大空は夜空を求めて繰り返す (秩序の夜空)
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プロローグ、来る

はじめまして。

趣味で書いてるものを整理するために投稿しました。

オリジナル設定やストーリー満載なので、そこはご了承ください。

意味不明なところがあるかもしれません。


物好きな方、どうぞ。


ヴァリアーとのリング争奪戦は俺たちの勝利で終わり、仲間の傷も癒えてまた元の騒がしい日常が戻ってきた。でもその日常が俺……沢田 綱吉(さわだ つなよし)にとって一番の宝であり、大切なものなんだって、この戦いを通して改めて実感した。

 

そんな最中、ヴァリアーとの戦いの間、修行のために休んでいたので、久しぶりに並盛中へ登校してきたが、何やらクラスが騒がしい。

 

「なにかあるのかな?」

 

「十代目、どうやら並中に転校生が来るらしいです。安心してください、生意気な奴だったら、直ぐにオレが絞めときますんで!!」

 

近くにいたボンゴレ嵐の守護者の銀髪の少年……獄寺 隼人(ごくでら はやと)はキラキラと目を輝かせながら、忠犬ハチ公のように忠誠心を撒き散らしてそう言った。

 

全く安心出来ねぇー!!

 

そう内心ではツッコミをいれつつ、そろそれ授業が始まるので、全員が席に着いた。どこか抜けているのんびりとした教師が入ってきた。

 

「えぇー、先週言った通り、今日からうちのクラスに転校してくる生徒を紹介する」

 

そう言った後、教室のドアがゆっくりと開かれた。ふわり、とした小さな風と共にコスモスの香りが鼻を突き抜けた。

 

中に入ってきたのは真っ白な髪の毛を背中まで伸ばし、ルビーのように美しい瞳をしていた。胸が大きくて、身長はオレよりも小さい。

 

ブカブカのセーターに身を包みながら、彼女は教卓の前に立った。そして黒板に小さくて綺麗な文字を書き込む。

 

「……神織 唯那(かみおり ゆいな)と申します。趣味は読書で、好きなものは激辛料理。好きな人は……そこにいるツンツン頭の子です」

 

そうかそうか、好きな人がいるのか。自己紹介を聞きながら頷いていると、周りから視線が突き刺さった。え、何かしたかな、と首を傾げる。

 

「ツナ、転校生がお前のこと好きだってよ」

 

後ろの席にいる俺の友達で雨の守護者でもある少年……山本 武(やまもと たけし)からそう言われると、初めて自分に転校生の子が視線を向けていることに気付いた。

 

「へ?」

 

クラス全体が絶叫して驚きの声を漏らした。

 

神織は俺のところまで歩み寄ると、姿勢を低くして座っている俺に顔を近付けた。やはり彼女からはコスモスの香りがして、どこか懐かしいのような気持ちになった。

 

「……久しぶり、綱吉」

 

「え?」

 

俺が彼女の言葉を聞き返す前に、ちゅ……という音と共に唇に柔らかいものが押し当てられた。これが神織の唇だと気付いた瞬間、カァッと顔が熱くなっていくのを感じた。

 

何で初対面だと思われる転校生にキスをされたのか。でも、彼女は久しぶりっと言ってたし、俺の名前も知っていたから、彼女とはどこかで会ったのかな。

 

「て、てめぇ!! 十代目になんてことを!! 果たす!!」

 

「落ち着けって、獄寺!」

 

獄寺君の怒鳴り声とそれを止める山本の声が遠くに感じている中、俺はまだ温もりが残っている自分の唇に触れながら、そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから放課後になって、俺の隣にはずっと神織が抱きついていた。それを隣で飼い主を取られた犬のような嫉妬した視線を向ける獄寺君とそれを面白がる山本の姿があった。

 

「あはは、獄寺、顔真っ赤なのな。それよりもツナ、その子はツナの彼女か?」

 

「いや、えーと多分昔に会ったことあると思うんだけど……その、覚えてないというか」

 

山本の質問に俺は気まずくて神織の方を見ながらそう言った。彼女は特に悲しむことなく、ただ無表情で俺の腕に頬を擦り付ける。

 

でも、確かにどこか懐かしいを感じている。これは俺の中に流れるボンゴレの血がそう感じているのかもしれない。

 

