シーマ・ガラハウに成り代わった女 (筆先文十郎)
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シーマ・ガラハウに成り代わった女

シーマ・ガラハウのことを調べていたら色々感傷的になって書きなぐったものです。
過度な期待はしないでもらえるとうれしいです。

また今回執筆にあたり大学時代の親友、柊竜真氏(本名ではなくペンネームです)に一部書いていただきました。
この場を借りてお礼申し上げます。


 シーマ・ガラハウには自身の両腕と言える人間がいる。一人はシーマの副官、デトローフ・コッセル。

 もう一人はクレア・バートン。中学生と言われれば信じてしまうほど幼い容姿をした、シーマMS部隊の副隊長を務める女性士官である。

 激戦に次ぐ激戦に戦死者が出る中シーマと共に戦い抜いた猛者である。その腕前はシーマを上回りシーマ自身もそれを認めるほどだった。

 

 そして。シーマは家であるリリー・マルレーンで自身の両腕とも言えるクレアとコッセル、家族同然の部下達に銃を向けられていた。

「どういうことだ、クレア!?」

「ふふふ、私は故あれば寝返るのですよ」

 自分に反意を示した部下達の先頭に立つ少女のような女軍人を睨みつける。

「戦場と言う舞台に貴女の居場所はない、ということですよ。シーマ様」

 クレアはニヤニヤと笑う。

 シーマは信じられなかった。シーマ艦隊結成当初からMSパイロットとして背中を任せられる存在。28歳とは思えないほど低身長&童顔で彼女をなめてかかった男達を自分よりも上のパイロットテクニックで度肝を抜かしてきた。

 自分を「シーマ様、シーマ様」と姉のように慕ってきた。

 普段は妹のように癒される。戦場に出れば背中を任せられる部下。

 そんな彼女が自分に反旗を翻したこと。そしてそのクレアに副官であるデトローフ・コッセルらがついたことが彼女の立つ力を失わされた。

 そんなシーマにクレアはとんでもない一言を放つ。

「安心してください、シーマ様。歴史舞台から姿を消す貴女に代わって私がシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)になりますから」

「ッ!?」

「じゃあどこかに行ってください、私のそっくりさん(・・・・・・・・)

「くそっ!離せっ!離せっ!!」

 

 バタンッ

 

 シーマが部屋から連れ出されると先ほどまで馬鹿にした笑みを浮かべていた女軍人が暗い表情を浮かべた。

「クレア……」

「これしか、私には思いつかなかった。シーマ様が……幸せになる方法は」

「……」

「シーマ様は私たちのためにずっと苦しんできた。もうそろそろ肩の荷を下ろしてもいい頃よ」

「そうだな……これから頼むぞ、クレア……いやシーマ様(お頭)

 

 

 

 そしてシーマは月の地方都市の一区画に軟禁され、星の屑作戦が開始される。

 その後作戦が北米へのコロニーの落下という結果に終わった同じ頃、シーマは解放される。

「もうお頭はてめぇなんぞに興味もなくなっただとよ。この身分証は一応世話になったてめぇへのお頭からの餞別だ。そいつでどこへなりとも行っちまいな!!」

「……」

 シーマは何も言わずただ黙って男達を見つめた後、口を開いた。

「おい、お前らは確かウチの艦隊で一番年少の奴だったな。何でそんなヒヨッ子どもが私の見張りについている?」

「な、何でって……」

「そ、そりゃ俺らがお頭に評価されてるに決まってんだろ!」

「それはない」

 動揺する男達を一笑する。

「私が知る限りお前らはまだまだケツの青い青二才だ。少なくともあのクレアが私の見張りを任せるとは思えん」

「そ、それは……」

「う、うう、うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 片方の男が頭を抱えて崩れ落ちる。

「あ、兄貴……うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 崩れ落ちた兄に耐え切れず、弟も兄に寄り添うように崩れ落ちた。一分前まではシーマに偉そうにしていたとは思えないほど涙と鼻水にまみれていた。

「……全てを話せ」

 二人が落ち着くのを待ってからシーマは説明を促した。

「……お頭、いやクレア中尉は『自分たちが残ってたらシーマ様の足枷になる。だけど貴方たちはまだ若いから付き合う事はない』と」

「だから……だから俺たちにシーマ様の見張りと……その時期が来たら解放する役目を……」

「あの馬鹿どもが……」

怒りに震えるシーマは持っていた扇子をバンッ!と左の掌に叩きつける。

「すぐに艦隊に戻るぞ!!」

「し、シーマ様……」

「もう、遅いっす」

「お、遅い?」

「星の屑作戦はもう終わってるんっす。コロニーは落ちました」

「中尉達は一人でも多くアクシズ艦隊に逃がすために(おとり)になって連邦の大群に飲み込まれたって」

「な、何だと!?」

 持っていた扇子が地面に落ちたことすら気づかないほど動揺する。

「バカな!!なぜ逃げなかったんだ!?」

「クレア中尉は……『シーマ様の重荷はすべて背負います』って」

「……最後に別れる時にそれだけ言って……」

「……」

 クレアの最後の言葉に、シーマは膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 宇宙世紀0083、11月12日。ガンダム試作2号機強奪から始まる一連の事件に一応の幕は閉じた。

 だがその影で裏切ってでも宇宙の蜉蝣を自由な空へ羽ばたかせようと必死に戦った女達がいた事はほとんどの人間が知る事はなかった。



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シーマ・ガラハウに成り代わった女 ~星屑の女神~

シーマ・ガラハウのことを調べていたら色々感傷的になって書きなぐったものです。
過度な期待はしないでもらえるとうれしいです。

また今回執筆にあたり大学時代の親友、柊竜真氏(本名ではなくペンネームです)に一部書いていただきました。
この場を借りてお礼申し上げます。


 ガンダム試作3号機の情報を事前に入手していたクレア率いるシーマ艦隊はアルビオン隊が入手する前に強奪。

 ガトーの駆るノイエ・ジールと共にコロニー追撃艦隊を次々に撃沈するとソーラシステムⅡ付近に展開する連邦軍に突撃。ソーラシステムのコントロール艦を撃沈して照射は中断させコロニー防衛に成功させる。

 

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 宇宙世紀0083、11月12日。

 コロニー落としを決行し終わったジオン残党軍に連邦軍の大軍が押し寄せる。

「いいか!ひとりでも突破し、アクシズ艦隊へ辿り着くのだ!我々の真実の闘いを、後の世に伝えるために!」

『ふふふ』

 耳障りな笑い声がガトーに触れる。

「何の用だ!?シーマ!!」

『ガトー、あんた死ぬつもり?』

「……」

 ガトーは口を閉ざす。

 そんなガトーを気にする様子もなくクレアは続ける。

『私とシーマ艦隊が囮になる。その間にあんたは他の奴らと一緒にアクシズ艦隊と合流しな。あんたには生きてもらわないと困るから』

 先ほどの軽い口調とは一変、覚悟がにじみ出た声で静かに言い放つ。

「シーマ艦隊と……シーマ様(・・・・)の濡れ衣を晴らすために」

 クレアが無意識で言った言葉にガトーは目を大きく見開く。

「し、『シーマ様(・・・・)』……だと……。ハッ!お前は!!」

 シーマ・ガラハウの名を騙った女の本当の目的を知った瞬間、ガトーは思い出した。カラマ・ポイントでシーマの名を騙る彼女と出会ったことを。

「クレア・バートン中尉……いや、シーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)中佐!」

 ガトーはクレアが操るガンダム試作3号機に向けて敬礼した。

 

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 デトローフ・コッセルがリリー・マルレーンに必要最低限の人員だけを残してアクシズ艦隊に向かう艦に移動させるとクレアの率いるMS部隊とリリー・マルレーンは群がる連邦軍に向けて突撃を開始した、

シーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)とシーマ艦隊の力、しかとその目に焼き付けろ!!」

 ガンダム試作3号機は弾幕を撒きながら敵艦に接近、すかさず機体下部から蟹の鋏のような形状をした接近戦専用の大型マニュピレーターが展開した。

 鋏の奥から巨大なビームサーベルが飛び出す。

 さらに加速し突進しながら巨大なビームサーベルで艦橋を貫き、左右に引き裂く。

 敵艦マゼラン級は爆散した。

 3号機は次の獲物を仕留めんと進む。弧を描くように接近しながら急に軌道を変えた。

 相手には直線にいたはずの敵機が急に消えたように見えただろう。

 3号機は敵艦の真下に位置し、右側にある大型メガビーム砲から光が放たれる。

 一筋の光を撃ち込まれた敵艦は炎に包まれながら光に消えた。

 立て続けに戦艦を落とす3号機の戦いぶりは、モビルアーマークラスのスラスター推力による機動力がなせる業だ。

 数々の戦闘で所々損傷したものの未だに圧倒的な火力と機動力を保つガンダム試作3号機の活躍もあり、クレアたちは寡兵ながら前線を押し戻さんばかりの鬼気迫る戦いを見せる。

 

 リリー・マルレーンにいるコッセルが命令を出す。

「ガイドビーコンを出せッ!!とにかく連邦の目をこちらにひきつけるんだ!!」

 ガイドビーコンに釣られたのか、暗闇を灯す灯篭に集まる虫の如く殺到する連邦軍。

 また鬼神のような働きを見せるクレアたちは「少数の敵に翻弄されている」と連邦軍のプライドを傷つけた。コンペイトウ宙域にて挙行された観艦式の襲撃、コロニー落とし。それらを行ったデラーズ・フリートの怒りも拍車をかけた。

「くっ……」

 一気に攻勢を強めた連邦軍にクレアの周囲で一機、また一機と味方MSが散っていく。

 そして遂に──

「あ……」

 

リリー・マルレーン、轟沈。

 

「……みんな。ありがとう……シーマ様、ごめんなさい」

爆発し、四散するリリー・マルレーンを見ながら、クレアは呟く。

 自分のわがままに賛同してくれたコッセル達への感謝とシーマの家とも言うべきリリー・マルレーン、轟沈させたことを詫びる。

「待ってて。私ももうすぐ!」

表情をきつく結びなおし、クレアは敵に向かっていく。そして

「くぅ……!?」

 ここまで獅子奮迅の活躍を見せていた致命傷となることが起きる。Iフィールド・ジェネレーターが破壊されたのだ。

 Iフィールド・ジェネレーターという盾を失いクレアは損傷が激しくなったオーキスを分離。ステイメンとなって最後まで奮闘する。だが絶望的なまでの物量の差、戦力の著しい低下、数々の激戦に休む間もなく戦い続けたクレアにもう戦う力は残されていなかった。

 

(シーマ様……)

 

 集中砲火を浴びガンダム試作3号機ステイメンは撃沈。この時をもって戦場に残ったシーマ艦隊の戦力は消滅した。

 なおガトーとグワデンを始めとするデラーズ艦隊は多少の犠牲を払いつつも、クレア率いるシーマ艦隊によって包囲が薄くなった所を突破。アクシズ艦隊と無事合流を果たした。その中にはシーマ残存艦隊の姿もあり当初は受け入れを断られたが『リリー・マルレーンの援護で撤退できた』という兵士の報告で受け入れられることが決まった。

 アクシズへとたどり着いたガトーはシーマ・ガラハウとシーマ艦隊のことを調べ真実を伝えると同時に、後述でデラーズ紛争をこう語る。

 

「私を『武士』、『志ある者』と人は言うが私はそうは思わない。なぜならば私よりも志を持った者を私は知っているからだ。シーマ・ガラハウ。圧倒的な敵軍を前に一歩も引かず味方を逃がすために戦い散った彼女こそそんな二つ名が相応しい。それでも私を『武士』、『志ある者』というならば私は彼女に『星屑の女神』という二つ名を送ろう」

 

 



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シーマ・ガラハウに成り代わった女~暗躍の暗躍~

以前柊竜真氏に「デラーズは(シーマがクレアに)刷り変わったことを知っているのか?」と聞かれたので書いてみました。

色々調べた上で書いてはいますが、もしかしたら間違えている所があるかもしれないので気づかれたら教えて頂けると幸いです。(毒ガスを撒いた日が違うとか)

あと星屑の女神で終わらせる予定だったのですがある方から続きは書かないのか?と希望されたのでこの話を書きました。この場を借りてお礼申し上げます。


 リリー・マルレーンの通路で、赤い髪をショートヘアーにした童顔の女性士官、クレア・バートンは宇宙を見ていた。

「人は死ねば星になる、そう聞いたことがあるけど。私はどれほどの()を作ってしまったのだろうな……」

 

 

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 宇宙世紀0079 1月4日 サイド2、8バンチコロニー アイランド・イフィッシュ

「何だ……なんだよ、これは?」

 自身が操縦するザクⅠのコックピットで、クレアは目の前の光景に目を疑った。

 コロニーの老若男女が苦しみ、バタバタと糸が切れた人形のように崩れ落ちる姿を。

 

 先ほどまで生きていた住人が、死んだ。

 戦う術を持たない民間人を、殺した。

 罪のない無抵抗の人々を、殺害した。

 

「軍人とは力なき者を守る盾、そう考える私が……」

 

 殺した殺した殺した……。

 

 認めたくない事実に、クレアは顔を強張(こわば)らせた。その時だった。

『あ……あたしは、知らなかった……』

 尊敬する上司の聞いたことない声にクレアは我に返る。

「し、シーマ様?」

『毒ガスだなんて知らなかったんだよぉぉぉっ……!!』

「お気を確かに!シーマ様……シーマ様ぁぁぁっ!!」

 発狂するシーマにクレアは呼び掛けることしか出来なかった。

 

 

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(リリー・マルレーンに4年。今なおシーマ様が苦しまれているのをただ見ているしかない無能さを思い知らされて、はや4年。シーマ様のために何も出来ず、あるべき軍人からも遠ざかる。いつまで続くのか、この地獄は……)

 そんなことを考えながら、クレアはブリッジへと足を進めた。

 

 

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 トリントン基地に潜入したアナベル・ガトーが現地の残存部隊と共にガンダム試作2号機の奪取に成功。追撃するカレント小隊とまるでガトーらの動きを読んでいたかのように(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)出撃した特務部隊を撃破し、潜水艦と合流するため動いていた頃。

 

 コロニー暗礁宙域

 リリー・マルレーン ブリッジ

『貴公とはカラマ・ポイント以来であったな。シーマ・ガラハウ中佐』

 通信先のデラーズにシーマはフッと笑みを浮かべる。

 そんなシーマを頼もしそうに見ながらデラーズは続ける。

『一度は(たもと)を分かつことになりはしたが、元は同じ大義を掲げる同胞として貴公のシーマ艦隊にデラーズ・フリートへの参画を要請したい!』

「戦犯となって誰からも見向きもされなかった私たちに声をかけて貰えるとは……このシーマ、感動で声も出ません」

そう言って一礼した後、「ところで」とシーマは続ける。

「何やら閣下は地球で策動を始められたとか?」

『さすがに情報が早いな』

「いえいえ」

 シーマは持っていた扇子(せんす)を肩に置く。

「あのガトー少佐がオーストラリアに降り立ち、現地の残存部隊とともに何やら派手に始めた……そう小耳に挟みまして」

 その通りだ、とデラーズは続ける。

『今現在デラーズ・フリートにはある作戦が始動している。この作戦が成功した(あかつき)には必ずや散り散りになったスペースノイドの心は再び一つになるであろう』

 そう言うとデラーズは静かに、労わるようにシーマを見る。

『シーマ中佐。そなたもいつまでも蜻蛉(かげろう)のように宇宙をさまよっていても成り立つまい』

「蜻蛉ですか……確かに我々はB級戦犯の海兵隊として(うと)まれ、弾かれて。その中で多くのことを学びました」

 髪をかきあげながらシーマは続ける。

「その3年間で得た一番の教訓は。大義だけでは(・・・・・・)部下たちを(・・・・・)食わしては(・・・・・)いけない(・・・・)、ということです。デラーズ閣下」

『つまりは見返りが欲しいと……』

 デラーズは苦笑する。

『まあ、それもよかろう。この作戦が成功した暁には儂の出来うる限り望む物を用意させることにしよう』

「ふふっ、催促したようで申し訳ございません」

 そう言ってシーマは持っていた扇子をパンッと鳴らし左手に持ち換えると

「これよりシーマ艦隊はデラーズ・フリートの傘下に入ります。なんなりとご命令を!!」

 見事な敬礼を返した。

『貴公の参画、心から感謝する!共に事を成そうぞ!……(いばら)(その)で待つ!!』

 満足な顔で頷いたデラーズがそう言うと通信が切れた。

「やれやれ、グワデンと一戦(まじ)えるのかとヒヤヒヤしましたよ」

 そばで控えていたコッセルが画面が暗くなったのを確認してから「ふうっ」、と大きくため息をつく。

「なんだいそりゃ?」

 持っていた扇子を肩にかけ首をかしげるシーマにコッセルは続ける。

ガトーの件(・・・・・)ですぜ。情報を連邦(ヤツら)(リーク)したのがバレたのかと」

「そんなつまんないことを気にしていたのかい、コッセル!」

 シーマは持っていた扇子をトントンと叩く。

「ようやくシーマ艦隊にも運が向いてきたところなんだ!そんなつまんないことを気にしてやってきた幸運を喜ばないでどうする?」

「幸運?デラーズ・フリートへ編入されることがですかい?シーマ様」

「ああそうさ!」

 白い虎の毛皮が敷かれたソファーに腰を下ろし、シーマはバッと扇子を広げた。

「せいぜい利用させてもらうさ!!デラーズも……連邦も……。私たち(・・・)のためにねっ!!」

 左手を口元に寄せ高笑いするシーマは気づいていなかった。

「そうですね、シーマ様」

(ふふっ。()もこの状況を利用させてもらいますよ。私の望む世界を作るために)

 コッセルの反対側に立つ赤いショートヘアーの女性士官、クレア・バートンがほくそ笑んでいたことを。

 

 そのツケをシーマは支払わされることになる。数日後。クレアに軍人シーマ・ガラハウとしての全てを奪われ、リリー・マルレーンを追い出され、挙げ句の果てには月に軟禁されるという形で。

 




今作を書くにあたり夏元雅人氏の『機動戦士ガンダム0083 REBELLION』を読みました。
感想は

シーマ様が上品にエロい!!

です。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~シーマ・ガラハウのそっくりさん~

 デラーズ紛争が終結して数年後。フォン・ブラウン市郊外にある軽食&居酒屋『リリー・マルレーン』は書き入れ時ということもあり賑わっていた。

「ショーン!ディル!……オムライス3人前とミートスパゲッティ2人前、焼き魚定食2人前、 いちごとぶどうとバナナ のシャーベット3人前ずつ、あとコーヒーブレンド、さっさと作っておしまい!」

「「が、合点で!……シーマ様!」」

「はぁ!?シーマ店長と呼べ!!」

『シーマ様』と呼ばれた女店主、シーマ・ガラハウさんは双子の兄弟を怒鳴り付ける。威勢良く双子の兄弟に指示を出す様は飲食店の店主というより「宇宙海賊の女ボス」と言う表現がしっくりくる。

 

 30代後半とは思えない顔立ちに緑がかった黒髪に男の欲情を誘うボン、キュッ、ボンの肉体。

 デラーズ紛争でデラーズ艦隊のアクシズ合流を援護するため戦死したシーマ・ガラハウと同じ名前。

 そしてその英雄の旗艦と同じ『リリー・マルレーン』という店名が話題となり郊外でありながら賑わいを見せていた。

 そんなこともあり『実は本物のシーマ・ガラハウだったりして』という噂は絶えない。しかしエギーユ・デラーズやアナベル・ガトーなど彼女を知る者達が

 

 シーマ・ガラハウはデラーズ紛争で味方の撤退を援護するため戦死した。

 

 と公言しているので『リリー・マルレーン』の女店主を本気で、宇宙海賊としてその名を轟かせたシーマ艦隊の長にしてエースパイロット、シーマ・ガラハウと思う者はいない。

 シーマ・ガラハウさん本人も「『リリー・マルレーン』という名前も私と同姓同名の英雄、『シーマ・ガラハウ』の艦から拝借しただけ」と自分が英雄シーマ・ガラハウではないと否定している。

 

「ふっ、相変わらず騒がしいな。ラトーラにチョコレートケーキを買ってこようと思っていたんだが……今日は無理そうだな」

 フォン・ブラウンでジャンク屋を営む片腕の男は料理を作り続ける双子の兄弟とレジ打ち、片付け、接客などを「忙しい!本当に忙しいよ、まったく!」と文句をいいながらどこか楽しそうに仕事をこなす女店主を楽しそうに見る。

「見ていて飽きないな、ここは」

 ジャンク屋の親父は少し冷めたコーヒーに口をつけた。

 

 

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 リリー・マルレーンの営業時間が終わり、全ての作業を終えたシーマ・ガラハウさんは軽い食事とシャワーを浴びた後、ベッドに体を預けた。

 彼女は眠るのが嫌いだった。寝れば決まってある出来事が悪夢となって思い出されるからだ。しかしデラーズ紛争でコロニーが北米に落ちたのを境に、その悪夢は見なくなった。

 まるで自分を慕う魂がその悪夢と共に昇天したかのように。

 

 ありがとう。

 

 シーマはまぶたの裏に映るコッセルや海兵隊、中央に立つ少女のような女性士官、クレア・バートンに感謝の言葉を述べるとそのまま静かに眠りについた。

 いつか帰ってくるであろう、部下達を迎えるために。

 

 

 




ガンダム開発計画を無かったことにしている連邦軍。デラーズ紛争があったと公言するデラーズたち。

書き終わって気づいた矛盾点。どうしよう(-_-;)


手元が狂って同じ話が二話続けて投稿されてました。お詫び申し上げます。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~デラーズの魔女~

クレア・バートン好感度下がり回です。


 宇宙世紀0083 11月12日

 

 北米の穀物地帯に落ちていくコロニーを、クレア・バートンはガンダム試作3号機の中から見ていた。

「軍人とは力を持たない人を守る盾、そう思って軍に入った私が敵国とはいえ多くの人を苦しめるコロニー落としに手を貸してしまった……」

 貧しい家庭に育った彼女は飢えの苦しみを知っている。その苦しみを知っている自分が同じ境遇を味わう人々を産み出してしまった。シーマ様と慕う一人の女性を救うためだけに。

 そのことに彼女は罪悪感を覚えた。

「……願わくば。この凶行だけはシーマ様ではなく私、クレア・バートンが行ったことだと……ふっ、私もデンドロビウム(こいつ)と同じ、『わがままな美女』ね」

 そう自嘲しクレアはその場を去った。

 

 だが、クレアのわがままな願いは叶えられなかった。

 

 

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 ティターンズに所属する将校の日記。

『私は※※※※※・※※※※。デラーズ紛争というテロリストどもが行った凶行を防ぐことが出来なかった無力な将校だ。軍の検閲にかかるため公表することはできないが、明かされる時が来るまで、また私の決意を表明するものとしてこのことを記す。

 

 私はジオンが憎い。叩いても叩いてもゴキブリのように現れるあの連中こそが真の平和を脅かす存在だからだ。その中でも特に許せない人間が3人いる。

 

 一人目はデラーズ・フリートの指導者であの忌まわしき星の屑を考え出したエギーユ・デラーズ。ジオンの再興などという下らない妄想のために(ただ)でさえ下らないジオンの兵士をテロリストに仕立てあげた愚かな指導者だ。

 

 二人目は『ソロモンの悪夢』と呼ばれデラーズの右腕として星の屑という蛮行の実行役の中心人物、アナベル・ガトー。核搭載のガンダム試作2号機を奪い去りコンペイトウで行われた観艦式で多くの仲間を殺害。その後、あの忌まわしきコロニー落としを防ぐ我々の破壊活動を妨害し、ついにはアクシズに逃れた卑怯な男だ。

 

 三人目は一年戦争時には毒ガスなど非人道的作戦を実行し、デラーズ紛争ではコロニーを強奪という星の屑の要を担った『デラーズの魔女』、シーマ・ガラハウ。

 デラーズ紛争終結後。デラーズなどがあの魔女がしてきた凶行は『全て上層部の指示であり、シーマの意思によるものはなかった』と公表している。しかし私は信じない。

 あの魔女は地球連邦軍の上層部と繋がっていたという情報がある。デラーズ・フリートに参加する前は情報部に情報を流していたようだが、本格的に星の屑に参加するようになってからはそれをしなくなった。つまりはあの魔女もデラーズという愚かな指導者に心酔し同化した証拠だ。デラーズ・フリートの中心人物の一人であったあの魔女なら星の屑の重要情報を手に入れたはずだ。それを上層部に流さなかったのもデラーズに忠誠を誓ったからだ。

 もしあの魔女が上層部に情報を流していれば星の屑という愚かな凶行は未然に防がれていたはずだ。

 

 またあの魔女はアナハイムの作業員を買収しガンダム試作3号機の情報を知るとアルビオンが入手する前に強奪。奪われたガンダム試作3号機はコロニーを守る盾として、多くの連邦軍兵士を殺す凶刃になってしまった。

 最後は集中砲火を浴びて戦死したようだが、デラーズ・フリートのテロリストどもとアクシズの合流を果たさせた罪は重い。

 

 デラーズの魔女は戦死、デラーズはその後病死した。だがあのソロモンの悪夢はまだ生きている。

 

 アナベル・ガトー、そして地球圏の平和を脅かすジオンの残党ども。お前らの蛮行はお前らの命で償ってもらうぞ!!

 




原作のシーマ様は実はコロニー落とし止める行動しているんですよね。ただ連邦に情報が渡らなかったりガトーが頑張ったりアルビオンが邪魔したせいで失敗しますが。

クレアはがっつりデラーズ・フリートに協力してますからねぇ。コロニー奪ってコロニー破壊部隊と交戦し、最後はめっちゃ頑張ってデラーズ・フリートの殲滅を邪魔する。
この将校がブチキレるのは至極道理な気がします。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~カラマ・ポイント~

カラマ・ポイント。
この出来事がシーマ達の運命を決定付け、ガトーがシーマに不信感を抱くようになる……文字通りこれから起こる全てのポイントとなった場所です。


 宇宙世紀0080 1月。

 地球連邦政府とジオン共和国の間に終戦協定が結ばれた2週間後。月とサイド3の間に位置するカラマ・ポイントにて逃亡するジオン艦隊の群れがあった。

 

 

 サイド3での決戦も行わず何が終戦だ!!我々はまだ十分な戦力を温存している!!

 甘い!!連邦の力を冷静に判断できんようでは、やる前から結果は見えている!!

 今はマハラジャ・カーンの元へ糾合すべきでは?

 臆したか!!そのような考えだから連邦なんぞに負けたのだ!!

 ……

 

 

 ある者は戦闘続行を訴え、ある者は再起を図ろうと自制を求め、またある者はそんな彼らを横目で見てどう動くべきかと考えていた。

 彼らには選択する権利があった。だがシーマ艦隊は違っていた。

 

 

 ======================================

 

 リリー・マルレーン ブリッジ

「なぜであります!?なぜ我々海兵隊にはアクシズへの脱出の権利がないのでありますか!?」

 モニターの向こうにいるシーマの上司に当たる小太りの男、アサクラは命令を不服とするシーマに声を上げる。

『お前の艦隊は軍律を逸脱しすぎた!!我が栄光のジオンを汚した罪は重い!!』

「えッ!?」

 予想外の言葉に、シーマは言葉を失う。

『とにかく迷惑だ!自分たちの始末ぐらい自分たちでつけたらどうだ?』

「待ってください大佐、アサクラ大佐!!」

 もうお前とこれ以上話すことなどないと言わんばかりに一方的に通信が切れる。

「クッ……!!」

 怒りで体を小刻みに震わせるシーマに対し、傍で控えていたクレアは

 

「…………」

 

 怒りを通り越し呆れかえった。本国の命令に従った自分たちがジオンの面汚しなら、その命令を自分たちに下したジオン公国は邪悪そのものではないか、と。

「……ッ!!」

 シーマが出口へと飛び出す。

「シーマ様──」

 クレアと同じように控えていたコッセルの言葉を塞ぐように

「直に談判してくるだけだ!お前等は一切手を出すんじゃないよ!!」

 言い放つとシーマは部屋を飛び出した。

 

 お前等は一切手を出すんじゃないよ!!

