 

大妖精の報告を聞いて大樹は表情を変えずに答えた。

 

「で、奴の補給線は?」

「銀行口座はすべて凍結させました。私書箱等貸金庫も差し押さえました。海外のものも順次凍結さて行く予定です。選挙戦終了後、ぬらりひょんの人間としての偽名で全国指名手配とします。」

「捕まりはしないでしょうが、国内での行動はかなり制限されるでしょうね。となると・・・。」

 

大樹が自分の後ろに意識を向けると

ぱっくりと空間が裂け、その中から八雲紫が式の藍を連れて姿を現す。

 

「佳境に至った様ね。」

「近いうちにぬらりひょんとその陰で繋がっている者たちが引きずり出されるでしょう。」

 

「そう、そういえば・・・鬼道伊吹丸の方も比較的丸く収まって残りは九尾だけになったわ。」

「それは・・・よかったです。彼は」

「そうよ。伊吹萃香の息子よ。」

「全然似てないですね。親は奔放で子は真面目ですものね。」

「それ本人の前で言っちゃだめだから・・・結構気にしてるわ。とにかく、地獄を支える役割に戻ったから九尾のことがあるけど一先ず地獄関係は少し落ち着きそうよ。」

 

 



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216 平成 大樹復権

 

2019年8月27日 夜

 

『開票速報、保守政党連合の勝利確実。』

『華族会議席を大きく伸ばす。環境政党議席確保、旧民政党勢力大敗。』

 

勝った。

 

受話器の相手に今後の展望を告げる。

「President, the priesthood will be restored, but Imperial Japan has no intention of becoming hostile to your country. Let's do our best to deal with the latest crisis with international cooperation, as we did with the mediation of the United Kingdom.」

 

相手の疑念は晴れていないようだが、一応は納得してくれたようだ。

 

「Eh, of course. Our enemies are the same. We cannot afford to be in conflict on Earth.」

 

受話器を下ろし、側に控えていた大妖精に頼む。

「魔法世界のクルト・ゲーテル元老議員らと接見する。すぐに用意してください。メガロ本国が混乱している現状、魔法使いたちの意思決定権は実質彼が握っているはず。正確は何人かに分権していますが、彼を押さえれば何とかなるでしょう。」

 

足早に図書館島を出て、エヴァのログハウスに向かう。

 

「エヴァ、少し私に付き合ってくれませんか・・・?魔法世界人と交渉する必要があるのです。」

「どういうことだ。」

 

「今回の選挙を経て、私は復権を成し遂げました。むしろ、かつての大権以上のものを手に入れたと思います。」

「ん?日本での復権でそんな大げさな。」

 

「いえいえ、根回しせずにやったら背後の彼らにつぶされますよ。」

「まさか…いや、お前ならあり得るか。昔から神算鬼謀の持ち主とは思っていたが、そこまでの脳を持っていたか。妖精とは思えんな。」

「ふふ、誉め言葉と受け取っておきます。英国とは話をつけてあります。合衆国とも先ほど話が付きました。これから、立川の政府予備施設に移動して通信を行います。」

「なぜ、そんな場所で?」

「そりゃ、学園長室よりインパクトがあるでしょう?」

 

とは言え・・・私は彼らにとって邪神ですからね。

一筋縄ではいきませんよね。

彼らの期待通り邪神のやり口を見せてあげましょう。

 

政府予備施設ではずらりといくつものモニターが設置されていた。

 

「ねぇ、エヴァ?今の私ってどう見えます。」

「悪の魔法使いと邪悪な怪物たちを従えた。邪神と言うか大魔王と言うか・・・それ以上の何かだな。」

 

魔法世界側のモニターには私が真ん中で左右にエヴァと日本国新首相。後ろに人化したベアードと隙間から上半身を見せる八雲紫。そして、モニターの両端に各国の首脳が取り巻き然と写っている。

 

 

 

画面の向こう側

クルト・ゲーテルら、魔法世界の要人たちが映る。

魔法世界各国の要人たちが集まるオスティア終戦記念祭の会場を完全なる世界が襲撃したのだ。そこで主要な要人は亡き者となった。ネギくんたちもそれに巻き込まれたようだけど・・・彼らは大丈夫。それよりも先に目の前の彼らをどうにかしなくては。

今映っているのはクルト・ゲーテルを除けば式典に行くことが無かった言うなれば二線級の補欠どもだ。クルト・ゲーテルは結構な戦場傷があるが、何かあったか?

 

『魔皇復活・・・。』

 

魔法世界の補欠な木っ端議員がこんな失言をしてしまう。

向こうの人間から見た私はそんな評価です。

 

「さて、魔法世界の皆さん。この度は魔法世界がこのような危機に見舞われて私たちとしても本当に胸が締め付けられる思いです。」

 

クルト・ゲーテルを除けば数合わせのどうでもいい連中。特段相手にする価値も無し。

 

「ですが、魔法世界が崩壊しても6700万なんて数の難民は地球じゃあとてもとても養いきれませんよ。」

 

『では、我々に荒廃した火星で野垂れ時ねと仰るか?我々とてむざむざと滅びるつもりはありませんよ?』

「では、無理やりにでも押しかけるつもりで?」

 

超sファイルのように進みそうな雰囲気に地球側の首脳たちの顔が引きつる。

 

「皆さん!」

大樹が手を叩くと各国首脳たちがアタッシュケースをテーブルに乗せる。

 

「困りました。そうなる前に手を打ちませんと・・・。せめて10分の1以下にはなってもらわないといけませんね。」

『なにを?言っているのです?』

「核弾頭を1万もぶち込めば魔法世界の人口をかなり削減できますよね。それだけぶち込めば地軸もずれて、それどころじゃないかもしれませんね。」

 

魔法世界の補欠要人どもが泡を食って腰を抜かしている。クルト・ゲーテルも少し面食らっている様子。

 

『ネギくんたちもいるのですよ。』

「時に為政者はより多くを守るため少数を犠牲にしなければなりません。今や地球の総人口は75億を超えています。妖怪や妖精たちを含めれば100億近いでしょうね。それを高々、1億に満たない6700万のために地球の100億に負担を強いるというのは冗談が過ぎると言うものではないでしょうか?おっと、こちらに来ることが出来ない方々を含めれば12億でしたか?まあ、完全なる世界の野望がなってしまえば助からない11億はこの際捨て置きましょう。地球100億と火星1億未満を天秤にかけるなどナンセンス。」

 

魔法世界内で完全なる世界の騒乱で混乱する最中で、地球上のすべての妖怪妖精そして人類を手中に収めた大樹の大軍勢(ぬらりひょん派の妖怪やチー配下中国妖怪、人類内の反妖怪派などがいるため正確には地球上のすべてではない。)が牙を剥きかねない状況に焦りを隠せずにいる魔法世界の要人たち。

 

しかし、これ以上脅し続けると逆に態度を硬化しかねないと大樹は次は優しく話しかける。

 