「私は平気だよ、綱吉。貴方が私のことを思い出してくれるまで、ずっと側にいるから」

 

「えぇ、ずっと側にいられるのは流石に迷惑……」

 

「おい黒髪女!! 十代目が迷惑がっておられるだろうが!! 早く離れねぇと、テメェを果たす」

 

彼女の真っ直ぐな好意は心地良さと照れ臭さがあって、思わずそう漏らしたら、獄寺君が待ってましたとばかりに、神織に畳み掛ける。

 

ダイナマイトを手に持って、今にも襲いそうな雰囲気だ。流石に一般人ぽい彼女を襲うのは不味い、と思いながら止めに入る。

 

「獄寺君たんま!! ほら、えーとここで戦ったら俺まで巻き込まれるし、何より彼女は一般人だから! それは流石に許せないよ?」

 

「な、なんてお心の広いお方だ! オレが浅はかでした!! おい、女! 十代目の寛大なお心に感謝しろよ!」

 

俺が咄嗟にフォローすると、獄寺君はハッとした様子でウザイくらいに尊敬の眼差しを向けてくる。そして、一回だけ彼女を威嚇すると、ダイナマイトを仕舞った。

 

それから獄寺君と山本と別れたけど、神織はうちに来ることになった。家に帰り、俺たちは階段を上がり、自室に入った。そこにはいつも通り、赤ん坊の家庭教師……リボーンがエスプレッソを飲んでいた。

 

「ちゃおっす、ツナが女を連れてくるとはな」

 

「リボーンはこの子に見覚えない?」

 

俺がリボーンと話している間、神織はずっと俺に抱きついたままだ。

 

「……いや、知らねぇな」

 

「私は貴方の事を知っているよ。世界一の殺し屋リボーン。呪われた赤ん坊アルコバレーノ。そしてトリニセッテや鉄仮面の男のことも」

 

「っ!? お前、どこでそれを!!?」

 

トリニセッテと鉄仮面の男という言葉にリボーンの表情は一変した。危機迫った様子で神織の首根っこを掴み上げ、壁に押し付けた。

 

神織は気にした様子も無く、ただ静かにリボーンを見つめている。そこで俺が慌ててリボーンと神織の間に割って入る。

 

「まてまて! リボーン落ち着けよ!」

 

「くっ!」

 

リボーンは歯を食い縛りながらも、いくらか冷静になった。あいつがこんなに過剰に反応するなんて、神織は本当に何者なんだ?

 

「綱吉、これだけは信じて。私は貴方の事を愛している。そして私と綱吉は必ず昔会っていることを」

 

そう言い終えた神織は何故かその場から姿を消した。文字通り、幽霊のように姿が薄くなり、消えてしまったのだ。

 

俺はモヤモヤした気持ちで学校の宿題を終わらせて、夕食になったので、下に降りた。リボーンは散歩に行くとかで居なくなった。

 

夕食を食べている間、珍しく食卓は静かだった。ビアンキは毒料理の材料調達でイタリアに帰ってるし、イーピンと

ランボとフウ太は京子ちゃんとハルのお泊まり会に参加するとかで、留守にしている。

食事を終えて、俺もたまには外に出ようかな、と思ったら、突然目の前からバズーカが飛んできた。咄嗟に避けようとしたが、何故か体が動かず当たってしまった。

 



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十年後、来る

 

バズーカに当たり、意識が飛んでいたが直ぐに目を覚ますと、目の前が真っ暗だった。それに息苦しくて、前に手を出すと、壁のようなものがあり、それを押し出すと、それが取れた。

 

すると青空が見えた。起き上がって、そこから出ると自分は棺桶の中にいたことに気付いた。一瞬だけ驚いたけど、もしも自分がマフィアのボスになっていたら、きっと死んでるんだろうな、と思った。

 

おそらくバズーカの正体は十年バズーカで、それは何者かの意図で使われたのだろう。ランボがこんなことするはずはないしな。

 

よく見たら、棺桶に俺の名前が書いてあった。なんてこった、やっぱりマフィアのボスは短命だな、と思いながらも、あまりショックは受けていない。

 

何となく超直感分かっていたことだからな。

 

