ダンジョンにこそ響け我が愛の唄《凍結》 (ベニヤ板)
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転生にこそ響け我が愛の唄
ある日、一人の男が命を落がち。なんてことはない、ただの交通事故だ。1,2週間もすればニュースにも取り上げられなくなり、その事故を覚えているのは最終的に男の家族と友人だけとなるだろう。
しかし・・・・・・・・彼がいた世界では、ね。
どういうことかって?それはね・・・・・・・・・
「僕が君を転生させるからさ!」
「は?」
い、今起こったありのままを話すぜ!交通事故にあったかと思ったら変な場所で変な奴に突然僕が君を転生させるからさ!と言われた!な、何を言ってるのかわからねぇと思うがオレも最初何が起こったのかわからなかった。(以下省略)
「だーかーらー、僕が君を転生させるの!異世界に!」
「は、はぁ・・・・・・・どうも?」
いまいち状況がつかめずに歯切れの悪い返事をしてしまうが、この変な奴はそのことを無視して話を進める。
「異世界に転生させるが、悪いが転生先はこちらで指定させてもらう!」
「あ、そうですか・・・・・・・・」
いや、まあそれでも人生不完全燃焼で終わった身としてはありがたいけども?
「因みに転生特典はfgoの・・・・・・・・そうだな、アサシンのサーヴァントの中から僕が選ぼう!」
fgo、そのゲームは知っている、というか実際オレもやってた。しかし選ばしてくれないのか、残念。
「はい、じゃあせめてもの情けだ、多少なりと要望を聞いてあげよう。」
今だ自己紹介すらしない変な奴にそう問われた。
要望か・・・・・・・そうだな、アサシンか。異世界ともなると戦闘の機会は少なからずあるかもしれない。その際に敵に不意打ちあるいは敵から逃走する際に気配遮断があるといいな、うん。
「じゃあ高い気配遮断スキルがあるサーヴァントで。」
「OKOK!じゃあその要望のもと君自身の力となるサーヴァントを決めよう!
それじゃあよき異世界ライフを~」
その瞬間、オレの意識は途絶えた。
「ん、んん・・・・・・・・・」
目が覚めるとそこは錆びれた教会のような場所だった。どうやら自分は教会にある講壇にもたれかかって地面に座っていたらしい。
恐らく転生は無事に終わったのあろうと、自分の装いを確認してみる。執事のような紳士的な服装で、手には白い手袋をしている。顔の右半分は仮面をかぶっているようで、自分ではどんなデザインの仮面かは見えないが察しはつく。
これ・・・・・・・ファントムだな。フルネームはファントム・オブ・ジ・オペラ。
・・・・・・・・・おかしいだろ!?なんでファントムなんだよ!?確かにあいつ気配遮断スキルAで持ってるよ!でも、でもな!普通そこはハサンとかだろ!?いや、ハサンもハサンで外見がアレだから困るけども!ファントムも外見的にやべぇじゃねぇか!むしろハサンよりやばいわ!
(ここのオリ主は第三再臨以降のファントムを見たことがありません。マジで素顔がヤバイと思ってます)
ああ・・・・・・・しかもオレ、前世童貞のまま魔法使いで死んだの思い出した・・・・・・・・ていうかなんであの変なやつについてのことを聞かなかったんだ・・・・・・・・しかもあの時、普通に死んだこと受け入れてたが、これ十中八九あの変な奴に精神いじくられてたんじゃん・・・・・・・・だっておかしいもん、自分で選べない上にサーヴァントのクラスがアサシン限定について残念の一言で済ますわけないやん・・・・・・・・あの野郎ふざけやがって・・・・・・・本当になんでファントムなんだよ・・・・・・・なぜ色々と抵抗しなかったオレ・・・・・・・ああ、精神いじくられたからか・・・・・・・・涙出てきたよ・・・・・・・・
「ああ・・・・・・・オレは・・・・・・・・」
(´;ω;`)ウッ・・・・・・・どうしてこんな・・・・・・・・せめてアサシンならサンソンの方が・・・・・・・・
「ん~?中に誰か・・・・・・・って、ええ!?
ちょ、どうしたんだい!?」
あ、見られた。
「で、本当になんでうちの教会で泣いてたんだい?」
「・・・・・・・・・・・・」
ど、どうしよう・・・・・・・・あのあと案の定お部屋へと通され事情聴取の流れに・・・・・・・・なんでって、変な奴に精神いじくられた上にファントムにされたから、なんて言えるわけがない。言い訳なんて考えてもいないし何よりこの廃教会に人が住んでるなんて思わなかった。
いやー、しかしこの子、外見に似合わないレベルのモノをお持ちのようですなー(現実逃避)
「・・・・・・・・答えづらいならこの質問は後だ。
そもそもなんで協会にいたんだい君は?」
いや、ほんとなんでなんでしょうね!
「それは私にもわからない。
気が付いたら講壇に寄りかかって地面に座っていた。」
因みに喋り方はファントムに少し寄せてます。なんか理由はないけどこっちのほうが落ち着く。・・・・・・・絶対これも精神弄られてる。
「わからない・・・・・・・・ってことは記憶喪失か何かかい?」
「いや・・・・・・・・・」
ん?待てよ。記憶喪失ということにしておいた方が何かと都合がいいかもしれん。この辺りの事も忘れちゃった、とか言えばこの人は気がよさそうだし教えてくれそう。この世界はまだオレにとっては未知数、自然な形で情報収集ができそうだ。
「・・・・・・・・いや、確かに君の言う通り、ある意味私は記憶喪失のようだ。
ここがどこなのかさえ分からない。
よければ、色々教えてもらえないだろうか?」
このような純粋な子を騙すのはいささか罪悪感を感じるが、緊急事態だ。それにこの世界の記憶はない、つまりある意味記憶喪失!嘘は言っていない。さあカモン!情報カモン!
「・・・・・・・わかった。嘘も言っていないようだし色々教えるよ。」
ありがてえ!
その後のこの子の話では、ここは巨大迷宮の上に建てられた迷宮都市オラリオ。ここでは迷宮探索、および迷宮内で自然発生するモンスターと戦う職業である冒険者というものがあるらしい。冒険者は地上に降りてきた神々から
「で、私もその神の一人、ヘスティアだ!」
「・・・・・・・・・・・・」
あっぶねえええええええええええ!!!良かった!本当でもあり嘘でもないこと言っといてよかった!あの場面で嘘なんてついたら見た目と相まって怪しさ満点じゃんか!いやこの見た目の時点で怪しさ満点だけど!
「君の名前は何だい?」
「私の名は・・・・・・・そう、ファントム。ファントム・オブ・ジ・オペラ。」
「ふ~ん、変わった名だね。」
なんかこう名乗るのがしっくりくる。どうせあの変な奴の仕業だ。今度会ったら八つ裂きにする(物騒)
「では、私はそろそろこの辺で」
「え、行っちゃうのかい?」
「そう長い時間居座っていても、そちら側にとって迷惑というもの。」
「・・・・・・・・・・行く当てはあるのかい?
ていうかお金、持ってるのかい?」
「・・・・・・・・・・・・」
そうだ、そういえばこの世界のお金持ってないや。これじゃあしばらく野宿生活か?食料どうしよう?ていうかさすがに野宿は辛い。
「その様子だといく当てもないようだね。
しばらく家に留まるといい。」
「・・・・・・・・・すまない、ヘスティア殿。しばらくお世話になります。」
「まあいいってことさ!