 

 この言葉に一瞬、躊躇するクレアだったが

「クッ……!」

 と歯を食い縛りシーマの後を追った。

 

 

 ======================================

 

 

「逸脱だと!? アタシらは催眠ガスだと聞かされてコロニーにあれを……あれがG3ガスだったなんてこれっぽっちも聞いちゃいなかったんだ!!」

『何をしようとしている、中佐!』

『止まれ!』

 アサクラの乗るムサイに向かって機体を走らせるシーマのゲルググMに異変を感じ取った複数のMSが、シーマに向かって機体を走らせる。

「この手で毒ガスを……あの時コロニーの河から見えた阿鼻叫喚……気が付きゃ大量虐殺を強いられちまってたのさ」

 今でも忘れることの出来ない、昨日のことの様に思い出せる惨劇にシーマは自身の震える手を見ながら呟く。

『中佐殿!』

『何を考えているのです!?』

「その後も……軍の汚れ仕事を散々やらされたってのに……その結果がコレかいっ!!」

『中佐……グワァッ!?』

『何を考えて……グフェッ!?』

「すべて軍が……キサマが命じたことだろうが!!……アサクラァ!!」

 止めようとしたMSを振り払いアサクラのムサイに突っ込むシーマ。

「死ねぇ!……アサクラァァァッ!!」

 その時、ゲルググMの進行を塞ぐ形でリック・ドムがムサイを守るように割り込んだ。ただのパイロットでは持ち得ない、堂々とした威圧感にシーマは機体を止めて尋ねる。

「……誰だい、あんたは?」

『私はアナベル・ガトー大尉であります』

「ガトー?あぁ……デラーズ閣下のエースパイロットか。『ソロモンの悪夢』と呼ばれる男がグラナダの海兵に何のご用だい?」

『早まってはなりません、中佐殿!軍人としての節度を保っていただきたい!』

「……ふん。そんなお説教、聞いてないし……」

『はあ!?何を仰られているのです、中佐殿』

「軍律を逸脱させられた私たちは、居場所なんか残っていないんでね……」

『そんなことはありません!』

 

 生き恥を晒してでも生きていれば必ずや栄光を掴む時が来る。

 

 そうデラーズに諭されたガトーは心の底から訴えかける。

『中佐!我々は再起を期し、来たるべき時に備えるのです!大義を生き抜くのです!!』

 怒る気持ちを抑えて説得を試みるガトー。だが軍に裏切られた失望感の中にいるシーマに理解できるものではなかった。

「知らねえし、そんなこと……好きにすれば?」

 その一言に、ついにガトーは抑えていた感情を爆発させた。

『それが軍人だろうがあぁぁぁっ!!』

「育ちが違うんだよおぉぉぉっ!!」

 

 もう話すことなどない。

 

 そう言わんばかりに両者は武器を抜き、刃を交えた。

 

 

 ======================================

 

(……が、ガトーォォォォォォォッッッ!!)

 二人の会話を離れた所で聞いていたクレアは怒りで頭が真っ白になった。意に沿わぬ命令もジオンのため皆が幸せに暮らせる世界を作るため。そう言い聞かせて自分達は手を染めてきた。そこまでした自分達にジオンは報いるどころか戦犯の汚名を被せた。そのジオンのために働けと言わんばかりの台詞だった。

「クソが!……ッ!!」

 怒りに任せてクレアはゲルググMを走らせ、体当たりをした。

 

『なっ!?』

 

 ぶつけられた機体のパイロット、シーマ・ガラハウが信じらないとばかりに大きく目を見開く。

『どういうつもりだい、クレア!?』

 機体を立て直したシーマにクレアは言い放つ。

中佐(・・)、これ以上軍規にはみ出した行動をするのはお()めください」

『!?』

 クレアの言葉にシーマは開いた口が塞がらなかった。そんなシーマにクレアは続ける。

「その凶刃をまだガトー大尉に向けるのでしたら……私は実力で中佐(・・)をお()め致します」

 そう言ってクレアは刀を抜いて刃をシーマに向けた。

『クレア……ッ!!』

 ポツリと言い残し、シーマはリリー・マルレーンへと機体を走らせた。それを確認してクレアはガトーの乗るリック・ドムに向き直す。

「ガトー大尉。私はリリー・マルレーン所属、クレア・バートン中尉であります。大尉、この度の中佐(・・)の無礼、申し訳ございません」

『いや、こちらに怪我はない。気にしなくていい』

「ハッ!ありがとうございます、では」

 そう言うとクレアはガトーに背を向けてリリー・マルレーンへと機体を走らせた。

 

「何も知らないクソガキめ!この恨み、いつか必ず!!」

 

 そう呟いた顔は憎悪が激しく刻まれていた。

 

 

 ======================================

 

 リリー・マルレーン ブリッジ

「このバカがぁぁぁッ!!」

 クレアが戻るや否やシーマはクレアの頬に平手打ちを加える。

 左右の頬を激しくひっぱたく音がブリッジ内に木霊する。

「……」

 クレアは顔を(かば)うことも避けることもせずシーマのを平手打ちを受け続ける。鬼気迫るシーマの顔に周囲は止めることが出来なかった。

「クレア!!なぜあのようなことをした!?返答次第じゃお前でも容赦しないよ!!」

 頬が赤く染まり、口内に血が流れながらもクレアは自分の考えを述べる。

「もしシーマ様がアナベル・ガトー(あのクソガキ)を斬り、アサクラ(あの豚野郎)を殺してしまったら……シーマ様は処刑されていました」

「構うものか!あいつらを殺せるならば……私は死んだってかまわない!!」

 

 私は死んだってかまわない

 

 その言葉を聞いた瞬間、平手打ちをされた時は瞳に涙を溜めることもなかったクレアが滝のように涙を流した。

「……シーマ様が、シーマ様がお亡くなりになられたら……我々は……私は、どうやって生きていけば良いのですか?」

 その言葉にシーマは気づく。そしてブリッジにいる部下たちの顔を見る。その表情は今にも親に見捨てられ不安に駆られる子供のような表情をしていた。

「あ……」

 シーマは気づかされる。自分がいなければ部下達が進むべき道を見失うことを。そして自分を止めてくれた部下の真意を理解せず、怒りに任せて殴打した自分を恥じた。

「クレア」

 シーマは胸の高さ位しかない部下を優しく抱きしめた。

 それに安堵したのか、クレアは子供のように声をあげて泣き始めた。

「シーマ様。もうこんな艦隊なんて知らねぇ!……逮捕されたって構わねぇ!……戻りましょう。俺たちの故郷、マハルへ!!」

 コッセルの鼻水混じりの言葉に、部下達が涙を流し……嗚咽(おえつ)する。

「ふっ、そうだね」

 クレアを抱きしめたまま、シーマは命令を下した。

「各艦に信号!単縦陣形を組み離脱する!……目標は、マハル!!」

 こうしてシーマ艦隊はサイド3にあるコロニー、マハルへと舵を切った。

 しかしこの時、シーマ達は誰一人知らなかった。

 

 自分達の故郷であるコロニー、マハルがすでにジオン公国の最終兵器であるソーラ・レイになっていたことを。

 

 

 

 

 

 

 




もしガトーがシーマの立場を理解していれば、とつい思ってしまいます。

あとガトーの階級が一部少佐になってました。お詫び申し上げます。



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シーマ・ガラハウに成り代わった女~バニングの憂鬱~

クレアがシーマに成り代わる→連邦と裏取引が出来ない→8話のバニング大尉死亡がない→生存じゃん!

というわけでこんな話を作りました。
バニング大尉が死んだ時、コウと一緒に叫んだ自分が約10年後に大尉が生きていた話を考えるとは。


 軍を除隊しMSパイロットの経歴を買われて民間MS&パイロットを様々な場所に派遣する会社に再就職したサウス・バニング(42歳)の朝は早い。

 

 0:00

「おぎゃ~おぎゃ~おぎゃ~!!」

「う、うぅ……おぎゃ~おぎゃ~おぎゃ~!!」

 長女ミレーユ・バニング(0歳)の夜泣きに双子の兄、ハッサン・バニング(0歳)が起きて泣き出す。

「んんっ!……おぉ~、どうしたどうした?」

 眠りにつきかけた時に起こされ一瞬怒りを露にするバニングだったが、それが愛する子供の夜泣きだとわかると妻のシルビア・バニングと手分けしてあやしにかかる。

 30分後。スースーと寝息を立てた二人の我が子に微笑むと、バニングは妻と共に再び眠りにつく。

 

 6:00

 起床。その後仕事の準備をしつつ子供のたちの面倒を見る。

 

 8:00

 長男のボッツ・バニング(3歳)を保育園に送り届けた後、会社に到着。8:30の始業に備えて準備をする。

 

 9:00

 朝礼後。災害救助で瓦礫を除去するという訓練で民間機用MSを動かす新米に通信機で檄を飛ばす。

「パラッツォ!クリストフ!もっと機敏に動かせんのか!?」

『し、しかし課長……』

『我々は標準設定時間を一応クリアしております……』

「バカ野郎!」

 反論する社員、ビッグス・パラッツォとウェッジ・クリストフをバニングは叱りつける。

「災害現場は訓練所と違って足場がもっと悪かったり人がいたりするんだぞ!標準設定時間を一応クリアした程度の腕前で救助活動なんて出来るか!!」

『は、はい!』

『申し訳ありません!』

 

 20:30

 午後の訓練、報告書の作成など様々な業務を終わらせて帰宅。

「あなたお風呂にするご飯にするそれとも?」

「……ッ!?」

 黒の下着の上に白いエプロンという妻の服装を見た瞬間、バニングの体がたぎった。

「夫が仕事で疲れているのにムラムラ……じゃなくて。どうしてイライラする格好で出迎えるんだ、お前は!!」

「きゃあ!あなた、許してぇ~~~♥」

「誰が許すか!……来い!!」

「いやあぁ~~~♥」

 抵抗する妻の手を掴み寝室に連れ込むと、バニングは愛する妻をベッドに押し倒した。

 

 22:00

 寝室で色々(・・)して妻が用意した晩御飯を食べた後、バニングはシャワーを浴びながら頭を抱えていた。

「また……やっちまった」

 

 その後バニング夫妻の間に次女バーバラ・バニング、三男チャモロ・バニング、四男アモス・バニング、五男テリー・バニングが産まれ、バニングは最終的に7人の父親になる。

 そんなバニングに、共に激戦を戦い抜いた元部下のベルナルド・モンシアは再会時にこう言った。

 

 

 大尉は敵に銃弾を当てるのがとても上手かったですが、それ以上に女の○○に○○をぶち当てるのはもっと上手かったんですなぁ

 

 

 と。




カレント大尉が生きていたらこう言っていたでしょう。

バニングのスケベ野郎!

と。
あとシルビアさんノリノリ。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~家に帰る者~

 俺の名前はデフキサ・ザケルフ。コードネームはダークエンジェル。

 現在ナドレ・ヴァーチェという偽名でフォン・ブラウン市に潜伏するアクシズのスパイであり、元シーマ艦隊所属の諜報工作員だ。まぁ、シーマ様と直接会うのは年に一回あるかないかの下っぱだったけどな。

 デラーズ紛争が終わりに差し掛かる時。多数の連邦軍に包囲される中、俺はアクシズ艦隊と合流を目指す残存艦隊に回された。

 諜報工作員の俺に戦う術はなかったからそれも当然だ。しかし『戦えなくてもシーマ艦隊の一員として死にたい』と直訴した連中と同じように残存艦隊に回されることを拒んだ。

 だがコッセル大尉の

 

 シーマ様は強くもあり弱くもある。俺達が生きていると知ればそれを拠り所に逞しく生きてくださるだろうが、もし全員死ねば『自分は部下を犠牲にして生きてしまった』と悔やみ苦しまれる。だからこそ、誰かはシーマ様のために生きなければならない。

 これは副長命令だ。シーマ様のために……生きろ(・・・)!

 

 という言葉で俺は涙を飲んで生きることを決めた。

 その後はクレア中尉やコッセル大尉達の文字通り必死の活躍により、デラーズやガトー達のデラーズ・フリートとともにアクシズ合流に成功。その後は諜報工作員の経歴を買われて『フォン・ブラウン市に潜入せよ』という命令を承ったわけだ。

 そこで俺が何をしているかと言うと主に連邦軍の士官や将校を相手にした高級キャバクラの店長を務めている。ちなみに店の名前は『Dark Ennjeru』。俺のコードネームだ。

 なぜキャバクラなのか。それは酒と女が集まる所に情報が集まるからだ。無論ここで働く従業員もキャバクラ嬢も俺と同じ諜報工作員だ。

 男っていうのはバカな生き物だ。女の気を引こうと自分を大きく見せたがる。だから『自分はこんな凄いことをしているんだぞ』と本来口外してはならない重要機密をポロリと漏らしてくれるわけだ。酒も入っているからなおのこと口は軽くなる。

 女の方も

 

 えぇ!ミーアよくわからないですけどスゴいことされているんですねぇ!

 わぁスゴい!ほかにはどんなことをされているんです!?ジゼルしりたいです!

 へぇ~!そのあたりのことローラにおしえてもらえないですか?

 

 などといかにも話しても問題なさそうなバカ可愛い女だから安心してベラベラ喋ってくれる。もちろんそれは演技だけどな。

 そうして店で得た情報をアクシズに報告するというわけだ。もちろん裏はとってある。

 店の経営だけでなく情報漏洩など気にしないといけないことが山のようにあって決して楽な仕事じゃないが、それでもうまくやっている。

 

 ある日。俺は空いた時間が出来たのでシーマ様のそっくりさん(・・・・・・)が店主を務めているという店を訪ねることにした。存在自体はだいぶ前から知っていたが、店と本業(・・)が忙しいこともあり行くことが出来なかった。

(『リリー・マルレーン』かぁ。なんかリリー・マルレーン(我が家)に帰ってきた感じだな)

 店の看板を見ながら俺はそんなバカバカしいことを考えてしまう。

 ドアノブに手をかける。

 

 カランカランッ

 

 目があった瞬間、シーマ様が挨拶をした。

「ん?あぁ、お帰り」

「え?」

「あ、いや……いらっしゃい。好きな席に座ってくれ」

 間違えて『お帰り』と言ったのが恥ずかしかったのか、シーマ様は少し頬を赤らめて店の奥へと下がった。俺は近くの席に腰を下ろす。

 机に置いてあるメニューを広げる。どれも家で作ろうと思えば作れそうなものばかりであったが、温かみのあるこの店で食べるから家では味わえない雰囲気を醸し出し、どれも美味しそうに見えた。

「注文は決まったかい?」

「じゃあオムライスお願いします」

 水を持ってきたシーマ様に注文を言う。

「あいよ、ショーン!オムライス入ったよ、さっさと作っておしまい!」

「が、合点で!……シーマ様!」

「バカ野郎!シーマ店長と呼べ!!」

(今日は弟のディルはいないんだな)

 キッチンで料理をする双子の兄を見ながら、俺は出された水に口をつける。

 数分後。

「旨い」

 俺は出されたオムライスに舌鼓を打った。

(リリー・マルレーンにいた時も料理の腕はあったが、今はそれ以上になっている)

 本人にそう言いたい気持ちを抑えて、俺はオムライスを綺麗に平らげる。

 その後追加でアイスを頼み、俺はレジで会計を済ませた。

「美味しかったです。また来ます」

 俺がそう言ったら、シーマ様は周囲に聞こえない小さな声で呟いた。

「また帰ってきておいで。『リリー・マルレーン(うち)』はいつでも帰りを待っているよ、ザケルフ」

「……!?」

 その言葉に俺の身体に衝撃が走った。

(シーマ様が。俺程度のやつを…。覚えていて……)

 諜報工作員という仕事上、感情のコントロールの特訓は欠かさずしているはずなのに目頭が熱くなるのを止められなくなっていた。

「また来ておくれ」

 シーマ様の言葉を背に、俺は店の外に出た。

 

「ちくしょう。これから店に出ないといけないのに……」

 

 止めどなく溢れ出る涙と鼻水にどうすれば止まるのか思案しながら、俺は店へと歩いた。




そっくりさんの伏線、回収。
(アクシズに部下が行っていることを半ば忘れてました)

デフキサ・ザケルフ。この名前に気づいたらすごい。SEEDのマルコ・モラシムを知っている人はピーンと来るかもしれませんが。
あと店の女の子。一人除いて……(ジゼルはガンダムのキャラではないですが(-_-;))。

あとシーマ様がオムレツを頼んだのにオムライスのオーダーをいうアホなシーマ様になってました。申し訳ありません。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~クレアの熟考~

 シーマがデラーズ・フリートの傘下に入ることを表明して数時間後。

「……」

 クレアは制服のまま愛機であるゲルググM(マリーネ)のコックピットで腕を組んでいた。

 一人になりたい時や何か考え事をする時、彼女は決まってコックピットの席に身体を預ける。故に乗組員の誰もがクレアの行動を怪しむことはなかった。

 クレアは考える。

(シーマ様はデラーズ・フリートの情報を連邦に渡すことでシーマ艦隊の保障を獲得するおつもりなのだろう。そうなると一つ気になることが出る。それは『デラーズ・フリートが何をしようとしているか』だ)

 

 現在発動している作戦、『星の屑』。詳細は(いばら)(その)で伝える。

 

 デラーズが詳細を語っていないため現時点で星の屑作戦の行動と目的を知る者はシーマ艦隊には誰もいない。現時点で分かっているのはデラーズ・フリートの大まかな戦力、デラーズの右腕とも言える『ソロモンの悪夢』ことアナベル・ガトーが連邦軍が極秘で開発した戦術核搭載の機体を奪ったということだけだった。

(デラーズ・フリートの目的は何だ? 奴らは何をしようとしている?)

 クレアはスッと目を閉じる。

(奴らが目指すのはジオンの再興。それを果たすにはまず拠点となる場所が必要だ。今デラーズ・フリートが身を潜めている旧サイド5の跡地『茨の園』はあくまで秘匿基地。拠点と言うには脆弱だ。つまり基盤となる場所が必要だろう)

「それだと一年戦争(先の大戦)で取られたソロモンやア・バオア・クーか」

(……となると核装備の機体を奪ったのは奪われた拠点を奪還するための戦力?しかし核を使うのか?核は南極条約で決められたコロニー落としをはじめとした『大量殺戮兵器の使用禁止』に含まれるぞ……使うとは限らないのでは?)

「いや……」

 クレアは自分が導きだした答えを否定する。

(南極条約はあくまでも戦時条約。一年戦争が終結した宇宙世紀0080年1月1日の時点で失効している。それに条約を締結したのはジオン公国と地球連邦政府。デラーズ・フリートはジオン公国から派生した組織ではあるがジオン公国ではない。条約を締結していないのだから核を使用しても条約違反にはならない)

「つまり……」

 クレアはゆっくりと目を開ける。

「デラーズ・フリートが核搭載の機体を奪ったのは拠点となる場所を奪還するための交渉の道具、そして交渉決裂の際に核を使用して敵戦力を壊滅させた後に力づくで制圧するため?しかしデラーズ・フリートの戦艦数はシーマ艦隊を入れても50を超える程度。占領したとしても連邦が大規模の反撃部隊を派遣すれば持ちこたえることは出来ない。アクシズは連邦と刃を交えようとは思わないだろうから援軍を出すことに難色を示すだろうし……」

 その後一時間、彼女は考えた後

 

「うぅん……ピーマンいらないよ、ひぃいっ!」

 

 悪夢にうなされるのであった。

 

 




今回の話は
①クレアが戦略的な思考は高いとはいえないが分析はしていること。(クレアは拠点奪還のためにガンダム試作2号機を奪ったと読み違えたが、その後の戦力差で拠点防衛は不可能に近いと考える)

②デラーズ・フリートの矛盾点(一年戦争は未だに継続中であると主張しているのに、デラーズ・フリートは明らかに条約違反である核兵器の使用およびコロニー落としを行っている)

③普通は思いつかない、コロニー落としというインパクト(もちろんクレアは夢にも思ってない)

④最後のオチ。

⑤コッセルさんの重要性(クレアの足りないところを補う)
が書きたくて書きました。

こうして見るとデラーズの戦略家&盲信がすごいと改めて気づかされます。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~コッセルの決断~

 デトローフ・コッセル。

 シーマ艦隊No.2の重鎮であり、シーマ不在時には旗艦リリー・マルレーンの指揮を務める厳つい巨漢である。だがその見た目に反して、シーマの仕草や機嫌で彼女が望む命令を察することができるなど細かい気配りまでできる有能な男である。

 そんな男の部屋に少女を思わせる童顔に赤髪のショートヘアの女性士官、クレア・バートンが

 

「やっぱりないですね、エロ本」

 

 ベッドの下を家探ししていた。

「……」

 頭をベッドの下に潜り込ませて尻を出しているクレアに、コッセルは無言で尻を蹴飛ばした。

「うぎゃあああぁぁぁっ! 頭が割れるぅぅぅっ!」

 頭を打ちベッドの下でのたうち回るクレアが臀部(でんぶ)に手を回す。

「ハッ!?し、尻が二つに割れたぁぁぁっ!!」

「尻は最初から二つに割れているだろ」

「あ、そうでした」

 もそもそとベッドの下から出てきたクレア。

(こんなアホがエースパイロットだなんて。……誰も信じないだろうなぁ)

 頭を押さえるコッセルの頭痛のタネは改めて部屋を見る。

「しかし何も無い部屋ですね。面白味のない」

 クレアはため息を漏らす。

 さほど広くない部屋に置かれているのは机にスタンド、書類や本などが納められた小さな本棚。備え付けのベッドとクローゼットだけだった。

「つまんないこと言いに来たんなら部屋から追い出すぞ」

「冗談が通じないですねぇ、コッセル大尉は。では……」

 ベッドに腰を掛け足を組む。先ほどまでのおちゃらけた雰囲気とは一変して真面目な表情でクレアは尋ねる。

「コッセル大尉は、これからシーマ様が幸せになれると思いますか?」

「……それはデラーズ・フリートの傘下に入ったことが間違いということか?」

「そんなことではないです」

 クレアはコッセルにそう言うと話を続ける。

「シーマ様はデラーズ・フリートの情報を連邦に流し、その功績によって我々シーマ艦隊の保障を確保するつもりでしょう。ただ……果たして上手くいくでしょうか?」

「……お前はシーマ様を信頼していないのか?」

「まさか!」

 目の前の少女のような女性は鼻で笑う。

「シーマ様は卓越したMS技術、明解な頭脳、カリスマ、そして容姿。全てを兼ね備えたお方。信頼していないこそがシーマ様に対する最大の侮辱です」

「じゃあ何で『果たして上手くいくでしょうか?』と言う?」

「私は連邦を信用していません」

 クレアは組んでいた足を組み直す。

「シーマ様は頭脳明晰な方。連邦と上手く交渉されるでしょう。しかしそれは連邦の状勢、酷い話だと気分次第で反古にされる可能性が高い。私たちは毒ガス注入(・・・・・)など非人道的(・・・・・・)な作戦を遂行(・・・・・・)してきた(・・・・)B級戦犯(・・・・)。戦場で敵もろともドカーン!……とかやられるかもしれません」

 ニヤッと笑みを見せて握った拳をパッと離す。

「まあそれはないと仮定しても、またジオンと同じように汚れ作業を強制するはずです。我々のことを本当に思ってくれるような人間は、そもそも裏取引なんてしないでしょうし」

「じゃあお前はデラーズ・フリートに味方するのがいいと思うのか?」

「ご冗談を」

 クレアは手を振って否定する。

「デラーズ・フリートがいくら戦力を持っていたとしてもその数は連邦とは雲泥の差。勝てるとは到底思えませんよ。それこそ連邦内で勢力が二分して互いに争い、疲弊しない限り」

「……」

 ははは、と他人事のように笑うクレアにコッセルは尋ねる。

「シーマ様はデラーズ・フリートの傘下に入ることを決めた。でもお前はデラーズ・フリートにも連邦につくにも否定する。何か考えでもあるのか?」

 この問いがシーマの、クレアの、シーマ艦隊の。そしてコッセル自身の運命を変えることになる。

 

「シーマ様にはこの世界の舞台から降りていただき、私がシーマ様になります」

 

「……!?」

 クレアが心酔するシーマを蹴落とし、そのクレアがシーマに成り代わる。その言葉にコッセルは声を出すことも忘れていた。

 クレアは立ち上がるとドアノブに手を乗せる。その背中は、震えていた。

「シーマ様が生きるには……この世界は厳しすぎる。私は……シーマ様に生きてほしい……」

 そう言い残し、クレアは部屋を後にした。

「……」

 一人になった部屋でコッセルは考える。

(確かにクレアの言うことも理解できる。そしてシーマ様をリリー・マルレーンから追い出すメリットも。しかしアイツは考えられていない。もしシーマ様が生きていると知られたら……シーマ様は色々な奴等に命を狙われる。そして俺達がシーマ様を慕っているようにあの人も俺達を必要としている。俺達が死んでシーマ様は幸せな人生を過ごせると思えない)

「それに……」

 とコッセルは続ける。

(自分に反旗を(ひるがえ)す部下を、シーマ様が許すわけがない!例えそれがシーマ様を支え続けた俺やクレアであっても!!)

 コッセルは悩む。しかし、どれだけの時間をかけて考えても最良の答えを導き出すことはできなかった。

 ふとコッセルは机の引き出しから何かを取り出す。それは二つのサイコロだった。

「シーマ様はよく言っているな『どうせこの世は一天地六(いってんちろく)』と。こいつでどうなるか試してみるか……7より大きければシーマ様に6以下ならクレアに!」

 コッセルは壁にかけた帽子を机に置くと握ったサイコロを帽子の中に転がす。コロコロとサイコロは帽子の中で転がり、止まる。

 帽子の中を見るコッセル。出た目は

 

 1と1

 

 だった。

 

 

 



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シーマ・ガラハウに成り代わった女~蜻蛉(かげろう)(さい)を振る者(開戦前)~

 リリー・マルレーンMS格納庫 ゲルググM(マリーネ)コックピット

「……うぅん……くー……」

 シーマMS部隊副隊長を務めているとは思えない童顔の女性士官、クレア・バートンは見た目通りの可愛らしい寝息を立てていた。

 コッセルなどからは『脊髄反射で動いている』と揶揄(やゆ)されるほど考えるのが苦手なクレアは、一時間以上難しいことを考えると頭のバッテリーが切れてしまうのだ。

 そんな彼女が見る夢は嫌いなピーマンか、虐殺に手を染めてしまったシーマに何の力になれない無力な自分に苦しむもの。

 だが、今見ている夢は少し違っていた。

 

 

 ======================================

 

 

 宇宙世紀0078年

 サイド3 軍事教練コロニー ザハト

 ここではシーマ海兵隊など様々な海兵隊が開戦へ向けて出撃準備を行っていた。

 連邦軍を倒すんだといきり立つ者、自分の命を失うことに恐怖して体を震わせる者、ただ時が来るのをじっと待つ者。様々な者がいた。

「ふふっ」

 その中でクレアは口を閉じぎみに笑い声を漏らした。

(私の手柄はシーマ艦隊の手柄。シーマ艦隊の手柄はそれを指揮するシーマ様の手柄。よって私の手柄はシーマ様の手柄につながる。つまり私が手柄を立てれば立てるほどシーマ様は幸せに……)

 尊敬する女性が喜ぶ姿を想像するクレア。しかしその想像は

 

「そうじゃねぇって言ってるだろ!!」

 

 一人の男の怒声によって打ち切られた。

(誰よ!シーマ様の喜ぶ姿を脳裏に浮かべるという至福の時を邪魔するバカアホは!?)

