これは私の矛盾証明 ( サキラ)
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主人公、夜遊びをする
『自由』というものに憧れている。
それは例えるならタンポポの綿毛のような自由さだ。
雲のような自由ではないのか?と聞かれるかもしれないが少し違う。
私はいつか根を下ろしたいのだ。
綿毛のように『自由』に空を舞っていつの日か『安心』を得れる場所に根を下ろしたい。
その安心を例えるなら揺りかごの中に居るような安心だ。
柔らかい毛布に包まれ、安らげ母親に守られているかのような安心を求めている。
幼い頃から漠然と…いや必然と言うべき想いを抱いて私は生きてきた。
だけどその二つは矛盾している。
『自由』に『不安』はつきもので、
『安心』は『束縛』から生まれるものだ。
磁石のS極とN極のように相反する存在だ。
だから私は施設を出たんだ。
あの場所は『不安』と『束縛』しか得れない場所だった。
幼い頃は家族とも思っていたが私が成長していくに連れ家族だと思ってた連中の視線は下卑たものになってきたし、あの鉄柵は私を閉じ込める檻としか思えなくなったのだ。
そしてあの思い出したくもない事件が起きた。
けど思い出したくもない代わりに思い知る事が出来た。
異性は私の姿を見ると劣情を抱き、同性は嫉妬からか敵意のこもった視線を向けてくる。
私にとって他人は『不安』と『束縛』を与えてくる存在でしかないという事を。
それと同時に疑問ができた。
なぜ『不安』と『束縛』は両立するのに『自由』と『安心』は矛盾しているのかと。
そしてその答えも悟ってしまった。
恐らくそれは他人から得ようとしていたからだと。
私が欲しいものは他人からは一生手に入らないんだと悟ってしまった。
そして私は決意した。
だったら『自由』も『安心』も他人から貰うのではなく自分から奪いに行く。
『不安』と『束縛』で他者を支配すれば何者にも阻害されない『自由』と『安心』を得れる筈だ。
そう誓って施設を出て2年の月日が流れた。
これは私の願いを私が証明していく物語だ。
「うんうん。だからね?私が入学して学校で見かけても話しかけたりしなくていいからね?上級生を侍らせて悪目立ちとかしたくないし間田君にも伝えといて。え?そんなの知ったこっちゃないんだけど?それとも私に二度手間かけさせよっての?………うんうんやっぱり君は仕事熱心だよね♪じゃあよろしく〜」
電話を切って近くにあった手頃なぬいぐるみを壁に叩きつける。
ムカつく奴だ。結局やるんだったら口答えせず二つ返事で了承しろ。
そもそも私だって間田の奴は嫌いだってのに。
「あぁ〜…めんどくさい。マジだるい。なんで私はこんな事やってんの?」
イライラを吐き出すようにベッドに沈み込み天井を仰いで問いかける。
元々はエジプト旅行のせいなんだ。
財布から一枚の写真を取り出す。
暗闇の中に浮かび上がるように写った首元に星型の変わった痣がある金髪の男。
この男が私の父親らしい。彼に会うためわざわざエジプトに行ったというのに結局会うは出来なかった。
ただでさえ苦労の連続だった旅が空振りに終わって気が滅入ってる時にアイツの反抗的な態度…ダメだ。またムカついてきた。
「…コンビニでも行こうかな」
ポツリと呟いて窓を見る。
窓の向こうには無数の水滴が張り付いており外の闇が鏡となって私の姿を映していた。
淡い金色を帯びたブロンドの髪、驚くほど白く透き通った肌にルビーのように赤く輝く瞳。
どの要素をとっても日本人離れした容姿は出歩くたびに注目の的になってしまうのだが雨降る夜なら人通りも少ないだろう。
……それにもしかしたらストレス発散もできるかもしれない。
ベットから起き上がりパーカーを羽織る。下は短パンのままだが服が濡れるのも嫌だしこのままでいいだろう。
素足のまま小ぢんまりした長靴をはいて傘を持って外に出る。
外はしとしとと小雨が静かに降っていた。
等間隔に並んだ街灯はまるでスポットライトのように雨粒を映している。
その中をくぐりながら傘を深めに顔を隠すようにさして歩いていく。
時折通る車に水をかけられないように注意しながら歩を進めていると住宅街の外れの通りにあるオーソンが見えてきた。
コンビニの自動ドアが開くとヤケに明るめな店内放送が耳に入ってきた。
店内はやる気なさげにレジに立っている店員と立ち読みしてる男が1人。
そういえばピンクダークの少年はどうなったんだろう?
