シトリー眷属の一般兵士 (やまたむ)
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私の王子様
まさかの事態に、自分も驚きを隠せませんでした……。
私は走る。ただ、一心不乱に走る。あの、醜悪な『なにか』に捕まらないためにも、必死に走った。
「くけけけけっ、人間の小学生だ。うまそうだ、うまそうだぞぅ」
なにか言っていたが気にしてなんていられない。とにかく、逃げる。
だけど、長い間走り続けたせいか、体力が切れて、転けてしまった。
あぁ、私の人生はここまでなんだ。あんな父親と母親と離れることができて嬉しいけど、死ぬのはやだなぁ。
私は、口を大きく広げ私を丸のみにしようとする『なにか』を受け入れるように、目をつむった。
そんなときだった。
「大丈夫か!?」
私に
私は、体を起こして再び走り出した。王子様に、今の私の姿を見られたくないから。
服はボロボロ、汗はだらだら、髪はボサボサと女の子として、そんな姿を命の恩人には見せたくない。ちょっとした、私の虚勢だ。
「逃げてくれたか……会長」
「よくやってくれました、サジ。それでは、このはぐれ悪魔を退治するとしましょう」
そんな会話が聞こえた気がしたけど、今の私はその場から離れることに必死だから、会話の内容を吟味する余裕はなかった。
いつか、また会える。私はあるチラシを手に、帰りたくない家へと帰っていった。
※※※
「何をしていたの! こんな時間まで。あなたが、帰ってこなくて心配したのよ。理由を言いなさい」
これは、ポーズだ。心配していたと思わせ、また、ちゃんと注意をしていて、ネグレクトをしていないと近所に知らしめるための。
「友達と遊んでただけ」
「そう? それなら、いいんだけど、あなた、最近帰りが遅いじゃない? 勉強とかちゃんとやってるの? あなたには一流の大学に行って、安定した職についてもらわないといけないんだから」
「うん」
「わかってる? お父さんはあてにならないの。あなたが、頑張って稼いで、私たちの暮らしをよくしてくれなきゃいけないんだからね?」
「うん」
いやだ。こんな生活。なんで、私が私の稼ぐお金を親に利用されながら生活しないといけないのか、とにかく、この生活から抜け出したかった。
私はあやなとかかれたプレートのかけられた扉を潜ると、そのチラシを読んだ。
「あなたの願いを叶えます?」
胡散臭いチラシだな。そんなこと叶うわけがない。私は知っているのだ。願いが叶わないということくらい。
だけど、私のなかで、このチラシにどこか魅力を感じる。ちょっと、試してみよう。
そうだな、例えば、私を助けてくれた人にお礼をしたいでどうだろうか。
私はそのチラシに少し、念じてみた。やり方があっているのかはわからない。けれど、チラシが光始めたから、あっていたのだろう。
その光が止んで、現れたのは人だった。
「えっと、呼び出されたので来ました。ソーナ・シトリー眷属の
その言いぐさに少しイラッとしたが置いておく。重要なのは、そこではないのだ。今、私に重要なのはあの『なにか』から救ってくれた王子様の情報だ。
私は、一般より身長が低くて体重も軽い。これが普通の親だと、病院に連れていくのだが、うちの親だと、病院に連れていくお金がないからと言って連れていってもらうことはなかった。
「あのー、匙、先輩ですよね?」
私が声をかけると、現れた人、匙元士郎先輩が下向き、私の存在に気づいた。
すると、匙先輩は謝り、目線を会わせるためか、しゃがんでくれる。
「えっと、君が依頼主でいいのか?」
「はい。このチラシを外で拾って、そのまま興味本位で……」
「そうか。まあ、俺も仕事だし、君の願いはなんだ? 対価さえあれば叶えられると思うけど」
「えっと、それじゃあ、こっちにきて、座ってもらっていいですか?」
「いいけど、何をするつもりなんだ?」
説明もなしに言ったのに、匙先輩は言われた通りに、腰を下ろしてくれた。あとは、私が深呼吸して……えいっ。
私は腰をおろした匙先輩の膝の上に座った。うーん。気持ちいい。初めて人の温もりに触れた気がする。お父さんは一日中パチンコやってて、帰ってくること自体が稀だし、お母さんも時々ご飯を作ってくれるけど、パートが終わると直ぐにパチンコで、稼いでくるということをする、生粋のパチンカス親だ。
そんな、親が子供の面倒を見るはずがない。きっと、私の耳が良いのも、この親がネグレクトをしている事実を隠蔽するために、連れ出したりして、うるさい環境下で、親の声を聞き分けるために発達してしまったのだろう。
困惑する匙先輩を私は放っておいて、匙先輩に体を委ねた。ちょっと、恥ずかしいけど、匙先輩が必死に目をそらしているから、私の顔が赤く染まっているのは見えていないはずだ。
「あ、あの、えっと」
「雨月彩南です。駒王学園の高等部一年です。匙先輩」
「うちの生徒か……それじゃあ、会長を──」
「待ってください。あ、あの、もう少し、このままいさせてくれませんか?」
「でも、なぁ……」
「依頼主の願い、じゃあダメですか?」
「…………」
匙先輩は相当悩んだ末に、了承してくれた。やった。
私が、こうするのは、匙先輩が、私の王子様だと気づいたからだ。どうやって気づいたのかというと、私の耳はパチンカスの親がよく、パチンコで儲けようとして、けど、私の面倒も見ないといけない、というので、パチスロ店に隠して連れていかされ、発達した結果、どんな状況であれ人の声を聞き分けるようになった。
つまり、あの時、匙先輩が声をかけてきて、匙先輩と今、話をしている。あとは、その声を私の脳内で補正を抜いて、照合すればいいだけの話である。
「ずっと、このままって言うのもつまらないですね。何か話をしましょう」
「あ、あぁ」
「匙先輩、照れてます?」
「この状況で照れないやつの気が知れないよ……」
匙先輩が照れているのがなんとなく嬉しくて、からかいたくなってしまう。
「私の親、ギャンブルとかが好きなんです。お金がなくなったらパチンコ、お金が入るとパチンコ、職業パチンコを打つこと。そんな生活で、最近だと、私が就職して稼げるようになったら、もっと、パチンコが打てるようになるから、もっと勉強して、良い大学入って、稼げる職場に就職しろって言うんですよ」
「…………」
匙先輩はなにも言わない。私の不幸な女の子アピールに気づいているのだろうか。まあ、私にとってこの事は事実だし気にする必要のない、当たり前のことになっている。自分の分は自分で稼ぐ、それが私のやり方だし、世間一般に広まっている当たり前というやつだろう。
「まあ、私は別に良いんですけどね。どうせ、私より先に死ぬのがあの両親です。私の人生はそこから始まるんですから」
「親のこと、そんなに悪く言うことはないだろ。どんな親であれ、子供のことを嫌う親はいないと思うから」
何か不機嫌になるようなことをいったのだろう。匙先輩の機嫌があからさまに悪くなっていた。さぞ、良い親に育ててもらっているのだろう。私も匙先輩の妹として生まれたかった。もし、いるのであれば匙先輩の弟妹が羨ましい。
「そうですよね。ですけど、私にとって親って言うのは、私の財源を片っ端から取ってパチンコに当てる人なんです」
「いや、小遣いとかあるだろ?」
「この部屋をちゃんと見ました?」
私は匙先輩に部屋を見ることを勧める。少し恥ずかしいが、気にしないようにした。
「なにもないですよね? ここ、私の部屋なんですよ。お金は両親が管理するからっていって、全部ギャンブルにつぎ込んでしまって、好きなことができなかったんですよ。昔、友達から殺風景だなんて言われたこともあります。机とベッドしかないので、当たり前なんですけどね」
「なるほどな。じゃあ、願いってのは、愚痴を聞いてもらいたかった。ってものか?」
「いえ、私を助けてくれた人に会いたかったってだけです。ですけど、それは叶っちゃいました。対価用意しないといけないですね」
「あぁ、そんな高価なものじゃなくても良いみたいだから、鉛筆とかそんなものにしてくれ」
私はごそごそと棚を漁る。あ、あったあった。
「はい、どうぞ」
「えっと、これは?」
「私のパンツです」
「要らねぇよ!!」
「なんでですか!? 思春期の男の子のおかずに欲しいものでしょ!?」
「思春期の男子だからたよ!! 女子からパンツ送られて罪悪感抱かねぇ男がいると思うな!!」
「くっ! それなら、脱ぎたてで……」
「痴女か!!」
「うぅー、じゃあ、なんだったら受け取ってくれるんですかぁ……」
「だから、鉛筆とか消ゴムとか、よくわからない御守りとか、色々あるだろ」
「だったら、少し待っててください。クッキー焼いてきますので」
「最初からそうしてくれよ……」
匙先輩のために頑張って作ろう。
私のことが忘れれないように、うんと美味しく作ろう。これでも某ファミリーレストランでパフェとか、喫茶店でお菓子とか作っているのだ。
クッキーくらい簡単なものなら、少し凝るくらいでちょうど良い。
「あ、匙先輩も来ます?」
「あぁ……いや、それは遠慮する。それと、会長も呼んで良いか? 少し、俺のことも含めしっかり話しときたい」
「うー。まあ、いいですよ」
匙先輩と二人きりの空間がなくなるのはいやだけど、仕方ない。
匙先輩が話しておきたいというのだ。納得しよう。
「それじゃあ、いってきますね」
私は匙先輩に背を向け、リビングに歩いていく。
※※※
リビングにつくと、お酒の臭いが鼻について、気分が悪くなる。床に投げっぱなしになっている空き缶を広い、ごみ袋に入れていく。
ごみ袋を部屋のすみに追いやると、踏み台を用意して、上の方に保管してある調理器具や小麦粉とかを取り出していく。背が足りないところは、いつも通り届くように洗面台に上がって取り出す。百二十センチ台の弊害だ。
「ふう。よし、がんばるぞー」
うんと、背伸びをして踏み台にのって、生地を作っていく。
親が休んでいる時間でよかった。きっと、見つかったらつまみ食い感覚ですべて食べられてしまうのだろう。
生地が出来上がると、電子レンジに入れ、加熱する。
その間、ジュースをコップに注いで、自分の部屋に戻る。
そして、そこには、いつの間にか支取会長もいた。
「あなたが、雨月彩南さんですね? お邪魔してます」
「あ、はい。どうも、支取会長。どうやって、うちに?」
「それも含めて、話させてもらいます」
何を話すのか、よくわからないけど、クッキーが焼き上がるまで、待ってもらおう。
私は時間を気にしながら、匙先輩と支取会長にいろんなことを話した。
そんなことをしていると、気づけばクッキーも焼き上がっていた。
私は、クッキーを取りにリビングに戻って、電子レンジを覗くと、数が少し減っていた。
「あんの、くそ親父……」
おっと、いけない、いけない。女の子のしていい口調じゃなかった。
なぜ、お父さんがクッキーを食べたのかわかったかと言われると、お父さんの部屋から私の作ったクッキーを食べる音が聞こえるからだ。
「匙先輩用なのに……」
支取会長の分は考えていない。そも、私は匙先輩に渡す対価として、作っていたものなのだ。支取先輩用に作るわけがない。
私は袋に三つに減ったクッキーを入れて、部屋に再び戻った。
プロローグにしては、多すぎる情報量になってしまった……。
主人公の身長が低すぎる?毒親のせいです。学校から通知がきても、治療費をパチンコに当ててるから、治療もできない、まともな飯も食べられない、そもそも、身長が伸びにくい体質、それらが合わさった結果ですね。
ちなみに次の話もプロローグです。
主人公が悪魔にならないと、タイトル詐欺になっちゃいますからね。
それでは、また次回お会いしましょう。
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奇襲と奇策は任せろーバリバリー
私は対価としてクッキーを匙先輩に渡すと、その場に腰を下ろす。
「それでは、雨月さん。私たちのことについて何か聞きたいことはありますか?」
「…………」
私は深く考えた。そう、ここでの質問は二つある。
一つは、匙先輩がなぜ、チラシが光ったあとに現れたのか、そしてもう一つは、匙先輩と付き合っている人がいるのかどうかである。
真剣に、真面目に考えた結果。
「匙先輩と支取会長は付き合ってるんですか?」
二人の関係について聞いた。
なぜだろう、えっ、そこ? と言うような声が聞こえてくる。いやいや、重要でしょ。私の中で一番重要だよ!!
だって、ただでさえ身長が低くて、友達には、「男性から見たあやって、妹みたいで恋人にしたいとは思わないと思うんだよね」何て言われたんだ。私はその友達に対して、「ルルちゃんもそうだよねー」と返して、軽く取っ組み合いになったのは記憶に新しい。だから、私にとって思い人に恋人がいるのであれば、その人の特徴を知っておきたい。
背が低ければ私にも可能性があるのだから。えっ? 略奪? そんなのするに決まってる。好きだから、その人の一番になりたい。そう思うことに何か悪いことがあるとでも?
すこし、取り乱したけど、私の質問でどんな反応が帰ってくるのか、二人をしっかり観察した。
どうやら、私の質問に対して、匙先輩は慌て、支取会長はふふっと、微笑んでいた。
なるほど、なるほど、ちくしょぅっ! めー! 匙先輩、支取会長に惚れてるじゃん!! これは、早急にルルちゃんと作戦を考えないと……。
私は急いでスマホを取り出す。
そして、ルルちゃんに連絡しようとしたら、匙先輩が私の腕をつかんだ。
「雨月さん、落ち着いてください。私とサジは付き合っていませんよ」
どうやら、支取会長の指示でつかんできたようだ。思い人から腕を捕まれて幸せと喜ぶべきか、支取会長に指示されてしていることだから、落ち込むべきか……。
私は深呼吸して次の質問をする。
「これから、付き合う予定とかは?」
「それはどうでしょうか。さすがに未来のことはわかりませんから」
なるほど、つまり、匙先輩と付き合う可能性はあるけど、いまはそういう感情はないと……。なら、ルルちゃんとそういう方向で作戦を展開しないといけなさそう。
「ルルちゃんとどっちが正妻になるか、話し合わないといけないかな……」
「サジの正体を知りたくはないのですか?」
「ふぇ? あ、忘れてました」
なぜだろう、忘れるなよ、とか言われてる気がする。
でもなあ、正直、私にとって匙先輩は匙先輩だ。私にとっての王子様であることに変わりはない。
えっ? もし、あの時助けに来たのが匙先輩じゃなかったら? 救世主以外の選択肢はない。
あれは、匙先輩だから王子様になったのだ。
たぶん、あの時、声を聞いた瞬間から私は匙先輩だと気づいていたんだろう。
「あ、それじゃあ、私を襲ってきた、あの生物はなんなんですか?」
「あれは、はぐれ悪魔。主のもとを逃げ出し、自分の欲望に忠実に動く悪魔ですね」
「あいつ、重度のロリコンだったみたいで、何度も人間の子供をつれてくるよう懇願していたみたいだけど、断られ続けて、とうとう自分から行動し始めたところを、俺たちが確保したってところだ」
「普段ならリアスが対処する案件なんですけど、いま、彼女はある上級悪魔とレーティングゲームのために特訓中なので、代わりに私たちがそういった仕事を請け負っているんです」
ふむふむ。悪魔、はぐれ悪魔、上級悪魔、レーティングゲーム……詳しい事情はよくわからないし、その逃げ出した悪魔がロリコンだったからといって、私を襲うな。ロリコンなら、イエスロリータノータッチと心に決めておけって言うんだ。
よく、私に近づいてきたり、遠目で眺めたりしているロリコンはそんなことをいっているから間違いないはずだ。
「ですが、その事は大した問題ではないんです。私たちにとって、問題なのは契約を成立させるための、対価。それが、あなたの命を取ることになってしまったと言うことです」
ふぇ? え? どういうこと? 匙先輩は、鉛筆とかそこらでいいっていってたよね? と言うことは匙先輩は嘘をついたってこと?
いやいや、匙先輩だよ? ルルちゃんと話し合って、素直で嘘がつけないのが匙先輩って結論だした人だよ?
となると、匙先輩は本気で鉛筆で手を打てると判断していたけど、命がとられるような契約になってしまっていたってこと?
「あなたの願いは、あなたを助けた人と会いたいと言うものでしたよね?」
「はい。そうです」
まあ、それ以外にもたくさんあったけど。一気に叶えてもらえたけど。
あ、だからなのかな? 一気に叶えてもらっちゃったから、命を取るような契約になっちゃった?
「その願いひとつだけで、翌日に交通事故にあい、あなたは亡くなります」
「…………」
うそ、でしょ? 私、命の恩人にお礼すらできずに生きなきゃいけなかったの? あれ? て言うか、私を助けてくれたって言うのは匙先輩だよね?
つまり、私は匙先輩とあったら死ぬことが確定していたってこと? なに、その理不尽……。
私、八方塞がりじゃん。
私が、すがるように匙先輩を見ると、匙先輩はものすごく悔しそうな顔をしていた。
あぁ、優しいなぁ。匙先輩は。今日、知り合った後輩に、そんな顔ができるんだから。
「それで、私が死ぬのを回避する方法はあるんですか?」
「死を防ぐことはできないでしょう。ですが、死を受け入れてからなら、対応することは可能です」
「つまり?」
「本当はこういうことはしたくないのですが、こちらの落ち度であなたの人生を奪うことになってしまったのです。あなたの命を私のために使ってくれますか?」
「???」
意味がわからない。えっと、つまり? どういうこと?
「あなたが亡くなったあと、あなたを下僕にして、蘇生します」
「蘇生?」
「はい。契約の代償はあなたの命。本来ならそうなる前に止められる可能性があったのですが、結果として契約することになってしまった。ならば、転生悪魔として生き返ることができれば、あなたの命は今後、シトリー家の庇護の下、保証されます」
「つまり、これも一種の契約ってことですか?」
「そうとってもらっても構いません」
死にたくはない。なら、死なないように立ち回れば問題ないのではないか?
そうだ、引きこもれば……ダメだ、親が許さない。あの、気分屋でパチンカスなお父さんのことだ。暴力を振るってでも部屋から連れだすね。あー、いやだぁ、死にたくない。
新しい人生が始まる前に死ぬのはいやだ。と言うか、あの両親より先に死ぬがいやだ。
「いやならば、私たちが常日頃からあなたの側で、守るということも可能です。ただ、こちらは契約の対価を貰っていないので、私たちが目を離した間に……という可能性もあります。私たちの落ち度で、契約者の命が失われると言うのは避けたいのです」
「なるほど、できるだけ確実に、命を失わないようにするためには、一回交通事故で死なないといけないってことですか……」
「はい。あなたが事故に遭ったとき、いち早く駆けつけられるよう、このチラシを渡しておきます。死にたくない。そう、必死で願ってください」
「わかりました。会長、私の人生、あなたに預けます」
明日、このチラシを肌身離さず、持ち歩こう。いつ、交通事故に会うのかわからないのが、今の世だ。
事故に遭うとすれば、朝か夕方、そして、バイト終わりの夜くらいだろう。なら、朝、できるだけ人通りの少ない時間帯に家を出ようかな?
そうすれば、格段に事故のリスクを減らせると思うし。
「あ、匙先輩」
「なんだ?」
「そのクッキーちゃんと食べてくださいね? 心を込めて作りましたから」
「あぁ、わかってる。女子からクッキーをもらうのは初めてだからな……」
その言葉に私は舞い上がった。まあ、心の中で、だけど……。
けど、そっか、そっか。匙先輩、クッキー貰うの初めてなんだ。ごめんねルルちゃん。先に匙先輩の初めてもらっちゃった。
私は心の中で友達に謝る。
私の内心を察してか、会長は微笑んでいた。
それから、会長たちは光に包まれ、私の部屋からいなくなっていた。
とても幸せな時間だった。恋する乙女、雨月彩南。本気で匙先輩を落とそうと思います。そのときは人間でなくとも、私は、匙先輩一筋だから。
私は決意を固め、シャワーを浴びて、布団の中に潜りキャーキャー騒いでからゆっくり眠った。
※※※
翌朝、私は制服に着替え、荷物の確認をして、家を出た。
そのとき、すぐ近くから法廷速度ギリギリの速さで、車が向かってくる。朝早くに出てもこうなるんだ。
そんな、呑気なことを考えていると、私の体が宙を舞う。私の体重は相当軽い、乗用車に跳ねられると、車の上を通り越し、地面に叩きつけられた。
どんな風に、地面を転がったかは、わからない。とにかく、全身がいたい。
こんなに冷静でいられるのは、きっと、確信があるからだろう。
私は、感覚が失くなった手で、チラシに触れて、願う。
「助けて、匙先輩」
チラシが光るのを確認して、私の意識は失くなった。
※※※
チラシから現れたのは、匙だった。
匙は真っ先に状況を確認すると、止血しながらソーナに連絡した。
「サジ、現状は?」
「轢いたと思われる車両は逃走。雨月は現在意識を失っています」
「わかりました。まさか、こんな朝早くに……」
彩南が朝早くに登校しようとしたことが想定外の事態だったのだろう。
だが、やることは変わりなかった。ソーナは、チェスで使われる兵士の駒を一つ取り出し、彩南のそばに置く。
そうすると、駒が彩南に吸い込まれていった。
「すぅ……すぅ……」
可愛らしい寝息が聞こえてきて、ひと安心するが、これから、彩南をどうするか考える。
「さすがに、この状態では、病院での診察は無理でしょうし、保健室は空いていない可能性があります。生徒会室に連れていきましょう。サジ、彩南をよろしくお願いします」
「わかりました」
匙は彩南を横抱きにした。持ち上げると相当軽く、困惑し、小さな体にどんなものを抱えているのか、少し気になったが、本人が話したくなるまで待とうと決心した。
それまでは、自分と会長、そして、シトリー眷属全員で、妹のように可愛がろう。それが、一番彼女に良い影響を与えると思うから。
「会長。たぶん、俺。相当甘やかすかもしれないです」
「そうですか……。はめは外しすぎないようにしてください」
「はい」
ソーナは昨日、匙からの報告にあったことを思いだし、ため息をつきながらも納得した。
匙はとことん甘く、優しいお兄ちゃんなのだろう。
ソーナは彼の家の事情を知っているからこそ、彩南の生活を知って、どう行動するか予想していた。
「もう少し、周りも見てほしいものです……」
ソーナのそんな呟きは、匙に届かなかった。
※※※
私が目を覚まし、最初に目に写ったのは、匙先輩の顔だった。
あわわ、はわわ、これは……これは……さいっこー!! なに、なんなの、このご褒美。あ、匙先輩の汗くさい臭いも最高。はぁー、もう放れたくない。ルルちゃんが物凄い形相で睨んできているけど、気にしていられるかってんだい。
私は匙先輩のお腹に、顔を埋め、スンスンと臭いを嗅ぐ。あぁ、最高。あぁ、ここが天国か、ここが楽園か……。
そんなことをしていると、鬼の形相をしたルルちゃんこと、仁村留流子ちゃんが近づいて、私のお腹に手を回すと、うーんと、引っ張り始めた。
「離れろ、あやー!!」
「いやだー。私は離れないぞー。匙先輩からのご褒美なんだー!!」
「ずーるーいー。あたしも、して貰ったことないのにー!!」
「モタモタしてたルルちゃんが悪いー!」
「仁村も雨月も落ち着け」
「「はーい」」
匙先輩の一言で、私たちのちょっとした争いは終息した。
これが匙先輩の隠し撮り写真であるならば、もっと、長引いたに違いない。裏写真部に依頼しなきゃ……。
ちらっとルルちゃんの方を向くと、私の思考を読んだのか、あたしもつれてけとアイコンタクトを送ってきた。
なるほど、匙先輩の仕事の写真でどうだ?
ルルちゃんは、体操服姿で手を打とうとのこと。
交渉成立。私とルルちゃんは、固く手を握り、にっこりと笑い合う。
仲良さそうで何よりと言わんばかりの匙先輩の笑顔に、私たち二人はやられそうになった。
「それにしても、二人は知り合いだったんだな」
「はい。ルルちゃんとは中学時代からの付き合いなんですよ」
「よくお互いの家に遊びにいったりしてたんですよ」
「へぇー。仲良いんだな。それと、さっきの言い争いはなんだったんだ?」
「ルルちゃんが匙先輩にご褒美を貰いたがってたから、私が妨害してました」
「ち、違う! あたしは、あやが生徒会室で匙先輩にセクハラしようとしたのを止めただけだから!!」
「ルルちゃん。その言い訳は見苦しいよ……」
「あんたがオープンすぎるのー!!」
「これが、オープンにしないルルちゃんが一生を賭けても私に勝てない理由」
「そのどや顔ムカツクぅー」
「お前ら、仲良いのか、悪いのかよくわからないな……」
匙先輩がため息をついている。まあ、私も起きて早々、はしゃぎすぎたとは思っている。外から運動部の声が聞こえてくるから、きっと、今は放課後なんだろう。
そう言えば、ここは駒王学園のどこなんだろう? 私は少し気になり、コツンと床を蹴った。
反射して聞こえる音から、大体の位置を割出し、ここが生徒会室であることがわかった。
なるほど、だからルルちゃんもここにいたのか……。
「な、なあ、仁村? 雨月って、悪魔になったから出来るようになったのか?」
「いえ、あれは、人間の頃からあの子が得意としていたものですよ? あの子、異常に耳が良いですから」
「耳が良いって次元じゃないだろ。
「雨月さんに神器はありませんでした。あれは、素の能力ですよ。思わぬ拾い物をしました」
あ、支取会長だ。ということは、私、一回死んだんだ。そして、何らかの力で生き返った。
運がよかったのか、悪かったのか、よくわからない。
「ごきげんよう、雨月さん。よく眠れましたか?」
「あははー、やっぱり、私死んじゃってたんですね……」
「えぇ。これで、契約は完了して、あなたの命の危機は去りました。それでは、これからの、あなたについて話し合おうと思いますけど、時間は大丈夫ですか?」
「少し待ってください。バイト先に電話しないといけないので」
「わかりました」
私は会長から許可をもらい、生徒会室から出ると、スマホを取り出し、バイト先に電話をかける。
それから、店長に今日は休むと言うと、すごく嬉しそうに、「うんうん。憧れの先輩に告白できるように頑張って」と返ってきた。
私は元気よく、はい!! と返事をして、生徒会室に再び入る。
ちなみに、扉越しに私の話を、ルルちゃんから聞いていることは把握済みだ。
「お待たせしました」
「いえ、そんなに待っていませんよ。アルバイト先の方はなんて?」
「もっと、青春を謳歌しなさいだそうです」
「そうですか。学生の本分は勉強ですから、勉強もキチンとしましょうね」
「はーい。そういえば、私の今後がどうとかって話ですけど……」
そう尋ねると、会長は一息ついてから、語り始める。
長くなったので、要約すると、
1、会長たちは悪魔と呼ばれる種族である。
2、敵対勢力との戦争で悪魔の数が減った。
3、出生率が低い悪魔では、数を増やすのにも限界がある。
4、だったら、別の種族から悪魔にすれば良いじゃない。
5、チェスの駒を用いた転生悪魔システムの構築ができ、転生悪魔は上級悪魔の眷属となる。なお、転生悪魔は下級悪魔と同列。
6、転生悪魔にする場合、一定時間以内であれば、死んだものでも蘇生させることは可能である。
なるほど。つまり、私は、この、転生悪魔となり、人間から悪魔へとジョブチェンジした、と言うことなのだろう。
ふむふむ。あれ? もしかして、この場にいる人みんな転生悪魔だったりするの?
