IS ~緑龍の進む航路~ (フレイア)
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緑葉物語 #1 スタンダップ・レディ

 

 

インフィニット・ストラトス。

 

篠ノ之束博士によって開発され『IS』の通称で呼ばれるそれは、宇宙空間での活動を想定し開発されたマルチフォーム・スーツである。

ISはその攻撃力、防御力、機動力をもって現行の兵器の全てを圧倒。空も飛べるわ何やらでまさにチートスペックを誇る最強のパワードスーツ。

 

これは、そんなISと1人の人物が織り交ぜる物語———

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、藤川忠弘はある仕事のために同伴する連れの女性を連れ、その人物が住む家を訪ねた。

その人物には敢えて本来の目的は告げずに、電話口で遠出の用意をしておけと伝えておいた。

 

家の前に到着。どこにでもあるごく普通の一軒家に彼は暮らしている。ただし1人暮らし、将来的に所帯持ちになるため、というがまだ独身である。

インターホンを押すと声が返ってくる。玄関のドアが開いて、中から1人の人物が姿を現した。

 

「おぉ、またこれはこれは」

 

仄かに緑色に染まる髪、どこか飄々とした出で立ちの青年。

 

彼こそ今回のキーパーソンになりうる緑葉ナツ本人である。

 

だが緑葉の顔色は悪く、下瞼には隈ができていた。

 

「緑葉君…その隈は…」

「あの、実は私少し体調悪いんだよ」

 

苦笑しながら緑葉は頭を掻く。しかしそれで計画はパァにはならない。

 

「それは追々治していくとして」

「追々治すって何」

「とりあえず、まぁ、こちらの方を」

 

藤川は連れの女性から受け取ったバッグと袋を緑葉に渡す。

渡されたバッグを地面に置いた緑葉は袋の中に入れられた物を見る。そして入れられた物の正体が分かった緑葉は笑い声を上げながら取っ手を握ったまま地面に崩れ落ちた。

 

「ああ!?ああ!?ああああああ!?」

 

わなわなと身体を震わせながら緑葉がバッグの方に恐る恐る指を差す。何が言いたいのか分かった藤川は首を縦に振って肯定。そして更に爆笑した。

 

「ウソだろお前ぇええええ!!」

「ホントです。さぁ準備の方を」

「準備の方をじゃねーよ!」

 

緑葉が中を確かめた袋に入れられていたのは錠剤が入ったケース。以前緑葉が飲まされたとある薬。そして指を指したバッグの中身は緑葉が察した通り、何故か女物の衣服や小物であった。

 

()()()()…もう……」

 

意味深なことを呟きながら緑葉は天を仰ぐ。

 

「まー堪忍して、諦めてや」

「おぉそうだな。どのみちあれだろ?拒否権ないんだろ?」

「無いです」

「そうか。藤川と会って数年、私もだいぶ成長した!」

 

関西弁を話す連れの女性、龍驤に諭され緑葉は諦めの乾いた笑みを浮かべる。

メチャクチャやる人物である藤川に対して抵抗しても無駄だと悟った緑葉はバッグと袋を持って玄関へと向かう。

 

「あ、あの時よりは随分改良されてるらしいですよ」

「何が改良だよバカヤロー」

 

捨て台詞を吐きながら緑葉が玄関のドアを閉める。

藤川と龍驤が待つこと数分、再び玄関のドアが開き、荷物を持った緑葉が姿を見せる。だが先程の外見とは明らかに違う。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして下はミニスカート。バッグに入ってる衣服の中である意味1番お気に入りのものをチョイスしたのだろう。

 

男の時と比べて多少若返っているのか外見はそれこそ10代後半から20代前半のそれである。なお実際の緑葉の年齢はあと1、2年ほどで三十路である。

 

「さ、準備も出来たところで行きましょう」

「いや行きましょうていうか、まだどこに行って何をするか聞かされてないってさっきから言ってるんだよ」

 

そう、この時点で緑葉はこれからどこへ行くのかも知らなければ、何をするのかも知らされていない。過去、藤川や鶴屋に同じようなパターンで旅行やら何やらに連れ出された経験が幾度となくある緑葉はかなり慎重になっていた。

 

実際、電話で話していた時も藤川からはマジで「遠出の用意を」としか言われていないのである。

 

国内のどこかか、或いは海外か。不安がよぎる緑葉を他所に藤川と龍驤は車へ向かい、それぞれ運転席と助手席につく。

覚悟を決めた緑葉はトランクの中に荷物を詰め込み、後部座席に座る。全員乗り込んだことを確認した藤川は車を出発させた。

 

車を出発させしばらく、高速道路に乗った辺りで藤川は緑葉に今回の仕事の内容をカミングアウトし始めた———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「IS学園に行ってもらいたい」

 

ある日、突然上司である鶴屋竜司に呼び出された藤川はそう告げられた途端、口をポカンと開いた。40代になり1児のパパとしても貫禄が出始めた顔がたちまち呆ける。

 

「あ…あいえすがくえん、ですか?」

 

鶴屋は黙って頷く。

 

鶴屋家は古くからの名家で、その影響力はあらゆる分野において絶大である。そして鶴屋竜司は鶴屋家の現当主にして鶴屋グループ総帥であるお方だ。

齢は50手前、髭を生やしてダンディーという表現が似合う、渋さが漂う壮年の出で立ちである。

敬意を込めて会長とも呼ばれることもある人が、一介の下っ端である藤川に何の用があって、何故IS学園などに行けと言うのか。

 

「鶴屋重工のことは、知っているだろう?」

「はぁ……」

「そこが近いうちに、というかすでにIS業界への進出に着手しているのだが、いかんせん順調なスタートではない。仕方ないといえば仕方ないのだが」

 

あらゆる分野にパイプを持っている鶴屋グループだが、意外にもIS業界に関しての足がかりは未だに持っていない。

 

 

ISが登場して10年。日本ではすでに倉持技研が<打鉄>などの国産機の開発に成功、フランスのデュノア社が開発した第2世代型と呼ばれるタイプの傑出機である<ラファール・リヴァイヴ>も日本へ輸入されているため、競争率が凄まじく現状手が出せていなかった。

 

「すでに、第2世代型試作機もロールアウトされていると向こうから報告は受けてはいるが、なにぶん日本における<打鉄>や<ラファール>のシェアが8割超では、つけいるスキがない。

それに、第3世代機のこともある」

 

鶴屋重工がIS開発に着手したのは5年前。

1度は第2世代ISの開発に成功したものの、<打鉄>とのコンペに敗れ、鶴屋重工は大打撃を受けた。以降は極秘裏に開発を続け、後継機が完成したのはつい数週間前のことだ。

 

そして今、現在IS業界が欲しているトレンドは第3世代機と呼ばれる国や企業が威信をかけ最新の技術を集めた機体達。鶴屋重工がやっと後継機を完成させたのは第2世代機。言ってしまえば売り手と買い手の思惑が違ってくる。

 

売り手のニーズに応えなければモノは売れない。故に第3世代機を開発できていないフランスのデュノア社は経営が傾き、存亡の危機にある。すでに開発に成功しているイギリスやイタリア、ドイツが競り合っているのが欧州戦線の展開である。

 

「何から何まで、我々は出遅れてしまっているのが現状だ。哀しいことにな」

「つまり、私にどうしろと…?」

 

苦笑する鶴屋に、核心を知りたい藤川が慎重に訊ねる。

 

「まぁ、なんだ。調べてきてほしいのだ。IS教育の中枢で。ISのノウハウを」

 

そう言って鶴屋は机の引き出しの中から数枚の書類とパンフレットを取り出す。

それらを手に取った藤川が流し読みをして、おおよそ読み終えたところで鶴屋の方を見る。

 

「そんな顔をするな。報酬の方はそれなりに考えてある」

「しかし……」

 

藤川は複雑な表情を見せる。

 

IS学園の詳細については藤川も齧った程度なら把握している。

知識、操縦、整備、ISにおける全ての分野を教えるために日本に置かれた教育機関。ISに関連した人材のほとんどがここで教育され世に出るらしい。

そしてもう1つ、在校する生徒の99%が女性なのである。理由は単純、『ISは女性にしか扱えない』から。それ故に藤川は学園行きを渋ったわけなのだが。

 

ではあとの1%は?となるが、今年の2月末に世界を震撼させるニュースが流れた。

なんでも、織斑一夏と呼ばれる男子中学生がISを動かした、という内容だ。

前述の通り、ISは女性にしか扱えない、それは世の常識になってきていた。そんな中で俺IS動かしちゃいましたーテヘッ。なんて起きたらどうなるか。

 

想像の通り世界中大騒ぎ。ISと関係ない人生を過ごしてきた藤川から見たら「おーすげー」程度の認識だったが、それはもう国のトップすら巻き込んだ騒動だった。

更に一夏君のお姉さんがブリュンヒルデと呼ばれる伝説最強レベルのIS操縦者である織斑千冬だというのもまた騒動に拍車をかけ、遺伝子保護だ人体実験だなんだと騒がれはじめヤバい空気になった時に、彼のIS学園編入が決まった。

 

なんでも学園の土地はいかなる国家機関に属さず、どんな国家や組織だろうと在学する生徒や学園の関係者には干渉することが出来ない、というエグい規約があるんだとか。

 

半分保護される形となり、たった1人の男子生徒という思春期の年頃にはつらいであろう状況の中、今日も元気に通っている一夏君のことはさておき、藤川は書類を見やる。

 

「安心しろ藤川。何も君1人だけに行かせるわけじゃない」

 

そう言われても全く安心などできない。

 

「緑葉も同行させる」

「えっ!?か、彼もですか!?」

 

鶴屋の言う緑葉とは誰のことなのか。

 

緑葉ナツ。彼は鶴屋家に直接仕える従者で、見方としては鶴屋の執事、世話役係というのが近いだろうか。

そんな彼はこれまで鶴屋から様々なことを頼まれてきた。その中には無茶振りな案件も存在してるが。

 

「うむ。もっとも正確には、彼ではなく彼女なのだがな」

「あっ」

 

鶴屋の言い方に思い当たる節があった藤川は瞬時に理解する。

 

度々鶴屋から無茶振りを命じられる緑葉なのだが、ある時『女体化してとある場所へ行け』という意味のわからない仕事を引き受けたことがあるのだ。

のちに藤川は緑葉と会って話をする機会があったのだが、そのとある場所については一切口に出さなかったが女体化については「なんとも言えない」と言っていた。

 

女体化された経緯だが緑葉曰く、ある日今の藤川のように鶴屋から呼び出され、錠剤が入った袋を渡され「これを飲んで今日は寝ろ」と言われたそうな。

そして言われた通りに飲んで寝て朝起きたら女体化してたらしい。何を言っているのか分からないが聞かされた時も訳が分からなかったし、実際に体験談を語った緑葉本人も分かっていなかった。

 

緑葉が鶴屋に問い詰め、女体化する薬のことについて聞き出すと次のことが分かった。

正確に言うとそれは女体化させる薬ではなく性転換させる薬、言うなれば男性を女性に、女性を男性にするという代物だった。

結局それを飲んだ緑葉は数週間の間言われた仕事を渋々遂行。帰ってきた後に解毒剤を飲んで元の姿に戻ったのだ。

 

「また、飲ませるんですか…」

「女性の方が、あそこは自然と溶け込めると踏んでな」

「ちなみにですが、私は…」

「そのままだ」

 

その言葉を聞いた藤川は心の底から安堵の息をした———

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰らせろや」

 

今の心境を表すには充分すぎる一言を漏らす緑葉の思いとは裏腹に車は学園がある方向へと向かっていく。

 

「そういえば緑葉君、体調の方は」

「なんか知らないけどだいぶスッキリしたよ」

「そうですか。あぁそれと、こちらから言える範囲での注意事項というか緑葉さんに気をつけてもらいたいのは…やっぱりその、言葉遣いの方は…」

 

今の緑葉は女性になっている。そのため自ずと女口調にしなくてはならない。

ましてやこれから向かう先は10代女子の園、なおさら言葉遣いには気を使わなければならない。

 

「まぁ、なるべく善処はするよ」

「我々だけなら良いんですけど、人前だとやっぱり怪しまれたら面倒ですから」

「だからなるべく私をイライラさせないでくれる?男口調が出ちゃうのよ」

「……なんかアレだなぁ。妙に感に触るというか」

「何?」

「やめときやめとき、そろそろ見えてくるで」

 

一瞬険悪な空気になりかけたが助手席に座っていた龍驤が2人の間を取り持つ。

 

関西弁を喋る龍驤はこの中で唯一の純粋な女性だ。関西弁を喋るが実際は生まれも育ちも関東圏、関西弁もお笑いで身につけた所謂エセ関西人なのだが、緑葉や藤川を始めとした鶴屋家の人々はあまり気にしていない。

 

ついでに言うと、もう1人男性のメンバーで三崎という人物が緑葉達とくるはずだったのだが、家庭の事情から来れなくなったため、現在新たな人員を探しているのだとか。

 

そんなこんなでIS学園が目の前に姿を現わす。人工島丸々1つ使っているためその規模は計り知れず、東京ドーム何個分とかの次元ではない。

訓練や試合などに使われるアリーナは大小含めて6つ、学生寮に食堂、大浴場など3年間暮らす上でのありとあらゆる設備が備わっている。

 

「この時間帯だと丁度4時限目なのかなぁ」

「にしてもだだっ広いなぁ〜」

「それより駐車場あるんかいなここ」

 

腕時計を見ながら藤川は駐車場を探して学園内の道路を走らせる。緑葉と龍驤も窓から外をくまなく見回すがそれらしき場所は見つからない。

 

その後しばらくIS学園のスケールに圧倒されながら車を停められる場所を探しているとようやくゲートみたいな場所に辿り着く。しかし駐車場が見つかりそうにないので止むを得ず路肩に車を停める。

 

「あぁ、風が気持ちいい」

 

車から出た緑葉は背伸びをしながら周りを見渡す。車の鍵を締めた藤川も周りをキョロキョロ見渡している。

 

「藤川君。これもしかしてアレかな?自分達で来いっていう、そーいうアレかな?」

「どうだろうなぁ、でも迎えの人とか居ても良さそうだけどなぁ…」

 

藤川の言う通り、本当なら出迎えの1つや2つあってもいいはずだが出迎えなんてないしそれどころか人影すら見えない。時間を11時を回ろうかとしていた頃だ。少なくともお昼頃には学園のお偉いさんと会わなければならない。

 

「待ってても仕方ないで、歩くか?」

「歩く……」

 

龍驤がそう提案してきたものの、緑葉の反応は悪かった。その理由は緑葉の真後ろから続く長い歩道にあった。

 

「これを…歩くの?」

「まぁ、これ以上車で近づける道が見つけられてない以上は、そうするしかないな」

 

藤川にも言われてしまっては仕方がないので緑葉は歩道を歩きはじめる。その後を藤川と龍驤が続く。

しかし、ふと緑葉が足を止める。耳を澄ませていると何かが空を切る音が聞こえる。

 

「なんや!?」

 

上空を見上げた龍驤が声を荒げて叫ぶ。

その時、突然6つの影が学園側から飛翔。あっという間に自分達の周りを取り囲んだ。



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How do you like Campus? #2 黄金旅程

「…………」

 

あまりの光景と衝撃に緑葉は思わず声にならない悲鳴で喉を枯らす。それは藤川も龍驤も同様で2人も目を見開き口をあんぐり開け声にならない声を発している。

 

「おい」

 

6つの物体のうちの1つが唐突に自分達に話しかけてくる。しかし突然の出来事に呆然としていた緑葉はすぐに反応できなかった。

 

「おい、と言っているんだ」

「あ、あぁ、ええっと……」

「誰だ貴様達は、ここは関係者以外立ち入り禁止だ」

 

呆れながら物体は言う。ようやく冷静さを取り戻した緑葉は改めて自分に問いかける物体を見る。

 

よくよく見てみるとそれは10代の女の子で、長い銀髪に赤い目。左目には眼帯を付けている。そして何より目を引くのは彼女の風貌だ。彼女が着込んでいる灰色のスク水みたい(というかまんま学校で着るようなスク水)なのもそうだが、黒い図体に右肩には大きな砲?のようなものも備え付けられている。

 

圧倒されうろたえるフリをしながら周りの5機を流し目で確かめ確証を得る。

 

(あぁ成る程、これが『IS』か)

 

ISを生で、それもこんな間近で実物を見れるのは男心という性分がくすぐられる。やっぱり男子はメカに弱い。

と言っても今はそれどころではない。藤川の方を見ると彼もまた目を突然の出来事に困惑を隠せない。

「オマエ、ココ、タチイリキンシ、シッテタカ」と首の動きと目の瞬きで藤川に問う。藤川は知らない知らないと言わんばかりに首を猛烈に横に振る。

 

「聞いているのか。貴様らここで何をしていた。返答次第によっては、こちらにも考えがあるぞ」

 

そう言い銀髪の少女は冷徹な眼つきを背けず右肩の砲身を緑葉へと向ける。自他共に強メンタルと言われるさすがの緑葉も頭を軽く吹っ飛ばせる威力を持つであろうカノン砲を突きつけられてはたじろくしかない。

 

「まぁ待ってよラウラ。まずはこの人達の話聞いた方がいいんじゃないかな」

「む。し、しかしだなシャルロット…」

 

そこへオレンジ色のISを纏った別の少女が近づいてくる。ラウラと呼ばれた子はなんとも言えない困った様子でモジモジしている。

 

こんな状況で思うべきじゃない事かも知れないけど、なんというかその、アレだよね。普段キツい性格をした子が特定の人だけに見せる可愛い面というか、そーいうギャップの差に萌えますね、ハイ(小並感)。

 

「そうだぞラウラ、それにこの人達敵って訳じゃなさそうだぞ?」

 

敵ってなんぞや敵って、というツッコミはさて置いて、緑葉は声を発した第三者の男子の方へと顔を向ける。

彼もまた白いISを纏っており右手には大きな剣を持っている。彼こそが話題の男性唯一のIS操縦者『織斑一夏』本人で間違いないだろう。

 

「アンタね、まだあれからひと月も経ってないのよ。それでいてこの人達は怪しくないって言われても信じられないわよ」

 

また新たな声が聞こえてきたのでそちらに目を向ける。赤と黒のカラーが入った機体で、横の羽らしき所には砲口らしきものも確認できた。両手には青龍刀のような刃物を持っている。格闘戦に特化した機体である事は何となくの雰囲気で分かった。

 

(アレが<甲龍>。そして向こうのやつが<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>、<シュヴァルツェア・レーゲン>、<ブルーティアーズ>、そして<白式>ってことか)

 

車での移動の最中、緑葉は学園のホームページなどを駆使し事前にISの機体名、操縦者の名前など前もって仕入れていた。

一般の生徒を検索するのは難しいが、専用機持ち、所謂代表候補生と呼ばれる生徒などは雑誌などにも度々載っているので一種の有名人のような扱いを受けている。売れない芸人よりネームヴァリューがある彼女らの情報を調べるのは結構容易いことだった。

 

しかしただ1人、燃えるような紅い機体に乗る黒髪の子のことは何処を調べても分からなかった。見ただけでその凛々しさは窺い知れ、まさに大和撫子を往く出で立ちに心の中で外部に漏れないように感嘆の声を漏らす。まぁそれは今はどうでもいいとして。

 

見ると鈴と一夏、そしてシャルルが我々をどうするか揉めていた。鈴は先生らに突き出した方がいいと言い、一夏とシャルルは無害そうだから注意に留めて帰すと言っている。

普通に考えたら後者の方がいいのだろうが生憎我々は残念ながら普通じゃない。議論がヒートアップしていくなか、頃合いを見て緑葉が動いた。

 

「えーっと、私達ここの責任者と話がしたいんだけど、なんとかならないかな?」

 

緑葉の要件を聞いた彼らは顔を見合わせている。鈴の方はやはり怪しいと此方を睨みつけているが…。さて、どう出る?

 

「どうする?織斑先生に報告する」

「え、本当に報告するの?確かに先生に言うって言ったのはあたしだけど」

「ふむ……、私はそれで構わない。ここは教官に任せる他あるまい」

「織斑先生に任せるのであれば、わたくしも賛成いたしますわ」

 

どうやらラウラの方は同意したようだ。彼女に続くように鈴以外の面々もうんうんと頷く。鈴の方は「でもねぇ…」と賛成半分反対半分と言った様子で頭を掻く。

 

自分で言うのもなんだがこんな得体の知れない3人組なんて怪しいに決まってる。

オマケに場所が場所なだけに1つ判断を間違えただけでとりかえしのつかない事になる。他の人が別に怪しくないし話だけでも聞こうぜったって素性も知らない目的も知らない(どのみちさっき聞かれたばっかりだからちゃんと要点纏めて話せる気がしない)なんて信じれませんわな。私が彼女と同じ立場だったとしたらとっとと追い出すかな?

 

「よろしければ、私がこの人達を案内しますよ」

 

議論もヒートアップしていたところにまた違う声が入る。

見ると両手に清掃用具を持った初老の男性がこちらへ歩み寄ってくる。見た限りでは学園の清掃員、用務員で間違いないだろう。

 

「君達はまだ授業がありますし、先生方には私からお伝えしておきますよ」

「なら、お願いしてもいいですか?」

 

用務員のおじさんにそう言われ、少し思案したのち一夏は緑葉一同の対応を任せることにした。反対の声こそ出なかったものの緑葉達を疑っている鈴は大丈夫なのか?という怪訝な表情を変えずにいた。

 

「では、こちらへ。車の方は後程停める場所を案内します」

 

そう手招きされ、緑葉達は用務員のおじさんに付いていく。最後尾を行く緑葉が後ろを振り向くとさっきのISが一斉に飛び去っていくのが見えた。

 

そういえば、龍驤はまだしも自分はISに乗れるのだろうか。確かに今は女性の身体になってしまっているが、緑葉ナツは男性だ。そんな他人にバラせない厄介なネタを身体に秘めている自分に女性しか扱えないISは扱えるのだろうか。

 

正直な事を言ってしまえば乗りたい。そりゃそうでしょ?空飛べるんでっせ?オマケにライフルとかミサイルとか撃って空中戦出来るし。ミリタリーにも多少の造詣があるから尚更だ。

 

「おお、まだ自己紹介をしておりませんでしたね。私は学園の理事長を務めている轡木十蔵と申します」

「「「ふぁっ!?」」」

 

前を行く用務員のおじさんが歩くのを止め唐突に自己紹介をしてきたと思ったらなんか今理事長とかいうワードが。

緑葉・龍驤・藤川と3人揃って同じタイミングで同じリアクションをしたから恐らく気のせいではない。

マジか、と思っていると轡木十蔵なる人物が1枚の名刺を緑葉に渡す。見ると確かに『IS学園理事長 轡木十蔵』と書いてある。これは何という…改めて言おう、マジか。

 

「よく驚かれますよ」

 

そりゃ初見はねぇ、というツッコミを心の中でキメながら緑葉の目線は名刺と轡木の容姿を行ったり来たりしていた。

いやまぁ、理事長に会うっていうのは何というか確定みたいな感じではあったんだけれども、まさかこんな形で会うなんて誰と想定していなかった訳で。

理事長なんて普通は厳かな雰囲気の部屋でお高めの椅子に座っているものだ。それがどこにでもいそうな用務員さんの姿で出てきて「そうです。私が理事長さんです」ってカミングアウトするもの、どーいうギャップなのそれは。

 

「あの、じゃあ今ここで我々のこと話した方が良いですかね…()」

 

相手はIS学園の理事長。緑葉は萎縮しながら改めて轡木に問う。

 

「貴方達のことは、しっかりと鶴屋様から聞いておりますよ」

 

その言葉を聞いた時の3人の安堵感と言ったらもうアレである。緑葉は「よかった…」とただ一言だけ発し胸を撫で下ろす。

 

「いやよかった。本当によかった。それこそ俺めちゃくちゃビクビクしながら歩いてたから…」

「このままウチら学園の裏側で表に出ることなく裁かれてしまうんかな思てたわ…」

「いえいえ、そんな物騒なものはありませんからご安心ください」

 

安堵感から本音が漏れる藤川と龍驤を見て轡木がニッコリと笑う。轡木さんが柔和そうな人で良かった。

 

「ただやはり貴方達の事も知りたいので、改めて色々お話は聞かせてもらいます」

「あ、ハイ。それはもちろん」

「そう固くならなくても大丈夫ですよ」

 

柔和な笑みを崩さない轡木を見て、この人めっちゃ良い人だと確信を得た緑葉達は、職員用の玄関を通り、下駄箱で靴から用意されたスリッパへと履き替えIS学園の内部へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「迷った」

 

道無き道を往きながら、緑葉は一言それだけ言い残してまた道無き道を歩く。正確に言えばちゃんとIS学園内の通路ないし廊下をテクテク歩いてるんだけど、まぁそれは比喩というやつなわけで。

 

思わぬ形で理事長さんに会った我々は、あの後理事長室に行き、そこで理事長夫人とも顔を合わせた。

なんでも夫人の方は表向きの理事長なんだとか、やっぱりそこそこ闇深いじゃないのとかいうツッコミは置いといて、そこからは軽く話をしたりしていたんだけど、私は言い知れぬ緊張感のせいで腹痛を訴えた。元来そこまで緊張するタイプじゃないし、自他共に認めてるんだけどあの謎の緊張感には敵わなかった。

そんなわけで応対は龍驤と藤川に任せてトイレへ行き無事に痛みから脱出したのだけど、好奇心で適当にぶらついていたら(なるべく人に出会わないように細心の注意を払いながら)今度は道が分からなくなって結果的に詰んだ。あと実質女子校だから仕方ないといえば仕方ないけど男子トイレが無かった。もしも彼が急な便意に襲われたら多分詰む。

 

「あの人誰?来賓?」

「えー、誰かの保護者とか?」

 

丁度休み時間ということもあり通路には多数の生徒の姿が。

とにかく視線が痛い。悪意ある目線ではないんだろうけど、奇異なモノを見る目で見られてるのがつらい。あとヒソヒソ声が地味にまた堪える。

耳を立てて聞くと自分のことを来賓の方とか誰かの保護者なんじゃないかとか言ってるのが聞こえる。まぁ来賓っちゃ来賓なんだけどなって思いながら歩く緑葉の足取りは重い。

 

「こんなんなるならどこに何があるかもしっかり調べとけばよかった……」

 

IS学園は呆れるくらい広い。それはもう語るのが面倒くさくなるくらい。おまけに案内板の1つくらいあってもいいのに未だに見つからない。ISの事や操縦者のこと調べるならまずそちらを調べておけばよかったと今更ながら後悔する。

 

「なんで人工物の中で遭難しなくちゃならないんよ…。とりあえず藤川辺りに連r」

 

どこともなく彷徨っている時に浮かんだ妙案、むしろなんで今まで思いつかなかったのか。緑葉が携帯を取り出し電源ボタンを押すも反応がない。ホームボタンを押しても以下同文。

すると現れたのは充電切れを表す画面。あんまりだ、無慈悲だ、自分が一体何したって言うんだ。

 

ある種の悟りに至りそうな緑葉の足取りは更に重くなる。気がつくと周りの生徒達は皆いなくなり、心なしか電気も途切れ途切れにしか点いていない。

いよいよもって誰かに訊ねるという最終手段がほぼ消えた現状、無闇に歩き続けるのもいい判断ではないと踏み、緑葉は歩くのをやめ近くの壁に寄りかかるように座り込む。

 

(これからどうしよ)

 

はぁ〜、と溜め息をつきながらそんな事を考えていると、自分が寄りかかっている壁に違和感を覚える。確かにイヤにゴツゴツとした壁だなと思っていたが、やはりどうにも違和感を感じ、立ち上がって自身が寄りかかっていた壁をよく見てみる。

 

「うん?これは…」

 

周囲が暗いため目が慣れるのに時間がかかったが、すぐに目が暗さに慣れてきてようやく壁の正体を知ることが出来た。銀灰色のカラーリング、両肩の盾のような形状をした翼、それに脚部と、それが何であるかすぐに察することが出来た。

 

「これって、もしかしてIS?」

 

それは<打鉄>と呼ばれる純日本製の第2世代IS。そのうちの1機だった。ちなみに緑葉が寄りかかっていた部分は左脚である。

周りを見渡してみるとそこには何機もの<打鉄>が置かれている。どうやら訓練用のISを置いておくための倉庫らしい。正直な事を言うとここがそういうところだとは全く気がつかなかった。それくらい何も考えれずに彷徨っていたのか私。

 

というかそういう大事な場所なら戸締まりしっかりしときなさいよ、なんで開いていたんだ………………うん?開いてた?

 

「お〜〜ば〜〜け〜〜だ〜〜ぞ〜〜」

 

時すでにお寿司とはこの事。ここから出ようとした瞬間、緑葉の背中にはずしりと誰かに抱きつかれていた。

 



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#3 邂逅

戦闘シーンを書くのはなかなか慣れませんね()


休み間の終わりを告げる本鈴が鳴り授業が始まる。

今日行われるのはISを使った1組と2組合同の実習だ。1組担任の織斑千冬は相変わらず会話に勤しむ生徒数人の頭に(言い方は悪いが)見せしめとばかりに出席簿の角を用いた制裁を与える。

それは代表候補生(専用機持ち)も例外ではなく、何故か心ここに在らず状態だった箒にも出席簿の魔の手が炸裂した。ついでにそれを見てニヤニヤ笑っていた鈴にも。

 

休み時間の時に『学園の関係者ではない3人組を目撃し、用務員の男性が彼らを学園の方へ案内していった』と専用機持ちから報告を受け、表情や行動にこそ出さないが千冬はいつもよりピリピリしていた。現状何も起きてこそいないものの亡国機業の襲撃からまだ1カ月も経っていない。学園は水面下で警戒を強めている。

 

(一夏は『悪い人には見えなかった』とは言っていたがな)

 

実の弟である一夏の人を見る目は確かだということは姉である千冬も保証済み。自分の考えが杞憂に終わればそれでいいのだが。

一通りの挨拶を終え、何か質問はあるか?と生徒に訊ねるとセシリアが手を挙げた。

 

「あの、織斑先生、見たところ布仏さん達がいませんが」

「それなら心配いらん。アイツらには先に<打鉄>と<ラファール・リヴァイヴ>を取りに行ってもらっている」

 

授業時間は有限だ。ISを校庭まで持ってくる時間すらも惜しい。そこで数名の生徒に授業が始まる前にISを持ってきておいてほしいと副担任である山田真耶の口から伝えておいた。

 

布仏本音。通称のほほんさんはその名の通りのほほんとしている彼女だが成績は優秀、生徒会にも所属しているのだが、のほほんとした性格から彼女を初めて見た時は『本当に大丈夫なのか』と心配になった。しかし謙虚に働くため先生からの信頼も厚い。ただ生徒会ではほとんど仕事をしていないらしい、曰く自分がやるとむしろ仕事が増えるとか。本当に大丈夫なのか。

そんな彼女に取りに行かせたのだがまだ帰ってこない。本音以外にも相川や鷹月ら数人にも行かせたがいずれも未だに帰ってきていない。千冬は出席簿の面を手に当てながらISを置いてある倉庫の方角を向く。

 

オロオロしながら山田先生は千冬へ向け生徒に聞こえない声量で耳打ちする。もしかしたら何かあったのではないか、と。先の3人組の件は山田先生も聞いている。

千冬も顎に手を当てながらトラブルを想定していると、遠くの方からガシンガシンとISが歩く駆動音が聞こえてきた。

 

「アーループースーいちまんじゃーくー♪こーやーりーのうーえで♪アールーペンおーどーりをおーどーりましょー♪」

 

呑気に歌を口ずさみながら<打鉄>を纏う本音の姿を見て、本気で心配していた山田先生はホッとしている。千冬も呆れながら頭を抱えるがすぐに本音が抱えている人物に気付き表情を険しくする。そして千冬が険しい表情を見せたのと同じタイミングで専用機持ちの顔つきも変わる。

 

「むふふ〜、これで逃げられないよー。そりゃーたかいたかーい」

「あっ、ふぁっ、降ろっ、降ろして、揺らすな!高い高いすな!せめてちゃん、ちゃんと持って!」

 

本音が抱えていた人物。緑葉は<打鉄>にお姫様抱っこされるような形になっていたが、時折の本音が高い高いをして空に放り投げている。

緑葉は色々と荒い本音に不満をぶつけているが当の本人は聞こえないフリでもしているのかまた緑葉を放り投げる。それを両脇から見ながら<打鉄>や<ラファール・リヴァイヴ>を乗せた台車を運ぶ相川達は思わず苦笑いを作っている。

布仏が手を離すと緑葉はそのまま背中から地面にダイブし「あでっ」と声をあげる。横からISを運んできた鷹月が千冬の前に立ち、頭を下げた。

 

「織斑先生、遅れてしまって申し訳ございませんでした」

「あぁ、問題ない。列に戻れ。それより布仏に聞きたいことがある」

 

頭を上げた鷹月の脇を通り千冬は件の人物である緑葉の前に立つ。背中をさする緑葉は千冬の存在に気づいて「あっ……」と血の気が引いた笑みを浮かべる。

 

「そいつは誰だ?」

「えーと、確かミーちゃんだったような」

「真面目に答えろ」

 

普段はどんな相手にものほほんとマイペースな彼女も千冬の前に立つとさすがに緊張するのか無意識に背筋を正している。

本音の答えにならない答えを聞き呆れながら千冬は溜め息をつく。

 

「あっ!やっぱりアンタさっきの!」

 

そんな時である、千冬直々の取り調べを敢行しようとした瞬間鈴が叫ぶ。

 

「知っているやつか?」

「この人です!私達が見かけたやつ!」

「間違いありませんわ」

 

千冬が鈴に問うと、鈴が緑葉に指を指しながら肯定し、セシリアも首を縦に頷く。

ということはこの人が一夏達が報告してきた3人組のうちの1人ということになる。後の2人がどこにいるかはさておき、今この場においての最高責任者は千冬である。

つまり自ずとこの不届き者(緑葉)に対する処罰は千冬が下さなければならない。

 

(また厄介な事になったものだな)

 

内心そう愚痴をこぼしながらさてどうしたものかと腰に手を当てて悩む。大事な授業の時間をこれ以上無駄にはしたくない。

やがて静かに息を吐くと、千冬はその場にいる生徒達と真耶に命じた。

 

「イレギュラーな事態となったが、授業はいつも通り進行する。まずは専用機持ちに模擬戦を行なってもらおうか」

 

その決定に千冬以外の全員が「え?」という反応を見せ、困惑の表情を浮かべながら千冬の顔を伺う。

 

「他の者達は模擬戦の邪魔にならないところで観戦だ」

「あの…、先生?」

「おっと、まだメンバーを言っていなかったな。今日はまずデュノアとオルコットにやってもらおう」

「それは分かりましたが…、あの人については…?」

 

テキパキと指示をしていく千冬に対し疑問をぶつけたのはシャルロットだ。シャルロットの疑問は至極ごもっともで、他の生徒も、何より当の緑葉本人も意外そうな顔をしながら千冬を眺めている。

 

「それについては心配いらん。こいつは私自ら監視しておく」

 

一瞬の静寂。砂利を踏む音すら聞こえない静寂。風が吹く音が聞こえるほどの静寂。

そしてそれを聞いた生徒の超のつく安心したような納得したような表情を浮かべた。『織斑先生がそう言うのなら大丈夫だな』とかそーいう反応である。

 

それなら仕方ないと言わんばかりにシャルロットとセシリアは愛機を展開し雲一つない空へ飛翔する。緑葉も地面に座りながら2機のISを見つめる。

2機のIS、<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>(以下ラファール)と<ブルーティアーズ>がそれぞれの持ち場につき滞空を続ける。

そして山田先生の合図を皮切りに模擬戦を開始した。

 

 

 

 

2機のISはまるでダンスを踊るような旋回を見せ生徒達を魅了する。歓声をあげる生徒もいれば、彼女らの技術を盗もうとジっと見つめる生徒もいる。

シャルロットが駆る<ラファール>が右手に持ったアサルトライフルを構え動き回るセシリアへ偏差射撃を行う。一方のセシリアは華麗な動きでシャルロットが放った全弾を交わしきり、負けじと大型ライフルを向けると、その銃口からレーザーが放たれる。

レーザー射撃を見切っていたシャルロットは自分のもとへ直進するレーザーを軽々と交わし連撃を続ける。観戦する生徒から再度歓声が漏れるなか、緑葉も模擬戦から目を逸らさずに2機のISをジッと見つめていた。

 

一夏と箒はそんな緑葉の様子を横目に見ながらシャルロットとセシリアの模擬戦を眺めていると、不意に緑葉がポツリと呟いた。

 

「乗るとするなら、<ラファール>かな」

「え?」

 

一夏はつい緑葉の独り言に反応し、箒も緑葉の方へ見やる。2人の視線に気づいた緑葉は一瞬だけ2人のもとへ目をやるがすぐに模擬戦の方へ戻す。

 

「<ラファール・リヴァイヴ>ってのは、フランス製の量産型なんでしょう?で、アレはそのカスタムチューンってところか。元々が量産型なら扱いやすさも上かなって。どんなに性能よくても動かせなかったら意味ないからねぇ」

「ほう」

 

緑葉の言葉を聞いていた千冬は僅かに驚いたとばかりのリアクションを見せる。一夏と箒もまた緑葉の解説に目を丸くさせる中、今度は千冬が緑葉に問いかける。

 

「ではこちらからも質問をしよう、<ブルーティアーズ>はどう見るんだ?」

「ん?<ブルーティアーズ>ねぇ〜……。正直あまり乗りたくはないかな。というか乗りたくない」

「随分バッサリいくじゃないか」

「さっきも言ったけど結局扱いやすさが重要になってくるわけだし、あの機体は相当な慣れがいるだろうから、あのオールレンジ攻撃もなんかねぇ〜」

 

緑葉が見上げているとセシリアはビットを放ち、それから発射されるレーザーがシャルロットの脇を掠める。一夏と箒も緑葉の解説に耳を傾けていると、緑葉はニッと笑う。

 

「何の予備知識も無しにこんな所来やしないし、あともう1つ言うと<ブルーティアーズ>は多分負ける」

 

IS学園に来る前、緑葉は学園内や企業などで行われた模擬戦や公式戦、訓練などを記録がある限り動画を探し出してはその動画を時間がある時にチェックしていた。機体性能や操縦者の事はもちろん、その機体や操縦者が持つ癖、動きの傾向、武装の展開パターンなど分かる限りで自分なりに分析していた。

 

そうこうしているうちに試合が動く。シャルロットがセシリアへ急接近をかけ、左手に持っていたシールドの先端部に取り付けられたパイルバンカーをセシリアに突きつける。確か武装名は灰色の鱗殻(グレー・スケール>と言ったか。

 

「くっ…!」

「もらった!」

 

間一髪で交わすもバランスを崩したセシリアへシャルロットは畳み掛けるようにライフルを連射、連射をまともに食らった<ブルーティアーズ>はごりごりとシールドエネルギーが削られていき、シールドエネルギーを数パーセント残したところでセシリアは両手を挙げ降参の意を示した。

 

「ほらやっぱり」

 

緑葉は舌を鳴らすと予想が当たったことに満足し右手にグッと力を込め控えめなガッツポーズをする。

自分が置かれている状況を分かっているのか分かっていないのか、校庭に着地するシャルロットとセシリアの姿を見ながら笑みを絶やさない緑葉だが、ある意味千冬からの警戒は更に強まる結果ともなった。



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#4 相人眼

「模擬戦も終わったところで実習訓練を始める。では、いつものように専用機持ちをリーダーとしたグループを作れ」

『はい!!』

 

千冬は手を叩き模擬戦に夢中になっていた生徒達の意識を自分へ向け、指示を伝える。生徒達もみな気合の入った返事をしてそれぞれグループが形成された。

一夏やセシリアなどを始めとした専用機持ちがリーダーとなり、それぞれグループに分かれたところで実習が始まる。

 

グループリーダーを眺めていると、彼女らがどんな風に他の生徒達にアドバイスを教えているのか傾向が分かる。

例えばセシリアやラウラは持ち前の知識で高度な技術を教授しているが、難解な解説に頭を混乱させる生徒がチラホラ。逆に鈴は感覚で覚えろと単純かつ分かりやすいアドバイスを教えているが、あまりにも抽象的なためセシリアの場合とはまた違った意味で頭を混乱させる生徒が。

 

ちなみに箒も専用機持ちであり、愛機の<紅椿>は最新鋭の第四世代機という超スペックを誇る機体である。箒自身も剣道の大会では全国一にも輝いたこともあるし、機体性能のお陰というのもあるが彼女も他の専用機持ちと引けを取らない実力を持っている。

のだが、一時期彼女をグループリーダーにするのはどうなのかと一部で議論になった事がある。理由は当の箒の教え方が「ずがーんといけ」とか「ぐぉーんとやれ」とか要するに『アレ』なのだ。

千冬が確認を取ったところ「やります」と即答で答えたため箒もグループリーダーとなったのだが、やはり鈴以上に超抽象的な表現が生徒達には伝わりにくい時もある。

 

そんな実習風景を見つめながら、横で座っているであろう緑葉に千冬は語りかける。

 

「…………お前がどういった理由でここにやってきたのかは知らん。だが妙な動きを見せた時は…、その時はその時だ。織斑は貴様を悪いやつではない、と言っていたがな」

「あの…、織斑先生、誰に話してかけているんですか?」

 

千冬が喋っているところに真耶がやってきて困惑しながら問う。

千冬がお前は何を言っているんだと言わんばかりに真耶の方を見やると、真耶も真耶で怯えたような困ったようななんとも言えない表現を浮かべている。

そして千冬が緑葉がいるであろう場所へ顔を向けると、そこに緑葉はもうすでにいなかった。

 

「……山田先生、さっきのことは忘れてもらってもいいですか」

「え…?はぁ…、はっハイ!分かりました!山田真耶!忘れます!」

 

千冬のぼやきに曖昧な返事をした真耶だったが千冬の無に等しい顔を見るとすぐさま背筋を正し、記憶を消し去るために頭をポカポカと叩き始めた。

 

 

 

 

「こうかな、上手く歩けてる?」

「そうそう、今度はもう少し速く歩いてみようか」

 

専用機持ちをリーダーとしたグループは各自動作を確認しながら実習を進めていく。

その中でもシャルロット班へと注がれる尊奉の眼差しは大きい。何しろシャルロットの教え方が上手いのだ。セシリアのように具体的なわけでもなく、ましてや鈴や箒のように抽象的でもない、初心者にも熟練者にも分かりやすいコーチは純粋に人気が高い。あの一夏もシャルロットは教えるのが上手だと褒めていたのもあってか現在進行形で人気が上がっている。

 

シャルロットに言われた通りに白線で引かれたコースを1周し終えた<打鉄>のコクピットから鷹月が降りる。

 

「ふう、やっぱデュノアさんのところが1番良いかも。分かりやすいからそのぶん気楽に乗れるからね」

「そう言ってくれると僕も嬉しいな」

「さっきの模擬戦も良い動きしてたしね」

「あはは、ありがと…………うわっ!?」

 

鷹月からの言葉にシャルロットは照れくさいのか頭に手を当てる。周りからも笑顔を向けられる。先程の模擬戦の内容を称賛してくれた人にもお礼を伝えようとした時、シャルロットは驚きながら一歩後ろへ下がる。

 

「そこまで驚かなくても、ねぇ?」

「びびびびっくりしたぁ〜!えっ今の誰!?と思ったらホントに誰!?ってなったもん!というかさっきの人!?織斑先生に監視されてたハズじゃ……」

「撒いた」

「撒いた()」

 

自分の模擬戦を称賛し肩をポンポンと叩いた女性、緑葉は不服そうに頬を膨らませる。

本気で驚いたシャルロットが織斑先生はどうしたのかと聞くと緑葉は撒いたと答え、シャルロットだけではなくグループ内の生徒もポカンと口を開く。

 

「それより実習やらないの?」

「え?あ、あぁ…そうだった。じゃあ次の人乗ってくれるかな」

 

緑葉に諭されシャルロットは慌てて待っていた次の人に<打鉄>へ乗るように促す。<打鉄>に搭乗した生徒は白線で引かれた楕円のコースを歩きながら歩行訓練を行なっているがどうにもコーナーを曲がる動きが固くてぎこちない。

 

2学期という時期にもなると、ISの操縦に慣れてきた子とそうでない子の差は結構出てくるものだ。慣れた子は苦もなくISを扱うが逆にまだ上手く扱えない子も中にはいる。そういった子達をなんとかするのが自分達の役目でもある。

 

(どうしたものかなぁ…)

 

ぎこちない動きで歩く子を見つめながらシャルロットが思案していると、隣で歩行訓練を見つめていた緑葉がスッと歩を進め<打鉄>を纏う子へと近づく。

 

「あっ!勝手に動いちゃダメですって!」

 

しかしシャルロットの忠告も聞かず緑葉は<打鉄>を纏う子のもとへ歩み寄り、その子の傍から何か話しかけているのが聞こえる。

ここからでは若干聞こえづらいものの、緑葉が何やらジェスチャーを交えながら何かを伝えているのが見え、<打鉄>に乗る子も同意するように首を縦に振りうなづいている。

しばらくすると緑葉は<打鉄>から離れ、近くに置いてあった白線を引く道具を持ってくると楕円のコースの真ん中をクロスさせるように線を引き、8の字を形成したコースを作り上げた。

<打鉄>の子は意図が分からないのか首を傾げていると、緑葉はまた何か言いながら右手の人差し指を使い8の字を宙に描く。その意図が分かったのかその子はハッとしたような顔で頷き、緑葉もよし行けと言わんばかりに<打鉄>の装甲を軽くポンポンと叩く。

手を叩きながら戻ってきた緑葉にシャルロットが問いかける。

 

「あの子と何を話していたんですか?」

「あぁ、私なりにあの子にちょっとしたアドバイスをね」

 

見るとその子は8の字に引かれた線の上をゆっくりと歩いている。

 

「直線だと普通に歩けてたし、多分あの子は曲がるのが若干苦手なんだと思う。だからさっきのようにコーナーで少し戸惑って動きが固くなる。それでまずはコーナーを上手く対処できるように敢えて小回りの8の字でやってみろって言ってみたの」

 

シャルロットは思わず感嘆の声を漏らす。

緑葉がどんな人物なのかは知る由もないが恐らく只者ではない。経験上どことなく分かってしまうものだ。

 

「すごいですね…」

「弟子を育てる師匠になりたいってわけじゃないけど、ちょっとそういうの好きでね」

 

シャルロットの心の底からの伝えられた言葉を聞き緑葉は照れ笑いを浮かべる。

頑張って<打鉄>を操りながら8の字のコースを歩く女子を見つめながら、緑葉は思い出したように言う。

 

「あ、そうそう、私は緑葉って言うの。緑葉ナツ」

 

シャルロットの方を見て緑葉は軽く会釈しながら自己紹介する。そういえば自己紹介がまだだった。シャルロットも緑葉の方へ身体を向け自己紹介を行う。

 

「シャルロット・デュノアです。さっき校門の場所でオレンジ色のISを纏ってたのが僕なんです」

「しーってるよー、有名人さん」

「そうなんですか?」

「ここ来るまではこっち(IS)関連、あんまり詳しいわけじゃなかったからね。色々雑誌とかで情報集めてたからその辺で名前は知ってるよ。

それに、そう固くしないしない。かしこまられるの苦手でさ、友達の話す感じでいてくれた方がこっちも楽だから、ね?」

 

緑葉の笑顔を見てると、こっちも気が楽になり自然と笑みがこぼれてしまう。さっき一夏は悪い人には見えないと言っていたが、どうやらそれは当たっているみたいだ。

 

と、緑葉が突然身体をぶるっと震わせ咄嗟にその場から飛び退く。すると先程まで緑葉がいた場所を何かが一閃、シャルロットもびっくりしながら後ろを振り向く。

 

「ほう、今のを躱すか」

 

そこには右手に出席簿を目一杯握りしめた千冬が立っていた。出席簿がミシミシと嫌な音を立てているが多分気のせいではないだろう。

 

「怖いんだけど何今の!?背中、背中ゾクゥってしたけど!?」

 

間一髪のところで出席簿アタックを躱した緑葉は尻もちをつきながら身体を震わせる。やはり皆、千冬の威圧感には逆らえないものなのか。むしろアレに逆らえる奴いたら尊敬するよ私は。

 

「仮に貴様が国のお偉いさんだったとしても、私はもう貴様にはそういう態度は取らんぞ」

「何その決心」

 

謎の決心を宣言した千冬にすかさず緑葉はツッコミを入れる。なるべく関わらないようにシャルロットが横目で2人の様子を見ていると声が聞こえた。

 

「こんな感じでいいんですかー!?」

 

声のする方を向くと先程緑葉からアドバイスを受けて8の字のコースを歩いている子が緑葉の元へ確認を取るためこちらの様子を伺っていた。

その子の方へと向いた緑葉は人差し指を掲げ合図を送る。

 

「あと1周したら他の子と変わって!」

「わかりましたー!」

 

緑葉の指示を聞いた子は再び8の字コースを歩き始める。一連のやり取りを見ていた千冬が若干驚いたような表情を見せる。

 

「あれはお前の指示じゃないのか?」

「いえ、緑葉さんがあの子にアドバイスしてそれで…」

 

シャルロットが否定すると千冬は顎を触りながら緑葉を見やる。千冬からの目線に気づいた緑葉はどうにもバツの悪そうな表情を浮かべ目を逸らす。

 

「少し貴様に興味が湧いてきた。あとで一緒に話でもしようじゃないか」

「…………()」

 

その瞬間の緑葉の全てを悟った顔といったらもう言葉にするまでもないだろう。

 

(緑葉さん、気持ちを強く持ってください…僕には祈る事しか出来ません…)

 

心の中で同情の言葉を投げかけながら、シャルロットは歩行訓練の方へと意識を切り替えるのであった。




緑葉「恐いんだよあの人……」


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#5 ブレス・ジャーニー

「水どう×ゆるキャン△公式コラボいえええええい!!」
「本編とは全く関係ところで盛り上がっとるやつの図」
「最初告知見たときは思わず声出たね」
「緑葉はどっちも好きやからなぁ」
「よし龍驤、今日はオールナイトで観るぞ」
「マジか()」


実習が終わった後、千冬の出席簿アタックを1発食らった緑葉はそのまま轡木十蔵が待つ理事長室へと連行、もとい連れて行かれる。途中何人かの生徒達とすれ違ったがその度に奇異の目線で見られて少しつらかった。

千冬が緑葉の首根っこを掴みながら理事長室に入ると、そこには轡木の他に2人の男女がソファーに座りコーヒーを飲んでいた。

 

「あれ、藤川と龍驤まだここにいたん?」

「キミを待ってたんだよ!!」

 

彼らの面識があるのか緑葉は藤川なる人物に話しかける。すると藤川は呆れながらソファーから立ち上がり緑葉の方へ身体を向ける。

 

「一体どこまでいったんだと思ってボカァとっても心配したんだぞ。龍驤がもう行方不明届出そうやって言ってたんだからな!」

「いやぁこっちも色々あってね」

「うん見れば分かるな、色々あったなキミもな、何したのか知らないけど、絶対ロクなことやってないな」

 

千冬に首根っこを掴まれてる緑葉を見ておおよそ彼女が何をしたのか察した藤川は再びソファーに腰掛ける。

 

「理事、彼らは?」

「視察にきた藤川さんと龍驤さんだ。そして君が掴んでる彼女は緑葉さん」

 

藤川と龍驤は千冬へ向けペコリとお辞儀をする。それを見た千冬も軽くお辞儀をして緑葉の方を見やる。

お前は何か挨拶はないのか?と目で問いかけると緑葉はプク〜とほっぺたを膨らませる。千冬が溜め息をつき緑葉を掴んでいた手を離すと緑葉はそのまま地面に叩きつけられた。

 

「この学園で1年1組の担任をしている織斑千冬です」

 

織斑千冬の名を聞き藤川と龍驤は驚きながら千冬の顔を見る。現役時代の彼女はまさに無敵の存在でISといえば織斑千冬、織斑千冬といえばIS。例えISについて知らなくても千冬の名前は知っている、それくらい有名なスターであった。

藤川や龍驤の反応とは対照的に緑葉はそこまで驚きはしなかった。専用機持ちのケースと同様に事前に調べていたため名前は勿論容姿も知っていた。そもそも千冬クラスのスター選手にもなると、例えばグー◯ルで検索したら『インフィニットストラトス 織斑千冬』と真っ先に出てくるし実際に検索したらわんさか情報や画像が出てくる。

軽く3人と会釈を交わした千冬は理事の元へと歩み寄る。

 

「それで理事、話とは」

「あぁ、実はね…………」

 

轡木は千冬にまず緑葉達の事、そして彼らがきた理由と目的を大まかに説明している。

 

数分経った時、話は終わったのか千冬は轡木へ向け「分かりました」と答え、彼の元を後にする。なんとも面倒そうな顔つきだったのは言うまでもない。

 

「事情は分かった。分かったのだが1つだけ聞いておきたい。お前達がここにくる意味はあるのか?」

「「「多分ない」」」

 

千冬の言うことはごもっともだし何ならドのつくほどの正論である。実際にここにきた3人もそう思ってるわけで。

 

いやホントなんで我々ここにいるんだろうね私達、なんでも鶴屋家の研究者がくるまでの繋ぎとは言われたけどそもそもそんなの必要なのか分からないし。そもそもその研究者の準備がいつ終わるのか分からないしいつ来てくれるのかも分からない。なんなんだろうこの仕事という名の何かは。

 

でもまぁIS学園なんて普段入りたくても入れない場所だし至近距離でIS同士の対戦が観戦出来ると考えたらそれはそれでお得な気がする。何事もポジティブに考えなきゃ損だしなんなら自慢にもなるからね。

 

「まず1組の連中だけにもお前達の事は話しておく。後で変に騒がれても面倒な事になるだけだ」

 

廊下を歩きながら千冬はそう伝える。

確かに誰かの保護者とかでもない見知らぬ3人組が校内をうろついてたら普通に一大事である。確実に通報コースだ。

 

「お前達は学園が呼んだ客員ということにしておく。異論はないな?」

「無いです」

 

千冬からの確認に3人とも首を縦に振る。ふと1番後ろを歩いてた緑葉が千冬に

 

「そういえば、時間帯的にもそろそろ帰りのSHRですよね?」

「あぁ。だからお前達はSHRが終わるまでは職員室n」

「SHRついていっていいかな?」

「……」

 

またもや千冬の口から溜め息が漏れる。もう何度目の溜め息か忘れてしまったほどだ。

頭を掻き毟りながら緑葉を目を見る。緑葉は決して千冬を困らせるためにこんな無茶ぶりを言っているわけではなく純粋な好奇心で言ってきている、それがまた厄介であった。

 

「…分かった。どのみち後で知らせることでもあるからな。ただし軽く自己紹介くらいはしろ。あと邪魔だけはするな」

「やった!」

 

観念したように千冬がそう言うと緑葉はニカっと屈託のない笑顔になる。本当に純粋な好奇心のそれだったのでさすがに無下には出来なかったのもあるし、どのみち生徒達には緑葉達の事は後々伝えるから、それが早まっただけのことだ。

それにしても客員ってなんか汎用性ある気がする。うん、なんとなく感じた。

その様子を見ていた藤川と龍驤は千冬に向け申し訳ないと苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

「へぇ〜そんな事があったのか」

「そうそう、ホントすごかったんだよ」

 

いつの時代もSHRが始まるまでの僅かな時間帯は10代の学生にとっては大事なおしゃべりタイムだ。皆今日この後どうするかとか、他愛もない会話が盛り上がる。

そしてそれは専用機持ちも例外ではなく、一夏、セシリア、ラウラ、箒の他数名の女子生徒がシャルロットの周りを囲み、シャルロットの話に耳を傾けていた。

 

「さっきの模擬戦の結果も凄く褒めてくれたし僕の<ラファール・リヴァイヴ>の事も評価してくれたんだ」

 

緑葉の話を続けるシャルロットの表情は明るく、未だ一区切りつく気配がない。

 

「それにしても聞けば聞くほど不思議な人ですわね。かえって怪しく感じてしまいますわ」

「あ、ちなみにセシリアの<ブルーティアーズ>は評価低めだったよ」

「なっ!何故ですの!?」

「うん、なんか扱いにくそうで嫌だってバッサリ言ってた」

「ばっ…バッサリ…」

「うむ、遠からず当たっていると思うな」

「ラウラさんまでそのような事を言いますの……?」

 

しくしくとオノマトペが聞こえそうなほど落ち込みながらセシリアはふらふらと自分の席へと戻っていく。

一夏達がシャルロットの話の続きを聞こうとした瞬間、教室の扉が開き真耶と千冬が入室してくる。それを見た生徒達は急いで自分の席へと戻る。少しでもぼやぼやしていたら出席簿の嵐が吹き荒れるのは1組の生徒は身をもって知っているので、全員が5秒も経たぬうちに自分の席についた。

 

