オリ主がGS世界で色々変えようと奮闘するお話 (ミニパノ)
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1:はじまりは突然に~オフィスビルを除霊せよ~

ちょっと前に短編を練習がてら投稿しましたが、連載で投稿はこれが初めてになります。
拙いなりにも完結できるよう試行錯誤しながら頑張りますので、出来れば生暖かい目で見守っていただければと、宜しくおねがいします。
良ければ、意見/感想/誤字脱字報告などありましたら宜しくおねがいします。糧にさせていただく所存です。


目を覚ますとそこには……。

 

「化け物がいました……ってどこの漫画だよ!」

 

俺は廃墟の柱の後ろで固まったまま、音には出さずに口の中だけで叫んだ。

柱の向こうには化け物(巨大な幽霊?)がブツブツと何かを呟きながら徘徊している。

これは夢だ、夢でなければ俺に戦う術なんてない。

 

確かに俺は子供のころから格闘技に尽くしてきた。

それなりに自分でも自信はある程度には強くなり、17歳にして世界のホープと呼ばれる様になったし、普通の高校生活をしつつも、裏でヒーローみたいなことをしてきたという、それこそ何処の漫画だと言える様な生活をしてきた自覚はある。

 

とはいえ、あんな化け物相手に只の肉弾戦が効くとは思えない。

なるほど、夢ならもしかしたら不思議パワーが出るかもしれない。

うおー!……うん、不思議パワーは出ない!畜生!

 

それにしても漫画みたいに解りやすい程に化け物だ。

例えるなら俺の好きな漫画に出てくるGS美神に出てくる様な……。

そんな事を考えていると近くのエレベーターが動く音が聞こえた。

ひょっとして助けが……?

まさかこんな廃墟のエレベーターが動くと思っていなかった俺は少しの希望を持ち始めていた。

エレベータのドアが開いた瞬間、俺の思考は止まった。

 

「霊能者にはハッタリが重要よ」

 

「よその霊能力者が聞いたら怒りますよ」

 

柱の影から覗きこんだそこには、先程俺が冗談というか現実逃避程度に考えたGS美神の登場人物である、美神令子、横島忠夫、おキヌちゃんがいた。

確かに考えてみれば、その漫画のかなり序盤で見た依頼のシーンにそっくりだ。確かこの悪霊はここの元社長で自殺したとかだった気がするが。

 

「ど、どういう……?」

 

ドッキリか?やっぱり夢か?とも思ったが、あまりにリアル過ぎるこれらがドッキリとは思えず、同様に現実としか思えない程に自分の意識はハッキリしていた。

 

そうこう考えている内に、荷物をエレベーターに置いたまま美神達は悪霊の攻撃を受けてしまう。

天井が崩れてエレベーターの入り口が塞がる。

漫画で見た通りの展開だ。このまま何もしなければおキヌちゃんが八千万のお札を取りに行って破いてしまうが、横島の煩悩の御蔭で無事悪霊は退治できるハズ。

 

「俺、変に冷静だな」

 

場違いな事を呟きながらも彼らの動向を見つめる。

美神さんが張った結界がドンドン攻撃されており、そのたびに結界がミシミシと悲鳴を上げる。

正直どうにかなると解っていてもハラハラするものだ。

……待てよ、これが本当に漫画の通りになるって保証はあるのか?あのまま結界が壊れちゃったら美神さんも横島も殺されちゃうんじゃないか?

大体彼らは本当に美神さんや横島なのか?

 

自分の想像に背中が冷たくなる感覚を覚えた。

おキヌちゃんは、まだお札を取っている最中だ。

 

「まずいわね、この結界、時間稼ぎには足りなかったかもしれないわ。それに、この悪霊も天井に気付いたかもしれないわよ」

 

「ヤバいっすよ~!!」

 

漫画にあったかどうかわからないセリフ。それを聞いた瞬間、俺は大した考えも無しに飛びだしていた。

 

 

 

 

「オラ化け物!こっちだ!」

 

天井を見つめていた化け物に石を投げつけて叫ぶ。

 

「ウガ?」

 

「なっ!」

 

「何でこんなところに子供が?!」

 

石は悪霊を貫通して何の意味も見せなかったが、悪霊は俺に気付いた様で身体ごと振り向いた。

美神さんも横島も驚きの声を上げている。

 

「はは……死んだかな俺」

 

自分のした行動に気付いて我に返った時には遅かった。既に悪霊は俺に向かって突進してきている。

苦し紛れに相手の攻撃に合わせてしゃがんだ俺は、死を覚悟した。

 

「うがぁ?!」

 

何の奇跡か、俺はあの悪霊の攻撃をギリギリかわす事が出来たらしい。

やけに身体が軽いが好都合ではある。とにかく逃げるしかない。エレベーターに向かった瞬間、すぐに俺は後悔した。

 

「エレベーター埋まってるんだった!」

「おキヌちゃん!戻って来なさい!」

 

俺の動きを追っていた悪霊はエレベーターがある俺の方へ突っ込んでくる。おキヌちゃんは美神さんの言葉通りに逃げた様だ。

絶体絶命の中、頬に触れたのは中途半端におキヌちゃんが引っ張り出した、八千万と書かれた紙きれだった。

 

「なる様になれ!」

 

どうせ動かないだろうが、このまま死ぬよりは良いと瓦礫に手を添えて力を入れた。

……瞬間、想像もしてなかったほど軽く瓦礫が崩れ、エレベーターの扉をこじ開けることが出来、お札が自分の手元におさまった。

 

「は?」

 

呆然としている間に悪霊が手を振り上げていたのに気付き、地面を蹴った。

 

「へ?!」

 

俺は悪霊の頭を飛び越える跳躍をしたらしい。スローモーションのように空中を動き、悪霊の背後に着地した。

 

「んん?」

 

自分の動きに頭がついていかず、ぽかんとしていると、美神さんが俺の手からお札を取りあげてこういった。

 

「でかした!!極楽へ、いきなさい!!」

 

美神さんが叩きつけたお札は悪霊を跡形もなく消し飛ばした。

 

「やるじゃないアンタ!助かったわ!……で、何でこんなところにアンタみたいなガキンチョがいたのよ」

 

美神さんの声を聞きながら、緊張の糸が切れたのか、俺は、意識が、沈んでいくのを、感じた。

一言、言うとすれ、ば……。

 

「誰が、ガ、キンチョ……だ」

 




ちょっち短いですかね。。
冒頭だけすぐ次を出します。


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2:美神令子除霊事務所へようこそ

一話の文字数ってどれくらいが普通なんでしょうね。
皆さんの小説を見たら思ったより結構なバラつきがあったので、試行錯誤してみようと思います。
おそらくは暫く短い気もしてたり……。


凄い夢を見た気がする。

何故か俺はGS美神の世界に居て、何故か凄い身体能力で彼女達のピンチを救うという夢だ。

いやぁ、今思うと楽しい夢だった気もするな。本当に死ぬかと思ったし、死を覚悟したけど。

さて、目も覚めてきたことだ、目を開けたところでいつもの知ってる天井だ。

さぁ、今日も頑張って学校いくぞ!俺は、目を開けた。

 

「……知らない天井だ」

 

鉄板だな……。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

「……え?あぁ、おはようございます?」

 

真横から聞こえてきた声にぼーっとしていたとはいえ、反射的に答える。そして、顔をそちらに向けると……おキヌちゃんが俺の事を見ていた……宙に浮いて。

……まだ夢の中の様だ。

 

「おやすみなさい」

 

「あぁ、駄目ですよ、美神さんから貴方が起きたら連れてくる様に言われてるんですから、それともまだ体調悪いんですか?」

 

うっ、流石は良心の塊だ。夢の中でも罪悪感を覚えさせる様なことを言う。

 

「だ、大丈夫だよ」

 

「良かったぁ、じゃあ一緒に美神さんのところへ行きましょうか」

 

言われて寝かされていたベッドから降りる。

……?

ちょっと高いベッドだな。というか全体的に視点が少しだけ低いような……。

 

おキヌちゃんに連れられてドアを開けると、部屋の中には予想通り所長席に座ってこちらを見ている美神さんと、ソファから同じくこちらを見ている横島がいた。

やっぱり夢ではなく、GS美神のキャラが俺の目の前にいる。どうやら信じられない事に、現実の様だ。

 

「起きたのね、さて、あんたのお名前は?」

 

「……シュウ、上坂秀(かみさかしゅう)」

 

答えない訳にもいかないし、お世話になってるのは間違いないので素直に答える。

失礼ながら漫画ではそこまで思った覚えが無かったけれど、美神さんすっげぇ美人。

255円で雇われる横島の気持ちもわか……いや、255円は無理だわ。あ、今はまだ250円だったっけ?

 

「なるほど、シュウね。あんたは何であんな場所にいたのかしら?」

 

「わからない」

 

「は?」

 

美神さんが睨んでくるが正直に答えたのだ、しょうがないじゃないか俺が一番知りたいくらいなんだから。

 

「本当に解らない。気付いたらあそこにいた」

 

「アンタあの時間なら学校に行ってる時間じゃないの?」

 

「気付いた時から一人。高校には行ってない」

 

下手に漫画がどうとかは言わない方が良さそうだ。ベタだけど記憶喪失とかみなしごってことにした方が良いと思う。

甘いかもしれないが国が何とかしてくれて新しい生活とかもありえるだろうし。

俺のデータを調べたところであるわけがないんだし。子供の頃登録もされずに捨てられて一人で生きてきた、とかどうだろう。

 

「美神さん、やっぱコイツ記憶喪失ってやつじゃないっすか?」

 

お、ナイスフォロー横島。

 

「そうね、この子が高校生なわけないしね」

 

ん?何かおかしいな。

 

「いや、高校生なのは間違いないと思うけど、俺17歳ですし」

 

「はぁ?!お前俺と同い年かよ!」

 

そういえばそうなるな、原作でも横島は17歳だったはずだし。

と言ってもそんなに驚かなくて良いじゃないか。

確かに童顔とは言われてたけどそんなの身長見れば……何か横島、背高くない?

 

「アンタ、自分の容姿に自覚ないの?確かに身長は中学1年生程度だからそんな高校生がいてもおかしくは無いけど、少なくともそこまで童顔な高校生は、いないとは言わないけど不自然よ」

 

「はぁ?!」

 

鏡を俺の前に置いた美神さんが呆れたように言う。確かに目の前に映っていたのは中学一年頃の俺と瓜二つのガキンチョだった下手したら小学生に見える。思わず声を上げてしまうのもしょうがない。

 

「ま、まぁ発育は人それぞれ違いますし……」

 

おキヌちゃんがフォローしてくれているんだろうが、フォローになっていない。

 

「なんでアンタ自身が驚いてるかはさておき、とりあえず、アンタが高校生のシュウってことは解ったわ。それ以外は特に解らないのね」

 

「はい、まぁ」

 

俺の答えに深くため息をつく美神さん。

 

「まさか美神さん、こんなみなしごの子供を追いだすわけじゃ……」

 

おキヌちゃん、俺17歳だってば。

おキヌちゃんの言葉を聞いて肘を机に付いて嫌そうな顔を隠そうともしない美神さん。

 

「私もホントなら『あらそう、お疲れ。さっさと帰んなさい』で終わらせるつもりだったわよ」

 

「こんな特殊な状況だと、警察とか説明とか色々と面倒だからため息ついたんですよね。決してコイツが可哀想だとかそういうことではないですよね、ふご!!」

 

流石横島、美神さんの事を解ってる。肘が顔面にめり込んでるが、あれはいつものことなんだろう。

 

「……美神さん、シュウ君もここで雇ってあげれば良いんじゃないですか?」

 

「あのねぇおキヌちゃん、確かに私はおキヌちゃんも雇ったりしたけど、子供雇ったところで仕事なんて出来ないでしょ?流石に一人の子供を育てていく様なお金は出したくないわよ。いくら私だって」

「いや、美神さんだからでしょ。おべ!!」

 

鼻血を垂らしながらもそういうツッコミを入れるのは尊敬できるぞ横島。あぁ、今度は神通棍が刺さってる。

 

「ってさっきから言ってるけど俺は子供じゃなくて17歳ですって!」

 

「「「あ」」」

 

こ、こいつらマジか。

 

「そうですよ、シュウく……シュウさんは高校生なんですから横島さんを雇ってるのと変わらないですよ」

 

「いや、そうはいうけどなおキヌちゃん、俺が持ってる荷物ってこんなんだぞ?」

 

ソファの横に置いてあったリュックを指さす横島。確かにとんでもないでかさだ。

前から思ってたけどこういう漫画ならではのクソでかいリュックってどれくらい重いんだ?

試しにリュックの肩ひもを掴んで引っ張ってみる。

 

「は?」

 

「「「へ?」」」

 

何か普通に持ちあがった。しかも割と軽いと思うんだけど。そのまま背負ってみる。一応頑張れば地面にはつかない様に持てるな。

油断したら身長の問題で地面につくんだが……。

 

「おま、ちっちゃい身体になんつう筋肉しとんじゃ。俺ですら泣きそうになる位重いのに」

 

「大げさな、これくらいなら軽いじゃないか。ってか俺も同い年なんだからそっちが持てるなら俺が持てたところでおかしくないだろ」

 

苦笑して言いながらリュックを降ろす。

 

ずぅん……!!

 

…………なんか軽いモノを置いた時に出る訳ない様な音が鳴った気がするんだが。

 

「……あんた、ゴーストスイーパーって知ってる?」

 

「へ?」

 

まぁそりゃ知ってるに決まってる。漫画の中で一番好きだったし、ラストの方の横島には何度泣かされたか解らない。出来る事ならルシオラとハッピーエンドを迎えて欲しかった。

 

「まぁ、一応記憶にはあるみたいですけど」

 

「興味は?」

 

これはまさかここで働けるということか?

確かにこのままここを出たところで行くあてなんてない。

唐巣先生とかなら拾ってくれそうだが、彼にアレ以上の負担をかけるのも相当に引けるものがある。

何より俺は前述した通り、横島とルシオラが幸せになるのを望んでいる。(他の女性陣には申し訳ないが)

……何も出来ない俺なんかが居たところで良い方向に行くかは解らないし、下手したら悪い方向に行くかもしれない。

大体俺みたいなイレギュラーが居たら何が起きるか……。

 

「興味は?!」

 

「は、はい!あります!」

 

しまった!美神さんの迫力につい返事をしてしまった。

 

「よし!あんたしばらくここで働きなさい。給料は大してあげられないけど生活だけは保障してあげるわ。横島君と同じ安アパートになるけど。どうせ行くあてもないんでしょ?それだけ力があれば荷物持ちには間違いなくなるだろうし」

 

「えー!ずるいっすよ!俺は時給250円なのに!」

 

「アンタは生活の保障は親の仕送りで何とかしてるでしょうが!大体あんたの給料からはセクハラ代とかの迷惑費が引かれてるのよ!

それに、アンタの荷物持ちも分担できてだいぶ楽になるわよ」

 

「俺は横島、宜しくな、シュウ」

 

うわー、現金な奴ら。原作で知ってるとは言え目の前で見るとすげぇな。

とはいえ、俺からすればあの横島と握手が出来る訳だ。

少しテンションが上がりながらも、差し出された手を力強く握り返した。

 

「よろし「ぎゃー!手が!手が!!」へ?」

 

俺が手を握った瞬間、横島が喚き始めた。確かに強めに握ったが、そんなに叫ぶほどじゃないハズ。すぐに手を離したが横島の手は赤く腫れていた。

 

「す、すまん。そんなに強く握ったつもりは」

「こんのバカ力が!次やったら新人苛めするかんな!!」

 

……あれ?ひょっとして、俺の身体能力おかしくなってる?

 

「あの悪霊と戦った時と言い、とんでもない拾い物したかもね。私は美神、ここの所長よ。あ、私の手を握りつぶしたら、殺すから」

 

ニコニコしながら手を差し出す美神さん。殺気をここまで笑顔で出せる人は初めてだ。

俺はビクビクと力加減を間違えない様に彼女の手を握った。

 

「宜しくお願いします」

 

良かった、普通に握れば大丈夫みたいだ。力を入れると強過ぎる事があるのか?気を付けよう。

 

「私はおキヌです、幽霊ですけど、宜しくお願いしますね」

「はい、宜しくお願いします」

 

なんだか流れでこんなことになってしまったが、これから俺はどうなるんだろうか。

出来れば全てにおいて良い方向へ向けられる様にしたいと思う。

 

特に、横島は好きだったし(変な他意は無い)是非とも幸せになってほしい。

 

「あ、お前ハッキリとしたイケメンやないけど、予備軍なんだから俺のナンパとか邪魔すんなよ!というか世の中の女はワイのもんじゃー!」

 

……考え直そうかな。

 



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3:地雷ゴーストスイーパー登場

前半はほぼセリフがありません。正直適当に飛ばして大丈夫じゃないかと。
それと、後半は原作キャラがちょろっと登場します。

あと、今更ながら気付いたんですが、
これGS美神知らない人は読んでて難しいのでは?と思い始めました。
なるべく気をつけようとは思いますが、中々文章でそれを伝えるのは難しいですね。
GS美神知ってる人推奨ですな……。


美神さんに雇われてそこそこ時間が経った。

どういう手続きをしたのか、そもそもどうやったのか判らないが、俺は横島と同じ高校に通っている。

ちなみに美神さんに確認しようとしたところ、「知りたい?」と仄暗い微笑みを見せられたので俺は考えないことにした。

 

学校での扱いはこの見た目もあって、不本意ながら同い年だという扱いを受けていない。

男子も女子も俺のことを子供だと思って接してくる。これは何度17歳だと説明したところで無駄だった。どういうことだ。

そのかいあって男として驚異に思われていないからなのか、元々やはりと言ってはなんだが根が良いやつなのか、はたまた子供に甘いだけなのか、理由は解らないものの、意外と横島とは良い友人関係を維持できている。

 

オカルトやGS関連のこと以外はこの世界と元いた世界にそれほどの差を感じなかったので、今のところ特に生活で困るようなことはない。

この見た目のせいで、何処行くにも学生証は手放せないけど。

 

改めて、ここ何日かの生活で解ったことがいくつか。

どうやら俺は人より霊力がかなり低い、ということ。

それこそ一般人より低いレベルでだ。

 

それとは逆に、予想はついていたが身体能力については尋常じゃなく高い、ということ。

この世界で、という意味だとは思うが、どこの宇宙開拓史だ。

ついでに何で見た目若返ってるのか、意味がわからない。

 

自分で言うのもなんだが、元の世界でもそれなりに強かった自負くらいはある。

ただ、それにしてもこの世界で身体を動かすと、それだけでは説明がつかないくらい力が溢れる感覚を感じる。

相当手を抜いても学校の体育とか目立って仕方がない。目立ちすぎて学生花山薫コースは避けたいので、なるべく目立たないよう努力はしている。

 

まぁ霊力が低いという、この世界で致命的な欠点を持っていることを考えると、それくらいのアドバンテージはあってくれて良かったと感謝するべきかな。

正直どこまで生き残れるか、が暫くの課題になりそうだ。

体力や力がどれだけあったとしてもそれが通用するのはあくまで対人、今の俺は雑霊だとしても油断したら即死だろう。その代わり対人戦の心得があることには、過去の自分に感謝、かな?

とはいえ霊力が使えないのはこれから長くなるであろうこの生活で致命的すぎる。早めになにか手を打たなければ。

 

さて、今後についてだが、色々と問題が山積みだ。

まず原作知識を持っている、というのは大きいメリットにはなるだろうけど、大きいデメリットが複数隠れている。

すぐに思いつくのはヒャクメ。考えを読まれるとこの知識は相当にまずい。もうヒャクメには正直に話してしまって協力してもらうのが良いのかもしれない。

いやでもそれだとどうやって接触すれば良いんだ?

出会い方がみんなと同じ場所で、となるとどう考えてもうまくいくイメージがつかない。

ナイトメアとか面倒なのも居た気がするし、力の大きい神魔とかも考えを読むくらい出来るんじゃないか?

あー、そもそもアシュタロスとの対面があった時点で詰むんじゃないか?今のうちに色々整理して考えておかないとな。

読心に関わらず、何らかの形で原作知識が誰かに漏れた場合に考えられる影響は計り知れない。

 

それ以外にも、そもそもその原作知識を何処まで信用していいか、という問題もある。信用しすぎると何処かで足元をすくわれる気がする。

 

あとはやっぱり霊力無し問題だよな。どうすれば良いんだこれは。

妙神山か?それとも神父とか探して頼るか。エミさんは……、美神さんが怖いから無理だな。そもそもどうやって知り合うんだ。

 

一番の問題はルシオラだよな。

俺が一番変えたい内容。これは相当作戦を練らないと。歴史の修正力がどうこう、とか言い出したらどうあがいても無理だし、何も考えずにいきあたりばったりだと何も変わらないとかあり得る。

 

いや、そもそも俺がいることによって、悪化が考えられるんじゃないか?

 

「おいおい、こっちの方が問題じゃないか」

 

つい呟いてしまう。

変えたい内容がどう、とか以前に俺がいることで最悪普通の依頼時に誰かが死んでしまう、ということだってありえる。

そう考えた瞬間、自分の背中を冷たいものが通る。

気分としては一瞬で目の前が真っ暗になった気分だ。

とはいえ関わってしまった以上、既にどんなバタフライ効果が現れるかわかったもんじゃない。

 

ま、まずは自分の記憶の整理や事前に取れる対策検討からだな。

気付いてしまった恐怖から目を反らす様に、別のことを考える。

 

 

 

 

 

……と思ってたんだけどなぁ。なぜこんなことに。

目の前にはすっかり考えから抜け落ちていた人物との接触が行われていた。

いやー、実際この生活思ったより余裕が無い気がするので仕方ないとしよう。(現実逃避)

 

これまでの日々だって、原作で見たこと無い依頼とかも沢山出てくるし、原作で見た気もするなぁって話があっても、そんなにはっきり覚えていない内容なんかは見てるだけしか出来ないし、そもそも知ってる知らないに関わらず毎回生き残るだけで精一杯だ。

 

こないだのモガちゃん人形とか滅茶苦茶怖かった。動く人形ってそれだけで怖い気がするんだけど……。

いやそもそも俺怖いの基本的に駄目なんだけど。

あの漫画こんなに怖かったっけ?やっぱりリアルだと全然違うってことだろうか。

それと、改めて横島の不死身っぷりが異常だと思う。なんで幽体離脱で宇宙行って生きてるんだ。

銀行強盗は直前に思い出して用事があるって断れて良かった。一応銀行と交渉の上で正規の依頼という形とはいえ、擬似的にも犯罪行為はごめんだしなぁ。後で「お前が一番役に立てるところだろうが!」って滅茶苦茶文句言われたけど、成功したなら良いじゃないか。

 

そんなこんなで、ゆっくり考えたり悩んだりする時間がなかなか確保できない。

……いや、修行に時間費やしすぎな気もしてきた。

 

ついでにおキヌちゃんが色々横島の世話ついでにウチの部屋にも世話しに来てくれるおかげで、知識整理とかメモすることも危ない。

下手に誰かに伝わったら大きく流れが変わりすぎて、どんな影響が出るか判らない。

 

とかやってた結果ではあるものの、目の前の状況に俺はすごく後悔していた。

 

 

 

 

「共同作戦?!」

 

美神さんがある人物の前で引きつった顔で驚きの声をあげる。

対してその人物はニコニコ顔だ。

 

「宜しくね~令子ちゃん~」

 

そう、俺は霊力が無い状況にも関わらず、ある意味超危険人物の六道冥子さんと、美神さんの共同作戦に参加することになってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして~、六道冥子です~」

 

「ずっと前から愛してました」

 

アホですな。

黒髪ボブカットで上品な印象を受ける女性が美神さんとの話の途中で挨拶をしてきたところ、横島のいつもの暴走が始まった。

はじめましてと言う彼女に対して手を握ってそのセリフは如何なものだろうか。

 

「今会ったばかりだろうが」

 

「シュウは黙ってろ!愛は時空を超えるんじゃ!」

 

とりあえずツッコミをしつつも横島と冥子さんから距離を取る。

巻き込まれたら冗談抜きで死んでしまう。

 

「ぼかー、ぼかーもー!」

 

ナンパ中にキスを迫るとは、横島、それは普通に変質者そのものだぞ。

まぁ、彼女に対してそんな心配は不要なわけだけども。

 

「あ~そんなことをなさっては~」

 

俺の予想通り、冥子さんの言葉と共に彼女の影から大量の鬼が飛び出す。

鬼と言っても普通にイメージする虎柄パンツに棍棒とかの鬼ではなく、所謂式神というやつだ。

 

彼女は式神使いなのだ。それも超名門のお嬢様で、12匹の強力な式神を操る天才である。

ただそれだけだと彼女に対して俺が何故ここまで警戒するのかの説明になっていないが、六道冥子の精神は正直言って幼い。

ちょっとしたことですぐ泣いたり、感情自体が未成熟、といったほうが当てはまるだろうか。

そして、感情が制御できないという精神を持っているのにも関わらず、彼女は感情が高まる、興奮する、などによって式神の制御が上手くできなくなる。

そう、つまり、暴走、するのだ。

 

「ひぃぃぃぃ!!」

 

そんなことを考えていたら横島が早速飛び出してきた式神達に襲われている。

離れていて正解だった。正直本人の自業自得ではあるし、今回のは暴走というよりはこれからの依頼に対して式神達の気が立っているだけとのことなので、放置。

 

「すみません同僚が。俺はシュウです。宜しくおねがいします」

 

「あ、おキヌと言います。宜しくおねがいします」

 

「あら~、宜しくね~。私の式神を見ても私を避けないのね~。令子ちゃん良いな~、私も助手欲しい~」

 

「あんたに助手はいらないでしょうに」

 

横島に比べて比較的平和な自己紹介をしている冥子さんに美神さんが苦笑しながら言う。

そして改めて美神さんから冥子さんの紹介を受けて、二人は目の前のマンションに入っていった。

 

今回はこのマンションの除霊依頼である。

新築マンションの形が霊を集める形になっていたらしく、大量の除霊が必要とのこと。

更に、祓っても祓っても集まってくるということもあり、まぁ暴走という欠点がなければこの二人に依頼を出すのは間違っていないんだろうけど。

 

流石に素人同然の俺達を連れて行くつもりはなかったのか、お留守番をお願いされた時は、正直助かったと思ってしまった。

確か、ここ、冥子さんの暴走で崩壊するんだよな。

 

「おキヌちゃん、依頼人さん、もう少し離れて待ちましょう。大量の霊がいるという話だったので、何が起こるか判らないですよ」

 

「そ、そうですね」

 

まぁ、美神さんと冥子さんと依頼人さんには申し訳ないけど、俺がここに入ったところで何も変えることは出来ない、ここは顔見せが出来たってことで納得しよう。

 

「誰か~、たっけて~」

 

あ、横島忘れてた。

冥子さんが出した式神の一体に頭を咥えられたままの状態だ。

 

「あー、どうすっかなぁ。確か、ビカラ、だっけ?悪いんだけどソイツ、離してあげて貰っていいかな。話が通じれば、だけど」

 

ダメ元で話したところ、ビカラはすぐに横島を離してくれた。

ちなみに、名前はさっき冥子さんが一通り呼んでいたのを聞いていた。流石に12匹全部とか記憶していなかったからちょうど良かった。

怪我をしていないところをみると、別に攻撃を受けていたわけではないんだよな。

確か横島は人外に好まれる感じだったし、こういうところにも表れてたのかな。

 

「あー死ぬかと思った」

 

「今のはお前が悪いだろ」

 

「うるさいエエかっこしい」

 

「俺がいつ良い格好をしたよ。助けてやったのにご挨拶だな」

 

「……なんとなく俺ばっかり貧乏くじを引くところとかに理不尽を感じる」

 

「お前、自分で言っててそれこそ理不尽でおかしいこと言ってると思わないか?」

 

「やかましいわい」

 

「自覚はあるのかよ」

 

はぁ、根は相当にいいヤツのハズなんだが、この頃は特に煩悩に振り回されているイメージが強いな。

ため息をついていたらビカラが近付いてきた。

 

「そういえばお前、ビカラで良いんだよな?」

 

俺の言葉に反応するように巨体を揺らす。

意外にも横島がそのままビカラに近付いて身体を撫でる。

嫌がる素振りもないビカラ、やっぱり人外に自然と好かれるんだなぁ。

 

「すげぇな、言葉通じてるっぽいぞ。よしよし、こうみると動物みたいだな」

 

「多分動物がモデルなんだろうな。さっきズラッと並んだときに見た感じ、トラとか馬とか犬とかいたし、数も考えたら十二支とかじゃないか?」

 

「へぇ、よく見てますねぇ」

 

俺の言葉におキヌちゃんが感心したように呟く。知ってただけなのでちょっと気まずい。

それより、真後ろだったこともあるけど……。ごめん、おキヌちゃん、正直いるの忘れててビックリした。

 

そんな感じで雑談などで時間を潰した結果、俺の記憶通りに冥子さんは暴走したらしく、目の前でビルが崩壊していくというレアな風景を見る羽目になったのだった。

 

 

 

改めて考えてみると、この時期は確か一気に色々な人と知り合う時期のはずだ。

確かカオスとかエミさんとか、主要なキャラが一気に増えた記憶がある。

記憶をどこまで信用していいかは微妙だけど、人脈は大事だし、仲良く出来ると良いな、と思っている。

 




ちょっと悲観的に考えている主人公ですが、この物語は別に悪い方向へ悪い方向へ、という流れで物凄く暗い話になる、ということではないです。


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4:ドクター・カオスとシュウの挑戦

続いてドクター・カオス登場です。

実はざっくり書きたい大筋のシーン(GS試験とかメドーサ編とか)を優先して書いてるせいで、前回とか今回のような細かい話の方を埋めてる状況だったりします……。
気持ちが急いて飛び飛びで投稿しそうになる今日この頃。
ただでさえ通常依頼系を飛ばしたりしているのに……。

追記:シュウ目線じゃなくなるタイミングとか、目線が切り替わるタイミングでその旨記載するように変更してみました。


今日は冥子さんが事務所に来ており、現在美神さんと応接室で雑談している。

と他人事に言っているが、何故か冥子さんの横に俺も座っている。

正直この距離で暴走されると死ぬんだが……。

まぁ横島はちょうど居ないのでそう簡単に暴走する原因は転がってないだろう。

ちなみに、美神さんも含めて三人の前にはケーキと紅茶が置いてあるんだけど、これがまた美味しい。

 

「あんた、相変わらず甘いもの食べてる時は幸せそうな顔するわね」

 

「かわいー」

 

自覚はないんだが、どうやら俺はケーキを食いながら笑顔でいたらしい。

それを見てか、冥子さんが俺の頭を撫でる。

完全に子供扱いである。やめて。

 

「あの、俺17歳なんですけど」

 

「えー、令子ちゃん、この子持って帰っちゃだめー?」

 

「いくらで?」

 

「聞いてくれませんかね。つうか美神さんもしれっと売ろうとしないで下さい」

 

全くもう、と文句を言うも二人共全然聞いてくれやしない。

まぁ折角美味いケーキ食わしてくれてるんだから我慢するか、と黙々とケーキを食べていたところ、二人の会話から無視できない単語が飛び出してきた。

 

「ドクター・カオス!?ってあの錬金術師の!?」

 

「ドクター・カオス?」

 

知ってますとは言えるわけもなく、美神さんから出てきたその名前を繰り返して問う。

そんな俺に冥子さんが説明をしてくれる。

 

「シュウくんは知らないかもしれないけど、古代の秘術を使って不死になった有名な錬金術師なのよー。ここ百年ほどは姿をくらましてたんだけどねー、今日本に来てるのよー」

 

「へぇ、凄い人なんですね」

 

「日本に来てることなんてどうして知ってるのよ冥子?」

 

冥子さんの話を纏めると、偶然空港で出会いサインを貰い、何故日本に来たかを聞いたところ、強力な霊能力を持つ人間と自分の魂を交換して身体を乗っ取ろうとしているとのこと。

そこで強力な霊能力を持つ人間に心当たりが無いか聞かれたため、洗い浚い美神さんのことを話してしまったらしい。

 

「だからここは危険よ~、早く逃げて~!!」

 

「「こらっ!!」」

 

いやはや悪気がないのがタチ悪いなこの人。

折角教えてあげたのに令子ちゃん怒ってばっかり~、と言いながら美神さんに追い出されるように帰っていった冥子さんを窓から見ながら思う。

 

カオスが来たってことは、横島が捕まってカオスと入れ替わり、横島の姿をしたカオスが美神さんを襲いに来るはず。

正直放っておいても美神さんのことだから後れを取るってことは無いだろうし、そもそも俺が知ってるとおりにコトが運ぶのであれば、美神さんは横島と入れ替わったカオス相手にボコボコにしてた気がする。

だとすれば、接触するべきは……。

 

 

 

 

 

〈三人称目線〉

 

「とは言っても何処行けば横島を見つけられるんだ?」

 

呟きながらシュウは街を歩いていた。

 

「くそぉ、とりあえずドクター・カオスとマリアをひと目見てみたかったんだけど、横島はアパートに居ないし、そもそもカオスのアジトって詳細な場所とか横島と接触した細かいタイミングって、漫画で描いてあった覚えがないんだよなぁ」

 

ブツブツ言いながらも足を進めるシュウ。

 

「これは大人しく美神さんのところで、横島と入れ替わったカオスが来るのを張ってたほうが良かったかもなぁ」

 

ふと目線を上げ、一部の集団が騒がしく何かを見ているのに気付くシュウ。

すぐにその一団に駆け寄り近付く。

 

「何かあったんですか?」

 

「ん?なんだか知らんが女の子が素手で公衆電話をぶっ壊して爺さん襲ってるとかなんとか」

 

「ビンゴ」

 

通行人から貰った情報を聞いてすぐにその現場に近付くシュウ。

そこには通行人に聞いた通りの光景が広がっていた。

 

「ギャー!」

 

「ドクター・カオスの命令により・捕まえます」

 

カオスの姿をした横島がマリアの攻撃を避け続けている。

どうしたものかと困り、様子を少し見ていたシュウだったが、流石に何もしないのも気が引ける、とマリアの目の前に割り込む。

 

「あんまり街で暴れないほうが良いんじゃないか?」

 

「おぉ!シュウ!助けてくれ!俺だ、横島だ!こんな身体になっとるが、色々あってなんと説明していいか」

 

「なんとなく知ってる」

 

説明が面倒になったシュウが答えた言葉に、よくわからんがラッキーと言って考えもせずに喜ぶ横島。

もう少し疑問を持てよと苦笑するシュウ。

 

「障害と判断・排除します」

 

「そう簡単にいくかよ」

 

マリアがくり出した拳を素手で受け止めるシュウ。

公衆電話を砕く威力の拳を平然と受け止めたことに驚くマリアとシュウ。

横島も改めてシュウのバカ力を見て顎が落ちている。

 

「ありえません・人間がこの攻撃を・受け止めることは・不可能」

 

「普通ならな。俺も驚いてるよ」

 

「ええぞシュウ!」

 

マリアの言葉に苦笑しながらも、ギリギリと凄まじい力で押し込んでくる拳を押し返すシュウ。

その後ろで、ヤンヤヤンヤと何処から取り出したのか紙吹雪を飛ばして喜ぶ横島。

 

「普段活躍できない分、こういう分野でくらい頑張らなきゃな」

 

「障害の排除難度高と判断・目標の確保を・優先します」

 

「あ、しまった」

 

「アホー!!」

 

言ったそばからマリアのフェイントに引っかかるシュウ。

マリアはそのままシュウの横をすり抜けて横島に向かう。

誰もがあわやと思ったその瞬間、横島の様子が変わる。

 

「お?戻ったか。おぉマリアどうし、たわばっ!」

 

「あ、ひょっとしてカオスが戻ってきたのか?」

 

シュウの言葉の通り、少し前にはなるが、美神の事務所では、横島の身体を持ったカオスが美神を襲うも、返り討ちにあっていた。

身の危険を感じたカオスは、捨て台詞と共に身体の交換を解除、元の体に戻ってきたところをちょうどマリアに殴られた、ということだった。

カオスにとっては災難である。

ちなみに、余談ではあるが今頃横島も美神にカオスのままだと思われてボコボコにされていたりする。

 

「マ、マリア、私がわからんのか、やめ」

 

殴られたカオスに引き続き攻撃をしかけるマリアだったが、その腕を再度シュウが止める。

目線だけをシュウに移したマリアは、片手間に相手する相手ではないと判断し、身体ごとシュウに向き直る。

その際、既に腕は振りほどいている。

 

「目標捕獲の障害・再度攻撃開始します」

 

「落ち着け、って言っても知り合いでも無いのに通じないわな」

 

「なんと、マリアのパンチを子供が止めたじゃと?!」

 

「しっけいな。子供じゃないっつぅの」

 

言いながらマリアから高速で繰り出されるパンチをすべて避け、捌き、受け止めるシュウ。

ならばとシュウの手を握り、手四つの状態から握力で押しつぶそうとするマリア、だが、それを正面で受け止めて逆に押し返すシュウ。

流石に異常すぎるシュウの筋力に、マリアも無表情ではあるが、キュインキュインと内部の回路を忙しく総動員し、シュウの観察を続ける。

 

「理解不能・人間の力を超えています」

 

「マリアの馬力を押し返すとは……!!」

 

「カオスだっけ?マリア説得しないと死ぬんじゃないか?」

 

押し合いながらもカオスに話しかけるシュウ、その言葉を聞いてハッと我に帰るカオス。

 

「マリア!既に横島の小僧に身体は返した。今は本物の私だ!」

 

「ドクター・カオス……、イエス・攻撃を中止します」

 

カオスの言葉を聞き、シュウの手を離してカオスの横に並ぶマリア。

やれやれ、と呟きながら肩を回すシュウ。

その様子を見てカオスが目を細める。

 

「お主、何者じゃ、マリアはわしの最高傑作のアンドロイドじゃ。人間の力でどうにかなるものではないぞ」

 

「あー、何者って言ってもなぁ、上坂秀、GS事務所で働いているバイトだよ」

 

「なぬ、お主がシュウか。確か美神令子の元で働いているバイトで霊能力がほとんどない、とか。霊力が無いのは聞いておったが、まさか力をこれほど持っておるとは」

 

「え、なんで俺のこと知って、あぁ、冥子さんが全部喋ったんだっけ?」

 

カオスの言葉に一瞬目を見開くが、納得してため息をつくシュウ。

シュウは冥子に自分の運動神経が高いところを今まで見せたことは無いため、カオスもそのことは知らなかったのだ。

 

「まぁ良いわい、何にせよ助かった、礼を言うぞ小僧」

 

「あんた、美神さん狙ってるんじゃないのか?そこの従業員なんだけど、俺」

 

「がっはっは、それはそれ、これはこれ、じゃ!助けてもらったことに変わりは無いわい」

 

細かいことは気にするな、と大きく笑ってシュウの背中を叩くカオス。

対するシュウは呆れ顔だ。

 

「はぁ、アンタは間違いなく大物だよ」

 

「そう褒めるな。さて、礼をしたいところじゃが、私も日本に来たばかりでな、いつか困ったことがあれば言うが良い、この天才錬金術師ドクター・カオスが力になってやっても良いぞ!わっはっは!」

 

「元気な爺さんだなぁ。じゃあそうさせてもらうよ。あ、じゃあ早速だけど美神さん狙うのやめて貰っていいかな」

 

「ぬ?うーむ、そうじゃなぁ。確かにあやつは中々手強そうじゃったし、別の手段を考えたほうが良さそうじゃのぉ。

ま、よかろう!お主には借りがあるしな!

もしあのままマリアを止められなければ大変なことになって、それこそ復讐せねば腹の虫がおさまらんかったかもしれんがの!わっはっは」

 

その言葉を聞いて冷や汗をかくシュウ。

本来の流れでは、あのままマリアにボコボコにされるカオスは美神に復讐しようと、存在そのものを消去してしまう薬を盛って、それを横島が誤飲、危うく横島の存在が消える危機に陥るところだったのである。

まさにカオスが言っていた通りの展開になるのである。

 

(正直横島にとって危険すぎるからなんとかしなきゃと思ってたけど、思わぬところで解決したな)

 

やれやれ、と大きく溜息をつくシュウ。

気を取り直してカオスに向き直る。

 

「それじゃあ、また何かあったら宜しく」

 

「おぉ、そうじゃの、次はお主を研究してみたいところじゃな小僧」

 

「勘弁してくれ。マリアも、またな」

 

「イエス・シュウ君」

 

「……二人共、ちゃんと誤解無いように一応、言っておくな。俺の年齢17歳だから」

 

改めて年齢を話したシュウの言葉に本日一番の動揺を見せる二人。

マリアに至っては狼狽えてオロオロと右往左往している。

 

「あー、どっちにしてもわしからしたら小僧じゃからセーフ!」

 

「シュウさん・また会いましょう」

 

「開き直るな爺さん!マリアもなかったことにするんじゃねぇ!」

 

全く、と呟きながら、帰路につくシュウ。

想定外の収穫があったが、最近色んな人に年齢についての訂正をして回っていることに気付いて肩を落とすのだった。

 

 

 

 

ちなみに。

 

「おーシュウ、さっきは助かったぜ。無事で何よりだ」

 

「横島くんから聞いたわよ、カオスのところに居たみたいだけど、大丈夫だったの?とんでもないアンドロイドとかも一緒に居たんでしょ?」

 

「あー、何とか。そのアンドロイドが、横島だと思ってカオスを襲ってたんで、カオスを助けたんですけど、その流れで美神さん狙うのやめるように言ったら承知してくれましたよ」

 

「でかした!そうか、シュウくんは霊力皆無だけど体力は異常だったわね。とは言っても、そんな相手になんとかなるってアンタも人間やめてるわねぇ」

 

「え、美神さんに言われたくないんですけど」

 

「え?減給してほしいって?仕方ないわね、叶えてあげるわよ?」

 

「えっと、正直すみませんでした。ただ、美神さんの命狙ってる人説得してきたんですけど俺」

 

「それはそれ、これはこれ、よ。まぁ今回は許しておいてあげるわ」

 

シュウが帰った事務所では、そんなやり取りがあったとか。

この人は敵に回さないほうが良い、と再認識するシュウだった。

 



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5:上を向いて歩こうとしたら、機械じかけの愛が突進してきた

はい、エミさん登場……。するはずだったんですが、なんでこうなったんだろう……。時系列と内容が一部変わってます。
今後も時系列が変わることは多々あると思います。

全然関係ないですが、個人的には外伝のエミさんの過去エピソードが好きだったりします。



「おはようございます」

 

「おはよう」

 

「……おはようございます」

 

「え?」

 

出勤して早々、俺の挨拶に対して美神さんとおキヌちゃん、二人の反応は薄かった。

なんだかおキヌちゃんに関してはかなり暗い。

うつむき気味に美神さんの方を心なしか恨めしそうに睨んでいるように見える。

 

「何かあったんですか?」

 

「美神さんが、横島さんを追い出しました」

 

「ちょっとおキヌちゃん!私が追い出したんじゃないでしょ!?あれはエミが」

 

「ほとんど追い出したみたいなものじゃないですか!」

 

マジか、数日休みだった間にエミさんの横島勧誘があったとは。

珍しく二人が言い争っているが、やはり後ろめたい気持ちもあるのか美神さんが押され気味だ。

二人の言い争いの内容的にはどうやらエミさんは俺も引き抜くつもりで来ていた様だ。

美神さんにとってはライバルみたいなものだから、だいぶイライラしてるみたいだ。絶対認めないだろうけど横島を取られた様なものだし。

 

「シュウさん聞いてます!?美神さんったら時給10円って言ったんですよ!?もう出てけって言ってる様なものじゃないですか!」

 

「いや確かにあれはちょっと無かったかもしれないけど、経緯はともかく横島君はやめちゃったんだから仕方ないじゃない!シュウくんも居ることだし、そんなに困らないわよ」

 

あ、これ、アカンやつや。

俺の予想通りおキヌちゃんは美神さんの言葉を聞いて、しくしくと泣きながら奥に引っ込んでしまった。

奥の部屋でこっちに聞こえるように、幽霊特有の鳴き声でしくしくと泣いているのがわかる。

 

「あ、あてつけがましい。。。」

 

「いや、今のは美神さんが悪いんじゃないですか?」

 

「あによ、アンタも私が悪者だっての?」

 

「いや、そういうことじゃなくて、横島が居なくても困らないって言い方ですよ。美神さんも横島が役に立ってるのは解ってるじゃないですか」

 

俺の言葉に対して黙る美神さん。

まぁ正直表情は納得行っていない感全開でむくれているが、美神さんも素直になれないだけなんだよなぁ。

などと考えていたらシバかれた。

 

「いたっ!なんでですか!」

 

「ムカつくこと考えてた気配を感じたから」

 

「これだから霊能力者嫌い!あ」

 

「やっぱりか!もいっぱつしばく!」

 

俺は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の女性をしばかねば、と決意した。

が、この人を敵に回すと怖いのでその決意はすぐに消え去った。

 

いや、まぁ冗談はさておき、正直大して痛くないけど、基本的に横島が受けてる理不尽な暴力がこっちにくるのはたまったもんじゃないな。

霊力付きで殴られた日には死んでしまうかもしれない。

これはさっさと横島に戻ってきてもらわないと。

……なんだか最近俺も毒されてる気がしてきたが、きっと気のせいだろう。

 

と言っても、エミさんはこの後横島の煩悩を利用して、自分の呪いと混ぜて攻撃してくるから、俺が居ても邪魔になるんだよなぁ。

なんてことを考えていたら思いもよらない声がかかった。

 

「ミス・美神・シュウさん・お借りします」

 

「「は?」」

 

美神さんからの二発目の理不尽な暴力をつい避けてしまい、余計に無駄な追加暴力を受けそうになっていたところに、突然ドアを開けてマリアが入ってきた。

その後ろにはおキヌちゃんが先程と同じ様な陰気な表情でこちらを、いや美神さんを見つめている。

 

「と、突然来て何よ。あんた、ひょっとしてドクター・カオスのとこの?」

 

「イエス・マリアと言います」

 

「それはまぁいいわ、で、どういうこと?」

 

さっさと要件を言えと促す美神さんに対し、相変わらず何を考えているのか解りにくいマリア。

では、と坦々と続ける。

 

「ドクター・カオスから・シュウさんを連れてくるように言われています」

 

「いやそんな急に言われてもね、ちょうど横島君もやめたところで人手が」

「こちら・ドクター・カオスが・間違えてチリ紙交換に出そうとしていた・貴重な錬金術の資料です」

「仕方ないわね、数日だけよ?」

 

「仕方ないのは美神さんだよなぁ」

 

ということで、何故か俺はドクター・カオスの元に借り出されることになった。

その時のおキヌちゃんのすべてを呪うような表情は暫く忘れられそうにない。

何故か俺まで恨む様な表情だったが、俺は悪くないと言いたい。

おキヌちゃん、大丈夫だから。

ちゃんと美神さんはエミさんに勝って横島も戻ってくるから。……多分。

 

 

 

 

 

 

俺はマリアの案内でカオスの爺さんのところへ向かった。

その道中でマリアから聞いた話では、どうやらマリアもカオスが俺を呼んだ理由は聞かされていない様だ。

 

「おじゃましまーす」

 

「おぉ、シュウ、こないだぶりじゃの。さて、来てもらって早々で悪いが、ワシと一緒に仕事してもらうぞ」

 

「そうらしいけど、なにやるんだ?」

 

「銀行強盗」

 

「帰ります」

 

カオスの爺さんが住んでいる家に入ってすぐ言われた言葉を聞いて即回れ右する。

扉を開ける前にカオスの爺さんにすがりつかれる。

くそ、身体が小さい上にカオスがでかいからほぼ身体全体に絡みつかれる。

振りほどこうと思えばいけるけど多分爺さんが怪我してしまう。

 

「ま、まて、話を聞かんか!」

 

「なんで犯罪行為に手を貸さなきゃいけないんだよ」

 

「いやな、じつは日本に来る前に色々と財産を整理してから来たんじゃが、日本での活動資金が尽きそうなんじゃ」

 

「それでなんで銀行強盗になるんだよ」

 

「美神令子は出来たんじゃろ?お主とマリアのパワーがあれば容易じゃと思ったんだが」

 

「アホか。あれは一応銀行側と事前に合意を取って、訓練って話になってたんだよ。ただ上手く強盗できたら、その金額がそのまま依頼の報酬になるって話になってたらしいぞ。

だから俺達がやったところで成功しようが失敗しようが指名手配されて捕まるだけだって」

 

「なんじゃつまらん。折角マリアとお主のタッグで面白いことができそうだったのに」

 

唇尖らせてすねるなよ。

一応は諦めてくれたようだけど、アホな提案しないでほしい。

 

「で?そんなことに俺を雇うつもりで呼んだのか?」

 

「うむ、そのつもりじゃったな」

 

「そんな事するくらいならあの錬金術の資料を美神さんに売ったほうが金になったんじゃないか?もしくはそういうオカルトグッズを買ってくれるところとか」

 

「そ、その手があったかぁ!!」

 

俺の言葉に頭を抱えて叫ぶカオス。

やっぱり何も考えてなかったのか。

どうにかしてこの人の頭脳を全盛期に戻せたら物凄く有能なはずなんだけど。

 

「ぬぅ、しかしそうなると資金不足に関してはどうするべきかのぅ」

 

「うーん、折角雇われたわけだし、別に力になるのは吝かではないんだけどさ。金儲けはあんまり詳しくないぞ」

 

「お主が言うオカルトグッズを買ってくれるところ、というのに心当たりはないのか?」

 

「あぁ、そういえばこないだ横島と一緒にお使いで行った厄珍堂ってところがそうだな。

ただあそこの店主、客をモルモット扱いでアイテム試そうとしたり、結構金儲けにも汚いから気をつけないといけないけどな」

 

お使いに行った時も俺と横島に頭がパーになる副作用付きの、超能力が使えるようになる薬を勧めてきた。

まぁ、横島がその餌食になりかけたが、俺がカマをかけたらアッサリ厄珍が白状したので被害は無かったけど。

 

それから、俺は数日カオスの世話をマリアとしながら、厄珍との商談に向けての準備にあたることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「で、アンタがヨーロッパの魔王、ドクター・カオスね?本物あるか?」

 

「本物だよ。不死身だからそのせいで脳みそがだいぶ衰えてるけど、昔は天才だったらしいよ」

 

「失敬な、今も天才じゃ。……ただちーっとばかり物覚えがわるいだけでの」

 

「ふむ、なるほど。じゃあ早速品物見せるよろし」

 

厄珍堂に来る前に俺が厳選したカオスの発明品を見せると、思いの外良い感触を得られることが出来た。

なんであんなにしょうもない物と凄い発明品が両極端なんだあの人は。

 

「いやぁ、最初は眉唾ものだったけど、思った以上に使えそうなもの多いね。

今後も宜しくさせてもらうね。それで、金額はこんなもんでどうあるか」

 

「おぉ!」

 

「いやいや、既存の類似品で性能が悪い方ですらこの値段なんだから、これくらいはしてもいいよね。爺さんもアッサリ騙されそうになってんじゃないよ」

 

「うーん、前回の時と言い、ボウズはちっこいのに抜け目無いね。もう一人のボウズくらい阿呆でもワタシ的には楽しいよ」

 

「俺が楽しくないわ。というか厄珍にだけはちっこいって言われたくないんですけど」

 

流石にお前よりはでかいわ。

まぁなにはともあれこれでカオスの金銭問題はだいぶ解決しただろ。

 

「本当ならこっちのロボットを売って欲しいあるが、無理となると、やはり量産したいね」

 

「じゃからバラしたら元に戻せんと言ったろう」

 

「なにか設計図とかは残ってないあるか?」

 

「うーむ、あった気もするんじゃが。流石に覚えておらんな」

 

なんだかんだで気はあうんだろうか。ずっとああでもないこうでもないと喋っている二人を見て思う。

やれやれ、とりあえずこれで雇われた分くらいは働いたかな。

そういえば、エミさんの横島勧誘騒動ってどうなったんだろう。

 

――ぐらっ

 

――ぽろっ

 

――ガチャン

 

「は?」

 

俺の目の前には、カオスと厄珍がヒートアップして机を叩いた時に棚が揺れて落ちてきた何かが当たり、その中身の液体をかぶってしまい、ちょうどこちらを見ていたのか、目線が俺とバッチリあってしまったマリアの姿があった。

なーんか……、このシーン……、見た覚えが……。

 

「そ、それは!」

 

厄珍が床に散らばった液体が入っていた容器のかけらを見て叫ぶ。

 

「それは強力すぎて発売中止になったホレ薬あるよ!一旦効きだしたら相手の背骨が折れるまで抱きしめて、窒息するまでキスするね!!」

 

で、ですよね~……。

と、言うことは……。

ギギギ……、とブリキの様にマリアに首を捻って視線を向ける。

 

「シュウく・シュウさん・愛・して・ます」

 

ですよね!

目の前に迫ってきたマリアを避けながら店の外に転がり出る。

つぅか、マリアのやつ心のなかではずっと俺のことシュウ君って呼んでたな?!

ってそんなこと考えてる場合じゃねぇ!

 

「シュウくん・愛・して・ます」

 

「マリア!止まれ!止まるんじゃ!」

 

「ノー・ドクター・カオス・シュウくん・愛・して・ます」

 

まさか横島じゃなくて俺が惚れ薬騒動に巻き込まれるとは。

完全に油断してた。確かにこんな話もあったな。

とはいえ、経緯が違うからか解らないけど、古代中国の銅像みたいなのは無かったからマリアだけが惚れ薬をかぶったのは不幸中の幸いだったかもしれない。

 

えーと、確かマリアのブレーカーが落ちれば解決だったと思うけど。

 

「愛・してます!!」

 

「のわっ!あぶねっ!」

 

マリアのヘッドバット。かわすが、俺の後ろにあった壁が粉々に粉砕される。

うおぉ、マジか、あれ普通に食らったら死ぬだろ。今の俺だとどうなるか気になるものの絶対試したくない。

 

「なぜ・キスを・よけますか?」

 

「マジか、今のキスかよ!キスはもう少し優しくしたほうが良いと思うな!俺としては!普通の相手なら死ぬぞ!」

 

「シュウくんは・普通では・ないので・ノープロブレムです」

 

「そういう問題じゃないって!」

 

こうなったらマリアには悪いけど、一度ブレーカーが落ちるまで出力を出し切ってもらうしかない。

まずは人の居ない場所に移動しないと、と思い走り出す。

一気に加速するが、後ろから凄まじい速さで追ってきているのがわかる。

 

何度かキスという名の頭突きを避け、ハグという名のハサミギロチンをかわしながら河原にたどり着く。

一応周りに人の気配はない。

 

「シュウくん・ハグを」

 

「その力でハグしたら背骨折れると思うんだけど!」

 

再度襲ってきたマリアの腕を受け止める。

実際これだけの力だと、背骨どころか上下に引きちぎれる気がする。

グロいオブジェが完成してしまう。

お互いの手を握り合う状態で拮抗する。

 

「全力で・抱きしめます!」

 

「もはや殺害予告だぞそれは!」

 

それにしても前回よりマリアの力が強くなってる気がする。

カオスが改良したのか、それとも惚れ薬の影響か。多分後者だろうな。

さ、流石にキツイな。耐えられているだけでも驚きだけど。

 

とはいえ、マリアも負荷がかかっているようで、軋むような音と煙を上げ始めている。

 

『負荷増大』

 

「も、もう少しか……?」

 

「シュウ・くん・好き・です」

 

「お、おう、ありがとうな。再起動してまたそう思ったら言ってくれると嬉しいよ」

 

更に負荷をかけるために力を込める。

 

『ブレーカー作動』

 

プシュー、という音とともにマリアのブレーカーが作動したのか、マリアから力が抜けた。

 

「な、なんとかなったか」

 

「おーい、シュウ!無事かー!」

 

カオスが何やら大きな機械を持って走ってきた。

一安心だ。後はちゃんとカオスにマリアを再起動して貰えば、解決だな。

後から聞いた話では、カオスはマリアのブレーカーが内部にあることを思い出し、外側から作動させる機械を急ぎで作ったとのことだが、どうやら失敗していたらしい。

こんな短期間で作ることを考えると、改めて天才と何かの紙一重だと感じた。

 

「あー、死ぬかと思った」

 

 

 

ちなみに事務所に帰ると、ちょうど美神さんがエミさんの相手に、赤字覚悟で勝利し、横島も事務所に戻ることになったとのこと。

聞いた話では元々俺が知っている流れと全く同じだったので、改めて俺が居なくてちょうどよかったのかもしれない。

ただ、エミさんに会えなかったのは個人的には残念だった。

無事横島の時給も255円になったらしい。……それでいいのか横島。

 




連続で投稿してみましたが、連続って難しいんだと改めて感じました。
次はちょっと止まります。


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6:ひょっとして、機械じかけの愛、残ってます?

短いのに、時系列としてはある程度進みます。
あと、ちょくちょく発生している事件が前後したりします。
なんだろう、バタフライエフェクト?便利な言葉。

それはそうと、おかしい、今回で全然考えてなかった設定がマリアに生えた。。。(キャラ崩壊注意)



ここ数日、また濃い日々だったので振り返る。

 

ある日、突然エミさんと出会うことになった。

彼女は何処で知ったのか俺がよく筋トレしている公園で待っていた。

何故筋トレを日課にしているか、というのも霊力がほぼ皆無の俺にとって、現状のメリットである身体能力は失うわけにはいかないので、基本的には身体を鍛えることは一日もやめていない。

 

話を聞くと、横島の時とは違い、美神さんに対しての切り札関係なく勧誘に来たとのことだった。

確かに内容的には破格な条件だったが、俺としても今の職場環境は気に入っているので、丁重に断らせて頂いた。

ただ、「残念ね、とりあえず気が変わったり困ったことがあればここに連絡するワケ」と、エミさんの連絡先を手に入れることが出来たのは有り難かった。

 

他にも、横島がクリスマスにおキヌちゃんのために険しい雪山に住んでいる織姫のところへ行って、幽霊用の洋服を取りに行ったらしく、おキヌちゃんは相当喜んでいた。

俺が買ってきた高級線香、正直出し辛かった。

おかしい、センスあると思ったし、実際おキヌちゃんは喜んでくれたけど、美神さんと横島のなんとも言えない表情が色々と物語っていた。

次回は厄珍以外に相談しよう。

美神さんから貰った健康ぶら下がり機は何か別の意図を感じた、というか身長だろ?身長ですよね?

あと横島からはプロテインを貰ったんだがアイツはアイツで俺のこと何だと思ってるんだ。

クリスマスパーティーは普通に楽しかった。ケーキは美味しいし言うことなし。

 

幽霊列車は思い出したくないのでなかったことにする。グロもホラーも嫌いです。

美神さんが精霊の吹き矢を受けて縮んだ時は横島が何とかしたらしいけど、俺は後からその顛末を聞いた。

二人助手がいるおかげか、俺と横島が片方しか居ない依頼もちょくちょくある。

なので逆に、落ち武者みたいな幽霊がデパートの売り場で暴れてた時は横島が居なかったので美神さんとおキヌちゃんの三人で行ったわけだけど、

幽霊が刀振り回してたのを見て、あの時の俺は何をトチ狂ったのか物理ならイケると勘違いし、売り場にあった模造刀でとっさに応戦してしまった。

結果、刀同士を打ち当てたつもりが、もろに霊波を伴った攻撃を受けて気絶。

後から美神さんに聞いた話では霊体がズタズタになっていたらしい。見事にお叱りと暫くの休みを言いつけられてしまった。

改めていくら常識はずれの力を持っていたとしても、身体能力だけでこの世界でやっていくのは難しいという現実を思い知らされた……。

まぁ勘違いせずに回避に専念してたら全部避けられたであろうことを考えたら、このチートなみの身体能力は間違いなく今後の役には立つんだろうけど。

 

で、悪いことは続くもので。

まさかこの身体能力の高さが仇となるとは全く思っていなかった。

妖刀シメサバ丸、あの刀、念波で人を操るとか酷すぎる。

当然俺には全くそんなものに対抗する手段はなく、見事にその念波に操られ、誘われるように妖刀を手にしたわけで。

こんなチート身体能力を持った身体で妖刀、それも刀としては名刀のシメサバ丸を手にしたら当然タチが悪いものになるわけで。

太刀だけに。

……イカンイカン、混乱しているな。

 

いやぁ、知らなかったわ、斬撃って飛ぶんだなぁ。

うん、洒落にならんかった。美神さんが用意していた強化セラミックとかでも絶対耐えられないだろうと、美神さんも逃げ回るだけだった。後でシバかれた。

どこから察知したのか、文字通り飛んできたマリアが力技で刀折ってくれなかったらどうなってたかわからん。

マジでマリア様には感謝だわ。

でもマジでどうやって感知したの、マリアさん?

カオスが青い顔して俺の靴から回収したちっちゃい機械なに、マリア?

んでそれについて問い詰めたら目線合わせてくれなかったのなんで?ちょっとお兄さん恐怖感じたよ?

え?お兄さんじゃなくて少年?……喧しいわ!

 

まぁそれはカオスが回収してマリアに説教したみたいなので置いておくとして、やはり一番大きい事件は、ピートと唐巣神父と出会うことになったブラドー島だ。

この時は多少役に立てたと思う。まぁ居なくても問題なかっただろうけど。

 

ウチの事務所メンバー、エミさん、冥子さん、ドクター・カオスとマリア、バンパイアハーフのピート、あと島に先に居た唐巣神父やブラドー島の住人達と協力して、13世紀のノリで世界征服を企んでいたブラドーを退治する、という規模の大きい内容だった。

何かと移動中マリアが隣りに座ってた気がするが気のせいだろう。

何度か膝に乗せようとしてきたのだけは死守した。

 

その依頼の中で、横島とエミさんが俺の知識通りブラドーに操られたんだが、横島が思いの外強かったのか、美神さんが負けかけた。

とっさに割り込んで横島殴り飛ばしたんだが、まさか吸血鬼化した横島に勝てるとは、本当に俺の力どこまでなら通用するんだろう、そろそろ基準が知りたかったりする。

あ、そういえば思い出したけど、まさかとは思うが、横島が予想以上に強かった理由って、俺に対抗しようと最近アイツも一緒に筋トレしているせいかもしれない。

あれ、そう考えると俺のせいじゃね……?

一旦考えないようにすることにした。

 

しかし、俺も横島も、今の所助手と言っても荷物持ちや徹夜要員で、あまり役に立ってると感じない。

横島は放っておいても今後ドンドン強くなって役に立つどころかメインに立っていくけど、俺はどうするべきなんだろうか。

なにかキッカケが無いとずっと荷物持ちで、この事務所にとっての足かせになってしまう。

ここの人達は一切気にしないだろうし、俺自身もここで生きていくだけで楽しいけど、このままじゃいけないと感じる。何かしら手を考えないと。

まずは自分が霊力を使えるためにどうするかを考えよう。

美神さんに相談したら金取られるだろうし、最近色んな人の連絡先を手に入れたし、相談するのも手かもしれない。

 

あ、でも最近美神さんが調子悪いってぼやいてた。しかもスランプというわけではなく、周りの霊が力を持ち始めた、とか。

ということはそろそろ妙神山の可能性がある。

だとしたらそれこそ専門なんだから妙神山で相談するのが良いかもしれない。

多分連れて行ってくれるだろうが、必ずついていくことにしよう。

 

楽しみだな、小竜姫様、結構好きなキャラクターだったし。

 

……うん、必ず連れて行ってもらおう。

 




ちなみに、この作品でのクリスマスプレゼントは以下のような感じ。(独自設定)
・美神
 →おキヌ:霊糸で縫われたアクセサリ(ちゃんと厄珍から購入)
 →横島:多めのカップ麺(依頼のお礼で貰ったため無料)
 →シュウ:ぶらさがり健康器(依頼のお礼で貰ったため無料)
・横島
 →おキヌ:織姫から貰ってきた幽霊も着れる洋服(原作通り)
 →美神:ブラジャー(サイズピッタリ、ぶん殴られた)
 →シュウ:プロテイン(ジト目で見られた)
・シュウ
 →おキヌ:高級線香(美神と横島に何とも言えない目で見られた)
 →美神:木彫りの熊(美神さんに苦笑されて温かい目で見られた)
 →横島:「つよい」と全面に書かれたTシャツ(横島の顔が引きつっていた)


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7:ドラゴンへの道、最初の協力者にして最高の協力者

活動報告にも記載しましたが、GS美神コラボカフェ行ってきました。
おかげで投稿へのモチベが上がったため、
本来暫く書き溜めしてみようと思っていたのに、投稿してしまいました。
短編側のGS小説も続き書いてみようかな……。

ちなみに、実は最初の2話の次に書いてた話がこれだったりします。
当然間に色々話を書いたおかげで細かいところは色々と修正しましたが。

今読み直すとここだけ急に文字数が増えてますね(苦笑)
こういう時は分けた方が良いんでしょうか(苦悩)


「はぁ、はぁ、はぁ、ま、まだっすか……」

 

「だらしないわね、もうすぐよ」

 

いや、その荷物を持たせておいてだらしないは酷過ぎるだろう。

横島の背中には原作通りに巨大なリュックサックが背負わされている。

 

「だから持ってやるって言っただろ」

 

「うるさいわい、これ以上お前にええかっこさせてたまるか!」

 

「別に良いかっこした覚えはないんだが。せめて荷物を分けるとかあっただろ。実際俺の方が力あるんだし」

 

霊力がろくに使えない分、この無駄に有り余る体力だけは使わせてくれても良いんだが。

最近対抗してるのか横島も筋トレを始めたし、俺と組手なんかをすることが稀に発生している。いい傾向なのだろうか。

そんな事を考えていたら美神さんが口を開いた。

 

「そうよねぇ、横島君も無駄に体力あって異常なんだけど、それをはるかに超える体力ってのも異常すぎるわよねぇ。

だいたいそのちっちゃい身体のどこからあんな異常なパワーが出るのか知りたいわ」

 

「解剖とか国の研究者に売るとかナシですよ」

 

「チッ、ケチ」

 

ケチとかそういう問題じゃないだろ。

漫画の知識がなかったらツッコミどころ満載の会話だぞ今の。いや知識あろうがおかしいわ。

つかちっちゃい言うな。くそっ、俺だってこんな中1にすら見えるか怪しい身体になりたくてなったわけじゃないぞ。

 

「さて、着いたわよ」

 

「うわ、趣味悪」

 

「怖いですねぇ」

 

横島が嫌そうに顔を歪め、その後ろにおキヌちゃんが隠れる。

既にモテてるなぁコイツは。お前はルシオラがいるだろ!……まだいないか。

目の前には鬼の顔がついた門。鬼門だ。

 

「さて、開けるわよ」

 

「あ、待った!」

 

美神さんが門を開けようとするので、どうせ鬼門が止めるだろうとやめさせる。

 

「何よ、どうかしたの?シュウ君」

 

「いや、その鬼が用があるみたいだったので」

 

俺がそう言うと鬼門が口を開いた。

 

「少年よ良くぞ見破った!我ら鬼門が居る限りここを簡単に通すわけにはいかん!」

 

「我々の試練を超えない限りここが開くことは無いと思え!!」

 

鬼門達が威圧するように話す。でも確かこの後って……。

 

「あらお客様?」

 

「5秒とたたずに開いたわね」

 

やっぱりか。小竜姫様わざとそのタイミングで開けてません?