ちらりとルルちゃんをみると、こくりと頷いた。
「悪魔って、あの、何をする種族なんですか?」
「人間と契約し、対価を貰うのが主になります。なかには、あの夜みたいなはぐれ悪魔の討伐等もありますね」
「対価……」
「弁明させていただくと、こちらの端末で、願いに対する対価を計ることができます。ですので、普段であれば、そういった命を対価にしたものはこちらから契約できないと言えるのです」
「だけど、私の場合、会うことが願いで、呼び出したのが匙先輩だったから」
「はい。そう言うことです」
何度きいても、酷いと思うし、理不尽だ。
だけど、今、私は種族悪魔として生きている。これが、支取会長以外の悪魔だったらそうはいかないかもしれない。
私の運って良いのか、悪いのかわからないなぁ……。
まあ、けど、あの親が私より先に亡くなることが確定したのは大きいかな。
「それじゃあ、これから私は悪魔の一人として、働いたら良いんですね?」
「はい。その前に、私の本名を名乗りましょうか」
本名? 支取蒼那じゃないの? あ、なるほど。悪魔だから、日本で過ごすために名前を変えていたのか。
「私の名前は、ソーナ・シトリー。七十二柱の悪魔の一角。シトリー家の次期当主候補です。よろしくお願いします、彩南」
名前呼び……。私に立ちはだかる最大の壁が、名前呼び……だとぉ……。こうしてはいられない。
「私の名前は雨月彩南。匙元士郎先輩のお嫁さん候補の一人です。ソーナ先輩。よろしくお願いします」
私の一言に、匙先輩とルルちゃんは驚いていた。よし、奇襲は成功だ。どうだ、ルルちゃん。
私は、ルルちゃんに向けてどや顔をした。ルルちゃんの顔は真っ赤に染まり、匙先輩はどう反応すれば良いのかわからず、困惑し、ソーナ先輩はふふっと、微笑んでいるだけだった。くそっ、本命には届かなかったか……。
「匙先輩♪ 覚悟しててくださいね?」
私の人生、いや、悪魔生? はここから始まるんだ。匙先輩を落として、正妻戦争を勝ち上がるのは、私だ!!
今回はここまでです。
約七千文字。あと、少しで八千字だった。アンケート使って文字数をどれくらいにするか調査すべきかな?
おそらく来そうな感想に対して
Q.主人公痴女だろ
A.原作組の方がこれよりやばいと思います。つまり、主人公の行動はまだまし。だから、まだ、まだ、行ける。少なくとも、匙の風呂に突入するくらいは問題ない。
Q.主人公は臭いフェチなの?
A.匙フェチです。匙のことであれば何でもフェチにできるくらいには好きです。
Q.なんで匙に好意を寄せてるの?
A.遠巻きに聞いていた匙の声に惚れた。遠巻きに聞いていた匙の面倒見のよさに惚れた。遠巻きに聞いていた真面目な姿に惚れた。遠巻きに聞いていた匙の優しさに惚れた。遠巻きに聞いていた匙のムッツリスケベな面をかわいいと思った。(攻略済み)
えっ?惚気?仕方ないね。主人公の思考は基本のろけだから。
と言ったところでしょうか?感想、質問はいつでも承っております。
前回の前書きにも書いた通り、今日まで、この作品が一話もない状態が続いておりました。予約投稿だと、こんな現象も起こるんですね……。それでは、また次回、お会いしましょう。
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えっ?ソーナ先輩の家に住む?
悪魔に転生して一週間。私は、シトリーの管轄地域で、走りながらチラシをポストにいれていた。
え? なんで自転車じゃないのかって? 自転車じゃ私の足が足らないからですよ。ちくしょー。
いや、今まで、駅まで歩いていけたし、アルバイト先も学校からの帰り道の所にあるしで、自転車が必要ない生活を送っていたから、乗らないのだ。決して、乗れないというわけではない! 乗れない訳じゃないんだからぁ……。
「よし、チラシの配達は終わった。匙先輩に褒めてもらおーっと」
私は、悪魔の翼を生やして、空を飛んでソーナ先輩の家に向かう。
ソーナ先輩に、私は特訓のメニューを渡されており、その一つが、空を飛ぶことになれること、と言うものだった。
初めこそ、ソーナ先輩の付き添いで、飛んでいたが、三日もすれば、コツもつかめてきて、一人で自由に飛び回ることができるようになっていた。
「ただいま戻りましたー」
私はそう言って、ソーナ先輩の家の屋敷の扉を潜る。
いつみても大きいなぁ。キョロキョロと辺りを見渡すと、一室からソーナ先輩が現れた。
「お帰りなさい。空を飛ぶのには慣れましたか?」
「はい! 風に乗るって感じがしてとても気持ちいいです。あ、でも、パンツが下の人から見えないかは不安でした……」
「移動しているときはそうそう見られるものではないと思うので、大丈夫だと思いますよ」
「ですかね?」
「はい。それより、こちらに来てください。みんなで、リアスとライザーのレーティングゲームの観賞をしますよ」
「はーい」
私はソーナ先輩の後ろについて、シアタールームへと入っていく。
そこには、匙先輩たちもいて、既に席についていた。
私は、シレッと匙先輩の膝の上に座る。あまりにも自然な動きだったので、ルルちゃん以外気づいていなかった。
ソーナ先輩が映像を流すのを、私は匙先輩に体重をかけながら見ている。
「それにしても、ライザーって人の戦術。ゲームじゃなかったら使えないですよね」
「そもそも、ゲームだからこそ使える戦術です。実践的じゃないからと失念すると、足元を掬われます」
「あと、兵藤先輩は相変わらず最低です」
「
匙先輩の隣に座るソーナ先輩から、私の呟きに反応が帰ってくる。
魔法についてソーナ先輩や花戒先輩、草下先輩から聞いて、私も私なりの魔法を作ってみているけど、ここまで変態的で有効的な魔法を作ることはできない。
変態じゃなかったら、普通に尊敬してたと思う。変態じゃなかったら、ね。
「うーん。私も武器とか決めた方が良いかな……?」
「そうですね……。彩南は背が低くて、力もないですから、ウィザードタイプかサポートタイプの戦い方になると思います。駒価値一で、サポートタイプになると、ダイス・フィギュアでの活躍が期待できそうですね」
「となると、罠の作り方とか勉強した方が良さそうですか?」
「えぇ。あとは、あなたの耳のよさが活かせるように、遠距離の視認できないところからの攻撃方法があると良いかもしれませんね」
「気配遮断能力も必須になってくる……と。知り合いに忍者がいるので聞いてみます」
「当分、彩南の修行は気配遮断と罠の作り方を重点的にあげていきましょう。悪魔の仕事をこなしながらになると思いますけど、できますね?」
「がんばります」
匙先輩に良いところを見せたいから。
罠の張り方はハンターのおじさんに聞いたら良いかな? いや、人型相手だから、自衛隊員さんかな?
作ることに関しては、草下先輩に聞こう。
たしか、草下先輩は諜報能力関係の魔法が得意らしいし、罠の作り方とか知ってそうだし。
「となると、武器は遠距離から攻撃できるものにした方が良さそう」
「ですと、弓や火器になりますね。火器は重いですし、弓も意外と力を使いますから、あっているのを探す方がいいでしょう」
「持ち運びを考えると、弓ですかね? モデルガンになると反動とか考えなくても良さそうですけど、威力に不安がありますから」
「わかりました。相当小さくなりますけど、弓を特注しておきます」
弓か……。弓道部の人に弓の使い方を聞いて、昔の本を読んで弓術を学んでみよう。まあ、悪魔で寿命も長いのだ。ゆっくりで良いだろう。
「それでは、今夜はここまでにしましょう。家でゆっくり休んでくださいね」
はい! と、私たちは返事をした。うぅー、帰りたくないなぁ。
そんなことを思っていると、ソーナ先輩が、「彩南には、少し話があります」と言ってきた。匙先輩たちが帰っていったあとに、話しかけられたので、私一人だけだ。
「なんでしょうか?」
「いえ、あなたの家の事情について調べさせていただきました」
あ、そうなんだ。別に気にしなくても良いのに……。
あの、ダメな親のことなんて、調べても面白いものはないと思うんですけど……。
「あなたの家庭での状況から、病院の受診歴、アルバイトのシフト。何から何まで、調べました。その中で一つおかしな点を見つけまして」
そう言って、見せてきたのは、私の通帳のコピーだった。そう言えば、一昨日、通帳を貸してほしいと言われて、貸したんだっけ?
通帳記入してなかった筈だから、最後に引き出した記録以外にないはずだけど……。
って、あれ? 先月の給料と親が出し入れした記録がある。
「あの、ソーナ先輩、もしかして?」
「はい。あなたが通帳記入を一切していないと言っていたので、代わりにしてみれば、こんなことになってました。まず、質問です。給料日に下三桁を除いて一気に引き出されてますけど、このお金はいつ、使われたのですか?」
だよね。一番怪しむよね。そこ。だけど、それの答えは簡単だ。
「父がパチンコを打つために使ってます。そのあとに入っているお金も、たぶんそこで稼いだ額だと思いますよ」
「そうですか。でしたら、あなたは今、親からの援助なしで生活を?」
「お小遣いは一度も貰ったことないですよ? 親が働いたお金は全てパチンコに費やされて、本格的にお金がなくなってきたら、母が日雇いのバイトで働くかパートをして、なんとか食い扶持を保ってましたから」
「それでは、お父様は一切働いていないのですか?」
「働いていないと思いますよ。稼ぎが安定しない遊び人と言うのが職業だというなら変わりますけど」
「お母様は、お父様がギャンブルをしている間、あなたの面倒を見たりとかは?」
「なかったですね。むしろ、お父さんと一緒にパチンコをしてました。二人で稼いだ分で、二人分の食事を作って、余り物が私にって感じの生活でした。たまにルルちゃんの家に泊まらせてもらって、ご飯も食べたりしてましたけど」
「わかりました。やはり、あなたをあそこにいさせるのは問題がありそうですね」
ソーナ先輩は顎に手をあてながら、そう呟く。
あの、一応、親なので、独り暮らしさせる場合は、交渉とかしないとダメですよ? あの人たち、私のお金をあてにして生活してるような人だから、簡単には手放したくないと思うんですよ。
「それでは、当分、ここに泊まっていってください。大丈夫です。着替えも、パジャマもありますし、勉強も見てあげられます」
「えっ? ちょっ、えっ?」
「安心して。ここなら、あなたの自由にできるから。欲しいものは? 服とかゲームとか買ってあげるわ。兄弟が欲しいのなら、私がなってあげる。あの人たちが、あなたから手を引くように交渉も私がしてあげるから」
えっ、ちょっ、どう言うこと? あと、あの、いきなり抱き付かないでください。
私はこの状況について行けなかった。
な、なんなの、この状況。いや、確かに客観的に見れば、ひどい人生を歩んできたと思うよ。
そして、話が飛躍しすぎな気がする。
あ、でも、こうやって抱き締められたの、久しぶりかも。最近はルルちゃんと匙先輩をめぐった熾烈な争いをしてるから、一喜一憂する度に抱きつくのが、少なくなってたし。
あぁ、ソーナ先輩も暖かいなぁ。匙先輩が惚れるのもわかっちゃうかも。
「すいません。少し考えさせてください」
「そう……。あなたがそう言うなら、私は待ちましょう。いつでも辛くなったら私を頼ってください。あなたのために手を尽くしますから」
「ありがとうございます。それじゃあ、たまに、お父さんたちの愚痴を聞いて貰っていいですか?」
「いいですよ。あなたが一般的な感性を持つ子で本当によかった。もしかしたら、『私が悪いから』なんて言い出すかもしれないと思っていたから」
「ルルちゃんといたらから、こうなれたんですよ。多分ルルちゃんと会わなかったら、私はネグレクトを受けた子供と同じ考えだったと思います」
「そう。留流子が……。それじゃあ、また、明日。学校で」
「はい」
うん。ルルちゃんには感謝しないと。ノリの軽さで、私の現状を把握して、家にいる時間を少しでも短くしてくれて、一般というものを教えてくれたから、まともな思考を身につけることができた。
親がパチンカスってことで、いじめも受けた経験があるけど……うん。ルルちゃんがいなかったら、こんなこと考える前に自殺しちゃうんじゃないかな?
「ほんと、ルルちゃんには感謝してもしたりないかも……ふふっ」
自然と笑いがこぼれる。なんだかんだいって、恋敵ではあるが、親友なのだ。それに、ソーナ先輩から聞いたところによると、上級悪魔になればハーレムも問題ないらしい。ならば、匙先輩に上級悪魔になって貰って、私たちを囲んでもらえば、万事解決である。匙先輩の初めては、全て私がもらう予定だから問題ない。えっ? 初恋は取られてる? 知らない子ですね。
「あ、でも、家に帰ったら、また、お母さんに怒鳴られるかな? 今から引き返しても良いかな?」
私が足を止めると、後ろからついてきていた何かも足を止めた。
サイズは結構小さい。数十センチ位だろう。振り向いてみても、何も見えないから、何処かの影に潜んでいるのかな?
うーん。気のせいじゃないと思うんだけどなぁ。そうだ。少し風を起こしてみよう。
私は軽く魔力をの集め、小規模の風を発生させる。その時軽く音が鳴り、反響してきたものを聞いてみると、影に潜む小さななんだろう、これ? 影? があった。
使い魔ってやつなのかな? もしかしてソーナ先輩が私のために?
あははー。私の耳に入らない範囲で指示を出したのかな?
よし、ここは勇気を出して引き返そう。今日はやっぱり家に帰りたくない。
て言うか、一生、あの家に帰りたくない。
私が引き返したのがわかると、ソーナ先輩の使い魔は私に存在が認識されているのがわかっているかのように、足音を立てながら動いている。
ちなみに、その他の足音もきちんも把握しているため、警察に補導されることはない。
近づいてくれば、別の方向に逃げればいいからね。
見えない警察との追いかけっこ擬きを繰り広げながら、私はソーナ先輩の家に再びついた。
「ふふ。お帰りなさい。やっぱり帰りたくなかったのね」
「はい。すいません。ソーナ先輩……」
「いいのよ。それと、話もちゃんとつけてきたから、これから、ここに帰ってらっしゃい」
いつの間に……。もしかして、私が警察と追いかけっこ擬きをしているとき?
そして、これからここに私は帰ってこないといけないのか……。慣れるまで大変そうだなぁ……。
「どうやって両親を納得させたんですか?」
「一生遊んで暮らせるだけのお金を渡したら、快く受けてくれたわ。はい。これがあなたのキャッシュカード。これで、アルバイトの給料はあなただけのものよ」
「あはは、いきなり自由に使えるお金ができても何に使えばいいのかわかりませんよ……」
「だと思ったわ。こんど、一緒にデパートにでもよりましょう。あなたに似合う服を探すの」
「あ、それじゃあ、そこに匙先輩も呼んでいいですか?」
「サジも……。あぁ、そう言うことね。いいですよ。あなたの呼びたい人を呼んでもらって」
やった。これで、匙先輩の好きな格好がわかる。ついでに、匙先輩の服も買っちゃおう。
「お風呂はまだよね。一緒に入りましょうか」
「えっ? あ、はい。わかりました……」
お風呂……お風呂かぁ……。苦手なんだよなぁ、お風呂。
実は私の肌はとても敏感なのだ。スッと背中を撫でられると、立つこともままならない。たぶん、成長用のエネルギーが、脳と神経細胞に割り振られ、発達したからなのだと思う。
悪魔になって、一ミリ延びたとはいえ、いまだに百二十八センチ台から抜け出せていない。
えっ? 一ミリは誤差? 一ミリでも伸びたら、身長低いものからしたら嬉しいものなの!! 時々、測り方が下手くそな先生が測って低くなってるときとかあるけど、嬉しいものなの!!
「あぁ、安心して。あなたの肌に合うように、シャンプーもリンスも、ボディソープも取り寄せてあるから」
「準備よすぎないですか?」
「どうかしらね? 私、眷属の子とお泊まり会をするのが夢だったから」
なるほど。もしかして、この屋敷。匙先輩の分も含めて、誰でも泊まれるように、様々なものを取り揃えてたりしてそうだな。
私は、ソーナ先輩のガチさを尊敬しながら、脱衣所へと向かった。
脱衣所も予想通り大きく、やっぱり、慣れなかったし、ソーナ先輩が服を脱がそうとしてきて、それに従ったりとで、大変だったけど、なんか、こう、ソーナ先輩がお姉ちゃんのように感じ、とても楽しかった。
お風呂にはいる時には既に、私の身も心もソーナ先輩に委ねてた気がする。
「ふにゃー。ショーナしぇんぱーい」
「呂律がまわってないですよ」
「きもちよしゅぎましゅー」
「そう。なら、良かった。逆上せないうちに上がりましょうね」
私は、私を抱えてくれるソーナ先輩に全体重を委ねる。
頭を洗ってくれたときの手つきは、なんか、こう、こそばゆくて、でも、何処か気持ちよくて、体を洗ってくれたときは、蕩けそうだった。
そして、現在。湯船に浸かって完全にとろけてしまったわけだ。
うん。なんだろう。この先輩、人をダメにするオーラがすごい。普段シャキッとしてるから、こう、一身に愛情を受けると、それに全てを委ねてちゃう。
うーむ。これは、強敵だ。さすが、女子生徒の人気ナンバーワンで、匙先輩が惚れた女性。
正直に言おう、私、匙先輩とソーナ先輩が結婚したとしたら、略奪じゃなくて愛人狙うかも。
私はうっかり、ソーナ先輩のことをソーナお姉ちゃんと呼ばないように気を付けながら、一緒にお風呂に入っている。
「彩南は将来、成りたいものはありますか?」
「成りたいもの……。匙先輩のお嫁さんは当然として、それからは……ないですね」
「そう……。サジは愛されてるのね。それでは、私の作る学校で先生をやってみませんか?」
「先生?」
「はい。私の夢は小さいものだと、眷属と遊びにいったり、こうしてお泊まり会を開いたりと言ったものになります。でも、私の最終的な目標は、私たちのチームを戦いづらいチームにすること。そして、レーティングゲームの学校を作ること」
「ほぇ……。だから、会長はレーティングゲームの戦術をみんなで考えるんですね」
「はい。私の夢に、サジも椿姫も他の子も賛同し、同じ夢を見てくれています。主名利につきますよ。本当に」
「私も、その輪に入っていいんですか?」
「むしろ、私から入ってほしいと思ってますよ。あなたの耳は索敵能力に優れ、諜報活動も可能です。さらに、魔力の扱い方も将来有望です。あなたの身に付けている能力は弱者が強者に挑むときに必ず必要になってきます。兵士でも王を取れる。あなたなら、これをこなしてくれそうですから」
「買い被り過ぎですよ。私にそんなすごい能力はありません」
「そうでしょうか? まあ、もし、あなた自身が、あなたを信じられなくなったとき、私があなたに自信を取り戻させてあげます。戦術面で私はあなたたちを扱えなければ、私の王としての素質が疑われますから」
「それじゃあ、私の力は、ソーナ先輩に委ねますね」
私が、逆上せそうなことに気づいたのか、ソーナ先輩が、抱っこして脱衣所まで連れていってくれた。
うぐぐ……。これが、姉属性持ちの実力か……。
「姉はいますけど、妹はいないんです。留流子も妹分の様に感じますけど、あなたほどじゃないんですよ。あなたの小動物じみた姿が、可愛らしくて、少し姉の気持ちもわかった気がします」
なん……だとぉ……。いや、まあ、確かに、髪は黒でショートカットだし、身長はあんまり伸びないから、実年齢よりうんとしたにみられるし、ロリコン集団が、なんか、親衛隊みたいなの築いてたけど、なんで、ソーナ先輩もその親衛隊みたいな感じのこといってるんですかぁ……。
ちなみに、その親衛隊。女子の割合が多くを占めているらしい。他にも変態三人組のエロメガネ先輩も入ってるとか……。
なんで、私が知ってるのかって? 新校舎内であれば、私の耳は音を拾っちゃうからですけど?
「そういえば、学校には彩南親衛隊というものが存在しましたね」
うぐっ。私が作った訳じゃないんです。
私はソーナ先輩にシャツを着せてもらいながら、心のなかで言い訳する。
「あなたが作った訳じゃないことは知ってますよ。確か、留流子が報告してきたんですよね。部活動として認めてほしい、と」
「だから、新校舎に、集会所みたいに人の集まる場所があったんですか……」
「気づいていたんですね?」
「私、耳はいいので、少なくとも新校舎のなかで起きることくらいは把握しています。あ、変態三人組が覗きをしていたら報告しましょうか?」
「そうしてくれると助かります」
「生徒会も大変ですね」
「その分、やりがいのある仕事です」
なるほど。ソーナ先輩は学校が好きみたいだ。私も学校は好きですよ。
いじめを受けた経験がありますけど、ルルちゃんたちがいてくれるから、とても楽しい生活を送れてますから。
私はソーナ先輩に服を着せてもらうと、髪を乾かしてもらう。
「それにしても、あなたの世話を焼いていると、段々本当の妹のように感じてきますね。留流子もこんな気持ちだったのでしょうか?」
「よくわかりません。私は、いつも助けてもらう側でしたから」
「そうですか……。でしたら、これからは、助ける側に回れるよう、鍛えましょうね」
「はい。ソーナお姉ちゃん」
「…………!!!!!!!」
はっ! やってしまった。ルルちゃんからお姉ちゃんって言うの禁止って言われてたのに……。
過去、こんなことをやらかして、中学校時代の女子の先輩から囲まれたことを忘れてた……。
部活の試合の際の昼休憩で、先輩に何度もご飯を食べさせてもらったり、髪を鋤いてもらったり、たくさんの先輩に可愛がられたのに……。
「すいません。ソーナ先輩」
「な、なるほど……お姉さま。こういうことだったんですね」
何か悟ってらっしゃる?
やっぱり、やらかしてたっぽい!! なんか、ソーナ先輩が髪を乾かしたあと、凄く自然に手を繋いできたから、間違いなく私のことを妹もしくは、子供扱いしてる!?
「あの、ソーナ先輩?」
「ど、どうかしましたか?」
「なんで、手を繋いでるんですか?」
「姉として、妹の面倒をみるのは当たり前ですよね?」
やっぱり……やっぱり、妹扱いしてた!! なんで、なんでぇ! 私ただ、身長が低いだけじゃん!! 低いだけなら塔城さんとかいるじゃん!!
たしか、ルルちゃんによると、私は活発な小一女子だから、妹のように感じる人が多い……だっけ?
何て不名誉な!! 私は、立派な高校一年生なんだよ!? なんで、身長の十のくらいが違うくらいで妹扱いされるのさ!?
「うぅー。ソーナ先輩、私がさっきいったの忘れてくださいぃ……」
「ごめんなさい。多分、無理そうね」
「そんなぁ……」
「気分が向いたらでいいですから、ソーナお姉ちゃんと言ってくれると嬉しいです」
顔を赤く染めて言わないでください!!
うぅー。これから本格的に気を付けよう。きっと、今日のうちは、ソーナ先輩はこの状態だと思うし……。
私は、ソーナ先輩に手を引かれながら、ソーナ先輩の部屋にはいった。
やっぱり広い……。私一人だと、落ち着かなかったかも……。
「ふふ。今日は、一緒に寝ましょうか。こんなに広いと、あなたも慣れないでしょう?」
「はい。全然慣れる気がしません」
私は、ソーナ先輩のベッドに入ると、ソーナ先輩に抱きついた。
あ、いや、これは、その……。うん。正直に言おう。
私、誰かと一緒に寝るのははじめてだから、ソーナ先輩に思いっきり甘えちゃってます……。はい。
ま、まあ、ソーナ先輩なら許してくれるよね?
ソーナ先輩の顔を見ようと顔をあげようと思ったけど、ソーナ先輩に頭を撫でられた。
ふにゅぁー、気持ちいー。なんだろう。手はひんやりしているのに、暖かいんだよ。
そんな、心地よさに、身を任せていると、私はいつの間にか眠っていた。
今回はここまでです。毒親とは離れることができ、尚且、ソーナが姉の悟りを開きました。
えっ?意味がわからない?大丈夫。自分もわからないから。
まあ、ですけど、この彩南ですが、基本的に親の愛情を知らずに生きているので、不幸な私(ガチ)のアピールができちゃって、庇護欲沸かせちゃう系のキャラなんですよね。
ソーナがキャラ崩壊起こしてますが、恐らく、セラフォルーほどではないにせよ、シスコンの気があるのは間違いないので、少し刺激した程度のものですね。姉が隔離結界にいったあとの二代目レヴィアたんを勤めていましたし。
ちなみに、ソーナ自身は加入していませんでしたが、彩南親衛隊というものが存在していることは知ってました。
彩南親衛隊の活動内容は、基本、彩南とのツーショット、もしくは、彩南が写っている写真の交換、彩南に近づく悪い男の排除、匙元士郎との恋路の応援です。
規模は、学外のアルバイト先の店長と常連客、学校内だと、全校生徒の4割(うち9割が女子)、彩南と知り合いになった自衛隊員と、その部隊の人たちでしょうか?
