まさかこんな歳から働くことになるとは (ト——フ)
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No.1◆ 気づけば

 久し振りに原作を読んでるとカルトかわいいってなった。だから書いたのです。思いつきでパーっと書いたので気軽に読んで下さればと思います。

 あとHUNTER×HUNTERは一応原作全部読んでますが、それでも理解の薄い部分も多々あるので、そこら辺はご了承くださいませ。

 では、どぞ!f


 大学3年の夏。そろそろ就活に目を向けるようにと教授に注意喚起され、若干気乗りせずも駅のホームで就活アプリをタプタプと弄っていた時、事件は起きた。

 注意は携帯に向いており、耳を塞いでるイヤホンにより周囲の音も聞こえづらい。そんなことも相まってか、背後からの衝撃に気づいたのは少しばかり遅れてしまい、気がつけば────────

 

 

「ここに来てしまったって訳か……」

 

「ん、そういうこと。思い出したようで何より。んじゃ、転生させるからちゃっちゃっとよろしく」

 

「なんかノリ軽……ってかなんで俺なんです?日本の何不自由なく生活出来ていた……世界規模で言えば恵まれ過ぎている俺なんかが転生させて貰えるって……」

 

 異世界転生とかでずっと思っていたことだが、なんでそこそこ裕福な奴等とかが転生させて貰えるんだろうって疑問。まぁ折角なので聞いておくことに。

 

「んー?そりゃクジで」

 

「クジ」

 

「そ、クジ。幻滅した?大方世界にはもっと相応しい人が〜〜とか言うつもりだったんだろうけど、こちとらんなこと考慮してなくてね。『コイツ面白そうだな』とか『このカップル好きだから一緒の世界に送ったろ』とか単純に全人類対象にしたクジで決めるとかね、そんなもんよ。だからあんた運イイよ」

 

「さいですか……」

 

 なんとも……こう、考えてたやつと違って正直釈然としない思いだが……まぁ神様の都合だし仕方ない。それに今回の俺の件に関してはクジ。単純に運任せの公正な結果なので、胸を張っていいんじゃなかろうか。

 

「はい、んじゃ質問ね。上から送られてきた資料にあなたの転生先候補が書かれてるんだけど、読み上げていくから好きなの選んで」

 

「はい」

 

 なるほど、色々あってその中なから選ばせて貰えると……これは中々良心的なのでは。神様達の有難い配慮に心温まり、この不思議空間に転送されて来てから緊張で強張っていた身体も少しはほぐれたように思う。

 

「えー、と『名探偵コナン』『進撃の巨人』『魔法少女まどか☆マギカ』『HUNTER×HUNTER』」

 

「……えっ?終わり?」

 

「うん。じゃ選んで」

 

 フザケンナ!!なんでよりによってこんな死亡フラグ立ちやすそうなのとか超過酷な世界観の作品なんだ!!ふざけるなクソ!! 全然運良く無ぇから!!

 

 ……こん中から選べと?……うへぇ……

 

「早めにしてね。後つっかえてるから。具体的にはこの砂時計が落ちるまでによろしく。1分くらいね」

 

「え 早っ、いやもうちょっと時間……」

 

 流石に横暴じゃありませんかねと、抗議しようとするも

 

「どうどう、幾ら言っても無理だから。ほら、残り50秒。早く考えた方がいいよ」

 

「〜〜〜〜っっ!!!」

 

 くそっなんて日だ!!って恨み言は後!どうする!?

 コナンの世界……は死亡フラグ多そうで怖い。どのキャラに憑依するか若しくはオリキャラとしての立場が分からないから無理!パス!

 進撃は……無理!

 まどマギは……う、うぅ〜〜〜ん、やっぱりどの立ち位置でとか分からんし、魔法少女に選ばれたくないし、無理……

 ヤバイもう消去法でHUNTER×HUNTERしか無い!!

 どうする!

 

「はいタイムアップ。じゃあ回答どうぞ」

 

 えっもう時間!?ヤバイ

 

「えっ、えっ、じゃHUNTER×HUNTERで!」

 

 深く考える間も無く言葉に出たのはその答えだった。

 

「りょうかい!んじゃ送りまーす」

 

「えっ、転生特典とかは……」

 

「ありませーん」

 

「チートなステータスとか……」

 

「ありませーん」

 

「……」

 

 無い無い尽くしで唖然とする。あの世界で転生特典が無いってかなりハードモードなのでは……

 

「でも安心しなー。チートまではいかなくてもあっちの家庭事情でそこそこの身体能力にはなるだろうから。では来世の健闘を祈ります」

 

「え、それ」

 

 最後まで言うことなく意識が飛び、気がつくと────

 

 ─

 ──

 ───

 

「ふふ、元気な子ね……先に出てきたお姉ちゃんに負けず劣らずのたくましい男の子」

 

「あぁ、元気な双子だ。特に弟は強くなりそうだな」

 

 声が……聞こえる。なんだ……この一気に身体が縮んだような気持ち悪い感覚……それに言葉がっっ出ない……し、なんか身体が湿ってるような気がするし、誰かに抱かれてる?

 

「ふふ、これからよろしくね。アルカちゃん、アルトちゃん」

 

 アルカ……アルカ……って、言ったか? HUNTER×HUNTERでその名前が指すのは……いや、まだ分からない。違う、そう違う可能性も無きにしもあらず。きっとあの暗殺一家じゃなくて違う家庭で生まれたってのもある。

 そうそう。まずアルカにアルトとか言う双子いないし。

 まだ希望はある。俺にはモラトリアム期間を再び満喫するという野望が……

 

「立派な暗殺者になるのよ」

 

 あっ

 

 ─

 ──

 ───

 

 モラトリアム?なんですかそれ美味しいんでしょうかね?少なくとも毒とかよりは美味しいんでしょうね。ええ……。

 

「アル、訓練の時間」

 

「……了解」

 

 年の離れた猫目の兄に呼び出された。今日は月曜日で、毎週恒例の戦闘訓練。しかもこの長男……イルミと。

 

「……アル」

 

 ピッ、と目の前に針を突きつけられる。

 

「お兄ちゃんを呼び捨てとは感心しないなぁ」

 

「お、おおっっオッケー分かりましたごめんなさいすみません兄ちゃん許して下さい」

 

 ナチュラルに心を読んで来るのもあるが、兄ちゃんの武器を突きつけられてるこの現状が恐怖でしかなく、思わずテンパった返答を返す。

 

「ん、分かったならよろしい」

 

「……ふぅ」

 

 心臓に悪いので本当にやめてくれませんかね……。

 

「というかビビりすぎだって。あとどもってるし。いい加減そーいうとこ直しなよ」

 

「いや無理でしょ……他の人ならまだしも兄ちゃんに針向けられたら恐怖隠せないって……」

 

 俺が悪いんじゃない。相手が悪い。

 そう非難するような目をわが兄へと向けると、ふぅ、と一つ軽く溜息を吐き、やれやれと言わんばかりに肩を竦められた。

 

「自分より格上だろうと常に冷静沈着にいることも暗殺者として時たま必要になってくるよ?ほら、オレを見習いなよ。ポーカーフェイス」

 

 頬をぐにぐにと弄り口角を上げる、なんとも可愛らしい仕草をする兄ちゃん。

 

「いや、兄ちゃんのはそれ徹底しすぎといいますか……」

 

 表情の変化が乏しすぎて他人からしたら多分何考えてんのか分からないと思うの俺の兄ちゃんは。まぁ俺はなんとなく、少しは分かるけど。伊達に兄弟やってないし。

 