また原作キャラと会ったな。この人が本物の小竜姫様か……。かなり好きだったキャラだし、感動するものがあるな。

つか本物滅茶苦茶可愛いな。本当この世界綺麗な人も可愛い人も多すぎるだろ。

……強いんだろうなぁ。ちょっと小竜姫様の武術は個人的にも気になる。

 

そうこうしてる間に美神さんが鬼門を瞬殺。やっぱ一流だわこの人。

 

「こんなバカ鬼やあんたじゃ話にならないわ!管理人とやらに会わせてよ!」

 

「あ、美神さんやめ……!」

 

挑発する様な美神さんを止めつつ身構える。霊力をろくすっぽまともに操れない俺では小竜姫様の霊圧はキツイ。

しかし、時既に遅く、小竜姫様が霊圧を軽く開放する。

 

「くぅ……!」

 

「あなたは霊能力者のくせに目や頭に頼りすぎですよ。私がここの管理人の小竜姫です」

 

「な、なにこれ、さっきまでは何でも無かったのに、今はそこに居るだけで凄まじい霊圧だわ」

 

予想以上だな、俺なんか息をするのも若干キツイ。

早く多少なりとも霊力を操れる様にしないと、現時点では一般人よりだいぶ低いからな。

霊力にまだ目覚めてない横島でも俺よりはキツそうではない。

このままだと魔族との戦い時などそこに居ることすら出来なくなるだろう。

 

「絶対怒らせるなよ、横島」

 

「おい何で名指しなんだよシュウ」

 

「説明しなきゃ駄目か?」

 

「……いくら俺でも神様にちょっかい出すほどバカじゃねぇよ」

 

なんでちょっと考えた。

というか考えた結果そこまで自信満々に言うってことは信じていいのか?

確かお前、俺が知ってる知識では小竜姫様にちょっかい出してたと思ったんだが。

 

「えー、それではまず着替えを……」

「帯解くの手伝いますっ!これっすね!?行きますよ!!」

 

言ったそばから小竜姫様の腰帯を掴んで引っ張ろうとする横島。

マジかコイツ。

 

「私に無礼を働くと、仏罰が下りますので注意してくださいね!!」

 

――ブン!

 

「うわちっ!!」

 

小竜姫様が一瞬で剣を抜いて横島に向けて振り抜く。

それを紙一重で避ける横島。

当たりそうなら引っ張るつもりで構えてたものの、避けると解っていても冷や冷やするものがある。

コイツの脳みそマジでどうなってんだ。煩悩に素直すぎるだろ。

確か小竜姫様も手加減したって話だけど、それ当たったら死にますからね?

 

「ふむ、美神さんは面白いお仲間をお持ちですね」

 

「え?あぁ、馬鹿と体力馬鹿と自縛霊だから何も面白くないわよ?」

 

「馬鹿ってまさか俺っすか!」

 

「自縛霊じゃないですよー!」

 

「やっぱ体力馬鹿っつうのは俺ですか」

 

アンタヒデェな。神様相手に敬語諦めてるし。

しかし体力馬鹿は酷くない?

 

「へ?では今回修行されるのは」

 

「私だけよ」

 

「へぇ、シュウさんでしたか?霊能力は」

 

「皆無ですね。下手したら一般人より霊力を操る事には疎いです」

 

「ふむ……、確かに発している霊力は一般人のそれより低いようですね。ないわけではありませんが、扱い方がわかってない、といったところですか。

しかし、先程門のところで貴方だけが私の実力に気付いている様な素振りでしたが、何故わかったのですか?」

 

げ、やっぱ神様だけあって鋭いな。

知ってましたと言うわけにもいかないしな。

 

「いえ、足の運びや纏う雰囲気が只者ではなかったので、警戒しただけです。まさか神様とは思わず無礼を働きました」

 

「い、いえいえ、警戒くらいはして当然です。では、霊力は操れないですが武術はおやりになるんですね」

 

「あ、いやそんな大層なものではないです。ちょっと人より目が良くて人より体力があるくらいですよ」

 

「良く言うわよ。霊力も使ってない癖に早さも力も人類トップレベルじゃないの。

アンタ霊能力者目指すのやめてオリンピックでも目指せば?」

 

俺が否定していたら美神さんが余計なことを言ってしまった。

ほら小竜姫様の目が光ってる。

それは単純に元の世界とここの世界では力の基準が違うからで、俺だって元の世界だったらそこまで異常には強くないんだけど。

……まぁそれでも格闘技的には元の世界でも結構自信あったけども。

 

「ふむふむ、その歳で大したものです……横島さんも見学ですか?」

 

「へ?そりゃもう、俺もシュウもただのど素人ですよ。ワハハ」

 

「へぇ……」

 

横島と俺をまじまじと見る小竜姫様。

これは俺も目をつけられたかな。

しかし俺に主人公補正はないから横島を導いてあげてほしい。彼はこれから爆発的に成長するから。

 

「ちなみに俺とシュウは同い年っすけど」

 

「は?!」

 

神様、失礼を承知で言いたいわ。アンタもかい……。

 

 

 

 

 

 

今は美神さんが最初の敵と戦っているところだ。

何も起きなければ知識通り美神さんの勝ちだろう。二匹目のカトラスからもしかしたら流れが変わるかもしれないから注意しないとな。

そんな事を考えながら観戦していたら小竜姫様が近付いてきた。

 

「シュウさん、美神さんの修行が終わったら、私と少しだけ手合わせしませんか?」

 

はい?

予想外すぎて俺は多分アホな顔になってるだろう。

 

「な、何故そのような。武神様と私では相手にもなりませんよ?」

 

「あぁ、余り深く考えなくて結構ですよ。稽古の様なものだと捉えていただければ」

 

俺の言葉に両手を顔の横で振って答える小竜姫様。可愛いなこの人。

確かにこの機会に俺の体力でどこまでついて行けるか確かめておくのも手だ。個人的にも武神と試合える機会は相当興味がある。

……殺されなければ、という前提が大きくつくんだけどな。

 

「武神様のお相手をさせていただくなどとても光栄ですが、私も死にたくはないです。とても情けない話ですが」

 

「当然手加減もしますし死なせたりはしませんよ。正式な妙神山の修行ではありませんし、そもそも誤解されているかもしれませんが、美神さんが受けている修行がたまたま本人の希望で死ぬかパワーアップかの二択になる危険の高い修行であって、ここのコースによっては安全丁寧に時間をかけて修行するコースもあるので。極端な話、霊力皆無で武術のみの修行もここでは見ていますからね」

 

まぁコースで別れてるくらいだもんな。なら折角だしお言葉に甘えさせていただこうかな。

いきなり全開で試して警戒されても嫌だし、少しずつ様子見って感じで。

 

「では大変恐縮ですが受けさせて頂きます」

 

「はい。では後で。あ、それとちょっと肩の力を抜いても構いませんよ。お連れ様達はもっと気楽に話してますし」

 

「神様相手にあのままの彼らがおかしいかと思いますが」

 

マジでそう思う。神様とか俺初めて会ったし。当たり前だけど。

 

「私も堅苦し過ぎるのもどうかと思ってますので、結構ですよ」

 

小竜姫様、自分自身超がつくほど真面目で堅苦しいのに。そう考えたら少し笑えた。

 

「ねぇ、倒したんだけど。何いちゃついてんのよ」

 

「なにー!シュウてめぇ俺の小竜姫様といちゃつくなんて許さん!」

 

「俺の?」

 

横島、それはありえん、お前じゃあるまいし。

会ったばかりで、俺はお前と違ってモテるスキルがあるわけじゃないんだ。……見た目小学生高学年だし。

……なんか考えてたら横島を呪いたくなったけど、おキヌちゃんが黒い笑顔で横島の肩に乗ってるから許してやろう。

 

「なんでもありませんよ、それでは次ですね。出ませいカトラス!」

 

ここは確か……。

 

「美神さん、除霊時は不意打ちとかにも気をつけた方が良いですよ!」

 

「わかってるわよ!……って危なっ!!」

 

よし、寸前で気付いてカトラスの不意打ちをかわしてくれた。

 

「カトラス!私はまだ開始の合図を出してませんよ!」

 

小竜姫様の注意も聞く耳もたないカトラス。ケケケとか笑ってるし。主人に対してその態度は良い度胸してるな。

 

「私の言う事が聞けないのですね、それなら私が……」

 

「大丈夫よ、シュウ君のおかげで幸い怪我もなかったし、このまま続けるわ」

 

「……本来許すわけにはいかないのですが、何事もなかったことと、こちらの不手際なので続行を許可します」

 

よしよし、これで美神さんが無駄に怪我することは無いし、後は楽しく観戦してたら終わるだろう。怪我してて勝つなら今の状況で美神さんの勝ちは確定だろう。

……何か忘れてないか?

…………あぁ!!横島のシャドウ出しとかないと小竜姫様との戦いがキツイじゃないか!!

ど、どうする!いきなりやらかした!!く、こうなったら一か八かだが。

 

「小竜姫様、それでも今の行為は美神さんにとっては試合開始前に大怪我をしていたかもしれない危険な行為です。

幸い怪我もありませんでしたが、こちらに対する考慮もいただきたいのですが。神様相手に大変無礼ではありますが」

 

「……ふむ、例えばどのような」

 

「横島のシャドウを抜いて参戦させる、など如何でしょう。彼なら素人ですし、それほど戦力にはならないかと。大した意味はないと思いますが、ケジメとしてその辺りはしっかりさせておいた方が管理人の立場としても宜しいかと」

 

正直かなり厳しい言い訳なのは解ってる。滅茶苦茶言ってる自覚もある。

ただ、小竜姫様は横島の力に興味を持っているはずだ。……乗ってくれ。

 

「……わかりました。それくらいなら考慮致しましょう。むしろこちらの立場を考慮していただいた配慮と受け取ります。ありがとうございます」

 

小竜姫様、素直!

なんとかなった!すみません!そこまで考えてません!苦し紛れです!良心が痛みます!

 

文句を言う横島をスルーして小竜姫様が横島のシャドウを抜く。

後は大体俺が知ってる通りに流れてくれた。

横島の全く役に立ちそうにないシャドウに、美神さんは俺に参戦しろと言っていたが、俺の霊力のなさ解ってます?の一言ですぐ納得した。(なんだろう、正しいんだけど釈然としない)

結果、俺が知ってる流れよりは楽に勝ったようだ。まぁ、怪我もしてないし当然だろう。

 

 

 

「では、最後は私がお相手しましょう」

 

来たよムリゲー。まぁ、横島のシャドウも居るし、大体同じ流れになるだろうな。

 

うん、だいたい同じ流れ。

決して内容を省きたかったわけではない。ないったらない。

ちなみに今は横島のシャドウが小竜姫様の服に入っており、ちょっとドキドキしてるのは秘密だ。

とはいえ、そのまま同じ流れにしてしまうと、横島が小竜姫様の逆鱗(物理)に触れて妙神山が崩壊してしまうので、止めに入る。

 

「ハイ終了」

 

恐れながらも小竜姫様の背中に手を突っ込んで横島のシャドウを引きずりだす。

 

「あぁ、殺生な」

 

「殺生なじゃねぇよボケ!」

 

結構な力でシャドウを殴ったら消滅した。

しまった、と思い振り返ると、横島が頭にたんこぶを作って気絶していた。

悪い横島、本体にダメージいくの忘れてたわ。

隣を見ると小竜姫様が肩で息をしていた。

 

「はぁ、はぁ、た、助かりました。すみません、ありがとうございます」

 

「こちらこそすみません!いきなり女性の服の中に手を突っ込んだりして」

 

「い、いえ、あれをしてくれなければ大変な事になっていました」

 

逆鱗ですね、知ってます。

しかし妙神山崩壊は防げたが、問題は美神さんに最後の力を与えてくれるかどうかだ。

 

「で、私は合格?」

 

「あ、あのですねぇ……」

 

良い度胸してるよ美神さん。

小竜姫様もあきれ顔だ。とはいえ、合格にして貰わなきゃ困る。

 

「もしよろしければ合格にしていただけたら幸いです。一応力は示したかと」

 

「……むむむぅ」

 

一応フォローはしてみるが、これってやっぱり厳しいかな。でも一応美神さんが妙神山崩壊をお金積んで直すことで能力くれるくらいだし、思ったより美神さんが小竜姫様相手にちゃんと戦えてたことを考えたら、意外とOK出るとは思うんだけど……。

しかし、あまり褒められた手じゃないけど、あのまま妙神山を崩壊させてた方がすんなり話が進んだか。と言っても流石にあれはなぁ。

そんなことを考えている間も小竜姫様は腕を組んで悩んでいる。その姿はとてつもない力を持っている神様だと思わせないくらい可愛いらしい。

 

「本来やり直しを要求したいのですが、うーん、確かに思った以上に私相手に戦えてましたし、反則気味とはいえ許可を出したのも私ですし」

 

「やた!」

 

「ありがとうございます」

 

良かった、とりあえず俺がまたかき乱したことで悪い方向に向いたらどうしようかと思った。

最近色々とでしゃばりすぎなのかもしれない。ただ、やっぱりこの人達とのバイト生活、楽しいんだよなぁ……。

 

「ただし!」

 

終わったと思ってのんきにそんなことを考えていたら、ビシッと小竜姫様が指を立てて美神さんに詰め寄った。

 

「「え」」

 

「シュウさんが私と戦ってその結果次第です」

 

はい?どゆこと?

美神さんの実力と関係ないよね?

 

「あ、あの、美神さんの修行とは一切関係ないのでは……」

 

「いえ、優秀な霊能力者に必要とされる能力の中には味方の力をキチンと把握しておくことも必要です。その彼女が人類トップクラスの体術と言ったのであれば、流石に人類トップといかなくとも、それなりに動けないのであれば彼女の見極めは間違っているということです。それでは味方を死なせる危険もあります」

 

「ほへぇ~」

 

「……なるほどね」

 

いやおキヌちゃんに美神さん?俺が言うのもなんだけどそれはもの凄いこじつけだから。

単にこの神様俺と全力で戦ってみたいだけだから。……たぶん。

 

「私と戦う約束は既に済んでいたかと思いますが、まさか死にものぐるいの本気を見たいだけ、なんてことではないですよね?」

 

「…………モチロンデスヨ」

 

はいダウト。ホントこの神様嘘つけねぇな。

って俺の戦い次第で美神さんの今後が決まるとかマズイって!

 

「言いたい事は解ったけど、流石に武神相手に素人が戦えるわけないわ。

貴女の言い分ももっともだけど、それを言うなら監督者としてその戦いを許可できないわね」

 

「フム、それはもっともですね。最低限の見極めは出来ていると言えるでしょう。ただ当然私も彼に大けがをさせるつもりはありませんよ。まぁ、私としても貴女の実力は認めているので余り深く考えなくて良いですよ」

 

「チッ、私の為に絶対勝ちなさいよシュウ君」

 

笑いながら言う小竜姫様に対して、舌打ち一つ俺を睨みつける美神さん。

ちょ、無理ですって。

 

「いや、恐らく小竜姫様は勝たなくても美神さんに力をくれますよ。ですよね、小竜姫様!?というか勝つとか無理ですって本当に!?」

 

「えぇ、まぁよほど酷かったら先程伝えた理由で合格はあげられませんが」

 

やべ、美神さんのプレッシャーがキツイ。

これは無様な戦いしたらコ★ロ★スって視線だ……。

……多分本気で行かなきゃ死ぬだろうな。両方の意味で。

自分の実力がどうこうとか、いらないことを考えている場合ではない。

まだ俺の力を侮っているだろう最初に一気に決めるしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

〈第三者目線〉

 

「では、行きますよ」

 

「お手柔らかにお願いします」

 

小竜姫に案内されて移動した、修行空間の中でも生身では入れない空間ではなく、ただただ広い場所で構えるシュウ。

 

「始め!」

 

「!!」

 

美神の掛け声がかかった瞬間にシュウの身体がぶれる。

小竜姫が目を見張り、自身の身体を前方に投げるように跳ぶ。その直後小竜姫が今居た場所をシュウの拳が通り過ぎた。

そのまま身体を捻って跳ねて、自分の真後ろに居たシュウに向き合う小竜姫。

 

「い、一瞬で私の後ろを取りますか……これは想像以上ですね」

 

冷や汗を垂らしながら笑って言う小竜姫にシュウも苦笑して返す。

 

「当然の結果かもしれませんが今のを避けられたらかなりヤバいですね。もう油断はしてくれなさそうですし」

 

「そう悲観することはないですよ。あくまで武の力を見たいので霊圧は抑えて出来る限り同じ条件で戦いますので」

 

「それでも武神様とやりあえるとは思えないですよ」

 

ぽりぽりと頬をかくシュウ。しかし小竜姫はとんでもない、と続ける。

 

「貴方は自分の力に対する自覚が低い様なので言っておきますが、今の動きを見ただけで、貴方が本当に人間か疑いたくなるほどにお強いですよ。一瞬見ただけですが思った通りでした。足の運びも見事なものです。体術だけなら恐らく神の領域に入っています。まぁこれからもう少し戦ってみて更に認識が変わるかもしれませんが」

 

「そ、それほどですか」

 

小竜姫の言葉に今度はシュウが冷や汗をたらす。

美神、おキヌ、そしていつの間にか起きていた横島もシュウの動きを見て口を開いたままになっている。

横島などは顎をおとしてアホ顔をさらしている。

 

「では、改めて行きますよ」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

今度は正面から走るシュウ。それを真正面から剣は抜かず無手で迎え撃つ小竜姫。

ぶつかり合う瞬間ズドンと大きい音が響く。

 

「力も異常ですね。どれほどの鍛錬をすれば人間がこの様な筋肉を手に入れられるのか興味深いです」

 

「余裕そうに受け止められてますけどね」

 

「実はそれほど余裕はありませんよ」

 

「霊力使わずに、ですよね」

 

「それでも誇って良いと思いますよ、武神と打ち合えるんですから」

 

「それはもちろん恐れ多い限りです、よ!」

 

言いながらも凄まじいスピードで打ち合い、かわしあう二人。

観戦中の3人の顎はすべて落ちている。

 

シュウが右拳を繰り出し、小竜姫が左手でその拳を外に受け流す。その結果開いたシュウの胴に右手で掌底を繰り出すも、シュウが身体を捻ってかわし、その勢いのまま左手の裏拳で攻撃。それをしゃがむ事によりかわしたついでに足払いを放つも、シュウはバック転で下がって避ける。

 

「荒削りですが非常に良い動きです」

 

「ありがとうございます」

 

「修行をつけたら化けるでしょうね。どうです、正式に妙神山へ入山しませんか?」

 

小竜姫の言葉に驚き動揺を見せるシュウ。

 

「そ、それは非常に名誉なことです」

 

そう言って構えを解いて思案する素振りを見せる。

そして少し考えたあと申し訳なさそうに口を開いた。

 

「ですが……すみません、今は少しやることがあるので、考えさせてもらっても良いでしょうか」

 

「えぇ、もちろん急に答えを求めるつもりはありませんよ」

 

「折角の名誉なお誘いにも関わらず申し訳ありません」

 

「いえいえ、ですから、そう畏まらなくても良いですよ」

 

小竜姫の言葉に苦笑するシュウ。

そしてそんなシュウに対して構え直す小竜姫。雰囲気が変わる。

 

「さて、そろそろ決めさせていただきますよ」

 

「そうは、いきませんよ」

 

(まだ負けるわけにはいかない。恐らく美神さんへの合格は決まってるだろうが、こっちにも意地がある。

この世界で戦っていくには霊力のないおれは今のところ体術一本で行かなきゃいけない。

全力を出した時にどこまでいけるのかは試させて貰う……!)

 

小竜姫が仕掛けてくる前に一気に踏み出すシュウ。

全力で放った拳は、ズドンと言う音を立てて小竜姫を吹っ飛ばした。

 

「な、なるほど、もはや異常ですね」

 

ダメージは無い。

空は飛んでいないため空中で体勢を整えながらもコメントを絶やさない小竜姫。そのまま回って着地する。

そこにシュウの追撃が迫るが、それを身体を逸らす事でかわす小竜姫。

凄まじいラッシュをかわす小竜姫だったが、先程とは違い、手や足を使って捌いているその姿に余裕は見えない。

 

「まだ、そ、底が、ありますか!!こ、これは……末、恐ろしいです、ね!!」

 

少しずつさばききれなくなっている小竜姫だったが、そこにあわせて少しずつ反撃を入れているところは流石である。

互いに攻撃が当たる事も多くなってきていたところで、先に膝をついたのはシュウだった。

 

「はぁっ、はぁっ!」

 

「お見事です、人間のスタミナでここまで動き続けた事も含めて異常極まりないですが、流石にスタミナ切れみたいですね」

 

初めてこの世界で全力を出して動いたシュウはここにきてようやくスタミナ切れを迎えた。

そういう意味では初めてシュウは自分の身体の限界を知ることが出来たのだった。

 

「流石は、武神様、押されていると……、見せかけて、スタミナ切れを、待つとは……、おみそれしました」

 

「いえ、正直なところを言うとスタミナ切れを待つくらいしか手が思いつかなかったのが現状ですね。

アレ以上私が力を入れたら貴方にも大怪我を負わせる可能性もありましたし、本当に限界スレスレまで引き出されてしまいました。お見事です」

 

フンスと鼻から息を一つついて言う小竜姫に対し、少し息が整ってきたシュウが不安そうに口を開く。

 

「それで、美神さんの修行は……」

 

「もちろん合格です。というか元々合格はだすつもりでしたので当然ですね」

 

「よ、良かった……」

 

「ちなみに、私もまだまだ未熟の身、私に対しても何かありましたら遠慮なく言って下さい」

 

その言葉を聞いてふと、固まるが、少しして再起動して口を開くシュウ。

 

「……では、恐れながら、少し言動、戦い方が真っ直ぐ過ぎるかと。こと実戦の戦いでは、相手が自分と同じく型にはまった動きをするとは限りません。それどころか、相手が魔族だった場合などは、恐らくトリッキーな動きの方が多いでしょう。真っ直ぐがいけないとは言いませんが、度が過ぎると、どんな良いものも負けます。何にでも対応できる様、色々なことに目を向けられては如何かと思います」

 

シュウの言葉にポカンとする面々。美神などは顔を青くしている。

それを見てハッと顔色を変えて慌てて頭を下げるシュウ。

 

「と、とんだ無礼を!申し訳ありません!口が過ぎました!」

 

「いえ、老師にも散々言われていることです。今一戦交えただけの貴方に言われる程かと、何が武神かと、痛感したところです。助言としてありがたく頂戴します」

 

「そ、そんな恐れ多い」

 

戦々恐々と頭を下げるシュウは一つ息をつくのだった。

 

 

それから小竜姫に最後の力を貰った美神。

大きな力を見せたシュウに、何度か口を開きかけたが、諦めて口を閉ざし、何も言わずに妙神山を降りる準備を進めた。

 

 

 

 

〈シュウ目線(いつもの)〉

 

「では、これにて美神さんの修行を終了致します」

 

「これで力の底上げは完了ね。助かったわ」

 

小竜姫様の案内で入口へ戻るため来た廊下を戻る。

本来ならこの場所が崩れていた事を考えると、何とかそれを避ける事が出来て良かったと思う。

 

「あ、ちょっと先に門の所で待ってて貰っても良いですか?」

 

「なぁに?トイレ?さっさと済ませてきなさい」

 

「すみません、小竜姫様、お手洗いはどちらに」

 

「ふふ、まぁこれから山道を降りますしね。こちらです」

 

小竜姫様に案内され、用を足しながら考え事にふける。

一時はどうなることかと思ったけど、何とかなって良かった。

 

大体俺自身あそこまで小竜姫様とやりあえるとは思ってなかったしな。霊力使われたら全然相手にもならないだろうけど。

……つかマジでここまで体術が異常だとは思わなかった。悪霊や神魔族相手だとどうもできないかもしれないけど、人間相手なら後れを取る事はまずなさそうだな。……今なら雪之丞とかでも全然大丈夫だろう。

 

何とか霊力を身につけて横島や美神さんと並んで戦えるようにしたいし、そのためには小竜姫様に弟子入りするのは非常に都合が良いのは解ってるんだけど、美神さん達の傍にいないとこの先の展開が読み辛くなることを考えると迷いどころなんだよな。それ以上に自分があの人達と居たいと感じてるだけなのかもしれないけど。

でもしばらくは俺がいない方がそのままの道筋で進むだろうってのを考慮に入れて悩まないと。

とはいえ本当に知識通りの道筋で進むか不安なことを考えると一緒に居た方も……あ~!考え始めたらキリがないな。

仕方ない、一旦帰ってからゆっくり考えるか。

そう言えば小竜姫様へのアドバイスあれで良かったのかな、正直言うか迷ったんだけど、もしあれで何かプラスに働けばラッキー、くらいかな。

 

手を洗い、元の道を戻ろうと歩き始めたところで、神妙な顔をしている小竜姫様に呼びとめられた。

 

「シュウさん」

 

「はい?どうかしましたか?」

 

言いづらそうに口をもごもごさせる小竜姫様。何があったのだろう。

 

「……実はですね、私の師匠にあたるお方がシュウさんにお会いしたいと」

 

「斉天大聖様がですか?!」

 

しまった!と思い口をつぐんだがもう遅かった。

 

「ど、どうして老師の事を知っているんですか?!このことは人間の中で知る者はいないはず……!」

 

やってしまった。うっかりでは済まされないだろう。考え事をしていたなんて言い訳にもならない……。

自分の力を知れたことで浮かれてたのか、完全なポカをやってしまった。

ただ、やはりといっては何だけど、老師が動いたか。ここは覚悟するしかないな。

 

「……すみません、それに関しては後でお話しします。とりあえず老師の元へ案内をお願い出来ますでしょうか」

 

「…………わかりました。こちらへ」

 

うわぁ……もの凄い疑惑の視線を感じる。まぁ仕方ないだろう、後で出来る事なら説明したいけど、難しいな。なんとか誤魔化す事を考えた方がよさそうだ。

 

小竜姫様の後ろをしばらく歩くと、彼女は綺麗な扉の前で立ち止まった。

 

「……こちらです」

 

釈然としない表情で案内してくれた小竜姫様に頭を下げて扉を開く。

そこには予想通りの方が座っていた。……座敷でゲームしながら。

 

「老師」

 

「おぉ小竜姫、来たか」

 

「来たか、じゃありません。何故シュウさんをお呼びになられたのですか?老師が自ら名指しで人間を呼び出すなど前例がありませんよ。シュウさんはシュウさんで何故か老師の事を知っているし」

 

うわぁ、余計な事言わんといて。ほら老師の目が光ったよ。

小竜姫様の言葉を聞いてすぐ、ゲームを止めて振り返る斉天大聖老師。

 

「……ふむ、面白い男じゃの」

 

「斉天大聖老師、お目にかかれて光栄です。初めまして、シュウと言います」

 

掌と拳をあててお辞儀をする。神様の中でもかなり上位の存在であろう老師に失礼のない様に気をつけなくては。

 

「ほっ、堅苦しい挨拶など良い、そんなもの小竜姫だけで十分。「老師」……冗談じゃよ。

まぁよい、どうやら本当にワシの事は知っとる様じゃな。小竜姫、ちと席を外せ」

 

「老師?」

 

「心配せんでも小僧に手は出さんよ。人間にも関わらずあそこまで自分と戦えた男が気になっておるのかの?今まで色恋に疎かった分気になるのかもしれんが、ショタコ……じょ、冗談じゃ許せ」

 

老師の言葉に小竜姫様の身体から龍のオーラが……いくら俺の相手が嫌だからってそんなに怒らなくても良いじゃないですか。

小竜姫様はどうせ横島が気になってるんだろうけど。ケッ。なんだかこの世界に来てから横島の影響受けすぎてる気がしてきた……。気をつけよ。

 

「小竜姫」

 

おどけて汗を流す老師が気を取り直して小竜姫様の名前を呼ぶ。その表情は今までと違い、真剣そのものだ。

 

「……はぁ、わかりました」

 

何かを察したのか小竜姫様は部屋を出ていった。

 

 

「さて、何から話そうかの」

 

「……老師の加速部屋へ入れば魂が一部繋がってすべてを伝えられるのでは無いでしょうか」

 

「ほぅ、それも知っとるか。確かにそういう効果も出すことは可能じゃ。でも良いのか?知られたらマズイ、と顔に書いてあるぞ」

 

流石上位の神様だな。読心術も心得ている。

確かに知られたら消される可能性だってある。俺はこの世界にとってはイレギュラーでしかないのだから。しかし。

 

「…………構いません。むしろそれが最善かと。ただ、出来る事なら老師のみの記憶で留めていただきたいです。当然見てからそれは決めていただいて結構です、しかし」

 

「ワシも見ればそうする、と?」

 

「はい。その上で私の存在を消すと判断された場合、それも致し方ないでしょう」

 

「ふむ……コトは思ったよりも大きそうじゃな」

 

頭の良い相手とだと話が早くて良いね。

 

「さて、ではやるかの」

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

加速世界に入った。目の前の猿にしか見えない神、斉天大聖は目を瞑って俺の前に座っている。

既に老師は俺と繋がった状態になり、全てを知ったはずだ。

ふと目を開き、その手に如意棒を展開した。

……やはり消される、か。横島の先を見れないのが残念だけど、覚悟はしていたことだ。

目を瞑る、……が衝撃は来ず、代わりに言葉が投げられた。

 

「なるほどの…………クックック、そう緊張せずとも良い。背中が痒かっただけじゃ」

 

は?

意味が解らず目を開くと、目の前でにやにやと俺の顔を覗きながら如意棒で背中を掻く老師が……。

…………やられた。

 

「冗談が過ぎます……」

 

へなへなと力なく座り込む。それを見てもう一つ笑い声をあげて如意棒を消す老師。

 

「もうちょっと力を抜け。お主にとっての物語の登場人物、それも神が目の前にいるからと言って、ワシ相手にそこまで緊張せずとも良い」

 

「無茶言わんで下さい。これが限界ですよ」

 

「良い良い、最初よりは多少砕けただけでも良かろう。さて、色々話したい事もあるが、まずお主の不安を取りはらってやろうかの、ワシはお主をイレギュラーとは思わんな」

 

はい?いきなり話が始まったと思ったら予想外な言葉を投げられてしまった。

 

「まず、確かにお主の言う通りこの世界は漫画の中のお話かもしれん、とはいえこの世界は今現在進んでおる。これが漫画の中の話なのか、小説なのか、そんな事はワシらにはわからんし知ったことではないわ。

ただこの世界は進んでおり、ここにある、という事だけ知っておれば良いのではないか?

ついでに言うとその世界のワシは加速世界に入った場合サル語しか話せんとお主の記憶上ではあるが、ワシはそんなことはない。

まぁ記憶違いなのか何なのかは知らんが、違いは良くも悪くもあるかもしれんの」

 

一息ついて続ける老師。

 

「次に、お主は間違いなく今、ここにおる。

この世界を主と考えた場合、お主は漫画の中に入ったと言うよりは並行世界から跳んできた、と考えた方がしっくりくるじゃろ。

つまり、既にお主もこの世界の流れの一部じゃ。単純にこの世界がどこに行きつくかを、似た様な世界観の漫画で知っておるにすぎんよ。

もひとつ言っておこうかの、お主がここに来て動いている時点で漫画の世界とは明らかな違いじゃ、簡単に漫画の世界と言うには難しいわい」

 

気付けば言葉を失っていた。老師の言葉をただ黙って聞く。

 

「当然今のも一つの考え方であり真理かどうかなんぞは解らん。だがどんな説だって立てる事は出来る。自分が持つ漫画に吸い込まれたと考えるも良かろう。ただ、そこに共通するのは、お主は今、ここで、生きておる、ということじゃ。自分を異物だと思いこまん事じゃな」

 

そこまで言ってキセルを咥えて一つ煙を吐く老師。

目から鱗どころではない。自分で否定していた自分の居場所を目の前の神は認めてくれると言っているのだ。

 

「老師……私は、ここにいて、良いんでしょうか」

 

「ワシが駄目と言ったところでお主はここにおるじゃろうが。

安心せい、ここは既にお主の世界じゃ。

それに、お主も元の世界に戻りたいと言うよりも、既にこの世界でやりたいことがあるんじゃろ?」

 

「はい……!」

 

「なら今はそんな事を考えるよりその分他に脳を働かせる事じゃな」

 

「はい!」

 

朗らかに笑いながら言う老師。頭が上がらないとはこの事だろう。

老師の言葉を胸に受け止めて噛み締めているとふと老師が歩きだした。

それに黙って付いていく。

 

「しかしあの小僧がワシの弟子になりあの様な目にあうとはの……。色々と不甲斐ない神でスマンなどと思うところは多々あるが、本当に知識通りあの未来が近付いてくるのであれば、何としても避けたい未来じゃの」

 

「えぇ、とはいえあの流れを大きく変えてしまうと流れが読み辛くなる上に、最悪……」

 

「世界の崩壊じゃの」

 

「……はい」

 

「当然じゃな、先に動いてあの結末以外になるとしたら神魔の戦争すらありえる。あの結末がベストだった、大抵の神魔がそう答えるじゃろう」

 

「しかし……!」

 

「わかっとる、ワシも伊達に不良神をやっとらん、そんな綺麗事はいらんし、気に入らんわ」

 

豪快に笑いながら言う老師をみて、初めて物語の孫悟空の影をみた気がした。

 

「ただの威張り散らす耄碌ジジイとでもおもっとったか?まだまだ若いし暴れられるぞ?ま、立場上それは最後の手段じゃがな」

 

その皺だらけの顔をニィと歪めて振り返る老師は、とても頼もしく見えた。

 

 

 

 

 

 

……さっきまでは。

 

「ぬ、お主中々やるの」

 

「……はぁ」

 

「思いもよらぬとはこのことか!このワシを苦戦させるとは、お主も武道馬鹿に見えて結構こなしとるな?!」

 

「……まぁ」

 

お気づきだろう。ゲームしてます。多分俺の目は死んでる気がする。

しかも前の世界にいた時からそれなりにゲームは齧っていたからそこそこに出来た事が向こうのお気に召した様だ。

 

「……あの、そろそろ」

 

「ん?おぉ、意外と限界きとるの。かなりの時間を過ごしたから当然か」

 

「へ?」

 

あ、忘れてた。この加速空間でゲームしてから修行したんだったな横島達は。

…………ん?ということはまさか……。

 

「正解じゃ、お主はいつの間にか最高レベルの修行を始めておったということじゃ」

 

「はぁ?!俺霊力ないの知ってますよね!!死んじゃいますよ!!」

 

「安心せい、いつものコースとは違うお主専用コースじゃ。霊力をコツコツ目覚めさせるのではなく、無理やり目覚めさせるコースじゃ」

 

「それも聞いてる限りどう考えても危ないでしょう!!」

 

「大丈夫大丈夫」

 

「大丈夫じゃねぇ!!」

 

相手が神様だと言う事を忘れて叫ぶ俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、成功じゃの」

 

「……死ぬかと思った……」

 

「成功したとはいえ、お主が今まで全く霊力を使っていなかったせいで、いきなり使えるわけではないがの。本当に霊能力の才能無いなお主」

 

「……え、あの地獄を味わったのに結局使えないんですか?というか酷くないですか?さり気なく」

 

「まぁ、今のままではずっと使えなかったであろう霊力が、何かのきっかけさえあれば目覚める様になっただけマシと思え」

 

「…………詐欺師」

 

「何か言ったかの?それにワシとの修行の御蔭で体術も向上されたじゃろ」

 

「…………ペテン師」

 

「お主、中々良い根性しとるな」

 

「疲れ過ぎて脳みそが回らないんです。不敬をお許しください」

 

「だからと言って堅くなる必要もないんじゃが」

 

「じゃあくたばれクソジジイ」

 

「よし、修行もうワンセットじゃ」

 

「正直すみませんでした!!」

 

などとくだらないやりとりも行ったが、とにかく、俺は一歩、それはそれは大きな一歩、前に進んだ様だ。

 

 

 

 

その後は小竜姫様への言い訳を考えるのを忘れていた為、こっそり美神さん達と合流して山を降りた。

近々情報共有などを兼ねて何度か老師の元へ行く必要はあるだろう。

あ、その時の小竜姫様どうしよう……。

 

 




次に書いてた話が天龍とかメドーサとかの話だったりするので、また間を埋めていかないと。。
ちょっとモチベを大量文字に費やしすぎたので一旦休憩ですかね(笑)


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8:青春大爆発

ちょっとだけ通常話を挟むぐらいのつもりが、どうしてこうなった。



「あぁ!すみません!なんだか知らないけど反省してます!」

 

えぇ……。

なんか歩いてたら横島がスケバンみたいな人に足蹴にされてるところに出くわしたんだけど……。

なんだこれ?

 

「あぁ、シュウ!助けてくれ!」

 

「あぁん!?何ガキに助け求めてんだテメェ!勝手に人の手握っておいて情けねぇこと言ってんじゃねぇぞ!」

 

なんだ、いつものナンパか。

どうしよう、助けるか迷う。

 

「違うんです!違うんっす!何か知り合いだと思ったらそうじゃなくて、俺もよく解ってなくて!」

 

「何わけわけんねぇこと言ってんだテメェ!」

 

あ、なんだろう、凄い頭の端っこに引っかかる何かが。

一応聞いてみるか。血まみれで地面に沈んでいる横島に声をかける。

 

「横島、誰と勘違いしたんだ?」

 

「おキヌちゃんだと思ったんだけど、違ったっつぅか、いやそもそも俺もなんでおキヌちゃんだと思ったのか俺自身も良くわかんねぇんだけどさ」

「何シレッと復活してんだテメーは!!」

「ギャー!」

 

あー、そうか、おキヌちゃんがこのヤンキーの身体に入ってたけど横島が目を見ただけで正体見抜いた話か。

コイツマジですげぇよな。こういうところが俺も好きになった理由の一つかもしれない。

仕方ない、助けるか。

 

「あー、悪いんだけどさ、ソイツの勘違いだったってことで一つ大目に見てくれないかな」

 

「はぁ?なんでテメェにそんなこと言われねぇといけないんだよ。ガキだからって殴られないとか思ってんじゃねぇぞ!あたいは今猛烈に機嫌が悪いんだ!」

 

そうか、確かこの娘の守護霊にさっきまで説教食らってたんだったか。

いや、だとしても八つ当たりじゃないか。

凄んでるつもりなんだろうけど、正直最近の悪霊だの猿神様だの色々考えると全く怖くないんだよなぁ。

 

「あのー、やめておいたほうが……」

 

「あぁ?」

 

「いや、そいつ滅茶苦茶強いんで」

 

「はぁ?何いってんだてめぇ」

 

横島が一応止めようとしてるけど全く聞いちゃいない。

というかあまり正気じゃない感じだな。

まぁ仕方ないか、いきなり強制幽体離脱させられて説教受けてたと思ったら横島に手を握られてたんだから混乱くらいするか。

 

「とりあえず落ち着きなって」

 

「んだこらぁ!」

 

いきなり胸ぐらを掴まれる。

なんだかんだ言って殴ってこないな。あんなに横島のことは殴ってたのに。

これはまた子供だと思われてるパターンか。

 

「あのなぁ、俺、そこにいるやつと同い年だからな?」

 

「あ?マジかよ。なら遠慮はいらねぇなぁ」

 

意外にも信じてもらえた。

ちょっとこいつの評価上がったわ。

とはいえただ殴られるのも嫌なので悪いと思いつつも、胸ぐらを掴んでいるこいつの手を掴んで引き剥がす。

 

「いってぇ!っは、離せ、いてててて!」

 

そのまま少し強めに手を握って下に向かって引っ張る。

スケバンの体勢を崩して強制的に座らせようとする。

 

「とりあえず落ち着けってば」

 

「こ、この馬鹿力が!はな、せって!」

 

俺が手を話した瞬間、ビンタしてくるヤンキー。

その勢いを利用してスケバンを身体ごと一回転させて正座させて頭をポンと叩く。

リアルでこんなこと出来る日が来るとは思わなかったわ。

護身術の範囲超えてる気がするけど。

 

「は?」

 

「落ち着いたか?」

 

「……は?」

 

何が起きたのか解ってない様子でキョトンとしたまま俺の顔を見てくるスケバン。

結構な勢いで回ってもらったからな、ちょっとした放心状態なんだろう。

まぁ良いや、とりあえず落ち着いたみたいだし、帰ろう。

 

「横島、帰るぞ」

 

「お、おう、お前ほんとに対人相手だと敵なしだな」

 

「ゴーストスイーパーで対人の依頼ってほぼ無いと思うんだけど」

 

ため息一つついてスケバンに向き直る。

 

「そうそう、あんた、暫くろくな目にあわないかも知れないけど、心入れ替えたら多分元に戻るから、この機会に更生してみたら?」

 

「……」

 

俺の言葉が届いているのかどうかは解らないけど、自分の手を握ったり開いたりしている。

とりあえず帰るか。

それにしても横島の周りって本当に色んなことが起きて退屈しないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………どうしてこうなった。

次の日、普通に登校してたら昨日のヤンキーに襲撃された。

不意打ちではなかったが、正面からいきなり走ってきて殴りかかってきた時はビックリして転がしてしまった。

流石に大怪我させたりはしなかったが、多少擦りむいたとは思う。

で、その後が問題だった。

 

「や、やっぱり偶然とかじゃねぇ!なぁ!アニキって呼んでいいか!?」

 

……舎弟が出来ました。

 

 

 

 

 

 

「いや何でそうなるんだよ」

 

頭痛がする気がしてきたので、頭に手をやって、隣を歩くヤンキーに聞く。

名前は茜というらしい。名前って漫画に載ってたっけ?

 

「あたい、喧嘩じゃほとんど負けなしだったんだ。前に別の奴に一度だけ負けた時だってそんなに差があったわけじゃねぇ、途中で悪霊の邪魔が入ったがあのまま続けてたら私が勝ってたはずだ」

 

「悪霊の邪魔?」

 

「え?あぁ、河原で喧嘩してたんだけど、水の中から悪霊があたいの足を掴んでな」

 

「おいおい、大丈夫だったのか?」

 

「あぁ、それがたまたま喧嘩相手が霊能力持っててな、助けられちまったって話だ」

 

へぇ、霊能力者って結構いるもんだな。

茜の話を聞きながらジュースを飲む。

 

「一文字のやつ、次あったら決着つけてやる」

 

「ブー!!」

 

「うわっ、アニキ汚ぇな」

 

「ごほっ、ごほっ、早速アニキって呼ぶな!」

 

一文字ってあのおキヌちゃんが学校に入った時に同級生になる、あの一文字魔理だよな?

あれ?茜って一文字と知り合いなの?

あ、ちょっと待った、そういえば一文字が霊能力に目覚める的なエピソードがあった気がする。

マジか、その時のケンカ相手ってこいつ?!

ぜ、全然覚えてなかった。世間って狭いなぁ。

 

「いや、その話は良いんだよ。そうじゃなくてな、そんなあたいが全く手も足も出なかった」

 

「あぁ、こないだの話か」

 

「最初は偶然ってことも考えた。けどさっきは改めて真正面から挑んで、全然勝てるイメージが沸かなかった。そんなのは初めてだったんだ」

 

それでアニキってか?

素直すぎるでしょ、勘弁して。

 

「たまにで良いんだ。稽古つけてくれよ」

 

「やだよ、俺学校もあるしゴーストスイーパーのバイトもあるし」

 

「へぇ、アニキゴーストスイーパーやってんのか」

 

「アニキって言うな。いや、霊能力は皆無だし、美神さんのところでただの荷物持ちのバイトやってるだけなんだけどな」

 

「じゃあその合間で良いって」

 

「殺す気か」

 

そんな暇無いわ。

というかそろそろ学校着くんだけど。

あ、しまったこれで学校バレた。まさか今後付きまとわれたりしないよな。

 

「ほんとにたまにで良いんだ。それこそ見かけたら、くらいで構わないからたまに手合わせしてくれよ。どうしても一文字に勝ちてぇんだ」

 

「あー、それが目的かぁ。でもそいつ強いんだろ?」

 

「……まぁさっきは強がったけどよ、正直に言うと、多分続けてたって負けてたのはあたいだったとは思う」

 

「んー……、じゃあ多少生活態度を見直したら考えるよ」

 

「お、おう!」

 

はぁ、マジでどうしてこうなった。

まぁ、そんなに積極的に絡んでくるタイプじゃなさそうだから、たまにだったら良いか。

というか、普通校門で帰らない?なんで下駄箱まで来てるのコイツ。

 

「解ったらお前も学校いけよ。生活態度直すって話したばっかりでサボリはどうかとぉ?!」

 

「アニキ!?」

 

俺の意識はそこまでで途切れている。

その時は何が起きたかすら解っていなかった。

アニキって言うな……。

 

 

 

 

 

〈横島視点〉

 

こないだはひどい目にあった。

後で聞いたら、あのヤンキーの身体にはおキヌちゃんが入っていたらしい。たまにすげぇな俺。

 

「横島くん、さっき依頼主からキャンセルの電話があったから、アンタも学校行ってきて良いわよ」

 

「え?」

 

おいおい、折角シュウが入ってくれたお陰で出席日数がギリギリ何とかなっているから、チャンスとばかりにバイト入れたのに。

またカップ麺の生活が続くのかよ……。いや、よく考えたら最近はおキヌちゃんがご飯作りに来てくれたりしてたわ。

……ええ娘なんだよなぁ。

あれで身体があれば……。

いかんいかん、考えが逸れた。

 

「マジっすか。じゃあ、準備して学校行きますかね」

 

「そうしときなさい、アンタ、シュウくんよりギリギリなんだから。多少勉強はしておかないと後で困るわよ?」

 

「そ、そうっすね……」

 

電話が鳴る。

 

「はい、はい?はぁ。解りました。とりあえず向かいます」

 

美神さんが言葉短く電話をきってこちらに向き直る。

 

「横島くん、私も行くわ。なんか、シュウくんが机の妖怪に飲み込まれたって」

 

あいつ、なにやっとんじゃ……。

 

 

 

 

 

 

「というわけで、机に食われたところを見かけた生徒から話を聞いたところ、上坂君だった、というわけでして」

 

「ったく、何やってんだかあの子は。で、机は何処に行ったか解らない、と」

 

「はい、それと、一緒に別の学校の生徒も飲み込まれたと聞いています。どうやらスケバンの様な風貌の」

 

は?それってひょっとしてつい最近絡まれたあのスケバンか?

なんでシュウと一緒に……。まさか!

 

「あ、あの野郎、抜け駆けして他校の生徒をナンパしやがったな!?」

 

「アンタじゃないんだから黙ってなさい!」

 

「あぁ!こんなんばかしっ!」

 

くそぅ、シュウのせいで殴られてしまった。

つぅか、真面目な話、あいつ大丈夫なのか?

霊力無いのに妖怪に食われるとか。

 

「おぉ……!あの人が横島のバイト先の」

「横島で良いなら俺だって……!」

「おねーさま!!」

「犬と呼んで下さい!」

「おそばで使って下さい!!」

 

「うわっ!?何なのこいつら!?」

 

人だかりの中から男子生徒がこぞって美神さんの元へ群がっていく。

さ、させてたまるかぁ!!ふざけんな!この乳も尻も太ももも俺のもんじゃー!」

「誰がお前のもんだ誰が!!」

「あぁ!口に出してた……!」

 

「み、美神さん!横島さん!!」

 

いつも通り美神さんにシバかれていたら、おキヌちゃんが焦った様子で天井を見ているのが見えた。

つられてその視線の先を辿ると、天井に机が張り付いていた。

 

「げっ!」

「しまった!」

 

天井の机妖怪は舌を伸ばして俺と美神さんを捕まえる。

そして、俺達は為す術もなく、机の中に引きずり込まれてしまった。

 

 

 

 

 

暗闇を通って視界がひらけた先は見たこと無い教室だった。

そこに居たのは制服を着ているところを見ると学生であろう集団。ただ制服は統一されておらず各々別の制服を着ている。

現れた俺達を見て、いや正確には美神さんを見て、駆け寄ってくる。

 

「せ、先生!この学校にもついに先生が!!」

 

「これで授業が出来ますわ!この学園に幽閉されて以来、私達は生活を充実させようと努めてきました。

ですが、学生しか居なくてはホームルームくらいしか出来ず、私達は教師を待ち望んでいたのです!」

 

だいぶ興奮して捲し立てるように話す女の子。

えっと、話を纏めると、つまり、ここに居るのは全員あの机に取り込まれた連中で、学生じゃない美神さんを見て教師が来たって興奮してるわけか。

わけわからん。

 

「センコーなんてダルいっつぅの。あたいはサボらせてもらうぜ」

 

興奮する生徒達とは別の冷めた様な声がする。

その声に振り返るとそこにはあの時のスケバンが、いや何で居るんじゃアイツは、つか何馴染んでるんだよ。

 

「おいおい、愛子さんだって委員長として皆のことを考えてくれてるんだ。

お前も尖ってばかりいないで、授業を受けろ。更生するんだ!それが青春ってやつだろ!!

何なら俺と河原で殴り合って青春を取り戻すか!?

いや、お前ならそんなことをする必要も無く解ってくれるはずだ!青春!!」

「あ、アニキ。。。」

「「ってお前は何でそんなところで馴染んどんじゃー!!」」

 

スケバン相手に説得にかかった生徒を見ると、まさかのシュウだった。

いや眼キラキラさせて青春!とか叫んでるんだけど、キャラ違くない?語尾が青春、みたいになってるけどおかしくねぇか?

あと、いつの間にスケバンのアニキになったのお前……。

ツッコミどころは絞ってくれねぇかな。

え?なんですか美神さん、取り憑かれてる?あぁ、影響受けやすいんっすねアイツ。

 

「って誰が先生よ!」

「え?先生じゃない?」

 

美神さんが我に返ってツッコミを入れたところ、今まで青春だの何だの叫んでいたシュウの眼が怪しく光る。

 

「美神さんが先生じゃないの?でも教室に居る?生徒でもない?じゃあ……」

「しゅ、シュウくん?大丈夫かしら……?」

 

シュウの異様な様子に、先程まで熱弁していた委員長らしい愛子と呼ばれていた女の子が狼狽え始める。

なんだ、ここの連中としても想定外なのか?ひょっとしてこの状態のシュウはここでも扱いにくいって共通認識になっとんのか?

 

「俺達の青春を邪魔しに来たってことですよね?」

「シュウ君?あんた、取り憑かれて……!」

 

美神さんが話し切る前にシュウが飛びかかってきた。

驚いて固まっていた美神さんの手を引く。そのすぐ横をシュウの拳が通り過ぎる。

そのままの勢いで黒板に突き刺さるシュウの拳。

美神さんは俺の腕の中に収まる。

 

「やーらかいなー!(あぶねぇだろシュウ!)」

「建前とセリフが逆になってるじゃないの!!ふざけてる場合じゃないわよ!」

 

「横島、お前も青春の邪魔をするのか!大丈夫だ、俺の拳を受ければ、二人も青春の素晴らしさが解るはずだ!」

 

「「黒板に突き刺さる拳を受けたら人間にも突き刺さるだろーが!!」」

 

「青春パンチ!!」

 

「のわぁ!?」

 

全く話が通じないシュウの拳を再度避ける。なんだ青春パンチって!

まだまだ無意識に手加減をしてくれている様だが、この速さでも洒落にならんスピードだ。

正直最近気まぐれにシュウと組手とかしてなかったら一発目で美神さん共々見せられない状態になっていただろうな。

近くの机が破壊される。

 

「や、やめなさいシュウ君!教室で暴れては駄目よ!?」

 

「愛子さん、今はそれどころじゃないんです!この二人には青春の素晴らしさを解ってもらう必要があるんです!」

 

言いながらも教室を破壊する勢いで暴れまくるシュウ。

周りに居た集団も逃げ回るだけで、最初の異様な雰囲気じゃなくなってる気がする。

というかアイツらは妖怪の洗脳解けてるんじゃないか?涙目で逃げ回ってるけど。

 

「青春キック!!」

 

「あぶなっ!」

 

美神さんを狙ったシュウのキックは教室のドアを突き破る。

しめた、と廊下に出る美神さんとそれについていく愛子と俺。

後ろからはシュウが追いかけてきている。青春、青春、と呟きながら走ってくる。

バーサーカーか何かかアイツは。いや、もはやターミネーターだわ。

 

三人で肩を並べて走るが、その後ろを凄まじいスピードで追いかけてくるシュウ。心なしか目が光っている気がする。

所々で攻撃を仕掛けてくるが、全てギリギリ避ける。

その度に校舎が破壊されていく。

 

「ちょ、ちょ、や、やめ、、やめて、私の学校が……!この子取り込むんじゃなかった……!」

 

「!?やっぱりアンタだったのね!この空間を作ってる机妖怪は!」

 

狼狽える愛子を見て美神さんがすぐに問い詰める。というか間抜け過ぎるだろ自白するとか。

なんか暴れるシュウを見ながら涙目だったから普通に同情してたけどコイツだったのか。

 

「ちょ、それどころじゃないです!あなたのとこの従業員でしょ!何とかして頂戴!これじゃこの空間ごと崩壊するわよ!」

 

げ、どんだけだよシュウ!

 

「何言ってるのよ、アンタが洗脳解けば良いだけの話じゃないの!」

 

文句を言い合いながらも涙目で走って逃げる愛子に、肩を並べて走って逃げる美神さんが逆に文句を言う。

あ、そっか、と急に振り返る愛子。よく見るとシュウの後ろから「アニキー!」と叫びながらスケバンも追いかけてきていた。

 

「はっ、俺は一体何を……!」

「あたいは一体……!?」

 

愛子が洗脳を解いたのだろう、二人共何かに気付いたようにキョロキョロし始めた。

 

「シュウ!!アンタは後で絶対しばく!」

「え?あ……」

 

美神さんに怒鳴られて今までのことを思い出したのか顔を青くするシュウ。

すまん、南無三としか言えん。

 

「で、アンタがこの世界を作っている妖怪ね」

 

「し、しまった!でも!私の正体が解ったところでどうなるものでもありませんわ。この学校を運営しているのは私ですもの」

 

「涙目で言っても説得力無いぞ」

 

「う、うるさい!私はただ楽しい学校をつくろうとしただけなのに、邪魔するなんて許せない!!」

「ここは私の学校よ!!」

 

美神さんに正体を見破られて学校に溶け込む愛子。

次の瞬間、妖怪が憑依したのか、床を突き破って口が付いた化け物バスケットゴールが現れる。

 

「うわぁ!」

 

「この馬鹿!何が学校よ!生徒を洗脳して、自分勝手にやってただけでしょ!しょせんあんたは腐ったミカンなのよ!」

 

美神さんが神通棍で化け物バスケットゴールをしばき倒す。

 

「み、美神さん、これ以上あまり刺激しないほうが……」

 

ただでさえ追い詰めた感あるのに、……主にシュウが。

 

「先生!私、私……本当は叱ってほしかったんです!」

 

「こいつはこういうノリが好きだと思ったのよ」

 

「だぁぁぁ?!」

 

急に女子生徒の格好に戻って泣き始める愛子。

なんでやねん!

 

「青春を味わってみたかっただけなんです!学校に憧れてたんです!それが、こんなことになるなんて……!

ごめんなさいー!しょせん妖怪がそんなもの味わえるわけないのに……!!」

 

「愛子くん、君は考え違いをしているよ。君が今、味わっているもの、それが青春なのさ」

 

「高松君……!!」

 

おいお前どっから出てきた。

生徒の一人がどこから出てきたのか愛子の肩に手を置いてダバダバ涙を流している。

それに対して愛子も感動して言葉を失っている。

 

「操られていたとはいえ、君との学園生活は楽しかったよ」

 

「みんな……!?私を許してくれるの……!?」

 

うおっ!?マジでどっから出てきたこの集団。

振り返ると教室に居たはずの生徒達全員が全員涙を流して愛子を見ていた。

 

「みんなクラスメートじゃないか!!」

 

「ごめんなさい……!ごめんなさい……!!私!私……!!」

 

「先生、これでいいんですよね!?僕たち間違ってませんよね!?」

 

「はいはいそーよ。人とゆう字は人と人がささえあってんのよ」

 

美神さんも心底疲れた表情で適当に相槌を打っている。完全に棒読みだ。

 

「えーと……」

 

そこに気まずそうに近付くシュウ。

ビクッと愛子の肩が震える。おいちょっとしたトラウマになってるんじゃねぇか。

 

「ごめんな、俺、人より霊力が低くて、洗脳とか影響とか受けやすくて。怖がらせちゃって申し訳ない」

 

「……くすっ」

 

シュウの謝罪に涙を拭きながら笑う愛子。

 

「正直あなたは一番怖かったわ」

 

「うっ、申し訳ない」

 

愛子の言葉に縮こまるシュウ。

まぁあそこまで暴れれば気まずいわな。

 

「でも……」

「あなたの青春パワーは素敵だったわ!!」

 

ピシッと固まるシュウ。

 

「青春パンチ!青春キック!どれも青春を感じたわ!!」

 

「あ、あの、もうその辺りの話は……!」

 

あぁ、あれ、多分シュウのやつ記憶全部あるな。

うわぁ……あれ覚えてるとか地獄だろうな。

 

「そうだぞ!君も正気ではなかったんだから仕方ないさ!それにカッコよかったぞ青春チョップ!」

「え、と、青春ドロップキックとか、い、威力はすごかったぜアニキ」

 

シュウが落ち込んでいると勘違いしたんだろう、他の生徒達も便乗し始めた。

スケバンはちょっと顔がひきつってるところを見ると頑張ってシュウに気を使ってるっぽいけど、どう考えても追い打ちだよなあれ。

 

その後、現実世界に戻るまでずっと生徒に囲まれて青春の必殺技について褒められるシュウが顔を上げることは無かった。

 

ちなみに、愛子はその後学校側に気に入られて、生徒扱いを受けることになったらしいが。

おかしくねぇか?この学校も。

可愛い女子が増えるし、俺としては別に良いけど。

ただ机なんだよなぁこいつ。うーむ、難しい問題だな。

 

 

 




スケバンの茜ですが、一応原作キャラです。(多分コミックスには名前が入ってなかったと思いますが)
独自設定もありますが、今後出していくかは考え中。

ちょっと書き溜め作らないと、、、
次話の投稿は時間置くかもです。


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9:初めてのお留守番(ただし難易度ハード)

いつの間にか評価が赤色になっていたので驚きました。(すぐオレンジになってた(笑)まぁそんなに甘くないですよね)
評価、お気に入り、しおり、感想ありがとうございます!非常に嬉しいです!
拙いとは思いますが、宜しければこれからも生暖かい目で宜しくお願いします!

色々と思うところもあり、試行錯誤してみたのですが……、
かなり迷走してしまった結果、全然書き溜め出来ませんでした。
しかも、結果、自分が最初に書こうとしていた話に戻ってしまうという始末……。

お話作るのって本当に難しいですね。。



「おはようございます」

 

「おはよう!シュウ君、来て早々悪いけど留守番宜しく!

あと、荷物が届くと思うけど、かなり重要なアイテムだから絶対に誰にも渡さないで大事に持っておいて!

肌身離さずよ!持ち運び辛いなら開けても構わないから!」

 

「え?あ、はい、わかりました」

 

事務所に着いて早々、バタバタと美神さんは横島とおキヌちゃんと冥子さんを連れて出掛けてしまった。

その後、外からサイレンが鳴り響いたので慌てて外を見ると、救急車がサイレンを鳴らしながら走り去っていくところだった。

そういえば表に救急車止まってたけど、ウチだったのか。

あれ?そういえば冥子さんもいたよな今。

……ひょっとしてナイトメアか?

 

た、多分大丈夫だよな?

 

少し前はこの生活を楽しみたいという気持ちが強かったものの、

一番変えたいルシオラのこと以外は基本的に俺が居ないほうが全て上手くいくはずだから、余計なことをしない方が良いのでは?

とか、ただ俺が居るだけで横島達が問題なく過ごしていたであろう出来事をかき乱しているのでは?

だとか、自身の存在に悩んだりしていたことが多かったわけだけど、

老師と話をしてその辺りの不安が薄らいだ代わりに別の不安が押し寄せてきてるんだよなぁ。

端的に言えば、俺が居る居ないに関係なく、本当に俺が持ってる知識通りになるのか?という不安だ。

……とはいえ、ナイトメア相手に俺が何か出来るかっていうと別の話だからなぁ、

今回は大人しく言われた通りお留守番を。

 

――ピンポーン

 

とか考えていたら事務所の呼び鈴が鳴った。そういえば荷物が届くとか言ってたな。

軽く返事をして扉を開く。

 

「あ、荷物が届いてるんだけど、大人の人はいるかい?」

 

配達員は俺の顔を見て一瞬考えてからそんなことを言いやがった。

今時小学生でも荷物くらい受け取れるだろ。

ま、まぁ待て、落ち着け、大人の対応をしようじゃないか。

 

「俺が受け取るように言われてるから。サインで良いですか?」

 

「あ、そうだね、お願いします」

 

ほら、変な波風たたないで済んだ。

最後に「偉いな少年」とか言われたけど……。

いやおかしくないか?!そこまで幼くはないだろ!

せいぜい小4とかそれくらいだろうが!言ってて虚しいけど!!

 

……はぁ、まぁいいや。

受け取った荷物は小さな箱だった。

箱で渡された割には無茶苦茶軽い。空っぽなんじゃないかと思うくらいだ。

確かに開けても良いから肌身離さず持ち歩けって言ってたな。何だろう。

そんなことを考えながら包装紙を破り、箱を開ける。

そこには小さな箱に対して更に小さな小袋が入っていた。

小さい細長い巾着袋の様な……。

そう……、例えば、針とかが入っていそうな。

 

「ま、まさかな。いや、いくらなんでもアレを普通の宅急便で取り寄せたりはしないだろ」

 

念のため、と巾着袋の口を少しだけ開いて中を覗く。

……嫌な予想通り、金色の針が入っていました。

 

『ほっほっほっ!そいつは元々オイラのものだよ!返してもらおうか!』

 

「げっ!!」

 

いきなり事務所内に現れたピエロ風の悪魔がラッパを吹き始める。

というかマジでパイパーかよ!

それ見たことか!早速知識と違うことが起きてるよ!流石にこれって俺は関係ないよね?!

ナイトメアとパイパーの事件が同時に起きるのは想定外だろ!

ってそんなこと考えている場合じゃない!

まずいと思い、すぐに身体を捻ってパイパーの攻撃射線上から逃れる。

 

『へいっ!』

 

「あぶねっ!」

 

ギリギリでかわしたが、こんな狭いところで避け続けるのは不可能だ。

すぐに窓を突き破って飛び降りる。

 

「って思った以上に高い!やっぱり五階は無茶だったか?!」

 

でもこの身体なら大丈夫、大丈夫なはず……!

 

ダンッという音を鳴らして両足で着地する。ちょっと足が痺れたけど怪我はしていない。

信じて良かったこの身体のスペック……!!

 

怖かったけど!滅茶苦茶怖かったけど……!!

 

『なんてやつだ……!逃がすかぁ!』

 

「追ってくるなぁ!」

 

俺の主張も空しくパイパーは空を飛びながら追いかけてくる。当然俺は走って逃げる。

どうする、俺だけじゃどうしようも出来ない。協力者は絶対必要だ。

今美神さん達のところへ行ったらナイトメアと鉢合わせする可能性が高いし、万が一俺の知識通り美神さんが眠っている状態だと相当不味い状態になる。

なら、考えられる場所はあそこしかない。パイパー相手なら相性抜群だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じーさん!マリア!助けてくれ!」

「は?どうした小僧「イエス・シュウさん」おいマリア!」

 

カオスの家に駆け込んで叫んだらマリアがノータイムで俺とカオスを抱えて、ジェットで飛んだ。

え?話が早いなんてものじゃないんだけど?

 

「で?どうしたんじゃ小僧」

 

マリアに抱えられたまま俺に訪ねるカオス。

なんだろう、この爺さんもなんだかんだ言って切り替え早すぎじゃないか?

