おいでませ閻魔亭 (鏡華)
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おいでませ閻魔亭

かまぼこ隊と閻魔亭の話。

善逸書くの楽しいね!

※pixivに同名投稿しています。


「イィーーーーーヤーーーーーーー!!もう駄目これ駄目死ぬ死ぬ死ぬ死ぬーーーー!!!!」

 

「うるっせえぞ紋逸!」

 

「善逸だっつーの!お前ほんといい加減名前覚えなさいよ!?」

 

「つうか何で逃げなきゃなんねえんだよ!鬼なんざとっとと斬ってやるぜ!うおお猪突猛し──」

 

「待ってくれ伊之助!この霧の中での戦闘は危険だ!一旦開けた場所に向かおう!」

 

 

濃霧立ち込める森の中──懸命に駆ける影が3つ。

 

 

金色の頭髪を振り乱し、外聞をかなぐり捨てて泣きわめく我妻 善逸。

 

頭から猪の皮を被り、今にも踵を返して突貫しそうな勢いの嘴平 伊之助。

 

その伊之助を引き留めながら、花札に似た形状の耳飾りを揺らす竈門 炭治郎。

 

そして、炭治郎に背負われた木箱の中で揺れる、彼の妹・禰豆子。

 

 

人を喰う怪物──鬼を殺すための組織、『鬼殺隊』の隊員である彼らは、鬼狩りの任務として、とある山を訪れていた。

 

鬼の居場所を捜し歩き、山の中腹部にまで辿り着いたかといったところで、いつの間にやら十尺先も見えない濃い霧に囲まれてしまったのだ。

 

否、ただの霧ならば、各々が持つ鋭敏な感覚を頼りにすれば障害になることはない。

 

ところが、匂いも、音も、肌に触れる空気すらも、どこか靄がかったものとなってしまい、ついには方向すらも見失ってしまう。

 

もしや、鬼の使う血鬼術か──と、3人が警戒心を跳ね上げたまさにその時、霧の奥から鬼が飛び出してきたのが、四半刻程前。

 

血肉に飢え、口元をしとどに濡らした鬼に追いつかれぬよう、しかし振り切って見失わない距離を保って、走る、走る、走る。

 

 

「無理じゃない!?ねえこれ無理じゃない!?何か音聞こえづらいし!霧全然晴れないし!チュン太郎もどっか行っちゃったしさあ!仮に鬼倒せても帰れなくない!?」

 

「落ち着け善逸!大丈夫だ、匂いは分かりづらいけれど、姿はしっかり見えている!死角から襲われるようなことはない!この霧さえ抜けれれば、勝機はあるはずだ!」

 

「よぉしわかった、霧のない所に行きゃァあの鬼をブッた斬っていいんだな!?」

 

 

伊之助は、そう言うが早いか、一際大きく踏み込み、地を蹴る。

 

炭治郎と善逸は、自分たちを置き去りにするような加速に、思わず引き留めようと声を上げようとしたところで、気付いた。

 

伊之助の向かう先から感じる、空気の匂いと、音。

 

 

「──森を抜けるぞ!」

 

 

炭治郎の声と共に、伊之助──おそらく、その優れた肌感覚で真っ先に気付いていたのだろう──を追う形で、2人は加速する。

 

木々の隙間から漏れる光を目印に、そこに飛び込むように駆け抜ける──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──木の群れから抜けると同時に霧が晴れ、一気に視界が開ける。

 

しめた、と、すぐさま森に向き直り、鬼を迎え討とうとするが──しかし、3人は目の前に光景から目が離せなかった。

 

 

──紅。

 

 

幾本もの滝が流れ落ちる岩肌に沿うように建てられた、壮麗な朱塗りの建造物。

 

無数の瓦屋根が重なり合うような造りのそれに、自らの足元から伸びる、これまた朱塗りの欄干を持つ橋が、長くうねるように繋がっている。

 

窓から漏れる明かりは煌々と眩く、昼のように辺りを照らしていた。

 

首が痛くなるほどに見上げてようやく天辺が見えるほどの巨大さに、あるいはその神社仏閣にも似た神聖な存在感に、言葉を忘れ、しばし見入る。

 

 

「……なんっじゃこりゃ!!!でけえ!!!」

 

 

沈黙を破ったのは、やはりと言うべきか、伊之助だった。

 

 

「こんな山奥に、何て立派な……。この硫黄の匂い、温泉宿か?」

 

「いやいやいやこんなの宿じゃないよ宿という名の隠れ処的アレだよ!やんごとなき方が一時的に身を隠す所だよ!ホラ何か聞いたこともない音がするー!大丈夫?この場所知っちゃったとかで後々消されない?俺たち、大丈夫?」

 

 

ぎゃいぎゃいと善逸がいつも通り騒ぐのも束の間、ガサリ、と背後から草を掻き分ける音。

 

 

「──追ォいついたァ……!」

 

 

 