「とは言え、完全なる世界が地球の脅威になっていることは事実。地球に付随もしくは非常に近しくある異界には神やそれに準する高位の存在がいます。彼らと予測した結果、奴ら完全なる世界の行おうとしていることは事の成功失敗に関わらず地球にマナや魔力と言ったエネルギーの逆流現象が伴うことが解っています。詰まる所、我々はすでに巻き込まれているのです。援助しましょう。聞くところによりますとそちらの主要な攻撃が奴らには聞かないご様子。こちらも多少の被害は覚悟して逆流するそれをきっちり受け止めましょう。幸いにも地球世界の攻撃手段は奴らには有効なようですしね。どうです?」

 

思考停止と言うわけでもないのでしょうが、しばし固まってから。

 

『・・・・・・わ、わかりました。その案を受け入れましょう。』

「あら、それはよかったわ。早速、そちらへ援軍をお送り致しますわ。」

 

『援軍ですか?ゲートはほぼすべて封鎖されていますよ。』

「問題ないですよ。援軍は我が国が誇る英華秀霊、護国の御神霊平将門公。そして彼が率いる英霊達。幸いにもあちらには相坂小夜と言う公と繋がりを持った霊がいる。そのつながりを手繰り寄せればある種の座標設定が可能で、物質的物理的な要素がない分半壊のゲートでも十分横断可能なのですよ。」

 

死んだ亡霊たちが再び戦う。幽霊亡霊の力と言うものがある種のファンタジー認識の魔法世界の者にはちょっと解らないものなのでしょうけど。

 

「魔法世界も魔法的でファンタジーですが、地球も地球でミステリアスでファンタジーなのですよ。まぁ、とにかく今後は宜しくやりましょうよ。ってことで後の外交関係だ何だって話は別画面の各国首脳陣とお話しください。私はこの辺りで失礼します。」

 

 

 



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217 平成 終章開幕

 

 

立川から今度は麻帆良にとんぼ返りするわけだが、今いる面子は私とエヴァンジェリンと従者のチャチャゼロ、八雲紫とその式の藍。そしてバックベアード。私とベアードの側近数名。さらに私の側近枠で駆けつけてくれた昔馴染みの風見幽香とその友人や家臣たち。

客観的に見てもわるいわるーい顔した集団でしたね。

この状況で日本的な腰の引けた外交は出来ませんから、ある種の脅迫外交でしたね。

 

「はっはっはっは!!さすが我妻祀の御母堂!決戦の地を地球にしてしまうか!!愉快!!我らの相手に不足なしだ!!」

とベアード。

「しかし、お前。よくここまでやったな。」

「この子は、昔から戦闘はからきしだけど後ろの方で権謀術数をするのが天才的なのよ。」

エヴァンジェリンの発言に風見幽香が代わりに答える。

 

「ねえ。亡霊たちを魔法世界に送るのってやっぱり私がやるのよね。流石に骨が折れるわね。」

と不満を述べる八雲紫に対して

「長期熟成の最高級日本酒やロマネコンティとかドンペリとかたくさん用意してるから頑張ってちょうだいな。」

「えっ・・・・・・・・・・ゆかりん、超頑張れる気がするわ。」

「ゆ、紫様。」

「藍さんには福井の老舗名店の油揚げを用意しましたよ?」

「コホン、これは私たちがここで活躍しないといけませんね。ね!紫様!」

「ら、藍。貴女も現金ね。」

 

若干、年甲斐と言うか立場的役職的にはあり得ないくらい和気藹々としていたが、エヴァンジェリンが区切り着ける。

 

「さて、あっちには私のかわいい弟子もいるんだ。完全なる世界の黒幕に弟子をかわいがってくれた礼もしなきゃならん。」

「黒幕ね~。あっちには黒幕が一人・・・こっちには黒幕がたくさん揃ってるわ。こっちの方が勝じゃないかしら?」

幽香の後ろにいた幻月が顔を覗かせて言う。

 

そして、最後に私が

「いままで、苦労させられた分お返ししませんとね。ざっと、数百年分くらい。皆さん宜しくお願いしますよ。」

 

と言うと皆が不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

同日

 

『開票速報、保守政党連合の勝利確実。』

『華族会議席を大きく伸ばす。環境政党議席確保、旧民政党勢力大敗。』

 

「ま、爆弾テロ如きじゃ結果は覆せませんな。わかっていたとも、大樹様も本腰を上げている。わしも本気でお相手せねば失礼と言うもの・・・蛇骨婆。七人同行に手を貸してきてくれませんか。」

「ふぇっふぇっふぇ。ぬらりひょん、主もずいぶん強引手を使う。」

「間違いなくこれまでで最大の大舞台ですからね。この程度はやらねばなりませんよ。」

 

 

 

2019年8月28日 夕方

 

平将門率いる亡霊軍団を魔法世界に送り出して数時間後。

大樹とエヴァンジェリンは近衛近右衛門と話をする。エヴァンジェリンは近衛近右衛門と向かい合う形で上座の方に大樹が座る形だ。

 

「近衛学園長。麻帆良はただちに厳戒態勢に移行してください。」

「うむ。」

 

何か変な駆け引きがあるかと思っていたのだが、大樹からの要請に学園長の近衛近右衛門は素直に受諾した。

 

「学園の生徒たちは全員退去。周辺住民の避難はすでに埼玉県警の指揮のもと開始してます。学園の生徒たちに関しては学園の自治権が及んでいますので学園が動かないといけません。急いでください。それと魔法生徒に関してもある程度選抜して下さい。半端な戦力は恐らく足手まといになります。」

「あぁ、急いで退去させる。しかし、そこまでなのか?」

 

自身の想像を超えた事態に近右衛門が些か動揺しているのが見て取れた。

 

「えぇ、完全なる世界とそれに与した者たちの規模は貴方たちの想定を遥かに超えたわ。」

「はぁ・・・確かに、これは想像できんわな。」

 

《速報:連舫前首相逮捕。8月28日8時23分、警視庁は連舫前首相をテロ等謀議罪で緊急逮捕した。また、同容疑者は内乱予備罪・内乱陰謀罪等の余罪があるとして再逮捕の可能性も示唆されている。》

 

このテロップが入ってすぐに緊急報道特番に切り替わる。

 

『旧民政党本部及び立憲民政党に東京地検特捜部による捜査が入ったとの情報が入りました。旧民政党議員からも逮捕者が多数出たとの情報が先ほど入っております。今回の逮捕は内乱予備罪・内乱陰謀罪等の国民への甚大な被害が予想されるは重大犯罪の為の超法規的措置であると警察庁の発表がありました。また、これは未確認ですが一部が欧州同時多発テロにも何らかの形で関与したとの情報があり今後の発表が待たれます。』

 

大樹たちはテレビに気を取られていたが、窓の外から目を覆いたくなるような強い光を受けて、そちらに視線を移す。

 

「世界樹が光っておる。ここまで強い光は初めてじゃ。」

「ついに来ましたか。」

「あぁ。」

 

エヴァンジェリンのスマホが鳴る。

 

「どうした?超か?鬼太郎について行ったんじゃなかったのか?・・・な!?いや、ありえるか。・・・・・・大樹。茨城でダイダラボッチが復活したらしいぞ。」

 

 

 

「学園長、今すぐに総員総力即応体制を取らせてください。電話をお借りしますよ。あ、エヴァ。貴女もそろそろ支度した方がいいわよ。少しぐらいは準備があるでしょ?」

 

