声劇台本『這い上がれ大蛇のように』 (亀の甲より具志堅用高)
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第一話『夕焼けと死の情景』

※フリー素材ではございません。ご使用の際は必ずコメントにてコンタクトをお願い致します。


ー声劇・這い上がれー

 

 

 

ー第1話『夕焼けと死の情景』ー

 

『よし、あとちょっと。おっけ、あとは…。

は?何でそこでアシストスキル使わねえんだよ!クソっ、こいつバカか。

あーもう、負けちゃった。本当センスねえよな。中坊かよこいつ』

 

俺は今現在20歳のニート。高校は一年生の途中で退学し、仕事もろくにせず、約四年間、家にずっと引きこもっていた。

 

『あぁ?通知?何だよ。』

 

開くと、高校の頃の知り合いから、twitterでリプライが来ていた。

 

『いい加減働けば…。チッ…はぁ…うざ。どうせ3年後になったら自殺すんだから、俺の勝手だろ。人の気持ちも知らずに書き込みやがって』

 

先が真っ暗な俺は、3年後までには自殺しようと考えていた。3年後までにはというくくりではあるけど、親の金が尽きたら、と言った方が正しいかもしれない。

 

『あぁ〜、楽に死にてぇ』

 

そう部屋で一人呟いた後、俺は、近くの高層ビルの屋上へ行く事にした。俺が将来、自殺に使おうと思っている場所だ。

 

『ともき〜?どこ行くの?』

 

『チッ…はあ。えっと、コンビニ。ちょっと買い物』

 

『分かった』

 

『あのさ、お金くれない?』

 

『えっと、…もう少ないから、あんまり…』

 

『どうしても必要なんだけど。急いでるから早くくれないかな?』

 

『…分かった。はい、これで足りる?』

 

母親は、5000円を渡してきた。

 

『ありがとう。ごめんね、いつも』

 

『ううん、行ってらっしゃい』

 

『うん、行ってきます』

 

『はぁ…、こんな人生になるなら、産んでほしくなかったな。無責任な奴らばっかりだ』

(そんな言葉吐いている自分が、一番無責任だって事に気付いて。自分がいかに、最低な人間かを改めて認識する)

 

『てか、もう既に心折れてるよな。だから高校辞めたんじゃねえかよ。ははっ…あーあ、無理ゲーだよ無理ゲー!』

 

やがて、歩きながら高層ビルの屋上に辿り着いた俺は、屋上から飛び降りる為に、鉄柵を登りきり、後一歩足を踏み出せば空中へと落下するというところで、地上を見下ろした。

高層ビルは全部で18階建てで、この近辺では最も高いとされている。

 

『はぁっ、はぁっ…、(やっぱり、死ぬのは怖い。無理だ。早く戻ろう)』

 

結局、ヘタレな俺は、元いた屋上の扉前へと戻った。

 

『はっ、今は出来ないだけで、もう少し、時間が経てば…もう少し、精神的に追い詰められれば』

『ともき?こんな所で何やってんだ?』

『えっ、としゆき?』

 

有山智之…俺の、唯一コンタクトが取れる友達だった。

 

智之『お前、どうした?しかも、平日にその服…』

『え、ああ、えっと…今日休みで、ちょっと気分転換に』

智之『そっか。なあ、これから飯行かね?』

『え、ああ、いいよ』

智之『おっけ、ちょっと待っててくれな』

 

智之『お待たせ』

『としゆきって、ここのどっかに勤めてるの?』

智之『ああ、まあな。そんな事より、楽しく飯食おうぜ』

『お、おう』

 

そして、俺達は近くの居酒屋に行った。

平日の浅い時間帯という事もあって、周りのテーブル席には人が居ない。

『最近はどうだ、何か大きな変化あったか?』

『んー、特に無いかな…智之は?』

『会社の上司の人と仲良くなって、んで、この前焼肉連れてって貰ったわ』

『流石のコミュ力だな。俺にも分けて欲しいくらいだ』

『仕事はどうなんだ?上手くいってるのか?』

『ん、ああ、まずまずってところかな』

(やばい、さいあくだ。なんだこれ。惨めすぎる…)

 

『っていう話があって…、って、おおい、聞こえてる?』

『え?ああ、それでなんだっけ』

『ともき…大丈夫か?』

『…ああ、大丈夫』

 