 声のした方を見上げるとそこには二階の手すりから彫りの深い男らしい顔立ちをした金髪の男が指示を出していた。

(あれはグラナダMAUゲール隊隊長、ゲール・ハント中佐……ん?)

 視線の先にいる男が誰かに呼び掛けられ振り返る。振り返った先にいたのはクレアが姉のように慕う上司、シーマ・ガラハウだった。

 シーマと少し話していただけで不機嫌そうな表情だったゲールの顔に笑みがこぼれる。そんなゲールに釣られるように楽しそうな笑顔を浮かべるシーマ。

「シーマ様……」

 そんな二人を見てクレアは笑みをこぼした。

(もしジオンが勝って二人が結ばれたら……私も結婚式に呼ばれるんだろうなぁ。……シーマ様の花嫁姿、きっと綺麗なんだろうなぁ……)

「見てみたいなぁ……シーマ様のウェディングドレス姿」

 純白の衣装に身を包む尊敬する上司を思い浮かべながら、クレアは楽しそうに談笑する二人を見ていた。

 この時のクレアは知るよしもなかった。

 

 視線の先にいる二人を引き裂くように世界が動いていくことを。

 

 

 

 

 

 




MAU(Marine Amphibious Unit) の略称。意味は海兵上陸戦闘部隊。
(参照『機動戦士ガンダム0083 REBELLION 08』20頁)

ここでは語りませんが『機動戦士ガンダム0083 REBELLION 12』はぜひ見て欲しいです。

2019年9月3日時点でお気に入り登録者が100を越えていました。本当に嬉しく思います。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~シーマの誤算~

 シーマがデラーズ・フリート参画を表明した翌日。

 リリー・マルレーン シーマの自室。

 椅子に座るシーマの目の前には副官のデトローフ・コッセルが立っていた。

「シーマ様何かあったんですかい?」

 緊張した面持ちで尋ねるコッセルにシーマは緊張をほぐさせるように軽く笑みを浮かべた。

「コッセル。あんたを呼んだのは他でもない。実はクレアのことでね……」

「く、クレアが何かしたんですかい!?」

 ごくっと唾液を喉に送り込むコッセルを見ながらシーマは続ける。

「クレアが……私に楯突くつもりらしい」

「ッ!?」

 自身と同じ、もしくはそれ以上にシーマを敬愛する女が逆らおうとしているというシーマの言葉に、コッセルは言葉を失った。

「……シーマ様。……その情報はどこからです?」

 絞り出すように言葉を紡ぐコッセルにシーマは答える。

「あいつが部屋から出た時にポツリと独り言を聴いた奴がいてね。『私がシーマ様を……この手で……』と深刻そうな面持ちで、と」

「ま、待ってください!その程度の情報でクレアがシーマ様に反旗を(ひるがえ)すなど天地がひっくり返ってもあるはずが!!」

「もちろん私だって本気でそう思ってはいないさ。だけどもし本当なら遅い。だからこれから一時間後……私はブリッジでクレアに本心を聞き出す。お前は万が一に備えて……部下達に準備をさせろ!!」

「ま、まさか……シーマ様!?」

「言うな!!」

 コッセルの言いたいことを察し、シーマは声を荒らげた。

「あの子と言えど。私に逆らうようなら殺さないといけない……。でないと、他の部下に示しがつかないからね……」

 悲痛な面持ちで言うシーマに、コッセルは「分かりました」と敬礼すると部屋を後にした。

 

 クレア。ゲールに続いてお前まで私を……

 

 自分の前から姿を消した恋人に続いて、妹のように信頼していた腹心が裏切ろうとしている。

 そのことにシーマは歯をギリッと食い縛り額に手を当てた。

 

 

 

 この時。シーマは知らなかった。

 クレアの独り言をシーマに伝えたのがまだリリー・マルレーンの構造を完璧に把握していない新兵で、コッセルの部屋をクレアの自室だと勘違いしてしまったという不運を。

 もしクレアがコッセルの部屋から出たと聞いていれば、コッセルがクレア側に回った可能性を考えて他の部下に命じてコッセルを捕縛。その上で別の者にクレア捕縛の人員を準備させていただろう。

 シーマは知らなかった。

 コッセルがクレアの仲間であると同時にシーマを守る盾だと考えていたことを。クレアがいなくなるということはシーマ艦隊にとって著しい戦力の低下を及ぼすと同時にシーマを守る戦力が無くなることを意味した。

 もしシーマが『クレアを殺さない』と明言していたら、コッセルはシーマを裏切ることはなかったかもしれない。

 しかし彼女は『クレアの裏切りが明確になったならば殺す』と明言してしまった。

 

 シーマにつけばシーマを守る盾が失われ、クレアにつけばシーマの命が助かる可能性が高まる。

 

 シーマを敬愛しているため反旗を翻しシーマに成り代わるというクレアの考えに乗る決断を選ばせてしまった。そのことをシーマは知るよしもなかった。

 

 




筆先文十郎が最近思うこと。
この小説、連載じゃない?


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~すれ違う心。シーマ~

 リリー・マルレーン ブリッジ

「……」

 シーマはコッセルにクレアが反意を見せた際に万が一にも対応できるよう準備をさせる指示を出すと、その張本人が来るのを待っていた。

「おはようございま~す、シーマ様!……って何か今日は重々しい雰囲気ですねぇ。何かあるんですか?」

 ブリッジに入る童顔で赤髪をショートカットにした女性士官、クレア・バートンはシーマに挨拶を終えると不思議そうに辺りをキョロキョロと見渡した。何も知らない、無邪気な言動を見せるクレア。しかしその影で僅かに発せられる緊張をシーマは読み取った。

シーマは真剣な表情でクレアを見る。

「クレア。あんたは私に隠し事をしてないかい?」

「隠し事ですか?……う~ん」

 クレアは腕を組んで考える。

「隠し事隠し事……隠し事は『書く仕事』。……なんちゃって!」

 てへっと舌を出して笑うクレア。

(あくまでごまかすつもりかい?それとも……本当に反旗を翻すつもりはない?いや!!)

 目の前の少女のような部下の反応にシーマは覚悟を決めた。

「クレア!猿芝居はいい加減にしな。あんたが私に楯突こうとしているのは見抜いているんだよ!証拠は既に上がってる!!」

 シーマは虎の毛皮が掛けられたソファーから立ち上がり、扇子でビシッとクレアを指し言い放った。もちろん決定的な証拠などないハッタリだった。

「ッ!?……ふふっ。さすがはシーマ様だ」

 クレアの表情が変わった。「シーマ様!」と慕う無邪気な表情から野心を秘めた邪悪な表情へと。

(まさかクレア。本当に私を……この愚か者め!)

 信じたくはなかった。妹のように可愛がり、戦場に立てば右腕として活躍する部下の裏切りを。

 しかし裏切りを確信してしまった以上、シーマに彼女を許すという選択はできなくなった。いかにクレアがシーマに多大な貢献したとしても、明確な反意を見せた部下を許せばシーマ艦隊の秩序が乱れるからだ。

(クレア……バカな子だよ!)

 シーマが扇子を振り上げると先ほどまで様子を伺っていた部下たちが一斉に銃に手をかけた。

「クレア、最後に一つだけ聞いておきたい。なぜ私を裏切ろうとする!?」

「……裏切り?裏切りですって!?」

 それはこちらの台詞だと言わんばかりにクレアはシーマを睨み付ける。

「裏切られたのは私の方ですよ。私はもっと出世したかった。そのためには有能な上官の下につくのがもっとも簡単で有効な手段と考えてシーマ様の所に来たのですよ。人事の人間を脅迫して(に頼み込んで)ね。でも来てみればコロニーの人間を虐殺するなど汚れ作業ばかりで出世は望めず更にはB級戦犯という汚名を着せられて……もう最悪ですよ。だから私はシーマ様を裏切ろうとしたのですよ!!」

「それが本心か!?クレア!!」

 シーマは心の中で投げかけ扇子を降り下ろそうとした。しかしそれはできなかった。なぜならば部下たちが構える銃口の先は自分自身だったからだ。

 コッセルを始めとする部下達がクレアの後ろに集まる。

 意味が分からなかった

「どういうことだ、クレア!?」

「ふふふ、私は故あれば寝返るのですよ」

 自分に反意を示した部下達の先頭に立つ少女のような女軍人を睨みつける。

「戦場と言う舞台に貴女の居場所はない、ということですよ。シーマ様」

 クレアはニヤニヤと笑う。

 シーマは信じられなかった。妹のように可愛がり、戦場では右腕として信頼できる部下の衝撃の言葉と反逆行為。そしてそのクレアと同等に信頼するデトローフ・コッセルを始めとする部下達がクレアについたことに。

 信頼していた、家族同然に思っていた部下達の裏切りにシーマはその場に崩れ落ちた。

 彼女の立つ力を失わされた。

 そんなシーマに追い討ちをかけるようにクレアはとんでもない一言を放つ。

「安心してください、シーマ様。歴史舞台から姿を消す貴女に代わって私がシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)になりますから」

「ッ!?」

「じゃあどこかに行ってください、私のそっくりさん(・・・・・・・・)

 クレアが顎で「連れていけ」と指示を出す。

「くそっ!離せっ!離せっ!!」

 二人の屈強な元部下に両脇を掴まれ、我に返ったシーマは抵抗する。

 しかし裏切られたショックから完全に立ち直っていない身体では男二人を払いのけることなど出来るわけもなくシーマはブリッジから追い出された。

 

 

 

 その後リリー・マルレーンを追われたシーマは星の屑が終了するまで月に軟禁されることとなった。

 

 なぜあのクレアが私を裏切ったのか。

 

 そのショックと共に。

 




筆先文十郎の一言。
第1話、いらなくね?



次回『シーマ・ガラハウに成り代わった女~すれ違う心。クレア~』投稿予定。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~すれ違う心。クレア~

 リリー・マルレーン ブリッジ扉前

「……」

 尊敬するシーマと共に数々の戦場を駆け抜け、生き抜いてきたクレアの勘が扉の向こうから緊張した気配を感じ取った。

(……どうする、私?)

 自分自身に問いかける。しかし何か起きた時のためにブリッジで控えているのは彼女の習慣であり、何よりシーマの顔が見られないのが苦痛で仕方なかった。

「……行こう」

 自分にしか聞こえない、それでいて力強い声でクレアはブリッジへ足を踏み入れた。

「おはようございま~す、シーマ様!……って何か今日は重々しい雰囲気ですねぇ。何かあるんですか?」

 クレアは普段と同じように明るく振る舞いながらシーマに挨拶を終えると不思議そうに辺りをキョロキョロと見渡した。

(やはり何かあるみたいね)

 普段なら明るくなるブリッジが緊迫した空気を保ち続けている。そして何よりいつもなら呆れるシーマが自分を睨むように見ていたことに、クレアは嫌な予感が気のせいではないことを確信した。

 それでもいつもの自分を演じるクレアにシーマは真剣な表情で尋ねた。

「クレア。あんたは私に隠し事をしてないかい?」

「隠し事ですか?」

 クレアは「……う~ん」と首を傾げ腕を組み、愛らしい部下を演じながら本気で考える。

(やはりこれは昨日コッセル大尉に話したことか?……いや、しかしまだこちらが何も動いていないのに疑惑を持たれるのは早すぎる。……まさか、コッセル大尉が昨日のことをシーマ様に!?)

「隠し事隠し事……」と呟きながらコッセルを見る。

「……」

 コッセルはスッと視線を外した。

(やはりコッセル大尉が!?……いや違う!!)

 自分の疑念を否定する。

(それならシーマ様はブリッジに私が来る前に私を拘束させているはず。つまりこの不穏な空気は昨日とは別のこと、もしくは何らかの形で私の話した内容を聞いたが確証は得ていないということか?……もう少し様子を見てみよう)

「隠し事は『書く仕事』。……なんちゃって!」

 てへっと舌を出して笑いながらクレアはシーマの反応を伺う。

 そんなクレアを見てシーマの表情はますます険しくなった。

「クレア!猿芝居はいい加減にしな。あんたが私に楯突こうとしているのは見抜いているんだよ!証拠は既に上がってる!!」

 シーマは虎の毛皮が掛けられたソファーから立ち上がり、扇子でビシッとクレアを指し言い放った。落雷のような怒声にクレアは

「ッ!?」

 一瞬驚いた後に心の中で自嘲した。

(シーマ様に成り代わって助けたいと思った傲慢のツケ。という所か……)

 クレアは覚悟を決めた。

(私はシーマ様に反旗を翻そうとしたのだ。ならばシーマ様のために生け贄になろう!シーマ様に楯突く者はこうなるのだという見せしめに!!)

「……ふふっ。さすがはシーマ様だ」

「シーマ様!」と慕う無邪気な表情から野心を秘めた邪悪な表情へと表情を変えたクレアにシーマはわなわなと体を震わせた。

 怒りで顔を真っ赤にさせたシーマが扇子を振り上げると先ほどまで様子を伺っていた部下たちが一斉に銃に手をかけた。

 内心蜂の巣になるのを覚悟したクレアをシーマはじっと見る。その瞳の奥にはまだ自分を許そうとする慈悲が残っているのをクレアは感じ取った。

「クレア、最後に一つだけ聞いておきたい。なぜ私を裏切ろうとする!?」

(演じろクレア!シーマ様が迷うことなく処罰を与えられる、ゲスな小者を!!)

 今ここでシーマに手心を加えさせれば他の部下に示しがつかなくなる。そうなればシーマのカリスマに傷がつく。

「……裏切り?裏切りですって!?」

 そう考えたクレアはシーマの憎悪を駆り立てるように睨み付けながらその場で思い付いた嘘を言い放つ。

「裏切られたのは私の方ですよ。私はもっと出世したかった。そのためには有能な上官の下につくのがもっとも簡単で有効な手段と考えてシーマ様の所に来たのですよ。人事の人間を脅迫して(に頼み込んで)ね。でも来てみればコロニーの人間を虐殺するなど汚れ作業ばかりで出世は望めず更にはB級戦犯という汚名を着せられて……もう最悪ですよ。だから私はシーマ様を裏切ろうとしたのですよ!!」

「それが本心か!?クレア!!」

 扇子を降り下ろそうとするシーマに

 

 シーマ様。シーマ様の傍にいれて幸せでした。あの世でシーマ様の御活躍を……。

 

 クレアは目を閉じて感謝の言葉と共に、詫びた。しかしいつまで待っても銃弾はクレアの肉体を貫くことはなかった。

(……え?)

 クレアは後ろに視線を移す。そこには自分ではなくシーマに銃口をむける仲間達の姿があった。

 コッセルを始めとする部下達がクレアの後ろに集まる。

 意味が分かった。コッセルを始めとする仲間達が自分の考えに賛同したのだと。

「どういうことだ、クレア!?」

 動揺するシーマに悟られないように、クレアは豹変(ひょうへん)した部下を演じる。

「ふふふ、私は故あれば寝返るのですよ」

 自分を睨みつけるシーマにクレアは続ける。

「戦場と言う舞台に貴女の居場所はない、ということですよ。シーマ様」

 ニヤニヤと裏切った部下を演じるクレアに、家族同然に思っていた部下達に裏切られたと本気で思い込んだシーマがその場に崩れ落ちる。

 そんなシーマにクレアはとんでもない一言を放つ。

「安心してください、シーマ様。歴史舞台から姿を消す貴女に代わって私がシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)になりますから」

「ッ!?」

「じゃあどこかに行ってください、私のそっくりさん(・・・・・・・・)

 クレアは顎で「連れていけ」と指示を出す。

「くそっ!離せっ!離せっ!!」

 二人の屈強な元部下に両脇を掴まれ、我に返ったシーマは抵抗するが裏切られたショックから完全に立ち直っていない身体では男二人を払いのけることなど出来るわけもなく、シーマはブリッジから追い出された。

 

 

 

 シーマが部屋から連れ出されると、クレアは先ほどまで馬鹿にした笑みを浮かべていたのにかわり暗い表情を浮かべた。

「クレア……」

 そっとコッセルがクレアの頭にポンと手を乗せる。

「これしか、私には思いつかなかった。シーマ様が……幸せになる方法は」

「……」

「シーマ様は私たちのためにずっと苦しんできた。もうそろそろ肩の荷を下ろしてもいい頃よ」

 今にも泣き出しそうなクレアに、コッセルは励ますように頭を撫でながら呟いた。

「そうだな……これから頼むぞ、クレア……いやシーマ様(お頭)

 その場にいた仲間達もクレアを「お頭」と次々に声をかける。

「みんな……」

 今にも溢れそうな涙を袖で拭い、先程までシーマが座っていた虎の毛皮が掛けられたソファーにクレアは腰を下ろした。

 

 

「これより私がシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)だ!みんなの命、この私が預からせてもらうぞ!!」

 




ついにクレアがシーマを追い出すことに成功。

次回『シーマ・ガラハウに成り代わった女~虎の衣を借る狐~』投稿予定。
茨の園でデラーズ&ガトーと対面。

2019年9月7日0時
160人以上の方がお気に入りしてくださり、11名の方が評価してくださり、10の感想をくださる。
アムロじゃないですけど「こんなにうれしいことはない」です。
皆さま本当にありがとうございます。


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柊竜真氏に突っ込まれたこと

タイトル通り筆先文十郎の大学時代からの親友であり本作の協力者、柊竜真氏に突っ込まれたことです。

ネタバレ要素がありますので嫌な方は読まないことをおすすめします。

順番不問。もしかしたら変わる可能性あり。

筆先文十郎(以後筆)
柊竜真氏(以後柊)


質問①

柊:クレアとシーマは似ているの?

回答①

筆:全く似てない。声はSEEDのフレイ・アルスターとナタル・バジルールくらい似ていない。

 

 

質問②

柊:この作品だとデラーズ生きているけど。アクシズからすれば邪魔じゃない?星の屑の戦果を楯に口出しするんじゃない?ハマーン(マハラジャ?)が黙ってないんじゃない?

回答②

筆:よし。デラーズ殺そう。病死説や暗殺説が飛び交う死に方で。

 

 

質問③

柊:エタらない?

回答③

筆:……頑張ります。

 

 

質問④

柊:最初と最後(最初と星屑の女神)だけで終わらせた方がよくなかった?

回答④

筆:後日談&補足のつもりが……。

 

 

質問⑤

柊:シーマがクレアに代わったことに気づく人はいるの?

回答⑤

筆:少なくともエギーユ・デラーズ、アナベル・ガトー、アナハイムのオサリバン常務、クラウド・カーツ(ゲール・ハント)の4名は気づく。

デラーズは『大事の前の小事』ということで黙認。ガトーはデラーズの判断に従う。オサリバンは『関係を継続して損はない』という打算。

 

 

質問⑥

柊:このままだとガンダム試作3号機強奪する話も考えないといけないんじゃない?『強奪しました』じゃあ読者の方も納得しないでしょう。

回答⑥

筆:で、ですよね……(考えないと)。

 

 

質問⑦

柊:ガンダム試作4号機(ガーベラ・テトラ)はどうするの?

回答⑦

筆:原作と違ってオサリバンとシーマの関係が薄くなるから封印されていると思われる。

 

 

質問⑧

柊:連邦はアクシズにデラーズ・フリートの引き渡し要求しないの?

回答⑧

筆:デラーズは死亡。ガトーは殉死(じゅんし)(という形でアクシズの教官に)しているから身柄引き渡しには応じることは出来ないと拒否する。兵士レベルにまで追及したら連邦内でも反発が大きくなると思われるから兵士の引き渡しまでは要求しないと思う。

 

 

質問⑨

柊:なんでクレアはガンダム試作3号機に乗っているの?

回答⑨

筆:最後の包囲網突破で味方の撤退を援護できる機体がガンダム試作3号機しか思い付かなかったから。ゲルググ・マリーネ、ガーベラ・テトラではどう考えても火力不足。

原作ほどガトー&ノイエ・ジールが消耗していないとしても囮なしでアクシズ艦隊と合流するのは難しい。デラーズの乗るグワデンもあるから単独で敵陣突破も考えられない。

 

 

質問⑩

柊:ゲール・ハントはどうなるの?

回答⑩

筆:漫画(『機動戦士ガンダム0083 REBELLION』)では(ネタバレ防止のため中略)するけどこの物語では生き残る。クレアのとんでもない発言によって。




虎の衣を借る狐は23時頃には投稿できるよう執筆中です。

ところで0083のアクシズの摂政ってハマーン?それともマハラジャ?
誰でしたっけ?


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~虎の衣を借る狐~

 茨の園 デラーズ・フリート旗艦『グワデン』。

 豪華な造りと壁面に掲げられたジオンの軍旗、ギレンの胸像がある白亜の大ホールで地球圏最大のジオン軍残党『デラーズ・フリート』の領袖(りょうしゅう)、エギーユ・デラーズとガンダム試作2号機を奪取し帰還した『ソロモンの悪夢』、アナベル・ガトーは

 

「「!?」」

 

 扉の前に立つ一人の女性を見て固まっていた。

「デラーズ閣下。シーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)ただいま参りました」

 赤いジオン(・・・・・)の軍服を纏った(・・・・・・)赤髪のショートヘアの女性が椅子に座るデラーズの前に立つと膝をついて挨拶をした。

 さもそうするのが当たり前のように行う謎の女性にデラーズは軽く咳払いをする。

「う、うむ。待っておったぞ、シーマ・ガラハウ中佐。……ところで。貴公は本当にシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)か?」

 尋ねるデラーズであったが、彼はモニター越しでシーマと直接会話をしている。

 その時のシーマは背中まである艶やかな黒髪が印象の成熟した色気の漂う女性。しかしシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)と名乗る目の前の女性は歴戦の勇士にしか漂わせることができないオーラを醸し出すものの、幼い顔立ちに起伏に乏しい体つきから子どものような印象だ。

「これは面白いことを聞かれますね、デラーズ閣下」

 デラーズの疑問に謎の女性は微笑を浮かべる。

「シーマ艦隊とはシーマ・ガラハウという女性が指揮する艦隊。そして私はシーマ艦隊を指揮している。よって私がシーマ・ガラハウ。……これに何の疑問がありましょう?」

「……」

 何かを言おうとしたデラーズの言葉を塞ぐように、謎の女性が口を開く。

「閣下。閣下は『とある名工が作った赤錆(あかさび)まみれのボロ刀』と『誰が作ったか分からないがよく斬れる名刀』、どちらをお使いになられますか?」

「……!」

 デラーズは悟った。目の前の女性が『シーマ艦隊を追い出された本物のシーマ・ガラハウ』と『シーマ艦隊を指揮する謎の女(自分)』のどちらを取るのか、と。

「フフフ、フハハハハハハッ!」

 自分がシーマ・ガラハウではないと見抜かれているにもかかわらず自分の重要性をアピールする謎の女性の豪胆さに、デラーズは気に入った。

シーマ(・・・)よ。貴公とシーマ艦隊の参画、改めて感謝する。ところで」

 口髭を触りながらデラーズは尋ねる。

「貴公が一年戦争後の3年間で得た一番の教訓。あれは何て言っていたかな?」

「『大義だけでは(・・・・・・)部下たちを(・・・・・)食わしては(・・・・・)いけない(・・・・)』、でございます。デラーズ閣下」

「……ふふ、そうだったな」

 デラーズは苦笑する。

 

 大義だけでは部下たちを食わしてはいけない。

 

 これはデラーズが『そなたもいつまでも蜻蛉(かげろう)のように宇宙をさまよっていても成り立つまい』と言った時にシーマ本人が返した言葉である。

 それをあたかも本人のように答えた目の前の赤髪の女性はあの場にいた。つまりシーマの側近だとデラーズは悟った。

「ではデラーズ閣下」

「うむ。星の屑の詳細はすぐに貴艦のリリー・マルレーンに届けさせる」

 謎の女性はデラーズに一礼するとガトーに歩み寄った。

「お久しぶりですガトー少佐。カラマ・ポイント以来でしょうか?」

 意味深な笑みを浮かべる謎の女性にガトーは嫌悪感を露にした。

 シーマ艦隊がデラーズ・フリートの傘下に入ったと知った時のガトーは不快な感情しか持たなかった。

 一方でガトーはシーマを『常勝の武士』とその実力を認めていた。

 今目の前に立つ女性はシーマに成り代わった、シーマにも劣る偽者でしかなかった。

「……虎の威を借る狐め」

 

 お前のような偽者とは話す舌を持たん。

 

 ガトーは謎の女性を睨み付ける。だが目の前の女性は予想だにしない行動を取った。

 

「虎の……ふふ、あはははははは!」

 

 腹を抱えて笑いだした。それは侮辱や本音をつかれて動揺するのをごまかす笑いではなく、楽しいことに純粋に笑う子どものようだった。

「……」

 呆気にとられるガトーに謎の女性は目に溜まった涙をぬぐう。

「まさか少佐がここまでユニークな方だったとは……もっと早くお会いしたかったですね」

 そう言って謎の女性は二人に「それでは、失礼致します」と一礼すると何事もなかったかのように退席した。

 

 ガトーは知らなかった。シーマが座るソファーには白い虎の毛皮が掛けられていることを。謎の女性が身に纏った赤いジオンの軍服は本物のシーマの物であったことを。そして謎の女性が『虎の《威》を借る狐』を

 

 (シーマ)の《衣》を借る(クレア)

 

 と脳内で変換したことを。

 

 



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シーマ・ガラハウに成り代わった女~ガトーの進言~

 クレア(シーマ)バートン(ガラハウ)が白亜の大ホールを去った後、ガトーはデラーズの前に立つ。

「閣下。閣下はなぜシーマ艦隊を『星の屑』に加えたのですか!?」

 自身の決定に意見を言う腹心の態度にデラーズは苦笑を浮かべる。

「お前の留守中にシーマを加えたのはすまなかった。しかしお前は反対したであろう」

「閣下もカラマ・ポイントでご存知のはずです!……シーマ(あの女)は危険だと。たとえ常勝(じょうしょう)武士(もののふ)といえど、この宇宙(そら)に希望をもたらす存在ではありません!ましてやあの者はシーマ・ガラハウに成り代わった偽者。そしてあの狐からもシーマと同じ黒々としたモノを感じました!!」

「閣下」と一度区切る。これから言う言葉を強調するように。

「シーマにも劣るあの狐は必ずや栄光あるジオンに仇なす存在になるでしょう。どうかこのガトーに『あの狐を討て』と御命じください!!」

「フフフッ……いつもながらお前の言葉は汚れなき清流のようだな」

 真剣な表情で言う部下の進言に頼もしさを感じながら、デラーズはスッと席を立つ。

「ア・バオア・クーをよく覚えているな?」

「忘れようがありません閣下にこの命拾われました」

「そうではない。あの日お前はジオンを再び(おこ)すために生まれ変わったのだ。その心こそが大義。大義を成さんとするものが小事にこだわってはならん!!星の屑作戦を成功させるためにはお前が奪取したガンダムと我が艦隊戦力の充実が不可欠だったのだ!!……ガトーよ、広くモノを見よ!!」

「……閣下。心……洗われました」

 諭すように目を細めるデラーズに、ガトーは自分の甘さを恥じて頭を下げた。

「あの者は私が導く お前は後顧の憂い無く大義を貫くのだ」

「ハッ!!」

 模範となる敬礼をデラーズにするガトー。その時だった。

『デラーズ閣下!』

 モニターに報告する部下が映る。

「何事だ?」

 特に慌てる様子も見せず、デラーズはモニターの部下に尋ねる。

『茨の園に連邦の戦艦が接近中であります!』

「閣下!このガトーに迎撃のご命令を──」

『それには及ばないよ』

 モニターに一人の女性が映し出される。それは先ほどまでデラーズ達の前にいたシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)だった。

『閣下。このシーマ(・・・)、デラーズ・フリートに参入してから未だ閣下のお役にたっておりません。デラーズ閣下。どうかシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)に迎撃のご命令を!』

「うむ!シーマよ、貴公に命ずる。接近する連邦軍を駆逐せよ!」

『ハッ!』

 そう言うとシーマ(・・・)はその様子を見ていたガトーに語りかける。

『少佐。これからは楽させてあげるよ。せいぜい、ガンダムでもしっかり磨いておくんだねぇ』

 そう言うとモニターから姿を消した。

(女狐め……!)