先に教壇に立った真耶がゆる〜い雰囲気を醸し出しながら伝達事項を簡単に伝える。そして普段ならクラス代表である一夏がいつも通り起立、礼の号令をかければ1日のカリキュラムは終わり、放課後の自由時間が与えられるわけなのだが、今日は少し事情が違った。

千冬が真耶に一声かけると真耶は千冬へ場所を譲る。

 

「今日も1日ご苦労だった。前置きしておくがこれから私が言うことは決して説教の類いではない。だが、決して聞き流すことの無いように」

 

千冬の言葉は教室中によく透り、生徒達は一言も発さずに千冬の方を注目する。

 

「お前達も知っていると思うが、午後の実習の時の件について私から簡単に話しておくことがある。

 

ーーおい、入ってこい」

 

千冬の視線が扉の方へ向けられるとそれに倣うように生徒達や真耶も教室の扉の方を見やる。最前列の一夏も肘を机に置きながら身を乗り出し扉へ顔を向ける。

 

すると扉の隅からひょっこりとツインテールの片っぽが飛び出る。生徒達が怪訝な表情を見せていると1人の女性がニコニコと両手を振りながら教室の中へ入ってきて千冬の横へ立つ。

生徒や真耶が千冬の横に立つ女性の方へ注目している中、シャルロットだけは歓喜を含んだ表情を見せていた。

 

「コイツらのことを言っておかなければ後々面倒な事態になるから紹介しておく。こちらは学園が招いた客員の」

「緑葉ナツと言います。しばらくの間、こちらで厄介になります」

 

千冬に続き緑葉はペコリとお辞儀をする。それを見て何故か真耶も緑葉に対してお辞儀をするのがなんか可愛かった。

お辞儀を終えた緑葉が左手で手招きするとまた2人の男女が入室してくる。入室してきた2人も緑葉に続きながら手短に挨拶を終えたところで再び千冬が話し始める。

 

「明日にでも他のクラスにも彼らのことは伝えておくので、皆不用意に騒ぎすぎるな。以上だ。おい、クラス代表」

「え?あ、起立、礼!」

 

いつの間にか自分にお鉢が回ってきていたことに気付いた一夏は慌てて号令をかける。一夏の号令と同時に他のクラスメイトも礼をして今日の授業が終わりを迎えた。

 

千冬と真耶が教室から出ていき、ある生徒はあらかたの後片付けを終えて足早に部活動へと向かう。またある生徒はISを用いたトレーニングを行うためアリーナの使用許可申請を作成している。

各人それぞれの時間が訪れるなか、やはり大多数の生徒の注目を浴びているのは未だに教室に佇む緑葉一行であった。正直なことを言ってしまえば今日これから緑葉達がやるべき事など特にアレをやれと強調されているものは無い。本格的な用件はIS学園に到着した翌日以降に伝えられると連絡が入っていた。

 

だから藤川も龍驤もこれからどうしようかと考えている中、緑葉は持ち前の明るさを用いて積極的に生徒達と交流を深めようとしている真っ最中であった。現に今彼女は端末を操っているラウラの横から細かい文章が書かれた端末の画面を覗き込んでいる。

 

「これは何をしているの?」

「アリーナの使用許可を申請している。これが無いと我々専用機持ちでもアリーナは使えん」

「ふむふむ、<打鉄>に<ラファール>ねぇ…」

 

電子端末を眺めながら緑葉はラウラに対してここは〜〜なのかとか、あーなのかとか色んな質問を投げかけている。あの行動力は一体どこから出てくるのだろうか。

端末の方へ目がいっていた緑葉だったが、ふと見るとラウラがこちらへむけて機嫌良さげに笑みを浮かべている。

 

「そういえば、緑葉ナツと言ったか?貴様のことはシャルロットから聞いている。なんでもオルコットの<ブルーティアーズ>を酷評したらしいな?」

「あー、そんなこと言った気がする」

 

見ると窓際に立っていたシャルロットとセシリアがこちらを見ていたことに気づいた。

実習の際に多少会話を交わしたシャルロットはすっかり緑葉のことを信用しているのか警戒心は薄まりニッコリと笑っている。

逆にあまつさえ自分の愛機を貶されたセシリアは不機嫌そうに緑葉を睨みつけ「フンっ」とそっぽ向かれた。

 

「良い機体なのは間違いないよ。自分には合わないだろうなーってだけで」

 

そう言いながら緑葉は端末の画面を指で左右にスクロールさせる。

 

「あのビットを展開してる時自分が動けないってのが嫌なんだよねぇ」

「ちょっとお待ちになってください!」

 

さらりと緑葉の口から出た台詞にセシリアは驚愕し、慌てて緑葉のもとへ詰め寄る。

 

セシリアが駆る<ブルーティアーズ>だが、ある欠点がある。『ブルーティアーズ(以後ビットと表記)を展開している時、自分は動くことが出来ない』のだ。

BT兵器と呼ばれるビットを展開する際、基本的に意識はそちらへ向けられる。ISというものは考えて動かすものであると聞いたことがある。すごく単純に言えば「右に動け」と念じれば右に動くといった具合に。

ビットを射出している時はそれを操ることだけで手一杯となり、IS本体を動かす余裕が無くなってしまうのだ。ちなみにビットを展開している時は自身が無防備になるだけではなく他武装も使用出来なくなる。緑葉が<ブルーティアーズ>に乗りたくないとバッサリ言った理由の1つでもある。

 

セシリアもそれが敗因となった試合をいくつか経験していたため、なるべく弱点を露呈させないようにしつつ、自分自身でも対策を練りながら戦闘をしていたが、まさかほぼ初見で<ブルーティアーズ>の戦いを見た緑葉に見破られるとは思っていなかった。

 

「いつ見破りましたの?」

「忘れた」

「わたくしを貶すのも大概にしてください」

「別に貶してるわけではないけど…、その顔ストップ意外と恐い」

 

セシリアが飄々とした態度をとる緑葉を睨みつける。その形相に緑葉は顔を痙攣らせ、目を逸らす。

こういう普段お淑やかな人ってね、怒らせると結構恐いんだよ。実家の近くに住んでる如何にもマダムなおばあちゃんがブチ切れてたの見たことあるけど、マダムのマの字も無かったからね。子供心ながら超恐かったのを覚えてる。母ですらあんなに怒らないよレベルのキレっぷりだった。

一体なんであんなに怒ってたのか、今でも思い出す度に気になってるし、何なら今度聞いてみてもいいかもしれない。

 

「聞 い て ま す の ! ?」

「ハイスイマセンおばあちゃん!」

「誰がおばあちゃんですの!?」

「HAHAHAHAHAHAHA」

「ラウラさんも笑わないでください!」

 

目の前で繰り広げられているセシリアと緑葉の漫才のような戦いについラウラは笑ってしまい、セシリアの逆鱗に触れる。

その様子を眺めながら一夏達は何やっているんだかと含み笑いを浮かべる。

 

「それにしても、ラウラもすっかり緑葉さんの事気に入ったみたいだね」

「そういえばそうだな。いつもなら1番警戒しているはずだが」

 

シャルロットの言葉に箒も同意する。一夏も改めてラウラを見る。

軍人であり、普段なら他の誰よりも緑葉達のことを警戒するであろうラウラだが、今彼女は緑葉と一緒に大口開けて笑っている。

そんな緑葉であったが、あることを思い出し笑うのをやめ顔をあげる。

 

「そういえば、今日私達これからどうするの?」

「え?」

 

今まで蚊帳の外状態であった藤川はいきなり問いかけられポカンと口を開ける。

 

「しばらくここにいなきゃいけないわけなんだから、どこか滞在する場所決めないと」

「って言われてもねぇ…」

 

藤川も龍驤も緑葉もそれぞれ困り顔で明け暮れる。というのもこれ以降の予定が全くないのだ。それ以前にどこで宿泊するかすら決めていないという有様である。

IS学園に滞在する期間は短くても約1カ月、長くて2カ月、その間どこで泊まるかは最優先で決めなくてはならなかった。

 

「今からこの辺のビジネスホテル探し回ってもさ、今日明日の分はまだしも、最低1カ月間部屋取れる…?」

「部屋代だってバカにならないしなぁ…」

「つーかなんで親父さん部屋取ってくれなかったんや…」

 

IS学園の周りにはホテルがいくつか建てられている。しかしそれらは世界中の要人をはじめとしたVIPをおもてなしするためのホテルなため部屋代がバカみたいに高いのだ。他のホテルを探そうにもこの辺りは極論IS学園以外何も無い。前述のホテル以外を探そうとしたらいずれも学園から遠くなってしまう。

 

というか1、2カ月ビジネスホテル暮らしってそれはそれでどうなのか。宿泊代だって決して安くはない。鶴屋家からはその辺は心配ないと言われてるがやはりどうしても気が引けてしまう。そもそも今から1カ月間部屋取れる自信がない。

 

「それだったら、ここに泊まればいいよー」

 

先行き不安な空気が緑葉達に立ち込めている時、のんびりとした口調で本音がそう発した。




「あfろ先生の描き下ろしイラストを見たときの感動したね。あと藤やんの巨人姿には草生えた」
「いつまで続くんやこの話」

いってみたいなぁ…水どう祭()


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#6 本当に大丈夫なんですか?

「みんなお待たせー!ポンポコ星からタコタコ星人やでーッ!」
「龍驤さんですね?」
「アッハイ」
「今回寝床が決まるらしいですが、何かその辺見所といった点はありますか?」
「墨汁ビーム!!」スッタカター
「あのー龍驤さーん、そのキャラクター演じるのきつくありませんかー?あとなんか、姪っ子がその姿見て大爆笑したと聞いたんですけどー、それについて一言ありますかー!?」


「それだったら、ここに泊まればいいよー」

 

先行き不安な空気が緑葉達に立ち込めている時、のんびりとした口調でのほほんさんこと本音がそう発する。その言葉は緑葉達にとってまさに天からの贈り物でもあった。

 

「え?それホント?マジ?というかここそういうのしてもいいの?」

「おっけーもおっけーだよ〜。いくつか空き部屋あるってたっちゃんから聞いたからそこ使えばいいよ〜」

 

相変わらずのほほんと返答する本音を他所に緑葉と藤川、そして龍驤の3人は小声で話し合う。

 

「どうするよ?」

「そりゃ君アレだろう、ここに泊まれるんならそれ以上のありがたさはないぞ?部屋の写真見たけど設備凄かったぞ」

「でもあの子の言うことホンマに大丈夫なんか?信じてええんか?」

「いやでもそうは言ってもあの笑顔を無下にしたくないよ私は」

 

3人は改めて提案者の本音を見る。ふわふわとした雰囲気の彼女からの提案は正直鵜呑みにしたくない。そんな彼らの心境を知ってか知らずか本音はニッコリと屈託のない笑顔を浮かべる。

 

「えーと、一応も1回聞くけどそれ誰か許可できる人がいるとかそういうのある?それとも貴方の独断?」

「んー、たっちゃんに聞いてみないと分からない」

 

ちょっと待ってよ本当に大丈夫なのか、そもそもたっちゃんって誰だ。

仮にもここに滞在できるのであれば本当にそれ以上のありがたさはないが。しばらくすると本音は手の甲をポンと叩いてドアの方へ回れ右をして

 

「じゃあたっちゃんに聞きに行こう!」

 

と本音がスタスタと歩いていくものだから困ったものである。

慌てて3人も本音の後をついていくが、その足取りからも不安が窺い知れる。

 

「これは本当に大丈夫なのか緑葉君。もしお偉いさん方に知れたら、俺たちひょっとしたら〆上げられるんじゃないか」

「私に言われても困るぞぉ藤川君。そういう時は連帯責任だからな誰かに擦りつけるとかお前絶対ナシだからなやめてよマジで」

 

緑葉が藤川に2本と言わず3本ぐらい釘を刺してるのを他所に本音はどんどん前へ進んでいく。

 

「でもホンマの事言っとる風に感じたけどなぁ」

 

袖を振りながら歩いていく本音の姿を見ながら龍驤は小声で呟く。緑葉は肩を竦める。

 

「分からないよ、あーいう手合いは案外腹が黒いかもしれない。まぁ全然そんな感じしないけどもさ」

 

ふっと夕日が差し込む窓から見える校庭の方に目をやると部活に勤しむ子もいれば、ベンチに座り黄昏ている子もおり皆自分の時間を楽しんでいる。古今東西そういった情景は変わらないものである。

そうこうしているうちにとある一室の前に差し掛かったところで本音の足が止まる。緑葉達がドアの上にかけられてある表札を見るや否や怪訝な表情になる。

 

「生徒会室……?」

「そうだよ〜」

 

まさか生徒会室に連れて来られるとは思っていなかった(職員室に連れて行かれると予想していた)ため、3人とも呆気をとられる。

 

もしかすると本音の言う『たっちゃん』とはこの生徒会のメンバーなのだろうか?しかし例えそうだとしてもIS学園となんの関係もない我々をここに滞在させることが出来るほどの権限があるのか、正直な感想を述べればとてもそうは思えないが。

 

「たっちゃ〜〜んお客さーん」

 

そう言いながら本音はドアを開けて生徒会室に入っていくから困ったものである。つーか今ノックしてなかったよね?

さすがの緑葉でも「失礼します」と言って入る勇気は無く、閉まるドアをただ見つめるだけだ。

 

「これ入らなきゃダメ?」

「いや俺は入りたくないぞ」

「ウチもなんかいやーな予感するわ…」

 

ドアの前で立ち尽くしながら互いに顔を見合わせる。いやどのみち入んなきゃいけないんだろうけども何故か身体が拒否反応を起こしている。

 

「よしじゃあせーので入ろう!3人でせーので行こう!」

「あー待ちたまえ緑葉君せーので行くのはいいがどのタイミングでいくんだ?せーのの『せ』か?それとも『の』か?言った瞬間かそれとも言った後か?」

「まず誰がドアを開けるか?何ジャンケンで決める?いいよこいよ土壇場強いぞ私」

「俺だって君アレだぞ、こう見えてジャンケン強えーぞ、もう親戚の子に圧倒的な実力つけてる俺に勝てるか君が」

「藤川のようなやつが最初に出すやつは相場が決まってるんだよ大体お前まずグー出すだろグー」

「あぁ!?なんで君が知ってるんだよ!俺教えてないぞどこで見破ったんだ!」

「なんでもええから早よ決めーや、もうウチ開けるで」

 

緑葉と藤川がどうでもいい言い争いをする中蚊帳の外に置かれていた龍驤が生徒会室のドアを開け部屋の中へ入っていく。それに気づいた緑葉と藤川も龍驤へ続くように生徒会室へ入る。

 

「待ちわびたわよ、おかしな来賓さん」

 

生徒会室へ入った緑葉達を出迎えたのは3人の少女だった。

1人は先程自分達を案内してくれた本音、よく見ると生徒会室の机にベターっと突っ伏してるけど、もしかして彼女は生徒会の一員なのだろうか、とてもそうには見えないが、その机を見ると『書記』と書かれている立て札があるので多分本当なのだろう。

 

そして後の2人、丁度自分達にお茶を淹れてくれた子は眼鏡をかけて髪を三つ編みにして知的な雰囲気を感じさせる。彼女も生徒会のメンバーなのだろう、まぁ如何にもな感じしますし。

そして水色の髪をなびかせ、机に肘を置き椅子に座る子が1人、なんか手に扇子持ってるし見ると『歓迎』って書いてある。我々歓迎されてるの?

困惑を隠しきれない緑葉達を舐めるように見ていた水色の髪の子はゆっくりと口を開く。

 

「ようこそ生徒会へ。貴方達のことは理事長や織斑先生から聞いているわ」

 

案の定ここにも私達のことは伝えられてたみたいである。いやまぁ学校のトップに位置する生徒会が知らないとなるとそれはそれで問題であるが。

 

「改めて自己紹介。私は更識楯無、生徒会長にしてロシアの国家代表でもあるわ。ヨロシクねっ」

「布仏本音だよー!」

「布仏虚です。生徒会の書記を担当しています。本音は私の妹なんです」

「「「Oh…」」」

 

いやぁ情報量の多さと濃さに驚きを隠しきれない。3人とも頭がパンクしそうになるもなんとか踏ん張る。

IS学園が色々と規格外なのはこの数時間で身体と心に叩き込まれたがまた規格外なスケールで出てきましたこと。ところでさっきサラッと言ってた単語聞きました奥さん、あの楯無さんって子ロシアの国家代表なんですって意味分からなくないですか?

 

「あのー…その国家代表ってのはやっぱり腕前は確かなんですよね?」

 

何を今更と思ってしまう質問を藤川が楯無さんにぶつける。

 

「当然。そして学園を統括する者は何事にも最強でなければならないの」

 

楯無さんが扇子を開くとそこには『学園最強』と書かれていた。さっきと書かれてる文字が違うというツッコミを心の中に封じ込める。

違う意味で感心する緑葉の横で楯無さんの話を聞いていた龍驤だったがある違和感を覚えた。

 

「そーいやさっきロシアの国家代表言うとったけどアンタ日本人やろ?なんでロシアの国家代表なれるん?」

「あぁ確かに」

 

龍驤の言う通り、楯無さんは名前からも分かる通り日本人である。こっちの業界について深くは知らないが普通なら自国の人が国家代表とかになるものだと思うが。

 

「色々あるのよ、色々と、ね?」

 

まぁ結局はぐらかされるわけで、楯無さんは唇に人差し指を当てながら『秘密』と書かれた扇子を開く。もうアレは気にしなくてもいいやつかな。

ISはその性能、社会に与えた影響などの観点から外交のカードにも使われる、そんなディープな闇の世界に安易に片足突っ込んでとんでもない事態になるのも嫌なので緑葉達もこれ以上は深くは追求しない事にした。

 

「それはそれとして、例の話は本音ちゃんから聞いたわ」

 

扇子を閉じた楯無さんの目つきが変わる。

例の話というのは十中八九我々の滞在についてだろう。ハナから期待していないがいざ無理と言われると別の意味で少し心にくるものだ。

 

「結論から言うわね、オーケーよ」

「「「……………………え?」」」

 

緑葉達の予想はあっさりと覆される。なんと許可が降りてしまった。楯無さんはニコリと笑みを浮かべながら『OK』と書かれた扇子を勢いよく開く、アレ英語もイケるのね。

しかしそんな些細なことよりまず真っ先に聞かなければならない事がある。鳩が豆鉄砲を食ったような表情のまま緑葉が聞く。

 

「真面目に何故?完全外野な私達を」

「別に今のところ深い理由は無いわね。あっても言わないけれど。強いて言うなら私、面白い事ことが好きなの」

「は、はぁ…」

 

理由になりそうでならない理由を言われて緑葉は曖昧な返事をするしかなかった。それでいいのか、最強の生徒会長さんや。

 

「一夏君やシャルロットちゃん、本音ちゃんも貴方のこと気に入ってるみたいだしね」

 

楯無さんの目つきに緑葉は思わず身体をビクつかせる。嗚呼、あの目つきはからかいがいのあるモノを見つけた時のそれだ。ボク分かっちゃったよキミ。

 

「先生達には私の方から報告するわ、部屋はそうねぇ…」

 

虚からファイルを手渡された楯無さんはパラパラとページをめくりながら手に持った扇子を回す。

 

というのも近いうちに秋の学年別トーナメントがあるのだ。本来は予定されていなかったのだが、春に行なった時はとある事情で中止となってしまい、一応の措置としてデータ測定という名目で一回戦だけは執り行ったものの一部の生徒達から不満が殺到し、急遽決まったのだ。

それでもわざわざスケジュールを変更してまで秋の学年別トーナメントを観戦すると各国の要人から連絡が入っているのだからISがどれほどの影響力をもつのかよく分かる。

そのため学園周辺にあるホテルの部屋は全て埋められ、学園内にある来賓用の宿舎も満杯となってしまっている。となれば1つしかない。

 

「う〜ん、学生寮になるけどそれでもいいかしら?」

「あ、全然大丈夫ですよ。寝る所があれば倉庫でもいい」

「屋根があるところならどこでも」

 

緑葉が快諾し、藤川も同意する。藤川の言う通りそれこそもう屋根があるところからどこでも良かったので、パンフレットでも見た学生寮の部屋で寝泊まりできるのは非常にありがたかった。

 

「ふふ、謙虚でよろしい。本音ちゃん、案内してあげて」

「は〜い」

 

机に突っ伏してほとんど寝ていた本音が寝起きなのかやる気のない声を出して身体を伸ばす。

 

「ほら本音、しっかりしなさい。失礼でしょ」

「ん〜?ふぁ〜〜」

(あの子大丈夫なのか……)

 

姉に揺すられながら欠伸をする本音を見て緑葉は一抹の不安を感じたのであった。




唐突ですけど、二次創作における束さんって書き手によって色々なキャラしてるから見てて面白いんですよね。
この緑葉物語でもそのうち束さんは登場します。現段階で束さんが登場する話の下書きをメモアプリでスラスラ書いているのですが、まぁあのキャラクターは中々難しいです笑
あの独特なキャラクターを崩しすぎてもアレだし、かといってあのままだとどうも……多少緩和させようかなとか色々どうしようかなぁと考えながら練ってます。

もっともホントにまだまだ先、恐らく三十何話後の登場になるとは思いますが、1%でも楽しみにしてあげてください^^;


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#7 ものもいGirl

「ウチは海賊王、ナイフのジャック。ウチに触ると怪我するでぇ」
「あのーちょっといいですか」
「ほお〜、ウチと戦おうってゆーんか?ええ度胸しt」
「龍驤さんですね?」
「ハイ」
「えーなんとか寝床がきまって、今度は晩ご飯ということなんですが、ここでも一悶着あったみたいですね?その時のお気持ちを一つここで」
「斬れぬものなどあんまりなーい!」スッタカター
「龍驤さーん話のホネ折らないでもらえますかー?あと某半人半霊の台詞パクってますが後で訴訟起こされても知りませんよー」



時計の針はすでに5の部分を指しており、学生寮の廊下ではオフの時間を楽しむ生徒達の姿を見かける。

いくつかの鍵を持ったご機嫌な本音が袖を振り回しながら歩いていく。時たま手から鍵が飛んでいってそれを拾いにいったり近くに居た生徒に当たったりしたこと以外は大きなトラブルもなく、寮内の一室の前に辿り着く。

 

本音から鍵を手渡された緑葉が鍵穴に鍵を指し、施錠を解除しドアノブを回す。

 

「おぉ〜」

「これはまた、いい部屋じゃないか」

 

部屋に入るとまず大きなベッドが2つ並べておかれており、テーブルの上にはお湯を沸かすポッドがあるし24型のテレビも設置されている。窓も大きめで丁度夕日が入り込んできている。

Wifiルーターもあるわバスルームもしっかり完備と、並みのビジネスホテルよりも高級である。もはやそれと比べるのもおこがましいぐらいに設備が良すぎる。

龍驤がベッドを触ると生地に沈んでいき驚きの表情を浮かべる。

 

(触ったら分かる、これ起きれんやつや)

 

テレビをつけたら夕方のニュースがやっており、リモコンを持った藤川は何気なくザッピングしていくと当たり前のようにBSとCSが観れる事に気づく。

 

(待遇良すぎないかコレ)

 

想像以上のエグさに言葉が出ない中、本音は緑葉の手に2つの鍵を渡す。

 

「これはここと左隣の部屋の鍵、じゃあおやすみ〜」

 

そう言い残した本音は部屋を出て行き、部屋の中には緑葉達が残った。

しばらくの間は部屋中を見て、どこに何があるのかを確認した後、藤川は椅子に、龍驤と緑葉はベッドに腰掛けた。

 

「部屋割りはこっち2人藤川1人で決定ね、というかそれしかないし」

「そりゃ、勿論そうなるわな俺は」

「まだ夕食食べる時間やないし、少し休まへん?疲れたわ」

「そうだねー、じゃあ7時ぐらいになったらご飯どうするか決めようか」

「それじゃあ俺は向こうに行くから」

「何かあったら連絡くれよぅ」

 

クタクタな龍驤はもぞもぞと布団に入り、藤川は自分の荷物を持って部屋を出る。同じく疲れていた緑葉もアラームをセットして少し仮眠を取ることにした。

 

「寝てるとこ襲ったらアカンで」

「大丈夫そんな余裕ないから」

 

今は女性の身体になっている緑葉が男であることを留意してか、ジト目でこちらを見つめる龍驤に背を向けながら緑葉も布団の中に入り込み、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

 

7時きっちりにアラームが鳴り、緑葉の右手が無造作にアラームボタンを叩く。目をこすりながら窓の外を見るとすっかり日は沈み空は暗くなっていた。

龍驤も大欠伸をしながら頭を掻きむしり目を閉じたり開けたりしている。

今日はこのまま寝ていても良かったのだがご飯と風呂はしっかり摂っておきたい性分なのもあるが、さっきからけたたましくコールを繰り返しているスマホのこともある。

 

「ふぁい」

『あぁその様子だと随分寝ていたな君』

 

電話の主は予想通り藤川だ、何かあったら電話かLINEで連絡してくれと事前に伝えておいたのだ。

 

『約束通り、飯を食べにいくぞ』

「それは分かってるけどどこで食べるの」

 

普通に考えれば今から車で街に繰り出すのだが、ここはIS学園、街まで結構時間がかかるし何より今の時間帯は店が最も混んでいる時でもある。

 

「ここの食堂とかさ、私達でも使えるのかな?」

『あー、確かに何も言われてはないけどな』

「使えるんだったら使った方がいいよ。わざわざ車走らせる手間省けるし」

『じゃあとりあえず、食堂行くだけ行ってみるかい?』

「すぐ準備するから外で待ってて」

 

藤川の『うい』という間の抜けた返事が返ってきたのを聞き緑葉は電話を切る。そして寝落ちの顔に冷水をかけて最低限の荷物をリュックの中に詰め込み廊下へと出る。

 

「緑葉君さすがにリュック要らねえんじゃないか?」

「もし外に行く時は要るでしょ?」

 

緑葉が背負うリュックを指差す藤川に対しもしもの時のためと受け流す。龍驤も緑葉を見習ってか小さめのバッグに最低限のものは詰め込んでいた。

 

 

 

 

食堂では大勢の生徒達が友達と和気藹々と世間話に興じながら箸を進めている。

世界中からISの未来を担う若者が集うため和洋はもちろんの事、中華料理インド料理などと食については多種多様なレパートリーが揃っている。中には日本じゃそう滅多に食べれない異国の料理もあるため、一度ここに訪れたいと願うグルメな人も多い。

全学年の生徒を収容できるように座席はかなり多く設置されている。もう色々とスケールが違いすぎていちいち驚くのに疲れてきてしまう。

 

「いやもう慣れたと思ったんだけどねぇ」

「私もそろそろ慣れるかなと思ったけどね」

 

藤川と緑葉が妙にサバサバとした心境で食堂を見渡す。

しかし突っ立っていても始まらないので券売機で食券を購入する。ちなみに3人ともA定食と書いてある学食内でも比較的シンプルなものを選ぶことにした。

 

「あ、ちょっと忘れ物したから1回部屋戻るね」

 

そう言い緑葉は龍驤に食券を渡し部屋へと戻っていった。

数分後、忘れ物を持って食堂へと戻ってきた緑葉は藤川と龍驤の姿を見つけたが、どうにも2人の様子がおかしいのに気付いた。

 

「あれぇどしたん?」

「いやあのねぇ、ひっっっっじょーに申し上げにくいし僕らもなんでか状況を掴みきれてないんだけど、どうやら今日僕らはここで定食食べれないみたいなんだ」

「はぁ???」

 

藤川から告げられた衝撃の台詞に緑葉はあらかさまに素っ頓狂な声を上げる。

 

「いやいやいやいやちゃんと食券買って渡したんでしょ?」

「渡した渡したんだけど、なんか、今日はダメだっておばちゃんに言われて…」

「はぁえちょっ…、えぇ…じゃあ食券は金払ったんだよどーなんのよお金は?」

 

学園の食堂は生徒や先生などの関係者は無料なのだが、学園外から来訪する人は基本的には有料で食券を購入することになる。かく言う緑葉達もワンコイン出費して食券を購入したのだ。

 

「お金はちゃんと返ってくるらしい」

「えぇ…それにしてもなんで食えないの…」

 

緑葉は椅子にがっくりとうなだれながらリュックの中から1つの菓子パンを取り出しそれを机に叩きつける。

藤川と龍驤もその意図が分かったのか、つい吹き出してしまう。緑葉曰く『これが今日の夕飯だ』と。

 

「こんなところまできてねぇ、何が哀しくていい大人3人がだ、スーパーで買える菓子パン1個を3等分しなきゃならないのよ」

「しょうがないだろぉ今日ばっかりは。明日明後日になれば大丈夫だって言われたからそれまで辛抱するしか無いぞ」

 

もはや笑うしかない状況に3人とも苦笑いを浮かべる。

 

「キー貸しなさいよ」

「キー貸せったって…なにを…」

「車のキー貸しなよスーパーまで行ってカップ麺買ってくるから。もう1か月部屋出なくて大丈夫なくらい買い溜めしてくるから」

 

緑葉がそう言うと、藤川は思わず大口開けて大爆笑をあげる。

 

結局その後は3人とも車に乗り込み街まで外食を取りに行き、帰りのスーパーで食材と一応最低限の生活用品を買い溜めた。

なお車は自分達が最初に駐車した場所から移動される事なく置いてあり、「もしかしたら撤去されてるんじゃ」という不安は外れ安堵の溜息をついたのはまた別の話。

 

 

 

 

学生寮には消灯時間というものが設定されている。

22時を過ぎると消灯時間となり、廊下の電気は全て消される。その間は原則として生徒達は特別な事情がない限り廊下を彷徨く事は基本的にNGである。なおたまに消灯時間が23時の時もある。

今日も時計の針が22時を回った瞬間廊下の電気が消され、たちまち長い一直線の路線が闇に染まる。普段は生徒達で賑わう廊下もこの時間帯はどこか薄気味悪いものを感じる。

 

「真っ暗すぎて何も見えねぇよ」

「シッ、デカい声出すなヒゲ」

 

両手に飲料水がギッシリ入った袋を持ちながら藤川が肩を落とす、横を歩いていた緑葉が小声で注意する。

緑葉達が買い物を終え学園に戻ってきた時には既に電気は消され、今は重い荷物を担ぎながら長く暗い廊下を歩いていた。

藤川がボヤく気持ちも分かる。本当に真っ暗なのだ。仕方のない事なんだけどせめてオレンジ色のあの薄明かりのやつにしてくれたっていいだろうに。

これで見回りの先生とかに見つかったら確実に明日織斑先生の出席簿がしなる。アレを体験してるのはこの中で緑葉だけ、細心の注意を払いながら自分達の部屋へと急ぐ。

 

「エレベーターが動いてて良かったなぁ」

「これで動いてなかったら私は廊下で倒れるようにして寝てた」

 

エレベーターから降り、早足で自室まで急ぐのだが、緑葉らの部屋はエレベーターから結構距離があるのだ。

肩で息をしながら部屋まで歩を進めていく緑葉だったが、ふと視界の端に何か影が過ぎ去っていった。思わず歩を止め影が通っていった方向を見るとどうやらその影は人影のそれだというのがエレベーター内からの明かりで確認できた。人影が乗り込んだエレベーターは緑葉らがいる階層から下に降りていき1階のところで止まった。

 

「うん……?」

 

緑葉は首をかしげるが藤川と龍驤は気付いていないのか変わらずに歩き続けている。気のせいだと捉えるには無理があるほどハッキリと人影だと分かったし、ましてや霊とかの類いではない。

 

「これ持って部屋戻ってて」

「えちょちょちょ!?てか重ッ!待ってやどこ行くんや!?」

「ちょっとね」

 

人影がどうしても気になった緑葉はその正体を確かめに行くため、両手を塞いでいた荷物を龍驤に預け、エレベーターに乗り込み、1Fと表示されているボタンを押した。



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#8 ジャスティファイ

生徒の半数が布団に潜って寝静まるか、あるいは更なるオールナイトを満喫しようかという22時頃、ある意味もっともゴールデンタイムな時間帯な訳だがここIS学園では今の季節その22時きっかりに消灯となり、廊下の電気が全て消されることになっている。

 

原則としては22時以降廊下を出歩く事はNGであり、仮に先生に見つかった場合は色々と質問攻めに遭うなど面倒なことになる。そもそもの話、消灯となったら一斉に電気が消される訳なのだが、その際は薄明かりを通り越して完全に真っ暗となる。

さすがにそんな真っ暗闇の中を歩こうとする物好きはそうはいない。意外にも、と言ってしまっては少し失礼かもしれないが消灯時間は案外守られていたりする。

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

真っ暗闇になった廊下を急ぎ足で歩く人影が1つ。

 

相川清香は周囲に細心の注意を払いながらとある区画へと急いでいた。

その区画とは整備科がISの修繕や整備を行なうための格納庫であった。この時間帯は人が入らないように扉には鍵が閉められているのだが、一直線に扉の所へ向かった相川はドアノブに手をやり手首を捻る。

ドアノブはゆっくりと回り、鍵が掛かっているはずの扉はあっさり開いた。閉まる時の音が鳴らないようにゆっくりと扉を閉めた相川は各ハンガーに掛けられた<打鉄>や<ラファール>など多種多様な機体の数々には目もくれず格納庫を走る。

 

格納庫の端に差し掛かった辺りで相川は周囲を見渡し、自分以外に誰もいない事を確かめる。すると相川は何故か壁を軽めに2、3度ノックするように叩いた。しばらくした後壁の向こう側からトントンと音が響く。それを確認した相川は両手を壁に当て目一杯に押し込む。すると壁はゆっくりと、だが確実に奥へ奥へと動き、相川の身体は壁の向こう側へと吸い込まれるようにして消えていく。

 

壁の向こう側に広がった秘密のスペースの一角には1機のISが鎮座されている。その機体の周りには仄かに灯りがともっており、脚部の辺りに膝をつきながら装甲を拭く人物を見つけた相川は声をかける。

 

「南井先生」

 

南井先生と呼ばれた女性は相川の姿を見ると微笑みを浮かべる。相川は手に持っていた袋を南井へと渡す。

 

「これ、夜食のパンです。良かったらどうぞ」

「相川さんも、いつもありがとうございます」

「いえ……」

 

相川と南井はハンガーに掛けられている機体に目をやる。

流線形のフォルムで、まだ本塗装が塗られていないその機体は、まるで今か今かと出番を心待ちにしているようにも感じ取れた。

 

「ついに、ここまできました…」

 

南井が息をつき、感慨深げに呟く。

彼女が感慨深げにしているのには理由があった。

 

本機は「IS学園機体開発計画」において、IS学園設立当時の生徒達(1期生)の手で開発を進められた機体であった。しかし彼女達の卒業と共に計画は凍結、以後数年間学園内の倉庫の中にしまわれていたが縁あって先生という立場として再び学園へと戻ってきた元1期生の南井杏奈の手により無許可ではあるが開発が再開されたのだ。

 

そんな中、偶然この計画を知ったのが相川であり、その時に南井からは他の人に知られたら面倒なことになるから誰にも言わないで欲しいと口止めをされた。

南井の説得の甲斐あってか(相川自身も面倒ごとは避けたかった)相川は口止めをすると約束したのだが、その時に彼女は1つの交換条件を出した。曰く、

 

「私にも手伝えることがあれば手伝わせて欲しい」

 

と。

こういうのを嬉しい誤算と言うのだろう。なんだかんだでパートナーが欲しかった南井はそのお願いを了承。

以来彼女達は二人三脚でこのISの開発を進めてきていた。そして工程の9割を終え、残すは本塗装のみとなった。

 

「良かったですね、先生」

「えぇ」

 

機体開発を手伝ってきた相川が労うように声をかけ、南井もゆっくりと頷く。

 

「やっぱり、先生が乗るんですか?」

 

相川の質問に対し南井は考え込むように顎に手を当てる。

まだ搭乗者が決まっていないのだ。極秘裏に開発を進めてきたから機体の存在を知る人が少ない為当然といえば当然である。

 

「そうですね、候補者はいるのですが…まぁそれは追い追い考えましょう。後は私がやりますので今日のところは相川さんは帰って休んでください」

「いいんですか?」

「もし他の先生に見つかったら私の名前を出してもいいので。では、おやすみなさい」

 

先生にそう言われてもらってはお言葉に甘えさせて頂こうと、相川は南井へ向かい「おやすみなさい」と頭を下げ部屋を出る。

 

相川は顔に微笑みを浮かべながら暗い格納庫内を歩く。足取りからしても上機嫌なことが窺える。あの機体が鮮烈にデビューする姿を見る事が待ち遠しい。そして南井には言えなかったが、本音を言えばやはり相川自身も乗ってみたいのだ。

 

一部の専用機持ちの生徒を除けば、普段の授業でも放課後の時でもISに触れる時間は限られている。その為放課後は腕を磨こうと<打鉄>などの使用許可を求める生徒が多く、その競争率は熾烈を極める。

何十分の1という確率で使用許可が取れたとして、それでも使える時間は限られてしまう。言うなれば専用機というのはIS乗りとしてはステータスの一種でもある。

 

勿論、専用機を獲得するには其れ相応の腕前と努力、そして任せられるコネクションが必要となる。だからこそ世界各国から来賓が集まる場で結果を出すのは自ずと大事になってくる。

かく言う相川もイベント後の立食パーティーなどで企業や要人に自分のアピールポイントを売り込んだ事は1度や2度だけでは無い。尚、今のところ成果はナシである。

 

「早く帰って布団に入ろ…」

 

他人には見せられないほどの大あくびをした相川はバレないように足音を立てない忍び足で格納庫から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

<打鉄>の影に隠れ、格納庫の扉を閉める相川の姿を見つめ、妖しげな笑みを浮かべていた緑葉に気付く事もなく————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日朝5時、<ラファール>を使って練習を行おうと前々日から使用許可を申請し、なんとか許可が降りた生徒が朝の練習をするため格納庫を開け、自分が使用する機体へ向かおうとした時、<打鉄>の側で倒れこむ人物を発見し、大騒ぎとなった。

その倒れていた人物こそが緑葉であり、部屋に戻った後すっかり寝床についていた藤川と龍驤にとって、まさに寝耳に水といった様子であった。

 

発見された時、生徒や先生らが辺りを確認。

緑葉はISに覆い被せるシートを4枚ほど剥ぎ取っており、うち1枚を丸めて枕に、後の3枚を布団に、地面にはマットを敷いて、何気に万全の体勢でぐっすりと熟睡していた。

まだIS学園に来てから時間的には1日も経っていないにも関わらず珍事を起こしまくった緑葉に対し千冬は頭を抱えながら目覚ましと言わんばかりのデコピンを緑葉のおでこにおみまいした。

 

「で、何か弁解の言葉は?」

 

場所を移し、時間を進ませ、現在緑葉達は緑葉らが泊まっている部屋へと戻り3人が顔を見合わせている。

藤川と龍驤が醸し出す威圧感に恐縮しながら緑葉は身体を縮こませる。

 

「言っとくけど、ウチらめちゃくちゃびっくりしたんやで。あの後部屋戻って幾ら経っても戻ってこないから大丈夫なんかなぁ、でも緑葉やし大丈夫やろと思って、移動で疲れたしウチはすぐにシャワー浴びて着替えて布団に入って寝たんよ。

 

で、朝の5時過ぎくらいかに突然ドアをドンドンドンと叩かれてドアを開けたら山田先生が居たんや。緑葉も知っとるやろ?あの巨乳の副担任や」

 

巨乳、と言うところを若干強めに言い、どこか顔を顰めながらも龍驤は続ける。

 

「どうしたんですか?と聞いたら、すぐ来てください!と言うから、何があったんやこんな朝っぱらからと思って外套羽織って山田先生についていったんよ。藤川ともなんでウチら呼び出されたんって思いながら行った先に緑葉が寝てたんや!」

「いや、私だってね、あそこで寝たくて寝てたわけじゃないから!部屋戻ろうとしたらどういう訳か開かないんだもん扉が!」

「そもそもなんで君はあんなところに居たんだい」

 

なんとか弁明を図る緑葉であったがそれが言い訳にもならないことは緑葉自身よくわかっている。龍驤に重い荷物を預けてどこかへ消えた挙句何故そんなところにいるんだという場所で熟睡してしまっていたのだ。

藤川からもツッコミを入れられる。しかしそこで緑葉はニッと笑みを浮かべる。

 

「秋の学年別トーナメント、いつだっけ?」

「なんだいきなり話題変えて」

「いいから調べて」

 

突然の話題転換に藤川は怪訝な表情を見せるが緑葉はあくまで主張を押し通す。

 

「来週辺りとは小耳に挟んだけどな」

「そう…」

 

頭を掻きながら仕方なしに教えると、緑葉は暫し俯きながら考え込む素ぶりを見せる。龍驤が緑葉の顔を覗き込む、そして思わず彼女は呆れながら苦笑いを浮かべる。

緑葉が浮かべていた笑みは、悪戯を閃いた子供のように無邪気なモノのそれであった。

 

「藤川くぅん、1つ会長に頼めないかな?」

「何をだ?」

「少し野暮なことよ。それとね……」

 

緑葉は藤川と龍驤へ向けこっちへ寄れと手招きをする。そして自分の元へ寄ってきた2人の耳元で小声で、しかし一語一語はっきりと認識できるように囁く。

緑葉が言った内容に2人は虚を突かれ驚愕の表情を見せる。

 

「いや待ってくれ緑葉君それは…」

「ホンマにか、ガチでか」

 

驚愕から抜けきれず唖然としている2人を他所に、緑葉はカレンダーを見据えた。




第2章予告 (BGM ギャオス逃げ去る)

「私は200円賭けるわ」
「なら私は1万円賭けます!」

「売られた喧嘩は買え、でしょ?」

「あれなんだい」
「よし行こう」

「状況が知りたい、どうなっている」

「私はサイボーグではありません」

「ヒゲぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!」
「呼んだかい?」

「もしかして緑葉さんって◯◯の関係者だったりするの?」

「こんな状況で悪いが1つ確認したい」

「礼は後にしてくださいな!」

「戦いの中で戦いを忘れた…ッ!」

「首洗って待ってなさい!」

「やっぱり男はこうじゃないとな」


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学年別トーナメント(秋) #9 秋の学年別トーナメント

「どうも、緑葉物語です

さて、今話からは第2章がスタートします。舞台は秋の学年別トーナメント。原作にはないオリジナル展開ですがそんなメタ発言は置いておいて、本来予定されていなかった行事にも関わらず世界中から要人が集まりアリーナは既に超満席。ISに対する関心の高さが伺えます

さぁそれでは参りましょう、秋の学年別トーナメント編、スタートです!」


緑葉達の突然の来訪から1週間後、兼ねてより準備が進められてきた秋の学年別トーナメントがついに開催当日を迎えた。

本来なら組み込まれていない行事であり、急遽開催が決まったのも1ヶ月前という急ぎ足となったが会場は例のごとく満席。そしてそれは来賓席も例外ではなく、世界各国から企業や政府の要人が来校してきている。

 

またこの学年別トーナメントは2日間に渡って行われることになっており、1日目は2、3年生などの上級生らによる試合が計10試合行われ、熟練の腕前となった彼女らの熱い戦いは熾烈を極め会場を大きく湧かした。

2日目となった今日は、1年生らの試合が組まれており、中でも専用機持ち達代表候補生らによる試合は注目を集めていた。

 

「おや、貴方は確か鶴屋グループの」

 

小太りの男性から声をかけられ、椅子に座っていた男は帽子を取り、丁寧な仕草で頭を下げる。

今回学年別トーナメントを観戦しに学園へやってきた要人の中で特に注目を集めていたのが彼、緑葉の上司に当たる鶴屋竜司である。

 

日本有数の大財閥である鶴屋家の知名度は世界規模、IS学園に来たのは始めてというのもあり既に各国の政府や企業の要人からはしつこく声をかけられ、今やっと椅子に座って休んでいたところである。

かく言う小太りの男もIS関連の企業の関係者であり、鶴屋の顔は当然知っていた。周りに座っていた生徒達もニュースなどで鶴屋のことを知っていたのか、あるいは学園の者ではない人物(ましてや男性)がいることに困惑しているのかヒソヒソ声で話し合っている。

 

「鶴屋グループは今年も業績を伸ばし続けているらしいじゃないですか。うなぎ登りとはまさにこのこと。羨ましい限りですよ」

「ありがとうございます。ただ今日はプライベートで来ているので、あまりこの場で仕事の話はしたくはないのですよ」

「それは失礼しました」

 

小太りの男は申し訳ないと頭を下げる。

今日の鶴屋は仕事で来たわけでなく、あくまでプライベートで学園へ来たのだ。鶴屋グループもIS業界へは参入してきているので当然仕事も入るには入るがそれ以上に純粋にISバトルを楽しみたいと思っていた。

その証拠に彼は要人らに用意された来賓席ではなく、緑葉曰く「闇取引(正攻法で勝ち取った)」で手に入れた生徒席の椅子に座り観戦する。

 

「しかし貴方のような方が、何もここでということは…、なんでしたら席の方、私が計らいますが」

「お気遣い結構。しかし折角私がワガママを言って、部下が取ってくれたのです。使わないわけにはいきません」

 

鶴屋がフィールドへ目を向けながら言うと小太りの男は「ほぉ」と感心の声を上げる。学年別トーナメントや学園祭などのチケットはどれもプレミア級の価値がある。ほぼ全てが学園内で捌かれるため外部へ出る事はまずゼロと言って等しい。

 

この小太りの男は鶴屋が言う部下がそんなゼロに等しいチケットを上司のために必死の努力で取ってくれた、と思っている。実際緑葉は必死の努力をしていた訳だが1つだけ違うのは、緑葉が『外部から』手に入れたのではないという点であるが。

ちなみに鶴屋がやってきたと知ったIS学園側は大慌てで席を用意すると言ってきたものの鶴屋は緑葉が取ってくれた席を無駄にしたくなかったのでその申し出は断った。

 

「それを言うのなら、貴方も貴方では?」

 

鶴屋を再び小太りの男に目を向ける。

 

「あ、いや、私は娘を見に来ただけですので」

「娘さんが、この学園に?」

「ええ。もし良かったら、声をかけてやって下さい。娘も喜びますので」

 

そう言って小太りの男は自身の名刺と娘の名前が書かれた写真を手渡し、「では」と去っていく。

鶴屋や名刺と写真を一瞥し、それらを鞄の中に入れる。そしてスマホを取り出してLINEアプリを起動。先日交わした緑葉とのチャットを見返す。

 

『緑:席取った』

『緑:焼き土下座しまくった』

【鶴:よくやった。百万石無税】

『緑:うるせえバーカ(´・д・`)』

 

どう見ても友達と交わす他愛ない会話のそれだが、この裏では緑葉が並々ならぬ努力をしてきた。

まぁその努力というのはチケットを既に購入していた生徒へ直談判して「お願いします!譲って下さい!言い値で買うから!」と何度も生徒に対し頭を下げたらしい。頭を下げた回数は自分でも分からないという境地に達した時、譲ってもいいという子に巡り会えて晴れて鶴屋はこの席に座れているわけだ。

 

そんな緑葉の姿を藤川が写真と動画で送ってきた時は思わず家族全員で笑ってしまったものだ。

鶴屋は思い出し笑いを浮かべ、緑葉の土下座姿が激写された写真を見ながら第一試合の開始時間を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず凄い人だな」

 

そんな一言を一夏がポツリと呟く。選手控え室に設置されたモニターには超満員となった観客席が映し出されている。1学期にも感じた事だがやはりそれだけ関心は高いという裏返しでもあるのだろう。

2日目の開会式も終わり、現在試合に出場する生徒達は選手控え室に集まっていた。周りでは出場する子やそれらをサポートする子などが行ったり来たりしており慌ただしい。

 

「確か急遽決まったんだよなこれ」

「うん、だから政府も企業も慌てて予定を変更したとか聞いたよ」

 

一夏の横でモニターを眺めていたシャルロットが答える。

 

「1学期のやつは中止になっちゃったし、それに簪さんの<打鉄弐式>や篠ノ之さんの<紅椿>もかなり注目されているからね」

 

2人はモニターから目を外し、簪と箒の方へ見やる。4組に在籍する簪は性格上こういった舞台に立つ事が苦手だからか、今にも緊張で飲まれそうになっている。というかもう既に飲まれてる。

 

対照的に箒は目を瞑り座禅を組んで、いつでも試合に臨めるように精神を整えている。あれなら心配は無さそうだ。

幼馴染みとして多少気にはかけていた一夏だったが実際には杞憂に終わりどこかホッとするように息をついた。

 

「注目されているのは、わたくし達だけではありませんわ」

 

一夏とシャルロットの背後から近づいてきたセシリアがモニターから目を離さず、真剣な趣きで言う。

一夏とシャルロットもモニターを見るとそこに1人の男性が映し出される。2人もその人物を見たことがあり、一夏も怪訝な表情を見せる。

 

「あの人どこかで見た事あるな」

「そりゃそうでしょ、日本有数の大グループのトップだもん」

「鶴屋竜司。鶴屋グループの総帥ですわ」

 

隣にいた鈴とセシリアが簡単な解説を入れてくれたお陰で一夏も「あぁそれだ」と思い出す。

それにしても、そんな超VIPな人物でもある彼が何故一般席に居るのだろうか。見ると近くに座っていた生徒達と親しげに会話を交わしている。

 

「あ、あれ緑葉さんと一緒にいた人じゃないかな?ホラ、隣のおじさん」

「ん?」

 

シャルロットが指をさした辺りを一夏達が見ると鶴屋が座っている席の隣の通路に藤川が立っているのに気付いた。彼も楽しげに鶴屋と会話を交わしており、どんな内容の話なのか分からないが共に大口を開けながら爆笑している。

 

「何、もしかして緑葉さんって鶴屋の関係者だったりするの?」

「いや、さすがに無いだろ…」

「まさか…」

「アレを見てもそうとは思えませんわ」

 

鈴がそう呟くと一夏、シャルロット、セシリアは3人共全く同じタイミングで同じようなリアクションを見せる。

 

この1週間で緑葉の名前は学園中にすっかり知れ渡り、1年だけでなく2年や3年の上級生のところにも顔を出し積極的にコミュニケーションは図っていた。それが功を奏したのかは分からないがみんなからは「変わった人」という緑葉曰く「1ミリも嬉しくない」評価を頂いていた。

 

しかし同時にある事が気になり始めた。ここ数日緑葉達の姿を見かける事が少なくなっていた。事実昨日は少し姿を目撃してはいたが今日はまだ一度も出会っていない。

どこか引っかかりを覚える一夏だったが、直後に画面が切り替わったモニターを見て気持ちを切り替える。第一試合は彼と鈴の対決である。

 

「ま、あんな変人今はどうでもいいわ。それより一夏!あん時のリベンジここで果たすわ!首洗って待ってなさい!!」

 

試合開始時間が近づいてきたため、鈴と一夏はそれぞれが出撃するためのピットへ向かう。

 

鈴は今回の学年別トーナメントでの対決を特別なモノとして捉えていた。理由は1学期のクラス対抗戦にある。彼女と一夏はクラス代表として争ったわけだがとある事情で対抗戦は中止、結局どちらが勝ったか分からずじまいでうやむやになってしまったのだ。

その後は実習中や放課後の模擬戦などで何度か戦ったが公式試合におけるタイマンではクラス対抗戦以来の対決になる。それ故に今度こそ、という気持ちは大きい。

 

「おう!受けて立つぜ!」

 

売り言葉には買い言葉。一夏も鈴のこの試合に対する気合いを感じ取っており、お互いに健闘を誓い合う。

 

(にしても鈴、緑葉さんに対して変人は少し可哀想だろ)

 

一夏はそう思うものの、実際やってる事はまさしく変人のそれだから何も言えない。しかし一夏からすればもっと変人な女性と出会っているので、アレと緑葉を同じ変人扱いさすがに可哀想である。

後でチクっておこうかな、そんな事を考えたながら一夏はピットへと向かった。

 

 

 

 

ピットから出撃した一夏は右手に唯一の武装である雪片弐型を握り、<甲龍>を展開した鈴と対峙する。

 

「鈴、せっかくなら負けた方が勝った方に何か奢るってのはどうだ?」

「面白そうじゃない。軽くコテンパンにしてたっかいやつ要求するから」

 

お互いに軽口を叩きながらも臨戦態勢は万全だ。一夏はハイパーセンサーを使用し観客席を見回す。

注目の一戦なだけあり観客のボルテージは最高潮に達しているが、やはり緑葉と龍驤の姿はない。先程鶴屋の隣にいた藤川も同様に居なくなっていた。

もしかしたら単に観客席にいないだけなのかもしれない。しかしいつまでも彼らのことを気にしている時間は無く、一夏は眼前の鈴を見据える。

 

マゼンダのカラーリングの<甲龍>は安定性を念頭に置いて設計されたバランスタイプ。手には双天牙月と呼称される大型の青竜刀を2基連結させており、左右に浮遊する棘付きの球体と腕部には『龍咆』と呼ばれる衝撃砲が備え付けられている。空間に圧力をかけて砲身を作り出し、その圧力で作り出された衝撃を撃ち出す、空気砲のメッチャ強いやつと考えた方が分かりやすい。

 

しかも厄介なことに衝撃砲はその砲身から砲弾まで目視では確認出来ない。360度上下左右どこにでも撃てるというオマケ付き。

そのため<白式>とは相性が悪い。というか雪片しか持てないため飛び道具を持った機体とは基本相性が悪いのだが。

 

「あん時のリベンジここで果たすわ!ぶっ飛ばしてあげるから!」

「上等だ!」

『試合開始』

 

試合開始を告げるブザーが鳴り、2人はスラスターを噴出させ突っ込んでいく。

 

——はずだったのだが、突如レーダーが警告を鳴らし、一夏と鈴は急いでその場から離れるように後退する。刹那、さっきまで自分達がいた場所へ上空から一条の熱線が降り注ぎ砂煙が舞う。

 

「一夏!」

 

鈴が叫ぶ。鈴の言いたいことが分かった一夏は苦悶の表情を浮かべる。

 

「コイツ…!またか!!」

 

砂煙の中から姿を現したそれは、以前学園を襲撃してきた機体、<ゴーレム>と呼ばれる無人機。1学期のクラス対抗戦をめちゃくちゃにした張本人である。

 

過去彼らはクラス対抗戦、2学期始めに行われた専用機限定タッグマッチと2度戦闘を繰り広げてきた。専用機限定タッグマッチの際は改修された<ゴーレムⅢ>5機による攻撃であったが、今回は1学期に襲撃してきた<ゴーレムⅠ>単機によるもの。しかしあの無人機の脅威を文字通り肌で感じ取ってきた一夏と鈴は冷たい嫌な汗を垂らした。

 

 

 

 

「あれは……!」

 

選手控え室にて待機していた専用機持ちはモニターに映された<ゴーレム>の姿を見て戦慄する。他の生徒達も突然現れた<ゴーレム>を見て恐怖の形相を見せる。

 

「セシリア!」

「ええ!分かっていますわ!」

 

箒が叫び、セシリアも頷く。過去、幾度となくこういった事態に陥ってきた。その時専用機持ちがやるべき事も当然心得ていた。

 

セシリア、箒、シャルロット、ラウラ、簪は生徒や来賓の避難誘導を行うためにそれぞれ持ち場へと急いで向かう。既に先生らの誘導で避難が始まっているのか、雑踏が耳に入ってくる。

 

「私とデュノアはこちらを担当する、オルコットと篠ノ之、簪はそっちを頼む」

「分かりましたわ」

 

この場に置いてはラウラが指揮官となる。ラウラは矢継ぎ早に命令を下す。

 

「ラウラ、ボクたちは?」

「我々も避難誘導を手伝う。避難が滞っているところへ支援に……」

 

シャルロットと話し合うラウラだったが、不意に言葉を飲み込む。そして起動させていたハイパーセンサーを注視する。

 

「どうしたの?」

「デュノア、こんな状況で悪いが1つ確認したい。今何かセンサーに反応はあったか?」

「え?特に何も反応してなかったけど」

「ふむ……、そうか、分かった。変な事を聞いて悪かった。先を急ぐぞ」

 

シャルロットがキョトンとした表情で答え、ラウラも気のせいだと決定付け野暮なことを聞いた、と走り出す。

 

(さっきのは一体…)

 

頭に疑問符を浮かべるシャルロットの前を走りながら、ラウラは先程の現象について考え込む。

 

シャルロットに説明をしている時、一瞬であったがハイパーセンサーが反応を示した。それは間違いなくISが発するもので、それが3つ点滅していた。セシリア達がISを展開したのなら機体名が表示されるはずなのだが何故かそれは<Unknown>、と表示されていたのをラウラはハッキリと捉えていた。

一夏や鈴、ましてや<ゴーレム>のでもない謎の反応。奇妙な感覚を覚えたラウラであったが行列を作る避難者を捉えた瞬間、その感覚は頭の隅に追いやり、シャルロットと共に目の前の避難誘導へ集中することにした。



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#10 Awake

戦闘シーンは難しいですね定期


<ゴーレム>の攻撃を交わしながら鈴は両翼の龍咆を放つ。放たれた衝撃圧は<ゴーレム>の周りに着弾し辺り一面に砂塵が舞う。相手の視界を一時的に奪った鈴は後退、一夏と共に岩陰へと隠れる。

 

「避難はどうなってるの?」

「結構手間取ってるみたいだな…」

 

まだ観客席には一部の生徒達や来賓の姿が見受けられる。

先程真耶から入った通信によれば何者かのハッキングにより電子扉が制御出来ない状況に陥っており、そこへ避難民が雪崩れ込んでしまっているらしい。セシリアを始めとした専用機持ちの面々が到着し、混乱は沈静化しつつあるものの完全に避難が完了するにはまだ時間を要する、というのが見解の一致であった。

 

「まだアイツ1機だからいいけど、膠着状態に入るのは避けたいわね」

「前と違って試合が始まった瞬間にきたってのも幸いではあったな」

 

一夏は<白式>のエネルギーを見る。以前のジリ貧の状況とは違いまだエネルギーには余裕が見られる。しかしそれでも切羽詰まった事態なのは変わらない。

 

『一夏!鈴!無事!?』

「シャルか!?」

『良かった、無事なんだね!』

 

その時、シャルロットから通信が入り一夏は声を上げる。一夏の声を聞いたシャルロットは通信越しに安堵の表情を見せる。更に別の通信が入り、シャルロットと行動を共にしていたラウラが映される。

 

『こちらの避難誘導は完了した。先生達の許可が出次第そちらの支援へ向かう。状況が知りたい、どうなっている』

 

慌てず、淡々と、丁寧に、一語一語言葉を繋げる。そんなラウラのいつもの冷静沈着な姿を見て一夏は安心感を覚えた。

 

「俺と鈴は大丈夫だ。特に目立った機体の損傷は見られないしエネルギーもまだ少し余裕がある。<ゴーレム>は今んとこだが動きはない」

『分かった。こちらも出来る限り急いでそちらへ向かう。

それと1つ2人に聞きたいのだが、<ゴーレム>と戦闘している時、貴様ら以外にISの反応はあったか?我々を除く反応だ』

 

妙な質問に一夏と鈴は顔を見合わせる。少なくとも戦っている時にそんな反応は無かったしあってもそれはラウラ達のものであるから思い当たる節がない。

 

「あたしは無かったわよ」

「俺もだ、どうしたんだ一体」

『そうか。実は……みょ……反…』

 

ラウラが話し始めた瞬間、突如として通信が乱れ始めた。一夏と鈴は何が起こったのか分からずにいると不意に視界の隅に何かが投げ込まれるのが確認できた。

 

(何だ……?)