それから、俺達は色んな近況を報告し合った。勿論自分の口から出てきた言葉は全て嘘で。それまで好んで食べていた物も、味気を感じない、それほどの罪悪感が、終始入り混じっていた。

 

智之『ふー…食った食った。そろそろ出るか』

『そうだな。よいしょっと。っておい、そっちは出口だぞ?』

智之『先に会計済ませといたんだよ。後で割り勘分の金くれればいいから』

『ああ。ありがと』

 

その後俺達は、帰路を歩きながら下らない話をしていた。たまにはこういうのも良いかもしれない、そう思った時だった。

 

智之『なあ、ともき、お前、俺に嘘ついてねえか?』

ぎくりとした。

『え、はぁ?そんなわけ…ねえよ』

智之『嘘つけよ。聞いたぜ。お前俳優になりたいみたいな事SNSに書き込んでたらしいじゃねえか。それに、バイトもクビになったって…』

『…読んでたのか』

智之『働いてもねえのにそんな夢物語、叶えられるわけねえだろ』

『は?お前も俺の事、馬鹿にすんのかよ!』

智之『馬鹿にしてねえ。ただ俺は…お前に現実を見ろっつってるだけだ。それが親友として出来る唯一のアドバイスだからな』

『はぁ。やっぱ現実ってクソだ』

智之『現実がクソなんじゃなくてテメェがクソなんだよッ!』

『ぐぁっ…かはっ…』

智之『いい加減目ェ覚ませ。書き込み見たけど散々言われてただろ?』

『あんな馬鹿みたいな連中、一々まともに取り合ってらんねえよ。もうお前とも話したくねえ。じゃあな』

智之『馬鹿はどっちだ!?このままじゃ、人生後悔すんぞ!』

『(後悔だぁ?…もうとっくにしてるよ。産まれた時から)』

 

帰宅した俺は、いつも通りパソコンの前に座り、淡々と作業を進める。

 

『おかえり〜』

『ん?ああ、ただいま』

 

『ご飯出来たけど、居る?』

『………』

『ともき?ご飯…』

『わぁってるよ!いつも置いといてって言ってんだろ!!』

『う、うん……分かった』

 

『はぁ。早く死にたい。生きてても惨めなだけだ。ん?LINE?じゅりから…何ヶ月ぶりだよ』

 

『明日、暇?』

 

『空いてるけど、何で?』

 

『久々にご飯食べに行こうよ』

 

『いいけど、他のうざい奴ら連れてこないなら…っと。はぁ』

 

その夜、俺はひたすらゲームに熱中した。母親が作ってくれた飯を嫌いなものだけ残して食べ終わった俺は、そそくさと布団に入り、寝付いた。

 

今日も一日、心の中は空っぽだった。こんな毎日が四年間ずっと、続いていた。

 

そんな中、俺の日常に、大きな変化が起きた

 

『…。あれ寝てたのか、俺。よいしょ、朝飯作ってくれてっかなぁ』

『へ…母さん?母さん!?母さん!!』

 

母親は、病に倒れ、病院へと運ばれた。

その時は気づかなかったけど、自分の母親の事を、10年ぶりにきちんと母さんと呼んだ瞬間だった。

 

そして…これが俺の、人生最後の後悔と、挫折と、逆転の物語。

 



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第2話 挫折と志

第2話 『挫折と志』

 

 

病室内で佇む。外は大雨に見舞われていた。

 

『母さん、ごめん。俺…』

『んん?何の事?』

 

母親は、統合失調症という病にかかった。慢性的なストレスから来る病気で、頻繁に幻聴が聞こえ、幻覚が見えたり、更には、自分自身で考えていたことが頭の中でまとまらず、先ほどまで考えていた事や思っていた事などが真っ白になって忘れてしまう、という、当事者は勿論の事、周囲にも悪い影響を及ぼす病気だった。そう、まともに会話すら出来ないほどに…。

 

『俺が母さんの苦しみに気付いていれば…、母さんを助けられていれば……』

 

『ん?どうしたの?どうしてそんなに泣いているの?元気出して。

私は、ともきの元気な顔が見たいの』

 