あれ?なんか、軍隊作れそう……。
まあ、きっと、彩南親衛隊の活躍の機会は短編でしかないと思うので、そんな存在もいるんだなぁ程度の認識でOKです。たまにギャグをするのがD×Dですからね。
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朝起きたら、主の腕の中でした
朝になり、目を覚ました私はソーナ先輩に回していた腕の力を強くし、さらに甘えてしまった。
ふふっ、という微笑みと共に、私はソーナ先輩に持ち上げられ、着替えさせられる。
くっ、ダメだ。ソーナ先輩の甘やかしスキルに、私は骨抜きにされてしまった。
ほどほどに、寝惚けていた状態から脱し、冷静になると、顔が青くなる。
「す、すすすす、すいません。自分でしないといけないのに」
「いいんですよ。あなたも疲れていたのでしょう? それに、甘えたくなるほどに、愛を求めていたのなら、それを与えるのも主の役目ですから」
うぅー、何でだろう。凄くソーナ先輩がいい笑顔だ。たしか、シトリーって恋愛関係の悪魔なんだっけ? だからなのかな? こう。ソーナ先輩が甘やかすのがとても上手なのって。
いや、ソーナ先輩が甘やかしてくれると、誰だって、こんな風になる。間違いない。私が経験しているんだから。
「それじゃあ、朝のトレーニングといきましょうか」
ソーナ先輩はラジオカセットを用意し、チャンネルを合わせる。
そこから、軽快なピアノの音が流れ始めた。
これは……ラジオ体操? それも第一の方。
中学生の時、準備運動で何度も聞いたから間違いない。
体をほぐし終わると、私とソーナ先輩は腕立て伏せを始める。十回三セットだ。
筋トレはあまりしてこなかったため、十回でも相当きつく、悪魔の肉体を手にいれ、簡単にできると思ったけど、そんなことはなかった。
なぜか、服が重い気がするけど気のせいなのだろう。
次にやったのは、腹筋だ。一般的に行われる、上体起こしというやつで、これも相当きつかった。
最後にスクワットだ。もう、これは、半端なくきつかった。
十回やるので、精一杯で、二セット目は、三回やって倒れてしまった。その後、ソーナ先輩が、「まだできるはずですよ。さあ、一から」といって、十回三セット済ませるまで、続けさせられた。
そのあとは、ランニングで駒王町を一周した。
これについては結構簡単だった。毎夜、チラシ配りのために走っていたため、そこそこ体力がついていたのだろう。
このときもなぜか、服が重かったような気がする。
一通りのトレーニングが終わると、私たちはシャワーを浴びた。そのとき、ソーナ先輩が私の体を洗ってくれて、気持ちよかった。
いや、普通に自分で浴びることもできたんだよ? けどね、シャワーが何でか高い位置にあるの。それも、私が取れない位置に。
どこかに低く設置されてるところがあるだろうと見渡したけど無かった。何でかは知らない。けど、ソーナ先輩が流してくれて、とても気持ちよかったので、気にしないことにした。
着実に妹化計画なるものが進んでいそうな気がする。えっ? 妹化計画って何かって? ソーナ先輩の家に住んでいる、使用人がそんなことを話していたのを聞く限り、私をシトリー家の養子にする計画のようだ。
うん。まあ、使用人の噂話程度のものなのでデマなのだろう。デマであってほしい。
「さあ、学校にいく準備を整えましょう。明日の分はちゃんと用意してあるのでしょう?」
「はい、とってきます」
私は、私用にと用意された部屋に行き、鞄を持ってソーナ先輩の部屋に戻る。
「準備完了です」
「ふふ。いきましょうか」
スルッと私の手を繋ぐソーナ先輩。私はそんなソーナ先輩を受け入れていた。
「そうでした。今日のお昼。オカルト研究部にいきますよ。リアスにあなたとサジを紹介します」
「うぅ……兵藤先輩もいるんですよね?」
「大丈夫ですよ。リアスが認めた男性ですから悪い人ではないはずです」
「だとしても、私は私の下着姿を見たあの二人は絶対に許しません。私の下着姿は匙先輩だけのものなんですから」
「そうですか……」
そう、私は兵藤先輩と松田先輩に覗かれたことがある。なぜか、そのとき元浜先輩はいなかったけど、あの二人だけは絶対に許さないと心に決めたのだ。
匙先輩のために、綺麗に保ってきた肌を匙先輩に見せる前に、兵藤先輩と松田先輩に見られたからである。
一生恨んでも恨み足りないくらいだ。
気づいたのは、本当に偶然だった。私たち一年生が、体育で着替えの時、ロッカーからガサゴソという音が聞こえたのだ。私はそのとき、誰かがロッカーのなかにいることはわかっていたので、できるだけ、見られない位置に移動して着替えていた。
だけど、ルルちゃんが私をあの二人が見える位置に連れていってしまったのだ。ルルちゃんに悪気はなかったことなんてわかっている。だから、私は彼女を怒らなかった。
代わりにあの二人を一生許さないことにした。
恋する乙女の柔肌を見た罪は一生をもってしても、償いきれないだろう。私の怒りを、いずれ当たるレーティングゲームで、兵藤先輩にぶつけてやるつもりだ。
そのときまで、私は武器を研いでおこう。
昨日、注文した弓と、魔力で編んだ矢で、腸をぶち抜いてやるんだから。
えっ? 死んじゃう? だいじょーぶでしょ。レーティングゲームは致命傷と判断されたら即退場だから、対応できなかったら、当たる前に退場させられるはずだ。
つまり死なないし、便宜上風穴は空かないけど、兵藤先輩に当たったら……という威力の証明にもなる。
ふふふ。私の怒りをのせた矢を食らわしてやる。
私が不気味な笑い顔を浮かべていると、目の前に嫌な気配をまとう女性が二人いた。
「ソーナ・シトリーであっているか?」
「えぇ。私になにか?」
「いや、リアス・グレモリーにとある一件で話がしたい。繋いでもらっても構わないか?」
「要件によりますね」
「堕天使コカビエルが、教会から聖剣を盗みこの町に隠れた。討伐のため、手出しをしないよう、約束してもらう予定だ。君たちにも約束してもらいたい」
「わかりました。リアスには、いつがいいか聞かなくても?」
「私も少し土地勘を取り戻したいから、数日後でいいわ。それに、少し調査しないといけないこともあるし」
「わかりました。私たちも校内で問題を起こさなければ、問題はありません。それに伴い、少し我々も調査させてもらいますね」
すごい。さっきまで、ソーナ先輩はこんな感じじゃなかったのに、切り替えられてる……。
私は、ボーッとしながら、三人の話が終わるのを待っていた。
でも、良いのかな? 私は全然そこら辺の勉強とかしてないから、詳しいことはわからないけど、雰囲気からかなり不味そうなことくらいはわかる。
ていうか、ソーナ先輩の手が震えているから、結構怖がっているのかもしれない。
だから、私は、ソーナ先輩の握る手を少し強く握り返してみた。
そうすると、ソーナ先輩の震えが収まった。よかった。少しでも役に立てて。
気丈に振る舞っていたけど、あの、不気味な雰囲気の物に警戒し、言葉を慎重に選んでいたように感じた。
「それでは、私たちはこの辺りで失礼する」
「くれぐれも、この町の人たちに被害を出さないようにしてください」
「関係の無いものを巻き込むことは、私たちとしても望まない。できるだけ、穏便に済まさせてもらうつもりだ」
ソーナ先輩との話も終わったのか、二人組はどこかに向かっていった。
きっと、コカビエルとか言う堕天使の捜索と土地勘を掴みに行ったのだろう。
「ソーナ先輩……」
「大丈夫ですよ。私たちがなにもしなければ、あちら側から何かしてくることはありません。ですが、リアスの方は……恐らく問題が起きてもおかしくはないでしょうね」
「何でですか?」
「リアスの眷属には、教会の者への憎悪が高まった子がいますから」
「そうなんですか……」
「えぇ。恨むことを悪いとは言いません。ですが、それが成し遂げられたあと、脱け殻になってしまうことは、問題だと私は思います」
「ソーナ先輩は憎しみは悲劇を産むだけだ何て言わないんですね」
「その考えもわからなくはないですが、機械じみて、生物らしさと言うものがない。私はそう思うだけですよ。感情があるのですから、怒りも悲しみも、喜びも幸せも共有する。言葉と意思があるからこそできるものですからね」
ソーナ先輩は良いことを言う。感動した。
ソーナ先輩の良いところを知れば知るほど、匙先輩を落とす難易度が跳ね上がっている気がする。
うぅー。よし、こうなったら、匙先輩とソーナ先輩を付き合わせて、匙先輩が余裕を持ち始めたときに、私は匙先輩に付け入ろう。
そうすれば、私だって可能性はあるはずだ。
「今日はアルバイトがありましたよね?」
「はい。それなので、チラシ配りは休んでもいいですか?」
「えぇ。良いでしょう。それに、明日から契約もとってきてもらう予定でしたから、チラシ配りはもういいですよ」
そうなんだ。あれ結構体力作りになるから、良かったんだけどな……。あと、それなりに早く走る方法を身に付けれると感じてきて、もうちょっと調整してみたかったと言うのもある。
屋根の上に飛び乗って、パルクールって言うんだっけ? あれをやってみたかった。
私はソーナ先輩と別れ教室につくと、ルルちゃんに向けて手を振って声をかける。
「おはよー、ルルちゃん!」
「おはよ、あや!」
「……二人とも声が大きい」
「塔城さんもおはよ」
「おはよう。あーちゃん」
「それで、会長と登校してきてたけど、なにかあったの?」
「ソーナ先輩の家に住むことになっちゃった」
「ほんとに何があったの!?」
「いや、その、家に帰りたくないなぁって思って、気づいたらソーナ先輩が両親を言いくるめてた?」
「なんで、本人が自信ないの?」
「いやぁ、私が警察に補導されないように逃げ回っているうちに終わってたことだから」
「あんたもあんたで、なにやってるのよ……」
てへ♪
警察から見つからないように逃げ回るのはとても楽しかった。たまに屋根の上に飛び乗ったり、足音から行動を推測しながら遭遇しないように立ち回ったりと、スパイ映画のワンシーンみたいな感じだったのだ。楽しくないわけがない。
潜入美少女スパイ彩南ちゃんがそのうち誕生するかもしれない。
これから、気配遮断や罠、弓とかを今から勉強するわけだからあながち嘘じゃないかも。
よーし、本気で頑張ってみよう。いや、匙先輩に良いところを見せたいからめちゃくちゃ頑張る予定だったんだけどね?
「あ、塔城さん。兵藤先輩ってどんな人?」
「イッセー先輩? 変態だけど情に厚い人かな?」
「あれ? あや、兵藤先輩のこと一生許さないんじゃなかったの?」
「え? 兵藤先輩のこと一生許す気なんてないよ? 匙先輩のために磨いた私の肌を見たんだもん。許せるわけないじゃん」
「それは……うん。兵藤先輩が悪いからね。で、でも、あの時あやをあそこに連れていかなかったら……」
「それこそ、仕方ないよ。ルルちゃんは気づいてなかったんだから。あの時、私がロッカーに兵藤先輩が隠れていることを言えばよかったんだから」
「あのあと、ちゃんとお仕置きしておいたから」
「塔城さんも、見られたもんね。お腹に風穴開けても文句ないよね?」
「あや。それは、サイコパスの発言だよ。気をつけて」
「うーん。となると、本当にレーティングゲームで恨みを晴らすべきかな? うーん。あと、松田先輩は……。剣道部の人たちに頼もう」
「やり過ぎちゃダメだよ、あや」
「善処はするよー。善処はね」
「はぁ……」
仕方ないよね。でも、警察につき出さないだけマシだと思ってほしい。完全に私刑だけど、警察につき出したら、社会的に生きづらくなるわけだから、内々の折檻で済ませてもらえると言うのは、償いのチャンスもあるって訳なんだからね。
ふふ、ふふふふふ。
私が不気味な笑みを再度浮かべていると、気づけば授業が始まっていた。私の席は一番前だ。身長が低いから……。
席替えのときは、基本的に私だけ別の箱を用意され、それで引いた席に移る。
つまり、私は、小学校高学年から、一度も、一番後ろの席になったことはない!! こんな、理不尽な世の中間違っている!!!
私の訴えは、未来永劫、届くはずがないので、先生を恨めしい目でみる程度で留めておく。
そして、それから、数時間が経過し、廊下にソーナ先輩が来ていた。
「それでは、いきますよ。サジには先に旧校舎へと向かってもらってます」
「うぅー。匙先輩とも一緒に行きたかったのにぃ……」
「そういう風になって、切り替えれないと判断したからです」
「はーい」
私の返事を聞くと、ソーナ先輩は私の手をとり、歩き始める。うぅ、私も高校生なのに……。小学生みたいな見た目でも高校生なのに……待遇の改善をよーきゅーする!! 私は高校生なんだ一人で旧校舎くらい行けるもん!! 幽霊とかが出る噂は聞いてるけど、大丈夫だもん!!
私は心のなかで、ソーナ先輩に訴えたが、当然、思考を読まれるはずもなかった。
うん。あの、うん。もういいの……匙先輩にだけでも高校生として認識してさえくれれば……。
でもね、私察したの。匙先輩。たぶん、私のこと妹として認識してるかもって。
なんでこう思うのかって? そんなの、そんなの決まってる!
私が変態的な行動をとっても笑って流すんだよ!? 「そうか、そうか」っていって頭撫でてくれて(気持ちいいけど)流すだけなんだよ!!
うぅー、まさか、私が匙先輩のことお兄ちゃんのように扱ってるって勘違いが本気で起こってそうで辛いですよ、トホホ……。
「ソーナ先輩……」
「どうかしましたか?」
「どうして、私って小学生のような扱いをされたり、妹のように扱われることの方が多いんですかね?」
私の少し意地悪な質問に、ソーナ先輩は涼しい顔をしていた。
「それは、みんなが、あなたのことが心配だからだと思いますよ。私が調べた範囲でも、あなたは幸せと言えるような生活を送っていなかった。だから、私も含め、たくさんの人があなたを甘やかしたくなってしまうんです」
「うぅー。匙先輩からもその扱いは正直、精神にグサッとクリティカルダメージですよぉ……」
「よしよし。あの子はもう少し乙女心を学ばないといけないですね」
私の泣き言に、ソーナ先輩は頭を撫でてくれた。最近、私の頭を撫でる人の数が増えてきているような気がする。
私が悪魔に転生して悪魔としてやらなければいけないことを、椿姫先輩からの教えてもらったとき、よく覚えられましたと、ご褒美に撫でてもらって、匙先輩には一日一回ご褒美ナデナデをもらって、ルルちゃんも時々、あたしもあたしもーって言って撫でてきて、花戒先輩と草下先輩も、魔法の勉強でうまくできたりすると撫でてくる。巡先輩と由良先輩は生徒会の仕事で疲れたときとか、私たちの癒しーみたいな感じで頭を撫でてきたりする。
うん。なんでだろう。ソーナ先輩の眷属は、私の頭を撫でる癖でもあるのかな? 因みに、巡先輩と由良先輩は時々、親衛隊の集会に参加していたような気がする。少なくとも二人の声が、集会から聞こえてきたことがあったから、人間の頃のまだ、精度が安定してないときの記憶だから曖昧だ。
私の耳のよさは人間の時からして異常だった。そのため、悪魔に転生する前は、様々な事が重なり、雨の日の精度がほとんど安定しない。
今でこそ、意識的に雨の音に混ざる声とかを拾えるようになったけど、これを習得するのは今日までの努力の結果だ。
ただ、うるさいだけの空間であるならば、聞き分けれるし、継続するわけではないので、なんとかなるが、雨の音になると、気分が悪くなるし、人の声は聞こえ難いしと苦労した。
そのせいで、小学生のときは授業中に雨が降らないことをずっと願ってたんだよね。
当然、自然現象に私の願いが届くはずがないので、私は雨がよく降る夏、それも、六月が大嫌いになった。
因みに八月も嫌いだ。セミがうるさいから。
一番好きな季節は冬だ。うるさくないし、虫も減る。それに、私の誕生日もある。親に祝われたことは全くないけどね。
いや、一応、誕生日が楽しみな理由は、ルルちゃんが祝ってくれたからであって親は関係ない。むしろ、小学生のときは、生きるのさえ苦に感じてたくらいだし、だから、私はルルちゃんのことが大事な友達なのだ。
よく中学生の頃は愛情表現のしかたがわからなくて、ルルちゃんに対しては、抱きついたり、手を握ったりしてたくらいだった。
うぅー、今思い出しても恥ずかしい……。だから、ルルちゃんも匙先輩を狙うって言ったときは、本気で喧嘩になった。
その結果、どっちが先に付き合っても恨みっこなし(奪うのは有り)という方向でまとまって、でも、上級悪魔ならハーレムもできるみたいだから、ソーナ先輩とルルちゃんを巻き込んで、私たち三人で匙先輩に付き合ってもらおうと私が勝手に決めた。
もし、ソーナ先輩が別のだれかと付き合ったとしたら、正妻戦争に発展するだけなので、それほどの変化もない。うん。我ながらよく練られてる。
となると、残りの問題点は、ルルちゃんが心変わりしないようにどう挑発するか……。
この際だからはっきり言おう。私が認めない限り、ルルちゃんに彼氏を作らせるきはない!!
そんな、どこかの馬の骨、いや、雑草にルルちゃんを渡すくらいなら、ルルちゃんの意思をへし折ってでも、匙先輩の彼女に私がする。というか、私が恋人になってルルちゃんも恋人にする。
え? ルルちゃんのことが好きすぎ? むしろ、これくらい当然でしょ? 私に当たり前を教えてくれたのがルルちゃんで、ルルちゃんがいなかったら、私、今生きてるかわからないくらい、精神的に参ってた時期があったんだから。
私の乙女(百合)モードが発動している間に、旧校舎の前についた。
校舎から聞こえてくるすきま風や物音から、女装した男の子がいることはわかった。
悪魔になって、ますます五感がよくなったのか、私の耳はものすごく小さな音でも拾うようになっていた。
今までは雨音で限界を迎えていたけど、最近はゲームセンター程度で限界を迎えてしまう。
まあ、ほんとに、安定していた頃よりも酷い。因みに安定していた時期といってもほんの数週間くらい前の話だけれども。
私は深呼吸して、旧校舎の扉を潜った。
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えっ、私の高校生力低すぎ?
オカルト研究部の部室に入ると、そこにはすでに匙先輩がおり、私はすぐに匙先輩のもとへと向かった。
私と匙先輩の身長差は大体四十センチ位だ。そのため、私が結構見上げる形で匙先輩を見ることになる。
というか、私の身長で見上げることのない人は、小学生くらいのものだ。
私は、匙先輩の足にしがみつき、恐る恐るグレモリー先輩を見る。
すると、グレモリー先輩は、私に近づいてきて、私と視界を会わせるためにしゃがんだ。
「こんにちは、雨月彩南さん。私はリアス・グレモリー。ソーナと同じ七十二柱の悪魔、グレモリー家の時期当主よ」
グレモリー先輩は私を見ながら、どこか懐かしそうな表情に変わる。
なんだろう、嫌な感じはしないけど、失礼なことを考えられてる気がする。
私はグレモリー先輩にここ最近よく使う名乗りをすると、匙先輩の後ろに隠れた。
いや、あのね。私、グレモリー先輩のこと、嫌いじゃないけど、苦手意識があるの。背は高いし、きれいだし、胸大きいし、私の持ってないものを持っている。
私なんて、背は低い(百二十八点六センチだ)し、きれいか?と聞かれると、保とうと努力するけど、限界があって、人より少し良いよね、位だし、胸なんて言わずもがな。バストイコールウェストだ。
頑張ってかわいさというものを追求した結果、『同級生なのに、どこか妹っぽい』という認識に変わってしまった。酷い。あまりにも酷い。せめて、塔城さんくらいの身長が欲しかった。
「昔のソーナを思い出すわね……」
「ソーナ先輩に?」
「えぇ。あの子の小さい頃もあなたみたいな感じだったわ。セラフォルー様の後ろをよく、ついていってわがままをいって困らせていたわね」
「リアスも似たようなものでしょう?」
「私は違うわよ? しっかり言いつけは守っていたし」
嘘だ。私はそう確信した。グレモリー先輩、そんなに心臓ばくばく言わせていたら、嘘だってわかりますよ。
お父さんとお母さんが私の通帳からお金を取り出したあと、私に対して話すときだけの心音と同じだから、嘘だってことくらい、すぐにわかりますよ?
当然、グレモリー先輩の過去を知っているソーナ先輩は、それに対して、なにもいっていなかった。きっと、グレモリー先輩の尊厳を損なわないようにするためなんだろう。
「それにしても、似てるわね。昔のソーナに」
「そうね。私もそう思っていたの」
次は容姿の話かな?
私の顔がそんなにソーナ先輩に似てるの? つまり、これから、成長すれば匙先輩を落とすことも可能に……? それに加えて、メガネも掛ければ……。
よし、匙先輩に振り向いてもらうためには手段を選ばないからね、私。
「あの、匙先輩」
「なんだ?」
「私がメガネを掛けて、似合うと思います?」
「あぁ、似合うんじゃないか?」
むっ、これは適当にいってるやつだ。不思議そうな顔をして、なおかつ、動揺が感じ取られない。
まさか……、私が『匙先輩のお嫁さん候補』と言っても園児が『お兄ちゃんと結婚するー』みたいなものとして受け止めてる?
いやいや、流石にないでしょ。ある方がおかしい。見た目はこんなでも、高校生なのだ。そんな判定を下す方がおかしい。いや、でも……匙先輩なら納得するために、そういう風に捉えていても違和感がない……。
ルルちゃん、どうしよう。この先輩落とすの難しすぎる……。
私が悶々としていると、グレモリー先輩は微笑み、ソーナ先輩に、「これって、そう言うこと?」と尋ねており、ソーナ先輩も「そういうことです」と返していた。
ふむふむ。そんなに分かりやすかったのだろうか? いや、まあ、匙先輩にはここまで分かりやすくしないと、私の気持ちに気づいてもらえない可能性があるんです。
つまり、ルルちゃんの攻めはまだ生ぬるい。
私なら、匙先輩がお風呂に入っている間を狙って、匙先輩の体とかを、私の手で洗って、狙うはそのまま既成事実!
匙先輩はなんだかんだ言って、責任感が強いから、そこに着け込む隙がある。
不純異性交遊の禁止が生徒会にはあるらしいが、不純でないなら良いのだろう。
正直、私はこの年で親になっても良いと思っている。匙先輩と私の子であれば、私はうんと愛を注いであげられる自信がある。
「よし……今度匙先輩の家につれてってもらおう」
「別にいいけど、面白いものなんてないぞ?」
「大丈夫です。匙先輩の性癖がわかれば、それで」
「女の子が『性癖』なんて言葉を使うな!」
「怒るところそこなんですか!?」
「いいか? 女の子である以上は一定の慎みを持ってだな」
なぜか、匙先輩から教育を受けることになってしまった。なんで、なんでなの!? 普通そこは、『やっぱり、お前をうちに招くのはやめるわ』って、反応するところでしょ!? そして、私がそれをからかう場面のはず。
それが、なんで、女子としての慎みを持とうって話になるんですか!!!!
私の目は気づいたら涙が溜まっており、肩で息をし始める。
うぅ、ううぅー。
だんだん、私の我慢が効かなくなり、とうとうポロリと、涙がこぼれる。
「うわぁぁぁあん!! ソーナせんぱーい!! 匙先輩が一般家庭のお父さんみたいなこと言う──!!!」
そして、私はソーナ先輩に泣きついた。ガチ泣きだ。それはもう、本気で、羞恥心などかなぐり捨てて、本気で泣いた。
それに対して、匙先輩は、「おい、まだ、話は……」って言ってくる。
私はソーナ先輩にヨシヨシと撫でてもらって、漸く落ち着きを取り戻した。
ふぅ。ホントに、ホントにもう!! なんで、匙先輩は私のこと、子供扱いするの!?
ひっく、えっくと泣くだけ泣いて、しゃっくりがではじめたころ、オカルト研究部の部室のドアが開かれる。
そうだった。今日は匙先輩にアタックするためにここに来たんじゃなく、兵藤先輩とアーシア先輩との顔合わせのために来たんだった。うっかり、うっかり。
私は、呼吸を整え、目の赤くなった顔で対面することになりそうなところで、ソーナ先輩が魔力で、目元を洗ってくれて、ハンカチで拭いてくれる。
「すいません。ソーナ先輩」
「いえ、気にしないでください。ほら、あなたも挨拶を」
「はい……」
私はソーナ先輩に鼻も拭いてもらうと、兵藤先輩とアーシア先輩に向き直る。
「こんにちは、シトリー眷属の兵士、雨月彩南です。兵藤先輩は一生恨むと決めてますけど、よろしくお願いします」
「イッセー。なにをしたの?」
「部長!? い、いや、俺、この子とは初対面ですよ。名前だけなら有名なんで知ってましたけど」
「なるほど、今まで覗いた女子の名前は忘れてる……と。女の敵ですね。やっぱり一生許せません」
「いや、その、なんか……ごめん」
「『なんか』じゃないですよ!! なんで、覗きなんてしてるんですか!? 怒りをストレートにぶつける女子が多いから錯覚してるのかもしれないですけどね! 女の子にしてみれば、好きでもない人にみられるんですよ!! 許せるわけないじゃないですか!! 匙先輩に初めてをささげるつもりだったのに、どうしてくれるんですか──!!!!!!」
私は羽を生やし、空に浮くと、兵藤先輩の胸ぐらをつかみ、ユサユサと揺する。
わかるか! わかるか、この怒り!! いつも剣道部の人たちにソッコー見つかって折檻されてたから知らなかっただろう? これが、剣道部女子の本音(だと思う)だ!!
