双璧の結晶と双璧が行くIS世界 (白銀マーク)
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過去を背負いし者の戦い
プロローグ


 カレンは今混乱していた。ブリタニア皇帝となり世界を手に入れたライは今仮面の英雄ゼロに刺された。此処までならカレンは混乱しないが、ライが刺された瞬間、思い出したのだ。ライと共に居たあの日々を。

 

 

 

 かつて記憶喪失だった彼をカレンがお世話係主任として、色々な所を回りゲットーでテロにあった時は自身の体を盾にし守ってくれたこと。ナイトメアを目視操縦で巧みに動かした事。そして黒の騎士団に入団し双璧とまで呼ばれるようになった事、同じハーフだと知り喜んだ事。ブラックリベリオン以前の記憶を思い出したカレンは泣きながら彼の名を呼び続けた「ライ・・・ライ・・・」と。

 

 

 

 

 それから数か月後世界は復興に動いていた

 

 ナナリーは皇帝になり、スザクはナナリーの騎士となり、ルルーシュはゼロとし超合集国を纏めたり、日本は独立し新国家として始まった。そんな中カレンは紅月カレンとしてアッシュフォード学園に通っていた。カレンの首には紅蓮と月下のキーが掛けられていた。

 

 紅蓮は先の戦争で大破してしまい修復不可な状態になってしまい。月下はライが残した物でカレンが持っていると言ったので月下の起動キーはカレンが持っている

 

「ライ、貴方のおかげで世界は平和に成りつつあるわ。でも私は貴方がいない世界なんて嫌なの。もう一度でいいから貴方に会いたい・・・」

 

 そう言いカレンは涙を流した

 

「じゃ行ってきます」

 

 カレンは玄関に飾っているライの写真のそう言い家を出た

 

 カレンが角を曲がると眩しい光がカレンを取り込みカレンは消えた

 

 

 

 

 

 

IS学園

 

 

「すまないな更識、弟がISを動かしてしまったばかり面倒をかける」

 

 

「いいえ織斑先生そんなことありませんよ。学園の生徒を守るのはIS学園生徒会長である私の役目なんですから」

 

IS・・・正式名称はインフィニット・ストラトス。

 

 篠ノ之束か発明した宇宙進出用のパワードスーツだったが今では世界最強の兵器となっている。しかもISは女性にしか反応しないため女尊男卑の世界になってしまった。

 

そしてここIS学園は世界で唯一のIS操縦者育成機関である。

 

 

 更に先日織斑千冬の弟の一夏がISを動かしてしまいIS学園に強制入学が決まった。

 

 そして今話している2人は・・・

 

 1人目織斑千冬はここIS学園の教師で、世界最強、初代ブリュンヒルデの称号を持つ。

 

 2人目更識楯無、IS学園生徒最強の生徒会長また対暗部用暗部、更識家当主17代目楯無である。

 

 この2人は来週から始まる新学期の話をしていた。

 

 

 

 

 

「はぁ一夏と同じクラスにお前が居れば良かったのだがな」

 

「無茶言わないで下さいよ。生徒会長が留年して一年にいたら笑いものにされちゃいますよ」

 

「それもそうだな誰かいないのか・・・」

 

「護衛出来そうな人ですか?」

 

「そうだ」

 

2人が話していると急に前が光り始めた。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「私に聞かれても知りませんよ・・・」

 

 楯無は咄嗟にISを装備し警戒した。やがて光が収まると赤髪の少女が倒れていた。 

 

「いったい何だったんだ?それにこの女は・・・」

 

「織斑先生先にこの子を保健室に運び、気が付いてから話をきいた方がいいのでは?」

 

「そうだな、取り敢えず運ぶぞ」

 

「はい」

 

 そして2人は赤髪の少女・カレンを保健室に運んだ。

 

 一時間後カレンは目を覚ました。

 

「ここは?・・・」

 

「あら、目が覚めたのね」

 

「!?」

 

「そう警戒するな、私達はお前に危害を加えるつもりはない。おっと自己紹介がまだだったな私は織斑千冬だ。ここIS学園で教師をしている」

 

「私は更識楯無よここIS学園の生徒会長を務めているわ」

 

「紅月カレンです」

 

「では紅月君は何者だ?」

 

「え?」

 

「私達の目の前に光と共に現れたのよ」

 

「え~と私も光に飲み込まれ気が付くとここにいたのですが・・・それにIS学園って日本に新しく作られた学校ですか?」

 

「IS学園を知らないのか?」

 

「はい」

 

「じゃISも?」

 

「えISって学名ではないのですか?」

 

「どう言う事だ?紅月は何歳だ?」

 

「18です」

 

「あら私の上だったので」

 

「18ならISを知っているはずだどこにいた?」

 

「どこって日本ですけど」

 

3人は混乱していた。カレンは思い切ってあの事を聞いた

 

「あの、狂王ライは知っていますか?」

 

「狂王?」

 

「いや知らないな」

 

 カレンは結論にたどり着いた。異世界にきたと。




原作同様、ライと+αの登場はクラス対抗戦予定です!
+αは私の執筆中の小説をご覧の方ならご存知の「あの子」です!
+αの設定もしっかり行っています、ご期待ください。


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説明

 カレンは千冬と楯無にライの名を出したが2人は知らないと言い自分が異世界に来たのだと思った。

 

「紅月その狂王って言うのはなんだ?」

 

「そうね、私も聞いたことないわ」

 

 千冬と楯無はカレンに質問した

 

「あの、今からいう事は信じてもらえないと思うんですが聞いてくれますか?」

 

「ああ、構わない」

 

「ありがとうございます。実は私世界を越えたみたいなんです」

 

「どういう事?」

 

「此方の世界に神聖ブリタニア帝国って国はないですよね?」

 

「神聖ブリタニア帝国?聞いたことない国だどこにある?」

 

「世界地図を持ってきてもらってもいいですか?」

 

「それならここにあるわ」

 

 千冬がブリタニアが何処にあるのか聞いて、カレンが世界地図を出すよう言えば楯無が待機状態のISから世界地図を映した。

 

「えーと、ここがブリタニア本国です」

 

 カレンが指したのはアメリカだった

 

「そこはアメリカ合衆国だ」

 

「やっぱり・・・」

 

 千冬の指摘にカレンは確信した。

 

「やっぱり私世界を越えたみたいです」

 

「そのようだな」

 

「そんなことあり得るのかしら?まるでオカルトのようなものね」

 

「私達の世界はオカルトの要素がありますよ?」

 

「何?」

 

「私達の世界には不老不死の人間や、人の理から外れた王の力を持つ人間もいました」

 

「不老不死ですって!?」

 

「それに王の力と言うのは?」

 

 2人は不老不死の存在や王の力に反応した。

 

「私も詳しくは分からないのですが不老不死になるにはコードと呼ばれる物が必要みたいなんです。そして王の力って言うのは、コード所持者と契約すると得る力でギアスといいます。私が知っているのは『絶対遵守』のギアスだけです」

 

「ちょっと待てそのギアスって言うのは何種類もあるって事か?」

 

「おそらく」

 

「ねぇカレンちゃん、貴方の世界の事教えて」

 

「更識!?」

 

「織斑先生、カレンちゃんの言っている事が本当なら、彼女の世界のを知る必要があると思いませんか?」

 

「確かに一理あるな」

 

「じゃカレンちゃんお願い」

 

「はい」

 

 そしてカレンは自分の世界の事を話し始めた。8年前に占領され自由と誇りと伝統と名前を奪われ差別されるようになったこと。それ以来日本はエリア11と呼ばれるようになり、日本人はイレブンと差別されるようになった事。

 

 そして7年後仮面の人物ゼロが現れブリタニアに対する組織、黒の騎士団を創立した事、カレンも黒の騎士団のメンバーだったこと。

 

 そしてライと出会ったこと、ライは記憶喪失者でカレンが生徒会長命令でライのお世話係主任となり色々な場所を案内したこと、日本人が住むゲットーでテロにあった時ナイトメアを目視操縦で敵を翻弄した事、この事をリーダーのゼロに報告するとライを黒の騎士団に勧誘すると言いライはこれを承諾し黒の騎士団に入団することになった。

 

 そしてカレンとライに専用機、紅蓮弐式と月下先行試作機が与えられ、黒の騎士団の双璧と呼ばれるようになったこと。

 

 しかし突然ライに関する記憶を失い喪失感に襲われた事、喪失感が気になったが最大の抵抗運動、ブラックリベリオンが始まり結果は敗北。ゼロは捕らえられ処刑されたと報道された、カレン達残党は再起を図るため地下に身を潜めた。数か月後不老不死の魔女、C,Cがライを連れてきた。カレンはライの顔を見て涙を流した。失った物が見つかった気がしたからだ。

 

 そして再びコンビを組みゼロを取り戻しブリタニアに対する超合集国を作り日本を取り返す戦争が始まった事、しかし重戦術級兵器、フレイヤ一発で東京租界は死んだ

 

 黒の騎士団が揺れている中敵がゼロの正体を教えゼロは黒の騎士団から脱走した、同じ時にライも騎士団を抜け、次に現れたのが、ブリタニア皇帝となってゼロと共に現れたこと。

 

 そして世界を手に入れ、ゼロに討たれた事、その時にライに関する記憶を思い出し涙を流した事。これまでにあったことを全て話した。

 

「成程、だから狂王ライの名を出したのだな」

 

「全世界の人の憎しみを自身に集めその上で討たれる計画を立てるなんて・・・」

 

 千冬と楯無はカレンの出した名の意味を理解した。

 

「私もなんでライの記憶が無くなったのか分かりません、しかしライが刺された時に全て思い出したのです」

 

「紅月はそのライと言う男をどう思っているんだ?」

 

「私は・・・私はライの事が好きです。彼と共に戦場に立ち、お互いに背中を守り続けたパートナーで私と同じハーフですから」

 

「え!?カレンちゃんとライ君ってハーフなの?」

 

「確かに言われてみればハーフと分かるが、言われなかったら純粋の日本人だと思ってた」

 

カレンがハーフだと知り2人は驚いた

 

「逆にライは純粋なブリタニア人に見えますよ、ほら」

 

と言い写真を見せた。

 

「こ、これは(美形だ)」

 

「え~と(嘘!?なんなのこの顔は!すごく整っている!!)」

 

 千冬と楯無はライの顔をみてある意味驚いた

 

「あ、カレンちゃんに此方の世界の事を話した方がいいわね」

 

「あ、お願いします。私が今どんな世界に居るか興味があります」

 

「うむ、では今度は私と更識がこの世界について教えよう」

 

「お願いします」

 




次回は楯無と模擬戦予定です!


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カレンVS楯無

 カレンは楯無と千冬から現在自分がいる世界の事を教えてもらった。

 

 役10年前に発表されたIS。しかし当時学生だったため世界はISを否定した。

 

 だが日本を射程距離内とするミサイルが配備されている軍事基地のコンピューターが一斉にハッキングされ、2000発以上が日本に発射されるも、搭乗者不明のIS〈白騎士〉が半数以上迎撃し更に白騎士を捕らえようと各国の軍事兵器が送り込まれたが大半を無力化した。

 

 この事件の死者はなくISは現在兵器を凌ぐ兵器と見られるようになり、国の国防にISが配備されるようになった。

 

 そしてISは何故か女性にしか動かせないため、女尊男卑の世界になってしまった。

 

 しかし2ヶ月に千冬の弟、一夏がISを動かしてしまったと完結に教えてもらった。

 

「織斑さんも大変ですね。弟さんがISを動かしてしまって」

 

「全くだ。また面倒事になる」

 

「私達は来週から始まる新学期の話をしている時に貴方が現れたのよ」

 

「そうだったんですか」

 

「あ、そう言えば織斑先生アレの解析終わったのですか?」

 

「ああ。紅月これに見覚えはあるか?」

 

 千冬が取り出したのは紅蓮の起動キーだった。

 

「はい、紅蓮の起動キーです。後月下いえ、蒼いのもありませんでしたか?」

 

「いやお前の傍にあったのはこれだけだ」

 

「そう、ですか・・・」

 

「話を戻すが、これをこちらで解析したところISの待機状態だとわかった。

そこで提案なんだがここIS学園に入学しないか?」

 

「え~と三年として編入ではなくってですか?」

 

「ISの基礎も知らないまま三年の授業で良いのだったらな」

 

「一年でいいです」

 

「そうか。後出来れば一夏の護衛も頼みたい」

 

「分かりました。これからお世話になります」

 

 カレンはIS学園に入学することを決めた。

 

「カレンちゃん私と戦わない?」

 

 突然楯無がカレンに勝負を持ち掛けた。

 

「貴女元の世界では最強格のパイロットだったのでしょう?なら私は生徒最強として貴女と戦いたいの」

 

 そう言い楯無の扇子には最強と書かれていた。

 

「どうだ紅月?ISで腕試ししてみては」

 

「分かりました。その勝負受けます」

 

「決まりだな。第三アリーナに向かうぞ。紅月はついて来てくれ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

第三アリーナ

 

「まさか別の世界でも一緒に戦うとは思わなかったわ。久しぶりに行くわよ。紅蓮」

 

と言いカレンはISを展開した。カレンのISは元の世界の愛機、紅蓮可翔式だった。

 

「紅月準備はいいか?」

 

「はい、何時でも行けます」

 

「よし、行け」

 

「紅月カレン、紅蓮可翔式発進!」

 

 カレンはアリーナに出た。

 

「来たわねカレンちゃん。それが貴女のISね。全身装甲〈フル・スキン〉なんて、それにその右腕何かありそうね」

 

「戦っていたらわかりますよ」

 

「これより、更識対紅月の模擬戦を始める。両者所定の位置につけ」

 

 千冬の言葉に従い2人は位置に着いた。

 

「試合開始」

 

 カレンは開始早々小型ナイフ、呂号乙型特斬刀を持ち楯無に切りかかった。対して楯無はランスで受け止めた。

 

「最初から飛ばしてくるのね」

 

「それはまぁ久しぶりに紅蓮と共に戦えるからですよ!」

 

 と言いながらもカレンは右手、輻射波動を叩き込もうとするが、楯無はアッサリ避けた。

 

「その右手は危なそうね」

 

 楯無は蒼流旋のガトリングを撃った。しかし輻射障壁で防がれた。

 

 お互いに遠距離攻撃は意味がないと理解すると同時に接近戦に持ち込む。小型ナイフとランスのぶつかり合いで何度も火花が出来た。

 

「やるわね(中々決定的な一撃が決まらない。賭けに出るべきかしら・・・)」

 

「そっちこそ(輻射波動を叩き込もうとすると瞬時に後退する何て、一端距離を取って牽制した方がいいのかな・・・)」

 

 2人は次で決めれるよう策を考えた。

 

「カレンちゃんこれで決めるわよ″ミストルテインの槍″!」

 

 楯無は水を集め一点に集中させカレンに向かって突撃した。カレンは全てのエネルギーを輻射波動に集中させ真正面から迎え撃った。

 

 数秒均衡したが、輻射波動によって少しづつ水が蒸発していき、最後には紅蓮の右手がミステリアス・レイディを捕らえそのままシールドエネルギーをゼロにした。

 

「そこまで、勝者紅月」

 

 千冬のアナウンスで、カレンと楯無の戦いは終わりを迎えた。




マスターM氏は戦闘描写が苦手らしいです。え? じゃあ、私がうまく戦闘描写ができるだって? ・・・・・・勘の良いガキは嫌いだよ。

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SHR

「全員揃ってますね。それじゃSHRを始めます。私が副担任の山田真耶です皆さん一年間よろしくお願いしますね」

 

 俺の名前は織斑一夏。今日は高校の入学式、新しい日の幕開けだがクラスいや学園全体が女子しかいない男は俺だけできつい。今副担任の先生が挨拶をしているが返す余裕がない。

 

「・・・じゃ、じゃ自己紹介をお願いします。えっと出席番号順で」

 

 幸い幼馴染の箒が同じクラスなのが救いなんだが・・・箒に視線を動かすと逸らされてしまった・・・。

 

「・・・くん、織斑一夏くんっ!」

 

「は、はい!?」

 

 名前を呼ばれ一夏は慌てて返事をした。

 

「あっあの・・・大声出してごめんね。お、怒ってる?怒ってるかな?あ、あのね自己紹介「あ」から始まって今「お」の織斑くんなんだよ、だからね自己紹介してくれる?ダメかな?」

 

「いや、そんなに謝らなくても自己紹介位しますから」

 

「ほ、本当ですか?や、約束ですよ絶対ですよ!」

 

 一夏は立ち上がり後ろを向いた。そのせいで女子達の視線が集中した、一部例外もいたが一夏は気づく余裕がなかった。

 

「え、えーと織斑一夏ですよろしくお願いします」

 

 一夏が名前だけの自己紹介をしたが女子達は。

 

(え?それだけ?)

 

(もっと聞きたいな!)

 

 と無言のプレッシャーを出していた。

 

「・・・以上です!」

 

 ガタタッと女子達がこけた。

 

 パアンッ!一夏の頭が何かで叩かれた、一夏が振り向くと・・・。

 

「げ、関羽!?」パアンッ!

 

「誰が三国志の英雄か馬鹿者」

 

 一夏を叩いた人物こそ一夏の姉織斑千冬であった・

 

(いやいやなんで千冬姉がここにいるんだよ!?)

 

「あ織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ山田君。クラスの挨拶を押し付けて済まなかったな」

 

 と言い千冬は教壇に立ち自己紹介を始めた。

 

「諸君私が織斑千冬だ。私の仕事は君達新人を1年で使い物に育てる事だ。私のいう事はよく聞き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。逆らってもいいが私のいう事には、はいか、Yesで答えろいいな?」

 

(なんつう発言だ拒否の言葉を言わせないなんて)

 

 一夏がそんなことを思っていると・・・。

 

「キャーーー本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「私千冬様に憧れて北九州から来たんです!」

 

「千冬様にご指導頂けるなんて嬉しいです!」

 

「私千冬様の為なら死ねます!」

 

 と黄色い声援が大音量で出た。一方千冬はかなりうっとうしそうな顔で言った。

 

「全く毎年よくこれだけの馬鹿者が集まる者だ。感心させられる。それとも何か。私のクラスにだけ集中させて、私に嫌がらせをしているのか」

 

「きゃあああっ!もっと叱って!罵って!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そしてつけあがらないように調教して!」

 

 千冬の言葉で更に黄色い声援をあげた。これを聞いたカレンは・・・。

 

(なんか、ここまで行くと怖いわね。特に最後の子この先大丈夫かしら?)

 

 と学園に入った事に少し後悔していた。

 

「で?挨拶もまともに出来ないのかお前は」

 

 と一夏を見下した。

 

「いや、千冬姉、俺はー」

 

 パアンッ!本日三度目の出席簿アタック。

 

「織斑先生と呼べ」

 

「・・・はい、織斑先生」

 

 この2人のやり取りをみてクラスの女子達に姉弟だとバレた。

 

「では自己紹介を続けろ」

 

 千冬の言葉でまた自己紹介が始まりカレンの番になった。

 

「初めまして、紅月カレンです。本来なら三年ですが事情があり一年として入学することになりました。年上ですが気軽に接してくれたら嬉しいです」

 

 カレンの自己紹介に一夏は反応した。

 

(年上かなんか落ち着いている感じがするな・・・)

 

 全員の自己紹介が終わり再び千冬が口を開いた。

 

「さてSHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが基礎操作は半月で体に染み込ませろいいか?いいなら返事をしろ、よくなくっても返事をしろ」

 

((お、鬼教官だ))

 

 とカレンと一夏は思った。

 

「何か不服か?織斑、紅月」

 

「「滅相もありませんっ!」」

 

 こうしてカレンのIS学園生活が始まった。彼女の大切な人が現れるまで秒読みの段階に入った事誰も知らない。



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セシリア・オルコット登場

 一時間目が終わり現在は休み時間だが一夏は机に頭を伏せていた。

 

「・・・ちょっといいか」

 

「・・・箒?」

 

 一夏に声を掛けたのは幼馴染の篠ノ之箒であった。一夏は声を掛けられその人物を見てその人物であろう名を呟いた。

 

「話がある廊下でいいか?」

 

「あ、ああ」

 

 2人は話をするため教室を出た。その後ろを女子達はついて行った。

 

 カレンは次の授業の準備をしていると声を掛けられた。

 

「ねぇねぇ~カレレン~」

 

「そのカレレンって私の事?」

 

「そうだよ~カレンだから、カレレンだよ。あ私は布仏本音だよ~本音かのほほんさんって呼んで~よろしく」

 

 カレンに話しかけたのは袖が余った制服をきた布仏本音でありその後ろに2人の女子もいた。

 

「本音ねよろしくね。後ろの2人は?」

 

「私は相川清香です。これからよろしくお願いします紅月さん」

 

「初めまして私は谷本癒子です。よろしくお願いします紅月さん」

 

「相川さんに谷本さんね、よろしく私の事は名前で呼んでもらってもいいから。それと敬語も良いわよ堅苦しいのは苦手だから」

 

「じゃ、カレンも私の事も名前で呼んで、勿論敬語はなしで」

 

「私も清香と同じでいいです」

 

「分かったわこれからよろしくね、清香、癒子」

 

 休み時間にカレンは順調にクラスに馴染み始めた。

 

 その頃一夏は箒と再開の会話をしていた。

 

「久しぶりだな箒。一目で箒と分かったぞリボンも同じだし」

 

「そ、そうか。わ、私も一夏だと直ぐに分かったぞ」

 

 箒の顔はにやけるのを抑えているせいか、凄い剣幕になっていた。

 

 キーンコーンカーンコーンとチャイムがなり2人は教室に戻った。

 

パァンッ!パァンッ!

 

「さっさと席に着け遅刻者共」

 

「「・・・ご指導ありがとうございます、織斑先生」」

 

一夏と箒は遅刻した事により千冬の出席簿アタックをもらった。

 

(何で出席簿であんな音が出せるのかしら?織斑先生って実はパワー系のギアスを持っているんじゃないかしら?)

 

「紅月今何かサラッと私の事を馬鹿にしなかったか?」

 

「い、いえ滅相もありません!(心もよめるの!?)」

 

 カレンが心の中で思っていると千冬が注意してきて慌てて謝罪した。

 

「そうか、では授業を始める山田先生」

 

「はい」

 

 そして二時間目無事に終わらなかった。その原因は一夏が必須と書いていた参考書を古い電話帳と間違え捨ててしまったのだ。千冬が再発行してやるから一週間で覚えろと言いい一夏は反論するが取り合ってくれなかった。

 

 因みにカレンはまだ全部覚えていないが半分程は覚えた。一週間前から千冬と楯無に色々と教えてもらいながら。

 

 そして休み時間。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「へ?」

 

 この時間も針のむしろになると思った一夏だったが金髪のいかにもお嬢様という人物が声をかけてきた。

 

「訊いています?お返事は?」

 

「あ、ああ。訊いているけど何か用か?」

 

「まあ!何ですのそのお返事は!わたくしに話しかけられているのですからそれ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

「悪いな俺君の事は知らないし」

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを!?」

 

(いや、勝ったのは貴女だけではないわよ)

 

と聞き耳を立てていたカレンはそう思った。

 

「あ、質問いいか?」

 

「ええ、庶民の要求に応えるのも貴族の務めですわ」

 

「代表候補生って何?」

 

 一夏の質問にカレンとクラスメイト達はずっこけた。セシリアはそんな一夏をみてブツブツと日本の事を馬鹿にし始めた。勿論その内容はカレンも聞いており、静かだが怒りが出てきた。

 

(日本を馬鹿にするな!アンタに日本の何がわかっているのよ!)

 

自分と自分が愛した男の故郷を馬鹿にされカレンは我慢の限界を迎えそうになった。しかし入試で唯一と強調して言ったのお聞いてカレンの口元が吊り上がった。

 

「教官なら俺も倒したぞ?」

 

 一夏の言葉にカレンは心でガッツポーズを取った。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

 

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

「いいえ、倒したのは貴女だけではないわよ。セシリア・オルコットさん」

 

一夏の言葉にカレンも乗っかった。

 

「どう言うことですか?」

 

「私も試験で倒したから」

 

「その教官は誰ですの?」

 

「生徒会長だけど?」

 

 カレンの言葉に全員固まった。それもそうだろう生徒会長と言えば生徒最強の称号をもち、今の生徒会長、更識楯無はこの学園では千冬に次ぐ強さをを持っているのだから。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 固まっていたらチャイムがなり生徒達は慌てて席に戻った。

 

 三時間目の授業が始まる前ある生徒が千冬に質問した。

 

「織斑先生紅月さんが、生徒会長に勝ったって本当ですか?」

 

 千冬はその質問を聞きカレンの方をみて(面倒な事をしてくれたな)と思った。

 

「本当だ」

 

と一言で済ました。クラスが騒がしくなるが千冬が沈め授業が始まろうとしたが・・・。

 

「その前に再来週行われるクラス対抗戦にでる代表者を決めないといけないな。自薦他薦は問わないぞ」

 

「はい!織斑君を推薦します!」

 

「私も!」

 

「私はカレンを推薦します!

 

「私もです」

 

 千冬の言葉に女子達は一夏を推薦する。一方一時間目でカレンと仲良くなった清香と癒子はカレンを推薦した。

 

「織斑はいいが紅月はダメだ。紅月は生徒会の庶務だからクラス委員代表は出来ない。他に居ないなら織斑で決まりだな」

 

「ちょ、ちょっと俺はやらー」

 

「自薦他薦は問わないと言った。推薦された以上覚悟しろ」

 

「い、いやでもー」

 

 一夏が反論しようとするが千冬が相手取らなかった、更に反論しようとしたが第三者の言葉で遮られた。

 

「待って下さい!そのような選出は認められません」

 

 声を出したのはセシリアだった。

 

「大体わたくしは極東の地にサーカスをしに来たのではありません!大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難え苦痛でー」

 

「イギリスだっー」

 

「貴女いい加減したら」

 

 セシリアとセシリアに言い返そうとした一夏の言葉を遮ったのはカレンだった。度重なる暴言に遂にカレンはキレたのだ。

 

「なんなのですか貴方は!」

 

「今貴女日本と日本人を馬鹿にしたのわかっている?」

 

「え?」

 

「貴女は代表候補生つまり、貴女の言葉は国の言葉と捉えられてしまう。この事がイギリスと日本の上層部に知られたら、貴女は終わりね」

 

「け、決闘です!」

 

 セシリアは論破され咄嗟に叫んだ。

 

「良いわよ。その方が私としても得意だから」

 

「-さて話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜日の放課後第3アリーナで行う。紅月とオルコット、織斑はそれどれ準備しておけ」

 

「お、俺も!?」

 

「当たり前だお前も推薦されたのだからな、では授業を始める」

 

 こうしてカレンは一週間後にセシリアと一夏と戦う事になった。



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紅と青と白の戦い

 授業が終わりカレンは寮の部屋に向かっていた。

 

「1033、1033ここね」

 

 コンコン。

 

「返事がない、シャワーかな?」

 

カレンは部屋を見つけノックをしたが返事がなくシャワーだと思い部屋に入った。

 

カタカタカタカタと部屋に入ったらキーボードを叩く音が聞こえた。

 

「あのー・・・」

 

 カレンは水色髪で眼鏡をかけた楯無に似た子に声を掛けた

 

「・・・誰?」

 

「私は貴女のルームメイトの紅月カレンよ」

 

「・・・更識簪」

 

「もしかして会長の妹さん?」

 

「あの人を知っているの!?」

 

「え、ええ試験の時相手だったから」

 

「そう・・・結果は?」

 

「私の勝ちよ」

 

「え!?ほ、本当!?」

 

「お姉さんから聞いていないの?」

 

「あの人は関係ない!!」

 

「えっとごめんなさい?」

 

「こっちもごめん急に大声だして。後、更識って言わないで簪で良いから」

 

「分かったわ、私の事もカレンって呼んで(会長と仲が悪いのかしら?)」

 

「分かった、よろしくカレン」

 

 この頃一夏は箒と一悶着あったが割愛・・・。

 

 

 

 

 

そして迎えた代表決定戦当日

 

「一夏の専用機まだ来ていないの?」

 

「そうなんだよ、この一週間箒と剣道か体力作りしかしていないんだよ」

 

「箒・・・」

 

「な、なんだカレン」

 

「ISが来てなくっても、ISの知識位教えられたんじゃ・・・」

 

「うっ・・・」

 

 この一週間でカレン、一夏、箒は名前で呼ぶ程仲が良くなった。現在は控室で一夏の専用機が来るのを待っていたがまだ来ていない。

 

「仕方ない。紅月」

 

「はい」

 

「お前が先にオルコットと戦え」

 

「分かりました」

 

 千冬の判断で先にカレンとセシリアの組み合わせになった。

 

「紅月カレン、紅蓮可翔式発進!」

 

 カレンはアリーナに出た。

 

「あら?貴女が先ですの?」

 

「ええ、一夏の専用機がまだ来ていないからね」

 

「そうですか。それにしても全身装甲(フル・スキン)のIS。しかも異様な右腕。貴方のISは特殊な仕様ですの?」

 

「それは戦っていたら分かるわ」

 

『これより紅月カレン対セシリア・オルコットの試合を始める。両者所定の位置につけ』

 

 千冬のアナウンスで2人は位置に付いた。

 

『試合開始!』

 

「先行頂きますわ!」

 

 セシリアは合図と当時に、スナイパーライフル、スターライトmkⅢを構え発砲した。

 

 カレンはあえて右手、輻射障壁で受けた。

 

「さあ踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルーティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

 セシリアはビット4機を出した。

 

(今は少し様子を見ようかしら?)

 

 カレンは回避もしくは輻射障壁で守っているとある事に気づいた。

 

(セシリアが動いている時はビットが止まっていて、逆にセシリアが止まっている時はビットが動いている?もしかして同時に動かせないの?仕掛けてみるか)

 

 カレンは輻射波動をロングレンジ照射でセシリアに向かって撃った。

 

「きゃ!!」

 

 セシリアはまさか輻射波動が遠距離でも撃てるとは思っておらず直撃してしまった。その時ビットの操作も止まってしまった。その隙にカレンは呂号乙型特斬刀をビットに投げ一つ破壊した。続いて集まっていたビット3機にワイドレンジ照射で破壊した。

 

「そんな・・・」

 

 セシリアは一瞬で4機落とされた事でショックを受けた。その隙を見逃すカレンではなく、セシリアに接近した。

 

「決める」

 

 と輻射波動を構えた。しかし、

 

「おあいにく様。ブルーティアーズは6機あってよ!」

 

 セシリアは隠していたビット2機のミサイルをカレンに撃った。

 

 ドガァァァンっ!

 

 着弾し黒煙に覆われセシリアは勝ったと思った。しかし・・・黒煙から紅蓮の右腕がブルーティアーズを捕らえた。

 

「捕まえた」

 

「そんな、ミサイルは当たったのに・・・」

 

「間一髪輻射障壁で守ったのよ。そしてこれで終わりよ!」

 

 と言いカレンは輻射波動を最大出力でブルーティアーズに叩き込んだ。

 

『勝者紅月カレン』

 

 輻射波動でシールドエネルギーがゼロになりカレンの勝利となった。

 

「あ、あの・・・」

 

「ん?」

 

「貴女の祖国を馬鹿にしてすいませんでした!」

 

 セシリアはカレンに日本を馬鹿にしたことを謝った。

 

「私も言い過ぎたわごめんなさい」

 

 カレンも少し言い過ぎたと思い謝った。

 

『紅月次は織斑とだが行けるか?』

 

「はい大丈夫です」

 

『15分後に始める、シールドエネルギーを回復させておけ』

 

「分かりました」

 

15分後。

 

「カレンは強いな代表候補生に勝つなんて」

 

「そうかしら?それが一夏の専用機?」

 

「ああ″白式″だ」

 

 カレンの前には一次移行(ファーストシフト)が済んだ白式に乗った一夏がいた。

 

『これより紅月カレン対織斑一夏の試合を始める。両者所定の位置につけ』

 

「初陣だ行くぞ白式(相棒)!!」

 

『試合開始!』

 

「うおおおお!!」

 

 一夏は開始と同時にブースターを最大出力だしてカレンに突っ込んだ。カレンは呂号乙型特斬刀で一夏の雪片弐型を受け止めた。

 

「早いだけで重さが足りないわよ!」

 

 カレンは右腕で白式を捕らえ輻射波動を流した。

 

「不味い単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)零落白夜発動!」

 

「っ!」

 

 カレンはワンオフ・アビリティーの単語を聞き瞬時に右腕を離し白式から距離を取った。

 

「それ織斑先生と同じね」

 

「ああ俺は世界で最高の姉さんを持ったよ!!」

 

「さぁ終わらせましょう」

 

 カレンは輻射波動を構え、一夏は雪片弐型を構えカレンに切りかかった。カレンは紙一重で避け止めの輻射波動を叩き込んだ。

 

『勝者紅月カレン』




次回は鈴登場予定です。


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鈴登場

「では一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、(いち)繋がりでいい感じですね!」

 

 クラス代表決定戦の翌日のホームルームで山田先生がそう言った。

 

「先生質問です」

 

 と言い一夏が手を挙げた。

 

「はい織斑くん」

 

「俺昨日の試合全敗だったのに、何故俺がクラス代表なんですか?普通全勝したカレンが代表になるのでは?」

 

「一夏忘れたの?私は生徒会に所属になるからクラス代表にはなれないの」

 

「じゃオルコットは?」

 

「それはー」

 

「わたくしが辞退したからですわ!」

 

 カレンがクラス代表なならない理由を聞きセシリアはどうか聞くと、山田先生の言葉を遮ってセシリアが言った。

 

「勝負はあなたの負けでしたがしかしそれは考えてみれば当然のこと、なにせわたくしセシリア・オルコットが相手だったのですから。それにカレンさんに負けてわたくしは大人げなく怒ったことを反省しまして・・・″一夏さん″にクラス代表を譲ることにしましたわ」

 

「いやぁセシリアわかってるね!」

 

「折角世界で唯一の男子がいるんだから持ち上げないとね」

 

 セシリアの言葉にクラスの女子達も言った。

 

「一夏、ISに慣れるためには実戦が一番よこれはいい機会だと思うけど?」

 

「まぁカレンの言う通りだな」

 

「決まりだな。クラス代表は織斑一夏異存はないな?」

 

『はーーーーい』

 

「---ではこれよりISの基本的な飛行操縦をしてもらう。紅月、オルコット、織斑試しに飛んでみせろ」

 

「「はい」」

 

 カレンとセシリアは直ぐにISを展開出来たが一夏は時間がかかった。

 

「よし飛べ」

 

 千冬の言葉に3人はしたがって飛んだ。しかし一夏は飛ぶのに苦戦していた。

 

「今度は急降下と完全停止をやって見せろ目標は地上から10センチだ」

 

「了解です。ではカレンさん、一夏さんお先に」

 

 セシリアが先にやり続いてカレンも成功した。ただ一夏は止まる事が出来ず地上に激突しグランドに穴を開けた。

 

 

 

 

 

放課後・食堂。

 

「織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

 

『おめでと~~~!!』パンっパァーン

 

 今食堂では一夏のクラス代表就任パーティが開かれていた。

 

「はいはーい新聞部です!話題の新入生織斑一夏くんと紅月カレンさんに特別インタビューに来ました。あ、私は二年の黛薫子で新聞部部長やってますはいこれ名刺」

 

 と言い2人に名刺を渡した。

 

「では織斑くんクラス代表になった感想をどうぞ!」

 

「えーと・・・まぁ頑張ります」

 

「えーーーもっといいコメント頂戴よ、まぁ適当に捏造しておくからいいとして次セシリアちゃんもコメント頂戴」

 

「わたくしこう言ったコメントは好きではありませんが仕方ないですわね。まずわたくしが・・・」

 

「長そうだからいいや。適当に織斑くんに惚れたって捏造しとくから。そして最後に紅月カレンさん」

 

「私にもするのね」

 

「勿論!今回のメインは貴女で2人はおまけだから」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

「生徒会長にどうやって勝ったの?」

 

「輻射波動を最大出力で会長の水の槍を蒸発させ一気に倒しただけよ」

 

「凄いね会長に勝つなんて。あ、最後に3人の写真撮るから並んで」

 

 3人は写真を撮る為並んだ。そして薫子が撮るときには一組の生徒達が全員写っていた。

 

 

 

 

 

 

「織斑くんおはよー」

 

「ねぇ転校生の話聞いた?」

 

「転校生?今の時期に?」

 

「そっなんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

「あら、わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら?」

 

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう?」

 

「織斑くんクラス対抗戦頑張ってね!織斑くんが勝つとクラス皆が幸せだよ」

 

「今のところ専用機持ちは一組と四組だけだから余裕だよ」

 

「その情報古いよ!」

 

 クラスメイト達が盛り上がっていたら突然第三者の声がした。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの、そう簡単に優勝できないから」

 

「鈴・・・?お前鈴か?」

 

「そうよ中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たわけ!」



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銀の王+α現る!

「中国代表候補生凰 鈴音。今日は宣戦布告に来たわけ!」

 

「鈴。何格好付けているんだ?全然似合ってないぞ」

 

「ンナッ・・・!?なんてことを言うのよアンタは!」

 

「あの~貴女後ろ・・・」

 

 一夏と鈴か言い争っていたら、カレンの目に最凶な人物が現れカレンは声をかけた。

 

「おい」

 

「何よっ!?」

 

 パァンッ!

 

「もうSHRの時間だ、教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん・・・」

 

「織斑先生だ。さっさと二組に戻れ、そして入り口を塞ぐな邪魔だ」

 

「す、すいません・・・一夏後で来るから逃げないでね」

 

「さっさと戻れ!!」

 

「は、はい!」

 

 鈴は一夏に一言言った後千冬に睨まれて速足で二組に戻った。

 

 その後の授業は箒とセシリアは鈴の事を気にして全く授業を聞いてなく、千冬の出席簿アタックを何回もくらった。

 

 昼休みにカレンは鈴と仲良くなった。その理由は簡単で一夏に好意を持っていないからだ。鈴はある事をカレンに聞いた。

 

「カレンは好きな人はいないの?」

 

「いるけど・・・もう会えないの・・・」

 

 カレンの言葉を聞き鈴はしまったと思った。箒達もカレンの表情を見て触れてはいけないと思った。

 

「そ、そう言えばアンタNACの専属パイロットなんでしょう?」

 

 鈴が気まずい雰囲気を飛ばそうとカレンの所属を聞いた。

 

 NAC・・・今日本最大の大企業でIS関連だけではなく医療など幅広い分野で活動しており社員皆女尊男卑の思考がなく、平等なのだ。実はこの企業更識家の傘下でカレンの事を隠す為にカレンはNACのパイロットとなったのだ。

 

「ええ、本来なら2年前からパイロットをする予定だったけど色々あって今になったのよ」

 

 鈴の機転で雰囲気はマシになり箒、セシリア、一夏も含め全員で仲良く昼食を取った。

 

 

 

 

 

 時は流れて、クラス対抗戦当日。

 

 対抗戦前の一夏は鈴を怒らした原因が分からず、そのまま対抗戦当日まで引きずってしまった。対抗戦に向けて一夏は、カレン、セシリア、箒にシバ、鍛えてもらった。

 

『両者規定の位置まで移動してください】

 

 山田先生の言葉に鈴と一夏は移動した。

 

 鈴は専用機の『甲龍』赤み掛った黒色の機体を纏っていた。

 

「一夏。今謝るなら少し痛めつけるレベルを下げてあげるわよ?」

 

「雀の涙くらいだろ?全力で来いよ」

 

「そうね全力で叩きのめしてから、謝らしてやるからね!」

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 山田先生の開始の合図で鈴は大型な青龍刀・双天牙月で切りかかったが一夏に防がれた。しかしそれはジャブで本命は空間に圧力をかけた、龍砲の砲弾を当てる事だった。

 

 一夏はどうにか持ち直し、カレンとセシリアから教わった「瞬時加速(イグニッション・ブースト)」を使い鈴に近づこうとしたが・・・。

 

 ドオオオオンっ!

 

 突然上空から砲撃がありそこには2機の黒い全身装甲のISが佇んでいた。観客達はパニックに陥った

 

「織斑先生!扉が開かないので壊してもいいですか?」

 

『ああ、緊急事態だから許可する。それと紅月は生徒の避難が終わり次第、織斑と凰の援護を頼みたいが行けるか?』

 

「はい、問題ありません!」

 

 カレンはセシリアと箒の誘いを断り観客席で見ていた。

 

「弾けろ!!」

 

 カレンは輻射波動で扉を次々壊し生徒達を避難させた。

 

「さて、輻射波動の本当の最大パワーで中に入るしかないわね」

 

 カレンは楯無と一夏、セシリアの時は本来のパワーで輻射波動を使わなかった。その理由は単純で単に強力すぎるからだ。

 

「輻射波動最大出力!!」

 

 アリーナのシールドバリアーの一点に穴を開けカレンは一夏と鈴の元に急いだ。

 

 

 

 

 

「一夏!鈴!」

 

「「カレン!?」」

 

「良かった無事みたいね」

 

「アンタどうやって入って来たのよ!?」

 

「輻射波動の本当のパワーで無理やり穴開けて来ただけよ」

 

「お、俺やセシリアの時は本気じゃなかったのか!?」

 

「一応本気だったけど輻射波動は抑えていたわ。それより2人のエネルギーはどれぐらい残っているの?」

 

「俺は60」

 

「アタシは180よ」

 

「私が一機引き受けるわ、その間に2人はもう一機をお願い」

 

「でも策が・・・」

 

 

「策ならあるぞ鈴」

 

「本当!?」

 

「ああ、俺が合図したら、最大威力で衝撃砲をアイツに向かって撃ってくれ」

 

「?いいけど当たらないわよ?」

 

「いいんだ当たらなくても、いくぞ!!」

 

「一夏ぁっ!」

 

 3人が動こうとしたら箒が放送室から大声で一夏の名を叫んだ。

 

「男なら・・・男ならっ、その位の敵に勝てなくてなんとする!」

 

「あいつ!箒を狙うつもりか!?鈴やれ!」

 

 箒の声を聴き黒いISは箒をロックした。

 

 鈴が撃とうとしたがもう一機に邪魔された。

 

「アンタの相手は私だ!」

 

 そこにカレンが輻射波動を当てようとしたが避けられた。その間に箒をロックしたISからビームが発射させた。

 

 ドオォォォォンっ!

 

「ほ、箒ぃぃぃぃ!!」

 

 爆発で箒が死んだと思い一夏は箒の名前を叫んだ。

 

 煙が無くなって来てそこにあったのは破壊された放送室ではなく、蒼い全身装甲のISと紫色の全身装甲のISがひっそりとたたずんでいた。

 

 ビームは無効化され、後ろの放送室は無傷。そして一夏と鈴はこの機体たちと似た機体を知っている。

 

 カレンの紅蓮と似ているのだ、蒼い全身装甲のISは左手は紅蓮と同じ輻射波動が付いていた。紫色の全身装甲のISは輻射波動のような目を引く特異ないものの、二刀流というスタイルで、尾骶骨の位置から一本だけ、異常なほどしっかり刃のついた尻尾が生え、ビームが通る予定のルートに。その金属質の尻尾はワイヤーを巻き取る音とともに尾骶部に収まる。

 

 カレンはあの蒼い全身装甲の機体を知っている、否、かつて戦場でお互いの背中を預けて共に戦った戦友で自分が愛した男の機体だ。カレンはか細い声でその人物の名を呟いた。

 

「・・ラ、イ・・・」

 




待望の彼ら(・・)の登場です。


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王の裁きそして再会

 クラス対抗戦の途中で現れた黒い全身装甲のIS2機と戦っていた、カレン、一夏、鈴は反撃に出ようとしたが、箒が放送室で一夏の名を叫んだ事によって、ターゲットにされてしまう。カレン達が止めようとしたが、止められずビームは放送室ごと壊されたと思ったが、蒼い全身装甲のISと紫色の全身装甲のISがたたずんでいて、ビームを無力化していた。カレンはその蒼い機体をみて操縦者の名を呟いた。

 

「・・ラ、イ・・・」

 

 オープンチャンネルで話しかける。 

 

「・・・カレン久しぶり・・・」

 

「本当にアナタなのね?」

 

「ああ僕は君が知っているライだ」

 

「ライ今まで何処にいたの?それにどうして・・・」

 

「今は先にあの無人機の排除をするよ。話はその後で」

 

「う、ん。え?無人機!?」

 

「はっ!?ISは人が乗らないと動かないんじゃ・・・」

 

 ライの無人機発言にカレンと鈴は反応した。

 

「あの機体からは人の熱源が出ないんだ。だからアレは無人機なのさ」

 

「後ろの子、怪我とかない?」

 

「あ、ああ。すまない助けて貰って」

 

 紫色のISの搭乗者は箒に安否を確認した。

 

「さて僕ともう一人であの2機を相手にするからカレンはその2人を守って」

 

「でもライ・・・」

 

「大丈夫だよ。それよりそこの2人が狙われたら危険だからね」

 

「・・・分かったわ。但し無事に帰って来てね」

 

「ああ」

 

 カレンとのやり取りを終えたライは右手に制動刀を構えた。

 

 プライベートチャンネルを紫色のISとつなぎ直す。

 

「さて、さっさと片付けるか」

 

「わかりました」

 

 ライはビームを撃ったISに近づこうとした。しかしもう一機がライの後ろから殴り掛かったが・・・。

 

「邪魔はさせない」

 

 と紫色の全身装甲のISの尻尾でこぶしをからめとり引き寄せて投げ捨てる。生まれる隙はわずか2秒。

 

「まずは一機、行くよ」

 

「わかりました」

 

 ライはすかさずビームを発射したISに近づき輻射波動を叩き込んだ。同じタイミングで僚機の左肘がビームを発射したISの背中に当たり、同じタイミングで輻射波動を展開。一機破壊までの時間、たったの2秒。

 

「すっげー」

 

「何あの超速連携・・・」

 

 一夏と鈴はライと僚機の戦いを見てライたちの力量の高さを目のあたりにした。

 

 投げ飛ばされたISは体勢を立て直そうとしたが、既にライは懐に入っており攻撃した。

 

 

 

「いくよ!」

 

 

 

「はい」

 

 僚機との連携。前面と後面からの上下からの斬撃。斬るタイミング振りかぶるタイミング、一寸一秒変わらない。

 

 この攻撃はラウンズ級の腕前がなくては避けられず相手は最初から食らい中破した。

 

「これで最後!」

 

 止めにライが輻射波動を叩き込みISは爆散した。全機撃破までの時間、たったの20秒。

 

「アタシ達が手も足も出せなかったISを・・・」

 

「たったの20秒で倒した・・・」

 

 鈴と一夏は圧倒的なライたちの強さを感じた。

 

「あらもう終わっていたんですね」

 

「「セシリア!?」」

 

 カレンの入って来た所からセシリアがブルーティアーズを纏って現れた。紫色の機体がライとブルーティアーズの間に立ち、手でライを守るように立つ。

 

「それにあの機体は・・・」

 

「セシリア、アイツは味方だ」

 

「そうね、カレンの知り合いみたいだし」

 

「カレンさんの?」

 

 セシリアがライの方をみて警戒したが一夏と鈴の言葉で警戒を解いた。そしてライと紫色の機体の搭乗者以外の全員がISを解除した。

 

「ライ・・・」

 

「はー仕方ない・・・」

 

 カレンに呼ばれライもISを解除した。

 

「「「な!?」」」

 

「お、男!?」

 

「まさか2人目!?」

 

「俺の他にもいたのか!?」

 

 ライの姿をみて鈴、セシリア、一夏は驚いた。

 

「ライ、ライーーー!!」

 

 カレンはライの姿をみてたまらずライに抱きついた。

 

「「「はぁ!?」」」

 

 突然のカレンの大胆な行動に一夏達はさっきより驚いた。

 

「カレン・・・」

 

「良かったまたアナタに会えた」

 

「僕もカレンに会えて嬉しいよ」

 

「ライ・・・」

 

「カレン・・・」

 

ライとカレンの距離が縮まりお互いの唇が当たった。

 

「「「なぁっ!!?」」」

 

 完全に2人の世界に入っているため一夏達に見られていることも忘れライとカレンはキスした。2人はお互いの存在が嘘でないよう長くキスをした。

 

 数秒の後2人は唇を離した。

 

「ライアナタどうして私からアナタを忘れさせたの?」

 

「カレンまさか記憶が・・・」

 

『あ~紅月、取り込み中済まないが・・・』

 

 カレンの記憶が戻ったか確認しようとしたが、カレンの方に千冬からプライベート・チャンネルで通信がきた。

 

「は、はい!」

 

『話があるその男と僚機の事で』

 

「どうしたのカレン?」

 

「アナタたちに話があるって織斑先生が・・・」

 

「君の事を話したの?」

 

「うん。私の事を知っているのは、織斑先生と生徒会長だけよ」

 

「なら僕の事も話すよ。僕らと君と織斑先生と生徒会長だけで話したいんだが・・・」

 

「分かった伝えるわ。織斑先生、ライが話があるそうです。会長と私とライたちの5人だけに話すそうです」

 

『分かった。生徒会室で話そう。伝えてくれ』

 

「分かりました。生徒会室で話そうって」

 

「アキラ、聞いた通りだよ、君も降りておいで」

 

「わかりました」

 

 紫色のISも解除する。出てきたのは灰銀のさらりとした長髪の少年だった。

 

「「「な!?」」」

 

「お、男!?」

 

「まさか3人目!?」

 

「君の事情も聴きたいんだってさ、アキラ」

 

「どうして僕もなんですか? どうにかしてくださいよ」

 

「どうにかって言ってもね、君のことは僕は知らないんだ。だから自分で説明してもらわないと」

 

「だと思いました。わかりました、観念しましょう」

 

「ライ、この人は?」

 

「少なくとも、僕の知らない人だよ」

 

 ライはそう言い切った後に、仕切り直しという風に告げた。

 

 

「じゃ行こうか」

 

「うん」

 

「わかりました」

 

『織斑、凰、オルコットそれに篠ノ之は控室で待機していろ』

 

 千冬の言葉を聞き一夏達は控室に向かった。

 




 はい、シークレット、伏せ続けていた+α、その子は「アキラ」でした。僕が執筆中の他作品に出ている子ですねぇ。
 え? なんで出てるかって? この子とライカレのためにこの作品の改変許可と転載許可、貰ったんですよぉ
 なんでこの子たちのためにっていうのは、またどこかのお話です。お楽しみにぃ~


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ライの説明

一夏side

 

 俺達は千冬姉の命令で控室で待機していた。

 

「しかし一夏の他に男のIS操縦者がいるなんてね。しかもカレンとはただならぬ関係だし」

 

 鈴の言葉に、一夏、箒、セシリアも頷いた。

 

「確かに何時ものカレンさんとは思えない大胆な行動でしたわ」

 

 セシリアの言葉を聞き、先程の光景が頭に浮かび、全員が頬を赤く染めた。

 

「そ、それよりアイツは強かったな」

 

 気分を変えるべく一夏が先程の戦闘の事を言うと、全員が真剣な表情になった。

 

「確かにね。アタシと一夏が2人がかりでも苦戦した相手をアッと言う間に倒すなんて・・・しかも相手の行動を読んで利用するなんて、アタシ達には出来ない事だわ」

 

 一夏達が話していると千冬が入って来た。

 

「千、織斑先生!」

 

「お前達今回の事は箝口令を敷く。もし口外すれば学園卒業まで監視下に置かれる事になる。あの男の事は次期に分かると思うが口外するなよ?以上だ解散」

 

 一夏達は反論しようとしたが千冬の剣幕に押され控室から出た。

 

一夏sideout

 

 

 

 

 

生徒会室

 

 一夏達と別れ千冬はライ達が待つ生徒会室に到着した。

 

「待たせたな」

 

「いえ、大丈夫です。始めましてライと言います」

 

「アキラといいます。初めまして」

 

「私は織斑千冬だ。知っていると思うがここIS学園で教師をしている」

 

 ライとアキラと千冬は互いに自己紹介した。

 

「早速だが君に聞きたいことがあるのだが・・・」

 

 そう言ってライのほうを見る。

 

「織斑先生、先に私が話を聞いてもいいですか?」

 

 千冬がライに話を聞こうとしたら、カレンから待ったを掛けられた。

 

「良いだろう。私達は席を外した方がいいか?」

 

「いいえ、大丈夫です。むしろ貴方達には聞いてもらった方がいいと思うので。カレンもそれでいいかな?」

 

「ええ良いわ」

 

 カレンの承認も得られ千冬と楯無は2人の話を離れた所から聞くことにした。

 

「まず何故私はいえ、私達は貴方の事を忘れたの?貴方は何故狂王を名乗ったの?」

 

「ちょっとカレンちゃん狂王はライ君の事でしょう?狂王を名乗ったってどういう事なの?」

 

 カレンの言葉を聞き楯無は疑問に思った事を言った。

 

「狂王とは数百年前のブリタニアの王の事で、ブリタニアでは皇族でも名乗る事が出来ない名前なんです。それなのにライは狂王『ライゼル・S・ブリタニア』と名乗ったのです。ライ貴方は何故狂王を名乗ったの?」

 

「・・・それは僕が、ライゼル・S・ブリタニア本人だからだよ」

 

「え?・・・」

 

 ライの言葉にカレンは頭が真っ白になった。

 

「僕は過去の人間なんだ。いや人間だったと言った方が正しいかもしれない。僕は既に人の理から外れた存在なのだから、ギアスという王の力を持っている時点で」

 

「ライ、アナタもギアスを・・・」

 

 カレンは勿論話を聞いていた千冬と楯無もライが過去の人間でギアスを持っていることに驚いた。

 

「僕のギアスはルルーシュと同じ絶対遵守の力。ルルーシュの視覚とは違い僕のは聴覚に働くタイプのギアスだ」

 

「・・・ライ貴方の過去に何があったの?」

 

「僕の過去は・・・」

 

 ライはカレン達に話した。自分が日本貴族皇家の娘と当時小国だったブリタニアの王との間に妹と生まれたこと。また異国の者と呼ばれ差別されたこと。母と妹を護るために武道を習ったこと。そして自分が助けた者と契約してギアスを得たこと。ギアスを使い王になったことなどを話した。

 

「そしてあの時僕の国は終わりを告げた」

 

「あの時?」

 

「北の蛮族が攻めてきた時僕はこう言ったんだ。『敵を皆殺しにしろ』と。ギアスが暴走しているとは知らず、その言葉で兵、民達は敵に突貫していった、母も妹も・・・そして戦いが終わった時には生きていたのは僕だけだった」

 

「暴走?」

 

「はい。ギアスは使えば使う程強力になり最後には暴走するんです。暴走を抑えることで覚醒する事が出来るのです。僕のギアスは2度の暴走を経て覚醒したので今は安定しています」

 

「2度だと?1度目が過去だとしたら2度目は何時なんだ?」

 

 ライの話を聞いて千冬は2度目は何時か聞いて来た。

 

「それを話す前に、戦いの後の事を話しますね。僕はあの後死ぬつもりでした、母と妹が居ない世界なんて意味がないと思ったからです。でも契約者に止められ、遺跡で眠る事になりました。その時『全てを忘れろ』って自らギアスを掛けたのです。そして数百年後の世界で発見され、薬での身体強化、知識の刷り込みなど様々な実験をさせられました。実験の最中にトラブルが発生し僕は逃げました」

 

「そして逃げた先がアッシュフォード学園で、会長に保護されたって事ね」

 

「うん。そこからは知っていると思うけど、僕は神根島で記憶を取り戻したんだ遺跡に触れてね。そして再び眠りに就くことにしたんだ。その時ギアスが暴走したんだけど遺跡に吸い込まれたんだそして僕は願った『皆が僕の事を忘れますように』と。僕と過ごした日々がうたかたの夢であるようにと」

 

「なんで・・・なんでそんな事をしたのよ!?私達が、私がどんなに辛かったか分からないの!?あの日から私の中で何かが足りないと思っていた。どんなに探しても見つからなくってどんなに悲しくなったか・・・」

 

「ごめんカレン僕は君には悲しんで欲しくはなかったんだ。僕が居ればカレンを不幸にしてしまう。だから僕は消える事を決めたんだ。でも今は違う、僕は君と共にいたいその為に僕はここに来たんだ。彼は僕に命を与えてくれた自らのコードを使ってね。そして彼の願いを聞いて僕はカレンとなら叶えられると思ったんだ」

 

「その願いって?」

 

「僕が幸せになる事。その為には君が必要なんだ」

 

 そう一区切りし懐から箱を出して言葉を続けた。

 

「カレン。僕と結婚を前提に付き合って欲しい。僕が幸せになるためには君が必要なんだ。君の事は眠りにつく前から好きだった」

 

 ライが箱から出したのは結婚指輪だった。第二次東京決戦の前に買っていた物でカレンを救出したら渡そうと思っていたのだ。

 

「嬉しい・・・私もライの事が好き。愛してる」

 

「僕もだよカレン」

 

 ライは指輪をカレンの左手の薬指にハメた。

 

「これからよろしくねカレン」

 

「うん」

 

 ライの言葉にカレンは笑顔で答えた。因みに千冬と楯無は黙って見ていて涙を流していた。

 

 アキラは涙も流さずただほほえましそうに、それでいてうらやましそうに見つめるだけだった。

 

 

 

 

 

 世界は変わって行く。一つ一つの歯車が、新たな歯車の登場により、少しずつ、世界のあり方を変えてゆく。その歯車は一体、どれほどの歪みとなるのか。

 

 ここ先、世界は分かち、お互いに結末の違う、IFのルートとなる。この先のお話は、

「もし、アキラが存在してれば」というIFのルート。

 

 互いに分かれた道筋の先は、今はまだ分からない。




 アキラの話はここでもなかったですねぇ。
 さて、彼が登場したことによって、歯車は狂っていきます。元の作品「黒の騎士団の双璧が行くIS世界」と異なる要素、異なる機体。物語はどのように変わり続けるのか。
 今後にご期待ください。


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アキラの身元

「それはさておき、アキラ」

 

「はい」

 

「君のこと、説明してくれるかい?」

 

「わかりました。まず、初めに、この紙を見てください」

 

 そう言って机の上に一枚のA4サイズの紙を広げた。

 

「この結果はっ!?」

 

「えっ!? うそっ!?」

 

「僕はアキラエル・S・ブリタニア。父ライゼル・S・ブリタニアと、母カレン・シュタットフェルトの実の息子。日本名を四十万(しじま)アキラ。僕のいた世界線では父は四十万ライ、母は四十万カレンとなっています」

 

「わ、私たちの・・・」

 

「息子・・・」

 

「はい、僕はCの世界を使い、時を遡り、二人に会いにきました」

 

「ちょっと待て、時を遡った? どうゆうことだ?」

 

「そのままの意味です。つまるところ、母上はまだ妊娠されていませんし、父上との行為にも及んでいないはずなのです。僕の記憶が正しければ、僕が5歳の時に、両親は27でした。なのでそこから妊娠期間等々を計算すると26~27の間なので。今のお二人は18なので」

 

「ちょっと、なんであんたがそんなこと知ってんのよっ!」

 

「母上が教えてくれました。といっても、僕が母上に僕自身のことについて聞いていた時にですが」

 

「じゃあ、その紙の整合性を確かめるために、血液検査をさせてもらえるかしら?」

 

「かまいませんよ、では日程はおいおい、ですか?」

 

「そうね、その時になったら連絡を入れるわ」

 

「まぁ、しかし、確かに似てはいるな」

 

「そうね、この銀色の髪の毛とか、ライのにそっくり」

 

「目元もや目の色なんかはカレンそっくりだ」

 

「そうでしょう?」

 

 ちょっと誇らしそうな顔を見せるアキラ。ふと、千冬は気になって尋ねた。

 

「でも何でわざわざ時を遡ってまで二人を追いかけたんだ?」

 

「それは・・・」

 

 苦痛と苦悩に顔がゆがむ。表情として現れるほどの理由を、アキラは持っている。

 

「す、すまない。無神経だったか?」

 

「いえ、話さなければとは思っていました。ただ、話さずにいられればなとも、思っていましたけど」

 

 そう言って、過去について語り始める。

 

「僕は先ほども申し上げました通り、父ライと母カレンの間に生まれた長男です。そして・・・」

 

 さらに妹もおり、四人で別荘に暮らしていた。使用人との仲もよく、血は繋がっていないのに家族のように気にかけてくれる。とても幸せな環境の中で育った。アキラ自身も、そんな生活を心から喜んでいた。そう話した。

 

「父は日本のある県を治める知事として、働いていました。けど、その件は前に赴任していた知事が圧政を敷いていたようで、あまり評判がよくなかったんです」

 

 それでも、ライの努力と政策により、だんだんと評判も上がり、信頼も集まり始めた。

 

「正直、県民全員が僕ら家族といえるまでに、回復しました。完全にお互いを信頼し、それも合わさり政策共に、どんどん、県民に寄り添うようになっていました」

 

けど・・・と言葉を濁す。少し逡巡するような仕草をとった後、

 

「やっぱり、よく思わない人は少なからずいるようで。僕はそんな人がいるということを3歳のころからだんだん感じるようになりました」

 

 家族を守る。アキラはそのことがわかってからそう思ったそうだ。それから学問に励み、ライに稽古をつけてもらいながら武術にも取り組んだ。

 

「今も変わりませんが、家族とともにいること、それが僕にとってはたまらなくうれしかったのです。だから、家族を、せめて、血のつながった家族ぐらい守れるようにならなきゃと」

 

 いろんなものに取り組んだという。空手、柔道、合気道、剣道、短剣、薙刀、馬術に忍術、すべての武術と書く武術の師匠から学び吸収していった。

 