『あ、ぁ。くっ…。母さん、不安な気持ちにさせてごめんね。俺、今日からちゃんと働く。だから大丈夫、安心して』

 

すると、手に持っていた携帯から通知音が鳴った。見ると、じゅりからのメールだった。

 

『ねー?まだー?もうおみせ着いてるんだけど』

 

『げっ、やっべ。じゅりとの約束忘れてた!!急いで準備しねぇと。母さん、ちょっと出かけてくる!また夜に絶対来るから!』

 

『はーい』

 

母さんの表情は終始、疑問を浮かべていた。この人は今何の話をしているのだろうというような。…考え事がすぐに頭の中で崩れてしまう母さんからすると、俺が話している事の全ては突拍子もない話なのだ。

 

『じゅりとの約束も守らなきゃいけないけど、母さんを助けなきゃ…!でも、どうすればいいんだ…?』

これからの目処が立っているというわけでもなく、正直、事を冷静に理解してから、自分自身の置かれている立場がどれほど危機的状況なのかを痛感させられた。

 

 

そして、近くのお好み焼き専門店へ向かった俺は、到着して10分後、じゅりと合流した。

 

『おー!久しぶり』

 

『よ、よぉ。ここの店で良かった?』

 

『いいよー!ここのお店にしてくれたって事は、私の好きな食べ物覚えててくれたんだね。嬉しい』

 

『お、おう(なんだこいつ…、こんなに素直な奴だったか?それに…なんか雰囲気変わったっていうか…すげぇ美人になってる…)』

(いやいやいや、何思ってんだ俺、気持ち悪い。あり得ないだろ。元カノの事、また好きになるとか。そんなの、ダメだろ…)

 

 

店の中に入った俺達は近くの席に着くも、暫くの間、無言の気まずい間があった。

 

『…あ、えっと…最近どう?』

 

『ん?最近?うん!毎日が凄く楽しい。大学生活も超楽しいし、実はさー、彼氏出来たんだよね!』

 

『へ?彼氏出来たの!?』

 

『うん!だから、前とは違って凄く幸せ!

ともきと違って、LINEの返信も早いし、何かあったら真摯に接してくれるし、私の趣味にも付き合ってくれるし』

 

『へー、そうなんだ。(やばい吐気が…、なんだこれ…なんだこの感情は…)』

 

『あとー、Hとか?』

 

『へ!?』

 

『は、まだしてないけど』

 

『あ、そうなんだ』

 

『でもー、彼氏がしよしよって甘えてきて』

 

『うっぷ…!ごめん、ちょっと席外す』

 

『え!?大丈夫!?(ちょっと嬉しそうに)…ちょっといじめすぎちゃったか』

 

 

『なんだこれ…胃がグルグルして、えぐられるように、気持ち悪い…あいつの身体に、知らない男が触れようとしてる…あいつと楽しい時間を共有してる…。何でこんな気持ちに…。やっぱ…まだ…』

 

じゅりとは一年前まで付き合っていた。その間、約二年間。どうしてこんな俺と付き合ってくれてたのか、そしてどうしてこんなにも続いたのか、自分でも分からなかった。でも多分、相手が俺のことをずっと好きで居てくれたからなんだと思う。そんな気持ちすらも汲み取れず、ずっと冷たく接してきた結果…。

 

『なんなの!?そっちだって私のいう事ちっとも聞いてくれないくせに!』

『じゃあせめて俺のいう事を聞いてから…って、これ何回目だよ。なんか、このままじゃお互い嫌な気持ちになるだけだからさ。別れよ』

『……』

 

別れるという言葉の重みとその言葉が生む後悔を知ったのは、もう少し後の話だった。

 

 

『ねーねー?大丈夫ー?』

『あ?あぁ、大丈夫だよ。全然、寧ろ元気なくらい!』

『えー?でも、顔に、辛いって書いてあるけど』

『え?あぁ、そう。(なんだこいつうぜぇ、俺への当てつけかよ…)』

『…当てつけだよ』

『へ?(心読まれた!?)』

『当てつけ。私さ、振られた時、絶対後悔させてやろうって思ってた。ルックスも磨きまくったし、ダイエット諦めずに頑張った。胸だって形を良くするために色々と努力した。

男の人が喜びそうな事や物、色々と研究した。今の私見てどう思う?今の私が、今の私の彼氏に取られて、どう思う?』

『は?別に、どうでもいいよ。もう終わった事だから』

『そんなに意地張らないでよ?ねえ、後悔してるでしょ!』

『…はぁ。それ言うために、今日呼んだのか?』

『ううん?別にそんなんじゃないよ』

『何でもいいけどさ、一つだけ確実に言えることがある』

『何?』

『お前、何にも変わってねえよ』

 