あくまで私、個人の見解だから、彼女らが許すと言うのなら、私は兵藤先輩と松田先輩が泣いて許しをこいて、今まで覗いてきた女子生徒全員に土下座して許してもらって、その上でフルボッコにして許そうと思う。
そして、それを私が提示していない以上、一生許すことはない。まあ、彼らが自主的にやったと言うのであれば、そのときは許そうと思う。
ほんと、なんで、こう、時々、ボランティア活動とかやってるのにも関わらず、覗きなんてするのだろうか?
あのね、どんなに中身がよくても、やってることが女子生徒から反感を買うようなことをしたら、そりゃモテないですよ? イケメンを恨む資格をあなたたちは持ってないんですよ? わかります?
「ほら、雨月。離れろ」
「ですけど!!」
「わかった、わかった。ほら、おんぶしてやるから、落ち着け。な?」
むぅー。匙先輩がそういうなら。
私は匙先輩の背中に体重を預けながら、兵藤先輩を睨み付ける。
「まあ、兵藤も悪いからな? 覗きとかして、こういう反応を受けすぎて慣れたのかもしれないけど、こいつはまだ、一年なんだ。あいつらみたいに洗練された動きでボコすことなんてできないんだ」
「あ、あぁ。けど、やっぱり、この抑えられないリビドーをどう発散すれば!?」
「十八禁の本なりDVDなりで発散すればいいだろ?」
「それじゃ、足りないんだよ!!」
「なんでだよ……。まあ、取り敢えず、こいつの言い分もわかってやってくれ。複雑な年頃なんだ。それと、俺は匙元士郎。こいつと同じ兵士だ」
「おぉ、俺と同じか」
「俺としては、お前みたいな兵士と同じにされたくないんだけどな」
「んだとぉ?」
「それ、私も同意見です。覗き魔と同じだと思われたくないです」
辛辣? えっ? 普通じゃない? 誰だって性犯罪者と一緒にされたくはない。ほんとに、ね。
この先輩、何度も言うけど、覗き魔じゃなければ尊敬してたよ? でもね。覗き魔なの。
生理的にダメなの。普通の人は、どんなに性欲が高まろうが自制できるのに、それができないからダメだって思っちゃうの。
匙先輩だって、今こう(私をおんぶ)している間、心臓ばくばく言わせてるけど、必死になにかをこらえるほど、自制効かせてるんだよ?
兵藤先輩も、少しは自制できるようになってください。たぶん、そうすれば女子の評価も変わるかもしれないので。
ちなみに、私からの評価は変える気がない。いや、変えていいと思えるような要素を今見てないからなんだけどね?
そんなことを考えながら兵藤先輩を睨んでいると、アーシア先輩が私の方に歩み寄ってきた。
「あ、あの、アーシア・アルジェントです。イッセーさんも悪い人ではないんです。ちょっと、エッチなところがありますけど、優しい方なんですよ?」
「え、えっと、その、私が言ってるのは人柄じゃないんですよ。噂話でオカルト研究部員に手を出してるみたいなものは聞き齧りましたけど、私はそれについては、どうでもいいんです。私は、私の下着姿を見たことに対して怒ってるんですよ。ついでに言うならもう、一生をかけて許す気もない。ただそれだけなんです」
兵藤先輩の擁護に回る人たちは、基本、彼のいいところを見ているから、擁護に回れるのだろう。その点、私は塔城さんから聞き齧った程度だったり、結構情に厚いところがあることだって、実際に耳に入っている。
だけど、それ以上に、覗き魔なのがデメリットなのだ。そして、私はその被害者である。許さないというのも、そういった理由である。
「彩南も、悪い子じゃないんです。ただ、少し、感情的になりやすいだけなんですよ。兵藤くん、アーシアさん。同じ学舎で学ぶもの同士、節度のあるお付き合いを互いにしていきましょう」
「「は、はい」」
「それでは、私たちはこの辺りで。サジ、彩南」
「はーい。匙先輩、お願いします」
「雨月、歩く気はないのか?」
「えぇー。匙先輩、おんぶしてくれるっていったじゃないですかー」
「だと思った……」
私はだらけた顔のまま、匙先輩の背中に張り付く。
そうしていると、匙先輩はソーナ先輩の後ろを歩き始め、ノッソノッソと教室へと戻っていく。
教室へとつくと、ルルちゃんが「なっ!?」と目を見開き、匙先輩に私を渡すように訴える。
ふふふ、そんなこと知ったことじゃぁない。
私は引き剥がそうとしてくる匙先輩に全力で張り付く。いやだ。この背中は、私が死守するんだー!!
結局私は、匙先輩に引き剥がされ、自分の席に座らされた。
そのときの、匙先輩のやれやれという表情を私は見逃さなかった。
私が見逃さないということは、ルルちゃんも見のがさないということなので、肩にポンと手をおいて、いい笑顔で、「ドンマイ」といってきた。
くそぅ。慰めなんて要らねぇやい。私が最近匙先輩から女子としてみられてないことなんて知ってるもん……。
「あんた、女子高生というより、女子小学生みたいだもんね。普通の女子高生ならいくらして欲しくても、彼女になるまでは好きな人におんぶしてもらおうなんて、恥ずかしくて思わないわよ?」
「えっ……、ほんと?」
「たぶん、兄弟でも相当年齢差が離れてないとやらないかもね」
「なん……だと……?」
って、年の離れてる兄弟? まさか、まさかだけど、
「ルルちゃん。もしかして、私のこと幼児体型っていった?」
「くっ、ばれたか」
「なんだとぅ!?」
「だって、あやって、匙先輩が相手だと、完全に幼児になるでしょ?」
「なるけど、なるけどぉ!」
「言語能力が、落ちてるよ?」
「ルルちゃんの意地悪ぅ! 塔城さーん!」
「ルル吉、あーちゃんをいじめすぎるのは、めっ!」
「小猫ちゃん、あやのレベルまでに落とさなくてもいいからね?」
うぅー。ルルちゃんめー、なんで、そんなに私の地位を幼児に落としたいのさ。ちゃんと生徒手帳も持って、アルバイトもバリバリやってる現役JKだって言うのに……。
バイト先の店長も偉い偉いって頭撫でてくれるのにー。
……あれ? 店長も子供扱いしてない? え、してないよね? ね?
私はルルちゃんに視線で訴えると、『あんたがそう思うならそうなんじゃない?』と視線で返してきた。
うぞだ、ぞんなごどぉぉぉお!! なんで、なんでなのぉ!?
「あーちゃん。これが、身長が伸びないものの宿命……」
塔城さんは、私の気持ちがわかってくれるのか、肩に手をおき、同情の眼差しと諦めろと言外に伝えてくる。
うぅ、うぅぅぅー。いいもん。匙先輩にさえ女の子として見てもらえればそれでいいもん。
私は、床に体操座りでいじけた。
「ほら、スカートの中は、隠してあげるから、授業が始まるまで存分にいじけなさい」
なぜか、お姉さん風を吹かすルルちゃんにムッとしたけど、我慢することにした。
私は高校生なのだ。この程度で起こったりなんてしない。
私は、先生が来るまで存分にいじけさせてもらった。
※※※
学校も終わり、アルバイトも勤務時間ギリギリまで働いて、私は帰宅(ソーナ先輩の家に)していた。
「今日の晩御飯はなーにっかなー」
私は、昨日の晩御飯を思い出しながら、そんなことを呟いた。
それにしても、昨日の晩御飯は凄かった。ルルちゃんや先輩たちは慣れているのか、気にしていなかったけど、一般より少し悪い環境で育った私としては、もう、ものすごく豪華な晩御飯だった。
うん。思い出しただけでお腹が減ってくる。
そんな、ルンルンな私は、突然現れた白髪の神父に鳥肌がたった。
生理的にダメというより、根拠のない恐怖感が襲ってくる。
「おやおやぁ。悪魔くんの匂いをおってきたら、ロリ悪魔ちゃんでしたかぁ。いやぁ、子供を殺すのは心苦しいけど、悪魔だから仕方ないよね?」
「……どちら様で?」
「はっはぁー。僕としたことが、自己紹介を忘れてましたかー。いやぁ、ごめんちょ? 僕の名前はフリード・セルゼン。いけない悪魔を退治するお仕事をしてるんですよぉ。と言うわけで、死んでくれる?」
そういって、私の目に止まらないほどの速さで近づいてきて、手に持つ剣を振り下ろしてくる。
ゾワリと、そう毛だったとき、私は本能的に横に回避した。
私の居た場所に、その嫌な雰囲気を纏う剣は下ろされていた。
本気だ。
そう理解させるには十分な一撃だった。
考えろ、考えるんだ。私……。今必要なのは、逃げ切ること。私のできることと言えば、設置型の魔法を利用して、場を撹乱することと、魔力を矢に変えることの二つ。
だけど、設置型は準備までに時間が掛かるし、魔力を矢に変えるにも時間が掛かる。
どちらにせよ、時間稼ぎが必要だ。戦闘経験が豊富じゃない私ができることなんて、限られてる。
だから、私は距離を取るために全力で回れ右をして、走り出す。
「おや、鬼ごっこですかい? この
私は神父の言葉を無視して、人気の多いところに向かう。相手もさすがに人の多いところで、剣を振り回したりなんてできないだろうし、普通なら一般人を巻き込むと思って引き返すはずだ。
あと、もしかしたら、ルルちゃんに会えるかもしれない。そのときに、ソーナ先輩でも、誰でもいいから救援を貰えれば万々歳だ。
私はとにかく走った。戦闘能力を持たないがゆえに、逃げることしか出来ない私は、聞こえてくる足音から距離を計りながら逃げ回る。
フリードとか言う人の足音が止まり、私は更に駆け出す。距離をとにかくとりたかった。
だけど、それは幻想だと理解させられた。
「うん。鬼ごっこに飽きたから、本気出しちった」
あぁ、なんで、こう、私は運がないんだろう? せめてさ、弓が完成したとかで扱いに慣れてきてからにしてくれればまだよかったよ。
私は走りながら、魔力で編んだ矢をフリードに向けて投げた。
それを、フリードはペシッと剣で払い落とす。
だと思った。
『逃げきる』この一心で行動してたけど、できたのはこれだけ。
私は、一か八か、相手に依存する形ではあるけどかけにでる。
「うーん。やっぱり逃げ回る悪魔は最高ですなぁー。それも、幼女。尻振って、必死に生きようとする……。あぁー、気持ち悪い。悪魔なのに生きようとすんなよなぁ」
気だるそうに今度こそ、私に剣を振り下ろす。私はその剣から逃れるために走ろうとしたけど、つまづき転んでしまった。
今だ。
私は魔力の矢を転けたさきで手をついた場所にセットし、魔力を風に変えフリードへと放った。
さっきも投げたときに使えばよかったと反省する。
先ほどと違う形で奇襲すると、流石に油断していたのか、フリードの頬に切り傷ができた。
「は?」
フリードは頬をさわって、傷ができたことを確認した。大きな傷は与えられなかったけど、プランBは成功した。
よかったぁ。
上空に打ち上げられた矢は大きなおとをたてて破裂する。花火くらいの音だから、私基準で言うと限界まで音量をあげたイアフォンを耳につけて、音量調整をミスして、叫ばれるくらいの音量だ。
つまり、私的には半端なくうるさい。鼓膜が破れるかと思うくらいにはうるさい。
「ははー、こんなところで花火かい? よほど余裕があるんだねぇ」
「余裕なんてあるわけないじゃん」
「およ、ようやく反応してくれた。さあさ、それじゃ大人しくしててねぇ。ダイジョブ、痛みは一瞬だから」
私は、そのままの体制で後退する。そんなに早く移動できるほど成長してないし、能力もない。だけど、きっと誰かが助けに来てくれることは予想できている。
私は一週間前、ソーナ先輩からいざというときは大きな音をたてなさいと言われていた。そのため、私は魔力の矢を花火へと変え、空へと打ち上げたのである。
この過程でフリードに大きいダメージを与えることができたらいいな、と思っていたのがプランAだ。
本命は二射目。これこそがソーナ先輩が、私をサポートタイプにして徹底させようと思っている計画だ。
そのため、基本はサポート主体の立ち回りの勉強を、次に遊撃、斥候ができるようになると、尚良し。
罠の張り方や作り方はこれから勉強するけど、レーティングゲーム見たいな場じゃないと難しいかも。
この襲撃で大体学んだ。
これで最後だ、とばかりに剣が振り下ろされそうになる。私はその剣から目を離さなかった。
私に当たりそう、となるその瞬間。もう一人の人物、巡先輩により、その剣が私を切ることはなかった。
「私の後輩をいたぶってくれたみたいね」
「ここに来て、悪魔の増援かよ」
憎らしげに、フリードは言う。
知ったことじゃない。彼は彼の都合で私に剣を向けてきたのだ。私が逃げ惑っているだけだと思わないでほしい。
私の耳は相当いい。そのため、逃げている最中であれ、どの先輩が近くにいるかなんて言うのは、把握できる。
だから、私は微かに聞こえた巡先輩の声を追って、逃げていた。
そして、今、私のプランB、巡先輩に救援要請して、フリードと戦ってもらおう作戦は成功した。
ホントに、巡先輩が気のせいとして放れていかなくてよかった。
「彩南、無事?」
「少し、転けちゃいましたけど、大丈夫です」
「傷跡が残らないように後で手当てしないとね」
「お願いします……」
「それじゃ、援護よろしく」
「任せてください」
さあ、ここから、第二ラウンドの開幕だぁ!!
私は、宙に矢をつがえ、魔力を高めた。
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戦闘終了、疲れました。撫でてください
私は宙に矢を置き、フリードの一挙手ごとに立つ音を聞き逃さないようにする。
できれば巡先輩の動きも聞きたいけど、そんな暇はない。
「彩南。逃げ道に矢を放ってくれれば良いから。それだけに意識を割いてて」
「わかりました」
「おやおや、敵を相手に作戦を言うとは。間抜けな悪魔くんですねぇ。それじゃ、ボクチンに警戒しろっていってるようなものだよぉ?」
巡先輩が振るう刀を弾きながら、そういってくる。
フリードの相手を巡先輩がしてくれている間に、私ができることを考える。
一つ、設置型の魔法を逃げ場、もしくは巡先輩の有利になるように配置する。
私に、まだ、相手の動く位置を推測するような能力はない。
二つ、矢をフリードの回避先に放つ。
予測できないけれど、回避を制限することはできるかもしれない。
三つ、ソーナ先輩に連絡を取る。
論外。巡先輩を見捨てるわけにはいかない。
結果、私は宙に置いた矢を出来るだけフリードが避けれないように、放った。
おそらく全て弾かれるだろう。だけど、その隙を巡先輩が見逃すはずない。
「うおっとと。危ない危ない」
おどけながら、フリードは私の矢を切り捨てる。そして、巡先輩が振り下ろした刀はバックステップで避けた。
なんで?
「手加減とかして、ボクチンをなめちゃってる? 悪魔が? ハッハッハー。屈辱だねぇー。ぶち殺したくなった。あっ、俺様、もともと悪魔はぶち殺したくなる質だったわ」
うるさい、黙れ、耳障り。
私の耳はこういった醜い存在の声さえも拾う。せめて匙先輩クラスまで矯正してから出直せ。一生無理だと思うけど。ていうか、ソーナ先輩と匙先輩とルルちゃん以上の性格の持ち主なんて、歴史に名を残すレベルの聖人以外あり得ないから無理か(偏見)。
「彩南」
巡先輩が私をちらっと見た。
私はその視線の意味に気づき、コクりと頷く。
「そう。それじゃ、作戦に変更はなしよ」
「了解です」
私が返事をしたのを聞くと、巡先輩はフリードに向かって剣を振り下ろす。
私は、横にフリードが避けたのを聞くと、そこに矢を放つ。フリードはその矢を切り落とす。そこに、巡先輩は接近し、切りかかる。
すると、フリードは、バックステップでその刀を避ける。
だが、そこからが違った。
「後方不注意だな。神父」
由良先輩がそこにいた。それも、思いっきり、構えた状態で。由良先輩は構えた拳を放ち、フリードを上空へと打ち上げた。そこに、いつの間にか到着していた真羅先輩が長刀でさらに上へと打ち上げる。
そして、民家の屋根の上から、匙先輩が腕についている黒い蜥蜴のような形の機械から伸びるピンク色の『ライン』で、フリードの足を絡めとり、地面へと叩きつけた。
勢いの乗った落下だったため、相当な衝撃が彼を襲っただろう。
私はぐっと、拳を握りフリードを見る。
叩きつけられたときに、口から血を吐いていたので、相当なダメージのはずだ。
「あや、無事? 怪我してない? あんた、傷とか出来るとなおるのがちょっと遅いんだから、怪我してるなら早く言いなさいよ?」
「無事だよ、ルルちゃん。けど、まあ、転んじゃって」
「今すぐ、見せなさい。どこを怪我したの?」
「ちょっと、擦りむいただけだから、そんなに重症じゃないよ」
「ばい菌が入ったら大変でしょ。ほら、洗うわよ。あたしが背負ってあげるから」
ルルちゃんは、私を持ち上げ、背中にのせる。
すごい。いつの間に、こんなことできるようになったの? って、まてまてまてまて、まてぇい!!
「ルルちゃん下ろして! 匙先輩の前なんだよ!?」
「あんた、匙先輩にいつもしてもらってるくせになに言ってんの!! それよりも、怪我の手当てが先よ」
「正論だけど違うの!! 匙先輩じゃないとダメなのー!!」
「俺を巻き込むな!! それよりも、会長、この神父どうします?」
「そうですね。とりあえず、家で身動きをとれない状態にして、情報を聞き出しましょう。それと、留流子。彩南を治療するなら、先に帰っておいてください。メイドたちが手伝ってくれるはずです」
「わかりました!」
ソーナ先輩も!? まあ、けど、ソーナ先輩も帰ってくるなら、問題ないかな? いや! 問題はある!!
このままじゃ、ほんとに、匙先輩から女の子認識されなくなっちゃう!!
私の心の叫びはルルちゃんに聞こえることはなく、無慈悲にも空を飛んで、ソーナ先輩の家に帰ることになった。
「それにしても、あんた、よく先輩たちがあの場所にいるってわかったわね。耳が良いってレベルじゃないわよ?」
「そんなこと知ってますぅ。けど、まあ、私が気づいていても、匙先輩たちが知らないとあの連携はできなかったと思うよ?」
「となると、会長が? もしかして、あのときすでに会長はこうなること見越してた?」
「違うと思うよ。私はてっきり、真羅先輩が打ち落とすものだと思ってたから、たぶんあそこはアドリブ。匙先輩が近くにいることに後で気づいて、真羅先輩に打ち上げるように指示したと思うよ」
「あれ? もしかして、あたし必要なかった?」
「たぶん、ルルちゃんの方に飛んできたら、そこから踵落としとかで打ち落としたんじゃない?」
「あ、そっか、由良先輩からはあたしたちの位置なんてわからないものね。……って、あんた、あたしの位置まで把握してたの?」
「当たり前じゃん。心音や足音、呼吸、その他もろもろの音を発生させるものであれば、大体個人を把握できるから」
「それ、いつ身に付けたの?」
六歳のときかな? 少なくとも七歳くらいの時には、すでに無意識で識別できるようになってたから、そのくらいだと思う。
あそこら辺の記憶は曖昧だからなぁ。仕方ないよね?
「それより、ルルちゃん」
「なに?」
「すごく疲れた」
「でしょうね。あんた、初めての戦闘だったんでしょ? 疲れて当然」
「うん。そうだね……。ルルちゃん、ソーナ先輩の家に泊まってくの?」
「たぶんそうなるわね。あの神父を交代で見張らないといけないと思うし」
「そっか……。寝るとき、一緒にいてもらってもいい?」
「良いわよ。久しぶりね、あやに抱き枕にされるの」
「うぅー……。そんなつもりないのにー」
「はいはい。むくれないの」
うぅー。あれ、わざとじゃないんだよ? ただ、何となく、なんとなぁーく、抱きついてると安心感が得られるから勝手に体が動いちゃうだけなの。
だから、私のせいじゃない。たぶん……。
そんな会話をしていると、ソーナ先輩の家の近くについていた。
ルルちゃんは私を下ろすことなく、そのまま、ソーナ先輩の家に入っていく。
ねぇ! ねぇ!! なんで!? なんで、下ろしてくれないの!? 私、子供じゃないんだよ!? 高校生なんだよ!!!! 一人で歩けるから、下ろしてー!!
私の心の叫びもむなしく、ルルちゃんはさっさと、私の借りている部屋へと入っていく。
私はベッドの上に座らされ、擦りむいている部位をルルちゃんに見せた。
右手と両膝、両腕が結構傷が大きいけど、皮膚が軽く擦りむいた程度で見た目ほど重症じゃない。というか、これが重症だと骨折はもっと大変だと思う。
「あぁー、もう。めんどくさいことになってるわね」
「そうでもないでしょ? とりあえず水で流そ。その後消毒でしょ? 痛くしないでね?」
「わかってるわよー。あと、消毒とかは最近、有効じゃないってことで、変わったから」
「えっ、ほんと!?」
「そう。あ、あったあった。ほら、一気に済ますわよー」
ルルちゃんは、水で軽く私の傷口を流しながらそう言う。うぐっ、痛い。さっきまでそんなに痛くなかったのに……。
アドレナリンだっけ? が、分泌されて痛みに気づいてなかっただけなのかな? まあ、なんでもいいや。
傷口を洗い流すと、軽くタオルで拭いて、水気を取り除き、テープ……のようなものを私の傷の大きさより、少し大きく切っていく。
あれが、何て言う名前のものなのか全然わからない。
「仕方ないわね……。あや、これ、被覆材っていうらしわよ。ま、あたしも名称以外知らないけど」
「ルルちゃんもダメじゃん」
「あんたは名前すら知らなかったでしょ?」
「そうだけどさー」
「はい、終わり。最近は効率よく終わるようになってよかったわね」
ルルちゃんは被覆材の上から白いネット? を被せるようにして、手当てを済ませた。
早い……。私、中学生になってから傷をあまり負わないようになってたから、傷の手当ての知識は小学生で止まったままなんだよね……。
だから、手当てするときはものすごく痛いイメージしかなかった。
「それにしても、あんたよく聖剣を前に怯えたりしなかったわね。普通、悪魔で戦闘経験が少ないなら警戒するとかしてても可笑しくないわよ?」
「せいけん?」
「まさか、あんた……」
「ねぇ、ルルちゃん。せいけんってなに? 政治の実権を握るための剣とかそんな感じ?」
「聖剣っていうのは、悪魔や堕天使に対して、絶対的な力を持つ剣。わかりやすくいうと聖なる剣で、聖剣。日本だと天叢雲剣とか十束剣とか、そんなところね」
「へぇー」
「理解してない……というより、当たらなければいい的なこと考えてるわね……」
「そ、そそそ、そんなことないよ? いやぁー、せいけんこわいなー……あははー。すいません……」
「わかってた。わかってたから、あたしは起こらないわよ。優しい留流子さんは怒らない、怒らない……」
うん。とにかく、あの嫌な雰囲気と言うのは悪魔の本能が危険と伝えてくれていたからなんだね。あれ? あの人たちも、同じ雰囲気のものを持ってたよね?
ってことは、あの人たちも聖剣を持ってるってこと?
それと、コカピエールだっけ? まあ、名前忘れたからコカPでいっか。が、どうのって言ってたけど、それと関係しているのかな?
