輝神機のヒーローアカデミア (自己顕示欲MAXマン)
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1話・とる気も無かった弟子の親父の圧力がすごい

 「神機くん、悪いね。今日も手伝ってもらって」

 

 「別にいいですよ。力仕事は得意ですし、俺もちゃんと給金頂いてますから。」

 

 建築現場での作業中、区切りの良い所で親方が声をかけてくれる。中学生の俺を日雇いで雇ってくれているだけでも大恩なんだ。これ以上、感謝の言葉を言われても困りますよ。

 

 「いやいや、殆ど仕事のない俺の会社じゃ常に従業員をおいておく余裕がなくてね。そんな中、声かけて直ぐに来てくれる男手があると本当に助かるんだよ。そこらの男よりも力もあるし。真面目だし。」

 

 と、腕を組みながらウンウンうなずく親方。

俺の体は全体的には細身だが、タンクトップから覗く体つきはかなり引き締まっている。実際鍛えているし、俺の目指すヒーロー像に筋力は必要不可欠。だからこそ、力仕事で働きながら給金を貰えるこの現場は俺にとっては願ってもない環境だ。

 

 「しかし、雄英志望か。受かっちまったら寂しくなるなぁ。娘も雄英に行くって言ってるし、従業員と娘が同時に上京しちまったら…」

 

 そう話しながら肩を落とす。雄英試験も目前に迫っており、勉強や個性の特訓も必要だ。が、俺には目先のものが必要だ。受かれば奨学金制度を利用して入学する予定ではあるが、出来ることはやっておく。…噂をすれば、娘さんが来ましたよ

 

 「父ちゃんと神機君おつかれ!冷たい麦茶持ってきたよ!」

 

 そう言って、ショートボブの女子『麗日お茶子』が飲み物を持ってきてくれた。キンキンに冷えた麦茶を飲み干していくと、体全体に染み渡るように冷たさが広がっていくような感覚になる。

 

 「くはぁ…うめぇ。ありがとな」

 

 「全然ええよ!今回も急やったのに来てくれて助かった!」

 

 ニカッと笑う。日雇いの求人を見て、面接に行った時にたまたま事務所で出会ったのがファーストコンタクトだった。そこからは同じ学校であると知ると、急な人手がいる場面で連絡を取るようになり、気づけば仲良くなっていたという状態だ。

 

 「お茶子…本当に雄英に行くのか?父ちゃん寂しいから近場のほうが…」

 

 「もう!またその話?」

 

 親方は可愛い娘を一人で上京させたくないみたいだ。確かに、まだまだ若い女の子を一人で…と言うのにはどこの親も同じような心境になるだろう。まぁ、家庭の話をあまり聞きすぎるのも良くないだろう。

 俺は木材置き場の空いているスペースへ移動し、型の確認を行う。俺の個性は強化型のため、ヒーロー改め、師匠から教わった拳法が全てなのだ。日々の鍛錬と型の確認は日課であり、基本である。

 

 「いっつもいっつも真面目やね」

 

 型の確認から、イメージ通りの動作か確認をしている所で麗日が声をかけてきた。木材に腰掛け、頬杖をついている。俺にとってはこれが目指すべきスタイルだからな。

 

 「目指すべきスタイルって言うんは、この前話してくれたヒーローのこと?」

 

 あぁ。泣くことしか出来なかった俺に、ヴィランに立ち向かう術とヒーローの凄さを教えてくれた人だ。他のヒーローの事は正直言うと興味ない。俺のヒーローはあの人だけだからな。俺もあの人みたいになるんだ。

 俺の話を聞いて「立派な人やったんやね」と笑う。少し遠慮気味に笑っているのは、ヒーローを目指す理由に『お金を稼いで家族の生活を楽にしてあげたい』という、金銭が動機に入っている後ろめたさがあるからだろう。俺の話をしたときに教えてくれた。

 

 「師匠は立派なヒーローだ。今はどこで何をしているのかもわからないけれど、きっと俺と同じように泣いてる子供達を助けてるに違いないさ。」

 

 そう言って、一通りの基礎を終えた所で麗日を手招きする。わざわざ今回の現場に着いてきたのにも理由があるんだろ?そう言って口元をニヤリと上げると申し訳無さそうに「バレタカー」と頬をかく

 

 「ジャージで来てる時点でバレバレだよ。ヒーローになるなら、体術は覚えておいて損なんてないからな。特に、お前の個性だと接近戦で相手に触れれば、ある意味勝ちなんだからな。俺も相性が悪い」

 

 そう話すと「えへへ~」と笑う。いつもニコニコと笑顔が絶えないのは良い事だ。今からクッタクタの顔になるんだがな。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 「今日はこんくらいにしといてやるよ」

 

 「あ………ありがとうございました…」

 

 礼と同時に前のめりに倒れ込む。俺も汗をタオルで拭う。今日もいい運動になった。汗かいてるんだから倒れ込むと砂まみれになるぞ。

 

 「もう、そんなん気にする余裕あらへん…。今日も一回も触れんかった…」

 

 当たり前だ。こっちは触られたら負けっていう俺ルールで動いてるんだからな。それにしても、同じ雄英志望とわかるやいなや「私にも教えて!」と迫ってくる麗日に気圧されて、了承してしまった事を最初は後悔したが…この根性を見ていると、今では吝かではない気分ではある。

 

 「今更になって聞くんやけど、その拳法なんていうん?」

 

 「俺も教えてもらえなかった。そもそも、師匠は基礎を丁寧に教えた上で『此処から先は自分で型を見つけろ。十人十色がワシの教えだ』って言って、模索するしかなかった」

 

 よっこいしょ…と言いながら、地べたに座り直す麗日。ほっぺにも砂がついているが、ジャージも砂だらけになっている。…あんまり汚されると俺が親方に「随分、熱心に教えてくれたみたいだな」って無言の圧力が来るんだぞ。

 

 「大丈夫大丈夫。父ちゃんにはちゃんと話してるから!でも、最初の頃に比べたら大分惜しい場面も出てきとるし、もうちょっと!って感じ!」

 

 グッと両手を胸の前で握り込む。元々、運動神経がいいんだろう。飲み込みも早く、柔軟な発想力から裏をかくようなフェイントもあった。将来性は十分にあると思う。これなら実技試験が組み手とかでも十分通用するだろう。

 

 

 「あ~、でも試験まであと1ヶ月ほどやね。神機君は緊張してなさそうで凄いなぁ…」

 

 んなわけねぇだろ。緊張してるよ。ただ、何かしてないと不安で耐えられないんだよ。お前もそうなんだろ?。麗日に目線をやると、ニコニコした笑顔が曇り、不安そうな表情になる。

 

 「確かに不安やけど、なるようにしかならんよ!やれることはやったって、胸を張れるように頑張るだけ!」

 

 そういいながら、さっきまでの不安そうな表情を隠すかのように笑った。

 大丈夫だよ。お前なら受かる。まぁ、俺も落ちる気はないけどな。お互い、ラストスパート頑張ろうぜ。 

 

 「うん!お互いにファイト!やね!!」

 

 そう話していると「そろそろ帰るぞー」と親方が呼ぶ声が聞こえた。麗日の姿を見てジロリと視線を向けられたが「今日もあかんかった~」と笑顔で話す娘を見て今回も許してはもらえたそうだ…。

 

 雄英試験…流石に怪我しては元も子もないから、試験日までは勉強のおさらいと鍛錬だな。師匠に会えるなら会って助言を頂きたい所だが、かれこれ姿を見なくなって5年になる。…いや、会えなくても俺の理想は常に原点と共にある。まずは雄英試験合格。その為にやれることを積み重ねるだけだ。

 

 



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2話・ぐちゃぐちゃの心と授かった何か

 今日は雄英受験日。田舎から雄英のある場所までは結構な距離があるため、新幹線での移動になる。…予定であったが、親方が麗日を車で送るついでに俺も送ってくれるみたいだ。

 

 「親方、ホントにありがとうございます。新幹線代も馬鹿にならないんで。」

 

 「別に構わないよ。一人も二人も変わらんし、今まで頑張ってくれた従業員にこれくらいはさせてくれ」

 

 そう言いながらにっかりと笑った。助手席に座っている麗日はガチガチに緊張しているわけでもなく、落ち着いた雰囲気だ。

 かく言う俺も思ったほど緊張はしていないようで、どちらかと言うと実際の雄英を見に行くという高揚感の方が勝っている。柄ではないけど、口角が上がっているのがわかる。

 

 「神機君は笑うと怖さが増すよね。笑い方直したほうがええよ」

 

 俺が雄英に心を踊らせていると、助手席から後ろを覗き込む麗日がいた。自覚してるさ。髪型も横刈り上げのツーブロックからのオールバックで、目付きが悪い。長身も相まって子供からは怯えられることが日常だよ。

 

 「損しとるよね。神機君、不器用やけど優しいのにね」

 

 ニヤニヤと見るな。麗日は勘違いしてるみたいだが、むしろ、俺はこいつに厳しい鍛錬しかしたことはない。優しさを見せた覚えなんてないのに、なんで評価が『不器用だけど優しい』に位置づけられているのか。全く心当たりがない。

 俺が黙ったのを見てなのか「神機君は笑顔は直さなあかんけど、性格は今のまんま、不器用な方がええよ!」と言われ、前を向かれてしまう。……運転している親方から何となく威圧感を感じるが、気にしないことにしよう…。そして、俺は雄英到着まで少しの仮眠を取ることにした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 「黒機!早く走れ!神機もだ!!」

 

 あぁ、これは夢なのだと一瞬で理解した。あの日から見る回数は減ったとはいえ、忘れた頃に思い出す。まるで初めての片思いの相手と、忘れた頃に夢で再開するような感じだ。

 家族と二度と会えなくなった元凶の日だ。

 

 俺の父さんと母さん。そして、俺と兄さんが倒壊していく建物から逃げるようにひたすらに走る。強力な増強型個性を持ったヴィランによる無差別な虐殺と大災害だった。そして、何度見たかわからない場面へとシーンは進んでいく。

 

 「あなた!危ない!!」

 

 上から降ってくる大きな瓦礫を、両手で支えるように母さんは個性で留める。が、あまりの重量に長くは持ちそうにない。そして、そんな母さんを置いていくような父ではない。

 

 「大丈夫だ!これくらいの瓦礫なら俺の個性で!!」

 

 右手に光が集まり、瓦礫を殴りつけるとコンクリートを粉砕する。俺は、こんな危機的状況なのに親の姿に見惚れていた。間違いなく、今この瞬間は、どんなヒーローよりもかっこいい両親だった。だが、瓦礫は無情にも降り注ぐ。家族全員を飲み込むように容赦なく降りかかる絶望の塊。

 

 「黒機!神機!走れ!!俺と母さんがなんとかする!ちゃんとついていってるから、後ろを向かず走れ!!」

 

 そして、俺と兄さんは走り出した。後ろからは父さんと母さんの呻くような声が時々聞こえながらも、家族みんなで走っていることが分かった。

 

 

 

 ドオオオォォォォン!!

 

 

 

 一際大きな揺れが起こった。次の瞬間、俺は後ろから思い切り突き飛ばされた。逆くの字になるように前方に飛ばされ、地面を1回転、2回転と転がる。あまりの痛さにすぐに起き上がることが出来なかった。数分だったのか、数十分だったのか…痛みを堪えながら起き上がると、俺の後ろには山のように大きな瓦礫が積み重なっていた。そして、その瓦礫から上半身だけを出している父さんと、おそらく母さんであろう人物の手だけが伸びていた。

 

 「お……おとうさん!!!」

 

 すぐに駆け寄った。頭の中は真っ白だった。ぐちゃぐちゃだった。助けないと、誰かを呼ばないと、この手は誰?お母さん?、お兄ちゃんは?、お父さんが血を出してる、これからどうする…頭に浮かんでは瞬時に真っ白になる。呼吸は浅くなり、目の前がチカチカと点滅を繰り返す。平衡感覚すらも狂い始める。真っすぐ走ったつもりだったが、フラフラと左右に揺れながら何とか父親の元までたどり着き、手を握る。冷たくなり始めているのが分かった。

 

 「…神機。お前だけでも、無事で、良かった……」

 

 「お父さん!!お父さん!!」

 

 もう何を話せばいいのかも分からない。目の前の現実を受け入れることが出来ない。そして、残っている微かな温もりすら段々と熱を失い、父さんの手が冷たくなる。顔色が白くなっていくのを見ることしか出来ない。

 

 「……神機。お前は、ヒーローが好きだったな」

 

 息も絶え絶えに話す父の言葉が、子供ながらに最後の言葉になると分かった。大声で泣くのを何とか我慢しようとするも、嗚咽が止まらない。涙で父さんがどんな表情なのかもわからない。ただ、頷く。

 

 「お前は、父さんと、母さんの、自慢の息子だ。優しくて、思いやりがあって…泣き虫だけど、きっと立派なヒーローになる。俺と母さんは根拠もなく感じていたよ」

 

 最後の言葉だからこそ、苦しく話すのを堪えて、優しく語りかける。握る手にも力がこもる。

 

 「俺たち家族が、見守ってるぞ。そして、俺はお前を支えるために…もっと近くで見守ることにする」

 

 父親の手がより一層、輝き始める。青白い光からだんだんと赤みを帯びて、最後には真っ赤な輝きを放つ。その輝きから伝わる熱が手から腕、腕から肩、肩から胸と浸透していくのがわかる。そして、自分の鼓動に呼応するように脈打つ。

 

 「神機。俺の個性は神様から貰った個性だ。理由は話せないが、この力を、お前に授ける。」

 

 輝きが収まると、黒髪だった父さんの髪は真っ白になっていた。最後に、どこか遠くを見ながらポツリと、所々が聞き取れないような声でつぶやく。

 

 「…お前達が成長した姿を見れないのは残念だが、~~~~人生にしては本当に幸せだった。~~~には、感謝しないと……流石にもう~~は、出来ないだろうな…」

 

 何度夢で見てもここだけが聞き取れない。ただ、父さんの顔は穏やかだった。そして、この夢を見るたびに俺はどうしても怒りを抑えきれない。大災害の原因になったヴィラン。父さんも、師匠も望んでないとはわかっていながらも…このドス黒い衝動だけは忘れることは出来ないようだ…。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 「~~君!神機くんってば!!」

 

 「んが!?」

 

 女の子の声で、ドス黒い感情から一気に引き戻される。目を開けると、俺の鼻を摘んでいる麗日がニシシと笑っている。別に、普通に起こしてくれてよかったんだぞ?

 

 「普通に起こしたよ。でも、起きへんから…強行策!…うなされとったけど、大丈夫?」

 

 大丈夫だ。夢の中でライオンとパンダとハシビロコウとナマケモノを足して最後にゴリラで纏めた感じの化け物に追われる夢を見ただけだ。と、適当な嘘を付く。少し心配そうにしていた麗日だが、俺の訳のわからない話を聞いて大丈夫と感じてくれたのか「どんな夢なん!」とツッコミを入れてくれる。…その前に、お前はいつまで鼻を摘んでるんだ。離せ。

 そう伝えると、パッと手を離して「早く行こ!」と、雄英へと歩き出す麗日。さっきの夢のせいでやや心拍数が上がっているが、向かっている間に落ち着くだろう。親方にお礼を言おうと運転席へ目をやると、いつもより眼光の鋭い視線を向けられる。

 

 「え~っと…寝てすんませんでした。送ってくれて本当にありがとうございます。帰りは自腹で……」

 

 「帰りも送ってやるに決まってるだろ。んなことより…いや、何でもない。お茶子にも伝えたが、後悔のないようにがんばれよ!!」

 

 そう言って、俺と握手を交わす。手から伝わる温もりが、さっきまで見ていた夢のワンシーンと重なり一瞬フラッシュバックする。

 

 「はい。任せてください」

 

 そう言って車を後にして、俺から少し離れた所で待ってくれている麗日へと合流するために歩きだす…










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3話・唸れ必殺のシャイニングフィンガー!!

やりたいことやっと出来た…
主人公の口調も、少しずつ変わりますので。
あ!お気に入り3件ありがとうございます。


 「でけぇ…」

 

 独り言が出てしまう。

 周りを囲う、見るだけでセキュリティの頑強さをわからせてくる塀。一般で見るよりも明らかに大きなセキュリティゲート。そして何より、巨大なH型のビルの様な校舎。全てが逸脱したデザインとスケールに度肝を抜かれる。

 

 「校舎おっきいよね!アカン、ちょっとだけ緊張してきたかも」

 

 と、隣で歩いている麗日が右手を胸に当てる。確かに、この校舎を間近で見ると今から雄英の試験を受けると実感せざるをえない。しかし、緊張しようとしまいとやることは変わらないだろ?

 

 「そうやね。全力で頑張る!!」

 

 麗日が両手をグッと握り込む。そんなやり取りをしていると、目の前で爆発頭の男が緑の縮れ毛に「どけデク!!」やら「殺すぞ!」とか言っている。これから受験する学校内でそれは既にどうなんだ?

 

 受験日に喧嘩でも起こるのかと眺めていたが、そんなことはなく爆発頭は校舎へと向かっていった。結局アイツは何がしたいんだ。緑縮れ毛も萎縮してはいるようだが、雰囲気を見るに知り合いなのか?オドオドしながらも、次の一歩を踏み出した緑縮れ毛の男が盛大に足を引っ掛けて地面にダイブする…ところを麗日が個性で浮かせた。

 

 「転んじゃったら縁起悪いもんね。緊張するよねぇ」

 

 と、麗日が話し始める。おいおい、割と時間ギリギリだし今は話してる余裕ないぞ。

 

 俺が後ろから声をかけると「わっ、もうそんなギリギリか!」と振り返る。麗日は「お互い頑張ろう」と、緑縮れに声をかけて先に校内へと入っていった。ちらりと緑縮れを見ると、放心状態で直立している…かと思えば「おっおっおおおおおおお」とか言い出した。こいつと知り合いと思われるのも嫌なので、俺も足早に目的の場所へと向かった。

 

 

 

 

 校舎内に入り、受験番号の書かれた席に座る。俺は予め卓上に置かれているプリントをペラペラと捲りながら、流し読みしていく。仮想敵4体にポイント制で10分。そのうち一体は0ポイントか…なぜ0ポイントがいるのかは、誰かが質問して聞いてくれるだろ。

 

 「今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!」

 

 

 シーン

 

 

 「こいつあシヴィー!!」

 

 と、ハイテンションのグラサンが出てきた。そして、実技試験の概要説明を初めた。案の定、4体目の仮想敵については眉毛がクイックターンしてる眼鏡が聞いていた。しかし、何かとあの緑縮れは絡まれているな。あれも個性の力だったりするのか?

 4体目の仮想敵がお邪魔虫だと説明が入り、校訓の『Plus Ultra』を聞いた所で会場へと移動となった。麗日とは会場が違うため、軽く声をかけておく。

 

 「まだ、緊張してるか?」

 

 「もう大丈夫!…嘘、結構緊張してるかも…」

 

 と、力強く答えたかと思えば、表情がみるみる苦笑いへと変化していく。個人的には麗日は合格確実だと思っている。期間が長いとは言えないが、格闘技の心得があるだけでも素人と比べればその違いは大きな差になるだろう。そして、今回の内容が市街地戦。つまりは混戦と言うこと。戦う場所にもよるが、麗日の個性は触れればそれだけで相手を無力化出来る。近接戦闘を行ってくる仮想敵であれば、今の麗日なら余裕で対処できるだろう。

 

 「お前のやってきたことが、分かりやすく実感できるいい機会だ。俺は何も心配してないぞ?」

 

 そう言って、握りこぶしをゆるりと麗日の方へ向ける。意図を汲み取ったのか、不安そうにしていた表情が引き締まっていく。そして、俺の握りこぶしに答えるように、麗日も自身の拳をコツンと合わせる。

 

 「ありがと!元気でた!!」

 

 じゃあ、行ってくる!と、駆け出した麗日を見送り、俺も会場へと向かった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 いざステージを目の前にすると、かなりの広さがある。というか、街がそのまま入っているような感じだ。

 チラリと周りの受験生に目をやると、皆が様々な装備を付けている。ちなみに、俺は体全体を覆える赤いマントのみだ。服装はラフにカッターシャツにジーパンである。装備が必要ないわけではないが、貧乏学生には些かハードルが高い。他には赤髪のツンツン頭や、目が大きく猫背気味な女子。ガタイのいいたらこ唇がいる。ホント、十人十色とは言うが個性的だ。しかし、受験というのに個性を使えるからか、周りが浮足立っているようにも見える。市街地のスケールのデカさもそうだが、急に始まることも想定しておいたほうがいいかも……

 

 

 『ハイ、スタートー!』

 

 

 な。と、思考が思い切る前にスタートの合図が聞こえた。もちろん、呆けている周りを置き去りにして全力でスタートダッシュを決める。

 今回の試験は数を倒す事が前提だ。俺は機動力も戦闘力もあるが、索敵能力はない。だからこそ、まず行う行動は一つ。高所を取る。敵を知り、己を知れば100戦危うからず。至極ごもっともだ。

 個性の発現を行う。両足が青白い光を放ち、輝き始める。脚力の上昇により走る速度が上がり、そのままの勢いでビルに跳躍を行い、壁を蹴るようにしてビルとビルの間を登っていく。屋上についたら、まずは主な主戦場の把握を行う。周りを見渡せば、スタートから近い広場で早速混戦が起きていた。遅れてスタートし、まっすぐ進んだ先が戦場になった感じだな。あそこは除外だ。そこよりも奥側の広めの場所の把握と、そこへ至る道順を把握する。その際に、仮想敵の多いルートを大体記憶した所で行動を開始する。

 

 再び、両足に個性を発現し大凡の目処を立てた路地裏ルートを駆けていく。すると、壁を突き破って1ポイントと書かれた、俺よりも大きい一輪車型(1ポイント)の仮想敵が現れ『ブッコロス!』と、俺目掛けて突っ込んでくる。ぶっ殺すって…受験前にも聞いたぞ。

 速度を落とすことなく、真っ直ぐに俺自身も走る。自分よりも大きな鉄の塊が迫るも、恐怖心はない。そのままの勢いから片足に個性を集中し、瞬間的に速度を上げ懐へ潜り込む。

 ビュウウッ!と風を切る音が気持ちいい。後は、この流れで右手に個性を集めて殴ればいい!