「指揮する力を覚えるためにチェスも父上から教わりました。楽しかったです。師範には褒められるし、できるようになるのが体でもわかるし、こんなことしながらも妹と母上のそばにいられる。父上はそんなことしなくていいといってくださいましたが、僕は自分がしたいからと言って、続けました」

 

 けど、覚えるものがなくなるにつれて、だんだん力不足なのでは、と感じるようになったともいう。

 

「だから、僕はギアスに手を出しました。手を出したときは5歳でもうすぐ6歳になる時期でした」

 

 もちろん、ギアスはある一定の歳になるまで使えないという条件の下で契約した、といった。ライのような被害者を出さないようにと、制限がかけられたという。

 

「僕がもらったギアスは絶対遵守のギアスで、父上と同じ代物です。発動条件も、暴走したときの厄介さも、同じです。ただ違うのは、僕のギアスには特殊なデメリットがありました。けど、それは契約者も使う僕自身ですら、わかりません」

 

 ギアスにかけられた拘束。それがある中、生活しました。

 

「僕が7歳になった年でした。僕らの屋敷に新しい従者が来ました。ほかのメイドや執事のおかげでしっかり仕事はできていました。何より、楽しそうな顔をしていたので、ここでの暮らしに満足していると思っていました」

 

 しかし、ある出来事が起こってしまった。

 

「その従者が全身ローブで覆い隠した人をつれてきました。その人は僕を見るとすぐにこんなことを言いました『君は、この先一か月の間に不幸になる』と」

 

 正直、信じることはできなかったという。ポッと出の人間にそんなことを言われて、はい分かりました。なんて言えるわけもない。

 

「けど、実際に起こりました。僕がそのローブの人間にギアスをかけられました。命令にあらがうことができなかったので、たぶん絶対遵守のギアスユーザーだったのでしょう。命令は『お前の家族をすべて殺せ』でした」

 

 アキラは7歳で、殺しを命じられた。無論、抵抗はした。その抵抗のためにギアスの枷を壊し、自らに『家族を殺すな』ちギアスを掛けるほどに。

 

「ギアスにギアスを重ねることができた時点で、特殊なギアスを持っていたんでしょう。僕はそのギアス同士の衝突で激しく呻き、脳に響く激痛を受けることとなりました。きっと、ギアスに手を出さなければよかったんでしょう。すごく後悔しています」

 

 そして、そのアキラを見てライは苦しい顔をし、こう、アキラに向けて言葉を紡いだという。

 

「『もういい、そんなに苦しまないでくれ。僕が悪かったんだ』って、父上は何も悪く無いと、僕はギアスにギアスで抵抗を続けました」

 

 そのうち、何も聞こえなくなって、ライはアキラの持つ刀に体を預けた。ズブッ、という鈍い音と共に刃から手に伝わるライの血液。アキラの頭は真っ白になった。

 

「その時、父の口は『すまなかった。僕が気づいて入れさえすれば、君が苦しむこともなかった。こんなふがいない父を許してくれ』そう動きました」

 

 つらかった、苦しかった。何より、なにも守れなかったことに怒りを覚えた。その様子を見た従者もライと同じように、アキラの持つ刀で自ら命を絶った。妹も、母親も。

 

「結果として、僕はだれも守ることができずに、ギアスに打ち勝つことができず、全員を殺めることとなりました。その時の感情は、もうわかりません。ただひたすら泣いて、切るものののない刀を振り回して、その刃で自らも傷つけました。そして、その場で気を失った僕は、契約者に拾われ、17になるまで、その世界で育ってきました。でも、未練だったんですよね。なにも守れなかったことが。そして何より、血のつながった家族がいないことに、寂しさを感じたんだと思います。だから、僕は父上を追いかけて、ここまで来ました」

 

「そんな、じゃあ、僕たちは・・・」

 

「思っている通りだと思います。僕の血筋は、あの世界では僕しかいません」

 

「なんてことなの」

 

 カレンは涙を流すことしかできない。ライも、カレンも、千冬も楯無も、誰一人として言葉を亡くした。そんな結末があっていいものかと。

 

「この話はあくまで僕しか知らないことです。だから嘘として処理して拷問をかけることもできますから」

 

「そんなこと、誰ができると思う?」

 

 ライはアキラをとがめる。

 

「・・・わかりません。ただ、これは普通に生きていればスケールの違う話になってきますから。言い方を変えると、現実味を帯びてないんですよ」

 

 話していてなんですけどね、とそう言い切った。

 

「わたしは、信じる」

 

 まだ泣きながらも、それでも確固たる意志を持ってアキラに告げる。

 

「だって、あなた、嘘をつくような人間に見えないんだもん。こんな重い話、あんなつらい顔した後に嘘ですって、言って終わらせるように見えないんだもん」

 

「僕も同感だ。何より、君のその動機、力を持つ動機が僕に近いんだよ。そんな不純な動機を持つのは絶対に僕の息子だね」

 

「・・・・・・いいんですか? だましてるかもしれないんですよ? なのに僕のこと、そんなに信用していいんですか?」

 

「僕の息子を、そんな風に言っちゃダメだ。出ないと、起こるよ?」

 

 ライは、それでもアキラを息子と言い切った。心を強く持ち、頼れと言わんばかりにアキラを息子と言い切った。

 

「わかりました、父上」

 

 今にも泣きそうな、けれでも嬉しそうな顔をアキラは両親に向けた。

 

「「君(あなた)は、何があっても、僕ら(私たち)の息子だ(よ)」」

 

 二人は、ただ、あの話を聞いただけ。しかし、その話だけでアキラを息子だと信じた。

 

「よかったじゃないか・・・・・・」

 

「そうですね、織斑先生・・・・・・」

 

 三人を祝うように、先のプロポーズとは違う光景を涙を流しながら見つめるのだった。




 かなり長くなりました。
 この話で感動していただけたら幸いです。
 この話は転載でも改変でもない、完全オリジナルのものです。千冬さんや、楯無さん口調等、ちょっと違うな等々あるかと思います。そういう時は遠慮なく指摘してくださってかまいませんので、コメント等、お待ちしております。


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ライの強さ

対抗戦の翌日

 

「ええとですね、今日は二人、転校生を紹介します」

 

 真耶の言葉に昨日の事を知っている、一夏、箒、セシリアはまさかと思いながら昨日の人物が頭に浮かぶ。

 

「入って来い蒼月、四十万」

 

「はい」

 

 千冬の言葉に返事して入って来たのは、昨日の無人機二機を撃退した銀髪蒼眼の少年ライと同じ銀髪空眼の少年アキラだった。

 

 

 

 

 

 時は少し遡り昨日の生徒会室・・・。

 

「所でライ君とアキラ君はこれからどうするの?」

 

「僕らもここに入学しようと思います。束さんから勧められましたし」

 

「束!?束だと!!?お前は束と合った事があるのか!?」

 

 楯無がライたちにこれからどうするか聞くとライはアキラとともに束の勧めでIS学園に入学しようと口にすると、千冬が束の名前を聞き驚きながら束の知り合いかライに聞いた。

 

「僕らがこの世界で初めて会ったのが束さんで今までお世話になっていました」

 

「迷惑をかけてしまいましたね、彼女は気にしてなさそうでしたけど」

 

「あの束が他人の世話をだと・・・」

 

 そう篠ノ之束は自身が興味を持った者にしか接しない。他は皆有象無象なのだ。その束が他人のライたちの世話をしたことに千冬は驚いた。

 

「そう言う訳なので入学の許可を頂きたいのですが・・・」

 

「あ、ああ良いだろう。男でISを動かせるのなら問題はないが、君の名前はどうする?流石に姓が無いのは問題があるのだが・・・」

 

 ライのほうを向き問う。

 

「そうですね・・・蒼い月下から取って、蒼月。僕はこの世界では蒼月ライと名乗る事にします」

 

「蒼月か、分かったそのように手配しておく」

 

「ありがとうございます。これからよろしくお願いします織斑先生」

 

「それでいいのですか? 父上」

 

「かまわないよ、どうしてそんなこと言うの?」

 

「苗字、母上と違うことになりますけど」

 

「あ~、そういうことね」

 

 カレンは顔を真っ赤にしてしおらしくなる。父上も顔を紅くしながらカレンを見て、僕を見た。

 

「まだ大丈夫だよ。でも、そのうち・・・ね」

 

 

 

 

 

 そして現在。

 

「初めまして。蒼月ライです。非公式ながらISを動かせる二人目の男性操縦者です。ISの事で知識不足があると思いますが、皆さんについて行けるように頑張りますので、どうかよろしくお願いします」

 

「初めまして、四十万アキラです。同じく非公式ですが、ISを動かすことができます。知識不足等で、皆さんに迷惑をかけるかと思いますが、付いて行けるように頑張りますので、よろしくお願いします」

 

「「「・・・・・・」」」

 

 ライとアキラの紹介を聞き教室が静寂に包まれるが次の瞬間・・・。

 

「「「キャアアアアアアアアッ!!!」」」

 

 大音量の黄色い声援が響いた(千冬、真耶、一夏、箒、セシリア、カレンは直前に察し耳を塞いだ)。

 

「男子が2人もよ!」

 

「整った美形よ!」

 

「私このクラスで良かった!」

 

 狂喜乱舞の女子達である。

 

「あれ~?その指輪カレレンと同じだ~」

 

 本音がライのしている指輪とカレンがしている指輪が同じだと気づき他の生徒達もライとカレンを交互に見ているとライが口を開いた。

 

「ええっと・・・僕とカレンは結婚を前提に付き合ってるんだ・・・」

 

「「「ええええええええええ!!!???」」」

 

 ライの言葉に千冬以外の全員が驚きの声をあげた。

 

「静かにしろ馬鹿者共」

 

 千冬の一言でクラスは一瞬で静かになった。

 

(すいません。織斑先生)

 

(全くだ。苦労をかけさすな)

 

 ライは千冬の方を向き目線で謝罪した。

 

「今日の一時間目はISの基礎だが、蒼月と紅月で模擬戦をしてもらう。四十万はそのあとで織斑と模擬戦だ。各人は第二アリーナに向かえ」

 

 千冬の言葉で各人動き始めライとカレンとアキラは千冬に連れられアリーナに向かった。

 

 アリーナの管制室に千冬は一夏、箒、セシリアの3人を入れた。真耶は観客席で生徒達を見ている。

 

「織斑先生どうして私達だけ呼んだのですか?」

 

 セシリアが千冬に呼ばれた理由を聞いた。

 

「それはお前達がアイツの事を知っているからだ。これからの事で疑問を口にすると昨日の事がバレる可能性があった為だ」

 

 千冬の言葉に疑問を感じ出てきた2人を見て納得した。カレンは紅蓮を、ライは月下ではなく額に角のようなものがあり、カラーリングは白と蒼を基調としていてスマートな機体だった。

 

「昨日と違う!?」

 

「昨日のは白蓮で今のはランスロット・クラブだ。どちらも蒼月にデータ収集を依頼された機体だ。これを他の生徒達の居る所で言っていたら昨日の事がバレると思ったんだ」

 

 一夏達は自分達だけ連れられて来たことに納得した。

 

「それからお前達はあの二人の戦いをよく見ておけ、お前達の糧になるかもな」

 

 一夏達は真剣な表情で2人を見た。

 

『まさか貴方がランスロットを使うなんて・・・』

 

『昨日も話したと思うけど、あの世界では僕は色々な可能性があったんだ。黒の騎士団に入ったり、解放戦線に入ったり、ブリタニア軍に入って特派、コーネリア親衛隊、純血派に入ったり。または学園で文化祭の実行委員長になったり。様々な可能性があったって彼は言っていたからね』

 

『私としては貴方とは敵対したくないわ』

 

『僕もだよ。だけど模擬戦なら仕方ないね、カレンと戦う時はクラブを使うよ』

 

『どうして?』

 

『月下はカレンの紅蓮と共に【黒の騎士団の双璧】と呼ばれていたからね、あの世界では仕方なかったけど、パートナーとは戦いたくないからクラブにしたんだよ』

 

『成程ね。でも模擬戦って言っても手加減は無しよ?久々に勝たせてもらうわよ』

 

『そう簡単にはいかないよ』

 

 千冬が一夏達と話している間にライとカレンはプライベート・チャンネルで話していた。

 

『では模擬戦を始めろ』

 

 千冬の合図と共にライはヴァリスを撃った。カレンは軽く避け輻射波動をロングレンジ照射を撃った。ライは慌てず輻射波動の攻撃を読んでいたのかヴァリスを撃った後直ぐに両手にMVSを握り接近戦に持ち込んだ。カレンも呂号乙型特斬刀を構えライを迎え撃った。

 

「スゲー、カレンと互角かよ・・・」

 

「そうですね、それにあの人カレンさんの攻撃を読んでいたみたいですし・・・」

 

 ライとカレンの戦いを見て一夏とセシリアは思った事を言った。

 

「あの二人の戦い方は真逆だな」

 

「どういう事ですか織斑先生?」

 

 千冬の言葉に箒は疑問の声をあげた。

 

「言葉道理だ。紅月は直感で行動するタイプだが、蒼月は計算して行動するタイプだ」

 

「確かにそうだなぁ、昨日の無人機との戦闘も相手の行動を読んでいたし」

 

 一夏は昨日の戦闘の事を思い出し納得した。

 

「とは言え互いに最も得意で苦手な相手だな」

 

「どうしてですか?」

 

「紅月は直感で動く為咄嗟の行動が出来る。これは計算して戦う相手にしたら厄介だ。なんせ組み立てた戦略が崩れるのだかだな。逆に直感故読まれやすいんだ。蒼月の場合は逆だがな」

 

 千冬の言葉で一夏達は納得した。

 

「お前達もあいつ等に負けないよう精進しろよ」

 

 千冬の言葉を聞き二人を見ると、カレンは右手でクラブの頭を握っていて、ライは右手に薙刀にしたMVSを紅蓮の首に添え左手に持っているヴァリスを紅蓮の胸元に付けていた。結果は引き分けでライの強さが1組に知れ渡った。



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アキラの実力

 アキラと一夏の模擬戦。

 

「手は抜かなくていいからな」

 

 そう言いながら、白式はアキラの目の前まで。

 

「わかりました。全力でお相手を務めさせていただきます」

 

 アキラはISを展開する。白い、全体的に細い。その機体は、ライの駆っていたランスロット・クラブとも違う見た目の機体。

 

「彼も昨日と違う機体ですね」

 

「昨日のは紫星(しせい)だ。四十万は蒼月や紅月の乗っていたものと同タイプのものであるといっていた。今のはアレクサンダ・スペリオル。これもデータ収集を依頼されたものだ」

 

「アキラはユーロブリタニアともダクトがあったのかな?」

 

 今のアリーナの管制室には一夏が抜け、ライとカレンが増えていた。

 

「特殊な機体なの?」

 

 カレンは知らない。あの機体の怖さを。

 

「あの機体はね、特殊な仕様で、操縦者の意思を拡大して、同じタイプの僚機を操ることのできる特殊な仕様をしてるんだ」

 

「なっ!?」

 

「それを搭載しているかは知らないけど、その使用のおかげで、飛躍的に性能が上がるよ」

 

「手は抜きませんけど、危険を感じたらすぐに降参してください。コントロールしきれるか、僕にもわからないんで」

 

『では模擬戦を始めろ』

 

 千冬の合図、しかし、アレクサンダは動かない。

 

「なら、俺から行かせてもらうっ!」

 

 雪片弐型を構え、突っ込んでくる。

 

 しかし、よけないアキラ。そのまま剣先が機体に触れる前10秒。白式の突きは空を切った。

 

「慢心はだめですよ。この機体は全身装甲(フル・スキン)。つまるところ、ある程度なら変形ができる」

 

 アレクサンダは四つん這いのような姿勢を地上で取っていた。

 

「じゃあ、僕も行きます」

 

 人型に戻り、背中にマウントされている刀を抜き打つ。抜くと同時に、刃が紅く発光し、異様な刀に。

 

「この機体は僕の能力を最大限引き出すために、オリジナルの設計図を元にして僕のためにチューンした機体なんですよ」

 

 機体はアキラの意思に応えるように頭部のツインアイを蒼く発光させる。

 

「四十万アキラ、アレクサンダ・スペリオル、行きますっ!」

 

 そこからの戦闘は圧倒的差を生み出した。

 

 アキラの繰り出す剣劇は一夏を防戦一方にし、攻勢に出させないようにした。

 

『う、美しいですわ・・・・・・』

 

『ゲームみたいだね。必ずアキラが先手を取る』

 

『蒼月と同じように考えているのかもな』

 

『でも、それにしても反応速度早いね。そのあたりはカレンに似てるよ』

 

 勝負はあっという間に決着がついた。

 

「これで、チェックメイトです」

 

 喉に刃の切っ先を向け、尻餅をついた一夏に突き付ける。

 

『勝負ありだな』

 

『射撃武器があるように見えるのに、使わずに勝ちましたわね』

 

『ライと戦い方、似てるわね』

 

『え? カレンとそっくりだったけど?』

 

「機体に異常はなしっと。システムも問題なく作動してる」

 

 機体のコンソールを確認しながら状態の確認をしていく。

 

『お前も強いんだな』

 

「頑張って努力しましたからね。まぁ、努力以上のものもあったかもしれないですけど」

 

『そっか』

 

 ISを解除し、一夏の前に。

 

「けがはないですか?」

 

「ないよ。それとさ、敬語、やめね? 同じクラスの数少ない男同士なんだからさ」

 

「君がそれでいいのなら」

 

「じゃあ、決まりだな。よろしく、アキラ」

 

「こちらこそ、一夏」

 

 二人は固い握手を交わす。

 

『アキラ、よかったなぁ』

 

『えへ、そうね』




 だんだんルート変えていきますよぉ、えぇ、変えていきますとも
 さて、今回はアキラの実力が知りたいというコーナーですね。本編ですけど
 知ってますか? アキラはライとカレンの子、つまるところ、ライみたいに考えながら、カレンみたいに直感もしっかり働く、そんな子なんですねぇ
 ボクモソンナズノウガホシイ


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更識姉妹仲直り

 ライとカレンの模擬戦、アキラの実力チェックをした放課後、ライはカレンに連れられ生徒会室にいた。アキラはというと、血液検査のため、出払っている。

 

「突然なんだけどもライ君生徒会に入ってくれないかしら?」

 

 楯無からそのようなお願いをされ楯無の扇子には『勧誘』と書かれていた。

 

「会長、先に私達の紹介をした方がいいと思うのですが・・・」

 

 そう言いながらライに紅茶を差し出したのは楯無の従者でもあり本音の姉の、布仏 虚である。

 

「そうだったわね、じゃ私から。改めて更識楯無よ。ここIS学園の生徒会長よ。よろしくね」

 

「会長の従者の布仏虚です。お見知りおきを」

 

「虚お姉ちゃんの妹でかんちゃんの従者の布仏本音だよ~」

 

「かんちゃん?」

 

「更識簪。私の妹よ」

 

「今私のルームメイトなの」

 

 本音がかんちゃんと言い誰なのか分からずにいると、楯無とカレンが教えてくれた。

 

「けど簪ちゃんは私のこと嫌っているはずよ・・・」

 

「何があったんだい?」

 

「実は・・・」

 

 ライは楯無から妹・簪のことを聞いた。

 

「君にとって妹さんは大事だとわかったよ。だからこそ遠くに置いておきたかったんだね?」

 

「そうよ。その方が安全だから・・・」

 

「なら何故自分の近くに置いておかないんだ?」

 

「え?」

 

「確かに君の家なら狙われるかもしれない。その時に遠くにいて守れなかったら君は後悔することになる。何より大切なら自分の手が届く所に置いた方がいい。僕達の話を聞いた君なら分かるだろ?本人に何も言わず突き放すのはダメだと」

 

「・・・」

 

 僕達の話で楯無は察した。ライは母と妹を遠ざけようとしたがギアスの力で失ってしまった事。

 

 布仏姉妹は何のことかわからなかったが、空気を読んで黙っていた。

 

「そう、ね。でもどうすればいいのか分からないわ・・・」

 

「なら僕に任せて欲しい。妹さんと話してみて、君と向き合えるように頼むよ」

 

「私も手伝うわ」

 

 カレンもライと共に更識姉妹の仲直りに協力すると言ってきた。

 

「早速行ってくるよ」

 

 ライとカレンは整備室に向かい簪に会いに行った。

 

 整備室。

 

「ここに会長の妹さんがいるんだね?」

 

「ええ。1人でISを作っているわ。会長がやったみたいに自分も1人で作るって会長も言っていたわ」

 

「なら先にその誤解を解消して、頼る事は悪い事ではないと教えないとね」

 

「そうね」

 

 

 

 

「簪いる?」

 

「・・・どうしたの?」

 

「ちょっと紹介したい人がいるの。今大丈夫?」

 

「・・・うん」

 

「ライこの子が会長の妹さんの更識簪よ。簪こっちは2人目の男性操縦者で私の恋人の蒼月ライよ」

 

「始めまして、蒼月ライです」

 

「初めまして。更識簪です。更識って呼ばれるのは嫌いだから簪でいい」

 

「なら僕の事もライでいいよ。さて単刀直入に言うけどお姉さんと仲直りしない?会長は君と仲直りしたいと言っていたよ」

 

「嘘お姉さんは私の事嫌っているはず」

 

「それは誤解だよ」

 

「え?」

 

 ライは簪に楯無から聞いた事を話した。簪は今まで誤解していたと気づき楯無と仲直りしようと思った。

 

「まだ会長は生徒会室にいると思うけど行くかい?」

 

「うん」

 

 ライ達は生徒会室に向かい楯無と簪を2人きりにして、ライ達は部屋の前で待っていた。

 

 数分すると楯無が入って来ても大丈夫と言い、ライ達が中に入ると目に涙を浮かべながら手を繋いでいた。

 

「ライ君本当にありがとう!おかげで簪ちゃんと仲直り出来たわ」

 

「ありがとうライ」

 

「どういたしまして」

 

 楯無と簪からお礼を言われライは笑顔で答えた。

 

「ところでライ君生徒会に入ってもらえる?」

 

 勧誘の事を思い出し楯無はライに聞いた。

 

「はい、カレンも生徒会に入っているのでよろしくお願いします」

 

「ならライ君には副会長をお願いするわ」

 

「分かりました。これからよろしくお願いします会長」

 

「頼りにしているわ、副会長」

 

 そう言いライと楯無は握手をした。

 

「あ、あとでアキラ君も誘うから」

 

 その後、血液検査から帰ってきたアキラを誘うも、断られてしまって、さらに血液検査の結果も、ライとカレンの子だということを示してきた。

 

 ライとカレンはアキラに生徒会の勧誘を断った理由について尋ねると、無茶ぶりをする会長と副会長にもみくちゃにされた記憶しかなく、疲れそうだから、だそうだ。

 

「手伝いにはいきますけど、正式に生徒会に入ることはしません。手伝いが欲しいって思ったら遠慮なく呼んでください。会計書類等の作成ならできますので」

 

ライもカレンも、お互いの顔を見て苦笑いを浮かべるしかなかった。




 アキラ、生徒会断っちゃいましたね。ライとカレンも生徒会では苦労してましたからねぇ

 さて、だんだんと話が進んできましたよ? この先はどうなるんでしょうか?(え? 転載元を見ればわかるだって? ・・・勘のいいガキは嫌いだよ)

 今後もごゆるりと、どうぞ


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IS学園の双璧

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二名です!」

 

 ライとアキラが転校して来てから2週間がたち、月曜日のホームルームで山田先生がそう言った。

 

「え・・・」

 

「「「えええええっ!?」」」

 

 いきなりの転校生紹介に教室がざわつく。

 

「失礼します」

 

「・・・」

 

 クラスに入って来た二人を例えるなら金と銀だ。そして金はなんと男だった。

 

 自己紹介で金髪の男子はシャルル・デュノアと名乗りフランスの代表候補生の専用機持ちだ。

 

 一方銀髪の女子はラウラ・ボーデヴィッヒと名乗りドイツの代表候補生で専用機持ち、千冬の事を教官と言ったので軍に身を置く者だとライとアキラはそう思った。残念ながら、カレンは分からなかった。

 

 一夏と目が合うといきなり一夏に平手打ちをし、一夏を千冬の弟と認めない発言をした。

 

 その後千冬が手を叩いて行動を促し、シャルルを連れ一夏とライとアキラの元を訪れ、同じ男として面倒を見ろと言う。

 

 シャルルが自己紹介をしょうと口を開いたが、女子が着替える為アキラはシャルルの手を取り廊下に出た。

 

「自己紹介は後、教室で女子が着替えるから僕達男子はアリーナの更衣室で着替えないといけないんだ」

 

「実習の度に大変だと思うけど慣れてね。まぁ問題は・・・」

 

「転校生発見!」

 

「織斑君の黒髪に、蒼月さんと四十万さんの銀髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

 

 瞬間廊下の前方から女子達が大勢押し寄せて来た。この状況にシャルルは戸惑い一夏が言うと納得した。

 

「一夏、今日はルートF4を経由してJ7で行くよ。アキラはかく乱のためにF8を回ってきてからでお願い」

 

「分かった」

 

「了解しました」

 

 その様な事は以前からあり、ライは独自に考えたルートを男子組で共有し、そのルートを使っての脱出を図っていた。

 

 的確なルートでアリーナの更衣室に着き改めて自己紹介を始めた。

 

「俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

「僕は蒼月ライだ。年上だけどライでいいし、敬語もいらないよ。で、さっき腕を引いてくれたのが四十万アキラ。彼も君の一つ上だけど、敬語は使わなくていいよ」

 

「うん。よろしく一夏、ライ。僕の事もシャルルでいいよ」

 

「話は聞いたよ。よろしく、シャルル。・・・・・・シャルでいいかな?」

 

 いつの間にかルートを通り終え、巻いた後のアキラがいた。

 

「シャル?」

 

「うん。いやね、呼びやすいなと思って。嫌ならシャルルって呼ぶよ」

 

「ううん!シャルでいいよ(えへへ!シャルか)」

 

「ありがとう」

 

 そこで時間をみると迫っていて慌てて着替え始めた。その時のシャルの反応に疑問を持ったライであった。

 

 

 

 

 

 今回は2組との合同で一夏がはたかれたと聞き、鈴とセシリアが騒ぐと千冬の出席簿アタックを食らった。

 

「本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する。まずは戦闘を実演してもらおう。そうだな。凰、オルコットがペア。対する相手は蒼月、紅月ペアだ」

 

「はぁ!!?」

 

「ちょっとお待ちを!ライさんとカレンさんのペアは駄目ですわ!」

 

 鈴とセシリアの相手がライとカレンと聞き2人は反論した。

 

「もちろん蒼月、紅月にハンデをつける。ハンデとしては開始5分間蒼月と紅月は攻撃の禁止。更に会話は全てオープンチャンネルだ」

 

「まぁそれなら・・・」

 

「どうにかなりそうですわ・・・」

 

「お前達もそれでいいな?」

 

「はい」

 

「大丈夫です」

 

「よし。ISを展開しろ」

 

「「「「はい!」」」」

 

 鈴は甲龍を。セシリアはブルー・ティアーズを。カレンは紅蓮を。そしてライは月下を一夏達以外の生徒に披露した。

 

「蒼月さんのIS以前と違う!?」

 

「カレンさんのISと似てる!」

 

「蒼月はNPCの所属でもある。以前のはNPCと同系統のICOの試作機だ。今回のは紅月の紅蓮を元に設計された試作量産機だ。名前は月下と言う」

 

 ライのISの説明を千冬がし女子達は納得した。

 

「それでは模擬戦を始めろ」

 

 千冬の号令で鈴はカレンに狙いを定め、セシリアはライに狙いを定めた。2人にしたらどちらかあるいは2人のエネルギーをこの5分で大幅に削りたいと思っていた。

 

 しかし攻撃は中々当たらず5分がたった。

 

「行くよカレン」

 

「ええ」

 

 そこからライとカレンの反撃が始まった。まずライが輻射波動をロングレンジで撃った。

 

 2人は別方向に避けた。

 

「カレン」

 

「ええ」

 

 ライはカレンに呼びかけ、その意図を理解したカレンはセシリアの方に向かい、ライは廻転刃刀を構え鈴に向かった。

 

 そこからはまさに圧巻だった。ライとカレンは名前を言うだけでやる事を理解しており、ハンデの意味がなかった。

 

 ある時はティアーズの射線に鈴が入るように誘導したり、輻射波動を輻射障壁で拡散し鈴とセシリア、ビットに当てれる様にしたりと、誰もが考えられないような戦略と戦術で無傷でライとカレンの勝利に終わった。

 

「なんだか双璧みたい・・・」

 

「わかるわかる。紅と蒼の対だし!」

 

「コンビネーションもいいし」

 

「〝IS学園の双璧〟だね!」

 

 双璧と聞きライとカレンは懐かしいと感じた。

 

「よかったですね、ライさん、カレンさん」

 

 トテトテとアキラが歩いてくる。その顔はとてもうれしそうだ。呼び方が名前呼びなのは、アキラのことを公にすることを避けたアキラ自身の判断だ。

 

「そうだね、いい響きだよ」

 

「ずっと双璧でいられるようにしようね」

 

「あぁ、そうだね」

 

 周りを見ずにいちゃいちゃし始めた二人をアキラは微笑ましそうに見ながらも、クラスメイト達とともに、次の実習訓練に臨んだ。




 アキラはライ以上の朴念仁っていう設定なので、このままシャルル落としちゃいそうですねぇ。どうも、白銀マークです。
 さてさて、予約投稿、というものを使って投稿しているのですが、そろそろストックが切れそう(^┬ ┬^=)~ヤニャヤニャ~(=^┬ ┬^)
 ストック切れたらどうしようかなぁ、夏終わりましたけど、夏イベント、水着とか行っちゃいます?
 まぁ、そんな話は置いといて、次回、次々回、まぁ、近い話あたりで早、アキラにはフラグ回収に走ってもらう予定です。アキラはライとカレンの子供、イケメン君、頑張れっ!


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疑惑

 昼休み一夏から屋上で食べようと誘われライとカレンは屋上に向かった。

 

「お~いアキラ、ライ、カレンこっちだ」

 

 一夏の周りには箒とセシリアと鈴がいて3人共険悪な雰囲気となっており、それに気づかない一夏と、居心地が悪そうなシャルルがいた。

 

 ライとカレンはシャルルと一夏達の間に座った。アキラは立ったままだ。

 

「一夏が皆を誘ったの?」

 

「いや。箒から誘われたんだ。天気がいいから屋上で食べようって。折角だし大勢で食べたほうがいいと思ってセシリア達も誘ったんだ。それにシャルルは転校してきたばかりで右も左もわからないだろうし」

 

 アキラの問いかけに一夏は答え、それを聞いたカレンは箒に同情した。

 

「まぁ確かにシャルは転校してきたばかりだし、丁度よかったんじゃないかな」

 

「あれ?アキラ、デュノア君の事愛称で呼んでるの?」

 

「うん」

 

「僕もシャルって呼んでいいかな? 嫌ならいいけど(シャルルってルルーシュの父親と同じ名前だし、呼びずらいよね)」

 

「(あー成程。確かに名前は抵抗あるわね)ねぇ私もシャルって呼んでいいかしら?あ、私は紅月カレンよ」

 

「僕とカレンの共通の知り合いにシャルルって言う人がいるんだ」

 

 ライはシャルル・ジ・ブリタニアを連想したのだ。アキラは・・・連想していないが、結果として、ライとカレンに良い提案を与える形となった。

 

「はい、いいですよ。よろしくお願いします紅月さん」

 

「カレンでいいし、敬語もいらないわ」

 

「うん。よろしくカレン。ねぇライとカレンって仲いいけどもしかして・・・」

 

「うん。僕とカレンは結婚を前提に付き合ってるんだ」

 

 ライが恥ずかしそうに言うと、カレンも赤くなり俯いた。

 

「この2人最強のカップルじゃないかしら?」

 

「確かにそうですわね」

 

「セシリアと鈴は知らないと思うが、あの模擬戦でこの2人のことを双璧と言ったんだ」

 

「双璧ね。納得できる言葉だわ」

 

「ええカレンさんの紅蓮とライさんの月下確かに双璧に相応しいですわ」

 

 ライとカレンは顔を見合わせた。

 

(今度こそ最後まで双璧でいようねカレン)

 

(ええ。よろしくねライ)

 

ライとカレンは小声で言った。

 

「そういえば、アキラには二つ名とかないよな」

 

「そういえばそうですわね」

 

「でも、しっくりくる言葉はないな」

 

「そうね、ないわね」

 

「僕の二つ名は遠慮しとくよ。ところでシャルは弁当持って来たの?」

 

「ううん。食堂で買おうと思ってたから持ってないよ」

 

「じゃ、僕のを分けてあげる」

 

「私も」

 

「いいの?」

 

「2人分にしては作りすぎたからね」

 

「え!?これライの手作り!!?」

 

 ライとカレンの弁当がライの手作りと知りシャルルは驚いた。一夏達も声に出していないが驚いていた。

 

「アキラは座らないのか?」

 

 ずっと空気だったアキラに一夏が声を掛ける。

 

「あまり、座って落ち着いて食べたことなくて。いつもは資料見ながら歩いて食べてたから」

 

「資料?」

 

「うん。会計の結果とか、今年度の予算とか。あとは各地域の警備状況の報告書とか」

 

「・・・なんだよそれ」

 

「もしかして、アキラは会計の何かをしてたの?」

 

「うーん、ちょっと言えないとこ」

 

 あざとくウィンクしてみると、これが意外と効いたようで、これ以上掘り下げてこなくなった。とゆうより、掘り下げれるだけの余裕がなくなっていた。

 

「(あんた何やってんの?)」

 

「(こうすると余計なとこ掘り下げられなくていいよって、教えてもらいました。実際のとこ、かなり優秀で、使い勝手良いんですよ)」

 

「(・・・誰に教わったの?)」

 

「(えっと、言わないとだめですか?)」

 

「「((だめです))」」

 

「(・・・わかりました、放課後、お話しします)」 

 

 

『1年1組蒼月及び紅月、四十万は生徒指導室の私の所に直ちに来い』

 

「呼ばれたから行くね。シャル残り食べといてもいいよ。行こうかカレン、アキラ」

 

「ええ」

 

「わかりました」

 

 ライとカレンは千冬に呼ばれ生徒指導室に向かった。

 

 

 

 

「「「失礼します」」」

 

 ライとカレンとアキラが生徒指導室に入ると、そこには千冬と楯無がいた。

 

「何故会長がここに?」

 

「私が此処にいる訳、ライ君なら分かってるんじゃないの?」

 

「シャルの事ですね?」

 

「そうだ。蒼月単刀直入に聞く。デュノアの事どう思う?」

 

「え? 皆さん、シャルを疑ってるんですか?」

 

「ごめんねアキラ。ちょっと僕らの知ってる情報に合わないんだよ。デュノア社社長には正妻との間に子供が居なくてね。代わりに、愛人との間に女の子はいるんだ」

 

「お前は最初からデュノアの事を疑っていたのか?」

 

「まぁそうですね。発表されなかった事もそうですが、代表候補生という事にも疑問を持ちました。発見されたのが最近なら代表候補生はおかしいですよね?」

 

「そうね」

 

「ただ何故男装させたのかが疑問です」

 

「それは同じ男子同士の方が接触しやすいからではないのですか?」

 

「アキラの言ってる事はもっともだけど、バレた時のデメリットの方が大きいと思うよ。世間を騙していただけじゃなく、スパイをさせてたと知られたらデュノア社は叩かれるよ。それで本題は何ですか?」

 

「何故そう思う」

 

「シャルの事を聞くだけなら僕だけでも良かったはずです。それなのにカレンとアキラも呼んだって事は、そちらの方が本題じゃないんですか?」

 

「そうだ。紅月を呼んだのは部屋割りの事だ」

 

「・・・僕がシャルと同室ですか?」

 

「いいえ。デュノアさんとアキラ君、カレンさんとライ君で同室になってもらうわ」

 

「え?」

 

「2人は付き合っているのに、彼女と同室じゃないのはどうかなと思ってたからね。アキラ君の部屋は一人だったし、ちょうどいいんじゃないの?」

 

「そう言う事ですか」

 

「ただ紅月も蒼月もデュノアの事を警戒して欲しい。四十万は出来るだけ自然に接して観察して欲しい」

 

「後出来るだけギアスは使わないでね。知られないと思うけど念のために」

 

「分かりました。父上と母上にもご迷惑をおかけします」

 

「いい子に育ったんだね。でも、しっかり頼ってほしいな」

 

「そうよ、せっかくの親子共同作業なんだから」

 

「わかりました」

 

「話は以上だ。戻っていいぞ」

 

「はい。失礼します」

 

「失礼します」

 

 ライとカレンは生徒指導室を出た。

 

「どうした? 四十万は何かあるのか?」

 

「はい。僕がホントにシャルと同室でいいのでしょうか?」

 

「大丈夫だ。あいつらだってついている。何かあったら頼っていいんだからな」

 

「わかりました。失礼します」

 

 アキラも部屋を出た。

 

「アキラ、どうしたの?」

 

「父上。いえ、特に問題はありません。僕がちょっとおびえただけです」

 

「何か判断に困ったりしたら絶対に頼るんだよ? 僕の血を引いてるんなら絶対に悩んで悪手打つタイプだからね」

 

「わかりました」

 

 アキラは知らない。この先、初めて隠し事をすることになることを。




 貯蓄がもうないです。
 予約投稿は今後「08:00」と「22:00」の二時間にしようと思います。最新話はこの時間に更新しますので、「いつ更新されるかな」じゃなく、「更新されてるかな」って気持ちで生活してください。
 この作品が日々の楽しみになればと思います。


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疑惑は確信に

 部屋に戻る。けど、アキラにはその前に買うものがあった。だから今は街に出ている。

 

(誰か来るんなら、ちょっと食材増やさないとなぁ)

 

 アキラは己が生活していくうえで必要なものはすべて買いそろえていたが、人が増えるとなると話は違う。

 

「はぁ、大変そうだなぁ」

 

「あれ? アキラ?」

 

「ん?」

 

 新たなルームメイトが買い物かごを持っていた。

 

「どうしたの? こんなところに」

 

「それは僕のセリフ。買い出しだよ、買い出し」

 

 そう言って食材と日用品ばかりのかごをシャルルに見せた。

 

「会長から聞いたんだ、もう伝えられてると思ったんだけど?」

 

「あ~、うん、聞いてるよ」

 

「だから。自分の分以上のものを買いに来てるんだ」

 

「そっか」

 

「で、シャルは何買いに来たの?」

 

「日用品とか買おうと思ってたんだけど・・・」

 

「じゃあ、一緒に回る?」

 

「え!? いいの!?」

 

「もちろん、君がよければだけど」

 

「喜んで(えへへ、アキラと買い物だぁ)」

 

「かご、貸して。僕が持つから」

 

「じゃあ、お願いしようかな」

 

 そこから服、日用品、食品などなど、数々のブースを見て回り、必要そうなものを買いそろえた。ただ、問題があった。

 

「これ、ほとんどシャルのものだね」

 

「アキラ全然買わないんだもん」

 

「買うものがないからね。どれもイラナイ」

 

「じゃあ、部屋に行こうか。僕、荷物持ってるから扉、開けてほしいからさ」

 

「うん」

 

 そこから、なんやかんや、デートっぽいルートを通り、寮に戻ったアキラとシャルルは荷物を整理していた。

 

「シャル、先にシャワー浴びてきなよ。僕が荷物整理してるからさ」

 

「え、そこまでは甘えられないよ」

 

「行ってきなって、まだまだたくさんあるから」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 シャルルが洗面所に行った。

 

「あれ? これって・・・・・・?」

 

 アキラの目に映ったのはちょっと変わったものだった。

 

(僕も、シャルもこんなものをかごに入れてないはずなんだけど)

 

 それは、女物の下着だった。それに疑問を持って考えを巡らせると、ライから聞かされたデュノア社には愛人との間に産まれた女の子以外いないという話だった。

 

(あ、ボディソープ切れてるんだった)

 

 ボディソープの詰め替えを持って脱衣所まで歩を進める。

 

「シャル、ボディソープ切れてない?」

 

 運がいいのか悪いのか、アキラが脱衣所のドアを開けるのと、シャルルが出てくるのがほぼ同時で。アキラは男だと思っていたシャルルが、女性らしい体つきの、糸一つ纏わぬ姿でアキラの目の前に現れた。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 お互い沈黙、どちらの思考が正しく機能し始めるのが早いか。

 

「……っ!」

 

 アキラは咄嗟に顔を反らし、目をつぶった。

 

「ご、ごめん。こ、これ、ボディソープだから」

 

「う、うん・・・ありがと・・・」

 

 アキラは常人の肉眼ではとらえられない速度でドアを閉めた。そしてそのまま自分のベットまで戻る。

 

(あれ? おかしいな、疲れてるのかな? 幻覚かな?)

 

 シャルルの性別は男のはず。でも、シャルルの体つきは女性の物だった。

 

 それからほどなくしてシャルルが部屋に戻ってきた。お互い終始無言、何とも言えない空気が流れていた。

 

「な、何か飲む?」

 

「う、うん。もらおうかな」

 

 たどたどしい空気のまま、アキラは緑茶を湯飲みに。

 

「はい、熱いから気を付けて」

 

「うん、ありがと」

 

 湯飲みを手渡し。手渡しをするんだから手が振れるのは当然。しかし、状況が状況であったがために。

 

「はぁっ! わぁっ!」

 

 小さく素っ頓狂な声を上げ、湯飲みを打ち上げてしまった。

 

「ちょ、ちょっとっ! ・・・・・・アッツっ!」

 

 湯飲みをつかむことには成功したが、こぼれた緑茶が手に掛かってしまった。

 

「ちょっと冷やしてくる」

 

 湯飲みは机に置き、手を冷やしに。

 

「ご、ごめんね。大丈夫? ちょっと見せてっ!」

 

 水で冷やすアキラの手を確認する。

 

「あぁっ! 赤くなってるっ、ホントにごめんねっ」

 

「大丈夫だよ、気にし、ないで」

 

 シャルルのほうを見たが、腕に当たる感触を確認すると、顔をそらしてしまった。シャルルもその仕草をとられ、自分の状態を確認する。

 

「アキラのエッチ」

 

 そう言って急いで腕から離れた。

 

「ご、ごめん」




 初めから自分で手掛けるのは久しぶりですねぇ。どーも、白銀マークです。
 まず初めにお礼から。誤字脱字報告してくれた読者様、本当にありがとうございました。今後も、「この文章おかしいんじゃね?」なんて思われたらどしどし、誤字脱字報告、お願いします。
 さて、アキラ君、ラッキースケベしちゃったわけですが、アキラ君の設定、そんな子にしてないんですけどねぇ。書いているうちにだんだん、人間味を帯びてるみたいで、キャラが進化するんですよ。困るなぁ。
 今後とも、気ままに定時投稿していくので、よければ日常の癒しに、どうぞ。


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女が男でいた理由

 シャルルが女だと判明して、手を冷やして、やっと落ち着いたところでアキラは尋ねてみた。

 

「シャルはどうして男の真似を?」

 

 その質問に少し悲しそうな顔をしたまま、シャルルは応えた。

 

「実家からそうしろって、言われて」

 

「実家って、デュノア社のことだよね?」

 

「そう。僕の父がそこの社長。その人からの直接の命令でね」

 

「・・・・・・」

 

「僕はね、アキラ・・・・・・」

 

 一呼吸おいて、こう告げた。

 

「父の本妻の子じゃないんだよ」

 

 とんでもない爆弾が落ちた。

 

「え?」

 

「父とはずっと、別々に暮らしてたんだけど、2年前に引き取られたんだ」

 

 悲しげな表情のまま続ける。

 

「そう、お母さんが亡くなったとき、デュノアの人が迎えに来てね」

 

「それでいろいろ検査を受ける過程で、IS適性が高いことがわかって。で、非公式ではあったけど、テストパイロットをすることになってね」

 

「でも、父にあったのはたったの二回だけ。話をした時間は1時間にも満たないかな」

 

「そのあとのことだよ。経営危機に陥ったんだ」

 

 おかしい、アキラが知っている情報とシャルルの情報が食い違う。

 

「え? だって量産型のISの世界シェア第3位なんじゃ?」

 

「そうなんだけど、結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ」

 

 ちょっと身を乗り出して語る。

 

「現在ISの研究は第三世代型の開発が主流になってるんだ。セシリアさんやラウラさんが転校してきたのも、それらのデータをとるためなんだと思う。あそこも、第三世代型の開発に着手しているんだけど、なかなか形にならなくて。このままだと、開発許可が剥奪されてしまうんだ」

 

 そこまで来て疑問は確信に変わった。

 

「なるほど、君が広告塔として機能すること、そして男なら特異ケースの一夏との接触も容易になるというわけね」

 

「そう、一夏のデータを盗んで来いって言われてるんだよ。今となってはアキラのでもライのでもいいんだけどね」

 

 伝えるのはためらうはずの、重い内容を背負わされた女の子。それはアキラにとってみれば、とても不愉快な話であった。

 

「あぁ、ホントのこと話したら楽になったよ、聞いてくれてありがと。・・・それと今まで嘘をついて来てごめん」

 

 確信ができ、疑問が解消されれば、新たな疑問が不快感として生まれる。

 

「・・・気に食わないな」

 

「え?」

 

「僕はね、君のお父さんの考えがわからないんだ」

 

 そう前置きをして、ベットから立つ。

 

「まず、この学園について。ここはIS学園だよね?」

 

「うん」

 

「つまるところさ、この学園は全世界で保護されている場所なんだよ。そんな場所からどうやって盗みを働くのさ」

 

「あっ!」

 

「そう。それこそ超能力でもない限り、簡単に盗み出せる代物じゃないんだ」

 

「たしかに」

 

「次に君を入学させたい意図だ。保護されているところに送り出すと回収が困難になる。なのになんで送り出したのか」

 

 その二つの疑問を出したところでアキラは己の導き出した結論を出す。

 

「僕は、君安全を考えたのではないか、という結論に至ったよ。まぁ、所詮は過程さ。本心とはかけ離れてるかもしれないからね。あまり本気に受け止めないでほしいかな」

 

「そう」

 

「まぁ、いずれにせよ。両親がいないと、子は生まれないけどさ。君はそれでいいの?」

 

「え?」

 

 シャルルの前まで行き、しゃがみ、シャルルと目線を合わせる。

 

「親だからって子に何をしてもいいわけじゃない。僕は君と違って両親に大切にされてきたし両親を大切にしたよ。だから、君の境遇は僕にもわかる、なんてことは言えない。けどね、君には自由に生きる権利があるんだよ」

 

 親が子を諭すように、優しくとも芯の通った思いをアキラはぶつける。

 

「僕にばれてしまったから、シャルは本国に呼び戻されると思う。さらに偽りの資料で入学しているんだ。よくて牢獄行だと思う。でも、僕はそんなの認めないよ。それは君みたいな子の未来じゃない」

 

(そう、投獄されるのなあ、僕の方だ。僕は、両親を、家族を手に掛けたのだから)

 

 シャルルは瞳を泳がせながら告げる。

 

「でも、結果として僕はそうなることに・・・「だったらさ、ここにいればいいじゃん」・・・え?」

 

 アキラは立ちあがり背伸びをしながら、とんでもないことを言ってのける。

 

「さっきも言ったでしょ? この学園は、保護区なんだよ。それに、僕が黙って入ればそれでいい問題。違う?」

 

「ふふふ、そうだね」

 

 嬉しそうに、心の底から嬉しそうに立ち上がると、その優しい笑顔のまま、

 

「アキラ。かばってくれて、ありがと」

 

 見惚れるような笑顔で、優しい声音で。

 

「うん、気にしないで。僕としても、こんな後味の悪い終わり方は嫌だからね」

 

 アキラはそのまま何も考えずに視線を下げ、そしてすぐに顔をそらした。頬は微かに赤い。

 

「わぁっ! ・・・そ、そんなに気になる?」

 

 シャルルは己の胸を隠すように身をよじる。

 

「えっと、その・・・こういうの、耐性なくて・・・」

 

「ひょっとして、みたいの?」

 

「っ!?」

 

「アキラのえっちぃっ!」

 

「どうしてそうなるんだよぉ」

 

 アキラが泣き言を言ってすぐ、ドアのノックの音がした。

 

「アキラ、いる?」

 

「アキラ、晩御飯まだ食べてないみたいだけど、どこか具合でも悪いの?」

 

「だ、大丈夫です。すぐ行きます」

 

 返事をしながらゆっくりシャルルをベットに背中を押して顔を見せず寝るように誘導する。

 

「アキラ、入るよ」

 

 扉があき、ライとカレンが入ってきた。声の主はこの二人のようだ。

 

「何してるの?」

 

「シャルがちょっと体がだるいっていうものですから。ちょっと様子の確認をと」

 

「ゴホゴホ」

 

「それは申し訳ない」

 

「シャル、僕ちょっと行ってくるよ。君のご飯は部屋に持ってくるから。おとなしく寝とくんだよ」

 

「ゴホゴホ、うん、ゴホゴホ」

 

「じゃあ、ライさん、カレンさん、行きましょう」

 

そのまま部屋を出た。

 

「父上、母上、わざわざすいません。お手数をおかけしました」

 

「何言ってんの、息子を気にするのは当然でしょう」

 

 などと会話をしながら、食堂まで歩を進めた。

 

 アキラはこの時、両親にまた一つ、隠し事を作った。




 待たせてないなぁ。おかしいな、別の作品の更新は止まってるのに、これの投稿は止まらないぞぉ。
 次はアキラ君の設定等を公表していこうと思っていますので、よろしくお願いいたします。


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優しさの定義

「シャル、戻ったよぉ」

 

「あ、うん、おかえり」

 

 アキラは配膳トレーを持って戻ってきた。

 

「はい、持ってきたよぉ」

 

 コトッ!っと軽快な音を立てて机にトレーが置かれる。内容は、ご飯、みそ汁、漬物、きんぴらごぼう、焼き魚だ。

 

 夕食を見たシャルルの顔がゆがんだ。

 

「どうかしたの?」

 

「う、ううん、何でもない」

 

 シャルルは椅子に座ると、慣れない手つきで割箸を割り、慣れない手つきで箸を持つ。箸を持つ手さえ、たどたどしい。

 

「シャル、もしかして、お箸、仕えないの?」

 

「うん・・・練習してはいるんだけどね・・・・・・」

 

「フォーク貰ってるくるよ」

 

「えっ!? いいよ、そんな」

 

「はぁ・・・シャル、遠慮しすぎ。遠慮しすぎると、チャンス、逃しちゃうよ?」

 

「で、でも・・・」

 

「だから、頼りなって。みんなに頼っていくのが難しいなら、僕だけでもいいからさ」

 

(頼ることを覚えないと、壊れてしまうよ)

 

 アキラは誰かを頼らない。頼ることを知らない。でも、アキラとは違う、優しい世界にいるシャルルなら、誰かを頼れる。

 

「ね? 僕は君に弱みを握られてるんだ。君の経緯というね。だから、問答無用で使いなよ」

 

「それって僕の弱みなんじゃ・・・」

 

「知ってる時点で僕も同罪さ。何なら、隠す提案をした僕のほうが悪い」

 

「ほら、僕に何かできるなら教えてよ」

 

「じゃ、じゃあね」

 

 何かを決意したようにシャルルがもじもじし始める。

 

「なになに?」

 

「アキラが食べさせて?」

 

「ん?」

 

「あ、甘えてもいいって言ったから・・・だめ?」

 

「いや、大丈夫だよ」

 

 アキラが箸を受け取り持つ。

 

「アキラ、お箸使えるの?」

 

「うん。僕、日本とアメリカのハーフなんだ」

 

(ほんとは日本とブリタニアなんだけど、地図の位置的にブリタニアはアメリカになるんだよね)

 

 きれいな箸使いで焼き魚を毟る。

 

「はい、あ~ん」

 

「あ~ん」

 

 パクっ!

 

「おいしい?」

 

「うん、おいしい」

 

「よかったぁ」

 

「次はご飯がいいな」

 

「はいはい。ほら、あ~ん」

 

 パクっ!

 

「あ、ご飯粒ついてるよ」

 

 アキラがシャルのえくぼあたりに付いたご飯粒を取ってパクリっ!

 

「あっ!」

 

 シャルルの顔がカァっと赤くなる。

 

「どうかしたの?」

 

「何でもない」

 

(ほんとはそれ、すごく恥ずかしいことなのに・・・もぉ)

 

シャルルはまだ知らない。アキラがライ以上に朴念仁で恋愛感情に疎いことに。

 

 

 

 

 

シャルルがご飯を食べ終わって、アキラが食器を返した後。

 

「アキラってさ」

 

「ん?」

 

「なんでそんなに誰かに優しいの?」

 

アキラのやさしさの起源を聞いてみた。

 

「僕は優しくなんかないよ。ただ、そういう行動をとらなきゃって、考えなくても体が動くんだ」

 

そう言いながら、アキラは己の腕をさする。

 

「シャル、優しさって何だろうね?」

 

「うーん」

 

「僕はね、守りたいものを守ることが優しさだと思ってるよ。例えそれが歪んでてもね」

 

「そっか、僕はねアキラ。自分以外の誰かを大切にすることだと思うよ」

 

「シャルがそういうんなら、きっと、そうなんだろうね」

 

「さ、もう寝よう。明日も頑張らなきゃいけないからね」

 

アキラは寝ることを促す。

 

「うん、そうだね」

 

アキラが部屋の明かりを堕とした。

 

シャルルはまだ踏み込めないでいるアキラの壁を感じた。その壁は厚く、高く、固い。その壁を越えれたら・・・なんて考えてちょっとうれしくなる自分に驚く。

 

「アキラは寝ないの?」

 

「いや、寝るけど?」

 

「じゃあ、なんでベット使わないの?」

 

アキラは椅子に座ったままだ。

 

「僕、ベットで寝る習慣がなくてね。こうやって、刀を抱いて寝るんだ」

 

アキラは己の持つ刀を見せた。刀は二刀、白い柄に黒い鞘の刀と黒い柄に白い鞘の刀。

 

「両親からに僕がねだった初めての物だったんだ。今でも大切にしてるんだよ」

 

声は悲しく、表情の見えない闇の空間でアキラは告げる。照らす明かりは月明かりのみ。

 

「そっか、じゃあ、おやすみ」

 

「うん、おやすみ」

 

明日は何が起こるだろうと、二人は瞳を閉じた。




 ささ、アキラの朴念仁っぷりが発揮され始めましたよぉ。・・・綴ってて思うんですけど、これアキラ君、役得じゃないっすかね? いいなぁ、その席よこせっ!
 さて、次回あたりで、ラウラさんの仕事がありそうです。ラウラファンの読者様方、首を長くしてお待ちください。
 それでは、今後とも良しなに。


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穏やかな朝

 日が昇る少し前。刀が動き、刀を抱えていた人間が動き始める。服装は制服のズボンとインナーのYシャツの格好。

 

「まったく、あまり寝れなかったな」

 

 アキラは自分のテリトリーに誰かがいることに極端に反応するタイプで、気を有るした相手出なければ、睡眠中ですら近づくことさえできない。

 

「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」

 

 アキラがしっかり睡眠をとれていない原因が規則正しい寝息を空いているベットの隣のベットで取っている。

 

「まったく、君のせいで、僕は寝れていないんだぞ」

 

 制服の上着を羽織る。

 

「さて、行きますか」

 

 音を立てることなく、静かに部屋から出た。その両手には愛用の刀をもって。

 

 

 

 

 

 外、まだ夜風の吹く時間帯。風は少し冷たく、肌をなでる時間。

 

「フッ! フッ!」

 

「おはようございます、父上」

 

「おはよう、アキラ。よく眠れたかい?」

 

 アキラは父に稽古をつけてもらうためにこの時間に起きるようにしたら習慣づいたのだ。

 

「いえ、誰かが近くにいるという感覚にはなれませんね」

 

「そっか。そのうち慣れるよ」

 

「そうであるといいですけど」

 

「そうだ、手合わせしてもらっていいかな?」

 

「僕も誰かと手合わせをするのなんて久しぶりです。よろしくお願いします」

 

ライはアキラに木刀を渡した。

 

「これでいいかな?」

 

 貰った木刀は一本。アキラは刀を二本扱う。

 

(はじめは一本からだったなぁ)

 

「はいっ! よろしくお願いします」

 

 そこから互いの刃は混ざり合い、木同士を打ち付ける、小気味よい音だけが鳴り響く。

 

「はっ!」

 

「フッ!」

 

 撃ち合ってから何時間がたっただろう。いつの間にか日は昇り始め、日差しが温かく回りを照らす。

 

「そろそろ終わりにしようか」

 

「ありがとうございました」

 

 互いに木刀を逆手に持ち、一礼。

 

「二人とも、なかなかいい太刀筋だな」

 

「箒さん、おはよう。君は朝練?」

 

 声の主は箒だった。

 

「途中から見させてもらったていたが、二人とも、剣道をやっていたのか?」

 

「「あはははは・・・・・・」」

 

 二人とも、殺す気で組み合っているわけではないとはいえ、剣道ほど甘くない。殺すための刀だ。

 

「今度私と打ち合ってみてはくれないだろうか?」

 

「では僕が受けましょう。ライさんは安心しておいてください」

 

「わかった」

 

「箒さんも、それでいいかな?」

 

「二人がよければそれでいいぞ」

 

「それじゃあ、放課後、でいいかな? 僕は今からシャワー浴びてこなきゃいけないからさ」

 

「わかった、楽しみにしているぞ」

 

 そう言って離れていった。

 

「アキラ、剣道なんてできるの?」

 

「はい。できないことはない、程度ですが」

 

「わかった。ケガ、させないようにね」

 

「はいっ!」

 

 そこから二人は部屋に戻った。時計はまだ05:30。そこからシャワーを浴びて汗を流して、着替えてとしても05:55。まだまだ時間がある。

 

(暇だなぁ)

 

 そこでふと気づく。シャルルはまだ寝ているのかと。隣を覗くと、まだ安らかな寝息を立てていた。

 

(まだまだ子供だね)

 

 アキラは優しく、シャルルの頭をなでる。シャルルは少しうれしそうな顔をしながらまだ安らかな寝息を立てている。

 

(まったく、こう見るとホントに女の子なんだなって)

 

 時間はまだまだある。

 

(暇だなぁ)

 

 結局暇すぎて、シャルルが起きるまで近くに椅子を持ってきて、本を読んで時間をつぶすアキラだった。




 アキラの身体能力は異常、はっきりわかんだね。え? なんでかって? ライと刀の打ち合いができる時点で異常だるぉ?
 さ、そんなことは置いときまして、早起きなアキラの朝をちょっとだけ書いてみました。意外と、早起きなんですねぇ。


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勝利を求める者たち

「アキラ、ひどいよ。なんで起こしてくれないのさ」

 

 アキラが寝顔を見ながらひとり起きていたのをシャルルに知られてしまい、怒られている。なぜばれたかというと。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「まさか、問い詰めたらぼろ出すなんて思ってなかったよ」

 

「反省してます」

 

「じゃあ、放課後、特訓に付き合ってよ」

 

「今日の放課後はちょっと・・・・・・」

 

「へぇ、女の子の恥ずかしいところ見といてそんなこと言うんだぁ」

 

 笑顔というものは時に恐ろしいほどの威圧を放つ。

 

「うぐっ・・・・・・」

 

「じゃあ、今度埋め合わせしてよね。わかった?」

 

「わかりました」

 

 アキラはいじめられた後に授業を受けることとなることを悲しみつつ、二人そろって部屋を開けた。

 

 

 

 

 

 一夏と合流し、教室の前まで行くと、何やら不思議な会話が聞こえてきた。

 

「え~、うそぉ、本当に?」

 

「そ、それはほんとですの?」

 

「う、嘘じゃないでしょうね」

 

「ほんとだよぉ、今月の学年別トーナメントで一位を取った人が織斑くんと付き合えることになっているらしいの」

 

「それは、一夏さんも承知していますの?」

 

「それがね、どーも本人はよくわかってないみたい」

 

「どういうこと?」

 

「女の子の中だけの取り決めってことらしいのよ?」

 

「「おはよう」」

 

 ここで教室に入って挨拶を入れてみる。一夏はこれが当たり前なのだろうが、アキラは探りを入れやすくするためのものだ。

 

「うっ!」

 

(あ、これは良からぬことを企てる人たちに典型的な奴だ)

 

「何の話をしてるの?」

 

 さらにシャルルの追い打ち。その瞬間、悲鳴とともに輪は崩れ、各自場所を離れた。

 

「じゃ、じゃあ、あたしは自分のクラスに戻るから」

 

「わたくしも、自分の席に戻りませんとぉ」

 

 たぶん、あの輪の中にいたと思われる、いやいたセシリアと鈴音も離れていった。

 

「?」

 

「なんなんだ?」

 

「「さぁ?」」

 

 答えがハモるぐらい、不思議な言動だった。

 

 

 

 

 

 そこからさらに少し。時が進みアリーナに二人がいた。

 

「あら?」

 

「うん?」

 

 桃のISスーツと、青いISスーツがそろっている。

 

「あら、早いわね」

 

「てっきりわたくしが一番乗りだと思っていましたのに」

 

「あたしはこれから学年別トーナメント優勝にむけて、特訓するんだけど」

 

「わたくしも全く同じですわ」

 

「「むっ!」」

 

 犬猿の仲、とはまさしくこのことを言うのだろう。むっ!を皮切りにに口喧嘩を始めた。

 

「この際どっちが上か、この場ではっきりさせとくってのも悪くないわね」

 

「よろしくってよぉ、どちらがより強く優雅であるか。この場で決着をつけて差し上げますわ」

 

「もちろん、あたしが上なのは分かり切っていることだけどぉ?」

 

「ふふっ! 弱い犬ほどよく吠えるというけれど、本当ですわね」

 

「どういう意味よ」

 

「自分が上だって、わざわざ大きく見せようとしているところとなんか、典型的ですもの」

 

「その言葉、そっくりそのまま返してあげるっ!」

 

 アリーナではこうしてISの喧嘩が始まる、はずだった。その喧嘩を遮ったのは一発の銃弾だった。

 

「「っ!」」

 

 互いに当たることはなかったが、完全に第三者からの砲撃に、打たれた方角を向く。そこには黒いISをの姿があった。

 

「ドイツ三世代機、シュヴァルツェア・レーゲンっ!?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・」

 

 砲撃の主はラウラからの物だった。

 

「どういうつもり? いきなりぶっ放すなんて、いい度胸してるじゃないっ!」

 

「中国の甲龍に、イギリスのブルー・ティアーズか・・・ふっ、データで見た時のほうがまだ強そうではあったな」

 

「何? やるの? わざわざドイツ軍隊からやってきてボコられたいなんて、大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場邪そういうのも流行ってるの?」

 

「あらあらリンさん? こちらの方はどうも共通言語をお持ちでないようですから、あまりいじめるのはかわいそうですわよ?」

 

「貴様たちのようなものが私と同じ、第三世代の専用機持ちとはな。数くらいしか能のない国と、古いだけが取り柄の国は、よほど人材不足と見える」

 

「この人、スクラップがお望みみたいよっ!」

 

「そのようですわね」

 

 武装の最終安全装置が解除される。

 

「ふんっ! 二人がかりできたらどうだ。下らん種馬を取り合うような雌に、この私が負けるものか」

 

「今なんて言った!? あたしの耳にはどうぞ好きなだけ殴ってくださいって聞こえたけど!?」

 

「この場にいない人間の侮辱までするなんて、その軽口、二度と叩けぬようにして差し上げますわっ!」

 

「とっととこい」

 

「「上等っ!」」

 

 戦いの火ぶたが切って落とされた。




 はい、最近08:00時にしか投稿していない白銀マークです。
 今回は夜ですからねぇ、嘘つきなんて言わないでくださいね。
 さて、アニメ時系列的にはまだ七話です。一話につき2~3話分かけますから、まだまだ先はありますねぇ。


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私闘を禁止する

「アキラ、一夏、今日も放課後特訓しにいくよね?」

 

「おう、トーナメントまで日がないからな」

 

「僕は分からないかなぁ。早く終われば行くけど」

 

 廊下を歩きながら男三人(ほんとは一人女)が今日の放課後の日程について話していると、後からあわただしそうにほかのせいとが走っていく。

 

「第三アリーナで代表候補生三人が模擬戦やってるってっ!」

 

「「「えっ!」」」

 

 それを聞いた三人も予定そっちのけで、第三アリーナに向かって走り出した。

 

 アリーナに着くとすでに観客席に生徒がおり、その状況を眺めていた。

 

「これは・・・・・・」

 

 アキラが感想を漏らしたとき、後ろから別の人が走ってきた。

 

「箒・・・・・・」

 

 一夏が箒と呼んだ人物はアキラ達三人と並びその状況を見始めた。そのすぐあとだ。大きな音とともに砂ぼこりが上がり、再度注目し直す。

 

「凰さんとオルコットさんだ」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒも」

 

「彼女たちは、いったい何してるんだろ?」

 

 行われているのは模擬戦のはずだ。が、どちらかが圧倒される。もはや喧嘩だ。

 

 甲龍の肩の方にある砲撃をラウラは何事もなかったかのように受ける。

 

「龍咆を止めやがったっ!?」

 

「A.I.Cだ・・・」

 

「そうか、あれを装備していたから、龍咆をよけようともしなかったんだっ!?」

 

「なんだ、そんなことか」

 

「A.I.C? なんだそれ?」

 

「シュヴァルツア・レーゲンの第三世代型兵器、アクティブイナーシャルキャンセラーのことだよ。日本語的には慣性停止能力ともいうんだ」

 

「ふーん」

 

「一夏、わかってる?」

 

 アキラは心配になって確認をとる。

 

「今見た。それで十分だ」

 

 観戦し始めてからだんだん時間は立つが、一向に状況の良くならない英中コンビ。機体相性が完全にラウラ側に傾いているのだ。

 

 甲龍の龍咆を撃ち、そのあとの空白をブルーティアーズが埋める。コンビネーションは機能しているが、相性問題によって、すぐに地に着く羽目になる。シュヴァルツア・レーゲンが大口径レールカノンを構えられるピンチも、セシリアの起点に救われるが二人とも、ワイヤーブレードに首元をからめとられ、一方的に殴るだけの試合展開になった。

 

「ひどい、あれじゃシールドエネルギーが持たないよ」

 

「もしダメージが蓄積し、ISが強制解除されれば、二人の命に係わるぞ」

 

「やめろっラウラっ! やめろっ!」

 

 目の前の惨劇はアキラの琴線に触れるものだった。

 

(誰も守れない光景に似ている・・・・・・)

 

 ただじっと、耐える。爪で傷ついている掌の痛覚も、今はない。あるのは止めに行きたい自分を押さえるだけの精神だけだ。

 

 ラウラは笑う。ただ、いたぶることに口をゆがめて笑う。

 

「あいつっ!」

 

 一夏がISを展開し、アリーナのガラスをやぶり、ラウラに切りかかった。

 

「その手を放せぇっ!」

 

 しかし、A.I.Cで一夏の行動ごと止める。

 

(な、なんだ? 体が、動かないっ!)