それよりさ、そろそろ夕食にしようぜ!」
このあと、仮面が邪魔で食うのに難儀したのはまた別のお話。
・ファントム 今作の主人公。前世でfgoで最初の方はファントムを使っていたが途中から使わなくなった。それゆえ第三再臨以降のファントムの姿を知らないし仮面をとる気もない。変な奴に精神いじくられてるため精神汚染はちゃんと持っている。
・変な奴 自己紹介もせずに主人公をファントムにした変な奴。その正体は誰にもわからないが、神様だとしたらその身勝手さからギリシャ系列の神と思われる。
・ヘスティア 明らかに不審者な主人公を色々と気にかけてくれる優しい人、いや神。これから彼に対して勘違いを重ねていく。
・ファントム(fate) 主人公のことではなくfgoの方のファントム。レアリティは☆2.相手にデバフをかけたりデバフをかかりやすくしたり星を出したりする性能。宝具はアサシンでは珍しい全体宝具なので序盤の雑魚を倒しつつ異性のボスを倒す際にどうぞ。
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勘違いにこそ響け我が愛の唄
オラリオの地下に広がる大迷宮。その中を一人の男が歩いていた。その姿、服装、歩き方からは気品を感じるが、異形の仮面を被り指からは手は血のように真っ赤、ナイフよりも鋭いかぎ爪が指から生えていた。
このかぎ爪、パッと見では指先にナイフの着いた手袋のようではあるが、間違いなく彼の指先から生えているもので、何故か手袋をするとまるで無かったもののようになる。あの手袋がおかしいのかこのかぎ爪がおかしいのか、それはわからない。
彼、ファントムは女神ヘスティアから恩恵を受け、冒険者となった。さすがにニートはいやだからね、そのことを伝えたら少し渋られたがOKされたよ。
というか神様は何かこう、勘違いをしている節がある。なんかオレのやることなすこと全て重くとらえてるというかなんというか。
まあ多分教会内で泣いているところを見られたのが原因だろう。それと顔になんで仮面をしているのか、って聞かれたときにしたオレの返事も悪かった。
その時のオレの返事がこちら。
「我が顔を見る者は恐怖を知ることになるだろう」
これはどう考えてもオレが悪い。さらにこの発言のあとにあっ、言い方間違えた、やっちゃったと思ったんだが、その時の表情のせいで勘違いは加速した。ああ、これはあれですね、オレ勘違いされる系のオリ主ですね。こういうパターンだともう手遅れですねわかります。
・・・・・・・なーんてね!これは現実だ、ちゃんと口で言えば勘違いも解けることだろう!
因みに今回ダンジョンに潜るのにはもう一つ目的がある。今、オレはファントムなのだが果たしてファントムのスキルが使えるのかどうかだ。
ファントムのスキルは無辜の怪物、魅惑の美声、精神汚染、クラススキルで気配遮断を持っている。
まず無辜の怪物だが、これはこのスキルの持ち主が創作物などによってそのものに対するイメージが変化し捻じ曲げられた怪物であることを示す。これは確かfgoでは自身の防御力を下げる代わりに自身にスター獲得量増加を付与する。これは正直よくわからん。能力が現実となった今では一体どういった感じで働くのだろうか?後回しだ。
次に魅惑の美声。これは女性に対して魅了の状態異常を付与、なのだがまずここに異性がいるかはわからないしいたとしてそれは同業者だろう。まあ女形モンスターには通じるかもだが?とりあえず後回しだ。
次に精神汚染。言うまでもなく後回しだ。
じゃあまずは消去法でなおかつどういったスキルなのかわかりやすい気配遮断だ。
使い方はわからないが・・・・・・・・確か自分の気配を消すスキルだったな。とりあえず気配消えろと心の中で念じる。そしてそのままダンジョン内を進んでいく。途中で何人かの冒険者とすれ違ったが無反応だったことを見るに、恐らく問題なく動作しているのだろうが、確認はしっかりと。
通路の向こう側には一匹のゴブリン。後ろからその状態で近付いていくが、ゴブリンは気付く様子もない。そのまま近づいて、近づいて、背後に立つ。ここまでして気付かないということは、確実に存在を見失っているな。いや、最初から視認などできていないか。
確か気配遮断は攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。腕を振り上げたら即座に、ゴブリンの首めがけて振り下ろす。彼は知らないことだが、ファントムは筋力がB、敏捷がAある。ゴブリン程度ならば命を刈り取るぐらい容易い。
ゴブリンの首が宙を舞い、体からは血しぶきが噴水のように噴き出す。それにより爪はもちろんのこと、服にまで血が飛び散ってしまった。グロイし汚い。
そしてゴブリンの死体は散々血をまき散らした後に灰になって崩れ去り、そこには魔石と呼ばれる紫色の宝石があった。
ていうかこれ・・・・・・・ちゃんと洗ったら落ちるのか汚れ?確かなんちゃらソーダ?ていうのがないと服についた血って落ちないんじゃないっけ?何かしらファンタジーな魔法で汚れ落とせないかなぁ・・・・・・・・。グロイのにも慣れてかないといけないし・・・・・・・・・
「グシャアッ!!!」
そんな事を考えてるうちに後ろからいつの間にかゴブリンが一匹襲い掛かってきた。振り返りざまに爪で切り裂く。どうやらこのファントムボディ、ゴブリン程度なら正面から戦っても余裕なようだ。しかしもしも反応が遅れていたならば負傷していたことだろう。魔石を二つ回収してもう一度気配を遮断する。
ダンジョン内では油断しないようにしよう。
「ファントム君、一人でダンジョンに潜ったけど大丈夫かな・・・・・・・・」
この度、初めて自身のファミリアを持ったジャガ丸くんという揚げ物を撃っている屋台でバイトしている少女、ヘスティア。彼女は今、ただ一人のファミリアのメンバーであるファントム・オブ・ジ・オペラのことを心配していた。
それも当たり前の事、たとえ複数人で潜ったとしても死傷者の出るダンジョン、そこにたった一人で潜っていったのだ。心配しないわけがない。
それに、彼はどこか心に傷を負っている節がある。あの時、帰ってきたら何故か廃教会にいた彼。なぜか泣いていた彼。その夕日で照らされた横顔とその姿はまるで一つの芸術のようで、だけれども薄い陶器のように簡単に壊れてしまいそうな印象を受けた。
驚いて声をかけた時、彼はこちらを向いたのだが、その顔の右側につけている以上の面にはギョッとした。雪のように白く、口は耳まで裂けていて目の周りは血が充血したかのように赤く目には白目が無くただ闇のように黒い黒色で塗りつぶしたのみ。趣味が悪い、で片付けられるものではなかった。この面を作ったのは狂気を孕んだ芸術家か何かなのか?
何故そんな仮面をしているのか、と聞いたところ、
「我が顔を見る者は恐怖を知ることになるだろう・・・・・・・・」
こういった後に見せた彼の悲しげな表情からすべてを悟った。ああ、間違いない。彼は何か過去にあったのだ、と。もともとそんな節は合った。
何故こんな廃教会にいたのかと聞いた時、わからないと答えた。これは嘘ではなかった。しかしこの後、彼は自身を記憶喪失だ、といった。それは嘘だった。その時はまた後で色々聞けばいいだろうと思っていた。
だが、これでほぼ確定だろう。彼は思い出したくない程の過去を背負っている。心底忘れたいと思うほどの。あの狂気じみた仮面もそれが原因なのだろう。・・・・・・・・・彼の顔に何があるのかはわからない。彼が話したくないのであればそれでいい。
「ね、ねぇ何かしらあれ・・・・・・・・・」
「怖いわねぇ、あんなに血まみれでおかしな仮面までして・・・・・・・・・」
「なんだありゃあ・・・・・・・・・」
「一体何があったんだ・・・・・・・・?」
何やら周りの人がある一点を見ているのに気が付いた。周りの人の視線に流され、その方向へと目をやる。
「ッ!?」
そこには、キッチリとしていた服も手袋も、髪も仮面で隠れていない左半分の綺麗な顔までもが血にぬれていたただ一人のヘスティア・ファミリアのメンバー、ファントムがいた。むしろこれでは血が付いていない場所を探す方が難しいというものだ。
「ファントム君!!」
彼女はバイト中であるということも忘れてファントムに駆け寄って、強く抱きしめた。バイトの制服も汚れてしまっているが構わなかった。
「・・・・・・・・・ヘスティア様?
