偽沖田さんの永い旅 (星の空)
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プロローグ ー聖杯戦争ー

土砂降りの雨の中1人の青年が倒れており、傍には刀を腰に据えた桜髪の少女が地面に膝を着いていた。

青年は心臓を抉られているようでそこからどくどくと血を流していて、少女は必死に何事かを青年に告げていた。

 

「………………本当に…………いいの…………か……?」

「えぇ、構いませんとも。私の身も心も余す事無くその全てが貴方のものなんですから。」

「すまない…………な。願いを…………叶えれ……なくて…………」

「私の愛しい人が救えるのならば構いません。儀式に取り掛かるので少々お待ちくださいね。」

 

少女は己の主の命を救うべく聖杯からの知識(・・・・・・・)をもとに儀式用の魔法陣を地面に刻む。

準備が出来次第、少女は血濡れた青年の服を破り捨て、自分の和服を脱いで一糸まとわぬ姿になった。そして、青年に覆い被さる様にして、儀式の詠唱を唱えた。

真夜中と共に少女と青年が光り、数秒後には収まった。後には、少女と瓜二つになった青年が1人しかいなかった。

 

「………………すまない……総司……約束は必ず果たす。」

 

そう1人ごちた青年はゆっくりと立ち上がって変貌した(・・・・)肉体の調子を確認する。

 

「さしずめ擬似英霊(デミ・サーヴァント)と言った所か。ステータスは変化無し、霊体化も可能。まずは仇討ちだな。」

 

確認が出来たら、少女が脱ぎ捨てた和服を身に纏う。無論、パンツを穿いてサラシも巻いてからである。最後に少女の刀を腰に据えて襟巻き(マフラー)で口を隠すように首に巻いたら、その場から姿を晦ますのであった。

 

 

+▪+▪+▪+▪+▪+▪+

 

 

俺が聖杯戦争のために召喚した剣士(セイバー)に救われてから1週間が経っていた。その間に槍兵(ランサー)の哪吒太子を倒したり、狂戦士(バーサーカー)のカリギュラを倒した。他の弓兵(アーチャー)のパリスや騎兵(ライダー)のゲオルギオスは魔術師(キャスター)のソロモンに討たれたらしい。

そして、暗殺者(アサシン)のハサン・サッバーハは俺の仇である蟲翁のマスターと共におり、今俺と相対していた。

 

「呵呵呵呵呵呵ッ!!!!未だ消滅しておらんとは死に損なったなぁセイバーよ。なに、今一度死ねばいいだけよ。」

「…………………………」

「ふん、余興も楽しめぬか。アサシン、殺れ。」

「御意」

 

蟲翁……間桐臓硯こと、マキリ・ゾォルケンはどうやら俺の事をセイバーと認識しているようだ。まぁ、バレないならそれに越したことはない。アサシンが気配遮断で暗闇に溶け込み姿を消した。

だが、場所は分かっている。臓硯の隣から大回りをして背後に回っている。分かる訳は俺の魔術師としての属性が風と(エーテル)であり、起源が時間と空間だからだ。

認識した空間の気流の動きで場所が分かるのだ。

左真隣にアサシンが来たら、縮地でアサシンの目前に移動して抜刀し、アサシンの首を断つ。

 

「なっ!?有り得ん!?!?!?」

 

臓硯が驚愕した声が聞こえる。無理もない。今のは紛れもない次元跳躍……ワープそのものなのだから。その隙を突いて臓硯をその場に空間固定をする。

そうすると、臓硯は一切動けなくなった。俺は解析の魔術を使って臓硯の状態を確認。

肉体を構成する蟲を支配して、その蟲に臓硯の魂を癒着させることで臓硯自身は延命しているようだ。その中に本体とも言える蟲を見つけ出した。

 

「…………これは唯の仇討ちです。御覚悟を!」

「なっ!?やめっ……………………………………ッ!!!!」

 

固定されて動けない臓硯の本体を一閃。その一撃で臓硯は死に絶え、肉体を構成する蟲達は塵となって消えていった。

それを見届けてから背後にいる2人に声をかけた。

 