 連邦軍艦隊の迎撃に参加できない自分に自信と侮蔑が(こも)った台詞を言う女を、ガトーは苦々しく思うしかなかった。

 

 

 

 

 




どんだけ偽シーマ嫌いなんだ、ガトー。まぁ、怒りという名の黒々としたモノは持ってますが。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~シーマ(クレア)初陣前編~

 リリー・マルレーン ブリッジ

 デラーズに接近する連邦軍を迎撃する任務を志願し、受け入れられた後。クレアの傍に立つコッセルがニヤリと笑う。

「いいんですかい?お頭。こっちが志願しなければガトー辺りが勝手に迎撃に行ったでしょうに」

 厳つい男に釣られるように童顔の女もニヤリと笑う。

「挨拶代わりさ。あのデラーズ(ハゲヒゲ)ガトー(クソガキ)も……私がシーマ様(本物)じゃないと気づいているからね。少しでも印象をよくしておかないとね」

 シーマが愛用していた扇子(せんす)でクレアは髪を()き上げる。

「しかし、まさかあそこまであっさりデラーズ(ハゲヒゲ)が私を認めてくれるとはねぇ……。これならあの時ガトー(クソガキ)をちょっと脅かしておいてもよかったかも」

 クレアが言うあの時とは、ガトーとガンダム試作2号機を載せたムサイ級ペールギュントが連邦軍の追撃を()いた後に茨の園へ入港しようとしていた直後の事である。

 リリー・マルレーンとペールギュントがすれ違いそうになった時に、部下の一人が新参者からの挨拶(・・)をするべきでは?とニヤニヤしながらクレアに進言した。しかしクレアは「デラーズの心証が悪くなる」と言ってペールギュントの進入航路に割り込ませるという行動をさせなかった。ちなみにもしリリー・マルレーンが進入航路に割り込みペールギュントに衝突すればペールギュントの乗務員はもちろんのこと、星の屑の中心人物であるガトーと本作戦の要であるガンダム試作2号機を失うことになりかねず、星の屑が水泡に帰ることになりかねなかった。

「ま、終わったことは仕方がないか!」

 高笑いするクレアにコッセルは苦笑する。

(やれやれ。クレアだと理解していても、こうもシーマ様と雰囲気が似るとはなぁ。しかもこういうシーマ様と錯覚しそうな時は声まで似やがるからついシーマ様に見えてしまう……)

 

 シーマ様にはこの世界の舞台から降りていただき、私がシーマ様になります

 

 クレアが心酔するシーマを蹴落とし、そのクレアがシーマに成り代わる。自身の部屋でこの台詞を聞かされた時の自分の心境を、コッセルは鮮明に覚えている。そして声は似ている時はあるが容姿がまるっきり違うクレアにシーマ様に成り代わることができるのかと。

 しかし目の前にいるクレアは容姿こそ違えど、佇まいや扇子を扱う細かい仕草などシーマ・ガラハウそのものだった。

「さて、デラーズ(ハゲヒゲ)に任せてくださいと言った手前、動かないわけにはいかないねぇ」

 そう言って立ち上がるクレアを見て、コッセルは部下に命令を下した。

 

 

 

「お頭の出撃だ!!お頭のゲルググを用意しろ!!」

 

 




ひとつお詫びしたいことがあります。筆先文十郎、ロボット物の格闘描写が苦手です。
その際、それを得意な親友&協力者の柊竜真氏にお願いしています。つまり

筆先文十郎がある程度書く→柊竜真氏が戦闘描写を書き加える→筆先文十郎が擦り合わせる

という作業が必要になります。
次は戦闘描写があるシーンなので続きは少しお休みをいただきます。
その間筆先文十郎が本作を考える過程で思い付いた埋めネタを投稿しようと考えてます。

本作を楽しみにされている読者の皆さま、誠に申し訳ありません。


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埋めネタ めんどくさい恋人

ほぼ毎日更新している理由が明らかに。

オリジナルキャラクターですが、ガンダム通なら元ネタを判ると思います。


「ふぅ……」

 一人の男が公園のベンチに倒れるように腰を下ろした。

「こうして気分転換に出たのはいいものの、なかなかネタはないもんだな」

 男はポケットの中に入れていたクタクタのメモ帳を取り出す。その中には『女子高生 催眠』など書いた本人しかわからない言葉が乱雑に記されていた。

「どっかに小説のネタ落ちてないもんかねぇ」

 男が一度空を見上げた後大きくため息をついた。その時だった。

「……」

「待ってくれ!僕の何がいけないんだ?」

 フリルがたくさん施された赤いワンピースを着た金色の髪を背中まで伸ばした仮面の女を、男も美男子と認めざるを得ない男が公園に入ってきた。

「待ってくれ!紫亜(しあ)!」

「離して、牙留真(がるま)!」

 腕を掴む牙留真を振り払おうとする紫亜、しかし牙留真は離さない。

「納得のいく答えを聞くまで離すことは出来ない!」

 その言葉に仮面の女は「わかったから離して」と言うと、美男子は彼女の腕から手を離した。

「牙留真、私はあなたのことを一人の男として魅力的に思っている」

「だったら何故!?」

「あなたは数多くの国会議員を始めとする権力者とも繋がりのある大金持ちの名家、三火(ざび)家の御曹司。私はたった少しの研究資金を出してもらうために色々な所に頭を下げ続けるしがない教授の娘。あなたとは立場が違うわ」

「そんなこと僕と君を阻む障害にはならない!」

 その言葉に仮面の女は非難の涙を流す。

「あなたは分かっていない。あなたの言う『そんなこと』がどれだけ分厚く、そして高い壁なのか……あなたは何一つわかっていない!」

「……!?」

 女の言葉にショックを受けたのか美男子はショックで2、3歩後ずさる。

「分かった。でも一つだけ賭けをさせてくれ。それに負けたら僕は君のことを諦めよう。でも僕が賭けに勝ったら 僕と付き合ってくれ」

「その賭けとは?」

 この時、二人のやりとりをベンチから男はとんでもない目に合うことになる。

「そこのベンチで座っている男が小説家志望の男だったら、僕と付き合ってくれ!!」

「!!??」

(えええ!? 何を言ってるんだこいつ!?)

「何を言ってるのそんなわけあるわけないじゃない!」

「いや彼は小説家志望の男のはずだ。その証拠にハーメルンに5分以内に小説を投稿するはず!」

 男は時計を見る。

 

 2019年08月24日(土) 17:36

 

(うおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!)

 男は急いでiPadを取り出すと途中まで書いていた作品を投稿した。

 

 2019年08月24日(土) 17:40 投稿

 

「ふう」

 男は額の汗を拭う。

「ちょっと待ってそこの男が投稿した小説じゃないかもしれない。もう一つ取得があるはずだから 10分以内にまた投稿するはずよ」

(何を言い出すんだよ!!うおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!)

 男は急いでiPadを取り出すと途中まで書いていた作品の続きを投稿した。

 

 2019年08月24日(土) 17:50 投稿

 

「わかったわ、牙留真」

 仮面の女の言葉に笑顔を見せる美男子とほっと胸を撫で下ろす男。しかし仮面の女に男はとんでもない目に合うことになる。

 

「もしそこの男がその小説で9月までにお気に入り登録数300を達成したら一緒に住んであげる」

 

「!!??」

 男は二人を見る。そこには「しなかったらどうなるかわかっているだろうな?」と無言の脅迫をする二人が男を睨み付ける姿があった。

 

(人を自分らの人生に巻き込むな!!あとお気に入り登録数300ってどんだけ難しいか分かっているのか!!)

 そう心のなかで叫んだ男は続きを書くため家へと走った。

 

 

 




300達成したらめんどくさい同棲を投稿します。

三火牙留真(ざび がるま)
三火家の御曹司。由来は機動戦士ガンダムのガルマ・ザビ。

池田紫亜(いけだ しあ)
しがない教授の娘。由来は同上のシャア・アズナブルとその声優の池田秀一氏。

あとお気に入り登録数100ある人って本当にすごいと思います。自分もいくつか頂いてますが、それ以上にない方が多いのでつくづく思います。


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埋めネタ はかったな、キシリア!!

ギレンに○○するキシリアの謀略を見破るデラーズ。
コメディです。


 |0079年12月31日。宇宙要塞 ア・バオア・クー 要塞司令部

「……モグ、ゴクンッ!ムシャムシャ……フフフフフッ。圧倒的じゃないか、ジュジュー!……モグモグ、我が軍は!」

 スリムな体型からは程遠い、ぶくぶくに太ったギレン・ザビはジューシーで分厚いパテが挟まったハンバーガーをほとんど咀嚼(そしゃく)せずにコーラで流し込み、人肌まで温度が下がったポテトをほとんど噛まずに飲み込みながら目の前の戦況に愉悦を漏らした。

「何もここまで太ることはなかったですな、総帥」

 そんな記念に後ろから実妹のキシリアが声をかける。その手にはいつのまに調べたのだろうか、今現在のギレンの体重や体脂肪率などが記された紙が握られていた。

「……じょ、冗談はよせ!」

 密かに激太りしていたことを気にしていたギレンは、その紙を見て体中から大量の汗を流し小刻みに体を震わせる。

「こんな短時間で激太りした兄上を知れば……国民はどう思うでしょうか?」

「……ッ!」

 何も言えずただ唇を噛み締めるしかないギレンにキシリアはさらに追い詰める。

「190㎝という高身長にスリムな体型、そしてIQ240という類まれなる頭脳。そんなに兄上が戦況の悪化によるストレスで暴飲暴食に走り、短期間の(あいだ)に豚のように太ってしまったと知れば…… 敵はおろか兄上を慕っていた兵士たちはどう思うでしょうか?」

「……ッ!!」

 今まで積み重ねてきた自分のイメージが崩れる姿を想像し、ギレンは椅子からずり落ちそうになるのを何とか()えるしかなかった。

「頭のいい兄上ならば……これからどうすればいいかお分かりでしょうね?」

「あぁ……」

 妹の言っている意味を悟ったギレンは青ざめた顔でふらふらと椅子から立ち上がった。

「キシリア……後を頼む……」

 

 

 ======================================

 

 

 グワデン ブリッジ

「何ッ!ギレン閣下が今ジオン公国で有名なフィットネスクラブに行かれただと!?」

 戸惑う部下からの報告にギレン・ザビの腹心、エギーユ・デラーズは思わず椅子から立ち上がる。

「はい!それによりア・バオア・クーの指揮権がキシリア様に移行されました!!」

「……ッ!」

 灰色の脳細胞を持つデラーズは要塞司令部から遠く離れた戦場にいるにもかかわらず部下からの報告だけで要塞司令部で何が起こったのかを悟ったデラーズは苦々しく呟いた。

 

 

「(ギレン閣下の体重を)(はか)ったな……キシリア!!」




発想の元ネタは大和田秀樹先生の機動戦士ガンダムさんに登場するガルマの「はかったな、シャア」です。

後々になっていくと『はかった』ではなくなっていきます。ガンダムキャラのイメージがメチャクチャ崩れてもいいと思う人は一度読んでみてもいいかもしれません(あまりのかけ離れた設定にシャアの声優、池田秀一さんはあまりよく思われなかったとか。ちなみにテレビアニメ版のキャストは小西克幸さん)


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~シーマ(クレア)初陣後編~

今回も大学時代の親友、柊竜真氏に一部書いていただきました。
(戦闘描写ってどうやったら書けるんですかねぇ汗)


 このままいけば茨の園を発見する可能性があったサラミス級2隻をリリー・マルレーンは離れたところに誘導することに成功。 この2隻を撃沈しても大丈夫と踏んだクレアは モビルスーツ部隊を率いて出陣した。

 コックピットの画面に上司(副官)であり共謀者のコッセルの顔が映し出される。

「お頭ぁ、大漁を!!」

「あいよっ!!」

 威勢よく応えるとクレアの乗るシーマ専用ゲルググMは片側カタパルトを滑走、一気に飛び出した。

 クレア率いるMS部隊に応戦するためサラミス級2隻から10機のジム改が出撃する。

「よしグルト、カナフ、ケレン、ザナヴは右を相手にしろ」

『お頭は?』

「私は左を相手する」

 グルトからの問いに直ぐ返答すると、クレアは軽く息を吸った。

「いいかお前たち!これは単なる迎撃戦ではない。デラーズ・フリートにシーマ艦隊の強さを見せつける戦いだ!圧倒的な力の差を見せつけ敵を一方的に蹂躙(じゅうりん)するんだよ‼」

 

『『『『ハッ!!』』』』

 

 宣言通りクレア機が左側のサラミスに、グルトを先頭とするゲルググMが右側に展開した。

 グルトらが敵機と応戦し始めたのを確認したクレアは前方を見る。

「さて、やりますか」

 こちらを捉えた敵機も攻撃を始めてきたのを見てクレアはニヤリと笑う。

「はっ!そんな豆鉄砲当たってたまるか!」

 自分に向けて放たれた銃弾をクレアは回避する。

 リリー・マルレーンと2隻のサラミスの間でいくつもの閃光が交錯する。

「さて、避けるばかりも飽きてきたからね。ヤらせてもらおうか」

 クレア機の手には他のゲルググMとは異なる大型の武器が握られていた。

 MRB-110式ビームライフルである。

 単機で相手をしようとするクレアに怒りを覚えたのか、展開したジム改が同時に迫った。

 手持ちのブルパップ・マシンガンを撃ちながら、クレア機との間を詰める。

「甘いわ!」

 クレアはすかさず敵機のマシンガンの弾丸をかわす。

 頭部のバルカンで牽制しつつ敵機の頭部から胸部にかけて撃ち、急加速し距離をとった。

「そいさっ!」

 モニター越しに映し出された照準をロックオン。電子音が鳴り、引き金を引いた。

 ビームライフルから発射された光弾はジム改の胴体を直撃、ジム改は爆散した。味方機の撃墜を目の当たりにした敵機はマシンガンを撃つ。だが

「見え見えなんだよ!」

 クレアは相手の動きが手に取るように分かっていた。

「いただきっ!」

 クレア機は転回しながらもう一機を捉え、撃ち落とした。

「まだまだこんなもんじゃないさね!」

 弾幕を掻い潜りつつ次々と敵機を撃ち落としていく。頭部のバルカンを撃ちながら、すかさずビームライフルを左手に持ち替えて、筒状の装備を起動させた。

 対応したジム改も咄嗟にマシンガンを捨て、抜こうとしたがわずかに遅かった。クレアのビームサーベルが胴体を突き刺したからだ。

 ビームサーベルを腰に戻しビームライフルを右手に持ち直す。

「さぁて……仕上げと行こうか」

 クレアはそう言って敵艦に向かう。

 これ以上クレア機を近づけまいとサラミスの副砲と残ったMS部隊の弾幕を張る。

「っ!」

 敵機のマシンガンがクレア機の肩を(かす)る。

 しかしクレアは落ち着ていた。

「やってくれたね!倍返しだよぉっ!!」

 そう言うとビームが一つ、二つとコックピットをを撃ち抜き撃墜した。

 拡散していくように敵機から膨れ上がる閃光、まるで筆で絵を描くような見事な戦いぶりであった。

(今日はシーマ・ガラハウ(シーマ様)としての初めての戦いだからね。血が(たぎ)って仕方がないね!!)

 クレアは高揚していた。身体全体で宇宙を舞うような感覚、傍から見たら蝶のように舞うという形容が相応しいだろうか。

 自身の高揚に堪能するのもつかの間、ミサイルランチャーやメガ粒子砲による砲撃を潜り抜けたクレア機は艦橋の着地した。

「最後ぉっ!」

 照準を合わせ引き金を引き、離脱した。

 ビームライフルで撃ち抜かれたサラミス級はたった一機のMSを前に宇宙の藻屑へと消えた。

 

  ★

 

 サラミス級 マクシミリアン ブリッジ

「せ、セバスチャン……轟沈!!」

「なんだ、あのパイロットは!!……ば、化け物か!?」

 マクシミリアンの艦長は目の前の光景と震えた声で報告する部下の言葉にただ大きく目を見開くことしかできなかった。

 一機のゲルググMがセバスチャンに向けて突進したかと思うとあっという間にMS部隊を撃破。肩など最小限の被弾でセバスチャンの艦橋に取りつくとビームライフルで撃ち抜いたのだ。

 サラミスは攻撃力では長射程・高火力を突き詰めた対艦決戦用の戦艦・マゼラン級に劣ってしまうが、上面・左右面にまんべんなくメガ粒子砲やミサイルランチャーを搭載し、どの方向からくる敵も迎撃できるように設計された優れた砲撃システムを持っている。その迎撃能力はベテラン兵でも容易に近づけないほどだ。しかしセバスチャンを宇宙の藻屑(もくず)に変えたMSはたった一機でMS部隊とその迎撃システムを突破した。

 

「や、奴は『赤い彗星』や『ソロモンの悪夢』と同じ技量を持っているというのか!?」

 

 単機のMSが戦艦を撃沈させる。これはシャア・アズナブルやアナベル・ガトーなど、エースパイロットと呼ばれる者たちにしかできないものだった。

 そのことを艦長を始めとする一年戦争を経験した者やジム改に乗るパイロットたちは身をもって知っている。だからこそ彼らの心をある感情が支配した。

 

 このパイロットが率いるMS部隊には敵わないという恐怖が。

 

 その恐怖から立ち直る時間を与えるほどクレア率いる海兵隊は甘くなかった。親とはぐれた野生の小鹿と化したMSを早々に片付けるとリリー・マルレーンの艦砲射撃でマクシミリアンは轟沈した。

 

 

 

 

 MSにかすり傷程度の損傷という被害でサラミス級2隻とMS10機を殲滅したという報告にデラーズは満足し、ガトーは渋々その実力を認めずにはいられなかった。

 




柊竜真氏から加筆の小説が届くまで何か書こうと思っても何も思いつかない状況に苦しむこと数日。
篭城する兵士の気持ちがわかる一週間でした。

一週間近く投稿していないにもかかわらず登録数が9月20日時点で230。うれしい反面投稿できなかったことに申し訳なさを感じる今現在です。

戦闘描写を柊竜真氏に頼らざる得なくまた投稿に間隔があくとは思いますが、引き続き読んでくださると幸いです。


【元ネタ】
カナフ、ケレン、ザナヴ
αシリーズ』及び『OGシリーズ』に登場するクストースたち。 鳥型のカナフ、魚型のケレン、獣型のザナヴから成り、その名前はヘブライ語でそれぞれ「翼」「角」「尾」を意味する。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~シーマの考察~

 月 フォン・ブラウン市郊外

「……」

 クレア達にリリー・マルレーンから追い出され軟禁生活を余儀なくされたシーマは、椅子に体を預けると(てのひら)に置かれたサイコロを眺めていた。

 軍服を始め自分がシーマ艦隊の長だった物は奪われ、唯一奪われなかったのは掌の二つのサイコロだけだった。

「……ゲール」

 行方のわからない恋人の名前を呟くと、シーマはサイコロを机に置いてブラインドの隙間から外の様子を眺める。

 これから仕事場や学校に行くのか、多くの人間が歩いていた。ただ一人、こちらに視線を向ける小太りな男がいた。シーマはその男を知っている。

 

 デフキサ・ザケルフ軍曹。

 

 シーマ艦隊に所属する諜報工作員だ。

「……」

 ザケルフはその後何事もなかったかのようにその場を離れた。

「何を考えている?……クレア」

 軟禁生活から一週間、すでに何十回としている状況整理にシーマは疑問の言葉を呟いた。

 不可解なことだらけだった。まず監視役が戦闘経験に乏しい若いコック二人だということ。先ほどのザケルフのようにシーマ艦隊の手のものが時々様子を(うかが)うが四六時中というわけではない。

 いくら男二人といえど幾多の修羅場を(くぐ)り抜けたシーマにとって若いコック二人を排除する方法はいくらでも考え付いた。

 部屋にはナイフや拳銃はないもののカッターナイフやハサミなど武器の代わりになる物はいくらでもある。

 窓には格子、外に出るドアには鍵がかけられているものの、どれも少し時間をかければ突破できるものだった。また警報装置などのシーマの逃亡を防ぐ装置などは一切設けられていなかった。

「……」

 シーマは(あご)に手を置く。

「明らかに力不足の監視役にあまりにも甘すぎる逃走防止設備。私ならここから逃げ出せることなどクレアは知っているはず。……それにコッセルがこんな穴だらけの軟禁をするとは思えない」

 

 まるでいつでも逃げ出して下さいと言っているようだった。

 

 もう一つ不可解なことがあった。それはなぜ『クレアが自分を裏切り、コッセル達がクレアについたのか』。

「……あの時クレアは私を裏切った理由を出世だと言った。それならばさっさと私を連邦に売れば良かった。その機会はあったはずだ。それに自分の出世のために私を裏切ったクレアになぜコッセル達がついていく?クレアが何か好条件を出したのか?それでもコッセル達が私を裏切るほどの条件をクレアが出せるとは思えない」

 考えるシーマだったがいくら様々な謀略を巡らせた彼女でもなぜ自分を姉のように慕っていたクレアが裏切り、コッセル達がクレアについたのか分からなかった。

 考えても答えが見つからないことに疲れたシーマは別のことを考える。それは軟禁場所から逃れた後。

「オサリバンを頼るか……いや」

 シーマは自分の意見を否定する。

「あいつは私と取引をしていたんじゃない。利益を生む(・・・・・)シーマ艦隊を(・・・・・・)率いる私(・・・・)と取引をしていたんだ。今の私では門前払い、下手するとクレアか連邦に引き渡される可能性がある。連邦と交渉した所でシーマ艦隊を失った私は戦犯として捕まるだけの話。……逃げるとしても連邦とシーマ艦隊(クレアたち)から逃げ回る日々が待ち受けるだけ。唯一の武器といえばこの肉体(からだ)……だけど」

 シーマは机に置いたサイコロを見る。

 

 どうせこの世は”一天地六(いってんちろく)”の(サイ)の目しだい……死ぬ瞬間(とき)まで賽の目を振れてりゃ御の字だ

 

 今でも忘れることのできない男、ゲール・ハントが口癖のように言っていた言葉が脳裏をよぎる。その声を思い出すと我が身を売るという考えに嫌悪感を覚えた。

「シーマ様……じゃなかった、おい!シーマ!!……飯が出来たぞ!今日はお前が食べたいといっていたナポリタンだ!部屋から出て来い!!」

「……とりあえず飯は旨いわけだし。もう少し考えよう。まぁ、時間はある」

 シーマは苦笑すると監視役の双子がいる台所へ歩を進めた。

 




前話でとんでもないミスをしていました。
「よしグルト、カナフ、ケレン、ザナヴは右を相手にしろ」
『お頭は?』
「私は左を相手する」
 宣言通りクレア機が右側のサラミスに、グルトを先頭とするゲルググMが左側に展開した。

……クレアの嘘つき!(相変わらず誤字が多すぎorz)
誤字訂正してくださる方には本当に頭が上がりません。本当にありがとうございます。おかげで安心して投稿できます(それじゃあダメですね汗)


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シーマに成り代わった女~ガトー、立会人になる~

 グワデン 白亜の間

「閣下、茨の園に接近しつつあった連邦は排除いたしました。そしてリリー・マルレーンを始めとするパーツを譲っていただき誠にありがたく思います。おかげで我らの悲願である『星の屑』成就(じょうじゅ)に一層貢献できます」

 連邦軍撃退の報告とパーツの受領の礼を言うため、グワデンを訪れたクレアは椅子に座るデラーズに(うやうや)しく頭を下げた。

「うむ。リリー・マルレーンと5機のMSでサラミス2隻と10機のMSを一方的に(めっ)する。噂に(たが)わぬ貴公とシーマ艦隊の実力、充分に見せてもらった。それでこそ色々与えた甲斐があるというもの。これからもデラーズ・フリートの為、スペースノイドの真の解放のために今後も力を貸してくれ、シーマ」

「……そのような言葉を頂けるとは。このシーマ、感無量でございます!」

(白々しい。シーマ・ガラハウの名を(かた)る女狐が!)