私は今汚れている、今触れてしまえばあなたまで汚れてしまう。」
「構わない!構わないさッ!!
そんな事より君の事だよ!どうして、どうしてそんなになるまで・・・・・・・・・!」
「そんなになるまで・・・・・・・・・?
なるほど、この血はすべてダンジョン内のモンスターのもの、我が血は一滴たりとも付着しておりません。
それに汚れは洗濯すれば落ちるもの、ヘスティア様がそんな心配に思うことなどありません。
なぜなら私はあなたのファミリアの一員なのだから。
そのようなことよりも、これを。」
そういってファントムはズッシリとお金の入った袋を見せる。
「初日ではありますがこれほど稼げました。
これならばあなたもいずれはバイトもせずに生活が可能でしょう、我が女神よ」
「返り血だとか洗濯だとか、稼ぎとかの話じゃないんだよ!
どうして・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・・」
―――――――――――どうしてそんな悲しそうな顔をするんだい・・・・・・・・・
仮面の真っ黒な目から、赤い涙が垂れている。ヘスティアにはそう見えた。
「・・・・・・・・・換金を、していただきたい。」
「は、はい・・・・・・・・・・」
あの後も長い事潜っていたのだが、そのせいで服はモンスターの血で血まみれ、さらに町の人から奇異の視線で見られながらギルドまで来たためとても不機嫌。早く廃教会に戻ってお風呂入りたい。
「5000ヴァリスになります」
「ファッ!?」
し、初日で、しかも一人で5000ヴァリス・・・・・・・・これはもしかしなくとも凄いんじゃないのか!?いや、凄いな!この調子で毎日稼げば生活もだいぶマシになるのでは!?いや、オレには成長の余地がある!ここからさらに稼ぎは上昇していくはず、この調子ならばヘスティア様もバイトなんてしなくていいのでは!
ルンルン気分で教会への帰路についたわけだが、血まみれでルンルン気分がいけなかったらしく奇異の視線はより濃厚に。気付けばまた不機嫌になっていた。あ~あ、やんなっちゃうよまったく。人を何だと思っているのか。服が血で汚れない戦い方も模索していかなきゃな。
「ファントム君!」
「アフンッ!?」
現実逃避のために深く考え事をしていると、何故かヘスティア様が抱き着いてきた。その際にヘスティア様の豊満なソレが押し付けられる。
「(煩悩退散煩悩退散煩悩退散)ヘスティア様?
私は今汚れている、今触れてしまえばあなたまで汚れてしまう。」
「構わない!構わないさッ!!
そんな事より君の事だよ!どうして、どうしてそんなになるまで・・・・・・・・・!」
「そんなになるまで・・・・・・・・・?」
はて、何のことを言っているのだろうか?そんなになるまで?別に外傷とかはないし・・・・・・・・あ、もしかして洗濯のことか?それともしかしたらこの血のせいでオレが傷を負っていると勘違いしているのだろうか?
「なるほど、この血はすべてダンジョン内のモンスターのもの、我が血は一滴たりとも付着しておりません。
それに汚れは洗濯すれば落ちるもの、ヘスティア様がそんな心配に思うことなどありません。
なぜなら私はあなたのファミリアの一員なのだから。
そのようなことよりも、これを。」
そういってお金がズッシリ入った袋を見せる。・・・・・・・・それと、そろそろ離れてもらいたい。煩悩が!煩悩が!これでも男なんですよオレ!?しかも結構見られて恥ずかしいし!
「初日ではありますがこれほど稼げました。
これならばあなたもいずれはバイトもせずに生活が可能でしょう、我が女神よ」
「返り血だとか洗濯だとか、稼ぎとかの話じゃないんだよ!
どうして・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・・」
今にも泣いてしまいそうな感じのヘスティア様。
え・・・・・・・・?オレ、何か悪いことしました?ど、どうすればいいんだろうか・・・・・・・・・まるで心当たりがない・・・・・・・・・
結局、その後もしばらく考えてみたがわからなかった。
・ファントム ただ不機嫌だっただけだが薄幸そうなイケメンフェイスのせいで厄介な勘違いをされてしまった。またダンジョン帰りはこれからも常に血まみれなため怪人という不名誉なあだ名がつく。レベル2になったら間違いなく正式に二つ名になる。
・ヘスティア 厄介な勘違いをした女神。その心は純粋故なおさら厄介。
・ゴブリン アイズと出会う前のベル君にすら負けるキング・オブ・雑魚。
・エイナ まだ未登場だがファントムの存在は確認していると思われる。彼に世話を焼くかどうかは不明。
・ヘスティアのバイト先 恐らく今回一番の被害者。不審者とバイトの子の繋がりが認知されてしまったため。
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ちょっと気になる女の子にこそ響け我が愛の唄
クリスティーヌ「知らんがな」
「・・・・・・・・・ダンジョンに行っても?」
「ダメだ!」
「どうしても?」
「どうしても!」
初めてのダンジョン潜りから早半年、巷ではオレのことを怪人だ何だあだ名すようになった今日この頃。ヘスティア様は全然ダンジョンに行かせてくれない。
「お金ならボクだってバイトしているし貯金もそこそこたまっている!
ダンジョンに潜る必要性はないだろう?」
「金とは稼がねば巣立ちの季節の小鳥のようにいずれ飛んで消えるもの、その先に待つのは極貧生活のみ。」
「極貧上等さ!」
何故か毎回ダンジョンに行かせてくれない。これは困った、折角戦い方も覚えてきて第10階層ぐらいまでならいけるぐらいの実力はあるというのに。いや、気配遮断を利用すればもっと下層に潜れるだろう。
「・・・・・・・では仕方ない。
私は奏でよう、今はかなたの君への音楽を。」
廃教会に置いてあるピアノ、それはヘスティア様が君はもっと趣味に走れ!とか言って買ってきたものだ。今のオレはファントムボディゆえ、最初こそうまく引けなかったが最近ではそこそこうまく弾けるようになっている。まあいまだに試していないファントムの宝具、
閑話休題、さぁさぁピアノを弾く・・・・・・・・ふりをして気配遮断!
「あっ!どこ行った!?」
ハハハハさらばー!
さてさて、今日はちょっと深くまで行ってみよっかな。第9、いや第10ぐらいまで行くか。あの辺りから大分天井が高くなるから宝具の試し打ちがようやくできそうだしな。
途中出てきたウォーシャドウを爪で切り裂く。うんうん、こういった小銭稼ぎもしっかりやっていかなくちゃね。気配遮断はダンジョン内では基本ずっとしているが、こうやってモンスターを見かけたら狩るようにしている。・・・・・・・・この戦法のせいで武器熟練度と器用度以外のステイタスが伸びづらかったりする。あんまり体力使わないからなぁ、この戦法。
「・・・・・・・・そこにいるのは」
モンスターを倒すまでの数秒の間の気配遮断スキルの大幅低下、その場面を丁度誰かに見られたらしい。声のした方を見てみると、それは見た目麗しい女騎士様がいた。
・・・・・・・・・いや、すごくきれいな見た目をしている。思わず見とれてしまった。
「・・・・・・・・・おっと、これは失礼。
私の名前はファントム・オブ・ジ・オペラ、日々この爪を魔物の血で濡らし、ただピアノを奏でるだけに時間を割くただの冒険者。
よろしければお名前をお聞かせいただいても?麗しき女騎士殿」
礼儀正しく礼をする。
ていうか思ったまんまを口に出してどうするオレエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!これじゃあただのナンパじゃねぇか!いや、向こうから話しかけてきたからナンパではないのだけれども!!