 

投げ込まれたボトル状の容器は1つだけではなく、アリーナ全体に不規則にばら撒かれている。鈴も困惑しながら一面に撒かれたボトルに目をやっている。

 

(まさか<ゴーレム>の武装の1つか?)

 

そう仮定し岩陰から<ゴーレム>の様子を覗き込む。しかし<ゴーレム>も動けずにいた。恐らくあちらも突然ばら撒かれたボトルへの対処法を探しているのだろう。とするとあのボトルは<ゴーレム>の武装ではない。

 

「鈴、アレが何か分かるか?」

 

鈴は横に首を振る。

 

「全然、仮にアレが学園側のならあたしたちに一言あってもいいはずなのに…」

 

その時、ボトルのキャップ部分に取り付けられたコルクが外れ、内部から白い煙が勢いよく放出される。それは1個だけに起きた現象ではない、アリーナに撒かれた大量のボトルのコルクが外れ、一斉に煙を噴き出す。

 

「口塞げ!ガスの類いかもしれねえ!」

「う、うん!」

 

一夏と鈴は慌てて口を塞ぎ、身を伏せながらハンカチで口を覆う。絶対防御があったとしてもガス攻撃は危険だ。あの煙が有毒ガスであったら2人はお陀仏になる。

そして辺りが完全に煙に包まれ、目視では1メートル先も見えなくなってしまった。

 

「どうやらガスではないようだが…何も見えねぇな…」

 

どこを見ても白い煙、否、正確に言えば霧に包まれてしまう。やっと隣にいる鈴の姿が見えるほどの霧の濃さだ。

 

「くそ、ハイパーセンサーが使えない。鈴はどうだ?」

「だめ。あたしも全く反応しない。熱探知も無理。これじゃ<ゴーレム>がどこにいる分からない」

 

2人は頭をフル回転させ、この状況からの打開策を考える。ただセンサーも何も反応しないのは向こうも同じだろう。

 

無人機な分センサーは勿論コンピューターを駆使できないこの状況は寧ろ一夏達より不利になるはず。

そこを上手く突けば<ゴーレム>を倒せる、そう確信した瞬間、少しずつではあるものの霧が晴れていくのが分かった。

 

「アイツのシルエットをはっきりと捉えたら仕掛けるわよ」

「ああ」

 

互いに作戦を確認し、霧の中から<ゴーレム>の姿が現れるのを待つ。未だにセンサーは復帰していないが、目視で確認できるようになるのはチャンスだ。

そうしてやっと視界に<ゴーレム>を捉えた一夏と鈴だったが、直後、2人は我が目を疑う事になる。

 

 

 

 

一方管制室では、突如として立ち込めた霧に困惑しきっていた。センサーも通信も使えなくなってしまっては、こちらから指示が飛ばせない。

 

「やはりダメです。何度試しても通信が回復しません」

「センサーも反応ありません」

「そうか……」

 

各所から寄せられる報告に、千冬は苦々しい表情を見せる。せめて通信が使えれば一夏と鈴に指示を下すことができる。が、それも叶わない。

恐らくだが2人は無事だろう。機体には大きな損害は無く、エネルギーを消耗しきった様子も無かった。この霧の中では思うように動けないはずだが返ってそれが2人を落ち着かせる時間を与えてくれる。

アイツらは素人ではない。こういった場面で幾度とない襲撃やトラブルから培った経験が活きている。千冬からしたらそれは全くもって皮肉というか、複雑ではあったが。

 

「織班先生!」

 

そこへ避難誘導に当たっていたセシリアらが入室する。相当急いできたのか息も絶え絶えな彼女達の方へ千冬は身体を向ける。

 

「避難誘導はどうした」

「先生達から…「ここは私達に任せて織斑先生の元へ行って」と言われて、それで…」

「それで、今の状況は…!」

 

肩で呼吸を行う簪の横で、一夏と鈴の様子を心配して気が気でないセシリアがモニターを見て愕然とする。

 

「…この有様だ。通信もセンサーも使えなくなっている。オマケにこの霧では目視も出来ん」

 

千冬の口から語られる内容に皆暗い表情を落とす。

その時、管制にあたっていた真耶が何かに気付き叫んだ。

 

「霧が晴れます!」

 

その言葉に管制室にいる全員がハッとしてセンサーや通信、モニター、窓の外をかぶりつくように凝視する。

セシリア達も一夏と鈴の安否を確かめようとモニターや窓の外から目を離さない。シャルロットも通信を起動させている中、千冬は異常な気配を感じ取っていた。

 

(何だ……?)

 

その気配は横で険しい表情を浮かべていたラウラも感じ取っており、千冬の方へ目配りする。

 

「教官」

「…あぁ」

 

何かいる。

一夏と鈴、<ゴーレム>以外の何かが、得体の知れない何かが、あの霧の中にいる。

そしてついに霧が完全に払われた時、管制室の中は凍りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

霧が晴れきり、一夏と鈴は得物を握りしめ<ゴーレム>への一撃を加えようと岩陰から様子を伺った時、信じられない光景を目の当たりにする。

一夏達の眼前には無人機、それはいい。

だが、あの3機のISはなんだ?

 

「な、何…?あんなの今までいなかったよね…?」

「味方……なのか?」

 

突然の事態に困惑しきっている一夏達は改めて3機のISを見る。

 

まず異彩を放つのは白いカラーリングに赤が入った機体。機体の至る所には絢爛な装飾が施されており、周囲には6つの大鏡が浮遊する。また左右、というより両肩に備えられたカスタムウィングの先端部には2つの砲門が見受けられる。顔はバイザーに覆われてその素顔を確認するこそ出来ないが、明らかにこれまで出会ったISとは違った雰囲気を纏っている。

 

左右には真ん中の機体(便宜を図るため<イントルーダー>と呼称)を護るように2機の<打鉄>が立っているのだが、<打鉄>もまた異彩を放っており、それぞれ右手には巨大なランスを握り、左手には縦に長い楕円形のシールドを携えている。こちらの2機も素顔を確認する事が出来ないのだが、バイザーではなく何故か能楽に使用する能面をつけており、どこか不気味な気配を醸し出している。

異常だとしか思えない雰囲気に一夏と鈴は<ゴーレム>の存在を一瞬忘れてしまうほど驚愕を露わにしている。

 

『な…なんですの…あの機体は…』

『お、おい一夏!そっちはどうなっている!』

 

すると通信も回復したのかセシリアと箒の声が耳に入る。しかしやはり彼女達も新たな乱入者の出現に困惑している様子だった。

 

「お…俺にも何が何だかよく……。霧が晴れたらアイツらがいたんだ」

「学校側の機体、じゃあ…ないでしょ?」

『そ、そんなわけありません!あんな機体があるなんて見た事も聞いた事も…! 』

 

鈴の問いかけに真耶が反論する。そこへ千冬の普段通りの凛とした声が割り込む。

 

『落ち着け。アレらが誰で、一体なんの目的があるかは分からんが、まずは<ゴーレム>を倒す方が先だ』

「でも、亡国機業という可能性も…」

 

元々襲撃してきたのは<ゴーレム>の方だ。しかし直後に鈴が言った一言にまた迷いが芽生える。

亡国機業とは学園祭の時に戦闘を繰り広げ、手痛い目に遭わされてきた。あの3機が味方である可能性を信じたいが、ISを強奪し新型機も生産している噂もある亡国機業の刺客であっても何ら不思議ではない。

 

「とりあえず、もうしばらく様子を見よう」

「うん、分かった」

 

再び岩陰へと身を潜めた一夏達はこっそりと顔を出し<ゴーレム>と<イントルーダー>の様子を見る。対峙する両者に依然として動きは見られない。<ゴーレム>からしても彼らの出現は計算外だったのか攻撃の手を止めてしまっている。

 

(動きが止まっている。仕掛けるか?いや、まだか?)

 

ジッと攻撃のチャンスを伺っていると、管制室からアリーナを見ていたセシリアが叫ぶ。

 

『一夏さん!アレを!』

 

一夏が<イントルーダー>の方を見ると、彼らの目に再び奇異な光景が飛び込む。左右に待機していた<打鉄>が突然、何の前触れもなく互いに手にしたランスをぶつけ合い始めた。ぶつかり合うランスからは金属らしい重く甲高い音が響き、少し火花が飛んでいる。

 

「もうホントに意味分からなくてなってきたわ」

「シッ、静かに」

 

もはや茫然と通り越して呆れ果てている鈴だったが何かに気付いた一夏は慌てて彼女の口を塞ぐ。

 

「ん"ー!ん"ー!」

「黙ってろ!」

 

口を塞がれた鈴が顔を紅潮させながら抗議を入れるが、一夏は逆に小声で怒鳴りつけて制する。怒鳴られると思っていなかった鈴は少し落ち込みながら一夏の言う事に従う。

 

「………………お経?」

「え?………あ、ホントだ」

 

耳を澄ましながら、先程から聞こえていたごにょごにょ声の正体が分かった2人は背筋に寒気が走るのを感じた。

 

信じがたい事に、あの<打鉄>の搭乗者は互いのランスを叩きつけ合いながらお経を唱えているのだ。しかもそのお経の声は段々と高くてなってきている。

 

「なんなのよ!気味が悪いったらありゃしないわよ!」

 

恐怖すら感じさせる光景に鈴はらしくもない弱音を吐きながら耳を塞ぐ。無理もない。一夏から見ても目の前で行われているものは異常だとハッキリと分かる。

その場に塞ぎ込んだ鈴の姿を見ていた箒から通信が入る。

 

『お、おい!鈴の様子がおかしいぞ、何が起きているのだ!』

「箒か!?お経だ!アイツらお経唱えてやがる!」

『なっ…!?』

 

思わず箒は絶句し、数瞬ノイズだけが走る間が流れる。すぐに気をとり直した箒だったが落ち着きは取り戻せてはいない。

 

『お、お経だと!?…………た、確かにお経だ。お経を唱えている』

『こ、これがお経…』

 

通信の向こう側にも聴こえているのか箒達も背中に寒いものを感じ取る。そんな中でラウラだけはどこか別のベクトルを感じ取っていたが。



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#11 天照

「にしてもなんでお経なんや?」
「そこあんまり考えてない()。ただなんかポワッと思い浮かんでよしこれでいこうってなっちゃって」
「基本深夜テンションの勢いで書いてるしな」


 

数分の間続いてきたお経もいつのまにか終わり、一夏は耳に手を当て塞ぎ込んでいた鈴の肩を叩く。

 

「ん、何よ…ってアレ、お経終わった?」

「みたいだが……」

 

蹲った鈴は一夏の方へ顔をあげるが、その一夏は<イントルーダー>から目を離さず浮かない表情を見せる。鈴も恐る恐る一夏が見つめる方向に顔を向ける。

2機の<打鉄>はランスの先端を地面に突き刺し片膝をついている。そして<イントルーダー>がまた不可解な行動をとる。徐ろに両腕を前方に広げながら静止する。

 

『ねぇ、アレ何?あの小っちゃいやつ』

『む…、アレはリスか?何故ここにリスがいるんだ』

 

身構える一夏と鈴だったが、シャルロットとラウラの会話に思わずキョトンとする。

リス?確かにそう聞こえた。決して聞き間違いなどではなく、確かにラウラはハッキリとリスがいると言った。

 

「あっ、いた!」

 

鈴が指差した先を見ると、本当にそこには1匹のリスが尻尾を振りながら佇んでいた。

 

「なんだってまたこんなところに…」

「きっとどっかから紛れ込んじゃったのね」

 

そう言いながら鈴はリスへ向けてこっちにおいでと手招きをする。リスは鈴の方向へ一直線に走り出した。

一見すると微笑ましい光景で、一夏も少し張り詰めた緊張感を緩めた時だった。

 

『そのリスから離れろ!!』

 

いきなりラウラの怒号が飛ぶ、一夏と鈴もその声に驚き身を起こす。するとリスは突如奇声をあげ、手招きを止めた鈴めがけて猛ダッシュで駆けてきた。

 

「!?」

 

突然の変貌ぶりに慌てた鈴は咄嗟に双天牙月の平の部分を向ける。しかしリスは鈴の直前でUターン。今度はまた一直線に<ゴーレム>へと猛ダッシュしていく。<ゴーレム>もリスへビームを放つが身体が小さく、動きも俊敏なリスには当たらない。

<ゴーレム>まで2メートルの位置でリスが大ジャンプを見せる。そのまま身体を回転させ<ゴーレム>の胴体へと吸い込まれる。まるで回転するドリルのようにリスの胴体は<ゴーレム>の絶対防御すら破って胴体に穴を開けていく。

 

衝撃的すぎる光景に一夏と鈴は呆然としていると<ゴーレム>の胴体をくり抜いたリスは<イントルーダー>の右手の掌に収まる。その時リスの姿が粘土をこねるかのように変形。花、昆虫と姿を変えていき3度目の変形で通常の手へと戻る。

 

その時、<イントルーダー>にまた変化が起きた。目を覆っているバイザーに1つのピンク色に近い赤色の光点がグポン、と低い音を発し点灯する。

 

「どうやら、あっちはヤル気みたいだな」

 

一夏は単眼—モノアイ—の点灯をこちらへの宣戦布告と捉えた。その証拠に<イントルーダー>は右手にライフルを持ち、2機の<打鉄>もまたランスを持ち直している。

 

「織斑一夏」

 

<イントルーダー>が一夏の名を呼ぶ。ただしその声は変声機によるであるが。

 

「私は<天照>。あまり時間を浪費したくないから単刀直入に言おう。一夏君、私は君に決闘を申し込む」

「俺に?この状況でか」

 

<イントルーダー>改め<天照>からの提案に一夏は若干困惑しながらも不敵な笑みを浮かべる。しかし無人機の脅威は健在でそもそも決闘どころではない。

それは<天照>も承知しているのか、次のように続けた。

 

「何、あの無人機の存在を無視している訳じゃない。アレはこちらの者が倒してくれる」

 

<天照>が指を鳴らす。それを待ってましたと言わんばかりに2機の<打鉄>はランスを持ち<ゴーレム>へ突撃していく。

胴体に穴を開けられ損傷を負った<ゴーレム>は腕部のビーム砲を2機へ向ける。しかしこちらが思っている以上に損傷の影響は大きいのか腕が上がらず狙いが定まっていない。

 

「凄いわね。あの2機」

 

鈴が感心の声を上げる。

<打鉄>は優秀な機体だ、しかしあそこまで機体を操るにはそれ相応の技量がいる。

 

地面を滑るように、円形を形成しながら移動する<打鉄>は<ゴーレム>を翻弄。徐々に円は小さくなり、ダメージに蝕まれていた<ゴーレム>の動きが明らかに鈍くなった時、真横からランスの突きを食らう。

更に追い討ちをかけるようにもう1機の<打鉄>がランスを突き刺す。それが完全に致命傷になったのか、<ゴーレム>の四肢は力なく垂れ、ランスが引き抜かれるとそのまま地面に倒れこんだ。

 

「これで邪魔者はいなくなった。貴方達の目的も達成できたわけだし、ね?」

「ああ、確かにな。でもまだお前らがいる」

「アイツを倒してくれたことに関しては礼を言うわ。でもそれとこれは話は別よ」

 

得体の知れない液体を流しながら機能を停止する<ゴーレム>を横目に一夏と鈴は警戒心を高める。

 

「俺と決闘したいんだろ?なら受けて立つぜ」

「ちょっと!いいの!?」

 

一夏は<天照>からの申し出を飲んだ。それを咎めるように鈴は一夏の右腕を掴む。

 

「どうせ俺が断ったところでアイツはタイマンに持ち込むさ。売られた喧嘩は買えって言うだろ?」

「へぇーよく分かってること」

 

<天照>のパイロットからお褒めの言葉を頂くが生憎そこまで嬉しくない。

一夏の覚悟を感じた鈴は観念して彼へ背中を向ける。

 

「……ならあたしは<打鉄>をやるわ。だけど約束しなさい、…絶対負けないって」

「勿論」

 

相手がどんな顔をしているか、背中越しでも分かる。

絶対負けるな。鈴の想いを受け取った一夏は両手で雪片を握りしめる。

 

「………………そうこなくっちゃ」

 

バイザー越しでその表情を捉えることは出来なかったが、<天照>の搭乗者が口元を緩めたような気がした。

 

 

 

 

<ゴーレム>が倒されてから既に数分が経過している。管制室で真耶の手伝いを任された簪を除き、セシリア達はピットへ向かって走り出していた。

彼女達は専用機持ちにして代表候補生。外野席で固唾を飲みながら戦闘を見守る立場ではない。

 

「私とシャルロットは第2ピットに回る。オルコット達は第4ピットへ向かえ」

「分かりましたわ」

 

セシリアと箒は頷き、ラウラとシャルロットと分かれる。

 

ピットへ辿り着いた4人はそれぞれ<ブルーティアーズ>、<紅椿>、<シュヴァルツェアレーゲン>、<ラファールリヴァイヴカスタムⅡ>を展開。射出ユニットは使わず、徒歩でピットの先端部まで近づく。

 

「ここからヤツを狙撃できるか?」

「お安い御用ですわ。一夏さん!援護致しますわ!」

 

セシリアはスターライトMk.Ⅲを<天照>に構え、照準を合わせる。

セシリア自身、決闘に水を指す行為はしたくなかったが、この際そのことを気にする余裕はない。

 

「そうは問屋がおろさない」

 

だが、引き金が引かれることはなかった。

 

「ッ!?セシリア!」

 

セシリアが引き金を引こうとして瞬間、あらぬ方向からワイヤーが放たれる。横にいた箒が咄嗟にセシリアを押し倒し、なんとか彼女はワイヤー攻撃からは免れる。しかし箒が右腕をワイヤーに絡め取られてしまう。

 

「くそ!誰だ!」

 

箒が吼え、ワイヤーの先を見やる。するとそこには<打鉄>とも<ラファール>とも違う緑色の機体がセシリア達を見下ろしていた。

その顔には2機の<打鉄>の搭乗者と同じくお面をつけていた。もっとも、こちらは能面ではなく般若の面だ

 

「新型のISか…?」

 

<打鉄>のバリエーションタイプと認識したがそのフォルムは<打鉄>とはまた違うものであった。何より箒もセシリアもこの機体について知らない。そして今箒の腕に絡みついているワイヤーを使った装備も、彼女は見たことがなかった。

 

「何者だ、お前は」

「さてね。ただまぁ、<天照>の初陣に水を指さないでほしいな」

 

こちらも変声機を使用しているのか発せられる言葉の質感に機械っぽさを感じる。

話にならん。そう結論付けた箒は左手に空裂を展開させる。セシリアも態勢を立て直し新手の敵にライフルを構える。

 

「ふーん、まぁこうなるか。こっちもこっちでこの機体は初陣だからね。精々暴れさせてもらおうか、な!」

 

般若のお面越しに女は笑みを浮かべる。

 

余談だが、緑色の機体に乗る女だと抽象的だと言うのでセシリアがこの場における便宜上の仮名として彼女に対して『ジェネラス』と名付けた。箒が「どういう意味だ?」と問うとセシリアから「寛大、寛容という意味ですわ」と言われ、思わず苦笑した。

 

(こちらに敵対する者に、何故寛大だの寛容だの名付けるのか)

 

どう考えても名前とやってることが真逆なのだが、セシリアのことだ、それにツッコミを入れるとまた面倒なことになるので結局箒はツッコミを飲み込み改めて自身を見下ろすジェネラスと対峙する。

心なしだが、ジェネラスと名付けられた方も意味と自分の行いのギャップの差に笑いを堪えていたような気がしたのは、恐らく気のせいではなかろう。




「感想など待ってるでー」
「誹謗するようなのは勘弁してね」


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#12 アーバン・キッド

「UA数1000越え達成や」
「この投稿話数(11話)で喜ぶべき内容でも数字でもない気がするんだけど……」
「まぁまぁ、見てくれてる人がおるわけなんやし」
「とにかく、これからも細々とやっていくのでよろしくお願いします。
そして桑原広正様、クロ0805様、ひなまる様、富永吹様、カイルアコナ様、表示されてないんですが他3名計8名のユーザー様、評価ありがとうございます。やる気にも繋がっていくので評価はめちゃくちゃありがたいです(正直)」
「いつも最新話には2つしおりがついとるからな。誰のかは分からんけど」
「では12話をどうぞ!」


 

「ふーん、まぁこうなるか。こっちもこっちでこの機体は初陣だからね。精々暴れさせてもらおうか、な!」

 

般若のお面越しにジェネラスは笑みを浮かべる。

ジェネラスに対し鋭い目線を送っていた箒は右腕に違和感を覚えた。右腕にはジェネラスからのワイヤー攻撃を食らい、今もワイヤーが絡みついている。すると右腕に絡みついていたワイヤーからスパークが走り、たちまち身体中に電流が流れた。

 

「な、なんだ!?」

 

ギリギリのところで耐えた箒は痺れる身体に鞭を打ちながら左手に持った空裂でワイヤーを切り裂く。

間一髪のところで電撃から解放された箒だったが電撃の威力は絶大で、痺れからか四肢はふらつき歩様はどこかおぼつかない。

 

「箒さん!大丈夫なのですか!?」

「だ、大丈夫かどうかと聞かれたら、大丈夫では、ないが…」

 

眼前で目撃していたセシリアが唖然としながらジェネラスを見る。当のジェネラスは感心しているのかひゅーと口笛を吹く。

 

「へぇ、海ヘビを破るかぁ」

 

切断されたワイヤーの先端部分を労わるように触るジェネラスの口ぶりからは驚いた様子は感じられず、突破されたのは想定内だと言うそれだ。

 

「だけど……これはどうかな!」

 

ジェネラスは腰にマウントされたバズーカを担ぎ1発、2発、3発と発砲。箒とセシリアは散開して砲撃を交わす。

 

「ハァアアアアアアアッ!!!」

 

箒が空裂を右手に持ち替えジェネラスに斬りかかる。対するジェネラスも左手に斧状の武装を展開、刃の部分を加熱させたそれで空裂と斬り結ぶ。

 

「ヒートホークも正常に稼働、と」

「くっ…!」

 

スペックでは確実に紅椿の方が上。しかし箒の予想に反して鍔迫り合いは互角の勝負となっていた。ジェネラスは武装のチェックを行う余裕すら見せている。

もっとも、箒にはこれ以上押し込む事ができないある『事情』があった。

 

(まずいな…)

 

空裂ともう片方の主武装である雨月は実体剣なのに対し、ジェネラスのヒートホークは刃の部分を超高温に加熱させ寸断する武器。そんな武器に空裂をぶつけたらどうなるか、鍔迫り合いをしている箇所が高熱によって徐々に刃が溶け始めていた。そして何より熱い。

 

「箒さん!」

 

セシリアがジェネラスへスターライトMk.Ⅲを発砲。レーザーは一直線に突き進むが、ジェネラスは真横からのレーザーをしゃがんで回避。

ヒートホークを持っている腕で箒を振り払い、再びバズーカを連射する。

 

「すまない、助かった」

「礼は後にして下さいな!」

 

バズーカの弾を避けながらセシリアも負けじとスターライトMk.Ⅲの引き金を引き、箒もまた空裂を振りエネルギー刃を放出。しかしジェネラスも相当な技量の持ち主なのか、右へ左へとそれらの猛攻を全て交わしきり、アリーナの地面に着地する。

 

すでに一夏と<天照>は戦闘状態に入っており鈴とラウラ、シャルロットもまた<打鉄>との戦闘に入っていた。

 

「シャルロット、右だ!」

「任せて!」

「そりゃあッ!!」

 

ラウラとシャルロットが見事な連携プレーを見せ<打鉄>を翻弄し、鈴が2人の間を割って斬りかかっていく。

敵側はただでさえ2対3という数的に不利なのに第2世代と第3世代という性能の違い、操縦者の腕もあろう。<打鉄>の操縦者も大した腕前を持っているのだろうが、さすがに3人もの代表候補生を相手取るには分が悪いと言わざるを得ない。

 

(むしろこちらが気を引き締めなければ)

 

ラウラ達の方は恐らく心配はない。むしろ問題は<天照>とジェネラスの2機の存在だ。

 

<天照>から放たれるビームを回避しながら一夏は突撃していく。しかし<天照>は一夏の攻撃を軽々と回避するわけでなく、左腕に備え付けられたパーツからプラズマ化した粒子を放出させ、四角形に形成された粒子の盾が一夏の攻撃を受け止める。所謂ビームシールドだ。

ジェネラスの方は箒達にバズーカを放つ一方で脚部に外付けされた三連装ミサイルポッドでラウラ達を牽制。<打鉄>と鈴の間に入りヒートホークで鈴の横振りを受け止めた。

 

 

 

 

「でやああああッ!」

 

雪片を握りしめた一夏は<天照>めがけて得物を振るう。対する<天照>はある時は避け、またある時はビームシールドで受け止める。

 

(マズいな、読まれてる)

 

<白式>元来の特性と一夏の性格は、悪い意味でその行動パターンが読まれやすい。

それは一夏本人も自覚している事だったが、雪片しか武装がなく、その雪片最大の攻撃で絶対防御すら破る一撃必殺だが相手を傷付ける零落白夜を出し渋っている現状、攻めの手を欠いていた。

一夏は急降下をかけ、ジェネラスの攻撃を盾で防いでいるシャルロットに近づく。

 

「シャル、1丁でいい、ライフルを貸してくれないか」

「分かった!すぐに…」

 

頷いたシャルロットはアサルトライフルを出現させ一夏に手渡そうとするが、そうはさせじとジェネラスがシャルロットへ向けバズーカを放とうとする。

 

「させるかっ!」

 

そこへラウラの援護射撃が入り、ギリギリのところでライフルを受け取った一夏は接近してくる<天照>へ銃口を合わせ引き金を絞る。

 

「当たらなければどうということはない!」

 

<天照>が叫ぶ。一夏が放った弾丸は全て交わされ、虚空を貫くだけだった。

 

「一夏!ぐう…っ!」

 

シャルロットが<天照>にライフルを向けるが<打鉄>の攻撃を食らい態勢を崩す。そこへ追い討ちをかけるようにジェネラスがヒートホークを振るうがラウラのプラズマ手刀が受け止める。たちまちアリーナ内はISを使った乱闘の舞台と化した。

しかし、一夏はそこへ活路を見出した。

 

「今だ!!」

 

瞬間、雪片弐型の刃が光を纏う。これが雪片弐型の単一仕様能力、零落白夜だ。

 

正直な話、これはかなりの博打であった。確かに零落白夜はISの絶対防御すら破る、ある意味では最強と言ってもいい力を持っているが、それ故に欠陥もある。

まず、これを食らった相手はただでは済まない。下手したら死亡する可能性もある。もう1つ、零落白夜は<白式>のエネルギーを使用して発動させるため、当てても外してもその直後には殆どエネルギーが尽きてしまい、戦うどころでは無くなってしまう。比喩でも何でもなく、マジで一撃必殺の技なのだ。

 

この2つの理由から一夏は今の今まで零落白夜を出し渋っていたが、敢えてここで発動させたのは焦りからではない。

<天照>はターゲットを変えたのか、あるいは味方を援護するためか背面のユニットに装備されたビーム砲を鈴に向けている。一夏は<天照>に対して不意打ちができる状態にあった。

 

「食らえええええええ!!!」

 

零落白夜の発動に気付いた<天照>が慌てて一夏へと身体を向けるが背中に鈴の放った衝撃砲が当たり、前のめりによろめく。そこを見逃す程一夏は温情の持ち主ではない。

一夏が振るった渾身の一撃は<天照>の装甲に当たる。なるべく搭乗者の身の安全を考えて峰打ちだったが、一夏は大ダメージを確信していた。

 

「…………!」

 

零落白夜の放つ閃光を目の当たりにした<打鉄>の搭乗者は初めて生で見るであろう零落白夜に唖然として、その末恐ろしい威力を知っているセシリア達は内心歓喜の表情を見せていた。それは管制室で指揮を執っていた簪や真耶、千冬も同じだった。

 

だが、この場において不釣り合いな笑みを浮かべている者が2人、愕然としている者が1人いると分かったのは、その直後の事である。

 

「う…嘘だろ…」

「なっ!?」

『そんな!!』

 

一夏の血の気が引く表情に気付いた箒らは悲鳴に近い声を上げる。管制室の真耶もまた信じられないとばかりに声を張り上げる。

 

「零落白夜が……、防がれた……?」

 

確かに手応えはあった。搭乗者の事を思って峰打ちの形になってしまったが、それでも機能を停止させるには充分だった。

だが、まさか『前のめりになりながら左手だけで零落白夜の攻撃を受け止める』など誰が予想しただろうか。

 

「マジかよ…」

 

途端に一夏の思考は真っ白になる。

何がいけなかった?峰打ちにした事?それで手を抜いてしまった事か?もう少し思い切り斬りつければよかったのか?もしかしたらフルパワーでは無かったかもしれない。

 

しかし<天照>はそんな一夏に同情してはくれない。

一夏から強引に雪片弐型を奪い取った<天照>は無用とばかりに地面に投棄、それを拾い上げたジェネラスは刃こぼれを起こしたヒートホークを収容し、代わりに雪片弐型を振るいながら箒へと襲いかかる。

 

「しっかりしなさい!バカ一夏!」

 

呆然と立ち尽くす一夏に対し鈴は激昂。その一声で正気に戻った一夏は補助動力を最大限に引き出して<天照>やジェネラスから距離を置く。

 

「スマン、なんとか大丈夫だ」

 

とは言ったものの、武器もなければ虎の子である零落白夜も使用してしまい、エネルギーも僅かしか残っていない。万事休すである。

 

「ボクの機体のエネルギー、少しだけだけど使って」

「ありがたい、でも……」

 

シャルロットの厚意に感謝している一夏の表情は暗い。エネルギーを受け取ったところで武器がなければ動く的でしかない。雪片はジェネラスに奪われ、シャルロットから渡されたアサルトライフルも戦闘の最中に落としてしまった。

一夏は己の不甲斐なさを感じながら空いた両手に目を落とす。唇を噛みしめ手を目一杯握りしめた時だ。

 

「いや…、ある」

「えっ?」

 

自分でも気付かないうちに口から一言ポツリと呟いた一夏にシャルロットは怪訝な表情を向ける。

 

「シャル、今どれくらいまで回復した?」

「えっと、まだ4割しか供給できてない」

「4割……充分だ」

「えっ!?ちょ、ちょっと!」

 

そう言い切り、一夏は<白式>と<ラファール>を繋いでいたプラグを切り離す。

動揺を隠せないシャルロットに心の中で詫びを入れながらも、一夏は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「やっぱり男はこうじゃないとな」




イラストが描ければ<天照>の絵を描いてみたいんですが、なにぶん作者の画力がなくて……()
感想、評価など首を長くしてお待ちしてます


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#13 参らさるモノノフ

 

「いたたた…」

 

地面に叩きつけられた鈴は頭についた土埃を落とす。

 

白状してしまうと、勝てると思っていた。決して自分が代表候補生にしても専用機持ちからくる慢心からではない。この場にはセシリア、ラウラ、シャルロット、箒、そして鈴に一夏と最新鋭機を駆る精鋭が6人も揃っているのだ。

 

対して相手は新型2機と<打鉄>2機の計4人、人数差から見ても機体スペック(新型2機のスペックが分からないとはいえ)から見ても練度から見ても、素人視点からでもこちらが圧倒的に優位な立場なのだ。むしろこれで勝てないのは色々と面子が立たない。

 

「こ…この…ッ」

 

だが予想に反して鈴達は大苦戦を強いられていた。

単純にして最大の誤算は『彼らが想像以上に強い』点だった。<天照>や<打鉄>を駆る搭乗者の連携プレーもさながら、特筆すべき点は敵ながら天晴れと認めざるを得ないジェネラスの腕だ。

ジェネラスはセシリア、箒、ラウラの3人をたった1人で相手どっている。しかも彼女達全員にダメージを食らわせながら、ジェネラス本人は無傷ではないもののダメージと呼べる損傷は皆無に等しい。

そこへ<天照>も参戦し腕部に内蔵されたバルガン砲を連射し牽制、ジェネラスが一夏から奪い取った雪片弐型を使いセシリアに襲いかかる。

オマケに零落白夜を使用した一夏はエネルギーを切らし、<白式>へエネルギー供給を行うシャルロットと共に一時戦線離脱中。そして鈴はこのザマだった。

このままでは腹の虫が収まらない。そう心を燃やしても自分にもISにもダメージが蓄積されてきたのか思うように身体が動かない。

 

「あのクソ緑…」

 

ISバトルにおいて、シールド無効化攻撃という戦法がある。通常ISは絶対防御などのおかげで生命が危うくなる攻撃は基本全てガードされる。しかし生命に別状がない攻撃に関していえば絶対防御は発動せず、ISへのダメージはないが搭乗者本人にダメージを与えられる攻撃が存在する。

そのためパンチやキックなどの命に関わるほどの攻撃でない方がある意味厄介なのが自身の経験談。肉体的にキツいのは勿論なのだが、それ以上に『殴られ、蹴られている』という面で精神的に参ってしまう。事実これを食らってISパイロットから退いたという事例は何件も聞いた。

そのシールド無効化攻撃をジェネラスは知っていたのだろう、ヤツは鈴へ対し嫌味なくらいにしつこくねちっこくパンチやキックを食らわせてきたのだ。殴られたり蹴られたりして戦意を喪失するほど鈴は繊細ではないと自覚している。

しかし彼女も女の子、身体中の至るところに痛みが走り、その度に苦痛が顔に出る。

 

「このままでは終われないっての!」

 

なんとしても一矢報いる。ジェネラスの攻撃は鈴の闘争心に火をつけていた。

 

 

 

 

箒の剣撃を交わしながらジェネラスはバズーカ2丁を構え砲撃、さらに両翼内に装備されているミサイルを一斉発射、空に幾多もの花火を作る。

 

「ジーナ1は左舷から牽制!リーヴァ2は私の援護を頼む」

「「了解!」」

 

<打鉄>の搭乗者に指示を飛ばしながらジェネラスはバズーカの残弾を確認。見ると右手に持った方は既に弾切れ、もう片方も残り2発のみとなった。

 

「あと2発、やれるか?」

 

セシリアの射撃をすり抜けジェネラスはラウラに肉薄。脇を猛スピードで通り越して一気に上昇する。

マシンガンもない、バズーカの残弾は2、替えのマガジンも全て使い果たしている。雪片弐型もいつの間にか手元から消えている。これが尽きれば、後は刃こぼれしたヒートホークでやり合うだけ。

 

アリーナの遮断シールドが展開されているギリギリの位置で機体に制動をかけ停止。ジェネラスは眼下を見下ろす。

自分を追いに迫ってくるセシリアと箒の姿を捉え、フッと息をつく。

 

「無理だね」

 

刹那、ジェネラスは急降下を開始。その行動に驚いた箒が動きを止める。

自由落下を続けるジェネラスはどんどん加速し、ついに箒とセシリアに手が届く位置まで接近する。箒の驚愕する表情とは対照的にジェネラスは笑みを作っていた。

 

「キャアッ!」

「セシリア!ぐうっ!」

 

セシリアの機体を衝撃が襲う。その直後には箒にも同様の衝撃が襲いかかる。なんとか冷静さを保ちながらセンサーでジェネラスを追う。そしてジェネラスが持つバズーカの銃口から出る煙で全てを察した。

 

ジェネラスはまず、すれ違いざまにセシリアへ向けてバズーカの引き金を引いた。

1発目の砲弾がセシリアに命中し、箒がそちらへ目をやった瞬間にアンバックと呼ばれる姿勢制御で瞬時に体勢を立て直し、箒目掛けて最後の1発を撃ち込んだのだ。

 

『なんてやつだ。アレをあそこまで鮮やかに決めるとは…』

 

一部始終を見ていたのか、通信越しにラウラの驚嘆の声が届く。

アンバックには高度な操縦技術が要求されるため、ISに長い間乗ってきた熟練者でさえ成功するケースは少ない。箒自身もその目で見たのは初めてだ。

 

「全く、敵ながら天晴れだな」

 

見るも鮮やかなヒットアンドアウェイ。いっそ清々しさすら感じる箒がそう呟くと「そんな事言ってる場合じゃありませんわ」とセシリアからツッコミを入れられる。そのセシリアは先程の攻撃で機体の操縦系統にトラブルが発生したのかゆっくりと、フラフラと地上に降りていく。

うまく機体を動かせないセシリアをカバーするため箒がセシリアに近づいた時、地上では変化が起きていた。

 

 

 

 

「シャル、今どれくらいまでエネルギーは回復した?」

「えっと、まだ4割しか供給できてない」

「4割……充分だ」

「えっ!?ちょ、ちょっと!」

 

そう言い切り、一夏は<白式>と<ラファール>を繋いでいたプラグを切り離す。

動揺を隠せないシャルロットに心の中で詫びを入れながらも、一夏は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「やっぱり男はこうじゃないとな」

 

武者震いを抑えながら、一夏はラウラと対峙する<天照>に向かって叫んだ。

 

「おい<天照>!お前の相手は俺だろ!?」

 

<天照>はモノアイを一夏の元へ向ける。零落白夜を使いエネルギー切れを起こしていた一夏を戦力外と切り捨てていたのか、一夏の復活に若干の戸惑いを見せている。

一夏は右拳を突き出し、不敵な笑みを絶やさない。

 

「雪片弐型がないのにどうやって戦うつもりなの?」

「雪片が無くても、俺にはある意味雪片以上に頼もしいコイツがあるんだぜ」

「何…?」

 

右手で手招きし<天照>を挑発する。

一夏はタイマンらしく、拳と拳の殴り合いでケリをつけようと考えた。側から見たら無茶としか言いようがないが、何事もやってみなければ分からないのは世の常だ。

もし<天照>が挑発に乗らなかったらその時はその時だ、しかし念には念をとばかりに一夏は更に発破をかける。

 

「どうした、素手の俺が恐いのか?」

「…………!」

 

予想以上に<天照>の搭乗者は挑発に乗ってきている。もう一押しだ。

 

「こいよ<天照>。銃なんか捨てて、かかってこい!」(さあ、どう出る)

 

拳に力を込め、臨戦態勢を作る。やがて<天照>は沸々と込み上げる怒りからか、あるいは可笑しさからか身体を震わせ始めた。

 

「売られた喧嘩は買え、でしょ?だったらッ!!」

「そうこねーとな!」

 

固定武装以外の装備を全てパージした<天照>は瞬時加速を駆使して一夏へ急接近をかける。

ファイティングポーズをとり万全の態勢で待ち構えていた一夏は素早く払われる<天照>の手刀を交わす。続けて回し蹴りをしゃがんで回避、そこに間髪入れず繰り出された右ノックを両手で乱暴に受け止める。

<天照>の搭乗者の焦りがじわじわと伝わってくる。

 

「くっ…やっぱり強い…!」

「どうした、格闘戦は苦手か?」

「なにを!」

『バカ!何やってるの!』

 

そこへセシリアを倒し地面に着地したジェネラスの声が割り込む。<天照>は一瞬そちらへ意識を向けてしまったのか、単眼でジェネラスの姿を追い、手に込められていた力が弱まったのを、一夏はハッキリ感じた。

 

「余所見は危ないぜ」

「え?ガッ………!!??」

 

時すでに遅し。一夏の右ストレートが<天照>の左頬に直撃する。そこへ追い討ちをかけるように左フックが腹部へ入る。これから一夏がどのように自分を倒すのか察した<天照>は血の気が引く気配を感じた。

そしてその予想は、遠からず当たっていると分かったのは、すぐ後の事であった。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァア!!!!」

 

あぁ、やっぱりこうなった。遠くで様子を伺っていたジェネラスが顔を手で覆い首を横に振っている仕草が見えた気がした。

 

<白式>の全エネルギーを総動員しているであろうオラオララッシュは<天照>の身体にまんべんなく繰り出される。その威力が凄まじいのは言うまでもない。そのうちの一撃がバイザーに命中し、覆っていたシールドが割れ欠片が飛ぶ。

割れ目から見えた赤い目が、涙を浮かべながら妙に穏やかそうな視線を向けていた事に一夏は気付く事はなかった。

 

「トドメだ!」

 

最後に振り上げた右ストレートが<天照>の身体にめり込み、一気に吹っ飛ばす。地面に叩きつけられた機体は転がり続け、数メートル転がったところで止まる。その直後に<白式>からエネルギー切れを伝える電子音が鳴り響く。これでもう一夏は完全に戦闘は出来なくなった。

 

(どうだ、やったか?)

 

<天照>が少しであるが身体を動かしている事に気付いた一夏は目を見張った。

 

やはりやったかはフラグだったか?

 

しかしそれは杞憂に終わった。一夏の方を見やるように顔を向けた<天照>の搭乗者はそのまま意識を失い倒れ込んだ。最後の力を振り絞っての行動だったのかそのままピクリとも動かない。

 

「くっ……!」

 

戦闘不能となり、ISが強制解除される様子を眺める事しか出来なかったジェネラスは唇を噛む。

 

「リーヴァ2、<天照>を頼む!ジーナ1は私の援護を!撤退だ!どのみちデータは充分に取れた!」

 

ジェネラスは<天照>の搭乗者を担ぎ上げ、矢継ぎ早に2機の<打鉄>に命令を下す。ジェネラスの元へ集結した2機は彼女を中心に輪形陣を組む。

ジェネラスは<天照>の搭乗者をリーヴァ2と呼ばれた<打鉄>の搭乗者に預け、アリーナの端まで一気に移動する。

 

「このまま逃がさないっての!!」

 

鈴が立ち上がり、撤退中のジェネラス達へ龍咆を向ける。鈴が狙ったのはジェネラスではなく、その護衛を務める<打鉄>だ。

龍咆から放たれた衝撃砲は一直線に<打鉄>へと肉薄する。衝撃砲なためその弾道はあちらからは捉えられない。

命中する、そう確信した鈴の耳に声にならない叫びが飛び込んでくる。

 

「——ッ!!」

 

<打鉄>の搭乗者が声に気付き身体を向けた時には、すでにその身体はジェネラスによって押し出されていた。

部下を庇ったジェネラスの身体に衝撃砲が命中、吹っ飛ばされた機体はアリーナの壁に激突する。彼らに一矢報いたい思いで衝撃砲を撃った鈴もさすがにこれには驚いた。

 

「そのまま退いて!」

 

ジェネラスの鶴の一声によって気をとりなおした2機はバーニアを最大限に吹かし、先程<ゴーレム>が壊しポッカリと穴が開いたアリーナ天井のシールドを通り抜け離脱していく。

それを見届けたジェネラスも起き上がった瞬間に瞬時加速をかけ一気に離脱していった。

 

 

 

 

「撤退、しましたの?」

「みたいだね…」

 

ジェネラスらの撤退にセシリアとシャルロットは脱力し肩の力が抜けるのを感じた。そこへラウラが近寄り、2人にぬる目のミネラルウォーターを手渡す。

 

「恐らく、向こうもおおよその目的は達成したのだろう。となれば、ここで無駄に戦闘を続ける意味はない」

 

腕部を部分解除し、ミネラルウォーターの蓋を開けながらラウラは言う。セシリアらもラウラに見習ってミネラルウォーターに口をつける。緊張で水分を欲していたからか、ぬる目の水がいつも飲む水よりも遥かに美味しく感じられた。

 

「戦闘中はあの2機のデータ採取も行なったが、最低限しか取れなかった」

 

あの2機とは言わずもがな<天照>とジェネラスの機体だろう。ラウラがパネルを操作し<天照>の外観を捉えた画像を読み込み表示させる。

<天照>の外観を見つめていたシャルロットがふと呟く。

 

「こうしてまじまじと見ると、なんか神々しいね」

「神々しい?」

「うん。なんかこう、ほわーっとした感じ…みたいな?」

 

シャルロットのよく分からないジェスチャーと語彙力に首を傾げながらラウラも改めて<天照>の外観を見る。

そういえば以前部下であるクラリッサが話していたが、<天照>というのは日本神話に登場する大変権威ある神様だと言っていた。なるほど、だから神々しさを感じるわけだ。

 

「ま、それは後でいいだろう。今は教官に報告しに行かねば」

「そうだね。それじゃ、戻ろっか」

 

機体を浮上させ、ピットに戻っていくラウラを追いかけるようにシャルロットとセシリアもまた既に千冬や真耶達が待っているであろうピットに戻っていった。



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#14 不完全エブリー

 

「分かった。また後日詳しく聞く事があるかもしれんが、今日はゆっくり休め」

 

一夏達からの報告を一通り確認し終えた千冬は一言それだけ言う。「わかりました」とお辞儀をして職員室から退室する一同を見届けた千冬は机に突っ伏し盛大に溜め息をついた。

 

「織斑先生もそんな溜め息つくんですね」

「さすがの私でも疲れは感じますよ、山田先生。私はサイボーグではありません」

「あはは…お疲れ様です」

 

苦笑いを見せる真耶もまた疲れ切っているのか椅子に座ると深く腰を沈める。

ジェネラスの撤退後、当然ながら学年別トーナメントは中止。千冬達は来場していた企業や政府などの来賓らに頭を下げて回った。

 

そしてまたまたイベントは中止。この1回だけならまだいいのだが、クラス対抗戦しかり臨海学校しかり、1学期からここまでマトモにきっちりとイベントをその目的通りに終わらせる事ができていないという事実が千冬ら教員の頭痛のタネになっていた。

 

「生徒達も事情が事情ですから、承知してるといえば承知しているんですがね…」

「私としては、不満が漏れてきた方がまだありがたいですが」

 

報告書を纏める作業に入ってる真耶と千冬は再び溜め息を漏らす。箝口令を敷いているとはいえ、このような事態が続いているからか大多数の生徒が事情を察している。そのため生徒は大人しく中止を受け入れている、かえってそれがつらいのだが。

自分の机で趣味の盆栽に勤しんでいた数学担当の教員エドワース・フランシィも、そんな千冬達に同情する。

 

「このぶんだと体育祭や修学旅行も襲われてパァになっちゃうかもしれないわね」

「冗談でもやめて下さいシャレになりません()」

「だけどねぇ……、どっちかがパァになるかもに私は200円賭けるわ」

「なら私はどちらも無事に終える、に1万円賭けます!」

 

フランシィと真耶の様子を眺めていた千冬は席を立つ。言い争いをやめ千冬の方を見やった真耶とフランシィに顔を向け、ただ一言

 

「少し風に当たってきます」

 

とだけ告げた千冬は職員室から出て屋上へと向かう。

 

しかし、と千冬は述懐する。

<ゴーレム>を差し向けてきたのは十中八九あの『バカ』であろう。それはいい、やはり不可解なのは<天照>を始めとした第2の襲撃者だ。彼らはアリーナの外壁を覆う天井のシールドを破壊せずに内部から侵入した。

とするとだ、考えたくはないが<天照>やジェネラスは学園の関係者、あるいは関係者に扮した外部の侵入者、と仮定することもできる。

 

(我ながら、安直な推理だがな)

 

勿論、これはあくまで仮定であるし、そもそもあんな大それた事をしでかす者に心当たりなどない。あったとしたらすでにマークしているはずだ。

 

屋上に辿り着いた千冬はベンチに腰掛け、自販機で購入したお茶に口をつける。地平線に沈んでいく夕日はなんとも幻想的であったが疲れが優っている今の彼女はそれを見ても何も感じず、ただただベンチで黄昏れているだけだった。

一夏と箒以外には絶対見せられない黄昏れ方をしていた千冬だったが、屋上と階段を隔てる扉が開く音が聞こえた瞬間何事もなかったかのように背筋を伸ばし、いつもの清ました表情を作る。

 

「少し、お話…良いですか…?」

 

自分に声をかけた人物に顔を向けると、その人物はどこかおじおじをした様子で千冬の横で立っていた。その人物が学園の教員だと分かった時、彼女はおもむろに口を開いた。

 

「今日のこと、なんですけど…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

日もすっかり沈み、気がつけばお腹も空いた時間帯、珍しく1人だった一夏は食堂へ足を運び券売機で食券を買う。いつもは誰かしら付いてきていたので1人というのはどこか新鮮に感じる。

定食を持ち歩きながら席を探していると、途端に何人もの生徒から熱視線を送られた。

 

「一夏君お疲れ!」

「今日も大活躍だったんでしょ?武勇伝を是非!」

「噂に上がってる新型ISの事聞かせて!どんなヤツだったの!?」

「私も聞きたーい!」

 

と、あっという間にこんな状況だ。彼女達からすれば学園の危機を救った一夏達は英雄である。

確かに結果的に言えば救ったといえば救ったのだが、返事を困っている一夏の視界に「こっちにこい」と手招きをするラウラの姿が見えた。

 

「ごめん、その話はまた今度!」

「えー!?今聞きたいのに!」

「いいじゃーん」

「話を聞くまであたしはこっから離れません!」

 

いや食堂閉まる時は離れなさいよ。周りの視線が痛いからか半ば逃げるようにラウラが座る席に向かう。見るとすでにいつものメンバーが揃っており、各々食事を摂っている最中だった。

 

「あたしの時もあんな感じだったわ」

「みんなも聞かれたのか」

 

セシリアの隣で溜め息をつく鈴がラーメンを啜る。水に口をつけていたシャルロットも苦笑いを浮かべる。

 

「ラウラに感謝だね」

「まあね、でもなんでアンタは何も聞かれな……、あ」

 

鈴が最後まで言いかけたところで何かに察し、ラウラから目を逸らす。ラウラのことをよく知る一夏とシャルロットも察したのか押し黙る。

 

「ん?どうした、そこで切られるとかえって気になって仕方ないのだが」

「いや、うん、アンタも色んな意味で大変だったなーって」

 

鈴の曖昧な返答にはてなマークを頭の上に浮かべながらも「まぁいい」と詮索せずにラウラは味噌汁を飲み干す。そしてトレーにお椀を置き、ポツリと呟く。

 

「私に聞きにくるやつがいると思うか?」

「ブッ!?」

 

思わず吹いてしまったのは鈴だ、一夏達もラウラの台詞がおかしかったのか笑いを堪えるのに必死だ。

 

「アンタ…自覚あったのね…」

「当たり前だ。ここにきて何ヶ月経ったと思っている」

 

そうは言っているラウラだが心なしかどこか悟った表情をしているのを、ラウラを1番よく知っているシャルロットは見逃さなかった。

 

「そういえば…」

 

食事も一通り終えたところで、ハンカチで手を拭く簪が口を開く。

 

「実際、どうだったの?戦ってみて…」

 

簪が<ゴーレム>ではなく<天照>のことを言っているはすぐに分かった。管制室での手伝いを担っていた簪はこの中で唯一<天照>らとの戦闘には直接加わっていない。

 

「そうねぇ、<天照>の方は確かに強かったっちゃ強かったけど、正直機体の性能に助けられてた感じはあったわ」

「私も感じた。恐らくだが、まだあの機体に慣れていなかったのだろう。手探りで動かしていたように見えた」

 

鈴とラウラはそう断じる。

一夏もまた<天照>との格闘戦にもつれ込んだ際に似たような感覚を覚えていた。

 

「なんつーか、悪い言い方したら普通ではあったなぁ」

「それ以上にクソ緑よ。あいつ只者じゃないわ」

 

昼間の戦闘を思い出してか鈴は歯ぎしりさせる。鈴の言うクソ緑とは言わずもがなジェネラスの事であろう。

ここで一旦<天照>の話題は置いておいて、一同はジェネラスの件に触れ始めた。

 

「上から見てたけど…動きが凄まじかった」

「あんな芸当、やりたくても中々出来るものではない。相当な腕の持ち主である事は間違いないな」

「ともかくよ、次あのクソ緑に出会ったら絶対にぶっ潰すわ」

「鈴さん、ずっと言いたかったのですがその卑猥な言葉を慎んでくださいまし。その、はしたないですわ」

 

各々が談義に花を咲かせていると、周りの生徒達のどよめきが大きくなっていることに気付く。そのどよめきが気になりそちらに振り向いた一夏は、そこにいた人物の姿を認めた瞬間大きく目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいんだね?ひょっとしたらだけど、君に対する非難が…」

「分かっています。それは…覚悟していることですから」

「その時になったらその時。我々大人がきっちりとだ、サポートしなくちゃいけなくなるね」

「そうだよ。だって、友達が困ってる時は助け合うものだから」

「この扉を開けた先は、どうなるか分からないよ。そして恐らくだけど彼らはいるよ?会えるかい?」

「多分ご飯食べてるよ。私も早く食べたいのに」

「いいかい?開けるよ?本当に大丈夫だね?」

「…はい、お願いします」

「オッケー。それじゃあ……」

 

そして、扉は開いた———

 

 

 

 

「お…お前は…」

「……なんてことだ」

「え…?ちょ…マジ?」

 

一夏、ラウラ、鈴は声を震わせながら開かれた扉の方を見やる。セシリアや箒、シャルロットに簪もまた愕然と扉を開けた主の姿を見る。そこには4人の女性が立っていた。そして右から2人目の人物は、今日1日を象徴するに相応しい人物であった。

 

「<天照>……」

 

そこには、あの特徴的なバイザーを付け、ISを解除していた<天照>がいた。その横には能面をつけていた<打鉄>の搭乗者に般若面を被ったジェネラスもいた。しかしそれ以上に衝撃的だったのは<天照>の搭乗者が着ていた服だった。

 

「え、あの子の着てるのって」

「ウチの…じゃない?」

「じゃあ、襲撃者は学園の生徒…?」

 

<天照>ともう1人の<打鉄>搭乗者は『IS学園1学年の制服』を身につけていた。なぜ1学年かと分かったかというと、IS学園の指定する制服につけられるリボンや上履きなどに一目でどの学年の生徒かと分かるように色分けされている箇所がある。例えば1学年が赤で2学年が青、3学年が緑、そういった具合だ。

 

「…………」

 

どよめきから一転、静寂が食堂を覆う。ラウラが今にもプラズマ手刀を展開せんと身構えた瞬間、突如として<天照>は腰を大きく曲げて頭を下げた。

 

「ごめんなさい!!!!」

『……………………………………え???』

 

突然の謝罪に食堂にいた生徒全員がポカンと口を開ける。

 

「私と先生のワガママを押し通したばっかりにこんな事態になっちゃって…、一夏君や鈴さん達に合わせる顔がなくて…」

「いや顔まだ見れてないし。てか、え?先生?先生って言った今」

「協力してくれた人にも迷惑かけて、鷹月さん達みんなにも迷惑かけて、本当にごめんなさい!」

「待って待って待って待って状況が分からない」

 