「キャスター陣営ですか。」

「いかにも。キャスターソロモンとそのマスターのマリスビリー・アニムスフィアだ。では…………」

「言いたいことは分かります。ですが、戦いません。」

「…………マスター、この者はセイバーではなくセイバーのマスターだ。マスターの言っていた擬似英霊(デミ・サーヴァント)となっている。つまり聖杯戦争は決したという事だ。」

「ご説明ありがとうございます、キャスター。そういうことなので勝者は貴方々です。貴方々に聖杯の使用権があります。」

「……………………分かった。後で話したいことがあるから待っててくれ。」

 

マリスビリーは巨万の富を聖杯に願い、ソロモンは王という存在から人間になることを望んだ。

俺とマリスビリーが見守る中ソロモンは転生し、残ったのは俺とマリスビリーだけであった。

 

「それで、話したいことなんだが…………………」

「分かりました。その話に乗ります。ですが…………………………」

 

マリスビリーからのとあるお誘いに条件付きで乗ることにした。



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第1話 時の旅 ー出立ー

マリスビリーとある契約を結んだ。

内容としては、マリスビリーの創った組織に入る。その代わりに建物の出入りを自由にさせてもらうことだ。

場所を知り、その巨大工房に入り、その1年は色々と協力した。守護英霊召喚システムを確立したり、擬似英霊(デミ・サーヴァント)を生み出す実験等だ。

実験が失敗に終わり、マリスビリーは俺以外にも勧誘を始めるそうなのでその間にちょくちょく旅に出る事にした。

1年分の食料と水を特製鞄に詰め込んで他にも日本にある唯一の星の聖剣たる神造兵装やいつの間にかあった煉獄刀、着慣れた着替えや下着類、追加のサラシを始めとして必要なものは入れていく。

下はパンツに短パンを穿くだけで、上はサラシを巻いて総司の残したノースリーブでワンピースタイプの和服に身を包む。脚は太股まである特製靴下を穿き、靴はスパイク付きブーツを履く。誠の羽織は目立つため代わりにコートで代用した。これが旅路の服装だ。

鞄は俺の魔術起源である時間と空間を利用して、内部を拡張して時間停止効果を付与した魔術礼装で服も全て不変不朽の魔術礼装となっている。鎧もあればいいのだがそれはいずれ。

最後に俺の肉体そのものに空間固定による不朽と時間停止による不老を与えたら万全に。そして、菊一文字宗則を腰に据えたら準備は整った。

ロマニ・アーキマンという医療部長となった青年が元実験体であった少女、マシュ・キリエライトのもとに向かうのを横目で見つつマリスビリーのもとへ向かった。

 

「おはようマリスビリー。」

「ん?おぉ、セイバー(・・・・)か。その装束ということはとうとう行くのだね?」

「えぇ。あの子に相応しい者になるためには見聞を広くしないといけませんからね。俺自身の魔術起源により第5魔法が扱える。それを利用して過去に跳びます。特異点が起きないように気をつけるけますが、土産話を楽しみにしておいて下さいね。」

「勿論だとも。出来たらレポートにでも纏めてくれたら尚のこと嬉しいさ。特異点との相違点が分かるからね。」

「了解しました!では、行って参ります!」

 

マリスビリーにそう言い残して時を跳んだ。行先は紀元前の神話時代の中で最も最古の神話であるメソポタミア。彼の王と相見えることが出来たら何かを知れるかもしれない。未知への探求心も持ちながら時を越えた。

なんとか辿り着いた。その視界に入るのは辺り一面が荒野であり、その先に大都市ウルクを見つけた。

 

「うん。壮大、の一言ですね。まずは言語と文字を覚えましょうか。厄介な奴に会わないようにするにもまずは言葉を交わせないと無理な話です。」

 

俺は姿を霊体化してウルクを目指すのであった。



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第2話 時の旅 ーバビロニアー

メソポタミアの時代に来て早5年。

ウルクを統治する王ギルガメッシュと相対し、死にかけたのは昔の話。今はとある神様と向き合っていた。

 

「まさか招かれるとは思いませんでしたよ、水神エンキ。」

「もとは招く気がなかったんだがねぇ。」

 

エンキ。それは工芸、水、知性、創造の神性を有するメソポタミアの神のうち1人。そんな大物に招かれて今は彼の神の根城にいるのだ。

招かれた訳は何となくわかる。だが、敢えて知らんぷりをする。

 

