声と境界線 (うめもち)
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第1話 出会い

新しい事には人間誰しもドキドキやワクワクなど少なからず胸を高鳴らせるだろう。人生の大半を過ごす学校生活においては特に。

だが─。

 

「こんなのでワクワクするかぁぁぁぁッ!!!!」

 

私、柏木(かしわぎ)まゆるは別の意味でドキドキさせられていた。

こうして思うとやはり私はトラブル体質らしい。以前通っていた学校は不運な事にも先日の豪雨で半壊させられ、校舎自体もかなり古かったため悲しいことに改修不可。

在校生は同じ市内の高校へと編入させられることになった。

新品の制服に袖を通し、新鮮な気持ちで通学路を歩いていたところこれである。

 

え、何が起きてるかわからない?

 

確かに逃げることに精一杯で肝心なことを話忘れていた気がする。

何に逃げているか?それは─。

 

『コッチへ…おいデ?』

 

「行くわけないでしょうがぁぁぁっ!!!!」

 

あの世に行くことも出来ず、現世に留まり続けた魂が堕ちた姿と言われているものの総称妖。彼らは生きている人間の魂を喰らって力を上げる。当然喰われた人間は行方不明になるため私達はそれを神隠しと呼んでいる。

で。何故だか知らないけど私は頻繁にその妖達から命を狙われ、こうして追いかけっこを繰り広げているわけである。

 

「あ、やば…」

 

お分かり頂けただろうか。

ついでに言うならば私がいまさっき逃げ込んだのは住宅街の袋小路。

つまり行き止まり。後ろにはよだれを垂らした妖。絶体絶命の大ピンチ。

詰んだわコレ。

 

「ほんとにもう…ありえないんだけど…。

私なんか喰べても美味しくないよー?」

 

『コッチへ…おイデ?』

 

はい。妖相手にまともな日本語通じると思っていた私がバカでした。

ジリジリと寄ってくる妖はもう私を喰べることしか頭にないらしい。

 

「あーもう!誰でもいいから助けてよ!!」

 

「なら頭押さえろ。避雷針になりたくなかったらな」

 

「!?」

 

青白い光を纏った一筋の柱が落ちた途端、空気が割れた。

私が一体何をしたというのだろうか。

登校しようと思えば妖に追いかけ回され、助けれを求めれば雷を落とされる。

トラブル体質にも程がないだろうか。

 

「…大丈夫か?」

 

「ひっ!?」

 

自分の体質を呪っていると、雷を落とした張本人であろう青年が家の屋根から飛び降りて来た。

艶やかな黒髪に真紅の瞳。

意外なほど迄に整っている顔立ちに目を奪われるけど、それよりも鋭い目付きに飲み込もうとした悲鳴が漏れる。

 

「んなビビらなくたって取って食ったりしねぇよ…。」

 

「あっえと…」

 

困ったように頭を掻く男の子に申し訳なくおもいつつも、我に返った私はしどろもどろに言葉を探す。

恐らく彼は能力者だ。

 

能力者─。

普通の人間にはない卓越した身体能力を持ち、超常現象を操り、妖とも渡り合える特殊な人達。

 

「ええと…どちら様ですか?」

 

「散々探した答えがそれかよ。」

 

間髪入れずに入ったツッコミはこの際無視しよう。

助けてもらったとはいえ、目の前に雷を落とされたのだ。挙句の果てに至近距離で見つめられれば誰だってそうなる。

よって私に非は無い……はずだ。

 

「…俺は夜神唯斗(よるかみゆいと)。お前は?」

 

「………柏木…まゆる」

 

「柏木…?」

 

私が名前を言えば夜神さんが眉を顰めた。

どこにでもある名前だと思っていたのだけれど何か引っかかったのだろうか。

 

「あの、どうかしました?」

 

「いや。なんでもねぇよ。

それより、その制服。お前転校生か?」

 

「え?」

 

制服のことを指摘され咄嗟に頷くと、夜神さんは一点盛大にため息をついた。

一体なんだと言うのだろうか。

疑問符が脳内を埋めつくし、解消するべく改めて彼を見つめ直してみると、あることに気がついた。

 

(もしかしなくても、同じ学校…?)