<天照>らに頭を下げられた一夏達は困惑しきり、鈴もまたツッコミどころの多さに四苦八苦していた。

仕方なく一夏は前に出て<天照>の元に歩み寄る。

 

「学園の生徒、しかも同い年ってのはさすがにちょっと衝撃強かったがお前の気持ちはよく分かった。ただ、ただな、ほんっとうに申し訳ない事を聞くが……お前誰だ」

「……え?」

 

一夏の言葉に今度は<天照>がポカンと彼の方を見やる。するとジェネラスが<天照>の肩を指で叩き耳打ちする。

 

「バイザーつけて変声機使ってりゃ誰だってそーなる。私だってそうなる」

「あ」

 

ジェネラスの言葉を聞くまでその事に失念していたのか<天照>の搭乗者は割とリアルな反応を見せる。

つーか、変声機つけて声変えてるのはジェネラスとかも一緒なんだけどね。お前らこそ誰だよ、いい加減そのお面外してくれよ。なかなか恐いんだよそれ。

 

「そうだった。アハハ、なんだかごめんね一夏君」

 

変声機を解除した<天照>はそう詫びてバイザーに手をかける。しかし、本当の<天照>の声を聞いた一夏を始めこの場にいる全ての生徒達は驚愕でそれどころではなかった。

 

その声の主は、一夏達1組の者からしたらお馴染みのモノであったから。

ゆっくりと外されたバイザーから現れた穏やかな笑みに、赤とも紫とも言えない髪。我らが1組のムードメーカー担当の1人、相川清香本人であった。

 

『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!??????』

「アハハ…お騒がせしちゃってごめんね」

 

苦笑いを浮かべる相川を余所にあまりにも予想の斜め上をいく衝撃の事実のカミングアウトに一同半分パニックである。中には衝撃的すぎて腰を抜かして座り込んでいる子もいるが大丈夫か。

 

それは専用機持ちの面々と同じであり皆一様に驚いている。普段は如何なる状況でも冷静さを保っているラウラもこれにはビックリしていた。

 

「ハイそしてー。ジェネラスこと不肖緑葉ナツと」

「ランスの使いにくさを身をもって知った龍驤と」

「本音でした〜〜」

『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!??????』

 

おもむろにお面を外したジェネラス改め緑葉に龍驤、そして何気に今まで忘れてしまっていた本音の登場でまた生徒一同に衝撃が襲いかかる。

そんな中で鈴だけは、緑葉に思いっきりドロップキックを食らわせていた。そういえばさっきまでジェネラス(緑葉)の事を『クソ緑』とか次会ったらぶっ潰すとか言ってたな。良かったな、一瞬で願い叶って。



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#15 はいここ試験に出ますよ

<天照>改め相川の衝撃のカミングアウトから数分して落ち着きを取り戻した皆の興味はやはり彼女に注がれていた。あっという間に群衆に取り囲まれた相川はしどろもどろになりながらも自分にぶつけられる質問に対応しているところだ。

 

「あぱーひと仕事終えた後のラーメン美味しい〜」

「この漬け物旨いわね、お酒が進むこと進むこと」

「本音…、ツッコミどころしかない…」

 

こちらは相川とは対照的で、本音と緑葉は自分達に注がれる目線を気にする事なく食堂の食事に舌を鳴らしている。メンタル強すぎるのではないかこの人達。

幼少期から本音の友達であった簪はそんな彼女に若干呆れている側で鈴が口を開いた。

 

「で、よ」

 

鈴は睨みを利かして緑葉を見る。

 

「分かってるよ。悪かったって思ってるよ試合中にカチコミして」

「緑葉さん達がきてもこなくてもどのみち中止にはなってたけど、なんであたし達と戦う事になったのよ」

「ウチらだって予想外やったわ」

 

龍驤は箸で味噌汁を混ぜる。その横で藤川が話し始める。

 

「いやさすがにマズいだろうと思ったさ。でも緑葉君がだ、「アレなんだ?」って布仏さんに聞いたら彼女が無人機だって答えた途端に「よし行こう」って…」

「アレにはビックリしたわ…。あんなビーム撃ちまくってる敵に、素人のウチらが挑むって」

 

のほほんさん、貴方何ちゃっかり機密情報教えてんスか。しかし龍驤から何気に聞き捨てならないワードが聞こえたので、一夏は2人に質問をぶつける。

 

「龍驤さん、さっき自分達は素人って言ってましたけどそれって」

「ん?あぁそのまんまの意味やで、ウチと緑葉は今日初めてISの実機に乗ったんや」

『え』

 

またまた明かされた事実に専用機持ち達は思わず間抜けな声を漏らす。

 

「さすがに3日前にシミュレーターはやって適性とか測ったみたいだけど」

「いやいやいやいや嘘でしょ?」

「ホントだよ」

 

嘘だと思いたい鈴に対し、酒に口をつける緑葉は本当だと断じる。藤川も龍驤も同調するように頷く。

 

鈴やセシリア達代表候補生が嘘だと思うのも無理はない。どのカテゴリーでもそうだが、卓越した腕を磨くまでに必要なのは『経験』だ。ISにおいてもそう、気の遠くなる程1日中機体のクセを感じながら練習を行い、模擬戦などで場数を踏んで勝負勘を磨き、武器の扱いに慣れる。

セシリアやシャルロット、鈴も膨大な量の知識と経験を培うために猛勉強をした身。ましてや鈴は僅か1年で代表候補生にして専用機をあてがわれるまでに成長した叩き上げ、だからこそ緑葉の言葉は衝撃的であった。

 

「ではあの動きは偶然できたのか?」

 

今度はラウラが緑葉に質問をぶつける。質問をぶつけられた緑葉は苦笑いを浮かべテーブルに肘をつける。

 

「あんなん狙ってできるはずないでしょ?あそこまでやれるとはこっちも思ってなかったし、虚をついたからこその善戦だと思ってるから」

「む…」

 

そんな時、箒が緑葉達を見てある部分の質問を投げかける。

 

「さっき適性がと聞こえたが、緑葉さん達はどのくらいの数値が出たのだ?」

 

IS適性が高ければ高いほど機体を使いこなせられるというのが大方の認識だ。

元々の素質だけでなく訓練や経験などで適性幅は上下するが基本的には元の素質が関わっているケースが殆ど。ちなみに平均はC〜Bであり一夏のIS適性はB、セシリアなどの代表候補生はAである。

ごくたまにDクラスがいるがそのレベルになるとISを扱うのは難しくなる。都市伝説では更に下のEがあるとかないとか。

 

「うーん、シミュレーターだと確か龍驤が」

「ウチはBやったな、で緑葉が」

「なんかAって出たな」

「え…凄い」

 

周囲の反応とは裏腹に龍驤と緑葉は随分とあっさりした様子である。緑葉はISのこと知らないのに上から命じられてここにきた、と言っていたからもしかして適性Aの凄さにどうもピンときていないのかもしれない。

周囲の反応に顔を渋らせた緑葉が1番ビックリしているであろうセシリアに訊ねる。

 

「そんなに凄いの?」

「当たり前ですわ、A適性という事はわたくしと同じ数値なのですから」

「代表候補生や国家代表の多くが、A適性だからね」

 

呆れ果てたセシリアの横からシャルロットがフォローする形で解説する。自分に代表候補生、果てには国家代表になりうる素質が秘められていると察した緑葉は「おぉ……」と感嘆の声を漏らす。

 

「それにしても、貴様達は何故こんな大それた事をしたのだ?考えたのは誰だ?緑葉さんか?それともまた別の奴か?」

 

緑葉を見るラウラの目つきが変わる。その鋭利な刃物のような鋭さに緑葉が怯んでいる時だった。

 

「それはこのバカとそこにいる大バカが説明するさ」

「織斑先生、……と、南井先生?」

「相川さんも?」

 

いつのまにか相川と南井の首根っこをがっしりと掴んだ千冬が立っていた。大雑把に手を離すと相川と南井は床に倒れ込み「ごふ」と嗚咽を出す。

起き上がった相川と南井、そして息をついた緑葉は事の顛末を語り始めた——。

 

 

 

 

時は遡りおよそ1週間前、あてがわれていた部屋の中でハプニングを起こした緑葉が藤川と龍驤に叱られていた時の事だ。

 

「いや待ってくれ緑葉君それは…」

「ホンマにか、ガチでか」

 

驚愕から抜けきれず唖然としている2人を他所に、緑葉はカレンダーを見据えた。

 

「これまで何度か君には無茶振りをしろと言ってきたけど今回は悪いことは言わないよ。やめといた方がいいって」

「そうや、『秋の学年別トーナメントに私達も飛び入り参加しよう』とか出席簿アタックどころの話ちゃうで」

 

緑葉が2人に提案した案、それは『1週間後の学年別トーナメントに自分達もISを駆って参戦する』という突拍子もない案だった。

 

「機体はどっから調達するのさ!」

「それを君が鶴屋の親父に頼めっつってんだよヒゲ剃るぞお前」

「第一ウチら参加する資格ないやろ」

「だから飛び入りだって言ってるんだ。それに、協力者もいる」

「協力者って、学園のかい?」

「それしかないでしょー?…っと、来たみたいだね」

 

ノックの音が聞こえ、緑葉は扉の方へ向かう。藤川と龍驤がその様子を見ていると3人の女性が入室してきた。1人は先程緑葉達の案内を受け持ってくれた本音だ。本音の隣にはこちらも1組の教室で見た事がある生徒が1人、確か相川さんと言ったか。そしてあとの1人はどうやら学園に在籍する教員のようであった。

 

「この人達が協力者かい?」

「そう。のほほんさんと、相川さんと南井先生」

 

「よろしくねー」と一言挨拶をする本音に習って相川も南井も軽い挨拶を行う。

 

「でもなんで協力してくれるんや?こんなアホみたいな事に」

「簡単に言えば、利害が一致したからでしょうか」

「利害?」

 

龍驤の質問に対し南井は利害の一致と答えた。疑問符を浮かべる龍驤に、緑葉が笑みを浮かべて答える。

 

「南井先生は凄い人だよ。ご自身でISの開発を行なっているの。しかもそれを何年も。それを相川さんやのほほんさんが時間を見つけて手伝っている。でいいんでしたっけ?」

「は、はい」

 

若干大袈裟に素ぶりで語たれ南井は照れるように頭を掻く。

その後も南井が自分でISを開発することになった経緯、そして何故緑葉がそれを知り南井らにコンタクトを取ったかなどを簡潔に説明された龍驤は感心の声を上げる。

 

「南井先生や相川さんはその機体のデビュー戦に秋の学年別トーナメントを選んだ。そして私達もそれに出たい。私達の素性よりも愛機のデビュー戦選んだからねこの先生は」

 

教職として痛いところを突かれた南井は含み笑いをする。横で話を聞いていた藤川がズレた眼鏡をかけ直し問う。

 

「で、その機体とはどのような」

「良かったら、見にきます?」

「他の先生や生徒にも言えへん機密なんやろ?ええんか?」

「はい。どのみちどこかで見せる手はずでしたし」

 

何故か南井ではなく相川が言った。その表情はどこか誇らしげだ。開発半ば辺りから手伝っていたと言っていたから、やはりそれなりの思い入れと誇りがあるのだろう。

 

「出来るなら今すぐ見てみたいけど、もう7時なるし準備した方がいいんじゃない?」

 

緑葉が指差した先にある時計の針は7の部分を指していた。緑葉達はまだしも相川達は今日も授業がある。

 

「そうですね。ここで一旦解散しましょうか」

 

南井は相川と本音を促し立ち上がる。

 

「集合する時間は午後8時くらいが丁度いいかな?場所はまたここね」

「なっちーご飯行こ〜」

「分かったから袖を引っ張らないで」

 

集合時間と場所を南井に確認する緑葉の腕を本音が引っ張る。ちなみに『なっちー』とは緑葉のことらしい。下のナツからもじってなっちー。うん、分からん。

 

「私の方も資料を纏める作業がありますのでこれで、2人とも授業に遅れないようにね」

「「はーい」」

 

南井から微笑みを向けられた相川と本音は元気よく返事をする。南井と分かれた緑葉達は本音に促されるまま食堂に直行した。

 

 

 

 

1日の授業が終わりすっかり日も沈み切った午後8時過ぎ、緑葉、龍驤、藤川、そして新たに今日から合流した西園寺は車に乗り込んで前方を走る車を追走する。

前方を走る車は南井が運転を行なっており、そちらに相川と本音は同乗している。しっかり彼女達には外出許可が降りているらしい。

 

「なんかごめんね西園寺君。忙しいのにわざわざきてくれて助かったよ」

「大丈夫です、お気になさらず。自分もISには興味をもっていたので」

 

申し訳なさそうに後部座席からハンドルを握る西園寺に声をかける緑葉だが、当の本人は気にしていない様子であったため安堵の表情を浮かべる。

 

「だいたいアイツ何してんのさ、藤川の方に連絡あった?」

 

緑葉が不満げに言うアイツとは、家庭の事情があり自分達と行動を共にできなくなった三崎のことだ。正直に白状してしまえば今の今までIS学園での数日間が激動過ぎて忘れていたのだが。

 

「あー昨日辺りありましたな」

「彼なんて言ってたの?」

「いや実は三崎君の奥さんが妊娠しててね、どうも出産予定日がそろそろなんだそうだよ。で、会長の計らいで奥さんに付き添ってあげてるんだと」

「あら、それはまたナチュラルに私が聞いていない情報をだキミ話したけど、おめでたいじゃないの」

 

三崎の奥さんとは以前会ったことがあり、とても仲睦まじい夫婦だったと記憶している。

それなら仕方ないな、と緑葉は不満げな表情から一転させ穏やかな表情に戻る。

 

「しかしまぁ、本当に見せてくれるんですよね?って聞いたらまさかの『ここにない』には驚きましたな」

「最終調整は別のところで、らしいよ」

 

例の開発中の新型である<天照>は現在最終調整に入っており、その調整は学園内ではなくまた別の場所で行われているらしい。調整といっても後はちょっとした調整だけでほぼロールアウトできる状態なんだとか。

 

「でもこれは……どこまで行くんだい。もうだいぶ学園からは離れたけど」

「おーいやだよぉ、秘密を知ったからには生かしてはおけねーぜみたいなさぁ」

 

そうこうしているうちに南井が運転する車が駐車場へと入る。後を追って駐車場へと入るとすでに南井は車を止めていた。

 

「ここお金は大丈夫な場所?私は払う気ないよ」

「見たところ個人の…?っぽさそうやな」

 

停車した車から降り立った緑葉と龍驤が辺りを見渡す。

周囲は田んぼが広がり、遠くには市街地の明かりが見える。田舎なのか都市近郊なのか、至って普通の住宅地だ。

しばらく街灯が照らす夜道を歩き、数分経っただろうか、南井達が歩くのを止める。

 

「着きました。ここです」

「え?ここ?」

 

いきなりの発言にキョトンとした緑葉がここという場所を確認する。これまたどう見たってどこにでもあるような工房だ。緑葉の地元である水戸にだって当たり前のようにある至ってありふれた工房だ。

はっきり言ってここでISの調整ができるとは思えない、というか緑葉を始めとした4人は本気で場所を勘違いしているのでは?と不安げにお互い顔を見合わせる。

 

そんな一同の思惑を他所に、相川が緑葉達を伴って言う。

 

「ここが、<天照>の生まれ故郷である『成田工房』です」



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#16 Sing With Joy

「お気に入り件数10突破やで」
「まぁ1つは自分でつけてるからただただ虚しいだけなんだけど」
「この数字に満足することなく、謙虚にコツコツやっていくで」
「うん満足しちゃダメだよ()」



 

日本においてISの開発を任され、<打鉄>や<白式>などを開発してきた倉持技研の名を知らぬ者はIS業界にはいない。そんな倉持技研も当然大元のスポンサーがあるのだがそれはさておき。

倉持技研単独でIS開発を引き受けるパターンが殆どなのだが、パーツの納入などのスケジュールがカツカツな時は外部の契約を結んでいるいくつかの工房とも連携して機体を仕上げるケースが存在する。その1つを担う工房というのが成田工房なんだとか。

 

「がはははは!いやよくぞこんな夜分遅くに来てくださった!」

「こちらこそ、お忙しい中すみません」

 

南井達を出迎えてくれたのは質実剛健元気ハツラツ、髭を蓄えた如何にも豪快そうな老人であった。彼こそが成田工房の創始者である成田源一郎だ。

 

「おお?そちらはまた初めて見るお方、もしや彼らが」

「はい。電話でもお話しした緑葉さんです」

「ほお!彼女がですか!お話は聞いておりますぞ!!」

「ああああああああヒゲぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!」

「呼んだかい?」

「そっちじゃないッ!」

 

源一郎からの熱いハグを頂いた緑葉は悶絶しながら叫ぶ。

 

「いやいや普通ここ握手じゃないの!?なんでハグ!?」

「ひいおじいちゃんは米軍の捕虜になって数年間アメリカに行ってた事があるんですよ。ハグはその時身につけたんだって」

「こう見えて戦闘機の整備士でな!空母『赤城』で九六艦戦を整備しとったわ!」

「すげぇ」

「その後はまた南方の島に行ってな、そこで捕虜になってしまったんじゃよ」

「その話めちゃくちゃ聞きたいんだけどこの状態どうにかならないかなぁ!あとそこの君誰!」

 

源一郎のハグから脱した緑葉は肩で息を吹き返している。緑葉からしても相当なモノであったのは間違いない。

 

「ち…ちなみにですが…、戦闘機の整備士してたって事は今お幾つで?」

「今年の夏でめでたく94じゃ!」

「94歳の元気じゃない……」

 

源一郎の年齢を聞いた緑葉一同は半分呆れかえる。緑葉の祖父も80代にして「x◯ideoの閲覧方法を教えてくれ」とか「コミケ行きたい」とか言う豪快というかある意味健在な人物だが、こちらも大概元気という言葉が似合うご老人である。

 

「あきくんこんばんわ〜〜」

「こ、こんばんわ」

 

本音にあきくんと呼ばれた少年はペコリとお辞儀をする。恐らく相川や本音と同い年だろう。

 

「ひ孫の秋という。自慢のひ孫じゃわい!」

 

秋の頭をがっしりと掴んだ源一郎はまたまた豪快な笑い声を出す。おじいちゃん、もう夜の8時回ってますよ。

しかしそんなひ孫は豪快な源一郎とは似ても似つかない、緑葉は秋にどちらかと言うと大人しげな、落ち着いた雰囲気を感じた。

 

「立ち話もなんですので、ささ、上がってください」

 

我先にと先を進む源一郎に促されるままに靴を脱ぎ廊下を歩いていく。そしてとある一室では40代くらいの男女、夫婦だろうか?座布団に座りながら緑葉達を待っていた。

 

「私は現在成田工房の社長を務めている成田貴紀と申します。貴方達の話は南井先生から聞いています。お会いできて光栄です」

「妻の叶です」

「どうも…」

 

またハグがくるか!と身構えていた緑葉だったが普通の握手を求められた時は少しホッと安堵した。

 

「あまりここで話していてもなんですし、工房の場所まで案内します」

 

緑葉達が簡単な挨拶を終えた後、成田夫妻は南井を連れて部屋を出る。どうやらついに<天照>を見せてくれるとの事だ。源一郎の方はどうやら同行せず、部屋の中で晩酌をする構えを見せている。

 

「緑葉君、ここまで来たんだから当然、見るよね?」

「いやそうしたいのは山々なんだけどねぇ、個人的にはさっきの話の続きが聞きたくなっちゃってさ」

「さっきの整備士云々のかい?」

「もうちょっと深く話を掘り起こしてみたいなと」

 

ここにきて緑葉は本来の目的である<天照>の視察ではなく、源一郎が先程少し話した戦時中の話が聞きたくなった。

戦争中の話などそう聞けるものではない。戦後70年が過ぎ、戦時中を体験した人はどんどん鬼籍に入っている。しかも戦闘機の整備士をしていた人の話を生で聞ける機会、この先後何回ある?

どのみち<天照>を見れる機会は遠からず訪れる。なら今ここで聞ける話を聞いておいて損はない。緑葉からすれば思わぬ副産物、むしろ徳であった。

 

「なんだ嬢ちゃん!ワシの話が聞きたいのか!物好きだなぁ気に入った!」

 

当の源一郎も酒が入っているのか随分と乗り気であった。

 

「仕方あらへんな。ほならウチらで見にいってくるわ」

「いってらー」

 

源一郎と対面するように座り出された酌に焼酎を注ぎ始めた緑葉は工房へと向かう藤川、龍驤、西園寺らを見送る。しかしそんな中で相川だけは秋と一緒に別方向へと歩いていた。

 

「あれ?相川さん見に行かなくていいの?」

「え、あ、大丈夫です。わ、私は別の用があるから…ごゆっくり…」

 

「ほーん」と一杯やる緑葉に作り笑いを浮かべた相川と秋はそそくさと去っていく。無関心を装ってこそはいたが、緑葉もソレが分からないほど子供ではない。

なぁにがごゆっくりだぁチクショウめ。心の中で2人を茶化すような笑みを作りまた一杯飲む。

 

「いい飲みっぷりだなぁ嬢ちゃん。そうだイイコト教えてやる、実はあの2人なゴニョゴニョ…」

「あ、やっぱりぃ〜?若いなぁ〜青春だねぇ〜〜」

「秋のやつはなんとか悟られないようにしてるらしいがの、息子や孫夫妻の目は誤魔化せてもワシの目は誤魔化せんわい!」

 

大形に笑いながら緑葉と源一郎は乾杯を交わす。

 

「嬢ちゃんワシの話が聞きたいんだって?何が聞きたいんじゃ」

「話せる限りでいいのでさっき少し喋ってくれた話を聞きたいですね」

「整備士時代のか。そうじゃのう、あれはワシが17の時じゃったわ——」

 

 

 

 

成田家の住居からそう遠く離れていない工房にて、<天照>は南井と本音の手によって最終調整に入っていた。

 

「補助パワーユニット、及び出力ジェネレーター、全てオールグリーン」

「データリンク問題ナシ。武装パッケージ正常に作動」

「カメラアイは、問題なく稼働しています」

 

光が灯ったモノアイが左右に動く。その様子を見届けていた叶が感慨深く言う。

 

「やりましたね、南井先生」

「……はい!」

 

午後22時49分、これにて全ての調整過程が終了した。ついに<天照>はそのベールを脱ぐことができる。周囲から惜しみない拍手が巻き起こり、南井は入れっぱなしだった肩の力を抜いてその場にあった椅子にへたりと座り込んだ。

 

「わ〜いやった〜〜」

 

本音ははしゃぎながらお祝いの粗品である瓶ジュースの栓を開けコップに注ぐ。車の運転をしなくてはならない西園寺と南井以外の大人達も手にビールの缶を持つ。

場の雰囲気も高まってきたところで南井が<天照>の前に立った。

 

「皆さんの多大なる尽力のおかげで、ここまで辿り着く事が出来たこと、本当に感謝しています。今日この日までありがとうございました!!」

「乾杯!!」

 

誰かが叫んだ乾杯の叫び声と共に皆一斉にビールにジュースと用意されていたものに口をつける。2口、3口と喉を鳴らしながら「ぷはー!」と息をつく。

 

「一仕事終えた後の酒は美味だな!」

 

源一郎の息子である源治(ちなみに70歳)はもうすでに2缶目に手を伸ばし始めている。ここまで成田家のイカれt…濃い面々に圧倒され続けてきた龍驤と藤川は会場の隅に行き控えめに酒を、運転手の西園寺は本音が開けたりんごジュースを嗜んでいた。

そこへつまみ片手に南井が歩み寄ってくる。

 

「藤川さん達も楽しんでますか?」

「いやぁウチらはその、部外者やしなぁ」

「どうしても遠慮してしまうというかね」

 

どうにも肩身の窮屈さを感じてしまう龍驤と藤川は萎縮する。

 

「しかし立派な機体やなぁ」

 

話を逸らすように龍驤は<天照>に目を向ける。南井もまた、感慨深げに完成された機体を見やる。

 

「ええ…」

 

IS学園在籍時から数年、僅か10年に満たない歴史の中に埋もれていた極秘プロジェクトをたった数人で達成出来た事実は、何者にも変えがたい達成感を彼女に与えていた。

しばらく遅い夜の宴を楽しみ、西園寺が時計に目をやるとすでに0時を回っていた。

 

「藤川さん龍驤さん、そろそろ…」

「ん?ああもうこんな時間か」

「結局緑葉はこっち来んかったなぁ」

 

場の空気と酒の影響でだいぶできあがっていた2人もまた日付けが変わったことに気付く。

 

「南井先生ぇ、そろそろ我々も戻らなくてはいけなくなりましたよぉ」

 

談笑の真っ最中である南井も頃合いと思っていたのか、瓶を抱き枕にして寝ている本音を起こして冷水を一杯あおる。

 

「すみません、もうこんな夜更けに…。では今日は本当にありがとうございました」

「いえ此方こそ、また来てください」

 

成田家の皆に礼を言って南井達は玄関を閉める。道に出たところで寝起きで思考が定まっていない本音が大あくびをして言う。

 

「せんせ〜きよひーがいませーん」

「緑葉もおらんな。ウチら帰るのに気付いとらへんのか」

「布仏さん、相川さんに連絡取れる?」

「ウチもちょっちLINE入れとかんと。まぁ置いていっても帰れると思うが」

 

本音と龍驤はそれぞれ相川と緑葉に『そろそろ帰るよ』とメッセージを送る。秋の夜はこれまた冷えるものだ。家の前で待っているのも身体に毒なので南井達は車の中でゆっくりと待つことにした。



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#17 ヘヴンリーロマンス

「ぐおーーー、がおーーー」

 

机に突っ伏し大層なイビキをかけながらすっかり寝入っている源一郎に毛布をかけた緑葉は特に何をするでもなく、お猪口を片手に携帯の画面を上へ下へとスクロールさせる。

ふと柱にかけてある振り子時計を見る。時針と分針が丁度11のところを指していた。

 

「特にめぼしい情報はナシ、か」

 

携帯を仕舞い、お猪口に焼酎を注ぎ足す。

源一郎の話はとても面白く、その度に酒を飲むスピードは速くなっていった。互いに酒豪である、と2人も謎の意地を張り焼酎やビールなどあるだけあおった結果源一郎がダウンした形で話は終わった。

 

その後の緑葉は源一郎を起こすわけでもなくかと言って<天照>完成の祝賀パーティーに顔を出すわけでもなく、ただ1人でちびちびと焼酎を味わっていた。

 

「…………」

 

ふと緑葉は立ち上がり、爆睡する源一郎を後に部屋を出る。自分でもなんでこんなことをしているのか分からない、酒の影響もあるのだろうか思考がボンヤリとしている。

 

(久々に飲みすぎたかな…)

 

緑葉は飲み会の席でも滅多に酔うことはないのだが、今日に限っては少し酔いが回ってきてしまった。

気分をリセットするためにどこに行くでもなく成田家の中を徘徊する。皆<天照>の方に行っているためか家の中には自分と源一郎しか居ない(と思っている)ため、誰にも声を掛けられることは無かった。

 

「…ん?」

 

ふと声が聞こえ、緑葉は足を止める。

その声は丁度緑葉が足を止めた横の部屋から聞こえてきており、そちらの方向へ耳を澄ます。

 

「……!……!」

 

まず最初に聞こえたのはベッドのスプリングのバネが軋む音だ。そして次に聞こえてきたのはあどけない少女の嬌声、若い男女の荒い息遣い。

この3点を1つずつ丁寧に線で繋いでいき、同時に緑葉の長い人生で培われた経験と記憶のデータバンクからこれらが意味するモノを探し出す。

 

それらが意味する答えを導き出した緑葉は、まぁ、何とも言えない表情を浮かべながらたった一言、ドアを隔てた先にいるであろう男女へ向けポツリと呟いた。

 

「……………………若いっていいね」

 

それだけ言うと、なんだか居たたまれなくなった緑葉は足音1つ立てる事なくそそくさとその場から去っていく。

 

いや、まぁ、ね。うん、まぁ〜十中八九アレは相川さんと秋くんなんでしょう。むしろそれ以外誰がいるって言うんだ、先程のあの様子を見るともうすでにそーいうアレでだいぶもうアレしちゃっているんでしょう。分かるもん、自分だって大人だもん。察せるもんそれくらい。

でもね、こっちだって色んな意味で事故とはいえその一部始終を聞いてしまった私はどうすればいいんですか。絶対この後相川さんの顔マトモに見れないよ、言えないよこんなこと他人に、ましてやのほほんさんや南井先生には。

 

恐らくあの2人は相川さんと秋君の関係は知らない、ただ単に話でもするんだろうなーくらいにしか思っていないのだろう。そんなわけあるか初心か。夜更け、家には身内の方ほぼいない、部屋で2人切り、何もないはずが無いだろ。華の10代青春真っ盛りの思春期だぞ、先生アナタその辺の対策しっかりしないとダメよ。

 

と、心の中で散々愚痴を言い切った緑葉は再び部屋へと戻り記憶を消し去るように酒をあおっていく。やがて意識が遠のくように彼女も畳に寝っ転がるようにして爆睡、携帯の通知音で目を覚ました時にはすでに日付けが変わっていた。

 

「うん、アレは夢ではないね()」

 

お酒をたらふく飲めば記憶が消し飛ぶ、というのはよく聞く話だが、自分の場合酒に滅法強いというのが災いしたのだろう。まぁバッチリ覚えていました。源一郎の話も、相川のアレも。

え、アレってなんだって?アレはアレだよ察しなさい。

 

緑葉がチャットアプリを開くとそこには『帰るで、車の中で待っとるわ』と龍驤からのメッセージが添付されていた。酔いと寝起きの身体に風車ムチを打ちつけながら酔い覚ましの水を飲んで身支度を整える。外套を羽織り外に出るとたちまち冷たい夜風が身体を襲う。

 

「随分と遅かったやないか何してたん?」

「ん〜?話して酒飲んで寝てた」

 

車の元に行き、ドアを開けて中に入ると暖房が効いた車内の雰囲気に緑葉にまた眠気が襲いかかる。

龍驤が問いに大雑把な返答をすると「マイペースか」と車内にいた緑葉以外の全員に呆れ笑いをされたが、それよりも眠気の方が優っていた緑葉は彼らを他所に窓を見ると、すでに南井と本音も車の中であと1人を待っていた。

そこへようやく相川が到着し、車へ乗り込んだ。相川本人こそいつもの様子を装ってはいたけど、緑葉さん見ましたよ。ちょっと腰を労わるようにしてたの!

 

やがて車は発進し、適度に揺れる振動が眠気を刺激し、時間にして2分も経たないうちに緑葉は再び深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

「まぁその後学園内でも調整を続けられた<天照>は今日行われた学年別トーナメントで初陣を飾ったわけです。終わり」

 

ここまでほとんど話の主導権を握っていた緑葉は簡潔に話を締める。「何か質問は?」と周りに問うが誰も何も言う気配は感じられずに沈黙が流れる。何故沈黙が続いているのか分からない程緑葉も察しが悪い方ではないし、むしろ彼女はこの状況を作り上げたある意味元凶でもあるのだ。

 

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「あの……その…、えっと…」

 

理由は言わずもがな相川にあろう。緑葉の説明越しにとんでもない秘密を暴露した相川の顔は紅潮しきっている。

対するここまで緑葉と相川の説明を聞いていた聞き手の反応は実に様々だ。一夏や箒、シャルロットあたりの面々、すぐ近くにいた南井もまた何とも言えない表情を浮かべている。

 

初心なセシリアや簪、一部の生徒や真耶は相川と同じように顔を紅潮させ、こういった話題に敏感で楽しみを感じている鈴や一部の生徒、千冬はニヤニヤと相川の様子を伺い、緑葉勢や本音、いつの間にか紛れ込んでいた楯無はすっごいにこやかな笑みを浮かべ、そういった知識が皆無に等しいラウラはただ1人素の表情を保っていた。

そんな中でこの沈黙を破ったのは、いつもの凛々しい表情に戻った千冬であった。

 

「相川」

「はい……」

 

恐らく<天照>関連で叱責を食らうと思っていたのだろう、相川は声を小さくさせながら千冬へ向き直る。ただその返事の中には「話を変えられるチャンスがある」という淡い希望と含まれているように感じた。

 

そんな希望を知ってか知らずか、千冬は固い表情を崩し、これまで見たことがないレベルで清々しい笑顔を相川に向けこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「避妊は怠るんじゃないぞ」

「〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッ!!!!」

 

まさかの助言とも言える千冬からのありがたい(?)台詞に相川の恥ずかしさはついに爆発する。

その脇でついに鈴がこれまで堪えていたモノを解放するかのように笑いをあげる。鈴の大笑いに釣られるように食堂中に黄色い歓声がドッと沸き起こった。

 

「「「「「織斑先生公認カップルきたあああああああああああああああ」」」」」

「キタよ!ついにきちゃったよ!」

「まさか清香ちゃんが一番乗りかぁ〜」

「意外なカップリングキタコレ!!」

「私も彼氏欲しい〜!でもここじゃ出逢いがな〜い!」

「どっちが攻めかな?どっちが受けかな?」

「意外と相川さんが攻めだったりして!」

「いつもは活発な相川さんが受け身ってシチュも同性ながらそそられるわね…!」

「一体いつから付き合い始めたの!?情報斑、何やってるの!?」

「1年1組情報斑一生の不覚…。戦いの中で戦いを忘れた…ッ!」

 

やっぱりこうなると思ってた。各々まるで自分のことのようにはしゃいでいる。そりゃあこの99.9%女子校の中じゃ自ずと彼氏持ちってのは注目させるわけで、しかもこんな形で知れ渡って更にあの千冬が実質的に公認したのだ。

中にはなんか向こうの扉を開きそうな子もいれば情報斑と呼ばれた子が悔し涙を浮かべている。つか情報斑なんているのか。そして食堂のおばちゃんはちゃっかりと赤飯を炊き始めるんじゃあありません。

 

しかし同時にそこまでにしといた方がいいのでは、とも思う。相川の方を見てみると恥ずかしさのあまり顔を上げられずにいる。緑葉自身の所存とはいえさすがにやりすぎたと後悔する。もしもこれのせいで不登校に陥ったなんて事態になったら洒落にならない。

 

「あの、私が今更言ってもどうにもならないしもう遅いとは思うけど、さすがにデリカシーが無かったかもしれない。うまく言えないけど…、その…ごめんなさい」

 

相川の肩に手を置き緑葉は一語一語言葉を紡ぎながら謝罪の言葉を振り絞る。相川の身体は震えており、その微かな震えが緑葉の手に伝わってくる。

お祭り騒ぎだった周囲も一瞬にして静かになり、2人の様子を伺う。

 

「いえ…緑葉さんが謝る事ありません。いつかはバレるって思ってたし…、ただ…」

「ただ?」

 

相川はしゃがみこんでいた態勢からフラフラと立ち上がって首を横に振る。耳まで真っ赤に染め上がった顔を上げた時、うっすらと涙が見えた。

 

「ただ…、こんな大勢の前でバレるのはさすがに想定外で……///」

 

身体をプルプルと震わせながら発された言葉を聞いた緑葉はどこか安堵するように息をついた。

 

「そ、そっか。まぁそりゃそうだよね。今日はもう休んだ方がいいね。龍驤、あとのほほんさん、相川さんを頼める?」

「せやな、ほないこか」

「きよひーいこ〜」

「う、うん…」

 

緑葉の要望を受けて龍驤と本音は相川の左右に立って彼女を自室へと連れて行く。つーかのほほんさんが更に傷口を抉るようなことしそうで恐い。大丈夫だとは思うけど。

 

「うーんもっと話聞きたかったけどなぁ」

「あの状態じゃさすがにねー。仕方ないけどまた今度かぁ」

「今は万全を喫してインタビューを組まなきゃね!」

 

食堂が閉まる時刻が迫ってきているのもあってか、生徒達はその場から解散していく。少しずつ生徒の姿が食堂の外へ出ていくなか、残った緑葉と藤川、一夏達はハァと溜め息をついた。




どうも奥さん、知ってるでしょう?緑葉ナツでぇ〜ございます

おいパイ食わねぇか

はいというわけで、秋の学年別トーナメント編はこれにて終了!ということで、次回からはまた新しい話が始まっていくことになります。

ここまで足掛け17話、沢山の人に閲覧してもらい私も感激しております。ただ数字的に言えば閲覧数、お気に入り件数共に決して満足は出来ない内容なので、これからも皆様に読んでもらえるような小説作りを心掛けていきたいです。そのうち設定とか諸々の裏話とかは書いていくつもりです。いきたいなぁ

さて、ここにきて『相川清香×成田秋』というオリジナルカップルを組んでみました。秋くんは言うまでもなくオリキャラ。こっちではボカしてますがもういくとこまでいってます(笑)
ネタバレにならない程度で言及しますが、このカップルにはこの先物語内でも重要な役割が待っていますので、相川×秋コンビの動向にも注目です。

そして近いうちに、人生初となるR-18モノに挑戦してみようかなと思っています。対象はあの2人です(察し

というわけで、最後になりますが、感想または評価などがありますと作者はとっても喜んで狂喜乱舞します。そして何より励みになります。では、また次回お会いしましょう!案内役の緑葉ナツがお送りしました!


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ハルノナゴリ #18 ハルノナゴリ(前編)

「どうも、緑葉物語です

さて今回は少し話の趣旨を変えて、ある2人の男女にスポットを当てたいと思います。彼らがいつ、どのようにして出逢ったのか。ご覧ください」


よくドラマなどで見かける運命の出逢いなんてのは、所詮フィクションのそれだと思ってきた。

運命の相手が現れるとか、恋のキューピッドが私の背中を押してくれるとか、そんなことがあるはずもなく、中学生になり、高校生と呼ばれる年頃になった。

 

そしてこの春、私は進学し晴れて高校生デビューを果たした。ただし、普通の高校ではない。というかアレは高校と呼んでいいのだろうか?

IS学園、そこが私が進学した学校。世界中の未来ある若い才能がISの将来を背負って日々勉学に励む場所。なんでそんなところに私がいるんだろう、場違いでは?とたまに思うことだってある。

何しろ私はたまたま行われていた適性検査でたまたま高水準の数値を出し、たまたま試験で良い結果が出せて入れた、自分で言うのもアレだが所謂運が味方したラッキーガールだ。

そんな元からの素質やら実力やらでなくほとんど幸運で進学した私の成績など察しの通りだろう。成績は中の下、座学なんてギリギリついていけるかいけないかの境目だ。

 

元来私はスポーツ少女だったこともあり身体を動かす方が好きだ。だから机に座っての勉強は何というか性に合わない。勿論言い訳でしかないしそんなの担任の織斑先生の前じゃ通用しないけど。

座学の授業はなんとか持ち前のスポ根で食らいついていたが、ある時から調子が狂ってしまった。

最初のうちは実機を用いた訓練を行う。そこで私も<打鉄>を動かした。だけど最初はやはり思い通りにはいかないものだ。それだけならいいのだが、ある時自分がいる1組の担任である織斑先生から声をかけられた。

 

「まだISに触れて間もないお前達は皆動きが固い。お前の場合は特にそれが著しい」

 

それを言われた時はガビーンとショックを受けたものだ。だって、遠回しに「素質に難あり」とかそんな感じに言われてるようなもんじゃん。

 

「あまり肩の力を入れすぎるな」

「は、はい…」

 

そこからは大変だった。何とかしなくては、と焦ったからか何もかも空回り。織斑先生に指摘された動きの固さはもっと酷くなり、スランプの状態に陥っていた。

見かねた副担任の山田先生からは優しい笑顔で「焦る必要はないから、ゆっくり慣れていきましょう!」と言われたが、丁度同じタイミングで、ある意味私よりISに関して素人だった唯一の男性操縦者である一夏君が専用機を受領されてどんどん頭角を表していたことがより一層私を焦らせる一因だったのかもと今になって思う。

 

周りに置いていかれたくないという焦りが空回りを生む。そんな焦りで犯した失敗を取り返そうとしてまた失敗、という悪循環にハマりかけた時、私の身に変化が起きた。

事情は省くが、南井先生がかつて学園内で開発されていたという未完成のISを完成させるために止まった針を動かし始めた時に偶然私がそれを発見。南井先生に口止めされた時に私も手伝いたいと言ったのはよく覚えているし、その時に南井先生が変な笑顔を浮かべていたのも覚えている。

かくして二人三脚でIS開発が再開されて幾ばくか経ったある日。

 

「<天照>開発でお世話になっている人へ粗品を届けに行くのですが、良かったらついてきますか?」

 

と南井先生に言われ、私は二つ返事でそれを了承して車へ乗り込んだ。

南井先生は成田工房というISの部品を取り扱う小さな会社が協力して<天照>の開発をしてきている。

南井先生が私のことを成田工房の人達に紹介してくれる。何が面白いのか、髭を生やした男が大口開けて豪快に笑う。そんな髭おじいちゃんが成田工房の創始者である源一郎氏知った時はびっくりしたのを覚えてる。

なんでも成田家と工房は同じ土地にあるらしく、南井先生が私を紹介してくれた所は母屋に当たる場所なんだとか。

 

そしてそこで、私は彼と出逢った。

 

「同い年だから話も合うじゃろ」と源一郎さんがリビングから1人の青年を伴いながらやってきた。

一夏君と比べても遜色ない好青年。一夏君は爽やかというか飄々としてるけど、こっちは柔和な物腰で、どこか優しさを感じる。

言ってしまえば至って普通の男の子。だけどおかしい。

どこがどうおかしいのかなんてよく分からない、でも、どこか心がポカポカと暖かい。

 

「な…成田秋です。よろしくお願いします」

 

成田秋と名乗った青年は同年代の異性を目の前にして、気恥ずかしさを感じているのかその挨拶はどこかぎこちない。

その仕草が愛おしい。あぁ、上手く言えないけど、こういうことなのか。これが—

 

「あ、あいか…相川清香です」

 

私—相川清香は言葉を振り絞って自己紹介を行なったが、その後何を言ったのかはよく覚えていない。

 

 

それが私と秋くんの出逢い。

 

 

そして、私が初めて一目惚れを、初めて恋をした日。

 

 

 

 

私と秋くんは学校が違うから、会えるとしたら休日しかない。そして私の通うIS学園は土曜日も半日授業があるから実質日曜しか会えない。だから会える日は貴重で、出来る限り私は日曜の予定は空けていた。

最初のうちは南井先生に連れられて<天照>の開発を手伝うタイミングで、作業をしながら2人で何気ない会話を楽しんだ。そのうち私は1人で成田家まで足を運んで秋くんと出会うという日々が続いた。もっともその時の彼から見たら私はあくまで『友達』だったんだろうけど。

 

そんなある日、私が秋くんのところへ訪ねると思わぬことを知らされた。なんでも家族みんな旅行やら出張やらの用事で外出中で、家には秋くん1人しかいないと言われた。

そのまま家に入った私の心臓は張り裂けそうなくらいドキドキしていた。

 

好きな男の子と誰もいない家で2人きり。私だって年頃の女の子だ、そういうのに関する知識だってあるし興味だってある。そのうちそういうシチュエーションがくるんじゃないかなんて、期待というか願望を胸に秘めていたが本当にそんなシチュエーションがきてしまった。

好きな男の子とそういうことはシたいし、恥ずかしい話だけど正直ここまでかなり欲求不満です。でもあんまりこっちから積極的になって万が一相手に引かれたら嫌だ。かといって秋くんの方から手を出してくる気配はない。

 

もどかしさを感じながら私は彼の部屋に入り、ベッドの上に座る。ここまできても彼は手を出してくる気配すらない。

 

「じゃあ、飲み物取ってくるから、相川さんはゆっくりくつろいでてね」

 

秋くんが飲み物とお菓子を取りに部屋を出ると、私1人だけが部屋に取り残される。

 

「ふぅ」

 

と私はベッドに背中を預けるように横になった。くつろいでいるように見えるかもしれないが心の中はドキドキが止まらなくてたまらない。

うん。まぁ、焦らず、気長に待とう。告白だってまだなんだし、まだそういうことをする段階じゃないのは自分自身分かっている。だけど…

 

「………………」

 

彼女はベッドの上で身体を包ませ、毛布に顔を押し当てる。愛おしい彼の香り、彼の温もりが私の中の劣情を煽る。

 

「秋くんの匂い……。秋くんの…………」

 

私は下半身に手を伸ばして自分を慰める。

こんなはしたない私を見たら秋くんはどう思うだろう、軽蔑してしまうだろうか。いけないことだと分かっていても、自分じゃどうすることもできない。

段々と達しそうになってきた時、私はある1つの箱が気になった。その箱はまるで隠すように置かれている。ベッドの上を這いながら私はその箱を手に取った。

 

「ふええええ!?こ…コレって……」

 

私はその箱の正体を見た時、思わず思考がショートするのを感じた。隠すように置かれていた理由についても大体察しがついた。

だってそれは、あ…アレ、だったから。要するにその、避妊具、だ。

それを見た時の私はもうパニクってた。顔なんて鏡を見なくても耳まで紅潮しきってたのが分かるほどに。傍目から分かりやすいほど慌てまくりながらも全神経をもってして心の沈静化を図る。

そして私は、1つの考えに辿り着いた。

 

「し…秋くんもシたいってことだよね?わ、私と……」

 

だって、わざわざ避妊具がある理由なんてそれしかないし、それ以外考えられない。

そんな考えが頭の中を支配して、めちゃくちゃ恥ずかしくなった私は顔をより一層布団に押し当てる。

 

「お待たせ〜。ごめんね、ペットボトルのお茶しかな………………」

「あ……」

 

ペットボトルのお茶とお菓子を持ってきた秋くんはその場で立ち尽くしていた。

 

「…え、あ、その、ここここ、これは……」

 

そして私が置かれている状況を把握。頰を紅く染めながら慌てて秋くんへ取り繕う。

何しろ私は現在進行形で彼のベッドの上で下着を下ろして自慰に浸っていたため、色々と丸見えだし吐息は荒い。私の手には避妊具が入ってる箱。どうあがいても絶望しないです本当にありがとうございました。

 

お母さん、私はある意味で死にます()先立つ不孝をお赦し下さい()

 

「あ、えっと、その……」

「失望…した?」

「え?」

「私がこんなにエッチな子だって分かって失望した?それとも軽蔑?」

「そ、そんな…ぼ、僕は……」

 

自虐するように眼に一筋の涙を浮かべながら私がまくし立てると秋くんはオドオドと目を右往左往させる。

なんで泣いているのか自分でもよく分からない。でも、何故か涙が出てきてしまう。でもなんとなくワケが分かってしまう。恐いんだ、嫌われるのが、彼が私の前から居なくなってしまうのが。

 

「ご、ごめんね。イヤな思いさせちゃったよね。わ、私もう帰るから」

「ま、待って!」

 

いそいそと身だしなみを整えていると秋くんが私の手を握る。彼の手の暖かさに私の心臓がまたトクンと跳ねる。ただ勢いあまって私と秋くんはそのままベッドに倒れこみ、丁度秋くんが私に覆いかぶさる形に。

 

「あ…あの…」

「好きだよ」

「えっ…?す、好きって……」

「だ、だからその…。ずっ、ずっと好きでした!つつつつ付き合ってくだひゃい!」

 

ずっと、心の中で望んでいた言葉。

秋くんは最後の最後で噛んでしまったからか頰を赤らめている。それがまた私の劣情を煽る。

秋くんは純情な男の子だ。多分、私のことが好きというのは紛れもない本心。彼なりに迷いや葛藤もあったはずだし、ずっと告白のタイミングを伺っていたのだろう。本当ならもう少しロマンチックなプロポーズをしようと意気込んでいたはずだ、こんな形で告白してしまうはずじゃなかったのか、彼は何をするでもなく私の様子を伺っている。

 

「ふふっ」

「相川さん?」

 

秋くんの挙動と、今まで散々悩んでいたのが急にバカバカしくなって、私の口からつい笑みが溢れる。

 

「えへへ、まさかこのタイミングで告白されるとは思わなかったなぁ」

「それは、その……」

「良いんだよ、謝らなくて。ふふ、なんだか私も吹っ切れちゃった」

「相川さ……」

 

私は彼の頰に右手を添え、顔を近づける。そして秋くんの唇に自らの唇を重ねた。

 

「んぅ……」

 

唇と唇が官能的に重なる。柔らかな感触が作る快感が全身を刺激し、まだ寸止めで達していなかった私の身体はビクンと跳ねるのが止めらない。

時間にしてほんの数秒だったけど、かつてない満足感に浸りながら私と秋くんは水音をたてながら唇を離し、お互いに見つめ合う。

 

「私も……」

 

いきなりのキスに口を開けて惚けている秋くんを前に、私はずっと心の奥底にしまっていた言葉を吐き出す。

 

「私も、貴方のことが好きです。初めて会った時から、ずっと好きだった」

「相川…さん…」

「えへへ…言っちゃったぁ。両想いだったんだね、私達」

「そういうことになるね。なんかやっぱり意識すると恥ずかしいね」

「何言ってるの、これからもっと恥ずかしいコト、する…んでしょ?」

「あっ…………」

 

もっと恥ずかしいコト。それの意味するコトが分かった秋くんは茹で蛸のように顔を真っ赤にさせる。かくいう発言主の私もこれまで以上に身体が熱くなるのを感じている。

彼の理性も、私の理性も、もうほとんど切れかけている。後はもう時間の問題だ。

 

「私はもう、準備できてるから…。キミの好きっていう『キモチ』、私に頂戴?」

 

その瞬間私の理性は崩壊。

そこからはもう語るまでもないと思う。私が両手を広げると、同じく理性が吹っ切れた秋くんがベッドに横たわる私へ覆い被さる。

 

普段の温厚な秋くんとのギャップ差に私は愛おしさを感じ、惹かれながら彼の背中に手を回すと、熱く激しいひと時が幕を開けた。

 




R18版も同時投稿したので是非


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#19 ハルノナゴリ(後編)

 

「ん……、んぅ…」

 

いつから寝ていたのだろう。気がつくと私は深い眠りに落ちていた。時計に目をやればすっかり夕方から夜へと変わる時間帯だ。ベッドを這いずり、閉め切られたカーテンを少し開ければ辺りはもう暗くなっている。

 

「…………」

 

私は何をするでもなく、仰向けのままベッドに横になる。

 

「秋くん……凄かったなぁ」

 

今の私は一糸纏わぬ、生まれたままの姿、要するに裸である。徐ろにお腹をさすり、先程の情事を思い出すと、また身体が熱く彼を欲しがってしまう。

その秋くんは同じく裸姿のまま隣で寝息を立てている。お互い初めてだったから、終わった直後はそれはもう色んな意味でクタクタになった。

愛おしげに秋くんを眺めていると、彼はもぞもぞと動きながら目を開けた。

 

「ごめんね、起きちゃった?」

「ん……、あれ、相川さん起きてたの?」

「私もさっきまで疲れて寝ちゃってたよ。誰かさんが激しかったせいで、ね」

「う…、それは、ごめん…」

 

私がからかうと秋くんは先程の情事を思い出して恥ずかしくなったのか俯いてしまう。

 

「謝ることないよ。私もその、き…気持ちよかったし……」

「僕も相川さんがあんなに乱れるとは思わなかった」

「そっ…!それは言わないでぇ!」

 

秋くんにからかわれた私はシーツで身体を巻きつける。そんな私に秋くんは微笑みを浮かべながら頭を撫でてくるから身体に毒だ。

 

「……ねぇ、どうして私のこと好きになったの?」

「えっ」

 

ふと思い浮かんだ疑問を秋くんにぶつける。すると顔を赤らめて指で頰を掻く。

 

「そ、その…、僕も、ひとめ…ぼれ……だったから」

 

蚊のような小さな声だったがなんとか聞き取れた言葉を耳にした私もまた顔を赤らめてしまう。互いに互いを直視できないからか、お互い顔を背けてしまう。

私は恥ずかしさを紛らわそうと彼の胸に飛び込む。私の柔らかな胸が当たろうが、今更知ったこっちゃない。

 

「私も、一目惚れ。秋くんと初めて会った時から、ずっと胸が張り裂けそうでドキドキが止まらなかったの。さっきも言ったけど、キミを思って自分で自分を慰めたことだって何回もある…」

「あ、相川さん……」

「だから今日、今、ここで、秋くんと1つになれたのがすっごく嬉しいの。心が満たされていく気がして、ポカポカしてたまらないの」

「あの…胸、が…」

「……もう、当ててるんだよ?恥ずかしいから言わせないでよ…」

「いやそうじゃなくて、その……」

「えっ……?あっ…………」

 

ここにきて秋くんの異変に気がついた私は思わず声をのんでしまう。しばらく2人の間に静寂が流れた末、先に口を開いたのは私の方だった。

 

「えっと…、もう1回……する?」

 

彼はゆっくりと頷くと、私の肩に手を置く。

 

「ごめん…。多分1回じゃ収まらないかも」

「えっ……?キャッ!?」

 

そのままの勢いで私と秋くんは2回戦を開始。2回だけで終わらず結局4回もヤってしまい、汗でベタベタになりながら私は秋くんに対して『絶倫』という男としてありがたい称号を授けたのはまた別の話……なハズ。

 

 

 

 

晴れて秋くんカップルとなった私の身に変化があったのはそのすぐ後だった。

1番変化の大きさを実感したのはスランプを脱した時だ。あれだけ空回りしてしまっていた勉強も歯車が段々と噛み合うようになると少しずつではあるが成績を伸ばしていった。

IS操縦の方も織斑先生などから指摘されていた動きの固さが解消されると、以前とはまるで違う感覚でISを動かすことが出来るようになり、元々身体を動かすのが得意な私が実技の方で成績を盛り返すのは時間はかからなかった。

 

「以前とは別人みたいだな」

「あはは……」

 

と織斑先生に言われた時はさすがに苦笑したけど、それでもあの織斑先生からそう言われるのは嬉しかった。

 

「最近の相川さんは凄いですね。私達先生の間でも評判になってますよ」

 

ある時私が廊下を歩いていると山田先生がそんなことを言ってきた。ありがとうございます、と返すと山田先生が口を開く。

 

「そういえば、この時期から成績が右肩上がりですが、何かキッカケとか、はあるんですか?」

「えっ!?」

 

内心私はドキッとした。何故なら山田先生が言う『この時期』というのは、丁度私が秋くんと恋人同士になった時だったからだ。

 

「な、なんでそんなことを私に聞くんですか……?」

「確かに私は先生ですけどIS操縦者でもあります。だから相川さんの操縦の動きが変わったキッカケというか、そういうのがあれば聞いてみたいんです。私自身、スランプとかを経験したことありますし。合コンでもうまくいか……、あ!ななななんでもあああありませんよ!!?いいいい今のは関係ありませんので!!」

「は、はぁ…」

「でででですので!何か特別なことをしているのであれば、是非参考にしたいんです!」

 

一体どっちが先生でどっちが生徒なのか。

しかし困ったなぁ、と私は腕を組む。確かに吹っ切れたキッカケというのは存在する。ただ内容が問題なのだ。

だって言えるわけないじゃん。彼氏と両想いだったのが判明してそれで悩みが吹き飛んでそのままの勢いでエッチして今もよく彼氏とイチャイチャしてるとか、話した瞬間に純粋無垢な山田先生は卒倒する。

 

「で、でも私のはあまり参考にならないかと…」

「そんなことありません!スランプとかに陥っている時に他人の意見や考えを聞くこともまた大切なんです!」

 

それとなくやんわりと断ったがなんか火をつけてしまったのか山田先生の顔がズズズイっと私に迫る。これが私と同じ学年の子ならまだしも相手は先生だからなぁ……。

 

「山田先生、少しいいかしら?」

「あ、はい」

 

と、そこへフランシィ先生がやってきて山田先生に声をかける。これを好機と見た私が取った行動は1つだ。

 

「ではこれで失礼します」

「あっ、じゃあまた〜」

 

山田先生にお辞儀をしてその場から立ち去る。うん、多分これが正解。

 

 

 

 

夏休み、学園生活から開放された私が秋くんに会う日は当然多くなった。

海に行って、山に行って、街へ繰り出して、とにかく色んな体験をしたし、会えなかった空白の日々を埋めるように互いに激しく求め合い愛を育んだ。

 

2学期になってからは<天照>の開発も佳境を迎え、残りの調整は学園内の秘密ハンガーで行うことが多くなり、成田工房へ足を運ぶ機会は少なくなった。私自身学園祭などの準備に追われたりして、しばらく秋くんと会えない日々が続いた。

そして秋の学年別トーナメントのおよそ1週間前、ついに南井先生の悲願だった<天照>が完成した。しかし私と秋くんはその場には居なかった。

 

「秋くん……」

「相川さん……」

 

秋くんに会うのは2学期に入ってからは今日が初、つまり1か月ぶりに彼の顔を見たことになる。そしてその間私はずっと欲求不満の状態になり、ルームメイトから大丈夫かと心配させられたりした。

それは彼も同じだった。私を部屋に連れ込んでドアの鍵を閉めるとベッドへ私を押し倒して蹂躙するような激しいディープキスが私の唇を襲った。

 

「なんか、今日の秋くんすごい」

「僕もずっと我慢してきたから……そろそろ、いい?」

 

1か月ぶりの再会で、もうとっくに理性の糸なんて切れている。私がゆっくりと首を縦に振り、お互いに着ていた服を脱いで生まれたままの姿で抱擁を交わす。そして彼に主導権を握られたまま、1か月ぶりの熱く激しい一夜が幕を開けて——。

 

 

 

 

学年別トーナメント。私は<天照>に乗り込み、数週間前から学園に客員として招かれている緑葉さん、龍驤さん、藤川さん、<天照>の開発に尽力していた南井先生、そしていつの間にかひょっこりと開発に協力していた本音ちゃんと共に飛び入り参加という名の強襲をかけた。

この時謎のISがアリーナに乱入して会場はパニック。私達の計画も白紙になろうとしていたが

 

「あれなんだい」

「あれは<ゴーレム>、無人機だよ」

「無人機?なら人間は乗ってないね」

「おい緑葉君キミまさかと思うけど」

「行くよ」

 

てな具合で真っ先に緑葉さん先陣切っていくんだからね?記憶が正しければ緑葉さんIS乗ったことない初心者だって言ってたよね?あの人おかしいよ絶対。

で、<ゴーレム>は倒したはいいけれど本題の方の結果は専用機持ちとの練度の違いを見せつけられる完敗であった。

私は私で最初のうちは一夏君を圧倒していた(と思う)けど、彼の挑発にノッた結果戦況は逆転、最後は気絶という呆気ない幕切れに終わった。私を回収してくれた緑葉さんには感謝しかなかった。もっともその緑葉さんが後でとんでもないことを引き起こすんだから人生って面白い。

 

その日の晩には自分自身の意向で私が<天照>の搭乗者だとカミングアウトした。

バッシングや非難の声を覚悟していたが、それは杞憂に終わり、概ね好意的に受け入れられた私はあっという間にクラスメイト達の質問攻めにあった。

 

そんな時、食堂にやってきた織斑先生に南井先生共々首根っこ掴まれて一夏君達専用機持ちの前に連行される。

床に叩き落とされた私は南井先生、食事の最中だった緑葉さん達と共に事の顛末を話し始めた。

私達と戦った一夏君達専用機持ち、織斑先生や山田先生、他のクラスメイト達に語っていると、次の瞬間緑葉さんが私の地雷を踏み抜いた。

 

「それにしてもさぁ、まさかねぇ、相川さんが彼とねぇ……。あっ」

 

その一言で周りの人達の間に一斉にどよめきが起こる。緑葉さんもヤバい、と思ったのか瞬時に口を塞ぐ、が遅かった。

 

「今何かとっても重要なワードが飛び出した気がする!」

「彼!?今彼って言った!?間違いなく彼って言った!間違いようがない!」

「どういうことかじっくり吐いてもらおうじゃないの清香ちゃん!」

「きよひー有名人〜」

 

もうみんなの話題は<天照>云々ではなく完全にそちらへシフトしていた。織斑先生は盛大な溜め息をつき、山田先生は山田先生で静かにして下さいと言っているがその目は続きの台詞を望んでいるし。

 

「ふ〜ん、なるほどねぇ〜」

 

一夏君達の場合は困惑が優っていたが、鈴さんだけはニヤニヤ笑っていた。イヤだなぁあの笑み、絶対わかってるやつじゃん。

というかそれ以前の問題がある。え?いた?緑葉さんが?あの場に?確かに緑葉さんが作業場に行かずにずっと1階の和室でお酒呑んで源一郎さんと話に興じていたって後から龍驤さんに聞いたけど……。

 

そんなわけないですよね?と望みをかけて私は恐る恐る緑葉さんの方へと涙目になった瞳を向ける。が、私の視線に気付いた緑葉さんは気まずげに目を逸らした。ハイ確定、私死んだ。

え?もしかしなくても、聞かれちゃった?というか廊下に音漏れてた?私の嬌声が、激しくまぐわうたびに起こるベッドの軋む音が。

 

「これは取り調べしないといけないわね!」

「なんなら緑葉さん、もっと切りこんでもいいんですよ!?」

「緑葉君…、キミどう落とし前つける気だいコレ!」

「いや待って今のナシ!忘れて!と言っても無理かぁ!」

 

段々と収拾がつかなくなってきてしまっていた。つい口を滑らせてしまった緑葉さんを始めとした先生ら大人達が同級生らを諌めている。普段ならここで怒号を飛ばすであろう織斑先生も、内容が内容なだけに「忘れろ」とか「とっとと部屋に戻れ」とかやんわりと諌めている。

ふと、私の気持ちの奥底に眠っていたある思いがふつふつと浮かんでくる。

もし、ここで私と秋くんの関係を言ったらどうなるんだろう、と。

それは純粋な興味から湧いて出たほぼいい方向へ転がる望みのない博打。だけど、だけど伝えたいみたい、伝えてやりたい。この場にいる全ての人に自慢してやりたい。愛しい秋くんのこと。優しい彼氏のこと。

そんな想いが口元までこみ上げていた時、1人のクラスメイトの言葉が耳に入る。

 

「ひょっとして付き合っt」

「お前達いい加減にしろ!相川が嫌がっているのがわから——」

「付き合ってるもん!!」

 

織斑先生が飛ばしかけた怒号を遮り私は持てる力を振り絞りつい叫んでしまった。やってしまったと思っても、もう自分では止められる気がしなかった。

 

「秋くんには…一目惚れで…!ずっと、ずっと想いを伝えられないで…!両想いだって分かった時は嬉しくて…!!