そう言って、大樹はすたすたと学園長の執務机に歩み寄り黒電話を掛け始める。

これは、未だに大樹がスマホを始めとした携帯電話苦手にしているからでもあった。

そして、エヴァも「そうさせてもらう。」と答えて学園長室を後にした。

 

「今動かなければ、手遅れとなります!!多少の無理は押し通してください!!」

大樹は電話の相手にかなり強い口調で指示を出していた。

近右衛門も自身のスマホを使って魔法先生たちと連絡を取り合う。

執務机の前の会談用のソファーの先にあるテレビが映像をただ流し続けた。

 

そして、1時間ほど時間が経過したころ大樹は電話を切る。

 

 

『この奴良グループが主体となって内乱計画を・・・!?政府より緊急発表です!!よ、読み上げます。さ、さきほど内閣官房長官内定していた津田信國氏は臨時的に緊急の会見を開き以下の重大な発表が為されました。え、あ、日本国民の生命及び財産、自由並び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険が迫っていると判断し、もはや現在の警察力では対処不可能と判断し自衛隊に対し防衛出動を指示したことを・・・』

 

 

テレビに映るニュース特番に視線を移した大樹は

 

 

 

「学園長、完全なる世界が動き出しました。同盟関係にあるぬらりひょんも行動を起こしました。学園長、私は永い時を生きてきました。ですので似たようなことがあるといろんなことを思い出します。私たちと完全なる世界の間で争いが始まりそれぞれの同盟者が反応し矛を向け、その同盟者たちも武器を構える。収拾をつけるのが大変そうです。そして今は欧州大戦・・・世界大戦の時のことを思い出します。」

 

 

大樹の言葉を聞いた近右衛門は僅かに表情を強張らせた。

 

「そうかの・・・。」

「えぇ、時代が変わろうとしている。良きにつけ悪きにつけ、そういう時は必ず大きな騒乱に見舞われるのです。」

 

 

 



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218 平成 日本妖怪内戦前編

 

 

8月29日早朝

 

「諸君らも知っての通り、何者かによって同時多発的に世界11か所のゲートが破壊され、この2週間魔法世界との連絡がとれぬ。非常に危険な状況じゃ!先日の世界樹の発光現象から完全なる世界の残党の線が確実となった。そして、完全なる世界の残党と言ったが奴らはこの20年で残党とは言えない規模に、かつてと同等に回復し魔法世界を混乱に陥れておるとの情報が入った。」

 

学園長の言葉に召集された魔法先生や選抜された生徒ら戦闘要員たちもざわめき始める。

 

「静まれ!話はまだ終わっとらん!・・・完全なる世界は普段ゲートを介してこちらに流れている魔力を封鎖することで魔力溜まりを作り20年前の再現・・・いや、それ以上のことをしようとしておる!恐ろしいことに、その影響はすでに完全なる世界の同盟者たちが動き出したことで目前の脅威となった!これ以上の事態の悪化はなんとしても避けねばならぬ!これより、麻帆良の・・・関東魔法協会は総員即応態勢に入る!弐集院君は図書館等に入り電子精霊戦の体制を取り、指揮を!明石君は学園内の生徒たちの避難を!ガンドルフィーニくんは各国魔法支部との連携を!刀子くんは護国会議との共闘体制の構築を!総員かかれ!」

 

「「「「「っは!」」」」」

 

 

 

 

 

茨城県水戸市大櫛之丘で復活したダイダラボッチは都心部へと移動を開始した。

 

 

『防衛出動の発令に伴い、自衛隊の部隊の移動、任務遂行上の必要な物資の輸送が優先されます。それに伴い関東北部各地で大規模な交通規制が予測されます。車での避難はできるだけ控え各地域の係員の指示に従い、バスなどの公共機関を利用して避難してください。また先ほど政府は人間に友好的な妖怪たちに対して正式に協力を要請するとともに、今回の事態への対処に関して共闘体制を構築すると発表しました。』

 

ニュースの映像が切り替わる。

『はい!こちらは館林上空です!!いつもは交通量の多い国道122号線も閑散としています!利根川橋一体の住民には避難命令が出ています!防衛省はこの辺りのどこかでダイダラボッチを阻止する考えの様です!!』

 

テレビを見ていたぬらりひょんが口を開く。

 

「まずは前哨戦、これで片が付くとは思ってません。いろいろと仕込みはさせていただきましたよ。まぁ、大樹様のお手並み拝見といきましょうか。さて、海外出張から戻ってすぐで申し訳ありませんが。もうひと仕事お願いしますよ。カマイタチさん。旧鼠、あなたもカマイタチに協力しなさい。」

 

ぬらりひょんの言葉でカマイタチが軽く首を垂れるとその場から立ち去り、旧鼠がそれに続いた。

 

「カマイタチたちには何をさせるのじゃ?」

「少々昔の遺物が出てきましてね。少し邪魔なのですよ。あれは・・・。」

 

蛇骨婆の言葉にぬらりひょんは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。

 

「大樹織田家が後生大事あんなものを取っておくとは・・・三樹介文書・・・正直邪魔です。」

 

 

 

 

図書館島地下大樹執務室

 

「大樹様、自衛隊によるダイダラボッチへの初期爆撃が開始されました。津田官房長官より官邸危機管理センターに入ってほしいとのことです。」

「津田は織田の分家でしたね。武家は優秀な癖に私に頼りたがる。敵の本命は麻帆良です。ここが敵の本命なのは間違いないのです。」

 

大妖精は政府よりの要望を伝えたが否と答える。

 

「鬼太郎君たちにダイダラボッチの脳の破壊を依頼しています。こちらに向かってきている体は自衛隊に足止めさせますが、超さんのロボットたちにも足止めに加わってもらいたく思います。ぬらりひょんは前哨戦のつもりでしょうが、あれに利用されている七人同行は真剣でしょうから体そのものにかかりきりだと誤解させたいです。私たちはあれを回収しませんと・・・。」

 

 

大樹はそう言って執務室の椅子から降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

三樹介文書、第一次大戦の直前あるいは末期。妖怪と人間が共存する世界が武力によってなされそうになっていた時代。織田幕府国務奉行、織田大樹家16代当主織田三樹介によって起案され作成された妖怪と人間の社会を目指した法整備計画案。内容に関しては今となっては歴史的価値しかない。しかし、こういった意志を持った人間がいてそれを望んで現在までこの文書を残した人間たちがいるという事実は今を生きる妖怪たちの心を動かすに違いない代物であった。

 

大樹が期待し、ぬらりひょんが危険視する世界を変えうる力を持つ文書であった。

 

織田大樹家は16代三樹介を最期に男系が途絶し、三樹介の娘小菊が紀州織田(信雄)家に輿入れして織田大樹家の遺産を引き継いだ。

 

『己は清州織田家の当主なれど、その器ならざりしためしは重々承知せり。器の足らざりしおのれを助けし妖精殿には恩義を感じたり。故に恩義に報はまほしく思ふ。

 

故に以下の家訓を定む

 