 

 その間に二人のISが解除された。

 

「感情的で直線的、絵にかいたような愚か者だな」

 

 斬りこもうと力を入れるが、動けない。

 

「やはり敵ではないなっ! この私とシュヴァルツア・レーゲンの前では有象無象の一つでしかない」

 

 大型レールカノンを一夏に突き付ける。

 

「消えろっ!」

 

 しかし、そのレールカノンの砲身は、玉を打ち出すことなく方針の向きが変わった。

 

「なにっ!」

 

 レールカノンには刃のついた大型のハーケンのワイヤーが絡まっていた。

 

「一夏、下がって。僕が相手をする」

 

 ハーケンを収納する。後ろにはライフルを構えたシャルルのISも追従している。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。今は殺し合いをするときじゃない。剣を収めてくれ」

 

 ツインアイが空色に発光する。アキラの思いに呼応して。

 

「一夏と、シャルルは二人を連れて外に」

 

「お前は?」

 

「いいから下がって」

 

 アキラは二人をアリーナから離れさせた。

 

「貴様も邪魔するのかっ!」

 

 レールカノンをアキラに向ける。

 

「邪魔じゃない、下がれラウラ」

 

「誰に物を言っているっ!」

 

「わたしを怒らせるな。邪魔をしているわけではない。時と場合を考えろと言っている」

 

 アキラの雰囲気が変わる。それは普段のアキラからは視れないもので。

 

「あれは、アキラ、なのか?」

 

 雰囲気は近寄りがたいなんてものじゃない。近寄ることすら許さないといわんばかりの重さ、有無を言わさない覇気。

 

「もう一度言うぞ。戦闘を中止しこの場から離れろ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。これ以上醜態をさらそうものなら、貴様の教官の顔に泥を塗ることとなるぞ?」

 

「っ!?」

 

 ラウラからしてみればそれはあってはならない事態だ。

 

「最後の忠告だ。ISをとけ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「・・・・・・仕方あるまい」

 

「助かるよ」

 

 雰囲気がまた変わり、いつものアキラに戻った。

 

「織斑先生、あとは頼みます」

 

「なんだ、気づいていたのか」

 

 アキラの機体の後ろから織斑先生が出てくる。

 

「模擬戦を行うのは勝手だが、アリーナのバリアーまで破壊する事態となると、教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

「教官がそうおっしゃるなら」

 

「お前たちもそれでいいな?」

 

「かまいません。お手数をおかけします、織斑先生」

 

 アキラは首を垂れる。

 

「かまわん。では、学年別トーナメントまで、私闘の一切を禁止するっ! 解散っ!」

 

 この戦闘で死者は出なかった。それが何よりだと、アキラは思った。




 そろそろ、アキラ君のプロフィール、公開していきたいと思います。お楽しみにぃ


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アキラのプロフィール

 現段階で公開可能なアキラのプロフィールです。今後、追加されるものはあります。なので、最終的な設定はこの連載終わってからにしようと思います。
 


名前

 

四十万アキラ(日本名)

アキラ・サルージェ(英名)

アキラエル・S・ブリタニア(米名)

 

 

 

搭乗機 

 

アレクサンダ・スペリオル

型式番号:W0XD Type-S

所属:ブリタニア

分類:第7世代相当KMF

全高:4.39m

重量:5.69t

推進機関:ランドスピナー

     軽量型フロートユニット

武装:中型MVK(メーザーバイブレーションカタナ)×2

   対KMF用腕部サーベル ×2

   ウルナエッジ改

 

 アレクサンダ・スペリオルはアレクサンダの設計図をベースにアキラのために新造された機体。従来通りのインセクトモードも存在する。ただ、射撃武装は装備されておらず、完全に近接戦闘しかできないため、搭乗者の腕前で戦果が変わる。また、機体装甲も薄型で、アサルトライフル2発で装甲に穴が開く。代わりに高速、高軌道で非常に高い運動能力を有する。背面にハングライダーのような折り畳み式のウイング状のフロートユニットを取り付けることで飛行可能になる。

 IS本編ではこれを元に一部仕様変更がなされており、インセクトモードとは違い、搭乗者の状態はそのままに、機体の各パーツが稼働し、ケンタウロスのような仕様になる。出力はライの駆る月下先行試作機よりもピーキーでアキラ以外が乗ると、もはや動かすことすらままならないという。

 

 

 

 

紫星可翔式

形式番号:Type-09/F3A

所属:ブリタニア

分類:第九世代KMF相当

全高:4.4m

重量:8.50t

推進機関:高機走駆動輪(ランドスピナー)

     飛翔滑走翼

武装: 左肘部内蔵輻射波動機構

    中型MVK(メーザーバイブレーションカタナ)

    対KMF用左腕部サーベル

    右腕部速射砲

    飛燕爪牙(スラッシュハーケン)×4

    大型飛燕剣牙(ソードハーケン)×1

 

 

 紫星は月下や紅蓮などの技術を応用して作られたアレクサンダ・スペリオルの後釜の機体。元々はこちらの方が先に配備される予定だったが、腕部に集まった武装とハーケンの位置がうまく決まらず、正式実装までに時間がかかってしまった。しかし、機体性能は申し分なく、アレクサンダ・スペリオル以上に高い運動性能を発揮する。さらに、輻射波動機構を搭載しており、紅蓮や月下先行試作機同様、必殺の一撃を繰り出せる。アレクサンダ・スペリオルにはなかった武装も取り付け、近接戦闘特化だがある程度の遠距離攻撃もできるようになっている。しかし、相変わらず装甲は薄いままだ。出力はライの駆る月下先行試作機よりもピーキーでアキラ以外が乗ると、もはや動かすことすらままならないという。

 IS本編では武装も使用もそのままに実装されているが、見た目に一部変更が加えられている程度である。

 

 

武装紹介

 

左肘部内蔵輻射波動機構

 両手に刀、という戦闘スタイルがゆえに、腕に輻射波動機構を取り付けれないがために新設計された。腕に直接内蔵されているため、紅蓮や月下先行試作機よりも携行弾数は少ないが、紅蓮や月下と同様の火力を得ている。紅蓮や月下とは違い肘打ちの要領で使うため、ニードルブレイザーに使用感は近い。携行弾数3発。

 

 

中型MVK(メーザーバイブレーションカタナ)

 文字通り、刀にメーザーバイブレーションを搭載したものである。ただ、廻転刃刀よりも少し短い。片刃のMVSという解釈でも問題ない。

 

 

対KMF用腕部サーベル

 スタントトンファーの技術を応用し、MVKを短くし同じ内蔵したものとなっている。武器をすべて失ったとき、または武器を持っていない場合のみ使用する。紫星では左腕にのみ装備されている。

 

 

ウルナエッジ改

 アレクサンダに内蔵されているウルナエッジにメーザーバイブレーションを導入しただけ。ただの内蔵ブレード。

 

 

右腕部速射砲

 右腕のアタッチメントとして設計されている速射砲。紫星の腕はアタッチメント式ではなく腕にまきつけて使うタイプ。

 

 

大型飛燕剣牙(ソードハーケン)

 メギドハーケンなどの技術を応用した、特殊なハーケン。有線式であるため、距離制限はあるが、変幻自在な軌道をもって、近接戦闘を行いやすくする。斬ることもできるし、従来のハーケンのように巻き付けたり、刺して引き寄せたりもできる。しかし、操作は完全マニュアルのため、パイロットは機体操作と、ハーケン操作を同時に行う必要がある。ISに搭載されているものは脳からの命令を機体が理解するようになっているため、空間把握能力さえあれば動かすことが可能となっている。

 

 

 

 

 

 

キャラ設定

四十万アキラ(しじま あきら)

 IS学園1年1組に所属。7月7日生まれ。身長は176㎝。織斑一夏、蒼月ライに次ぐISを扱える男。 容姿は整っており、顔つきはライに似ている。くせっけの銀髪はライとは違い灰銀のような色合いになっていて、瞳はカレンの空色の瞳をしている。

 性格は素直で、非常に優しいく、情に厚い。しかし、決定的に恋愛に鈍感で、ライ以上の鈍感さを持つ。武道はすべて師範クラス。家事全般できる。料理はもはや店でコック長を務めれるレベルで店を開けば、☆3以上は確定だろう。アキラはライと同様に物を置く習慣がなく、かなり質素な部屋となっている。唯一飾っているのは、家族全員で取った写真だけだ。

 幼少期はライ、カレン、そして妹と数名の従者たちと共に生活していたが、ギアスにかかり、家族を手にかけてしまう。そこから、C.C.に拾われ中学を卒業するまで育てられ、高校に入ってすぐ、軍に入り、機体が贈呈された。そこから高校3年まで軍で働き、機体をもって並行世界の時間を遡り、ライとカレンに会おうとしたところ、ISの世界に。

 ISの世界ではライより後に入ってきた。束にお世話になり、ライとアキラはIS適性があることが判明。二人の持っていたKMFの起動キーからデータを引き出し、ISがそれぞれに作成、贈与された。のちにカレンと出会い、IS学園に入学した。

 部活には現在は入っておらず、勧誘など多々ある。

 

 余談だが、このキャラは最初、作者の私を元として作っていたのだが、ライとカレンの子供なのにイケメンじゃないのはおかしい、とか、頭が切れないのもおかしい、とか、いろいろ試行錯誤していった結果、完全にオリジナルキャラになった。




 異常が彼の設定となっております。機体解説もありましたんで、かなり長くなりました。
 「は? こいつなに言ってるかぜんっぜん分からん」とかありましたら、コメント、と高評価、お願いします(厚かましいわっ!)


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高い壁とやさしさと

 戦闘で傷ついた二人を病室に送った後、アキラはその後を一夏に任せ、病室を後にした。

 

「ねぇ、アキラ」

 

 そのアキラにシャルルも付いて行っていた。

 

「なに?」

 

「僕にさ、隠してることない?」

 

「隠してること、か」

 

「言いたくないんなら言わなくてもいいんだよ!?」

 

 アキラの雰囲気を悟って大慌てで取り繕おうとしてくれる。

 

「いや、いつかは話さないといけないんだろうな・・・僕の罪も、過去もすべて・・・・・・」

 

 遠くを見上げ、ぽつりとつぶやく。シャルルには聞こえた。だが、深く掘ることはできなかった。

 

(高い、高い壁がある・・・・・・)

 

 壁は聞くなと、踏み込むなと、高く厚く固く。

 

「あ、ごめんね。雰囲気悪くしちゃったかな?」

 

 アキラとて、空気の読めない人間ではない。だから気づいた、完全にアキラのせいで雰囲気が重くなっていることに。

 

「ううん、大丈夫」

 

 そこから会話を続けようとしたが、会話は続かなかった。

 

「みんな、いたよぉっ!」

 

「ん?」

 

 後ろを向くと大勢の生徒が紙を一枚持ってアキラたちを目指して走ってくる。

 

「ど、どうかしたの?」

 

 

 

「こ、これっ!」

 

 そう言って紙をアキラに。

 

「こ、これはっ!?」

 

 学年別トーナメントのルールの改定、「二人での参戦」又は「ペアが決まらない場合、」だった。

 

「みんなごめんね、言いたいことは分かったんだけど、僕はシャルと組むよ」

 

 シャルルの意見は一切聞くことなく勝手にそう言い切った。

 

(たぶん、一緒に組もうって押し寄せたんだよね)

 

「そっかぁ、それじゃあ、仕方ないねぇ」

 

 押し寄せてきた生徒たちはさらっと引き上げた。アキラの予想は的中していた。

 

「ふぅ、あれは怖いねぇ」

 

「助けてくれてありがと」

 

「君のことがバレちゃったら困るからね、それにさ」

 

 そう前置きして空を見上げる。黒く、点々と輝きのある空を。

 

「君とは一度、ペアを組んでみたかったんだよね」

 

「ふぇ!?」

 

「僕はさ、中距離戦ができないんだよ。だから、中距離戦できる人とペア組みたかったんだぁ」

 

 アキラの顔は戦い、勝つ。それを目指すもの、戦士の顔でありながら、瞳は空を点々と色づける輝きよりも輝いてた。

 

 

 

「なぁんだ、そっちかぁ」

 

 肩を落とす。

 

(僕と組みたい理由がその理由じゃなかったらよかったのになぁ)

 

「ご、ごめん。無神経なこと言っちゃった?」

 

「ううん。ただ、アキラなんだなぁって、そう思っただけ」

 

 ちょっと安心した顔を見せるアキラに満面の笑顔で。

 

「学年別トーナメント、よろしくね、アキラっ!」

 

 

 

 

 

 

 そこから部屋に戻った。もともと、寮に戻るために一緒に戻っていたのだ。

 

「そういえばさ、シャル、ずっと男の口調だよね?」

 

「うん」

 

「無理、してない?」

 

「ここに来る前に徹底的に直されたから、無理はしてないよ」

 

「ならよかった」

 

「アキラが気になるのなら、二人だけの時ぐらい、女の子っぽく話せるように努力するけど・・・」

 

「いや、そんなこと気にしなくていいよ。シャルは今のままでも可愛いから」

 

「可愛い!? 僕が!? 嘘ついてない?」

 

「嘘なんかついてどうするのさ?」

 

「うんっ! じゃあ、別にいいかな」

 

 嬉しそうな顔をしてるシャルルを見て、アキラはほほ笑む。

 

「じゃあさ、先、着替えなよ。僕外で待ってるからさ」

 

 そう、シャルルは本当は女の子。つまり男が着替えの間にいていいわけがないのだ。

 

「え!? いいよ、アキラに悪いし・・・その・・・僕は気にしないから」

 

「女の子がこういう時に気を使っちゃいけません。それに、君は気にしなくても僕が気にしちゃうかもしれないから」

 

「で、でも、男同士なのに着替え中に外に出たら変に思われちゃうよ?」

 

「そ、それも・・・そうだね・・・」

 

「うん」

 

 これはアキラとしては困る、なんせ着替えないのだ。服は制服以外にはブリタニアのラウンズの騎士服しかない。

 

「わかった、じゃあ・・・僕、後ろ向いてるから。終わったら声かけて」

 

 服を脱ぐ音が聞こえる。普通の男なら官能が刺激されるのだろうが、アキラはその辺、ひっじょうに疎い。

 

(どうしてこうなったんだろ?)

 

 よくよく考えてみれば、脱衣所に行けばよかった話なのだ。

 

「うわぁっ!?」

 

 ドスンっ!

 

「ど、どうした!?」

 

 大慌てで後ろを向くと下着姿のシャルルが足首あたりにズボンをひっかけてこけていた。

 

「いったたた・・・足引っかかっちゃった・・・。・・・えっ!?」

 

「っ!?」

 

 アキラはとっさに顔をそらす。

 

「あ・・・あぁ・・・・・・」

 

 悲鳴発射態勢、よしっ!

 

「ひ、悲鳴はダメだってっ!」

 

 シャルルの口を塞ごうとする。もちろん、顔はそらしたままだ。顔をそらしたまま、それが悪手だった。

 

「!?!?!?!?」

 

 抑えたはずなのに動かせる手を確認すると、口ではなく、持っていたものはアンダーの方の下着だった。アキラの混乱は最高潮に達し、それを手に持ったまま、正常な思考に戻ることができず固まっている。と・・・・・・。

 

 ドスっ!

 

 シャルルの蹴りが下あごにクリーンヒット。アキラはそのまま気を失ってしまった。

 

「へ・・・・・・?」

 

 シャルルも蹴った後に目を回したまま動かないアキラを見て、アキラがダウンしていることに気づく。幸い、アキラは制服から着替えようとしたわけではなかったため、服は着ていた。それが功を奏し、シャルルは着替え、アキラをベットに寝かせるために抱える。

 

(うわぁ・・・軽い・・・)

 

 見た目よりもずっと軽く、ずっと細く、ずっと筋肉質の体。男の体付きながら、女の体のような華奢さ。

 

(・・・甘い香りがする・・・・・・)

 

 そこでシャルルは今朝、アキラに寝顔を見られていたことを思い出し、逸る気持ちを抑えながら、ベットに寝かせる。蹴って伸びたにしては安らかな顔をしている。

 

「まったく、見かけによらず強引なんだから」

 

(ちゃんと言ってくれれば・・・僕は別に・・・・・・)

 

 そこまで考え、顔を紅くする。

 

(もう寝ちゃおうっ!)

 

 そこで、昨日のアキラがフラッシュバックする。優しく、ここにいるように諭してくれたアキラ。優しいだけじゃない、力強さもあった。

 

(あの時、自分が初めて誰かに必要とされた気がした・・・)

 

 アキラの顔の方に戻り、アキラの顔を眺める。見惚れてしまうほどの、きれいなで柔らかい肌、指通りの良いきれいな髪。アキラの前髪少し動かす。そこには古傷があるが、それでも、きれいだった。その額に、優しく、触れるだけの口づけを。

 

「お休み、アキラ」

 

 

 

 

 

 そして時は進み、学年別トーナメントとなる。




 アキラ君にラッキースケベの属性付与はしていませんのに・・・どうして彼はラッキースケベを・・・。どうも、白銀マークです。
 さて、そろそろ、学年別トーナメントでアキラ君、やっと活躍できますねぇ。ちなみになんですが、ライはライカレで、双璧コンビとして参戦します。え? 一夏はどうしたかって? ・・・・・・考えてないです、どうしようかなぁモブ美とでも組んでもらいましょうか?
 いい案あればコメントの方、よろしくお願いします。それでは、今後とも良しなに。


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学年別トーナメント、一戦目

 学年別トーナメント、一戦目。アキラとシャルルはラウラ、箒と当たることとなる。一夏は順調に勝ち進めば準々決勝でアキラ、シャルルペアと当たることとなる。

 

「いよいよだね」

 

「うん、借りはしっかり返さないとね」

 

 アキラの機体は紫星、シャルルはラファール・リヴァイヴ・カスタムII。対するラウラはシュヴァルツェア・レーゲン、箒は打鉄。

 

「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」

 

「そりゃどーも。僕としては、もうちょっと待ってほしかったけど。時間かかりそうだから」

 

 4。

 3。

 2。

 1。

 startっ!

 

 開始と同時にアキラは大型飛燕剣牙を射出、箒に向かって仕掛ける。

 

「くっ!」

 

 箒は大型飛燕剣牙をはじくが、大型飛燕剣牙のブースターを使い、撃ち落されてからもなお、対象を狙い続ける。

 

「シャルっ!」

 

「わかったっ!」

 

 シャルルは牽制のためにラウラにマシンガンをばらまく。

 

「甘いな」

 

 ラウラのA.I.C.によって防がれる。

 

「アキラっ!」

 

「りょーかいっ!」

 

 ラウラにアキラは自身の右腕を突き出し、背後から攻撃を仕掛ける。その間も大型飛燕剣牙は動き続け、独特な軌跡を描きながら、箒を追い続けていた。

 

 

 

 

 

 

「四十万デュノアペア、完全に2on1の構造ですねぇ」

 

「四十万の手の上で踊らされている、というのが正しいだろうな」

 

 アリーナの管制室にて監視を行う、千冬と真耶がモニターで対戦を見ていた。

 

「それにしても、四十万君の操作能力、非常に高いですねぇ」

 

「確かにな、高すぎるとは思うが、奴の事情を加味すると、そうでもない」

 

「あ、篠ノ之さん、撃破されました」

 

 

 

 

 

 

 現在の損傷率はアキラが5%、シャルルが5%、ラウラが65%、箒は撃破されている。

 

(わたしは・・・負けられない・・・・・・負けるわけにはいかない)

 

 ボロボロになったシュヴァルツェア・レーゲンは立ち上がる。

 

(力が・・・・・・ほしいッ!)

 

 願うか・・・。汝、より強い力を欲するか・・・?

 

 聞こえないはずの声がラウラの耳に届く。

 

(よこせっ! 力を・・・比類ない最強をっ!)

 

 突如ラウラの機体が異様な輝きを発し、軟体化したシュヴァルツェア・レーゲンはラウラを完全に飲み込んだ。

 

「な、なにあれっ!」

 

「下がって、シャル」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンは形を変えた。今は封印されているはずの機体に。

 

(暮桜・・・データが正しければ、織斑先生の機体のはず・・・)

 

 警戒して前に出たアキラに識別不明機が攻撃を仕掛ける。

 

「っ!」

 

 中型MVKを交差させて攻撃を受ける。しかし、異常なほどの力で機体は吹き飛ばされる。

 

「がはっ!」

 

「アキラっ!?」

 

 アキラを心配して近寄ってこようとする。

 

「来ちゃだめだ、彼女の相手は、僕一人で十分だ」

 

 アキラは機体に搭載されている単一仕様能力に酷似したシステムを覗く。本来はコアに組まれている、いわばブラックボックスの中にある状態のものだ。よって正確には単一仕様能力とは違う。

 

「いけるかい? 紫星」

 

 機体の瞳が強く発光し直す。

 

「ライさん、カレンさん、出撃用意をお願いします。僕が万が一、暴走したら、お二人の手で、この機体ごと、葬ってください」

 

 アキラは二人に声を掛けると、システムを呼び起こす。

 

『パスワードをお願いします』

 

 機械音声で音声認識を行うためのアナウンスが流れる。もちろん、このアナウンスはアキラにしか聞こえない。

 

我ハ守リ手也(われはもりてなり)

 

『認識完了しました。SINKAI、起動します』

 

 アキラの機体が動かない金属関節を動かすように動き始め、機体の各装甲が開き始める。開いた装甲の内側には紅い発光する何かが顔を覗かせる。

パイロットの首筋に一本の太いケーブルのついた針が刺さるり、首に針が固定される。

 

「シャル、離れれて。僕は今から・・・人を捨てるっ!」

 

 言いきりと同時に機体のツインアイが蒼から紅に代わり、強く発光し直す。

 

『SINKAI、起動完了』

 

 機体を通常時よりも感覚的に、息をするように扱えるようになるシステム、SINKAI。機体性能は飛躍的に上昇し、機体スペックだけなら、学園トップに君することができるほどの高さを誇る。しかしながら、パイロットと神経接続を行うため、たびたびシステムに意識を飲まれ、機体が持つ破壊衝動のままにすべてを壊そうとすることがある、性能を求めたが故の高い代償を背負うシステムだ。

 

「力には・・・力で。それが基本だ」

 

 機体をゆっくりと進める。

 

「このシステムを発動させた理由は、殺す力しか磨けなかった君への、僕が見せることのできる最大の誠意だ」

 

 力に溺れる者には、見せなければならない。力の本質を。力の代償を。身の丈に合わない力の、大きな大きな代償を。

 

「ラウラ、君を助ける。だが、それと同時に、力、というものを理解してもらう。僕が正常な判断ができなくなる、その時まで」

 

 大型飛燕剣牙を射出、と同時に機体を走らせる。機体は昼間でありながら、紅い奇跡を描きながら、対象に接近する。対象も当然、無反応のまま、大型飛燕剣牙迎撃し、アキラと刃を交える。アキラの方が一太刀の剣戟は軽い。だが、一撃で相手の機体の刃にひびを入れる。

 

「力にはね、持っていい種類といだめな種類があるんだよ」

 

 刃は対象の左肩部を破壊する。

 

「君のそれは持ってはいけない種類のもの」

 

 対象を機能停止まで追い込む。

 

「だから、戻っておいで。そんなものに溺れる必要はない」

 

 対象の腹の部分を切る。対象は決壊し、ラウラを排出する。

 

「おかえり、ラウラ」

 

 アキラはそっと、ラウラを抱きとめた。




 アキラ君の機体の明かされなかった仕様システム、SINKAI。力を示したアキラ君、いったいどれだけ代償を払ったんでしょうかねぇ。
 さて、今度アキラの機体詳細を書くのはセカンドシフト後かな。
 それでは次回もどうぞ良しなに。


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お風呂と傷と

 アキラはあの後、無事ISを解除し、現在は一夏とシャルルと夕食をとっている。

 

「でね、今回のことが原因で、学年別トーナメントは中止だけど、成果とかもろもろ見たいから、一回戦はするんだって」

 

「あぁあ、ライさんとカレンさんと対戦、できなくなっちゃったなぁ」

 

「アキラ、二人と当たりたかったのか?」

 

「うん、あの二人にどこまで通用するのか、知りたかったんだぁ」

 

 ちょっと悲しそうな顔をする。露骨に肩を落とす。

 

「まぁまぁ。それよりもさ、アキラ、体は大丈夫なの?」

 

「うん、体の感覚のずれもないし、問題なく動くよ。強いて言うなら、体がちょっと重いかな」

 

 と、そんなことを話していると・・・。

 

「お疲れ様」

 

 発進準備をしてもらっていたライとカレンが三人の前に。

 

「すいません。感情が昂ったとはいえ、お二人の手を煩わせる可能性のある行動をとってしまい」

 

 アキラは首を垂れる。

 

「アキラ、遠慮しすぎだよ。もっと頼りなって」

 

 ライはアキラの態度に怪訝な顔をする。

 

「しかし・・・」

 

「いいわけはいらないの。わかった?」

 

「・・・はい」

 

 親子三人の会話。そのことを知らない二人は怪訝な顔をする。

 

「なんであんなしゃべり方するんだろうね」

 

「なんでだろうな。少なくとも、あいつは自分のことを語らないからな」

 

 二人にはわかりようのない、三人の関係。

 

「織斑くん、四十万くん、デュノア君、蒼月くん、朗報ですよっ!」

 

 声の主に視線を向ける。

 

「山田先生、どうかなさいました? ・・・もしかして、事情聴取とかあります?」

 

「いえいえ、そうじゃありません。四十万くん、デュノアくんの功をねぎらう素晴らしい場所が、今日から解禁になったのですっ!」

 

「功をねぎらう場所?」

 

「そうですっ! その場は・・・・・・」

 

 

 

 

 

 カポ~ン。

 手桶の音と、水の注がれる音、広い室内には大きな浴室があり、部屋中を湯気が覆いつくす。

 

「・・・こんなものがあったんだ・・・・・・」

 

 大浴場にはアキラ一人だ。シャルルはばれないように部屋のシャワーを使ってもらうようにお願いし、一夏とは時間をずらしている。

 

「こんなもの、見せるわけにはいかないからね」

 

 アキラの胸元には十字の大きな古傷がある。それは背中にも同様にある。腕や足にも古傷が少し。額には一本だけある。痛むことはもうない。ここに来る前は痛んだりした。幻痛だとわかっていても、それでも、痛いものは痛かった。

 

(こう、落ち着いて傷を見ると、痛いなぁ)

 

 無論、傷が痛いのではない。この体を知った者の悲しい顔、それを考えると、胸が痛い。

 

(気にするな。僕がミスらなければいい)

 

 体を流し、湯船につかる。

 

「ふぅ。今度、僕が見張りをして、シャルにも体験してもらわないとな。せっかくの大浴場なのに、一人だけ部屋はかわいそうだなぁ」

 

「お、お邪魔します」

 

「・・・・・・え?」

 

 声のした方を向く。アキラのことだ。声でだれかわかっただろう。しかし、幻聴だと思いたかった。

 

「あ、あんまり見ないで・・・アキラのえっち」

 

「ご、ごめん」

 

 しっかりと湯気が立ち込めているため、シルエットぐらいしかわからない。それでも、見られる、ということは恥ずかしいものだ。

 

「えっと、シャル。どうしてここに?」

 

「入りたかったから、じゃだめかな?」

 

「だめではないけど・・・まぁいいや。僕の方は見ないでね」

 

 シャルルは体を流し、湯船に。

 

「ど、どうしてそんな端っこの方に行くの?」

 

「えっと、僕の体を見てほしくない、じゃだめかな?」

 

「僕のは見たのに?」

 

 そうなのだ。アキラはシャルルの裸を不可抗力とはいえ、拝んでいる。

 

「・・・・・・じゃあ、何も聞かないで。今日の僕だったらたぶん、聞かれたら応えちゃうから」

 

 そう言って、背中を向けているシャルルの方へ、水面を這いながら向かう。

 

「アキラ」

 

「ん?」

 

「僕ね、学園に、ここにいようと思うんだ」

 

「そっか」

 

 お互いに姿は見えないが、うれしそうな顔をしている。

 

「アキラがいるから。僕もここにいたいって、思うんだよ?」

 

「それはうれしいな」

 

 この朴念仁にうまく伝わっているわけもなく、言葉通りに受け取っている。シャルルもわかっている。

 

「それにねに。も一つ決めたんだ。僕のあり方を」

 

 シャルルが後ろからアキラに抱き着く。

 

「あり方?」

 

「うん。僕のことはこれから、シャルロットって呼んでくれる? 二人きりの時だけでいいから・・・」

 

「シャルロット、それが君の本当の名前なんだね?」

 

「そう。僕の名前。お母さんがくれた、本当の名前」

 

「わかった・・・。シャルロット・・・いい響きだね」

 

「えへへ、ありがと」

 

 シャルルはアキラの傷を見た。ISスーツに着替えるときもこうして素肌をさらしているはずなのに、着替えるときには見当たらなかった古傷がそこにあった。

 

「ねぇ、アキラ」

 

「何?」

 

「どうやって体の古傷、隠して着替えてたの?」

 

(まぁ、それぐらいならいいか)

 

「僕ね、そもそも素肌を晒してなかったんだよ」

 

「どうゆうこと?」

 

「薄い僕の肌と同じ色の薄いインナーを着てたんだ。だからなんだよ」

 

「そっか」

 

 シャルロットは知りたかった。アキラについて、もっと、もっと。でも、まだまだ知ることはできないみたいだ。これ以上、今知ろうとすると、アキラはたぶん、離れていくだろう。だから、アキラが話してくれるその時まで、シャルロットはこれ以上聞かないと決めた。




 シャルロットちゃん、大胆ですねぇ。でも、アキラくん、鈍いんで伝わりませんよぉ?
 さて、そろそろ、アニメ的には夏の海イベント、近そうですねぇ。アキラくん、どうやって古傷隠すんでしょうか?
 次回も、どうぞ良しなに。
 


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シャルルはシャルロット

 翌日、とある事情からアキラはISの整備のため、授業に参加していなかった。原因は先日行ったブラックボックスにある特殊なシステム、SINKAIだ。

 

「機体制御異常なし、セカンドシフト可能、か」

 

「本当に大丈夫なの?」

 

 一応暴走時のストッパーとして、ライとカレンにも同様に休みを取ってもらっている。

 

「はい、異常はないんですけど、機体感度が鈍いというか。ちょっと浮いてるんですよ」

 

 基本設計は束が担当したとはいえ、己の機体開発のほぼすべてにアキラは携わっている。

 

「にしても、未来のKMF技術はとんでもない進歩を遂げたんだね」

 

「父上たちの時代にも、大型飛燕剣牙に似たもの、ありましたよね。確か、当時ナイトオブスリーのトリスタンに搭載されているメギドハーケンでしたっけ? それの応用技術ですよ」

 

「肘から輻射波動なんて発想もなかったわ」

 

「母上の戦い方と武装相性の問題ですよ。お二方の機体よりも使える回数少ないんですよ?」

 

「そういえばさ、この前のウィンクの件、覚えてる?」

 

 ライが前に問い詰めるといっていた件だ。

 

「あれはC.C.さんに教わりました。なんでも、お前ならこれが武器になる、とかなんとか」

 

「C.C.、まだ生きてるの?」

 

 ライはC.C.がまだ存命していることを聞いた。

 

「えぇ、コードもまだ所持しています。ただ、Cの世界を僕がいじくりまわしてしまったので、不死とギアスを与えることしかできなくなってしまいました。彼女としても、それでよかったみたいです」

 

「そうなんだ」

 

「僕にギアスをくれたのも、あの人なんです。すっごく嫌そうな顔をしたのですが、頼み込んで、解放に条件付きでもらいました」

 

「へぇ、C.C.から」

 

「そうです。結果として、僕は条件を壊してギアスを覚醒させたんで、条件なんてなかったに等しいんですが」

 

「C.C.も変わったのね」

 

「母上たちの時代がどうだったかはわかりませんが、優しさをもって接してもらいました」

 

 そう置いた後で。

 

「あそこでC.C.さんに拾われていなかったら、僕のあり方も違ったでしょう」

 

「そっか・・・僕らを失ってからも、救いがあったんだね」

 

「・・・そうですね。救い、なのかもしれません」

 

 ちょっとうれしそうな顔をする。その顔を見て二人は安心した。

 

「そうだ、ルルーシュはどうなったの?」

 

「ルルーシュさんならシャーリーさんとご結婚なされて、僕と同年代の娘さんが一人います。確か、できちゃった婚とかなんとか。僕は、父上と性が近いこともあり、叔父上、叔母上と呼ばせていただいてます」

 

「よかったね、シャーリー」

 

 シャーリーの険しい恋路を知っているカレンは安心した。

 

「確か、死んだはずの世界に父上が居られたのは、Cの世界が認めなかったから、だそうですよ。C.C.さんからの受け売りですけど」

 

「そっか」

 

「なので安心してください。・・・・・・っと、調整が終わりました。正しく調整できてるか確認します」

 

 いろいろ話している間にできたしたようだ。

 

「じゃあ、行こうか、カレン」

 

「えぇ」

 

 そこから、午前いっぱい、機体の確認を行った。

 

 

 

 

 

 予定より早く終わったがため、教室に午後から戻ろうと、教室の戸に手をかけると、教室内から異様な気配が。

 

(あれ? いつもの教室なのに・・・)

 

 入ってはならない、本能がそう告げる。

 

「アキラ、何してんの? 早く入りなよ」

 

「そ、それがですね。入ってはならないと本能が告げるんですよ」

 

 教室の扉を開けることに躊躇を見せるアキラを怪訝な顔でカレンが開けるよう促す。

 

「じゃあ、私たちが先に入るわね」

 

 ライとカレンが先に教室に入った。と、すぐにライが戻ってきた。

 

「アキラ、シャルが・・・シャルが・・・」

 

 アキラはその声を聴き急いで扉を開けた。そこでわかった。そのセリフの意味が。

 

「あっ! アキラ、こんにちわ」

 

 シャルロットが男物の制服を着ていなかったのだ。

 

「あれ? まだ寝てるのかな? それとも疲れてるのかな? 幻覚だよね、もう一回教室に入り直せば・・・」

 

「まってよ、ちゃんと現実だってっ!」

 

「嘘でしょ? 本気で言ってるの?」

 

「うんっ!」

 

 シャルロットの満面の笑みで告げる。

 

「四十万くん、どーゆーこと?」

 

 などなど、シャルルが実はシャルロットだったことを同室だったから知ってるんじゃないかとクラスの女子から問い詰められる。

 

(か、勘弁してよぉ)

 

 口では知らないといいつつも、内心は涙目。助けを両親に請うが、それもスルーされる。理由は単純。カレンが口を割る可能性があるからだ。といっても、実際に事実としてシャルルがシャルロットだった発表前に知っているのは、アキラただ一人である。

 

「アキラ」

 

 周りとは違い、名前を呼ばれた。声の主を確認して、安心した。

 

「ラウラっ! 体、大丈夫だった?」

 

「問題はない。それより、だ」

 

 そこまで言ってアキラの方へ歩を進める。とクラス全体を叫喚させる行動に出た。

 

「んっ!」

 

アキラのネクタイを引っ張り、しっかりと、離すことなく口づけを行った。

 

「お、お前は私の嫁にする。決定事項だ。異論は認めんっ!」

 

「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 生徒たちの驚きの咆哮。

 

 アキラも何をされたか理解するまでに一分の時間を必要とした。また、理解してからも、頭が混乱し、まともな声を発することができず、若干の幼児退行を見せたため、この日から、アキラからしっかりした回答が欲しいときは必要以上に強すぎる刺激を与えてはならないと、クラスの中で暗黙の了解が生まれた。・・・・・・ただ、かわいいアキラが見たいのなら、別の話だ。




 アキラくん、朴念仁だけど強すぎる刺激には弱いと。いやはや、扱いが大変そうだ。
 さて、いよいよ次回は海イベントの予定です。皆さん、楽しみに待っていてくださいっ!
 それでは次回もどうぞ良しなに。


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夏の準備(前編)

 シャルルがシャルロットになってから、部屋が変わり、一夏と同室になった。

 

「まったく、誰が同室になってもゆっくりできないな」

 

 椅子から、ゆっくり体を起こす。

 

「おはよう、ラウラ」

 

「お前、いつもそうやって寝てるのか?」

 

「うん」

 

 とりあえずアキラのベットに置いてあったシーツをラウラに向かって投げる。

 

「寒そうだし、目に毒だから。それで体隠して」

 

「夫婦とは互いに包み隠さないものだと聞いたぞ?」

 

「間違っている、間違っているよ、その情報は」

 

「日本では気に入った相手が居たら、オレノヨメとか言うそうだが?」

 

「そんな常識はありません。第一、嫁は女の子しかなれないの」

 

 ビシッっと指を出し決めポーズを決める。がその腕はつかまれ、ラウラに腕挫腕固を決められる。

 

「い、いい固め技じゃないの・・・・・・」

 

 ギリギリと音を立てる。

 

「お前はもう少し寝技の訓練をすべきだな」

 

「残念・・・だけど・・・だてに全部武道習ってないんだよっ!」

 

 肘固めから抜け出す。そして自分の制服の上着を着せる。

 

「あ、そうだ。今日の放課後、買い物に行こうと思うんだけど、来る?」

 

「何を買うのだ?」

 

「主に服かな。水着を持ってないのと、私服がなくてね。服を買わなきゃなって。予定あるならパスでもいいけど・・・「行くっ!」・・・わかった。じゃあ、一夏が起きる前に部屋に戻ってね。シャルも心配するから」

 

「仕方あるまい」

 

 おとなしく部屋に戻っていった。

 

(あ、制服の上着、持っていかれちゃった)

 

 のちに制服は取りに部屋に向かったところ、着替え中のシャルロットと出くわし、怒られたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

移動中の電車のなかで、ラウラは苦言を呈する。

 

「アキラ、一ついいか?」

 

「どうしたの?」

 

「なぜシャルロットまでいるのだ?」

 

「君が僕の制服の上着持ってっちゃったせいでこうなったの。まぁ、もともと誘うつもりではあったんだけどさ」

 

 そう罰悪そうに頬を掻く。

 

「あ、そうだ。ねぇ、シャルロット」

 

「ん? なに?」

 

「今まで通りさ、シャル、でいいかな? 呼びなれたのもあるけど、やっぱり親しみやすくていいと思うんだ。たぶんライさんはこれからはシャルロットって呼ぶと思うからさ。この呼び方は僕とシャルの間だけだよ」

 

「うんっ! いいよっ!」

 

 すごくうれしそうに元気よく頷く。

 

 

(これで少しは機嫌がなおるといいな)

 

 

 

 

 

 

 ショッピングモール内。アキラたち一向はアキラの私服を選びにメンズ服売り場を目指した。

 

「ごめんね、先にこっちに付き合わせちゃって」

 

「気にしないで」

 

「気にするな」

 

「いやいや気にするよ。お礼に水着、奢るからさ」

 

「えぇ、悪いよそんな」

 

「いいって。気にしないで。嫌なら、僕が水着、一着見立ててプレゼントにするけど」

 

「い、嫌ではないが・・・。だったらアキラ。お前が私の水着を見立ててくれ」

 

「わかった。シャルはどうするの?」

 

「じゃあ、選んで?」

 

「わかった」

 

 先にアキラの私服を買った。アキラの私服センスはお堅いものが多く、ラフなものがなかった。本人曰く、最も便利なんだとか。それでは堅すぎると、シャルロットがチョイスした服も合わせて合計3セット。

 

「ありがと。僕、こういう堅い服しか買ったことなくてね。こういうカジュアル系の知識乏しかったんだ。大事にするよ」

 

 アキラは知らなかった。己の笑顔の破壊力を。

 

「うっ!(ズキューンっ!)」

 

 シャルロットが胸を押さえて倒れこんでしまった。

 

「だ、大丈夫?」

 

 間一髪のところで抱き留めることに成功したアキラは服の入った袋を持った状態でシャルロットをおぶって行動を始めた。

 

「あ・・・うぅ・・・」

 

 ラウラがアキラに何か言いかけ、やめた。

 

(今では、アキラの迷惑になってしまうかもしれん)

 

「どうしたの? 僕、何か落としちゃってた?」

 

「いや、そうではないのだが・・・」

 

 手を繋いでほしい。素直にそういえないのだ。

 

「行くよ、ラウラ」

 

 朴念仁は時に相手の心を読めるんじゃないかという行動をとることがある。シャルロットをおぶりながら、手を伸ばす。

 

 その手を取り、シャルロットを寝かせるためベンチに行き、シャルロットが起きるまでの間、アキラはラウラの手を握ったまま、シャルロットに膝枕をするのだった。




 さて、今回はお買い物。前編とあるように二話構成でいきたいと思います。……夏、終わりますねぇ。


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夏の準備(後編)

 不思議な夢を見た。きれいな銀髪小さな男の子が大人二人と、男の子より小さな女の子、四人で手を繋いで歩いているところだった。逆光で小さな男の子の髪色しかわからないが、とても幸せそうで、穏やかな風景。

 

 そこまで見て目が覚めた。

 

「おはよう」

 

 透き通った優しい聲に、寝ぼけ眼なシャルロット聲が上から降ってくる。

 

「あ、アキラ」

 

「シャル、倒れちゃったんだよ」

 

「そ、そうだったんだ。ごめんね」

 

「いや、僕はいいんだけど」

 

 アキラは言いにくそうに言葉を濁らせる。シャルロットが周りを見ると、シャルロットに対し地面が平行に映る。

 

「ご、ごめんねっ!」

 

 シャルロットは飛び跳ねるように体を起こした。

 

「重たかったよね、ごめんね」

 

「いや、そんなことはなかったよ?」

 

 気にするなと立ち上がる。

 

「さ、行こうか、シャル。ラウラも待ってる」

 

 手を刺し伸ばす。

 

「うん」

 

 二人で、ラウラを探し始めたのだが、二人とも見つけられない。近くにいる目立つ銀髪はアキラだけだ。アキラの脳裏にフラッシュバックする。

 

「どこ行っちゃったんだろ?」

 

「探そっか」

 

 まだ、穏やかにいられる。そう心で己を縛りながら。捜索を開始した。

 ラウラはどうやら一夏たちと合流していたらしい。探し出すまでに30分はかかった。見つけてから心から安堵する。

 

「ラウラ、見つけた・・・」

 

「遅かったではないか」

 

「あれ、アキラじゃないか」

 

「あぁ、一夏。君は何しに?」

 

「水着を買いにな。一緒に回るか?」

 

「一夏も一人じゃないでしょ?」

 

 一夏以外にも鈴音とセシリアもいる。

 

「みんな、悪いけど、アキラと回ってもいいか?」

 

 ちょっと不機嫌そうな顔をした。アキラはその顔を読み取れたが、アキラの後ろでも不穏な空気が流れてるため、何も言いだせない。・・・こういう経験、アキラは多いため、黙っているのが吉と知っている。

 

「ね、ねぇ一夏。やっぱり、二人に悪いから・・・」

 

「かまいませんわよ」

 

「あたしもいいわよ」

 

 不穏な空気とともに許可を出してしまわれた。

 

(僕、あとで寝首係れるのかな・・・。暗殺者にすら寝首係れたことないけど)

 

「シャル、ラウラ、ごめんね。僕は逃げられないみたい」

 

「ふ~ん」

 

(うぅ、そんな怒りの笑顔を向けられても・・・)

 

 

「シャルロットさん、ちょっと」

 

 シャルロットがセシリアに呼ばれ、彼女の元へ。そして何かを話した後、はっとしたような顔をして、今度は。

 

「行ってきなよ、アキラ」

 

 普通の笑顔で送り出してくれた。

 

「わたしは構わん。行ってこい、アキラ」

 

 ラウラは気にしないとばかりに送り出してくれた。

 

「じゃあ、行ってくる。あ、シャル」

 

「ん?」

 

「会計の時、これ使ってよ」

 

 カードを手渡す。

 

「えっ!」

 

「おごりは確定事項だったんだよ。そのカードには10万ほどはいってるから、使い切ることはないと思うけど」

 

「じゅ、10万っ!?」

 

「じゃ、それでシャルとラウラの二人分の会計に使ってね」

 

 アキラは一夏と共に男性用水着売り場に向かった。

 

「アキラ、その紙袋は?」

 

「僕の私服。持ってなかったからさ」

 

「そういえばお前、ずっと制服だったもんな」

 

「うん。これか別の一着しか持ってないからね。どっちも私服じゃないんだけど」

 

「そうだな。もう一着がどんなものかはわからないけど、アキラが言うからそうなんだろ」

 

 そこから水着を選ぶが、そこで気づいてしまった。アキラは己の肉体事情を加味して選ぼうとしていなかった。水着はまだ買っていない。

 

「どうした? 水着、買わないのか?」

 

「いや、買うけども・・・」

 

 テキトーに何か選んで、体を隠せるものを探し始めた。しかし、どうしても体の一部が出てしまうため、かなり困り果て、長い時間探した結果、長そでの上着を着用することに決めた。足は丈の長めの水着を選ぶと、傷が隠せたため、あとは肌と同じ特殊なスーツでごまかすことに決めた。

 

 のちに合流し、ちょっとだけ回った後、寮まで戻った。

 

「久しぶりにたくさん買ったな」

 

 服をハンガーに通しながらしみじみ思い、つい出てきてしまったセリフ。

 

「ん? どうかしたか?」

 

「僕ね、あまり欲がなくて。自室は質素になるし、買わないからお金は貯まるしで。こんなにお金使ったのは久しぶりだなって」

 

「確かに、アキラの物って少ないよな」

 

「不思議だよね。僕も思うんだ」

 

「そういえばさ、アキラ、自分のこと語らないじゃん? なんかあんの?」

 

「えっとまぁ、ね。難しい内容が多くて、ね」

 

 あいまいに濁す。それは無味いることのできない壁。超えることは、今の一夏には無理だろう。

 

(やっぱり、何も話してくれなねえか)

 

 アキラは己を語らない。・・・怖いのだ。自分のことを知って、離れていくのが。大体の人がそうだった。アキラを怖がって、疑って、離れていったのだ。だから怖い。何も教えない人間を受け入れてくれている人たちから拒絶されるのが。

 

 その恐怖を胸に。日の近い臨海学校に備えた。

 




 この小説の評価に、読みづらいとの指摘がありました。
 作者のわたくしからしても、書きづらい書き方でしたので、今回のことを機に、アンケートを取らせていただきます。
 詳細は活動報告に乗せておりますので、そちらをご覧いただけたらなと思います。
 URLは以下の通りです。ご協力、お願いします。
 https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=223023&uid=164210


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真夏のビーチ

夏。日本の夏は蒸し暑く、体から湧き出る汗はとどまるところを知らない。そんな季節だからこそ、夏の風物詩がある。夏といえば、海だ。

 

「ついにこの日が来てしまったかぁ」

 

 落胆した声を上げる。この声の主はこの日が来ることを待ち望んではいなかった。むしろ来なければいいとさえ思っていた。

 

「なんだアキラ、楽しみじゃないのか?」

 

「うん、あんまり楽しみじゃないんだぁ。はぁ・・・」

 

 海はいい思い出がない。毎回、体のことで問い詰められて、毎回人が離れていく。・・・いや、訂正しよう。毎回じゃなかったな。一度だけ、人が離れ切らなかったことがあったな。

 

「アキラ、もしかして、泳げないのか?」

 

「泳げるよ。まぁ、杞憂で済めばいいんだけど」

 

 部屋の天井を見上げる。何かあるわけじゃないが、それでも見上げずにはいられない。

 

(今度はどんなトラブルに見舞われるんだろ?)

 

 出発はすぐそばまで来ていた。

 

 

 

 

 

 

 結局、両親とも楽しみにしていたらしく、アキラは部屋でおとなしくしておくことはできず、苦肉の策を投じて、浜辺に足をつけた。

 

「夏だなぁ、暑い」

 

 汗はかくが上は色が濃い目の黒のラッシュガード。下は水着の下に、特注の肌色のインナー。絶対にばれてはならない。全身を隠し通す。

 

「アキラ。暑くないのか?」

 

「暑いよ。でも、これがないとダメなんだ」

 

「肌弱いのか?」

 

「う~ん、まぁ、そんなとこかな」

 

 これ以上の追及を避けたいアキラはぼかしながら、誰もいない岩場のほうに歩を進める。

 

「なんなんだ? あいつ」

 

 急にアキラのことが分からなくなる一夏だった。

 

「あれ? アキラは?」

 

 シャルロット一行が現地に到着したころにはアキラはどこにいるかわからなくなっていた。

 

「それがな、暑そうな格好して岩場のほうに行ったんだよ。なんでかは知らないけど」

 

 一夏がさした方角にアキラはいない。しかし、ちゃんと足跡は続いていた。

 

「一夏、行かなくていいの?」

 

「なんかさ、付いて来るなって。背中が語ってた気がしたんだよ」

 

 一夏は逃げるために岩場に移動したアキラのその背中を、拒絶の意思ととらえた。

 

「俺たちさ、アキラのこと、何にも知らないじゃん」

 

 アキラは己を語らない。転入したころからそうだった。何も語らない。しかし、他人の心にはしっかりと、それでいて優しく踏み込んでくる。

 

(アキラのこと、知りたいな)

 

 アキラに褒めてもらおうと選んだ水着。結局感想は聞けなかった。なぜ逃げるのか、今のシャルロットたちにはわからない。

 アキラのとこに向かう間もなく、一夏はセシリアのサンオイル塗りに。シャルロットはアキラの足跡をたどってみた。

 

「アキラ?」

 

「シャルかぁ。脅かさないでよぉ、もぉ」

 

 アキラは一人、岩の上に立っていた。何かに思いをはせる表情のまま、シャルロットに顔を向ける。

 

「どうしたの?」

 

「いや、体、見せるのが怖いなって」

 

「そっか」

 

 掴むものもないのに、空に手を伸ばし続ける。

 

「怖いよ。いつの間にか、世界は僕を置いて時を進めちゃうんだ。それが当たり前のように」

 

 掴めない手を下げることはない。遠くを悲しく見つめるその瞳を、吸い込まれるような瞳を、シャルロットは一生忘れられないだろう。

 

「いつか、いつかでいいからね。アキラの抱えてるもの、僕にも背負わせてよ」

 

 アキラが消えそうな気がして、届くところからいなくなりそうで。声を掛けて存在を確認する。

 

(アキラが消えそうなんて・・・。初めて感じた・・・)

 

「ね、ねぇ「ちょっと待って」・・・どうしたの?」

 

 アキラは海の一点を見つめる。

 

「あれは・・・、まずいっ!」

 

 それだけを残して海に飛び込んだ。水しぶきを立てずにきれいな着水とともに、水泳選手以上の速度で見つめていたある一転に向かった。・・・そこには、足をつっておぼれかけている、鈴音の姿があった。

 

(間に合えっ!)

 

 

 

 

 

 

 

 海というものは、時に人間に牙をむく。しっかりと準備運動してから。なんて話を親から口酸っぱく言われ続けた、なんて方も多いだろう。それは海の脅威から守るための行動だ。しかし、それを怠って海に入っている者たちがいた。

 

 「一夏、あのブイまで競争よ。負けたほうがかき氷おごりね」

 

 鈴音は沖合のブイを目指して泳ぎ始めた。競争すること自体が間違いだったんじゃない。ただ、海に体が慣れていなかった。ただそれだけで、足がこむら返りを起こした。パニックに陥った鈴音。

(浮く、浮けば誰かに助けてもらえる)

 

「助けて、足つってっ!」

 

 何度も何度も、浮いては波に呑まれ、浮いては呑まれ。繰り返しながら助けを求める。

 しかし、頑張って浮こうと心掛けていた鈴音も、とうとう水面に顔を出さなくなった。くらいくらい、海の底にいざなわれる。

 

(助けてっ! 誰かっ!)

 

 沈んでいく体。体には巻き付いていないはずの腕が見える。その腕に恐怖した。

 しかし、誰かが腕を引いてくれた。近くにいたのは一夏だけだったはず・・・。誰が助けてくれたのかも確認できぬまま、そこで鈴音は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 浜では賢明な応急処置が行われていた。鈴音が海に溺れ、それを引き上げ、人工呼吸を行う。胸を10回圧迫し、口元を覆い、2回息を吹きかける。

 

「いちっ、にっ、さんっ、しっ・・・」

 

 数えながら胸を圧迫。のちに息を吹き込む。二回吹き込んだら、また圧迫を始める。

 

「誰かっ! 教員をっ!」

 

 圧迫を掛けながら、教員を呼ぶように周囲に呼びかける。

 

「俺が行ってくるっ!」

 

 一夏が呼びに行った。

 

「アキラ、代わるよっ?」

 

 心肺蘇生はアキラが行っていた。この場に代われるのはライだけ。

 

「まだっ、いけますっ」

 

 汗を流しながら、それでも続ける。鈴音を死なせまいと、必死に。

 

「ライフガード、脱ぐ?」

 

「このままっ、続行しますっ」

 

(はちっ、きゅうっ、じゅうっ)

 

 気道を確保し、息を注ぐ。

 

(戻ってきてっ!)

 

「ふ~っ! ふ~っ!」

 

 まだ、意識を戻すことはない。

 

「いちっ、にっ、さんっ、しっ・・・」

 

 すぐに圧迫を開始。諦めなければ大丈夫。そう言い聞かせながら続ける。

 

「ごぽぉっ! ゲホっゲホっ!」

 

 鈴音が水を吐き出した。

 

「よしっ! 戻ったっ!」

 

 すぐに横にし、背中をさすり、気道を確保する。周りは歓喜の声をあげる。鈴音の回復を心から喜んだ。

 

「どうしたっ!」

 

 水を吐き出してすぐ、千冬と真耶が駆けつけてくれた。

 

「鈴音さんをお願いします」

 

 手が触れて完全に選手交代するまで、さすり続ける。優しく、壊れぬように。

 

「完全に意識が戻ったら保健室にお願いします。一夏、あとは任せたよ」

 

 アキラは、すぐにその場を立ち去るとする。

 

「待てよアキラ、どうしてすぐ離れるんだ?」

 

「・・・僕は疲れたから、日陰に行きたいだけだよ」

 

「そんなことないだろ? 海に来てから、アキラ変だぞ?」

 

(変・・・か)

 

 人目を避けるように一人になろうとする。怖い。この日常を失うのが。

 

「別にいつも通りだよ。じゃあ、あとよろしくね」

 

 そう言って離れていった。

 

「一夏。アキラにもいろいろあるんだよ」

 

 ライが声を掛けてくれた。それでも一夏には納得できない。今までのアキラとは違うのだ。優しくて、気さくで、周りを気にするアキラと。

 

「ライ、あいつについて、何か知ってることないか?」

 

 ライなら、アキラが自分たちと違う態度をとる彼なら、何か知っているのではないか。そう思った。しかし、そう聞かれるとわかっていたと言わんばかりに。

 

「それは、僕が話すことじゃないよ。アキラが話したくなったら話すんだ。僕が手助けできることは何もないよ」

 

 ライの瞳は、悲しげに、アキラの背中をとらえていた。




 はい、本当なら昨日投稿予定だった小説を翌日にあげる白銀マークです。
 いやですね、自宅の通信環境が狂っちゃいまして、インターネットにつながらなくてですね。書き上げるのに時間がかかりました。
 それと同時にですね、今後、今回のような書き方をしていきたいと思います。面白くなかったら「面白くない」とドストレートに来てください、私、固いハートで受け止めますっ!(・・・パリーン、白銀マークのハートは砕けてしまった)
 書き方の改善等を指摘してくださってもかまいません。だれか、だれか私を助けてェっ!