まあ、難しい話はソーナ先輩に投げっぱないジャーマンしよう。私には政治の話はNGなのだ。無理なものは無理と割りきる。それがいい。
私にできることはまだまだ少ないのだ。無理をして死んだって、匙先輩と付き合えない。そんなの本末転倒といいところだ。
その後、ソーナ先輩の使用人の人たちも来て、傷痕が残らないか確認したりして、私たちはいつも集まってミーティングとかをする部屋へと向かった。
そこには花戒先輩と草下先輩もいて、最初に私の無事を確認してくる。
私は、無事を伝えると、花戒先輩の膝の上に座った。
いや、あのね。わかる人にはわかるかもしれないけど、花戒先輩には匙先輩とは違った魅力があるの。その一つが、膝の上。というか、花戒先輩の場合、膝の上に座ったら、頭をセットで撫でてくれるから、それを目的にしてる。だって、気持ちいいんだもん。仕方ないよね。
私は花戒先輩に頭を撫でてもらいながら、意識を失っていた。疲れた、つかえた……。
※※※
ソーナたちは、留流子に背負われる彩南を見送った後、全身にダメージを負ったフリードをロープで身動きを取れないようにしていた。
「さて。フリード・セルゼンですね? 今から質問することに嘘なく回答を要求します」
「お断りしまーす」
「あなたに拒否権はありません。言葉を変えますね。嘘なく回答しなさい」
「命令したって無駄っしょ。あんたに嘘を見抜ける能力なんてないんだからさー」
「人間の世界には心理学と言うものがありましてね。私は少々人の嘘を見抜けるんですよ?」
「へぇー、それはこわい。それで、ボクからなにを聞きたいわけ?」
「コカビエルの目的です。彼は何を考えているんですか?」
「さあー、ぼくはなにも聞かされてない下っ端ですからー? あのお方の真意は図りかねますねー」
情報をはくつもりがない。それを、ソーナは見破った。
ならばと、考え方を変える。
フリードは稀に見る聖剣使いだ。ならば、相手も捨て駒にするにはもったいないと考えるはず。
それを利用しよう。そう判断した。
「それでは、あなたは私の家にて拘束させてもらいます。安心してください。トイレ程度なら許してあげますから」
「ペットボトルでしろ何て言われても、ボクチン困るなー」
「あら。よくわかりましたね? あなたみたいな危険人物の管理を私の家でする以上、彷徨かせる訳にはいけませんから」
『あと、彩南を襲ったことが何よりも許せない』と心のなかでソーナは呟く。因みに、これが本音である。
「そうか。だが、その前に、セラフォルーの妹。そいつを俺に渡してもらおうか」
ゾワリと嫌な感じがし、そう毛立つのがわかる。
レベルが違う。そう感じざるを得ないオーラにソーナは冷や汗をかいた。
だが、その男の要求を飲むにしても何らかの利益がほしい。
「それでは、彼を引き渡すのにともない、あなたの目的とその手段について、教えてもらっても?」
「その程度で良いのか?」
「できれば、彼を引き取ってもらったあと、この町から出ていってもらいたいのですけどね」
「なるほど。それは、さすがに俺が受け入れないと判断したか。良いだろう。答えてやる」
──俺は戦争を起こす。そして、堕天使こそが最強であると証明する。
その答えを彩南が聞いていたら、吹き出していただろう。この時代、戦争なんて起きるはずがない、そう彩南は思っているからである。
だが、ここにそんなことをするバカはいない。そして、彼が本気でそれを目指しているのだと、ソーナは感じ取った。
「目的は、わかりました。それでは、手段について答えていただけますか?」
「聖剣をひとつにする。それだけで十分だ」
「聖剣をひとつに……なるほど。約束通り、彼を渡しましょう」
ソーナはフリードに巻き付けた縄を解かず、男に渡した。
「ではな、セラフォルーの妹。俺を止めたければ策を労することだ」
男はそう言って、フリードを担いで拠点に帰っていった。
ソーナは男の背中が見えなくなると、思いっきりため息をつく。
「あれが、堕天使幹部のコカビエル……。今の私たちでは彼一人に殺されてもおかしくないですね……」
「会長……」
「えぇ。お姉さまに伝えるのは色々と問題そうなので、サーゼクス様に報告するのが良さそうですね。ただ、戦争を起こすことがコカビエル単独での目的なのか、堕天使の総意なのか、調べる必要がありそうです。明日、リアスに話しておきましょう。椿姫」
「はい」
「サジ、巴柄、翼紗は、あの神父以外の悪魔祓いがいるかもしれませんので、その人物を洗いだし、捕縛次第、情報の裏取りを。この場にいない子達には後で伝えましょう」
ソーナの言葉に眷属たちは返事をして、彼女の家に向かっていった。
※※※
ソーナ先輩たちが帰ってきて、私は桃先輩の膝の上から降りて、匙先輩に抱きついた。
「お帰りなさい。匙先輩、ソーナ先輩」
「はい。ただいま戻りました。彩南、怪我は大丈夫ですか?」
「ルルちゃんが手当てしてくれたので、大丈夫です」
「そうですか。ところで、彩南。あの結界は、なんだったんですか?」
あの結界……あ、あのときのか。
私はあの時、魔力で編んだ矢を分解するときにちょくちょく調整していた結界を構築してたんだった。
「たしか、あの時は……そうだ! 吹っ飛び率変更結界を構築したんだった」
「吹っ飛び率?」
「そうなんですよ。ちょっと、結界術を学んでいるときに、某乱闘ゲームを参考に作った結界なんですよ」
「そ、そうなんですか……」
「はい! 蓄積ダメージが吹っ飛ばし率になるので、ダメージが溜まれば溜まるほど危険ですけど、飛ばしたあとの落下ダメージは相当なものになると思いますよ」
「だから、あの時あの神父はあんな飛び方をしたんですね……」
「はい!」
褒めて褒めてと私はソーナ先輩に頭を差し出す。
すると、ソーナ先輩はちょっとぎこちなく、頭を撫でてくれる。ふわぁー、気持ちいい……。
だらける顔を私は出来るだけ、引き締めようとして、引き締められなかった。
「ほら、だらけてるぞ。しっかりしろ、雨月」
「にゃー、ひゃいひぇんひゃい、ふぉーひっひゃりゃにゃいれー」
「うわ、ぷにぷにで気持ちいいな」
「匙先輩! あやの頬が気持ちいいのはわかりますけど、やり過ぎちゃダメですよ?」
「そうだな」
「もー、もっとさわって良いんですよ? (やりすぎですよー)」
「本音がでてるぞー」
え? ほんと? まあ、でも、ね? わかるでしょ? 匙先輩のあの楽しそうな顔。子供っぽくてすごくかわいかった。
うん、なんだろう、とても、来るものがありました。誰か、匙先輩をショタ化する装置とか持ってないかな? 私、全力で匙先輩の面倒見るから譲って欲しいなぁ。
私はどこのだれとも知らない誰かに、そんなことを願ってみた。
「それでは、彩南、留流子、桃、憐耶。あなたたちに耶ってもらいたいことがあります」
ソーナ先輩のその一言に私たちは顔を引き締める。
「まずは、彩南と留流子あなたたちは二人で、接触してきた教会所属の悪魔祓いを捜索してください。そして、桃と憐耶は私と椿姫と一緒に堕天使側の動きと教会の動きを調査してもらいます」
私たちは、ソーナ先輩の指示に返事をする。
うーん。あの、嫌な感じのする物を持った二人に接触かぁ……。私の耳ですぐ見つけれるかもしれないけど、範囲内にいなかったら聞こえないしなぁ。
「それでは、みんなお風呂に入って休みましょう。サジは、男湯を用意しておきますので、そっちを使ってください」
「匙先輩、寂しいなら一緒に入りましょうか?」
「別に良いぞ。不安なんだろ? 俺は、気にしないから、一緒に入るか?」
ふぁっ!? なん……だとぉ!! よし、これチャンスだよ! 私にめぐってきたチャンスだよ!!!!!!
やったぁー!! 彩南ちゃん大しょーりー!!
私が内心で狂喜乱舞していると、ルルちゃんがペシッと頭を叩いてきた。
痛い……。
そして、その発言をした匙先輩は、ソーナ先輩含め、私以外の眷属にジトッとした目で見られている。
私は匙先輩の返してきた言葉をよく思い返してみた。
『彩南、結婚しよう』
よし、確かこうだったはずだ。うん。間違いない。私の記憶は捏造されないからね。うん。私の記憶に間違いはない。良いね?
「サジ、私の前で、不純異性交遊をすると言いましたか?」
「えっ? 俺、そんなこと言ってないですよ?」
「えっ!? 違うんですか!?」
「彩南。あなたは後でお説教です。それで、サジ。今のはどういうつもりで発言したんですか?」
「えっと、雨月がてっきり一人ではいるのは寂しいから、一緒に入って欲しいって言っているのかと判断して、まあ、華穂も小学校を卒業するまで、そんな感じだったので、別に良いかなぁと」
ピキッと、私のなにかに皹がはいったような音がした。
いや、うん。そう言うこと? ねぇ、これって、そういうことだよね?
私のこと、妹のようにしか思ってないってことだよね!? なに、それ、変だよ! 特別待遇だけど、おかしいよ!!
私と、匙先輩は血がつながってないんだよ!? 妹のような扱いが通るわけないじゃん!!
と、思ったけど、なんだろう。妹も妹で良い気がしてきた。絶対にルルちゃんや、ソーナ先輩では掴めない立ち位置だし、何よりも合法的に匙先輩にボディタッチできる。
なにそれ、最高。でも、私がなりたいのはお嫁さんなので、妹は却下です。
「つまり、サジは、彩南のことを妹としか見ていない……と?」
「いや、まあ、妹は華穂だけですけど、こいつが甘えてきたら、甘やかしちゃって……」
「気持ちはわからなくもないですし、うっかり忘れるときがありますけど、彩南は高校生です。少なくとも、性のアレコレを知っている年ですよ? 見た目に騙されてはいけません。彼女は高校生なのですから、年頃の男女が同じお風呂に入るなんて、私が許しませんよ?」
……なんだろう。ソーナ先輩が必死な気がする……。て言うか、実質的な妹扱いを受けていたのか、私。
おかしいなぁ。私、こう見えても高校生なんだけどなぁ……。
「彩南。あなたは私たちと一緒にお風呂にはいりますよ? 良いですね?」
「あ……はい……」
しょぼんと、私は露骨にがっかりした。
匙先輩の様子をうかがうと、やれやれといった態度を取った後、頭を撫でてくれた。
えへへー。最高。私、このために今も生きてるかも……。
昇天しそうな私をルルちゃんが現実世界に強制帰還させて、私はルルちゃんとソーナ先輩につれられ、お風呂場に向かうことになった。
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キュンパイがなんか大変そうだと判断しました
活動報告では、投稿する日にすると言いましたけど、この時間ですので、その20分前に解除させてもらいました。
今回、めちゃくちゃ、突っ込みどころが多いので、突っ込んだら負けの精神で読んでください。
取り敢えず言えることはね、
この三人なにもの!?って感じのキャラクターたちが出てくるってことだけです。
翌日、駒王学園は球技大会だ。高校生活はじめての学校行事だ、精一杯頑張ろう。そんな空気にクラス中がなっていた。
だが、どういうことだろうか? 私は、補欠……ですらない。そう、補欠ではなく、マネージャー。もっと言うなら応援団(私だけ)だ。
なんで、こうなったのか……それは、簡単で、ルルちゃんが「あやは怪我したら治るの遅いから、球技とかはやめといた方がいいと思う」という会話をクラスの誰かが聞いからである。
盗み聞きとは趣味が悪い。えっ? 私もしてるだろう? してないしてない、勝手に聞こえてくるだけなんだから、仕方ないね。
私が常に耳を澄ませているのは匙先輩の声を聞きたいときだけだ。
まあ、つまるところ、私とルルちゃんの会話を盗み聞き、クラス中に流した存在がいると言うことである。
そして、その犯人は特定済みだ。
「塔城さんめ、善意とはいえ、こんな立ち位置にしやがって……」
私は応援旗を持ちながら呟く。
あ、振れないわけじゃないからね? 振らないだけだからね? 決して、私の体系的に不可能で、半端なく重くて、いつの間に製作しんたんだよレベルの応援旗でも、振れない訳じゃないから。顔が赤くなって、一生懸命振ってたら、ルルちゃんからストップがかかっただけだから。
「私もなにかやりたかった……」
「今、こうやって応援してるじゃない」
「そうじゃないの!! 競技に出たかったの!!」
「ねぇ、あや。知ってる? 身長差があると、バスケットボールは不利になるの。あやの身長は、いくつだっけ?」
「百二十八……」
「うちのクラスで一番高い女子は百六十九センチで、あやとの身長差は四十一センチ、それ以外の子でも百五十はあるの。つまりね、あんたと塔城さん以外の子は他のクラスと当たってもそれほど不利にならないの。それに塔城さんは、あの怪力を隠してないから、ゴールに届くほどの肩を持ってる。けど、あんたはどう?」
「できない……」
「つまり、そういうことよ」
「でも、出たかったんだもん!!」
「はいはい。無理なものは無理なのよ。諦めなさい」
そんなぁ……。
私は露骨に肩を落としてがっかりする。だって、私、どの競技であっても、出させないって言われたんだよ? 旗振り(今は持つだけ)をしている程度だ。
ていうか、本当にいつの間に作ったの? 私、こんなの作ってるの見たことないんだけど……。
「みんな、がんばれー!」
私が応援すると、みんなの目がギラリと光ったような気がした。うん。気のせいだね。
そして、どう見ても人間の身体能力を越えた動きをしているように見えるのも気のせいだね。
私はあからさまな変化に困惑しながらルルちゃんをみると、
「あんたたち! あたしの妹が勝つことをご所望よ!!」
なんて叫んでいた。私は、ルルちゃんに、「ルルちゃんの妹じゃないんだけど!」と言い返す。
すると今度は、「あたしたちの妹が、勝てと言ってるわ!」と叫ぶ。
だから、私は一人っ子だから、誰の妹でもないの!! 匙先輩から頼まれたら演技はするけどね。
ていうか、私たちの妹って……私、高校生なんだけどなぁ……。
なんか、普段から忘れられてる気がする……。
そんな感じで、私の参加できない球技大会は、何事もなく終わり、帰るときには雨が降り始めていた。
ソーナ先輩から、傘を持っていくように、言われてたから、持ってきて良かった。下手したら濡れながら帰るところだったよ。
私は傘をくるくる回しながら、通学路を歩く。
雨は嫌いだけど、帰って遊んで、ご飯を食べて教会関係者の調査をする。なんか、ものすごく充実してる。
以前みたいに、親のために働く必要がなくなったからなのかな? とても楽しい。
「あれ? なんか、変なとこがある」
私は、雨の中、届いてくる音の一部に違和感を覚えた。
普通なら地面か、傘に弾かれる音なのだが、その一ヶ所だけ、雨が弾かれているような音ではなかった。
私はなんとなく気になり、そこへ向かうと、なぜか、傘をささず、雨に濡れ、黄昏ているキュンパイもとい、木場先輩がいた。
「キュンパイ。傘ささないと、風邪引きますよー?」
「君は、雨月さん……だったかな?」
「はい。それで、キュンパイ。何してるんですか?」
「いや、ちょっと、ね。君は?」
「私はなんか、雨の音が変なところがあったので来ただけですよ。そしたら、キュンパイがいました」
「耳、いいんだね」
「はい。そうなんですよ。だから、雨が苦手で……」
私は、うぅー、と、苦しむような演技をした。
あれ? なんか、キュンパイの様子がおかしい。何て言ったらいいんだろう。雨の中、傘をささないのもそうだけど、それ以上に普段のイケメンオーラが足りないような気がする。
そんなとき、前方から車イスに座っている女性と、その隣を歩く男性、背中には刀を納めるための袋がある。と、その男性とは反対側にたつ女性の三人組が私たちを見つけると、探し物を見つけた、と言わんばかりの反応を見せる。
「およよー。あれ、フリードくんの言ってた子ととくちょーが同じだよー。なにか知ってるかもー」
「いや、そうとは限らないだろう」
「そっかー。まあ、でも、ものはためしだよー。ねえねぇー、そこのお二人さんー。フリードって人のこと知らないー? 今なっちゃんの病院でめんどー見てあげてる人なんだけどー」
「……っ!?」
私は反射的に今朝、ソーナ先輩から渡された弓を異空間から取り出す。
「……こい、生太刀」
すると、男性の方は私と同じ異空間に納めていたのか、以前、フリードが持っていたような聖剣と同じ嫌な予感のする木のように刃が別れた剣を取り出す。
その剣をみて木場先輩は、瞳を憎悪に染め、その手にどうやって取り出したのかわからないけど、剣を握っていた。
「……お姉さま」
「み、みーちゃん?」
「茜は下がっていろ」
「なっちゃんまでー? ぶっそーなことはなしだよー?」
茜と呼ばれた女性は、状況についていけてないのか、困惑していた。
「聖剣……!!」
「どうやら、狙いは俺のようだな」
木場先輩が男性に切りかかった。すると、男性は刃の別れた剣で受け止め、先輩の剣を弾く。
そして、それを見た車イスに座っている女性は、「何でこーなっちゃうのー。仕方ないなー、もうー。銃撃戦モードオンー」と言いながら、手元を操作する。
すると、車イスから二丁のショットガンが現れた。
ん? 『車イスから二丁のショットガン』? あれ? 車イスってそんな機能あったっけ? ていうか、なにあれ?
この中で一番何が非常識でしょう大会をしたら、真っ先に優勝しそうな代物は……。
あ、そっか、最新の車イスはオプションで銃器をつけてくれるんだね。
私は、意味不明な理屈を立てて、その車イスについて納得した。きっと、考えるだけ無駄と言うものなんだろう。
私は弓に魔力の矢をつがえ、車イスの女性をかばうようにたっている無手の女性に狙いを定める。
「なるほど。わたくしに狙いを定めましたか。お姉さまに照準を定めなかっただけ、賢明と言えます」
私はその女性に矢を放った。
すると、女性は矢を掴み、へし折った。うん。あれ? この人たちから悪魔特有の感じはしなかったから、人間だと思ってたんだけど、違ったかな? ていうか、先に武装したの私だった。
やばい、どうしよう。引けないところに来ちゃったかも。
私のあたふたした内心にどうやって気づいたのかわからないけど、女性二人は武装というか、車イスにショットガンを戻し、もう一人は構えを解いた。
うん。良かった。攻撃したにも関わらず、武装とかを解除してくれて。
私は、二人を見習い、異空間に弓を納める。
フリードという名前を聞いて、フリードの仲間なのかもと思ってしまったけど、たぶん違う気がする。
無手だった女性は傘を拾うと、私の方に近づいてきた。
「突然、申し訳ありません。まさか、あなたがフリードという名前に条件反射で武器を構えるとは思いもしなかったもので」
「あ、いえ。それについては私が悪いんですから、気にしないでください」
「そうですか。そう言ってもらえるなら良かったです。ところで、あちらの方、何か心に抱えるものがあるんですか?」
「私にはよくわからないです。たぶん、私の先輩たちの方が詳しいと思いますよ」
「そっかー。ところでさー。あたしたち、フリードって子が全身骨折してたから治療してるんだけどさー。コカインピエールって人知ってるー?」
「コカインピエール?」
「違いますわ。お姉さま。コカイエールです」
「お前ら、大喜利大会じゃないんだ。正式名称はコカイスエットだろ。ちゃんと覚えてやれ」
「放せ、聖剣使い」
「え? コカピエールじゃなかったんですか!?」
気づいたら、転がされ足蹴にされている木場先輩を放って、私たちは話の腰を折りながら、話を進めた。
結局、正しい名前はコカピエールじゃなくて、コカビエル。
彼女たちは、先日、コカビエルの担ぐ全身骨折のフリードを見つけ、治療を施したのは良かったけど、何か変なことを企ててそうだからという理由で、独自に調査しようということを考え、行動していたところに、偶然、フリードから聞いた私の特徴から、話を聞こうと思っていたところ、うっかり、私が武装しちゃったから、仕方なくあちらも武装し、軽い戦闘になってしまった。
そして、私たちは互いに自己紹介をした。
まず、白衣を着て、刃が枝分かれしている剣を持っている人が、
次に、車イスという定義をぶっこわした車イスに座る女性が
因に、この人、私が弓を虚空から出したことも、夏也さんが聖剣のようなものを出したことも、木場先輩が剣を作り出したことも、なんの動揺もなく、受け止めていた。たぶん、慣れているわけではないと思う。
だから、聞いてみたら、
「オロチを一度見るとね、大抵のものに耐性がついちゃうの」
と、悟った目で言われた。どんな人生を送ってるんだろう、この人……。また、その過程でシュブ=ニグラスという神話生物に筋力をチューチューされて、今では介護なし、車イスなしの生活はできなくなってしまっているようだ。
その多機能車イスがあれば十分なんじゃ……。
最後に私の魔力で編まれた矢を掴み、へし折った女性は、
「とまあ、わたくしたちの事情はこんな感じですわ。ところで、あの男の子、いい加減黙らせてもよくて?」
「ちょっと待ってー。あたし、少し気になることがあるんだー」
「お姉さまがそういうのなら、それにしたがいますわ」
「なっちゃんは、そのまま、その子を押さえててねー」
「わかった」
すると、女性はまた、手元を操作し、木場先輩に近づいていく。
「ねぇー、君って、せいけんって言うのが憎いのー?」
「あなたに! この国で何も知らずに生きていたあなたたちに、僕たちの何がわかる!!」
「わからないよー? でもさー。あたし、これでもメンタルセラピストをしてるのー。だからー、君みたいな今にも駄目になりそーな子を見るとー、掬い上げたくなっちゃうんだよねー」
「あなたには、関係ない」
「そっかー。それは残念ー。だけどねー。あたしも、職業柄、苦しんでる子を見るのはいやなんだー。だからー、話してみないー?」
「……なんで」
「んー?」
「なんで、なんですか……。なんで、今さら、そんなことを言うんですか……」
木場先輩は、何か思うところがあるのか、それとも、昔のことを思い出しているのか、ポツリ、ポツリと涙を流しながら語った。
「僕たちは、教会で育ちました。ただ、神に祈れば救われる。そう信じていたんです」
「そっかー。やっぱり、宗教とか絡んでくるとそーなるよねー。稲荷ちゃん元気かなー」
「いま、稲荷は関係ないだろ。続けてくれ」
「神に祈り続け、僕たちは、その日を迎えます」
「その日?」
「はい。その日、僕たちはいつも通りの一日を過ごしていました。だけど、その実験で、僕たちは失敗作と評され、処分されることが決定しました」
辛い……。そんな心音が木場先輩から聞こえてきた。
血流が早くなり、木場先輩の頭にまた、血が上っていくことがわかる。
上で押さえていた夏也さんは、木場先輩を解放し、茜さんの隣に移動した。
「なるほど。君の来歴は大体把握した。だが、俺を襲う理由にはならない。それに、こいつは聖剣というより魔剣のようなものだ。精々消えない炎を使える程度だ」
「そうそう、その消えない炎でカーペットにあった魔方陣を壊したり、鍵の閉めてある墓地の鍵を壊したりねー」
「あぁ、あのこけしに追われたときと青山霊園のときのことですか」
「神殺しの剣も使ったことあったな」
「あのときはほっしー先輩の拳にも稲荷ちゃんの加護があったよねー」
「あぁ。十束剣、また振るってみたいものだ」
「その十束剣って言うのと交換でその枝分かれしてる剣を貰ったからねー。あの村の人たちだいじょーぶだよねー?」
「さあな。まあ、神様なんてろくなものじゃないと言うのだけは確かだな」
「稲荷ちゃんみたいな神様だっているんだよー?」
「お二人とも、彩南さんたちが困惑しておりますわ。その辺にしてくださいまし」
「はーい」
「すまん」
なんだろう。なんとなく、茜さんたちは普通の人が体験しないようなことを体験したということは把握した。
神殺しの剣を振るったって話もそうだけど、鍵を炎で溶かしたり、魔方陣を炎で壊したり、ねぇ、この人たち人間? いや、あのね。百歩譲って碧さんの格闘能力は納得だよ? なんか、直感とかいろんなもので避けていてもおかしくない。
けどね、この二人は何かがずれてる。茜さんは車イスが、夏也さんは持っている剣が人間の知るそれじゃない。
「まあ、あの人は人間やめてるから」
「そうだねー。あたしはどこからどうみても純粋な人間だからねー」
「そうだな。俺も、この生太刀がなければ、色々乗り越えられない場面があったしな」
「そうそう。自衛隊の秘密部隊を倒すのにすごく時間掛かったしねー」
んんー? おかしいぞ。私の知る人間が経験する会話じゃない。どちらかというと、私たちが体験していないとおかしい。いや、私たちが体験してもおかしい内容の会話が繰り広げられている。
そして、その、さっきから会話にちょくちょく出てくる、ほっしー先輩という人は、もっと、人間をやめているらしい。
どこか別の場所にいったと思ったらイスを持ってきて、車イスを今度は持っていくと、ショットガンがついていた状態で持って帰ってきたという、よくわからない話をされた。
私ね、なんとなく、この二人がまだ一般人だと言い張る理由がわかっちゃった。この二人、揃いも揃って、人外と知り合ってたから、この二人も人外のようなものだという自覚がないんだな。
そっかー、それなら仕方ないねー。
私は、諦めモードになり、この人たちについて、考えるのをやめた。
「それはともかく、次は君たちの番だ。俺たちの知る限りの情報を提供しよう」
私たちが結局得られたのは、この三人の連絡先と、フリードたちが独断でやっているということだけであった。
※※※
その翌日、私はオカルト研究部の部室にやって来た。
教会の聖剣使い二人とリアス先輩が、コカビエルの侵入について、話をするためだ。
私は、それを見守ると言うか、その会談のために必要な情報を提供するためにいる。
ただ、キュンパイが昨日のように、暴走する可能性があるため、それを確実に押さえられる、あの人たちを呼ぶべきかな? と、考える。
「いらっしゃい。雨月さん。ソーナから話を聞いているわ。まさか、コカビエルがうちに侵入していた何てね……」
「それ以上にヤバイ人たちと昨日、あったんですよねぇ。私……」
「待って、それ以上にヤバイって、どう言うこと? 聖剣使いとか、そう言ったレベルで?」
「銃撃戦のできる車イスを所持している人と、十束剣の代わりに別の聖剣を貰った人と、パンクラチオンと言う格闘技をマスターしている人たちと遭遇したんですよ」
「………………………………は?」
あ、リアス先輩がワケわからないって顔してる。だよね、だよね。意味不明度でいったら、この人たち意味不明だよね。
因に神殺しもしたことあるらしいので、本格的に人間か疑っている。
茜さんは、その時なにもできなかったらしいけど、そのあとからハッチャけまくって、車イスでの銃撃戦がとても上手くなったらしい。
車イスで銃撃戦って……。
神殺しをしたと言っても、私にはどれくらいすごいのかよくわからなかったので、基準のわかりやすいもので語ってもらったら、自衛隊の秘密部隊をその車イスで蜂の巣にしたこともあるらしい。確かゼロ距離車イスショットガンブッパっていってたかな?
自衛隊の人に知り合いがいる私からしてみれば想像もつかないが、本当のことなんだろう。
だって、嘘つくときの心音じゃなかったから。
「嘘では……無さそうね。できれば、その人たちも呼んでもらっていいかしら?」
「たぶん、聖剣を持ってる方の人はこれないかも知れないですね……」
「そう。まあ、それでも良いわ。その二人に連絡をとってちょうだい」
「わかりました」
私は、リアス先輩にそういわれ、スマホを取り出し、茜さんの電話番号に電話をかける。
『もしもしー? 彩南ちゃん、どうしたのー?』
「フリードについての情報が聞きたいので、駒王学園に来てもらってもいいですか?」
『単刀直入だねー。良いよー。今日は、やることがなかったしー。なっちゃんは仕事だから難しいけどー』
「はい、最悪茜さんだけでいいので」
『うんー。あたし一人で向かうよー』
「碧さんは?」
『みーちゃんは、なんか忙しそーだったからー、おいて行こーかなーってー』
「そうですか……。それじゃあ、気をつけて来てくださいね」
『だいじょーぶだいじょーぶ。この車イス、車に跳ねられても、空中で姿勢制御して、ダメージとかもろもろをむこーかしてくれるからー』
「…………………………わかりました。それでは、切りますね」
と言って、私は通話を終わらせた。
車イスについて突っ込みたくないから触れないでいたのに、事故でも安心設計(全自動落下ダメージ無効化システム)なんてものを最後にぶっこんできた。
ふざけんな!! そんな車イスがあってたまるか!!