いっぱいお話もしたし!いっぱい一緒に遊んだ!!それに…それに…っ!

 

いっぱい愛し合っていっぱいえっちなことシたもん!!」

 

勢い任せに言葉を出し尽くちゃって、なんだか息も絶え絶えになってしまって身体がガクリと項垂れてしまう。でも、なんか心なしか気が楽になったかも…

 

……でもあれ、今私すごい恥ずかしいこと暴露した気がする。

「あ…」と恐る恐る顔を上げると、皆どんなリアクションをしていいのか分からないといった表情をしていた。あぁ、これは本当に私死んだかもしれない。というかもういよいよもって死にたい。穴があったら入りたいってよく言うけどこういうことなんだね。

 

「あーー、えーー、その〜。と、まぁその後学園内でも調整を続けられた<天照>は今日行われた学年別トーナメントで初陣を飾ったわけです。終わり。何か質問は?」

 

ものすごく気まずい雰囲気の中緑葉さんは強引に話を終わらせる。質問は、って言ってもこの状況で質問を投げかける子なんているはずもなく、ただただし〜んとした空気だけが流れる。

 

「あの……その…、えっと…」

「相川」

「はい…」

 

私がオドオドと周りの人達の様子を見ていると織斑先生が話しかけてきた。あぁ、これは確実に怒られるやつ。絶対出席簿アタックが飛んでくるやつ。

でも正直、ここで話の流れを変えてもらって私はさっさと逃げるように布団に潜り込みたかった。

そんな私を見て、織斑先生はただ一言、シンプルな案件を告げた。ものすごい清々しい笑みを浮かべながら。

 

「避妊は怠るんじゃないぞ」

「〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッ!!!!」

 

織斑先生、この場でそれはあんまりです…()

 




「絶対織斑先生はあの状況楽しんでたと思うで」
「一夏君に聞いたけど、あの人ノリはいい方だからね」
「まぁ、それはそれとしてやで、あの2人…」
「良いな」
「あぁ、ええな」


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#20 昔の話、100/1の賭け

ここまであまり書いてこなかった緑葉ナツのことを少しと、緑葉が女の子になってしまった最初の経緯についてやで。ほな、いくで!


この日、緑葉ナツは馴染みの居酒屋で飲んでいたが突然黒服の男達がやってきてそのままどこかへ連れ去られてしまう。黒服の男が「怪しい者ではございません」と言ってたが怪しむなと言う方が無理な話である。

 

車に乗せられ呑み屋からノンストップでそのままとある屋敷へと連れてこられたが、その屋敷を見た時、緑葉はようやくホッと安心することができた。その屋敷は緑葉にとっては馴染みのある場所だったからだ。

かなり広い屋敷の廊下を慣れた足取りで歩いて行き、ある部屋の前で止まりドアをノックする。奥から「どうぞ」と声がしたことを確認し緑葉はドアを開けた。

 

「よく来たな緑葉、実はまた君に頼みたいことがあるんだ」

「なら今度はせめて連絡の1つでもくれませんかねぇ()」

 

緑葉を迎えた人物の名は鶴屋竜司。日本有数の名家、鶴屋家の現当主である。

古くから名家として名高い鶴屋家は政治経済産業あらゆるところにパイプを持っており、日本を裏で操っているとかなんとか言われるほどスケールがでかい家なのである。

そんな超大物相手に緑葉は普段通りに接している。第三者から見れば緑葉は一体何者なのかと思われるだろう。

 

緑葉は鶴屋竜司の世話役的な立場にいる人物で言ってしまえば雑用係で雑務の仕事をこなしている。しかしその気さくな人柄から慕われやすく、鶴屋からの信頼と厚い。もはや雑用係という名の何かだ。

 

「それはそうと話って?」

「うむ、実は君に仕事があるのだが…とても重要な仕事だ」

 

重要な仕事と聞いた途端緑葉の顔はうーんという顔つきに変わる。

こういう時は大抵ロクなことがない。以前などいきなり「エジプトの鶴屋系列の会社に飛んでほしい」と言われエジプトへ弾丸出張しに行った事もある。

 

「いきなりエジプトとかは嫌ですからねさすがに」

「大丈夫だ今回は日本だから」

 

本当に大丈夫なのか?と問いたくなったが結局緑葉は渋々従うことにした。

こういった類の仕事を依頼された時は必ず羽振りが良くそれを知っている人が率先して志願するほどの羽振りの良さだ。もっともいきなりエジプトとか突拍子も無いところへ行かされるのだからそれくらいの報酬は当然だと考えているらしい。

 

「それで、今回は何をするんですか?」

 

緑葉は用意されていたコップにお茶を入れながら鶴屋の顔を伺う。

 

「うむ…これがまた大事な仕事でな、日給は20万なんだが…」

「にじゅうまん!?」

 

その額を聞いた途端緑葉はまさしく目ん玉が飛び出すくらい驚いた、お茶を口に含んでいたらまず間違いなく床にぶちまけていただろう。日給20万とか一体どういう仕事なんだと訳が分からなくなる、そして同時にやっぱりやめようかなと思い始めた。週とか月給が20万ならまだしも日給が20万とかどう考えても普通の仕事ではない。

 

「君の仕事はとある場所へと赴き、そこで記録などレポートを書いてもらうのが主な役目だ」

「先生そのとある場所って内戦地ではないですよね?」

「日本だと言っているだろ」

「ならせめてどこか教えてくれませんか」

「すまないが教えられない。言ったとしても今の君は信じてくれないだろう」

 

それを聞いてますます行く気を失くしてきたのは言うまでもない、日本なのは幸いだがそれがプラスにならないほどに謎の部分が多い。特に最後の何か意味深な発言が引っかかって仕方がない。しかし日給20万は魅力的すぎるのだ、振り切れない…!悪魔的誘惑…!

 

「…分かったやるよやりますよ。悪魔に魂売るよチクショウめ」

「悪魔言うな」

 

結局緑葉は鶴屋竜司という悪魔に屈することになってしまった。色々不安要素は多いがそれ込みでも日給の20万は魅力的だったのである。

緑葉が引き受けてくれたことに鶴屋はどこか嬉しそうにしながら机の上の書類を纏めていく。

 

「この仕事を引き受けるに渡っていくつか条件がある。まず一つ、この仕事の内容を決して口外しない事だ」

「まあ別に誰にも言う気は無いしまず言っても日給20万の時点で誰も信じてくれんわ」

 

喋っても騙されているぞ、ホラ吹きだと言われるのが目に見えているので緑葉はハナから言う気は無かった。それを確認した竜司は机の上に置いてあった袋から一つのカプセル状の薬を取り出した。

 

「もう一つの条件はこの薬を飲んでほしいことだ」

「待って猛烈に嫌な予感しかしない」

「細かい話が色々と残っているがそれは追々話す事にする、今日はもう遅いからこれまでだな。その薬は今日寝る前に絶対必ず飲むようにとの事だ。以上」

「えちょっと待ってこの薬のせつm」

「今日は部屋を貸すからそこで寝るといいおやすみ緑葉、いい夢見ろよ」

 

そう言って部屋を出て行く鶴屋を、緑葉は見守るしかなかった…。改めて緑葉は鶴屋に手渡された薬が入った袋を開ける。

 

「…飲むのか?これを…」

 

鶴屋が退室した後部屋の電気を消し、自身の寝室に向かいながら緑葉は深い溜息をついた

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…う〜ん…」

 

完全に閉め切っていないカーテンの隙間から朝日が立ち込める。そして外からは鶏がうるさく鳴いている、その直後に「グォアッ」という声らしい何かが聞こえたのは忘れよう。

 

布団の中で微睡んでいた緑葉は腕を伸ばしてテーブルの上に置いてある時計をとり、現在の時間を確認する。

 

「7時か……、寝すぎたな、早く支度しなきゃ……うん?」

 

あくびをしながら布団から這い出てきたところで、ふと何か違和感を感じた。

 

何かがおかしい…?

 

緑葉は寝起きでロクに開かない瞼を開けて部屋中を見渡すが、特に何も変だと感じるところはない。強いて言うならティッシュの箱が壁に画鋲で設置されていることだがそれは元々だ。

 

「気のせいか…」

 

そう断じて冷蔵庫を開けたところで再び違和感を感じた。

この違和感の出どころは部屋ではないというは先ほど確認している。ということはもっと他にあるという事になる。

 

そして緑葉にはもう一つ気になることがあった。さっきからひとりごとを言ってきたがその声が聞きなれないものだったからだ。明らかに自分の声ではない、高い声。

気のせいだ風邪でも引いたんだと理解させるように念じていたが緑葉は一応もう一度声を上げてみることにした。

 

「あー、あー」

 

そして、自分の口からハッキリと発せられた声はどう聞いても自分のものではなかった。

 

 

 

 

…………………………………アレ??

 

 

 

 

「あー、あー、あーーーー」

 

念のためもう一度声を出してみるがやはり自分のいつもの声ではない。更にあかさたなはまやらわでも同様のことを行なってみたがいずれも結果は変わらなかった。

 

「………」

 

寝起きから随分経ったのか頭もだいぶ冴えてきた緑葉はだんだん背中に冷や汗をかき始めていた。

 

(…え?いやいやいやいや、え?ちょっと待ってやだよやめてよドッキリなんでしょドッキリだよね、ドッキリだと言ってお願いだから!いやあのちょ…ちょっと一回落ち着こ?確かにいつもと違う声かもしれないけどアレだよねどうせなんかドラえもんのひみつ道具とかにあるのど飴的なのをなめたからなんでしょ?………前言撤回、そもそも昨日一昨日のど飴なめた覚えがない!)

 

半分混乱した頭を冷やそうと冷蔵庫から取り出した水を置いて洗面所へ向かう。そして取り付けられている鏡を見た瞬間、自分の周りの時間が止まったような気がした。

 

 

 

 

女性が いた。

 

 

 

 

鏡の中に女性が立っていた。緑葉はその顔を確認した途端何かピシッと割れるような音が頭の中で響くのを感じた。

 

そんなはずはない、だって自分の他には誰もこの部屋にはいないし居たとしても大体それは夜中ずーっと一緒にゲームをやっている仲間だがその仲間も昨日は呼んでいない。もしかしたら今鏡に映っている女性は向こうの世界の人物かもしれない。これもない、怖すぎるしそうならそうで多分自分は無事じゃ済まないし第一こんなリアルな霊なんて緑葉はまで見たことがなかった。

 

なぜそう言い切れるのかと言うと緑葉自身子供の頃から地元のお墓や神社、お寺などでそういった類いのものを何度も見ている。

見たことがあるものといってもビデオやテレビで観るような白い服をきた女性の霊ではなく大体が影みたいなものでハッキリとした物体は見たことがなかったのだ。というより今鏡に映ってる女性は恐らく霊ではない、あんな血色のいい幽霊なんてすぐに極楽浄土へレッツパーリィーしに行くだろう。知らないけど。

 

「………え?じゃあ…まさか…」

 

緑葉はおそるおそる頭をかくように髪に手をつける。触ってみたらなんと驚くほどサラサラで手を髪の先端まで伝っていかせると髪は肩より少し下の方まで伸びていた。

この時点でもう最悪な展開は想像できたがもっと完全な確信がほしい緑葉は思い切って一気に股へと手を伸ばしてみる。

 

 

 

 

「!!!!????」

 

 

 

 

そのあまりに信じられない事態に思わず声を張り上げそうになるが微かに遺されていた理性が咄嗟に出かけていた叫びをしまい込ませ口を両手で塞いだ。

 

「!!!???!!!???」

 

緑葉はしばらく床にしゃがみ込み顔を紅潮させながらなんか色んな感情が頭の中をぐるぐると回っていた。自分でも驚くほど初心な反応に思わず笑いそうになるが少なくとも今は笑えない状況にいるのは確かだ。

 

「え、嘘!?嘘でしょ!?」

 

だが言葉が発せられるごとにこの事実が現実味を帯びてきている。自分の口からハッキリと発せられる女性らしい高い声が何よりの証拠だ。

 

しばらく混乱していた緑葉だったが、顔を洗ってある程度落ち着いたのか水を飲んだ後改めて自分の姿を鏡で見てみる。

外見は20代になったばかりのそれで、見方によっては18にも見えないことはない。髪は緑色を含んだ黒髪っぽい感じだがこの場合は緑でもいいかもしれない。

 

胸はお世辞にも大きいとは言えずどっちかと言うとちっぱいの部類に入る。どうせならデカい方が良かったなあと思ったが前にデカいと返って肩がこるという話を聞いた事があるのでデカくても苦労するだけである。

 

「これからどうしよう…」

 

テレビのお天気コーナーを眺めながら緑葉は悩んでいた。このまま今日は一日中引きこもるか否か、だが立場上一日中引きこもるわけにもいかず鶴屋にも呼ばれているからどの道外へ行かなくてはいけない。

ただ外に出ようとしても現在自分がいる部屋は『緑葉の部屋』である。そこへ得体の知れない女性が出入りしているなどと噂されてはたまらない。

 

「しかしさっきのは危なかった。大声出してたらホントにまずいことになってた…」

 

緑葉は先ほどの出来事を思い返しながら水を口へ運ぶ。その前の事については思い出すと恥ずかしくなってくるのでなるべく忘れることにした。

その後緑葉は猛ダッシュで鶴屋が居るであろうリビングへと向かいドアノブを掴むと思い切りドアを開ける、色んな意味で混乱していたためついノックをし忘れていたがそんな事は緑葉にとってはどうでも良かった。

 

「おお、おはよう緑葉。よく眠れたかね」

「おはようっさ!」

 

そこには有意義に朝のコーヒータイムを楽しむ鶴屋と勢いよくご飯をかきこむ女の子がいた。八重歯がキラリと光りまさに天輪爛漫を絵に描いたような彼女は鶴屋竜司の娘で名前を鶴屋由貴という。しかし彼女を知っている者は何故か彼女の事を『鶴屋さん』と呼んでおり、以前なんで鶴屋さんと呼ぶのかと由貴が通っていた高校の友人に聞いてみたら

 

『なんとなく』

『わたしもいつの間にか鶴屋さんって呼んでたからそれが当たり前になっちゃって…』

『一言では言い表せないんですが、何故か分からないけど鶴屋さんと呼ばなくっちゃいけない気がして』

『はて、そう言われてみれば何故なんでしょうか?僕が知りたいくらいです』

『知らない』

 

…など、参考になるのかならないのか分からないコメントばかり聞かれた。まぁ多分参考にはなりそうもない。かく言う緑葉もほぼ彼女の事を『鶴屋さん』と呼んでいるのでそういうものなんだ、と思う事にしている。

 

「ああおはよう……じゃなくておいこれはどういうことだ」

「ほう、緑葉のルックスからして可愛いなるのではと思っていたがこれは予想以上じゃないか」

「あはははは!ホントに女の子になってるっさ!あはははは!」

 

緑葉の姿を見た由貴はテーブルをバンバン叩き笑い転げている。鶴屋は「あんまり笑うんじゃない」と笑っている由貴をたしなめているが見ると肩をプルプル震わせている。目上の人とかどうでもいいから一発殴りたい衝動を抑えて緑葉は鶴屋へ向き直る。

 

「で、これはどういうことだ?返答次第によっては一発どころでは済まないよ」

「分かった分かった、私も丁度それを言うために君を待っていたんだ」

 

噴火一歩手前の緑葉をなんとかなだめながら竜司は話を進める。

 

「昨日も言った通り君にはある場所に行って貰いたい、そこで君には完全な女の子になって欲しくてな。昨日渡した薬は簡単に言ってしまえば性別を逆転できる薬だ。男性なら女性に、女性なら男性に、という風にな」

「色々ツッコミ入れたいところあるけどまずこれだけは聞かせて。誰が作ったのこの薬」

「…………クワルスキーだ」

 

それを聞いた瞬間の緑葉の溜め息となんとも言えない表情が全てを物語っていた。

 

クラーク.D.クワルスキー。鶴屋お抱えの科学者で、マサチューセッツ工科大学出身というエリートで自称最高の科学者だと自画自賛している。

確かにすごい発明を作ることもあるがそれを差し引いても超のつくほどポンコツで成功と失敗の割合は1:99というほどだ。

いつも空回りして大失敗をする、彼のキャリアを知れば知るほどなんであんなやつがエリートなのか不思議に思うのは仕方のない事だし、そう思わない方がおかしいレベルでポンコツなのである。彼の実験によく付き合わされている緑葉だからこそ、クワルスキーの作ったものには不安を覚えたのだ。

 

「だ、大丈夫だ。一応同じ薬をもう一度服用すれば元に戻るとクワルスキーも言っていたしな」

「一応ってなんだ一応って」

 

クワルスキーに研究室を貸し与えている竜司本人から出た根拠のない言葉にまた頭が痛くなった緑葉だったが破格の給料にもある意味納得がついてしまい複雑な気分になる。なってしまったものは仕方がないのでこの話題はここで切り上げ、仕事の内容について質問することにした。

 

「先程も言った通りある場所へ赴いてそこで報告書を作ってほしいのだが、何しろそう簡単には行けない場所なんだ。今回は向こうへ行く調査員の手伝いをしてほしい」

「まあそれは後でその調査員とやらに色々聞くからいいけど、今回の仕事と女性になるのとではなんの関係があるんだ」

「正直言って無い」

「は?」

 

それを聞いた緑葉はいよいよ本格的にキレそうになってきた。しかしそれを鶴屋にぶつけても意味がないので後でクワルスキーにグーパンを決めることにした。

 

「確かに女性になった意味は無いとは言ったが、あっちの方では女性になった方が過ごしやすいのかもしれないな」

「昨日もそうだけどボヤかすのやめてくれ、なんかいちいち気になってしょうがない」

 

腑に落ちないところはあったが考えれば考える程頭がクラクラするので最後は諦めることにした、そうした方が楽だもん。

その後も鶴屋と様々な話をして仕事の大まかな内容は理解したが、目的地については頑として教えようとはしなかった。

緑葉はお茶を飲みきると椅子から立ち上がり、荷作りなどの準備をするため一旦自宅のある千葉へ帰ることにした。

 

「良かったら送っていくぞ」

「いや大丈夫。それより気になることがあるんだが、私が女の子になっちゃったこと誰にも言ってないよね」

「あーそれなら私がミドリっちの家族や知り合いに言ってしまったにょろ(テヘッ」

「鶴屋さん?何してくれてんの」

「みんな大笑いしてお母さんなんて後で自分が昔着ていたセーラー服着せるってはしゃいでたっさ!」

「この姿の間は水戸の実家に帰るのはやめようかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園の屋上。そこの一角にあるベンチに緑葉は腰をかけ、初めてこの身体になった時のことを思い出していた。

仕事内容は機密だということで箝口令が敷かれ話せない。言ってもどうせ夢を見たと言われるだけだと。いやあの時の自分からしたらこの身体も夢だと思いたいが。

 

「………………」

 

改めて緑葉は自分の身体を見る。あの性別転換の薬『セイベーツイレカワール』を飲んだのはあの時と今回で2度目だ。ちなみにここにくる時飲んだやつは改良がされたデラックス版なんだとか。何がデラックスなのか理解できなかったが兎に角デラックスはデラックスでデラックス以外の何者でもないらしいデラックス。

 

すでに解毒剤は完成し、戻ろうと思えば解毒剤を飲んで寝れば戻るんだと。ちなみに副作用はなし。医学の進歩って素晴らしい。

 

しばらくこの身体になっているとなんだかこっちもこっちで板についている気がすると思ってしまう自分は末期なのだろう。さっさと仕事を終わらせて早く解毒剤飲んで寝て男の姿に戻ろうと思った緑葉は屋上に吹く心地よい風に眠気を覚える。1度眠気を覚えてしまうと睡魔には抗えず、この後緑葉はすぐに寝息を立てることになる——

 



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みんな集まれカーニバルだヨ! #21 音楽の授業で1番覚えてるのは大体魔王

ドタバタコメディ的な日常編だよ


お昼休憩中、緑葉は職員室のホワイトボードに書かれていた『とある行事』を表す文字をジーっと眺めていた。

その『とある行事』とは、学校生活で一二を争うであろう思い出イベント、修学旅行であった。

修学旅行の4文字を見つめながら緑葉はもうそんな季節か、と懐かしむ。夏前に行く学校もあるらしいが、個人的な考えで言えば修学旅行はやはり秋の京都だ。そしてIS学園も修学旅行は京都に行くそうな。

 

「しかしこれは……」

 

修学旅行も気にはなっていたが、それより数日前の日付に書かれている文字列が、一般生活に慣れ浸しんだ緑葉にとっては不可解そのものだった。

緑葉がホワイトボードを眺めていると、そこへ書類を数式携えた真耶が入室してきた。緑葉の姿を認めた真耶はニコニコと笑みを浮かべながら緑葉の元へ歩み寄る。

 

「あ、緑葉さんお久しぶりです。どうでしたか?旅行」

「え?あーどうも山田先生、お久しぶりです。旅行の話はまぁ後々。…ところでこれなんですが」

「ふふふ、残念ながら緑葉さんは参加出来ませんよ。参加するなら自腹で—」

「いやそうじゃなくてですね、あのコレですよコレ。なんですコレ」

 

緑葉がホワイトボードを指差した先には『京都修学旅行予定地 視察 参加者 専用機持ち生徒ならび一部教員』の文字が。これには真耶もあーとかうーとか言いながら冷や汗を流して目を背ける。前から思ってたけどアンタ隠し事下手か。

確かに緑葉の時も前もって先生が現地視察とかしていたし(それが発覚して教室中からずりーとか言われるまでがテンプレ)、それ自体は不思議ではない。だが専用機持ちの生徒も参加とは一体なにゆえ、と。

 

「百歩譲って山田先生あたりが現地に行ってくるのは分かりますけど、なんで生徒まで」

「いやー、それは、そのー」

「それは機密、とでも答えておこうか」

 

返答に困っている真耶の横から千冬が顔を覗かせる。

 

「企業機密ならぬ学園機密と」

「そうだ。だからこれ以上首を突っ込んでくれるな」

 

「首を突っ込んできたらその首撥ねるぞ」と脅し文句を付け加えながら千冬は自分の席に座る。

この人なら本気でやりかねない、と本能的に察知した緑葉はこれ以上の追求をやめホワイトボードの所から離れる。

 

「学園機密ねーフンフン」

 

鼻歌を歌いながらソファーに座った緑葉は既にお湯を注ぎテーブルに置いておいたカップ麺の蓋を開ける。

 

「あ、そうだ」

 

ふとある事を思い出した緑葉は徐ろに紙袋の中からタッパーに入れられたとある食べ物を取り出す。数個取り出したタッパーの中には同じような食材がギッシリと詰め込まれていた。

 

「全く、そこは来賓用のテーブルだと何度言えば……。む、それは」

「織斑先生も、一口どうです?」

 

タッパーを開けた緑葉は、ニコッと笑みを作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼下がり、一夏達はいつものメンバーで集まりながら各々弁当を取り出す。主に食堂で食べるが、今日のように天気の良い日はこうして日の下で弁当を並べて食べている。

例によって今日も一夏に箒、ラウラ、鈴、シャルロット、簪といつものメンバーが集まっているが、一夏はここで1人足りない事に気付いた。

 

「あれ、今日はセシリアは不在か?」

「セシリアは織斑先生に用があるって言ってたよ」

「そうか、ならセシリアには悪いけど先に食べちまうか」

 

セシリアを待っていて食べる時間が無くなってしまっては元も子もない。仕方ない、と一夏達は弁当箱を開こうと蓋に手をつけた時だった。

突如、学園中にこれでもかと言わんばかりの大音量で悲鳴が響き渡る。これには一夏達も驚いて蓋から手を放す。

 

「今のはセシリアの声だな」

「セシリアのところへ行くわよ!」

「ああ!!」

 

この中で1番冷静なラウラが言う。何があったかは分からないが、セシリアの身に何かがあったのは間違いない。

慌てて弁当を仕舞い込んだ一夏達はダッシュで階段を駆け下りる。向かう先は、セシリアがいるはずの職員室だ。

 

「セシリア!アンタ大丈夫……って、え?なにこの状況」

「失礼しますぐらい言えんのかお前は」

「あだっ!?」

 

職員室の戸を思い切り開けた鈴が開口一番叫ぶ。が、内部の状況を見た瞬間ポカンと佇んでしまった。そこへ追い討ちをかけるように千冬の出席簿アタックがヒット。不意打ちの一撃に鈴は頭を抱えながら座り込む。

追いついた一夏達も「し、失礼しま〜す」と恐る恐る職員室の中へと入室。そこにはかなりシュールな光景が広がっていた。

 

出席簿アタックを食らって頭を抑える鈴はさて置いて、まずはセシリアだ。幸い彼女はすぐに見つかったがどうも様子がおかしい。

セシリアは腰が砕けたのか尻餅をついているわ、彼女の目線の先にいる緑葉は目を白黒させているわ、他の先生なども困惑した様子で2人の方へ視線を送っている。

 

「いやマジでどういう状況だコレ」

 

カオスな光景を目の当たりにして状況が把握できない一夏がそう呟く。しかしまぁ、まずはセシリア第一だ。

 

「お、おい。セシリア大丈夫か?」

「あひゃ…あひゃ…あひゃあ……」

 

一夏がポンポンとセシリアの肩を叩くが呂律が回らない上に目線も上の空。漫画的に例えるなら渦巻き目のあんな感じだ。

シャルロットもセシリアの様子を気遣っていると、箒はキッとこの状況を引き起こした元凶であろう緑葉を睨みつける。

 

「貴方は一体何をやったんです」

「ふざけた事言うんじゃないよ何もしてないって!!」

 

しかし当の緑葉はそれは冤罪だと箒の追求を全力で否定。

 

「言っとくけどさ!!私は本当に無罪よ!ただセシリアが何食べているんだって私の食べてるの覗き込んできたと思ったらあんな声出したんだからむしろ失礼なのはそっちなんだよ!ふざけんじゃねえよ貴族だなんだがピーピーピーピー折角お母ちゃんが送ってきてくれた佃煮バカにしやがって!!」

 

緑葉からしたら本当に何もしていないのにこのにこの責めようなのだ。声を荒げながらテーブルに拳を思い切り叩きつけ紙コップを投げつける。誰がどう見ても本気で怒っているため、緑葉がとても嘘を言っているとは思えない。

そのあまりの剣幕に気丈な箒もおずおずと引き気味になっている。

……ってうん?佃煮?

 

「え、緑葉さん、今佃煮って」

「そうだよ佃煮だよ。なんなら一夏君も一口どうよ」

 

一夏とラウラがテーブルに置かれたタッパーの中身を覗き込む。そこにはギッチリとアサリや小魚などの佃煮が詰められていた。

緑葉の了承をもらい一夏がアサリの佃煮に一口頂く。

 

「美味しい」

「でしょ?」

 

一夏の素直な感想に緑葉は先程の剣幕から一転笑顔を作る。箒も手にとって食べると「おお」と感嘆の声を発する。

佃煮といえば日本においては白飯の頼もしい味方である。この独特の甘みがまた美味しさを引き立たせてくれるものだ。

恐らくだが、イギリス出身のセシリアはジャパニーズ佃煮を知らなかったのだろう。ただそれだけであんな風になるだろうか?

その答えは割とすぐに見つかった。ラウラが1つのタッパーに手に取って中に入った佃煮を摘む。

 

「む、これは…虫か?」

「えっ?」

 

ラウラの一言で今度はシャルロットが凍りつく。恐る恐るラウラの肩から顔を覗かせたシャルロットが「うわっ」と声を上げる。

 

「これは見たところバッタか?」

「正確に言えばイナゴね。まぁバッタといえばバッタ、なのかな?」

「い…イナゴ…?」

 

そのタッパーの中にはイナゴ、蜂の子などが所狭しと詰め込まれていた。と、同時に一夏と箒はどこか腑に落ちたように「あー」と声を出し納得の表情を浮かべる。

 

真相はこうだ。千冬に用があったセシリアが職員室へ入室し、用件を伝えたのち何気なく緑葉の姿を見やる。緑葉はすでに食事中であり、ふとした好奇心から何を食べているのか気になったセシリアが背後から近づく。

セシリアに気付いた緑葉が

 

「セシリアさん、佃煮食べた事ないでしょ?一回食べてみる?」

「ツクダニ?」

 

と佃煮が入ったタッパーをセシリアへ差し出す。タッパーを手に取ろうとした瞬間視界に1つのタッパーが入る。それこそがイナゴ&蜂の子(クロスズメバチの幼虫)の佃煮が詰まったタッパーであった。

それを見た、というか見てしまったセシリアはたちまち仰天。で、こういうことになったと。

一部始終を真耶が語り終えると一夏と箒、鈴は改めて「あー……」と息をつく。

 

「教官、私は佃煮の魔力に取り憑かれたかもしれません。イナゴ美味しいです」

「うむ、やはり旨いな。緑葉、後で小分けにしてくれないか?酒の肴にしたい」

「ガッテン承知の助よ。ラウラさんもどんどん食べてね」

「ヤー」

 

そんな3人の横で千冬とラウラは佃煮を食べ続けている。特にラウラは相当気に入ったのかご満悦の笑みをこぼしている。

 

「シャルロット」

「ふぇっ!?」

「何を怖気づいている。貴重なタンパク源だ食ってみろ。旨いぞ」

「えちょっ」

 

ラウラは1匹のイナゴを摘むとそれをシャルロットの掌に乗せる。イナゴ丸々1匹がほぼ原型を留めているだけあって、これを初見で食えるかと問われれば多分ノーだ。かといってラウラの好意を無下にするわけにもいかない板挟みの状態に置かれたシャルロットは今にも泣きそうな顔になっている。

 

「大丈夫だって。1回食べてみれば後は気にならないし。かく言うあたしも最初はビビったけど今じゃこの通りよ」

 

そう言いながら鈴もまたイナゴと蜂の子の佃煮を摘むとそれを口の中に放り込む。もっとも中国にはイナゴの佃煮なんて可愛く思えるくらいのゲテモノ料理があるなんてのは此処じゃ禁句よ。

 

「う、うーん…でもなぁ」

 

ここでやっぱりいいや、と言うのは簡単だ。だがシャルロットは気付いていた。ラウラと緑葉の視線に、食べてくれるんだよね?という視線に。特にラウラの目が心なしかキラキラしているのがまたつらい。

 

(ううううう〜、ええい!ままよ!)

 

覚悟を決めたシャルロットは勢いよくイナゴの佃煮を口の中へと放る。あえて一口一口よく噛んで味わっているが、やはりその顔はまだ苦悶の表情を浮かべている。

周りのギャラリーが固唾をのんで見守る中シャルロットは噛み砕いたイナゴの佃煮を飲み込んだ。

 

「どう?お味は……」

 

俯いたままのシャルロットに恐る恐る緑葉が問いかける。が、結果としてその心配は杞憂に終わる。

 

「美味しいね、これ!」

 

満面の笑み、とまではいかないが笑顔を浮かべたシャルロットの姿に、緑葉は心の底で抱いていた不安を払拭し僅かながら安堵。周囲からは何故か拍手喝采が巻き起こった。

 

 

 

 

「先程は非常にお見苦しいところを見せてしまいました……」

 

場所は変わって食堂、気絶から目覚めたセシリアは緑葉へと謝罪の言葉を述べて頭を下げる。

 

「それだけでなく、緑葉さんの気分を著しく害してしまいましたことも心より謝罪申し上げますわ…」

「あーうん、そうだね、まぁ、故意じゃないのは分かってたから。こっちも少し大人げなかったのもあるし」

 

当の緑葉本人はあまり気にしておらず、むしろ怒鳴った自分の方も悪いと言う。

ある意味今回の騒動の元凶になったイナゴや蜂の子の佃煮だが、実際に食べてみたセシリアは絶賛してくれた。もっとも最初のうちは口に入れるのを躊躇していたが。

まだ弁当を食べていなかった一夏達にしてみても緑葉が持参してきた佃煮はおかずとして非常に優秀な力を発揮。いつも以上の満腹感を与え、あっという間に佃煮は半分以上胃袋の中へと消え去っていった。

 

「それにしても、ねぇ」

 

鈴は妙にニヤニヤと緑葉を見る。

 

「言いたいことがあるのなら言いなさいよ」

「いや、だって、ギャップがさ。母ちゃんって」

「う…」

 

職員室にて緑葉が怒りを露わにした際に口走った「母ちゃん」の台詞がどうも鈴には面白く感じられたらしい。まぁパッと見20代前半の女性が母親のことを母ちゃんって呼ぶことなんてまずないしね。

苦笑いを浮かべた緑葉はふと、そういえばコイツら専用機持ちだったな、と思い出しあの話題に触れることにした。

 

「まぁそれはそれとして、折角君達がいることだし聞きたいことあるんだけど」

「なんですか?」

「修学旅行の事前視察に君らも参加って書いてあったからそれについて一回聞いてみたくてさ」

 

そう切り出した途端、彼女達の表情が険しいものへと変わる。「え?修学旅行関連でそんな顔なる?」と困惑している緑葉へラウラが一言応えた。

 

「済まないが、私の口からは何も言えない」

「ふぇ?」

 

千冬の時もそうであったが、頑として教えないという突き放しっぷりにますます困惑の色を強める。

シャルロット、鈴、一夏、箒、セシリア、簪など他の面々からも曖昧な返答だけが返ってくるだけだ。

 

「いや、え?そんなガチめな箝口令出されるレベルなの?」

「レベルなんですハイ」

「言ったら…消される…」

「えぇ…」

 

こうなってくるとますます内容が気になってしまうのが人間の心理というもの。だが緑葉はこれ以上の追求を避けることにした。

学園来たばかりの時にも言及したが、変に業界の闇に巻き込まれるのはご勘弁願いたいのだ。え?秋の学年別トーナメント?なんのことやらHAHAHA。

ぐぬぬ、と緑葉はこの中で最も簡単にポロっと有らぬこと言ってしまうであろう人ナンバーワン(緑葉評)の一夏に顔を向ける。

 

「じゃあせめてだ、せめて帰ってきた時の土産話くらいはできるでしょ?」

「うーん…それならまぁ、多分ギリ…」

 

相変わらず歯切れの悪い返事である。いや真面目にどんな現地視察なのよ。生徒が参加するってだけで興味深いのにこうもはぐらかされてはますます興味が出てしまう。

と、このタイミングでお昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。午後の授業へと向かう一同を見送ったのち、緑葉はテーブルの上にある佃煮が入ったタッパーを片付け始めた。

 

なお、大半の佃煮は緑葉と千冬と真耶の酒の肴になりました。




「佃煮って美味しいよね」
「そいやこの話は1日かからないで書き上げたらしいで」
「主に書いた時間帯が夜だから、これこそ深夜テンションというべきだね()」

この話は作者本人も結構お気に入りだったりします。せっしーに佃煮食わせたから他の国のキャラにも色々日本食食べさせてみたい。鈴には家系ラーメンは候補ですかね


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#22 アキノキヨカ

「あのカップルのお話かい」
「このタイトル、『アキノキヨカ』ってまぁ言ってしまえば造語なんだけど、秋くんはそのまんま秋、で相川さんの下の名前の清香は清らかな香りってなるのよ」
「だから、偶然にも『秋の清らかな香り』ってゆーなんともステキな感じになってしもうた。自分でも奇跡や思っとる」
「えーちなみになんだけど、清香の意味は清らか、濁りや汚れがない、明らか、鮮やかって書いてあるね」
「そして想いはえーっと、澄んだ心を持ち穏やかな人に……、ってめっちゃええ名前やんけ」



あの一連の騒動の後、ある意味公認のカップルになった私と秋くんはこれまで以上にオープンな雰囲気になった。以前は人前ではよそよそしい感じだったけど今では手を繋いだり抱きついたり抱きつかれたりなんてのは当たり前。後で秋くんに話を聞いたら、曾祖父である源一郎さんには気付かれていたらしい。

 

「ごめんね、待った?」

「ううん、僕も今来たところだし。じゃ、行こっか」

「えへへ、うんっ」

 

そして今日は秋くんと久しぶりのデート。ベタなやりとりを交わしながら私は自然と笑顔を浮かべながら秋くんと手を繋ぐ。

今日のデート場所は大型複合ショッピングモールのレゾナンス。雑貨から一流ブランドまでを網羅しており、ここに無かったらどこにもない、と言われるほどの品揃えを誇っている。それ故デートスポットとしても定番なほど知名度が高く、周りに目を向けるとそこかしこにカップルの姿が見える。

 

「な、なんか変に緊張しちゃうね」

 

彼の手を握りしめると彼もまた私の手を強く握りしめる。ふと秋くんの顔を見ると、その頬はほのかに紅い。

 

「大丈夫、その…僕もだから」

 

傍目から見たらかなり初々しいやりとりだからか、数組のカップルの視線を引き、近くにいたマダム的要素を放つおばちゃん軍団は私達を見ながら

 

「あら、いいわね〜」

「蘇るわね〜、アタシも昔、あんな青春があったわ」

「大野さん、貴女はずっとオトコ食ってきてたでしょ」

「あらやだぁもぉ!榊原さんったらぁん!オホホホホホホホ」

 

とか言ってるし。なんだか急に恥ずかしくなった私が「い…行こっか」と言うと秋くんもこくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手…繋いでるな」

「手…繋いでやがるな」

「ねぇ…なんであたしこんなことしなきゃいけないわけ?」

「バッカお前そこはアレだろ、手繋いでるわねとか言って繋げるパターンだろ」

「いや知らないわよそんなテンプレ」

 

手を繋ぎながらレゾナンスに入っていく相川と秋の姿を盗み見る3人の男女。五反田弾はまじまじと2人の姿を見つめ、御手洗数馬は忌々しげに目を血走らせ、鈴は弾と数馬の様子に呆れ果てていた。正確に言えば数馬にだが。

 

この3人と一夏の4人組は中学時代の同級生だ。鈴が中国に帰るまでの2年間、この4人と弾の妹である蘭とはよくつるんで遊んでいたし、カラオケやゲーセンなどしょっちゅうだった。鈴と一夏がIS学園、弾と数馬が藍越学園に進学し、この5人で会える機会はめっきり減ってしまったが、今でもたまに会っては他愛もない会話をしたり楽しんでいる。

鈴自身も久しぶりに会う悪友とのなんてことはない会話は昔を思い出せて楽しいが、今日はその限りではない。

ハァ、と鈴は溜め息をつき、植木鉢の隅から顔を出している数馬を見やる。

 

「他人の恋仲にまで茶々をかけるとか、随分見ないうちに堕ちるところまで堕ちたわね」

「フッ、お前にだけは言われたくないな」

「何か言った?」

「イエナンデモナイデス、スイマセンシタ」

 

鈴が睨み返すと数馬はその迫力に怖気づいて顔を背ける。

そもそも鈴が呼ばれた理由だが、秋の彼女が相川だから、というのが大きい。

そしてそれとなく鈴が弾に秋との関係性を聞いてみる。なんでも弾と数馬、秋は共に藍越学園に通っていて、しかも同じクラスなんだとか。

 

1学期が始まった直後、温厚で引っ込み思案な性格が災いしてか、なかなか会話に入れずにいた秋に弾と数馬が話しかけたのが交流の始まり。5月の終わりくらいになると秋は弾と数馬とは話せるようになっていたが、他のクラスメイトとはなかなか交流が上手くいかず、弾もなんとかしなくちゃなぁと思っていたそう。

 

そんな時、ある時期を境に秋の心境に変化が起こる。引っ込み思案だった面が段々と無くなり、弾達がサポートする間もなく秋は徐々にクラスメイトや他のクラスの子達とも打ち解けていった。その変化ぶりに弾と数馬は大層驚いたそう。

彼らは知らなかったが、この『ある時期』というのがまさに相川と結ばれ晴れて交際を始めた時期で、秋が引っ込み思案から脱却していた時同じくして相川もまたスランプから抜け出していた。

夏休みに入ると秋と遊べる機会が少なくなってしまう。そんなある時数馬が

 

「秋が女の子と歩いてるのを見た!」

 

と叫びながら弾の家までやってきた。そして余談だが、弾の家は食堂を営んでいて、鈴や一夏もお世話になったこともある。この時数馬は弾の祖父である厳から「うるせえ」と厨房からおたまを顔面に投げつけられるというありがたい一撃を食らった。

その女の子の特徴を事細かに説明した数馬は間違いなく秋の彼女だ!と声高に主張したが弾と秋の話を兄から聞いていた蘭は懐疑的であった。夏休みなんだし、こっちに遊びにきてる親戚の子かもしれねーぞ、と弾が言うと数馬は「それはそれでいいじゃねーか!」とかよく分からないことを言っていた。

 

結局決定打が見つけられないまま2学期に突入。弾と蘭がIS学園の学園祭に招待された時、弾が鈴と話をしている時、自然と新しくできた友人である秋の話に移行した。そして夏休みの出来事を話した時、相槌を打っていた鈴がこんなことを口にした。

 

「似たような子、知ってるわよ。てか多分ここの子よ」

 

それを聞いた弾の衝撃たるや。学園祭を満喫している中で鈴の言っていた子とすれ違ったが、数馬の言っていた特徴とまさに合致しておりその子でほぼ確定だった。そして弾は数馬の女の子を見る目に色んな意味で畏怖を覚えた。

数週間経った時、ふと休み時間にそれを思い出した弾がそのことについて数馬に話す。それを聞いた数馬は「問いただしてやる」と昼休みに秋に突撃インタビューをかけた。突然の弾と数馬の襲来に幸せそうな表情を浮かべながらチャットを楽しんでいた秋はあたふた慌てて携帯を隠したが、その判断は不正解であった。

 

「今隠したケータイを見せてもらおうか!」

「やめっ、やめてってば!違うから!別にそーゆーのじゃ…!」

「何が違うってんだ何がそーゆーのじゃないってんだ」

「えっあっ今のは……」

「数馬、あんまり手荒にすんなよ」

「分かってるって。ところで弾君、君は何故俺から距離を置いているんだい?泣くぞ?さすがに泣いちゃうぞ?」

 

揉みくちゃになっている秋と数馬から一歩距離を置いたところで弾は2人の様子を見る。

この御手洗数馬という男は所謂イケメンに属されるが、女子に対するモテたいという願望丸出しで、それが悉く空回りしているという残念っぷりが全面に押し出されているからかなかなか恵まれない。ある意味自業自得であるが。

 

「いーから見せるだけでいいんだ、よっ!」

「あっ!?」

 

数馬が秋の身体を揺さぶるとスポーンと勢いよく携帯が飛び出し、地面を転がる。地面を転がった携帯はそのまま弾の足元にまで辿り着いた。

 

「よくやった弾!今だ!拾え!」

「お、おう」

 

数馬に言われるまま弾は秋の携帯を拾う。

「あぁ…」と悲痛な声を上げる秋に同情しながら弾は携帯の画面を見た。

 

 

『相:今度のデート楽しみだね!(*≧∀≦)』

【秋:はりきりすぎだよ笑】

『相:楽しみなものは楽しみなんだからいいじゃないですか( *´艸`)』

『相:いっぱいいっぱい見て回ろうねっ』

【秋:すごい気合の入れっぷりw】

【秋:僕も久しぶりに会えるの楽しみだよ】

『相:(*/ω\*)キャー!!』

 

 

「………………とりあえず、返すな」

 

何も見なかった、と弾は瞼を閉じて携帯を秋に返す。「なんだ!?なんて書いてあるんだ!見せろ弾!」と数馬は秋に馬乗りになりながらチャットを見た。

 

「クソがぁああああ!!!!」

 

その日のお昼休み、人一倍甲高い数馬の叫びが藍越学園に響き渡った。そして放課後、数馬は職員室に呼び出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「前半いい奴じゃないと思ったあたしの気持ち返しなさい」

「俺じゃなくて数馬に言ってくれ()」

 

説明を聞き終えた鈴が溜め息をつく。

デートするという情報を偶然掴んだ数馬はそっとしとけと言う弾を連れて尾行することにした。鈴を連れてきたのは、秋の彼女である相川がIS学園の子で、鈴なら何かあの子のことについて知っているんじゃないか、あと俺達に女の子紹介してくれるんじゃないと淡い期待を抱いて連れてきたのだ。

 

だが生憎、鈴は同級生を弾や数馬に紹介する気はないし、そもそも体育祭で色々あって1組に簪と共に編入されるまで相川とはクラスが違っていたから彼女のことについては殆ど知らない。会っても1組と2組で合同で行う実技の時だけだ。

 

「言っとくけど、あたしは別にアンタ達に手貸す気はないからね。バレたら面倒なことになるし」

「へっ、一夏へ絶賛片道一方通行の鈴さんがよく言うぜ」

「何?」

「ナンデモナイデス」

 

再びギロリと睨まれた数馬は背筋を正す。

 

「ところで数馬」

「なんだよ」

「もうとっくに居なくなってっけど」

「ふぁっ!?」

 

慌てて数馬が先程まで秋と相川がいた場所へ目をやると、もうすでにそこから2人の姿は消えていた。

鈴が今までどこを見ていたのよと呆れていると数馬は勢いよく植木鉢の隅から立ち上がる。

 

「クソッ俺としたことが!そう遠くには行ってないはずだ!行くぜ!」

「お、おう!」

 

そう言って走り出した数馬の後を追いかけるようにして弾も走り出し、鈴が本日3度目の溜め息をつきながらその後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「めっちゃ感動するなこの品揃え」

「ソースだけでこの種類売ってる店関東だと殆どないで」

「当たり前のように業務用のやつが積み重なってる件について」

 

レゾナンスの一角にあるスーパーで緑葉と龍驤はその品揃えの濃さに感動していた。

メジャーなものからマニアックな地方や海外の食材までなんでもござれだ。だってドリアンとかシュールストレミングとかあるんだよやべーよ。ソースなんて大阪のソース専門店並みの層の厚さ誇っている。普通のショッピングモールに内接されているスーパーじゃまず売ってないであろう業務用に使われる缶の容器がエグいくらいに積まれている。

 

そもそもの発端としては、IS学園にやってきた初日に買い置きしていた食材や飲み物が底を尽きたのがキッカケだ。その際に折角なら他にも見て回りたいと龍驤が言ってきたが、緑葉も龍驤もこの辺りの土地勘がない。知ってる場所といえばそれこそ初日に食料を調達したスーパーくらい。

どこか纏まった買い物が出来る場所がないかと学園にいる人に訊ねてみたら10人中10人が

 

「それならレゾナンスに行くといい」

 

と口を揃えて言ってきた。

緑葉自身、レゾナンスの存在や概要は知っていたし、機会があれば1度行ってみたいとも思っていたが、なかなかそういう用事が出来ないしそもそも気が付いたら忘れてる。その日の夜に調べてみたらなんとすぐ近くにあることが発覚。そういえば学園の生徒がレゾナンスに行こうとか言ってた気がする。学園にきておよそ2週間、今更すぎる発見である。

 

そうと決まれば、という具合で今日レゾナンスにきてみたわけだが、なんというか想像以上であった。何から何まで桁違いというかありとあらゆる客層を逃さない、という気合が垣間見えるレベルだ。

『レゾナンスになければ他の場所にはない』とはよく言うが本当にそうである。ここになかったらよほどの店じゃない限り恐らく他にはない。

コーラだけでも10種類以上はある飲み物コーナーを物色していると、不意に自分達の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「緑葉さん!龍驤さん!」

「あれ、シャルロットさん」

「と、セシリアちゃんやないか」

「奇遇ですわね。緑葉さん達もお買い物で?」

「そうやで、以前買ったのが底尽きてな」

「そういえばそんなこと言ってましたね」

 

そこにはカートを押しているシャルロットとセシリアの姿が。聞いてみたら今日はショッピングだけでなく主に新幹線の中で食べる軽食などの調達にきたとのこと。

新幹線?と首を捻った緑葉は『京都修学旅行予定地 視察 参加者 専用機持ち生徒ならび一部教員』の文字列を思い出し「成る程ね」と納得の表情を浮かべた。そういや彼女達はそろそろそれがあるんだよね。

 

お菓子コーナーは先程見て回ったがまぁ種類が尋常じゃなかった。

近くに位置するIS学園が国際的な場所でそれを意識してのことなのか、とにかく古今東西ありとあらゆる世界中のお菓子がバーっと棚に陳列されていたのは呆気をとられた。オマケに駄菓子なんかも抜かりなしなのかスーパーにこじんまりと設置されてるやつとは比較にならないほどのバリエーションの多さと規模を誇っていた。

見てみるとシャルロットが押すカートに乗せられたカゴには様々なお菓子や飲み物などが入っていた。まぁこっちもだけど。

 

「でもこんな荷物いっぱいやと他見て回るの大変やな」

「あ、大丈夫ですよ。住所と名前を書いたら買った商品をレゾナンスの方が家まで届けてくれるので」

「「マジで?」」

 

レゾナンスすげぇ。だからさっきからそんなに買って大丈夫なの?と心配になるような買い方をする人がいるわけか。

レゾナンスの周りにあるコンビニはみな1年保たず潰れるなんて都市伝説聞いたことあるが強ちホントかもしれない。まぁ実際は夜10時には閉まるレゾナンスと比べてコンビニは単品を買いやすいし行きやすいし、24時間営業というのもありそれなりの需要はある。

でもこのレゾナンス、すぐそこの駅と直結してるんでっせ、エグくない?

 

「良ければ一緒にどうです?」

「おお、ええんか」

「うん!みんなで見て回った方が楽しいし」

 

セシリアが微笑みながらそう誘うのなら、乗らない手はない。緑葉と龍驤はカートを押してセシリアとシャルロットの後をついていった。

 





「大野さんのセリフ文字に起こすの正直楽しかったです」
「そのうちまたふら〜っと出てくるかもしれへんな()」
「一夏君の男友達登場。弾君の方はほんの少しだけ残念感はなくなってるけど、逆にそういう残念なイケメン枠は数馬君で押し出していきたいね」
「そして安定のレゾナンス定期」


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#23 恋スルFräulein

 

「僕こういうの初めてやるんだけど上手く出来るかなぁ」

「大丈夫だって、こういうのは段々慣れてくるから」

「うーん、そうかなぁ」

 

レゾナンスで久しぶりのデートを楽しんでいる私と秋くんはレゾナンス内にあるゲームセンターに立ち寄っていた。

クレーンゲームやシューティングゲームなど様々なゲームがあったがその中で私が目をつけたのは音楽ゲーム、通称『音ゲー』と呼ばれるジャンルのゲームだ。

 

昔から音ゲー自体は太鼓の達人とかリズム天国とか色々あったけど、最近はスマホでできる音ゲーが普及してきたから特に流行っている印象がある。

私はよくスマホやゲーセンに行く時には必ず音ゲーで遊んでいるけど秋くんは今日が初プレイだ。確かに以前ゲーセンにきた時もやんわり断ってたし、あんまりやるイメージないもんね。

 

「じゃあ、私がお手本見せよっか」

「え、いいの?」

「うん!ハイこれ持ってて!」

 

そう言って脱いだ上着を秋くんに渡し、私はどれでやろうか吟味する。初心者である秋くんのためにも、なるべくやりやすいのにしないといけない。となるとアレかなぁ。

私は一台の筐体の前に立つと、財布からお金を取り出す。今からやろうとする音ゲーは比較的初心者でもやりやすいと言われる筐体だから、秋くんでも大丈夫だろう。

 

お金を投入して難易度を設定、今回は1番簡単なベーシック。楽曲を選択、これも初心者にはやりやすいと思う曲をチョイス。隣から秋くんが顔を出してまじまじと私とゲーム画面に視線を交互に移してる。これはいいとこ見せないと!