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過去に振り回される者

 それから日は沈み、アキラは崖の上に立つ。服装は今までとは打って変わって、膝上までの水着に、フード付きの海用に卸した半袖のパーカーだ。

 

「アキラ」

 

 振り向くと、そこにはライがいた。

 

「父上・・・」

 

「みんなにその姿を見せるのは、怖いかい?」

 

 ライは怒ることもなく、優しく問いかける。過去に自分がそうであったがために、アキラを気にしているのだ。

 

「・・・はい。怖いです」

 

 アキラは夕日に顔を向ける。怖い。また、日常を失うのが。

 

「アキラ。僕もね、君みたいに自分のことで悩んだ時期があったよ」

 

 アキラの隣に立ち、自分を語る。

 

「僕はね。最初、記憶喪失の状態で、アッシュフォード学園に入ったんだ」

 

「父上が、ですか?」

 

「そう。記憶を取り戻すためってね。その時に手伝ってくれてのがカレンだったんだ」

 

「母上が?」

 

「最初は生徒会長命令だったんだけどね。そこから黒の騎士団にいろいろあって入ったんだ」

 

 ライは昔を懐かしむように語る。

 

「黒の騎士団で、神根島に行った時があって。その時に記憶が戻ったんだ」

 

 怖かった。ライはそうアキラに伝えた。

 

「カレンに話すのも、ゼロ、もといルルーシュにも。僕の元からみんないなくなるんじゃないか。そう思った」

 

 だから、話すのに躊躇したし、このまま死んでしまおうかとも思った。笑いながら紡ぐ。

 

「でもね、僕の過去を知っても、ルルーシュもカレンも離れていかなかったんだ」

 

 嬉しそうに語る。今のアキラとは、逃げているアキラとは違う道を歩んだ先輩として。

 

「うれしかった。すごくうれしかったんだ。僕を認めて、そのうえで受け入れてくれたんだ」

 

(だから、今の僕には世界がきれいに”色”づいて見えるよ)

 

「そう・・・ですか」

 

「アキラ」

 

「はい」

 

「君には、世界が何色に見えている?」

 

 真剣に、でも、追い詰めすぎないように。アキラの見えている”色”を訪ねる。

 

「今は・・・そうですね、父上、母上がいるから、色づいて見えてます。でも、二人のいない世界は、やっぱり、灰色です」

 

「そっか。でもいつか、きっと色づく。それに気づかせてくれるのが誰かは分からない。けど、いつかきっと、色づいて見える日が来るよ」

 

 だって、世界はこんなにもきれいで、色鮮やかに写ってるんだから。・・・昔、カレンに投げかけた言葉を思い出した。

 

「そう、ですね・・・。逃げてばかりでは・・・始まりませんから」

 

(そうだよ。迷っていいんだ。人生に、生きることに正解も不正解もないんだよ。それを決めるのは自分自身なんだから)

 

 これから、少なくとも、この臨海学校中は、アキラは己のあり方を悩むだろう。けど、それでいいんだと、ライは優しい笑みを浮かべながら、アキラの頭をなでる。夕日は二人を優しく、包み込む。

 

「・・・・・・」

 

 誰にもわからない領域。シャルロットはその二人を、会話は聞こえないながらも、遠くから眺めていた。この光景を理解できるのは、カレンか千冬ぐらいだろう。

 声を掛けれない。声を掛けてはならない。この二人の邪魔をしてはいけない。

 

(・・・悔しいな。僕じゃ、今のアキラを助けることはできないんだ)

 

 アキラを助けることができるのは、きっと、ライかカレンなのだろう。クラスメイトじゃ、アキラは救えない。

 

「二人とも、何してるの?」

 

 だから、努めて明るく、いつも通り声を掛けた。

 

「あ、シャルロット。ごめんね、アキラと話し込んじゃったんだ」

 

 ライは気づいた。シャルロットの行動の意図に。だからそれに乗っかった。

 

(後で、カレンにフォローを頼もう)

 

「アキラのこと、織斑先生が探してたよ?」

 

「わかった、ありがと、シャル」

 

 難しい顔をしたまま、宿泊施設に戻っていく。その背中を見送る。

 

「シャルロット、ごめんね」

 

「いいんだよ。今の僕に何もできないことぐらい、本当は分かってたんだ」

 

 悲しそうな笑顔を浮かべたまま、ライを見る。

 

「今はあんな状態だけどさ。アキラのこと、嫌いにならないでほしいな。彼にも彼なりの事情があるんだよ」

 

「嫌いになんてなれないよ。僕を助けてくれたんだ、僕に居場所をくれたんだ。だから、嫌いになんて、なれないよ」

 

(アキラ、君はそばにいようとしてくれる子を悲しませていることにすら、今は気づけないんだろう?)

 

「僕たちも戻ろうか」

 

「うん・・・」

 

 悲しそうな表情をしたままのシャルロットと、ライは宿泊施設に戻った。 



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傷は影を落とす

 

 旅館内でいろいろ済ませた後、夕食になった。

 

「アキラは食事後、私のもとにこい」

 

「わかりました」

 

 実は、鈴音を助けたあの一件、アキラはまだ、千冬に報告に行っていなかった。

 

(報連相すら忘れる始末だなんて、僕らしくない)

 

 隣にはライがいて、一番端の席に座っているためライ以外に隣はいない。今までなら、少しさびしさを感じたりしたのだろうが、今は違う。自分のことで手いっぱいで、周りを気にする余裕さえない。食事をとる姿も、どこか哀愁漂うものとなっているだろう。しかし、今のアキラにはそれすらわからない。

 

「四十万くん、何かやっちゃったのかな?」

 

 などと、よからぬことをしているのではないお勘ぐる声もあった。ただ、実際にどんなことか知っている人はいない。それが本当かどうかも、わからない状況だった。

 

「アキラ、つらいなら代ろうか?」

 

 考えすぎているアキラを気遣う。

 

「いえ、僕が解決しなければならないんです。だって、僕のことなんだから」

 

 それでも表情はさえることない。ただひたすらに、悩み、苦悩しながら、答えを探す。結局、夕食を取り終えても、結果が出ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 廊下を部屋を仕切るものは襖だ。ノックの音も、普段とは違う、かすんだ音が鳴った。

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 アキラは制服姿で千冬のもとを訪れた。

 

「何があったか、答えろ」

 

「凰さんが沖合で急に暴れ始めたので、危険を感じて向かったところ、おぼれていました」

 

「そうじゃない」

 

 千冬は鋭い目つきで答えた。

 

「どうしてお前だけ。終始つらそうなのだ?」

 

「・・・気づいてましたか」

 

「当たり前だ」

 

(この人に、見せてもいいの?)

 

 相手はアキラの過去を知っている。しかし、それすらもかいつまんで、必要とした内容だけだった。あの話は、先に行くにつれて、多くの悲しみを呼ぶ。

 

「・・・前に、僕の過去をお話ししましたよね?」 

 

「あぁ」

 

「あれは、僕が体験した、ほんの一部なんです。だから、あの話だけで今の僕の状態がわかるのは、父上ただ一人でした」

 

 制服のブレザーを脱ぎ、ネクタイを外し、Yシャツを脱ぐ。

 

「・・・話すかどうか迷いましたが、これが、僕の悩みの原因です」

 

 胸元には十字の大きな古傷、それは背中にも同様にあり、腕や足にも古傷が少し。

 

「これは僕が忘れないためにつけてもらった傷です」

 

 胸の刺し傷は友人に。背中の傷は養母に。ほかの傷はすべて家族に。

 

「僕の罪の欠片です。これがあるから、僕はずっと逃げてました」

 

 この傷たちに嬉しさこそあれど、悲しさなどない。これはアキラをアキラたらしめる傷だ。これを否定しようものなら、容赦なく切り捨てるだけの覚悟すらあるのだろう。

 

「お前と言うやつは、つくづく救われないのだな」

 

 曲げれない生き方。救われない生き方。きっと、救われるときは、誰かがその傷ごと、アキラを包み込めるだけの度胸のある人間なのだろう。

 

「救われてますよ、十分。たぶん、今の僕なら、みんなのために、命を捨てても誰かを恨みはしないでしょう。僕はそういう人間なんです」

 

 すがすがしい顔で、それが当たり前であると、告げていた。千冬はそれを否定することも肯定することもしない。

 

「なるほどな・・・。お前と言う人間が、少しわかった気がした。それは、蒼月や紅月でも、解決はできないんだろうな」

 

 アキラには”それ”が何を指すのか分かった。だから、それ以上何も言わない。

 

「一夏、聞いていたんだろう? 出てこい」

 

 予想だにしていないセリフ。アキラはハッと息をのみ、襖の方を見やる。そこには罰悪そうな顔をした一夏がいた。

 

「いや、部屋に戻ってきたらな。ぬ、盗み聞きするつもりはなかったんだ」

 

 必死に弁解をするがアキラには届いていない。アキラの眼にはギアス独特の紋章が浮き出たり、沈んだりしていた。

 

「君はどこまで理解した?」

 

「あ、アキラ?」

 

「質問に答えてよ、一夏。何を見て、どこまで理解したの?」

 

 アキラは悩む、何も話さなかった自分を、心配してくれた彼を、ギアスの魔の手に掛けることが正しいことなのか?と。

 

「その傷に、何か特別な思いがあることだけだ。そのほかは分からない。たぶん、今の俺では、その話題に踏み込むことができても、そのあとがないのは分かっているつもりだ」

 

 真剣に語ってくれた。

 

(話したほうが・・・いや、拒絶されたくない。だったらこのまま・・・。でもいずれは知られてしまうかもしれない)

 

 アキラはまだ、恐怖のはざまに埋もれている。アキラの意識が変わらない限り、アキラは逃げ続けるだろう。意識を変えてくれる何かがあるとすれば、それは、きっと・・・。

 アキラが、背中を預けれる、と思ったとき、なのだろう。




 書き方、ガラッと変えましたけど、読みづらくないですか? どうも、白銀マークです。
 アキラ君の傷が一夏君にばれてしまいましたねぇ。今後どうなっちゃうんでしょうか!?
 要望ありましたら依然投稿したものを書き直して再投稿させていただきますが、どうでしょうか?


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狙うわ福音

 次の朝、いつも通り日が昇る前。

 

「朝は早いなぁ」

 

 結局、悩みすぎて、一睡もできなかった。三日ぐらい寝なくても活動できるが、気分が落ち込みやすくなる。

 

「ん?」

 

(あのうさ耳、どこかで見た気がするなぁ)

 

「あ、アッキー君だぁっ!」

 

「誰がアッキーですか。まったく、朝から仕込みですか? 束さん」

 

「そうだよぉ」

 

「人騒がせな」

 

 地面に束は自分の耳と同じものを埋めていく。この人はこういうことが好きなのだ。たぶん。

 

「それよりさ、アッキー君のISのデータ、取らせてくれないかな?」

 

「どーぞ」

 

 アキラは束に紫星の起動キーを渡す。

 

「ふ~ん、アッキー君、この機体にこんなもの組み込んでたんだ」

 

 束がSINKAIについて問う。それをアキラは首を横に振った。

 

「残念ながら。僕はコアにこんなデータ入れてないですよ。第一、輻射波動機構のせいでスロット、かなり埋めてるんですよ? こんな代物、どうやって組み込むんですか」

 

「それもそっかぁ、ごめんねぇ」

 

「でも、おかしいですよね。確かに僕も設計に携わりましたけど、ISにこんなもの、要らないんですよねぇ」

 

「うん、アッキー君のKMFのデータを見る限り、人間の体と機体を神経接続なんて代物だからねぇ。ISはそもそもそんなものいらないんだけどなぁ」

 

 キーボードをたたきながら、ブラックボックスを開けようとする。

 

「・・・あれ?」

 

「どうかしました?」

 

「アクセスを打ち切られちゃった」

 

「・・・機体が意思を持っている・・・?」

 

「まぁ、ブラックボックスのアクセスを切られただけだから、データはもらうよぉ」

 

 ISが設計者のアクセスを拒絶、強制切断。この機械は意思すら持つというのか。可能性の獣と化した自機を保存する起動キーを見ながら、アキラは今後、どうするか考えた。

 

 

 

 

 

 

 アキラはのちに部屋に戻り、一人、水着に着替える。カバンの中にはISスーツとなったKMFスーツと制服、真刀を入れ、浜に向かった。

 心が落ち着かず、体を動かさずにはいられなかった。

 

「だめだ、刃にも迷いが出ちゃう」

 

 刃は人の心を映す鏡。心の奥の方まで忠実に映す。悩み、戸惑う僕を、刃は示した。

 

「・・・僕は一体何なんだろう」

 

 心の声が漏れる。家族を殺し、そのあとも殺し続けた。そんな人間は、一体何なんだろう。何になれると言うのだろう。誰が認めてくれるというのだろう。

 

「守るために強くなるって、決めたのに。弱いまんまだな、僕は」

 

 それでも朝日はアキラを照らす。

 

 

 

 

 

 裏では専用機持ちが集められ、とあるイベントが開催されつつあった。

 

「よし、専用機持ちは全員集まったな」

 

 千冬の命令の元、とある河原に集められた。

 

「ちょっと待ってください、箒は専用機を持っていないでしょう? それにアキラもいませんし」

 

「四十万は呼んでいない。代わりと言っては何だが、蒼月と紅月を呼んでいる」

 

「箒の専用機は?」

 

「そ、それは・・・」

 

「それに付いては説明しよう実はだな・・・「やぁっほぉぉぉぉぉ」・・・」

 

 猛スピードで崖を下り、華麗なジャンプを決めて、うさ耳をつけた人物がきた。

 

「ちぃちゃぁんっ!」

 

 笑顔で千冬に突っ込んでいく。しかし、器用に頭をつかみ、腕分の距離を作る。

 

「やあやあ、会いたかったよぉちいちゃん、さぁハグハグしよう。愛を確かめよう「五月蠅いぞ、束」」

 

「相変わらず容赦のないアイアンクローだねぇ」

 

 慣れているのか千冬のアイアンクローを受けてなお突っ込もうとし、挙句の果てにはその腕からさらっと逃げ出す始末である。

 

「じゃじゃぁん、やぁっ!」

 

「どうも」

 

 岩場に姿を隠していた箒を難なく見つける。そこら辺も何かあるのだろうと勘繰りたくなる精度だ。

 

「久しぶりだねぇ、こうして会うのは何年ぶりかなぁ?」

 

 嬉しそうにまじまじと箒を見る束。ライは慣れているが、ほかはドン引きである。

 

「大きくなったねぇ、箒ちゃんっ! 特におっぱいが・・・」

 

 言い切る間もなく木刀で一閃。血を垂らしながら空に舞い上がる。まるで漫画のようだ。

 

「殴りますよ?」

 

 もう殴っている、というのはその場にいる全員が思っただろう。

 

「殴ってから言ったぁ、箒ちゃんひどぉい」

 

 頭を押さえる。あまり委託はなさそうな反応だが、受けてみたいとは思わない。

 

「ねぇ、いっくん、ライくん、ひどいよねぇ?」

 

「は、はぁ」

 

「スキンシップが過度なんですよ、あなたは」

 

 ライと一夏とではまったく違う反応を見せる。ライは子供をとがめる父を連想させるようだった。

 

「おい束、自己紹介ぐらいしろ」

 

 束を知っているのは千冬、一夏、ライぐらいだ。ほかはポカンと、誰ですか状態だ。

 

「えぇ~、めんどくさいなぁ」

 

 めんどくさいながらもやる様子だ。

 

「わたしが天才の束さんだよぉ、はろぉ~、おわりぃ~」

 

 皆一様に反応は異なるがそれぞれ篠ノ之束、という人物を知っているようだ。

 

「ふっふっふぅ、さぁ、大空をご覧あれっ!」

 

 空からはひし形の黒い物体が落下してくる。着地には当然砂ぼこりが舞うわけで。

 視界が少し悪くなった。

 

「じゃじゃぁん」

 

 ひし形状のコーティングを解除、中からはカレンと同じ、深紅の機体が。

 

「これぞ箒ちゃん専用機こと、紅椿ぃ。全スペックが基本的に現行ISを上回る、束さんお手製だよぉ。なんたって紅椿は天才束さんが作った、第四世代型ISなんだよぉ」

 

 第四世代。それはやっと第三世代の試作機を作り上げた各国からしてみれば異常なのだ。

 

「各国で第三世代型の試作機ができたばかりの段階ですのよ?」

 

「なのにもう・・・」

 

「そこはほれぇ、天才束さんだから」

 

 まんざらでもない顔をしている。やはり、すごい人だとライは思った。

 

「さぁ箒ちゃん。いまからフィッティングとパーソナライズを始めようかぁ」

 

 

 

 

 

 

「な、なにっ!?」

 

 異常な音。いや、実際、人には聞くことはできないのだが、風がざわついているからわかった。このざわつき方は異常だ。大体こういう時は良くないことが起こる。紫星を起動し、索敵、拡大観測する。

 

「あれは・・・」

 

(資料で見たことが・・・。確か、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)

 

 アキラの知るデータなら、現在、試験稼働中のはずだ。パイロットの確認のために拡大解析を行う。

 

(パイロットがいる!?)

 

 アキラは機体を煌めかせ、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に向かった。

 

 

 

 

 

 

 旅館内では専用機持ちを集め、作戦会議が行われていた。

 

「なるほどね」

 

 人と通りの事情を確認したライは既に脳内で戦術の立案を行っていた。

 

「蒼月、解決策はあるか?」

 

「機体のスペックデータ、それて、現在の飛行速度が知りたいです。そこから逆算して、罠を貼ります」

 

「わ、罠?」

 

「そう。現時点で、この海域通貨が50分を切っているのなら、一回に掛けるしかない。だったら、緻密な罠を貼ればいいはずだ」

 

 ライの説明に異論ある者はいなかった。

 

「ライ、それだと、一撃に掛けるしかなくなるわよね?」

 

「その通りだよ、カレン。僕とカレン、それから一夏の機体で今回の締めを担当するよ」

 

「え? 俺も?」

 

「一夏の零落白夜、あれはかなり威力のあるものだ。現在、このメンバーだと、僕とカレンと同等ぐらいの火力があるよ」

 

「蒼月、これが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のスペック、並びに現行速度だ」

 

 資料から読み取れた情報は、さらに異常なものだった。

 

(これは・・・僕予想をはるかに超えるな。急いだほうがよさそうだ)

 

「僕とカレンはセカンドシフトするよ。束さん、できますか?」

 

「あ、ばれてた?」

 

 天井から束が現れる。

 

「できるけどぉ、いっくんはどうやって運ぶのぉ?」

 

「適任がいるじゃないですか」

 

 ライの視線の先には箒。

 

「束さんが作ったんですから、どうせ隠し種、あるんでしょ?」

 

「その通りだよぉ。じゃあ、さっそく、調整に入ろっかぁ」

 

 これから、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を止める、IS史に乗る作戦が始まる。




 ちょっと長くなりました。どうも、白銀マークです。
 次回から銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)戦。アキラ君、作戦を知らずに先行しちゃいましたが、これがどれだけ今後を狂わせていくのでしょうか?
 今後ともどうぞ良しなに。


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福音と憎しみと怒り

 森の渓流、そこで紅椿と、紅蓮、月下の調整が行われていた。

 

「紅蓮と月下はもうシフトできるよぉ」

 

「ありがとうございます。仕事が早いですねぇ」

 

「天才束さんだからねぇ。それにしても、この紅蓮も面白いISだねぇ。月下、紫星、両方と同じ特徴があるよぉ」

 

「月下と紫星が似ているんですよ。彼女の機体の方がKMFとしても、先行製作、および配備がされてますから」

 

「へぇ、それはますます興味があるよぉ。今度お話、聞かせてもらおぉっと」

 

「カレンを困らせないでくださいよ? 僕はセカンドシフトしてきます」

 

 ライとカレンはセカンドシフトに入った。

 

「カレン」

 

「どうしたの?」

 

「また君と、この機体で飛べるよ」

 

 機体には羽が。頭部も機体造形も、月下は紅蓮に近づいた。

 

「そうね・・・。前は敵同士だったけど」

 

 紅蓮にも羽が。腕は今までとは違い、肘から先が今までと同じで、腕は紅蓮独特ものになった。

 

「今の僕らは双璧だよ、カレン。もう君を撃つなんてありえない」

 

 二人の思いに呼応するように、機体の羽をはばたかせる。

 

「そうねっ! また、飛びましょうっ!」

 

 紅蓮の八枚の羽は紅く輝き、頭部も今までとは違う。呂号乙型特攻斬は刃先が紅く輝く。

 月下には十枚の羽が蒼く輝き、制動刃吶喊衝角刀は刃を紅く発光させる。

 

「行きましょう、紅蓮聖天八極式(ぐれんせいてんはっきょくしき)

 

 紅蓮可翔式から紅蓮聖天八極式(ぐれんせいてんはっきょくしき)に変わった。

 

「行こうか、白蓮新凪十極式(びゃくれんしんなぐじっきょくしき)

 

 月下可翔式から、白蓮新凪十極式(びゃくれんしんなぐじっきょくしき)に。

 

「ライとカレンのIS、すごく似た形になったね」

 

 シャルロットはそれを見てこぼす。

 

「双璧っぽいでしょ?」

 

「うん」

 

 色違いで、左右線対称のようなシルエット。それは、二人を象徴する機体たちとなった。

 

「束さん、そっちは?」

 

「終わったよぉ」

 

「じゃあ、行こうか。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)停止作戦、開始っ!」

 

 四機は罠を貼る地点まで、最速で機体を飛ばした。

 

「お、織斑先生、大変ですっ!」

 

「どうした?」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に接触した機体あり。機体は紫星ですっ!」

 

「なにっ!?」

 

 ライが立案した計画は大幅に変更を余儀なくされた。

 

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

 アキラは銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)相手に苦戦を強いられていた。無人でない、パイロットのいる機体。しかしそのパイロットがアキラに攻撃をさせない。

 

「あれ、そんなに弱かったっけ? 守るんじゃなかったの?」

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)銀の鐘(シルバー・ベル)を全門使い、巧みに紫星を追い詰める。

 

「その機体から降りてよっ! 僕は君を撃ちたくないんだっ!」

 

 大型飛燕剣牙で砲門をそらす。

 

「そんな甘いことをっ! あたしを殺したくせにっ!」

 

 どんどん、砲撃の制度が上がる。紫星はとっくの昔に悲鳴を上げていた。急制動と急加速のし過ぎに機体が追い付けないのだ。

 しかし、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)はお構いなしに打ち続ける。

 

「あんたなんかが生まれてきたのが間違いだったのよっ!」

 

 砲撃はさらに厳しく、機体を掠める。

 

(くっ! シールドがどんどん減っていくっ!)

 

「あんたのせいでっ! あたしの人生は、家族はっ!」

 

(そうだ。僕は君の家族を、君の人生を壊した。僕が守れなかったから)

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は叫ぶ。とめどない怒りの方向を、悲しみを、憎しみを叫ぶ。

 

「死んじゃえっ!」

 

 銀の鐘(シルバー・ベル)はアキラの機体をとらえ、パイロットごと、その機体を蝕んだ。

 

 

 

 

 

「織斑先生、目標を確認しました」

 

『了解した、そのまま接触してくれ。そして、新しい情報だ、福音に先に接触した機体がある。紫星だ』

 

「なにっ!」

 

『すでに撃ち落されているという情報も入っている。福音は現在、紫星を追跡中だそうだ』

 

「ロックがアキラに向いているというのかっ!」

 

「一夏。大丈夫だ。彼のことだ、大丈夫だよ」

 

 そう言うが、アキラのことが心配で、居ても立っても居られない。

 

「急ごう」

 

「了解した」

 

 三機はさらに加速し、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の方に向かった。

 

 

 

 

 

 

「目標に接触っ! カレンっ!」

 

「えぇっ!」

 

 輻射波動機構内蔵の腕が腕から離れ、、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に向かう。腕はしっかりと銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)をつかんだ。

 

「はじけろっ!」

 

 輻射波動を起動させる。しかし、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)には傷一つ、付けることができなかった。

 

「っ!? 作戦変更、一夏っ!」

 

 零落白夜を発動させ、切りかかるが、一刀収縮の一撃は虚しくも空を切った。

 

「なにっ!」

 

「予想より対応が早いっ! 本部、専用機を全機送ってくださいっ!」

 

『わかった。全機出撃っ!』

 

「到着まで持ちこたえるよっ!」

 

「「「了解っ!」」」」

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)はロックを変えた。

 

「お前たちは、お前たちは、私の邪魔をするのかぁっ!」

 

 全砲門が開き、撃ち落しにかかる。

 

「僕らにヘイトが向いた、逃げ回るだけでいい。落とされるないでねっ!」

 

 砲撃はやむことはない。怒りの刃はとなった砲撃をかいくぐるのは熾烈を極めた。異常なまでの精度を誇り徐々に、シールドを減らしていく。

 

「各機、シールド残量報告っ! しっかりとっ!」

 

「わたしはまだいけるわ」

 

「わたしもまだいけるぞ」

 

「俺もまだ大丈夫だ」

 

「了解っ!」

 

 まだ逃げれる。まだ死なない。

 

「到着、まだっ!?」

 

『もう少しだ、耐えろっ!』

 

「くそっ! カレン、仕掛けるよっ!」

 

「えぇっ!」

 

 戦場は、まだまだ熾烈を極めた。

 

 

 




 あぁあ、先に接触したアキラ君、撃ち落されましたねぇ。
 そろそろ、最終回が近づいてきまして、私、感極まっております。
 全話公開しましたら、ライとカレン、そしてアキラの機体レビュー、設定を公開しますので、どうぞ良しなに。


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目覚めなどない

 風の凪ぐ、一面水たまりのような、薄い水の張る、霧の濃い水原。そこにアキラは寝そべっていた。

 

「あれ? ・・・ここは?」

 

 体を起こす。服は・・・濡れていない。

 

「やっと起きたか」

 

 目の前には懐かしい、しかしもう二度と会うことのできない人物がたっていた。

 

「・・・どう・・・して? だって・・・僕は君を・・・」

 

「あぁ、俺は生きてないぜ。今はちゃっかり、天国でのんびりしてるわ」

 

 そう言い、アキラの隣に腰を下ろす。

 

「お前、なんでここにいんの?」

 

「・・・僕にもわからないな。それは」

 

「そっか。じゃあ、少しだけ話をしようぜ」

 

 

 

 

 

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)はまだ健全だ。

 

「遅れましたわ。状況は?」

 

「セシリア、回避ッ」

 

 セシリアが回避行動をとると、元居た場所を、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の砲撃が通り過ぎた。

 

「お前たちも、あたしの邪魔をするのかぁっ!」

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は目に見えるもの、すべてを攻撃する。

 

「全員、生きることを第一に戦闘を継続っ!」

 

 ライの指揮の元、まだ死傷者は出ていないが、それも時間の問題だ。

 

「現在、1700。次、1720に仕掛けるよ、全員参加だ」

 

「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」

 

(アキラっ! 今君はどうなってるっ?)

 

 そんな思いも、この一瞬だけ。すぐに戦闘に意識を向けないといけなかった。でなければ死んでしまう。

 

 

 

 

 

 

「お前、そういうの好きだったよなぁ」

 

「そうだね。懐かしいよ」

 

 アキラはまだ水原の中だった。

 

「こんなとこで、のんびりしてていいのか?」

 

「わかんない。今の僕が、死んでるのか、生きてるのかすらわからない」

 

「なるほどな。お前らしいぜ」

 

「・・・君はさ、後悔、してない?」

 

「いや、そんなもん、みじんもねぇよ。俺は、お前に打たれて、よかったと思ってるぜ」

 

 そういう彼の顔は晴れやかだった。アキラは驚く。

 

「でも、僕は友人である君を・・・」

 

「気にすんなや。俺は少なくとも、死ぬなら、撃ち殺されるならお前にって、思ってたんだぜ?」

 

 だから、お前に殺してもらえて、お前に看取ってもらえて、うれしかったぜ。

 ニシシと笑顔で、後悔なんてみじんもない笑顔で。

 

「そっか・・・」

 

「お前は、俺にいろいろ話してくれたよな」

 

「うん。怖かったけど、でも、話したかったんだ」

 

「うれしかったぜ、お前、いっつも自分のことになると逃げるからな」

 

「怖いんだよ? 嫌われたらって、離れて行ったらって、そう思ったら、言うのが怖くなるんだ」

 

「わかってたけどな。でも、お前の悪いとこだぜ? お前の周りのやつらはそんなに信用ならなかったか?」

 

「・・・わからない」

 

「だろうな。お前はお前自身のことを否定してるからな」

 

 彼は空を見上げる。

 

「お前はさ、そろそろ、自分を認めてもいいんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

「くっ! 大丈夫、みんな?」

 

「そろそろきついぜ」

 

 全員、ボロボロだ。

 

「指令、撤退します」

 

『許可する。四十万を連れて、戻ってこい』

 

「「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」

 

 ライは近くのむき出しの岩の上に墜落しているアキラを回収し、一度旅館に戻った。・・・銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は、追ってはこなかった。

 

 

 

 

 

 戦場から戻ってきた。ISは早急に修理を急がせ、全員休息をとる。アキラは現在、応急処置を施され、床に臥せている。

 

「アキラの容態は?」

 

 ライは息子の状態が気になって仕方がない。アキラの受胎を確認したばかりの千冬に尋ねる。

 

「ひどいものだ。全身傷だらけでな。生きているのが不思議なレベルだ」

 

「そうですか・・・」

 

「あいつ、なんで一人で・・・」

 

「わかんない。わかんないよ」

 

 皆一様に混乱するだけだ。なぜ一人で、なぜ・・・。そう思うと、アキラのことを何も知らないがために、全然考察が進まない。

 

「ねぇ、ライ」

 

「わかってる。言わなきゃ、いけないんだろうね」

 

 二人は知っている。だから、言うか言わぬべきか、迷う。

 

「ライ、アキラについて、何か知ってるのか?」

 

 一夏は気づいた。気づいてしまった。ならばライがとる道は一つしかない。

 

「知ってるよ、彼のこと」

 

 カレン以外の専用機持ち全員の顔が驚きを表し、ライを見る。

 

「なら、教えてくれ。あいつは一体何者なんだ?」

 

「それを知って、一夏はどうするの?」

 

「え?」

 

「みんなもだよ。今ここで僕から彼のことを聞き出して、どうするの?」

 

 ライは天秤にかける。ここでアキラに恨まれるかどうかを。

 

「どうするって・・・」

 

「そんな気持ちで知ろうとするのなら、彼に失礼だ」

 

 あえて、きつく。あえて、恨まれるように。言の葉で人を傷つけるように。

 

「求めるなら、それ相応の覚悟が必要だよ。僕の友人の受け売りの言葉なんだけど、撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけ。ほんとその通りだと思う」

 

 そう言い残し、ライは息子の元に向かった。

 

「ごめんね。ライがああいう言い方するのは、アキラのことを思っているからなの。だから、ごめんね」

 

 カレンも、ライの後を追いかけた。ほかの人は、ただ、悔しそうに、悲しそうにするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「認める?」

 

「おうよ。いい加減、自分を否定して生きなくてもいいんじゃねえか?」

 

「それは・・・たぶん、一生かけても、僕にはできないよ」

 

「なんでだよ?」

 

「それはね。僕がいまだにやり直したいって、そう思ってるからなんだ。あの時、ギアスがかかる前に、何かできることがあったんじゃないかって」

 

「それは、俺との出会いすら否定してるぞ?」

 

「・・・そうなの?」

 

「お前がそんな現実だったから、俺はお前と出会えたし、お前と友達になれた、だからだ」

 

 

 

 

 

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)、接近してきますっ!」

 

 今まで近づいてこなかった。なぜかは分からないが、いまさらになって接近してきたのだ。

 

「整備状況は!?」

 

「全機、出せますっ!」

 

「指揮権を蒼月に譲渡するっ! 仕留めてこいっ!」

 

「了解っ! 全機発進、迎撃するよっ!」

 

「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」

 

 大空は悪雲が立ち込める。




 こっからが難しいぞぉ、どもぉ白銀マークです。
 さてさて、アニメ本編と違い、今回、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)にパイロットがおります。誰かな?


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銀の王子は戦場に舞い戻る

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)はいまだにセカンドシフトすらできていない。しかし、その状態で第四世代含めた第三世代以上のIS八機を覆いに上回るほどの性能を誇っていた。

 

「まずいな・・・」

 

 ライは前線を貼りながら危険を感じている。僚機はなし。ほか七機は全機撃墜された。今のところ旅館には一切弾は当たっていないが、それも時間の問題だろう。ライのISもシールドがそろそろ底をつく。

 

「各機、応答せよっ!」

 

 ライは銀の副音(シルバリオ・ゴスペル)に対し高速軌道で攻撃を当てながら一撃離脱戦法で確実に被弾を減らしつつダメージを与えていく。しかし、銀の副音(シルバリオ・ゴスペル)は変化一つない。

 

「指令部、これ以上はっ!」

 

『撤退命令は出せない。戦闘を継続しろ』

 

「・・・了解」

 

 なぜだ、なぜ本部から撤退命令が出ないのだ。それを考えても、今のライには答えを導き出すことはできない。

 

【力が欲しいか?】

 

 ライに機体が語り掛ける。それが幻聴であると理解しても、手を伸ばさずにはいられなかった。

 

「もう一度、もう一度だけ、力を貸してくれっ!」

 

 白蓮は己の翼をより一層広げ、より緻密で正確な空中での飛行を可能とした。ライの想いに、機体すら答える。それはISになる以前から、ずっと愛馬として駆け抜けてきた、パイロットへの愛情だった。

 

「まだだっ! まだまだこれからだっ!」

 

 悪あがきといわんばかりに機体を酷使し、目標に向かって飛翔する。

 

 

 

 

 

 

 アキラはまだ、霧深い水原に留まっていた。

「そういえばさ、お前の機体、紫星、だっけ? あいつの起動キーに俺、実はちょっとした細工してんだ」

 

「細工?」

 

「おう。俺の機体、Rリヴォルノに積んでた人工知能、移植してんだわ」

 

「えぇっ!」

 

「だからよ、お前のこと、ずっと、死んでも守ってきたんだぜ? 約束だったからな」

 

 もう会えないのに、悲しいセリフを残す。

 

「どうしてそんな悲しそうな顔して言うんだよ?」

 

「もう時間だ。やっぱり、お前は死んでなかったんだ。まだ生きてるんだ」

 

 彼の体が薄くなっていく。足元からゆっくり、そこにいなかったことにされようとしている。

 

「君、体がっ!?」

 

「俺は時間だ。そろそろ戻んなきゃいけねぇ。お前もだ、お前ももっといたところに戻んなきゃいけねぇ」

 

 だからよ・・・。そう置いてもう半分消えた体でアキラの背中を押す。

 

「お前はまだ、やることがいっぱいあんだろ? それ片付けてからさ、一緒に酒でも飲もうぜ」

 

 じゃあな。そう言って笑顔で帰っていった。彼のいた場所を見つめる。

 

「ありがとう、レイ。僕も行くよ、みんなが待ってる」

 

 彼のおかげで霧が晴れた。晴れたから見える、鳥居が一つ見える。アキラは直感的にそれをくぐらなければならないと理解した。

 歩を進め、この、懐かしい世界に別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 外から爆撃音がする。どうやら戦闘中のようだ。

 

「行かなきゃ」

 

 体に激痛が走り、動くなと動きを制限してくる。それでも、行かなければならない。行かなければきっと後悔する。それが今のアキラを動かす原動力だった。

 向かう先は指令室となっている部屋。ノックもせずに襖を開ける。

 

「誰だっ! ここは立ち入り禁止だ、と・・・」

 

「織斑先生、現状は? 誰が何と戦闘中ですか?」

 

 千冬は、言葉がでなかった。傷だらけの少年が、目の前にいたからだ。常人であれば動くことすらままならない体で、立っていたからだ。

 

「僕も出ます」

 

「ダメだ、許可できん」

 

 今、この傷だらけの少年は戦闘に参加しようとする。何がそこまで駆り立てているのか、誰にもわからない。ただただ、今は止めることしかできない。

 

「戦闘が起こっているのなら、手は多い方がいいでしょう?」

 

「今のお前では足手まといだ」

 

「けど、的になることはできる」

 

「死ぬ気かっ!」

 

「このぐらいでは死ねませんよ」

 

 思いと思いが交錯し、溝を作る。

 

「・・・相手は銀の副音(シルバリオ・ゴスペル)です」

 

「山田先生っ!」

 

「あれは、僕が止めます、止めなきゃいけない」

 

「今のお前では死んでしまうんだぞっ!」

 

「死んででも、止めて見せる。あれのパイロットは、今度こそ救わないといけないんです」

 

 そういい残して、ISを起動できるだけの場所まで走る。その間も、戦いは続いていた。

 

 

 

 

 

 

 ライはいまだに戦闘を続けることを余儀なくされる。

 

「しぶといっ!」

 

 銀の副音(シルバリオ・ゴスペル)はまだ健全だ。しかし、セカンドシフトは終えていた。ライが一度大ダメージを与えたのだか、セカンドシフトの発動条件にしかならなかったのだ。

 

「ライ、悪かったな、もう大丈夫だ」

 

 ライの近くを同じように飛行するISが一機。

 

「一夏」

 

「俺も戦うぜ」

 

「その機体、白式だよね?」

 

 白式に似たその機体は、白式とは決定的になにかが違った。

 

「俺にはわからないけどな」

 

「僕もやります」

 

 紫星が、ぴったり後ろについてきていた。

 

「アキラ、君はまだセカンドシフトを終えていない」

 

「やります。あれのパイロットは、僕が救わなきゃいけないんだ」

 

 救うというワード、ライにも一夏にも分からなかった。けど、それでもライはその真っ直ぐな瞳に、確かな何かを感じた。

 

「分かった、各機、散開、各個で攻撃だっ!」

 

「「了解っ!」」

 

 アキラが混ざって戦闘が開始して10秒も立っていないのに、放火の密度が上がった。

 

「やっと出てきたなぁ、アキラぁ!」

 

「君を、今度こそっ!」

 

 アキラは空を駆ける。三人よりも劣っている機体で、誰よりも鋭く、激しく。それでも、機体の性能差は埋まらない。被弾は増えるし、肉体にダメージも蓄積される。それでも、人一倍飛び続けた。

 

「カバーください」

 

「俺が行くっ!」

 

「僕がヘイトを引くから、その間にっ!」

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)との戦いはいまだに熾烈を極める。

 

(だめだ、今の僕では足手まといにっ!)

 

 アキラは己の限界を感じていた。己の反応速度に機体がついてこない。ついに、砲撃が完全にアキラをとらえきった。機体のシールドがゼロになり、海に逆さまに落ちる。着水まで一分三十秒。

 

【アキラ。まだ、こんなとこじゃ終われないよな?】

 

 そこにいるはずもないけど、今はもう生きてすらないけど、それでも、どこかで背中を押してくれている。

 

(・・・そうだよ、こんなとこじゃ終われない。レイが背中を押してくれたんだ、必ず、救って見せるっ!)

 

【パイロットの強い欲求を確認。人工知能「コトノハ」、起動します】

 

 機械音声とともに、起動キーからデータがダウンロードされる。

 

『・・・コトノハ正常起動。』

 

 コトノハと名付けられた人工知能は、機体のセンサーから現状を、機体システムから機体の損傷率を読み込んだ。

 

『随分苦戦してるのね』

 

「五月蠅い」

 

『・・・強くなりたい?』

 

「今度こそ、守るんだ、だからっ!」

 

『わかった。あなたに力を授けましょう』

 

「人工知能なのにそんなことできるの?」

 

『私はレイが創り出してくれた、最も人に近い人工知能よ。このぐらいできるわ。それに、私のおかげでSINKAIシステム、使えるのよ?』

 

「・・・わかった。君に賭けよう」

 

 激戦の中でも、最善策となりうる選択を。それが、指揮官および戦闘員の使命だ。ならば、少しでも可能性があるのなら、アキラはそれをとると決めた。

 完全に海に落下するまで、残り四十秒。




 終わりをどんどん先延ばしにしますねぇ、どうも、白銀マークです。
 終わりが近づいてきたはずなのになぁ、終わる気配がねぇ・・・。
 だんだんあとがきが短くなってきていますが、気にしないでね。もう書くことが無くなってきてるの。
 じゃあ、この辺で締めますか。次回もどうぞ良しなに。


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友からの力は「勇気」だった

 着水まで四十秒。

 

「「アキラっ!」」

 

 ライと一夏がアキラを追って急速降下する。このままではアキラは海にまっ逆さまに落ちる。

 しかし、そんなことはお構いなしに砲撃を続ける福音。二人は近づくことすらできず、ただただ落下を見守るしかなかった。

 そんな二人を置いて、アキラは空に舞った。着水まで残り十秒。紫星は新たな力となり、またアキラとともに飛翔した。

 

「さぁ、また飛ぼう、紫星っ!」

 

 紫星は一層輝きを増した。紅蓮や白蓮のような羽には八枚の金属製の羽が。大型飛燕剣牙はなくなった。機体のフォルムが完全に紅蓮、白蓮に寄った。機体から目に見える射撃武装は消えた。

 

「今度こそ、僕と紫星罪壊夜極式(しせいしんかいやきょくしき)ならっ!」

 

 金属の八枚の羽ははずれ、八基の独立したユニットとして起動し、スカスカになった翼はエナジーウィングとして機能する。

 

「アキラ、その機体は?」

 

 ライと合流する。きらめく銀の翼をはためかせ、空を舞う。

 

「僕の、ラウンズとして、ロイドさん、ラクシャータさん、セシルさんに調整してもらった。最新にして最強と知らしめた機体です」

 

「シルエット、僕らと似てるね」

 

「ラクシャータさんにお願いしましたから。どれだけ時がたっても、僕の憧れなんですよ」

 

 ユニットで銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)にオールレンジ攻撃を仕掛けながら、空をかける。

 

「一夏、ごめん。遅くなった」

 

「いや、大丈夫だ。それより、どうしたんだ、それ?」

 

「僕の新たな力だよ。それよりもさ、手、貸してくれないかな?」

 

「何するんだ?」

 

「君の零落白夜とこの機体の輻射波動で一度機能停止に追い込む」

 

「ライの輻射波動は効かなかったんだぞ」

 

「大丈夫、そのためにこのユニットたちがあるんだから」

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を取り囲むユニットを指す。

 

「・・・それで行けるのか?」

 

「やれるはず」

 

「わかった」

 

「ライさんも、手を貸してください」

 

「わかった。やろう、これが最後の一斉一大の大仕事だ」

 

 空に軌跡を残しながら、一転、攻勢に出る。アキラがやろうとしていること、それはいたって単純だ。アキラのユニットには輻射波動機構を応用した、輻射増幅機能が内蔵されている。アキラが肘から使用する輻射波動砲を増幅して、さらに高威力の攻撃ができる。もともと、紅蓮、白蓮の次世代機絵あるため、輻射波動自体も改良、強化が施されているのだが、完全に沈めきるためだ。出し惜しみなんかしてられない。

 

「仕掛けます」

 

 ユニットで銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の行動を制限しながら肉薄して攻撃を行う。

 

「今度こそ、君をっ!」

 

「ほざくなぁっ!」

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は高い機体性能で応戦してくる。しかし、今のアキラの機体は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)すら上回る。紅椿すら、過去の世代の機体となる。機体性能、能力、すべてにおいて、誰も生み出すことはできないだろう。

 

「やるよ、一夏っ!」

 

「わかったっ!」

 

 一夏の零落白夜と紫星のコンビネーションアタック。一夏の零落白夜とアキラの輻射波動機構を使って、一気に銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のシールドを削り切る。

 

「な、なんで!?」

 

「僕は教えてもらったんだ、この記憶が何を意味するのかを」

 

 崩れ行く銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を前にアキラは語る。

 

「だから、ごめん。君に殺されるわけにはいかないんだ」

 

 機体は崩れて消えても、パイロットは消えない。高高度から水面に向けて、一気に落下する。しかし、それをアキラは良しとしない。パイロットを優しく受け止める。

 

「なんでなのよっ! じゃあ、返してよ、あたしの、お父様と、お母様を、返してよぉっ!」

 

ひとしきり、アキラに当ったあと、気絶するように眠りに入った。

 

「あとで話そう、僕がここに身を置いている理由を、君に」

 

 眠り姫にそう宣言してから、ライと一夏と合流した。

 

「・・・対象、沈黙。パイロットを保護しました。・・・作戦終了です」

 

「わかった。指令、ミッション、完了です」

 

 オープンチャンネルで報告を入れる。

 

『了解だ・・・帰還を許可する』

 

「アキラ。その子は?」

 

「パイロットです。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の」

 

「? 正規パイロットはいないはずだけど、確か、アメリカのナターシャ・ファイルスがパイロットのはずだけど?」

 

「たぶん、奪ったのだと思います。僕を殺すという復讐のためだけに」

 

「どうゆうことだよ?」

 

「彼女は、僕のことを覚えていたんだよ。だから、彼女には僕を殺す理由がある。たぶん、許してはもらえないだろうね」

 

 それ以上、アキラが語ることはなく、八基のユニットをうまく使い、専用機組全員を運び、旅館まで戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく戻ったな」

 

 旅館の前で千冬が待っていた。

 

「もう会うことのできない友人に力をもらいましたから。こんなとこじゃ死ねませんよ」

 

「そうか。だが、お前には反省文を書いてもらうぞ。命令違反だ。それに、特別授業も用意しているからな」

 

「わかりました」

 

 それが普通だと、さも当たり前のように受けた。たぶん、元からそういう性分なのだろう。

 

「ほかの全員、福音のパイロットも今は寝かせているが、体調が回復次第集合、福音のパイロットは、拘束し、軍に引き渡す」

 

「わかりました。織斑先生、これを」

 

「なんだ?」

 

「身柄の引き取りのさい、これを福音のパイロットに渡して下さい」

 

「・・・わかった」

 

「父上、僕は少し福音のパイロットの様子を見てきます。織斑先生ごめんなさい、集合はできないかもしれません」

 

「なぜだ?」

 

「福音のパイロットが福音に乗っていた理由、それは至極単純で、僕じゃないと解決できないからです」

 

「織斑先生、僕からもお願いします」

 

「・・・蒼月まで言うのであればわかった。ただし、課題を増やすぞ」

 

「喜んで」

 

 そう言ってアキラはその場を離れた。

 

「蒼月、あいつはなぜ福音のパイロットに会いに行くんだ?」

 

「あれは、彼なりのけじめですよ。僕の予想が当たってれば、ですけど」

 

(アキラはきっと、復讐のためだけに人生を費やしてきた、大切な家族を、助けに行くんだろうね)

 

 アキラの背中をライはほほえましく見つめていた。




 三回かな、定時投稿飛ばしまして、どうも白銀マークです。
 ちょっと、この話難しくて、時間かかりました。いろいろ新しい要素出てきたので、どこかで一気に紹介したいと思います。

 さて、福音のパイロットはアキラの”家族”ということで、誰なんでしょうねぇ。そして、アキラが千冬さんに渡したものとは? ・・・・・・え? 教えてくれって? それは次回に。

 次回もどうぞ良しなに。


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心を決めるもまた「勇気」

 アキラは目の前で眠る少女を見て思う。

 

(僕があの時、誰も殺さない道を選んだのなら、この子は、僕を恨むことはなかったのかな?)

 

 それを考えること自体が間違っている。けど、そう考えてしまう。大切な、大切な人だからこそ、そう考えてしまう。

 

「・・・僕を許してはくれないだろうけど、それでも、償うことができるのならなんて、思ってしまうこと自体がだめなのかもなぁ」

 

「そうよ、だめに決まってるじゃない」

 

 少女は起きていた。たぶん、部屋にアキラが入ったときから、ずっと。

 

「償うことはできないわ。だって帰ってこないんだもの」

 

「そうだよね・・・。まったく、殺すことばかりしていると、どうもダメ人間になってしまうみたい」

 

「あたしはあなたを許さないわ。でも・・・あの機体を見て、隣を飛ぶ誰かが居て、支えてくれる誰かが居て。そんなものを見ただけで、あたしはあなたが変わったんだなって思っちゃった」

 

「・・・変わらないよ、僕は。君が知っているアキラさ。根本的なところは何も変わっちゃいないよ」

 

「そう・・・」

 

「ごめんね」

 

「まぁいいわ。ところで、なんでここに身を置いてるの? らしくないじゃない」

 

「父上と母上がいるんだ」

 

「え・・・・・・」

 

「ほんとだよ。君が相手にしていた中に、紅蓮も白蓮もいたでしょ?」

 

「・・・ホントなの?」

 

「嘘じゃない」

 

 アキラの瞳は強く輝く。

 

「だから、今度こそ守るよ。君も、父上も、母上も」

 

「あぁあ、損なことしちゃったなぁ」

 

「大丈夫だよ。君のことだから、戻ってこれるでしょ?」

 

「もちろんっ! 誰の子供で誰の妹だと思ってるのよっ!」

 

 その顔は今までで一番輝いていた。

 

「じゃあ、またね、ユキネ」

 

「うん、またね、お兄ちゃん」

 

 アキラは妹に別れを告げた。しかし、その別れは永久ではない。また近い未来、家族四人で生活できるだろうと、そういう期待のこもった別れだった。

 だから部屋を出る。これ以上の言葉はいらない。お互いに不要なはずだ。

 

(そう言えば、なぜユキネが生きてるんだろ?)

 

 アキラは家族を全員刺した。それは妹のユキネも例外ではない。ではなぜ生きているのか。

 

(・・・そもそも死んでなかった?)

 

 それはギアスを上書きしたからわかるアキラなりの感想だ。

 

(もし、僕に妹を殺したと、妹が死んだと、そうギアスを父上がかけていたならば・・・いや、それすらわからないな。今の僕には)

 

 鮮烈に思い出せる記憶だが、それでも、不可解な点があることは時がたつにつれて明らかになっていった。だからこそ、己の理解している領域に生じている矛盾に戸惑う。だから答えが出ない。

 

(たぶん、殺しきれていなかったのだろう。うれしい誤算だといいんだけど)

 

 結局、うれしい誤算であることに賭け、忘れていた荷物を回収に海に向かった。

 

 

 

 

 

 

「さて、みな、集まったな」

 

 千冬はあの後集合をかけ、専用機組(アキラ以外)を呼び出した。

 

「みなも聞いたと思うが、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は機能停止、パイロットもこちらで保護している」

 

「ちなみに、パイロットは何方でしたの?」

 

「それは答えられない。何せまだ目覚めてすらいない状況だ。聞き出せる状況にない」

 

「そうですか……」

 

「パイロットはどうなりますの?」

 

「良くて投獄でしょうか?」

 

「いや、今回は何か別の事情がありそうだ。四十万が何か知っているそうだからな」

 

「アキラが!?」

 

「どういうことかお聞きしても?」

 

「それは僕が説明するよ」

 

 ライはそのまま千冬の許可なく続ける。

 

「あの子はケジメをつけにいくって言ってたから、アキラに関係する誰かなんだよ」

 

「それは、アキラの記憶に関係しているのか?」

 

「もちろん、その通りだよ一夏。誰なのかは僕も知らないけれど、知っていたとしても、彼が教えてくれるまで教えるつもりはないよ」

 

「蒼月、それは過保護すぎなんじゃないか?」

 

「彼は僕に似ています。当然と言えば当然なんですがね。迷ったときに抱え込んで、逃げ道を自分でつぶしていくあたり、ホントにそっくりなんですよ」

 

「わたしもわかる気がするわ。まったく話してくれないし、どこかよそよそしいのよねぇ」

 

「確かに。アキラ、ライとカレンに話すときは敬語だもんな」

 

「なんでなんだろう」

 

「積もるところは四十万から話があるだろう」

 

 そこでライの携帯の着信が鳴る。

 

「失礼」

 

 差出人はアキラ。

 

「アキラからの着信だ。・・・教えてくれるって、アキラの記憶」

 

「本当かっ!?」

 

「うん。けど、条件もあるよ。条件は・・・録音、録画、メモ、その他アキラの発言を記録できる媒体の持ち込み禁止、だってさ。・・・できるかい?」

 

「? どういうことだ?」

 

「アキラはね、きっと恐れてるんだよ。たぶん、僕が男として入学したことよりも、もっと重くて。きっと、保存されて周りにそのことが伝わるのが怖いんだよ」

 

 シャルロットは思い出す。アキラが体のことを聞くなといったときの、悲しそうな声色を。きっと、あの時から葛藤していたのだろう。

 

「・・・僕はいくよ。今度は僕が助けるんだ」

 

 シャルロットの瞳に灯るものを理解できるのは数すくない。たぶん、この場で理解できたのはライとカレンだけだろう。どんな歴戦の勇者もどんな魔王でも、きっと、理解できはしない。

 

「本当にいいの? ・・・正直に言うと、僕は「ライ、行かせてあげようよ」・・・カレン」

 

「あの子がいいって言ったんだから」

 

「わかった。・・・場所は・・・」

 

 少し溜めて、はっきりと告げた。

 

「ここにきて初めて泳いだ砂浜の近くにある崖だよ」




 かなり期間を空けましたぁ、どうも、白銀マークです。
 モンハン、楽しいですねぇ、もうやめられなくって、えぇ、小説そっちのけで遊ばせていただきましたぁ。
 なのでね、投稿ペース落ちるかと思いますが、これからもちゃんと投稿していくんで、これからもよろしくお願いします。


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サヨナラは突然に

「すいません、お手数をおかけしました」

 

「大丈夫だよ、気にしないで」

 

「言ったでしょ? 頼りなさいって」

 

「ありがとうございます」

 

 指定された崖。アキラを抜いた専用機組がアキラと合流する。

 

「アキラ・・・」

 

「やぁ、一夏。みんなも、体大丈夫?」

 

「大丈夫だぜ」

 

「アキラさん、記憶って、どういうことですの?」

 

「そのまんまさ。僕、ずっと黙ってたことがあるんだ。一夏とシャルは知ってるよね?」

 

 二人は無言でうなずく。アキラが何を指示しているか、わかったから。

 

「ほかは分からないと思うから。たぶん、見てもらった方が早い」

 

 アキラはみんなに背を向け、おもむろに上着に手をかける。

 

「ちょ、ちょっとっ! なんで脱ごうとしてるのよっ!」

 

「いや、鈴、これでいいんだ。確かにその考え方は普段なら間違ってないんだけど、今回ばかりは違うよ」

 

 アキラはYシャツも脱ぎ、上半身を晒した。

 

「なっ、なんですのっ! これはっ!」

 

 シャルロットと一夏は知っていた。アキラは体に傷を持っている。

 

「これが、隠してたものだよ。だから、この臨海学校中、逃げたり隠れたりしてたんだ」

 

「・・・痛くはないのか?」

 

「古傷だから。でも、たまに痛むよ。僕の精神面に比例してね」

 

「なぜ黙っていたのだ?」

 

「だって、怖いもん。この傷は、虐待とか、そんなものの傷じゃないから」

 

「どういうことだ?」

 

「これは、僕の背負っている命のほんのひとかけらなんだ」

 

 軍属ならわかる、それを聞いてラウラは思案する。候補は二つ。一つは重傷を他の者の何かで補っている場合。もう一つは、戦場で付いた傷。

 

「戦場・・・でなのか?」

 

 ラウラは後者を選んだ。それが最も軍属なら現実味を帯びているからだ。

 

「半分正解。この傷のうち、胸の傷だけは戦場でつけてもらったものだよ。ほかは、家族に着けてもらったんだ」

 

 アキラは両親にすら話していなかった、傷のついている理由。両親は全部、自分たちがつけてしまったものだと思っていた。

 

「僕はね、家族を殺したんだ。僕の部屋にある刀でね」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 両親はそこまでは知っている。

 

「僕はね、守るために、武術も勉学も幼いころに吸収したんだ。それが守るための最も近い道だと思ってたんだ」

 

 服を着ながら、悲しげな声色で、紡ぐ。

 

「でもね、身の丈に合わない力はその身を亡ぼすって言うでしょ? まさに僕の場合はそれだった。守る力は、僕の意思とは別の方向に働いたんだ。守る対象を殺す、っていう形でね」

 

 なかなかボタンを留めることができない。

 

「つらかったよ。守ろうと思っていたものを、自分で壊しちゃうんだから。だから、僕はそのことを忘れないように、一人に一つ、傷をつけてもらったんだ」

 

 やっとボタンを留め切って、体をかばうように左手を回す。

 

「それがこの細い傷跡で、もう一つ、胸の傷跡は、僕の友人のものなんだ」

 

 そこから先は両親にも話していない、未知の領域だ。

 

「僕は、小学校に上がってから、軍に入ったんだ。それが、一人で生きていくうえで、最も強くあれる方法だったんだ。そして、足りない力を手に入れれると思ってたんだ」

 

「お前は軍属だったのか」

 

「うん。上官とも父との交友関係でかなり簡単に直属の兵、ラウンズっていうんだけど、そこまで上り詰めたんだ。ラウンズとして正式に認められたのは高校入ってすぐだよ」

 

「私の知る限り、お前のような奴は何処の軍にも属していないはずだ」

 

「ラウラ以外は人が人を殺しあう場を知らないでしょ? だから、僕はそもそもこの世界の人間じゃないのさ。もっと別の、学生の力じゃどうしようもない世界の人間なんだよ」

 

「え・・・」

 

「僕の乗っているISも、僕が乗っていた人を殺すための兵器を模したものなんだよ。本当の紫星は僕と一緒に沢山の人を殺した」

 

「だからか、だからお前はそんな瞳ができるのか」

 

 ラウラは知っていた。戦いになるとアキラが少し悲しそうな眼をするのを。

 

「黙っててごめんね」

 

「アキラ、ラウンズってまさか・・・」

 

「はい、お察しの通りです。僕はナイトオブファイブ。誰もいなかった五番目の円卓の騎士です」

 

「相手は?」

 

「王の王政に背く者です。世界はある方々のおかげで、話し合いの席を設けて戦争をすることを避けました。しかし、それでも歯向かうものはいるのです」

 

「なるほどね」

 

「アキラ、その背く者ってどんな人たちなんだ?」

 

「おもは嚮団。その下請けも全部含めて嚮団。僕の友人は嚮団の下請けの護衛だったんだ。嚮団屈指の腕を誇るエリート。だから、友人とも、戦場で紫星を駆って刃を交えたよ。・・・最初はお互い、誰がパイロットかなんて知らなかったんだ。ただ、ある事情でそいつと戦場の近くで一夜を共にしなくちゃならなくてね、その時に知ったんだ、互いに殺しあったパイロット同士だって」

 

「互いに引くことはできなかったのか?」

 

「引けないよ、僕も彼も。お互いの守りたいものは別々にあるから、次戦場で会うなら殺しあおうってそういう話をしたさ。僕の唯一無二の友と殺しあいをする約束をするなんてね。人生何があるかわからないものだよ」

 

「その友人はどうなったの?」

 

「勿論、また戦場で会ったよ。だから、殺した。僕もボロボロになったけどね。その時にはじめて、彼の本音が聞けたよ。まだ生きていたかったこと、僕に出会えてよかったと、そして、僕に殺されてよかったって」

 

「・・・生きてはいないのだな」

 

「うん。僕の手で、冷たくなっていく彼を看取ったから」

 

「そんなこと、僕たちに教えてよかったの?」

 

「ううん、知ってほしかったんだ。僕がこの場に、この学園にいるのは、今日で最後だから」

 

「どういうことだ?」

 

 混乱が走る。ずっといるはずの人が今日で最後だからとこの場から立ち去ると言っているのだ、

 

『アキラ、生きているな?』

 

「生きてるよ」

 

 上空から声が聞こえる。上を向くとピンク色のライのランスロットクラブに似たシルエットの機体が。

 

「ランスロット・フロンティアっ!?」

 

「そうですよ」

 

『迎えに来たぞ』

 

「彼らですか」

 

『そうだ』

 

「僕の機体は?」

 

『あるぞ。こちらまで持ってくることは叶わなかったがな』

 

「わかりました。・・・じゃあね、みんな」

 

 アキラはランスロット・フロンティアの手に乗る。

 

「アキラっ!?」

 

「ライさん、後をよろしくお願いいたします」

 

「・・・わかった」

 

『元気そうだな、ライ』

 

「そんなこと言って。そっちの僕は死んでるんだから」

 

『そうだったな・・・。すまなかった、私がもっと考えていれば・・・・・・』

 

「C.C.さん、余計なことはいいですからっ!」

 

『別にいいだろう? 私も何年振りかにこいつらの顔を見るんだ。お前が生まれてから、こいつらとは会えていないのだからな』

 

「・・・そうでしたね。ならいいです、我慢します」

 

『意外と嫉妬深いのだな、お前は』

 

「知らなかったんですか?」

 

『いや、知っていたさ、何せ私は「魔女、なんでしょう?」・・・最後まで言わせろ』

 

「そりゃ、何年も変わってないんですから、その口癖」

 

『花婿は強奪したんだ。仕事は終わりだな』

 

「「「「「「なっ!」」」」」」

 

「変な誤解作らずに早く連れてってくださいっ!」

 

『まったく、人使いの荒い奴だな』

 

 ランスロット・フロンティアは空を駆ける。アキラに新たな力を届けに。




 長らくお待たせしましたぁ。
 納得いくまで読み返しながら書いていたので、遅くなりましたぁ。現在、これを含めて、5話分、ストックがあります。なので何日かはちゃんと投稿されると思います。

 今後もどうぞよろしくお願いいたします。


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泪呪罪壊終極式(るいじゅしんかいしゅうきょくしき)

「多分、アキラは薄々気がついていたんだよ」

 

 ライがみんなに語る。

 

「アキラが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)についてなにか知ってるんじゃないかって話、あったよね?」

 

「あった」

 

「これから先は僕の予想でしかないけど、アキラは守りにいくんだよ。僕らだけじゃない、この世界全体をも」

 

「守るってどういうことだ?」

 

