遊戯王 スプレッド・ストーリーズ (柏田 雪貴)
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紅蓮:プロローグ
キンコンカンコンと始業を告げるベルが鳴る中、遅刻したらしい一人の男子生徒が正門にいるであろう教師達に見つからないように裏門からこっそりと校内へ侵入する。彼はここ『デュエルスクール クスィーゼ校』の生徒のため厳密には侵入とは言わないがその挙動はまさに侵入者や不審者のソレであった。
「おはよう
その紅蓮と呼ばれた男子生徒の前に気配もなく姿を見せたのは、今年入学した彼のクラスの担任である男性教師だった。
「ゲッ先生、今は
「いや何、先生ほどにもなると遅刻しそうな生徒を見つけるなんて朝飯前なのさ♪」
『フフフ』と不敵な笑みで余裕そうな男性教師だが、男子生徒の耳に『ぐぅ』という音が聞こえると同時にそのまま突っ伏し腹を押さえる。
「・・・・・・なるほど、文字通り朝飯前だったってワケか」
「ぶっちゃけ言うと書類仕事終わんなくて昨日の夜も食べてない。おかしいな、予想以上に教師ってブラックだ」
まだ若いはずの男性教師をここまで使うとは、全く教師とは恐ろしい職業だ。余談だが彼がそんなに書類に追われていたのは日頃サボっていたツケだったりする。ブラック関係ねぇじゃねぇか。
「なら、とっとと何か買いに行けよ先生。何、オレも先生のことを誰かに言ったりしねぇさ。先生の態度次第では」
弱っている教師を前に悪い笑みでもって付け上がる不良の鏡。これが主人公だというのだから救えない。
「フッ先生を舐めてもらっちゃあ困るな♪ 人は一週間絶食しても死なない、ならこの程度問題ナッシング! さあ灰村くんキミには遅刻の罰則を受けて貰おうか!」
左手に装着された少し古い型のディスクを展開し構えながら右手で腹を押さえ立ち上がる男性教師に、紅蓮は特に感銘を受けることもなく比較的新しい型の真っ赤に塗装されたディスクを構え、口元を歪める。
「いいぜ、オレがデュエルに負けたら大人しく罰則を受けるし先生を見逃そう。代わりに、オレが勝ったらオレへの罰則は帳消しついでに飲み物の一つでも買ってきてもらうぜ! モチロン先生のオゴリでな!」
「何勝手に要求付け足してるの!?」
しれっと追加された財布へのダイレクトアタックに教師は悲鳴をあげる。紅蓮は最近流行りの『ブルーアイズ・オルタナティブ・マウンテン』を買わせる予定なので300円プラス税ほどのダメージだ。缶飲料のためこの値段だが、お店で頼む時は当然3000円である。恐ろしい。
加えて男性教師の
「いいんだぜ? これが飲めないならオレは罰則を受けるがそれは先生も同じ
公務員である以上減給はないだろうが空腹で狭まった思考回路では冷静な判断を下せるはずもなく覚悟を決めた彼はデッキからカードの剣を抜く。五本も剣は持てるはずもないのでこの表現は不適切に思えるが装備カードは五つ以上付けられるので五本剣を持つことは可能である。
「クッ仕方がないその身をかけて生徒を正しい道へ導くのが教師の勤め、そのデュエル受けて立とう!」
もっともらしいセリフでデュエルを受ける男性教師だが、その心の内に秘めたる思いはただ一つ、『減給嫌だ、ご飯食べたい』である。二つあるじゃねぇか。
「「デュエルッ!」」
男性教師
LP8000
灰村紅蓮
LP8000
切って落とされた醜い戦いの火蓋。ディスクが先攻を示したのは男性教師である。
「先生のターン、まず【汎神の帝王】発動、【真源の帝王】をコストに二枚ドロー」
「
男性教師とデュエルするのは初めての紅蓮は教師のデッキを【0帝】かと推測するがディスクに表示される相手のエクストラデッキ枚数は15枚。ならばエクストラも使う変態的な帝か、あるいは帝王カードを出張させたアドバンス軸のデッキだろう。
(一番辛いのは真竜だな。何で永続魔法・罠にカード破壊が付いてんだよ意味わからん)
彼が警戒するのは未だに二枚もの禁止カードを有するカテゴリ【真竜】。しかし、その心配は男性教師が次に使ったカードにて打ち砕かれる。
「【輝光竜セイファート】を通常召喚♪」
「ッソイツはダメだぜ【エフェクト・ヴェーラー】!」
輝光竜セイファート ☆4 攻撃力1800
登場するなり性別不詳の天使に効果を無効にされるセイファート。これではただの光属性ドラゴン族の攻撃力1800アタッカーだ。ドラゴンサポートや【オネスト】の存在を考えると普通に強いかもしれない。
「そう来たか、なら【竜の霊廟】で【亡龍の戦慄-デストルドー】を墓地へ送って効果発動♪ レベルを3にして特殊召喚」
男性教師
LP8000→4000
亡龍の戦慄-デストルドー ☆7→3 守備力3000
ドラゴンに限らず汎用性の高いソリティアパーツ。その意外に高い守備力を活かす日はいつ来るのだろうか。
「そしてサーキットご開帳、召喚条件はドラゴン族モンスター二体カモン【天球の聖刻印】!」
天球の聖刻印 link2 リンク 攻撃力0
デッキの底へ沈むデストルドーと現れる天球儀型ドラゴン。これが日の出と日没を表していたりすることはない。
「最後に忘れる所だった【汎神の帝王】の効果発動、墓地から除外してデッキから【連撃の帝王】と【連撃の帝王】、【連撃の帝王】を選択、さあ選んで♪」
「選択肢なんてねぇじゃねぇか! 真ん中!」
提示された三枚の罠カードに憤りを感じつつない選択肢を選ぶ。このことから教師は世の中の不条理さを教えたかったのだがそれは上手くいかなかったようだ。嘘である。
「先生は謎のカードを伏せてターン終了」
男性教師
LP4000 手札3
□□□□■
□□□□□
天 □
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札4
天:天球の聖刻印
■:伏せカード
「オレのターンドロー!」
「スタンバイフェイズ、リバースカード【連撃の帝王】を発動♪」
「構わねぇ、【緊急テレポート】を発動してデッキから【サイキック・リフレクター】を特殊召喚するぜ」
サイキック・リフレクター ☆1 チューナー 守備力0
緊急でもないのに呼び出されたのはレベル1のチューナー。はてさてレベル1デッキだろうかと現実逃避する男性教師に構わず紅蓮はデッキを回す。
「【サイキック・リフレクター】の効果で【バスター・ビースト】をサーチし効果発動、デッキから【バスター・モード】を手札に加えるぜ」
「さっきの言葉そのまま返すよ♪
男性教師の言葉を素知らぬ顔で聞き流した紅蓮はそのまま【バスター・モード】を見せることで墓地の【バスター・ビースト】を特殊召喚した。
バスター・ビースト ☆4→7 守備力1200
並んだ二体のモンスターに「ハリファイバーかな~?」と明後日の方向へ思考を飛ばす男性教師。空腹で頭がイッているのかもしれないが恐らく現実逃避だろう。問題ない。
「【サイキック・リフレクター】で【バスター・ビースト】をチューニング! 吠えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
光射す道となった二体を糧に降り立つ紅蓮魔竜。名前の割にはその身体に赤要素は少ない。
「【天球の聖刻印】の効果発動! リリースしてそのモンスターには帰ってもらうよ♪」
すかさず男性教師が天球儀を生け贄に悪魔祓い。
創世の竜騎士 ☆4→8 守備力600→0
「よっし使ったな? 【コール・リゾネーター】を発動してデッキから【レッド・リゾネーター】を手札に加えて通常召喚!」
レッド・リゾネーター ☆2 チューナー 攻撃力600
【天球の聖刻印】の効果で特殊召喚された【創世の竜騎士】に一瞬だけ意識を向けるも問題ないと判断し無視して進める。無視された竜騎士は泣いていい。
「【レッド・リゾネーター】の効果で手札から【風来王ワイルド・ワインド】を特殊召喚!」
風来王ワイルド・ワインド ☆4 守備力1300
赤い調律魔に呼び出されたのは風来坊なのに王というタイプ:ワイルド。
「チューナーとそれ以外のモンスター、来るぞ遊馬!」
「古いネタだな先生、【レッド・リゾネーター】で【風来王ワイルド・ワインド】をチューニング! 来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】!」
レッド・ライジング・ドラゴン ☆6 シンクロ 攻撃力2100
悪魔と王が調律し、火竜が燃え上がる。この文だけを人に見せたら意味がわからないだろう。
「【レッド・ライジング・ドラゴン】の効果発動だ。墓地から【レッド・リゾネーター】を特殊召喚して更に効果発動、ライフを回復するぜ」
レッド・リゾネーター ☆2 チューナー 守備力200
灰村紅蓮
LP8000→10100
赤い調律魔が復活すると、火竜の炎が紅蓮を包み込み、その身体を癒やす。炎で何故人の身体が癒えるのかわからないが火傷させて止血することもあるのでつまりそういうことだろう。
「魔法カード【エンシェント・リーフ】発動だ。ライフ2000払って2枚目ドロー」
灰村紅蓮
LP10100→8100
一万を越したもののすぐに減るライフ。多くのデュエリストにとってライフなんて残っていればいいだけのコストだ。
「【レッド・ライジング・ドラゴン】に【レッド・リゾネーター】をチューニング! 燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
再びフィールドに姿を表すレッド・デーモン。傷付いているのはきっと天球儀にバウンスされてから紆余曲折あった証なのだろう。知らんけど。
「なら【連撃の帝王】の効果発動! レベル8になっている【創世の竜騎士】をリリースしてアドバンス召喚! 【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】!」
「なっ!?」
オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン ☆8 攻撃力3000
黄金の鎧を纏った竜騎士を踏み台にフィールドへ躍り出るオッドアイズ。竜騎士は泣いていい。
「【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】の効果発動! キミの【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】を破壊して攻撃力分ダメージだ♪」
オッドアイズが尻尾でスカーライトを殴ると、その赤さと竜であることから赤き竜だとでも勘違いしたのか、大人しく破壊されるスカーライト。
灰村紅蓮
LP8100→5100
自分のターンにも関わらず飛んできたバーンダメージに不快そうに眉を歪め、紅蓮はまだ使わない予定だったカードを切る。
「ならさっき引いた【復活の福音】発動! 蘇れオレの魂!」
「ウソん!?」
このタイミングで最適なカードを引いた強運に男性教師は素っ頓狂な声を上げる。素っ頓狂って今日日聞かねぇな。ジェネレーションギャップかな?
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
墓地でオッドアイズが赤き竜ではないことに気付いたのか、何事もなかったかのように帰ってきたレッド・デーモン。素レモンから期間を開けて登場したスカーライトとしては言い得て妙である。
「さて、もう妨害はねぇだろ。【強欲で貪欲な壺】を発動し二枚ドロー。【シンクローン・リゾネーター】を特殊召喚しそのままスカーライトをチューニング!」
シンクローン・リゾネーター ☆1 チューナー 守備力100
呼ばれて飛び出るなり不機嫌なスカーライトと調律するシンクロン擬き。
「シンクロ召喚! 深炎より来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 攻撃力3200
「【シンクローン・リゾネーター】の効果で墓地の【レッド・リゾネーター】を手札に加えるぜ。バトル、【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】で攻撃だ」
その姿に騙されたことが癪だったのか、容赦なくオッドアイズの顔に右拳を叩き込むアビス。オッドアイズからすればただの八つ当たりである。
男性教師
LP3500→3300
「【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】が戦闘ダメージを与えたことで、墓地から【シンクローン・リゾネーター】を特殊召喚だ」
シンクローン・リゾネーター ☆1 チューナー 守備力100
ここで紅蓮は考える。【シンクローン・リゾネーター】と【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】で【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】をシンクロ召喚するか、このままターンを終えるか。
ベリアルを出してもリリースするモンスターがいないためアビスを残すことはできずそして墓地にもうリゾネーターはいないため【シンクローン・リゾネーター】の効果を使う意味はなく総括してこのままで良いと判断した。
「カードを伏せて、ターンエンドだ」
男性教師
LP3300 手札2
□□□□連
□□□□□
□ 琰
□□シ□□
■□□□□
灰村紅蓮
LP5100 手札3
連:連撃の帝王
琰:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
シ:シンクローン・リゾネーター
■:伏せカード
「じゃあ先生のターン」
カードを引きながら伏せられたアレは十中八九【バスター・モード】だろうと半ば断定した断定教師はこの盤面をどう返そうか思案する。
「まずは【連撃の帝王】をコストに【パラレル・ツイスター】を発動♪」
「させるか【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果発動だ!」
相手モンスターをアドバンス召喚の生贄にするという疑似壊獣カードを紅蓮は間髪置かずに止める。が、それが狙いだったのか男性教師はこれでもう邪魔はなくなったと効果を使う。
「墓地の【真源の帝王】の効果発動、【連撃の帝王】を除外して墓地から特殊召喚♪」
真源の帝王 ☆5 守備力2400
【天帝アイテール】の像がフィールドに直立不動するがこれを天使族だと言い切れるのかは怪しいライン。
「レベル5のモンスター・・・・・・」
恐らく男性教師のエースであるカードがあれば出されるこの状況をなんとか出来ないかと紅蓮はアビスを見るが、アビスは「
「ではご期待に応えて。アドバンス召喚【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】!」
オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン ☆8 攻撃力3000
ディスクに表示された【真源の帝王】のモンスターステータスから何かを察した紅蓮に応えるようかのごとく男性教師がアドバンス召喚。後は先程のターンと同じである。
「【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】の効果発動! もう効果を使えない【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を破壊して攻撃力分ダメージ!」
「効くかよ【復活の福音】の効果発動! 墓地から除外して破壊を防ぐぜ!」
【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】が再び尻尾で【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を殴ろうとするが同じ手は食らわないとでも言うようにその尻尾をアビスが掴む。
「なら次だ【創世の竜騎士】の効果発動! 手札一枚をコストに墓地から除外して【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】を蘇生!」
オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン ☆8 守備力2500
二体並んだ【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】のレベルは8。つまりUMAの出番である。
「行くよ♪ 二体の【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】でオーバーレイ、エクシーズ召喚【銀河眼の光波竜】
「【銀河眼の光波竜】を素材にフルアーマー・エクシーズチェンジ【ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン】!」
ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ★8 エクシーズ 攻撃力4000
【銀河眼の光波竜】が鎧を身に纏い背中のキャノンを構える。対象は【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】。
「効果発動!」
男性教師がどこからか取り出した奇抜なヘルメットを被り「対閃光防御!」とついでに耳を塞ぐ。
「ファイア」
ギャラクシーアイズの背中から砲撃される弾丸。ちなみに閃光は一切なかった。
「チッアビスがやられたか・・・・・・」
「まだあるよ♪ ランクアップ・エクシーズチェンジ【銀河眼の光波刃竜】」
ギャラクシーアイズが使い終わった装甲をパージすると刃のような翼を持つ竜へと進化していた。
「【銀河眼の光波刃竜】の効果発動♪ オーバーレイユニットを一つ使い、【シンクローン・リゾネーター】を破壊!」
【銀河眼の光波刃竜】が刃翼を羽ばたかせると、それに驚いた【シンクローン・リゾネーター】がショック死。悪魔なのに音に弱いのか。
「バトルフェイズ、【銀河眼の光波刃竜】でダイレクトアタック!」
「させると思ってんのか? 【バトル・フェーダー】!」
バトル・フェーダー ☆1 守備力0
ギャラクシーアイズが殲滅のサイファーストリームを放つべく口を開くと鐘の
「失敗したか♪ ・・・・・・あっヤバい今ので気が抜けて空腹感が」
「おいおい先生大丈夫か?」
腹をカードを持った左手で押さえながら右手で大丈夫だと示す男性教師に紅蓮も一応心配する素振りを見せるが、デュエルを中止するつもりは一切ないので結果は変わらない。なんなら途中棄権扱いで勝ったことにすることまで考えていた。
「た、ターンエンド・・・・・・」
男性教師
LP3300 手札0
□□□□□
□□□□□
刃 □
□□フ□□
■□□□□
灰村紅蓮
LP5100 手札2
刃:銀河眼の光波刃竜
フ:バトル・フェーダー
■:伏せカード
手札を使い切り、残りライフも半分を割っている男性教師に対し、手札もライフもある紅蓮。結果は目に見えているように思える。
「オレのターン、ドロー。【レッド・リゾネーター】を召喚して効果で手札から【終末の騎士】を特殊召喚、さあ休暇なんざねぇぜ効果発動だ!」
レッド・リゾネーター ☆2 チューナー 攻撃力600
終末の騎士 ☆4 守備力1200
制限カードにも関わらず何故か過労状態の騎士がデッキから【亡龍の戦慄-デストルドー】を墓地へ引きずり出す。
「っていうことは、またか」
「先生を空腹で放置するのも可哀想なんでな、直ぐに終わらせてやるよ。【レッド・リゾネーター】で【終末の騎士】をチューニング、さあ燃えろ魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】」
レッド・ライジング・ドラゴン ☆6 シンクロ 攻撃力2100
再び燃え上がる火竜。名前的にアルティメットの力の片鱗っぽいが【レッド・アルティメット・ドラゴン】なるカードは存在しない。なんでさ。
「【レッド・ライジング・ドラゴン】の効果で墓地から【レッド・リゾネーター】を特殊召喚、効果発動で【銀河眼の光波刃竜】の攻撃力分ライフを回復するぜ」
灰村紅蓮
LP5100→8300
赤い悪魔の異名を持つ調律魔がその手に持つ音叉でギャラクシーアイズをビビらせると、止めて欲しくばよこせとライフを回復させる。カツアゲか。
「【レッド・ライジング・ドラゴン】を対象に【亡龍の戦慄-デストルドー】をレベル1にして特殊召喚だ」
灰村紅蓮
LP8300→4150
亡龍の戦慄-デストルドー ☆7→1 チューナー 守備力3000
初期値を超えていたライフがオベリスクでは死なない程度の中途半端なライフまで減る。
「【レッド・リゾネーター】で【レッド・ライジング・ドラゴン】をチューニング! 爆ぜろオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン】!」
琰魔竜レッド・デーモン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
また異なる姿で登場するレッド・デーモン。裏での衣装替えとか忙しそうだが大丈夫なのだろうか。
「まだだぜ。墓地の【風来王ワイルド・ワインド】を除外して効果発動! デッキから【シンクローン・リゾネーター】を手札に加えてそのまま特殊召喚するぜ」
シンクローン・リゾネーター ☆1 チューナー 守備力100
琰魔竜の横に赤いのとは別の調律魔が並ぶ。
「直ぐって?」
「ああ! それってソリティア? 【亡龍の戦慄-デストルドー】で【琰魔竜レッド・デーモン】をチューニング、深炎より再び来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 攻撃力3200
骨龍と調律しレッド・デーモンが進化する。やはりアビスは二積みらしいが勿体ない気がしなくもない。
「もっと、もっとだ! 【シンクローン・リゾネーター】で【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】をチューニング! 悪魔を焼けオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】!」
琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル ☆10 シンクロ 攻撃力3500
今度は調律魔と同調し力を増す琰魔竜。ベリアルとは悪魔なのだが「悪魔を焼け」とは自殺の隠喩か何かだろうか。
「効果で【レッド・リゾネーター】を手札に加えるぜ」
「ベリアルまで出てきたか♪ そしてそこで棒立ちしてる【バトル・フェーダー】をリリースするのかね」
「流石先生だぜご明答だ。【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】の効果発動、【バトル・フェーダー】をリリースしてくすぶってねぇで出て来い【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 攻撃力3200
ベリアルが鐘の悪魔を墓地へボッシュートするとそれでキャッチボールするべくアビスが蘇る。尚【バトル・フェーダー】は除外へ逃げ出した。
「足りねぇなぁ、もっと寄越せ! 墓地を【レッド・ライジング・ドラゴン】の効果発動! 除外して墓地の【シンクローン・リゾネーター】二体を特殊召喚!」
シンクローン・リゾネーター ☆1 チューナー 守備力100
墓地で種火竜が燃え上がると、火傷を恐れてか二体の調律魔が慌ててフィールドに飛び出す。悪魔なのに火に弱いのか。
「仕上げだ、【シンクローン・リゾネーター】二体で【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】をチューニング! 惨禍と化せオレの魂【琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ】!」
琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ ☆12 シンクロ 攻撃力4000
二体の悪魔を糧に更に進化するレッド・デーモン。腕まで増えて便利なのか不便なのかよくわからない。
「バトルだ! 【琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ】で【銀河眼の光波刃竜】を攻撃!」
先程破壊されたアビスのお礼をするべくカラミティが複数ある腕を鳴らしながらノッシノッシギャラクシーアイズの前まで歩く。普通にヤクザだ。キングの魂がヤクザということで起訴できないだろうか。
「それ食らったら負ける! 墓地の【超電磁タートル】の効果を発動! 除外してバトルフェイズを強制終了するよ♪」
「いつの間にンなカードを・・・・・・」
そして【創世の竜騎士】の墓地効果のコストに手札を捨てていたことを思い出す。流石教師、抜け目ない。言い換えればセコい。何故言い換えたのか。それについての激しい論争が今後十年も繰り広げられることになろうとは、この頃はまだ誰も思っていなかった。
「チッならメイン2からターンエンドだ」
男性教師
LP3300 手札0
□□□□□
□□□□□
刃 王
□□ア□□
■□□□□
灰村紅蓮
LP4150 手札1
刃:銀河眼の光波刃竜
王:琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ
ア:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
「オレのターン、ドロー」
空腹が限界なのか、一人称が素に戻る男性教師。よく空腹でデュエルできるものだがデュエリストなら誰でも可能だろう。
「【銀河眼の光波刃竜】の効果発動!」
「やらせねぇ、【エフェクト・ヴェーラー】!」
ギャラクシーアイズが翼を輝かせると、それを察した性別不詳天使が止める。
「墓地の【天球の聖刻印】【ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン】【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】を除外して特殊召喚! 【混源龍レヴィオニア】!」
混源龍レヴィオニア ☆8 特殊召喚 攻撃力3000
3つの魂を取り込み混源に至った龍が飛翔する。
「【混源龍レヴィオニア】の効果! カラミティとアビスを破壊する!」
「させねぇよ【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果発動!」
【混源龍レヴィオニア】をアビスが殴って黙らせる。
「それを待ってた♪ 墓地の【輝光竜セイファート】の効果発動、墓地の【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】を回収、そのままアドバンス召喚!」
オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン ☆8 攻撃力3000
幾度目かも忘れるほどの登場をするオッドアイズ。咆哮を上げ、カラミティへ尻尾を振るう。
灰村紅蓮
LP4150→150
「チッよくもカラミティを!」
しかしそのバーンだけでは紅蓮のライフを削り切るには至らない。むしろ鉄壁に入り勝つ確率が上がった可能性すらある。
そして。
「【琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ】の効果発動だ、蘇れオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
更に傷付きボロボロになった姿でそれでも貪欲に勝利を求め復活する紅蓮魔竜。
相対する二体の竜と共に二人のテンションは最高頂に達し―――
「カフッ!」
「せっ、先生――!?」
男性教師が吐血したことにより、このデュエルは幕を下ろした。
この後、紅蓮は男性教師を担いで保険室へ直行。ただの過労だとわかるとホッと胸を撫で下ろしたが、それも束の間。
学年主任に呼び出され、かなりの叱責を紅蓮は受けることになり、男性教師も減給、とまでは行かないものの健康診断を受けることになった。もちろん自腹で。
彼が心配で保健室を訪れた生徒の中には涙を流す者もおり、彼は健康管理に気をつけることにしたという。
追記
【烈旋の帝王】を【パラレル・ツイスター】に変更いたしました。
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紅蓮:一話
この作品が予想以上に好評で驚いています。
そして、遅くなってしまい申し訳ありません。
納得できる内容が書けず、時間がかかってしまいました。
昼休みになると、デュエルスクールには午前の分だけとはいえ授業が終わったことによる開放感と喧騒に包まれる。開放されているのに包まれているとか矛盾している気がしなくもないが、きっと気のせいだろう。
「さて、オレも飯にするか」
「なら一緒に食べる?」
紅蓮も妹の作った弁当を食べようと包を取り出すと、席の近い男子生徒に声をかけられる。
「そうするか。・・・・・・いや、量多いなお前」
男子生徒が取り出したのは重箱レベルの大きさを誇る弁当箱らしきもの。紅蓮の物と比べても5倍はありそうだ。紅蓮とそう体格の変わらない男子生徒の体のどこにこの量が入るのか甚だ疑問だが、デュエリストに質量保存の法則など効かないだろうし、着痩せしているだけの可能性もある。
「そう? 別に普通だと思うけどな~」
心底不思議そうに首を傾げる男子生徒に戦々恐々する紅蓮。これを普通と認識しているということはつまり家でもこの量の食事、果ては家族もこれだけの量を食べているということであり食費がカードに使うお金を超す可能性すらある。
「でさ、気になってたんだけど。入学式のアレって、本気?」
アレ、と言われて何のことか理解できなかった紅蓮だが、ウインナーを口に入れて咀嚼する内に授業で疲労していた脳がまた働き出したのか思い当たる事柄に行き当たる。
『オレの名前は灰村紅蓮、『最強』を目指してる。デュエルならいつでも受けるぜ』
入学式を終えた後の自己紹介にて紅蓮の放った言葉。彼としては勿論本気だが、男子生徒からすればわからないので訊きたかったのだろう。世の中には
「勿論だぜ。オレはいつでも本気だ」
後半少し胡散臭かったが、肯定する言葉はキッパリと言い切った彼に、男子生徒は続ける。
「それって、『デュエル甲子園』に出て優勝するってことだよね。本気?」
「ああ。本気だ」
念押しするように本気かと訊く男子生徒に違和感を覚えながらも断言する紅蓮。その意志はまさに鉄のようだ。ならば強さは鋼だろうか。
「そう。頑張ってね~」
「おいおい、それだけか? 今のは力を貸してくれる的な流れだったろ」
用は済んだと言わんばかりに食事に戻った男子生徒へ紅蓮が不満とも文句とも言えない言葉を投げつけるものれんに腕押し、まるで聞いていない。
「俺、非デュエリストだし。力を貸しても役に立たないよ~」
しっかりと口の中の物を飲み込んでから男子生徒が衝撃の告白をする。この場合の告白は色恋とはほぼ全く多分絶対関係ないので悪しからず。
「そうだったのか。悪かったな」
別に悪いことをしたワケではないはずだが、それでも申し訳なく思う気持ちに駆られて謝罪する。男子生徒も「気にしないでいいよ~」と返したのでこの件は終わりだ。
前置きが長くなったが、紅蓮がここでデュエルするのは『デュエル甲子園』に出場し優勝するためだ。ただ、『デュエル甲子園』へ出場するには中間テストで成績上位を取り、学校で行われる予選を勝ち抜く必要がある。そのため、男子生徒は重ねて『本気か?』と尋ねたのだ。
『デュエル甲子園』の開催は二学期から。一学期の成績で出場する生徒を絞る目的もあるが、夏休みに特訓や合宿などで力を磨かせることも理由の一つだ。
「し、失礼、します!」
丁度紅蓮が玉子焼をゴックンしたところで、教室の入口から声が聞こえた。ちなみにしょっぱい玉子焼だ。
紅蓮含め教室内の生徒が目を向けると、そこには目が隠れるほど長い前髪が特徴的な小柄な少女がいた。腰まで伸びた黒髪はポニーテールに纏められてはおり紅蓮はその美しい髪を見て邪魔そうだなという印象を持った。彼には人の心がないのか?
「ぇ、えと、今日、の朝に、先生とデュエル、してた人、います、か?」
一気に視線を向けられたことによる緊張からか、たどたどしく話す彼女に、母性本能を発揮した一部の女子生徒達が紅蓮のことを伝えると、少しの時間をかけて紅蓮へと目を向けた。見えないのであくまで雰囲気で察しただけだが。
「あ、の。今、ぃいで、すか?」
少し周囲の物に触れながら歩く女子生徒が紅蓮に近づき話しかけるが、紅蓮はオニギリを頬張っていたので答えられない。
「・・・・・・もっきゅもっきゅ」
「・・・・・・ぅ、ぁの、えと・・・・・・」
無言の睨み合い
数十秒経って、ようやく紅蓮がオニギリを食べ終えると、女子生徒が口を開く。
「あの、」
「すまん、食べ終わるまで待ってくれ」
「「「それを早く言ってやれよ!」」」
「ぅおう」
「うひゃあ!?」
紅蓮の自分勝手とも言える行動に成り行きを見守っていた周囲の生徒から猛ツッコミが入れられる。その勢いに紅蓮が気圧されると、彼以上に女子生徒が驚く。
その驚きっぷりに紅蓮が驚き、驚きの
「ぅ、あ、えと。じゃあ、待って、ます」
少しばかりか細くなった声でたどたどしく告げる女子生徒に対し「そうか」と返すだけで食事に戻る紅蓮。一見いじめているように見えるかもしれないが訪ねて来たのは彼女であり要件を聞いてもらう側は彼女なので紅蓮の態度も全く問題ない。ないと言えばないが周りの目にどう映るかは別問題である。
「灰村くんって・・・・・・」
「根っからのSだよな・・・・・・」
「じゃなきゃあんなこと言わないって・・・・・・」
「聞こえてんぞお前ら!」
「ひゃあっ!?」
四つ目の玉子焼をかじろうとしたタイミングで耳に入ってきた声に紅蓮が思わず反応すると、陰口を叩いていた生徒達以上に女子生徒が反応する。
「・・・・・・お前、大きい声が苦手なのか?」
「ぁ、ごめん、なさい・・・・・・」
もしやと思い紅蓮が質問するが、返ってきた返事は噛み合わない内容だった。紅蓮は玉子焼を咀嚼していて歯が噛み合っていたが。
それから二分ほどで紅蓮が食事を終えると、女子生徒が今度こそと口を開く。
「ぁの、デュエル、してもらえ、ません、か?」
「いいぜ。デュエルディスクは使うか? テーブルデュエルでも構わねぇが」
席を立った紅蓮が場所を移すのを面倒に思い訊くが、女子生徒は「ぇ、と」と言葉を探すように左腕に付けたディスクに抱きしめる様に触れながら押し黙ると、その行動から何かを察した紅蓮が遮る。
「ディスク、使った方がいいのか。なら移動するぞ」
「ぁ、なら、いい場所、知って、ます」
言いたいことが伝わったからか、少し明るくなった表情で付近の物に触れながら先を歩く女子生徒。そしてそれに続く紅蓮。表情に関してもよく見えないため雰囲気だけではあるが、紅蓮は何となく彼女とのコミュニケーションに慣れてきた。
五分も経たない内に案内されたのは校舎の横にある食堂の裏側。人気のないその場所には、一人を除いて誰もいなかった。いるじゃねぇか。
「あ、先生!」
「遅かったね、鈴♪ 何かあった?」
今朝紅蓮とデュエルした担任の男性教師が、食堂の壁に寄りかかってデッキらしきカードの束を見ていた。
「何で先生がここに?」
「この場所、よく不良がたむろしてたりするのさ♪ 先生は不良
偶然とは思えなかった紅蓮が訊き、返ってきた答えに胡散臭さを感じながらも気にしないことにしてディスクにデッキをセットする。
「ぇ、と、これが、こっち、で・・・・・・」
対する女子生徒はVRゴーグルのような物を目元に取り付け、そこから伸びているコードをデュエルディスクに繋げる。
「それは?」
「ぅあ、ぇと・・・・・・」
イカサマなどではないだろうが、せめて何の機械かを教えてもらおうと紅蓮が訊くが、急な質問に言葉が見つからない様子の彼女に代わって男性教師が答える。
「彼女は生まれつき目が悪くてさ。ああしてディスクを通してカードを判別できるようにしてるんだよ」
アレを作ったのはオレじゃないけど、と続けた教師に一応は納得する紅蓮。悪い、と言うが眼鏡を付けていないことからかけてもかけなくても変わらないほどに視力が低いのかもしくは完全に見えない、ということだろう。もしかしたらあの前髪の下で眼鏡が光っている可能性もなくはないが。
(名前は・・・・・・『
デュエルスクールでは、デュエル結果などを収集する際に楽なようにディスクに生徒データを入れることが義務付けられている。そのため、対戦相手の名前などはデュエルの際に表示されるのだ。
「はいむらぐれん、くん・・・・・・」
あちらも同じように紅蓮の名前を知ったらしく呟く声が聞こえた。
「それじゃあ鈴、大丈夫?」
「すー、はー・・・・・・大、丈夫、です」
男性教師の気遣う言葉に大きく深呼吸してから頷いた鈴。それが彼女なりの準備らしい。
「「デュエルッ!」」
遊弋鈴
LP8000
灰村紅蓮
LP8000
先攻となった鈴は手札がディスクにかざすと、雰囲気が明るくなったのを紅蓮は感じる。
「私のターン、【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】と、【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】で、ペンデュラムスケールをセッティング、します」
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン スケール4
オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン スケール8
まず紅蓮が驚いたのは彼女がペンデュラムという振り子メンタルの力を使ったことでも初手にその二枚を揃えていたことでもなく、彼女がまだつっかえながらも先程と比べて滑らかに話していることだった。先ほどの深呼吸が、彼女にとってある種のスイッチになっているのだろう、と紅蓮は推測を立てる。
「【天空の虹彩】を発動して、効果を使い、ます。【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】を破壊して、デッキから【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】を、手札に加え、ます」
虹色の目が痛くなりそうなフィールドが展開され、それによってやはり目にダメージを負った【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】が破壊される。自分のフィールドで自分が傷付くとはこれいかに。
「【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】の効果で、デッキから【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】を、特殊召喚、します」
EMオッドアイズ・ディゾルヴァー ☆8 ペンデュラム 守備力2600
無残に散って行った【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】に敬礼しながら代わりとして【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】を呼び出す。
「【EMオッドアイズ・ライトフェニックス】を、ペンデュラムスケールにセット、します」
EMオッドアイズライトフェニックス スケール3
これでレベル4から7のモンスターが同時に召喚可能。いつ見てもインチキな召喚方法である。
「ペンデュラム召喚、です。【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】、エクストラデッキの【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】」
オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン ☆5 ペンデュラム 守備力2400
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ☆7 ペンデュラム 攻撃力2500
並んだ二色の瞳を持つ龍達。もう一体魔術師がいるが、ドラゴンではないが故の疎外感を覚えたのか隅で地面に『の』の字を書いている。小学生か。
しかしよく考えれば(カードとしては)彼はまだ2歳。子供っぽいのも仕方ないのかもしれない。だが少なくともビジュアル的には大人なので結局変わらない。
「そして【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】がいる、てことは融合だな」
「ぇと、はい。【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】の効果で、【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】と、融合、します」
先の展開を読まれてしまい少し戸惑った鈴だが、気を取り直して両手を祈るように合わせる。ちなみにこれは今観戦している男性教師が教えたもので別にやらなくてもいいのだが、そうとは知らない鈴は毎回合掌している。
「融合、召喚。【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】」
オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン ☆7 融合 守備力3000
いじけた【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】が【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】と融合し自らも龍になることで疎外感から解放される。
「これで、ターンエンド、です」
遊弋鈴
LP8000 手札0
ア□□□ラ
□ペ□□□天
□ ボ
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札5
ボ:オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン
ペ:オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン
ラ:EMオッドアイズ・ライトフェニックス
ア:オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン
天:天空の虹彩
手札を使い切ったこの盤面。だが、妨害するカードは二枚あり、逆に言えばそれを突破すればもう止めるものはない。
「オレのターン、ドロー。まずは【レッド・リゾネーター】を通常召喚して効果発動だ」
「ぇと、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の、効果を発動、します。エクストラデッキの、【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】を、デッキに戻して、その効果を無効にして破壊します」
紅蓮は【レッド・リゾネーター】で通常召喚権を使った。なら、ここで止めておいた方がいいと判断したのか、鈴は【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果を発動する。
「次、【ワン・フォー・ワン】発動だ。手札一枚をコストに、デッキから【サイキック・リフレクター】を特殊召喚するぜ」
サイキック・リフレクター ☆1 チューナー 守備力0
前回に引き続きまたも呼び出しを食らった【サイキック・リフレクター】。様々なデッキで
「効果でデッキから【バスター・ビースト】を手札に加え、捨てて発動。デッキから【バスター・モード】をサーチだ」
【/バスター】に限らず、【水晶機巧-ハリファイバー】を使うデッキの初動。本当にインチキ臭い動きだ。
「【バスター・モード】を相手に見せることで墓地の【バスター・ビースト】をレベル7で特殊召喚。そして【サイキック・リフレクター】でチューニング、シンクロ召喚。燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
炎と共に傷付いた紅蓮魔竜が飛翔する。何故傷付いているのかわからないが恐らく
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果発動だ。コイツ以下の攻撃力を持つモンスターを全て破壊するぜ」
「っ、なら、【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】の効果を、発動します。その効果、無効に、します!」
【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】が咆哮を上げその右腕を振るうと、【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】が頭突きでそれに対抗し、相殺する。攻撃力的に無理があるかもしれないが、頭蓋の硬さが1800くらいあったのだろう。恐ろしい。というか仮面じゃないのか。
「これで妨害はなくなったな、【シンクローン・リゾネーター】を特殊召喚して【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】をチューニング! シンクロ召喚、深炎より来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 攻撃力3200
機械の力で傷を癒やし、まるで別人の様に整形した【レッド・デーモン】。作品が違うので別人なのは当たり前かもしれない。
【シンクローン・リゾネーター】の効果で【レッド・リゾネーター】を回収した紅蓮はバトルフェイズを宣言する。
「【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】で【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】を攻撃だ」
先程の仕返し、とでも言わんばかりに完治した右腕で【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】の頭蓋に拳を落とす【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】。やっていることはただの仕返しだがその図体とソリッドビジョンのせいでかなりの迫力である。実際、観戦している男性教師は本物じゃないとわかっていてもビビっている。
「お、【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】の効果を発動、します。デッキから【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】を特殊召喚、します」
「させるか、【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果発動、それを無効にするぜ」
【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】の尻拭いを自分以外に押し付けようとした【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】だが、それは琰魔竜によって止められた。
「カードを一枚伏せて、ターン終了だ」
遊弋鈴
LP8000 手札0
ア□□□ラ
□□□□□天
琰 ボ
□□□□□
□□■□□
灰村紅蓮
LP8000 手札2
ボ:オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン
琰:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
ラ:EMオッドアイズ・ライトフェニックス
ア:オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン
天:天空の虹彩
大して盤面を削れず妨害のせいで手札をかなり使ってしまったことに歯噛みしながら彼女へターンを渡した紅蓮。ペンデュラムスケールを破壊できなかったのが特に痛い。
「わ、私の、ターン。【天空の虹彩】の効果を発動、します」
「・・・・・・いいぜ、通しだ」
ここで【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果を使った場合、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】によって無効化され、その上破壊されてしまう。EXモンスターゾーンを空けさせないために【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】へ攻撃した紅蓮だったが、判断を誤ったかと思考するが、【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】がいるのでは変わらない、と切り捨てる。
「ぇと、【EMオッドアイズ・ライトフェニックス】を破壊して、デッキから【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】を手札に加え、ます。それと、【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】の効果で、デッキから【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】を特殊召喚、し、します」
オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン ☆8 ペンデュラム 攻撃力3000
帳を切り裂き飛翔する虹色の翼の龍。結局このカードを出されてしまったことに、紅蓮は舌打ちしようとして、
「【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】を攻撃表示に変更して、バトル、です。【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】で、【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を攻撃します!」
本来攻撃力の劣る【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】だが、自身の効果によって戦闘相手の攻撃力を下げることができる。
「・・・・・・ここだな。リバースカード、【リビングデッドの呼び声】。蘇生させるのは【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】だ」
「っ!? な、なら【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果で・・・・・・」
そこまで言って、気付く。
紅蓮のフィールドには【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】がおり【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果を使った所で無効化されてしまう。ここで使っても無駄になるのであれば、手札誘発なども加味すると・・・・・・。
「―――ぃえ、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果を、発動します」
伏せカードが【バスター・モード】ではなかったことに動揺していた鈴だったが、平常心に戻ったところで紅蓮の狙いに気付いた。
【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】の効果はダメージ計算時の発動。ここで【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果を発動され、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果を発動しても、巻き戻しは発生せず、攻撃自体が無効化されてしまう。
紅蓮は「カハッ」と乾いた声を漏らし、口元を歪める。どうやら笑っているらしい。
「読まれたか。【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果発動だ、無効にするぜ」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
同胞の復活を邪魔しようとする【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】を【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】が押さえつけ、紅蓮魔竜が蘇る。
鈴のデュエルディスクに『巻き戻し』が表示されると、少しアタフタしながらも『攻撃続行』を選択する。
「【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】の効果で、エクストラデッキの表のペンデュラムモンスターの数だけ、攻撃力をダウン、させます」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200→200
【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】に気を取られていた琰魔竜の後ろから【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】が奇襲しその力を奪うとそのまま気付かれる間もなく翼で裁断し破壊した。
灰村紅蓮
LP8000→5200
減ったライフを気にも止めず、紅蓮は彼女の次の動作へと意識を向ける。
琰魔竜が破壊されたが、紅蓮魔竜は健在。そして彼女のフィールドで攻撃できるのは
「・・・・・・ターン終了、です」
遊弋鈴
LP8000 手札2
ア□□□□
□□フ□□天
□ ボ
□レ□□□
□□リ□□
灰村紅蓮
LP5200 手札2
ボ:オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト
フ:オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン
ア:オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン
天:天空の虹彩
「オレのターン!」
エンジンがかかってきたのか、紅蓮の声に熱が入る。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果発動だ! 攻撃力3000以下のモンスター全てを破壊するぜ!」
「【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果を発動、します! 無効にして破壊、です!」
紅蓮魔竜が腕を地面に叩きつけると
「まだまだ! 【ヴァレット・シンクロン】を召喚、効果で蘇れオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
ヴァレット・シンクロン ☆1 チューナー 攻撃力0
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 守備力2500
弾丸の調律竜が自身を紅蓮魔竜の額に撃ち込み、
「墓地の【風来王ワイルド・ワインド】の効果発動だ。除外して、デッキから【シンクローン・リゾネーター】を手札に加えるぜ。そのまま特殊召喚だ」
シンクローン・リゾネーター ☆1 チューナー 守備力100
そんなカードいつ墓地に送ったのかと鈴は可愛らしく小首を傾げる。観戦している男性教師は【ワン・フォー・ワン】の効果発動時にコストにしていたのだろうと推測する。
ともあれ、これで準備は整った。
「【ヴァレット・シンクロン】と【シンクローン・リゾネーター】で、【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】をダブルチューニング!」