そう思っていたら、ガサガサと森の茂みが揺れる音が聞こえた。俺は即座に持っていた荷物からXグローブと死ぬ気丸を取り出して、飲み込む。

 

瞬時に超死ぬ気モードになると、両手の炎を噴出させて近寄った。そこには成長した姿の獄寺君がいた。

 

「貴方は……そのお姿は……そうか、十年バズーカで」

 

「獄寺君、だな?」

 

俺は年のために周りに警戒しながら、超直感で獄寺君だということを確認した後、側に行く。獄寺君は昔よりも落ち着きがあって、頼りになりそうな雰囲気があった。

 

そりゃ、十年も経って駄犬のままじゃ、こっちも困るけど……彼はとても悲しそうな目をしていた。俺の死と関係しているんだろうな。

 

俺のせいでこんな顔をさせていることに、罪悪感を覚えながら、とりあえず話を聞くことにした。

 

「すまないが、手短に聞きたい。どうして十年後の俺は棺桶で眠っていた?」

 

「十代目はミルフィオーレファミリーというボンゴレファミリーと敵対する組織によって、公開銃殺されました」

 

「そうか」

 

ミルフィオーレファミリー、牛乳とハチミツを混ぜた飲み物みたいな名前だな。そう思いつつ、獄寺君の悲壮感にまみれた顔をしながら、俺の肩を掴んだ。

 

「十代目、過去に戻ったら、入江正一という男を消してください」

 

「入江正一がミルフィオーレのボスか?」

 

「説明している時間はありませんが、ミルフィオーレのナンバー2です。十代目を殺した張本人です」

 

「分かった、殺すかは別として、お前の言葉……しっかり受け取った。だが、どうやら消えるのは俺ではないらしい」

 

「え、それはどういう……」

 

獄寺君からの情報を聞き終えた後、俺はなんとなく自分が消えるのではなく、獄寺君が消えるのではないかと直感した。

 

そしたら、獄寺君が煙に包まれた。すると、そこから俺の知る獄寺君が出てきた。

 

「あれ、十代目!? ここは……?」

 

「ああ、ここは十年後の世界だ。お前も十年バズーカによって、未来に飛ばされたようだな」

 

獄寺君は俺が超死ぬ気モードになっていることに驚いていたが、俺はとりあえず状況を軽く説明した。それを納得した彼は落ち着きを取り戻した。

 

「なるほど、そうでしたか。……オレの馬鹿野郎が!! 十代目を守れず、殺されるなんて右腕失格だ!」

 

そう言うと、彼は自分の頬を全力で殴っていた。そんな自傷を見逃すはずもなく、俺は獄寺君の拳を受け止めた。彼は驚いたような目をしていたが、諭すように優しく語りかけた。

 

「獄寺君、落ち着け。俺はお前にここまで想われていて、幸せだったよ。それに最終的に未来の俺が招いた死だ。今は自分を責める時ではない。目の前の状況を打破することを考えろ」

 

「十代目……」

 

俺の言葉に獄寺君の瞳に力が戻ってきた。そして切り替えるように自分の頬を叩いて、気合いをいれていた。そこでようやく、ハッとした様子だった。

 

「十代目はここに来てどのくらい経ちましたか?」

 

「十分はとっくに越えている。だが」

 

「元の時代に戻られていない……。異常事態が起きていると見て良いですね」

 

そうバズーカの効果はとっくに切れているのに、俺は元の時代に戻れていない。その原因は故障しているか、または第三者の力による影響を受けていると見ていい。

 

そして木の上から見知らぬ気配がするな。俺たちの事情を知っている者かもしれないが、ここは様子見として獄寺君にダイナマイトを投げさせよう。

 

「獄寺君、あの木の場所にダイナマイトを投げてくれないか? 威嚇程度にな」

 

「え? は、はい任せてください!! ……食らいやがれ、二倍ボム!!」

 

彼は俺に頼られたことが嬉しいのか、尻尾があるとすれば千切れる勢いで振っているであろうテンションが上がった表情で、両手のダイナマイトを俺が指示をした木に投げた。

 

ドガァン! という耳を塞ぎたくなるような大きな爆発音と共に煙がある。そこから藍色の炎が噴き出してきた。

 

俺のとは違う色の死ぬ気の炎だった。

 