紀州藩たるは大樹を守護すべきに、従はばこの信雄の立藩を支へし三妖精に若し二心を懐かば、 則ち我が子孫に非ず、面々ゆめゆめ従うべからず。』※紀州家訓十五か条より抜粋

 

紀州家は初代藩主織田信雄が大樹の側近であった光の三妖精と懇意にしていたこともあり、大樹ら妖精たちに対して現代華族の中では群を抜いて忠誠心が高く、昭和国内最大の親大樹派勢力天導派の最大後援者であり、現在も政党華族会党首織田信春を輩出している人間たちの中での急先鋒であった。

 

「この命に代えても三樹介様の遺された文書を大樹様にお届けいたし候。」

 

三妖精を始めとした妖精たちを伴い先祖代々の鎧を着こんだ信春が螺鈿細工の施された漆箱を大事そうに抱え込んで乗り込んだ黒塗りの高級車が紀州織田家和歌山城から出てきて、門の外に待機していた陸上自衛隊第三師団隷下第37普通科連隊の車両が取り囲み護衛する。警察の白バイ隊が先頭を走り先導し、警察車両が続く。護衛に関西呪術協会の派遣隊も加わる。上空には警察のヘリ飛んでいた。

 

車列は大阪、京都、滋賀、三重を通過し愛知へ

 

「これより、東名高速道路へ入る。」

先導の白バイ隊員が無線で本部へ報告する。

 

 

 

 

 

 

 

「大樹様、護送車列が東名高速自動車道に入ったと知らせが入りました。」

「そうですか。鬼太郎君たちはダイダラボッチに・・・、ネギくんたちは魔法世界。麻帆良の魔法使いたちは防御態勢を取っています。ぬらりひょんが仕掛けてくるのは間違いないでしょう。」

 

「大樹様・・・。」

「大丈夫です。こちらも手の者を護衛につけています。」

 

図書館島地下執務室の私の側には大樹大社の大神官である大妖精と大樹恩顧の妖怪筆頭であるぐわごぜが控えいた。

 

「大宰府の道真公と梅林らには中国妖怪に対する警戒は厳にと・・・中国妖怪は必ず動く。中国妖怪の上陸を何としても阻止するようにと。」

 

大樹はぐわごぜを介して各地の妖怪たちに指示を出す。

 

「っは、そのように大宰府には伝えます。先ほど北方の雪女郎様より古き盟約に従い兵力の約半数を帝露のハバロフスクへ援軍に向かわせ。残り半分を北海道及び東北の守りに回し、少数の精鋭をこちらへの援軍に送るとのことです。」

 

「雪女郎に感謝すると伝えなさい。」

 

「っは。」

 

今度は大妖精が報告を上げる。

 

「東京都が戦場になる可能性を考慮して先ほど内閣で住民の避難の審議のために閣僚たちが招集されました。」

「遅いですね。恐らく当該地域からの避難は実施できないでしょう。となると都の災害時マニュアルに手が加えられたものになるでしょう。」

「・・・妖精たちに警察、自衛隊との連携を密都とし都の守りを固めさせます。」

「任せます。」

「それと、チルノちゃnあ、いえ、チルノには北方の妖怪たちとともにロシアのレティ・ホワイトロックとの連絡役を任せたいのですがよろしいですか?」

「あ、仲良いんですってね。あの二人・・・いいですよ。そうしてください。」

 

側近たちが慌ただしく動き出す。

 

「あ、あの大樹先生。」

 

この執務室にまず踏み入ることのないの者の姿があった。

 

「雪広さん。・・・場所を変えた方がよいですね。」

 

3-Aのクラス委員長雪広あやかの姿があった。

 

 

 

 

 

教室に移動した大樹を生徒たちが出迎えた。

そして、自分たちもネギたちのために何かしたいと訴えたのであった。

 

「皆さん、協力したいと・・・。」

 

だが大樹は、険しい顔をして答える。

 

「ダメです。」

 

生徒たちが一斉に反論する。

 

「今までだって!!」「私たちだって役に立ちたいよ!」「パクティオカードだって!」

 

大樹はさらにきつい口調になる。

 

「今回ばかりは・・・今回のそれは、今までの生易しいものではないのです。京都での出来事や麻帆良でのそれとは大違いなんですよ。昨今各国で起こっているテロは今回のそれの序章の様なもの・・・死者だって少なくない。これから起こることは日本、アメリカ、欧州・・・世界中の国家種族を巻き込んで正面切って大勢で殺しあう。実質・・・戦争なんです!今までの様なお遊びとは違うんです!!皆さんは死ぬかもしれない。死ぬ覚悟があるんですか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『東名多摩川橋にて車列が襲撃を受けた全車急行せよ!繰り返す全車急行せよ!』

 

神奈川県警の警察車両と警視庁の警察車両が多摩川橋のに殺到する。

車列は襲撃を受け自衛隊や警察、それに大樹恩顧の妖怪たちが、ぬらりひょん派の妖怪たちと衝突ししていた。

 

拳銃に銃弾を籠めた警官たちが下車する。

 

「文書を守れ!!」

 

 

 

 

 

 

官邸危機管理センター

 

舘林の防衛線で戦闘ヘリ群による威力偵察が行われ、ダイダラボッチに傷一つ与えられなかった。

以前首都に向かって進んでいた。

 

「総理御決断を。」

「今より、武器の無制限使用を許可します。」

 

新総理に就任した麻田首相が津田官房長官に促され決断する。

 

戦闘ヘリ群、戦車大隊による攻撃が始まり、特科大隊の攻撃もこれに加わる。

 

「効果はあまり見られないようです。」

「爆撃も効果がないのか?」

 

映像にはF-2支援戦闘機による爆撃が開始されている。

 

「全くないわけではありませんが、いま一つの様です。」

「だが、攻撃の手は緩めてはいけません。ゲゲゲの鬼太郎がダイダラボッチの脳を破壊するまではこちらで引き付けなくては・・・。」

 

 

 

 

 

 

大櫛貝塚の地下に隠された洞窟。

そこにダイダラボッチの脳が隠されていた。

 

七人同行の守るダイダラボッチの脳を破壊するために鬼太郎たちはこの場所に奇襲をかけた。

 

「七人同行!お前たちの企みもここまでだ!」

「っく!お前たち、返り討ちにしてやれ!」「「「「「「おお!」」」」」」

 

七人同行が応戦し鬼太郎とその仲間たちに襲い掛かる。

 

「鬼太郎!ダイダラボッチの脳はあれじゃ!」

 

目玉おやじが指す先には祭壇に置かれたダイダラボッチの脳があった。

 

ぬらりひょんが前哨戦と言い切ったこの戦いは当然の様に鬼太郎たちの勝利に終わる。

七人同行は倒されダイダラボッチの脳は破壊される。

 

 

 

 

舘林の防衛線で自衛隊と戦闘を繰り広げたダイダラボッチは体を維持できずに崩れ去る。

 

「目標!沈黙!」

「総理、目標が沈黙しました。」

「目下の脅威は取り除けたな。」

 

「総理、多摩川橋の・・・、そろそろ警察対応では限界が・・・。それとそろそろ大樹様も・・・。」

 