紅蓮のディスクから炎が噴き上がり、悪魔と機械を二つのリングへと変える。炎のリングは紅蓮魔竜を包み込むと、その火力を増した。
「シンクロ召喚、君臨しろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント ☆10 シンクロ 攻撃力3500
炎が落ち着くと、暴君として全てを破壊する紅蓮竜が姿を現す。暴君だからと言って全てを壊すとは限らないが、この竜はそうする。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】の効果発動! 自身以外のカード全てを破壊する!」
邪魔する者のいない
「っ!」
【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】の効果は、自身を含めて破壊されてしまうと発動できない。完全に更地となったフィールドに、鈴はうろたえる。
「バトルだ! 【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】でダイレクトアタック!」
暴君が拳を握り、鈴の地面を殴り付ける。
遊弋鈴
LP8000→4500
半分ほどに削られるライフ。これで盤面的にもライフ的にも逆転した。
「カードを伏せて、ターンエンドだ」
遊弋鈴
LP4500 手札2
□□□□□
□□□□□
レ □
□□□□□
□□■□□
灰村紅蓮
LP5200 手札1
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント
■:伏せカード
伏せたのはブラフの【バスター・モード】、手札は【レッド・リゾネーター】と、一見紅蓮が優位に見えるがかなりギリギリの戦いだ。
とは言え、鈴の手札も一枚は【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】だとわかっているが、ペンデュラムスケールの片割れが揃えば融合にも繋げられる。効果耐性のない【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】では、簡単に除去されてしまうので、そんなに余裕がないのだ。
「私の、ターン・・・・・・」
鈴も紅蓮の伏せカードは把握しているが故に、逆転できる可能性がある。まあここで意味のないカードを引いてそのまま暴君に蹂躙される可能性も十分にあるのだが、あまり触れないでおこう。
「【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】と、【オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン】で、ペンデュラムスケールをセッティング、します!」
EMオッドアイズ・ディゾルヴァー ペンデュラムスケール4
オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン ペンデュラムスケール8
光の柱に魔術師と緑龍が入り、天空に振り子が揺れる。今更だが、柱の中って窮屈ではないのだろうか。
紅蓮はまた「カハッ」と笑うと、口の端を更に釣り上げる。
「いいぜ、何を出す?」
「ペンデュラム、召喚! 【オッドアイズ・ファントム・ドラゴン】、エクストラデッキから【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】!」
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン ☆7 ペンデュラム 攻撃力2500
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ☆7 ペンデュラム 攻撃力2500
並ぶ二体の虹彩龍。アニメ版と漫画版、二人のトマトのエースが夢の共演である。【オッドアイズ】デッキでは割とよくあることだが。
「【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】の効果発動、です! 二体で融合、します!」
魔術師が杖を回し融合の渦を作り出すと、そこへ虹彩龍達が飲み込まれる。
「融合召喚! 【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】!」
オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン ☆7 攻撃力2500
再び姿を見せる
「【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果発動、です! 【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】を、手札に戻し、ます!」
雷虹彩龍の起こした暴風によってエクストラデッキへと吹き飛ばされる暴君。歴史から見ても暴君の最後とは呆気ないものでありこれも自然の摂理と以下略。
「バトルです! 【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】で、ダイレクトアタック!」
灰村紅蓮
LP5200→2700
これで、また逆転。見事なシーソーゲームだが、油断すれば一瞬で終わると分かっている故に、彼らに気にする余裕はない。観戦している男性教師は見事なものだと気楽そうに見学している。
「ターンエンド、です」
遊弋鈴
LP4500 手札0
ミ□□□デ
□□□□□
□ ボ
□□□□□
□□■□□
灰村紅蓮
LP2700 手札1
ボ:オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン
デ:EMオッドアイズ・ディゾルヴァー
ミ:オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン
■:伏せカード
「カハハッ、いいぜ、燃えてきたじゃねぇか」
口元を歪め、テンションを上げる紅蓮。その様子は、正に燃えたぎる炎だ。実際に燃えては火事になったり火傷になったりと大変なので、あくまで比喩だが。
「オレのターン、ドロー!」
引いたカードを確認し、そのまま勢いよく発動する。
「【強欲で貪欲な壺】! デッキ上十枚を除外し、二枚ドロー!」
増える手札、これで三枚となった手札を見て紅蓮の笑みは最高潮に達する。
「【復活の福音】!」
「っ、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果発動、です! 【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】をデッキに戻して、効果を無効にして破壊、します!」
それを読んでいた紅蓮は、前のターンから持っていた手札をディスクへと置く。
「【レッド・リゾネーター】を召喚、効果で手札から【終末の騎士】を特殊召喚!」
レッド・リゾネーター ☆2 チューナー 攻撃力600
終末の騎士 ☆4 守備力1200
休暇のない騎士ではなく【調星師ライズベルト】や【風来王ワイルド・ワインド】などでも良かったが、このカードであったことでこのターン中に決着がつく。
「【終末の騎士】の効果でデッキから【亡龍の戦慄-デストルドー】を墓地へ送るぜ。そしてチューニング、シンクロ召喚! 来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】!」
レッド・ライジング・ドラゴン ☆6 シンクロ 攻撃力2100
珍しく出番がなかったこのカードだが、ようやく活躍の時間である。
「【レッド・ライジング・ドラゴン】の効果で【レッド・リゾネーター】を蘇生して効果発動! 【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の攻撃力分ライフを回復するぜ!」
灰村紅蓮
LP2700→5200
前のターンで減った分が戻った。紅蓮の効果説明が雑だが、それはテンション故に仕方ないのかもしれない。
「【レッド・ライジング・ドラゴン】を対象に【亡龍の戦慄-デストルドー】の効果! ライフを半分にして特殊召喚だ!」
亡龍の戦慄-デストルドー ☆7→1 守備力3000
灰村紅蓮
LP5200→2600
若干前のターンよりもライフが少なくなっているが、関係ないと紅蓮は突き進む。
「【レッド・リゾネーター】で【レッド・ライジング・ドラゴン】をチューニング! シンクロ召喚、燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
墓地からではなくエクストラデッキから再び燃え上がる本日の過労死。傷付いた身体とは裏腹に、疲労などの色合いは全く見えない。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果発動だ! 攻撃力3000以下のモンスター全てを破壊する!」
右腕に炎を纏わせ、地面を殴りつける。これだけやって一度しか成功しないのだからデュエルモンスターズは恐ろしい。
「更に、破壊した数だけダメージを与えるぜ!」
「ぁ、う・・・・・・」
遊弋鈴
LP4500→3500
これで鈴の残りライフは3500。攻撃力3000の【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の攻撃を受けても、まだ耐えきれる、が。
「・・・・・・ぁ」
ふと意識に浮上した、一枚の伏せカード。【バスター・モード】。そして【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】は場と墓地で【レッド・デーモンズ・ドラゴン】としても扱う―――。
「【バスター・モード】発動! 燃え上がれオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター ☆10 攻撃力3500
紅蓮のデュエルディスクから溢れた炎が鎧へと変わり、それを身に纏った更なる破壊の力を宿す紅蓮魔竜。しかし今重要なのは、その攻撃力だ。
「バトル、【レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター】でダイレクトアタック!」
紅蓮魔竜が炎のブレスを吐き出し、鈴を覆う。
遊弋鈴
LP3500→0
ジャストキル。しかしこれは狙ったものではなく、お互いが全力を尽くして生まれた偶然だ。
(負け、ちゃった・・・・・・)
悔しさと共に腕を下げ俯く鈴。しかし、自分に近づく二つの足音に顔を上げる。
「お疲れ様、鈴♪ いいデュエルだったよ」
「ああ、すげー燃えたぜ」
朝は不完全燃焼で終わったからな、と続ける紅蓮と、その横で謝罪しながらも悪びれる声音ではない先生。そのやり取りに、鈴はクスリと小さく笑った。
「・・・・・・あるぇ? もう授業始まってる時間だ」
周りに人の気配がないことに気付いた男性教師が腕時計を見ると、そこには五限目開始からすでに十分経った時刻が示されていた。
「・・・・・・は?」
「・・・・・・ぇ」
困惑した二人の生徒へ一度向き直り、ニコリと笑顔になった男性教師は、
「急げー!」
回れ右して走り出した。
「な、またこのパターンかよ!」
「ぇ、私、走れな、」
慌てて着いて行く紅蓮と、戸惑う鈴。男性教師は彼女のことを思い出して一度引き返してから、教室へと向かった。
ここからは余談だが、デュエルに集中し過ぎた彼らは、授業開始と五分前のチャイムを聞き逃していたらしい。
各々教室へ戻ると、男性教師は鈴のクラスでの授業だったためその生徒達へ謝罪し、授業を始めた。紅蓮は完全に遅刻した生徒扱いされ、男性教師が休み時間に事情を話すまで担当だった教師に睨まれていたという。
簡単なキャラ紹介①
灰村紅蓮
デュエルスクール クスィーゼ校 一年
【レッド・デーモン】のカード達を『魂』と呼び、そのカード達を主軸にデュエルする。
【レッド・デーモン】達の一体で戦うデュエルを好んでおり、自らへの戒めの意味合いも込めてエクストラデッキは全てシンクロモンスター。
性格は一度決めたことを守り通す、筋を通すと硬派な面もある一方、それ以外では不良である。
少し笑うのが下手。
外見は赤みがかった黒髪に睨みつけるような目が特徴的で身長はほぼ平均。腕っぷしはそこそこあるが、それが発揮される日はいつになるのか。
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鈴:一話
今回は伏線をばら撒く話なので、あまり面白くないかもしれません。
放課後となり、昼休み以上の解放感に包まれた生徒達。解放感からか服を脱ぐ生徒までいるとかいないとか。尚、脱いでいるのは単に暑いからとか着替えのためとかなので全く問題ない。
さてそんな中、少し手間取りながらも荷物を纏め周囲の物に触れながら教室を出るなり駆け足で階段を上る黒髪の少女がいた。
彼女は階段を上りきると『第二国語科準備室』の札が下がった教室の扉を開ける。
「・・・・・・ぁ」
そして、まだ誰もいないことに気付き、恥ずかしいやら悲しいやらで俯く。
「いらっしゃい、鈴♪ 今日も早いね」
と、唐突に鈴の頭に手が置かれる。普通ならばセクハラなどで訴えてもいい行為だが、鈴にそんなつもりは毛頭ないので大丈夫だろう。ちなみにセクハラとはセクシャルハラスメントの略である。
「先生」
「何ボーっと立ってるの♪ 早く入りなよ」
先生、と呼ばれた彼は鈴に声をかけるなり室内へ入る。鈴はその彼の袖を心の中で言い訳しながら摘み彼に続いて歩き教室の中央にある向かい合った机と椅子にたどり着くと名残惜しいながらも手を放し席に座る。
男性教師も同じように向かい側へ腰掛け、にこやかな雰囲気で口を開く。
「それの使い勝手、どう? どこか異常ない?」
それ、というのは鈴が使っている例のゴーグルのことだ。
このゴーグルは男性教師の知り合いが開発した物であり、まだ試作品。故に、被験者が必要であり、それが鈴、という訳だ。
「ぇと、はい。前の、よりも、つ、使いやすい、です」
普段とは異なる緊張によって途切れ途切れになってしまう言葉をなんとか繋ぎ、鈴は答える。
「そっか。なら良かった♪」
その後も「最近学校はどう?」「ぃ、いつも、通り、です」「いじめとか合ってない?」「大丈夫、です」「体育の単位とか取れてる?」「筆記、で、なん、とか」などといくつか世間話に花を咲かせる二人。世間話というか、親子か親戚のおじさんの方が近い。男性教師はまだそんな歳じゃないのだが、まあ叔父はあり得そうではある。
「あ、そうそう。どうだった? 紅蓮とのデュエル」
思い出したように拳を手の平に当てて訊く男性教師。わざとらしい上に胡散臭いが、鈴はそんなことを気にせず少し考えながら言葉を紡ぐ。
「ぇ、と。真っ直ぐな、子、だと、思い、ました」
そこまで言って、一つ呼気を入れて、続ける。
「【レッド・デーモン】を、凄、い、信じて、いて・・・・・・」
彼女は見えない目を確かに男性教師へ向けて、更に続ける。
「先生みたい、だ、だと思い、ます」
意表を突かれたような顔でその言葉を受け止め切れず回避してから一周し取りに行った男性教師は、さも意外そうに瞬きを数回する。尚、ここの文章の半分に意味はない。
「え、そう? オレあんな感じ?」
あまりの驚きにかつい口調が素のものに戻ってしまう男性教師。鈴はそれを指摘することなく返す。
「ぇ? えと、はい。先生、【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】、凄い、信頼してる、から・・・・・・ち、違う、の?」
こちらも素の口調で返してしまう辺りお互い似た者同士なのかもしれない。男性教師にはまだ鈴に教えていない趣味があったりするのだがそれは割愛。
ポカンと気の抜けた顔の男性教師に対し、黙っていることから何かしてしまったのだろうかとアワアワする鈴。男性教師は数十秒経ってから「そっか・・・・・・」と声を漏らす。
「せ、先、生?」
「? どうしたの?」
恐る恐る、といった様子の上目遣いで鈴が男性教師を呼ぶと、彼は何故そんな怖がられているのかわからず首を傾げる。
「ぉ、怒って、ない?」
「・・・・・・え? 何で怒るの?」
お互い、少し会話が噛み合っていないことに気付き、鈴は理由を言う。
「だって、先生、黙っちゃった、から・・・・・・」
自分が何かしたのではないかと思った。その鈴の言葉に、男性教師は彼女と会話する上でのことを思い出し、謝る。
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事しててさ。鈴は何も悪くないよ♪」
「良かっ、た・・・・・・」と心底安堵する鈴を見て、男性教師は困ったように肩をすくめた。
鈴は自分に、少しばかり依存している節がある、と男性教師は思っている。
だから嫌われたくないのだろうし、学校でいる時は敬語なのだろうと。
まあ、それはただの勘違いなのだが。
しばらく雑談を続け、完全下校時刻まであと一時間、という頃。
「じゃあ、そろそろ始めようか♪」
「はい・・・・・・よろしく、お願い、します」
男性教師は少し離れた場所に置いてあった厚い板のような物を運び、机の上に乗せる。
黒い板には白い線が交差しており、横に7マス、縦に5マスほど四角形が彩られていた。
「これが、こっち、で、これは・・・・・・」
鈴は例のゴーグルを取り出し、そこから出ているプラグを板に差し込む。
そう、これはテーブルデュエル用のプレイマット。それも視覚障害者向けの物で、鈴の持つゴーグルと連動してデュエルディスクを使わなくてもデュエルできるようにしたものだ。
「準備できた? それじゃ、やろうか♪」
「「デュエル」」
遊弋鈴
LP8000
男性教師
LP8000
プレイマット改めてプレイボードが先攻に選んだのは鈴。制圧寄りのデッキである彼女にとって、これは嬉しい。
「ゎ、私のターン。【螺旋のストライク・バースト】を発動して、デッキから、【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】を手札に加え、ます」
そのままライトペンデュラムゾーンにセットし、【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】をレフトペンデュラムゾーンにセッティング。セットとセッティングで使い分けたが特に理由はない。
オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン スケール8
オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン スケール0
「ペンデュラム、召喚。【オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン】、【EMオッドアイズ・ライトフェニックス】、【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】」
オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン ☆3 ペンデュラム 守備力600
EMオッドアイズ・ライトフェニックス ☆5 ペンデュラム 攻撃力2000
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ☆7 ペンデュラム 攻撃力2500
ソリッドビジョンがない故に描写がほとんどないデュエルだが、そんなこと気にせず鈴は展開を続ける。というか、気にすることができたら怖い。
「【オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン】と、【EMオッドアイズ・ライトフェニックス】をリンクマーカーに、セット、リンク召喚、です。ぇと、あった。【ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム】」
ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム link2 リンク 攻撃力1800
鈴がエクストラデッキをぎこちなく探し、目当ての【メタルフォーゼ】の皮を被ったペンデュラムデッキ用リンクモンスターをプレイボードに置く。今更だが『プレイボード』というネーミングに卑猥な要素は一切ない。ほとんど。多分。
「【ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム】の効果で、デッキから【アストログラフ・マジシャン】をエクストラデッキに、加え、ます」
このカードは名前の部分が凹んでいるために探しやすかったのか、淀みなくサーチする鈴。しかしスリーブに入っているのでそんなことはない。
「その動き、やっぱり強いな♪」
「ぁ、えと、はい。そうです、ね」
男性教師は懐かしそうな視線を鈴の手元のカード達へ向けるが、彼女は理由がわからず戸惑うばかりである。
「【ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム】の効果で、【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】を破壊し、ます。そ、それから・・・・・・」
「わかってるから、説明はいいよ♪」
どの順番で発動するべきかと少し混乱する鈴に、男性教師はまるで肉親であるかのような笑顔で待つ。この笑顔を他の生徒に向けることはないのだが、盲目の彼女はそれを知らない。
「は、い。【ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム】の効果で【アストログラフ・マジシャン】を手札に加え、て、【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】の効果発動、です。デッキから【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】を特殊召喚、し、します」
EMオッドアイズ・ディゾルヴァー ☆8 ペンデュラム 守備力2600
今回は周りがドラゴンだけ、ということもなくぼっちではない【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】だが、ソリッドビジョンがない故それに気付くことはないだろう。悲しいことだ。嘘だが。
「【アストログラフ・マジシャン】の効果で、特殊召喚、して、デッキから【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】を手札に加え、ます」
買うと付録で漫画が付いてきそうなカードをデッキから手元に置き、危なっかしくシャッフルしてから次の処理に入る。
「【ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム】の効果、一枚、ドロー、します」
一連の処理が終わり、よくできましたーと頭を撫でたい衝動に駆られる男性教師。しかし学校でやってはセクハラで訴えられかねないのでこらえる。学校外ならいいのか。
「【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】の効果で、【アストログラフ・マジシャン】と融合し、ます。融合、召喚、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】」
オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 融合 ☆7 守備力3000
【オッドアイズ】モンスター+ペンデュラムモンスターという緩い縛りで融合できる
「ターン、エンド、です」
遊弋鈴
LP8000 手札1
ア□□□フ
□ペボ□□
□ エ
□□□□□
□□□□□
男性教師
LP8000 手札5
エ:ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム
ボ:オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン
ペ:オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン
フ:オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン
ア:オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン
視界の【オッドアイズ】率の高さに若干「うへぇ」となりながら男性教師はカードに引く。
「【輝光竜セイファート】を召喚して効果発動♪」
「だ、ダメ、です! 【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果、発動」
【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】をデッキに戻す鈴と出したカードをすぐさま墓地へ置く男性教師。男女二人が密室ですることが
「じゃ、【帝王の烈旋】を発動するよ♪ 効果で【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】をリリース、アドバンス召喚【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】」
オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン ☆8 攻撃力3000
【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】を踏み台に正当進化を遂げる赤龍。進化に当たり寝返ったように感じるが気のせいだろう。
「【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】の効果で、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】を破壊だ」
ソリッドビジョンがあれば【オッドアイズ】同士の
遊弋鈴
LP8000→5500
「っ、【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】の、効果を発動、します! 墓地から【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】を特殊召喚、です」
オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン ☆7 守備力3000
軽快なSEと共にライフが減少するのに構わず鈴は効果を使う。
「効果で、【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】を手札に戻、します」
「これは困った。という訳で【暗黒竜コラプサーペント】を特殊召喚♪」
暗黒竜コラプサーペント ☆4 攻撃力1800
手札に戻った【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】を気にせず【輝光竜セイファート】を除外して新たな龍を呼び出す男性教師。エースモンスターがやられたのだからもう少し悲しんでもいいかもしれないが成人男性の悲しむ姿なんて誰も得しないので悲しまなくていい。
「【暗黒竜コラプサーペント】でリンク召喚、【守護竜ピスティ】」
守護竜ピスティ link1 攻撃力1000
規制のかかりそうな【守護竜】の一枚だが別にこのカードではなく【ストライカー・ドラゴン】等でも変わらない。
「【暗黒竜コラプサーペント】の効果で【輝白竜ワイバースター】を手札に加えて、そのまま特殊召喚♪」
輝白竜ワイバースター ☆4 攻撃力1700
除外される【暗黒竜コラプサーペント】。ゲームから取り除くカードは全て盤外へ置かれるので帰る時などに忘れそうである。教師なのだからそんなヘマはしないと思うが彼に限ってはあり
「【
オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン ☆8 攻撃力3000
バウンスされてから1ターンも経たずに舞い戻る赤龍。効果で狙うのは同じく【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】。このカードの無効効果は名称を指定した1ターンに一度の効果であるため、使うことはできない。
遊弋鈴
LP5500→3000
戦闘を介さずにライフを半分以上削られた事実に鈴は驚愕と焦りを覚える。が、抵抗する手立てもないためどうしようもない。
「バトル、【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】で【ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム】を攻撃♪」
遊弋鈴
LP3000→1800
ライフはかなり少ないが残った。これで、次のターンに【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】を出せれば、まだ勝機はある。鈴のその考えは、しかし男性教師の言葉によって打ち消される。
「【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】の効果発動♪ 戦闘で相手モンスターを破壊したから、手札か墓地からレベル5以上のモンスターを特殊召喚できるよ」
「・・・・・・ぁ」
嵐征竜-テンペスト ☆7 攻撃力2400
影が薄いためすっかり忘れていた効果。それにより男性教師の最後の手札が場に置かれる。
「じゃ、ダイレクト・アタックだ」
遊弋鈴
LP1800→0
ワンターンキル。男性教師の手札が良かったのもあるが、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果が裏目に出てしまった。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・えーと、鈴? 鈴さん?」
呆然としてしまって声も発さない鈴、それに対して何も言わない彼女に怒らせてしまったかとビビる教師。表情が読み取れない、ということによる弊害が起きていた。
「ぁ、ごめん、なさい。ちょっと、ボーっと、して、て」
「なら良かった。・・・・・・まだ時間はあるけど、そろそろ帰ろうか」
男性教師の声に我に返った鈴が謝罪すると、男性教師は気にしないでいいとでも言うようにヒラヒラと手を振りながらプレイボードを片付けようとする。
「ぁ・・・・・・」
鈴はまだ彼といたい思いからか声を漏らすが、男性教師の耳には入らなかった様で自身のカードを纏め始めていた。
鈴もまたカードを集めてデッキケースに仕舞うと、それを見て男性教師がプレイボードを棚に立てかける。
「ん? あ、そうだ。そう言えばコレ、試してって言われてたっけ」
棚の近くに置いてあった紙袋に気付き、それを手に取って中身を確認した男性教師は思い出したように呟く。
「先生、そ、れは?」
音で何かを見つけたのは把握している鈴だが、それが何なのかはわからないために尋ねる。
「新型のゴーグル・・・・・・昨日届いて、忘れてたみたい」
試してみる? と紙袋からソレを取りだし訊く彼に、鈴は考える。
自分の使うゴーグルの新型ならば被験者たる自分は着けるべきなのだろう。しかし使うか訊くということは、急ぎではなさそうだ。だが、それよりも、彼と一緒にいる時間が少しでも増えるのであれば―――
「使、い、ます」
頷いた彼女に男性教師はソレを手渡しながら「気を付けてね」と念押しするように言う。
「今までとはかなり違うらしいから。気持ち悪くなったりしたら、すぐ言って」
彼に似つかわしくない真剣な、声に、鈴は疑問を覚えながらもソレを着ける。
鈴の持っている物よりも重く大きいソレを取り付け、コードをデュエルディスクに接続する。
「えーと、何々? 『電源を入れて、カードをモンスターカードゾーンに置いてください』、だってさ」
取扱説明書を読んでいるらしい男性教師の言うままに操作し、先程仕舞ったカードの内一枚をおもむろに取り出すと、ディスクに置く。
「・・・・・・ぅ、あ、え?」
視界、と言うべきか、脳裏に映る
しかし、近くに表示された名前は、読むことができる。
「ぉ、【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】・・・・・・?」
そこまで読み上げて、鈴は自分の足が急になくなったような感覚に襲われる。
「鈴!?」
背中に何かが回される感覚。右手にある衣類の感触。どうやら自分は倒れたらしい、と鈴は朧気に理解する。
どうやら男性教師が支えてくれているらしい。見えていた赤龍も消えている。
「やっぱり、負担が大きいのか・・・・・・ケガとかない?」
顔のすぐ近くから聞こえる男性教師の声に、抱きかかえられていることに気付いた鈴。自覚できるほど熱くなっていく頬を見られないように男性教師のいる方向とは逆へ顔を向け、頷く。きっと耳まで真っ赤になっているだろう。実際はゴーグルと前髪のせいでよく見えていないのだが、冷静ではない今の鈴はそこまで考えられない。
「ぁ、あの、もう、立て、」
「へ? あ、ゴメン、鈴!」
取り敢えずこの状況をなんとかしようと鈴が立とうとすると、男性教師は彼女を気遣いながら手を離す。それを残念に思うこの気持ちは抑えられないものかと鈴は自分を恥じたが、それが男性教師に伝わる訳もない。
「・・・・・・じゃ、帰ろうか」
「ぁ、はい・・・・・・さ、さよなら、先生」
ゴーグルを返し、そのまま部屋を出る鈴。
それを見送ってから、男性教師は荷物を纏め始めた。
ーーーーーーーーーー
『クスィーゼ』の郊外にある、少し古い
シャツの上から白衣を着たその男の他に客はおらず、彼とマスターの店内には哀愁が漂っている。
白衣の男がグラスをカウンターに置いたところで、バーの扉が開かれる。
「いやー、ゴメンゴメン♪ 帰ろうとしたら主任に捕まって残業してた」
入るなり白衣の男の隣に座る黒髪の青年。彼がマスターに白衣の男の飲んでいるものと同じものを
「久し振りだな、こうして顔を合わせるの」
「そうだな。ずっとチャットとかだったし」
過去を懐かしむ様子の二人。顔の合わせる、と言っているが、お互い見ているのはカウンターの奥に並んだ無数の酒類なので顔を合わせてはいなかったりする。
「アレ、どうだ? ちゃんと作動したか?」
「ああ、動いたけど、負担が強いみたいだから、あのままは難しそう」
アレ、という指示語だけで何のことか察したらしい青年が苦笑しながら答えると、彼の前にグラスが置かれる。
「まあ、そうだろうな。それに、コストもバカにならねぇし、アレを商売に使う気はねぇよ」
グラスを傾けワインを煽る彼に、白衣の男は特に表情を変化させない。
「・・・・・・プハッ。そっか。なら今までのを売るの?」
「ああ。量産の目処が立ったから、来年には発売できるだろうな」
とはいえ、店頭販売はできねぇが、と続ける彼に、男性教師はからかうような口調で言う。
「変わったねえ、君。二十年くらい前の君に見せてあげたいくらい♪」
ニヤニヤと口元を笑みで染める青年に、白衣の男は横目でジト目という器用なことをして、目線を前に戻す。
「別に構わねぇよ。前は前、今は今だ。以前の俺を悔いたことはねぇし、今の俺を恥じることもねぇ」
そう断言する彼に、青年は眩しそうに目を細めながら呟く。
「そういうところは変わらないなぁ♪」
まあな、と返す彼にまた苦笑を作りながら、彼はグラスを傾ける。
この後、青年が財布を忘れていたことが発覚し、白衣の男に罵られながら金を借りたそうな。
簡単なキャラ紹介②
遊弋鈴
デュエルスクール クスィーゼ校 二年
【オッドアイズ】のカード群を主軸にデュエルする盲目の少女。
目が不自由な人でもデュエルができることを目的として作られているデュエルディスクの試作品、その被験者。ついでにデュエルディスクも小柄な彼女に合わせて軽い物になっている。
目を隠すほど長い前髪と、腰まである長い黒髪が特徴的。髪とは真逆で身長は150cmほど、体重は(この文章は螺旋のストライクバーストされました)。要は合法ロリ。触れれば壊れそう、という言葉が似合うだろうか。
ロリコン疑惑のかかる男性教師とは過去に何かあったらしく、その伝手でデュエルディスクを入手したとか。
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紅蓮:二話
私用で書く暇がありませんでした。
鈴とのデュエルから三日後の木曜日。
寝坊しかけて妹に叩き起こされて寝不足気味な紅蓮は、うつらうつらしながら数学の授業を受けていた。
普段はそこそこ真面目に授業を受けているのだが、やはりドレッドルート算やコンマイ語の授業と比べて数学は彼の中で優先度が低いらしい。まあ、生粋のデュエル馬鹿、ということだろう。
だがしかし、居眠りなんてものを教師が許すはずもなく。
スカン、と出席簿がうつ伏せになっていた紅蓮の後頭部を叩く。
「・・・・・・
「お前が寝てるのが悪い。それともなんだ? 俺の授業はそんなにつまらないのか?」
呻くように声を漏らした紅蓮に対し、冷ややかな目線を向けるのは【戦士ダイ・グレファー】によく似た顔の男性教師。どう見ても体育会系だが、数学の教師である。
顔を上げた紅蓮の目が見たのは黒板に書かれた実数、有理数、無理数などをわかりやすく纏めた表。そして周りの生徒は全員起きている。そこから推察するにこの教師の授業は決してつまらなくはないのだろう。
だが、寝ぼけている彼はそこまで考えても、口から出す言葉にまでは頭が回らなかったらしい。
「寝ていたので、つまらないか面白いかわかりません」
「そうかそうか。灰村、お前後で補習な?」
教室に溢れる笑い声を耳にしながら、紅蓮は再び意識を手放した。
ーーーーーーーーーー
昼休みとなり、紅蓮はとある部活の部室へと出向いた。
この三日で彼はこの学校の強いデュエリストのことを訊いて回っていた。外見や態度などから
『遊戯部』の札の下がった扉をノックなしに開き、紅蓮は入室する。
中にはトランプ、オセロ、チェス、将棋、囲碁などの有名なゲーム盤や『プラ/シド危機一髪』、『カプセルモンスター』、『サウンド・ピエロ』などの誰が知っているのかわからないような玩具などが置いてあり、室内では4、5人の生徒がゲームを繰り広げていた。対人ゲームは基本一対一なので人数が5人だった場合は一人あぶれていることになる。4人であることを祈りたい。
紅蓮の入室に気付いた生徒の内の一人がゲームの手を止めて立ち上がり紅蓮に話しかける。これでもしただお花摘みに行くだけだったりしたら紅蓮は大恥なのだが、そんなことはなかった。
「いらっしゃい、君が灰村くんでいいのかな?」
「ああ。ってことは、アンタが
にこやかなスマイルで対応するその生徒が頷くと、紅蓮は「カハッ」と例の笑いを一つ。にこやかでないスマイルが逆にあるのかと訊きたいが、冷たい笑みなどがそれに該当するのだろうか。
「まったく、挑戦状なんて貰ったのは初めてだよ。しかも顔すら知らない生徒から」
茶髪の彼は呆れたように溜め息ともつかないものを零す。紅蓮はその態度に不服そうだが、異常な行動をとっているのは彼なので残当である。ちなみに残当というのは『残念だが当たり前』の略であり特に残念でもないためこの使い方は間違っている。
「悪かったな、他に思いつかなかったんだよ。アンタとデュエルする方法」
ばつが悪そうにする紅蓮を面白く思ったのか、クスクスと小さく笑った雪村はごめんごめんと謝りながら笑いを止めない。
「何なんだよ」
「いや、なんでもないよ。さ、デュエルするんでしょ? 早くしないと昼休み終わっちゃうよ」
怪訝そうに顔を顰める紅蓮だったが、つい三日前にそれで授業に遅れているので、言及せずにディスクを構える。
「おっと、ここでか・・・・・・」
「ダメだったか?」
場所を変えるつもりだった雪村は少し面食らったが、場所でデュエルの結果が変わるわけではない。乱数で多少変わる可能性もなくはないが、その話を持ち出すとこんがらがるので省く。省けてねえじゃねえか。
「それじゃ、始めよう」
「「デュエルッ!」」
華道雪村
LP8000
灰村紅蓮
LP8000
先攻となった雪村は手札の5枚を見てその笑みを濃くする。つまり彼は紅蓮が部室に入ったときからずっと笑みを浮かべておりずっとニヤニヤしている。少し変えるだけでこうもキモさが増すのか。
「魔法カード、【増援】を発動。デッキからレベル4以下の戦士族モンスターを手札に加える」
ということは戦士族デッキ、有名所だと【HERO】や【カオス・ソルジャー】、【六武衆】、最近強化された【聖騎士】などだろうかと当たりを付ける紅蓮だが、【終末の騎士】や【V・HEROヴァイオン】を初動とした
「サーチするのは【
現れたのは花札の松をモチーフにしたモンスター。ただの薄いオブジェかと思いきや戦士族だったらしい。まあ、
「【
つまりランダム制のあるドロー効果。専用デッキでなければ
「なら【エフェクト・ヴェーラー】の効果発動だ。手札から捨てて、そのモンスターの効果を無効にするぜ」
いつもの性別不詳っ子が【
「うーん、なら使いたくなかったけど【
使いたくなかった、というのが引っかかり紅蓮はデュエルディスクを操作して【
(
名称指定ターン1もないそのテキストに、紅蓮は少し驚く。
「デッキトップは【
【黒魔族のカーテン】と桜というミスマッチな組み合わせの花札がフィールドに浮かぶ。暗闇だったならホラー案件待ったなしだろう。
「次だ。【
【
「【
そうしてドローしたのは【
三体で並び、ガシャンガシャンと連結する【
「【
引いたカードは【
「んー、なら二番目以外全部デッキ下かな」
「そんなに悪いカードだったのか、コレ・・・・・・」
指示通りデッキをいじる紅蓮は、次に引くカードが何なのか、今から嫌になってくる。
「それじゃ行こうか。【
塵も積もれば山となるとは言うが、
「【
なるほど他と同じだなと紅蓮は一安心したが、『違ったら墓地へ送る』という言葉が続かないことに違和感を覚え単純なドロー効果だと気付く。
「そして、次のターンのドローフェイズをスキップする」
「だ、だよな。デメリットあるよな」
もしデメリットがなければ一時期界隈を賑わせた【No.60
「ははは、それはそうだよ。じゃあドロー」
紅蓮の反応が面白かったのか雪村は
「引いたのは【札再生】。【
現在雪村の手札は恐ろしいことに五枚。内三枚は【
「それじゃあ、はっちゃけようか! 【シンクロキャンセル】を発動!」
そのカードの発動に、観戦していた遊戯部の部員全員が歓声を上げた。
「うお、何だ!?」
「ここからは僕のステージだ! 【シンクロキャンセル】の効果で【
逆再生の容量で光の輪と光点に分解され、三枚の花札へと戻る。身体の仕組みはどうなっているのだろうか。モンスターなので常識が通じないのは常識であった。常識とは。
はっちゃける、と雪村は言っていたがこれのどこがはっちゃけてがいるのだろうか。紅蓮の疑問は尤もだが、【
「特殊召喚された【
「ッ、そういうことか!」
ふふふ、と笑う雪村の言葉で状況を理解した紅蓮は声を上げる。
【
「ドロー! 【
【ボアソルジャー】の描かれた花札が現れる。アンデットのようにスキャンすれば動き出すかと思ったが、それはアンデット違いだ。
「【
「モンスター除去もあるのかよ」
手札を増やすだけでなく、除去も行う優秀な【
「ドロー! 引いたのは【
盤面にモンスターが増えているにも関わらず、雪村の手札は増えて六枚。普通のデッキからすれば異常である。
とは言え、これは紅蓮のデッキ構成によるものも大きい。彼のデッキは【レッド・デーモン】を出すことを重視しているので、手札誘発は【エフェクト・ヴェーラー】や【緊急テレポート】で出せる【幽鬼うさぎ】のみである。【灰流うらら】を入れたい所だが、残念なことに枠が足りない。
要するに、手札誘発を入れてないのが悪い。これぞ現代遊戯王。
「【
まだ二度しか見ていないはずなのに感じるこの拒否感はなんだろうか。【原子生命態ニビル】は一目で拒否感を覚えたのでそれよりマシではあるが。
「効果発動、一枚ドロー! 引いたのは【
紅蓮は【
「そして【札再生】を発動、墓地の【
「
【鳳凰】の描かれた花札や召喚条件を無視したことよりも、彼の関心はそこにあった。【オネスト】の様に戦闘相手の攻撃力を得る効果ではないにしろ、厄介ではある。
まあ、戦闘時の効果なので【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】や【琰魔竜レッド・デーモン】などで破壊すればいいのだが。
「【
止めたいのは山々だが、前述の通り紅蓮に止める手段はない。
「ドロー! 引いたのは【花積み】、残念ながら墓地送りだね」
ドローを失敗したことに少しホッとする紅蓮。外野は残念そうにテンションを下げているが、紅蓮ならすればこれ以上モンスターを増やされるのは御免である。
「まだだよ。フィールドにレベル7以下【
花魁の後ろで三枚合体する【
「【
「マジか・・・・・・」
つまり、一枚を除いて公開されていた手札が入れ替えられるということだ。デュエルモンスターズにおいて手札の公開というのは次にどう動くかを晒すようなものなので、それを行う【
「手札の【
展開に手札を使って、残りは五枚。それでも盤面には四体のモンスターがおり、とても先攻とは思えない。まあ運が悪ければ【
「じゃあ仕上げだ。【
三枚の花札を花魁が取り込み、傘を構えた司祭のようなモンスターへと転じる。武器が傘にも関わらず攻撃力が【青眼の白龍】並なのだから意味がわからない。
「僕はこれでターンエンド。さあ、君のターンだ」
華道雪村
LP8000 手札5
□□□□□
□□□□□
雨 □
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札4
雨:
紅蓮は後攻なのに自分の方が手札が少ないこの状況に頭を痛めながらカードを引く。
「オレのターン、ドロー」
「相手がドローフェイズにドローしたことで、【
【
灰村紅蓮
LP8000→6500
傘で1500ダメージということはつまり本体の攻撃力は1500ということで傘と本体のどちらが本体だかわからなくなりそうである。
「
自身にダメージを与えたモンスターのテキストをディスクで読みながら、紅蓮は頭を回転させる。
【
対象にならない効果はまだしも、破壊されない効果は大変マズい。【レッド・デーモン】は相手モンスターを破壊しながら自身で攻撃するテーマ。その上、【
(戦闘で、実質攻撃力5000を倒す、か・・・・・・)
【セイヴァー・デモン・ドラゴン】では超えられない。残念ながら対象を取る効果であるため、【
【琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ】もダメだ。フィールドでの効果を無効にした所で、【
(なら、久しぶりに出番だな)
その為の前準備が必要だ。だが、それを惜しむ紅蓮ではない。
「【サイキック・リフレクター】を召喚、効果でデッキから【バスター・ビースト】を手札に加える」
サイキック・リフレクター ☆1 チューナー 守備力0
呼び出されたのはいつもの
「【サイキック・リフレクター】の効果で手札の【バスター・モード】を見せびらかして墓地の【バスター・ビースト】を特殊召喚!」
「これ、見なければ特殊召喚できないのかな?」
「ならオレも【
「【バスター・モード】だね、確認したよ」
バスター・ビースト ☆4→7 守備力1200
流れるようなボケは冷ややかな紅蓮の言葉によって切り捨てられた。
「【サイキック・リフレクター】で【バスター・ビースト】をチューニング! 吠えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
紅蓮の炎と共にフィールドに降り立つ赤い悪魔。素レモンなのは効果を使わないからである。
「カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」
華道雪村
LP8000 手札5
□□□□□
□□□□□
雨 レ
□□□□□
□□■□■
灰村紅蓮
LP6500 手札3
雨:
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン
■:伏せカード
「なら僕のターン、ドローフェイズはスキップされる」
【
攻撃表示の【レッド・デーモンズ・ドラゴン】を見ながら、雪村は紅蓮の狙いが何なのか考える。
(【レッド・デーモンズ・ドラゴン】の攻撃力は3000、【
【
(どう考えても、【
このままターンを終えても問題ないが、【レッド・デーモンズ・ドラゴン】から【魔王超龍 ベエルゼウス】でも出てきたら面倒だ。だが召喚権を使わずにターンを終えた所を見るに、恐らく事故だろう。
ならば。
「僕は何もせずターンエンドだ」
華道雪村
LP8000 手札5
□□□□□
□□□□□
雨 レ
□□□□□
□□■□■
灰村紅蓮
LP6500 手札3
雨:
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン
■:伏せカード
紅蓮は【レッド・デーモンズ・ドラゴン】を破壊されなかったことに安堵しながら、カードを引く。
「オレのターン、ドロー!」
「【
灰村紅蓮
LP6500→5000
また針的なサムシングによってライフを減らされるが、そんなことは気にせず今引いたカードを発動する。
「【強欲で貪欲な壺】! デッキトップ十枚を除外して二枚ドロー!」
新たに手札を得ると、紅蓮は「カハッ」と乾いた笑い声のようなものを零す。
「いよっしゃ来たァ! 【シンクローン・リゾネーター】と【クリエイト・リゾネーター】を特殊召喚!」
シンクローン・リゾネーター ☆1 チューナー 守備力100
クリエイト・リゾネーター ☆3 チューナー 守備力600
現れたのは二体の調律魔。【レッド・デーモンズ・ドラゴン】の周囲を旋回し、炎のリングに姿を変える。
「行くぜ! 【シンクローン・リゾネーター】と【クリエイト・リゾネーター】で、【レッド・デーモンズ・ドラゴン】をダブルチューニング!」
脳内がアドレナリンで溢れ、紅蓮のテンションは最高潮に達する。
「シンクロ召喚! 燃えろ、燃えろ、燃えろ! 熱く、激しく、
スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン ☆12 シンクロ 攻撃力3500
4つの炎の輪を取り込み、
「【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】の攻撃力は、オレの墓地のチューナーの数だけアップする! 墓地にチューナーは四体、よって2000アップ!」
スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン 攻撃力3500→5500
【エフェクト・ヴェーラー】【サイキック・リフレクター】【シンクローン・リゾネーター】【クリエイト・リゾネーター】の力を炎に宿し、【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】は力を増す。
「攻撃力、5500・・・・・・」
最近は
「バトルだ、【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】で【
火球を作り出し、それを殴って【
華道雪村
LP8000→5500
一気にライフを削られ、小さく声を漏らす雪村。
(【
【
「ターンエンドだ」
華道雪村
LP5500 手札5
□□□□□
□□□□□
□ ス
□□□□□
□□■□■
灰村紅蓮
LP5000 手札3
ス:スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン
■:伏せカード
エンドフェイズを迎える前に【
「僕のターン、ドロー!」
これで手札は六枚。内二枚は【
「魔法カード【超こいこい】を発動! まだまだはっちゃけるよ!」
そのカードの発動に、部員達が更に盛り上がる。
【超こいこい】はカードを三枚ドローし、その中の【
「それじゃあ、ドローの時間だ! ドロー! 引いたのは【
「二枚目、ドロー! 【
「三枚目、ドロー! ・・・・・・【花合わせ】、裏側で除外する」
華道雪村
LP5500→4500
急に少し冷めてしまった雪村と部員達。気を取り直して、雪村は墓地からカードを探す。
「あ、あった。【花積み】の効果発動! 除外することで、墓地の【
「・・・・・・あ」
1ターン目のことを思い出し、紅蓮は冷や汗を流す。
「回収するのは【
効果はドローに成功すれば相手モンスターを破壊する効果。どこまで行ってもギャンブルである。
「ドロー! 引いたのは【
「【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】は相手の効果で破壊されない!」
「あ、そうなの」
花札に殴打される【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】。破壊されないとは言え、なんともシュールだ。
「【
本日何度目かわからない効果ドロー。数えてみれば十六回目くらいだった。
「引いたのは【
雪村はドローした【
特殊召喚されたのはチューナーにして【魔王ディアボロス】よろしくデッキトップをチラ見する【
「【
本日何度目かわからない効果ドロー。数えてみれば十六回目くらいだった。
デッキトップを操作されなかったことに安心する紅蓮だったが、雪村はまだ終わらないと効果を発動する。
「【札再生】の効果! デッキ上五枚を確認し、魔法・罠を一枚手札に加えて残りをデッキトップに戻す!」
つまり、
「僕は【花合わせ】を手札に加えるよ。そして【
再び現れる花魁。三度目のその姿はもう見慣れたものである。嘘だ。紅蓮はうんざりした顔であり、部員達は盛り上がっている。
「もっとはっちゃけようか! 【
並んだ【
「【
【
「場にレベル10以下の【
五体並んだ【
「【
またドローかと紅蓮は辟易とするが、部員達のテンションは上がる一方である。
「それじゃあ行こうか! 【
【
「シンクロ召喚! レベル10【
全ての【
「バトルだ、【
「【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】の効果、攻撃宣言時に自身を除外して、攻撃を無効にする!」
「無駄だよ! 【
スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン 攻撃力5500→3500
除外へ逃げようとする【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】を【
灰村紅蓮
LP5000→1500
大きく差のついた二人のライフに観客の部員達は更にテンションを上げる。彼らはテンションのリミッターが天元突破しているのかもしれない。
「ターンエンド。ふう、だいぶ削ったね」
額の汗を拭う動作をしながら雪村はターンを終える。
華道雪村
LP4500 手札5
□□□□□
□□□□□
五 □
□□□□□
□□■□■
灰村紅蓮
LP1500 手札3
五:
■:伏せカード
切り札の応酬によってかなり削られた紅蓮のライフポイント。そして恐ろしいまでに多い文字数。これも全て【
「オレのターン、ドロー! 【ワン・フォー・ワン】を発動、手札一枚をコストにデッキからレベル1モンスターを特殊召喚できる!」
「【
コストのみを受け取り発動しない【ワン・フォー・ワン】。これが詐欺の手口である。否定し切れないのが何とも心苦しい。
「よし、使ったな? 【リビングデッドの呼び声】を発動、蘇れオレの魂!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
【ワン・フォー・ワン】通していてもいなくても、結果は同じ。
「【金華猫】を通常召喚、効果で墓地から【救世竜セイヴァー・ドラゴン】を特殊召喚!」
金華猫 ☆1 スピリット 攻撃力400
救世竜セイヴァー・ドラゴン ☆1 チューナー 守備力0
鴉が謳い、黒猫がニャンと啼くと、救世するべく小竜が召喚された。おい待てどこから来た鴉。
「行くぜ、【救世竜セイヴァー・ドラゴン】で【金華猫】と【レッド・デーモンズ・ドラゴン】をチューニング!