「ファントム、という名前だったのね。
私はアイズ・ヴァレンシュタイン。
あなたの噂はいつも聞いているから、つい話しかけてしまいました。」
アイズ・ヴァレンシュタイン・・・・・・・・どっかで聞いたことがあるようなないような?見た目綺麗だし街のおばちゃんとかの間で噂されているのを聞いたのだろうか?
「そうでしたか。
噂、といっても私にはこれといって外見以外で特徴的なものはありません。
ただ影に忍ぶのが上手いだけの、格下にも正面から挑まない臆病者にすぎません。」
「その評価は自分を卑下しすぎているように思えますが。」
「そう言っていただけるとありがたい。
・・・・・・・・・して、今日はお一人で?」
先ほどから彼女の仲間らしき者の姿はない。はぐれたのか、それともソロか?
「今日は仲間には内緒でソロで来ています。」
どうやら
まあ、マジレスすると彼女はきっとレベル2はいっているのだろうな。じゃなければ一人でダンジョンに潜るなんてことはしないだろう。賢そうだしきっと引き際もちゃんと見極められるだろう。
・・・・・・・・・でも、やはり一人で行かせるのは気が引けるな。
「よろしければですが・・・・・・・・私がお供いたしましょうか?」
「・・・・・・・・・・いいんですか?」
「ええ、見たところもう少し下の階層まで赴くご様子。
しかしダンジョン内での女性の一人歩き、それは危険極まりないというもの。
よろしければエスコートでもさせていただきましょう。」
「・・・・・・・・じゃあ、お願いします。」
\(^o^)/オワタ
いや、何がオワタなんだよって?それはね?ここね?第二十階層なんだ。
うん、変だとは思ってたよ。14~15階層を超えてきた辺りから変だなって思ってたよ。だってどう考えてもソロで来るようなところじゃないもん。今、やっと気づいた。
この人・・・・・・・・ロキ・ファミリアの幹部の『剣姫』だ・・・・・・・・・
因みに彼女のレベルは5、オレは1。
第二十階層の適正レベル、2。
\(^o^)/オワタ
トンボ型のモンスターであるガン・リベルラが大量に湧いて出てくる。早速気配遮断!ていうかこうでもしないと本当に死ぬゥ!!
気配遮断のせいでほとんどのリベルラがアイズ、いや剣姫の方向へ向かっていく。ごめんよ、さすがにオレだと死にかねないから。
そんなことは気にせず普通に剣を振るう剣姫。・・・・・・・・・エスコートって言っちゃったしオレも頑張らないと。ほぼ必要ないだろうけども!
比較的低い位置を飛んでいるガン・リベルラの背中に飛び乗る。飛び乗られたガン・リベルラはオレの存在に気付くが、背中にいれば攻撃の使用が無いようだ。必死に暴れて振り落とそうとしてくる。・・・・・・・・・普通にパワー負けして落ちてしまった。しかし落ちる瞬間、首元に向けて爪を突き刺して空中にとどまる。そのまま魔石をほじくり出す。モンスターは魔石が取り出されるとその場で灰になって崩れ落ちるからこうやればオレでも格上ではあるが倒すことができる。
地面に着地するともう一体こちらへ飛んできて突進攻撃をしようとする。体を捻り逆に頭に爪を突き刺し、そのまま頭から胴、尻にかけて切り裂いていき、ガン・リベルラは三枚におろされる。オレの爪、超鋭いやん。まさかここのモンスターにも刃が通るとは。
・・・・・・・・・ん?他のガン・リベルラはどこへ行った?結構沢山いたはずだが・・・・・・・・・。
「そちらも終わりましたか。」
「・・・・・・・・・・・」
も?そちら、も?
そういえば、明らかに彼女の腰の、恐らく魔石を入れる用のポーチがパンパンに。
・・・・・・・・オレ、まだ二体しか倒してないのに一人であの数を倒したのか。
エスコート、いる?いらないよね?オレなんかのエスコートいらないよね?
「え、ええ、襲い来るモンスターはすべて崩れ落ち、灰となって虚空に消えてゆきました。」
「そのようですね―――――――――――避けて!!!」
「ぇっ?」
振り返ってみ・・・・・・・・・ようとしたら脚がもつれてこける。女の子の前で足がもつれてこけるなんてダサい真似はしたくない・・・・・・・・・!!!
身体能力にものを言わせ、学生のような女の子の前でかっこ悪いところは見せたくないという気持ちでそのままバク転をする。ふと見てみると剣姫さんもその場を離れており、自分達が立っていたところは一瞬で剣山のように針が大量に突き刺さった。
結果的にかっこよく回避できたことになった、ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ!
上空を見てみると、さっきとは比べ物にならないほどの量のガン・リベルラがいた。ガン・リベルラは尻から針を飛ばすことができる、そんなのがこの数!
「・・・・・・・・・・仕方がない」
試したことが無いから不安だが、やるしかない。いや、そもそも今日試す予定だったし、丁度いい。
本来ゲームでは必要のなかった詠唱を始める。
「――――――――私は歌う。
この世界を呪いながら」
「一体、何を・・・・・・・・・」
アイズの疑問は無視され、そのままファントムは何かをつぶやき続ける。
「私は歌い続ける、君への愛を、世界への憎悪を。
何故ならこの世に君ほど価値のあるものはないのだから、君の声を隠すこの世界に価値など無いのだから。」
すると、彼らの周りが一気に暗くなる。それは光の一切が遮断され、その中にいると一種の寂しさすら覚えてくるほどの暗闇。一寸先すらも何も見えない。どこになにがあるのかは当然のごとく分からない。さらにただ暗いわけではない。そこはまるで引き込まれるような暗闇、大量にいたガン・リベルラの羽音すらも聞こえない。まるで空間のみが別の場所へ隔離されているかのようだ。
ポツポツと、紫色の小さな明かりがついていきアイズや大量のガン・リベルラ、そして辺りを照らす。どうやらその明かりは蝋燭にともされているようだが、果たしてこの蝋燭はどこから来たのか、それはわからない。しかしその明かりは弱弱しく、この空間全体を照らすには至らない。
「私と唄おう、あの舞台でもう一度。
陽の光など忘れるほど暗く、固く閉ざされた石と鎖と革の部屋で、喉が枯れるまで何度でも!」
そして、明かりはファントムの姿も照らし出した。
「唄え唄え我が天使――――――――」
まるで演劇のような身振り手振りで、誰かに語り掛けるようにそうつぶやく。そうすると地面から巨大なパイプオルガンに似た演奏装置がまるで植物のように、されどそれとは比にならないスピードで生えてくる。
その鍵盤のもとにはファントムが立っている。そして今、音を奏でる。その音を奏でるさまは壊れ物を触るように優しく、明確な敵意を込もっていた。
「
演奏装置から音が奏でられる。その音には魔力が込められており、使用者と、使用者の味方以外に不可視の魔力攻撃を振りまく。媒体が音であるためにその効果範囲は絶大。それゆえ、ガン・リベルラの大群はことごとくが灰になり、魔石のみを残し消滅させた。
かつてオペラ座の怪人が犠牲者の死体で形作った歪んだ愛のカタチ。歪んだ情熱と狂気のと織りなされる音楽は緻密であまりにも冒涜的。
この宝具は対軍宝具に分類されるため、相手が多数の際には無類の強さを誇る。これが、ファントムが唯一持つ宝具だった。
(・・・・・・・・・地味に、いや結構詠唱恥ずかしいな。)
この場にはアイズもいる。例えるなら部屋に招いた彼女に黒歴史ノートを見られたような感覚だと思えば今の彼の心情はわかるだろうか?