 頭を下げたまま改めて感謝の意を述べるクレアに、デラーズの傍で控えていたガトーが侮蔑の色を濃くする。

「ところで閣下。このシーマ、一つ確認しておきたいことがあります」

「ほう、それは何だ?」

 顔を上げたクレアにデラーズが尋ねる。

「恥ずかしながら。この(たび)我がシーマ艦隊がデラーズ・フリートへの参画を決定した理由は……閣下が出来うる限り望む物を用意して下さるとおっしゃられたからです」

「つまり。褒美がちゃんと貰えるかという保証が欲しい、と」

「……ッ!!」

 苦笑するデラーズにギッとクレアを睨み付けるガトー。そんな二人の反応に気にする様子もなく自信たっぷりに微笑むクレアに、デラーズはフッと笑う。

「シーマよ、一つ聞かせて欲しい。貴公は何を望む?」

「……シーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)は先の一年戦争でコロニーに毒ガスを注入するなど数々の非人道的なことを行い、B級戦犯として追われる立場となりました。しかしそれらはすべて上層部の命令によるものです。にもかかわらずそれら全てが我々の独断として上層部は我々を切り捨てました。よって星の屑が成功した暁にはシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)が行なった非人道的な戦闘行為は軍の命令であってシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)の独断ではないとシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)とシーマ艦隊の身の潔白を証明していただきたい。そして星の屑成就の後、生き残った部下の安全の保証を。この二つをお約束していただきたいのです!」

「うむ!星の屑が成功した暁には貴公の言葉が真実か確かめた上で貴公の申す通りであれば貴公とシーマ艦隊の無実を証明しよう。そして部下の安全を保証しよう!」

「ハッ!ありがとうございます!!」

 ビシッとした敬礼をデラーズに向けると、クレアはガトーの方へ振り返る。

「ガトー少佐。もし私とシーマ艦隊が星の屑成就に貢献した暁にはデラーズ閣下が先程の二つを実行して下さるという立会人になってもらってよろしいでしょうか?」

 ガトーは「お前のような女狐に出来るものか」と侮蔑の色を隠すことなく口を開いた。

 

 

 

「……その身が砕け、猛火に焼かれるまでデラーズ・フリートに尽くすというのなら。このアナベル・ガトー、立会人になろう」

 




……見事なまでにフラグを重ねるガトー。まぁ文字通りその身が砕け、猛火に焼かれるとは思わないでしょう、普通に。

筆先文十郎、風邪をひいて投稿できないほど疲れきってました。本当に申し訳ございません。皆様もお疲れの出ませんようお願い致します。


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シーマに成り代わった女~ゲルググ・M対ガンダム試作1号機①~

 暗礁宙域。リリー・マルレーン ブリッジ

 クレア率いるシーマ艦隊は次の作戦のため密かに行動を開始していた。

「……」

 虎の毛皮がかけられたソファーに体を預けて足を組むクレアは前方を静かに見据(みす)えたまま

 

「く~、すぴ~、く~~~、すぴ~~~」

 

 寝息を立てていた。

「寝るな!」

「ふぎゃん!?……痛いぃ~、何するんですか!!」

 拳骨(げんこつ)が落ちた頭頂部を()でながら、涙が溜まった目でクレアはコッセルを見る。

「作戦行動中だ。しっかりしろ!」

「……は~い」

 にらみつけるコッセルにクレアは不満げに口を(とが)らせる。

 そんな戦場でありながらどこが気が抜けた雰囲気は部下の報告で一変する。

「お頭!地球軌道上に艦影を確認。例の(ふね)のようです」

「例の?……あぁ、ガトー(クソガキ)を追っているアルビオンとかいう白い艦か」

 少しばかり頭を(かし)げた後に思い出したクレア。そんなクレアに部下が続けて報告する。

「お頭!その近くに小型艇(こがたてい)らしき反応もあります」

「小型艇?……ふむっ」

 腕を組んで考え込むクレア。

 小型艇の正体はアナハイムの輸送艇で、今のままでは戦力にならない重力下仕様のガンダム試作1号機を月のアナハイム工場へ送るためのものだった。そのことを知らないクレアは小型艇を弾薬や食糧などを補給するための輸送艇(ゆそうてい)だと結論付けて「アルビオンかぁ……さて、どうしようかね」と微笑む。

「……やれやれ」

 誰にも聞こえない小さな声でコッセルは静かにため息をついた。クレアが微笑んだ理由に気づいたからだ。

 アルビオンにはデラーズ・フリートが強奪したガンダム試作2号機の他に兄弟機であり相棒(バディ)機、ガンダム試作1号機があるという情報はシーマ艦隊にも届いていた。

『ガンダム』はジオン兵から『白い悪魔』と呼ばれ、恐れられた名機。その性能は連邦軍から『赤い彗星』と恐れられたエースパイロットのシャア・アズナブルでさえ数々の戦いで苦しめられたほど。

 その伝説となったガンダムの名を有する機体とその機体に乗るに相応(ふさわ)しい技量を持つ敵と戦えるという期待に興奮しているとコッセルは悟った。

(まあ、無理もないかもな……)

 コッセルは手にした扇子をポンポンと掌に叩く童顔の女性士官をチラッと見る。

(クレアの一年戦争時の撃墜スコアは28機。しかしこれはシーマ様に『他の奴らに撃墜数を譲ったり過小報告するのはやめろ!!』と言われた後のスコア。もしちゃんと記録していればシーマ様撃墜スコアの56機は超えていただろう。それだけにクレアは自分の腕に自信を持っている。……パイロットじゃない俺には分からないが、強者と戦える喜びというのを感じているんだろうな)

「さてと。アルビオンはあのガンダムを搭載したホワイトベースの改良型だと聞く。どれほどのものか見てみないと後の戦いに影響するかも」

 もっともらしいことを言いながら頭の中はガンダムでいっぱいになっているクレアを、コッセルは見抜いていた。

 クレアがスッと立ち上がるのを見るとコッセルはすぐに部下たちに命令を下した。

 

 

 

「今から敵にMSによる威力偵察を行う!MS部隊は出撃準備!そしてお頭のゲルググの用意を急げ!!」

 

 

 




余談ですがクレアの撃墜スコアの28機という数字は『シーマの撃墜スコア(56)➗2』と、阪神タイガースから古巣である広島東洋カープに戻った時の新井(あらい)貴浩(たかひろ)氏の背番号から(後に25に変更)。
(なぜ新井氏の背番号から取ったか気になった方は『奥さん、貸した金が払えないなら身体で払ってもらおうか!』の『親父が隠していたAVを、俺は見る!!』の後書きを見てください)

『アルビオンに強襲』とか色々タイトル考えた挙げ句になんとも言えない陳腐なものになってしまいました。
しかも続きは私が苦手な戦闘……この小説を期待している人がいると思うと(いるのかな?)申し訳ない気持ちでいっぱいです。
……40年以上連載描き続けたこち亀の作者、秋本(あきもと)(おさむ)先生の偉大さが身に染みてわかる今日この頃です。


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シーマに成り代わった女~ゲルググ・M対ガンダム試作1号機②~

今回も大学時代の親友、柊竜真氏に一部書いていただきました。


 クレアはシーマ専用ゲルググMでアルビオンに向かって機体を走らせた。

「今回は敵の力を見定める戦いだ。無理はするんじゃないよ!」

『へへっ、了解しました』

 グルトがニヤニヤと返答する。

『でもお頭。相手が弱かったら沈めちゃってもいいんでしょ?』

 クレアを含む5機の内で最年少のパイロットの軍曹、ザナヴ・サーペが嘲笑しながら尋ねる。

『お頭。前の戦いではいい格好したでしょ?俺らにも見せ場作らせてくださいよ』

『お頭は後ろで様子を見ていてください』

 ザナヴに続きケレン・コルト曹長とカナフ・ナックラー軍曹が続く。

「……」

 クレアはアルビオンから飛び出す3機のモビルスーツを見ながら考える。

 ジム・カスタムとジムキャノンⅡだ。

(ジム・カスタム。一年戦争終結後に製造されたジムの性能向上型で特長がないのが特徴と聞く。つまり『特に秀でた長所はないけど特に目立った短所もないバランスのとれた機体』ということ。それにジム・カスタムは製造コストが高いとも聞いたことがある。つまりあれに搭乗しているパイロットはベテランだろう。グルトらといい勝負ができるかもしれないね)

 クレアの予想通り出撃したパイロットであるアルファ・A・ベイト、ベルナルド・モンシア、チャップ・アデルは『不死身の第4小隊』と呼ばれた(つわもの)揃いだった。

 ジム・カスタム2機を前衛に、アデルの駆るジムキャノンⅡが後方で構える。

 クレアは命令を下す。

「よし、じゃあお前らだけで行ってきな!!」

『『『『ハッ!!』』』』

 先頭を走っていたクレアのシーマ専用ゲルググMはその場で停止すると4機のゲルググMは出撃したジム・カスタムとジムキャノンⅡに取り掛かった。

 互いに手持ちのマシンガンで応酬し合う。戦いの火ぶたは切られたのだ。

 ゲルググMたちは攻撃をかわしつつ反撃する。数からしてこちらに分がある。パイロットたちはそう思い2機のジム・カスタムに迫る。

 しかし、相手は数を物ともしないかのようにかわしつつ反撃する。

 そこに追い打ちを掛けるようにジムキャノンⅡのビームキャノンがゲルググMらを阻む。

 見事な連携であった。

 こちらも避けるのに精一杯になっていった。攻めに転じるべく2機が前衛になって攻める。

 衝突すること数分。

(敵をなめていたな……)

 戦いぶりを少し離れた所から見ていたクレアは敵と自軍の戦力差を見誤ったことを悟った。

 2機のジム・カスタムとジムキャノンⅡは連携しグルトらのゲルググMの突破を許さないばかりか押し返していた。

 ゲルググMの1機がモンシア機に背後を取られた。

 なんとか振り払おうとするが相手はそれを許さない。

 加速しながら後ろから迫るマシンガンをかわす。

「……ッ!」

 突如クレアが機体を走らせた。ベイト機の攻撃で左腕を損傷したザナヴ機を狙い撃とうとしたアデル機に攻撃を加えたのだ。

 突然の攻撃に何とか盾で防ぐアデル機。すかさずビーム・キャノンで反撃してきた。

 クレアは急加速によるブーストを掛けて回避した。

 クレアは命令を下す。

「ザナヴ、ここは下がれ!グルト、カナフ、ケレンはザナヴの撤退を援護しろ!!」

『お頭は?』

「……」

 尋ねるグルトの問いに答えずクレアは押さえ込もうとしたモンシア機を横目にアルビオンに向かった。

 防衛ラインを突破されたことで2機のジム・カスタムの動きが一瞬止まる。その隙を見逃さずザナヴは戦場を離脱すると残ったゲルググMは足止めするためジムキャノンⅡに襲い掛かる。

「陽動は成功した。さてどうするか」

 ザナヴの離脱を確認したクレア。

「……ッ!!」

 クレアは反射的に機体を後退させるとビームが目の前を通り過ぎた。もしこのまま突き進んでいれば直撃を受けていただろう。

 ビームの方角を見て、クレアは目を大きく見開き……笑った。

「待っていたよ!ガンダム!!」

 興奮するクレアに白いMS、ガンダム試作1号機はシーマ専用ゲルググMに向けて発砲する。

「ん?」

 クレアはすぐに1号機の異変に気づく。

「バランサーがイカれてる?……フフフ、フハハハハハハッッ!!」

 フラフラと漂うように動く1号機にクレアは大笑いした。

「ハハハッ、カラマ・ポイントでのガトー(クソガキ)以来だよ……ここまで私をブチ切れさせたのは!!」

 憤怒の表情でクレアはビームライフルを乱射した。

 やがてガンダムのシールドが砕けた。

 削り取られる1号機の装甲。

 1号機の反撃を避けながら攻撃を続けるクレア。それでも撃墜しない1号機に苛立(いらだ)ちが募る。

「なんて硬い装甲だよ!」

 撃ち続けるビームが再びガンダムに直撃。シールドの残骸と共に左腕が吹き飛んだ。

 普通の機体ならこれで誘爆を起こしていてもおかしくない。

「いいかげんに墜ちろ!!……チッ!!」

 ライフルから照準が消えた。ライフルの弾切れに舌打ちするクレア。

「期待外れが!いい加減にしろよな、ガンダム!!」

 110mm速射砲の銃弾がさらに装甲を削り取る。

 頭部や脚へと撃ち続ける。頭部の装甲は少し変形しただけで破壊に至らない。

「落ちろ、落ちろってさ!」

 クレアは速射砲を1号機に向かって撃ち続けた。

 やがて、攻撃を受け続けた1号機の脚部が破壊された。

 ガンダムはもはや虫の息であった。

 ふとクレアは機体を止めた。

「チッ!」

 再びクレアは舌打ちする。チャック・キースの乗るジムキャノンⅡのビーム・キャノンがさえぎる。もしそのまま斬りかかっていたら被弾していただろう。

「邪魔してくれるねぇ……でもアンタの相手は後だ!」

 キースのジムキャノンⅡを睨みつけつつもクレアは再び1号機に向かおうとする。しかし今度は機体を後退させることになる。怪我を我慢して出撃したサウス・バニングのジム・カスタムがクレアのシーマ専用ゲルググMに攻撃を加えてきたからだ。

 銃弾を盾で防御したクレアはすぐに周囲を見る。

 クレアがジムキャノンⅡとジム・カスタムに足止めされている間にガンダム試作1号機はアナハイムの輸送艇に回収されて戦場を離脱。グルトらは前衛のジム・カスタムとジムキャノンⅡの3機に苦戦を強いられていた。

 クレアは決断した。

「今日のところは見逃してやる!!」

 撤退命令を出すとクレア達は再び暗礁宙域に引き返した。

 その後大きく損傷した1号機はパイロットのコウ・ウラキと共にアルビオンではなく月に直行。 アルビオンも追うことはしなかった。

 

 

 こうしてクレア率いるシーマ艦隊とアルビオンの初の対決は痛みわけで終わった。

 




柊竜真氏に突っ込まれたこと。

ビームライフルのエネルギーが切れてビームサーベル使えるの?

追記
次回辺りにクレアの同期で『クレアの体内に棒状のものを前後に出し入れした男』、ドラント・ヒイラー(筆先文十郎オリジナルキャラ)登場予定。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~退きのヒイラー~

「シーマ艦隊所属ギラメル。特に可もなく不可もない顔立ちで、贅肉のない引き締まった筋肉を持つ細マッチョの男が自分の部屋である艦長室の前で立ち尽くしていた。

ドラント・ヒイラー。

ルウム戦役時にシーマ様の次に強く、シーマ様の次に世界で美しいパーフェクトレディのクレア・バートン様の勇敢な活躍のおかげで大尉に昇進した、ものすごーく運のいい男である」

「説明ありがとう。ところでお前は何をしている?」

 クレアに紹介された男、ドラント・ヒイラーは呆れた顔で無断で自分の部屋で作業している女性に尋ねる。

「見てわかんないの?あんたの部屋を模様替えしているのよ」

 クレアが不思議そうな顔で同期の顔を見ていた。

「模様替え……」

 ヒイラーは自室を見る。そこには水着を始めとする様々な衣装に身を包むクレアのポスターが天井、壁、床に隙間なく貼られていた。

「どう? 世界で2番目に美しい私に囲まれるなんて夢みたいでしょ?」

「……」

 キャッと嬉しそうに言う少女のような同期に、ヒイラーは無言でダーツの矢を取り出すと

 

 シュッ! シュッ! シュッ! 

 

 水着姿のポスターの目と鼻にダーツを命中させた。

「いやあああぁぁぁっっっ!! 何をするのよ!!」

 頬に手をやり絶叫するクレアを尻目に、ヒイラーは鼻くそや耳くそ、(たん)をクレアのポスターに塗りつけていく。

「…………」

 口をパクパクさせるクレアを前にヒイラーは「ふう」と汗を拭った。

「クレア、ありがとよ。久々にいい気分転換になったぜ」

 輝く笑みを見せるヒイラーに、クレアは目に涙を溜めながらいい放つ。

「ひどい! 士官学校時代、体内に棒状のものを前後させた女になんてことをするのよ!!」

「王様ゲームの命令で行った耳かきをさも『卑劣な男に無理やり純潔を奪われたか弱い女の子』のようにいうんじゃねぇよ。誤解されるだろう」

 言い終わるとヒイラーは形式上では上官になっている同期の額にデコピンをお見舞いする。

「い、痛いぃぃぃっっっ!!」

 あまりの痛さに、クレアは額を押さえてその場にしゃがみこむ。

「そんじゃあ俺は自販機でコーヒー飲んでくるから。その間に部屋戻しておけよ」

 痛さに苦しむクレアを残してヒイラーはその場を後にした。

「おのれ……今に見てなさい!」

 クレアの瞳には自身の赤い髪にも負けないほどの怒りの炎が灯っていた。

 

 

 ======================================

 

 

 数分後。

「ん?」

 自動販売機の前で紙コップのコーヒーを飲んでいたヒイラーは突然流れてきた艦内放送に耳を傾ける。

『私、クレア・バートンは今ここに告白します』

「クレア?……ッ!?」

(ま、まさか!?)

 その時ヒイラーの脳裏にこれから起こるであろう未来映像が映し出される。そしてその未来映像は見事に的中する。

『私は士官学校時代、ドラント・ヒイラーに体内に棒状のものを入れられました。あまりの痛さに泣く私の懇願を無視し、ヒイラーは体内に入れた棒状のものをさらに前後させていきました』

 

 ブウウウゥゥゥッッッ!!

 

(あのバカ。王様ゲームでしたことをさも誤解されるように言いやがった!!)

 同期の行動に口に含んでいたコーヒーを吹き出すヒイラー。だがクレアの復讐はこれで終わりではなかった。彼女の復讐はまだ続く。

『またある時は部屋を訪れた私に自家発電を強要。1時間以上自家発電をする私が『もう、許して……』と許しを()うても冷淡な表情で『そんなもので終わりな訳がないだろう?文句を言う暇があるなら続けろよ』と言い放ちました』

「……ッ!!」

 ヒイラーの顔面が崩壊する。

(それはお前がテスト前日の夜に俺の部屋で水遊びしたせいで部屋の電気系統がショートして勉強できなくなったから、自転車こがせて照明の電気作らせただけだろうが……ッ!!)

 ヒイラーの視界に恐れていた光景が映った。

 

「ヒイラーがいたぞ!!」、「俺らのクレアちゃんを汚しやがったクソ野郎が!!」、「殺せ!殺してクレア様の純情を汚した罪を償わせてやる!!」

 

 そこには目を血走らせ武器を持った部下達の姿だった。

 クレアのような合法ロリに興味がないヒイラーは忘れていた。クレアはシーマ艦隊の中でシーマに次ぐファンを持っていたことを。

「くそっ!あいつに関わるとろくな目にあわねぇっ!!」

 その後ヒイラーは怒り狂う部下達から逃げ回るのであった。

 

 

 

 ドラント・ヒイラー。

 哨戒時に偶然遭遇したユイリン、ナッシュビルと合流したアルビオンと単独で交戦。柔軟な思考と優れた決断力、果敢な行動力を持った有能な軍人であるエイパー・シナプスを罠に嵌め、クレア・バートンとデトローフ・コッセル亡き後のシーマ残存艦隊を指揮した、シーマ艦隊最後の指揮官である。

 

 




ドラント・ヒイラーの由来は柊竜真氏から(最初『ドラゴ・シン・ヒイラーでいい?』と聞いたら『それならドラント・ヒイラーにしてくれ』と言われてドラント・ヒイラーに)。

この話を柊竜真氏に見せたら「あぁ、彼は生きてるんだ」と言われました。
さらに『シーマ・ガラハウに成り代わった女~ゲルググ・M対ガンダム試作1号機③~』のあらすじみたいなのを見せたら「彼は何者?何でシーマ艦隊にいるの?」と突っ込まれました(^_^;)

あと「部屋中にクレアのポスター貼られていたら?」と聞いてみたら、「嫌だわ」と言われました(書いた私も嫌ですが)。

さらに緊迫した場面の後(シーマ・ガラハウに成り代わった女~ゲルググ・M対ガンダム試作1号機②~)にこのボケのような話はいるの?とも突っ込まれました。
ヒイラーはサポート役で必要だからと答えましたが(^_^;)

本気で協力してくれる親友に感謝すると同時に、ズバズバという親友にわずかばかり恐怖心を抱く今日この頃です(^_^;)


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~ルウム戦役(前編)~

柊竜真氏に「退きのヒイラーってあれじゃあ部下から逃げ回っているから『退きのヒイラー』というタイトルになったと思われたかな?」と聞いたら肯定されたのでこんな話を書いてみました。

本来ならば戦闘シーンも書くべきなのですが、まだ下書きも書けていない状態なので二つに分けて投稿することにしました。
誠に勝手ながら温かい目で見ていただけると幸いです。


 ルウム戦役。

 一年戦争序盤、宇宙世紀0079年1月15日から16日にかけてドズル・ザビを総大将とするジオン公国と当時中将だったヨハン・イブラヒム・レビルを総大将とする地球連邦軍との間で行われた宇宙戦である。

 この戦いは一週間戦争とも呼ばれるブリティッシュ作戦に次ぐ大規模宇宙戦闘であり、参加艦艇もブリティッシュ作戦を上回り、作戦規模では『ソロモンやア・バオア・クーと同等かそれ以上である』と議論されるほど。

 この戦いは当初の目的だったコロニー落としは達成できず、甚大な艦艇の損失・損傷から再び宇宙で同様の大規模作戦行動を取ることはできないほど消耗したものの、連邦宇宙軍に壊滅同然の大打撃を与えたジオン公国の勝利とされ以後の宇宙での優勢を揺るぎないものとした。

 

 またこの戦いは黒い三連星と呼ばれるガイア、マッシュ、オルテガがレビル中将を捕虜にし、当時中尉だったシャア・アズナブルが本作戦で5隻の戦艦を撃沈し二階級特進を果たし少佐に昇進するという後の世にも語り継がれる伝説となった戦いでもある。

 

 その中で。キシリア・ザビはドズル・ザビの援軍要請を承諾。部下のアサクラに援軍の派遣を命じるとアサクラはシーマMAUとゲールMAUからなる艦隊を先遣隊として派遣した。

 

 ======================================

 

 シーマ艦隊所属ムサイ級ギラメル ブリッジ

「れろ……れろ、ちゅ……ちゅぱ……れろ……いやだ。白いのが垂れてきちゃった……もったいない。ちゅ、ちゅちゅ……れろ、ちゅぱ……ぷはぁ……美味しいぃ、このソフトクリーム! ……フガッ!?」

 後ろから艦長であり同期のドラント・ヒイラー中尉の拳骨が直撃し、ギラメルMS部隊を指揮するクレア・バートン少尉は持っていたソフトクリームに顔を(うず)めた。

「何すんのよ、ヒイラー! シーマ様の次に美しい美女の顔がソフトクリームまみれになったじゃないの!!」

「作戦行動中に、しかもMSで待機命令を出しているのにブリッジで、しかもソフトクリーム食べているお前が悪い!!」

 顔を真っ赤にさせて怒る実年齢よりも幼く見える女性士官に、可もなく不可もない顔立ちの細マッチョはピシャリと言い放つ。

「しょうがないじゃない! 私はシーマ様の下で働きたくて人事のトップを一週間寝不足による長期入院になるまで嫌がらせをして希望通りシーマ艦隊に配属されたのに、シーマ様直属じゃなくてアンタの所に配属されたのよ。これが食わずにいられるかってもんでしょうが!! ……キャンッ! 痛いぃぃぃ!!」

 ソフトクリームを拭って反論するクレアに、ヒイラーは無言で再び拳骨を食らわした。殴られた箇所を押さえるクレア。

「この辺りはデブリが多い上にミノフスキー粒子が濃くて敵の動きがわかりにくい。突然敵に挟み撃ちにされていたという事態になっても不思議じゃないんだ! アホなことを言っていないでいつでも出撃できるようにMSで待機していろ!」

「か、艦長!」

「なんだ?」

「前方10000の距離にサラミス級4。後方12000にマゼラン級1にサラミス級5が展開しております!!」

「……!?」

 衝撃的な報告でパニックになるブリッジ。その中でヒイラーは冷静に分析していた。

(どうやら連邦のレーダーはジオン(こちら)よりも優秀だったみたいだな。……先手を取られた。この距離では逃げることは難しいだろう。相手は10。こちらはシーマ様のリリー・マルレーンとムサイ級が3。進むにしろ立ち止まるにしろ下がるにしろ、このままでは挟撃をうけてしまう。この危機を脱する方法は……ッ!)

 ヒイラーにある考えが浮かぶ。自分と目の前でうずくまるクレアがいればこの壊滅必定の危機を勝利に変えられるかもしれない策を。

「急いでシーマ様に繋げ!」

 ヒイラーの命令に部下は迅速にリリー・マルレーンに通信を繋げる。

「シーマ様!」

『なんだ、ヒイラー!!』

 眉間にしわをよせて対策を考えて苛立っていたシーマが怒鳴りつける。そんなシーマに怯む様子もなくヒイラーは冷静に考え出した提案を伝える。

「シーマ様は前方の連邦軍を駆逐してください。シーマ様が前方を排除するまでの間、我が艦は後方の連邦軍を足止めします」

『……! わかった。ヒイラー、アンタは後方の連邦軍を足止めしな。すぐに駆けつける!』

 そう言うと通信は切れた。それを見届けるとヒイラーはすぐに命令を下す。

「これより我が艦は反転。後方の連邦軍を迎え撃つ。クレア! 今すぐお前は──」

「く、クレア少尉なら報告の時点で格納庫に向かわれました」

 

 ======================================

 

 MS格納庫

「……」

 真剣な表情で格納庫の扉をくぐったクレアに

「大変なことになりましたねぇ。どうしましょうか、クレア少尉?」

 絶体絶命ともいえる圧倒的不利な状況に諦めたケレン・コルト軍曹が笑いながら話しかける。

「……」

 クレアは無言でケレンに近づくと

 

 ガチャッ! 

 

 ヘラヘラと笑う角刈りの体格のいい男の喉元に拳銃をつきつけた。

「しょ、少尉!?」

 クレアの突然の行動に体を小刻みに震わせ目を大きく見開くケレン。自分よりもはるかに大きい部下に拳銃を突きつけたまま、クレアは口を開く。

「この戦いはシーマ艦隊、そしてシーマ様の存亡がかかっている」

「……ッ!?」

 クレアの声に、拳銃を突きつけられているケレンだけでなく、同じMSパイロットのカナフ・ナックラー伍長やザナヴ・サーペ伍長、その場にいた整備士らが驚愕(きょうがく)する。その声はわたあめのように白くてフカフカな体毛の犬が発するような可愛らしい声ではなかったからだ。その声はシーマ艦隊に所属する者ならば誰もが知っている並外れたMS技術とカリスマを兼ね備える女傑、シーマ・ガラハウのものだったからだ。

「ヒイラーはシーマ様にギラメルだけで敵を足止めすると言った」

 シーマの声色でクレアは続ける。

「あいつは出来ないことは出来ないとキッパリという奴だ。そのあいつがギラメルだけで足止めすると自分から言った。つまりあいつはギラメルとMS部隊(われわれ)が一丸となればそれが可能だと考えている。そんな状況でその浮ついた態度で『大変なことになりましたねぇ。どうしましょうか、クレア少尉?』だと? ……ふざけたことを言うな!!」

「……ッ!?」

 落雷のような怒声にケレンだけでなくその場にいる者が体を震わせる。

「全員、よく聞け!!」

 大柄な部下から拳銃を下ろすとクレアはその場にいる全員の顔を見て言い放つ。

「これより我々は十死(じゅっし)零生(れいしょう)の戦場へ向かう。だがたとえ火の海にいても冷静に状況を見定める冷静さと戦術眼を持つヒイラー、ギラメルとMSを最高の状態に保つ整備、ギラメルを支える船員、そしてMS部隊とシーマ様の次に美人で強い私。これらが一丸となればシーマ艦隊壊滅が連邦艦隊壊滅に変わる。……気を引き締めてかかれ!!」

 

「「「ハッ! 了解であります、シーマさ……クレア少尉!!」」」

 

 部下たちの返事に満足した顔で愛機に乗り込む。

「クレア・バートン。ザク、出るッ!!」

 愛機と共に宇宙(ソラ)の漆黒を切り裂くクレアの顔は、先ほどまでブリッジでソフトクリームを食べていたとは思えないほど自信と厳格に包まれていた。

 

 

 

 

 




色々調べてみたのですが。キシリアの突撃起動軍がルウム戦役に参加したかってわからなかったのでシーマとゲール・ハントからなる海兵隊をルウムに向けて派遣しました(ルウムで負けたら他の兄弟に勝つどころか自分の首も危うくなると思ったので)。

現在色々と艦の動きなどの情報を集めている状況です。遅筆、申し訳ございません。

追記
クレアのソフトクリーム食べていた時とマジモードの落差が激しい・・・。

ヒイラー、フラグ回収早すぎ。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~ルウム戦役(後編)~

『クレア、これより作戦を伝える』

 コックピットのモニターに映るヒイラーが伝える。

「……」

 ヒイラーの作戦を黙って聞いていたクレアは全てを聞き終えた後

「ヒイラー、アンタ馬鹿でしょ?」

 と苦笑しながらモニターの男に呟いた。

「よくもそんなバカバカしい作戦を考えたわね」

「自分でもそう思うよ。でも──」

 とヒイラーは一度言葉を区切る。次の言葉を強調するために。

「お前なら出来るだろう?」

「フッ、簡単に言ってくれるわね。やらされる方の身にもなってよね」

 試すように笑う同期の言葉に、不満を言いながらもクレアはニィッと同じように笑った。

 

 ====================================================

 

 地球連邦軍旗艦マゼラン アスペルン

「レビル中将の戦術眼には恐れ入る」

 10隻からなる艦隊を任された30代半ばの男、ワグラム大佐は上司を褒め称える。

 ドズル・ザビが指揮するジオン軍本隊を前に一隻でも多くの戦力を投入したい中、レビルは大規模な艦隊ならば航行することはできない、普通ならば来ないであろう場所に自身が一目置くワグラムを配置した。

 その判断は的中した。ワグラム艦隊は連邦軍後方を撹乱させようとしたシーマ艦隊を捉えたのだ。敵が自分達を把握していないことに気づくと、ワグラムは挟撃による殲滅を図るため艦隊を二つに分けて、敵の退路を塞ぐように自身が率いる本隊を敵に悟られないように動かした。

「あれだけの数で後方を攻めても我が軍の優位は変わらない。いち早く駆逐してレビル中将に後方の安全は確保されたことを報告するとしよう」

 尊敬する上司に報告する自分の姿を想像するワグラム。その時だった。

「む、ムサイ級一隻がその場に留まり向きを変えてきます!」

「……っ!?」

 部下の報告にワグラムは唖然とする。戦艦6隻に1隻で対峙しようとしている事実に。

 ワグラムの考えでは4隻のジオン艦隊は前方の連邦軍を排除した後にこちらに対峙すると思っていたからだ。そして前方の連邦軍の別働隊が時間を稼ぐ間に自分たち本隊が敵後方を強襲して挟撃を完成させる考えだった。仮に退路である自分たちに向かった場合、前方の別働隊が後方を強襲し挟撃を完成させる。

 ジオン艦隊がどちらに進んでも挟撃により殲滅するという当初の予想を打ち砕くものだった。

「……まあいい。敵は1隻。さっさと撃沈して残りを片付ければ問題ない」

 予想外の敵の行動に動揺したがすぐに考えを修正すると、余裕を取り戻したのか「ふうっ」と軽く息を吐く。

「MS部隊、展開!」

「戦闘機を出撃させろ!」

 部下からの報告に次々と命令を発するワグラム。しかし彼は再び驚愕させられることになる。部下からの報告によって。

「た、大佐!?」

「何だ?」

「て、展開したMS部隊の内の一機がこちらにゆっくりと近づいてきます!」

「え、映像を出せ!」

 モニターにはゆっくりとこちらに近づいてくるザクⅠの姿が映し出される。ザクⅠの手にはヒートホークのみで銃火器の類は持っていなかった。

 ふらふらと近寄ってくる一機のMS。ワグラムはいつでも撃ち落とせるように準備をさせながら不可思議な行動をするザクⅠの行動を考える。

(降伏? それとも我が軍に寝返ろうとしているのか?)