「ん、話してる内に着いたね。それじゃあ、やろうか」

 

「……お願いします」

 

 はぁ……今日もやんのか……

 

 ─

 ──

 ───

 

「それじゃーお疲れ。じゃ、オレ仕事行ってくるから」

 

「おぉ……いってらっしゃい」

 

「うん。あと帰ったら明日の仕事の打ち合わせね。じゃ、晩御飯までには帰るから」

 

 戦闘訓練が終了し、途端にそう言い残し軽やかな足取りで去って行く兄。

 

「バケモンか……あんだけ動いたし何発か入れた筈なのに……」

 

 何でも無かったようにケロッとしてるからホント意味分かんねぇ……うちの長男怖すぎ……。

 

 そんなことを思いながらも、酷使した身体に鞭打ち壁に寄り掛かりながらもズルズルとお風呂場へと向かって行く。 と、その道中で。

 

「お、お疲れ様です。兄さん」

 

 和服を着込んだ可愛いらしい我が妹、カルトに遭遇した。

 その両手にはタオルが抱えられていて、「どうぞ」と差し出される。

 

「……おぉ、ありがとうカルト。毎度すまんね」

 

「いえ、ボクがやりたくてやってることなので」

 

 僅かにその口角を上げ此方を上目遣いで見やるカルト。

 あぁ……かわいい。血生臭い今世の日常での数少ない癒し──っ!! 俺の妹がイイ子すぎて可愛い。

 

「そっか……ありがと。んじゃ俺そのままお風呂行くから」

 

 タオルで汗だくな顔を拭きつつ、足を再び動かそうとしたが、くいっと袖を控えめに引っ張って来るので、なんでしょと思い振り向く。

 

「あの……その、良い抹茶が入ったので、後で点てようと思ってるんですけど、兄さんも一緒にどうですか……?」

 

 俯きがちにそう言う妹への返答は勿論

 

「え、マジで……?いいの? じゃ、有り難くごちそうになろうかな」

 

 カルトの点ててくれたお茶は美味しいし嬉しい。

 毎回訓練の後にこんなご褒美があればモチベが保たれるんだけどなぁ……と思いつつカルトに自分の汗が掛からないようにタオルで顔を抑えていると

 

「はいっ、では兄さんの好きなお茶菓子も用意して待ってますねっ」

 

 顔を上げ、綺麗な微笑みを携えてそう言う妹の影響か、ポワポワとした感情に包まれる。

 

 あぁ^〜〜かわいいんじゃぁ……あぁ。いいの……?こんな尊い笑顔を無償で向けて貰って。お陰で精神的な疲れ吹っ飛んだし、なんならもっ回兄ちゃんと闘ってきてもいッッ!?っていう冗談叩けるくらいには元気出たしなんか悪寒がした恐怖

 

 それにしてもかわいい。かわいすぎて、果たして人類はこの〝かわいい〟を何の見返りも無く享受していいのだろうか……、とか、そんなアホなことを真剣に検討し始めてしまうくらいにかわいい。

 

 まぁなんなんだったら全然払うもん払いますけどね?幾らですかね?──と、いや……、しまった。これは困った……あれか……考えてみたら俺のお給料でカルトの天使の如き微笑みの対価を払えるとは到底思えん……。

 ぐっ、情けない……こんな、自分が恥ずかしくて堪らない……俺は一体……どうしたら──

 

 ……考えても答えは出ない……。

 しかし本格的に考えるとキリが無くなる。

 だからそうだな……さしあたってのところは、今月の給料カルトに貢ごうかしら……

 

 そんなこんなでラブリーマイエンジェルの微笑みへの対価を一体どうするかと思案していると

 

「あ、と。それとその、偶には一緒にお風……いや思い切りすぎだなうんボクが保たない。えと……

 

 ごにょごにょとなにやら呟いている。

 

 難聴系という訳じゃないけど流石に聞こえんから一声掛けることに。

 

「ん、なんだって?」

 

「え、と。いや、なんでも。あっ、ではボク用意してきますね。兄さんはゆっくり疲れを癒して来てください」

 

 そう早口で捲し立てられ、ツカツカと去って行ったカルト。

 

「いつも物腰静かで冷静だけど偶にああなるよな。まぁそのギャップが超可愛いからいいんだけど」

 

 さて行きますかねと再び歩き始めようとすると、またもや前方から人物が一人。

 

「おっ、アルトぼろぼろじゃん大丈夫か?戦闘訓練?」

 

「おう見ての通り。大分しごかれてボロカスんなった。だからごめんキルア。今日ちょっとアクティブな遊びは勘弁」

 

「ふーん、そっか。ならしゃーないか。因みに誰だったんだよ?」

 

「イル兄」

 

「……ご愁傷様。まぁ、ゆっくり休んでな? あ、このジュースやるよ。お疲れ」

 

 シャーと、スケボーに乗って去って行く年の近い兄に「あんがと」と言葉を返し再び歩く。

 

 てか家の中でスケボー乗んなよ……あっ、ほら言わんこっちゃない。よりによってツボネさんに見つかってるじゃん……

 助けてくれとか言いたげな目線で俺の方見てるけど悪いな。俺もツボネさんに叱られんのは怖い。あと流石に今回は擁護出来んし。あと疲れてるし。

 

 キルアもご愁傷様と小さく言い残し、お風呂場へと向かうのだった。

 

 ─

 ──

 ───

 

「ふぅ……癒される…………」

 

 疲れた身体にお湯が染み渡る……はぁ……。

 

 そのままぼーっとしていると、ガラッと扉の開く音が聞こえたので、其方に目を見やると

 

「なんだよアルトもいたのかよ」

 

「ん、あぁごめん先頂いてるよミル兄」

 

「別にいいよ」

 

 ふん、と言いながら身体を洗っていく我が兄をなんともなしにぼーっと見つめていると

 

「おい……なんだよ。視線気になるから止めろ」

 

「あーい」

 

 なら今度は天井でも見つめてるかと上を向く。

 そういや、なんだかんだ言って人の視線を即座に察知する辺りミル兄も暗殺一家やってんなぁ……と思った。多分その辺の恰幅の良い人よりは絶対強いよなとか思ってると、チャプ、と湯船に浸かる音がする。 見ると、少し離れた場所で一息吐いてる兄の姿を確認した為すかさず移動を開始する。

 

「おわっ?なんだよお前あっちで寛いでろよ」

 

「まぁまぁ」

 

 隠すこともなく眉を顰めながらも、のしのし、と歩いて俺から離れていくが、それに俺も泳いで続いていく。

 

「ちっ、付いてくんなよ……いや、コイツ頑固だから言っても無駄か……」

 

「まぁまぁ」

 

「……ちっ」

 

 観念してその場に腰を落ち着けるミル兄。

 その様子を見て、話し掛けるなら今かと判断した俺は、改めて口を開く。

 

「ところでミル兄」

 

「……なんだよ」

 

「今期のヒロインで一番可愛いのって誰だと思う?まぁ打ち止め(ラストオーダー)に決まってるけど」

 

 打ち止め(ラストオーダー)の愛らしさ、素晴らしさについて語り合おうかと思い、話題の提供をしたのだが……返って来た言葉に俺は唖然とする他なかった。

 

「は?何言ってんだ?その残念な頭に綿でも詰まってんの?ライネスに決まってんだろ」

 

「は?」

 

 何言ってんやろか

 