 

選曲をしたらゲームスタート。『Are You Ready?』『Start!!』という表示が消えると譜面にノーツが流れてくる。

そこからは目まぐるしく流れてくるノーツをタップしたり弾いたり、長いノーツは終点までスライダーをタッチし続けたりと1番難易度は低いけど大忙しだ。隣の秋くんなんて、あんぐりと口を開けちゃってる。

 

ゲームを終えた私は大きく息をつき額に流れる汗を拭う。音ゲーは運動になるしダイエットにもなるって言うけどマジだよ。機種によっては数キロ痩せられるとかよく聞くし。

 

「さ、秋くんの出番だよっ!」

 

呆気をとられていた秋くんが「えっ」と声を上げる。

 

「で…出来るかなぁ」

「私がアドバイスしてあげるから心配いらないって」

 

秋くんを筐体の前に立たせた私は、ガチガチに緊張する彼の気を紛らわせようとそっと顔を耳元まで近づけ、こう囁いた。

 

「その…頑張ってくれたらいっぱいサービスしちゃおうかな、なんて」

「ひゃっ、ひゃい!」

 

あー、これは逆効果だったかもしれない。だって今の秋くんすんごい顔真っ赤に染めてもっとガチガチになっちゃってる。でもなんだろう、そんな彼の様子が私の欲を逆撫でするというか…。って、あ、その曲は……。

 

結果を言うと秋くんのスコアはボロボロでゲームクリアには遠く及ばなかった。だってかなり難易度の高い曲選んじゃってたし、緊張からかタッチするところをタッチできてなかったり、長押しするところを長押しできてなかったりとまさに散々だった。

 

「初めてのうちはこんなもんだって。私だってそーだったもん」

「あはは…」

 

私は椅子に座って落ち込む秋くんの肩を優しく叩きながら身体を密着させる。人目もあってか少し恥ずかしかったけど、彼も元気になってくれたようでこれはこれで結果オーライだったかな?

 

「ありがとう。ちょっと元気になれたよ」

「ふふふ、どういたしまして。じゃあ、次あれやろっ!」

 

私は立ち上がって、秋くんの手を引っ張りながらクレーンゲームのブースへと向かった。

 

 

 

 

「これは…、なかなか…ッ!難しいですわね…!」

「セシリア頑張って!」

「どんどんハイスコアが樹立されてるで」

「スコアが、エグいことにあひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

 

時同じくして、相川と秋のほんのすぐ近くで緑葉やセシリア達もまた音ゲーを、それも身体全体を動かす激しいやつを楽しんでいたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ…どこいった!?」

「こっちにはいねぇぞ!」

「チクショウ!一体どこ行きやがった!」

 

レゾナンス内で相川と秋の捜索に躍起になっていた数馬は息も絶え絶えになりながらベンチに腰掛ける。飲み物を持ちながら同じベンチに座った弾から飲み物を得ることはできたが2人の情報は得られなかった。

最初こそ協力はすれど静観の構えを見せていた弾だったが、いつしか数馬の気迫に気圧され、何よりこの映画さながらの展開にいつの間にかだいぶ楽しんでいた。

 

五反田弾。江戸っ子気質を持ち合わせ、いざとなった時に頼れる兄貴分となる彼もまた数馬と同じく『残念なイケメン』と呼ばれるのであった。

 

「おい、つーか鈴は?」

「なんかこれ以上アンタ達といるとこっちまで怪しまれる、つってどっか消えた」

「くっ…!だがまだ策はある!来い弾!俺達の力をリア充に見せてやろうぜ!」

「おう!」

「あれ、弾と数馬じゃねーか」

「「!?」」

 

聞き覚えのある声に思わず弾と数馬はそちらへ振り返る。するとそこには紙袋を持った一夏が立っていた。

まさか今日ここに一夏が居るとは思ってなかった弾が訊ねる。

 

「一夏、オメェなんでここに?」

「え?普通に買い物だけど」

 

見ればわかるだろ、と一夏は紙袋を持った手を見せてくる。まぁレゾナンスにくる目的なんてショッピングしかないのだが。

 

「で、弾と数馬は何してんだ?見たところだいぶ急いでたみたいだけど」

「一夏、今日お前1人か?」

「質問には質問で答えてほしい。…まぁ1人だけど」

 

それを聞いた数馬はニヤリと悪い笑みを浮かべて、ゆっくりと一夏に近づくと両手で肩をギッチリと掴む。

 

「俺達の計画に協力しろ!」

「すげぇ!嫌な予感しかしねぇ!」

 

数馬に従うと基本ロクなことにならない。というかいつも良いオチを迎えられたことがないのは一夏の経験が実証していた。

 

「一体何に協力しろって言うんだよ!」

「これは俺達のターニングポイントになりうる事案なんだ!解って協力しろっていうかして下さい!」

「分かった!分かったから放せ!」

 

興奮状態のままよく分からない言葉を口走る数馬の拘束を解いた一夏はくしゃくしゃにされた髪を手で整える。

 

「で、何に協力すればいいんだよ」

 

ジト目になりながらそう聞いてくる一夏を前に数馬は弾と心の中でハイタッチをする。弾は心の中で数馬とハイタッチはしなかった。

だが一夏の協力は思わぬ僥倖だ。もっともこの話題に対し鈍感キング、朴念仁の称号を欲しいままにする一夏が果たしてどう影響をもたらすのか未知数であるが。

一夏が鈴を始めとしたヒロインズの気持ちを察してやれないのは、彼の朴念仁の性格もあるが何より彼女らのアプローチが暴力的かつ遠回しすぎるのもある。

一夏には遠回しな言い方ではダメだ。中学時代から彼を知っている数馬は、あえてどストレートに内容を言った。

 

「ふっふっふ、それはな——」

 

 

 

 

 

 

 

 

「む」

「あ……」

 

珍しい組み合わせだ。レゾナンス内にあるTSU◯AYAのDVDコーナーでばったり鉢合わせたのはなんとラウラと簪だった。

生粋のアニメオタクである簪は新作アニメのDVDが発売されるとまずここに足を運ぶ。簪曰く、ここの品揃えはガチ、無かったら諦めるほどのレベルだからだ。

今日もそんな例に漏れず新作アニメのDVDが出荷されてるか確かめにこの店にやってきたわけだが、彼女からしてラウラがここにいることはかなり予想外。というかラウラを知っている人たちからすれば彼女がここにいること自体が眉唾物である。

 

「な…なんでラウラさんはここに……?」

「うむ、実はドイツにいる部下に頼まれてこれを探しにきたのだが」

 

そう言ってラウラは携帯に表示された画像を簪に見せる。そこには今話題の恋愛モノアニメのタイトルが。

 

「私はこういったものについて造詣がないからよく分からん」

 

要は遠いドイツにいる部下(クラリッサ)からお使いを頼まれたラウラだったのだが、乙女ゲーやギャルゲーなど日本のオタクカルチャーを愛好する重度の二次オタであるクラリッサと違い、そういった知識が皆無なラウラには電話越しでクラリッサがそのアニメについて熱く語ってきても何がなんだかサッパリだった。

 

「そういえば、簪はアニメについて詳しいと嫁に聞いたことがあるな。そうだお前に聞けばいいんだ」

「えっ」

 

握り拳を掌にPON!と置き、そうだそうだと頷くラウラと対照的に石のように固まる簪。

 

確かに簪はアニメには詳しい、詳しいがジャンルが違う。簪は主に戦隊モノで、クラリッサは恋愛モノだ。簪自身クラリッサの方のジャンルも齧った程度なら何となく分かるが、180度嗜好が違うものについてなど分かるはずがない。

お使いを頼まれたラウラはラウラで期待や羨望を含んだ瞳で簪に向けている。

 

「……分かった。正直…詳しい方じゃないけどなんとかしてみる…」

「おお、助かる」

 

簪はそのアニメのDVDがあると思われる場所へラウラを案内した。

 

 

 

 

「俺ヤなんだけど」

「諦めろ、もう俺達は坂道を転がり始めてる」

「それ絶対ロクな結末にならないな?もう帰っていいか?」

 

数馬から計画を聞かされた一夏の第一声はこれだった。数馬を先頭にしてその後に弾、一夏と続く。

 

「別にさ、ここは間違えないで欲しいんだけど俺は数馬と弾と3人でこういう連みがイヤってだけで言ってるんじゃないんだ。俺相川さんと同じクラスなんだよ、もしバレたら俺明日からどんな顔して相川さんと会えばいいわけ?」

 

バレたら相当気まずい雰囲気になること確定だし、しかもさっき弾から見つけ次第問い詰めてやるとか聞いていた一夏は尚更嫌がっていた。

 

「なぁ一夏よ」

「なんだよ」

「その相川さんってどんな女の子なんだ?」

「今それ聞くのか」

 

内心数馬に呆れつつも、嗚呼こいつはこういうやつだったなと改めて思い知らされる。

でも話さないと数馬はうるさい。一夏は簡潔に自分が見て思った印象を数馬と弾に語っていると、数馬が叫んだ。

 

「見つけた!今日こそ問い詰めてやる!」

 

そう叫びながら数馬は一目散に走っていく。よーく見るとだいぶ離れた位置に、ギリギリ目視で見えるか見えないかという場所に相川と秋の姿が発見できた。

よく見つけられたなと変に驚きながら弾と一夏は数馬の後を追った。

 

 

 

 

「うーむ……」

 

かれこれ数分はこの状態である。手に取った服を凝視している顔は眉間をシワを寄せて難しい表情を浮かべる。

 

「参ったな…」

 

服をハンガー掛けに戻した箒はハァ、と溜め息をつく。彼女もまたレゾナンスへショッピングに訪れており、主な目的は一夏に見せるための洋服選びだ。

それだけならいいのだが彼女には少し問題がある。曰く、丁度いい服があっても胸に合うサイズが無いのだ。

 

(出直すか…)

 

そう思い店から去ろうとした箒に話しかける人物がいた。

 

「あれ、箒じゃない」

「む、鈴か。お前も服選びにきたのか?」

「え?いやーまぁちょっとぷらぷらとね」

 

箒に話しかけた人物、鈴は飄々とした調子で先程箒が吟味していた服を手に取る。

 

「ふーん、なかなかじゃない。買わないの?」

 

鈴は箒が選んでいた服を評価したが、それが箒からしたら意外だったのか随分と驚いていた。それに不満があるのか鈴がボヤく。

 

「あのね。確かにあたしと箒や他のみんなは恋敵かもしれないけど、それ以上に友達だって思ってるから。そりゃオシャレだって共有したいわよ」

「そ、そうだな。少し無作法だったな。すまない」

「まぁいいわよ。で、これ買わないの?買わないならあたしが買っちゃうけど」

 

あっけらかんと許す鈴は改めて服をレジにもっていこうとする。サイズも丁度よさげでこれも何かの縁だ。

だが背後から箒の妙にもごもごとした小声が鈴の歩を止める。

 

「いや、私だってそれは欲しいんだ、欲しいんだが……」

「何?もしかして財布忘れたパターン?アンタもたまにはドジすr」

「その……胸が…」

 

瞬間、鈴の脳裏には、地面に亀裂が入るような、ピシッという音が鳴ったッ!

箒の胸と自分が持っている服を交互に見やるその目は、全く笑っていなかったッ!

 

「……ん?あっ!」

「へぇ〜あー、なーるーほーどー。なぁ〜る〜ほぉ〜どぉ〜〜」

 

箒が失言に気付いた時にはもう遅い。背後にどす黒い負のオーラを醸し出す鈴はスローモーションのような動作で手に持っていた服を戻した。

 

「……屋上に行こっか。久しぶりに…キレちゃったわ」

「待て待て待て待て待て待て悪かった!今のは完全に私が悪かった!!」

 

胸が小さいことに対してコンプレックスを抱いている鈴の前で胸の話をするのはタブーに等しい。それを失念していた箒に責任があるため全身全霊をもって鈴へと謝る。ちなみに屋上は駐車場である。

 

その時、ふと何気なく箒は通路側の方へ一瞬目を向けた。この店は通路側の壁がガラス張りなため、外の通行人が見えるようになっている。その群衆の中を走り抜けていく1人の男を視認した箒は思わず目を見開いて呟く。

 

「一夏?」

「え?」

「いや、今確かに一夏がそこに」

「マジ!?」

 

一夏の名を聞いた鈴の背後から一瞬にして黒いオーラが消え去り、彼女はいつもの調子に戻る。鈴と箒は慌てて店の外に出るがそこに一夏の姿はない。

 

「どっち行った!?」

「確か向こうの方に……いた!」

 

箒が指差す方角に鈴も目をやると、確かにそこに一夏の姿が。ただし鈴は一夏の隣にいる2人の男を見て眉をひそめる。

 

「……ってあれ、数馬と弾?なんで一夏がアイツらと一緒にいるのよ」

「どうする?我々も後を追うか?」

「そうね。でも、なるべくあの3人には気づかれないでいくわよ」

「あ、あぁ」

 

鈴の言い方に若干の違和感こそ感じたものの大して気にはならず、箒は鈴と共に一夏を追っていった。

 



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#24 レゾナンス大捕物

登場人物の現在地
緑葉・龍驤 フードコート(セシリア達と行動中)
セシリア・シャルロット フードコート(緑葉達と行動中)
ラウラ・簪 TSU◯AYA
箒・鈴 1階中央通路(一夏達とは離れている)
一夏・弾・数馬 1階中央通路
相川・秋 1階中央通路

ちなみに鈴は弾らとはぐれて洋服店で箒と会うまでの間フードコートで無料の水飲んでました。



 

「なんですのこれ。具が崩れていますわ」

「あーよくあるやつやな」

「セシリアは運が悪かったね」

「それ言うならみんなそうだけどね」

 

フードコートにてセシリア・シャルロットと行動を共にする緑葉・龍驤は軽い軽食を摂っている最中であった。シャルロットが食べてみたいとリクエストした◯ックのセットを頼んだ。ハンバーガーに馴染みの薄いセシリアは四苦八苦しながら頬張っているがその表情はどこか不満げ。

というのもセシリアの食べているハンバーガーだが、練度の足りていないバイトの子が作ったのか具材がだいぶ崩れてしまいごちゃごちゃになってしまっている。緑葉と龍驤、シャルロットのハンバーガーもまた同じような有様である。

 

友人から聞いた話だが、こういったところだと割とよくある話らしい。上手い人は本当に上手く具材を乗せられるらしいが下手な人はとことん下手。

緑葉にそのことを語ってくれたその友人もまた◯ックでバイトの経験があり、なんでも20連勤とかしたり店舗に寝袋持ってきて泊まり込んだこともあるのだとか。

 

「セシリアさんってこういうフードコートみたいなとこで食べたことあるの?」

 

紙ナプキンで口元を拭っているセシリアへ緑葉が訊ねる。

 

「あまりございませんわ。それこそこちらに来てから皆さんに誘われてですので、イギリスでは1度もありませんでした」

「となるとこれ初◯ック?」

「いえ、夏頃ショッピングをした際に1度だけここで」

「確かその時はラウラが言い出したんだよね。行ってみたいって」

「ちなみにシャルロットちゃんはなんで今日ここリクエストしたんや?」

「ポテトが気に入っちゃって…」

「わかる。定期的に食べたくなるよねこのポテトは」

 

はははと照れながらポテトを摘むシャルロットに緑葉と龍驤はうんうんと頷き同意。

 

「あんまり食べすぎると太っちゃうから気をつけなアカンなぁ」

「なかなかキツいですね」

「そーなの?別にそこまで気にするアレじゃ…」

「ナツは太りにくい体質やからそーゆーの言えんねん!なぁナツや!」

「え?あ、あぁうん」

 

いいな〜、とシャルロットが羨望の眼差しで緑葉を見つめる。もっとも緑葉の場合は男性目線から言った台詞であり、龍驤もそれは言い方で分かった。

 

「気ぃつけや。いつかボロ出るで」

「大丈夫だと思うけど…」

「バレたら色々説明めんどいやろ。それにこの手の話題は女の子にとっちゃヒッジョーにデリケートやねん。ナツも今は女の子なんやから察する努力せえ」

「うーん、まぁ出来る限り善処はする」

 

身を屈んでヒソヒソ声で会話をする緑葉と龍驤の前に、シャルロットとセシリアは頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと見つけたぞ」

 

小物店で雑貨を見て回り、次はどこに行こうかと話していた私と秋くんの後ろから突然そんな声が聞こえてきた。

声がした方向へ振り向くとそこにはだいぶ走り回っていたのか息も絶え絶えになりながら肩で息をしている男性が、外見から見て多分私達と同年代かな。

 

「数馬君?」

 

知っている人なのか、秋くんは目の前にいる男性へ声をかけた。

 

「知ってる人?」

「うん。僕が通ってる学校のクラスメイトの数馬君なんだけど、なんでここに?」

 

数馬君と呼ばれた男性に秋くんがそう訊ねると、バッグの中からミネラルウォーターを取り出しそれをあおる。半分くらい飲んだところで口を放すとこう叫んだ。

 

「なんでここにいるのかって?それはお前が原因だぁ!さぁ今日という今日は説明してもらうぞ!お前のそばに居る可愛い女の子との関係を!!」

「「ハァ!?」」

 

思わず私と秋くんは全く同じリアクションをとり素っ頓狂な声を上げてしまう。

いやいやなんで?なんでいちいちそんなことを他人の男子高校生に説明しなきゃならないの?私としてはなんのメリットもないから絶対にイヤなんだけど。

 

「ちょっと待ってよ!なんで数馬君に説明しなくちゃならないわけ!?」

「へっ、友達として気になるだろ?」

「……本音は?」

「だって悔しいじゃねえかよぉおお!!なんだって1番影が薄いお前にかっかの、彼女なんてよぉ!」

 

改めて他人から彼女とか言われるとドキッとして意識してしまうが、すぐに気をとりなおし眼前の数馬君を見つめる。

その数馬君は色々理由を述べている最中らしいが、まぁおおよそからかいとか嫉妬とかが吐露されている。

 

「それにな、今回は俺1人じゃないぞ!さぁこい!俺の頼れる仲間達よ!」

 

数馬君が大仰に手を広げたら、柱の影から2人の男性が登場するが、その足取りは心なしか重い。

 

「なぁ、せめて他の場所でやろうぜ。めちゃくちゃ人の目引いてるんだけど」

「俺無実じゃん、帰らせてよ…」

 

バンダナをつけ、まさに紅蓮と呼べるような真っ赤な髪が目を引く男Aの方は周囲に目をやりながら大層気まずそうに言う。

男Bの方はそもそもやりたくないらしい、だけど2人ともあちら側の人物なら注意すべき対象だ。特に男Bは。

 

「…………織斑君?」

 

自分でも気づかないうちに、抑揚を抑え絶対零度のような声色で彼の名を呼ぶと、織斑君は思わずギョッと後ずさる。「彼が?」と秋くんが聞いてきて、私は黙って頷いた。

 

「なんで織斑君がいるの?」

「いや待て相川さん、とりあえず事情を…」

「こう見えて俺と一夏、弾とは昔からの友達でね。こうして俺の頼みに駆けつけてくれたってわけだ」

「ばかおまっ、ふざけんなちちちっ、違うぞ相川さん!俺は強制的に参加させられただけだ!ある意味俺も被害者だ!」

 

私の様子の変化に気付いた織斑君は慌てて弁明を図る。私の右腕はバチバチと紫電が迸っていた。<天照>展開時に発生する紫電だ。

私と秋くんの大事な時間を邪魔するのはみんな敵に等しい。例えそれが<白式>を駆る織斑君であっても。

 

…………なんか最近、秋くんが愛おしいばかりに段々とヤンデレ化が進んでる気がしてならない。私としてはヤンデレ化上等って思っちゃってるけど、度が過ぎるといけない。

反省の意味を含めて1回深呼吸。うん、多分大丈夫。

 

「とにかく僕が君達に言うことは何もないよ!」

「まだ言うか!さぁ吐いてもらおうじゃないか!それはもうタップリと!」

 

秋くんの正論を意に返さず数馬君はジリジリと私達に近づいてくる。他2人も一応の体裁だけは保つつもりなのかこっちに近づいてくる。織斑君ほとんど動いてないけど。

このまま捕まったら絶対ロクなことにならない。そう感じた私は秋くんの手をとった。

 

「走って!」

「えっ?うわっ!?」

 

次の瞬間には秋くんの手をとりながら全力疾走に入る私がいた。背後から「あっおい待てコラ!」という叫び声が聞こえたが知らんぷり。私と秋くんは2階へ続くエスカレーターを駆け上がった。

 

 

 

 

「あっおい待てコラ!弾!一夏!俺達も続くぞ!」

 

そう言っている時にはすでに数馬は相川と秋を追いかけて走り出していた。失敗するなという確信はあったが清々しさすら感じる断固とした拒否っぷりだった。むしろあの反応が当たり前なのだが。

 

「こうなったらやるしかねえな!」

「知らねえ!俺もう知らねえ!」

 

相川と秋を追いかける数馬を追うために弾と共に一夏も走り出す。だから絶対ロクなことにならないと感じたのだ。そしてそれは今回も当たった。

 

半分ヤケクソな状態で駆け出した一夏の背後数メートルのところにある柱からそんな彼の様子を見る女性の姿が2つ。鈴と箒だ。

 

「一夏は一体何をしているのだ?」

「あたし達もいくわよ!」

「おっおい待て鈴!」

 

事情を説明される時間がなかったため、何がなんだかよく状況を把握できていない箒だったが、困惑している間にも鈴は既に駆け出している。

箒もそんな鈴と更に前を行く一夏を追うために走り出すが、更にその数メートル後ろの通路でその様子を偶然見つけた者がいた。結局お互い目当てのDVDが見つけられず意気消沈していたラウラと簪である。

 

「む?あれは篠ノ之と凰か?」

「誰かを追ってる…?」

「なるほど、つまりは隠密任務か」

 

遠からずとも正解である。しかしラウラは鈴と箒が走り出したのを見るや否やその表情が変わる。

 

「しかしダメだな、まるでなっていない」

「え…?」

 

ラウラは徐ろに溜め息をつく。どうやら鈴と箒の動きに不満があるらしい。

 

「ここは私が1つアイツらに隠密任務がなんたるかを教えてやるしかないな。ついてこい簪軍曹。貴様にも尾行の基礎というのを教えてやる」

 

すっかりその気になったラウラは鈴と箒の後を追い始める。ただ走るのではなく、どちらかというと早歩きである。

「や、やー」とぎこちない敬礼を見せた簪に一瞥したラウラに倣って、簪もまた早歩きでの尾行を始めた。

 

 

 

 

場所は変わってフードコート。相川と秋が逃走を開始し、それを追いかける数馬達らの後を追う鈴と箒と、更に彼女達を尾行するラウラと簪というカオスな光景が1階で出来上がった中、3階にあるフードコートの一角でもまたカオスな光景が出来上がっていた。

 

「それにしても緑葉さんだいぶ食べるよね」

 

若干引き攣った笑みを見せながらシャルロットが緑葉のもとに並べられた食材を見る。セシリアもまたそんな緑葉に引いている。

先程ハンバーガーとポテトを食らった緑葉が次に持ってきたのはたこ焼き。そしてそれも食らった3番目に持ってきたのはデザートのつもりなのか某アイスクリームチェーン店のアイスだ。それも3つ乗ってるやつ。

 

「ナツの食い意地には毎度びっくりさせられるわ」

「君だってちゃっかりアイス食べてるじゃない」

「スイーツは別腹って言葉あるやろ?」

「うん」

「あれと同じや」

 

そう締めた龍驤は2段に積み重なったアイスが崩れないように慎重に口に運んでいく。

ドン引きしているシャルロットの横ではセシリアが数枚の写真を眺めていた。

 

「これ全て緑葉さんがお撮りになりましたの?」

「そうそう」

 

セシリアが眺めている写真は緑葉が撮影して現像した写真の一部だ。だけどこの写真群には1つの特徴がある。全部競馬が関連している写真という点だ。

 

「お好きだと言うのは以前少し聞きましたがまぁ相当な……」

「今住んでる家から結構近い場所にあるから、開催日はほとんど毎週行ってる」

「ナツは常々言うとるんよ。『競馬は人生』ってな」

「側から聞けばその、ギャンブル中毒者のそれですよね」

 

そう言われた緑葉と龍驤は高笑いを見せる一方で、セシリアやシャルロットは緑葉が撮影した写真をまじまじと眺めている。

 

緑葉は生粋のギャンブラー、しかしギャンブルと言ってもパチスロやカジノといった類い、競輪や競艇にはさらさら興味がなく、それこそ競馬オンリーワンである。曰く曽祖父、祖父、父ともに大の競馬好きで自分もその影響を受けたという。子は親の影響を受けやすいとはよく言うが緑葉の場合は見事にそれである。

改めてセシリアは写真を見る。レースの写真は勿論、激戦から帰ってきた馬を労う厩務員の姿。どう乗ればいいかと作戦会議を開く騎手と調教師の姿。ホースから出る水を勢いよく馬体にかけられ気持ち良さげにしている馬の姿など、実に多様なシーンが捉えられている。

 

「あら、これは…」

 

その中で特にセシリアの目を引いた1枚の写真。馬から降りた騎手が馬場の上でヘルメットを取り、どこかへ向けて跪いているシーンだ。

 

「ん?あぁそれ?それはエイシンフラッシュの天皇賞でね、天皇皇后両陛下が御来場なされてたんだよ。で、それは最敬礼してるの」

「あのレースは終わった後が凄かったんやで」

 

このシーンが一躍話題となったのを、現地で見ていた緑葉はしみじみと語っている。

 

「これを生で見れたのは私としては自慢になるね」

「緑葉さん、ここは?」

「そこはえーと、確かシャンティイだったかな」

「え?シャンティイってあのシャンティイ?」

「そうそう。ホラ、ここに城が見えるでしょ?これがシャンティイ城」

 

シャルロットが手に取った写真に映っていたのは広大な芝コースと、端っこに小さく見える古城。ロンシャン、ドーヴィルと並ぶフランスの代表的な競馬場であるシャンティイ競馬場の写真である。

パリ郊外にあるシャンティイ競馬場はその景観の良さで世界有数の美しい競馬場にも選ばれるのが充分窺いしれる。

 

「シャルロットさんはフランスだっけ。シャンティイの方は行ったことは?」

「ううん、なかなか機会なかったから」

 

デュノア社もパリ郊外にあるが、本社が位置するのはシャンティイとは反対の南。シャルロット自身パリから遠く離れた田舎で幼少期からずっと過ごしていたためシャンティイとは縁がなかったが、いつか行ってみたいなぁと思いを馳せるのであった。

 

「意外と奥が深いものですわね」

「セシリアさんもいつか馬持って走らせたらいいさ。競馬は貴族の嗜みってよく言うし」

「ふふ、考えておきますわ」

 

満更でもなさげなセシリアに緑葉がニカッと笑みを見せる。

 

「ナツは1度語り出すと中々止まらんで」

 

龍驤の忠告通り、さぁまだまだと意気込んでいた緑葉だったが、突然話をやめ、あらぬ方向へと目を向ける。

突然話をやめた緑葉に訝しむ龍驤にセシリア、シャルロットもまた緑葉が見つめる方向を見やる。目を向けた方向には2人組の男女が何かから逃げるように走っている。

 

「アレ?相川さんだ」

 

その男女の女性の方はクラスメイトである相川であった。その相川と男の子は固く手を繋いでいるがそこにプラトニックな雰囲気は微塵も無い。

 

「何しとるんやろ。走ったら危ないで」

「男の子の方は例の彼氏かな?おおうやるねー」

「この時間帯やしデートしててもなんの不思議もないやろ」

 

彼氏、デートというワードに思わずシャルロットとセシリアはドキッと胸の高まりを感じ改めて相川を見る。

相川は活発なスポーツ少女だが、彼女が連れてる男の子はどちらかというと相川が口を滑らせた通り優しそうな、大人しげで文系という雰囲気がある。

 

それに比べて我々は、とセシリアとシャルロットは項垂れる。

彼女らも恋する乙女、一夏への想いは本物だが彼の異常なほどの朴念仁とヒロインズの遠回しなアプローチが悪循環を生んでいた。

しかしそれとこれはまた別である。セシリアは席を立ち上がると、相川らが走り去っていった方向へと歩き出した。

 

「何が起きているかは分かりませんが、あの様子ではとても困ったことが起きているのは確実。なら手を差し伸べるのが、高貴な者の義務でありましょう?」

 

本来の意味合いとは少し違うかもしれないが、困っている相川らを助けようするセシリアの心意気は紛れもなく本心であろう。

 

「なら僕もいくよ。もっとも力になれるか分からないけど」

 

苦笑いを見せながらシャルロットもセシリアに続く。

一方、緑葉としても龍驤としても1組のカップルに対し最大限の配慮と陰ながらの応援をしていくつもりなのだが、セシリアらに続いて席を立てない事情があった。

 

「龍驤、袋もってきてくれない?」

 

たこ焼きの容器を持ちながら、緑葉は苦笑した。

 





緑葉ナツという人物にとって私が入れたかった個性が『大の競馬好き』なので少し言及しました。作者のツイッターを見ればアレですが緑葉の競馬好きはまさに作者から来ています。
そしてセシリアもまた英国貴族、緑葉の見立て通りニューマーケットの地で馬を走らせることになるかも知れませんね


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#25 Bring On a War

追われる身となった私と秋くんは人混みの中を掻い潜りながら走っていた。

これが愛の逃避行かぁ、なんて呑気なことを考えている暇もない。捕まったら何言わされるか分かったものじゃない。

 

「秋くん大丈夫?」

「な、なんとか」

 

体力には自信のある私だが秋くんはそうはいかない。秋くんに合わせるようにしながら適度な休憩と摂る。勿論物陰に隠れて周囲の様子を伺うことも忘れない。

 

「うん、今のところは追ってこられてはないかな」

「…………」

「秋くん?」

 

ふと秋くんの方を見ると、彼は俯いて黙ってしまっていた。私が秋くんの名前を呼ぶとポツリと呟いた。

 

「なんか、ごめんね。折角のデートなのにこんな…」

 

秋くんはこの状況を作ってしまったことに対して責任を感じているのか、苦笑しながら私に謝ってきた。

私はそんな秋くんに寄り添って、彼の手の甲にそっと手を乗せる。

 

「大丈夫。私は、大丈夫」

「相川さん…」

「だから、あんまり自分が悪い、とか気負わないでね。秋くんとこうなるのは私が望んだことなんだし」

 

自分が秋くんとこうなりたくて、恋人同士という仲になったのだ。それ関係でいざこざに巻き込まれて秋くんが悪いとか、そんなことない。まぁ、いざとなったら2人一緒にたっぷりこってり絞られる覚悟はあるし。

 

「ありがとう。でもこれだけはごめんって言わせて。本当なら男の僕が相川さんのことリードしなくちゃならないのに」

「だから謝らなくていいって。秋くんには争いとか似合わないもん。ほら、早く行こ」

 

私は若干不機嫌気味に頰を膨らませる。これは私なりの精一杯の抗議の意。

苦笑いを浮かべる秋くんの手を引っ張って移動開始。走り出してからどこに移動するのか考える。

もうレゾナンス内には居られないから外に出ようという意見で合致した私達は1階へ降りるためのエスカレーターを探す。

 

「あった!」

 

1階に降りるエスカレーターを見つけた私達は安堵の表情を浮かべ、ステップに足を置き手すりを掴んで一休み。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

さすがに走り通しで疲労困憊になった私と秋くんは息も絶え絶えになって力なく手すりに背中を預ける。

追っ手の姿も見えないし、後は歩いて外に出ようなんてことを考えていると、エスカレーターの終点部分に1人の青年が張り付いているのが見え、思わず私はギョッとした。

 

「見つけたぞ秋ぃ!!」

 

なんと数馬君が先回りして私達を待ち構えていた。これは予想できなかった私は嫌な予感がして後ろを振り返る。

 

「挟み討ち!?」

 

嫌な予感は見事的中。私が振り返った先には織斑君ともう1人の青年の姿が。

挟み討ちの状態となった私はなんとか打開策を見つけようと辺りを見回す。1階へ飛び降りるなんてのも考えたがまだエスカレーターは半分も降りてないから高さもあるし危ないから却下。着地に失敗したら色んな意味で全て終わる。

 

ここまでか、と半分諦めかけた時、ふと隣のエスカレーターに目を移す。こちらのエスカレーターは2階から1階に降りるが、もう片側のエスカレーターは1階から2階へ上がるやつだ。

 

「秋くん。私が合図したら、私の行動通りのことをして」

「え?う、うん分かった」

 

小声で伝えると秋くんもこくりと頷く。

あとはタイミングだけだ。一応言うがこれは間違いなく危ないし、絶対にマネしちゃダメなやつである。だけど、ある意味これがもっとも安全かもしれない。

 

「どうだ!これでもう逃げ切れまい!一夏、弾!追い込み漁かけるぞ!」

 

数馬君の命令に応じて2人はエスカレーターの手すりに手をつける。

 

(こい、こい、早く)

 

私はタイミングを見計らうために、その時を今か今かと待ちながら隣のエスカレーターを見やる。幸い人はいない、なら、後は彼らだけだ。

そして待ちわびた時が訪れた。織斑君らがエスカレーターのステップに完全に足を置き、こちらへ駆け寄ろうとしたところで、私は合図を出した。

 

 

 

 

数馬が回り込みをかけ、相川と秋が乗っているエスカレーターの終点部に取り付き、一夏と弾が2階から追い込む。

 

この少し前、2人を追っていた際に一夏がこんなことを口にした。

 

「ただ追いかけるより、どこかで待ち伏せた方がいいんじゃねえか?」

 

弾と数馬は賛成したが、同時にこれは賭けでもあった。国内随一の規模を誇るショッピングモールであるレゾナンス、当然エスカレーターやエレベーター、階段などの移動手段は充実しているし出入り口の数も多い。

そんな場所でどこか1箇所、多くて3箇所で待ち伏せを行なうというのだから、相当な賭けだというのはすぐに察しがついた。だが広いショッピングモールの中を走り回っていた弾と数馬にはまさに一縷の望みでもあった。

 

しかし待ち伏せるにしても場所が大事になってくる。どこがいいか考えていると、腕を組んでいた数馬が弾と一夏に向けて言う。

 

「ダメだなぁお前ら、俺達の立場からどうするか考えちゃあダメなんだぜ。こういう時は相手の立場から考えないと」

「?」

 

首をかしげる弾に数馬は言葉を紡げる。

 

「秋の立場になってみな。追いかけられてるこの状況でお前はどこにいく?」

「んーそうだな…。俺なら外に出るが…」

「そう考えるだけで、だいぶ待ち伏せる場所も絞られるだろ?」

 

妙に変な気合を見せる数馬が待ち伏せを行う場所に決めた場所こそ、相川と秋が1階へ降りるために使うエスカレーターだった。

運は我々の方に向いている。そう確信した数馬が叫び、弾と一夏はエスカレーターのステップに足を置く。

その時、こちらの様子を伺っていた相川が叫んだ。

 

「今!」

 

そう叫んだ相川と秋は、次の瞬間予想だにしない行動に出た。なんと2人は膝を曲げ一気にジャンプ。手すりに着地するとそのままの勢いで隣のエスカレーターへと乗り移った。

 

「げえっ!?」

 

これには数馬も目を見開いて驚愕するしかない。見事なまでに一夏達の虚を突いた相川と秋は反対側のエスカレーターを駆け上がっていく。

 

「何やってる!数馬、追え!」

「わかってる!」

 

弾に促されながら数馬もまたエスカレーターを駆け上がる。そして弾と一夏はそんな一連の流れを見届けたのち、がっくりと手すりに項垂れた。

 

 

 

 

見事なまでに作戦が上手くいき、なんとか窮地から脱した私と秋くんは気が付いたら3階にいた。

 

「これからどうしよ…」

 

秋くんは不安からかそんな言葉を零す。

フードコート内を人混みに気をつけながら走っていると後方から私達を追う人物が。

 

「追いついてきた!」

「こっち!」

 

秋くんを伴いながら私は走り続ける。

やがてフードコート内にあるテラスへ出る、周りの人達はバタバタと駆け込んできた私達に目線を移しているが、それを気にしている暇はない。

 

しかし万事休す。周りを見渡したが下階に降りるための手段がない。非常階段こそあるが施錠されていて使えない。あんまり慌てていたからか道を誤った。

 

「追いついたぞ!秋!」

 

そうなると数馬君が私達に追いついてくるのは時間の問題。息を切らしながら追い詰めてきた数馬君は私達に向けてビシッと人差し指を立てる。

 

ここまでか…。

半分諦めながら息を吐くと、どこかから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「おやめなさい!」

 

私と秋くん、そして数馬君もまた声の主の方へと振り向く。クリーム色の金髪をした碧眼の子。その人物は私にとってあまりに見覚えがありすぎる人だった。

 

 

 

 

「セシリアさん!?」

「ごきげんよう、相川さん」

 

驚きを露わにしている相川がセシリアの名を叫ぶと、セシリアは柔和な笑みを返す。

相川と秋が追われているのを目撃したセシリア達はこっそりと後を追った。そして辿り着いたらこんな状況になっていたわけだ。

 

「僕もいるよ」

「私もいるよー」

「ウチもおるでー」

 

ふふんと得意げに仁王立ちするセシリアの背中からそれぞれ右側からシャルロット、左側から緑葉、そして龍驤が股から顔を出していた。

「なんですの貴女達…」と呆れたもののすぐに持ち直しキッと数馬を見据える。

 

「貴方、以前一夏さんのお誕生日会の時に出会った方ですわよね?相川さんに一体何の用が?」

「うぐっ!」

 

痛いところを突かれた数馬が怯む。改めて自分がやってることの恥ずかしさを実感したのだろう、反論が出せずにいた。

 

「人の恋路を邪魔する人は馬に蹴られて地獄に落ちるよ」

「ガハッ!」

 

追い討ちをかけるようシャルロットから発せられた手厳しい台詞に数馬は精神的にかなりのダメージを受ける。

 

するとまたドタバタとこちらに駆け寄ってくる足音が耳に届く。それも1つや2つではなくもっと複数のものだ。

セシリア達がそちらへ目を向けると、数カ所ある扉が一斉に開いた。

 

「数馬、生きてるか!?」

「死んでくれたら死んでくれたでいいんだけどなぁ」

「やあっと追いついたわよバカ数馬達ィ!」

「いい加減何がなんなのか教えてくれ!」

「凰、篠ノ之、貴様らの隠密行動はだな…」

「つ…疲れた……。ラウラ…速すぎ…」

「あの、さっきから騒がs」

「食事中は静かに…………、ってあらまぁ」

 

扉からは弾、一夏、鈴、箒、ラウラ、簪が全く同じタイミングで踏み込んでくる。さらにテラス席に座っていた弾の妹である蘭と何故か蘭と同席していた楯無もやってきた。となれば皆のリアクションは想像通り。

 

「って蘭!?」←弾

「お兄!?」←蘭

「簪ちゃん!?」←楯無

「お姉ちゃん…?」←簪

「鈴!?」←シャルロット

「シャルロット!?」←鈴

「セシリア!?」←一夏

「一夏さん!?」←セシリア

「ラウラ!?」←箒

「なんだこれは(困惑)」←ラウラ

「店長ッッ!!」←緑葉

「お客様!!」←店長

「アンタらは乗らんでええ!」←龍驤

「わけわからん!!!!」←数馬

「「………………」」←相川・秋

 

と、それぞれ十人十色の反応を見せる。若干2人ほど余計なのが紛れ込んだが。

渦中の中にいる相川と秋はただただその様子をポカンと眺め、数馬は意味がわからないと叫ぶ。

 

「待って、待って、何この状況。えなんでこんなところで主要キャラ揃うん?どういう状況これ」

 

緑葉が困惑の表情を浮かべながら周りを見回す。それは他の皆も同じである。

 

「蘭お前今日用事があるって言ってたが…」

「学園祭の時にお世話になった楯無さんにお礼がしたくて。……それよりお兄、一夏さんと一緒に何やってるの?」

「えっ!?いやこれはそのだな……」

 

一方に目を向ければ妹である蘭に兄である弾が問い詰められ、

 

「お姉ちゃん…、何でここに…」

「いやぁ〜、未来の後輩ちゃんにお礼がしたいって言われて、ね?」

 

また一方に目を向ければ、こちらは更識姉妹。ただ心なしか姉である楯無が妙にたじろいでる。

 

「鈴、それに箒も、お前らもレゾナンスにいたのか」

「それはどうでもいいわよ。それよりなんで一夏が弾や数馬と一緒にあの2人追いかけてるわけ!?」

「追いかけ…!?一夏、そうか、貴様というやつは……」

「待て!俺だってやりたくてやってるわけじゃないぞ!どちらかというと被害者だ!」

 

またまた一方に目を向ければ一夏が鈴と箒に問い詰められている。鈴は勢いのまま食ってかかり、箒の背中にはイチカ絶対許すまじとかそういうオーラが漂っている。

 

「まさか皆さんと鉢合わせることになるとは思いませんでしたわ……」

「ラウラはなんでここに?」

「うむ、凰と篠ノ之に隠密行動とは何かというのを仕込むために少しな。それよりシャルロット達はショッピングか?」

「途中でウチらとおうてな、そっから一緒に行動してたんや」

 

またまたまた一方に目を向ければ、セシリアとシャルロットにラウラが近寄り話しかけている。

修羅場度でいえば一夏&幼馴染み>五反田兄妹>更識姉妹>セシリア・緑葉達とラウラ。こんな感じであろうか。

 

だが、そんな中で緑葉はあることに気付き相川の方を見る。相川の横に立っている少年が例の彼しかである秋だろう。緑葉自身、前に1度会ったことがあるから覚えている。

そんな彼は突然の出来事に困惑しているが、問題は相川だった。

 

彼女の瞳は酷く濁っており、明らかに機嫌の悪さは最高潮。いつ怒りが爆発してもおかしくないほどに。

充血しそうなほどに目を見開いていた相川は誰にも聞こえないように、ただ一言、ポツリと静かに呟いた。

 

「…………やかましい」




吉本新喜劇ネタが混じってるけど、どこか見つけられたかな?


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#Ex-1 埼玉県民の日スペシャル ~与野の陣~

「今日は何の日?ねの——」
「埼玉県民の日ダヨ!!」

なお主人公の緑葉ナツは埼玉県民ではなく千葉県民。生まれは茨城県水戸市という設定です。


 

突然だが、IS学園には個性的な子が多いと思う。

 

緑葉がこのことに気付いたのは学園にきたばかりの時だが、改めて思い返してみる。

 

世界唯一ISを動かせる男性操縦者である織斑一夏はもちろんそうなのだが、セシリアに鈴、ラウラやシャルロット、箒に更識姉妹と俗に言うヒロインズの面々なんてまさにそうだ。そして生徒の交流を深めていくうちに分かったのが、所謂モブに隠れがちな子もまた個性的な生徒ばかりであったこと。

 

筆頭に挙げるとすればのほほんさんこと本音だろう、語るべくもない。

真面目なくせして小粋なジョークが好きな鷹月、自称7月のサマーデビル谷本にウザキャラ岸原、山岳部に所属し何故か怖い話が好評を博している如月キサラなどなど。夜竹さゆかのように特徴のない普通の子もいるが比率で言えば普通じゃない子の方が多い。やはり各国から選りすぐられた(学園に在籍する半分は日本人だが)才色兼備なエリートJKだと変人が多いのかもしれない。

 

今回ご紹介する2人の生徒も、そんな子達である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんの騒ぎだ」

「あ、織斑先生」

 

休み時間、廊下を歩いていた千冬は何か言い争いをしている2人の生徒を見つける。千冬に気付いた生徒が状況を説明する。

 

「私も経緯は分からないんですけど、気が付いたら言い争いを…」

 

生徒からの報告を聞いた千冬は大層面倒そうに溜め息をつく。そうして近づいていっていつもの出席簿アタックを浴びせた。

 

「っう……お、織斑先生…」

「何をしている、菱田、和田。状況を教えろ」

「聞いてください織斑先生!和田さんは私の地元をバカにしたんですよ!」

 

涙目になりながら必死に訴える菱田凛菜は和田楓に指を指す。

 

「なるほどな、何となく状況は分かったがそれだけでここまでの言い争いになるのか?」

 

1学期が始まったばかりの頃、セシリアと一夏が戦うことになった一因も互いに自分の祖国を侮辱されてのことだった。だから自分の地元をバカにされての口論も分からなくはないが、いささかヒートアップしすぎている。

 

「あんた達、地元どこなのよ」

 

騒ぎを遠巻きから眺めていた鈴が菱田と和田に聞くと両者は一瞬目を合わせるとそっぽを向く。

 

「大宮」

「浦和」

 

素っ気なく出された地名に鈴や千冬、周りの生徒はピンとこず首を傾げてしまう。

大宮と浦和が埼玉県なのは関東出身の生徒には分かったが関西や九州などの遠方、他国出身の子には何故それで言い争うのか理解できずにいた。そもそもまずこの2つの場所を知らない子だっている。

 

「なるほど…大宮と浦和ですか……。合点がいった」

 

と、そこへ緑葉も合流してきたが、その表情は何か閃いたのか笑みを見せている。

 

「緑葉、何が分かったのだ?」

「織斑先生、これは戦争ですよ」

「は?」

 

説明しようっ!大宮と浦和とは、埼玉県さいたま市を形成する区である。

元々この2つの区は大宮市、浦和市と分かれていたのだが2001年に大宮、浦和、与野市が合併。2005年には新たに岩槻市が合併し、現在に至っている!

 

そして大宮と浦和だが、その腐れ縁というかライバル関係は時たまネタにされ様々な火種を生んできた。某テレビ番組が取り上げて主に埼玉県民を中心に盛り上がったのは記憶に新しい。

例えばサッカー。大宮アルディージャと浦和レッズ、2つのチームが対決するさいたまダービーは地元民を熱狂させているがその背景では毎度仁義なき戦いが繰り広げられている。

 

その他にも様々な火種は多くあるが、とにかく大宮と浦和は互いにライバル視しているのだ。

 

「——そんなテンプレみたいなのが今ここで繰り広げられてるわけ?」

「くだらん…………」

 

鈴は苦笑し、千冬はその理由に呆れて頭を抱えている。

 

「とにかく菱田さんも和田さんも仲直りして」

「県庁とかいう普段縁のない場所を自慢にしてる人なんてたかが知れてるよ」

「そっちこそ新幹線があるくらいでお高く止まってるんじゃないわよ」

「ちょっと前まで湘南新宿ラインが止まらなかったくせに、新しく浦和に駅できたせいで利便性少し落ちたんだけど?」

「少しでしょー?たかたが2分くらいじゃないのー」

 

溜め息をついた緑葉はちょいちょいと野次馬の中に紛れていた子に手招きする。手招きされるままに1人の生徒が緑葉に近づく。

 

「菱田さん和田さんよ。この子の前でいつまでもそんな争いが出来る?」

「え?」

 

緑葉の傍らに立つ子は大人しめでどう考えてもこの騒ぎを収束できるとは思えない。菱田や和田だけでなく千冬でさえ首を傾げる。

 

「松山さん、貴女地元どこだっけ?」

「……………………与野」

 

 

 

ガシッ

 

 

 

 

「ごめんなさい和田さん。私どこか図に乗ってたかも」

「ううん、こっちこそごめんね菱田さん」

「はいこれで一件落着」

『ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!』

 

菱田と和田が固い握手を交わし、何事もなく締めようとした緑葉へこの場にいた全員から待ったがかかる。

 

「なんで!?なんであの空気から一転して仲良くなってるの!?」

「おい緑葉、貴様何をした!?」

 

鈴と千冬がまくし立てる。そんな2人を地理が詳しくないと見た緑葉がニヤニヤ笑う。

 

「織斑先生、さっき私、さいたま市は計4つの市から構成されてると言いましたよね」

「あぁ」

「その中の1つ、与野市がどこにあるか、ご存知ですか?」

「…………?」

「与野市はね、大宮と浦和に挟まれてたんですよ」

『あっ』

 

何かに納得したように皆ハッとする。もっとも何に納得したのか問われれば誰も答えられないであろうが。

 

「まぁとにかくこれで一件落着ですよ。言い争いも収まりましたし」

「ん?あ、あぁ……なんとも腑に落ちんが」

 

菱田と和田は与野出身の子を囲んで何かを話している。とにかく一件落着で三国同盟みたいな友情ができたのは確かだった。

余談だが、与野には何があるんだと言われたらその時は『さいたまスーパーアリーナ』と答えよう。今でこそ合併してさいたま市だけど合併前は与野市にあったんだヨ。緑葉お姉さんのおかげでまた1つ詳しくなったね。

 




月◯から◯ふかしは面白い

そして県民の日スペシャル、また別の県verでもやってみたいです


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#26 Love So Deep

 

未だに喧騒が絶えない面々の中、ただ1人だけ周りを伺っていた緑葉は相川の様子がおかしいことに気づいた。

数馬だけでなく、一夏や鈴達にも絶対零度の眼差しで睨みつけ、血が出そうな程にまで唇を噛み、身体はワナワナと震え、今にも怒りが爆発しそうになっている。

 

相川の只ならぬ気配に気づいた秋がフォローを入れるが、それでも彼女の怒りの沸点が下がることはない。

 

「………………」

 

やがてポツリと一言呟いた時、たまたま聞こえてしまった緑葉は背筋が凍る思いで喧騒が絶えない面々の前に立つことになった。

 

「あの〜相川さん?非常に申し訳ないんだけれども、1つ聞いていい?」

 

相川は黙ったままだ。肯定、と見ていいだろう。周りの皆も緑葉に注目する中、緑葉は恐る恐る訊ねる。

 

「あの、いやねぇ、あくまでその〜推測の域だけど、そっちの…彼氏さん?確かえー、っと、秋くんは…まぁそっちの事情…はよく知らないけど今非常に困っていると見ていいね?」

「え?あ、ハイまぁ…」

 

戸惑いながらも秋は肯定。緑葉は探り探りで言葉を繋げる。

 

「まぁその〜アレだ。そっちからしたら我々は味方?なのか分からないけど少なくとも君の考えでは、そこの青年と我々は違うと見ている」

 

再び秋が頷き、数馬の精神ダメージも少しずつ蓄積されていく。

 

「でも…でもね…。相川さんがこっちに向けている眼差しはとても我々を味方としては見ていない。むしろ…敵として見ている()」

「…………」

 

苦笑しながら緑葉が相川の方へ目を向けると相変わらず黙ったままだ。だがその眼光が劣える気配はない。

緑葉が発した言葉の意味を察した鈴やセシリアらに僅かな動揺が生まれる。

 

「というか多分、そこで追い詰めているのか追い詰められているのか分からない彼と我々は同等に見られている」

「さすがにそれは心外ですわ!」

「私は決してそんな不躾なことはしない!」

「俺のハートにコラテラルダメージッ!」

 

セシリアと箒の痛烈な言葉に数馬は胸を抑えながら膝から崩れこむ。その哀れな姿に思わず数馬をよく知る弾と一夏、鈴は心の中で「ドンマイ数馬」と同情する。

 

「セシリアさん、そうは言ってもこんな神がかり的なタイミングでね、全員一気に1箇所に集合したら疑いたくなるでしょ」

 

実際その通りで、相川は緑葉達のことを味方だとは見ていない。何なら数馬や弾とグルだとも思っている。

だがこの時はまた別のところに意識を向けていたのだが、それには誰も気付かずにいた。

 

「くっ、なんかいつの間にか俺が悪役になってる気がする」

「そりゃそーだろ今気付いたのか」

 

数馬がそうボソを噛むと一夏のすごいシンプルにして的を得たツッコミが返ってくる。

そんなやりとりを眺めていた鈴が溜め息をつく。

 

「数馬、アンタ今の状況分かってんの?悪いことは言わないわ。大人しく降伏でもしなさい。今ならまだ悪いようにはしないから」

「俺は立てこもりの強盗犯か!」

「諦めろ数馬。もうお前の計画は潰えたんだ」

 

蘭と龍驤以外のこの場にいる女子全員IS持ちである。そのうち1人は国家代表。知力でも運動神経でもどう足掻いても数馬が勝てる相手ではない。

ちなみにその国家代表さんは『自首』と書いてある扇子を広げている。一体いくつレパートリーあるんだろうかあの扇子は。

 

そんなやりとりから少し離れた位置から眺めていた簪はこの場から離れようと思案していた。何気なく相川と秋を見やった時、ほんの些細な変化に気付いた。

 

 

 

 

劣勢に立たされていた私と秋くんの前に突然現れた緑葉さんやセシリアさん達。

ぶっちゃけてしまうと、私はセシリアさん達のことを敵だと捉えていた。だってあまりにも登場するタイミングが良すぎたからね。というか織斑君とか実際敵だったし。

ただセシリアさんや篠ノ之さんが明確に否定してくれたから、私も多少気を取り直すことができた。

 

数馬君は未だに抵抗の意を見せているけど状況は明らかに向こうが劣勢。

私はこの状況を打開する一世一代のある考えを胸に秘め、その時を待っていた。

 

「僕は……」

(秋くん?)

 

その時、これまでずっと寄り添ってくれていた秋くんが不意に私の正面に出る。

 

「護るから」

「え?」

 

彼は小さな声でそう呟く。

私が怪訝な表情を浮かべ秋くんの顔を見やると、秋くんはいつも通りの微笑みを見せ、私の手を握ってきた。

 

「僕は、君を護る。何がなんでも、例え生贄になってでも…僕は絶対に、相川さんを……清香を護ってみせるから!!」

 

自分でも気が付かないうちに声を大きくして叫んでしまった秋くんは「あっ……」と口を塞ぎ、壊れたブリキ人形のような動きで言い争いをしていた織斑君達を見る。

 

案の定、皆ポカーンとした顔でこちらを見ている。ラウラさんは「おー」とかどう捉えていいのか分からない反応を見せているが。周りの客すら食事の手を止め、テラスにはたちまちなんとも言えない静寂が流れる。

そんな中、緑葉さんが唐突に「プッ」と破顔させると腹を抱えこんで静寂をぶち破るような高笑いを上げた。

 

「あっははははははははは!!いやぁ凄い!凄いなぁ秋くんは!なかなか、なかなか本人の前ですら言えないことをキミ、良いね!思ってたよりだ!!」

 

掌でテーブルをバシバシ叩きながら緑葉さんは腹がよじれるくらいに大爆笑。褒められているのか貶されているのかよく分からないが、事情を知っている緑葉さん的にはきっと前者の意味を込めてのことだろう。

 

秋くんから発せられた突然の台詞に今の私はまさしく茹で蛸のように顔を紅潮させ、目には一筋の涙を浮かべている。

それに気付いた私は慌てて袖で涙を拭い、気分を変えるために周囲の様子を見回す。よくよく周りを見ると実に十人十色といったご様子。

 

「リア充め」と敵視する人もいれば、マンガやドラマのような告白に思わず顔を赤らめる人、ニヤニヤと続き早よと言わんばかりにしている人、相変わらず戸惑いを隠せない人に高笑いをする人(緑葉)も。

そして、こんな私達に向け何故か1人の妙齢の女性が拍手を送っていた。

 

「素晴らしい愛の力、見せてもらったわよ」

 

見ず知らずの人にそんなこと言われても「はぁ…」と曖昧な返事しか返せない。緑葉さん達も「え誰?」って目で見てるし。

それにしてもこのおばさん、どこかで見たことある気がする。それも最近。

 

「……あっ」

 

思い出した。ホントに最近も最近、というかついさっきすれ違ってた。レゾナンスに入る時に私達のやり取りを遠巻きから見ていたあのおばさん軍団のうちの1人だ。確か名前は大野さんと言ったはず。緑葉さんは「誰?」と訝しんでいる。

大野さんはマダム特有の気品というか貫禄か知らないが「うふふ」と強者のオーラを醸し出している。

 

「貴方の勇気、なかなかだったわ」

「は、はぁ…」

「彼女さん、いいカレシ持ったわね。大事になさい」

 

なんだかよく分からないけれど、マダムなおばさんからエールを送られてしまった。そして相変わらず緑葉さんは「誰だ……」って呟いている。

 

「……ハイ!」

 

でもって私はなんだか自信を与えられたような気がしたので、自然と返事に力が入ってしまった。

おばさんは満足げに微笑み、緑葉さんは「ハイじゃないよ誰だよその人」とまだ困惑してる。

 

(今しかない!)