セイヴァー・デモン・ドラゴン ☆10 シンクロ 攻撃力4000
救世竜の力と余計な黒猫の力を取り込み、紅蓮魔竜は救世主となる。AGEかな。
「【セイヴァー・デモン・ドラゴン】の効果発動! 相手モンスター一体を対象に、効果を無効にしてその攻撃力を得る!」
セイヴァー・デモン・ドラゴン 攻撃力4000→9000
紅の水晶に閉じ込められ、何かの見世物の如く絵になるオブジェとなる【
「バトル、【セイヴァー・デモン・ドラゴン】で【
「っ、ライフで受ける!」
雪村は
華道雪村
LP4500→500
鉄壁に入ったライフだが、ここからどうなるのかを、雪村はもう悟っている。
「【
「エンドフェイズ、【セイヴァー・デモン・ドラゴン】はエクストラデッキに戻る」
レッド・デーモンズ・ドラゴン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
華道雪村
LP500 手札5
□□□□□
□□□□□
雨 レ
□□□□□
□□リ□■
灰村紅蓮
LP1500 手札1
雨:
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン
リ:リビングデッドの呼び声
■:伏せカード
手札を殆ど使い果たした紅蓮。追い込んだ様で、実はもう勝敗は決していたりする。
「僕のターン。ターンエンド」
ドローフェイズは【
そして、紅蓮のターン。
「・・・・・・ッ、あー、負けかぁ」
カードを引き、【
灰村紅蓮
LP1500→0
つまらない幕引きに不服そうな雪村と、普段あまり使わない部類の
「んー、まあそこそこ面白かったしいっか。じゃあ皆、かいさーん!」
腕時計で時間を確認し、部員達に声をかける雪村。紅蓮も部室の時計を探して見ると、かなりマズい時間だった。例によって予鈴は仕事をしていない。
「げっ、何やってんだよ予鈴!」
急いで部室 を出て教室へ走る紅蓮。
時間的にはぎりぎり間に合う瀬戸際だったが、走ったことによって教師に注意された紅蓮は、結局授業に遅れたとか。
ーーーーーーーーーー
五時間目の『不動性ソリティア理論』と六時間目有名なデュエル学者が考察した『ヴァイ論』についての講義をしっかりと聞いた紅蓮は、帰り道を一人で歩く。
(負けちまったな、今日・・・・・・)
授業などのデュエルで同学年に負けたことはない。だが、やはり年上相手だと勝率が悪い。
(これじゃあダメだな。もっと鍛えねえと)
『デュエル甲子園』に出場するのに学年は問わない。つまり、上級生とのデュエルは頻繁に起こるということだ。
まだ強さが足りない。この学校の上級生にも勝てる様にならなければ、デュエル甲子園での優勝などできない。
パン、と軽く頬を張ると、紅蓮は少し沈んでいた気持ちを切り替える。
まだ時間はある。デュエル甲子園の開催は二学期だ、ならばそれまでに己を磨けばいい。
(まずはデッキを見直す所からだな。それから、他のテーマとかも知っておいた方がいいだろうし)
やることは決まった。なら後は行動するだけだ。
紅蓮は心持ちを新たに、少し寄り道してから帰ることにした。
簡単なキャラ紹介③
華道雪村
デュエルスクール クスィーゼ校 三年
遊戯部部長にして面白いことが大好きであり、逆につまらないことを嫌う。【
茶髪にピアスとどことなくチャラい見た目だが別に陽キャというワケではなく、何となくそうしているだけである。そして多分今回以降あまり出番はない。
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紅蓮:三話
見直しって大切ですね。
それでは本編です。
金曜日。翌日が休日ということもあり少しフワフワした空気が漂う中行われるのは担任教師による国語。その中で、一人だけノートに何かを書き込み続ける生徒がいた。
意外なことに、それは紅蓮である。
国語の授業で彼が起きていることは少なく、寝てばかりだった。しかし現在は絶え間なくシャーペンを動かし、ルーズリーフを黒くしていく。
(【ヴァレット】を入れて【クイック・リボルヴ】で初動を安定させるか・・・・・・だけどそれだと【セイヴァー・デモン・ドラゴン】や【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】を出しにくくなるしな・・・・・・)
ダメだった。彼はやはりデュエル馬鹿だった。
【ヴァレット・トレーサー】からレベル4【ヴァレット】を展開し【レッド・デーモン】へと繋げるルートなどを色々考え、しかしそれだと枠が足りない。
(【天輪の葬送士】は入れるのキッツいな。【切れ気味隊長】も初動にはならないし)
【救世竜セイヴァー・ドラゴン】から【セイヴァー・デモン・ドラゴン】を出す手段が限られているため、それを増やそうと考えるが、それでは専用デッキを組んだ方が早いとなってしまう。
(【シャドール】と混ぜるにしても【影依融合】は相手依存だしな・・・・・・それにエクストラに融合モンスターを入れるのはポリシーに反する)
真っ白なエクストラデッキは紅蓮にとって重要な意味を持つ。それを曲げるようなことはしたくない。
(【シンクロン】軸も悪くはないが、【転生竜サンサーラ】と【デブリ・ドラゴン】で【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を出すのは気に食わねえし)
気に食わない、というだけでデッキに入れない、というのはどうかと思うが、彼なりの考えの結果である。
嫌いなカード、気に食わないカードを入れたデッキで勝ってもつまらない。そしてそんなカード達が必要な時に力を貸してくれるとは思えない。なら、無理をしてまで入れるよりは入れない方がいい。それが紅蓮の考え方である。
(あークソ、【サイキック・リフレクター】の効果でレベルを上げずに特殊召喚できればなあ!)
そうすれば【レッド・リゾネーター】で【バスター・スナイパー】を特殊召喚すれば【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】まで行けるのに、と紅蓮は声に出さずに嘆く。
(【原始生命態ニビル】のことを考えると、【レッド・ライジング・ドラゴン】を挟まずに【レッド・デーモン】に繋げれば・・・・・・いや、【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を出すなら同じか)
であればレベル8【レッド・デーモン】の蘇生手段を増やして【原子生命態トークン】の横に並べて殴る、という手段も考えたがそれで初動を減らしてしまっては【灰流うらら】や【幽鬼うさぎ】などの手札誘発に止められる。難しい所だ。
今でさえ、デッキのカードは45枚とかなりカツカツである。別に紅蓮の好物がカツであることは関係ない。
「この文章で作者は何を言いたいんだろうね? じゃあ灰村、答えて♪」
ルーズリーフへの書き込みを続ける紅蓮を指す男性教師。珍しく寝ていないので指した、といえワケではなく、ただの偶然であり彼の不幸である。
「・・・・・・・・・・・・」
「あれ? えーと、灰村くん? 無視されるとオレ悲しいんだけど」
普段の口調ではなく素で戸惑いを見せるこの教師の姿は珍しいのだが、デッキを構築チクチク中の紅蓮はそんなことに構っている余裕はない。
「・・・・・・悩んでる。今まで通り初動を増やして安定性を増すか、それとも誘発を多くして相手の動きや誘発を止めるか」
名指しされたことで考えていたことをそのまま口に出す紅蓮。男性教師は呆気に取られて口を開けたままにし、数名の生徒は笑いを堪えて失敗しクスクスしている。
「えーっと灰村。確かにそれは悩ましいことだ♪ ただ―――」
さてどうしたものかと言葉を探し、しかし諦めて彼はストレートに変化球を放つことにした。なんだろうこの矛盾。
「今は授業中だ♪ 後はわかるな?」
え、と我に帰った紅蓮の耳に入ってきたのは大量の笑い声と教師の呆れたようなため息。どの辺りが変化球だったのだろうか。
「まあ、いいか♪ 他の先生の授業で同じことするなよ」
成績は下げるけど、と紅蓮にギリギリ聞こえない程度に呟いて授業に戻る男性教師。その口元には小さくだが、確かに過去を懐かしむような微笑があった。
ーーーーーーーーーー
そんな日の放課後。紅蓮は調整したデッキの試運転をすべく、学校から真っ直ぐに寄り道して帰ることにした。またも矛盾。
寄り道先はカードショップ『Rabbit』クスィーゼ店。『Rabbit』はいくつか店舗があるチェーン店だが規模はそこまで大きくない。丁度十年ほど前に出来た店なので、成功している方だろうか。
「いらっしゃいませー」
紅蓮がボタン式の自動ドアという矛盾しているようてしていないサムシングを開け店内に入ると、店員らしき桜髪の女性か抑揚のない声をかけてくる。
それに軽く会釈だけしてから、あんな店員いたっけかと少し首を傾げショーケースのカードを見る。
一通り見終えてからデュエルスペースへ足を運ぶと、そこにはちょっとした人だかりができていた。
「クソッ、負けた!」
「いよっしゃあ十一人抜きぃ!」
その中心から聞こえてきたのはデュエルが終わったと思わしき声。紅蓮も人と人との間から覗き込んでみると、彼と同じくらいの年の
「このままニ十人抜きでも目指すか! 次、誰か相手してくれるか?」
少年が勢い付いた様子で人だかりに声をかけるが、その中身は彼に敗れた者と度胸なししかいないようで、誰も名乗り上げることはしない。
「なら、次はオレだ。いいか?」
そこで手を挙げたのは赤みがかった黒髪の少年。言うまでもなく、紅蓮である。
「おう、よろしくな!」
少年がにこやかに承諾すると、紅蓮は腰のケースからデッキを取り出し、プレイマットに置く。少年もカードを纏めてお互いにカットアンドシャッフル。
「「デュエルッ!」」
「「デュエルッ!」」
少年
LP8000
灰村紅蓮
LP8000
テーブルデュエル故にソリッドビジョンがなく描写が少ないので楽な今回のデュエル、コイントスによって先攻となったのは白髪の少年。
「【不知火の隠者】を通常召喚。効果発動までいいか?」
ディスクなしなので誘発の確認をキチンとしながら進める少年に、紅蓮は手札の【エフェクト・ヴェーラー】をチラ見してから手の平を見せて何もないことを示す。
「ふむ、なら【グローアップ・ブルーム】をデッキから特殊召喚」
グローアップ・ブルーム ☆1 チューナー 守備力0
【グローアップ・バルブ】が禁止になったことによる怨念の籠もったカードをプレイマットの中央に置く少年。【グローアップ・ブルーム】の登場は禁止になる前なのでそんなことはない。
「【アンデット・ワールド】を発動して【グローアップ・ブルーム】一体でリンク召喚、【リンクリボー】」
リンクリボー link1 攻撃力300
最近【リングリボー】という大変紛らわしいお仲間ができた【クリボー】シリーズの一体。某赤帽子オジサンは関係ない。赤帽子で『コナミくん』繋がり、ということもない。
「墓地へ送られた【グローアップ・ブルーム】の効果発動だ、デッキから【死霊王ドーハスーラ】を手札に加え、フィールドに【アンデット・ワールド】があることで代わりに特殊召喚する!」
死霊王ドーハスーラ ☆8 攻撃力2800
【リンクリボー】のリンク先ではなく、フィールドの中央に置かれるアンデット達の王。どこにも打てない【エフェクト・ヴェーラー】に憤慨する紅蓮だが、それを表情に出してはバレる可能性があるので全て「どうぞ」と椅子宜しく通しである。
「ターンエンドだ」
白髪の少年
LP8000 手札3
□□□□□
□□ド□□ア
□ リ
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札5
リ:リンクリボー
ド:死霊王ドーハスーラ
ア:アンデット・ワールド
デッキからカードを引き合つつ、【死霊王ドーハスーラ】にどう対処しようかと思考を巡らせる紅蓮。二回も飛んでくる妨害は大変面倒である。
「手札一枚をコストに【ワン・フォー・ワン】を発動、デッキから【サイキック・リフレクター】を特殊召喚するぜ」
サイキック・リフレクター ☆1 チューナー 守備力0
「【死霊王ドーハスーラ】の効果を発動だ」
「手札から【幽鬼うさぎ】の効果の効果を発動するぜ。【死霊王ドーハスーラ】を破壊する」
「ゲッ、マジか」
【死霊王ドーハスーラ】は自身の効果を同一チェーン上で使うことができない。なので、【幽鬼うさぎ】によってアッサリと破壊される。
「逆順処理だ。【サイキック・リフレクター】をどうする?」
「そうだな、除外の方を使う」
カードをプレイマットの外に置いてから【バスター・スナイパー】を手札に加え、紅蓮は次のカードを切る。当然だが切断ではなく使う、という意味合いである。
「【レッド・リゾネーター】を召喚、効果で【調星師ライズベルト】を特殊召喚」
レッド・リゾネーター ☆2 チューナー 攻撃力600
調星師ライズベルト ☆3 守備力800
レベル変動効果によって【レッド・ライジング・ドラゴン】やレベル8【レッド・デーモン】にアクセスでき、【緊急テレポート】にも対応しているためピン刺ししていた【調星師ライズベルト】。しかし、今回は効果を使わない。
「【レッド・リゾネーター】で【調星師ライズベルト】をチューニング、シンクロ召喚【
【水晶機巧-ハリファイバー】の登場で正規シンクロされることが少なくなったシンクロチューナーモンスター。【
「【
【死霊王ドーハスーラ】はフィールド魔法があればスタンバイフェイズに帰ってくる。大変厄介だ。『厄介』とは『やっかい』であり『やくすけ』ではないというどうでもいいことを追記しておく。
「あー、これでターンエンドだな」
これ以上の展開はできない。紅蓮は悔しさと共にターンを終えた。
白髪の少年
LP8000 手札3
□□□□□
□□□□□
ワ □
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札2
ワ:
「オレのターンだな、ドロー」
かなりの劣勢に紅蓮は歯噛みをする。【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を出せるような手札だったなら良かったのだが。
「手札の【屍界のバンシー】をコストに【ジャック・ア・ポーラン】を特殊召喚する」
ジャック・ア・ポーラン ☆7 守備力2200
「・・・・・・なるほど、止めて悪かったな」
「いや、平気だ。墓地の【屍界のバンシー】効果発動だ、除外してデッキから【アンデット・ワールド】を発動する」
また【死霊王ドーハスーラ】が出てくるのかと額に皺を作る紅蓮。決して老けたワケではなくただ眉を顰めただけだ。しかつめらしい、とも言う。
「【牛頭鬼】を召喚して、効果を使うぜ。デッキからアンデットを墓地へ送る」
「【エフェクト・ヴェーラー】だ。無効にさせてもらう」
通していれば【馬頭鬼】辺りを落とされて更に展開されていただろう。冗談ではない。
「【ジャック・ア・ポーラン】と【牛頭鬼】でリンク召喚、リンク2【アドヴェンデット・セイヴァー】!」
アドヴェンデット・セイヴァー link2 攻撃力1600
【セイヴァー】という名前に一瞬だけ【救世竜セイヴァー・ドラゴン】関連かと驚き期待した紅蓮だったが、【ヴェンデット】の名前とその禍々しいイラストに【セイヴァー】違いかと自己完結した。
「バトル、【アドヴェンデット・セイヴァー】で【
効果でデッキから【馬頭鬼】を墓地へ送って【
「【
「りょーかい、ターンエンドだ」
白髪の少年
LP8000 手札2
□□□□□
□□□□□
□ セ ア
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札2
セ:アドヴェンデット・セイヴァー
ア:アンデット・ワールド
「オレのターン、ドロー」
引いたカードを確認し、紅蓮は少し複雑そうな顔をする。
「? どうかしたのか?」
「いや、なんでもない。そのままスタンバイフェイズだ」
死霊王ドーハスーラ ☆8 守備力2000
【死霊王ドーハスーラ】が帰還すると、紅蓮は先程引いたカードを発動する。
「【冥王結界波】を発動だ。相手モンスター全ての効果を無効にする。そしてモンスターがこの効果にチェーンすることはできない」
おおうマジか、と思わず漏らす白髪の少年。
このような反応も由来して、紅蓮はあまりパワーカードの類は好きではない【冥王結界波】は【レッド・デーモン】と多少のシナジーがあるのと名前がカッコいいのもあって入れているが、【サンダーボルト】やら【ブラックホール】やらは入っていない。それで勝っても「なんだかなあ」と勝った気がしないのである。
「【バスター・スナイパー】を召喚して効果発動するぜ。デッキから【サイキック・リフレクター】を特殊召喚だ」
「なーんもねぇから全部通しだ」
バスター・スナイパー ☆4 攻撃力1600
少年は失礼とわかっていても少し雑な態度をとってしまう。その心情を表すならば「なんで俺に気持ちよくデュエルさせねぇんだ、俺はお前が苦しむ姿を見ていたいんだよ!」である。そこまで過激ではない。
「【サイキック・リフレクター】の効果で【バスター・ビースト】を手札に加え、効果で捨ててデッキから【バスター・モード】をサーチ。【バスター・モード】を相手に見せることで【サイキック・リフレクター】の第二の効果を使って【バスター・ビースト】をレベル7で特殊召喚だ」
サイキック・リフレクター ☆1 チューナー 守備力0
バスター・ビースト ☆4→7 守備1200
正直キングクリムゾンしたいほどの文量の一連の流れ。ここから現れるのは当然彼の魂のカード。【魂の牢獄】ではない。
「【サイキック・リフレクター】で【バスター・ビースト】をチューニング、シンクロ召喚。燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
傷付いた右腕に力を溜めているようなイラストの白枠カード。右腕が痛くて抱えているように見えなくもないが、恐らくそんなことはないだろう。ないないずくしで読みにくい。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果発動だ。コイツの攻撃力以下のモンスターを全て破壊し、その数
そこが難点だが、それがなければは禁止級の強さである。
「・・・・・・ターンエンドだ」
白髪の少年
LP8000 手札1
□□□□□
□□□□□ア
レ □
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札2
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト
ア:アンデット・ワールド
手札枚数は同じだが、状況が圧倒的に不利なのは紅蓮である。というか、デッキの相性が悪い。【レッド・ライジング・ドラゴン】やレベル9以上の【琰魔竜】はシンクロ素材に種族指定があるため、【アンデット・ワールド】ととことん相性が悪い。
「俺のターン、ドロー」
スタンバイフェイズに帰ってくる【死霊王ドーハスーラ】。鬱陶しいことこの上ない。
「【リヴェンデット・バース】を発動、デッキから【リヴェンデット・スレイヤー】を素材に、儀式召喚! 出番だぜ、【リヴェンデット・スレイヤー】=サン」
リヴェンデット・スレイヤー ☆6 儀式 攻撃力2300
リンクモンスターとはまた別の青枠のカード。大変紛らわしい。
「行くぜ、【リヴェンデット・スレイヤー】と【死霊王ドーハスーラ】でリンク召喚! 【アカシック・マジシャン】!」
アカシック・マジシャン link2 攻撃力1000
【トーチ・ゴーレム】を乱用するデッキでよく見かける【
「【リヴェンデット・スレイヤー】の効果発動だ、デッキから【リヴェンデット・ボーン】を手札に加えて【ヴェンデット・ストリゲス】を墓地へ送る!」
そして【ヴェンデット・ストリゲス】は墓地へ送られた時に手札から【ヴェンデット】カードを見せることで特殊召喚できる。完結した効果である。
ヴェンデット・ストリゲス ☆2 守備力2000
「更に【リヴェンデット・ボーン】を発動、墓地の【リヴェンデット・スレイヤー】を除外して儀式召喚! 【リヴェンデット・スレイヤー】!」
リヴェンデット・スレイヤー ☆6 儀式 攻撃力2400
二枚の手札から実質モンスター三体分。爆アドである。以前にも書いたような気がしないでもないが気のせいだろう。そう思いたい。
「【リヴェンデット・スレイヤー】と【ヴェンデット・ストリゲス】でリンク召喚、【セキュリティ・ドラゴン】」
【セキュリティ・ドラゴン】の効果対象は【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】だが、【バスター・モード】により【レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター】にフォームチェンジ。HERO関連の速攻魔法【フォーム・チェンジ】ではない。
レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター ☆10 攻撃力3500
「【アカシック・マジシャン】と【セキュリティ・ドラゴン】でリンク召喚! えーと、星杯に選ばれし剣士よ、戦いを糧とし・・・・・・何だっけ? まあいいやリンク召喚! リンク4、【
召喚口上を覚えていないのか、途中で諦めてそのまま場のカードを置く少年。そのコメディな行動とは逆に、かなり強いモンスターである。
「バトル、【
「何もないぜ」
灰村紅蓮
LP8000→5000
初めて削れたライフポイント。その分、一撃でかなり持っていかれた。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター】の効果で【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】を蘇生するぜ」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
「ターン終了っと」
白髪の少年
LP8000 手札0
□□□□□
□□□□□ア
□ 双
□□レ□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP5000 手札2
双:
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト
ア:アンデット・ワールド
「オレの、ターン」
ドローの後に帰ってくる【死霊王ドーハスーラ】を考えると、紅蓮はギリッと歯軋りをしてしまうほどに嫌悪感を抱く。
そして、落ち着こうと一度目を閉じ、開く。要は少し長いまばたきであるが、それで気を取り直した紅蓮は冷静に状況を見直す。
(【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果は【死霊王ドーハスーラ】によって止められる。除外の方の効果ならモンスターを全滅させられるし、多分無効の方だろ)
無効効果を先に使わせようとしても、除外するモンスターは相手が選ぶために【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】を除外されることも考えられる。つまり、一番初めに【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果を発動しなければならない。
「ドロー」
とにかく引いてから考えようと、紅蓮はデッキの一番上のカードをドロー。
そして、視界に収めて一瞬膠着し、そのまま発動する。
「ドローフェイズに【緊急テレポート】を発動! デッキから【幽鬼うさぎ】を特殊召喚するぜ!」
「ッ!?」
幽鬼うさぎ ☆3 チューナー 守備力1800
「スタンバイフェイズに入る」
「墓地の【死霊王ドーハスーラ】を特殊召喚・・・・・・」
死霊王ドーハスーラ ☆8 守備力2000
運によってだが、活路は得た。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果を発動するぜ。攻撃力3000以下のモンスターを全て破壊する!」
「【死霊王ドーハスーラ】の効果発動、」
「チェーンして【幽鬼うさぎ】の効果だ。【死霊王ドーハスーラ】を破壊するだ」
そして無効になる【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果。これでシンクロ召喚の縛りはあれど、多少は動けるようになった。
「【チェーン・リゾネーター】を通常召喚、効果でデッキから【シンクローン・リゾネーター】を特殊召喚する」
チェーン・リゾネーター ☆1 チューナー 攻撃力100
シンクローン・リゾネーター ☆1 チューナー 攻撃力100
並んだ二体のチューナーモンスター。そして、【アンデット・ワールド】の影響下でも出せるモンスターとなれば、行き着く先は一つである。
「【チェーン・リゾネーター】【シンクローン・リゾネーター】で【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】をダブルチューニング! 君臨せよオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント ☆10 シンクロ 攻撃力3500
【
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】の効果発動だ。コイツ以外のフィールドのカードを全て 破壊する」
【
しかし、ただでは死なないのがこのカード。いや、別に死んでないが。
「【
これでお互いの場はがら空き、手札もゼロ。完全なるドローゴー合戦であり泥沼のかほりがする。
「ターンエンドだぜ」
白髪の少年
LP8000 手札0
□□□□□
□□□□□
□ □
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP5000 手札0
□:焼け野原
「俺のターン」
ライフでは勝っている少年だが、リソースのない状態では安心できない。【リヴェンデット・スレイヤー】などの一枚では動けないカードを引いてしまえば、なにもできずターンを終えることになってしまう。
「危っね【牛頭鬼】を召喚、効果発動!」
牛頭鬼 ☆4 攻撃力1700
効果によって墓地へ送られるのは【馬頭鬼】。ふと思ったのだが馬頭でツノがあったらそれは鬼ではなくユニコーンではないだろうか。
「【馬頭鬼】の効果、除外して【死霊王ドーハスーラ】を特殊召喚!」
死霊王ドーハスーラ ☆8 攻撃力2800
これで総攻撃力は4500。止める手段のない紅蓮は受けるしかない。
「バトル、二体でダイレクトアタック!」
灰村紅蓮
LP5000→3300→500
一気に十分の一まで減ったライフ。次のターンで何か引かなければ、紅蓮の敗北である。
「ターン終了だ」
白髪の少年
LP8000 手札0
□□□□□
□ド牛□□
□ □
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP500 手札0
ド:死霊王ドーハスーラ
牛:牛頭鬼
「オレのターン、ドロー」
ライフ差は16倍。しかし、俗に言う鉄壁状態でもある。100ほどまで削れていたならもっと確実だったのだが。
「【復活の福音】発動、蘇れオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
【アンデット・ワールド】がない今、紅蓮を阻む物はあんまりない。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果発動だ! 吹き飛べ!」
白髪の少年
LP8000→7000
ようやく減った少年のライフ。ここまで紅蓮が攻勢に出れなかったのは主に蛇と屍世界のせい。
「バトルだ、ダイレクトアタックだぜ」
「ライフで受ける!」
白髪の少年
LP7000→4000
半分まで減ったライフだが、紅蓮のソレは更に八分の一であり簡単に言うとベリーヤヴァイ。語彙力がないのか。
「俺の、ターン・・・・・・」
ここで何かしらの対抗手段を引かねば紅蓮の紅蓮魔竜に押し負ける。紛らわしいが事実である。
「―――【異次元からの埋葬】、発動! 除外されている【グローアップ・ブルーム】【屍界のバンシー】【馬頭鬼】を墓地へもどす!」
「ンな!?」
バカな、と言おうとしたが、自分も【復活の福音】を引いているので引き運は平等てまある。しかしあちらは一枚で最高三枚のアドが取れるので不釣り合いな気もする。どっちだ。
「墓地の【馬頭鬼】の効果、除外して【死霊王ドーハスーラ】を特殊召喚!」
死霊王ドーハスーラ ☆8 攻撃力2800
本日何度目かもわからないほどに登場するウロボロス。この時点で紅蓮は勝敗を察した。
「【屍界のバンシー】の効果を発動、チェーンして【死霊王ドーハスーラ】の効果! 【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】を除外する!」
墓地に逆転の手段はなく、場と手札にカードはない。
「バトルだ、【死霊王ドーハスーラ】でダイレクトアタック!」
「・・・・・・オレの負け、か」
灰村紅蓮
LP500→0
負けた悔しさはあるが、改善点は見つかった。それだけでも十分な収穫である。
「何だっけ、ガッチョ? あ、ガッチャか。楽しいデュエルだったぜ」
白髪の少年が人差し指と中指を揃えて立てた右手を紅蓮に突き出す。よくわからないまま、紅蓮は取り敢えず自分の手を出して握手した。
紅蓮が席を立ったのと同時に少年は周囲の客に声をかける。
「さて、次は誰だ? 十三人目になりたいお方〜?」
その声を耳に入れながら紅蓮はカードを数枚購入し、店を出た。
ーーーーーーーーーー
(今日は勝率いいな、やっぱ地域が違うと使われてるデッキも若干違うのかな?)
十三人目の【捕食植物】相手に【アンデット・ワールド】でメタりながら少年は少し思考する。
(【オルフェゴール】とか【ドラゴンリンク】は【アンデット・ワールド】で止まるし。というか、種族参照してる時点でカモだしな)
彼の叔父はドラゴン使いだが、それでも少年に勝つので一概にカモとは言えない。しかし今の彼は少し調子に乗っているためにそこまで考えが及ばなかった。
(【オルターガイスト】相手だと結構負けるんだけどなー、【オルガ】使いは少ないのかな?)
【オルガ】と言うと希望の花でも咲かせそうなデッキだが、無論【オルターガイスト】のことである。ならば何故そんな紛らわしくしたのか。ちょっと格好付けたかったからである。
(・・・・・・あ、アイツの名前聞いてない)
種族メタを使っても中々倒れなかった赤っぽい髪の彼。もし彼が先攻だったなら、デュエルの結果はわからなかった。ライバルになれるかもしれない相手だったのに、と少年は悔やむ。
しかし、彼とはまた会える気もしていた。
(アイツも出るのかな、『デュエル甲子園』)
もしそこで会えたなら、と少年は口角を釣り上げた。どれだけ楽しいだろうか、と。
ここからは完全に蛇足だが。
結局少年は調子に乗ってその後もデュエルを続け、【オルターガイスト】に負けるまで十八連勝した。が、その頃には父親と約束した時間を過ぎており置いて帰られたので仕方なく一人で電車を使って帰ったとか。
そして母親には心配され父親にはアホかと一笑され、デュエルにまで発展した後ボコられたそうな。
簡単なキャラ紹介④
白髪の少年
アンデットを使う謎でもなんでもない普通の少年。紅蓮と同じく高校一年。
別の町に住んでいるが、叔父の用事に付いてきた。
男性教師と同じ毛く名前出てない勢だが、匿名を解除する頃には出せる、はず。多分。きっと。
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紅蓮:四話
どんな反応をすべきだったんでしょうか。
週明けの月曜日。その日は妹が寝坊したために昼を学食で取ることにした紅蓮だったが、食堂に行って食券を買っていると一人の女子生徒に腕を掴まれ上目遣いとは言えないレベルで睨まれていた。何故だ。
「貴方が灰村紅蓮かしら?」
「人違いだと思うぜ。オレは佐藤太郎、夜は焼き肉っしょ」
「少し顔を貸しなさい」
面倒事の香りに紅蓮の繰り出した改心のごまかしは通用せず、そのまま女子生徒に首根っこを掴まれ引っ張られる。我々の業界ではご褒美です、などと嘯く暇もないほどの強引さだった。今回の話の導入も強引である。
「名乗りもしないで人を引きずるとはなあ・・・・・・デュエリストじゃなくてリアリストか?」
「あら、私を知らないの?