 

「美神さん達が留守の間にパイパーに襲われて今逃げてるところなんだよ。あいつの弱点でパワーの源の金の針は俺が持ってる」

「パイパーじゃと?!あやつ、性懲りもなく」

 

「知ってるのか?じいさん」

 

「一応な、直接接触したことはないが、当時ヨーロッパで暴れていた頃に話は聞いておったからの」

 

「ノー・ドクター・カオス。パイパーとは・昔ヨーロッパで・戦ったこと・あります」

 

「ありゃ?そうじゃったかの?」

 

相変わらず記憶力が曖昧だなこの爺さん。

後ろを振り返るとパイパーが必死に追いかけてきている。

追い付かれる心配はなさそうだ。マリア速いんだな。

 

「シュウさん・パイパーが・追ってきていますが・撃退しますか?」

 

「出来るのか?」

 

「イエス」

 

マリアは返事をすると地上に降りた。

そして俺とカオスを地面に降ろすと追ってきていたパイパーに向き直る。

 

『か、カオスだと?!まさかとは思ったけど、お前がなんでこんなところに居るんだ?!というかまだ生きてたのか……!』

 

「久しぶりじゃなパイパー。かれこれ……えーと………………、久しぶりじゃな!!」

 

おい爺さん……。

 

『ちっ!』

 

舌打ちしてすぐにラッパを吹き始めるパイパー。

それに向かってまっすぐ突っ込んでいくマリア。

 

『へいっ!』

 

ボンッという音と共に煙がマリアを包むが、その煙からマリアが全く変わらない様子のまま現れ、そのまま無表情でパイパーの顔面を殴り付ける。

やっぱりマリアには子供に戻す攻撃は効かないか。

 

『ぐおっ!くそっ、覚えてろよ!金の針は必ず返してもらうからな!!』

 

思った以上にダメージがあったのか、鼻を押さえて飛んでいくパイパー。

あれ?物理攻撃効くの?俺も殴ってみれば良かったかもしれない。

 

「ノー・シュウさんの場合・反撃で霊的攻撃を・受けた瞬間アウトなので・オススメできません。

それに・アレは・パイパーの分身です」

 

「あそっか。……なんで解ったの?」

 

「シュウさん・考えていることが・解りやすいです」

 

そうですか……。

おかしいな、そんなにわかりやすいかな。

 

とりあえず一時的にとはいえパイパーを撃退できた。

後はこの金の針を持ってパイパーの本体を倒せれば万事解決だな。

 

「さて、これからどうする小僧」

 

「美神さんたちは今別の厄介事で手が離せないんだ。出来ればこのままパイパーを倒してしまいたい」

 

「ふむ、美神令子との報酬交渉は任せるぞ」

 

シレッと、かなり難易度が高い問題が出来た気がするが、それでもカオスは手伝ってくれるらしい。

正直滅茶苦茶助かる。

 

「あれは・パイパーの分身です。本体を倒さない限り・意味がありません」

 

「そうじゃったな。さて小僧、パイパーの居場所に心当たりは?」

 

「美神さんが金の針を取り寄せたってことは、何か依頼があった可能性が高い。ここ最近の依頼内容が解ればもしかしたら」

 

「ふむ、では美神令子の事務所に向かうとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論からいうと、パイパーに関する依頼書類はすぐに見つかった。

俺の知識通り、バブルランド遊園地へ調査にいった人たちが子供の姿で発見された、という話だ。

 

「ビンゴ、じゃな。恐らくパイパーの本体はここにおるな。

問題は霊力を使えるのがわしだけ、というところかの。

確か金の針に霊力を流し込むと武器になるが、それを扱うのがわしとは」

 

「確かに、ちょっと不安だな」

 

「わかっとるが、ハッキリ言われるとそれはそれで腹が立つわ!」

 

いや、悪気はないんだって。

出来れば俺かマリアが使えた方が楽だったんだけど。

 

「わしが霊力を流した金の針を小僧が扱う、というのはどうじゃ」

 

「ノー・ドクター・カオス。危険です」

 

確かに霊的防御が無い俺がパイパーのカウンターを貰ったら危ないかもな。

ただ、それが一番あいつを倒せる可能性が高い作戦でもある。

 

「いや、それでいこう」

「ノー」

「あのなマリア?」

「ノー」

「いやだから」

「ノー」

 

マリアさん、なんでこんな頑固なん?

 

「私が・戦います」

 

力こぶを見せつけるようにポーズを決めるマリア。

いや、力こぶないでしょマリア。可愛いけど。

 

「まぁ金の針はマリアが持ってても良いけど、それでも俺も戦うぞ」

 

「ノー・シュウさん・危険です」

 

「とはいえ、女の子に戦わせて自分だけ見てるってのはちょっとなぁ」

 

まぁ、美神さん相手にいつもやってることだけど……

あ、だめだ、何か情けなくなってきた。泣かないぞっ!

 

「……女の子。…………解りました・全力で・サポートします」

 

え?何で急に折れてくれたの?

ほんでカオスは何で複雑そうな表情でニヤニヤしてんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、到着じゃ」

 

「マジで便利だなマリアのジェット。こんな場所までこんなに短時間で着くなんて」

 

「確かパイパーの位置を詳細に知るにはこの針を……どうするんじゃったかの?」

 

だぁぁぁぁ!

相変わらずのボケッぷりに勇んで踏み出した一歩目で転びそうになる。

マリアも心なしか汗をかいている様な気がしてくる。

 

「神通棍の・てっぺんに置いて・霊力を流しながら・パイパーの・位置を問う」

 

「だから美神さんの神通棍借りてきたんじゃないか」

 

「おぉ、そうじゃったそうじゃった。では」

 

ゴホン、と咳を一つついて両手を光らせるカオス。

一応カオスもしっかり霊力持ってるんだよなぁ

 

「パイパーは何処じゃ!」

 

カオスのざっくりとした宣言に対して金の針が回る。

ピタッと止まった先はアトラクションの中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁわざわざアトラクションの乗り物で入っていく必要はないわな」

 

暗闇をカオスが持っていた強力なライトで照らしながら進む。

……なんだろう、普通にアトラクション歩いてるだけなんだけど暗いとやっぱりちょっと怖いな。

とはいえ。

 

「あのさ、マリア」

「どうか・しましたか?」

「いや、確かに怖いっちゃ怖いんだけどさ、手は繋がなくて良いんだけど。一応俺高校生なのでちょっと恥ずかしいし」

「ノー・シュウくん・はぐれたら大変です」

 

おい、呼び方変わってるぞ。

完全に子供扱いしてるよなぁマリアのやつ。

 

「ほんで、カオスよ」

「なんじゃ小僧」

「お前はお前で逆側の俺の手を握ってるのはどういう了見だよ」

「お主、はぐれたら迷子になってしまうじゃろうが」

 

こ、コイツら……!

カオスは完全に俺のこと孫かなにかと勘違いしていないか?

マリアも母性本能にでも目覚めたのか、ちょくちょく俺のことを子供扱いしている節がある。

 

『ホッホッホッ、仲良しこよしでピクニックにでも来たつもりかい?』

 

「パイパー!」

 

アトラクション内にあった池が見えたところで、急に不意打ちで俺の足を掴むパイパー。

そのまま水の中に引きずり込もうとしているんだろうが、ただ引っ張られたところで油断していたわけではない俺の足は動かない。

 

「おらぁ!」

 

『ぶっ!』

 

足を掴まれたまま、パイパーの顔面を蹴り上げる。

一応手応えはあったものの、単純に物体を蹴るのとはやはり少し違うのか、普通とは違う感触を感じる。

 

『やってくれたな!針は返してもらうぞ!!クソガキ!』

 

やっぱり大したダメージには至ってない様だ。

普通の人間にやったら顔面飛んでくくらいの威力あると思うんだけど。

って誰がクソガキだ!

空中には大量の風船が浮かんでおり、恐らく今まで子供にされた被害者であろう顔が描かれている。

あれを金の針で割れば、被害者も元に戻るはずだ。

 

『身体能力は高いみたいだが、霊力は無いみたいだなぁ!そろそろ針を返せぇ!!』

 

「そう簡単に返すかよ!」

 

「シュウさん・危ない!」

 

追撃をしようとした俺に、横から黒い影が迫ってくる。

が、マリアのロケットアームで掴まれて、黒い影からの攻撃は当たらない。

 

『チッ!その針はおいらのものだ!』

 

黒い影は巨大なネズミで、パイパーの本体だった。

自分が小さいからか、想像よりも大きく感じる。

 

「小僧!こやつが本体じゃ!」

 

「見せ場とか作ってやる余裕はないんだよ!」

 

カオスが金の針に霊力を流すと金の針が長い槍のように伸びる。

そのままカオスから槍となった金の針を受け取り、パイパーの本体に向かって走る。正直俺が持つとかなり長く感じるな。

パイパーには悪いが、チビパイパーは出させない!ギャグでチビパイパーを笑わせる展開も無しだ!

 

「ロケット・アーム!」

 

俺が攻撃にうつる直前、俺に向かって来ていたピエロの方のパイパーを殴り飛ばすマリア。

 

「サンキューマリア!」

 

ここまでお膳立てしてくれたら決めないとな!

 

「パイパァァ!!」

 

『一般人が舐めるなぁ!!』

 

「一般人舐めんじゃねぇ!!」

 

パイパーの爪が頬をかすめる。ギリギリ攻撃をかわした俺は、金の針をパイパーに向けて突き出した。

 

『ギャーッ!!』

 

俺が突き出した金の針はパイパー本体の口を貫き、脳天を突き抜ける。

そこに向けてカオスが胸に描かれた魔法陣から霊波を放出してダメ押しが入る。金の針が避雷針の役割を得てパイパーに直接ダメージが入る。

断末魔の叫びを上げて、パイパーはピエロの方も含めて消えた。

 

「はっはっはっ、やったな小僧!」

 

「はぁ……なんとかなった……」

 

足元が水浸しであることも忘れて座り込む。

まさか初めて自分の力で倒した相手がパイパーになるとは思っても見なかった。

まずはもう少し初心者向けを相手に練習からさせてもらえないかな。。。

まぁ、マリアとカオスが居なかったら絶対ムリだったんだけどな。

……自分の力って言ったって、トドメもカオスがやった様なものだし。

 

 

 

 

 

その後、俺達は風船を金の針で割って、子供にされた被害者を元に戻し、事務所に帰った。

その日はまだ美神さん達は戻ってきていなかったので病院に連絡したところ、眠り続けているとのことだったが、3日後には帰ってきた。ちょっとだけヒヤヒヤした。

どうやら予想通りナイトメアと戦っていたようで、無事倒したらしい。

ただ、数日間寝続けていたせいで暫く眠れない連中に、夜通し遊びに付き合わされた。

ちなみに、報告とカオス達の報酬の交渉をしたところ。

 

「へぇ、カオスとマリアが協力してくれたとはいえ、シュウ君がパイパーをねぇ。……え?うそマジで?」

「マジです」

「ま、まぁ、金の針を取り寄せてすぐにパイパーが来るとは思ってなかった私の落ち度で巻き込まれたみたいだし、カオス達にもシュウ君は賞金も分けてあげるわよ?」

 

え?分けるって、全額じゃないの?とは当然言わない。

折角美神さんが珍しく俺達の苦労を認めてくれて、報酬をくれると言っているのに貰えなくなる可能性があるいらんことは言わない。

ちなみに、俺の報酬は事務所の修理費にほぼ消えた。……泣いてなんかないやい。

 

それと、カオスはどうやら金の針を調べることにしたらしい。

もしかしたら自身の若さを取り戻す方法を思いつくかもしれない、とのこと。

報酬は金の針だけで良いとか言い始めたので、ビンタして報酬も渡しておいた。

そういうことやってるからビンボー生活になるんだろうが。

 

 




金の針とか取り寄せ方とか、色々独自設定入ってます。
今後もそういうことはあるかと思います。

試行錯誤は尽きないと思いますが、なんとか最後まで持っていけるように頑張りたいと思います!


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10:蛇・暴走・反省~プリンス・オブ・ドラゴン~

いかんいかんいかん、ドラ○エで歩いたり、艦○れでイベントやったり、仕事炎上してる場合じゃない……!
書かねば……!
(GS美神コラボカフェ、2回目行ってきました笑)

※あ、サブタイですが、暴走と言っても別に主人公がいきなり霊力に目覚めて無双!……とかではないので、あしからず……。

追記:今回、視点がコロコロ切り替わります。


「なるほど、その天龍童子、ってのを見つけ出せばいいのね」

 

「はい、人間の都は勝手がわからず」

 

今、目の前では美神さんがお客様と依頼について話している。

そのお客様が俺にとっては問題なのであるが。

 

……時たまチラチラとこっちを見るのをやめていただきたいです。

 

……小竜姫様……。

 

そう、今事務所には小竜姫様が来ており、竜神の王子が家出したとのことで美神さんに捜索を依頼しているところなのだ。

 

「解ったわ、準備したらすぐに出かけましょ」

 

どうやら商談は成立した様で、美神さんが出かける準備をしにリビングを出ていく。

あぁ、二人にしないでほしいのに……。

だからそのじーっと俺を見るのをやめて下さい小竜姫様。

 

「シュウさん?」

「は、はいぃ!」

 

笑顔で俺の名前を呼ぶ小竜姫様を見て俺の身体が硬直する。

いつも思うけどこの世界の女性陣の笑顔って何故か迫力ある人多くないか?

 

「そ、そんなに驚かなくても……」

 

「い、いや、それは……」

 

「はぁ、私に隠し事してるという自覚はあるんですね」

 

「そ、それは」

 

ため息をつきながら悲しそうな表情になる小竜姫様。

ちょっと老師!何で小竜姫様に上手いこと言っておいてくれないんですか!

 

「老師も私はまだ未熟だからこの件に関しては話せん、の一点張りで、いずれ知る時が来るとしか言ってくれませんし、シュウさんに問い正すのも禁止されてますが」

 

おぉ!グッジョブ老師!

 

「こうもあからさまにのけ者にされると……。私は、シュウさんにも老師にも信用されてないのでしょうか……?」

「え、あの、いや、その……ですね……」

 

ギャー!!小竜姫様が涙目にぃ!

そ、それは反則やぁ!!

 

「ほら行くわよ、ってどしたの?」

「いいえ?何でもありませんよ?さぁ行きましょうか」

 

……美神さんが来た瞬間コロっと表情を変えたってことは、……小竜姫様、意外と強かですね。

 

「あら、シュウさんが真っ直ぐ過ぎても良くないと教えて下さったんですよ?」

 

美神さんの後を追う俺の耳元で、すれ違い様に小竜姫様が囁く。

……って俺のせいか!

顔を真っ赤にしているところを見ると結構無理をしているんだろうか。

うーん、小竜姫様が心に余裕を持てたのはプラスと言っていいのかもしれない。

……良いのか?

 

「あ、それはそうと、鬼門も小竜姫様も着替えて頂戴。そんな格好じゃ目立って仕方ないわ」

 

「え?」

 

美神さんが小竜姫様を引きずって奥の部屋に入っていく。

 

それはさておき、これがメドーサとの最初の接触になるのか。

後ろにアシュタロスが居るであろうことも考えると、ここから色々始まると覚悟を決め直したほうが良さそうだな。

あまり顔を知られたくも無いけど、関わらないのは難しいし、動き方次第では裏方に回るしか無い。

後は、この事務所が破壊されるかどうかで、人工幽霊の事務所に移れるかも気になるところだ。

恐らくだけど、ここが破壊されるかどうかは関係なく、事務所から呼び出しが入るとは思うからなぁ。無駄に事務所を破壊されることを前提に動く必要は無いだろう。

というか、事務所が大爆発とか、リスクでしかないことに向けて積極的に誘導する気は全くない。

 

そんな事を考えていたら現代の服装に着替えた小竜姫様がおキヌちゃんと一緒に出てきた。

 

「なんだか恥ずかしいですね。おかしくはないでしょうか?」

 

「似合ってますよ」

 

「からかわないで下さい。私だって恥ずかしいのを我慢しているんです」

 

恥ずかしそうに苦笑する小竜姫様に対し、笑顔で褒めるおキヌちゃん。

出てきた小竜姫様はスカートを履いていた。

素晴らしい。あ、いや、そうじゃない。

いやでも、やっぱり漫画で知ってるのと、実際に目の前で見るのとは全然違うなぁ。

眼福眼福。

 

「いや、冗談抜きに可愛いですよ。いつもの服装も似合っていていいですけど、何というかギャップがあって凄く可愛いです」

 

「かっかかか、からかわないで下さい!!」

 

「ぬわー!!」

 

「しゅ、シュウさーん!」

 

俺がおキヌちゃんの意見に同調すると、顔を真っ赤にした小竜姫様が何故かいきなり霊圧を解放する。

当然押し潰される俺。

 

「ぐぎぎぎぎ……し、しぬぅ……」

 

え?いやなんで?

おキヌちゃんの時とリアクション違いすぎません?

下手したら死んじゃいますよこれ?

 

「あー、シュウくん、誰にでもそういうこと言ってたらいつか死ぬわよ?」

 

「い、意味がわからないです……!というか小竜姫様、霊圧抑えてくれないとし、死んでしまいます……」

 

いや褒めただけやん。

可愛いから可愛いって言っただけなんですけど……。

 

 

 

 

 

気を取り直して、天龍を探して街を歩く一行。

美神さん、おキヌちゃん、小竜姫様、鬼門二人、俺、と結構な人数になっている。

鬼門の二人も人間に変装しているのだが、コイツら身長でかいな……。ちくせう、俺の低身長が目立つ。

 

まずは天龍を見つけるところからだな。

なるべく皆とはぐれないようにするところから……。

 

と思ってたんだけどなぁ。

 

 

 

 

「あれは何ですか?!シュウさん!入ってみましょう!」

 

「いや小竜姫様、天龍様を探さないと…………ってそこはいかがわしい映画をやっている場所なので入っては駄目です!!」

 

「わ?!ハダカの女性が!……国天んらんい「読むなぁ!!」」

 

知らない人間界を見て、小竜姫様のテンションが上がっております。

しかもしっかり皆とはぐれてしまって、俺、小竜姫様、おキヌちゃんの三人で街を彷徨くことになってしまった。

多分今頃、横島が何故か天龍と一緒に居て、それを見つけた美神さんが追っかけて、しかもそこに敵が居ちゃったりするんだろうなぁ……。

ほんで横島だけが捕まっちゃって、美神さんがそれをシレッと見捨ててるんだろうか。

 

――その頃――

----------------------------------------------------

「わぁぁ!」

「よ、横島ー!放せ!横島は余の家臣なのじゃ!」

「奴らの狙いはあんたなのよ!」

「そ、それじゃ俺はー?!美神さーん!!」

「死ぬんじゃないわよっ!」

----------------------------------------------------

――大正解だったりする――

 

 

しかしテンションが上がっちゃってるからなんだろうけど、小竜姫様が俺の腕を取って引っ張り回してくるのが役得……ゲフンゲフン、いや、そんなことしてる場合じゃないし。

小竜姫様も少し身長が低めなのもあって、腕を組んでるような状況のこれはカップルに……いや、良くて姉弟だな、くっ……!

 

「ちょっと失礼」

 

「え?ちょっ。何を…!?」

 

俺の腕を取っている小竜姫様の手を握って、腕から引き剥がす。

ちょっと手を握る形になるが我慢してもらおう。暴走している小竜姫様が悪い、ということで。

 

「天龍を探さなくては、ですよね?このままだと迷子になりますよ?」

 

「あ」

 

小竜姫様の手を握って真正面から(……正確にいうとちょっと下からだけど)小竜姫様の顔を見て言うと、小竜姫様の顔が真っ赤になった。

ははーん、はしゃぎすぎたことに正気に戻って恥ずかしいんだな?

俯いてボソボソとなにやら呟いている。

 

「……し、しまった。シュウさんと二人なのでちょっと浮かれ……いや違います、私は別に。これも老師があれからも色々言ってくるから……!!そ、そうです!殿下を探さないと!」

 

何に反省していたかは知らんが、とりあえず落ち着いてくれたみたいだ。

顔を上げて天龍童子を探す気持ちを改めて決意してくれた。

 

 

「……あの、私もいるんですが……」

 

ごめん、おキヌちゃん、怖い。やめて。

俺の肩に後ろからいきなり顔を近づけて髪を咥えて青白い顔しないで。

……マジで怖いから。

そもそもテンション上がってたの小竜姫様であって俺じゃないじゃん。

それに、小声で私も横島さんとデート……って、聞こえてるよおキヌちゃん。俺達別にデートしてるわけじゃないって。

 

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

<第三者目線>

 

「…………あれ?何が起きたんだっけ?」

 

「目が覚めたか馬鹿もん」

 

「……老師?」

 

「えっと……ここは妙神山?」

 

目を覚ましたシュウは混乱する。

ここは妙神山、そしてシュウの眼前には斉天大聖のどアップがあった。

一瞬ビクッと身体を震わせながらも、キョロキョロと周りをみて状況を把握しようとするシュウ。

 

何故彼がこんなところで目を覚ましたか、というと少し時間を遡る必要がある。

 

 

 

 

 

 

――夜――

 

小竜姫とシュウ、そしておキヌは天龍を探して回っていたが、結局見つけることは出来なかった。

そこにシュウからの提案で事務所の方へ向かっていたところ、電気屋のテレビに流れていたニュースで美神の事務所が夕方に大爆発していたことを知る。

そのまま事務所方面へ急行していたところ、ボートに乗った状態でメドーサに襲われる美神一行を発見。

何故か竜族が味方に二人増えており、鬼門が居なくなっていたが。

 

シュウとおキヌは陸から応援していたが、状況は悪くなる一方であった。

一人の竜族が天龍を庇い、メドーサの使い魔に噛まれて石化。

それに激昂したもう一人の竜族がメドーサに特攻。

小竜姫と戦っていたメドーサだったがそれを見て即座に竜族へ攻撃を加えるが、それをかばって小竜姫が怪我を負う。

 

小竜姫は最後の手段と、美神に自らの篭手とヘアバンドを渡して美神の強さを小竜姫と同じまで上げる。

横島達はシュウとおキヌの居る岸にボートを寄せるのだった。

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

〈横島視点〉

 

ボロボロの小竜姫様とヤームが、空中で戦う美神さんのところへ向かった。

その背中を見ながら自分に力が無いことを嘆くガキンチョ。

シュウもどうやら同じようなことを考えている様で、自分の手を見てため息をついている。

全く、ちっこいコイツがそんな顔をしてたら、俺が何も考えてないみたいで悪者みてーじゃねーか。

 

「放せ!小竜姫が……小竜姫が……!!」

 

「しょーがねーだろ!俺達が行っても邪魔になるだけだ!」

 

俺の言葉にちくしょうと繰り返し涙する天龍。

そんな天龍のツノが突然生え変わる。

 

これなら!と、まさに天龍が小竜姫様と美神さんの力になろうと飛び立とうとした瞬間、それは起きた。

 

「シュウさん!!」

 

一匹の使い魔に気付かなかったシュウ。

……俺も気付かなかったわけなんだけど。

 

「何っ?!」

 

シュウが驚くが反応は間に合わなかった。

おキヌちゃんがシュウを突き飛ばす。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「「おキヌちゃん!?」」

 

少しずつ石化するおキヌちゃんを見て、俺とシュウの声が重なる。

シュウは目を見開いて呆然としている。俺も同じ様な表情をしているのだろうか。

 

「これ、幽霊にも、効くんですね……」

「おキヌちゃん!!」

 

完全に石化するおキヌちゃん。

くそっ!!

た、確か、天龍が石化した者は天界に連れて行って戻せるって言ってたはず!

 

「おい、てんりゅ……?!おいシュウ?!大丈夫か?!」

 

ガキンチョを問い詰めようと振り返ったところでシュウの様子がおかしいことに気付く。

小さな身体を震わせて何かを呟いている。

その姿は、珍しく見た目相応な反応にも見えるが、様子がおかしかった。

 

「俺が……俺の……こんな……何が起きて……せいか?……展開は……知らな……おれの……おれが……おれがここにいるせいで!」

 

パニックを起こしている?!

 

「シュウ!しっかりしろ!おキヌちゃんは大丈夫だ!治るんだよ!落ち着け!らしくねーぞ!」

「そうじゃ!シュウとやら!余が責任を持ってその娘を天界に連れて行って治す!」

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

「「?!」」

 

シュウから光の柱が上がる。

俺や天龍の声にも反応せず、光がシュウを包んでいく。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「いかん!霊力の暴走じゃ!横島!おキヌ殿を連れて離れよ!それほど大きな力ではないが暴発する可能性もある!」

「お、おう……」

 

おキヌちゃんを壊さない様にそっともちあげて離れる俺。

天龍はシュウに近付こうとするが、その前にシュウ、いや、あれはシュウなのか?

俺と同じくらいに身長が伸びて、白く染まったシュウが空に飛び立った。

それを呆けて見ていたメドーサ、小竜姫様、美神さん、ノームが居る空中に向かって。

 

 

 

 

<第三者目線>

 

「なんだいアイツは……!何が起きている……!」

 

「いけません!(今まで霊力すら使えなかったシュウさんがいきなりそんな霊力の使い方をしたら身体が持ちません!)」

 

飛び上がったシュウは凄まじい速さでメドーサに迫る。

 

「な、はやい……!!」

 

小竜姫や美神達がメドーサから一旦離れた瞬間、シュウのスピードが上がり、目を見開いたメドーサはその不意を突かれてシュウに殴り飛ばされた。

飛んでいくメドーサを追い抜いて逆側から背中を蹴りあげるシュウ。

 

「な……!!がぁぁ?!」

 

単純な打撃に混乱するも吹き飛ばされながら体勢を整えるメドーサ。

メドーサを相手にするには、暴走しているとはいえ、霊力が圧倒的に足りない。

 

「ぐぅぅ!調子に……乗るなぁ!!」

 

更に追撃しようと再上昇したシュウを刺又で突くメドーサ。

そのカウンターは完璧なタイミングで行われ、シュウの顔面を貫く角度で放った攻撃を見ながらニヤリと笑ったメドーサだったが、その瞬間、シュウの身体が回転して刺又は頬をかするだけとなる。

 

「何?!ぐぅっ!!」

 

シュウの蹴りがメドーサの腹に突き刺さる。

が、大きなダメージにはならず、再度刺又を突き出す。

その攻撃はシュウの肩を貫き、メドーサは再度口を歪めた、しかしその直後メドーサの口が別の意味で歪む。

シュウが自分の肩を貫かれた事などお構いなしにそのまま突っ込んできたのだ。

 

「ちぃ!だが、これで終わりだ!!」

 

しかし流石にプロとして戦いに慣れたメドーサである、すぐに体勢を立て直し回し蹴りをシュウの腹に当てる。そして今度は刺又をシュウの額に向けて突いた。

 

「させんわ!!」

 

が、それが当たる前にメドーサの横顔を霊弾が弾く。ギロと霊弾が飛んできた先を見るとそこには両手を構えた天龍の姿が。

 

「好都合だ!ターゲットから来るなんてな!はははは!手間が省けたよ!!」

 

メドーサはシュウに一瞬目をやり、それを無力化出来た事を確認してから天龍に向き直る。

そこからはシュウが知る流れ通りに進むのだが、湖に落ちていくシュウにはそれを知る由もなかった。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

<シュウ目線>

 

そうだ、俺は、おキヌちゃんが石化して、目の前が真っ白に……。

って……!!

 

「おキヌちゃんは?!」

 

「心配するな、天龍童子が天界へ連れて行って治した。今は美神らと共に妙神山で待機しとる。温泉にでも行っとるんじゃないかの」

 

「そう、ですか」

 

「まぁ今回はお主の霊力を無理やり目覚めさせてフォローをしておかなかったわしにも非はあるが、そう簡単に我を失ってどうする」

 

「………………」

 

沈黙が痛い。

俺のせいでおキヌちゃんが危険な目にあった。

俺がいなければ何事もなく終わっていた話が、俺という存在がいるせいで……。

 

「喝ぁ!!」

 

「っ!!」

 

当然の叱咤で身体が硬直する、目の前の存在にはそれだけの威圧感がある。

 

「まだ勘違いしておるようじゃな……、お主、死ぬところだったんじゃぞ……」

 

「……」

 

むしろそうなっていた方が良かったのではないかとすら思ってしまう。

 

「愚か者め……今からそれでどうする。横島を、ルシオラを、仲間を救いたいんじゃなかったのか」

 

「!……救いたいです」

 

「ならば一つ失敗したくらいで心を乱すな。先を知っとるお主が一番冷静さを保たなければならんのじゃぞ」

 

その通りだ。しかし、俺のせいで実際おキヌちゃんは……。

 

「お主、わしの言葉を忘れていないか?……お主が居なかったところで、本当におキヌは石化してなかったのか?」

 

「何を…………っ!」

 

「気付いたか。今回、キッカケは確かにお主をかばったことかもしれんが、本当にそれだけが原因かはわからんぞ。

お主が先を知っとると言っても、それが本当にこの世界の先かは解らんと言ったじゃろう。

お主がおる時点でこの世界はこの世界として独立して進んでおるとわしは考えておる。

それに、今までも知っている知識と違うことは起きておったのじゃろう?」

 

「……」

 

「心当たりはあるようじゃな、さて、何をすれば良いか解るな」

 

「……知ってる未来の情報に囚われ過ぎず、それでいて知ってる未来の情報を上手くつかってより良い方向へ導く様努力する……」

 

「わかっとるならお説教は以上じゃ」

 

本当にこのお方には頭が上がらない。

というか俺の精神が弱すぎるな……。なんだろう、この身体に引きずられているって考えるのは言い訳かな?

そんなことを考えていると、気を取り直して、と老師が椅子に座り直す。

 

 

 

「さて、次にお主に起きた事じゃが、簡潔に言うと霊力の暴走じゃ」

 

気を取り直して煙管に火をつける老師。俺も俯いていた顔を上げて老師を見る。

 

「暴走、ですか」

 

「うむ、まぁ結論としては、ワシが悪い」

 

「…………は?」

 

「お主の霊力を使えるようにしたと言ったが、使い方を教えなかっただろう」

 

「はい、ですがそれは私も納得して」

 

「ならばせめて軽い封印くらいはしておくべきだったのじゃ」

 

「……何故?」

 

「お主に車を与えた、動かし方を教えた、アクセルを踏むということだけじゃな。そして、その車はアクセルが滅茶苦茶堅い、が、本気で踏めば一気に踏み込んでしまう。極めつけは、アクセルの踏み方、まぁ強弱の力加減じゃな、それをわしはお主に教えていない。……これだけ言えばわかるかの」

 

なんで老師が車の事を知っているかは置いといて……それは大事故が起きてしかるべきだな……。

 

「すまんの、とりあえずいきなり暴走しない程度には封印をしておいた。後は上手く霊力を使う方法を知ることじゃ」

 

「ありがとうございます。ちなみに、俺の霊能力って……」

 

「今回は単純に霊力が暴走してお主の身体能力を激しくサポートしただけにすぎん。それこそメドーサとタイマンでやりあっても体術であれば勝てる程にな。それと空も霊力の放出で無理矢理飛んでいたとか。ゆえに能力はまだ解らんよ」

 

残念だ……。霊能力さえ定まれば多少は俺でも前に出て戦える可能性が増えるんだけど。

つか空飛んでたんだ俺。

え、でもそれだけ霊力を出すことが出来たのなら暴走とはいえ今後その力が使えるってことじゃ。

 

「それと、期待をさせて落とすよりさっさと伝えておいた方が良さそうなので先にいうが、残念な知らせじゃ。

暴走した時のお主の霊力は報告から推測するに、大したものではない。

かなり派手に見えるものの、かなり無茶をして暴走したにも関わらず、出力自体は大したことなかったそうじゃからの。

ちなみに小竜姫基準じゃないぞ、一般的な霊能力者より低かったかもしれんそうじゃ。

それを無理やり空を飛ぶなんて無茶なことに使ったせいでお主自身の霊力も枯渇しておったからの」

 

「……凹む情報しかないじゃないですか」

 

「まぁ極端に伸びると期待せずに、コツコツ修行してまずは霊力量を伸ばすことじゃな。あぁそれと、身長は伸びていたらしいぞ」

 

「?!本当ですか?!じゃあこの子供ボディがなんとかなるかもしれないんですか?!」

 

「落ち着け、そうと決まったわけではない。暴走、じゃからな、ちゃんと霊力の使い方を学んでもそうなるとは限らん」

 

……えぇ、残念過ぎる情報以外ないのか。

 

「そう焦るな、とはいっても時間は待ってくれん、どうする、ここらで本当に妙神山に入山するか?

なぁに、使い方さえ解れば暴走は起きなくなる、というか起こせないな。身体が霊力の使い方を覚えてしまえば、むしろ暴走は起こせなくなる」

 

「……お願いします」

 

「ふむ、とはいえ、事務所をずっとあけるわけにもいかんからの、たまに来い。稽古をつけてやろう。本当は纏まった時間が欲しいがの。とりあえず、今からでも始めようかの」

 

「お願い……します」

 

 

そうして、俺はもう一度加速空間に入ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お主……本当に霊力に関してはセンスないのぅ」

 

「……ほっといてください」

 

「まぁ良い、一度霊力を自力で出せただけマシか。これで暴走はほぼ起きないじゃろうが、やはり霊力をちゃんと扱えるようになるには何かきっかけや補助が必要じゃな。

それに、さっきも言ったが、使えるようになったとしてもグーンとパワーアップするわけではなく、コツコツ努力で伸ばすしかないぞ。

今のお主は傍目で見たらやはり霊力の使えないパンピーじゃ。いや、パンピー以下じゃな」

 

「言い過ぎです……」

 

「事実じゃ。ほれ、加速空間を解くぞ、仲間達に顔見せして来い。小竜姫も忘れるなよ。良いか?小竜姫を忘れるなよ」

 

「なんで二回言ったんですか」

 

「気にするな」

 

 

 

 

その後、小竜姫様には滅茶苦茶怒られた。

当然事務所の皆からも滅茶苦茶怒られた。

横島が意外と心配してくれたことに感動した。

 

 




小竜姫様に叱られたい。
あ、仏罰は抜きでお願いします。

ちなみに、美神さんの事務所は原作通り爆発しております。


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11:新しい事務所やら色々と

日常回で原作時系列的には、ほんの少ししか進みません。

色々すっ飛ばしながらでも前回でまだ原作で言うところの7巻だったりします。
多分GS試験以降から、オリジナル話が増えていくと思います。

また、今後もかなりすっ飛ばしていこうかと思っています。
※進行遅くなっても原作時系列全話拾って、かつオリジナル話もガンガン突っ込むか迷ったんですが、
 どう考えても、「いつ終わるんだ」となるのでやめました(笑)


鏡を見て改めて思う。

やはり小さい……そして、幼い……。

 

なんだこの、ぷにぷにほっぺに、くりくりお目々は……。

黒髪短髪、服装間違えたら女の子に間違えられる可能性すらあるな。

それにしても完全に子供にしか見えない。

これじゃあ確かに皆から小学生扱い受けても仕方ないかも。

 

だとしてもだ、以前一度横島が悪ふざけで何処から持ってきたのか知らんがランドセル持ってきた時は、あわや戦争になるところだった。

あの時ならもしかしたら金髪でスーパーな感じになれたんじゃないだろうか。

ちなみにその時は、事務所の暴君(美神さん)の命令により、そのランドセルを背負う羽目になり、写真まで撮られてしまった。

いつかあの暴君にも復讐を、と誓った。

そうだ、平安時代から戻ってきたら高島のことを持ち出して煽るに煽る、とかどうだろう。

……うん、俺が東京湾に沈むところまでは想像できたね。やめよう。

 

そういえば、暴走でなんか身長伸びたとか言ってたけど、どういう理屈で伸びたんだろう、と思い、試しに老師に聞いてみたところ。

 

「あ?願望じゃろ?」

 

とか言ってたけど、どう考えても真面目に聞いてくれてなかった。

 

はぁ、これじゃあ、モテるのは諦めたほうが良さそうだなぁ。

いや別にそれが目的じゃないけど、もしかしたら、くらいは考えちゃうじゃないか。

 

まぁ身長は別にこれくらいの身長の人も居るだろうし構わないけど。

あ、いや、元の身長を考えると手足の長さが違いすぎて、たまに戦いの時にリーチを間違えるという実害を考えると一概に構わないとは言えないんだけど。

 

『シュウさん、大丈夫です、10年後の姿ではちゃんと身長伸びてたじゃないですか』

 

「まぁそれでも横島の方が高いんだけどな。あいつ地味に高いよな……。って何で俺が気にしてるの解ったんだよ人工幽霊壱号」

 

『いえ、鏡を見てそれだけ深いため息を吐いていたら解るかと』

 

今俺は新しい事務所の一室にいた。

事務所と言っても事務所自体が意識を持っている人工幽霊壱号。

 

ちなみに人工幽霊壱号が言っていた10年後というのは、この事務所を手に入れる際にはちょっとした試練があり、

その中に一歩歩くごとに5歳年をとる部屋があったのだが、それに俺は立候補した結果だ。

まぁ元に戻るのは解っていたのもあるが、ちょっとだけ年をとれば身長が戻るのか確認したかったのだ。

 

結果、美神さんを抱えてジャンプしてそのまま目的地まで一発で到着。

その時の着地で2歩分歩いた時に、この世界に来る前の俺自身から少しだけ年をとった感じの見た目になった。

 

つまり、俺は年齢そのままでこの世界に入って何故か身長が低くなった、のではなく、

年齢自体が10歳程度になっている、と考えるのが妥当だろうか。

そう考えると、パイパーと戦った時、子供に戻される攻撃を受けても意味がなかったのかもしれない。

ま、過ぎたことを考えても仕方ないか。

 

ちなみに、新事務所である渋鯖人工幽霊壱号の試練は、俺が思ったより活躍できた。

飾ってあった甲冑が剣で襲ってきた時は殴ったらバラバラになったし。

まぁ、霊圧が強い部屋に入った時は潰れた蛙みたいになって死にかけてたけど……。

 

 

『シュウさん、お客様です。今おキヌさんが応対されています』

 

「知ってる人?」

 

『ドクター・カオスさんとマリアさん、それともう一人いらっしゃいますね。どこかマリアさんに似ているようですが』

 

マリアに似ている?え、ひょっとしてテレサか?

テレサって確かカオスがマリアの設計図を元に作った二人目の人造人間で、俺の知識では敵対して人類の支配を企むはずだけど。

 

『今は応接室にいらっしゃいます』

 

「了解。ありがと」

 

 

 

 

 

「で?その姉さんに勝ったシュウってのは何処に居るの?」

 

「いや勝ったと言ってものぅ、別に勝敗を付けたわけじゃないぞ」

 

「でも、姉さんをパワーで抑えたんでしょ?」

 

「まぁ、確かにそれはそうじゃが」

 

応接室に入ると俺の予想通り、カオス、マリア、テレサの三人が居た。

事務所メンバーは美神さんとおキヌちゃん、横島と勢揃いだ。

 

「ほら、そのシュウが来たわよ」

 

「おぉシュウ、お主のお陰でマリアの妹が作れたぞ」

 

「テレサ・彼が・シュウさん・です」

 

「こ、子供じゃないの!!」

 

テレサの言葉に苦笑する面々。

いや、さっき仕方ないと思ったところだけど、やっぱり悔しいなちくせう。

それにしても、唐突すぎて状況が解らないんだけど。

 

 

 

 

爺さんが言うには、パイパーが持っていた金の針の研究は未だ途中だが、

一時的にであればカオスの頭の中を全盛期に戻せるようになったらしい。

で、その実験をしていたところ、マリアの設計図のありかを思い出して、そのまま全盛期の脳みそで二号機を作った、と。

なるほどな、だからテレサがいきなり暴走して人間を支配、とか言い出すような感じになってないのか。よく作るお金足りたな。

 

「あんたが姉さんをねぇ……どう見ても子供だけど……。えいっ!」

 

「うわっ」

 

テレサが不意打ち気味に放ったロケットアームを受け止める。

マリアより少しパワーは低く感じる。

というか。

 

「えいっじゃねぇよ!!」

 

「へぇ、反応は良いわね。姉さんとカオスが言うだけのことはあるわ」

 

こ、こいつ、俺が知ってる流れにはなってないみたいだけど、いい性格してるな。

しかも爺さん、呼び捨てにされてるけど良いのか?

 

「感情面がマリアより強いためか、シュウの話をしたらやけに会いたがってな、紹介がてら連れてきたんじゃ」

 

「モテモテじゃねぇか、良かったなシュウ」

 

「おぉ羨ましいか横島、ざまぁみろ、こんちきしょう」

 

そんなバトルジャンキーに好かれても嬉しくないわい。解っててニヤニヤしやがって。

げ、よく考えたら雪之丞とかに気に入られそうな気がしてきた。

ことあるごとに戦いを挑まれるのはお断りだぞ。

 

「単刀直入に言うわ。シュウ、勝負しなさい」

 

「お断りだい」

 

言ってるそばからだよ。

テレサ、そんな不満そうにされてもいやなものは嫌だよ。

 

「なんでよ」

 

「いや何で会っていきなり喧嘩売られなきゃいけないんだよ。メリットもないし」

 

「人間ごときが私達人造人間より強いとか信じられるわけ無いでしょう」

 

「おい爺さん、このロボット本当に大丈夫か?人間に戦争仕掛けたりしそうなんだけど」

 

「多分大丈夫じゃろ」

 

多分ておい、いや横島笑ってる場合じゃないだろ、このロボット完全に人間見下してるぞ。

美神さんは完全に興味を失って金数え始めてるし。

 

「良いじゃないの減るもんじゃないし、コテンパンにやっちゃいなさいよ」

 

「美神さん、他人事だと思って……」

 

「他人事だもん」

 

そうでしたね、あなたはそういう性格でしたね。

 

「じゃあこうしましょう、私が勝ったら調子に乗ってすみませんでした、って謝りなさい。あなたが勝ったら姉さんが何でも言うこと聞いてくれるわよ」

 

「?!」

 

いやなんでだよ、マリア目が点みたいになってテレサのこと二度見しちゃってんじゃねぇか。

しかもテレサは全く気にしていないし。

 

「テレサ・何故・私ですか」

 

「え?特に意味は無いけど」

 

「……」

 

「仕方ないわね姉さん、じゃあ万が一私が負けたら姉さんじゃなくて私が言うことを1つ聞いてあげるわ。我儘な姉さんね」

 

「シュウさん・コテンパンに・やっちゃって・下さい」

 

マリアもなんだかんだで感情豊かだよなぁ。表情変わらないけど。

 

「じゃあ腕相撲で良いか?というか他が面倒だから嫌なんだけど」

 

「シュウは馬鹿なの?単純な力で人造人間に勝てると?」

 

まぁ、多分……。

いや周りの連中、そんなテレサを可哀想な子だなぁ、って目で見るのやめてあげて、俺のことなんだと思ってるの。

 

「シュウ、腕のパーツ変えるのもタダじゃないんじゃ。……壊すなよ?」

 

「カオス、そんなも心配は必要ないわ、むしろこの子の腕の心配をしてなさいな」

 

まぁ、マリアよりパワーが落ちてる時点で、結果は言うまでも無かったわけだが。

 

 

 

 

 

 

「……調子に乗ってすみませんでした」

 

「良かったのぅ、シュウが同じ条件にしてくれて。ま、勉強にはなったじゃろ」

 

まぁ別にやってもらうこともないし、謝って貰う必要もないけどこれが落としどころかな。

 

「ま、まぁ力だけは認めてあげるわ」

 

「今日は顔見せだけじゃ、また機会があったらテレサ共々宜しく頼む」

 

それだけ言ってカオス達は帰っていった。

いや何しに来たんだ本当に。

 

帰り際にマリアからチョコ貰えたのは嬉しかった。

そういえばバレンタインデーだったわ。横島も貰ってた。

チョコレートは大好きなので嬉しいです。

ただ何故にマリアが俺のランドセル姿の写真持ってるんだい?

ひょっとして美神さんが拡散してるの?俺を社会的に殺すつもりですか?

 

 

 

 

 

次の日

 

「で、俺がピンチの時にお前は何処で何をしとったんじゃ」

 

「いや実は妙神山に呼ばれてさ、修行してた」

 

「出たよ修行馬鹿……俺のピンチに助けに来るのが同僚だろうが」

 

「気付けるかよ。おキヌちゃんの想いがこもったチョコレートが動いてお前を襲ってたとか」

 

本当は気付ける要素は揃ってたんだけどなぁ。

まさか俺が妙神山に向かった後に美神さんとおキヌちゃんが厄珍堂で生命の宿ったチョコを貰ってきて、しかもおキヌちゃんの想いが反映されちゃうとはなぁ。流石に覚えてないって。

確かにそんなイベントあったなぁとは思ったけど、漫画だと色んなイベントが複数回起きてるから時系列だって解らないし。

 

……あれ?そういえば時系列どうなってるんだ?

こないだクリスマスに徹夜でサンタさんのお手伝いしたけど、以前横島がおキヌちゃんのためにクリスマスプレゼントを織姫のところに取りに行ったこと考えると、あれ?二回目?……うっ、頭が……!!

なんだか触れてはいけない気がするので考えることはやめよう。

 

「っとそうそう、俺も現地でもらったけど、お前にも貰ってるから」

 

「あ?何をだよ」

 

ふと思い出したので目当てのものをカバンから取り出す。

 

「ホレ、小竜姫様からバレンタインチョコ」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!でかしたぞシュウ!心の友よー!!」

 

「お前の手首ドリルで出来てんのか」

 

「小竜姫様!この俺にチョコをくれるということは、もうこれは告白?!神様との禁断の恋にぼかーもー!」

 

俺のツッコミは無視して一人でクネクネと唇と突き出して踊り始める横島。

往来でそういうことはやめてほしい。

つか俺も貰ってるの理解してるのかコイツは。

 

「頼むからここで暴走するのやめてくれない?あとお前その理屈で言ったらマリアとかおキヌちゃんからも貰ってるだろ。俺も貰ってるし」

 

「うるへー」

 

昨日たらふくチョコを食べさせられてトラウマってるだろうに、小竜姫様からもらったチョコをかじり始める横島。

こういうところ女の子からポイント高いだろうなぁ。流石だわ。

 

「ところで、あの茜ってヤンキー、最近見かけないけどどうしたんだ?」

 

「あぁ、たまに組手くらいはやってたんだけど、結構センス良かったから山ごもり勧めたんだよ。俺がよく使う山で割りとおすすめだったから。だから最近は山にこもって精神統一でもしてるんじゃないかな。いや学校は行ってるらしいけどな」

 

「お前……仮にも女の子に山ごもり勧めるとか正気か?」

 

「大丈夫、そこまで本格的じゃないし、軽いキャンプ感覚だから。あと、今のアイツならどんな状況でも大丈夫なくらいには強くなってるし」

 

いやぁ長物が得意みたいだからって剣道教えたらすぐに段取るとは思わなかったわ。

結構センスあるし、最近は悪さもしてないし、むしろ悪さしてる連中にヤキ入れたりしてるみたいで、想定外だったけど関わって良かったかもしれない。

 

「そんなこと言って、実はヨロシクやってるとかじゃねーのか?」

 

あぁん?と凄んでくる横島。

怖い怖いやめて。

 

「それはなさそうかな。だってアイツ何回やめろって言ってもアニキって呼んでくるし、多分舎弟気分じゃないのか?俺はそんなつもりないけど。

あと関わってみて解ったけど、予想より遥かに喧嘩馬鹿だぞあれは。

まぁ他の人と違って子供扱いしてこないだけポイントは高いけど」

 

「お前はどうなんだよ?」

 

「俺?あぁ、考えたことなかったな。かなり強くなったし、良い組手相手にはなるとは思うけど」

 

「修行馬鹿め……」

 

聞こえてるぞこのやろう。

 

「それよりお前もおキヌちゃんからそんな想いのこもったチョコ貰って悪い気はしないんじゃないの?」

 

「うっ、そ、そりゃあなぁ。ただあの子、幽霊だから身体無いんだよなぁ……」

 

「でも良い子だよな」

 

「そうだよなぁ、ウチの事務所の唯一の良心だし」

「え?」

「え?」

 

俺は?

いや俺、あの事務所だとかなりまともな人類だろ。

事務所のメンツは、幽霊、不死身変態、鬼、人工幽霊、俺……。ほら。

という意味を込めて自分を指差して横島を見上げる。

 

「ハッ!」

 

こ、このやろう、鼻で笑いやがった……!!

 

「お前とはそろそろ白黒つけるべきかもな」

 

「腕力以外でな」

 

「脚力で良いか?」

 

「良いわけあるか!!」

 

とまぁ、こういうやりとりをするくらいには、横島との仲は良好だ。

ふとそう考えると感慨深いものがある。

あの横島とこんな軽口を叩くなんてなぁ。

 

俺がそんなことを考えながらジッと横島を見上げていたら。

 

「なんや俺のことジッと見て……俺にそんな趣味はねぇぞ」

 

「俺もないわ!……そうだよな、お前にあるのはショタのケじゃなくてロリの方だもんな」

 

「ロリじゃないわい!!」

 

そいつはどうかなぁ、見た目はともかくよく考えるとルシオラって0歳だよなぁ。

とか下らないこと考えていたらふと横島が何かに気付いたように俺の方を見る。

 

「あ、なんかむしろお前もそう言われる未来が来るって感じした。よくわからんけど」

 

「は?!冗談でもやめろよ!お前仮にも霊能力者の片鱗あるんだから!」

 

マジで勘弁してほしい、なんだ?!パピリオか?!

この身長だと下手したら釣り合っちゃうけど、俺にその趣味はないぞ?!

……全然関係ないけど、俺、パピリオくらいには身長勝ってるよな?

大丈夫だよな?!

……牛乳飲も。

 

 




なんだか凄く短く感じる日常回になってしまった気が……。

GSコラボカフェがもうすぐ終わってしまいます。
結局4回も行ってしまったが、次の機会はあるのだろうか……。


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12:トラ・虎・とら

ちょっち短いですがタイガー登場回です。タイガーの口調難しい……。
※今回シュウがいつも以上に壊れます。

コメント付き評価頂いた方々ありがとうございます。
感想と違ってお礼を言う場所が無いのでこの場所で失礼します。


「今日は転校生を紹介するぞー」

 

「女の子か?!女の子だな?!」

 

「横島くんはいつもそれね」

 

先生の言葉を聞いてすぐに身を乗り出して叫び始める横島。

朝っぱらから元気だなオイ。

愛子も呆れてるぞ。この子はこの子でだいぶクラスに馴染んだよなぁ。

 

「おい、入ってきていいぞ」

 

「はい」

 

横島を無視した先生の手招きで教室に入ってきたのは。

 

「く、クラスの半分がおなご……?!」

 

2メートル超えの巨漢だった。

タイガーかぁ。で、でけぇなぁ……。

 

 

 

 

あの後女性恐怖症のタイガー寅吉は教室の扉を破壊しながら走って逃げていった。

そして連れ戻す様に言われたのが、俺と横島だったわけで。

 

「へー、じゃあお前エミさんの助手なのか」

 

「そうジャケン、聞けばお二人もゴーストスイーパーの助手、仲良ぉしてツカサイ」

 

「おぅ、お前モテそうに無いから仲間な」

 

「お前の基準ってそこしかないの?」

 

校舎裏でエミさんの写真を持ってブツブツ言っていたタイガーと俺達は、ゴーストスイーパーの助手という共通点もあってすぐに仲良くなった。

と言っても、今回エミさんが美神さんにまた勝負を仕掛けてくるんだよなぁ。

しかもコイツはその切り札、のハズなんだけどなぁ。

ちょっと探ってみるか。

 

「タイガーって、エミさんと美神さんが対立してるのは知ってるんだろ?」

 

「そうジャノー、話は良く聞かされとるケエ知っとるが。お二人と友達になれたし、出来れば仲良ぉして欲しいんジャが」

 

「確かになぁ。あの二人、どっちも一流なんだから協力したら凄いお金生み出しそうだよな。二人とも美人だし、ええ身体しとるし」

 

「後半はともかく前半は同意するよ」

 

本当、あれでいがみ合ってなければ凄いパートナーになると思うんだけどな。

 

 

 

「それにしても驚いたノー、シュウさんは飛び級ジャと思っとったケン」

 

「れっきとした17歳です」

 

多分。

いや、こないだのこと考えると肉体年齢自体が子供の可能性高いから、これ年齢詐称になるのかな?

 

「お前らこうやって並んで見ると絶対に同い年には見えんぞ」

 

「だろうな。俺は言わずもがな、タイガーもだいぶ一般男児からはかけ離れてる体格だよなぁ」

 

「クラスの奴らお前のこと妖怪だと勘違いしとるぞ」

 

横島の言葉を聞いて改めて見る。

横島も結構身長高いはずだが、それより遥かに高い。

身体の大きさも相まって、同じ人類とは思えんな。

 

「まぁこの見た目ジャケン、慣れとります」

 

「お互い苦労するな」

 

でもコイツ彼女出来るんだよなぁ。

まぁ話してみた感じ、性格はかなり良さそうだし、納得は出来るけど。

 

 

 

 

「げ」

 

「あ、エミさん」

 

3人で授業そっちのけでたむろしてたら突然エミさんが現れた。

恐らくタイガーに用事だろう。

それにしても出会い頭にご挨拶だなぁ。

 

「な、なんでオタク達がここにいるワケ?!」

 

まぁ敵の助手と自分の助手が仲良さそうに雑談してたら焦るよなぁ。

タイガーのことは秘密にしたいだろうし。

 

「いや俺らもここの高校通ってますし、タイガーは俺らと同じクラスになったところですよ。というかむしろエミさんが居るほうがおかしいですからね?」

 

「お、同じクラス……そ、その話令子には?」

 

「まだっすね」

 

横島の返答にエミさんの目が光る。

あ、これはアカン流れ。

そういえば横島この流れで捕まってたよな。

 

「タイガーは対令子用の秘密兵器なワケ。おたくたちは見てはいけないものを見たワケ」

 

「「秘密兵器を同じ学校にいれんじゃねー!」」

 

「タイガー、二人を拘束しなさい」

 

俺たちのツッコミもどこ吹く風、淡々とタイガーに捕獲を指示するエミさん。

 

「な、何故ですエミさん、お二人はわっしの友達なのに……!」

 

そんなことを言いながらもテキパキと横島を縄で縛り付けているタイガー。

言ってることとやってることがおかしいだろ。エミさんに対しては条件反射で動いてるのかこいつ?

 

「しっかり縛り上げとるじゃないかー!お前なんか友達じゃないわい!!」

 

そしてそのまま今度は俺の元へ巨体が迫ってくる。

当然捕まってやるつもりは無いのでタイガーの腕を掻い潜り、足元から後ろへ回り込む。

 

「チッ、シュウを捕まえるのは難しいワケ。タイガー、やるわよ!」

 

「えぇ?!ここ学校ですよ?!」

 

「シュウ相手には使うしか無いワケ!!」

 

え?何やるつもり?

エミさんが笛を出して、タイガーが虎に……ってまずい!!

 

 

 

 

 

 

<横島視点>

 

「はぁ、なんとかなったワケ」

 

ため息をついて笛を下ろすエミさん。

タイガーは状況について行けていないらしく、シュウを心配そうに見ている。

 

「こ、ここまでする必要があったんですかいノー」

 

「シュウはね、おたくでも抑えられないパワーととんでもないスピードを持ってるのよ」

 

「えぇ?!ぱ、パワーもですカイノー?!」

 

「そうよ。でも霊力が皆無だからね。この手に限るワケ」

 

やれやれ、とタイガーへの説明を切り上げてシュウを改めて見るエミさん。

その目には少しの罪悪感と憐れみが含まれていた。

 

 

 

 

「え?小竜姫様?なんでここに?えぇ?!いやいや、俺じゃないですよ?違いますって!いくら俺が甘いもの好きだからって、小竜姫様が取っておいたショートケーキに手を付けるわけないじゃないですか!!目怖っ!や、やめてください!!怖いですって!ちょ、霊力まで出してほ、本気じゃないですか!修行?!嘘だ!絶対私怨だ!訴えるよ!そして勝つよ!……い、いやだ!どこにつれてくの?!くらいよせまいよこわいよー!ぼ、ぼくじゃない!ぼくじゃないのにぃー!!びえぇぇぇぇぇぇん!!」

 

そう、シュウはタイガーの精神攻撃を受けて幻覚を見せられていた。

 

「な、なんか幼児退行してません?」

 

縛られた状態で、同情しながらシュウに目を向けてエミさんに問う。

問われたエミさんも目を逸らしながら額に汗を貼り付けてどこか誤魔化すように答える。

 

「た、多分精神汚染が予定より効きすぎているのね。令子のやつ、霊的防御は教えてないのかしら」

 

「し、しかしこれは……」

 

タイガーが改めてシュウを見るが……。

 

「やだー!こわいよー!!美神さーん!おキヌちゃーん!よこちまー!」

 

完全に肉体に精神が引っ張られているようにしか見えないなこれ。

ある意味見た目通りの反応に見えなくも無いけどな。

って誰がよこちまだコラ。

 

「ま、シュウの名誉のためにも無かったことにしてあげて、忘れてあげた方が良さそうね」

 

「と言いつつなんで録画してるのでせう……」

 

「え?いやこういうの好きなお姉さま方って結構いそうじゃない?何かあった時のシュウへの切り札なワケ」

 

俺のツッコミを受けて、むしろ開き直ったかのような説明をしながら、シュウの痴態をビデオカメラに収めるエミさんだった。

 

 

 

 

 

 

<シュウ目線>

 

「……………………ころして」

 

「だ、大丈夫だって、ほら、俺なんて縛られてるのにこんなに元気!!」

 

「わっしらは何も見んかったケエ!何もなかったケン!」

 

縛られたままガッチャンガッチャンと腕を振る横島に、何故か必死に俺のフォローをしようとするタイガーを見てため息を吐く。

あの痴態は無いだろうよ……。

 

「しっかしエミさんもエゲツないよなぁ。シュウが邪魔しに来ない様にってのは理解できるけど、まっさかあの映像を見せて心を折りに来るとは……。流石は美神さんのライバル、俺でもあそこまでエグいことは出来んぞ」

 

体育座りした足の間に頭を押し付ける。

……なんも考えたくない……。

 

「さてタイガー!行くわよ!今度こそ令子のGS生命もおしまいよ!」

 

これからエミさんは美神さんのところに対決に行くようだ。

何でこの人こんなに元気なの?

……なんも考えたくない……。

あ、出て行った。

 

「お、おい!今回はマジで美神さんヤバいんじゃないか?!」

「うん」

「いや、うんじゃなく。助けに行かないと!」

「うん……。いってきて……。」

「あかん、コイツまだ若干幼児退行したまんまや……!」

「だ、誰が幼児じゃー!!はっ、俺は何を……!」

 

横島のいらん言葉でかろうじて意識を取り戻す。

そうだった、今回は横島が助けに行かないと本当に美神さん大ピンチなんだった!

 

「よ、よし、俺の拘束を解いてく」

「どっせーい」ぶちぶち

「あ、何でも無いです」

 

いやほどくより引きちぎる方が早いやん。

ただ……。

 

「行け横島!俺は限界だ!」

「なんでじゃー!!俺だけに行かせようったってそうは……!」

「いや、心を誤魔化すのが……」

 

言いながら膝をつく。

いや無理だって……。あの映像、よりによってエミさんに握られているんだぞ?

考えないようにしても、先程の映像を思い出してしまう。

……死にたい。

なんだよ、よこちまって、パピリオかよ。

 

「あー……、行ってくるわ」

「うん……、行ってらっしゃい」

 

そこからの記憶はない。

気付いたらアパートの自分の部屋で寝てた。

 

その後聞いた話では、一応美神さんはエミさんに勝ったらしい。

正確には勝負に勝ったけど、エミさんのターゲットだったヤクザがよほど怖い目にあったのか自首してしまったので、依頼としては達成、エミさんの勝ちだとか。

あれ?でも美神さんもヤクザからの依頼料自体は貰ってるらしいから引き分けかな?

 

ちなみに、横島が気を使ったのか、美神さんやおキヌちゃんは俺たちが捕まった時の詳細は知らなかった。

横島には感謝だ。

 

つまり、あの黒歴史を知っているのは、エミさん、タイガー、横島の3人だけとなる。

ということはあの3人を消せば……ゲフンゲフン、いかんいかん、思考が危ない方面に堕ちるところだった。

 

…………うん、忘れよう!

無かったことにしよう!

目を逸らしておけば何も起きないさ!

 

とにかく美神さんが無事で良かった良かった!

それにタイガーとの関係も良好に築けたし!

同じクラスにGS助手仲間が増えたし!

良いことしか無いな!最近!!」

 

「シュウ、隣まで聞こえとるぞ。というか途中から口に出てる」

 

「げ、横島いつのまに!」

 

「お前が現実逃避始めたくらいかな。鍵空いてたぞ」

 

「……き、気をつけます」

 

「おう」

 

横島は自分の部屋に戻っていった。

思考を途中から口に出すとか、本当に横島の影響受けすぎだなぁ。

……マジで気をつけよう。

この癖は身を滅ぼしそうだ。

 

そういえば、ピートがそろそろGS試験受けるとか言ってたな。

ということは、そろそろ、その時期なのか。また大きな踏ん張りどころだ。

そしてずっと考えていた俺が変えたいことの1つ目がようやく。

気を引き締め直さないとな。

 




やり過ぎた感。



全然関係ないですが、原作小竜姫様が天龍相手に「ダメといったら…ダメでございます!」と言った時の迫力、実際に見たらどれほどの威力なんでしょうね。
少なくとも身体は硬直しそうですが。


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13:記念受験と合格と心眼と ~誰が為に鐘は鳴る!~

小ネタで全然関係ないキャラの名前が出ますが、
名前だけなので知らない方はモブの名前と捉えてスルーで大丈夫です。

今回、長いです。
どうしてこんなに文字数バランスが毎回違うのか。。。


「俺は霊力ないですからねぇ……。けっ」

 

「シュウがすねてらぁ」

 

「横島さん、笑い事じゃないですよ」

 

俺がすねて膝を抱えている姿に、苦笑する横島とおキヌちゃん。

実際どうせ無理だろうと思っていたが、ちょっとくらい希望を持たせて貰ってもいいんじゃないだろうか。

横島が巨大な霊圧を出して(美神さんに対して煩悩を燃やしたからだが)合格した横で、俺は失笑と共に不合格を貰って退場した。美神さんの助手ってだけで最後ギリギリまで残すのやめてほしかった……。

 

そう、ここはGS試験会場だ。

 

小竜姫様からの依頼があり、彼女が得た情報では、メドーサがGS業界を裏からコントロールするために息のかかった者に資格を取らせようとしているとのことで、美神さんに潜入依頼が来たのだが。

美神さんと横島は上手いことGS試験に潜り込むことが出来た。美神さんは、ミカ・レイと言う名前で変装している。

俺はダメ元で出たんだけど、予想通りの記念受験となってしまった。

 

 

 

 

 

「そうだ!横島さんも受けてみませんか?!」

 

という小竜姫様の一言から横島の受験が決定。

やはり小竜姫様は横島の才能をうっすら感じていたのだろう。

 

「それで、えーと、シュウさんですが……」

 

「あ、大丈夫です。霊力なしで受かる試験じゃないのは理解しているので」

 

「そりゃそうね、ま、記念受験でもしてみたら?最初から霊力皆無なのは知ってるし、どうせ良い意味でも悪い意味でも目立ちゃしないんだから、私の恥にもならないし。良い経験にはなるかもしれないわよ?」

 

言いよどむ小竜姫様に、解ってますと返したが、美神さんからまさかの一言で俺も受験することになったのだった。

まぁ美神さんの言う通り記念受験になったわけだが……。

あと、横島には俺の知識通り、天龍と小竜姫様からのプレゼントでバンダナに神通力を流してもらっていたのだが。

おでこにキッスかよ……、と思い出して舌打ち準備万端だったところ、小竜姫様は手を横島のバンダナに置いて神通力を流していた。変なところ知識と違うんだよなぁ。

小竜姫様、チラッと俺のこと見てたけど。

その後、「シュウさんには殿下からまたの機会に何か、というお言葉を貰っていますので、今回はすみませんが」という言葉を貰った。まさか、俺にだけプレゼントが無いことに気を使ってたから適当にやったとかじゃないよな?

ちゃんと心眼登場するんだろうな?と少し心配したが、そんな心配もなんのその。

知識通り横島のバンダナは目を開いてたわけで。

 

 

 

 

「しっかし残念だな。お前が出たら霊力なんかなくても良いとこまでいけそうなのに」

 

「ただの格闘大会じゃないのよ?霊力の乗ってない攻撃は通らない結界が張られてるから、出たとしても恐らく一回戦負けね」

 

横島がため息をつきながら言ったセリフに美神さんが説明を加える。

そうなのだ。

だから試合では力になれないと開き直って、勘九朗とかと戦う時に備えるつもりだ。

それと、心眼……か。

 

「それより、横島くんが無様な真似したら一緒にしばきあげるから、シュウくんは力を残しておいてね?」

 

「え”?」

 

うわぁ、横島ドンマイ。美神さんのプレッシャー入ったよ。

あれに晒されるくらいなら俺は大人しく応援させてもらうよ。

ま、心配しなくてもお前のポテンシャルなら勝てるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

……。

……えー。

 

「おい!」

 

……なんで。

 

「お前だよ!そこのガキンチョ!」

 

何で俺がコイツらに目をつけられなきゃいけないんだよ!