 

夜神さんが着ていたのはこれから私が通うことになる高校の男子制服と同じだったのだ。

 

「あの、夜神s((ガシッ」

 

「…飛ぶぞ」

 

「はい?」

 

いきなり腕を掴まれたかと思えば、まさかの「飛ぶ」宣言。

どうゆうことか理解するまでもなく、視界が切り替わった。




第1話いかがでしたでしょうか?
超初心者ド素人ですので、誤字脱字操作ミスなど至らない点があるかと思いますが、優しく見守ってくれると嬉しいです(^-^;


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第2話 その学校、異常。

「え…ここって…」

 

目の前に聳え立つ大きな校舎。

慌てて駆け込んでいく生徒達。

 

「職員室なら階段上がって右側の突き当たりだ。早くしねぇと遅刻すんぞ」

 

「え、ちょっと!」

 

それだけ言い残すと、いつの間にか上履きに履き替えていた夜神さんは私の返事を待たずに掻き消えた。

 

キーンコーンカーンコーン

 

「やばっ」

 

呆気に取られているとこの学校の予鈴と思える音が私を現実に引き戻した。

兎に角、職員室に向かおう。

転校初日に遅刻なんて色々問題だ。

 

ーーーーーー

 

(やっぱり、緊張する…)

 

何年学生をやっていようともやはり職員室特有の緊張感は拭えない。

時間もあまり残されていないし、早く中に入らないといけないのだが、どうしてもその一歩が踏み出せずにいたのだ。

 

(いつまでもここにいるわけに行かないし…)

 

もやもやとした感情を追い払うかのように頭を振り、職員室の扉へと手を伸ばす。

 

ガラッ

 

「ひっ…!?」

 

「っ!」

 

ノックするより早く扉が引かれ思わず手を引っ込めると、中から女の先生が出てきた。

緋色の髪に新緑の瞳。

口にチュッパチョポスの棒を咥え、よれよれの白衣を纏った一人の女性教師がいた。

 

「あの…」

 

「あーもしかしてあんたが転校生?」

 

「えっ…」

 

夜神さんの時もそうだったけどどうしてみんな私が転校性だと分かるのだろうか。そして人の話を最後まで聞こうとしない。

教師と思える人の質問に頷きながら密かに首をかしげる。

 

「まぁ、この時間で職員室前を理由もないのに立ち往生してる生徒なんていないからね。

それに、あんた2年生のようだけどうちの学年では見たこと無かったし」

 

「そ、そうなんですか…」

 

エスパーか?エスパーなのかこの人は。

私の疑問を先回りして解決していきながら、当の本人は涼しい顔をしている。

混乱する私を置いておいて、腕時計を確認した先生は小さな欠伸をひとつ漏らすと歩き出した。

 

「あの…」

 

「何ぼさっとしてんの。

転校生。初日から遅刻でもするつもり?」

 

「へ?でも、担任の先生が…」

 

「担任?ここにいるじゃない。」

 

「はい?」

 

思わず耳を疑った。

担任?この人が?名前も知らないだるそうで眠そうでやる気のなさそうなこの先生が!?

 

「そういうのはねぇ…表に出さないのが道理ってもんよ。

あたしの名前は相咲神蘭(あいさきからん)

これからあんたが生活することになる2年E組の担任さ。

そういう事だから、早くしなさい。

それ以上時間取らせるようだったら置いていくわよ。柏木まゆる。」

 

「わ、わわ!はい!」

 

こっちの心情などお構い無しの相咲先生。

遅刻はどうしても避けたいため、遠ざかっていく背中を追いかけた。

 



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第3話 悪魔と中立と苛立ちと

現在俺、夜神唯斗は現在苛立ちの頂点に達していた。

なぜかと問われれば答えはただ一つ。

 

「さぁさぁ!

