柚子色 〜After Stories〜 (かりゅうむ)
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ゆびきり(あやせ)
Twitterでは"かりゅ"って名前でやっているのでここでもそうしたかったのですがもう既に同じ名前の方がいらっしゃったらしくこのようなペンネームとなってしまいました、南無三。
ゆずではとにかくあやせちゃんがすこなので初めてはあやせちゃんに捧げようかなと思いました(意味深
拙い文章ではありますが、よろしくしてくれると嬉しいです
一応時系列としては暁君が入学してきてから一年弱経った初夏です
「うぅ〜〜、あづい……」
そう言って俺の彼女、三司あやせはぐったりと取材用の原稿を纏めてる最中の用紙が乗った机の上に突っ伏してしまった。
部屋の温度計を見てみると30℃を示している。初夏とはいえまさに真夏日、といっていいほどの気温だ。こうなってしまうのも無理はない。
「そもそもどうしてこの暑さの中取材しに行こうなんて思えるのよ……、そりゃ私だって望んでこの仕事をしてるんだけど、でも流石にこの暑さは耐えきれない、ねぇほんとにエアコン使えないの?」
「あぁ、確か来週から本格的に稼働させるために今日は点検してるらしいぞ。ほら、下敷きで扇いでやるから頑張れ」
「ひゃっ……、ふふ、涼しい。ありがと♪」
やっぱり普段の"みんなの三司あやせ"の笑顔も素敵だがたまに見せてくれるこういった無邪気な笑顔は本当に俺を幸せにしてくれる。自分だけが知ってる彼女の特別な表情、自然と口角が上がってしまう。
「……? 急にニヤけたりして、どうしたの?」
「いや、やっぱり俺の彼女は可愛いなって」
「…………〜〜〜〜ッッ、そ、そんなこと言ったって何も出ないわよ?!」
「そうやってすぐ顔赤くしちゃうとこも好きだな」
「も、もう! いい加減にしないと怒るんだからねっ!!」
「あははっ、すまんすまん」
「ねぇ……、暁?」
「どうした?」
「もしよかったら……さ? 今度の週末、デートしない? 暁と2人でプール、行きたいなぁって」
「俺はいいけど……、いいのか? パッドとかズレたr
「それ以上言ったら、潰す」
「うぉ……すまん」
「ていうか水着用のパッドは普段使い用と違って水の流れに強い作りになっててズレにくいの! 素材にもこだわりがあって……ってなんで彼氏相手にパッド談議しなきゃならないのよ!!!」
「あはは……、なんていうか一年くらい前にもこんなやりとりをしなかったか?」
「…………あっ、そういえば」
橘花学院に来てから初めてのプールでの授業、あの時もあやせに似たようなことを言われていた。確かそのあと二条院さんの能力が暴発して…………
「……ねぇ、今ものすごく不愉快なこと考えてない? 考えてるでしょ」
「は……、はは。そんなまさか」
「ウソツキ。だ、大好きな恋人のことだもん。それくらい分かるんだからね?」
頬を染めながらそんなこと言われちゃ堪らない。ここは俺が折れるしかなさそうだ。
「わかった、降参するよ。お詫びに週末はとことん付き合ってあげるから」
「むぅ……、ならよし。じゃあ約束ね。ほら」
といって彼女は可愛らしい小指を差し出してきた。
そこに俺はなんの躊躇もなく自分の小指を絡ませる。
「「ゆーびきーりげーんまーん……」」
勿論端から約束を破るつもりなんてないなのだが、俺たちは何か決めごとをする度にゆびきりを交わしている。
こうしているときの小指からほのかに伝わる温もりが、俺の彼女への焦がれをより強いものにさせてくれるから。
きっと彼女も同じことを考えているはず……と思うのは俺が自惚れすぎているからであろうか?
……いやそんなことはない。
彼女の幸せそうな笑顔を見てしまえばそんな疑問はもうどうでもよくなってしまう。週末が今から待ち遠しい……
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センパイ攻略法(めぐる)
みんなサノバウィッチを買おう((((迫真
「んむぅぅぅぅぅぅぅぅ…………」
「どうされたんですか、因幡さん。突然唸ったりして」
と、心配な顔をして覗き込んできてくれたのはここオカルト研究部の部長、綾地寧々センパイ。白銀のサラサラヘアーに透き通った紫色の瞳、今日も寧々センパイは可愛いなぁ……っっじゃなくてっ!
