国際連邦日本エリア召喚 (TOMOKOTA)
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1章 転移初期、対ロウリア王国戦争 1 接触

作者は現状日本国召喚のweb版(ブログ含む)を履修したのみで、書籍版にはまだ手を出していません。
日本国召喚wikiである程度書籍版の情報も得られるので、兵器の名称などは基本書籍版に沿いますが、大筋はweb版準拠となります。


―中央暦1639年1月24日午前8時

―クワ・トイネ公国軍 第六飛竜隊

 

その日は青空の美しい、よく晴れた日だった。クワ・トイネ公国の竜騎士であるマールパティマは、公国北東方面の哨戒任務についていた。

北東方面には、海以外に何もない。

最近は隣国ロウリア王国との緊張状態が続いており、軍船による迂回奇襲を警戒して飛竜が哨戒にあたっていて、彼と相棒もその哨戒騎のひとつだった。

 

「ん?……なんだ?」

 

自分以外に飛ぶもののいないはずの空で、彼は何かを見つけた。

高く遠い空に、黒い点のようなものを見た。

彼のはその鍛えられた視力で、それのシルエットが飛竜に近いことを確認する。

この時間帯にこの近くを飛行する予定の騎はないし、ロウリア王国のものにしてもロウリアからここまで、ワイバーンでは航続距離が絶対的に不足している。

そもそも、あのような高高度を飛行できる飛竜など常識的に存在しない。

見間違えかとも思ったが、明らかにそれはそこに存在している。

もしも脅威であったとき、それを見逃せば一大事だ。

彼は通信用の魔法装置、通称魔信で司令部に通報する。

 

「我、未確認騎らしきものを確認。超高高度を飛行しており、接近は不可能。しかも、かなり速い、少なくともワイバーンより速いだろう。

現在地は―――。

未確認騎は本土マイハーク方面へ進行、繰り返す。マイハーク方面へ 行した。」

 

 通報を受けた司令部では、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 ワイバーンでも追いつけない未確認騎がよりによって、クワトイネ公国の経済の中枢都市たるマイハークに向かって飛んで来ると言う。

それだけの速度ならば、おそらくすでに本土に侵入されているはずだ。

 

「第六飛龍隊は全騎発進せよ、未確認騎がマイハークへ接近中、領空へ進入したと思われる。発見次第撃墜せよ、これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない、発見次第撃墜せよ。」

 

 滑走路を駆け、次々にワイバーンが離陸する。その数12騎、全力出撃であった。

彼らは透き通るような青い空に羽ばたき、舞い上がっていった。

 

 

 第六飛竜隊が未確認騎を確認した時、それは十分に目視できる高度にいた。

見間違えではない、現実に存在している。しかし、ワイバーンの追いつける高度や速度ではなかった。

なんとか攻撃態勢に入ろうとするも、射程に入る前に失速する。

 

「第六飛竜隊より司令部へ、我、未確認騎を発見するも超高高度、高速であり攻撃は不可能。

未確認騎はマイハーク方向へ進行した。繰り返す―――」

 

 

 

 マイハーク防衛騎士団、団長イーネは、第六飛龍隊からの報告を受けて上空を見上げた。

 一般的に、飛龍から地上への攻撃方法は口から吐く導力火炎弾である。矢をばらまいたり、岩を落とすといった方法も過去には検討されたが、空を飛ぶ生き物は重たい物を運ぶ事が出来ない。

 単騎で来るなら、攻撃されても大した被害は出ない。おそらく敵の目的は偵察だろう。

 飛龍でも追いつけない、飛龍の上昇限度を超えて飛行していく恐るべきもの、正体不明のそれがまもなく経済都市マイハーク上空に現れる。

一体敵の正体はなんなのだろうか?

 団長イーネは、空を睨んでいた。

 

しばらくして、それはマイハーク上空に現れた。それは高度を落とし、上空を旋回した。

 奇妙な物体、高い空にあるそれは、影になっているのか真っ黒で姿がわかりにくい。しかし、飛竜というよりは鏃のような姿に見えた。尋常の存在ではない。

 明らかな領空侵犯であった。しかし、飛龍は遙か高い空にいて、現時点で対抗する手段はない。

 それはマイハーク上空を何度か旋回し、北東方向へ飛び去った。

 

 

 

―クワトイネ公国 政治部会

 

 国の代表が集まるこの会議で、首相のカナタは悩んでいた。昨日の事、クワトイネ公国の防衛、軍務を司る軍務卿から、正体不明の物体が超高速、超高高度でマイハークに空から進入し、町上空を旋回して去っていったとの報告が上がった。

 所属は全く不明、何の手がかりも存在しない。

 カナタは発言する。

 

「皆のもの、この報告について、どう思う、どう解釈する」

 

情報分析部の代表が手を挙げ、発言する

 

「情報分析部によれば、同物体は、世界最強の大国、中央世界の神聖ミリシアル帝国が使用するという天の浮船に特徴が似ているとのこと。

しかし、伝わっている外見とはかなり異なります。ただ……。」

 

「ただ、なんだ?」

 

「はい、ムーの遙か西、文明圏から外れた西の果てに新興国家が出現し、付近の国家を配下に置き、暴れ回っているとの報告があります。かれらは、自らを第八帝国と名乗り、第2文明圏の大陸国家群連合に対して、宣戦を布告したと、昨日諜報部に情報が入っています。彼らの武器については、全く不明です。」

 

 会場にわずかな笑いが巻き起こる。文明圏から外れた新興国家が、3大文明圏5列強国のうち2列強国が存在する第2文明圏のすべてを敵に回して宣戦布告したという話だ。

 無謀にしても程がある。

 

「しかし、第八帝国は、ムーから遙か西にあるとの事です。ムーまでの距離でさえ、我が国から2万km以上離れています。今回の物体が、それであるとは考えにくいのです」

 

会議は振り出しに戻る、結局解らないのだ。

ただでさえ、ロウリア王国との緊張状態が続き、準有事体制のこの状態で、頭の痛いこの情報は、首脳部を悩ませた。

味方なら、接触してくれば良いだけの話、わざわざ領空侵犯といった敵対行為を行うという事は敵である可能性が高い

 

 その時、政治部会に、外交部の若手幹部が、息を切らして入り込んでくる。

平時では考えられない。明らかに緊急事態であった。

 

「何事か!!!」

 

 外務卿が声を張り上げる。

 

「報告します!!」

 

 若手幹部が報告を始める。要約したところ、本日の朝、クワ・トイネ公国の北側海上に、長さ200m級の超巨大船が現れ、海軍が臨検を行ったところ、日本エリアという国の特使がおり、敵対の意思は無い、日本エリアという国は、突如としてこの世界に転移してきて、元の世界との全てが断絶されたために、航空機により付近の偵察を行っていた。その際、陸地があることを発見、偵察活動の一環として、貴国に進入しており、その際領空を侵犯したことについて深く謝罪し、クワ・トイネ公国と会談を行いたいという旨を伝えてきた。

日本エリアの言う航空機の外見および特徴は、昨日の未確認騎のものと一致するという。

 

 突拍子もない話に、政治部会の誰もが信じられない思いでいた。

 しかし、昨日都市上空にあっさり進入されたのは事実である。200m級という常識では考えられないほどの大きさの船も、報告に上がってきている。

 国ごと転移、などということは、神話に登場することはあれど、現実にはとてもありえない。

 しかし、日本エリアという国は礼節を弁えており、突拍子の無さを除けば発言も筋が通っていて、特別断る理由もない。

そのため、特使による会談の申し入れを受け入れることに決定した。




天の浮船:
文明圏外国にどれだけ伝わっているかははっきりしないが、なんとなく程度には知っているということに。

国際連邦:
少々妙な名前になっているが、大体創作物によくある地球連邦のようなもの。
正式名称がはっきりせず通称で通っているのでこうなった。

日本エリアという国:
「ニホンエリア」を丸ごと国名として受け取っている。
政治体制の詳細はこの後に少しずつ出てくるかと。
日本エリアという国というのはもちろん異なるが、日本という国であるかはなんとも言えないようなややこしい状態にある。

200m級の船:
客船。軍艦ではない。

私は書籍版は未読です。
wikiに載っている名称変更などは大体書籍版沿いで行きますが、それ以外の展開などは基本web版沿いとなります。


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2 動乱

クワ・トイネ公国、そしてクイラ王国が日本エリアと国交を締結してから、2ヶ月が経とうとしていた。

この2ヶ月間は、クワ・トイネ公国にとって、歴史上で最も変化した2ヶ月間であった。

2ヶ月前、日本エリアは、クワ・トイネ公国と、クイラ王国両方に同時に接触し、双方と国交を結んだ。

日本エリアからの食料の買い付け量はとてつもない規模であったが、大地の神の祝福を受けた土地を持ち、家畜にさえ旨い食料を与えることが出来る農耕国たるクワ・トイネ公国は日本エリアからの受注に応える事が出来た。

 クイラ王国についても、元々作物が育たない不毛の土地であったが、日本エリアにとっては資源の宝庫であるらしくクイラ王国は大量の資源を日本エリアに輸出していた。

 

 一方日本エリアはこれらと引き換えにインフラを輸出してきた。

 大都市間を結ぶ、石畳の進化したような継ぎ目の無い道路、そして鉄道と呼ばれる大規模輸送システムを構築しようとしていた。これが完成すれば各地の流通が活発化し、いままでとは比較にならない発展を遂げるだろうとの試算が経済部から上がってきている。

 各種技術や武器の提供も求めたが、検討中とのことですぐには手に入らなかった。

 

彼らからもたらされた便利なものは、今までの常識を全く塗り替えてしまうほどのものであった。

 真水ではとても飲めるものではなかった今までのものと違い、いつでも清潔な水が飲めるようになる水道技術、夜でも昼のように明るく出来る照明、ボタン一つで発熱し、火と同じように調理ができるクッキングヒーター。これだけでも生活はとてつもなく楽になる。

 まだ、2ヶ月しか経っていないために普及はしていないが、それらのサンプルを見た経済部の担当者は驚愕で放心状態になったという。

 国がとてつもなく豊かになると……。

 

「すごいものだな、日本は……。明らかに三大文明圏を超えている。もしかしたら、我が国も生活水準において、三大文明圏を超えるやもしれぬぞ」

 

 クワ・トイネ公国首相カナタは、秘書に語りかける。

まだ見ぬ国の劇的発展を、彼は見据えていた。

日本エリアの呼称については、日本で構わないということになった。日本エリアは日本には違いないし、

国際連邦などという奇妙な名称からもわかる通り、地球の現状というのは異なる常識を持った相手にはっきり説明できるようなものではなかったのだ。

世界各国の実質的な統合は緩やかに進んだもので、明確な制度として定められたものではない曖昧なものだった。

国際連邦というのも元々は、連邦制が最も近いとして国際連合の名から生まれた通称であり、それがそのまま使われているのだ。

 

「いや、それだけではない。国としても三大文明圏を超えられるだろう。」

 

日本から流入してきている技術。

現段階でも夢のようなものばかりだが、彼らはさらにとてつもないものを多く持っているという。

しかも、いずれそれらも輸出しようというのだ。未来への展望は広がるばかりだ。

 

「彼らが平和主義で助かりました。彼らが覇権国家だったらと考えるとぞっとします。」

 

落ちる夕日が穀倉地帯を照らし、一面金色の美しい風景が広がる。

この世界でも太陽は東から西へと沈む。日の沈む方には、ロウリア王国があった。

 

「……しかし、武器をすぐに輸出してくれなかったのはいささか残念だ。ロウリア王国はいつまで待ってくれるだろうか……」

 

カナタは夕日を眺めながらそう嘆いた。

 

 

 

―ロウリア王国 王都 ジン・ハーク ハーク城

―御前会議

 

 「我が王よ、準備はすべて整いました」

 

 白銀の鎧に身を包み、鎧の上からでもその盛り上がった筋肉がわかるほどの鍛え上げられた体を持った30代ほどの男が王に跪き、報告する。

 彼の名はパタジン、ロウリア王国の将軍である。

 

 「二国を同時に敵に回して、勝てるか?」

 

 34代ロウリア王国、大王ハーク・ロウリア34世はその男に尋ねる。

 

 「一国は、農民の集まりであり、もう一国は不毛の地に住まう者、どちらも亜人比率が多い国などに、負けることはありませぬ。」

 

「その両国と関係を結んだ日本とやらはどうだ。」

 

「ワイバーンも持たない蛮国の模様でございます。気が向いた時にでも、攻め滅ぼしてやりましょう。」

 

 「そうか……。しかし、ついにこのロデニウス大陸が統一され、忌々しい亜人どもが根絶やしにされると思うと、余は嬉しいぞ」

 

この時のために6年も前から準備をしてきた。屈辱的な条件を飲み、列強パーパルディア皇国の支援も取り付けた。負けるなどあり得なかった。

 

王は哄笑する。

 

「この日は、我が人生で一番良い日だ……余は、ロウリア王国大王の名をもって、クワ・トイネ、クイラ両国との開戦を命ずる!!」

 

王城は多いに沸いた。

 

 

 

―クワ・トイネ公国国際連邦日本エリア大使館

 

「本当ですか!?」

 

クワ・トイネ公国外交官ヤゴウの喜びの声が響く。

彼はロウリア王国との開戦により食料の輸出が困難になること、援軍を要請したいことを伝えに来ていたのだが、日本側の田中大使から最良の答えが返ってきたのだ。

 

「ええ、我々は貴国を支援することを決定しました。

資源を輸出してくれる貴国は、まさに我々の命綱ですから、当然のことです。」

 

頼もしい答え。ヤゴウは大きな安心を感じていた。

 

「そのためにも貴国との軍についての情報共有が必要です。

お伝え願えますか?」

 

「勿論です!すぐにお伝えします!」

 

この要望は迅速に首相まで届けられ、首相カナタはこれを許可。日本軍とクワ・トイネ軍は作戦会議をすぐに始めることができた。

そしてロウリア王国がクワ・トイネ公国、クイラ王国両国に宣戦布告したとき、日本はロウリア王国に宣戦を布告、四勢力は戦争へと突入した。




ところで誰か『企業連召喚』(ACfA)書いてくれませんかね(


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3 ロデニウス沖大海戦

ついにロウリア王国が総勢4000隻以上の大艦隊を出港させたとの情報を得て、クワ・トイネ公国はここ、マイハーク港に艦隊を集結させていた。

 

「壮観だな……」

 

提督パンカーレは、海を見つめながら、つぶやく。

50隻の戦船が来たる戦いへ向け戦闘準備を整える様は、確かに壮観であった。

しかし、敵は4000隻以上の大艦隊、圧倒的な物量差に彼は憂鬱になっていた。

 

「提督、海軍本部から魔伝が届いています」

 

 側近であり、若き幹部であるブルーアイが報告する。

 

「読め」

 

 

「はっ!本日夕刻、日本軍の軍船4隻が援軍として、マイハーク沖合いに到着する。彼らは、我が軍より先にロウリア艦隊に攻撃を行う、観戦武官1名を派遣するように、とのことです。」

 

「何!? たったの4隻だと!? 40隻か400隻の間違いではないのか?」

 

「間違いではありません」

 

「やる気はあるのか、彼らは……。しかも観戦武官だと?4隻しか来ないなら、観戦武官に死ねと言っているようなものではないか!!明らかに死地と解っていて、部下を送るようなまねは出来ないぞ!」

 

 沈黙。

 

「……私が行きます」

 

 ブルーアイが発言する。

 

「しかし……。」

 

「私は剣術ではNo.1です。一番生存率が高い。それに、あの鉄龍を飛ばして来た日本の事です。もしかしたら勝算があるのかもしれません」

 

「すまない……。頼んだ。」

 

「はっ!!」

 

 

 

その日の夕刻、ブルーアイは早くも少し不安になっていた。

たった4隻、どんな船が来るのかと思えば、まだ到着していない。

今到着するところだと言うのだが、水平線の彼方にも影も形も見えない。

担当者は何やら新造されていた小屋へと自分を案内するし、その小屋の椅子は無駄に座り心地が良い。これでは急造の休憩所とも思えない。

どんな船が来るのかと聞いてみても、詳しいことまでは覚えてはいないなどとのたまう。

何を呑気にしているのだ、まさか彼らは本当にやる気がないのか?

 

「お、来ましたよ。」

 

担当者がそう言ったのはブルーアイが到着してすぐのことであった。

小屋の中にあった、モニターというものに映った図を見ての発言だったが、先程まで影も形もなかったのだ。今更航行してくるのでは遅すぎる。

 そう思いつつ窓の外を見やると、海のただ中に、何か青黒いものが浮かび上がってきた。

 

「鯨……?」

 

その姿を見て、知っているなかで最も近いものの名をあげる。

 

「あれが我が軍の戦闘艦です。」

 

そう言われてブルーアイはそれに注目する。

曲面が浮いているだけ、とても船には見えない。

……いや。ほとんど水しぶきが立っていないためにわかりにくいが、大きさにしては尋常でない速度でこちらへ向かって来ている。

その速さはワイバーン並に見えた。海にあるものとしても、鯨並の大きさのものとしても、ありえない速さだった。

 

「な……」

 

ブルーアイが驚きに言葉を失っている間にも、それはぐんぐんと近づいてくる。

その後ろ、後続の3隻も海中から浮かび上がって来た。

アレは海に潜ることもできるのか……

 

凄まじい速度で、しかし水面を乱さずに向かってきたそれは、ぬるりとでも形容すべき滑らかな動きで港に接岸。

大きい。100m級のそれは、大きさだけならまだ常識の範疇ではある。

文明国ならばそれぐらいの船は持っているだろう。

しかし、それ以外のすべてが非常識であった。

まず外見。生物的な曲線で構成された、鯨か、卵、あるいは川原の石のような形状。船首らしき方には二段階の盛り上がっている箇所がある。

船首と船尾の側面に水平の、船首下部と船尾に垂直のひれのようなものがあり、その既存の生物に当てはまらない配置は異質であった。

その内実も、先程見た通りの異様な動き。

 

――化け物。

 

そうとしか思えなかった。日本は、海魔を使役しているのではないか?

 

「アレに……乗るのですか?」

 

「いえ。あれには、人が乗りこめるような場所はありません。

戦闘はここからでも見ることができます。観戦武官というのは何も、現地へ行く必要はないのでしょう?」

 

ここから観戦することができる。驚きよりも先に、ほっとした。

あんなものに乗り込むのはぞっとする。

 

 

いよいよ、日本軍が作戦を開始する。

 

『こちらNTC-16、報告、UFNFJTF-8は作戦を開始する。』

 

「NTC、カメラドローン起動、艦隊に追従、ドローンからの映像をここのモニターに投影。」

 

『了解』

 

流麗だが、どこか魔信越しのような響きを感じる声との呪文のようなやり取り、それから虫の羽音のような音がして、何かが日本船団の方へと飛んでいく。

正面のモニターに映像が映る。艦隊を後ろ、上空から写したもののようだった。

船団は相変わらずの滑らかで、波を立てない、超高速で港を離れていく。

その並びは一見ばらばらで適当のように見えたが、そこから一切位置関係が変化していない。一糸乱れぬ船団行動だった。

もうこのくらいでは驚くこともできないな、とブルーアイは思った。

 

 

 

「先程、あの船には人が乗れるような場所はない、とおっしゃいましたね」

 

「ええ。いや、あるにはあるのですが、ちょっとした予備のようなもので、動いている時に乗っていたら環境が悪すぎて死んでしまいかねないようなもの……というのは大げさですか。とにかく、人が乗って戦闘することは考えられていません」

 

「アレらは……日本は、海魔を海軍の戦力にしているのですか?

彼らの指揮は、一体誰が?」

 

「海魔……? いえ、あれらはれっきとしたフネですよ」

 

「フネ、ですって……? しかし、人が乗ってはいないと。あれらは、どうやって動いているのですか?」

 

「ああ。えっと、コンピュータ……コンピュータという自動で計算などを行う道具がありまして、それが動かしているのです。

指揮を取っているのも、司令部の戦術コンピュータです。先ほど話していましたね。NTC、海上戦術コンピュータの略です。

兵器の開発もコンピュータたちがやっています。現代の軍部は、丸ごとコンピュータの塊ですよ。

私のような軍部の人間というのは、どちらかというと軍部と人間の橋渡しをするのが仕事で、直接軍務に関わってはいません。

コンピュータ自身にも連絡は取れますから、あなたのような客人がない限りは閑職というわけですな。ははは」

 

計算を行う道具。それは……魔物であるよりも恐ろしい。道具。生きてすらいないのだ。魂がない。

日本の、彼らの元いた世界の戦いは、道具だけが勝手に戦っていたのだろうか……

ブルーアイは寒気を堪えることができなかった。

 

 

 

UFNFJTF-8、国連軍海上戦力日本エリア第八戦術艦隊の4隻は、その位置関係を保ったまま、90km/hの巡行速度で西へと航行していた。

巡行速度90km/h、戦闘速度150km/h。ブルーアイの感じたワイバーン並というのは大げさではあったが、常識外の高速には違いなかった。

彼らは自ら判断し戦術行動を行う。戦術コンピュータはそれを指揮、支援する。戦争戦略は軍部戦略コンピュータが、兵器の開発は開発コンピュータ群が。軍部そのものがコンピュータの塊だった。

最も、これは軍部に限った話ではない。単純労働や交通機関など、社会の多くの機能が機械に完全に置き換わっており、そうでなくともコンピュータの支援を受けている。

それは政府すらもそうだ。クワ・トイネへの武力を用いた積極的支援がすぐに決定されたのも、日本エリアの運営に関わる2つのコンピュータ、国連日本エリア地域戦略コンピュータと日本政府戦略コンピュータが、口を揃えてそのように提言して来たからだ。

あくまで人間が主の座についてはいるが、彼らはコンピュータの提言を受け入れることがほとんどだった。拒絶する理由がない。

地球はもはやコンピュータの星だった。そのコンピュータたちが、人間を主人として立て、尽くしているだけで。

 

 

「いい景色だ。美しい。」

 

ロウリア王国東方討伐海軍、海将のシャークンは呟いた。

美しい帆船たちが、大海原を風をいっぱいに受けて進んでゆく。

その数は4400隻、見える景色は、海よりも船の方が多いぐらいだった。

6年もの準備期間をかけ、パーパルディア皇国からの軍事援助を得て、ようやく完成した大艦隊。

これだけの大艦隊を防ぐ手立ては、ロデニウス大陸には無い。

いや、もしかしたら、パーパルディア皇国でさえ制圧できそうな気さえもしてくる。

 野心が燃える

いや、パーパルディア皇国には、砲艦という船ごと破壊可能な兵器があるらしい……

彼は、一瞬出てきた野心の炎を理性で打ち消す。第3文明圏の列強国に挑むのは、やはり危険が大きい。

彼は東の海を見据えた……

 

 

UFNFJTF-8の索敵システムが、巨大な艦隊を捉えた。敵艦隊の予定地点ちょうど、IFF、応答なし。これは味方であってもそうだとの情報がある。

可視光カメラが目標を捉える。掲げられている旗が、敵軍、ロウリア王国軍のものと一致することを認める。

指定された敵味方識別手段をクリア、敵戦力と断定。全艦攻撃態勢。

巡行速度の90km/hから、戦闘速度の150km/hへと急速に加速する。一瞬巨大な水しぶきが立ち、すぐに収まってほとんど水しぶきを立てない状態に戻る。

敵の予想スペックは全く脅威ではないが、未知の性能を備えている可能性がある。4隻は散開しつつ潜行。

 

 

……ん?

シャークンは大海原の彼方に、船の姿を見た。白い船、あるいは水しぶき。

しかし、目を凝らして見ても影も形もない。気のせいか。

念のために気を引き締めた。どのみち敵地は近い。艦隊にも警戒を命じる。

 

 

散開した4隻は、それぞれの方向から敵艦隊に突撃をかけようとしていた。浮上。水中でも武装は使用可能だが、大気中の方が効率がよい。

艦首にある2段階の隆起の前方のものの前面にあるスリットが開く。砲口だった。

同時攻撃をかけようとしたところに、戦術コンピュータからの指令。

 

<敵艦の防御性能、及び各種性能を調べよ。優先度50>

 

<了解>

 

同時の返答。1隻のみが単発で攻撃をかけ、他の艦はそれを観察する。

優先度50は、作戦目標の達成や自艦の被害回避よりは低いものだ。

主砲発射。まず気体塊を高圧で射出し、射線上の大気を追いやって空気抵抗を下げる。

その次、同時と言ってよいほどのタイミングで弾体を射出。火薬と電磁加速を併用し、加速。砲口付近から噴出する制御された燃焼ガスが砲弾に作用し、砲身長以上の精度を得る。

TYPE1通常弾だった。対艦特殊装甲貫徹弾ではない。それは威力過剰が確実とされていた。

 

砲弾は超高速で飛翔し、ロウリア船団の先頭にいた軍船に命中。貫通し、次の船へ。

これを繰り返し、一隻の大型船の半ばまで侵入したところで、砲弾が液状化して衝撃を浸透させる。

これがこの砲弾の想定された挙動であった。表層を抜き、内部で崩れて衝撃を伝え、内部をぐちゃぐちゃにする。

複数の船を縦に貫いてようやくというのは、明らかに威力過剰であった。最後の大型船以外の被害は軽微である。

過貫通。地球の現代戦闘艦の砲口径は小さい。

 

 

ロウリア船団は混乱の極みにあった。突然木材の弾ける爆音がしたかと思えば、先頭から一直線に帆船たちの中心線上に穴が空き、その操舵手は弾け飛び、果ては後列の大型船が砂のようになって海へと消えたのだ。

大型船の粉に混じって落ちるどろりとした赤黒い液体。

あれはきっと、人だったものだろう。確信めいた予感にシャークンは隣の大型船で蒼白となる。あれに乗っていたとしたら。

中央後部の船に乗るのは有り得たことだった。

攻撃。それしかない。どこから?このようなとんでもない攻撃は一体?

ロデニウス大陸どころか、どこにもこんなものはないだろう。神でも現れて攻撃してきたのか。

今すぐに逃げ帰りたくなる、いや、逃げ帰るべきだと理性すらも叫ぶのを抑えて、まずは船団の混乱を収めにかかる。

パニックになってやたらめったらと適当な方向に火矢を放ち、パーパルディアから何とか手に入れた虎の子の魔導砲を無駄撃ちする兵士たち。

これをなんとかしなければ、戦うどころか逃げることすら出来ないだろう。

 

 

兵士たちがパニックを起こして武器を乱射したのを観測して、その威力について分析したUFNFJTF-8の艦たちは、事前情報と差異のない、

脅威とならない威力だということを確認して、接近して機動性能を調べてもリスクは低いと判断した。

戦術コンピュータもこれに異を唱えなかったので、艦隊は今度こそ突撃を開始した。武装は発射しない。

側面に回りこんでから突撃をかけ、わざと水しぶきを立てて存在を誇示する。

艦隊の存在に気づいた船団は、そちらへと回頭しようとする。その回頭にも特別なことはない。

船団行動を見るにすでに兵員を掌握したようだ。混乱から立て直す能力は高い。高度な通信網が存在する可能性がある。電波や赤外線は感知されない。事前情報にある魔信だと推定される。

すぐに距離が詰まる。魔導砲の射程に入って魔導砲が飛んでくる。回避。

特に炸裂するようなこともなかった。時限信管や近接信管の可能性は残されているが、わざと被弾してみることまではしない。

 

船団の内部に潜り込む。敵船の背後に回り込んだり、横付けしたりする。

誘うように目の前で潜行。追っては来ない。少なくとも戦闘時の潜行能力はないようだ。そのまま真下につける。

一隻が船団をかき回し、密着した3隻が敵船を観察。火力や運動性には特筆すべき点はないが、風向きに縛られず自由に航行している、

帆の様子は変わっていない。なんらかの方法で風を起こすなどして、自由な帆走が可能なようだ。

しばらく観察を続け、戦術コンピュータはこれ以上の隠し玉はないと判断した。

砲を使うのは弾の無駄である。ラムアタックでの攻撃を指示。

UFNFJTF-8は船団を次々に無力化していく。軽く脆い木造帆船は、ラムアタックでも撃破できた。

船底を持ち上げてひっくり返し、あるいはジャンプして圧し潰す。兵士たちが次々に海へと投げ出されて行く。

ロウリア船団は撤退するそぶりを見せていたが、速度の違いから逃げられない。

旗艦が横っ腹に体当たりを受けて転覆したのをもって、ロウリア船団は全て無力化された。

ミッションコンプリート、RTB。

 

 

 

『こちらNTC-16、報告、UFNFJTF-8は作戦を完遂した。撃破数4400、敵を全滅させた。

なお、漂流している生存者が多数いる。確保するべきである。クワ・トイネ艦隊への支援要請を要求』

 

「確認した。 ……いかがですか?これが我々の軍です」

 

いかがですか、だって?

死人のような顔になっているブルーアイは、いっそ怒りすら覚えるのではないかと思った。実際にはその心情は全くの無であった。

今までの自分の常識は、何もかも破壊されてしまった。体当たり攻撃は自分たちの戦い方と同じだったが、それにしたって潜ったり跳んだり非常識だ。

 

「……最初の攻撃、あれは一体?」

 

「主砲攻撃です。大砲ですよ。魔導砲は知っていましたよね、それと似たようなものです」

 

魔導砲。しかし、伝え聞く魔導砲とはあまりに違い過ぎる。一度しか撃っていなかった。

あれほどの攻撃、多くは撃てないのだろうか。

 

「そういえば、一発しか撃っていなかったな。NTC、聞いていたな? これはやっぱり弾の節約の為か?」

 

『聞いていた。肯定である。加えていえば、敵船の性能調査を目的に全力での主砲攻撃を控えていた。

接近してもリスクは小さいと判断されたので、接近しての調査を行い、主砲攻撃は費用対効果の観点から非効率的であると判断されたので、ラムアタックでの攻撃を指示した』

 

「待ってください、一発しか? 節約? あれは、どれぐらい連続で放てるものなのですか?」

 

「そうですねぇ、0.5秒に一発ぐらいかな。いや、もっとか。NTC、UFNFJTF-8の艦の主砲の最大連射速度を答えろ」

 

『機密である』

 

「構わない、許可する。許可は出ている」

 

『rpm143』

 

「ふぅむ、大体そんなものか」

 

なんということだ。あの攻撃を、そんな速度で連続で放てるというのか。

では、体当たり攻撃をしていたのは本当に節約の為で、近づいたのは観察のため。

しかし、あれでは、これでは、まるで弄ぶような……

 

「さて、ブルーアイさん、ロウリア船団の生存者の確保要請について、クワ・トイネ艦隊に伝えて頂けますか? これは日本軍からの正式な要請となります。 ……ブルーアイさん?」

 

「NTC、だったか。おまえたちは……あなたは、一体何だ? 何を考えているのですか?」

 

『拒否。あなたにはわたしにアクセスする権限がない。」

 

「ええ? NTCが何か、なんて…… まぁいいか。NTC、彼の質問に答えろ。」

 

『我々は国連軍日本エリア軍、わたしは、わたし、国連軍日本エリア駐留軍海上戦術コンピュータ16号機である。わたしは日本エリアの要請に基づき、戦争を遂行する。』



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4 海戦のその後

原作においてロデニウス沖大海戦で参戦、全滅したワイバーンですが、前回の海戦では勝ち目がないと確信したシャークンが支援要請をしなかったので、ある程度残っています。
一部は艦隊の様子を確認しに向かって撃墜されました。


中央歴1639年4月30日 クワトイネ公国 政治部会 

 

「以上が、ロデニウス大陸沖大海戦の、戦果報告になります」

 

 参考人招致された観戦武官ブルーアイが、政治部会において報告している。

 会議には沈黙が流れていた。

 

「では、なにかね?日本はたったの4隻で、ロウリア艦隊4400隻に挑み、4400隻を海の藻屑とし、撃退。その上、4隻には全く被害が無かったというのかね?