津田が麻田に次の問題の指示を乞う。

 

「な、それは拙い。練馬の普通科と1察戦を向かわせよう。それと大樹様には官邸危機管理センターにおいで頂きたい。」

「再度打診します。一先ずは自衛隊を動かしましょう。」

「文書が到着し次第、この国の内閣として公表しよう。これが、大樹様の願う人妖の共存の呼び水となればよいのだが。そういえば有識者の方々は?」

「招集しています。到着した方から控室へご案内しています。」

「そうか。であれば、我々も支度をしよう。法令の発布の様なものなのだから防災服じゃなくて、背広の方がいいな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図書館島の正門に黒塗りのセダンと護衛の警察車両。

 

大樹は側近たちとそれに乗り込む。

 

「皆さんは麻帆良で大人しく待っていてください。ここからは子供の出る幕ではありませんよ。」

 

雪広さん立ちに釘を刺してから警察車両に先導され、大樹たちは麻帆良を後にする。

大樹の言葉はかなり厳しかったため、さすがの3-Aの生徒たちも迷いがあった。

纏め役の雪広あやかも強引にでも大樹や魔法世界に行ったネギや明日菜たちを助けたい思いもあったが、大樹の言葉も重かったのだが・・・。

やはりと言うか。3-A本質は伊達と酔狂、そしてノリだ。

 

「・・・大樹様はこうは言っているけど。麻帆良も魔法生徒たち含めた即応体制に入っているし国としても戒厳令下アル。けども、私たちは自由に動けているネ。大樹様は来ないでほしそうな気がするアルけど。学園長は私たちを抑えに来ないネ~。学園長は学園長の思惑があると思うけど。この場合は・・・そういう事にできるアルよ。」

「そういう事?・・・あぁ、そういうことにね。」

 

そう全部学園長に誘導されてやったことなんです!大樹先生!全部学園長が悪いんです!!ということだ。それでも後ろ髪をかなり引かれるが最初の一歩を進めてしまえばあとは勢いだ。

 

 

 

 

津田官房長官は危機管理センターの会見控室に向かう。

その道中で有識者として集めたうちの一人である女性が控室から荷をまとめて後にしようとしていたのを見かけて呼び止める。

 

「君?どちらへ?時期に会見が始まると思うのだが。」

「か、官房長官さん。あ、わ、わたし行かないと・・・。」

 

官房長官は彼女のプロフィールを思い出す。

「そうですか・・・わかりました。警察の車両を一台回しますのでそれを使ってください。」

 

 

官房長官は官邸の裏口まで彼女乗せた警察車両を見送った。

夕方の薄暗くなる、昼と夜の移り変わる時刻。

 

「逢魔が時・・・戦後最初の繋ぐ者だった彼女。・・・これはやはり運命か。」

 

 

 



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219 平成 日本国妖怪内戦後編

 

 

『こちら!護送隊CP!現在!多摩川橋より東京ICへ到達!警視庁、神奈川県警、天狗ポリスの増援を受けたが被害は甚大!さらなる増援を望む!!繰り返す!至急増援を!!』

 

 

護送車に爪を立てるカニ坊主。

 

 

「こうなったら、私たちも戦うわ!」「えぇ。」「そうね!」

「三妖精様!?」

 

護送車から飛び出す三妖精。

 

「ぬ、光の三妖精!?戦国時代以後、歴史の表舞台に現れなくなったが未だこちらに留まって・・・いや、戻ってきたのか。」

 

「なんか強そうなデカいのがいるわ!必殺技よ!」

「スリー!」「フェアリー!」「アターーック!!どりゃー!!」

 

「ぬ!?ぬぉおおおおおお!?」

 

 

「な、こいつら~!?お前らやっちまえぇ!」

カニ坊主が倒されたのを見た朱の盆が動揺する。

 

 

 

「おぉ!さすがは三妖精様だ。各々方!!ここが踏ん張りどころぞ!堪えろ!!」

信春が感嘆の声を上げる。

 

「う~ん、信春様。喜んでいるところ大変申し訳ないんだけど。」

「わたしたち、これが結構大変なのよ。」

「つまり、大ピンチってこと。」

 

 

のっそりと起き上がる蟹坊主。

それを見た信春は困り顔で三妖精に尋ねる。

 

「そ、それは・・・何と言うか。う、うむ。何とかならんのか?」

 

「えっと、う~ん。」「とりあえず・・・ね。」「やるだけやっているわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三樹介文書をめぐる東京ICでの戦闘は激しいものであった。その戦闘は一人の乱入者によって一つの転換を迎えるのだった。

 

 

 

 

市街戦は近隣にも飛び火。

小規模なものであったが東京の各所でぬらりひょん派の妖怪が破壊活動を行っていた。

そんな中を逃げ回る一般人の中にいたのは犬山まなだった。

 

車の中から妖怪に引きずり出される女性。

引きずり出している妖怪は彼女と面識があった妖怪である鏡爺だった。

自身ががしゃどくろに狙われていた時に助けてくれた鏡爺である。直感的に敵ではないと判断した彼女は鏡爺に話しかけたのだった。

 

「鏡爺さん?」

「君は?犬山まなちゃんか!?どうしてここに!?」

 

「たまたま、用事があって・・・じゃなくて!?どうしたのその人!?ケガしてるよ!」

「わしも偶々だったんじゃ。彼女を見つけたのは…けがの具合が良くないんじゃが・・・・・・彼女には・・・」

 

 

「おい!彼女から離れろ!」

拳銃を構えた警官が警告してきた。

 

「ま、待ってこの人は・・・この妖怪さんは・・・敵じゃありません。そうよね鏡爺さん。」

 

鏡爺に支えられていた女性が警官を宥めると警官は拳銃を収めてこちらに駆け寄る。

鏡爺は目を見開いて女性に話しかける。

 

「き、記憶が・・・鬼太郎からは記憶をなくしたって・・・!?ゆ、夢子ちゃん。」

「ど、どういうこと?この人は?」

 

若干蚊帳の外だった まなの問いに答えが返ってくる。

 

「ゆ、夢子ちゃんは戦後最初の妖怪と人を繋ぐ者だった少女で・・・。」

 

 

「がああああ!!」

今度は本当に妖怪が襲い掛かってくる。

「は、早く逃げるんだ!」

応戦する警察官。

「か、鏡の中に!」

鏡爺の機転で鏡の世界へ入っていくのだった。

 

 

 

 

鏡爺の先導で天童夢子と犬山まなは三樹介文書をめぐる戦いのただなかに乱入する。

彼女たちは勇敢にも双方に訴えかける。

 

「みんな!もうやめて!!私たちが戦う必要はもうないの!!」

「そうよ!戦うのはおしまい!」

 

 

 

 

彼女たちを見た妖怪たちが動揺する。

その中でも特にひどく動揺したのは朱の盆だった。

 

「あ、あぁ、ゆ、ゆ、夢子ちゃん。な、なんで君が…。」

 

 

 

 

 

「一つ、皇軍に登用された妖怪たちは戦後の社会進出を見据えて各鎮台奉行と幕府の協議を行い人間社会と妖怪社会の併存を目指すものとする也。

一つ、二つの社会の共存するより良い世を目指すため。妖怪にも参政権を与えるべく協議するもの也。

一つ、妖怪、人間双方の利害がぶつかることも想定されるため。早急に法整備を行うもの也。

 