「ふぁ、ふぁい! めぐる、どうかしちゃってましたか?!」
「い、いえ……、部室に入ってきたと思ったらいきなり机に突っ伏して唸り出すものですから……」
「あ、あはは……、不気味でしたよね……ゴメンナサイ……」
「でも、そんなになってしまうってことは何かあったんですよね。折角ですから少し話してみませんか?」
「……"センパイ"って確か今日は来ないんでしたっけ?」
「えっと……、はい。確か保科君から今日は家事しなくちゃいけないから部活には寄らずに帰るって先ほど教室で言われましたね」
直接名前を言ったわけでもないのにいとも簡単にバレてしまっためぐるにとって最愛の人。名字を聞いただけでも心臓が普段より少し大きく"トクン"と跳ねた気がした。
「その……センパイのことについて悩んでる……っていうか悔しい思いをしてるっていうか……」
「はい」
寧々センパイは微笑みながら続きを聞こうとしてくれている。そんな彼女に向かってめぐるは遠慮なくぶちまけてしまった。
「センパイにばっかりドキドキさせられてて辛いんですよぉぉぉ……!!」
「な、、なるほど」
少しびっくりしたような表情をしていたような気もしたがめぐるは勢いで話し続けてしまう。
「だって聞いてくださいよ、今日だって――」
〜数時間前〜
「えへへ、やっぱり外で食べるお弁当って美味しいですよね!」
「そうだなぁ、でもやっぱり俺は――
めぐると一緒に食べてるから格別に美味しく感じるな」
「…………………………」
「め、めぐる? どうかした?」
(うぅぅ……、センパイセンパイどうしてそんな爽やかな顔で嬉しいことさらっと言ってくれちゃうのかなぁぁぁ〜〜〜〜…………やっぱダメだあ、不意打ちでこんなこと言われたらめぐる、頭ぽーっとして……)
「あっ、めぐる」
「ふぁ、、い?
「口元にご飯粒付いてる」
…………ちゅっ
「_______________________________________」
〜〜〜〜〜〜〜
「なんてことがあったんですよ!! ホントはめぐるがセンパイのことドキドキさせたいのに。勝ち目が見えない…」
「そうなんですか、やっぱり恋愛って凄いんですね」
「本当に幸せで堪らないーっ! ……って感じはするんですけどやっぱり悔しいんですよね……ちょっとくらいは仕返ししてもいいと思うんですよ」
「でも私はそういうのに疎いので……ここは一つインターネットに頼るのもアリではないですか?」
「なるほどその手が……、早速後で調べてみます! ありがとうございます寧々センパイ! ぎゅ〜〜!」
「わ、わぷっ! い、因幡さん、、そんなに抱きしめたら息、くるしっ……」
帰宅後、早速私はスマホでセンパイをドキドキさせるための方法を調べてみた。
"彼氏 ドキッとさせる"みたいな検索でも多数それっぽいものがヒットしてくれる。流石インターネットだ。
「ほうほう、男の人ってこういうのでもドキッとしてくれるんだ……。確か初めてセンパイのこと好きになったときもこうやって色々調べてたっけ……」
あのときは本当に必死だったと思う。少しでも気持ちに気付いてほしくて、振り向いてほしくて。いっそのこと手も出してほしくて――
「……ってめぐる何思い出してるのぉ〜〜〜?!」
(……あのときは一筋縄ではいかなかったけど今回はセンパイをドキドキさせることができればいいんだから…!)