と思っていたら、今度は茜さんの方から電話がかかってくる。
『ねー、あやちゃんー。駒王学園ってどっちだっけー?』
「……いまどこですか?」
『ショッピングモールが見えるー』
「でしたら、その近くですよ。と言うか、その車イスなら、地図機能とかあるんじゃないですか?」
『そうだったー。自動運転モードがあることを完全に忘れてたよー。ありがとー、あやちゃんー』
言うだけ言うと、茜さんは通話を切る。
ふぅー。おかしいなぁ、私の想定を何段階もぶっとんできたぞー。ハッハッハッー。なんだー、これー……。
私、今日はじめて突っ込みキャラじゃなくてよかったと思ってる。
だって、突っ込みキャラだったら、この車イスに対する突っ込みだけで体力使って、さらにそのあとの話にも突っ込みどころが満載だから、それに突っ込んでを繰り返すことになるからね。
「ねぇ、雨月さん。いま、車イスに地図機能がどうとか言ってなかった?」
「自動運転モードがあるらしいです」
「…………わかったわ。なにも考えないでおきましょう。たぶん、突っ込んでいたら時間を無駄に消費するだけでしょうから」
そんな会話をしていたら、茜さんからLINEが届いた。
『ついたよー。場所はー?』
『旧校舎です。その車イスに設定されてます?』
『うん。だいじょーぶ。ちゃんと駒王学園旧校舎って設定を変えたから、すぐ行くよー』
そう返事が帰ってくると、車輪が地面を擦る音が聞こえてくる。
あれ? おかしいな。ゆっくり走る車みたいな速度で聞こえてくるぞ。
気のせいだ。きっと気のせいだ。
そう思っていると、約時速四十キロで走る車イスが現れた。
気のせいじゃなかったよ。
リアス先輩は、突っ込みをいれなかった。
その後、旧校舎の階段を上がるために、歩行モードなるものを使っていたが、それにも突っ込みをいれなかった。
だって、疲れるから……。
私たちは、車イスのことに触れず、聖剣使いの二人組が来るまで、雑談に花を咲かせた。
いかがでしたか?
ね?おかしいでしょ?このキャラクターたち。
実は、このキャラクターの内二人は別データで、もう一つの作品の方にも出します。そのときも、突っ込みどころ満載な感じになると思います。
車イスの定義を、ぶっ壊す♪
某公共放送をぶっ壊すより、ぶっ飛んだ目的を持った車イスパイセンまじ、車イスしてねぇ。
因に、この車イスが車イスしてねぇ、というキャラクターを作ったのは自分ですので、大丈夫ですよ。
おかしいなぁ、最初は歩行モードだけだったはずなんだけどなぁ……。
なんで、エンジン付きの車暗いの速度がでる車イスになんてなったんだろう。
あ、そう言えば、この車イスで、茜は回避もできるんだった。ハッハッハー本格的に車イスが車イスしなくなるぞー(白目)
それでは、また、次回。お会いしましょう。
さぁ、みなさんもご一緒に。
車イスの定義をー、ぶっ壊す♪
あと、今回使用したキャラクターはある人とTRPGの卓を囲んだときに使用したキャラクターたちですので、一人はその使用した人に許可をもらって使わせてもらっています。
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それ、ほんとに車イス?KURUMAISUです
突っ込んだら負け、突っ込んだら負け、と唱えながら読むことをおすすめします。
その後、聖剣使いの二人が現れ、場に緊張感が流れる。
唯一緊張感がないのは、茜さんくらいのもので、のほほーんと、車イスから伸びるアームをうまく使い、姫島先輩から出されたお茶を飲んでいた。
私が突っ込まないのをみて、誰も突っ込みをいれようとしないのは、この光景に突っ込みをいれ始めると、自分が疲れるということを理解したからなんだろう。
「単刀直入に言わせてもらおう。堕天使コカビエルが教会から聖剣を三本奪って、この町に潜んでいる」
「えぇ。知っているわ。ここにいる、雨月さんもそのコカビエルの手下に襲撃を受けたわ。それ、そっちの車イス? に座っている人は、直接コカビエルと遭遇したらしいわ」
「なに?」
「ほんとだよー? フリードくんが全身骨折しちゃってたから、なっちゃんの病院でみてあげてるんだー。たぶん、一日やそこらで治るものじゃないってー」
「それでは、コカビエルの方は?」
「なんか、独自でたっせーしないといけないのがあるーとか、言ってたよー。それで、フリードくんが治るまでの間は下準備してるってー」
「それに嘘はなかったのか?」
「こう見えても心理学者やりながらメンタルセラピストもやってるのー。人の嘘とか見分けるの、得意だからねー?」
「わかった。なら、私たちからの要求は二つ。一つは私たちのこの町での活動を許可してもらいたい。もう一つは、コカビエルの件に関わらないでもらう、これだけだ」
なるほど。なるほど……さっぱり、わからん。
コカビエルの件、つまり、聖剣を奪われたから取り返しに来た。コカビエルぶん殴るから、君たちは関わるなってことなんだろうか?
まあ、活動の許可を求めるのは、この町で教会の人が動きまわって、悪魔側といざこざを起こしたくない。と言うことなんだろう。
「いいでしょう。ただ、あなたたちもコカビエルの目的は知らないんじゃないの?」
「コカビエルの目的?」
「そう。あちらの聖剣使いはすでに病院にいて、残りは恐らくコカビエルだけ。なら、彼に残された選択は、聖剣使いの回復を待つか、無理やり自分の目的遂行のため行動するか、のどちらかになる」
「なるほど。だが、私たちには関係ない。私たちの任務は聖剣エクスかリバー三本の奪還だ」
「引く気はないみたいね」
「あぁ」
「わかったわ。好きにしてちょうだい」
「感謝する」
意外とすんなり話が通って私は驚いた。たぶん、この先輩は、どうしてもこちらが介入しないといけない状況になると、察しているのだろう。
だから、あえてコカビエルの目的を知りながら詳細を話さなかった。というよりは話せなかったのかな?
心臓が早く動いているから、きっとなにか、勘にさわることを言わないよう気を付けていたのかもしれない。
「あ、それじゃー、あのコカビエルって人の居場所、教えた方がいいのかなー?」
良い具合に纏まりそうなところである爆弾が炸裂した。
リアス先輩も、えぇー、と困惑顔だ。
「知っているのか!?」
「そりゃー、遭遇したところがそこだったからねー。なっちゃんとあたしとー、みーちゃんは、全員知ってるよー。ただー、目的がわからないから調査してたんだよねー」
「なるほど。それで、コカビエルの潜伏場所は?」
「あたしたちがルームシェアしてる家から一時間くらい歩いた先にある廃ビルだよー? そこで、フリードくんたちとあったんだー」
運が良いと言うべきか、悪いと言うべきか、わからない。なんなの、この人たち。
フリードを全身骨折まで追い込んだの私たちだけど、この人たちはよく、コカビエルと遭遇してあんな、名前大喜利とかできるよね……。
「運が良いと言うべきなのか、悪いというべきなのか、わからない状況になっているな」
「まあまあー、難しいことはあとで考えよー。それよりー、木場くんの中の爆弾がボンーって言っちゃうよー? 早くそれ、しまった方がいいんじゃないー?」
なんというか、緩い。なんか、ほんとに緊張感がない。
たぶん、夏也さんなら、キュンパイが暴走する前に、止めるんじゃないかな? あの人、キュンパイを一人で抑えてたし。
「あ、そうだー。フリードくんのお見舞いにみんなで行くー? そのときにコカビエルと会えるかもしれないよー?」
なんで、こんなに軽いの? それと、なんか、嫌な予感がする。
なんかね、全身骨折って言ってたけど、あの人、なにか隠しているような気がするんだよね。なんか、こう、魔術的なものというか、よくわからない能力とか持っていそう。
結局、私たちは自動運転モードの車イスに座った茜さんに連れられ、夏也さんの病院に向かうことになった。
※※※
夏也さんの病院につくと、私たちは受付に行き、フリードの病室の番号を聞いた。
茜さんは、まだ、自動運転モードを解除しておらず、その、自動運転モードの状態で、来ている途中にかかってきた碧さんと通話をしていた。
この車イスには通話モードなるものも存在するのか……。もしかして、あのときのLINEも、この車イスで? 多機能すぎない?
「うんー。それじゃー、フリードくんの病室にいるからー」
そう言って茜さんは碧さんとの通話を終わらせる。
多機能すぎる車イスに、必死に突っ込みをいれようとする口を兵藤先輩が抑えていた。
「さあー、ついたよー。フリードくーん。入るねー」
『茜の姉御! 良いっすよー』
姉御!? なに、この人たち。フリードを懐柔したの!?
私が驚愕というか、フリード知っていると思う人達は、一様に驚愕に顔を歪めていた。
「ひゃー、姉御、なんなんすか、あの医者。めちゃくちゃ強いんすけど」
「でしょー。なっちゃん、ここでたまーに、剣術教室してるからー」
「仕事してるんすか?」
「仕事してないとここまで大きな病院にならないよー。さあ、フリードくん。車イスの勉強のお時間だよー」
「俺、あれを車イスって呼ぶにはどうもおかしい気がするんすよねー」
「だいじょーぶ。君も車イスをマスターして、運転:車椅子のファイターになれるからー」
「あれは、姉御のオプション車イスショットガン機能限定っすからね?」
「安心したまへ! ほっシー先輩が追加で、変形してパワードスーツ見たいな形をとる車イスが追加されたからねー」
「わーぉ。車イスじゃなくなってやがるー」
「おい、ここは病院だ。少し静かにしろ」
「あ、ごめんねー。なっちゃんー」
「わかれば良い。それとフリード。お前のリハビリをもう少しきつめにして貰うよう、いっておく」
「そりゃねぇっすよー。あのセンコーめちゃくちゃ厳しいんすからねー」
「どうした? 俺と戦いたいんじゃなかったのか?」
「わかったっすよー。めんどくせーなー」
な ん だ こ れ
私の、頭を疑問符が支配する。
何がどうすれば、こんな状況になるって言うんだ。
そして、こんなフリード私の知るフリードじゃない!! なんか、フリードってもっと醜い感じの子でしょ!? なに、この、年上に懐柔されて、子供みたいなフリード!!
困惑している私たちを他所に、茜さんはフリードの近くにおいてある聖剣にアームを伸ばし、それを教会の聖剣使いに渡した。
フリードもそれに抵抗するそぶりを見せず、普通に受け入れていた。もしかして、コカビエルより、この人たちの方が好き勝手できるかもって思ったのかな?
私は、無理やりフリードの態度の大幅改編を無理やり納得した。
「ん? あぁ、君たちか。ちょうど良い。もしかしたら、コカビエルと言うやつが、こいつを処理しに動くかもしれん。俺たちでも大丈夫だとは思うが、ここを壊されてはさすがにたまらん。お前たちも手伝ってくれ」
教会の二人は二つ返事でOKと言った。恐らく、入院している人たちのことを考えていったのだろう。
そして、リアス先輩も続いて、良いと、返す。
それに対して私はと言うと、ソーナ先輩の許可なしに勝手に引き受けることはできないと返した。
「それじゃあ、ソーナが良いと判断するか、直接聞いた方が早そうね」
リアス先輩がそういうと魔方陣を展開して、ソーナ先輩に連絡する。
ソーナ先輩は話を聞いて色々と、よくわからない状況に困惑していたが、結界を張ってこの病院から被害を外に出さないようにするのと、この病院そのものを壊させないようにすることで了承した。
※※※
その日の晩、私たちは、病院の会議室のような場所で、作戦会議を行っていた。
そもそもの話、コカビエルがフリードを殺しに来るかどうかなんて、確信のある話ではないと言うことから、始まったけど、高確率で来ると言う結論になった。
希望的観測ではなく、確信らしい。理由を尋ねたら、
『茜の研究結果だが、大体ああいう手合いは下の者を道具年か見てないことが多い。そして、俺の経験から言わせてもらうと、そう言う奴は基本、使い物にならないと判断すると口封じに殺しに来ることがある』
とのことだ。当然、それだけでは要素が少ないように感じるが、実はフリード、めちゃくちゃ失態をおかしている。
まず、私たちに聖剣を持っていながら、フルボッコにされたこと、さらに、情報を取られるだけ取られてしまったこと、それに加え、現在、奪った聖剣の一つが、教会の手に戻ってしまったこと。
これらを踏まえて考察すると、聖剣の奪取に動く可能性が高いこと、そのついでにフリードの殺害も企てている可能性があること、とのことだ。
なるほど。よくわからないけど、わかった。
と言うわけで、私たちソーナ先輩の眷属は結界を張ること、監修は夏也さんだ。え? なんで夏也さんが監修するのかって?
私もよくわからない。まあ、きっと、不思議体験をしたから、その経験から、どう言った結界がいいのか知っているんだろう。そう言うことにしよう。私突っ込まない。
それで、実働部隊であるリアス先輩たちは、茜さんと碧さんに指導してもらうことになった。
因に茜さんは車椅子の機能をフルで使って指導するそうだ。
こっちも突っ込むだけ無駄と言うもの。諦めろん。
私たちは、結界を張る場所を確認するため、院内を隈無く探索した。院長室といわれる場所に案内されたとき、ラテン語の本が見つかって、ソーナ先輩がそのタイトルを読み上げた。
「エイボン?」
「あぁ、勝手に読むなよ。精神が汚染される可能性があるからな」
「何てものおいてるんですか……」
「俺の暇潰しようだ。気にするな」
もー、ダメですよ、ソーナ先輩。この人たちは逸般人なんですから、突っ込んだら敗けです。
それから、一時間くらい探索すると、結界の内容と維持について話し合う。
私は指示通りに結界を作るだけなので、考えてないけど、夏也さんのいう、レイラインから力を借りて結界を維持することで、強度と燃費をよくすると言う方針になった。
つまり、最低限の力で相応の効果が見込める可能性があると言うことらしい。
私たちは、とにかく夏也さんの常人とはかけ離れた知識に、圧倒されながら、結界についての理解を深めていった。
※※※
一方、グレモリー眷属の方はと言うと、無手である一誠と小猫を二人相手に碧が、リアス、朱乃を相手に茜が訓練と言うより指導をしていた。
因に祐斗、教会の悪魔祓い二人は夏也が相手をすることになっている。
「小猫さん、真っ直ぐ拳を放つだけでは無駄です。もっとフェイントを織り混ぜて。兵藤さん、また、その視線を向けてくるようでしたら、腕の骨は覚悟してください」
「くっ……なんで」
「青山さんこわ!?」
「みーちゃんは、男の人が嫌いだからねー。あ、あたしの方にこられてもマシンガンぶっぱなすだけになっちゃうから訓練にならないよー」
「よそ見しながら、なんで、避けられるの」
「おかしいですわ。あの車イスも電気製品のはずですのに」
「無駄だよー。なんか、あたしの魔力と霊脈から魔力を吸い上げてこの車イスは動いてるらしいからー」
「それは、車イスって言わないわよ!!」
「車イスの形をしてるから車イスだよー。実際にこの病院の入り口にもおいてあるしねー」
「その理屈では、私たちは人間になるわね」
「違うのー?」
「えっ? まさか……」
「あ、そっかー。稲荷ちゃんやキミタケさんみたいに人形だけど、別の種族って感じの人達なんだねー。なるほどなるほどー」
人間VS悪魔とは思えない光景だった。なお、人間サイドが終始圧倒しているので、パワーバランスがおかしなことになっている。
この間に、祐斗は教会の悪魔祓いの一人、ゼノヴィアと手合わせすることになったようだ。
聖剣使い対悪魔の騎士、別におかしなところなんてなかった。ほんとにないのか……?
極めて意味不明な混沌とした中庭情勢を病室から眺めているフリードは、苦々しそうな顔をしていた。
「まさか、お前が先に来るとはね」
「言うと思ったよ。アザゼルから伝言だ。君を神の子を見張るものから、追放する。理由は、言わなくてもわかるな? だそうだ」
「なるほどねぇー。ところでヴァーリキュン。君、あの三人のなかで誰と戦いたいよ」
「一番は月村夏也だな。彼が一番、戦闘に優れているし、オーラも洗練されている」
「ハッハー、天下の白龍皇も目が曇ったねぇー。お前さん、あの碧の姉御を見て、なんとも思わねえのか?」
「あぁ、彼女か。確かに強い。だが、そこまでだな。俺とじゃ相手にならないよ」
「そうかー? 俺様にゃ、碧の姉御に間接外される未来が見えるぜ?」
「そこまでの筋力もオーラもないだろう?」
「ま、やってみりゃわかるさ。俺様は、脱走しようとした患者の叫び声しか聞こえなかったからな」
「そうか。まあ、彼女と戦うときが来たら、そのときはそのときだ。楽しみにしておくよ。あぁ、そうだ。コカビエルが動き出した。聖剣を回収したいなら早めにしておいた方がいいだろう」
「およ? ヴァーリキュンは、俺様の心配をしてくれるのかい?」
「まさか。俺がいなくなった瞬間に死なれても困るから、いってるだけさ」
そういうと、ヴァーリはフリードの病室を後にした。
そして、フリードが再び外を見ると、疲れて肩で呼吸をしているグレモリー眷属の姿があった。その相手をしていた三人は、全くもって怪我すらなく、涼しい顔をしている。
「あの三人とも十分に化け物だって言うのに、それを越すのが此の病院だったり、一般社会にいたりするってのは恐ろしいもんだねぇ」
フリードの呟きは、偶然にもグレモリー眷属たちが現在考えていることと合致していた。
コカビエルの誤算があったとすれば、この三人組と言うより月村総合病院に勤める医者たちの大半が、人間を半分やめている事くらいだっただろう。
改めて、全身骨折程度ですんでよかったと思う、フリードであった。
※※※
バルパー・ガリレイ。
かつて教会にて聖剣計画を企て、少年少女を不要と判断し、その全てを殺そうとした元信徒。
通称皆殺しの大司教。
各個人の聖剣の因子を一つにし、聖剣を扱えるよう移植する。そうすることで聖剣を扱えない者を扱えるようにすることができる。
だが、当然ながら、他者からの移植と言うのは、拒絶反応のようなものだって現れるわけで、偶然にも適合できたフリード・セルゼンは気づけば、別陣営についていた。というより、コカビエルが不要と判断した。
それに伴い、聖剣を扱えないバルパー・ガリレイも同時に不要となるわけで、コカビエルの判断を伺うしかなかった。
「聖剣の因子は余っているのか?」
「予備に一つ、最初に作り出したのが一つだけです」
「なるほど。その予備を貴様が使え。夢幻と透明位であれば、フリードより扱えるだろう」
「で、ですが、私では因子が馴染みません」
「そうか。貴様の事情など、知ったことではない。天閃が、教会の者の元に帰ってしまった以上、残った二つをうまく活用しなくてはならない。二本だけ統合して、この町を破壊できる出力があるわけではないからな。スペアプランに変更する必要がある」
「つまり、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーの殺害」
「そう、そのためにも、貴様は透明と夢幻を使ってこのソーナ・シトリーを殺してこい」
「適合は不可能ですので、その点はご了承を」
「はっ! この町には死んでいないのなら、なんでも治せる医者がいると言う。その時に治療してもらえ。俺はサーゼクスの妹を殺す」
バルパー・ガリレイは自身に聖剣の因子を埋め込んだ。最初に流れ込んでくる大量の聖剣の因子に刻まれた記録が、自身に流れ込んでくる。
魂、肉体、様々な情報を上書きし、自分と言うものを見失いそうになる。
そう考えると、あの腐れ神父や、一定の思想から一切ぶれることのないあの二人が適合できるのも納得と言うもの。
「ウ、ウゥ、聖剣……セイ……ケン」
「なるほど。貴様の執念はその程度だったか」
あきれ果てた目をバルパーに向けるコカビエル。
「まあ、よい。では、セラフォルーの妹、ソーナ・シトリーを殺してこい」
「ゴlos。セイケン」
「ほら、夢幻と透明の二つだ」
「ジドリぃ、ごろす」
「自我もなくなる……か。まあ、目的を覚えてればいいだろう」
あり得ないほどに適合していないが、エクスカリバーを扱う量の因子の力は、バルパー・ガリレイを聖剣使いへと変貌させた。
※※※
その日の晩、私たちは月村総合病院の食堂で晩御飯を食べていた。
腹が減っては戦はできぬ、と言う諺もあるのだ。しっかり食べよう。
病院食はまずい、味が薄い、様々なことを言われるが、この食堂のご飯はソーナ先輩の家ほどではないけど、十分に美味しいご飯だった。
因に、茜さんに筋力がないのは本当のようで、離乳食のような感じのものを、碧さんに食べさせてもらっている。
話すことはできても、噛む力はないと言うことなんだろう。
「本当に、どのような経験をしたら、あんな人の形のまま、筋力だけがなくなるんでしょうか」
「シュブ=ニグラスって神話生物に噛みつかれたら、だそうですよ。私にはよくわかりませんでしたけど」
「シュブ=ニグラス? もしかして、ラブクラフトの創作された神のことですか?」
「知ってるんですか?」
「異形業界では、そこそこ有名な架空神話体系を確立し、信仰を過去から集めることを可能にしたといわれる規格外の作家。ハワード・フィリップス・ラブクラフトの描いた神の一柱と言われているわ」
「夏也さんたちはその神様を倒したらしいですよ?」
「……………………ごめんなさい、全く理解できないのだけれど」
「私もその事について考えるのをやめました」
ソーナ先輩はシュブ=ニグラスと言うものについて知っていたらしく、夏也さんたちが成し遂げたことに疑問符を浮かべていた。
いや、うん。だと思うよ? けどね。その人たちでも敵わない人間がいるらしいんですよ?
茜さんもその人がいなかったら、今生きてないっていってましたし、相当有名な人だとも聞いた。
もしかしたら、テレビとかにも出てるのかもしれない。
まあ、多分、その人と会う機会は早々ないと思いたい。だって、話によると、その人一人だけで、コカビエルを倒せるかもしれないらしいから。
おそろしやおそろしあ。
そういえば、結界についての話をした後に、夏也さん、木場先輩とゼノヴィアさん、イリナさん相手に剣術指導をしてたんだよね。
木場先輩はもちろんのこと、ゼノヴィアさんもイリナさんも相手になっていなかった。
完全に指導と言うものだったよ。なんでも、茜さんの実家は剣術道場らしく、幼馴染みである夏也さんはそこで剣術を習っていたらしい。
もしかしたら、茜さんのご両親も人間をやめているかもしれないので、私はその事についての言及はやめておこうと心に決めた。
きっと、考えれば考えるほど、ドツボにはまってしまう。
よし、気合いを入れて、この病院を守るぞ。と言っても、実際にコカビエルと戦うのはリアス先輩たちなんだけどね。
この時、私は思いもしなかった。あぁもあっさり決着がついてしまうと言うことを……。
ん?フリードのキャラ崩壊?いえいえ、キャラクターを保ってはいますよ。単純に、コカビエル以上に逆らうとヤバイ人たちだと把握してるから、下についているだけで。
題名でふざけていこう系作者はとうとう、地の文や台詞をふざけ始めた。おふざけ系ロールプレイヤーやまたむの本領はシリアスをブレイクすることにある。事実だからなぁ……。
何度かGMに、シリアスさせろと注意されました。
因に、彼らの設定で盛っているのは碧と茜の車イスだけです。それ以外は全て事実を元にできるだけ盛らず、書いております。
クトゥルフ神話TRPGをプレイした人ならわかると思いますが、茜の車イスは技能的には運転:車イスか、操縦:車イスで判定しないといけません。ですが、さすがにそれだと、キャラが死んでしまうので、フレーバーでふざけた結果、こんな車イスが爆誕したと言う経緯があります。
うん。今度からふざけた設定はできるだけ避けよう(ロールプレイでふざけないとは言っていない)。
それでは、また次回、頭を空っぽにして、コカビエル戦です。気を付けてね。その回が一番突っ込みどころが多いから。
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車イスそれは、兵器を意味する言葉
今回も車イスが車イスしてません。
晩御飯を食べ終わると私たちは定位置について、さあ、コカビエルを迎え撃つぞ。そんな体勢を私たちが整えていた時、私は、「じど……す」と言う謎の声を聞いた。
男性の声で、人というより、獣が近いようなそんな感じがする。
私は半ば興味本位で、そこにいってみたが、誰もいなかった。
いや、姿が見えなかった、と言うのが正しいだろう。
だって、私の耳はちゃんと心音と呼吸音を拾ってるから。
私は弓を異空間からとりだし、矢をつがえ音の聞こえる位置に狙いを定める。フリードや巡先輩みたいな速度での接近じゃないから、結構狙いやすい。
後はぶれないように調整するだけだ。
「なにいってるのか、聞き取れないけど、襲ってくるって言うなら、動きくらいは止める」
私は『それ』に向けて言う。なんかね、変なの。言語も正しく発音できてないのか、ごじゃごちゃって感じで、悪魔の翻訳対象外みたいだし、動きもノロノロして襲撃する意思があるのかすらわからない。
ただ、姿が見えない程度だった。
だから、動いているものへ直接矢を放つのは初めてだけど、その、大きいお腹に向けて放ってみると、多少ずれて太ももへ命中する。
矢の刺さったところから、血が出ているのか、赤い液体が流れている。
……うぇっぷ。
初めて自分の手で、人を傷つけた。その事に心が大きく拒絶反応を起こす。
私は、口元を手でおさえ、胃の中から逆流してきそうなものを我慢する。
平気……平気。まだ、死んでる訳じゃない。ただ、血を流しているだけだ。
私は必死に自分に言い聞かせ、頭の中を整理し、『それ』に視線を合わせる。
「ぐぅ、ぐあぁぁぁ……」
すると、透明化が無駄だと判断したのか、それとも別の手を打とうとしているのか、姿を表し腰に掛けてある剣に手をかけ、それを私に向ける。
その後、その剣を振り上げて、私に振り下ろしてきた。
複数の腕と剣が私を襲おうとしたが、私は気づいているのだ。
「幻影で腕を増やしても、音を加えないと私には偽物か見分けられよ?」
「ぐるぁ……」
「なにいってるか、わからないけど、あなた、剣術を修めてないでしょ? 振りがわかりやすくて、避けるだけなら簡単にできる。それを幻影で補ってるだけだから、その幻影には……」
私は幻影で作られた剣の下に動く。
「ほらね、ダメージがないでしょ?」
とは言え、いくら避けれても、動きながら射線を合わせられるほど弓の扱いに慣れてないから、攻撃は接近しての魔力弾ブッパしかないんだけどね?