「……いやまぁ、ミル兄の意見も分からんでもない。確かに彼女は可愛い」

 

「当然だろ」

 

 が、しかしだ。

 

「けど……、打ち止め(ラストオーダー)の可愛さはそれとは一線を画するね。あの愛らしいフォルムに容姿、更には独特の喋り方! 彼女こそ今期ヒロインNo1だとアルトはアルトは全人類の共通認識を改めてミル兄に説く」

 

「お前……お前がその喋り方はキメェ……気持ち悪い……吐き気催すから止めろ……。それと、お前……聖杯 スキルマフォウマまでした俺によくそんなこと……」

 

 それからなんやかんや討論は続いたのだが、お互いのぼせそうになる寸前で、一旦話は保留の運びとなった。

 打ち止め(ラストオーダー)が最強なのは断固譲るつもりは無い。

 

 まぁ、そんな訳で、こんなサブカルの話で盛り上がれるミル兄は結構好きだ。あっちからしたら変に懐いて来る弟って感じで鬱陶しがられてると思うけど。

 

 ま、ざっとそんな感じの兄弟関係で。

 

 妹が点ててくれたお茶を飲みながら雑談したり、双子の仲良い姉ちゃんとねーちゃんと遊んだり、同い年の兄に遊び行こうぜと連れ回されたり、8つ上の兄にゲーム借りに行ったり、13こ上の兄は……ちょっとよく分からんけど。まぁそんな感じの生活。




 っていう自己満足の内容の薄いお話だったので短編にしました。
 あと主人公の名前 アルト=ゾルディック ですが、どうしてもカルトの兄ポジションかつ、憑依者じゃない設定が良かったので、しりとりの設定無視の方向で行きました。

 っていう感じで、こういうカルトメインのお話増えて欲しいです。誰かそういうの書いて下さい(他人任せ)


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No.2◆ シスコンは良い文明

 あの後(前話)風呂から上がり、約束通りカルトの茶室へと赴き、ご馳走になった。

 どんな時間だったか? それを描写すると余りに長文になり読者様が辟易する恐れがある為省きます。

 

 ただ、最高だった(語彙)

 

「はー……まったりできた。楽しかったし疲れ取れたよ。ありがとう」

 

 相変わらずカルトの点ててくれたお茶は美味しかったし。好物のどら焼きまで出してくれて至れり尽くせりであった。そしてカルトとお喋り出来て幸せでした。

 

 あぁ……こんな血生臭くて命の危険あり過ぎる暗殺家業廃業して、カルトと共に家出て、豊かじゃなくても、小さいアパートでもいいから一緒に平和な暮らしがしたい。一生カルトの側に居続けたい(重度のシスコン)

 

 まぁしかしこの子、獲物嬲ったりする悪癖あったり、なんやかんやで暗殺者やってたりするから厳しいかもだけど。

 

 

「──っ、そう思って頂けたなら、嬉しいです……。ボクも凄く幸せでした……付き合ってくれてありがとう兄さん」

 

 訥々と、そう語るカルトの姿はなんとも愛らしく、思わず抱きしめたくなる衝動に駆られるが、自分の中の理性を総動員してそれを必死に抑えつける。

 ダメだ、落ち着け我慢しろ……幾ら懐いてくれてるっつっても流石にそれはマズイだろう。仮に引かれてしまい、今のこの関係が拗れてしまってカルトとの交流が無くなってしまったら軽く死ねる。今世の生き甲斐を失う。

 

 冷静に……冷静に……。

 

 可能な限り爽やかなイメージを意識しつつ、こう答える。

 

「此方こそ。誘ってくれて嬉しかったよ。よければまた声掛けてくれる?」

 

「はいっ、勿論、兄さんがよければっ!」

 

 その時 アルト=ゾルディックに電流走る……! 

 

 ……物静かなこの子は、目元が柔らかく垂れて、口角が少し上がるような控えめな微笑みが、普段の印象であり、非常に愛らしい。

 だが、その普段とは違った、今、俺へと向けてくれている、この、朗らかな笑顔は……。

 こんな、パアアアと擬音が付くかのような笑顔は、稀に見せてくれるものであり、言うなれば非常に希少、激レアなのだ。

 

 そんな年相応のようなこの子の純粋無垢な笑顔を受けて心が温まると共に、妹への愛情が溢れんばかりに湧き出してきてしまい……気付いたら、身体が動いていた。

 

 ぽふっ、と妹の頭に手を乗せ、その艶やかな髪を傷つけないように優しく、丁寧にそっと撫で下ろす。

 

「──っ、に、いさん……?」

 

 妹の、その困惑したような、若干震えた声音が耳に届いた。そのお陰だろうか、理性達が妹の声に反応し、自分の元へと帰ってきてくれた。

 

「…………あ……」

 

 ハッと冷静に返る。

 

 自分の頭からサーと、血の気が引いていくのを感じた。

 

 

 

 ………………、──っ!? や、やややややってしまったヤバイヤバイヤバイ……っっ!! い、妹とはいえ年頃の女の子にこんなことやっちまったらマズイ……っっ!! 

 あああヤバイ俺めっちゃ気持ち悪いことしたってマジでいきなり女の子頭撫でるとかなんです? キザすぎるだろホントキモイ!! キモッ! 

 あああああ、ああっどうしよう内心ウザがれてるかもしれねぇ怖い怖い怖いカルトに嫌われたくないヤバイお兄ちゃんが全面的に悪いです本当に申し訳ございませんでした

 

 高速で稼働する頭の中には目の前の妹への懺悔で溢れかえっていた。

 もうダメだ……おしまいだぁ……と絶望に染まりきった顔で、せめてまずは謝罪しなければと思い、妹の顔を見やる。

 そこには、驚いているのか瞳を大きく開き、愚兄の唐突な行為による緊張からか頬を紅潮させた、妹の表情があった。

 

 そりゃそうなりますよね……と申し訳ない気持ちで溢れて溺れそうになる胸中を抑え、口を開く。

 

 

「……ご、ごめん、カルト……ホント、いや本当に急にこんなことしてすみませんでした」

 

 深く反省していると伝えたい為、出来る限り深々と背中を曲げ謝罪する。

 あぁ……これで妹との関係が終わってしまったら……と内心ズタボロの中、彼方の返答を待っていると、それほど間をおかずに返ってきた。

 

「い、いえ……そんなっ、それより顔を上げてください」

 

 もっと謝罪の意を示さなければならないのでは……と、内心思うも、しかしそう言ってくれたからには、その通りにしなくては……と恐る恐る顔を上げる。

 

「た、確かに急なことで驚きはしましたが……その……大丈夫ですので……お気になさらず」

 

 気を遣ってそんなことを言ってくれるカルトなのだが、どうにも此方としてはより申し訳なさが募ってくる。そんな気遣いをさせてしまう状況にしてしまった自分が不甲斐ない。兄として……本当に不甲斐ない。

 

「……本当にごめん。気も、遣わせてしまって……」

 

「い、いえ……ボクは本当に大丈夫ですから……っ、あ、というか……むしろ、もっと兄さんに触れて欲しかった、という、か……

 

 俯いた頭から僅かに覗く顔は、赤く染まっていて、自分はそんなにも妹に恥ずかしい思いをさせてしまったのだと理解した。

 

 その罪悪感に押しつぶされそうになるが、しかしそれから解放されたいという理由では無く、ゆっくりと口を開く。

 

「その……だな、これで許して欲しいって訳じゃあ、ないんだ、けど、なんにも無しってのは俺の気が済みそうになくて……だからその……せめて、カルトが俺にして欲しいこと、って言ってもそんなに出来ることは無さそうだけど……それでも俺に出来ることならなんでもする。なにかないか?」

 

「……え?」

 

 ぽかんと口を開けて、まるで予想外の事態に陥ったかのように、呆然とするカルト。それから、ふるふると少しばかり震えたと思いきや、徐に続く言葉を発する。

 

「今、何でもしてくれるって……言った?」

 

 恐る恐る、慎重に確認してくる様に此方を見上げるカルト。その眼差しは至って真剣で、思わずつられる様に背筋を伸ばしてしまう。

 

「……ああ。遠慮せずになんでも言ってくれ」

 

「……なんでも」

 

(えっ、どうしよう。思わぬチャンスに頭がショート起こしそうというか……へへ、どうしよう……突然でびっくりはしたけど、頭撫でてくれたのは凄く嬉しかったのに……まさかそれから転じてこんなチャンスが巡ってくるなんて──っ!