ともかく、一人の時以外はこの宝具は絶対に使わないと決めた。
・ファントム ピアノが弾けることが判明。また、第二十階層の敵も不意打ちと幸運が重なれば倒せることも判明。実はアイズから勘違いされているのだがそれは次回に。
・アイズ 言わずと知れた剣姫さん。ファントムとは不幸なことに偶然出会ってしまった。実はファントムの実力をよく見抜けてない。
・ヘスティア ダンジョンにファントムが行くのを止めようとするが毎回脱走される。そして帰るたびに悲しい顔(不機嫌なだけ)をしてくるファントムを気に掛ける凄く優しい神様。
・ガン・リベルラ 第二十階層から出てくるトンボ型のモンスター。ファントムの宝具で一掃されてしまった。
・地獄にこそ響け我が愛の唄 ファントムの宝具。何気に宝具レベルはB+と、実はバサクレスに攻撃が通る。また、攻撃方法があくまで魔力による攻撃なのでベートはそれを吸収できるという解釈をしているが役立つことは無い。
・詠唱 私と唄おう、あの舞台でもう一度とか言いつつ即座に固く閉ざされた石と鎖と革の部屋の部屋で歌う事を強要する、ファントムの狂気を作者が頑張って再現しようとした結果。必要かな、と最初は思ったが今にして思えば蛇足。また、作者の黒歴史である。
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気になる女の子が盛大に勘違いを起こしたけど響け我が愛の唄
クリスティーヌ「本でも読んで文才磨け」
その日は、ファミリアの面々には内緒でダンジョンに来ていた。まだまだ私は弱いと、もっと強くならなければと強く思っていたがための行動だ。日帰りで行けるとしたら第二十階層程度、出てくるモンスターも今の彼女、アイズ・ヴァレンシュタインにとっては脅威とはなりえないため行ってもほとんど意味は無い。意味は無いのだが、ちょっとでもそれで強くなれるならばやるまでだ。
だからその日、日帰りで変えることも考えてちょっと速足で階段を下り下の階層へと歩を進めていっていた。
そんな時に、なんてことはないことではあるが、下の階層への階段の最短距離の道にウォーシャドウが一体、一体だけいたのだ。別に一体程度倒すのに時間はかからない。ただ剣を一回振るえばそれで終わり。こんなことも結構よくあったのでいつも通りに倒すために剣に手をかけた。
そして、ウォーシャドウは切り裂かれた。されど彼女の手によってではなく、別の者の手によってだが。
「‥……そこにいるのは」
ウォーシャドウを切り裂いた男は、手には指先に刃のついた手袋?のようなものをはめており、それを武器としているのだろう。一撃で切り裂いたことから切れ味の鋭さがうかがえる。そんな風変わりな武器と同様、その男の格好はダンジョンで不自然極まりないものであった。これが舞踏会の場や、屋敷で主に仕えてる者ならば違和感はない、そんな紳士のような恰好だった。そして顔は右半分だけ異形の仮面で隠している。
私は彼を知っている。いや、本名は知らないし実際に見たのは初めてだが、最近噂になっている『怪人』だ。冒険者はレベル2になるとその本人を表す二つ名がつけられるのだが、『怪人』というのは二つ名ではない。ダンジョンに単身で潜ってはことごとく生還、しかし毎回血まみれで帰ってくることからそう呼ばれるようになっただけだ。
この前、ベートが彼の噂について話しているのを思い出した。ダンジョンで彼の姿を見たのはごく少数、しかし魔石は持って帰っているしモンスターの血で血まみれになっていることから戦っていないわけがないのだ。このことから彼に対する噂は数知れず、ベート一人にしても大量の噂を語っていた。
曰く、特殊なスキルで透明化している。
曰く、彼は元殺人鬼で、その時の名残として人目を避けている。
曰く、彼は誰にも視認できない速さで動いている。
曰く、彼は志半ばで死んでいった冒険者たちの亡霊の集合体で、ダンジョンに入ると亡霊たちが分裂してモンスターを呪い殺している。分裂することで人間には視認できないのだ。
曰く、彼は悪魔の落とし子である。
一部信憑性のあるものから突拍子のないものまで様々。こういった噂の当事者は、基本本名も知れ渡って行く者なのだが、何故か彼の名は知れ渡っていない。所属しているファミリアだって何故か謎に包まれており、ヘファイストス・ファミリアやロキ・ファミリアの隠し刀だとかいう噂も聞いた。確かヘスティア・ファミリアというところに所属している、という噂が一番信憑性が高い、だったか。何でも複数の冒険者が好奇心で彼に対する情報をギルドの人間に聞いたのだそうだ。
「………おっと、これは失礼。
私の名前はファントム・オブ・ジ・オペラ、日々この爪を魔物の血で濡らし、ただピアノを奏でるだけに時間を割くただの冒険者。
よろしければお名前をお聞かせいただいても?麗しき女騎士殿」
たった今、怪人は、いやファントムと名乗った彼は礼儀正しく礼をした。態度や言葉遣いはまさしく紳士のそれだ。
「ファントム、という名前だったのね。
私はアイズ・ヴァレンシュタイン。
あなたの噂はいつも聞いているから、つい話しかけてしまいました。」
一瞬、少し考えたような素振りを見せた彼は、すぐに噂を否定した。
「そうでしたか。
噂、といっても私にはこれといって外見以外で特徴的なものはありません。
ただ影に忍ぶのが上手いだけの、格下にも正面から挑まない臆病者にすぎません。」
「その評価は自分を卑下しすぎているように思えますが。」
「そう言っていただけるとありがたい。」
ただの臆病者に過ぎない?何を言うか。経歴実力本名全てにおいて謎に包まれていてダンジョンにたった一人で潜って大した怪我もせず大量の魔石を毎回持ち帰っておいてただ影に忍ぶのが上手いだけ?これはもはや謙遜を通り越して皮肉ととられてもおかしくはない。
それに……不思議だ。この男の声、綺麗な声だとは思う。ただ、それだけだ。普段なら、それだけの感想を抱いて終わりだ。しかし、なぜだかこの男と話していると気分が落ち着く、いや無理矢理落ち着かされているといった表現の方が正しい。まるで、優しく包み込むような声。温かさを感じさせる声。親しい友人のような安心する声。しかし明らかにこの感情は不自然、言い方が悪いがまるで洗脳でもされているかのよう。
※注 気になる女の子と話しているせいでファントムが無意識に魅惑の美声を発動させてるだけ
それに彼からは、なぜだか人とは違う気配がする。普通の人とは違う、失礼だとは思うがそのまま人間とはまた違ったものの気配がする。・・・・・・・・・・本当に、何者なの、彼は?