 

 

 バガアァァァン!!

 

 

 思ったよりも脆かったようで、一輪車型(1ポイント)の仮想敵は胴体だけがすっ飛んでいく。腕や首の部品はくっついていた胴体が吹き飛んだことにより、その場に音を立てながら落ちた。この調子で、目的の広場までノンストップで行くか。

 

 

 

 

 俺の体は光っているが、マントによって隠れているため発光は抑えられている。しかし、それでも仮想敵が光に群がる虫のように引き寄せられてくる。スタートダッシュの恩恵なのか?。広場と比べると狭い道を選んでいるため、大きめの3ポイントとは遭遇しないが、その代わり1ポイントと2ポイントは入れ食いに似た状態になっている。

 

 正面にはサソリ型(2ポイント)の2ポイント敵。そして、そいつの後ろから一輪車型(1ポイント)…と、仮想敵に突っ込んでいくルートを取りながら数を数えていると、左右の壁を突き破って更に一輪車型(1ポイント)が2体現れる。4体1か。

 左右の一輪車型(1ポイント)が俺を挟むように殴りかかってくるのを、先程と同じように瞬間的に速度を上げサソリ型(2ポイント)へと向かうことで回避する。後ろではガシャア!!と、大きな音を立てて、一輪車型同士でぶつかり合う音が響く。正面のサソリ型(2ポイント)は住宅の壁をガリガリと削りながら、尻尾を薙ぎ払うようにして攻撃してきた。その尻尾に対して潜り込むように上体を落とし、上へと流すように手のひらで叩く。そして、サソリ型(2ポイント)にはその勢いのまま一回転してもらい、後ろの一輪車型(1ポイント)を破壊してもらう。背中を向けたサソリ型(2ポイント)に対し、右拳をゼロ距離でくっつけるように固定する。左手は腰の位置で握り込み、右足を前に、左足を後ろに中段の構え。触れている部分に意識を集中すると、その部分に光が大きく集まり始める。

 

 「ハッ!!」

 

 グッと力を込めると光が収縮し、サソリ型(2ポイント)の背中から全体にかけて一瞬で亀裂が走り崩れ落ちる。流石に2ポイントとなるとやや固く感じる。1ポイントは機動力重視で特に脆いようだ。

 分析をしている所で、後ろでぶつかり合っていた一輪車型(1ポイント)が改めて向かってくる。横並びで向かってくるそいつらに対して、間を取るように中心へ潜り込み、足払いをかける要領で2機の車輪を破壊する。この時点でポイントは入っていそうだが、念の為に止めも指しておく。そのついでに、ロボットのパーツから10cm程の鉄パイプも拝借しておく。念の為にだ。

 

 「これで5機。この調子で行けば、広場につく頃には20機倒せそうだな。」

 

 拾った鉄パイプをベルトとズボンの間に挟み、再び広場へ向けて走り出す。広場までは同じことを繰り返すだけだ。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 ロボットは30破壊した後から数えるのをやめた。流石に開けた場所になると、人数も増えてカオスな状態になるな。所々では他人の個性に巻き込まれたり、壊したロボットの部品が当たったりなど、怪我をしている奴もチラホラと伺える。それを監視のヒーローや救急用のロボットが人知れずに運んでいる状態のようだ。

 特に筋力増強型が厄介だ…力任せにロボットを粉砕するから部品が飛びまくって大変な事になっている。故意の妨害は即アウトとは説明会で聞いたが、あそこまで派手にやると鉄くずのショットガンみたいなもんだ。

 

 「シュガー・ラッシュ!!」

 

 ガタイのいい男がサソリ型(2ポイント)のロボットを粉砕するも、バラけきらなかった鉄の塊などが一人の女子へと飛んでいく。そいつは、怪我した受験生が巻き込まれないようにするためか背負って移動している状態だった。

 気づいた時には鉄の破片と塊が結構な速度で向かってきている。背負っている受験生を置けば一人なら逃げれるだろう。しかし、そいつがとった行動は受験生を背中から降ろし、庇うように落下物と向かい合う。人を助ける、意志の籠もった強い瞳。俺は全身に個性を巡らせ、降りかかる物体と、それに立ち向かう女子の間へ瞬時に移動し、鉄パイプを刀の居合斬りに似た構えで深く腰を落とす。

 

 「巻き込まれないように怪我人を庇え。あれは俺がなんとかしてやる」

 

 「ケロ…わかったわ」

 

 俺の体が輝きを増す。マントの間からも光が漏れ出す。そして、鉄パイプへも個性を伝導させると細長く青白い…例えるなら、ビームサーベル状になる。

 マントがダメになるが仕方ない。

 

 

 「スラッシュ…タイフーン!!」

 

 

 その場で剣を振り、高速で回転する。個性による波動で、体全体を包み込むように光の渦ができる。

 飛んできた鉄とぶつかった瞬間、それらは鉄であったのかどうかを怪しむほどの速度で消えていく。いや、正しくは分解されていく。数十秒の後、回転を止め、膝をつく。そして、高温になり溶け出している鉄パイプを捨てる。火傷はしたが、後ろの二人を守れたのであれば安いもんだ。…お気に入りだったマントも消えちまった。

 

 「助かったわ。ありがとう。…手、大丈夫かしら?」

 

 後ろから声がかかる。大きい目をした、長い髪を腰辺りでリボンのように括っている女子だ。…いや、その髪型はどうなっているんだ。ソッチのほうが気になってしまうが、きちんと答えておこう。

 

 「こんなもん怪我した内には入らない。それより、時間も大分経ってる。ポイントの方はいいのか?」

 

 俺が聞くと「ケロ…」と表情を変えずに答える…。表情変わらないのか。

 

 

 

 ドオオォォォォォォォン!!

 

 

 

 一際大きな轟音が響く。音の方向を見ると、ビルをなぎ倒し、天災の如く巨大なロボットがこちらへ向かってくるところだった。

 周りは阿鼻叫喚の地獄絵図である。走れるヤツは我先にと走り出し、個性の使いすぎで上手く動けないヤツや怪我をしている奴等は救助されたりしているが、それでも人が足りてなさそうに見える。

 

 「お前はそいつ背負って逃げろ。人命救助は第一優先事項だ」

 

 俺の過去がチラつく。崩れ落ちる瓦礫を見るたびに、自身に降り掛かってきた幻想が頭から離れない。このイメージを払拭するために強くなりたかった。つまり、俺は逃げる訳にはいかない。自分よりも強大だろうと。自分よりも強かろうと。

 

 「あなたはどうするの?」

 

 「俺はアレを止める。」

 

 「ダメよ。危険すぎるわ」

 

 そんな俺の思いは、大きな目の女子に止められる。俺の右手を掴み、行かせないという意思表示をしてくる。それを振り払い、再び個性を全身へ巡らせる。そして、人並みを飛び越え、一直線に巨大ロボットへと向かっていく。

 ビルとビルの間を壁蹴りで上り、ビルを掴んでいる巨大な右手から顔の方面へと駆け上がっていく。あくまでも怪我人を出さないためか、ロボットの動きは鈍重で、駆け上がる俺には何も危害を加えてこない。まさに好都合である。

 

 「俺のこの手が光って唸る!」

 

 駆け上がりながらも右手へと個性を集中していく。輝きは一層大きくなり、昼間の明るさでも太陽が2つあるのではと錯覚するほどの輝きを放つ。

 

 「お前を倒せと輝き叫ぶ!!」

 

 大きな輝きが右掌へと収束し、圧縮される。そして、その手が巨大ロボットへの頭部へと向けられる。

 

 

 「必殺!シャイニング……フィンガー!!」

 

 

 放たれた右手は頭部の装甲を貫通し、内部へと入る。そして、段々と輝きが強くなり、一層光が漏れた瞬間に大爆発を起こす。

 爆発する瞬間に手を抜き、跳躍したはいいが…爆風で位置がずれたのを感じる。予定ではビルの上だったが、明らかに広場の中心に落ちる。

 

 「ちょっと…いや、かなり引き際を誤ったな。それに…張り切りすぎたな」

 

 いくら鍛錬を積んで基礎体力を付けても、個性の使用はまだまだ未熟。堂々とトレーニングするには許可や資格、施設が必要なわけで、コソコソと練習はしていたが、初めての個性の全力使用には流石に体がついて行かなかったようだ。

 残った個性を足に集めて受け身の準備を行うも、急に体が何かに引っ張られる。胴体を見ると、長いピンクの紐のようなものが巻き付いており、それが俺を引っ張っているようだった。

 正直、オレ一人では厳しいので身を任せていると、それが舌であることがわかった。それと同時に、表情は変わってないが雰囲気的には余りよろしそうではない大きい目の女子の正面に着地した。

 

 「あー…すまん。助かった」

 

 「いいのよ。私も助けてもらったんだから。ただ、後先は考えたほうがいいわ」

 

 ぐうの音も出ない。しかし、不思議な個性だ。と、考えている所で試験終了の合図が聞こえた。周りは巨大ロボットを破壊した俺に視線が向くが、大半のヤツは俺と目が合うと顔をそらした。人によっては「アイツ、(ヴィラン)じゃねぇのか?」とか言ってるやつもいた。なんだ?都会の人間は田舎者には厳しいのか?それとも、ナチュラルに口が悪いのか?爆発頭然り…。

 

 「私、蛙吹梅雨。よかったら、お名前教えてくれないかしら?」

 

 …いや、全員が全員そういうわけじゃなさそうだな。しかし、よくもまぁこんな悪人面の名前を聞こうなんて思うな。…自分で言うのも何だがな。

 

 「悪人が人を庇ったり、救助優先なんて言わないわ。…教えてもらえないのかしら?」

 

 そう言いながら首を傾げる。俺も助けてもらったわけだし、名前くらいは名乗っておくか

 

 「俺は輝神機。まぁ、なんだ…合格してたらまた会おう」

 

 言うだけ言って踵を返す。親方が待ってるだろうし、待たせすぎるのも悪いからな。後ろから「またね、神機ちゃん」と聞こえた気がしたが、いきなり名前呼びは無いだろうから気のせいだろう。

 手応えは上々だ。0ポイントは自己満足で倒したが、30機以上は確実に破壊しているし、40ポイントは硬いだろう。…あぁ、一応医務室には寄らないといけないのか。

 

 俺は汗を流した爽快感と、自分が過去よりも強くなっていると実感できた事実を噛み締めながら、医務室へと向かった。火傷した右手を見つめながら。




頑張った。
前よりも文章量二倍になりましたが時間こんなにかかるんですね…。チカレタ

梅雨ちゃん可愛いけど耳郎ちゃんも可愛いよね。もちろんお茶子も可愛いしトガちゃんも可愛いよね。


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4話・俺のヒーローアカデミア、開幕!

お気に入り合計7件ありがとうございます。励みになります。


 無事に右手の火傷を治療してもらい、親方との待ち合わせ場所に向かう。リカバリーガールのキスの感触が手の甲に残っており、なんとも言えない気分ではある…が、一瞬でここまで治療できるのはまるで魔法のようだ。

 

 「親方。おまたせしました」

 

 「おっ、お疲れさん。手応えはどうだったんだ?」

 

 親方は運転席でに座り、ラジオから流れる緩やかなBGMに合わせてリズムを取っていた動きを止めて、俺に右手を上げる。俺は開いている車の窓から挨拶を返し、車内には入らず立ったまま会話を続ける。

 

 「合格してるとは思います。これで落ちてたら(ヴィラン)にでも転職しますよ」

 

 「やめろやめろ、冗談でもそういう事言うな。転職するなら俺の所へ来い。」

 

 俺の軽口に、少し真面目な雰囲気を醸しながら肩を抱き笑顔で答えてくれる。助手席にかばんはあるが、麗日がいないってことはどこかに行ってるんですか?

 

 「そうなんだ。車にかばんを置いたと思ったら『少し待っとってな!』って…慌ただしく学校に戻っていったよ。忘れ物でもあるのかもしれないな」

 

 忘れ物って…まぁ、じきに帰ってくるだろう。そう思いながら親方に今回の実技試験の感想を話していると、走ってくる麗日が視界の端に入った。表情はどこか嬉しそうに見える。

 

 「ごめん!待たせてしまった!!」

 

 「大して待ってないから大丈夫だ。で、何の用だったんだ?」

 

 俺の問いかけに対して「ん~、内緒!」と、秘密を隠す子供のような笑みを浮かべる。まぁ、本人が内緒というのなら詮索はしないでおこう。そう思いながら、車の後部座席に座る。麗日は助手席だ。

 帰りの道中では、疲れて眠る麗日の寝息と、ラジオから流れる穏やかな音色だけが聞こえていた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 結論から言えば、俺は雄英に合格していた。

 数日経ってから雄英高校から封筒が届き、それを開けるとプロジェクターが入っていた。送付されているプリントを確認しながら起動すると、大柄なアメリカンタッチの筋肉ムキムキマンが映し出される。

 

 『HAHAHAHA!始めましてだね、輝少年!』

 

 オールマイトだと?さすがの俺でも知っている。生きる英雄と言われている絶対的なヒーロー。

 

 『きっと驚いていることだと思う。なぜ私が…だって?理由は、今年から私も雄英高校の教師として務めることになったからだ!』

 

 英雄が教師?普通のヒーローが二足の草鞋で教鞭をとるのはわかる。しかし、日に数十件と問題を解決する敵の抑止力が教師をする意味は?

 きっと一般の生徒なら両手を上げて喜ぶ場面なのだろう。しかし、オールマイトを凄いとは認識しているが憧れとして見ていない俺からすれば、その不自然さがやけに気にかかる。

 俺が思考を初めていると、画面内のオールマイトが『え?巻きで?OKOK』と答え、コホンと一つ咳払いをする。

 

 『筆記は85点。実技は(ヴィラン)ポイントが32機撃破の44P!』

 

 平均点を言ってくれないから高いのか低いのかわからん。しかし、1Pと2Pを狩り、3Pを1機も倒してないことから考えるとあまり高くないのかもしれない。100点満点形式だと落ちてるな、これ。

 

 『そして、我々雄英の入試は(ヴィラン)Pだけではなく、救助活動Pと言うものが審査制で存在する。輝少年!君は少女を守り、それだけではなく!誰も立ち向かわなかった0Pの仮想敵に立ち向かった!我々ヒーローは、どんなに強大な敵にも立ち向かわなくてはならない場面がある。それこそがヒーローとしても大切なことだ。救助活動ポイント60点!!合計で104点!!文句なしの合格点だ!!』

 

 実技試験100点満点形式じゃないのかよ…。国家試験みたいになってるし、ポイントの入り方がクイズ番組の最後みたいになってるじゃねぇか。

 

 『輝少年、来いよ!君のヒーローアカデミアが待っているぞ!』

 

 その一言を聞いて、実感という名の震えがゾクゾクと背筋を駆け上がっていく。やっと、スタートラインに立った気分である。いや、まだまだなのかもしれない。ただ一言、俺の口をついて出た言葉は期待と歓喜に色づいていただろう。

 

 

 「輝神機(おれ)のヒーローアカデミア……か」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 親戚の家から雄英のある県内へと引っ越しをした。奨学金で。

 雄英高校ともなると、ヒーローの金の卵と評価される。そうなると、なおさら申請が通りやすかったのかもしれない。

 麗日も無事に合格しており、親方から「お茶子が心配だから隣で部屋借りてくれないか?」と言われたが「アイツの生活音を俺が聞くことになるかもしれませんが、いいんですか?」と聞くと、速攻で胸ぐらを掴まれ「大変申し訳無いが、今の話は無かったことにしよう」と言われる。丁寧な言葉づかいと態度が合っていない…。

 

 「流石、雄英高校だ。どんな体でも問題なしってか」

 

 あまりにも大きな扉に『1-A』と書かれている。教室へ入ると2~3人が教室内にいるだけだった。流石に早すぎたか。自身の席を探していると、説明会の時に思惑通りに0P敵の質問をしてくれた眉クイックが話しかけてきた。

 

 「ボ…俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ」

 

 「おぉ、丁寧な自己紹介だな。嫌いじゃないぜ。俺は輝神機だ。…髪型がやや被ってるな。俺みたいにオールバックにはしないでくれよ」

 

 と、冗談めかして言うと「安心してくれたまえ!ボ…俺はオールバックにはしない」と真面目に答える。さっきからボッボッ言ってるけど何か爆発すんのか?

 

 「俺は尾白猿夫。よろしく」

 

 「俺ぁ切島鋭児郎ってんだ!仲良くしようぜ!」

 

 あぁ、よろしくな。と、返事を返した所で気になったため尾白に質問を投げかける。

 

 「お前、もしかして武術の心得があるのか?」

 

 「えっ、なんでわかったんだ!?」

 

 尾白は驚いたように目を見開く。武術や武道を嗜んでいる人間は自ずと立ち振舞に癖が出る。まぁ、結局は勘なんだがな。

 

 「それでも、わかるって事は輝もかなりのやり手ってことになるじゃないか。時間ある時、手合わせとかお願いしてもいいか?」

 

 「望むところだ。楽しみにしてるぜ」

 

 そういったやり取りを続けていく内に一人、また一人と登校して来る。そんな中、知っている顔が挨拶をしてきた。

 

 「ケロケロ…神機ちゃんも無事に合格していたのね。改めて自己紹介するわね。蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

 

 「蛙吹だな。輝神機だ、よろしく頼む。…悪いが、女子を名前で呼ぶのには抵抗があるんでな。……まぁ、親しくなっていく内に自然と呼べるようになるだろうから、今は勘弁してくれ」

 

 

 バァン!!

 

 

 自己紹介で盛り上がっているところに、見覚えのある爆発頭が教室へ入ってくる。そして、鞄を机の横に放り投げ、椅子に座ってから机の上に両足を乗せる。おいおい…マジでコイツ受かってんのかよ。

 すかさず飯田がその行為に物申すも、聞く耳持たずに暴言を吐く。和気あいあいと自己紹介をしていたムードから一変してクラス内の雰囲気が微妙なものになる。

 その時、二人の男女が教室に入ってきた。一人は麗日で、もう一人は変な声を出していた緑縮れ毛だった。

 

 「凄いパンチだったもんね!受かって当然だよ!!」

 

 「いや!あの…本っ当あなたのおかげというか……なんというか」

 

 麗日の高いテンションとは裏腹に、耳まで真っ赤にしながら顔を抑えて話す。試験中に知り合った友達って感じか?

 

 「あ、神機君おはよう!そうそう、緑谷君って言うんよ!この目つき悪い人は輝神機君。いい人やから怖がらなくてもええよ!」

 

 「あ、よ、よろしくおねがいします」

 

 「目付きが悪いは余計だ。まぁ、紛れもない事実なんだがな。よろしくな」

 

 そう言いながら右手を前に出し、握手の合図をすると、緑谷もそれに答えてくれる。受け答えを見ていると、オドオドとしており、どこか頼りなさを感じる。しかし、手を握ればわかる。小柄ながらもそれなりに鍛えている。

 

 「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 麗日達の後ろから声がかかる。

 目をやると、寝袋に包まったまま携帯ゼリーを一瞬で飲み干す変人がいた。そいつは寝袋を脱ぎながら立ち上がると、黒い衣装にやたらグルグル巻きになっているマフラー姿であることがわかった。

 

 「ハイ、静かになるまでに8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性にかけるね」

 

 合理性を唱えるなら、寝袋で移動しないほうが合理的だろう。印象づけるための演出にしか感じれないぞ…。

 そいつは「担任の相澤消太だ」と自己紹介を終えると、体操服を取り出し、すぐにグラウンドに出ろと言う。どうやら、既に雄英高校の洗礼というものは始まっているらしい…。

 

 

 俺は体操服に着替え「体操服のデザイン、UAなんだな…」などと考えながら、グラウンドに向かうのだった。




今回は短いですがここまでで。
纏めて書き終わってからアップしてもいいんですが、今はモチベに身を任せる感じで行きます。

あくまで趣味なので、続けていけるように好きにやらせていただきます。ので、ご容赦ください。


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5話・かっ飛べ!俺の○○

かなり間が開いてしまった。難産+プライベートの事情です…。
とりあえず5話まで来ました。
少しでも楽しんでいただければと思います。

技名は完全にGガンダムのシャイニングとゴッドからまんまパク…オマージュしてます。これからもパク…オマージュしていきます。
ただ、威力が足りない分は技名が欠けています。(ゴッドスラッシュタイフーンやゴッドフィールドダッシュなど)

超級覇王電影弾?で、できらぁ!!