女子生徒と一緒に登校などという唯斗には天地がひっくり返ってもありえないと思っていたことを体験した感想をどうぞ!!」

 

名前は北帝総悟(きたみかど)

甘いマスクと見た目に反しない爽やかさから校内には多くのファンがいるらしいが、本性を知っている側からしたら一刻も早く目を覚まさせてやりたい。

今朝登校途中にでくわした女子生徒を助け、空間移動を使って学校に来たのが運の尽き。

遅刻ギリギリだったため、教室に飛べば呆気なく捕まってしまったのである。

時間を巻き戻せるならば数分前の俺をぶん殴ってやりたいところだが、そうした所で遅刻をするのがオチだ。

長い付き合いのせいでコイツは俺の弱みを掴むのが上手くなってきている。

 

まさに天性の悪魔。ドS王子。

もうダメだ。

 

「コラコラ総悟。

あまりからからかわないの。

唯斗の周りバチバチ言ってるからね?」

 

どうやって目の前の悪魔を追い払おうか頭を悩ませていると、まさに仏かなにかか。

長い青髪を一纏めにしたロン毛こと黒井奏(くろいかなで)が仲裁に入った。

 

「百歩譲ってロン毛なのはいいとするよ。

うん。もうこの際それツッコんだら負けだと思うし。でもその紹介はどうかと思うな俺!!」

 

「あー、そーだなー」

 

「雑!!」

 

半泣きの奏の抗議を聞き流し、総悟の茶々を完全にシャットアウトしながら取り出したスマホでニュースを確認していく。

我ながらこういった所だけはやたと器用になってしまっているのはどうかと思うのだが、もはやそんな事考えるだけ無駄だ。

現に毎回毎回懲りることなく俺をからかい続ける悪魔がいるのだ。相手にしていたらそれこそストレスかなにかで胃に穴が空いて死ぬ事になるだろう。

そんな死に方は真っ平御免だ。

妖に喰われた方がよっぽどマシである。

が。そんな俺の努力も次に発せられた総悟の言葉で水の泡になることとなった。

 

「そう言えばこのクラスに転校生来るって知ってた?」

 

「は?」

 

「え、そうなの?」

 

ちょっと待てどこで知ったその情報。

確かに朝であった少女はうちの学校の制服を着ていた。顔も見慣れないし転校生なのは直ぐにわかった。そこはいいのだ。

転校なんて他所が口出しすることではないし、構わないのだ。

だが、重要なのはそこではない。

さっき総悟はなんて言った?

 

─そう言えばこのクラスに(・・・・・・)転校生来るって知ってた?

 

「…………」

 

「あれ、唯斗?どうしたの一点集中なんかして」

 

俺の異変に気づいた奏が何か言ってくるがそれどころではない。

転校生がさっきの女子なら俺を見て反応するのは確実。それを見た周りの反応は?

当然興味や嫉妬の餌食になるに決まってる。

総悟1人でも厄介だと言うのにこんなのがさらに増えるというのだろうか。

 

「…勘弁してくれぇ」

 

「どうしたんだ、コレ」

 

「さぁ?」

 

数分後起こるであろう悲劇に真面目に座ってる気力すら失せ、だらしなく机に突っ伏する。

頭上で繰り広げられる総悟と奏のやり取りに返すことも出来ず、俺の口からはただただ情けない声が漏れただけだった。



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第4話 お隣さんは顔見知り

相咲先生の後に続いて廊下を歩くとこれからお世話になる教室の前に到着した。

ガヤガヤと賑やかな声が廊下まで聞こえてきて明るいクラスだということが伺える。

 

「で。ここが教室な訳なんだけど…大丈夫?」

 

「だっだだだだいじょうぶでひゅ!!」

 

「…あー…そんな気負わなくてもうちの連中はバカばっかりだけど悪い奴らじゃないから」

 

緊張のあまりまともに返事できなかった私に相咲先生は苦笑した。

最初の印象を覆すかのような優しい表情に驚くと同時、少しだけ心が落ち着いた気がした。

その様子を確認した相咲先生は小さく頷くと教室の扉に手をかけた。

 

「あ。らんらん、おはーって誰その子!