俺の目の前にはガラの悪い陰念、クネクネ動く勘九朗、腕を組んで俺を品定めするように眺める雪之丞が居た。

胸にはしっかり白龍という文字が。

そうです、しっかりメドーサの手の者です。本当に勘弁してほしい。

普通に廊下歩いていただけなんだが。

 

「……なんでしょうか、俺はお金なんかもってませんよ」

 

「あぁ?誰がカツアゲだ!気にくわねぇな、一発殴らせろ」

 

どこのジャイアンだよ。陰念が因縁つけてるよ。

などとくだらないこと考えてたら雪之丞が口を開いた。

 

「やめとけ、お前じゃ勝てん」

「何だと!俺に指図するな!」

 

雪之丞の言葉に激昂する陰念。

流石はバトルジャンキー、俺が喧嘩くらいなら出来る事に気付いたのか?

あ、でもこいつまだポンコツ状態の横島見ても警戒してたし、当てにならんか。

 

「雪之丞の言うとおりよ。その子、霊力は並み以下だけど、足の運び方が達人レベル、筋肉はでかくないものの締まってるわ。少年なのに引き締まってるなんて、そういうのもたまには良いかしらぁ……」

 

勘九朗も流石に良い目をしてるな。俺が霊力皆無なのもわかってるみたいだ。

最後の言葉は聞かなかった事にする。

 

「へっ、そんな馬鹿な。こんなガキが俺より強い訳ないだろ」

 

陰念が俺を小馬鹿にした口調で近付く。そして無造作に殴りかかってきた。

当然あたってやるわけにはいかないのでかわす。

 

「っと、へぇこれくらいなら避けるか」

 

言いながら蹴りを放ってくる。避ける。

ちょっとむきになって殴りかかって来たので、避ける。

パンチ、避ける。

キック、避ける。

体当たり、避ける、受け流して地面に落とす。

 

「ほらみろ」

 

得意げに言う雪之丞。

やばい、見せすぎたせいで興味を持たれたか。

 

「テメェ!舐めんじゃねぇ!」

 

げ!足元で顔を怒りに染めた陰念が光る。これは身体から霊波を放出しようとしている?!

ご存じの通り俺に霊的防御力はない。

 

「チッ!」

 

放たれた無数の霊波をすべてギリギリで見極めて避ける。動きに本気を出してしまった。

そりゃそうだ、あたったら死ぬっつぅの。

 

「……マジかよ」

 

「おいおい……」

 

至近距離で放たれた霊波をすべて避けたのが意外だったのか唖然とする陰念。

ついでに勘九朗と雪之丞も驚きに顔を引き締めている。

 

「何者なのかしら」

 

「只者じゃないとは思ったが、ここまでとはな」

 

やらかしたかなぁ……。雪之丞と勘九郎が俺を見ている。

頼むからここから俺を脱出させてください。俺、君等の霊波一発でも食らったら重傷なの、病院送りなの。

 

「いや、俺はちょっと目が良いだけで、今のを一発でも貰ったら大怪我を負ってたから必死で避けただけだよ。

大体試験も第一次試験で一瞬で落とされたんだ。買いかぶらないでくれ」

 

「なんて体術と霊力のバランスが悪い子なのかしら」

 

勘九朗に痛いところをつかれる。

俺もその通りだと思います。

 

「とはいえ、体術は天下一品だな」

 

「それも買いかぶり過ぎだよ」

 

雪之丞の言葉にすかさず否定。

お前は横島だけ見ててください。

 

「良く言うわ。報告が必要かしら」

 

げ、メドーサにか?それは困る。

今は目立ちたくないんだけど。

 

「誰に?」

 

「貴方には関係のない事よ」

 

「……名前は?」

 

雪之丞がニヤニヤしながら名前を聞いてくる。正直勘弁。

どうやら間違いなく、雪之丞には興味をもたれてしまった様だ。

 

「…………匿名希望」

 

「ふざけんな」

 

だめかぁ。

 

どうするかなぁ、情報を与えすぎるのはマズイ、でも名前くらいなら言った方が良いか。

 

「……ヤツメ」

 

「覚えたぜ、また会うだろうよ」

 

「好きねぇ。ま、霊力なしじゃ報告もいらないわね」

 

それだけ言うとまだ喚いている陰念を勘九郎が担いで連中は去った。

 

危なかった。アレ以上興味をもたれていたらメドーサにまで目をつけられるところだった。

とっさに偽名を答えてしまったけど、まぁ横島達と一緒にいたらいつかはどうせバレるだろう。

雪之丞には悪いけど今はとりあえずヤツメと覚えてもらおう。

しっかし、とっさに最近よく行く喫茶店の店長の名前使わせてもらったけど、結構言い淀んだのに、気付かないものだろうか。

まぁ勘九朗の苦笑を見る限りあいつにはばれてそうだったけど。

そういえばあの蜘蛛之巣って喫茶店の店長、なんだか雰囲気からして明らかに妖怪っぽいんだけど、大丈夫なのかな?

 

 

 

無事、横島達のところに戻れたが、そういえばドクター・カオス見かけてないんだよなぁ。

あそっか、カオスの爺さん今家賃払い困ってないからGS試験取りに来なかったのか。

やべぇ、そうなると横島の初戦の相手、誰になるんだ?

 

………………あれ?!これ思った以上にヤバい?!

もともとはカオスがマリア連れてきて、銃ぶっ放して銃刀法違反で勝つ流れが……、大丈夫だよな?!横島勝てるよな?!

 

『横島選手、ドクター高松選手、8番コートへ』

 

「んじゃ行ってくるわ」

 

アナウンスに横島が立ち上がる。

 

「そっちは会場の出口だろうが、もう諦めて行ってこいよ」

 

「お前は見学だろーが!俺は死ぬかもしれんのだぞ?!」

 

悪あがきを……。まぁとりあえず試合には出るらしい。

それにしても、ドクター高松って誰だ?

原作には出てなかったと思うが。

まぁ、最悪心眼がなんとかしてくれるはず、だよな……?

 

数分後

 

『えー、ドクター高松選手、先程「グンマ様が呼んでいます!!」という謎の言葉と鼻血を撒き散らしながら会場を出ていったという情報が入りましたので、横島選手の不戦勝となります』

 

「だぁぁぁ?!」

 

とんでもない内容のアナウンスにずっこけてしまう。

そ、そういえばさっきエミさんが、運もGSにとっての才能って言ってたな……。

あいつ、どうあがいても勝つのかよ……。

まさか世界からGSの資格を取ることを運命づけられているんじゃないだろうな……?

 

そんなイレギュラーもあったものの、無事に横島の一回戦突破という形で、初日は終わったのだった。

 

 

 

 

------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

「横島やるなぁ」

 

観客席で呟いた俺の言葉に周りも同意を見せる。

実際バンダナの助けがあるとはいえ、あのくノ一相手に勝つのは凄いと思う。

 

GS試験2日目。

さっきの試合で横島はGS試験資格を取ったことになる。

 

ひとまずは横島が資格を取れて一安心といったところかな。

ただ、ここでの俺の主な目的は心眼を消滅させない事だ。

正直試合中の出来事に介入するのは無理があるとは思う。

ただ彼には自分が命を捨ててまで護り、育てた横島がどれだけ成長するのか見てもらいたい。

ただの自己満足かもしれないけど、何とかして助けたいものだ。

 

「難しい顔して何を考えてるの?」

 

「いえ、特に何も考えてませんよ?」

 

「ふぅん……ま、いいわ。しかしまさか横島君がねぇ」

 

美神さんの言葉に苦笑する。

これから貴女が思う以上に成長するんですよ彼は、とは言えないわな。

 

「アイツは俺と違って才能がありますから」

 

「ぷっ、なぁに?まだ拗ねてるの?意外と見た目通り子供っぽいところもあるのね」

 

「子供って言うほど若くはありませんよ、大人でもないですがね。でも実際どうですか?美神さんから見てもアイツはセンスあるとは思いませんか?」

 

俺の質問に一瞬考えるそぶりを見せる美神さん。

 

「確かにね、完全な素人だったことを考えたら凄いとは思うわよ。……でもアレだからねぇ」

 

クイッと親指を向ける美神さん。その先を見ると横島がくノ一の女性を追いまわす姿が見えた。

横島……この時期は本当にバカなんだよな。まぁ底抜けに優しいのはそのままだけど。あれ?おバカなのもずっとだっけ?

はぁ、と二人で同時にため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんの馬鹿!」

 

美神さんの怒鳴り声が響く。

今回は大人しくしていたおかげか俺の知っている通りに事が運んでいる。

ピートが雪之丞に負け、横島には美神さんから棄権するように勧められた後、

ちょうど今横島が雪之丞との試合のために帰ってきたところだ。

美神さんが言う事を聞かない横島を呼び出してリンチを始める。

 

「さて、どうなるか……上手くいくと良いけど」

 

横島が美神さんにシバかれてる横で、俺は拳を握り、誰に向けたわけでもない呟きを漏らした。

 

 

 

 

 

「バ、バンダナー!!」

 

特にイレギュラーも無く、記憶通りバンダナが雪之丞の攻撃を受けてただのバンダナに戻ったように見える。

……ここだ、流石に試合に乱入は出来ない。

けどすぐに心眼の存在が消える訳ではないはずだ。それがもし即消えるということなら俺にはもうどうしようもない。

こればっかりは心眼の生命力に賭けるしか無い。作戦と言うのもおこがましい程に危うい運任せだけど、俺にはこの手しか思いつかなかった。

頼む……!と握る手に汗が滲む。

 

そうこうしてる間にも戦いは進み、横島と雪之丞が同時に倒れる。

今か……!

結界が消える前に自然に舞台に近付く。

そして消えた瞬間に舞台に入り、何気なくバンダナを回収。そのまま横島に近付いた。

 

「お疲れ様、良くやったな」

 

そう言って横島に肩を貸す形で担ぎあげておキヌちゃんや美神さんと共に医務室へ運んだ。

今のところ何も問題ない。自然な動きの筈だ。バンダナからも何となくだけど心眼の気配を感じる。まだ辛うじて大丈夫っぽい。

最初の賭けには勝ったが、何処まで保つか解らないので急ぐ。

 

横島を医務室に預け、闘技場の様子を見てくる、とさっさと退室。

相当危険とは解っているがまっすぐ小竜姫様の元へ向かった。

……メドーサと共にいるはずの小竜姫様の元へ。

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

ピリピリしてるのが滅茶苦茶伝わる……。なんて霊圧をこんな場所で出してんだこの二人は……。ちょっと息苦しいからやめてほしいんだけど。

神父は2本目のジュースでも買いに行っているのだろうか。

なんにせよ時間が無い。バンダナから感じる気配がドンドン感じにくくなっている。

 

「小竜姫様」

 

メドーサに警戒しつつ小竜姫様に声をかける。

 

「!!シュウさん?!何故ここに!」

「ん?…………ガキか……(まさかあの時の……奴ではないな、似てはいる気もするが霊力が感じられん。そもそもこんなにガキじゃなかったはずだ)」

 

小竜姫様の反応を見て、メドーサがこちらを品定めするように俺を見る。しかし俺が人間だとわかると興味を無くした様に会場へと目を移した。霊力が皆無なこともあるだろうし人間にそこまで興味もないんだろう。

どちらにせよ好都合だ。って誰がガキじゃ!

ただ前回の俺とは結びついてないみたいだな、良かった。

 

「小竜姫様に急ぎでお願いしたい事があるのですが……」

 

メドーサには聞こえない様に小声で話す。すると頭の中で小竜姫様の声が響いた。

 

【私が念話しますので心で話して下さい】

 

【流石ですね、確かにメドーサに聞かれない方が良いかと】

 

【この状況で来るということは急用ですね。どうしました?】

 

理解が早いと助かる。

考えている時間は無いのですぐに続ける。

 

【はい、実は先程の横島の試合で散ったバンダナですが、回収しました。

恐れ多いのですが、心眼に再度竜気をふきこんでいただきたいです。

こんな時に大変申し訳ありませんが、彼はこのままだと消失します】

 

【っ!しかし!…………貴方は優しいですね。解りました、その話だと心眼はまだ生きているのでしょう。なんとかこの場を離れて再度竜気をふきこみます。確かに、意識を持った者が消失するのは防ぎたいですね】

 

流石は小竜姫様だ。俺の意図をくんでくれた。

突然席を立つ小竜姫様。メドーサはその様子に驚く。

 

「良いのかい?わたしを一人にして」

 

「良くは無いです。ただ貴女も馬鹿ではないですし、まだ行動は起こさないでしょう。今動けば貴女の計画は潰れますし」

 

「……ふぅん、らしくない考え方が出来る様になったじゃないか。誰の影響だい?その堅い頭を多少は使う様にしてくれたのは」

 

「貴女には関係のない話です。すぐに戻るので、……えーと……とにかく大人しくしてなさい」

 

「……最後のがなきゃマシなんだがねぇ……」

 

確かに大人しくしてなさいと言われて大人しくしてる訳ないんじゃないかなぁ……。

ま、まぁ、そこが小竜姫様のいいところでもあるので何も言うまい。

 

 

 

 

 

メドーサのいた席から離れ、裏庭まで来た。ふいに立ち止り俺に向き直る小竜姫様。

 

「急ぎましょう。メドーサもいつまで大人しくしてるかわかりませんし」

 

「はい!」

 

言って心眼を取りだす。辛うじて気配を感じられる状態だ。

 

「ではバンダナを付けてください」

 

言いながら取りだしたバンダナに手を当てる小竜姫様。一瞬で燃えて千切れていたバンダナが修復される。素晴らしい。

何故付ける必要があるのか疑問に思いながらも時間が無いため言われた通り装着しながら聞く。

 

「付ける必要があるのですか?今ので少し竜気が心眼に注がれたので取りあえずは消滅は無さそうですが、そのまま続けるわけには?」

 

言ってる間に装着し終わった。するとふいに小竜姫様が俺の額、いやバンダナに口付けた。

 

「んなっ!な……なん……!」

 

自分でもわかるくらいテンパる。このイベントは横島だったはず……。

混乱していると、小竜姫様が口を開いた。

 

「竜気はこの方が注ぎやすいので時間がかからないのです。

さぁ、いつまでもメドーサを放っておくわけにはいきません。戻りますね」

 

早口でまくしたて、急ぎ足で戻る小竜姫様の背中を見て思う。

……横島の時は?あ、急いでなかったから?

 

「フ、礼を言わねばならんな」

「うえおう?!」

 

ふと近くから声がして驚く。

あ、心眼か!見えないけど多分バンダナの真ん中で目が開いているのだろう。

 

「おぉ!心眼!無事だったか!」

 

「あぁ、お主のおかげでな。それにしても驚いたぞ、まさかシュウが異世界から来た者だったとはな」

 

………………………………はい?

………………イマナンツッタ?

 

「何を驚いておる。当然だろう、横島から生まれた時もそうだが、今回はお主と繋がって生まれ変わったのだ。お主の事なら何でも知っているぞ」

 

ま、まさかそんな落とし穴があるとは……。

 

「心配せんでも小竜姫様にはもちろん他の者にも他言などせん。とはいえ斉天大聖様はご存じの様だが」

 

「あの方に隠し事は出来ないからなぁ」

 

「フム、その通りだろう。さて、私はこれからお主のサポートに回るつもりだが」

 

「へ?横島じゃなくて?」

 

「お主の記憶、漫画の知識と言った方が良いか?それによると横島は私のサポートなしで成長していくだろう。それなら下手に手を加えるよりお主と共に周りからサポートした方が良かろう」

 

流石心眼、考えてるなぁ。

確かにその方が影響は少ないしプラスに働く可能性が高いな。

それに俺一人でやるより、二人での方が良いだろう。心強い味方だ。

 

「でも良いのか?俺なんかのサポートで。霊力もないし。それにこれから結構無茶もするし危険だぞ?」

 

「フ、お主も横島同様自分に自信がないな。心配するな、私も自分の意思でそなたや横島の力になりたいと思っている。それに私の元々の在り方を忘れたか?霊力をろくに使えない者の為の補助輪みたいなものだぞ」

 

そうか、横島の最初の師匠だしな。

流石にここで『自分ほど信じられんものがあるか』とかボケるつもりはない。

 

「わかった、改めて宜しく、心眼」

 

「あいわかった、こちらこそ宜しく頼もう。

それにしても、我が一歩目を示しただけであれほど成長するとはな、感慨深いモノがある」

 

心眼が俺の知識を見ての横島に対する感想だろう。確かに心眼からしたら感極まるものがあるだろうな。

 

「まだただの助平だが、とはいえ確かにセンスは感じるから納得と言えば納得か」

 

「あぁ、アイツこそ主人公だよ」

 

苦いモノも含めて同意する。

 

「…………あのような未来は私も認めん。横島一人が『英雄』として犠牲になった未来などな」

 

「わかってるさ、そのために俺はいるつもりだよ」

 

「お主も良くあの女と共におれるな」

 

心眼の口調に厳しさを感じる。

ひょっとして美神さんのことか?

 

「あの人も悪気があるわけじゃないし、別にあの人が悪いわけじゃないだろ?」

 

「……フン、私はそこまで好意的には見れんな。横島に対して残酷な……!あの母親が出てきた時に耐えられるかもわからんぞ」

 

結構感情的なところがあるんだなぁ。

 

「二度も生まれた影響かもしれん。それにお主の知識を取り入れたからな、横島の時と合わせて多少自我が強くなっているのだろう」

 

「ま、元々横島にツッコんだりしてたし」

 

「自立式の使い魔とでも言えば良いか、まぁ元々その様なものだからな。小竜姫様とのパイプも繋がっておらんぞ」

 

なるほどねぇ、むしろ俺との契約をした使い魔ってとこか。

想定外だけど、とにかく心眼が助かって本当に良かった。

 

「さて、いつまでもここにいる訳にもいくまい、戻った方が良いのではないか?」

 

「あぁ、そうだな……ってあれは?」

 

戻ろうかと思った瞬間少し離れた所から凄い速さで走ってくる男が……雪之丞だ。

必死の形相で走ってくる雪之丞は俺を見つけると捲し立てる様に言った。

 

「か、匿ってくれ!」

「は?!」

 

言うなりすぐに近くの茂みに潜り込む雪之丞。

なんでこんなところに……ってそうか、横島の代わりに変質者として追われるんだったっけ?

マズイな、ここで会うとは思わなかった。

とか考えていたら凄い人数の怒った人々が走ってきた。

 

「君!ここに変質者がこなかった?」

 

半裸の女性が俺に問う。見た、あんただ、と言ってやりたいわ。

 

「え~と、変質者かどうかはわかんないですけど、凄い勢いで赤いバンダナ付けたジーパンジージャンの男があっちに走りぬけましたけど」

 

完全に横島にターゲットを戻すためにわざわざ特徴まで伝える。

横島め、勝つためとはいえ犯罪だってことをそろそろ覚えろっつうの。

 

「そいつよ!覗いてた時はその格好だったわ!また着替えたのね!」

 

言いながら警官や女性達は俺が指差した方へ走りだす。

その際に俺に質問した女性が最後に爆弾を落としていった。

 

「ありがとう!『ぼうや』」

 

………………ぼうや?そこまで幼くないわい!

 

「た、助かったぜ。ありがとうよヤツメ」

 

…………。

……?

 

「ヤツメ?」

 

え?店長がここに?

キョロキョロする俺に怪訝そうな顔の雪之丞。

……?!あ、やべっ!!

 

「あ!俺の事か!いやいや気にしないでくれ」

 

やべーやべー、こいつに偽名教えたの忘れてた。

 

「…………お前、偽名だな?」

「ギクッ」

「てめぇ……」

 

三白眼で睨んでくる雪之丞。

さっき助けた事でチャラにしてほしいなぁ。正直勘九朗とかに本名知られたくなかっただけなんだが。

 

「へっ、まぁ良い、さっきのでチャラにしてやるよ。で、本名はなんっつうんだ?」

 

「シュウだ。悪かったな、メドーサを警戒してたからな」

 

「へぇ、お前もメドーサのことを知ってたんだな。ひょっとして横島の仲間か?」

 

鋭い。ただのバトルジャンキーじゃないんだなぁ。

 

「そんなところ」

 

「そのバンダナはあの時横島がしていたものか」

 

「さよう、お主に消されかけた者だ」

 

ちょっとうらみがましく言う心眼。

あれ?根に持ってる?

 

「悪かったな、こっちもまさかそんな事になるとは思わなかった。そもそもそこまで意思のある存在だとは思っていなかったしな」

 

「フム、良かろう」

 

偉そうだな心眼。まぁ本人が良いならいいか。

 

「さて、俺は一旦姿を消すつもりだ、捕まえるか?」

 

俺をみて構える雪之丞。獰猛な笑みを見せるのは少し戦う事を期待しているのだろうか。

おいやめろ、ステップ踏むな。

 

「いんや、俺じゃお前に勝てないし良いよ」

 

「やってみなきゃわからんと思うがなぁ。横島とは戦ったし、次はお前とも戦ってみたかったんだが」

 

「手負いで何言ってんだ、さっさと行けバトルジャンキー」

 

シッシッと手で払う様にすると苦笑しながら構えを解く雪之丞。

とりあえずひいてくれてよかった。ここで戦うとか考えたくもない。

 

「ま、次の機会を楽しみにしてるぜ。また何かあったら会うだろう」

 

「そっちこそ何かあったら頼ってくれ。まぁ俺が何かの力になれるとは思わないけど、美神さんか横島ならなんとかしてくれるさ」

 

「……さっきまで敵だった俺にそんな言葉かけるとは、な。……ふっ、また会おうぜ」

 

あ、横島が実は弱いって伝えた方が良いかな?……まぁいいか、どうせ強くなるし。

後ろ姿で手をあげて雪之丞は去った。……カッコつけめ。キザなやつだなぁ。

 

「これで香港の時は間違いなく我々を頼るだろうな」

 

「俺が何も言わなくてもそうなるだろうけど、念の為な」

 

心眼の言葉に苦笑しながら俺は会場に戻った。

 

 

 

 

 

っていい感じに終わったつもりでいたけど、今会場修羅場真っ只中やん?!

会場に戻った俺を迎えたのは戦場だった。

 

雪之丞の自白をキッカケに失格となった勘九郎、だが開き直って暴れだした勘九郎に対して、正体を晒した美神さんや他のGS達が囲って戦っている。

 

「ちょっと!どこ行ってたの!アンタも手伝いなさい!!」

 

「す、すみません!」

 

わ、忘れてたぁ!

心眼助けることに意識を集中しすぎてた!

 

【お主、結構抜けてるな】

【ほっとけ!】

 

心のなかで罵倒してきた心眼に返す。そして気を取り直して勘九郎に向かって走る。

すぐに反応して巨大な剣で俺を斬りに来る勘九郎。

薙ぎ払いを前宙でかわして剣の側面を足場にもう一度ジャンプ。

勘九郎の頭を越えて振り向きざまに後頭部に膝蹴りを叩き込む。

ってかったい!!硬すぎる!霊的防御ガッツリ固めてるじゃねぇか!!

ただでさえ魔装術使ってるし、ダメージは大してないだろうけど、膝蹴りを受けて吹き飛んでいく勘九郎。

 

「あなたの霊力じゃ私の魔装術は破れないわよ」

 

体制を整えて勘九郎が言う。

 

「それでも衝撃は逃しきれないだろ。俺にだって体勢崩したり隙は作れるんだよ」

 

「そういうこと!」

 

俺に気が向いた勘九郎の後ろから美神さんが攻撃を加える。が、うまく反応して避ける勘九郎。やっぱりかなり強いな。

横島はサイキックソーサーが安定しないのか必死に制御している。

 

ふと、後ろを見る。

小竜姫様がメドーサから刺又を向けられているのが見えた瞬間、気付いたらそこに向かって跳んでいた。

 

「唐巣神父!!」

 

叫びながら近づく。

迫っている俺に気付いたメドーサ、俺の言葉を聞いて唐巣神父に向き直るが、俺にとっては特に何の合図でも無い。

気を少しでも逸らせれば程度に思っていたが、神父は期待以上の動きをしてくれた。

霊力を練り上げている神父、流石最高レベルのGS、かなりの霊力がみなぎっている。

 

「ちっ」

 

舌打ちをするメドーサ、俺への注意も無くしていないようだが、半分の意識で俺の動きを追えると思っているのであればなめ過ぎだ。

意識が一瞬逸れたタイミングでスピードをMAXまで上げる。

観客席を駆け上がりながら左右に身体を振ってメドーサの刺又を蹴り上げる。

 

「な?!」

 

当然これだけだとプロのメドーサは対処してくるだろう。

ただし、当然ここには頼りになる神様がいるわけで。

 

「形勢逆転ってやつね……!!」

 

小竜姫様が抜いた剣がメドーサの喉元で止まる。

その瞬間、舞台上では勘九郎に横島のサイキックソーサーが当たって爆発、そのタイミングで美神さんが勘九郎の腕を切り飛ばした。

 

それを見て再度舞台に向けて走る。

火角結界を使わせる前に倒す!

即座にメドーサから距離を取り、勘九郎の元へ!

 

「確かにここまでのようね。勘九郎!引き上げるわよ!」

 

「わかりました」

 

俺が勘九郎に攻撃を仕掛ける前に、メドーサの言葉を聞いて地面に何かを投げる勘九郎。

その瞬間、美神さんや横島達を含めて、俺は巨大な火角結界に囲まれた。

 

「くそっ、間に合わなかったか……!」

 

両方を意識したのは失敗だったか。

地味にここも変えたかったんだけどな。ここで勘九郎だけでも確保出来たらと思ってたんだけど。

 

 

 

その後、結局、メドーサと勘九郎には逃げられてしまった。

俺たちを守るためにメドーサを見逃す羽目になった小竜姫様だが、霊波で火角結界を一時的に停止、小竜姫様からの指示通りの場所を確認すると、お約束通り爆弾解体に使われそうな2本の導線が入っていた。

正直ずっとこの場面のことを考えていたが、結局どっちの色が正解だったかの確証は持てなかった。どっちの色かは流石に思い出せないって。

大体覚えていたとしても、その知識が役に立つかもわからないのに、勝手なことを言ってドカンは勘弁願いたい。

 

結局、横島が選んだ色、ではない方の線を美神さんが切ることで、爆発を逃れることが出来た。

ということで一番変えたかった心眼救出は成功したけど、他は変化なし、と。

 

 

 

こうして、まる二日かけた長いGS試験は幕をおろしたのだった。

 




ということで心眼生存です。
次回からオリジナルの話が増えてくると思います。

ちなみに、ヤツメは椎名高志先生の別の漫画に出てくる、蜘蛛の妖怪です。
※ご存知の方が居たら嬉しいです。

ドクター高松はパプワくんに出てくるキャラですが、この作品に出てくることはありません。


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14:GS試験後、今後に向けてと、想定外の出会い

色々考えましたが、この様な形に落ち着きました。
うーん、となった方には申し訳ありません。



GS試験の次の日、小竜姫様やエミさん達含めて、今回の依頼に関わった人たち全員で、俺たちは美神さんの事務所で情報整理を行っていた。

 

「GS試験は無効にならない、つまり横島くんもピートくんも合格ということだ。おめでとう」

 

「不合格はおたくだけじゃないのタイガー!!このバカっ!」

 

唐巣神父の言葉を聞いて、エミさんがタイガーをしばきながら怒鳴る。

いや、俺のこと忘れてません?俺なんて一次試験失格ですよ?

 

「ふぅ、とりあえずこれで依頼は達成かしら」

 

「はい、メドーサの目論見は防げたといえるでしょう」

 

おキヌちゃんが淹れたお茶を飲みながら一息つく小竜姫様。

美神さんは依頼達成の確認をしながら小竜姫様からの報酬を数えている。

 

「そういえば、シュウくんが横島くんの試合後に居なくなってたのって、心眼を助けるためだったのね」

 

「はい、もしかしたら救出可能かと思ったので、回収してたんですよ」

 

美神さんの言葉に肯定する。

横島もかなり嬉しそうだ。ただ頭ポンポンするのはやめろ。

 

「それにしても心眼が無事で良かった良かった。いやぁ、やっぱり持つべきものは友だな。はい」

 

「え?」

 

「え?」

 

横島が俺の前で手を差し出す。

あ、そりゃ返せってなるよな。と考えていたら心眼が目を開いてしゃべりだした。

 

『横島、お主はもう私が居なくとも霊力を使う術は身に着けただろう。今後もお主の力にはなるつもりはあるが、基本的にはこの霊力を全く使えないシュウをサポートするつもりだぞ?』

 

「な、なにぃ?!やだぃやだぃ!心眼はずっと俺のサポートするんだい!」

 

心眼の言葉を聞いて、泣きながら地べたに寝そべって手足をバタバタさせる横島。おもちゃを買ってもらえなかった子供か!

まぁでも確かに横島からしたら小竜姫様と天龍からのプレゼントだからな。

 

「小竜姫様、心眼って小竜姫様からのプレゼントですよね。心眼はこう言ってくれていますけど、どうなんですか?」

 

「そうですねぇ、心眼の元々の役割を考えるとシュウさんにピッタリですし、心眼の意思が思った以上にしっかりしてるので、出来れば心眼の意思を尊重したいのですが」

 

うーん、と小竜姫様も思案顔だ。

その目線の先には横島、未だに地面で駄々をこねている。

 

「大体そのバンダナは俺のだぞ!お古だぞ!ええんか?!」

 

ちなみに横島は同じバンダナをいくつ持ってるのか知らないが、すでに新しいバンダナをつけている。

そういえば原作でもあの後から変わらずバンダナつけてたし、いくつも持っているのかもしれない。

 

「いやまぁ別にそれはいいんだけど、確かにお揃いみたいで微妙だなぁ」

 

「良いじゃない、兄弟みたいで可愛いわよ?お兄ちゃんの真似してる弟って感じで」

 

「怒りますよ?って小竜姫様は何で鼻を押さえてるんですか。美神さん、写真撮らないでくださいよもぅ」

 

美神さんの言う通り兄弟にみられる可能性は高い。

横島がOK出したとしても、ちょっと考えないとなぁ。

 

『横島、お主サイキックソーサーをもう一度出してみろ』

 

「え?いいけど……。ほれ」

 

え?

なんでこんなに早く安定してサイキックソーサー使えてるの横島。

 

『お主、昨日からずっと練習していただろう』

 

「え……?!」

 

心眼の言葉に固まる横島。

え、なんで?特訓とかするタイプだっけ?

 

【横島は恐らくお主と対等でいたいのだ。以前からお主に体力面で頼りっぱなしだったことを気にしていたようだな。昨日横島の部屋から霊力を頻繁に感じたのでな。最初は煩悩に頼っていたようだが、サイキックソーサーくらいなら普通に出すことが出来るようになったようだぞ】

 

心の中で話してくる心眼。

なるほどな、まさか横島がそんなことするとは。

 

「い、いやぁそりゃこんな力使えるようになったら舞い上がっちまうって。今朝がたようやく普通に出るようになったんだ」

 

照れくさそうに言う横島。

 

『そういう努力を自分でやるのであればお主に私はいらんだろう。ここはシュウに譲ってやれ。何もお主に協力しないと言っているわけではないし、必要であればお主が私をつけることもあるだろう。……なんだか自分を譲ってやれというのも微妙な気分だな』

 

「………………ちぇ、しゃあねぇなぁ。とりあえず貸しといたる」

 

しぶしぶ俺の頭をポンポンと叩きながら言う横島。まさかOKが出るとは。

ただ頭ポンポンやめろ怒るぞ。

 

「とりあえずそのバンダナはお前がつけとくか?」

 

「うーん、そうだなぁ」

 

「ちなみに、他のものに心眼を移すのも可能ではあるので、必要なら言ってくださいね」

 

へぇ、出来るなら余計にどうしようか迷うな。

といってもいつも付けてるものって俺ないからな。

 

「まぁ、何か思いつくまではバンダナも貸しておいてやるよ……。いや、やっぱそれやるわ。元々お前が回収してなかったら燃え尽きてバンダナはゴミだっただろうし」

 

「マジで?じゃあ貰っとくわ。何か思いついたら別のものに移すかぁ」

 

「では、お二人の話も纏まったみたいですので、殿下には私から伝えておきますね。皆さん、今回はご協力本当にありがとうございました」

 

 

 

 

 

次の日……学校。

 

「シュウくん?!」

 

クラスメイトに囲まれたんですけど。どういうこと?

 

「シュウが横島と同じバンダナを?!」

「とうとう悪影響が!!」

「シュウくんがグレた!!」

「あれに憧れても良いことないわよ?!」

「横島貴様!シュウを悪の道へ引きずり込むとはどういう了見だ!」

「ウチのクラスのマスコットキャラに余計な要素が!!」

「お前ら……どういう意味じゃー!!」

 

いや、マジでどういうことだよ。

つぅか誰がマスコットキャラだ!!

 

 

 

 

 

また別のタイミングでは……。

 

「アニキ、その、えっと、そのバンダナ……、やめたほうが……。」

「なんで?」

「いや、あたいもあまりアイツにはいい印象が無いというかなんというか」

 

 

 

 

 

 

更に別の(ry

 

「ちょっとアンタ!こないだ更衣室覗いて……いやこんな子供じゃなかったわね、ごめんね坊や、勘違いしたわ」

「おねぇさん、この高校の制服見えてない感じですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「このバンダナつけてから改めてお前の評判の悪さに戦慄してるんだけど」

 

「やかましいわい!!」

 

アパートで横島の部屋に行って文句言ったら逆ギレされたでござる。

いや本当にこれどうしよう。

別に問題があるわけじゃないんだけど、全く同じバンダナするのってちょっと気恥ずかしいな。

 

『色でも変えたらどうだ?正直私をつけるなら額が一番都合が良いのだが』

 

心眼がさっさと決めろと言わんばかりに言う。

確かにもう気にしても仕方ない気がしてきた。

 

「ま、それくらいしかないか」

 

「それだと結局俺の弟って言われると思うけどな」

 

笑いながら俺の頭をポンポンと叩く横島。

 

「やめろっちゅうに!」

 

横島の手を払うと悪い悪いと言いながら笑う横島。

ちくしょう、全然悪びれてないなこいつ……。

 

「じゃあ、こうしたらどうだ?」

 

言いながら俺の頭に巻かれているバンダナをほどいて、手元で広げる。そしてそのまま俺の頭に巻きなおしてくれた。

 

「ほれ」

「おぉ!」

 

横島が床に転がってた鏡を俺に向ける。

そこに映っていたのは、海賊よろしく広げたバンダナを着けた俺だった。

 

「海賊かよ!って思ったけど確かにこれならまだ良いかも」

 

「お前のクリンクリンの目でそれ着けてたらバンダナワドルディに見えるな」

 

「おぉヤリ持ってこい。穴だらけにしてやるよ」

 

「わっはっは、冗談だ冗談!」

 

「チッ、明日はお前おキヌちゃんつれて初仕事だろ?さっさと寝ろ」

 

一発だけしばいて部屋に戻る。

なんかしばいた時に白目剥いてた気がするけど気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、改めてだけど、今後のためにも霊力を迅速に自由に使えるようになりたいんだけど、なんとかなるかな?」

 

自分の部屋に戻ってから心眼と話す。

今後についてと修業についてだ。

 

『フム、確かに霊力がなにも使えないとあってはこれからの戦いには付いていけないかもしれんな』

 

「いや、間違いなく無理だろ」

 

『そう悲観する事もない。お主の体術があれば『一撃』も受けなければ十分魔族とでも戦えるぞ』

 

一撃も、って……結局無理だって話じゃないか。

 

『それはそうと、知識通り進んだ場合は、次の大きなイベントは香港のメドーサか?』

 

「あぁ、ハーピーとか過去のヨーロッパに飛ぶのとかがいつ頃だったか覚えてないってのと、そもそも想定通り進むか判らないから全く油断は出来ないけど、本来なら確かしばらくメドーサが相手の事件が多いからな。それまでにはなんとか少しくらいは霊力を使えるようにしたいんだが」

 

実際このまま香港行きしてしまうと、マジで足を引っ張る、というより下手したら死にかねん。

 

『とはいえ、むしろ霊力がなくとも活躍できる場でもあるがな』

 

「どういうこと?」

 

『ゾンビなどは体術で十分相手出来るだろう、むしろこちらの戦力を考えるとお主が一番適役だ。ケルベロスなんぞはお主こそが天敵だな』

 

げ、俺元々ホラーとか嫌いだからアイツらの相手したくないんだけど……。

 

『そんなことを言っている場合でもあるまい』

 

「わかってるけどさぁ……やっぱ霊力の修行が必要か」

 

『当然だ。というかなんだお前の普段の修業は、あれは単純に身体を鍛える修業であって霊力を鍛える修業には全くなってないぞ。

まぁ私がいるからこれからは霊力の扱い方の基礎なら教えられる。そもそもお主は一度猿神様の修行を終えておるだろう』

 

「あの拷問を受けた後だとそういう修業が正しいと思うだろ。普段の修業方法聞いてないし」

 

『うーむ、勘違いしても仕方なし、か。それと、お主はたまに妙神山に行って修行をつけてもらっているが、お主がハッキリそう伝えてないから小竜姫様は体術の修業のつもりでお主に稽古をつけておるぞ』

 

マジかよ。全然気づかなかった。そういえば霊力の話したことなかったわ。

 

『お主、結構見た目と違って脳筋なのだな……。大丈夫だ、すぐに使えるようになる。大体あの時一度は使えただろうが』

 

確かにそう考えたらようやく霊力の修業が出来るのか。

 

『私は基礎しか教えられんがな』

 

それでも十分だ。未だにザコ霊一体で苦戦するからな。

正直横島がサイキックソーサー使えるようになった今、確実に横島に抜かれてるからな。

こうなったら俺も霊力使えるようになって抜き返してやらないと。

それ以上に、そろそろシャレにならない事件が増えてくると思う。

 

『そう重くとらえるな、実際お主と横島が戦ったら結果は見えているだろう』

 

「対人戦じゃ意味ないんだよ。これから魔族との戦いが増えてくるからな」

 

『ならば少しでも早く扱えるようにするんだな』

 

当然。元よりそのつもりだ。

 

『それと……対人戦が必要になることもあろう』

 

「……まぁな」

 

そこには横島達を巻き込みたくはないな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう」

「んあ?……ブッ!!ゆ、雪之丞?!」

 

あれから数日経ったある休日、道を歩いていたらいきなり後ろから雪之丞に声をかけられた。

正直意外すぎる人物に驚きを隠せない。

こいつとの再会はもっと先の風水盤事件以外では流石にないと思っていた。

 

「驚き過ぎだろ。久しぶりだな」

 

「あ、あぁ、お前、中国に渡ったんじゃ……」

 

「よく知ってるな」

 

「あぁ、あっちは仕事に困らないって聞いたからそうなのかと」

 

「まぁな。ただちょっと日本での仕事を貰ってな。普通に断って山籠もりでもするつもりだったんだが、仕事の条件にお前の話が出てきてな。面白いから受けてみたんだよ」

 

はぁ?!俺?!

笑いながら言う雪之丞、何か妙に気に入られてる気がする。

それにしてもどういう変化だこれは、まだ風水盤の事件は起きないハズ、その前に雪之丞が日本に居て、しかも仕事に誘いに来た。

 

【むぅ、シュウ、これは下手に動けんぞ、どういう影響があるかわからん】

【俺もそう思う、やっぱ俺っているだけでかき乱してるなぁ】

【今に始まったことではないが、それによって良い方向に変わったこともあるだろう、私とかな】

 

心眼にそう言われると多少救われる。

それより雪之条だ、様子を見ながら話を聞くしかないだろう。

 

「いやいや、なんで俺の話が出るんだよ。少なくとも俺はその話を受けてないし、大体俺は霊力の扱い方を身につけてないド素人だぞ。仕事の相棒なら横島か美神さんに頼んだ方が」

 

「ちょっとアイツらには頼み辛くてな、それにお前が適任なんだ」

 

……どういうことだ?俺が適任って、対人か?まさか。

 

「裏の仕事ならやらないぞ」

 

「流石に俺も子供に裏の仕事を手伝わせる気はねぇよ」

 

…………解った、コイツが俺にあまり警戒心を抱いてないのは、俺のことを子供だと思ってるからだ。

 

「もしかして、お前俺の事年下だと思ってんじゃないだろうな」

 

「ん?当然だろ?その見た目で俺より年上な訳が無いだろう。本当に尊敬するぜ、その歳でその体術、下手したら体術だけなら俺より強いしな」

 

…………。

 

「……お前子供に戦い挑むつもりだったんかい、それに仕事手伝わせるとか……」

 

「俺は強い奴を年齢で差別したりしねぇよ、強い奴は強い!それだけだ」

 

「仕事はどう説明するんだ?裏じゃないって言ったって、それなりに危険だろ」

 

「あぁ、それなんだが、実はクライアントからの勧め、というか条件でな、本当は流石に俺もギリギリ表の仕事をお前に手伝わせるわけにはいかないって思ったんだけどよ、向こうさんがお前なら大丈夫過ぎてお釣りすらくるって言うから興味でてきちまって」

 

苦笑しながら言う雪之丞、今ギリギリ表って言わなかったか?

ってクライアントが俺の事を知ってる?

 

「クライアントはお前も知ってるとこだ。知り合いって聞いた時は驚いたがな、確かにあの辺りの連中が全員仲間と考えたら自然だ」

 

「え~と、誰だ?」

 

「六道家だ」

 

あんの狸ババァ!……狸おばさまにしとこう、後が怖い。

しかし何を考えて……って、何で六道家が雪之丞に仕事を?

 

「六道家が何処から調べたのか俺を見つけ出して接触してきたんだ、んで仕事頼む代わりに報酬とプラスで、なるべくブラックリストから外す様に協力するって話をされてな、まぁいくら力のある六道家とはいえ、俺をブラックリストから外すまでは出来ないだろうが、あそこが敵に回らないメリットを考えたらなるべく受けたいんだ。ほんで向こうさんとしてはシュウにも経験をさせたいってことで連れて行くことを条件にしたってわけだ」

 

……何のつもりだ?別に俺に経験を積ませる準備をする立場じゃないはずだ。それこそ美神さんの仕事だぞそれは。

だいたい自分から仕事依頼しておいて俺を連れて行くことが条件って矛盾してるじゃないか。

 

「……で、内容は?」

 

「お、聞く気になったか。犯罪集団の検挙だ。妖怪を使ってあくどい商売してる連中がいてな、それこそ妖怪を捕まえて研究したり売り飛ばしたり、とにかく酷いらしい。当然戦うのは俺がするから、お前には見張りとかなるべく安全なことを……」

 

完全に裏の仕事じゃねぇか、つかコイツなんも考えてないな。やっぱり只のバトルジャンキーなのか……。

とはいえ……。

 

【放ってはおけんな】

【やっぱそうだよな、内容が内容だ】

【お主や横島が一番嫌う相手か】

【むしろ横島にはあまりこう言う経験をさせたくないな】

【それは同感だが、お主は大丈夫なのか?】

【大丈夫だ、俺のことは知ってるだろ?】

【そうだったな】

 

「……わかった、受けるよ」

 

「お、助かるぜ」

 

「ただし、俺も戦うのが条件だ」

 

俺の言葉に雪之丞が驚いた顔をする。

 

「お、おいおい、流石にそれは認められねぇぞ。あくまで手伝いであってシュウにそんなこと経験させちまったら俺は悪人じゃねぇか」

 

「今更だし、気にするタマじゃねぇだろ、それと……俺は横島と同い年だ……!!」

 

我慢して我慢して絞り出した言葉に雪之丞が固まったのだった。

 




ということで次回はフライングで登場した雪之丞と仕事です。
ちなみに、ここからフライング登場するキャラクターが結構増えると思います。

PC変えたので変換ミスがまた発生していないか不安。。見直しはしたつもりですが間違っていたら申し訳ありません。


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15:雪之丞と犯罪集団殲滅任務?

今回、完全にオリジナル展開です。

でも原作キャラも出てきます。

誤字報告、しおり、感想、お気に入り、評価、コメント付き評価、ありがとうございます。
毎回投稿後、ドキドキしてたりします(笑)



「………………」

 

「お、おい、そんなに怒るなよ、まさか俺と大して年が変わらないとは思わなかったんだって」

 

「……はぁ……」

 

「しゃあねぇだろ、顔だって童顔だし」

 

グサッ!

 

「身長だって俺より低いくらいだし、俺がそもそも低いのに」

 

グサッ!

グサッ!(雪之丞自爆)

 

「……もう良い」

 

「あぁしまった!追い打ちか!」

 

そんなコントをやってる間に六道家が調べ上げた敵のアジト付近に到着する。

というか六道家もここまで調べ上げてるならGメンに依頼しろって話なんだけどな。

まぁどうせ表沙汰に出来ない方法でゲットした情報だから雪之丞に話がいったんだろうけど……。

 

ちなみにアジトは山奥の屋敷に陣取っており、その近くの森から様子を見ながら雪之丞が話す。

 

「で、本当に大丈夫か?初めてだろ?」

 

「別に相手を殺すつもりもないって、それに」

 

「あ?」

 

「対人の実戦は初めてじゃない」

 

言った瞬間一気に屋敷に駆け寄る。当然足音は立てていない。

ピタリと屋敷に背中をあわせて窓の横に立つ俺を見て遠くからヒュゥと音を鳴らさずに口笛を吹く雪之丞。

すぐに俺と同じ様に走り、窓をはさんで逆側の壁に背中をつけた。

 

中をのぞくと、5人の男が話をしていた。

その横には鎖で繋がれた人型の妖怪。

鎖に何か細工をしてあるのか、ぐったりしている。

三つ編み赤髪で尻尾は二股、頭についている耳を見る限り、恐らく化け猫の類だろう。

一瞬怒りで殺気を飛ばしそうになるも、雪之条の視線に気付いて抑える。

 

雪之丞が指をさして合図する、俺はそれに頷く事で答え、窓を肘で破った。

男達が慌ててこちらを見るが、雪之丞が割れた窓から何かを放る。

そして二人ともが窓から顔を背けた瞬間、窓から光が溢れた。

閃光弾だ。

光がおさまると同時に、二人とも割れ残った窓を蹴破って部屋に侵入。

雪之丞が一人の男をぶん殴って気絶させている間に俺は二人の男の首筋に手刀を入れる。

一人は錯乱し、腰からナイフを抜いて無茶苦茶に振って雪之丞を襲うも、返り討ちにあう。

もう一人はギリギリ目を瞑ったのかナイフを抜いて真っ直ぐ俺に向かって来た。

 

「チッ!」

 

雪之丞がこっちを振り返り舌打ちと共にこちらに走りだすが、その前に俺はナイフを奪い取っていた。

 

「あれま、おじさん、簡単に得物取られちゃダメだよ、ほれ、返すね」

 

言いながらナイフを男に向かって投げる。

あ、やべ。

我ながら真っ直ぐ綺麗に飛んだナイフは、狙い通り男の足をかすめて傷を作る。

 

「――!!」

 

「あぶね、悲鳴上げさせるところだった。叫んだら聞こえる位置にまだ敵がいるかもしれないし」

 

男の喉を掴んで更に口を押さえたため、男はナイフが刺さった瞬間に声にならない悲鳴をあげた。

そしてそのまま手刀で気絶させる。

 

「これでとりあえずここにいた連中は全員だな」

 

「お、おぅ」

 

冷静に言う俺に驚いた様子で答える雪之丞。

鎖に繋がれた妖怪に目をやると、先程の閃光弾の影響かもがき苦しんでいる。

 

「猫の妖怪には刺激が強過ぎるでしょ」

 

「そんな事言ってもアレしか持ってなかったんだから仕方ねぇだろ」

 

「はぁ、仕方ないな」

 

俺は苦しんでいる妖怪に近付いた。

雪之丞が「おい」と制止の声をあげるが「多分大丈夫」とそのまま近付く。

 

「悪かったね、とりあえず落ち着いてくれ、あなたを捕まえて目の前に居た男達は全員気絶してるから。連中、他にはいないのかな?」

 

俺の言葉が通じたのか、一瞬困惑した様な表情を取ったが、少しは落ち着いて目が回復するのを待ってくれた。

 

「……人間だよな?何でコイツらを倒した。アタイをまた違う場所に連れて行く気か」

 

「いや、俺達はここの連中を逮捕しに来たんだ。信じられないかもしれないけど、君はすぐに開放するよ」

 

ようやく目が慣れたのか、俺の顔を見て口を開いた妖怪。結構知能は高そうだ。

 

「……信じられないね、信じてほしければ今すぐ鎖を解きなよ。出来ないだろうけどね」

 

ハッと鼻で笑いながら言われた瞬間、高速で拳を繰り出し鎖を叩き割る。

 

「お、おい!!」

 

「大丈夫だ」

 

「……驚いた、本当に鎖を解くなんて……アンタ、馬鹿だろ。アタイが人間を恨んでない訳ないだろうが!!」

 

妖怪が信じられないとばかりに自分の腕を見て、言いながら俺に襲い掛かる。

慌てて近寄ろうとする雪之丞が見えたが、今の雪之丞が猫の妖怪に速さで勝てる訳が無い。

それに……。

 

「…………どうして避けなかった」

 

俺の目の前に妖怪の爪がギリギリの位置で止まっていた。

 

「キミに殺気がなかった、いや、殺気はあったけど、俺に向けてじゃなかったって言った方が良いか。後は単純に反応できなかった、かな」

 

「……子供の癖に」

 

グサッ(本日三回目)

 

「俺はあそこの男と同年代なんだけど」

 

「……失礼」

 

「いや、別に良いけど」

 

「…………」

 

妖怪がしばらく口を閉じる。

何かを考えているようだ。俺と雪之丞を睨む目は変わっていない。

うわぁ怖い。冷静に考えると俺の命結構危ない?

【いまさら何を言っている】

心眼からの呆れたお言葉頂きました。

 

「やめだやめだ、折角助かった命を散らすのは勿体ないからね、アタイは行く、礼は言わない、アンタら人間に捕まったんだしね」

 

「いらないよ、それにあなたが俺に本気で襲いかかったら勝てないからな、そうしてくれると助かるよ」

 

「……良く言うよ、さっきの動きは猫又のアタイですら見えなかったんだ」

 

……ちょっと怒りで鎖を破壊する時に手加減しきれなかったか。

とはいえ、霊力のない俺がこの猫又と戦ったらすぐに殺されるんだけど。

 

「ここの連中は、そこに転がってる5人の他に10人いる。今は留守にしてるから他の部屋を見たって誰もいないよ。

どうせならアイツらにも復讐したいけど、アンタらがアイツらの相手するならアタイが危険になるだけだ。後は人間同士に任せるとするさね」

 

道理で誰もこの部屋にかけつけないハズだ。

それにしても話が通じる猫又で助かった。

 

「…………じゃあね」

 

「ん」

 

窓から去る猫又に手を振る俺。

改めて可愛かったなぁ。目つき鋭かったけど。

妖怪が去ると雪之丞がふぅと息をつく。

 

「無謀すぎるぞ、いくら助けたと言っても襲われても仕方ないぜ。

それにあの猫又は結構強いぞ、お前が霊気が使えない事がバレたりして戦ってたら俺だけじゃ結構キツかったかもしれん」

 

「バレてたよ」

 

「あん?」

 

「猫又がそれくらい気付かない訳ないさ、あれでも感謝してるんじゃないかな」

 

俺の言葉を聞いて呆れた様に笑う雪之丞。

失礼なやつだな。

 

「お前本当に面白いな!横島といいシュウといい、美神って女は人材を選ぶ目が肥えてるぜ」

 

だから、確かにおキヌちゃんと横島は一級品だけど、俺は霊力も使えないんだって。

 

【お主はその分体術が異常だろう】

【そこでカバーしなきゃ今頃とっくに死んでるよ】

 

というか雪之丞ってこんなに騒がしい奴だったっけ?なんかイメージ的には孤高の狼ってイメージが……。

 

【それはお主の思い込みだ、あれは最初に会った時から結構やんちゃだったろう】

【アレ呼ばわりするなって】

 

心眼と心の中で会話していると、雪之丞がニヤニヤしながら近づいてくる。

 

「さて、どうする?」

 

「どうするって……たった15人の組織だったとはいえ、ほっとく訳にもいかないだろ」

 

「だろうな」

 

俺の答えに獰猛な笑みを漏らす雪之丞。

確かにここの連中を放っておくわけにはいかないだろう。ただ繰り返すだけだ。

 

「じゃあとりあえずここに居る妖怪達を解放しよう」

 

「そうだな、途中で連中が帰ってきたらそのまま戦闘で良いだろ?」

 

「何と言う筋肉脳」

 

「つったってシュウだってそれで充分だろ、まさかあそこまで荒事に慣れてるとは思わなかったからな」

 

まぁ脳筋って言ったら人のことは言えないんだけどな。

 

「まぁ、どっちにしろ妖怪達を放ってもおけないし、それでいこう」

 

その後、屋敷内を探り、沢山の妖怪達を解放した。

中には襲ってくる妖怪もいたが、気絶させて他の妖怪達に任せる事で事なきを得た。

 

 

 

 

 

 

「さて、これでこの屋敷は空だが」

 

「帰って来ないね」

 

「ったく、こっちは暴れ足りないっつうのに」

 

目をギラギラさせている雪之丞、しかしこのまま時間が過ぎて奴らが帰って来なかった場合、また同じ様なことが繰り返されてしまう。

後ろに縄で縛ってい転がしている連中が捕まるだけでだいぶマシだろうが、やはり全員捕まえるのが好ましいだろう。

そんな事を考えていたら外から車の音が響いた。2、いや3台だ。

身構える俺と雪之丞、正直プロ10人相手にアマが2人だ、只でさえ無謀なのだから不意打ちで半分は削りたい。

車から降り、ドアを閉める音と共に何人かの話し声が聞こえた。

かなり大声で興奮しているようだ。

 

「今日の獲物は最高だぜ」

 

「確かにラッキーだったよな、人狼だぜ人狼」

 

人狼?

確か原作では結界を張ってあまり外の世界に出ない警戒心の高い生き物のはずだけど。

シロ達だってあの事件が起きなければ外には出ないはずだよな。

 

「ガキが一人でウロウロしてやがったからな」

 

「とはいっても人狼だ、油断は禁物だぜ」

 

「だからって10人でフクロにしなくても良かったんじゃねーか?」

 

「ちげーねー!ハッハッハ!!」

 

会話の内容に気になるものを感じ、窓から様子を見ると、そこには10人の男達と、そのうちの一人がグッタリした人狼の子供を肩に担いで笑っている姿があった。

 

――何かがキレた音がした――

 

『いかん!シュウ、落ち着け!』

 

「は?」

 

心眼が男達に気付かれない様に声を上げ、それに雪之丞が反応するが俺はその時何も考えられなかった。

気付いたら外に飛び出し、人狼を担いでいた男から人狼の子を奪い取りつつ、殴り飛ばしていた。

 

「なに?!コイツ、今どっから……!」

 

一人が驚きの表情で見てくるが関係ない。

俺は人狼の子を担いで、すぐに少し離れた場所へ走り、そこに寝かせる。

 

「チッ!勝手に特攻するなよシュウ!!」

 

「なっ、もう一人?!」

 

「最初の奴に気をつけろ!人間の速さじゃねぇ!化け物かもしれん!」

 

勝手なこと言いやがって……!テメェらの方がよっぽど化け物だろうが!

気付くと、三人地面に沈めていた。

その間に雪之丞なら、と狙いを変えた男が魔装術に包まれた雪之丞に殴られている。

残り5人。

 

「結果オーライか、元々半分にするつもりだったしな」

 

「悪い、コイツらがあの子を痛めつけたかと思うと身体が勝手に反応して」

 

「結局コイツらとはやりあうつもりだったんだ、かまいやしねぇよ」

 

雪之丞と二人並び、目の前の5人の男を睨む。

向こうはこっちの動きに動揺している様だ。

 

「今なら畳み掛けれるか」

 

「いや、あんなのでもGS崩れだ、油断しない方が良い。特にお前はな。まぁ俺一人で十分だろ、下がってろ」

 

言って魔装術を纏ったまま前に出る雪之丞。

 

「へっ、なめやがって。へ、へへ、そうだぜ、俺達だってGSなんだ、ガキ二人にやられてたまるかよ」

 

一人の男が神通棍を構えて言う。それに合わせて残りの連中もそれぞれの武器を構える。

 

「無抵抗の妖怪嬲るのがGSじゃねぇだろ!」

 

「はっ、しらねぇな、GSが化け物退治して何が悪い!」

 

「てめぇらがやってるのは化け物退治じゃなくて妖怪使った商売だろうが」

 

雪之丞の言葉を聞いて、男達に明らかな動揺が見える。

 

「なんでそれをってか?悪いことして捕まらないなんて甘い話はねぇんだよ」

 

「いやお前がそれをいうのかよ」

 

雪之条の言葉につい冷静につっこんでしまった。

最近まで悪いことしようとしてた側だっただろうがお前は。

 

「とはいえ、戦闘態勢をちゃんと取ったコイツらと戦うのにお前守りながらはキツいかもなぁ」

 

獰猛な笑みを浮かべるが額に汗がにじむ雪之丞。

確かに、最初の5人に比べるとこいつらはちゃんと霊力を使えるみたいだ。

ただ、いくら霊力を扱えたとしても、こんな美神さんや雪之丞達と比べるまでもない連中に負けるつもりはない。

 

「雪之丞らしくないじゃないか、俺のことは気にしなくても足は引っ張らないさ」

 

「それなら拙者が助太刀しよう」

「「?!」」

 

二人の掛け合いに入りこむように声が聞こえた。それに反応するように二人して同時に後ろを振り返ると、そこには侍の格好をした男が立っていた。

 

「拙者の子が攫われたと聞き駆けつけてみたら、怪我はしているものの何故か木にもたれかかり寝ていたのでな。安全な場所へ移して様子を見させて貰った。

まさか外道10人に対し少年と青年がたった二人で、それも拙者の子の為に勇敢にも戦っているとは思わなかった。

人間は信用できんと村の者は言うかもしれんが、人狼は受けた恩を必ず返す!助太刀するぞ少年達よ!」

 

「……助かります」

 

「っしゃぁ!人狼だか何だかしらねーけどこれでこっちは3人、一緒にアイツらボコろうぜオッサン!!」

 

「拙者はまだオッサンという歳ではない!」

 

失礼なことを言う雪之丞の頭を小突いて構える。正直成人した人狼が一人こっちについただけでもう勝負は見えただろう。

 

 

 

 

 

 

 

俺の思った通り、結局のところ道を外れる程度の力しかもってなかったGS崩れ達は大したことはなく、5対3だと言うのに少ない方が多い方をリンチするという妙な戦いになってしまった。

これはひょっとしたらこっちは3人の内誰だとしても、1人でいけたかもしれないな。

 

「これで良し」

 

持って来ていた縄で残りの連中を縛り上げて、15人全員が転がっている状態だ。

謎の人狼も手伝ってくれたのですぐに終わった。

 

「しかし少年達よ、人間な上その歳でそこまでの力を持っておるとは、恐れ入った。そして娘の為にかたじけない、礼を言わせてもらう」

 

「いや、アイツらが最悪なだけなんで。人間が迷惑をかけて申し訳ないです。ああいう連中だけではないと思って戴きたいです」

 

「つかそいつ娘だったのか、てっきり息子だと思ったぜ」

 

超失礼な雪之丞を軽くはたく。

ってこの子供……、この顔……どっかで見た様な……。

 

「ははは、まぁ良く言われるのでな、ウチのシロも実際少しの怪我ですんでおる、あまり気にしないで構わない」

 

シロ?!まさか『あの』シロか?!

 

「あ、あの、失礼ですがお名前は……」

 

「ぬ、これは失礼、拙者の名は犬塚タロ、こっちは犬塚シロでござる」

 

…………マジか、てことは俺達が来なかったらシロは……、あぁ、俺達が来なくてもタロさんが助けてたから結果変わらなかったか。

正直アイツら15人いたところで結局タロさんが勝ちそうだし。

 

「俺の名前はシュウです、こっちの戦闘狂が雪之丞」

 

「誰が戦闘狂だ!」

 

「二人ともかたじけない、二人は娘の恩人でござる」

 

改めて頭を下げるタロさん。

そんなお礼を言われる程のことはやっていないので苦笑するしかない。

 

「いや、礼をいうならコイツだけにしな、アンタの娘が怪我してるのを知って作戦も何もなしに、いの一番にアイツらに飛びこんでいったからな」

 

「なんと心優しい少年か、機会があれば恩は返させて貰おう」

 

恥ずかしいからやめて!余計な事言わんといて!

…………このままだとタロさんも死んでしまうんだよな。

 

「タロさん、ちょっと良いですか?」

 

「ん?何でござろう」

 

「おいおい、俺には内緒か?」

 

不満そうな雪之丞に「悪いな」とだけ漏らしてシロを預け、タロさんを少し離れた場所に連れて行く。

 

「なんでござろう、何か秘密の話でもあるのであろうか」

 

「……タロさん、いきなりこんな話をされたら信用できないとは思います。だけど聞いてほしいんです」

 

【シュウ、まさか】

【大丈夫、流石に全部は話さない】

 

「フム、聞こう」

 

「実は、これからそう遠くない時に、タロさんに危険が迫っています」

 

「…………ふむ」

 

「今から言う二回の出来事が起きた時には特に気をつけて下さい。一つ、シロ、高熱の病気、天狗、薬、片目……。もう一つ、ポチ、暴走、妖刀、8回」

 

「…………なんと…………」

 

俺のワード一つ一つに目を見開くタロさん。

 

「……断片的にですが、今言った二回、少なくともタロさんに命の危機が訪れます。信じてくれなくても結構です、が出来れば信じて欲しいです。実は仲間にも言っていないのですが、たまに断片的なワードで未来が予測できる時があるんです……頭がおかしいと思われても結構です、聞いておいて欲しかったので。ちなみに、一度目は恐らく必死に頑張れば命はありそうですがキーワード的にも片目を失うと予想できます。それと、避けることが難しそうなのです。

が、二回目は駄目です、この予言を聞かなかった場合のタロさんは死の文字がはっきりと出ています、何とか対策を練ってください」

 

「…………」

 

俺の言葉にどれだけの効果があるか、そもそも信じてもらえるかは解らない、しかし少しでも良い未来に向かう様に手は打っておきたい。

 

「あいわかった!」

 

「……信じてもらえるんですか?」

 

「娘の恩人の言葉、有難く頂戴する!それに、心当たりの言葉もいくつかあがっているのでな、恐らく本当なのでござろう、それでないと村で保管している妖刀を浮かべさせる言葉やポチの名前が出てくるわけがないでござる」

 

普通に頭が良い人(?)で助かった、これがシロなら多分そこに気付かないだろう。

意図した通り気をつけてくれればタロさんが助かる可能性は上がるはずだ。

 

「では戻ろうか、娘の命を助けてくれただけではなく拙者の命の心配まで……重ね重ねかたじけない。この恩は必ず」

 

「そう思うなら必ず生きてあの子を護って下さい。もしまた会う時があれば、助けあいましょう」

 

「……かたじけない」

 

これでとりあえず一つの話がまとまったハズ、後はシロとの接触、いや、ポチとの接触を待つか、それとも、事が起きる前に里に向かうかを考えるだけだ。

何も起きなければもしかしたら横島達と関わることがなくなる可能性もあるけど、正直この世界で生きてて、目の前のこの人が死ぬ方が嫌だというのは我儘なのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても雪之丞殿はともかく、シュウ殿はその年齢で精神も肉体もとてもお強く、達観しておられる。拙者の娘にも見習わせたいでござるなぁ」

 

「オッサン……コイツ俺と同年代だからあんまり言うと……」

 

「…………(泣怒)」

 

「な、何と……!こ、これはとんだ失礼を申し訳ないでござる……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………やはりあの子は~素晴らしい身体能力を持っているのね~」

 

「それは間違いないようですね」

 

「それだけでも~この依頼を持ちかけた意味はあったわねぇ~フミさん」

 

「はい、ようやく彼の動きを見ることが出来ましたから」

 

「そうね~、それにしてもまさに神業だったわね~、音声は取れなかったけど~猫又や人狼とも仲良くなったみたいだし~、やっぱウチに欲しいわね~。出来れば横島君も欲しいんだけど~」

 

「しかし美神さんが黙ってはいないですよ」

 

「問題はそこよねぇ~、令子ちゃんとも仲良くしたいし~、おばさん困っちゃう。

…………フミさん、今回捕まえたGS崩れの裏をしっかり洗ってくださいね。あれだけの妖怪を捕まえていたのに裏に誰もいません、じゃあ説明がつかないですからね」

 

「既に手は回していますよ」

 

「……流石ね~。ただ、憶測があったからこうして調査のつもりで雪之丞君達にお願いしたけど~、憶測が現実になっちゃった以上、そろそろGメンにも協力してもらった方がよさそうね~。もう少しで日本にも支部が出来るって噂ですし~」

 

「はい。状況によっては唐巣神父や小竜姫様への連絡も必要かもしれませんね。

……ですが、調査をお願いしたはずが、まさか彼の中で勝手に犯罪集団を検挙する依頼に書き換わるとは思いませんでした」

 

「ま、まぁ、それは嬉しい誤算ってことで~」

 

 




今回は描写だけですが、シロがちょろっと登場しました。

ということは次回は……?
次回、また大きく原作の流れと変わる部分が出てきますのでお気を付けください。


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16:姉ポジ狐

タイトルで判る通り、あの子です。



『本当に大丈夫か?』

 

「…………正直まだ迷ってはいる」

 

現在俺は森の中を歩いている。目的地は……殺生石。

変えたい事の一つである。

 

『ここでタマモと関わってしまっては何処に影響が出るかわからんぞ』

 

「解ってるさ。だけど、いつかタマモは間違いなく復活して、間違いなくその身を追われる。

その復活するタイミングが把握できない以上、せめて確認だけでもしておきたいんだよ。

俺の知識ではアシュタロス後に追われているけど、それだって本当にそのタイミングで復活したかは解らない。

最悪ずっと追われる生活をしてたかもしれないだろ」

 

『……こないだの雪之丞との件だな』

 

そうだ。

正直あの件があったせいで俺は急に不安になったのだ。

タマモだけではないが、俺の知っている限りではタマモは間違いなくどこかで人間に追われることになる。

ということは既に追われている可能性もある。それを知っているのに動かないのは俺には不可能だ。

 

『……それもお主の良いところかもしれんな』

 

「悪いところでもあるさ」

 

そう、俺が動けば動くほど掻きまわすのは解っている。どれだけ影響があるかも計り知れない。

出来れば彼女を説得し、アシュタロスの件が終わるまで大人しくして貰って関わらない様に頼むのがベストかな。

 

『お主の事とお主の知識を彼女に説明する気か?』

 

「いや流石にそれは……、ただ最悪それも考えている、けど、やっぱり出来ればそれは避けたい」

 

『当然だな。老師と私以外にこの事を伝えるべきではない』

 

「解ってるって」

 

心眼と話しながら歩みを進めると、目の前がいきなり開けた。

先程までの風景からいきなり草木が生えていない風景に変わる。

その中心にあるのは自分の背丈くらいはある石。

 

「これがあるってことは……」

 

『あぁ、まだタマモは復活していない様だな。それ自身が、彼女だろう。気配も感じるな、確かに復活までそれほど遠い話ではなさそうだ』

 

「これが……」

 

封印されたままなら俺に出来る事は多分無いだろう。

出来れば復活タイミングを知れれば危険を伝えることも、最悪保護も出来るんだろうけど、俺にはさっぱりだ。

当然封印が解けるわけでもない。そう思いながら殺生石に触れようとする。

 

『あ!よせ!』

 

「へ?」

 

俺が殺生石に触れる寸前、心眼の声が響いた。その声に疑問の声を上げるも、俺の手はぴと、と殺生石に触れる。

 

『ば、馬鹿者!有毒ガスのせいと言っても、殺生石が毒を持っている可能性も0とは言えんのだぞ!早くその手を離……?!』

 

心眼の言葉を聞いてぶわっと冷や汗が溢れる。

そういうことは先に言っておいてくれという文句を言う余裕もなく、反射的に手を引っ込めようとする。

…………離れない?!