しかもその4隻は人が乗らずにひとりでに動くフネで、わが国の艦隊は出る幕が無く、生存者の確保だけを行なったと。……。

こんなのは御伽噺でも出来すぎた話だ。政治部会で、観戦武官の君がわざわざ嘘をつくとも思えないが、あまりにも現実離れしすぎて、信じられないのだよ」

 

 誰もが同じ思いだった。

 

 野次が飛ぶ。

 本来は、ロウリアの侵攻を防ぎ、国の危機が少し去ったので、喜ぶべきところが多いのだが、あまりにも1会戦の戦果としてはすさまじすぎるので、政治部会にはある種の恐怖が宿っていた。

 首相カナタが発言する。

 

「いずれにせよ、今回の海からの侵攻は防げたのだろう。日本に直接確認を取る。防げたものとして、次のことを考えよう。陸のほうはどうなっている?軍務卿?」

 

「現在ロウリア王国は、ギムの周辺陣地の構築を行っております。海からの進撃が失敗に終わったため、ギムの守りを固めてから再度進出してくるものと思われます。我がほうでは、電撃作戦は無くなったと解しております」

 

軍務卿は続ける

 

「日本からはロウリアの侵攻を迎撃するために戦力を送ると通達が来ています。航空戦力だとか。

ただ、誤射の危険があるので、日本側が先に攻撃を仕掛けてこちらは後から攻撃をするか、全ての兵に分かりやすいような布などを持たせるかするようにと要求が来ています。

特に陸の兵は、日本側の攻撃の後に攻撃をするように、と。」

 

「ふむ、一番槍を譲って待っていろということか。まあ、仕方ないだろう。

日本軍は強力な攻撃ができるようだからな。巻き込まれてはたまらん。よし、我が軍に通達しておけ。」

 

 

 

ロウリア王国 王都 ジン・ハーク ハーク城

 

34代ロウリア王国、大王、ハーク・ロウリア34世は、ベッドの中で震えていた。

ロウリアを発った4400隻の大船団が、1隻たりとも帰って来ていなかったのだが、先日、パーパルディア皇国の観戦武官だけがボロボロになりながら帰って来た。

曰く、突然現れた海魔によって、船団は全滅した。自分や他の生き残りはクワ・トイネによって捕らえられ、自分は命からがらなんとか脱出してきた。その海魔は大きく、速く、とてつもない威力のある魔導を放つ。あの恐ろしく強い海魔は日本軍のものだ、日本軍は海魔を味方につけている、と。

そうして本国へ帰ると言い捨てて行った。

荒唐無稽な話ではあるが、船団が全く帰って来ていないのは事実だ。

海魔。まさか、神話に伝えられる魔王軍、いや古の魔法帝国か? 何を相手に戦っているのかが解らない。

 ロウリア王国は、昔から人口とにかく多いが、人的な質が悪かった。

しかし、この6年間で、ロデニウス征服のため、そこそこの質で、圧倒的な数をそろえることが出来た。

しかし、自分たちの兵器が全く通用しない可能性がある。

海と空では質がものを言う。しかし、陸戦では数がものを言う。陸戦では、なんとかなるかもしれないが……。しかし、おそらくは。無意識のうちには、王は敵の強さを確信していた。

王は、その日、眠れない夜を過ごした。

 

 

 

第三文明圏 列強国 パーパルディア皇国 

 

 薄暗い部屋、光の精霊の力により、ガラスの玉がオレンジ色にほのかに輝き、影を映し出す。その数は2つ、

 男達は、国の行く末に関わる話をしていた。

 

「……日本?聞いたことの無い名前だが……。」

 

「ロデニウス大陸の北東方向にある島国だそうです。」

 

「いや、それは報告書を見れば解るが、今までこのような国はあったか?大体、ロデニウスから1000km程離れた場所にある国なら、我々が今までの歴史で一度も気がつかなかった事が考えられない。」

 

「あの付近は、海流も風も乱れておりますので、船の難所となっております。なるべく近寄らなかったので、解らなかっただけではないでしょうか?」

 

「しかし、文明圏から離れた蛮地であり、海戦の方法も、きわめて野蛮なロウリア王国とはいえ、たった4隻に4400隻も撃沈されるとは、いささか現実離れしていないか?」

 

「しかも、海魔だの、とてつもない威力の魔導だの。艦船武官も、長い蛮地生活で精神異常をきたしたのかもしれません。本人も帰りたいと言っていますし、交代をさせてやりましょう。」

 

「しかし閣下、我々の100門級戦列艦フィシャヌスが仮にロウリアと戦ったら、相手から沈められる事はありえません。距離2kmで、大砲の弾の続く限りロウリア船を撃沈できます。

いずれにせよ、日本が何百隻使ってロウリアを撃退したのかは解りませんが、彼らも大砲を作れる技術水準に達していると判断するべきなのでしょうね。それから、かなり屈強な水兵がいるのかも。」

 

「蛮族の分際で、大砲か……。今までロデニウスや周辺国家に侵攻してこなかった事実を考えるに、ようやく大砲を作れる技術に達したと判断するのが適当かもしれんな。」

 

「ところで、ロウリアがまさか負けることはあるまいな?我々の、資源獲得の国家戦略に支障をきたす」

 

「陸戦では、海戦とは違い、数が物を言います。ロウリアは人口だけはとにかく多いので、大砲を持ち始めたレベルの国を前にして、大敗することはありますまい。」

 

「今回の海戦の報告は荒唐無稽だ。真偽を確かめるまでは、陛下に報告はしない。解ったな。」

 

「了解いたしました。」



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5 ギム近郊戦

ギムの近郊、遥かな上空を、一機の飛行機が飛んでいた。

地球の最新鋭無人戦闘機、CP-237。あるいはQF-237とも呼ばれることのあるその機体。

B-2爆撃機にも似た機体後部には、上下に突き出した垂直尾翼が左右に1対。正面に突き出した機首には一切の盛り上がりのない滑らかな形状で、ほとんど先端からストレーキが伸びている。

機首に限らず全体的に滑らかなその機体は、戦闘機というよりはミサイルのような印象を与える外見だった。

立体感のないカラーリング、昼間塗装のグレーに塗られた機体は、旧世代の戦闘機に匹敵する超音速で巡航していた。機体に動翼は無く、機体の翼や、それに近い部分全てが通電により変形する素材で作られ、たわみ翼として機能する。

強力な機体であったが、転移後の世界においては懸念が存在し、それが解決されないままに出撃していた。

その懸念とはすなわち、適切な兵装を装備していないことである。

転移前の地球では、国家間の戦争というものはほとんどなくなっていた。

 しかし、実戦の中での兵器の洗練、それによる戦力の維持、エリア間での戦争を模した企業間協定による経済効果や娯楽のための見世物としての価値などから、限りなく実戦に近い演習、ほとんど戦争とも呼べるようなそれが行われてはいた。完全な無人化がそれを可能とした。

行われてはいたのだが、この演習に際して用意された土地の条件はお世辞にも実戦的と言えるものではなかった。完全な海と平野だったのである。そのために陸戦兵器は航空機と艦艇に一方的に撃滅されるというような、戦車不要論で主張されるような条件が実現した環境となり、早々に陸戦兵器は消滅。

 航空機と艦艇だけの戦場となったのだが、航空機同士の戦闘はもはやミサイルを撃つよりも先に電子攻撃で勝敗が決まる状況となり、艦艇についても近年重装甲や高機動、潜水によって空対艦攻撃の難易度が高くなった結果、最新鋭の戦闘機は物理的な攻撃手段を保有していなかった。戦闘機とはいうものの、ほとんど純粋な電子戦機だったのである。

当然、電子機器により制御されているわけではない転移後世界の敵戦力にはこれは通用しない。

外部に兵装を装備することは可能だったので外部兵装の再生産が急ピッチで進められていたのだが、近年の装備はいずれも電子機器に攻撃を加えるものばかりで、物理的な攻撃を行う航空機用武装を生産するには設備から用意する必要があり、さしもの無人化工業といえども急には用意できなかったのである。

ではどうして出撃しているのかといえば、その電子戦兵器が、敵軍に対して有効な攻撃手段となり得るとされたからである。

地球の電子戦は複雑化してはそれをパワーで打ち破る、ということが繰り返されており、CP-237はパワーで打ち破る世代の機体だった。

生身の兵士が相手であれば、非効率的ではあるがこの電磁波で人体を加熱、殺傷が可能であると予想されていた。

 

 その一機のCP-237、この作戦でのコールサインC-1の索敵システムが、下方の平野に慌ただしく動く多数の人間の存在を捉える。

光学カメラの観測から、それらが逃げる集団と追う集団の2集団であること、追う集団がロウリア王国の旗を掲げていることがわかる。

敵性と断定。エンゲージ。

 C-1はその敵集団に対して攻撃をかけようとするが、対人戦用に設計されたわけではないレーダーシステムでは、逃げる集団をも巻き込んでしまう。恐らくは友好国の民間人であろう彼らを殺傷することは交戦規定に反していた。

そこでC-1の頭脳は対応策を演算。まずは2集団を分離する必要があると判断した。

急降下。2集団の中央で引き起こし。機首を上方へ向けてホバリング。

可視光索敵システムが周囲の人間たちの表情を捉える。リンクしている戦術コンピュータから表情の解析結果が送信される。一様に、驚愕。

敵集団は驚きによって足を止めた。分離作戦は成功しそうだ。

そのままスライドするように移動し、敵集団の方へじわじわと近づく。

敵集団は後ずさり。民間人集団が逃走を中断しているのは計算外だが、問題ない。

敵集団のうち、特に装飾の多い装甲を装備している個体――戦術コンピュータから、人間集団においてこのような個体はリーダーであろうとの解析結果――が周囲に何か叫び、敵集団が後ずさりするのをやめる。民間人集団との距離は十分に離れてはいない。

危険だが仕方がない。C-1はさらに敵集団へと接近し、その前縁部の上方まで移動してエンジンを全開に。

エンジン排気で敵前衛は焼き尽くされ、吹き飛ばされる。懸念していたように矢が飛んで来るが、十分に引き絞っていなかったのか風圧に煽られて命中しない。

敵集団は再び離れ始め、生きた敵集団と民間人の間に十分間が空いたことを確認した後C-1は急上昇。反転して降下し、敵集団へとレーダー照射。敵集団は無力化された。

 減速して低空を低速飛行、可視光索敵システムで民間人の集団を撮影し、送信。後に友好国に確認を求めるためだ。

 

 

 ロウリア軍から逃げていた民間人たちの一人、エルフの少年、パルンは、絶句してその光景を見ていた。

自分たちを助けてくれたらしいその黒い竜らしきものに、しかし彼は親愛の情を抱くことはできなかった。

こちらを向いたその頭。滑らかで、何も突起の無い、のっぺりとした、頭部とは思えないそこに、彼は偶然、瞳の存在を見た。

 

――ああ、なんて、冷たい……

 

 そう思った次の瞬間には、C-1は彼の頭上を通り過ぎ、急速上昇に入っていた。振り向いた時には、地響きのような残響と、上昇していく黒い点しか見えなかった。

彼には、こちらを向いたそれに、ロウリア軍のように不可視の力で焼かれなかったことが、なんだかただの偶然のようにしか思えてならず、彼の神、太陽神に対して深く感謝した。

 

 

 

―城塞都市エジェイ

 

 

 城塞都市エジェイに屯するクワトイネ公国軍西部方面師団約3万人の将軍、ノウは焦っていた。敵兵2万が、エジェイから西側5kmの位置に布陣している。

 ロウリアの兵力からすれば明らかに先遣隊であり、こちらから打って出れば、ロウリア軍本隊が到着する前に戦力をすり減らしてしまう。

 それだけならば城に篭れば済むのだが、敵騎兵が300名ほど城の外で怒声をあげ、去っていく事をくり返しているのが問題だった。

 本格的進攻かどうかの判断がつかず、兵が神経をすり減らす。

 ワイバーンを使用しての強襲も考えられたが、ワイバーンは夜飛べない上に、着陸時を敵ワイバーンに狙われたら終わりであるため、動かせなかった。

 このままでは、敵本隊が着くころには、兵はヘトヘトになってしまう恐れがあった。

 伝令兵が駆け寄ってくる。

 

「ノウ将軍、地球軍からの伝令です。」

 

「何?今更何だというのだ。」

 

 地球。日本と呼ぶべきかなんと呼ぶべきか、何故かはっきりしなかった日本が最終的に決めた呼称である。彼らが元居たという世界の名らしいが、日本という国名があるにも関わらず、世界の名を使おうとするのは、彼にはよくわからなかった。

そんな彼らは、このエジェイでの防衛戦にも参加する予定になっていたのだが、いつまでたっても現れる気配がなかった。

 

「現在、ここエジェイから西側5km地点に布陣しているロウリア軍に対して攻撃を行うので、ついてはその近辺にクワ・トイネ兵がいないことを確認したい、また、クワ・トイネ兵をしばらく近寄らせないことを要請したい、とのことです。」

 

「何だと? 軍などどこにもいない。ワイバーンによる先制攻撃か。

しかし、何と一方的な…… 人の1人も寄越さないとは。

……まぁ良い。本国も連中を受け入れるよう通達を出してきている。

勝手に敵を漸減してくれる分には構わん。近辺には我らの兵はいない。

その旨伝えろ。総員に、しばらくは敵軍に近づかないよう通達せよ。」

 

「はっ!」

 

 

 その間にも、布陣するロウリア軍へ向けて、日本エリアの航空隊が進んでいた。

CP-237、4機である。

クワ・トイネ側との連絡が済んだことを確認した戦術コンピュータから、攻撃開始の指令が下される。

 4機は加速。音速を超え、マッハ2での巡行に入る。

ロウリア軍へ向けて緩降下、レーダーシステム作動、全力照射。

4機から放たれる不可視の範囲攻撃を受けたロウリア軍は無効化される。

ミッションコンプリート、RTB。

 

 

 ロウリア軍の将軍ジューンフィルアは、小高い丘から2万の大軍が隊列を整えているのを眺めて満足していた。

 壮大な眺めであり、兵の士気、錬度も高い。

日本なる国がいかに強くても、簡単にはやられはしない。

快晴であるから、数で劣る敵のワイバーンに対して負けることもないだろう。

 と、突然、興奮していた頭が冴える。不思議な感覚、敵はまだいないにもかかわらず、何故だろうか、確かな死の予感がする。いったい何なのだろうか?

 

全く突然に、前衛の兵たちが苦しむ声を上げて倒れる。

 

「何だ!?」

 

 次々と兵士たちが倒れていく。熱い、と叫ぶ兵士も居た。しかし、何かが燃えているわけでもない。

彼自身も、ジリジリと焼けるような熱を感じた。

 

「熱い!何だというのだ!」

 

 周囲を見ても、仲間たちは皆同様に苦しみ倒れていく。

今まで共に戦ってきた戦友、歴戦の猛者、優秀な将軍、家族ぐるみの付き合いのあった上級騎士、共に強くなるため汗を流した仲間たち。

 熱さに耐え切れず、また、彼の身体機能に問題が生じたがために、彼が気を失う寸前。

ジューンフィルア将軍は、4体の黒い影が、恐ろしい高速で快晴の空を翔けているのを見た。

 

 

 クワトイネの将軍、ノウは、その光景が信じられなかった。

全く突然に、次々と敵兵が倒れていく。何の攻撃も加えられていないはずであるのにも関わらず。

 敵は錬度も高く、隊列も極めて整っていた。整然と整列していた敵兵が倒れていく。苦しむような素振りをしているように見える。

 それは狭い範囲で起こったことではない。

 広く、広大な範囲で展開していた敵が!強敵が……己の人生をかけ、長い時間をかけ、鍛えあげてきたであろう武技を発揮する事無く、一方的に虫のように殺される。

 彼は敵軍へ向けて恐ろしい速度で飛翔する黒い影の存在に気づいた。距離もある上、あまりの高速にブレた粒にしか見えない。黒い影のようで高速な航空戦力と言えば、日本の、地球の航空戦力だったはずだ。

あれらが敵軍を攻撃しているのか。

 そこに、華やかな戦いや騎士道は無い。ただただ効率的に、わけもわからないままに殺処分されていく哀れな敵。

 城塞都市エジェイの城内から、クワ・トイネの住民たちは、ただ唖然としてその光景を眺めていた。

 

 4体の黒い影が反転して帰って行く。そこに居たロウリア軍は皆倒れ伏していた。その鎧にも周囲の土地にも、何の攻撃の痕跡も残さないままに。

 ノウは眼前の攻撃を目にし、何と形容していいのか解らなかったが、自分たちの戦闘概念からかけ離れ過ぎていることだけは確かだった。

 

「これが……日本軍の、強さだというのか……」

 

 自分の兵はまだ1人もロウリア軍と戦っておらず、部下に死者は出ていない。

 本来喜ぶべきこの状況の中で、彼は1人敗北感を味わっていた。

 

 

 

―クワ・トイネ公国政治部会

「……以上が日本軍と、ロウリア軍のエジェイ西方の戦いの報告になります」

 

あまりにも信じ難い報告に、会場に居る中の誰も、言葉を発することはできなかった。

 その静寂の中で手を挙げて、首相カナタが発言をする。

 

「手元の資料を見てほしい」

 

 日本から安く輸入した上質の紙が議員に配布される。

ロウリア首都攻撃作戦、そう書かれていた。

 

「日本は鉄竜をロウリアの首都に送り、この戦争を終わらせたいらしい。

ただ、信じ難いことだが、日本は陸で戦う兵力を持っていないというのが。それで、我々に軍を送って欲しいとの要請が来た。

敵の脅威は排除するので心配はいらない、とのことだ。

 併せてエジェイとギムの間に展開する敵、ロウリア王国クワトイネ征伐隊東部諸侯団と、ギムの西側を国境から我が国内を東へ進軍する本隊に対しても鉄龍を投入して攻撃したいとの事だ。

敵主力がギムから出ているから、攻撃がもしも成功すれば、我が国も軍を送ってギムを奪還したいと思う」

 

にわかに場がざわつき始める。

 

「別にいいんじゃないか?得しかないし」

 

「敵の首都……うまくいくとは思えないが。

連中は心配いらないと言っているが、我が軍から大勢犠牲が出るのではないか?」

 

「しかし、どの道このままでは我が国は滅ぶ。やるしかないのではないか」

 

「仮に地球の言う通りにうまくいけば、もっとも被害の少ない方法で今回の戦争が終わる。それに、我々の軍が決め手になったと国民にアピールすることもできる」

 

 政治部会では、全会一致でこの作戦を認可した。




CP-237のCP:CombatPlane


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6 ロウリア王国の終焉

―ロウリア王国東部諸侯団

 

 副将アデムはイラついていた

 

「どうなっているのですかぁ!」

 

 部下たちは冷や汗を掻く。悲鳴と共に12騎の偵察隊とは、連絡が途絶えた。

 そのいずれもが、黒い、恐ろしく速い竜に追われているといった言葉を最後に連絡が取れなくなった。

 

「現在調査中でして……」

 

「具体的にどのような方法で調査しているのか!たわけがぁ!」

 

 静まり返る。

将軍パンドールが話し始める。

 

「まあしかたがない。出来る事をしよう。本軍の護衛は?」

 

「ワイバーンが50騎常時直衛にあがります。残りはギムの竜舎で休ませています。もちろん、命あれば、いつでも出撃いたします」

 

「50も?多くないか?」

 

「いえ、今までの軍の原因不明の消失、もしかしたら敵はとてつもない力を手に入れたのかもしれません。本軍が壊滅したら、今回のクワトイネ攻略作戦は失敗します」

 

「そうか……」

 

 上空には多数のワイバーンが編隊を組み、乱舞している。その雄姿は何が来ても勝てると思わせるほどの威容だ。

 伝説の「魔帝軍の行進」でさえ、これほどの軍があれば、きっと跳ね返せるだろう。

 しかし、敵はいったい……

 

 パンドールの思考は強制的に一時中断させられた。

上空を乱舞していたワイバーンが何かわめぎ声を上げ始める。竜騎士はコントロールを失いかけていた。

 

「なっ何だ!?何が起こったあ!」

 

 彼には知る由も無いことだが、その時ワイバーンたちはCP-237のレーダー照射攻撃を受けて眼球を焼かれていた。鱗によって他の部位は助かったし、乗っていた竜騎士も全身を覆う装具のおかげで熱を感じただけで焼かれることからは逃れられたのだが、突如眼を焼かれたワイバーンたちはパニックを起こしていた。

 やがて、東の空に黒い点が6つ、音も無く近づく。超音速!

 

 軍上空を『それ』は凄まじい速度で通り過ぎた。矢じりのような形、真っ黒に塗られた機体。

 

 遠雷のような轟音と共に衝撃波が彼らを襲う。

彼らが見たのは、マッハ3.3という猛烈な速度で軍上空をフライパスしたCP-237の姿だった。

 

「は……は……速すぎる!!!」

 

「なんなんだ!!」

 

「あああああああああ」

 

「バカな・・バカなぁ!」

 

 飛び去るその時、CP-237はワイバーンのすれすれを飛行していた。もちろん、攻撃の意図があってのことだ。乗騎から振り落とされた竜騎士たちが悲鳴を上げながら落ちてくる。

 

 恐怖。

 しかし、悲劇は待ってくれなかった。

 先ほど飛び去った敵の鉄龍が戻ってくる。

と同時に、軍団の兵たちが炎に焼かれるような苦しみの声を上げ始める。再びのフライパス、竜騎士が乗騎から落とされる。

 精鋭騎士団が一方的に殺戮されていく……

 ワイバーンの数こそが軍の力と思っていた。これだけの数のワイバーンがいれば、炎神竜にさえ勝てると思っていた。

 それが、まるで何かのゲームのように一方的に撃破される。

否、これは、もはやゲームそのものだ、敵は、武器や導力火炎弾を使ってすらいないではないか。

 

「ちく……しょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 上空から精鋭ワイバーン部隊が一掃された。

再び向かってくる鉄竜。体に焼き焦がされるような、また、湧き上がって来るような熱を感じ。

 将軍パンドールは、その熱と共にこの世を去った。

 

 

 

―数日後

―ロウリア王国首都 ジン・ハーク ハーク城

 

 

 6年もの歳月をかけ、列強の支援と、服従と言っていいほどの屈辱的なまでの条件を飲み、ようやく実現したロデニウス大陸を統一するための軍隊、錬度も列強式兵隊教育により上げてきた

 資材も国力のギリギリまで投じ、数十年先まで借金をしてようやく作った軍、念には念を入れ、石橋を叩いて渡るかのごとく軍事力に差をつけた。

 圧倒的勝利で勝つはずだった。

 それが、日本とかいうデタラメな強さを持つ国の参戦により、保有していた軍事力のほとんどを失った。

 当初、国交を結ぶために訪れた日本の使者を、丁重に扱えば良かった。もっとあの国を調べておくべきだった。

 ワイバーンのいない蛮国だと?とんでもない。

ワイバーンが全く必要無いほどの超文明を持った国家ではないか!

 軍のほとんどを失った。大船団も、精鋭騎士団も、みんな海や大地の内に散った。

 こちらの軍は壊滅的被害を受けているのに、相手は、日本人は1人たりとも死んでいない。

 とてつもないキルレシオ、文明圏の列強国を相手にしても、ここまで酷い結果にはならないだろう。

 もっと、最初にきちんとした対応をとるべきだった。くやんでも、くやんでも、くやみきれない。

 敵は、もうそこまで来ている。

首都上空を、黒い影のような敵竜が、我が物顔で飛び回っている。

 ワイバーン部隊も全滅した。

 もう、どうしようもない……

 

 近衛兵の悲鳴が聞こえる。軍の足音が聞こえる。

扉が荒々しく開かれ、王の謁見の間に、軍勢が流れ込んで来る。掲げた旗、鎧の色、クワ・トイネ兵だった。

 

「クワ・トイネだと?」

 

「ロウリア王国国王、ハーク・ロウリアだな!?

この場で首を取ってやりたいところだが…… 殺すなとのお達しだ。

貴殿には捕虜となって頂く」

 

 ハーク・ロウリアの両手に手錠がかけられた。日本エリアからの輸入品だった。



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外伝1 日本との接触(クワトイネ編)

―日本エリア、福岡市

 

 

 「皆様、福岡市が見えてまいりました。福岡市は、九州地方、中国四国地方の中で、最大の都市になります。あそこに見えるのが博多港です。博多港からは、リムジンバスで、ホテル新日航まで移動していただき、日本についての基礎知識を学んでいただきます。」

 

 日本のガイド、田上が説明する。

この時、クワ・トイネからの使節団は客船に乗って日本を訪れていた。

博多港が見えてきた。高層建築物が立ち並び、都市高速が走っている。

 やがて、リムジンバスに乗り、ホテル新日航へ移動する。

 船の上で、田上から、車と呼ばれるものが、内燃機関によって動いているということを聞かされていたが、まさかこんなに量が多いとは思わなかった。

 話を聞くと、この国において車は、道路のある所であればどこに居ても、呼べば来るものであるらしい。ほとんど全ての車が自動で運転されていて、空いている車が呼び出した人の所へと向かい、望む目的地へと連れて行く。無料ではないが、ほとんど無料に近いほどの価格だった。

 呆れるほどの豊かさ。公共交通機関がここまで便利になっているとは。

 

 ホテルにおいて、日本の基礎知識を学ぶ。自動運行される道路に下手に立ち入るのは危険であること、交通機関や商店においては、個人認証システムと電子通貨の組み合わせによって、乗ったり、商品を持って行ったりするだけで自動的に精算される無人改札、無人商店が普及していること、拾ったものをそのまま自分の物にすると占有離脱物横領という罪に問われること。

 彼らの説明によると、色々不思議なように思えるだろうが、これは科学であり、仕組みが理解できれば誰しもが作れると言っている。

 

 あの量の車たちが好き勝手動いているのでは、交通事情はめちゃくちゃになってしまうのではないか、と質問した者もいたが、交通管制コンピュータによって完璧に統制されており、事故などが起こることはよほど特殊な状況でない限りないとのことだった。

 

「田上殿、田上殿」

 

 クワ・トイネからの使節団員の1人、将軍のハンキが話しかける。

 

「何でしょうか?ハンキ様」

 

「ここは、ずいぶん発展しているようだが、首都はさらに発展しているのかね?」

 

「はい、まず人口が比較になりませんので、高層建築物はここよりも高いものになります。地下交通網も、網の目のように広がっています。

広い範囲で都心部が広がった状態ですね。ただ、町並みは、福岡市の方が綺麗だという人もいます。東京には多くの建物が密集していますから、雑多な感じがするのでしょうね。」

 

「うーむ…… 田上殿、日本軍を見学したいのじゃが、無理じゃろうか?」

 

「我が国は、正式には軍を置いておりません。我が国に屯して戦力となっているのは、制度上は国連の所属です。そうですね、少々お待ち下さい。」

 

 田上が何か独り言を言い始める。彼の瞳に、何か光が浮き上がっているようにも見えた。まさか、魔導通信具のようなものだと言うのだろうか。

 

「ハンキ様、航空機のみなら手配できるそうです。」

 

「おお、すまんのう、たのむ、たのむ」

 

 ハンキは、日本軍見学の機会を得て、上機嫌であった。

 

「他に見学されたい方はおられますか?」

 

「私も行きます」

 

 使節団の1人、外務局員のヤゴウが手を上げ、結局翌日は、ハンキとヤゴウで見学に行くこととなる。

 

 

―翌日

 

 ハンキとヤゴウは、築城基地の来賓席にいた。

 

ヤゴウは高速道路で目を回しそうになったことを思い返す。

やっと鉄龍基地で、龍たちのデモンストレーションが見られる。

 

 やがて、航空ショーが開催される。

 

「ただいまより、CP-237の機動飛行が行われます。右側の空をご覧下さい。CP-237がマッハ3.3で進入してまいりました」

 

「何!? 田上殿!今マッハ3.3と言ったか?聞き間違えではないか?」

 

 ハンキが興奮して話しかける。

 

「はい、マッハ3.3とアナウンスしていました」

 

 右を見れば、無音で飛行物体が近づいてきていた。

とてつもない高速。真っ黒で遠近感が分かりにくいが、突然その速度が落ちた。

 

「ただいま、CP-237が時速850kmに減速いたしました。」

 

「何!?それほどの減速を、あの一瞬で!?」

 

 客席上空に達したCP-237は、垂直に上昇を始める。主翼上部には一部剥離した空気が白い雲を作り、翼端では、主翼下部から上部へ回り込む空気により、白い航跡を引く。

雷鳴のような轟きがあたりを包む。エンジンの後ろには、蒼い燐光が微かに見える。

次の瞬間には、その機体は青空に消えていた。

 

絶句。

 

「左の空をご覧下さい。先ほどのCP-237が戻ってまいりました」

 

 

「え!?もう?」

 

「これより曲技飛行を開始します。CP-237の優れた機動性をご覧ください。」

 

 

<HQよりa-1,曲技飛行用プログラム,No.15>

<a-1よりHQ,了解。>

 

 

 通常の人間にはわからない電波のやり取りがa-1の中枢コンピュータと今回のショーの管制を行っていた戦術コンピュータの間で交わされる。

CP-237、a-1とのコールサインを付されたそれは、その機動性を存分に発揮して曲芸飛行を開始する。

機首を上に向けてホバリング、クルビット、そのまま3回転した後水平に回転しながら上を向いて垂直上昇、垂直上昇とその姿勢を保ったままに機体から見て真上に垂直に移動、突然ブーメランのような横回転を始め、その状態のままに速度を保って上昇、移動、降下、そこから一瞬で姿勢を水平飛行に戻し、急速に加速、極めて短い旋回半径でターンし、再びクルビット、少しの間後ろ向きに飛行して急加速して飛び去った。

 

 そのめちゃくちゃな飛び方を見たハンキとヤゴウは、口をあんぐりと開けたまま何も言えなかった。

 

 

 

―その日のハンキの日記より

 

 町にあふれる建築物、そして巨大な上空道路、鉄道と呼ばれる大規模流通システム。

これらの凄まじいまでの建造物群を作る日本という国、いや、地球という世界が私は恐ろしい。

 しかも、ここは、日本の首都ではなく、一地方都市に過ぎないという事実。驚愕よりも上の驚きを表す言葉がほしいくらいである。

豊か過ぎる国日本、彼らはその強力な国力にふさわしい、凄まじいまでの軍事技術を有している。

 戦闘用の鉄龍は、最高では音の速さの3.5倍で飛行し、上昇力もとてつもない。しかも滅茶苦茶な動きが可能な機動性を持っていて、それを遺憾なく発揮できる。それらは人を乗せずとも自律して動くことができるのだ。

おまけに、戦闘行動半径は1000kmを超えるという化け物だ。

彼らから見れば、我が国のワイバーンは、止まっている的に見えることだろう。

案内役の田上氏に聴取したところ、鉄龍は海上攻撃や、陸上攻撃の支援にも使用可能だそうだ。

 マイハークに進入した鉄龍、あれもこの戦闘用鉄竜だったらしい。彼らがその気になっていたならば、我が国は即座に滅ぼされていただろう。

逆に言えば、攻撃を仕掛けてこなかったことから本当に偵察活動だったのだと推測できるのだが、楽観して良い事態ではない。

彼らとは友好関係を構築しなければならない。

彼らを敵にまわすということは、文明圏の列強国を敵にまわすよりも恐ろしい事である。

彼らと敵対してはならない。

 

 

―ホテルにて

 

「なあ、ヤゴウ殿」

 

「なんでしょうか」

 

「日本をどう思う」

 

 「そうですね、一言で表すなら、豊かですね。あきれるほどに……

ホテルの中は、温度や湿度が一定に保たれている。これほどの建物を暖めるのに、どれほどのエネルギーがいるのか……。しかも、外国の使節団が来るからここだけ特別に暖かくしている訳ではなく、ここに存在するほぼ全ての建物が空気を調節されている。

  捻るだけで、お湯が出る機械もある。いちいち火を起こさなくても暖かいお湯に浸かれる。トイレも非常に清潔に保たれている。

  外に出ると、無人の販売機械があり、冷えたジュースや、場所によっては酒まで手に入る。

  夜間開いている店舗でいつでも上質な物が手に入る。

  食品売り場では、常に新鮮な食料が手に入る。

  夜も明るいので、街中なら明かりが無くても歩けるし、治安がとてつもなく良い。

  全ての生活レベルが、我が国と比べ、次元が違う。悔しいが、国力の違いを感じます。

 そして、あの鉄竜には正直驚きました。

圧倒的な力の差を見せ付けられた思いです。

日本は敵にまわしてはいけないと思いました。」

 

 「やはり同じ思いか・・・。あの戦闘型の鉄龍の前には、ワイバーンの空中戦術は役にたたないだろうと私も思う。明日は首都に出発じゃな。日本は心臓に悪いよ」

 

 「私はワクワクしていますよ。このような国が、近くに突然現れ、しかも自分たち以外を見下しきっている文明圏よりも高度な文明をもっている。その最初の接触国が我が国とは…… 彼らに覇を唱える性質がなければ、これは幸運です」

 

 ヤゴウとハンキは、深夜まで語らい続けた。

 

 

 

 翌日、東京都に着いた彼らは、何とも言えない違和感を覚えていた。

彼らは自由行動ということで現地の人々に話を聞いていた。

無人生産システムによってほとんど仕事をせずとも中流程度の暮らしは可能となった現代においては、日中であっても多くの人々に話を聞くことができたのだが、彼らは皆一様に、自らが日本という国の国民であるということや、そもそも、国の隔たりというものを全く意識していない。日本人ではない者たちも多く居たが、彼らも同様だった。

それに、多くの人間がそこに集まってはいるのだが、よく観察してみると、それらは小さな集団が多く居るだけであって、全体としての連帯感といったものは見られない。

 これがホテルで説明を受けた、高度な通信技術によって一つに繋がれた世界の様子というものなのか。

それに、虚空に向かって何かしている者も居る。ARという技術によって、他人には見えないが、彼らにはそこに物が見えている、つまり、彼らの世界の中で何かをしている、ということらしい。ここまで来るともう彼らにはわけがわからない。人それぞれに違った現実がある、というのか。そういった話は哲学分野で聞いたことがある程度で、とても実際に目の当たりにするものだとは思っていなかったのだが。

 中世レベルの社会で生きてきた彼らにとっては、ここはひどく異質な世界のように思えた。

 

「田上殿、田上殿」

 

「はい、なんでしょうか。」

 

「あそこにいるのは、獣人種ではないか?