もしかしなくても噂の転校生!?」

 

「ひっ!?」

 

「はい、おはよう。その呼び方やめろって言ってんでしょ。あと転校生怖がってるから。

ほら、紹介するからさっさと席つく」

 

教室に入るや否や私を見た生徒が声をかけてくる。あまりの勢いの良さにたじろぐと呆れ顔の相咲先生が間に入ってくれ、周りにいた生徒達も自分の席へと戻っていく。

 

「じゃあ、はい。自己紹介して」

 

「え、ええと…柏木まゆるです…!

好きな物は…」

 

頭に浮かんでいたことは先の出来事で全て吹き飛び真っ白状態。

どうしよう…何も浮かばない!!

自己紹介なんてあまりやらないし、趣味だってこれと言ってないし…どうすればいの!?

相咲先生は…!?

 

「…zzzzzz」

 

ね、寝てる──!?

 

助けを求めて先生の方を見ると壁に寄りかかった状態で寝息を立ててらっしゃった。

お疲れなのは重々承知のつもりだけどもう少しだけ頑張ってもらいたかった…。

 

「ねぇ、君唯斗と身長同じくらいじゃない?かわい〜」

 

「テメェは黙っとけ!!総悟!!」

 

「!?」

 

どうしようか悩んでいると、からかうような声が聞こえたかと思えば、直後聞き覚えのある声がそれをシャットアウトした。

 

「え…夜神さん!?」

 

「…よぉ…柏木…」

 

誰かと思えば今朝助けてくれた男の子、夜神さんだった。

驚きのあまり叫んでしまうと、周りの生徒の視線が一気に彼に集中とした。

 

(すみません、夜神さん…。わざとじゃないんです…。)

 

「あれあれ〜?唯斗もしかして…っておっと!危ない危ない〜」

 

夜神さんの近くにいた麻栗色の髪をした男の子が何か言いかけると異常な威力で投げられた筆箱が先の言葉を制した。

総悟と呼ばれた男の子の顔スレスレに刺さった筆箱。パラパラと崩れ落ちる教室の壁。

 

「な、な…」

 

なんですとぉ———!?

 

叫ばなかった私は偉いと思う。

誰か褒めて←

て言うか、なんでみんな反応しないの!?

なんで「あー、また始まった」見たいな顔してるの!?

 

「ちょっと〜事実を言われそうになるのが嫌だからって暴力はないでしょー?」

 

「よぉし、わかった。

じゃあ重力に潰されるか雷で焼かれるか好きな方を選べ。心配するな。楽に逝かせてやるよ。」

 

2人とも表面上は笑顔を取り繕っているけど、間に流れる雰囲気は最悪だった。

何これ…もう帰りたい。

 

「ちょっと、唯斗も総悟も落ち着いて。

教室が壊r

 

「「テメェは黙ってろロン毛!!」」

 

「ロン毛って言うなぁぁぁぁっ!!!!」

 

見事なとばっちりを喰らった青髪の男の子も交えてさらにギャアギャアと喧しくなる教室内。もう自己紹介所じゃない。

収集がつかなくなり誰もが諦めの境地にいる中言い争っている3人めがけて白い物体が飛んで行った。

ゴッと言う鈍い音を響かせて突き刺さるチョーク。パラパラと崩れ落ちる壁。何だろうこの既視感。

 

「ギャーギャーギャーギャー喧しいのよ。

ここは動物園ですかぁ?」

 

「あ…相咲先生!」

 

真っ青な顔で固まる夜神さんたちを気に止めることなく眠そうな教師は小さな欠伸をひとつ漏らす。

 

「えーと…柏木の席は…あぁ。

夜神の隣空いてるからそこね。

わかんないことは夜神が全部教えてくれるから大丈夫よ」

 

「はぁ!?丸投げかよ!!

あんた取り敢えず教師だろ!?」

 

「あんた達がテストの度に赤点連発するせいでこちとらろくな睡眠とれてないのよ。

それとも何?次のテストは赤点出さずに完璧にやり通すって事かしら?」

 

「…チッ。わあったよ。やればいいんだろ」

 

目が死んでいる相咲先生から放たれる真っ黒いオーラに一瞬たじろぐ夜神さん。

舌打ちを漏らすと渋々役割を引き受けた。

対する先生はといえば、わかればいいのよと言わんばかりに満足げに頷いていた。

え、ちょっと待って。私あそこに座るの?