 

人間、妖怪、妖精数多の者たちが暮らすこの世界は一部が独占できるほど小さきものにあらず。多くの者たちがこの世界の恩恵を受けることを望む。 大日本合藩連合帝国幕府 征夷大将軍臨時代理 織田三樹介。」

 

妖怪たちは夢子の言葉に矛を収め、彼女の言葉に耳を傾けた。

天童夢子と言えば昭和の時代に妖怪と人間を繋いだ繋ぐ者であり、ぬらりひょん派に参加した妖怪の半数は皇宮襲撃事件の際に人間の放った凶弾に倒れ、妖怪が見えなくなったという話が広がり希望の光を見失った妖怪たちであった。

 

そして今、その天童夢子は妖怪が見えており、そして再び彼らの目の前に希望の光は輝き始めたのだ。さらに、当代の繋ぐ者と目される犬山まなも揃っており多くの妖怪たちに変化を感じさせるものであった。

 

動きを止めていた妖怪たちの最期の一押しに三妖精たちがスッと書状を渡す。

 

「日本政府はこれを基に皆さんと一緒に暮らせるように妖怪新法制定準備を行っています。私たちはもう争う必要はないはずよ!」

 

大樹紋と菊紋が押された添え状を掲げる。

 

 

 

自分に優しくしてくれた少女、その少女を害した人間の持つ負の部分を見て人を信じ切れずに彼女の示した道を歩まずに進んだ。だが彼女は30年と言う時間を挟んで再び道を示してくれた。

 

「夢子ちゃん、こんなに立派になって…。俺は30年間、何をやっていたんだ。」

 

朱の盆が武器を落とし、崩れ落ちたのを皮切りに、ほとんどの妖怪たちが朱の盆同様に繊維を失った。同じく動揺し行動を決めかねていた蟹坊主に朱の盆が声をかける。

 

「…人のありように不満があったからぬらりひょん様にお仕えした。だが、これはと言う人間もちっとはいただろう?お前が昔話してた姫様とやらも民百姓皆殺しみたいな復讐は望んでないだろ。」

「…………そう…だな。」

 

 

極一部の妖怪たちが逃げ去ったが、ほとんどの妖怪たちが平伏し恭順の意を示していた。

妖怪による内戦は終わろうとしていた。

 

ダイダラボッチも退治された。ぬらりひょん派の主力を率いていた朱の盆、蟹坊主の降伏によって騒動は収束を見せていた。

 

 

 

 

「大樹様、国内のぬらりひょん派の妖怪は過半数が壊滅並びに降伏しました。ぬらりひょんに国内を騒がす力は残っていません。」

「あれは軍の指導者としてではなく謀略家としても恐ろしい存在だ。油断はするな。」

「っは。」

ぐわごぜの報告に大樹は手を緩めるなと指示を出した。

 

ぬらりひょんの同盟相手であった大陸中国の妖怪たちは直接火星の完全なる世界と繋がっているわけではない。ぬらりひょんが雲隠れしている以上去就を決めかねているはず。

 

あとは火星からあふれ出てくるであろう完全なる世界率いる召喚魔と魔法世界の魔物たち。

 

そこに八雲紫がスキマを通じて現れる。

 

「派遣した将門公が撤退を開始したわ。」

「撤退ですか?」

「メセンブリアーナもヘラスも地球出身者以外手も足も出ないんじゃ仕方ないわよ。両国ともに半数以上が消されたわ。」

「では、火星は滅び火星の地球出身者が難民化すると…。」

 

大樹の問いに紫は眉間にしわを寄せてから答える。

 

「いえ、完全なる世界の連中も想定外だったみたいね。地球と火星が繋がったわ。」

「ですが、麻帆良はまだ…。」

「繋がったのはイタリアよ。」

「バチカンですか?」

「それも外れ、ローマから東のガルガーノ半島と言う地域に大規模な裂け目が出来たわ。バチカンから出現すると想定して布陣していたイタリア軍は甚大な被害を受けて敗走中よ。ガルガーノの裂け目は人為的なものだったわ。おそらく、出現場所はもっと増えると思う。」

 

火星からの戦火の火の粉は麻帆良だけに収まらず地球全体へと飛び火する様相を呈してきたのであった。

 

「ぬらりひょん、やってくれる。」

 

 



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220 平成 地球全軍同盟

 

 

8月30日

 

「世界樹発光!!」

「麻帆良学園都市より第1級総員総力即応体勢に入るとの連絡がありました。」

「麻帆良に配備した陸上自衛隊の部隊が戦闘態勢に入ります。」

「御殿場の特科より、いつでも発射可能。」

「戦車及び特科大隊、麻帆良外環部に配備中。」

「木更津及び立川の攻撃ヘリ隊が急行中。」

「三沢の攻撃機が先ほど離陸。」

 

 

大樹は立ち上がり

「こちらの状況は確認できた。そろそろ、私も招かれざる者たちでも客は客だ。お出迎えせねばなりませんね。総理、官房長官…この場は頼みます。」

 

総理を始めとした閣僚や官僚たちが立ち上がり頭を下げる。

 

「妖精戦巫女衆はすでに再編済み。新編の妖怪近衛軍もすでに麻帆良に向かわせています。」

「利根川一帯の河童たち、ゲゲゲの森の妖怪たちにも動員を掛けました。」

 

大妖精とぐわごぜの聞きながら大樹は麻帆良学園祭の時にもらっていた月の鉄扇を軽く振り回して手なじみを確認する。

 

「綿月家の心遣い、痛み入りますね。ところで、敵の首魁はまだ姿を見せないのですか?」

「幹部級の姿は確認できましたが…首魁はまだ確認できません。」

「ぬらりひょんの動きも気になるがライフメーカーだったか。どこにあらわれるのか…。」

 

政府の広報官たちが撮影機材が運び込んでくる。

 

「完全なる世界の召喚魔は世界各地に現れています。少々出遅れたと言わざるを得ないでしょう。」

 

大樹の前に演説代が置かれマイクなどが設置されていく。

 

「ですので、ここで後れを取り返さねばなりません。」

「大樹様、間もなく放送の準備が完了します。」

広報官が大樹に告げる。大樹は頷いて応じる。

 

大樹の周りから皆が離れていく。

「放送開始まであと1分です!」

 

「10、9、8、n…!?」

 

「た、大樹様!?」

 

「っぐ!?