そしてそれを出している正体はローブを着た人物、ローブ越しだがフォルムが柔らかいから恐らく女性だろうな。

 

「ボンゴレの日本支部を見に来てみれば、何故貴様らごんな姿になっている?」

 

「何者だ、テメェ……」

 

「……」

 

やっと平和な日常が戻ったかと思えば、また争いの世界に身を投じなくてはいけないのか、と思わず眉にシワを寄せてしまう。

 

それにしても、俺は目の前にいる女性に見覚えがあった。あのゴーグル越しから見える痕……確かリボーンと同じおしゃぶりを持っていた赤ん坊の女の子……確か名前は。

 

「ラルミルチ、なの?」

 

「……オレの名前を知っているのか?」

 

「だってリング争奪戦で修行している時、様子を見に来ていたよね?」

 

「……そんな昔の話、覚えているはずがないだろ」

 

俺が超死ぬ気モードを解くと、彼女も戦意を無くして武器を下ろしてくれた。獄寺君も俺が警戒を解いたので、同じく戦闘態勢を解いた。

 

それにしても、ラルミルチは赤ん坊だったはずなのに、物凄く美人になったな。スタイルも抜群で、本当ならお嫁さんにしたいくらいなんだけど。

 

「……何をジロジロ見ている」

 

「あ、いや……ラルってこんなに美人だったんだなぁ、て。あとお嫁さんにしたいなぁ、てね」

 

「なっ!? 馬鹿者!! こんな状況でそんなことを言うな!!」

 

俺が素直にそう言うと、ラルは顔を少し赤くしながら、俺の背中を全力で叩いた。バシーン! といい音が鳴った。これは多分、背中が紅葉形に赤くなっているだろうな、と思った。

 

それから俺たちはラルに十年バズーカにより飛ばされてきたことを話した。そしてラルからはミルフィオーレファミリーにより、世界が支配されているということ、守護者がバラバラになっていることを知った。

 

「仕方ない。この森から日本のボンゴレアジトからは、まだ遠い。今日はここで野宿をするぞ」

 

ラルも予想外な出来事だったようで、今日は日も暮れているということで、この森で野宿をすることになった。まずは食材を探すために、ラルは川へ、俺と獄寺君は森に食料を探しに行った。

 

森が広かったので途中で獄寺君と二手に別れることにした。その途中で背後から人の気配がして、振り向くと、そこには神織の姿があった。

 

「神織?」

 

「綱吉……さっきぶりだね」

 

神織は相変わらず無表情のままで、俺に近寄り抱きついてきた。それにも、なんか慣れちゃって、特に思うことはない。

 

それをしばらくしたら、神織は俺から離れた。そして懐を探ると、不思議な匣二つとリングを取り出した。

 

「これを貴方に預けておく。必ず使う時が来るから、それは誰にも見せないで」

 

「えっと、分かったよ。神織、俺たちと来ないの?」

 

神織のことが何故か無性に心配になり、そう問いかけると初めて神織はくすり、笑った。そして優しげな笑顔のまま、俺に再びキスをした。

 

「綱吉のところには行けないけど、私と貴方はいつでも繋がっている。それを忘れないで」

 

そう言い終わると、また幽霊のように姿が薄くなり、そして消えてしまった。俺は別れの言葉も言えずに立ち尽くすと、このままいても仕方ないと思い、動き出した。

 

超直感で食えそうな木の実やキノコを取ってきて、合流地点に戻った。だけどまだ二人とも戻ってきて無かったので、俺は先ほど受け取ったリングと匣を眺めていた。

 

リングはボンゴレリングみたいな形をしていて、星の模様みたいなのが入っていた。一応首にはリングが下がっていて、指が空いているから、はめてみた。

 

すると炎が灯った。死ぬ気モード以外で炎を見るのは初めてだったから 、少しだけ動揺したけど、直ぐに落ち着いて、眺めた。

 

橙色と青色が混ざったような炎で、不思議な感覚だった。何となく、匣に空いている穴に炎を注入してみた。すると、匣が開いて、そこに俺は飲み込まれた。



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過去の遺産、来る

 

謎の匣に飲み込まれた俺は空に浮かんでいた。それはXグローブで飛んでいる時とは違い、重力がないような、そんな浮遊感を感じながら、下を見た。

 