 

「うん。物わかりが良くて大変よろしい。

じゃ、あたし行くからあとはあんたらで好きにやりな〜」

 

言うだけ言うと教室を出ていってしまった相咲先生。

改めて自己紹介する気にもなれず、かと言って逃げ出してしまえば命の保証があるかどうかもわからず私は自分の席へと向かった。



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第5話 休憩時間と呼ばれたもの

トラブルしか無かった朝のHRから1時間目をどうにか乗り切り、束の間の休憩時間に大好きな親友に抱きついた。

 

「ひ、妃葵ちゃぁあぁあぁぁんっ!!!!」

 

「のわっ」

 

「ふぇぇぇ…妃葵ちゃんが一緒でよかったぁぁぁ…」

 

「よしよし。浪人せずに済んでよかったねぇ」

 

引っ付いた私を優しく撫でてくれるのは小学校からの幼馴染みである有村姫葵(ありむらひまり)ちゃん。

同い年なのにしっかりしてて私にとっては頼れるお姉ちゃんみたいな存在。

 

「にしても あんた勉強大丈夫なの?

去年ギリギリじゃなかった?」

 

「うっ…」

 

姫葵ちゃんの言うことは最もで自分で言うのもあれだけど、私は恐ろしい程に勉強ができない。

毎回テストの度に追い込まれ必要最低限を頭に叩き込み、どうにかこうにかしのいできたのだ。

学生のうちは逃れられないテストという悪魔の存在に震え上がっていると、そんなことを吹き飛ばすような怒鳴り声が聞こえた。

 

「総悟!テメェまた俺の消しゴム勝手に使ってんな!?」

 

「消しゴムごときでケチ臭いなぁ〜

そんなんじゃモテないよ?」

 

「喧しいわ!!

何が悲しくて消しゴム代だけで財布軽くしねぇとなんねぇんだ!

ふざけんな!!」

 

額に青筋を浮かべる夜神さんにそれを軽く受け流す彼の前の席に座る男の子。周囲を見渡せば誰もが夜神さんに哀れみの目を向けている。

一体彼らの関係はどうなっているのだろうか。

それよりも夜神さん、そんなに怒って血管切れないといいけれど…。

 

「ん?どうしたの?」

 

「いや、あれ…」

 

「あぁ…。唯斗と総悟のこと?

大丈夫よ。アイツらなら。だって…ほら」

 

目の前で繰り広げられる光景を指させば、姫葵ちゃんが苦笑した。

彼女の視線の先を追えば、先程巻き込まれた男の子が2人に近づいていく。その後ろにドス黒いオーラが見えたのは気の所為なのだろうか。

 

「お前ら、何時までやっている!!」

 

ゴツンっという鈍い音。

頭を抱えて蹲る2人。

何があったかといえば青色の髪を一纏めにした男の子が鉄拳を下していた。

自己紹介の時とは違った展開に開いた口が塞がらない。

一見柔らかそうな雰囲気を纏っている男の子は拳一つで喧嘩していた2人をあっさりと沈めてしまった。

 

「だっ…何すんだ奏!!」

 

「痛た…絶対たんこぶ出来たよこれ…」

 

頭を抑えながら抗議する夜神くんと彼の相手をしていた男の子。

2人の頭には漫画のような綺麗なたんこぶが出来ていることに背筋に冷たい何かが走った気がする。

 

「ごめんね、柏木さん。

俺、黒井奏(くろいかなで)。こっちが北帝総悟(きたみかどそうご)。」

 

「よ、よろしく…黒井くんと…北帝くん…」

 

「総悟でいいよ?呼びにくいでしょ、北帝って」

 

「俺も。好きなように呼んでくれて構わないよ」

 