 

『何をしておる!早く手を離せ!』

「と、取れない!」

『な、何だと?!』

 

慌てる俺と心眼を他所に殺生石が光り始める。

 

「な、何だ?!」

 

『っく、これは?!』

 

「心眼!どうなって……ってうわぁっ!」

 

眩しくて目を瞑っていると、急に弾き飛ばされた。

尻もちをついて空を仰ぐ形になる俺。光が治まり、体を起こして目の前を見ると、見覚えのある少女が俺を見降ろしていた。

 

「人間、何で私を復活させた」

 

「…………?」

 

見覚えのある少女、タマモの言葉に首を傾げる。

それを見てタマモも首を傾げる。その仕草は可愛らしい。

って、別に復活させようとしたわけではないんだけど。

ただ、現に目の前で復活してるしなぁ……。

 

「とぼけるな、確かにようやく殺生石のかけらが集まって、私の封印はもう少しで何もしなくても勝手に解けていた。でも明らかに私を復活させる意思が無いとあの封印はまだ解けないハズよ」

 

『シュウ……お主……』

 

「そ、そんな睨むなよ。確かに復活させられたら良いな、ってチラッとは思ったけど……」

 

心眼のジト目に言葉尻が萎んでいく。

……だって知らなかったし、俺みたいな霊力もないやつが復活させられるとは思わなかったし……。

【拗ねても誤魔化されんからな】

 

「で、どうなの?私を復活させて何をさせるつもりだったの?」

 

「え?いや別に」

 

「は?」

 

とっさに出てしまった言葉に今度はタマモが固まる。

とはいえ実際、別に復活させて何かさせようとしてたわけじゃないしなぁ。むしろ何もしないで隠れておいてくれってお願いしに来た感じだし……。

 

「アンタ、私が何者か知らずに復活させたってわけじゃないわよね。というかそれだと復活させられる訳ないし」

 

「あぁ、金色九尾の狐でしょ?知ってる知ってる」

 

「…………舐めてんの?」

 

「とんでもない、今やりあったら確実に俺が殺されるって」

 

謙遜ではなく事実だ。まだ俺は妖怪と戦える程霊力を操れないし、復活したてで弱っているとはいえ、相手は九尾の狐だ。逃げる事は可能かもしれないが戦えばやられるだろう。

……あれ?それって俺結構ピンチ?

 

【お主、今頃気付いたのか】

 

心眼の呆れた声が頭の中に響く。

 

「…………何の見返りも求めずに、私を殺そうとしたわけでもなく、復活させたって言うの?」

 

「まぁ、そうなる、かな」

 

「そう(そんな訳がないと思うけど、嘘の匂いがしない……混乱させる奴ね……)じゃあ私は行くわよ」

 

「あ、それは困る」

 

立ち去ろうとするタマモをひきとめる。今気付いたが俺の知っているタマモより更に小さい気がする。具体的に言うと真友君と一緒にいた時のタマモより少し大きいくらいか?

 

「(ほらきた)何よ、結局何かさせようっての?」

 

「いや、このまま行ったらタ……君が追われる事になるし、今の世の中のルールを知らないと逃亡生活も厳しいだろうから」

 

『おい、まさかお主……』

 

「ウチに来ないか?」

 

「…………は?」

 

俺の言葉に固まるタマモ。

 

「こっちの都合であまり外出を自由にさせる訳にはいかないけど、それほど不自由な生活はさせないつもりだから」

 

「…………アンタ馬鹿なの?私は大妖怪よ?それを知らない訳じゃないわよね。それとも私を口説いてるつもりかしら?」

 

「いや俺に幼女趣味はな「燃やすわよ?」い、いや、そういうわけじゃなくてな、このままだと妖力も回復しないだろうし、衣食住は提供するから大人しくして欲しい、と取ってくれれば良いから」

 

「(コイツにとってのメリットが少なすぎる。嘘をついている訳でもない。ただ、何か隠しているのは確かだけど、こっちに危害を加える気は本当にないみたい…………それでも信頼出来る訳がない)悪いけど信用は出来ないわね。これでも逃げ隠れするのには慣れてるの、それと、私が前世で頼ったのは私を護る力のある人間。政治的にや体力的にね。貴方にそれが無い限り私は一人で逃げた方がマシ、そういうことよ」

 

残念だがタマモが交渉に応じる気はなさそうだ。

そりゃそうだよなぁ。誰が好き好んでこんな怪しいやつについていくかってんだ。

 

「そうか、解った。悪かったね勝手に復活させた上に変な誘いをして。ただいくつか約束して欲しい、これから大きな出来事がある……。可能性が高い。それこそ世界を包む様な混乱が」

 

「……(何を言っている?)」

 

「その時に絶対にそれに関わらないこと、それと、絶対に人間の前に姿を現さずに隠れきること」

 

「(…………本当にコイツは只のお人よしなのか?私が復活したのはコイツのおかげか……ガキの癖に……)ふん、私を復活させた奴の戯言くらい頭の片隅にでも覚えておくわ。それに言われなくても私は大きなことには関わらずに静かに暮らしたいの」

 

上出来だ。これで彼女はアシュタロスの時に何かの被害にあう可能性は低いだろう。更に人間にも警戒してくれるなら前の様に復活していきなり追われると言う事もないハズ。

このまま隠れて妖力を溜めてくれれば後は静かに生きていけるはずだ。

横島達との出会いを切ってしまったかもしれないが、彼女が危険な目にあわないならそれも仕方ない、と思うのは俺の勝手なエゴだろうな。

 

【心配するな、この世界では彼女が横島達と会うことが決定していた訳ではない。お主が切ったと考えるのは早計だぞ】

 

心眼のフォローがありがたい。

 

「…………復活させてくれてありがと、まだ信用したわけじゃないけど、お前みたいな人間もいるのかもしれないわね。昔にも何人かは訳わかんないやつもいたみたいだし。うーん、記憶が戻ってるわけじゃないけど」

 

「あぁ、元気でな。あ、でも人間は基本的に信用しすぎないようにな、追われることになるからな」

 

最後に少しだけ手を振ったあと、子狐に変化、いや、戻って森の方へ入っていくタマモ。

それだけでも俺の気持ちは嬉しさに包まれる。頑固な彼女が礼も言ってくれた事だし、めでたしめでたしとして帰ろうか。

 

「さて、一応丸くおさまった、ということで良いかな?」

 

『ひやひやしたがな、まぁ良しとしよう…………?!シュウ!』

 

「ん?どうした?…………!!」

 

――ターン――

 

「キャイン!!」

 

考える前に身体が動いていた。タマモが消えた森の方へ走る。

それほど離れていた訳でもなく、俺自身の速さもあってすぐにそれは見つかった。

 

「タマモ!!」

 

「お?何だ来ちゃったのか。ガキだったし、そのまま何事もなかったように帰れば見逃してやったんだがな」

 

足を撃たれて動けない子狐に近寄ろうとしていた男が俺の方を振り返る。

手には煙の出ている銃。間違いなく、コイツが発砲したんだろう。

 

「…………何でソイツを撃った」

 

「は?コイツは化け物だぜ?正真正銘の金色九尾の狐、大妖怪だ!それが復活して、更に弱っているとなりゃあ捕まえてうっぱらうしかねぇだろ!野生の妖怪探しに来てみりゃとんだ大物にぶち当たったぜ!いくらになるか想像も出来ねぇ」

 

男は興奮してきたのか声を張り上げて熱弁し始める。

それだけで俺にとっては十分だった。

 

「(所詮、人間……か。ガキはグル……)」

 

「悪いが目撃者になっちまったお前にも死んでもらうが、心配するな、ここなら人間の一人や二人隠す場所なんて沢山ある、俺が捕まる事はねぇよ。あぁそうそう、お前には礼を言わなきゃな、どうやったかは知らんがコイツを復活させてくれたんだからなぁ」

 

「(……ってわけじゃなさそうね)アンタ、さっさと逃げなさいよ。コイツだってアンタみたいなガキンチョ探してまで殺しゃしないわよ」

 

タマモが人型になって俺に何か言っているが、上手く耳に入って来ない。

 

(おい、落ち着け!お主が本気でやったらコイツなぞすぐに死んでしまうぞ!老師の言葉を忘れたわけではあるまい!お主はもっと冷静に)

 

怒りで血が上っているとはいえ頭に直接入ってくる心眼の言葉は多少だが、俺を冷静にさせるには十分だった。

少しだけ落ち着いて状況を確認する。タマモと男の距離は十分ある、俺なら男が何かする前に捕まえる事は可能だ。タマモもまだ人型になることが出来ると言う事は大した怪我では無いだろう。そこまで考えたところで男がタマモの方を見た。

 

「お、人型にもなれるのか、こりゃ別の客もつくな。売る前に味見も出来るし最高だぜ。あぁ、それともう一つ残念な情報だ、ガキンチョでも目撃者には変わりないからな、探してでも殺す、って逃がす事自体がありえねぇよ」

 

「……(外道め)」

 

男の言葉にタマモが睨みつける。

後から思ったことだが、俺はやっぱり冷静になる修行でもした方が良いみたいだ。

その時、どうしても男の言葉に我慢できなかったのだ。

 

「おい」

「あ?プギャン!」

 

 

 

 

 

 

 

<タマモ目線>

 

私は目を疑った。

先程まで取るに足らない存在だった子供。

私の為に駆けつけてくれた事に驚きつつも、無駄死にをすることはない、出来れば逃げてくれれば良い程度に思っていた。それに、私自身もうどうしようもないだろうと諦めていた。

最悪自分でもう一度殺生石に封印されることすら考え始めていた。

当たり前だ、目の前の、いや、目の前にいた男なんかの慰みモノになるくらいなら死んだ方がマシだったからだ。

それがどうだ、今目の前にいるのは。

 

「大丈夫か?とりあえず止血したけど」

 

私を復活させたガキンチョだった。

 

『酷い傷では無いな。弾が綺麗に貫通している上、大事な神経を避けて通っている。運が良かったな、妖怪のこ奴ならすぐに回復する傷だ』

 

「良かった、どうする?一旦俺んち来るか?ここが良いならまた連れて来てやるし、それともとりあえずは近くで隠れられるような場所でも探すか?」

 

心配そうに見てくる少年。確かこのバンダナの使い魔の様な奴の言葉からすると名前はシュウだったか。

 

一瞬だった、先程男が私におぞましい視線を向けた瞬間、男が吹き飛んだ。手に持っていた銃を落として森の奥へ飛んでいく姿は少しシュールだった。いやいや、そんなことはどうでもいい。

 

「アンタ、何者?!霊力はまるで感じないのに、あの動きは獣の私でもギリギリ追えるぐらいのレベルで速かったわよ?!」

 

「いや、只のGS見習いで……」

 

「ごーすとすいーぱぁ?あぁ、退魔士のこと?それなら尚更私を助ける意味が解らないわ。しかも見習い?!あんだけ強くて見習いって何よ!」

 

「それはほら、お察しの通り霊力が……」

 

「体術が異常だっつってんのよ!大体あんだけ強かったら私の事を退治することくらい簡単でしょうが!」

 

「いや、狐火一発で死ぬと思うけど」

 

「当てられないわよ!」

 

シュウは退魔士だった。ならばそれこそ私を退治しに来たのかと問うと断固としてそれはないと言う。

なんなんだコイツは。私より弱いくせにと思えば異常な身体能力を持っているし、何故か私に良くしてくれる。悪くはない気分だが、全く以て意味が解らない。

 

「ってシュウ!!」

「うん、解ってる」

 

私が叫ぶ前にシュウは動いていた。

私との言い合い(私が一方的に怒鳴っていた気もするが)をしていたと思いきや、横から不意打ちしてきた男の飛び蹴りに気付いていた様で、男の靴底を片手で受け止め、そのままグリンと回して男を叩き落とした。

 

「ぐぁっ!っちぃ!」

 

男もこういう裏の仕事をしているだけあるのか、すぐに体勢を立て直してシュウに向き直る。とんでもない攻撃を二発も食らっているハズなのにコイツはコイツで頑丈な奴だ。

 

「ガキがぁ!大人なめんじゃねぇぞ……!」

 

ナイフを構える男。それを見てピクッとシュウのコメカミが動く。

 

「ガキガキ言うな!俺は17だ!!」

「「なにぃ?!」」

 

しまった、私も男と同時にはもってしまった。あぁ、シュウのジト目が痛い……。

ってそんな場合では無い、怪我はしているが私も参戦……。

 

『やめとけ、妖力がまるで出てないぞ。コヤツに任せておけ』

 

「な、アンタシュウの使い魔でしょ?アイツは外道かもしれないけど確実にプロよ!」

 

『心配するな、この程度じゃシュウの相手にはならん。霊力でも持っていたら違ったんだがな』

 

何を、という前に勝負は終わっていた。

シュウが男の後ろに立っている。男が白目を剥く。

そして、その巨体を響かせ、地面に倒れた。

 

「な……な……」

 

パクパクと口を動かすが声が出ない。

異常すぎる、人間にあのスピードが出せる訳が無い。もしや同僚かと妖気を探ってみるも間違いなくその身体は人間。

 

「改めて、大丈夫だったか?」

 

私を心配そうに見るシュウ。

その手は男を縛るのに忙しいが確実に私を心配しているのが解る。……そのロープは何処から出したのだろう。

 

「…………大丈夫よ、この程度の傷は自然に治るわ」

 

「良かったぁ」

 

不覚にもドキッとした。なんて少年みたいな笑顔をするんだ。17歳の癖に……。

なんだこの気持ちは、可愛いなコイツ。

いや待て、私にそんな趣味はないわよ。

 

「タマモが歩けなくでもなったらコイツに何するか解らなかったからな」

 

…………違う意味でドキッとした。なんて顔をするんだ。人間の癖に。

それにしても、コイツ。

 

「さて、治療はしなきゃだよな。つっても俺が治療出来る訳じゃないからなぁ」

 

「気が変わったわ」

 

「へ?」「ぬ?」

 

「今日から世話になるわ。私はタマモ、宜しく」

 

間抜けな顔をさらすシュウ。正直コイツに興味が出てきた。

私を二度も助けた事もあるし、世話になってやるのも良いかもしれない。……というより逃がすには惜しい男だ。

一から私好みに育てるのもいいかもしれない。……いやいや違う違う、こいつは17歳、17歳。

 

「えぇぇぇ?!」

 

森にシュウの絶叫が響いた。何よ、アンタが言いだした癖に。

男は私が幻覚を見せて普通の妖怪を密猟で追いかけていたところをシュウと私で捕まえた事にして現地の警察に突き出した。悪いが私の事は忘れて貰った。

 

その後、心眼(シュウの頭のバンダナ使い魔)に脳内でお説教を食らっているらしいシュウは、帰り途の間ずっと五月蠅そうに顔を歪めていた。

 

「そうそう、アンタに聞きたいことがあったのよ」

 

「んぁ?何?」

 

「何でアンタ私の名前知ってんのよ」

 

「…………(手を顎にやって思考。熟考。…………助けに行った時を思い出す…………『タマモ!』…………OK思い出した。冷や汗ダラダラ)」

 

【馬鹿者……!全くお前と来たら封印は解くは暴走しかけるわ挙句にタマモを連れて帰る事になるわ……!】

 

私の一言が説教の引き金になった様だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、何で私の名前を知ってたのよ」

 

『しつこい、教えられんと言っただろう』

 

「悪いな、タマモの安全にも関わってくるからさ、それに話してもとても信じられる様な話じゃないし」

 

「……ふぅん」

 

【馬鹿者、情報を与え過ぎだ】

【しょうがないだろう、多少理由も言わないとコイツも納得しないだろうし】

 

頭の中でした心眼の声に返す。

 

結局タマモを家に連れてきてしまった。これで色々変わってしまうことがまた増えた。

せめてタマモは家で大人しくして貰って、アシュタロスとの戦いが終わるまでは美神さん達と関わらない様にすればなんとか……。

 

「……そうそう、不思議と言えばシュウの強さもよね。霊力はほとんどないけど体術は人間とは思えないわ」

 

「しゅ、修行したんだよ」

 

厳しすぎる言い訳。タマモのジト目が痛い。

いや実際修業はかなりしたからな?このスペック高すぎる身体に慣れるのも結構時間かかったし。

 

「そう、それも秘密なのね。なら良いわ、自分で色々調べるから」

 

「え?」

 

「教えてくれないならアンタについてまわるしかないでしょ」

 

「ちょ、約束がちが」

 

「生憎約束をした覚えはないわ」

 

ぐぅ……確かにこっちの一方的なお願いだった……。

 

「まずはシュウの職場からかしら、周りのGSもアンタと同じで異常なの?」

 

『阿呆、コイツの様な人間がごろごろいてたまるか』

 

酷い言われようだ。

最近心眼の俺に対する扱いが雑になってる気がする。

 

「へぇ、まぁ見てみれば解るわ」

 

最悪だ。一番マズイパターンだ。どうするか……。

 

【ふむ、仕方がないな】

 

心眼?

 

『タマモ』

「なによ」

 

心眼がバンダナから目を開いてタマモに語りかける。

変わってタマモは不機嫌そうだ。自分がのけ者にされている様で嫌なのだろう。

 

『この件に関してはシュウのこれからにも関わってくる。当然関わってこようとした場合、お主にもな』

 

「……それはもう何度も聞いたわ。でもそんなに大事なの?」

 

『大事だ。……シュウにも追われる辛さを味わわせる事になるぞ』

 

「!」

 

言い過ぎだ。心眼、それは。

 

【お主はだまっとれ】

 

……。

……………………いや、黙ってはいるんだけど。

 

(やかましい!そういうことではない!)

 

はい、すみません。隅っこで体育座りしてます。

くそぅ、修業つけて貰っているのもあって強く出れない……。

 

『何点かそうなる要因があるのだ。まずお主でも解ることで言えば、お主自身がすでに解っているのではないか?』

 

「……私はそんなへまはしないわ」

 

『解っている様だな。そう、お主はまごうことなき九尾の狐、六大妖怪の一人だ。それが復活して、あろうことかGSに準ずる者が庇っていた事が気付かれでもしたら』

 

「追われるわね。少なくとも人類の敵にはなるでしょうね」

 

それは俺も自覚してるけど。

 

『あぁ、まぁここまで弱った妖怪を見てそれを見破るなんて人間は殆どいないうえに、これについてはバレる心配はあまりしておらん。問題はコイツが持っている秘密にある。それが万が一にでも世間にばれる様な事があれば、こいつは多方から命やらその身やらを狙われることになる』

 

「…………あーもーいいわよ。私もここで暮らす限りシュウが安全で居てくれないと私も安全じゃないし」

 

『なんだ、やけに物わかりがいいな。ひょっとしてお主最初から』

 

「別にこだわるつもりはなかったわよ。どうせ重要な事だろうし、いつかは教えてくれるんでしょ?シュウ」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

結論から言うとタマモは渋々納得してくれた様だ。

この後についても、隙あらば色々耳を立てて聞いくるものの、基本的に自分から何か聞いてくる事は無くなった。

あと問題はタマモの妖力だが。

 

 

 

 

 

「なにこれ!とんでもなく美味いじゃない!!」

 

目の前には原作の知識通りの姿であるタマモ。まさかきつねうどん一つで妖力がかなり戻るとは思わなかった……。

 

「流石に全盛期には程遠いし、単純に今持てる妖力まで回復しただけで上限が戻ったわけじゃないけど、これならしばらくはこれ食べるだけで自分の身くらい護れる妖力はねれるわね。少なくとも時間をかけて復活を待ったとした場合くらいの力にはなったわよ」

 

「安上がりだな。どういう身体してるんだお前……」

 

呆れる俺ににやぁと悪戯を思いついた顔になるタマモ。

……嫌な予感しかしない。

 

「あら、シュウったら興味あるのかしらぁ。おませさんねぇ。なんなら確認してみる?この姿ならあんな失礼な言葉も出ないでしょ?」

 

ニヤニヤしながらすり寄ってくるタマモ。あのなぁ……とコメカミを抑えたくなる。

俺は17だしお前はどう見ても中学生程度にしか見えん。

 

「何度も言うが俺に幼女趣味はなぁぁぁ!熱い!熱いって!!」

 

呆れ顔で言おうとした言葉を遮る様に俺の手が狐火に包まれた。

 

「フン!!」

 

当のタマモは顔を背けて部屋の隅に移動し、狐に戻って不貞寝している。

どうでも良いが霊力なしだとこの攻撃だけでも俺にとっては死活問題なんだが、消してはくれないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ、お前どうしたんだその手は」

 

「…………火傷」

 

学校の友人が包帯でぐるぐる巻きになった俺の左手を見て騒ぐ。

タマモにやられたのだが、まさかそんな事は言えるわけもなく。横島の横に座ると珍しく起きていた横島が寄って来た。

 

「おいおい、そんなんで美神さんとこいけるのか?」

 

「あぁ、確かに今日は除霊入ってたな。大丈夫だ、問題ない」

 

「ちょっと横島、シュウ君がこんな怪我してるのに無理やり仕事に連れていく気?」

 

「……お前ら話聞いてたか?」

 

クラスの女子の言葉に横島が青筋を立てて言う。

俺も横島と同意見だ。そもそも俺を子供扱いするクラスメートに疑問を持たざるを得ない。

クラスメートって言葉の意味をもう一度考えてみて欲しいんだけど……。

 

「はぁ、とにかく一応美神さんには言っとくからお前は休めよ」

 

「いや、別に俺らが除霊するわけじゃないんだから大丈夫だろ」

 

「たまに巻き込まれるだろ。俺がサイキックソーサー使えるようになったからってお前護りながら戦えるほど強くなったわけじゃねーんだぞ」

 

「けっ、お前に護って貰わなくてもダイジョーブだよ」

 

「はっ、言ってろ。とにかく今日は俺にあのチチシリフトモモを独占させろ」

 

「おい本音が漏れてるぞ、というか俺がいようがいまいが独占出来る訳じゃないだろ」

 

「しまった!また口に出してた!」

 

「サイテー……」

 

クラスの女子に白い目で見られる横島。

とはいえ、こいつなりに気を使ったのだろう。本当に俺を心配して言っているのは伝わった。

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

「ねぇ、シュウ君にお客さんよ」

 

「へ?」

 

教室のドアから廊下にいた女子が顔を出す。

誰だ?と疑問に思う前に俺は固まった。

 

「や♪」

「「「「「おぉぉぉぉ!美少女!」」」」」

 

た・ま・も?何故お前が学校いるの?

石化して固まる俺にタマモが近付いてくる。

 

「来ちゃった♪てへぺろ♪」

 

てへぺろじゃねぇ~!!ズガンと頭を机に落としてそのまま頭を抱える俺。

 

「シュウ、手を火傷してるのに頭にまで怪我増やさないでよ。ほら、帰るわよ、折角私が迎えに来てやったんだから」

 

「お・ま・え・の・せいだろうが……!!」

 

ギギギと顔を起こして睨みつける。しかしタマモはどこ吹く風。

アイアンクローしたろかコイツ……!!

その間にも、誰だとか、どういう関係だ、とかふざけた質問が飛び交う。

おいこら先生、何一緒になって質問してんだ、止めろよ、つか学校に関係者じゃない奴入れるなよ。

 

「恋人です♪」

「「「「「「「「「「「なにぃ~!!!!」」」」」」」」」」」

 

おいこらふざけんな。俺の生活滅茶苦茶にしに来たのかタマモ。

くそっ、ま、まぁいい、とにかくこの混乱を止めなければ。

 

「何度も言うが俺は幼女趣味じゃな」

「確かにシュウの見た目を考えたら釣り合う!美少女とショタの組み合わせキタコレ!いつもなら嫉妬全開だが横島じゃないなら許せる!…………まぁあまり許せんがギリ許せる!むしろ少女の方がお姉さんでおねショタの構図に!」

「おいこらどういうことだ」

 

男子クラスメートの叫びに横島がツッコむが、それは俺が言いたいくらいだ。というか話聞け。

 

「だから俺は」

「大体私達は17歳、この子は多分中学生くらい、大丈夫!歳の差は大したことないわ!むしろシュウ君なら年下に見えるし!」

「いや、中学生に手を出すわけないからって聞けよコラ」

 

今度は女子クラスメートが叫ぶ。なんだこのクラス。

全員がわちゃわちゃ騒ぎ出し、教室中がカオスとなる。

 

「なぁシュウ」

「おぉ、横島は俺の話を聞いてくれるか」

「お前やっぱ除霊現場でて大怪我でも負え」

 

横島……、お前もか。

というかコイツもロリではないハズだが。

 

「あぁ、俺は別にそう言う趣味はない。単純にお前に抜け駆けされたのが悔しいとかではない」

「そういうことかよ相棒(クソッタレ)」

 

ドンドン騒ぎが大きくなる。タマモに至ってはドヤ顔である。そんなに俺を困らせて楽しいかちくしょう。

あーもー、収拾つかん!

 

「聞けって!!」

 

いつも以上に声を張り上げると流石に教室が静まり返った。

 

「コイツは、えーと、い、いとこだ!訳あって今預かってるんだが妹みたいなもんだ。勘違いすんな」

 

シーンとなったあと、なんだつまらんと全員が落ち着いた様だ。

タマモは不貞腐れて頬を膨らませているちくしょうたしかにかわいい。

ただし美少女が教室にいることには変わりない様で、危険な視線が増えた。

 

「ちなみに、妹だと思っているので、変な事を考える奴は…………イナイナ?」

「「「「サーイエッサー!!」」」」

 

ヤバめな奴等から同意の回答が得られて良かったよ。

 

「でも絶対妹じゃなくてお姉さんの間違いよね」ヒソヒソ

「シッ、怒られるよ?」ヒソヒソ

 

やかましいわ!聞こえてるよ!

 

「…………姉か」

 

おいタマモ、今何呟いた。嫌な予感しかしないんだけど?

 

【諦めろ】

 

心眼のありがたくないお言葉が俺の頭の中で響くのだった。

 

 

 

 

 

 

「で、どうするんだ?結局お前今日は休むか?」

 

「いや、やっぱり行くよ」

 

「つってもその子はどうするんだ?いとこ預かってるなら連れていくかお前が休むかしかないだろ。流石に家に一人は可哀想だぞ」

 

いやコイツ妖怪だから大丈夫、とは言い辛い。割とすぐいう必要が出てくるとは思うが。

 

「私もついてくから大丈夫よ」

 

おいばかやめろ。美神さんがお前の事妖怪だって気付かないわけないだろ。

大人しく家で待ってて。

 

「そっか、なら火傷もしてんだしなるべく安全なところでこの子と見学してろよ」

 

やべぇ、逃げ場がない。タマモさん?話が違いませんか?

 

「あ、あぁ……」

 

俺にはそう答えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で」

 

「……はい」

 

「その妖怪は何処で拾って来たの?」

 

「え、何この子妖怪?」

 

「お前はどんだけ私と仕事してきたー!!」

 

「ホギャー!」

 

神通混でシバかれる横島はスルーして、現在俺は美神さんの目の前で正座させられています。

隣には堂々と立っているタマモ。つかお前も正座して、頼むから。

 

「何よコイツ、シュウより弱そうだけど」

 

「おいばかやめろ」

 

「…………シュウくん、コイツ殺して良い?」

 

「そ、それだけはご勘弁をぉ!!」

 

ザ・土下座。

何言ってるのこの子ホント勘弁して。

 

「え、だって霊力は確かに人間にしては遥かに強いけど、シュウが戦ったら瞬殺でしょ?なんだか精神的に幼そうで短気っぽくて金に汚そうだけど」

 

「お願いだから黙っててくださいお願いしますなんでもし」

「OK殺すわ答えは聞いてない」

 

はい、美神さんをなだめるのに30分かかりました。

 

「なるほどねぇ、妖孤を外道な人間から匿ったと」

 

「はい。それで、こいつ生まれたばかりだから色々教えないと危険だし、話も解る奴だったので……」

 

「…………はぁ、別にいいんじゃない?」

 

「は?」

 

美神さんから帰ってきたのは一番予想していなかった言葉だった。

 

「それなりに強い妖力も持ってるし、シュウ君が大丈夫って思ったなら大丈夫なんでしょ。私が養う訳でもないし。…………まぁ問題起こしたらただじゃおかないけど。でもその辺りはシュウ君理解してるしょ?むしろ元でタダで依頼を手伝ってもらえて私ハッピー?!」

 

目がドルになった。ある意味許してもらえた場合の予想通りの展開だ。

 

「いや、なるべくコイツは事務所連れてこないつもりです」

 

「「なんでよ!」」

 

いやタマモ、お前まで何で……。

完全にいろいろと首突っ込む気満々だよな。

 

「妹みたいなもん「お姉ちゃんね」ですし、折角助かったのに危険な目には合わせたくないんです」

 

タマモが途中で茶々を入れるが、スルー。

誰がお姉ちゃんだ。お前はどっちかというと妹じゃい。

 

「……チッ、タダの戦力ゲットだと思ったのに」

 

『それと、万が一手伝わせるなら当然賃金を請求するぞ』

 

「心眼、それは私に死ねと言っている様なものよ」

 

『そ、それほど金を払いたくないか……』

 

心眼も横やりを入れるが美神さんのあまりにもな回答に呆れを通り越して驚愕しているようだ。

 

「も~、美神さんも意地っ張りですねぇ。私には結構お給料くれてるじゃないですか」

 

「へ?おキヌちゃん日給10円じゃ……」

 

おキヌちゃんの言葉に横島がキョトンとしながら疑問を口にする。

あ、そういえば。

 

「それは最初だけでしたよ。美神さんドンドンお給料上げてくれちゃって」

 

「お、おキヌちゃん!それは秘密……!」

 

「…………何で俺は時給255円のままなんじゃー!!」

 

横島の咆哮が響いたのは当然の結果だった。

一応俺もそこそこ貰ってるしな。それこそタマモを養っても余裕がある程度は。

美神さんの横島への扱いもう少しなんとかならんかなぁ。。

……ならんだろうなぁ、あれも一種のツンデレなのか?

 

「そうそう、そんな事よりちょっとだけ心眼貸してちょうだい。相談したいことがあるのよ」

 

「へ?まぁいいっすけど」

 

『……』

 

別段心眼からの否定が無かったので素直に渡す。

そんな事よりって……と横島が凹んでいるがスルー。

 

 

 

 

 

 

 

『……なんだ』

 

「あら、相変わらず嫌われてるわね」

 

『……別にそんなことはないぞ』

 

「まぁ良いわ。…………心眼」

 

『…………ふぅ、やはり気付いておったか、心配するな。私もアイツもタマモの正体には気付いておる。というかお主がそれに気付いていて放置するのが意外だがな』

 

「やっぱか……、あちゃー、まさか九尾の狐を拾ってくるとは流石に思わなかったわ……。本当に大丈夫なんでしょうね」

 

『そう思うなら何故許した。しかも気付いていないフリなど』

 

「べ、別にアンタ達が大丈夫って言うなら大丈夫だろうと思っただけよ」

 

『…………やけに信頼されているな。意外だが』

 

「アンタ、本当に私の事嫌いねぇ。ま良いわ、特にアンタが大丈夫って言うなら大丈夫でしょ。ただし、厄介事だけは勘弁よ」

 

『……厄介事が起きたとしても仲間の為に警察すら動かしそうだがな』

 

「んな!ん、んなわけないでしょ!私は自分さえよけりゃいいのよ!!って誰が冷血人間よ!」

 

『言ってないだろう。(それならさっさと追い出すだろうに)…………お主に対する態度を少し改めた方が良いかもしれんな』

 

「?あら、ようやく私の偉大さに気付いたのかしら」

 

『前言撤回だ』

 

「あによ」

 

『(こ奴も結局二十歳の娘か……横島の時もこ奴だけが悪いわけではない……この娘も私も結局子供だったか)』

 

 

 




ということでタマモが超フライングで登場しました。
おかしいな、一万文字超えとる……。

これからはシュウの部屋で、シュウ、心眼、タマモの三人暮らしが始まります。


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17:やったねシュウくん霊力が使えるよ

心眼の指導を受け始めてからそこそこ時間がたっています。
タイトル通り念願の……、ですがどうなるでしょうかね。

後半はちょっとした日常回なのでさらっと。

書いては投稿する流れを経験して一言。
次回は多少なりとも書き溜めしてから投稿し始めた方がいいな、と感じました。
※なんとなく最後までのプロットはイメージしているものの、無策で『書いては投稿』は意外と大変なんですね。


「『それ(だ)(です)!』」

 

「こ、これが……!」

 

とうとうやりました。

以前老師との修業の時に感じた感覚と同じだ。

 

今、俺は小竜姫様と心眼の指導の下、妙神山で霊力の修業中だ。

俺の身体を青白い何かが纏わりついている。

そう、俺はとうとう念願の霊力を使って身体の周りに巡らすことが出来たのだ!

 

「って……はれ……?」

 

……と思ったらなんで俺は地面とキスしているのでしょうか。

 

「あ、あの……小竜姫様、これは、どういうことでしょうか……」

 

首だけ小竜姫様の方へ向けて問う。身体動かないんですが……。

すると、なんだか気まずそうに小竜姫様は目線を逸らしながら答えてくれた。

 

「えー、が、ガス欠です……」

 

「WHAT?え?いや、今、数秒しか経って……?え?」

 

『2秒だな』

 

俺の疑問に心眼が答える。

え?2秒?

 

「え?2秒?心眼、あの、えっと、2秒……ってのは、、、2秒?」

 

『2秒だ』

 

うそだと言ってよ心眼。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、とうとうシュウさんも自力で霊力を使うことが出来ましたね。特殊な霊能力ではないようですが、拳に霊力を乗せて攻撃することが出来て、身体能力を強化することは間違いなく出来る様なので、シュウさんの身体能力を考えたら非常に相性の良い能力ですよこれは。ええ」

 

「小竜姫様、必死にフォローしなくても大丈夫ですよ……。ただ、俺は、2秒で何が出来るのでしょうか……。」

 

現在、妙神山の一室で休憩中だ。俺も休んだら動けるようにはなった。……結構回復に時間がかかったのは内緒である。

 

控えめに言って、俺は結構落ち込んでいる。

確かに霊力使い方がわからない以前に、霊力総量も少ないとは聞いてたよ?

聞いてたけどさぁ!2秒て……。

 

『そう落ち込むことはないだろう。今まで霊力を全く使うことが出来なかったことに比べれば天と地の差があるぞ。それに、お主の身体能力と体術を考えたら2秒でも破格と言える。上等と考えるべきではないか』

 

「そんなもんかねぇ」

 

心眼のフォローが入る。

まぁせっかくフォローしてくれているんだから素直に受け取るべきだろう。

 

………………ここにいるもう一人のリアクションには絶対、反応せんぞ!

 

「……!2秒て!2秒て……!おなかくるし……!ヒイ…………っ!!に、にびょう……!」

 

「くぉらぁ!タマモ!お前は笑いすぎだろうが!!」

 

前言撤回、こいつ笑いすぎ。絶許。

何故こいつがいるかだが、単純にタマモも妙神山で修業すると言ったらついてきたのだ。

まぁ、ついてくるのは良いんだけど、俺が念願の霊力を扱えたのを見てからずっとお腹を押さえて笑い転げている。

修業したら多分使える期間とか威力とか伸びるはずなんだぞ!

あとその恰好で転がり回るな、パンツ見えるぞ。

 

「くそぉ、見てろよ、絶対修業して霊力総量伸ばして、サイヤ人バリに空飛んだり気弾みたいなの飛ばしたりして、バリバリ活躍してやるんだからな!」

 

「2秒間だけ?…………ぶはっ!ハハハハ!もうダメ!おかしぃー!!」

 

「しばいたろかこのロリ狐!!」

 

「だ、誰がロリ狐よ!ショタっ子!」

 

っく、くそう、あまり言い返せん……!

言い合いもすぐ負けた。略してロリっ狐(こ)、くらい言えばよかった。

そんなやり取りをしていたら、ため息をついて心眼が話し始める。

 

『恐らくだが、空は既に飛べるぞ?』

 

「「は?」」

 

心眼の言葉に俺とタマモが固まる。

 

『まぁ、2秒で落ちるがな。シュウの霊力の性質上、自身の強化だとか、身体に霊力を纏わりつけるように放出するだとか、単純に霊力を放出することに特化している上に、小出しできない代わりに出力は2秒だけだが高いからな。空を飛ぶことは少なくとも出来るだろう。2秒で落ちるが』

 

「2秒2秒言うな!!」

 

「アハハハハ!!」

 

またタマモがツボりやがった。

心眼、説明してくれるのはいいけど、お前もおちょくってるだろ。

 

『すまんすまん、いや、しかし霊力をコントロールして固めて使うのが得意な横島に対して、シュウはスライムを道にぶちまけるかの様に一気に霊力を放出するタイプで全くの逆のタイプだな。

だからお主が言うような気弾についても似たようなことは出来るだろうが、その霊力量だから、一気に前方に放出するだけでも即時に霧散するだろう。手に霊力を纏わせて殴った方が早いぞ』

 

「くっそー、かめはめ波とか波動拳とか使えるかもって期待してたのになぁ」

 

『使えるのは我道拳だな。いや、それにすらなってないだろう、間合いは拳と変わらん。ただまぁ確かに全く使えないと技いう意味ではないぞ。

横島のサイキックソーサーは、少ない霊力を上手くコントロールして半分物質化するほどに固めているのでかなりの威力があるが、量が少ないとはいえ、お主は全身の霊力をコントロール無しで全て放出するのだ。威力だけで言ったらサイキックソーサーよりも上になるぞ。一発で倒れる性質と、近距離過ぎるので危険であることを考慮すると、まさに切り札といえるだろう。……当たればな』

 

「ま、マジで?サイキックソーサーより上って凄いじゃないか」

 

『まぁ遠距離では使えん遠距離攻撃だが』

 

「……やっぱり波動拳が良かった」

 

「そのなんちゃら拳は解りませんが、修業すれば霊波砲も撃てるようになるとは思いますよ。頑張りましょうね、シュウさん」

 

心眼との会話で改めて落ち込んだ俺の手を握って、小竜姫様が励ましてくれる。

そうだよな!俺にはこんなに頼りになる仲間たちが協力してくれているんだからな!いつかちゃんと霊力を使えるようになるよな!

なにやら面白くなさそうにタマモがジト目で見てくる。

負けず嫌いだか何だか知らないけど、俺が霊力使えた方がお前の保護には都合が良いだろうに、全く子供なんだから。

 

『まぁ、先程のように限界を超えたらぶっ倒れるのだ。しばらく修業して使える時間が延びるまでは実践では使わない方が良いぞ』

 

心眼の言葉に納得する。

そりゃそうだ。実戦でいちいちぶっ倒れてたら足手まといなんてもんじゃないだろう。

それを聞いてタマモも多少は笑って申し訳ないと感じたのか、真面目な表情をとって俺の肩に手を置く。

 

「そうよ、ちゃんと修業するまでは使っちゃだめよ?危険なんだから。…………だって2秒でぶほぉ!アハハハハ!2秒て!」

 

「ちょっとそこになおれタマモ、その2秒の恐ろしさを思い知らせてやる。それと、顔面に唾がかかったじゃねぇか!」

 

「美少女の唾なんだからご褒美じゃない」

 

その言葉を聞いて立ち上がる俺。

それを見てやべぇと言わんばかりの表情で逃げ出すタマモ。

絶対俺の顔には青筋が浮いていたと思う。

残りの二人は、俺とタマモのおいかけっこを見ながらやれやれとため息をついていた。

 

 

 

 

 

 

「あんたバカでしょ」

 

「うるへーおろせー」

 

「いやよ、あんたの回復待ってたら家に着くのが遅くなっちゃう」

 

くそう、俺は今タマモの背中に乗せられている。所謂おんぶである。

めちゃくちゃ屈辱的だが自業自得なので多少諦めている。

あの後、タマモと妙神山で追いかけっこをした時、当たらないのは解ってたから脅すつもりで霊力を放出したら一発でダウン。

心眼の言う通り目の前で霧散した。

あれ、冗談抜きで拳と同じリーチだった。当てられる気がしない。

いや、少しでも前に出るなら拳よりはリーチあるだろうと思っていたんだけど、端的に言うと少しも前に出ない。

つまりあれを敵に食らわせるには、相手と密着して、触っているレベルの距離で放出する必要がある。

で当たったら大爆発?

いや、それでサイキックソーサーと同じかそれ以上の威力って、自爆じゃないか。

 

「おい、そろそろ住宅街に入るから降ろしてくれ」

 

「降ろしたって歩けないでしょうに。心配しなくても高校生が中学生におんぶして貰っているようには見えないわよ。見えたとして、小学生の弟をおんぶして帰る健気なお姉ちゃんってとこね」

 

「いやいやいや、この状態で知り合いとかに見られたくな」

 

「「「「あ」」」」

 

目と目があうー。

 

 

 

 

 

 

 

「シュウさん・その状況の・説明を・求めます」

 

「姉さん、今、機銃の安全装置解除音がした気がするんだけど、気のせいだよね?」

 

「気のせい・です」

 

「な、なら良いんだけど」

 

まさか早速マリアとテレサに会うとは。二人は買い物帰りらしい。

いつも通りの無表情のはずなのに、どこか冷気を感じる表情で言うマリア。

タマモはそんなマリアを見て「ははーん……」と何やら嫌な予感のする悪い笑顔を浮かべているのがすごく気になるんですけど。

 

「いやね、ウチのシュウが「ウチの?」もう歩けないタマモおねぇちゃんおんぶーっていうものだから「お前いい加減にしとけよ?!」」

 

「……シュウくん?マリアお姉ちゃんが・おんぶ・してあげますよ?」

 

「マリアさん?!タマモの冗談だから!嘘に決まってるでしょ!信じないで!」

 

おいテレサ、お前も「うわぁ」、って感じで真に受けるんじゃないよ。

 

 

 

 

かくかくしかじかと、必死に状況を説明する。

 

「なるほどね、霊力の使い方を身につけたけど調子に乗って使い切ってダウン、と」

 

「まぁおおむねそんなところだよ」

 

「…………では・そちらの・女性は?」

 

「あぁ、俺が保護してる妖狐。タマモって言うんだけどな」

 

「一緒に・暮らしているの・ですか?」

 

「まぁそうなるかな」

 

「そう・ですか」

 

え?なんでそんなとこに食いつくのマリア。

心配しなくても俺は手出したりしないけど。まぁ世間から見たら微妙か。

とりあえずは納得してくれたようだ。

 

そういえばこないだも、茜にタマモといるところを見られて説明面倒だったからなぁ。

「アニキに彼女が!良かったなぁアニキ。でもアニキに釣り合うのか心配だな。大丈夫かこいつで?」とか言い出して久しぶりにしばいてやった。さすがに最近アニキと呼ばれることについては諦めた。

まぁちゃんと説明したらしたで「じゃあアネキだな。まさかあたいが他人に対してアネキという日が来るとはなぁ。いつも言われる側だったし」とかわけわからんこと言い出したからもう放置した。

 

 

 

「へぇ……、今は動けないわけだ……」

 

テレサの目が怪しく光ったと思った瞬間、タマモの狐火がテレサの目の前で寸止めされており、マリアの機銃の銃口がテレサの後頭部でゴリっと当てられていた。

 

「何を・考えましたか・テレサ?」

「あんた、ウチのシュウに何するつもり?」

 

「何も考えてませんっ!!今動けないなら勝てるかも、とか考えていません!!」

 

そんなこと考えてたんかい。コイツ、俺に対してリベンジ諦めてないのかよ。厄介な……。

 

そのあと、何故だか機嫌が悪そうに見えるマリアにテレサは引きずられて、二人は帰っていった。

絶対マリアも感情豊かだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊力が使えるようになって次の日、俺は学校にいた。

俺が学校にいる時間とは、GS関連とは離れてのんびり学生生活を送る時間である。

……そのはずだった。

 

 

 

先日、ピートが学校に転入してきたことがキッカケだったのだが、「横島、ピート、タイガー、愛子、俺」を一纏めに、除霊委員だとか言われて学校での霊障に対応する日々になってしまった。

 

ちなみに、ピートが学校に来た当初、いつも通りの横島の嫉妬が始まったのだが。

 

「ピートいじめたら女子全員を敵にまわすと思いなさい」

「はい」

 

と横島は女子にボコられていた。

相変わらずだなぁと思う反面、これが横島だよなぁ、とも思ってしまう。

 

その後も除霊委員にされたメンツで横島の席に集まっていると。

 

「まぁいじめはせんが、どうせ彼女とかおるんと違うんか!」

 

とか言い出す横島。いたらどうだってんだろう。

まぁピートはピートでいつもの余裕のある態度で返答していたのだが。

 

「いえ、自分は今までそういうことを気にする余裕はありませんでしたし、今もGメンに入るために勉強中なので。そういう相手はいませんよ」

 

「なんだぁ俺と同じじゃん」

 

「違うぞ横島、向こうは女はいらんがオマエは女がおらん」

 

痛い、無言でしばくのやめろ横島。

 

「そういうシュウくんはタマモちゃんとはどうなの?」

 

「愛子、あいつについてはちゃんと説明してやったろ」

 

一応このメンツにはタマモの正体と一緒に暮らしている経緯は説明してある。

愛子は説明を受けた後も何故かニヤニヤと俺にタマモとの関係をちょくちょく聞いてくる。

 

 

 

でだ、そんなやりとりがあったことはさておき、何故俺がこんなに今、学校に居ること対して憂鬱を感じているかというとだが、その除霊委員の活動についてだ。

いや、いつもの除霊の時も結構多いけど、学校の霊障って怖いの多いんだよ。

こないだのメゾピアノは良いとしてもだ、これは無いんじゃないかな。

 

「シュウ、歩き辛いんだけど」

 

「ま、まぁまぁ、そう言わずに」

 

「お前、ビビってるだろ」

 

「はい、ビビってます。守ってください横島先輩」

 

「ギブアップ早っ!キャラ変わってんじゃねーかお前。いつもバイトで平気そうじゃん」

 

はい、現在横島の服の端っこを掴んで歩いています。

俺だって好き好んでこんなことしたいわけじゃないわい!

 

「バイトの方も怖いときは怖いんだよ。もがちゃん人形とか、マネキンとか」

 

「いや、それは俺も怖かったわ」

 

「だとしてもだ、夜の学校程不気味なものもなくない?しかもうちの学校妖怪学校じゃん。帰っていい?お腹痛い」

 

「ダメよ。大体妖怪なんてそんなに沢山はいないでしょうに」

 

「わーい、妖怪の愛子さんに言われちゃしょうがないね」

 

「シュウさんにこんな一面があったとは」

 

「新鮮ですノー」

 

そうです、現在夜中の学校に来ているのです。ちなみにタマモは家でお留守番。これ以上あいつにいじられるネタを与えるつもりはない。

いや、大体のことは我慢出来るよ?でも夜の学校とか病院はダメだって。怖すぎるって。あかんって……。

それもこれも、教師から「除霊委員に夜中、一度パトロールしてみて欲しい」という、非常にありがたくない依頼を受けたのが原因だ。

なにか起きたとかじゃないのに念のためで生徒にこんなこと頼まないで欲しい。良いじゃん、普通の見回りもしてるんでしょ?まぁ専門家にまわって欲しいって言ってたけどさぁ。

 

ま、まぁ、除霊委員と呼ばれているメンバー全員が来てくれたことだけが救いだけど。

 

「じゃあとりあえず手分けして「反対!断固反対!」シュウくんは横島くんと一緒ね」

 

スルーしないで愛子。

 

「えー、俺が子守するのかよ……」

 

「宜しくお願いします!横島先輩!」

 

普段だったら「子守言うな同級生じゃ」くらい言いたいところだが、今日だけは勘弁しておいてやろう。

むしろ守ってくださいというオーラ全開で横島の目を上目遣いで見つめる。

 

「……お、おぅ……」

 

普通に引くのやめて横島。泣いちゃうから。

 

「だ、だめよ?!そんな非生産的な……!で、でもそれも青春なのかしら?!」

 

「「それだけはない」」

 

何考えてるんだ愛子は、俺と横島はそういう関係じゃないぞ。それだけは本当に、ない。

 

とまぁ俺の全力の説得により、結局全員でうろうろすることになったわけだが。

途中。

 

「シュウくん、怖かったら私の中に入っとく?」

「やだよ、お前の中結局不思議空間の学校じゃん。そこに俺一人だけとかどんな罰ゲームだよ」

「それもそうね」

 

という会話があったものの、ビクビクしながらとはいえ、だいぶ慣れてきた。

いくら夜中の学校といっても、流石に沢山のバイトで慣れてるのもあるし、やっぱり大人数でいるのって違うな。

 

『ちなみにだが』

「ギャー!!」

「うわっ!ビックリした!!」

 

俺の大声に横島も一緒に驚く。

 

『突然どうしたシュウ』

「どうしたじゃねぇよ!ずっと静かだったのにいきなり声出すなよ心眼!」

『あぁ、私にビックリしたのか』

 

ビックリするに決まってるだろ。

こんな場所で、いきなり至近距離で声がしたんだから。

 

『いやすまんな。でだ、この校舎に対して霊視をしてみたが、やはり妖怪が一体いるようだな。そやつ以外は居たのかもしれんし、普段は居るのかもしれんが少なくとも今は居ないぞ』

 

「まじでいるのかよ。面倒だなぁ。受けずにさっさと帰ってカップ麺食って寝てれば良かった。金になるわけでもねーし」

 

「横島、珍しく意見があったな。よし帰ろうそうしよう」

 

『たわけ。とりあえずそいつは音楽室にいるようだぞ』

 

「……最初から心眼さんに聞けばよかったわね」

 

俺と横島の意見はスルーされた。

 

 

 

 

「まじで開けるの?なんかピアノの音聞こえるんだけど、もう気絶寸前なんだけど」

 

「シュウさん、冷静になってください。雰囲気で怖がりすぎですよ。このシチュエーションの時点で心当たりありません?」

 

いや、夜中の学校で誰もいないのにピアノが鳴り響くとかめちゃくちゃ学校の怪談そのままじゃないか。

ピートの言葉を聞いて改めて考えても……。

あれ?なんか全員が呆れた表情で俺を見ている。

 

「これはメゾピアノの可能性大じゃノー」

 

…………あのピアノ妖怪めぇー!!

 

「とりあえず開けるわよ」

 

愛子が音楽室の扉を開いて電気をつけると、そこには予想通り気持ちよさそうにピアノを弾いているメゾピアノが居た。

 

「げ、君たちか」

 

メゾピアノが俺たちに気付く。

ビビらせやがってこの野郎。

 

「やっぱりお前か!全く、怖がらせやがって!」

 

「シュウ、別にメゾピアノの仕業だと判ったところで学校の怪談ではあるんだが……、怖くないのか?」

 

「こいつの仕業だって判明してるなら怖くない」

 

「難儀じゃノー」

 

タイガーが苦笑しながら俺を見ているが、怖いものは怖いんだから仕方ない。

むしろなんでこいつらこんなに……、いや半分あっち側の連中だったわ。あれ?不死身とトラ男も入れたら純粋な人間俺だけじゃない?【その口でよく言えるな】どいう意味だ心眼。

 

「何の用だい?僕は君たちの言う通り、昼間はピアノを弾かないで約束通り夜だけピアノを弾いているんだけど」

 

「そういや昼間は弾かないでくれって言っただけだったな」

 

うんざりした様子で言うメゾピアノに対して、横島が納得した様子でピアノにもたれかかる。

確かに、以前メゾピアノが昼間に学校でピアノを弾いていたことで先生から対処をお願いされた時にそういうことを言った気がするな。

 

「まぁ被害もないし、こいつしかいないなら見回り完了で良いんじゃないですか?」

 

「無視かい?絶望音痴くん」

 

「な、なんだと?!」

 

「いや、ピート、流石に言い返せないって」

 

そう、そういえばその時メゾピアノを追い出すためにピアノを演奏したのがピートで、まぁあれは酷い演奏だった。

破壊兵器かと思ったらピアノだった。いや、ピアノだと思ったら破壊MAP兵器だった。そんな感じだった。

 

「学校側から夜中にヤバイ妖怪が居たり、まずいことが起きたりしてないか見回ってほしいっていわれたのよ」

 

「君自身が妖怪じゃないか」

 

ド正論だな。愛子に対するメゾピアノのツッコミを聞いて、意外とコイツの方が常識的なんじゃないかと思ってしまう。

 

「まぁそれは置いておいて、夜中にピアノ弾いてるなら知ってるんじゃないの?今ってこの学校妖怪とか居たりするの?」

 

「あぁ、普段は結構いるけど、まぁ質の悪いのは居ないと思うよ。今日はなんだか別の学校にほとんどの連中が呼ばれてて居ないけど。なんだっけ、かたつむりの殻を背負った女の子を脅かせるために呼ばれたとかなんとか」

 

居るのかよ!普段結構居るのかよ!!うわっ、すげぇ怖くなってきた。もう今後絶対夜中の学校は来ない。まぁ居なくても怖いから来ないけど。むしろ居ない方が怖い気がしてきた。(混乱)

というか、なんだ呼んだ側の学校。驚かせる対象がもう妖怪っぽいじゃないか。

 

まぁいいや、とりあえずは問題なし、ということで。

 

「じゃあまた僕の演奏で」

 

「「「「「それだけはやめ(ろ)(て)」」」」」

 

ピート、お前はもう練習でもピアノに触るの禁止な。

 

 




ということで霊力を使えるようになった(?)シュウくんです。これで無双出来るね……出来るといいね(笑)

※「かたつむりちゃん」ってどれだけの人が知ってるんだろう……。


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18:ずれていく時系列

この世界はオリ主関係なく細かく動きが違うようです。

作者は書いては消して迷走中。


「はぁ、九尾の狐……、ですか?」

 

「あくまで可能性、でしかないのだがな」

 

現在事務所には、お客様が来ている。

俺は顔色を変えないように出来ているのか正直自信がない。

ただ、この話を聞かないという選択肢はないので、退室はしない。

 

美神さんの前には、スーツに帽子を被って顔が見え辛い男と、その横で細い目できな臭い笑顔をしている男の二名がソファに座っている。

美神さんは流石、九尾の狐という言葉を聞いても全く動揺していない。あれ?この人意外と図星をつかれると弱くて、勘九郎にミカレイの変装を見破られて滅茶苦茶動揺するような人じゃなかったっけ?まぁありがたいから良いか。

なんだかスーツの男はどこか偉そうな人だ。実際偉いんだろうけど。

 

「なるほどね、殺生石がなくなってたから実は復活してるんじゃないか、という懸念ですか。

……実はですね、ちょうど報告するための資料を作成していたところなのですが、既に九尾の狐は再封印済みなんですよ」

 

「は?そ、それはどういう」

 

一切表情を変えずに大ウソをぶっこく美神さんに対して帽子を被ったオッサンが戸惑うように聞き返す。隣で笑顔の男の目元がピクッと動いた。

 

【なるほど、そう来たか】

 

心眼?何か聞いてるのか?

 

【いや、聞いてはおらんが、この後の大体の展開は予想できる。まぁ黙って聞いておれ】

 

「いえね、ウチの助手がたまたま栃木で迷子になりまして、その時ちょうど目の前で九尾の狐が復活したんですよ。ホホホ、運の悪い助手でして」

 

「そ、それは無事だったのだろうか」

 

帽子の男がハンカチで顔をふく。

まさかの展開に頭がついてきていないようだ。

 

「えぇ、体力と逃げ足だけは自信のある助手なので。まぁその時は逃げ帰ってきたのですが、当然その後私に報告が来たので、慌てて対処に向かいまして」

 

「そのまま再封印した、と。いや、その場合何故国に報告を…!」

 

「万が一本当に九尾の狐が復活していた、なんてことになっていた場合、一刻の猶予もなかったので。まぁ、一応義務はありませんしね。ですが、大事なので事後報告ですがこうして資料を準備していたわけです」

 

「うぅむ……確かに……。では本当に封印したんだな?」

 

「えぇ、当然強力な結界が必要でしたので、費用がバカにならなかったんですよね。出来れば今回の依頼料も含めて、これくらい頂けるとウチとしては非常に助かるのですが」

 

「はぁ……。まぁそういうことであれば、かなりの手柄となるからな。上に掛け合えばある程度の金額は用意することが出来ると思うが……。むぅ、確かに、調査員の報告では強力な別の結界が出来ていたとあったな。すまないがもう少し細かい話を聞かせてもらって良いだろうか」

 

いけしゃあしゃあと金を要求する美神さん。

いや、マジか。というかいつの間に栃木まで行ったんだ。

 

改めて考えると、良かれと思って動いた結果まずいことになるところだったんだよな。

本来の俺が知っている流れなら、美神さんに来た依頼でタマモを退治したことになるはずが、急に殺生石がなくなったことに対して政府が動く結果になってしまったから、正直内心ヒヤヒヤもんだった……。

まさか、美神さんが先に動いていたとは、流石としか言いようがないな。

しかもシレっとお金せびってるし。バレたら捕まりますよ?

 

その間も細かく色々と話が進んでいく。

マジで書類やら結界の写真やら、大量に準備していた資料と言葉が出てくる出てくる。

完全犯罪じゃないかコレ。

ちなみにその間、もう一人の男は話に入らず、ずっと細い目で資料を眺めている。あの人目開いてるのか?

 

「なるほど!ここまで報告書が仕上がっているのであれば報告もしやすい。感謝する。いや、本当に事前に動いてもらって助かった。資料にある通り、あの辺りには誰も近づかないように手を打とうじゃないか」

 

本当に話を纏めてしまった。

 

【立派な詐欺師だな】

【いや心眼、美神さんはタマモのために動いてくれたんだからそういうこと言っちゃダメだって。心眼が美神さんに対して良い印象を持ってないのは知ってるけど】

【ふむ、最近はそこまでではないのだがな。とはいえ、恐らくその意図もあるだろうが、あれは結構な金になるとみて動いた可能性の方が高いぞ】

【ま、まぁそういう側面もあるだろうけどさ】

 

「……再封印ねぇ」

 

え?

 

【心眼、今何か言ったか?】

【いや、美神令子が政府からいくらせびるのか見ものだと思っていたくらいだが】

【そうか、ならもう一人の人が何か独り言言った感じかな】

 

結局、美神さんのごり押しでお客様は納得したようで、無事帰ることになった。

 

玄関でふと思い出したように美神さんが言った。

 

「ところで、そちらの方はかなり真剣に資料を見てましたが、専門家なのですか?」

 

「あぁ、こちらは今回の件を報告してくれた者でな、ここに依頼をするという話をしたところ、参加したいということだったので、妖怪に関する研究所から態々来てもらったのだ」

 

「自己紹介が遅れました。鍬南(すきな)と言います」

 

「はぁ、どうも」

 

鍬南と名乗った男は自己紹介だけすると、政府のお偉いさんと一緒に帰っていった。

 

【これで、とりあえず不安要素が一つ消えたな】

【本当にな。すっかり保護した時点で安心しちゃってたわ】

【私も考慮が不足していたからな。美神令子が動いてくれたことで結果的に助かったのは間違いない】

 

本当に美神さんには頭が上がらないわ。

 

 

 

 

 

 

 

「オカルトGメン?」

 

「そうよ!よりにもよってウチの事務所の隣に!」

 

おキヌちゃんの言葉を聞いて、商売敵がいきなり事務所の隣に出来たと喚き散らす美神さん。

横島はそれを横で見ながら苦笑している。

 

【お主の記憶が曖昧すぎて自信がないのだが、早くないか?】

 

そうなのだ。

心眼の言う通り、少なくとも横島がハンズオブグローリーを覚えてからだった気がするんだけど、想定より早くオカルトGメンが事務所の隣に出来てしまった。

まぁ、西条さんは横島が関わらなければ普通に良い人だし、実力としても相当強かったはずだから悪いことじゃないとは思うんだけど。

 

「一言くらい文句言ってやる!」

 

「あ、俺お留守番してま」

「あんたも行くのよ!実力行使になったらシュウ無双でなんとかするんだから!」

「俺を犯罪に巻き込まないでくださいよ!」

 

留守番しようと思ってたのに、哀れ俺は首根っこを掴まれ美神さんに引きずられて、結局メンバー全員でGメンに乗り込むことになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかお二人が知り合いだったとは」

 

「僕は以前令子ちゃんの母上の弟子だったんだ」

 

俺の言葉にコーヒーを淹れながら答えてくれるGメンの西条さん。

予想通り、乗り込んだ先に居たのは美神さんが幼い頃おにいちゃんと言って慕っていた西条さんだった。

当然、横島は暴走してしばかれている。

 

「それにしても、助手が三人も居るなんて、流石日本一のGSと言われているだけあるね」

 

「さ、西条さん、私のこと知ってたの?」

 

「あぁ、事務所の場所を決めた後ではあったけどね、六道さんのとこで色々話は聞いているよ」

 

美神さんの言葉にウインク一つ決めて答える西条さん。

いやぁ、キマってるなぁ。

 

「え?六道家、ですか?」

 

「あぁ、当然、君たちのことも……、ね」

 

俺の質問に意味ありげな視線で俺と横島、おキヌちゃんを見てから、こっちにもウインク一つ。

西条さんって、こういうこと平気でするけど、全然違和感感じないし、むしろ似合うくらいにマジで格好良いなぁ。

こら横島、舌打ちするんじゃない。

いやいや、とは言え横島が妬むのもわからないでもないくらいにイケメンだわ。

何この人、同じ人類?現実だとここまでイケメンなのか。美神さんの異常な美人さと相まって美男美女。

……って横島が何故か俺の頭を小突いてくる。

 

「お前、お似合いとか思ってただろ」

 

「バレたか」

 

「お前も俺の敵か!」

 

何を言う、俺は絶対にお前の味方のつもりだよ。

あ、でもルシオラとのことを応援するってのは、美神さんとのことを応援してないってことは、今の横島からしたら敵なのか?

 

「実は令子ちゃんには話があってね」

 

「何かしら西条さん」

 

「オカルトGメンに入ってくれ」

 

西条さんの言葉に全員が固まる。

 

「何を言うかと思えば、お金が大好きで大好きで仕方ない美神さんが、公務員なんかに……」

「西条さんがそうして欲しいなら」

 

――ブシッ――

 

横島の額やら耳やら鼻から血が吹き出す。

いや、前から思ってたけどそれどうやってんの?

キレすぎて血管が大爆発でもしたのか?