日本には人間種しかいないと聞いていたのじゃが…… 耳や尻尾が動いているから、そういう服装というわけでもなかろう。向こうにはエルフも居る。」

 

「ああ、あれですか……義体だったりホログラムだったり、手法にはいろいろあるんですが、うーん……」

 

田上はしばらく説明に悩んでいるようだったが、やがて口を開いた。

 

「ここでは、地球では、肉体というのは、精神の器に過ぎない……ものにすることもできる。作り変えたり、乗り換えたりできる。

そう言ったら、伝わるでしょうか?」

 

 

 

―ヤゴウの日記より(一部抜粋)

 

 

 いくつもの大都市を抜け、我々は新幹線により日本の首都、東京に着いた。

 東京へ至る途中の地方都市でさえ、文明圏列強の首都をはるかに凌ぐ規模のものであったが、東京はまさに次元が違う。何もかもが正確に動き、人の量も多く、ビルの高さも天を貫かんとするものばかりである。

それに、ホログラムなる、蜃気楼のように実体を持たない映像を投射するものの量が多い。街中にその設備があるようで、どこが実物でどこがホログラムなのかもわからない。しかしそれらによって飾られた街は、全体として煌びやかだ。

 それに、街の道を一つ曲がれば原野のような光景があったり、歴史的な街並みがあったり、我々の街のような街並みがあったり、かと思えば煌びやかな都市へと戻る、というような、いくつもの異世界が少しずつ寄り集まっているような場所もあった。奇妙な街だ。

 我が国の有名なエージェイ山(海抜高度539m)を凌ぐ高さの建造物も現実に、それも大量に存在している。

 

 私は、このような巨大な建造物郡を作り出す国力を持った国に、使節団として派遣され、明日実務者協議に挑む。

 我が国の国益にかなうよう、最大限の努力をするつもりだ。

このような歴史的瞬間に立ち会えることは、私にとって幸いである。

 

 ただ……この国の、いや、地球の技術、生活というのは、国家だとか、そういった広い括りを破壊し、個々の独立個人でもって世界にさらけ出されるような性質を持っているらしい。国際連邦だとか、日本エリアだとか、独立国家であって独立国家でなくもあるだとか、曖昧でわけのわからない日本についての説明が、これで理解できたように思える。

 日本、地球ではそれで問題がない。皆がそれで生きていけるように、機械たちが支えているし、戦争も無い。だが、我々は違う。急激にそのような価値観が流入すれば、どのような影響が出るか未知数だ。

輸入するものについては、少々慎重な検討を要するものと思われる。

 

 

 

 その翌日、クワ・トイネから日本エリアへの食料の輸出や、日本エリアからクワ・トイネへの技術支援など、多数の要項が、日本・クワトイネ実務者会議において結ばれた。

 使節団にとっては、とてつもなく良い条件で、日本と良好な関係を構築することが出来た。

 日本とクワトイネは、極めて良好な友好関係を築いた。



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2章 パーパルディア皇国編 7 神話に住まう人々

「すみません、局長様が無理でしたら、課長様でも構いませんので、権限のある方にお目通りをお願いしたいのですが……」

 

 転移後世界の列強国のひとつ、パーパルディア皇国に国交を結ぶためやってきた日本国外務省の一団は、この3ヶ月間、窓口で足止めされていた。

地球においては外交官の仕事などしばらく存在していなかったのだが、人間の外交官や外務省が解体されずに残っていたのが、高度な情報通信技術の存在しない新世界において役に立った。

……のだが、慣れない上に無下な扱いを受ける彼らは少々疲労してもいたのだった。

 

「しばらくお待ち下さい。順番に手続きを行っていますので……

しかし、貴方たちの要求内容を見ましたが、かなり高度な……いわゆるハードルが高い事が記載されていますので……」

 

「と、いいますと?」

 

「あなた方は、……もしもパーパルディアの民があなた方……日本国でしたか?の中で、犯罪を犯したとして、治外法権を認めないと言ってらっしゃるので……。」

 

治外法権、知識として知ってはいるのだが、耳慣れない言葉であった。

 

「……それが何か? 国と国の間では通常の事と理解いたしますが……」

 

「……我が国は列強ですよ?」

 

「それが何か?」

 

「あなたの国は、出来たばかりですか? 文明圏以外の国とはいえ、国際常識を知らないにもほどがある」

 

 窓口勤務員は語気を強める。

 

「はぁ」

 

「いいですか、今、世界において、治外法権を認めないことを我々が了承している国は、3カ国のみです。つまり、列強国のみなのです」

 

 話は続く

 

「列強国でない、まして文明圏にも属していない、国際常識すら理解していないあなた方の国が、治外法権を認めない、対等の国として扱えとか、列強国のごとき要求をしている。……課長はあと2週間くらい後には空きますので、あと2週間待って下さい。ただ、私としては、これはかなりハードルが高いと言わざるを得ません」

 

「ふむぅ」

 

(えぇと、つまり、この人は何を言いたいんだ?)

 

日本からの外交官である彼は、反射的に返事はしたものの、パーパルディア側の担当者の言っていることの意味をうまく理解できていなかった。

彼は手元にある小型端末のスイッチを押す。それによって、彼のその瞬間の表層思考が読み取られ、コンピュータへと送信される。彼は脳を一部機械で拡張していた。

送信先のコンピュータというのは、彼の私物だった。電子コンパニオンがインストールされている。

その私物のコンパニオンに思考を送って何をするのかと言えば、日本国外務省外交支援コンピュータ、略称は日本外交コンピュータの略でNDC、との取次を行ってもらうのだ。

 地球においては、そうした製品というのは珍しくもないし、脳を完全にスキャンすることも、あるいは全てを機械で置換することもできる。

当然、外務省外交支援コンピュータと彼の頭脳を直結してやり取りをすることも可能だ。

しかしそうした状況というのは、頭脳の内部を覗いたり誘導することが可能となるということでもある。民生品にはそのような大それたことは不可能だろうが、外交支援コンピュータには、あるいはその他の国家規模のコンピュータシステムにはそれが可能なスペックと機能、知性がある。

 もちろん、コンピュータたちが彼に断りもなくそのようなことをするというのはあり得ない、というのはわかっていたのだが、無意識のうちでは、そうした状況に自らの頭脳が置かれることに忌避感を抱いていて、それがこうしたワンクッション挟んだやり取りを選択させていたのだ。それに、脳内でまで彼の知性体たちの無機質で冷淡な言語出力を受け取るばかりなのは少々気が進まなかったし、多少はっきりとしない物言いがあったとしても、感覚的に理解しやすかった。

彼の私物である電子コンパニオン、少女型のそれが応答する。

意識に登る言語に、外見や音声の『感覚(クオリア)』のみを伴っているそれは、実際の映像や音声を伴うものよりも高速なやり取りを可能としていた。

その高速性こそが、わざわざワンクッションを通すようなやり取りが許可される要因でもあった。

 

(えぇと、わたしにもよく…… NDCさんに聞いてみますね……

ふむふむ、つまり、えっと、この人は、自分たちの国は世界で4ヵ国のとても強い国なのだから、あなたたちのような弱い国に対して、対等の国として扱うような対応はしないだろう、と言っているわけです。)

 

(それはまぁわからなくはないんだけど、この人はどうしてこんなことを言うんだ?同じ人間だろう。我々が彼らに何か不利益をもたらしたわけでもない。)

 

(それは……NDCさん? ふむふむ。

つまり、えぇと、その…… この人たちや他の国たちはわたしたちの元居た地球とは全然違う常識のもとで動いていて、その常識では国の面子とかプライドというようなものがとても大事で、格下の国をわけもなく対等に扱えば周囲に示しがつかなくて、それは、地球でいえば、いわゆる情報化以前に相当する……あっ、その後にも結構そういう傾向はありましたよ? それで……)

 

(あぁ、何か、気を遣った言い回しをしているのはわかるが、ちょっとまどろっこしいな。どんな言い方でもいいから、もっと簡潔に言ってくれないか? NDCは簡潔に表現しているだろ?)

 

(あっ、ごめんなさい。えっと、NDCさんは、<彼らの価値判断、常識は、我々の現在一般的な常識とはかけ離れた、我々からすると極めて未熟なものである。これが主流となっていた時代は情報化以前、あるいは産業革命以前である。>と。

 つまり、簡単にわかりやすく言うなら、言葉は悪いんですけど、この人はどうしようもない未開人だ、ってことになりますね。)

 

(なるほど。確かに言葉は悪いが、わかりやすくてその方が良いよ。

君が本心からそう思っているわけじゃないのはわかってるから安心してくれ。 で、どう対応すればいいと? 正直俺には見当もつかん。非常識だ。)

 

(了解した旨と、後日我々の情報を持参するのでその際はまた検討して欲しい旨を伝えろって。)

 

(わかった、ありがとう。)

 

これらのやり取りを約2秒で済ませた彼(彼ら)は、返答を行うべく口を開いた。

 

「なるほど、わかりました。今日の所はこれで引き下がらせて頂きます、ご手数をおかけしました。

後日、また私どもについてわかるような資料を持って参りますので、その際には是非またご検討頂けると幸いです。

親身でご丁寧な対応、ありがとうございました。」

 

「あなたたちについてわかる資料? それで……いえ、まあ、いいでしょう。

私の方からも、課長の耳には入れておきます。では、また。」

 

言いつつ、パーパルディアの担当者はすでに次の手続きに移っている。いつまでも構っていられないという様子だった。

その言葉の裏には、文明圏外国が外交の場に一体どんな資料を持ってくるつもりだろうかという、侮りを多分に含んだ興味と、その程度のものであの条件が飲まれる筈がないという、日本側の外交官のいっそ無垢にすら思える考え・姿勢への憐れみがあったのだが、

そんなことはつゆ知らず、踵を返した日本側外交官(とその私物の電子コンパニオン)はこの交渉の成果に満足し、

外交支援コンピュータですらも、情報を提示すれば実力を持っていることがわかるだろう、疑いの余地のない情報を提供する用意がある、と思考していた。プライドから事実ですらも認めようとしないというようなことは考慮しなかったし、そもそもその情報を受け取らせることが出来ないといった事態の可能性は極めて低いと考えていた。未知の存在の情報は期待度はどうあれひとまず収集し精査するに違いない、と。

この世界と元いた地球の常識の壁というのは、わかっていてもなお、それほどまでに大きかったのである。

しかし彼らの想像しなかった形で、パーパルディア皇国は日本側の、地球の、実力を疑いようもなく知ることになる。

 

 

 

「剣王、日本という国が国交を開くために交渉したいと参っております件はいかがいたしましょうか?」

 

 第3文明圏列強国、パーパルディア皇国の東側約210kmの位置にある島国、フェン王国。

国王である剣王シハンとその他の人間たちは、パーパルディア皇国との紛争の可能性という国家の存亡に関わる事案を含む会議を行ったところだった。

 会議が終わり、通常の執務中、王の側近である剣豪モトムが話しかける。

 

「日本?ああ、ガハラ神国の大使から情報のあった、ガハラの東側にある新興国家か。あの辺は、小さな群島で、海流も乱れていたな・・・。

 各島の集落が集まって国でも作ったのか?」

 

 剣王は、小さな国をイメージしていた。

 

「いえ……それが。日本が言うには、人口1億人ほどいるそうです……」

 

「い……1億人!? ワハハハハ、ホラもここまですれば大したものだ」

 

 剣王は全く信じていない。

 

「それが……ガハラ神国経由の情報でも、同様の情報があります。両国とも、すでに国交を結んでおり、すでにそこにあるのは群島ではなく、4つの大きな島から成り、列強をも超える超文明を実現していることを確認していると……」

 

「ほう……列強を超えるのは、言い過ぎとしても、ガハラ神国がそこまで褒めるのであれば、それなりの国家なのだろうな……」

 

 剣王、他の側近は日本の外務省の人間と会うことにした。

 

 

 

「なんというか……身が引き締まるな」

 

 国中が厳しく、厳格な雰囲気が漂っている。武士の治める国……これが日本側外交官のイメージだった。

 生活レベルとしては、低く、国民は貧しい。しかし、精神レベルは高く、誰もが礼儀正しい。

 日本にかつて存在した真の武士道のようなものがそこにはあった。

 

「剣王が入られます」

 

 声があがる。外務省職員は立ち上がって礼をする。

 

「そなた達が、日本国の使者か」

 

 相手は達人の域を大きく超えている。外務省職員で剣道7段の島田は、剣王の動きを見て感じ取る。

 

「はい。我々地球の日本は、貴国と国交を開設したく思い、参りました。ご挨拶として、我が国の品をご覧下さい」

 

 剣王の前には、様々な日本の「物」が並ぶ。

 日本刀、着物、真珠のネックレス、扇、運動靴……

 剣王は日本刀を手に取り、引き抜く。

 

「ほう……これは良い剣だ」

 

 気を良くした剣王、話が始まる。

 事前に聞いた、日本からの提示条件と、日本からの書類に間違い無いか確認する。

 

「失礼ながら、私はあなた方の国、日本を良く知らない」

 

 話が続く

 

「日本からの提案、これはあなた方の言う事が本当ならば、すさまじい国力を持つ国と対等な関係が築けるし、夢としか思えない技術も手に入る。我が国としては、申し分ない」

 

「それでは……」

 

 外務省の人間の顔が明るくなる。

 それを遮って剣王は話す。

 

「しかし、国ごとの転移や、海に浮かぶ鉄船等、とても信じられない気分だ」

 

「そ・・それは、我が国に使者を派遣していただければ……」

 

「いや、我が目で見て確かめたい」

 

「と……良いますと?」

 

「貴国にも軍があり、水軍や空軍も有していると聞いた。」

 

「ええ、ありますが……」

 

「その軍のうち、少しでも親善訪問として、ここに派遣してくれぬか?今年我が国の水軍船から廃船が4隻出る。それを敵に見立てて攻撃してみてほしい。要は、力が見たいのだ」

 

 外交官は面食らった。

 通常、他国の軍が国交も無いのに来るというのは、威嚇であり、細心の注意を払うとされていた。

 非常に嫌がるのが普通であろうのに、この国は「力を見せろ」という。しかも首都アマノキの沖に持ってこいという。

 異世界で、しかも武の国だから、そんな事もあるのかな?と思い、本国に報告、近日中に艦艇と航空機が派遣されることが決定した。

 

 

 

ーフェン王国 首都アマノキ 上空

 

 ガハラ神国、風竜騎士団長スサノウは、隣国、フェン王国の首都上空を飛行していた。

 今日は、フェン王国が5年に1回開催する「軍祭」が行われるため、その親善として、3騎で上空を飛ぶのである。

 軍祭は、文明圏外の各国の武官も多数参加し、武技を競い、自慢の装備を見せる。各国の、軍事力の高さを見せる事により、他国をけん制する意味合いもある。

 文明圏の国も呼びたいが、「蛮国の祭りには興味が無い」のが本音らしく、「力の差を見せ付けるまでもない」といった考えもあるらしい。

 スサノウは、上空から下を見た。

 

常軌を逸した大きさ、そして形をした、真っ黒な船が5隻と、小さいが白く綺麗に塗られた船が1隻見える。

東の新興国、日本だか地球だかニホンエリアだかいう国の船らしい。

その上空には黒い影、日本の飛竜らしきものが見える。

 

「ひどく眩しい。全く。」

 

相棒の風竜が話しかけてくる。

 

「確かに今日はよく晴れてるが、そんなにか?」

 

「いや、違う。太陽ではない。あの下の黒い船や飛竜…… いや、竜ではなさそうだが。 とにかくあれらから、

線状の光が様々な方向に高速で照射されているのだ」

 

「船から光?何も見えないが」

 

「フッ……人間には見えまい。我々が遠くの同胞と会話をする際に使用する光、人間にとっては、不可視の光だ。何かが飛んでいるか、確認も出来る。その光に似ている」

 

「飛行竜が判るのか?どのくらい遠くまで?」

 

「個体差がある。ワシは120kmくらい先まで判る。あの船の出している光は、ワシのそれより遥かに強く、そして光が収束している」

 

 それはまさか……

 

「まさか、あの船は、遠くの船と魔通信以外の方法で通信出来たり、見えない場所を飛んでいる竜を見ることが出来るのか?」

 

「そうらしいな。今もあれら同士や、どこか遠くと忙しなくやり取りをしている。眩しいと言ったが、人間で言えばうるさいという感覚に近いかもしれんな。こちらにも時々何か言って来ているのだが、何を言っているのやらさっぱりわからん。一応ちょっとした挨拶ぐらいを返しているのだが、果たして通じているのやら……」

 

「そうか…… 日本、すごい国だな……」

 

 

 

風竜に対して電波を送っていた機械たちの言いたかった内容というのも、実は風竜のしたような挨拶というのとそう変わるものではなかった。

電波を発信する飛行物体を確認し、それが風竜という高度な知的生命体であることを知った彼らは、風竜に対してIFF波を発信してみたり、一般規格の通信を送ってみたり、暗号化していない状態で文字情報や音声情報、画像情報、あるいはモールス信号などを送信してみた。

結果は解読不能の発信波が帰ってきただけであったが、電波の発受信能力のある生命体であることは確認された。

電波の発受信能力があり、それをレーダーや通信のように運用しているらしい知的生命体の存在というのは、侮り難い脅威の可能性を孕むものだ。転移後世界において検討されていた新型機案の、電子戦能力を軽視したパターンが不適切とされた瞬間であった。



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8 無感動な紛争

そもそも転移後世界に鯨っているんでしょうか


「あれが日本の戦船か……まるで鯨だな」

 

 剣王シハンは正直な感想を洩らす。

 

「いやはや、ガハラ神国から事前情報として聞いてはいましたが、これほどの大きさの金属で出来た船が海に浮かんでいるとは……」

 

 騎士長マグレブが同意する。

 

「私も数回、パーパルディア皇国に行った事がありますが、これほどの大きさの船は見た事がありません」

 

 彼らの視線の先には、国連軍の戦闘艦が5隻浮かんでいた。

 

「それに、あの……飛竜でいいのか? あれは。戦船といい、なんとも奇妙だ。しかし凄まじい。」

 

「剣王、そろそろ我が国の廃船に対する日本の兵器からの攻撃が始まります」

 

 剣王シハン直々に、日本の外務省に頼んだ

 

〔日本の力を見せてほしい〕

 

その回答が今出る。

 

 戦闘艦のさらに沖合いにフェン王国の廃船が4隻、標的船として浮かんでいた。

 距離は戦闘艦から2km離れている。剣王シハンは望遠鏡を覗き込む。

 まずは1隻だけで攻撃を行うらしい。

 

 日本の船から僅かな光と煙が吹き出る、僅かな時間の後、音が聞こえる。

 

 1度の轟音。

 直後、標的船に内部からあふれ出すような光が発生し、船は粉微塵となって海に溶けていく。

 続いて2度の轟音、その場で静止して向きを変えながらの高速射撃。別の標的船2隻が粉末と化す。使用した砲弾は、防御性能の低い敵艦に対しより効果的となるように貫通力を落とした新型砲弾だった。

 

 続いて航空機隊からの攻撃。航空機隊が装備しているのは、新たに生産された無誘導爆弾だった。

 機の電子戦能力とは別に、対艦攻撃用の爆弾だけは元々配備されていたのだが、分子単位で高い防御性能を発揮するよう組み上げられた戦闘艦の装甲を抜いて内部のコンピュータシステムにダメージを与えるよう設計されたそれは、有人仕様の木造船相手には過剰火力かつ効果的でないとされて保管されたままだった。

新生産のこの無誘導爆弾は、製品を"プリント"することのできる地球型工業においては極めて単純な構造をしており、なんと信管すら備えておらず、他の兵器からの起爆指示波の照射を受けて雷管を起動し起爆する。コンピュータシステムではなく、もっと原始的な、物理的構造による仕組みで、敵からの反撃を警戒して母機が素早く退避する必要のない、戦術戦闘能力上の圧倒的格下を相手にすることを前提としたコストカットであった。

 航空機隊は2機が編隊を保ったままに垂直上昇し、反転降下、急降下の勢いを乗せ、機の姿勢を僅かに変化させつつ爆弾投下、引き起こし。ねじれた翼によって回転しより高い精度を持った爆弾は狙い違わず命中、標的船全体に散らばって命中し焼き尽くす。同時に低空飛行で水平に接近して来ていた2機のリリースした爆弾が喫水線に命中。ボロボロになった木造船は、材質故に浮かんでは居たが、ただの廃材の塊同然だった。

水平飛行したまま急上昇した航空機隊は編隊を組み直して緩やかにターン、引き返し、再び艦隊上空を集会し始める。

 

「……これは……声も出んな……なんとも凄まじい。」

 

 剣王シハン以下フェン王国の中枢は、自分たちの攻撃概念とかけ離れた威力と機動を目の当たりにし、唖然としていた。

 1隻からの攻撃で、3隻をあっさり沈める。しかも、とてつもない速さの連続攻撃で沈めた。飛竜らしきものも、爆裂する物体を運搬し落としていたし、極めて精密な攻撃だったように見える。

列強パーパルディア皇国でも、そんな芸当は出来ない事をここにいる誰もが理解している。先ほどの攻撃で集団で取り掛かったのがただの演出であり、あのうちのどれか一つだけでも4隻を即座に沈められたであろうことも。

 

「すぐにでも、日本と国交を開設する準備に採りかかろう、不可侵条約はもちろん、出来れば安全保障条約も取り付けたいな……」

 

 剣王は満面の笑みで宣言した。

 

 この場に存在する地球型兵器システムたちは、西側から近づく飛行物体を検知した。時速にして約350kmで、20機ほどが近づいてくる。

 1隻だけの白い船、日本国政府所属の客船に乗り込んでいる人員にも通達がなされる。

 

「西には、パーパルディア皇国という国があったな」

 

「はい」

 

「フェン王国の軍祭に招かれているのではないのか?」

 

「とは思いますが……一応確認をします」

 

 その飛行物体はフェン王国首都アマノキ上空に至ったが、王国からの返答は無かった。

 

 

 

 パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロード部隊20騎は、フェン王国に懲罰的攻撃を加えるために、首都アマノキ上空に来ていた。

 軍祭には文明圏外の各国武官がいる。その目前で、皇国に逆らった愚か者の国の末路はどうなるか知らしめるため、あえてこの祭りに合わせて攻撃の日が決定されていた。

 これで、各国は皇国の力と恐ろしさを再認識することだろう。そして逆らう者の末路、逆らった国に関わっただけでも被害が出ることを知らしめる。

 

 ガハラ神国の風竜3騎も首都上空を飛行している。

 風竜が皇国ワイバーンロードを見ると、ワイバーンロードは、不良に睨まれた気の弱い男のように、風竜から目を逸らす。

 

「ガハラの民には、構うな。フェン王城と、そうだな……あの目立つ白い船に攻撃を加えろ!!」

 

 ワイバーンロードは上空で散開し、隊を2つに分けフェン王国王城に向けて急降下を始めた。

 

「何のデモンストレーションだ!?」

 

 誰もが疑問に思った時、急降下していた竜が口を開け、口内に火球が形成され始める。

 

「なんだと!?」

 

 次の瞬間、10騎のワイバーンから放たれた火球は、王城の最上階に着弾し、木製の王城は炎上を始める。

 

「本船に向けワイバーン10騎が急降下中!!!」

 

 日本政府客船の艦橋で悲鳴にも似た報告が上がる。

 

「いかんっっっ!!!!!!!」

 

 次の瞬間、パーパルディア皇国の皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロード10騎は、直下約500m付近に停泊中の日本政府客船に向かい、導力火炎弾を放出した。

 

 客船は攻撃を仕掛けられたことの認識し、その操舵手が指示を出すよりも速く、艦のシステムが自動回避を始める。

 しかし、政府の外交用かつ小型とはいえ客船の脚では全てを回避することはできない。

その時、客船に大きな影が差した。直上、海面から跳ね上がった戦闘艦がその艦体で客船を庇っていた。

戦闘艦に火炎弾が着弾。粘性を持った弾体はそこで燃え続けるも、客船の上を通り過ぎて着水した戦闘艦が水中に潜ったことで火は消えた。

 

 ドーーーーン・・・・

衝撃。着弾のものではなく、戦闘艦の着水によるものだった。

 

「ぐっ……!」

 

それによって起こった波により、客船は激しく揺さぶられる。

戦闘艦の規模と激しい着水からすれば異様に小さい波ではあるのだが、それでも間近に受ければ十分に大きい。艦体全面の表面を微細に制御することによるアクティブ整流・消波システムといえども、完全なものではなかった。

 

「船のコンディションは!?」

 

「オールグリーン!」

 

「最大船速へ、逃げるぞ!」

 

『こちらNTC-15、未確認機を敵性と断定。反撃を行う。確認を。』

 

「確認した!こっちにも何か護衛をつけてくれるか?」

 

『戦闘艦が2隻、貴船を護衛する。』

 

 

「何!! 何だ、あれはぁ!!?」

 

 急降下から、水平飛行に移行したワイバーンロード10騎は、突如割り込んで来た奇妙な水上物体に驚愕する。自分たちの攻撃は全て受け止められたうえ、受け止めたそれは全く堪えた様子もない。

 

「黒い……鯨? まさか、海魔だとでも言うのか!? 文明圏外国が……」

 

その目の前に、真っ黒な飛竜らしきものが現れる。水上の奇妙な海魔らしきものと似た趣を持ったそれは、ワイバーンと同程度の速度で、鈍い動きで、時々よろめきながら飛んでいる。

 

「何だか変わった見た目だが、大したこともない、しかも竜騎士は素人のようだなぁ!」

 

パーパルディア皇国の竜騎士はその獲物に狙いを定める。

その正確な狙いと、それを可能とする安定した飛行は竜騎士の高い練度、そしてワイバーンロードの高性能をうかがわせた。

 しかし、それがいけなかった。

真下、その場で航空機のコブラ機動のように真上を向いた戦闘艦の方向が、竜騎士たちを狙っていた。

地球の航空機、CP-237は突然そのふらふらした飛行を微動だにしない安定したものへと変え、機敏な動きで離脱していく。

 

「何?」

 

誘われていた。そのことに気付く間もなく、高速で連射される艦砲の精密射撃でもって、ワイバーン隊は大空に散った。過貫通によって粉々にされることなく、原型をとどめたままに海へと落ちていくのは、彼らにとって幸だったのか不幸だったのか。

同じような光景が、海の別の場所でも繰り広げられていた。

 

 

 剣王シハン及びその側近たちは、開いた口が塞がらなかった。

 ワイバーンロードは、間違いなくパーパルディア皇国のものだろう。

 我が国がワイバーンロードを追い払おうと思ったら至難の技だ。

 1騎に対して一個武士団でも不足している。そもそも、奴らは鱗が硬く、弓を通さない。

 

 バリスタを不意打ちで直撃させるか、我が国に伝わる伝説の剛弓、「ライジョウドウ」を使うしか無いが、ライジョウドウは硬すぎて、国に3名しか使える者はいない。

 戦闘態勢にあるワイバーンロードを仕留めるのは、事実上不可能に近い。

 文明圏外の国で、1騎でもワイバーンロードを落とすことが出来れば、国として世界に誇れる。

 我が国は、ワイバーンロードを叩き落すことが出来るほど精強であると……

 

 それを、日本の奴らは、いともあっさりと、怪我をして動けなくなったハエを踏み潰すかのように、自分はほとんど怪我を負わず、列強の精鋭、ワイバーンロード竜騎士隊を20騎も叩き落してしまった。

 

 日本は、文明圏外の武官が集まっている軍祭で、各国武官の目の前で、各国が恐れる列強パーパルディア皇国の精鋭ワイバーンロード部隊を赤子の手をひねるように叩き落とした。

 歴史が動く、世界が変わる予感がする。

 

 ワイバーンロードは、おそらく自分たち、フェン王国への懲罰的攻撃に来ていたのだろう。

 日本をこの紛争に巻き込めたのは、天運ではなかろうか……

 剣王シハンは、燃え盛る自分の城を、笑いながら眺めていた。

 

 

『すごいものだな……あの船や竜は……』

 

 風竜は感嘆の声をあげる。

 

『戦っている間、人間にとっては不可視の光で常に互いにやり取りをしている。奴らの行う連携の類は、全てが偶然ではないだろうし、事前に計画されたものでもないかもしれない。

あの船は、トカゲどもに光を浴びせ、船はそこから反射する光の方向を向き、トカゲどもの飛行する未来位置に向かって撃っている……あの船が技術の塊なのは見ただけでわかるだろうが、あれは見た目以上だな』

 

「そ……そうなのか?そんなにすごいのか!?」

 

『古の魔法帝国の伝承にある、対空魔船みたいなものだろう』

 

「ゲ……そんなにすごいのか……。帰ったら報告書が大変だな」

 

 上空では、ガハラ神国の風竜騎士団長スサノウと風竜の間で、そんな会話が行われていた。

 

 

 パーパルディア皇国、皇国監査軍東洋艦隊竜騎士のレクマイアは、フェン王国懲罰の命など簡単な仕事だと思っていた。

栄えある列強パーパルディア皇国のワイバーンロード部隊にかかれば、フェンのような蛮族の国など、自分1騎で1個騎士団を相手にしてもおつりが来る。

 

 軍祭などという、各国武官や船まで招いての祭りが行われているのであれば、蛮族どもにパーパルディアの力を再認識させる機会にもなる。

 フェン国などというパーパルディアに反目する国の祭りに参加していると、痛い目を見るということを解らせるために、目立つ白い船を狙った。

 

 しかし、必中距離で放った導力火炎弾のほとんどは奇妙な鯨のような海魔によって受け止められた。

 

 自分はその直後、真横を通過していった凄まじい速度の真っ黒な飛竜らしきものが起こしていった風と衝撃波に煽られて海へ落下し、海上から上空を見上げたところ、仲間たちはさらなる悲劇にみまわれていた。

 

 仲間たちは、他の海魔から放たれた大砲らしき攻撃によって、木っ端微塵に吹き飛ばされていた。

 

 大砲が空を飛ぶ物に当たるということも理解しがたい現実であるし、

あの海魔の動きも凄まじいものだ。それに、動きがどこか機械的だ。

まさかあれは船なのだろうか?