藤堂千歳。その名前は紅蓮も聞いている。強い生徒について聞き込みしていた際、耳にした名前だと気付き、記憶を掘り返していく。あくまで比喩であり、頭蓋をスコップでガリガリ削り掘るワケではないのだが想像しただけで痛くなってきたのでこの話はやめにする。
「確か短気で行動的、考えるよりも行動を起こす方が早い、まるで女子とは思えない暴走機関車、だったか?」
頭に浮かんだままに言葉を並べていくと、ズカズカ歩いていた千歳の足がピタリと止まる。
「へぇ? その話、誰から聞かされたのかしら。よければ教えてくれない?」
引きずってきた紅蓮の顔を覗き込むようにして怖い笑みで脅しかける彼女だが、紅蓮はまるで怯えた素振りを見せず、ただお手上げした。全体重を千歳に預けた状態なので、妙にシュールである。周囲の生徒からの自然が痛々しいが、もう紅蓮は諦めた。千歳はまるで気にしていない様子である。
「そう・・・・・・まあいいわ。着いたわよ」
紅蓮の襟首を離し、両手を腰に当てる千歳。頭からゴンッとフリークスな音を立てて落下した紅蓮は呻きながら立ち上がる。
「
「第三デュエル場よ。先生に許可は取ってあるわ」
そのままズンズン中へ入る千歳に、紅蓮は抵抗する気力もなく付き従う。
「あー、あともう一個あったな。アンタの印象」
「・・・・・・貴方ねぇ、先輩に敬語も使えないの?」
先程の痛みによってか千歳について聞いたことを思い出した紅蓮だったが、千歳はかなり苛立っているようで、若干目つきが怖い。というか、先輩だったのか。
「『無礼な奴にまで礼儀を尽くす必要はねぇ』。ある人の教えだ」
「ふうん、そう。それで、何を思い出したのかしら」
内容によってはその生徒を特定してサンドバックにしてやる。そんな殺意の滲む声だった。
「可愛い物好きで、部屋にはぬいぐるみが多数置いてある。あと、自らの行動について後で落ち込んでる、だったな」
引きずられた仕返し、というのも含めて、「意外と乙女なんですねぇ」と笑顔を向ける紅蓮と、羞恥によってか顔を赤くしプルプル小刻みに震える千歳。形成は逆転した模様だ。
「あ、アンタ、それをどこで・・・・・・!」
「さあ? さっき頭打ったから忘れちまった」
ニヤニヤと性格の悪い笑みを浮かべる紅蓮だったが、突如赤かった顔を真顔に戻して振動を止めた千歳に、やり過ぎたかと冷や汗を流す。
「・・・・・・あったま来たわ。デュエルで叩き潰してあげる!」
そう言って、デュエル場の反対側までズカズカ肩を怒らせながら歩いていく彼女の背中に、紅蓮はどうしたものかと頭を掻く。
この休日で妹とデッキの試運転はしたが、まだ調整中。このままデュエルとなると、少々心配ではある。
(まあ、腹括るしかないよな)
彼にとって、全てのデュエルが『デュエル甲子園』への糧であり、気を抜けるものではない。それに、『デュエル甲子園』でもアクシデントが起こる可能性は十分にあるのだ、その練習になると頭を前向きに切り替える。精神的な話なのでホラーのように首が不自然に回ったワケではない。
「準備はいいかしら」
「おう、いつでもいいぜ」
10メートルほど先でレモン色のディスクを構える千歳に紅蓮は応じるように真っ赤なディスクを展開、デッキをセットしカードを五枚引き抜く。
「「デュエルッ!」」
灰村紅蓮
LP8000
藤堂千歳
LP8000
ディスクが先攻を示したのは紅蓮。少し以前とは異なる手札を見つめ、一枚のカードを発動する。
「フィールド魔法、【竜の渓谷】を発動だ。手札一枚をコストに、デッキから【アブソルーター・ドラゴン】を墓地へ送るぜ」
デュエル場が竜達の飛び交うフィールドに変わると、【ジェット・シンクロン】が【アブソルーター・ドラゴン】に激突し谷底に墜落していく。
「【アブソルーター・ドラゴン】の効果発動、デッキから【ヴァレット】モンスター、【ヴァレット・シンクロン】を手札に加えるぜ」
「なるほど、【ヴァレット】軸のデッキのようね」
そうでもないのだが、相手が勘違いしてくれるならば情報アドバンテージを得られる。なので紅蓮は特に反応しなかった。無視かしら、と千歳の怒りが【レベルアップ!】した事に幸か不幸か彼は気付かなかった。多分幸のハズ。
「そのまま【ヴァレット・シンクロン】を通常召喚、効果で墓地の【アブソルーター・ドラゴン】を特殊召喚するぜ」
ヴァレット・シンクロン ☆1 チューナー 攻撃力0
アブソルーター・ドラゴン ☆7 守備力2800
先日【アンデット・ワールド】にメタられたにも関わらず【ヴァレット・シンクロン】を使う紅蓮。デッキ内の手札誘発と汎用カードを増やすために【レッド・ライジング・ドラゴン】なしの展開ルートに絞ったのが今の彼のデッキとなっている。
「【アブソルーター・ドラゴン】に【ヴァレット・シンクロン】をチューニング、シンクロ召喚! 燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
火の粉を撒き散らしながら吠える傷付いた紅蓮魔竜。隻腕ならぬ隻角がチャームポイント。ちなみに隻角は造語なのでテストなどに使ってもペケを頂くだけである。
「更に、手札一枚をコストに墓地の【ジェット・シンクロン】の効果発動! 特殊召喚するぜ」
ジェット・シンクロン ☆1 チューナー 守備力500
谷底から自前のジェットで上がってきた【ジェット・シンクロン】。きっと
「【レッド・デーモン】とレベル1チューナー、ね。ということはアビスかしら?」
「ご明察だぜ、シンクロ召喚! 深炎より来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 攻撃力3200
閻魔の力を得た紅蓮魔竜が更に深炎を燃やした姿だが深炎とはなんだろうか。
ここから更に展開できる紅蓮だが、先攻でこれ以上モンスターを並べてもあまりメリットはない。
「カードを伏せてターン終了だ」
灰村紅蓮
LP8000 手札1
□□■□□
□□□□□竜
ア □
□□□□□
□□□□□
藤堂千歳
LP8000 手札5
ア:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
竜:竜の渓谷
■:伏せカード
「私のターン、ドロー。あら、いいじゃない。【強欲で貪欲な壺】を発動するわ」
「問題ない、通しだ」
【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果は使われなかったため二枚ドロー。除外された十枚を確認したものの特に表情は変わらない。
「エクストラモンスターゾーンにモンスターが存在することで、【
迅雷と共に現れたのは機皇帝涙目な性能をした機巧蹄。それっておかしくないかな? 答えてみろ
「そのカードは・・・・・・!」
「知っているのなら早いわね。【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を対象に効果発動よ」
「アビスの効果発動だ!」
【
「ならもう妨害はないわね。エクストラデッキからカードを五枚除外して、【
こちらは手札、フィールド、エクストラデッキから五枚以上のカードを除外することで特殊召喚できるモンスター。そして戦闘する相手を裏側で除外できるというこれまた強力なモンスターである。
「さぁて、バトルフェイズに入ろうかしら」
「メインフェイズ終了時に【エフェクト・ヴェーラー】を発動だ! 【
性別不詳っ子が口裂け悪魔の気を逸らし、無力化する。攻撃力0なのにここまでの活躍をするのだから素晴らしいと思う。何故海外でイラスト違いが出なかったのか甚だ疑問である。
「なら巻き戻ってメインフェイズね。カードをセット、これでターン終了よ」
「エンドフェイズ、【のどかな埋葬】を発動するぜ。デッキから【アークブレイブ・ドラゴン】を墓地へ送る」
自分のターンにも関わらず動きまくる紅蓮に不快感を覚えながら、千歳のターンが終わる。
灰村紅蓮
LP8000 手札0
□□□□□
□□□□□竜
ア □
□□機□百
□□□□□
藤堂千歳
LP8000 手札5
ア:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
機:
百:
竜:竜の渓谷
「オレのターン・・・・・・」
あれだけ妨害してもまだ手札が五枚ある千歳と、手札がなくなった自分の状況に冷や汗を流しながら、紅蓮はカードを引く。
「スタンバイフェイズ、墓地の【アークブレイブ・ドラゴン】の効果が発動するぜ。墓地から【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】を特殊召喚する。蘇れオレの魂!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
【のどかな埋葬】の効果で墓地へ送ったカードはそのターン効果を発動できないが、【アークブレイブ・ドラゴン】の効果が発動するのは次のスタンバイフェイズ。素晴らしく噛み合っている。
「【竜の渓谷】の効果、手札一枚をコストにデッキから【アブソルーター・ドラゴン】を墓地へ送るぜ。効果で【ヴァレット・シンクロン】を手札に加える」
【竜の渓谷】で毎ターン【ヴァレット・シンクロン】をサーチできるのはいい動きだが、手札コストが辛いな、と紅蓮は感じる。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果発動、攻撃力3000以下のモンスターは全員破壊だ!」
右腕の傷跡から炎が溢れ、千歳のフィールドのモンスター達を飲み込む。若干アビスにも飛び火しているが、火傷程度である。
藤堂千歳
LP8000→7000
「ッ、なら手札の【隻極の破械神】の効果発動よ! 自分のカードが破壊された時、特殊召喚できる!」
隻極の破械神 ☆8 守備力1500
タダではやられない、と千歳は新たなモンスターを場に出す。
「【隻極の破械神】の効果発動、手札一枚をコストに、相手フィールドのカード一枚を破壊するわ!」
「【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果発動だ、それを無効にするぜ!」
紫髪の鬼が紫電を纏った腕を振るうが、琰魔竜の炎に相殺される。
「さーて、もう妨害はねぇだろ。【ヴァレット・シンクロン】を召喚し、効果で【アブソルーター・ドラゴン】を特殊召喚ッ!」
ヴァレット・シンクロン ☆1 チューナー 攻撃力0
アブソルーター・ドラゴン ☆7 守備力2800
紅蓮が手を正面にかざすと、【ヴァレット・シンクロン】が光のリングへと姿を変える。
「【ヴァレット・シンクロン】で【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】をチューニング! 悪魔を焼けオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】!」
琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル ☆10 シンクロ 攻撃力3500
黒みがかった炎と共に現れる悪魔の竜。一瞬【闇の侯爵ベリアル】が燃やされるのが見えたが気のせいだろう。
「【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】の効果発動、【アブソルーター・ドラゴン】をリリースし、墓地から【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を特殊召喚する!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 攻撃力3200
並んだ三体の【レッド・デーモン】。約1名場違いかもしれないがそこはご愛嬌である。
「バトル、【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】で攻撃!」
傷付いた拳と紫電を纏った拳とがぶつかり合い、炎によって紫電が掻き消される。
「次だ、【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】でダイレクトアタック!」
「まだよ! 墓地の【
更にデッキが削られ、いくつもの首を持った蛇が千歳を守るべく立ちはだかる。
「しゃらくせえ、攻撃続行!」
しかしそれを粉☆砕する琰魔竜。コイツ本当に主人公か。
「【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】、ダイレクトアタックだ!」
「流石にもう止められないわね・・・・・・」
アビスの吐いた炎が千歳の身体を焼く。勿論安心安全なソリッドビジョンなので実際には怪我一つしておりません。ご安心を。
藤堂千歳
LP7000→3800
【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果で【ヴァレット・シンクロン】が特殊召喚される。これなら【レッド・リゾネーター】を入れてもいいかもしれないと思う紅蓮だった。
灰村紅蓮
LP8000 手札0
□□□□□
レ□ア□ヴ竜
ベ □
□□□□□
□□□□□
藤堂千歳
LP3800 手札3
ベ:琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル
ア:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト
ヴ:ヴァレット・シンクロン
竜:竜の渓谷
「ッ、私の、ターン」
三枚ある手札に、打開策はない。
千歳はカードを引き、それを恐る恐る確認すると、一瞬驚いてからすぐ勝ち気な表情になった。
「【ダイナレスラー・パンクラトプス】を特殊召喚!」
「ッ!? マジかよ」
ダイナレスラー・パンクラトプス ☆7 攻撃力2600
自身のモンスターが相手より少ない場合に特殊召喚でき、フィールドの【ダイナレスラー】をリリースすることで相手のカードをフリーチェーンで破壊するというパワーカード。リリースして発動のため【エフェクト・ヴェーラー】【スキルドレイン】では止められず、【次元の裂け目】【マクロコスモス】下でも発動できるという優れもの。まるで販促活動のような解説である。
「【ダイナレスラー・パンクラトプス】の効果は知っているわよね? リリースして効果発動、【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を破壊よ!」
パンクラトプスが自爆特攻し、プロレスなぞ関係なく【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を巻き込んで爆発。何故残り二体の【レッド・デーモン】が生き残ったのかと言えば、かなり早い段階から離れていたからである。この人でなし、と思ったがドラゴンなので元から人外であった。
「前のターンと同じ条件で【
再び登場する鹿っぽい機械。きっと魔法カードの効果を受けにくいモンスターなのだろう。だからいつのルールだ。
「効果発動よ! その、えーと、・・・・・・」
「・・・・・・
「そう、その【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】を装備するわ」
どうやら『琰魔竜』が読めなかったらしい千歳に紅蓮が助け舟を出すと、顔を赤く染めながら千歳は何事もなかったかのように宣言した。先程まで読めていたので、ド忘れしたらしい。
「クッ、カハハッ」
「・・・・・・何よ」
紅蓮が例の下手な笑いをすると、怒ったようで千歳が睨んでくる。おお怖い怖い、と紅蓮は笑いを収めた。
「だが、そのモンスターじゃオレの【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】は倒せないぜ?」
「ええ、そうね。だからこうするわ。私は装備した【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】を除外して【ゴッドフェニックス・ギア・フリード】を特殊召喚!」
ゴッドフェニックス・ギア・フリード ☆9 攻撃力3000
現れたのはストラクのヤベー奴こと【ゴッドフェニックス・ギア・フリード】。デュアル要素を捨てた分更に強くなった【フェニックス・ギア・フリード】だ。【ゴッドフェニックス】と名の付く【ギア・フリード】とは、何とも胸熱である。
「バトルよ。【ゴッドフェニックス・ギア・フリード】で【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】を攻撃するわ! そして効果発動!」
不死鳥の焔が紅蓮の炎を飲み込み、自身に取り込む。
ゴッドフェニックス・ギア・フリード 攻撃力3000→3500
「チッ、面倒な効果を・・・・・・」
「うるさいわね、【
鹿さんの蹄に踏まれ、隅っこで影を薄くしていた弾丸竜が潰れる。
「これでターン終了よ」
灰村紅蓮
LP8000 手札0
□□□□□
□□□□□竜
□ □
□ゴ機□□
レ□□□□
藤堂千歳
LP3800
機:
ゴ:ゴッドフェニックス・ギア・フリード
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト(装備:ゴッドフェニックス・ギア・フリード)
竜:竜の渓谷
「オレのターン、ドロー」
引いたカードは【復活の福音】。しかしこれ一枚ではどうにもできない。
さて墓地に何かなかったかと確認してみると、意外なことにあった。
「墓地の【
「貴方、そのカードの存在忘れてたでしょ」
ノーコメント、と返してカードを引く。ノーコメントというコメントをしているのだから矛盾しているのではないかと論争が始まったのだがどうでもいい。
「【竜の渓谷】の効果発動だ。手札一枚をコストにデッキから【アブソルーター・ドラゴン】を墓地へ送る。後は一緒だ」
効果によって【ヴァレット・シンクロン】が手札に加わり、そのまま召喚される。
ヴァレット・シンクロン ☆1 チューナー 攻撃力0
「【ヴァレット・シンクロン】の効果発動」
「【ゴッドフェニックス・ギア・フリード】の効果発動よ。装備カードを墓地へ送って、その発動を無効にして破壊するわ」
破壊までとは容赦がない。そんな紅蓮の視線を受けても千歳は全く気にしていないようで、デュエルの進行を促す高圧的な目で睨まれるだけだった。
「【復活の福音】発動だ。蘇れオレの魂!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
三度蘇る紅蓮魔竜。こちらの方が
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の、効果発動!」
愚直に、莫迦の一つ覚えのように。
紅蓮は
藤堂千歳
LP3800→2800
「バトルだ、【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
「【
またも立ちはだかる蛇の壁。鬱陶しい、と傷跡のある腕で一閃された。
「決めきれねぇ・・・・・・ターン終了だ」
灰村紅蓮
LP8000 手札0
□□□□□
□□レ□□竜
□ □
□□□□□
□□□□□
藤堂千歳
LP2800 手札1
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト
竜:竜の渓谷
千歳のデッキは残り五枚。【
「私のターン、ドロー」
だが、そんなことはどうでもよかった。既に、手札に切り札は来ているのだから。
「まずは【ダイナレスラー・パンクラトプス】を特殊召喚、そして―――」
一番最初から握っていたカードを、ディスクに置く。
「【紅蓮魔獣ダ・イーザ】を通常召喚よ」
紅蓮魔獣ダ・イーザ ☆3 攻撃力?→10800
紅蓮、と名のつくモンスターであるが故に、紅蓮も知っている。いや、デュエリストの大半が知っているであろうモンスター。
「なるほどな・・・・・・それを握ってたのか」
「ええ。ギリギリ決めきれないから、前のターンは出さなかったけど」
確かにそうだが、出しておいても良かったのではないか。紅蓮のそんな思いは、墓地にいる【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を思い出したことで納得に変わる。
効果を無効にされでしまったら、【紅蓮魔獣ダ・イーザ】は攻撃力0、確かに決めきれない状況で出すのは心許ない。
「まあ、もうどうでもいいわね。【紅蓮魔獣ダ・イーザ】で攻撃!」
紅蓮、と名の付く竜と獣とが衝突する。【レッド・デーモン】は紅蓮と付いていないが、それを言うのは野暮だ。
灰村紅蓮
LP8000→200
「これで終わりよ! 【ダイナレスラー・パンクラトプス】で―――」
「オレのモンスターが破壊された、ことでッ」
妖醒龍ラルバウール ☆1 守備力0
【破滅竜ガンドラX】をサーチするのにもよく使われた、小型竜。【竜の渓谷】のコストにされていたのだが、まさかの登場である。
「・・・・・・そのモンスター、サーチ以外にも効果があったのね」
「オレもさっき気付いた」
何とも締まらないセリフに、軽くため息を吐く千歳。
「やっぱ、貴方もダメね。鈴を傷付けそうだわ」
「・・・・・・? 何で今その名前が出てくるんだ?」
パンクラトプスが妖醒龍を蹴っ飛ばすのを視界に入れながら、紅蓮は訊く。【妖醒龍ラルバウール】は泣いていい。
「あら? 言ってなかったっけ? 私、あの子と親友なの。貴方とデュエルしてから、あの子妙にダルそうだったから、問い詰めようと思っ、て・・・・・・」
そこまで言って、千歳はようやく紅蓮にデュエルを仕掛けた理由を思い出した。
「あー! そうよ、貴方! 鈴に何したの? あの子、先週ずっと辛そうにしてたわよ!?」
話に付いていけてない紅蓮に詰め寄る千歳。ついさっきまで忘れていたのに親友を名乗れるのだろうか、と無駄なことが紅蓮の頭を
「い、いや、オレは何もしてない、はずだ! アイツとはただデュエルしただけ・・・・・・」
「それだけであんな辛そうにするワケないでしょうが! あの日、変わったことなんて、それこそ貴方とのデュエル以外になかったのよ!?」
ええーそんなこと言われても、と紅蓮はどうにもできない。心当たりもないのに責められているのだから、ただ言われるがままである。
「というか、何でオレとアイツがデュエルしたこと知ってるんだよ? 先生くらいしか見てなかったハズだけど・・・・・・」
「その先生に聞いたからよ。あの日鈴に変わったことなかったか、って聞いたら、貴方とデュエルした、って」
話を逸らそうと紅蓮は足掻くが、失敗。あの男性教師め余計なことしやがって、と紅蓮は心の中で呪う。
「あーもう、イライラする! 取り敢えず、デュエル続行よ! 話は終わってからだわ!」
まあもう後は貴方が負けるだけでしょうけど、と勝ち誇った顔で見下してくる千歳に、紅蓮は面倒だ、とため息を零す。
「オレのターン、ドロー」
あ、勝てるかもしれない。
「貪欲な壺を発動! 墓地の【アブソルーター・ドラゴン】三枚と【ヴァレット・シンクロン】二枚をデッキに戻して、二枚ドロー!」
「ならそれにチェーンして【ダイナレスラー・パンクラトプス】の効果発動よ! リリースして【竜の渓谷】を破壊するわ!」
墓地には【復活の福音】があるため、【レッド・デーモン】等を特殊召喚されてからでは遅い。怒り心頭でもその程度の思考はできるのがデュエリストというものだ。
「なるほど、ならこのドロー次第だな・・・・・・ドロー!」
ドローした一枚目は【
「・・・・・・【竜の霊廟】、発動! デッキから【アブソルーター・ドラゴン】を墓地へ送る!」
「嘘っ!? このタイミングで!?」
イカサマだわ、と言おうとして、それは余りに失礼だと気付く。そして、正気に戻った頭に蘇るついさっきまでの自分―――
「【ヴァレット・シンクロン】を通常召喚、効果で【アブソルーター・ドラゴン】を特殊召喚し、シンクロ召喚! 爆ぜろオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン】!」
琰魔竜レッド・デーモン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
王の炎が【紅蓮魔獣ダ・イーザ】を燃やしたのと、千歳が自己嫌悪に陥ったのが同じタイミングだった。
藤堂千歳
LP2800→0
そして、現在千歳は体育座りでデュエル場の地面に『の』の字を書いている。
「はぁ〜またやっちゃった・・・・・・私ってホント、何でこう・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
その気弱さたるや、紅蓮が唖然として何も言えなくなるほどである。
「・・・・・・ぁ、千歳ちゃん、と、灰村、く、ん?」
つい先週聞いた覚えのある声に紅蓮が振り返ると、デュエル場の入口にはやはり小柄で、しかし真っ直ぐに背筋の伸びた少女がいた。
「ああ、アンタか。アイツ、どうにかしてくれないか? さっきからあんな感じで・・・・・・」
何の躊躇もなくヘルプを要請する紅蓮。十五年以上生きている彼だが、女性関係についてはサッパリである。
「ぇ、と、はい。・・・・・・千歳、ちゃん? どうした、の?」
「・・・・・・ああ、鈴? ごめんなさい、私、また一人で勝手に突っ走っちゃって・・・・・・」
二人の様子から、恐らくもう大丈夫だろう、と不安要素を見ないことにしながら教室に戻った紅蓮。
結局、昼食は取れなかった。
さて、どうして千歳がそんな勘違いをしたのかと言えば。
彼女が男性教師に「変わったことがあったか?」と聞いたためである。
もし「鈴の体調が悪そうだが、何か知らないか?」と聞いた場合、男性教師は新型のゴーグルのことを話し、自分のせいだと言っただろう。
・・・・・・という意思疎通ができたのが、その日の放課後の出来事。
「・・・・・・紛らわしいのよ!」
「へぶらっ!?」
「ぉ、落ち着、いて、千歳ちゃん・・・・・・」
千歳も悪いのだが、紅蓮にとっては何もしていないのに昼食を食べ損ねた、ということであり。
「先生。後でブルーアイズマウンテン、奢ってくれるよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
簡単なキャラ紹介⑤
藤堂千歳
デュエルスクール クスィーゼ校 二年
鈴の親友で、彼女のことをとても大切に思っている。
デッキはご覧の通りのパワーカードデッキ。「わかりやすく強い」カードを使うことで自分の強さをアピールし、鈴がいじめられたりすることがないように振る舞っている(少なくとも本人はそのつもり)。
黒髪で肩まであるツーサイドアップ、そして控えめな胸部装甲。身長は160cmほどで、女子としては平均レベル。体重は(この先の文章は赤くなっていて読めない)
部活動は一応家庭部。というのも、鈴にお菓子を作ってあげたいために入部したのだが、失敗ばかりで一度もその目的は果たされていない。
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紅蓮:五話
即買いしました。
千歳とデュエルしてから、早一週間。その日、紅蓮のクラスは普段よりも賑わっていた。
紅蓮の耳に入ってきたのは、「転校生」「男子」「先生と話していた」「【エクリプス・ワイバーン】返して」といった単語だった。誰だ最後の。
「転校生が来るんだってさ。日直が職員室に行った時に見かけたらしいよ」
紅蓮が聞き耳を立てていることに気付いたのか、席の近い
「こんな時期にか? 珍しいな」
暦は五月。夏休み明けなどに転校、というのはよく聞く話だが、入学して1ヶ月した今のタイミング、というのはが少し妙だ。
(あの先生、また面倒なことしてるのか・・・・・・?)
千歳の一件でわかったことだが、あの男性教師はどうにも人が
「皆、おはよう♪ 多分もう知ってると思うけど、このクラスに転校生が来たよ」
SHRが始まると、男性教師が特に溜めを作るでもなく一人の男子生徒を教壇の前に立たせる。ドラムロールなどをしようとして校長に止められた話は秘密だ。
「・・・・・・
黒髪にやや低めの背丈、少し猫背気味の立ち姿。
どことなく黒猫を連想させる少年だった。
「えーと、彼は四月に入学予定だったんだけど、家の事情で引っ越しが遅れちゃったんだって。だから、正確には転校生、ってワケじゃないんだけど」
男性教師の説明に、ただ黙って動かない柊太。そんな彼を気遣ってか否か、生徒達から「しつもーん!」と声が上がり、そこからなし崩しで質問タイムに入る。
フェイバリットカードやらデュエルを始めた歳やらデュエル以外の趣味やらといった質問を一つずつ答えていく柊太だったが、それが一段落すると、逆に彼から質問を放った。
「質問なんだけど。このクラスに、『デュエル甲子園』に出るつもりの人って、いる?」
途中から興味を失って居眠りをしていた紅蓮に、全員の視線が集まる。それを敏感に感じ取ったのか、「んあ?」と声を漏らしながら紅蓮が目を覚ますと、転校生含めたクラス中が自分を見ている謎の状況。SAN値が削れそうだ。
「・・・・・・ふーん、まあいいや。僕は『デュエル甲子園』で優勝することを目指してこの学校に来ました。デュエルだったらいつでも大歓迎だよ」
最後に爽やかな笑みを残して、柊太は自分の席についた。
何故か、紅蓮のことを睨み付けながら。
ーーーーーーーーーー
転校生のことなどまるで気にせずいつものように授業を受けた紅蓮は、またも寝坊した妹に憤慨しながらカツカレーを頬張っていた。
デュエルスクールの学食は基本的に一般高校と同じような作りであり、カードの付録した『ドローパン』などの品物は売っていない。以前はあったらしいのだが、一時期カードだけ抜いてパンを捨てる、という行為が横行したために今はなくなってしまっている。
それはさて置き。ガツガツとカツカレーで胃を満たす彼の前の席に、一人の生徒が座った。
それだけならば別に気にしないのだが、どうやら彼は紅蓮が食事を終えるのを待っているらしい。何か食べることもなく、ジッと紅蓮を見ている。
「・・・・・・・・・・・・」
何だァ、テメェ? という視線を向けるが、目の前の青年は気にする様子もなく腕を組んでいる。なので紅蓮も気にせず食事を続けることにした。それでいいのか。
「・・・・・ふぅ、食った食った」
「君が灰村紅蓮君で合っているな?」
アレ、こんな展開前にもあったような気が。
「・・・・・・だとしたら、何だよ」
「私は風紀委員長の
クイッと赤渕の眼鏡を上げながらそう告げる五河。面倒なことになった、と腹を括る紅蓮だったが、フッと一つ笑った五河は眼鏡から手を離し力を抜く。
「・・・・・・冗談だ」
「冗談かよッ!?」
たった今自分が覚悟を決めたのはなんだったのか。シャレにならない、とはこういうことだろうか。違うか。
「個人的に、君とデュエルしたかったのでね。口実を用意しただけだ」
「いや、普通に『おい、デュエルしろよ』でいいだろ・・・・・・」
少し呆れたような妙な脱力感に襲われる紅蓮だったが、当の五河は驚いたようで少し目を見開く。
「・・・・・・それだけで良かったのか」
お茶目さんか。男子のお茶目属性とか一体誰得なんだ。
「まあ、細かいことはいいだろう。デュエル場へ向うぞ」
良かねーよ、という紅蓮のツッコミはスルーされた。
ーーーーーーーーーー
千歳のときとは異なり、彼らが使うのは第一デュエル場。食堂からはこちらの方が近いのだ。
数人の見学者、というか暇人が適当にたむろしているのだが、それを気にした様子もなく五河は紅蓮と距離を取って白いデュエルディスクを構える。紅蓮もようやく調整の済んだデッキをセットし、展開。
「「デュエルッ!」」
灰村紅蓮
LP8000
赤羽五河
LP8000
かくして始まった両者のデュエル。先攻は紅蓮選手!と謎のテンションでお送りします。
「【レッド・リゾネーター】を通常召喚、効果で手札から【ジェット・シンクロン】を特殊召喚するぜ」
レッド・リゾネーター ☆2 チューナー 攻撃力600
ジェット・シンクロン ☆1 チューナー 守備力0
結局、【レッド・リゾネーター】はまた紅蓮のデッキに入っている。【ヴァレット】のレベル4と共に展開できるので相性がいいのだ。
「フィールドに攻撃力1500以下の悪魔族チューナーがいることで、【風来王ワイルド・ワインド】は特殊召喚できる」
風来王ワイルド・ワインド ☆4 守備力1300
この方法で特殊召喚した場合、ターン終了時までシンクロ召喚しかできなくなるが、紅蓮のデッキには何ら影響ない。だってエクストラデッキは
「【レッド・リゾネーター】で【風来王ワイルド・ワインド】をチューニング! 来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】!」
レッド・ライジング・ドラゴン ☆6 シンクロ 攻撃力2100
現れた炎の竜に五河は「ほう」と眼鏡を持ち上げながら感嘆符。
「そのルートで来たか。しかし私に止める手立てはない、存分に動くといい」
「いや、言われなくてもそうするけどよ・・・・・・」
少し調子が狂う。紅蓮はその言葉がブラフの可能性も考えつつ、更に展開する。
「【レッド・ライジング・ドラゴン】の効果で【レッド・リゾネーター】を特殊召喚し効果! ライフを回復するぜ」
灰村紅蓮
LP8000→10100
1万の大台に乗ったライフだが、【アロマ】などからすればまだまだである。何を張り合っているのか。
「次ッ【レッド・リゾネーター】で【レッド・ライジング・ドラゴン】をチューニング! 燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
いつも通り傷付いた紅蓮魔竜が燃え上が。最近素レモンを見ないのだがそれは大人の事情である。弱いとか言ってはいけない。
「更に【ヴァレット・シンクロン】で【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】をチューニング! 深炎より来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 攻撃力3200
以前とあまり変わらない展開方法だが、手札が良ければ二枚でアビスまで行けるのが今の紅蓮のデッキだ。いつお披露目できるかわからないが。
「このままターン終了だぜ」
灰村紅蓮
LP10100 手札2
□□□□□
□□□□□
ア □
□□□□□
□□□□□
赤羽五河
LP8000 手札5
ア:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
■:伏せカード
「では私のターン」
引いたカードを手札に加えると、五河はまた右手で眼鏡に触れる。
「3連続シンクロ召喚、見事だった・・・・・・故に、私も全力で応えよう」
別に相手がモンスターもカードも出さずにエンドしようが全力を出す彼だが、眼鏡に触れているのと同様タダの格好付けである。
「私は【DD魔導賢者ケプラー】を通常召喚。そして効果発動!」
DD魔導賢者ケプラー ☆1 ペンデュラム 攻撃力0
このカードから察するに五河のデッキは【DD】、ならばこの初動は止めて損はないだろう。【DDラミア】を握っていた場合、サーチした【契約書】を無効にしても特殊召喚されてしまう。
「【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果発動だ。それを無効にする」
「ふむ、堅実な手だな。だがそれだけで止まるほどヤワではない。手札の【DDスワラル・スライム】の効果、手札の【DDゴースト】と共に融合召喚を行う!」
五河の背後にスライムとクリスタルが浮かび、混じり合う。どちらも見た目はお世辞にも良いとは言えないので転生先としては最悪だろう。そしてそれが混じり合ったのだから出てくるモンスターもグロテスク極まりないに違いない。
「融合召喚! 生誕せよ【DDD烈火王テムジン】!」
DDD烈火王テムジン ☆6 融合 攻撃力2000
先程の前振りを全否定するように剣と盾を構え格好良く見せる烈火の王。【覇王烈龍オッドアイズ・レイジング・ドラゴン】も烈火の王なので親戚かもしれない。アホか。
【DDゴースト】の効果で二枚目の【DDスワラル・スライム】を墓地に送った後、五河は右手を正面に翳す。
「更に私は【DD魔導賢者ケプラー】と【DDD烈火王テムジン】をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、生誕せよ【DDD深淵王ビルガメス】!」
DDD深淵王ビルガメス link2 リンク 攻撃力1800
多数の武器を背負った王。彼(性別はわからないが、便宜上彼とする)のモチーフはかの英雄王ギルガメッシュなのでそれ相応の効果を持っている。何故か攻撃力が貧弱だが。
「【DDD深淵王ビルガメス】の効果発動! リンク召喚に成功した場合、デッキから【DD】ペンデュラムモンスター二体をペンデュラムスケールにセットし、1000ダメージを受ける。私は【DDD魔導賢者ニュートン】と【DDD壊薙王アビス・ラグナロク】をペンデュラムスケールにセッティング!」
DDD魔導賢者ニュートン スケール10
DDD壊薙王アビス・ラグナロク スケール5
赤羽五河
LP8000→7000
ビルガメスが鎖で天空の穴から無理矢理二体を引っ張り出した、光の柱に閉じ込める。攻撃力は低いのに傍若無人である。
「なるほど、ペンデュラムも使うのか」
「ああ。だがその前に、私がダメージを受けたことで手札の【DDオルトロス】の効果発動。自身を特殊召喚する」
DDオルトロス ☆4 ペンデュラム チューナー 守備力1800
ペンデュラムチューナーにして特殊召喚効果を持つという便利なモンスター。弟に負けた上デッキに入ってすらいないケルベロスは泣いていい。
「更に、私が【DD】を特殊召喚したことで【DDD壊薙王アビス・ラグナロク】の効果発動! 墓地の【DD】モンスターを特殊召喚し1000ダメージを受け、このターン相手に与える戦闘ダメージを半分にする」
「随分とデメリット多いな・・・・・・」
「【DDD神託王ダルク】を蘇生すればダメージは回復になるため、一概にそうとは言えないだろう。私のデッキには入っていないので全てデメリットのままだが」
展開の代償が大きい、と呆れる紅蓮だったが、五河が真顔のまま冗談とも本気ともつかないセリフを言うので反応に困った。
DDD烈火王テムジン ☆6 融合 攻撃力2000
赤羽五河
LP7000→6000
「ペンデュラム召喚、レベル6【DDプラウド・オーガ】!」
DDプラウド・オーガ ☆6 ペンデュラム 攻撃力2300
揺れる振り子の力によって出現する悪魔の鬼。振り子を見ていたせいなのか若干酔っている。
「【DDD烈火王テムジン】の効果発動。【DD】が特殊召喚されたことで、墓地から更に【DD】を特殊召喚する。蘇れ【DDゴースト】」
DDゴースト ☆2 チューナー 守備力300
橙色のクリスタルの中に猫の影。どの辺がゴーストなのかわかりかねる。
「ゴーストってパーカーとかじゃないんだな」
「オレンジと黒だ、同じようなものだろう」
そういうものか、と納得と疑問が半々の紅蓮だが、それよりもこの手の話題が通じたことが驚きである。
「・・・・・・アンタ、特撮とか見るんだな」
「毎週欠かさずに見ている。・・・・・・話が逸れたな。続けるぞ。
私は【DDゴースト】で【DDD烈火王テムジン】をチューニング! シンクロ召喚、生誕せよ【DDD呪血王サイフリート】!」
DDD呪血王サイフリート ☆8 シンクロ 攻撃力2800
こちらのモチーフはジークフリート。呪われた血、というのは邪竜ファブニールの血を浴びたためだろうか。勉強になる。
「更に【DDオルトロス】で【DDプラウド・オーガ】をチューニング! シンクロ召喚、生誕せよ【DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー】!」
DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー ☆10 シンクロ 攻撃力3000
風と大剣と共に現れるアレクサンダー。疾風なのはモチーフよりもどちらかと言えば【サンダー】の名前からかもしれない。
「エグゼクティブ・アレクサンダーは場に【DDD】が三体以上いる時、攻撃力が3000アップする。よって、攻撃力は6000!」
DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー 攻撃力3000→6000
大剣に仲間の力を宿し、更に【巨大化】させる。
「バトルだ。アレクサンダーでレッド・デーモン・アビスに攻撃!」
アレクサンダーが剣でアビスを斬り裂くが、大剣はそのまま手を離れて紅蓮の真横に突き刺さった。
灰村紅蓮
LP10100→8700
「・・・・・・何だ、今の演出」
「アビス・ラグナロクのダメージ半減効果の影響か・・・・・・?」
ソリッドビジョンとはいえ流石の紅蓮も冷や汗ダラダラである。アレクサンダーは手刀を切りながら大剣を回収して五河のフィールドに戻っていった。
「次だ。サイフリートでダイレクトアタック」
「すげー受けたくないけど受ける」
アレクサンダーが
が、案の定振り下ろした瞬間にすっぽ抜けて紅蓮の顔横2cmを通過していった。
灰村紅蓮
LP8700→7300
「普通に攻撃受けるよりも怖ぇんだけど」
「知らん。そんなことは私の管轄外だ」
若干震えた声で訴える紅蓮を真顔で切り捨てる五河。紅蓮は後でKCに訴えようと固く誓った。デュエルが終わる頃には忘れている可能性が高いため緩く誓ったの方が適切だろうか。
「ビルガメスでダイレクトアタック」
「エヌマ・エリシュとか食らいたくないんだけどな・・・・・・」
期待に応えるためか、例の乖離剣を構えるビルガメス。しかしダメージ半減効果の影響か上手く扱えず、仕方なく鎖で攻撃した。
灰村紅蓮
LP7300→6400
ようやく普通の攻撃であることにホッとする紅蓮。直撃した方が精神ダメージは少ないようだ。
「ターン終了だ」
灰村紅蓮
LP6400 手札2
□□□□□
□□□□□
□ 深
□□疾□呪
□□□□壊
赤羽五河
LP6000 手札1
深:DDD深淵王ビルガメス
疾:DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー
呪:DDD呪血王サイフリート
壊:DDD壊薙王アビス・ラグナロク
さて、これだけ攻撃を食らっているが、意外とライフ差は小さい。というか、五河の方がライフが少ない。
【DD】ではよくあることだが、効果ダメージで自滅する恐れがあるのである。故に短期決戦か先程言ったように【DDD神託王ダルク】を入れるのだが、五河は前者のようだ。
「オレのターン、ドロー!」
手札は三枚。だが、この状況を突破する
「【竜の霊廟】を発動するが。どうする?」
「【DDD呪血王サイフリート】の効果発動。そのカードの効果を無効にする」
即答であった。恐らく【アブソルーター・ドラゴン】から【ヴァレット・シンクロン】をサーチすることを読んだのだろう。
その反応に、紅蓮は口の端を釣り上げる。
「カハッ、コッチが本命だぜ【復活の福音】ッ! 蘇れオレの魂!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
蘇る傷付いた紅い竜。常時傷付いているならそれはもう傷ではないんじゃないかと今気付いた。”傷”と”気付いた”がかかっているダジャレだとかそんなことはない。
「スカーライトの効果発動だ、吹き飛べッ!」
まずビルガメスに殴りかかり、AUOが地に伏せたのと同時にサイフリートを尻尾で打ち飛ばす。普段は右拳で地面を殴るだけなのだが、今日はアクティブである。
赤羽五河
LP6000→5000
「破壊された【DDD深淵王ビルガメス】の効果発動、エクストラデッキから【DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク】を特殊召喚する!」
DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク ☆10 融合 守備力3000
ビルガメスが最期の抵抗で天空の穴から鎖を使って新たな英雄を呼び出す。これが英霊召喚か。
「更に【DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー】の効果発動! 【DD】が特殊召喚されたことで、墓地の【DDD烈火王テムジン】を特殊召喚する!」
DDD烈火王テムジン ☆6 融合 守備力1500
蘇る肉壁にして過労死枠。英雄を肉壁扱いとは何たる不敬か。
「・・・・・・何でさっきのターン使わなかったんだ?」
「ふむ。忘れていただけなのだが結果的にライフを守れたので
それを声に出さなければまだ格好が付いたのだが、色々台無しである。
仮に出していたとしても攻撃力は2000しかなくダメージは与えられてはいたが殴り返されるため心許ない。そして壁にするにしても墓地に回収できる【契約書】カードもないので本当に壁にしかなっていなかっただろう。
「だが、これで場の【DDD】はまた三体になった。アレクサンダーの攻撃力は6000のままだ」
【琰魔竜レッド・デーモン】だったならアレクサンダーごと破壊できていたのだが、こればかりはどうにもならない。
「しかし、面倒だな・・・・・・」
【DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク】は戦闘を行う時に自身の【DD】か【契約書】をバウンスすることで戦闘相手以外の相手モンスターを装備し、その攻撃力を得る効果がある。これは相手からの戦闘でも発動するため、スカーライトの横に並べると装備されてしまう。そして、スカーライトでは攻撃力が足りない。
(・・・・・・・・・・・・なら、こうするか)
手札は一枚しかないので、やることは殆ど決まっていたのだが。
「【ヴァレット・シンクロン】を通常召喚して効果発動だ。墓地から【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を特殊召喚!」
ヴァレット・シンクロン ☆1 チューナー 攻撃力0
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 守備力2500
【DD】の過労死がテムジンなら、【レッド・デーモン】の過労死はアビスだろうか。
「ここでアビスを蘇生させた、ということは、更に上か」
「そういうこった、【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】に【ヴァレット・シンクロン】をチューニング! 悪魔を焼けオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】!」
琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル ☆10 シンクロ 攻撃力3500
獄炎を纏い、更なる進化を遂げた琰魔竜。まだ第三形態のため、
「ベリアルの効果でスカーライトをリリース! アビスを蘇生するぜ!」
ベリアルが自身の炎でスカーライトを包み込む。炎が消えて姿が見えるようにかると、スカーライトはアビスに変わっていた。全員同一人物(竜)と考えれば、衣装替え感覚なのかもしれない。
「バトルフェイズ、アビスでカエサルに攻撃! そしてアビスの効果発! カエサルの効果を無効にする!」
アビスが効果も発動させないままの拳による乱打でノックアウトする。
「場の【DDD】の数が減ったことでアレクサンダーの攻撃力は元に戻る」
DDD疾風大王エグゼクティブ・ アレクサンダー 攻撃力6000→3000
仲間が減って心細くなったのか小さくなった剣を下ろし孤独に佇むアレクサンダー。だが剣が軽くなったことでその顔は表情がないはずだがどこか晴れ晴れとした雰囲気が漂っていた。横にいるテムジンは複雑そうである。
「次だッベリアルでアレクサンダーを攻撃!」
「迎え撃てアレクサンダー」
主の言葉をボーッとしていて聞いていなかったのかアビスの拳をモロに顔で受け場外まで吹き飛ぶ征服王。
赤羽五河
LP5000→4500
「ベリアルが戦闘ダメージを与えたことで、墓地の【ヴァレット・シンクロン】とデッキの【シンクローン・リゾネーター】を特殊召喚するぜ」
ヴァレット・シンクロン ☆1 チューナー 守備力0
シンクローン・リゾネーター ☆1 チューナー 守備力100
―――このままチューナー達を壁にしてもいいが、3500打点を棒立ちさせるのは心許ないな。リクルート効果を持つカラミティを立てた方がいいか。
「メイン2、【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】に【シンクローン・リゾネーター】と【ヴァレット・シンクロン】をダブルチューニング! 惨禍と化せオレの魂【琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ】!」
琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ ☆12 シンクロ 攻撃力4000
二体のチューナーが炎のリングへと姿を変えベリアルが光点となって更に進化。腕も増えて最終形態である。
「これでターンエンドだ」
灰村紅蓮
LP6400 手札0
□□□□□
□□ア□□
カ □
□□□烈□
□□□□壊
赤羽五河
LP4500 手札1
カ:琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ
ア:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
烈:DDD烈火王テムジン
壊:DDD壊薙王アビス・ラグナロク
差の開いたライフと【DDD烈火王テムジン】のみになったモンスター。残っているだけマシというものだろうか。
「私のターン、ドロー」
引いたカードは【増殖するG】。来るのが余りに遅かったが、元々あった手札で十分展開できる。
「私は墓地の【DDスワラル・スライム】の効果発動。墓地のこのカードを除外し、手札の【DD】を特殊召喚する。出でよ【DDD運命王ゼロ・ラプラス】!」
DDD運命王ゼロ・ラプラス ☆10 ペンデュラム 攻撃力?