 

しかしこれは、どうなるかな。出来れば倒れる前に美神さんには戻ってきてほしいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、マジでオカルトGメンに入るんですか?」

 

事務所で改めて美神さんに聞く。

 

「そうねぇ、ま、ちょっとだけ体験してから、かしらね。その間、三人で事務所まわしておいて。当然危険な任務は受けなくていいから」

 

「正気ですか?!あんな顔だけのいけ好かないイケメン野郎と一緒に働いて、俺達に事務所任すなんて、美神さんらしくないっすよ!」

 

ダンッと机に手をついて声を荒げる横島。

確かに美神さんらしくないと言えばらしくない。それに、確かに横島は異常に成長してサイキックソーサー1つで、結構美神さんのフォローをしながら依頼をこなしているけど、まだハンズオブグローリーを使えるようになってない。本当に事務所を任せるのだろうか。

 

「見てないから知らないんだとは思うけど、西条さんは昔から実力あったから、下手したら私レベルで強いわよ?あと、赤字を出したら命で償ってもらうからね」

 

あ、やっぱり美神さんだったわ。

赤字出したらって言った瞬間に背後に般若が見えた。

 

【しかし、美神令子、正直お主が公務員をやったら発狂すると思うのだが?】

 

「心眼、どういう意味かしら?」

 

「そ、そんなに殺気立たないでくださいよ。いや、だってどれだけ働いても悪霊シバいても給料固定ですよ?」

 

「え”?!」

 

心眼の代わりに俺が答えると、美神さんは石化したかのように固まる。

 

「公務員何だと思ってるんですか」

 

「ま、まぁとりあえず正式に入隊すると決まったわけじゃないし、様子を見てみるわ」

 

まだ表情は引きつってるが、自分でも続かないと自覚はしているのだろう。

 

「無理はしないで、辛くなったら戻ってきたほうが良いですよ」

 

「そ、そうね、まぁ、考えておくわ」

 

そう言って美神さんはGメンの事務所へ向かっていった。

これでせめて無理しないでくれたら良いんだけど。

 

 

 

 

 

「って、マジで行っちゃったじゃねぇか!!こ、こうなったら隣の事務所に嫌がらせを……!」

 

美神さんが事務所を出た瞬間にまた駄々をこね始める横島。

全くもうこいつは。

 

「やめんかい!美神さんに戻ってきて欲しいならオカルトGメンなんて目じゃないくらい黒字を出してやれよ」

 

「そうですよ、嫌がらせなんかしたらむしろ美神さん戻ってきてくれなくなっちゃいますよ?」

 

「そ、そうか!黒字を出せば、美神さんも俺の胸に飛び込んでくるというわけだな!!偉いぞシュウ!」

 

「いや、そこまで言ってないんだけど……」

 

まぁ良いや、とりあえずやる気にはなってくれたし。

実際、美神さんも多分すぐ戻ってくるだろうしな。

 

「で、横島所長代理?これから俺たちはどうすればいい?」

 

「え?俺がか?」

 

所長代理という言葉にキョトンと自分自身を指差す横島。

おいおい、まさか俺にやらせるつもりだったのか?

 

「当然だろ、俺は免許持ってないし霊力も使えないし、お前以外誰がやるんだよ」

 

「た、確かにそうなるのか……。そうだな……、ちょっと皆の手を借りてみるか」

 

横島はニヤリと指を立てて笑って俺を見た。

流石横島、お手並み拝見と行こうか。

 




基本的に大きな流れや事件は変わらず起きていますが、ドンドン時系列が狂ってきています。どんな影響があるのやら。。

ちょっと文字数減らしていきます。


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19:ハイスペック横島くんと、ハイスペック西条さん

残念ながら事務所大繁盛の背景は大幅カットです。

ミニパノはきざんで投稿することを覚えた。


【改めて見ると凄いな】

【流石としか言えないよな】

 

俺の目の前には事務所でバタバタと忙しなく動く面々があった。

横島、おキヌちゃん、俺、はさておき、ピート、タイガー、カオスにマリアとテレサ、愛子、更に茜とタマモまで居る。

 

横島に使えるものは全部使いたいと、茜、タマモへの手伝い依頼をお願いされた。

まぁ実際に外で依頼をこなすこと以外なら、という条件付きではあるが入ってもらった結果、この大所帯である。

茜やタマモは当初横島に対する不信感が拭えなかったが、いざ仕事が始まってからの豹変ぶりに、たいぶ評価を向上させたようだ。

 

「いやぁ、横島さんの作戦、大当たりでしたね」

 

「本当になぁ、横島のやつ、どれだけ色んな才能持ってるんだよ。羨ましいを超えて最近妬ましいわ」

 

【まぁ、あの両親の子供、と考えると当然の結果だったかもしれんがな】

 

確かに、と心の中で語りかけてきた心眼に同意して、仕事に戻る。

 

そう、横島は美神さんの事務所をかなりの黒字を出しながらまわしていた。

漫画でもそうだったし、多分そうなるだろうとは思っていたけど、目の前で見ると本当に凄まじい。

ちょっとしたアイディアからかなりの利益を生み出したり、トラブってもすぐに最善の対策で解決する、その手腕を隣で見られるのは楽しくも嬉しいもので、本当に感動する。

コイツは美神さんとは違った意味で人を惹きつけるものを持っているんだよなぁ。

正直コイツが独立するって言ったらついていきそうだ。隣でコイツが見せてくれる世界を見てみたい。

 

【おいおい、私が言うのもなんだが、お主はコヤツにのめり込み過ぎではないか?いや、横島だけではないな、美神令子やおキヌ殿に対して感情的になりすぎだぞ】

 

【仕方ないだろ、元々滅茶苦茶好きだったのに、一緒に過ごして、現実として一緒に働いて、ドンドンこの人達の魅力にやられてるんだから】

 

【やられている自覚はあるのか……。あまり感情的になるなよ?お主、ハーピーやメドーサ、挙句の果てにはデミアンやプロフェッサーヌルに至るまで、可能である限りなんとか仲間に、とか考えているだろう】

 

【あ、やっぱりバレてたか】

 

【いくらなんでも甘すぎるぞ。いくらお主にとっての元々物語の人物達で、憧れの存在だとしても、敵は敵だと思わんと足元を掬われるぞ】

 

【……まぁ解ってるよ。だからGS試験の時も勘九郎とかメドーサと戦ったじゃないか】

 

【私に隠し事は通じんぞ、勘九郎をあの場で確保して、説得するつもりだっただろ】

 

【……なんで?】

 

【お主は解りやすい。今度はちゃんと解らないように悪巧みは企むのだな】

 

【まいったな】

 

【とにかく、ある程度は私も付き合うが、何処かでちゃんと見切りをつけるんだな】

 

【……わかりました】

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日、すぐに予想通りの結果が出た。

 

「まぁ、こうなりますよね」

 

「……シュウくんと心眼には感謝だわ。正直自分が倒れる可能性を考えずに続けてたら、多分精神やられてたわ」

 

「と言っても結局ぶっ倒れてるじゃないですか」

 

「あ、やばい。って思った時点で、自覚症状があったからそのまま意識を自分から放したのよ。あのまま頑張ってたらもっと酷いことになってたわよ?」

 

「どこまで深刻な状態になるつもりだったんですか」

 

苦笑しながら言う。美神さんも自覚があるのか苦笑一つで事務所の席に座る。

結局、美神さんは一度だけ軽く倒れて、すぐに事務所に戻ってきた。いや、倒れたのに軽くってなんだ。

 

「いやしかしまさか倒れるとは。令子ちゃんは思った以上にお金が好きすぎるようだね」

 

苦笑しながら言う西条さんに美神さんは顔を赤くしてうつむいている。

あ、横島がやれやれわかってねぇなぁ、と言わんばかりに西条さんの前に出た。

 

「たりめーだろ、お金が好きで好きで好きで好きで好きで、好き勝手な生活しまくって、世の中ナメてて、ワガママで傲慢で、根性曲がってて、ぶべっ!」

 

「アンタは私に恨みでもあんのか!!」

 

あーあ、あの名シーンが目の前で見れるかと思ったら、美神さんが普通に居るからツッコミ入っちゃった。

 

「と、とにかく、そんな美神さんに公務員やらせたらこうなるのはあたりめーだろ!」

 

あ、鼻を押さえながら一応最後まで言い切った。

西条さんもちょっと反省したような表情だ。

そういえば、西条さんと横島って決闘したのかな?

 

【いや、どうやらタイミングもあって、そういうことはなさそうだったぞ】

 

まぁ、今の横島だとどうなるんだろうな。

ハンズオブグローリー覚えてないけど、実際に戦闘自体はかなり出来る様になってきていると思う。

最近の依頼中の動き、ドンドン良くなってるし、ドンドン離されているのがわかる。

 

「どうやら君はGSで居る方が向いているようだね」

 

「西条さん……、ごめんなさい、どうやらそうみたい」

 

「ふ、なら横島くん、シュウくん、おキヌちゃん、とりあえず令子ちゃんは君たちに預けよう」

 

「たりめーだ、公務員はさっさと帰れ!」

 

しっしっ、と手で払うように追い出そうとする横島。

いや、それ失礼だからやめとけよ。

とか考えていたら少し考えるような素振りをした後に、もう一度西条さんが口をひらいた。

 

「……ちょっと、横島くんとシュウくんは来てもらっていいかい?令子ちゃん、助手を少し借りるよ」

 

「え?まぁ、良いけど。仕事かしら?」

 

「いや、少し男同士で話があるだけだよ」

 

え?俺も?

言われた通り西条さんに付いていく俺と横島。

横島はポケットに手を突っ込んで欠伸しながら仕方なく、といった表情だ。

 

人気のない公園で西条さんは立ち止まって振り返る。

 

「さて、急で申し訳ないが、少し聞きたい事がある。まぁ基本的には横島くんにだが、念の為シュウくんにも聞いておきたい。それと、シュウくんには別の話もあるんだ」

 

え?

どういうこと?

 

「んだよ」

 

いや、横島の態度滅茶苦茶悪いし。

 

「君は、いや、一応君たちにしておこうか。君たちは令子ちゃんに対してどのような感情を抱いているんだい?」

 

「ど、どういうことだ?」

 

あー、これは俺も巻き込まれた感じかな?

横島があまり理解できていないようだけど、先に答えちゃうか。

 

「頼りになる所長ですよ。すごく強いし、憧れでもあります。でも恋愛感情は無いですよ」

 

「そうかい。では横島くんは彼女を愛しているのかい?」

 

「……?よ、よくわからんがあれは俺のじゃー!」

 

「それは単なる欲情だろう。そういうことではなくだな……!」

 

頭痛でもするのか頭を押さえて再度説明する西条さん。

そこからは泥仕合の様な言い合いが続いた。

まぁ確かに西条さんからしたらたまったもんじゃないよなぁ。横島は横島で自分の感情解ってないし。

でもなぁ、横島の感情って、前世の高島の感情も含まれているから、本当に本人の感情としてどうなのかってなんとも言えないんだよな。

 

【まぁ、あまり難しく考えるな。別にそういうことは本人たちに任せれば良いのだ。お主はルシオラを助けようとしているが、横島とくっつくかどうか、については手を出さないほうが良いぞ】

 

【あー、そうだよなぁ。そればっかりは本人達の意思だもんな】

 

【あれでいて、本当にハーレムなぞを作ってしまうかもしれんがな】

 

【横島って本当にそうなりそうで笑えないぞ】

 

【私としては最近お主も心配になってきたんだが……】

 

【だからタマモは違うってば】

 

【いや、タマモだけではなく】

 

【どゆこと?茜はそういう関係じゃないぞ?】

 

【…………まぁ良い】

 

呆れたような声を俺の心の中に残して心眼はそれ以降黙ってしまった。

そんなことを考えていたら二人の言い争いも収まったようだ。

 

「ま、まぁ全くもって納得できていないが、とりあえず令子ちゃんは一時的にGSに戻ることになったんだから、そこに関してとやかく言うつもりは無いが、僕は君を認めないからね」

 

「はっ、認めてもらわなくて結構だっつぅの!」

 

「本当に君は……まぁいい、その話はとりあえずここまでだ。あとは、シュウくんに情報を渡したいんだ」

 

え?俺?

ちょっとボーッとしてたから突然自分に話を振られて驚く。

 

「いやね、六道家の当主から以前依頼があっただろう?」

 

「げ、シュウお前美神さんに内緒でそんなことしてたのか?殺されるぞ?」

 

「キミは令子ちゃんを何だと思ってる…………いや、なんでもない。どうやら僕が思っていた以上にお転婆に成長していた様だしね」

 

西条さんにもそう思われてるのか美神さん……。

って、西条さんが言ってるのって多分雪之丞と一緒にやった妖怪を商売に使ってた連中の検挙だよな。

 

「君達が捕まえた犯罪グループだが、どうやら単純に彼らを捕まえておしまい、といった話ではないようでね。裏に結構大きなグループが居るみたいなんだ」

 

【だろうな】

 

心眼の言葉に西条さんも一つうなずきを返す。

まぁ、それは予想していたことだ。

あそこに居た妖怪の数は思ったより多かった。当然どこかに連れて行こうとしていたんだろうけど、あの少ない人数であの規模を管理するのは難しいだろう。

 

「最近我々Gメンも調査していたんだが、ようやく辿り着いた研究所があってね」

 

「え、じゃあ裏にいるグループが解ったんですか?」

 

「いや、もしかしたら、程度で、証拠がないんだ」

 

「んだよ使えねぇな」

 

横島、話解ってないのに西条さんに喧嘩売るのやめてくれ。

あ、西条さんチラッと横島を見たけど無視した。

 

「証拠がなかったのは理由があってね、実はそこの研究所、壊滅していたんだ。燃やされた様な跡もあったから、証拠品も期待は出来ない」

 

「か、壊滅?」

 

「あぁ、見たところ、人死は出てなかった様だけど。まぁ断言は出来ないが」

 

マジか、だれがそんなことを?

というか結局妖怪使った商売なんて誰がやってるんだ?確かそんな話なかったよな?

 

「ここからは内密に頼むよ。恐らくとしか言えないのだが、やつらの裏に居るのは南部グループと思われるんだ。表向きは色んなジャンルに手を出している普通の企業みたいなんだけどね、どうしてもシュウ君が捕まえた連中が向かう予定だった場所から色々と探ると、南部グループの研究所にたどり着くんだ」

 

南部グループってなんか聞いたことあるぞ。

 

【確か茂流田と須狩が所属していたところではなかったか?】

 

あ、そうか、確かに妖怪使って実験とかしてたよな。

そうだよな、漫画に描かれてた事件だけとは限らないよな。じゃあ結局裏に居るのはメドーサか。

 

【決めつけるのはまずいと思うがな】

 

「怪しいなんてもんじゃないですね」

 

「待った待った待った、黙って聞いてたけど、シュウ裏で何やってたんだよ」

 

話の途中で横島が割り込んでくる。西条さんは少し驚いた様子だ。

あー、しまった、こんな形で横島にバレることになるとはなぁ。

 

「え?君達は一緒に仕事をしたんじゃないのかい?」

 

「あぁ、それは聞いてなかったんですね。その日は横島仕事だったんですよ。で、俺と雪之丞の二人で」

「雪之丞?!おま、大丈夫だったのか?」

「大丈夫だよ、あいつ普通にもうメドーサ側の人間じゃないって明言してるし」

 

「なるほど、ということは、やはり六道の当主が言っていた話は本当なんだね」

 

へ?何が?ちゃんと説明してくれないとわからないって。

俺のポカンとした顔を見て、あぁすまないと続ける西条さん。

 

「いや、シュウ君が対人なら敵なしと言われるほどに強い、ということさ」

 

「おぉ、こいつ人間やめてるからな」

 

「お前には言われたくないぞ横島」

 

そこから始まった俺と横島のどっちが人外寄りかという、全くもって残念な言い合いを見ながら考え込むような素振りをしていた西条さんが口を開く。

 

「…………シュウくん、少し、手合わせしてもらってもいいかな?」

 

「俺が西条さんとですか?」

 

「あぁ、もちろん真剣は使わないよ」

 

そう言って西条さんの相棒、霊剣ジャスティスを鞘から抜いて、鞘の方を構える。

本体の刀は端っこに置いていた。多分横島に渡したくはなかったんだろうなぁ。

 

「まぁ、ちょっとだけなら良いですけど、どうすればいいですか?」

 

「一撃当てた方の勝ちでどうだい?」

 

「構わないですよ」

 

俺の了承を聞いて、悪いね、と一言言って走り出す西条さん。

 

ジャスティスの鞘を突き出してくる。

速い、そしてかなり無駄のない動きだ。ただ、この身体のスペックから見ると遅い。

最小限で避けて西条さんの手元を払う。

が、西条さんも俺の動きを予想していたようで、一歩下がってかわした後、今度は素早く上段から振り下ろしてきた。

狙いは肩だろう。

俺は振り下ろされた鞘を左側に避けながら、右手で鞘を追う形で触る。そしてそのまま勢いよく振り下ろしながら左手で手元の握り部分を捻って回す。

そのまま腕を一周させると、西条さんが振り下ろしてきた鞘は俺の手に収まる。

 

「なっ?!……無刀取り、いや、柄取りだったか?初めて見たよ」

 

「降参ですか?」

 

「そうだね、正直最後の動きは気付いたら武器を取り上げられていた、程度にしか解らなかったよ。だからこれ以上やっても無駄だろう。僕の負けだ」

 

ふぅ、と一息ついて鞘を西条さんに返す。

正直想像よりずっと強かった。霊力を使っていない状態であのスキの無さ、速さもかなり速かった。

 

とはいえ、今の感じだと個人的には横島のほうが戦いにくいな。まぁ俺限定だけど。

あいつ、何回も手合わせすればするほど、同じ手は全く通じなくなるし。確実に天才だわ。

俺より絶対に筋力もスピードも無いのに、戦い方が上手すぎる。

なんでこの攻撃が当たらない?と何度思ったことか。

しかもドンドン成長するから、絶対漫画の時より断然横島は強くなっていると思う。

あと、もう既に俺の手の内をかなり読まれてる気がするんだよな。

 

そんな全然関係ないことを考えていたら西条さんが俺の肩に手を置いていた。

 

「本当に異常な程だね。どうだい?君さえ良ければGメンに入らないかい?正直Gメンの装備なら霊力をうまく使えなくとも十分に戦えるはずだ。君は真面目そうだし、よかったら僕と一緒に仕事」

「舌の根も乾かぬうちに美神さんの助手引き抜こうとしてんじゃねぇよ!」

 

西条さんの話に横島が割り込む。

なんか俺を庇うような位置に入ってきた。

あれ?これってヒロインポジション?私のために争わないで?

【アホか】

心眼が最近マジで辛辣。

 

「あぁ横島くん、君はいらないよ?」

 

「聞いてねぇよ!!」

 

それにしても、まさかGメンに勧誘されるとは思わなかった。

ぎゃあぎゃあと言い合う横島と西条さんは放っておいて、霊剣ジャスティスを拾ってくる。

 

【……そうか!その手が……!】

 

【どした?心眼】

 

【いや、なんでも無い】

 

なんでも無いことあるかい。

 




あまり目立たないけど、西条さんもかなり強いと思うんですよね。
漫画の描写だと下手したら美神さんよりも。。


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20:ハーピー襲来 その1

感想で頂いていた三点リーダ全話見直して修正しました!(取りこぼしてたらごめんなさい)
凄く有り難い感想でした!改めて、ありがとうございます!

一言コメント付き感想で頂いていたご指摘についても、
自分なりに見直して修正してみたつもりなんですが、ごめんなさい、こちらは正直自信がないです。
ちょっと小説の書き方とかを検索してみて、ご指摘の通り地の文などを直してみようとチャレンジしてみたのですが、
自分には難易度が高すぎました……。ごめんなさい。
なるべく第三者目線の地の文を避ける様に頑張ろうと思います……。
ま、まぁ素人のお目汚しだとは思いますが、暇つぶし程度になっていただけると幸いです。


さて、ちょっと時間を置いてしまいましたが、気持ちを新たにハーピー編です。
「~じゃん」口調結構好きだったりします。
ちょっと短いですが……どうぞ。



「今日は酷い雨ですねぇ」

 

「でも依頼はありますよ?」

 

今日は事務所のメンバーが全員揃っている。

タマモはいつも通り家でお留守番である。

外は嵐だ。それを見て言った俺の言葉におキヌちゃんが反応する。

まぁ、美神さんなら当然。

 

「この雨の中外にいたい?寒いのに私はやーよ!!」

 

「誰かのモノマネのつもり……?」

 

「うわびっくりした、横島が言ったのか、てっきり美神さんかと」

 

「二人とも最近調子に乗ってるわね」

 

「「ヒエッ」」

 

美神さんの鋭い睨みに横島と一緒に身がすくむ。

正直今のは横島が悪いと思うんだが。

そんなことを考えていたらおキヌちゃんが苦笑しながら美神さんに一言。

 

「でも行かないんですよね?」

 

「当たり前じゃない」

 

やっぱり横島のモノマネはかなり美神さんにとって妥当な反応だったようで、ソファにゴロンと横になった美神さんはキャンセルキャンセルとだらけ始めた。

これには俺も含めて一同苦笑いしか出来ない。

 

その瞬間、事務所の窓から閃光が走り、ほぼ同時に轟音が鳴り響く。

 

どうやら事務所前に落雷が落ちた様だ。

 

慌てて飛び出す面々について走る。

事務所から出た俺達の目の前に現れたのは、小さい女の子を抱えた女性だった。

 

そっかぁ、香港より先にこっちだったかぁ。

また一つの踏ん張りどころだと、気持ちを引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

一晩明けて、現在は早朝である。

 

昨日、雷と共に現れた女性は美神美智恵さんだった。そう、美神さんのお母さんだ。

彼女は過去から幼い美神さんを預けに来て、すぐに雷に打たれて過去に帰っていった。

恐らくはハーピーと戦うために。

 

昨日の夜美智恵さんに子供美神さんを預けられて、朝起きてからは横島と交互に子供美神さんと遊んでいる。

 

「二人で起きてからずっと相手してくれてたの?」

 

「お二人共子供と遊ぶの、とても上手なんですよ」

 

子供美神さんとお馬さんごっこで遊んでいた横島を見ながら休憩していたら、起きてきた美神さんに声をかけられる。

表情を見る限り昨日少し面倒を見ただけで結構参っているようだ。

おキヌちゃんの返しを聞いてため息一つつく美神さん。

 

「はぁ、私は駄目だわ。とにかく父親に連絡してみるわ。何か知ってるかもしれないし」

 

そういって電話をかけに行く美神さん。

 

しばらくして、電話を終える美神さん。どうやら父親からの預かりものを取りに職場まで行くことになったようだ。

とは言っても、一人で美神さんを行かせるわけにはいかないよな。

そう考えていたら心眼がテレパシーで答える。

 

【うむ、ハーピーは既にここを狙っている。昨日一度来ていたからな。結界があるので諦めて帰ったが。十中八九狙われると考えて良いだろう】

 

【そう考えると護衛につくしかないけど、こっちはこっちで子供美神さんを放っておけないだろ】

 

【だが、考えはあるのだろう?】

 

【まぁな、うまくいくかはわからないけど】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かるわシュウくん、人工幽霊壱号も心眼も事務所に魔族が来ていたなんて言うもんだからちょっと心配だったのよね。心眼がいればすぐに気配に気づくでしょうし」

 

「後半が本音ですよね。良いんです良いんです、俺なんて心眼のおまけみたいなもんですし」

 

「そ、そんなことはないわよ?実際すぐに動けるって意味じゃ頼りになるんだから」

 

「その魔族が物理でガンガン殴ってくる相手ならがんばりますよ」

 

結局、子供美神さんは横島とおキヌちゃんに任せて、俺と美神さんは美神さんの父親の職場に来ていた。

美神さんの予想通り、預かりものは美智恵さんからの手紙だった。

今、美神さんは俺と雑談しながら手紙を読んでいるところだ。

 

「心眼、何か来てるか?」

 

『まだ気配は……いや、見つけたぞ。遠いがやはり居るな。見張られてい……!いかん、シュウ!』

 

心眼の叫びと同時に心眼が見ていた方向を見ると、美神さんに迫っている羽を見つけた。

凄まじい速さで迫るそれを一瞬掴み取ろうかと思ったが、霊力込みで放ってきている可能性が高い以上、単純に掴むことは難しそうだ。

霊力全開で掴んだら真剣白刃取りよろしく掴めないことはないだろうけど、それをしてしまったら最後、枯渇してお荷物である。

 

「何?!」

「美神さん!」

 

美神さんの腕を掴んで引っ張る。

間一髪、羽は美神さんの横をすり抜けて地面をえぐっていく。

なんつぅ威力の攻撃だ。やっぱりしっかりと霊力が込められている。

 

『まさかあの距離からあの速度で狙撃してくるとは、想像以上に厄介な相手のようだな』

 

「シュウくん、助かったわ。やっぱり敵はハーピーだったのね」

 

言いながら神通棍を構える美神さん。

不意打ちでなければ美神さんならあの羽根も叩き落とせるはず。

 

「チッ、厄介なやつが居るじゃん。面倒な使い魔も居るようだから遠距離で狙撃した意味もなかったわね」

 

言いながら空から近付いてくるハーピー。な、生足が際どい……!違う違う!

この距離ではこちらから手を出すことは難しそうだ。

 

「この状況は不利じゃん。美神令子、必ず殺してやるからね!」

 

ハーピーがすぐに反転して飛んでいく。

美神さんが銃を取り出すが既にハーピーの姿はかなりの距離にある。

というか銃刀法違反だからもう少し隠してください。

 

「予想通り奴の狙いは美神さんみたいですね。だとしたら不味いですよ」

 

「そうね、きっとあいつが向かったのは子供の私のところだわ!急ぐわよシュウくん!!」

 

「はい!」

 

一言返事を返し、美神さんの愛車であるコブラが置いてある場所へ向けて走る俺と美神さん。

頼むから間に合ってくれよ。あの人なら万が一も無いとは思うけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

――ハーピー視点――

 

「悪いけどシュウって同僚からキツく言われてるんだよ、現状で知らない人に任せることはまず無いから、誰かが来たら信用するなってな」

 

ちぃ、またシュウだと?あのクソガキ、かなり厄介だな。

あたいの目の前にはターゲットの美神令子をしっかり抱いた横島とか言うガキが居る。

が、事前に想定していたのか、シュウというさっきも邪魔をしてくれたクソガキからの注意があったせいで、全然美神令子を渡そうとしない。

これじゃあ過去の美神令子を殺すのは難しいか、仕方ない、やはり改めて大人の方を。

 

「でもお姉さんが中で一緒にコーヒーでも飲みながら親密になれば信用していけると思うんだよね!」

 

「やかましいわ!」

 

っく、落ち着け、一応目の前に子供の美神令子が居るんだ。

コイツさえ結界から出てくれれば。

 

「美神さんからのいいつけなのよ、令子ちゃんはいい子でしょう?一緒にいらっしゃい」

 

「れーこ行かない!」

 

「あ、おい!」

 

しめた、ガキが横島の腕から離れた。あと一息じゃん!

笑いがこみ上げるのを我慢して結界に触らないように気をつけながら近付く。

 

「わからないことを言わないで、さぁこっちへ……?!」

「やれやれ、そうはいかないんだよ」

 

いつの間に?!

気配を感じて振り返ると、そこには長髪の男が右手に何やら喚いてうるさい人形を、左手に剣を持って立っていた。

 

「さ、西条、お前どうして」

 

言いながら横島がガキを抱える。

チッ、振り出しに戻ってしまった。

 

「シュウくんから連絡を貰ってね、大体の話は聞いているよ」

 

「あいついつの間に」

 

またシュウか!!いい加減にしろ!

……ここは撤退しか無いか。

 

「さて、この見鬼くんは完全にキミが人間ではないと言っているんだが、どんな用事がこの子にあるんだい?」

 

「チィ!忌々しい奴らだ!こうなったら諦めて大人の方を狙うしか無いじゃん!」

 

「げ、本当に妖怪?!」

 

変装を解いた私を見て横島が美神令子を幽霊に渡す。

幽霊も私を見る目を鋭くしてガキを強く抱えている。

いったん撤退……!!

 

飛び立とうとした瞬間、大きな音を立てて車が飛び込んでくる。

紙一重でそれをかわして車に向き直る。

車はギャリギャリという音を立ててターンしながら停車する。

 

「なんとか間に合ったみたいね!ってあれ、西条さん?!」

 

「シュウくんから応援を依頼されてしまったからね、令子ちゃんが危険だと聞いたら来ないわけにもいかないだろう」

 

改めて地面を蹴って空をとぶ。

 

「面倒なやつらじゃん、でも覚えておくじゃん!これから常に狙撃の目が光ってるということをな!いつまでそこに篭もってられるかね!」

 

「逃がすわけ無いでしょうが!!」

 

車に積んでいたのか大きなマシンガンを取り出す美神、冗談じゃないわ!

乱射されるマシンガンの弾に当たらないように一気に加速して離れる。

 

まぁ良い、こっちにはフェザーブレッドがあるんだ。少しでも外出したらすぐに狙撃してやる。

 




ハーピーは頭の中では「じゃん」を付けてない感じにしました。

ちょっと間が出来てしまったので、短いですがこの時点で分けて投稿です。


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21:ハーピー襲来 その2

前回のあらすじ:
ハーピー襲来。
西条の登場もあり、一先ず退けたものの互いに被害なしで振り出しへ。


またちょっと短くなってしまいました。
次回は多分早めに……多分。


「さて、どうするんだい令子ちゃん」

 

「そうね、あいつが言ってた通り、いつまでも事務所の結界の中に居ても仕方ないわ」

 

『この中の誰が外に出てもヤツは狙うだろう、こちらから出るしかあるまい』

 

現在、事務所のリビングで作戦会議中である。

西条さんと美神さん、心眼の意見としては攻める方針みたいだ。

と言ってもそれしかないだろうけど。

 

「それに、俺達の関係者が狙われる可能性とか、最悪一般人を攻撃するって可能性も高いですよね」

 

「そうだね、ハーピーはGメンとしても退治対象になっているから装備はいくつか持ってきているよ」

 

俺の言葉を聞いて机の上に霊体ボウガンや破魔札を並べる西条さん。

あ、今美神さんが精霊石一個ガメた!ガメたよあの人!!

 

「外はまた雨が降ってきたみたいだね、早めに出たほうが良さそうだ。日も落ちて暗くなれば向こうも都合が悪いかもしれないがこっちも戦い辛くなる」

 

「そうね、心眼、人工幽霊壱号、ハーピーの気配はある?」

 

『はい、どうやらこちらの様子を伺っているようです、距離はありますが、ギリギリ視認出来る距離かと』

 

霊体ボウガンじゃ無理そうだな。まぁ向こうも場所がバレている以上狙撃するには難しい距離だろう。

出ていったらまず直接叩きに降りてくるはず。

 

「あいつの狙いは私とこの子なんだから、私がまず出るわ」

 

「危険……、なのは承知のようだし他に手もない、か。シュウくん、君の反応速度なら万が一も無いだろう。狙撃に備えて一緒に行ってもらえるかい?」

 

最初からそのつもりだったので特に驚きもなく西条さんの言葉に頷く。

西条さんからの勧めでボウガンを借りる。

 

「おキヌちゃんはこの子と一緒にここから動かないで頂戴」

 

「わかりました。気をつけてくださいね」

 

おキヌちゃんがしっかり子供美神さんを抱っこして答える。

西条さんは剣を装備して精霊石などの装備を確認している。

 

「奴との直接戦闘が始まったら我々もすぐに参戦するからね」

 

「我々……?」

 

俺も?と自分を指差す横島。いや、お前めちゃくちゃ戦力だから。

なんで残る気満々なんだよ!

 

「当たり前だろう、それとも君は傍観するつもりかい?」

 

「い、いやぁ俺が参加しても邪魔にならないかなぁって」

 

「……はぁ、勝手にしたまえ」

 

「…………」

 

西条さんの言葉を聞いてそっぽを向く横島。

なんでコイツこんなに自信ないんだ?

 

【横島もお前にだけは言われたくないだろうな】

 

【いや、俺は流石に身体能力は異常だって自覚はあるぞ】

 

【それにしては出来ることが少ないと思いすぎな気もするがな】

 

心眼からのお言葉は置いておくとして、横島には言っておかなければならないな。

 

「横島、なんでそこまで自信がないのかわからないけど、少なくとも俺はお前の力は頼りにしてるんだ、もう少し自分を信じて、認めても良いんじゃないか?」

 

「シュウ…………自分以上に信じられんものがあるかぁ!!」

 

一瞬、真面目な表情をとったと思ったら、鼻水を撒き散らしながらいつもの調子で喚く横島。

全員が呆れ顔になる。西条さんも真面目に考えるのがバカバカしくなったのか、厳しい表情を崩して装備の確認に戻る。

……そうだった、こいつそういうやつだった……。

まぁ、どうせそう言いながらも美神さんがピンチになったら助けに来るんだから、まぁ大丈夫か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく出てきたじゃん。このまま出てこなければそこらの無関係な人間を狙撃してやっても良かったんだけどね」

 

「はっ、奇襲に失敗してコソコソ隠れてるだけの奴になんで私がビビらなきゃなんないのよ」

 

「言うじゃないか!」

 

美神さんの挑発に乗って放たれたフェザーブレッドを美神さんが神通棍で弾く。

距離があるためか、全く問題なく反応できている。

そのタイミングに合わせて俺も霊体ボウガンでハーピーを撃つが、警戒していたのか身体を捻って避けられてしまう。

 

「あたいを奇襲だけの女だと思うなよ!これならどうだ!」

 

先程とは違い一発ではなく大量に羽を放つハーピー、これは神通棍じゃ間に合わないと判断して美神さんを抱えて横に跳ぶ。

そのまま地面を蹴って、雨で滑らないように気をつけながら塀の上に着地してハーピーに向かって再度跳ぶ。

かなりの高さだが、ここからなら霊体ボウガンでも……!

 

「良いわシュウくん!そのまま投げて!」

 

「え?!」

 

投げっ?!

美神さんの言葉に驚きながらもハーピーに向かって美神さんを言葉の通り投げる。

投げる際に美神さんの足の裏に手を添えて投げた。結果彼女自身も自分の足で跳ぶ形になったためかなりの速度でハーピーに迫る。

 

「なっ?!」

 

「とりあえず、もう少し低い位置まで、来たらどうかしら!?」

 

ハーピーの少し上から叩き落とす形で神通棍を振りおろす美神さん。

だがハーピーもすぐに反応して左腕を振り、魔力を込めた左手を神通棍に合わせ打つ。

 

「ぐぅ……!!」

 

「くっ!」

 

美神さんに叩きつけられる形で道路に着地するハーピー。

美神さんも同じく吹き飛ばされるが、先に着地していた俺が美神さんをキャッチする。

 

「ナイスよシュウくん」

 

「無茶苦茶焦りました、勘弁してくださいよ!」

 

美神さんを地面におろしてハーピーに向き直る。

全然ダメージは見えない。

雨はドンドン強くなる。

 

「忌々しいクソガキめ!先に始末して……!」

 

「させないよ!」

 

ハーピーが改めてフェザーブレッドをこちらに向けて構えた瞬間、事務所から西条さんが飛び出して霊剣ジャスティスをハーピーに振り下ろす。

ザシュという音とともにハーピーの羽が舞う。

 

一瞬の間。

雨の音がやけに響く。

 

「くそっ!浅いか!」

 

西条さんが呻く、そう、浅かった。

西条さんに寸前で気付いたハーピーは、攻撃の姿勢を解除して一転、一瞬で後ろに飛び退いたのだ。

その結果、西条さんの剣はハーピーの左翼を少し切り裂いただけに留まる。

 

「て、てめぇ!私の翼を!よくもやったじゃ……?!」

 

――ドカン!!――

 

距離を取ったハーピーが西条さんに向けて殺気を飛ばしながら怒鳴った瞬間、ハーピーを爆発が包む。

 

「でかした横島くん!!」

 

「わ、わはは、俺にだってこのくらいの嫌がらせは出来るぞ!!」

 

いやいや、嫌がらせどころじゃない、十分すぎる戦果だ。

実際、今のは確実に大きなダメージを与えたはずだ。

 

美神さんも俺も西条さんも、ハーピーの近くに陣取って煙が晴れるのを待つ。

 

『ヤツの魔力は健在だ、油断はするなよ』

 

「了解……!」

 

心眼の言葉に気を引き締めた瞬間、目の前に羽根が飛んでくる。

首を傾けてそれを避ける。

 

「クソが!今のを無傷で避けるのは人間辞めてるじゃん!!ふざけるんじゃないよ!」

 

煙の奥からハーピーが姿を表す。

予想よりダメージがあったのか、左の翼がボロボロだ。

あれでは飛ぶことは難しいだろう。

 

更に一歩前に進む。

 

「ハーピー、その翼じゃ飛べないはずだ。降参するんだ」

 

「「シュウくん?!」」

 

【はぁ……】

 

俺の言葉を聞いて西条さんと美神さんが驚きの声を上げ、心眼は呆れたようなため息をつく。

横島は驚いているものの「確かに顔は美人で足は綺麗だ、乳もある、うぅむ……」と唸っている。

流石としか言いようがない。

 

「帰ったら裏切り者扱いを受けて危ないってんならこっちで保護だって考えるし」

 

「シュウくん、立場上僕が言うのも不味いんだが、君は甘すぎるぞ。奴は魔族だ、それも凶悪で危険な奴だ」

 

やっぱり不味いか。

【当たり前だ阿呆】

心眼の辛辣な言葉を心に直接受けて凹む。

 

「あ、あたいを……?保護?」

 

お!これは効果アリですか?!

もう一歩近付く。

 

「な、なめてんのかこの野郎!!」

 

 

あ、これやば……。

 

 

近付きすぎたのと油断で気付いた時には目の前に羽根が迫ってきていた。

 

「「「シュウ!!」」」

 

全員の驚いた表情が見えた気がした。

あれ、これスローモーションに見えてる?

これなら避けられるか。

いや、なんだこれ、全然身体動いてないじゃん。

 

あ、駄目だこれ。

 

雨と風のせいか、ザァザァという音とゴォという音がやけに耳に響いた気がした。

 




シュウ
特性:外見小学生、身体能力異常(高)、霊力異常(低)、センス0(プレゼントチョイスとか)、意外と脳筋、自己評価低、悩みがち、素直、事務所メンバー好きすぎ問題、甘ちゃん、意外とムッツリ、油断しがち(new)

多い多い多い……!!
どうしてこうなった!?


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22:ハーピー襲来 その3

はたしてシュウは死ぬのか。

本気で心配してる人は誰も居ないとは思います。
この小説で誰が死ぬというのか。
……そーいやそういう原作だった。




「あー…………、死ぬかと思った」

 

「帰りが遅いと思ったら死にかけてるってどういうことなのよ」

 

【全くだ、ヒヤヒヤさせおって】

 

いやぁ、今俺は命があることに非常に感謝している。

そして、今俺を後ろから抱えているタマモにも感謝している。

 

あの時、今にも俺の眉間を風通し良くしようとしていたハーピーの羽根は、俺の目の前でゴォという音を立てて燃えた。

振り返るとそこには傘を差して右手をこちらに向けているタマモの姿があった。

 

俺が夜になっても帰ってこないから飯の心配をして事務所に迎えに来るところだったらしい。

正直本当に死んだと思った。本当に運が良かったと思う。

 

「ちっ、何処までも面倒なガキじゃん!お前さえ居なければもう少し楽にいったんだよ!死ねぇ!!」

 

再度大量に羽根を放ってくるハーピー。

流石に油断していない今、当たってやるわけにはいかない。

傘を差して俺を後ろから抱っこする形で立っていたタマモを抱えてその場から離れる。

 

傘が飛んだだの、お姫様抱っこだの、喚くタマモの主張はスルーして、タマモを降ろしてハーピーに向き直る。

 

「流石に、年貢の納め時のようだね」

 

「極楽に行かせてあげるわ」

 

西条さんがジャスティスを構えて、美神さんが神通根を構える。

それを見て数歩下がるハーピー。

 

「ハーピー」

 

「アンタはまだ懲りてないのか!」

 

今度は少し離れた位置からハーピーに語りかけた俺に、目線もくれずに怒鳴る美神さん。

 

【奴は魔族で、更に組織ぐるみで時間能力者を消そうとしているんだ、ハーピーを説得するのは諦めろ】

 

うっ、と声に詰まる。

流石にわがままが過ぎたみたいだ。これ以上はみんなの危険に繋がる。

 

【最初からだ】

 

……ぐぅの音も出ません。すみませんでした。

一歩下がる。

 

俺が黙ったのを見てため息一つついてハーピーに向けて破魔札を構え直す美神さん。

 

「そっちの、アンタGメンじゃん?」

 

「……あぁ、それがどうした」

 

「Gメンってのは一般人を見捨てるのか試してみるじゃん?」

 

「何を言って……!!」

 

「もう間に合わないさ、無能!!」

 

ハーピーの視線を辿ると、道の曲がり角を曲がってこちらに向かってきている女性を見つける。

西条さんも気付くが、既にハーピーは羽根を右手で放っている。

あの距離からだと絶対に間に合わない。それでも西条さんは振り返って走る。

そんな西条さんの背後からハーピーが羽根を放つ、が、それは近くで警戒を解かなかった美神さんの神通根で弾かれた。

そしてそのまま右翼を神通根で切り裂かれる。左右の翼にダメージを受けて叫ぶハーピー、これで完全に飛べなくなったはずだ。

 

【シュウ!】

 

解ってるって!!

身体に霊力を回して身体能力を上げる。

時間はかけない。かけられない。

一瞬で曲がり角にいた女性の目の前に飛び、迫ってきた羽根を光る両手で挟む。

と同時に身体から力が抜ける。

 

「「「「「な?!」」」」」

 

ハーピーを含む全員の驚く声が響く。美神さんは「いつの間に霊力を?!」と驚いている。あれ?そういや誰にも言ってなかったっけ。

まぁとにかく、2秒キッカリ、なんとか間に合った。

守ったジーンズの女性も突然の出来事に驚いたのか、傘を落としたものの無事のようだ。早く逃げて欲しい。

 

さて、ここからはお荷物になったわけだけど、まぁ美神さん達がなんとかしてく……、おいおいおいおい、何でハーピーは美神さんと西条さんをそっちのけでこっちに向かってきてるの?!

怪我してる左翼も右翼も必死に動かしてこちらに向かって低空飛行でスピンしながら向かってきてるのはなんでなん?!

 

「お前だけは!絶対殺してやるじゃん!!」

 

こっわ、凄まじい形相でこちらに向けて迫るハーピー。そこまでヘイト上げた覚えないんだけど?!

何で?!さっき死にかけたばっかなのにすぐピンチに陥るのなんで?!

タマモの位置からでは恐らく間に合わない。西条さんと美神さん、横島の位置からでも無理だ。

 

あれ、待って待って、これまた本当にヤバいやつじゃん。

俺は霊力使い果たして動けない。

何とかして迎撃か回避しようと身体に力を入れるが、ピクリとも動かない。

 

【くっ!】

 

心眼も必死に残り滓みたいな俺の霊力をかき集めて迎撃しようとしてくれているが、使い切ったばかりで足りない様だ。

いやジーンズのお姉さん、顔見えないけどなんでまだ突っ立ってるの?!しかも俺の前で!

俺を抱えて逃げるか、最悪置いていっていいから逃げてくれないかな!せめて後ろに回って!

 

「邪魔だ!!」

 

そこまで考えた時点で、ハーピーの爪は女性の目の前に迫っていた。

 

「こんな偶然あるもんだねぇ」

 

え?

 

「ギャアァー!!」

 

ジーンズのお姉さんが腕をふるった瞬間、ハーピーが顔面を押さえながら、錐揉みして俺の横を通って地面に墜落した。

ズザザザ、と音を立てて滑っていくハーピーの方を見るために振り返った女性の顔を見て俺の思考は固まった。

女性は長く伸びて血がついた爪を立てた状態で言った。

 

「久しぶりだね、アタイを覚えてるかい?」

 

「ね、猫又……?」

 

振り返って傘を拾って差した女性は、耳と尻尾こそ術で隠しているのか見えないが、俺と雪之丞で以前助けた猫又だった。

 

「状況は良く解ってないけど、また助けられたみたいだねぇ、いつもそんなお人好しだと死んじまうよ」

 

ハッと笑って言う猫又に何も返せない。

実際死にかけたばかりだ。むしろ今は助け返されたし。

 

「くそっ!くそっ!!何なんだ!!一人の魔族相手に何人用意してるじゃん?!もう纏めて死にな!!」

 

やけくそになったのか、今まで以上に大量の羽根をやたらめったら放ってくるハーピー。

ボロボロの腕でよくこんな早い攻撃を続けられるな。やっぱり魔族ってデタラメに強いんだな。

それぞれがそれぞれの方法で羽根を弾いたり避けたりする中、猫又は俺の目の前に立って爪で弾いてくれている。

そして、いくつかの羽根が何処からともなく飛んできた破魔札に包まれて消えた。

 

「何?!ま、まだ増えるじゃん?!」

 

「ハーピーが舞い戻ってくるなんて、完全に私のミスだわ。…………どうやら満身創痍のようだけど、今度こそ退治してあげる……!」

 

「ま、ママ!!」

 

美神美智恵さん登場である。

ここまで来たら本当にハーピーが可哀想に思えてきた。

 

【同情はするなよ、どれだけ殺されかけたと思っているのだお前は】

【二回】

【回数を聞いたわけではない、黙っておれ】

【いや黙ってるって】

【…………】

 

心眼に無視されて凹む。

ハーピーも流石に諦めたのか、一応立ち上がって構えるものの、ため息を付きながら言った。

 

「あたいたち魔族は組織的にアンタ達を狙ってるんだ、次の刺客が来るのも時間の問題だよ……!」

 

「それがどうしたってのよ、私の娘はそこまでヤワじゃないわ」

 

言いながら素早い動きで札をハーピーに叩きつける美智恵さん。

あれを避けるのは難しそうだ。確かにこの人美神さんより強いかもしれない。

 

「ギャアァァァ!!く、くそ、クソガキィ!!シュウ!貴様だけは覚えておくじゃん!!」

 

「ねぇ何で?!何で俺そんなにお前に嫌われてるの?!あと俺ガキじゃないんだけど!!」

 

「貴様のせいでどれだけ……!!」

 

あ、消えた。

いや、気になるから話の途中で消えないでほしかった。

あれかな、最初の狙撃から美神さんを守ったことかな。それなら成功してたとしても美神さんはボディアーマー着てたから殺せてないんだけど。そうか、それアイツ知らないから俺のせいで任務失敗したと思ってるのか。変な恨み買っちゃったな……。

そういえばあれって死んだの?封印されたの?魔族だから魔界に帰っただけとか?

え、それ次第では俺アイツに命狙われるんだけど……。

 

そんなことを考えていたら身体が持ち上げられた。

 

「はぁ、どんだけ無茶するのよあんたは」

 

言いながら俺を背中に背負うタマモ。

そこに近付いてくる猫又。

美神さん、西条さん、横島は美智恵さんのところで話し中だ。

 

「とりあえず解決したってことでいいのかね」

 

「あぁ、助かったよ猫又」

 

「……そういえば名前を言ってなかったね。美毛(ミケ)だ、アンタはシュウだったか。それにしてもまさか二回も助けられることになるとはね。また借りができちまった」

 

「いや、どちらかと言うと今回は俺が助けられたよ。これで貸し借りなしだ」

 

「フン、まぁ一応はそういうことにしておいてやるよ。とにかくアタイはアンタを気に入った。覚えておくんだね」

 

鼻を鳴らして言うミケ。

覚えておけってどういうことだ?

でもまぁまさかミケが助けてくれるとは思わなかったな。

 

「……ん?あんた、まさか九尾の狐かい?」

 

「…………」

 

言われて警戒するように目を細めるタマモ。

狐火をすぐにでも放てる体制だ。

 

「そう警戒しないでおくれよ。特に敵対するつもりもバラすつもりもないさ。ただつい最近暴れまわった場所で手に入れた情報がちょうど九尾の狐に関する情報だったからね、ちょっと気になったのさ」

 

いやこの人何してんの?

あ、人じゃないや。

 

『暴れまわった場所、だと?』

 

「あぁ、以前アタイを攫った阿呆共の足取りを辿ってた時にな、ある施設を壊滅させてやった」

 

いや本当になにしてん。って、それって南部グループか。西条さんが言ってた施設を潰したのってミケだったのか。

 

「その時に、九尾の狐が復活した可能性と実験として使える可能性がどうこうって資料を見かけたのさ」

 

「ま、まじかよ」

 

「と言っても可能性レベルだって研究結果だったみたいだし、アタイが燃やしておいたけど。まぁ、アンタを見る限りあながちアイツらも間違ってなかったんだな。一応気をつけることだね」

 

「フン……」

 

「ありがとうって意味だから気にしないでくれ」

 

痛い痛い痛い、タマモさん、俺の足つねるのやめてください。

虐待で訴えるぞ、そして勝つぞこのやろう。

ミケも苦笑して背中を向ける。するとちょうど西条さんが走ってきた。

 

「いやぁ、まさか妖狐に猫又まで協力してくれるとは思わなかったよ。協力に感謝する」

 

「勘違いしなさんな、アタイはシュウに借りを返しただけだよ」

 

「まぁ、私はシュウが帰ってこないから迎えに来ただけだし」

 

二人の返答に苦笑して頬を掻く西条さん。

もう少しこの二人ってコミュニケーション能力上げられないのだろうか。

 

「そうかい、それでもありがとう。実は君達の能力の高さを考えると、今後もGメンに協力をお願いしたいと思ったんだけど、まぁその様子じゃあ難しそうだね」

 

「悪いね」

 

そう答えて傘を回しながら去っていったミケ。

本当に上手く人間に擬態して暮らしてるみたいだ。あれなら心配なさそうかな。

 

「そうねぇ、私もメリットが無いわね。それに、多分シュウが許してくれないんじゃないかしら」

 

「はい、駄目です」

 

「シュウは姉離れが出来ないんだから、仕方ないわね」

 

「違うっつうの、誰が姉だ全く」

 

毎回毎回なぜかタマモは姉としてふるまう。

 

「そうかい、それは残念だ。また機会があれば誘わせてもらうよ」

 

流石西条さん、本当に残念そうだけど、すぐに引き下がってくれた。

それにしても疲れた。まさか二回も死にかけるとは。

 

【お主はもう少し油断をしないようにだな】

 

あー、また始まってしまった……。

疲れてるから勘弁して欲しいという俺の気持ちとは裏腹に、帰り道ずっと家に帰るまでタマモにおぶられたままの俺は心眼からのお説教を聞く羽目になってしまったのだった。

 

 




前回の引きは何だったんだ、といわれるであろう出落ちの一行目……。

そしてシュウが聞いたゴォという音は風ではなくタマモの狐火だった模様。



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23:韋駄天様と……えっと、知らない人ですね


お久しぶりです。
かなり投稿が止まっていました、申し訳ありません。
活動報告にも記載させて戴いたとおり、ちょっと色々と忙しく全く書けていない状態でした。
まだ忙しいのは続きそうなので更新速度はかなり落ちると思いますが、頑張って完結させようとは思っておりますのでここまで読んでいただいた方々、宜しければ引き続きよろしくお願い致します。これから読まれる方々は、是非最初から……。ついでに短編の方も是非。
素人のお目汚しですが暇つぶし程度になれば良いかと。

気付いたら年も明けていたので、今年もよろしくおねがいします。



 

今俺はとんでもないスピードで高速道路を走っている。

走っていると言っても自分で運転しているとかではなく、美神さんの運転する車に乗っているわけだけど、何キロ出てるかが問題なんだよなぁ。

 

「美神さん!定員オーバーでスピードオーバーですって!」

 

「細かいこと気にしてんじゃないわよ、シュウくんの体重なら横島くんと足してもデブ一人分にもなりゃしないわ!」

 

「そういうこと言ってるんじゃないっす!!ついでにスピード違反の方はー?!」

 

速度メーターは時速250キロを超えている。

更に言うと横島が言う通り、美神さん、横島、おキヌちゃん、俺が車に乗っているけど、この車は定員二名のはずだ。おキヌちゃんをカウントしないにしても定員オーバーだ。

 

【お主自身も気をつけるのだぞ】

【わかってるって】

 

心眼からの念話に対して心の中で答える。

 

【ここでお主の知っている流れなら横島が大怪我をすることになるが】

【あぁ、この速度で落ちると下手したら即死だからな。何とかして防がないと】

 

そう、俺達は首都高荒らしが発生しているからなんとかしろという依頼を受けてここにいるのだが、実際に首都高を荒らしているのは韋駄天という元神様の鬼で、名前は九兵衛という。そしてその九兵衛を追いかけてもうひとりの韋駄天、八兵衛様が現れたところで九兵衛が横島を車から八兵衛向けて投げつける、というのが俺の知っている流れだ。

 

「うそっ、後ろからもう一匹来たわ!首都高荒らしは二匹いるの?!」

 

「ちっ、八兵衛か、これでも食らえ!」

 

考えているそばから八兵衛様らしき影が俺たちの車の後ろから爆走してくる。

そして九兵衛が八兵衛様に気付き、横島の首根っこを掴んで後ろに向けて放り投げる。

 

ここだ!

 

その瞬間俺も同時に車から飛び出し、空中で横島の腕を掴んで回転しながら車へ向けて放り込む。

と同時に霊力を放出、逆噴射の要領で車に向けて戻ろうとするが、流石に車が速すぎて戻ることは出来なかったので勢いを殺すに留まり、地面に着地。

なんか車の方から横島のふぎゃって声が聞こえた気がしたけど気のせいだ。

 

「よこ?!シュウくん?!」

 

美神さんが驚きながらギャリギャリとブレーキを踏みながら振り返るが、横島も俺も無事だ。

と考えたところで霊力が枯渇して地面に倒れる。

 

「はははは!俺を止めることは出来んぞ八兵衛!さらばだ!!」

 

ごろんと仰向けになって空を見上げると、九兵衛が捨て台詞と共に消えるところだった。

気配を感じて右を見てみるともう一人の韋駄天、八兵衛様が立ち止まってその様子を見ていた。

 

「おのれ九兵衛!まことの鬼と化したか!!」

 

いやおのれじゃないよ、追いなさいよ。

原作と違って横島ぶつからなかったんだから立ち止まる意味が無いだろう。

 

「っと、それどころじゃない、少年は?!」

 

あぁそういうことか、俺の心配か。じゃあ俺のせいかぁ……。

顔を八兵衛様に向けて無事だとアピール。

 

「む、無傷……?!いや、しかし霊力が枯渇している……!このままでは……!」

 

「あ、いやいつものことなんで大丈夫で……!」

 

「何をしている韋駄天、逃げてしまったぞ」

 

え?

……誰?

天使……?

 

八兵衛様を見上げる形で状況を説明しようとしたところで、八兵衛様の隣に背中に翼を生やした金髪短髪の女性が降り立つ。

 

【神族の様だが、お主の知識にはいない者だな】

【あぁ、流石にこれは忘れてるとかじゃないと思う。やっぱり俺がいるかどうかに関係なく漫画と同じにならない前提で動いたほうが良さそうだな】

 

「いや、しかしこの少年があの速度で車から投げ出されたのでな」

 

「……人間か、フン!人間なぞ放っておけば良いだろう。だから面倒なんだ人間は」

 

え、何この天使の人すごい辛辣。

折角可愛いのに眉間にシワ寄せて不機嫌を隠そうともしない。

そこに美神さんの車が引き返してきた。

 

「シュウくーん!!無事ー?!」

 

「あ、はい、見てた通り横島拾って地面に着地しただけなんで、いつも通り霊力枯渇してますけど無事ですよ」

 

美神さん、横島、おキヌちゃんが車から降りてこちらに近付いてくる。

 

「相変わらず人間離れしてんなぁだいじょ……って知らん美少女がおるやないか!!こんにちは僕横島!!」

 

美神さんの影からひょこっと顔を出して、一応俺を心配していたのか駆け寄ろうとしていた横島が一瞬で消えて天使(仮)の手を握る。

 

「相変わらず人間離れしてるってのは、自虐ネタか?」

 

ため息と共につぶやいた言葉は完全に無視された。

 

「……人間ごときが私の手を握るな!」

 

一瞬、横島の動きに驚いて呆けていた天使(仮)だったが、我に返った瞬間、腰に下げていた短剣を横島の首目掛けて振り抜いた。

 

「うわち!!」

「なっ……?!」

 

それをまたも人間離れした動きで避ける横島。

【いや横島もお主にだけは言われたくないだろう】

心眼からの言葉はスルー。天使(仮)もまさか避けられると思っていなかったのか、かなり驚いている。

 

「エルエル殿!人間相手にそのようなことを!」

 

「韋駄天、今のはこの人間が私に無礼を働いたのだ。お主らの言葉で言うところの仏罰だ」

 

「それにしてもやりすぎですよ!」

 

横島に攻撃を避けられて一瞬固まったものの、そのまま逆の腰からもう一本短剣を取り出して追撃しようとしていた天使の肩に手をおいて八兵衛が止める。エルエルって言うのかあの天使。

そのスキにこそこそと横島が俺の方に近付いてくる。

おぉ、ようやく起こしてくれるのか。

 

「L、Lと言うには足らんと思わんか?一部的に何かが」

 

「お前黙ってろよ、本当に殺されるぞ」

 

横島がつぶやいた瞬間、聞こえていたのかエルエルと呼ばれていた神族のコメカミに血管が浮いたと同時に、双剣が飛んでくる。

一本は俺の右耳真下に刺さり、もう一本は〈スコーン〉という良い音を立てて横島の額に刺さった。

なんで俺まで攻撃されてんのよ。

 

「ギャー!痛い!!」

 

「痛いで済むのか」

 

血を額から吹き出しながら、ギャーギャーと駆け回る横島。

あいつやっぱり絶対不死身だな。本気でアイツの心配するのやめようかなぁ……。

【ギャグ状態の横島は無敵と考えて良さそうだな】

あ、やっぱり?

全然関係ないことを考えていたらエルエル様が双剣を回収して八兵衛様に背中を向けて歩き始める。

 

「フン、とにかく、私は予定通りあの神族崩れを追う」

 

「エルエル殿、九兵衛は一応韋駄天であり……」

 

「今は鬼だろう。何故私が韋駄天の恥晒しを捕まえるなどという仕事の手伝いをしなければならないのだ」

 

「くっ……、は、恥晒しとは、また手痛いですな」

 

八兵衛様大人だなぁ。絶対今のカチンと来ただろうに。

 

「まぁいい、内容は兎も角、私も上司から依頼された仕事だ。私は私で動く。貴様も自分で解決したいのであればなにか手を考えるんだな」

 

言うことだけ言って消えるエルエル様。

神族も仲悪かったりするのかな?

 

【まぁ色々あるだろうが、あれは本人の問題のような気がするがな。確かに派閥も違うがな。韋駄天の方はブッちゃん様、あのエルエルという神族はおそらくキーやん様の管轄で】

【その辺りの話はなんか怖いから遠慮させてもらうわ】

【そうか?わかった】

 

それはともかく、誰か俺のこと担いでくれませんかね。

あ、すみません初対面なのに、しかも神様なのに恐れ多い。

え?あぁ、ウチの事務所の人間はちょっと人格に問題のある人と、人格はもう文句なしなんですけど身体がない人しか居なくてですね。

いやいやもう慣れましたよ。

 

「そういやシュウは実際大丈夫なのか?霊力枯渇はさておき身体とかは」

 

さておかれた。

一応忘れてなかったのか、八兵衛様の肩に俵担ぎされた俺に心配の声をかける横島。

 

「まぁな、知っての通り霊力使いきったから霊力は枯渇してるけどな」

 

「ってことはなんだ?あのスピードの車から飛び降りて、その中俺を空中で拾って、俺を車に放り投げて、そのまま無傷で着地したのか?おっまえとうとう人間じゃなくなったんやな」

 

「おい待て横島、なんだそのいつかは人外になると思ってましたと言わんばかりの言葉は」

 

「違うのか?」

 

「ちがわい!!」

 

「違ったの?」「違うんですか?」

 

「美神さんにまさかのおキヌちゃんまで!」

 

ひどすぎる。苦笑しながらだから冗談なんだろうけど、まさかおキヌちゃんにまでそう思われていたとは。

やっぱりこの事務所の良心は俺だけだったみたいだ。

【寝言は寝て言え】

……泣いていいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあアンタはその九兵衛を捕まえるまでは私達のところに居るのね?」

 

「うむ、本来人の手を借りるつもりはなかったのだが、恐らく奴が次に現れた場合、美神殿の事務所に依頼が来るだろう、悪いがその時に情報を渡してほしいのだ。その間も当然九兵衛の気配を探るつもりではあるが、すぐ見つかるとも思えんしな」

 

「えらく効率的ね、まぁ確かに闇雲に探すよりは良いだろうけど」

 

「すまん。その代わり、その間の美神殿の手伝いはするつもりなので宜しく頼む」

 

「え?マジで?!じゃあ早速仕事受けまくるわね!」

 

「じ、神通力も限界があるのだ、それに九兵衛も探さなければならないのでな。多少で許してくれ」

 

「チッ」

 

仮にも神様相手にいい度胸してるよなこの人。

一応俺が動いた意味はあったようで、横島は大怪我していないため八兵衛様も横島に取りついていない。

そしてそれぞれ自己紹介をした後に色々と八兵衛様の話を聞いてみたところ、どうやら先程のエルエルと呼ばれていた天使は、上司に言われて九兵衛逮捕の協力に来たらしく、元々人間や魔族、妖怪、元妖怪の神様などを見下す癖がある神族らしい。

韋駄天も元々鬼だったこともあり、彼女からすると下に見ているらしい。

【実際には派閥が違うはずなので上下はなく……】

ただ根は真面目らしい。

とまぁ美神さんと八兵衛様で話も纏まったようで、あとは九兵衛を捕まえるだけだな。

【おいまだ話の途中】

さて、心眼の時にもわかってたけど、横島の大怪我を避けられたことを考えると、歴史の修正力はそこまで気にしなくて良いかもしれないな。

まぁ油断は出来ないけど、やっぱり俺の知識で言う原作、という流れに対しては歴史の修正力の対象外なのかもしれない。

【唐突に考え始めることではないだろう】

 




天使はオリジナルキャラです。
ネットで検索してみたらエルエルというキャラも居るみたいですが、全く関係なく、たまたま名前が一緒になってしまっただけです。

ちなみに、以前も記載しましたが、もう一人のオリキャラ、猫又の方は見た目は某東方の地獄に居る猫さんが成長したような感じですが、一応オリキャラです。思いついた見た目があの娘で思い付いてしまったのですが、キャラ設定などは全くあの作品とは関係ないです(いつかあの作品二次も書きたいなぁ)

宗教関係の管轄、あまり触れない様にしてますが、特に大きい理由があるとかではないです。難しいなぁ、と思っただけなので、この作品の中でもふわっとしてるので特に考えなくて大丈夫です。


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24:八兵衛Tシャツは断固拒否します

2月中には間に合いませんでした……。
今後もほそぼそと更新していくと思いますのでよろしくおねがいします。
今回、書き上げ即投稿なのでいつも以上に誤字や矛盾などがあるかもしれませんので、もしあれば指摘いただけると幸いです。なるべくすぐ修正します。

前回のあらすじ:九兵衛登場、八兵衛登場、知らん天使登場


「うわははは!すげぇ!俺もこれでヒーローや!」

『横島クンの霊力はほとんど使っておらぬだろう』

「細かいこといいっこなしっすよ八兵衛様」

 

うわぁ、横島が空飛んで悪霊を神通力でなぎ倒してるよ。

あれから、心眼の提案で八兵衛様は横島や俺に憑依して神通力を使って事務所の仕事を手伝ってくれている。

心眼としては、八兵衛様に横島と俺の成長のための協力をしてほしいということらしい。

一応たまに、ということにはなっているし、八兵衛様から提案された『あの』Tシャツは俺と横島の全力の拒否もあって、着ることなく手伝ってもらっているが。

ついでに色々ヨコシマンだとシュウマンだの提案されたがそっちも丁重に断らせていただいた。

 

「いやぁ、本当に楽でいいわね。御札も使わないから経費が削減できて私も楽ができて完璧だわ」

 

横で美神さんが笑顔でお金を数えながら、横島IN八兵衛様の戦いを見ている。

美神さんはご機嫌だし、横島の怪我治療に神通力を使う必要がないから想定より八兵衛様の神通力も使わず済んでるし、このままいけば九兵衛との戦いも多少楽にいくかな。

あ、除霊終わって横島が戻ってきた。

 

「ふむ、それにしても本当にこの事務所の助手は優秀だな。横島クンは底しれぬ霊力を秘めておるし、シュウクンは肉体的に非の打ち所がない、下手をすると九兵衛を捕まえる際に憑依して戦っても勝ててしまうかもしれんな」

「あら、その場合は横島くんとシュウくんどっちに憑依するのかしら?」

 

横島への憑依を解いて笑いながら言う八兵衛様に美神さんが質問する。

 

「うーむ、どちらも大きなメリットはあるな。ただ、単純な戦闘力で言えばシュウクンかもしれんが、少し霊的攻撃力に欠ける、か。その点横島クンに憑依した場合は攻撃力は多少落ちるものの、バランスが良いのと持久力があるのは強いな。そう考えると、機会があるとすれば横島クンに協力をお願いしたいところだな」

 

少し悩むように言う八兵衛様。

まぁ横島のほうが攻撃力が落ちるって言ってもあいつも十分爆発力あるしな。

 

「とは言ってもやっぱり人間に憑依したら弱くなっちゃうんじゃないの?」

「我々の場合下界に降りた時点で元々力を制限されているのでな、人間に憑依した場合はその人間の身体が保たない心配がある程度で、意外と戦えるのだ。それに、その点についてはこの二人は全く心配いらないので制限は無いようなものだ」

「「どういう意味じゃ!!」」

 

横島と同時にツッコミを入れるが、間髪入れずに美神さんがお金をしまいながらジト目で口を開く。

 

「あんたら人間にしては頑丈すぎるのよ。なに?言われなきゃわかんない?」

「「……こいつの不死身っぷりと一緒にしないでください」」

 

え?