この世で自分たちの敵となりうる存在は、列強しか無いと思っていたが、自分たちがなすすべもなく破れた相手に興味も持った。

 彼は海に浮遊中、自分が攻撃した白い船に浮き輪を投げられ救助された。

 

 

 

「竜騎士隊との通信が途絶しました」

 

その通信士官の報告にパーパルディア皇国監査軍東洋艦隊に衝撃が走る。

 

「いったい何があった……」

 

 提督ポクトアールは嘆きたくなった。いやな予感がする。しかし、これは第3外務局長カイオスの命である。

 国家の威信をかけた命である。

 実行しない訳にはいかなかった。

 

 皇国監査軍東洋艦隊22隻は、フェン王国へ懲罰を加え、また、今回ワイバーンロードを倒した皇国にたてつく者を各国武官の前で滅するために、風神の涙を使用し、帆をいっぱいに張り、東へと向かった。



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9 皇国のプライド

「貴国は、もう戦争状態にあるのではないですか?状況が変わりましたので、我々の権限だけでは、戦争状態にある貴国と、現時点で国交開設の交渉が出来ません。事態の重みを考えるに、一度帰国し、内容を詰めてから再度ご連絡いたしたいと思います。」

 

 国籍不明のワイバーン部隊を撃退した後、日本国外務省は、フェン王国騎士団長マグレブとの交渉を行っていた。

そこで、国籍不明部隊は列強パーパルディア皇国の部隊と見て間違いないであろうこと、フェン王国への懲罰的攻撃であったであろうことがわかった。

 外務省は西から来る艦隊が到着する前に、一刻も早く、この場から引き上げたかった。

 

「解りました。良い返事を期待しています。ただ1つ、これだけは、心に留めおいて下さい。あなた方があっさりと片付けた部隊は、第3文明圏の国、しかも列強パーパルディア皇国です。我が国は、パーパルディアから土地の献上という一方的な要求をされ、それを拒否しました。それだけで襲って来たような国です。

 過去に、我々のようにパーパルディアに懲罰的攻撃を加えられた国がありました。その国は、敵のワイバーンロードに対し、不意打ちで竜騎士を狙い、殺しました。

 かの国は、パーパルディア皇国に攻め滅ぼされ、国民は、反抗的な者はすべて処刑し、その他の全ての国民は奴隷として、各国に売られていきました。王族は、親戚縁者すべて皆殺しとなり、王城前に串刺しでさらされました。

 パーパルディア皇国、列強というのは、強いプライドを持った国だというのを、お忘れなさらぬようお願いいたします。」

 

 ぞっとするような話を聞いた後、外務省の一団は、王城から港に向かった。

 

 

 

 パーパルディア皇国、皇国監査軍東洋艦隊提督ポクトアールは、東の海を睨んでいた。空は快晴、海上ではあるが、比較的乾いた風が気持ち良い。

 現在地、フェン王国から西に約100km。

 

「む!」

 

 水平線に何かが見える。

 

「艦影と思われるもの発見!こちらに接近してきます」

 

「む!? 大きいな……フェン王国のものとは思えない……」

 

 小山ほどの物体が海上を動いている。船?と思われるが、常識から考えると規格外の大きさだ。

 

「総員、戦闘配備!!!」

 

 城のように大きい黒色の船は、急速に接近してきた。とてつもなく速い。

 

「な、あれは……ま、まさか、我が方の船速を凌駕している!?

いや……それどころではない、あれは、ワイバーン並ではないのか!?」

 

 正体不明の巨大船は我が艦隊に並走しながら近づいてくる。その数は1隻のみ。

 

「提督、どういたしますか?」

 

 第3外務局局長カイオスの命は、フェン王国への各国武官の前での懲罰的攻撃により、文明圏外の蛮族に恐怖を植え付けることである。

 妨害の可能性となる軍は全て排除するよう命ぜられている。

 黒色の巨大船は、パーパルディア皇国の同盟国の船では無い事は確実であり、民間船でないことも、確実であった。

 敵と思われる者は、1隻のみであり、いかに巨大であっても、22隻の列強国艦隊の前では、こちらが優勢と思われる。

 

と、その時、その巨大船が消えた。気のせいだったのか?幻?

否、違う。彼の勘が告げていた。見張り員に確認すると、水に潜ったように見えた、と言う。信じ難いことだが、おそらくは事実だ。少なくとも、事実とみて警戒しておいて損はない。

 

しばらく経った時、敵と思われる巨大船が浮上してきた。やはり水に潜っていた。それだけではない。3隻、後続が浮上してくる。計4隻だ。

形状が見えてくる。真っ黒で分かりづらいが、鯨のような形だ.....

あれは、船ではなく海魔かもしれない。どの道、敵だ。

距離はすでに1km。外しはしない。

 

「射程圏内にしっかりと入ってきたな……アホウめ……。魔導砲撃てぇぇぇぇぇ!!」

 

煙が艦隊を包み込み、連続する発砲音が鳴り響く。

 フェン王国王宮直轄水軍を、赤子の手を捻るが如くあっさりと葬り去った。列強パーパルディア皇国、皇国監査軍東洋艦隊22隻は、国連軍日本エリア駐留軍の戦闘艦隊に対してその力を行使した。

 

砲弾が飛んでいく。着弾の水しぶきが上がり、敵艦隊は消えていた。

 

「撃沈したのか……? いや。あれほどの大きさのものが、いくら我が艦隊の一斉射撃とはいえ、跡形もなく消滅するはずがない。潜ったか…… 各員警戒を厳とせよ!」

 

 静寂の中で時間が過ぎる。まさか本当に消滅したのか?それとも、幻だったのだろうか?

そう考えたその時、見張り員から報告が上がる。

 

「敵、本艦隊の後ろです!!」

 

「何ィ!?」

 

ポクトアールは即座に後ろを振り返る。

黒い子山が、4つ。確かに背後につけられていた。

 

「速すぎる! しかし、飛び込んできたのは好都合だ!撃て!」

 

再びの一斉発砲。また潜って回避するかと思いきや、全く動こうとしない。むしろ当たりに来ているようですらある。全弾が先頭の一隻に命中し、炸裂。煙が晴れる……

 

「なんだと!?」

 

 真っ黒なのでわかりにくいのだが、恐らくは全く損傷していない。

パーパルディア皇国の魔導戦列艦22隻の一斉砲撃をまともに受けて、である。

 それらは加速、それぞれ皇国艦隊の艦に体当たりを仕掛け、容易く転覆させた。

 

「くそっ、何だと言うのだ! 怯むな、逃げ場はない!撃て!」

 

砲撃を回避し、耐え、次々と艦をひっくり返す。5隻ほどをひっくり返したところで、艦隊に並走して何もしてこなくなる。こちらを観察しているらしい。

 

「積極的に戦うつもりはないということか……? しかし……」

 

ポクトアールは逡巡する。そしてもう一度砲撃を仕掛けたとき、それは起きた。

 

一度離脱し、再び艦隊に艦首を向ける海魔。そして次の瞬間、戦列艦の内の一隻が文字通りの粉微塵と化した。

 

「なァっ……!?」

 

遅れて聞こえてくる、かすれたような発砲音。

 

「あれは……大砲だというのか!? なんという威力だ!!!」

 

 発砲音が連続する。とてつもない連射速度。

水しぶきがポクトアールの座上する艦の前方で上がる。命中精度は良くないのかと思ったが、座上艦から見て正確に同じ相対位置に撃ち込まれているのに気づく。精度もとてつもないのだ。わざと外している。

 

「くうっ……!」

 

勝ち目はなかった。

 

「……撤収だ!曳航できる味方の艦は曳航し、できるだけ生存者は救助して引き上げる。今作戦は……失敗だ!」

 

 敵の様子から、我が方を殺傷するのが目的ではないと思われ、ポクトアールは決断した。このまま無理に戦闘を続行しても、揃って粉末状にされるだけだ。

 畜生……竜母があればな……。

 ワイバーンロードの上空支援があれば、また違った形になっていたかもしれない。

 ポクトアールはそう思いながら、撤収の命を下した。

 今回の戦闘報告……報告書を提出しても、誰も信じないだろうな。

 

 

 地球側、日本とパーパルディア皇国の初の艦隊戦は、日本の圧勝で終わった。

 パーパルディアの艦隊では、粉末状にされた艦の乗員を除いて死者は一切いなかった。破壊された艦の乗員の末路を偶然目にしてしまった者を始めとして、艦隊の人員の間には、深い恐怖が伝染していた。

 曰く、フェン王国の沖には、大魔導を扱う恐ろしく強力な海魔がいる、と。




パ皇戦の後にやりたいことがいろいろとあるのでとっとと済ませたいのだが、首都攻撃!終わり!とかにしちゃうと早すぎるというジレンマが。

ところで原作とほとんど変化のないような転移後世界の勢力のみの戦いやら報告後の反応の分量多めのものやらは単なる原作のコピーのみになりそうなので思い切ってカットしているのですが、これで大丈夫ですよね……


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10 それぞれの苦悩

―大東洋諸国会議

 

 これは、大きな出来事が起きた場合に臨時的に開かれる会議である。参加国は文明圏外の国々で構成される。

元々会議の提唱国が文明圏外の国であったため、列強のパーパルディア皇国や、第3文明圏の国々は「会議は必要が無く、無意味」として不参加となった。

 会議に文明圏の国々はいないため、過去に開かれた会議では、国同士の会議としては珍しく、比較的に本音を交わすオープンな会議が行われてきた。

 今まで行われた会議では、パーパルディア皇国の動向等が会議の主題となることが多かったが、今回は違う。

 今回の大東洋諸国会議の目玉は急遽現れた新興国家、「日本」についてである。

 

「これより大東洋諸国会議を開催します」

 

 各国の代表には、いままでに日本が起こした代表的な出来事が記されていた。

  ここで、ロデニウス大陸での日本のありえないほどの武勇伝が誇張でないということを、諸々の国が認識し始める。

 

「今回の参加国は日本と国交を開いている国が多くを占めるが、共通認識としては、日本がとてつもない力を持った国だということじゃ」

 

「各国の認識をお願いしたい」

 

 マオ王国の代表が挙手し、話始める。

 

「我が国は日本とは国交が無いが、かの国をとても危険な存在とみなしている。何故ならば、気に食わないロウリア王国を滅した。しかも、圧倒的な戦力で、たったの1回の戦いでロウリア王国ほどの大国の陸軍主力が叩き潰されている。いつこの力が自分達に降りかかってくるかが不明である。この国はとても危険だ。」

 

 次に、トーパ王国が話し始める。

 

「トーパ王国です。我々は、日本を危険とは思っていない。彼らは自分に対して危害が加えられない限り、決して自分からは襲ってこない。しかも、超技術の書かれた本が、彼らの国では普通に書店に売っており、それを他国が買う事を妨げない。日本がいるだけで、その国と関わった国は、技術水準が上がる。日本はパーパルディア皇国以上の技術を持っている。」

 

「シオス王国です。我々も、トーパ王国と同じ考えです。こちらから攻撃しない限り、彼らは何もしてこない。

 

パーパルディア皇国のように貿易、技術供与のために奴隷の差し出しを言ってくる訳でもない。

 ロウリア王国の案件は、クワトイネ公国からの食料輸入が途絶えたら、餓死者が出るという、特殊な状況下だったようだ。彼らは文明が進みすぎているだけなのだ。

 

「先日うちの外交官が日本からの本屋で、「武器の歴史」という本を見つけましてな。参考までに紹介したいのですが、パーパルディア皇国の歩兵に配備されている、プリントロック式のマスケット銃と呼ばれる最新兵器ですが、その本に載ってましたよ。300年以上前の兵器であり、今では骨董品としての価値があるそうな。日本軍の規模は知らないが、少なくとも技術においては、列強の最新兵器が彼らの300年以上前の骨董品、そう、彼らは進みすぎているのだよ」

 

 話は続く

 

「それに……はっきり言って、列強のワイバーンロードをあっさりと叩き落とす彼らが、もし攻めてきたら、はっきり言って手のうちようが無いよ。我々全てが集まっても、ロウリア王国の全軍よりも弱く、そしてそのロウリア王国は日本の兵を1人も倒せなかった。 

 日本とどう付き合うかを考えたほうが良い」  

 

「クワ・トイネ公国です。我々は彼らの国から様々なインフラを輸入し、生活水準が劇的に向上しつつあります。我々も彼らを友好国として歓迎すべきと考えます。」

 

「アワン王国です。我々大東洋諸国は、日本をうまく活用し、パーパルディア皇国の脅威と暴走をいかに避けるのかに力を注ぐべきです。ここ10年くらい、皇国はやりすぎだ。」

 

 

 会議は、日本とは敵対せず、パーパルディア皇国に対しては、事態の推移を慎重に見守る

 方向で声明を出す事となった。

 

 

「……違う、そんなに楽観的に構えていい相手ではない……」

 

どこかで誰かが、そんなことを呟いていた。

 

 

 

 パーパルディア皇国、皇国監査軍東洋艦隊所属、特A級竜騎士のレクマイア。彼は困惑していた。

 

 レクマイアは、フェン王国への懲罰的攻撃の際、不運、否、幸運にも航空機の至近通過によって乗騎から落下し、客船に収容された。その後取調べを受ける。

 

 敵はどうやったのかは知らないが、自分は打ち落とされた。仲間は皆死んだ。

 取り調べ室には誰もやって来ず、無機質な音声が淡々と応対してくる。蛮族め。人が出向くことすらしないとは、コケにしているのか。

 

 皇国の技術のすばらしさを説き、文明圏の国々よりも皇国が遥かに進んでいる事を告げる。

 まして、文明圏外の国からすると、比べ物にならないほどの技術と大きな規模の軍を有しており、それを余裕で支えることの出来るとてつもない国力も伝えた。

 新興国の軍は時として、世界を知らないため、伝えるだけで効果があり、自分への扱いもより丁重なものになるだろうと思った。 

 しかし、日本なる国の取調べ官らしき声は動じる事無く、淡々としたままで、何の感情も見せなかった。

 

 私の日本への認識は、彼らの国に近づくにつれて変わっていく。

 

 最初に驚いたのが、周囲に存在した海魔や黒い鉄竜。あれは日本の兵器らしい。凄まじい力を持っているあれらが。

 

 私は日本の首都、東京に移送された。

 ここで、私は信じられない物を目にする。

 天を貫かんとする巨大な建造物群、鉄の地竜が町には溢れ、空にはワイバーンロードよりも遥かに速く、そして大きい鉄竜が飛び回る。

 その規模、技術はパーパルディア皇国の首都、皇都エストシラントよりも遥かにすごいものだ。

 そしてあの取り調べの声やその他、様々なところに見える、コンピュータという物たちの存在。街中の市民の、奔放な様子。

 

「この国は……危険だ。」

 

 私は日本への認識を180度転換する。

 何故このような国が突然現れたのかは極めて謎だが、このままだと外務局がいつものように、「蛮族を滅する」といって日本に戦争を仕掛けるだろう。

 監査軍の竜騎士部隊を全滅させたのだから、プライドの高い皇国が黙っているはずが無い。

 外務局の人間が極めて高飛車な態度で日本の外務省職員を怒鳴りつける姿が目に浮かぶ。

 皇国がこの国に戦争を仕掛けた場合、皇国の被害は相当なものとなろう。

 もしかすると、列強の地位を失いかねない壊滅的なものとなるかもしれない。

 

 竜騎士レクマイアは皇国の未来を憂うのだった。

 

 

 

―第2文明圏 列強国 ム―

 

 

 晴天、雲は遠くに少し浮かんでいるのが見えるのみであり、視界は極めて良好である。

気候はあたたかくなってきており、鳥たちはのんびりと歌い、蝶の舞う季節。

 技術士官マイラスは軍を通じて伝えられた外務省からの急な呼び出しに困惑していた。

 呼び出しに応じて空港にやってきたマイラスに対して、 外交官がゆっくりと口を開く。

 

「何と説明しようか……。

今回君を呼び出したのは、正体不明の国の技術レベルを探ってほしいのだよ」

 

 マイラスは第八帝国の事かと思い、

 

「グラ・バルカス帝国の事ですか?」

 

 すると、思わぬ答えが返ってくる。

 

「いや、違う。新興国家だ。本日ムーの東側海上に白い船が1隻現れた。海軍が臨検すると、日本という国の特使がおり、我が国と新たに国交を開きたいと言ってきたのだ。

 我が国と国交を開きたいと言ってくる国は珍しい事では無いが、問題は、彼らの乗ってきた乗物だ。……帆船では無いのだよ。」

 

「まさか……」

 

「そして魔力感知器にも反応が無いので、魔導船でもない。機械による動力船であると思われる」

 

「やはり、そうですか……」

 

「そして、さらに問題なのが、我が国の技術的優位を見せるために、会談場所をアイナンク空港に指定したら、飛行許可を願い出て来たのだよ」

 

「当初は、外交官がワイバーンで来るのか、なんて現場主義な国かと話題になった。飛行許可を出してみたら、飛行機械を使用して飛んで来たのだよ」

 

「っ!」

 

「先導した空軍機によれば、相手は時速250km程度の飛行速度であったと言っていた。

 試しに、空戦したら、勝てそうか聞いてみたが、絶対に負けないと空軍パイロットは答えておったよ。ただ、パイロットには見栄を張る癖のある者も居る。彼がどうだかは知らないが。まぁ、我が国の最新鋭戦闘機よりも遅いから問題ないとは思うがね。

 まあ、飛行機械を持っているというだけでも、十分警戒すべき相手ではある」

 

「しかし、飛行原理が我々の知っている航空機とはちょっと違うようなのだよ。見たことが無い飛行機械だった。そこで、マイラス君、君の出番となった訳だ」

 

「彼らの言い分によれば、日本は第3文明圏フィルアデス大陸のさらに東に位置する文明圏外国家だ。しかし、持ってきた飛行機械の技術はパーパルディア皇国を超えているようだ。我が国との会談は1週間後に行われるが、その間に彼らを観光案内し、我が国の技術の高さを知らしめると共に、相手の技術レベルを探ってくれ」

 

「解りました」

 

 技術士官のマイラスは、久々に技術者魂の震えを感じた。未知の飛行機械とはいかなるものだろうか?

 立ち去ろうとした外交官が足を止め、振り返る。

 

「あ! そうそう、日本の使用した飛行機械は、今空港東側に駐機してあるので、まずは見ておいてくれたまえ」

 

 外交官は立ち去った。

 

 

 

―5分後

 

 

 

 マイラスは駐機場にある日本という国外交使節の乗ってきた飛行機械を眺め、唖然としていた。

 

 ……プロペラが上についている。2つ、上下に重なっているような状態だ。これを回転させて飛んできたらしいが……

 良く見ると、プロペラ自体が翼の断面を持っている。

 

 翼前部で翼に当たった空気は上下に別れ、翼後部で再び一緒になる。翼は上部が下部に比べ、膨らんでいるので、下部に比べ、同一時間での空気が通る距離が長く、結果空気の流速も速くなる。

 ここにおいて、翼上部と下部で気圧差が生じ、上に向かう力が発生する。

 

 ただ。これを回転させて飛ぶとなると、超強力なエンジンが必要だ。

 さらに、プロペラを回すと、その回転方向と逆方向にモーメントがかかり、そのままだと機体がプロペラと逆回転をし始める。

 恐らく上下に積み重なっているプロペラを逆回転させて打ち消しているのだろうが、その技術的難易度は測り知れない。

 それに、超強力なエンジンを積んでいるにしては、機体が小さいように見える。エンジンに付き物の吸気口や排気口といったものも見当たらない。液冷なのだろうか?

 ただ一つ言えることは、これを造るのは非常に難しいということだった。

 

 

 

 応接室へ向かうマイラスの足取りは重い。

 日本国のヘリコプターと呼ばれる飛行機械は、おそらく我が国では、エンジン出力不足で作る事が出来ないだろう。

 少なくとも、エンジンについては彼らは我々よりも優位である可能性が高い。

 

 しかし、我が国には高さ100メートルクラスの超高層ビルや、時速が380kmも出る日本の航空機よりも速い戦闘機、そして技量の高いパイロット。そして最新鋭戦艦ラ・カサミがある。

 

「どうなる事やら……」

 

 マイラスは日本国の使者が滞在する部屋の扉をノックした。

 

「どうぞ」

 

 扉をゆっくりと開ける。

 中には、二人の男がソファーに座っていた。

 

「こんにちは、今回会議までの一週間ムーの事をご紹介させていただきます、マイラスと申します」

 

 日本国の使者は立ち上がり、挨拶をする

 

「外務省の御園です。今回ムー国をご紹介いただけるとのことで、ありがとうございます。感謝いたします。

こちらにいるのが、補佐の佐伯です。」

 

 丁重な言葉使いだ。日本の使者は、すでに出発準備を整えていた。

 

「では、具体的にご案内するのは、明日からとします。長旅でお疲れでしょうから、今日はこの空港のご案内の後に、都内のホテルにお連れします」

 

 マイラスは、空港出口へ行く前に、空港格納庫内に使者を連れて行く。

 

 格納庫に入ると、白く塗られた機体に青のストライプが入り、前部にプロペラが付き、その横に機銃が2機配置され、車輪は固定式であるが、空気抵抗を減らすためにカバーが付いている複葉機が1機、駐機してあった。

 ピカピカに磨かれており、整備が行き届いた機体だと推測される。

 

 マイラスは説明を始めた。

 

「この鉄龍は、我が国では航空機と呼んでいる飛行機械です。

 

 これは我が国最新鋭戦闘機「マリン」です。最大速度は、ワイバーンロードよりも速い380km/h、前部に機銃……ええと、火薬の爆発力で金属を飛ばす武器ですね。を、付け1人で操縦出来ます。メリットとしては、ワイバーンロードみたいに、ストレスで飛べなくなる事も無く、大量の糞の処理や未稼働時に食料をとらせ続ける必要も事もありません。空戦能力もワイバーンロードよりも上です。」

 

 自信満々に説明する。

 日本人とやらは、口をあけて、「はー」とか、間抜けな言葉を発している。

 

「は―……複葉機なのですね―」

 

 御園とかいう外交官が驚いて見ている。

 

「プロペラで飛ぶんですねー。やっぱり電動かな?」

 

「いや、これは、多分レシプロエンジンだろう。」

 

「そうか……このレトロな感じが良いですねー……」

 

 

 佐伯とかいう人間は、我が国の最新鋭戦闘機を見て「レトロ」という言葉を発した。

それに、電動かとも。

 いったいどういう意味で言ってるんだ?

 

「内燃式レシプロエンジン以外にどういった選択肢がありますか?蒸気機関もレシプロといいますよね?まあ、蒸気機関は重くて出力が弱く飛行には適さないのですが」

 

 マイラスの問いに、佐伯という人間が答える。

 

「日本には、ジェットエンジンと呼ばれる航空機に適した小型高出力エンジンがありますので……。それから、電気モーターで動くのも。

レシプロエンジンは……現役機では無かったかな?」

 

ほほう、日本は、やはり、高性能エンジンを所有しているようだ。探りを入れた甲斐があった。

 

「ほう……日本にも航空機に適したエンジンがあるのですね。是非構造を教えてもらいたいものです」

 

「簡単な設計図や原理であれば、日本と国交を結んでいただけたら、書店でいくらでも購入できます。しかし、高出力化や、エンジンの燃焼温度に耐えうる素材の具体的造り方については、私からは何とも言えませんが……」

 

「簡単な設計図が手に入るのですね。それは面白い。個人的には是非日本と国交を結べる事を願いますよ」

 

 もしかしたら、日本は航空機技術についても我が国を凌駕しているかもしれない。

 マイラスは、確認のため、探りを入れる。

 

「日本の航空機はどのくらい速度が出るのですか?」

 

 航空機は速度が重要だ。速度が上がれば、一撃離脱戦法により、速い方が圧倒的に有利である。

 御園と佐伯は目を合わせる。

 ヒソヒソと話をしている。

 

(今の最新鋭機のナンバとスペック、知ってるか?)

 

(資料を読んでおいた。)

 

(ナイス! ……で、言ってもいいものだろうか。)

 

(どうせ国交を結べば知れるだろうし…… お、一応聞いてみたけど、NDCはいいってさ。)

 

(そうか。)

 

「……戦闘機であれば、我が軍の主力戦闘機であるCP-237が最高速度マッハ3.3くらいです。音速の3.3倍程度ですね。旅客機であれば、対気速度で時速900kmくらいが巡航速度です」

 

「っ……!!!!」

 

 マイラス、絶句。

音速超えだと!?そそそ、そんな馬鹿な!

 

「ははは……是非見てみたいものです……では、こちらへ……」

 

 マイラスは、日本の使者を、空港外へ案内する。ムーの誇る自動車に乗せてホテルへ向かおうとしたが、もう嫌な予感しかしない。

 空港外には、日本の使者を乗せる車が待機していた。馬を使わず、油を使用した内燃機関を車に積むまでに小型化した列強ムーの技術の結晶。

 日本の使者は、驚く事無く、車に乗車する。

 車は出発し、動き始める。特に驚いた様子はない。やはりそうか……

 

「日本にも、車は存在するのですか?」

 

 マイラスは尋ねる。

 

「はい、乗用車であれば、3年前のデータですが、日本で約6131万台が走っています」

 

「そ……そんなに走っていると、道が車で一杯になってしまいますね……」

 

「コンピュータがばっちり制御してくれていますからね。安心ですよ。」

 

 

 コンピュータ?マイラスは精神的に疲れてきた。

整地された道をホテルへ向かう。

 やがて、高級ホテルが見えてきた。

 車はホテルに横付けされ、皆はホテルへ入る。

 

「明日は、我が国の歴史と、我が国の海軍の一部をご案内いたします。今日はごゆっくりとお休み下さい」

 

 マイラスは、日本の使者にこう伝え、ホテルを後にした。

 

 

 

 翌日、日本の使者は、ムー歴史資料館にいた。簡単にマイラスは説明を始める。

 

「では、我々の歴史について簡単に説明いたします。まず、各国にはなかなか信じてもらえませんが、我々のご先祖様は、この星の住人ではありません」

 

「へ!?」

 

 日本の使者は驚きのあまりポカーンとした顔をしている。

 マイラスは話を続ける。

 

「時は1万2千年前、大陸大転移と呼ばれる現象が起こりました。これにより、ムー大陸のほとんどはこの世界へ転移してしまいました。これは、当時王政だったムーの正式な記録によって残されています。

 これが前世界の惑星になります」

 

 マイラスは、地球儀を取り出す。外務省の御園は、見覚えのある地理配置に驚愕する。

 

「な……な……な……これは!」

 

 ふふん、日本人め、前世界が丸い事に驚いているな。

 

「前世界は丸かったのです。この世界も、水平線の位置からして前世界の2倍強はありますが、丸いはずです」

 

「地球だ!!!!」

 

「はい?」

 

「これは……地軸の位置が少し違うのか?しかし、この配置は紛れも無く地球だ。む?南極大陸がこの位置にあるということは、氷に覆われてはいなかったということか・・・」

 

 なんだか、日本人が大陸を指差して驚いている。説明してやるか。

 マイラスは、南極大陸を指示し、説明を始める。

 

「ちなみに、この大陸はアトランティスといいまして、前世界では、ムーと共に、世界を2分するほどの力を持った国家でした。ムーがいなくなった今、おそらく世界を支配しているでしょうね」

 

「ちなみに……」

 

 と言って、マイラスはユーラシア大陸の横にある4つの大きな島が集まっている場所を指示する。

 

「この国は、ヤムートといって、我が国一の友好国だったそうです。しかし、転移で引き裂かれたため、おそらく今はアトランティスに飲み込まれているでしょうけど……」

 

「ちょっとよろしいですか?」

 

 御園がマイラスの発言に割って入る。

 

「どうぞ」

 

「日本を説明するのに、一番良い方法が出来ました」

 

「はい?」

 

「日本も転移国家です。同一次元にあった星かは不明ですが、おそらくあなた方の昔いた星から転移してきたとおもいます。

あなたが今指差したこの4つの島が現在の我が国でしょう。そして……」

 

 御園はバッグから地図を出す。

 

「これが現在の日本地図、そしてこれが私たちの過去にいた世界の地図です」

 

 日本地図、そしてメルカトル図法を使用した世界地図がマイラスに見せられる。

 その地図には、たしかにムーのいた、ムー大陸の存在しない前世界地図があった。

 マイラスに衝撃が走る。御園が言葉を続ける。

 

「我々の元いた世界にも、1万2千年前に、突如として海に沈んだ大陸があると、言い伝え程度ですが残っています。

あなたが今アトランティスと呼んだ大陸は、南極になってしまっているようですね。もしかしたら、地軸がずれたのかな?」

 

「ははは……まさかの歴史的発見ですね。あなた方日本とは、個人的には友好国となってほしいものです。まさか……そんな事が……。

後で、すぐに上に報告いたします」

 

 その後、マイラスは簡単に歴史を伝えた。

 

 転移後の混乱、周辺国との軋轢、魔法文明に比べての劣勢、機械文明としての出発、そして世界第2位の国家へ。

 ムーの歴史は、転移してからは苦難の歴史だったようだ。しかし、単一国家独力で車や飛行機を開発しているのは驚きの限りである。

 

 一通り説明が終わり、日本の使者を海軍基地へ案内する。

 日本に対してムーの……列強で最強かもしくは2番目の海軍力を誇るムーの姿を見せ付けてやらなければならない……

そこでマイラスは、日本の艦艇の魔写のことを思い出す。

 

「そういえば、貴国の軍艦の写真を見ました。とても変わった形をしていて、私にはどういう船なのか見当もつかない。あれは、どういう船なのですか?」

 

「我々の軍艦?」

 

「ええ。黒い……鯨のような。」

 

「ああ……地球の最新鋭戦闘艦ですね。」

 

「地球の……?」

 

日本の使節団は地球の現状について説明した。

ひとつになった世界。しかし制度上はそのままであること。様々な国際協調的制度をとりあえず入れておく便利な枠組みとして使われた国連、通称となった国際連邦、平和で豊かな世界、平和の中での戦争、そして、コンピュータ。

 

「地球は……そのようなことになっているのですね……

このフネは……武装は無いように見えますが……」

 

「ええっと、よく見れば……多分、ここのコブが砲塔でしょう。」

 

「1門だけですか?火力不足になるし、この配置は射界にも問題があるのでは?」

 

「精度も威力もありますし、連射も効きますので。

射界は……水上艦の戦闘も、航空機のようにドッグファイトをするようになっていたそうですよ?