 『個性把握…テストォ!?』

 

 生徒多数の声がグラウンドに響き渡る。そんな事は意に介さず、担任の相澤消太は話を続ける。

 

 「雄英は自由な校風が売り文句。それは教師も同じだ。今から8種類の体力測定を行ってもらう。ただし、個性は自由に使用してもいい」

 

 そして、例を見せる為か爆豪にボールを投げさせ、705mと言う結果を出した。個性が使用できると言う事に色めき立つ生徒達に対して、担任の相澤は冷ややかな視線を向ける。

 

 「面白そう…か。ヒーローになる為の3年間をそんな腹づもりで過ごす気でいるのか?よし、トータル成績最下位のやつは見込み無しで除籍処分にする」

 

『はあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 再び、生徒の声が響き渡る。正直、理不尽すぎて声も出ないが…俺自身は特に心配していない。増強型の個性の時点で最下位はないだろうからな。

 

 「放課後マックで談笑したかったならお生憎様。これから3年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける」

 

 え、マックダメなんすか!?いや、マックがダメなだけでモスは行けるのか?それともキングか?…まさかドムドム!?

 

 「神機君。店の種類とかそういう意味とちゃうと思うよ」

 

 俺の思考を呼んだのか、後ろから麗日が声をかける。唯一の好物である、ハンバーガーを縛られた俺の気持ちを感じ取ったのか?

 

 「何言うとんの、声にでとるんよ。ほら、最初は50m走だよ」

 

 呆れながら生徒の並んでいる列へと向かう。俺の独り言に気づくあたり、麗日も割と気持ちに余裕があるのかもしれないな。

 

 

 

 

 「…俺の隣は輝君か。よろしく頼む」

 

 そう言いながら、クラウチングスタートの姿勢を取る飯田天哉。足を見るに、速度自慢の個性みたいだな。50mならなんとかなるか?俺自身もクラウチングの構えを取り、両足へと個性を伝導させていく。

 

 「スタート」

 

 相澤先生の覇気のない合図と同時に地面を強く蹴る。クラウチングの為の器具である固定されたスターティングブロックを蹴り飛ばし、大凡10m辺りまで一瞬で踏み込み、そこから全力で走る。最終的なタイムは4秒36だった。地面が砂だと踏ん張りが悪い。

 瞬間的な速度では飯田にも勝てるが、その速度を維持できないのが過大である。特に、これにカーブなんて混じれば自損事故は確実である。スパイクでも履いてればもうちょっと違うんだが…

 

 「君もスピード自慢なのかい!?だが、ぼ…俺の最高速度はまだまだこんなもんじゃないぞ!」

 

 と、走り終わった後に声をかけられる。自慢するつもりはないが、自信はあるぞ。それに、何も移動できるのは地上だけってわけでもないからな。

 

 

 

 

 で、次は立ち幅跳びか。俺の後ろは…

 

 「よろしくね、神機ちゃん」

 

 蛙吹か。ちなみに、この競技は得意なのか?

 そう聞くと、どことなく自信気に「えぇ。飛ぶのは普通の人よりも得意だと思うわ」と答えられる。舌を伸ばせて、飛ぶのが得意…あぁ、個性の大凡の検討はついた。

 

 「ちなみに、神機ちゃんも飛ぶのは得意なんでしょう?入試の時に見てたから分かるわ」

 

 あ~、確かにビルとビルの間を飛んで登ったのを見られてるもんな。

 

 「まぁ、見てれば分かるよ」

 

 そう答えて、立ち幅跳びの位置につく。助走をつけれなくたって、踏ん張ることさえできればどこからでも動けるんだよ俺は。

 

 50m走の時と同じ様に両足に個性を集中させ、光を圧縮するイメージ。そこから前に飛ぶ!角度はやや高めに。この時点で7mは固い…からの、もう一度両足に個性を集中させる。今度は圧縮ではなく、拡散するイメージ。

 

 「どわっ!?クッソ眩しい!!」

 

 握力測定を行っていた上鳴が声を上げる。周りで測定している生徒の事などお構いなしに、自身の技名を叫ぶ。

 

 「フィールドダッシュ!!」

 

 まったくもってそのまんまの技名である。しかし、その技名の指し示す通り、空中で失速するかと思われた神機の体は高速で直線的に5mほど前進する。そして、そのままの勢いで距離を稼ぎ、両足から地面へと着地する。が、あまりの速度に踏ん張りきれず、尻スライディングをかます。そのまま1mほど進み、止まった。

 

 「記録は18mだ。はい、次」

 

 「18mか。20mくらい進めるかと思ったがまだまだ速度が足りないな」

 

 と、何事もなかったかのように独りごちる。ちなみに蛙吹は23mだった。流石に本職と言える個性には勝てないか…

 

 「飛距離はあっても、神機ちゃんみたいに軌道の変更は出来ないわ。空中でも頼りになりそうね。…お尻で着地してるのに、まだ速度が足りないって言うのはどうかと思うわ」

 

 一言余計なんだよ。

 

 

 

 

 持久走・握力・反復横跳び・上体起こし・長座体前屈は特に言うこともない。上位だけど、持久走は八百万。握力も万力を出した八百万。反復横跳びは峯田。といった具合に、1位は取れない状態だ。長座体前屈は風呂上がりに柔軟を日課にしているため1位である。回し蹴りする際に、股関節とか固いと不格好だからな。

 

 「で、最後にボール投げか」

 

 流石に武術が入る部分ではないが、ボールを投げるにも最適なフォームや持ち方など、効率のいい動作がある。それを意識するだけでも結果は変わるだろう…

 と、考えていた所で麗日が記録∞を出して俺にドヤ顔ピースサインを見せつけてくる。ほーん、そういう事するんだな。

 

 「次、輝神機。この円から出なかったら何でもしていいぞ。ただし、ボールを蹴ったり殴ったりは無しだぞ。ボール投げだからな」

 

 なんで俺の時に改めて釘刺したの?蛙吹と麗日がウンウン頷いてるが、俺はルールを破るような考え無しではない。ルールの範囲内で結果を出す男だという所を見せてやる。

 ボールを右手に持ち、居合の構え。右手で投げるので左構えにしておく。スラッシュタイフーンの遠心力でぶん投げれば800mは軽く飛んでいく。なにせ、超高速回転だからな!!

 

 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ……!!」

 

 個性を全身へと伝導させ、腰を深く落とす。溜めて、溜めて…全身から留まりきらずに漏れていくエネルギーを、体の内側へと押し込めていく。ネジを限界まで回すように、体の捻りを溜めていく………今!!

 

 「おらあああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 円内で高速回転を行い、そこからボールを投げる!!握り方もしっかりひと差し指と中指の球技スタイル!回転もバッチリかかって、伸びも文句なし!!

 ボールは真っ直ぐ狙った方向へ飛んでいった。が、投げる際の動作で靴がスッポ抜け、高速で切島のスネに直撃した。

 

 「ハグオゥ!!?」

 

 条件反射なのか、一応全身で個性を発動していたみたいだがスネを抑えてもんどり打つ切島。

 

 「神機ちゃんは、ルールの範囲内でやらかす男の子って事は十分わかったわ」

 

 呆れる蛙吹と麗日。

 

 「輝…。切島を保健室まで連れて行け」

 

 怒れる担任。いや、俺こんなキャラじゃないはずなんだけどなぁ…。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 切島を保健室まで連れていき、謝罪をすると。

 

 「いーっていーって!しっかし、俺の硬化でもダメージ入るってどんな威力なんだよ。当たったのが俺で良かったな!!」

 

 と、笑って許してくれた。あんなヤバい声出してたから骨まで逝ってるかと思ったぜ。そのダメージ自体もリカバリーガールによって跡形もなく綺麗に治っていた。

 

 そんなこんなで談笑しながら教室へ戻ると、一応先程の順位が張り出されていた。俺は3位だった。流石に万能個性の八百万と氷で何でも出来てしまう轟には勝てなかったか…。4位の爆豪とは上体起こしや握力など、素の身体能力が関わる種目で差が出たからかな。

 で、除籍者は無しか。麗日に聞いてみると「先生の嘘やってんて!ヒーローが嘘つくのはどうかと思う!」と丸顔を更に丸くさせながら文句を言っていた。…まぁ、今となってはどうでもいい事か。

 

 

 

 

 初日ということもあり、午前授業だったので下校になる。

 駅まで一緒という事で、麗日と飯田と緑谷の4人で帰ることになった。

 

 「緑谷君、指はもういいのかい?」

 

 「うん。リカバリーガールのおかげで、もうなんとも無いよ」

 

 緑谷と飯田を先頭に2列で歩いていく。突き指でもしたのか?

 

 「あぁ、神機君おらんかったもんね。最後のボール投げですっごいパワー出したんやけど、その反動で怪我したんやって」

 

 「って事は、緑谷も増強型の個性か。それも指一本犠牲で超パワーって事は、全力出したら地形も変わるくらいなのか?」

 

 と、冗談めかして話してみる。すると、隣りにいた麗日が興奮したように俺に近づく。

 

 「もうホンマ凄いんよ!入試の時の大きいロボットも一発で倒して!それに………私がコケてしまって、動けない所を助けてくれて…。」

 

 段々と尻すぼみになっていく声量。顔をほんのりと朱に染めながら俯いてしまった。

 なるほどな。それで入試の帰りにニコニコしてたのか。だが、今、そんな事はどうでも良くなった。

 

 「そうか。お前もあのロボットを倒せたのか」

 

 「お前もって…じゃ、じゃあ君もあの0ポイントの仮想敵を倒したのか!?何でだ!?倒した所でメリットは無いんだぞ?…君も実技試験の構造に気づいていたということか?」

 

 飯田が信じられないと言った様子で捲し立てる。緑谷も続くように「あの大きさのロボットを倒した?確かに、体力測定の時にも応用の効く増強型個性と言うことはわかったし、出力の調整も輝き具合から推察できた。つまり、全体に纏うことと、集中して纏うことで力の集約がブツブツブツブツ」と自分の世界へ入っていく。おい、緑谷やめろ。道行く人が見てる。

 

 「神機君がそんな難しい事に気づくはずない。ただ単に、自分よりも大きかったり、強いとわかった相手や物に立ち向かうのが趣味みたいな人やから。稽古付けてもらう時も、ちょっと私が調子よくて良い動きしたら目がギラつくんやから…」

 

 と、しおらしくしていた麗日が両手を組んでフンフン話し出す。今、遠回しに頭悪いって言ってなかったか?。

 とりあえず「まぁ、なんだ…」と緑谷を見据えて前置きを置くと、視線を向けられている事に気づいた緑谷も自分の世界から帰ってきて、俺に視線を合わせ話に耳を傾けだす。

 

 「大方、麗日の言った通りだ。ヒーローは自分よりも強大な相手に立ち向かう事に意味がある。と、俺は思っている。その過程で、俺は強いヤツとは積極的に手合わせをしていきたいと思っている。」

 

 ゆっくり、ゆっくりと緑谷を見据えて話す。俺の中の好奇心と、メラメラと燃える対抗心を出来る限り出さないようにしながら。しかし、口角は少しずつ上がり、目付きは自然と鋭いものへと変わり始める。

 

 「緑谷。機会があれば、手合わせ願いたいな…。」

 

 ギラリと光る俺の眼光が、緑谷を真っ直ぐに射抜いていた。

 

 

 

 後々、麗日から注意された。

 

 「あのな…真っ直ぐなのはいい事やとは思うよ?でも、デク君完全に縮こまってたよ?これからの学校生活でも同じこと繰り返すん?また孤立するよ?」

 

 お前は俺の保護者か…。

 どうにも、俺は何かしら注意される星の下の生まれらしい……





感想いただけると嬉しいです。5話まで来たからおねだりさせてください…。
次は対人バトルです!まぁ、殴り合い必至ですよねw
コレについてはぼんやりと考えていますので、更新早くできればいいなぁ…



輝神機は激情派です。自分でも理解しているため、平静を保とうとクールぶってる部分も時たまありますが、基本的には感情に正直で年相応の青年です(背の高さと顔つきでアレですが…)


ヒロインは麗日・蛙吹って予定してますが、私自身は耳郎好きなんですよね…。接点がなぁ…。


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6話・ヒーロー基礎学に現れた、黒尽くめの布巻き男

 俺が切島のスネに靴を当てた翌日。

 今日からは通常授業が始まり、午前中は必修科目である。午後からヒーロー基礎学といったふうにカリキュラムが組まれている。

 

 余談ではあるが俺は文系だ。数学や物理は建物等に打撃を与える際に地頭の良さが出ると過去に言われたことがあるが、肌に合わないのだから仕方ない。

 何にせよ、一流のヒーローが通常授業も教える必要があるのかは疑問が残るが…まぁ、雄英高校の特権というやつだろうな。

 

 昼は大食堂でクックヒーロー・ランチラッシュが作る食事が安価で食べれる。コレには麗日もニッコニコである。

 麗日、緑谷、飯田、俺、蛙吹の五人で昼食を食べながら、午後から始まるヒーロー基礎学への予想をあーだこーだと話していた。

 

 「基礎学っていうくらいだから、最初は座学になるんかな?」

 

 「初日に除名賭けたテストするのに座学は保守的すぎるだろ。俺はタイマンでの実践が理想なんだがな」

 

 「ケロ。じゃあ、また神機ちゃんが何かやらかしてくれるのね」

 

 「あ~…」

 

 麗日、あ~…じゃねぇよ。まだやらかしたの1回だけだろうが。

 しかし、クラスメイトとこうやって食事をするなんて中学からは考えられないな。あの頃は鍛錬もあったから校舎裏で食ってたもんなぁ。時折、男女二人組が来ては俺に気づいて帰っていくっていうのがあったが…深くは考えないでおこう。

 

 「人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られるんだよ」

 

 邪魔してるつもりはねぇよ。

 ちなみに、緑谷はヒーロー基礎学の話になってからブツブツと自己分析をしているようだが…。少しは考えまとまったか?

 

 「へぁ!?」

 

 緑谷は俺に声をかけられたと気づくやいなや、ビクリと体を震わせる。お前…俺に声かけられただけで怯えるのやめろ。自業自得だがへこむだろ。

 

 「あ、ゴメン!目付きで普通にビックリしただけだから」

 

 「緑谷君。それはフォローになっていないと思うぞ!」

 

 いや、ホントそうだよ。と、まぁ本当に中身のない会話をしていたが、ここで蛙吹が「ちょっといいかしら」と軽く右手を上げて発言する。

 

 「話が変わってしまうのだけれど…。私、思ったことを何でも言っちゃうの」

 

 それは知ってる。

 

 「麗日ちゃんと神機ちゃんは同じ中学校なのよね?すごく仲が良さそうで羨ましいわ」

 

 「た、確かに…。そういえば、入試の時も一緒にいたよね?」

 

 蛙吹に続き、緑谷も同意する。いやいや、仲がいいから何なんだよ。

 

 「お付き合いとかしてるのかしら?」

 

 「パッ!?ななナナナなんんん!??」

 

 蛙吹の突拍子もない発言に麗日の顔がりんごのように真っ赤になる。両手をブンブンと振り回しながら、連動するように顔も振り回し始める。それを見ている蛙吹は無表情を崩さず、緑谷と飯田に至ってはポカンと口を開けている。

 

 「クッ…クククク。あっはっはっはっは!!」

 

 その動揺の仕方があまりにも可笑しくて大声で笑ってしまう。腹筋を鍛えていてよかったとこんな事で実感させないでくれ。

 

 「なっ!何笑ってんの!!私と神機君に聞いとるんやから、神機君もちょっとは動揺したりとかないの!!?」

 

 真っ赤な顔のまま、大声で抗議をしてくる。いやいや、蛙吹も意地悪な冗談を言うもんだ。

 

 「あー、笑わせてくれてありがとう蛙吹。俺と麗日は付き合ってないよ。中学の時に、コイツの親父さんの職場でバイトをしてたんだ。で、コイツに体術の稽古をつけてた事もあって、お互いに遠慮がないだけだよ。中学校でも同じような噂が流れてた時期があったが、俺にそれを聞きに来たチャラチャラした奴がいてな。一睨みしたらそれ以降は校内で聞くことはなくなったよ」

 

 ついでに俺に必要以上に近づくやつもいなくなったよ。と、付け足しておく。

 麗日は両手で顔をパタパタと仰ぎながら何やらブツブツと悪態をついている。蛙吹に至っては俺の顔をジーッと見つめている。なんだ?疑ってるのか?

 

 「ケロ…なんでも無いわ。相変わらず、私の事は梅雨ちゃんとは呼んでくれないのね」

 

 麗日のこともお茶子とは呼んでないだろ?人それぞれのペースがあるんだよ。緑谷も絶対に蛙吹のこと梅雨ちゃんって呼べないタイプだぞ。な?

 

 「え!?え~っと、つっつつつつっすゆ…ちゃん……」

 

 急に振られた緑谷が懸命に呼ぼうとするも、最後には尻すぼみで俯いてしまう。どんだけ女子と会話してこなかったんだお前。ちなみに飯田は「恋人でもないのに名前で呼ぶのは不純ではないか?」と言い、蛙吹くんと呼んでいた。それはそれで頭硬すぎな気もするが、コレが飯田らしさなんだろう。

 

 

 

 

 

 「わーたーしーが、普通にドアから来た!!」

 

 ランチラッシュのバーガーセット(アジバーガー・ホワイトソースがけ)にて気力十分になった俺は、午後からのヒーロー基礎学へ挑むところである。

 そんな中、教室内はオールマイトの登場により湧き上がっていた。…しかし、無駄のない筋肉だ。俺自身も鍛錬を続ければアレだけの筋肉量を得れるのだろうか?

 そんな俺の考えはさておき、オールマイトは体を捻ったかと思えばババン!!と、効果音が付きそうな勢いで【BATTLE】と書かれたプレートを見せつける。

 

 「ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う科目だが…早速今日は戦闘訓練を行うぞ!!あ、あと単位数が最も多いから休んじゃダメだぞ!」

 

 まさかの初回から戦闘訓練と聞いてやる気を隠しきれない生徒や、緊張した顔つきになる奴など様々である。

 

 「それに要望を出していた戦闘服も届いているから、着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」

 

 戦闘服ねぇ………。

 

 

 

 

 グラウンド・βに行くと、様々な戦闘服に身を包んだ面々がいた。しかし、飯田の戦闘服いいな…。なんかわからんが物凄く憧れる…何でだ?こう、胸の内から湧き上がるように「お前が欲しいイイイ!!」って位には羨ましい。

 次回の要望への内容を考えていると、後ろから肩をポンポンと叩かれる。振り返ると頬を人差し指で突かれる。

 

 「ブモっ」

 

 「ぷっ!ブモって何よ~!!笑わせんといて~!」

 

 思わず出た声に自分自身で腹立たしく感じながらも、腹を抱えて笑う麗日と、クスクスと笑う蛙吹が立っていた。麗日お前…女性がパツパツスーツはイカンだろ。近接戦闘時に破れたら男と違って大変なことになるぞ…。

 

 「「…エッチ」」

 

 何で俺が悪いみたいになってるんですかねぇ…。普通の意見だろうが。

 

 「神機ちゃんは真っ黒のボディスーツなのね。グローブとブーツも黒で、頭の赤い鉢巻が格好いいわ。腰についてるのは武器かしら?一つは試験の時に見せた技用の物だと分かるのだけど、もう一つは何かしら?布?」

 

 俺がやや凹んでいると、蛙吹がマジマジと俺の戦闘服と武器を吟味しだした。ボディスーツに至っては遮光性の問題である。しかし、黒色と人相が相まってヒーローらしくない。これでマスクまでつけてたらアメコミのダークヒーローのような出で立ちになってしまう。

 

 「コレか?蛙吹の言う通り、スラッシュ用の媒体になる柄だな。出力の調整がしやすくなってて、殺傷と非殺傷が選べる。…おい、そんな顔で見るな。間違っても人殺しなんてしないから。そもそも、厳重にセーフティーがかかってるから、俺がバカみたいに出力あげない限り何も起こらねぇよ。で、この布みたいなやつは…」

 

 「さぁ!戦闘訓練の時間だ!!いいじゃないかみんな、かっこいいぜ!!」

 

 と、話を続けようと思ったが生徒が揃ったようでオールマイトが話しだした。内容を聞いていると、屋内での対人戦闘とのことだ。

 敵側とヒーロー側に二人ずつに別れ、敵側は制限時間核を守り切るか捕獲するか。ヒーロー側は捕獲するか核を確保するか…って感じか。シンプルでわかりやすい。

 

 「じゃ、チーム分けしていくぞ!!」

 

 俺はEか。で、相方は…手袋と靴しか見えないんだが…。

 

 「おー!ビカビカ君だね!私、葉隠透!個性は見ての通り『透明』だよ!」

 

 ビカビカ君て…。いや、確かに美しい感じの光り方ではないけどな。丁寧な自己紹介にはちゃんと答えないとな。

 

 「よろしく、葉隠。俺は輝神機。個性は『身体強化』…ってなってる。詳しくはわからないんだ。その副産物なのか、力を込めた部分に対して光が集まるって感じだ。」

 

 「凄いねー!増強型ってだけでも強いのに、光るっていうのが派手でいいよね!」

 

 まぁ、光が漏れてるって事は収束しきれてないからエネルギーの無駄なんだけどな。…どうやら、最初は麗日の所と飯田の所がやり合うみたいだな。麗日は俺以外と対人戦をするのは恐らく初めてだろうが…まぁ、どうとでもなるだろう。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 結論を言うと、麗日・緑谷ペアの勝利で幕を閉じた。

 

 麗日は、最初の爆豪の攻撃を読んで緑谷を庇ったり、飯田と正面戦闘を行おうとしていたが…今回は相手が悪かったな。爆豪は爆破の個性だから狭い道では相性が悪い。だから爆豪を分析している緑谷に任せるしかない。飯田の所に行くも、アイツの速度に麗日がついていけるわけもなく、緑谷との即興必殺技の彗星ホームランで勝利。といった流れだった。

 

 「全然良い所無かった…」

 

 肩をガックリと落とし、完全に落ち込んでいる。相性もあるし仕方がないとはいえ、訓練の成果の一発目がこうだと落ち込むのも分かる。

 

 「まぁ、そこまで気を落とすなよ。初撃を見切れたのは間違いないんだから。成長したところは素直に自分を褒めようぜ」

 

 うん。と、返事を返してくるも表情は暗いまま。どう声をかければいいんだ?