 

グッと拳に力を込め、覚悟を決めた私は腕を伸ばして秋くんの手を握る。

 

「えっ、相川さん!?」

「なんだぁ!?」

「まさか!」

 

秋くんだけでなく、周りの人達も私の身体に起こっている異変に気付く。

私は<天照>を左腕だけ部分展開。そうして部分展開させた左手を秋くんの腰に回す。

 

「えっちょっ!?」

 

力を入れ、私は思い切り肩に乗せるようにして秋くんを担ぎ上げる。女の子に軽々と担がれている男の子というすごいシュールな光景が作り出されているが、まだ終わらない。

 

キッと私が見据えた先はテラスに設置された柵、私は秋くんを担いだままジャンプし、欄干へと足をつける。

言っておくとここは3階、真下は多分駐車場か通路か、どのみちコンクリートの地面なのは間違いない。

 

「ちょっとあの子何する気!?」

「止めなさいよ!何考えてるの!?」

 

当然大パニック。だってこれ何も対策してなかったらただ心中だもの。

だが生憎、しっかりと『対策』はある。そんな私の『対策』ないし秘策を悟った秋くんは私をジッと見つめたまま微笑んだ。

 

「僕のためにこんな無茶しちゃダメだよ」

「それ、今の私には褒め言葉だから」

 

互いに笑い合い、私は欄干から控えめに跳び何もない空中へと身を投げ出す。

後ろからはかなりの人物の悲鳴が、その中には緑葉さんの高笑いもある。多分、否、確信して言えるが、緑葉さんは私の秘策を初めから見破っている。

 

それにしても、緑葉さんの高笑いはここ数週間ですっかり学園の名物になった。多分あの高笑いはあの藤川さんっていうヒゲのおじさんの影響だと思う。

緑葉さんと藤川さんは結構お似合いなのでは、と噂にもなっている。実際罵り合ってはいるがそんな感じは伝わってくるが、私はそうではないと思う。多分、緑葉さんが本当に恋いている人って——

 

だが、今はそんなことを考えている暇はない。真下はコンクリートの地面。1つタイミングを間違えたら私と秋くんは一瞬で肉塊になる。うわぁグロい。

私はすぅ、と息を吸い上げ、肺の中にある空気を全て吐き出す勢いで叫んだ。

 

「飛んで!!<天照>!!」

 

私の身体全体、秋くんをも紫電が包み込む。部分展開していた左腕以外の場所も次々と装甲が現れ、背中には絢爛な羽が生える。

地面につくかつかないかというスレスレでバーニアを一斉解放。すると私を中心として周囲に衝撃風が吹き荒れ、土煙が宙を舞う。あー、あとビニール袋と50代おばさんのミニスカートなんかも。

 

次の瞬間には<天照>を纏った私は秋くんをお姫様抱っこするような格好で3階より少し高い位置まで一気に上昇。

私がバイザー越しにテラス席を見下ろすとそこにはあんぐりとみっともなく口を開けて茫然としている数馬君と、改めて驚きを隠せていないセシリアさんや鈴さん達が。そしてヒューヒューと指笛を吹く緑葉さんを始めとしたマダム軍団が喝采を送ってきている。あの人達人生楽しそう。

 

これ以上ここにいると恥ずかしさやら何やらで色々とマズい、私は秋くんを抱き抱えたまま踵を返し<天照>を飛翔させ、レゾナンスを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

<天照>離脱後から暫く経った3階テラス席に段々といつもの空気が戻りかけている頃、未だにあんぐりと口を開いている数馬に弾と一夏、鈴はまぁ冷ややかな目線を送っていた。

 

「数馬……」

「言うな一夏、何も言うな」

 

一夏が口を開くと数馬は薄い笑みを浮かべて答える。

いつの間にか相川と秋のリアル愛の逃避行の片棒を担いでしまった数馬の心境はそれはそれは複雑なものであった。

 

セシリアとシャルロット、箒とラウラ、更識姉妹は一緒に行動すると居なくなり、緑葉と龍驤の姿もない。

そんな中、これでも俺達友達だからと弾と一夏、そして鈴の3人は最後まで数馬の側に残っていた。

この後一緒にガ◯トのドリンクバーで飲みあかそうやと弾が言おうとした瞬間、澄み通るような女性の声が4人の耳に入る。

 

「全くお前らは何をしてるんだ何を」

 

あまりに聞き覚えのある声にギクッと4人の背筋が凍る。

恐る恐る、ガタガタ身体を震わせながら振り返るとそこには紙袋を携えたスーツ姿の千冬が立っていた。そしてその表情はどこか呆れ返っていた。

一夏は勿論、中学時代から千冬と交流してきた弾、数馬、鈴の3人もまた彼女の恐ろしさは身をもって知っていた。

 

「ち…千冬姉……」

「千冬さん……いつから…?」

「お前らがバカみたいに追いかけっこをしているから、なんとなくついてきたらこれだ」

「ち、ちちちちち千冬姉待ってくれ俺は違うんだ俺はその…」

「分かっている。お前が進んでこんなことするヤツじゃないのは私が1番知っている。さすがに私もそこまで理不尽ではない、が…」

 

恐怖から身体を震わせている3人に一瞥した千冬はへたり込んでしまっている数馬の肩にそっと手を置いた。もっとも数馬にとってそれは刑務官から「今日お前死刑だから」と宣告されたようなものであるのだが。実際現実の死刑執行も何の前触れもなしに「今日死刑だから」と言われるらしい。

 

「久しぶりだなぁ〜御手洗。ん?先月の一夏の誕生日パーティーの時は出会えなかったからお前が私と会うのは確か中学の文化祭以来だったか?」

「お…オヒサシブリデス、チフユサン……」

「はっはっはっはっはっ、久しぶりの再会なのだからそう固くなるな。さて、ここで立ち話もあれだから、どこかの店で一回話でもするかな」

「え”」

 

数馬だけでなく、まさか千冬がそんなこと言うと思ってなかった一夏や鈴もそんな声を出しかけたが慌てて口を塞ぐ。

そして察した、あぁ、これは楽しんでいると。

 

「どうせお前らも御手洗の慰め会みたいなのをしようとしていたのだろう?安心しろ、今日は私の奢りだから」

「「「い…イエッサー」」」

 

どこも安心できる要素などないが、逆らったらそれはそれで命が危うくなる。完全にひれ伏した一夏らは千冬の後へと続くが、その足取りは鉛のように重い。

そして今回の騒動の元凶であり、現在死刑執行人に肩を掴まれている数馬はこれまで以上に爽やかな笑顔でこう言った。

 

「よーし、生きて帰ろう」

 

この直後、千冬直々のチョップが頭部にクリーンヒットしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでくれば大丈夫かな…?」

「う、うん…。さすがにここまでは追ってこれないでしょ」

 

人目につかない場所に<天照>を着地させた私はずっと抱き抱えていた秋くんをゆっくりと降ろす。

私も<天照>を解除し地面の上に降り立ったが不意に足元がおぼつかなくなり倒れかけてしまう。だけど秋くんが私を上手く押さえてくれたお陰で地面に倒れることはなかった。

 

「あ…ありが……とう」

「どういたしまして」

 

顔を紅く染めあげる私はそーっと秋くんの手を握る。秋くんもまた若干照れながらも握り返してくる。お互いの手の感触、暖かさで幸せな気分になってしまうがとりあえず今は現状確認。

 

大通りへ通じる、人通りの少ない一本道に出て現在地を調べる。思っていた以上にレゾナンスからは離れた場所に辿り着いていたが幸いIS学園へのアクセスは容易なことが判明して一安心したが、同時にある想いが込み上げてくる。

 

「今日はもう、帰ろうか。相川さんも疲れちゃったでしょ…?」

 

秋くんは純粋に私のことを心配して言っているのだろう。このまま学園に帰って眠りにつきたい思いはある。しかし今の私にとってそれは些細な問題だ。

何故なら今の私は、とってもとっても秋くんを欲していたから。

駅の方へと向かおうとしていた秋くんの袖を引っ張ると、彼は戸惑いながら私を見る。

 

「…………相川さん?」

「……まだ帰りたくない」

「え?でも、門限があるって……」

「いい。破っても。それより私は…秋くんと居たいの」

 

IS学園には門限というのが設定されており、日曜日なら17時までに学園内に居ないと学園から閉め出されてしまう。

だがそれこそ些細な問題、それこそ帰って寝たい以上にどうでもいい問題。

 

「私ね…ホントは恐かったの」

「……!」

「恐くて、恐くて、でもそんなところ見せるのがイヤだったから…。だからあえて吹っ切れるように駆け回って————」

 

そこから先の言葉は秋くんの唇に遮られてしまう。不意打ちのキスに私の理性は焼き切れそうになってしまうが、人に見られているかもしれないからギリギリのところで持ち堪える。

 

「清香…………んっ」

「ん……っ、んぅ……!」

 

だけど秋くんの蹂躙は留まるところを知らない。ついには私の舌と秋くんの舌が互いに触れ合い、脳に電流が走る。気持ちいい、ずっと、ずっとこうしていたい。

本当に人が居なくてよかった、けどいつまでもこうしてはいられない。名残惜しげに秋くんの唇が私から離れると舌と舌を繋ぐように唾液がアーチが作り出す。

 

「…ごめん。今日、抑えられないかも」

「えへへ。今日も、じゃないの?まぁ…私もだけどね」

 

秋くんの腕が私の腰へと回る。私もまた秋くんに寄り添いながら手を繋ぐ。

私と秋くんの目線の先には神様の思召しなのかヤラセを疑うほど丁度いい場所に爛々と装飾が輝く一件のラブホテルが。

 

「じゃあ…その…」

「うん…いこっか」

 

顔から火が出そうになるほど顔が紅くなってしまっている中、私達はホテルの中へと消えていき、その数分後には、熱いひとときをベッドの上で迎えていた。

 




ちなみに数馬君の最後のセリフには元ネタがあります。探してみよう


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#27 デストロイヤー

「どうも、緑葉物語です

さて、ついに織斑一夏君を始めとした面々が修学旅行予定地の事前視察という名目で京都に向け出発する日が近づいてきました。しかしそんな彼らに、いよいよあの組織の手が迫ってきていました。

今日はそんな前日譚。京都へ向けてそこまで繋がるわけではありませんが、どうぞ!」



 

「いよいよ明日出発ね」

「言っとくけど、観光がメインじゃないからな」

「分かってるわよ、当たり前でしょ」

 

放課後の時間を使って明日へ向けて練習に励んでいた一夏と鈴は2人で帰り道を歩いていた。

久しぶりに一夏と2人きりというシチュエーションに鈴は舞い上がったが一夏の一言で瞬時に意識は明日に向けられる。

かねてより計画されてきた専用機持ちと一部教員らによる京都への事前視察。表向きはそう通っているが真の目的は別にある。

 

 

真の目的とは、亡国機業の掃討作戦。

 

 

学園祭やキャノンボール・ファストでは学園側が奇襲を食らった形となったが、今度は真っ向からの作戦。かなり前から生徒会や学園上層部らによる緻密な計画がなされていたようで、日取りから何まで全てがスケジュール通りに進んでいる。

 

鈴やセシリアなど亡国機業に手痛い目に遭わされた面々は当然気合が入っているが、それ以上に秋の京都という立地が恋麗し乙女達の火をつけていた。

一夏との距離を狭められる絶好の舞台でもある今回の京都視察は、別の意味でも京を戦場へと変える勢いであった。

 

「ん?鈴、どうかしたか?」

「え!?いやいやいやいやなんでもないわよ!?」

「そうか?ならいいんだが」

 

深くは詮索してこない一夏にホッと胸を撫で下ろしていた鈴の耳に、ワイワイと話し声が聞こえてきた。

一夏にも聞こえたようで、2人して周囲を見渡していると、話し声の出所である人だかりを発見。人だかりができている駐車場の一角に近づいていくと一際目立つ高笑いが響く。

 

「やっぱり緑葉さんだ」

「あれ、一夏君」

 

案の定というか、高笑いの正体は緑葉。その周辺には数人の生徒が集まり、中には2年生の姿も。

と、1台のカブの横でしゃがみこんでいた女性が一夏と鈴の姿に気付き立ち上がる。年齢は千冬とほぼ同年代。セシリアやシャルとはまた違う染めあげた金髪をなびかせたその姿は昔のスケバンを思わせる風格だ。

 

「おっ、織斑君に鈴さん。訓練は終わりか?」

「あ、菅野先生こんにちは」

「ハハ、こんにちは」

 

一夏が挨拶すると、菅野先生と呼ばれた女性はニッと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

菅野華奈は2組の副担任を務めており、元々2組にいた鈴とは今もよく廊下で会っては会話している。

授業の方は受け持っておらず、主に体育など体力仕事の方で駆り出されている。

ISの実力もA級で、教師部隊の中でも随一の腕をもっている彼女は今回の京都視察には不参加だが、有事に備えてIS学園の守りを任されている。

 

そんな菅野だが、教師部隊の中で唯一自分専用に充てがわれた機体を所持している。その機体こそ<ラファール・リヴァイヴ>ではあるが、とある事情があった。

まずこの機体はデュノア社がフランス軍のある特殊部隊のために少数生産された特務仕様機で、かなり希少な機体である。その数は僅か1機。つまりその1機を菅野が所持しているのだ。

なんでそんな機体をIS学園の教師である菅野が所持しているのかだが、これには色々と複雑な事情があった。

 

配備3カ月前に突然フランス軍が諸事情どうこうで受領をドタキャン。慌てて配備元やパイロットを探したデュノア社であったが、当時すでにデュノア社は第3世代機の開発に成功していたイギリスやイタリア、ドイツなどに押されはじめ社の経営が傾きはじめていた時期であった。

各国の実業家達は『今のデュノア社と組んでも損だ』と機体受領の要望を拒否、オマケに特務仕様という特殊な機体だったのも災いし中々乗り手の都合がつかなかった。

 

最終的にはデュノア社社長であるアルベールの実娘であるシャルロットに充てがう計画が浮上するほど迷走しかけていたが、そんな中1人の社員がアルベールへある日本人女性が写っている写真と数枚の書類を見せた。その日本人女性こそ、菅野だったのである。

 

当時の菅野は日本の代表候補生ではなかったが、それでもかなりの実力を持っていた。しかし彼女にはある問題があった。

現在菅野が駆る<ラファール>の左肩には6つの星マークが描かれているのだが、これは勝利の証の星ではない。実際には『自分自身の機体を6機壊した』という証を表した星マークである。

屈指の腕を持つ菅野であるのだが、一方で操縦が非常に荒く、そのせいで過去何度も乗り込んだ<打鉄>や<ラファール>を動作不良へと追い込んでいる。

 

荒々しい操縦をする菅野に専用機所有の誘いなどくるはずない、くる方がおかしい。と誰もが断言していたが、前述の通り菅野に目をつけたデュノア社がコンタクトを取った結果、誰も予想しなかった<ラファール>受領が実現した。

特務仕様機だけあって現行の機体よりもタフな仕上がりとなっていた本機を菅野は大層気に入り、晴れて菅野は異例の専用機持ちということになった。

旧知の仲であった真耶と菅野が<ラファール>を受領された際の会話では

 

「これまで何機ダメにしたっけ」

「えーと…、確か5機か6機……」

「じゃあ、六斗星だな」

 

と言ったそばからペンキがたっぷり入ったバケツをいくつも持ってきて、受領されたばかりの機体の左肩に6つの星マークをペイントしたのは語り草らしい。

またこの<ラファール>特務仕様機は隠密性に重点を置いた機体なので、当然カラーリングは焦茶色と地味の王道を征く色合いだったのだが一目見た菅野は一言

 

「ダサい」

 

とバッサリ断言。左肩に星マークを塗ったついで感覚で機体全体の塗装を一新。焦茶色から黒のラインが入った黄色のストライプ模様にフルチェンジしました。やったぜ。

 

そして彼女は『菅野デストロイヤー』というありがたい渾名も頂いている。

かつて日本海軍に所属していた撃墜王、菅野直にあやかったもので、共に性が『菅野』と同性、両者共に乗機を何度も壊しているという共通点に気付いた友人がつけた渾名で、黄色のストライプ模様のカラーリングもその友人が提案したものである。当の菅野自身もこの渾名は気に入っている。

 

ついでに言うと、スケバンのような、と言ったがかつての菅野はまごうことなき女番長であった。

地元では菅野華奈の名を知らない者は居ないとまで言われその名は県外にまで知れ渡っている。得物を持った大男を倒した、市外にも計300人の手下がいる、全面抗争の末表舞台から姿を消したなどなど、嘘かホントか分からない武勇伝がいくつもあるので話のネタにこと欠かさない。ちなみに表舞台から姿を消した理由は菅野が勉学に励むためで、グループ総長からの実質的な引退であった。

 

成績もかなり優秀で、クラスでは常にトップにつけるほどで、図書館では文学小説を読み漁ったり、前述の武勇伝からは想像できないほどの才女っぷりである。そこ、いつ勉強してんねんとか言わない。

カリスマ性もピカイチで、毎年誕生日になるとグループの子やはたまた他校の男子生徒からも誕生日プレゼントやら手紙やらを渡されるなんてことも。

IS学園の教師という道を進んでいる現在でも当時の仲間達を大事にしており、かつての仲間が妊娠して悩んでいる時は親身になって相談にのったりなど、着実に武勇伝を築き上げている。

 

 

 

 

ある雪が積もった冬の日、雪道を足を取られながらも菅野はある場所へ向け走り続けていた。

この日は日本の代表候補生を選ぶための選考会があり、菅野も選考会へ出るべく会場へ向かっていたのだが、降雪のため電車は遅れ道は大混雑、やっとの思いで会場がある最寄り駅へ降り立ったが時間はかなりギリギリであった。

それでも会場に向かって凍った路面を走っていた菅野の目の前に、トボトボと重い足取りで歩く1人の少女。その少女は菅野と同じく代表候補生選考会に出場するために歩いていたのだが、時間的にも遅刻確定なためか諦めきった表情で会場へ向け歩いていた。

 

「…………」

 

少女を抜かした菅野は数メートル離れた位置で立ち止まる。向こうも菅野のことを知っていたのか、そんな彼女の行動に驚きと困惑の表情を浮かべていた少女に対し、にこやかに悪い笑みを浮かべこう言った。

 

「どうせ遅刻なんだし、一緒に遅刻しちゃおうよ」

「え……?」

 

少女は何を言っているんだ、という目で菅野を見る。しかしそんな少女に菅野は笑みを浮かべたまま続ける。

 

「こんな天気なんだし、積もる話もあるってもんでしょ。積雪だけにね、ハハ、面白くなかったぽいなぁ」

「…………!」

 

仲間思いである菅野は、自身の選考会よりも仲間になるかもしれない少女を取った。その菅野の行動に少女は深い感銘を受けた。

 

結局この日は降雪による悪天候のため選考会は中止。日を改めて行われた選考会ではその少女が1番の成績を叩き出し、晴れて日本の代表候補生に輝いた。菅野もまた代表候補生の座には辿り着けなかったが高得点をマークし周囲を驚かせた。

その少女こそが菅野に対し『菅野デストロイヤー』という渾名をつけ、機体のカラーリングに黄色のストライプ模様を提案し、現在IS学園にて1年1組の副担任を務める山田真耶であることは、また別の話。

 

 

 

 

菅野は一夏と鈴をまじまじと見つめている。やがてキョトンとしていた一夏の肩を叩き、駐車してあるカブの方を見る。

 

「どうだ?乗ってみるか?」

「え!?」

 

突然の台詞に一夏は思わず目を見開く。

 

「大丈夫大丈夫、私有地だし。サポートすっからさ」

「そういう問題じゃなくてですね!」

 

教職として限りなくアウトに近いグレーな言葉すら飛び出してくる始末。

一応言っておくが、一夏は原付の免許など持っていない。ちなみに原付の免許は16歳から取れるので既に16歳になっている一夏も取ろうと思えば取れるのだが、それとこれとは別だ。何しろ乗ったらそれ=無免許運転になる。

 

一夏はアウトだと反論したが、抵抗虚しく菅野に押し切られ、渋々といった表情を見せながらカブのシートに座らされる。

 

「そういえば菅野先生はなんで原付持ってるんですか?確か車ありますよね?」

 

鈴が素朴な疑問を浮かべると、菅野は「あー」と苦笑いを見せる。

 

「このカブは学園内の移動用なんだよね。ホラ、ここ広いからさ、場所が場所だといちいち歩いていくの大変なんだよね。かと言ってIS引っ張り出すわけにもいかないし」

 

もはやIS学園の広大さを語る必要もないだろうが、まぁとにかく広いわけ。端から端まで数キロはあるとかないとか言われているほど広い。

生徒もその広さに苦労させられることは多々あるがそれは先生達も同様。学園内では有事以外ISを展開することは基本禁止。だから遠くのアリーナや施設に向かうためにわざわざ自転車を召喚する人もいる。菅野もまたこうして原付を実家から引っ張り出してきて学園の整備区画で修繕したのだ。

 

一夏に原付の基本操作を教えている緑葉が笑いながら口を開く。

 

「やりたいんだってさ、原付の旅が」

「そうなんだよなぁ〜」

 

菅野は照れくさそうに頭をわしゃわしゃと撫でる。

某ローカル番組の大ファンである菅野と緑葉の出会いは、ある日散歩していた緑葉が菅野の車につけられていたステッカーを見つけたことがキッカケ。そこから一気に話が弾んでいき今ではすっかり仲良しになっている。

 

「いつか一緒にカブ乗って、東京から札幌まで行こうって約束をしてるんだよ」

「その時がきたらちゃんとだるま屋積んでいくよ」

「もちろん3日でね」

 

その筋にしか分からない会話を弾ませる緑葉と菅野はカブの各所をチェックしていく。

チェックが終わり、菅野が座れとシートをポンと叩く。

 

「よーし、じゃあいってみよう」

「は、はぁ…」

 

もはや色々と諦めた一夏はしっかりとヘルメットを被ってシートに座る。緑葉に促されるままエンジンをかけ、スロットルグリップを開ける。

 

「お?おお〜…」

 

カブはゆっくりと動き出し、一夏の口から声が漏れる。

一夏はバランスを取るのに精一杯だが、その間にもカブは着実に前へと動いていった。

 



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#28 凰鈴音不覚!

 

一夏を乗せたカブは駐車場全体をノロノロと走行。途中危なっかしい場面も見られたがなんとか転倒せずに、円を書くように1周したところで菅野が声をかけ、一夏はカブを停車させる。

 

「どうだった?」

「どうもこうもないですよ」

 

カブから降りた一夏はキッパリ言って脱いだヘルメットを菅野に返す。

 

「俺のことはもういいですけど、これ以上はやめた方がいいですよ。織斑先生に見つかったらただじゃすみませんよ」

「よーしじゃあ次は誰がやる」

「いやいやいやいやいやいやいやいや」

 

まだまだ誰か乗せるつもりな菅野を慌てて一夏が止める。

 

「先生俺言いましたよね。やめた方がいいって」

「大丈夫だって。ホラやってみてーやつはいるかー?」

「その自信はどこから…」

 

一夏が呆れる横で菅野は周りにいる生徒へ呼びかけるが、誰も動かない。白昼堂々と無免許運転をすることになるのだから当然といえば当然だが。

 

「あたしがやってみようか?」

 

そんな中、ただ1人だけ自信に満ちた返事でカブに乗ると言ってきた。一夏と緑葉がその人物を見るとなんと意外にも鈴だった。

 

「鈴、なんでまた」

「免許の方は?」

「そこら辺は心配ないわよ」

 

と、鈴は財布の中から1枚の長方形のカードを取り出す。取り出したカードを見るとそれは運転免許証だった。一夏は意外そうな表情を浮かべて鈴を見やる。

 

「鈴、お前免許持ってたのか」

「夏休み中に取ったのよ」

「なるほどねぇ〜。よしじゃあアレだな。なんの問題もなく」

「まっかせなさい。経験者は違うのよ!」

 

緑葉からカブのキーを貰った鈴は意気揚々とカブへと向かう。鼻歌を口ずさんでいたその表情はどこか浮ついている。

トコトコと近づいてきた本音が小声で緑葉に耳打ちしてきた。

 

「明らか気合入ってるー」

「私は見たことないね。カブ乗るってんであそこまでイレこむ人は」

 

シートに座った鈴はキーを回してブレーキレバーを握る。慣れた手つきでスターターボタンを押しエンジンをかける。

 

「おっ、さすがに免許あると違うね」

 

菅野がその手際の良さを褒めていると、鈴は一夏の方へ1度顔を向けたのち、ヘルメットを被り前方を見据える。

周りのギャラリーは固唾と飲んで見守っていたが緑葉の表情は少し曇っていた。

 

「さぁ鈴選手、気合が入ってます。入ってるんですがねぇ…。ちょっと私は今、少し胸騒ぎの方が…」

 

緑葉が一抹の不安を感じている中、鈴は自らカウントダウンを開始。

5、4、3、2、1とカウントしていき、ギャラリーのボルテージは最高潮に達した瞬間、鈴は叫び、スロットルを全開にした。

 

「GO!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーガコンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、鈴を乗せたカブは荒馬の如く天高く嘶き、前輪が宙に浮いたまま蛇行。なすすべもなく『安全第一』と書かれた柵に激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりの事態に一夏や他のギャラリー、菅野まで声を失う。

 

「ちょっと待ってちょっと待って」

「…………」プルプル

 

緑葉だけは口元を抑えながら笑いを堪えている。見ると隣の本音も緑葉に釣られて笑いそうになってしまい身体が小刻みに震えているがなんとか辛抱している。

 

一方、渦中の人物である鈴はなんとか持ち直し、足を使ってカブをバックさせる。

笑いを抑えきれそうにない緑葉を他所に一夏は鈴の様子を心配そうに見つめる。

 

「鈴!大丈夫か!?怪我してないか!?」

「え?なにが?」

 

一夏の心配を一蹴するように鈴はいつも通りの調子で返す。

 

「えいやだって、えらい勢いで…」

「だ、大丈夫なの鈴さん…?」

「何?何が大丈夫なのよ。あたしはこの通りピンピンしてるわよ」

 

周りのギャラリーからも心配の声が聞こえるが鈴は快活な調子を崩さない。しかしその様子はどこか白々しい。

そんな鈴に対して本音が声をかけたが、その声もまたどこか上ずっていた。

 

「ろ…ロデオのようだったよ〜」

「いや…そこの安全第一って書かれたところに…なんか吸い込まれるように突っ込んでいったけど……。大丈夫だった?」

 

後半から笑いが出てきてしまっていた緑葉がそう訊ねると、これまで白々しく平静を装っていた鈴はついに観念したのか破顔。

全てを諦めた鈴は何がおかしいのか「あはははは」と笑った後、緑葉を見て一喝した。

 

「大丈夫じゃないわよ!!めちゃくちゃ恐かったんだから!!!!」

 

マジで恐かったのか、ヘルメットを取った鈴の目はうっすらと涙目になっていた。

 

 

 

 

ここで、今私達の目の前で起きた『鈴音ウィリー事件』を検証してみよう。解説は私、緑葉がお届けします。

 

カブのシートに座ったその瞬間、鈴さんの脳裏には本能的な闘争心が沸き起こったに違いない。そしてそれは、ある種の対抗心でもあったはずである

 

一夏に、いいところを見せなくては……

 

この心理的状況を表すかのように、彼女は自らカウントダウンを始めた

 

「GO!」と言った時点で、彼女の闘争心は頂点に達していた。それを煽るかのような一夏の期待の眼差し「誠に遺憾である」

 

そして彼女は、スロットルを全開にした。彼女の右手の動きが、それを物語っている。

 

しかし、バイクは発進しなかった。実はこの時、彼女のギアがニュートラルに入っていたのだ

 

一夏の眼差しはこちらへ向けられたまま

 

このままではマズい…

 

焦る凰鈴音。そして彼女はこの瞬間、スロットル全開のまま1速にギアをチェンジしてしまったのである!!

 

1速に入った瞬間の急激なショックが、衝撃となって鈴さんの身体を揺さぶる

 

そして彼女のバイクは荒馬となって天高く嘶き、それでも必死に乗りこなそうとした鈴さんの抵抗もむなしく、激突を余儀なくされてしまったのである

 

では、もう1度この『鈴音ウィリーじk「もういいっての!!!!」

 

 

 

 

「死ぬかと思ったわよ!たっくもう!!」

 

自棄気味に叫ぶ鈴はカブを停車させヘルメットを苦笑を浮かべる菅野に返す。

 

「いやぁ〜〜いやいやいやいや」

「笑いごとじゃないわよ!」

「確かにこれは笑いごとじゃないね」

 

爆笑している緑葉の頭を叩いた鈴の表情もまた改めて自分のしでかしたことのおかしさを感じ、引きつり笑いを浮かべていた。

 

「あたしこのなりで怪我してないの奇跡よ」

 

自分の服装を改めてまじまじと見た鈴が思わずそんな言葉を口にする。

 

今の鈴の格好はいつもの制服姿である。特に下半身はミニスカートだから脚は露出した状態。なのに見たところ特に外傷を負った形跡は皆無。とてもウィリーして柵に激突した直後には見えない。

 

「ちなみにあの、ISに乗って制御不能になって墜落した時とこっち、どっちが恐かった?」

 

1人の生徒がそう訊ねると、鈴は至極当然という反応を見せる。

 

「こっちの方が断然で恐かったわよ」

 

鈴自身、ISに乗りたての頃は制御不能になって地面に墜落したことは多々ある。それがトラウマとなってIS乗りから身をひく人もいるほどだ。

しかし彼女は持ち前のタフさとド根性で墜落の恐怖を克服し、僅か1年で中国の代表候補生になった生粋の叩き上げである。

その鈴をして今回のウィリーの方が「なまらこわかった」と言ったのだ。その意味を理解した緑葉は再び大口を開け、大爆笑をしたのであった。

 

 

 

 

一夏の危惧通り、結局この直後あっさり今回の出来事はバレた。

事故を起こした鈴と、免許もないのにカブに乗った一夏、そして全ての元凶である菅野はただでさえ明日に備えてピリピリしていた千冬や楯無などから大層なお叱りを受け、それぞれ反省文と始末書を書く羽目になってしまった。

ただし一夏の場合は菅野に半ば無理矢理乗せられたという証拠があるため、他の2人よりは罰は軽かったりする。というか菅野の罰が突き抜けて重いのだが。

 

なお緑葉は今回あくまで傍観者だったというのもあってか、罰は受けなかった。

そもそも客員である緑葉に学園側は罰など与えられない。出席簿アタックを食らわそうとした瞬間に思わず楯無がストップをかけた時まで千冬は本気でそれを忘れていた。

 

以下は千冬らに対し緑葉が発した台詞である

 

「あのね、鈴さんいつのまにかニュートラル入れてたっぽいのよ。

そしてそれ知らないでセカンド発進だと思ってスロットル回してたんだけどね、

動かないからアレって思って

ギアいじったっけ

ロー入っちゃって

もうその瞬間ウィリーよ」

「………………………………」

「今……織斑先生笑いましたよね」

「気のせいだ」

 



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ディオネア作戦 #29 レイナ・アオイという女

どうも〜緑葉でございます

さて、ちょっとした小話なんですが、週末より始まる艦これ秋イベ2019に登場する新艦娘の1人に声を当てる妖精さんが豊口めぐみさんとのことです。

豊口さんといえばアニポケのヒカリだったりブラックラグーンのレヴィなど、知る人ぞ知るベテラン声優さんということで色々盛り上がっています。
そしてISとの関連性で言うなら、我らが織斑先生を演じているということで私も少しテンションが上がってます。

ただそれ以上に、ガンダムSEEDのミリアリアを演じてると知った時は驚きましたね笑。電車の中で知って「あぁ〜!」と心の中で叫びましたハイ。
まさか千冬さんとミリアリアの声が一緒という、知って何になるという話なんですがね()

それにしても、声優さんとその作品の繋がりって色々見ていくと結構面白いですよね。
作者がこのことを気にするキッカケになったのは杉田智和さんで、「スケットダンスのスイッチと銀魂の銀さん、声似てね?」と調べたら同じだったからはえ〜と感心してしまいました、あの時は素人やったんや。

今ではやりすぎ◯市伝説で櫻井さんがナレーション務めてる時は自ずとスザクとか思い浮かべたりとかね。大塚芳忠さんはZガンダムのヤザンで知りました。

はい、それだけです。

いよいよ今回から、本当の本当に例の話がスタートします。しかし、主役は彼らではなくあくまで我々。そして舞台は秋の京都ではありません。さてどういうことなのか、では本編をどうぞ!



月明かりに照らされた漆黒の海を、1隻の船が往く。しかしこの船はただの漁船やフェリーの類いなどではない。

 

シェアーフィンス級航空母艦1番艦<シェアーフィンス>、それがこの船の名だ。

 

飛行甲板を備え付け、そこから戦闘機を発進させる。空母といえばそんなイメージではなかろうか。しかしこの<シェアーフィンス>は違う。

 

シェアーフィンス級はISのみの運用を主軸として開発された空母で、ISの移動式前線基地としての意味合いが強い。

空母の代名詞と呼べる甲板は廃止され、前面に4つ、後面に2つカタパルトデッキが備え付けられている。後面のカタパルトは主に帰還用として使われるため、メインカタパルトは前面の4つとなる。

全長426.4メートル。IS搭載可能数はおよそ60機、対空装備のファランクスやミサイルなどの装備の他に、実弾がほぼ効かないIS対策として<ブルーティアーズ>のレーザービーム技術を応用したビーム連装砲が2基、ビームファランクス砲が多数新たに配備されている。

 

「しかし、わざわざこれを持ち出さなくともよろしかったのでは…」

 

まさにSFに出てきそうな外観を誇る<シェアーフィンス>の艦橋にて、リビティア・マサラッキは眉間に皺を寄せる。がっしりとした体躯を持つ壮年の男は、50を過ぎてもなおその迫力は衰えることはない。

 

「そんな顔はするな艦長。どのみち、これのテストはしなくちゃならないんだ。スコールの発案なんだから乗るしかあるまい」

「しかしですな……」

 

傍らに佇んでいた女性に苦笑されたマサラッキは、より一層眉間に皺に寄せる。

 

「民間の教育機関に対して、これは些か過剰——あ、いや…」

 

マサラッキは思わず口ごもる。<シェアーフィンス>艦長を任されているマサラッキだが、眼前でモニターを見据える女性にはどうしても敵わない。

 

白髪をなびかせた彼女は、おおよそ空母という現代兵器の内部では明らかに異質な、何故か腋が露出している黒い巫女服を纏うだけでなく、顔の上半分はこれまた異質な仮面で覆われており、その素顔を窺い知ることは叶わない。

 

何から何まで異質な風貌の彼女の名はレイナ・アオイ。『亡国機業』幹部にして、スコールと同じく実働部隊を任されている腕利きのIS乗りだ。

 

腕利きなのだが、マサラッキは彼女のことを心から信頼しているわけでない。名前からして日本人であることは間違いないのだが、その他の情報が一切合切分からないのだ。

外見こそ20代前半のそれだが、生年月日も出身地も不明。亡国機業が誇る情報網を駆使して探しても個人情報が全く出てこない、まさしく謎多き人物なのだ。

一応、レイナからは「名前は本名」と公言されてはいるがそれも怪しい。そして素顔を誰も見たことがないという事実がレイナ・アオイという人物をミステリアスな存在に昇華させていた。

 

「せめてミューゼル氏以外の者の意見も聞いた方が良かったのでは」

 

ところでこのシェアーフィンス級だが、最初から亡国機業に組み込まれた空母ではない。

 

元々シェアーフィンス級は、いわゆる『白騎士事件』後、IS時代の到来を見越した米軍が開発を進めていた。しかしあまりにも莫大な費用が必要になったため計画は頓挫、凍結しお蔵入りとなった。

そんな時に亡国機業がアメリカ政府や軍内に潜むシンパからシェアーフィンス級の情報をキャッチ。亡国機業が所有する秘密ドッグ内で建造が進められ、およそ5年の歳月をかけやっとこの秋に完成したばかり。つまり<シェアーフィンス>にとって、この航海は処女航海なのだ。

 

「その必要はない」

 

マサラッキの懸念を含んだ問いかけにレイナはそう返す。

 

「あの篠ノ之束をこちら側に引き入れたスコールに逆らえる者など、今やいないに等しい」

「なるほど。確かに」

「スコール達は、すでに京都に?」

 

レイナの問いかけに、副艦長であるエアナ・シャーティが答える。

 

「はい。IS学園側も我々の討伐に動き始めているみたいで」

「学園内のエージェントからの?」

「はい。彼女も織斑一夏らと共に」

 

「なるほどねぇ」とレイナは鼻を鳴らす。

 

「エムには、束博士お手製の新型が渡っているんだろう?確か<黒騎士>と言ったか」

「報告ではそのように」

 

シャーティは淡々と答え、マサラッキは重い口を開く。

 

「明日の京都は戦場になりますな」

「ま、観光名所に被害がなければ、どうぞご勝手にってね」

 

あっけらかんとするレイナに後ろ姿を見てマサラッキは頭痛を感じた。しかし直後に発せられた言葉にマサラッキは心を入れ替える。

 

「我々は我々の仕事をするだけさ」

「やはり、学園襲撃を」

 

IS学園襲撃。それが今回レイナ達に任せられた任務だ。

亡国機業による学園襲撃は過去2度行われている。いずれもスコールの部下であるエムとオータムによるもので、どちらもこちらが虚を突く形となったが今回は直接対決。スコール自ら重い腰を上げての戦いとなる。

そして新造空母<シェアーフィンス>を据えた別働隊にもまた別の任務が与えられていた。

 

「ワールド・パージで分かっただろう?あそこはただの教育機関じゃない」

「それを改めて探すのが我々の任務ですか」

「米軍の特殊部隊まで動いたんだ。第3世代の<ファング・クエイク>まで引っ張り出してな。何かなくては困る」

 

束が起こしたワールド・パージの出来事に関しては断片的にだが亡国機業の上層部は把握している。その際に学園の地下区画深くに『何か』があることも確認したがその『何か』までは掴みきれていなかった。

またこの時に、米軍特殊部隊『名もなき兵たち』もアクションを起こしたが、こちらの動向は未だ知れない。

レイナは確信めいた笑みを浮かべる。

 

「風の噂によると、<暮桜>が眠っているそうだが」

「なんと…」

 

マサラッキの目が見開く。周囲の空気も変わり、どよめきが起こる。

 

「あくまで噂だが、もしかしたら、な」

 

<暮桜>はまさに伝説的な機体だ。たった1本の剣を持ち、<暮桜>を纏った織斑千冬の鬼神めいた戦いぶりは彼女が総合優勝を果たした第1回モンド・グロッソから数年経った今でも燦々と輝きを放っている。

あくまで平静を保っているマサラッキは、ふと思い立ってレイナに訊ねる。

 

「しかし、仮に<暮桜>を発見したところでどうしろと。いくら伝説の機体といえどもう第1世代機、ロートルです」

 

どちらかというと作戦発案者のスコールへ向けたものとも捉えられる発言に、レイナは苦笑する。

 

「私もそれはよく分からん」

 

苦笑するレイナは空いていた艦長席へと座ると、ファイリングされた書類を手に取り、中から1枚の写真を取り出す。

 

「ま、とにかく我々は与えられた任務を遂行するだけだ。あったらあった、なかったらなかった。それでいいんだ」

 

左手の人差し指と中指で写真を挟んで口元を緩める。その写真には、<暮桜>を纏った千冬の姿が捉えれていた。

そう遠からず訪れるであろうその時を待ちわびながら、レイナは写真をファイルの中に戻し、艦橋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、いいなー織斑君達」

「専用機持ちになると2回も京都いけるんですって奥さん」

 

3時限目を終えた直後のIS学園。今日はこんな風なボヤきが特別多く聞こえる。

今日の朝に新幹線で東京駅を経った一夏達は既に京都に到着している時間帯だ。

全学年の専用機持ち、ならびに一部の教員は京都への下見へ出発。本当の目的は別にあるのだがそんなことを一般生徒が知るすべはない。

 

専用機持ちが1番集中している1組の教室を眺めると空席がチラホラ。担任である千冬と副担任の真耶が京都へ行ってしまい、まともにクラスが機能しなくなってしまった。

止む無く今日と明日はずっと1組は自習なのだが、何故か今日は教壇に立った(立たされた)緑葉のトンデモ話を延々と聞かされ続けてきた。

なんでも千冬直々の指名らしく、しかもこれがまた話が結構面白かったため蓋を開ければ盛況に終わった。

 

4時限目のチャイムが鳴り、生徒は各々自分の席につく。もっとも千冬が居ないためか動きはいつもより鈍重に写る。

 

「はいみんな席についてください〜」

 

ドアを開けて緑葉が入室。その後には龍驤と藤川、先日から学園にやってきた西園寺も緑葉に続いて入室。

生徒の目線が一点に緑葉に注がれる中、教壇に書類を置いた緑葉は一息つく。

 

「えー、先生でもないのにこんなことするのってどうなんだと思うんですが」

 

生徒から笑いが漏れる。鬼軍曹千冬がいないためか多少緊張の糸は緩んでいる。

 

「本来なら4時限目に突入。ってことになるんですが、予定変更SHRへ入ります」

 

唐突に放たれた台詞に、生徒達はみな首を傾げたりどよめきが起きている。そこへ藤川が口を挟む。

 

「実は先程、職員会議がありまして、まぁ我々は参加できないんですが。それで菅野先生から知らされたんだけど、今日と明日は半日でいいんじゃねえか?ってことになりましてですね」

「つまり、今日はもう授業終わりです」

 

緑葉が結論を言った瞬間、教室中から歓声と拍手が巻き起こる。中にはガッツポーズまで作っている生徒までいるが、緑葉が「静かに」と言い放つと喧騒はピタッと止む。

「すげぇ」と変な感心を露わにする藤川の横で緑葉は生徒1人1人を見据える。

 

「えーと、とりあえず今日と明日の半日授業は確定です。理由は担任も副担任もいなくて授業が進まない1組に合わせて、って感じだったっけ?」

 

チラ、と緑葉が横目で藤川を見やる。目線に気付いた彼はこくりと頷く。

 

「そうだね。でまぁこれから今日の午後から夜にかけてなんだけど、できるだけ、うんまぁというか絶対に学生寮の外には出ないでください。待機です」

 

まさかの一言に収まりつつあったどよめきが再び蒸し返す。生徒達は互いに顔を見合わせて困惑しきっている。

 

「これは1年だけの話ではなく、2年や3年の方にも通達されています。どうしても外に出なくてはならないという用事がある人は先生に許可を取ってから外出してください。あと先生側から呼ぶ場合もあります。それ以外の無許可での外出は一切認めません。もしも無許可外出をした場合は反省文を書いてもらいます」

『ええ〜〜〜!?』

 

一通り緑葉が説明し終えた後、案の定教室中から大ブーイングが巻き起こる。緑葉自身も生徒の立場だったら絶対ブーイングする。そんな同情があるため強気な姿勢は取れない。

 

「なんでですか!?」

「いくらなんでも理由もなしにそれはあんまりですよ!」

「休みは嬉しいけど納得いきません!」

「ブーブー!」

 

生徒の喧騒が激しくなりかけた瞬間、1人の生徒がスッと手を挙げる。クラスの中でも1番のしっかり者と評される鷹月だ。

喧騒が止んだのを確認して、鷹月は緑葉の目を見て訊ねる。

 

「私はその決定に不満に反対するつもりはありません。しかし、理由の方は教えてもらえないのですか?」

 

鷹月の毅然とした態度のもと発せられた質問に思わず緑葉は引きつり笑いを見せる。

 

「うーんやっぱり真面目だなぁ。でも申し訳ないんだけど私からは何も言えないんだ」

「……わかりました」

 

緑葉は決して嘘は言っていない。本当に口止めされていると察した鷹月はアッサリ引き下がり席に座る。

やがて各所から漏れていたブーイングや不満も収束していく。これ以上どうこう言っても仕方がないと諦めた様子だった。

 

やがてSHRも終わり、生徒達は学生寮へと戻っていく。ISを使った訓練を具申してきた生徒もいたがそれもまた却下されている。

教科書をまとめている相川と鷹月の姿を見つけた緑葉が声をかける。

 

「あーっと、相川さん、鷹月さん、あとのほほんさんはすぐに職員室まで」

「え?あ、ハイ」

 

それだけ言うと緑葉は藤川達を連れて教室から退室。思わぬ白羽の矢が立った相川と鷹月は互いに顔を見合わせて訝しんでいたが本音はいつも通りだった。

 

「私、なんかやっちゃったかなぁ?」

「この前のレゾナンスの件とか?」

「あ、あー……」

 

思い当たる節があった相川はげんなりと肩を落とす。結局あの後は緑葉が具申してくれたお陰で特別に設定された門限ギリギリになんとか学園に到着。その翌日レゾナンスでの一幕を知っていたクラスメイトからは「朝帰りだー」などとどやされた。

外部でのISの無断使用という御法度をやらかした相川であったが、どういうわけか未だに罰は下されていない。それこそ簡単な反省文だけで済まされたままだ。恐らくこちらも緑葉が色々根回ししたのだろうと相川は結論づける。

 

「どうせなら忘れたままでいてほしかったけどなぁ…」

「でもそれならなんで私や本音ちゃんも呼ばれるんだろう」

「確かに。うーん違う理由…、はもっと思い当たらない」

 

レゾナンスでの一件なら相川だけを呼べばいい話。何故自分まで、と鷹月は解せないなぁと首を傾げた。相川もまた疑問を浮かべながら教科書をまとめ終え教室から出る。

 

結局レゾナンス以外で思い当たる節が出てこずモヤモヤした気持ちのまま職員室の扉の前に到着。ノックをしようとした鷹月が手を伸ばした時、不意に1人の女性に呼び止められる。

 

「貴女達はこちらへ」

 

呼び止められた相川らは自分達に声をかけた女性の方を見る。その女性は千冬と同じようなダークグレーのスーツを着こなしており、髪は左側に束ねたサイドテール。クールな雰囲気を感じさせ、まさに『大人の女性』と呼ぶに相応しい。

しかし相川と鷹月は自分達を呼ぶスーツ姿の女性に不信感を抱く。

 

「鷹月さん、あの人知ってる?」

「ううん。見たことないもん」

 

目の前に立っている女性を相川達は見たことがなかった。学園の教員なら少なくとも1回は会っているはずだが、記憶を引っ張り出しても会った記憶がない。するとこの女性は学園の関係者ではないということになる。

相川と鷹月が戸惑っていると、本音が静かに口を開いた。

 

「大丈夫だよ〜。私の知り合いだから〜」

「そうなの?」

「なら、一応は…」

 

本音の一言に鷹月はホッと胸を撫で下ろす。

兎にも角にもとりあえず危ない人物ではないと判明したところで相川と鷹月らは警戒心を少し緩める。

そのやりとりを見ていた女性の方は表情を変えることなく廊下を歩いていき、相川らも後をつける形で彼女の姿を追った。



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#30 バラライカ・ララバイ

緑葉ナツの容姿ですが、『艦これ』に登場する瑞鶴をモデルにしています。というかまんまです。
それを想像して今回の話を見ると、また面白いんじゃないかなと。

そして小説タイトルを変えてみました。どうかなぁ


「生徒会室…?」

 

スーツ姿の女性に連れてこられた場所はなんと生徒会室だった。

さすがにこれは予想外だったのか相川と鷹月は唖然としながら女性と本音の姿を見る。

本音はいつも通りだが、スーツ姿の女性の方は真面目な雰囲気を崩さない。

徐ろに本音が生徒会室の扉を開け、女性を誘なう。彼女はお辞儀をして、本音の厚意に甘える形で生徒会室に入っていく。

 

「きよひー達もはやくはやく〜」

 

本音は片手で重厚な扉を抑えながら2人に向けて手招きする。扉を抑えていた腕が小刻みに震えている辺り限界が近いことを察した相川と鷹月は生徒会室へと入室する。勿論ノックと「失礼します」は欠かさない。

 

何気に始めて生徒会室に入った相川と鷹月を出迎えたのはこれまた異質な面々だった。

まずは先程のスーツ姿の女性。彼女はソファーへと座り、対面するような形で藤川と西園寺が座っている。

さらにスーツ姿の女性の隣にはこちらも会ったことがない女性の姿が。ピンク髪で横髪はおさげ。エンジニア関係の人なのか、つなぎ服がなんとも様になっている。ソファーを取り囲むようにフランシィを含む数人の教師の姿が。

 

壁に背中を預けるように菅野が立ち、書記の席には本音の姿が。そういえば本音ちゃん生徒会メンバーだったな、などと思いながら相川が目を移した先は会長席ともう片方の書記の席。

生徒会会長である楯無、書記であり本音の姉である虚も楯無らのサポートを任されているため両者共に京都へ行っている。そのため学園には不在である。

会長が座す椅子に緑葉、書記の椅子には龍驤が座していた。

 

「あの、これは一体」

 

開口一番、怪訝な表情を見せる鷹月が緑葉へ問う。

 

「うーんとね。その前にそこの2人について紹介した方がいいかな?」

「さんせ〜い」

 

緑葉が言う2人とは、察しの通りスーツ姿の女性とつなぎ服を着た女性である。机に置かれた煎餅を頬張る本音を横目に2人はソファーから立ち上がる。

 

「加賀と言います」

「鶴屋重工でエンジニアをしている明石です!よろしくお願いします!」

 

片や真面目、片やフレンドリー。そんな第一印象を感じていると加賀は相川と鷹月に名刺を渡す。渡された名刺を見ると、加賀が鶴屋グループの者だということが分かった。

 

一方の明石からは握手を求められ、恐る恐る手を差し出すと固い握手が結ばれる。

一連のやりとりを会長席に座りながら眺めていた緑葉が笑みを浮かべる。

 

「加賀さんと明石は藤川君がわざわざ本社から呼び寄せた腕利きでね。かなりのモノを持っている」

「それなりの権限を持ってますからねぇこのヒゲは」

「君もヒゲだなんて言うんじゃないよ」

 

明石の言葉通り、藤川はグループ内でそれなりの権限を持っている。場合によっては緑葉でも逆らうことができないほど。

そんな光景が繰り広げられていると、壁に背中を預けていた菅野が身体を起こす。

 

「挨拶もこれくらいにして、本題に入ろうじゃないか」

「せやな。もうあんまり時間もないで」

 

時計を見た龍驤は緑葉を見やる。緑葉は椅子から立ち上がり生徒会室に集まった面々を見渡す。

 

「いいかな?菅野先生」

 

緑葉の確認の問いかけに、菅野はゆっくりと頷く。

 

「ではこれより、『オペレーション・ディオネア』の作戦会議を始める」

 

 

 

 

 

 

 

 

ディオネアというのはDionaea muscipulaの前半部分から取った単語である。このディオネア云々はとある植物に付けられた学名であり、その植物の名はハエトリグサ。北米原産の食虫植物として日本でもその存在を広く認知されている植物である。

提案者は緑葉であり、ディオネアの意味を知ったら藤川達からは

 

「もう少しマシなやつないのか」

 

と散々不評を買ったが、それはさておき。

 

「で、まず今からこれを語る上で大事になってくることがあってね。一夏君達の京都への下見旅行がそれなんだけど」

 

相川と鷹月が頭の上にはてなマークを浮かべている間にも、緑葉と菅野は話を続ける。そして語られた以下の内容に2人は愕然とすることになる。

 

一夏達専用機持ちの真の目的。亡国機業の存在。口々に語られる内容は学園内の日常を謳歌してきていた2人には浮世離れしているものだった。

顔を見合わせ困惑の表情を見せる相川と鷹月にフランシィが近寄る。彼女の表情もまた暗いものが見え隠れしていた。

 

「こんなことを言うのも酷だけど、ここってそういう場所でしょう?そういう場所だから裏ではこんなことが起こっているのよ。勿論、私達としても起こってほしくはないんだけどね」

 

そう言われ納得してしまう節々があった。数度の襲撃、臨海学校における騒動や今回の作戦。正直、あまり気に留めていなかったがIS学園は技術も人材が集まる場所、当然それを狙う者もいる。そういう場所とは、まさにそのまんまの意味だ。

 

「貴女達が動かしているソレがどういうものなのかってのは、頭の片隅にでも留めておいた方がいい。当然、私や龍驤もだけど」

「…………」

 

重苦しい空気の中、緑葉が息をついて椅子に腰を沈める。

以前ラウラが転入したばかりの頃、クラスメイト達に対して「ISをファッションか何かと勘違いしている」と酷評し見下していた時があった。その時は当時のラウラの印象もあり、反発したりして深く気にする子は少なかったが、改めてそういう局面に立たされるとラウラの言葉が重くのしかかるのを感じた。

 

するとテーブルに置かれた加賀の携帯に1件の通知が入る。「失礼します」と携帯の画面を開き通知の内容を確かめる加賀に緑葉が目を向ける。

 

「現地から?」

「はい。すでに京都では戦火が切られたと」

 

その言葉に周囲は騒然とする。藤川や西園寺もまた険しい表情を浮かべる。

「なるほど」と目を瞑った緑葉が暫し考え込む素ぶりを見せる。

 

「もっとも、向こうで何が起きても私達にできることはない」

 

緑葉はかぶりを振りながら机に置かれたタブレット端末を手に取る。端末を操作する緑葉の指はある1枚の画像へと行き着いた。

 

「こっちはこっちで手一杯だからね」

「これは……」

「鶴屋家が所有する衛星が捉えた映像です」

 

皆の視線がその画像に注がれる。写真アプリに保存されていたその画像には1隻の船が映し出されている。しかし形状的に普通の船ではないのは一目瞭然だった。

 

「シェアーフィンス級航空母艦1番艦<シェアーフィンス>。亡国機業が持つ虎の子がこちらに向かってる」

 

騒然とした空気が更に凍るのを感じ、さらに身体が震え始める。

 

「目的は何か知らないけどね。いずれにせよ戦闘は避けられそうにない?」

「「はい」」

 

苦笑する緑葉の問いに西園寺と加賀はキッパリと答える。

そもそも何故緑葉や加賀がこんな情報を持っているのか。理由としては鶴屋家と更識の情報網から、と言うべきか。

鶴屋家と更識もまた深い繋がりがあり、今回緑葉達がIS学園に入れたのもその繋がり故だとする話もある。

 

「それで、私にどうしろと…?」

 

これまで沈黙を貫いていた相川がただ一言そう発言。呑気にもったいぶる素ぶりを見せる緑葉は相川の目を見つめる。

 

「うーん。まぁもう言っちゃうけど。……協力してくれないかな。対亡国機業の迎撃作戦に」

「えっ…」

「待ってください!相川さんは…!」

「そうだね。南井先生の言いたいこともわかるよ」

 

緑葉の衝撃的な発言に相川はその場で茫然とする。一部の人には前もって知らされていたのか各々リアクションに変化はないが、知らされていなかった南井は緑葉のもとへ詰め寄り両手で机を叩く。

南井の気迫に引くことなく緑葉は言葉を紡げる。

 

「相川さんは確かに一夏君達とは違って至って普通の生徒。しかもまだ1年生。だがしかし、おぉしかし、またしかしだ。今の彼女は普通の生徒じゃあなぁ〜い」

 

普段のギャグキャラみたいな雰囲気とは明らかに一線を画す、道化を演じるようにふざけた調子を見せる緑葉はピッと相川の手首につけられているガントレットを指す。

緑葉の言いたいことを察した相川はガントレットを摩る。

 

「<天照>……」

「そういうこと」

「貴方は……!」

 

ニヤリと笑む緑葉に南井は憤慨。思わず手がでそうになったがその手を菅野が止める。腹わたが煮えくり返そうになりながらも南井は引き下がる。

 

「勿論、無理にとは言わない。いきなりこんなことをやれと言われても困ると思う。だけど貴女は今学園にいる限りある専用機持ちだし、オマケに敵さんは貴女のことを恐らく知らない。貴女には力がある、学園を、みんなを、そして自分を護る力が」

 

悪魔の囁きだ。笑みを浮かべたままの緑葉はスッと席から立ち、考えの中に埋もれる相川の耳元でゆっくりと語る。

 

「私は貴女を信頼している。私は貴女を買っている。私は貴女の力が見たい。是非私に見せてくれないだろうか?」

「…………………………やります。やらせてください」

 

相川は、緑葉というサタンに屈した。サタンは満足げな表情を浮かべてうんうんと頷く。

 

「ジグソーパズルのピースは、全て埋め込まれたね」

 

相川から離れ、いつもの微笑みを見せた緑葉はそう呟いた。

 

 

 

 

この後は具体的な作戦案をいくつか練り上げたところでお開きとなった。また明日の授業も全て中止にすることも決定、終日学生寮にて待機、ということになった。

ぞろぞろと教師達が生徒会室から退出していく中、未だ複雑な心境にある相川を伴って鷹月も退室しようとしたところで、緑葉が呼び止める。

 

「鷹月さんはあとで整備科のハンガーまで」

「え?あ、ハイ」

 

参加させられる形になった鷹月もまた相川や本音のサポート役を命じられており、ISを使用すると明言されていた。だから整備区画にお呼ばれされても特に不審な点はない。

 

鷹月に続いて本音も退室し、生徒会室には緑葉、龍驤、藤川、西園寺、加賀、明石の計6人だけが残った。学園の中枢たる生徒会の拠点に学園関係者ではない人しかいないというのは、些かシュールで奇異な光景である。

 

「あ”あ”〜〜〜!」

 

ある意味身内しかいない生徒会室、生徒会の長が座るべき椅子の背もたれに思いっきり背中を預けながら緑葉は大口を開ける。

 

「藤川君や。私は向いてないね、あんなキャラクターは」

「だろうね」

 

と、藤川は即答し龍驤も頷き同意。

 