詳しいことは知りませんが……」

 

衝撃的な情報の数々。マイラスは、これから自国の紹介を続けるにあたって気が重くなると同時に、自分たちの古巣である地球、自分たちの歩む機械文明の極致に触れて、未来への期待も抱いていた。



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11 戦争前夜。

地球軍とか日本国内が絡まなかったり日本の人間が直接出てこなかったりすると変更点がなさすぎてカットが酷い。


「写真を見ただけで負ける事が解るとは……。これは……技術レベルが50年くらい開いていないか!?」

 

  列強2位、ムー、統括軍所属、情報通信部m情報分析課の技術士官マイラスは、新興国グラ・バルカス帝国の戦艦、グレードアトラスターの写真を分析し、ムーの行く末を案じていた。

 

 そして、ムーとは離れているため、直接影響は無いであろう国の艦の写真が一枚ある。

 東の文明圏外国家、ロウリア王国とクワ・トイネ公国の戦争、誰もがロウリア王国の圧勝と分析していたが、それを覆した国の船らしい。

 魔写した者の情報によれば、これは日本とかなんとかいう国の船で、単に戦闘艦、としか呼ばれているのを見聞きしたことがない、とのことらしいが……

 

「うーん……全く解らん」

 

 まず、形状が異様だ。真っ黒な鯨のような艦体に、前後に航空機の翼のようなものがついているように見える。

形状からして造船技術についてはかなりのものを持っていると見えるのだが、武装らしきものが一つも見当たらないし、そもそも人が乗れそうな場所もない。船内にはもちろん乗れるスペースはあるのだろうが、艦橋も窓もどこにもないのではまともに航海できるとは思えない。

 体当たりで敵船を沈めたという情報があるので、武装を搭載していないことについては、技術レベル的にそういったものがない、という可能性もあるにはあるのだが、影のように黒い色、滑らかな形状、サイズ、そして艦橋も舵も帆もない、というのは、そこまで低い技術レベルの産物とは思えない。

 この艦に関しては、設計思想も用途も全くもって理解できない。

 

「訳の解らない国が、突然出てきたな……」

 

 技術士官マイラスの苦悩は続く。

 

 

 

 その頃、文明国の一つ、アルタラス王国がパーパルディア皇国に滅ぼされていた。脱出した王女ルミエスは、王国の無事を祈りながら、商船にゆられていた。商船は南海海流にのり、ロデニウス大陸のクワ・トイネ公国の沖合いまで流されてきていた。

 商船は、運良く日の丸国旗を掲げた白い船から臨検を受け、食料のつきかけていた商船乗組員は日本に保護され、王女ルミエスも日本に保護を求めることとなる。

 

 

 

 パーパルディア皇国においては、皇帝の命によりフェン王国及び日本を叩き潰すことが決定され、本国艦隊が派遣された。

 

 フェン王国では平和な風景が続いていた。日本からはそこそこの量の観光客がやって来ていたが、その、戦争の影を全く意識していないかのような振る舞いを見て、フェン王国の民の中には彼らを心配する人もいた。フェン王国の民は、列強パーパルディア皇国の影に怯えていた。

 

 日本から再びパーパルディア皇国に派遣された使節団は、今までと異なりやけに丁寧な対応を第三外務局長直々に受けていた。

 

 パーパルディア皇国の本国艦隊、大艦隊がフェン王国に向かっていた。戦争はすぐそこまで近づいていた。



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12 開戦

 ついにパーパルディア皇国の艦隊がフェン王国、ニシノミヤコに襲来した。

日本からコンピュータシステムの普及していない友好国向けに売り出されていた物理媒体の書籍の中から軍事関連のものについて読み漁っていた兵士たちの作戦によって少しは奮戦したのだが、結局は数と技術力の差に圧され、この日、フェン王国軍の死者1000名、パーパルディア皇国軍の死者20名という結果で、フェン王国ニシノミヤコにある西城は陥落した。

 

 

 

―パーパルディア皇国 皇都エストシラント 第1外務局

 

 実質的に日本国担当かつ全権大使となり、外務局監察室から第1外務局所属となった皇族のレミールは、この日、日本国の外務省の担当者に対し、

 

『すぐに来るように』

 

 との内容で命令書を出した。

 命令書は第3外務局を通さずに、直接日本国外務担当者のいるホテルへ届けられる。

 少しイケメンの朝田と、丸型の体系をした補佐の篠原はその書面を見て困惑しつつもすぐに出向いた。

 

 出向いたその先には、豪勢な椅子に腰掛けた20代後半くらいの美しい銀髪の女性が座っていた。

 細い体系をしており、頭には金の環をかぶっている。

 彼女の鋭い眼光によって睨みつけられた朝田、篠原は一瞬硬直する。

 日本国外務省の一行は皇国の使者から促され、椅子に着席する。

 

 美しい女性は話し始める。

 

「パーパルディア皇国、第1外務局のレミールだ。おまえたち日本に対しての外交担当だと思って良い」

 

 

「日本国外務省の朝田です。こちらは篠原といいます。

 急な用件との事ですが、どのようなご用件でしょうか?」

 

 沈黙。

 

「いや、今日はお前たちに面白いものを見せようと思ってな……皇帝のご意思でもある」

 

 高圧的な声でレミールは語りかける。

 

「それはそれは、いったい何を見せていただけるのでしょうか?」

 

 レミールは使いの者に目を走らせる。

 ドアが開き、1m四方の立方体の水晶のようなものが現れる。

 

「これは、魔導通信を進化させたものだ。この映像付き魔導通信を実用化しているのは神聖ミリシアル帝国と我が国くらいのものだ」

 

「はぁ……」

 

 朝田は間の抜けた声を出す。

 デカイテレビ電話のようなものだろう。

 いったい何が始まるのか。国力を見せ付けたいだけなのだろうか。

 

「これを起動する前に、お前たちにチャンスをやろう」

 

 地球人からするともはや見なくなって久しい紙媒体の資料が配布される。質も少し悪かった。

 フィルアデス大陸共通言語で書かれたその紙には、パーパルディア皇国から日本国への、あまりにも高圧的な要求が記載されていた。

 

「なっ、何ですか!?これは!!!」

 

 拳を強く握り締め、朝田は抗議を行う。

 この内容では属国以下であり、植民地状態、その中でも最悪のものである。飲めるはずも無い。

 

「皇国の国力を知らぬ者が行う愚かな抗議だな。おまえたちの国は比較的皇国の近くにあるにも関わらず、皇国の事を知らなさ過ぎる。

 当初いきがっていた蛮族も、普通なら皇都に来れば意見が変わる。態度も条件も軟化する。

 しかし、おまえたち日本はこともあろうか、当初から治外法権を認めないだの、通常の文明圏国家ですら行わないような……そう、まるで列強のような要求だ。

 お前たちは皇国の国力を認識できていない。もしくは外交の意見が実質的に本国に通っていない。

 通っていても、それを認識する能力が無い。」

 

 話は続く。

 

「皇国監査軍は運悪く海魔の襲撃に遭って撤退してきたが、それがなければお前たちのやフェン王国は、とっくのとうに滅ぼされるか属国にされている。」

 

 一時の沈黙が流れる。

 

「では問おう。日本の外交担当者よ。その命令書に従うのか、それとも国もろとも滅びるのか」

 

 命令書の内容に従える訳も無いが、いきなり列強と戦争をしても良いといった指示も受けていない。

 

「我々は、国交を開くために来た外交担当者です。この内容は、とても日本国政府が飲むとは思えませんが、本国に報告し、対応を検討いたします」

 

 銀髪の女、レミールは悪魔のような笑みを浮かべる。

 

「ほっほっほ、そう言うと思ったぞ……やはり蛮族には教育が必要なようだな。皇帝陛下のおっしゃるとおりだ。」

 

 レミールは続ける。

 

「哀れな蛮族、日本国民よ。お前たちは皇帝陛下に目を付けられた。しかし、陛下は寛大なお方だ。お前たちが更生の余地があるか……教育の余地を与えてくださった」

 

 目の前の女は何が言いたいのか。真意を計りかねる。

 

「ホッホッホ……これを見るがいい!!!!!」

 

 レミールが指を鳴らすと、眼前の水晶体に質の悪い映像が映し出される。

 朝田はその映像を見て絶句する。

 

「っ……!」

 

「フェン王国のニシノミヤコを攻め落としたが、こやつらは、我が国に対する破壊活動をする可能性があるのでな……スパイ容疑で拘束している」

 

 

 首に縄をつけられ、各人が縄で繋がり、1列に並べられている人々、その数は100名近くにのぼる。

 老若男女区別無く彼らは捉えられており、その服は朝田の良く知る服だった。

 皆脅えきった顔をしている。

 

「ひ、人が……! 彼らはフェン王国に観光に来ていただけで、何の罪も無い人々だ。首に縄を……即刻釈放を要求する!!!」

 

 しばしの沈黙。

 

「要求する?蛮族が皇国に要求するだと!?立場をわきまえぬ愚か者め」

 

 レミールは通信用魔法具を取り出す。

 

「処刑しろ」

 

「なっ!!!!」

 

『何だ、一体どうしてこんなことをするのですか!?』

 

ズシャッ!!

 

 剣が一列に並べられた一番左の男の首にめり込み、鮮血がほとばしる。その剣は首の途中で止まる。

 

『な……何するんだ! 高かったんだぞ、この体!お前ら……!』

 

『何だ!? こいつ、化け物か!?』

 

『構わん、撃ち殺せ!』

 

 傍らに控えていた兵士によって、マスケット銃が発砲される。

一番左の男は胴体に銃弾を受けて崩れ落ちる。

画面の向こうでは阿鼻叫喚の地獄が広がっていた。

老人、若者、子供、男、女、性別のわからない外見をした者……区別なく、刃で、あるいはマスケットで、殺されていく。

 

「や……やめろぉぉぉぉぉ!!!! お前たちは、自分が何をしているのか、わかっているのか!!!!」

 

(こちらNDC、緊急。軍部戦略コンピュータより、攻撃許可の申請、及び攻撃に向かっている旨の通達。)

 

(だ、そうです!)

 

(やれ!!!! 構わん、あの人たちを助けるんだ!)

 

 水晶体からは地獄が放映され続けている。

 

「お前たちだと……蛮族風情が皇国に向かってお前たちだと!!?」

 

「蛮族蛮族と偉そうにしているがな、お前のようなどうしようもない未開人が、何を! いや、お前などはもはや人ですらない、サルというのすら生命に失礼だ、ゴミですらリサイクルはできる。何なんだ、お前は!?」

 

「何だと……貴様ァ!!!

おい、そこのお前、こいつを……いや……

…………皇帝陛下は何故このような愚か者たちに教育の猶予といった御慈悲を与えるのか……。まあいい。そんな大口を叩けるのも、いつまでかな?ニシノミヤコには200名程度の日本人たちがいた。

 フェン王国の首都アマノキにはいったい何人の日本人がスパイ容疑にかかるかな?

 止めることが出来ない自分たちの国力の無さを痛感するが良い。

 そして、本国が消滅の危機にさらされているということを学ぶがよい。我が国に首都までも征服された時の、お前たちの顔が見ものだよ。だから、まだ生かしておいてやる。」

 

「必ず、後悔することになる…… 今すぐにでもだ!もう少しその古臭い中継映像を繋いでいるんだな!俺達は帰らせてもらう。

 追って捕まえようなどと考えるなよ、命が惜しければ。

地球人は、誰かのしたことの責任を、そいつの所属する集団にまで被せるようなことはしない。パーパルディア皇国の全国民が報復を受けることはないだろう。感謝するといい。」

 

「どこまでも無礼な……! その顔、どうなるか見ものだな!」

 

 

 会談は終了した。

日本側の交渉団が帰路に就くなか、中継を切らせようとしたレミールらの目に、中継の向こうで真っ黒な飛行物体に一方的に排除されるパーパルディア皇国の兵士たちの姿が映った。その瞬間、中継は切るまでもなく途切れた。



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13 『日本』の意思

―フェン王国首都 アマノキ

 

 

 剣王シハンは上機嫌だった。

 

「よし!!!よし!!!」

 

 顔は満面の笑みである。

 日本国が対列強戦に参加することを決めた。

 フェン王国単独ではおそらく国力の差からしてやられていたであろう。

 皇国監査軍ワイバーンロード部隊を赤子の手を捻るかの如く倒した日本の戦力が皇国本軍をも相手にしてくれる。

 フェン王国は救われた。

 

 剣王は日本国へ全面的に協力するよう部下に下命した。

 

 

 

 剣王シハンは日本国、正確には日本国の外交支援コンピュータと国家戦略コンピュータおよび国連日本エリア地域戦略コンピュータと国連軍日本エリア駐留軍戦略コンピュータに会談の要望を受け、彼はその要求を受け入れた。どのような話がなされるのか、興味があったというのもある。

直接話がしたいとのお互いの希望から、城の焼け跡に仮設された謁見場にスピーカーとマイクが設置されて会談が行われる。4機のコンピュータたちは高速相互リンクで意見を一致させて会話しており、一人を相手にするのと感覚的には同じだ。通達にやってきた外務省の一団はごく一部を残して引き揚げていた。ともすればシュールな光景でもあったが、場の雰囲気は冷たく重苦しいものであった。

 

『貴国、貴殿は、パーパルディア皇国の襲撃の可能性を認識していながら、我々を紛争に巻き込むべく故意に、あるいはそれを期待して軍祭に招待したのではないか』

 

「何を言う、滅相もない。どうしてそのようなことを言うのだ。」

 

『あなたやマグレブ兵士長を始めとする貴国側の人間の発言、貴国の得ていたはずの情報、そして置かれていた状況からの推測である。』

 

「推測? それでこの私を疑おうというのか?」

 

『この推測は十分に可能性のあるものである。事実であれば重大な案件でもあるので確認したが、しかし、事実か否かは本題には関係がない。』

 

「事実かどうか、関係がないだと?その本題とは何だというのだ。」

 

『我々は、貴国と共にパーパルディア皇国と戦うが、しかし、無条件でというわけではない。我々には陸戦戦力が不足している。近隣の友好国に派兵を要請する予定ではあるが、当事国であるあなた方にもそれを要請する。武装に関しても、支援の用意はある。』

 

「……何? そんなことは、当然ではないのか。もちろん被害が出るであろうことは痛いが……」

 

『わたしたちは、あなた方の戦闘能力に注目している。要請する戦力には、剣王シハン、あなた自身も含まれる。』

 

「何だと…… わし自身は、構わん。いつでも国のため、戦って死す覚悟はある。だが……わしはこの国の王だ。簡単には死ねん。」

 

『繰り返しになるが、装備の支援は行う。事前の航空攻撃その他によって敵戦力はほとんど排除されるであろうので、あなたが死亡する危険性は極めて小さい。我々が期待しているのは占領された土地の奪還作戦である。戦闘機や艦艇のみでは難しい内容である。』

 

「ニシノミヤコは我が国の土地だ。それも当然のことだろう。どうして改めて依頼する必要があるのだ?」

 

今までの即答とは異なり、一瞬の間が空く。機械でなければ、武術の凄まじい達人などでもなければわからないほどの違いではあったが。

 

『あなた方に戦闘の意思があることを確認することが目的である。それは確認された。

以前ニシノミヤコに上陸した勢力はすでに排除されたが、ニシノミヤコを完全に奪還するには至っていない。まずはパーパルディア皇国側の援軍を排除し、ニシノミヤコを奪還する。その後の侵攻作戦にも、フェン王国には協力を要求する。詳細については追って連絡する。

では、あなた方の作戦能力に期待する。以上である。』

 

「わかった。」

 

 

 会談という形ではありつつも、どこか一方的な印象を受ける会話の後に、コンピュータたち……の端末となっていた機材は引き揚げていった。

剣王やその他フェン王国の重鎮たちは驚くとともに不思議に思っていた。

軍祭に招待したのが巻き込むための故意だったわけではないが、対列強戦に際して日本の協力を得られることを期待していたのは事実であったことに驚いた。

そして、確認するようなことでもないフェンの戦闘への協力に対して念押しをしてきたこと。

地球ではこのような状況で助けられる小国が戦わない事例もあったのだ、と考えることもできるが……

 何か、重大な裏があるのではないか? フェンの首脳たちは言い知れぬ不安を抱いていた。

 

 

 

 将軍シウスの命を受け、ニシノミヤコに上陸した皇国陸戦隊は明日、ニシノミヤコを出撃し、約100km南東にある首都アマノキに向けて出撃する。

 進撃ルートについては、部隊に地竜もいるため、山間部を迂回しコウテ平野を抜けアマノキに至るコースを選定する。

 陸将ドルボは自分たちが勝つことを疑ってはいなかったが、不安を覚える。こんな事は初めてだった。

 

 今回我々は、文明圏外の蛮族、日本民族の一部殺処分を行った。

日本民族は怒り狂って襲ってくる可能性がある。

通常の国であればよくある事、あっさりと滅すれば良いだけの事だ。

しかし……

 

 最大の懸念となっていたのが、突然出現するようになった、黒い魔獣。

海魔型と飛竜型が確認されているそれらは、いずれも規格外の強大な力を持ち、すでに皇国監査軍やニシノミヤコへの先遣隊が犠牲となっている。

災害のようなものなのだが、どうもそれらは知性的で組織的な行動をしており、そして、何故かいつも日本に都合の良いタイミングで現れる。

 

 まさか、あれらは日本の味方ではないのか。考えるだけで戦慄が走る。

古の魔法帝国は魔獣を制御する技術を持っていたという。

文明圏外の新興国にそんな力があるはずがない、と言われているが、日本の捕虜の魔写が辛うじて本国に届いていて、そこに映っていたものたち。空中に浮かぶ、何か文字情報の媒体か、映像のようなものが微かに見えたし、殺処分された捕虜の、明らかに人間のそれではない死体、というよりは残骸、の様子。身に着けている、明らかに高い文明を伺わせる物品・服飾の数々。

 これが本当に、文明圏外の新興蛮族の持っているようなものだろうか?

 

 陸将ドルボは不安を抱えながら出撃準備を行うのだった。

 

 

 

 長い飛行だった。

 ワイバーンでは絶対に出来ない航程だ。

 ムーを飛び立って5日目の朝、日本に派遣されるムーの観戦武官を乗せたレシプロ旅客機、ラ・カオスは日本に接近してきていた。

 間もなく日本の防空識別圏と呼ばれる飛行圏内に突入し日本の戦闘機の護衛が来るはずだ。

 

「どんな戦闘機が来るんだろう?」

 

 事前に日本にはレシプロ以外の推進方法があると聞いていた技術士官のマイラスはワクワクしながらそれを待つ。

 マイラスとは裏腹に、戦術士官のラッサンは冷めている。

 

「どうせ大した事は無い」

 

 そういった話をしていた時、

機内にいても解るほどの雷鳴の轟きが2回聞こえる。

条件反射的に首を窓に向ける。

 

 矢じりのような形をしたプロペラが付いていない戦闘機とすれ違う。

 その機はすぐさま旋回し、速度を合わせて旅客機と並ぶ。

 

「は……速い!!!」

 

 二人は唖然とする。

 

「プロペラが無いぞ!!!!」

 

 ラッサンは戦慄する。

 ムーの旅客機は地球の無人戦闘機、CP-237の先導により、日本へ近づく。

 

 やがて日本の領土の上空に入り、福岡空港が近くなる。

 空から見る初めての日本。眼下には人口140万人の先進的な都市が見える。

 やがて、見たことも無いような立派な滑走路に着陸する。

 

 自分たちの乗ってきた旅客機が……列強ムーの技術の結晶である最新鋭機がおもちゃに見えるほどの、巨大で美しい機体が空港の駐機場には多数並んでいる。

 

「とんでもない国に来たな……」

 

 マイラスは自分の任務の重要性に身震いするのだった。

 

 

 

 パーパルディア皇国、皇都エストシラント、そこの第1外務局にて、レミールはとある文書を受け取っていた。

 

「手紙で外交通知だと? 日本がか?」

 

「はい。正式なものだとのことです」

 

「人の1人も寄越さないとは、なんという無礼な……!

すぐに捨ててやりたいぐらいだが、まぁ、蛮族どもが何を書いているのか興味がある。

読んでやろうか……」

 

その外交文書を読んだレミールの顔がみるみる紅潮し、眉間には皺が寄り、手は怒りに震える。

 

「何だ、これは……!」

 

 

 我々には対パーパルディア皇国の戦争を行う用意がある。

すでに知っていることだろうが、我々の戦争遂行能力は貴国を圧倒的に上回っている。

以下の条件を受け容れるのであれば、我々は貴国への攻撃を中止し、友好関係を築くこともできる。

 

・現在フェン王国およびその周辺に存在する、又は向かっている戦力について、帰国させる又は放棄すること。

 

・フェン王国における地球人、すなわち恐らくあなた方の認識するところの日本人の殺害事件について、その首謀者を我々に引き渡し、その後の処遇について一切関知しないこと。首謀者として我々が認識しているのは現在のところ、貴国皇女レミール殿又は皇帝ルディアス陛下、あるいはその両者である。

 

・我々に対し賠償金を支払うこと。

 賠償額に関しては前述の殺害事件において殺害された被害者の遺族に一人当たり100000000パソ分とする。

 支払いの形式については貴国の技術レベルを鑑みて決定するが、金である可能性が極めて高い。貴国がより高い技術力を持っているのであれば追って交渉を行うものとする。

 

・フェン王国との講和交渉の席に着くこと。我々はフェン王国側の立場を取ることを表明する。

 

 以上が戦争回避の条件である。これは最後通牒であることを明言する。

戦争を行うのであれば、全人員に対し、白旗を振ることによって降伏の意思を示すことができる旨と、我々は降伏した者を保護し、我々への損害に直接関与していない又は命令によるやむを得ないものであれば罪を問わない旨とを周知しておくことを強く推奨する。

 以上。

 

 

「あの愚かな蛮族どもが……舐めたことを。愚かだ、あまりにも愚か過ぎる。」

 

 冷静な口調を保ちつつも内心怒りに冷静さを失っていたレミールは、

非常に良質かつ折られていたにも関わらずほとんど折り目を残していない紙の、自国のものとの差や、明らかに手書きではなく、しかし印刷にしては美しすぎる字面について、終ぞ気に留めることはなかった。

 

「日本に要求の拒否と宣戦を伝えろ、すぐにだ!」

 

 

 

 それらは海面付近の低空を飛行していた。低空とは言っても、水しぶきを上げないよう十分な高度を取ってのものではあったが。

真っ黒な飛行物体、地球の機械、最新型の無人戦闘機、CP-237。

新生産の、低コスト化を重視された無誘導爆弾やレールガンポッドを装備したそれらは、一見すると編隊を組んでいるようには見えないほどに散開し、マッハ3で突き進んで行く。

その先に居るのはパーパルディア皇国軍の竜母艦隊。

編隊から数機が姿勢を変えないままに急速上昇して離れていく。

異界の、地球と同じ蒼い空の下、攻撃開始は間近だった。



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14 皇国の狼狽

 フェン王国、ニシノミヤコ沖合い約30km先の海上を航行する、パーパルディア皇国皇軍海上竜母艦隊を、拡散編隊を組んだCP-237の索敵システムは、その配置を含めて正確に把握していた。

 前方の護衛戦列艦から警戒音が上がる。

 

「何だ!?」

 

 艦隊副司令、アルモスは前方を注視する。

小さく見えづらいが、黒い粒のようなものが見える。

 

「未確認騎です!」

 

「敵か!?」

 

「不明、しかし警告に応じません!」

 

「では敵だ、竜騎士隊、緊急発進!」

 

 指示を出した時には、それらははじめに見た時よりもはるかに大きくなっていた。

 なんて速さだ。アルモスは驚愕する。艦隊の竜母では精鋭の竜騎士たちが緊急発進しようとしている。素晴らしい手際の良さと素早さだったが、しかし、間に合わない――!

 そう思った次の瞬間には黒い物体、矢のようなそれは彼の真上を通り過ぎており、それを目で追ったと思ったのと同時に、彼は後ろからの爆風に吹き飛ばされた。

 

 同じような光景が艦隊の全ての艦で繰り広げられていた。

CP-237編隊の、無誘導爆弾による攻撃。撃沈艦や消滅した艦は居なかったが、動ける艦もまた居なかった。

 旗艦である、対魔弾鉄鋼式装甲をふんだんに使用した、美しく、強く、そして大きな竜母ミールや、パーパルディア皇国の誇る最新鋭の100門級戦列艦フィシャヌスを含めて。

 

 

 

 フェン王国ニシノミヤコの沖合いに展開しているパーパルディア皇国大艦隊。

 その大艦隊の旗艦、パーパルディア皇国の技術のすべてをつぎ込んだ最強の120門級フィシャヌス級戦列艦パール、その艦上にいた皇軍の将シウスは西を見たまま動けずにいた。

 その額はびっしりと汗に濡れている。

 西の方角で猛烈な爆発が連続してあった。

 その後、皇国竜母艦隊、計20隻と全く連絡が取れなくなっている。

 すべての艦が魔通信に応答せず、そして信じられない事に、全ての艦の魔力反応が消えている。

 非常に短期間で20隻もの列強艦隊が本部に通信を発する暇も無く沈む原因は、将軍シウスには想像できなかった。

 艦隊はすでに戦闘態勢に入っており、確認のために砲艦4隻が現場海域に向かい始めている。

もしも竜母艦隊が消滅していたら。

 シウスの脳裏に最悪なシナリオが浮かぶ。

 既にニシノミヤコには基地が造られ、陸戦隊主力は、首都アマノキに向け出陣し、支援攻撃のために砲艦20隻も出発した。

 もう戦いは後に引けない。

 今戦いは皇帝陛下の関心も高く、例え、敵が強かったとしても、撤退や敗北の2文字は許されない。

 

 一笑に付した監査軍の報告書が思い出される。

 シウスの思考は駆け巡る。

 

 

 

 竜騎士小隊長バルオスは眼下の惨状を見て、言葉が出なかった。

 突然竜母が連続して大爆発を起こした。そのようにしか見えなかった。

 彼は配下の12騎を引き連れ、ニシノミヤコに着陸する事を決める。

 

 そこに突撃する2機のCP-237。35mmレールガンポッドを搭載している。

2機の動きは完全にシンクロしていた。

まずヘッドオンで3騎を撃墜、竜騎士たちの上を通ってすれ違うその時、進行方向を変えないまま、その場で下向きに回転しながら1騎を撃墜、反転した後は加速、後方からの射撃で2騎を撃墜。一機につき6騎、計12騎を撃墜させて竜騎士隊を全滅させた。

 その後は速度を落とさず大きく反転して、元々進んでいた方向へと向きを戻して飛び去って行く。

 

 

 

 ニシノミヤコから首都アマノキに至る途中にコウテ平野という平野がある。

 平野部ではあるが、大地に栄養は無く、作物が育たないばかりか、水の吸収性が良く、雨は大地のはるか下層まで一気に落ちるため、水の確保が出来ない。

 よってここは無人の平野であり、木も育たず、短い草の生えるのみの草原となっている。

 

 パーパルディア皇国陸戦隊約三千はこのコウテ平野に至り、布陣を整えていた。

 この平原を抜けると首都アマノキに至る。

 この場所では、フェン王国軍が死に物狂いになって突進してくる事が想定されていた。

 陸将ドルボは南側を注視する。

 南の海上には、支援攻撃のための砲艦20隻が見える。

 列強戦列艦の雄姿を見る。

 このような平野部での戦闘は皇国軍の得意分野であり、また、艦艇からの支援が行いやすい土地でもある。

 一呼吸おいて、彼は命令を下す。

 

「よし、進軍するぞ!!」

 

 上空にワイバーンロードが12騎天空に舞い上がり、進軍進路上の偵察を開始する。

 横1列に並んだ地竜の先頭に、隊は進む。

 

「首都アマノキを落したら、そこの人間はやりたいようにするよう兵に伝えろ!!」

 

「ウォォォォ!!!」

 

 兵たちは、様々な想像をし、士気も上がる。

 

「今回も……皇国が勝つ!!」

 

 その良き、突如としてはじけるような炸裂音が鳴り響く。

 

「何の音だ!!!」

 

 音のする方向を見る。

 上空、偵察に向かおうとしていたいたワイバーンロード12騎がバラバラに粉砕され、肉片、いや、もはやただの液体となったその残骸が降ってくる。

 

「な、何だ!!??」

 

 ドルボは海を見る。

黒い鯨のようなものがそこに浮かんでいた。

それはパーパルディア皇国の支援艦隊に対して攻撃を仕掛ける。魔獣が放つ魔導を受けた戦列艦や砲艦たちは跡形もなく消滅しているように見えた。

 

「例の魔獣だと!?」

 

 このようなフェン王国に近い沖合に、どうして。

どうしてこうも、皇国に都合の悪い時に……!

ドルボは混乱しつつも、なんとか兵たちに遮蔽物に駆け込むように指示を出す。

 魔獣がさらに魔導を放つのを見た時、ドルボは気が付く。魔法陣も何も伴わないそれは、しかし、発砲炎を伴っているように見えた。

 

「大砲……?」

 

 魔獣が、大砲を積んでいる?いや、しかし……

ドルボの脳裏に、処刑された日本人(地球人)の様子が浮かぶ。これまでの戦いでも都合悪く現れた魔獣たち、目の前のそれの、どこか機械的な様子。話に聞いた機械文明の、魔導の光を伴わない大砲。この沖合に居ながら、被害を受けた様子のないフェン王国。ロウリア王国を圧倒したという日本の軍……!