 

 「次はIチームとJチームだ!輝少年、葉隠少女はヴィラン側。切島少年と尾白少年がヒーロー側だ!ヴィラン側はセッティングに向かうように!!」

 

 あー、呼ばれちまったか。…俺はコイツの師匠ではないけど、弟子(みたいな存在)が落ち込んでたり泣いてたりすんのは嫌だからなぁ…

 

 「あー、麗日?」

 

 「…何?」

 

 「俺が他人と手合わせしてるの見たことないだろ?ちゃんと見とけよ。で、称賛の言葉を用意して待ってろ」

 

 珍しい俺の自意識高めな発言にポカンとした顔を見せる。そして、一つ頷いた後に右の拳を出してくる。

 

 「うん。期待しとるよ!」

 

 そして、拳を合わせる。俺はコレが好きなんだよね。一流の武闘家は、拳を合わせた相手の気持が分かる。って、師匠は言ってたけど…全然わかんねーから俺もまだまだなんだろうなぁ。…そもそも、拳を合わせるってこういうことなのか?わからん…。

 

 「輝少年!早く準備してね!」

 

 ゴメンナサイ!すぐ行きます!!

 

 

 

 

 

 場所は変わって、演習の舞台になるビル内部。俺は葉隠と作戦会議を行っていた。

 

 「で、何か考えはあるの!?」

 

 考えって言っても、向こうはバリバリの格闘タイプだろ?葉隠は何か習い事とかやってた?

 

 「えっ、私普通の女の子だよ?」

 

 いやいや、このご時世女の子でも習い事してたりするんじゃないのか?空手とか合気道とか…ってなると、やっぱり俺が二人を食い止めるしか無いか…。

 

 「じゃあ、不意打ちして上手くいったとき用にコレ渡しとくわ」

 

 俺は額につけていた鉢巻きを渡す。向こうは捕獲用のテープがあるけど、こっちはないからな。無いよりマシだろ。

 

 「ありがとう。で、作戦は!!?」

 

 「作戦?俺が二人を食い止める。コレ意外ないだろ」

 

 「…それ作戦だとしても、脳みそ筋肉だよね?」

 

 お前なぁ…。あぁ…こんな事話してたらもう5分経っちまう…。

 核は最上階に設置して、葉隠は戦闘中は隠れていてくれ。最低でも一人は再起不能にしておく。最悪、もう一人は任せるからな。

 言いつつも俺が二人を止めれなかった場合は、非戦闘員の葉隠に勝ち目はないんだけどな。

 

 「それじゃ私何も活躍できないじゃん!!何かやらせてよ!」

 

 コイツ…(♯^ω^)。…いや、待てよ?葉隠、お前の体って………

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 先にヴィランチームが入ってから5分が経過した。

 訓練の舞台となるビルへ足を踏み入れようと、切島と尾白が歩いていた。こちらは5分の間にお互いの個性の説明をしたり、簡単なコンビネーションの確認をしたりとお互いにできる幅を少しでも増やしていた。

 そして、ビルへと入った瞬間に目にしたのは、顔を白い布で覆った状態で片目だけを覗かせ、右手を真正面に開いた状態で仁王立ちしている、ボディースーツ男の姿であった。完全に変人である。

 

 「よく来たなヒーロー!俺は光拳の鬼神、ジンキ!!上の核には近寄らせはせんぞ!」

 

 役者と呼ぶにはイマイチな神機の啖呵に、切島と尾白は思い思いの返事を返す。

 

 「え、そういう感じなのお前?」

 

 「二つ名とかつけて結構ノリノリじゃねーか!しかも顔まで隠して…マジでヴィランっぽくてワクワクしてきたぜ!」

 

 流石にツッコミを返すも、それに動じず、むしろ目の奥が冷たく光ったような神機の姿に構えを取る二人。すると、降ろしていた左手をゆっくりと上げ、挑発するようにクイクイと人差し指を曲げる。

 

 「御託はいいからさっさとかかってこいよ。お前等には10分の猶予しかないんだぜ?」

 

 「確かにな。挑発に乗ったみたいで嫌だけど、正々堂々正面から戦ってくれるなら都合がいい!!」

 

 尾白が切島を置いて先行する。切島も遅れて続こうとするが、踏み出す瞬間に眩い閃光がその場を包んだ。

 

 「即興技!透フラッシュ!!」

 

 葉隠の肉体は透明である。体で光の屈折を変えることで、その明るさを倍増させることが可能であった。即興技にしては威力は余りにも絶大である。ましてや不意打ちともなるとなおさらである。

 

 「ぐぁ!?目、目がッ…。」

 

 唐突な閃光に両目を焼かれた尾白は、両腕で頭全体を庇う様に覆う。唐突な光に頭部を守るのは人の本能である。尾白が怯んでいる間に、神機は持ち前の速度で懐へと入ると、ピタリと右の拳を尾白の腹部へと当てる。モニターで見ていた麗日は思った。「あ、アカンやつ」と。

 

 「迂闊すぎるぞ、ヒーロー!」

 

 神機の拳がグローブ越しに一瞬光ったかと思うと、尾白の道着が正面から風を受けたように大きくはためく。遅れて、尾白が弾かれるように大きく後ろへ後ずさるとそのまま膝を付く。たった一発で息は絶え絶えになり、今にもそのまま前へ崩れてしまいそうな様子である。

 

 「尾白!大丈夫か!!?」

 

 切島が声をかけるも、もうそこから動けないといった表情で悔しそうな、または泣きそうにも見える表情を返す。

 そんな中、神機は両手を組んで仁王立ちの姿勢である。

 

 「おいおい、ヴィランが正々堂々ヒーローを待ち構えるわけ無いだろ?それに、まだ2分も経ってないぞ?」

 

 演技のように大げさに話す神機だが、その瞳は至って冷静である。常に一挙手一投足、そして、心理状況すらも見逃さないといわんばかりの眼光を片方しか出ていない目から放つ。

 切島は感じる。自分を保健室へ連れていき、平謝りしていた神機。クラスで麗日や蛙吹から、からかわれながらも笑う神機。その全てが演技だったのではないかと錯覚するほどの威圧感。今、自分が相対しているのは学友ではなくヴィランと錯覚してしまいそうなほどに恐怖を感じてしまう。

 

 「後はお前だけだ。と、言いたいところだが…俺は容赦なくその尻尾男にも攻撃をする。そいつを庇いながら俺を退けることができるか!?」

 

 尾白にも攻撃をすると聞いて臨戦態勢に入ってた切島へ肉薄する。お互いの距離はお互いの手が届く、射程圏内へと入る。

 

 「おおおおあああぁぁぁ!!!」

 

 先に手を出したのは切島。低く潜り込んできた神機を、自身の感じる恐怖もろとも振り払うかのように、右のボディブロー。しかし、それを難なく左手で流す。そして、流されたことによって体制の崩れた所へ、意趣返しのように右のボディを返す。

 

 ガィン!!と、鉄以上に固いものを殴ったような音が響く。怯まずに左を返してきた切島の拳をバックステップで避けて、軽くステップを踏む。

 

 「靴でダメージを受けてたから、そんなに固くならないと思ってたが…そういう訳でもないんだな。」

 

 自身の拳を眺めながら神機が言う。それに対して、切島は両の拳を合わせて小気味のいい音を出す。

 

 「あったりまえだろ!あの時は完全に油断してたからな!後ろの尾白は絶対にやらせねぇ!」

 

 自分を奮い立たせるように吠える。モニター前にいる生徒一同は、神機の演技に合わせているものだと思っている。しかし、切島は違った。先程の腹部を殴られる刹那に見えた神機の眼光が頭から離れない。

 ついこの間まで中学生であった切島は、正直、今すぐにでもギブアップを宣言したい。と、思った。それだけ相手の威圧感がすさまじく感じられた。しかし、念願の雄英合格。そして、初のヒーローになる為の授業でそれだけはしたくなかった。何より、一つ前の緑谷の姿を見ているからこそ、こんなすぐに諦めたくはなかった。

 

 そして、再び神機が構えを取る。厚手のボディースーツのせいなのか、個性を発言しているのかは視認しにくい状態である。

 

 「かかってこい神機!俺は絶対に倒れねぇ!」

 

 「行くぞ切島あああぁぁぁ!!」

 

 再び、お互いの拳が交錯するかに見えた。しかし、神機の隣に影が差す。尾白である。

 

 「さっきの分、返すぞぉ!!」

 

 尻尾での強烈な横なぎ。とっさに右腕でガードする。そして、眼前に迫る切島の右のストレートを首を曲げて紙一重で回避する。硬化した腕が頬を掠め、少し切れる。

 ガードした尾白の尻尾を掴み切島へと投げると、切島はしっかりと尾白をキャッチし、再び向かい合う。

 

 「…手加減しすぎたか」

 

 「勘弁してくれ。あんなん鍛えてない奴が食らったら速攻で病院だぞ。今でも昼に食べた物が喉まで来てるんだ…」

 

 「ここからは2対1だ!」

 

 いうや否や、尾白と切島が息を揃えて神機へと駆ける。切島を盾にするように尾白が後方へ。

 対して神機は迎え撃つように姿勢を低く構えをとる。引く気はないと物語っているようである。

 

 直線的に1発、2発と拳を振るう切島の攻撃を難なく交わすも、その後ろから切島を飛び越えるように奇襲をかける尾白。上から振り下ろされる尻尾をサイドステップで避けると、回り込むように切島が陣取り、再び左右の連打を重ねてくる。

 直撃はないものの、神機は自分の位置が壁際へと押しやられ始めていることに気づいている。切島へカウンターを返しても有効打は薄く。尾白を狙えば切島に庇われ、その後方からリーチを生かした尻尾の牽制が入る。その繰り返しをしていくうちに、神機は角へと追い込まれた。

 

 「やっと追い込んでやったぜ。逃がす気はねぇぞ!」

 

 一呼吸を置いてから、切島が前、尾白が後ろのフォーメーションで再びアタックを仕掛ける。その瞬間、スーツ越しからでも分かるほど神機の全身が発光を始める。

 

 「流石に出力を上げないとジリ貧になるか…」

 

 神機が地面を踏み込んだ刹那、切島は瞬間的に神機を見失う。角に追い込んでいたはずが、一瞬で二人の脇を擦りぬけ背後に立つ。

 

 「ウッソだろおい!!?」

 

 完全に虚を突かれた切島。そして、切島の後ろに居たため神機の踏み込みが見えず、完全に見失っている尾白。その尾白の背後で、腰に挿している剣の柄を握り、抜刀の構え。

 

 「う、後ろなのか!!?」

 

 ワンテンポ遅れて振り向いた尾白の眼前には、柄から伸びる青白い光を放つ剣。そして、変わらずギラつく眼光。尻尾も含め、体の前面を全力で守る。そして、そこに神機の剣技が放たれる。

 崩れ落ちる尾白。モニターを見ていた生徒の一部からは小さく悲鳴が上がる。

 

 「せ、先生!!お…尾白君が!!?」

 

 「Shit!!まさか、マジで切ってるのか!!?」

 

 一事騒然となるが、尾白の体からは出血は見られない。オールマイトが無線越しに尾白へと無事なのか声をかける。

 

 「あ、オールマイト。大丈夫です。ただ、体が動かないんです…。」

 

 「ど、どうなっているんだ?いや、だが本人が無事なら…」

 

 そんなやり取りの中、柄を投げ捨て、飛び蹴りを切島へと放ち、壁を背をわせるとその正面に腰を低く落として神機が構える。

 

 「絶対に倒れないことは素晴らしいことだ。戦いは最後まで立ってた奴が勝つ。だが……」

 

 話し終わる前に切島が右を大きく振りかぶる。しかし、その拳が神機に届くよりも早く、無数の連打が切島の全身へと叩き込まれる。

 上半身はブレていないのにも関わらず、両手だけが高速で打ち出されており、残像により手が増殖しているかのように見える。急にピタリと連打を止めたかと思うと、切島は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。それを、神機が受け止める。

 

 「まぁ、立ってるのは俺なんだけどな」 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「輝少年。見事な立ち回りだったな!!尾白少年を切りつけた時にはヒヤッとしたが、アレはどういうことなんだい?」

 

 葉隠から返してもらった鉢巻を結びながらモニタールームへと戻ると、開口一番オールマイトから質問を投げかけられる。周りは「辻斬りかと思ったぜ」や「人斬り以蔵の生まれ変わりなんじゃ」と言いたい放題である。

 

 「俺の個性は身体強化で通っていますが、正しくは『身体内の波動を操る能力』です。自身に発動することで身体強化。媒体に纏うことで武器への変化。そして、その攻撃は『外傷にも内傷にも変換する』事ができるんです。

 

 あ~、ちょっとむずかしいな…。そうだなぁ…。飯田、ちょっと来てくれないか?

 

 「今から、コレで足を切るけどいいよな?」

 

 と言いながら、何の警戒もなく近寄ってきた飯田の右足のエンジン部分を大きく斬りつける。

 

 「きっ!君というやつは!了承を得てからやりたまえ!!」

 

 いや、もう疲れてるからさっさと説明終わりたくて。で、右足の個性使えるか?

 

 「……な、なんだこれは?左のエンジンは吹かせるが、右足が…。それどころか、右足だけ痺れているような感覚だ…」

 

 あぁ、個性だけを止めるつもりが肉体までちょっと行っちまったか…。すまん。

 

 「ケロ…。じゃあ、神機ちゃんが試験の時に使ったスラッシュタイフーンって技は、外傷を与える能力で使ったってこと?」

 

 そういうこと。

 …二種類使えるようになったのは、きっと親父とのあのやり取りが原因なんだろう。

 

 「よし、じゃあ総評を行うから、それが終わったら次のチームを決めるぞ!!」

 

 正直、総評は俺の独断を責める声もあれば「ヴィランらしくて良かったと思います」と笑顔で答える麗日やらもうむちゃくちゃであったが、オールマイトからは「今回の結果に慢心せず、精進を忘れちゃ駄目だぞ!」と合格点をもらえた。むしろ、作戦的にはあれしか無いと思うんだが…。

 

 そして、轟と爆豪のやや殺気の籠もった視線を感じながら「今日の晩飯何にすっかなぁ」ときづいてないふりを決め込むのだった。



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7話・友情と不正と委員長とゴミ捨てと……

サブタイトル味気ないので全部変更しました!今後はこんな感じでやっていきます。
タイトルもインパクトあるのに変えたいんですが、お気に入りが増えれば増えるほど変えにくいですね…。アイデア募集いたします^q^


小説を投稿するとUA(閲覧者?でいいのかな?)の動きが見れるんですが、私程度の小説だと3~4日経つと1時間に一人~二人くらいに落ち着き、一週間も経てば1日に二人読んでくれれば良いくらいになります。

ただ、そんな中でもお気に入りが増えていくというのはすごく嬉しいです。気づけば27人の方にお気に入り登録していただいています。
ありがとうございます。

更新ペースは遅いですが、少しでも感想や評価が増えるように続けていきたいなぁ…と、思っています。


 ヒーロー基礎学はつつが無く終わった。

 俺自身も上を目指すために、クラスメイトの個性の分析をしたが…全体攻撃を持つ上鳴や轟とは恐ろしいほどに相性が悪い。遠距離の技も一つくらいは持ってたほうがいいな。

 八百万も様々なものを創造できることから、銃なんて作られたら骨が折れそうだ。この辺も、何か対策を考えておかないとな。

 

 「んふふ~。さっきはありがとね!輝君ってめちゃくちゃ強いんだね!」

 

 隣を見ると、女子用の制服がぴょんぴょんしながら浮かんでいる。あぁ、透か。

 

 「いやいや、最初の奇襲あってこそだ。尾白の動きを鈍らせることができたから被弾を抑えられたんだよ。それに、いつでもフォローに入れるように隠れてくれてただろ?心強かったよ」

 

 しかし、相手の顔が見えないっていうのは何とも不思議だな。今も顔を見てるつもりだが、あいつはどんな表情で俺を見てるのだろうか。…今更だが、怖がられてなければいいが。

 

 「顔の割にすごく謙虚なんだね!あらためて、これからよろしくね!」

 

 そう行って、制服の裾が俺の方へ伸びてくる。

 

 「一言余計だ。まぁ、よろしく頼む」

 

 そして、握手を交わす。…女性だから当たり前なんだが、華奢な手だな。

 

 「緑谷君帰ってきたー!!!」

 

 そして、先程の授業で俺以上に派手な破壊力を見せた緑谷が帰って来ると、教室中の生徒が緑谷へ集まり、わいのわいのと話し出す。

 ……緑谷出久。アイツの個性はあまりにも不安定だ。下手をすれば建物を破壊し、住民への二次災害へと繋がる恐れがある。今は怪我が治りきってなさそうだから見送るが、追々アドバイスくらいは言ってやろう。今話しかけに行ってる麗日が試験でお世話になったこともあるしな。

 

 「神機!!一緒に帰らねーか!?」

 

 唐突に声をかけてきたのは切島だった。リカバリーガールのおかげで傷は消えており、元気そうで何よりだ。

 

 「よくもまぁ、あそこまでボコスカ殴ってきた相手に帰ろうなんて言えるな」

 

 「それはそれ、これはこれだろ?…駄目か?」

 

 そう言いながら、両手を合わせて頭を下げる。やめろやめろ、一緒に帰るくらいしてやるから頭を上げろ。おい麗日「アレがカツアゲって言って…」って八百万に嘘教えるな。

 

 

 

 

 

 「いや~。神機ってマジで強かったんだな!入学初日で自信ありそうだったけど、あそこまでとは思ってなかったぜ!」

 

 切島と河川敷を二人で歩く。話す内容としては、基礎学の感想みたいなものだ。

 俺の躱し方や個性を使った攻め方、威圧感など感じたことを事細かに話してくれた。学校が始まって一週間も経っていないが、コイツが真っ直ぐで熱い男だということ位はすぐに分かった。

 

 「…あのよ、正直に言ってほしいんだ。神機から見て、俺はどうだったんだ?」

 

 「何がだ?」

 

 「俺は…男気ヒーロー【紅頼雄斗(クリムゾンライオット)】に憧れてヒーローを目指すようになったんだ。でも、肝心な時にはビビっちまう。今回もそうだ。お前の気迫に押されて、正直、逃げてぇ!って思っちまった」

 

 立ち止まり、ぽつりぽつりと話し始める。きっと、入学する際に自分に立てた誓いがあるんだろう。それを入学して数日の間に揺るがされる出来事があった。いや、俺のせいなんだけど。

 

 「あー、そんなに怖かったか?」

 

 「あぁ、めちゃくちゃ怖かった。中学時代に見たヴィランに引けを取らないくらいに…」

 

 そ…そこまで言うか…。いや、顔を隠して眼だけ出してたしそれが原因ということにしておこう。それよりも、俺が出来る事をしてやるべきだな。

 

 俺は河川敷を降り、少し広めの河原へ切島を手招きする。切島は何をするのかわからないのか、トボトボと俺の正面まで歩いてくる。

 

 「そんな暗い顔するな。恐怖を感じるっていうのは普通のことだ。それでも、お前は俺に対して手を出してきたじゃないか。最初から完璧に動ける奴なんて滅多にいない。大切なのは、何度でも挑戦することだ。例えそれが、痛みを伴うとしてもだ。」

 

 どこ目線なのかわからない俺の話を真剣に聞いてくれる。そんな切島が俺に対して疑問を投げかける。

 

 「痛みを伴うって…どういうことだ?」

 

 体験しなければ絶対に気づく事の無い感情。そして、条件によっては力にも憎しみにも変わる。

 

 「失う事だ。自信であったり、体や心の一部…人を救えなかった事、亡くしたこと。それでも、自分の叶えたい夢や理想、信念があるなら…躓いたとしても、転んだとしても前に進むしかないんだ。そういった人間が、ヒーローになれるんだと思っている」

 

 両親と兄の顔が浮かび、思わず拳に力が入る。そう、無くしてから気づく事が多すぎるんだ。だから俺はここまで強くなった。次に誰かを守る時、後悔しないために。

 

 「そうか。お前も【紅頼雄斗(クリムゾンライオット)】みたいに…男気に溢れてるんだな。………よかったら、今からちょっとだけ戦い方を教えてくれねぇか!?」

 

 まぁ、そのつもりでわざわざ河川敷降りたんだけどな。

 簡単に拳の出し方とか教えてやるよ。大振りすぎて見てられん。

 

 

 そして、俺と切島は河川敷が夕焼け色に染まるまで話したり、簡単に組み手なんかもした。…近所の人から喧嘩をしていると勘違いされ、ヒーローが駆けつける事態にもなったが…まぁ後々、笑い話になるだろう。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 翌日。

 校門前に集まるマスコミに「何でヴィランが雄英の制服を!?」等と言われながら登校した。

 

 「うぷぷぷ…くくくく…」

 

 そして、隣で見てた麗日は教室についてもずっとこの状態だ。…う~ん、長身で目つき悪いだけでこうまで言われるものか?