一転して置いてけぼりだった私の存在を思い出したのか、自己紹介をしてくれた。穏やかな雰囲気に戻ったことにほっと胸を撫で下ろす。

とんでもないクラスに来てしまったのは間違いないと思うけれど、悪い人たちではないのだと思う。

ただし、黒井くんもとい―奏くんだけは絶対に怒らせないと心にキツく誓ったのだった。

 



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第6話 始まりは突然に

授業が終わって家への帰り道をフラフラと歩く。きゃっきゃっと楽しそうに横を駆け抜けていく小学生達の元気がほんの少し羨ましい。

あの後、相咲先生の言い付け通り嫌々ながらも学校案内をしてくれた夜神さん。

面白そうだと言って付いてきた総悟くん。

2人一緒は不安という奏くんと頼み込んで付いてきて貰った姫葵ちゃんたちと一緒に色々な所を回った。

が。

まぁ、行く先々で喧嘩になるわなるわで。

夜神さんの怒号と奏くんの鉄拳が猛威を奮った。

 

まだ初日だと言うのに何なのだろうかこの疲労感は。

 

平和な学校生活を望んでいた私の願いは見事に裏切られこればっかりは自分の体質といるのかどうか分からない神様を本気で呪った。

そんなことを考えていたせいだろうか。

気が付けば知らない道に迷い込んでしまっていたのは、

 

否。

 

知らない訳では無い。

少なくとも私はこの道を知っている(・・・・・)

見慣れた住宅街。馴染んだ通学路。

何一つ変わっていないはずなのに拭いきれない違和感がそこにはあった。

 

「どうなってるの…」

 

行けども行けども変わることのない景色。

本来ならば私の家であるはずの施設が見えてくるはずだ。

それでも景色が変わることは無い。

ハリボテのように同じ景色が消えては現れる。

 

「誰か…!?」

 

助けを呼ぼうとした時だった。

もう1つの違和感に気付いた。気づいてしまった。

 

「なんで…」

 

人の気配が全くと言っていいほどしないのだ。

小学生達の楽しそうな声も、自由に空を飛び回るカラスの鳴き声も消え、自分の荒い息遣いと足音だけがやけに大きく響いていた。

 

『コわイねェ〜コワいヨォ〜

だから…

 

こっちへ…おイデ?』

 

「妖…!!」

 

不意に聞こえた声に戦慄する。

振り返ればそこにはいつの間に現れたのかヨダレを垂らしながらこちらを見つめる妖。

聞いたことがある。

妖は、魂を喰らうだけでなく、気に入った人間を生きたまま冥界に連れて行くと。

となれば、この違和感だらけの空間は冥界なのだろうか。

兎にも角にも私の意識はこうして肉体に存在しているのだ。いくら冥界だとしても殺されるのを体験するのは真っ平御免だ。

恐怖心で固まる足を叱咤して走り出す。

持っていたカバンを投げ捨て逃げることに集中する。

しかし、出口がないのに一体どこへ逃げればいいのだろうか。

絶望感に支配され始めた時、無理やり動かしていた体は限界を迎えた。

 

「わっ…!!」

 

足が縺れ、地面に体を打ち付ける。

焼け付くような痛みが走り、血が滲んだ。

立ち上がろうと力を込めるけれど恐怖と混乱が合わさったソレは言うことを聞かない。

まるで、筋肉の動かし方そのものさえも忘れてしまったかのようだ。

 

『みィつけタ』

 

「ッ!!」

 

必死に逃げていたはずの存在がすぐそこいた。

ニタリと三日月形に口を歪めゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

「あ…」

 

遂に私の目の前までやってきた妖の鋭く尖った爪が振り下ろされた。

殺ろされるはずなのに、その光景がやけに遅く見える。

 

(あぁ…。死ぬんだ、私…)

 

どう足掻いたところで直撃は免れない。

ならばいっそのこと…

 

「おい。俺の目の前で勝手に諦めてんじゃねぇよ。」

 

「!?」

 

突如聞こえたどこか苛立ちを含んだ声が私の鼓膜を震わせた。

次いで何が裂けるような音と響いた断末魔。

視界に移る黒髪と見慣れた学校の男子制服。

 