 責任感じてる兄さんは可哀相だけど……ここは言う通りなにか要求した方が、兄さんは納得するだろうし……。

 どうしようかな……一緒に外出して貰おうかな……この前兄さんが好きそうな食事処見つけたし、そこに誘って、あわよくばそのまま一緒にショッピングしに行ったり、雰囲気のあるディナーなんかで食事しちゃったりなんかして……それでもう遅いから一緒に何処かに泊まりに行って、それから…………へ、えへへへへへへ……どうしよう、笑いが止まりそうにないくらい胸が高鳴る。

 

 そ、それかどうしよう……久しぶりに一緒にお風呂とか、は流石に言い出せない、か……。なら頭をもう一度撫でて欲しい、っていうのもアレだよね。なら……)

 

 思わぬチャンスが、正に千載一遇といってもいいようなチャンスが舞い降りて来た、この奇跡のような現状に、最善の判断を下す為、そしてチャンスの神様が通り過ぎてしまう前に、カルトの脳細胞はかつてなく働き出す。

 

 どの選択を取れば、今よりも兄と仲良くなれるのか? 

 どの選択を取れば、兄との幸せな思い出を築けるのか? 

 どの選択を取れば、兄の罪悪感を消して、いつもの様子に戻ってくれるだろうか? 

 どの選択を取れば、兄にとって負担のなく、尚且つ喜んで貰えるような、そんな素敵な結果に繋がるか? 

 どの選択を取れば────────

 

 時間にして、数秒足らずの、正に一瞬の瞬き程の間。

 超高速で兄への要求を検討し尽くしたカルトの頭の中には、ただ一つ。何度も繰り返し頭を巡ったその答えは、確かに自分でも納得出来るもので。

 その答えを伝えようと、動き出した彼女の口からは非常に滑らかに、するりと言葉が出て行った。

 

 彼女の導き出した答えとは──

 

 

 

「じゃあ……今度の仕事が終わったら、美味しいお店に連れて行ってください」

 

「──っっ!? 〜〜〜っ、おう! 喜んで!!」

 

 カルトと2人で外食……っっ!! つまり……まだそんなに本気で嫌われていない──って、捉えていい、んだよな……? もしそうなら……本当に良かった……え゛がっだっ!! だけど、反対に内心嫌われていて、立場上兄を気遣おうと無理しているのだとしたら……申し訳無さ過ぎる。だから、もし仮に後者の場合を考えて、俺が出来得る限りのことは全てし尽くし、1%でも高くカルトに喜んで貰えるような店を探す!! 

 

「では、そろそろこの辺で。お母様に呼ばれていますので……」

 

「──、ん、あぁ、了解。っと、カルト、改めてさっきはごめん……それから、今日はありがとう……」

 

「はい、大丈夫ですよ。私もありがとうございました、兄さん」

 

 そう言って、去る寸前に見えたカルトの表情は、何も邪なものなど含まれていないかのような、晴れ晴れとした、はにかみ笑顔だった。

 

 

かわええ

 

 

 

 

 

 

『アルトー』

 

「ん? あぁ、ねーちゃん」




 なんだこの主人公……なんだってこんな重度のシスコンに……いや、カルトみたいな天使が妹なら仕方ないか……うむ!是非もなし!


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No.3◆ 姉ちゃんとねーちゃん ①

 お気に入り件数がもう70件を突破したんですが……驚きです。そしてめっちゃ嬉しい……!!
 ……つまり皆さんアレですよね? カルトが好きなんですよね?そうなんですよね? いやはや同士がこんなにも居るなんて私は嬉しい……(ポロロン)
 妹萌えは正義。再確認致しました。

 というわけでですね、第3話です。 この話から独自設定やらなんやらが出てきます。ですので、その辺苦手な方には申し訳ございません。
 あ、ただ一つ。言っておきたいのは、今作のアルカ、ナニカも原作同様キルアラブです。 弟である主人公とも仲が良いですけど、一番はお兄ちゃんって感じで。

 というわけで、第3話どうぞ!


 姉は隔離されている。

 

 昔はよく一緒に外に出て遊んだものだが、ある日を境に切り離された。

 前世の記憶、もとい原作『HUNTER×HUNTER』の知識がある為分かってはいたが、どうにも出来なかった。

 

 こんなことを言うと、自分の姉に会えないなんて辛かろうと思われるだろうが、俺は別にそうは思わない。

 勿論姉のことは好きだし、なんなら愛しているが、この件に関して言うと俺は別問題。

 

 なんでか?

 

 会いに行けるから。

 より正確に言うと、どんなに離れていても()()()()()が呼んでくれるから──

 

 ─

 ──

 ───

 

 

 俺とアルカは双子ということもあり、幼少期よりずっと一緒につるんでいた。遊ぶ時もご飯の時も。兄のキルアともよく一緒に行動を共にし、兄弟関係は良好だったと思う。

 

 そんな、ある時

 

「アルトー」

 

「ん?」

 

 珍しい。

 いつも俺のこと『アルちゃん』って呼んでくんのに。なんかあったか?……え、もしや俺なんかやらかしたとか?それでもしかして姉ちゃん怒ってる?

 

 普段はほんわかして優しい姉ちゃんだが怒ったら怖いのだ。それはもうホント、マジでめっちゃ怖いレベル(語彙力)

 

 そのため若干気を張って、選択を間違えないよう慎重に返事を返す。

 

「どした姉ちゃん」

 

「ナデナデさせてー」

 

「え、……、いや……うーん、なんか恥ずいしパスで」

 

「えー、じゃアルトー、手繋ごう」

 

「ま、そんくらいなら」

 

 ん、と此方の手を差し出すと、きゅっと優しく握ってくる。

 

「アルトー、一緒に散歩しよう」

 

「あいよー」

 

 なんか……変だな、というかよく分からんが違和感?がする、ような、なんだ。そんな漠然とした気持ちのまま歩いていると、道が二手に別れる。

 

「アルトー、右行こ」

 

「あーい」

 

 そう言うので右へと進むことに。確かこの先は……っと、だよな、川だったよな。確か。

 ふむ、今日は暑いし水遊びするのも悪くないな……こんなことなら着替えでも持ってくるべきだったか。

 そのことを姉ちゃんにも言おうかと思い、振り向くと

 

「おわっ……っっ!?」

 

 顔が真っ白に、目は真っ黒に、半開きに開いた口の中も真っ黒に。まるで、パンダかのようになってしまった姉に驚きを隠せず、つい声に出てしまった。

 

「え、と……」

 

「……」

 