※注 無辜の怪物のせいです。
「‥‥……して、今日はお一人で?」
「今日は仲間には内緒でソロで来ています。」
ほう、と顔に笑みを浮かべると、こんな提案をしてきた。
「よろしければですが‥‥‥‥私がお供いたしましょうか?」
「………‥いいんですか?」
「ええ、見たところもう少し下の階層まで赴くご様子。
しかしダンジョン内での女性の一人歩き、それは危険極まりないというもの。
よろしければエスコートでもさせていただきましょう。」
‥‥‥‥チャンスだ。前々から気になっていた。彼がどれほど強いのかどうかを。それに、これは予感、ただの予感だが、この男は恐らく強い。謎に包まれた怪人、その強さの一端を見れば私もさらなる高みへと行けるかもしれない。
私を騙そうとでもしているのかもしれない、と思うレベルにはまだ信頼できない相手だ。まず私と共に潜るメリットが見えてこない。だが、別に構わない。騙したいのなら騙せばいい。私はあなたの強さの一端を見て自分の糧にするだけだ。
※注 ただの善意+下心です。
「‥‥‥‥じゃあ、お願いします。」
ダンジョンの階層をどんどん下っていくが、彼からは何の言葉もない。何の言葉もない、つまりはどの階層でも彼の脅威となるものはないということだ。まさか無理でもしているのか、とも思ったがそんな様子はない。気が付けば二十階層まで来てしまった。日帰りすることも考えるとこれ以上下の階層までいくことはできない。
これで判明した、彼は私と同等かそれ以上の実力を持っている。
※注 不意打ちしたとしても普通に負けます。精々手傷を負わせて終わり。
この階層に出てくるモンスター、ガン・リベルラが出てくる。空を飛んでいるうえに針を飛ばしてくる。昔は結構倒すのに苦労したが、今では取るに足らない存在だ。
チラ、と彼のいたところを見てみるが、彼の姿は影も形もない。また気配を消したのだろう。どうやらまず姿を隠すのが彼の戦法のようだ。
私の方も戦闘を始めよう。
剣を抜き、相手に向けて降り続ければいつもすぐに殲滅できる。今日もすぐに殲滅できた。辺りを見渡してみると、彼はガン・リベルラをまるで魚のように三枚におろしていた。あの爪、どこで作られたものなのだろうか?あれだけ簡単にガン・リベルラを切り裂けるのならばやはりヘファイストス・ファミリアだろうか。しかし、あのような特殊な武器は扱っていただろうか。恐らくは特注品か掘り出し物、もしくは別のファミリア製なのだろう。
「そちらも終わりましたか。」
「ええ、襲い来るモンスターはすべて崩れ落ち、灰となって虚空に消えてゆきました。」
本当に未知数すぎる。あの爪、あの気配を遮断しての不意打ちの戦法、どう考えても一対多には向かない。なのに彼は傷どころか服に汚れ一つついてないのはなぜ?
※注 アイズにヘイトが集まっていたのとアイズが一瞬でほとんどを片付けたからです。
「そのようですね―――――――――――避けて!!!」
少し、ほんの少し話していた隙に大量のガン・リベルラの接近を許してしまった。ガン・リベルラは尻から針を発射する。一本や二本程度ならば問題はないのだ、しかしこれだけ量が多いとなると話は別。私は立ち位置の都合で気づいたが、彼は反応に遅れて良くて負傷、悪くて死亡してしまうかもしれない。
などという疑問は浮かんだ。が、しかし彼はまるでその位置に攻撃が来ることが分かっていたかの如くバク転で避けて見せた。
これは明らかにおかしい。立ち位置からしてアン・リベルラは彼の背後に現れた。それにガン・リベルラは羽音があまりしない。一体どうやって気付いたというのか。
「‥‥‥……仕方がない」
仕方がないとはどういうことなのだろうか?そんな疑問を口にする前に彼は何やらつぶやき始めた。
「――――――――私は歌う。
この世界を呪いながら」
「一体、何を………」
私の言葉など気にせず、彼はつぶやき続ける。
「私は歌い続ける、君への愛を、世界への憎悪を。
何故ならこの世に君ほど価値のあるものはないのだから、君の声を隠すこの世界に価値など無いのだから。」
突然、まるでこれからオペラやミュージカルの始まる舞台のように辺り一帯が暗くなった。
いったい彼は何をしているの?何をつぶやいているの?
魔法―――――――?
―――――――いや、違う。魔法のようには見えない、されどスキルならば詠唱があるのはおかしい。
呪詛―――――――?
―――――――いや、違う。言葉選びからして呪詛だが、なぜだか恨みつらみといった感情を感じない。
「‥‥……孤独」
孤独、それに伴う寂しさ、なぜだかそれらは感じられた。それは果たして彼が作った真っ暗な空間のせいか、それとも彼本人のせいなのか、あるいはその両方か。
ポツポツと、紫色の小さな明かりがついていきアイズや大量のガン・リベルラ、そして辺りを照らす。どうやらその明かりは蝋燭にともされているようだが、果たしてこの蝋燭はどこから来たのか、それはわからない。しかしその明かりは弱弱しく、この空間全体を照らすには至らない。
しかしそれは、まるで死者を送り出す祭事の時の小さな明かりのような印象を受けた。
「私と唄おう、あの舞台でもう一度。
陽の光など忘れるほど暗く、固く閉ざされた石と鎖と革の部屋で、喉が枯れるまで何度でも!」
明かりはとうとう彼、ファントムの姿も映しだした。
「唄え唄え我が天使――――――――」
まるで演劇のような身振り手振りで、誰かに語り掛けるようにそうつぶやく。そうすると地面から巨大なパイプオルガンに似た演奏装置がまるで植物のように、されどそれとは比にならないスピードで生えてくる。
何?なんなの?さっきから起こっているこの現象は一体?それにあのパイプオルガンもそうだ、巨大で、まるでどこかの大聖堂のもののように緻密な造りではあるが、そこからは先ほど彼から感じなかった恨み、怒り、憎悪、様々な感情が渦巻いているように見える。それに、まるで人の顔のように見える部分が一つ‥‥……
「
彼はそれを奏でだした。するとそこから、まるでとてつもない衝撃波が放たれているかの如くガン・リベルラたちが粉々になっていく。
――――――――――さっき、仕方がないといったのはこういうことなのだろうか。この巨大な演奏装置は、
そして、それと同時に彼の傷だ。それも、心の。
私は今までに――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――あれほど悲しそうな顔をした人を見たことが無い。
※注 初めて扱う宝具かつ失敗したらやばいということで精神に余裕がないだけです。彼は悲しんでなんかいません。
・ファントム 色々と余裕のなかった人。頑張ってかっこつけようとしたりしたが余裕が無かった。
・アイズ 盛大に勘違いをした。その勘違いのスピードはヘスティアも超える。ファントムに恋心を抱かれているが恐らく気付かない。
・ロキ まだ登場していないアイズのところの主神。あなたのうちの子、不審者に絡まれてますよ。
・ベル ファントムと同じ相手に恋心を抱いたことで後の苦悩する予定。しかしその苦悩は単なる時間の無駄でしかない。
・ガン・リベルラ
・ファントム(fate) この主人公を見た時彼は何を思うだろうか。
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がっつりビビりまくっている後輩にこそ響け我が愛の唄
クリスティーヌ「こればっかりはどうしても・・・・・・・・・ねぇ?」
最近、自分についての噂について初めて深く知った。こういった噂というのは話題の中心が奇怪であればあるほどに尾ひれやらがついていき一気に拡散していくものだが、意外にもその話題の中心には回ってこない。まあ、要するにオレは今まで変な目で見られているのは知っていたけど噂については知らなかったというだけのことだ。
それに知った理由も大したことは無い、ただちょいと道を歩いていたら周りの人に噂されててそれが聞こえただけだ。いやー、うん。これについては本当驚いた。誰が亡霊の集合体かと、柄にもなくはっ?てなった。
まあそこはいいのだ。話題になることよりも話題にならない方が辛いってどこかの凄い人も言ってたし、これは逆に言えば常にこの街の話題の中心にいるオレはその分名声が広がるのも速いということにもなる。それにこういうのは民衆は飽きたらすぐに忘れる。今、うっかり悪い噂を現実にしないように気を付けて名声を高めていけばよい。
だが‥‥‥……どうやら最近新しい噂が追加されたらしい。それは、
『ファントム・オブ・ジ・オペラは剣姫アイズ・ヴァレンシュタインと同程度の実力を持っている』
‥‥‥……( ゚Д゚)ハァ?