「覚悟しててくださいよ、センパイ!!」
と、私はスマートフォンの文字を目で追いながら気合を入れた。
翌朝。
いつもの場所で待っていてくれてたセンパイに手を振りながら駆け寄る。
「おはようございます! セーンパイ♪」
「おはよう、めぐる。……なんか今日テンション高くないか?」
「えー、そんなことないですってばぁ」
「そう……? それじゃ、行こっか」
「あ、あの、センパイ……」
ここでめぐるはセンパイの制服の袖を軽く引っ張ってみる。いわゆる"袖クイ"だ。
ふっふっふ……。あらゆる男子諸君がキュンっときてしまうであろうこのシチュエーション、さてセンパイはどんなリアクションを――
「…………あぁ、ごめんなめぐる。ほら、」
と言ってセンパイは腕を軽く伸ばしてキュッと自分の指とめぐるの指を絡ませてしまった、いわゆる"恋人繋ぎ"…
……………………
「はぅぅぅ〜〜……」
「どうかした? めぐる、もしかして間違ってた……?」
「間違ってないですぅ……、間違ってないからこうなってるんですぅ……」
「そっか、じゃあ改めて。行こう、めぐる」
「ふぁぁい……」
(ぎゅっ)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(Another View)
めぐるは表情を隠すように俺の腕に抱き着いてきた。
少しだけ窺えるその顔は耳まで真っ赤で――
(……なんでこの子はこんなに可愛いかなぁぁ?! 、
さっきの袖クイといいこんな風に照れちゃう様子といい……、さっきから少し顔が熱い気がする。めぐるにバレてなきゃいいけど……。あぁもう…、本当に愛おしい……)
少し不思議なひっつき方で登校する1組のカップルを目撃した、という噂が広まるのは数時間後のお話。
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大須デート(あやせ)
押しカプを地元に召喚して遊ばせてあげたい……
なんて一心で書いてました。作中に出てくる件の唐揚げ、実際に食べたことあるんですが意外とイケる、と思った自分に罪悪感を覚えるほど衝撃的な見た目です。味は……この二人の気持ちになって実際に確かめに行ってみてはいかが?
名古屋においでよ。
とある休日、俺とあやせは日帰りで名古屋まで来ていた。
鷲逗市がある地方とは別の地方でも広く広報活動を行っていくために、といった内容の仕事があやせに与えられ、俺はもともとあやせの護衛という目的で付いて来たのだが思ったよりも早く仕事が終わり、自由時間という名のデートを俺たちは楽しんでいた。
「わぁ……、ここが大須商店街」
「商店街なのにどデカい門があるな……、神社かここは」
と、二人で感嘆の声を漏らしていた。
俺たちがやってきたのは名古屋の中央部に位置する"大須商店街"、まぁそのまま商店街なのだが他のそれとは規模が違う。かなり入り組んでいて広い商店街だった。
「今日は休日だからそれなりに人が居るな……。ほら、あやせ。俺からはぐれないように、な?」
「あっ……、うんっ。ありがとう」
少し頬を染めてあやせはそっと指を絡ませてくれた。
それから俺とあやせは2人で商店街を散策した。
色々と食べ歩いたり、名物のお土産を買ったり。
俺は止めるよう言ったのだが小倉クリーム唐揚げ? とかいう名前からしてゲ○モノなグルメにあやせは果敢にも挑戦しに行ったのだが、
「……あれ? 意外と悪くないじゃない?」
なんて言い出したので正気を疑って小突かれたり(本当に意外とイケたのが何とも言い難かった)。
更には……
「へぇ、ここが大須観音か……。結構大きいお寺なんだな。」
「ねぇ暁、お金はもう払ったからそこの硝子戸から小皿を一枚出してみて?」
「? 、まぁ構わないがうぉぉぉぉあ?!」
注意書きの通りに硝子戸を閉めた途端、俺の肩や背中、ついでに頭には大量の鳩鳩鳩。
叫んでも軽く体を揺すっても彼らは去っていく気配もしない。時すでに遅し。小皿が乗っている俺の右腕には鳩の塊で出来た球体が形成されていた。
「ふふっ、あっはは!! 暁すっごい顔してる!!!」
「ちょっ! あやせ……、見てないでコイツらどうにかしてくれよ!!」
こんな数の鳩に囲まれる経験なんて滅多にできないだろう。内心複雑だったが、あやせの大爆笑につられて思わず俺も笑ってしまっていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
気付けば時間はどんどん過ぎ、辺りはほんのりと薄暗くなり、観光客の数も減ってきた。
「あやせ、今日は楽しかったか?」
「うんっ、とっても」
一輪の花が咲いたような、眩しい笑顔で答えてくれた。この笑顔に何度惚れさせられたことか。若干言葉に詰まってしまう。