 此方をじ──と、見つめてくる。何も言わず。

 流石に俺からしても急であり、咄嗟な対応に詰まった為、自然と口を噤んでしまっていた。

 

 というか、そうか……忘れていた。

 そう言えばこの姉の中にはもう一つの人格?の『ナニカ』が居る、んだったっけか。

 

 確か〝おねだり〟を3回聞いたら、〝お願い〟を1つ叶えてくれる。んで、その〝お願い〟によって後の〝おねだり〟の大きさも変わる……だったか? 他にも、同じ人間は連続で〝お願い〟出来ないとか、そんなのもあったっけ……。

 

 いや、そんなこと考えてる場合じゃないか。取り敢えず今この現状、どうするか。

 何か〝お願い〟を叶えて貰わないとアルカには戻らない。

 

「……んじゃ、そうだな……君のこと『ねーちゃん』って呼ばせて」

 

「あい」

 

 よし、これくらいなら次の〝おねだり〟もそんなに難易度上がらんだろう。

 そう思っていると、目の前のナニカ、もといねーちゃんがゆっくりと目を瞑っていくのが見えた。

 

 確か眠るんだっけか。なら、まぁ

 

「……おやすみねーちゃん。またな」

 

「あい……」

 

 そのまま意識が消え、力の抜けた身体が倒れそうになった為慌てて支えに入る。

 すると、今度は普段耳にする、馴染みある声が耳に届いた。

 

「……ん、アルちゃん?」

 

「お、姉ちゃん」

 

 姉ちゃんが起きた。

 

「なぁ、その、な……」

 

「ん?」

 

 さっきのことや、ねーちゃんについて姉ちゃんに聞こうと思ったが、果たして大丈夫なのかと思い、若干どもってしまう。

 が、しかし、ここは聞くべきだろう。

 

「姉ちゃんの中にさ、その……もう一人さ……」

 

「ナニカのこと?」

 

 もう名前付けてるってことは、もう既にキルアは確認済みって訳か。

 

「あ、うん。そうそう。えー、と、俺初めて会ったわ」

 

「あーそっか。アルちゃんはまだ会ったことなかったっけ」

 

「うん、だからめっちゃびっくりした」

 

 姉ちゃんが悪い訳でないのは頭で分かってはいるが、それでも気持ちの問題で。なにぶん急で此方も心臓止まるかと思ったからね、ホントびっくりした。

 なので、シラーとした目をつい向けてしまった。

 

「あはははは、ごめんごめん。機嫌直してー」

 

 そう言いながら俺の頭をナデリナデリとする我が姉。

 

「──っ、やめ……恥ずいだろ

 

 そんな俺の言葉などどこ吹く風で、大変いい笑顔で続けて撫でてくる。

 や、嬉しくないわけじゃないけど……どうにも恥ずかしいのだ。その所為か自然と顔が赤くなっているのを感じ、反射的にそっぽを向く。

 

「んふふ。赤くなって。アルちゃんはかわいいなぁ」

 

「……、だからやめんか……」

 

 くっ、この姉め……くそっ、ダメだな。どうにも姉ちゃんには敵わん。

 

 

 

 余計な部分もままあったが、まぁそんなこんなが俺のねーちゃんとの初めての出会い。

 




 アルカ・ナニカのルールとか喋り方とか確認する為に、原作30〜32巻読み直したけど、めちゃんこ面白かった……。


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No.4◆ 姉ちゃんとねーちゃん ②

 こんなナニカも見てみたいなーって思ったんで書きました。あと今回は説明回みたいなもので、分かりにくかったら申し訳ございませんm(_ _)m

 それと、今作のナニカは原作とはキャラが違う感じになってるのでタグに〝キャラ崩壊〟入れときますね。そういうの苦手な方はすみません。

 では、どぞ!


 あれからねーちゃんとは度々顔を合わすことがあり、これはそんなある日のこと。

 

 いつもの如く姉ちゃんと敷地内を散歩している時に、ふと間延びした声が俺へと掛かった。

 

「アルトー」

 

「お、ねーちゃんか」

 

 こう呼ぶのはねーちゃんの方だからな。

 

「〝おねだり〟してきてー」

 

「ん、そうだな…………んじゃ、ジャンケンして」

 

「あい」

 

 〝おねだり〟

 

 通常のねーちゃんの能力?のルールであれば、ねーちゃんが〝おねだり〟を3回行い、それを聞いた場合に〝お願い〟を叶えて貰える。

 因みに〝おねだり〟を4回連続で断ると、最低でもその人とその人にとっての最愛の人が死亡する。

 

 という、簡単に説明しても中々バイオレンスな内容で、殆どの人間に適用されるルールなのだが……俺にとっては例外らしく。

 

 俺の場合、ねーちゃんが俺に要求する〝おねだり〟が一つで済んでしまう。それも毎回自ら(ナニカ)に『おねだりしてきて』という内容のもの。

 

 ミル兄の『オレの代わりにこいつ殺して』というお願いを聞いた後に、俺に対して〝おねだり〟してきた時も内容は変わらずいつも通りで。ミル兄の〝お願い〟に反映されて難易度が上がる訳でもなかった。

 

 しかし、その後に観光客のムーナさんにした〝おねだり〟は原作通りに、『これ(多分毒キノコ)食べて』だったことから、俺とのやり取りは別枠なんだろうと推測出来た。

 

 

 そして、俺自身ねーちゃんに色んな種類の(あくまで、可能な限りの)〝おねだり〟(実質 お願いと同義)をしてみたけれど、その後の俺への〝おねだり〟は、一貫して『おねだりしてきて』になってしまう。

 

 

 ・通常

 

 ナニカ→対象人物 ──── 誰か→ナニカ

 〝おねだり〟 3回────〝お願い〟

 内容:『前回の

 〝お願い〟により変動』

 

 ・アルトの場合

 

 ナニカ→アルト────アルト→ナニカ

〝おねだり〟1回 ────〝おねだり〟

内容:『〝おねだり〟──(↑≒〝お願い〟)

してきて』

 

 これを繰り返す。

 

 

 この〝おねだり〟の内容は、どんなものでも(恐らく)可能で、実質此方からノーリスクで〝お願い〟を叶えて貰っているようなもの。

 強いてリスクを上げるとすれば、次のねーちゃんからの〝おねだり〟で、ねーちゃんに〝おねだり〟(≒〝お願い〟)しなければならない。という、ほぼノーリスクなもの。

 

 まぁ、要はお姉ちゃんに〝おねだり〟してごらん?叶えてあげるから。お姉ちゃんを頼って。っていう、ねーちゃんが弟に対してお姉ちゃんムーヴしたいという現れなんじゃないだろうか。

 単純に弟に頼られたい、という。そんなものだと俺は捉えている。

 

 

「最初はグー」

 

「「ジャンケンほい」」

 

「俺の勝ちィ!!」

 

「……」

 

 ま、なんでもノーリスクで〝お願い〟を叶えて貰えると言っても、それで念の才能伸ばしてやら、好きな食べ物出してやら、可能か分からんが元の世界に戻してやら(別に今はさほど戻りたい訳でも無いが)、そんなことは叶えて貰わずに、大抵はいつも一緒に遊んでくれって内容にしてる。

 

「いやねーちゃんゴメン、ゴメンって……流石に今のは俺の反応が過剰だった。調子乗って悪かったから。だからそんな冷たい目でこっち見んの勘弁して頂けませんか……」

 

「……、あい( ̄^ ̄) (やれやれ全くこの弟は……の顔)