何言ってるのおまえ、と横島の方を見ると、同じ表情で横島が俺の方を見ていた。

 

『似たようなものだ』

 

ため息をつきながらつぶやいた心眼の言葉に傷つく二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、事前に話した通り、わざわざ時間と場所を指定して呼び出してくる時点でだいぶ自信があるみたいなので、油断しないでくださいね」

「承知。悪いが九兵衛を油断させるためだ、横島クン!協力感謝する!」

「いやじゃー!!なんで俺がそんな危険な役目をやらにゃいかんのじゃー!!」

 

とうとう予想通り九兵衛からの挑戦状が来た。

俺の忠告を受けて事前に話していたとおり横島に憑依しようとしているであろう八兵衛様。

横島は最後まで諦め悪く暴れているらしい。

 

「ほ、本当にこれで良いのか?これは憑依して構わないのか?」

「あー、良いのよ、というか憑依したらいつもと違って意識まで乗っ取って自分の意志で戦っちゃって良いわよ八兵衛様」

「なんちゅーことをいうんですかあんたは!!」

「承知した」

「承知すんなー!!」

 

心配そうな声を出す八兵衛様に対して笑いながら非道な事を言う美神さん。

横島……南無……。

 

「てめぇシュウ!両手合わせんじゃねぇ!今からでも良いから変われ!!」

「大丈夫大丈夫、俺も戦うから。つかなんで俺が両手合わせたのわかんのお前」

「お前は新幹線の中で安全に戦うんだろうが!!」

 

そう、実は今俺と美神さん、おキヌちゃんは新幹線の中にいる。

そして横島は新幹線の天井で縛られていて、その隣に八兵衛様がいるのだ。

まぁ諦めが悪すぎて美神さんに縛られたんだけど。

八兵衛様が憑依したらあんな縄関係なく引きちぎるんだろうけど、そんなところが原作と同じになるとは思わなかった。

 

「来たか」

「あー!乗っ取られるー!俺の身体が人のものにー!!」

「人聞きの悪いことを申すな!借りるだけだ!」

「ぎゃー!!」

「うるさいわねぇ」

 

いや美神さん流石にそれはひどいんじゃないですかね。

 

 

 

 

 

 

「遅い!遅いなぁ!やはり最速は俺だったのだ!」

 

窓の外を九兵衛が走っているのが見えた。

あの様子だと、やっぱり早くなってるみたいだな。

恐らく超加速も使えるようになっているだろう。

 

『九兵衛!』

「人間?八兵衛はどこだ」

『神妙にいたせ!霊波光線!』

「なに?!っく!」

 

横島IN八兵衛様の霊波光線が九兵衛に向かって飛ぶが、当たる直前に九兵衛が消える。

 

『なに?!』

「ふ、危ないところだった」

『貴様いつの間に後ろに!』

「俺はこの数日必死に修行してきた。そしてついに極意を得た」

『超加速だと?!』

 

予想通りの展開が頭上で繰り広げられているが、その間に窓から外に出て新幹線の側面にへばりつく。

これなら八兵衛が見えない位置のはずだ。

と奇襲の準備をしているところで、空から白い何かが降ってくるのが見えた。

 

「とうとう見つけたぞ、神族の面汚しめ」

『エルエル殿?!いけませぬ!』

「ふふふ、まずはこいつから殺してやるぞ、そこで自分の無力を味わえ八兵衛!」

「な、なんだと?!」

 

あ、エルエル様出てきた瞬間超加速を使った九兵衛に捕まってる。

ヤバい、九兵衛が挑発じゃなくてすぐに攻撃しようとしている。

 

「そうはいくか!」

「ぬぉ?!」

『シュウクン?!』

「今です美神さん!!」

 

一気にへばりついていた側面から屋根に飛び上がり、エルエル様を掴んでいた九兵衛の腕を捻り上げてその勢いで腹に蹴りを叩き込む。

エルエル様を抱えて少し九兵衛から離れた場所に着地。

 

「せーの!」

 

その勢いでつんのめった九兵衛の尻めがけて、美神さんが屋根に向かって突き上げた神通棍が突き刺さる。

 

「のおぉー!!」

「休ませるかよ!」

 

このまま放置すると怒った九兵衛が今度は美神さんを人質にしてしまう。

エルエル様を新幹線の屋根に降ろして、今度はたっぷり霊力が詰まった攻撃を九兵衛の顔面に叩き込んだ。

 

「八兵衛様!」

『よくやった!終わりだ九兵衛!!』

 

霊力が枯渇して倒れながらも叫んだ俺の声に応えて、待ってましたとばかりに八兵衛様の攻撃が九兵衛に迫る……?!

九兵衛が消えた。

 

「まだだ、まだ終わらんぞぉ!!」

「え?」

「ぐぇ?!」

 

再度現れた九兵衛は美神さんを掴んで怒りの表情で俺の真横に立っていた。

そして片足で俺の頭を踏む。痛い。

 

『き、貴様……!』

「どうやらこの小僧は霊力がなくなったらしいな。さて、改めて同じ状況になったが、今度こそ貴様に自分の無力さを味わわせてやろう」

 

九兵衛が改めて八兵衛に向かって勝ち誇った笑いをあげる。

ふと、その瞬間周りが暗くなる。

トンネルだ。

その瞬間、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

<第三者目線>

 

「さて、これで終わりだ」

「きさまぁー!」

「悔しいか八兵衛!ざまーみっ?!貴様八兵衛はどうした?!」

「あ、すぐバレたか。でもな、もう手遅れみたいだぜ」

 

九兵衛の言葉を聞いてニヤリと悪い笑顔を見せる横島。

その瞬間、九兵衛の足元から強い力があふれる。

倒れていたシュウからだ。

 

『確かに終わりだ九兵衛。外道焼身霊波光線!!』

「ば、馬鹿なぁ!」

 

シュウがゼロ距離で九兵衛に向かって霊波光線を放つ。

霊波光線をまともに受けてふらついた九兵衛に向かって跳ね起きたシュウが追撃を叩き込む。

掌底で顎を叩き、仰け反った九兵衛の長い髪を掴んでそのまま新幹線の屋根に叩きつける。

それを蹴り上げ、少し浮いた九兵衛の身体に乱打を打ち込む。すべての攻撃に神通力が込められている。

 

「ぐっあっ!おっおっおっ……!!」

 

確実にダメージが溜まっていく九兵衛だったが、シュウが殴り飛ばした際に距離ができてしまう。

フラフラになりながらも、これで超加速に入れる、と体勢を整えようとした九兵衛だったが、シュウも振り返って美神とエルエルを見る。

 

『美神殿!エルエル殿!霊力を私に!』

「わかったわ!受け取って!」

「え?あ、あぁ……!」

 

シュウが二人から霊力を受け取り、同時にシュウと九兵衛が超加速に入る。

一瞬の後、そこにはプスプスと煙を上げながら倒れている九兵衛がいた。

 

「お……俺より速いやつなど……いるはずが……」

『悪に染まった貴様には負けん』

 

倒れる九兵衛を無傷で見下ろすシュウ。

そこに美神が近付く。

 

「八兵衛様、トンネルに入った瞬間に横島くんから抜けてシュウくんに取り付いてたのね」

『うむ、シュウクンと横島クンには本当に助けられた』

「わっはっは、一瞬で見破られましたけどね」

 

動けなくなった九兵衛を担ぎながら言うシュウIN八兵衛。

横島は笑いながらシュウに近づく。

そんな中、エルエルは少し複雑そうにシュウと横島を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

それから、駅に到着した面々。まだ八兵衛はシュウに憑依していた。

 

「ところで、シュウは?」

『憑依したタイミングで気絶したようだ。誰か、憑依を解くのでシュウクンの身体を』

「……私が」

『エルエル殿……。お願いしてよろしいかな』

「……フン」

 

八兵衛が憑依を解くと、シュウの身体が崩れるがそれを受け止めるエルエル。

そしてそのまま駅のベンチに座らせる。

 

「ではすまないが我々はこのまま神界に九兵衛を連れて行く必要があるのでここでお別れだ。みなさんには本当にお世話になった。シュウクンが起きたら私がよろしく言っていたと伝えてくれると嬉しい」

 

そこまで言って八兵衛は頭を下げていなくなった。

そして、エルエルも目をそらしながら、今回は褒めておこうとだけ言って消えたのだった。

 

 

 

 




最後、シュウ的にはいつの間にか終わってた感じです。
後日心眼から説明受けて凹んでます。


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25:香港編①

やーっとちょっとだけ仕事が落ち着きました。
プライベートの方は中々落ち着かないのでやはり不定期更新ですが、ようやく香港編に入ります。
香港編が終わるまではなるべく連続で投稿するようにがんばります。
※ちょっとは続きも書いてるので



「これが」

 

「あぁ、私のところに送られてきたものだよ」

 

現在唐巣神父の教会で、美神さん、唐巣神父、ピート、横島、俺、心眼が針を囲んでいる。

タマモは置いてきた。香港に連れていくつもりもない。

そういえば既に原作と流れが違う。確か針は唐巣神父達が留守の間に届いて、ご近所さんが一旦受け取ってたんだったと思ったんだけど。

やっぱり細かい状況は常に変わってるみたいだな。

 

それにしても、とうとう香港か……。

結局俺は大した霊能力も得られぬままここまで来てしまった。

あれから新しく出来たことと言えば、小出しに拳や蹴りに霊力を乗せて攻撃出来る様になったくらいだ。

全力を出せば結局時間制限は2秒。

あとは霊的防御だけど、それだって一部に特化させてしか出来ない。

 

【気にするな、それでも全くなかったころに比べたら天と地の差がある】

【……これじゃ足りないんだよなぁ】

 

心眼に心の中で返事する。

結局メドーサ達より先に動けなかったせいで何人もの風水師が犠牲になる……。

無意識にギリと歯を食いしばってしまったところを横島にみられて怪訝な顔をされてしまう。

こいつ結構鋭いから気をつけないとな。

 

【さて、針は結局最初に話していた通り】

【あぁ、守れれば御の字で、最悪一度奪われても仕方なし、だな。相当不本意だしあまり納得できないけど、流れが読みやすくなるのは間違いないし】

【来たぞ】

 

大きな音を立てて雪之丞が教会の扉を開く。

 

「そいつは俺が送ったんだよ。美神の旦那の事務所に送るか迷ったんだがな、どちらにしてもあんたらならヘマはしないと思ってな」

 

「雪之丞?!」

 

現れた雪之丞に横島が驚きの声をあげる。

美神さんと唐巣神父、ピートは既にいつでも動けるように構えている。

 

「ヘマはしないってどういうこと?」

 

「その針をメドーサや勘九郎が狙ってるのさ」

 

「メドーサ?!またあいつが出てくるの?!」

 

雪之丞の言葉に美神さんが反応する。

それにしても雪之丞、結構元気そうだな。

本来なら空腹で倒れるんじゃなかったっけ。

 

【シュウ】

【あぁ、来たな】

 

「その前にお客さんみたいっすよ!」

「シュウ?!」

 

全員に聞こえるように叫んで窓に向かって飛び上がる。

大きな音を立ててガラスを割って入ってくる何者かに合わせる形でそのまま蹴り落とした。

俺のつま先がゾンビの顔面に突き刺さり、そのままマスクが剥がれてゾンビの顔が露わになる。

うっわ、グロッ……最悪だよ。

向こうからしたら完全な不意打ちをするはずが、逆に不意打ちされることになったからか、簡単に倒せたのは良かったけど。

 

「ぞ、ゾンビ?!」

 

横島の声に反応するように他のゾンビ達も次々と教会へ入ってくる。

全員で対処しようとするが、他のゾンビ達は動かない。

 

「驚いたわ、あのスピードで反応するなんて。予定より人数が多かったから少し減らそうと思ったんだけど、やっぱり私の目に狂いはなかったわね」

 

「か、勘九朗!」

 

横島の声に反応して入り口を見ると、勘九朗が感心した様な顔で立っていた。

雪之丞もこちら側に飛び退いて勘九郎に向けて構える。

 

「さて、その針は私達の物なのだけれども?返してもらえないかしら」

 

「雪之丞君は我々を頼って来てくれたんだ、私はそれに答えようと思うよ」

 

やっぱり神父は人格者だなぁ。

まぁ俺も簡単に渡すつもりはないけど。

 

「あらそう、そっちは?」

 

「えー、報酬とかないのはなぁ……」

 

「み、美神君……」

 

神父の呆れ顔に同意するしかない。我らが所長ながら悲しすぎる……。

つってもこれが美神さんだよなぁ。

 

「美神さん、雪之丞の依頼主に請求したら良いんじゃないですか?」

 

「あら、それもそうね、こんな厄介な状況になる位だもの、雪之丞だって単独行動じゃないでしょ?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「OK、手伝いましょ」

 

流石だよな、この人。

さて、ここからどうなるか正直読めないけど、頑張るしかないわな。

 

「そ、残念ね。じゃあ、死んで頂戴」

 

勘九郎の声を切欠に、戦闘が始まった。

 

雪之丞が魔装術に身を包み、横島がサイキックソーサーを構え、美神さんが神通棍を構える。

神父もピートも霊力をみなぎらされているし、このメンツなら勘九郎相手でも勝てるんじゃないか。

とにかく、珍しく俺が活躍できそうな場だ、頑張らないとな。

 

「悪いけど、ゾンビだからって防御が高かろうがコイツらにとって俺は天敵だ」

 

言いながら即近くに居たゾンビの腹に蹴りを打ち、他のゾンビに突っ込ませる。

それだけで向こうの陣形はかなり崩れる。

崩れた場所に一気に移動して近くにいたゾンビに足払いをかける。

前宙して、体制を崩したゾンビの顔面に踵を落とす。

相手の身長を考えると結構高く飛び上がらないと届かないのが辛いところだ。

ゾンビの顔面が潰れて動かなくなったのを確認して、俺の後ろに迫っていたゾンビに対して振り向きながら手刀で首を飛ばす。

 

「あー!触りたくないから蹴ってたのに!!」

 

手についたどどめ色した謎の体液を振り落としながら周りのゾンビに追撃をする。当然蹴りで。

 

「チッ、アンタは予想以上に厄介ね」

 

「横島!」

「おう!」

 

勘九郎の言葉を無視して横島に声をかけながら周りから一斉に襲ってきたゾンビをかわして空中に飛び上がる。

その直後に俺がいた場所で複数のゾンビを巻き込んで爆発が起こる。

横島が投げたサイキックソーサーが爆発したのだ。

 

「よっしゃー!」

 

「はぁ、もう少し楽しもうと思ってたけど、そんな余裕はなさそうね。これで文字通り足止めさせてもらうわ」

 

勘九朗が将棋の駒の様なものを取り出す。

ここだ……!!

 

【おいシュウ!!まさか!!】

 

頭の中に心眼の声が響くが反応はせず、勘九朗が投げた駒を全て蹴落とし、自分の足元に落とす。

 

「「「なっ!」」」

 

知識通り俺の足元から石化が始まる。

くっそ、出来れば俺も避けられればベストだったんだけどな!

 

【シュウ!お前最初からそのつもりで……!!】

【悪い心眼、今の俺のレベルだと俺が行くより唐巣神父が行った方が勝率も被害も抑えられる可能性も上がるって】

 

心眼に心のなかで謝りながらバンダナを取って横島の方へ投げる。

視界の端で勘九郎は笑っていた。

 

「ふふふ、ちょっと予定外だったけど、厄介なのが一人減ったと考えれば問題はないかしらね。

さて、針も手に入ったことだし、私達はここらで退散させて貰うわよ」

 

「げ!いつの間に!アンタ、ウチの従業員を元に戻していきなさいよ!!」

 

勘九朗の横にいるゾンビが針を手にしているのを見て美神さんが叫ぶ。

石化は既に腰まで来ている。

 

「全員石に変えてあげられなくて残念ね。ま、私達の邪魔をするならアンタ達も同じ目にあうと言う事を肝に銘じておくのね」

 

それだけ言い残して勘九朗たちは姿を消した。

 

「シュウ!」

 

横島が俺にかけよる。ギリギリで霊的防御を行っていた為か、石化の進行は多少遅い。

ただ俺の霊的防御じゃ大して時間は稼げないだろう。

 

「悪い、アイツらの事は頼んだ。元に戻してくれることを期待してるわ。あと、心眼を連れて行ってくれ」

 

「それは土角結界だ、術者の手を当てれば元に戻る」

 

「雪之丞、この貸しは高いからな」

 

「う……スマン……」

 

見て解る程に消沈する雪之丞。

やべっ、そりゃ気にするわな。

 

「冗談だよ。戻してくれるんだろ?」

 

「あぁ、アイツの手を切り落としてでも戻す……!」

 

「ちょっと!アンタら何勝手に締めてるのよ!何とかならないの?!」

 

グッと拳を握って俺に見せた雪之丞の肩を掴んで美神さんが焦るも、既に石化は俺の首まで来ている。

横島はおキヌちゃんと一緒にあわあわと右往左往しているが、次に見るときには横島はまた強くなってるんだよなぁ。

また離される、か。

 

「……美神君、精霊石を渡したまえ」

 

「先生?どうするつもり?」

 

疑問の声を上げながらもすぐにネックレスにつけていた精霊石を投げ渡す美神さん。

ってまずい!!

 

「やめて下さい唐巣神父!!それじゃ俺が止めた意味が……!!止めろ横島ぁ!!」

 

そこまで言ったところで口まで石化する。クソ!最悪の事態だ!

 

「悪いねシュウ君、君はもしかしたらこうなるのを解って自分がそれを食らったのかもしれないけど。後は若い者に任せるよ」

 

「せ、先生?!まさか」

 

唐巣神父が言いながら俺の石化した肩に手を置く。

美神さんが気付くがもう遅い。

 

「後は頼んだよ?美神君」

 

「まっ!」

 

唐巣神父が握っていた精霊石が光り輝き、俺を覆っていた石化が凄まじい早さで神父を包む。

俺が石化から解放されて膝をついた時には、既に神父様は石に包まれて動かなくなっていた。

 

「せ、先生!」

 

ピートがようやく何が起こったかを理解して叫んだ。

……クソ!!

 




なんかシュウがいらんこと考えてると、だいたい失敗している気がする。


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26:香港編②

香港編、好きな話なのでたくさん書きたいけど、
中々そうはいきませんなぁ……。

実際、香港編って失敗イコール世界崩壊レベルの超危ない戦いですよね。


「…………」

 

「…………」

 

く、空気が重い。

今俺達は香港に向かう為空港に居る。

シュウは、あれから目つきが怖い。

なんというか、焦ってると言うか凹んでいるというか情緒不安定な感じだなぁ。

もう少し肩の力抜けばいいのに。

そして、シュウの前には……。

 

「何でお前がいるんだ、タマモ」

 

「良いじゃない、私一人連れて行くくらい」

 

タマモ空気読め、シュウの機嫌が滅茶苦茶悪いんだって。

ほらシュウの眉の角度が更に上がったぞ。

 

「遊びじゃないんだぞ、当然戦いだって」

 

「……アンタ、石化しかけたんでしょ?」

 

「……!誰が」

 

「横島」

 

げ、アイツすぐにばらすなよ!うわっ!シュウがスゲェ目つきで睨んできてる。

こそこそと美神さんの後ろに隠れる俺を見て、ため息をついてタマモに向き直るシュウ。

 

「そういう危険もあるから待ってて欲しいんだよ」

 

「アンタねぇ!勝手に復活させて勝手にいなくなるなんて私が許すとでも思ってんの?!」

 

「う……」

 

少しきつめに言ったタマモに対して一歩下がるシュウ。

あれを言われるとシュウもキツイだろうなぁ。

 

『シュウ、お前の負けだ、連れて行ってやれ』

 

「心眼?!ただでさえ唐巣神父が外れてるんだぞ?!」

 

『であれば、なおさらこ奴がいれば十分力になってくれると思うがな』

 

「本末転倒じゃないか」

 

『しかしこのままこちらの意見を押し切ったところで、タマモはついてくるぞ。それなら最初から一緒に居た方が護りやすいだろう』

 

「く…………解った、大人しくしとけよ」

 

「よっしゃ!でかした心眼!褒めてあげるわ!」

 

『……やれやれ』

 

シュウが諦めたように言ってタマモがガッツポーズで心眼にお礼を言う。

何とか丸くおさまったみたいだな。

それにしても、タマモとシュウってパスポートどうするんだ?

 

「私が何とかしておいたわよ」

 

「美神さん……何をどうしたらパスポートなんて偽造出来るんですか」

 

「知りたい?」

 

あー、いつものやつっすねー、あまり深く聞かない方が良さそうだ。

俺は首を高速で横に動かした。

 

 

 

 

============================================

 

 

 

まさかタマモまで来ることになるとは思わなかった。

とはいえ、出来れば最初にメドーサのアジトに乗り込んだときに俺も行って針を盗んで終わり、にしたいところだ。

そうすればタマモや美神さんが危険にさらされることは無いはず。

ピートには悪いけど付き合ってもらうか。

 

既に雪之丞から元始風水盤の話を聞いた俺たちは海底トンネルを歩いていた。

西条さんにも来てほしかったが、タイミングが合わず連絡が取れなかった。待つ暇もないのですぐに出発したわけだが。

 

「なるほど、この亀裂からピートが霧になって侵入できるってわけか」

 

「あぁ、香港島の地下に奴らのアジトがあるらしいんだが、ここからなら侵入可能ってわけだ」

 

横島の疑問に雪之丞が答える。

 

「ピート一人で行かせるのか?そりゃだめだろ」

 

「いえ、あと一人なら僕の能力で連れていけますが」

 

俺の言葉にピートが答える。

でもなぁ、正直ここから侵入しても向こうにはバレてるだろうしな。

 

『……ここから侵入した先に結界が張られているぞ』

 

「あちゃー、向こうも馬鹿じゃないってわけね。だとすると危険ね」

 

「オイオイ、つっても他にルートは知らんぞ」

 

心眼が霊視して結界があることを伝えると、美神さんは天を仰ぎ、雪之丞がマジかよ、と頭に手をやる。

出来ればここでピートと一緒に俺が行って、俺がゾンビや勘九郎と戦っている間にピートが針を奪うってのが良いと思うんだけど。

 

【お主が行くのか?ただ何も考えずに行けば美神の代わりにシュウが捕まるだろうな】

 

心眼の正論が頭の中で響く。

だよなぁ。

本当ならこのタイミングで美神さん捕まるはずだ。

確かに俺のほうがゾンビ達相手なら相性はいいだろうけど、それでもピートが先に脱出しちゃったら脱出方法がないから捕まるよな。

そんなことを考えていたら今まで我関せずとぼーっと壁を見ていたタマモが口を開く。

 

「ねぇ」

 

「どうしたタマモ」

 

「あっちにも亀裂あるけど、どこから行っても駄目な感じなの?」

 

『ん?…………確かに、こちらの先に結界はないな』

 

心眼の回答を聞いてドヤ顔のタマモ。

 

「却下」

 

「えー!どうしてよ美神」

 

美神さんが呆れ顔で両手をあげるが、それに対して不満の声を上げるタマモ。

 

「なんでこっちの先には結界が張ってあって、そっちの先には結界がないの?私ならそこに罠張るわよ」

 

「流石美神さん卑怯」

 

横島は懲りないなぁ。

美神さんの肘が顔面に刺さっている横島を見ながら考える。

 

確かにそこは怪しい。

ただ、他に抜け道がないのであれば行かなきゃいけないのは、結界がある方か、罠があるであろう結界がない方のどちらかだ。

 

【ちなみに、横島達が美神を取り返しに行った時のルートがどうやって判明したかは……やはり覚えていないのだな】

【残念ながら】

 

心眼の言う通り、そのあたりの記憶があればなんとかそっちへの誘導も考えたんだけどな。

正直詳細までは覚えていない。

 

「どちらの道を選ぶにしても、元始風水盤がある以上行かないわけにはいかないぞ」

 

「わかってるわよ。まぁ行くのはピートと私かしらね」

 

「あ、ちょっとまってください」

 

美神さんが神通棍を取り出して言うが、そこに待ったをかける。

このままいかせたら美神さんが十中八九捕まる。

 

「なによシュウ」

 

「あのゾンビ軍団と相性を考えたら俺のほうがいい気がするんですけど、ピートの霧化とあわせたら最悪逃げてこれるすばしっこさはあると思いますし」

 

「あー……そうねぇ、一応一理あるかしら」

 

俺の言葉に少し考えて頷きかける美神さんだったが、更にそこに待ったがかかる。

 

「待ちなさいよ、シュウが行くんなら私も行くわよ」

 

「いやタマモ、話聞いてたか?ピートと一緒に行けるのはあと一人だって」

 

「でも危険なんでしょ?」

 

「まぁ、それ以前に世界が危険なんだけどな」

 

仕方ない、最初から彼女を頼ろう。

俺の言葉を聞いても全然納得してくれないタマモに対して一つため息を付いて雪之丞に向き直る。

 

「なぁ、依頼者って小竜姫様なんだろ?」

 

「なっ、どうしてお前がそれを」

 

「今確信したんだけどな。まぁメドーサ絡みだし、雪之丞に依頼しそうなの小竜姫様か六道家くらいしか思いつかないし」

 

「……正解だよ」

 

俺の言葉を聞いてバツが悪そうにそっぽを向いて頬を掻く雪之丞。

つかそういえばなんで内緒にしてたんだろうな。

 

「マジ?!薄々そうじゃないかとは思ってたけど、じゃあ報酬って結構貰えそうじゃない?!」

 

目をドルにしてはしゃぎ始める美神さんはおいておくとして、言葉を続ける。

 

「で、小竜姫様のことだし、何か秘策を渡してくれてるんじゃないのか?例えば、押したら小竜姫様が駆けつけるボタン、みたいなのとか」

 

「本当に鋭いな」

 

言いながらポケットからツノを出す雪之丞。

これが小竜姫様の省エネモードの姿だ。

 

そこから、何かあったときのために俺が小竜姫様のツノを持つということで話が決まり、俺とピートで結界がない方の亀裂に入ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろかな」

 

「ですね、戦闘準備はしておいたほうが良いかと」

 

ピートと共に亀裂を抜けた先には、予想と違い、罠などはなく道が続いていた。

しばらく二人で歩いたが、だんだん気配が多くなっていることは感じていた。

罠、というよりは単純に物量をこっちにあてた、という感じだろうか。

 

「意外ね、てっきり結界に気付かずに向こうに突っ込んでくるか、気付いても結界破りを持って結局向こうに行くと思って張ってたのに」

 

「やっぱりお前がいるよな、勘九郎」

 

「あら、予想通りかしら?ならこれも予想通り?」

 

勘九郎が指を鳴らすと、壁が崩れて石像の巨大な犬が現れた。

 

「ケ、ケルベロス?!」

 

ピートが驚きながらも霊力を放出して攻撃するが、ケルベロスは霊的攻撃を無効化する。

 

「む、無効化?!」

 

「そうよ、ケルベロスに霊的ダメージを与えるのは諦めなさい。ただ……」

 

勘九郎がこっちを見ながら目を細める。

それを無視してケルベロスの3つの頭の打ち中央の頭に向かって飛び上がり、拳を突き出す。

確かに硬さは感じたが、俺の拳はあっけなくその顔面を貫いた。

 

「来るのは雪之丞とバンパイヤハーフのボーヤかと思ってたから、この子が来るのはこっちも想定外なのよねぇ。せっかくこっちにはケルベロスまで配置してたってのに」

 

はぁ、とため息を付いてこっちを見る勘九郎。

子供じゃねぇっつうの。

ピートに近づいて小声で話す。

 

「ピート、先に針を奪いに行ってくれ」

 

「ですがシュウさんは」

 

「ゾンビ軍団は俺のほうが相性いいからな、ちゃんと逃げる時は拾ってくれれば良いよ」

 

俺の言葉に少し考える仕草をしたピートが頷いて俺の目を見る。

 

「……わかりました、すぐに戻ります」

 

「どうせ結界とか罠とか張ってあると思うから、すぐに彼女を頼ったほうが良いぞ」

 

「えぇ、シュウさんもお気をつけて!」

 

言いながら霧になって消えるピート。

意外だったのは邪魔をしなかった勘九郎だな。

 

「さて、とりあえず捕まって人質でもやっておく?」

 

言いながら魔装術に身を包む勘九朗。

 

「おいおい、霊力使えない相手に行きなり魔装術かよ。鬼だな」

 

「貴方相手だと人間の身体で戦ったら万が一があるからよ。いえ、万が一というか普通に負けそうね。霊力が使えないと言っても体術はそれこそ人外じゃない貴方」

 

酷い言われ様だ。

 

「……なぁ、なんでメドーサにつくんだ?アイツの元に居なくても強くなる方法はあると思うんだけど」

 

「説得、のつもりかしら?残念だけど、私はメドーサ様を師と仰いでるの。雪之丞みたいな恩知らずじゃないのよ」

 

「そっか、でもそのままだと心も身体も魔族になっちゃうんじゃないか?」

 

「そんなことは解ってるわよ。私だって素人じゃないわ」

 

そうだよなぁ。

どう考えてもメドーサに対する忠誠が雪之丞とは違いすぎる。

 

【お主の気持ちはわかるが、流石に無理だと思うぞ】

【あ、やっぱバレてた?】

【……最近諦めてきたがな】

 

心眼に呆れられてる感じがする。

といっても流石に確かに心眼の言う通りだな。

 

「……なるほど、説得は難しそうだ」

 

「頭の良い子は好きよ。悪いけど、捕まって貰うわ。心配しなくても大人しくしてればメドーサ様も子供を殺したりはしないわ…………たぶん」

 

「俺は17なんだがな」

 

「?!」

 

「いやそこでそんなに驚かれると毎回ながら傷つくんだが」

 

マジで凹みたくなる。

そろそろ初見で年齢見破ってくれる人いないかな。

 

「……ま、まぁ良いわ。じゃあ行くわよ」

 

「そう簡単に捕まるわけにはいかないんだわ」

 

勘九朗が地面を蹴って飛びかかってくる。それをギリギリまで引きつけてかわし、渾身の力で拳をわき腹に当てる。

入った、完全な手ごたえを感じた。

そう思った俺の頬を勘九朗の拳がかする。

吹き飛びながらも体制を立て直して反撃してきたのか。

少し掠った程度なのに、俺の頬が鋭く切られ、血が軽く噴き出す。

 

「チッ!」

 

すぐに手で傷をおさえて勘九朗の方を見ると、ちょうど壁にぶつかるところだった。

 

「ぐぅっ、……とんでもない子ね貴方。魔装術を纏った私にダメージを与えるのは霊力が無い貴方じゃほとんど無理とはいえ、それでもここまで簡単に吹っ飛ばされるとは思わなかったわ」

 

やはり、無傷。試しに霊力が全くない状態のままだとどうなるか確認してみたが、殆どダメージは入ってない様だ。

逆に向こうの攻撃は掠っただけでこのざま。

多少とは言え霊力を使える様になってて本当に良かったと思う。

とはいえ、まだ霊力を使う時じゃない。

向こうが油断しきった瞬間、一番良いタイミングで霊力を込めた攻撃を叩きこむ。

今の所こっちが霊力を使えることは気付いていないはずだ。

そこで勝負をつけないと、俺は勝てないだろう。

 

地面をける、休む暇は与えない。

顔面へのニーキック。

勘九朗の頭が壁にめり込むが、当然ダメージは余り期待できていないのですぐに距離を取ると、目の前を勘九朗の爪が通る。

 

「あぶねぇ、一発でも食らったら死ぬなコレ」

 

「ギリギリ殺さない程度には手加減してあげてるつもりよ」

 

「そりゃお優しいことで」

 

「まだ一応人間の心も残ってるもの、子供を殺すのは気持ちいいものじゃないわ」

 

「ガキじゃねぇって!」

 

今度は助走をつけて勘九朗へ向けて走り出す。

カウンター気味に繰り出してきた勘九朗の拳を避け、後ろに回り込んで背中にラッシュを叩きつける。

駄目だ、油断しているとはいえ、やはり防御に力を注いでいる為か手ごたえがさっきより少ない。

何発も顔面や背中、腹部に攻撃を加え、一発でも食らったら終わりの攻撃を辛うじて避け続ける。

隠し持っていた神通混で試しに斬りつけてみたが、霊力が足りず予想通り素通り。

それでも勘九朗に若干の疲れが見え始める。

 

「貴方、本当に凄いわね。私だってそこそこに当てる気で打ってるのに、当たる気がしないわ」

 

「あまり長い間魔装術を使い続けたらヤバいんじゃないか?」

 

「ご心配ありがとうね。悪いけどそろそろ遊んでる場合じゃないのよ。タイマンでやってみたかったけど、手加減なしで行かせて貰うわ」

 

勘九郎の合図にゾンビ軍団が動き始める。

出来れば攻撃に霊力を使ってくれれば、今まで攻撃を受けてもダメージが無い事を良い事に殆どの霊力を防御に費やしてたハズの勘九郎にダメージを与えられると思っていたが、ゾンビ軍団が一緒となると難易度が跳ね上がる。

 

【油断するなよ】

【わかってるよ】

 

後ろから迫ってきていたゾンビのつま先に踵を落としてダメージを与えつつもつんのめさせる。

そして下がってきた頭に肘を落として倒し、横にいたゾンビに本気で蹴りを放つ。

ゾンビの胴がありえない角度で曲がって吹き飛ぶ。周りにいたゾンビも巻き添えに。

それでも大量に現れるゾンビ。

きりが無いな。

 

「お待たせしました!」

 

どうするか考えていたところにピートが突然現れる。

針を抱えているところを見るとうまくいったようだ。ただ、ちょっと焦げてるところを見ると結局罠にはかかったみたいだが。

ピートの位置は、俺と向き合っている勘九郎の後ろだ、2対1ならスキを突いて逃げることもできそうだ。

 

「ナイスタイミング!それじゃにげ……!」

 

急に後ろから引っ張られて宙に浮かされる、誰かに後ろから襟を掴まれた事をすぐに理解した俺は身体を反転させて第三者の首元を刈る様に蹴りを入れた、つもりだった。

俺は目の前に現れた顔を見て固まってしまった。

 

「な……ぁ……!」

【し、しまった……!】

 

「メ、メドーサ!」

 

頭の中で心眼が叫び、ピートがこちらをみて叫ぶ。

俺の蹴りはメドーサに片手で受け止められていた。

 

「吸血鬼のボウヤには針を取られるし、あまりに遅いから見に来たら、アンタかい。確か、GS試験の時に小竜姫と一緒に居たね」

 

「っく!」

 

「甘いね」

 

受け止められた足を軸に回転しながら逆足で顔面を蹴りに行くが、簡単にもう片方の手で受け止められる。

 

「メドーサ様、その子は霊力を使えませんので、人質に使うのであれば霊力や魔力を乗せた攻撃をしてしまうと簡単に死にますのでご注意を」

 

「ふぅん、体術は人間とは思えない程に良い動きするのにねぇ。……お前、本当は霊力を使えるだろ」

 

気付かれている。

当たり前だ、ただでさえ素人レベルで霊力が使える様になっただけなのに、メドーサレベルを誤魔化すほどのコントロールなんて出来る訳が無い。

 

【シュウ!】

【解ってる、気付かれてるなら最初から全開だ!】

 

霊力をめぐらせて身体能力を強化し、身体を捻ってメドーサの拘束から逃れる。

油断していたのか簡単に外れた為、すぐに着地して地面をける。

地面と壁を蹴ってメドーサの背後にまわると、全力で霊力を乗せた拳を突き出した。

ここでダメージを与えてピートのところへいければ……!

 

「……なるほど、あの時のイカれた白いヤツもお前だったのか」

 

静かに話すメドーサの声が響く。

俺は、メドーサが背中にまわした刺又に受け止められた拳を突き出したまま、改めてメドーサの強さを思い知らされていた。

 

「アンタ霊力使えたの?!」

 

「とはいっても最近覚えたばっかの付け焼刃みたいだねぇ」

 

勘九朗の声が響くが何の解決にもならない。メドーサの言う通り所詮付け焼刃なのだ。

 

「えーと……じゃあ俺はこの辺で」

 

「あぁ、気をつけて帰んなよ……ってなるわけないだろう。というか地面に横たわった状態でどうやって帰る気だい?」

 

手を上げて振り返って立ち去ろうとする俺だったが身体が前に進まない。

当たり前だ。時間切れで霊力枯渇して倒れてるんだから。

まぁ普通に歩けたとしても後ろ襟をメドーサに掴まれて前に進まなかっただろうけど。

 

「霊力はあれですぐ枯渇するのかい。それも面白いが、お前、人間の癖にそこまでの体術が使えるなんて本当に面白いねぇ。さっきの一撃だって私が警戒してなければ確実に入ってたレベルだったし、下手したら打ちあいのみなら魔族や神族とやりあえるレベルだよ」

 

この状況を見る限り何の解決にもなってない情報だ。

 

「おっと、吸血鬼のボウヤ、動くんじゃないよ?」

 

ジリ、と様子をうかがっていたピートに向かって顔を向けつつ俺の首に刺又を向けるメドーサ。

このまま針を持ち出せないとか最悪の最悪だ。流石にそれは駄目だ。

 

「ピート!逃げろ!」

「しかし!」

「針を取られたら終わりだぞ!小竜姫様!ピートを!」

『っ!ピートさん!逃げるのよ!!』

「っく!」

 

小竜姫様の声がして霧に変わるピート。

これでなんとか最悪の事態は避けられ……。

 

「小竜姫!!この子の命が惜しくば針を持ってくるんだね!!この子は針と交換だよ!!」

 

避けられたと思ったところでメドーサが叫ぶ。

その声とともに霧は壁の隙間に消えていった。

 

「さて、どうする?坊や」

 

「……」

 

「だんまりかい?……勘九朗、私はコイツに興味が出た。土角結界で動けない様にだけして奥に連れてきな。顔は出しときなよ、色々聞きたいことがある」

 

「はっ」

 

【首の皮一枚ってところだな。流石に本当に今回はまずい綱渡りだったな】

【結局、美神さんと立ち位置が入れ替わっただけ、だな。まぁ俺なんかより美神さんが無事なら何とかなると思うけど】

【確かにな。恐らく横島も今回で栄光の手は使える様になるだろう。いくら美神がいるとはいえ、アイツを護りながら進む程の余裕は生まれないハズだからな】

【……ほんとうに首の皮一枚だな。悪い】

【私に謝ってもしょうがないだろう。それに今回は別にシュウだけが悪いわけではあるまい。私も間違った選択をしたのは間違いない】

 

勘九郎に運ばれながら霊力が少し回復してきたところで、ふいうちに賭けようと思った瞬間、首筋に一撃貰う。

少し遠くにいたはずのメドーサの顔が見える。超加速かよ……容赦のないことで……。

遠くなる意識の中、横島達が上手く行くことを願うしか俺には出来ることが無かった。

 




香港編が終わったらまた止まるかもしれないですが、完結向けてボチボチ勧めていきます。


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27:香港編③

そういえば原作で元始風水盤の後片付け誰がやったんだろう……。

あ、香港編最後です。
またちょっと時間あいてしまうかと……。


「なるほど、貴女が今回のクライアントってわけね」

 

美神の言葉に対して小竜姫が首を縦に振りながらピートに手をかざす。

するとピートの怪我が治って飛び起きた。

色々まくしたてようとしているピートを抑えて小竜姫が振り返りながら話す。

 

「はい、もう少しやりようもあったかと思いますが、こうなってしまった以上正面から奴らと戦うしかありません」

 

この状況になってからでも他にやりようもあるでしょうに。時間はかかるだろうけど。

でも私にとってはそれどころじゃない。

シュウが戻ってないのだ。時間はかけられない。

 

「シュウクンが帰ってきてない、ってことはそういうことよね?」

 

「うっ……」

 

「……」

 

美神の言葉にピートが言葉を詰まらせる。

小竜姫も眉を歪める。

 

「無事なんでしょうね?」

 

「えぇ、メドーサは針と交換と言っていたので、危害は加えないでしょう」

 

私の質問に対して淡々と話す小竜姫の言葉に一瞬怒りが湧く。

神様だか何だか知らないが、他人事のようなもの言いは無いだろうと文句を言おうとして……やめた。

小竜姫の手が震えていた。

そういえば以前妙神山でシュウの修行を見てたときにも思ったが、この神様はシュウに対して特別な想いがあるようね。

 

「で、どうすんの?アンタ達が動かなくても私は一人ででもシュウを助けに行くわよ」

 

「馬鹿言うな、そもそも俺が巻き込んだんだ、助けに行くに決まってるだろ」

 

「ウチの事務所から欠員出したら評判がた落ちじゃない、それに横島クンよりよっぽど役に立つシュウクンをみすみすメドーサの好きにさせてたまるかっての」

 

「彼が捕まったのは僕のせいです。必ず助けますよ」

 

「……しゃあねぇな、男の同僚が減っても別に良いけど割と良い奴だからな、アイツ。……俺は影から応援するけど……」

 

『わ、私もシュウさんを助けたいです!……何も出来ないかもしれませんけど』

 

ここにいる誰もシュウが生きている事を信じているみたいだ。

なんだ、あいつちゃんと仲間いるじゃないの。

いつも一人で何かしようとしてたから心配してたけど、杞憂だったようだ。

……あくまで保護してくれてる奴がいなくなると困るから心配してるんだけどね。

しょうがない、タマモお姉ちゃんがすぐに助け出してあげるわ!

 

「フン、行くならさっさと行くわよ!」

 

「何でタマモが仕切ってんだよ」

 

横島のツッコミはスルーして、私達はシュウを助けに向かうことになった。

 

 

 

「……あぁいう手合の蛇女は割とショタコンのイメージ強いからさっさと助けなきゃね」

 

美神が急に深刻そうに呟いた言葉を聞いて、全員が固まり、即出発になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

======================================================

 

 

 

 

 

「目が覚めたかい?」

 

「あぁ、最高の目覚めだよ」

 

目を覚ましたら目の前にメドーサの顔がありましたとさ、マジビビるわ。

自分の体を見る。原作の美神さんと同じ状態だ。

顔と手だけ出された状態で土角結界による拘束を受けている。

 

「そいつは良かった。さて、アンタは何者だい?」

 

「どう答えれば良いか解らないね。一応美神さんの事務所のアルバイト。名前はシュウ。小竜姫様とは美神さんが修行に行った時の付添からの付き合い。とかで良いか?」

 

「へぇ、やけにペラペラと。命が惜しいのかい?」

 

「隠したって無駄だろうし、そりゃ命は惜しいさ」

 

聖天大斉老師や別世界の話をするつもりはない。

当然こっちが不利になる情報も与えるつもりはない。

心眼は気配を消しているのか、ただのバンダナの様になっている。

 

「アンタは妙神山で修行したわけじゃないのか?」

 

やけにフレンドリーに接してくるなメドーサ。

どこから取りだしたのか元々運び込んでいたのか、洞窟に不釣り合いなソファに腰掛けて尋ねてくる。

 

「余裕だな、美神さん達が来るかもしれないってのに」

 

「奴等が来たことがこっちに伝わってからでも結構かかる程度にはここは深いんだよ」

 

「やけに親切に教えてくれるじゃないか」

 

「お前が奴等に会う時にはもうここに到着しているだろう?」

 

「それもそうだ」

 

「で、質問にはもう答えてくれないのかい?」

 

こいつ、マジでメドーサか?ずいぶんと大人しいイメージがあるけど。

いや、調子に乗って説得!とかやってたら今度こそ心眼にしばかれる。いや、物理的にしばかれることはありえないか。

 

「いや、俺はあそこでちゃんと修行する程霊力が使える訳じゃないからな。少し霊力の使い方を教わっただけだ」

 

「なるほど、じゃあ天龍の時のアレはそれの暴走ってことかい」

 

流石に頭は回るな。

下手に情報を与え過ぎるのも危ない、考えて会話しなきゃな。

 

「だとしたらあの体術は自己流か」

 

「まぁ、そうなるかな」

 

「その歳で大したもんだね、というか本当に人間かい?人間にしておくのがもったいないよ。飴でも食うか?」

 

メドーサが懐から飴玉を取りだして見せる。

え、いつも持ち歩いてるの?そんなキャラなの?

というかひょっとしてこれはバカにされてる?

いや、まさか勧誘されてると取って良いのか?

 

「俺は17歳でガキじゃないんだが」

 

「は?!……合法ショタ?!」

 

俺のいつもの言葉に立ち上がって驚くメドーサ。

こいつも酷過ぎる認識だな。

いい加減しつこいわ、つってもこっちと違って向こうからしたら初めての反応だから今後も続くだろうなぁ。

というか、なにやら小声でヤバメな言葉が聞こえた気がするんだが、気のせいだろう。

気のせいだと思いたい。

 

「……コホン、なるほど、それにしたって異常すぎるそのポテンシャルは勿体ないね。どうだい、私の下で修行してみないか?」

 

咳払い一つで改めて会話を続けるメドーサ。

いや、ごまかせてないからな?

とはいえ、こっちも情報が欲しいから会話は続ける。

 

「そんな選択をすると思ってるのか?」

 

「だろうね、残念だ。とりあえずは奴等をおびき出す餌にでもなって貰うよ……ウンザンネンダ」

 

何か本当に残念がってる気がするけど、こんなキャラだったか?こいつ。

危険だけど、もう少し踏み込んで探りを入れてみるか。

 

「それより、なんでお前はこんなことをしてるんだ?誰かに命令でもされてるのか?いち魔族が一人で計画するにはことが大きすぎると思うんだが」

 

「おや、私の事が気になるのかい?残念だけどそんな簡単に情報を漏らすわけにはいかないね」

 

「元始風水盤で出来ることで魔族が考えそうなこと、この世界の魔界化、世界の終焉。魔神レベルが関わってくる話?それとも超凶悪犯のアンタ独断の動き?かなり気になるんだけど」

 

「…………頭も馬鹿ではなさそうだね。GS試験には出てなかったようだが」

 

俺の言葉を聞いて眉をピクリとさせ、俺の顔を覗き見るメドーサ。

流石に俺がGS試験に出てたのは知らないか。

 

「残念ながら出てたんだよね。予想通り俺じゃ無理だった。横島はGSになったけど、俺は見事予選1発目で不合格」

 

「霊力使えないのがネックか。それにしてもGS協会の目は節穴だね、霊力が使えなくとも十分にGSの素質はあるだろうに。魔力とか妖力の方が向いてるんじゃないか?」

 

「美神さんとか横島の方が魔族には向いてそうな気がする」

 

「ハッ、違いないね。アンタはどちらかと言うと神族の方が向いてそうだ。ただ、だからこそ魔族にも向いてそうだがね」

 

どういうことだ?

あ、ちょっとまてよ、確かこいつも元々は。

 

「魔族と神族は表裏一体なのさ」

 

「そういえばアンタも神族だったな」

 

「へぇ、博識なことだ。おっと下手な同情はやめときなよ、今じゃ魔族であることに喜びを感じてるんだからね」

 

「とはいっても神族にもクズがいるって話は聞いてるから、現実には憤りを感じるけどな」

 

老師が嘆かわしいとか言いながら色々と教えてくれたからな。

神族も結構色々あるらしい。

 

「アンタ、見る目があるねぇ。どうだい、やっぱり私の下で修行」

 

「くどいな。むしろこっちから聞きたいんだけど、俺達の仲間にならないか?」

 

これくらいならいいよな。

話の流れだし。

いや、今心眼は反応しないのにビクビクする必要は無いか。

よし、今のうちに勧誘勧誘。

 

「面白い奴だね、この状況でそんな言葉が吐けるなんて、仮に17歳だとしてもその落ち着きは人間離れしていると思うよ」

 

「褒められてるんだかけなされてるんだか。いや仮にじゃないし」

 

「褒めてるのさ。でも、言葉には気をつけるんだね、あんまり舐めてかかると、その首落とすよ」

 

あ、やっべ、やっぱりなしで。

いつの間にかメドーサの手にはいつもの刺又があり、その先は俺の首を向いていた。

死んじゃう!本当にいらんことせんとこ……。

 

「なめちゃいないさ、とはいえそれはマジで困るな、大人しくしておくよ」

 

「フン、肝の据わった奴は嫌いじゃないがね」

 

はぁ、とりあえず命は取られそうにないのは助かったな。

ただ正直こうやって話してみると、メドーサも話せば解るタイプの奴だとは思っちゃうんだよなぁ。

このままだと原作通り横島達との関係は最悪になっていくから、ここらで早めに手を打っておきたいんだけど。

本当に無理かなぁ。実際、俺の中でメドーサの最期とか結構変えたいことではあるんだけど。

そこまで考えたところで大きな音が響き渡った。

 

「おや、だいぶ予想より早いね。お仲間が助けに来てくれたみたいだよ」

 

本当に予想よりだいぶ早い、俺の知識だと一晩は置いて襲撃していたと思ったんだけどな。

俺の霊力も既に回復してるし、早いに越したことはないか。

 

「美神さん達が来たなら今回の計画はおじゃんじゃないか?今の内に逃げておいた方がいいと思うけど」

 

「馬鹿にするんじゃないよ。アイツらが来たところで元始風水盤起動の前座にしかならないさ。小竜姫の相手を私がすればあとは勘九朗で十分だろうね」

 

「まぁ、せいぜい人間を侮らない様にするんだな。あの人たちは下手な魔族よりタチが悪いから」

 

「ハッ、ザコが吹いたところでどうともならないってことをシュウにも見せてやるよ。私の元で修行すればどれだけ強くなれるかも含めてね」

 

「あ、諦めてないのかよ……」

 

とはいえこれで挑発は成功してそうだな。

人間を舐めれば舐める程横島達なら何とかしてくれる気がするから、これで更に油断とかしてくれれば良いんだけど。

 

 

 

=========================================================

 

【しばらく轟音が響き渡っているが、ケルベロスが居ないぶん多少は楽になってると思いたいのだが。と、噂をすれば来たみたいだな】

【あ、起きたのか心眼】

 

心眼からの言葉の途中で洞窟から美神さんと横島、それにタマモが姿を現す。

そして、予想通り横島の手には栄光の手が。

よし、心配事が一つ減った。

 

「無事だったのね、シュウ!」

 

「みての通りだよ」

 

「シュウ、これ見ろよ新しい力手に入れちゃった」

 

「お前は後で絶対しばく」

 

タマモには苦笑で返し、未だに霊能力が上手く使えない俺にドヤ顔で自慢する様に見せびらかす横島には青筋を立てつつも、無事新しい技を覚えてくれたことに安心する。

 

「さて、よくぞここまで来た、と言いたいところだけど、残念、アンタ達はここでゲームオーバーだよ」

 

「ハッ!言ってなさい!こっちにゃ助っ人だっているのよ!」

 

「貴方のたくらみもここまでです!シュウさんは返して貰いますよ!」

 

美神さんの啖呵と共に小竜姫様が飛び出してメドーサに斬りかかる。

メドーサもそれを余裕の笑みで受け止める。

 

「ようやく出てきたね小竜姫、たまには相手してやるよ!」

 

「あ、小竜姫様、メドーサは多分時間稼ぎに来ると思うんで早めに勝負を仕掛けた方が良いですよ~!」

 

「はい!」

 

「チッ、シュウめ、余計な事を……!」

 

二人が外に飛び立ったのを見送ったタイミングで横島が勘九朗の手で俺を解放してくれた。

あ、そういえば雪之丞とピートは今も勘九郎と戦ってるのか。

 

「っあー!身体ガッチガッチだーわさー!!1万年間くらいジッとしてた気分!」

 

「お疲れさん……そして、後は任せた」

 

「は?」

 

俺を助けた後そそくさと美神さんと一緒に入ってきた方向へ向かおうとする横島。

ピートと雪之丞を助けに行くのだろう。

ん?何を任せた?と疑問を浮かべていると、後ろから凄まじい威圧感を感じた。

あ、忘れてた……。

 

「た、タマモさん……?」

 

「……シュウ」

 

「は、はい!」

 

「あんたねぇ……」

 

振り返った事を後悔する程にタマモから威圧感が溢れだしている。

これ、メドーサより怖いかも。

 

「助けろ横島!」

 

「…………忘れないよ」

 

「思い出に変えんな役立たず!」

 

少し考えたあと、振り返りながら手を降っていなくなる横島。

俺の叫びは聞こえたかどうか。といったところで、タマモの威圧感が膨れ上がった。

 

「心配、させんな―!!」

 

「す、すみませんでしたー!」

 

『やってる場合か、さっさと動け』

 

思わず敬語で謝ってしまう程に、この時のタマモは恐ろしかった。

すぐに土下座スタイルをとったが、心眼の正論に立ち上がる。

確かにコントやってる場合でもないので、俺とタマモも勘九郎の相手をするために振り返った瞬間、目の前にゾンビの集団が現れた。

 

『シュウ!やつら針を』

 

心眼の言葉を聞いて慌ててゾンビたちの方へ向かおうとした瞬間、視界の端に何かがうつり、反射的に受け止める。

 

「フォォォ……!」

 

『が、ガルーダだと?!』

 

げ、マジかよ、なんでこのタイミングでこいつがいるの?!

 

受け止めたものは、目の前で闘気にあふれている怪鳥、ガルーダの拳だった。

続けてとんできたガルーダの蹴りを右足を立てることで受け止める。

 

「シュウ!」

 

「こっちは良いから針を!」

 

意外にもガルーダの攻撃に霊力が乗っていなかったので霊力を使うことなく戦うことが出来ている。

ガルーダはカンフーのような動きで次々攻撃を繰り出してくるが、それに合わせてカウンターをいれていく。

が、向こうも中々動きがはやく、一瞬で衝撃を殺すために後ろに跳ぶことでダメージを減らしている。

 

「ガルーダを念の為用意しておいて正解だったわね」

 

勘九郎の声に、ガルーダへの警戒を残したまま振り返ると、タマモが吹き飛んできたのでキャッチしてガルーダから離れる。

既に勘九郎の手には針が。

タマモも大きなダメージは無いようだ。

 

「勘九郎!!」

 

ちょうどそのタイミングで雪之丞達も駆け込んでくる。

が、時既に遅し。

 

針が、勘九郎の手によって、元始風水盤にセットされた。

 

香港が、魔界に、沈む……!

 

「ふふふ、最高の気分よ……!ちょっと予定より数が多いけど、全員生きて帰れると思わないことね」

 

勘九朗が元始風水盤の前でテンション高く笑い始める。

未だ勘九郎が人類を滅ぼしかねないことを実行したことが受け入れられないのか、雪之丞が一歩前に出るが冷静な状態ではなさそうだ。

 

「勘九郎!てめぇ今何をしたぁ!!」

「お、おおおおお落ち着け!雪之丞!6×7は何だ?!」

「42じゃねぇかぁ!!」

「やべぇぞ、当ってる!!」

「どういう意味だ横島ぁ!」

「遊んでんじゃないのよ!」

 

横島と雪之丞の漫才に美神さんがツッコミを入れたと同時に、俺と雪之丞が勘九朗めがけて飛びかかる。

霊力が使えるタネはわれているが、今全力を出し切るとあとが続かないので、全開にはしない。

 

「良い動きね、あの時メドーサ様がいらっしゃらなかったら不意を突かれてやられていたレベルだわ。雪之丞も多少はやるようになったようね」

 

「てめぇは俺が……!」

 

「あの時もう少し強引にでもアンタを倒しておくべきだったと後悔してるよ。人間の内にな」

 

「あら、気付いてるのね、私が既に魔族になっていることに」

 

ガードを固めた体制で俺と雪之丞の拳を受け止めた勘九朗。

ガードを解いて見せた顔はまさに魔族そのものだった。

 

「シュウクン、雪之丞、あまり前に出過ぎないで!今の私達は陸に上がった魚同然よ!霊力を使い切ったら最後、回復できずに死ぬわ!」

 

っと、そうだった!あぶねぇ、ただでさえ少ない霊力を……!

夜のうちに戦いが始まったせいで既に月が昇っているためか、元始風水盤の起動が予想より早い。

メドーサは小竜姫様に任せるとして、勘九朗は俺達で抑えるしかない。

しかし、カオスがいないとあれを制御することが……。

 

「フム、マリア、テレサ、あれを制御するのには少し時間がかかりそうじゃ、全員で奴の気を引いてくれればワシが制御できるかもしれん」

「イエス。ドクターカオス」

「しょうがないわね」

 

…………ってなんでいるの?

あ、よく見たらエミさんも冥子さんもいる。

 

「何呆けてるのよ、私がどうせ助けに行くなら助っ人頼めば良いじゃないって言ったら二匹の鬼が連れてきたのよ。さっき雪之丞達と入ってきたじゃない」

「あー……、なるほど。そういうことか」

 

タマモがいた事で助っ人が最初からいたってことね。

ならばと、時間稼ぎするために、と躍り出る。

 

「フフ、まずはあなたね」

 

「ちぃ!スピードまで上がってるのか!」

 

「それでもあなたの方が早いってのは少しショックでもあるけどね」

 

フフフと笑いながら言う勘九朗の攻撃をかわしながらカオスに目配せする。

すぐに意図を理解してくれたのか、カオスが作業に入る。

 

霊力は使わない。スピードだけで翻弄してやる。

 

「は、はやすぎる……!」

 

「勘九朗の動きは見えるが、シュウが見えない!これじゃ援護しようとしても邪魔になる可能性があるぞ!」

 

「各自援護用の準備だけして無駄に霊力は使っちゃだめよ!」

 

ピートと雪之条が驚いているが、流石美神さん、すぐに指示を出す。

冥子さんとエミさんも流石はプロ、冷静に状況を確認しているようだ。

タマモはガルーダに向けて狐火を連発して牽制している。そういえばあいつの妖力って影響出てるんだろうか。

とかそんな事を考える暇を勘九郎はくれないみたいだ。

 

「なんて早さなのよあなた。それで霊力が備わったら最強じゃない」

 

「あいにく霊力使いこなせてないからな。詳しくは秘密だけど、ほとんど身体能力頼りなんだ、よ!」

 

「それはまた残念ねぇ」

 

何度か蹴りが入っているが、決定打が出せない。

やはり動きを止めてみんなにやってもらうのが正解なんだけど。

 

「出来たぞ小僧!」

 

「はやっ?!ナイス!!」

 

考えながら戦っていたところでドクターカオスから声が上がる。

どうやら逆算が完了したようだ。

そうじゃないかとは思ってたけど、多分あれは脳みそ若返らせてから来てるな。

 

「何を?!」

 

勘九朗が気付くがもう遅い。ドクターカオスが手を元始風水盤に当てた瞬間、辺りが澄んだ空気になる気配が解る。

これならこのままいけるかもしれない。ひょっとしたら俺も霊力全開で4秒くらいは……考えてて虚しくなったからやめよう。

ただ、もしかしたらメドーサも抑えられるか。

そこまで考えたところで、空から勘九朗の横にメドーサが現れた。

 

「ちぃ、小竜姫を帰すのにあんなに苦労するとは思わなかったよ。さて、状況は最悪みたいね。……勘九朗、撤退するわよ」

 

「……仰せのままに」

 

まぁそうくるよなぁ。

位置的にもメドーサは絶対に止めることは出来なさそうだ。

このままだと無駄に勘九朗が死ぬことになる。

 

「メドーサ」

 

「何だい?」

 

俺の言葉にメドーサが止まる。

話を聞いてくれるのは意外だ。

 

「ここは大人しく話し合いで何とかならないか」

 

「はっ、阿呆かいお前は。そんなことが通るわけないだろう」

 

「いや、だってお前ら逃げるなら多分勘九朗が死ぬつもりでこっちの足どめするんだろ?勘九朗殺したくないし」

 

「……お人よしだねぇ。でもそんなことは関係ないんだよ。私はプロだ。生き残る義務があるのさ。流石にこの空間で戦うほど馬鹿じゃないんだよ」

 

「んー、じゃあさ、どうせ勘九朗捨てて逃げるつもりなら、勘九朗が大人しく捕まってくれたらメドーサを逃がす、ってのはどうだ?そっちとしては生きてればまたいつか合流出来たときにコマとして使えるんじゃない?」

 

事務所メンバーはいつものか、と言わんばかりに呆れ顔だが、雪之丞はどことなく俺の意見を聞いて思うところがあるのか黙ってみている。

少し考えるようにしてメドーサが口を開く。

 

「……あんたがそうするメリットはなんだ?」

 

「勘九朗を出来たら説得して仲間にして、出来たらメドーサも仲間にする」

 

「「「「はぁ?!」」」」

 

あ、ひでぇ、満場一致で「何いってんだお前」って顔してる。

まぁでもそうなるよなぁ。流石に理想論だし。

メドーサも唖然とした表情で固まっている。と思ったら急に笑い出した。

 

「……フフフ、正直なやつだねぇ。馬鹿が、それこそありえないことだよ。……だが、面白いね。良いわ、あんたの言うとおりにしてあげる。勘九朗」

 

「はっ」

 

「今話した通りよ、とりあえず生きてなさいな。またあったときに使えそうなら使ってやるわ」

 

「……はっ」

 

おぉマジか。

言ってみるもんだな。

 

【大きく流れが変わることになるな。とはいえ、小竜姫様の方で預かってもらえばそれほど影響も大きくあるまい】

【やっぱり余計なことだったか?】

【いや、仲間に、ということはないだろうが、命を無駄に奪う必要もなかろう。どうせあのまま戦ってもメドーサには逃げられる】

 

「シュウ、1つ貸しだよ」

 

心の中で心眼と話していると、メドーサがこっちを見てニヤリと笑った。

 

「え、嫌ですけど」

 

あ、やべぇ、素で返しちゃった。

メドーサがすげぇ嫌そうな顔してる。

 

「…………そこは嫌でもわかったと言うところだよ」

 

やれやれ、と首を振りながら浮かんでいくメドーサ。しれっとガルーダも一緒だ。

それを見ながら呆れた様子で近づいてくるタマモ。

 

「あんたのせいで凶悪な魔族1人逃がすことになるんだけど、わかってる?」

 

「つってもあの状況で勘九郎の相手しながら逃げるメドーサを捕まえる方法ってあるか?勘九郎の邪魔なしでも多分無理だぞあの位置だと」

 

「……まぁ、ないわね」

 

誰か超加速でも使えればいけるだろうけど。

タマモがしぶしぶ納得したところで、改めて全員生き残ったことを改めて噛み締めた。

ちなみに、神父をもとに戻すための勘九郎の手は横島が持っているから大丈夫だ。

そんなことを考えていたところで、新しい声が響く。

 

「チッ、間に合わなかったか。とはいえ、危機は乗り越えたようだな」

 

「エルエル様?」

 

振り返るとそこには韋駄天の時に出会った天使、エルエル様が飛んでいた。

 

「……貴様はシュウか、メドーサには逃げられたようだな」

 

「え、あー、そ、そうですね、あはは」

 

や、やべぇ、会話聞かれてたらこれ怒られるんじゃ……。

誰お前って顔してる連中には後ろで横島が説明してくれている。

っと近付いてきた。

 

「ただ、元始風水盤の最悪の利用方法は防ぐことが出来たようだな。まさか人間に止められるとはメドーサも屈辱だろう。私も予想外だがな」

 

いつも通り人間に対して辛辣な物言いに雪之丞が動こうとするが横島が抑えている。

 

「とはいえ、功績は大きい。流石にそこは褒めてやろう」

 

「はぁ、ありがとうございます」

 

というかなんでこの方ここにいるんだろう。

出来ることならもう少し早く来て手伝ってほしかったんだけど。

そんなことを考えていたらそれを察したのかエルエル様が口を開いた。

 

「……なぜ私がここにいるか、だが、上司に言われてな、これの後始末をつけにきた」

 

そう言いながら元始風水盤に近づくエルエル様。

あ、そうか、確かに元始風水盤と針、どうしたら良いか困るところだった。

まさか美神さんにあげるわけにはいかないし、あ、あの人指くわえて見てる。欲しいんだな。

じゃなくて……、まぁ小竜姫様に相談するつもりだったから、神族側でやってくれるならそのほうが良いか。

 

「わかりました。すみませんがお願いします」

 

「仕事だからな、気にするな。私も急に上司に言われてこれの回収に来たからむしろもう少し早く来ていれば人間に礼など言う必要もなかったのだが……。あの方にも困ったものだ」

 

途中からブツブツと言いながら元始風水盤をいじり始めるエルエル様。

苦労してるんだなぁ、となるべく邪魔しないように俺たちはその場をあとにしたのだった。

 

…………あらためて。

あー、死ぬかと思った!

 

 

 

 

=============================================

 

「私達、何しに来たワケ……?」

「まぁまぁエミちゃん、誰も怪我しなくてよかったじゃないの~」

 

帰り道、視界の端っこで項垂れているエミさんと、ニコニコと気にした様子のない冥子さんには触れないようにした。

 




ようやく香港編が終わった……。
まだ物語は終わりませんが、ちょっと軽い話が続くかもしれないです。
……いつになるかはわかりませんが、ふと気付いた時にもし更新されてて、気が向いたら続きも読んでやってツカサイ。


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28:せめて目的もって召喚しましょ?

ちょっとした話ですが生存報告兼ねて投稿。
話は全く進んでませんけど!
久々にかけて良かった。……あれ?こんな感じで書いてたっけ?