複数の生物の骨が組み合わさった異形の悪魔が君臨する。効果無効に弱いため【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を警戒し出していなかったが、今思えばプレイミスかもしれない。
「【DD】が特殊召喚されたことで、【DDD烈火王テムジン】の効果と【DDD壊薙王アビス・ラグナロク】の効果がトリガーするが、どうする?」
「【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果で、テムジンの効果を無効にするぜ」
逆順処理によってアビス・ラグナロクの効果が解決され、墓地のアレクサンダーを特殊召喚。カエサル・ラグナロクは蘇生制限を満たしていないため永眠状態である。
赤羽五河
LP4500→3500
DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー ☆10 シンクロ 攻撃力3000→6000
アビス・ラグナロクの効果が適用されたことからまたあの心臓に悪い攻撃が来るのかと紅蓮は戦慄する。下手なお化け屋敷よりも怖いのである。【ゴーストリック】の皆さんに謝るべきかと思ったがアレは可愛い系統なので問題ないと判断した。効果は全然可愛くないが。
―――【DDD烈火王テムジン】で【レッド・リゾネーター】は破壊できるが・・・・・・このライフではな。
殴り返されることを警戒し、そのままバトルフェイズに入る。
「ゼロ・ラプラスでカラミティを攻撃! ラプラスの効果! このカードの攻撃力は、戦闘する相手モンスターの元々の攻撃力の倍になる!」
DDD運命王ゼロ・ラプラス 攻撃力?→8000
カラミティに組み付き、骨の計量器でその攻撃力を図りとって倍にするラプラス。モチーフであるラプラスの悪魔の影響か。
「攻撃力8000とか、ムチャクチャだな!?」
「戦闘ダメージは半分だ、大した数字ではない」
そのままラプラスが骨の口らしきものでカラミティを飲み込み、咀嚼。ホラー映画も真っ青なほどである。
灰村紅蓮
LP6400→4400
「カラミティの効果発動! 墓地のスカーライトを特殊召喚する!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 守備力2500
ラプラスの口から這い出てくるスカーライト。涎などが付いていないのは骨だからだろうか。
「なるほど・・・・・・」
―――これで、私の敗北はほぼほぼ決まった訳だ。
「アレクサンダーでスカーライトを攻撃!」
「墓地の【復活の福音】の効果で、破壊されないせ!」
「だがダメージは受けてもらう!」
アレクサンダーがアビスを斬り裂き、その衝撃波が紅蓮に飛ぶ。剣が飛んでくることはなかったので一安心した紅蓮だが、胸を撫でおろした直後に顔の横を何かが横切った。時間差とは卑怯である。
灰村紅蓮
LP4400→3000
「私はこれでターンエンド」
灰村紅蓮
LP3000 手札0
□□□□□
□□アレ□
□ □
□疾運烈□
□□□□壊
赤羽五河
LP3500 手札1
ア:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト
疾:DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー
運:DDD運命王ゼロ・ラプラス
烈:DDD烈火王テムジン
壊:DDD壊薙王アビス・ラグナロク
「オレのターン、スカーライトの効果発動!」
飛翔しテムジンをブレスで焼き尽くすと、スカーライトはラプラスの口に右腕を突っ込み炎を出すことで内側からファイアーすると骨と骨の間から炎が吹き出しそういう儀式であるかのように見える。先程飲み込まれたことへの意趣返しだろうが、火葬っぽくてあまりよろしくない。
赤羽五河
LP3500→2500
「スカーライトを攻撃表示に変更してバトルッ! アビスでアレクサンダーを攻撃!」
アビスが腕のブレードでアレクサンダーの剣を引っ掛けて遠くへ飛ばし、抵抗できなくなった所に真正面からブレスを叩きつける。
赤羽五河
LP2500→2300
「スカーライトでダイレクトアタック! これで終わりだ!」
(嫌がらせに手札の【増殖するG】でも使って・・・・・・やめておくか)
後輩に嫌な先輩だと思われたくなかった五河はそのまま両手を広げてスカーライトのブレスを受ける。ソリッドビジョンでなかったならば爆発した頭と焦げて黒っぽくなった姿が見られたかもしれないが残念だ。
赤羽五河
LP2300→0
デュエルが終了したことで消えていくソリッドビジョン。紅蓮は最後に引いた【
「ふむ、やはりライフコストが辛いな。先攻を取れていれば・・・・・・」
眼鏡ではなく顎に手を当て、ブツブツと考察タイムに入る五河。紅蓮はデュエルディスクで時間を確認し、まだ意外と余裕があったのでのんびり教室に戻ることにした。
ーーーーーーーーーー
放課後。他の生徒が部活や帰宅に勤しむ中、廊下を歩く教師と生徒がいた。
「・・・・・・で、ここが第二講義室。数学の時とかに使うと思うから、覚えておいて♪」
一人は紅蓮のクラスを担任している男性教師。もう一人は転校生である柊太だ。
「次に、ここがコンピューター室。学校のサーバーに残ってるデュエルを閲覧したり、CGを作ったりとか、自由に使えるよ♪ たまに担当の先生の出張開いてなかったりするんだけどね」
「はあ、なるほど」
柊太が軽く中を覗いてみると、そこには赤っぽい黒髪があった。
「あの人・・・・・・灰村、でしたっけ? は、何をしてるんです?」
「んー、デュエルの閲覧みたいだね。多分、自分のデュエルを見返してるんじゃないかな?」
ただの素朴な疑問だったが、柊太は紅蓮が反省などをしていることを意外に思った。
彼は、紅蓮をただの口だけの男だと思っていた。デュエルの講義こそ起きているが、それ以外は寝てばかりだったし、クラスの面々に聞いた話ではエクストラデッキにシンクロモンスターしか入れていないと言う。それで『デュエル甲子園』に出ようだなんて、よく言えたものだと思った。
「・・・・・・先生、灰村のこと、どう思いまか?」
「? そうだね・・・・・・面白い生徒、かな? あんなデッキでデュエル甲子園優勝を目指してるっていうし、先輩によく挑んでるし」
優勝を目指している。ならば自分と同じだ。しかし、彼と別のチームになった場合、彼は敵となる。
(・・・・・・今度、彼とデュエルしてみよう。そうすれば、何かわかるかもしれない)
腰のデッキケースに触れながら、柊太は決意した。
簡単なキャラ紹介⑥
赤羽五河
デュエルスクール クスィーゼ校 三年
風紀委員長にして【DD】使い。表情筋を動かすことが滅多になく、ずっと真顔である。しかしどこか天然であり、真顔のまま冗談などを発したりするので周囲からは少し浮いている。
今回、紅蓮とデュエルしたのは友人である雪村から彼のことを聞いたため。好印象を与えようと初対面で冗談を言っていたが、失敗している。そしてその自覚がないので直らない。
身長は180と高く、相手に威圧感を与えてしまっている。これもわかりにくい冗談に拍車をかけている。赤渕眼鏡は殆ど度が入っておらず、そこまで目が悪いワケではない。
名前は某社長と火星の王から。つまり中の人ネタである。
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柊太:一話
こんなんじゃ・・・・・・満足出来ねぇぜ・・・・・・。
転校から一週間経ったが、柊太はクラスにそこまで馴染めずにいた。
授業中は授業に集中すればいい話なので楽なのだが、問題は休み時間だ。話しかけられれば会話はできるのだが、それが続かない。ある生徒はケータイをいじり、ある生徒はデュエルディスクのデュエルログを見直し、ある生徒はテーブルデュエルを繰り広げ、またある生徒は壁相手にソリティアし、またある紅蓮は寝ている。
だが、柊太はそれを悲観してはいない。彼の目下の目的は『デュエル甲子園』優勝であり、それに関係ないものはどうでもいい。成績等はデュエル甲子園出場に関わるが、クラスメイトとの交流など、一々気にしないだろう。
(・・・・・・灰村、紅蓮。彼も、甲子園優勝を狙ってるって聞いたけど・・・・・・)
正直、あんなデッキで勝てるとは思えなかった。現在の環境でリンクモンスターを使わないデッキは少なからずあるが、【レッド・デーモン】でそれをやっても強くはならない。現に彼は上級生相手とは言え敗戦も多い。先日紅蓮がいない日にコンピューター室で紅蓮で彼のデュエルを閲覧したが、リンクモンスターを使っていれば勝てた、という状況がいくつかあった。
(僕の障害にはならないだろうけど・・・・・・今の内に倒しておいた方がいいかな)
授業中にも関わらずクルクルと右手の指を器用に使ってペンを回す彼の思考には既に『紅蓮と共に切磋琢磨する』ことはなかった。
ーーーーーーーーーー
デュエルスクールの昼休みは40分と長い。これは昼食の時間が含まれているから、というのもあるが、
柊太が今手持ち無沙汰に棒立ちしているのは先日紅蓮も使った第三デュエル場。三つあるデュエル場の内一番校舎から遠く、人気のない場所でもある。
そして正面にいるのはこちら睨むような目で見る赤っぽい髪の青年。整えられていないその髪は方々へ跳ねているが、それはそれで一種のヘアスタイルにも見えるのだから不思議。
「あー、宮津、だったか? 急にデュエルしたいってのは、何でだ?」
まだ名前がうろ覚えてらしく疑問符と共に柊太の名前を呼ぶ彼は何故デュエルを挑まれているのか把握していないようだ。
「・・・・・・君、デュエル甲子園優勝を目指してるの?」
「ああ。そうだ」
そう、と迷いのない答えに柊太はそれだけ返して、ディスクを起動する。紅蓮を含め他の生徒の多くはタブレットとしても扱えるタイプのディスクだが、彼のは少し古い型のようでカードの効果などを確認する液晶が付いているだけのものだった。
「なら、僕の敵ってことだね。僕も甲子園で優勝したい」
有無を言わせない力の籠もった柊太の言葉を聞いた紅蓮はまるで緊張感を持たず後頭部をガリガリ掻いて口を開く。
「ライバル関係になる、とかっつーのは・・・・・・」
「君のデッキで優勝できると思う? そんな人と一緒に出場するほど僕は物好きじゃない」
その質問を睨まれていることもあってか容赦なく切り捨てる。紅蓮はただ目つきが悪いだけで睨んでなどいないのだが柊太がそれを知るはずもなし。
「・・・・・・そうか。まあ、デュエルなら大歓迎だし、これで出場できるかどうか決まるワケでもねーし」
そう言って紅蓮は首だの肩だのを回してから頭の中でスイッチを切り替え、左腕を水平に持ち上げる。
「「デュエルッ!」」
宮津柊太
LP8000
灰村紅蓮
LP8000
「僕のターン、まずは【ライティ・ドライバー】を通常召喚、効果でデッキから【レフティ・ドライバー】を特殊召喚」
ライティ・ドライバー ☆1 チューナー 攻撃力100
レフティ・ドライバー ☆2 守備力100
現れたのは二人で一人な少女ロボット。片方が気絶しそうだが、デッキによっては両方
「レベル4以下のモンスターが特殊召喚されたことで【TGワーウルフ】を特殊召喚。ワーウルフとライティをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。リンク召喚【
機械の装備を身につけた狼と機械少女の片割れがサーキットに飛び込み、複数の【
「ハリファイバーの効果でデッキから【ジャンク・シンクロン】を特殊召喚、チューナーがいることで手札から【ブースト・ウォリアー】を特殊召喚」
ジャンク・シンクロン ☆3 チューナー 守備力500
ブースト・ウォリアー ☆1 守備力200
【ブースト・ウォリアー】には戦士族モンスターの攻撃力を300上げる効果があるが、あまり重要ではない。
「手札一枚をコストに【クイック・シンクロン】を特殊召喚。【クイック・シンクロン】で【レフティ・ドライバー】【ブースト・ウォリアー】をチューニング、シンクロ召喚【ロード・ウォリアー】」
ロード・ウォリアー ☆8 シンクロ 攻撃力3000
ハリファイバーの左後ろに登場する機械戦士。攻撃力は3000と【
長いなと手持ち無沙汰な紅蓮を他所に、柊太は展開を続ける。
「【ロード・ウォリアー】の効果で、デッキこら【ドッペル・ウォリアー】を特殊召喚。【ドッペル・ウォリアー】に【ジャンク・シンクロン】をチューニング、シンクロ召喚【アクセル・シンクロン】
アクセル・シンクロン シンクロ チューナー 守備力2100
【ジャンクドッペル】というデッキができるほど相性のいい二体からシンクロされたのはどこかの蟹の赤いバイク。
「【ドッペル・ウォリアー】の効果てトークン二体を特殊召喚。【アクセル・シンクロン】の効果発動、デッキから【ジェット・シンクロン】を墓地へ送ることでレベルを一つ上げる。レベル6となった【アクセル・シンクロン】で【ドッペル・トークン】二体をチューニング」
怒濤の連続展開を一度止め、柊太は軽く胸に手を置く。
「―――彼女の輝きを、今ここに。シンクロ召喚、【閃珖竜スターダスト】!」
閃珖竜スターダスト ☆8 シンクロ 攻撃力2500
光の輪となったバイクがトークン達を包み込み、光の柱となる。飛翔したのは光輝く決闘竜。
「【スターダスト】・・・・・・なるほど、俺向きの相手だな。燃えてきたぜ」
【レッド・デーモン】使いの彼としては燃える展開だが、柊太は特に思うところはないのでスルーした。反応がないことに紅蓮はムッとしたが気にしない。
「ターンエンド」
宮津柊太
LP8000 手札0
□□□□□
□□閃□ロ
□ 水
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札5
水:
ロ:ロード・ウォリアー
閃:閃珖竜スターダスト
「オレのターン、ドロー!」
手札を使い切った柊太だが、盤面はそこまで強くない。慣れないカードを無理に使おうとしたせいで手札消費が激しくなってしまった、と柊太は分析し、苛立つ。彼女のカードを使いこなせないのでは『デュエル甲子園』に出る意味も薄れてしまう。
「【レッド・リゾネーター】を通常召喚して効果発動だ。手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚する」
「チェーンしてハリファイバーの効果発動。自身を除外することでエクストラデッキからシンクロチューナーを特殊召喚する。【フォーミュラ・シンクロン】を特殊召喚」
フォーミュラ・シンクロン ☆2 シンクロ チューナー 守備力1500
ハリファイバーと入れ替わったミニ四駆シンクロン。ここから恐らく【スターダスト・ウォリアー】辺りになるのだろう、と紅蓮は予測し、その前提で動く。
「特殊召喚するのは【マグナヴァレット・ドラゴン】だ」
マグナヴァレット・ドラゴン ☆4 守備力1200
赤い調律魔が音叉をかき鳴らすと、耳(ドラゴンなので恐らく、だが)を押さえながら弾丸竜がフラフラとフィールドに引っ張られる。
「【フォーミュラ・シンクロン】の効果で一枚ドロー、そして処理後に【フォーミュラ・シンクロン】の効果によりシンクロ召喚を行う。【ロード・ウォリアー】に【フォーミュラ・シンクロン】をチューニング、アクセルシンクロ。【サテライト・ウォリアー】」
サテライト・ウォリアー ☆10 シンクロ 攻撃力2500
紅蓮の予想は外れ、登場したのは最近出た新たな【ウォリアー】シンクロモンスター。
「なっ、そっちか!」
「そっちでもどっちでもいいよ、効果発動。墓地のシンクロモンスターの数まで、相手のカードを破壊して、その数だけ攻撃力を上げる。対象はその二体だ」
【サテライト・ウォリアー】が衛星と更新を始め、三秒ほどで空からビームが降ってくる。極太のビームに焼かれた二体は断末魔すら上げられず消し炭になった。元々ソリッドビジョンに断末魔なんて上げられないのだが。
サテライト・ウォリアー 攻撃力2500→4500
「【レッド・ライジング・ドラゴン】までは行けると思ったんだがな・・・・・・」
【予想GUY】だったぜ、と悔しそうな紅蓮。彼は墓地効果のある【レッド・ライジング・ドラゴン】を出し、無効にされた上で更に展開するつもりだったのだろう。
「【クイック・リボルブ】を発動して、デッキから【ヴァレット・トレーサー】を特殊召喚するぜ。更に【竜の霊廟】を発動、それにチェーンして【ヴァレット・トレーサー】の効果発動だ。【竜の霊廟】を破壊してデッキから【メタルヴァレット・ドラゴン】を特殊召喚だ」
ヴァレット・トレーサー ☆4 チューナー 守備力1000
メタルヴァレット・ドラゴン ☆4 守備力1400
そして破壊された【竜の霊廟】の効果が適用される。何故破壊しているのに効果が使えるのかと効かれると大変面倒な説明となるので『【サイクロン】で【聖なるバリア-ミラーフォース-】を無効にできない』のと同じである。簡単に言うと『破壊』と『無効』は違うということだ。どこが面倒なのか。
「墓地へ送られた【アブソルーター・ドラゴン】の効果でデッキから【ヴァレット・リチャージャー】を手札に加える。そして【ヴァレット・トレーサー】で【メタルヴァレット・ドラゴン】をチューニング! 爆ぜろオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン】!」
琰魔竜レッド・デーモン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】では【サテライト・ウォリアー】を破壊できないため、今回は
「【琰魔竜レッド・デーモン】の効果発動! 自身以外のモンスター全てを破壊するッ!」
「【閃珖竜スターダスト】の効果を発動。自身を対象に、1ターンに一度、戦闘・効果で破壊されなくなる」
レッド・デーモンが炎を撒き散らしながら【サテライト・ウォリアー】を蹴り上げ、そのまま至近距離でブレスを叩き込む。そしてスターダストに殴りかかるがクロスカウンターで応じられお互いのフィールド戻された。
「なんでこんな演出? ・・・・・・まあいいか。破壊された【サテライト・ウォリアー】の効果発動。墓地から【ウォリアー】【シンクロン】【スターダスト】シンクロモンスターを三体まで特殊召喚できる。【ロード・ウォリアー】【フォーミュラ・シンクロン】【アクセル・シンクロン】を特殊召喚」
ロード・ウォリアー ☆8 シンクロ 攻撃力3000
アクセル・シンクロン ☆5 シンクロ チューナー 守備力2100
フォーミュラ・シンクロン ☆2 シンクロ チューナー 守備力1500
増えてしまったシンクロモンスター達に、げ、と声を漏らす紅蓮。効果の確認を怠ったのが悪いので、柊太はアホなのだろうかと呆れる。
「・・・・・・ならバトルフェイズに入るぜ」
「メインフェイズ終了時【フォーミュラ・シンクロン】の効果発動、シンクロ召喚を行う。【閃珖竜 スターダスト】に【フォーミュラ・シンクロン】をチューニング。アクセルシンクロ! ―――彼女の輝きに、彼の者の力を。【シューティング・スター・ドラゴン・
シューティング・スター・ドラゴン・
【フォーミュラ・シンクロン】が複数に分かれ、一昔前のアニメのようにパーツが質量保存の法則に反して拡張していき、【閃珖竜スターダスト】に装着されていく。
「更にアクセルシンクロ、か」
これだから主人公テーマは、という紅蓮の意味不明な言葉を気にしないことにして、柊太は盤面に目を向ける。
こちらはシンクロモンスターが三体。攻撃を一度無効にできる【シューティング・スター・ドラゴン・
対して紅蓮は【琰魔竜レッド・デーモン】のみであり、効果を使ったことてあのモンスターでしか攻撃できない。シューティング・スターで無効にすればそれ以上攻撃されることはないだろう。
「ならメインフェイズに戻るぜ。自分フィールドにシンクロモンスターがいることて【シンクローン・リゾネーター】を特殊召喚。そのまま【琰魔竜レッド・デーモン】とシンクロするぜ。深炎より来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 攻撃力3200
新たな調律魔の力によって進化する【レッド・デーモン】。お値段もかなり進化しているのだがこれ以上は進化し過ぎて安くなっている。
【シンクローン・リゾネーター】の効果で【レッド・リゾネーター】を回収する紅蓮に構わず、柊太は眉を寄せる。
「アビスか・・・・・・面倒だね」
「お前の盤面よりマシだと思うぜ? 何せこっちは一体で戦ってるんでな」
あまり大きくはなかった柊太の呟きに、律儀に返す紅蓮。どこか自嘲気味な言葉とは裏腹に、口元の笑みは好戦的なものだ。
ここまでのやり取りで、柊太は紅蓮と己との明確な違いに気付いた。
―――
それは柊太にはできない考え方だ。彼はデュエルを『勝敗を決めるもの』だと認識している。どちらが上かを決め、雌雄を決する。それが柊太にとってのデュエルだ。
『柊太は頭が硬いな〜。もっと色んな角度から見てみなよ』
ふと脳裏に浮かんだのは、彼女の言葉。フィールドの【シューティング・スター・ドラゴン・
「オレはこれでターンエンドだ」
宮津柊太
LP8000 手札1
□□□□□
□ア□□ロ
琰 シ
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札4
シ:シューティング・スター・ドラゴン・
ロ:ロード・ウォリアー
ア:アクセル・シンクロン
琰:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
紅蓮の声でデュエルに引き戻された柊太は、一度頭を左右にブンブン振ってからデッキに指をかける。ブンブンと言うと
「僕のターン。・・・・・・さて、どうしようかな」
引いてから考えるか、などとは言わないがやることがないのも確かだ。
【シューティング・スター・ドラゴン・
(一応、【ブースト・ウォリアー】て攻撃力を上げて【ロード・ウォリアー】で攻撃すればアビスは破壊できるけど・・・・・・)
【ヴァレット・リチャージャー】によって壁を特殊召喚され、ダメージは与えられない。その上、エクストラモンスターゾーンが空いたことにより【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】を出されれば、柊太のフィールドは壊滅する。
「このままターンエンドだ」
宮津柊太
LP8000 手札2
□□□□□
□ア□□ロ
琰 シ
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札4
シ:シューティング・スター・ドラゴン・
ロ:ロード・ウォリアー
ア:アクセル・シンクロン
琰:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
ターンが渡った紅蓮は、どこか不満そうな顔でカードを引く。
「何だよ、動きなしか。ならその盤面突破させてもらうぞッ!」
盤面を突破する。その言葉に、柊太は目を見開いて驚く。【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】ならば確かに突破できるが、リンクモンスターをデッキに入れていない彼が【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を退かす術を持っているとは思えなかったからだ。【シンクロキャンセル】等のカードも考えられるが、紅蓮のデッキにシナジーがあるとも思えない。
「【レッド・リゾネーター】を召喚、効果で手札から【ヴァレット・シンクロン】を特殊召喚ッ!」
柊太は忘れていた。【レッド・デーモン】には、この状況を突破できる進化形態がいることを。
「いくぜ、【レッド・リゾネーター】と【ヴァレット・シンクロン】で【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】をダブルチューニング! 惨禍と化せオレの魂【琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ】!」
琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ ☆12 シンクロ 攻撃力4000
アクセルシンクロとは異なるシンクロの力、ダブルチューニング。他にもデルタアクセルとかリミットオーバーアクセルシンクロとかあるが、今はどうでもいい。
とある世界での、ぶつかり合う魂のデュエルの様に。レッド・デーモンとスターダストは相対する。
「カラミティの効果により、このターン相手はフィールドで発動する効果が無効化される。シューティング・スターの攻撃無効も発動できないぜ」
アビスの効果を使ってチューナーを減らしておくべきだったか、という紅蓮の言葉は、柊太の耳には入らない。
(マズい、また失敗した。どう挽回する? 攻撃された後シューティング・スターの効果を使って・・・・・・いや、シューティング・スターが攻撃されるとは限らない。エクストラモンスターゾーンを空けないために狙うのは【ロード・ウォリアー】か? だとしたら・・・・・・)
彼の頭の中にあるのは『この後どうするべきか』のみ。ディスクに置かれたカードと液晶、そして手札を行き来する目線から、紅蓮はなんとなく柊太が何を考えているのかわかった。
「チッ、テメェ・・・・・・」
苛立ったように舌打ちを一つ。それに驚いたのか顔を上げた柊太の目に映ったのは、眉を寄せて顔を顰め、どう見ても怒っている紅蓮。
「テメェ、オレを見てるか?」
その苛立ちをそのまま吐き出しただけの言葉。それだけで収まるはずもなく、紅蓮は続ける。
「さっきから手札と盤面ばっか見て、オレの方を見ようともしてねぇ。随分と独りよがりなデュエルしてるじゃねぇか」
彼の苛立ちは尤もだった。柊太の思考にあったのは自分が彼女のカードを使いこなすこと、自分のしたい動きをどれだけできるかということ。【サテライト・ウォリアー】をシンクロ召喚した時も、相手の動きを読んだ訳ではなく、偶々裏をかけただけだ。
デュエルとは、相手がいることでこそ成立するもの。その根本的なことを、柊太は失念していたらしい。
「・・・・・・灰村―――」
何を言おうとしたのか、柊太にもわからない。だが、その先が紡がれることはなかった。
「あ? もうそんな時間か」
予鈴の音に遮られ、紅蓮の怒りも霧散する。どうする? と目だけで訊かれ、柊太はディスクを付けた腕を下ろした。
簡単なキャラクター紹介⑦
宮津柊太
デュエルスクール クスィーゼ校 一年
紅蓮のクラスに転校してきた生徒。元々【ウォリアー】軸の【ジャンクドッペル】を使っていたのだが、あることをきっかけに【スターダスト】もデッキに入れた。今回自己中心的なデュエルをしてしまったのもそのせい。
元々身内以外と距離を詰めようとしない性格だったが、【スターダスト】を使うようになってからはそれがより顕著になった。
身長は160と少々小柄で、黒髪黒目。紅蓮に言わせれば『雄猫みたい』とのこと。若干のくせっ毛と猫背のせいか、はたまた彼の性格をなんとなく掴んだのか。
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紅蓮:六話
今回のパックって、テーマ強化というよりもソリティアしやすくなった印象が強いです。
途中で終わったデュエルに不完全燃焼のまま家に帰りムスッとした顔でリビングの扉を開けた紅蓮の目に入ったのはソファに寝転がりバリバリと『遊戯王チップス』を頬張りながらタブレットで動画を見る黒髪の美少女。その艷やかに流れ肩まである黒髪も、整った顔立ちも、凹凸こそ少ないながらも十分な魅力を持つその肢体も、全てがその態度で台無しになっている。彼女は話の中に『妹』とだけ出てきた紅蓮の妹、灰村
「ん? ああ兄か。随分と早いな」
「特にやることもないんでな。暇なんだったらデュエルしてくれ、不完全燃焼なんだよ」
デュエルジャンキーな紅蓮のセリフに、花蓮は面倒臭そうに画面から顔を上げて兄を見る。
「見ての通り私は忙しい。後にしてくれないか?」
どこをどう見れば忙しくなるのか。そんな反論が浮かぶが、口に出すことはしなかった。花蓮がこうなのはいつものことだ。我儘に、自分の意見を曲げることが殆どない。それをよく知っている紅蓮は予定通り
「そうか・・・・・・帰りに『マドルチェ・プリン』を買って来たんだが、いらなかったか」
ピクリ、と花蓮のアホ毛が動いた。まるで犬の尻尾だなと思いつつ、紅蓮は続ける。
「まあ、仕方ないよな。妹はオレより動画を取るみたいだし。オレの買ってきたプリンなんて、いらないんだろうな」
ニヤリ、と人の悪い笑みを浮かべながら、紅蓮は挑発する。
『マドルチェ・プリン』は1000円ものダメージを財布の与える凶悪な
「ふむ・・・・・・気が変わった。兄よ、新しいデッキの試運転がしたい。相手をしてくれ」
そして、彼女は紅蓮の妹。露骨な誘いではあったが、自分の欲望を優先することは二人の数少ない共通点だ。
「ああ、いいぜ。テーブルデュエルでいいか?」
「いや、どうせやるなら派手に、だ」
そう言って花蓮はタブレットを一度置くと遊戯王チップスを片付け立ち上がり、軽く服を
それからダイニングに移動し、キッチンの冷蔵庫の横にある扉を開き、デュエルスペースに入る。どの家にもある訳ではないが、ある程度裕福な家庭にはあるものだ。
「さて、では私の新デッキ、【斬機ローズ】の力をお見せしよう」
自信満々に膨らみの少ない胸を張り、花蓮はディスクにデッキをセット。ディスクがそれを読み込み、モンスターゾーンが展開される。
「早速ネタバレかよ。・・・・・・【斬機】と【ローズ・ドラゴン】にシナジーなんてあったか?」
花蓮のデッキは【ローズ・ドラゴン】を軸にした植物族デッキだったのだが、どうやら少しデュエルしない間に新しくしていたらしい。ただのフリーデュエルなので、どんなデッキなのか純粋に楽しみである。
「いくぜ、「デュエルッ!」」
灰村花蓮
LP8000
灰村紅蓮
LP8000
先攻をとった花蓮は自分の手札を見ると満足そうな笑みを浮かべ、その内の一枚をディスクに置く。
「【バランサー・ロード】を通常召喚だ。効果により、1000ライフ払うことによって私はサイバースをもう一度召喚できる。いでよ、【ファイアウォール・ガーディアン】」
バランサー・ロード ☆4 攻撃力1700
ファイアウォール・ガーディアン ☆4 攻撃力100
灰村花蓮
LP8000→7000
彼女の初動は【斬機】でよく見かける二体。ソリティアの香りを感じた紅蓮は【ローズ・ドラゴン】要素が出てくるまで長くなりそうだと見抜いた。
「二体でリンク召喚、【サイバース・ウィキッド】! 【ファイアウォール・ガーディアン】を自身の効果により特殊召喚し、【サイバース・ウィキッド】の効果発動。【バランサー・ロード】を除外することで【斬機ナブラ】を手札に加え、【バランサー・ロード】の効果によりそのまま特殊召喚する」
サイバース・ウィキッド link2 リンク 攻撃力1600
斬機ナブラ ☆4 チューナー 守備力1500
元は二体だったモンスターが三体に増え、【斬機】の要素が強くなる。というか、ここまで【斬機】でよくある動きである。
「【ファイアウォール・ガーディアン】一体でリンク召喚、【リンク・ディヴォーティー】!」
リンク・ディヴォーティー link1 リンク 攻撃力500
「長いな・・・・・・」
「悪いがまだまだ続くぞ。【斬機ナブラ】の効果発動、【リンク・ディヴォーティー】をリリースし、デッキから【斬機シグマ】を特殊召喚する。更にリリースされた【リンク・ディヴォーティー】の効果でトークンを二体生成する」
斬機シグマ ☆4 チューナー 守備力1500
リンクトークン ☆1 守備力0
今度は一体が三体に。爆アドである。著作権的なものに触れた気がしないでもない。
「トークンにナブラをチューニング、シンクロ召喚。いでよ、【星杯の神子イヴ】! 効果でデッキから【星遺物】カード、【星遺物を継ぐもの】を手札に加える」
星杯の神子イヴ ☆5 シンクロ チューナー 守備力2100
「更にトークンにシグマをチューニング、シンクロ召喚。いでよ、【ガーデン・ローズ・メイデン】!」
ガーデン・ローズ・メイデン ☆5 守備力2400
白い花嫁衣装のようなドレスを纏った女性型モンスターが現れる。ようやく【ローズ・ドラゴン】要素が出て来た。
「効果でデッキから【ブラック・ガーデン】を手札に加える。更にイヴとウィキッドでリンク召喚。【
【星杯の神子イヴ】を素材にしたハリファイバー、俗に言う【イヴファイバー】という奴だ。マイナーな呼び方過ぎる。
「イヴとハリファイバーの効果をチェーンして発動するぞ。デッキから【レッドローズ・ドラゴン】と【星遺物-『星杯』】を特殊召喚」
レッドローズ・ドラゴン ☆3 チューナー 守備力1800
星遺物-『星杯』 ☆5 守備力0
ハリファイバーから【ローズ・ドラゴン】にアクセスするならどんなデッキでも出張させて【ローズ・ドラゴン】デッキと言えそうなものだが、それを言うと確実に妹の顰蹙を買うので紅蓮は閉口した。
「【レッドローズ・ドラゴン】で【星遺物-『星杯』】をチューニング! シンクロ召喚、いでよ【炎斬機マグマ】!」
炎斬機マグマ ☆8 シンクロ チューナー 攻撃力2500
光の柱を切り裂いて現れたのはレベル8にしてチューナーという
「【レッドローズ・ドラゴン】の効果でデッキから【ホワイトローズ・ドラゴン】を特殊召喚する。【星遺物を継ぐもの】を発動し、墓地の【星杯の神子イヴ】をハリファイバーのリンク先に特殊召喚。そしてイヴでメイデンをチューニング! アクセルシンクロ、いでよ、【シューティング・スター・ドラゴン・
シューティング・スター・ドラゴン・
紅蓮にとっては本日二度目のシューティングスター。そのことに少し可笑しくなり軽く苦笑すると、それをどう受け取ったのか花蓮は肩を竦める。
「対兄ということなら【スターダスト・ウォリアー】の方がいいのだがな、生憎枠が足りない」
花蓮はどちらかと言うとファンデッカー寄りのデュエリストだ。自分の好きなカードを使うためにデッキを組み、闘う。
「そうか。流石に妨害2つはキツいんでな、助かったぜ」
「なるほど、今度から入れることにしよう。これでターンエンド」
灰村花蓮
LP7000 手札4
□□□□□
シ□マ□ホ
ハ □
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札5
ハ:
シ:シューティング・スター・ドラゴン・
マ:炎斬機マグマ
ホ:ホワイトローズ・ドラゴン
「オレのターン、ドロー!」
花蓮の場には【
「【レッド・リゾネーター】を通常召喚、効果で手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚するぜ」
「ならばそれにチェーンしてハリファイバーの効果発動。自身を除外し、エクストラデッキからシンクロチューナーを特殊召喚する。いでよ、【シューティング・ライザー・ドラゴン】!」
シューティング・ライザー・ドラゴン ☆7 シンクロ チューナー 守備力1700
ハリファイバーが退散すると、代わりに白い龍が現れ、
「特殊召喚するのは【シルバーヴァレット・ドラゴン】だ」
レッド・リゾネーター ☆2 チューナー 攻撃力600
シルバーヴァレット・ドラゴン ☆4 攻撃力1900
赤い悪魔に呼ばれたのは打点要因として採用していた【ヴァレット】の一体。リンクモンスターを使わない紅蓮にとって、【ヴァレット】はリクルーターとしてしか使われない。彼らは泣いていいと思う。
「ライザーの効果発動。デッキから【召喚僧サモン・プリースト】を墓地へ送り、レベルを4つ下げる」
シューティング・ライザー・ドラゴン ☆7→3
ライザーがサモン・プリーストを墓地へ送ると、恨みを買ったらしくレベルを下げられる。僧侶なのに随分心が狭い。
「更に【クイック・リボルブ】を発動。デッキから【ヴァレット・トレーサー】を特殊召喚するぜ」