いや、いやいやいや、いや。確かにルール無用の戦闘ならばレベルの一つや二つ上の相手にも勝ることができるかもしれない。気配遮断して後ろからドスッてやればいいだけだ。ガン・リベルラも真正面からやりあえば勝ち目はないが前回のは不意打ちを成功させたのと大部分をアイズさん(レベルが上なので敬称つき)が相手取ってくれたから勝てたわけで。
では、なぜこんな噂が立ったのか?
まず一つ、一緒にいたせい。あの後は普通に一緒に街に戻って換金した。山分けは自分の実力的にあまりに申し訳ないのでそれぞれが倒した分だけをそれぞれ換金しようという話になった。まあ最後の全体攻撃のせいで結果的にほぼ分け前は同程度になったが、それがいけなかった。二人とも同じぐらいの魔石を持っている、これははたから見たら山分けのように映るだろう。つまり、周りからしたらアイズさんと同程度の活躍をしたとアイズ本人に認められたとみられてもおかしくはない。
二つ目は、一緒にいたせい。ただでさえオレは噂の中心にいるのにそこに剣姫が加わっても見ろ、ものすごい目立つ。さらにいえば、どうやら誰かに第二十階層から十九階層に上った所を見られたらしい。第二十階層の代表的モンスターはガン・リベルラ、それ相手に二人とも無傷、ああ二人で無双したんだなと思われるのは火を見るより明らか。
さらに三つめは一緒にいたせい。一緒にいたせいでアイズさん本人がオレの気配遮断スキルを近くにいる自分でさえ気づかないレベルで気配を隠すのが上手いと勘違いして、そこから自分と同程度かそれ以上の実力のアサシンだと勘違いしたらしい。いや、これだけならばいいのだが、ワンチャンアイズさんがそのことをロキ・ファミリアの面々に話した恐れがある。その話しているところを他の誰かに聞かれ、このことからさらにこの噂の信憑性に拍車をかけた。
いや、三つ目に関しては完全に自分の推測、いや妄想ともいえるレベルだが、それを抜きにしてもこの噂は信憑性が高い。
こっちとしてはいつ死ぬかわからない階層に来たせいで足ガッタガタ震えていたがな!内心で!
そんなこんなでオレの二つ名は『怪人』から『
うん、fgoのファントムのスキルですねわかります。スター発生しそう(小並感)
で、こんな長ったらしく自分の噂やら新しい二つ名について説明したのには理由がある。
「‥‥‥……」
「ガタガタガタ」
目の前の新入り君、ベル・クラネルというのだが、がこの噂のせいで凄いビビってる。
まあ‥‥……それも仕方がないっちゃ仕方がない。彼はパッと見た感じ十代前半、まだ前世で言うところの中学生である。対してオレは肉体年齢は恐らく二十代前半、その年の差は十ぐらいあると思われるしオレの場合前述した悪名(不本意)が轟きまくっている。普通に仮面も不気味だし、冒険者なのになんの武器も鎧もないどころか紳士のような服装というのは明らかにおかしい。
ていうかヘスティア様よ、そのまあ仕方ないかって感じの顔でなんのフォローも入れないとはどういうことだ?酷くないか?
‥………ここはダンジョンに潜ってオレが恐くないってとこを見せてやるか。
「‥‥………君、」
「ヒッ!?」
「‥………そんなに怖がらなくてもいいじゃないか。
支度をしたまえ、これからダンジョンへ行く。」
「ダ、ダンジョン………ですか?」
「ああ、見たところ君の得物はナイフ、私の得物もナイフのようなものでね、色々と教えられるはずだ。
ヘスティア様、よろしいでしょうか?」
「‥‥‥‥……あんまり君には行かせたくないが、こればっかりは仕方ないか。
いいよ」
未だにオレにダンジョンに行かせたくないのか。まったく、前までは1人で行かせるのが危険だからだとばかり思っていたが、どうやら違うらしい。確かオレ自身は記憶喪失で通してるから別に過去に何かあったわけでもないのに。
※注 ヘスティアは何か過去にあったのだと思っています。
さて、まずはゴブリンの相手でもさせて才能を計るか。もう長い事ダンジョンに潜っているのだ、戦うさまを見れば才能のあるなしはわかるだろう。
・ファントム 前回の一件で勘違いが加速した人。うっかり自分の実力がアイズ並みだと世に認知されてしまった。実際の実力は相手がレベル2~3程度までならなんとか勝てるかな?というレベル。それでも充分凄いのだがやはりアイズとは実力に大きく差がある。
・ベル・クラネル 今の所作中最もファントムを恐れている人物。ロリ巨乳な優しい女神に案内された場所には怪人がいたという酷いトラップを受けた。一応アイズに並ぶ実力者だと思っているため尊敬はしているが恐怖が勝ってしまっている。ファントムとは未来の恋敵。アイズが振り向くとしたら間違いなくこっち。
・ヘスティア ファントムが恐がられることに関しては本人があまり気にしていないので、快く思っているわけではないがそのうち自然消滅すると踏んで放置している。しかしファントム自体が噂の種に事欠かないため自然消滅はまずしないと思われる。
・アイズ・ヴァレンシュタイン ファントムと原作主人公、そしてついでに同じファミリアのメンバーにも彼女に好意を寄せる人がいるが、いかんせんファントムのクセが強すぎるため他の二人の個性が薄く見える。地味にファントムとは街中で出会ったら挨拶を交わす程度の仲で実は好感度も三人の中で一番高い。(理由、強いから)
・ベート・ローガ アイズの欄で紹介したアイズと同じファミリアでアイズに好意を寄せている人物。種族的な理由もあるが正確に難がありあまりいい男とは言えない。彼も強いっちゃ強いが、同じファミリアな分かえって彼から学ぶことは無くなってしまったためファントムより好感度は下である。幸か不幸か、彼はそのことを知らない。
・
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愉悦にこそ響け我が愛の唄
クリスティーヌ「確かに疑似サーヴァントとかでならなんとか行けそうね。
十中八九☆1キャスターだろうけど。」
宝具でファントム召喚してファントムの演奏に合わせて歌ったり?