「これより自警団ボンゴレの10周年を記念して、パーティーを行う」

 

「と言っても、貴族サマみたいな上品なもんじゃないがな」

 

「バーベキューだなんて、楽しいではないでござるかG」

 

そこには初代ボンゴレのボスと守護者たちがバーベキューをしていた。それぞれが楽しそうに笑い、自由に話していた。

 

「究極に肉が焼けたぞ」

 

「俺様が調達した肉だものね」

 

神父らしき男性が肉を焼き、ランボに似た男が肉を食べている。そんな光景を見ていたら、とても温かくて、懐かしい気分になった。

 

『ここは初代ボンゴレファミリーの記憶です』

 

「え?」

 

そこに俺の隣へ音も無く一人の女性が姿を現した。神織によく似ているけど、聖母のような優しい微笑みを常に浮かべている。

 

『私は初代コスモスファミリーのボスにして、ボンゴレⅠ世の妻である、ユリアと申します』

 

Ⅰ世の奥さん……それでこの人から懐かしい感覚がするのか。それと同時に物凄く深い憎しみが溢れてくる。それは彼女に対してではなく……彼女を殺した者への憎しみだ。

 

『少し、昔話をさせてください』

 

「……はい、どうぞ」

 

『昔、まだ戦争が絶えず起こり、平和の世から程遠かった時代に一人の少年がいました。その人は心優しくて、正義感が高くて、誰よりも争いが嫌いでした』

 

目の前の風景が変わり、Ⅰ世の少年時代の姿が見えた。一人でいながら、困っている人を助けたり、人を襲っている犯罪者を倒して、周りから感謝されていた。

 

『そこで、少年は自警団を建てました。その名前はボンゴレ。最初は友人のGと共に少年は始めた自警団でしたが、同じ志を持つ者たちが現れ、輪は大きくなりました。そしてとうとう一つの組織と呼べるくらいにまで成長しました』

 

また風景が変わり、今度はⅠ世が先ほどバーベキューを一緒にしていた仲間たちに囲まれて、笑い合っていた。それがとても嬉しそうで、まさに平和に近付いている感じだ。

 

『ところが……その平和も長くは続きませんでした』

 

パリン、と硝子が割れるような音をたてて周りのものがバラバラになった。そして最後は砕け散り、消えてしまった。

 

次の瞬間には肌を焼き付けるような炎が城に広まっていた。ここは多分ボンゴレの本部だ。何人もの焼死した死体が見えるし、絶叫が聞こえる。

 

『何者かによって、本部に火を放たれ、更には混乱に乗じてファミリーのボスと守護者の妻子は殺されてしまいました』

 

「そんな……」

 

城の前には全身に槍、矢、銃などが大量に突き刺さり、もはや人間の原型を留めていないながらも、門を守るように立ちふさがっている女性の死体があった。

 

城の奥には五体を斬られて、バラバラになった女性の死体があったが、周りの敵らしき者たちも全員食い殺されていた。

 

城内の地下には拷問をされて、鎖で宙吊りにされ、全身にあらゆる拷問の痕を残しながら絶命していた女性がいた。恐らくボスの居場所を聞き出されそうになったのに、口を割らなかったのだろう。

 

城の廊下には二人の女剣士が相討ちで死んでいる姿があった。お互いの目にはうっすらと涙の痕が残されていた。

 

城の裏口には変死した敵がたくさんいたが、一ヶ所だけ血の海になっている場所があり、そこに人の姿はないが、多分そこに一人の女性が死んでいる。

 

そして森の中を見て絶句した。

 

数万、数十万、数百万以上の敵が殺されていて、血塗れの女性は死んでいるのに、今もなお体を動かして、なにもない場所を靴の刃で蹴って、ボスの追っ手を倒そうとしていた。

 

最後にⅠ世が暮らしていた家には腹を切り裂かれ、そこにいたであろう赤ん坊を取り出され、絶命していたのは……俺の隣にいる女性だった。

 

『今見てきたのは、私の守護者たちです。私のために命をかけて守ってくれました。しかし、私はとある人物によって』

 

「そう、だったんですか」

 

『そしてここからが本題ですが、貴方は何度も死んではループしています』

 