立ち読みしている客を見てふと思う。
たしか最後に見たのはエジプトに行く前だった。
あのキザったらしい男との戦いはどうなったんだろう?
男の隣に立ち週刊の漫画雑誌を手にとってペラペラと探していく。
えっ…なんか知らない人と知らない人が戦ってる…。
なんか読む気が失せてしまった。やっぱり1ヵ月近く見れてないと話全然分かんなくなっちゃうや。
漫画雑誌を置いて適当にカップ麺を数個カゴに入れてレジに持っていく。
けれども目の前の店員は中々会計を始めてくれない。
「……あの」
「あっ!いえそのっすみません」
私の顔を見つめて呆けている店員に声をかけるとようやくしどろもどろにレジ打ちを始めた。
そのくせ妙にカッコつけた感じで接客され私の手を包み込むようにお釣りを渡される。
「……気持ち悪っ」
お釣りを無造作にポケットに突っ込み自動ドアの開いたタイミングでボソッと呟いた。
来るときは静かに降っていた雨はいつのまにか僅かに雨足を強めている。
住宅街を歩いていくに連れどんどんと雨足は強くなっていく。
いくつもの街灯を潜り抜け路地を曲がり公園の前に差し掛かった所でため息混じりに足を止めた。
「……で?おじさんはいつまで着いてくるつもりなのかな?」
後ろの暗闇に問いかけると返ってきたのは雨音に混ざった興奮した荒い呼吸だった。
「コンビニからずっと着け来てたよね?たかだか隣で立ち読みしたくらいで運命を感じちゃったのかな?」
振り返ってクスクスと小馬鹿にするように尋ねるとその男は目を血走らせて口を開いた。
「てめー、いい気になってんな…」
「 うーん。いい気にはなってないけど」
ニコッと笑い傘を持ってない左手をお腹に持っていく。
「最近うまくいかない事ばっかだし、欲求不満というか、一度スッキリしたかったんだよね」
左手をゆっくりと胸の方へ這わせていくと手の動きに合わせるように男の目が泳いでいく。
「おじさんはどう?溜まってない?ふふ…聞くまでもないかな?」
「……やっぱりてめーいい気になってんな?いいこと教えてやるよ俺は」
「片桐安十郎。通称アンジェロ。強姦殺人で逮捕されたのに脱獄した死刑囚さんだよね?」
笑いを堪えるように言うとアンジェロが固まった。
信じられないものを見る目で私を見ていた視線が一瞬チラリと後方へ逃げるように移動する。
明らかに動揺を隠せないアンジェロだったがやがて緊張を溶かすように気味の悪い笑いを上げだした。
「あぁ!その通りさ!それで?お嬢ちゃんは俺を捕まえて懸賞金でも貰おうって腹かよ!いい気になりやがって!逆にてめーを徹底的に犯してからブッ殺してやるぜ!ラッキーな事にこの雨だ!てめーがどんだけ泣き叫ぼうが」
「誰も気づきやしないよね?」
「誰も気づきやしないぜ!……ハッ!?」
先んじて次のセリフを言うと再びアンジェロの顔が驚愕の色に染まり視線がまた逃げるように泳ぎだす。
「…青ざめたね?不安なんでしょ?大丈夫。私があなたに『安心』と『自由』をあげるから」
一歩。私の方から歩み寄る。
するとアンジェロは逃げるように後ずさりしたがハッと我に返り声を上げた。
「うるせーー!!いい気になって訳わかんねぇーこと言いやがって!てめーの身体をふん縛って溺れさせながらヤッてやらぁーー!!」
水が蛇のように地面を這って私の身体に巻き付いてきた。
その反動で右手に持っていた傘が地面に落ちる。
勢いよく巻きついてきた水は弄るように足、太もも、腰、お腹、胸、二の腕と次々に縛り上げて自由を奪っていき唇に触れる直前で、
「──無駄」
跡形もなく消え去った。
「な、何が起こりやがった!?俺のスタンドは!?て、てめー!何をしやがったッ!?」
狼狽えるアンジェロを余所に落としてしまった傘を拾う。
あぁ私今凄くはしたない顔をしてるんだろう。
口角は釣り上がり目元はトロンと蕩けまるでご馳走を前にした子どもみたいな顔をしてるに違いない。
……やっとだ。やっとストレスを発散出来る。
「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
しばらく遊んでいるとアンジェロから悲鳴の代わりにうわ言を繰り返し出した。
しょうがないのでうつ伏せに倒れてるアンジェロを足で仰向けに起こす。