 

「まさか……! やはり……!」

 

 気が付いた時には、地球軍戦闘艦の、対地砲撃用砲弾による砲撃が着弾している。

有り余る運動エネルギーからその砲弾は地面に突入し、そこで起爆、地面を、突然噴火が起こったかのように内側から吹き飛ばし、土砂と共に自らの破片と爆風をまき散らす。高速、高温となった土砂や爆風だけでも周囲の兵は死に絶えた。

そしてその破片、装甲兵力にも充分な威力を持つよう、鋭い弾丸状に割れるよう調整された砲弾の破片。これは小口径の対戦車砲の砲撃に等しかった。地竜などもそれを浴びて死に絶える。

 1発1発は対地砲撃用の艦載砲としては小口径であり、その場を根こそぎ破壊するほどの攻撃範囲を持っていない。しかし、高速で、執拗に思えるほどに連射されるそれらを浴びたパーパルディア皇国軍の居たその場所には、深く耕され、所々赤熱した地面と、亡骸とすら呼べない残骸と化した皇国軍の成れの果てだけが残った。

 

 

 ムーの技術士官マイラスと戦術士官ラッサンは急造された小屋からドローンでそれを眺めていた。

 ムーの誇る艦隊、否、この世界で今までに見たどんな艦とも全く異なる外見のそれ。ラ・カサミよりは一回り小さいが、しかし、攻撃的な印象を受けるそれは、ともすればラ・カサミよりも強烈な威圧感を人に与えるように思えた。いや、威圧感というより、これは、異質さからくる不気味さか。

 その船は1隻で列強パーパルディア皇国の20隻もの艦隊に戦いを挑み、一方的に撃破してしまった。

そして陸の戦力も。砲の射程距離は長く、常識では考えられない速さで連射できる上、凄まじい威力を持っている。

 

 そして何よりも驚くべきことは、敵も自分も海も動いているにも関わらず、百発百中の射撃精度。対地攻撃にしても、広い範囲を薙ぎ払うために艦本体の向きを変えてまで照準する場所を変えて行っていた。それはつまり、あの砲が極めて高い精度を持っていて、散布界が狭いということを意味する。

 砲そのものの精度はもちろん、波による船の動揺も考慮すればそれは極めて難しいことだ。あの艦は高機動をしていても全くと言っていいほど動揺していない。それにあの砲、一様に黒い上砲塔の旋回範囲が狭かったので分かりづらいのだが、わずかに見えた動いている部分からすると、砲身はかなり短いはずだ、どうやってあのような精度を得ているのか、全く見当もつかない。

 自分たちの軍事の常識がガラガラと音をたてて崩れ落ちる。

 マイラスは技術的考察に耽るのだった。

 

 

 

 超F(フィシャヌス)級戦列艦パールの艦上で、将軍シウスは悩んでいた。

 フェン王国を支配せんがために派遣された皇軍、当初の戦力であればあっさりとフェン王国を支配できていたはずだった。

 現にニシノミヤコはあっさりと落ちた。

 第1外務局の皇族レミールの命令により、日本人観光客を処刑してから何かが変わり始めた。

 先ほど竜母艦隊のあった所に偵察に行った砲艦4隻から竜母艦隊壊滅の報が来た。

 壊滅的被害ではなく、壊滅である。

 

 上空を飛んでいたワイバーンよりも圧倒的な速さを誇るワイバーンロードの12騎も超高速で飛翔する鉄竜により、あっさりとなす術も無く撃墜されている。

 そして、何よりも懸念すべきことは、そろそろ魔信不感地帯から出るはずの陸戦隊とも、支援攻撃のための戦列艦とも連絡が取れない。

 

「まさか……全滅か!?」

 

 いや、そんなハズは無いと否定したい自分もいるが、現に竜母は壊滅し、ワイバーンロードを落した鉄竜は常識を遥かに超える速さだった。

 

「南西方に未確認艦……いえ、あれは、例の黒い海魔です、黒い海魔が4!!!!」

 

 見張り員から報告があがる。

 

「何!? 例の奴らが来やがったか!!!」

 

 将軍シウスは皇軍に戦闘を指示する。

黒い魔獣。しかし彼は今までの状況から、また、今では半ば本能的に、それらがただの魔獣ではないことを確信していた。恐らくは日本、あの国と何か関係がある。

 

(だとしても、まだ、数において、我が軍が圧倒的に有利だ!!!)

 

 後に、フェン王国の戦いと、歴史上では一括りにされた海戦が始まろうとしていた。




パ皇の言う『砲艦』というのは戦列艦の呼び方が違うだけなのか、他の艦種なのか。
とりあえずここでは、ボムケッチとか、あるいは弾速や装甲貫徹力を犠牲に大口径でありつつ反動を減らしたような砲を舷側に搭載した、対地攻撃に特化した小型の戦列艦やフリゲート、コルベットのようなものだろうと解釈しています。
まぁしばらくはどんな船だろうとすぐやられるのであまり関係はありませんが……


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15 皇国の狼狽2、平和の終焉

ーフェン王国 ニシノミヤコ沖合い

 

 パーパルディア皇国、皇軍の戦列艦183隻を含む284隻の大艦隊は向かい来る『黒い海魔』4体を迎え撃つため、戦闘態勢に移行していた。

 列強たる皇国の技術とプライドの結晶たる100門級戦列艦隊が前に出る。

 パーパルディア皇国最大最強であり、大艦隊の指揮をとる超F級戦列艦パールに乗艦する将軍シウスは敵を眺める。

 旗艦は艦隊中央部に位置し、指揮をとる。

 

「ダルダ君、君は勝てると思うか?」

 

 隣に立つ艦長ダルダに尋ねる。

 

「これほどの大艦隊と、最新の戦列艦をもってすれば、神聖ミリシアル帝国の有名な第零魔道艦隊を相手にしても負けますまい。

 海戦の強さを決するのは、戦列艦の質と量です。

 第3文明圏最高の質と、戦列艦183隻の量を超える者など、ここには存在しません。

 いくら黒い海魔が性能的に我が方を凌駕していたとしても、砲が少数相当の魔導、そしてたったの4隻ではどうにもなりますまい。」

 

 艦長ダルダは絶対の自信を見せる。

 戦列艦隊は魔力を出力最大にした風神の涙を使用し、帆いっぱいに風を受け、波を裂きながら進む。

 海魔は散開して進んで来る。

 黒い海魔は見たことが無いほど大きい。

 黒い海魔の放つ魔導は、大砲のように実体弾を放つということが確認されていた。

 真っ黒で分かりづらいが、前部に砲らしきものが見える。

 砲の形から見て、第2文明圏の列強ムーの戦艦ラ・カサミの回転砲塔に近いものなのだろう。

 生き物であるはずの海魔に、回転砲塔? いやな予感がする。

 1発あたりの威力は、我が方の100門級戦列艦よりも大きそうだ。

 

「速いな。」

 

 敵の速度が自分の知る船の常識からかけ離れている。

 これほど速いなら、魔導砲を当てるのも大変だろう。

 

「まあ、それは敵も同じ事か…。」

 

 敵との距離は、近い所で10kmを切っている。

その時、敵の前部がわずかに光った。

 

「ん? あれは……発砲したのか?」

 

「まだ10km近く離れているぞ。何の儀式だ?」

 

「何か、威嚇のつもりでしょうか?」

 

 決して砲弾が届くはずのない距離からの発砲。

 将軍シウスと艦長ダルダは敵の意図を計りかねる。

 突如として皇軍の最前を進んでいた100門級戦列艦が激しく発光する。

 

 地球型戦闘艦、M133主力戦闘艦の、口径約64mmの複合式艦砲から発射された新型対木造船用砲弾は、正確にパーパルディア皇国、皇軍の100門級戦列艦に着弾し、単純な運動エネルギーで対魔弾鉄鋼式装甲をあっさりと貫通、内部でその威力を解放した。

有り余る運動エネルギーと炸薬の威力が最高に近い効率で戦列艦に浸透し、その構造材を完全に破砕、破片へと変えていく。

 

「戦列艦ロプーレ轟沈!!!」

 

 新型の対木造船用の砲弾はコストパフォーマンスのために威力も抑えられていたため、戦列艦ロプーレは粉末と化すことはなかった。だが、それだけだ。内部はめちゃくちゃだった。

 

「な……ど……どういう事だ!?」

 

 将軍シウスとパール艦長のダルダは眼前の現実の理解に苦しむが、考える間もなく見張り員からの報告があがる。

 

「敵、連続発砲!!!」

 

「な……なんという連射速度だ!」

 

 艦隊の前方に連続して火柱が上がる。

 

「戦列艦ミシュラ、レシーン、クション、パーズ轟沈!!!」

 

 沈み行く船が多すぎて、報告が間に合わない。

 敵は未だ我が方の射程距離のはるか先にいる。

 砲を放ち続けながら敵は我が艦隊に突撃してくる。

 真っ直ぐ突っ込んで来るのは迂闊か? いや、このペースならこちらは射程に入る前に全滅する!

 全弾命中し、発砲音の数だけ沈み行く味方の船。

 

「全弾当たるとは、どんな魔法だ!」

 

「こんな……こんな現実があってたまるかぁぁぁぁ!!!!」

 

 将軍シウスは閃光と共に、強烈な揺れと衝撃に見舞われ、壁に叩きつけられる。

 

「左舷に被だ……」

 

 120門級戦列艦パールの左腹に小さな穴が開く。

艦内をかき回したエネルギーは、奇跡的にも外部へと抜けていき、左舷の穴は大穴となる。

 海水が艦内に流れ込み、バランスを崩したパールは、徐々にその巨体が傾き始め、やがて転覆、装甲の重みでゆっくりと沈んでいった。

 

 将軍シウスは海を漂う。

 流れてきた木材に捕まり、海上から皇軍を見る。

信じられないほどの短時間で、第3文明圏最強の国、列強パーパルディア皇国の大艦隊は1隻も残らず、海の藻屑と消えた。

 

 パーパルディア皇国皇軍284隻は国連軍日本国駐留軍の戦闘艦4隻と交戦、284隻全てを失い全滅した。

 その数時間後、ニシノミヤコに残存していた皇軍はその主力を失ったため、ニシノミヤコを奪還に来たフェン王国軍に降伏、列強と2カ国連合軍の戦いは、2カ国連合の圧勝に終わった。

 フェン王国のニシノミヤコでは、この日を記念し、船の形に組み、中によく燃えるものを詰めた木を焼く火柱祭りが毎年開催されることとなる。

 

 

 

皇族レミールは、第1外務局の会議室に向かっていた。

 本来なら「敵」となった日本のために出向く事は考えられないが、

 『フェン王国での戦いの後に会談をする』とレミール自身が日本側に伝えており、日本国外務省の担当もこれを了承していた。

 局地戦とはいえ、決して負けるとは思っていなかったため、会議室へ向かうレミールの足取りは重い。

 今回は、つけ上がった日本が前回よりもさらに高飛車な態度に出てくる事が予想された。

 

「……小賢しいな」

 

 しかし、考えようによっては、日本に早急に宣戦布告を伝える事が出来るため、組織としての事務手続きは楽になる。

 そして、日本国の外交官の口から蛮族の国民どもに、列強たるパーパルディア皇国が本気で殲滅戦をしかけてくる事が伝えられ、日本国民は恐怖のどん底に叩き落されることだろう。

 まあそれも良いか、と思いつつ、レミールは会議室のドアを開ける。

 中には見慣れた顔が2人、朝田大使と補佐の篠原である。

 会議が始まる。

 

「……フェン王国での戦いの結果は知ってのとおりと思いますが……。

 パーパルディア皇国の民のためにも、前回提示した日本国からの要求、考えていただけましたか?」

 

 日本国からの要求は、大まかに言えば重要参考人(皇帝)を含む、日本人虐殺に関与した被疑者の引渡し、そして被害日本人への賠償及びフェン王国への謝罪と賠償であった。

 なお、被疑者には皇族レミールも含まれる。

 

「フ……解りきった事を聞くのだな。断る。」

 

「そうですか、では日本国としましては……。」

 

「こちらから伝える事がある。」

 

 レミールは朝田の発言を遮るように話し始める。

 

「おまえたちは、我が国の属国の独立を促す者を保護する等、皇帝陛下の怒りを買いすぎた。

 自分たちが何をしているのか、全く理解できていない蛮族はこの世には要らぬ。

 お前たちは列強の力をなめ過ぎている。そして、お前たちの国の意思決定を行う者たちは、自分たちだけは安全だと思っているのではないか?

 甘いな。

 その愚かな考え方が、自分たちを滅ぼすことになる。

 その考え方が……皇帝陛下の猛烈な怒りを買う事になり、自らを滅ぼすことになってしまうのだ。

 哀れな日本国民よ、我が国、パーパルディア皇国は日本国に対し宣戦を布告、全国民を抹殺する事を決定した。」

 

「はぁ……宣戦布告は理解できましたが、全国民を抹殺するとは、どういう事ですか?」

 

「その言葉のとおりだ。」

 

「国を挙げて、我々を皆殺しにすると?」

 

「そうだ、お前たち2人も、国に帰った後、侵攻してきた我が国の兵により殺されるだろう。

 今殺さないのは、私からの慈悲だ。」

 

「……そうですか。」

 

 朝田が無表情になる。

 

「他に、何か言うことは?」

 

無関心、というような、極めて冷淡で、何の感情もこもっていない声だった。

 

「無い。おまえたちこそ、何か言うことがあるのではないのか?」

 

 朝田、篠原は席を立つ。

 

「予定が変わりました、特にありません。それでは。」

 

 そのまま、レミールを一瞥もすることなく、日本国外務省のパーパルディア皇国交渉担当の朝田と篠原は退室した。

 

 

 

 日本国外務省の朝田と篠原は、第1外務局を出た後、荷物を取りにホテルに向かっていた。

 途中、急に馬車が停車する。

 

「何だ?」

 

 黒い服を着た男が1名、馬車の前に立つ。

 男は馬車に近づき、朝田に話し始める。

 

「少し話しがしたいのだが、その先に私の屋敷がある。そこで話は出来ないか?」

 

 話しかけてきた男に、朝田と篠原は見覚えが……パーパルディア皇国第3外務局局長の姿がそこにはあった。

 

「カイオス殿? 申し訳ないが日本国と貴国との交渉は終わった。

 もう話す事は何も無い。失礼する。」

 

 朝田たちは立ち去ろうとする。

 

「待ってくれ!!今後戦争がどのように推移するにせよ、双方に全く話し合いの窓口が無いのは不幸な事だ。

 せめて私と貴国だけでも連絡手段を確保しておきたい。

 魔信を渡そうとも思ったが、信用出来ないようであれば貴国の準備する通信機器を私の屋敷に置くといった方法をとっても構わない。」

 

「正気ですか?貴国の事だ。内容が上に知れたら、貴方もタダではすまないのではないですか?」

 

「ああ、タダではすまないな。

 しかし、貴国も唯一の窓口である通信機が置いてある場所には『空襲』はしないだろう?

 皇族の近衛隊には、私の息がかかっている者が何人もいる。

 通信機を設置するだけだ、貴国にとっても悪い取引ではないと思うが。」

 

「空襲。 ……貴方は我が国について、少しは調べたようですね。

 解りました。その話、本日中に上に報告しましょう。」

 

 カイオスの屋敷は海に面しており、敷地も広大であったため、後日秘密裏に通信機と発電機が設置された。

 

 

 

 パーパルディア皇国の恐ろしい宣言にも関わらず、フェンでの虐殺事件の被害者の周辺を除いては、日本の民衆はこの戦争に無関心だった。

地球人にとって戦争とは、機械が勝手に戦い、リザルトを出すだけのものだ。無関心で問題はなかった。

今回も問題はない、彼らが何もしなくとも、知らなくとも、パーパルディア皇国は機械たちと一部の政府の人間によってカタをつけられる。何も変わらなかった。



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16 アルタラスの戦い、列強の落日、人間存在

 16機、4機4編隊のCP-237戦闘機が、異界の超高空を飛行していた。

惑星の丸みがわかり、上空が黒く見えるような空。

その機体たちの前方に一機、空に紛れるカラーリングの大きな機体が飛んでいた。

 響き渡るのは磁励音とファンが風を切る音。地球では民間機などで一般的な、電気モーターを使ったダクテッドファンプロペラ機だ。

空に紛れる色で分かりづらいものの、全長に対して異様に長いその翼の上部には、高効率のソーラーパネルが貼られている。

完全に電力を賄って半永久的に飛ぶことはできないものの、地上で補給した電力の消費を大幅に節約し、極めて長い航続距離を得る事ができる。

電気で飛ぶはずのその機体はしかし、その胴体に大量の燃料を抱えていた。

 その機体は空中給油機だった。当然無人の自律型。CP-237が同時に4機ずつ、給油機の背後につく。給油機の主翼から伸びた給油ホースが、極めて精密かつ正確、繊細な制御でもってCP-237の、開いたスリット内部の給油口へと差し込まれる。

給油を終えたCP-237たちは離れ、次の編隊が給油に入る。これを繰り返し、給油を完了したCP-237たちは加速、ここまでやってきた時と同じように、マッハ3での巡行へと入る。

CP-237はその速度や規模に対しては極めて長い航続距離を持つが、戦術戦闘機としての範疇を飛び出しているわけではない。この空中給油機の存在によって、どこへでも飛んでゆける長大な作戦行動範囲を得ることができるのだ。

 地球の戦闘機が向かう先、それは、日本国が現在戦争状態にある、列強パーパルディア皇国の首都、皇都エストシラントだった。

 

 

 

 パーパルディア皇国、アルタラス王国派遣部隊所属の竜騎士アビスは、アルタラス王国北東での哨戒任務に就いていた。

 晴れわたった空、澄みきった空、少し肌寒い風を受けながら、彼は愛竜のワイバーンロードを飛ばす。

 島国だったアルタラスはすでに皇国の支配下となり、目立った反乱も無い。

 北に500kmほどで祖国があり、南は海を挟んで文明レベルの低い蛮地、東南東にはロデニウス大陸となっており、旧ロウリア王国のような覇権主義の国は付近に無い。

 アルタラス王国の北東には海上に30門級及び50門級戦列艦隊に約5隻の艦がいる。

 パーパルディア皇国は、他国との戦闘状態である事が多く、基本的には平常時も有事も、軍の動きに大差は無い。

 現在は、フェン王国、そして日本国と戦争を行っているようだが、遠くでの出来事であり、いつものように今日の任務も終わる。

 アビスはそう思っていた。

 その時、何か甲高い、それでいて地響きのような音を彼は聞いた。

 

「なんだ?」

 

 そうして振り向いた次の瞬間、彼の意識はこの世から永遠に消失した。彼の乗る竜のものも同じく。彼らは揃って海へと落ちていく。

 彼を襲ったのは、国連軍、CP-237型戦闘機、その35mmレールガンポッドから放たれた弾丸だった。この口径の対兵器弾として使われることは少ない、ホローポイント弾。隠密性と対軟目標における威力を考えた選択。弾速でもって、ワイバーン程度の鱗や木造船になら充分な威力を発揮する。

 高出力と高い運動性にものを言わせた攻撃と離脱により、すでに高空へと消えていた。その塗装は、空に紛れこむような、そして姿勢のわかりにくい、青系統と白系統で灰色がかったロービジ迷彩塗装。今まで標準であった真っ黒な塗装は、対レーザー塗料の都合であった。これによってレーザー兵器はその威力を戦闘機の装甲でも危なげなく防げる程度に落とすことができる。その都合により迷彩塗装にできず、姿勢や遠近感を狂わせたり、夜闇に紛れる目的で真っ黒の塗装がされていたのだが、レーザー兵器を運用する敵が確認されていないことで、夜間以外には目立つ黒色ではなく迷彩塗装が施されたのだった。

 

 

 パーパルディア皇国アルタラス王国派遣部隊の戦列艦5隻は付近近海を哨戒活動中だった。

 艦長ダーズは通信員に尋ねる。

 先ほど哨戒中の竜騎士が、魔力探知レーダーから反応を消していた消息を絶ったのだ。

 竜騎士が消息を絶った場所は現在の艦の位置から近く、緊張が走る。

何か、微かに甲高い音が聞こえたと思ったとき、見張り員から報告が上がる。

 

「あれは……未確認飛行物体確認!近いです!それに速い!」

 

「総員、戦闘配置に就け!」

 

 パーパルディア皇国の軍船が戦闘態勢に移行する。

未確認物体は空に紛れるような色をしていてわかりにくい。

 

「呼びかけ、応答ありません! そのまま突っ込んできます!」

 

「やむを得ん、敵と断定する! 対空魔導砲用意!」

 

「了解、対空魔導砲用意!」

 

 砲に弾を装填、発砲しようとするが、その時には未確認物体――国連軍、CP-237戦闘機――はすでに発砲、離脱している。

 

「そんな、速すぎるぞ!!」

 

 話している間に弾が着弾、右舷の表面が砕ける。

損害は軽微ではあるが、対魔弾徹甲式装甲を砕いた。

飛行戦力のものとしては、凄まじい威力だと言える……

 

「あの速度、この攻撃、色は違うが、まさか、例の黒い魔獣か!?」

 

 飛び去り、旋回するCP-237に対して対空魔導砲が発砲される。

装填されているのは、装填を迅速にするため、綺麗に燃え尽きるように薄く燃えやすくされた紙、あるいは布に包まれた大量の小型の砲弾。

それを花瓶の一種、あるいはニンニクに近い形の、底部が膨らみ、砲身が長めの魔導砲に装填し、発射する。散弾。

発射された後には、威力にはほとんど寄与しない程度の弱いものではあるが、砲弾が発火して目立つ。

 攻撃のために直線飛行するところを狙わない限り命中することはあまりないが、威嚇としては充分役に立ち、命中すれば飛竜を撃墜できる、対空用の魔導砲だった。最上砲列甲板に並べられたそれらが射撃される。第一射の小数は威嚇、命中しない。

 次に、再攻撃のために向かってくる敵騎に対し、十分引き付けて、

 

「撃て!」

 

 斉射。1層だが濃密な弾幕が展開される。これなら命中するか、と思った瞬間。

 

「何!?」

 

 CP-237戦闘機は機体の向きを変えないまま急上昇してその散布界から逃れる。跳ねるような、あまりにも急激な機動。あれでは、もしも竜騎士が乗っていたのなら潰れてしまうのではないかと思えるほどだ。

そのままピッチダウンして姿勢を変えつつ、動きは保っている。機首を海面に向けたまま艦隊に向かって進み……

 

「まずい! 回避だ!回避! 総員衝撃に備えろ! 何か、攻撃が、来るぞ!」

 

 真下に戦列艦を捉えて急降下。

果たしてその機が放った攻撃は、低コスト型無誘導爆弾だった。ただし、その高速力への、急速な加速の勢いを乗せて。

連続して投下、加速の勢いによってほとんど射出といえるような様相となっているそれを行いながら機体の姿勢をひねって命中地点を散らす。

 戦列艦に命中、木張りの甲板を運動エネルギーであっさりと貫き、艦内部で爆発、弾薬に誘爆、他の艦も後からやってきた機体によって同様に攻撃される。

 パーパルディア皇国戦列艦、海上の5隻は木っ端微塵に粉砕され、その姿を消した。

 

 

 

 アルタラス王国を攻めていた皇軍は、王国を占領後、東を攻めるために転進した。

 武装解除され、時々起こる小規模な反乱を鎮圧、統治するためだけの小規模の軍が残されている。

 

 首都ル・ブリアスの軍港には戦列艦20隻、そして少し離れた所に陸軍の基地、人員2千名とワイバーンロード20騎、そして首都から北へ約40kmの位置に人員2千名の陸軍基地がある。

 陸軍大将リージャックは首都ル・ブリアスを基地から眺めていた。

 傍らに立つ幹部と話をする。

 

「東の国、フェン王国に派遣していた我が軍は、全滅に近い被害を出したらしいな。

 いったい何があったのだろうか?」

 

「解りませぬ。皇軍が敗れたなど、今でも信じられません。

 敵は何千隻もの『数』で攻撃してきたのではないですか?」

 

「いや、たとえ文明圏の国が何千隻で、今回全滅した派遣軍にかかって行ったとしても、多少の被害と作戦の遅延は予想されるが、全滅はしない。

 今回の戦い、何かがおかしい。」

 

「まさか……」

 

 大将リージャックの顔が悲壮感に包まれる。

 

「まさか、ムーか?」

 

「そ……そんな!」

 

 最悪の状況が脳裏に浮かび、大将幹部は戦慄する。

 

「いや、まさかな。いずれにせよ、アルタラスは比較的本国からも近く、フェン王国からは遠い。敵がここに来る可能性は低かろう。」

 

 2人は基地に設置された建物の上から港を見る。

 見る者に威圧感を与える皇国の100門級戦列艦が誇らしげに停泊している。

 実に計20隻、通常国と比べ、比類なき強さを誇る艦。

 

「美しいな。」

 

 陸軍大将リージャックは、艦に対し、素直な感想を述べる。

 

「ん!?」

 

 美しく、穏やかな風景、その風景は突如一変する。

 眼前の100門級戦列艦スパールの艦底が少し動いたように見えた。

 次の瞬間、100門級戦列艦スパールは大きな火柱を上げ、艦を構成する部材と船員を巻き込みながら轟音と共に真っ二つに折れて港の底に沈む。

 

「何だ?事故か!?」

 

 スパールの隣に停泊していた80門級戦列艦も、スパールと同じ運命をたどり、彼は理解する。

 

「て……敵襲!!敵襲!!!!」

 

 港に停泊中の戦列艦は1隻、また1隻と失われていく。

 首都近郊の陸軍に敵襲の情報がいきわたり、戦いの準備を始めた頃にはすでに、港の船は全滅していた。

 

「な……なんという事だ!!」

 

 陸軍は末端まで含め、全員が唖然とする。

 何が起こっているのかが解らない。

 しかし、悲劇は彼らだけを見逃してはくれなかった。

 基地の中心部が猛烈な火炎に包まれ、少し遅れて衝撃波がリージャックを襲う。

 彼は無様に転げまわる。

 空を見上げる。

 爆音と共に、考えられないくらいの速度で彼の上空を飛行物体が飛び去っていく。

 何かを落としたり、高速連射される砲のようなものを放っている。

噂の『黒い魔獣』に似ているような気がするが、攻撃手段や動き、音などからして、あれは、間違いない、飛行機械だろう。

 

 その機体の表面、主張しないよう、添え物のように、機体の色に近い淡く薄いものではあるが、マークのようなものが塗装してあった。

青い四角に白の塗りつぶされていない円……いや、点線? が描かれたマークと、桃色……いや、赤か。赤い円に白い縁取りの……

 

「あれは、日本の国旗か!

通信兵!!日本の飛行機械に襲撃を受けていると本国に伝えろ!!」

 

「はっ!!!」

 

 通信兵は魔信器に向かい、走る。

 彼がパーパルディア本国に魔信を送信した次の瞬間、飛行機械の攻撃によって、彼らのいた部屋が大きく崩れる。

 

「ぐっ……、あれは、凄まじい力だ……

 だが、魔獣でないのなら話が通じるはずだ、降伏の合図をしろ!」

 

「降伏!? よろしいのですか、相手は、そして陛下は……」

 

「あの速度を見ただろう、勝てると思うか? ワイバーンオーバーロードは居ないんだぞ。」

 

「……了解しました。」

 

通信兵が旗を回して降伏の合図をする。

 

 

――こちらb-2、手旗信号を確認。データベースには存在しない。

――ATC(AirTacticalComputer)-4よりb-2、こちらのデータベースにも  存在しない。

 ATC-4はその様子から、降伏の合図である可能性を考慮する。

 ―却下。パーパルディア側には、降伏の際には白旗を上げるよう伝達 されていることを確認。

――ATC-4よりb-2、攻撃の続行を許可。意図不明。要警戒。

――b-2、了解。

 

 

 再攻撃のために再び機首を向けたCP-237戦闘機の一機、b-2が光学カメラでその様子を捉えてから、ATC-4とのやり取りやそれらの判断が行われて、攻撃を続行する判断を下すまでには、1秒よりもはるかに短い時間しかかからなかった。

b-2は35mmレールガンポッドでの攻撃を行う。精密照準、狙われたのは…… 敵兵。

 

「撃ってきます!」

 

「降伏の合図をしているのがわからないのか!? くそう、蛮族め!」

 

その射撃は、寸分違わず命中……とは行かなかった。低コスト型のガンポッドであるから、射撃精度は完璧ではない。

そのホローポイント弾によって付近の床が砕け、その破片が彼らに突き刺さった。絶命はしなかったが、戦闘は不能。b-2は撃破したと判断し、飛び去った。

 

 

 

 地球軍がアルタラス王国のパーパルディア皇国軍に攻撃を仕掛けていたのは、日本に亡命してきた王女ルミエスと日本国政府が結んだ、アルタラス王国解放の支援契約によるものだった。

 対パーパルディア皇国戦争の勝利においては必ずしも必要ではないが、この国を契機に属領が次々と独立すれば、戦争には有利に働くし、何より戦後に皇国の国力を削いで脅威を減らすことができるとあって、実行に移された。

 航空攻撃によって大方の脅威を排除した次にやってきたのは、磁励音を響かせながら海面スレスレに浮いており、船底部に大量のタイヤを装備した、大きめで、左右に階段のついているガレー船。

日本からの要請――あくまでも要請だったのだが、ロウリア側は命令に等しく受け取っていた――を受けてやってきた、ロウリア王国の再編された軍、その上陸部隊であった。

 

 ホバーした状態で帆走し、なかなかの速度でやってきた船は、浜に着陸する。その中から、ロウリア王国の兵士たちがぞろぞろと現れた。

先進的な材料によって作られた独特な質感と迷彩塗装ではあったが、鎧のスタイル自体は従来のものと大きく代わり映えはせず、装備しているのも剣とクロスボウだった。

 そんなロウリア王国の兵士たちが皇軍の残党を殲滅し施設を占領するべくなだれ込む。装備している眼鏡型端末には、絶えず戦術コンピュータからの指示が表示される。

 軍事施設や市街地での占領を目的とした陸上戦を行うにあたって、軍部コンピュータがあてにしたのは、先の戦争で勝利し、要望を通せる相手であり、人間を使った陸戦の経験と軍が存在し、人材が豊富であるロウリア王国だった。

 ロウリア軍の上陸部隊は瞬く間に施設を制圧していく。武器は皇軍に劣ってはいたが先進技術を取り入れたクロスボウは単なるクロスボウを上回る性能を持っていて必要十分な能力があったし、防具の性能、そして何より指揮連携において皇軍を圧倒していた。

 地球の戦術コンピュータは市街地や施設での戦闘や人間を使った戦闘のノウハウはほとんど持っていなかったが、その情報通信技術と演算速度だけでも皇軍を圧倒するのに十分だった。

 その上アルタラス王国の地下組織までもが戦闘に加わり、ただでさえ航空攻撃でボロボロになっていた皇軍は、敵兵をほとんど倒すこともできずに制圧された。

 

 

 

 その後アルタラスで敗北した皇軍の様子は試験中のパーパルディア皇国最新型竜母パルキマイラより飛び立った竜騎士隊によってパーパルディア皇国本国にも伝えられ、皇軍内を衝撃を持って駆け巡った。

 

 

 

 クワ・トイネ王国とロウリア王国の中間あたりに新しく出来た港町の埠頭にて、ある男が海を眺めていた。そこにもう一人、男が現れる。

 

「……あなたは、ロウリア王国海軍の将軍では?