「は?」

 

ユリアさんは自分の死について話した後、そんなことを言ってきた。俺が何度も死んでループしているなんて、にわかには信じがたい。

 

だけど、超直感は彼女が嘘をついていないことを示していた。

 

『貴方には分かるはずです。もう答えを持っている人に出会っている』

 

「……神織、唯那」

 

『そうです。彼女は私の唯一の後継者にして、コスモスファミリー二代目ボスです』

 

「コスモスファミリーの二代目ボスが……神織」

 

『そうです。そして貴方は無限ループの最中にいる。今記憶を戻しますが、ショックで死なないように少しずつ流しますから』

 

そう言って、ユリアさんは掌を俺に触れようとした時、何かが弾いた。俺のリングに炎が灯り、そこからはⅠ世……つまりプリーモが出てきたのだ。

 

プリーモは厳しい表情をして、俺を抱き寄せてマントで隠した。なんだか雰囲気も怖いし、何があったのだろうか。

 

『ユーリャ、まだ運命の試練はⅩ世(デーチモ)には早過ぎる。彼はまだ子供であり、純粋な心が負うショックは計り知れない』

 

そう言って、ユリアさんのことを愛称で呼びながら、プリーモが彼女のことを諭している。運命の試練とか、気になることは山積みだけど、ここは様子を見守ることにしよう。

 

『復讐心に囚われていた貴方がよく言いますね。確かに先に旅立った私が悪いのですが、甘さが過ぎますよ。一刻の猶予も今は無いのです』

 

プリーモに反論するようにユリアさんが言うと、彼は痛いところを突かれたように押し黙った。そしてユリアさんは俺の方に顔を覗かせた。

 

『ボンゴレファミリー十代目ボス・沢田綱吉。邪魔が入りましたが、これから今まで蓄積された記憶を少しずつ流します』

 

そして今度こそユリアさんは俺の頭に掌を乗せて、そこから青黒い色の炎が伝わってきた。すると、頭の中に少しずつ流れてきた。

 

──私、綱吉君が好きなんです!

 

──きゃー! 綱吉君が私のことを襲った!!

 

俺が並盛中学の屋上で誰かに告白されて、それを断ったら彼女が自分自身をナイフで斬って叫んだ。そして屋上にたくさんの生徒たちがやって来る。

 

彼女が泣きながら嘘をつけば、何の疑いも無く彼女を信じて、俺は女を襲った最低な野郎として、ボコボコにされた。

 

殴られ、蹴られ、ナイフで斬られ、焼かれて、とにかくあらゆる暴力が襲ってきた。それだけではない。

 

──十代目がそんな野郎だったとは、この裏切り者が。

 

──ツナ、いや沢田お前最低なのな。

 

親友だと思っていた獄寺君と山本にも信じて貰えず、俺は彼らからも暴力を受けた。他にも風紀を乱したということで雲雀さんに殺されかけ、家ではリボーン以外の母さん、ビアンキ、フウ太、ランボ、イーピンにも信じて貰えなかった。

 

他にも了平さん、黒曜中の骸とクローム、コロネロ、ボンゴレ、とにかくたくさんの人たちに裏切られていた。

 

「おぇ、おえぇぇぇっ!!」

 

それだけで、びちゃびちゃ、と俺は地面を這って嘔吐した。俺よりも、あんな数日だけ会ったような女の方を信じた全員が信じられなかった。

 

いや、信じたくなかった。あんな暴力振るわれて、あの優しい母さんにさえ、食事を与えらて貰えない虐待を受けて、弱りきっていく自分を見たくなかった。

 

それでも流れ込んでくる。

 

──ランボさんはツナのこと大嫌い!!

 

──極限に貴様には失望したぞ沢田!!