 じゃーアルトー、また〝おねだり〟してきてー」

 

「じゃーそーだな…………っと、……なら『いっせーのーで』やろうぜ。今日こそはねーちゃんにリベンジ果たせる気がするしな」

 

「あい(`─´)(ふっ、やってみな──という顔)」

 

「先行はさっきのジャンケン勝ったから俺にちょうだいな。よし、んじゃーいくぞ!いっせーので────」

 

 

 ねーちゃんが起きてられる時間のうちは、〝お願い〟叶えて貰って終わりじゃなくて、出来る限り長いこと楽しんで欲しいから。

 それと、何でもノーリスクで叶えてくれるっていうチートみたいな恩恵、俺からしたら、たとえそうでなくとも、それ目当てでねーちゃんに、もう一人の姉と交流してる様な後ろめたさが付いてきてしまうと直感したから。

 

 もしかしたら俺の転生特典が、言われてないだけでこのチート過ぎる恩恵という可能性もあるが……俺にとって、ねーちゃんは大切な家族で姉だ。

 

 だから、あくまでねーちゃんとして大切にしたい存在だと、今は思っちゃいるんだが……だがしかし、俺も人間な訳で。

 強過ぎる力に目が眩む可能性なんか十分にある。その所為で俺の考え方が変わることも、絶対に無いとは言い切れない。自分のことはよく分かる。意思を貫き通す心の強さがあると自負している、とも口にして言えないくらいの、所詮それくらいの人間だから。

 

 だから、自身がなりたくない人間にならないようにする為にも、こうありたいと自分が定めた人間であり続ける為にも、俺はねーちゃんには私利私欲な〝おねだり〟はしない。(但しイル兄対策は除く)

 

 

 ──2度目の人生。なんやかんやで超幸運で勝ち取った今世だからこそ、結構生に執着していて、簡単に死なないようにはしたいけれども、流石に大切な家族と天秤に掛けるなら後者を取る。

 

 

 

 泥を啜っても、どんな手を使っても必ずこの世界で生き伸びようと強く思ってはいるが、まぁ、どっちが大切なんて、そんなの考えるまでもない。

 

 

 俺はシスコンだからな。姉を優先するのは当たり前だろ。

 

 

 

「なん……だと……また負けた。5連続だぞ」

 

「あい(*´-`) (ふふ、少しは腕を上げたようだが……まだお姉ちゃんにゃ届かんなぁ。出直してき──という顔)」

 

「──(流石にここまでやられては悔しい) もっ回。もっ回やろうぜねーちゃん。お願い。頼むから……ラス一だから」

 

「あい ( ̄  ̄)b (ヤレヤレ相変わらず負けず嫌いな子だな……まぁ仕方ない──私はお姉ちゃんだからね。ふふ──という顔)」

 

 そっ……と、ねーちゃんが手を差し出してきた為、再戦の合図と此方は受け取った。

 

「よし、流石ねーちゃん心が広い!じゃあ勝負!」

 

「あい」

 

 

 

 と、そんな姉とのちょっとした関係性を振り返りながら自身のアイデンティティを再確認した日の一幕だった。

 




美○兄「…………」じろりと作者の方を見つめつつ


いやすみませんね……魔が差したというか……。


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No.5◆ 姉ちゃんとねーちゃん ③

久しぶりの投稿デス


 うちの執事達が大勢亡くなってしまった事件から少し経った頃、遂に姉が隔離されることになった。

 

「アルトー」

 

「……」

 

 恐らく、今日この時間が姉との最後の交流だろう。

 この前、父さんや爺ちゃんが姉の処遇について話しているのを盗み聞きしたから間違いない。勿論、その後2度3度も、それこそ〝絶〟まで使って情報収集に及んで十分な裏は取った。

 

 姉が隔離されてしまうのは2日後。

 

 明日には多分、バタバタするだろうし、この日が最後だ。

 

 だからせめて、後悔しないように過ごそう。

 

「……あのな」

 

「アルトー、いいコいいコさせてー」

 

「ねーちゃん、その前に話ある」

 

 色々と話さねば。今日で暫くはお別れだってことも。次会うのはきっと、キルアがゴンを治してあげた後、だろう。

 

 暫くはお別れなんだと、そう口を開こうとしたが

 

「アルトー」

 

「話が」

 

「アルトー」

 

「……」

 

「いいコいいコさせてー」

 

「………………、……あいよ」

 

 なにやらうずうずと、あまりにもやりたそうにしている為、渋々ながら頭を差し出す。

 

「〜〜〜♪」

 

 非常にご機嫌な様子で俺の頭をナデリナデリするねーちゃん。

 気に入ってるのね、そりゃよかった。

 俺も好きよ、ねーちゃんが撫でてくれんの。どうにも恥ずかしさは慣れんけども。

 

「……ま、いいから。そのまま聞いてくれ」

 

 暫く続きそうだった為、仕方なくそのままの態勢で話すことに。

 

「近いうちにな、ねーちゃん……」

 

 とは言ったものの、なんて言えばいいのか。

 隔離される? 離れ離れになる? 暫く会えない? 

 どう伝えるのが適切なのか。

 

 足りない頭で考え抜き、絞り出した答えは、結局凡庸なもので、そんな自分に嫌気がさしてしまうのを堪えつつも、ゆっくりと口を開く。

 

「姉ちゃんとねーちゃんとは、暫く会えなくなる」

 

 ぴたっ、と頭を撫でる腕の動きが止まる。どう反応するかと、恐る恐るねーちゃんの顔を見やると、表情こそは変化は無かった。しかし、雰囲気が常と異なるのは、悲しいかな、双子としての付き合いが長い分、容易に感じ取れた。

 

 だから、ねーちゃんの気持ちが、少なからずは、多分分かってしまったような気がして。その所為で、少し胸が苦しくて、視界も少し滲んできて

 

「その……ねーちゃんがな、近いうち、違う場所に行くんだけど、そこには俺、行けなくてな」

 

 俺が泣きそうになってどうすんだ、辛いのはこんな状況に追いやられた姉の方で、それに、分かっていてどうにも出来なかった俺が泣くのは違うだろと、なんとか震える声を押し殺し喋ろうとすると、どうしても辿々しくなってしまい

 

「ねーちゃんは部屋に閉じ込められてしまうっつぅか……その、……悪い」

 

 要領を得ない、そんな言葉しか出せなかった。

 

 

 

 そりゃあ……俺だって出来るものならこんな状況ひっくり返したい。姉を自由にしてやり、キルアと共に遊んだり、ずっと仲良く出来たらなんといいことか。

 

 けどもしそうなったなら。

 例えばキルアならハンター試験に行って親友に出会うことが無くなってしまうかもしれない。俺が何かしたら、イル兄に勘付かれてねーちゃんの自由が更に制限されるか、もしくは俺が 木偶(でく)にされるかもしれない。他にも、俺が余計なことをした為に起こり得る良からぬことがあるかもしれない。

 

 あくまでこれはキルアの役目。姉を救ってやれるのはキルアしかいない。俺がすることなんざない。

 俺はただ、この本来居ないはずのゾルディック家のイレギュラーでしかないのだから。その証拠に念の系統も放出系で、自分が異物なんだと、この世界からも言われているように感じる。

 

 

 ……と、そんな御託を並べたけれど。要するに怖いんだ。確かに俺の中での家族の優先順位は非常に高い。けれど、それ以上に原作の流れというか、余計な手立しをして最悪の結果に繋がるかもしれないとか考えてしまう。