ヴァレット・トレーサー ☆4 チューナー 守備力
虚空から現れた新たな弾丸竜に、花蓮は、む、と唸る。
フリーチェーンで自身のカードを破壊することでデッキから【ヴァレット】を特殊召喚するこのカードによって、【月華竜ブラック・ローズ】を特殊召喚しても、対象を取るために逃げられてしまう。
「【レッド・リゾネーター】で【シルバーヴァレット・ドラゴン】をチューニング! 来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】!」
レッド・ライジング・ドラゴン ☆6 シンクロ 攻撃力2100
光の柱を燃やしながら、火の粉と共に竜が舞い上がる。火事でも起きそうだが、リアルではないソリッドビジョンなので何事も起きない。
「効果で墓地から【レッド・リゾネーター】を特殊召喚するが、何かあるか?」
「・・・・・・チッ、使うしかないな。【シューティング・ライザー・ドラゴン】の効果発動、相手ターンにシンクロ召喚を行う。【ホワイトローズ・ドラゴン】をチューニング、シンクロ召喚。咲き誇るは若き月、いでよ【月華竜ブラック・ローズ】!」
月華竜ブラック・ローズ ☆7 シンクロ 攻撃力2400
ライザーが光のリングにを変え、ホワイトローズを黒く染め上げる。成長したホワイトローズは月の輝きを纏った美しい竜となった。
「使ったか。強制効果の
「むう・・・・・・」
【レッド・リゾネーター】のライフ回復効果は相手モンスターも対象にできる。そして、【シューティング・スター・ドラゴン・
「人の悪い兄のことだ、【エンシェント・リーフ】でも握っているのだろう? ここで手札を増やされるのも面倒なのでな、シューティング・スターの効果発動だ! 墓地の【斬機ナブラ】を除外し、それを無効にし破壊する!」
安全策を取るならば、【レッド・ライジング・ドラゴン】を対象に取ればよかった。だが、紅蓮は『デュエル』がしたかった。相手との駆け引き、読み合いを楽しむデュエルを。
「ならチェーン4で【ヴァレット・トレーサー】の効果発動だ。【レッド・ライジング・ドラゴン】を破壊し、デッキから【マグナヴァレット・ドラゴン】を特殊召喚する」
マグナヴァレット・ドラゴン ☆4 攻撃力1500
トレーサーがライジングに突撃し、爆発四散。そこからマグナヴァレットが残骸として吹き飛び、トレーサーも何故か帰還する。
「そしてシューティング・スターの効果でリゾネーターを破壊、そしてブラック・ローズは対象不在、と。・・・・・・全く、見かけに寄らず面倒なことをするな、兄」
彼は不良のような見た目からは考えられないほど繊細なデュエルをする。まさか2ターン目からこんな駆け引きをさせられるとは思っておらず、花蓮はかなり精神的に疲弊していた。
「そりゃどうも。【ヴァレット・トレーサー】で【マグナヴァレット・ドラゴン】をチューニング! 燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
妨害を乗り越え、ようやく登場した紅蓮の魂のカード。中々出れなかったためか、鬱憤を晴らすように2割増で炎を撒き散らす。
「ようやくだぜ、効果発動! 自身の攻撃力以下のモンスターを全て破壊し、その数だけダメージを与える!」
「チッ、止められなかったか」
スカーライトがブラック・ローズを蹴り飛ばし、昼休みに倒し損ねたシューティング・スターを尻尾で回転しながら
灰村花蓮
LP7000→5500
「私のエースを蹴るとは無礼なっ! 【斬機マグマ】の効果発動、相手によって破壊されたことで、デッキから【斬機】魔法カードである【斬機方程式】を手札に加える!」
マグマが最期の抵抗として花蓮にカードを託して散る。嗚呼無情、花蓮のフィールドは全滅してしまった。
「バトルだ。スカーライトでダイレクトアタック!」
「チッ、受けよう!」
スカーライトが花蓮にブレスを吐き、ライフを削る。
灰村花蓮
LP5500→2500
かなりのダメージを受けた花蓮だが、その瞳から闘志は消えない。兄を、【レッド・デーモン】を相手にするならば、1ターンでこれくらいは普通である。むしろワンターンキルでないことを幸いと捉えるべきだ、と花蓮は前向きに思考する。
「これ以上は動けないな・・・・・・ターンエンドだ」
灰村花蓮
LP2500 手札5
□□□□□
□□□□□
□ レ
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札3
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト
花蓮の墓地には、既に二枚目のエースを出す準備が整っている。ならば、不用意にカードを伏せるのは危険だと紅蓮は判断した。
「では私のターン。・・・・・・そちらはモンスター一体だけか。まあ、やるしかないだろう」
花蓮のデッキは大量展開するデッキとは相性がいいが、紅蓮のような一体で闘うデッキとは余り良くない。だが、ファンデッキ故にやれる展開が限られる以上、どうにかするしかない。
「墓地の【星遺物-『星杯』】の効果発動、自身を除外し、デッキから【星杯の守護竜】を手札に加える。そして発動、効果で墓地の【ホワイトローズ・ドラゴン】を手札に加え、そのまま通常召喚!」
ホワイトローズ・ドラゴン ☆4 攻撃力1200
花蓮が繰り出したのは先のターンでも使った白薔薇の小竜。わざわざ通常召喚したのには意味がある。
「ホワイトローズの効果により、墓地から【レッドローズ・ドラゴン】を特殊召喚! そしてレッドローズでホワイトローズをチューニング!」
レッドローズ・ドラゴン ☆3 チューナー 守備力1800
白薔薇に連なり、赤薔薇もフィールドに咲く。そして、すぐさま光輪となった。
「シンクロ召喚! 万雷の喝采を持って迎えるがいい! いでよ【ブラックローズ・ドラゴン】!」
ブラックローズ・ドラゴン ☆7 シンクロ 攻撃力2400
白薔薇と赤薔薇が調律し、咲き誇るのは赤を含んだ漆黒の薔薇。こちらはブラックと名の付く割には赤要素が強めである。
「【ブラックローズ・ドラゴン】の効果発動! フィールドのカード全てを破壊する! それにチェーンし、レッドローズの効果発動。デッキより【ブルーローズ・ドラゴン】を特殊召喚する」
ブルーローズ・ドラゴン ☆4 守備力1200
赤薔薇が青薔薇を呼ぶが、即座に黒薔薇の爆発に巻き込まれる。
紅蓮魔竜も例外ではなく、黒薔薇の爆発により吹き飛ばされた。
「やってることは変わってないな! いつ見てもブルーローズが不憫でならねぇ」
「兄もトレーサーでライジングを破壊したのだ、同じようなものだろう? 【ブルーローズ・ドラゴン】の効果、破壊されたことにより、墓地より【ブラックローズ・ドラゴン】を特殊召喚する! 落陽にはまだ早いぞ!」
爆発が晴れると、そこには何食わぬ顔で佇む黒薔薇がいた。一度墓地へ行って蘇生されたのだが、まるで自分だけ生き残っていたかのような雰囲気だ。
「勿体ないが、使ってしまうか。【死者蘇生】を発動! 墓地から特殊召喚するのは【星杯の神子イヴ】だ」
星杯の神子イヴ ☆5 シンクロ チューナー 守備力2100
墓地より蘇る、【星杯】の神子。巫女からかなり偉くなったものだが、それまでの過程が壮絶過ぎるだめ喜ぶことはできない。何の話だ。
「バトルだ。ブラックローズでダイレクトアタック!」
「? ライフで受けるぜ」
灰村紅蓮
LP8000→5600
てっきり次のシンクロ召喚をすると思っていた紅蓮だったが、花蓮はその予想を裏切り攻撃に移った。
「・・・・・・何かあるな」
どんなことをするのかと口角を上げる紅蓮に、花蓮は余裕の笑みで拍手する。
「流石は兄。鋭いじゃないか。速攻魔法、【リミットオーバー・ドライブ】! ブラックローズとイヴをエクストラデッキに戻し、擬似アクセルシンクロを行う!」
「なっ、アクセルシンクロだと!?」
アクセルシンクロ自体は何度も見てきた紅蓮だが、まさか花蓮がそれを使うとは思わなかったのか、驚愕の声を上げる。
「まあ、『擬似』だかな。魔法カードによる特殊召喚のため、蘇生制限がかかるが・・・・・・まあ、それを帳消しにするほどのモンスターを出せばいいことだ。アルター・アクセルシンクロ! 【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】!】」
コズミック・ブレイザー・ドラゴン ☆12 シンクロ 攻撃力4000
イヴとブラックローズが消えると、数泊置いて空を突き破り白銀の竜が飛翔した。
「なるほど、『召喚条件を無視してシンクロ召喚扱いで特殊召喚する』から、ソイツも出せるのか」
「ああ。良いカードだろう?」
彼女を彩るように周囲を旋回するコズミックに、花蓮は得意気だ。
「まだ今はバトルフェイズ、コズミック・ブレイザー、追撃だっ!」
「いいぜ、食らってやるッ!」
灰村紅蓮
LP5600→1600
コズミック・ブレイザーのブレスを受け、初期ライフの半分を持っていかれる。重い召喚条件故の効果と攻撃力だが、こうも簡単に出されると少々納得がいかない。
「これでターンエンド。さて兄よ、これをどうやって超える?」
灰村花蓮
LP2500 手札5
□□□□□
□□□□□
コ □
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP1600 手札3
コ:コズミック・ブレイザー・ドラゴン
自身をターン終了時まで除外することで、召喚、特殊召喚、反転召喚、魔法・罠・モンスター効果の発動を無効にして破壊、そして攻撃を無効にしバトルフェイズを終了させるというトンデモ効果を持ったコズミックに、どう対処しようかと紅蓮は思考する。
「まあ、引いてから考えるか・・・・・・」
ここで【超融合】でも引けばモンスターをセットし発動、という芸当ができるのだが、生憎【超融合】も出すモンスターもデッキに入っていない。
ドローしたのは【エンシェント・リーフ】。さてどうしたものかと紅蓮は微妙な顔をする。
「その顔を見るに私のコズミック・ブレイザーを超えられないようだな! ふっ、兄に勝つのは久しぶりだな・・・・・・」
「おいおい、そのセリフは負けフラグだぜ?」
紅蓮は強気な花蓮をニヒルな笑みと共に軽く煽るが、正直これは強がりだ。突破できないこともないが、そうした発動かなりリソースを使う。が、突破出来ればこのターンで勝ちだ、やるしかない。
「【レッド・スプリンター】を通常召喚、効果発動! 墓地の【レッド・リゾネーター】を特殊召喚するぜ」
「うむ、構わん」
レッド・スプリンター ☆4 攻撃力1700
レッド・リゾネーター ☆2 チューナー 守備力200
赤い馬的なサムシングによって赤い悪魔が呼び出される。
「【レッド・リゾネーター】の効果、対象はコズミック・ブレイザーだ」
「むぅ。通しかあるまい」
赤い悪魔が光り輝く白銀の竜に難癖付けるように周囲を彷徨き、その輝きの一部をライフに還元する。
灰村紅蓮
LP1600→5600
花蓮としては余り通したくないのだが、ライフ的に【エンシェント・リーフ】はまだ使えない。ならば出てくるであろう【レッド・デーモン】を止めることを優先した。
「リゾネーターでスプリンターをチューニング、シンクロ召喚! 飛べ【レッド・ワイバーン】!」
レッド・ワイバーン ☆6 シンクロ 守備力2000
赤いモンスター達から調律された赤い飛竜。紅蓮のエクストラデッキは真っ白だが同時に真っ赤でもある。鮮血で染まったのかと疑っておこう。
「ワイバーンの効果発動だ、攻撃力の一番高いモンスター、コズミック・ブレイザーを破壊する!」
「チッ、使わざるを得まい! 【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】の効果発動、自身を除外することで、その効果を無効にし破壊するっ!」
飛竜が身体を回転させ、真空刃をコズミック・ブレイザーに飛ばすが、白銀の竜は流星となって迎え撃った。
「残り2500か・・・・・・やるしかねぇな。【復活の福音】を発動ッ! 蘇れオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
大地を割って炎が吹き出し、そこから紅蓮魔竜が復活する。攻撃力は3000、花蓮のライフを削り取るには十分だ。
「【バトル・フェーダー】とかがなけりゃオレの勝ちだ! バトル、スカーライトでダイレクトアタック!」
「むううぅ・・・・・・私の負けだー!」
灰村花蓮
LP2500→0
クリムゾンヘルタイドによって吹き飛んだライフ。花蓮のデッキは展開力に振っているため、防御札が少ないのだ。
「おい花蓮、なんで【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】出したターン、【ガーデン・ローズ・メイデン】の効果を使わなかったんだ? 【月華竜ブラック・ローズ】を出されていたら、オレは負けていたぜ?」
「・・・・・・そうか、しまったな。失念していた。コズミック・ブレイザーを出して満足してしまっていたらしい。私としたことが、情けない」
デュエルが終わり、ソリッドビジョンが消えると、紅蓮は花蓮に疑問をぶつける。花蓮は恥じらうように顔を赤くし背けながら、悔しそうに言った。『もしかしたら兄に勝てていたかもしれない』という事実が、より一層彼女の後悔を加させているのだろう。
「しかし兄よ。貴様も何だ、そのデュエルは。リンクモンスターを使っていないではないか」
もし【レッド・ライジング・ドラゴン】ではなく【
「あー、入ってないんだよ、リンクモンスター」
「何だと!? 少なくする、というならまだわかるが、入れていない!? 貴様は、相手を舐めているのか!?」
少し歯切れ悪く言った紅蓮に、花蓮は激昂する。下に見られることは、彼女にとって何よりの苦痛だ。
「いや、違ぇよ。自分磨きのためだ。『デュエル甲子園』の、せめて予選まではシンクロモンスターだけで勝てるようにしたい。それぐらい出来なきゃ、優勝なんて夢のまた夢だ」
彼女の怒りを、紅蓮は否定する。彼は自分を縛ることで、更に強くなろうとしているのだ。
「・・・・・・そうか。だが、それは愚行だ。それでは戦術の幅を狭め、いざリンクモンスターを使う時に使いこなせるかどうか、わからないだろう」
怒りを少し納め、だがそれでも否定する花蓮。紅蓮も、そのことはよくわかっている。
「まあ、そうだな。後は学校で『シンクロモンスターしか使わないデュエリスト』って有名になりゃ、デュエルする機会も増えるかと思ったんだが・・・・・・」
今思えば、それも悪手だろう。それで対戦してリンクモンスターを使えば、相手から文句を言われるかもしれない。
「けど、だ。オレは試したいんだよ。シンクロモンスターだけで、どこまで行けるのか」
ルールが変わり、リンク召喚が導入されたことによって、幾つものデッキが機能しなくなった。彼が使っていた【レッド・デーモン】はそこまで被害は大きくなかったが、それでも思う所はあった。
「これはオレの我儘だ。『デュエル甲子園』に出たい気持ちも本物だし、今のまま出て勝てるとは思ってない」
だから、それまでは。今のデッキのままで闘うと、彼は真剣な瞳で言った。
「・・・・・・そうか。兄のことだ、これ以上私から言っても聞かないだろう」
それはそれとして、と彼女は言葉を区切る。紅蓮が疑問符を浮かべて首を傾げるのとほぼ同時に、花蓮は紅蓮を睨んだ。
「『デュエル甲子園に出るつもりだ』などと、私は聞いていないが? 兄妹の間で隠し事はしない、という約束、忘れたとは言わせんぞ」
それは、二人が
「あ、いや・・・・・・まだ出れるって決まったワケじゃないし、それで出れなかったら格好悪いし・・・・・・」
「そうと知っていれば、私も色々手伝いが、出来たと言うものを・・・・・・兄のことだ、去年の出場者や対戦についてなど、興味のある部分しか見ていないのだろう?」
花蓮の言葉が図星だったのか、う゛と鈍い声を出す紅蓮。花蓮の眉間の皺が3割増で深くなる。
「全く、仕方のない兄だな、兄は。やる気や熱意はあっても、自分がどうでもいいと判断した部分ではものぐさになるのだから」
耳が痛い、と紅蓮は返すと、話は終わりだと言わんばかりにデュエルスペースを出た。
簡単なキャラクター紹介⑧
灰村花蓮
クスィーゼ西中学 二年
紅蓮の『妹』。兄のことを『兄』と呼び、紅蓮もまた彼女を『妹』と呼ぶ。これは彼らのちょっとした事情によるものだが、本編にそこまで関係ないので公開するかどうかは微妙。
基本怠惰でやりたいことしかしない主義。上から目線な態度も相まって、初対面の相手は不快に感じることが多い・・・・・・のだが。
調子に乗りやすいので扱いやすく、そして失敗した時は悔しそうな顔をし、孤立すると涙目になったりと庇護欲を掻き立てられるためかクラスでは人気者である。これが格差か。
【ブラックローズ・ドラゴン】や【シューティング・スター・ドラゴン・
身長は153、体重は(ブラック・ローズ・フレア)。女性陣は凶悪である。肩まである黒髪に黒目、少ない胸と凹凸のない身体だが、それすら魅力にするほどの美少女。だが性格が問題ありすぎて『彼女にしたいけどしたくない女子ランキング』では一位だった。どんなランキングだ。
追伸 ストーリーの展開上邪魔になる設定ができてしまったので、これまでの話に一部修正を加えました。
デュエル甲子園の出場人数 三人一組→一人
ご了承ください。
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柊太:二話
本編での登場はいつになることやら。
紅蓮とのデュエルのあった日の放課後、柊太は一人歩いていた。彼の家とは真逆の方向に歩みを進め、とある病院の前に到着する。
受付を済ませ、二階の奥にある病室へ向かい、扉を開ける。
「・・・・・・来たよ」
彼は柔らかな目でカーテンに閉ざされたベッドを見つめ、その横にある椅子に座る。
「今日、ある生徒とデュエルして来たんだ。ほら、前にも話したよね? 灰村紅蓮。エクストラデッキにシンクロモンスターしか入れていない、頭おかしい奴でさ」
彼はそのベッドに向かって話し始める。返答など、初めから求めていない。部屋にある音は彼の話し声と無機質な機械音、それと僅かな呼吸音だけだ。
「結局、勝負は付かなかったんだけど、多分、僕は負けてた。やっぱり、まだ使いこなせてないみたいだ。このカード達」
そう言って、彼はデュエルディスクのエクストラデッキから【スターダスト】達を取り出す。柊太はそのカード達を一瞥すると、折れない程度に強く握った。
「どうすればいいのかな。どうすれば、君みたいに上手くこのカード達を使えるのかな」
泣きそうな目で、彼はカーテン越しにベッドを見る。しかし、返事は返ってこない。
わかっていたことだ。それでも、少しの期待を抱いてしまった。
「・・・・・・そうだよね。うん、自分でなんとかするよ。今までもそうして来たんだし」
数秒経ってから、彼は無理矢理納得したように笑顔を作った。そして、「また来るよ」とだけ言って席を立つ。
デュエルディスクの時計機能で確認すると、一時間ほど話していたらしい。早く帰らなければ、と柊太は急いで部屋の扉を開け、病院を後にした。
ーーーーーーーーーー
柊太が自宅までたどり着くと、一人の男がカードの束をいじりながら家の門に寄りかかっている。
浅黒い肌は筋肉が付いており、着ている制服はかなりピチピチだ。髪は逆立っており、眉の太い強面がよく見える。
「お待たせ。待った?」
まるで待ち合わせした男女の挨拶。男はそのセリフに顔を上げると、怪訝そうにその太い眉を寄せた。
「大して待ってねえがよ・・・・・・そのセリフはどうなんだ?」
彼は
「セリフなんてどうでもいいよ。さ、入って入って」
柊太は自身のデュエルディスクを門の右端にあるインターホンのセキュリティシステムにかざし開門すると海斗を促しながら自身の家へと歩き始める。海斗は ヤレヤレと一つため息をついてから、それに続いた。
彼らは屋敷の様に大きな家の玄関を通り過ぎ、奥にあるデュエル場へと進む。柊太が少し苦労しながら重い扉を開け、中に入る。
「お前、筋肉落ちたか?」
「ッ、そう、かな?」
少し荒くなった息を膝に手を当てて整えながら柊太は恍ける。二週間ほど前―――デュエルスクールに編入するまで、かなり食事していた量が少なかったのだから、筋肉もそれ相応の落ちているのだろう。
「ったく、無理すんなよ? 扉くらい、俺でも開けられるしよ」
海斗は柊太が落ち着く間に軽くたしなめると、そのまま歩いて十メートルほど距離を取る。
「・・・・・・うし、やるか!」
「うん、よろしく」
海斗は腰の複数あるデッキケースの一つを開け、デッキをディスクのセット。柊太はただ構える。
「「デュエルッ!」」
宮津柊太
LP8000
武田海斗
LP8000
柊太の先攻となり、手札を見て数瞬考え、一枚のカードを手に動き出す。
「僕のターン、【ジャンク・コンバーター】の効果発動。手札の【ジェット・シンクロン】と共に捨てて、デッキから【ジャンク・シンクロン】を手札に加える。そのまま通常召喚、効果で【ジャンク・コンバーター】を特殊召喚、更に手札一枚をコストに墓地の【ジェット・シンクロン】を特殊召喚」
流れるように特殊召喚されていくモンスター達。ただ彼の脳内にあるのは、どんな展開をするか、どのような盤面にするか、それのみ。まだ少し自己中心的だ。そのことに気付かず、彼は続ける。
「【ジェット・シンクロン】と【ジャンク・シンクロン】をリンクマーカーにセット、リンク召喚! 【
【
「ハリファイバーの効果でデッキから二体目の【ジャンク・シンクロン】を特殊召喚。【ジャンク・シンクロン】で【ジャンク・コンバーター】をチューニング!」
集いし星が、鋼に打ち勝つ戦士となる!
「シンクロ召喚、【星杯の神子イヴ】」
星杯の神子イヴ ☆5 シンクロ チューナー 守備力2100
詠唱を全く無視して現れる【星遺物】における悲劇のヒロイン。*1
「イヴの効果でデッキから【星遺物を継ぐもの】を手札に加えて、コンバーターの効果で墓地から【ジャンク・シンクロン】を特殊召喚。【星遺物を継ぐもの】を使ってコンバーターも蘇生するよ」
過労死する勢いで光の輪になったり復活したりする【ジャンク】の二体。これぞ正にジャンク品扱いと思ったが【スクラップ】には負けるのでまだまだ未熟だった。
「おーおー、よく動くなぁ」
関心したように漏らした海斗の言葉には答えず、柊太はただディスクに並んだカードを見ているだけだ。
「【ジャンク】二体で更にシンクロ召喚、【TGハイパー・ライブラリアン】」
TGハイパー・ライブラリアン ☆5 シンクロ 攻撃力2400
キラリと眼鏡を輝かせ、本を片手にポーズを決めるライブラリアン。時間が止まったりすることはない。
「これくらいが精々かな。ターンエンド」
宮津柊太
LP8000 手札2
□□□□□
T□星□□
水 □
□□□□□
□□□□□
武田海斗
LP8000 手札5
T:TGハイパー・ライブラリアン
星:星杯の神子イヴ
水:
回した割にはどこか中途半端な盤面の柊太。【TGハイパー・ライブラリアン】ではなく【転生竜サンサーラ】だったならば【琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ】を警戒したが、そんなことはなさそうだ。
(・・・・・・拍子抜けだな。デュエルの相手をしてくれと言うから来てみれば)
海斗が柊太の家に来た理由は、それだった。塞ぎ込んでいた友人が復活したと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
失望をその瞳に浮かべて彼を見てみれば、こちらではなくディスクにのみ目を向ける柊太の姿があった。
「俺のターンだ」
少々荒々しくカードを引き、彼は自身の衝動のままディスクに叩きつけた。
「【
【アンティーク・ギア】における最強の初手によって効果音と共に人間サイズから大きくなった巨人*2とガシャガシャと金属音を鳴らし飛び足掻く飛竜。特防ががくっと下がることはないが、代わりにサーチ効果がある。
「ワイバーンの効果でデッキから【
ディスクによってデッキから飛び出したカードを人差し指と中指で挟み手札へと加えてから、海斗は柊太へと視線を戻す。彼は突然見られて首を傾げるだけだった。
(普通、ここで察するんだがな・・・・・・)
片手で額を押さえ、皺の寄った眉間を広げる。恐らく柊太は【サテライト・ウォリアー】をシンクロ召喚するつもりなのだろうが、それならばこのタイミングが最適である。そうしないのは、知識の問題もあるが、彼の内面もあるのだろう。
「【
「ッ、デッキ融合!?」
驚く柊太だが、もう遅い。遊戯王に巻き戻しはあっても戻るステップ*3はないので止めることはできない。手札誘発幼女さん*4こちらです。
「場の【
【
「【
巨大な兵器の塊が人の形をしたもの。
「バトルだ!」
「メインフェイズ終了時、ハリファイバーの効果発動。自身を除外して、【シューティング・ライザー・ドラゴン】を特殊召喚! 効果でデッキから【レフティ・ドライバー】を墓地に送って、レベルを二つ下げる!」
シューティング・ライザー・ドラゴン ☆7→5 シンクロ チューナー 守備力1700
光の柱から現れた光の竜は、すぐさま光の輪へと自身の姿を変える。忙しいな。
「ライザーの効果でシンクロ召喚を行うよ! アクセルシンクロ、【サテライト・ウォリアー】」
サテライト・ウォリアー ☆10 シンクロ 攻撃力2500
混沌の巨人に対抗するべく衛生ゼアの作り出した新たなる兵器(という設定があったら格好いいな)。お互いレベル10とエクシーズできるほど仲良しである。敵キャラ設定はどこに行ったのか。
「【サテライト・ウォリアー】の効果発動。シンクロ召喚成功時、墓地のシンクロモンスターの数だけ相手のカードを破壊し、破壊した数だけ攻撃力が上がる。対象はカオス・ジャイアントとワイバーンだ」
月から一筋の光を受け、どこからか持ってきた主砲を構えてツインサテライトキャノン。一気に宇宙世紀な絵面になった。
サテライト・ウォリアー 攻撃力2500→4500
「その程度かよ・・・・・・【ブンボーグ003】を召喚ッ、効果でデッキから【ブンボーグ001】を特殊召喚ッ!」
ブンボーグ003 レベル3 攻撃力300
ブンボーグ001 レベル1 チューナー 攻撃力100
現れたのは先ほどまでとは全く毛色の異なるファンシーなモンスター達。ワンキル火力を備えつつ【幻獣機アウローラドン】の登場によりソリティアパワーも上がっている機械戦士【ブンボーグ】である。
「開け、ロマン溢れるサーキット!」
口上と共に現れるのは八つのマーカーの付いた回路。ロマン、というのは彼が
「召喚条件は地属性・機械族モンスター二体! 【ブンボーグ】二体をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン!」
二体の筆箱戦士が竜巻となってマーカーを色づける。場所は右、左下。
「リンク召喚、【
現れたのは弩級の弓を左手に宿した新たな【アンティーク・ギア】。古代なのか新しいのかよくわからないが、きっと遺跡から新たに発見されたとかそんなところだろう。
強敵を倒したと思ったら新型が出てくるというありがちな展開をやってのける海斗。やはりこのロマン男をわかっている。
「効果でデッキから【
弩弓兵がボウガンで衛
「更に、破壊された【
鎧を付けていない、細身の機械兵器が駆動する。ちなみにこのモンスターの
「もう一度開け、ロマン溢れるサーキット! 【
弩弓兵と細身が竜巻となって再び回路を彩る。場所は右下と左下。この時点で嫌な予感しかしない。
「リンク召喚、【
大地を割って現れたのは、長い胴を持つアナコンダのモンスター。機械族デッキに何故、という疑問に無理矢理理由を作るならば、『管理しようとして暴走した生物兵器』といったところだろうか。苦しいか。
「【
アナコンダが到底植物族とは思えない咆哮をあげ、影の薄くなっていた【星杯の神子イヴ】がビクつく。眼福である。
「墓地へ送るのは【オーバーロード・フュージョン】。その効果により、墓地の【アンティーク・ギア】四体で融合する!」
武田海斗
LP8000→6000
アナコンダが海斗に噛み付き、その
「融合召喚、【
二体目。エクシーズ次元ではこの絶望が何度もあったというのだから恐ろしい。
しかし柊太は恐れることなく普段通りである。それは勇気故か、はたまた無知故か。
「・・・・・・はあ、【
混沌の兵器が駆動し、右腕の砲塔を二体のモンスターへ向ける。
「だけど、それだけじゃ僕のライフは削りきれない」
「そうだな」
笑みすら浮かべる柊太だが、海斗は残った手札二枚の片方をディスクにセットする。
「俺がコレを、握ってない訳ないだろ? 【リミッター解除】!」
バキン、と音を立てて【
「ッ、そっか、そうだった・・・・・・」
機械族大好きなこの男は、初手に9割の確立で【リミッター解除】を引き込むのだ。それで【リミッター解除】を三枚引いて動けなくて、『彼女』と笑ったこともあったなと柊太は思い出した。
「やっと、こっち向いたか・・・・・・」
いつまでも手元を見ていた柊太だったが、ようやくこちらを見た。懐かしむように、思い出に浸るように。
だがそれは、巨人の放った砲撃によって一瞬で見えなくなった。空気の読めない機械だ。
宮津柊太
LP8000→0
全体攻撃も、守備貫通も関係なく、ただパワーによって吹き飛ぶ柊太のライフ。ただのソリッドにジョンでよかったとつくづく思う。こんなの受ければ、一瞬で消し炭だ。
「・・・・・・んで、少しは調子を取り戻したか? あんなデュエル、前のお前はしてなかっただろ」
その太い腕を組み、こちらを気遣う海斗に、柊太は力なく笑った。そして「どうだろうね」と誤魔化すように言って、肩を竦める。
「やっぱり、僕弱くなってる?」
デュエル場を出、屋敷へと向かいながら、改めて柊太は海斗へと問う。
「ああ。相手全然見ていない感じで、『アイツ』と出会う前のお前みたいだったな」
うーん、と柊太は唸る。自覚してはいるのだが、直せない。いや、昼間に自覚
「何て言うか、デュエルしていると、どうしても意識しちゃうんだ」
何を、と海斗が問う前に柊太は玄関の鍵を開けながら言う。
「『彼女』だったらどうするか、とか。どんな表情でいるのか、とか」
「・・・・・・・・・・・・」
それを聞いて、海斗は言葉に詰まった。
『彼女』は、海斗にとって友人であり、柊太にとっては両親以上に大切な存在だった。もしかしたら、海斗よりも。
そんな彼女が事故に合ったのが、三月の始め。三人でデュエルスクールの合格発表を見た、帰りだった。
全員合格して、同じクラスだといいねって笑い合って、そして
「・・・・・・悪い」
罪悪感から出た言の葉は、柊太にまでは届かなかったらしい。こちらを振り返る彼に何でもない、と返して、海斗は家へ入る。
「それじゃ、お茶でも出すよ。海斗は座ってて」
「ああ。そうさせてもらう」
そんなに時間は経っていないはずだが、もう何年も来ていなかったような懐かしさに、海斗は軽く息をつく。
『彼女』が入院して、お互いに変わった。柊太は塞ぎ込んで家から出なくなり、海斗はアカデミアの二次募集へ合格した。柊太は足を止めて、海斗は駆け足になった。そんな違いが、互いの中にある。
「それじゃ、少しゆっくりしようか。そしたら、僕のデッキを見て欲しいんだ」
柊太が入れた紅茶は『ブレン
それからしばらくして。
「デッキに機械族足りないだろ! 後エクストラも【スターダスト】と【ウォリアー】ばっかじゃなくて機械族をだなぁ!」
「そんなに枠ないよ! これでも結構ギリギリだっていうのに、あっ【リミッター解除】入れるな、誰に使うんだッ」
「わ、忘れてた・・・・・・海斗はこういう奴だった・・・・・・」
少し散らかった部屋で呼吸を整える柊太。海斗は帰
デュエル以上に体力を消耗した彼は、風呂にも入らず制服のままベッドへ沈んだ。
簡単なキャラクター紹介⑨
武田海斗
デュエルアカデミア南支部 オベリスクブルー一年
柊太の幼馴染みで、デュエルアカデミアに通う。アカデミア入学以前は【機械族】を使ったデッキを複数使っていたが、最近は【アンティーク・ギア】に絞っているらしい。
柊太のことを気にしてはいたが、立ち止まっても『彼女』は喜ばないだろう、という思いからデュエルアカデミアへの入学を決意した。
筋肉隆々で太い眉に逆立った黒髪、強面とカタギに見えない外見をしているが、ただの一般人である。と、紹介しなければ命を狙われるくらい怖い両親を持つ。
【
最近文字数が少なくなってきたので、もっと精進します。
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紅蓮:七話
【レッド・ライジング・ドラゴン】が売ってない・・・・・・。
新ルールが発表された。
これにより多くのデッキが蘇り、多くのデッキが見直しを余儀なくされ、多くの満足民が咆哮を上げ。
そして紅蓮は、少し気分を落としていた。
(いや、嬉しいっちゃ嬉しいんだけどさ・・・・・・)
柊太とデュエルしてから数日。目を合わせようとしない彼にどうしたものかと頭を捻る日々だったが、新ルールで更に混乱した。
新ルール自体は嬉しい。喜ぶべきことだ。
しかしリンクモンスターのルールに思うところがあったからこその真っ白なエクストラデッキ。それが今では普通のエクストラデッキである。
(出鼻を挫かれたというか、何というか・・・・・・)
先生が喜びの余り有給を取って研究しているというので自習になった『不動性ソリティア理論』の授業に頬杖をついて脱力する紅蓮。一応脳内ではサブデッキとしての【ソリティアレモン】を構築しながら、その姿はやる気なさげであった。デュエリストならばこの程度できて当然である。
「意外だな、灰村ならもっと喜んでそうなのに」
前の席の野呂が紅蓮の様子に首を傾げると、その隣の席の栗原がそうだね、と頷く。
しかしその手は机に広げた自身のデッキのカードを入れ替え、纏め、一人回しからまた広げて入れ替えを繰り返していた。
栗原 盤面
□□□□□
シコシコシ
□ コ
□ラララ□
□□□□□
シ:シューティング・ライザー・ドラゴン
コ:コズミック・ブレイザー・ドラゴン
ラ:ラーの使徒
六十枚デッキ、相手が四十枚想定の【隣の芝刈り】スタートでこの有様である。盤面に並べた順番に悪意はない。というか『シ』が【シューティング・クエーサー・ドラゴン】ではなく【シューティング・ライザー・ドラゴン】である時点でまだまだである。制圧としては【ラーの使徒】だけでも十分なのだが。
「うわ、手が4つに見える・・・・・・やっぱ俺はデュエリストにはなれなそう・・・・・・」
野呂が一人戦慄しているが、実際は手札誘発などで止まるため、精々【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】一体程度である。それでも十分な気もするが。
「はあ、このクラスにマトモなのはいないのか・・・・・・」
紅蓮が盛大なブーメラン発言をしながら教室の右後ろにたむろしている三人の男子生徒へ目を向けると、彼らは『サモン・ソーサレス陵辱』(ある日突然
ーーーーーーーーーー
自習時間が終わり、昼休みを告げるチャイムが鳴る。日直がかける号令に合わせて紅蓮も起き、マンガをしまった男性教師に礼。
どうやら紅蓮以外誰も男性教師を見ていなかったようで、彼の本についての話題は一切出ない。まあ自習なんてそんなものか、と一人納得して、紅蓮は弁当箱を取り出す。
「野呂、一緒に食うか?」
「ごめん、今日補習があって」
補習、とは言うが、彼はそこまで成績が悪い訳ではない。ルールが新しくなったことで、大会運営等での裁定に多少の変更があるため、それについてだろう。彼は大会運営を目指してこの学校に来た、と以前言っていた。
「そか。呼び止めて悪かったな」
その紅蓮の言葉は届いたのかどうか。野呂はさっさと教室を出てしまった。
「さて、どうするか」
弁当の中身を箸でつつきながら考える。