──鬼。

 

高潔さすら感じさせるこの場にはあまりにも不釣り合いな、血生臭く醜悪な存在が、舌なめずりをしていた。

 

ひぃ、と喉の奥から悲鳴を漏らす善逸。

 

いの一番に日輪刀の切先を鬼に向ける伊之助に、期せずして人の多い場所に鬼を誘い込んでしまったことに焦燥を抱きながら、柄に手を添える炭治郎。

 

 

「旨そォうな匂いがたッくさんするなあぁァ……喰わせろォ、喰わせろ、喰わせロォオオ!!」

 

 

──何としても、この橋を鬼に渡らせてはいけない。

 

 

意志を固めた炭治郎が、鞘から刃を滑り出させようとした──その時であった。

 

 

 

 

「──チュチュン、一体何事でちか?」

 

 

 

 

あまりにも場にそぐわない、甲高い童の、舌足らずな声。

 

耳の良い善逸が真っ先に振り替えると、橋の上に、()()は立っていた。

 

短く切り揃えられた、赤みがかった髪。

 

ふくふくとした白い頬、くりくりとした大きな瞳。

 

年端もいかない女童(めのわらわ)の風貌には似つかわしくない、豪奢な着物と割烹着、そして、触れれば切れるような精錬な音に身を包んでいる。

 

その音に圧倒され、はくはくと声も出せずに口を開閉する善逸の様子に、残る2人も、鬼への警戒心をそのままに、彼女へと意識を向けた。

 

 

「お前が伝えに来た迷い人のお客様を出迎えに来たら、何やら只事ならぬ様子、でちね。他のお客様のご迷惑にもなるので、荒事は勘弁して欲しいでちよ」

 

 

と、彼女が持ち上げた手の上で、見覚えのある雀が一匹、懸命に鳴いている。

 

 

「……あ、チュン、太郎?」

 

「お騒がせして申し訳ありません。ですが、早く建物の中に入ってください!あれは人を喰う鬼です!」

 

 

彼女の匂いに違和感を持ちながらも、一般人の避難を優先させるべく、声を張る炭治郎。

 

 

「……鬼?あれが、でちか?」

 

「はい!危険ですので、早く──」

 

 

業を煮やした炭治郎が、再び口を開くのと、ぬらり、と鋼の匂いが漂ってきたのは、同時。

 

彼女が佩刀していることに、そこでようやく気付いた。

 

 

「あちきも地獄の鬼となって久しいでちが、現世の鬼がこう成り果てているとは、ついぞ()りまちぇんでちた……。その血の匂いで、どれだけの罪を重ねてきたかはわかりまチュ。罪科あれば、これ必滅の裁きなり。閻魔王の娘とちて、閻魔亭の女将とちて、それ以上の狼藉は許しまちぇん!」

 

 

一陣の風が、炭治郎の横をすり抜ける。

 

瞬きの内に、鬼に接敵する彼女。

 

 

──迅い。

 

 

善逸の繰り出す雷の呼吸、壱の型と同列。

 

あの細足からは想像だにしなかった動きに、鬼すらも反応できない。

 

 

「──閻雀抜刀術、閻雀昇雛!」

 

 

跳ね上げるように、一閃。

 

本人をして、最速・最小・最短の居合と称すその剣撃は、鬼の右脇下から首に掛けて、一刀にて切り裂いた。

 

鬼の腕と、首が飛ぶ。

 

何をされたのかも分からないまま、呆けた顔の悪鬼は、そのまま倒れ伏し──二度と動くことは無かった。

 

 

「後の沙汰は、地獄の法廷で下されるでち。賽の河原で、神妙に待つでちよ」

 

 

納刀の所作さえも鮮やか。

 

全集中の呼吸も、日輪刀さえも用いずに鬼を葬った彼女を、最早只人と見る者は、ここには誰もいなかった。

 

 

そんな彼らの心中を知ってか知らずか、彼女は満面の笑みで、3人──否、4人に向き直る。

 

 

 

 

「気を取り直ちまちて。閻魔亭にようこそ。歓迎するでち、お客様方。あちきは女将を務めておりまチュ、舌切り雀の紅閻魔。短い間でちが、精一杯ご奉仕させていただきまチュ!」




いつの間にやら閻魔亭(迷い家)に辿り着いちゃってたかまぼこ隊。

落ち着いてみれば紅閻魔ちゃんの気配とか匂いとか音とかが自分たちの知る鬼じゃないけど明らか人じゃないとわかってSANCしちゃうかまぼこ隊。

閻魔亭内でも神様とか地獄のマジもんの鬼とかとエンカウントしちゃって恐縮しきっちゃうかまぼこ隊。

この後2泊3日くらい盛大にもてなされて夢見心地のまま帰ったら現世では10日くらい経ってて大騒ぎされるよ。


紅閻魔ちゃんが鬼を斬れたのは混沌・悪特攻が刺さったから。



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