 

慕ってくれたランボと俺のことを好いてくれた了平さんからの拒絶の言葉。彼らから電撃や拳の暴力を受けて、傷ついていく自分。

 

──クフフ、所詮は貴方もクズでしたね。

 

──ボス、最低。

 

霧の二人からも幻術で苦しめられ、眠れない日々が続いて目の光が失われていく自分。

 

──風紀を乱す君は咬み殺す。

 

なんか雲雀さんだけは平常運転な気もするけど、それでも大して調べもせず、決めつけて殺されかけた自分。

 

そして、俺が守ろうとしてきた女の子たち。この非日常に巻き込むまいと、必死に庇ってきた彼女たちにも。

 

──ツナ君、本当に最低、貴方のこと嫌い。

 

──ツナさん、さよならです。

 

それを見せられた瞬間、俺の中にナニカが壊れた。自然と超死ぬ気モードになり、いつもとは違う真っ黒な炎が溢れ出す。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

俺は暴れた。ここが空想の世界であることも気にせずに炎で森を焼き払い、地面を拳で切り裂いて、蹴りで空を真っ二つにした。

 

『落ち着けデーチモ!! これは過去の話だ!! 今は起きていない!!』

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

俺はプリーモに羽織り絞めにあおうが、暴れた。とにかく感情のままに破壊衝動のまま数時間暴れた。



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孤高の浮雲、来る

暴れて数時間、ようやく俺は正気を取り戻した。地面に座り込んで、もうこれから何を信じれば良いのか分からなくなった。

 

あの出来事は未来から帰って来た後に起こるらしいが、あんなもの回避のしようがない。どう足掻いても絶望だ。

 

ユリアさんはこんなものを見せて何がしたいのか。俺を絶望させて、死なせるためか? それとも別の目的があるのか。もうそんなことはどうでも良く思えるくらいに、疲弊していた。

 

「ユーリャ!! だからデーチモには早いと言った!! これで彼の心が壊れた時には、お前とて許さない」

 

「落ち着いてください、ジョット。これくらいで折れてしまっては、大いなる運命をはね除けることは出来ません」

 

俺はユリアさんに頭を撫でられると、何故な心が落ち着いていく。これも彼女が何かしているのか、それとも別の何かなのか。

 

「精神安定の加護を与え、そして少し力の枷を外しました。この記憶を持ったまま一度外の世界を見てください。少し経ったら、また招待します」

 

どんどん意識が遠くなり、目の前が真っ暗になっていく。そして完全に意識が無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目を覚ました時、俺が見たのは見知らぬ天井だった。横を見ると京子ちゃんとハルがベッドにもたれかかって寝ていた。それも十年前、俺が知っている二人だ。

 

今は精神が安定していて、冷静でいられるが、これからの未来では裏切られるんだよな。そんな未来にならないように、頑張らないと。

 

そこへ自動扉が開かれて、ラルが入ってきた。ところどころ傷が見られるが、無事なようだ。

 

「目を覚ましたか」

 

「うん、どのくらい時間経った?」

 

「一週間だ。林の中で倒れていた時は肝を冷やしたぞ」

 

「心配かけてごめんね。ここはどこなんだ?」

 

俺はベッドから静かに起き上がって、ラルと部屋から出た。少し体が重たいけど、なんとか動かせる。

 

ラルの話によると、ここはボンゴレの日本支部であり、ジャンニーニが作った秘密基地らしい。ここには獄寺君、山本、京子ちゃん、ハル、十年後のフウ太とビアンキ、ジャンニーニ、そしてリボーンがいるらしい。

 

その他の守護者たちは行方不明らしい。

 

「沢田、貴様に何があった? あんなところで倒れていたのも不自然だし、何より貴様の目は……」

 

「目?」

 

ラル言葉に俺は首を傾げる。

 

「……いや、なんでもない」

 

ラルは俺から視線を逸らすと歩く速度を早める。それに付いていこうと俺も足を早めようとしたら、足がもつれた。

 

そういえば一週間ずっと寝たきりだったんだから、体が上手く動くはずもなく、前のめりに倒れそうになる。それで自然と手が前に出て、何かを掴んだ。

 

むにゅん、というプリンのように柔らかくて、餅のように弾力がある感触が伝わってくる。これは一体何だ、と目を開けると、ラルの胸を両手で揉んでいた。

 

「んん」

 

ラルは頬を少し赤く染めながら、媚声を押し殺していた。ラルってそこそこ大きいけど、感じやすいのかな。そう何故か冷静に思いながらも、俺は慌てて両手を引っ込めた。

 

「ご、ごめん。足がもつれて、手が当たっちゃった」

 

「……貴様が一週間寝たきりだという事情が無ければ、八つ裂きにしているところだが、まぁいいだろう。それよりも、行くぞ」

 