「嚮団は、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)をアキラに向けて放ったんだよ。殺すために。そのパイロットはアキラと親しかった人物。でも、アキラを殺しきることは叶わなかった。だったら今度は自らの手を下す。それを知った人がアキラを迎えに来たんだよ」

 

「まぁ、アイツなら知ってそうよねぇ」

 

「だね。あれかな、女の勘は当たるってやつかな?」

 

「私たちも行った方がいいんじゃないの?」

 

 そこで疑問が生じる。そうだ、なぜライたちまでいかなければならないのか。

 

「何でライたちまで?」

 

「アキラが殺してしまった両親、僕たちのことなんだよ」

 

「「「「「「えぇっ!」」」」」」

 

 驚きを隠せないのは当たり前だ。しかし、それもまた事実。血液検査でさえも、両親と認めるのだ。

 

「織村先生に聞くといいよ、あの人は知ってるから。証拠も持ってるからね」

 

「アキラが背負っているものは、国だけじゃないわ。世界すら、果ては次元すらも背負ってるかもね」

 

「アキラ、あいつはいったい・・・」

 

「背負うものが大きければ大きいほど、失うものも大きい。それが世界の理だよ」

 

 二人はISを起動し、アキラの後を追う。

 

「俺たちは、いったい、どうすればよかったんだ?」

 

「一夏、たぶんどうにもできないよ。アキラは何があっても止めれない。アキラを止めれるのはきっと、私たちじゃない、別のだれか一人なんだよ」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、C.C.さん」

 

『なんだ?』

 

「ありがとうございます」

 

『別に、お礼を言ってもらおうと思って迎えに来たわけしゃないぞ』

 

「だったらこれは独り言です」

 

『・・・口が立つようになったじゃないか』

 

「そりゃ昔は四六時中あなたのそばにいましたから」

 

『それもそうか』

 

「そういえば、僕の紫星はボロボロになったはずですが」

 

『ラクシャータとロイドが改修した。まったく、どこまでもこき使ってくる奴らだ』

 

「ほんと、敵わないなぁ」

 

『・・・着くぞ、機体はあのゲートの先だ。機体をもらったらこっちまで戻ってこい。奴らの拠点は今はこの世界にある』

 

「わかりました」

 

 ゲートのある場所はアキラが最初に束にライと拾ってもらった場所。今思い返せばなぜワープ地点があそこだったのかも説明がつく。

 

『一応、ライとカレンの機体も改修してそこに置いているが、まぁ、来ることは「来たよ?」・・・まったく』

 

 ランスロット・フロンティアが振り向くとISをまとった二人がそこにいた。

 

『いいのか?』

 

「子供にすべてを背負わせる大人がどこにいる」

 

「アキラだけつらいなんてのは、納得できないわね」

 

『だ、そうだぞ』

 

「なんとなくわかってました。機体、一緒に持ってきますから、待っといてください」

 

 アキラはランスロット・フロンティアから離れ、ゲートをくぐった。

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、アキラ」

 

「お久しぶりです」

 

「どうだ、ライやカレンを会うことはできたか?」

 

「はい」

 

「元気そうか?」

 

「はい。僕についてきて、一緒に戦おうとするぐらいに元気ですよ」

 

「そうか」

 

「はい」

 

「すまないな。また俺の命で動いてもらうなんてな」

 

「いえ、そんなことおっしゃらないでください。僕も好きでやってますから」

 

「そう言ってもらえると助かるな」

 

「僕の機体は?」

 

「あれだ」

 

「・・・カラーリングは紫色とお願いしていたはずですが?」

 

「それは俺の独断だ。お前にとってライとカレンは憧れではなく呪縛になっている。であればもっとも手を付けやすいところから、お前の親離れをしなければならない。そういうことだ」

 

「呪縛・・・」

 

「そんなに気に病むことじゃない。お前が依存しすぎということだ。C.C.だってお前の面倒を見てくれただろう? お前の近くにはお前が思う以上にたくさんの色がある。それに気付いてほしいだけだ」

 

「だから・・・白・・・」

 

「あぁ、お前はまだ何色にも染まっていない。故の白だ」

 

「信じましょう、あなたのその言葉」

 

「さぁ、行ってこい。これがお前の新たな剣だ」

 

「イエス・ユア・ハイネス」

 

 コックピットはバイクのような形状。モニターはなくなっており、全体が外を映し出す画面。

 

「・・・フルディスプレイ」

 

『あなたのための特注品よぉ』

 

「ラクシャータさん」

 

『それはダイトディスプレイ。外の風景を体感しているような気分で操縦できるようになってるわぁ』

 

「・・・起動キーは?」

 

『あなたの持っている今までのキーでOKよ。いろいろ新規採用の武装もあるから、データ回収がてら使ってちょうだい』

 

「わかりました」

 

『紅蓮や白蓮も同じダイトディスプレイを採用してるわぁ、あの子たちなら使いこなせるから、あとはよろしくねぇ』

 

「わかりました」

 

 機体の各武装やスペックの確認をする。

 

(・・・すごいな。完全に僕好みのチューニングが施されている。新規武装はこれか)

 

【起動キーからのアクセスを確認。許可しますか?】

 

「許可する」

 

 音声認識まで搭載。

 

【アクセスを許可します】

 

『いい機体ねぇ』

 

「コトノハ」

 

『どうかしたの?』

 

「レイは君のこと、なんて呼んでたの?」

 

『琴、そう呼んでくれたわ』

 

「じゃあ、琴、機体把握、武装把握よろしく。今から各部のOSの微調整をするから、把握後、紅蓮と白蓮の運搬とゲートからの脱出をお願い」

 

『わかったわ』

 

「ふぅ・・・」

 

 一度息を吐く。

 

『機体把握、終わったわ』

 

「機体名は?」

 

『型式番号、Type-None/F1G。機体コード、RUIZYU Type-None Elements"Shinkai"。機体名、泪呪』

 

泪呪罪壊終極式(るいじゅしんかいしゅうきょくしき)、か。なかなかなネーミングだね」

 

『・・・この機体の設計、キャメロット班じゃないわね。・・・設計図画くときに絶対にするこの癖。懐かしいなぁ』

 

「じゃあ、設計者はレイだね。・・・ありがとう、僕はまたこれで飛べる」

 

 機体はゲートを抜ける。

 

『紅蓮・・・』

 

「そうです。白蓮も改修してもらってます」

 

『これは、アキラがしてくれたのかい?』

 

「・・・これは、僕が好きでお願いしたものです」

 

『・・・ありがとう』

 

 二人が乗り込むのを見ながら機体の仕様を確認する。

 

『どうかしら?』

 

「・・・これが、終わりを示すの者・・・」

 

『そうね。嚮団が崩れれば、この機体たちもお役御免だものね』

 

「・・・いこう」

 

『アキラ、出せるよ』

 

『私も行けるわ』

 

 狙うは嚮団。求めるは争いの終わり。紡ぐは世界の未来。

 

「了解。四十万アキラ。泪呪罪壊終極式(るいじゅしんかいしゅうきょくしき)、出ますっ!」

 

 




 新たな機体が出てきましたねぇ、それも後程紹介していきますので。気に入ってくれるといいなぁ。

 今後ともどうぞ良しなに。


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湧き出すは怒り

『動いて、動いてよ紅蓮っ!』

 

『くっ!』

 

 紅蓮と白蓮はダウンする。機体は制御できない。

 

「まだ・・・まだ僕をあざ笑うかっ! V.V.っ!」

 

 泪呪は哀しき翼を、終わりを魅せる刃の矛先を、紅蓮と白蓮に向ける。

 

 

 

 

 

 

『三人とも、こっちだ』

 

 ランスロット・フロンティアが道案内をする。

 

『C.C.』

 

『なんだ?』

 

『君が来て大丈夫? 相手は嚮団なんでしょ?』

 

『奴らの狙いは、遠の昔に変わってしまったみたいだ。もう、奴らにとってコードなんてものはどうでもいいんだよ。コードなんかよりも、もっと簡単にアーカーシャの剣を造れることに気づいたみたいだからな』

 

『いったい何を使うのよ?』

 

「ギアスを特殊開眼させた人間を依代に顕現させるんですよ」

 

『っ! それは君が狙いじゃないのかっ!?』

 

「はい。だから、僕が行くんです」

 

『ふざけるなっ! 君が行ってしまったら・・・』

 

「・・・奴ら、また友人を使ってKMFを動かしてるんみたいなんです」

 

『『はぁっ!?』』

 

「彼が僕を呼ぶんです、解放してくれって。だから、僕が行くんです」

 

『でも、アキラにはまだ帰る場所がっ!』

 

「そんなもの、ないですよ、ずっと。あの日、みんなが居なくなったあの日から」

 

『・・・作ろうとは思わなかったの?』

 

「作れないです。・・・取りこぼしそうなものはもう、手にしないと、そう決めたんです」

 

『取りこぼしちゃうから、かぁ』

 

「守れないかもしれないのなら、この手が届かないのかもしれないのなら。喉から手が出るくらい、欲しかったものだけど、それでも、僕は、それに手を伸ばすことは、ないです」

 

『そうか・・・。』

 

『私も少しは頼れと釘を刺していたのだがな。それでもこいつは何でも一人でかたずけてしまってな』

 

「迷惑はかけれないですよ」

 

『それもそうか・・・。ん、ついたぞ。ここが奴らの本拠点だ』

 

 神根島にそっくりな島。

 

「やぁ、待っていたよ、アキラ」

 

「V.V.」

 

 声に自然と怒気がこもる。

 

「やだなぁ、そんなにかっかしないでよ。君を迎えに来たんだ」

 

「断る、といったら?」

 

「力ずくでも連れていくよ?」

 

 V.V.の背後から人型のKMFに似ているものが出てきた。KMFよりも一回りも二回りも大きい。ガウェインよりも大きな機体。

 

「コックピットのなくなった、人と機械の融合体さ。僕ら嚮団の最高傑作だ」

 

 機体全体がKMFらしくない。流れるような丸みを帯びている。

 

「さぁ、どうする? 抵抗するかい?」

 

「・・・パイロットは誰?」

 

「君の良く知る人物だよ」

 

「だろうね。だから断る」

 

「君は馬鹿だね。また友人を殺すのか、友人と手を取るかの二択で殺すことを選ぶなんてさ」

 

V.V.は機体の胸部に。

 

『アキラ、本当にいいのか?』

 

「やります。今度こそ、彼の願いをかなえなきゃ」

 

 そう、貰ってばっかりじゃだめだ。福音の時も、この機体だって。全部全部、彼に助けてもらったんだ。恩返しをするんだ。今度こそ、願いをかなえて見せる。

 

「行くよ、泪呪っ!」

 

 アンノウンは門に吸い込まれるように消えた。アキラたちもそれを追う。友人を殺すための戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

「織斑先生」

 

「なんだ?」

 

「蒼月から聞きました。四十万のこと、何か知ってるんですか?」

 

「ふむ。知っている、とはどういうことだ?」

 

「蒼月くんがあとは織斑先生に聞けって」

 

「面倒ごとを丸投げしたな。・・・まぁいい、あいつはな、”帰る場所”を持たない人間なんだ」

 

「帰る場所?」

 

「そうだ。蒼月からの受け売りだから正しいかどうかは分からんがな」

 

「ちょっと抽象的すぎてよくわかんねぇよ」

 

「そうだな・・・。蒼月の場合は紅月の所だ。他はそれぞれあると思うが、誰かの隣、この人のところに生きて戻ってこなければならない、そういう場所がないんだ」

 

「じゃあ、俺たちにも、あるのか?」

 

「たぶん、気づいていないだけで、しっかりとあるのだと思いますわ」

 

「じゃあ、逆に帰る場所がないってどういうこと?」

 

 千冬は少し言葉を探す。アキラに、前のアキラにぴったりの言葉を。

 

「わたしの見立てではアキラはな、死に場所を探しているんだ。誰かの手で殺されたい、そういう思いでな」

 

「じゃあ、アキラ、死にに行ってるんじゃ!?」

 

「アキラのいる場所、分かりますか?」

 

「いいのか? 今のお前たちでは、きっと、後悔するぞ?」

 

「それでも、俺たちはいかなくちゃいけないんだ。織村先生、お願いします」

 

「・・・はぁ、わかった」

 

 全員のISに地図情報を渡す。

 

「あいつの機体には、GPSが組んである。それがあれば、近くまでは行けるはずだ」

 

「ありがとうございます」

 

 指令室を勢いよく飛び出す。目指すはアキラの所、死んでほしくない、大切な人の所に。

 

 

 

 

 

 

「くっ! いい性能してるなぁ」

 

『機体スペックには大差ないのに、神経接続だからなのかしら?』

 

「余裕そうだね、琴!」

 

 パイロットは必死だ。相手の反応速度、弾幕、その他すべてが高い水準を誇る。回避ですら、神経をすり減らすように気を張り積め続けなければならない。

 

『だって、機体制御している訳じゃないもの』

 

「だろうねっ!」

 

 回避しつつ射撃を行うも、精度はいつもよりも格段に落ちている。相手は容易に回避できてしまった。

 

「当たらないか」

 

『残念ねぇ』

 

 バレルロールしつつ、回避行動をとる。

 

「仕掛けますっ!」

 

『わかった』

 

 泪呪の強襲は紅蓮と白蓮のサポートで成り立つ。単機で強襲できるだけの性能をアキラはまだ引き出せていない。

 

『カレンっ!』

 

『えぇっ!』

 

 二人のコンビネーションアタック。高火力の輻射波動をロングレンジで相手の行動を制限する。

 

『行けるよ、アキラっ!』

 

『はいっ!』

 

 上空から太陽を背に、急降下、肘部にある輻射波動を構える。本来なら一撃必殺だ。人間の目は太陽を直視できない。直視すると、強い光で目を背けてしまう。だから、回避すらできない。確実に仕留めれたはずだった。

 

「なっ!」

 

『アキラ、回避っ!』

 

「くっ!」

 

 何と、直視できないはずの太陽を、何のデメリットもなく見上げたのだ。完全に迎撃大成でこちらが来るのを待っていた。

 

「ま、まさか」

 

『パイロットは、目がない状態なの?』

 

『驚いたでしょ? アキラ』

 

「一体彼に何をしたっ!」

 

『この機体を操縦幹で動かしてると思ってたの?』

 

『』

 

「まさか・・・」

 

『この機体はねぇ、レイヴェルの脳で動かしてるんだよ。神経接続よりもさらに伝達速度は高いっ!』

 

「貴様っ!」

 

『その一人称、昔に戻ってきたねぇ。ハハハハハハ、友人を汚されるのがそんなに気にくわないのかい?』

 

「黙れっ!」

 

『君がキレた時の顔、絶望した時の顔、最高にそそるよ』

 

 突如アキラの機体は異常なほど躍動する。人間そのもののようにしなやかに、軽やかに、力強く。

 

『アキラ、だめっ!』

 

「黙れ琴。斬るぞ」

 

 誰の制止をも振り切る。アキラは今、殺意に満たされている。家族を殺したときのような、異常なほどの殺意。抑えきれない怒りとともに。

 

『人間ごときが機械を殺せるでも?』

 

「舐めるな餓鬼。貴様のおかげで私は殺すことしか知らないのでな。生憎様で、機械の殺し方も会得しているのだよ」

 

 口調も変わる。軍に入る前の、殺すことで生きてきた、殺しで身を繋いできた人間の成れの果てになる。誰にも頼らない、頼ってはならない。だから、殺すことしかできなくなった人間の成れの果てに。

 

『アキラ、君は本当に馬鹿だね。”紅蓮”、”白蓮”僕を守れ』

 

「なに?」

 

『黙れ、僕がそんなことするわけ・・・白蓮っ!?』

 

『ちょっと、言うこと聞きなさいよ、紅蓮っ!』

 

「貴様、何をした?」

 

『こいつには、ハッキングまでできる機能があるんだよ。OSごと書き換え、人工知能が制御する機体にね。もちろん、その人工知能もレイヴェルの脳から作ったものだけど』

 

「貴様は私をどこまで愚弄すれば気が済む?」

 

『・・・君のせいでラグナレクの接続に二度も失敗したんだ。絶対に殺す・・・ってしたいんだけど、三回目の接続には君の脳がいるみたいだから。もうC.C.を探さなくて済むし、今度こそ壊させないから』

 

「知るか。それが我が家族を奪った貴様への仕返しだ。むしろ感謝しろ」

 

 アキラの額には無数の青筋がたつ。

 

「琴」

 

『なに?』

 

「この機体にも、SINKAIシステムはついているか?」

 

『えぇ、あることにはあるけど?』

 

「含みのある言い方だな」

 

『今のアキラじゃ、機体に呑まれるだけよ?』

 

「この程度に呑まれるぐらいなら、死んだほうがましだ」

 

『・・・わかった』

 

 機体のコンソールモニタに映し出される承認画面。

 

『今度のは、本気で戻れなくなるかもよ?』

 

「かまわん。帰る場所など、当の昔に自分で壊した」

 

コトノハとは違う声音で流れるアナウンス。承認画面をアナウンスが読み上げる。

 

【人であることを、放棄しますか?】【Yes/No】

 

「こんな画面まで用意するのに搭載したとは・・・まったく、どこまでもモルモットにする人たちだ」

 

 指先には迷いがない。確固たる意志を持って、【Yes】に触れる。

 

【承認されました。】

 

 首の後ろにわずかな痛みが走った後、姿勢を保つのが難しくなる。脳からの信号が首より下に届かない。

 

【機体との接続、以上なし。体を固定します。】

 

 体は圧力がかかったように固定される。頭に何かを被せられる。前が、見えなくなった。

 

【バイタル正常。肉体の機能補助、正常起動。頭部視覚バイザー、起動します。】

 

 視界はクリアになる。青い空、目の前には紅蓮と白蓮。その後ろに機械人間。手には刀を持っていて、足は機械じみている。

 

【バイザーの正常起動確認。】

 

『アキラ、聞こえるかしら?』

 

「問題ない。完全に外の景色を見ているがな」

 

『・・・そう。うまくいったのね。・・・その状態で機体の四肢が無くなると、アキラの体にも影響が出るから。足が無くなったら、そのなくなった足に対応している肉体の足も動かなくなる。頭が無くなれば・・・動くことすらできない、植物人間、いえ、完全に死ぬわ。胸部なんかも同じよ』

 

「・・・無傷で生還がmust事項、というわけか」

 

『仮に、四肢無傷で勝ったとしても・・・この機体から神経に傷を与えずに切り離さないといけないし。この機体、機械のくせにコアは人間をベースに作られてるの。だから、機体に意思があるわ』

 

「人間をベースにか?」

 

『そうよ。これは、設計者が願いに則った死を迎えることができたら、自らコアになることを前提に作られた、機体。たぶん、相手も同じことをしているから、共鳴もあり得るわ』

 

「・・・なるほどな。まぁいい」

 

 眼光の先には殺すべき友人と死すべき憎き嚮主。救うべき両親とその機体。

 

「手が届く、まだ届く距離だ。なら、今度こそ、届かせて見せるっ!」

 

 体のように動く機体を駆り、今度こそ、この手にすべてを置けるように、何もない少年の最後の戦いが火蓋を切る。




 コードギアスっぽい要素がここでがっつり来ましたねぇ。え?終わりが近そうだ?・・・君、ちょっと裏に来てください(話をしよう)

 今後ともよろしくお願いいたします


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さようなら・・・そして、ありがとう

「さすがに厳しいな」

 

 紅蓮と白蓮を相手取りながら、アンノウンとも刺しあう。空は紅と銀、白の軌跡。急制動、急加速を繰り返し、相手を翻弄しながら、確実に打点を稼いでいく。肉体に掛かるGも半端ないが、それは今のアキラにはわからない。

 

『まだあいつに動きはないわ』

 

「わかった」

 

 コトノハにアンノウンの行動を逐一報告してもらいながら、殺しに来る紅と銀を、殺さないように、丁寧に、かつ大胆に機能停止に追い込まなければならない。

 

「まだまだ武器は残ってるな、二機とも」

 

 通信は切った。邪魔だから。今は止める言葉もない。ただひたすらに、先に、一歩でも、近くに。必ず、手に収めるために。

 

『動いたわっ!』

 

「このタイミングでかっ! なるほど、この指揮のとり方。確実にV.V.だな」

 

 1on3の戦場。戦局は完全に不利。機体性能でひっくり返せるが、それもない。カタログスペックだけならほぼ同性能の機体2機と、予測スペックしか出せないアンノウン。それでも、引き下がるわけにはいかなかった。引き下がれるわけがなかった。自然と口角が上がる。

 

『あんた、笑って・・・』

 

「面白いじゃないか」

 

 絶望的だからこそ、燃えてしまう。戦士としての血が騒いでしまう。この状況を打破できると、すべて殺しきれると。壊して、壊して壊して、壊して。壊すことしかできなかったから。戦いのない世界に落ち着けなかったのはきっと、そういうことなのだろう。

 

『あんた、戦いが、血を血で争う殺し合いを望んでるのね』

 

「・・・ふむ、考えたこともなかったが、初めての体験が”殺し”だったからな。それ以外に何も知らないだけかっも知れないが」

 

 紅蓮も白蓮もほぼ無傷だ。こちらもまだまだ元気だが。

 

「まだ舞えるよな、泪呪?」

 

 見ることはできないが、ツインアイがキラッと、強く輝いた気がした。

 

 

 

 

 

 

「まだなのっ!?」

 

 焦りは消えない。友人が、大切な人が死ぬために戦場に行ってるかもしれない。そう思うと心は焦らせてくる。あの悲しい会話が最後なんだと、二度と彼の声は聞けないのだと、そう呼び掛けてくる。・・・そんなのは、悲しすぎる。

 

「もっと、もっと速くっ!」

 

 GPSはだんだんと近くなるが、それでもまだ距離がある。今この一瞬一秒がもどかしい。

 

「なんでこんなに遠いんだっ!」

 

 無事でいてほしい、できれば止めたい。それがみんなの願い。だから翔ぶ。

 

 

 

 

 

 

「・・・なかなか厳しいな」

 

 紅蓮が機能停止。白蓮も武装の半分はすべて壊した。しかし、泪呪もまた、武装の半分を壊され、左腕を失いかけていて、フレームがむき出しだ。今はビットで代用するように左腕のフレームがあった場所に纏わせているが、そのビットも万全な状態ではない。右腕も、輻射波動は使えなくなった。

 

『機体損傷率38%。残存エナジー60%』

 

「・・・かなり使ってるな」

 

『仕方ないわよ』

 

「白蓮を仕留める。アンノウンの位置報告、頼んだぞ」

 

『わかった』

 

 まだ動く右手に刀をしっかり握りしめ、飛び込む。左のビットで射撃を敢行しながら、確実に追い込む。右に、左に、上に、下に。一撃ですべての武装を壊さないと、刃が持つかわからない。メーザーバイブレーション機能を採用しているが、それでもボロボロだ。今まで取れだけ刃を交えたかわからないほど、斬って、受けてきたその刀も、もうガタが来ているのだ。元は二本だったがうちの一本は遠の昔に折れている。

 

「はぁっ!」

 

 白蓮の左腕を破壊し、折れた刀の柄で右腕を砕く。そのまま回転蹴りで翼を片方もぎ取る。白蓮はうまく機体姿勢が保てず、徐々に高度を下げて、遂には見えなくなった。

 

「貴様で最後だ、V.V.」

 

 通信をオープンチャンネルで使う。どれだけ長い時間、通信をシャットアウトしていただろう?

 

『ボロボロじゃないか。そんな状態で殺せるとでも?』

 

「殺すさ。それが私だ」

 

『まぁいいさ。やっちゃいなよ』

 

 アンノウンは光線で形成された熱戦の刃を振り下ろす。今の泪呪では、受け止める術がない。

 

「くっ!」

 

 回避行動をとらざるを得ない。逃げた先で、紅い光線が迫る。直撃コース。長時間の気を張り詰めに張り詰めた戦闘が長く続き、集中力が切れ、予想しやすい判断をしてしまった。

 

「しまったっ!」

 

(・・・あぁ、これで僕は、やっと、死ぬことができるのか。・・・父上、母上、レイ、みんな、今そっちに行くから)

 

 しかし、光線は当たることはなかった。

 

「・・・父上、母上!?」

 

『あんた、死ぬ気だったでしょ? 私は許さないから』

 

『そんな簡単に僕の息子が死んでいいはずないでしょ?』

 

 アンノウンはたじろぐ。

 

『君たちは完全に無力化されたはずっ!』

 

『下にアキラがもいだ羽があってね。それを盾にさせてもらっただけだ』

 

『お前の邪魔をするのか、ライゼルっ!』

 

『貴様にその名を口に出す資格はない』

 

「・・・いいのですか?」

 

『やってしまいなさい。あんたのやり残したことを、ここで』

 

『僕らはいつでも応援してるから』

 

 白蓮と紅蓮はおたがい杖のように飛翔する。

 

『これ、最後の一発だよ』

 

 受け取ったものは輻射波動弾だった。

 

「・・・行ってきます」

 

『『行ってらっしゃい』』

 

 壊れかけの色づかない天使は、よみがえった悪魔を討つため、傷だらけの翼を羽ばたかせた。

 

 

 

 

 

 

「ついたっ!」

 

 アキラの反応のある島にたどり着いた。しかし、当のアキラの姿はなかった。

 

「ん? こんな島に来るもの好きもいるものだな」

 

 アキラの代わりに緑の長いさらりとした髪の少女がそこにはいた。

 

「なんだ、お前たちか」

 

「あなたとは初対面のはずですが?」

 

 見知らぬ人にお前呼ばわりされて、いい気なわけはない。とげを含ませてセシリアは応える。

 

「まぁそうだろうな。で要件はアキラなんだろう?」

 

「今どこにいるんだっ!? 答えろっ!?」

 

「行ってどうするんだ?」

 

「アキラを、助けるっ!」

 

「ならだめだ」

 

 緑の少女ははっきりと告げる。

 

「お前たちが行って、それで何ができる? アキラを止めれるとでも思っているのか?」

 

 覚悟を決めた男は泣いても、腕を引っ張っても、殺しても、止まることはない。それを緑の少女は知っていた。

 

「一度決めた道から、一度覚悟を決めた人間を、引き戻すなんてできないんだよ。どんなに泣いても、どんなに怒っても、だ」

 

 私は知っている。止めることはできなかった。どんなに訴えても、曲がることはなかった。

 

「生半可な人間が、覚悟を決めたものの邪魔をするなっ!」

 

 この言葉が届くかどうかはわからない。それでも、伝える。伝えなければならない。

 

「・・・あんたは誰なんだ?」

 

 一夏は問う。緑の少女は知っている。今、一夏が知りたい情報を、全部。

 

「わたしはC.C.。まぁさしずめ、魔女、といったところか」

 

 怪しげな笑みを浮かべたまま、C.C.は専用機組を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 空は軌跡で彩られる。直角の直線。日は落ち星の輝くCの世界。

 

「くっ! しぶといっ!」

 

 アンノウンは傷を大量に追いながらもまだ落ちない。爪と蹴りで傷をつけていく。輻射波動は残り一発。討つための機構はまだ動く。

 

『さっさと死ねよっ!』

 

 アンノウンの砲撃は空を埋め尽くすほどだ。その砲撃の隙間に糸を通すように、機体は空を駆け、ヒットアンドアウェイを繰り返す。熱はひしひしと伝わってくる、光線は視界を奪ってくる。それでも、空を駆け続ける。一瞬の隙、それが生まれるまで。

 

「きたっ!」

 

 その隙は意外と早く生まれた。長い長い張り詰めた糸も切れそうになるほどの一瞬の隙。

 

「この一撃でっ!」

 

 肘を突き出し、輻射波動を使おうとする。

 

『それを待ってたんだっ!』

 

 アンノウンはアキラの機体をがっちり捕まえて固定する。

 

「くっ!」

 

 暴れてもほどけることはない。完全にマシンパワーがアンノウンのほうが優れている。

 

『このまま君にはサヨナラしてもらうよ』

 

 突如、V.V.が機体から飛び降りた。

 

『アキラっ! 単一一定の信号音を確認、自爆する気よっ!』

 

「くっ!」

 

 どれだけあがいても外れることはない。固く、固く縛られた泪呪から脱出する術もない。

 

「コックピットもがっつりガードされてるっ!?」

 

 あがく。生きろと言われた。生きていいと言われた。だから、帰りを待ってくれている二人のために。

 

『予想爆破時間、残り2分っ!』

 

「琴、君自身のバックアップを起動キーにっ!」

 

『わかったっ!』

 

 爆破時刻が着々と迫る。拘束は爪で傷をつけても、翼を無理やりはためかせても、射撃してもほどけない。

 

 残り時間1分。

 

(ごめんなさい。もう、戻れないかもしれません)

 

 コトノハに自爆指示を出そうと口を開けた。

 

『アキラぁッ!』

 

 ライでも、カレンでもない声で、そんな弱音も吹っ飛んだ。

 

「シャルっ!? みんなもっ!?」

 

 頭をよぎるのはみんなが巻き込まれた時のこと。死ぬべきなのは僕だけで十分だ。

 

「琴、被害範囲はっ!?」

 

『予想範囲はこんなものね』

 

 頭部バイザーに映し出された予想被害範囲に、ライとカレンも含めて入っている。このまま爆発させるわけにはいかない。アキラは考える、みんなを助ける方法を。

 

「琴、全装甲パージっ!」

 

『わかった』

 

 機体の全装甲をパージする。パージしたことによって生まれた少しの隙間。その隙間のおかげで拘束を抜け出せた。

 

「誰も死なせない」

 

 パージした装甲の中から輻射波動弾を拾い上げる。そして、自爆するアンノウンに向かって、輻射波動弾を押し付けた。

 

「輻射波動、鎧袖伝達っ!」

 

 アンノウンを侵食していく熱線。自爆前に融解させることで爆破範囲を弱める。しかし、輻射波動弾をフレームで直接押し付けて発動させているため、泪呪をも侵食する。

 

「じゃあね、みんな。短い間だったけどありがとう」

 

 視界が急に光りだした。

 

『アキラぁぁぁぁぁぁっ!』

 

(みんな、無事かな?) 

 

 意識はだんだん遠のいていき、そして・・・何も、見えなくなった。聞こえなくなった。みんなが口々に罵倒し、戻って来いと叫んでも、今のアキラには、届かない。

 

 さようなら・・・そして、ありがとう。




 あぁ、アキラ君、今度こそ死んじゃいましたかねぇ。この物語、アキラ君が死んじゃったら、どうやって展開しましょう・・・ジタバタo(+_+。)(。+_+)o ジタバタ

 今度こそどうぞ良しなに。


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探し物はすぐそこに

 ・・・久しぶりに夢を見た。懐かしい、僕が避けていた日々の、懐かしい風景。

 

(あぁ、僕は、いろんなものをたくさん、手放してきたんだな)

 

 友人がいて、僕がいて。それだけで成り立っていた、あの学生時代。誰かがそばにいることから逃げ、軍に逃げ、線上に逃げた愚かな自分がいた時代。

 

(きっと、僕は、あの時が楽しかったんだな)

 

 眩しい。今なら、あの時あの瞬間がどれだけ大切な時間だったか、わかる。あの時は、もう取り戻せなくて、あの瞬間だけは眩しいほどに輝いていた。

 

(怖かったんだ、僕は。大切な人が死んでしまうのが、大切な人と二度と会えなくなってしまうのが)

 

 僕は今、死ぬほど後悔している。あの時、もっと仲良くしていれば。あの時、もっと楽しく笑いあえていたら。そう思うだけで、後悔は募る。そうだ、きっと、僕はこれから先も、後悔しかしないだろう。

 

(でも、僕はそれでも、前に進まなきゃダメなんだろうな)

 

 後悔しながら、それでも、歩を進めないといけない。泣きながら、怒りながら、自分が進む道を考えないといけない。

 

 ゆっくりと、意識が遠のいていく。

 

 

 

 

 

 

 鼻を抜ける、アルコールの香り。一定間隔で鳴り響く機械音。白いカーテン、白い部屋。

 

「いき・・・てる?」

 

 体は・・・動く。首も、動く。

 

「また、死にそびれちゃったな」

 

 体を起こす。周りには誰もいなくて、涼しげな風が抜ける。安心するとともに、残念な気持ちもあった。誰も、アキラの帰りを待っていなかったんだと。

 

「悲しいな。だれもいない」

 

 点滴をはぎ取り、ゆっくりと、地に足をつける。

 

(歩ける・・・)

 

 体を引きずるように、手すりを頼りにゆっくりと、病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「えぇ!? アキラがいないぃ!?」

 

 看護師から伝えられたのは病人が行方不明になったとのこと。

 

「みんなで手分けして探そうっ!」

 

 病院内をアキラを心配している仲間たちが探し始めた。

 

 

 

 

 

 

(いい風だ)

 

 屋上、空は澄み切った青さアキラを迎えてくれる。体は悲鳴を上げているが、外に出たかった。あんな白い病室は息が詰まる。

 

「ふぅ・・・」

 

 手すりに摑まるのにも一苦労。まったく、不便な体になったものだ。首には起動キーがネックレスのようにかかっていた。

 

(そういえば、琴は動けるかな?)

 

 琴はデータだ。起動キーが損傷していたら、琴の人格や処理能力に影響が出ているかもしれない。

 

(起動キーが特殊で助かった)

 

 この起動キーは唯一アキラしかもっていない品で、モニター、スピーカー、マイクが付いており、琴と会話ができるように改良されているものだ。

 

「琴?」

 

『大丈夫よ、問題ないわ。バックアップもばっちり壊れてないし』

 

「よかったぁ」

 

『無茶するわね、あんた』

 

「そういう性分なんだよ」

 

『まぁ、いいわ。体は大丈夫?』

 

「問題はないよ、動けるし。今は屋上だよ」

 

『・・・どうなっても知らないからね』

 

「なんで?」

 

『すぐにわかるわ』

 

「ふ~ん」

 

 風が髪を撫でる。優しい、安心する。

 

「生きていたのか」

 

 後ろから声がする。この声色を僕は知っている。

 

「C.C.」

 

「お前もしぶといな」

 

「僕としては、また死に場所をなくしちゃったけどね」

 

「それでよかったのか?」

 

「うん。懐かしい、夢を見たんだ。友人とともにいた、学生時代のこと。それでね、初めて、僕が何を欲しかったのか、はっきりとわかった気がするんだ」

 

「そうか」

 

 風はまだ、優しくなでてくれる。

 

「お前も、もう、子供じゃないのだな」

 

 風とは違う、柔らかくて暖かいものが頭を撫でる。風よりも優しく、温かい。

 

「それはわからないな。僕じゃ、わからないことだから」

 

「そうか」

 

 C.C.を見れば、優しい顔をして、頭を撫で続けている。話が続かなくなった。でも、心地いい。不思議な感覚だ。

 

「・・・私はそろそろ戻るとするか」

 

「わかった。ありがとう、C.C.」

 

「礼はいらん」

 

「今度ピザ、作ってあげるよ。もちろん、こっちに来たらだけどね」

 

「わかった。楽しみにしておくよ」

 

 C.C.は元来た道を戻っていった。

 

(心配してくれてたんだなぁ)

 

 今更ながら、だれにも頼ってなかったと分かった。初めて話してくれたと思ったのか。C.C.のあんな顔を見たのは初めてだ。

 

「もう少し、ここにいようかな」

 

 風に吹かれながら、もう少し、待って見よう。みんなが来るまで、ここで。

 

 

 

 

 

 

「アキラ、見つかった?」

 

「ううん」

 

 院内を捜索したが、アキラの姿はなかった。アキラが一人旅立ってしまったのではないか、私たちから逃げていったのではないか、そう考えると、怖くなる。「さようなら・・・そして、ありがとう」。あのセリフがフラッシュバックする。

 

「おや? 必死そうじゃないか」

 

 緑のさらりとした髪の少女が声を掛けてきた。

 

「C.C.、アキラ見てない?」

 

 カレンは聞かずにはいられなかった。もう会えないなんて、そんなのはごめんだ。

 

「C.C.、僕からも頼む」

 

「・・・お前たちの頼みならしょうがない。あいつは屋上だ」

 

 それを聞いた瞬間に駆けだした。・・・ライトカレン以外。

 

「おや? いかないのか?」

 

「ちゃんとお礼がしたくてね」

 

 二人で頭を下げる。

 

「あの子を育ててくれてありがとう」

 

「それは違うぞ、ライ、カレン。そのセリフは違う」

 

 C.C.は困った顔で否定する。

 

「私はあいつの生き方を変えられなかった。私ではだめだったんだ。頼ってもらうことも、わがままを言ってもらうことも、私では叶わなかったんだ。だから、礼なんてしないでくれ。私は、体だけ。あいつの体だけしか育てることができなかったんだ」

 

「それでも、あんたのおかげで今、こうしてアキラに会えることができたの。ちゃんと生きて、私たちの前に来てくれたの。だから、やっぱりありがとうって、そう言いたい」

 

「僕も同じさ。同じように、心に傷を負いながら出ないと生きていけなかったとしても、僕は今こうやって傷をいやしながら生きてるんだ。永遠に消えることのない傷だけど、それでも和らげることはできる、減らすことはできる。あの子もいつか、僕みたいに安心して誰かと笑える日が来るさ」

 

「・・・お前たちは強いな。ずっと変わらないな」

 

「変わるなんてありえないわ。私はずっと紅月カレンよ」

 

 C.C.は笑った。優しそうに、見惚れてしまうほどの笑顔で。

 

「ありがとう」

 

「あんたらしくないわね」

 

「・・・ふふ、そうかもしれないな」

 

 C.C.は踵を返す。

 

「私は元の世界に戻るとするよ」

 

「じゃあね、C.C.」

 

 懐かしい声を後ろに、C.C.は病院を後にした。

 

 

 

 

 

 

「アキラっ!」

 

 屋上に続く扉が勢いよく開かれた。

 

「やぁ、みんな」

 

 アキラは・・・そこにいた。何事もなかったかのような優しい笑顔で、風に身を任せていた。

 

「お前っ! 俺たち、心配してっ!」

 

 アキラは生きていて、こうして声が聞けて、優しく笑っていて。それだけでうれしくて、涙が流れてしまう。

 

「どうして泣いてるの?」

 

 けど、当の本人はなんで泣いているのかわからない。その感情が理解できない。

 

「心配したんだぞっ!? 二度度会えないって言うし、俺たちの前で爆発するしっ!」

 

「ごめんね。でも、僕も安心した。みんながあの爆発に巻き込まれてない、みんながまたそろっているのを見て。よかった」

 

「よかったぁ」

 

 みんな安堵してで、涙が止まらない。うれしいはずなのに、涙が流れる。

 

「僕、死に損ねちゃった。ほんとなら、亡くしたたくさんの仲間の元に、大切な友人のところに、殺してしまった両親のもとに行くはずだったのに。それもできなくなっちゃった」

 

 ちょっと悲しそうに、けれど、どこか嬉しそうに。

 

「いいんだよ、それで。お前が生きていてくれて、本当にうれしい」

 

 アキラにみんなで抱き着く。うれしくてうれしくて、感情のコントロールができない。

 

「・・・僕は、まだここにいて、いいのかな?」

 

「いいんだよ、ここにいても。アキラのいるべき場所は、僕たちの居るこの学園だよ」

 

 今までのアキラには分からなかった。戦場で死んでいた仲間と再会できる兵たちの泣き叫ばんばかりの笑顔を見ても、どうしてそんなに嬉しそうにするのか分からなかった。

 

(あぁ、彼らもみんな、こんな感情だったんだなぁ)

 

 うれしくて、たまらなくうれしくて。安心して涙が出てきて。

 

(僕には、居場所がある。初めてできた、僕がいるべき場所が)

 

 頬をつぅっ、と何かが伝った。

 

(僕も今、みんなと同じように、再会を喜べてるかな?)

 

 アキラは知らない。頬を伝ったものが涙だったということを。




 アキラ君、生きてましたっ! マジかよ、がんじょーかよ。C.C.、アニメ本編よりも優しく描いています。未来でライとカレンを失った悲しみは彼女をも変えたんだ。(そういうことにしといて)

 今後ともよろしくお願いいたします。


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過去を背負いし者の戦いOVA
とある夏の日の思い出


 このお話はアニメOVAからです。
 色々な改変があるため、気に入らない方はブラウザバックしてください。


 とあるマンションのエントランス。手に持っている地図とネットの画像を見比べる、上は黒に胸元の部分にだけチェックがあしらわれているポロシャツ。下はチェックの丈の短めのスカートの少女が一人。

 

 (あれ? 場所間違えたかな?)

 

 中から出てくるのは男女ともにセレブな人ばっかり。マンションもそれに合わせて輝いて見える。

 

「あれ? シャルじゃん」

 

 よく聞きなれた声に振り向く。

 

「えっ!? えぇえぇぇっ!?」

 

 そこにはアキラが買い物袋を抱えて立っていた。上は白に黒縞柄の半袖のYシャツ、赤いネクタイ、黒のベスト。下には黒のスラックス。お堅い、というか。ホストクラブかバーテンダーでもしてそうな格好だ。けど、それが異常なほどに合っている。

 

「あ、アキラっ!?」

 

 咄嗟のことで対応できない。びっくりさせようと思って連絡を入れずに来たのだ。

 

「ほ、本日はお日柄もよく」

 

「え?」

 

「じゃなくて・・・あ、あの、IS学園のシャルロット・デュノアですが四十万君、いらっしゃいますか?」

 

「いやいや、僕だって。・・・大丈夫?」

 

 どうしていいかわからずうろたえるしかない。

 

「えっと・・・来ちゃった///」

 

「・・・」

 

 こうなるとアキラもどうしようもなくて、混乱してくる。

 

(あぁっ! 僕の馬鹿僕の馬鹿っ! なに彼女みたいなこと言ってるのさっ!)

 

「あ、あぁ、そっか。じゃあ、上がっていきなよ」

 

「えっ! 上がっていいのっ!?」

 

「そのために来たんでしょ? 変なの」

 

(へ、変なのって言われちゃった///)

 

 うれしいような困ったような不思議な表情を浮かべて止まっているシャルの手を引き、エントランスホールを通り、エレベータで8階まで上がる。

 

「そういえばシャル」

 

「ん?」

 

「前も思ったけど、服選びのセンスすごいね。よく似合ってるよ」

 

「あ、ありがと///」

 

(に、似合ってるって言われちゃった///)

 

 幸せそうなシャルを見て、アキラは不思議そうにその顔を見ることしかできない。そのままシャルは8階でエレベータが留まるまで幸せそうにしていた。

 エレベータから降り、そのままアキラが借りている部屋まで。

 

「ただいまぁ」

 

 荷物を持ったまま器用に靴を脱ぐ。靴も革靴のようだ。

 

「お、お邪魔します」

 

「そこ掛けといて。今飲むものだすから」

 

「うん、ありがとう」

 

 部屋はセンスのいいインテリアでまとめられており、かなり小綺麗に掃除されている。玄関から見て扉は5つ、現在いるダイニングで一つ扉の先が決定する。そのほか四つの扉のうち二つがトイレと脱衣所だとすると、残る二つのうちどちらかがアキラの部屋となっているはず。

 

(ここがアキラの家かぁ)

 

「ねぇアキラ」

 

「ん?」

 

「お家のことってアキラがやってるの?」

 

「そうだよ、一人暮らしだからね」

 

「えぇっ!」

 

「学園に入る前に借りてたんだ。父上はこの階の別の部屋に母上と一緒に住んでるよ」

 

「へぇ」

 

(アキラって、いい旦那さんになりそうだよね・・・。だ、旦那さんっ!?)

 

「はい、麦茶でよかったかな?」

 

 コースターの上に麦茶入りのグラスが置かれる。

 

「うん。ありがと」

 

 外は暑かった。それもあり冷たい麦茶はおいしく感じた。

 

(アキラと二人っきりかぁ)

 

 幸せな気分に浸りながら麦茶でのどを潤す。

 

「ケー・・・。誰か来たみたいだね」

 

 何かを言いかけたアキラはチャイムの音で、ドアホンに意識を向ける。

 

「はぁい、どちら・・・って君か、ラウラ」

 

『来てやったぞ』

 

「わかった。8階の・・・」

 

(はうぅぅぅ・・・)

 

 もっとこのままがよかったと残念なシャルロットだった。

 初めのチャイムとは違う、ベルの音がする。

 

「上がってきたね」

 

 アキラが玄関先に向かう。

 

「やぁ、よく来てくれたね」

 

「お邪魔するぞ」

 

 玄関で靴を脱いだラウラから箱を渡される。

 

「手土産だ」

 

「ありがとう・・・ってここかなり並ぶお店じゃなかったけ?」

 

「我が優秀な副官が進めてきたのだ、手土産にもっていってはどうかとな」

 

「そっか、いい副官がいるんだね」

 

「そうだろうそうだろう」

 

(あ、ものすごく誇らしそう)

 

 誇らしそうなラウラが何だかかわいく見えてしまう。

 

「ふふ、可愛いねぇラウラは」

 

「きゅ、急にそんなことを言うな、バカものぉ///」

 

 発言にいつもほどの切れが無く、声も若干裏返ってる。褒められてないのだろうな、なんて考えているとふと、ラウラの服装に気づいた。肩を出した黒のミニドレスのような服、普段のラウラからは想像もできないが、よく似合っている。

 

「その格好も。よく似合ってるよ、ラウラ」

 

 廊下を渡りながら、そうこぼす。

 

「なっ!」

 

 そのままドアを開ける。

 

「シャル、ラウラが来たよ」

 

「ん? シャルロットが来ているのか?」

 

「うん、ラウラより少し先にね」

 

「シャルの隣に腰掛けといて、今飲み物を出すから」

 

 アキラがまた台所の方に。

 

「考えていることは同じようだな」

 

「皮肉にもね・・・はぁ」

 

「はい、ラウラ。あと、これ、ラウラからのだよ」

 

 三種類、それぞれ違うケーキが並べられる。

 

「ラウラ、ありがとぉ」

 

 なんというか、こう見ると姉妹のようだと、ふとそう感じた。

 

「ケーキは二人が先に選んでよ。あと、飲み物、紅茶とかの方がいいかい?」

 

「ううん、わたしはこのままでもいいよ」

 

「わたしもかまわんぞ」

 

「わかった」

 

 アキラは台所に。たぶん、自分の分の飲み物を取りに行ったのだろう。

 

「シャルロットから選べ」

 

「いいの? じゃあ・・・これ」

 

 シャルロットが選んだのはベリー系をふんだんに使ったケーキ。

 

「わたしはこれだな」

 

 ラウラはいちごのショートケーキ。

 

「二人とも、選んだ?」

 

 フォークを人数分と自分の分の麦茶をもってアキラが戻ってきた。

 

「決まったよ」

 

「わかった」

 

 二人にフォークを渡し、それぞれケーキをとってもらう。

 

「じゃあ、僕はこれだね」

 

 アキラはチーズケーキになった。

 

「あ、おいしい」

 

「うん、ホントにおいしいね。せっかくだし、少しづつ交換してみる?」

 

「それはいいな」

 

「食べさせあいっこ、みたいな?」

 

 そこまで言ってシャルロットとラウラはハッとする。これはもしかしたら、食べさせても貰えるのではないかと。

 

「うん、いいんじゃないかな」

 

 二人の表情が目に見えて嬉しそうになる。

 

「あ、でも、僕の口がついちゃってるのは困るよね」

 

 今度は逆に落胆する。信号のように目まぐるしく変わって行く表情。

 

「だったら、二人だけで・・・」

 

 そこまでいって話を遮るほどの勢いで否定する。

 

「そんなこと、ノープロブレムだよ、アキラっ!」

 

「わたしは気にしないぞっ!」

 

 アキラは少し驚いた表情を見せる。普段からは想像できな過ぎてちょっと驚きだ。

 

「わ、わかった」

 

 なにかわよくわからないが、別に気にしないから一口食わせろ、ということだと思うアキラをよそに、フランスとドイツでは今まさに協定(仮)が結ばれた。

 

「じゃあ、まずはアキラの分を食べさせてくれ」

 

「わかった、先にラウラからね」

 

 フォークを綺麗に使ってケーキを一口大に切る。

 

「はい、あ~ん」

 

「あ、あ~ん」

 

 パクっ! と、そのまま幸せそうな何とも言えない表情になる。

 

「おいしいな」

 

(声も若干上ずっているけど、まぁ、おいしかったんでしょ)

 

「つぎ、シャルね」

 

「うん」

 

「はい、あ~ん」

 

 シャルも同じように何とも言えない表情になった。

 

「僕、これ好きだなぁ」

 

 二人とも、はにゃぁんという効果音がぴったりな顔になった。買ってないし、持ってないけど、猫耳カチューシャをつけてみたい。

 

「じゃあ、僕も貰おうかな」

 

 アキラは麦茶で口を流す。

 

「どっちからにしようかな・・・」

 

(ベリーとチーズだと、チーズの方が濃いよねぇ。となると、下に覚えさせたいから、先にベリーかな)

 

「ベリーからにしよ。フォークは僕ので突っついても大丈夫?」

 

「あ、待って。せっかく食べさせてもらったから、今度は僕たちが食べさせてあげるよ」

 

「わかった。じゃあ、シャルのから頂戴?」

 

 シャルが自分のフォークで切り分け、アキラの口に運ぶ。

 

「はい、あ~ん」

 

「あ~ん」

 

 すっきりとしたベリーとソースの酸味が突き抜け、控えめなクリームの甘さが混ざり、絶妙な甘さが口いっぱいに広がる。

 

「おいしい」

 

「よかったぁ」

 

 もう一度麦茶で口をゆすぐ。

 

「じゃあ、ラウラの頂戴?」

 

「あ、あぁ」

 

 切り分け、口に。

 

「あ、あ~んだ」

 

「あ~ん」

 

 しっとりとした記事から、甘いチーズの香りが口に広がる。ただ甘いだけじゃない深みもある。

 

「これもおいしい。二人とも、ありがと」

 

 ここでチャイムが鳴る。ラウラが来た時に聞いた、ドアホンのチャイムだ。

 

「今日はやけに人が来るなぁ」

 

 ドアホンを確認すると、一夏、箒、セシリア、鈴音が。

 

「みんな」

 

『遊びに来たぜ』

 

『お邪魔してもよろしいかしら?』

 

「うん、僕は大丈夫だよ。一夏は部屋分かるよね?」

 

『おん』

 

「じゃあ、よろしく」

 

『わかった』

 

「アキラ?」

 

 シャルロットが何かあったのかと少し心配そうな顔を向けてくる。

 

「一夏たちが来たんだ。やけに人が来るなぁ、今日は」

 

(本当に、人が来るなぁ)

 

 実は一夏が来るのは知っていたのだ。元々そういう話をしていたし、その為の道具も揃えていたのだ。

 

「けどまぁ、暇じゃなくなったかな」

 

 シャルロットもラウラも優しそうに微笑む。アキラが嬉しそうに微笑んでいる。それだけで嬉しい。

 

「よかったね、アキラ」

 

「うんっ!」

 

 と、ここでドアベルがなる。

 

「お、来た来た」

 

 玄関のドアを開ける。

 

「おはようアキラ」

 

「おはよう、みんな。さ、上がって」

 

 玄関先には女物の靴が二足分。

 

「先誰か来てるのにお邪魔してもいいのか?」

 

「それ、ラウラとシャルのだから」

 

「そうか」

 

 リビングに通し、ソファーに腰かけて貰う。

 

「一夏は知ってたけど。まぁ、よく連絡なしで来たねぇ・・・」

 

 人数分のお茶を準備しながらみんなに呼びかける。

 

「一夏が行こうって言ったからあたしたちは来たのよ」

 

 と、来たばっかりの一夏一行。

 

「わたしは驚かそうと思ったのだ」

 

 と、その前に来たラウラ。

 

「えっと・・・あははは・・・」

 

 と、一番最初に来たシャルロット。

 

「まぁいいや。なんとなくそんな予感してたし」

 

 リビングから離れて、何かいろいろ入っている袋を持ってきた。

 

「なんだ、これ?」

 

「一夏がくるのは知ってたから。外に出る気はなかったし、何か家の中で楽しめるものって思ってみんなが来る前に買い物に行ってたんだ」

 

 袋の中身はいろいろな玩具。日本、アメリカ、イギリスフランスドイツ。各国を代表する数々の玩具。

 

「僕のチョイスだからちょっとあれかもしれないけど、まぁ、無いよりはってことで」

 

「意外と買ったんだな」

 

「お金に糸目はつけない主義でね。まぁ、いっぱいあるし」

 

「いっぱいって・・・。どのくらいあるんだ?」

 

「う~ん・・・アメリカの国家予算三年分ぐらいかな。もしかしたら、もっとあるかも。全然意識してなかったからわからないや」

 

 ここにきて、アキラは大富豪説浮上。

 

「何したらそうなるんだよ・・・」

 

「えっと、働くだけ働いて、全然使わなかったらこうなった・・・かな。欲が低くてね。こうやって人が来るかもとか想定してなかったら最低限の家具だけで済ませちゃうから」

 

 そんなのありなのかと考えるが、もともとオーバースペック気味のアキラを思い出し、有り無し関係なしに諦めた。

 

「で、何する?」

 

「これなんかどうだ?」

 

「それはドイツ発祥のゲームだね。みんなもそれでいいかい?」

 

「おう」

 

 満場一致。このゲームをすることになった。

 

 

 

 

 

 

 時は経ち、日も暮れ始めたころ。時計の針は1830を指している。

 

「そろそろ夕飯の支度だなぁ・・・。みんな、何食べたい?」

 

「え? アキラが作るのか?」

 

「嫌かい?」

 

「意外だなと思って」

 

「それは心外だよ一夏。料理できる方なんだよ、僕」

 

「じゃあ、お任せで」

 

 みんなも賛成のようだ。

 

「お任せかぁ・・・意外と困るんだよなぁ」

 

 そのまま台所の方に向かう。

 

「みんなはそのままくつろいでて」

 

 水場の音や包丁の小刻みな音。台所からはいろいろな音色が響く。

 

「あいつ、ホントにできるのかな?」

 

「後ろ姿は様になってるな」

 

「なんか以外よねぇ」

 

「意外とできそうじゃありません?」

 

「僕はてっきり料理できないと思ってたのに」

 

「わたしはできると思っていたぞ」

 

 上から順に一夏、箒、鈴音、セシリア、シャルロット、ラウラ。それぞれ口々にアキラが料理をするということに意見を出す。

 

「みんなぁ、聞こえてるよぉ?」

 

 だから、ちょっと大きめの声で。

 

「ほんと、かぁなり心外なんだけど。一夏に至ってはできない前提じゃん」

 

 ものの40分で作り上げた。

 

「困った挙句にパスタにしました」

 

 ソファーの前のテーブルにきれいに盛り付けられたスパゲッティ・アッラ・カルボナーラが人数分。フォークとスプーンを添えて出てきた。

 

「アキラさん、これ、生クリームは使いましたの?」

 

 本場を知るイタリア代表セシリアは疑問に思う。

 

「え? 使わないものじゃないの?」

 

 アキラは生クリームをカルボナーラには使う者でないと思っていた。つまり、これは一切生クリームを使っていないものとなっている。

 

「へぇ・・・でも、生クリーム無しで作れるものなのか?」

 

 一夏も料理をしてきたが、カルボナーラには生クリームを使うのが一般的だと思っている。

 

「確か、卵の凝固を防ぐための生クリームなんだよ。だから、本場イギリスでは使わないものだと思ったんだけど・・・」

 

 先に一口食べてもらう。口に入れた瞬間、セシリアの表情が変わる。

 

「どうかな、セシリア?」

 

「お、おいしいですわ。すごいですわ、一流シェフに作らせてもここまでの物は作れませんわ」

 

 本場イタリアの代表からのお墨付きもいただけた。

 

「そ、そんなにすごいのか?」

 

「えぇ。わたくしも、ここまで完成度の高いものは滅多に口にできませんでしたわ」

 

 おいしそうに一口一口味わって咀嚼する。

 

「よかった。みんなも食べて食べて」

 

「「いただきます」」

 

 日本文化で生活している者から出てくる。

 

「ほんとだ、おいしい。すっごい濃厚」

 

 それぞれ称賛の言葉が上がる。

 

「アキラ、どうやって覚えたの?」

 

 料理部部員として、アキラの腕前の高さに驚かされる。ぜひ、聞いてい見たいものだ。

 

「確か、フランスからシェフを招いて、本を見ながら味の指南をしてもらったかな。ある程度完成できるようになったら、そこからは味の研究って感じ」

 

 ここでも能力値の高さが。

 

「もともとは生クリームを使うように教えてもらってたんだけど、本場の味を知ってからなんか違うなと思って、使うのをやめたんだ」

 

 つまるところ、独学で生クリームを使わないカルボナーラを作り上げたようだ。

 

「もう、僕が料理部にいるのがおかしく感じてくるなぁ」

 

 普通は、料理本を見ながら何回も作っては失敗してを繰り返すものだ。アキラはもう、創り始めの過程がもう違う。

 

「いやいや、シャルも頑張ってるじゃん。部活どう真面目にしてるの、知ってるんだよ?」

 

「そ、そうなんだ///」

 

 意外とみんなの活動状況をアキラは知っていた。どこまで隙がないのだと、完夫駅長人に見える。

 そんなこんなで夕飯を食べ終え、アキラが食器をしまう。

 

「あ、そうだ一夏」

 

「ん?」

 

「今日、どうするの?」

 

「そうだな、千冬姉から許可も貰ったし、泊っていこうかな」

 

「えっ!? 一夏、アキラのところに泊まっていくの?」

 

「そうだけど・・・」

 

 もともとそういう話でアキラが千冬に話を通していたのだ。

 

「えぇっ!? アキラずるいっ!」

 

「ずるいって、なんでさ?」

 

「別に、ずるいもんでもないだろ」

 

 朴念仁ズは分からない。まぁ、それゆえの朴念仁という称号なのだが。

 

「みんなは近くの駅まで送っていくよ」

 

 アキラは革靴を履く。時間はもう20時を指している。

 

「僕のマンションにこんな大勢泊れるほどの広さの部屋も数もないし、ね」

 

 さ、行くよ。と玄関を開ける。後ろ髪を引かれる想いで女子組はアキラ宅を後にする。

 

「あ、一夏は待ってなよ。合鍵は預けとくから」

 

「わかった。みんな、気をつけてな」

 

 その後、駅まで送って、マンションに戻る。

 

「アキラ、お前の昔話、色々聞かせてくれよな」

 

「それが目的だったんでしょ? もう」

 

(ほんとに君は。どこまでも僕を知ろうとする)

 

 無邪気に僕のことを聞いてくる、今は亡き友人の影が重なる。

 

「アキラ、早く早く」

 

 せかしてくるのも友人にそっくりだ。今晩はなかなか眠れそうにないな。

 

「わかったわかった」

 

 アキラの部屋でアキラの話を。これは夢じゃないと、噛みしめながら。



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ネクストクール(クール終わったらラベリングします)
まだ、心はあの場所に


 退院してからは大変だった。反省文と特別授業は待ってるし、長期休み来るから物件探ししないといけないし、家具も揃えないといけないし。本当に大変だった。

 

(また、学校が始まるなぁ)

 

 あのとき以来、皆が僕を遊びに誘ってくれたりして、今まで以上に構ってくれるようになった。だからかな、今まで退屈休みは仕事に打ち込むことで時間を潰していたのに、今年は仕事をしていないのに、退屈しなかった。色んな思い出ができた。

 

(僕も、誰かに頼ることを覚えていれば、君との楽しい思い出ができたのかなぁ)

 

 もう、二度と会えない戦友を思い、思い出に浸る。やっぱり、後悔してるんだろうな。でも、それでもやっぱりこの道で良かったと思ってる。

 

(二学期、どうなるのかなぁ)

 

 今後のことに胸を膨らませながら、久しぶりに睡眠を取った。

 

 

 

 

 

 

 二学期、学園生活に戻る。休みボケが抜けない人、楽しみでしょうがなかった人、多くの人が色々な話をしているなか、朝のSHRが始まる。

 

「皆さん、おはようございます。今日は二学期最初の日です。しっかりと学問に励んでください。・・・さて、本日は転校生の紹介です」

 

 二学期に入ってすぐに転校してくるような人もいるようだ。

 

(誰なんだろ?)

 

 興味はあるが別に凝視するほどではないと窓から外を眺める。

 

「失礼します」

 

(ん? 聞き覚えのある声だなぁ)

 

「えっ!? あの子かわいくない?」

 

 女子が騒ぎ始めた。まぁ、男は僕と父上と一夏しかいないのだけど。

 

「あ、いたいた」

 

 足音が近づいてくる。おかしい、転校生が僕のことを知ってるわけない。

 

「おはよー」

 

 いきなりアキラに転校生は抱きついた。アキラも驚きすぎて相手の顔を見る。

 

「なっ! どうして君がっ!?」

 

 クラスもざわめく。それもそのはずだ。アキラと面識があるようで、さらにあいさつ代わりに抱き着くような子なのだ。

 

「あのぉ、自己紹介、してもらってもいいでしょうか?」

 

「わかりましたぁ」

 

 黒板の前に戻り、癖のない、きれいな字で黒板に走り書きしていく。

 

「初めて、四十万ユキネです。兄がお世話になっています」

 

「えぇっ!」

 

 アキラ以外はもう驚きすぎて訳が分からずただ茫然と口を開けている。

 

「なんでここにいるのさ」

 

 周りのおかげで冷静になれたアキラは、問いただしにかかる。

 

「え~、楽しそうだなぁって思ったから、じゃだめ?」

 

「だぁめです、帰りなさい」

 

「え~い~じゃぁん、お願いっ!」

 

「迷惑かかるでしょ? 山田先生も、なんで止めてくれなかったんですか?」

 

「えっとですねぇ、それはまぁ、いろいろありまして」

 

「ね、せんせも許してくれてるからさ」

 

「はぁ。ライさん、ちょっと迷惑かけるかもしれません」

 

「僕はいいけど。アキラ、そんなお兄ちゃんみたいなこともするんだね」

 

「えっ! えっと、その、まぁ・・・」

 

 普段見せないアキラの一面。はっとクラスを見渡すと、微笑ましそうな面々が。

 

「え・・・みんな、どうしてそんな顔してるの・・・っ?」

 

「だってね、アキラ、普段そんな顔も声もしないんだもん」

 

 最近になって、アキラの表情が豊かになってきた気がする。本当に心を開いて来てるんだなって、そう実感する。うぬぼれかな?