今日も懲りずに先輩へ果たし状を送っていたのだが、新ルールでデッキを見直す、ということで断られてしまった。それ故やることがなく、野呂を誘ったのだが。
(・・・・・・まあ、デュエル場にでも行ってみるか)
そうと決まれば早い。紅蓮は弁当をかき込み片付けると、足早に第三デュエル場へ向かう。
デュエル場では、まだ昼休みの早い時間にも関わらずデュエルが行われ、観客もそれなりの数がいた。
「フッフッフ! 【
奥で高笑いしているのは華道雪村。はっちゃけすぎたかな?と笑みを浮かべる彼は出番がなかったことを気にする様子もない。
「まあ、雨四光のバーンと【契約書】のダメージで終わりだろうけどね?」
「いや、まだだ。墓地の【DDD極智王カオス・アポカリプス】の効果発動! フィールドの【地獄門の契約書】【魔神王の契約書】を破壊し、墓地から特殊召喚する!」
相対するのは赤羽五河。残りライフはわずかで、かなり劣勢だ。三枚と少ない手札で、タイムを宣言し長考に入った。
「あ、隣いいか?」
紅蓮は知り合いの顔を見つけ、答えを聞く前に空いていた席につく。
「貴方ねぇ・・・・・・せめて答えを聞いてからにしなさいよ」
こちらにジト目を向けてくるのは藤堂千歳。その隣でデュエルにのめり込んでいるのは遊弋鈴だ。過去キャラのオンパレードである。
「というか、よく私の隣に座れるわよね。あんなことあったのに」
「あれは勘違いが元だろ。そんなことを一々気にする程暇じゃないんだよ」
後、言われるまで忘れていた。そうぬけぬけと言った彼に千歳は呆れ顔を作ってため息をつく。
「それより、今はどういう状況なんだ?」
「はあ・・・・・・華道先輩が先攻でソリティアしてあの二体を揃えて、赤羽先輩がそれを突破して、五光の効果で雨四光が出て来て反撃、赤羽先輩が更に巻き返して、【花合わせ】と【死者蘇生】を使って五光と雨四光を揃えた、ってところよ」
なるほど【
「つーか、今日は人が多いな。まだ昼休み始まったばっかりだろ」
「新ルールのせいで『クリスト論』と『不動性ソリティア理論』が自習だったのよ。それで早弁したんでしょ」
まあ、私もその一人だし、と言う千歳。鈴もいるということは、彼女も早弁したのか、と紅蓮は意外に思った。そんなことをするタイプには思えなかったのだ。
「そうか・・・・・・『クリスト論』は前ルールでこそ生きたからな・・・・・・」
【
(【琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ】を相手ターンに出すルートとか考えてくれたっけな・・・・・・いい先生だったぜ)
少し曇った空へ向けて敬礼する紅蓮。だが学年ごとに教師が異なっているため、紅蓮のクラスの担当をしている『クリスト論』の教師は学校に来ている。なんて勤勉。
「【DD魔導賢者トーマス】をペンデュラムスケールにセッティングし、効果発動! エクストラデッキの【DDD運命王ゼロ・ラプラス】を手札に加え、セッティング! その効果でエクストラデッキの【GOーDDD神零王ゼロゴッド・レイジ】を手札に加える!」
長考を終え、カードを発動していく五河。彼の声に、千歳と紅蓮もそちらを向く。
「ペンデュラム召喚、【DDネクロ・スライム】【DD魔導賢者コペルニクス】! コペルニクスの効果で【DDスワラル・スライム】を墓地へ送り、効果発動! 手札から【GOーDDD神零王ゼロゴッド・レイジ】を特殊召喚!」
二体の【
「トーマスとゼロ・ラプラスの動き綺麗だな・・・・・・そこまで考えていたのか」
「長考してたし、そうでもないんじゃない? まあそれも想定してデッキは組んだんでしょうけど」
普段は【グッドスタッフ】に近い、コンボ等とは縁のないデッキを使っている千歳だが、彼女とてデュエルスクールの生徒。ましてや校内で名前の知れ渡っている赤羽五河のデッキなのだから、研究していて当然だろう。紅蓮も同じだ。
「ゼロゴッド・レイジの効果発動! 自身のモンスター一体をリリースし、相手の手札、墓地のモンスターをゼロとして扱う! 更に発動、リリースし相手の場、墓地の魔法・罠をゼロとして扱う! そして最後だ、効果発動! リリースし、相手の場のモンスターそゼロとして扱う! ゴッドフォース
「なっ!? そっか、ソイツがいたか・・・・・・」
ゼロゴッド・レイジが三体のモンスターを取り込み、『ゼロ』の力を相手へ押し付ける。正確には魔法&罠ゾーンのカードの効果、手札・墓地のカードの効果の発動を封じ、直接攻撃を可能にする、という効果だが、
「バトルだ! 【GOーDDゼロゴッド・レイジ】で攻撃! ゴッドフォース
ゼロゴッド・レイジには相手のライフが4000以下の場合その数値分の攻撃力を得る効果があり、雪村のライフは4000を下回っている。
「くっ、これで勝ったと思うなよ!」
三下のようなセリフを吐いて、ゼロゴッド・レイジの攻撃を受ける雪村。『勝ったと思うな』とは言うが、普通に勝ちである。
だが五河は静かに一つ笑い、右手でメガネに触れる。
「フッ、これで俺の31勝28敗・・・・・・随分差が開いたな」
「いや、それ今年の勝敗でしょ? 通算なら782勝763敗で僕が勝ってるよ」
妙な張り合いを始め、もう一戦するかとお互い構えるが、次に使う人のことを考えて退いた。流石は三年生、と思ったが観客席を使ってテーブルデュエルを始めたのでそうでもないなと目を外した。
しかし、興奮するデュエルだった。全て見たワケではないが、燃えてくる。後でパソコン室を使おう、と心に決めながら、紅蓮は腕を組む。
「すご、かった・・・・・・あ、ぇと、灰村、くん・・・・・・」
そしてようやくこちらに気付いたらしい鈴。よほどデュエルに集中していたのだろう。彼女は目が見えないため、デュエルの状況を把握するには聴覚に頼るため
「よう。久し振りだな」
「ぁ、久し振り、です・・・・・・」
軽く手を上げて挨拶しる紅蓮に、つっかえながら応じる鈴。やはりまだ慣れないか、と残念に思う紅蓮と、彼を軽くねめつける千歳。恐らく紅蓮の座った席が空いていたのも、彼女が睨みを効かせていたからなのだろう。鈴がそれを迷惑に思っていない辺り、いい友人関係なのかもしれない。
さて次は誰のデュエルだろうかと視線を移すと、そこには意外な人物がいた。
「よろしくお願いします」
「・・・・・・あぁ」
片方は、
そして、彼と向かい合うのは宮津柊太。少し古い型のディスクを構え、正面を見据える。
「・・・・・・いくぞ」
「「デュエルッ!」」
影裏通
LP8000
宮津柊太
LP8000
先攻は通。彼は片目を隠すほど長い前髪の下で目だけを動かし、手札を見る。
「・・・・・・【レスキューキャット】を召喚」
レスキューキャット ☆4 攻撃力300
現れたのは彼に似付かわしくない猫が現れると、観客の約半分が悲鳴を、一部は黄色い声を上げる。前者は恐ろしい呪文『サモサモキャットベルンベルン』を知る者、後者は単純に見た目の可愛さからだ。
「【レスキューキャット】の効果、発動・・・・・・自身を墓地へ送り、デッキからレベル3以下の獣族モンスター、【ライトロード・ハンター ライコウ】二体を特殊召喚」
ライトロード・ハンター ライコウ ☆2 リバース 守備力100
猫に呼び出されたのはすこし前に闇落ちした光の尖兵。この動きだけでは何のデッキかよくわからない。
「ライコウ二体をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン・・・・・・リンク召喚、【サブテラーマリスの妖魔】」
サブテラーマリスの妖魔 link2 リンク 攻撃力2000
召喚条件はリバースモンスター二体。なるほどこんな出し方もあるのかと紅蓮は唸った。自分とのデュエルでは見れなかった動きだ。
「影裏の奴、容赦ないわね・・・・・・」
隣で千歳が呟いているが、両サイドの鈴と紅蓮の耳には入らない。どちらもデュエルを見る時は集中する
「【地中界シャンバラ】を発動・・・・・・効果処理としてデッキから【サブテラーの導師】を手札に加える」
俗に言う【導師ビート】というデッキの格となるカードだ。【サブテラー】最強のカードと言っても過言ではない。
「妖魔の効果発動。ターンに一度、手札からリバースモンスターをリンク先に伏せ、デッキからリバースモンスターを墓地へ送る・・・・・・導師を伏せ、【シャドール・リザード】を墓地へ」
【シャドール・リザード】の効果で【
「シャンバラの効果・・・・・・ターンに一度、場の【サブテラー】を反転させる。反転召喚【サブテラーの導師】」
サブテラーの導師 ☆4 リバース 守備力1800
奇妙な仮面を被った白竜が反転する。このモンスターはドラゴン族なので、やはりドラゴンは環境に連なるほど強いということだろう。虚しくなってきた。
「導師のリバース効果、妖魔の誘発効果が発動・・・・・・妖魔の効果でデッキから【
これで手札は五枚、そして墓地も肥えている。派手さはないが、確実にアドバンテージを稼いでいる。
「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
影裏通
LP8000 手札4
□□□□■
□□導□□地
□ 妖
□□□□□
□□□□□
宮津柊太
LP8000 手札5
妖:サブテラーマリスの妖魔
導:サブテラーの導師
地:地中界シャンバラ
柊太のターン。デュエルが始まってから一言も発していない彼の方へ目を向ける。また手札と睨めっこして相手を見ていないのだろう、という紅蓮の予想は、いい意味で裏切られた。
彼は、ただ真っ直ぐ通を見つめていた。自然体で、口を横に結んで。
「僕のターン」
宣言と共にドローカード。手札を見ながら、時折ディスクを操作し状況を確認している。
「【調律】を発動。デッキから【シンクロン】を手札に加え、デッキトップを墓地へ送る」
「・・・・・・」
無言を肯定と受け取り、【ジェット・シンクロン】を手札へ。そして妨害のタイミングを予測しつつ、次の手を打つ。
「【ジャンク・コンバーター】の効果発動、【ジェット・シンクロン】と一緒に捨てて、デッキから【ジャンク・シンクロン】を手札に加える」
恐らく次に来るだろうな、と紅蓮は悟った。それを柊太も感じているのか否か、【ジャンク・シンクロン】を通常召喚する。
ジャンク・シンクロン ☆3 チューナー 攻撃力1300
「【ジャンク・シンクロン】の効果発動、墓地からレベル2以下のモンスターを特殊召喚する」
「チェーンして【サブテラーの導師】の効果だ・・・・・・【ジャンク・シンクロン】を裏返す」
導師が仲間を呼ぶジャンク・シンクロンを剣で殴り、カードを反転させる。
「特殊召喚するのは【ジャンク・コンバーター】、そして墓地からの特殊召喚に成功したことで、【ドッペル・ウォリアー】を特殊召喚する」
ジャンク・コンバーター ☆2 守備力200
ドッペル・ウォリアー ☆2 守備力800
連続して並ぶモンスター達。通のような堅実さはないが、瞬発力があるのが柊太のデッキだ。
「手札一枚をコストに【ジェット・シンクロン】を特殊召喚、そして【ドッペル・ウォリアー】【ジャンク・コンバーター】をチューニング、シンクロ召喚。【ジャンク・スピーダー】」
ジャンク・スピーダー ☆5 シンクロ 攻撃力1800
現れたのは白銀のボディを持つ【ジャンク】の新人。とは言え一年前のカードだが、入社二年目はまだ新人の範囲だろう。
「スピーダーがチェーン1、チェーン2で【ドッペル・ウォリアー】の効果発動」
「・・・・・・手札の【サブテラーの妖魔】の効果発動だ。導師を裏返し、ドッペルの効果を無効にする」
【ジャンク・コンバーター】は対象不在のため不発だ。デュエルモンスターズは『空打ち』*1ができないため、【ドッペル・ウォリアー】を無効化させない*2ことはできなかったが、【サブテラーの妖魔】を使わせたので十分だろう、と紅蓮は顎に手を当てる。
「スピーダーの効果でデッキからレベルの異なる【シンクロン】モンスター、【ジャンク・シンクロン】と【ジェット・シンクロン】を特殊召喚」
ジェット・シンクロン ☆1 チューナー 守備力0
ジャンク・シンクロン ☆3 チューナー 守備力500
裏側のままの【ジャンク・シンクロン】に煩わしそうに眉をしかめてから、柊太は続ける。
「墓地の【ボルト・ヘッジホッグ】の効果発動、場にチューナーがいることで自身を特殊召喚、【ジャンク・シンクロン】で【ボルト・ヘッジホッグ】をチューニング、シンクロ召喚。【アクセル・シンクロン】」
アクセル・シンクロン ☆5 シンクロ チューナー 守備力2100
光輪と光点から現れたメ蟹ックのバイクがトランスフォー厶し人型となる。形状的にはオートボット。*3
「まだまだ、【アクセル・シンクロン】で【ジャンク・スピーダー】をチューニング、アクセルシンクロ。【サテライト・ウォリアー】」
サテライト・ウォリアー ☆10 シンクロ 攻撃力2500
柊太のターンに現れた衛星戦士に、紅蓮は目を細める。前は相手ターンに出すことに固執していたように感じたが、今はそうでもないらしい。
「サテライトの効果発動、対象は
どこからか取り出したキャノン砲を取り出す【サテライト・ウォリアー】に、通は隠れた目ごと双眼を細め、ディスクの液晶へ触れる。
「リバースカード、【
ウェンディが裏側のカードを風で操り、自身と共に融合する。
エルシャドール・シェキナーガ ☆10 融合 守備力3000
サテライト・キャノンの一つは空振り、もう一つは【サブテラーマリスの妖魔】を撃ち抜いた。
サテライト・ウォリアー 攻撃力2500→3500
「墓地へ送られた【
これでモンスターの数は回復した。柊太は少し動揺し、ここからどう動くか考え込もうとして、やめた。
そして、もう一度盤面、その奥の通へと目を向ける。
(今伏せた【シャドール・リザード】は墓地の【
紅蓮は柊太を見ながら、ニヤニヤと口元を歪めている。
そしてそれを気味悪げに少し身を引きながら眉をピクつかせる千歳。
「貴方、ゾッとするほど笑顔が似合わないわね・・・・・・」
「ヒデェなおい。言われ慣れてるけど」
少し悲しそうな顔を作ってから、何でもないようにデュエルへと意識を戻す。さて柊太はどうするか。
「・・・・・・場にチューナーがいることで、【ブースト・ウォリアー】を特殊召喚。【ジェット・シンクロン】で【ブースト・ウォリアー】をチューニング、シンクロ召喚。【フォーミュラ・シンクロン】」
フォーミュラ・シンクロン ☆2 シンクロ チューナー 守備力1500
ミニ四駆型の希望の光がシンクロされ、強制効果で一枚ドロー。通はそれには反応せずスルーした。合計レベルは12、シンクロ召喚するであろうモンスターに使った方がいい。
「バトルフェイズに入る」
「・・・・・・何?」
予想を裏切ってバトルを宣言する柊太。ならばと通は動く。
「スタートステップ、墓地の【
色の薄い糸によって【シャドール・リザード】のカードが反転し、【サテライト・ウォリアー】の影が纏わりついて引きずり込もうとする。
「速攻魔法、【リミットオーバー・ドライブ】! フィールドのシンクロモンスターとシンクロモンスターのチューナーをエクストラデッキに戻して、疑似アクセルシンクロを行う!」
影に沈みかける【サテライト・ウォリアー】が光点に、【フォーミュラ・シンクロン】が光輪へと転じて一つになる。
「アルター・アクセルシンクロ! ―――彼女の想いの結晶よ、今光となって舞い降りよ。【聖珖神竜スターダスト・シフル】!」
聖珖神竜スターダスト・シフル ☆12 攻撃力4000
まばゆい光が収まると、そこには白い閃珖竜がいた。
ひゅう、と一つ紅蓮は口笛を吹く。
【シャドール・リザード】の効果を使わせた上でアクセルシンクロ、それも破壊耐性と無効効果を持つシフルだ。もし通が【エルシャドール・ネフェリム】などを出したとしても、一方的に破壊することのできるモンスター。
ふと紅蓮は偉そうな妹のことを思い出した。あちらは【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】を出していたが、【リミットオーバー・ドライブ】を使っていたし、話が合うのではないだろうか。今度会わせてみよう、と思いつつデュエルへ集中する。口笛を吹いたことで睨んでくる千歳は気にしない。
「【聖珖神竜スターダスト・シフル】で【エルシャドール・シェキナーガ】に攻撃!」
シフルが飛翔し、太陽を背にして止まると、そこから光のブレスでもってシェキナーガを攻撃する。
ガラガラと音を立てて崩れるシェキナーガを一瞥し、通は表情を変えずに効果を使う。
「【エルシャドール・シェキナーガ】の効果発動・・・・・・墓地の【
先ほどまでは【サブテラー】の動きだったというのに、今では完全に【シャドール】だ。どちらもサーチやリクルートに優れていて共通する部分もあるので状況に合わせて選んでいるのだろう。
「ここまでだね・・・・・・ターンエンド」
影裏通
LP8000 手札4
□□□□□
□□□□リ地
□ □
□□聖■□
□□□□□
宮津柊太
LP8000 手札2
リ:シャドール・リザード
聖:聖珖神竜スターダスト・シフル
■:伏せ
モンスター地:地中界シャンバラ
通のターン。彼は眩しいくらいに輝く白竜に目を細め、それからカードを引く。
(さて、後は影裏先輩のデッキに、これを突破できるカードが入っているかどうかだな)
以前紅蓮がデュエルした時は、先ほどの柊太と同じようにチューナーを潰され、更に展開しようとして【サブテラーの妖魔】に止められ、そのまま何も出来ずに負けた。
この手のコントロールデッキは、一度突破されると立て直しが難しいのが弱点だ。しかし通の手札はドローして五枚、初期手札と同じと考えれば、動けないことはないだろう。
しかし、柊太のフィールドには破壊耐性を持ち、ターンに一度モンスター効果を止められる【聖珖神竜スターダスト・シフル】がいる。これを突破するのは【レッド・デーモン】を使う紅蓮でも難しい。
「・・・・・・俺のターンだ」
引いたカードを見て、ふっと一つ息を吐く。
「どうやら、運は俺に見方したらしい・・・・・・手札一枚をコストに・・・・・・」
その発動コストで、紅蓮は察した。多分、隣の二人も、柊太も。
「発動せよ、【超融合】!」
【聖珖神竜スターダスト・シフル】と【シャドール・リザード】とが融合し、新たなモンスターに生まれ変わる。
「融合召喚、【エルシャドール・ネフェリム】!」
エルシャドール・ネフェリム ☆8 融合 攻撃力2800
【ジェムナイト・ラズリ】が闇落ちした姿。『闇落ち』だと【ヴェルズ】っぽいので今後シャドール化することを『影落ち』と呼ぶのはどうだろうかと提案してみる。【ヴェルズ】の場合『ウイルス落ち』の方がいいのだろうか。薄い本が厚くなりそうな単語である。
「・・・・・・ネフェリムの効果でデッキから二枚目の【
巨大な人形が糸によって動かされ、その拳を伏せられていた【ジャンク・シンクロン】へ振り下ろす。
だが、これ以上展開は出来ないのか、モンスターを伏せてターンを終える。
影裏通
LP8000 手札2
□□□□□
□□ネ■□地
□ □
□□□□□
□□□□□
宮津柊太
LP8000 手札2
ネ:エルシャドール・ネフェリム
■:伏せモンスター
地:地中界シャンバラ
「僕のターン、ドロー・・・・・・」
圧倒的劣勢だった。【エルシャドール・ネフェリム】は戦闘すれば問答無用で破壊してくる。【
だが、まだ動けるだろう。紅蓮のそんな期待は、裏切られなかった。
「【ネクロイド・シンクロ】を発動、墓地の【ジャンク・シンクロン】と【ジャンク・スピーダー】を除外して、エクストラデッキから【スターダスト】シンクロモンスターをシンクロ召喚する!」
墓地で眠っていたモンスター達が光輪と光点になって浮上する。
「―――彼女の輝きを、今ここに。シンクロ召喚、【閃珖竜スターダスト】!」
閃珖竜スターダスト ☆8 シンクロ 攻撃力2500
効果は無効になっているためにただの2500打点だが、これだけでは終わらない。
「【マグネット・リバース】を発動、墓地の【アクセル・シンクロン】を特殊召喚して効果発動、デッキから【ジャンク・シンクロン】を墓地へ送ってレベルを三つ下げる。レベル2となった【アクセル・シンクロン】で【閃珖竜スターダスト】をチューニング!」
今度は正規のアクセルシンクロ。【サテライト・ウォリアー】がエクストラデッキに戻っているが、恐らく違うだろう。
「―――彼女の輝きは、曇りなき黄金の如く! アクセルシンクロ、【真閃珖竜スターダスト・クロニクル】!」
真閃珖竜スターダスト・クロニクル ☆10 シンクロ 攻撃力3000
輝きと共に飛翔する黄金の竜。登場順番も原作通りである。
「クロニクルの効果発動、墓地のシンクロモンスターを除外することで、このターン他のカードの効果を受けない!」
【閃珖竜スターダスト】のカードを取り込み、耐性を身につけるクロニクル。【ネクロイド・シンクロ】の特殊召喚はシンクロ召喚扱いのため、蘇生制限は満たしている。
「バトルだ! 【真閃珖竜スターダスト・クロニクル】で【エルシャドール・ネフェリム】に攻撃!」
ネフェリムの強制効果が発動するが、効果を受けないクロニクルがそれを弾き返しそのままブレスで粉☆砕する。
影裏通
LP8000→7800
「くっ・・・・・・だがネフェリムの効果で、墓地の【
ダメージは与えた。だがアドバンテージの差が大きくて、巻き返したとは言い難い。
「これで、ターンエンド」
影裏通
LP7800 手札3
□□□□□
□□□■□地
□ □
□□真□□
□□□□□
宮津柊太
LP8000 手札1
真:真閃珖竜スターダスト・クロニクル
■:伏せモンスター
地:地中界シャンバラ
「俺のターン・・・・・・ドロー」
「スタンバイフェイズ、クロニクルの効果を発動するよ」
除外される【聖珖神竜スターダスト・シフル】。【超融合】を発動するならこのタイミングしかないが、通に動きはない。流石に二連続で引くことは出来なかったらしい。
「・・・・・・反転召喚、【ライトロード・ハンター ライコウ】。リバース効果発動だ」
ライトロード・ハンター ライコウ ☆2 リバース 攻撃力200
ライコウがその小さな身体で勇敢に黄金竜へ吠え立てるが、両手で耳を塞いでいるため効果がないようだ。
だが本命は墓地肥やし。通は墓地へ送られた三枚のカードに、口元を歪める。
「【シャドール・ファルコン】【シャドール・ビースト】の効果を発動・・・・・・一枚ドローし、ファルコンを伏せる」
五枚になった通の手札。対し、柊太はわずか一枚だ。クロニクルを突破されれば展開し直すのは難しいだろう。
「墓地の【
サブテラーマリスの妖魔 link2 リンク 攻撃力2000
どうやら通は盤面を立て直すことにしたようだ。1ターン目と同じく妖魔の効果を発動する。
「【サブテラーマリス・バレスアッシュ】を伏せ、デッキから【シャドール・ハウンド】を墓地へ送る。ハウンドの効果、フィールドのモンスターの表示形式を変更する・・・・・・反転しろ、バレスアッシュ」
サブテラーマリス・バレスアッシュ ☆12 リバース 攻撃力3000
【シャドール・ハウンド】の効果でリバース効果は発動できないが、仮に発動出来たとしても効果はなかったのであまり関係ない。
【サブテラーマリスの妖魔】の効果で【サブテラーの導師】を手札に加えた通は、険しい顔をした柊太を見据える。
「バトルだ・・・・・・【サブテラーマリス・バレスアッシュ】で【真閃珖竜スターダスト・クロニクル】を攻撃。相打ちだ」
バレスアッシュ の かみつく こうげき !
バレスアッシュ と クロニクル は たおれた !
「クロニクルの効果発動、除外されている【閃珖竜スターダスト】を特殊召喚する!」
閃珖竜スターダスト ☆8 シンクロ 攻撃力2500
効果が復活し、完全体となって舞い戻るスターダスト。妖魔の攻撃力では足りない。
「・・・・・・メイン2、【サブテラーの導師】を通常召喚、これでターンエンドだ」
これによりフリーチェーンで柊太のモンスターを裏側に出来るようになった。
柊太は残った手札を確認し、次のドローに託そうとして、
昼休み終了五分前の予鈴が鳴り響いた。
「あ、やべっ」
「え、もうそんな時間!?」
「あ、ぇ・・・・・・?」
三者三様の反応を見せた紅蓮と鈴と千歳。フィールドでは二人がデュエルを終わらせていた。
「いやー、惜しいなー」「やっぱりコントロールデッキだと長引くよね」「まあ、このまま続けてれば影裏が勝ってただろうけどな」と感想を言い合いなごら教室へ戻っていく生徒達。紅蓮も次が移動教室だったことを思い出し、急いで教室に向かった。
そんな彼らに気付かず夢中でテーブルデュエルを続けていた雪村と五河は、揃って授業に遅刻したと言う。
簡単なキャラクター紹介⑩
影裏通
デュエルスクール クスィーゼ校 二年
二年生のデュエリスト。デュエルの成績では常にトップで、学年では五本の指に入るほど。
コミュニケーション能力が余りなく、デュエルスクールに入ったばかりの頃はそこまで強くなかった。が、授業等でデュエルを重ねる内に実力を身につけた。
基本一人で行動し、他人に話しかけられない限りほとんど口を開かない。
あまり裕福な家ではないため、奨学金で学校に通っている。
特技は裁縫。これは双子の妹達にぬいぐるみを作らされまくった結果とのこと。
身長158センチ。右目を隠すほど長い黒髪で、常に半眼。成長するだろうと大きめのサイズで買った制服が上手い具合に萌え袖になっている。
目標一万文字で書いているのですが、あんまり長くするとグダってしまうので途中で切るようにしています。まだまだ修行が足りない・・・・・・。
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紅蓮:八話
あ、「遊戯王デュエリスト・ストーリーズ」をエタるつもりはありませんのでご安心を。
休日。紅蓮は
新ルールによって燻った心をどうにかするべく花蓮とデュエルしたのだが、並んだ【レッド・デーモン】達のビートダウンで蹂躙してしまった。涙目で「ぐぬぬ・・・・・・」と睨んできたのでお詫びにカードを買ってやると言って、今に至る。
「走れソリよ〜♪ 風のように〜♪ 月海原を〜♪ パドるパドる〜♪」
デュエルで負けたことはともかく、カードを買ってもらえることが嬉しいのか歌いながらスキップで進む花蓮。何故クリスマスソングなのかとか「パドる」とはなんとぞやと色々疑問が湧いたがそれらを飲み込み、代わりの言葉を口にした。
「あんまりハシャいでると怪我するぞ。あと歌うな」
中学生にもなって、と付け加える。リズムこそ合っているが、音程も歌詞も間違っている。替え歌なのだろうが、それを差し引いても花蓮は音痴であった。
「む、話しかけるな兄よ。服のセンスのない男と兄妹だとは思われたくない」
「ンだとコラ。お前のがセンスないだろ」
紅蓮はジーパンと背に『泰山鳴動』の文字と和風にリデザインされた【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】が描かれた赤のスカジャン。花蓮は赤地に茨のように金の刺繍が施され、黒い薔薇がいたる所に散りばめられたドレス。前者はまんまヤンキー、後者はまるで舞踏会にでも行く貴族のようだ。お互いそれを認識していないのだから救えない。周囲の目が集まるのも不良ような見てくれと自分が美少女だから、と服は関係ないと思っているのだ。
「全く、兄のソレはまるで不良ではないか」
「それは偏見だぜマイシスター。それよりそのドレスはゼッタイにない」
「何だと!? 兄はこの服の良さがわからぬと言うのか!?」
やいのやいのと言い争いながら進み、目的地へとたどり着く。カードショップ『Rabbit』だ。
自動ドアに入ってまず目に映るのは並んだいくつものショーケース。店に足を踏み入れればケースの右には本棚が、左にはパックやバラ売りのカードストレージがあった。
「おお・・・・・・素晴らしい店ではないか! 我が家の近くの店とは比べ物にならない」
「いいからさっさと入れ」
目を輝かせて感動する妹の後頭部を小突き、紅蓮も店内へ。確かに灰村家近くの店は中古本屋と一緒になっているためかカードの扱いが雑で、キチンと整理されていなかった。
しかしここは弾ごとに分けられたストレージ、汎用カードを纏めた棚やラインナップを記したバインダーなど、流石はカード専門店と言ったところだ。その分少し高いのだが。
「いらっしゃい、灰村少年。そちらは彼女さんかな?」
さてどこから見ようかと通行の邪魔にならない位置で考えていた紅蓮に、店員の一人が話しかける。
「誰が彼女か、誰が!」
「倫子か。暫く振りだな」
ショーケースに向かっていた花蓮が激昂しながら戻って来たのを右手で押さえながら、軽く左手を上げる。
「コイツは妹だ。今日はかくかくしかじかまるまるうまうまってところだ」
「なるほどなるほど、話すつもりがないってことはわかったよ!」
担任だったら通じるんだけどな、と口の中で呟いてから倫子を見る。
伸び過ぎな黒髪に眼鏡、肉付きのいい身体。それを見ての紅蓮抱いた感想は。
「太ったか?」
「女のコになんてことを!?」
女のコーなんて歳じゃないだろ、と紅蓮が言うと、倫子はショックを受けたようで顔を手で覆ってうずくまった。
「兄よ、なんだこの女は」
「コイツは
紅蓮が軽く紹介すると、復活した倫子がバンッと胸を張って名乗った。
「初めまして灰村少年の妹さん。きっとお家で話を聞いたりしているであろう、私が倫子デス!」
「いや、全く。話題に挙がったこともない」
「ガーン!?」
花蓮が切り捨てれば、またショックを受ける倫子。面倒である。
およよと嘘泣きする彼女にどうしたものかと紅蓮が逃避するように店内へ目を向けると、レジカウンターからこちらを見つめる小柄な女性と目が合った。
彼女は紅蓮を見て何か考え込み、ポンと手を打って、それから花蓮を見て手元にあったカードを一枚手にとってカウンターを出る。
「ちょっと、いい?」
「ふぁっ、せせせ先輩!? ど、どーぞどーぞ」
仕事を半ばサボっているような状態だったためか動揺しながらも倫子が退くと、その女性は花蓮に一枚のカードを差し出す。
「む?」
「ラッキーカード。貴方の元へ行きたがってる」
訝しみながらも花蓮がそれを受け取ると、じゃ、と一言言ってカウンターへ戻ってしまった。
「? 兄よ、これは貰ってしまっていいのか・・・・・・?」
「いいんと思うよ? ほら、灰村少年も前に貰ってたでしょ?」
紅蓮ではなく倫子が答えたので軽く睨む花蓮。紅蓮はそうだったな、と腰のデッキケースに触れる。
彼が二枚所持している【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の内、片方は先程の女性に渡されたものだ。見れば、カウンターの中で白髪の青年と話している。なにやら男性の方が動揺しているが、傍目に見ても仲がいい。
「ふむ・・・・・・しかし、いいカードだ。気に入った。店員よ、このカードに関連しかカードを調べてくれ」
「はーい。ちょっとお待ちを、っと」
彼女は腰のエプロンからタブレット(デュエルディスクにはならないタイプの普通のもの)を取り出し、何度かタップスワイプして画面をこちらへ見せる。
「関連カードとしてはこんな感じかな? 結構テーマデッキだから、他のデッキに出張とかは難しいと思うけど」
「・・・・・・いや、そうでもなさそうだ」
彼女はそう言って、バラ売りのカードの場所へ向かった。疑問符を浮かべる倫子を余所に、紅蓮は最新弾のカードバインダーを開く。
(【クリムゾン・リゾネーター】に【スカーレッド・ファミリア】、【バーニング・ソウル】・・・・・・どれもいいカードだな)
そして最新弾は1ボックスごとに20thシークレットレアが付属するということで、飛ぶように売れている。その分、中古カードも安かった。
「倫子、この辺のカードってどこにある?」
「バラ売りの所の最新弾のストレージだよー」
サンキューな、とATM風に返して、紅蓮はストレージへ向かった。
ーーーーーーーーーー
家に着くなり上機嫌な花蓮は自身の部屋へ閉じこもった。デッキを新しく買ったカードに合うよう調整するためだ。彼女とは対照的にやつれた顔紅蓮は軽くなった財布と共にソファに沈んだ。
(クソ、妹め・・・・・・あんな高いカード買いやがって・・・・・・)
花蓮が紅蓮に買わせたのは、【ブラックローズ・ドラゴン】の20thシークレット。お値段は一万を超えたとだけ言っておこう。
「せめて予算五千円とか言っておくべきだった・・・・・・」
ぐでんと脱力し、紅蓮は買ったカードが折れないよう気を付けながらソファからカーペットに転がる。器用なものだ。
そしてすっくと起き上がり、キッチンへ行って飲み物(無論ブルーアイズマウンテン)を飲んでからデッキをいじる。新しいカードを入れるためだ。
10分ほどそうしていると、ドタドタと足音をたてながら花蓮が飛び込んできた。
「兄、兄よ、今すぐデュエルだ! 拒否は認めん!」
「いいぜ、こっちも丁度出来上がったところだ」
好戦的な笑みを浮かべる紅蓮は、以前と同じようにデュエル場へ向かう。
お互い新しくなったデッキをディスクにセットし、相対した。
「「デュエルッ!」」
灰村花蓮
LP8000
灰村紅蓮
LP8000
花蓮は先攻であることに満足気に笑みを浮かべ、動き出す。
「【召喚僧サモン・プリースト】を召喚、効果で守備表示となる」
召喚僧サモン・プリースト ☆4 攻撃力800→守備力1600
紅蓮の頭をよぎったのは伝説の詠唱サモサモキャットベルンベルン。しかし花蓮のデッキは【ローズ・ドラゴン】軸のはず、そんな物騒なデッキではないはずだ。そもそも【ダーク・ダイブ・ボンバー】はエラッタされている。
「サモン・プリーストの効果だ。【ブラック・ガーデン】をコストに―――」
「悪いな、【灰流うらら】だ」
今の紅蓮のデッキは【サイキック・リフレクター】や【緊急テレポート】が抜けたことで【幽鬼うさぎ】の枠を【灰流うらら】に変えている。花蓮のデッキはファンデッキ寄りなため、これを受ければ痛手だ。
「甘いぞ兄、【墓穴の使命者】だ」
サモン・プリーストの詠唱を止めようとした
「サモン・プリーストの効果により、デッキから【バランサーロード】を特殊召喚。効果で1000ライフ支払い、サイバースの召喚権が増える。通常召喚、【斬機マルチプライヤー】」
灰村花蓮
LP8000→7000
連続して並ぶモンスター。紅蓮はもう妨害札がないのてただ待つのみだ。
「サモン・プリースト、バランサーロードでオーバーレイ! エクシーズ召喚、いでよ【塊斬機ダランベルシアン】!」
塊斬機ダランベルシアン ★4 攻撃力2000
金と黒という少年心を擽る色のロボットに紅蓮がおぉと興奮しておると、そのオーバーレイユニットが2つとも使われる。
「ダランベルシアンの効果。エクシーズ召喚時、素材を任意の数取り除いて発動する。2つの場合はデッキから【斬機】魔法・罠、【斬機方程式】を手札に加える。そしてダランベルシアンとマルチプライヤー二体をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。いでよ【サイバース・ウィキッド】!」
サイバース・ウィキッド link2 リンク 攻撃力1600
現れる電脳ショタ。ショタコンとは正太郎コンプレックスの略だとどこかで聞いたが今はどうでもいい。
地味に黒庭ライン*1のモンスター。
「【斬機方程式】を発動し、マルチプライヤーを再び特殊召喚、そしてリンクマーカーにセット、いでよ【リンク・ディヴォーティー】!」
リンク・ディヴォーティー link1 リンク 攻撃力500
ウィキッドの真後ろに現れるディヴォーティー。前回は【バランサーロード】と【ファイアウォール・ガーディアン】を初動に動いていたが、るーはそれだけではなかったらしい。それでも【塊斬機ダランベルシアン】を使ったのて、後々キツくなる可能性もあるが。
「【サイバース・ウィキッド】の効果、リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、墓地の【バランサーロード】を除外して【斬機ナブラ】を手札に加える。そして除外された【バランサーロード】の効果で特殊召喚!