 

気が付けば大樹の真後ろにぬらりひょんの姿があった。そして、大樹の胸からは刀の刃が生えていた。

「予想外のことは起こるもの…。大樹様…あんたを殺す奥の手があったわけですよ。」

「ぬ、ぬらりひょん…!?貴様!?」

 

「あぁ、なるほど…私の能力でも八雲の目がある上にこんな厳重な警備を抜けることは不可能です。ですが、さすがは始まり魔法使い。儂の様な妖怪の能力を極限まで高める魔法薬を作れたわけだ。とはいえ効能があるのは短時間なのでね。殺すなどと大言壮語を吐いてしまった手前恥ずかしくは思いますが深手を負わせましたので良しとしましょう。すぐに退散しましす。では…ふふ、ふははははっは。」

 

ぬらりひょんの不意打ちを食らって傷を負う大樹。

ぬらりひょんは自身の強化された能力も相まってその場から掻き消えるように警戒網を突破し姿を隠してしまった。

 

 

「た、大樹様!?すぐに病院を手配して!!」

 

駆け寄ってきた大妖精が叫ぶのを大樹が手で制す。

 

「止血してくれればいい。このことはネギくんや鬼太郎たちには伝えてはなりません。彼らの心をかき乱すようなことはしなくてよいのです。放送は応急処置が済んだらすぐ始めてください。」

 

「ですが!?」

 

「良いと言っている。物事には機と言うものがあるのです。それが今のなのです。わかってください。」

 

大樹の気迫に押された側近たちは応急処置を施してから配置に戻る。

予定より遅れて放送が流されることとなった。

 

各国の国家元首の緊急放送から、この大樹の演説へとつなげる形で放送が始まる。

 

『皆さん、私は大樹野椎水御神。この日本国における陰謀論的な話題では時折取り上げられておりましたが凡そその通りです。我の影響下にある妖怪たちとの諸所の問題が解決しておらぬ中、突然このようなメッセージをお送りすることをお許しください。ですがお願いです。どうか聞いていただきたいのです。

 私は今こそ皆さんに知っていただきたい。こうして未だ戦火の収まらぬわけ。そして、新たな戦火。そもそも、またもこのような状態に陥ってしまった本当のわけを。

今現在、イタリアでは正体不明の化け物が突如攻撃を始め、逃げる間もない住民ごと都市を破壊して尚も侵攻しました。我々はすぐさまこれの阻止と防衛戦を行いましたが、残念ながら多くの犠牲を出す結果となりました。イタリア以外にも未確認ながらも進行が始まっているとの情報が出ています。確かに人類と妖怪は昨今の隔たりがありましたが、こんな得るもののない日々に終わりを告げ自分たちの平和な暮らしを取り戻したいと思い我々と手を取り合い、憎しみで討ち合う世界よりも対話による平和への道を選ぼうとした時代は確かに存在し、今もまたその試みは成されようとしていました。我々と手を取り合い、憎しみで討ち合う世界よりも対話による平和への道を選んだ各国の国家元首の皆々様方には感謝の念に堪えません。そして、平和な時代は結実の下に晒されようとしていたのです。

しかし奴らはそういった平和を望み踏み出した者たちを焼き払ったのです!子供まで! 何故ですか?何故こんなことをするのです! 平和など許さぬと! 戦わねばならないと! 誰が!何故言うのです! 何故我々は手を取り合ってはいけないのですか!? 

ですが、どうあってもそれを邪魔しようとする者がいるのです。それも古の昔から。自分たちの利益のために戦えと、戦えと!戦わない者は臆病だ、従わない者は裏切りだ、憎め、裏目とそう叫んで常に我等に武器を持たせ敵を創り上げて、討てと指し示してきた者達。平和な世界にだけはさせまいとする者達。このイタリアの惨劇も彼等の仕業であることは明らかです!

この地球と言う母なる大地の子らを互いに争わせる世界が彼等の創り上げたものに過ぎないことを皆さんは御存じでしょうか?その背後にいる彼等、そうして常に敵を創り上げ、常に世界に戦争をもたらそうとする。陰謀論などではディープステート、影の政府、秘密結社などともいわれている完全なる世界! 彼等こそが平和を望む私達全ての、真の敵です! 現に奴らは私たちの平和が裏から手を回して壊すことができないと解れば、思い通りにならない人形はいらないとばかりに実力行使に出て来た!

 私が、私達が心から願うのはもう二度と戦争など起きない平和な世界です。そして、全世界の妖怪たちにも告げます!私の手を取り光の溢れる世界へ帰ろうではありませんか!人と妖怪、妖精が争わなくて済む平和な世界を手にしようではありませんか!よってそれを阻害せんとする者、地球の真の敵、完全なる世界こそを滅ぼさんと戦うことを私はここに誓います!そして私は、地球生命存亡を賭けた最後の防衛策として、人類、妖怪、妖精と言ったあらゆる種族による軍事同盟、地球全軍同盟の結成をここに宣言いたします!」

 

 

 



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221 平成 第三次世界大戦① 開戦の日

 

大樹はぬらりひょんの不意打ちを食らって傷を負う。

しかし、大樹は演説を強行し全世界の妖怪妖精たちに向けた激を発した。

 

8月31日

 

麻帆良学園と魔法世界がつながる。

ネギくんたちと将門公率いる派遣軍が撤退してきた。

 

ネギくんたちを車椅子に乗せられ傷の手当てを受けながらの状態で出迎える大樹。

 

「大樹先生!?そのケガは?それにこれはいったい?」

 

ネギくんたちが魔法世界に行って感覚数ヶ月、こっちでは1ヶ月程度。

この変化は驚くに値するか。

 

「ケガに関しては油断しました。元々槍働きは苦手なもので…。この状況に関しては、想像以上に敵の勢力が強大でしたので、こちらも切り札を切らせていただきました。」

 

「私も貴様の演説は聞いていたが、完全なる世界・・・盛ったな。元々分類上は悪の組織で間違いないがこの世の悪いこと全部全て丸っとこいつらが悪いってしたのは、えげつないと思うぞ。」

 

「でも、それが奴ら以外の誰にとっても良い結果ですので。」

 

 

 

 

 

その様子を眉を顰めて視線を送っていたのは魔法世界から避難してきたクルト・ゲーテルらメガロメセンブリアの高官たちだ。

 

大樹の演説は一見すると人間、妖怪、妖精の共闘を訴えたものであったが、大樹はあえて完全なる世界について暈していたのだ。これは戦後を見越したもので、火星の詳細を語らないことで火星=完全なる世界と言う印象が一般に広がることを狙ったものであった。

少なくても魔法の存在が広く知られてしまった現状。戦後、魔法世界が地球各国と関係を深めその影響力を拡大させようとしただろうが、大樹の演説によって火星=悪のイメージを植え付けられてしまった。戦後の説明することである程度払拭はできるだろうが、これを以て戦後の地球各国は地球妖怪妖精勢力>火星勢力となるであろう。

 

そう言った意味で怪訝な表情のメガロメセンブリアの高官たちの視線を受ける大樹だが全く素知らぬ顔だった。当然と言えば当然で、この演説が流れた時点で地球の軍の主導者は大樹であると言っても過言ではなく。彼女を怒らせて火星を切り捨てる決断をされて困るのは彼らなのだ。

 

それはさておき

 

「大丈夫なんですか?そのケガは?」

「えぇ、普通にしてる分には問題ありませんよ。完全なる世界の連中は地球の各地で騒乱を起こしています。奴らはもはや貴方達の敵ではなく。この世界の生きとし生ける者、全ての敵なのです。」

 

「そ、そんな」

 

自分たちの想像をはるかに超えた事態になっていて驚くネギくんたち。

 