 

 「おはよう神機ちゃん。お茶子ちゃんは朝からご機嫌みたいね」

 

 「マスコミが光栄にも、俺の事をヴィランと勘違いしてからずっとこの状態だよ」

 

 俺の返答で思い出したのか、麗日が堪えきれずに吹き出す。

 

 「神機ちゃんは何かオーラを感じるから‥。常に気でも張ってるのかしら?」

 

 蛙吹はそう言いながら肩を揉みだす。…めちゃくちゃ上手いな。基本的に筋肉痛がデフォルトの体だから効く。

 

 「普段から警戒心は持ってるつもりだが…。もしかしたら、常時個性を発動してるのも関係してるのかもな。一定量なら発光しないから、トレーニングも兼ねて、バレないレベルで常に発動してるんだよ。」

 

 「そうなのね。熱心なのも良いけれど、体は労ったほうがいいわよ。ケロ…すっごく固いもの」

 

 「そんな言葉聞いちまうと…オイラのリトル峯田も固くなっちまうぜ…」

 

 余計な事を言った峰田実は、蛙吹に頭部をバシバシと叩かれながらも何処か嬉しげな表情である。

 と、ここで今までジトーっとやり取りを見ていた麗日がハッと何かに気付く。

 

 「神機君。もしかして私との組手の時、バレないように個性で強化してた?」

 

 「……………んなわけないだう」

 

 「噛んでるやんか!!ずるいずるいずるい!!」

 

 「おいお前ら、HR(ホームルーム)始めるから静かにしろ」

 

 麗日からの猛抗議は担任の相澤先生の登場により回避される。…後ろ向いてないで前向きなさい。話始まるから。

 戦闘訓練のVを見た感想として、爆豪と緑谷が注意をされる。そのついでに俺に対しても「お前もグレーゾーンだがな」と念押しされる。ボコボコに殴ってたの俺だけだもんな…。ついでに、昨日の河川敷の勘違い騒動についてもお小言をいただくが、コレは完全に無実でしょ。むしろ青春の1ページだろ。

 クラスの雰囲気が(ま~た神機が切島巻き込んでやらかしてんのか。)と、いった雰囲気になるが今回は無実だってマジで。そんな雰囲気などお構いなしに、担任の相澤先生が話しを続ける。

 

 「ふぅ。誰かさんのせいで話が長くなったが、ここからが本題だ。学級委員長を決めてもらう」

 

 

 『学校っぽいのきたあああああああああああああ!!!』

 

 

 う、うるせぇ!!何でみんなそんなに乗り気なんだよ!

 

 自己主張の強いやつから弱いやつまで、皆体を乗り出して立候補していく。俺は正直、誰でもいいので頬杖をついて座っているだけだ。結果的には投票で決めることになる。…つってもなぁ、一番それっぽい見た目なのは八百万と飯田なんだよなぁ。

 …ここは飯田に入れておくか。模範的な回答、行動力、信頼性もアイツなら問題なく築くことが出来るだろう。

 

 で、結果を見ると緑谷3票、八百万2票、俺に2票と…って、待て!誰だ俺に2票も入れたやつは!!

 

 「ケロ…神機ちゃんは顔は怖いし抜けてる所もあるけれど、いざという時の判断力と行動力は誰よりもあると思うの」

 

 「神機は男気があって熱いヤツだ!!ついて行きてぇ!って思えるからな!」

 

 も、求めてない…そもそも俺みたいなワンマンアーミーに多を牽引する力なんてあるわけ無いだろ。

 

 「八百万と輝が同票か。で、どうするんだ?」

 

 相澤先生の「早く決めろ」と言わんばかりの圧力がヒシヒシと伝わってくる。…つっても、俺の意思は決まってるしなぁ。

 

 「あ~、投票してくれた蛙吹と切島には悪いけど、俺は委員長なんてガラじゃないから辞退するわ。そもそも、冷静に考えてくれ。俺みたいな勢いだけの奴が委員長なんてやったら、相方の委員長の苦労が計り知れなくなるだろ?」

 

 『確かに…』

 

 何で全員納得してるんだ。…クッソ、麗日が机に突っ伏してるけど笑いを堪えてるのがバレバレだ。肩がガクガク震えてやがる…。

 

 「そういう訳で、緑谷と八百万に委員長を頑張っていただこうじゃありませんか。はい、拍手ー!」

 

 その場の流れで俺が拍手をすると、皆も拍手をする。ふぅ、ホント、ガラじゃないっての。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 「神機君!お昼食べに行こ!聞きたいこともあるしね……」

 

 昼休みが始まると同時に、俺に問い正したい事があるのか麗日が声をかけてくる。残念だが、野暮用があって俺は後から合流させて貰う。

 

 「ケロケロ。野暮用って何かしら?」

 

 日直の仕事である黒板消しを行いながら、蛙吹も聞いてくる。

 

 「俺は奨学金制度だから、今後の確認とかその他の事で相澤先生に呼ばれてるんだよ」

 

 家庭環境がやや拗れてるってのもあるからなぁ。

 

 「そうなんだ。…じゃあ、逃げずに食堂に来るんだよ?個性常時使用で、過去の手合わせ中の不正が発覚した場合は………」

 

 「…場合は?」

 

 「じゃ!先にいってるね!!」

 

 言わねーのかよ!!気になるだろ!麗日は教室から出ていく緑谷と飯田に「私も行くー!」と手を振りながら出ていった。は~、別に黙ってたわけでもないが、後ろめたさも確かにあったし…今回は何か奢るくらいはしてやらないとな。

 

 ふと隣を見ると、昼休憩のゴミ捨てに行こうと蛙吹がゴミ袋を持ち上げる所だった。

 

 「あー、蛙吹。職員室に行くついでに俺が捨てといてやるから、お前も麗日達と飯行ってこいよ」

 

 そう言いながらゴミ袋を取ろうとすると、蛙吹が袋から手を離さずにジッと俺の顔を見ていた。

 …なんだよ。

 

 「コレは日直の仕事だし、神機ちゃんに悪いわ」

 

 「気にすんなって!ついでだついで。そんなに重い訳でもないし、方向が一緒だから俺が捨てた方が効率がいいだろ?」

 

 「でも、悪いわ」

 

 んあぁ?何で引いてくれないの?俺そんなに変なこと言ってるか?

 俺は冗談っぽく「じゃ、一緒に捨てに行くか?」と戯けて蛙吹に言葉を投げかけてみる。すると…

 

 「えぇ、一緒に行きましょう。」

 

 即答である。何処か嬉しげな蛙吹と共に職員室、ついでにゴミ捨て場まで一緒に行くことになった。ゴミ袋を持つと言っても頑なに譲ってくれなかったので、蛙吹の提案で袋を縛ってる部分を分けて一緒に持っていくことになった。え、なんかコレおかしくない?大丈夫?

 

 「ケロケロ。何もおかしい事なんて無いわ、神機ちゃん。」

 

 

 

 

 この時は俺と蛙吹もしらなかった。

 まさか、向かった職員室であんな奴らと鉢合わせるなんて…。




書いてて思ってるんですが、蛙吹の表現で「こちらをじーっと見ている」っていうの想像しやすいですよね。可愛い。

ちょっとアンケートありますんで、よければお願いします。


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8話・歯車は動き出した

最速更新です。
気づけば出来てました。おそらく今回だけです。
アンケート見ると今の所は『今のままでいい』が多いですね。個人的には展開が遅いかな?たお不安に感じていましたが、もっとじっくり書いてほしいと言った意見があったは意外でした。
まだアンケートは置いておきますので、よろしくおねがいします。

感想・評価お待ちしております。
もうぶっちゃけ「読んだ。頑張れ」だけでも嬉しいので…嬉しいので…


 周りから見られていた気もするが、職員室前についた。ここまでくればゴミ捨て場まで目と鼻の先なので、蛙吹に先に行っててくれと伝えるが「ここまで来たんだから、神機ちゃんを待つわ」と言われる。

 いやいや、話が長くなるかもしれないし…

 

 その時、大きなサイレンが鳴り響く。それと同時に、教師陣が慌ただしく職員室から出てきた。その中にはもちろん担任の相澤先生の姿もあった。

 

 「悪いな、輝。マスコミの不法侵入だ。打ち合わせは改めて行う」

 

 そう言いながら指差した先には、雄英バリアとも言われる大きな門。そこに不自然にポッカリと空いた穴からマスコミがなだれ込んでくる所だった

 

 「確認してほしい書類等は俺の机の上に置きっぱなしだから、それ持って騒ぎが収まってから戻れ」

 

 えぇ…教師不在の職員室に生徒が勝手に入って書類見てもいいんですか?

 俺の心の中のツッコミは勿論だが届くはずもなく、職員は皆対応の為に散り散りになった。

 

 「ケロ…先生も大変ね。じゃあ、私達も用事を済ませてしまいましょう?今動くのは危ないから、神機ちゃんを待つわね」

 

 「もう好きにしてくれ…」

 

 今回の件でわかったが、蛙吹は譲りたくない事は譲らないタイプらしい。どちらかというと、相手と自分の意見を聞いて冷静にかつ公平に判断し、お互いの妥協点を出すような落ち着きのあるタイプだと思っていたんだが…。その事を伝えると「誰に対しても…という訳では無いのよ?」と返される。

 俺に対しては反抗しやすいってことか…。

 

 「ケロ…。仲良くなるにはまだまだ時間がかかりそうね」

 

 「なんか言ったか?」

 

 ボソリと何かを言ったみたいだが、未だに鳴り止まないサイレンの音でよく聞こえなかった。

 

 「早くゴミを捨てたいわって言ったの。神機ちゃんも用事を済ませないと、昼食を食べる時間がなくなっちゃうわ」

 

 それもそうだな。今日の日替わりバーガーセットはメンチカツだから是非とも食べておきたい。

 そんな事を考えながら職員室の扉に手をかけた瞬間、全身に細かい針を刺されたような悪寒を感じる。これは明らかに学校内で感じてはいけない感覚。いや、むしろ感じる機会が殆どない…のほうが正しいか?

 

 「蛙吹…ちょっと離れてろ」

 

 職員室の中に居るであろう何者かに悟られないように小さく伝える。蛙吹も俺のただならぬ雰囲気を感じたのかソロリソロリと距離をとってくれる。蛙吹の立ち位置を確認し、俺自身も即座に対応できるように集中しておく。

 …くっそ、蛇が出るか鬼が出るか。何でも来い!!

 

 勢いよく扉を開けた瞬間、体中に手をつけた男が勢いよく迫ってきた。こいつか!この殺気の正体は!

 眼と眼が合う。死んでいるかのように生気が無い目をしているが、違う。明らかな狂気を孕んだ殺人者の目だ!!

 

 俺に向かって勢いよく両手を突き出してくる。それをバク転で回避しながら、回避のついでに顎を蹴り上げて体制を崩し、右手に強く個性を溜める。がら空きになった頭部に必殺技を叩き込むために。

 

 「必殺!シャイニングフィンガー!!」

 

 完璧なタイミングで繰り出された俺の手は、黒い霧の中に消えていった手の男と一緒に吸い込まれる。手応えがないことから、距離をとるために蛙吹の前まで移動をすると、黒い靄が廊下の少し離れた所に現れ。そこから先程の手の男が現れる。

 

 「…挨拶もなしに顎に一撃入れるなんて、なってないなぁ…雄英の生徒は」

 

 職員室前の廊下で、明らかに雰囲気にそぐわない異質な男と対峙する。服装は黒一色、腕や肩、顔にも手を付けており、時折覗かせる目は未だに何が目的なのかを探らせない。

 

 「…見られたからには殺しておかないとな!」

 

 そして、再び前進してくる。先程よりも速度は早く、姿勢が低い。廊下という直線の場所でありながらも、左右に体を揺らす動きを加えることで的を絞らせない。俺の後ろにいる蛙吹の距離を確認するために、相手への目線はそらさず、手探りで蛙吹を触る。こいつの動きは俺を狙っているわけじゃない。確信がある。なにせ、初手の圧倒的有利な不意打ちがカウンターのおまけ付きで失敗しているんだ。…つまり!

 

 「蛙吹!しゃがめぇ!!」

 

 「ケロッ!!」

 

 俺の目の前に来た瞬間に再び黒い霧が現れ、手の男の姿が消える。そして、現れる場所は蛙吹の死角。つまり背後だ!!学生だからって舐めるんじゃねぇ!!

 

 「なっ!?ぐあぁ!!」

 

 振り向きざまの後ろ回し蹴りが手の男の顔面にガード越しにヒットする。吹き飛ばされた勢いで、職員室のドアを突き破り、机をなぎ倒しながら壁に激突する。…アイツ、反応しやがった!

 

 「ありがとう、神機ちゃん。怪我してない?」

 

 「俺は大丈夫だ。蛙吹こそ、反応してくれてよかったぜ」

 

 ぐったりと壁にもたれるように項垂れている手の男から視線を逸らさずに、お互いの状態の確認を行う。

 しかし、項垂れていたのも数秒。俯いたままゆっくりと立ち上がる。空気が段々と重苦しくなり、相手の怒りが全身から伝わるかのように肌を這い回る。

 顔を上げれば、口角を吊り上げ、目を見開いている相手と目が合う。もう、油断してくれなさそうだ。

 

 「あぁ…やるじゃないか……。本当に驚かされる。絶対に、今、ここで、お前は、消しておいたほうが、いい事が、わかった…」

 

 言葉の区切りに合わせて、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。散らばった紙やペンなどを踏みしめながら、機を伺っている。距離が縮まる毎にビリビリと全身が痺れる。弱気になるな!俺の後ろには蛙吹がいるんだぞ!?

 しかし、その動きに終止符を打ったのが、戦闘中にも現れた黒い霧であった。

 

 「目的のものは見つかりました。散らかされる前で良かったですよ」

 

 「なんだよ。これからが本番だってのに…。いや、本番は今じゃないな…。………神機と呼ばれていたな。お前の顔と名前、覚えたからな…ッ」

 

 黒い霧で消える間際に今日一番の殺気を放ち、手の男は消えていった。

 完全に気配が消えたのを確認して、俺はその場にため息とともにしゃがみ込む。

 

 「し、神機ちゃん!!大丈夫!?」

 

 蛙吹がらしくもなく声を荒げる。目線を合わせるよう俺の正面にしゃがみ込み、両肩を掴む。

 そんな取り乱している蛙吹に、顔を上げ、目線を合せる。両手に置かれた温もりが伝わってくる。だからこそ、強く実感できた。

 

 「よかった。俺は、ちゃんと守れたんだな…」

 

 安堵の言葉と共に、目頭が熱くなった。

 俺の努力は無駄じゃなかったと、本当の敵と対峙しても戦えるようになったんだと…そして、大切な友達を失わなかった安堵感と。全てがゴチャ混ぜになっていた。

 

 「おいおい…音がしたと思って戻ってみれば、コレはどういう事だ」

 

 俺の気持ちが落ち着くよりも先に、担任の相澤先生が帰ってきた。蛙吹は俺が無事なことが分かると、相澤先生へ先程起こったことの説明をしてくれた。

 

 「ヴィランだと!?しかも戦闘を行ったって…輝、お前……!」

 

 「相澤先生、あの場面は戦うしか無かったんですよ。相手は俺達に気づいていたんです。距離を取ろうにも、扉に背を向けた瞬間に音もなく現れて戦闘が始まっただけです。あと、しゃがんで気づいたんですが、コレを見てください」

 

 まだ何か言いたそうな相澤に、俺は踵の部分がボロボロに『崩壊』している靴を見せる。

 

 「コレは…門の崩れ方によく似ている。どういう事だ」

 

 「さっきの戦闘時に、手の男の顔面を蹴った際に手でガードされました。戦闘中にも、アイツは殴りや蹴りなどは使わず、終始掴みかからうとしてきました。おそらく、触れることが個性発動の条件だと思います」

 

 「…また詳しくは放課後に話を聞くとしよう。俺の言いたいことも纏めてその時に話す。だけど、お前達は俺とやらなければならないことがある」

 

 やらなければいけないこと?現場検証とかですか?

 

 「勿論それもあるが、掃除と反省文だ」

 

 改めて、俺は自分の戦った後を確認する。

 2メートル程ある個性フリーな巨大扉は粉砕され、職員室の机は壊れたり吹き飛んだりでむちゃくちゃ。さらには書類や置きっぱなしだった飲み物などが散乱し、後始末が一筋縄では行かないことを物語っていた。

 

 「えーっと、じゅ、授業があるので学業優先で…」

 

 「今日はマスコミの侵入もあったから午前で授業を切り上げる事になった。時間はたっぷりある。…ま、後は言わなくても分かるな?」

 

 相澤の目がギラリと光る。

 蛙吹をチラリと見ると「コレばっかりは仕方がないわ」と言われた。

 ……手だらけ男、次あったら八つ当たりも含めて仕返ししてやる…。

 

 

 

 

 

 

 開放されたのは普段の授業が終わるのと一緒くらいの時間だった。

 俺は黒い霧の個性が、おそらく『転移』であること。何かを探していたこと。本番は『今』ではないと言っていた事。等を伝えた。そもそも、俺がミッドナイトやエクトプラズムと片付けを行っている間に蛙吹が詳しく説明してくれていたからだ。

 

 最終的には物品破損の反省文を書く分だけ帰るのが遅くなったのだ。…俺だけ。えぇぇぇ…。しかも昼食も食べ損なうし…

 

 何気なくスマホを確認すると、クラスメイトから何で午後の授業に出なかったのか質問のメッセージが届いていた。とりあえず透や切島には「我、現在空腹也。詳細後日。」と適当に返しておく。相澤先生からあまり話すなと言われているからな。

 蛙吹からはお礼が届いていたが「当たり前の事をしただけだ」と返しておく。実際、そうだからな。

 

 ちなみに麗日からは「梅雨ちゃんから聞いたけど、大丈夫?何かあったらすぐに連絡してね!」と来ていた。蛙吹ェ…話したのか。でも、麗日ならいいか。麗日には「不正の話は後ろめたさが正直あったから、今度なにか奢るわ。何がいい?」と送ると「おもち!!」とだけ帰ってきた。年頃の女子がそれでいいのか?

 

 正直、不安ではあるが…雄英のヒーローに伝えるべき情報は伝えたわけだし、相手も少しの間は慎重になるだろう。

 そんな根拠のない甘さを後々俺は後悔する事になるのだが、今の俺が知るはずもないのである。

 




戦闘短いですよね?
百も承知です。ご安心ください。USJ編はやらかしてくれるはずです!
ただ、プライベートがごたつきそうなので近いうちに更新が止まる可能性があります。
その際には報告いたします。
読んで頂きありがとうございました。


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9話・ヴィラン連合

おまたせ、待った?

生きてるよ!





 「こういうタイプだったかああああぁぁぁぁ!!」

 

 翌日。緑谷から委員長職を譲り受けた飯田の叫びが木霊した。

 ヒーロー基礎学の授業場所がバス移動のため、初の委員長の責務である!と張り切っていた所、想定していた席のタイプと違うかったからだ。

 

 「まさかこのタイプだったとは…。」

 

 「気にすんなよ。少なくとも、1年間はこんな機会に恵まれるぜ。」

 

 ポンッと飯田の肩を叩き、バスに乗り込む。最後の方だったからか、長椅子しか空いていなかったので、そこの真ん中に腰を下ろすと、左右に蛙吹と麗日が座る。なんで女子同士で隣り合わせにならないんだよ…。実は仲悪いのか?