【斬機ナブラ】の効果発動、ディヴォーティーをリリースすることで、デッキから【斬機シグマ】を特殊召喚! リリースされたディヴォーティーの効果で、トークンを二体特殊召喚!」
「なるほど、いつもの流れか」
「SOUDA☆ トークン二体にナブラ、シグマをそれぞれチューニング、シンクロ召喚、【TGハイパー・ライブラリアン】&【星杯の神子イヴ】!」
光の輪と点がそれぞれ二つの柱となり、メガネのお兄さんと美しいお姉さんへと姿を変える。幼児向け番組か。
「イヴの効果で【星遺物を継ぐもの】を手札に加え、ライブラリアンの効果で一枚ドロー。
イヴとウィキッドでリンク召喚! 【
レッドローズ・ドラゴン ☆3 チューナー 守備力1800
星杯を戴く巫女 ☆2 守備力2100
リンク素材となったイヴがキャストオフし赤薔薇の竜と並ぶ。一瞬【星杯の神子イヴ】が力を吸われて【星杯を戴く巫女】に戻り陵辱される薄いブックスが脳裏をよぎったが自重した。
「レッドローズで巫女をチューニング、シンクロ召喚。いでよ【ガーデン・ローズ・メイデン】。効果で【ブラック・ガーデン】を手札に加え、レッドローズの効果でホワイトローズを特殊召喚。更に【
花蓮の手札はドローとサーチで現在6枚。アドバンテージの稼ぎ方が半端じゃない。
「やれる所までやってしまうか、「星遺物を継ぐもの】を発動、レッドローズを特殊召喚! レッドローズでホワイトローズをチューニング、シンクロ召喚。咲き誇るは若き月。いでよ【月華竜ブラック・ローズ】!」
月華竜ブラック・ローズ ☆7 シンクロ 攻撃力2400
更にドロー。かなりやりたい放題である。
「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
灰村花蓮
LP7000 手札5
□□□■□
ガ□月□T
水 □
□□□□□
□□□□□
水:
T:TGハイパー・ライブラリアン
月:月華竜ブラック・ローズ
ガ:ガーデン・ローズ・メイデン
■:伏せカード
「・・・・・・長かった」
「そうか?」
「長いだろ」
デュエルスクールにある部活、ワンキル・ソリティア研究会の連中と比べれば短いのだろうが、それでも十分長い。紅蓮は1ターンが短い部類に入るので、少々退屈だった。
「オレのフィールドにモンスターがいないことで、【クリムゾン・リゾネーター】を特殊召喚。更に、攻撃力1500以下の悪魔族チューナーがいることで【風来王ワイルド・ワインド】を特殊召喚」
クリムゾン・リゾネーター ☆2 チューナー 守備力300
風来王ワイルド・ワインド ☆4 守備力1300
召喚権を使わずに展開されるモンスター達。こちらは単純に手数が増えた。
「ならばそのタイミングでハリファイバーの効果発動だ。除外し、エクストラデッキからシンクロチューナー【シューティングライザー・ドラゴン】を特殊召喚。1枚ドローし、効果でデッキから【星遺物-『星杯』】を墓地へ送り、レベルを5つ下げる」
シューティングライザー・ドラゴン ☆7→2 シンクロ チューナー 守備力1700
「構わねぇ、クリムゾン・リゾネーターでワイルド・ワインドをチューニング、来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】」
ライジングがチェーン1、ブラック・ローズがチェーン2、ライブラリアンがチェーン3で効果を発動する。
「ブラック・ローズの効果で、エクストラデッキに帰ってもらうぞ」
「問題ねぇぜ、来い【クリムゾン・リゾネーター】。通常召喚、【マグナヴァレット・ドラゴン】。マグナヴァレットにクリムゾン・リゾネーターをチューニング、再び来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】」
レッド・ライジング・ドラゴン ☆6 シンクロ 攻撃力2100
意外に知られていないが、ライジングの①の効果は1ターンに一度の縛りがない。
再びドローする花蓮の手札を気にしないようにして、紅蓮は動き続ける。
「よって墓地から【クリムゾン・リゾネーター】を再び特殊召喚だ」
「ならばシューティングライザーの効果発動! 相手ターンにシンクロ召喚を行う! 私はレベル2となった【シューティングライザー・ドラゴン】で【TGハイパー・ライブラリアン】と【ガーデン・ローズ・メイデン】をチューニング! デルタアクセルシンクロ! 【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】!」
ライザーが光輪に、二体のモンスターが光点となって交差し、白銀の竜となって舞い降りる。
コズミック・ブレイザー・ドラゴン ☆12 シンクロ 攻撃力4000
「ふつくしい・・・・・・兄よ、このモンスターを超えられるか?」
「なら【壊獣】で」
「それはやめろ!」
冗談だぜ、と口元を歪める紅蓮。折角出したモンスターが【壊獣】や【溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム】や【ラーの翼神竜-
「まあ無理やり押し通るしかないな。【クリムゾン・リゾネーター】の効果発動だッ! 自分フィールドの他のモンスターが闇ドラゴンシンクロ一体のみなら、デッキから【リゾネーター】二体を特殊召喚できるぜ」
「・・・・・・いいだろう」
シンクロ召喚したモンスターに【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】を使えばいいと判断し、通す。
「【レッド・リゾネーター】【シンクローン・リゾネーター】を特殊召喚だ。【レッド・リゾネーター】の効果、対象はコズミックだ」
「チッ、いいだろう」
灰村紅蓮
LP8000→12000
コズミックの攻撃力分回復したライフ。差は5000と大きい。
「ライジングにレッド・リゾネーターをチューニング、シンクロ召喚! 爆ぜろオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン】!」
「くっ―――」
【琰魔竜レッド・デーモン】は自分以外の攻撃表示モンスター全てを破壊するカード。蘇生制限を満たすのも危ないので、動くならばここしかない。
「やるしかないな! 【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】の効果発動! 自身を除外し、その召喚を無効にする!」
炎と共に現れた閻魔の竜を、白銀の竜が閃光となって貫き撃破する。
「上等、【エンシェント・リーフ】発動ッ! ライフなんざくれてやるから手札よこしやがれッ!」
灰村紅蓮
LP12000→10000
ライフを代償にカードを二枚ドローする紅蓮。【クリムゾン・リゾネーター】によって【レッド・リゾネーター】にアクセスしやすくなり、【エンシェント・リーフ】が腐りにくくなった。
「よっしゃ引いたぜ【クイック・リボルブ】! 【ヴァレット・トレーサー】を特殊召喚だ!」
「むぅ・・・・・・妨害2つでもここまで動くか」
デッキより飛来した弾丸竜。即座にそのエフェクトを発動する。何故英語なのかと言えばアドレナリンで紅蓮の脳がエド・フェニックス(動詞)しているからだ。
「【クリムゾン・リゾネーター】を破壊しデッキから【メタルヴァレット・ドラゴン】を特殊召喚! トレーサーでメタルをチューニング、シンクロ召喚! 燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
妨害2つを乗り越え、3度目の正直でもってようやく現れる紅蓮の竜。ことわざの使い方を間違えているが気にしない。
「スカーライトの効果発動だ、自身以下の攻撃力の特殊召喚されたモンスター全てを破壊し、その数だけダメージを与える!」
スカーライトがその傷付いた右腕で【シンクローン・リゾネーター】を掴み、【月華竜ブラック・ローズ】へ投げつけ相殺。巻き散った火の粉が花蓮にダメージを与える。
灰村花蓮
LP7000→6000
「シンクローンの効果で【クリムゾン・リゾネーター】を回収。バトルだ! スカーライトでダイレクトアタック!」
「ええい、これ以上受けられるか! 【
ローズ・トークン ☆2 守備力800
トークンが盾となりスカーライトの攻撃を受ける。
「なるほどな。カードを一枚伏せる、これでターンエンドだ」
「エンドフェイズ、コズミック・ブレイザーが帰還する」
灰村花蓮
LP6000 手札8
□□□□□
□□コ□□
□ □
□□ス□□
□■□□□
灰村紅蓮
LP10000 手札2
コ:コズミック・ブレイザー・ドラゴン
ス:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト
■:伏せカード
フィールドは更地、しかし手札は多い。花蓮には、この盤面を返すだけの余裕がある。
「まずは【ブラック・ガーデン】を発動。そして【フォーマッド・スキッパー】を召喚」
フォーマッド・スキッパー ☆1 攻撃力0
現れたのは、トビハゼっぽい電子生物。【リンクリボー】などのエサだろうか。実際リンク素材になるので当たっているかもしれない。
「ッ、そのカードは・・・・・・」
「ふふ、そう焦るな兄よ。【ブラック・ガーデン】の効果でそちらのフィールドにトークンを特殊召喚。第二効果発動だ。自身とトークンを破壊し、【召喚僧サモン・プリースト】を特殊召喚」
召喚僧サモン・プリースト ☆4 守備力1600
特殊召喚故にぎっくり腰にならずに済むおじいちゃん。違う、最初からなっていた。
「チェーンして【地獄の暴走召喚】を発動! 兄よ、好きなだけ特殊召喚するといい!」
「クソッ、【レッド・デーモンズ・ドラゴン】が6体並ぶ光景が見られたかもしれないのに!」
三体に【増殖】するジジイと床を叩いて悔しがる紅蓮、高笑いする花蓮。なんというか、カオスである。
「では【フォーマッド・スキッパー】の効果発動。エクストラデッキの【オルフェゴール・オーケストリオン】を見せることで、その名前を得る!」
【オルフェゴール・オーケストリオン】。それこそが、彼女が手に入れた新しいカードだ。
「私は【
劇場は、海やり来たる。豪奢、荘厳、しかして優麗! 即ち、我が黄金劇場である! 【オルフェゴール・オーケストリオン】!」
オルフェゴール・オーケストリオン link4 リンク 攻撃力3000
尊大な口上と共に現れたのは金色に輝くデカブツ。登場時効果は使えないので、本当に出ただけである。
「おい、効果はどうした」
「そこはまだ調整中だ・・・・・・墓地の【ガーデン・ローズ・メイデン】の効果発動、自身を除外し、墓地の【月華竜ブラック・ローズ】を特殊召喚する!」
月華竜ブラック・ローズ ☆7 シンクロ 攻撃力2400
白薔薇の巫女の力を受け、再び咲き誇る若月の竜。
「効果発動だ! スカーライトをデッキに戻す!」
「チッ、受けるしかねぇ・・・・・・」
ブラック・ローズが蔓でスカーライトを掴み、お返しだとばかりに投げ飛ばす。野蛮だ。
「バトルフェイズ。【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】でスカーライトに攻撃!」
「チッ、受けるぜ!」
コズミックのブレスを、腕を交差させて受ける紅蓮。ソリッド・ビジョンでなければ即死だった。
灰村紅蓮
LP10000→6000
「オーケストリオン、ブラック・ローズで追撃だ!」
「クソ、そっちも受けるぜ!」
オーケストリオンが音楽を奏で、音符が紅蓮にぶつかり、ブラック・ローズの蔓が紅蓮を殴る。遊戯王ではよくあることだ。
灰村紅蓮
LP6000→3000→600
あっという間に逆転されたライフ。やはりライブラリアンのドローによるアドバンテージが大きい。
「ふん、こんなものか。ターンエンドだ」
灰村花蓮
LP6000 手札6
□□□□□
□月コ□□
オ □
□□□□□
□■□□□
灰村紅蓮
LP600 手札2
オ:オルフェゴール・オーケストリオン
コ:コズミック・ブレイザー・ドラゴン
月:月華竜ブラック・ローズ
■:伏せカード
「燃えてきたぜ・・・・・・オレのターン」
強がって、カードを引く。妹に負けるかもしれないと少し焦りを覚えるが、それを振り払う。
「【竜の渓谷】発動だ! 手札一枚をコストに、デッキから【アブソルーター・ドラゴン】を墓地へ送り、効果発動。【ヴァレット・シンクロン】を手札に加える」
破壊だったならまだしも、バウンスされたことで墓地に蘇生できる【レッド・デーモン】がいないのが辛い。
「【ヴァレット・シンクロン】を召喚、効果で【アブソルーター・ドラゴン】を特殊召喚だ」
「・・・・・・なるほどな」
【月華竜ブラック・ローズ】の効果は強制効果だ。故に、レベル5以上のモンスターが特殊召喚されればバウンスしてしまう。そして、【ヴァレット・シンクロン】は通常召喚されたモンスター、対象は一体しかいない。
さながら崩れかけの崖を歩いている気分だ。冷や汗を意識の外に追い出し、紅蓮は続ける。
「手札に戻った【アブソルーター・ドラゴン】を特殊召喚、【ヴァレット・シンクロン】でチューニング、吠えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン】」
レッド・デーモンズ・ドラゴン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
ここを止められれば、紅蓮には何もできない。だが花蓮はレモンでは盤面を突破できないとわかっているため、【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】の効果を使わなかった。
「墓地の【風来王ワイルド・ワインド】の効果発動、除外してデッキから【シンクローン・リゾネーター】を手札に加え、特殊召喚。シンクローンでレモンをチューニング、深炎より来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 攻撃力3200
深淵の炎を身に纏った琰魔竜。これも花蓮は通した。
「アビスの効果発動、対象はコズミック・ブレイザーだ」
「・・・・・・いいだろう」
これを無効にすれば、フィールドからコズミック・ブレイザーがいなくなる。ならば、攻撃力4000を立てておく方が得策だと花蓮は考えた。
「墓地の【レッド・ライジング・ドラゴン】の効果発動、除外して【シンクローン・リゾネーター】二体を特殊召喚ッ! シンクローンでアビスをチューニング、悪魔を焼けオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】!」
琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル ☆10 シンクロ 攻撃力3500
現れた悪魔の竜に、花蓮は先程の選択が失敗だったかと逡巡する。
「だが、私のライフは削りきれない! 次のターンが回れば、私の勝ちだ!」
「ところがぎっちょん、オレがターンを回すほどヌルいと思ってんのか!?」
カハッと紅蓮は下手に笑う。その笑顔は獰猛で、好戦的だ。
「ベリアルの効果、シンクローンをリリースし蘇れオレの魂!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
アビスではなく、元祖レモン。【シンクローン・リゾネーター】の効果を使っていないことも含めて疑問に思ったが、デュエル中に訊くわけにもいかない。花蓮は黙って紅蓮のプレイングを見る。
「バトルだ。【レッド・デーモンズ・ドラゴン】でブラック・ローズを、ベリアルでオーケストリオンを攻撃!」
「くっ、どちらも受ける!」
ブラック・ローズはレモンの拳で粉砕され、オーケストリオンはベリアルに蹴られながらもリンク先にコズミックがいることで破壊されない。
灰村花蓮
LP6000→5400→4900
「ベリアルの効果発動、墓地から【レッド・リゾネーター】を、デッキから【クリムゾン・リゾネーター】を特殊召喚!」
【レッド・リゾネーター】の効果により、【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】の攻撃力分ライフが回復する。
灰村紅蓮
LP600→4600
「速攻魔法、【バーニング・ソウル】! 墓地のカード一枚を手札に戻し、シンクロ召喚を行う!」
紅蓮の右手が炎に包まれ、墓地のカードを掴み取る。疑似ストームアクセスと命名しよう。
「【レッド・リゾネーター】【クリムゾン・リゾネーター】で【レッド・デーモンズ・ドラゴン】をダブルチューニング!
スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン ☆12 シンクロ 攻撃力3500→7000
墓地にチューナーは7体。よって攻撃力は3500上がる。
だが、それでも足りない。
「あと1000上げればいいんだよなぁ! 【クイック・リボルブ】発動! デッキから【ヴァレット・トレーサー】を特殊召喚!」
【バーニング・ソウル】で手札に加えたカード。花蓮はこのタイミングでの発動に眉を寄せる。
「トレーサーの効果、自身を破壊してデッキから【ヴァレット・シンクロン】を特殊召喚!」
ヴァレット・シンクロン ☆1 チューナー 攻撃力0
「なっ、まさか!」
え、自分攻撃力0ですよ? と紅蓮を見るヴァレットロン。いやそんなまさかね? ただ間違えて攻撃表示で出しただけですよね? いやー紅蓮さんうっかりだなぁ。
「【ヴァレット・シンクロン】で【オルフェゴール・オーケストリオン】に
コンチクショー!、と幻聴が聞こえた気がした。【ヴァレット・シンクロン】を【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】が掴み、【オルフェゴール・オーケストリオン】に投げつける。ベシャ、と叩きつけられたヴァレットロンは崩れ落ち、紅蓮もその分のダメージを受けた。
灰村紅蓮
LP4600→1600
「これで、【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】の攻撃力は、8000! オーケストリオンに攻撃だ!」
スカーレッドがゴキゴキと拳を鳴らしながら、ゆっくりとオーケストリオンへ近付く。
まず一発【クリムゾン・リゾネーター】の分、とぶん殴り、【レッド・リゾネーター】の分、と蹴り上げる。そして転がったオーケストリオンの上に馬乗りになって、【ヴァレット・トレーサー】の分、【シンクローン・リゾネーター】の分、もう一体の【シンクローン・リゾネーター】の分、【ヴァレット・シンクロン】の分、さっき
灰村花蓮
LP4900→0
「ふぅ、危なかったぜ・・・・・・」
いかにも余裕そうに額の汗をぬぐう紅蓮。実際は背中がびっしょりであり、かなり見栄を張っている。
「また、負けてしまった・・・・・・」
ガックリと肩を落とす花蓮。紅蓮はそれが見ていられなくて、はあと一つ溜め息をついてから彼女の方へ歩く。
「お前は力を温存し過ぎなんだよ。次のターンのために展開を抑えてる。最初のターンで【月華竜ブラック・ローズ】を出したのはいいけど、それ以降は手札余らせてただろ?
新しいカード使いたい気持ちもわかるけどよ、勿体ないぜ?」
「うむ・・・・・・そうだな」
紅蓮の言葉に、花蓮は頷く。確かに、あの盤面で【オルフェゴール・オーケストリオン】を出すことに拘らなければ、もっと展開できていただろう。もしかしたら、そのターンに勝っていたかもしれない。
「だが、どうにもな・・・・・・私は、美しく勝ちたいのだ。相手の妨害をくぐり抜け、自分の切り札を押し通し、勝利する。そんなデュエルが」
紅蓮のようなデュエルが彼女はしたい。エースを信じて闘う、兄のようなデュエルが。
けれど、それは彼女の実力では難しい。だから、妨害を敷いて相手の動きを制限するのだ。相手がそれを突破することを期待しながら。
「・・・・・・そうか。難しいよな」
紅蓮は、花蓮が自分に憧れていることを知らない。けれど、彼女の目標が高いことはわかった。
「そうだ、兄よ。エクストラデッキに余裕はあるな?」
「え? お、おう」
紅蓮のエクストラデッキは【レッド・デーモン】関連で埋め尽くされているが、【クリムゾン・ブレーダー】や【
話がそれた。
「では、これを受け取って欲しい」
そう言って、デッキケースから取り出したのは花蓮の【ブラックローズ・ドラゴン】だ。
「? どういうことだ?」
「よくよく考えてみれば、私のデッキにこのカードを二枚入れられるほどの余裕はないのだ。故に、以前使っていた方が余っていたのだが、飾っておくのも勿体ないのでな。兄に使われる方がいいだろう」
紅蓮は少し迷って、そのカードを受け取った。使う機会はあっても、邪魔になる機会はないだろうし、フィールド全て破壊というのは【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】しかいない。そちらを出す手間を考えれば、差別化はできる。
「ありがとな。・・・・・・ん? まだ何かあるのか?」
シャワーにでも入ろうとした紅蓮のスカジャンの袖を、花蓮が掴んだ。
「なあ、兄よ。私が負けず嫌いなのは知っているな?」
「私が勝つまでデュエルしてもらおうか。ああ当然、手を抜いてもだめだ。
この私のカードをプレゼントしたのだ、それぐらいはいいだろう?」
「・・・・・・マジか」
全力を出して負けろとは、なんとも難しい条件だ。そもそも、紅蓮も紅蓮で負けず嫌いなため、いざデュエルすれば嫌が応でも全力になるのだが、それだけ体力を消費するのだ。
この日、紅蓮が解放されたのは夜9時を超えてからだった。
簡単なキャラ紹介⑪
萩原倫子
カードショップ『Rabbit』クスィーゼ店に勤める女性。
自分のデッキを持っておらず、デュエルの際は貸し出しデッキや
『Rabbit』に勤めて五年だが、未だに昇格できていないポンコツ。しかし仕事ができないワケではなく、たまに盛大なポカをやらかすだけである。そのポカで昇格できないのだが。
外見は手入れされていない伸び過ぎな黒髪にメガネ、割とある胸にやや肥満気味な腰周りと少しアレであるが、本人は(意図的に)気にしていない。
ネタバレ防止のために匿名で書いていたこのSSですが、色んな方にバレているので今更気にする必要もないと判断しました。
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紅蓮:九話
・・・・・・また期間が空いてしまった。
中間テスト。
皆大嫌い課題テストの一つで、高校生活始まって初めての大きなテストだ。いや、学力テストとか『かっとビング・チャレンジ一年生』でお馴染みの九十九ゼミのテスト等、四月にテスト自体は腐るほどあったが、成績に関わるテストはこれが初めてである。
「それじゃ、実技テストを始めるよ♪」
第三デュエル場に集められた紅蓮達がこれから行うのは生徒同士のデュエルだ。勝ち負けではなく、デュエルに対する姿勢やプレイング、誘発の使いどころなどで評価が決定する。筆記試験はカットされた。
デュエル場の観客席には生徒の他に教頭や学年主任といった先生方が腕を組んだり葉巻を咥えたりしながら座っている。
「しかし、何故私と教頭によるエキシビションは却下されたのでしょうか・・・・・・解せませんね」
そう呟くのは校長の
「ハハハ・・・・・・それじゃ、今までの授業から実力が近い人同士でデュエルしてもらうよ♪ 最初はデュエル成績はトップの灰村紅蓮! 前に出てきてね」
「デュエル成績
不満そうに顔を歪めながら、普段の真っ赤なディスクではなく授業用の古いディスクを付けた紅蓮がデュエル場に下りる。
「対戦相手は
男性教師の声に、応!と返事して紅蓮の前に立ったのは、赤いメッシュの入った黒髪の少年だった。快活そうな顔にはデュエルが楽しみで仕方ないといった風に笑みが有る。
「お前とはあんまり話したことなかったよな、灰村。・・・・・・お前には、負けられない」
「? まぁよろしく頼むぜ、士道」
焔の態度に違和感に覚えた紅蓮だったが、先程まで
「先生ェ! デュエル開始の宣言をしろォ!」
「ははぁー! デュエル開始ィ! って何やらせてくれてんの!?」
「「デュエルッ!」」
男性教師のやっぱりオレはこういう扱いなのね、という呟きは、二人の声に掻き消えた。
士道焔
LP8000
灰村紅蓮
LP8000
「俺の先攻だな。まずは【召喚士のスキル】を発動! デッキからレベル5以上の通常モンスターを手札に加えるけど、何かあるか?」
「ないな、好きに動いていいぜ」
焔が手札に加えたのは【イグナイト・キャリバー】。新たなルールで【イグナイト】は圧倒的逆境に立たされ、それは今も変わっていない。
「今手札に加えたキャリバーと【イグナイト・デリンジャー】をペンデュラムスケールにセッティング! イグナイトの共通効果で二枚を破壊して、デッキから炎属性戦士族モンスター、【昇華騎士-エクスパラディン】を手札に加えて、通常召喚! 効果でデッキから【チューン・ナイト】を装備するぜ!」
昇華騎士-エクスパラディン ☆4 攻撃力1300→1800
鼠騎士を装備したことでわずかに攻撃力を上げる焔の騎士。外見はまるで灰の人だ。炎にも関連しているのでオマージュかもしれない。どうでもいい。
「【チューン・ナイト】の効果で装備しているコイツを特殊召喚するぜ」
「ならそのタイミングで【増殖するG】を発動だ」
鼠の騎士が灰の人の隣に並ぶと同時にカサカサと耳障りな音と共にゴキブリがカードとなって紅蓮の手札が収まる。観客席からは軽い悲鳴とわずかな歓喜の声が上がるが、気にしない。ドラゴン好きなデュエリストは数多くいるのだ、昆虫好きなデュエリストだっているのだろう。紅蓮は虫は嫌いではないので問題ない。
「う、気持ち悪ぃ・・・・・・」
全然問題だった。
「エクスパラディンとチューン・ナイトでリンク召喚、【聖騎士の追想イゾルデ】! 効果でデッキから【イグナイト・マスケット】を手札に加えるぜ!」
「一枚ドロー・・・・・・」
黒光りする滑らかなボディがデュエル場を照らす照明を反射し、紅蓮が僅かながら精神的ダメージを受ける。なら使うなという話だが、現環境においてほぼ必須カードなので仕方ない。
「イゾルデの効果、デッキから【聖剣カリバーン】を墓地へ送って、【焔聖騎士-ローラン】を特殊召喚! 更に【イグナイト・マスケット】【イグナイト・ドラグノフ】をペンデュラムスケールにセッティング、ペンデュラム召喚! 【イグナイト・キャリバー】【イグナイト・デリンジャー】!」
イグナイトの紅一点と特攻隊長がフィールドへ駆け、紅蓮は
「キャリバー、デリンジャーで更にリンク召喚! 【ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム】! 効果で【クロノグラフ・マジシャン】をエクストラデッキに加えるぜ! エレクトラムの更なる効果、ローランを破壊してクロノグラフを手札に! 【イグナイト】の共通効果で二枚を破壊してデッキから【復讐の女戦士ローズ】を手札に加えて、クロノグラフの効果でコイツと共に特殊召喚! エレクトラムの効果で一枚ドロー!」
「コッチは二枚ドローだチクショー!」
十枚となった手札、その半数以上がゴキブリだと考えると自分のカードであっても嫌悪感を抱いてしまう。一応虫NGな人要に
「ローズとイゾルデでリンク召喚、【
【アーケイン・ファイロ】の効果で【バスター・モード】を手札に加える焔と、三枚のゴキブリにダメージを受ける紅蓮。やめて! 紅蓮のライフはもうゼロよ! な段階は通り過ぎ、『止まるんじゃねぇぞ・・・・・・』の準備は整っていた。
「エレクトラムとハリファイバーでリンク召喚、【豪炎の剣士】! カードを二枚伏せて、ターンエンドだ!」
ローランの効果でしれっと手札に加えるのは【焔聖騎士-リナルド】。紅蓮は希望の花を咲かせてはいたが気付いていた。
士道焔
LP8000 手札2
□□■□■
□□ギ□□
豪 □
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札14
豪:豪炎の剣士
ギ:ギガンテック・ファイター
「お、オレのターン、ドロー・・・・・・」
まだ若干ゴキブリのダメージを引き摺っている紅蓮。焔は何となく『作戦通り』という顔をしておいた。
「スタンバイフェイズ、リバースカード【バスター・モード】! 熱き魂に鎧を纏え【ギガンテック・ファイター/バスター】!」
ギガンテック・ファイター/バスター ☆10 攻撃力3300→3800
焔の墓地には現在戦士族が六体。紅蓮のモンスターの攻撃力は600下がることになる。
「/バスターの効果でデッキから【天融星-カイキ】と【焔聖騎士-ローラン】を墓地へ送って、カイキの効果! 自分フィールドに攻撃力が変化したレベル5以上の戦士族がいることで特殊召喚! 更に効果発動、ライフ500を払って融合できる! 俺は【豪炎の剣士】とカイキで融合! 【鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード】!」
士道焔
LP8000→7500
鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード ☆8 融合 攻撃力2700
現れたのはOCG化まで長い年月のかかったモンスター。あの頃は確か【冥府の使者ゴーズ】が出たのだったか、懐かしい。某ゲームとは関係ない、はずだ。
「手札が多くて邪魔だな!? 【クリムゾン・リゾネーター】を特殊召喚、【風来王ワイルド・ワインド】を更に特殊召喚。更に通常召喚【レッド・リゾネーター】、効果で手札から【ヴァレット・トレーサー】を特殊召喚だ」
連続して展開されるモンスター達。焔の手札には誘発の類はないらしく、動きを見せない。
「(【灰流うらら】を引いたのが遅かったかクソッタレ。今思えば/バスターにでも使っておくべきだったな)
トレーサーでワイルド・ワインドをチューニング、燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000→2100
燃え上がるは紅蓮の相棒にしてエース。だがそれも青い鎧の戦士が発する重圧により力を削がれる。
「【レッド・リゾネーター】でスカーライトをチューニング、悪魔を焼けオレの魂! 【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】! クリムゾンの効果発動、デッキから【シンクローン・リゾネーター】【クリエイト・リゾネーター】を特殊召喚ッ! 【復活の福音】で蘇れ
スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン ☆12 シンクロ 攻撃力3500→5500→4600
連続して展開されるモンスター。真紅の竜が君臨し、戦士の重圧を受けながらもそれ以上の力を宿す。
(これで/バスターは突破できる。だが・・・・・・)
チラリと目を向けるのはギルティギア・フリード。戦闘の際自身の攻撃力を上げる効果を持ち、更に効果対象にされた場合にそれを無効にしカード一枚を破壊する効果を持つ。【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】を/バスターにぶつける以上、そちらを破壊するのは少々手間だ。
(しかも【/バスター】は破壊されるとシンクロ体を特殊召喚する効果を持つ・・・・・・クソ、面倒だ。)
【琰魔竜レッド・デーモン】で全員破壊しても良かったが、その場合【ギガンテック・ファイター】が残り、琰魔竜の攻撃力では足りなくなってしまう。
だから、展開して物理で殴る。それが紅蓮の出した答えだ。
「【クイック・リボルブ】! デッキから【マグナヴァレット・ドラゴン】を特殊召喚し、クリムゾンとシンクロ! 来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】! 効果で墓地の【レッド・リゾネーター】を特殊召喚!」
【レッド・リゾネーター】によって【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】の炎の一部が紅蓮に運ばれ、(ゴキブリによって)受けた傷を癒やす。
灰村紅蓮
LP8000→12600
怒涛の展開。手札を与えてしまったのだから当然だが、焔は薄っすらと冷や汗を浮かべていた。
【増殖するG】を使われても止まらないのが焔の基本スタイルだ。【イグナイト】は決して強いテーマではない。故に、中途半端な盤面ではあっさり返されてそのまま負けてしまうのだ。そのため、展開しきってしまうことが多い。
それに、焔は止まるわけにはいかなかった。
「ライジングに【レッド・リゾネーター】をチューニング爆ぜろオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン】! 更に【レッド・ノヴァ】を手札から特殊召喚してチューニング、深炎より来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 攻撃力3200→2100
ここまでで使った手札は約半分の七枚。これ以上はリソースなどの関係上展開しない方がいいな、と紅蓮は並んだ二体の戦士を睨んだ。
「バトルだ。【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】で【ギガンテック・ファイター/バスター】を攻撃! 攻撃力は1000上がって5600だ!」
「上等、受けるぜ!」
/バスターにスカーレッドが殴りかかり、その一撃であっさりと青い鎧が吹き飛ぶ。その装甲の一部が焔に降りかかりダメージ。
士道焔
LP8000→5700
「破壊された/バスターの効果発動だ! 蘇れ【ギガンテック・ファイター】!」
ギガンテック・ファイター ☆8 シンクロ 攻撃力2800→3800
鎧が外れ、身軽になった戦士はクイクイと残るドラゴン達を挑発する。
「アビスの効果発動だ。ギガンテック・ファイターの効果をターン終了時まで無効にするぜ」
挑発を受けたアビスが炎の渦で戦士を拘束しその力を封じる。
「なっ、しまった!?」
「バトル続行、アビスでギガンテック・ファイターを攻撃だ!」
炎の檻の中で逃げ場を探すファイターをアビスが檻ごと蹴っ飛ばし、腕の刃でなぎ払う。
士道焔
LP5700→5300
「ラスト、ベリアルでギルティギア・フリードを攻撃! 相討ちしてやるよ!」
ニヤリと頬を歪める紅蓮の墓地には【復活の福音】がある。ギルティギアの攻撃力は上昇しても3500、モンスターを全滅させられる。
「かかったな! 手札の【焔聖騎士-ローラン】の効果発動! ギルティギア・フリードを対象に、このカードを攻撃力500アップの装備カードとして装備する!」
本来、ギルティギア・フリードで無効にして相手のカードを破壊するコンボだが、そうはせずに迎撃のために使った。
ギルティギア・フリードの剣に焔が宿り、悪魔竜へと振り上げる。
鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード 攻撃力2700→3200→4000
「クソ、【復活の福音】で破壊から守るぜ・・・・・・」
騎士の振るった剣は悪魔竜に打ち勝ったが、その命を刈り取る手前で障壁に阻まれた。惜しい。もうちょい頑張れ。
紅蓮が渋い顔でカードを二枚伏せ、ターンを終えようとして。
「エンドフェイズ、ローランの効果でデッキから【ゴッドフェニックス・ギア・フリード】を手札に加えるぜ!」
「・・・・・・やっぱ入ってるよな」
改めて、ターンを終えた。
士道焔
LP5300 手札2
□□■焔□
□□□鋼□
□ □
□アスベ□
■□□□■
灰村紅蓮
LP7500 手札6
鋼:鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード
焔:焔聖騎士-ローラン(装備:鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード)
ス:スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン
ベ:琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル
ア:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
■:伏せカード
「俺のターン、ドロー!」
これで焔の手札は三枚。内二枚はわかっているが、気を抜いていい理由にはならない。
「墓地の【聖剣カリバーン】を除外して、【ゴッドフェニックス・ギア・フリード】を特殊召喚! 更に【焔聖騎士-リナルド】を特殊召喚! 効果で墓地の【焔聖騎士-ローラン】を手札に戻す!」
ゴッドフェニックス・ギア・フリード ☆9 攻撃力3000
焔聖騎士-リナルド ☆1 チューナー 守備力200
爆焔から焔騎士が現れ、付き従うようにシャルルマーニュ十二勇士が一人、リナルドが並ぶ。
「ローランをギルティギア・フリードを対象に発動、そしてギルティギア・フリードの効果! カリバーンを無効にして、フィールドのカードを選んで破壊する!」
「チッ、アビスの効果発動! 対象はギルティギア、ソイツの効果を無効にする!」
「チェーンしてゴッドフェニックスの効果発動! ローランを墓地へ送って、それを無効にして破壊だ!」
激しいチェーン合戦の末、焔騎士の焔によって深淵の竜が破壊され、魔導騎士によって悪魔竜が再び討たれる。チェーン4程度で激しいなどと言っていては、チェーン8まで行った時にはどうなるのか。きっとべらぼうに激しいのだろう。アホか。
「バトル、ゴッドフェニックスでスカーレッド・ノヴァに攻撃!」
「スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンの効果発動! 自身を除外して、攻撃を無効化する!」
真紅の炎すら取り込もうとする焔騎士から逃れるスカーレッド。だが、まだ攻撃は残っている。
「ギルティギア・フリードは、フィールドのモンスターのみを素材としていれば二回攻撃ができるぜ! 攻撃だ!」
「速攻魔法、【クイック・リボルブ】! デッキから【アネスヴァレット・ドラゴン】を特殊召喚!」
【我が身を盾に】と小柄な弾丸竜が紅蓮
灰村紅蓮
LP7500→4800
ライフが逆転する。一見有利に見えた紅蓮だが、焔のタクティクスに押され始めていた。
「どうだ、灰村! 俺も、弱くないだろ!」
対岸で叫ぶ焔に、そうだな、と苦い顔で返す。
「強ぇーよ、ビックリだ。先輩にも負けないくらい強い」
紅蓮は薄々感じ取っていた。焔が自分に対してどう思っているのか。
「俺の戦術、一年の間では結構有名なんだぜ? でも、お前は知らなかっただろ。
どこか棘のある言葉に、紅蓮は苦笑と共に頷く。
「ああ、そうだな。一年にも強い奴はいるよな、そりゃ」
先輩と、格上と戦うことばかりに気を取られて、もっと身近な連中を蔑ろにしていた。
「士道。放課後にでも、この学年で強い奴を教えてくれよ」
「! ああ、もちろんだ!」
互いの顔に浮かぶのは、好戦的な笑み。一方はどこか下手クソで、一方は年相応の晴れ晴れとしたもの。
「メインフェイズ2、【ペンデュラム・パラドックス】発動だ。【イグナイト・デリンジャー】と【イグナイト・マスケット】を手札に戻してエンドフェイズ、ローランの効果で―――」
「悪いが【灰流うらら】だ。
笑みを増した紅蓮に、どこか腑に落ちない顔の焔。フィールドに【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】が帰還し、焔のターンは終わる。
士道焔
LP5300 手札3
□□■□□
□□ゴ鋼□
□ □
□□ス□□
■□□□□
灰村紅蓮
LP4800 手札5
ゴ:ゴッドフェニックス・ギア・フリード
鋼:鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード
ス:スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン
■:伏せカード
紅蓮のターン。彼は1ターン目からずっと伏せられているカードへ目を向ける。
(何のカードだ? デッキ的には【イグナイト・リロード】【イグナイト・ユナイト】【イグナイト・バースト】・・・・・・いや、流石に違うか)
だとすれば汎用カード、【リビングデッドの呼び声】や【戦線復帰】辺りだろうと推測し、それ以上は思考を打ち切る。
「ドローカード! ・・・・・・さて、どうするか」
勢いよくカードを引いたものの、どう動くべきか。フリーチェーンでカードを対象に取らず破壊される、もしくはモンスターの効果を無効にされる。そして伏せカード。
数秒熟考して、紅蓮は一つの答えに辿り着いた。
『取りあえず 殴ってみれば いいじゃない』
季語は後で考える。
「考えるのはもうやめた! バトル、【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】で【ゴッドフェニックス・ギア・フリード】に攻撃!」
「真正面から来た!? クットラップ発動、【アームズ・コール】! デッキから【月鏡の盾】をゴッドフェニックスに装備するぜ!」
「ゲッ!?」
【アームズ・コール】の効果はデッキから装備カードを自分フィールドのモンスターに装備する、というもの。そして【月鏡の盾】の効果は。
ゴッドフェニックス・ギア・フリード 攻撃力3000→7100
墓地にチューナーが増えたことで力を増していたスカーレッドの姿がゴッドフェニックスの手にした盾に映り、自らの虚像へと向けた真紅の竜の攻撃は、自身へとそのまま跳ね返ってきた。
灰村紅蓮
LP4800→4700
カハッ、と下手に笑って、紅蓮はメインフェイズ2に入る。
「【竜の霊廟】を発動、デッキから【アブソルーター・ドラゴン】を墓地へ送りアブソルーターの効果、【ヴァレット・シンクロン】を手札に加え通常召喚ッ! 効果でアブソルーターを特殊召喚しシンクロ、吠えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
フィールドに紅蓮魔竜が降り立った瞬間、魔導騎士の剣に再び焔が宿る。
「手札の【焔聖騎士-ローラン】の効果を、ギルティギア・フリードを対象に発動! チェーンしてギルティギア・フリードの効果発動だ! 何のつもりか知らないけど、止めさせてもらうぜ!」
そのまま焔剣が紅蓮魔竜を切り裂き、わずか数秒で退場する。【レッド・デーモン】で即落ち二コマとか誰得だろうか。普通に需要がありそうで怖い。
「【死者蘇生】発動! 蘇れ【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】! そのまま効果発動だ!」
「うお、マジかッ!?」
スカーライトがこれまでの鬱憤を晴らすようにギルティギアへ右腕を振り抜き、背後から盾で殴ってきたゴッドフェニックスの攻撃を回避し
士道焔
LP5300→3800→3300
【月鏡の盾】の強制効果でデッキボトムに送る焔。
フィールドを焼け野原にした紅蓮も、これ以上は動けないのか何もしない。
「カードを伏せて、ターンエンドだ」
士道焔
LP3300 手札3
□□□□□
□□□□□
□ □
□□レ□□
■■□□□
灰村紅蓮
LP4700 手札3
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト
■:伏せカード
ライフは再び逆転し、手札枚数は同じ。だが更地になった焔のフィールドと攻撃力3000がいる紅蓮とでは、どちらが不利かはよくわかるだろう。
「俺のターン! よし、【イグナイト・マスケット】と【イグナイト・デリンジャー】でペンデュラムスケールをセッティング!」
スケールは2と7。レベル3~6のモンスターが同時に召喚可能。
「ペンデュラム召喚! 【イグナイト・ウージー】! エクストラデッキから【イグナイト・キャリバー】!」
イグナイト・ウージー ☆6 ペンデュラム 守備力2700
イグナイト・キャリバー ☆6 ペンデュラム 守備力2200
登場したのは特攻隊長と【イグナイト・デリンジャー】のお目付役兼親衛隊長。しかし現在重要なのはどちらもレベル6であること。
「ウージーとキャリバーでオーバーレイ! エクシーズ召喚! 【
【
「エクサビートルの効果で、墓地の【ギガンテック・ファイター/バスター】を装備して、その攻撃力の半分だけステータスが上がるぜ!」
だが本題はそこではない。
「確かエクサビートルの効果は・・・・・・」
「オーバーレイユニットを一つ使って、お互いのフィールドの表のカード一枚ずつを対象に、墓地へ送る!」
無論対象はスカーライトとエクサビートル。だがただでやられるほど紅蓮は甘くない。
「リバースカード、【シンクロコール】! 墓地から【シンクローン・リゾネーター】を特殊召喚し、スカーライトにチューニング! シンクロ召喚、深炎より来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 攻撃力3200
そしてエクサビートルは墓地へ送られ、装備されていた/バスターは
「破壊された【ギガンテック・ファイター/バスター】の効果発動! 復活だ【ギガンテック・ファイター】!」
ギガンテック・ファイター ☆8 攻撃力2800→3400
二度あることは三度ある。それを体現するかのように復活した戦士はボクシングの構えを作ってアビスへの戦意を示す。
「バトルフェイズ! 【ギガンテック・ファイター】でアビスを攻撃!」
「アビスの効果発動、だが・・・・・・」
焔の手札には
「手札の【焔聖騎士-ローラン】の効果発動! ギガンテックに装備する!」
ギガンテック・ファイター 攻撃力3400→2800→3300
上昇値はわずか500、だがそれでも届く。
同胞の仇討ちだと言わんばかりに、戦士の拳が深淵竜を貫いた。
灰村紅蓮
LP4700→4600
わずかながら削られるライフ。だが紅蓮の笑みは崩れず、その濃さを増すばかりだ。
「ターンエンドだぜ」
士道焔
LP3300 手札0
□□焔□□
□□ギ□□
□ □
□□□□□
■□□□□
灰村紅蓮
LP4600 手札3
ギ:ギガンテック・ファイター
焔:焔聖騎士-ローラン(装備:ギガンテック・ファイター)
■:伏せカード
アビスの効果が切れ、【ギガンテック・ファイター】の攻撃力は3900まで上昇した。
紅蓮が思い付く勝ち筋はいくつかあるが、手っ取り早いのが一つ。このドローは激しく重いぜ、というヤツだ。
「オレのターン、ドロー!」
カン☆コン! となればよかったのだが、彼の望んでいたカードではない。
(あれ、そういえばこの伏せカードって何だったっけ・・・・・・)
多過ぎる手札(とゴキブリ)に酔っていたためあまり記憶にないそのカードをポチポチとディスクを操作し確認すると、それは新しく入れた
「・・・・・・マジか」
はあ、と己の迂闊さに溜め息が出る。怪訝そうにこちらを見る焔を手で制して、余った左手を頭に乗せた。
「【ヴァレット・シンクロン】を召喚し効果、墓地から【琰魔竜レッド・デーモン】を特殊召喚。更に【クリエイト・リゾネーター】を特殊召喚し、ヴァレットとクリエイトでダブルチューニング!」
調律魔と弾丸竜が三つと一つ、計4つの炎輪となって琰魔竜を包み込む。
「惨禍と化せオレの魂【琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ】!」
球体となった炎が爆ぜると、そこには
「リバースカード、【スカーレッド・レイン】! フィールドのレベルが一番高いモンスター以外のモンスターを全て除外するぜ」
「なッ!」
真紅の炎を身に纏った惨禍の竜が、その灼熱を空へ打ち上げ雨として降らせる。
焔の戦士は、その雨に焼かれて黒こげになった。上手に焼けました!
「バトルだ! カラミティでダイレクトアタック!」
「くっ・・・・・・俺の負けだー!」
士道焔
LP3300→0
デュエルが終わり、緊張がほどけた紅蓮が真っ先に感じたのは、羞恥心だった。
(あ~やらかした! この前宮津に大口叩いて説教したっつーのに、オレが周り見えてなかったとか、笑い物だ! しかも伏せカード忘れるとかアホ過ぎることやらかしたし!)
頭を抱えてその場にうずくまりたい衝動を抑え、改めて焔の方を向く。彼はこちらに歩いてきた所だった。
「今回は負けちまったけど、次はゼッテー勝つからな」
「ああ、楽しみにしてるぜ。次もオレが勝つけどな」
差し出された手を握りながらも、そこは譲らなかった。
「なんだと!? 次は俺が勝つっっつーの!」
「カハッ、寝言は寝て言うものだぜ士道?」
ギュッとお互いの手に力が籠もる。至近距離で睨み合う二人に、呆れたように男性教師が声をかけた。
「はいはいそこまでー! ただでさえ長いデュエルで時間使ってるんだから、早くどきなよ♪」
男性教師の声に、正気に戻った二人。とりあえず、観客席に戻ることにした。
(ふむ。中々いいですね、あの二人)
そう義手で顎をさするのは後藤校長。彼は鋭い目つきで二人の背中を見る。
(灰村くんはデュエルセンスが高く、まだ磨き足りないにしても才能がある。士道くんは自分の実力がよくわかっていて、できることを最大限にやっている)
さて、話が逸れるが、『デュエル甲子園』出場選手は夏休み期間などに
「フフフ・・・・・・クフフフフ・・・・・・」
顎から口元に移した義手の間から漏れる笑い声。周囲の先生方は悟られない程度に全力でドン引いていた。
簡単なキャラクター紹介⑫
士道焔
デュエルスクール クスィーゼ校 一年
【イグナイト】を使う熱血少年。しかし自分の実力などは自覚しており、ただの熱血ではなく冷静な熱血である。近年稀に見るわかりやすい矛盾。
新ルールで使いづらいどころか死体同然になった【イグナイト】を使い続け、戦士族のストラクチャーデッキでようやく実力を取り戻した。そのため紅蓮には近しいものを感じていたが彼が先輩とばかりデュエルしているため関わりを持っていなかった。
外見は赤いメッシュの入った黒髪に平均的な身長と軽めな体重。もうコイツがしゅじんこうでいいんじゃないだろうかと言いたくなるほど主人公っぽいキャラである。
また1ヶ月ほど空いてしまいました。実験とか研修とか期末考査とかで忙しかったんです。
春休み万歳!
追記:終盤の【シンクロコール】を【スカーレッド・レイン】に変更しました。
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