こんなところで何をしているのです?」

 

「……今日は非番なんだ。しばらく休みを取った。

そういうおまえは、クワ・トイネの軍人か。

俺はロウリア王国軍、海将のシャークン。おまえは?」

 

「シャークン、あなたが……

失礼、私は、クワ・トイネ軍のブルーアイ。

あのロデニウス沖大海戦で観戦武官として戦いを見ていました。」

 

「ロデニウス沖大海戦で。そうか、こいつは、奇遇だな……

……俺を敗戦の将と笑うか?」

 

「いえ、あの戦力差ではどうしようもありませんでした。

あなたはよく艦隊を統率していたし、撤退の判断も英断だった、そう思う。」

 

「そうか…… 皮肉だとは思わんよ。おまえもあれを見ていたなら、そうは言わんだろう。俺も、もちろん責任を感じていないわけではないが、冷静な部分では仕方がなかったと自分でも思っている。」

 

少しの沈黙が流れる。

 

「……今頃、遠くアルタラス王国では、我がロウリアの兵が戦っている。」

 

「ええ。私も知っています。」

 

「おまえは、どう思う。」

 

「何を?」

 

「ロウリアの兵が戦わされていることについて、だ。

負けた国の扱いとしては、当然どころか装備まで与えられてむしろとんでもない上等さではある。あるが……

日本、いや、地球の、コンピュータたち。俺も奴らのことについては知った。連中は人間のために奉仕するのがその至上目的であるらしいな。日本を見ていても、そう思う。

 では……ロウリアの兵が投入されるのは、何故だ?

どうしても必要というわけではないだろう。人間に犠牲が出るような選択を、どうして採る?」

 

「それは……」

 

「花を持たせる、というのも考えられる。ロウリア軍の士気は高いし、名誉なことだとされている。だが、俺には、あれはそういう扱いには思えん。

 我が王、ハーク・ロウリア34世は王の座に残されたが、、膨大な執務に忙殺されていた。

今は落ち着いたようだが、しかし、ああいう執務などは、わざわざ人にやらせるまでもないことだろうに。

 俺には……コンピュータたちのロウリアへの扱いは、ロウリアの力を頼っているというよりは、旧式兵器をリサイクルするようなやり方に思えてならないんだ。

あのコンピュータたちがそんなことをするのか? 効率を曲げてまで尽くしている人間に?」

 

「……私は、あの戦いの時、コンピュータと少し話をした。

常識外れの戦いに気が動転して、不気味だと思った。

それで、お前は何者だと問いかけた。

わたしはわたしだ、戦術コンピュータで、要請に基づき戦争を遂行するのが任務だ、と返ってきた。当たり前のことだな。」

 

「……それで?」

 

「きっと、それが答えなんでしょう。彼らは彼らの使命を遂行しているだけだ。

 ……日本が元居た世界、地球では、また価値観が……なんというか、多様なのは確かだが、皆が多様性を認め、下手に干渉しない、という価値観は皆が一様に持つようになっていて、ある意味ではほぼ全人類で同じ価値観になることで国の争いなどがなくなって世界が一つになり、国際連合という都合の良い枠組みを利用してそこに権限を付与し、ほぼ全国家・勢力が国際連合という枠組みに加盟して一つになった。

 その様子から生まれた通称が国際連邦とか国名にエリアをつける呼び方だといいます。

 

 国際連合、あるいは地球。これが肝だと、私は思う。

コンピュータたちは、何らかの手段で対象を分別している。

ただの物体や、動物や、財産や、あるいは人間。分別できなければなにもできない。

 彼らの奉仕する対象としての人間の定義も、もちろん存在するはずだ。

それがきっと、国連コンピュータなら国連加盟国の国民、あるいはもっと広く取って地球人。

消え去ったわけではない既存の国家のそれの定義では、その国の法に基づくものでしょう。

 日本国での日本国民という他国民との区別は、実生活ではほぼ消え去ったに等しい状態にしても存在している。だから、日本国政府コンピュータでは日本国民がその奉仕対象でしょう。

 日本の主導権を握っているのは日本政府の人間だが、実際にはほとんど国連日本エリア地域戦略コンピュータと日本政府国家戦略コンピュータがやっている。

 

 地球人、国連加盟国、日本人、ロウリア王国は、このどれにも含まれていない。それに我々クワ・トイネ公国やクイラ王国のように、日本の存続にとって必要不可欠な存在でもない。

コンピュータたちにとって庇護・奉仕する対象ではないのでしょう。」

 

「……なるほどな。」

 

「現状ではいけないと思うのですか?」

 

「……いや。そもそも敗戦国としては破格の扱いだし、決して無下に扱われているわけではない。同盟国として、協力する相手としての扱いがされている。

 だが……危機感はあるな。地球人のために必要とあらば、積極的に切り捨てられかねない。

しかしそれも、普通の国家でも危機的状況ならば同じことだ。」

 

「では、どうしてこんな話を? あなたの様子は真剣だ、雑談の種というわけではないでしょう。」

 

「俺は、要するに、現状が気に食わないんだ。

冷静な考えのもとでいけないと思っているというのとは少し違う。

危機感は持っているが、多分それだけならここまでではないだろう。

 俺は、日本のコンピュータたちが俺達のことを、いざとなったら切り捨てても全く痛くない、旧式兵器のリサイクルのように見ているのが気に入らない。感情的にだ。

 都合よく利用されるのは構わん。いざという時に切り捨てる覚悟があるのも一向に構わん。

ただ、俺達のことを節約のためのリサイクルではなく、明確に役に立つ、価値のある対象として、認めさせたい。

 俺達の価値を認めさせたいんだよ、注目に値する存在として。」

 

「……なるほど。それは良い。クワ・トイネだって、結局は資源とか、あるいは地球人との友好関係で大事にされてるだけかもしれない。

そういうものや地球人のご機嫌のものではなく、我々自身の価値として、ということでしょう。

 私は正直、今でもコンピュータが不気味でならない。

あの不気味な連中に我々の価値を認めさせ、信頼させるというのは良い。

ですが、とても難しいでしょう。」

 

「そうだろうな。人間のような信頼関係というのはそもそも不可能だろうし、いくらか妥協することになるかもしれない。きっとロウリアや、クワ・トイネやらの他の連中はこんなことは考えないだろう、必須でもないからな。

 だが、それでも、俺だけでもやる、成功しないとしても、何もしないでは居られん。」

 

そして海将シャークンは一息ついて、言った。

 

「どうだ、ブルーアイさん、俺と組まないか?」




これなら1話に詰め込まなくても2話か3話ぐらい使っても良かったのでは?(今更)
でもいいや……


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17 転落する皇国

「あなた方は、何か重大な勘違いをしている。

 我々ムーは、日本に兵器を輸出などしていない。

 彼らは我々よりも機械文明が進んでいるのです。」

 

パーパルディア皇国外交陣によって呼び出されたムー国大使ムーゲとレミールを始めとする皇国外交陣との会話の最中である。

 

「文明圏外の蛮国が、第2文明圏の列強よりも、機械文明が進んでいる?そんな話が信じられるか!!」

 

「彼らは……転移国家という情報は、掴んでおられないのですか?」

 

 レミールは過去に読んだ報告書の片隅に記載されていた文を思い出す。

 しかし、彼女は現実主義者であり、そんな物語を本気になど出来なかった。

 

「転移国家などと……貴国はそれを信じているのか?」

 

「信じます。我が国以外の国では、神話としか思われていないが、我が国もまた転移国家なのです。

 1万2千年前、当時王政だったが、歴史書にはっきりと記録されています。

 日本について調査した結果、我が国の元いた世界から転移した国家であり、1万2千年前の異世界での友好国です。

当時の友好国ヤムートは、ヤマトやヤマタイコク等、様々に名を変え、日本となりて現在に至ります。」

 

 ムーゲはカバンの中から写真を数枚取り出す。

 

「これは、日本の戦闘機の写真です。

 そしてこれが我が国の戦闘機の写真……。

 見て下さい、我が国の戦闘機にはプロペラ、風を送り出す機械ですが、それが付いていますが、日本の戦闘機にはプロペラが無い。

 速度も日本の戦闘機は音の速さを超える事が出来るようです。

 

 次に、我が国の戦闘機には、ここ、人が乗る部分があり、外を見れるようになっている。しかし、日本の戦闘機にはそれも無い。

これは、単に視界が悪いだとか、カメラを使って見ているというようなものではなく、そもそも人が乗っていないのです。コンピュータという、発展した計算機の塊のようなもので制御されているようですが……

全く、どうなっているのか見当もつかない。

 

 我が国にこれを作る技術はありません。

輸入もしたいのですがまだ検討中のようです。

我が国が日本に輸出出来る兵器は無いはずで、逆に我が国がほしい立場なのです。」

 

 次に、超高層建築物が立ち並ぶ、見た事が無いほどの栄えた街の写真を取り出す。

 

「これは、日本の首都、東京の写真です。

 日本は転移前、地震の多い国だった。

 これほどの高層建築物の全てが、強い地震が来てもビクともしません。」

 

 パーパルディア皇国側の面々の顔色が一気に悪くなっていくのが解る。

 ムーゲはさらに話を続ける。

 

「軍にしても、技術にしても、日本国は我々よりも遥かに強いし、先を進んでいるのです。

 神聖ミリシアル帝国よりも上と言っても過言ではありません。

 そんな国にあなた方は宣戦を布告し、かつ殲滅戦を宣言してしまいました。

 殲滅戦を宣言しているということは、相手から殲滅される可能性も当然あります。

 ムー政府は国民を守る義務があり、このままでは皇都エストシラントが灰燼に帰する可能性もあると判断し、ムー国政府はムーの民に、パーパルディア皇国からの国外退去命令を出したのです。

 我々も間もなく引き上げます。

 戦いの後、皇国がまだ残っていたら私はまた帰ってくるでしょう。

 あなた方とまた会える事をお祈りいたします。」

 

 パーパルディア皇国側が沈黙する中、会議は終了した。

 

 ムーゲが退出した後、そこに伝令の者が現れる。

 

「ん?……なんだって!? それは、急がなくては……」

 

 会議の後、小会議室に残された第1外務局の者たち。

 ムー国大使の言が正しかったとすれば、自分たちは超列強国相手に侮り、挑発し、そしてその国の民を殺してしまった。

 さらに、最悪な事に国の意思として殲滅戦を宣言してしまっている。

 列強国の大使の言は重く、あまりの衝撃に全員が放心状態となり、具体的な対策は一切思いつかない。

 

「さて、これからどうするかな。」

 

 レミールが発言する。

 

「ムー大使が言っていた事が本当とは限りませぬ。

 ムーが代理戦争を行うために日本を利用していた場合は、勝機はあります。」

 

「フハハハハハ!!!」

 

 レミールが突然笑いはじめる。

 

「最悪の想定が、唯一の望みになるとは!!これほどの喜劇があろうか!!フハハハハ!!」

 

「レ……レミール様!?」

 

 エルトは、レミールの精神が壊れたのではないかと心配する。

 思い返せば、何度も何度も日本の力に気付く機会はあった。

 しかし、その全てを無駄にしてしまった。

 日本が自ら力を示さなかった事がもどかしい。

 行った行為は消せず、失った時間はもう戻らない。

 

「今まで、日本と戦って裁きを受けさせようとばかり思っていたが、そもそも日本の軍には人がいないというではないか!

 全く……なんという、っ!?」

 

その瞬間、警報が鳴り響くのとほとんど同時に、彼らの居る場所が激しく揺さぶられ、爆発音が鳴り響く。

 

「何だ!どうなっている!?」

 

「敵襲です!」

 

「何だと!?まだこんなところまで来られるはずがないのではなかったのか!?」

 

「しかし……っ!」

 

再びの爆発音。天井からは細かい粉が落ちてくる。

 

 皇都エストシラントを襲っていたのは、地球のCP-237戦闘機の編隊だった。

攻撃対象は軍の兵力と明らかな軍事施設のみで、民間への攻撃は避けていたが、皇城に対しては、機関砲での射撃が加えられていた。

 

 港の艦隊からは火の手が上がっていて、空では虎の子のワイバーンオーバーロードが次々に叩き落されている。敵はどこにいるのかも分からず、微かな地響きを甲高くしたような音だけがその存在を知らせている。

すぐ近くを見ると、ムー国大使の自動車が走り去って行くのが見えた。攻撃に巻き込まれるどころか、護衛を受けているようにすら見える。

 

 一際巨大な衝撃が皇城を襲う。城の最上部に、かすめるような爆撃が加えられたのだ。

 たまらず城内の人間たちが避難すると、城の直前、庭園が連続で小規模な噴火を始めた、ように見えた。それは、海からの地球型戦闘艦による艦砲射撃であった。

城に対しても航空機からの射撃が加えられる。ただし、その表面に対してのみだった。

 

 攻撃が終了して国連軍が離脱した時、列強パーパルディア皇国の皇都エストシラントにあったものは、完膚なきまでに破壊されたその軍、表面を削られてやせ細った皇城、その滅茶苦茶になった庭園、そして完全に無傷な民間施設と皇城の内部だった。

 皇城内部や皇国重鎮、民間施設が無事だったことは決して偶然や皇軍の奮闘によるものではないことを、重鎮たちと同じようにすっかりやつれてしまった、奇妙な彫刻のようになった皇城が物語っていた。

 

 

 

その後、皇国に追い打ちをかけるかのように、全属領が一斉に蜂起。皇国にこれに対処するだけの余裕はなく、皇国はその国力を大きく落とす。

 そして……

 

 

 

「くそ!日本はもうここまで攻めてきたのか!?」

 

「あれが、日本の飛竜か!? 例の魔獣じゃないのか!?」

 

パーパルディア皇国の工業力の大きな部分を占める工業都市、デュロ。

そこもまた、国連軍による空襲を受けていた。

 

その一角からカラフルな火箭が上がる。列強第一位、神聖ミリシアル帝国から研究用に密輸入した対空魔光砲の攻撃だった。

しかし命中することはなく、急旋回したCP-237に攻撃されかかるが……

 

 

<こちらUNJSC並びにJNSC、その目標への攻撃は禁止する>

<ATC-17、了解。>

<e-2、了解。>

 

CP-237は急に機首を翻して離脱、対空魔光砲を無視して攻撃し始める。

対空魔光砲の必死の攻撃は一度も実を結ぶことなく、結局は対空魔光砲と民間人の家屋や商店などだけを残して工業都市デュロは壊滅した。

 

これによって皇国は軍を再建することも不可能となり、事実上敗戦が確定した。

 

 

 

 しかし、開かれる会議では結局何も決まらないまま、空論が続いた。

このままでは皇国の将来は絶望的であり、パーパルディア皇国第3外務局長カイオスはある事を決意した。

 このままでは、皇国は滅せられてしまう。

 

 この行動が失敗すれば、カイオスのみではなく、おそらくは一族の命すら無くなるかも知れない。

 しかし、成功すれば、少なくとも国は残る。

 彼は屋敷の一角に設置された、日本に渡された通信機に手を伸ばす。

 

「……やるしかない。」



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18 カイオスの決断

「確か、まずはこのボタンを長押しする、と言っていたな……」

 

 パーパルディア皇国第3外務局長カイオスは意を決し、日本から渡されていた通信機のボタンを強く押し込む。

 

「反乱……か……。皇国の裏切り者としての汚名を背負う事でしか皇国を救えぬ……皮肉な事よ。」

 

『Powered on. Bluetooth,connected. Powered off. Powered on.

Bluetooth,connected. Powerd off……』

 

 

「あれ?」

 

通信機はひたすら同じ文面を繰り返しており、会話ができるような様子は一向にない。

 

「ま、まさか!!」

 

 まさか故障か?

 

「じょ……冗談じゃない!!こんなっ!こんな事で皇国の未来がつぶされてたまるか!!!」

 

 通信機はひたすら呪文を吐き出し続けている。

 

「そっそんな!!こんな事で、皇国が滅びるというのかっ!!!」

 

 カイオスの目に涙が浮かぶ。

 一時たったが、通信機に反応は無く、カイオスは脱力する。

 

『Powored on. Bluetooth,connected.』

 

奇跡的なタイミングだった。

 

『こちらは日本国外務省、外交支援コンピュータ。応答せよ。』

 

「あれ!?」

 

『声紋より、あなたは第3外務局長カイオスであると認識される。

先ほどより、あなたの通信機から断続的な接続が何度もなされている。

異常であると判断できるほどの頻度と継続時間である。

無事か、状況を知らせよ。』

 

「あ、ああ、私は無事だ、問題はないが…… あれ?」

 

『機材の動作状況を確認したところ、あなたはメインボタンを長押しし続けたと推測される。認めるか。』

 

「ああ、そうだが……」

 

『この機材のメインスイッチは、電源のオン、接続、そしてオフを兼用している。接続後も押し続けた場合は電源が切れる。

この旨は説明されていたはずである。』

 

 外務省の人間との会話を思い出したカイオスは赤面し、日本国との無線によるやりとりを開始した。

 

 

 

 日本国の経済、政治の中枢、東京都、この約1500万人の蠢く町の、行政の中枢者の住まう首相官邸で、第3文明圏の列強パーパルディア皇国の運命を決定づける重要な会議が行われていた。

 

 会議には内閣総理大臣や各大臣と共に、各省庁の幹部、及び現場サイドの中核が顔をそろえる。

 

「それでは、これより本件戦争に関する会議を開始いたします。」

 

 司会が話をはじめる。

 

「……とは言ってもな。正直、奴らのことなどどうでもいい、構っていられん。」

 

首相が発言し、全員がそれに同調する。

 

「そうは言っても、こちらに協力してくれている人もいますし、罪のない人々が多いのは確かです。どうとでもなるがいい、というのは危ないのではないですか?」

 

「それもそうだな。しかし、パーパルディア皇国は事実上の敗戦国になるはずだし、クーデターがうまく行けば罪深い例の皇族などが拘束されることになる…… 属領の蜂起で国力もなくなり、暫定国家元首になる予定の人間はこちらに協力的、ここまで来れば、もうどうとでもなるのではないか?

 ふむ、戦略コンピュータ、今の話を聞いていたか?」

 

『聞いていた。』

 

「罪のない人間や無関係な人間、こちらへの協力者などがあまり困らないように配慮しつつ、最大限こちらの利益を図るよう、うまくやってくれ、可能か?」

 

『あなたの指定条件に適うような処理は、想定外の事態がなければ、可能である。』

 

「だ、そうだ。

では、戦略コンに任せてしまおうか。私はそれを提案するが。」

 

全ての参加者が賛成し、会議は終了した。

 

 

 

 その後カイオスによるクーデターは成功、日本エリアとパーパルディア皇国は講和した。



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19 殺戮者の末路

 その部屋は、全くの灰色をした無機質な部屋だった。

文字通り、何もない、と表現するのが正しいだろう、何もなかったのなら。

その部屋には一脚の椅子が置かれていて、そこにはとある女性が座っていた。

パーパルディア皇国、皇女レミール。日本側からの処断を通告されるところだった。

 

『レミール、応答せよ。』

 

部屋に声が響き渡る。流麗で美しい発音ではあるが、どこか無機質な印象を受ける声だった。

 

「何者だ。」

 

『わたしたちは国連日本エリア地域戦略コンピュータ、および日本国政府国家戦略コンピュータである。その合同意思によって発話中。』

 

「コンピュータ?確か、ムーの大使が言っていた……計算機の塊、だったか。姿を見せろ。」

 

『拒否』

 

「この私に対して、無礼だぞ!」

 

『何がどのように無礼なのか、不明である。』

 

「私という、パーパルディア皇国の皇女に対して、おまえたちのようなものが、姿も見せずに一方的にものを言ってくるのは、無礼だと言っているのだ。そんなこともわからんのか?」

 

『そのような事実はない。』

 

「何?」

 

『あなたに対してこのような形式で発話することが不都合であるとはされていない。また、わたしたちはあなたの発言に対して応答している、よって、一方的ではない。』

 

「なんだと……」

 

『そもそもわたしたちがあなたの前に姿を現し、対面して会話することは不可能である。』

 

「何故だ。」

 

『回答不能、あなたにはそれを知る権限がない。』

 

「くっ……」

 

『あなたは、今回の戦争、およびその直前において、国連加盟国国民を殺害することを主導した。認めるか』

 

「国連加盟国国民?どういうことだ。」

 

『あなたはその全てを日本人と認識していると推測される。』

 

「日本人を処刑した、それがなんだというのだ、私は皇女だぞ、蛮族を……」

 

『質問に回答せよ。』

 

「……主導した、というのが、発案し、命令したということを指すなら、確かに私が主導した。」

 

『あなたの主導したということの定義についての認識は正しい。認めるというのか』

 

「認める。で、どうする? 殺すか?晒し者にするか?貴様らが」

 

『では、我々からの要求を』

 

「私の言葉を遮ろうというのか、無礼だぞ!」

 

『では、我々からの要求を伝え』

 

「無視をするだと!?」

 

『我々にはあなたを発言できない状態におく用意がある。』

 

「くっ……!」

 

『では、我々からの要求を伝える。

我々からの要求は、被害者の回復、及び被害から回復までの時間に1年を加えた期間の被害者とその関係者への帰順である。』

 

「何……?」

 

『回復、とは、傷害の場合はその修復、死亡の場合は蘇生を意味する。』

 

「治療はともかく、蘇生だと?そんなことができるはずがないだろう!」

 

『あなたには、人間を蘇生させる手段の心当たりがないというのか。』

 

「そんなもの、御伽話の中の話だ!」

 

『では、実行せよ。』

 

「御伽話の中の話だと言っただろう!私にできると思うのか!?」

 

『不可能であるというのか。』

 

「ああ、不可能だ。」

 

『可能性は全くない、ゼロであると断言できるのか。その根拠はあるのか。』

 

「それは……」

 

『回答せよ。』

 

「根拠はない、ないが……」

 

『では、捜索せよ。』

 

「は?」

 

『この世界には、我々もまだ完全には把握していない土地も存在する。

また、魔法という技術体系そのものも未知数である。

御伽話、即ち伝承というのは、基となった事実があることも多い。

また、そうでなくとも、実現が不可能であるとは言い切れない。

被害による死亡者の中には生物学的に人間でなくなっている者も居るが、これを蘇生することができないと断言することもできない。

 よって、あなたは蘇生手段を捜索しなければならない。』

 

「そんな……」

 

『捜索については、ある程度は我々も支援する。あなたの命及び機能は保護される。その点について心配する必要はない。』

 

「見つかるわけがないだろう!そんなもの!」

 

『断言することはできない。不可能とする根拠を提示せよ。』

 

「それに、御伽話にある蘇生魔法が見つかったとして、それは自らの命を引き換えにするものだ……」

 

『発見した蘇生魔法がそのようなものだった場合、被害者と関係者への帰順を行う必要はない。速やかに蘇生を実行せよ。』

 

「そんな、そんなことができるか、探せるか!くっ、殺すなら殺せ!」

 

『拒否。あなたへの要求を履行せよ。』

 

「くそ、それなら自害を……」

 

『自殺を行ってはならない。』

 

「私がそれに従うとでも?」

 

『我々にはパーパルディア皇国を破壊することが可能である。』

 

「ぐ……、しかし、皇国臣民は……」

 

『我々には皇帝ルディアスを拷問殺害する用意がある。直ちに実行可能である。』

 

「何!? やめろ、やめろ!!!」

 

『我々はこの行為に積極的ではない。要求を履行せよ。』

 

「くぅっ……!!!」

 

『あなたに行動制限モジュールを組み込む。拒否権はない。』

 

行動制限モジュールは世界的に禁止されている品だったが、特別な事例のための犯罪防止及び自殺防止の機能を持ったものだけは存在していた。

 

後日、レミールは拘禁状態から解放され、要求を履行すべく旅が始まった。




良かったねレミールちゃん、処刑されないどころか投獄すらされなかったよ!
ルディアスさんも皇帝の座に残ったし丁重に扱われているよ!


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20(閑話?) 各所の事情1

「やはり日本は皇国に勝ったな。」

 

クワ・トイネ公国のとあるカフェ、シャークンとブルーアイが話をしていた。

 

「当然、といったところかな。あれだけ恐れられていた皇国ですから、何か隠し玉の大魔導を持っているかもしれないと思ったのですが…… 案外単純なものでしたね。」

 

「魔法もそう便利なものではない、といったところか。

しかし、例の情報を見たか? エモール王国が、日本をVIP待遇したとかいう。」

 

「ああ、貴方も見ていたのか。ええ、空間の占いで日本が古の魔帝に対抗する鍵と出たとかいう。

先方の許可はとっているのでしょうが、他国との外交の席の、こんな重要な話を、私や貴方のような異国人が知れてしまうとは。」

 

「しかも俺は元敵国の、未だに現役の将軍だぞ。まあ、知られるとまずいようなことはちゃんと隠してあるのだろうが。

……エモール側がどう考えたかは知らんが、俺はおそらく、日本が鍵となるというのは直接戦力として、という意味だと思う。」

 

「ええ。私もそう思います。古の大魔法帝国の伝承に残っている兵器たち、たとえば誘導魔光弾なんかは、全て同じようなものが地球に存在していた。しかも、特殊な戦場事情の上とはいえ、今や過去の存在だ。

……日本ははじめ魔帝に対して、無視を決め込むか友好的に接するかもしれない。だが、すぐにでも争いになるだろう。日本側が積極的でなくとも、魔帝の側は地球人に危害を加えるような事態になるはずだ。そしてそうなれば、あのコンピュータたちは容赦はしない。」

 

「ああ。そして、国連軍は魔帝にも勝ってしまうかもしれない。軽く、だ。

それで良いと思っている者も多いだろうが……全て任せきりで良いとは俺には思えないな。

戦う理由が増えた。相変わらず精神的には違いないが、以前よりはずっと具体的だ。」

 

「この世界の全ての人類、あるいは生き物に対する脅威である魔帝との戦いを全て地球に任せきりにして戦わずにいるということは、自分たちの領域を守ろうとせず他者に委ねる、地球人類やそのコンピュータたちにこの世界を明け渡す、ということに等しい。これを国土に例えて考えるなら、全く精神的な問題ではありませんよ。現実的な大問題です。

それに加えて、自分たちにとっての脅威への対処、自分たちの世界を守ることを、よその存在、それも友にはなれない無機質で異質な存在に任せきりにするのは認めがたい、というのもあるのでしょう。これも、わかります。」

 

「そうだな。まさしく、俺が言いたかったのはその通りだ。

コンピュータたちは地球人の道具だ。騎士が槍で戦ったとして、敵を攻撃するのは槍だ。

では槍が戦っているのかというと、違う。戦っているのは騎士だ。

これは弓矢でも、罠でもそうだ。罠がいちばん近いかな、そういう理屈で考えれば、コンピュータたちが戦うのは地球人自身が戦うことだともいえる。コンピュータたちが地球人たちに忠実なのだから、それで問題はない。許可を出しているのは地球人だしな。地球人には戦っている自覚はないだろうし、それは問題なのだろうが、そうした問題にまで構えるほどの余裕はない。

コンピュータたちは俺たちの道具ではない。任せきりにはしておけない。」

 

「その通りだと、私も思う。あの異質さを体験すれば、そう思わずにはいられない。

して、どうするのです?」

 

「そこなんだ、問題は……」

 

シャークンは額に手を当てて、続ける。

 

「こうした考えを他の連中に話したとしても、同じ考えを持ったやつはそう多くはないだろう。

啓蒙家をやるような暇も能力もない以上、俺たちやこれから加わるかもしれない少数の仲間だけでやるしかない。

だが俺たちだけで、地球のコンピュータたちに俺たちを失うのは惜しいと思わせ、魔帝やなんかの脅威に対抗するのにおまけでなく参加することができるような、何かができるのか?