 ワグラムは優秀な軍人だった。しかし彼は読み違えていた。

 一つは自分たちが相手をしていた軍隊がグラナダ海兵隊の中でも1、2を争う実力の持ち主であるシーマ・ガラハウとゲール・ハントの部隊だったこと。

 そして謎の行動を取るザクⅠのパイロットがMSの技術だけならばシーマと同等、もしくはそれ以上の腕前を持つエースパイロット、クレア・バートンだったこと。

 ワグラムが自身の危険信号に従い撃墜の命令を出そうとした直後、ふらふらと進んでいたザクⅠは一気に加速。命令を待たずに迎撃する戦闘機もいたが、それをあざ笑うかのようにザクⅠは回避する。

「ば、バカな!?」

 ワグラムは目を大きく見開く。

 大きく見開かれた瞳が最後に見たのは、自分がいる艦橋めがけてヒートホークを振り下ろすザクⅠの姿だった。

 

 ====================================================

 

「相変わらず無茶なことをさせるわね」

 マゼランの艦橋を破壊したクレアは苦笑する。

 ヒイラーの考えた作戦はこうだった。

 敵が部隊を展開する中でクレアの乗るザクⅠがヒートホークのみで敵に歩み寄るように近づく。

 圧倒的な戦力差にふらふらと近づいてくる、銃火器を持たないMSに敵は撃ち落とすよりもその意図を考える。

 そして撃ち落とす判断をする前に敵の旗艦の艦橋を叩き敵艦隊の指揮系統を混乱させるというものだった。

「こんなクモの糸で綱渡りをするようなこと、させてくれたわよね。ヒイラーは」

 マゼランを踏み台に近くのサラミスに接近したクレアは外壁に向かってヒートホークを振り下ろす。しかしわずかな傷が出来たのみで撃沈には程遠かった。その時数機の戦闘機がもう一度ヒートホークを振り下ろそうとするクレアのザクⅠの後ろを取ると狙い打つ。

「フッ」

 クレアは一笑するとヒートホークを手放し、機体を上昇させる。

 ザクⅠに当たるはずだった攻撃はサラミスに命中する。命中した銃弾はザクⅠのつけたわずかな傷を拡大させる。艦内で爆発が起こり、運悪くエンジンルームに誘爆。

 サラミスは爆発した。

 これにより同士討ちを避けるため攻撃を停止するように命令がかかる。その混乱に乗じてクレアはギラメルに向かう。

 指揮官のワグラムを失い指揮系統に乱れが生じる連邦軍。その混乱を拡大させるかのように銃火器を携えたクレアのザクⅠ率いるMS部隊とギラメルが攻撃を加える。

 マゼランとサラミスを失った状況でもサラミス4隻と多数の戦闘機は健在だった。しかしその未だ圧倒的な戦力差も指揮系統が整わない状況では満足な迎撃は出来なかった。

 ヒットアンドアウェイを繰り返すギラメルとクレア率いるMS部隊。そして戦況が決定付けられる事態が起こる。シーマ率いるシーマ艦隊本隊が連邦軍別働隊を駆逐して引き返してきたのだ。

 ワグラム亡き後、指揮系統が整わない状態の連邦軍と指揮系統が整ったグラナダ海兵隊最強部隊。同じ艦隊でも勝敗は見るまでもなかった。

 シーマ艦隊本隊の攻撃により烏合の衆と化し撃沈、降伏を余儀なくされた。

 

 

 

 この戦いにより作戦を立案し敵本隊を食い止めたドラント・ヒイラーと敵旗艦を潰し勝利の要因になったクレア・バートンの昇進が決定。

 中尉になったクレアはかねてからの望みだったシーマ直属のMS副部隊長に任命されることとなった。

 




柊竜真氏に「これだけの活躍したんだから二つ名あるんじゃないの?」と尋ねられたので、クレアに二つ名がない理由を投稿しようと思います。


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クレアに二つ名がない理由

前話を柊竜真氏に見せた時に二つ名がついてもおかしくない活躍だと言われたので、なぜクレアに二つ名がないのかを説明しないといけないかな?と思い、思いつきました。

ギャグコメディ回です。



 リリー・マルレーン コッセルの部屋。

「私も二つ名欲しいぃぃぃっっっ!!」

「……」

 ブレイクダンサーのように器用に床で回転しながら駄々をこねるリリー・マルレーンMS副部隊長を務める女性士官、クレア・バートンをコッセルは部下の身体能力の高さに感心と呆れが混じった顔で見ていた。

 事の発端はルウム戦役でのことだった。

 シーマ艦隊所属ギラメル艦長のドラント・ヒイラーと共に圧倒的不利の状況から勝利に導いた立役者となったクレアは本人が望んでいたシーマ・ガラハウ直属の部下になった。しかしその後戦艦5隻を撃沈させたシャア・アズナブル、地球連邦軍総大将であるヨハン・イブラヒム・レビルを捕虜にしたガイア、オルテガ、マッシュがそれぞれ『赤い彗星』、『黒い三連星』という二つ名がつけられたことを知ると騒ぎ出したのだ。

 

 私だってすごい活躍したじゃないですか!! 何で私には二つ名がないんですか!! 

 

 と。

 コッセルが「俺達は戦況に大きく関係しない戦場で戦っていたからな。仕方がないだろう」と言ってもクレアは駄々をこね続けた。

「はぁ、じゃあ俺がお前にふさわしい二つ名を考えてやるよ」

「本当ですか!?」

 その言葉を聞いた瞬間、クレアは地面に手を突かずに空転して起き上がると目を輝かせながらコッセルを見上げる。

(こいつ、雑技団にでもいたのか?)

 軍人離れした部下の身体能力に度肝を抜かれつつ、コッセルは顎に手を置いて考える。

「う~ん、そうだな……そうだ!」

 いかつい巨漢の男はポンッと手を打つ。

「火星の別名でもある熒惑星(けいこくせい)からちなんだ二つ名はどうだ? 熒惑星はその赤い色から不吉な象徴とされているが、敵である連邦軍からすればルウム戦役での活躍は悪夢としか言いようがないだろう。お前の髪も赤いしピッタリの二つ名になると思う、が……」

 説明に夢中になっていたコッセルは目の前の部下に目を移す。そこには

 

 ぷしゅ~~~

 

 頭から白い煙を出してショートしたクレアの姿があった。

「熒惑星はこいつには無理だったか……」

 目の前の童顔軍人に合わせて考えなければと考えを改めたコッセルは『凶星(きょうせい)』や『流星(りゅうせい)』など様々な二つ名を提案する。

 しかし

 

「きょ、嬌声(きょうせい)ですって!? ハッ……まさかコッセル大尉はこのシーマ様の次に美しいこのパーフェクトボディを貪り食らおうというのですか!!」、「劉生(りゅうせい)? 私、中国人じゃないですよ!!」

 

 と見当違いな発言をする。

「はぁ……だったら!」

 考えることが馬鹿馬鹿しくなったコッセルは投げやりに言った。後に自分の不幸を招く二つ名だと知らずに。

 

 ======================================

 

 数日後。

 リリー・マルレーン ブリッジ

「さて、クレアがどう料理するか、こうして見せてもらおうかねぇ」

 敵MS部隊が少数だと知ったシーマは白い虎の毛皮が敷かれた艦長席でゆったりと珈琲(コーヒー)を飲んでいた。クレア達の力量を改めて把握するためと、いつも自分に花を持たせるクレアへの労いを兼ねてとのことだった。

『シーマ様、行ってきます!』

「ああ! 存分に暴れてきな!」

 ブリッジのモニターに映る童顔の部下に激励する。

『はい!』

 ビシッと見事な敬礼で返すクレア。そして、次に発した彼女の言葉はそんな空気をぶち壊した。

 

『シーマ様の犬、クレア・バートン出るっ!!』

 

 ぶううううううぅぅぅぅぅぅっっっっっっ!!??

 

 その言葉にシーマは口に含んでいた珈琲を噴出し

 

 …………

 

 ブリッジクルーは固まった。

「あのバカ! 本当に自分の二つ名にしやがった……ハッ!?」

「コ~ッセ~ル~~~!!」

 コッセルは振り返る。そこには大きめの扇子をバンバンと鳴らし、ドス黒いオーラを体中から漂わせながらにらみつけるシーマの姿があった。

 

 

 

 クレアに二つ名がない理由。それは本人があまりにもバ……シーマ・ガラハウの部下である自分には二つ名はいらないという謙虚な姿勢からである。




クレアはすごいけんきょだな(棒読み)

>クレアは地面に手を突かずに空転して
サントリーフーズのアミノ式CM並みの身体能力だ……筆先文十郎の歳がバレますね汗


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シーマに成り代わった女~知将・ヒイラーの策~

 ギラメル ブリッジ

「……」

(まずいな、この状況は……)

 シーマ艦隊所属ムサイ級ギラメル艦長、ドラント・ヒイラーは動揺する部下達を尻目に静かに戦況を分析していた。

 事態が急変したのは10分前。単独で哨戒任務を行っていたギラメルだったが突然レーダーに異常が発生。レーダーが正常になった時には連邦のペガサス級アルビオンとサラミス級ユイリンとナッシュビルに三方向から包囲されている状況に追い込まれていた。

 ムサイの攻撃手段である連装メガ粒子砲、120mm連装機関砲は全門破損。カタパルトは破壊されMS部隊は出撃できないという反撃が一切出来ない状況に追い込まれていた。

 またミノフスキー粒子の影響でクレアが率いるシーマ艦隊本隊に連絡することも出来ない状態だった。

「艦長! 反転して退却しましょう!!」

「馬鹿者。その間に総攻撃を受けて撃沈される」

 進言する副長の言葉を退けたヒイラーは敵と対面したまま退却を指示。しかし後進での退却は速度が出ず三方向からの攻撃を受け続けることになる。

 絶望の言葉を吐く部下達を「泣き言を言う前に自分が出来る仕事をしろ! 危機を脱出する機会は絶対にある!」と叱責しながらヒイラーは苦々しい顔で戦況を見つめていた。

 

 ======================================

 

 アルビオン ブリッジ

「……」

 ガンダム試作2号機追撃の任務を任されたアルビオン艦長、エイパー・シナプスは戦況を無言で見ていた。

(敵の軍艦(ふね)の様子からして反撃もままならないようだ。反転して逃げようにもその途中に無防備状態になるのを恐れて後退しているようだ。このまま攻撃を加えれば撃沈できるだろう……しかし)

 シナプスの脳裏にとある考えが浮かんでいた。

『シナプス艦長、ユイリンが敵の退路を塞ぐように進軍します。アルビオンはナッシュビルと共にこのまま攻撃を!』

 思案するシナプスにユイリンの艦長、セバスが進言する。シナプスは自分より一回り若い少佐を制止する。

「セバス艦長。このまま敵艦を沈めないよう攻撃を抑えてもらいたい」

『なぜです!?』

 声を荒げるセバスに諭すように伝える。

「敵をこのまま退却させれば、敵は味方のところに退却するだろう。そうすればデラーズ・フリートの本拠地が割り出せる」

『なるほど!』

 ユイリンの艦長はその命令に納得し、艦隊の指揮を執る上官に敬礼する。

「スフィーダ艦長も聞いたな?」

『ハッ!』

 40歳手前の厳つい顔のナッシュビル艦長、スフィーダ中佐に確認すると、彼もユイリンの艦長同様に敬礼で返した。

「よし! このまま敵艦への攻撃を続行する。くれぐれも落とさないように細心の注意を払え!」

 

 ======================================

 

「今すぐ反転を!」と今にも泣きそうな声で叫ぶ副長に「堪えろ!」と制止するヒイラー。その時ヒイラーは敵の攻撃が緩まったのに気がついた。

(どういうことだ?)

 敵の意図がわからず思案するヒイラー。だがルウム戦役で一隻で六隻の敵艦を足止めし、シーマ艦隊全滅の危機を勝利に導いた冷静さと胆力を兼ね備えた男はすぐにその答えを導き出した。

 そして、それと同時に敵の思惑を利用し、敵を全滅に追い込む策を。

 この時を待っていたかのように部下から朗報が入る。

「艦長! ミノフスキー粒子濃度が低下。今ならリリー・マルレーンに通信できます!」

「わかった!」

 ヒイラーは立ち上がり命令を下した。

「これより本艦は反転、本隊の方へ向かう。そしてクレア……じゃなくてお頭に伝えろ。ドラント・ヒイラーに策ありとな」

 その顔には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。

 

 ======================================

 

 地球連邦軍はユイリンを先頭にアルビオン、ナッシュビルが暗黒宙域に逃げたギラメルを追っていた。

(これで残党の本拠地があぶりだせる!)

 デラーズ・フリートが潜伏していると思われる箇所は100以上。それを虱潰しで探して結果は出なかった。その苦労が一気に報われることに歴戦の艦長に笑みが出る。

 その時だった。

 「なっ!?」

 突如前方のユイリンがレーザーによる直撃で爆散した。

「何が起こった!?」

 その答えは部下からの報告で明らかになる。

「艦長!ザンジバル級1隻とムサイ級4隻が我が軍を包囲しております!!」

「さ、索敵は何をしていた……ッ!」

 シナプスは叱責しようとした自分を恥じて唇を噛んだ。

(これは敵の手がかりを欲するあまり私が招いた軽率さと敵を軽んじていた結果……部下に怒りをぶつけている場合ではない!)

「敵、MSを展開!」

「こちらもMSを発進させろ!」

『艦長!』

 ブリッジのモニターに一人の男、アルビオンMS部隊の指揮を執るサウス・バニングの顔が映る。自分と同じベテラン軍人にシナプスは命令する。

「バニング大尉!敵MSを近づけさせるな!!」

『ハッ!!』

 

 ======================================

 

 リリー・マルレーン

「ふふっ。流石(さすが)は戦術だけならばシーマ様をも上回るかもしれない頭脳を持つヒイラーなだけある」

 白い虎の毛皮が敷かれた椅子で、シーマ艦隊を指揮するクレア・バートンが絶体絶命の状態から敵殲滅の作戦を立案した男に称賛の言葉を送る。

 シナプスがデラーズ・フリートの本拠地を探るためにわざと見逃されたことを見抜いたヒイラーはこれを利用してクレア率いるシーマ艦隊本隊が待ち構える場所に誘導した。

 そしてその作戦は成功し、アルビオンからなる連邦艦隊はシーマ艦隊の待ち伏せによって全滅の危機に陥っていた。

 クレアは持っていた団扇を振り下ろし、言い放った。

「MS部隊でトドメを刺す!」

「お頭のMSを用意させろ!!」

 クレアの命令にコッセルがすぐに部下に命令をだした。




本作の熱砂の攻防戦でシナプス艦長の策を逆に利用するヒイラー。

さすが参考にした人物が人物だけあってすごい。作者の自分がこういうのも変かもしれませんが。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~ゲルググ・M対ガンダム試作1号機③

 クルドらを引き連れ出撃したクレアは前方を見る。そこでは鼠一匹逃さないほどの包囲網を形成したシーマ艦隊が袋の鼠と化した連邦軍に襲い掛かる状況だった。

「ふふっ」

 防戦一方になる連邦軍に向けてニヤリと笑う。

「ふふっ、選り取り見取り……どちらから落とそうかね」

 クレアはアルビオンとナッシュビル、二つの艦を交互に見る。

「メインディッシュは後に取っておこうかしらね」

 クレアは狙いを定める。獲物を狩る野獣の目をしたクレアの視線の先、わずかになりつつも何とか抵抗を続けるMS部隊に守られているサラミス改級巡洋艦、ナッシュビルだった。

「まずは前菜よね?」

 舌なめずりをしたクレアは機体を走らせる。クレアの突撃に気づくナッシュビルMS部隊だが、すでにシーマ艦隊所属のMS部隊の迎撃に手いっぱいで対応出来ず、簡単に突破を許してしまう。

「ハハハッ!!」

 サラミス改級は全包囲に迎撃できる装備をしているとはいえ、一部がMSにより破壊されMS部隊の護衛がない状況。

 茨の園に接近しつつあったセバスチャン&マクシミリアンを迎撃した戦いで、一機で護衛MS部隊5機とサラミス改級を撃沈したクレアにとってナッシュビルの艦橋に取りつくのは朝飯前だった。

「これでお終い!」

 クレアがビームライフルの引き金を引くとナッシュビルは火だるまと化した後、爆散した。

「さて。メインディッシュといこうか!」

 ナッシュビルの撃沈を確認した後、クレアは先の奇襲で落とすことが出来なかったペガサス級強襲揚陸艦・アルビオンに狙いを定め突撃を開始する。

 シーマMS部隊が四方から襲い掛かる中。アルビオン所属MS部隊隊長、サウス・バニングはクレアの動きを察知し部下のチャック・キースを率いて迎撃する。しかし他のシーマ艦隊MSの攻撃に邪魔されてクレアの突破を許してしまう。

「ふふっ」

 クレアの目の前には先の戦いで打ち損ねたペガサス級強襲揚陸艦アルビオン。そしてクレアに狼狽(うろた)えるジムキャノンⅡ一機。

 ジムキャノンⅡはこれ以上クレアを近づけまいと弾幕を張る。そんな攻撃をクレアは鼻で笑う。

「そんな()ぬけた弾に殺される私じゃないのよ!」

 クレアはジムキャノンⅡの攻撃を容易く回避し間合いを詰めた。自分の攻撃を軽々回避し間合いに入った敵にジムキャノンⅡのパイロットは恐怖で思考を停止させてしまった。

「メインディッシュの引き立て役として、死にな!!」

 恐怖とパニックで動きを止めてしまったジムキャノンⅡに向けてクレアはビームサーベルを振り下ろそうとした。その時だった。

 

「ッ!?」

 

 クレアの本能がビームサーベルを振り下ろすよりも先に機体を後退させた。先ほどまでクレアがいた場所をビームが通過する。もしクレアが後退させていなければ直撃を受けていた。

「どこからだ!? ……ッ!!」

 ビームが飛んできた方向に目を凝らしたクレアが見た光景、それは長距離ビームライフルを搭載したブースターベッドを操作する、宇宙戦使用に換装されたガンダム試作1号機Fb(フル・バーニアン)だった。

「この前墜とし損ねたガンダムか」

 クレアはジムキャノンⅡから離れて適度な間合いを取ると、猛烈なスピードで包囲網を突破したブースターベッドを切り離し自分に向かってくる1号機に照準を合わせる。

「墜ちな!」

 普通のMSでは出すことのできない速さで向かう1号機に向かってクレアはビームライフルの引き金を引いた。凄まじい速度で迫る1号機。

 命中する。そう思った瞬間、1号機はその加速を維持したまま大きく跳ねて攻撃をかわした。

 

「なっ! バッタか!?」

 

 MSではあり得ない、バッタのような動きにクレアは大きく目を見開く。しかし驚く暇はなかった。1号機がすぐ目の前まで迫っていたからだ。

「くっ!」

 1号機の光刃を盾で受け流したクレアは周囲を見る。圧倒的な数で圧されていたはずのアルビオンのMS部隊は精気を取り戻し、シーマMS部隊を押し返そうとしていた。先ほどクレアが仕留めそこなったジムキャノンⅡもアルビオンの防衛に回り、迫り来るシーマMS部隊を迎撃していた。

 桁違いの機動性を駆使してビームライフルを撃つ1号機の攻撃を、クレアは持ち前の反射神経と盾で回避する。

「……ったく。忌々(いまいま)しい奴だよ、ガンダム!」

 ジムキャノンⅡ撃墜を邪魔したばかりか消沈しかけていた敵の士気を高揚させた1号機にクレアは目を怒らせる。

 ビームライフルを乱射させながら自身に突っ込む1号機にクレアも機体を走らせる。

「その並外れた機動力には舌を巻くけど、その機動力に攻撃の正確さがついてないんだよ!」

 1号機の攻撃を紙一重で(かわ)したクレアがビームサーベルを抜く。

「もらった!!」

 間合いを詰めたクレアはビームサーベルを振り下ろす。1号機はビームライフル以外何も持っていない。クレアの攻撃を防ぐ手段はなかった。

 

 ()った!! 

 

 クレアの顔に狂喜の笑みが浮かぶ。だがその笑みは一瞬で消え失せた。ビームライフルに搭載されたビームジュッテで防がれたからだ。

「チッ!」

 ビームサーベルを弾き、ライフルを撃とうとした1号機をクレアは蹴飛ばして回避する。

「一体何なんだよ、お前は!!」

 再び間合いを取ったクレアは目を血走らせサーベルからライフルに持ち替え再度攻撃をしようとする。その時だった。

「え?」

 視界の横に見えた爆発にクレアは言葉を失った。

 アルビオンとナッシュビルの退路を塞ぐ位置に展開していたシーマ艦隊所属の軍艦メラメルが、帰る母艦(ふね)を失ったナッシュビルMS部隊の捨て身の特攻によりメインエンジンに直撃を受けて爆散したのだ。

「おのれ……おのれ!!」

 アルビオンを撃墜することに気を取られ敵MSを撃ち落とさなかった自身の過失にクレアは下唇を噛む。

 連邦軍壊滅を目論んでいたクレアは戦場の鉄則を忘れていた。それは戦意ある敵には完全包囲しないことという鉄則を。

 窮鼠(きゅうそ)(ねこ)()む。どんなに弱い敵でも戦意が充分にある敵を追い詰めれば思わぬ力を発揮し一矢(いっし)(むく)いることもある。

 もしこの場に権謀術数のシーマが認めるクレアの同期でありシーマ艦隊2番艦ギラメル艦長、ドラント・ヒイラーがいれば完全包囲することなく一方向だけわざと空けさせていただろう。そうすれば敵は戦うことよりも逃げることを優先しやすくなり、その脇腹を突くことができる。

 完全殲滅を目論み敵に背水の陣を敷かせた緩みと敵MSを放置した油断。自身が招いた二つの失態により圧倒的戦力と心理的優位という優位性を無くさせた上、目標の撃沈を未だに出来ないばかりか貴重な戦力であり苦楽を共にした仲間を失った。

「シーマ様なら、シーマ様ならこのような失態は……!!」

 身体の奥底から湧き上がる抑えることの出来ない怒りに、クレアは目を大きく見開き歯を喰いしばる。

『お頭、そろそろ弾薬の残りが!』

『こちらの損害も大きくなっています。撤退を!』

「ふざけるな!!」

 クルトとカナフの進言を跳ね除ける。

「こんなに優位な状況で撃沈出来なかったなんて……許せるものか!! 全軍──」

 突撃しろ!! そう命令を発しようとしたのを

 

『クレア!!』

 

 お頭と呼ばず部下を叱りつける、モニターに映るコッセルの険しい顔と怒声が(さえぎ)った。

 その怒声にクレアはハッと気づく。

 敵を誘き出した所を一気に叩くという作戦は破綻(はたん)し、メラメルの撃沈と消耗により味方の士気は激減。対する連邦軍は友軍のナッシュビルとそのMS部隊を失ったものの1号機の参戦とナッシュビルMS部隊の捨て身の特攻により士気は向上。戦力は消耗しつつも戦うだけの力はまだ残されていた。

 このまま攻め続ければ殲滅は可能だがそれ以上に味方の戦力が(いちじる)しく損なわれるのは火を見るよりも明らかだった。

 クレアは決断した。

「撤退する! 殿(しんがり)は私とリリー・マルレーン!!」

 断腸の思いで命令を発すると追撃しようとした1号機を牽制(けんせい)しつつクレアは後退した。

 シーマ艦隊ほどではないが損傷が激しいアルビオン及びアルビオンMS部隊も撤退するシーマ艦隊を追撃することはなかった。

「おのれアルビオン! ……おのれガンダム試作1号機!」

 クレアを回収するとシーマ艦隊は瞬く間に暗黒宙域に姿を消した。




投稿が遅れて本当に申し訳ございません。
遅れた理由は他に書いていたというのもありますが最大の理由は途中まで書いていたのを誤って消してしまい、完全にやる気を失っていました。

最低でも一か月に一度くらいのペースで書けるように頑張ってみますので、読んでくださる方がいらっしゃいましたら温かい目で見て下さると幸いです。


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クレア、デラーズ・フリート決起の放送を聞く

 リリー・マルレーン シーマの部屋

「……」

 アルビオン及びガンダム試作1号機との戦いを終えたクレアは事後処理をコッセルに任せると、戦闘中に行われていたデラーズの演説を椅子の背もたれに体を預けて観ていた。

『地球連邦軍、並びにジオン公国の戦士に()ぐ!! 我々はデラーズ・フリート!!』

 画面には巨大なジオン公国の旗を背後に、手すりに手を置くデラーズ。その後ろには連邦軍に恐れられる『ソロモンの悪夢』、アナベル・ガトーが立っていた。デラーズは力強い声で続ける。

所謂(いわゆる)一年戦争と呼ばれたジオン独立戦争の終戦協定が、偽りのものであることは誰の目にも明らかである。何故ならば協定は『ジオン共和国』の名を(かた)る売国奴によって結ばれたからだ!! 我々は(いささ)かも戦いの目的を見失ってはいない。それは間もなく実証されるであろう!!』

 デラーズは力強く握った右手を下ろし、静かに目を閉じる。

『我々は日々思い続けた。スペースノイドの自治権確立を信じ、戦いの業火に焼かれていった者達の事を!! そして今また、()えてその火中に飛び入らんとする若者の事を』

 志半ばで失った者を思い、またどんな困難が待ち受けていようとも志のために立ち上がろうとする者を思いながら。閉じていた目を開き両手をグッと握りしめて、デラーズは言った。

『スペースノイドの心からの希求である自治権要求に対し、連邦はその強大な軍事力を行使して、ささやかなるその芽を摘み取ろうとしている意図を、証明するに足る事実を私は(ぞん)じておる!! 見よ!! これが我々の戦果だ!!』

 バッと背後の旗が引っ張られ地面へと落ちる。そこにあったのはガトーによって強奪されたガンダム試作2号機だった。

 デラーズは右手を力強く掲げる。

『このガンダムは核攻撃を目的として開発されたものである!! 南極条約違反のこの機体が密かに開発された事実をもってしても、呪わしき連邦の悪意を否定出来得る者がおろうか!? (かえり)みよう!! 何故ジオン独立戦争が勃発したのかを!! 何故我等がジオン・ズム・ダイクンと共にあるのかを!! 我々は三年間待った……。もはや、我が軍団に躊躇(ためら)いの吐息を漏らす者はおらん!!』

 躊躇いの吐息を漏らす者はいない。そのことを示すようにデラーズは握っていた右手を力強く払う。

『今、若人(わこうど)の熱き血潮を我が血として、ここに私は改めて地球連邦政府に対し、宣戦を布告するものである!!』

 胸に右手を置いたデラーズが画面の先にいる連邦軍に向かって指さす。

仮初(かりそめ)の平和への(ささや)きに惑わされる事なく、繰り返し心に聞こえてくる祖国の名誉の為に、ジーク・ジオン!!』

「ケッ、デラーズ(口だけ狸)め!!」

 クレアは侮蔑の気持ちを隠すことなく言い放った。一見正しいように見える演説も、クレアにとっては表面だけで欺瞞(ぎまん)に満ちたものにしか聞こえなかった。

「スペースノイドの大半が望んでいたのは自治権の確立よりも戦争終結でしょう? 形はどうあれ宇宙に平和は訪れた。その平和をかき乱そうとしている奴が何を言うんだか……」