作り出される幻影に動きを合わせながら、私は『それ』に近づき、手に魔力を集めその魔力を『それ』に向けて放った。
『それ』は、私の魔力に当てられ、相当なダメージをおっていた。ソーナ先輩から、中級悪魔くらいの魔力はあると太鼓判を押されている魔力弾だ。
それなりのダメージは期待できるだろう。
「ぐ、ぐぅ……ルゥー。じど、ジドリーゴロス。ころおぅぅす」
……こいつ、ソーナ先輩を狙って来た? フリードじゃなくて?
と言うことは、私の敵?
「ぜんぞぉを、教会への復讐をぉ……」
「戦争……?」
コカビエルの目的は戦争を起こすことだったはず。
それと、ソーナ先輩になんの関係が? まあ、けど、ソーナ先輩の命を狙うって言うなら、私が足止めした方が良いかな?
たぶん、この人の体力もさっきの一撃で大分消耗したと思うから、あと一押しあればなんとかなると思う。けど、それまで、私の精神が耐えられるか……さっきのも、相当なショックを受けた。
正直、どんなに腐った親から教育(あれを教育と言って良いのかは疑問だが)を受けてきたとはいえ、それなりの倫理観から、あまり人を傷つけたくない。それがいくら人として終わっているとしても、なんと言うか、心が痛むって言うより、本能がいやがるのだ。
理由は特にないのかもしれない。けど、なんとなく、本当になんとなく、嫌なだけだ。
こうして、なんとか冷静に語れていたとしても、胃酸が逆流してきている位には気分が悪い。
「もう、むり。限界……」
気持ちの悪いなか、ふらつく足で動いていたせいか、その場に尻餅をついてしまった。
そんな私に実体の方の剣が振り下ろされそうになる。
そう、振り下ろされそうになっただけだ。実際には振り下ろされることはなかった。
なぜなら、車イスから伸びるアームに構えられた対戦車ライフルと言われるのだろうか? そんな感じの銃で、右手が撃ち抜かれていたからである。
茜さんだ。そして、その車イスの車輪の部分からサイドカーが出現し、背部から伸びるアームで私を持ち上げ、そのサイドカーに座らせる。
「だいじょぶー? 相当気分がわるそーだけどー」
「……なんとか。やっぱり、戦闘のための心構えがなってなかったみたいです」
「普通はそんなものだよー。あたしもー、最初はそんな感じだったしー」
「そうなんですか。ところで、あの人放っておいていいんですか?」
「仕方ないかなー。まあ、足止めのために膝位は撃ち抜いておこー」
と言うと、再びそのライフルが火をふき、『それ』の両膝を壊した。
威力が高い一撃をうけ、『それ』は気絶する。
それを見ても、私はなにも思わなかった。あくまで、私自身が手を下したくないと言うだけなのか……。
私は親みたいな利己的な自分に嫌悪する。あそこまでくそにはなれないけど、それなりに引き継いでいるところがあるみたいだ。
なんか、やだなぁ……。
「そうだ、なっちゃんたちが呼んでたから迎えに来たんだったー。急いで行こうー。この車イスならゆっくり休めるから、寝ててもダイジョーブだよー」
「それじゃ、お言葉に甘えて……」
「うん、おやすみー」
※※※
夢を見た。
とても、嫌いな夢で、私があの人に惚れた日の夢。
私の耳は良すぎた。それは、たぶん、子供の時から、ずっと。成長する度に、さらによくなってしまう。
だから、小学生の時は本当に地獄だった。
『くすくす』
『でしょー?』
『こそこそ』
『ねぇねぇー』
最初はその程度だった。周囲の声がとてもうるさい。
小声で話していても聞こえてくる。それがとても嫌だった。
聞きたくない、聞く必要がない。けど、私は耳を塞ぐことができなかった。
だって、手で耳を塞いだら、私の手に流れる血流の音が嫌でも聞こえてくる。そして、その音はこんな話し声が比にならないくらいにうるさい。
そして、とうとう、小学五年生の時にその事件が起きた。
私にたいするいじめが始まった。
気持ち悪い、チビ、近づくなブス。そんなことを何度も言わされた。よくある話だ。そんな会話だって聞こえていたし、当然、何とかしようとする話も聞こえてきた。
先生たちだって頑張って対処しようとした。だけど、意味がなかった。
だって、それ以前の話で、私に対するいじめは基本的に言葉でのものだったから、証拠を抑えることができない。
だから、どうしようもなかった。仕方がないから、それは益々加速していった。
陰口はあたりまえ、机に花瓶に添えられた一輪の花がおいてあり、別談ショックを受けていない私にあきれたようなため息をついて、寒空のした放置され、時々、トイレで水をかけられ、給食にはなにもされなかったけど、一人ひとつのものが出たときは私の分は確実になかった。
先生もそれを見て対処しようとしたけど、その子達は、『雨月にもらった』といって先生もそれを認めざるを得なかった。
私がなにも言わなかったから。
そんなある日、私はあることを決行しようとした。
十二月十三日、私の誕生日。自殺をするつもりだった。
冷たくなった海に、私は靴を脱ぎすて、はいていた靴下も投げ捨て、入っていく。とても、冷たくて、凍え死ねそうだった。
大体腰くらいまで浸かると、体は冷えきり意識が朦朧としてくる。このまま寝たら死んでるかな?
そんなことを思っていると、誰かから、手を引かれた。
『なにしてんだ! 死ぬぞ!!』
手を引かれながら叱られ、私のなかになにかが広がるのが分かる。
きっと、私と言う個人に対してこんなに感情的になってくれる人がいたことに、どことなく嬉しかったのかもしれない。
『だいぶ濡れて、風邪ひくぞ?』
『……大丈夫』
『そうか……。家は?』
『……それなりに遠い』
『んじゃ、うちに来るか。母さんもいるし、妹もいるからなんとかなんだろ』
※※※
ふわぁー。よく寝たー。
「あ、起こしちゃったー?」
「いえ、大丈夫です」
「いい夢見れたー?」
「いい夢でもあり最悪の夢でもありました」
「そっかー。辛くなったらそーだんだよー」
「わかりました」
サイドカーに揺られながら、私はこの車イスの構造を考え、あきらめた。
そもそも、どんな構造したらサイドカーが車イスから出てくるの……。
違和感バリバリなのに、なんか、受け入れちゃった自分に嫌気が差しそうだ……。
「そう言えば、どうして私があそこにいるってわかったんですか?」
「レーダー機能って便利だよねー。たまに探し物をするときとか使えるんだー」
やぶへびだった……。よく考えたら分かることだったし……。
そもそも、考えたら敗けだった。そう、この戦いは、身内に突っ込みを入れないところから始まってたんだよ……。
私は無理やり突っ込みたい衝動に駈られるのを押さえるための理屈を作りだし、無理やり納得する。
それから、数分くらいたつと、ソーナ先輩の後ろ姿が見え、茜さんの車イスのエンジン音に気づいたのか、振り向いて私の存在に気づく。
「彩南、どこに行っていたんですか。これから、作戦だと言うのに」
「すいません。ちょっと襲われてました」
「傷は? ないわよね?」
「はい、相手が素人で助かりました。幻影とか姿が見えなくなったりとか、ありましたけど」
「彩南ちゃんの耳ってすごいよねー。どれが本物か聞き分けれちゃうみたいだからー」
「正確には血が流れてるかどうかを聞いてただけですけどね」
「そっかー。あたしも耳いい方だけどそこまではできないからなー」
「いや、茜さんには…………やっぱり、なんでもないです」
「なーにー? きーにーなーるー」
気楽そうな返しをする茜さんを無視して、私たちは、持ち場へと行く。茜さんは夏也さん、碧さん、グレモリー眷属の人たちと一緒にコカビエルの迎撃らしい。
うーん。被害を出さないためとはいえ、一般人を堕天使の幹部? と戦わせるのはなぁ……。あ、逸般人だからいいのか……って、いいわけないじゃん!!
なに考えてるの、この班構成!!
私は今更ながら、このおかしな班構成にツッコミを入れる。
いや、あのね。正直なところ、茜さんは参加しちゃダメだと思うの。だって車イスがないと生活できないわけだし。車異子だとしても、KURUMAISUだとしても、ダメだと思う。
魔力で動くとか、そんなちゃち……ちゃちなのかな? まあ、ちゃちでいいや。そんなちゃちなものでなんとかなるほど、甘い相手じゃないと思う。ないと思いたい。
「彩南。私たちのなかで結界に長けているのはあなたと桃だけですから、頑張ってもらいますよ?」
「任せてください!!」
私は元気よくソーナ先輩にそう返した。
だって、尊敬する大好きな先輩に言われたからね。本気出さなきゃダメだよね?
て言うか、最初から本気出さないと私たちの身が危ないし、この町も大変なことになる。
「よーし、それじゃあ、あたしも車イスの機能を最大限に生かして戦うよー。なっちゃんに手伝ってもらえば空中戦闘だってこなせちゃうからー」
もうやだ! この人たち!!
※※※
結論から言おう。コカビエルはなにもできずに、白い鎧に包まれた男性に連れ去られた。
白い衣に包まれた人たち(人外)は、ここに揃っているけど、白い鎧に包まれた人はいなかったし、私たちの結界は夏也さんが逸らしたコカビエルの光の槍で壊されてたし、初めから結界の内側にいた人がやったみたいだから、私が気づかなかったわけではない。
フリードと話していたヴァーリって人で間違いない。
空を飛んでたりしてたから、足音で判別はつけれなかったけど、声は把握していたから、間違いないと思う。
だけど、それ以上に衝撃的だったのは、両膝を砕かれたおじさんが、コカビエルによって無理やり連れ出され、聖剣の因子ってものを木場先輩に渡していた。
それにより、力場の乱れ? 的な何かが働いて、木場先輩の昔馴染みの人たちが、現れた……のかな?
まあ、よくわからないけど、アーシア先輩やゼノヴィアさん、イリナさんが、聞き覚えのあるっぽい感じだったから、教会関係のなにかなのだろう。
オカルト本とかだと、病院は幽霊が出やすいって言うからね。そんな感じで、魂同士が反応したんじゃないかな? という、ソーナ先輩の考察を聞いた。
えっ? 私はどうなんだって? 話がよくわからないから、ボーッとしてた。
いや、だって、夏也さんが、逸らしたコカビエルの槍は、私の方に向かってきちゃってたし、それを避けるので精一杯だったし、その後に夏也さんによってそらに浮かばされた茜さんが、空中における姿勢制御機能でバランスを取って、接近して車イスから出てきたマシンガンでコカビエルに向けて乱射して、翼で全部防がれた後に、車イスが変形して、車輪でコカビエルを叩き落とした後に、碧さんの間接技で身動きとれなくなってたから。
その場にいた、全員がポカンとしてたから間違いない。
うん。ツッコんだら敗けってはっきりわかったね。
特に茜さんの活躍シーン。普通に考えてあれは器用とか使いこなせてるとか言う次元じゃない。もうもはや一体化していると考えるのが正しい気がする。
それで、ボロボロになったコカビエルが立ち上がり、茜さんを狙ったところを今度は夏也さんが、庇って光の槍(高出力)の被害を逸らして、こっちに飛んできたのを必死に避けて、一安心と思ったところで、衝撃の事実が明かされた。
「先の大戦で四大魔王と共に神も死んだ!!」
で?
私はその程度のものだったけど、イリナさんたちには相当ショックだったようで、膝をついて明らかに精神的なダメージを負っていた。
アーシア先輩は泣き出して、ゼノヴィアさんは絶望してて、イリナさんはショックで気絶した。
「そうか、それじゃ、死ね」
冷徹な夏也さんがトドメをさそうとしたその時に、白い鎧の人が現れて、それを防いだ。
一瞬仲間なのかと思ったけど、どうやらコカビエルを回収しにきたらしい。
夏也さんってこう言ったところもあるんだなぁ……。何となく、夏也さんの逆鱗ってものがなんなのか把握できた気がする。
たぶん、訓練とかなら見ていられるけど、戦闘とかで、茜さんが狙われると、ぶちギレちゃうんだろうなぁ……。
因みに碧さんは、あらゆる間接と言う間接を外しまくって、骨と言う骨を折ろうとしていた。
えっ? 茜さんってそういう立ち位置? どう見ても車イスの機能を使いこなして、主人公的なことをするのかと思ってたけど、違ったみたい……。
どちらかと言うと、茜さんは狙われても避けれるしーって思っていそうだけど、夏也さんたち的には狙われること自体が許せないのか……。
とまあ、私的には夏也さんの一面にちょっぴりこわっ! 茜さん狙ってなくてよかった。と思いつつ、今回の事件? は解決した。
えっ? そもそも、お前結界張ってたのになんで把握できているのかって?
全て会話と戦闘音からの把握ですが?
と言うわけで、事件も終わったし晩餐だー!! と言う空気にはならなかった……。といいたかった。
そう、茜さんである。
やれ戦争だー、やれ神様が死んでいるーとか、そんなのを無視して、晩餐だー! と、茜さんが言ったのである。
この中で一番の明るい(お気楽)な人は茜さんだ。だから、このなんか、重い空気を何とかしようとしたのかもしれない。
まあ、雰囲気をぶち壊して、切り替えると言うところ目見ると、十分すぎるけどね。
そして、私たちはコカビエルに勝利した美酒(オレンジジュース)を堪能した。
※※※
翌日、私たちは空港にやって来ていた。
「イリナさん。大丈夫なんですか?」
「なにが?」
「いや、あの、昨日の……」
「えっ? 昨日何かあったっけ?」
「……………………………………」
えっ? まさか、えっ?
困惑して茜さんの方を見ると、一瞬キョトンとしたような表情に変わった後、コクりと頷く。
えぇ……。ほんとに、本当?
と、疑いの目を向けると、
「ほんとーだよー? このこ、昨日聞いたこと、きれいさっぱり忘れてるみたいー。聖剣があるから、任務にせいこーしたーとは思ってるみたいだけど、相当心にきたみたいでねー。教会と話し合いをする必要がありそうなんだー」
「つまり、茜さんたちは当分、こっちにいないってことですか?」
「そうなるかなー。と言ってもー、三日位離れるだけだと思うよー」
「そうですか」
「ま、その過程で教会をついほーされたら、あたしとなっちゃンでめんどー見るから安心してー」
あ、これ、人外が増えるやつや……。そんなことを思いながら、茜さんたちが海外へと旅立つところを見届けた。
イリナさん。強くいきろ。ツッコミは、敗けだよ。
そんなことを思いながら、私は家に帰ると、ソーナ先輩からレーティングゲームに向けて必要な知識と、悪魔としての常識を叩き込まれた。
先生をしているソーナ先輩がとても、生き生きしていて、私も嬉しくなった。
ソーナ先輩の夢を実現するためにも、私は私にできることをしなきゃ。
※※※
ソーナは彩南に色々ちゃんとした知識を教えた後、自室にてため息をついた。
その原因を担っているのは、一枚のプリント。一番上に大きく太文字で、『授業参観のお知らせ』とかいてある。
ソーナは、自身の姉のやりそうなことを考える。
「あの子は、昔の私と容姿が似てますから、お姉さまなら目をつけますね……間違いなく。そして、彩南のことです。お姉さまに『あの衣装』を一緒に着てと頼まれでもしたら……」
──間違いなくノリノリで着る。
彩南は高校生だと言い張るが、行動の全てが小学生なのだ。
だから、留流子は目が離せないと言っていたし、匙は妹のように扱っている。
彩南自身はその事にたいして不満そうな顔をするが、なんと言うか、本心はとても、嬉しいのではないだろうか?
そう、ソーナは考える。
だが、もし、もしも、そんなことを続けて、彩南が不満をため、家でなんてしたら……?
ソーナはそんな考えを頭の片隅に追いやった。
ちょうど、そのタイミングで自身の部屋がノックされ、ギギィと、恐る恐る、扉が開かれ、その隙間から、彩南が覗いていた。
「ソーナ先輩。お風呂、一緒に入りませんか?」
そう尋ねてくる彩南が、小動物じみてかわいいなぁ。サジにあげるのは勿体ないなぁ……。と思いながら、ソーナは彩南に近づく。
「いいですよ」
ソーナがそう返すと彩南の表情はパァッ! と晴れる。
それに、癒されながら、授業参観にやって来るであろう姉のことは、すっかり忘れていた。
いかがでしたか?
コカビエル戦はダイジェストにしました。
だって、正直、コカビエル戦を細かく描いてしまうと、夏也の心理描写や茜、碧、グレモリー眷属、コカビエル、バルパー、とにかく大量のキャラクターを描かないといけないんです。
そうすると、この作品の主人公が主人公しなくなる(確信)だったので、こういった形になりました。
因みに、コカビエルが攻撃できたのは、病棟と茜に対してだけです。ケルベロスも召喚されませんでした。
いや、召喚する暇も与えられなかったって言うのが正しいかも……。
夏也の病院の人たちの話を夏也を作った人に聞いたんですよ。そしたら、大量の人をやめかけている設定が出てきまして、うん。これは、あれだ。ケルベロスが出ても、その人たち出せば終わりなやつだ。
そうじゃなくても、グレモリー眷属にやられるわけだし……。
まあ、つまり、メタ的なことを言っちゃうと、彩南が主人公であるはずが、別のキャラクターたちにスポットが当たりすぎて、主人公じゃなくなると感じたからです。
許してほしい。
と言うわけで、今回はここまで。
次回、授業参観?その前に匙先輩の水着じゃー!!をお届けしたいと思います。
つまり、水着回。やってみたかった、水着回。ソーナ先輩が許してくれればできる。そう、許してくれれば、ね。
では、また、次回、お会いしましょう。
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次回予告?あれは嘘だよ
私はソーナ先輩に呼び出され、先輩の部屋にやって来ていた。
「ソーナ先輩。私に用事ってなんですか?」
そう尋ねるとソーナ先輩は無線機を取り出して、「出てきてください」と言った。
すると、ソーナ先輩の影から、男の人? が現れる。
「彼は、
「え? つまり、私のスカートをしたから覗かれるってことですか?」
「誰がするか、そんなこと!!」
「兵藤先輩なら羨ましがるだろうなぁ……。目、すごく潰したくなってきた……」
「なんで、こんなやつが……」
「彩南。ふざけるのはそこまでにしてください。夜兎は引きこもりの時期が長かったので私が代わりにしましたけど、あなたは普通のコミュニケーション能力があるんですから、自己紹介を」
はーい。
と、私は返事をして、夜兎さんの目を見る。
すると、恥ずかしいのか目をそらす。頬を赤らめ、明らかに私にからかってほしそうな感じがする。この人、たぶん面白い。
いじればいじるほどいい反応がある気がする。怒られない程度にからかってみよ。
「雨月彩南、小学三年生です」
「彩南?」
ちょっと、ふざけてみたらソーナ先輩から睨まれた。はい、ごめんなさい。ちゃんとします。
「本当は高校一年生です。ソーナ先輩の兵士やってます」
「さっきの自己紹介の方が納得できたんだが?」
「私だって、好きでこんな身長になった訳じゃないんですよぉ!!」
「お、おう。わかった。なんか、ごめんな?」
「いえ、私も取り乱しました。こんど、身長のことでいじったら、ソーナ先輩に泣きついてお仕置きを受けてもらうことになるので気を付けてください」
「そこは、他力本願なのな……」
だって、私がなに言ったって真面目に受け止めて貰ったためしがないんだもん。
だから、私はソーナ先輩に泣きつくという手段をとるのだ!
私だって成長するときはする。というか、人間の頃より大分成長してるんだよ?
例えば、アルバイトも体力がついて休憩なし(店長から休憩しろと言われる)でやっても疲れないし、ちょっと重たい荷物を持っても大丈夫。
旗を振ることはできなかったけど、あれは遠心力とかそんな感じのものだ。きっと。私の筋力が低いからというわけではない。
ちょっと前、ソーナ先輩に握力を測定するように言われたときに、測ってみたら一桁だったのは関係ないはずだ。
「まあ、これからよろしく。あやっち」
「よろしくお願いします、夜兎先輩」
「それでは、お互い自己紹介も済んだことですし、行きましょうか」
「どこにです?」
夜兎先輩がソーナ先輩に尋ねた。私はどこにいくか知っている。何て言ったって、私が提案して、ソーナ先輩が今日行くって言ったからね。
「水着を買いにですよ。今年は眷属全員で海にいきたいと思っていまして、あなたの分も買いにいくんですよ?」
「なんで、僕の分も」
「先ほども言ったでしょう? みんなで海にいくんです。あなたもいなければ意味がないでしょう?」
「水着を買うなら通販があるじゃないですか」
「残念です。確か、今日あなたのために予約していたゲームを取りに行くつもりだったのですけど、あなたがそういうのでは仕方がありませんね」
「いきます! 荷物持ちでもなんでもします」
ちょろ!? なんで、その程度のことで承諾しちゃうの!?
チラッとソーナ先輩をみると、満足そうな笑みを浮かべている。
「さあ、彩南のための水着を買いにいきます。しっかりおしゃれしていきましょうね? これはあなたのためでもありますから」
私のため? あ、そっか。匙先輩と出掛けるわけだからかわいく見せないといけない。
つまり、匙先輩にアピールするチャンス!!
「ソーナ先輩!!」
「はい。わかってますよ。夜兎は退室してください」
「覗いたらその目、ぶち抜きますから」
「わかってるよー」
夜兎先輩はそう返すと、ヒラヒラと手を振って部屋から出ていく。すると、ドアの向こうから、突然心音が消える。
私は驚いてドアを開いて廊下を見た。
そこには慌ただしく仕事をしている使用人の人たちしかいなかった。
「夜兎の能力はわかりましたか?」
「潜入能力が高い。そう考えた方がいいんですか?」
「ええ。まあ、あの状態だと、影に潜ることしかできないんですけどね」
「つまり?」
「彼が本気を出すときは、影を伝った移動が可能です。あなたが音を拾い、彼に指示を出す。そうするだけで、相手は気づかないうちに倒されている」
「ほぇー」
「今はそんな感じでいいですけど、これからはもっと考えてください。あなたの戦闘において力の差や、体格差は技術で補わないといけないのですから」
なるほどなるほど……つまり、私自身も何らかの技術を身に付けないといけないのか……。
夏也さんや碧さんはそういった技術を身に付けてはいそうだけど、たぶん、私には真似できない。
だって、私にそういった技術が身に付いたところで、体格差で負けちゃうから。
それなら、まだ茜さんから回避術を習う方がいいかもしれない。
「まあ、そんなことより、着替えです。こんな感じでどうですか?」
と言って、私に服を見せてくる。
そんな感じのやり取りをして着替えが終わるまで、約三時間かかった。
※※※
私たちがショッピングモールにつくと、そこには匙先輩たちもいた。
「お待たせしましたー。匙先輩」
私は匙先輩を見つけると、最初に抱きついた。
背中に衝撃があり、私の存在に気づいたのか、匙先輩はそのまま私を持ち上げて、抱っこしてくれる。
「いや、そんなに待ってないから、気にするな」
「本当ですか?」
「あぁ。時間ぴったりだからな」
そういいながら、匙先輩は私をユラユラと揺する。
気持ちよくて、スヤァとなりそうになるけど、必死にこらえた。
だって、これから(ソーナ先輩と夜兎先輩。ルルちゃん他、シトリー眷属みんなと一緒に)デートをするのだ。寝るわけにはいかない。
私は何となくソーナ先輩を見ると、どす黒いオーラを噴出しているソーナ先輩がいた。
「ソーナ先輩?」
私が話しかけると、ソーナ先輩はクイッとメガネをあげ、黒かったオーラがいつも通りの青色に変わる。
「どうしました?」
「どこか不機嫌そうだったので、どうしたのかなー? と」
「いえ、ちょっと羨ま……はしたないので、再度教育が必要だなと思っていただけですよ」
「き、厳しくはしないでくださいね?」
ソーナ先輩はフフ、フフフと怖……美しく笑うだけでなにも言わない。うん。なんか、今日のソーナ先輩暴走ぎみな気がする。
まあ、うん。気にしないでおこう。
「それでは、行きましょうか。彩南の水着の候補はあらかじめ決めてありますから、みんなはゆっくり選んでいいですよ」
「ソーナさんが変わりすぎてヤバイよ。ツバさん」
「ソーナがセラフォルー様に似てきているように感じるときがあるんですよね……」
「うん。間違いなく、あの人と同じ血が流れてるよね。妹ができたって、喜んでるのかな?」
「恐らく」
「椿姫、夜兎、何しているんですか? 早くいきますよ」
ソーナ先輩に急かされながら、真羅先輩と夜兎先輩は歩き始める。
それにしても、ソーナ先輩が選んでくれているのか。どんな感じになるんだろ。楽しみだなぁ。
私は匙先輩の背中に陣取りながら、ショッピングモールに入っていった。
ショッピングモールに入って私は違和感を覚える。
他のみんなはなにも変なところはないと思っているのか、特にこれといった反応を示していない。
と言うことは別の何かが関連してるのかな?