 なんせ、原作よりもより良くしてやろうとか俺には考えられないから。

 

 確かに俺の戦闘力は弛まぬ訓練(強制)とゾルディックの血筋ってこともあって、自分で言うのもアレだけど中々のものになってると言える。将来的には、それこそ原作開始時点ではそれなりのもんになってるとは思う。

 けど所詮はそれ止まり。キルア程のずば抜けた才能は無いし、ミル兄ほどの頭は持ってない前世普通の大学生だし、他にも兄弟達の様に突出した何かがあるわけでもない。

 

 こんなたかが普通の人間が優れた肉体に転生したからって、上手い具合に何でもかんでも望むままに話の流れを弄るなんざ出来る訳が無い。

 

 そうそう特別な人間でも無いんだ。だからこの世界(HUNTER×HUNTER)の流れを調整するんじゃなくて、如何に干渉せず、原作通りにことが進むようにするかを考えてしまう。後ろ向きにしか考えれない。

 

 

 だから姉のこの件については何も出来なかった。

 弟として姉を守らねばならないのに。罪悪感を見ぬふりをして、責任から逃れて彼女と笑い合っていた。

 

 俺が只の臆病者だから、なにも。出来なかった。

 

 

 そんな資格も無いにも関わらず、一丁前に自責の念にかられて、情けなく何も言葉を吐き出せないまま、ただ唇を噛み締め俯いていると──

 

「アルト」

 

「──、……?」

 

 くいっと肩を引かれるままに、ねーちゃんの方へと身体が傾く。自然、頭が姉の胸に当たり、急いで退かそうとするも、手で押さえつけられ叶わなかった。

 

 何をするのか。そう思い口を開こうとすると、

 

「あい」

 

……」

 

 ゆっくりと、子供をあやすかのように優しく、ねーちゃんが俺の頭を撫で始めた。

 それは普段の形だけのものとは違い、掌から伝わってくるじんわりとした、なにか温かなものが心地良くて、つい目を細めてしまう。

 

「……」

 

「……あい」

 

 落ち込んでいる俺を慰めてくれているんだろうか。

 自分の方が辛いだろうに。

 急に隔離されるかもしれないと聞いて、心穏やかではないだろうに。

 

「そんな……俺」

 

 優しくしてもらう権利なんざ俺には無いのに。

 何度も自問自答して、分かっているのに。

 弟のように、温かく接して貰っていい筈はないのに。

 

 それでも、この優しさに甘えそうになってしまう。

 だけど、

 

「……ダメだって、俺は分かってても。何もしなくて……目を背けて、ねーちゃん達を心から思いやれずにいたんだから。だからそんな優しくされても……」

 

 〝俺には弟みたいに接して貰える筋合いは無い〟

 

 家族よりも、形も無い、ハッキリと分からない世界の流れを優先したんだ。

 優しさを向けられるのは違う。

 

 そんな思いを込めての吐き出した一言。

 だけど────

 

 

 

 

「アルト、スキ」

 

「……っ、けど──っ、……」

 

 言葉を返すべく頭を上げ、顔を見やると。

 

「アルト、スキ」

 

 口をひき結んで、瞳が揺らいでいる。

 

 言葉が続かなかった。

 けどもなにも無い。

 姉のそんな悲しそうな表情を見てから気づくなんて。

 本当に弟失格じゃないか。

 

「……ぁ、ごめん」

 

 何を卑屈になって、あんな言葉を、口をついて出たのだろう。

 

 家族から、執事からも良い目で見られていないねーちゃんを。疎外感感じてる姉達を。

 否定するようなことを言ってしまうなんて。

 

 今、姉と繋がりを断てば、それこそ酷なことだろうに。

 姉にとっての数少ない味方の自分が。

 後先考えず味方になってしまった自分が。

 

 そんな、都合よく離れようとするなんて違うだろう。

 

 

 

 自分には資格がない? 弟としての? 

 何をいまさら。

 卑屈になって考え込んで視野が狭まっていた。

 

 双子の姉弟として仲良く。

 姉の隣を生きてきた。

 

 確かに知っていたのに何もしなかった。

 味方面してんじゃねぇよって感じだ。

 

 だけど、俺は弟だ。

 姉ちゃんとねーちゃんと俺と、三人で笑ってきた。

 そんな仲だ。

 そんな仲で今まで生きたんだ。

 

 だから。

 そうしてきたんだから。

 資格もなにも、最後まで姉の味方しなきゃならんだろうが。

 

 悲劇ぶって思い詰めて、後ろ向きになって、クヨクヨして。

 姉に余計な心配かけて、悲しませてしまった。

 

「ごめん、俺は弟だ。ねーちゃんの弟だ」

 

「あい」

 

 確かに世界の流れは無視出来なくて怖いけれど。

 でも、出来ることはあるだろう。

 

 弟として、ほんの少しでも、寂しさを和らげてもらえるくらいのことは出来る筈だ。

 俺にでも出来るくらいのことはある筈だ。

 

 今出来ることに今目を向けて、動くべきだ。

 

「ねーちゃん、寂しかったら俺を呼んでくれ」

 

「……?」

 

「暇な時でもいい。新しい遊びがしたくて、その相手になって欲しい時でも。一緒にご飯食べたい時でも。どんな時だっていい。だから、この先寂しかったりしたら俺をねーちゃん達の部屋に呼んでくれ」

 

「……あい」

 

「……今はなんのこっちゃって話だろうけれど。この先分かるから。あと、俺もねーちゃん達には会いたいし、一緒に遊びたいんだ。だから俺の頼み事、聞いてくれるか……?」

 

「あい」

 

 せめて、姉にとっての王子様が外に連れ出してくれるその日まで。

 寂しさを少しでも埋めるくらいのことは出来ると信じて。

 

 2日後に姉は隔離された。

 

 




 という感じで主人公があーだこーだ言ってうじうじする回でありました。
 やたら後ろ向が目立った彼ですが、まぁ彼前世一般人ですので。なんとかゾルディックの訓練やらについていけるとはいえ(それだけでも充分凄い)、流石にイルミやシルバ、ゼノ等を間近で見続けてきて、その恐怖もしっかりと理解していまして。どうにかしなきゃと思いながらも、家族の人間に盾突く度胸も、勇気も湧きませんでした。

 動き出そうとするも、原作の流れを弄るのが怖くて、周辺に居る実力者の力も怖くて。

 ですが、それでも前を向き、現状なんとか自分でも出来ることに目を向けて動きました。

 なので。
 主人公にお疲れ様 って労いの言葉でも思って頂ければ幸いですm(_ _)m


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No.6◆ 姉ちゃんとねーちゃん ④

 さて、そういうわけで過去編お送りしてきましたこの作品。ここで現在に戻りますね。 

 そして久しぶりなので軽い説明をば。

 前話より3年。
 主人公ことアルト=ゾルディック 11歳。
 キャラ紹介を兼ねて家族と交流し、カルトとのおやつタイムを終え別れたその時。

『アルトー』

 彼の頭の中に響いた声。
 それは────



「ん? あぁ、ねーちゃん」

 

 ねーちゃんからのテレパシーが来た。

 因みに原理はねーちゃん特有の不思議パワーでああこうしてるらしい。

 つまり俺もよく分かってない。

 

『今時間いい?』

 

「大丈夫。今日は何すんの?」 

 

『おやつ一緒にたべたい』

 

「了解。んじゃ頼むわ」

 