 それに、とクレアは続ける。

「そもそも南極条約は『NBC兵器および大質量兵器の使用(・・)禁止』であって保持に関しては明記されていない。保持までいけないのならコロニーも『コロニー落としに使われるから保持してはならない』と言われて放棄しなくてはならないからね。あと核を使用したジオン公国が言っても説得力はないと思うけど?」

 オデッサ基地司令であるマ・クベが水爆ミサイルを使用し、ヨーロッパ方面軍師団長であるユーリ・ケラーネが追撃する連邦軍を振り払う為に核兵器を使用した疑いがあるとクレアは風の便りで聞いていた。

 クレアにとってデラーズの演説は『自分達の悪しき行為は正義というお題目で覆い隠して自分達以外に罪を着せる』という矛盾と自己都合に満ちたものにしか聞こえなかった。

「あ~あ。これは失敗しちゃったかしらねぇ~」

 シーマを追放しデラーズ・フリートに参入した自分の判断を他人事のように呟く。

 でも、とクレアは先ほどの言葉を否定する。

「だからといって連邦に寝返っても連邦に(あご)で使われるだけ。……シーマ様は決して幸せになることはない」

 スッとクレアは立ち上がる。

「もう私は(さい)を振っている。もう引き返すことなどできない。あのデラーズ(ハゲヒゲ)にかけるしかないわね。ハァ~」

 重いため息をつくと、クレアは外へと出ていった。




まったく考えていないようで結構考えているクレア。
そしてこれを書くために3時間。完成するのはいつのことやら・・・。

資源搬入港のクレアの恰好も決まってないし・・・(いくら見た目が中学生くらいって言っても学校の制服だと怪しまれるだろうし・・・)


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ザケルフと隻腕のパイロット

 月 フォン・ブラウン市郊外

「ふわあぁ~」

 周囲に誰もいなくなった日が暮れた夜道を残業帰りのサラリーマン風の小太りの男が大きく開いた口を手で塞ぎながら歩いていた。

 デフキサ・ザケルフ。

 シーマ艦隊に所属する諜報工作員で、表だけでなく裏からも情報を集めてはシーマ艦隊に様々な情報を送り続けている男である。

 この日はアナハイム・エレクトロニクス社の情報提供者への接待で酒を飲みすぎていた。

(う、頭が痛い……)

 歩いて帰るのも難しいほど飲みすぎたザケルフはタクシーを頼んだ。しかしあまりに酔っていたため舌が上手く回らず行き先が伝わらなかったようで、運転手は指定した場所とは全く違う方角に車を走らせた。運転手に起こされ車を降りると見たことのない風景にザケルフは茫然(ぼうぜん)とした。

 

「ここどこ?」

 

 振り返ると歓楽街の明かりが見えた。そのことからここが歓楽街の端であることは理解した。しかしタクシーはすでに発車して元の場所に戻ることすら出来ない状況に陥っていた。

「仕方がない」

 ザケルフはすぐにタクシーを呼んだ。タクシーを待つ間、ザケルフは周囲を散策する。

「ん?」

 ザケルフの鼻が何かを感じ取りヒクヒクと動く。

「……何だ、この臭い?」

 嗅いだことでそれが何なのか判断ができないザケルフは嗅覚に神経を集中させ、かすかな臭いを探す。

 そこはジャンク屋だった。

 ザケルフは沢山のジャンク品を見ると同時に周囲を確認。防犯装置の種類や位置、周囲に人や番犬などがいないことを確認すると敷地の奥へと進んだ。

「どこからだ、臭いの元は?」

 タクシーが来る予定時間が迫っていてもザケルフは臭いの元を探すため歩を進める。

 ザケルフがこだわる理由。それは月に来て初めて嗅いだ、戦いに身を置いた者にしか嗅ぐことがない臭いだったからだ。

 ジャンク品に(つまづ)きそうになりながらもザケルフは進む。足が止まる。そこは大きな倉庫だった。扉には鍵がかけられていた。しかし

「このタイプだったら……」

 背広に隠している特殊工具を取り出すとザケルフは手慣れた様子で作業を始める。

 一分も経過しない間にザケルフは扉のロックを外した。

「……ゴクッ」

 ザケルフは口に溜まった唾液を飲むと、音を立てないようにゆっくりと扉を開ける。開けた瞬間、臭いが一気に強くなった。

「……まさか!?」

 臭いの正体がMS用の駆動用オイルだと気づいたザケルフはペンライトで周囲を照らす。光が照らしたもの、それは巨大な赤い機体だった。

「な、何だ……これは!?」

 小さな光のペンライトで巨大な赤い機体を照らす。

「これはモビル……ウグッ!?」

 ザケルフの言葉は何者かに襟首を引っ張られ投げ飛ばされたことで中断される。

(だ、誰だ!?)

 地面に大きく叩きつけられたザケルフは上半身を起こしてペンライトで確認する。そこには彫りの深い金髪の男がザケルフを目力のある瞳で睨みつけていた。よく見ると左腕がなかった。

「これを見られたからには、生かしておくわけにはいかないな」

 片腕の男は腰の拳銃ホルダーに手をかける。

「ま、待て!」

 ザケルフは両手をあげて、武器を所持していないことと抵抗する意思がないことを示す。

「アンタ、ジオンの人間だろ?」

「……ッ!?」

 ジオンの人間。その言葉に金髪の男は引こうとした引き金を止める。

「なぜ俺がジオンの人間だと?」

「か、簡単な話だ……」

 即座に射殺される危険を回避したザケルフは大きく息を吸う。

「あれがMAなのはオイルの臭いと外観で気づいた。そして連邦には俺が知る限りMAはない。つまりあれを所持しているアンタはジオンの人間、というわけだ」

「そうか。では尚更(なおさら)お前を生かしておくわけにはいかないな」

「ちょ、ストップストップ!!」

 引き金を引こうとした隻腕の男にザケルフは慌てて両手を突き出す。

「俺もジオンの人間だ!! だから撃たないでくれ!!」

「……証明できるものはあるか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 ザケルフは背広の隠しポケットからジオン軍所属が記されたタグを取り出す。

「……」

 隻腕の男は銃をホルダーに収めると警戒を緩ませることなくタグを確認する。

「ジオン公国軍突撃機動軍所属……デキフサ・ザケルフか」

 隻腕の男はタグをザケルフに返す。

「信じてもらえたか?」

「一応な。……ところで貴様は何をしていた?」

「それはアンタの名前を聞いてからだ。アンタがジオンの人間だというのはわかったがアンタを信じていい人間かはこちらは判断できないからな」

「口だけは達者だな」

 隻腕の男はフッと笑った。

「俺はケリィ・レズナー。宇宙攻撃軍所属のパイロットだ。階級は大尉。元……が付くけどな」

 この時ザケルフはケリィと名乗った男の顔が一瞬複雑な顔になったことに気づいた。

「では改めて聞こう。貴様は何をしていた?」

「レズナー大尉。貴方のような男を探しておりました」

「なんだと!?」

 ザケルフの言葉にケリィ・レズナーの顔が驚きに変わる。

 本当は普通に生活しているだけでは嗅ぐことはない臭いをたどってここに来たのだが、核心にいち早く近づくためザケルフは嘘をついた。ザケルフは続ける。

「私はシーマ艦隊に所属する諜報工作員です。現在シーマ艦隊はデラーズ・フリートに所属しており、シーマ艦隊はとある作戦を遂行するために優れた人材と機体を喉から手が出るほど欲している状況です」

「……」

 ケリィは黙ってザケルフの言葉を聞く。

「もしレズナー大尉に戦う意思があるのならば、シーマ艦隊に協力していただけないでしょうか?」

「……」

 視線を地面に落として考えるケリィ。考えること数十秒。一度後ろの機体に目を移した後、口を開いた。

「こちらにも準備がある。今すぐ、というわけにはいかない」

「……わかりました。では今日の所はこれで」

 これ以上の詮索は自分の身に危険が及ぶ可能性がある。そう考えたザケルフは連絡先を交換すると敷地を後にした。

 

 

 

 ちなみにザケルフが呼んだタクシーは時間になっても来なかったために引き返し、再びザケルフが困惑する状況に陥ったのは言うまでもない。

 

 




ついにケリィ・レズナーが登場。クレアとどのような接点が結ばれるのか?どう物語が進展するのか?それは誰もわからない。作者もわからない・・・。


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シーマ・ガラハウに成り代わった女~クレアと狸~

オサリバン登場


 月 フォン・ブラウン市 資源搬入港

 サングラスをかけビシッと決まった白いスーツに身を包んだクレアが輸送艇から降りると、頭頂部がはげた中年の男性が出迎えた。

 オサリバン。

 アナハイム・エレクトロニクス社フォン・ブラウン支社の常務で、連邦軍からガンダム開発計画を受け持つ一方でシーマと裏で取引をしている老獪(ろうかい)な男である。

「お待ちしておりました、クレア様」

 男は右手を胸に置いて降りてきたクレアに頭を下げる。

「フフッ、アナハイムも商売がうまいじゃないか」

 クレアは冷ややかな笑みを男に見せる。

「上得意の連邦の軍艦(ふね)は第一ポートでこちらは資源搬入港かい?」

「はて? これはお伝えしておりませんでしたか?」

 男はお世辞笑いを浮かべながら続ける。

「デラーズ・フリートの決起放送以降は連邦軍の監視が強化されておりまして」

「今度は連絡を徹底させてもらう!」

 ギロッとクレアはオサリバンを睨みつける。並の男はおろか数々の戦場を潜り抜けた軍人ですら震え上がるクレアの睨みを、表も裏も知り尽くした男は

「はい」

 と笑って受け流す。

 普通なら震え上がる自分の睨みを軽く受け流すオサリバンに、クレアは「ふんっ!」とつまらなそうに言うとサングラスに手をかける。

「まあいい。でもこれだけは覚えておけ」

 サングラスを外してクレアはニヤリと笑う。

「こちらの補給艦の入港時にもしも連邦軍が手ぐすねを引いていたら……月にコロニー、落としちゃうよ?」

「心得ておきます」

 普通の者ならば腰を抜かしそうなクレアの言葉にオサリバンは邪悪な笑みを浮かべながら答えた。

(喰えないハゲ狸だ)

 クレアはオサリバンが用意したリムジンに乗り込む。

「ところでクレア様。シーマ様の体調はまだ優れないので?」

 クレアはシーマがまだシーマ艦隊を指揮している頃から度々シーマの代理として何度もオサリバンと出会っている。故にオサリバンはクレアが来訪することを気に留めていなかった。

 シーマ艦隊№2のデトローフ・コッセルや二番艦ギラメル艦長、ドラント・ヒイラーがすぐさまクレアを支持したため大部分はクレアに従った。しかし数少ないもののクレアに不満がある者がその時まだいたため、シーマ艦隊が混乱していることを悟られたくなかったクレアはシーマは病気ということにして対応していた。

「……」

「……クレア様?」

 (あご)に手を置くクレアに尋ねるオサリバン。そんなオサリバンを見ながらクレアはおもむろに口を開く。

「……ゴールドマン常務、彼は可哀想だったねぇ。内示で専務に昇進が決まった直後に謎の(・・)少女(・・)に襲われて命を落としたのだから」

「……?」

 かつての上司の名前を出したことに首を傾げる。しかし

「なるほど、確かにおっしゃる通りですね」

 クレアが言った意味を理解したオサリバンはニンマリ笑う。

 ジョージ・ゴールドマン。

 オサリバンが本部長だった頃の常務で、直属の上司だった男だ。

 ゴールドマンは頭角を現していたオサリバンを嫌っていた。あの手この手で邪魔をするゴールドマンはオサリバンにとって邪魔者でしかなかった。

 そんなある日。ゴールドマンは家族とリゾート地でショッピングを楽しんでいた時に、偶然すれ違った赤い髪(・・・)の少女(・・・)に心臓を撃たれた後に死亡した。その場には数人のSPがいたが少女は追撃したSPを射殺してそのまま逃走。赤い髪の少女は未だに捕まっていない。

 

 ゴールドマン暗殺はオサリバンが仕組んだ事。

 

 そういう噂もあったが証拠は挙がらなかった。オサリバンはゴールドマンを嫌悪していたが、彼の殺害を計画したという証拠は何一つ見つからなかったからだ。ゴールドマン暗殺はオサリバンと懇意(こんい)のあるとある(・・・)組織(・・)が勝手にやったことであり、証拠が見つからなかったのは当然と言えた。

 その結果。ゴールドマン暗殺事件はテロリストの犯行ということで終結し、犯人はわからないまま迷宮入りすることとなった。

 オサリバンは悟る。出世を邪魔したゴールドマンの死によって出世した自分同様、ゴールドマンを殺害した目の前の女もシーマを排除してシーマ艦隊を掌握したのだと。

(シーマに代わったクレア(この女)(よし)みを結んでいても損ではないか)

 

 シーマ艦隊はシーマ・ガラハウから目の前のクレア・バートンに代わった。それによって今まで通り取引をしても何の問題はない。

 

 そう答えを出したオサリバンはその後シーマ・ガラハウに成り代わったクレアと補給やMSの譲渡など踏み入った話に入った。

 彼の頭にはシーマは利用価値のない過去の人になっていた。



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クレア、ケリィ・レズナーに興味を覚える

「上手くいったみたいだな」

「ええ。拍子(ひょうし)()けするくらいにね」

 オサリバンとの会談を終え宿泊しているホテルの一室に戻ったクレアを、可もなく不可もない海兵隊らしくない顔つきの男、ドラント・ヒイラーが出迎える。

 シーマ艦隊二番艦ギラメルの艦長を務めるヒイラーだったが、オサリバンとの交渉をしくじれば全てが水の泡になりかねないということで相談役として同行していた。

 クレアが身に着けているイヤリングは通信機になっており、何かあればヒイラーに伝わるようになっていた。しかし交渉は上手く運んだため不必要だった。

「さてと!」

 クレアはサングラスを机に置くと、スーツを無造作に脱ぎ去り下着姿になる。

 男の自分の前で真珠を思わせる白い肌と起伏に乏しい幼児体型を(あら)わにするクレアにヒイラーは小さくため息をついた。

(こいつには(つつし)みとか恥じらいとかという感情はないのか?)

 クレアとは士官学校時代を過ごしたが、一度たりとも異性としても性の対象としても見たことがなかったヒイラーにとって、クレアの気にしなすぎる行動は『重要な場面で出るんじゃないだろうか?』という不安材料でしかなかった。

(そんな重要な場面でボロを出さないことを祈るだけだな……)

 自分の不安が杞憂であることを祈りつつ、ヒイラーは再び小さくため息をつくとクレアが留守の間に入ってきた情報を伝える。

「ところで月で諜報工作をしているザケルフから面白い情報が入ったぞ」

「面白い情報?」

 ジュース♪ ジュース♪ とニコニコと冷蔵庫の取手に手をかけたクレアは手を離してヒイラーの方へ振り返る。

「元宇宙攻撃軍のケリィ・レズナーという片腕の男が試作MAと共に月に潜伏していると」

「MA……か」

「星の屑作戦を成就させるため、シーマ艦隊のために戦力増強は必須。片腕のパイロットってところはひっかかるが──」

 会ってみる価値があるかどうかは判断しかねるが、どうだ? と言おうとしたヒイラーの言葉を

「ザケルフに繋げろ。今すぐにでも会いに行く」

 白く可愛らしい犬を擬人化させたような声ではない、クレアのシーマ・ガラハウの声色が(さえぎ)った。

「……いいのか? そんな怪しい奴。わざわざお前が会いに行かなくても」

 無造作に脱ぎ捨てたスーツを拾い、シワを伸ばしながらクレアは口を開く。

「そのケリィ・レズナーという男が取るに足らない男なら、ザケルフが情報を持ってくるはずがないでしょう?」

 付着した(ほこり)を取り除き、クレアはスーツの袖を通す。

「でも片腕だぞ?」

「それならその試作MAを奪うまでのこと」

 スーツをビシッと決め、ふふっと笑うクレアにヒイラーは寒気を覚えた。中学生と見間違うほど幼い体つきと重なるように、地獄のような一年戦争を生き抜いた上に孤立無援の中で三年以上も部下を養い続けた女傑(じょけつ)、シーマ・ガラハウの姿が重なったからだ。

「わかった。すぐに伝える」

 ヒイラーはすぐにケリィ・レズナーと接点を持つザケルフに『クレア(シーマ中佐)

 接触を求めている』ことを通達。昼過ぎに会う約束を取り付ける。

 机に置いていたサングラスをかけ、クレアは護衛にクルト中尉を引き連れ、ケリィ・レズナーと会うためホテルを後にした。

 

 

 




クレアって真面目と子どもモードの差がものすごく激しいなぁ、と思う作者がいます。
そしてクレアとヒイラーってどっちも独身で終わりそう(クレアは独身で生涯を終えますけど)


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青年とフォン・ブラウンの戦士

 月 フォン・ブラウン市 路地裏

「うぅ……」

 連邦軍の制服を身に纏った青年は路地裏で倒れていた。

 数分前。同じMSパイロットであり上官であるベルナルド・モンシアとバーで口論となり店を飛び出した後、酔っ払っていた所を月に潜伏しているジオン兵に殴られ気絶させられた。

「……死んでいる、のか?」

 ふと何者かが倒れている彼の傍に立つ。

 

 私を相手にするには君はまだ、未熟!! 

 

 青年の頭に突然聞こえた幻聴。ガンダム試作2号機を強奪した『ソロモンの悪夢』と呼ばれるジオンのエースパイロット、アナベル・ガトーの声。

 青年は思わず自分の傍に立つ者の足を掴んだ。

「な、何のつもりだ!?」

 振り払おうとした者に

「僕が……お前を倒す……必ずお前を……ガトー……」

 そう言った直後、青年の意識は途切れた。

「ガ、ガトーだと」

 青年の口から出たガトーという言葉に、掴まれた者は気を失った青年をじっと見ていた。

 

 

「ん? うぅん?」

 目に当たる日差しに青年は目を覚ます。目を開けると見知らぬ天井がそこにあった。

 人の気配を感じて青年はドアの方へ振り返る。そこには淡いブルーのワンピースを着た、黒髪のショートボブの女性が怪訝(けげん)そうな目で青年を見ていた。

「ケリィ!」

 青年が目を覚ましたのを確認した女性はそう叫んで何処かへ行った。

「ま、待って……」

 仕方なく青年は外へ出る。

「……」

 周囲を見渡すと、そこには様々な大小の部品が無造作に置かれ、ベルトコンベアには色々な種類の機械部品が流れていた。

「ジャンク屋が珍しいか?」

「え?」

 青年が振り返る。そこには彫りの深い金髪の男が立っていた。よく見ると左腕がない。その後ろには先ほどの女性が 立っていた。

「昨夜は酔っ払っていたみたいで……あなたが僕をここに?」

「ただのいきがかりだ。朝飯を食ったら出て行け」

 男は手に付いた汚れを水道で流すと家へと入っていく。青年は男の後を追うようにリビングに行く。テーブルの上には二人分のサンドイッチとコーヒー、サラダが置かれていた。

「それじゃあ帰るね、ケリィ」

「いつもすまないなラトーラ。晩飯は俺だけでいい」

 走り去る女性の後ろ姿を青年はじっと見た後、青年は目の前に座る男に語りかける。

「お世話をかけてすみません……。僕はコウ・ウラキと言います」

「ケリィ・レズナーだ。軍人なら僕なんて言うな!」

 ケリィ・レズナーと名乗った片腕の男はサンドイッチを口にしながらきっぱりと言う。その強い口調にウラキと名乗った青年は目を大きく見開きながら「は、はい!」と答える。

「お前は連邦のパイロットなんだろう? 機体は何に乗っている?」

「!? ……なんで僕がパイロットだと!?」

「その胸につけている胸章は飾りか?」

 指摘されて青年は胸章に目を向ける。そんな彼に男は続ける。

「寝言でずっと「ガトーを倒す」と言っていた。お前はガトーの何を知っている? 見たところお前は歳も若いし一年戦争には出ていないだろ?」

「それは軍事機密なので教えられません。それよりケリィさんはどうしてそこまで気にするのですか?」

「ふっ。自分は答えないくせに自分の疑問には答えを要求するか」

 男は苦笑する。

「まぁいい。教えてやる。俺は一年戦争の時にガトーと一緒に戦い……左腕を失った。そして俺は軍を辞めてジャンク屋(ここ)にいる流れだ」

 失った時の記憶を思い出してか、男は失った左腕の服を握る。

「ッ!?」

 青年は驚きのあまり目を大きく見開く。目の前の男はガトーと共に戦った。つまり自分たちが戦うジオンの兵士だと理解したからだ。

「話は終わりだ。わかったら今すぐ出て行け!」

「! ……ありがとうございました!!」

 青年は複雑な感情を抱きながらも拾ってくれたお礼として一礼すると部屋から出て行く。そんな青年の後ろ姿を男はじっと見ていた。

 

 

「ん……あれ?」

 敷地を出ようとした青年の鼻に何かの匂いがつく。MSパイロットである青年はすぐにその臭いが何なのかが理解できた。

「これはMS用の駆動オイルの匂いだ!!」

(でもなぜジャンク屋(ここ)で?)

 疑問を覚えた青年は匂いがする方向へ歩き出す。そこは倉庫だった。倉庫には鍵がかけられていない。

「……よし!」

 青年は意を決して静かに扉を開く。気になった匂いは一気に強くなった。

 扉を開けて前方に目を凝らすと赤く大きな何かが目に飛び込んだ。それが何か確認しようと青年は走り出す。

「これは……MA!?」

 赤く巨大な何かがMAだと気づいた青年は近くに設置されたコンソールを操作する。

「特殊な操作仕様に改造してある。そうか! 片手で操作するために……え?」

 何者かが襟首を掴んだと気付いた時には、青年は地面に強く叩きつけられていた。

「これ以上関わるなら殺すぞ!!」

「こんな動かない機体をですか!?」

 自分を睨みつける男に青年は言い返す。

「システム周りのユニット交換が必要です。メインシステムすらまだ稼働できてないんじゃないんですか?」

「……お前に言われなくても!!」

 図星を突かれた男は歯を食いしばる。

「でも機体は大丈夫そうですね。自分も手伝えばちょっとした修復だけで動きますよ」

「……」

 青年の言葉に男は思考を止めた。

「お前は何を言っている? 元とはいえ……俺はジオン軍の兵士だぞ? こいつを直すってことはどういうことなのか理解して言っているのか?」

「そうかケリィさんは……敵、なんですよね」

 青年は悲しげな表情を浮かべて視線を外し、赤いMAの方へ歩く。

「自分はMSが好きでパイロットになりました。でも結局は任務として敵と戦うことを要求されて……」

「……」

 男はただ黙って青年の言葉に耳を傾ける。

「軍人として間違っているかもしれない。……でも自分はこのMAを起動させてみたいんです」

 寂しげに、それでいて何かに夢中になって追いかける子供のようにMAを見る青年を

「……」

 男はなにも言わず青年をじっと見ていた。



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青年と赤い髪の少女

 このMAを直す。

 そう宣言した青年はMAのメンテナンスに取り掛かっていた。流れ落ちそうな汗を油のついた手で(ぬぐ)ったせいで青年の顔は油で汚れていた。

 コツッコツッ

「ん?」

 倉庫に入ってくる軽い足音に青年は振り返る。そこに立っていたのは隻腕の男にラトーラと呼ばれていた女性だった。

「あ、ケリィさんなら街に必要な部品を調達に──」

「どうして敵を助けるようなことをするの?」

「……え?」

 突然投げかけられたラトーラの言葉に、青年は言葉を詰まらせる。何も言えず言葉を探す青年に悲しげな表情でラトーラは続ける。

「ケリィは直せないって諦めかけていたのに……。あれが直れば必ず戦場へ戻っちゃう……」

「……」

 固まる青年にラトーラは睨み付けた。

「彼はまだパイロットとして燃え尽きちゃいないのよ! 私から彼を奪わないで!!」

 怒鳴るように言い放つと、ラトーラは青年の前から走り去った。

「……」

 その姿を青年は呆然と見送るしかなかった。

 そのからどれだけ時間が経ったのだろうか。ラトーラとのやり取りを忘れようと再び作業に取りかかった後、集中力が途切れたことを実感した青年は外の空気を吸って気持ちを奮い立たせようと外へ出る。

 

 キキッ! 