 

「シャルまで・・・」

 

 全員笑う。それを見てアキラもシャルも、担任も。

 

(あぁ、こんな日々を待ってたんだ)

 

 昔は、こんな風にみんなと笑えなかった。家族のことを考えると、安穏と生活するのは許されないと思っていたから。

 

『なぁ、アキラ。お前は今、最高に楽しく過ごしてるか?』

 

(うん、レイ、楽しく過ごせてるよ。君のおかげだ。ありがとう)

 

「四十万、ちょっと来い」

 

「わかりました」

 

(あれ? 未提出の物何かあったっけ?)

 

 廊下に出ると軍服を着た方々が待っていた。

 

「君が四十万アキラ君だね?」

 

「そうですが」

 

 意識していなくても目が鋭くなる。アキラの情報は秘匿されているものが多い。

 

「まぁ、そう警戒するな。今回転校させた四十万ユキネの件だ」

 

「彼女に何か?」

 

「もともと犯罪者として終身刑・・・それが正しいのだが、操作技術と銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)との高いリンクを見て、正しい知識を学ぶのがよいと判断した。そこでだ。君と家族と言い張るので、君に監視を頼みたい」

 

「何が目的ですか? 僕には世界を滅ぼすだけの操作技術と機体があります。事と次第によっては・・・あなた方の敵とならざるを得なくなりますが?」

 

「目的は彼女から採れたデータを用いて第四世代ISの開発を行うことだ」

 

「なるほど・・・。データがあればいいんですね?」

 

「そうだ」

 

「すでにデータはあります。これがあれば開発がはかどることでしょう。ただし、条件があります」

 

「条件か、なんだ?」

 

「四十万ユキネへの銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の件を引き合いに出し干渉することを一切禁じる、です」

 

「ほう、交渉をするきか?」

 

「これが交渉に見えますか?」

 

「・・・なるほど、その条件、飲もう」

 

「助かります」

 

「君、いい眼をしているな」

 

「ありがとうございます」

 

 軍の人が下がっていく。

 

「すまないな。私では対処できない」

 

「いいんです。この手のことは慣れています」

 

 昔も今も、これはずっと変わらない。交渉しずらい相手と交渉するのは。ずっと、両親を失う前から、ずっと。

 

「・・・そうか。ならいい。教室に戻れ」

 

「わかりました」

 

 教室では一時限目が。急いで席に戻り授業を受けた。

 

 

 

 

 

 

 昼休みまでしっかり講義を受け、疲れて伸びている一夏を起こす。

 

「生きてる?」

 

「生きてる生きてる」

 

「そんなになるほど難しい講義でもなかったよ?」

 

「俺には難しいんだってば」

 

(確か、レイも勉強、だめだったよなぁ)

 

「・・・アキラ」

 

「ん?」

 

「お前今、遠い目してたぞ」

 

「あぁ、ごめんね。一夏の反応見てさ、友人のこと思い出してた。彼も勉強、できないタイプだったなぁって」

 

「その・・・悪かったな」

 

「いや、気にしないで。さすがに割り切ってるから、もう・・・会うことはできないんだって」

 

 空気が微妙な流れになる。

 

「ごめん、変な空気にしちゃったね。食堂、行こ?」

 

 そう・・・もう彼に会うことはない。でも、できるなら・・・もっとずっと、僕の隣で、こうして、笑っててほしかったな。




 はい、まだまだ終われませんっ! 書いてて楽しいのでもうちょっと続けます(読み手が楽しいかはわからんっ!)

 今回から、じーずんつー?みたいな感じで、前回の「探し物はすぐそこに」で1クール終わった感じです。今回からね、日常っぽく恋愛面をゴリゴリ増やしていこうと思いますのでね。キュンキュン(できる変わらないが)したい方もこれからもどうぞよろしくお願いいたします。


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アキラ、教官になる

 昼休みも終わり、五限目も終わった。次の授業を考えながら、ちょっと物思いにふけっているときだった。

 

「アキラ、いる?」

 

 珍しい人がアキラのもとを訪ねる。

 

「鈴音? どうかしたの?」

 

「ちょ、ちょっといい?」

 

「いいけど・・・」

 

 そのまま、ちょっと離れた、誰もいない廊下に連れていかれる。

 

「あのさ、臨海学校であたし、おぼれたじゃない?」

 

「うん」

 

「その時にさ、じ、人工呼吸、したって話らしいじゃない」

 

「あぁ~、ごめんね。いやだったら悪いからさ、鈴音が知らなかったら、なかったことになるかなって」

 

「そ、そう。あ、あの」

 

「ん?」

 

「あ、ありがと。そ、それだけっ!」

 

 走ってどこかに行ってしまった。

 

「・・・助けようと思ってやったけど、かなり軽率な行動だったかな?」

 

 その行動の真意が気になるアキラはその後の授業、若干上の空だった。それがまずかった。午後は実技講義だったがために、普段なら絶対にやらかさないような凡ミスを連発。結果として、アレクサンダ・スペリオルは大破。シールドを完全に削り切られてしまった。

 

「はぁ」

 

 更衣室で今日の戦闘データを振り返る。

 

「こうまで凡ミスが目立つと、気が緩み切ってるなぁ」

 

 回避の甘さ、バレルロールのコントロール制度が落ちている。さらに射撃の制度も低く、命中率が30%だ。

 

「これは・・・どうしようもないな」

 

「だぁれだ」

 

 後ろから目を隠される。

 

「・・・はぁ、わかってますよ? 生徒会長さんっ?」

 

「えぇ、面白くないなぁ」

 

「面白いじゃないですよ、ここ男子用更衣室ですよ?」

 

「ちぇ、厳しいなぁ。四十万く、ん、は♡」

 

「知らないです」

 

「まあいいわ。そんなことより、時計見ないと、織斑先生に怒られるよ?」

 

「え?」

 

 時間は六限目を刺している。

 

「あ、しまった」

 

 急いで服を着て部屋を後にする。・・・織斑先生になんて言い訳しようかなぁ。

 

 

 

 

 

 

「言い訳はあるか?」

 

「・・・いえ、言い訳もないです」

 

「ほう、お前は何も考えずに講義に遅れるのか?」

 

「申し訳ありません」

 

「・・・だそうだぞ織斑。お前もこいつぐらい真面目な言い訳をしたらどうだ?」

 

「うっ!」

 

「・・・席に戻れ、四十万。あとで職員室に来い」

 

「わかりました」

 

(はぁ、憂鬱になるなぁ)

 

 授業を終えてからのことを考え、より気分が下がる。

 

(今日はとことんついてないなぁ)

 

 今日一日、あまりいいことはなさそうだ。

 

 放課後の職員室。こってり怒られた。

 

「失礼しました」

 

 時計を見ると、時間は16を指している。

 

「特に何かあったわけじゃないからいっか」

 

「あら、四十万くん」

 

「会長」

 

 横に何事もなかったように立っている楯無。

 

「そういえば、あなたの入学試験、執り行ってなかったじゃない?」

 

「まぁ。そうですけど」

 

「だ、か、ら。このまま、試験しようかなって」

 

「急ですね」

 

「いいじゃないの、ほら、来なさい」

 

「・・・わかりました」

 

(本当に今日はとことんついてない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は柔剣道場。服は柔道着。

 

「一本勝負でどうかしら?」

 

「一本ですか?」

 

「あら? 心配かしら?」

 

「いえ、それでは確実に会長が不利では?」

 

「あら? なぜかしら?」

 

「昔は、ですけど。世界を一人で転覆できるだけの力があったんですよ? 生身で」

 

「あら、それは面白そうね」

 

「・・・あなたにはそういった面では敵いませんね。わかりました」

 

 ふぅ・・・っと一息。いつもみたいな柔らかい空気じゃない、集中する。気を張り詰める。そうすると、自分でもわかるぐらい、視界が鮮明になる。スゥっと、世界が体に馴染む。

 

「名乗ったほうがいいのでしょうね」

 

「そうね」

 

「ナイトオブファイブ、アキラ・サルージェ」

 

「生徒会長、更識楯無」

 

「「参りますっ!」」

 

 お互いに動かない。・・・動かないのの、何がすごいのか。たぶん、多くの人は分からない。動けないのには理由がある。動いたら終わるのだ。どちらかが動けば、それで終わってしまう。

 

「来ないのですか?」

 

「だってぇ、罠な気がするんですもの」

 

「じゃあ、私が仕掛けますっ!」

 

 アキラが動いた。大技を決める必要はない。確実に相手をダウンさせるだけでいい。が大技を決めようとして、大きなモーションをとる。

 

「あらあら、甘いですわね」

 

 アキラはカウンターでそのままきれいに倒された・・・ように見えた。

 

「残念です」

 

 組み敷かれていたのは楯無だった。

 

「わざわざ大技決めに来ると思いますか? 普通」

 

「それも・・・そうね」

 

(四十万君の雰囲気に気圧されていたわね)

 

「久しぶりにこの名前名乗った気がします」

 

「そうなの?」

 

「えぇ、昔はこの名前でしたから。懐かしい」

 

「そうなの・・・。まあいいわ、あなたの腕を見込んで頼みがあるの」

 

「何ですか?」

 

「織斑一夏を鍛えて欲しいの」

 

「・・・成程、わかりました。引き受けましょう」

 

 何かあるのだろう。この先、彼を鍛えなければいけないものがある。

 

「ならば、僕も、あの服に袖を通したほうがいいんだろうなぁ」

 

「どんな服なの?」

 

「ナイトオブファイブの正装、騎士服です。僕の仕事着でした」

 

「それ、今度見せなさい」

 

「えぇ・・・」

 

「いいじゃない、気になるんだもの」

 

「わかりました、また今度ですよ?」

 

 アキラは一度部屋に戻る。時間はまだあるから、今から一夏の元に向かう。彼が己を守れるようになるために。今からアキラは訓練期間中は一夏の命を預かることになる。

 

「さぁ、気を引き締めていこう」

 

 服装は、学生服ではない。黒に金の刺繍に入ったシャツ、白を基調としたスーツ、黄色のマント。ナイトオブファイブを示す騎士服。

 

「仕事だ」

 

 第四闘技場に向かう。

 

 

 

 

 

 

「一夏、いる?」

 

「おう、ここだ」

 

 今まさに、特訓の最中だ。箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、それぞれから、いろいろなものを教わっている。

 

「今から、ついてこれる?」

 

「どうしたんだよ急に。それにいつもと格好も違うし」

 

「ある人と話してね。君に稽古をつけることになったから」

 

「はぁっ! 俺の意思はっ!?」

 

「う~ん、ないんじゃないかな。でもまぁ、僕、普段から誰にも稽古つけていないんだから、一夏的には受けてみたいんじゃない?」

 

「正直、めっちゃ気になる」

 

「わかった。ごめんね、みんな。今から一夏借りていくね。・・・あと、シャルとセシリアにはシュータースローでサークルロンドやってほしいんだ」

 

「え? いいけど・・・」

 

「わたしもかまいませんわよ」

 

「一夏それをしっかり見て目に焼き付けて。さぁ、訓練開始だっ! 各自、持ち場につけっ!・・・じゃなかった、みんな、よろしく」

 

「おう」

 

(この服を着ると、どうも感覚が戻るなぁ)

 

 アキラがいいというまでロンドで舞ってもらった。

 

「さぁ、一夏、今度は君がこれをするんだ」

 

『わかった』

 

「しくじるなよ?」

 

『おう』

 

「よし、では始める」

 

 ゆっくりと回転し、高度を上げる。

 

「貴公のタイミングで始めろ。私が合わせる」

 

『わかった』

 

 そこから進むことはなかった。一夏は回転の速度制御と回避制御、射撃制御が同時にできなかったのだ。

 

「詰めが甘いぞ、何をやっているっ!」

 

『わ、わるい』

 

「気を緩めるな、続けるぞ」

 

『は、はいっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキラ、どうしたんだろ?」

 

「いつもと口調が違いますわね」

 

 そう思うのも無理はない。実際、普段の口調とはかけ離れてきついものとなっている。それは、軍に所属していた時のアキラだ。

 

「あの服も、初めて見たし」

 

「そうですわね・・・なかなか珍しい服装ですわね。売ってるものなのでしょうか?」

 

(カッコいいなぁ)

 

「いいなぁ、一夏」

 

「どうかしましたの?」

 

「う、ううん、何でもないっ!」

 

 二人は訓練生と教官をただただ、観客席から見守る。

 

 

 

 

 

 

 

「動きが甘いぞ」

 

『はいっ!』

 

 ロンドは一夏がボロボロになるまで続く。

 

「射撃精度にムラが出てきてるぞ、集中し直せ」

 

『そうは言ったって・・・』

 

 回りながらの射撃に回避行動。一度に意識を割かなければいけない部分が多すぎる。だから簡単に機体はコントロールを失う。

 

『ぐはぁっ!』

 

 また、コントロールを失って地面に落ちる。

 

「集中を絶やすな」

 

『くっ!』

 

 その日の訓練は一夏が気を失うまで続いた。



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まだまだ雛鳥

「まったく、ひどいぜ」

 

「ごめんね。まさかここまで気が入るとは思ってなくて。軍属だった頃の僕はこんな感じで部下に接してたのかなぁって思っちゃった」

 

 部屋まで背負われる一夏。アキラの背中でアキラに悪態をつく。体がボロボロになるまでずっとアキラと訓練していたのだ。

 

「その服、ラウンズってやつのか?」

 

「そうそう。仕事の時、ずっとこの服だったんだ」

 

「どうしてそれを着ようと思ったんだ?」

 

「これから先、僕は君の教官として君を鍛えていくつもりなんだ。だから生半可な気持ちで挑まないためにって」

 

「にしてもなんで急に?」

 

「そりゃ、男がIS使ってるんだから。絶対よからぬことを考えた人が来るからね。自分の身はどんな人が相手でも守れるようにしないとね」

 

「・・・お前、すげえな」

 

「なんで?」

 

「俺、そこまで考えてなかった」

 

「僕も、ここまで考えるようになったのは小学校六年生ぐらいからだから。いつか一夏もできるようになるよ」

 

 部屋までが長く感じる。一夏は疲れているからもちろんのこと、訓練を執り行ったアキラも疲れている。

 

「そういえばさ」

 

「ん?」

 

「アキラって、前の世界ではどんな感じだったんだ?」

 

「ん~、そうだねぇ・・・一言で言うなら、壁を作る人だったかな」

 

「壁?」

 

「そうそう、僕のプライバシーに踏み込ませない、絶対的な壁。前の世界で僕の心の壁を越えれたのは友人一人だけだったんだ」

 

「その友人のことも聞かせてくれよ」

 

「わかった。彼はね・・・」

 

 その後、部屋についてもアキラの前の世界の話をねだり、結局アキラが話し疲れるまで、起きていた。

 

 

 

 

 

 

「・・・君もこんな時間に起きてくるんだねぇ」

 

「えへへ、ちょっと気になってきてみたんだぁ」

 

 日も登らない時間。アキラは珍しい侵入者と対峙していた。

 

「まったく、生徒会長さんに怒られないの?」

 

 侵入者は生徒会長と同室している。

 

「大丈夫、許可貰ってきたから」

 

「はぁ・・・全く、ユキネも会長も・・・。一夏起きてないから水場使わないから何も出せないよ?」

 

「うん、食べ物目的じゃないからだいじょーぶ」

 

「日は出てないけど、外いこっか」

 

「うんっ!」

 

 まだ街灯照らす遊歩道。

 

「君とこんな風に歩くのは何年ぶりだろうね」

 

「うん・・・」

 

「・・・今の僕は、君にはどう映ってる?」

 

 態度には出していないがずっと、ずっと気がかりだった。あの日から、何か自分を形成していた何かが壊れてしまってから、今の変化がいいものなのかどうか、わからないのだ。

 

「そうね・・・今まで見たいに捕らえられてるわけではないわね。強いて言うならおびえてるってとこかしら」

 

「おびえてる?」

 

 見た感じはおびえているようなそぶりは一切ない。しかし、日常では表に出ない、心の底はどうだろう。絶対にそう思っていないと言い切れるだろうか。

 

「そう。なんというか・・・自分のあり方を認めて、そのうえで自分が今まで否定してきた行為を向けられて。どうしていいかわからなくなってるわね」

 

 わからない・・・確かにそうだ。僕を知ったうえで認めてくれて、そしていつもと変わらずに一緒にいる。だから、わからない。レイは・・・僕のことを知ってから、笑ってくれることが増えたから。

 

「お兄ちゃんはさ、いつも隣にいてくれる人たちがいるじゃない?」

 

「うん・・・」

 

「その人たちのこと、好き?」

 

「・・・正直、わからない。その人たちが好きで、ずっと笑っていてほしいけど、それは僕のことを知ってるからで、だから僕は一緒にいるかもしれない」

 

 アキラにはわからない。認めるということが、どういうことなのか。今までずっと避けてきた、否定してきた感情がどういうものなのか、まだ知らない。

 

「お兄ちゃんにはまだ、わからないかもね」

 

「そう・・・だね。まだ僕は理解できないのかもしれない。感覚的に理解することさえ・・・ね」

 

「でもね、きっといつか、理解できる日が来るよ。お兄ちゃんにも、きっと」

 

「ありがと、ユキネ」

 

(これは・・・お兄ちゃんの周りを調査する必要性がありそうね)

 

 いろいろな感情が渦巻く中、ユキネはそう決心した。

 

 

 

 

 

 

 時間は06:30。第四闘技場にて。

 

「今日は昨日やったことをもう一回やっていく」

 

「わかったっ!」

 

 ラウンズ騎士服のアキラとISスーツの一夏。今日も今日とて訓練を行う。

 

「ただ、今回はバルーンの周りをサークルロンドしてもらう。昨日と違い流動的ではないが、難易度に差はない。気を引き締めてかかれ」

 

「はいっ!」

 

「始めるタイミングは任せる。しっかり取り組め。私は観客席から指示と回す」

 

 一夏はISでバルーンを狙う。一夜でできるようになるものでもないが、確実に精度が上がってきている。

 

「速度を落とすな。そのうえで絶対に標的を狙い続けろ」

 

「はいっ!」

 

 アキラはその様子を観察し、一夏が慣れ始めたころを待つ。・・・訓練は慣れが一番怖いのだ。

 

「慣れてきたか?」

 

「はいっ!」

 

「ではその状態をキープしたまま、|瞬間加速〈イグニッションブースト〉でバルーンに一気に肉薄しろ」

 

「えぇっ!?」

 

 ロンドは円軌道。機体の姿勢制御も、それに応じた制御を行う。しかし、直線軌道は加速制動の制御だけだ。遠心力の制御は必要ない。性質の違う二つの動き。

 

「どうした? できるだろう?」

 

「全然違う動きじゃないかっ!」

 

「それができるようにならねば、自分の身すらも守れんぞ?」

 

 目に見えた挑発。しかし、アキラは確信していた。絶対に一夏なら乗ると。

 

「ここで引いたら男が廃るっ!」

 

「いい意気込みだ、もう一回っ!」

 

 何度でも、失敗しても何度でも。失敗は生かし、成功は覚える。

 

「もう一度だっ!」

 

「はいっ!」

 

 教官と生徒。同じ学年の同じクラスの人間でありながら、そういう関係に見える。時間はあっという間で、一夏は疲労でボロボロになっていた。

 

「よし、今日はここまでっ!」

 

「あ、ありがとうございました・・・」

 

 倒れるように座り込む。胸はせわしなく動き、体中が酸素を求める。

 

「・・・大丈夫?」

 

「無茶苦茶言っといて・・・」

 

「でも、できたでしょ?」

 

 そう、最終的には一夏は百発百中というところまでできるようになっていたのだ。

 

「あれだけやったら、体が覚えるっての・・・」

 

「そりゃそうか」

 

 さらっと言われたので何か言い返そうとしてアキラを見ると、普段から見えないような、悲しい表情をしたアキラがいた。

 

「ねぇ、一夏」

 

「ん?」

 

 怒る気も失せた。そんな悲しそうに真剣な顔されたら、怒れないじゃないか

 

「好きって、どんな感情?」

 

「えっ!?」

 

「僕さ、ずっと、そういう感情知らないで生きてきたから、その・・・わからないんだ」

 

「そうだなぁ・・・」

 

 「好き」にもいろいろある。が、大まかに分けて二つだ。「Like」か「Love」だ。

 

「アキラはさ、好きって「Like」か「Love」どっちだと思ってる?」

 

「学問的にはどっちも正解なんだけど、でも、そうじゃない気がするんだ。たくさん、たくさん「好き」って感情があるきがして・・・」

 

「なら、その答えをこの学園で探してみろよ」

 

「この学園で?」

 

「そうだ。そうだなぁ、アキラの身近だと、カレンとかシャルロットとか知ってるんじゃないか?」

 

「・・・そうだね、聞いてみることにするよ。ありがとう一夏」

 

「いいってことよ」

 

 その様子を遠くから、ユキネは眺めていた。

 

(やっと、やっと自分のことを学ぶ時が来たね)

 

 まだよちよち歩きの雛鳥と同じだ。心を置いて体だけ成長していった雛鳥。自分から逃げ、心を置いてけぼりにした雛鳥。

 

(わたし、あんな人を殺そうとしたのね)

 

 ひとりじゃ半人前で、何もできない、弱くて、小さなお兄ちゃん。でも、今のお兄ちゃんの周りには、お兄ちゃんを想う人がたくさんいる。

 

「ふふ、これから面白くなりそう」

 

 まだまだいろいろ困難はあると思うけど、お兄ちゃんなら大丈夫だよね。



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学園祭、開催ですっ!

 訓練の後、朝会があった。内容はざっとまとめると、学園祭が近いから、早急に何をするか、案をまとめて提出しろ、とのことだった。

 

(が、学園祭・・・)

 

 高校の時の学園祭が異様なものであったがために、あまり乗り気になれない。

 

(僕が言うのもあれなんだけど、かなりカオスだったんだよなぁ)

 

 学園祭のせいで、今まで手を抜いてきたのがバレ、いろいろと面倒ごとが発生しやすくなったのだ。・・・主な原因は後者の屋上から飛び降りたかららしいが。

 

「ええっとぉ・・・うちのクラスの出し物の案ですが・・・」

 

 教室に戻り、みんなの草案をボードに出したところ、どれも難しい内容の物ばかりだった。

 

(えっと・・・ホストクラブにツイスター、ポッキー遊びに王様ゲーム・・・)

 

 すべて初めには「男子と」が織り込まれている。どれもどんなものかは知らないが、どうしてこうなるのだとアキラも頭を抱える。

 

「全部却下っ!」

 

 クラス代表の一夏が勢いよく言い切る。

 

「えぇっ!?」

 

 クラスメイト(アキラとライ、カレン以外)は不満たらたらだ。

 

「あほかっ! 誰が嬉しんだ、こんなもんっ!」

 

「僕も同感かな。第一、僕らだけしかやることないじゃないか」

 

 ライも便乗する。まったく、何がどうなったらこんなものをやろうとするのだ。

 

「あたしはうれしいわねぇ、断言する」

 

「「「「えっ?」」」」

 

「そうだそうだっ! 女子を喜ばせる義務を全うせよっ!」

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

「このクラスの男子は共有財産であるっ!」

 

 そうだそうだ。少なくともクラスメイト(アキラとライ、カレン以外)はうれしいようである。

 

「紅月さんも、タキシード姿の蒼月君が見れるんだよっ!?」

 

「タキシード姿のライ・・・」

 

 ちょっと考えるしぐさをとる。

 

(((ま、まさか)))

 

「その話、乗ったっ!」

 

(((うそ・・・)))

 

「山田先生、だめですよね、こういうおかしな企画は?」

 

 助け舟が出せるのはもう教員しかいない。何も言わずにライとアキラも視線を向ける。自分たちを助けろと。

 

「えっ? ええっとぉ・・・」

 

 そう少し置いてから、

 

「わ、わたしは、ポッキーなんか、いいと思いますよぉ?///」

 

(((先生もですか・・・)))

 

 がっくりと、首を垂れる。

 

「と、とにかくっ! もっと普通な意見をだなっ!」

 

 まったくもってその通りとうなずきながら味方をする。

 

「メイド喫茶はどうだ?」

 

 思いがけなくまっとう(?)な意見がでた。声の主に注目する。クラスからも感嘆の声が上がる。

 

「ら、ラウラ?」

 

 一夏としては混乱ものだ。

 

「客受けはいいだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える」

 

 至極まっとうな意見。

 

「うん・・・いいんじゃないかな」

 

 それにシャルロットも便乗する。アキラとしては、この考えには賛成だ。メイド喫茶では今のところ逃げ出したくなるような厄介ごとは起きていない。

 

「アキラたちには執事か厨房を担当してもらえばOKだよね?」

 

「イケメン男子の執事・・・イイッっ!」

 

 ・・・こうなることまでは考えていなかった。

 そこから先はクラスの女子のみで話がどんどん進み、代表の決定ではなく、クラスの女子の決定で、メイド喫茶に決まった。

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 職員室を一夏が後にする。

 

「大変そうだね」

 

 アキラとしては、手伝えることは何もない。

 

「まぁな。・・・つか、代わってくれてもいいんじゃね?」

 

「最後まで職務は全うしなさい。・・・にしてもメイド喫茶かぁ」

 

「ん? どうかしたのか?」

 

「学園祭にあまりいい思い出がなくてね。なぜかいつも女装させられた覚えしかないんだよ」

 

 そうため息をこぼす。女装趣味なんてないし、それでちやほやされるのもごめんだ。めんどくさいだけだ。

 

「お前、女装してたのかっ!?」

 

「無理やりだよっ!?」

 

「それでも、よくできたな・・・」

 

「もうね、会長の一存。僕のところは会長が理事長の娘っていうのもあって、会長の無茶はかなりのレベルでも許されたんだよ。だからね、もう生徒会に属してようがそうじゃなかろうが、一生徒に決定権なんてなかったんだよ」

 

「それは・・・気の毒に・・・」

 

「今となっては過ぎた話だけどねぇ」

 

 あんな醜態晒すのは二度とごめんだ。

 

 

 

 

 

 

 そこから何日か経って、学園祭当日。クラス名と全員がメイド姿に統一される。

 

「はい、蒼月君にはこれ。織斑君はこれ。四十万君のはごめんね。採寸し忘れててできてないんだ」

 

「ふぇっ!?」

 

(服ができていないだとっ!)

 

 すごく大きなフラグがたった気がする。この流れは女装させられる流れになりそうな・・・

 

「そういえば、アキラ、それっぽいもの持ってたよな?」

 

「それっぽいもの?」

 

 一夏からの助け舟。しかし、ピンとこない。いまいち答えまでの道がぼやけている。

 

「ほら、特訓の時に来てるやつ」

 

「あ、あれねっ!」

 

(ありがとう、一夏)

 

(いいってことよ。気にすんな)

 

「あるある。それっぽいのが」

 

「え、四十万君、そういう服があるの?」

 

「あるある、ちょっと待ってね」

 

 持ってきたのはラウンズの騎士服。舞踏会などでも着ていくことができることから、紳士服ではないが、それに準ずるものであるだろう。見た目も近い。

 

「これなんだけど」

 

「ちょっと着てみてくれる?」

 

「わかった」

 

 騎士服に袖を通す。成長は終わってるから、サイズは変わらない。訓練の時に来ているのもあってすんなり着れる。

 

「こんな感じだけど、どう?」

 

 クラス中の女子が親指を立てる。

 

(・・・問題はないみたいだね)

 

 女装させられるぐらいなら、仕事着の不正使用なんてどうってことない。

 

「アキラ、その格好でするの?」

 

 シャルロットが興味津々にこちらに来る。

 

「うん。僕からしたら軍服なんだけど、紳士服としても使うように命令されてたから、まぁ、問題はないよねって感じ」

 

「似合ってるよ♪」

 

 うれしい言葉をかけてくれる。ほんと、この子には敵わないかもなぁ。

 

「ありがとう。シャルも、似合ってるよ」

 

 今のアキラにできる、精いっぱいの褒め言葉とともに、笑顔を向ける。

 

「あ、ありがとう///」

 

 頬を赤らめて嬉しそうにする。アキラには紅くなる理由がわからないが、喜んでもらえたことがうれしいようだ。上機嫌そうな、いつも以上に柔らかい顔をする。

 

「アキラ」

 

「ライさんっ!」

 

 さらに上機嫌になった。犬みたいな尻尾が揺れてるように見えた。もちろん、尻尾なんて存在しない。

 

「確か、5番目だっけ?」

 

「はい」

 

「似合ってるよ」

 

 ぱぁっと笑顔が浮かぶ。小さな子供が親に褒められた時のように無邪気な笑顔。尻尾がさらに大きく揺れる。・・・尻尾なんてないけども。

 

「ありがとうございますっ!」

 

 いつもの笑顔とは違う破壊力。クラス中の視線がアキラに注がれる。

 

(か、可愛いなぁ)

 

 思うことはクラス中一致していた。カッコいいとは違う感情に支配される。撫でたいとか、甘えてほしいとか、保護欲を掻き立てるような、そんな感情。

 

「みなさん、そろそろ時間ですよぉ」

 

 時計はそろそろ開店時間を迎えようとしている。

 

「みんな、準備はいい?」

 

 確認をとる。みんなちゃんと服を着終わっており、厨房もOKサインを飛ばしてくる。

 

「始めよう、開店っ!」

 

 アキラの号令とともに開店の合図が学園内を駆け巡る。



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がが、学園祭ですよっ!?

「いらっしゃいませお嬢様、こちらへどうぞ」

 

 ご奉仕喫茶・・・もといメイド喫茶。これが思っていた以上に人気で、かなり長い行列ができている。

 

「見た見た? 織斑君のタキシード姿」

 

「蒼月君のも捨てがたいわね」

 

「四十万君、一人だけホントの貴族みたい」

 

 などなど、数々の称賛の声が飛ぶ。おかげで厨房側もかなり忙しい。厨房には今回男子は誰も入らない方針になったが、入っていたら、本当に大変だっただろう。

 

「お嬢様方、そんなにお焦りにならずとも、必ず順番は回ってきますので」

 

 こういう場面は長いこと経験していたもので。ライもアキラも自分のセリフを聞き直すとたぶん羞恥にもだえ苦しむだろう歯がゆいセリフを平然と使っていく。

 

「アキラもライも様になりすぎだろ」

 

 同じ男子として、劣等を感じて否めない一夏。そもそも競う相手を間違えているのだが、競う相手がこの二人しかいないため、しょうがない。

 

「僕は仕事柄、こういったセリフ使う場面多かったし」

 

 アキラは仕事でも、休みでも使うことが多かった。なんせ、叔父がルルーシュ・ヴィ・ブリタニアなのだ。絶対的にそういう場面が増える。さらに幼少期は叔父の娘の相手をすることもあった。宴会の席に出席することもあった。使い慣れるのも当然。

 

「僕も慣れてるんだ」

 

 ライはみんなには話していないがアキラと同じ血筋だから、こういうセリフが必要な場面にぶつかっている。それに、幼少期からだから当然使い慣れている。

 

「お前ら、ホントに、どんな生活してんだよ・・・」

 

 もう、呆れて物も言えなくなる。しかし、一夏は知らない。彼にしか出せないこの初々しさも、人気を買っている一つの要因となっていることに。

 軽口をたたきつつ、仕事をこなす。慣れていない初々しい一夏。慣れきっていて、所作に品すら醸し出すアキラとライ。この三人のおかげで売り上げはもうすごい。

 

「一夏休憩入りなよ、外役変わるから。ライさんもカレンさんと一緒に回ってきてはどうですか?」

 

 アキラは正直一日働き詰めたくらいじゃ何ともない。慣れないことをして疲れが見え始めている一夏、そして両親に先に休憩をとってもらった。

 そこから五分

「ちょっとそこの執事、テーブルに案内しなさいよ」

 

「ん?」

 

 聞きなれた声、声の方向にはチャイナドレスの鈴音がいた。

 

「ごめんね、一夏は休憩に入ってもらってるよ」

 

 いつも一課を探しているため、何となく誰を探しているか分かった。

 

「なぁんだ・・・」

 

「珍しい格好してるね。どうしたの?」

 

 アキラはまじまじと観察する。

 

「うっさいっ! 二組は中華喫茶やってるのよっ!」

 

「それでチャイナドレスなんだね、納得。似合ってるよ、鈴音」

 

「そ、そんな歯がゆいセリフいいからっ!」

 

「わかったわかった。お嬢様、こちらへどうぞ」

 

 手を差し伸べる。

 

「何よ・・・」

 

「お手を取っていただけるとありがたいのですが」

 

 お嬢様と呼ばれて恥ずかしくなっているのにそんな紳士的な笑みで手を伸ばすなんて・・・。そっと手をのせると、優しく手を引かれ、席まで案内される。

 

「こちらにお座りください」

 

 椅子を引き、座ってもらうように促され、メニュー表を渡される。

 

「こちらからお決めください」

 

 どれも喫茶店らしいメニューだが、一つだけ、異質さを醸し出すものがあった。

 

「あ・・・この”執事にご褒美セット”って何?」

 

「お答えしかねます」

 

「気になるし、これにしようかしら」

 

「お嬢様、こちらの”ケーキセット”など進めですがどうでしょうか?」

 

「今ごまかそうとしたでしょ?」

 

「滅相もございませんっ! ただ、こちらのご注文はやめておいた方が」

 

「いやよ。”執事にご褒美セット”一つ」

 

「・・・かしこまりました。どなたをご指名になりますか?」

 

「あんたでいいわ」

 

「・・・かしこまりました」

 

 メニュー表をもって厨房の方に。 

 

「まったく、なんではぐらかすのよ・・・」

 

 不満たらたらな鈴音の元にアキラがトレイに小綺麗なグラスに注がれた紅茶と淵の広めのワイングラスに並べられたポッキーを持ってきた。

 

「こちら、”執事にご褒美セット”でございます」

 

 卓上に並べるとアキラも腰を下ろす。

 

「うん。・・・で、なんであんたまで座ってるのよ」

 

 罰悪そうな顔をしたまま鈴音に応える。

 

「えっと、これは、執事にこれを食べさせるってだけのセットなんだ・・・」

 

「はい?」

 

「だから、執事にあ~んができるセットになってるの」

 

 顔を紅らめ大いに驚く。普通に考えて、そのセットをメニューに書く事態異常なのだ。どう考えてもおかしい。

 

「客がお菓子を食べさせるって」

 

「だから僕はケーキセットを進めたのに・・・。いやだったらやらなくてもいいから。何なら、一夏呼んでこようか?」

 

「い、いや、でもまぁ、せっかくだし・・・ついでだし・・・ご、ご褒美上げようかしらね///」

 

 ちょっと嬉しそうに頬を紅らめながらポッキーを差し出す。

 

「はい、あ~んしなさいよ」

 

「あ~ん」

 

 ぽきっ! ポッキー特有の子気味よい音が聞こえる。

 

「た、食べさせたんだから・・・今度は私も・・・」

 

 と、突如目の前にトレイが。

 

「お嬢様、当店ではそのようなサービスは行っておりません」

 

 持ち主はシャルロットだ。ちょっと不機嫌そうにその場を後にする。同じように気分を害した鈴音がポッキーをかじる。

 

「なんかさ、鈴音、リス見たいで可愛い」

 

 まさにリス。リスがぴったりだ。・・・今度リスの着ぐるみでも買ってこようかな。

 

「んぐっ!」

 

 盛大に喉をポッキーのクッキー部分が張り付く。

 

「ちょ、あんた急に何言って・・・っ!」

 

「いやね、なんとなぁくリスに似ててさ。食べてるところが」

 

「あの両親でどうしてそんな台詞がサラっと言えるのよっ?」

 

「え? そういう風にC.C.さんに育てられたから」

 

(それを言われたら、何も言えないじゃない。・・・怒る気も失せたわ)

 

「あんた、すごい人に育ててもらったのね」

 

「そうだねぇ」

 

「じゃ、あたしはそろそろ戻るわ。一夏によろしく言っといて」

 

「はいはい」

 

 鈴音も持ち場に戻るようだ。

 

「四十万君、休憩とってもらっていいよぉ。人が減ってきたし」

 

「は~い」

 

 ここは素直に休憩に行く。こういう時に行っておかないと永久的に働くことになる。平気ではあるが、ほかの展示等々も気になる。

 

「お兄ちゃん」

 

「どうしたの?」

 

 ユキネはまだ休憩をもらっていないはずだ。何か欲しいものでもあるのだろうか。

 

「連れてって」

 

「休憩まだでしょ?」

 

「え~」

 

 頬をリスにして怒る。

 

「いいよぉ、ユキネちゃんも休憩入っちゃってぇ」

 

「えっ!? いいのっ!? ありがとぉっ!」

 

 本当に、ちょと前に編入したとは思えないほどの溶けっぷりである。

 

「いいの? 本当に」

 

「いいわよ。兄妹水入らずで遊んできなさいよ」

 

「ありがとう。行こうか、ユキネ」

 

「うんっ!」

 

 アキラとユキネは教室を後にする。

 

「あの兄妹ホント仲いいわねぇ」

 

「ね。なんだかんだ妹に甘い四十万君もいいわねぇ」

 

「甘やかされてみたぁい」

 

 女子は口々に言いたい放題である。

 

「ほぉら。一応お客様は来るんだから」

 

 こういう時、何時もなだめに掛かるのはシャルロットだ。

 

「はぁい」

 

 仕事に戻っていく。

 

(いいなぁ、ユキネちゃん)

 

 アキラには想うだけじゃ届かない。

 

 

 

 

 

 

「なるほど・・・さすが吹奏楽だね。いいもの使ってるよ」

 

「ん~、筋いいね、四十万君」

 

「さすがお兄ちゃん」

 

「じゃあ、ちょっとだけ見え張っちゃおうかな」

 

 アキラの手に持っているのはヴァイオリン。何が引きたいか選べる仕様になっていて、アキラはヴァイオリンをチョイスしたのだ。

 

「ユキネ、ピアノできるかい?」

 

「あ、久しぶりにデュエットする?」

 

「うん」

 

「え、もしかして四十万君、ヴァイオリン弾いたことあるの?」

 

「まぁ見ててよ」

 

 選曲はピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」の第2楽章。「のだめカンタービレ」でも演奏されたシーンのある曲だ。

 その曲を二人はお互いにどちらともなく引き始める。息ぴったりの演奏。教室なのに、その後ろには暗幕があって、聞き手はホールの観客席にいるような感覚。音色は美しく、澄み切った空のよう。・・・ここが教室なのが残念なほどだ。

 

「「ご清聴ありがとうございました」」

 

 二人そろって礼をする。礼まで息ぴったりだ。

 

「二人ともすごぉいっ!」

 

「小さい頃はやってたからね」

 

「わたしも。懐かしいよねぇ」

 

「うん」

 

「吹奏楽部来てくれない? ほんとに」

 

「あ、部活は入らないよ。僕を呼ぶときは生徒会にヘルプ申請してね」

 

「え? お兄ちゃん部活は入ってないの?」

 

「入ってないよ」

 

「どこか入ればいいのに」

 

「僕は生徒会の駒だから。必要な時にだけ呼んでもらう形をとってるの」

 

「えぇ、せっかくこんなに上手なのに・・・」

 

「ごめんね。生徒会にヘルプ申請したらくるから」

 

 などなど、勧誘を振り切り、吹奏楽ブースを後にする。

 

「じゃあ、もどろっか。そろそろ口コミとかで客が増える時間でしょ」

 

「はぁい」

 

 この後、一波乱あるとはだれも予想していなかった。




 あとがきを掻くことが減ってきました。どうも、白銀マークです。
 なんかほのぼのしてますねぇ。こういうの綴り辛くて好き♡
 何か意見等々ありましたら、コメントの方よろしくお願いします。今後ともどうぞよしなに。


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異常なまでの〇〇能力

 「戻りましたぁ」

 

 あの後、教室まで戻って着替えた。相変わらず、着やすくて脱ぎやすい、それでいて使い勝手のいい服だ。

 

「じゃじゃぁん」

 

「・・・何しに来たんですか」

 

「あぁん、冷たぁい」

 

「知りませんっ! 第一、何しに来たんですか、僕らの模擬店の正装までして」

 

「アキラ君、生徒会の観客参加型演劇に協力しなさいっ!」

 

「いやです」

 

「即答っ!?」

 

「だって、クラスのみんなに迷惑掛かりますし」

 

「それら問題ないわよ。貸出許可は貰ってきたわ」

 

「それって僕の意思イラナイみたいですね・・・」

 

「まぁ、とにかく、お姉さんとくるっ、けってぇい」

 

「・・・わかりました」

 

 若干引きずられるように楯無に連行され、更衣室に。

 

「はいこれ」

 

「え?」

 

「それ着てステージに来てね」

 

「これじゃだめですか?」

 

「だめです。あと大事な・・・これ、王冠」

 

「脚本とか、その辺りは?」

 

「基本アドリブのお芝居だし、必要な指示はこっちからも出すから。それじゃあよろしくね、アキラ君♪」

 

 手に持った服と去っていく会長の後ろ姿を交互に見て、ため息を一つ。

 

(癖の多い人、この世界にはいっぱいいるなぁ)

 

 仕方なく、貰った服に袖を通し、ステージに向かった。

 

 

 

 

 

 

『さぁ、幕開けよっ!』

 

 ステージについた途端、開口一番そのセリフとともに暗い空間へとシフトした。プラネタリウムの技術だろうか、まだ昼間のはずの空は夜の星々の輝くものに変わっている。

 

『むかぁしむかし、あるところに”シンデレラ”という少女が居ました』

 

 スポットライトに照らされ、自分の置かれている状況が把握できた。

 

「一夏っ!?」

 

「なんでここにっ!?」

 

 お互いに知らされていない人物が、同じ服を纏って、同じ舞台に立っている。それだけでも驚きだ。だが、演劇は止まらない。

 

『否・・・それは最早”名前”ではない』

 

 プロジェクションマッピングでガラスの靴が。

 

(ちょっと待って・・・名前じゃないってどゆこと?)

 

『幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰塵を纏うことすら厭わぬ、地上最強の兵士たちっ!』

 

(いやいや、それってもう僕の知っているシンデレラじゃないんですけどっ!?)

 

『彼女らを呼ぶにふさわしい”称号”、それが”シンデレラ”』

 

『王子の冠に隠された軍事機密を狙い、少女たちが舞い踊るっ!』

 

(あぁ、これが原作崩壊ってやつか・・・)

 

 プロジェクションマッピングにはでかでかと”灰被姫(シンデレラ)”の文字が。

 

(これ、絶対、なんか裏あるでしょ)

 

 と、突如全体の照明が点き、バックにあるものが出てくる。

 

「「城っ!?」」

 

 ナレーションはクライマックスに。

 

『今宵もまた、血に飢えたシンデレラたちの夜が始まる・・・』

 

 と、突如上から声と質量をもった何かが降ってくる音が。

 

「貰ったぁっ!」

 

 しかし、アキラはいち早くそれに気づく。常人離れした瞬発力で、一夏が切られる前に、抱えて離れた。

 

「ちっ!」

 

「あっぶなぁ。一夏、大丈夫?」

 

「あ、あぁ」

 

 アキラは一夏を抱えたまま襲撃者を見つめる。

 

「えぇっ! 鈴音っ!?」

 

 襲撃者は中国刀を構えた鈴音。服装は劇に合わせて生徒会長から配布されたであろう、純白のドレスを身にまとっている。

 

「その王冠、よこしなさいよっ!」

 

「「えっ?」」

 

 疑問を解消する間もなく、クナイが投擲される。

 

(数は三本。・・・えっ!クナイっ!?)

 

 投げられたクナイ。アキラは一夏を素早く置き、クナイをすべて回収する。

 

「えっ!」

 

 今度驚くのは鈴音と一夏だ。一夏を地面に置き、クナイを回収するまでわずか1秒満たない。

 

「うっわ、すごい。これものすごく精密に作られてるわぁ」

 

 刃を照明にかざしたり、刃を指でなぞったりながら確認する。

 

「一夏、僕の後ろに。絶対に離れないでね」

 

 クナイを一本懐に入れ、残り二本を逆刃に構える。そして、中国刀を構える鈴音の前に一夏を守るように立ちはだかる。

 

「どうしたの? 王冠、いるんじゃないの?」

 

 獲物があれば、長かろうが短かろうがアキラ的には問題ない。鈴音は挑発に乗って刃を向けてくる。

 キィィンッ!

 刃と刃が交わる音がする。幾度となく刃を重ね、相手を仕留めようとする。が、アキラは剣戟戦の経験もあり、さらに幼少期から教わってきたのは実刃を用いた護身術や剣術など多岐にわたる。だからこそ完全にアキラが主導権を握り、守りだけなのに攻め切られていない。

 

(1on1なら勝ち確定だね。まだまだ、中国刀を使い慣れていないね)

 

 しかし、そうならないのが戦闘の常。アキラは目の端で紅い点を見つけてしまった。

 

(この光は・・・レーザーサイトっ!?)

 

 鈴音と刃を交えながら、神経を張り詰める。相手は一撃必殺を狙ってくる。その一撃に反応できなければ、負け。戦場では死亡判定となる。

 

「はぁっ!」

 

 刃を何もない空間に一閃。何もないはずだが、クナイは確かに何か当たった音を奏でた。

 

「「「はぁっ!?」」」

 

 狙撃者と鈴音と一夏は人生で初めて、弾丸を切る人間を見た。

 

「一夏、ちょっと失礼するよ」

 

「え? おわぁっ!」

 

 アキラは一夏を抱え、扉のある柱裏まで駆け抜け、そこに身を隠し、扉を閉める。狙撃は一端は止んだ。

 

「あぁっ!」

 

 運ぶこと自体に問題ない。アキラは抱え方を間違えた。背中におぶったりするのが普通だが、アキラはお姫様抱っこを選択したのだ。羨ましがる声が観客席から上がるのも無理はない。

 

「一夏、怪我無い?」

 

 一夏を地面におろす。平気そうな顔を見てアキラは安堵した。

 

「あ、あぁ。アキラこそ、大丈夫なのか?」

 

「全然平気。むしろまだ準備運動ぐらいだよ」

 

 クナイを掌でおもちゃのように回して遊ぶ。

 

(つくづく、ハイスペックな奴だよなぁ)

 

 アキラを見ながら、こんな人間がいるのかと、疑問になりつつある一夏だった。

 

「にしても、狙撃ねぇ・・・絶対にセシリアなんだよなぁ」

 

 クナイを躍らせながらぼろっと漏れる。

 

「俺にできることあるか?」

 

「う~ん・・・。あ、これこれ」

 

 懐から余っていたクナイを渡す。

 

「自衛用に。まぁ、ぶっつけ本番で弾は切り落とすことはできないと思うから、鈴音の刃から身を守るためぐらいの気持ちでいいよ」

 

「あ、あぁ」

 

 止んでいた狙撃が敢行され始めた。扉がだんだん蝕まれていく。

 

「アキラッ! 一夏ッ!」

 

 下から声がする。目線だけ向けると、シャルロットが強化ガラス製の盾を持って茂みから顔を出していた。

 

「二人とも、こっちっ!」

 

「一夏、先に。僕は少しだけ遊んでいくよ」

 

「わかった」

 

 アキラは一夏が飛び降りるタイミングと同じタイミングで球を数発斬り、狙撃者の位置を割り出す。

 

「そんなに撃ったら位置バレるよっ!」

 

 クナイを一本、狙撃者の居る場所の近くに投擲し、一夏と同じように茂みに。

 

「シャルも参加してるの?」

 

「う、うん・・・」

 

(あ、ちょっとしょげた)

 

「シャルもああなっちゃう?」

 

「ううんっ!」

 

(あ、今度は元気になった)

 

 シャルロットは敵ではないみたいだ。でもまだ油断できない。ポイントを変えて狙撃されればアウトだ。

 

「あ、あのね。僕、その王冠、欲しいなって」

 

「あ、あぁ、これね」

 

 シャルロットはアキラの頭の上を指さし、おねだりする。

 

「いいけど・・・、これって素直に渡しても大丈夫なの?」

 

『王子様にとって、国とは全て。その重要機密が失った王冠を失うと・・・』

 

「「失うと?」」

 

 王冠二人組にはとっても気になる。どんな仕掛けが施されているのか・・・。気が気でない。

 

『自責の念によって、電流が流れまぁすっ!』

 

「「はぁっ!?」」

 

『あぁ、なんと言うことでしょう? 王子様の国を想う心はそうまでも重いのかっ!』

 

(あぁもうめちゃくちゃだ・・・)

 

 二人は悟った。絶対にすんなり逃がしてくれるわけはないと。

 

『しかし、私たちには見守ることしかできません。あぁっ! なんということでしょうっ!』

 

「というわけなんだ、ごめんねシャル」

 

 電撃はごめんだ。どうなるかわからない。

 

「えぇっ! こ、困るよぉ」

 

 シャルロットもこれには困る。王冠さえあれば、アキラか一夏と同室になれるのだ。アキラと同室になるためにも、絶対に譲りたくない。

 二つの思いの交錯する会話を続けていると、先ほどまでアキラたちの居た場所に人影が。

 

「そこまでですわ」

 

 セシリアと鈴音が破壊された扉のを超えた先のバルコニーに。もちろん、手には武器を携えて。

 

「神妙になさって」

 

 アキラは二人をかばうように前に出て、クナイを構える。

 

「諦めなさいよっ!」

 

 どこに隠し持っていたか、別のクナイを投げ始める。それに助長するように狙撃も開始される。

 

「ちょちょちょ」

 

 弾幕がすごい。さばけるが、さすがに後ろ二人は守る幅が大きい。

 

「一夏、君はそこにある盾使って。シャルはこっちに」

 

 片手でシャルを抱き留め、一本のクナイで捌く。それが二人には癪だったようだ。なぜシャルロットだけいい思いができているのかと。

 

「ちょちょちょ」

 

 弾幕が一段と濃くなる。さすがに片手では捌き切れない。一夏の持っている盾も限界が近いのか、ひびが入り始めている。

 

「一夏、下がれっ!」

 

「わかったっ!」

 

 後方には周りより少し低い、崖がある。実は、弾幕を張られる前にアキラは一夏にこんなことを言っていた。

 

『ねぇ、一夏』

 

『ん?』

 

『この後ろにね、三メートルぐらいの崖があるんだ』

 

『そうなのか?』

 

『うん、確認したから。僕がね、下がれって言ったらその崖をできるだけ早く降りてほしいんだ』

 

『さ、三メートルもっ!?』

 

『大丈夫。一夏ならできる』

 

『・・・わかった。お前を信じる』

 

『おり切ったら白って言って。それで僕も降りる』

 

『大丈夫なのか?』

 

『いけるいける。僕を信じて』

 

 だから、下がれと言う、たったそれだけで、一夏は下に下る。己の背中をアキラに任せて。

 

「白だっ!」

 

「わかったっ!」

 

 アキラはシャルロットを抱えて三メートルの崖を飛び降りた。

 

「わわっ!」

 

 シャルロットは思ったよりも高く感じる崖底を見て狼狽える。

 

「大丈夫」

 

 優しい顔を浮かべ着地地点を見つめる。着地を綺麗に決める。音もなく、砂ぼこりもたてず、服だけをなびかせて。

 

「ね? 平気だった」

 

 ゆっくり立たせる。三メートルから音もなく着地する技量もさることながら、人一人抱えて下りれるだけの身体能力。本当に人間なのかと疑問に思う観客席からの声も。

 

「じゃあ、行くね。・・・このままだと、少しは主催者に泡吹かせてあげないと、どうにも抑えられそうにないんだ」

 

「へ?」

 

「一夏、行こう。僕たちにはまだやることがある」

 

「わ、わかった」

 

((いま、アキラ、怒ってた?))

 

 憤怒の顔ではないが笑顔が怖い。なんというか、黒いオーラを纏っているような、そんな笑顔。

 

(僕を使ったのが敗因だよ、会長)

 

 体は軽く、筋肉もほぐれた。・・・ここからが、本当の四十万アキラだ。




アキラ君、すごいですねぇ。どうも白銀マークです。

 普通、人抱えて三メートルから降りれないって。しかも生身で銃弾斬るとか・・・どこのGGO世界の方ですかって話。しかも獲物はクナイって・・・。この子怖いよほんとに。

 さて、学園祭編、なかなか楽しいですねぇ。アキラ君自慢できるんで、ホント好き。

 今後ともよろしくお願いいたします。


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逆襲の始まり

 そこから先の四十万アキラは、人という域を脱したのではないか、そう錯覚するほどだった。壁を走るわ剣戟戦するわ一夏を抱えて飛び降りるわで。日本刀にクナイで応戦するし軍属とのナイフ戦もさらっとこなすし、ラウラを抱えて転がってくる大岩をかわすしで、もはや、”灰被姫(シンデレラ)”がサブタイトルに感じる。もしかしたら、主人公は元からアキラに設定されていたのかもしれない。

 

「なぁ、アキラ」

 

「ん?」

 

「その・・・こんなにめちゃくちゃにしていいのか?」

 

「う~ん、まぁ、いいんじゃないかな。僕は楽しいし」

 

「そ、そうか」

 

 いまだにあの時のクナイを使いっぱなしだ。アキラ曰く、非常に使い勝手がいいらしい。

 

「にしても、こんなところで休憩できるなんてな」

 

「そうだねぇ」

 

 今は城の上の壁の隙間。さすがに相手も一時休戦らしい。アキラを倒さないと仕事にならない。

 

「にしても、お前すごいな」

 

「何が?」

 

「箒にもラウラにも鈴にだって。お前強すぎじゃないか?」

 

「僕はこういう訓練をしてきたからね。家族を守るために、ずっと」

 

「・・・俺も、お前みたいに強くなれるか?」

 

「無理無理、僕が何年続けてきたと思ってるの。一夏じゃ絶対追い付けない」

 

 冗談めかしながら笑って言うが、実際にアキラの努力は計り知れない。

 

「そっか。じゃあ、俺は俺なりに、かな」

 

「そうそう」

 

 今まで笑っていたアキラの表情が急に鋭くなる。

 

「どうした?」

 

「さて、そろそろかな」

 

「は?」

 

「彼女たち、僕に単騎じゃ勝てないことがわかったから、作戦練ってるんだよ」

 

「なんでわかるんだよ?」

 

「だって、誰一人仕掛けてこないでしょ? それに今、近くで物音したから」

 

「確かにな」

 

 二人が休憩をとれている。それはすなわち襲われていないということ。

 

「だからそろそろ仕掛けてくるんじゃないかなぁって」

 

 クナイを回す。今あるものは一夏のクナイ一本とアキラのクナイ一本。相手は補充してきただろう。こちらはじり貧だが相手は準備万端だ。

 

「誰が闇討ち担当で、正面がだれで、後ろは誰かなぁ・・・」

 

「後ろは確定じゃないか?」

 

「一人はね。問題はシャルがどこのポジションか。それに応じて僕も取れる策が変わる。万が一後ろなら、今の武装なら勝ち目がないに等しいんだ・・・」

 

 情けなさそうにはははと笑う。

 

「狙撃が二人・・・前衛は箒と鈴だよな」

 

「さすが一夏。となると闇討ちはラウラになるんだ」

 

「あいつ、闇討ちするのか?」

 

「わからない。ただ、勝つための策には乗ってきそうじゃない?」

 

「確かに」

 

「まぁ、そこまでの策が練れてるかはわからないけど。フィニッシャーはたぶん狙撃組だから。あぁあ、一夏が弾切れるだけの反射神経あればなぁ」

 

「ちょ、無理だって」

 

「知ってる」

 

 とってもいたずらな笑み。わかってていてるのが丸わかりだ。

 

「まったく。意地が悪いな」

 

「そんなことないよ」

 

 笑みは崩れていない。今までは見れなかった表情。

 

「二人とも、出てきなさいっ!」

 

 外から声がする。

 

「お、正面から堂々来るかぁ」

 

「お前の予想は外れだな」

 

「だねぇ」

 

 アキラだけが顔をだす。

 

「どうかしたの?」

 

「おとなしく王冠をよこしなさい」

 

「えぇ・・・だって電撃貰いたくないもん。あげないよ」

 

「力ずくで奪わせていただきますわよ?」

 

「できるの?」

 

 挑発的な笑みで誘う。醸し出されるは絶対的な勝利への自信。強者の風格。

 

「やってみなくちゃわからんだろう?」

 

「一夏」

 

「ん?」

 

「クナイを二本とも渡しとく。逃げ回って」

 

「はぁっ!? お前はどうするんだよ?」

 

「え? 武器は彼女たちから借りるけど」

 

「借りれるのか?」

 

「素直に貸してじゃ貸してくれないだろうね」

 

「ほんとにいいのか?」

 

「うん。あとで僕も合流する」

 

「わかった」

 

 一夏を抱えて壁から降りる。

 

「随分と余裕そうだな」

 

 後ろは最も勝ち筋の少ない、セシリアとシャルロットが担当のようだ。これは、骨が折れる。

 

「余裕なんてないよ、一番勝ち筋の少ない陣形じゃないか」

 

 前衛三人、後衛二人。1on5としては最も最悪な組み合わせ。それでも

 

「でも、僕はこれを覆すよ?」

 

「あら、人数不利が理解できておいでですか?」

 

「うん、一対多なんて嫌というほどやってきたしなぁ」

 

「へぇ」

 

「だからまぁ、余裕があるわけではないけどさ・・・来なよ、僕が相手になってあげる」

 

 その言葉を皮切りに、ラウラ、鈴音、箒はアキラに向かって刃を振った。

 

 

 

 

 

 

「あいつ、大丈夫かな?」

 

 一番最初にいたロビーの真ん中で一人、腰を下ろす。手にはアキラから渡された二本のクナイ。

 演劇のフラッシュも照明もすべてアキラたちに注がれている。わずかに確認できるのは白い内装だけだ。

 

「おわぁっ!」

 

 突如として足が引っ張られ、地面に吸い込まれた。

 

「いたた・・・」

 

 場所は・・・どこか分からない。暗くて見当もつかない。

 

「あ、あなたはあの時の・・・」

 

 休憩中に押しかけてきて、白式にオプションをつけないかと持ち掛けてきた企業に属する人が近くにいた。

 

「ここに来れば安全ですよ」

 

「はぁ・・・」

 

「白式をいただきにまいりました」

 

「はぁっ!?」

 

「・・・だからさっさとよこせってんだよぉっ!」

 

 一夏は何をされたのか分からなかった。ただ、背中に激痛が走った。

 

「ぐはぁっ!」

 

 ここで一夏は初めて自分が蹴られたんだと分かった。後ろのロッカーが衝突に合わせて大きな音を立てる。

 

「何ぐずぐずしてんだよ、さっさとよこしな」

 

 女は背中から八本の足が生える。

 

「くっ!」

 

 一夏も反射的に白式を展開する。

 

「いいねぇ、そいつを待ってたんだよ」

 

 女と一夏は狭い空間で対峙する。

 

 

 

 

 

 

 一夏を変わってアキラは、ほぼフルメンバーの専用機と対峙している。

 

「はぁっ!」

 

 振り下ろされる刃を持つ手を手で打ち払い、別の相手を見据える。刀もナイフも中国刀も、アキラには関係ない。当たれば即死の一撃必殺をいなしつつ、後方から狙撃をされないように、狙撃手との間に置く。

 

「くっ!」

 

「う~ん、期待してたのになぁ」

 

 いなすだけのアキラには余裕があった。刃物もライフルも脅威だが、アキラの服すらかすめることがない。

 

「さすが私の嫁だけあるなっ!」

 

「本気で殺しにかかってもいいんだよ?」

 

「はぁっ! あんたまだ余裕とか言うのっ!?」

 

「そりゃぁ、ねっ!」

 

 箒の持っている刀を抜き取った。しっかり握っていたのに、するりと、布を引くように、するりと。

 

「なっ! わたしの刀がっ!」

 

「借りるよ」

 

 獲物は十分すぎるほど。中国刀の刃を折り、ナイフを弾き飛ばし、ライフルを切り捨てた。

 

「僕の勝ちぃ」

 

 刀を肩に乗せ、余裕満点の笑み。少女たちは一太刀すら、当てれなかった。

 

「つ、強すぎでしょ、あんた」

 

「本当に、同じ人間か疑いたくなるな」

 

「か、勝てる気がしないぞ」

 

「撃っても全然当たらないよぉ」

 

「狙った場所を予測されるなんて・・・」

 

 上から順に鈴音、ラウラ、箒、シャルロット、セシリア。三者三葉、いや、五者五葉の方がいいだろう。

 

「まぁ、諦めてよ」

 

 ふと、一夏の位置が気になたアキラは辺りを見回す。

 

(あれ? どこまで逃げたの?)