「それで、私のような1小市民に何の用ですか?」

「減らず口を…………俺が読んだわけは言わずとも分かってるだろうが。まぁいい。アヌやエンリルより先に接触出来ただけでも良好だ。」

「他の神々より先、ですか?」

「あぁ。お前さんは不穏分子に近いからな。イシュタル嗾けられて消されてたかもよ?」

「うひゃあ、理不尽過ぎますよ。まぁその理不尽さが神の売りですからねぇ。」

「おいコラ、あいつらと一緒にしてんじゃねぇよ。って、その事は今はいい。それより、このご時世をどう思う未来人(・・・)?」

「あちゃあ、バレてましたか。」

「あいつらと違って俺は知性(・・)があるからな。それで、どうなんだ?」

「率直に言って私以外に人間がいませんね。その辺にいるのは皆動く肉人形。知性はあれど理不尽に圧迫されて無いも同然。このままだと信仰する知性すら失せて神々は瓦解。死の星に早変わりしますね。神は神として、人は人として過ごしていかなければ……ね。」

 

この時代に来て以来抱えていたものをエア神にぶちまけた。特異点にはならないにしろ異聞帯(・・・)になりかけているため、近いうちにギルガメッシュが乖離剣エアを解放しなければ星の生命が潰えてしまいかねない。

 

「やはり、か。ギルガメッシュに乖離剣を渡したため自分じゃ袂を頒てねぇ。」

「ギルガメッシュに言おうとしても何処にいるかわからないですし。」

 

そう、ギルガメッシュは今不老不死の霊薬を求めて旅に出ているため不在なのだ。故に袂を頒てる者がいないのだ。

 

「そう。ギルガメッシュが何処にいるかが分からねぇ。だから、お前がやれ(・・・・・)。」

「は?………………………………はぁ!?!?なに、馬鹿なことを言ってやがるんですか!?歴史改変などするわけないでしょう!?そもそも乖離剣すらないのにどうやってやれと言うんですか!?」

「あん?ギルガメッシュがやったって吹聴すりゃいいだろうが。それに乖離()はないな。乖離()はな。だが、念のために此奴を用意してたんだよ。名称は乖離()だな。」

 

エア神はなんてことないようにいいながら、ひとつの槍を取り出した。それは乖離剣に使われている3つの円筒状のものが縦に並んでおり、穂先と石突もあった。軽く触れると中央は固定されているが、上の筒と下の筒は逆方向に廻るようだ。

 

「穂先側から天、地、冥の属性を有している。原理は乖離剣と何ら変わらねぇから使えるだろうよ。人と神の袂を頒てたらそいつを持って行って構わねぇからこの時代から去りな。」

「あぁもう!分かりましたよ!やればいいんでしょうやれば!とっとと送ってください!善は急げ、ですよ!」

「ハイハイ。」

 

乖離槍にある筒を持ち、立ち上がるとエア神が俺を転移させた。場所はバビロニアにある城の天辺のようだ。早速はじめようか。

 

「宝具起動、天地を頒つは乖離の星!!兎に角神は人を手放して下さい!!!!人神を断つ無窮の星(エヌマ・エリシュ)!!!!!!!!」

 

上の筒と下の筒が超光速回転を始め、空間の圧縮を始めた。周囲に被害が出かけてはいるが、少々問題は無いだろう。

そして、この宝具の起動に気付いた神々が天より降臨しようと天地を繋いだ。それを見計らって大投擲をする。

天地を繋ぐ門まで届き、空間を破壊する力の奔流が発揮された。門前に居た神々が肉塊へとなり、門を破壊。天と地が繋がることは二度と無かった。

 

「無事に成功しましたか。…………申し訳ありませんギルガメッシュ、孤独にしてしまうことをお詫び申し上げます。」

 

それを見届けてから乖離槍が落ちてきたのをキャッチしてギルガメッシュに謝罪。そして時間を操った。

次は紀元前2000年代にあったとされるギリシャ神話の時代へ向かうことにした。メソポタミア神話とほぼ同年代のため、脅威度も相応に高いだろう。

ギルガメッシュには悪いが、宝物庫から宝物を2割くすねて次元を跳躍するのであった。



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