 

 一台の車とともに隻腕の男が帰ってきた。

 隻腕の男と共に車からはサラリーマン風の小太りの男。どう見ても普通の人間には見えない小柄の(いか)つい男。そして厳つい男よりもさらに小さい、白いリクルートスーツにサングラスをかけた赤い髪の少女が降り立つ。

「ウラキ、大事な話がある。席を外してくれ」

「……はい」

 共に車を降りた三人に疑問を覚えつつも、青年は渋々承諾して家へと向かって歩き出す。

「おや?」

 青年が少女とすれ違った時。少女はサングラスをずらし、青年の顔をジッと見た。自分を見る少女を青年は不思議そうに見る。

「……坊や。どこかで会ったことないかしら?」

「……え?」

 初対面でかつ自分より年下に見える女性の突然の言葉に、青年は言葉を詰まらせる。

「フフッ。ごめんなさい、気のせいよね。……忘れて坊や」

 赤い髪の少女はずらしていたサングラスを元に戻し、ごまかすように笑うと、隻腕の男達と共に倉庫へと消えていった。

「……」

(何なんだ、あの少女は……)

 その後ろ姿を青年はただ黙って見送るしかなかった。

 青年(コウ・ウラキ)、そして赤い髪の少女(クレア・バートン)は気がつかなかった。

 数日前。互いがガンダム試作1号機とゲルググMに搭乗し、宇宙で戦った相手ということに。

 




月に一度は投稿するよう頑張りますと言っておいて先月の3月、投稿出来なかったことをお詫びします。


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フォン・ブラウンの戦士とシーマに成り代わった女

 コウ・ウラキを離れさせたケリィ・レズナーはシーマ艦隊の三人を倉庫に案内していた。

「シーマ様。そこは段差になっていますのでお気をつけください」

「ありがとう、ザケルフ」

 小太りな男の言葉にシーマ艦隊を率いる女傑、シーマ・ガラハウは礼を言う。

「ほう、これが例の!」

 手すりに手を置いたシーマが眼前の機体に感嘆の声を漏らす。

「これは上物だ。まさかこんなものが眠っていたとはね」

 浅黒い(いか)つい男のクルトがニヤリと笑う。

「MA06VAL(ヴァル)WALO(ヴァロ)。グラナダ(こう)(しょう)にて製造された未完成の試作機」

 シーマ艦隊の情報工作員、デキフサ・ザケルフが補足するように呟く。

「ところで。これは動くんですかい?」

 挑発するように尋ねるクルトの問いに、ケリィは気にする様子もなく淡々と答える。

「機体は九分九厘完成している。片腕でも動かせるようにコックピット周辺も改修済みだ」

「ふ~ん、なるほどね」

「ッ!?」

 考えるよりも先に、ケリィの身体はとっさにシーマの方へ振り向き身構えた。なぜ自分がそうしたかわからなかった。しかし戦士としての本能がいち早く危機に反応した。そしてそれは正解だったことを悟る。なぜならば

「ではこの機体はありがたく頂戴するよ。シーマ艦隊のためにね」

 いつの間にか左手に銃を握ったシーマが見下すような笑みで銃口を向けていたからだ。シーマの予想外の行動にケリィだけでなく、シーマの後ろに立つクルトとザケルフも目を大きく見開いたまま固まっていた。

「何のつもりだッ!?」

 目をカッと開き、怒声を上げるケリィに、クルトとザケルフは無意識に後ずさる。そんな怒声に怯むことなくシーマは続ける。

「私の目的は最初からヴァル・ヴァロ(この機体)だったのさ。パイロットとして終わった片腕のアンタを戦力に数えていない。だからここで死んでもらおう、って寸法さ」

「……なん、だとッ!!」

 

 パイロットとして終わった。

 

 ケリィ・レズナーという男の全てを否定したシーマの言葉にケリィは激昂した。

「俺はまだ終わっちゃいない!!」

 倉庫が震えるのではないかと思うほど怒鳴る。しかし今すぐにでも飛びかかりそうな衝動を抑えて、その場に踏みとどまり、ケリィはシーマを睨み付けた。

 

 不用意に動けばシーマ(この女)殺さ(やら)れる。

 

 パイロットとしてのカンが目の前の女から漂うオーラを感じ取り、怒りに燃える肉体を制止させた。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 倉庫内が無音に包まれる。永遠にも思えた無音を打ち破ったのは

「……ふふふ、ふははははははっっっ!!」

 無邪気な子どものように笑うシーマの笑い声だった。シーマはケリィに向けていた銃を隠していたホルダーへ戻す。

「どういうつもりだ?」

 シーマから殺気が消えたことに戸惑いつつも、ケリィは怒りの炎を瞳に宿したまま尋ねる。

「ふふっ、ごめんなさい」

 後ろに立つ男二人が怯むほど強烈な視線に動じることなくシーマは答える。

「正直に言うと。実は大尉を殺してヴァル・ヴァロ(こいつ)だけいただこうと考えていた。でも大尉のさっきの覇気を見てやめた。シーマ艦隊で大尉に勝てるのは私かシーマ様だけだと確信したから」

 

「「ッ!?」」

 

 シーマの発言にクルトとザケルフが体をビクッ! と震わせ、固まる。

「……」

 無言で自分を見るケリィにシーマは続ける。

「私達は明日出航する。その時に大尉とヴァル・ヴァロを出迎える。期待してるわよ」

 そう言うとシーマの名前を騙った赤い髪の女は部下を引き連れ倉庫を後にした。

「明日までに……か」

 一人になった倉庫で、ケリィは焦燥の顔で未だ動かない愛機に視線を移した。




次回はヒイラーがザケルフ達の報告を聞いてブチキレる話を投稿する予定です。


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密命

 ドラント・ヒイラー。

 シーマ艦隊第2番艦・ギラメルの艦長でありクレアと士官学校時代を共に過ごした旧知の間柄である。

 シーマ・ガラハウの部下でも一、二位を争うほどの頭脳と胆力を持ち、シーマを崇拝するあまりその他の人物には辛口のクレアが『たとえ火の海にいても冷静に状況を見定める冷静さと戦術眼を持つ』と評価するほどである。

 その知将が

「あのクレア(バカ)が!!」

 ホテルに戻ったクレアの護衛役のクルトと、ケリィ・レズナーとのパイプ役を務める諜報工作員・デフキサ・ザケルフの報告に激昂していた。

「大尉、落ち着いて下さい。いくら盗聴されないよう万全の注意を払っているといっても第三者の耳に届く恐れもあります」

「……すまなかった」

 自分を(いさ)めるザケルフの言葉に、ヒイラーは軽く息を吸って荒ぶった精神を落ち着かせる。

「しかし、それほど恐れることでしょうか?」

「恐れることに決まっているだろう」

 クルトの問いにヒイラーは怒鳴りたい気持ちを抑えて説明する。

「まずクレア(あのバカ)がシーマ様ではないと必ず気づく人間は最低でも3人いる。一人はデラーズ・フリートへの参画にシーマ様とモニター越しで要請したエギーユ・デラーズ。二人目はカラマ・ポイントでシーマ様と刃を交えたアナベル・ガトー。そして最後は我々と裏取引をしているアナハイムのオサリバンだ」

「……」

「……」

「デラーズはシーマ艦隊の戦力を計算している。だからクレア(あいつ)の正体を暴いてシーマ艦隊の戦力を削ぐような真似はしない」

「……」

「……」

「ガトーも同様だ。あいつは何だかんだいってシーマ艦隊がいなければ星の屑が成功しないことは理解しているはず。心の底ではシーマ艦隊を軽蔑し嫌悪しようとも。そして崇拝するデラーズに追従するはずだからデラーズ同様バラすことはないだろう」

「……」

「……」

「オサリバンの場合。クレア(あいつ)の正体をバラせば『自分がシーマ艦隊とつながりがある』と自ら暴露するようなもの。追い込まれて交換条件として突き付けられない限りその危険性はないだろう。だがあの男、ケリィ・レズナーは違う!」

 そう言って怒りを抑えて冷静に努めていたヒイラーの顔が憤怒(ふんぬ)(ゆが)む。

「奴の場合はクレア(あいつ)の正体をバラしたところで失うものもない! デラーズやガトーのように野望を達成する駒が無くなるわけでもなく、オサリバンのように自身の身を危うくするわけでもない! むしろ連邦に売ればシーマ艦隊やデラーズ・フリートを揺るがす情報(ネタ)として身の安全を保証するだけの価値はある!」

 そう言ってヒイラーはクルトの方へ体を向ける。

「クルト」

 名前を呼ばれ、クルトは「ハッ!」と真剣な顔で自分を見るヒイラーの瞳をじっと見る。

「お前はケリィ・レズナーを見張れ。もしあの男がこの事をバラすようなら」

「バラすようなら?」

 一つ間をおいて、ヒイラーは決して大きくないが力強い声で言った。

「問答無用で殺せ!」



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ゲール・ハントの投降

 月 フォン・ブラウン市

『地球連邦軍、並びにジオン公国の戦士に()ぐ!! 我々はデラーズ・フリート!!』

「……何だ、いったい?」、「……デラーズ・フリート?」、「……何が始まるの?」

 突然映し出されたテレビの映像に、困惑の声を漏らしながら立ち止まる人々と同様に

「……」

 眉間を中心に傷跡があり、右の口元が引きつったように(ゆが)んでいる金髪の男も足を止めてテレビに注視していた。

 ゲール・ハント。

 元ジオン公国軍の軍人で、恋人のシーマ・ガラハウ同様にB級戦犯として追われる、グラナダMAUゲール隊隊長を任された男である。

『このガンダムは核攻撃を目的として開発されたものである!! 南極条約違反のこの機体が密かに開発された事実をもってしても、呪わしき連邦の悪意を否定出来得る者がおろうか!? (かえり)みよう!! 何故ジオン独立戦争が勃発したのかを!! 何故我等がジオン・ズム・ダイクンと共にあるのかを!! 我々は三年間待った……。もはや、我が軍団に躊躇(ためら)いの吐息を漏らす者はおらん!!

 今、若人(わこうど)の熱き血潮を我が血として、ここに私は改めて地球連邦政府に対し、宣戦を布告するものである!!』

「……」

 ゲールは画面のデラーズに一瞬も目を外すことなく耳を傾ける。

仮初(かりそめ)の平和への(ささや)きに惑わされる事なく、繰り返し心に聞こえてくる祖国の名誉の為に、ジーク・ジオン!!』

 デラーズの熱を帯びた演説は終わり、テレビはキャスターがすぐに『デラーズ・フリートと名乗るテロリスト集団に電波を乗っ取られた』ことへの謝罪の映像へと変わる。そんなキャスターの謝罪を余所に、演説に耳を傾けていた者達の間でデラーズ・フリートの宣戦布告に対する論議があちこちで起こっていた。

「……」

 そんな中、ゲールは聴衆から離れるようにその場を後にする。そして

「エギーユ・デラーズ!!」

 自分の顔が自分以外の人間に見られる心配のない自宅に戻った瞬間、ゲールは顔を大きく歪ませた。 演説を聴いた彼の心の中ではデラーズへの嫌悪感、絶望、拒絶感、相容れない感覚、怒り……抑えることができない、ありとあらゆる黒い感情が駆け巡った。

「シュヴェリーン……カイト……ツィーラン……マンシュタイン……ザイドリッツ……」

 自分と苦楽を共にした部下達の顔が一人一人ゲールの頭によぎる。

「俺はあいつらに何かしてやれたか? 部下達を全員戦死させてしまった俺は……あいつらが誇れるようないい隊長だったのか?」

 ゲールは鏡に映る自分に問いつめる。

「あいつらは何のために戦い……そして死んでいった? おめおめと自分だけが生き残ってしまった俺を……全員戦死させてしまった無能な隊長(オレ)をあいつらはどう思う? あいつらへの贖罪(しょくざい)は何なのだ!?」

 どれくらい時間が経っただろうか。鏡に映る自分自身を睨み付けていたゲールはかねてから考えていた贖罪を選ぶ決断をすると身支度を整え、ある場所へと向かって歩き始めた。

 

 数日後。地球連邦政府からB級戦犯として指名手配された元ジオン公国軍ゲール・ハントが当局に出頭し、死刑判決が下されるというニュースがフォン・ブラウン市を駆け巡った。




ガンダム試作2号機に関するデラーズの台詞が抜けていたことに気づき、訂正しました。すでに既読された読者の皆様。本当に申し訳ありません。


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ア・バオア・クー撤退戦

 ア・バオア・クー攻防戦。

 宇宙世紀0079年12月31日にジオン公国本土のサイド3を守る重要拠点ア・バオア・クーで行われた、ジオン公国軍と地球連邦軍による一年戦争最後の戦いである。

 開戦当初はジオン公国総帥ギレン・ザビの指揮と公国軍の善戦により有利に進んでいたものの、突然のギレンの戦死(・・)により戦況は一変。ついにはア・バオア・クー陥落は決定的になる事態にまで追い込まれた。

 防衛は不可能と悟ったジオン公国軍では各隊に独自の撤退命令が下り、キシリア傘下としてこの戦いに参加していたシーマ・ガラハウ率いるMAUシーマも月方面への脱出を図った。

 

 ====================================================

 

「フンッ! どうせこの世は一天(いってん)()(ろく)、最後にカッコつけさせてもらおうかい!!」

 赤いノーマルスーツを着て愛機のシーマ専用ゲルググMを駆るシーマは、『MAUシーマを中心に他のMAUも損害に構わず突撃し包囲網に穴を開けろ』という命令を遂行すべく、あちらこちらに漂うデブリを回避しながら連邦軍に突撃を開始する。

『MAUゲールも続けッ!! 出たとこ勝負だぁッ!!』

「ゲール! 腹が出来てるねぇ! さぁて、仁義の代わりに軍律か!!」

 普通なら恐怖で縮みこんでしまう圧倒的な連邦軍を前にして啖呵(たんか)()る恋人のゲール・ハント中佐の声に、シーマは嬉しそうに笑うと連邦軍の艦艇とMSからの攻撃を回避しながら反撃していく。

『さっさと死ねよ、連邦の犬がぁ!! シーマ様とゲール中佐のデートを邪魔するヤツは、このクレア・バートンがぶっ殺す!!』

 シーマが背中を預けられるほど信頼できる副部隊長、クレア・バートンがシーマのゲルググMに先行し、狙いを定めるMSをビームライフルで的確に葬っていく。

茶化(ちゃか)すんじゃないよ、クレア!!」

 言葉とは裏腹に、笑うシーマは先行するクレア機を援護する。

 連邦軍の猛攻に次々に脱落していく友軍。もう少しで包囲網を突破出来るところまできた。その時だった。

 

「……ッ!!」

 

 シーマは痛みで声にもならない声を漏らす。

 雨のように降り注ぐ銃弾を回避しきれず被弾したのだ。その衝撃はコックピット内部にまで伝わり、シーマのヘルメットにヒビが入る。

「……チッ!!」

 額からの流血が目に入り、シーマは顔を歪める。しかしシーマに痛みで苦しむ暇はなかった。

 (ひる)み、動きが緩慢になってしまったシーマのゲルググMに、連邦のMSが攻撃を集中してきたからだ。

「……クッ!!」

 あらゆる箇所が被弾し失っていく様子に覚悟するシーマ。しかし攻撃はしばらくして収まった。

(……どういうことだ?)

 その疑問はコックピットに聞こえる声で理解した。

『シーマ様とシーマ様のゲルググMを傷つけた罪、その薄汚い命で償えッ!!』

 シーマに攻撃を加えていたMS部隊にクレアのゲルググMが単機で突撃。MS部隊はシーマへの攻撃を中断せざるを得なかったからだ。

『私が囮になる! その間にシーマ様を!!』

 クレアの命令に部下は被弾したシーマを守るように展開。包囲網を無事突破した。シーマの撤退を確認したクレアは、電灯に群がる虫のように自分に集まるMSに被弾を恐れず突撃。各箇所を被弾しつつも五体満足の状態でシーマと合流を果たし、ア・バオア・クーから脱出した。

 

 ====================================================

 

 月 フォン・ブラウン市郊外

「……」

 ア・バオア・クーでの戦闘を思い返していたシーマは、椅子に体を預ける。

「……クレア(あの子)がいなければ死んでいたかもしれないね。もっともその命の恩人にシーマ艦隊を追い出され、軟禁されているわけだが」

 ふとシーマは机に置いたサイコロを掴み、掌で転がし眺めた。

「……ゲール。アンタは今どこで何をしてるんだい?」

 呟いたシーマは掌のサイコロをグッと握り、格子のつけられた窓から空を見た。



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もしクレアが機動戦士ガンダム0083 REBELLION16巻を読んだら(ギャグ回)

・今回は本編とは外れたギャグ回です。読まなくても本編には問題ありません。
・本作で最も参考にしている夏元(なつもと)(まさ)()先生の『機動戦士ガンダム0083 REBELLION』のネタバレを含みます。
・それでも大丈夫でしたら読んでいただけると幸いです。


 リリー・マルレーン シーマの部屋

「……」

 椅子に腰かけたクレアは、『月刊ガンダムエース』で2013年8月号から2021年4月号に連載された夏元(なつもと)(まさ)()作の『機動戦士ガンダム0083 REBELLION』、破損したガンダム試作3号機をバックに遠くを見るコウ・ウラキ(青年)の表紙の『機動戦士ガンダム0083 REBELLION16巻』を持ったまま固まっていた。

「……さ、さすがはシーマ様。……まさか、ここまで考えておられていたとは……」

 本を持ったままクレアは項垂(うなだ)れる。

「まさかソーラシステムの照射という絶体絶命の状況で危機を脱した上に後のことまで考えておられていたとは……」

 クレアは思わず「はぁ~」、と重いため息をつく。

「ここまで先の先まで読むなんて……MSの腕を除くと残るものはシーマ様に次ぐこの美貌しかないバカの私はまだしも──」

 そう言ってクレアは一度言葉を区切る。

「大昔。下級貴族の生まれでありながら他の追従を許さぬ才覚でフランス皇帝に上り詰めた軍神ナポレオン・ボナパルトが嫉妬するほど有能で、『鉄元帥』や『無敗のダヴー』の異名を持つルイ=ニコラ・ダヴーと遜色(そんしょく)ない頭脳を持つヒイラーですら思い付かない見事な策。私はシーマ様を完全に見誤っていた……あぁ~」

 クレアは力なく天井を見る。

「……私は何のためにシーマ様を裏切ったんだろう? シーマ様のやり方ではシーマ様は救われないと思い、反逆を(くわだ)てたのに……これじゃあシーマ様の足をただ引っ張っただけじゃない……」

 そう言ってクレアは再び大きく項垂れる。

「だからといってシーマ様を再びシーマ艦隊に迎え入れるわけにはいかないし……もう私がシーマ(・・・)ガラハウ(・・・・)に成り代わってしまった以上……もう取り返しのつかない所にまで来ちゃったわけだし……あぁ~、どうしてこうなっちゃったんだろうね……」

 クレアは再び力なく天井を見る。

「シーマ様を追い出した上にここまできた以上、もうなるようになると諦めて進むしかない……それがシーマ様の幸せを願い、私を信じてくれたコッセル大尉やヒイラー達に対して唯一できる償いにして義務なのだから」

 クレアは(おもむろ)に立ち上がる。

「私はもうサイコロを振ってしまった。出たサイコロの目を変えることは出来ない。……私は私の出来ることをして目的に向かってただ突き進む。……それしかないのよね!!」

 そう言ってクレアはいつの間にか手にしたサイコロを天井近くまで投げると手の甲でピタッと受け止めた。

 

 

 サイコロは1と1で止まっていた。




ドラント・ヒイラーの元ネタは作中でも書いた通りナポレオンの配下で最強とも言われる生涯無敗の元帥、ルイ=ニコラ・ダヴーです。(もしわかった人がいたらすごい)
しかし参考にした戦いは島津の釣りの伏せなど一つもないのですが(^-^;


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ヒイラーの献策

「……クレアのアホめ。余計なことをしやがって……」

 オサリバンとの裏取引のためにクレアに同行したドラント・ヒイラーは頭を悩ましていた。

 戦術だけならば、軍や政界を牛耳(ぎゅうじ)る者達を相手に交渉を有利に進められるほどの頭脳を持つシーマ・ガラハウに匹敵するヒイラー。

 そんなヒイラーを悩ますこと。それはクレアがシーマ艦隊に引き入れることにしたケリィ・レズナーの存在だった。

 クレアはシーマ艦隊の根底を(くつがえ)しかねないと言っても過言ではない重大な秘密、『クレア・バートンがシーマ・ガラハウに成り代わっている』という事実を漏らした。故にケリィ・レズナーを殺すか監視下に置くかの二つに追い込まれた。しかしシーマ=クレアがケリィ・レズナーを迎え入れる決断をした以上、前者の殺害して永遠に口を封じることは不可能になった。

「そもそもケリィ・レズナー……あの男は使えるのか?」

 ヒイラーはケリィが片腕ということでその実力に疑問を感じていた。

「ヒイラー。帰ったよ♪」

 悩むヒイラーを逆撫でするように、ケリィの家から戻ったクレアはノックもせずに鼻歌を歌いながら部屋に入ってくる。

「……!」

 その態度にヒイラーの怒りは爆発した。

「こ~の~ア~ホ~がぁぁぁっっっ!!」

 ヒイラーは暗殺者のように素早く回り込むと、両手で握り拳を作り、こめかみを両側から拳の先端を挟み込むように()てがって固定、そのままねじ込みながら圧迫した。

「うぎゃあああぁぁぁっっっ!! 痛い痛い痛いっっっ!!」

 完全に油断していたクレアは親友の不意打ちをまともにくらい涙目で攻撃を受け続ける。

「ヒイラァァァッッッ!! 何でこんなことするのよぉぉぉっっっ!!」

「お前が正体バラ(バカなこと)したからだ! このボケが!!」

「ひぎいいいぃぃぃっっっ!!」

 子どものように泣くクレアに容赦することなく攻撃を加え続けるヒイラー。クレアにとって永遠とも言える地獄を解放したのは

 コンコンッ

「ザケルフです。入ってもよろしいでしょうか?」

 諜報工作員のデフキサ・ザケルフのノックだった。

「入れ」

 子どものように泣きわめくクレアに手錠と猿轡(さるぐつわ)をすると、ヒイラーは入室したザケルフの方へ振り返る。

「我々に味方をしているアナハイムの人間からの情報です。明日──」

 ザケルフの報告にヒイラーの頭に衝撃が走る。

「でかした、ザケルフ。これでこのバカが持ってきた災厄(さいやく)が片付く!」

 そう言うとヒイラーは「うううっっっ!! (解放しろっっっ!!)」と部屋の隅でもがくクレアを無視してケリィ・レズナーを利用した策を思案。襲い掛かろうとするクレアに「シーマ様のため」と釘を刺して考え抜いた策を伝えた。



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ケリィ・レズナー、出撃

 ケリィ・レズナーと青年は無事にヴァル・ヴァロを修理し、青年は成し遂げた顔でジャンク屋を後にした。

 そして翌日。『大尉とヴァル・ヴァロを出迎える』という約束通りにザケルフとシーマ(クレア)と共にケリィの元を訪れた浅黒い肌をした(いか)つい小男、クルトがアタッシュケースを持ってヴァル・ヴァロが隠された倉庫へと現れた。

「出迎え感謝する。準備は整っている」

「さすがはレズナー大尉。ヴァル・ヴァロも万全なようで」

 パイロットスーツに身を包んだケリィに、クルトは笑みを浮かべる。

「これが約束の金です。ご確認を」

 クルトはアタッシュケースを地面に置いて(ふた)を開ける。そこには丁重に入れられた金塊(インゴット)があった。

「おぉ、支度金をこんなに!」

 普通に暮らせば数年は暮らしに困らない額の金塊が入ったアタッシュケースを受け取ろうとするケリィを

「おっと、ちょっと待って下さい」

 クルトが制止する。

「どういうつもりだ?」

 ケリィはクルトを睨みつける。しかしそれに怯むことなくクルトは続ける。

「いえ。シーマ(・・・)様からの伝言を言い忘れてましてね」

 クルトはアタッシュケースの蓋を閉じる。

「『私は大尉の実力を認めている。しかし大尉が片腕ということに実力を疑問視する者がいるのも確か。だから戦果(実力)を見せてほしい、大尉がパイロットとして終わっていないと私以外の者にハッキリさせるだけの』……とのことです」

「……」

 その言葉にケリィは黙る。シーマ・ガラハウの名を(かた)る謎の女は自分をパイロットだと認めてくれた。その恩人とも言える存在が自分のせいで立場を悪くするのは気が引けた。

(……ではどうすればいい?)

 自分を疑問視する者達に実力を認めさせるためには戦うしかない。しかしそれをすぐに証明するための戦いの場がない。

「……」

 悩むケリィにクルトは「その点に関してはご心配なく」とアタッシュケースをケリィの前に差し出す。

「実はこのフォン・ブラウンで大尉の実力を証明するおもしろい(・・・・・)ことが行われていましてね。それを行ってくれれば大尉の実力を証明することが出来ます」

「そのおもしろい(・・・・・)こととは?」

 ケリィの問いにクルトは詳細を説明する。

「では大尉、やってくれますね?」

「あぁ、必ずや達成してみせよう!」

 力強く答えると隻腕の戦士は目の前に差し出されたアタッシュケースを受け取り、倉庫の前で様子を(うかが)い戦場に戻るのを止めようとしたラトーラに強引に渡すと、自身の魂と言えるヴァル・ヴァロへと乗り込んだ。

 




長い間投稿出来ずに申し訳ございませんでした。
少しネタバレしますが、次回はヴァル・ヴァロとガンダム試作1号機の対決です。
自分の苦手な戦闘シーンですが頑張りますので応援して頂けると幸いです。


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赤い乱入者

今回も柊竜真氏に書いてもらいました。


 月 

 フォン・ブラウン市から遠く離れた何もない月面で、2機のMSが模擬仕様のビームライフルを持って模擬戦闘を行っていた。

『どうした? 逃げてばかりかよ!? それとも1号機(GP01)はその程度なのか? それともこのGP04(ガーベラ)の方が性能が上だと認めているのか!?』

 元ジオン軍MAパイロット、ケリィ・レズナーとともにヴァル・ヴァロを修理した青年は愛機のガンダム試作1号機Fb(フルバーニアン)に乗り、攻撃を回避しながら対戦相手の機体を注視する。

「ガンダム試作4号機。強襲・白兵戦に特化した1号機と類似点が多かったために軍の開発予算から外れ、アナハイムによって再設計・開発された機体か……さすがはガンダム。いい機体だ」

(動きが段違いだ。スラスターの出力も申し分ない、何よりターンが早い)

 対戦相手であるアナハイムのテストパイロットの(あざけ)りを聞き流し、青年はアナハイムのシステムエンジニア、ニナ・パープルトンから聞いた情報通りだと感嘆の声を漏らしつつも、必要最低限の動きで相手の攻撃を回避していく。

 反撃の動きも見せず、攻撃が当たるか当たらないかのギリギリで回避する1号機の動きに、テストパイロットへの侮蔑の色を濃くさせる。

『まさか模擬戦でビビッているワケじゃないだろ、連邦のパイロットさんよ! お互い高機動型汎用MSとしての性能差ってやつに白黒つけようぜ!』

 一向に反撃せずにただ避けている1号機に、『自分の方が実力が上だ!』と青年を見下すパイロットは気がついていなかった。青年が反撃らしい反撃をしないのは自分に恐れを抱いているからでも性能差に手が出ないのではなく、自分と4号機を冷静に分析することを優先したからということに。

 それが証明される事実が起きる。

 クルッと回転するように避けたと同時にいつの間にか構えられたライフルから模擬弾が放たれた。回避と攻撃を同時に行ったような、予備動作すら感じさせない1号機のライフルは4号機の肩をかすめた。

『……!? チッ!!』

 破れかぶれの攻撃をもらってしまったとテストパイロットは距離を取る。

(やっぱり戦場とは違う……ピリピリと張りつめた空気もない)

 警戒して距離を置く4号機を、遠くで騒ぐ少年を見守る大人のような気持ちで見る。

 連邦軍の教本にも載るジオンのエースパイロットであるアナベル・ガトーを始め、キンバライト基地での攻防戦……そして青年は知らない、シーマ・ガラハウに成り代わったエースパイロットのクレア・バートンとの戦いが戦士としての技量を大きく成長させた。機体の搭乗時間こそテストパイロットの方が断然上であるものの、今の青年にとってテストパイロットは脅威と感じていなかった。

 アナベル・ガトーやクレア・バートンなどの強敵と上司であるサウス・バニングなどベテランパイロットを間近で見た青年にとって、テストパイロットの動きは読みやすく、無駄な動きが多すぎた。

『クソッ! またチョロチョロと逃げ回りやがって!』

 再び開始した攻撃を、いともたやすく回避するテストパイロットの苛立ちが耳に入る。

「……いくか」

 相手の力量、機体の性能やクセ……それらを把握した青年は軽く息をして呼吸を整えると、振り向きざまに4号機に向けて引き金を引いた。

『なッ!? ……!!』

 あと少し機体の動きが遅ければコックピットに直撃だったテストパイロットは目を大きく見開く。何かを言おうとするが猛攻かつ正確な狙撃に冷や汗を流しながら避けるのに手一杯の状態に陥った。わずかに出来た猛攻の合間に反撃をするものの怒りと焦りで精度は格段に落ち、力量やクセを見抜いた青年にとって避けることは造作もなかった。

(……今だ!)

 青年は機体を急上昇させ振り返る。

『なんだと!?』

 青年の突然の行動にパイロットは驚愕する。その心の空白は致命的だった。

 青年のビームライフルがコックピット付近に命中する。

 本当のビームライフルならば撃墜は免れなかったかもしれなかった直撃に苛立ちビームライフルを構えるパイロットに、青年も再び照準を向ける。

 その時だった。

『コウ、大変よ。急いで撤収して!!』

 1号機と2号機の設計を担当した金髪の女性、ニナ・パープルトンの焦る顔がモニターに映る。

「ニナ」

 青年が「どうしたんだ?」と尋ねる前に女性は説明する。

『赤いMAが向かっているの!! だから急いで!!』

「赤いMA……ッ!?」

 その言葉を聞いた瞬間、信じられないと大きく目を開く青年。

「ま、まさか……」

(いや、違う……違うはずだ。そんな事は……)

 脳裏に浮かび続ける赤いMA を首を振って否定する。

 しかし、それは1号機と4号機が間に走った月の大地をえぐるビームによって打ち切られた。

「……ッ!?」

『な、なんだッ!?』

 1号機と4号機の上空を高速で巨大な何かが通り過ぎる。

 青年は全神経を集中してそれを見る。

「そ、そんな!!」

青年はがく然とする。

 それは先日まで隻腕の男、ケリィ・レズナーとともに修復をしたMA、ヴァル・ヴァロだった。

 

 




長い間投稿できず申し訳ございませんでした。理由はとてつもなく下らないものです。
また自分の苦手な戦闘シーンが入るので間隔が空くかもしれません。


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