 

 きょろきょろするも見当たらない。

 

(これは・・・困ったことになったな)

 

 今まで以上に走り回り、一夏を探し始めた。




 さて、だんだん筆が乗らなくなってきました。最終話見ちゃったからね、妄想がストップしてちゃいましたが、書き切りますよ、心配しないでください。
 今回はとある劇をぶっ壊していくアキラ君のお話ですが・・・・・・書いててすごいですね、これ。化け物ここに極まれりって感じです。
 今後ともよろしくお願いいたします。


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探して見つかった者は・・・・・・

「くらえっ!」

 

 蜘蛛足からビームが発射される。

 

「くっ!」

 

 白式で躱す。確実に躱せた。

 

「ほう、やるじゃねえか」

 

 体勢を立て直し、相手を見据える。探索するは勝利への糸。その糸を見つけ、手繰り寄せ、勝利を手にするために。

 

 

「確かミツルギのマキガミ・・・「これはこれは、とんだ鼠だねぇ」 っ!?」

 

「誰だてめぇっ!」

 

 ミツルギのマキガミの後ろ、わずか一メートル。

 

「君のせいで作戦がめちゃくちゃじゃないか。まったく、これはこの場で死刑かな?」

 

 何もない。全然見えないのに、声だけ。異常なまでに聞き親しんだ声だけが響く。

 

「姿も見せないなんて偉そうだな、なんだ? 死にたいのか?」

 

「おやおや、低能なのかい? ちゃんと君の目の前にいるだろう? それとも光学迷彩すら見切れないのかな?」

 

 サーモグラフィーは確かにとらえていた。異様なまでに幼い姿の、銀髪の少年。瞳は紅く、鳥が浮かび上がっている。

 

「私はあまりできのいい方じゃないんだけど、それでもそのくらいのことも考えれないなんてねぇ・・・マスターからはいらないことをせずに接触だけを命令されてるんだけど、しかも僕がもらうはずだったアラクネまで持って行っちゃってたなんて・・・」

 

「はっ! 独り言の多いやつだな、さっさと黙りなっ!」

 

 アラクネはビーム砲を連射する。手ごたえあり。確実に命中した。

 

「早とちりだねぇ」

 

「なっ!?」

 

 確実に手ごたえがあったはずのアンノウンはアラクネと白式の間で見たことのないISを見せていた。白い、左腕だけ肥大化した、白蓮や紫星、泪罪に似たシルエットのIS。

 

「あ、そっか、白式の君は知ってるんだっけ? ・・・ふぅん、いいね、君、合格」

 

「は?」

 

「だから合格だよ。君、私と一緒に嚮団に来ない?」

 

「お前、何言ってっ!?」

 

「君なら彼を殺せるかもしれない。マスターからも、彼を殺すんなら私がだれをスカウトしてもいいって言われてるし」

 

「俺がそんなとこに行くわけないだろっ!」

 

「そっか・・・。まぁ、だったらいいや」

 

「それよりも、お前は誰だ?」

 

「え? 私かい? 私はアキラ。彼を殺すための、いわばクローンさ」

 

「く、ろーん・・・・・・」

 

「あ、知らなかったのかい? もう何人だったかなぁ、私の兄弟は既に20人以上は殺されてるかな。血の気が多いやつばっかり先走った結果なんだけども。クローンって言っても、彼はそれでも、いい気分はしなかっただろうねぇ。なんせ、自分を殺してるんだからさ」

 

「お前はそれでいいのか!?」

 

「私は構わないよ。マスターの命令だし、何なら彼を殺せばそれですぐ壊れちゃうんだから」

 

「そんなの・・・悲しくないのかよっ」

 

「悲しくなんかないよ。それが仕事でもあるし、生まれてきた意味でもあるしねぇ」

 

 明らかに悲しみや苦しみの感情が欠落している。これは・・・アキラじゃない。でも、アキラの声で、アキラの見た目で、アキラと同じようなISで。

 

「どうせだったら・・・俺の手で「だめだよ一夏」」

 

「それは君の役目じゃない。僕の役目だ」

 

 後ろから聞きなれた口調、そうだ、この感じ。

 

「アキラっ!」

 

「あ、ターゲットだ」

 

「V.V.め、まだ生きてたのか」

 

「まぁ、不死身だしぃ? 殺すんならコード取れば?」

 

「で、クローンごときが何用でこの学園に?」

 

「なに、君の首が欲しいのさ」

 

「あげないって言ったら?」

 

「この場面なら、力ずくでってのが定石なんだろうけど、まぁ、一人じゃ無理だし、ささっと逃げるかな」

 

「逃がしてくれると思う?」

 

「思うね。何なら私がここに入れた理由ってそこのお姉さんのおかげだし」

 

「君ってさ、僕に全然似てないね」

 

「えぇ、見た目は結構近いはずなんだけどなぁ」

 

「そういう傲慢なところ、僕と全く似てない」

 

「まぁ、いいんじゃない? お姉さん、そろそろ限界そうだし、お暇するよ、じゃあね、ターゲット」

 

 後ろ手を振りながら、ISを纏ったまま、その姿を消した。

 

「彼も失敗作、か」

 

「なぁ、アキラ」

 

「ん?」

 

「まだ俺たちに話してないこと、山ほどあるんじゃないか?」

 

「かもね。それよりさ」

 

 視線を元侵入者のアラクネに向ける。

 

「待たせてごめんね」

 

「うるせぇ」

 

「口の悪い子は嫌われちゃうよ?」

 

「よけえなお世話だっ!」

 

「まぁ、いいや。僕の仲間に手を出したんだ」

 

 アキラはアレクサンダ・スペリオルを展開する。

 

「このままさようならできると思わないでね」

 

 声からは想像も絶するほどの怒りの波動が生まれる。それは周りも巻き込むように激しく、静かに、空間を包む。

 

「逃がさないよ? ミツルギのマキガミ」

 

 アラクネは、完全に逃げるタイミングを失った。




 時間空けました、どーも、白銀マークです。
 見出しって大事じゃない?ってことで、なかなかタイトル決まらないうちにずるずる忘れて言っちゃって、現在はMHWI(モンスターハンターワールドアイスボーン)やっております、楽しいね、モンハン。
 さて、完結までかなりの時間を要しそうですが、続投していきます。忘れたころに投稿されてる、なんて事案が割と沢山生まれると思いますが、気長に待っていただけたなら幸いです。


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ただ、誓いを果たすのみ

 アレクサンダ・スペリオルはその華奢なフレームからは考えられないような出力でMVKを振るう。

 

「くっ! こんのぉっ!」

 

 アラクネは押される、手数も、機体の持つ戦術幅でもアラクネは優位に立てる。しかし、その優位さをも覆す何かが、アレクサンダ・スペリオルにはあった。

 

「てめぇっ!」

 

 仕返しの意味を込めて射撃するが、手も足も出ないどころか、余計に相手に詰められてしまう。

 

「これで終わ「そうはさせない」なっ!?」

 

(あぁ、そうだ・・・。あれは僕だ・・・)

 

 突如アキラとアラクネを割くようにアキラの紫星に似たシルエットのISが。

 

「頭に血が上りすぎだよ。君と同じことぐらい考えるさ、なんてったって、私は君なんだからね

 

 一対一対一、三すくみで逃がしてもらえるのなら、一対一をさせて、満身創痍になった勝者を狩る。定石だ。特にターゲットの実力がわかっているなら、混乱に乗じてだったり、戦闘後であったり、弱り切ったところを確実に頂くことを優先する。

 

「さすが僕だ」

 

 アレクサンダ・スペリオルはシールドがほぼ完全に削られ、戦闘不能にまで陥った。

 

「これ、効くでしょ? 新作だよ」

 

 クローンが持っているものはパイルバンカーだ。しかし、通常とは異なる形状、一撃で吹き飛ぶシールド。

 

「ただのパイルバンカーじゃないな、それ」

 

「さすが私だね。これはブレイズルミナス機構を採用したものでね、とてつもない破壊力があるんだ」

 

 ISを動かして起きようとするが動かない。完全に機能停止している。

 

「しかもゲフィオンディスターバー付きだよ」

 

 クローンは武器を片付け、別の武器を展開し直す。

 

「さて、君の首をもらおうか」

 

 隣では一夏が拘束されている。蜘蛛の糸は一夏をとらえて離さない。絶対的に不利な状況、誰も助けられない無気力感。

 

(あぁ、また、また僕は・・・)

 

 また誰も助けられない。また、誰も守れない。また・・・大切な人たちを失う。どんどん意識がどす黒い沼に沈んでいく。足掻こうと思えば思うほど、深く、沈み込む。

 

『Biancaneve、起動します』

 

「あ? 誰だ今の声は」

 

「知らないね。それより、君もここで・・・っ!?」

 

 動けないはずのアレクサンダ・スペリオルがギギギと駆動音を立てながら瞳を紅くたぎらせ、装甲をずらし、隠されていた特殊なフレームを開花させる。

 

「なっ! う、嘘でしょ!? まさか・・・その機体は・・・」

 

「な・・・なんなんだよ、こいつはっ!?」

 

「あ、アキラ?」

 

 機体は紅いフレームをこれでもかと光らせ、ゆっくりと、ウルナエッジ改を展開。姿勢を低く、とびかかれるように、低くかがむ。

 

「だ、めだ・・・とめ・・・れないっ!」

 

「しまったっ! その機体に乗っていることを考慮しておくべきだった」

 

 クローンは足早にその場を立ち去る。クローンは知っている。このシステムの正体を。

 

「の、のまれ・・・」

 

 それっきり、アキラはしゃべれなくなった。ただ、機体と同じように瞳を紅く輝かせ、機体を動かす。

 

「なっ!?」

 

 今まで戦闘していた時よりも早く、鋭く、アラクネの懐に切り込む。

 

「どうしたんだよアキラっ!」

 

 返答はない、ただ淡々と、アラクネを切る。機械的な動きで、詰め将棋をする。

 

「アキラっ!」

 

 出入り口からライとカレンが来る。急いで駆けつけてくれたのが目で見て取れるほどに、二人の息は上がっていた。

 

「ライ、カレン、どうしちまったんだよ、あいつはっ!?」

 

「暴走・・・」

 

「暴走?」

 

「あの機体はSINKAIシステムの試作が積んであるんだ。ベースは殺すことしか考えてない機械で、一度このシステムを起動したらパイロットが使い物にならないと判断するまで、殺戮の限りを尽くす」

 

 二人はISを展開する。

 

「何する気だ?」

 

「彼を止める。これは僕らの仕事だ」

 

「あの子、ライに似て、すぐに自分を追い込んじゃうから。たぶん、それにシステムが反応したのよ」

 

「だったら俺も「だめだ」なんでっ!?」

 

「今の一夏じゃ、絶対に死ぬ。そしたらどうやってもアキラをこちら側に引き戻せなくなってしまう」

 

「でもっ!」

 

「アキラのことを考えるのなら、今は自分のみを案じてほしい。アキラは絶対に僕たちが止める」

 

「・・・わかった」

 

「一夏は地上組の援護に出てほしい。上にも来てるんだよ」

 

「わかった」

 

 一夏を縛る蜘蛛の糸を切り裂き、一夏を開放する。

 

「カレン」

 

「えぇ」

 

 輻射波動を二人でぶつける。その行動が結果としてアラクネを逃がしてしまったが、そんなことはどうでもいい。

 

「アキラ、戻っておいで」

 

 優しく声を掛けながら、アレクサンダ・スペリオルに二人掛でぶつかる。出なければ、きっと、止められない。

 

 機体スペックも、武装面でも劣っているにもかかわらず、システム一つで機体は性能の壁を簡単に超える。それは潜在能力が発揮されているのか、はたまた、違う何かがあるのか。ただ、何が何でも止めなければならない、何が何でも、引き戻さなければならない。

 

「僕(私)たちは君(あんた)に誓ったんだ(のよ)っ!」

 

 誰も知らない、二人の契約は、その意味を成すようにアキラと対峙する。




 やはり、このような遅い投稿となってしまいましたか・・・どうも、白銀マークです。
 時間かかりましたねぇ。何せ、元アニメ、元小説とはかけ離れた設定などが発生してますから、資料を見ながら制作してもなかなか大変ですねぇ。

 さて、アキラ君は機体のせいで暴走しちゃいましたねぇ、アラクネも逃がしますし・・・。

 今後ともよろしくお願いいたします。


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アレクサンダ・スペリオル

『ねぇ、ライ』

 

『ん?』

 

『私たちがあの子にしてあげれることって何かしら?』

 

 あの子、とはもちろんアキラのことだ。アキラが失った人と、同じ名前、同じ顔をしているのに、何もしてやれないのか。それが嫌だから、アキラに対して、何かしてあげることはないのか。

 

『僕も同じことを思ったんだ。・・・でも、僕らは彼のことを知らなすぎる。仮に僕やカレンに似ていたとしても、育て親がわからなければどんな風に育ったかもわからない』

 

『でも、それでも私は、あの子のために、何かしてあげたい』

 

 二人は考えた。アキラに今の自分たちができることを。明確な答えは出せぬまま、時間は過ぎていくが、それでも考えることをやめなかった。

 

 ・・・どれだけ時間がたっただろうか。長い時間をかけて、一つの結論を導いた。

 

『アキラが道を踏み外しそうになったとき、アキラに何かあったとき、アキラが壊れそうになった時、そばにいてあげるって言うのはどうかしら?』

 

『そうだね・・・今の僕たちにできることはそれぐらいかもね』

 

『でも、いつかアキラが心をちゃんと開いてくれて、自分を許せるようになったら、その時は私たちは彼の親として、しっかり支えていこう?』

 

『そうだね、僕らはそれぐらいしかできなさそうだ』

 

『どうして、同じ名前なのに、こんなにも差があるの?』

 

 同じ名前、同じ顔をしているのに、今の二人には届かない何かが、高い何かがある。

 

『それは、僕たちよりも未来の僕たちの方が大人だったんだろう』

 

 それでも、だからといって見捨てたりしない。だから

 

『だったら、未来の私たちの代わりに誓うわ。アキラを必ず守るって』

 

『僕もだ、君と一緒に、アキラを必ず・・・』

 

 まだ、育て親が誰かも、周りに馴染み切らないアキラの居た、アキラが入学して間もなくのころ、二人がアキラに誓った、誓いだった。

 

 

 

 

 

 アレクサンダ・スペリオルはいまだに健在。機械的でありながら流暢に獣のように部屋を駆け巡り、敵味方の区別もつかぬまま、ウルナエッジ改で傷をつけていく。それに対応した高速戦闘を繰り広げるが殺すことが目的の機体に殺さないことを前提で立ち回らなければいけない機体の方が圧倒的に不利を背負わされる。

 

「カレンっ!」

 

「わかってるっ!」

 

 二人の機体の方が断然反応速度もいいはずなのに、アレクサンダ・スペリオルはそれをも凌駕する速度で行動をとる。右に振り向けば左に回られ、後ろをとられたと思えば正面にいる。まるで・・・

 

「僕たちは、幻覚でも見ているのか?」

 

 アキラの機体は元いた位置とは反対の位置に出現し、シールドにダメージを与えていく。

 

「でも、アキラはちゃんと・・・くっ!」

 

「ライっ!」

 

「大丈夫だ」

 

 振り向きざまにMVSを振るうが、空を切り、アレクサンダ・スペリオルは目の前に姿を現す。

 

(似ている、あのギアスに・・・ロロのギアスに・・・)

 

 しかし、有り得ない。連続行使はロロのギアスの場合は死をもたらす。さらに、一人の人間に複数のギアスが宿るなんて聞いたことがない。だがもし、もしも一つの肉体に二つのギアスを宿す方法があるなら、もしも一つの体に二つのギアスを宿せる体質であったなら。

 

(可能性はあるな)

 

「カレン、アキラに肉薄してくれ」

 

「わかったっ!」

 

 紅蓮はアレクサンダ・スペリオルに向かって飛翔する。呂号乙型特斬刀を煌めかせ、目標を切断するように、鋭く、振り切る。

 

「やっぱりっ!」

 

 白蓮は左前腕部を射出、自在な軌道を描きながら紅蓮の背後で何かをつかんだ。

 

「えっ!?」

 

「アキラは、一つの体に複数のギアスを宿してるっ!」

 

「えぇっ!?」

 

 紅蓮の背後で白蓮の左手はアレクサンダ・スペリオルをしっかりとつかんでいた。

 

「シールドを削り切るっ!」

 

 そのまま輻射波動を鎧袖伝達で起動させる。アレクサンダ・スペリオルのシールドはデータ上ならしっかり削れていっているはずだ。

 

「よし、データー上なら問題ないな」

 

 左前腕を回収し、アレクサンダ・スペリオルに近づく。

 

「ライっ! 下がってっ!」

 

「くっ!」

 

 アレクサンダ・スペリオルは立ち上がった。シールドは削り切った、しっかり機能停止まで追い込んだはずだ。しかし、異様な駆動音を立てながらもアレクサンダ・スペリオルは動く。

 

「あれは、本当にISなのか?」

 

「なんで、どうして?」

 

 アレクサンダ・スペリオルの装甲がすべて剥がれ落ちると、機体のフレームが出てくる。フレームは血が通うように紅い筋がいくつもあり、鼓動するように発光を繰り返す。パイロットは装甲とは別の謎の電磁バリアで守られており、顔は謎のデバイスによって目の部分だけ確認できないが、全身に力の入っていないアキラが映った。腕や足は機体につながれたままだ。どうやって機体が動いているのかもわからない。

 

「なんなんだ・・・これは・・・」

 

 いささかISと呼ぶにはおかしな機体がうなり声をあげる。機体が膨れ上がり、パイロットを取り込みながら肥大化し、やがて、黒い塊となった。

 

「アキラがっ!」

 

「させないっ!」

 

 塊に輻射波動を当てるが傷一つどころかさらに肥大化し、黒い塊がはじけた。

 

「なっ!?」

 

 中から黒いISが顔を出した。

 

「ランスロット・・・」

 

 ランスロットを模したシルエットの、黒い機体。すらりとシルエットと背中にある一本の刀。太もも部と二の腕部にはクナイが合計で12本。

 

「司令部っ!」

 

 ライはとっさに司令部に通信を入れた。

 

『見えているっ! なんなんだあれはっ!?』

 

「VTシステムに酷似していますが、データはっ!?」

 

『該当するデータなしっ!』

 

「アキラの周りには、いったい何があるっていうんだっ!」

 

 戻ってこれないお姫様は、王子様の助けを求め、黒い棺の中で眠る。呪いはまだ消えない。




 現在筆が乗っております。どうも、白銀マークです。
 
 アキラ君、白雪姫になってしまいましたねぇ。毒リンゴならぬ毒ISと、いやはや、良い感じに仕上がりました。さて、お姫様を助けることのできる王子さまはどなたかな?

 次回もよろしくお願いします。


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戻らぬ姫君は王子を待つ

 ランスロットに酷似するISはクナイを抜き打ち、投擲する。異様なほど鋭く、綺麗な軌道を描きながら紅蓮と白蓮に向かって飛翔する。

 

「カレンっ!」

 

「ええっ!」

 

 輻射波動で壁と築き、クナイを融解する。溶けた後のクナイはそのまま地に落ち、目の前いたはずのアンノウンはいつの間にか背後にいた。

 

『コロ・・イ。ハナ・ル』

 

 アンノウンは声を発した。口のような部位が動き、その場から逃げるように離れていった。

 

「にげたっ!?」

 

『紅月と蒼月はそのまま四十万を追え』

 

「「了解」」

 

『他は地上を警戒しろ。邪魔をさせるな』

 

「「「「「「「了解」」」」」」」

 

 アンノウンは飛行ユニットがない。よって飛ぶことはできないが、KMF特有のランドスピナーで地を滑り壁を上り地形を生かし高速移動していく。

 

「待て、アキラっ!」

 

 追いかけるがうまく距離を詰められない。そのままアンノウンは地上に出てしまった。場所はアリーナのど真ん中。

 

『グフゥっ!』

 

 機体は膝をつき、休憩といわんばかりにその場から動かなくなる。

 

「お兄ちゃんっ!」

 

 アリーナには出る場所がわかっていたように銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が待機していた。

 

『データシキベツ、タイショウヲ銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)トカクニン・・・コロセナイ』

 

 また別の場所に行こうとアリーナのシールドを破壊しようとする。

 

「行かせないっ!」

 

 銀の鐘(シルバー・ベル)でアンノウンの出口を塞ぐ。奴は振り返った。血に滾った眼差しを、妹に、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に向けた。

 

『ジャマヲスルナラ』

 

 背中の太刀を抜き打ち、とびかかる。

 

「くっ!」

 

 回避行動をとって大事は免れたものの、機体のシールドを貫通してフレームに少し傷が入った。

 

「し、シールド貫通っ!?」

 

『ユキネ、それには飛行ユニットはない、空から攻撃するんだ』

 

「つ、通信!?」

 

 回線を開く。

 

「お父様っ!?」

 

『やぁ』

 

「どうして回線がっ!?」

 

『私のおかげよっ!』

 

 3Dの映像が映る。

 

「あなたはコトノハっ!?」

 

『レイお手製のコトノハちゃんよ。どう? すごいでしょ?』

 

「まったくもう・・・」

 

『あの機体から落ちてきたのを偶然回収したんだ』

 

『アキラはあの中ね?』

 

『そうだ』

 

『なるほどねぇ』

 

「お兄ちゃん、助けれるの?」

 

『まだ助かるわ。あの機体の弱点はパイロットを保護している電磁バリアよ』

 

『ちょっと待てよ、そんなものどうやって打ち抜くのよっ!』

 

「・・・わかった気がするわ」

 

『えっ!?』

 

『さすがアキラの妹だけあるわね。そうよ、あれはパイロットが居なくちゃ動作できないの』

 

「だったら、あの電磁バリアに干渉すればいいのね」

 

『ご名答、正解よ』

 

「でも、どうやって干渉を・・・?」

 

『それができる機体は・・・あの機体しかないわね』

 

『だね。司令部、至急生徒会長をこちらに』

 

『それでどうにかなるのか?』

 

『なります』

 

『わかった。すぐに向かわせる、四十万を逃がすな』

 

『『「了解」』』

 

 ここから三機はシールドを無効化することのできる武装を使う機体と死の円舞曲(デス・ワルツ)で踊る。当たれば即死、運良くても何かしら障害は残るだろう。それでも、三人は立ちはだかる。

 

四十万アキラ(お兄ちゃん)を返してっ!」




 さてさて、いまだに戻らないアキラ君ですねぇ、妹さんまで心配してますよぉ?

 最近調子がいいんでこのままどんどん書き進めていこうと思います。過去の話の句読点や改行調整などを直しました。これまでのお話もこれからのお話も、誤字脱字報告等、よろしくお願いしますっ!

 今後ともよろしくお願いいたします。


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知るはずのなかった、姫君のこと

 長い。要請してから人が来ない。

 

「まだなのっ!?」

 

『そろそろきついな』

 

 要請してから5分と立っていないのだが、三人は既に限界を迎えつつあった。理由は単純、アンノウンの運動性能が高すぎること、狙いが正確なこと、この二つが三人を苦しめる。

 

『ユキネ、後ろっ! よけてっ!』

 

 カレンからの警告に反応して回避行動をとると、飛び上がったアンノウンの持つ刃が通り過ぎるのを目の端で見ることができた。たぶん動いていなければ殺されていただろう。

 

「助かったわ」

 

『まだなのかっ!?』

 

 応援は、まだ来ない。

 

 

 

 

 

「あれは、アキラ君?」

 

「くそ、まだいたのかっ!」

 

 上空にはアラクネの時にいた紫星似のISだった。

 

「あ、あの時の子じゃないか。さっきぶりだね」

 

「何してやがるっ!?」

 

「ん? あれ見てみなよ」

 

「あ、あれはっ!?」

 

「そう、あの時のアラクネだよ。アキラにやられた仕返しにでも行こうとしてるのかな?」

 

「だったら止めねぇとっ!」

 

「止めなくても時期に死ぬさ。あのアキラを前に勝ったのは、後にも先にもアキラの今は亡き友人、ただ一人だけだったからね」

 

「だったら・・・だったら俺が「無理だね」っ!?」

 

「あれは人間に制御できる代物じゃないから、近づいたら死ぬよ?」

 

「くっ!」

 

「あれを止めれるのは・・・そうだねぇ、君ぐらいかな」

 

 クローンはその指先を生徒会長に向ける。

 

「私?」

 

「そう、君だよ。データ上なら、君の水を使えば、アキラをあの機体から引きはがせる」

 

「教えてくださるのはうれしいですけど、何か裏があるように感じるのですが?」

 

 普通は相手に解除の仕方など教えないものだ。教えることのできる情報はデマか逆に加速させてしまう要因だ。

 

「ああなってしまったら私らもどうすることもできなくてね。持って帰れるものも、持って帰れなくなる」

 

『更識』

 

「織斑先生」

 

 千冬は楯無にそちらに向かうように指示を出す。

 

「わかりました」

 

 楯無はすぐさま指示に従い、ライたちの元を目指す。

 

「なるほど、彼らも気づいたか。さすがとほめるところかな?」

 

「どうでもいいですけど、このまま素直に帰れると思わないことですわね」

 

 楯無以外の専用機組はクローンに武器を向ける。

 

「おっとだめだよ、そんなものを私に向けちゃ」

 

 クローンの右目が紅く染まる。

 

「私を殺す気なら、アキラぐらいの実力がないとね」

 

 いつの間にか専用機組の背後に移動し、捨て台詞を残して、また、一瞬で消えていった。

 

「なんだったの? 今のは・・・」

 

 ありえない光景を目にした六人は、その場に立ちすくむしかなかった。

 

 

 

 

 

 アンノウンと化したアキラはいまだに檻から抜け出せず、今もまだ黒い棺の中で囚われている。

 

「なんでこんなに型落ちの機体が強いのよっ!」

 

 いまだに元気な棺を前に、ユキネは苛立ちをこぼす。

 

『あれで型落ちっ!?』

 

「そうよ、あれは元々、嚮団が作った対ブリタニア兵器だったのよ。それの試作品が盗まれたって話があってね」

 

 襲い来るクナイをよける。大量のクナイを投げつけられたはずだが、壊さなかったクナイは回収されているのだろう。

 

「それを元にサルベージ、リペアされたのがあのアレクサンダ・スペリオルで、こうなるのは完全に副作用で」

 

 背後から来る一撃をよける。説明できるだけの余裕が上空だからこそあるが、これが地上だったならそんな余裕もないだろう。

 

「本来はどんな人間も命令一つで神風もできるぐらいに従順にするのが目的だったんだけど」

 

 アンノウンからの攻撃はいまだ止むことはなく、三人を襲い来る。

 

「お兄ちゃんの追加プログラムで壊れたシステムが勝手に自信をサルベージ、結果として殺戮兵器になってしまったってわけ」

 

 システムが生まれたのは偶然。プログラムとなっている命令形が何らかの形で崩れ、それをシステム側が修復した結果。それでも、異常なまでに高い性能を発揮する。

 

『なるほどな・・・』

 

「細胞に掛けられたリミッターなんて物を外的要因で取っ払ってるから何かあっても不思議じゃないわ」

 

 つまり、アキラを助けることができても、体や精神に異常をきたしている可能性もあるようだ。

 

『そんなの、冗談じゃないわね』

 

「来たっ!」

 

 乱入してきた通信音声は、三人が求めていた、ミステリアス・レイディ(更識楯無)だった。

 

『ごめんなさい。私のせいで、こんなことに』

 

「いいの。こうなるなんて、誰もわからなかった。予想できてたら、私が止めてたわ」

 

『・・・ありがとう』

 

「コトノハ、作戦は?」

 

『アキラを囲んでいる電磁バリアは機体と融合しきってなくて、まだ浮いている状態なの。だからミステリアス・レイディの水でアキラを保護した後に、紅蓮、白蓮の輻射波動で壊せば、任務完了よ』

 

『アキラ君に被害はないの?』

 

『計算上はね。ただ、計算を間違えたり、水がバリアに干渉すると、水が一定時間使い物にならなくなるわ。つまり、あなたに掛かってるのよ』

 

「やろうよ」

 

『ユキネちゃんっ!』

 

「コトノハ、それでお兄ちゃんは戻ってくるのね?」

 

『誰が計算したと思ってるの?』

 

「わかった。じゃ、誘導だけ担当するわね」

 

『僕とカレンは着かず離れずの距離を保とう』

 

『どうしてそんな危ない橋を渡ろうとするのっ!?』

 

「相手がお兄ちゃんだもん。死なないよ、絶対」

 

『そうだね。自爆に巻き込まれても死ななかったからね』

 

『ライに似てるから。あの子は大丈夫よ』

 

『私を信じなさい。あれしきで死ぬ男じゃないわ』

 

 絶大な信頼。生死すらも信頼でかたずけてしまう。彼は死なないと、その眼が、声が。前を向き、助かったときのことを考えるだけのその顔が。楯無に決断を下させるだけの力があった。

 

『わかりました。信じましょう』

 

「じゃあ、行くよっ! オペレーション、ゲットスノウホワイト、レディ、ゴーっ!」

 

 救出作戦が、今、始まるっ!

 

 

 

 

「あの野郎、私をコケにしやがってっ!」

 

 ボロボロながら、まだかろうじて歩行能力が稼働するアラクネは、地上で脱出ルートをたどっていた。

 

「オータム、迎えに来たぞ」

 

 上空には見たことのないISが。

 

「私を呼び捨てにすんじゃねぇっ!」

 

「迎撃態勢が整いすぎた。帰投するぞ」

 

「まだだ、私はあいつにっ!」

 

 と、脱出ルートから見受けられた。戦う黒いISと赤と青、そして銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を確認した。

 

「あいつだ、あいつを殺してからだっ!」

 

 アラクネは向かう。屈辱を晴らしに。



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姫君の帰還は、爆発とともに

 作戦は熾烈を極めた。まず、アンノウンの移動能力値が極めて高いこと、ISの持っているシールドを貫通できる武器があること、パイロットを傷つけてはいけないということ。

 

「ポイントに来たわっ!」

 

『ユキネはそのままそいつが逃げないように檻を作ってっ!』

 

 砲撃によって動くことのできない檻を作る。

 

『アキラを囲ってっ!』

 

『はいっ!』

 

 コトノハの指示の元作戦は遂行される。今のところは順調だ。何も問題はない。

 

『保護できたわよっ!』

 

『溶かしてっ!』

 

『『了解っ!』』

 

 アンノウンに向かって最大出力で輻射波動が使用される。あれだけ手を焼いていたアンノウンは簡単に溶け、最後には水が残った。

 

「ふぅ、オペレーション、クリアかな?」

 

「アキラ君っ!」

 

 水の中からマント等を捨てた、王子には似つかわしくない状態でその場に倒れていた。衰弱している。

 

「アキラ君、しっかりして」

 

(私の責任だ・・・私の・・・っ!)

 

「うぅ・・・」

 

 はっ、と声に反応して彼の顔を覗き込むと、ゆっくりと瞼を開け、太陽の光から目を細める。

 

「あれ? 一夏は? 蜘蛛のISはどこ?」

 

 周りを見回しても、それらしきものは一切ない。いるのは両親と妹、生徒会長だけだ。

 

「あれ? どうしてこんなところに? 父上に母上まで」

 

「アキラ君っ!」

 

 彼は死ななかった。五体満足で、また、みんなのところまで帰ってきた。その事実がたまらなくうれしくて、自分のせいで誰かが死ぬことがなくて、その事実が、たまらなくうれしかった。

 

「か、会長っ!?」

 

 感極まる。アキラが生きていることを触れて、体温を感じて確認する。

 

「よかったぁ」

 

「まったく、あなたのせいではないのに」

 

 彼女を抱えたまま、ゆっくりと体を起こす。まだくらくらするが、動けないほどではない。ただ、異常なほど体が重い。

 

「父上、今はどうなっていますか?」

 

「上空にはサイレント・ゼフィルスが。地下ではアラクネが。それぞれ一夏の白式を狙ってきた。現在は二機とも逃げられてどこにいるかわからない状況が続いてる」

 

「そうですか・・・」

 

「そういえば、なんでアレクサンダ・スペリオルに乗ってたんだい?」

 

 アキラはアレクサンダ・スペリオル以外にもう一機、紫星を所持していたはずだ。

 

「あの機体は、校内で使用することができません。機体の有する武装の出力が高いこと、システム補助があること。そのほかにもありますが、主にこの二つが原因です」

 

 補修で実力や性能テストをしたところ、学園の設備が一部使用不可能になるほどのジャミングが検知され、使用には許可が必要になった。高い能力故の代償だ。

 

「なるほどね」

 

「まだ調整もしていないので調整をしてから、改めて使用許可を貰いに行きます」

 

 ライはアキラに手を伸ばす。その手をつかみ、アキラは立ちあがった。

 

「まだまだ体の状態は良くないみたいです」

 

 気丈にも笑って見せる。

 

「さて、戻りましょうか。謝罪を入れないといけない人たちがたくさん・・・っ!」

 

 アキラは見てしまった。見つけてしまった。蜘蛛型のISがこちらに向かってくることに。

 

(まだっ!)

 

 ISを展開しようとして、思い出す。アレクサンダ・スペリオルは二度と使えない。もう、迷惑を駆けれないし、第一乗れるような状態じゃない。

 

(考えろ、まだ、まだ間に合うはずだ)

 

 ライもカレンも、ユキネだって気づいていない。わかったのはアキラだけ。だからといって、今紫星を使うことはできない。

 

(ギアスを・・・)

 

 使おうとして、心臓が痛くなる。ここで初めてアキラはアレクサンダ・スペリオルに乗っている間にギアスを大量に行使していたことがわかった。それは、ライのとは違う、もう一つのギアス。

 

(だめだ、これ以上は僕の命が危うい)

 

 考えても考えても、よい策はない。

 

「父上、うしろっ!」

 

 ライがすぐに振り向くと、アラクネは既にアキラを己の射程距離内に収めていた。

 

「私に手を出したことを、地獄でわびなぁっ!」

 

(僕はまだ、死ねないっ!)

 

 アキラの右の瞳が、紅く羽ばたく。・・・アラクネは、吹き飛ばされていた。

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 目の前にはアキラがたっていた。が、すぐに膝から崩れ落ちる。

 

「が・・・はぁ、はぁ」

 

 息が上がる。呼吸が苦しい。

 

「あ、アキラ、君はまさかっ!」

 

「ばれ、ましたか。まぁ、たくさん、使ってたみたいなので、疑問が、確信に、変わっただけだと、思いますが」

 

「もういい、もうは話さなくていい」

 

 話すのもやっとだろうに。あの時のルルーシュとロロはきっと、こんな感じでルルーシュはこんなに胸を痛めたんだろうなと。ふと、そう思った。

 

「ち、外したかっ!」

 

 搭乗者はアラクネのコアを抜き取り、自爆装置を作動させる。アラクネは武装と装甲だけの状態で、四人に突っ込む。

 

「カレンっ!」

 

「わかってるっ!」

 

 二人が前に立ち、紅蓮と白蓮を使おうとするが、エネルギーが足りない。輻射波動にエネルギーを割きすぎたのだ。

 

(し、しまった。エネルギーが)

 

 アラクネは近づいてくる。

 

 そんな中、アキラは弱り切った瞳でアラクネを見据える。

 

(もう一度、もう一度だけっ!)

 

 右目を紅くするが、数秒間も使うことはできなかった。止めることも、逃げることも、ギアスの呪いではできなかった。

 

 ドカァァァァァァンッ!!

 

『何の爆発だ、報告しろっ!』

 

 無線の音声だけが流れる。

 

『大丈夫です。みんな無事です』

 

 ただ一人、この中でみんなを救う手段を持っていた。ミステリアス・レイディの水は、特殊な水。ISのエネルギーを流すことのできるナノマシンで制御された水。だから、この爆発を、水をドームシールドのように展開し、みんなを救った。

 

「か、かいちょう?」

 

「大丈夫よ。大丈夫」

 

 アキラは虚ろな意識のまま、その視線を楯無に向ける。

 

「誰も死んでなんかいないわ。そのまま、少しお休みなさい」

 

 温かい感触が、頭をなでる。虚ろな意識を、今度こそ完全にアキラは手放した。

 

 

 

 

 

 カラスの啼く時間。外はオレンジ色だが、中は真っ白な部屋、近くで機械のピッ、ピッと音がする。

 

「あれ? ここは?」

 

 体を起こす。

 

「無茶をしすぎだ、バカ者」

 

「織斑先生・・・」

 

「まったく。お前のおかげでとんだ災難だったのだぞ?」

 

 近くには千冬だけがいた。

 

「すいません・・・」

 

「でもまぁ、結果として、施設に対する損害だけだったんだから問題はない」

 

「今は・・・」

 

「ほかの生徒は後かたずけをしている。文化祭も終わったからな」

 

「そうですか」

 

「当分はISへの搭乗禁止だ」

 

「そんなっ!? 僕はまだ十分に「だめだ」・・・どうしてっ!?」

 

「お前の右目のことを、蒼月から聞いた」

 

「・・・さすが父上、わかっておられたのですね」

 

「あぁ、お前はまだ体の状態がよくない。このままISに乗ってもまともに動かせんだろう」

 

「確かにそうです。今の僕はボロボロです」

 

「だから、体を治してからと」

 

「でも、それは嫌です。僕が、また無力になってしまう」

 

「なら、少なくとも今日明日のIS搭乗を禁止だ」

 

「・・・わかりました」

 

「はぁ・・・私も甘くなったものだ」

 

「全然、お変わりないですよ、先生は」

 

「私も仕事に戻る。ある程度体がよくなったら、医師に伝えて自室に戻れ」

 

「了解」

 

 千冬は部屋を後にする。そのあとすぐに、扉が開く。

 

「体の方はどうかしら?」

 

「会長・・・はい、大丈夫です」

 

「ごめんなさいね。まさかあんなことになるなんて」

 

「そんなことはないですよ。あれは偶然の結果です。必然の結果ではないですから」

 

「それでも「それ以上はなしです」っ!?」

 

 唇に指が当てられる。指の持ち主は優しい笑顔で、その先を制した。驚いた顔で頬を染める会長。

 

「それ以上責めてはだめです。今回はしょうがなかった、それでいいんですよ」

 

 アキラは体を元に戻す。

 

「・・・あなたは気になりますか? 僕の眼」

 

「いいえ、と言えば嘘になるわね。でも、聞かないわ。それは野暮ってものだもの」

 

「さすが会長ですね」

 

 会長と呼ばれた。それは正しいのに、みんなにはない壁を感じてしまう。

 

「・・・刀奈」

 

「・・・え?」

 

「私の名前。本当は楯無じゃなくて、刀。更識刀奈よ」

 

「刀奈・・・いい名前ですね」

 

 復唱してみても、良いなだと思う。

 

「そ、そうかしら・・・?」

 

「はい。・・・でもなぜ楯無の名を?」

 

「更識家では代々、当主を継いだ者が楯無を名乗るの。だから「楯無」という名前は本名じゃなくて、襲名して、今の「楯無」の名を名乗っているの」

 

「なるほど・・・会長のお家柄、というわけですか・・・。それを僕に伝えてもよかったんですか?」

 

「あなただから大丈夫だと、私は思ったのよ」

 

「わかりました。僕も共犯者ってわけですね」

 

「そうよ。・・・そ、それとは別の話になるんだけど・・・」

 

「なんですか?」

 

「ふ、二人の時は・・・その、刀奈って、呼んでもらえないかしら?」

 

 拍子抜けしたアキラは驚いて目を丸くさせた。

 

「あ、ごめんなさいね。わ、忘れて頂戴」

 

 目をぱちくりさせていたものの、すぐに優しい笑顔に変わる。

 

「わかりました。刀奈さん」

 

 妹を見るときのような、あの優しい顔。

 

(あぁ、私は、この顔を向けられたかったんだ)

 

 なんでこんなことを言ったのか理解できなかった。でもきっと、何か理屈では片づけれない何かが働いたのだと。そう、結論付けた。




 はい、どうも、白銀マークです。

 アニメ本編なら一夏君が守られていたのですがぁ、一夏君、今回は仕事ないので、アキラくぅん、に代わっていただきましたぁ。
 いやね、恋のライバルを増やすのは楽しいよ、ほんとに。

 今後ともよろしくお願いいたします。


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まだまだ、知らないことがたくさんある

 ずっと、アキラ君を見てきた。あの日初めてアキラ君と出会った日から、ずっと。最初は監視目的だった。いつ裏切っても始末できるように、ずっと。だって、怪しいじゃない?

 

 でも、彼は裏切らなかった。裏切らないどころか、アキラ君は自分たちを裏切った子を、この学園につなぎとめた。臨海学校の時も、おぼれていた子を助けた。憎しみにとらわれていた子を、憎しみから解放してあげた。いろんな人を守って、救って、時には叱っていた。

 

 そんな彼を見ていると、だんだん、監視のためだけのはずが、自然と目で追うようになった。彼と話すと、心臓が跳ね上がる。顔が紅潮する。いろんなことを話したくなって仕方がない。

 

「これが恋・・・なのね」

 

 これが恋だということに気付いたのは、学園祭の時のアキラにかかわった子たちを見た時にわかった。明らかに嫉妬心を抱いた。ずるいと思った。自分もそこに混ざりたい、あわよくば、二人だけになりたい。そう思ったら止まらなかった。

 

「ずるい。ずるいよ、アキラ君は」

 

 とある女の子の、どうしようもない、恋心のお話。

 

 

 

 

 

「じゃあ、アキラ君。私は生徒会に戻るわね」

 

「わかりました。お体をお大事に」

 

「そのセリフをあなたが言うの?」

 

 おかしそうに笑いながら、病室を後にした。

 

「少し休んだら、僕も部屋に戻ろう」

 

 まだ、本調子ではない体をいたわるように、意識を手放した。

 

 

 

 

 

「織斑先生、四十万君の容態はどうでしたか?」

 

「体はまだまだ本調子ではなさそうだったが、問題はないようだ」

 

「そうですか・・・」

 

 いろいろと、作成しなければいけない書類は山のようにある。

 

「突き合わせて悪いな、山田先生」

 

「いえいえ、これも仕事ですから」

 

 書類の山を、淡々と、片付けていくのであった。

 

 

 

 

 

「アキラっ!」

 

「あ、一夏。おかえり」

 

「おかえりじゃねえよ。まったく、どれだけ心配したと思ってるんだ」

 

「ごめんね」

 

 苦笑してしまう。まさかここまで心配させていたとは、アキラ自身、思ってもみなかったのだ。

 

「体は大丈夫なのか?」

 

「うん。明日はISには乗れないけど、動けるよ」

 

「よかったぁ」

 

 安堵している一夏を見て、心配されるような人になったのかと、ふとそんなことを思った。

 

「僕も甘い人間に堕ちてしまったものだね」

 

 自嘲気味な笑みを浮かべる。

 

「そんなことねぇよ。それより、あの劇の王冠、あれ何の意味があったんだろうな」

 

「それはねぇ、気になる?」

 

 部屋の奥から生徒会長、更識楯無が姿を現した。

 

「うわぁっ! いったいどこから入ったんですかっ!?」

 

「一夏、聞くだけ無駄。こういう人って権限を乱用するような人多いから」

 

「あら、失礼ね。これも立派な権限の使い方よ?」

 

「もう突っ込みませんからね。それより、主催者なんだから、あの王冠がどのような意味を持っていたのか、ご存知ですよね?」

 

「もちろんっ! なんとあの王冠、取れた人にはアキラ君か一夏君、どちらかと相部屋になれる王冠なのよぉっ!」

 

「「はぁっ!?」」

 

 あの王冠、実はとんでもない物だったようだ。

 

「そんなことしていいと思ってるんですかっ!?」

 

「あら? 私は生徒会長よ? 大体のことは許可が下りるわ」

 

「やっぱり、どこの会長もこう、少しずれている人が多いな」

 

「ほめてるのかしら?」

 

「そんなわけないでしょう? まったく。実際に回収されてたらどうする気だったんですか」

 

「もちろん、取ることのできた人があなたたち二人のうちのどちらかを選んでおんなじ部屋にするわ」

 

「本当にもう、めちゃくちゃだ」

 

 頭を抱えるしかないアキラとあきれる一夏。それとは対照的にうれしそうな楯無。

 

「あ、俺、ちょっと用事あるから席外すわ」

 

「わかった。怒られる前に戻ってくるんだよ」

 

「わかってる。お前は俺の母親かよ」

 

 一夏は笑いながらそう溢し、部屋を後にした。

 

「まったく。で、何か用ですか?」

 

「まぁ、頑張ってたアキラ君にご褒美でもあげようかなぁって思ったのよ」

 

「そんなことですか」

 

 アキラが笑う。声はあげていないが、クスクスと。

 

「何よ? イラナイの?」

 

「いえいえ・・・あ~、笑った。あなたからのご褒美は既に貰いましたよ」

 

「え? まだ何もしてないわよ?」

 

「貰いましたよ。とても、大切なご褒美を」

 

 アキラが立ち上がって楯無の耳元に顔を寄せる。

 

「ね? 刀奈さん?」

 

 小さく甘く、楯無だけに聞こえるように。

 

「ふぇっ!?」

 

 たぶん、今の顔をアキラ君見られていたら死んでしまうかもしれない。そのぐらい、紅潮していただろう。

 

「あなたの本当の名前を、ね?」

 

 どうしてあんな歯がゆいセリフを言えるのかわからない。

 

「ちょっといたずらが過ぎるわよ?」

 

 ちょっと拗ねてしまった楯無はそのままそっぽを向いてしまう。

 

「ごめんなさい。そんなに拗ねないでください」

 

 ばつが悪そうに頬を掻くアキラ。それを目の端でとらえ、かまってもらえてることがちょっとうれしくなって、すぐに優しい顔になってしまう。

 

「冗談よ。でも、あれがご褒美っていうのは少し味気ないわね」

 

「そうですか?」

 

「そうよ。だから、私からのご褒美は、これ」

 

 アキラに顔を寄せ、その唇を自らの唇で塞ぐ。

 

「っ!?」

 

 アキラは驚きのあまり目を見開いた。状況が飲み込めない。

 

「これがご褒美よ。じゃあね、アキラ君」

 

 そのまま部屋から立ち去る。部屋に残されたアキラは一人、唇に手を当て、感触を思い出しながら、ただ茫然と、その場に座り込んでいた。

 

 

 

 

 

(アキラ君の唇、柔らかかったな)

 

 楯無は自分の部屋で、あの時自分がした行動を思い出しながら、唇に手を当てる。頬は紅潮し、ちょっと浮足立っている。

 

 キス・・・。なんて甘美な響きだろう。

 

「あの時の顔、面白かったなぁ」

 

 あのアキラにしては珍しく目を見開くほどの驚愕を見せてくれた。いつもどこかすましていて、つかみどころのない変人さんが、あんなにわかりやすい驚いた顔をしてくれた。

 

「あぁあ、これじゃあ離れられないなぁ」

 

 もっと知りたい。あの子のことを、もっと。

 

「誰から離れられないの?」

 

 後ろから、足音も立てずに近づかれていた。

 

「誰っ!?」

 

 距離を取り、相手を見据えると

 

「そんなに驚くことした?」

 

 現在同室しているユキネがそこにいた。

 

「ユキネちゃん、もう、驚かさないでよね」

 

「いやぁ、癖で」

 

「もう、兄弟そろって」

 

「お兄ちゃんがなにって?」

 

「二人ともつかめない人だなぁって、それだけ」

 

「えぇ? あんなにわかりやすいのに?」

 

「どこがよ?」

 

「すぐにテンパっちゃうし、知らないところですごく頑張ってるし、一番周りを気にするじゃん?」

 

「た、確かにそうね」

 

「だから、考えてること、わかっちゃうんだよねぇ。要は観察力よ、か・ん・さ・つ・りょ・く」

 

「そ、それはそうだけど・・・」

 

「あら? 物分かりいいじゃん。さすが会長だね」

 

「ほめても何も出ないわよ?」

 

「ちぇ、お兄ちゃんと一緒の部屋がよかったなぁ」

 

「だめに決まってるでしょ? 一応あなたは監視付きじゃないとだめなの」

 

「あぁあ、悲しいなぁ」

 

 ちょっと間が空いた。もともと、そんなに仲がいいわけではない。と言っても、知り合ってからそこまで時がたっていないのだが。

 

「で、どこに行ってたの?」

 

「アキラ君のところにね」

 

「え? なにしに?」

 

「う~ん・・・ご褒美をあげに・・・かしらね」

 

「お兄ちゃんにご褒美かぁ。どんなのあげたの?」

 

「な、内緒ですっ!」

 

(・・・成程ねぇ。お兄ちゃん、相変わらずの朴念仁なんだねぇ)

 

 ユキネは、頬を真っ赤に染めて顔をそらした楯無を見て、大体どんなことをしたのか察しがついた。

 

「でも、楯無一人でお兄ちゃんにご褒美はずるいなぁ」

 

 いたずらっ子の思考は悪いことになると、とてつもない角度からとてつもない案を出してくる。

 

「そうだ、いいこと思いついちゃった」

 

 いたずら心満点の笑みで、楯無を見る

 

「楯無も協力、してくれるよね?」

 

 訳の変わらないという顔の楯無をよそに、一人だけ楽しそうなユキネだった




 はい、どうも皆さんこんばんわ、白銀マークです。

 いろいろありますねぇ、ライバルも増えちゃったし。大変ねぇ。

 今後ともよろしくお願いいたします。


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夢見るは幸せな日

 長い廊下に足音が一人。

 

「地図は覚えたつもりだったんだけど」

 

 両手で資料を抱えているこの人は、お困りである。

 

「僕もまだまだかぁ」

 

 地図として使っている紙には、

 

『アキラ、ISに関する資料を適当な冊数、ここに運んできてほしい』

 

 の文字が癖のないきれいな字で書かれていた。

 

「ここを・・・右か」

 

 地図を頼りに進むと、とある部屋の前まで来た。

 

 コンコン。

 

「返事は・・・ないか」

 

 扉を開けて中に入る。

 

「失礼します。・・・資料を持ってきました」

 

 仲間で歩を進めるが暗い部屋で何も見えない。

 

「ここに置いておきますので」

 

 人気のないその部屋から出ようと振り向くと・・・扉が閉まってしまった。

 

「?」

 

 扉お開けようと押してみるがびくともしない。

 

「あれ? おかしいな」

 

(さっきは空いたのに)

 

 仕方なく座ろうとする。地べたのはずのそこにはいつの間にか椅子があった。

 

「・・・誰かいるの?」

 

(怪しい、怪しすぎる)

 

 椅子から離れ、扉を背にして立つ。

 

「誰かいるんでしょ!?」

 

 返事はない。まぁ、あってもらっても困るというものなのだが。

 

「誰かっ! 誰か開けてくださいっ!」

 

 ドアをたたく。無機質な音だけが部屋に木霊する。その音とは別の、何かが、天井を走る音が。

 

「開けてくださいっ! 助けてくださいっ!」

 

 聞こえていないのだろうか、アキラはそれでもドアをたたくのをやめない。

 

「って、こうするとやっぱり降りてくるよねっ!」

 

 ドアの音で足音を消しつつ、対象に近づけるタイミング。しかし、それを知っていれば。ドアの音がどちらか片方の耳で聞き取れるように調整する。そうすれば、近づいてくる足音に気づくことができる。

 

「はっ!」

 

 対象に向かってけりを入れるが綺麗に躱され、また闇に溶け込まれてしまう。

 

「だめか・・・」

 

 足を元に戻す。コツっと虚しい音がした。

 

(数は・・・音の反響から推定は4人。部屋の広さも、大体わかった)

 

 地を蹴り、最初に仕掛けてきた対象が逃げた方向に飛び蹴りを入れる。

 

「何もいないか・・・」

 

 また、足音を立てて着地する。

 

(右側に2、正面はなし、左に1、後ろはなし。ということは上に1)

 

「何が目的? なんで僕がいるの?」

 

 返答はない。仮にアキラ自身のクローンだったなら・・・。

 

「ギアスを使ってこないなんて、僕らしくないじゃないか」

 

「ぎ、ギアスとは何だっ!?」

 

 やっと帰ってきた返答は、正直、聞きたくなかった声だ。知っている。この声の主を。

 

「ら、ラウラ?」

 

 すると、突然何かが顔を覆って、それ以降の意識が、途絶えてしまった。

 

 

 

 

 

「う、うぅ・・・」

 

 いったい、どれくらいの時間を過ごしただろうか。まだ浅い意識を無理やりに覚醒させる。周りは見えないが、アキラの周りが明るいことは分かった。

 

「あれ?」

 

 手足を動かそうとして、気づく。手も足も固定されていた。

 

「用意周到だな、骨が折れそうだ」

 

 と、すぐに声が聞こえた。

 

『禁断の花園にようこそ。四十万アキラ君』

 

(ま、まさか・・・この声は・・・)

 

 部屋の明かりが一斉に灯り、部屋の内部構造がわかるようになった。

 

小さなステージに、掲げられた横断幕、横断幕には四十万アキラにご褒美対決の文字が。

 

「な、なんなんだ?」

 

「はいっ! ついに始まりましたっ! 四十万アキラにご褒美対決っ!」

 

 ステージの上には見知った人たちが。

 

「進行、司会は僕、蒼月ライと」

 

「私、紅月カレンでお送りしますっ!」

 

 黒の騎士団当時の服装で、アキラの両親はマイクを持ってそこにいた。

 

「ど、どうしてあなた達が・・・」

 

「内容は各自自由。アキラを一番喜ばせた人が勝利ですっ!」

 

「それではさっそく「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」ん?」

 

「なんですか一体っ! それに、どうして僕は縛られてるんですかっ!?」

 

「だって、素直にわかりましたっておとなしくしてるわけないし」

 

「絶対深読みしちゃうじゃない?」

 

「そりゃあ・・・そうですけども・・・」

 

「だったらこれが正解だよね?」

 

「ミレイ会長がこういうイベント行事好きなの、なんとなく理解できる気がするわ」

 

「だ、だったらこれは一体何なんですかっ!」

 

「これは・・・」

 

「秘密の対決、よ」

 

「は、はぁ・・・」

 

「まずは、エントリーナンバー一番っ!」

 

「シャルロット・デュノアさんの登場ですっ!」

 

 幕が上がっていく。そのさなかふと、アキラは疑問を持った。そう、気のせいでなければ、知っている名前だ。

 

(シャル?)

 

 上がり切った暗幕の奥には、テーブルが一つ、椅子が二つの小さなコテージのセットが。その中には、なぜかきわどい衣装を身にまとったシャルロットがいた。

 

「えへへ」

 

「あれ? シャル?」

 

「や、やぁ、アキラ」

 

「こ、これは一体・・・。それにその格好は?」

 

「これ? これは、トイプードルだよ?」

 

 耳も動くし、尻尾もしっかりある。

 

「す、すごいんだけどさ・・・。その、僕はどこを見ればいいのかな?」

 

 いささか、露出度が高すぎて、目のやり場に困ってしまう。いくらアキラが朴念仁とはいえ、こういうことは困る。

 

「あ、アキラのエッチっ!」

 

「えぇ・・・」

 

 もう、アキラはどうしていいやら。すでに頭がパンクしそうだ。

 

「あ、そうだ。クッキー持ってきたんだ。お茶にしない?」

 

「そうだね。そうしようか」

 

 腰を下ろし、シャルルが包みを開く。

 

「お茶持ってくるね」

 

 一端舞台裏に戻ったシャルロット。

 

「よく造りこまれてるなぁ」

 

「お待たせ」

 

 両手でお盆を持って戻ってきた。丁寧に机に置かれるティーセット。

 

「じゃぁん」

 

 丁寧に結わえられた包みを開く。

 

「おぉ」

 

 中にはきれいに形作られた白と黒のハートのクッキーが。

 

「さすがシャルだね」

 

「えへへぇ」

 

(本当に、上手だなぁ)

 

「あ、食べさせてあげるね。アキラ、目をつぶって口開けて?」

 

「わかった。・・・こう?」

 

「うん、そう」

 

 シャルロットはアキラが目をつぶったのを確認すると、口にクッキーを咥えた。そして体を乗り出し、ゆっくりと、クッキーを口に運ぶ。しかし、彼女は忘れていた。

 

「こらっ!」

 

 シャルロットの唇からクッキーを手で取る。

 

「間違えて僕が噛んじゃったらどうするの」

 

 クッキーは・・・うん、おいしい。

 

「ご、ごめん」

 

 シャルロットの耳がわかりやすく垂れた。いや、耳は耳でもコスプレの耳だが。

 

「そんなにしょげられたら僕が悪い事したみたいじゃない・・・。ほら、いくら暖房聞いてるとはいえ、その格好は寒いでしょ?」

 

 上着を脱ぎシャルロットの肩に羽織らせる。

 

「あ、ありがと」

 

 服の袖をを通してみる。さっきまでアキラが着ていたものであるからとても暖かい。サイズもシャルロットが普段着ている物よりも大きい。

 

(なんだか、後ろからぎゅってされてるみたい)

 

 言葉にできない幸福感を抱きつつ、アキラと紅茶を楽しんだ。

 

「あ、そろそろ時間だ。じゃあね、アキラ」

 

「クッキー、おいしかったよ。ありがとう、シャル」

 

「どういたしまして」

 

 

 

「それではアキラは席に戻ってください」

 

「あ、戻らないといけないんですね」

 

「そうだね。次はだれなのか楽しみに待っててよ」

 

「わかりました」

 

「さて、続きましてエントリーナンバー二番「だめだぞ。それ以上は」」

 

「なっ!?」

 

「私を抜きにしてこいつを弄ろうなど」

 

「「「C.C.(さん)っ!?」」」

 

「どうしてこちらにっ!?」

 

「決まっているだろう? アキラ、お前を弄りに来たのだ」

 

「それでもタイミングよすぎでしょ、あんたっ!」

 

「当たり前だ。わかるからな」

 

「え? なになに? どうかしたの?」

 

 奥から、出演者が四人が。シャルロット、ラウラ、楯無、ユキネだ。

 

「「「「えぇっ!」」」」

 

「お前たちもか」

 

「ご無沙汰してます、C.C.さん」

 

「ユキネか。久しいな」

 

「な、何しにっ!?」

 

「ど、どちらさまかしら?」

 

「私か? 私はC.C.だ。差し詰め魔女といったところだ」

 

「は、はぁ」

 

「会長、気にしたら負けです。たぶん、考えたら余計混乱しますよ」

 

「わ、わかったわ・・・」

 

「アキラ、ピザを作ってくれ」

 

「えぇ、急すぎて場所も食材も」

 

「お前ならどうにかなるだろう?ほら、行くぞ?」

 

 アキラ腕に絡まり、急かす。

 

「「「あぁっ!?」」」

 

「ん? どうしたお前たち? まさか、こんなこともできないのか?」

 

 そう、まだ少女たちはこんなことはできてないのだ。それも奥手というか、なんというか。C.C.が大胆すぎるというが、なんというか。

 

「僕ならどうにかなるって、そんなめちゃくちゃな・・・」

 

「ならないのか?」

 

 C.C.はさらにアキラに体を寄せる。

 

「まぁ、近くで確保してましたけど・・・」

 

「ほらな?」

 

「ちょ、ちょっとC.C.、今アキラを連れて行かれるのは・・・」

 

「今回はライやカレンのお願いでもダメだ。私としては死活問題だ」

 

「確かに君からしたら死活問題かもしれないけど・・・」

 

「校内に部外者がいるのは許せないですね」

 

「おや、それがアキラの育て親に対するセリフか?」

 

「えぇっ!?」

 

「あ、そういえば会長には言ってませんでしたっけ?」

 

「い、言われてないわよっ!?」

 

「だからかぁ」

 

 そんな平和な日々が続けばいいなと、こんな日々が壊されることはないと、そう思っていた。

 

『ほら、そろそろ起きなさい。アキラ』

 

 懐かしい声がする。今はもう聞くことのない、懐かしい聲。同じ名前でも、同じ思い出を持っている人は一人としていない。だから、そんな懐かしい思い出だと涙が伝う。

 

「どうした?」

 

「昔はこう、集まってわちゃわちゃするのが好きで、よく家族総出で出かけたりしていたからね」

 

『起きなさいって、お父さんが起きちゃうよ?』

 

(今起きます)

 

 だんだん意識が遠のいていく。もう朝だ・・・。

 

「おい、どうしたアキラっ!? 大丈夫かっ!?」

 

「え?」

 

 起きると日が昇り切っており、刀が濡れていた。

 

「あれ?」

 

 目尻が濡れている。

 

「僕は・・・泣いてたの?」

 

「そうだよ。大丈夫か?」

 

「あ、うん。大丈夫。ここにきて、初めてまともな夢を見た気がするよ」

 

「そ、そうか・・・」

 

「うん。・・・さ、行こうか」

 

 今日も学園生活は続く。




 さて、うちはアニメ本編を主軸としているので進まないときはなかなか進みません。というわけで、どういう風に変わるか想像できるぞ?

 次回もよろしくお願いいたします。


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安息は突然に

「アキラ、お前は無事生還したところだしさ。みんなで何かしないかって話をしててさ」

 

「何かって?」

 

「重きを置くのはお前の生還祝いって話らしいんだ」

 

「えぇっ!? そんなことにお金を割かなくてもいいのに・・・」

 

「だめだ。そうでもしないとお前、遠慮しっぱなしじゃないか」

 

「そんなことないのに・・・」

 

「で、それで今日の放課後、ここに来てくれってさ」

 

「わ、わかった・・・」

 

 紙にはあの夢で見た場所ではなく、食堂の一角だった。

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「アキラ、おかえりっ!」」」」」」」」」」」」

 

 パァンっ!