『ぷっ。何、悔しすぎて頭おかしくなったの?あーあ!そんな事でしか吠えられないんだね!私は努力で示した。あんた毎回口だけじゃん』

 

『そうかもね。でも、お前本当に変わってない。だって、目にまだ迷いがある』

 

『…はぁ?!迷い!?何、人の事分かったつもりでいるの!?そんなのだから、友達も一人も出来ずに家で引きこもって…。もういい、あんたと話しててもつまんない!!』

 

『あ、おおい!クッソあいつ。すんません、これで会計お願いします。釣りはいらないんで!!!』

 

『あれ?あいつどこ行った…?はぁはぁ、あ、居た!』

 

『…やっぱあいつムカつく!毎回あいつの方が一手も二手も上で…今だって変わらない。

私自身が変われたと思ったから会って死ぬほど後悔させてやろうと思ったのに。全部見透かされてるような気がして…』

 

ジジイ『おいおい、赤信号なのに渡っちゃってるよあの子』

『はぁはぁはぁ…!

じゅり!!!!危ない!!!!!!!!!』

 

『へ?』

 

 

 

『はぁはぁ…はぁ…はぁ……』

 

『私…助かった…?』

 

『何やってんだよお前!!!』

 

『!』

 

『もう少しで死んでたかもしんないんだぞ?もっと自分の事を大事にしろっつうんだよ!』

 

『………』

 

『お前が死んだら…お前が死んだら…』

 

『私が死んだら…なんなのよ』

 

『…俺が、悲しむ』

 

『!!』

 

『お前にとって俺はどうでもいい存在かもしれないけど、俺にとってお前は、こんなクズを認めてくれたたった一人の存在なんだよ』

 

『そんだけ。ごめんな今日は何か。またなんかあったら連絡してくれ。相談とか乗るから』

 

『うん。分かった』

 

『じゃあな!俺は母さんの所に行かなきゃダメだから。また』

 

『そういえば、出会ったあの日も…こうやって助けてくれたっけ…。バカだなぁアイツ。自分の事を大事にしろって…マジでブーメランっしょ』

 

じゅりと別れた俺は、ひたすらアルバイトを応募していそうな場所を探した。

 

『(…死にたいなんて言ってたけど、いざ死ぬのは怖すぎて。親が倒れて、初めて色んな事に気付かされた。色んな人の気持ちを踏みにじってきた事…。現実逃避をしてきた俺が、今どんな立場に居るのか。出来ない事や未熟な事が多すぎて、絶望しそうだけど、でも。死ぬのは嫌だ。だから…辛いけど前に進まなきゃ』

 

すると、前方から見知った顔の四人組が現れた。実質的に、俺の事を高校中退に追いやった奴らだ。

 

『よぉー!ともき。久しぶりじゃん』

『何してたんだよこんな所で…』

 

こいつらは、いつも俺を見かけてはじゃれ合いという名の暴力を振るったり、金をくれとせがんできたりする。

 

『お前相変わらず髪長いよなー、女かよw』

『いって、引っ張んなって』

『お?財布はっけーーん!!』

『あ、おおい!』

『なんだこれだけかよ…』

『ぐぁっ!』

『次会うときはもう少し持っとけよ』

『けほっけほっ…』

 

(こんな人生になるくらいなら、いっそ、死に…いや。このまま、このまま死んでたまるかよ。母さんが、まだ生きてんだ!母さんの、唯一の、希望なんだ!)

 

こんな惨めなまま、人生を終わらせたくない。そう思いながら、自分自身が荒野のど真ん中に居るって、右も左も、何も分からない。だけど、一つだけ…確実な事がある。

そう、この世界は、弱肉強食の世界なんだ!

だから、俺の事を馬鹿にした奴ら、全員喰ってやる!!!!!』



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