 

 「そんなことないよ?ね~梅雨ちゃん」

 

 「ケロケロ。仲良しよね、お茶子ちゃん」

 

 俺を挟んでキャッキャと両手を合わせる二人。尚更、俺が邪魔だろ。

 その様子を正面から見ている緑谷、飯田、切島が微笑ましそうに眺めている…いや、まぁいいんだが…。ちなみに、峰田は「俺と場所変われ輝コラァ!!麗日っぱいと蛙吹っぱいを目の前にしてなんで行動しないんだ!お前リトルシャイニングフィンガーはふの――」と憤怒の顔をして喚いていた。何も言うまい。

 

 

 

 

 バスが出発してからすぐは今から行う授業についての予想だったが、数分も経てば各々の得意分野から個性の話へと変わっていた。そんな中、蛙吹が緑谷に話しかける。

 

 「緑谷ちゃん。私、思った言っちゃうタイプなんだけど。あなたの個性って、オールマイトに似てるわね」

 

 「えっ!えええぇっ!?そ、そそそそんなことないとオモウナー」

 

 「そうだぜ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねぇぞ」

 

 「…いや、そうとも言い切れないと思うけどな」

 

 切島の反応に対して異を唱える。俺の一言にクラス全員が話を中断し、こちらに注目する。緑谷が「ど、どうしてそう思うの?」とおそるおそる聞いてきたので「あくまで推察だが」と前置きをして話し出す。

 

 「緑谷は個性が最近になって発現したんだよな?俺達の個性は幼少期から弱い状態で発現し、年齢を重ねる毎に一定水準まで能力が向上していく。でも、緑谷の場合はその過程をすっ飛ばして、最初からフルパワーが出せるんだよな?」

 

 俺の問いかけに対して、緑谷はコクリとうなずく。

 

 「つまり、俺達のように個性にそもそも慣れてないんだ。例えるなら、唐突に肉体が改造人間ばりに強化されたとしよう。握手する力加減も、走る際の踏ん張りも力加減が全て変わってくる。そうなったら、うまく扱えなくて当然だ。」

 

 俺の説明に対して「んなこたぁイチイチ説明せんでも分かるわ!!」と爆豪。俺はそれに対して結論を話す。

 

 「つまり、これからの個性の伸びしろもコントロールも…。状況次第ではオールマイトのような超パワーを使用しつつも、体を壊さないようになるかもしれないってことだ。そうなれば、実質2代目のオールマイトはお前になるだろうな」

 

 その俺の一言に対して周りが様々な感想を漏らす。納得するものもいれば「くだらねぇ!」と一蹴する者。そんな中、当の本人だけは汗をダラダラと滝のように流し俯いている。

 

 「まぁ、あくまで可能性の話だがな。それに、今の緑谷は個性の制御があまりにも出来てない。例えるなら、目隠ししたまま目押しして力の調節をしてるようなもんだ。目押しって分かるか?スロットとかの絵柄を狙って止めることを言うんだが―――」

 

 と、話の途中で緑谷がガバっと顔を上げる。どうやら、図星みたいだな。どんなイメージをしたら目隠しして目押しみたいな例え話で共感できるんだ?

 

 「じゃ…じゃあ、何かいいアイデアとか教えてくれないかな。僕も…このままじゃ駄目だと思うから」

 

 遠慮しながらも、瞳の奥を輝かせて緑谷が問いかける。

 アイデアねぇ。努力に近道はない。ただし、『道』はいくらでもある。努力の方向性だけな。

 

 「そうだな。俺の手を見てろよ―――っと、蛙吹と麗日はちょっとだけ離れてくれ。危ないからな。」

 

 俺は自分の前に掲げるように右手を上げる。そして個性を発動し、ゆっくりと練り上げていく。普段の使用時よりも丁寧に、慎重に…。

 すると、普段の薄い青色から段々と赤色に変わり、最終的には真っ赤に燃えるような灼熱の色になる。いつの間にか身を乗り出し、遠い席から見ていた奴らも「オオォ~!」と声を上げる。

 

 「これが俺の目指す最終必殺技だ。今は咄嗟で発動するのも、維持することも出来ない。ここで峰田が屁をこいても、その程度の気の緩みで解けるほどだ。…正直、話すのもきつい」

 

 遠くから「するわけねえだろー―!!」と聞こえたが、その声に意識が行ってしまい灼熱の手は元に戻る。俺の額からは汗がドッと流れ、息も切れてしまっている。その様子を見て、麗日と蛙吹が心配してくれるも、ただの疲労だから問題はない。

 そして、緑谷の手を掴み拳を作らせると、それを上から掴む様に強く握る。

 

 「イッ…!」

 

 「いいか緑谷?パワーってのは瞬発力ももちろん大事だ。だけど、それで力加減を間違えて拳を痛めたら意味がない。個性ってのは繊細に使えば使うほど燃費も効果も良くなる。個性はゆっくりと込めろ。イメージは自分に馴染ませ、保ち、維持するんだ。まずは体の許容量を知るところからだ。それさえわかれば、俺みたいに全身に巡らせられるようになる」

 

 もうヒントじゃなくて答えなんだよな。

 苦笑いをしていると隣の麗日が不満そうに俺を下から睨みあげている。なんで不満顔?俺は何もしてないんだが。

 

 「何もしてない…?」

 

 「え?」

 

 「私との特訓の時はそこまで教えてくれへんかった…」

 

 「…」

 

 「一通り弄ばれて動けんようになってから『あぁ、麗日。ああいう時は、こうするんだぞ』って毎回終わってから言ってくるのに!!デク君の時だけ大盤振る舞いや!ズルい!ズルい~~!!」

 

 合間に俺の真似(?)を挟んで忌々しそうに地団駄を踏んだかを思えば、俺の肩や胸辺りをボコスカと殴ってくる麗日。こら、蛙吹にも迷惑かかるからやめろ。蛙吹も何とか言ってくれ!!

 

 「神機ちゃん。鍛えてるだけあって、逞しいわね」

 

 などと言いながら背中をペタペタと触られる。それを正面から見る切島、飯田もニヤニヤしてないで止めろ!!…緑谷はブツブツモードか。と、気を取られてる間にも麗日の攻撃は正確性を増し、鳩尾や関節部分と的確に急所を狙い始める。

 

 「お前らいいかげんにしろよ。もうそろそろ着くから降りる準備をしろ」

 

 相澤先生の一言でピタッと大人しくなる麗日。今日の組手を今から楽しみにしとけよ。

 ボソッと麗日に耳打ちすると、顔がみるみる青くなっていったが気のせいだろう。じゃ、さっさと降りる準備でもするか。

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 降りる迄に「なぁなぁ神機君。嘘やんな?組手楽しみにしとけなんて言ってないやんな?」と何度も麗日が聞いてきたが些細な問題だろう。

 そして、到着した場所がUSJ。『ウソの災害や事故ルーム』との事だ。…まぁ、夢の国からパク…オマージュするよりは許されるか?

 そして、念の為に増員されたヒーローがスペースヒーロー『13号』みたいだ。…あの格好で戦闘ができるのか?13号のファンだという麗日に話を聞いてみると…

 

 「13号は災害救助がメインだから、戦闘はあんまり得意じゃないみたい。でもでも!個性の『ブラックホール』はスッゴイ強力なんだよ!!何でも吸い込んで塵に変えるの!」

 

 と、誇らしげに教えてくれた。

 確かに威力は強力だが、ヒーローはヴィランを『殺してはいけない』。その括りの中で、果たしてブラックホールは相手に脅威となるのか?あくまで相手の攻撃を防ぐサポート役であり、相手を倒したり捕獲するような決め手に欠けている気がする。

 昨日のこともあるが、オールマイトがここに居ないのも気がかりだ。相澤先生が13号に耳打ちしていたが、何かあったのか?俺が思考の海に入っている間にも13号は個性についての心得を話す。

 

 「…神機ちゃん。さっきから考え込んでいるみたいだけど、どうかしたの?」

 

 考え込んでいる俺を覗き込むように、蛙吹が声をかける。

 

 「いや、大丈夫だ。どうせ俺の考えすぎだ」

 

 心配させないように歯を見せて笑顔を作る。蛙吹もそんな俺の表情を見て少しは安心したのか「ケロケロ。13号先生のお話もちゃんと聞かないと、相澤先生に怒られるわよ」と言う。

 

 「以上!ご清聴ありがとうございました」

 

 「ステキー!ますますファンになる!!」

 

 「ブラボー!!おぉ!ブラボー!!」

 

 13号の話が終わると、拍手と同時に様々な感想を口々に話す。

 そんな中、『それ』の存在に気づいたのは相澤先生と俺だった。

 

 「一塊になって動くな!!13号、生徒を守れ!!」

 

 中央広場から見た事のある黒い霧が大きく広がり、手を付けた男を筆頭に様々な人間が出てくる。…数があまりにも多くないか!?

 

 「13号に、イレイザーヘッドですか。先日頂いたカリキュラムにはオールマイトも居るはずなのですが…」

 

 「なるほど、くすねた物はカリキュラムだったってわけか。見通しが甘すぎたな」

 

 「オールマイトは居ないのか。昨日の『生徒』は…居るみたいだな。まぁいい。子供を殺せばオールマイトも現れるだろ?」

 

 その言葉を聞いて、相澤先生がゴーグルを装着し、何時もの気怠げな雰囲気から一変する。プロのヒーローはここまで切り替えが早いのか。

 

 轟が冷静に状況を分析し、相手が用意周到に準備を重ね奇襲を仕掛けてきたと全員に伝える。センサーや連絡手段が使えないこともあり、生徒全員の緊張感も高まる。

 そんな中、敵地へ向かおうとするイレイザーヘッドを緑谷が大声で制止しようとする。

 

 「待ってください!相澤先生は一人であの数と戦うつもりですか!?あの数じゃ、いくら個性を消すって言ったって…」

 

 「一芸だけではヒーローは務まらん。13号生徒を頼んだ。……輝、間違っても付いてくるなよ」

 

 相澤先生はゴーグル越しに俺に視線を合わせた後、階段を一層飛びに広場へと向かう。俺の行動はお見通しだな。釘を差されてまでは流石に動けない。下手したら退学だろうからなぁ。

 

 そんな中、イレイザーヘッドは寄せ集めのヴィランをなぎ倒していく。近接戦も難なくこなす姿に俺は拳を握る。くっそ、俺はただ見ているだけのために鍛えてきたわけじゃないのに!

 

 「よし、今の間に私達は避難しますよ!」

 

 「させませんよ」

 

 13号の掛け声に対し、霧のヴィランがいち早く反応をし正面に出る。

 

 「はじめまして、我々はヴィラン連合。僭越ながら…この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせていただいたのは…平和の象徴であるオールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして…」

 

 話の途中で切島と爆豪が切り込み、攻撃を仕掛けるもノーダメージ。

 

 「駄目だ!二人ともどきなさい!!」

 

 その通りだ。個性を無視して攻撃できる俺が動けない…。相澤先生の動きの解析で位置取りを失敗したのが原因だな…。クソッ、相手の次の一手はおそらく―――。

 

 「では、散らして、嬲り殺しましょう。ごきげんよう」

 

 黒い霧が生徒多数を飲み込む。俺も飲み込まれると、視界が暗転するように変わる。

 

 「火の海だな、おい…。災害訓練って言ってたから、火災のエリアか?」

 

 見渡す限り火。ビルがあることから市街地での大火災を想定しているのだろう。そんな中、俺を囲むように人影が現れる。

 

 「あれあれあれ?君一人なのかなぁ?」

 

 「悪いねぇ~、寄ってたかって弱い者いじめみたいになっちゃうねぇ!」

 

 「ヒッヒッヒ…」

 

 「なぁ、スケベ…しようや」

 

 一人変なの混じってないか!?しかし、弱い者いじめねぇ…

 

 「確かに、弱い者いじめになっちまうな。お前ら有象無象が集まったところで、俺一人にすら勝てないんだからな。俺が虐める側だ。」

 

 いつものように重心を低く、右手を前に、左手を腰辺りで構える。拳は作らず、柔軟に。膝も張らずに柔軟に。周りが燃えて明るいおかげで、多めに個性を全身に回しても発光が目立たなくてありがたい。

 

 「ハアァァ!?…あぁ!この人数差で頭がおかちくなっちゃったんでちゅね~」

 

 「バブバブ!げんじつ見つめれないでちゅ~」

 

 グラサンをかけたチンピラがクネクネと指をしゃぶる。が、その瞬間にチンピラ二人は俺の回し蹴り一発で吹き飛び、地面を勢いよく転がっていく。

 俺の踏み抜いた地面は軽くえぐれており、今、回し蹴りの軸足になった場所にも急にブレーキを掛けたように抉れた地面がある。

 

 「そうだな、現実見つめれないな。これじゃあなぁ!」

 

 俺の背後から襲いかかってきていた三人を振り向きざまの裏拳、正拳、肘打ちで意識を刈り取っていく。なんで火を使う個性のヤツが居ないんだ?…なるほど、人数は集めたが個性の把握まではしていないってことか。その名の通り烏合の衆なのかよ。

 1分もしないうちに大人5人が子供にやられたという事もあり、全員が警戒してうかつに飛び込んでこなくなった。それでも人数は12~3人は居るだろうに、数で押せる間に押すべきだと思うぜ。

 

 再び、地面から弾かれるような速度でヴィランに接敵する。

 個性を使われる前に3人の内の前列二人に足払いをし、そのままの回転で胴に回し蹴りをぶち込む。打ち込まれた二人は胃の中の内容物を撒き散らしながら地面に叩きつけられる。

 

 「ヒッ!ヒイイィィ!!来るな!来るなぁぁあああ!!」

 

 残った一人が体を岩石のように変化させ殴りかかってくる。そんな腰も入っていない大ぶりの拳は十分避けれるんだが、向かってきた勇気に答えてやる。

 フック気味に打ち込んできた拳を殴ると、腕にくっついていた岩が弾け飛ぶ。岩を体の外に生み出す能力か。だが、岩では止まらん!

 

 「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 いつぞや切島に叩き込んだ高速の連打を全身に叩き込む。が、切島程頑丈ではなかったようで、6発ほどあたったところで踏ん張りきれずに吹き飛んだ。おいおい、切島は20発以上はしっかり耐えてたぞ。根性が足りてないな。

 

 クルリと振り返れば、すでに若干繊維喪失気味のヴィランが複数人。しかし、何か契約でもあるのだろう。後には引けないと目が物語っている。

 俺はタンッタンッとステップを踏み、人差し指をクイっと曲げ挑発する。

 

 「どうした、弱い者いじめするんだろ?かかってこいよ。ヴィランに慈悲は無い!」



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10話・失うくらいなら自己を犠牲にする。

祝・10話
感想、評価よろしくお願いいたします。


 

 「ふう、これで全部か?」

 

 数十人と居たヴィランも今では全員蹴散らされ、無造作に転がっている。

 ビームソードを使うまでもなく勝てたのはありがたい話だった。武器の耐久性も、個性のエネルギー量も多く食うため使わないに越したことはない。

 汗だくになったヒーロースーツの上半身を脱ぎ、腰に括り付ける。とりあえず、状況の整理をしよう。

 

 おそらく霧の個性持ちに全員が分散されたのだろう。そして、俺と同じ様に災害エリアにランダムに飛ばされた。俺の行うべき行動としては、1つ目に『外に出て助けを呼びに行く』。2つ目に『他エリアの奴らを助けに行く』。最後に『広場に戻る』。だが、一番危険が高いのは広場に戻ることだろうな。手の男に霧の男。そして、チラリとしか見ることが出来なかったが明らかに人ならざるものがいた。あれがオールマイト対策だというのなら、相澤先生一人では勝てないのではないか?

 …いや、考えても仕方がないか。とにかく手遅れになる前に広場に向かう。ヴィランのせいで誰かを失うなんて事がまた起こったなら、俺はヒーローじゃない別の何かになってしまうだろう。

 

 個性を足へと流し、地面を駆ける。

 少しでも速く、少しでも最短距離を。なんとなくだが、嫌な予感がする。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 「そんな…相澤先生が…」

 

 水難ゾーンを蛙吹さんと峰田君で乗り越えた僕達は勘違いしていたんだ。きっと役に立てる。僕らだって誰かを救えるって。でも、そんな僕達をあざ笑うかのように敵は強大だった。

 脳みそがむき出しの改人『脳無』。相澤先生の腕を小枝のようにへし折り、顔面を容赦なく地面に叩きつける姿は正しく悪魔のようだった。

 

 「緑谷、駄目だ…。俺達に出来ることなんてなんにもねぇよ…。」

 

 必死に叫びたいのを我慢するように、両手で口元を抑え、絞り出すように話す峰田くん。僕も今すぐに逃げだしたいくらいだ。そんな中、蛙吹さんだけは真っ直ぐに見据えている。

 

 「…神機ちゃんならどうするのかしら。」

 

 「えっ!?」

 

 冷静な彼女らしくない判断。戦力差は歴然で、どう考えても立ち向かうべきではない。そんな中でも、静かに、決意を固めるように話す。表情からは読み取れないが、体は小刻みに震えている。

 

 「バカか!アレみただろ!プロのヒーローでもどうにもならないんだぞ!俺達みたいな子供が立ち向かう相手じゃないんだよ!」

 

 「じゃあ、相澤先生はどうなってもいいの?プロのヒーローだからって、見捨ててもいいのかしら?」

 

 「で…でもよぉ」

 

 会話をしている間にも、時間は流れている。

 いつの間にか霧のヴィランも合流して何やら話しているが、手の男『死柄木弔』と呼ばれた男が霧のヴィラン『黒霧』から生徒が1名逃げたと伝えられるや否や、驚きの言葉を発する。

 

 「黒霧お前…ワープじゃなかったら殺してたぞ。今回はゲームオーバーか。神機とか言う餓鬼の為に予定してたよりも人数も集めたっていうのに。そのせいで雑魚達の割り振りも雑になっちまった。上手く回らなかったな。帰ろっか…」

 

 死柄木弔の発言に合点がいく。僕達の水害ゾーンに、明らかに適していないヴィランも数名混ざっていた。どうやら、イレギュラーがあった為の補充で手違いがあったみたいだ。それでも、8割型は水辺に適したヴィランだったから恐らく輝君の所だけ強い個性を回したのだろう。…でも、なんで輝君の事を知っているんだ?

 

 「…神機ちゃん、昨日あそこに居る手のヴィランと戦ったのよ。私もそこに居合わせたの。その話は今はいいとして、帰るって聞こえたわね」

 

 驚きの情報が蛙吹さんからもたらされるも、今はそれ以上に現状をどうするかだ。

 正直、帰ってもらえるならありがたいけど…ここまでの騒動を起こして、本当にこのまま真っ直ぐ帰るのだろうか?

 ゾクリと背筋を何かが這った。背中を向けている手の男、死柄木弔と目があった気がした。

 

 

 

 「折角だし、あの神機と一緒にいた女の子だけでも殺して帰るか」

 

 

 

 嘘だろう?いつの間に正面に…駄目だ、反応が遅すぎた!蛙吹さんが…『崩される』!!

 

 「テメェ!何しようとしてんだぁ!!」

 

 怒号が聞こえた。物凄い風圧が起き、砂埃が舞い、目を瞑る。次に目を開けた時には、死柄木と正面から対峙する人影があった。

 細くも引き締まった逞しい背中は努力の継続を表し、体のあちらこちらにある傷は日々の鍛錬の厳しさを語り、上下する肩と上気した体はどれだけ急いできたのか示すには十分すぎた。

 僕達を守るように構えを取る、その姿は紛れもなくヒーロー。漆黒のボディスーツを上半身だけ脱ぎ、腰に巻き付けた輝神機が怒りの形相で口を開く。

 

 「昨日ぶりだなぁ…。わざわざ会いに来てくれたのか?手だらけ」

 

 「死柄木弔だ。お前に直接用はなかったが…昨日のお礼くらいは返させて貰おうか。脳無、殺せ」

 

 死柄木が大きく輝君から距離を取ったと同時に、脳無が目にも留まらぬ速さで輝君の前に立つ。流石の輝君も体を一瞬ピクリと動かす。その瞬間に、物凄い風圧が襲いかかってくる。

 脳無の連打。力任せに巨漢から振り下ろされる拳は、間違いなく一瞬で人の命を刈り取ることが出来る威力だ。しかし、個性を発動した輝君が正面から受け流していく。避けるのでは無く反らしていく。素人の僕が見ても分かる、明らかに戦うための技術で力の差をカバーしている。オールマイトの様な力を力でねじ伏せる動きではなく、力に対し水の様に流れる手の動きで全てを受けてしまう。

 

 「お、おいおい!マジかよ輝!!お前勝てるんじゃねぇのか!!?」

 

 峰田君が歓喜の声を上げる。気持ちはわかる。まさに絶体絶命だった。隣で友達の命が終わる瞬間、正義の味方が颯爽と現れて、圧倒的な強者の攻撃を凌いでいる。無傷で。希望を見るのは当然だ。ただ、僕も蛙吹さんも気づいている。輝君は流せるから受けているんではなくて『僕達が居るから受けざるを得ない』んだ。

 

 「神機ちゃん…っ!」

 

 「ぐぅ…心配すんな。ッ、俺が全員守ってやる。峰田も泣くんじゃねぇ」

 

 強がりだ。蛙吹さんも気づいている。

 この短時間で明らかに手で受けきれなくなっている。人体の硬い部分である肘や肩を使って上手く衝撃を誤魔化しているけど、受けるたびに足が地面にめり込んでいる。時間の問題だ…。

 

 「僕は…僕だって皆を笑顔で守れるヒーローに…ッ!」

 

 拳に力を込める。見ているだけなんてヒーローじゃない!僕の目指しているヒーローは、こんな時こそ戦わなくちゃ!!