「なんで…」

 

掠れた喉から漏れた言葉は彼に届いたのだろうか。

巨大な鎌を持っているところを除けばその人は紛れもない私の隣の席の男の子だった。

 

「よ…るかみ…さん…」

 

「…無事か。柏木」

 

不機嫌そうな表情は相変わらず。

それでも、妖に臆することなく対峙する彼の姿がとても頼もしかった。

 

「全く。嫌な予感がしてきてみればなんの集会だこりゃあ。

お前体にマタタビかなんか塗ってんの?」

 

「そ、そんなわけ…!」

 

そんなわけないと否定しようとした言葉は至る所から聞こえる唸り声によって遮られた。

 

「5…10…すげぇな。まだ湧いてくるぜ」

 

「そんな…どうするんですか!?」

 

夜神さんの言葉通り、いつの間にか私達は多くの妖達に囲まれていた。

これでは逃げることは不可能だ。

 

「柏木。お前どっか隠れて…て、それじゃ無理か」

 

出来るなら私だって邪魔にならないように移動したい。

だけど、転んだせいで盛大に膝を擦りむき腰まで抜けてしまったのだ。

 

「…お前そこ動くなよ」

 

バリバリっと夜神さんの周囲を雷が覆う。

彼が踏み込んだ瞬間。

その姿が掻き消えた。

 

「ギシャァ!!」

 

響く断末魔。

妖を切り裂く漆黒の大鎌。

脅威の身体能力で背後に回り込んだ夜神さんは次々と他も妖達も倒していく。

 

(すごい…)

 

洗練された無駄のない動きに思わず見とれているとすぐ後ろで何かが突き刺さるような音がした。

 

「え…?」

 

「無防備な女狙うのはフェアじゃねぇだろ」

 

地面に刺さる巨大な鎌と1匹の妖。

今まさに私を襲おうとしていた妖が夜神さんの鎌によって串刺しにされていた。

驚異の出来事に冷や汗が垂れる。

夜神さんがいなかったらこうなるのは自分の方だったかもしれないのだから。

 

「ったく…キリがねぇ!」

 

倒しても倒しても尽きることなく現れる妖達に夜神さんの顔にわすがな焦りが見え始める。いくら彼が強いとはいえ、数に勝るものはない。その証拠に夜神さんの体には着実に傷が増えていっていた。

 

「チッ。おい柏木!!」

 

「は、はい!ってうぇぇぁあぁっ!!?!」

 

いやいやいやいやちょっと待って落ち着け私!!

 

えーと、さっきまで夜神さんは妖と戦っていたはずで?

急に名前呼ばれたから返事したんだけど?

どうして私はキミの肩に担がれているのかな?

 

「ちょ、よよ夜神さんんんん!!?!!?!」

 

「うるせぇなぁ…。黙って目と耳塞げ」

 

いやだから待って?誰か説明プリーズ。

混乱した頭で説明を求める私に迷惑そうな夜神さん。

そんな顔しても原因キミだからね!?

そんなこんなで脳内お祭り騒ぎの最中にジェットコースター並の浮遊感に襲われた。

それが私を抱えた夜神さんが大ジャンプしたことだと気付くのに約3秒。

 

「うぇぁいゃぁあぁぁぁぁあぁっ!!!!?!」

 

理解すると同時にお腹の底からの悲鳴が上がる。

女子らしくないとか言われるかもしれないけれどそんなの知らない。

こちとら生きているうちにあるかどうかわからない空中散歩の真っ最中なのだ。

瞬く間に遠のいた地面に思わず意識が飛かけるのを目と耳を塞ぐことでどうにか耐える。

 

この時の私は知らない。

私を抱えて空に浮かぶ彼─夜神唯斗が群がっていた妖を一掃するべく地面に巨大なクレーターを開けていたことを。

そしてこれが、私の日常の終わりを告げることだということを―。




最後の最後でキャラ崩壊が発生しましたね←
次からもちょいちょい発生すると思います。
御容赦ください(´・ω・`;)


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