私は男性服売り場のところの一角だけ音がひとつしかないことを気にしながら、水着売り場まで連れていってもらう。
水着売り場についてから、私は着せかえ人形と化した。
ソーナ先輩とルルちゃんが私に似合う水着を選んで、「もっと、もっとかわいくできるはず」みたいなことを呟いたことがきっかけだった。最初はワンピースタイプの水着でいいと思っていたみたいだけど、着せてみたらなんか違ったみたいで、何回も何回も、これじゃない、あれじゃない。むしろ彩南に釣り合う水着がないみたいなことを言い始める始末。
私、学校の授業以外で水着を来たことがないから、スク水以外なくて、水着を買いに行ったこともないんだよね。だから、二人に任せていたら、桃先輩がこれどう? と持ってきたものを着てみると、次は巡先輩が、その次に由良先輩が、その次に草下先輩が、最終的には匙先輩も入って、私に合う水着を選び始めた。
そのときの、匙先輩のセリフが、
「華穂にも買ってやらないといけないからな」
というものだった。つまり、匙先輩は私を元に妹さんの水着を考えているのだ。
いや、まあ、それ自体に異論はない。どんな形であれ、匙先輩が選んでくれるのだ。つまり、匙先輩の性癖もわかる。
要するに、私にとって有益な情報が得られるという最高のメリットなのだ!!
ちなみにどれが一番私に似合う水着なのか大会はソーナ先輩の知り合いの仕立て屋にてオーダーメイドするという形で落ち着いた。
なんでそうなった……。夜兎先輩じゃないけど、それなら、ここに来る意味なかったよね?
私が呆れていると、いい時間だしご飯を食べようということになった。
そこで、ちょうど私の耳にショッピングモールに入る前に聞いたボッチ心音(誰も周囲にいなかったときの心音だからそう名付けた)もご飯を食べていた。
私はその音が聞こえてくるお店に行こうと提案する。
すると、みんなもどこでもよかったのか、その提案に乗ってきた。
そのお店は好きな席につけるようなシステムなようで、店員が「お好きな席にどうぞ」といっていた。
私は、その心音の人の所の近くの席にみんなをつれていく。
え? なんでかって? 反応が面白そうだから?
まあ、何となくだ。何となく、嫌な予感がするからその人を見ておきたい。
そんな好奇心からその人が通る道を挟む形でみんなで座った。
そのとき、ピクッ! と反応したのが見れたのは僥倖だったね。
「なんで、気づかれた……」
という呟きは私以外には聞こえていなかった。ニヤッと笑ってその人を見ると、その人もお前か! と言う反応をした。
うんうん。とても面白かったよ。ボッチ心音さん。
ただ、そこで、聖剣を取り出すのはやめて、オーラでオーバーキルされちゃうからー。
と、聖剣の波動を放つ剣に警戒しながら、私はその人を見る。黒の髪に白のメッシュを入れた男性だ。
神器なのか、それとも、普通にただの聖剣なのかそんな波動を放つ剣を先程取り出していた。
さすがに、これは、みんなも気づいたみたいで、私を睨み付けてきた。
あ、うん。これは、あれだ。説教コースだ。朝までの……。
好奇心は猫を殺すっていうけど、私の場合は睡眠を殺されちゃったよ。トホホ。
まあ、私が悪いんだけどね。
反省はしてる。反省は、ね?
「すみません。家の子が。この子どうしようもなく常識がかけているので、こちらで再教育しておきます」
「ちょっと、ルルちゃん!?」
「いや、気にするな。俺も気づけなかったからな。まさか、悪魔が集団で囲んでくるとは……」
「ほんと、すみません! この子本当にバカなんで!」
「ひどいよルルちゃん! 私だってアルバイトしてるんだからね! 少なくともルルちゃんよりも稼いでいるから!」
「あんたは黙ってなさい! この程度のことで、戦争が再開なんてされたらたまったものじゃないの!」
「でもでも! ボッチだったんだよ、この人! なんでか知らないけど、周りに人が一人もいなかったんだから!」
「そういう問題じゃないわよ! 聖剣なんてもの私たちじゃ相手できるわけがないでしょうが!! そこを考えなさいっていってるの!」
「二人とも、静かに。お店の方に迷惑です」
「「は、はーい」」
ソーナ先輩の一喝でヒートアップしていた私たちは冷静さを取り戻す。
その後ソーナ先輩が、私のチャチャなしで、迷惑をかけたことを謝っていた。その過程で私も一緒に謝らされた。
あ、それともうひとつ気になったことがあるんだった。
「なんで、そんなに警戒してるんですか?」
「悪魔に囲まれて警戒しない方がおかしいだろ?」
「うーん、ちょっと違うかなぁ。悪魔以外も警戒してますよね? 同族である人間も含めて」
「そうか。それなら、こちらに来ない方が良かったんじゃないか?」
「いやぁ、一定範囲内に誰もいない人がどんな人か気になるじゃないですかぁ」
「好奇心は猫を殺すと言う諺を知らないのか?」
「ここで戦うことはできませんよね? 一般人を捲き込んじゃうかもしれないんですから」
「珍しく雨月が挑発的だな」
「あやは元々こんな感じですよ。気を許してない相手だと、つくづく愛想が悪くなるんです」
「失礼な! 私は別に相手を選んでる訳じゃないもん! ただ、気になったから近づいただけだもん!」
「はぁ……。リヴィエール」
「???」
「俺の名だ。リヴィエール・A・ハルトマン」
「それじゃあ、リヴィさんですね。よろしくです。これから、あなたの心音を聞き付けたらみんなで押し掛けます。ボッチは寂しいですからね」
「俺に構わないでもらいたいものだ」
リヴィさんはそう言ったあと、鼻で笑った。うんうん。この感じ、悪い人じゃなさそう。
ちょっと、意識してるのか敵対しないような口調で話しているから、戦闘も好きじゃないのかもしれない。
「それじゃあ、みんなでご飯を食べよう! リヴィさん。相席いいですか?」
「話はこれで終わりじゃないのか!?」
「もーまんたいですよ。一人で食べるよりみんなで食べた方が美味しいですからね。匙先輩、ソーナ先輩も一緒に食べましょー」
「はいはい。わかったよ。ほら、雨月なにが食べたいんだ?」
「ハンバーグ!」
「俺の意思は無視か!?」
「ボッチで耐えられる人なんていないですからね」
「ドリンクバーは人数分、リヴィエールくんは注文してますか?」
「あ、あぁ」
「なら、あとは、私たちのぶんだけですね」
「なぜ、こんなことになる……」
「あやは実質的に会長と対等だからなぁ」
「こんな子供がか?」
「こんな子供が、です」
失礼な! 私は高校生だからね!! 子供と言われる年齢をもうそろそろ抜けるんだから!
そのあと私たちはリヴィさんを囲んで、ご飯を食べ買い物にも連れ出した。
だって、リヴィさん、ボッチでまた、着替えを探すとか言ったんだもん。すぐにボロボロになっちゃう私服も買い置きしておいた方がいいから、匙先輩の分の服も検討しよう。私の分? ソーナ先輩がいつもオーダーメイドで、似合う服を注文してくれる。冥界の仕立て屋さんは優秀なんだろうなぁ……。
だって、私の水着もその仕立て屋さんに注文したからね。
そんな感じで私たちの買い物はショッピングモールがしまるギリギリまで続いた。
とても楽しかったよ? 最後は、疲れて匙先輩におんぶしてもらったけどね。
※※※
家について、まず、ソーナ先輩は水着を注文していた。サイズは教えてなかったけど、よくお風呂には一緒に入っているから、それでわかったんだと思う。
夜兎先輩は嫌ってほど連れまわされて、当分シトリー領に引き籠るそうで、さっさと帰っていった。
私はお風呂に入るため、ソーナ先輩と脱衣所に向かう。
そこで、聞き覚えのない心音が聞こえてきた。どうやら、その人もお風呂に入っているみたいだ。
まあ、ソーナ先輩の心音に似てるし、女の人だから鉢合わせても問題はないと思う。
脱衣所につくと、ソーナ先輩はある一角をみて、頬をひきつらせる。
「ソーナ先輩?」
「こ、この服は……!」
その一角にはコスプレ衣装があった。つまり、ソーナ先輩はこの衣装の持ち主を知っていると言うこと?
そんなことを思っていると、お風呂の扉が勢いよく開かれる。
「ソーたーん! 会いたかったよー!」
「お姉さま!? なぜここに!?」
ソーナ先輩のお姉ちゃんなんだなぁ。
私はのんびりとそんなことを思っていた。
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お姉さん!先輩!?お母さん、どれで呼んだらいいの!?
「ソーたん、ソーたーん」
るんるん気分のソーナ先輩のお姉さんに、私は困惑しつつ、その様子を見守っていた。
いや、あのね。さっきまでお風呂にいた人が突然出てきたと思ったら、今度はソーナ先輩に抱きついてたの。つまり、全裸。
立派なお胸をお持ちのようで。少しくらい分けてくれてもいいよね? と思いながら、私は服を脱ぎ始める。
触らぬ神に祟りなし。そんな諺もあるわけだし、ソーナ先輩とお姉さんの交流に手を出さないでおこう。
最近習った気配遮断術で、さっさとお風呂に入っていく。
「あ! こっちには小さいソーたん!? なになに、ソーたん分身の術が使えたの!? それも、こんな成長期真っ只中みたいな姿に!?」
こっちにきたぁ!?
私は全裸のソーナ先輩のお姉さんに、抱き締められた。
うにゃぁ! その胸どけろー。もげろー。あ、でもなんか柔らかくて気持ちいい……。
そんなことを思いながら、お姉さんに身を任せる。
「お姉様! 彩南に手を出すのはお止めください!!」
「あやな? あやな……あ、もしかしてお母様が言ってたあーたん!! もー、それならそうと先にいってよー。あーたんのためにソーナちゃんのよく利用している服屋さんにオーダーメイドさせてた衣装持ってきたのに」
「彩南に……あれを?」
「そうよ! かわいいと思わない」
「かわいいと思いますけど、彩南の教育に悪いので却下です!」
「なんで!? ソーナちゃんとにてるって話だったから、八歳くらいの時のソーナちゃんの写真だして、サイズを計算してもうつくったって言うのに!?」
「なぜ、彩南の身長が低いって知ってるんですか!?」
「そ、それは……」
あれ? よく見ればこの人、見覚えがあるぞ?
「もしかして、セラフォルー先輩?」
「気づいてくれた!? もー、あーたんってば、心臓の音から誰か判別できるのに、あたしに気づくの遅すぎよー?」
「い、いやぁ、そのぉ」
「あ、もしかして、髪下ろしてるから? でも、心音でわかるよね? そっか。あのときはちょっと身長を低くして低血圧に調整してたからわからなかったのかぁ。なるほどなるほど」
「そんなことできるんですか!?」
「乙女のたしなみよん」
間違いない。この人、セラフォルー先輩だ。
ゲームセンターで中々魔法少女のフィギュアがとれなくて、泣きそうになってたセラフォルー先輩だ……。
私はセラフォルー先輩との出会いを思い出していた。
「お姉様、少しお話があるので、服を着てくださいますね?」
「そ、ソーナちゃん? もしかして怒ってる?」
「いえ。悪魔の長の一人としての自覚が足りないようですので、少しお説教が必要と思いまして。彩南。一人ではいれますね?」
「はい!!」
私は声を張り上げて返事をする。
セラフォルー先輩に手を貸してあげたいけど、ソーナ先輩のお説教に巻き込まれるのはごめんだ。許して、セラフォルー先輩。
私は、服を無理やり着せられ、脱衣所から引っ張られていくセラフォルー先輩に黙祷した。
脱衣所から二人が見えなくなると私はお風呂場に入る。
相変わらず広いなぁ……。最近、ソーナ先輩と一緒に入る事が多かったから、ちょっと寂しいかも。
遠くから聞こえてくるソーナ先輩のお説教を聞きながら、私は体を洗っていった。
半泣きのセラフォルー先輩の声は聞こえなかったことにしよう。そうしよう。うん。
湯船に浸かりながら、二人が戻ってくるのを待つ。
だって、一人でいるの寂しいんだもん……。
数分くらいたつと、二人は戻ってきた。
「ただいまーあーたん。一人で寂しくなかった?」
「大丈夫でしたよ。はい。ちょっと、逆上せそうになったから、湯船から出たり、体が冷えてきたから浸かり直したりを繰り返しましたけど」
「ねぇ、ソーナちゃん」
「お姉様、考えていることはよくわかりますよ」
「あーたんが忠犬属性持ってるなんて、私知らなかったわ」
失礼な!? 私、今もセラフォルー先輩に撫でてもらってるけど、別に気安く差し出してる訳じゃないんだから!
セラフォルー先輩の手、気持ちいいなぁ。こう、女の人の手って感じで、もう、身も心もこの人のものになりそうな位には気持ちが良い。
撫で手マイスターの私が言うのだ。間違い。
「お姉様?」
「良いじゃない、ソーナちゃん。あーたんとは久しぶりにあったんだから。ね?」
頭を撫でられてベロンベロンにとろけてる私は、ふらーっと、セラフォルー先輩にもたれ掛かった。
「……彩南?」
「もしかして、逆上せてる?」
「そんらことないれふよー?」
あれー? 呂律が回らない。あと、心なしか頭がふらふらする。
あ、でも、セラフォルー先輩の体柔らかいなぁ。なんだろう、安心感がある? ソーナ先輩たちとは違った魅力があるんだよね。
私は、朦朧とする意識のなか、一言たぶん、セラフォルー先輩かな? に言った。
「ま、まぁ……」
「いま、ママって言った!? ねぇ、ソーナちゃん聞いた? あーたん今、ママって言ったよ!!」
「『まあ』と言えなかっただけかもしれません。この子、親にたいしてはあまり良い感情を抱いていませんから」
「ソーナちゃん、それは無理あるわよ? まあ、良いわ。あーたんが逆上せちゃってるし、上がっちゃいましょ。ねぇねぇ、そーたん。今日は三人で一緒に寝ない?」
「はぁ……ダメ、といっても聞かないでしょう?」
ちょっと、飛んでしまった意識のなか、私はむにゅぁと、セラフォルー先輩の胸に全体重を預けた。
※※※
意識がない彩南を抱え魔力で作った氷を側におき、膝枕をしているセラフォルーは、ソーナと対面していた。
ソーナの目的は、セラフォルーがなぜ彩南と知り合いだったのか……というわけではなく、というか、その話はすでに彩南の前で、ソーナの部屋に連行されたときにすべてはいた。
話を少し戻すと、ソーナの目的は、その話の中で出ていた、『セラフォルーの養子として彩南を貰う』という計画である。
ソーナとしてはどこまで計画されているのか気になるのだ。特に彩南がいつ、どこで、何時何分何秒にセラフォルーの娘として確定するのか、それが、気になって気になって仕方がない。
内心穏やかではないソーナは、セラフォルーにその事を尋ねる。
「あーたんが私の娘になりたいって言ってくれれば、ほぼ確実にいけるわ。まあ、少し時間がかかるでしょうけど、大丈夫。ちょっと、法律とかに詳しい昔馴染みがいるから」
「そうなんですね。でも、驚きました。彩南とお姉様が知り合いだったなんて」
「私も驚いたわよ? あーたんがソーたんの眷属になってるんだから」
「彩南の人脈の話は聞いていましたけど、お姉様にまで届いてたとは……」
「サーゼクスちゃんも私経由で知り合ってるわよ?」
「……………………」
ソーナはセラフォルーの発言により、言葉を失った。
下手すると人脈だけで見たら自分よりも上かもしれない。そう言えば、自衛隊や忍者、最近だと医者(あれを医者というのかは甚だ疑問)や心理学者(車イスが多機能すぎて車イスしてない車イスに座っている女性)と知り合っていた気がする。
そんなことを思いだし、軽い頭痛を起こした。
「そう言えば、あーたんの両親、パチンコ業界では結構有名人みたいよ。一部のお店では出禁を食らうほどの幸運の持ち主とかで」
「有名なのに、なぜ?」
この『なぜ?』には、おそらく、『なぜ、有名人なのに、他の関係者が彩南に一度たりとも目が向かなかったのか、また、ごみ屋敷同然の環境なのか』という、二つの疑問が織り込まれているのだろう。
それに対するセラフォルーの回答が。
「たぶん、うまく隠していたんでしょうね。それこそ、家の付近に知り合いを近づけないように工夫したり、誰かにあーたんの存在が感知されたときのための保険をたくさん用意しておいたり……それに、そんなことを普通の人間ができるとは思えないわね」
「つまり……」
「悪魔かそれとも高位の魔法使いか……まあ、でも、それは定かではないわね」
「この子の魔力が中級悪魔並みだったのも、それが関わっているのかもしれないですね」
「そうね。あーたん、オーラと耳を併用して誰がそこにいるか特定してるみたいだから」
そこにソーナは「いえ、違いますよ」と、セラフォルーに反論する。
「彩南の耳の良さはオーラがどうのこうのというのは関係ありません。聴力という機能が人よりも数倍あるというだけです。まあ、ここ最近はオーラという概念を知って、魔法や結界術を憐耶や桃からまなんでますよ」
「あ、あの子……身一つであんなことしてたの……!?」
「あんなことがどれを指しているのかは知りませんが、まあ、大抵はそうですよ。間接の動き、心拍、血圧、呼吸といった、音を発するものであれば、あの子の聴力の届く範囲ですべて把握できるみたいです」
「ソーナちゃん的には手札が増えるし、レーティングゲームの学校を作るときの諜報員の教師にしたいわけね?」
「はい。あの子の諜報能力は十分な伸び代があります。結界術はそれらに付随した隠密行動や野営地の設営のために、魔力運用はいざというときの防御手段、武器も同様ですね。後は、あの子の人脈にSHINOBIがいるらしいので、その方からの教えをどこまで身に付けられるかによりますね」
「それじゃあ、憐耶ちゃんの役目がなくなっちゃうんじゃないの?」
「憐耶には別のことができるよう、計画中です」
「それで、それで、匙くんの成長計画とかどんなことを考えてるの?」
「サジにはサポートタイプとしての立ち回りと、ラインの強化ですね。『黒い龍脈』がどこまで伸びるのかわからないですが、相手を足止め、そこに彩南の狙撃というのも考えてあります」
「全方位で活躍できるようにあーたんを成長させようってことね……」
二人はそんな会話を繰り広げながら、彩南に服を着せ、おぶってソーナの部屋に向かう。
ちなみに背負っているのはセラフォルーで、ジト目で睨んでいるのがソーナである。
なぜにらむのか? それは決まっている。公正公平な
そのあとは三人仲良く、同じベッドで彩南を中心に、一緒に寝た。
※※※
朝、目を覚ますと、隣にソーナ先輩とセラフォルー先輩がいた。
うーん、二人とも、まだ寝てるよね? なら、もう一回寝てもお説教はないはず! おやすみなさい。
私は心のなかでそう言って、ソーナ先輩に抱きついて眠ろうとした。
「おはようございます、彩南」
だけど、それはかなわなかった。私が抱きついた瞬間、ソーナ先輩が目を覚ましたからである。
うぅ……私の熟睡二度寝タイムがぁ……。ソーナ先輩に優しく起こして貰う予定がぁ……。
「眠いんですか?」
「はいぃ……」
「仕方ないですね。五分だけですよ?」
「ありがとうございますぅ」
「もう……お姉様はまだ寝てますね」
そんな声が聞こえてくる中で、私は深い眠りについた。あ、ちゃんと五分後には起きるからね? ソーナ先輩の「時間ですよ? 起きてください」を聞いてからね。
五分後、ソーナ先輩は「時間ですよ? 起きてください」という一語一句間違えなかった私の予想通りの起こし方で起こしてくれた。
ソーナ先輩の声は好きなんだよね。こう、凛としててけど、慈悲深い感じで。匙先輩にとっては厳しい感じらしいけど、愛ゆえにって感じがしてなんか、お母さんよりお母さんらしい人柄だと思っちゃうんだよね。あれ? 私なにいってるんだろ?
私がなんか変なドツボにはまっていると、ソーナ先輩から朝御飯を食べると言われ、手を引かれ食堂に向かう。
「ゆっくり眠れましたか?」
「はい。そういえば、セラフォルー先輩はよかったんですか?」
「お姉様はゆっくり休ませてあげましょう。色々忙しかったみたいですから。それと、お姉さまがなぜか彩南の中学校に通っていたみたいですけど、一応お姉様は魔王ですので、セラフォルー様と呼んでください」
…………え?
いや、いやいやいやいやいやいやいや、嘘でしょ? え? ホント? セラフォルー先輩が魔王? なにそれ? よくわかんないよー!
なんで、そんな人がうちの中学に通ってたの? おかしくない? おかしいよね? 茜さんの車イスくらいおかしいよね? あれと比較する方がおかしいのかな?
「セラフォルー先輩が魔王って……え? 学校に制服じゃなくて魔法少女の衣装着て、よく一緒にコスプレしてたあのセラフォルー先輩が?」
「彩南……あなたも何しているんですか?」
「ルルちゃんも一緒に着ました! ルルちゃんもセラフォルー先輩もかわいかったです!」
「そういう問題ではありません! というか、留々子も留々子です。なんで、あの子もそんなことしてるんですか……」
「あのときは三人でよく遊んだんですよー。ご飯とかはセラフォルー先輩がおごってくれたりしましたし」
「シトリー家の資産の数パーセントがなくなっていたのはあなたたちの食費だったんですね……」
「あ、でも、卒業式の日にサーゼクスって人とあったんですけど、もしかしてあの人も?」
「えぇ。サーゼクス様も魔王ですよ。リアスのお兄様でもありますけどね」
「ほへぇー」
スケールが大きすぎてよくわからない。えっと、何て言ったらいいんだろ? あれだよ、きっと、夢なんだよ。そうだ、ソーナ先輩にもう一回起こしてもらおう。
「ソーナ先輩、私の頬をつねってください」
「いやです」
即答だった。いった瞬間、コンマ数秒でそう返ってきた。
えぇ……。なんで? なんでなの?
「安心してください。これは夢じゃありません。現実ですよ」
夢ならばどれ程よかったでしょう。
私は心底そう思った。だってさ、だってさぁ……。あの二人にたいして、私メチャクチャ変なこといったよ? 魔法少女の常識とか戦隊ものの基本を教えたのも私だよ?
そんな知識は親が昔連れ込んだパチンコ店でのアニメ系の台で打ってたときにそう言った気になったアニメは全部チェックしたから得てるし、日曜の朝は近所のお子さんが見ている戦隊ものを聞いてたから得ちゃったんだよね……。
「お姉様のプライベートは……まあ、わかってると思いますけど、とても軽いです。あれでも、外交官としての仕事をしながらですし、そこに関しては尊敬できるんですけどね……」
「フットワークの軽い魔王様なんですね……」
「はい……」
「もー、二人揃って私をのけ者にするなんてひどいー」
食堂に向かっていると、後ろからセラフォルー先輩、うーん、セラフォルー様に抱き上げられた。
そのまま、無抵抗にセラフォルー様に抱かれていると、ソーナ先輩が大きくため息をつく。
「ソーナ先輩?」
「いえ、気にしないでください。お姉様の行動は読めていましたから……」
うん、なんか、疲れてそうだし、今日は私が手料理でもご馳走しようかな? 使用人さんたちにも確認とらないといけないし、ちょっと、味は劣っちゃうと思うけど、問題ないよね。うん。いや、待てよ……。お菓子を作るのもありか? うん。たぶんそっちの方がいいかも! 私もなれてるし、使用人の人たちの手間もとらせない! 一石二鳥ってやつだね!
「よし、セラ先輩。私、お菓子作ってきます」
「あ! やっと、呼び方昔に戻してくれた!」
「彩南、今から朝御飯ですよ」
「すぐに終わらせますから! 慣れてるしちょちょいっと作ってきます!」
と言って私はセラフォルー様の腕から抜け出し、キッチンへとかけていく。確か、曲がり角は壁を伝って走れば、減速せずに行けるはず!
キッチンへのルートを忍者の知り合いから教わった走法で駆け抜けた。
※※※
「かんせーい!」
私は満足げに出来上がったお菓子を見る。
「べっこう飴は簡単にできるし、魔力があれば、冷やすのもすぐだしね」
まあ、でも中にできた気泡をどうやって取り出すか考えないといけなかったのはたいへんだったよ。結果、冷やしているときに気泡ができそうな所に魔力を使って流し込めばなんとかなった。
私はキッチンを貸してくれた人たちにお礼を言って、ソーナ先輩たちのところに戻っていく。
「ただいま戻りましたー!」
「おかえりなさい。それで、数分くらいで終わったようですけど、そんなに簡単なものだったんですか?」
「当然ですよ。家での家事は私がしてましたから」
えへん、と胸を張る。その時、ソーナ先輩とセラフォルー様が複雑そうな表情をした。きっと、私の両親のことが頭をよぎったのだろう。
私は少なくともあの両親より長生きすることが保証されたので、気にしていないけど、まあ、いつ、帰ってこいって言い出すかわからないからね……あの人たちの基本はパチンコで構成されてるから……。
「もー、そんな表情しないでくださいよ。せっかくの朝御飯が美味しくなくなっちゃいますよ」
「それもそうですね……」
と、ソーナ先輩は言ったものの、少し考え私にこういった。
「ですが、彩南。今や、私たちは家族のようなものです。辛いことや、悲しいことがあれば、いつでも言ってください。私も留々子も、サジも、他の子も、あなたの力になりますから。その分、私たちが困ったときはあなたも力になってくださいね?」
「もちろんですよ!!」
私は力強くそう宣言する。
「ふふ。期待してますね」
ソーナ先輩はそう言って手前に用意された朝食を優雅に食べる。私も最近慣れてきた所作で食べていくが、はし万能論を唱えたくなりそうなくらい、ナイフが使いづらい。
うぅ……これになれるの当分先になりそうだよ……。
大体二、三十分くらいたった辺りで完食すると、私は鞄を取りに部屋に戻り、玄関でソーナ先輩を待つ。
その間に、セラフォルー様がきて、「私も用事があるから、先にいくわね」といったので見送り、ソーナ先輩と一緒に学校へと向かった。
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