「じゃ、じゃあそろそろ時間だから。駅に向かわないとな」
「あっ……、待って暁。最後にいっこだけ――」
と言ってあやせが軽く背伸びしたあと、俺は頬に柔らかくて温かい感触を感じた。
驚いてあやせを見てみると、真っ赤な顔で上目遣いがちにこう放った。
「さっ……、暁のこと、どえらーーーいっ、、好きだがや……?」
このときの俺は一体どんな顔をしていただろうか、一つだけ言えるのは、頭のてっぺんまで熱くなっていたことは確かだ。
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寄り道(和奏)
…はい、また遅刻です。
一緒に寄り道カラオケデートするお話です。久々にサノバのCG見返したけど……ええな。:thumbsup:
「おーい、和奏ー」
「なぁにー? 柊史ー」
名前を呼ぶと和奏はとてとてと俺のそばまで近寄ってきた。そんな様子もやはり可愛らしい。
「え、急にニヤけたりして何考えてるのさ……」
「えっ、い、いや別に」
「?、変な柊史。で、どしたの?」
「そうそう、今日和奏バイト無かったろ?」
「うん、実はアタシもそのことで柊史に用があったんだー」
「お、じゃあ考えてることは同じかもしれないな」
「うひひ、そうかもしれないね」
「「じゃあ、一緒に帰ろっか!」」
伸ばした左手から間もなくほんのりと温かく柔らかい触感が伝わってくる。クラスの奴らからの視線も付き合いたての頃こそチクチクとした"痛み"もあったが今となっては何やら生暖かいものを感じる。だがそんなことは気にならない。左手から伝わる温もりと、甘酸っぱい"味"で俺の頭の中はいっぱいいっぱいだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ねぇ柊史、折角今日は授業も早く終わったんだしたまには寄り道してかない?」
「お、いいな。どこ行こうか、俺は特に思い当たらないから……。和奏と一緒ならどこでもいいぞ」
「も、もー……。すぐそういうこと言う……、じゃあ……こっち来て!」
繋がれていた手がとある交差点でいつもとは違う方向へと引かれる。
和奏に手を引かれるままやってきたのはよくCMで見かけるチェーン店のカラオケボックスだった。
「カラオケボックスか、俺来るの初めてなんだよな……」
「え、海道とかとも来たことないの?」
「あいつと寄り道するときは大抵ゲーセンとかだからな」
「ふーん……じゃあ柊史の初めて、アタシが貰っちゃいまーす」
「言い方言い方……」
「うひひ、だって本当のことなんだもん。アタシは柊史の初めて奪えて嬉しいよ? ほら早く入ろ入ろ!」
店の中に入ると和奏はスムーズに受付を済ませ、俺を部屋へと案内してくれた。
「へぇ、こんな感じなのか…。うわ、スクリーンとかある」
「本当に初めてなんだね柊史……。アタシが使い方とか教えたげるからどんどん曲入れてこ!」
元々音楽が好きだからだろうか、いつもよりテンションが少し高めな和奏から端末の操作方法などを教えてもらいながら、お互い交互に歌いたい曲を入れていった。
有名な曲でデュエットしたり、俺が普段何気なく聴いてるバンドの曲を歌ったら和奏が食い付いてきたり。俺は濃密なひとときを過ごしていた。何より好きな女の子の歌声は聴いていてとても心地がいい――
楽しい時間は早く過ぎるもので、気付けば退室15分前になっていた。
「じゃあそろそろ時間だから最後にこれ、アタシが柊史に向けて歌いたい曲だから。ちゃんと聴いててくれると嬉しいな、なんて……」
言った後に羞恥心からか顔をほんのり朱に染めて俯いた彼女に愛おしさを覚えながら、"言われなくても"という気持ちを込めて俺は頷いた。
スピーカーから流れ出したのは、俺も耳にしたことのあるイントロだった。
「すぅ、――こんなにあたたかな幸せに、身体ごと包まれて……」
よくテレビなどで耳にするラブソング、普段は聞き流していたが一語一語大人びた表情でフレーズを刻む彼女に俺は思わず息を呑んだ。
曲が進行すればするほど、俺の彼女への愛おしさが溢れんばかりにこみ上げてくる。目も耳も、ずっと彼女に釘付けだった。
「……時をかけ辿り着いた 想いを噛み締めている――」
「んぎゅ、、しゅ、柊史……?」
アウトロが流れ続けるなか、俺は思わず和奏の小さな身体を抱きしめていた。
「…ありがとな、和奏。俺のことを好きになってくれて」
「……こちらこそ。アタシのこと、好きになってくれてありがとね」
和奏は仔猫のように頬を俺の胸に擦りつけながら柔らかく微笑んだ。
退室5分前を知らせるフロントからの電話が鳴り響くまで、俺たちはしばらくお互いの温もりを感じていたのであった。
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