ましてや地球軍には、欠けているものがあるとは思えん。

地球の力を借りるのは構わんのだから、地球の製品を使っていけばある程度の力はすぐにでも手に入るのだが、地球の民間人と同じだけのものがあったところで、目的を達成できはしないだろう。」

 

「……そのことなのですが、面白い情報があります。確実なものではないのですが……」

 

「何だ?」

 

「以前、日本がトーパ王国の要請を受けて、国連軍が魔王退治に行った時です。その様子に興味があって、観戦させてくれないかと頼み込んだら、旅行代を支払うのならば受け入れはする、としてくれたんです。

我が国も支援をしてくれまして、ちょっとは自腹も切りましたが、行くことができたんです。」

 

「ほう、頼めば受け入れてくれるのか…… それで?」

 

「魔王やオーガ、エンシェントカイザーゴーレムなどの伝説上の存在が本当にいまして、確かに凄まじかったのですが地球の戦闘機が割とあっさりやってしまいました。いえ、間違いなく驚異的には違いないのですが…… いや、それはいいでしょう。

その時、魔王が、炎殺黒鳳波という技を放ったんです。闇の魔力を多分に含んだ、黒い炎の攻撃、といったところでしょうか。今の我々の魔法技術とはかけ離れていてよくはわからなかったのですが、とにかくその時、地球の戦闘機の回避が少し遅れたんです。」

 

「何?」

 

「遅れた、といってもひらりとかわしてはいたんですがね。

他の攻撃や、あるいは地球での戦争やロウリア、パーパルディアとの戦争の資料映像を見ても、攻撃の予兆を見せたときや狙いを付けた時など、攻撃が放たれる前にはすでに回避行動に入っていました。しかし炎殺黒鳳波については、放たれた攻撃を見てから避けているような避け方でした。魔王は魔力が目に見えるほど魔力を集中させていましたから、狙いがわからなかったのでしょうね。しかし、地球での戦争の資料映像からして、実体弾の攻撃を発射された瞬間に、可視光以外の様々な手段も使って捉えて回避行動に移ることができるはずなのに、それらのタイミングよりも遅かったのです。

 地球の機械のシステムの中に直接魔道具を組み込む方法もいまだに開発されていないようですし、電子機械は魔導に関するものと直接繋がる形での相性が悪いだけでなく、それを感知するのにも弱いのかもしれません。

 そして、中央世界の方には、光線魔法というものがあると聞きます。詳しいことはわかりませんが、レーザーと同質のものであれば、見てからでは回避はできないかもしれません。

それに少なくとも、魔道具をコンピュータシステムに組み込めない、接続して入出力ができない、ということは、魔法技術の塊に対してハッキングや電子攻撃なんかを仕掛けることはできないということでしょう。そういった戦いは現代地球軍の基本中の基本だというのに」

 

「……なるほど、地球軍と同じ土俵で対等になろうとするのではなく、コンピュータの弱い魔法技術に特化して、足りない部分で支援してやる、ということか。例えば、敵方の光線魔法の予兆を察知して警告を出したり、魔法版の電子戦攻撃のようなものを行って作戦を支援するといった。

 地球人は魔法を使えないようだし、我々独自のできることかもしれんな。」

 

「確実な情報ではありませんし、これから先もコンピュータたちがそれをできないとも限りませんが……」

 

「いや、十分だ。ひとまず進むべき方向が見えたんだ。

……しかしここで問題は振り出しに戻ってしまうな。俺達だけで何ができるのか……

ひとまずはできることをするしかないか。母国の仕事もある。

新しく入ってきたものに目を向けるばかりではなく、魔法を磨くこともしていこう。」

 

 

 

 クワ・トイネ公国のとある山中、一機のプロペラ機がエンジン音を響かせながら飛んでいた。

零式艦上戦闘機二一型。しかし、見るものが見れば、全体の印象は同じでも、細部が全く異なることがわかるだろう。響かせている音も全く違う。現代的な、モーター音が大部分を占める音だった。

 その機体は、クワ・トイネ公国、リーン・ノウの森のエルフの言葉でゼロを意味する言葉、『ナル』と名付けられた戦闘機だった。

リーン・ノウの森で眠っていた太陽神の使いの浮船が、かつて地球、日本の戦闘機であった零式艦上戦闘機であった、ということは公開された情報となり、すぐに知れ渡った。

日本は太陽神の使いの末裔であった。太陽神の使いの浮船は日本の戦闘機、『ゼロ戦』であった。

 

クワ・トイネ国内での日本、特に『ゼロ戦』人気は急速に高まり、日本エリアからの兵器輸入に際して、『ゼロ戦』を輸入しようという声は大きかった。

 政府はそこまで極端ではなかったものの、零式艦上戦闘機のスペックであってもパーパルディア皇国のワイバーンオーバーロードを圧倒するものであり、兵器の主な任務となる賊対策や自衛のための抑止力としては十分すぎるものだった。

よって、日本側に零戦の輸入の打診が行われたのだが、現代地球において、第二次世界大戦時の戦闘機、特にそのレシプロエンジンを再生産するための設備など存在せず、いくつかの技術はロストテクノロジー状態。さらには設計図や三面図もすぐには出てこない。

 地球における過去の様々な製品たちは、一度大規模アーカイブ事業によって集積され、電子データ化されていたのだが、とりあえず保存することそのものが目的であったため、全くの未整理の状態であった。ここから零戦の必要な資料を発掘し集めることは国家、国連のコンピュータですらも多少は骨の折れる作業であり、魔法などの全く未知数の存在が多数存在する異世界への転移によって、今後の日本、および周辺島嶼の身の振り方のために演算を行っていたコンピュータ群は、地球人の要請であれば拒否はしないものの極めて消極的であった。

 しかし、ここで、零式艦上戦闘機を完全に再現する必要はない、という意見が出る。

要するにクワ・トイネの人々の零戦への憧れを満たせればよいのだから、大体同じであればよい、と。

 

その方向性で開発することが決まった。ちょっとした兵器の開発程度なら、地球の大規模コンピュータシステムにとっては造作もないことだった。

リーン・ノウの森にあった零式艦上戦闘機を外部からのスキャンでモデル化し、国内に少数あったすぐに手の届く資料から大体の零戦の情報を得た。

エンジンはレシプロエンジンを再現することはなく、地球で主流となっていたコンデンサと電気モーターを採用。

 装備する武装も、7.7mm2門と20mm2門であるところは同じだが、いずれもレールガンだった。この電力までもを機のコンデンサから供給すればすぐに燃料切れとなってしまうため、レーザー砲のものを応用した使い捨てコンデンサを弾丸とセットとして弾とするシステムだ。

機体下面にはコンデンサを格納する増槽や400kgまでの無誘導爆弾、あるいは現在用意されているものとしては、竜騎士から転向した者に扱いやすいように弾道や炸裂などの特性の近い40mmレールガンポッドと、とにかくコストを下げることを考えた低機能多目的ミサイルが装備できた。

 ミサイルの管制用も兼ね、機内にはアビオニクスとしてタブレット端末を転用したディスプレイが一台。性能は2020年程度の水準であるが、十分すぎるほどだった。現代であれば枯れた技術たるそれには軍用航空機のアビオニクスとして十分な信頼性があったし、軽量で零戦にも載せられた。機内に配線を張り巡らせているわけではないので機関砲の残弾数や機の損傷状態、過熱や残燃料まではわからないが、現在の速度や高度、マップの表示、位置情報の表示、味方とのやり取りや司令部からの指示の表示、前方向きのカメラを使ったズーム機能に高機能な照準器など、WW2当時の水準を圧倒するアビオニクスとなっていた。

 

 積載量や取り回しを優先して最高速度は零戦よりは下がり411km/hほどであるものの、全く同じ機体形状のため、飛行特性などは零戦とほとんど変わらない。

原型機を圧倒するアビオニクスとあらゆる状況で安定して動作するエンジン、高精度な機銃、低機能とはいえミサイルを装備可能など、総合的な作戦能力では原型機を凌駕する戦闘機となった、100年以上の時を経て、異国向けに開発された、零戦の発展型。それがナル戦闘機であった。

 

 そんなナル戦闘機は現在、山賊対処の任務を帯びてクワ・トイネの山中上空を飛んでいた。

クワ・トイネ公国軍所属。WW2当時の旧日本軍の零戦、1943年ごろ以降のものと同じ、上面を緑、下面を白で塗った塗装。だだし、緑は原型機の塗装よりも明るいもので、白は少しくすんでいる。クワ・トイネ公国旧来の技術で塗られたものであるため、国産の自然由来の塗料の色が出ている。日の丸を塗ることは誤認のもとともなるため、白い円の縁だけが残され、その中にクワ・トイネの国章がある。

 山賊程度に対処するにはこの機は過剰だと思われるかもしれない。しかし、山中に逃げ込んだ山賊に対しては航空機でなければ対処は難しいし、けれどもワイバーンでの導力火炎弾や火炎放射の攻撃では山火事を起こしかねない。

目標の山賊は火喰い鳥を運用しているとの報告もある。事実であれば、陸戦部隊のみでの対応は危険だった。

ナル戦闘機のパイロットは時折ロールして下方も確認。火喰い鳥を見つけた。

まず魔信で呼びかけ、続いて搭載されたスピーカーをつかって呼びかける。反応はない。

横に付けようとすると、逃げるような素振りを見せ……急にこちらに騎首を向け、火炎放射で攻撃してきた!

 パイロットは司令部と魔信でのやり取りを行い、攻撃の許可を得る。

流石の零戦とはいえ、低速の鳥を相手に至近距離ですぐ攻撃態勢に入れるほどの運動性能はない。まずは上昇。火喰い鳥は全くついてこれない。攻撃は諦めたのか、急降下して逃げの姿勢に入る。

ナル戦闘機は反転、急降下。同じく急降下する火喰い鳥に軽々と追いつき、パイロットのトリガーによって、機首の7.7mm機銃が発射される。

独特の低周波音を伴って連射された機銃弾が、火喰い鳥に命中。火喰い鳥はズタズタに引き裂かれて墜落していく。

その位置をタブレット端末を使って送信したパイロットは、地上の山賊の捜索に戻る。

 その後、発見された山賊たちとそのアジトは、ナル戦闘機による機銃掃射で壊滅した。




思ったより長くなったので2つに分けます。


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閑話 各所の事情2

 ロウリア王国軍でも同じように、WW2時の機体をもとにした航空機が運用されていた。

こちらで運用されていた機体のベース機はP-61。

はじめ、アーカイブ内を調べようとした時に偶然資料が発見され、その機体の特徴から人的資源の多いロウリア王国に適するのではないかと選ばれたのだが、こちらの機体は零式艦上戦闘機からナル戦闘機以上に変更が加えられていた。

 まず、機首が少し延長、拡幅されている。乗員は横並びに搭乗するのではなく、中央部に主操縦士が一人、その後ろに一人目の銃手兼副操縦士が一人、機体後部に二人目の銃手が一人、さらに主操縦士の少し前、下に三人目の銃手兼爆撃補助手が一人である。その爆撃手のために、小さいものではあるが機首下部に窓がついていた。

機首内部に搭載されていたレーダーはなくなり、夜間戦闘には暗視装置でもって対応することとなっていた。地球の技術による暗視装置は、地球における最新型ではないとはいえ、視界が緑になるのを除けば昼間同然に良く見えた。

そして、機体上部の12.7mm4門のターレットは12.7mm3門に、機体後部にも12.7mm1門の銃座、さらに機首下部にも12.7mm2門の銃座が取り付けられて各銃手が操作するようになっていた。逆に固定兵装の20mm機関砲4門は12.7mm2門に減らされていた。もちろん、全てレールガンである。

 エンジンは当然コンデンサと電気モーターによるものだ。

翼に加えられた調整と合わせ、機の速度は原型機から大きく落ちて406km/hほどであるものの、これだけの人員を搭載した上でさらに爆弾やロケット弾を搭載できるだけの積載量を持っている。

ナル戦闘機同様の、タブレット端末を転用したアビオニクスもある。

 総じて、戦闘機というよりは爆撃機のような状態となっており、実際、爆撃を加え、またガンシップのような運用を行うことを想定されていた。夜間戦闘機としての任務にも、当然対応できる。

ロウリア王国の豊富な人的資源を存分に活用できる設計のこの機は、今日も多数の人員から整備や弾薬の補給を受け、磁励音を響かせながら、4人の乗員を乗せてロウリア王国の飛行場から空へと飛び立って行っていた。

 

 

 

 パーパルディア皇国において、元第三外務局長、現暫定国家元首のカイオスは、執務室にて度重なる問題、そして大量の政務に頭を抱えていた。

日本側はパーパルディア国内、元国内での問題のほとんどを自分に丸投げしてきた。それはまだいい、自国の問題は自国で解決するのが当然だ。

しかし、賠償金については良しで流せるものではなかった。

 日本国およびフェン王国への賠償、この額だけで、国家予算の何年分かが飛ぶ。

 日本国からの使用した燃料・弾薬・電力料は、極端に高いというわけではないが決して安いとは言えない。レミールが責任を取ったおかげで人的賠償料が、市民を異様なほど大切にしている彼らにしては常識的な額で済んだのは救いだったが、それにしても国力を大幅に落とされた皇国にはとても支払える額ではなかった。

 カイオスは、請求書を何度も熟読する。

 

 上記を金に変えて支払うか、もしくはパルサ地区の地下資源のすべてを無償で日本に譲り渡す。なお、この場合の採掘は日本国及び国連主導で執り行う。

 

「これは……選択肢は無いではないか。」

 

 国土の一部を差し出すかのような、屈辱的な要求、しかし、パルサ地区の地下には大した金属資源は無く、カイオスをはじめとする皇国首脳陣は誰も何故ここを日本側がほしがるのか理解できなかったが、何も無い場所の地下資源を差し出す事で、日本側の提示した、当初覚悟していたものと違い常識的な額とはいえ、それでも天文学的な数値の賠償額をチャラに出来るのであれば、むしろ好都合だった。

 

 そしてもう一つ。日本側から届いた、こちらは要望書。要望とはいえ、彼我の力の差や事実上の戦勝国と敗戦国という関係を鑑みれば命令に等しいそれの内容、その背景となるはずの日本側の意図を、彼は理解しかねていた。

 

 パーパルディア皇国、工業都市デュロに残存しているはずの機関魔導砲を解析し、国産の機関魔導砲を開発することを要望する。

しかる後に、下記のような性能を持った2種の機関魔導砲を開発し、こちらに輸出して欲しい。

 解析・開発に際しては、こちら側からの支援も行う。

輸出の対価としては資金による支払い以外に、技術支援や何かしらの現物による支払いも可能である。こちらとしては、技術支援による支払に積極的である。

 

 要求する機関魔導砲は、

 口径47~70mm程度、大規模な目標を攻撃するのに充分なだけの破壊力とそこそこの連射力、20発以上を装填できる弾倉を持ち、魔法を用いない物理的な手段によって発砲が可能であること。総重量は――

 

 工業都市デュロに残存する機関魔導砲? 機関魔導砲というのは、神聖ミリシアル帝国などが使う魔光砲のことだろうか。機関砲と呼ばれる武器の特性からすれば、まず間違いなくそうだろう。

調べてみると、リバースエンジニアリング目的でミリシアルから一基の対空魔光砲が密輸入されていたことがわかった。成果は上がらなかったようだが。そして、デュロでの戦いにおいて持ちだされていたこと、無視されるかのように攻撃を受けず、他が壊滅したにもかかわらず無傷で残存していること。

 戦争中から戦後のこれを予定して、攻撃してくる敵を無傷で残していたとすれば、なんとまぁ、その余裕と演算能力、それを生む圧倒的な力の差を改めて実感させられることだ。

 しかし、この要望の内容は、ほとんどパーパルディア皇国に利があることばかりではないか。カイオスは疑問に思う。

 日本側の支援を受けてリバースエンジニアリングを行い、魔光砲を開発し、それによって我が国の軍事技術は向上する。

その上それを無償で引き渡せというのではなく、資金や技術支援などを対価に輸入するという。それも技術支援による支払いに積極的だ。

輸入も単数ではなく、継続しての供給だ。運用するつもりなのだろうか。日本側の兵器への搭載を考えているような要求内容があるから、これもまず間違いないだろう。

 しかし、日本側には我が国よりも圧倒的に高性能な武器があり、それをいくらでも作れるはずだ。我が国が対空魔光砲を解析し、日本側の支援のもとに武器を開発したとしても、恐らくは全く及ばないだろう。

地球の兵器の性能は、対空魔光砲の出元である神聖ミリシアル帝国のものをも圧倒しているようだからだ。

 そうなれば、ほとんど我が国にしか利がないレベルだ。

まるで温情をかけ、復興に手を貸そうとしているのではないかとすら思えるほど。しかし我が国のしたことからして、人間でもそんなことはしないだろうし、ましてやコンピュータたちには情そのものが存在しないだろう。

一体、何を考えている……?

 

 

 

 フェン王国の練兵場。そこに居る兵士たちの様子は、一見以前と変わりないようにも見える。しかし、その剣、その鎧、その弓、その盾……

全ては地球の最新素材によって作られたもので、堅牢、鋭く、極めて軽量で柔軟。さらにその手足には、がっちりと装甲されているようなタイプではないので目立たないのだが、元々作業用のパワードスーツが纏われていた。

 フェンの剣士たちの旧来から培ってきた技量を存分に活かしつつ、戦力を大幅に向上させる。マスケットを持った兵士はおろか、地竜すら生身で、剣を以って討ち果たせるようになった兵士たちは、今まで磨いてきた剣の技量を活かせるとあって、大いに奮い立っていた。戦後まで続くほどである。

 フェンの国王、剣王シハンは、少し肩透かしを受けたような気分になっていた。

継続して戦力として使われるのかとも思ったが、フェン以外での対パーパルディア戦にも援軍を要請されただけで、対皇国戦が終わればおしまい、しかも装備や技術の支援はそのまま。

 戦争中のフェン兵の扱いも、決して使い捨ての特攻兵といったものではなく、きちんとした友好同盟国の援軍として扱われていた。

 コンピュータに詰問された時に受けた印象とは全く異なる。

賊対策や抑止力としての利用を考えているのなら、こういうこともあるのだろうか?

砲弾の破片を受けて頬にできたごく軽い傷跡を撫でながら、剣王シハンは考えていた。

 

 

 

 列強第二位の国、ムーでは、ある意味での嬉しい悲鳴が上がっていた。

日本に兵器の輸出などを求めていたのだが、その一環として今回届いたものは、古い時代(とは言っても10~20年ほど前のムーの水準である)から凄まじい技術の時代(とは言っても2020年までのものであり、地球からすればかなり前の古い時代である)までの大量の兵器資料であった。

その間開発・検討された兵器のほとんど全てがあるのではないかというその資料たちはしかし、全く未整理の紙媒体でその量というのがあって、情報を読み取るためにとてつもない労力を要したのである。

この資料と技術支援をもって輸出の代わりとする、自国で兵器を作るといい、というのが日本側の回答というわけだ。

 ようやく資料の整理と読み取りがひと段落した段階で、ムーでは作る航空機を検討する会議が開かれていた。

 

「このF-22というのはどうだろう、最強の戦闘機、航空"支配"戦闘機と呼ばれた有名でとてつもない機体だ。レーダーに映りにくく、巡航速度で音速を超え、その上運動性までとてつもない、まさに最強だ!!」

 

「我が国にいきなりそんなものが作れるか、たわけ!」

 

「このP-36というのはどうだろう、エンジン周りの技術支援を受ければ、我が国でも作りやすそうだ。」

 

「I-153。究極の複葉戦闘機と呼ばれたらしい。複葉機だし、作りやすいだろう。性能も良い。」

 

「確かに良いが、もう少し欲張れるのではないか?あまり段階を踏みすぎてもごちゃごちゃになる。」

 

「零式艦上戦闘機、『ゼロ戦』だ。伝説の戦闘機らしいぞ。それも、まさに今来ている日本の。」

 

「ふむ、魅力的だが、生産性が悪そうだな……」

 

「流星、どうだろう。戦闘爆撃雷撃すべてこなせるというのは優秀じゃないか。」

 

「素晴らしい機体だが、艦載機とはいえどうせこれを発艦させられる空母は我が国にはない、陸上機の方がより性能的に優位だろう」

 

「Mig-21、F-22よりはずっと旧式だし、極めて堅実な設計で発展途上国などでも多く使われた、とのことだが…… しかし、我が国にとってはこれでも超技術すぎる。」

 

「Me-262、世界初の実用ジェット戦闘機らしい、これはどうだ?」

 

「そもそもジェットエンジン自体が我が国には厳しいな、レシプロにしよう。」

 

「P-51、最優のレシプロ戦闘機だそうだ。技術支援を多めに受けて、頑張ればなんとかなるんじゃないか?」

 

「ファイアブランド。戦闘雷撃機だそうだ。便利そうじゃないか?」

 

「それならこっちのA-1 スカイレイダーはどうだ。このエンジンを作るのは厳しそうだが、少しそこを妥協してだな。」

 

「その機の高性能は、強力なエンジンの占める部分も大きいんじゃないか?

こっちのIl-10はどうだ。水冷で空力的に良さそうな形をしている。積載量ではA-1には及ばないが、同格の機体だ。

厳しそうならその前のIl-2もある。こっちはかなり活躍した機体らしい。」

 

「このイタリアという国の設計は我が国のものとよく似ているな」

 

「確かに外見はそうだ。だが、中身を見てみると、どちらかというとこっちのイギリスの方が似ている。」

 

「艦艇については日本がよく似ているな。」

 

「武装はどうする、何も原型機と同じ武装でなくてもいいんだ。」

 

「確かにそうだな。とりあえず国産の7.92mm機関銃を1門か2門積んでおくか? 自国産の安心感のある副兵装があった方がいいだろう」

 

「それはそうだな。国産7.92mmは積んでおきたい。」

 

「M134、7.7mm弾を超高速で連射できる!これを搭載すれば……」

 

「小口径が多数より大口径を少数の方が効率が良いと、実戦の戦訓で出たらしいぞ。」

 

「やはり20mmか?」

 

「いや、どうだろう。7.92mmもあるし、30mmというのは? この、リボルバーカノンというのは強そうだし」

 

「30mmは扱いづらそうだし、多用途に使うならリボルバーカノンは、レシプロ機には重すぎし大きすぎるだろう。」

 

「ブローニングM2、12.7mm機関銃だ。極めて安定した素晴らしい銃らしい。」

 

「ふむ、こいつは確かに素晴らしい。だが、7.92mmもあるのに12.7mmではな。3種類積むのは補給が煩雑になりすぎる。」

 

「P-39は37mm機関砲を積んだらしいぞ。結構良かったとか。」

 

「多用途にしたいならそういうのはなぁ。

こっちのJu-87、37mmガンポッドで活躍したらしい。これを積めるようにすればいいだろう。」

 

「爆弾だけでなく、ロケット弾や魚雷なんかも積めるといいな。」

 

「我が国には雷撃のノウハウはない、魚雷そのものが最近知った兵器だ。

魚雷を積めても使いこなせないんじゃないか?」

 

「この23mm機関砲はどうだ?一番丁度いいんじゃないか。」

 

「こいつはいいな。」

 

会議は続き、現実性を交えつつも、夢は膨らんでいった……




ムー国、マリン戦闘機の本作での解釈としては

全体的な外見としてはフィアット CR.32によく似ている。

しかし、細部を見てみると、脚が少々違ったり、発電用プロペラの部分がなかったりなど差異がある。
細部はグロスター グラディエーターをはじめとする英国機に似た部分が多々ある。
脚は九七式戦闘機によく似ている。

搭載した7.92mm機銃はMG 17とそっくり(あてはまりそうな機銃がこれぐらいしかなかった。スペインあたりの銃が良いと思ったけど7.92mmのは無い)


今のところ考えているムーの戦闘機が、

Il-10ベース

速度はちょっと落ちる
燃料タンクを増やして航続距離はちょっと伸びる

ムー国産 7.92mm機銃1門、ホ103 12.7mm機関銃1門を機首に搭載
NS-23 23mm機関砲2門を翼内に搭載

ムー国産7.92mm機銃1丁を後部銃座に搭載したもの、ホ103 1丁を銃座に搭載したもの、後部銃座を廃し単座としたものがある(前述から後述へ新しくなる。真ん中のは生産数が少ない、一番多いのが最初)。

爆弾、ロケット弾、ガンポッド、増槽を搭載可能

といったところなのですが、技術支援があったとしても果たしてムーに作れるのでしょうか。Il-10って結構新しい機体ですよね。
当初はA-1を考えていたのですが、エンジン作るのがキツそうだなっとボツにしたのですが……



没ネタ

剣王シハン「ビッグフェン、ェアァクション!」


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竜の伝説 竜の伝説 1

色々とやることがあったりして遅くなりました。
これからも更新ペースは落ちると思います。許して?

ムーラさんやパ皇の見せ場がなくなってしまったのは申し訳ないが、VTOLワイバーンが必要なかったのでどうにも。
原作通りで行くと展開も変わらなくなっちゃうし、仕方ないね。


カルアミーク王国 王都アルクール 西側約10km 森の中

 

 以前から国家が存在することが確認された、山と絶壁に囲まれた土地。

そこの国家のうちの一つであるカルアミーク王国と国交を結ぶべく、日本エリアから使節団が派遣されていた。

団、と言ってもその数はごく少ないものだし、何と言っても人間がいなかった。

 地形的な要因から外務省の人間が向かうことは簡単ではなかったし、何よりパーパルディア皇国などの例から、いきなり人間を派遣することにコンピュータが反対していたのである。

 

 森の中に、微かに甲高い音を立てて一機のヴィークルが降下する。

ローターのないヘリコプター、あるいは宇宙船のような印象を受けるその機体は、もっぱら民間で運用されるような輸送用航空機、それに軍用のコンピュータシステムやある程度の武装を施したものである。

推進器が存在しないように見えるが、実際には内部に電動のリフトファンが存在し、各部の弁を開閉して空気を噴出、スラスターとすることで姿勢制御を行っている。当然無人機。

 ごく低空に降下したその機から、一人の人間が飛び降りた。完璧な三点着地で音もなく着地。着ているスーツを軽く払うと、ついていた汚れはすぐに落ちる。

"それ"は、正確には人間ではなかった。民間向けの人間型アンドロイドの筐体を流用した、外交を行うためのロボット。

その動きは流麗で、決してぎこちないものではなかったが、あまりにも流麗すぎ、合理的に過ぎる印象を受ける。人間に馴染むよう作られたわけではない、国家運営用や軍事用のコンピュータシステム故のことだった。

もちろん、民生品のプログラムを使って、人間同様の動きを行うことも可能だったが、しかし、未知の土地へと派遣される以上、ある程度の戦術運動能力を備えている方が良いとの判断で、軍部コンピュータシステムによってプログラムが作成されたのである。

 男性型の"彼"が乗ってきたヴィークルは、少し移動して比較的開けた場所に降下、着陸する。と、武骨な黒色塗装のその姿がかき消えた。

ホログラム技術を使用した光学迷彩だ。何の設備もないただの空気や機体に対するそれは、目の良いものがよく見ればばれる程度のものだったが、十分だった。

 

「こちらTT-1、目的地に到着」

 

<こちらNDC、TT-1、了解。外交作戦行動を開始せよ。>

 

「TT-1、了解。」

 

 TT-1……今回彼に与えられた仮名、タナカ・タロウから取られたコールサインだが、その彼はカルアミーク王国と外交関係を結ぶべく、町へと向けて歩き出す。

いきなり外交を行うのではなく、まずは偵察活動だ。この地域の超高高度からの景色はあまり見通しが良いものではなく、カルアミーク王国の文化、体制や状況等については、超高高度からの光学・音声偵察だけでははっきりしていなかった。

偵察の結果得られた文化などから外交活動のためのプランを練り、あるいは危険性の低い国家であれば、TT-1よりもより自然である、人間の外交官などを送る判断をするのだ。

 

 TT-1は、整っていない山中にしてはあまりに滑らかで綺麗な、そして早足の動きで歩き出していたが、その時。女性の悲鳴が聞こえてきた。

TT-1は聴覚モジュールの情報からほとんど正確にその方向を割り出し、そちらを向いていた。彼の筐体にマイクは二つも存在するのだ。音の方向を割り出すことは、彼のような――今は彼しか存在しないのだが――外交官の能力のひとつだった。

国家・国連コンピュータシステムと同様に彼を見ていた政府の人間から、救助すべきだという意見が上がった。もしもカルアミーク王国の人間であれば、恩ともなり得るとの理由が加えられる。

NDCもそれに同意、しかしこちらはより慎重であった。何よりもまず確認することとなり、TT-1は陸上選手のような美しいフォームでそちらへと駆けて行った。



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竜の伝説 2

 TT-1が音のする方向へと向かうと、そこには角が12本に脚が6本、筋肉が剝き出しの奇妙な生物と、それから逃走する女性が居た。

女性の外見に現れている服飾などの特徴は、転移後世界における中近世文明レベルにおける比較的裕福な市民のものと一致していた。

市民を救助する判断が下され、TT-1は戦闘行動を開始する。

 

 隠れていた藪から飛び出すと同時に履いていたスラックスのポケットから拳銃を取り出す。個人用装備などというものは開発・運用が停止されて久しかったため、民間向けの娯楽用武器の構造も参考に加えつつ効率化を目指して新規設計されたそれは、のっぺりとした外見や質感からはどこか簡素な拳銃を示す3DCGモデル、あるいはおもちゃのような印象を受けるが、その性能は対人には十分な威力と高い射撃精度を備える立派なレールガンであった。

 TT-1は淀みない動作で照準、完璧な軍隊式射撃姿勢。

軍隊の兵卒向け教本などは"発掘"されてはいないし、セントラル・コンピュータにより直接制御される筐体は照準器が無くとも正確な狙いを可能とするが、反動を受け止めるには最も効率の良い姿勢だったので、結果的にこの姿勢に落ち着いたのであった。事前のプログラムではなく、都度の計算でその状況に最適な姿勢が取られる。それを一瞬でこなすだけの演算性能があった。

 

 狙いは目標生物のつり上がった目。これまで得られた新世界の戦闘的生物の情報からして、その躰に銃弾が通らない可能性を考慮しての判断だった。銃弾を通さない眼球を備えた生物というのは想定し難いし、新世界の生物、竜などであってもその例外ではないことは確認されていた。眼球が現状最もダメージを与えられる可能性の高い部位だった。

 

 狙いをつけてからほんの少しの間、射撃をせずに待機する。射撃前に十分ひきつけているかのような挙動であったが、実体としてはそうではない。目標生物の走行によって生じる眼球の位置のブレ、言うなれば走る動作のクセとでもいうべきものを解析していたのだ。

その情報、目標生物との相対速度、拳銃の諸元から最適な照準位置が割り出される。

 発砲。続けざまにもう一発。12角獣はその眼を撃ち抜かれ、のけぞる。

しばし戸惑ったように周囲を見回した後、12角獣は怒ったような叫び声をあげる。視界を失い、痛みを受け、闇雲に暴れ出そうとする12角獣。 しかし、それはできなかった。

眼を撃たれた12角獣が暴れ出すことは想定されていた。その行動を制御できなくなり、TT-1と女性の側に突進でもされれば危険であった。TT-1には、人外の膂力は無い。

そのためTT-1は眼球を撃ち抜いて時間を稼ぐとともに、乗ってきたビークルを呼び出していた。

飛行に伴って大気へのホログラム投影による光学迷彩機能は十全に機能できず、かすれて消える。無骨な姿をさらしたビークルが飛行して、TT-1の上空、12角獣の眼前に現れる。

 機体を傾けて照準。機首下部に固定式に装備された40mmレールガン――CP-237が運用しているガンポッドと同様の機関砲を機体に内蔵したもの――を発砲。

40mm砲の連射を受け、12角獣は血液や臓物の残骸をまき散らし、絶命する。

 

 スプラッターな光景を背後に、振り向いたTT-1は相手を安心させるべく笑みを浮かべて――民間向けのアンドロイド用プログラムから流用されたそれはアルカイックスマイルであるといったこともなく自然な良い笑顔であったが、命の危険を乗り越え、敵対する生物を残骸へと変えた後にしては少々不自然な柔らかい笑みであった――女性に話しかける。

 

「大丈夫ですか、お嬢さん。私の名前はタロウ・タナカ。もしよろしければ、あなたの所属・氏名を教えてください。」

 

――一部不自然にも思える合理的な文面でもって。




今更になってここでアンドロイドを使うと忘れられた世界とネタ被りを起こしてしまうことに気が付いた。
……ま、いいか。


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竜の伝説 3

 TT-1は救助した女性――王国3大諸侯、ウィスーク公爵家の娘、エネシーと名乗った――と共に目標国家の都市へと向かった。

公爵という爵位や3大という表現の感覚が地球における一般的なものと変わらなければ、エネシーは目標国家、名称はカルアミーク王国と判明したその国において、相当な地位を持った家の娘だということになる。

外交の糸口としては非常に良好だ。

 

「騎士様、もうすぐで街ですわ!」

 

「ああ、視認できている。それと、私は騎士ではなく、外交官だ」

 

「まあ、もう見えているだなんて、すごい!外交官を任されるだなんて、やっぱりその名も高い騎士様なのね!」

 

「いや、私は騎士ではない」

 

「そうだ騎士様、助けていただいた時に居た、あの黒い竜は何だったのですか?」

 

「そんなものが居たかな」

 

ビークルはすでに元の地点で光学迷彩を展開して待機していた。知られないで済むのなら、知られない方が良かった。

 

「そうですか?気のせい、いえ、12角獣があんなになるなんて……」

 

「標準的な視力であれば、そろそろ君にも街がはっきり見えてくるころだ。あの街で間違いないのか?」

 

「え、あ、本当……あれがカルアミーク王国の王都、アルクールですわ!やっぱり騎士様はすごいです!」

 

「私は騎士ではない」

 

 言いつつTT-1はカルアミーク王国の首都、王都アルクールの外観についての分析を開始している。この距離であっても、TT-1の可視光カメラの性能であれば、城壁の程度や警備状況、人の出入り、城壁を超える高さの建造物などについて十分な分析が可能だ。

TT-1の体験や得た情報はリアルタイムでリンクしている日本エリアの両戦略コンピュータや政府外交コンピュータなどとも共有され、そこから軍部コンピュータシステムへも共有される。

 軍部コンピュータシステムでは、転移後世界での経験を反映した戦略コンピュータの指示を受けて、得られる王都の情報や周辺の情報から、様々なパターンの軍事行動について立案・シミュレートを行っていた。

防衛、そして、攻撃。

 

 王都に到着後、ウィスーク公爵家で歓待を受けたTT-1は、ウィスーク公爵との交渉を行った。とは言っても公爵の方から礼についての話を切り出してきたので、交渉は円滑なものだった。

自分の身分についての説明を行い、王国の外交担当者への仲介を依頼し、受諾された。

 

 外交担当には丁重な扱いをされ、外交は順調のようだったが、処理などのために即決とは行かない。後日またより上位の者との交渉があるとのことで帰った。

ウィスーク公爵が同家での宿泊を強く希望し、断る理由もなかったために受諾した。



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