「ヒミコ、ですか?」

「えぇ、ヤマタイ国の女王であるヒミコを降霊するのよ」

「私と令子、それと冥子がそれぞれ持ってるヤマタイ国の秘宝を3つ揃えると降霊出来るって話なワケ」

 

おキヌちゃんの言葉に美神さんが答えて、先程バイクで颯爽と到着したばかりのエミさんが補足する。

今俺達がいるのは六道家の庭だ。

 

こないだの香港での戦いの後は大変だった。

女性陣の買い物に付き合わされて、当然の様に荷物持ちでこき使われ、何故か映画に出演することになってスタントマンなしで無茶苦茶なアクションシーンを求められたかと思ったら、スタントマンとしてスカウトされるわ、日本に帰ったら帰ったで勘九郎を明神山に連れて行った時に小竜姫様から長時間のお説教を食らう羽目になり、説教ついでに手合わせでガッツリ修行することになったのは良かったけどその説教が異常に長かったし、勘九郎からは何故か「罪な男ねぇ」なんて謎の評価をもらう羽目になった。

そんな疲れていた俺にとって、今回の仕事は気楽なもので助かった。

美神さんたちがヒミコを降霊するのを見てるだけでいいのだ。

 

ちなみに、今日のバンダナは心眼入りではない。

横島に用事があるとかで今朝方横島のバンダナに移った。

どんどん強くなってる横島より俺の霊力鍛えるの手伝ってほしいなぁと少しだけ思ってしまったのは正直仕方ないと思う。やっぱりハンズオブグローリー使えるようになった横島を見てると焦る。

いや本当に良いことではあるんだけど、自分もやっぱり強くならないとドンドン離されるし役に立てなくなってくるからなぁ。

もう少し、もう少しでなにかつかめる気がするんだけど。

 

そんなことを考えていたらいつの間にか冥子さんが合流していた。

あれ?そういえばここで冥子さんのお母さん登場、とかだったと思ったけど。

あ、以前雪之丞経由で俺に仕事振ったの六道家だったのを思い出した。

何が目的かわからないけど、あまり油断しないほうが良いのかもしれない、か。

 

その後、俺達は俺の記憶通り冥子さんがまだ準備できていなかった金印を手に入れるため、六道家の書斎へ向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

「どこのダンジョンよ、ここ」

「六道家のダンジョンよ~」

 

いや、普通の家にはダンジョンは無いでしょう。

美神さんの言葉に素で返す冥子さんに心の中でツッコミを入れる。

書斎に居たはずなのだが、何故俺達はこんな洞窟を歩いているんだろう。

ちなみに当然だが俺が先頭を歩いている。

 

さっきから何かしらの罠が飛んでくるたびに避けたり破壊したりしてるんだけど、これ普通の人だったら死んじゃうだろ。

考えながらも足元でカチッと音がして目の前から飛んできた矢を指で挟んで受け止める。

これまさかとは思うけど俺がいるからって事前に罠増やしてたりしないよな?

 

「シュウくんを連れてきて正解だったわね」

「改めて見ても人間じゃないワケ」

「人間ですって(少なくともお二人よりは間違いなく)」

 

「「何か言ったかしら?」」

「いいえ、何も」

 

なんであの声にもなってないようなつぶやきが聞こえるんだよこの人達。

そうしている合間にも、階段を降りながら壁のスイッチを美神さんが押してしまい、俺の目の前に刀が振り下ろされる。

立ち止まってそれを避けてからそのまま刀の腹を殴って折る。

 

「あ~、出来ると破壊しないでもらえると~」

「あ、すみません冥子さん。とっさだったのでつい」

「謝ることないわよシュウ、どうせ帰りも通るんだから全部破壊して進みなさい」

「いやそういうわけには……」

 

苦笑しながら振り返ったら美神さんは真顔だった。

冥子さんには悪いけど、なるべくもう一度作動しない程度には壊しながら進もう。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで揃ったわね」

 

結局その後も特別何があったわけでもなく、ヒミコを召喚するアイテムが目の前に並ぶ。

3人のプロGSが何やら詠唱すると、ヒミコが召喚された。またまたまた美しい女性だ。

あ、でもやっぱこの人(?)も凄い人(?)なんだなぁ、ほぼ神様みたいな扱いなのか知らないけど凄い圧を感じる。

 

『ほぅ、人間がわらわを呼び出すとは。何用か』

 

「「「え?」」」

 

『え?』

 

3人の反応に対してポカンとしているヒミコ様。

そうです、この人達用事無しに召喚したんです。呼び出すことが目的です。

まぁ折角なのでここは予定通り割り込みさせてもらおう。

 

「あ、美神さん達が特に用件無いなら俺からいいですか?」

『う、うむ、よかろう』

「ヒミコ様って占いも出来るんですよね?」

『うむ、むしろ得意分野じゃな』

「俺の運勢占ってもらうことって可能ですか?」

『構わんぞ、何を占って欲しいのじゃ?』

 

召喚した3人のまさかの回答に比べてまだマシと考えたのか、俺の提案にのってくれるヒミコ様。

まさかこんな簡単に許可がおりるとは。

最悪ダメって言われたら諦めようと思っていたが、占ってくれるならラッキーだ。

 

「あ、ここじゃ恥ずかしいので個別でも良いですか」

『なんじゃ、見た目の通り愛いやつよの、構わんぞ』

 

ニヤリと笑いながらもOKが出る。結構ノリが軽い人だな。

まぁ当然3人からツッコミが入ったのだが。

 

「なによここで良いじゃない」

「そんな面白そ『ゴホン』興味深い占い、私たちも聞きたいワケ」

「私も~聞きたいな~」

 

『これこれ、下らん野次馬根性を見せるでないわ。童の占いが終わればおぬしらの占いもしてやろう』

「「ちっ」」

 

とまぁヒミコ様のフォローで助けられた。童については突っ込まない。

少し美神さん達からは離れたところでヒミコ様から『先に言っておくが』という前置きが入る。

 

『全てを見通すような占いは不可能じゃぞ、全盛期ならまだしもこのような召喚で現れただけのわらわでは限界があるでな。ざっくりとしたものになってしまう』

 

むしろ全盛期ならすべてを見通すような占いが出来るのか、凄いな。流石としか言えない。

そこまで期待していたわけではないので問題ない。

 

「はい、それで大丈夫です。すべてを知ってしまっても自分じゃ逆に下手をうちそうなので」

『年の割に大人じゃな。……いや、どうやら見た目通り、とはいかぬか』

「あ、解るんですね」

『なんとなくじゃがな』

 

凄いな、妙神山にいる某竜が付く神様も気付いてくれなかったのに。

この人一応元人間だよね?

 

「それで、俺が知りたいのは【俺の頑張り次第で俺の目的が達成することが可能か】です」

『なるほどの、それくらいの曖昧さなら恐らく占うことは可能だろう』

 

ま、これで解ることなんてほとんどないだろうけど、どう頑張っても絶対無理です!なんて言われちゃったら、歴史の修正力に対しての作戦に変えないといけない。それこそ老師に滅茶苦茶無理してもらうなり、超方向転換しないとダメだからそれだけでも知りたいんだよなぁ。

 

暫くして、ヒミコ様が目を開けて一言言った。

 

『…………おぬし、相当に無茶をするな』

「あ、やっぱりそんな感じです?」

『このタイミングでこれを確認する。ということは何をやっても無駄か確認することと、今考えている策が本当に現実的なのか、を知りたかった、といったところか』

 

ヒミコ様有能すぎません?

どこまで見えたんでしょ。

 

「そうですね、正直聞くの迷ったんですけど、今考えてることが無理なら他のこと考え始めないと間に合わないと思ったんで」

『なるほどの。詳しくはわからんし聞かんが、このままだとお主相当危ない橋を渡る羽目になるぞ。まぁその顔じゃ解っていた様だが。まぁその危ない橋さえわたりきれば、お主の目的が達成不可のものではないようじゃ』

 

ここまで明確に回答を貰えるとは思わなかった。

ちょっとした試しのつもりだったが、得たものは大きかったようだ。

とはいえ、結局は俺の頑張り次第で、危ない橋は渡りきらなきゃいけないんだよな。

そりゃそうか……。

 

「それを聞いて安心しました」

『いや、本当に相当頑張らないと不可能ぞ。強さも今のままでは足りないと出ておる。出来ると油断していれば全て水泡に……』

「それは元々解っていました」

『フ、ならこれ以上言うこともあるまい』

 

結局元々の想定通りどうなるかはわかったもんじゃない、けど0%じゃないことが判った、それだけで十分。

 

それから、やはり特に目的のなかった美神さん達は、卑弥呼様を交えて女子会(俺もいるんだが)を行い、それぞれが占いをしてもらったりと楽しく雑談してその日は解散となった。

出されたお菓子は非常に美味しかったです。

 

 

 

 

 

一方その頃

 

『これはどうだ?』

「いや、さっき厄珍に聞いたけど、それも結局霊力流さないと使い物にならないらしい」

『やはり完全に霊力無しで使える武器や霊具と言ったら、破魔札などの金がかなりかかったり消費されるものが多いな』

「消費されて金までかかるダブルパンチばっかじゃねぇか」

「当たり前アル。そうじゃない武器がほしいなら多少なりとも霊力がないと話にならないアル。もしくは特殊な才能を持っているか……、あ、霊視ゴーグルなら使えるアルよ」

「武器だっつーの!」

『下手に武器だけで使用できるほどの霊力を持っているものだと、自我を持ってたりするからシュウの霊力では乗っ取られる可能性すらあるし危険か……』

「シメサバ丸とかな」

『あぁ、そういえば既に前科があるとか言ってたな……』

「一応仙具や神具レベルのレアものならそういうものもあるネ、ただそんなもんあったらワタシが欲しいアル」

「だよなぁ」

「おっ!そういえばこれなら意思を持つほどの霊力は無いけど多少攻撃に霊力を込めることが可能アルよ。……まぁ一応これも結構なレアものだけど令子ちゃんのところはお得意様だし、ボウズ達にもなんだかんだ色々と助けられてるから、多少の値引きはしてやっても良いアル(まぁ実用性が低すぎるから売れないってのが正直なところだったりするけど)」

『なに?……ふむ、確かにそのようだな』

「へー、んじゃこれでいいんじゃね、シュウの新しい武器」

『……あとはアヤツの馬鹿力で壊れないか、だけだな』

「そこまでは責任持てないアルよ」

 

何やら3人ほど、あーでもないこーでもないとワイワイやっていたようである。

 

 

 

 

 

 

 

更におまけ~女子(?)会にて~

 

「そういえば、シュウくん結構モテてるみたいだけど、本命とかいるの?」

「冗談よしてくださいよ美神さん」

「ヒミコ様、シュウくんの本命教えて下さいな」

「ちょ!なにしてんですかアンタ!」

『ふむ、別に特定の人物に強い恋慕は抱いてないようじゃな。まぁ女性に興味がないわけでは無い様じゃし、人並みに今の年齢に見合う程度には興味があるようじゃが』

「ヒミコ様も何普通に答えてるんですか!プライベートの侵害ですよ!」

「へぇ、意外なワケ、てっきりよりどりみどりだぜウェッヘッヘッかと」

「エミさんは俺のことなんだと思ってるんですか」

「ムッツリスケベ」

「怒りますよ?」

『まぁ本人がまだ子供じゃからな。そういうものに疎いんじゃから仕方あるまい』

「あの、さっきも子供じゃないと……」

『こうこうせー?という年齢であることを承知で言っておる』

「むぅ……そりゃヒミコ様からしたら子供かもしれないですけど……」

「ま、本人目の前にこれ以上はやめとくワケ」

「そうよ~、こういうのはちょっかい出さないほうがいいと思うわ~。で、シュウくんって年上と年下どっちが好きなの~」

「アンタやめるき無いでしょ」

「勘弁してくださいよ……」

 




評価つけてくれた人がとうとう100人になりました!
ありがとうございます!

ついでに最近読み上げ機能ってのを見つけたので自分の小説で押してみて…………滅茶苦茶後悔しました。
自分が書いた拙い文章を目の前で読まれるのってこんな気分なのか……と変な汗出ました。

更に更に、ここすきって機能も見つけて、自分の小説にそんな場所をつけてくれてる人がまさかいるとは気付いていなかったので、一通り見直して嬉しい気分になりました。
ここすき押してくださっている方も本当にありがとうございます。


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29:六道冥子チーム結成&解散!

お久しぶりです。
こんなご時世ですが少しでも楽しんでいただける方がいるといいなと思い、続きを投稿させていただきます。
といっても、またちょっとした話を挟んでおりますのであまり話は進んでませんが。。。

書くたびに書き方忘れてる気がしますが「元々大した文章書けてないので大丈夫」と無理やり納得することにしました(苦笑)

そろそろ話を進めていこうと思いますが、もう一話メインじゃない話を挟むと思います。


「修行……ですか?」

「そうなの~ウチのコが~式神に頼りすぎだから~、式神を貸し出す代わりにお二人をお借りしたのよ~」

 

六道家の当主が、泣き顔の冥子さんの横で俺と横島に説明してくれた内容は、俺達が何故六道家に呼び出されたかを理解するには十分な内容だった。

本来タイガーと横島が担当するはずだった、冥子さんとチームを組んで修行する話が俺と横島の二人に変わるとは。

美神さんはまぁ式神12枚も借りれるなら二つ返事だったんだろうな。

 

「令子さんからも~二人の修行になるから是非って~」

 

意外にも俺と横島のことも思ってくれていたらしい。

 

「そういえばお前最近結構霊力使って戦えてるよな。実際どれくらいできるんだっけ?」

「使ってるって言ってもうっすら霊力載せて殴る蹴るする程度だぞ。それもずっと出来るわけじゃないし、ちゃんと霊力放射したら3秒がせいぜいだわ」

「へー、1秒伸びてるじゃねーか」

「そういうお前だって霊波刀もサイキックソーサも自由自在に使えてるじゃないか。最近美神さんから1人での依頼任されたりしてるんだろ?」

「まぁまだまだ先輩として負けるわけにはいかねーからなー」

 

カラカラと笑いながら俺の頭を撫でる横島。

くそぅ、いい加減子供扱いやめろってーの。

 

「冥子、いつまで泣いてるんですか~。早速二人と一緒に依頼に行ってきなさい~」

「だってだって~、私~、式神がいないと~」

「いいから~、さっさと~行ってきなさい~!!」

「きゃ~!!」

 

横島が原作よりかなり強くなってる気がするからあまり心配することないとは思うけど、

実際冥子さんは本当に大丈夫なんだろうか。

当主に追い出されるように依頼場所に向かう冥子さんを見てため息一つついてしまうのだった。

ちなみに、影に入ってくれと言われたが丁重にお断りした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、実際俺達はどこまでやればいいですか?」

「え~?全部倒してくれちゃって大丈夫よ~」

「それじゃアンタの修行にならんでしょーが!」

 

冥子さんのすっとぼけた回答に横島がツッコミを入れる。

俺達は依頼書に記載されていた、所謂幽霊トンネルと呼ばれているトンネルを歩いていた。

3人とも懐中電灯持参である。

 

「とりあえず今回の依頼の内容を」

「えっと~、このトンネルに悪霊が~3体いるって話よ~」

「ちょうどいいじゃないですか、じゃあ1人1体倒すってことで」

「そうね~、じゃあこういうのは最後に怖いのが出てきそうだから~、私は最初にいかせてもらうわね~」

「アンタ本当にプロか?!」

 

……まぁいいか、正直俺も横島も普通に除霊できる程度にはなってるし。

横島と冥子さんの漫才を横目に先を懐中電灯で照らす。特に異常はなし。

俺は御札が必要だけど、今回は六道家が全部お金出してくれる事になってるから一応使い放題だし、どうとでもなるか。

 

『せっかくの機会だから御札は切り札にしてなるべく自身の霊力で倒すんだな』

「そうだねぇ、そろそろそれくらい出来ないとな」

 

確かに良い機会だからなるべく道具は使わないようにしようか。

実際横島は出来てるわけだし。

 

『来たぞ冥子殿』

「え?」

 

心眼が言った瞬間、目の前に雑魚霊が1体飛び出してきた。

 

「き、きゃー!きゃー!きゃー!」

「め、冥子さん、あれただの雑魚霊ですよ?!」

 

一瞬でパニックになる冥子さん、式神は居ないが霊力の放出が雑魚霊を襲う。

当然のように一瞬で蒸発する雑魚霊。

いや本当にバケモンみたいな霊力量だな。羨ましい。

 

「へ?や、やった?わたし~、式神無しで悪霊をやっつけたのね~?」

「いや、まぁ、はい……」

 

実際間違いではないな。

本人が満足そうだから良いか。

 

「んじゃ次はシュウが行くか?」

「ほんと最近余裕だな横島、良いよ先いけよ」

「そうか?わかった」

『……本当に横島は成長したな』

 

心眼の感慨深そうな声が響く。

いやいや、心眼さんまだまだこの男強くなって成長するんですよ。

 

「ピンチになったらいつでも助けろよ?!」

『……はぁ。……横島、出番だぞ』

 

横島の残念なお言葉にため息を付きつつも周りの警戒をしていた心眼からの注意が飛ぶ。

すると、先程の雑魚霊よりは強そうな人型タイプの悪霊が飛びかかってきた。

 

「どっせーい!」

 

いきなり飛び込んできた悪霊の横っ腹に霊波のこもった蹴りをあわせる横島。

それを食らって叩き落された悪霊に向かってハンズオブグローリーを伸ばして追撃。

串刺しになった悪霊を釣り上げるようにハンズオブグローリーで遠くに投げる。

 

「とどめじゃー!」

 

ある程度距離が離れた悪霊にサイキックソーサーを投げつける横島。

投げられたそれはきれいにコントロールされ、悪霊に吸い込まれるように命中。

悪霊を消し飛ばす程度の爆発が起きた。

大爆発を起こしてないあたり、込めた霊力量もコントロール出来ているらしい。

 

「……強くなりすぎじゃね?」

「はーっはっはっは、どうじゃ!お前ばっかりええカッコはさせんぞ!」

 

ガッツポーズをとって高笑いする横島。

まさかここまで強くなってるとは思わなかった。

今すぐ独立してもトンデモ難易度の依頼とかじゃなければ普通に営業できるプロGSレベルじゃないのかこれは。

 

『シュウ、霊力を乗せて攻撃出来るようになって少し油断してたな?』

「……ちょっと」

 

心眼に痛いところを突かれる。

やっぱまだまだ強くならないとな。

 

「すご~い、横島君~もうすぐにでもプロのGS出来るわよ~」

「冥子さんが俺を褒めてくれた?!これはもう愛の告白と受け取っても「良くねぇよ」アダダダダダ!!」

 

冥子さんに飛びかかろうとする横島の顔面を掴んで『ちょっと』握る。

 

「割れる!俺の頭が割れるからやめろシュウ!グロい感じになる!」

「大丈夫だ、そんなに簡単に人の頭は割れないよ」

「お前が言っても説得力がねぇよゴリぎゃー!!痛い痛い痛い!」

 

誰がゴリラだ全く。

 

『シュウ。お主の担当、思ったより強そうだぞ』

「なぬ?」

 

心眼の言葉を聞いて横島の顔から手を離して振り返ると、そこには女性の姿をした幽霊が立っていた。

……え、なにそれ怖いやん……。

ただでさえ暗いトンネルで怖いのを騒いで誤魔化してたのに。

 

『見た目もお前にとっては脅威かもしれんが、アレはそれ以前に強いぞ』

「マジかよ、マジで最初から順番に強いのが出てくるとかどういうことなの」

「えっへん」

「褒めてませんよ冥子さん」

 

下を向いたままブツブツとなにかを呟いていた女性の幽霊がこっちを見る。

瞬間、俺の右下に幽霊が移動していた。

俺を下から笑いながら見上げる霊。こわい。

既に向こうもやる気なのか手をつかもうとしてきている。

ほぼ反射で反応して少しだけ霊力を足に纏わせて蹴り上げる。

 

『はやい……?!』

 

いや、早いとかじゃない、多分瞬間移動的なあれだ。

まともに食らってくれたものの、案の定霊力が足りなかったのか空中で回転して着地する霊。

 

「め、めめめ冥子さん!思ったよりやばいっすよ!全員でやったほうが」

「そ、そうね~、そうしたほうが良さそう~」

 

横島の狼狽える声を聞いて流石にプロだということか、すぐに気持ちを入れ替えてキンッという音を立てて神通棍を構える冥子さん。使えたんですね。でも涙目なのは仕方ないんですかね。

 

『横島、シュウにあれを』

「おぉ!そっか、今こそってやつだな!」

「は?」

 

心眼の突然の言葉にポンと手を打って懐をあさる横島。

 

「受け取れシュウ!ピンチに登場新アイテムだ!」

「は?」

 

横島が投げてきたものをキャッチする。

……メリケンサック?

 

『それならお前が拳に霊力を乗せるよりは霊力を込めた攻撃ができるはずだ』

「え、なにこれ」

『神通ナックル、今説明したとおりだ。物理的ダメージを霊力に変換できるアイテムらしい。

ただ変換率が悪すぎて、ちょっと霊力を乗せるだけでもとんでもない物理エネルギーが必要とかで使えるものが居なかったらしい。

それでお主が本気で殴れば多少なりとも霊力が生み出せるはずだ』

 

え、なんでそんなもんを横島が持ってて今になって渡してくるの?

 

『折角のサプライズプレゼントだし、渡すタイミング考えるわ、と横島が言ってからそのタイミングが全然来なかっただけだ』

「えー……」

 

まぁいいや、幽霊も気を使ってるのかちょっと待ってくれてるし、使ってみるか。

貰ったメリケンサックを握って構える。

構えた瞬間、また幽霊が消える。今度は後ろらしい。

振り返りながらメリケンサックを装着した右手で裏拳を顔面に叩き込む。

あ、メリケンサック部分使えてない。

とそのまま悪霊が吹き飛ぶ前に拳を引いて顔面に叩き込む。

確かに殴った感触から霊力が発されていることがわかる。

が、幽霊は怯みもせず俺の腕を掴んで捻った。

景色が回る。

 

『な……!シュウの力でも霊力が少なすぎるのか……!』

 

マジかよこの幽霊、霊力使いながら武術も使うのかよ。

空中を舞いながら余計なことを考えた瞬間、逆さまになった俺の顔面に幽霊の掌底が炸裂した。

目の前が一瞬真っ白になって背景が走る。

一瞬で遠くなった幽霊が挑発的に笑っているように見えた。

 

……上等だよ。

 

身体をひねって着地してそのまま走る。

あの程度の威力だと霊力が出ないなら仕方ない。

全力で神通ナックルを握る。ビキッという音が手の中でなった気がするが関係ない。

目の前に迫った瞬間、余裕を見せていた幽霊から笑みが消えた。

 

「うらぁ!!」

 

俺の全力で振りぬいた拳が幽霊にぶつかった瞬間、辺りが溢れる霊力の光に包まれた。

昼間かと思うほどの光に包まれた幽霊はそのまま消えた。

光がおさまり、辺りに静けさが広がる。

 

「す……すげぇ!すげぇよ心眼!横島!この神通ナックルがあれば俺も幽霊と戦えるぞ!自分でも信じられないくらい霊力が……?」

 

大興奮してはしゃぐ俺だったが、周りの様子がおかしいと感じて言葉が止まる。

横島を見る。

 

「…………」

 

目をそらす横島。

心眼に目線を向ける。

 

『…………』

 

心眼も黙って目を閉じた。

 

「え?」

 

動揺する俺に、冥子さんが遠慮気味に話しかけてくれた。

 

「あの~、シュウくん、神通ナックルって~、シュウくんの手の中にあるその粉々のもののことかしら~?」

「はい?」

 

冥子さんに言われて手元に視線を落とす。

そこには、俺が全力で握ってとんでもない威力の霊波攻撃を放ってくれた

今回の功労者である神通ナックルさんだったものの残骸があった。

 

…………。

…………。

…………。

…………。

 

「…………これって予備とかは」

 

「『ない』」

 

苦笑いしながら言った俺の言葉に心眼と横島の無慈悲な言葉が返される。

珍しい横島の真顔での返しに何とも言えない気分になる。

 

「……ですよね~」

 

俺の空しい言葉がトンネル内に響き、何とも言えない空気に包まれたまま俺たちは帰宅した。

そして、一応依頼は無事達成したということと、

美神さん側で式紙を使いこなせなかったことから今回の助手交換騒動は終わった。

 

……泣いてなんかないやい。

 




残念、神通ナッコォはシュウくんの力に耐えきれませんでした。

「じんつうなっくるは、おともなくくずれさった」


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30:はるかなる猫の呼び声

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
なんと二年近くあいてしまって申し訳ないです。
一応続いております。
色々忘れてる可能性が高いので話がおかしくなってたらごめんなさいです。。。



「こうなったら、俺が相手っす!」

 

横目でそれを見て俺も覚悟を決めて構える。

 

「当然俺も相手になります!」

 

「ゲ、ちょ、ちょっと卑怯よ横島君!男なら正々堂々と一対一でやりなさいよ!」

 

美神さん涙目。まぁ流石に俺も対人だと負ける気はないし、逆の立場だったら絶望的だよなぁ。

……どうしてこうなった。

 

 

 

時は遡り。

 

 

 

「迷ったな」

「そうだな」

「なんで今日に限って心眼連れてきてないんだよ」

「横島もその場にいただろ。霊視に使うからよこせって我らが所長が持って行ったろうが」

「せやな」

 

俺は横島と森の中を歩いていた。

今日はゴルフ場を開発するために工事の邪魔をする妖怪を退治してほしい、という依頼を達成するために事務所のメンバー全員で森の中を歩いていたのだが、何故か俺と横島だけ纏めて遭難してしまったのだ。

更に最悪なことに雨まで降ってきた。体力の消耗が激しい。

 

くそう、こいつが文殊使えたらすぐにでも帰れるんだけどな。と無い物ねだりしたところで無いものは無い。

というか薄々気づいてたけど、この流れって横島が猫又の親子と仲良くなって美神さんと対峙するやつだよな。

ということは俺も一緒に美神さんと敵対することになるのか?

うわー、マジかよ。戦力的には問題なくてもその後が怖いやつじゃないか。

 

「おい」

「なに?」

 

一人で頭を抱えていたら横島から声をかけられた。

 

「実はな」

「なんだよ」

 

横島は後ろを歩いているが、かなり森を彷徨ったせいで俺もそこまで余裕が無いので振り返らずに答える。

 

「俺」

「おう」

 

何でいちいち途切れ途切れで喋ってんだこいつは。

こっちは未来の心配しながらも結構体力的に疲れてきたっつうのに。

そんなことを考えながら面倒に思いながらも振り返る。

 

「なんだよよこし……」

「限界だったりする」

「え」

 

そこには、顔を真っ青にして今にも倒れようとしている横島の姿があった。

 

「よ、よこしまー!!」

 

何でもっと早く言わないんだと思いながらも俺は気絶した横島を抱きとめた。

そういえば全く弱音吐かないから気付かなかったけど、こいつ俺のペースに合わせてついてきてたのか。

いくら不死身な横島でも気付いてやるべきだった。やべぇな、こんな山奥、冗談抜きで何とかしないと。

……おい今「どうせなら美人なねーちゃんが良かった」って言っただろ。

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、うちの同僚が……」

 

「いえ、こちらこそケイが失礼を……」

 

あれから俺たちは目の前にいる綺麗な未亡人、美衣さんに保護されていた。

まぁお察しの通りお母さん猫又なんだけど。どっちかというとミイさんかな?

横島は布団で夢の中だ。心なしか顔色も戻ってきた気がする。

これ、目が覚めた後絶対ミイさんに飛び掛かるよなぁ。

最近横島、俺の攻撃を勘で避けるから止めるの面倒なんだけど……。

 

「なぁ、ほんとにこの兄ちゃんと同い年なのか?」

「こらっ、失礼だからやめなさいって!」

 

この通り、ケイ君には完全に年が近い友達感覚で見られている。

まぁ、別に子供の言うことだから気にしては無いし、構わないんだけども……。

 

「そうだぞ、だから俺のことはシュウ兄ちゃんと呼ぶように」

「わかった、シュウ。遊ぼうぜ」

 

……もぅわんぱくさんだなぁ。

 

結局、ミイさんに横島の面倒を任せて隣の部屋でケイと遊ぶことになった。

ミイさんとしてもケイの面倒を見てもらえて助かると言われたが、

予想通り復活した横島がミイさんに飛び掛かろうとしたので即部屋のふすまを開け放ってやった。

うーん、ケイを見て即離れる辺りは多少の常識は持ってるとは思うんだが、そもそも飛び掛かるなという話なんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「横島、お前って本当に器用だよなぁ」

「シュウだってこれくらい出来るだろ」

「出来ないとは言わないけど手際が良すぎるんだよお前は」

 

現在、横島と俺はケイ君と遊んでいた。

俺の記憶通り横島はすさまじいスピードで竹とんぼを作り、ケイを夢中にさせている。

 

「横島兄ちゃん、シュウ、こっちこっち」

「はいはい」

「シュウ兄ちゃんな……」

 

……あれ?こんなにのほほんとしてて良いんだっけ?

いや良いワケないな、そうだよ、これから美神さんたち来るじゃん。

そういえば、と思い出したところでミイさんがこちらに近付いてきた。

 

「すみません、ウチの子の遊び相手になっていただいて」

「あ、いえいえ、主に横島に懐いてるみたいなので、俺はおまけですよ」

「そんなことはないかと」

 

くすくすと笑いながら言うミイさん。

この人とも会話しておかないとなぁ。

 

「ミイさん、結構ここ危ないんですよ」

「?といいますと」

「今、ウチの上司、まぁ所謂退魔師がはぐれた横島と俺を探してると思うんですよ」

「?!」

 

俺の言葉を聞いて目を見開くミイさん。

ミイさんが何か行動する前に手で制して続ける。

 

「いえ、まだここを突き止めたとかそういうことは無いと思うんですが、このままだと時間の問題かと」

「……あなたたちが手引きしている、いえ、そもそもあなた達が私たちに害する……というわけではないんでしょうね……」

 

言葉の途中でケイと遊ぶ横島を横目で見て、警戒を解いてため息をつくミイさん。

 

「はい、なんなら横島の方はあなたたちが猫又だということすら気付いてないんじゃないですかね」

「シュウさんはいつから」

「最初からです」

「最初から?では最初から私たちが目的で近付いたということですか?」

「いえ、あいつがぶっ倒れてたのも、遭難してたのも、助けてもらったのも、偶然ですよ。

 まぁ、自分も知り合いに猫又が居ますし、助けてくれるなら人外だとかその辺りはわりとどうでも良いので。

 どうせ横島ももしあなた達が妖怪だと知っていたとしても別に態度は変わらないと思いますよ」

 

俺の言葉を聞いて目を大きく開くミイさん。そしてすぐあきれたように笑顔になった。

 

「変わった退魔師さんなんですね」

「まぁ、確かに……。で、まぁこれだけ仲良くなってしまったらもう退治だとか上司へ連絡なんて無理ですよ。

 横島にも後で正体を見せても大丈夫だと思いますよ。あいつの方がよっぽど妖怪とかに対して偏見とかないやつもいませんし。

 ……あぁ、最初は滅茶苦茶ビビるかもしれませんけどね、ビビリなので」

「それは、また……」

 

苦笑しながらも言われた言葉をかみ砕いているのか考える様子のミイさん。

そんなミイさんを横目に続ける。

 

「ただ、上司は別です。

 しっかり工事の邪魔をしている妖怪の退治を依頼で受けちゃってますからね。

 日本一のゴーストスイーパーと言われている上司なので、絶対に戦わない方が良いかと。

 期限が過ぎるまでもっと奥に隠れて上司への依頼期限が過ぎるのを待つのが一番いいかと」

「な、それほどにお強いんですかあなたたちは」

「上司は、ですけどね」

「……何とかなりますでしょうか」

「まぁ、近くまで来ていないか確認して、ヤバそうなら退散ですね。期限さえ超えれば勝ちですし。

 俺と横島で手分けして上司を探して、見つけたら適当な方向に向かって猫又を見たーなんて言って時間稼ぎですよ」

「……お世話になります」

「いえ、先に助けてもらったのはこちらですし」

 

ミイさんに頭を下げられてしまった。

これでミイさんが先に美神さんと合流してけがを負うこともないだろう。

あとで横島にも説明しないとな。

 

「そういえば、猫又にお知り合いがいらっしゃるとか」

「え?あぁ、といってもそんなに仲良しこよしってわけじゃないですけどね。敵じゃない程度ですよ。気に入ったとか言ってもらえましたしね」

「気に入った……?…………それって、もしかして、ミケって名前だったりしますか?」

「あ、そうですそうです。美毛さんって言ってましたね。お知合いですか?猫又同士だしもしかしたらーなんて思ってたんですよね」

「あー、、、ちょっと遠い親戚、ですね」

「おぉ、世間は狭いですね。ビックリしました」

「気に入った、と言われたんですね?」

 

俺に問いかけながら片手を額に当てて頭を抱えるミイさん。

 

「え、えぇ、、、それが何か……?」

「ミケはですね、ちょっと、いえかなり歪んだ愛情を持ってる猫又でして……」

 

げ、ひょっとしてヤンデレとかいうやつか?

そういう意味で気に入ってたのか。好かれるほど関わったとは思えないんだけどなぁ。

 

「えっと、うーん、あのぉ」

 

頭を抱えながら言い辛そうに言い辛そうにするミイさん。

すごく気になる……。

意を決したのか、続きを口にした。

 

「ミケは、気に入った相手をですね、死体にして可愛がりたいという癖を持ってまして……」

「はい?…………は?」

 

ちょっとまって?

……は?

 

「あ、いえ、あの、最近は結構マシにはなってきてるんですよ?!ただ、元々そういう癖があったので、ちょっと心配で」

 

俺の様子を見て慌てて手を目の前で振りながら続けるミイさんだが、全くフォローになっていない。

え?ヤンデレとかそういうレベルのもんじゃなくない?

 

「具体的に言うと「言わんで良いです!」そ、そうですか?すみません……ウチの親戚が……」

「い、いえ……」

 

なんだか頭を抱える問題が更に増えてしまった気がする、いや違うか、増えてたのか……。気付いてなかっただけね。

好意というか、もはやそれは敵と考えて良いレベルじゃないか?

大の字になって原っぱに倒れ込んで仰向けになる。俺も頭を抱えて叫びたくなったが一応ミイさんの手前、我慢できた。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なるほど、理解した」

 

ミイさんとの会話を横島に共有すると、最初はミイさんの正体にビビってはいたものの、流石の横島、すぐに別の心配(美神さんの相手)に考えをシフトしていた。

ちなみに、ケイは隣の部屋で昼寝している。

 

「さて、放っておいてもここが見つかるだけだよな」

「まぁ間違いなく見つかるだろうな」

「やはりそうですか」

 

俺と横島の会話を聞いて肩を落とすミイさん。

まぁ美神さんが見つけられないわけないのでそれは仕方ない。

まぁこっちに荷物がほとんどあるのが助かったというところか。見鬼くんもこっちにあるし。

 

「別々に探すのも良いけどよー、最悪美神さんと戦闘になった時のことを考えると出来れば一緒に遭遇したいよなぁ」

「そううまくいくかな、最悪ここで待ち構えて、来たら二人には裏から逃げてもらって戦闘の方が良くないか?お前のサイキック猫だましとか」

「まぁ確かに会えずに美神さんがここを見付けるリスクを考えるとその方が良いけどよー、その場合戦闘は避けられないし、戻ってからのお仕置きも確定するぞ?」

「まぁそれはそうだな」

 

うーん、と二人で頭を抱える。

どうにか先に美神さんと合流して会話で上手くそらせられれば良いんだけど、問題は美神さんの位置がこちらからも分からないことだ。

ただでさえ心眼は美神さんが持ってい……まて、そうだよ、心眼は美神さんが持ってるんだった!

 

「横島!美神さんは心眼を持ってるんだ、俺達の場所はすぐにばれるぞ!」

「げ!そうか、忘れてた、俺達の霊力にミイさん達の妖力、心眼がちょっと本気出したらすぐ見つかるじゃねーか」

「「っ!!」」

 

その事実に気付いた瞬間、横島と同時にこの敷地の入り口側にばっと目をやる。

 

「え?どうされました?」

 

ミイさんが不思議そうにしているが、俺達にはわかる。

 

「「来た」」

「え?あの、、、私の感覚でも特にそのような反応は。化猫族の感覚は人間の数千倍も優れてますし気のせいでは」

「「良いから隠れて」」

「は、はい」

 

二人同時に真剣な顔で言われたからか、おとなしくケイが寝ている部屋にうつるミイさん。

そのままケイを連れて裏口から出てくれれば良い。

 

「横島ー、シュウー、いるんでしょー?」

 

ミイさんが気配を消して下がった瞬間、庭から美神さんの声がした。

横島と目線を合わせて頷きあう。

 

「あ、美神さん!おい、助かったぞシュウ」

「マジか!」

 

言いながら家を飛び出す。

 

「流石心眼ね、やっと見つけたわ」

『だから言ったろう、二人ともこっちにいると』

「その割に時間がかかったじゃない」

『なにやら気配が曖昧だったのでな、察するに二人とも一度瀕死まで追い込まれてたのではないか?』

 

二人の会話からすると、心眼が時間稼ぎしてくれていた様だ。

 

「そうなんすよ、この家見つけるまで、二人で森を彷徨いに彷徨いまくって」

「横島が倒れたところを俺が担いでウロウロしてたら家を見付けてさっきようやく横島の体力が回復してきたところなんですよね」

「食うものが何故かあったから助かったんですよ」

 

流石の横島、何も言わなくても口裏を合わせてくれる。

そんな俺達を薄目で見て「ふーん」と呟く美神さん。

おキヌちゃんは「無事でよかったですー」とひんひん泣いている。

嫌な汗が背中を伝う。

恐らく横島も同じ感情だろう。

……バレてね?これ。

 

「まぁ良いわ。妖気の残り方からして、ここは妖怪が暮らしてた場所でしょうね」

「そ、そうなんですか?」

「えぇ、さて、隠し立てしても良いことないわよ?ここにいた妖怪は何処?」

 

何だったんだ俺達の息ピッタリだと思い込んでた言い訳。

一応続けるか。

 

「え?だから空き家だったんで休ませてもらってただけで、妖怪が居るのかは知らなくて」

「へぇ、そう、じゃあ横島君の服についてる獣の毛は何なのかしら?妖怪の子供かしら?子供に好かれそうだもんねぇ横島君は」

「え?!」

「おいバカ!」

 

美神さんの言葉に慌てて服を見る横島。

 

「マヌケは見つかったみたいね。これだけハッキリ会話してる様子を見ると、操られている様子でも無さそうだけど、どういうつもりかしら?」

 

言いながら神通根をキンッと伸ばす美神さん。

笑顔だが、よく見ると目元がヒクヒクと動いており、血管が浮いてるようだ。

 

「あ」

「やっぱり美神さん騙そうってのはウチラにはまだまだ未熟だったな……」

「いやじゃー!戦闘は絶対避けたかったのにー!」

「諦めろって」

「さて、どうせ横島くんが妖怪に同情してってところでしょうけど、私とやるつもりかしら?」

 

ニヤリと笑う美神さん。

それを見て覚悟を決めたのかハンズオブグローリーを展開する横島。

 

「こうなったら、俺が相手っす!」

 

横目でそれを見て俺も覚悟を決めて構える。

 

「当然俺も相手になります!」

 

「ゲ、ちょ、ちょっと卑怯よ横島君!男なら正々堂々と一対一でやりなさいよ!」

 

美神さん涙目。まぁ流石に俺も対人だと負ける気はないし、逆の立場だったら絶望的だよなぁ。

……どうしてこうなった。

というか、なんで美神さんは横島一人で戦うと思ったんだ、当然俺も一緒に決まってるだろ。

さて、どうやってケガさせずに美神さんを無力化させるか。

 

「シュウもやるなんて聞いてないわよー!」

 

涙声で喚きながらブンブンと神通棍を振り回す美神さん。

卑怯だーだの一人ずつだーだのギャーギャー色々言っている。まるで駄々っ子だ。

苦笑して構えを解いた瞬間、本当に一瞬の間、目の前に神通棍の切っ先が迫ってきていた。

 

「っく?!」

 

それをギリギリで顔を捻ることで避ける。

 

「チッ、これくらいの不意打ちじゃ避けるか」

 

ニヤリと不敵に笑ってこちらを見る美神さん。

た、タイミングの間が完璧だった。速さもそうだが、気付いたら目の前にいた。

なんて戦闘センスだ……。

 

「何驚いてるのよ、あんたもそっち側だってことなんて当然最初から解ってるわよ」

「……」

 

いつもと違う<凄み>を美神さんから感じる。

 

「あんた、私相手なら余裕だとなめてたでしょ?いくらアンタの体術が人外じみてるからって、私が今まで相手にしてきたのは本物の人外よ?天下の美神令子をなめんじゃないわよ。

しかも、私相手に怪我させずにとか考えてんじゃないでしょうね?なめられたもんね私も!」

 

言い終わった瞬間、美神さんの威圧感が跳ね上がる。

 

「……わかってたつもりでしたが、確かにいつの間にか思いあがってたみたいっすね……」

「あわわ、美神さんの本気がこれほどなんて……」

 

冷汗が頬を伝う。

横島も今の動きを見て戦慄してる。

 

「……本気?あんた達、本格的に私をなめてんの?」

 

更に威圧感が上がったと思った瞬間、横島の真横を美神さんの蹴りが通る。

今の一瞬で何回フェイントを入れたんだ?と思うほどに避けにくいその蹴りが横島に当たらなかった理由は、

ギリギリのタイミングで気付いた俺が、横島に当たる寸前に横島の手を引いたからだ。

 

「へぇ、今の見えてるのね。相変わらず目も良いわね。でも、シュウ、あんたこの状況ならどうするつもり?」

 

感心する様に言い終わった瞬間、美神さんの身体の周りを濃い霊力が包み込む。

あ、ダメだこれ。

 

「わりぃ、横島、多分横島の攻撃しか美神さんに通じないわ」

「は?なんでだよ、お前の攻撃ならいくら美神さん相手だろうが人間相手なら……」

「いや、確かに俺の攻撃なら当たると思うけどな、あれに触れたら一発で瀕死になるわ俺。

 一応全力でやれば美神さんも行動不能に出来るとは思うけど、相打ちでこっちは死にかける上に、美神さんも瀕死にするレベルの攻撃しないとあれ突き破る前に気絶すると思う」

「マジかよ……」

 

マジで頭の中ではあの人は天才だと、強いと、絶対敵わないと、解ってたつもりだったんだけどな。

いつの間にか思いあがっていた、人相手ならどうにでもなると。

まぁ大抵の人相手ならどうにでもなるというのは嘘じゃないだろう、

ただよく考えなくても同然だ、世界でもトップレベルのGSなんだよなこの人。

霊力の使い方次第で俺では無力化されるじゃないか。

そうなのだ、この人は<あの>美神令子なんだ。

 

「事情を話す気になったかしら?」

 

ニコッと笑って言う美神さん。尋常じゃない濃度の霊力は纏ったままだ。

 

「話したら依頼を諦めてくれたりします?」

「ありえないわね」

「なら」

 

それを聞いて顔を見合わせる俺と横島。

そして同時に美神さんの方を見て言い放った。

 

「「いやっす」」

「いい度胸ね、そこは褒めてあげるわ。私相手だからって遠慮しないことね、覚悟したうえで本気を出しなさい?」

 

言いながら霊波砲を手から放出する美神さん。

二人同時に左右に避けながら考える。アンタそんな攻撃出来たっけ?

 

「あんたらが裏でこそこそ修業してるの見て何もしない私だと思ってるの?」

 

横島の後ろからの声、横島が振り向きかけるがその前に美神さんの蹴りが横島の脇腹に突き刺さる。

横島に出来たのは脇腹にめり込んだ足に片手を当てて威力を弱めつつ吹き飛ぶことだけだった。

 

「ぐえっ」

 

潰れたカエルの様な声を上げながらこちらに吹き飛んでくる横島を受け止めつつ美神さんの追撃に備えて美神さんを見る。

そこには足を抑えてこちらを睨みつけている美神さんがいた。

 

「よーこーしーまー……!やってくれるじゃないの……!」

 

良く見ると横島が美神さんに蹴られた時に手を当てた個所に霊波の跡が残っている。

 

「ごほっ、さ、流石にサイキックソーサーだと危険すぎますが、それくらいの嫌がらせなら俺にも出来るんっすよ……」

 

マジかこいつ、あの一瞬で美神さんの足に霊波流したのか。しかもあの濃さの霊力纏ってる美神さんの身体に。

 

『器用なものだな、破壊する目的ではなく痺れさせるイメージでの霊波をしっかり流しておる……』

「心眼、あんたどっちの味方よ」

 

おでこに巻いた心眼に文句を言いつつ足に手を当て続けている美神さん。

 

「シュウ、今のうちに俺を担いで逃げ」

「横島ぁ!!」

「ひぃ!」

 

自身の霊力の巡りで強制的に足を直したのか、やせ我慢かわからないが怒りを顔に張り付けて迫ってくる美神さん。

このままだと横島に当たるため霊力を込めた左腕で美神さんの拳を受け止める。

当然完全に真正面から受け止めるとアカンのでここしかないというタイミングで受け流す。

が、それでも俺の微力な霊力の壁は豆腐の様に削られて俺の腕を美神さんの霊力が焼く。

 

「ぐっ」

「馬鹿ね、あんたの霊力量で私の攻撃を受け止めたら火傷じゃすまないわよ?」

 

フン、と苦笑しながら下がる美神さん。

予想通り、危険な賭けではあったけど途中で霊力の濃度を下げてくれたみたいだ。じゃないと受け流したとはいっても霊力ズタズタにされて動けなくなってるはずだ。

……まぁ左腕はちょっと今は使い物にならなそうだけど。

流石にこちらに大怪我をさせる気もないのか、纏っている霊力も少し抑えたように見える。

今しかない。

 

「撤退に賛成だ横島。ここからは逃げ回るぞ」

「おい俺はうごけんzぐぇぇ」

「わかってる」

 

途中まで話していた横島を肩に俵担ぎして走り出す。

走りながらちらりと顔だけ向けると、美神さんはすぐに追おうとはせずに手を顔の横に拡声器の様にあてて声を上げた。

 

「あんた達、わかってるでしょうね、私に楯突いたんだから、後が怖いわよ?!」

「すんません、後で必ず説明は……」

「ちっ」

 

こちらの声が聞こえたかはわからないが、大きな舌打ちだけは後ろから聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

『何か事情があるようだが?』

「あ?んなこた解ってるわよ」

 

私の問いに表面上は不機嫌そうに答える美神。

纏っていた霊力を通常のものに戻して自身の足と拳を交互に見て少し嬉しそうにも見える。

 

『まぁ、あの二人のことだ、事情がある妖怪と和解して、と言ったところではないか?』

「あー、うっさいわね、わかってるってばそんなこと」

『美神さんは優しいですからねー』

「おキヌちゃんまで……、そんなんじゃないわよ」

 

おキヌ殿の言葉に毒気を抜かれた様に苦笑する美神。

その後頭をガリガリと掻いてため息をつきながら話す美神。

 

「はぁ、まぁ確かにね、横島くんだけならともかく、シュウくんも一緒でかつあの覚悟の決め方からしてよっぽど事情があるんでしょうよ。それくらいは解ってるわよ」

『なら素直に話を聞いてあげればいいのに』

「あのねおキヌちゃん、私は美神令子よ?それはありえないわ。それに仮にもGSが妖怪逃がすところまでやって良いわけないでしょ」

『ひねくれ者め』

 

つい苦笑しながらつぶやいた声は聞こえていた様だ。

 

「うっさいわね、それより心眼、あんた最初から分かってたわね?道理で道中の案内が曖昧だと思ったわよ。

 どうせあの二人の霊力と妖怪の妖力が一緒に居て穏やかだった、とかそんなところかしら?」

『ほう、気付いていたか』

「どいつもこいつも、なめんじゃないわよ」

 

ケッと悪態をついて私を額から外してポイとおキヌ殿に放る。

おキヌ殿が慌ててわたわたと私をキャッチしてくれる。

 

『これで依頼が間違いなく達成不可になる割には随分機嫌が良いようだな』

「フン、勘違いよ。煮えくり返り過ぎてハラワタで目玉焼きが作れそうよ」

 

表面だけ機嫌悪そうに言い捨てる美神だったが、確実に上機嫌だ。

こやつが機嫌悪かったら今頃私は地べたに叩きつけられておるだろう。

 

「ま、この機会にあの二人に私に逆らうとどうなるか、実力差を見せてやろうと思ったのは否定しないわよ」

『それだけではないだろうに』

「どういう意味よ」

『いや、何でもない』

 

全く、自覚してるのかどうかはわからんが、

横島に対しては自分の攻撃に反応したことや霊力のコントロールの向上、

シュウに関しても、反応出来るのは当然としても、手加減したとはいえ霊力を纏った自身の攻撃を、シュウ自身の霊力を使って受け流したこと、

どちらにしても心の底では上司として、部下の成長に喜びを感じているのだろうな。

何ともひねくれた確認の仕方だが。

 

結果、シュウの記憶通りこの依頼はキャンセルされ、猫又親子は無事となった。

その後、シュウと横島の二人はしっかりお仕置きされたのは言うまでもないが。

 




待たせすぎてるのに小分けで出すのも……と思ったのでまとめた結果1万文字くらいになってしまってました。。
読み辛かったらごめんなさい。
 
今後も細々と続けさせていただければと思います。


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31:横島とシュウの依頼

前回からほぼ一年。。相変わらず申し訳ないです。
何とかならんかなぁ、、
気付いたらとんでもない時間がたっていて老いを感じてます。
恐らく昨今の傾向から今年最後の更新なので、、、
みなさま良いお年を


「横島クン、この依頼お願いしていいかしら」

「へ?」

 

美神さんがいつもの机で書類を片付けながら一枚の依頼書を横島に向かってペラと見せる。

横島はその依頼書を見て目を丸くしている。指を自身の顔に向けて「俺?」と言わんばかりだ。

いや、お前なんでこの状況が意外なんだ。

 

「へ?じゃないでしょう、アンタ私がGメンの事務所に行ってた間、所長代理でちゃんと依頼こなしてたのは知ってるわよ。それも自分も行けそうな依頼ならちゃんと受けて対応してたのも」

「あ、そういえば、はぁ」

 

美神さんに言われてもまだ実感が湧いてないのか、改めて目の前の突き出された依頼書を受け取りながら生返事をする横島。

というかお前、美神さんが裏でフォローしてたらしいけどもう既に依頼任されてるんじゃないのか?

 

「いやだから、はぁじゃないのよ。だったらアンタがいけそうな依頼任せるのもおかしくないでしょうが」

「…………お」

「お?」

「俺のことを頼ってくれてるんですねー?!これは愛の告白と取っても「良いわけ無いでしょうが!バカやってないでさっさと依頼こなしてきなさい!」…………ふぁい……」

 

地面に沈めてヒールで頭を踏みつけながら一喝する美神さん、この光景も何度見たか。

というかこれからも何度も見るんだろうなぁ。

あと今回は横島の能力を考えると赤字は無いだろうと考えているのか、美神さんからの赤字は殺す宣言の釘差しはなかった。

 

「あ、シュウクンも今は一緒にお願いしたい依頼無いし、横島クンと一緒に行って大丈夫よ」

「わかりました。あ、横島がやってたみたいにヘルプ頼むのも良いんですよね?」

「そうね、その辺は勝手にやって頂戴。まぁ、金がかかるヘルプだったら報酬から天引きするけど」

「……ですよね」

 

フン、と鼻を鳴らして自席に戻る美神さん。

横島、さっさと起きろ、行くぞ。

 

 

 

 

 

 

 

事務所を出て横島と歩く。

横島は依頼書とにらめっこだ。

 

「で、依頼書の内容は?」

「普通の除霊依頼みたいだな。ランクも低いみたいだし、確かに俺でも依頼達成出来るような依頼みたいだな」

「じゃあヘルプはいらないか」

「せやな、まぁ暇そうにしてたらカオスのおっさんとか誘っても良いけど、報酬分引かれるのもなぁ。数少ない俺らが普通の収入もらえるチャンスやし」

「あれ、俺にも報酬出るのか?」

「そら美神さんも鬼じゃないし、二人分で出してくれるやろ」

「美神さんだぞ?」

「……ちゃんとシュウが働いてくれたら俺の報酬から相応の金額出してやるよ。まぁ歩合制にはなるし、美神さんからの報酬が普通の報酬だったらだけどな」

「ほんと横島はそういうところしっかりしてるよなぁ。基本的に金に対してもクズムーブしようとはするけど、仕事関係の払う方になると意外と」

「仕事でちゃんと報酬出さないと今後がなくなるだろうが。つかよく考えたら全然褒めてないやんけ!」

 

あの両親を考えるとまぁ当然か。

あれ、そういえば心眼は今寝てるのか?

【いや、これくらいの任務なら今回は黙っているつもりだ。やばくなれば助けるが偶には良かろう。美神からもそう言われておる、ずっと私が助言していたら修行にならんとな、私もそれには賛同だ】

なるほど、確かにそろそろ俺達もこれくらいはこなさないとなぁ。

 

「む、小僧とシュウか、奇遇じゃの」

「噂をすればカオスのおっさんじゃねーか」

「私達もいるわよ」「イエス」

 

横島と会話をしているとまさに正面からカオス、マリア、テレサの三人が歩いてきた。

 

「どうした、この天才ドクター・カオスになにか用でもあったのか?」

「あー、いや今から俺ら除霊依頼に行くところなんやけど、誰か無償で手伝ってくれないかなーって」

 

ワハハと頭に手をやって笑いながら言う横島。

それを聞いてフンと鼻を鳴らすドクター・カオス。

 

「まぁいつもなら報酬を聞くか、手伝わないのどちらかじゃな」

「じーさん、それは無償で手伝ってくれるってことか?」

「シュウ、無償には違いないが、こちらにも都合が良いといったところじゃ。ちょうど厄珍のところで発明品が売れて羽振りも良いしの」

「というと?」

「マリアとテレサの調整をしたばかりでの、現在効率よく霊的ダメージを与えられるように出来ないか試行錯誤中じゃ」

「なるほどな、依頼中に戦うことがあればその辺りが試せるってことか」

「そういうことじゃ」

 

胸を張ってどうだと言わんばかりのドクター・カオスが横島の言葉に頷く。

 

「つっても今回の依頼は簡単そうだから出番は無いかもだけどな」

「まぁGS免許が無い以上こういうことでもないと見学も出来ん、気にせずワシらも連れて行け」

「イエス・マリアも・手伝います」

「いい機会だしシュウの戦いっぷりも見させてもらうわよ」

 

どうやらマリアとテレサも反論は無いようだ。

 

「ほんじゃ無駄に多い人数だけどとりあえず依頼人に会いに行くかぁ」

 

そういうことになった。

 

 

 

 

 

「そういえばシュウ、お主に話しておきたいことがあったんじゃ」

 

横島が代表して依頼人の話を聞きに行っている間の待機中、ドクター・カオスが話しかけてきた。

いつもと違い少し真剣味のあるその姿に、特にすることも無いので続きを促す。

 

「お主、恐らくワシの若い頃に会ったことがあるみたいなんじゃが、なにか心当たりは無いか?」

 

ドクター・カオスの若い頃って数百年前だよな。

 

「いや、それだと俺もとんでもない年齢にならないか」

「ふむ、その様子ではまだ会う前、ということか。あーいやお主がずっとあの頃から生きているとは当然思ってはおらんのじゃが、どうやら何らかの方法でタイムスリップしてきたようでな。恐らくこれから体験することなんじゃろう」

「タイムスリップ?」

 

あー……中世ヨーロッパのやつか。

いつ来るかと思ってたし本当に起きるのか心配してたけど、やっぱり起きるんだね。

しかも俺が巻き込まれるの確定してるなこれ。

 

前々から考えてたけど、あのタイムスリップが起きなかった場合、

若い頃のドクター・カオスとマリア姫が巻き込まれるドクターヌルの事件って多分負けてそうなんだよな。

そう考えると発生自体は望むところなんだけど、あの事件って確か横島が死にかけるはずだからそこは変えなきゃいけないと思ってたんだよなぁ。

確か横島がヌルの攻撃で死んで、美神さんの能力で時間を巻き戻して助かるって話だったと思うけど、

時間の概念がよくわかってないけど、それって横島が死んだ時間軸自体は残って、横島が死んで美神さんが消えた時間軸になるんじゃないか、とか色々考えてたんだよな。

【まぁ、その辺りは難しい話になるな。以前も確かこの話で一晩中お主と話したが結論は出てなかったな】

そうそう、で結論としては、美神さんの能力発動しなかった時点でアウトなんだから、そもそも横島の死を避ける方針には変わらないからって考えるの諦めたんだよな。

【うむ、しかしこの話をドクター・カオスがしたことでそもそもの発端が変わらないか心配だが】

 

「そうタイムスリップじゃ、いやなんせ昔過ぎて思い出せてなかったんじゃが。一時的に全盛期の脳にしてみたところふと思い出しての、しかも思い出せなかった理由も、恐らく歴史を変えないようにどうやら自身でプロテクトをかけて細かいところは未来でネタバレしないようにしてたようでな」

「すげぇな、流石全盛期のじーさんはそこまで考えてるんだな」

「まぁワシ天才じゃからな。いやまぁこれを言うことでタイムスリップ自体が発生しなくなる可能性も考えたんじゃが、どうやらシュウが昔のワシと会っていた時に色々知ってた様でな、昔のワシもシュウに言っても大丈夫なところは記憶を残していた様じゃ」

「なるほど、むしろこの情報を話しておかないと俺がそのタイムスリップに巻き込まれない可能性もあるってことか。え、それだと卵が先か……って話にならないか?」

「時空の話はワシでも把握しきれてないんじゃ、何がきっかけでどう転ぶか、言わないと発生しないのであれば初回はどこなのか、疑問は尽きないが、どちらにしても全盛期頃の若いワシがシュウにはこの話をすると判断していた時点で話したほうが良いんじゃろう。なんせワシが判断したことじゃからな」

 

ワッハッハ、と笑いながら言うドクター・カオス。

確かに難しいことを考えてても仕方ないし、とりあえず美神さんと横島のタイムスリップには俺もついていけるように動いたほうが良いってことだけは伝わったからOKか。

【うむ、下手にドクター・カオスの記憶と違うことをするリスクを負う必要はあるまい】

そういう意味では今回の収穫は大きいな。

 

 

 

「お待たせ、依頼書に書いてあった内容でわかっちゃいたけど、とりあえず雑霊が出るってだけだわ。依頼の場所に行って除霊して終わりって感じかな」

「何よ、本当に簡単な仕事じゃない」

「テレサ・最初から・わかっていました」

「フン。……あー、でも霊力の無いシュウだと大変な仕事なのかしらね?」

 

思い出したかのように俺の方を見ながら言うテレサ。

ほんとお前俺に絡んでくるなぁ。

あと、一応小出しになら霊力乗せて攻撃できるからな。お前香港居たんだから知ってるだろ。

 

「テレサだって霊力乗せた攻撃出来るかまだわかってないんだろ?」

「うるさいわね。今調整中よ」

 

いやお前が喧嘩売ってきたんだよな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あー……、ちょぉっとぉこれはぁ……。

 

「横島、俺は今回報酬いらないからギブで」

「なんでやねん。俺も人のことは言えんがそろそろ多少は慣れろって」

「後生、勘弁」

「心配すんなって、俺もションベン漏らしそうなくらい怖いから」

「なんも解決にならない情報ありがとう横島」

 

「ねぇ、あれって何してるの?」

「シュウくん・怖いのが・苦手。横島さんも・シュウくん程ではないけど・苦手」

「は?…………あれあれあれあれー?天才格闘家のシュウさんにも苦手なものがあったんでちゅねー、あ、子供だからしかたないかぁ」

 

こいっつはマジで……。

つかお前原作と性格違いすぎないか?

煽り属性高すぎるんだが。

まぁ俺の顔を頑張って体勢を低く低くしながら覗き込んで煽ってくるテレサを無視して、目の前の現実をもう一度見る。

 

トンネルの入口。

それもまぁ昭和レトロな廃墟とも言えるようなやつだ。

そしてここで雑霊が出る時間が夕方以降ということで当然今の時刻は夕方である。

まぁあれだ、怖いな。

 

「これだけ大人数がいればそれほど怖くもなかろうに」

 

フン、と鼻で息を漏らすドクター・カオス。

人数とか関係ないんですよ。怖いんですよえぇもう雰囲気からして。

廃病院とか廃校とかに並ぶ怖さですよ夜の古いトンネルって。

いや、なんだかんだ言って冥子さんと一緒に行ったトンネルは怖かったけど多少明るめだったし、時間帯もそんなに遅くなかったけど、今回は入り口の雰囲気からして怖いですよオーラがヤバイんですよ。

あとあの時は自分よりパニックになる人がいたから多少冷静になれたと思う。

 

「ええから行くぞ。さっさと終わらせて帰りてぇんだよ、俺も流石に怖いし」

「まじでこれ入るのかぁ……。もう嫌なんだけど」

 

文句を言いつつも横島についていく。

ずっと俺を煽ってくるテレサは完全に無視。

いやむしろ賑やかしとしては助かってるかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっ!」

「「ギャー!!」」

 

しばらく歩いて、急に静かになったテレサにふざけんなずっと煽ってろ(?)と謎の文句を言おうとした瞬間、

突然大きな音が鳴って俺と横島が声を上げる。

何事かと周りを見ると、テレサが声にならないくらい腹を抱えて笑っていた。

 

「サイキックソーサーで爆散させたろかばかたれ!!」

「じーさん、ぶっ壊していいか?」

「良いわけなかろう。あー小僧もサイキックソーサーをしまわんか。シュウ!お前の力で殴ったら本当にぶっ壊れるじゃろうが!」

「テレサ・悪ふざけ・良くない」

「「「「「!!」」」」」

 

ちょっと全力で拳を握り始めた瞬間、全員が異変に気付いて跳んで散る。

テレサも先程までの表情を収めて真顔である。

そして先程まで俺たちがいた場所を何かが通る。

 

「なぁ、雑霊が1体って話じゃなかった?」

「いいい依頼書はな。……こりゃ記録して追加請求しないとだわ。マリア、記録はしてくれてるか?」

「イエス・横島さん」

「シュウは霊力温存しつつ俺と一緒にけん制、カオスのおっさんはマリアとテレサに指示出し頼めるか。あぁ一応戦闘データ取りたいなら先に仕掛けてもらって良いぞ」

「了解」

「うむ。マリア、テレサ、ぶっつけ本番じゃ、搭載した武器の安全ロック解除」

「イエス・ドクター・カオス」

「もうやってるわよ」

 

本当に横島の成長が精神面含めて著しい。

少し動揺を見せたが、周りを見て自分が仕切る必要があると判断したのか、有能モードにいきなり切り替わった様だ。

嬉しくなる半面、今の状況を何とかする必要がある。

俺たちが飛び退いた場所を見ると、地面にえぐられた様な跡が残っている。

先程の攻撃は斬撃だったようだ。

 

「斬撃を飛ばしてくる霊は想定外だな」

「まぁふいうち失敗した時点で楽勝よ」

「油断するなよテレサ」

「わかってるわようるさいわね」

 

言いながらアームからマシンガンを撃つテレサ。カオスの指示なんて全く待ってない。良いのかそれは。

何発かは霊を通り抜けるが、何発かが霊に当たっているのが見える。

 

「フム、完全に失敗ではないが、調整の必要はまだありそうじゃな。マリア」

「イエス」

 

テレサがロケットアームで霊を殴りつける。

霊へのダメージも大きいのか怯んで揺らぐ。

 

「こちらは効果アリ、か。最初は焦ったがそこまで強い相手でもなさそうじゃな。後は小僧とシュウでどうとでも出来るじゃろ」

「そう、だな!」

 

言いながら霊に向かい、追い越しながら霊の後ろに回り込む。

最近拳とか足だけではなく大体の場所に霊力を乗せれるようになってきたので、肘に霊力を軽く載せて肘で打つ。

霊が吹き飛ぶもののダメージを受けている様子がほとんど無いことに気付いて少し落ち込む。

そしてそのまま横島方面に飛んで行った霊は横島がハンズオブグローリーで切り裂いた。

 

「ふぅ、やっぱ追加請求は無し、だな。あー、まだ相手の力量とかよくわからんわ。かなりやべぇ相手とぶち当たったと思ったら結局雑霊かよ」

 

頭をガリガリとかく横島。

 

『そう自分を卑下するな横島。お主の判断力とその速さは称賛に値する。特に今までを考えると素晴らしい成長だぞ』

「マジ?」

『相変わらず自己評価の低い男だ。あの美神がシュウをつけたとはいえお主一人に任せた時点でだな』

「脈あり、と」

「いらんいらん、その照れ隠しなのかマジなのかわからんボケ」

「なんだとシュウ、俺はボケてないぞ」

「なおさら駄目だろ」

 

確かに今の雑霊は結果的に横島が想定したより弱かったみたいだけど、逆よりはマシだ。

わからないなりに最悪を考慮して即動ける判断力は素晴らしいと思う。

まぁ当然俺も相手の強さはわからんかったけども、俺は結構油断しがちだし。

【自覚はあったのか】

流石にあれだけ心眼から説教されたらなぁ。

【なら早めになおすのだな。前の世界では敵なしだったかもしれんが、この世界では命取りになるぞ】

霊力が皆無って時点でそれは覚悟して注意してたつもりだったんだけどな。

【下手に霊力も使える様になって、油断が戻ってきておるぞ】

……ですよね。気を付けます。

【うむ】

 

 

 

 

その後、予定通り依頼主に報酬を貰い、美神さんに報告してこの依頼は完了した。

ドクター・カオス、マリアとも互いに礼を言いあいながら解散した。テレサからは最後まで憎まれ口を叩かれていたが。

 

美神さんが「どうせ横島に渡したら無駄遣いする」と結構天引きしているように見えたが、

それでも割と横島が大満足する程度の報酬は渡していたし、そもそも天引きしている金額は美神さんが別で横島用に作ってある口座に入れてあることは心眼経由で知っている。

……知っていることが美神さんにバレたら殺されそうだが。

 




夜中に突発で書いて投稿してるので色々設定ぐちゃってたり誤字脱字パレードだったら申し訳ないな、と思いつつそのまま投稿ぽちー。
もしかしたら後で色々なおすかもしれませんが、お気軽に暇つぶし程度に楽しんでいただけたらと思います。


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