 

 「緑谷、手を出すな。…蛙吹…今から、俺も、打ち合う。その間に……全力で逃げろ。」

 

 「…神機ちゃんはどうするの?」

 

 「俺は…ッグ、奥の手があるから大丈夫だ。」

 

 息も絶え絶えになりながらも笑顔を作る。そんなわけない、もうきっと限界のはずだ。肌色だった腕や肩は打撃を防いだために青黒く変色し、滝のような汗を流して、それでも戦っている。本当に僕達だけ逃げてもいいのか?

 

 「…わかったわ。峰田ちゃん、緑谷ちゃん。私にしっかり捕まってて。水の中なら追ってこれないはずだから。」

 

 「あ、蛙吹さん!本当にいいの!?輝君を助けるために、僕達もなにかするべきなんじゃないの!?」

 

 僕の発言に対し普段は表情の変わらない彼女の表情が変わった。気がした。

 怒っているような、今にも泣き出しそうな、色々な感情がまぜこぜになったような、普段の彼女からは想像もできない雰囲気だった。

 

 「緑谷ちゃん。今、私達がする事は、神機ちゃんの思いを無駄にしないこと。それに、私達がいたら尚更戦いにくいわ」

 

 そう言うと、ゆっくりと神機君の背中に目線を向ける。

 

 「神機ちゃん。負けないわよね?」

 

 「当たり前だろ?………ッッ!!オオオォォォ!!」

 

 一層、腰を低く落とす。切島君へ打ち込んだ連打の構えだと一瞬でわかった。その瞬間に体が水中へと引っ張られていく。

 

 「輝君!!」

 

 最後に見た彼の姿は、まるで自分の命を燃やすかのような全力の連打でヴィランと互角に打ち合う後ろ姿だった。

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 限界だ。どう考えても限界だ。

 今連打が打てているのは限界を超えて、色んな脳内物質が出てるからだ。正直、腕も痛すぎて痛みを感じないっていう矛盾が生まれている。そもそも、互角に打ち合えているのも後の事を考えずエンジンベタ踏みで個性を使ってるからだ。お陰で体中が悲鳴を上げている。

 足が地面に埋まったおかげで踏ん張れてはいるが、全力全開の俺の連打に平然とついて来るこいつはどうなってるんだ?いや、あいつの一発に対して三発で相殺だから全然採算が合ってない。

 

 段々と意識が遠のいていく、それでも連打をやめないのは後ろに守るべき者が居るからだ。もう逃げ切れたのか、まだ居るのか、もう確認する余裕すらない。それでも、やめるわけにはいかない。終わるわけにはいかない!!

 

 「…一瞬だけでもッ!ウラァァァ!!!」

 

 最後の最後、火事場のなんとやらでヴィランの両腕を弾く。その瞬間に、左腰に納刀しているビームソードを構える。こいつにシャイニングフィンガーなんて狙おうものなら、俺が掴まれて砕かれる。なら、セーフティーを無理やりぶち抜いたコイツで叩き切るしかない!!

 

 足を地面から引き抜いて、ヴィランの懐めがけて飛び込む。しかし、脳無のリカバリーが早い。すでに俺に向けて両の拳で殴りかかってくる。

 死の予感で世界がゆっくりと流れる。背中が冷たくなり、目の前に拳が迫ってくる。その拳に向けて、全力で出力を上げた必殺技を叫ぶ。

 

 「スラッシュ…ハリケーン!!」

 

 高速の回転、リミッターを外したがゆえの灼熱の暴風が脳無の両腕を焼き尽くし、消滅させる。脳無は理解が出来なかったのか、自分の無くなった両腕の見つめ、表情からは伺えないが、一瞬あっけにとられたように感じる。

 そして、限界を迎える体と武器にムチを打つ。この一撃で決まらなかったら俺の負けだ。だが、すでに射程距離に入った!

 

 「Vの字切り!!」

 

 真っ直ぐ直線に脳無に飛び込み、左肩から左足の付け根へ切り下ろし、その勢いのまますれ違いざまに右足の付け根から右肩へ向かい切り上げ。脳無の体は右肩、右足、左肩、左足と付け根の部分から切り飛ばされ、地面へ崩れ落ちる。それと同時に、ビームソードの媒体である柄が耐えきれずに爆発する。俺の両掌を焼き、部品で出血するが…もう関係ない。俺も崩れ落ちる。限界だ…1ミリも動かねぇ…。

 

 「オイオイ、脳無に勝つのか。だが、そいつは対オールマイト用の兵器だ。ショック吸収に超再生持ちだ。お前の頑張りも無駄に…何だ?どうした脳無」

 

 死柄木が目を見開く先には、ダルマ状態になった脳無がクネクネと動いている。体が再生する気配がないのだ。

 そう、俺の個性は一般的な身体強化と内部を壊す個性破壊・肉体麻痺の二種類がある。以前の授業で尾白に使ったのは出力を抑えた『制圧用』だ。今回は違う。嘘偽り無く言えば『人を殺す為』の個性使用だ。まぁ、どう見ても人間だし生きてるからノーカンだろ。

 

 「糞が!ここまで俺の邪魔をして、生きて帰れると思うなよ!!」

 

 動けない俺に死柄木が迫る。…思い残すことは数え切れないほどある。親の仇にも会ってないし、師匠にも挨拶ができてない。でも、友達を守れたのは我ながら上出来だった。

 覚悟を決めて目を閉じる。

 

 

 

 

 「……?」

 

 

 

 しかし、待てど暮らせど自分の体に何かが起きているわけじゃない。

 それどころか周りが騒がしい。目を開けると、知っている四人の後ろ姿があった。

 

 「神機君。もう十分、頑張ったよ。だから、今は休んで。」

 

 「ケロケロ、戻ってきてゴメンナサイ。でも、今度は私達が守る番。」

 

 「蛙吹さん、麗日さん、峰田くん。あの手に触れるのだけは絶対に避けよう。後は、霧のヴィランからも目を離さずに、お互いにお互いをカバーするように、死角を作らないように!」

 

 「俺は嫌だって言ったのに!!嫌だって言ったのにぃ!!」

 

 緑谷、麗日、蛙吹、峰田が俺を守るように立っていた。

 

 「馬鹿野郎!!何のために俺が一人で食い止めたと思ってるんだ!!」

 

 「バカは自分やろ!!一人だけで戦って、勝手に満足して!!神機君に何かあって、それで助かっても、私達は嬉しくない!!」

 

 普段はニコニコしている麗日の怒声に驚く。

 

 「神機ちゃん…受験の時も、昨日も、そして今さっきも…私は助けられてばかり。でも、ボロボロになった神機ちゃんを見て、逃げた後思い出して、もう嫌だって思った。絶対に後悔するって思った。戦う事は好きじゃないわ。でも、神機ちゃんの隣りにいる為に強くならないといけないのなら…私は戦うわ。えぇ、戦ってみせる。だから、緑谷ちゃん達に我儘を言ってお願いしたの。」

 

 蛙吹も続くように決意を語る。まてまて、何二人で盛り上がってるんだ!緑谷!今からでもいいから二人を止めろ!

 

 「輝君。バスの中で話してくれた個性のコツ。あのお陰で、個性を使っても怪我をしなかったんだ。大丈夫。無理はしないし、倒しに行きもしない。時間を稼ぐこと、相澤先生を回収する事に集中するから。だから、今は皆で守らせてほしい。ここで立ち向かわなかったら、僕は憧れのヒーローになんて一生なれない!!」

 

 「おい輝!生きて帰れたらオイラの言うこと絶対一つは聞けよ!約束だからな!!」

 

 「前向きに検討して善処する。」

 

 「絶対聞かないやつじゃね―か!!」

 

 こいつは…目の前の障害がまだ解決もしてないのに呑気なやつだ。正直、なんと言おうと今の俺はただのお荷物で、コイツ等の行動を止めることも出来ない。なら言うことはこれしか無い。

 

 「すまん。悪いけど、俺を守ってくれ。」

 

 俺の言葉に蛙吹は頷き、麗日は気合を入れるかのように、自身の顔を両手でパチンと叩く。

 

 「ケロケロ。もちろんよ。」

 

 「絶対に、敗けへん!」

 

 「皆で力を合わせれば何とかできるはず!」

 

 「もうどうなっても知らないからな!!」

 

 そして、頼りなくも力強い緑谷とヤケクソの峰田。

 この4人とヴィランとの第二回戦が始まろうとしていた。





なんで神機が体張って逃してくれたのに帰ってきてるの?
と、思った方居るでしょう。でも、ここで同級生放って逃げるやつがヒーローになれます?っていう解釈です。
麗日は神機がぶっ倒れた時点で周りの制止を振り切って階段を駆け下りてきています。


とうとう麗日が戦うのか。


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11話・オレ様とかしこいヴィラン

お気に入り50件超えました。ありがとうございます!
これからも増え続ける限りは頑張っていきます。今回はちょっと急ぎ足だったなぁ…。
楽しんでいただければいいのですが…。

8話の誤字報告ありがとうございます!もうホントアホみたいなミスでした…
感想・評価よろしくお願いいたします。
第三者目線の書き方は慣れないです。拙くて申し訳ない。


 

 「死柄木弔、作戦は失敗です!今すぐにでも撤退するべきです!」

 

 『俺に指図するな!ここまで邪魔されて何もせずに帰れるわけ無いだろ!!」

 

 黒霧の忠告を腹立たしげに一蹴する死柄木。その姿は、物事が思い通りにいかず癇癪を起こす子供そのものだ。首を両手でガリガリと掻き毟りながらも、眼光は暗く深く、輝神機を見据える。対オールマイトの兵器をヒーローにもなっていない学生に無力化された。その事実が輝神機は絶対に始末しなければならない存在へと昇華されている。

 

 「お前ら!最後までちゃんと働け。」

 

 イレイザーヘッドが仕留め損なっていた5名のヴィランが構えを取る。相手の戦力は死柄木弔に黒霧、そして寄せ集めではあるがヴィランが5人。対するヒーロー側はつい最近まで中学生だった男女が4人。その情報だけを見れば圧倒的な不利に変わりはない。

 

 「あの五人のヴィランは私一人でやる。だから、三人で神機君を守って欲しい。」

 

 しかし、その4人の中から麗日お茶子が先陣を切らんと一歩前へと踏み出す。

 

 「そんな!無茶だよ麗日さん!相手の個性もわかってないのに、一人で戦うなんて!」

 

 それを止める緑谷。当たり前の話である。誰が考えても自分達よりも容赦のない相手を一人で相手するなんて…最悪の事態が起きたっておかしくないのだから。

 それでも麗日は引く気配を見せない。むしろ、集中力を増しているようにすら感じる。ゆっくりと呼吸し、顔は動かさずに眼球のみで周りを確認し、分析する。相手の立ち方、雰囲気、癖、地形に至るまで、全てを判断材料とし勝率を上げる全てに費やす。彼女の中で勝負はすでに始まっているのだ。

 

 「麗日」

 

 ピクリと麗日の肩が跳ねる。輝神機がうつ伏せで倒れたまま、小さく声をかける。普段の力強く、快活な声ではなく、今までに聞いたこともないほど小さな声だ。

 

 「頼りない師匠で申し訳ない…。」

 

 「そんなことない!!!」

 

 全てを言い切る前に否定する。雄英高校を受けるために、対人戦を少しでも知っておきたかった。たまたま自分の親の会社にアルバイトで来た神機に教えてもらおうと思った。最初は好奇心だった。

 神機も乗り気じゃなく、初めの頃は本当に『見て、勝手にしとけ』と言わんばかりの態度だった。でも、段々と惹かれていったのだ。誰に言われるわけでもなく、直向きに努力する姿に。いつも、いつでも自分に厳しく、正しく在ろうとする志に…。気づいたら、自分から近づこうとしていた。その動きは何なのか、どういった意味があるのか。何を目指しているのか、どうして目指すのか。気づけば麗日にとって、輝神機は同級生と言うには大きくなりすぎた存在だった。中学生活の半分以上で顔を合わせ、お互いに組手とはいえ拳を交えた。男女の友人と言うには絆が出来上がっている。師弟関係なのだ。

 

 故に麗日はここで引くわけにいかない。

 これは、言わば師匠に格好いい所を見せる絶好のチャンスなのだ。

 今までの努力を、あなたの教えてくれた戦うための技術や理論は間違いではないのだと。恩返しなんだと。

 

 「神機君、心配しなくてええよ。絶対に負けへん。教えて貰ったこと全てで、私が守るから。教えてもらったからこそ、守れるヒーローに近づいてるってことを!!」

 

 言うやいなや、緑谷達の返事も待たずに5人のヴィランへと突貫する。

 

 「可愛い女の子が一人で突っ込んできたぜ?」

 

 「キキキキ!連れ帰って、嬲るのが今から楽しみだぜ!!」

 

 二人のヴィランが遠距離から攻撃を放つ。一人は指から骨を射出した弾丸を。もう一人は手の平に火の玉を作り、それを振りかぶって投げる。

 

 「危ない!!麗日さん!!」

 

 緑谷が悲鳴のように声を出す。しかし、その声は信じられないものを見たように息を飲む音へと変わる。

 

 指から射出された骨は速度以上に小ささから視認しにくい。だが、麗日は飛んでくる位置がわかっているのかように体を左右へと動かし避けていく。火の玉に至っては、速度がなく山なりの攻撃のため、骨の弾丸を避ける際に火の玉とは逆へ動くだけだ。

 麗日は神機から教えられたことを忠実にこなしている。戦いが始まる前から分析を行い、始まってからも相手の個性がわかれば瞬時に対策を考え、即実行へ移す。

 

 「敵を知り、己を知れば、100戦危うからず」

 

 指から射出するということは肩を動かす予備動作があるということ。後はその射線上からズレるだけでいい。撃った瞬間は少しのズレでも、距離を進む毎にそのズレは大きくなる。的を絞らせず、細かく動き続ければ当たることは早々ない。

 

 「なんで当たらねぇんだあああ!!お前!もっと数投げれねえのか!!」

 

 「うるせえええ!」

 

 当てれないことに苛立つヴィラン。そこに、待機していた三人の内、二人が麗日へ迫る。

 一人はムチのように両指を長くしならせ、もう一人は額に大きな角を生やす。

 

 「ワォ!積極的!!」

 

 麗日が感心したように声を上げる。

 ムチのヴィランが大きく腕を振り上げ、叩き下ろすように全ての指を振り下ろす。十本のムチが麗日へと振り下ろされるが、麗日の表情は少しも曇らない。

 最小限の動き、そして、最小限の触れる動作で指の隙間を大きく作り躱す。躱されたことに驚くムチの男。しかし、角を生やした男はそんな事お構いなしに全力の突きを放つ。

 

 「…麗日ってあんなに強かったのかよ緑谷ぁ!?」

 

 「ぼ、僕だって知らないよ!飯田君との対決の時は何も出来てなかったはずだけど…」

 

 峰田と緑谷は目の前で起こった状況にただただ驚く事しか出来ない。角のヴィランの一撃をヒラリと躱し、顎に打ち上げの掌底。ムチのヴィランが指を引く前に触れることにより重力を無くし、そのまま指を掴み大きく振り上げ、地面へ叩きつける。普段の彼女からは考えられないような荒々しい攻撃に、別人が戦っているのではないかと錯覚する。

 

 しかし、紛れもなく麗日お茶子が戦っている。

 普段のまん丸でニコニコしている目を、まるで師匠と同じ様にギラギラと輝かせながら、守るために戦っているのだ。

 

 「緑谷ちゃん。見とれてる場合じゃないわ。私達も、相澤先生を回収する方法を考えないと」

 

 「いや、もう麗日一人でいいんじゃないのか?」

 

 峰田の一言に一瞬納得しそうにもなるがそういうわけにはいかない。彼女は気を引くためにワザと一人で戦うことを選んだのだ。なら、自分達も出来ることをしなければならない。

 しかし、実際の所は輝神機を守ることで精一杯である。

 

 輝神機を囲むように全方位を警戒しているからこそ、死柄木は攻めてこないがそれも時間の問題である。今の死柄木は冷静さを失っている。輝に執着しすぎているのだ。この場面であれば、麗日を狙えば有利に立てる。しかし、先程から死柄木の怨念のような視線はこちらに注がれたままだ。

 

 (でも、ヴィランが侵入してからもう随分と時間が立つ。そろそろヒーローが到着してもいいはずだ)

 

 麗日と合流した際に、飯田天哉がヒーローを呼ぶ為に脱出したと聞いた。あれからもう10分以上は立つ。他の生徒もそろそろ合流してもいい頃だ。

 

 そして、緑谷の予想は的中する。

 

 「大丈夫か緑谷!」

 

 切島、爆豪、轟が死柄木と相対するように並ぶ。この瞬間、死柄木の思考は急速に冷めていく。

 

 「あ~…本当に約立たずばっかりだ。生徒を殺すことも満足にできないのか…」

 

 そうして苛立ってる間にも、足元に男が一人吹き飛ばされ地面を転がる。隣をチラリと見れば麗日が全てのヴィランを倒しきり、構えを解かぬままギロリとこちらを睨んでいた。

 

 「黒霧、帰るぞ」

 

 「死柄木弔、どうやら遅すぎたようです」

 

 黒霧の言うことが初めは理解できなかったが、周りを見渡して納得した。地面に倒れていたイレイザーヘッドがいないのだ。その代わり、輝神機の隣にイレイザーヘッドを抱えた蛙吹梅雨の姿があった。麗日がヴィランを吹き飛ばし、視線を取られた一瞬…舌を伸ばし回収したのだ。救援に来た爆豪、切島、轟に隠れるように。イレイザーヘッドの視線がは黒霧へと注がれている。

 そして、不運というものは続くものだ。

 

 「私が来た!!」

 

 轟音。そして、凄まじい勢いで地面へと着地する巨漢。オールマイトが到着した。

 

 「お…オールマイトォ!!!」

 

 残ったヴィランは二人。対オールマイトの兵器は今もクネクネと動くことしかできない。

 勝った!その場にいた誰もがそう思った。

 

 しかし、運とは平等である。それはヒーローでもヴィランでも同じこと。運の女神はコロコロと微笑む対象を変えるのだ。善であれ、悪であれ。

 

 

 『ザー、ガガガッ。…コイツぁオレ様の出番だなぁ!ツケにしても高いぜぇ!』

 

 「だれをなぐればいいの?」

 

 

 オールマイトの到着を分かっていたかのように、死柄木と黒霧の影から人が現れる。

 どうやら、奥の手を隠していたのは相手も同じようだった。または悪運が勝ったのか。

 

 一人は黒のライダースーツを着ており、ヘルメットを被っている。身長は死柄木よりも少し低い程だろうか。変成器が内蔵されているのか、機械的な雑音が時折混じり、声も機械的である。

 そしてもう一人はピンクのパーカー姿である。小柄な体躯。パーカーフードで顔を隠しているが、靴を履いておらず素足である。

 

 「申し訳ありませんが、撤退の援護だけしていただけますか?」

 

 『ガガーッ、んっだよそれ!!折角助けに来たってぇのによ!』

 

 「大丈夫だ。一人も逃がす気はないぞ!!」

 

 ヘルメットのヴィランにオールマイトが目にも留まらぬ速さで肉薄する。そして、いつもの様に強靭な肉体から拳を放つ。

 

 『オイオイ…コッチはもう撤退の話ししてるんだからよォ…。ガガッ、その気にさせようとすんじゃねぇよ』

 

 「…そんなバカな」

 

 機械音で話すソイツは、受けた際に体が数メートルほど後退したがそれでも両手で受け止めた。受け止めた際の風圧で黒霧は後方へと飛ばされていた。

 ならば!と、オールマイトが目にも留まらぬ速度で連打を繰り出す。しかし、それを捌いていく。ヘルメットとスーツとの継ぎ目である首元からは赤いオーラが放出されている。その放出量がみるみる増えていくほどに、捌いていく動きが鋭く、そして余裕を持ったものになっていく。だが、それでも伝説と言われるオールマイトの攻撃が優勢になっていく。捌ききれずに数発受けてはその度に手が弾かれる。

 

 『イテテテ!さっすがにきっちぃなぁ!ザザッ、おいバカ牛!さっさと一発入れろやぁ!!』

 

 「バカじゃないっ!モーはかしこい!!モーはつよい!!!」

 

 連打を繰り出すオールマイトの横から、舌っ足らずで小柄な体が潜り込んでくる。バカ正直にピッチャーのように大きく振りかぶるさまは「私は殴るの素人です」と言わんばかりのポージングである。

 正面のヴィランへの攻撃をやめること無く、このテレフォンパンチを捌かなければならない。対策は昔からできている。あの少年と似た技だが、初めたのは私が先だと言っておこう。

 

 「Oklahoma SMASH!!」

 

 オールマイトが連打から急速回転へと変わる。ヘルメットのヴィランは風圧に弾かれ死柄木の横へと着地する。パーカーのヴィランを見れば、風圧を意にも介さず突貫してくる。

 そして、パーカーフードを突き破るように二本の大きな突起物が出てくる。それは正しく、角である。風圧を物ともせず、最初の大きく振りかぶった体勢のまま、その拳を地面へと叩きつける。

 

 「モーの、だいじしん!!」

 

 舌っ足らずな言葉とは裏腹に、地面が割れ、床材をちゃぶ台返しかの如く巻き上げる。

 オールマイトは瞬時に自身の後方に居る生徒たちを守るために動く。それと同時に、他のヒーローたちも到着したのかセメントスの個性により壁が生成され、生徒たちを庇うように壁を作成する。

 

 「飯田天哉!只今戻りました!!」

 

 飯田のよく通る大声に紛れて、銃声が一つ響く。ヒーローによる狙撃が死柄木の脳天へ目掛けて放たれていた。

 

 『ザザザッ‥あっぶねぇなぁ。雇い主殺されたらオレ様達はどうすればいいんだっての。さっさと帰ろうぜ。それとも、特別手当出してくれんのか?』

 

 「言われなくても、もう撤退してますよ」

 

 その弾丸も届かない。ヘルメットのヴィランが弾丸を素手で掴んでいた。

 そして作り出した床材の壁と土煙を影にして、みるみるうちに黒霧の個性でヴィラン達の姿が消えていく。

 

 「今回は失敗だった。だが、オールマイト同様に厄介な個性も分かった。次は殺す…ッ!」

 

 『ザーッ、じゃあな!なかなかいいパンチだったぜ!!』

 

 「パーカー…穴あいた。モー、しょっく」

 

 死柄木は忌々しげに、ヘルメットのヴィランは清々しく、パーカーのヴィランは角があった部分に出来た穴を手で穿りながら俯いて、三者三様の感想を述べながら消えていった。




神機君はめぐみん状態なんで…

アホキャラってなんであんなに可愛いんでしょうね?
アホと怪力はワンセット!