 瞬間

 目の前の景色が移り変わる。

 すぐ目の前には先程まで話していた我が姉。

()()()()()が居た。

 

「おっす。カルトから貰った和菓子あるけど食べる?」

 

「あい」

 

 こくりと首肯する。

 それを尻目に妹から貰った菓子の詰め合わせを確認していく。

 

「なんかたくさんあるけど…………おぉ回転焼きあるな。ねーちゃん半分こして食べないか?」

 

「あい。大判焼きすき。たべたい」

 

「だよな。美味いよな回転焼き」

 

「おい。大判焼きおいしい」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 

「…………特にあんこ入ってるのすき」

 

「あー……、──、残念ながらこれ白あんなんだよなぁ……まぁ回転焼きは中身あんこが至高ってのは同意だけどさ」

 

 因みに次点で白あん。そしてカスタードクリームときてうぐいす餡が俺のランキング。

 

 とまあ、そんな俺のどうでもいい情報はさておき。

 

 ねーちゃんと話している内に準備は出来たので頂くとしよう。

 

「「いただきます」」

 

 お互い手を合わせ、食材に感謝を捧げる。

 

 食事の度に言う『いただきます』という、この言葉。

 命を奪い取り、それを摂取させて頂くことへの感謝を込めたこの言葉。

 

 

 ……急に暗い話になって申し訳ないけど。

 

 職業柄、何人もの人を殺めてきて

 その度に実感して、麻痺して、忘れそうになってしまう命の尊さ。 

 

 余りにも簡単に人は死んでしまう。様々な方法で人は死んでしまう。やって分かった。

 殴られたり、首を締められたり、刺されたり、撃たれたり、毒を盛られたり、轢かれたり……数え始めるとキリがない。

 世界には人を殺すものが、人が、状況が満ちている。

 

 そして、加害者側になって手を汚していく内に、命の重さが分からくなることが時たまあったりする。

 前の生での当たり前が塗り潰されそうになったりする。

 

 その方が自分の職業考えると楽なんじゃないかと。

 思考放棄しようと何度も思う。

 

 けど

 

 それでも食事の度にこの言葉を繰り返して。

 何度も何度も命を頂くことへの感謝を頭の中で反芻し。

 命について考えることを止めなかったお陰で、なんとか自分を保てている。

 

 HUNTER×HUNTERではたくさんの人が亡くなって、そんなことに意識を向ければ大変だろうと思われるだろうけど。

 だけど……やっぱりどうにも日本の一般市民だった俺からすると、こんなことに慣れてしまう自分への抵抗があるというか。

 

 まぁ暗殺者やってる奴が何言ってんのって話だろうけど。

 まぁつまるところ、俺が何を言いたかったのかというと

 

『いただきます』はホント大事。

 これに尽きる。

 

「おいしいおいしい」

 

「美味いなぁ」

 

 モクモクと食べる様を横目に、俺もまったりと食べ続けた。

 

 ─

 ──

 ───

 

「──そんでさ。って()()()()聞いてる?」

 

 余りにも静かなため横の姉に目を向けると、ふるふると震えている。

 なんだと思い俯いた顔を覗き込むと、桃色の頬を膨らませたフグがいた。

 

「──っ、ふふっ、聞いてる聞いてる」

 

「えぇ……いやいや姉ちゃん笑い事じゃないんだってこれがさ。マジで」

 

「ふぅっ──、いや〜でも……ねぇ?」

 

 一息吐き、そしてなにか思案するように腕を組むと、やがて少し眉を落とす。

 若干困ったような表情を浮かべている。

 

「でもじゃないって! マジで焦ったんだよ今回本気で!」

 

 なんせ妹の艶やかで、絹のように美しく、只人が触れることなぞ許されぬ髪を無断で触ってしまったのだ。

 母さんとかならまぁいいだろうが、異性の俺は別。

 縁を切られなかっただけ本当によかった……。

 

 ましてやそこら辺の野郎なんかが触れようものなら即刻処刑レベルのことなんだから……。

 

 もしそうならと考えたら気が悪くなってきた。

 その時は俺が絶対ぶっ殺す。

 

「はは……本当に心配性だねぇ……」

(私は昔のカルちゃんのことしか知らないけど……あんなお兄ちゃんっ子な妹だったから大丈夫だと思うけどなぁ)

 

「心配にもなるんだよ……これまで慕ってくれていた妹にもし、内心よく思われてなかったらって思うとな……あ、ダメだこれ心がもちそうにないぞ」

 

 よくない方向へ思考を飛躍していく頭を思わず抱えた。

 なんだか顔がやつれていくのを感じる。

 

 あー……

 

 胸が痛い

 

「はぁ……まったくこの弟はカルちゃんが絡むと直ぐこうなるんだから……しょうがないなホント……なんでこんな手をつけようがないシスコンになっちゃったのかなぁ……

 

 小声で言ってるけど聞こえてるぞ? 

 あとそんな遠くを見るような目で俺を見ないでやめて心にくるから

 

「ん〜、そうだな……。──、……じゃあアルちゃんさ。あたしにナデナデされたら嫌?」

 

「いや、んなことはないけど」

 

 なんならまぁ……少しは嬉しいような? 気もしないでもないかもしれない(ツンデレ)(誰得……?)

 

 絶対言わんけど。

 

「でしょ? じゃあカルちゃんだってそんなに嫌がってないと思うよ」

 

「う〜ん、そう、か……? だといいんだけどな……」

 

 難色を示すような表情を浮かべながら言うと、隣から勢いよく応答が返ってくる。

 

「そうそうきっとそうだって! 大丈夫大丈夫! それにやっちゃったことに対してしっかり反省してるんだからもういいでしょ──? あとは次どうするかだよ。はい、どうするの?」

 

 諭すかのように言われてしまい、思わず言葉につまる。ペースを崩されてしまった。

 

「────、そうだな。…………みだりに人の嫌がるかもしれない部分に触れないように……。次からは軽率な行いをしないように、より一層心を引き締める。今回の件を教訓にして」

 

「──うん。いいんじゃないかな。うん──」

 

「──、……うん」

 

 余りにも優しい瞳で見つめられ、いたたまれなくなったため目を逸らす。

 くっ、姉みが強いッ! 直視できん! 

 

「まぁ、その、……ありがとう」

 

「いいよ」

 

 そろーっと目線を横に戻すと再び目が合い、1秒も保たずして視線を切ってしまう。

 やはり厳しい。恥ずかしい。姉力が高い。ぐぬぬ

 

 この場をどうするかと考え唸っていると、隣の姉が立ち上がる。

 なんだと思い視線で追うと、俺の真正面に座り出した。

 

 

 

 そして、笑顔

 

 にぱーっ! とした

 

 笑顔! 

 

「ちゃんとカルちゃんに謝って、そしてお姉ちゃんに話してくれたのは嬉しかったよー、ほら、えらいえらい」なでなで

 

「──、〜〜〜〜!!」

 

 赤くなった顔を隠すように俯くしかなかった




 父親が仕事帰りに買ってきてくれた回転焼き。
 食後にお茶をいれ、家族皆で食べたなぁ……という思い出に浸りつつ書きました。 
 ホント美味しいですよねぇ……回転焼き。
 回転焼き。


 今回の主人公が瞬間移動したのはナニカの能力によるものでして。前話から約3年間、ナニカからのテレパシーが来て主人公の了承の後、姉の元へと転移というのが日常になってます。


 次回からは主人公の念能力なども見せていければなと思います。もう大体案は固まってるので、後は話を作るのみ! 


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