「ふふふっほらほらしっかり。まだまだ夜は長いんだよ?」
「ひ、ひいいいいいいっ!!だ、だれか助け…」
足でぐにぐにと頬を踏むと目が覚めたアンジェロは逃げ出そうとジタバタともがき出した。
「あ、コラ。暴れるな」
「うぎゃああああーーッ!」
すかさず左手に捉えているスタンドを握り締め大人しくさせる。
何度目かも覚えてない絶叫はまたも雨の音に掻き消されていった。
「い、いっそ殺せ!!俺を殺したいんだろう!?もう殺してくれ!」
「ヤだなぁ~そんな勿体ない事しないよ〜」
てか泣きながらそんなこと頼まれても困るっての。
死体の処理とか面倒だし。
「じゃあ金か!?懸賞金目当てだってんならさっさとおまわりに引き渡せってんだ!500万は貰えるぜ!?」
「うーん…お金には困ってないんだよね。それに児童相談所が出てくるかもしれないし面倒な事はやりたくない性分なの。ていうか…」
足をアンジェロの顔からどかし膝を曲げ覗き込むように見下ろしてやる。
「そんなに私が怖いの?」
そのまま微笑んでやるとアンジェロの喉がゴクリと鳴った。
「怖いんでしょ?私の事が。いやちょっと違うよね?私に嫌われるのがかな?私に不要って思われるのが怖いんだよね?そしてそう思えてきてる自分が怖くて堪んないんだよね?不安なんでしょう?私が笑ってくれるのならそのまま死んだって構わないって思っちゃったんでしょう?私の為なら喜んで死ねる自分に気づいちゃったんでしょう?」
「!?な、ふざけん…」
「嘘をつく人は嫌いだよ?」
「ッーーー!」
口答えをしようとしたので冷たい視線を向けてやるとアンジェロの顔は絶望に染まった。
そしてまた我に返り必死に私から目を背けようとする。
けれどもニコリと微笑んでやると彼の視線はあっさりと私の元へ引き戻されていく。
その様子が面白くて仕方ない。
まるで誘虫灯に寄らずにいられない虫ケラのようで。
「ねぇ?怖がらなくていいんだよ?私を喜ばせれる方法教えてあげよっか?」
耳元で囁いてやる。
返答こそないがその顔は確実に答えを求めていた。
街灯を背に立ち上がり素足のまま履いていた左の長靴を脱いでつま先をアンジェロの前に差し向ける。
「さぁ、舐めなさい?」
絶句するアンジェロ。
プライドの高い彼にはこんなこと屈辱以外の何物でもないんだろう。
しかしその目は傘からはみ出した足に落ちた雨粒が陶器のような肌を伝っていくのに釘付けになっている。
「もちろん意味は分かってるよね?跪いて口付けした瞬間からあなたは私の奴隷。私のために生きて私のために死ぬの。ふふっさぁ私とお友達になりましょう?」
つま先に集まった雨粒が雫になってアンジェロの鼻先に落ちる。
ほどなくして雨粒以外の感触が足に伝わった。
「ふふっ…いい子♡」
瞬間。堰を切ったかのような雨が勢いよく地面を叩いた。
「……じゃ用事も済んだしそろそろ帰ろっかな。ねぇ傘さしてもらえる?」
アンジェロが落とした傘を見ながら言うと彼は無言で自分の傘を拾い私だけを入れてきた。
「ん。ありがと」
アンジェロの傘の中で自分の傘を折りたたみスキップ混じりで歩き出す。
気分がいいからか傘を叩く雨音がなんだかメロディーのように聞こえてきて思わず鼻歌交じりにターンとかしてしまう自分がいた。
「ここまででいいや」
しばらくして舞うように進めていた足を止める。
まだ家までは距離があるがたとえ大まかだとしても場所を教えてやるつもりは毛頭無い。
どしゃ降りの中持ってくれていた傘をアンジェロの手から取る。
「それじゃバイバイ。風邪ひかないようにね」
手を振って雨の中に消えてくアンジェロを見送る。
アンジェロの姿が見えなくなってふう。と仰ぎながら息を吐いた。
高校への通学路にもなるこの道は杜王町の中ではちょっとした桜の名所で毎年この時期になると満開の桜が新入生を祝福している。
けれど今晩の大雨で桜は全て散ってしまっていた。
そのせいで通りに例年の面影はどこにもない。
けれど私は上機嫌だった。
あぁ明日の入学式が待ち遠しい。
とまぁこんな感じの主人公です。
主人公の名前とかは次話に。
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