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12話・決意と宣戦布告

お気に入り60件行ってしまわれました…ありがとうございます!
最初の頃はお気に入りが増えなくなった時点で失踪してやろうとか考えてましたが、ここまで来たら100件目指したいですね。100も行ったら失踪しにくいですし(戒め)
今後も続く限り頑張りますのでよろしくおねがいします。

感想と評価はホント気軽にどうぞ。っていうか欲しい…。
感想と評価が俺もほしいいいぃぃぃぃ!!!


 

 「クソっ!クソッ!!」

 

 ヴィラン連合の拠点である薄暗いBar。

 黒霧の個性によってなんとか撤退することが出来た。戻ってきて早々に、オレ様達の雇い主である死柄木弔が苛立ちからBarカウンターの椅子を力任せに蹴り飛ばす。

 

 「手下は全滅!脳無はたった一人の学生に無力化されて!どうなってるんだ!!先生、驚異はオールマイトだけじゃなかったのかよ!!」

 

 椅子を蹴るだけじゃ物足りないのか、カウンターと棚においてあるコップや酒瓶も手当たりしだいにぶちまける始末。あーあ、本当にこんな奴がカリスマの器なのかねぇ。

 

 「確かに見通しが甘かったのは事実。しかし、ワシと先生共作の脳無が学生に負けたのか?」

 

 テレビ画面から音声のみが聞こえる。話し方から察するに老人だろうか?声色からは脳無が負けたことよりも、脳無を一人で倒したと言う部分に興味を持っているようだ。

 死柄木は昇っていた血の気が引いてきたのか、椅子を一脚元に戻すと大きく息を吐いてドッカリと座った。

 

 「輝神機。短時間とはいえ脳無と真正面から殴り合い、個性で四肢を両断して無力化しやがった。脳無の超再生が発動しなかったから、あいつもイレイザーヘッドと同じ様に個性を無効化する能力なのかもしれない。」

 

 「ねぇ、モーかえってもいい?パーカーなおしたい」

 

 死柄木達の話に全く興味を持たず、パーカーフードの穴を頻りに気にしている『猛鬼 蚩尤(もうき しゆう)』が舌っ足らずに話に割り込む。

 

 「おい、『踊武 狂化(ようぶ きょうか)』。こいつのお守りはお前の役目だろ」

 

 話の腰を折られてウンザリと言った様子で死柄木がオレ様を見る。「んなこと知るか」と言ってやりたい所だがそうもいかない。一応こいつはオレ様達の雇い主でもある。機嫌を損ねないに越したことはない。

 

 『ガガッ…チッ、わぁったよ。行くぞ、モー。さっきはバカ牛って言って悪かった。戦闘中は高ぶっちまって…』

 

 「うぅん!モーもごめんなさい。キョウカあぶなかったのに、うごいてなかった。…はんせい」

 

 謝りながら手を差し出すと、嬉しそうに握る。しかし、謝罪を素直に受け取った後、すぐにシュンと表情を暗くし俯いてしまう。コロコロ変わる表情に堪らず頭を撫でてしまう。暗かった表情をパッと笑顔に変えたモーの手を引いて、オレ様達はその場を後にした。

 

 

////

 

 

 「…あいつもオールマイトと打ち合ってやがった。先生の推薦でチームに組んではいるけど、どういった奴らなんだ?」 

 

 ヘルメット女とアホ女が出ていったのを見計らって、誰に言うでもなく独り言をこぼす。

 猛鬼 蚩尤と踊武 狂化。今回の襲撃にあたってメンバーを集めいている際に、先生から「増援だよ」と言われ寄越された。実力は今回の結果を見れば分かる。踊武は唯の戦闘狂ではなく、輝神機と同じ武術を使うようだった。そして、その武術とは最もかけ離れているが、破壊力は規格外の猛鬼。

 詳しくは話されていないが、先生は「試供品でもあるからね」と言っていた。試供品ということは別の派閥で試験的に作られた存在。いわゆる脳無と同じ作られた存在なのか?それとも、いずれは本格的に加入する奴が居るからお試しという意味で例えたのか?

 

 「今は深く考えんでもええ。」

 

 俺の独り言に対して、ドクターが軽く言ってのける。しかし、彼奴等の個の力は強力すぎる。そして、謎が多い。正直、先生の推薦じゃなければ拠点に入れることすら拒否したいところだ。

 

 「今は互いに同じ目的を持っとる。それに、先生と先方との契約もある間は向こうも裏切らんだろう。いずれはお互いの意見が割れ、相対することもあるだろうが…それまでは使い潰してやればいい。こちらも奴らに負けないような精鋭を集めて、次こそは君という存在を世に知らしめるんだ。」

 

 言われなくても俺はオールマイトを殺す。…だが、それ以上にアイツがずっと俺の苛立ちを加速させる。

 

 

 

輝 神機…次こそはお前も殺す

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 「神機君大丈夫かな…。命に別状はないって言ってたけど、ボロボロやったし…」

 

 消毒液が仄かに香る病院の廊下を歩く。目的地は同級生でもあり、師匠でもある神機君の病室だ。

 ヴィラン襲撃の翌日が臨時休校になった関係で、脳無と真っ向から打ち合った神機君は念の為に1日検査入院となった。本人も病院に連れて行かれる際には「こんなもんどうってこと無いって!いや、マジでマジで!!」と必死に抵抗していたが、リカバリーガールや他の教員からの圧力には勝てずに渋々といった形で連行されていった。

 なので、無事にヴィランを撃退した後に会話が出来ていないのだ。あの時はがむしゃらだったから、普段は言わないような事を言ってしまった気がするが…気にしないでおこう…。思い出すと頬が熱くなる。

 

 「あれ?」

 

 「ケロ?」

 

 212号室。神機君が入院しているであろう病室の前に、梅雨ちゃんが立っていた。

 

 「お茶子ちゃんも神機ちゃんのお見舞いかしら?」

 

 人差し指を口元に当てるようにして、首をかしげる。手には可愛らしいカエルのトートバッグを持っている。

 

 「うん、そんな感じ。女の子二人にお見舞いに来てもらえるなんて、神機君も幸せものや!」

 

 私の発言に梅雨ちゃんがピクリと肩を動かす。そして、一向に神機君の病室に入る気配がない。それどころか、少しうつむき気味になってしまう。そして、ゆっくりと顔を上げると、何処か真剣な面持ちで口を開く。

 

 「お茶子ちゃん。そこで少し話せるかしら?」

 

 梅雨ちゃんが指差した場所は、自動販売機とソファーが置いてある談話室だった。どういった意図があるのかはわからなかった。だけど、どこか気迫を感じる梅雨ちゃんに気圧されるように、曖昧に頷くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 流されるようにソファーに座ると、自販機から温かい紅茶を二人分買って持ってきてくれる。それを受け取ると、梅雨ちゃんが隣に座った。何の話をされるのか見当がつかないし、何処か気まずい空気が漂う。そんな私達とは裏腹に、窓から差し込む太陽の光とそよ風に揺れる木々は、今日が快晴であることを伝える。

 チラリと梅雨ちゃんのトートバッグの中身が見えてしまう。中からリンゴと紙皿がみえた。私、何も持ってきてなかった…。そんな事を考えていると、ゆっくりと梅雨ちゃんが口を開いた。

 

 「お茶子ちゃん、とっても強いのね。びっくりしちゃった。」

 

 こちらを見ながら感心したような、どこか暗いような…掴みどころのない雰囲気で話し始める。

 

 「私も神機ちゃんの力になりたかった。でも、お茶子ちゃんみたいに戦えないから…」

 

 「そんな事無いよ。梅雨ちゃんも相澤先生助けてたし、神機君もよく言ってる!適材適所、長所短所!自分に出来る事をしろって。」

 

 神機君。という言葉にまたピクリと梅雨ちゃんの肩が揺れた。きっと神機君に会う前の私なら気づかなかったと思う。梅雨ちゃんの瞳の奥が燃えているような気がした。

 

 「…お茶子ちゃん、私もそう思う。でもね、それじゃ駄目なの。」

 

 「どういう事?」

 

 

 

「私、神機ちゃんが好きなの。」

 

 

 ドクンッ!と、心臓が跳ねる。

 

 「会ってそんなに時間も経ってないわ。だけど、私にとって神機ちゃんはピンチに駆けつけてくれるヒーロー。来てくれる度に安心できて、心強かった。だけど、昨日のボロボロになった後ろ姿を見て、このままじゃ駄目だって思ったの。」

 

 私の両目を真っ直ぐに見据えて話を続けていく。だけど、私は個性を使っていないのに無重力になったような気分だった。足元がフワフワとしている感覚。エコーが掛かったように梅雨ちゃんの声が脳内に響いていく。

 

 「昨日のお茶子ちゃんが凄く頼もしかった。神機ちゃんの為に戦う姿がとってもカッコよかった。それと同時に悔しかった。その時に気づいたの。私も神機ちゃんから頼られて、隣に立てるようになりたいって。『特別』になりたいって。」

 

 さらに心臓の音が加速する。

 

 神機君は…最初は唯の同級生で、父ちゃんの仕事のアルバイト。そこから戦い方を教えてくれるようになって、学校でも話すようになった。

 見た目と雰囲気から孤立している神機君に話しかけるのは私だけで、神機君へ何か伝えることがあるとみんな私を経由して伝えていた。

 時間が立つ毎に二人で過ごす時間も増えていって、神機君も笑ってくれるようになって、この笑顔は私だけが知ってると思っていた。どこかで『私だけが』神機君の良さをわかっていると勘違いしていた。

 雄英高校に入学すると、神機君の凄さや心根の優しさを皆に知ってもらえた。嬉しかった。友達は多いほうがいいし、どんどん明るくなっていく神機君を見て、新しい一面にちょっかいをかけたくなって必要以上に絡んでしまったこともある。

 そんな日々でも、『私だけ』が神機君の『特別』なんだと思っていた。

 

 

 

 

だけど、それは師匠と弟子の関係。

 

 

 

 胸の高鳴りも、気分の高揚も、私の憧れも…最初の頃の鬼気迫るような鍛錬の姿から何か事情があるんだと思った。だから、神機君の目指すものの邪魔になると思って、見ないふりをしてきていた。でも、梅雨ちゃんが神機君の特別になりたいと言った。男女の関係として、特別になりたいと伝えてきた。

 

 

 

 

「ウチも神機君の事が好き。大好きや。」

 

 

 

 なら、負けるわけにはいかない。

 この場所は譲らない。戦闘でも、日常でも…彼の隣に立つのは私だ。

 まるで二人の決意を表すように顔の距離が近づく。どちらも引かず、目をそらさず。きっと私達の瞳の奥は静かに…だけども激しく、メラメラと燃え上がっていることだろう。

 

 「ケロケロ。お茶子ちゃんならそういうと思ったわ。恨みっこなしね」

 

 普段からあまり変わらない表情。だけど、強い決意は伝わってくる。梅雨ちゃんはすくっと立ち上がると「じゃあ、神機ちゃんのお見舞いに行きましょ」と、持っていた紅茶を飲み干した。

 私も、すっかり冷めてしまった紅茶を一気に流し込み、自分の心に決意を刻んだ。

 

 

 

////

 

 

 

 「神機君!お見舞いに来ぎゃああああああああああ!!何やっとん!!!」

 

 「神機ちゃんお見舞いに………ケロ。」

 

 麗日の絶叫が病室に響く。

 昨日のヴィラン襲撃から一日が経った。リカバリーガールの治癒のお陰で外傷はあらかた治っていた。だが、先生達の強烈なプレッシャーにより検査入院という形でここに押し込まれた。案の定、検査は異常なしだ。

 昨日一日は治癒の反動で体がダルかったが、しっかり寝たことで今日は元気が有り余っている。流石に寝っぱなしも体に悪いと思い、椅子の上で片手逆立ち腕立てをしていた所、麗日と蛙吹がお見舞いに来てくれたようだ。

 

 「お見舞いに来てくれるのは嬉しいが、もう少し静かに入室できないのか?」

 

 「叫びたくもなるよ!入院扱いなんやから安静にしなさい!!」

 

 つっても、別にどこも痛くないし…むしろ体の調子がいいから動きたいんだが…。

 俺が気にせず逆立ち腕立てを再開しようとすると、蛙吹が俺と同じ目線にしゃがみこんできた。

 

 「神機ちゃん、お見舞いにリンゴ持ってきたの。一回休憩しましょ?」

 

 「あー、後でな。」

 

 その瞬間、空気が死んだ気がした。

 言わば聞き分けのない子供にガチで切れる前の親の雰囲気。嵐の前の静けさ。

 目を逸らして再開しようとした瞬間、椅子が無くなった。隣を見れば蛙吹が両手で椅子を達磨落としのように引っこ抜いていた。しかし、体は地面に落下しない。それもそのはず、麗日の手が俺の足を掴んでいた。俺を個性で無重力にして。

 

 「病人は寝とけ!」

 

 そのまま、ベッドに叩きつけられる。

 

 「ぶべっ!お、お前ら本当に俺のこと病人と思ってるのか!?」

 

 「聞き分けがない神機ちゃんが悪いわ。」

 

 その瞬間、病室がガラッ!と勢いよく開けられる。看護婦さんが立っていた。青筋を浮かべながら。

 

 「病院内では静かにしてくださいね…。」

 

 「「「は…はい。」」」

 

 ピシャリと扉を閉められると、必要以上に静かになった病室の無音が耳に痛い。

 が、蛙吹は空気を変えるかのようにバッグからリンゴを取り出し、持参した果物ナイフで器用に林檎の皮を剥いていく。

 

 「林檎の皮なんて剥いたこと無いな。基本はまるかじりだからな。」

 

 「神機ちゃんらしいわね。リンゴは弟と妹のおやつに剥くこともあるからお手の物よ。」

 

 「……私だってそれくらい出来るし。」

 

 隣で頬を膨らます麗日。蛙吹は切り終わったリンゴを持ってきていた紙皿に並べていき、爪楊枝をプスリと刺した。そして俺に……手渡さない。そのまま、リンゴを俺の口元へと持ってくる。

 

 「はい、神機ちゃん。出来たわよ。」

 

 「いや、自分で食えるって。」

 

 そう言って紙皿の上のリンゴを取ろうとすると、スイッと皿を手の届かない場所に置かれる。どういうことなの…。

 

 「神機君、はいあ~ん。」

 

 お前もか!?ニッコニコだな麗日!!

 左から麗日、右から蛙吹。気づけば両手は二人から片手ずつ重ねられるように抑えられていた。何なんだ!何が原因なんだ!!

 

 「神機ちゃんが死んじゃうと思ったわ。」

 

 俺と麗日の動きがピタリと止まる。

 蛙吹は静かに俺の目を見つめる。ジワリと目元に水が溜まっていくのが見えた。

 

 「私、神機ちゃんに凄く感謝してるの。言葉ではとても足りないくらい。だから、昨日は本当に怖かったわ。ちゃんとお礼も、お返しも出来ないまま…死んじゃうんじゃないかって。」

 

 「そんなのウチもや。あの化け物と打ち合ってる瞬間から心臓が止まりそうだった。でも、神機君の覚悟も伝わってきたから割り込むわけにはいかなかった。きっと邪魔になるから。それが凄く、凄く……凄く悔しかった。」

 

 普段からは想像もつかないほど弱々しく、目に涙を溜めて話す蛙吹。それに続くように、歯を食いしばり、俺と重ねた手を強く握る麗日。

 その姿から、俺がどれだけ二人に心配をかけてしまったのか理解した。それと同時に、父さんの姿が思い浮かんだ。

 自分を犠牲にして俺を守ってくれた姿。だけど、残された俺はどうだったのか。家族ではないけれど、誰かを失うという経験を二人にさせてしまう所だった。

 

 俺はもっと強くならなければならない。

 誰にも心配されないような。そして、俺と同じ様に誰かを失う思いを一人でもさせないために。

 その為には俺自身が生き残らなければならない。麗日と蛙吹に、こんな顔をさせないためにも。

 

 「…悪かったな、心配かけて。もっと精進するよ。」

 

 そう言って、力の入っていなかった蛙吹の手をスルリと抜け出し頭を撫でる。麗日は抵抗しているのか俺の手を力強く握ったままだったが、男の力に勝てずそのまま頭を撫でられる。

 蛙吹は目元に溜まった涙をキラキラと光らせながらも、目を細めて頭を委ねる。麗日は最後まで抵抗していたが、撫で始めるとさっき迄の抵抗が嘘のように大人しくなりそっぽを向いてしまう。表情はわからないが、耳は真っ赤になっていた。

 

 

 

////

 

 

 

 

 「神機ちゃん。私にも戦い方を教えてくれないかしら。」

 

 ある程度撫でたところで「いつまで撫でるんや―!!」と麗日が暴れだした。

 二人はリンゴを食べさせるような気分でも無くなったようで、今は俺自身の手で食べることに成功している。

 そんな中、唐突に蛙吹がそんな事を言いだした。

 

 「戦えなかったことを気にしてるんなら気にするな。今回のは相手が明らかな格上だったし、勝てたのも奇跡みたいなもんだ。それに、戦闘にも向き不向きがあるからな。」

 

 「それでも、私は強くなりたいわ。」

 

 蛙吹は優しいやつだ。人の心の動きにも敏感だし、常に冷静に状況を判断できる精神的な強さもある。だが、戦闘が好きか嫌いかは別の話だ。まぁ、好きなヤツの方が少ないとは思うが、好戦的なタイプではない。麗日に関しては個性の都合上、自衛のためにも近接戦闘が出来なければならない理由がある。別に教えることは別にいいんだが、蛙吹と俺では個性の関係もあって戦い方のスタイル違うだろうし、安請け合いがしにくい…。

 

 「私も、神機ちゃんに頼って貰えるようになりたいの。」

 

 なかなか答えを出さない俺に対して、身を乗り出してお願いをしてくる。

 顔の距離は約10センチほど。蛙吹の大きな瞳に俺の顔が映っているのが見える。そして、一大決心かのような決意も伝わってくる。

 

 「はぁ~、わかったわかった。麗日だけじゃなく、緑谷も切島も今後は教える予定だったんだ。覚悟しとけよ?」

 

 ため息を一つこぼして了承すると「ケロケロ」と満足そうに笑う。そんなに喜ぶことなのか?。などと考えていると、襟首を捕まれグイィィ!!と物凄い力で麗日の方に向かされる。顔の距離が蛙吹の時よりも近くなり流石に狼狽える。

 

 「今日のお前は乱暴すぎないか!?」

 

 「私の事もちゃんと見て!私が一番弟子なんやから!!」

 

 「お茶子ちゃん。近す……神機ちゃんが苦しいだろうから離してあげて。」

 

 麗日が蛙吹の制止も聞かずに俺の首を揺さぶる。さながら激しいヘドバンのように上下左右へシェイクされる。一向に離さない麗日への抵抗なのか、蛙吹も俺の腕を取り引っ張り合いのようになる。やめろ!ホントやめてくれ!!麗日が個性を使ってるから体重かからなくて全然振りほどけねぇ!!

 

 「ちょ…吐く!誰か助けてくれぇ~~~!!!」

 

 

 「騒がしくするならもう出ていきなさーーーい!!!」

 

 

 看護婦の堪忍袋の尾がブチ切れ、鬼の形相で俺達は叱られた。

 その後、予定よりも早く俺は病院を退院することが出来た。これは嬉しい。ただ……

 

 「相澤先生、隣の部屋だったんだよなぁ…」

 

 流石に明日、退院というわけにはいかないだろうが…何れ来るであろうお小言を想像するだけで、俺の心は鉛のように重くなるのだった。





初の試みとして色々やってみましたがいかがでしょうか?
見にくかったり、微妙だった場合はまたアンケートに入れておいていただけると幸いです…。

次回からは体育祭編になりますが、適当に特訓シーンとか日常シーンとか挟めたらな~って感じです。
ヒロアカSS失踪率の高い体育祭編。俺は生き残ることが出来るのか!?



次回・「通りすがりC!暁に死す!!」


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