「完全なる世界の召喚魔たちはイタリアにパリ、中国、アメリカ世界各地に現れています。イタリアや中国の被害は甚大です。この戦争はライフメーカー・・・造物主と呼ばれる存在を倒さない限り終わらないのです。そして、奴を倒せるのはネギくん・・・貴方たちに世界の命運が掛かっているのです。」

 

 

 

 

 

序戦で敗走したイタリア軍はフィレンツェとシチリアまで後退しそこで防衛線を構築し軍の再編を開始。なお、イタリア半島の南部地域は失陥。

 

さらにイタリア軍は敗走を続け、国家総動員を発令し民間徴収を行いアルノ川沿いに要塞群を築き上げ、参戦した小国サンマリノまでの強固な防衛線を構築。わずか数日でのイタリアの敗走に危機感を持ったフランスはコルシカ島から砲兵による支援を開始。イタリア軍の後退を援護した。

 

 

裂け目から現れる魔物の多くは歩行タイプであったが、一部飛行型が確認されそれらがイタリア北部を脅かし始めると、スイスは国境線を封鎖し臨戦態勢に、フランスもイタリアと接するニースからジュネーブまでの集落の住民たちの避難を開始し、同地域の防衛線も構築を開始した。オーストリアなどの周辺国もこれに倣った。また、フランスパリのシャルルドゴール空港に空間の亀裂が確認されており予断を許さない状況にあった。

 

 

 

また、中国中部に現れた裂け目の対処は致命的に失敗した。

元々中国は表面化していないだけですでに混乱状態にあった。

国家としての中国は周辺国との関係は宜しくなく。国内は昔から妖怪と人間が対立していたし、中国妖怪も大陸派と台湾派で分裂しており、日本妖怪と言うアジアで2番目の勢力を持つ妖怪組織と敵対するという最悪な環境にあった。

 

 

 

そして、アメリカにも火星の脅威は降りかかった。

カリフォルニアの海岸で発生したそれは国立公園の森の中を進み瞬く間に周辺の小都市を蹂躙していく。

 

 

 



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222 平成 第三次世界大戦② 燃える世界

 

 

EU諸国はイタリアで封じ込めを図ったが、裂け目がフランスのパリ近郊のシャルルドゴール空港に出現したことでもろくも崩れ去る。

 

裂け目が開き召喚魔たちがあふれてくる。警察の封鎖線は一瞬で崩壊する。

 

「市民の避難を最優先に!奴らをパリの中心街に入れるな!!」

 

フランス政府の対応は迅速でパリ防衛のために軍を緊急展開した。

フランス軍はパリ防衛のために市街戦に突入。市民の避難と並行するという無謀な賭けに出た。結果としてパリは暫し維持することができた。

こうして、裂け目から現れる魔物たちの南下を防いだのだが、代わりに魔物たちは北上を開始。魔物の大群がベルギーのブリュッセルとイギリス海峡に迫っていた。

 

ここに、ルクセンブルクの要請を受けたドイツ軍およびポーランド軍が現地フランス軍とともに旧マジノ線に展開しドイツ国境およびルクセンブルク国境を固めた。

ベルギーでも市民がパニックを起こす中、軍が出動。さらにオランダからの援軍を迎え入れた。また、バックベアード率いる西洋妖怪軍団本隊がアメリカ防衛に動いており、欧州防衛には初代ドラキュラ公爵率いる第二軍が自身の伝手があるルーマニアに陣を敷き周辺諸国群と連携し東欧防衛の動きを見せていた。また、イギリス対岸の完全なる世界の手勢に対して英軍と共同で反攻作戦を実施するために西洋妖怪軍団の人狼族たちが集結しつつあった。

 

フランスの完全なる世界の軍勢を打ち倒す準備を整える。一方でイタリア南部地域に取り残されたイタリア軍はローマに集結、バチカンの保有する武装神官たちも動員され悲壮なる覚悟で教皇を守らんとしていた。

 

 

 

 

 

重慶市で発生した亀裂からあふれ出た魔物たちは中国妖怪大陸派と組み中国を侵略し始めたのだった。また、化け物どもの侵略と言う未曾有の事態で政府と軍の足並みが揃わなかったことに加え首都を預かる中部戦区軍が壊滅に近い損害を受けたことによって国家としては致命傷となる。かろうじて機能していた首都の中央政府であったが、残る戦区軍は地元地方政府の要請を優先し自戦区へ侵入を防ぐための戦闘にシフトしてしまった。

西部戦区軍は西側の中部戦区軍残存を吸収、防衛線を構築しそこから一切の進軍を止めた。

抗戦の主体は東部戦区軍が担ったが、中国妖怪を味方につけた完全なる世界の召喚魔群はじりじりと中国軍を追い詰めていった。また、他地域と違い現地の妖怪が完全なる世界側にたって参戦したことによって地の利は失われ、特にキョンシーの齎した怪我人がキョンシーになると言ったゾンビパニック的混乱は中国国民をパニックのどん底に突き落とした。

中国政府は都市爆撃及び装甲軍団投入し民間人ごと浄化を図ったがこの現実味がなかった策は失敗した。さらに言えばこのキョンシー疑似ゾンビパニックはゾンビパニックの様な嚙まれて即ゾンビと言うわけでなく感染してからキョンシーになるまでにそれなりに時間的猶予があることが災いすることとなる。オカルト的なそれではあるが現代科学の治療でもキョンシー化をある程度遅らせることは可能であったし、政府公式見解では完治する方法はないとされていたがキョンシーを操る術を持つ導師たちによる仙術儀式で根治可能であることが台湾政府によって公にされるのだが、中国本土ではかつての共産党政治の一環で導師の仙術を否定し弾圧したことによって中国本土での導師の数が絶望的に少なかった。台湾や華僑の導師に頼るにしても遅すぎた。こうして民衆の中国政府への不満が爆発し、有事にも関わら民衆は暴動を起こし中国中央政府の統治は事実上崩壊した。これに際し各戦区軍は地方政府と合同し独自に動き出す。北部戦区軍は万里の長城の向こう側へ民間人を連れて退避、北部中国暫定政府を樹立し、両東西ロシア及びモンゴルの軍を迎え入れ防戦に備えた。さらに南部戦区軍は常徳市まで失い長沙市や武漢市をも失おうとしている中央政府を無視して国連に救援を要請、アメリカを中心とした国連軍を迎え入れ中央政府には事後承諾させた。大国中国は崩壊しながらも抗戦を続けるのであった。

 

 

 

 

 

また、東南アジアでは中国南部を食い散らかしている中国妖怪と完全なる世界の召喚魔軍団の半数はインド方面に向かっていると思われる。そして、その先頭集団がついに東南アジア、ベトナム国境に姿を現した。これに対してベトナム政府はインドからの援軍が到着するまでの時間を得るためにベトナム北部を戦場にする決断を下した。ベトナム政府の呼びかけに応じてラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーと言った周辺国は直ちに援軍を派兵し、インドネシアなどの南洋諸国も援軍を向かわせた。そして南方妖怪たちも郷土防衛に立ち上がり侵略者たちに乾坤一擲の一撃を与えんと集まっていた。

 

 

 

 



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