「すごい違和感あったよ。アレはなんだいアドリブかい?」

「アドリブもアドリブよ。いつもよりずっと疲れてるよ私ゃ」

「内心笑いそうになったのを、必死に我慢したんやでウチは」

「誰も気づいてなかったですけどね、龍驤さんさっきまで手がプルプル小刻みに震えてたんですよ!」

 

さっきの不穏な空気はどこへやら、笑いが絶えないいつもの和気藹々な雰囲気に戻る。

そんな周りと距離を置くように表情を崩さない加賀のもとに緑葉が近寄る。

 

「加賀さんも少しは笑えばいいのに」

「余計なお世話です」

「手厳しいなぁ。あ、あとこれを」

 

思い出したように緑葉はファイルの中から一通の封筒を加賀へ手渡す。

 

「これは?」

「中に新幹線の乗車券が入ってる」

 

緑葉は小声でそう伝える。賢明な加賀は数瞬考えたのち、緑葉の、鶴屋家の意図を察する。

 

「想像通りだと思うから続けるね」

「どうぞ」

「早い話、それで京都までいって彼らの動きを探ってもらいたい」

 

彼らとは、言うまでもなく京都の下見に赴いている面々のこと。

そういうことか、と加賀は緑葉からずっしりと重い封筒を受け取る。

 

「それにしても、こんなに必要ないと思いますが」

「宿泊地の方の分も込みなんじゃない?」

「それでも多すぎます」

 

開けられた封筒の中身は新横浜から京都までの往復の新幹線の乗車券。それにどう考えても余分すぎるほどの万札がギッシリと入れられていた。お高い旅館に泊まっても充分過ぎるほどお釣りが出る。

 

「今回の件は会長も気にしている。それに今から行く京都はさっきの報告の通り色々と危ういしね。まぁ、前金だと思ってね」

 

前金ということは、後から払われる報酬もあるのだろう。

鶴屋グループは全体がホワイト企業の塊みたいな場所で、かくいう緑葉や加賀もまたその恩恵を受けている。羽振りが良すぎるため鶴屋家の金回りが心配になる時もあるが。

 

封筒をバッグに入れた加賀は藤川達と愉しげに会話する明石に一瞬視線を向け、「失礼しました」と部屋から退室した。

 




立場や権限的には藤川>緑葉>加賀の順。だから普段は騙し騙され罵り合う間柄の緑葉もいざとなると藤川には逆らえません。


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#31 believe ミー

「スコールが?」

 

レイナの顔つきが険しくなる。

太平洋を往く<シェアーフィンス>。その士官室にてレイナは先程入った第一報を下士官からの報告で聞いていた。

 

 

 

 

内容は以下の通り。

京都に着いた織斑一夏達をスコールの部下であるオータムと学園に潜り込んでいたダリル・ケイシー、そしてダリルについたと思しきギリシャの代表候補生フォルテ・サファイアが強襲。

しかしイタリアの国家代表、アリーシャ・ジョセスターフの妨害に遭い織斑一夏の暗殺に失敗。オータムは捕らえられてしまう。

 

夕刻に再度戦闘が勃発。エムが<黒騎士>を纏い出撃。学園側のISを圧倒するも、突如織斑一夏が駆る<白式>が<白騎士>に変身。

攻勢不利になったところでオータムを回収したスコールが撤退命令を発令し、戦闘は終結した。

なお、<白式>が<白騎士>に変身した理由は現段階では不明である——と

 

一通り報告を聞いたのち、ふう、と溜め息を吐いたレイナは傍らに直立しているマサラッキを見る。

 

「どう見る?艦長」

「どう、と言われましてもな…まさか<白騎士>とは」

 

話を振られたマサラッキが険しい表情を見せながら報告書に紛れ込んでいた1枚の写真を手に取る。

ボヤけていてハッキリとは見えないが、その写真に写っているシルエットは紛れもなく<白騎士>そのものであった。

マサラッキは自身の様子に首を傾げている下士官に言う。

 

「知らんのだろう?『白騎士事件』を、これまでの常識が無残に打ち砕かれた、あの瞬間を」

「はぁ……」

 

亡国機業に入ってまだ3年の下士官は知らない。だがこれまで30年間、軍人として第一線を張ってきたマサラッキは知っている。あの瞬間を。

 

『白騎士事件』当時、40を過ぎていたマサラッキはアメリカ空軍の戦闘機パイロットだった。ベテランの域に達していた彼は正体不明の機体の撃墜の任を請け負い出撃。

しかし正体不明の機体に為すすべもなく自分が乗る機体、更には僚機も一瞬のうちに墜とされた。のちに自機や僚機を落としたそれの名を<白騎士>だと医務室のベッドの上で知った。

 

その後各国の軍内ではIS配備の機運が高まり、正式配備が始まった辺りで半分追い出されるような形で空軍から除隊。

当てもなく彷徨い酒を呑んでいた時、たまたま街で出会ったかつての同僚から「君の手腕を買っている人物がいる。どうだ?」と誘われた。人生の見通しも暗いままだったマサラッキは流れるままにスコールと出会い、亡国機業のメンバーとなった。かれこれ8年前の話だ。もしもあの時元同僚に出会わなかったら今のマサラッキは酒に溺れ、最悪麻薬に手を染めていたかもしれない。

 

「—で、どうするのですか、我々は」

「そうだな…」

 

話を戻したマサラッキはレイナの方を伺い、彼女は指で顎に当てて思案する。

 

結論から言うと、この日<シェアーフィンス>が動くことはなかった。今日の夜、つまり今にでもスコールに再度指示を仰ごうとしていた矢先に、この報告を受けたのだ。

最終的に決断を下すのはレイナかマサラッキだ。今から強行するもよし、明日にでも日を改めるもよし、このまま中止し撤退、合流予定ポイントまで行くのもよし。

 

「艦長」と、考えがまとまったレイナはマサラッキへと命じる。

 

「作戦は続行だ」

「よろしいのですか?」

「スコール達が失敗しても、こちらはこちらでしなくてはならんことがある。どのみち発破をかけに行くのなら、このチャンスを逃す気はさらさらない」

 

織斑一夏ら各国の専用機持ち。ロシア国家代表にして更識家当主の楯無。そして何よりブリュンヒルデである千冬と『銃央矛塵』の異名を持つ元日本代表候補生の真耶といった強力な戦力は軒並み不在。

彼らは明日の夕方には帰校すると情報が伝えられている、つまり今しかないのだ。

 

「了解しました」

 

敬礼をするマサラッキと下士官の間をレイナは優雅に通り過ぎ、士官室の扉を開ける。

 

「作戦開始時刻は変わらず、翌日ヒトヒトマルマルだ。今日はもう休んで、明日に備えろ」

 

2名へ向け釘を刺したレイナは士官室から出て行き、そのままの足で自身の部屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふんふ〜ん♪ターラッタッタッタッタ〜〜♪」

 

どことも知れない場所。某所にて、虚空に投影型モニターを浮かべながら常人では考えられない速さのタイピングを見せ、瞬く間にデータを入力していく。

奇抜というか独特な衣装を着こなし、頭には機械じみたウサミミがついたカチューシャをつけている。兎をモチーフにしたような風体の女性はモニターに映し出される映像を見ながら楽しそうに笑みを浮かべている。

 

彼女こそISを創り出し、世界中に混乱と混沌をもたらした『天才』篠ノ之束である。

 

「ふぅ〜〜、こんなとこかなーっと」

 

投影型モニターを消し、束はその場に寝っ転がる。先程まで曇っていた空はすっかり晴れ渡っている。今日起きた戦闘がウソのような満天の星空。

 

「束さま」

 

と、自分に呼びかける声が聞こえ、束はよいしょっと、という掛け声と共に起き上がる。

 

「お茶菓子をお持ちしました。リクエスト通り、生八ツ橋です」

「やったー!ありがとくーちゃん愛してるよーチュッ!」

 

くーちゃんと呼ばれた少女は束に熱い抱擁をされ、若干顔を赤らめ照れている。

くーちゃんことクロエ・クロニクルはある時束に拾われ、以来忠誠を誓っている。束も束でクロエのことを実の娘のように愛している。

クロエの出自は複雑で、その影響か中々人間らしさが培われない。現に今も束からの抱擁に困惑してしまっている。

 

「束さまは、先程まで何か考えごとをしていたのですか?」

「ん?んーそーだね。イロイロかな」

 

八つ橋を頬張りながら、束はクロエの質問の答えを考える。だが結局答えにならない答えしか出なかったため、その後は何を語るでもなく、黙々と八つ橋の数を減らしていく。

 

(…レイちゃんは動かなかったかぁ、むーつまんないなぁ)

 

以前会ったことがある仮面を着けた巫女姿の少女を思い浮かべながら、束はまた1つ八つ橋を口の中に放り込む。

 

篠ノ之束という人物は、自分が興味を示したことや同等の存在とみなしたことや人間以外には無関心を通り越したレベルで冷酷な、冷淡なまでに拒絶する人物である。そんな束と対等に話せる人物など、それこそ一夏と千冬、妹の箒ぐらい。実の親でさえ拒絶、赤の他人などもってのほかだ。

 

しかしあのレイナ・アオイという人物に、束はただならぬ魅力を感じた。

類い稀なセンスの持ち主に、ミステリアスな経歴。そして他の誰も知らない、束だけが知っているある特殊な力。

 

否、もう1人いた。レイナの特殊な力を知ってそうな人物。あの場所で自分と出会った、あのひょうきん者な緑髪の女、いや、男が。

 

「ウフフ」

 

クロエの方を見ると彼女は疲れからかすっかり寝息をたてている。束は散らばったゴミを片し、起こさないようにしてクロエを丁寧に抱き抱える。

 

「……みーちゃんと会えるの、楽しみにしてるよ」

 

微笑みを浮かべた束は、ひっそりと夜更けの闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、午前10時59分。

<シェアーフィンス>艦橋ではマサラッキを始めとした面々がその時を待っていた。当然その中にはレイナの姿も。

時計の針が回り、2本の針が共に11を示す。

 

「ヒトヒトマルマル。作戦開始です」

「よぉーし行こう。慎ましく、な」

 

レイナの号令と共に<シェアーフィンス>艦内にアラートが鳴り響き、一様に慌ただしくなる。

 

「私も出る。後は任せたぞ」

 

その言葉にマサラッキは苦笑する。レイナの行動を止めることは誰にも出来ない。それは艦長であるマサラッキも例外ではない。止めてもムダだと、皆すでに心得ていたから。

 

「<ラファール・リヴァイヴ>を用意させろと格納庫に伝えろ」

「はっ!」

 

マサラッキが敬礼の動作を見せると、レイナは笑みを浮かべ艦橋を出た。

 

格納庫に向かうと、すでに何機ものISが発進を待ちわびていた。<ラファール・リヴァイヴ>の周りでは整備員が搭乗するパイロットを取り囲んで打ち合わせをしている。

イギリスが開発した<メイルシュトローム>の横を通り過ぎる中、レイナは格納庫の奥、丁度自分の愛機の真ん前に位置する場所で佇んでいた女性へ声をかけた。

 

「調子はどうだ?」

「あ、レイナ隊長」

 

三つ編みの青髪に眼鏡をかけている女性はレイナのことを隊長と呼ぶ。仮面でその表情は見えないが、レイナは結構まんざらでもなさそうな顔をしていた。

 

「慣らしも終えましたし、機体の方は全く問題ありません。万全ですよ」

「機体ではなく、君のことを聞いているんだ。アシェリー」

 

ハンガーにかけられた機体を見やるレイナの横で、アシェリーと呼ばれた女性は微かにムッと表情を曇らせる。

 

「心配するなという顔だな。だが何しろ、この機体では初陣なのだからな」

 

アシェリー・オーソリティ。亡国機業にてISパイロットを務める彼女は、元々オータムがいた某国の特殊部隊に所属していただけに腕っぷしは確かである。ちなみにオータムとはこの時から親交があるらしく仲は良い。

今回の作戦でも本来ならスコール達と共に京都入りの段取りだったのだが、戦力増強のため<シェアーフィンス>隊の方にヘッドハンティングされる形となった。

 

そしてこのアシェリーはある能力を秘めている。レイナはまだその目で見たことはないが報告書を読んだ時は大いに興味が湧いてきたのを覚えている。

今レイナが見つめているIS、<ユングフラウ>はその能力を最大限に活かせる機体だ。

初陣を控えた<ユングフラウ>はその時を今か今かと心躍らせているように見える。

 

「慣れない機体だからといって、隊列は乱すなよ」

 

そう言い切ったレイナは、対面するように待機している愛機の元へと向かっていった。



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#32 ユングフラウ・キス

戦闘だー()


 

「第一戦闘配置!各員持ち場につけ!」

「対空兵装用意、本艦はこの場で待機!」

「進路クリアー。マクガイア隊ブラシウ隊、発進準備よろし!」

 

<シェアーフィンス>の両舷ハッチが開く。開いたハッチの目の前には晴天の空と青い海が広がる。

アラートが鳴り響く中、ハッチから次々と<ラファール・リヴァイヴ>を始めとしたIS隊が飛び立っていく。

 

「出るぞ、<シェアーフィンス>は動くなよ」

『単機で宜しいのですか』

「援護があるとかえって動きにくい」

 

言い切り、レイナは愛機を発進させる。

レイナが駆るのは<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>。シャルロット機と装備はほぼ同一だがシャルロット機のカラーリングがオレンジなのに対し、レイナ機はパープルに纏められている。

 

編隊の前に出たレイナの<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>は背部に装着されたブースターを使い、編隊と距離を離す。元々単独行動を命じられていたレイナにはおあつらえの展開になった。

途端に警告音が耳をつんざく。遥か彼方から2機の<打鉄>が自分へ迫ってきているのが見えた。恐らくこちらの動きを察知し警戒に当たっていた学園の機体だろう。

 

「さすがに展開が早い」

 

直後、<打鉄>が攻撃を開始。レイナは砲弾の間を縫うようにして急接近、瞬く間に距離を詰められた<打鉄>を嘲笑うようにレイナはガルムと呼ばれるアサルトカノンを右手に展開させ発砲。

ガルムの砲火を浴びた2機の<打鉄>は次々と被弾。その猛攻に限界だと判断したのか<打鉄>は撤退していく。

 

「やれやれ」

 

レイナの一方的かつ鮮やかな戦闘を艦橋のモニターで観戦していたマサラッキは苦笑する他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「小崎機、団野機帰投します!損傷を負っているようです!」

「くそッ!始まったか!」

 

第1アリーナの管制室にて戦闘開始の第一報を聞いた菅野はコンソールを叩く。

 

「BフィールドにIS隊接近!数5!いずれも<ラファール>タイプです!」

「Sフィールドにも3機きます!」

「8機も!?」

 

次々ともたらされる報告にフランシィは狼狽する。

ISは1機で軍隊に対抗しうる。それ故に外交や契約のカードに使われることも多い。彼女達はIS学園の教師。ISの恐ろしさはよく知っているし、それが8機もいる意味もまたよく分かった。

 

「総力戦、ってワケか」

 

菅野は独りごちる。すでにアリーナのカタパルトでは教師部隊が待機し、出撃命令を待っている。

 

「私も出る。フランシィ、ここは頼むぞ」

 

踵を返しエレベーターへと向かう菅野にフランシィは「わかったわ」と一言かける。

と、エレベーターへ乗りかけた菅野の足が止まる。

 

「そうだ、緑葉はどうした?」

 

緑葉は学園の関係者ではない。が、先日の戦闘で見せた手腕を見込んで、無理を承知で菅野達が千冬に独断で作戦に参加するように頼み、二つ返事で了承してもらった。

しかし今、緑葉の姿はどこにもない。

 

「第6アリーナにいるって言ってたわ」

「第6アリーナぁ?」

 

菅野は眉をひそめる。

 

「なんだってまたそんな場所にいるのかしらねぇ」

 

フランシィは首を傾げて椅子に座る。

IS学園に数ある大小のアリーナの中で、第6アリーナは特に使用頻度が低い。最後に公的に使ったのも数年前だと聞いている。場所も学園の端っこだからか裏取引の会場だなんだと良からぬ噂をいくつも聞く曰く付きの場所でもある。

 

「何をしようってんだ、緑葉は」

「ねえ、これ何かしら?」

「あぁん?」

 

レーダーを見ていた教員が疑問の声をあげ、菅野がレーダーを覗き見る。

 

「こんな場所に学園の機体は配置してないよな?」

「え、えぇ…」

 

レーダーはIS学園周辺だけでなく市街地も探知できるようになっている。そのレーダーに学園側の機体でも亡国機業側の機体でもない識別不明の反応が見られたのだ。それも市街地の中心部に。

フランシィも怪訝な表情で首をかしげるばかりであった。

 

 

 

 

第6アリーナには、緑葉の他に相川や鷹月、南井を始めとした一部の生徒や職員らも揃っている。

そんな彼女らの間をひっきりなしに動き回っている人影が1つ。緑葉らのISの機付長として鶴屋グループから派遣された明石だ。

 

「緑葉さんは思い切りはいいですけどまだ機体に慣れていないんですから、あまり無理はしないでくださいよ」

「分かってるって」

 

明石からの説明を受けた緑葉はハンガーにかけられた愛機、<瑞雲>に乗り込み、カタパルトへと向かう。

 

緑葉の専用機<瑞雲>は鶴屋重工が開発した第2世代型に当たるISだ。緑色をパーソナルカラーとした本機は卓越した安定性を誇り、長距離、中距離、近距離戦に対応できるバランス型。

第2世代型ではあるが、時期的に第3世代の機体と同時期に開発が始められたため、第3世代機にも引けを取らない実力を発揮できる高性能も持ち合わせている。

 

一方でジェネレーター出力の関係上、密かに開発が進められていた携帯型ビーム兵器は使用することは出来ない。もっとも、実弾武装でも充分圧倒できるため緑葉からしたら些細な問題なのだが。

 

相川達に一瞥したのち緑射出ユニットへ両足を置き、身を屈み叫ぶ。

 

「緑葉ナツ、<瑞雲>出るぞ!!」

 

ターン、というアラート音と共に緑葉は弾かれるように<瑞雲>を発進させる。

<天照>と同等のバイザーを装着すると、不気味な音を立ててモノアイが妖しく光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園の教師陣が設定したSフィールド付近には、<シェアーフィンス>より出撃した3機のISが学園に向け接近してきていた。

3機のうち2機は通常タイプの<ラファール・リヴァイヴ>だが、あとの1機、アシェリーが駆る<ユングフラウ>は他の機体とは一線を画している。

 

<ユングフラウ>は、各国のIS技術を盗み出してきた亡国機業が独自に開発した機体だ。カラーリングは水浅葱色と、細部には藍色が塗られている。

カスタムウィングはそれぞれ両肩に2基、計4基装備し、大出力かつ高機動という特性を確保。

武装は両手にシングスピールと呼ばれるビーム砲を手首袖口に内蔵。腰部には剣がマウントされている。

そして本機にはある特殊な兵装も試験的に実装されていた。この<ユングフラウ>最大の武装になりうるビット兵装だ。イギリスの<ブルーティアーズ>との差別化を図るために、このビットにはファンネルという新しい名称が授けられた。

 

このファンネル、<ブルーティアーズ>のそれとは違いかなりの小型化が図られており、丁度手を大きく開いたサイズとほぼ同じ。

また搭載数も大幅に増やされ、前者が6基なのに対し後者である<ユングフラウ>のファンネルは計24基装備可能であり、それぞれ6基ずつ両肩のカスタムウィング内に収納することができる。

威力は<ブルーティアーズ>のよりは格段に落ちるが、数によって翻弄できるという意味ではある意味脅威は増した、と考えてもいいだろう。

 

「どうアシェリー、新型の乗り心地は」

「大丈夫です。問題ありません」

 

今のところトラブルはない。後はこのまま学園へ向けて進軍するだけ。

 

のはずだった。

 

「——ッ!?」

 

突如アシェリーを頭痛が襲う。その場で機体を急停止させると頭を抑えつける。

 

「どうしたのアシェリー!?」

『第2小隊!動きが止まったぞ、どうした!?』

「アシェリーがいきなり頭が痛いって…」

『何!?』

 

<シェアーフィンス>からの応答に護衛機のパイロットが返す。

こちら側の異変に気付いた<シェアーフィンス>の方にもたちまちどよめきが起こる。

 

(この身体全体に突き刺さるような、ゾワゾワとした感覚は……)

 

アシェリーは悪寒を感じながら感覚が指し示す場所を探す。

投影型パネルを操作し、マップを表示。血まなこになりながらマップを見やっている中で彼女は見つけた。奇妙な感覚の出所を。

 

「こっちか!」

「アシェリー!?」

 

頭痛から立ち直ったと思ったら、今度は何を思ったか学園とは真反対の方向に機体を翻したアシェリー。

これには護衛に付いていた2人も困惑する他ない。しかもアシェリーは全速力で飛び去っていった。呼びかけを行なう<シェアーフィンス>に一言二言残し、護衛機もまたアシェリーの<ユングフラウ>から遅れないように後に続いた。

 

もう随分とIS学園から離れ、眼下には市街地が広がっている。アシェリーの護衛についているヘレン・トロイが位置を確認すると市の中心街だということが分かった。

 

「そろそろ見えてもおかしくはないけど」

 

ここへ向かう途中、レーダーに敵のでも味方のでもない反応が確認された。そしてその反応は今まさに自分達がいる横浜の中心街上空を示していた。

アシェリーが気にしていた事象と同一だと判断したが、その反応を示すものは未だに見えない。

 

「ヘレン!」

「何!?レーダージャミングか!」

 

レーダーが使えなくなり、ヘレンの感覚が一気に研ぎ澄まされる。これ以上深入りするのはマズい。本能がそう叫ぶ。

 

「アシェリー!!」

 

先行していたアシェリーへむけて叫ぶが、返事が返ってこない。いや、返事ができないのだ。

 

「……………………!」

 

ヘレン達より更に数百メートル進んだ場所にて、震える身体を両腕で抑えつけながら、アシェリーは1機のISと対峙していた。

 

眼前にいるのはデータにない緑色の機体。単眼がギロリとアシェリーを捉え、彼女は唾を飲んだ。



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#33 Battle Of Yokohama

 

「違うやつがきたか?」

 

横浜の中心街上空にて滞空していた緑葉はアシェリーの姿を認めて首を傾げる。

妙な反応を確認した緑葉は反応が示す場所へと急行。しかし周りには何も見られず、ガセネタだと引き返そうとした矢先に現れたのがアシェリーの<ユングフラウ>だった。

 

「見たことない機体……あちらさんの新型か…?」

 

パネルを投影させ識別信号を調べるが、いずれの機体にも該当しない。そしてそれはアシェリーも同じであった。

 

「データにない機体?一体どこの…」

 

互いに緊張が走る。それぞれ一定の距離を保ちながら、相手の出方を伺う。

やがて牽制が解かれる。ニヤリと口元に笑みを浮かべ先に動いたのは緑葉。

 

「狙ってたやつじゃないけど……しかし!」

「こいつ!?」

 

ヒートホークを抜き肉薄する緑葉を間一髪で交わしたアシェリーは機体を上昇させる。

しかしアシェリーは自分の目を疑う。相手の機体の右手にはロングバレルのライフル。

 

「まさか…!」

 

アシェリーの背筋に寒気が走り、緑葉が吼えた。

 

「この角度なら問題ないでしょ!!」

 

直後、緑葉は引き金を引く。放たれた熱線はアシェリーの傍スレスレを通過し、空に一閃の光線を作る。

 

緑葉が装備している試作型ビームライフルはライフル自体に外部ジェネレーターが取り付けられているため、ビーム兵器が使用できない<瑞雲>でも運用できるように仕上げられている。その代わり弾数は4発だ。

 

緑葉が放った光線を目撃したヘレンらもうろたえる。

 

「レーザー攻撃!?」

 

亡国機業サイドにも街中での戦闘は避けろと通達されていた。それは恐らく向こうも同じだっただろう。

しかしまさか、よりによってレーザー兵器を使うとは思っていなかった。街に着弾しないようにアシェリーが上昇したところを狙ったあたり、街への被害は最小限にとどめたいと見て取れる。

 

「ヘレン!こっちに敵機が向かってる!」

「チッ!嵌められたっていうの!?だけど誰に…」

 

ヘレンは同僚のオパール・ライティアと共に戦闘態勢に入る。

一方、緑葉の護衛についていた龍驤と本音も亡国機業のIS部隊を目視で確認。ライフルとシールドを携える。

 

「できるだけ交戦は避けたかったんやけどな…」

「でも大佐もう戦ってる〜」

「ぐぅ〜しゃーないなぁ」

 

学園への回線を開こうとする龍驤は戦闘に入った緑葉に対し悪態をつく。ちなみに本音の言う大佐とは緑葉のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これがイエローファイター……」

「格が違いすぎる…」

「どうしたぁその程度かァ!」

 

亡国機業側の<ラファール・リヴァイヴ>が菅野の銃撃を浴びて機体に小規模な爆発がおきる。

校庭上空にて戦闘状態に入っていた亡国機業とIS学園の戦いは地の利と経験を活かした学園側が優位に進めていた。

 

「イスパー機中破!」

「そんな!まだ始まって5分も経っていないわよ!?」

「これじゃあ足止めもできないよ!」

 

そもそもIS学園の教師は生徒達にISのイロハを教えることが主。搭乗時間や知識、経験は軍に所属するISパイロットと同じくらい豊富だ。中にはかつて代表候補生や国家代表などに近しい地位にいた経験を持つ腕利きなどがゴロゴロいる。

一方で亡国機業側、スコールやレイナ、オータムなど腕の立つ人はいるが、正直他のパイロットのレベルはそこまで高くない。言ってしまえばどんぐりの背比べ状態なのだ。

 

「キャアッ!」

「リャスナ!?ぐぎゃが!?」

「体勢を!体勢を立て直さな……ギャッ!」

 

このように、菅野を始めとした教師部隊に押されまくり前線はほぼ崩壊。実戦経験も乏しいため指揮系統も混乱してしまっている。

 

「ハァアアアアアアアッ!!」

「キャアアアアアアア!!?」

 

そしてもう1つ、学園側が優位に立っていられるのは相川が駆る<天照>とサポートに回っている鷹月の存在が大きい。

この場において最も性能が上かつ、照合データにない<天照>の攻撃パターンに対処できず脱落し離脱していく機体も出ている。

 

「くそっ!なにあの機体は!」

「専用機持ちは全員出払っているはずじゃなかったの!?」

 

そう悪態を吐くのも無理はない。亡国機業の下っ端兵に言わせてみれば専用機持ちは全員京都に行っている、と聞かされている。そのため<天照>ないし新手の新型の登場はほとんど予測できていなかった。

 

「実戦てのはな、生き物なんだよ!!」

「「ギャアアアアアアアアア!!??」」

 

相川と菅野の猛攻をもろに浴びた2機の<ラファール>はギリギリのところで旋回させそのまま離脱。残っていた機体もこれ以上は無理だと悟り、顔を青ざめさせながら撤退していった。

撤退していくIS部隊を見送っていた菅野が溜め息をつく。

 

「なんだあっけない。もっとホネのあるやつはいねーのか」

 

歯応えのある敵を望んでいた菅野からすれば、とんだ肩透かしである。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「これが…実戦……」

 

しかしまだまだ余裕が見られる菅野とは対照的に『明確な敵戦力との初の実戦』を経験した相川と鷹月の顔には精神的疲労が見られていた。

屈強な兵士でも初の実戦ではプレッシャーと緊張、恐怖で押し潰され、最悪その後精神を崩壊させ使い物にならなくなるという話は古今東西よく聞かれる。そう考えると初の実戦であれだけの働きをした相川と鷹月がかなり頑張っているのは一目瞭然である。

 

「大丈夫か?」

 

当然それに気付いている菅野は2人を気遣う。相川と鷹月は「なんとか…」「大丈夫です…」と返し、ピットへ戻る。

 

管制室にて戦闘の様子を見ていたフランシィを始めとした面々にも安堵の表情が見て取れた。

 

「これで一応はなんとかなったかしら」

「一時はどうなるかと思いましたけどね…」

「相手側の練度が低かったのは、なんというか幸いでしたね」

「あとは事後処理して、夜にはゆっくりディナーが食べれるかしら」

「あ、お付き合いしていいですか?」

「ウフフ、いいわよ」

 

管制室に和やかな空気が流れ始めた時、それを切り捨てるようにアラートが鳴り響く。

 

「地下区画に機影確認!数1!」

「照合データ確認…、これは<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>です!」

 

座っていた椅子から立ち上がったフランシィはモニターを見やる。そこには地下区画に設置された警備システムを破壊しながら区画内の通路を直進する<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>の姿が確認できた。

 

「報告にあった機体ね。でも、どこから入り込んだのかしら」

「恐らく下水道かと。地下区画から下水道へ続く地下通路の扉が破壊されているのを発見しました」

 

この<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>こそ、哨戒中に中破させられた団野から報告に上がった機体と同一機だろう。瞬く間に<打鉄>2機を中破に追い込み、迷いなく下水道から学園の地下区画へと続く道を発見したこのパイロット、只者ではない。

 

「でも、地下区画に何の用があるのかしらねぇ…」

 

学園の地下区画に入るには、『レベル4』以上の権限が必要になる。

IS学園の主要施設には必ずレベル別で入室できる設定がなされている。大体の施設はレベル1なため権限とかは気にする必要はない。

しかし一部施設にはレベル3など高めの設定がされており、一般の生徒は入れないようになっている。

余談だが、緑葉達が居座っている第6アリーナはレベル3に分類される。

 

レベル4の設定がされている地下区画は生徒はおろかフランシィを始めとした教師らも立ち入りが禁じられているエリア。レベル4の権限を持つ人物は千冬、真耶などほんの一握りの教師、生徒に至っては生徒会長に就いている楯無のみが入室を許されている。

 

「このまま静観するしかないのかしら…」

「私達は入れませんしね」

 

千冬、真耶、楯無不在の中、IS学園にいる人物でレベル4の権限を持つ者はいない。こちらは侵入者の討伐に向かう以前にそもそも地下区画に入れない。

そして侵入者は楽々地下区画に侵入、厳重な警備システムが聞いて呆れる。なんともお間抜けな話である。

 

「フランシィ先生!」

 

そこへ1人の生徒が声を上げる。レーダー監視を任されていた3年生の子だ。

「どうしたの?」とフランシィが訊ねる。

 

「市街上空で、戦闘の光と思しきモノを捉えたと…」

「なんですって!?」

「龍驤さんから通信です!『ワレラ、敵機ト遭遇セリ。緑葉機、新型ト思シキ機体ト戦闘状態ニ入ル』!」

「照合データ確認。<打鉄>2、<瑞雲>1、<ラファール・リヴァイヴ>2!それとデータにない機体が1機!」

「緑葉機、アンノウン機体 と交戦状態に突入!現在県道13号線を平沼1丁目から帷子川方面へ急速で移動中!」

 

一難去ってまた一難。しかも飛び切り厄介な案件だ。

恐らく夜のディナーには行けそうもない。そして千冬からは叱責を受けることは間違いなかった。



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#34 ブラック・ハウンド・ハウンズ

「何、こいつ…!?スペックはこっちの方が上なはず…!」

「機体の性能が、全てを決めるわけじゃないんだよ!!」

 

横浜市内、その中心地を舞台にアシェリーと緑葉の戦闘が繰り広げられていた。

2人は大通りを滑空しながらそれぞれビームサーベルとヒートホークで組み伏せる。

 

ここまで緑葉が優位に立っており、機体性能では上な<ユングフラウ>を駆るアシェリーは焦りとある種の恐怖を覚えていた。

第2世代と第3世代の性能差を全く感じさせない力を発揮する<瑞雲>と、パイロットである緑葉から発せられる気迫とプレッシャーにアシェリーは押し負けていた。

 

「ぐっ…!ぐぅぅ…………!」

 

アシェリーは苦悶の表情を見せる。対照的に緑葉はバイザー越しにニヤリを笑みを浮かべる。

 

「見たことない機体…そしてこのパワー…」

「この……ッ!ガァッ!?」

 

反撃に打って出ようとアシェリーが動いた途端、背中に強い衝撃が走る。ビルに叩きつけられたのだ。

 

「戦果としては、申し分ない!!」

 

そちらに気を取られていた隙に、緑葉は左手に<打鉄>のブレードを持ち、牙突の構えを作る。咄嗟に身を起こしたアシェリーは勢いそのままに緑葉へとタックル。体勢を崩した緑葉の<瑞雲>から距離を取る。

 

「アシェリー!くっ…!」

 

ヘレン達が援護に向かおうとするも、そこへ薙刀を振るう龍驤が割り込む。

 

「リーヴァ2は牽制を!ウチはナt……大佐を止める!」

「らじゃー!」

 

リーヴァ2もとい本音が両手にブレードを構える。本音を1対2という構図に置いてしまったことは

 

「大佐!街での戦闘は御法度や!」

 

しかし龍驤の言葉は届かない。意に介さない緑葉は道路スレスレを滑空しながら<ユングフラウ>を追う。

 

緑葉と龍驤、本音の3人はバイザー、変声機などをつけ極力身元を隠して戦闘を行なっている。しかしそういつまでも市街地で戦闘行動を取るわけにもいかない。亡国機業側も同様だ。

 

「アシェリー!機体を上昇させろ!そのままでは被害が…!」

 

ヘレンが叫ぶところへ本音が斬りかかる。

 

「やらせない!」

「オパールか!?助かる!」

「むっ、もう1機!」

 

オパールの援護に本音は一旦退く。

 

「せめてこいつだけでも海側へ陽動する!飛び道具は使わない!やれるか!?」

「やるしかないでしょ!」

 

もはやどっちが悪役なのか分からない。

ヘレンとオパールは連携攻撃を展開しながら本音の<打鉄>を翻弄していく。

 

「むー、おびき出そうとしてるねー」

 

左手に持っていたブレードを仕舞いながら2機の動きを探っていた本音が確信じみた微笑みを作る。こういう場面での彼女の勘というのは侮れない。

 

「大佐と龍驤さんは大丈夫だとして、私はどうしようか…」

 

秋の学年別トーナメント戦においての緑葉と龍驤の腕前は本音も知っている。何しろある意味1番近くで見ていたのは他でもない彼女だから。

 

「海の方に私を追い込もうとしてる辺り、向こうもこっちと同じかな?」

 

チラリと、本音は眼下に広がる街の風景を見やる。普段は多数のサラリーマン達が闊歩している駅前や大通りも突然始まった戦闘にパニック状態になっている。

 

街への被害は最小限に、というか絶対に出すな。という命令は亡国機業の方も厳しく言われているみたいだ。

 

「なら乗せられてもいいよね」

 

本音も街中で戦闘などしたくないし、学園をテロリストに攻め込まれた被害者であるこちらが街に被害を出す加害者になるなど以ての外。

本音はバーニアを吹かし、2機の<ラファール>の後を追っていった。

 

 

 

 

打開策を探すアシェリーとそれを追う緑葉が鉄道の真上を通る陸橋に差し掛かる。

 

「やるしかない…!この出力なら…!」

 

機体を後退させながらパネルをタッチし武装の設定を急ぐ。その武装とは<ユングフラウ>を象徴するファンネル。彼女は迫る緑葉に気を張りながらファンネルの出力調整を行なっていた。

ファンネルの元々の威力はそこまで高くないが、それでも街中では脅威になる。そこでアシェリーはファンネルの出力を最低値に設定し牽制を計ることに。

 

「いけ!ファンネル!」

 

<ユングフラウ>の4枚ある羽のうちの1枚から三角形の物体が3つ飛び出す。

このファンネルはブルーティアーズの流れを汲む兵装だが、セシリアのケースとは違いファンネルを動かす時に機体を動かせなくなることはない。亡国機業側の技術力と、アシェリーの機体適性が成せる業だ。

 

ファンネルはそれぞれが意思を持ったように緑葉の周囲に散らばる。そして3つのファンネルから熱線が放たれ、うち1つが<瑞雲>の左腕に命中する。

 

「ッ!ファンネルか!」

 

ファンネルの存在に気付いた緑葉が機体を右へ左へ揺らす。なるべくファンネルの射線上に入らないための動きだ。

 

「こんなオモチャで私に勝てると思っているのか!!」

 

緑葉は半ば無理矢理と言った具合に機体を操る。偶然にも1つのファンネルを引っ掴むと思い切り握りしめる。

握り締められたファンネルはメキメキと嫌な音を立てる。やがてベキッと握り潰され、小さな爆発を起こす。

 

「なんなのよコイツは!?」

 

目の前で自分のファンネルをひっ掴み、握り潰した緑葉に対しアシェリーは戦慄する。

 

(侮ってなんかない…、でも明らかにコイツは他の雑魚とは違う!)

 

アシェリーは機体を旋回させ、<瑞雲>のワイヤー攻撃を避ける。

いつのまにか他のファンネルのシグナルも消滅していた。3基全て落とされたのだ。言うまでもなく、あの機体に。

 

「その機体、じっくり調べさせてもらおうかな?」

「ちょっ!?それこっちの台詞!」

「こっちだって事情があるんだ…よっ」

「キャアッ!」

 

緑葉が振るったヒートホークが<ユングフラウ>の装甲を切り裂く。絶対防御があるにも関わらず、超高温まで加熱されたヒートホークは容易く頑強な装甲を溶かす。

機体を持ち直したアシェリーが急上昇。緑葉も後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

京都から東京へ向かう新幹線の中で、全ての作戦を終えた一夏達は疲労からぐったりと席に沈み込んでいた。

 

「疲れたわね」

「あぁ…」

 

それきり、鈴とラウラも口を閉じ、車窓をジッと眺めたまま。セシリアや簪、箒はすっかり寝息を立てている。

その様子を見守っていたシャルロットが沈痛な心境を感じながら空席になっている2つの席を見る。本来そこに座るはずだったダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアはもういない。

 

両名の裏切り、<白式>の暴走、協力体制を敷いていたイタリア国家代表もまた亡国機業に降ったという話だ。

色々あった。せめて今だけでも、ゆっくり休んでいたい。

 

「む…?」

 

不意に千冬の携帯電話が鳴る。うつらうつらしていた千冬は重たい動作でポケットから携帯を取り出す。

 

「フランシィからか…?」

「んぅ…?織斑先生、どうかしましたか?」

「あぁ山田先生。起こしてしまいましたか」

「それは大丈夫ですけど…何かあったんですか?」

「学園から電話が入ってきたので、少し失礼します」

 

千冬は席を立ち、デッキへと移動する。寝起きの真耶は千冬の後ろ姿を目を擦りながら見送る。

数分後、千冬が席へと戻ってくる。しかしその様子はどこかおかしい。険しい表情を浮かべる千冬に対し、一夏やシャルロットは妙に不安な面持ちになる。

 

「寝ている者を今すぐ起こせ」

「え?」

 

唐突に言われた言葉に一夏達はキョトンと固まる。言われるがまま一夏とシャルロットら起きている面々は困惑しながら寝ていたセシリア達を起こす。

 

「なんですの一夏さん…まだ終点ではありませんのでしょう?」

 

未だ夢と現実の境目にいるセシリアが一夏に訊ねる。しかし一夏も分からないという具合で首を捻る。

 

「いや、俺も何がなんだか…。織斑先生から今すぐ全員起こせって言われて」

「織斑先生がか?」

「あぁ。さっき電話があったらしくて、でも電話し終えてからなんか様子が変でさ」

 

水を一杯あおった箒もまた怪訝な面持ちを浮かべる。

千冬は一瞬窓の外を見ると、すぐに一夏達へ目を向け、こう言い放った。

 

「お前達、今すぐ降りる準備をしろ」

「へ?」

 

思わず誰かが素っ頓狂な声をあげる。

 

「次の駅で降りる」

「おっ、織斑先生!?」

 

千冬から放たれたまさかの発言に真耶もさすがに面食らう。専用機持ちもまた困惑する。

 

「静まれ、理由は降りてから話す」

「学園に何かあったのですか?まさか!?」

 

ある1つの結論に至ったセシリアに対し、千冬は沈黙で答えてみせる。

 

やがて次の停車駅、ほぼ全ての列車が止まるため何気に知名度がある新横浜駅へと到着する。一夏達は新幹線から降り、ロータリーへと出る。因みに一夏達が乗っていたのぞみは京都からずっとノンストップで走り続けるため、次の駅といっても東京を入れて3駅しかないのだが。

駅から程近い公園にて、千冬が語り始める。

 

「先程フランシィから連絡が入った。学園にも亡国機業が襲撃してきたとのことだ」

「!?」

 

千冬と楯無以外の全員から血の気が引く。

 

「やってくれるわね…」

「お姉ちゃん…」

 

楯無は苦虫を噛み潰したような表情を作る。自分達がいない隙を突いての攻撃、グッと拳に力がこもる。

 

「しかし、そちらの方はひとまず大丈夫らしい」

「どういうことですか、教官」

「IS部隊は教師部隊によって撃破され、亡国機業の主力部隊は撤退した」

 

その言葉に専用機持ちは気を取り直す。少なくとも、学園に大きな被害はなさそうだ。

 

「だが、それでもこちら側は2機が中破された。また地下区画にも1機侵入を許し、現在そちらの対処をしているとのことだ」

「つまり我々はここから学園の支援、または後処理の手伝いに迎えと言うことですね」

 

ラウラの言葉に、千冬は「うむ」と頷く。しかし千冬の表情は重いままだ。

自分が不在の時に攻撃を許したというところに思うところはあるのだろう。だが次に発せられた台詞から察するに、どうやらそういう訳ではないらしい。

 

「しかしまだ…まぁ、ある意味1番厄介な問題があってな…」

「厄介な問題?」

 

一夏が眉をひそめた時、どこからか若者の話し声が聞こえてきた。

 

「え、マジで?」

「マジだって!ダチのタカシが見たんだって!街中のど真ん中でISが戦ってたんだってよ!!」

 

皆の表情が一様に変わる。

耳を澄まして会話を聞いている中、シャルロットが若者2人組へと駆け寄る。

 

「あの!その話詳しく聞かせてもらえませんか!?」

「え?あ、あぁ……」

「いいけどよ…」

 

シャルロットから詰められてた2人組は戸惑いながらも端的に語り始める。

 

「っていってもオレらも知ったのさっきだからよく分かんねーんだけどさ。おい、タカシのヤローどこで見たつってた?」

「横浜だよ、それも中心地でよ!あっちはパニックらしいぜ!」

「しかもさっきまでタカシと通じてた電話がいきなり使えなくなったしよー」

「なんかめちゃくちゃ大規模な通信障害が起きてるらしいぜ」

「アイツ死んでねーよな?なんつーか、流れ弾とかそーゆーのに当たってあの世とか…」

「んな不吉なこと言うなって」

 

友人であるタカシの安否を心配してか、2人組は不安な面持ちになる。

 

「それで、その人何か他に言ってませんでしたか?機体の特徴とか…」

「あー、そーいやなんか変わってたつーか見たことねーヤツだって言ってたな」

「見たことないヤツ?」

 

シャルロットは首を傾げる。世間一般にも知られている<打鉄>や<ラファール・リヴァイヴ>の類いではないのか?

 

「あぁ。タカシのヤロー目の前で見て興奮したのかそこだけは無駄にしゃべりまくっててよ。4枚羽のやつと緑色の一つ目が揉みくちゃになりながらビルの壁壊してて、それで危なくなって逃げたって」

「4枚羽…一つ目…、織斑先生!」

 

シャルロットが千冬の元へ振り返る。

 

「え…?織斑って…」

「つか、この子の服装…」

 

ここにきてシャルロット達の正体に勘付いたのか2人組は目を見開く。

緑色の一つ目、に心当たりがありすぎる一夏達も互いに見合わせ引きつり笑いを作る。

そんな周りを他所に、千冬は頭を抱えながら溜め息を吐いた。

 

「改めて厄介な存在だな……緑葉め」

 





「例の通信障害は亡国機業と鶴屋家の工作によるものやで」
「今の時代、SNSやネットの力というのは凄いからね。優秀だけど諸刃の剣だよ」
「SNSって、二次創作やとなかなか物語に組み込みづらいっちゅー要素は少なからずある印象なんやけど。そこも上手く書けるように頑張っていくで」
「あとISキャラ達のSNS事情についてのネタも少し考えているから、そのうちね」


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#35 サーカス・マキシマス

「ではこれより、チームを二班に分ける」

 

説明を終えたのち、千冬は専用機持ちを見据える。

 

「学園側にはオルコット、凰、篠ノ之、簪の4人だ。第二波も考えられる、気を抜くなよ。私もそちらへ向かう」

「わかりましたわ」

 

セシリアが自信に満ちた返事をし、他のメンバーも力強く頷く。

「いい心構えだ」と満足げな笑みを浮かべた千冬は次に一夏達を見る。

 

「緑葉の方には織斑、デュノア、ボーデヴィッヒ、楯無に行ってもらう。そちらには山田先生が同行する。なお、市街地戦の可能性が高いため街への被害は最小限に留めろ。特にデュノアとボーデヴィッヒは飛び道具は使うなよ」

「おう!」

「分かりました!」

「了解です!教官!」

 

一夏、シャルロットはそれぞれ気合の入った返事をする。ラウラは直立不動の敬礼を見せ楯無もまた不敵な笑みを浮かべる。

どのチームでも一国の軍隊を相手取ることが出来る戦力を誇っている。それがISであり、代表候補生ならびに国家代表だ。

 

「よし。ではこれより作戦を開始する!」

 

千冬の号令と共に皆一斉にそれぞれの愛機を展開させる。

昨日の激戦からまだそこまで時間は経っていない。100%のコンディションを出せるとは言いがたいが今回は戦闘が目的ではない。

 

「篠ノ之、頼む」

「分かりました」

 

箒は千冬を抱き抱えて浮上。生身である千冬の身体へ負荷をかけないようゆっくりと飛び立つ。それに続く形でセシリア、鈴、簪も空高くへと飛び立つ。

 

「私達もいきますよ!」

「はい!!」

 

<ラファール・リヴァイヴ・スペシャル>を身に纏った真耶が砂埃を巻き上げながら飛び立ち、後の面々も真耶に続いた。

 

「む?」

 

1番最後に飛翔したラウラが不意に機体を止める。彼女は後ろへ振り向き、さっきまで自分達がいた公園をジッと眺める。

 

(今、誰かに……)

 

実を言うと、ラウラは公園で作戦会議をしている間にもしきりに辺りを見回していた。というのも、誰かに見られている気配を感じていたのだ。

しかしいざ目を配ってもその姿は見えず、感じた気配も曖昧なものだったため特に意見する内容ではないと判断していた。

 

「ラウラー、先行っちまうぞー」

 

公園の方を見つめるラウラに一夏が声をかける。彼をはじめ、他の皆はラウラが感じた気配には気が付いてはいなかった。

 

「あ、あぁ」

 

妙な引っかかりを感じながら、ラウラはぎこちない返答をし、一夏とシャルロットの後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

鶴見区。

神奈川県横浜市を構成する18の行政区の1つで、その中でも鶴見は約30万の人工を抱え特に大きな規模を誇る区である。

北は川崎から東京都心、南は横浜中心地、西に行けばベッドタウンとしても注目を集めている武蔵小杉へと続き、東京湾側には京浜工業地帯があり、特に鶴見は工業地帯の中核地として大きな役割を果たしている。

 

そんな鶴見の中心地に位置する鶴見駅。駅西口の一角には某ハンバーガーチェーンの店がある。立地が立地なだけに24時間客足が絶えることがない店だが、今日はいやに人だかりが出来ていた。

1つ言うと、この人だかりは店に並んでいるわけではなく、店を取り囲むようにしながら作られていた。

 

「に…216番のお客様…、お…お待たせいたしました…」

「お、きたか」

 

レジを任されていた新米のアルバイト店員が番号を言う。しかしその声は緊張からかどこか引きつり、紙袋を持つ手もガタガタと震えている。

仕事に生真面目な人が見たら青筋立てて怒鳴りつけそうな接客対応だが、それも致し方ないかもしれない。

 

対応マニュアルがあるマナーの悪い客だったらどれだけマシだっただろう。果たして想像できるだろうか、『ISに乗った人がハンバーガー買いに来た』なんてケースを。

 

ニコニコと笑顔を見せるIS操縦者、緑葉は鼻唄を口ずさみながら背中のパーツからニョキっと姿を見せたサブアームを操り店員の手にある紙袋を突き破らないように掴む。

その器用かつ繊細な操縦テクニックを見た群衆からは「おお」と歓声が上がる。

品物を受け取った緑葉はもう片方のサブアームを使い、自身の接客に当たってくれていた店員の掌に小さな封筒を落とす。

 

店員が恐る恐る封筒を開けると、そこには1万円札が5枚、計5万円が同封されていた。

これは頂けない。そう目で訴える店員に対し緑葉はニヘラと笑う。

 

「取っといてって、迷惑料というか、チップがわりにさ」

 

サブアームを仕舞い込んだ緑葉が店から2、3歩下がり、バイザーをつける。

周りを見ればどこもかしこも人人人人。こんな光景注目されるに決まってる。皆こちらへ携帯やらカメラやら向けて撮影中といった様子だ。

やれやれといった具合で緑葉が人だかりへ向け叫ぶ。

 

「離れろ!吹き飛ばされても知らないよ!」

 

次の瞬間には緑葉は既に空中に浮かび上がっており、目線がこちらへ届く前に退散。近くのビルの屋上、地上から死角となり見えない場所へと着地する。

 

何故緑葉が<瑞雲>を展開したまま買い出しをしなくてはいけなくなったのかだが、実を言うとまだ<ユングフラウ>を退けたわけではないのだ。現にセンサー圏内に反応があり、今は互いに膠着状態に入っていた。

<ユングフラウ>がいつ襲撃してくるか分からない現状、ISを解除するのはかえって危険だと判断した結果がさっきの買い出しである。それが良かったのかどうかは緑葉にも分からないが。

 

「さーてさて、遅めの昼飯といこうかなっと、おろ?」

 

ハンバーガーを頬張ろうとした緑葉の耳に電話のコール音が届く。

言うまでもなく自分の携帯のものなため、緑葉は右腕を部分解除して電話に出る。

 

「はいもしもし緑葉です」

『緑葉さんですか?加賀です』

「加賀さん?どうしたの?」

 

一夏達の行動を監視するために京都へ向かった加賀からの電話。緑葉はいつもの調子で応答する。

 

「珍しいね加賀さんからくるなんて、そういえばもう新幹線乗ったの?乗ってないならお土産頼みたいk」

『そっちへ<白式>が向かっているわ』

「ほお?」

 

緑葉の表情が険しくなる。

詳しく話を聞くと、緑葉の制止と<ユングフラウ>の迎撃に一夏、シャルロット、ラウラ、楯無、真耶が差し向けられたという。また学園の援護にはセシリア、鈴、箒、簪、そして千冬が向かったと聞かされる。

 

『そしてもう1つ。横須賀に駐屯している米軍のIS部隊が貴女達の元へスクランブル発進したって』

「うーん…」

 

苦笑いを浮かべ食べきったハンバーガーの包み紙を袋へ仕舞う。

専用機持ちが5人、さらには米軍ときた。緑葉とアシェリーを相手取るにはいささか戦力が過剰な気もしなくもない。それほどにまで評価、いや、危険視されている証なのだろうか。

 

『どうします?私も出撃しますか?』

「いや、その必要はない。皆の目を引いているのは私だ。加賀さんはそのまま待機でお願い」

『分かりました。では、以降の段取りも』

「あぁ、頼むね」

 

加賀との通話が切れ、緑葉は空を見上げる。

 

「さて、どうなるかな。これ以上<ユングフラウ>にも構っていられなくなった」

 

展開したモニターにはいつ、どこで手に入れたのか、現在緑葉と交戦状態に入っている敵IS<ユングフラウ>のデータが表示される。

モニターを眺めながら緑葉は苦笑する。

 

「少なくとも、私が米軍に狙われる自体は避けたい。あくまで私は被害者で、相手はテロリストなんだから」

 

こちらはIS学園側。街への被害はさておき緑葉達には『学園を亡国機業というテロリストに襲撃され正当防衛の迎撃に当たった』という大義名分がある。少なくとも、米軍がこちらに敵対するつもりはないと見ていい。

 

チラリ、と緑葉は遠くを見る。丁度<ユングフラウ>の反応がある方角だ。相手にも米軍接近は伝わっているだろう。

 

「……フン」

 

鼻を鳴らし、ステップを踏みその場から離れると先程まで自分が座っていた場所を熱線が溶かす。

やはり<ユングフラウ>からしても援軍が到着する前にケリをつけたいと見た。

警告音が鳴り、目視でも4枚の羽をなびかせた<ユングフラウ>を捉える。緑葉は両手にブレードを握り、ニヤリと笑った。

 

 

 

 

IS学園地下区画、残っていた最後の警備システムを破壊したレイナが『Level4』と書かれた扉の前に立つ。

さすがにあっけなさすぎる、というのが率直な感想ではあったが、この場合はむしろありがたい。

 

レイナは前もって『あるルート』から入手していた山田真耶の網膜と指紋のデータを用いて扉を開けようとするが、モニターにはエラーの文字。

 

「チッ、だめか」

 

レイナは悪態をついて腕を組む。教員のデータが手に入れられずやっとの思いで手に入れた切り札が使えないとなると、もはやお手上げだ。

切り替えてせめて少しでも情報を掴もうと移動しようとした時、<シェアーフィンス>のマサラッキから通信が入る。

 

『隊長、レイナ隊長』

「どうした?」

『そちらに向かっている編隊をキャッチしました。例の専用機持ちです』

「もうきたか」

 

ちょうどこの時間帯に京都から東京に戻ってくることは学園を離反したダリルからもたらされた情報と一致する。レイナ達も一夏達が乗り込むだろう新幹線の時刻は事前に調べ上げ把握していた。

にしても展開が早すぎる。レイナはマサラッキに問うた。

 

「艦長、その編隊はどの方角からこちらに迫ってきている?」

『学園の位置から見て、11時の方角だ』

「とすると、奴ら手前で降りたな」

『恐らくそう見て間違いないだろう。相手は専用機持ちの代表候補生だ。いくら隊長の腕をもってしても厳しいと思うが』

「分かっているよ、こちらの残存戦力は?」

『学園を攻撃した本隊は既にこちらに撤退済みだ。そちらに残っているのは君だけだ』

「おいおい……」

 

なんたる無様な結果だ。レイナは仮面越しに顔色を変える。

元々が本隊も別働隊もレイナを学園地下区画へ侵入させるための陽動。練度の方も正直なことを言えば期待していなかった。しかしこれはあまりにも情けなさすぎる。

あとで叱責ものだな、と憤りを見せかけたレイナはマサラッキへ呼びかける。

 

「別働隊はどうした?」

『全機健在です』

 

その報告にレイナの表情は若干緩む。本隊の面々とは違って別働隊のメンバーであるヘレンとオパール、そしてアシェリーは組織内でも手練れの部類に入る。

 

『現在トロイ機とモルニ機は海上にて敵ISと交戦中。頃合いを見て撤収すると』

「そうか」

『それと…、<ユングフラウ>なのだが…』

 

マサラッキの声色が変わる。

 

「アシェリーがどうした?」

『……敵ISと交戦に入り、現在単機で行動中らしい。トロイ機とモルニ機とは逸れてしまったようだ』

「そうか……しかしアシェリーならそれくらい切り抜けられるだろう」

 

アシェリーの腕前はレイナやスコールからお墨付き。早々やられるわけがない。ましてや彼女が駆っているのは亡国機業が技術のすいを集めて作り上げた最新鋭機。なんとかなるはずだと、レイナは淡い期待を寄せる。

 

『しかし物事はそう上手くはいかないものだ』

 

妙に達観し意味ありげな言葉を発するマサラッキに対し、レイナは顔を顰める。

 

「どういうことだ?」

『専用機持ちが、アシェリーの元へ急行している』

「何……?」

『横須賀の米軍も動き出している。我々もこれ以上留まり続けるのはマズい』

「米軍も?チッ!バルードのやつめ!」

 

各国政府や大手企業、さらには軍相手にも深いコネクションをもつ亡国機業。

亡国機業と横須賀に駐屯する米軍との間には今回の件を巡って『亡国機業が起こしたアクションについては静観するように』と横須賀に駐屯しているバルードなる高級将校と密約を交わしていた。

 

しかし今、密約を知る由もないどこかの跳ねっ返りが出撃した。部下を制止することも出来ない凡庸な男に恨み節を連ねながらレイナは扉から踵を返す。

 

「<シェアーフィンス>は全速で現海域から離脱!ヘレンとオパールも呼び戻せ!」

『ハッ!隊長は』

「アシェリーを迎えにいく。作戦は成功といっていいだろう。ポイントP-35で落ち合うぞ」

 

切り札が使えないのならこの場にいても意味がない。<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>を展開したレイナは一気に地下区画を滑空。外へ出るとセシリア達が到着する前に飛び去っていった。




下書きって基本後々修正するためとかで保存しておくんですけど、数週間後くらいに見てみると「あの時の私、何でこれ書いたんだろうなぁ」と思う時があります()


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