クリスティーヌ「ありそうね、それ。実装されたらの話だけど」
「‥‥‥……」
「(おじいちゃん‥‥……僕の冒険、早速終わりそう‥‥……)ガタガタガタ」
ベル・クラネルは恐怖していた。自分の目の前にいる男、ファントムに。
自分を受け入れてくれるファミリアが中々見つからないというところでヘスティアに拾われ、無事
その姿を見た時、その人の名前がすぐに分かった。なにせ、この迷宮都市オラリオにおいて強いものを上げるとしたらまず三名の名が挙がる。
フレイヤ・ファミリアのオラリオ唯一のレベル7、オッタル。
『剣姫』ことロキ・ファミリアのアイズ・ヴァレンシュタイン。
そして―――――――『無辜の怪物』こと、目の前のファントム・オブ・ジ・オペラ。
彼の噂はオラリオからは近いとは言えないベルの故郷の田舎にも広まっていた。どんな武器を使っているのか、どんな魔法が扱えるのか、どんな戦法なのか、キャリアはどのくらいなのか、仮面の下はどうなっているのか、そもそもレベルはいくつなのかなどなど。彼に関してわからないところを上げるときりがない。わかっているのは実力が高いらしいということだけ。
また、彼はその謎と同じくらいの量の噂が立っていた。ほとんどが悪名に近いにもかかわらず、そのほとんどが根拠が無い想像でしかない。そこから無辜の怪物という二つ名が付いたのだが、そもそもこれが本当に神々が決めた二つ名なのかという疑問もある。
何もかもが謎に包まれた、アイズとは対を為す最強格の冒険者、それが彼だ。
そんなどう考えても悪人のイメージが払拭することのできない男と現代日本でいうところの中学生を会わせてみよう。
こうなるのは必然である。
「‥‥………君、」
「ヒッ!?」
突然話しかけられて酷くびっくりしてしまい、こんな声が出てしまう。
こうなるのも必然である。
「‥………そんなに怖がらなくてもいいじゃないか。
支度をしたまえ、これからダンジョンへ行く。」
「ダ、ダンジョン………ですか?」
「ああ、見たところ君の得物はナイフ、私の得物もナイフのようなものでね、色々と教えられるはずだ。
ヘスティア様、よろしいでしょうか?」
「‥‥‥‥……あんまり君には行かせたくないが、こればっかりは仕方ないか。
いいよ」
どうやら初のパーティを組んでのダンジョン攻略の誘いのようだ。正直無事に終わるとは思えないというのが、ベルの本音であった。
ダンジョンに来たはいいが相変わらずベル君が怯えたまま、その姿はファントムの(絶対に空回りする)やる気スイッチを入れてしまった。
ここはしっかりと戦い方を教えてあげなければ!爪とナイフはどう見ても取り回しが違う気がするがどっちも似たようなもんだ!ファントムはそう思っていた。
「ベル君、ナイフというのはどれも刃渡りがどうしても短い。
それは長所でもあり短所でもある。」
「長所でもあり………短所でもある?」
「そう、例えばあそこにいるゴブリン。」
ファントムが指差した先には一匹のゴブリン。丁度よ~く一体でいるというのは理由があり、ゴブリンはさほど賢くないモンスターで基本的に群れで行動できたらする、できないなら群れを探さないで徘徊するという極めて単純かつ非効率的な行動をする。数の暴力というものの利点をいまいち理解していないのだ。
まだファントムはレベル1だが、強者風に戦ってみたりしてもいいよね?という、この先の展開が容易に予想できることを考えている辺り、この男はどこか抜けている。
「それじゃあ君は少し隠れて見ていなさい。」
「は、はい!」
適当な小石を投げつけ、こちらの存在に気付かせる。ゴブリンはそれに対し、威嚇のつもりなのか知らないが声を上げて襲い掛かってくる。
「まずは長所、それは武器自体が小さいため動きを阻害しないことだ。」
ファントムはゴブリンの攻撃を余裕をもって、かつ踊るように回避する。見よ、どう考えてもいらない動きでありベル君がその避け方を真似でもしたらどうするというのか。
ゴブリンはファントムに完全に遊ばれているのを理解しているらしく、段々と苛立ってきているように見える。それによりただでさえ粗く避けやすい動きがさらに避けやすくなる。
「次に短所だ。」
ゴブリンに近づき、頭を掴んでそのままゴブリンの腹に向かい強烈な膝蹴りを叩き込む。痛みと衝撃に耐えきれなかったようでゴブリンは地面に仰向けに倒れた。今度は頭を掴んで持ち上げ、胴体に何発も膝蹴りをお見舞いする。ゴブリンの口から血が噴き出し、腹には多くの青あざができる。
「ウ、ギギギ‥‥……」
ファントムはこう考えていた。ゴブリンをまず弱らせて動けなくさせ、ベル君にどこを攻撃すべきかを教える。そしてその後ピンピンしているゴブリンを探し、一対一で戦わせる。まずはチュートリアルの意味合いも込めて簡単にしているのだ。
そしてゴブリンはファントムの理想通りにまともに動けないレベルにボコボコにされた。あんまりに思った通りに事が進むものでつい顔に笑顔が浮かぶ。
「短所は刃渡りが短いためその分どう頑張っても巨大なモンスター相手だと深く刺さらないことがある。
それゆえに敵の急所を的確につく技術力が求められるのさ…‥……ベル君、こっちへ来たまえ。」
「は、はひ‥‥……………………」
明らかにベル君はさらにビビっている。ファントムはあれ、また僕なんかやっちゃいました?というなろう系並の感想を浮かべるが、自分の奇行に気付けバカ。
「このゴブリンにどこの急所でもいいから君のナイフを突き刺してみなさい。」
「え………わ、わかりました………」
震える手でナイフを手に取るベル。別に失敗したところで何もしやしないというのに、このビビりようはなんだ?と思うファントムであったが、それはひょっとしてギャグで言っているのか?
言われた通り、恐る恐るながらもベルはゴブリンにナイフを突き立てる。子供が暗殺者に暗殺の訓練を施されているように見えるのは気のせいでも何でもない。まあファントムは
「ふむ‥……まあ初めてだし及第点としよう。
次はちゃんと動いているゴブリンに対してだ。」
「わかり、ました‥‥……」
もうすっかりベルは精神をやられている。肉体的には大丈夫だが精神の疲労が凄まじいのだ。原因はいわずもがな。
「因みに言っておくが、次からは君が危険にさらされた時だけ助けに入る。
それ以外については私は一切手出しはしない。
私は身を隠しているとしよう‥………」
「えっ!?」
ベルは突然、何の前触れもなくファントムの姿を見失った。目を離したのは一瞬、ただまばたきをしただけである。その一瞬でファントムは身を隠した、正確にはかの暗殺教団のトップ、ハサン・サッバーハにも並ぶ気配遮断スキルを使用しただけだが。
通路の奥からゴブリンが数体、こちらに向けて走ってくる。嬲り殺された仲間の悲痛な声を耳にしたのだろう、その目は怒りに染まっている。
「安心したまえ、私はずっと、君を見ているからね‥‥………」
「ファントムさん!ちょっと待ってください!!」
ベルは必死に声を張り上げたが、ファントムは姿を現さない。しかしベルは彼の名を叫んだ。なぜなら――――――
「さすがにこの数は無理ですって!!」
ゴブリンの総数―――――――――――25体、あっという間に囲まれてしまっていた。
新人冒険者にはどう頑張ってもさばききれない数だった。しかし、それでもファントムは姿を見せない。
(――――――――――愉悦!!)
びっくりするほどのクズ。哀れファントム、長らく(本人からしたら)理由もなく畏れられ続けたせいで軽く性癖が歪み、人が何かを恐れたりするさまに興奮を、まあ要するに愉悦部員になってしまっていたのだ。じゃなけりゃゴブリン相手だろうとあんな拷問じみた真似はしない。
まあ本当に危険になったらさすがに介入するつもりである。すでに大分危険だなんてことは言ってはいけない。
・ファントム 今回の一件で人の不幸で酒が美味くなるタイプの人間であると判明した。恐らくベル君を通じてこのこともそのうちオラリオ中に知れ渡ると思われる。まあこれは自業自得である。
・ベル・クラネル 未来の英雄にしてファントムの直接の被害者。ここまで直接ファントムのせいで被害を被ったのは彼が初めて。ベル君が生涯最も恐怖を感じた人物第一位候補がファントム。彼には一刻も早く強くなってもらいたいものだ。
・ファントムにボコられたゴブリン ファントムからの拷問にあったあげく殺された可哀そうなモンスター。人、モンスター含めこの作中で最も悲惨な死に方をしたのが彼。これから先、彼以上に悲惨な最期を遂げた人物は絶対に現れない。あの世で恨んでくれ、ファントムを。
・フレイヤ ふと気になったのだが、彼女はファントムの事をどう思っているのだろうか?
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