なんとかラルに許してもらえた。

 

 

監視ルームという並盛全体の映像が見られるところに行くと、ジャンニーニとリボーンの姿があった。リボーンは真っ白なボディスーツを着ていた。

 

「ツナか、もう体調は良いのか?」

 

「ああ、大丈夫。それよりもお前も未来に飛ばされてたんだな」

 

「まぁな。外はノン7³(トゥリニセッテ)で汚染されてて、オレたちアルコバレーノは外に出られねぇから、ずっとここにいるけどな」

 

リボーンは前よりも顔色が良くなってて、調子を取り戻したようだ。そういえばラルもアルコバレーノなのに、外に出てたよな。

 

そう思っていたら、リボーンが俺の肩に飛び乗って、ラルのおしゃぶりを指した。そこには半透明なカプセルみたいなものがあり、それがおしゃぶりを覆っていた。

 

「あれでノン7³という害悪から守ってるんだぞ。それにラルは特別なんだ」

 

「なりそこない、とも言うがな」

 

ラルはそう言うと、どこか遠い目をしていた。何か事情がありそうだから、あえてここは突っ込まない。そして俺は監視カメラの映像を見た。

 

並盛の住宅街には怪しい人間が何人もいて、とても危険な状態のようだ。それにしても獄寺君と山本の姿が見られない。

 

「二人は雲雀の行方を探すために、並盛神社へ向かったぞ」

 

「こんな危険なところに二人を行かせたのか?」

 

俺は静かに、だけど確かな怒りを滲ませながら、リボーンを睨んだ。やつはポーカーフェイスのまま、俺から視線を逸らして、頷いた。

 

頭では分かっている。自分は倒れたままで、まともに動けるのは山本と獄寺君だけしかいないことぐらい。これは自分への怒りを八つ当たりでぶつけているだけだ。

 

「………ちくしょう」

 

なんて自分は弱いんだ。こんなことでは全員が俺を裏切るのも当たり前だ。このままでは、どんどん俺から人が離れていく。

 

そして俺はあの未来みたいにリンチにされて、最後は精神が病んで死んでしまうのか。

 

「沢田、顔色が悪いぞ。やはり無理をし過ぎだ。今は休め」

 

「いや、俺も直ぐに向かう」

 

懐から死ぬ気丸を出して、直ぐに飲み込み、ボゥ、と額に炎が灯った。超死ぬ気モードになり、グローブを着ける。ラルの心配する気持ちはありがたかったが、やはり俺はこのままでいちゃダメだ。

 

自分が死んででも、彼らだけは守って見せる。

 

「ツナ、おめぇは大人しく休んでろ。もうすぐ戻ってくる」

 

「映像から二人の姿が見えない。一部のカメラが霧の炎により細工されている可能性もある」

 

そう言いながら、俺は歩き出そうとしたが、また意識が遠くなり、ふらりと倒れそうになる。今回は踏ん張って、倒れない。

 

「はぁはぁ……」

 

「ダメツナ、たった数秒で息が切れてきているじゃねぇか。今のおめぇが行っても、足手まといになる」

 

「分かってる!! そんなことは!! でも、行かないと二人が!!」

 

「その必要は無いよ」

 

俺がリボーンにそう叫んだ後、部屋の入口から聞き覚えのある人物の声が聞こえてきた。そこには十年後の姿になった雲雀さんが、いつもの獄寺君と山本を背負ってやって来ていた。

 

「ご苦労だったな、雲雀」

 

「雲雀……さん」

 

二人の姿を見て気が抜けてしまい、俺は超死ぬ気モードを解除した。そして地面に座り込んだ。もう頭が痛くて、目の前がボヤけてきた。

 

「ワォ、キミ本当に沢田綱吉かい? その目は」

 

まただ。

 

ラルが行っていたように、雲雀さんも俺の目がどうとか、と指摘してきた。俺の目がなんだと言うのだ。そう思いながらも、既に限界を超えた疲労感で倒れた。

 

「沢田!!」

 

「ラル、わりぃが、ツナを個室に運んでやれ。そして手を目が覚めるまで、握ってやれ。おめぇもツナがおかしいのは気付いてるだろ?」

 

「……分かっている」

 



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