 

 クラッカーの音が響き、アキラに大量の紙吹雪がかかる。

 

「あ、ありがとう。で、でも別にそんなに生死をさまよったわけじゃないし」

 

「いいのっ! 異世界の時ですらアキラの生還祝い、してなかったんだから」

 

(異世界・・・か)

 

 アキラがKMFに乗って戦ったあの戦闘は異世界でのことと認識されているようであり、それはシャルロットだけに留まらず、全員がそろって同じ見解らしい。

 

「今日のために料理長たちに無理言って作ってもらったんだ」

 

「ら、ライさんまで乗り気だったんですか・・・」

 

「当り前じゃないか」

 

「そうですよぉ、生徒の皆さんだけでなく、私たちも心配だったんですからねぇ」

 

「ご迷惑をおかけしました」

 

「生きていればそれでいいじゃないか。な、みんな」

 

 一夏の一声にみんながうなづく。アキラは知らぬ間に、みんなにとってかけがえのない人になってしまっていたようだ。

 

(これは・・・参ったな・・・)

 

 ずっと死にたくて、ずっと両親の元に行きたくて、そう思って戦場にも出てた。そう思って死にやすいところを自ら志願していった。それはKMF戦の時も変わらない。だけど・・・。

 

(だけどみんな、僕のことを心配している。大切に思ってくれている)

 

 この状態で両親の後を追うことは、今のアキラにはできない。

 

 食事中、みんなが笑っていられる、その光景を見ていた。主役でありながらも、周りのことが気になって気になってしょうがない。だが、みんなが死に急いでいた僕を祝うという、ただそれだけの席なのに、笑顔が絶えない。

 

「みんな、ありがとう」

 

 ちゃんと、笑えているだろうか。ぐちゃぐちゃの笑顔になっていないだろうか。みんなにちゃんと、今の僕の気持ちが精いっぱいの気持ちが、伝わっているだろうか。

 

 そんなアキラを、誰一人として不思議な視線を送る者はいなかった。優しい笑顔で、優しい目を向ける。

 

「何言ってんだよ、そんな顔して」

 

「そうそう。一人だけ感傷に浸っちゃってさ」

 

「まったく、お前らしくないぞ」

 

「らしくないわね。もっとシャキシャキしなさいよ」

 

「今回は鈴さんと同意見ですわね」

 

「そんなみっともない顔をしなさんな」

 

「そうそう。アキラだから、みんなそばにいてくれるんだから」

 

「アキラじゃない別の誰かだったら、こうはならなかったかもしれないわね」

 

「そうだな。やはり、お前だからなのだろうな」

 

「そうだと思いますよぉ」

 

 十人十色、それぞれ違う言葉、違う意見。でも、十人十色でも、その言葉に秘められているであろう思いは同じだった。

 

「あ、そうだ。アキラはお酒平気なの?」

 

「僕はお酒は飲めないですね。過去に一度、同席せざるを得ない状況があったのですが、一口でかなり酔ってしまいました。その時の記憶は今でもはっきりしないです」

 

「あ、ライもそんな感じだったわね」

 

「僕と一緒だ。だからお酒は・・・」

 

 その席にはワインが一本。すでに開いていて、すでにグラスに注がれた後だった。そしてその液体はアキラが飲んでいる液体に酷似している。

 

「あれ・・・?」

 

「アキラ?」

 

 時に、お酒に弱く、すぐによってしまう人間がいることをご存じだろうか。

 

「心配せずとも大丈夫だ。問題はない」

 

 目がトロンととろけきり、いつものアキラよりもさらに高い色気を醸し出すように頬を染める。

 

「アキラ、口調変わったね」

 

「そうだな。いつもからは考えられないほどだ」

 

 いつものアキラの一人称は僕で、さらに語尾はきつめではなく、優しさあふれるような口調だ。

 

「私はいつも通りだ。・・・それとも、どこかおかしいか?」

 

 いつものアキラからは考えられないセリフだけでも違和感があるのに、行動もおかしくなってしまった。

 

「なぁっ!?」

 

「なぁ、ラウラ。私はどこかおかしいか?」

 

 ラウラの視線を己の視線と合うように顎をあげさせた。その状態はまさに顎クイ。

 

「お、おかしくない、ぞ」

 

 眼はトロンとして、頬が赤い。その上にいつもよりも大胆な行動と男らしい口調。ラウラは、このアキラを前に、確実に堕ちた。

 

「そうだろう?」

 

 顔がとろけきり、腰の抜けたラウラをよそに、一人満足そうに笑う。

 

「ライ・・・まさかこれって・・・」

 

「あぁ、思ってる通りだよ。アキラは酔っちゃったんだ」

 

「「「「「「「「「「「えぇっ!?」」」」」」」」」」」

 

「え、お兄ちゃん、お酒そんなにだめなの?」

 

「うそでしょ? アキラってそんなにお酒弱いの?」

 

「うん。たぶん二日酔いコースだね」

 

「アキラ。お前ってお酒駄目だったんだな」

 

「私が飲食できぬものなどないぞ? それにだ」

 

 酔った人間はたちが悪い。特にライの血を引いているアキラは酔ったときは見境がない。

 

「こんなにみんなが祝ってくれているんだ。主役がいないのも変な話だろう? なぁ、鈴音」

 

 鈴音を腰から抱き寄せ、そんなセリフを投げかける。

 

「そ、そうね・・・」

 

 威圧はない。ただただ甘く、とろけるような響きで語り掛けられる。どんな女性でも、疎いか男嫌いでなければ今のアキラに詰め寄られて堕ちない女性はいないだろう。・・・もしかしたら男でも堕とせるかもしれない。

 

「な、なぁ、アキラ、少し夜風に当たってこようぜ」

 

「そうだな。私も少し疲れてしまった、少し休憩にしようか」

 

 虚ろな瞳のままアキラはこの状況を打開すべく動いた一夏とその部屋を後にする。アキラに引っ掻き回された後の状態は本当に悲惨で、食器等は無事なのだが人が無事じゃない。腰が砕けてしまって立ち上がれない人が。

 

「アキラ・・・君って子は・・・」

 

「すまない。まさかこんなことになるとは・・・」

 

 ワインを開けたのは千冬だ。まさかこんなことになるとは思ってもみなかったのだ。

 

「僕も、まさかここまでたちが悪かったとは・・・」

 

「お前もああなってしまうのか?」

 

「今はもうないですよ。昔はアキラみたいだったんでしょうけど」

 

「主に被害をくらったのは私だけですけどね」

 

 隣でむすっとした顔のカレンが、ライのそばにいた。

 

「そんな顔しないで、ね?」

 

「わかった。許してあげる」

 

 二人の間に桃色の空気が香り始め、そちらもそちらで大変な事態になりそうなので、動ける生徒に腰の抜けた生徒を託し、ここはお開きとなった。




 どうも、小説、全巻読んだ方がいいなと感じた白銀マークです。

 いやね、この回のサブタイトル決まらなくて悩んで、次の回画いてたら 、次の回で詰まっちゃって・・・。最終巻読んで含ませた内容にするか、最終巻ほっとける書き方にするか悩んでねぇ。
 どっちがいいんすかねぇ?
 
 さて、この辺にして、次回もよろしくお願いします。


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存在しない歯車は割込み廻る

 寮に戻る夜道。暗い遊歩道をアキラを支えて歩く。

 

「すまない・・・」

 

「いいってことよ。それよりも大丈夫か? 気持ち悪かったりしないか?」

 

「大丈夫だ。問題あるとすればうまく歩けないことだ」

 

 酔っ払いと化したアキラは、うまく歩を進めることができず、支えてもらわないとフラフラして歩けないほどまでになっている。

 

「まったく」

 

「すまない」

 

 暗い遊歩道はところどころの外套の明かりしかなく、どこか不気味だ。

 

「一夏」

 

「どうした?」

 

「私のクローン。君はその話を聞いて、どう思った?」

 

「どう思ったって・・・」

 

 酔ってしまったからこそ漏れしまった。酔わなければ言わないであろうセリフも、酔っていれば自制できず、ゆるくなってしまった思いは、簡単に流れ出てしまう。

 

「そうだな・・・。はじめは驚いた、でも・・・」

 

「でも?」

 

「それでも、アキラはアキラだ。そこに俺たちの知らない何かがあっても、それでも、俺からしたらアキラはアキラだ」

 

 不思議な感覚だ。一夏の姿が今は亡き友人と重なる。

 

「・・・ありがとう」

 

「いや、いいってことよ」

 

「だから、私は君にだけ、私が持つ孤独の力を伝えようと思う」

 

「何急に中二病っぽいこと「真面目に聞いてくれ」・・・わかった」

 

「私の育て親と、私が殺そうとしている人間、その両方からもらった孤独の力があるんだ」

 

 こちらを向いてくれ、と一夏の顔をこちらに向けさせる。

 

「これだ」

 

 アキラは瞳を紅く染める。

 

「なっなんだそれっ!?」

 

「これが孤独の力だ。この魔法は吹聴。声を、いや私の場合は私特有の声の波長に相手に命令したいという意思を乗せ、相手にその波長が音して認識できれば命令することができるが、同じ人間には二度とは効かない」

 

 それはつまり。マイク越しのスピーカーの声ですら、波長が変わっていなければ通用するということ。

 

「そんな魔法がっ!?」

 

「もう一つ。左目の魔法とは違う、右目の魔法だ」

 

 アキラは右目を紅く発光させ、一夏から離れる。先ほどまで随伴していた一夏は動かず、姿勢すら変えず、その場に硬直した。それを確認してさらに数歩進んだところで、右目を元の色に戻す。

 

「えっ! さっきまで、すぐ近くにっ?」

 

「これが右目の魔法、体感時間停止。一夏は見ただろう? 私がこれを連発した時を」

 

「あっ! あの時っ!」

 

 そう、地下でアラクネを追い詰めた種はこの魔法だった。

 

「この魔法は一定範囲にいる命を持つ者を、自分の望んだ範囲と時間だけ、止めることができる。代わりに、私の心臓も止まる。広い範囲で使えば心臓に掛かる負担は大きくなる、長時間の使用もまたしかりだ」

 

 口には出していないが、一回の使用で心臓が止まるということは、複数回連続しての使用も同様に心臓への負担が大きくなる。

 

「じゃあ、今さっきは」

 

「私の心臓は止まっていた」

 

「どうしてそんなコトッ!?」

 

「百聞は一見に如かずというだろう? それにだ、流石にこんな短時間の使用で死ぬことはない」

 

(さすがに昨日の昼間の連続使用は応えたがな)

 

 あれは正直、死ぬかと思ったぐらいに負担になっていた。

 

「でも、どうして俺だけに?」

 

「私は本当はしたくないが、万が一、万が一この魔法を制御できなくなった時のために、君には対処法を伝えておきたい」

 

「対処法?」

 

「そうだ。まずは左眼から。これは何か簡単な命令をさせて今後掛からないようにする」

 

「わかった」

 

「後者は・・・正直に言うと対策がない。だが、私の意識外から私の意識を刈り取れれば大丈夫だ、代わりに最速で頼む」

 

「どうするんだよ・・・」

 

「まぁ、暴走させないようにするしかない。それはともかく、前者の左目の命令なのだが、私ではなく、君が考えてくれ」

 

「俺が考えていいのか?」

 

「・・・本当は懸けたくないんだ。でも・・・不安はぬぐえない。だからな・・・私が君を信頼しているということを伝えるために、君に決めてほしい」

 

 命令を実行させる力。それはつまりどんな命令でもよいということであり、永久隷属を願えばそれが叶う。だから、そんなことをしていない、そしてこれからもしないという思いを込め、アキラは一夏に命令の内容を決めてもらいたかった。

 

「俺の望む命令は・・・そうだな、今だけ一度だけ手をたたく、でどうだ?」

 

「ふむ・・・永久的でないかつ、一度きり・・・それで行こう。一夏、僕と目を合わせてくれ」

 

 一夏はアキラの瞳を見据える。

 

「織斑一夏、今だけ一度だけ手をたたいてくれ」

 

 左目を紅く染め、魔法を、願い(ギアス)を。

 

「わかった」

 

 この魔法にかかると、命令の実行中は記憶が欠落する。だから、懸かったかすらわからない。一夏は一度だけ拍手をすると、ちょっと不思議な顔をした。

 

「本当に懸けたのか?」

 

「問題はない」

 

「そうか」

 

「酒が抜けてきた」

 

「それは良かった」

 

 酒は抜けても足はおぼつかない。そのまま支え、寮に急ぐ。と、目の前に人影が。該当よりも後ろにいるため顔や輪郭ははっきりととらえれていないが、誰かいる。

 

「「誰だ」」

 

 正体不明の人物はゆっくりと、外套の明かりに体を入れる。見た目は・・・千冬だった。

 

「ち、千冬姉?」

 

「いや、私はお前だ。織斑一夏」

 

「っ!? なにっ!?」

 

「昨日は世話になったな」

 

「サイレント・ゼフィルスのパイロットか。で、そのあなたがこんな夜中に何の御用で?」

 

「貴様には関係ない」

 

 確かにそうだ

 

「まぁいい。私は、織斑マドカ。私が私たるために、織斑一夏の命を貰うために来たのだからな」

 

 ハンドガンを一夏に向ける。

 

「だめだよ、それは。それは君ができることじゃない」

 

 アキラは知っている。それがどんな結果をもたらすか。それがどんな過ちを引き起こすか、アキラは知っている。だから、銃口を自分の脇腹に向きを変える。

 

「復讐心に駆られていたって、その気持ちの矛先を向けるのは一夏じゃない」

 

「黙れ」

 

「復讐できたとしても、何も残るものはないよ。結局、残ったのは復讐を果たせたことでぽっかりと空いた心の隙間だけだから」

 

「黙れっ!」

 

「縛られていることが原因なら、それを取り除くことだってできる。僕は・・・君に同じ道を進んでほしくない」

 

 そう、たとえ復讐を果たせたとして、残るものは何もない。だから、そうなってしまわないよう、同じ結末をたどらないように、アキラは語る。

 

「僕は・・・僕を殺すことで復讐を果たせたと思った。でも・・・いざ殺してみて、残ったのは目的を失ってぽっかり空いた心だけだった。でも・・・でも君ならまだ間に合う。失ってから気づくんじゃなくて、失う前に気づける」

 

 だから・・・、

 

「だから、君は僕たちのところに・・・ううん、このIS学園に来るんだ」

 

「わ・・・私はっ!」

 

 パァンっ!

 乾いた音とともに、消炎が上がる。

 

「アキラっ! こいつっ!」

 

 アキラが呻く。銃弾はしっかりとアキラの横腹をとらえていた。

 

「落ち着いて一夏。僕は平気だ」

 

 それでも、銃を離すことはなかった。ずっと、撃たれた直後も抑えていた。

 

「銃の使い方を知っているのに、そんな顔をするんだね」

 

 マドカと名乗った人物は狼狽えた。今までは何も感じなかったはずだ。殺すことが普通だった。殺すことを目的にしていたはずなのに。目の前の男は撃たれているのに倒れない。血を流しはするし、撃たれた直後は苦痛に歪んだ顔をした。でも、すました顔でほほ笑みかけてくる。

 

「・・・当たったはずだ」

 

「当たってるよ。しっかり痛い。でも、それでも僕は止めるよ。君は、復讐心だけで行動してはいけない」

 

「・・・帰還する」

 

 マドカは飛び立っていった。暗い夜空に、白い機体を煌めかせて。

 

「だめだね、僕も。妹と聞いて、ついお節介をかいちゃった」

 

 いまだに血が流れる傷口を眺める。

 

(僕は・・・止められなかった)

 

 止めることができたら、ユキネみたいな子が生まれることはなかったはず。止めることができればアキラのようなぐちゃぐちゃの人生を歩まなくてもいいはず。そう考えると、だめだった。

 

「僕は・・・いつ何時でも、無力なんだなぁ」

 

(両親を守れずに、親友を殺し、クローン技術で僕が僕を殺し、妹に血生臭い戦場を体験させてしまって・・・。あげると切り無いや)

 

「アキラ・・・」

 

「ごめんね一夏。僕は、僕、は・・・」

 

 膝から崩れ落ちるアキラを、一夏は支える。

 

「無茶しやがって」

 

 一夏は、あの時のアキラの顔を忘れることはできないだろう。何が原因かはわからないが、すぐにでも消えてしまいそうな、儚げな笑みを。

 

 一度、回り始めた歯車は、永遠に回る、噛みあおうが、そうでなかろうが、永遠に回り続ける。




 アンケートを取ってから少し時間がたちましたね、どうも、白銀マークです。

 さて、アンケートはもう数話分残しておきます。できることならアンケートへの回答、よろしくお願いします。

 現在のアンケート結果が五分五分といったところなので、一応両方書いていく方針で進めますが、今後のアンケート結果次第で変わるかもしれませんのでご了承下さい。


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アキラのプロフィール2

ランスロット・スペリオル

型式番号:Z-04/T Type-S

所属:ギアス嚮団

分類:不明

全高:4.51m

重量:5.69t

推進機関:ランドスピナー

武装:大型MVK(メーザーバイブレーションカタナ)×1

   クナイ型MVS(メーザーバイブレーションソード)×12

 

 ランスロット・スペリオルは本来、存在しないランスロット系列の機体。もともとは嚮団が開発していたKMFであり、フレームは完全に流用品で、ブラックボックス内にはのちの「SHINKAI」システムの元となる「Biancaneve」システムが積んである。機体性能、世代すらも不明であり、本来搭乗予定のパイロットすら不明である。ただ、性能は申し分なく、唯一の弱点は飛行能力を有していないというところのみだ。

 本編中ではVTシステムに似た状態変化で実装された。IS状態だと、通常のISよりも若干背丈が高く、全体的に太くなっている。

 

 

 

紫星罪壊夜極式

形式番号:Type-None Elements"SHINKAI"

所属:ブリタニア

全高:5.00m

重量:8.50t

推進機関:高機走駆動輪(ランドスピナー)

     エナジーウィング改

武装:左肘部内蔵輻射波動機構

   灰双炎(かいそうえん) ×2

   輻射推進型自在可動無線式増幅翼「桜花破乱(おうかはらん)」×8

   飛燕爪牙(スラッシュハーケン)×2

 

 

 アキラが友人と対決した際に使っていた機体。一時期衰退していたKMF技術をよみがえらせ、セシル、ロイドにより改良された紫星可翔式のその後の姿。今まであった大型大型飛燕剣牙は取り払われ、特殊な仕様のエナジーウィングに変更された。機体性能も非常に高く、当時のブリタニア最新鋭の武装を取り入れている。さらに武装面も見直され、紙装甲を最大限生かせる武装構成に変わった。

 

 

武装紹介

 

左肘部内蔵輻射波動機構

 両手に刀、という戦闘スタイルがゆえに、腕に輻射波動機構を取り付けれないがために新設計された。紫星可翔式の物に比べ大幅に強化が施され、全体的な火力が上がった。腕に直接内蔵されているため、紅蓮や白蓮よりも携行弾数は少ない。紅蓮や白蓮とは違い肘打ちの要領で使うため、ニードルブレイザーに使用感は近い。携行弾数3発。

 

 

輻射推進型自在可動無線式増幅翼「桜花破乱(おうかはらん)

 エナジーウィングに取り付けられている八機の小型ユニット。使用時に翼から外れ変形し、起動する。エナジーウィングの技術を応用した特殊なフロートユニットで浮遊する。攻撃性能はさほど高くはないが、防御、支援といった面では群を抜いた活躍を見せる。輻射障壁を内蔵し、特殊機構、輻射増幅機構が内蔵されている。操作は計算されたデータの読み込みで操作することとなる。よって空間処理能力と高い情報処理能力が必要である。

 

 

灰双炎(かいそうえん)

 紫星が回収を受けた際にMVKも見直され、新造された特殊なMVK。左を白神炎(はくじんえん)、右を黒魔炎(こくまえん)からなる二振りのMVK。基本性能は変わらないのだが、柄にそれぞれ、性能の異なる輻射波動弾を一発だけ内蔵しており、敵の機能停止を目的とした輻射波動弾が左に、敵を殺すことを目的とした輻射波動弾が右にそれぞれ内蔵されている。それ以外はMVKと何ら変わりない性能をしている。

 

 

大型MVK(メーザーバイブレーションカタナ)

 文字通り、刀にメーザーバイブレーションを搭載したものである。ただ、廻転刃刀よりも少し長い。片刃のMVSという解釈でも問題ない。

 

 

クナイ型MVS(メーザーバイブレーションソード)

 文字通り、クナイにメーザーバイブレーションを搭載したものである。小型であるため、携行数を多くすることも、投擲武器としても使える。

 

 




 さぼるなら、投稿すんなっ!
 ・・・どうも・・・白銀マークです・・・。

 ARK、最近EPICから無料で配られましたね・・・。配布される2週間前に勝った私は涙目です。

 さて、長々とほったらかしにしていましたが、再開します。まぁ、投稿を休止しますなんて、言ってませんけどね。待ってくださっていた読者の皆様に怒られそうですが。(;^ω^)

 というわけで再開後初は機体紹介です。機体の更新ありましたからねぇ、しっかり綴って行かないと。

 それでは、今後ともどうぞ良しなに


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いつもトラブルは付いてくる

「ご迷惑をおかけしました」

 

 アキラは職員室で千冬に深々頭を下げた。

 

「まったくだ。宴会を引っ掻き回したと思ったら撃たれたなんて報告が入ったんだぞ?」

 

「申し訳ありません」

 

「お前を心配していた奴はいっぱいいたからな。生存報告でもしてこい」

 

「わかりました。私が処理してもよい書類がありましたらお願いします」

 

「わかった。いくつかお前に回す」

 

「ありがとうございます。失礼しました」

 

 廊下は静かだ。誰一人いない。

 

「あら、アキラ君じゃない」

 

 前言撤回、誰かいた。

 

「会長」

 

 ちょっと嫌な顔をしたが、周りを見渡して悲しそうな顔をした。

 

「誰もいませんけど、職員室も近いですしね?」

 

「そうね・・・」

 

「まぁ、内緒話と同じ要領なら、できないこともないですよ?」

 

「そこまでして呼んでほしいわけじゃないわ」

 

「ははは・・・」

 

「で、何か御用ですか?」

 

「あなたの顔が見たくなったって言ったら、どうする?」

 

 いたずらっぽい笑みで尋ねてくるが、アキラの親はライとカレンだ。恋愛感情や恋心に関することには朴念仁の称号が送られているアキラ。

 

「うれしい・・・ですかね」

 

「そ、そう・・・」

 

 恥ずかしがるアキラを見たくて仕掛けたいたずらのはずだった。しかし、結局恥ずかしがる羽目になったのは楯無だった。

 

「本当にそれだけですか?」

 

 当のアキラは何事もなかったように楯無の顔を覗き込む。

 

「っ! それだけよっ!」

 

 怒ったような表情をして、そのまま足早にその場を離れていってしまった。一人、その場に立っているアキラは訳も分からずその場に立ち尽くすしかなかった。

 

「本当に、荒らしみたいな人だなぁ・・・」

 

 要件は、結局あったのかすら、わからない。

 

 

 

 

 

「アキラ、いいの?」

 

「うん。大丈夫だよ、許可下りてるし」

 

「だからって、体も万全じゃないんでしょ?」

 

「このくらい支障はないよ」

 

 現在二人はISの装備の護衛を任さており、現在、絶賛見張り中だ。

 

「みんなが来られないからってアキラが来ることなかったのに・・・」

 

「大丈夫だって。前回狙われた一夏が来るよりはずっといい」

 

 アキラのIS、もといアレクサンダ・スペリオルは前回の暴走などなどで完全大破、コアデータすら壊れてしまって、もはや修復すらできない始末になった。

 

 それもあってか学園側がアキラのもう一機のIS、紫星罪壊夜極式(しせいしんかいやきょくしき)のジャミングの解析が急がれ、結果として、学園内外での使用許可がおり、武装出力は抑えることで簡単にクリアした。

 

 現在アキラは紫星罪壊夜極式(しせいしんかいやきょくしき)を使っている。

 

「確かにそうだけど・・・」

 

 護衛中にトラブルが起きるのは付き物。

 

「爆発がっ!」

 

「陽動かもしれない、少し待っていよう」

 

「うん」

 

(大体別動隊が来るはず。昔KMFをやられたときは・・・完全に見張りの居ないところを突かれた)

 

 そして、陽動が成功したことが確認できてから回収班が回ってくるのにはそうタイムラグはない。予想通り、すぐにトラックが一台突っ込んできた。

 

「きたっ!」

 

 トラックからSが二機、地上に降り立つ。

 

「さすが、綿密に練ってきたね」

 

「国籍、識別コードがないね」

 

「わかった。行くよ、シャル」

 

「オーケー、アキラ」

 

 目標に向かって飛翔する。アキラに気づいた二機はアキラに向かってサブマシンガンを連射する。

 

「狙いはいいけど、当たらないよ」

 

 空を銀色の羽が光の筋を描く。見惚れるほどの、美しい線を。

 

「すばしっこい奴めっ!」

 

 残像を撃つように躱し続け、気が引けたところで、一気に加速して、照準を振り切る。

 

「おとなしく捕まってくれれば、痛い目見ないで済むよ」

 

 敵IS達の背後を取り、武器を突き付ける。狙いはしっかりとついている。

 

「あ、IS乗りっ!?」

 

 敵も驚いているようだ。陽動に引っかかっていないのだから驚きもする。

 

「かまうな、始末しろっ!」

 

 武器を突き付けただけで降参するとは思っていないが、反撃に打って出てくるとは思ってもよらなかった。

 

「仕方ないねっ!」

 

 輻射ユニット、桜花破乱(おうかはらん)による輻射障壁で球を防ぐ。

 

「力ずくで取り押さえさせてもらうっ!」

 

 そこからは一対一(ワンオンワン)。各個撃破だ。近接武装しかない紫星罪壊夜極式(しせいしんかいやきょくしき)だが、機体の回避性能も群を抜いて高い。サブマシンガンの弾幕ぐらい、簡単に躱せる。

 

「はっ!」

 

 斬りつける。特殊な刀を使っているため、シールドエナジーをゴリゴリ削っていく。

 

「くっ!」

 

 相手は下がりつつ弾幕を張るが、アキラの巧みな回避技術と桜花破乱(おうかはらん)の使い方により、踊らされている。

 

 シャルロットの方も、しっかりと追い詰め、パイルバンカーを決めていた。アキラも相手の胸に輻射波動を突き付け、背後は桜花破乱(おうかはらん)で塞ぐ。

 

「おとなしく武装を解除して投降しなさい」

 

 輻射波動を突き付けた方は観念して武装を捨てる。どこから漏れたかは定かではないが、輻射波動の威力をご存じらしい。これで無力化できた。

 

 しかし、うまくはいかなかった。パイルバンカーで無力化したはずの一機がまだ機能していた。

 

「シャルっ!」

 

 正しく照準をを合わせ切れていないのに射撃を敢行する。弾は一発も当たらなかったが、結果としてシャルの後ろのタンクに引火、そのタンクは爆発した。

 

「シャルっ!」

 

 輻射障壁を使い加速したアキラは、シャルを庇う。

 

(僕が傷つくのはいいっ! でも君だけはっ!)

 

 エナジーウィングもしっかり使い、シャルを守る。もう二度と、目の前で大切な人達を失わせたりしないと、そう、心に誓って。

 

 

 

 

 

「あんた本当に怪我しやすいわね」

 

「いや、怪我するつもりでやってるんじゃないんだけども・・・」

 

「確かになお前よく怪我するよな、それも重傷級の。怪我しないように気をつけろよな」

 

「そんな無茶苦茶な」

 

 などなど、戻って早々、よく知る人たちに囲まれてた。あの爆発後、いったいどうなったのかというと・・・。

 

『四十万君の体には一切問題はありません』

 

 あの爆発の後、ISが強制的に解除され、それ以降呼び出せなくなったのだ。それで精密検査をしてみたところ、体が悪いわけではないのだが。

 

『ですが紫星の量子返還に異常が見られます。四十万君』

 

「わかりました。灰双炎(かいそうえん)、ここに」

 

 呼び出しには成功するのだが、武装として機能できない。すぐに量子化してしまう。

 

『装備の取り出し、および機体の具現化ができなくなってます』

 

「原因は?」

 

 付き添いできた千冬が真耶に尋ねる。

 

『すいません。詳しく検査してみないことには何とも・・・』

 

「ふむ・・・」

 

 少し思案する仕草をとった千冬だったが、今はこれしかないだろうとアキラに手を出す。

 

「四十万、紫星を渡せ」

 

「・・・わかりました。しかし、僕のISはどうすれば?」

 

「こいつが治るまでは当分は無しだ。ISを使用した授業は参加はしてもらうがISを使った訓練には参加させない。私と一緒に監督官だ」

 

「わかりました」

 

「問題は、織斑たちがこれを知ったらどうなるかだな」

 

『大騒ぎになりますよねぇ・・・。ですが、セキュリティ面から考えても最低でも、候補生ぐらいには知らせた方がいいかと』

 

「確かにな。お前の紫星も今後、ファントムタスクが狙ってくる可能性は十分あり得る。・・・はぁ、頭が痛いな」

 

「みんなには知らせないでください」

 

 アキラが心配でついてきたシャルロットは決心した顔で告げる。

 

「アキラは僕が守りますっ!」

 

 そう言うことがあって、現在のアキラはISに乗れず、ただの一般人としてこの学園で生活することになる。

 

(僕がアキラを守らないとっ!)

 

 アキラの隣で何かを決心しているシャルロット。しっかりしなければと気を引き締めていたのだが・・・。

 

「「アキラ(お兄ちゃん)っ!」」

 

「ど、どうしたの二人とも」

 

 ラウラとユキネがアキラに迫っていた。ラウラの手には・・・下着の写真集が。

 

「「お前(お兄ちゃん)はどれがいいっ?」」

 

 臆することなく、その写真集を見せてきた。

 

「なっ! ばっ!」

 

 すごい速さでアキラは顔をそらした。近くにいた一夏は困ったようにラウラの手に視線を向ける。

 

「何してるのよっ!」

 

 いささか年頃の女の子がしないような行動をとがめる鈴音。その後ろではセシリアに目隠しされている一夏が映る。

 

「私は嫁の趣味を聞いているのだ」

 

 もう誰も「嫁」というワードには触れていないが、誰を指しているかは一目瞭然。

 

「「「嫁の趣味?」」」

 

「そうよ、知り合いが言ってたわっ! 意中の相手がいる女の子は、下着を見られてしまうパンチライベントが発生してしまうわっ!」

 

「だから、いついかなる時でも見られてもよい下着を身につけなければならないのだっ!」

 

「「そして、この縞パンこそが男の好感度を上げる趣向の下着なのだ(のよ)っ!」」

 

 自信満々にその雑誌を見せつけていく二人。

 

「で、デザインは悪くないな」

 

「そ、そうね。私も持ってるし」

 

 確実に飲まれた女子群をよそにアキラはそれを助言したのが誰か思考をしていた。

 

「・・・ねぇユキネ」

 

「ん?」

 

「その情報源は?」

 

「コトノハよ?」

 

「あのバカAI・・・」

 

 頭が痛くなる。よくよく考えてればレイがあのAIを作っていた。つまり、彼の偏った知識がプログラムされていてもおかしくない。

 

「まぁ、そういうの気にするのは分かるけど、別にボーダーじゃ無ければとかじゃないし」

 

「なに? お兄ちゃんずぼしなわけぇ?」

 

「違いますっ!」

 

 頭を抱えるアキラと、同乗する一夏。それとは別に乾いた笑いを浮かべるシャルロット。

 

「シャルロットはどんな下着がいい?」

 

「ラウラもユキネちゃんも、そういうのは男の子の前でする話じゃあ・・・っ!?」

 

 と、シャルロットは己の体が発する違和感に気づいてしまう。したが妙に涼しい。

 

「ご、ごめん。ちょっと・・・」

 

 そうさっさそ教室を離れてしまった。

 

「・・・どうしたんだろ? 僕、ちょっと追いかけてくるから」

 

「あ、あぁ」

 

 アキラもシャルロットを追いかけて教室を出る。

 

「ど、どうしたんだろうな」

 

「さぁ?」

 

 ただ茫然と、その光景を眺めるしかなかった。



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いろいろあったが結局は・・・

誰もいないとある廊下。シャルロットはそこで教室で感じた違和感を確認する。

 

「うそぉっ!?」

 

 やっぱり、ない。いきなり下着が消えたのだ。何の前触れもなく、スッと。そこで思い出す。アキラの紫星に量子返還異常がみられたことを。

 

(ま、まさか、僕の下着にも紫星と同じことがっ!?)

 

「シャル?」

 

「わぁっ! アキラっ」

 

「どうかしたの? シャルも僕のISみたいに変なことに?」

 

 こういう時のアキラは知ってるんじゃないかと感じるぐらい鋭い。

 

「う、ううんっ! 何でもないっ! 先教室に戻っててっ!」

 

「わ、わかった・・・」

 

 アキラは歩を教室に進める。

 

(ど、どうしよう・・・。とりあえず、自室にっ!)

 

 シャルロットは自室に歩を進める。新たな下着を取りに。

 

 

 

 

 

「四十万」

 

「はい」

 

「シャルロットはどうした?」

 

「それが、よくわからないんですけど、先に教室に戻っといてって」

 

「そうか・・・。ただ授業が始まっている、迎えに行ってこい」

 

「わかりました」

 

 教室を後にする。

 

「誰かシャルロットがどうしたのかわかる奴いるか?」

 

 誰も手をあげない・・・ということは知らないということ。

 

「まったく、いったいどうしたというんだ」

 

 シャルロットの行動の真意を知るものは、誰一人としていない。

 

 

 

 

 

「シャル? いる?」

 

 部屋にノックしながらいるか尋ねてみる。さっきシャルロットを追いかけた時の場所にはいなかった。とすれば後はトイレか自室くらいの物だろう。

 

「あ、アキラっ!? ど、どうしたのっ!?」

 

「どうしたって・・・授業始まってるよ?」

 

「え? あぁ、ごめん」

 

 自室から出てきたものの、いつもよりちょっと様子が違う。

 

「ご、ごめんねアキラ」

 

「いや、僕はいいんだけど・・・。シャル、ホントに大丈夫?」

 

「ちょ、ちょっとね。もう大丈夫」

 

 全然大丈夫そうな表情はしていないが一応、これ以上突っ込んで聞くのはやめにしておいた。これ以上は、男にはわからない部分かもしれない

 

「じゃあ、行こっか」

 

 何事もなかったかのようにさっとお姫様抱っこする。

 

「ちょ、ちょっとアキラっ!」

 

「僕が走ったほうが早いからさ。授業担当の先生、織斑先生だし」

 

「そ、そうかもだけど・・・っ!」

 

 下着を穿けていないのだ。正しくは穿いても消えるだが。

 

「ひっ!」

 

 今のシャルロットにはアキラの腕の感触とかがいつも以上にダイレクトに来る。それにびっくりしたシャルロットは腕の上で暴れてしまう。

 

「あ、暴れないで・・・うわぁっ!?」

 

「ひゃぁぁっ!?」

 

 盛大に転んだ。

 

「いたたた、大丈夫?」

 

 アキラの上にシャルロットが乗る形になった。幸い、アキラが下になることでシャルロットがダメージを追うことにはならなかったが。

 

「ひっ・・・ひっ・・・嫌ぁぁぁぁぁっ!」

 

 拳が一撃。アキラの頬をとらえた。今のシャルロットは下着を穿いていない。見えてなくても、嫌なものは嫌なのだ。

 

「僕が一体、何をしたっていうんだ・・・」

 

 確実にアキラの脳を揺らし、アキラはダウン。シャルロットの一発KOだ。

 

「こ、これ・・・い、いつまで続くのぉ」

 

 当のシャルロットは涙目。いつまでこんな状態なのか・・・。先が思いやられる。

 

 

 

 

 

 それから、シャルロットは大変だった。昼食をとるのに椅子に座っても、椅子の冷たさがいつもよりダイレクトに伝わるし、昼休憩にバレーで遊ぶとスパイク打つ時に見えていないか気になって仕方がないし。もう、最悪としか言いようがない。

 

「どうしてこういう日に限ってこんな仕事任されちゃうんだろ・・・」

 

 現在はと言うと資料室に絶賛荷物を運ぶ最中だ。最大の難関は階段。資料室に向かう途中には階段があり、それが現在のシャルロットにとっては最大の難関だ。

 

(ふぅ、よかった)

 

 難関を上り切る間に誰にも会わず。とりあえず一安心できた、と思った。

 

「あ、シャル。手伝うよ?」

 

 下からアキラが昇ってきた。なぜここにいるかはわからないが、とりあえず、今のシャルロットにとっては最悪だ。階段上と下。アキラが上ならよかったのだが、生憎アキラは階段の下。

 

「ひっ! うわぁっ!」

 

 荷物を落とす。

 

「おっとっと」

 

 アキラは受け止めることができたが、あまり良い体制で受け止めれていないようだ。こけたり倒れたりこそしなかったが、ゆっくりと荷物を持ち直した。

 

「ごめんね、アキラ」

 

「大丈夫。気にしないで」

 

 アキラは荷物を抱えたままゆっくりと階段を上り、シャルロットと同じ位置まで上がってきた。

 

「シャル、今日は調子悪いみたいだね。大丈夫?」

 

「ごめんね、アキラ」

 

 結局荷物はアキラが持ち、そのまま資料室に向かう。

 

「まぁ、紫星の件で気を使ってもらってるしねぇ。僕の方こそごめんね、無理させちゃって」

 

 今までの行動が無意識にアキラを傷つけていたのかもしれない。そう思うと、悲しかった。

 

「そんなことないよ。アキラの力になれて、僕はうれしいんだから」

 

「そっか、ありがとう。でも、無理はしないでね」

 

 何が原因でシャルロットがこんな状態なのか今のアキラではわからないが、無理はしてほしくない。そんなアキラは、なんというか。

 

「優しいね、アキラは」

 

「どうかした?」

 

「ううん、別に」

 

 そのまま先に進む。だが、シャルロットもアキラですら気付かなかった。すぐそば、下に向かう階段に、ラウラがいて、角度的に、シャルロットのスカートの中が若干見えていることに。

 

 

 

 

 

「手伝ってくれてありがとう。先生に報告してくるから先に行ってて」

 

「わかった。でも、無理しすぎちゃだめだからね?」

 

 そのままアキラは資料室を後にする。

 

「はぁ・・・何とかバレずに済んだ・・・」

 

 やはり紫星と同じ、量子返還に異常がある。早く何とかしなければいけない。

 

(でも、そうなると、リバイブも調べてもらわないといけなくなる。そしたら、アキラを守れなくなっちゃう)

 

 しかし、そんなことよりもさらに脳内のキャパシティを割いているのは別の理由で。

 

(僕が下着を穿いていないの、アキラにばれちゃったら・・・)

 

 そんなことはないと思いたいが、意中の相手のこととなると、最高か最悪のどちらかを考えてしまうのは、やはり乙女心というもの。

 

「なんてことに・・・そんなの嫌だよぉっ!」

 

 なにを考えたかはシャルロットにしかわからないが、当人はなにか嫌なことを想像をしたらしい。絶対に避けなければならない事案として今後のことを考える。

 

「アキラは今ISが使えないんだ、僕がしっかりしないと」

 

 考えを口に出し、しっかりと咀嚼して反芻させる。今アキラを支えないといけないのは自分だと、そう言い聞かせながらその場を後にする。

 

「あ・・・」

 

「こんにちは、シャルロット。で? おにいちゃんがどうかしたって?」

 

「え? えっと・・・」

 

 目の前にはユキネがいて、若干頬が引きつってる。

 

「お兄ちゃんの紫星がどうかしたって?」

 

「な、何でもないよっ!」

 

「ふーん・・・。ねぇ、シャルロット」

 

「な、なにかな?」

 

「わたしさ、誰の妹で、誰の娘だと思う?」

 

「そりゃあ、アキラの妹で、ライとカレンの娘でしょ?」

 

「正解。ってことはさ、兄妹だから似ていて、両親から引き継いだものがあるってことよね?」

 

「う、うん、そうだね」

 

「お兄ちゃんさ、考えるの得意だよね? 探偵並みの推理とかするし」

 

「そうだけど・・・まさかっ!」

 

「シャルロット、助けてあげようか?」

 

「い、いいのっ!」

 

 喉から手が出るほど欲しい。真っ先に下の安心と精神的な安心が欲しい。

 

「いいけど、その代わりぃ、お兄ちゃんに何が起こってるのか、教えて?」

 

 悪魔の蜜はとても甘く滑り落ち、染み渡る。何度も咀嚼し、天秤に賭けて賭けて、何度賭け直してもやはり、傾く先は変わらなかった。

 

「わ・・・わかったよぅ」

 

 結局事の内容を漏らしてしまったシャルロットは対価として量子返還事件からは解放されたものの、結果としてアキラは悲惨な目にあってしまい、大目玉をくらった。

 

「・・・僕が何をしたって言うんだ・・・・・・」




 のんびり更新していきます、どうも、白銀マークです。
 さて、そろそろ半分ぐらいですかね。書き手の私としては、そろそろ終わりが見えてきておりまするぞ?

 今後ともどうぞ良しなに


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傷心者はトラブルメーカー

 あの後、反省文を生徒会室で鬼の形相で立っている楯無の元でお許しが下りるまで書かされた挙句、千冬にもこってり絞られ、一夏にも何も話すことなく、傷心のまま床に就いた。

 

「あ、アキラ? だ、大丈夫か?」

 

「・・・・・・」

 

(あ、こりゃだめだ。絶対に今日は立ち直らないわ)

 

 思ったよりも深く傷ついたらしい。椅子から微動だにしなくなったアキラを心配そうに眺めながら、一夏も床についた。

 

 

 

 翌日、傷の癒えぬアキラは休み、街に出た。昔はよく歩きに出たものだと苦笑すら漏らす。ただただ、色を探して歩いていたころは、こんなにいろんなものに目移りなどしなかった。

 

「こんな風に感じるのは初めてだ」

 

 ただただ、美しい。見ようとしなかった世界。

 

「今までとは、見え方が違うんだなぁ」

 

 守りたかった人達と、また生活できているこの世界はどうしようもなく輝いて見える。

 

(でもきっと、また失ったら僕は、色のない世界を一人さまよわなきゃいけないんだろうな・・・)

 

 知らない世界を一人、ずっと歩き続けて、迷い続けて、その間にいろんな不幸にあってきた。KMFの操縦はできても、どうやったら普通に生きれるかわからない。どれだけ学問に励んでも、自分が生きたかった場所はどこにも見つけられない。そんな、何もない場所(せかい)

 

(あんなのは嫌だから・・・)

 

 いやだから、もう二度と見たくないから。・・・・・・だから。

 

「たとえ、僕が死んでも・・・」

 

 そう、一人で生きるくらいなら・・・。

 

「それじゃだめだよアキラ」

 

「え!?」

 

 よく知る声に振り向くと、敬愛すべき人たちが後ろにいた。

 

「父上に母上。・・・授業はどうされたんですか?」

 

「それはこっちのセリフよ。あんたこそ、授業はどうしたのよ?」

 

「えっと・・・実習がメインなので、ISもまだ返ってきてませんし」

 

「要するに、さぼりってことね?」

 

「あはは・・・」

 

「まぁ、いいんじゃないかな。君も同じようなことしてたじゃないか」

 

「うっ! ・・・まあl、ライに免じて見逃してあげるわ」

 

「ありがとうございます」

 

 相変わらずの二人に苦笑いでその回答を飲み込む。

 

「アキラはどうする? 僕たちはこのまま散歩するけど?」

 

「今回は遠慮させていただきます。お二人のデート、邪魔しちゃ悪いですから」

 

「そっか」

 

 少し恥ずかしそうに笑う二人を見て、これでよかったのだと、その場を後にする。

 

(あ・・・)

 

 ふと、視界に異常なまでの存在感を放つ太陽のネックレスを見かけた。

 

(そういえば、君は僕とは違ってコロコロ表情を買えたよね。)

 

 だから惹かれたんだろうな。裏と表だから。月と太陽の関係だから。

 

「すいません、これいくらですか?」

 

 アキラは太陽のネックレスを買った。レイを思い出すための、彼が守っていてくれたと、その証を身近に感じるために。

 

 

 

 

 

「な、何が起こってるんだっ!?」

 

 電灯の明かりが急に落ち、電光掲示板には見たこともない気味の悪い画像が大量に、画面一面を埋め尽くしている。触れようとすれば甲高い笑い声が響き、それに共鳴するようにほかの画像も気味の悪い笑みを浮かべ、甲高い笑い声をあげる。

 

「山田先生、これはっ!?」

 

「わかりません、皆さんは教室で待機していてください」

 

 授業を進めることも困難なほどに混乱を招いた。スピーカーから流れる甲高い気味の悪い笑い声は絶えない。幸い、教室には画像の感染は起こっていないが、時間がたてばやがて感染する。

 

『全員、聞こえているな? 織斑だ』

 

 千冬は使えない情報機器の使用を早々に断念し、ISによる通信に切り替えた。現在はISの通信環境に干渉されていないようで、しっかり全校生徒に伝わった。

 

「聞こえてます、織斑先生」

 

『よし。聞こえていないものには聞こえているものが伝達しろ。現在学園は、何者かのハッキングにあっている。現段階での復旧は困難だ。何が起こるかわからん、全員教室に待機しろ。教室のを外に出た奴はクラスの実力順で上から最低二人一組で連れ戻しに行け。以上だ』

 

 生徒は動く。己が助かるために、周りの空気を確かめながら。

 

 

 

 

 

「・・・どうなってるの?」

 

 教室ではなく、食堂で時間をつぶしている者もいた。食堂には専用機組が全員、地図を頼りに食堂に集められた。

 

「なんでこんな緊急事態に?」

 

「さぁ?」

 

 目的の場所は、簪のよくいる場所だった。

 

「よく来たね、久しぶり」

 

「お、お前はっ!?」

 

「やぁ。覚えてもらってて光栄だね」

 

「・・・私たちをここに集めて何を狙っている?」

 

「何って・・・取引さ。私に君たちの機体を差し出してほしい」

 

「「「「「「はぁっ!?」」」」」

 

「できるわけないだろっ!」

 

「見返りはある。君たちの理想の世界に招待する。永遠に優しい世界に」

 

「永遠に・・・優しい世界」

 

「そう、どんなものでもどんなに手に入れれないものでも・・・ね」

 

 甘美な響き。誰にでも、永遠に優しい世界。どうあがいても手に入らない、世界で一番、甘美な響きを伴う世界。

 

「まぁ、体験だけさせてあげるよ。交渉材料が私だけ不透明なのもおかしいからね」

 

 

 

 

 

 珍しい出費をしたアキラはそのネックレスをそのまま首にかける。

 

(もう一つは・・・どうしようかな、できれば彼の墓にかけてあげたい。・・・今度C.C.さんに掛けといてもらおうかな)

 

 何かいいことがあったときは何か悪いことが起こる。それは誰にも予測できないほど唐突で、そして、幸福に比例して、不幸も大きい。

 

『やぁ、アキラ』

 

「貴様っ! どうして僕の番号を知っているっ!?」

 

『劣化版といっても私も君だからね。調べ方くらい知ってるさ』

 

「ちっ! 面倒なところで僕の力を使うなど・・・っ!」

 

『まぁ、言い争いのために君に電話したわけじゃないよ。・・・取引しようじゃないか』

 

「何?」

 

『君には君の居場所を返そう』

 

「い・・・ばしょ?」

 

『正確にはこの学園全体を君に返そう』

 

「貴様・・・っ!」

 

『この学園の最深部で待ってるよ』

 

(僕の居場所と、その見返り・・・か。・・・そんなの)

 

「天秤にかけるまでもないじゃないか」

 

 進路を変更して学園に進む。できるだけ早く、早く。




 さて、長らくお待たせしました。最新話にございます。

 そして、アンケート、取りますよ。最終話、メインヒロインがだれになるか。皆さんに決めていただきたいと思います。もちろん、全員分書く予定ではありますが、最初に誰エンドが見たいのか、集計をとろうと思います。

 今後とも、どうぞ良しなに。


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大切な人は、絶対に傷つく

 学園に着いたアキラは寮の自室に全力で走る。自室には両親から始めてもらった、刀が二振り。白い柄に、白い鞘、でも、刃の黒い刀。黒い柄に黒い鞘、でも刃の白い刀。それぞれを特注の刀用ベルトホルダーに。白と黒の番いの刀。ホルダーを制服のベルトに取り付けると、刀は互いに干渉することなくきれいに抜刀しやすい位置にぶら下がる。

 

(もう、抜くことはないと思ってた。誰も切らなくて済むだろうと思ってたのに・・・)

 

 KMFに乗っていても、最後に頼ることになるのは己の腕だった。どれだけ操縦がうまくなっても、どれだけ相手が弱くても、常にKMFだけで戦闘を行う場面は先代までだったらしく、現代はKMF以外の戦闘が増えたらしい。だから、最後には必ず、武器を使わなければなった。レイのときも、最後は、この刀で決着をつけた。

 

(物思いにふけってる場合じゃない)

 

 部屋を飛び出す。異常を知らせるアラームの代わりに響く、耳障りな笑い声を聞きながら。

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 軍の特殊部隊が数名気絶している。

 

「どうして軍が・・・約束を破ったか?」

 

 軍属は必ずドックタグを持っている。特殊部隊は同じ部隊の仲間にタグを回収してもらうのがセオリーだが、回収する暇すらなかったと見える。手にしたドックタグの存在自体が軍が絡んでいることを示す。

 

(相手がわからないと聞いたが、軍が絡んでいるのは確定だな)

 

 裏で何が起こっているのかわからないが、確実に軍が絡んでいる。それだけは分かった、さらにその裏にあるものは今はまだ大きな靄がかかっている。

 

(・・・先を急ぐか)

 

 突如パァンと乾いた音。昔からよく聞いてきた、聞きなれた乾いた音。ここではもう聞くことないと思っていた、乾いた発砲音。自然とペースが上がる。誰かが打たれた。当たったかどうかは定かではないが、それでも、銃は誰かが意思をもって引き金を引くものだ。

 

「何事だっ!」

 

 自然と昔に戻る。状況は、最悪だ。特殊部隊の一名がよく見知った人を撃ち、その人を運んでいた。あのとき、守ってくれて、助けてくれて。何より、アキラのことを第一に考えてくれていた人が。

 

「っ!?」

 

 自然と力む。目の前のやつらが何をしたかは大体想像がつく。守れなかったことへのどうしようもない怒りと、そんな状況になる前にどうにかできなかった無力さを抱えながら刀を抜く。刃は血に染まっていないのに紅く、妖艶に瞳に移りこむ。それは血を吸い続けてきた、妖刀のように。

 

「・・・貴様らを殺してしまってはだめなことは分かっている。だが、今の私は己の殺意を治めれそうにない」

 

 自然と殺気が漏れる。それはごく少量のはずだが、何物にも耐えがたい、トラウマのような恐怖を生み出す。

 

「さて、聞こうか」

 

 瞳は紅くなる。左目が紅く、瞳孔は黒い鳥になる。そのギアスは、ギアスと呼ぶには些かおかしさが滲み出る。ドロドロしい、深い闇をもったギアス。

 

「アキラエル・S・ブリタニアが命じる。貴様たちに命令を下したのは誰だっ!」

 

 ギアスは起呪した。だが・・・()からなかった。ギアスの条件はモノによっていろいろあるが、条件を知っていないと対策はできない。どこから漏れているか、どうやって知ったかは定かではないが、アキラのギアスを無効化できる波長を流しているらしい。・・・たぶん、この鳴り響く笑い声だろう。しっかり波長に被せることができるぐらい、綺麗な波長でギアスを遮る。

 

「・・・だんまりか」

 

 驚きはしたものの、それを表に出せるほど、心は温まっていなかった。だから、相手に話を聞いてもらえなかっただけ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)、そう魅せる。

 

「私も時間がない。話さないのなら、私の怒りのはけ口になってもらう」

 

 うちの一人がライフルを向け、発砲。マガジン交換まで徹底的に発砲したにもかかわらず、アキラは、倒れていなかった。

 

「残念だったな。こんな玩具(おもちゃ)程度で死ぬと思ったか?」

 

 刃を一閃。血も噴き出すことなく、護衛をしていた構成員は奇麗に切れた。一刀一足の間合い。きれいに見切られた間合いはライフルなど問答無用でライフルごと切り捨てた。

 

「まだ腕は鈍っていない・・・か。残念だったな、腕が鈍っていれば、痛みを感じることができただろうに」

 

 血を振り払い、運んでいる構成員に刃を向ける。

 

「お前たちは、どう死にたい?」

 

 返答は、あった。無言でライフルをこちらに向ける。・・・わかっていた。何も答えるわけがない。だから切り伏せた。

 

「私の守りたいものを傷つけた罪、死して償え」

 

 刃は踊る。怪しく明かりを反射しながら、血と円舞曲(ワルツ)を踊る。だが、どれだけ踊っても、どれだけ血が舞っても、一向に気分は良くならなかった。それは、たぶん、きっと、失いそうなものが、目の前にあるからだろう。

 

「大丈夫かっ!? 刀奈っ!」

 

 ・・・わからないな、どうしてこんなに焦燥に駆られているのか。ただ、今だけは、この焦燥を無視できないでいた。

 

 

 

 

 

 どこか分からない、夕焼け空の綺麗な平原。金色の草の揺れる、現実味を感じられない平原。

 

「ここは・・・?」

 

 どれだけ見渡しても、何もなくて、ただ、綺麗な金草原と太陽があるだけの草原。

 

(行かなくちゃ)

 

 わからないが、自然と足は動いた。行かなければならない、あの太陽の先に。それは、誰にも言われたことはない、誰にも強要されていない。でも、行かなければならない。

 

「どこ行っている?」

 

 いつの間にか、腕を引かれていた。知ってる、あの大きくて、あたたかな背中を、私は知っている。でも、纏っている雰囲気も、口調も、仕草も知っている人のそれではなくて。

 

「あなたは、誰?」

 

「貴公の口からそのようなセリフを聞くことになるとは思ってもみなかった」

 

 腕を引いたまま、目の前に人物はうなっている。その悩む仕草は、よく知っている人と重なった。

 

「・・・その反応が来るということは奴はまだ話していなかったと、そういうことだな?」

 

「質問の回答になってないじゃない」

 

「質問の回答にはなっている。そもそも、貴公も薄々感ずいているのではないか?」

 

 太陽から遠ざかっているのにだんだん明るくなる視界の中で、腕引きの紳士は、確かにこういった。

 

「私は、もう一人のアキラだったものだ」

 

 そのセリフを最後に、まぶしくてもう、目を開くことはできなかった。

 

「あら・・・? 四十万君・・・じゃない・・・」

 

 次に目を開けば、ひどい顔をしたアキラがそこにいた。返り血で白い頬と制服を紅く染め、つらそうな顔でのぞき込むアキラがいた。でも、不思議と怖くなかった。それ以上に助けてくれたことに、彼が来てくれたことに安堵した。

 

「・・・撃たれちゃった」

 

 いつもと同じイントネーションで、いつも通りに話しているはずなのに、アキラの表情が一向にさえない。泣きそうなほどに、歪んでいる。

 

(・・・まったく。誰を呼び捨てにしてると思ってるのよ)

 

 どの歪んだ顔が、どうしようもなくうれしくて、どうしようもなく愛おしくて。無意識に動いた手が優しく、頬を撫でていく。

 

「あなたは・・・無事なのね?」

 

 頷いて、優しく手をなでてくれる。・・・温かい彼の手。それだけで、この優しくない現実も善いものだと思ってしまう。そんな私を、彼は優しく抱えてくれる。

 

「死ぬなっ! 死ぬな、刀奈っ!」

 

 大丈夫、私は死なないわ。この時、彼の肩から黒い鳥が飛び去って行く姿を、薄れゆく意識の中、ぼんやりと確認した。

 

(あぁ、温かい腕の中・・・)

 

 楯無は安心からか、ひどく強い眠気を感じ、そのまま意識を手放した。



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世界は、忘れる。大切な誰かを

 学園の最下層。誰も知らない、学長ですら、概念として知っている範囲。それは、アキラが、この世界に歯車の一つとして組み込まれてしまったときに生まれてしまった、本来あるべき姿との齟齬を示すそのエリアに、奴は堂々と立っていた。

 

「道中で大切な人を一人、失ってしまったか」

 

「黙れ。貴様、この後、五体満足でこの部屋を後にできると思うなよ」

 

「そんなに怒らないでよ。そもそも、その道中をその子が守ってること自体計算外なんだから」

 

「なんだと?」

 

「そもそもさ、こんな場所知ったの、この学園のマップダウンロードしたときに秘匿情報としてかなり厳重な暗号化が施されてたのが発端だし。正確なマップ情報はここに来てから盗ったものだから」

 

「設計図にはない、特別な場所・・・か。それがきっと、私がここにいることによって起きた変化、なのだろうな」

 

「さて、じゃあ、ここに来たところで、取引を始めようか」

 

「・・・聞こう」

 

「まず話した通り、君に返すのはこの、君が大切だと思っていたすべてだ」

 

「貴様の望む見返りはなんだ?」

 

「君が存在した記憶。君のことを覚えているすべてを消し去る」

 

「っ!? それは私の存在そのものを否定するというのか!?」

 

「そう。君が居ると、すべての歯車が狂い、そしてその狂いすらも潤滑油にして回り始めてしまう。そのたびに、世界の自浄作用が働く。それが今の私であり、この学園の核であり、君という人間を否定し綴るものだ」

 

「・・・その言い草、神がいるとでも言うのか? 私ともあろうものが?」

 

「厳密には君と僕じゃ、その深みを探ったときに違いがしっかりあるけどね」

 

「そんなことぐらい知っている。馬鹿にしすぎると死が早まるだけだぞ?」

 

「そんなことは後回しさ。それより、どうするんだい?」

 

「・・・受け「だめ・・・」・・・刀奈」

 

「そんなのだめにきまってるじゃない」

 

「いいんです。これで、誰も巻き込まれないのなら」

 

「でも、それじゃあ、あなたが救われないじゃないっ!」

 

 傷を無視してしゃべる。アキラをここに縛ろうする、楯無たち仲間の居るこの学園に。

 

(だったら、だったら僕は)

 

「なら僕は、あなたを苦しめるかもしれないけど、それでも、この魔法を掛けようと思います」

 

 クローンに悟られないように、楯無のそばで、彼女だけが、クローンの行動がわかるような立ち位置で。彼女の眼を、しっかりと見据えて。

 

「今は、静かに眠っていてください。僕の決意が揺るがぬために。すべてが終わる、その時まで。」

 

 黒い鳥は羽ばたく。実はギアスの発動条件は二つある。一つは、アキラを認識していること。これは例え視界にアキラが居なくとも、その場にアキラがいると錯覚さえすれば条件はクリアされる。次に、声が届く状態であること。耳の鼓膜を揺らし、脳で言葉であったとして処理されれば条件はクリアされるが、耳が聞こえない人間や、耳栓のある場合は掛からない。更に意識があやふやであったり、聞き取れてもぼんやりとしか理解できなければかけきることができない。途中で命令した内容が捻じ曲がる可能性がある。

 

「し、じま・・・くん・・・」

 

 眠ったのを呼吸から確認して、静かに上着をかける。

 

「・・・ごめん」

 

「別れの挨拶は終わったかい?」

 

「問題ない。それより、早く起こしてやれ。私のギアスの発動条件は知っているだろう?」

 

「知っているとも」

 

 クローンは、その場を動かずに、ポケットからリモコンを取り出した。そして、リモコンの複数あるスイッチの中から一つ、選んで押し込んだ。

 

「これで彼らは目覚める。私は条件を満たしたよ」

 

「わかっている。黙っていろ」

 

「猶予はあげるよ。明日、迎えに上がるから、その時までに終わらせるんだよ」

 

 そのまま、クローンはその場から消えた。

 

「・・・逃げられたか」

 

「あ、あれ? アキラじゅないか」

 

「やぁみんな。体は大丈夫かい?」

 

「俺は大丈夫だ」

 

「わかった、みんなが起きたら連絡して。僕は全校放送とこのうるさい笑い声を治してくる」

 

 アキラは楯無を優しく抱え、最奥地を後にした。

 

「・・・結局、僕は弱いまんまだ」

 

 その後、楯無を救護し、保健室に贈り、笑い声も解消し、全校生徒は解放された。と、同時に、大切な、とある一人に関する記憶が全部なくなった。翌日には、謎に存在している空いた一席も部屋にあったものも、きれいさっぱりなくなった。そのとある一人がその場にいた証拠は何一つ、なくなった。

 

 

 

 

 

 その後、多くの人はいつもと何ら変わりない、他愛ない生活を送っている。でも、そんな多くの人とは違う、謎の悲しみや虚無感にさいなまれる人も、このぽっかり空いて空間の原因を知っていて、その人を血眼で探している人もいる。

 

「ねぇどうして・・・大切なことがあったはずなのに・・・。なのに、どうして何も思い出せないの?」

 

 そう、大事だったはずなのだ。とても大切で温かい日々だったはずなのだ。でも、大切な記憶が抜け落ちていて、それを思い出すことができない。

 

「どこなの、どこに行ったの、四十万君」

 

 空いた空間を埋めることのできるものを探す。

 

「どこ行ったんだよ、アキラ」

 

 空いた空間を示すことができるものを知っているのは、事前に対策を施された、とある男女だけだった。

 

 男が持つは、黒に金の刺繍に入ったシャツ、白を基調としたスーツ、黄色のマント。女が持つは、ある人物が着ていた、黒いベスト。懐かしさと悲しさを感じながら、いなくなった大切なたった一人を探す。

 

 ・・・時は、刻一刻と過ぎていった。



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