叛逆の吸血鬼 (仮面ライダーゲイツ)
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プロローグ
始まりの日


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『寂れた』。今、上から見下ろしているこの光景を、俺はそう思う。

 

日が沈み、黒に染め上げられた世界。

 

人通りが殆ど無い街道。

 

優しさの様な物を感じさせる、オレンジ色の淡い光を灯し、道を照らすガス灯。

 

路地裏に集まり、客が来るのを今か、今かと待ち望んでいる娼婦達。

 

暗い、暗い、暗い。

 

人々が皆、暗い顔をしている。

 

絶望がこの人々を、この街を、この国を包み、燻らせていた。

 

 

 

 

此処はドイツのベルリン。

 

戦争に勝利し続け手に入れた、富、名誉、その他諸共を一度の敗北で失った、我らが祖国である。

 

っても、酒場では兵隊共や酔っ払い共が馬鹿騒ぎしているぐらいの活気はある。

 

もう一度戦争で勝ち、失った物を再び手に入れようと、皆明日に夢見ているのだろうが、俺は知っている、、、、

 

そんな事は永遠に訪れない事を、、、、

 

そして、全てを破壊する獣が、今宵誕生する事を、、

 

 

建物屋根の上に立ち、物思いに耽っていると、鉄の匂いが風に乗って来る。

 

建物から飛び降りてから血の匂いの源へと匂いを辿って歩き出す。

 

原作では俺がシュライバーの野郎と殺し合うことがきっかけとなりこの恐怖劇の役者達が集うのだが、俺が此処にいて関わっていない事から俺の役割は誰かが代わってくれているらしい。

 

本来なら役者が台本通りに動かなければ物語は進まないし、始まりもしない。だが、

 

(ご都合主義思われそうな考えだが、メルクリウスが俺なんていなくても物語の進行に問題ないようにと代役を創ったかは知らねぇが、これで物語は少し変化を見せるはずだ、有り難くこの機会を利用させて貰うぜ。)

 

ふと、空を見上げると綺麗な満月が輝いて闇を照らしていた。

 

その満月に誓いを立てるように心の中で思う。

 

(今夜黄金の獣の野郎をブチ殺し、あのウゼェ水銀の蛇のシナリオに風穴あけてやる!俺はもう、何も失いたくねぇ!俺からこれ以上奪わせてたまるか!)

 

此処に水銀の蛇が用意した脇役の1人に歪みが生じた。

 

この存在が獣と蛇に未知を与えるのか、どう物語を変化させるのかは分からないが、確かに物語は変わった。

 

これは1人の寂しがりやな吸血鬼の叛逆(リベリオン)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

コツコツコツコツと黒い制服に身を包んだ長身金髪の青年が夜の闇を引き裂き歩み続ける。

 

彼が何処に向かっているのかは彼自身も分かっていない。

 

彼はただ呼ばれた、来賓なのであるのだから。

 

「此処にいたか道化師が。随分とまた、手の込んだ招待をしてくれたな?」

 

ふと青年が立ち止まり、誰も見当たらないこの場所で誰かに話し掛ける。

 

すると、何処からか声が響いて来て、

 

「やあ、ようこそお出でくださいました、ハイドリヒ中将猊下。席は既に用意しております。役者が何故か揃って居りませんが、そこは脚本家たる私の力の見せよう。代役を用意しました。少し物足りなく感じると思いますがこれはこれから始まるのはオーケストラで言う序曲。さぁ、共に観覧いたしましょう。」

 

「、、、、何?」

 

(そう、ではこれよりーー

 

「ええっ?」

犬っぽい金髪の軍人の少女が、

 

「ちょっと」

目の下に泣き黒子がある青髪の優しそうな女性が、

 

「これは、、、、」

赤い髪の冷徹な軍人である女性が、

 

「なんともまた」

黒いカソックを着た異端の神父が、

 

「おかしな事になってるじゃなぁい」

赤い露出度の高いドレスを着た妖艶な魔女が、

 

これらの役者が此処に揃い、やっと始める事ができる。

 

今宵の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう。)

 

 

 

 

 

 

 

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「中尉、、、、これはどういうことです?」

 

金髪の軍人の少女、ベアトリスが来たその場で、狙いすましたかのように発生した災禍を前に目を背けそうになる。

 

まるで悪い夢でも見ているようだと、、、、、

 

自分達は犯罪者を追って来たが、この場で起こっている凶事は、追って来た案件を遥かに上回る。

 

そこには、白い長髪で白い服を着ている。その容姿はまるで妖精のように儚げで美しい、、、、、、、、、血らしき赤い液体をその身に付着させていなければ。

 

十数人の黒い制服を着た軍人達の死骸が、バラバラに分断され、血をそこら中に撒き散らし、キツイ鉄の匂いを漂わせて、少女はその中心でクルクルと回って、楽しげに踊っている。

 

これらの事から少女が殺した証拠としては十分であるが、少女は血に濡れた鉈を持っている事から確定だろう。

 

しかし、これだけならまだただの連続殺人犯で済ませるが、今回は違う。

 

死骸の周りの地面はあちこち抉れており、車が引っ繰り返り炎上している。

 

(まさか、人と人の戦いで、車が壊われ、地面が抉れるなどあり得ないし、、、、、、)

 

そんなベアトリスの、困惑を彼女の上司たる赤髪の軍人、エレオノーレは変わらぬ鉄面皮のまま一蹴した。

 

「さてな。だが見ろキルヒアイゼン。貴様はあれが誰か分かるか?」

 

「え、誰って、、、、、」

 

上司が顎で示した先には、漆黒の第一種軍装に身を包んだ長身の男と、もう一人、、、、

 

遠目でも整った容姿であると分かるが、感じる印象は全然違うが、どこか奇妙ぐらい似通っていた。

 

何故か見ているだけで背筋に悪寒が駆け上がって来る。

 

(あれは一体?)

 

「ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ中将。ーー彼がゲシュタポの長官閣下殿よ。」

 

隣にいた泣き黒子がある青髪の女性、リザが疑問に答えた。

 

「ちょっ!本当ですか!?」

 

「煩いぞキルヒアイゼン。ああ、そして隣にいるのは、、、、」

 

あの影絵のような細い男は、、、なんだ?確かにいるのに、何故が容姿を認識できない。

 

「誰です?」

 

「いや、それはいい。ともかく、中将閣下がおられる以上、やる事は一つだ、、、、狂った賊から、閣下の御身を守らねばならん。見る限り、此処にいる軍卒は貴様と私のみ。これならゲシュタポの任務に介入したのにも大義が立つ。」

 

そうですねと、自分の上司たるエレオノーレに敬意を抱き、ベアトリスは頷いた。

 

「ですね。あの少女は誰だか知りませんが危な過ぎます。」

 

「ふん、生意気にも鼻は利くか。ならば教えてやる。ああいった手合いには、銃よりもこいつだ。」

 

とエレオノーレは腰に下げた軍刀の柄を軽く叩く。

 

珍しく笑ったエレオノーレは、部下の覚悟を褒め称える様に腰から剣を引き抜きーー

 

「叩き斬り、突き刺し、痛みと恐怖を植え付ける。銃とはな、キルヒアイゼン、向けられても存外怖くないものなのだよ。」

 

とエレオノーレは男気溢れる言葉をベアトリスに向けて言い放ち、

 

「はいっ!」

 

とベアトリスは元気一杯で返事を返す。

 

「二人掛かりは騎士道に反するが、今は中将閣下の御身が第一優先だ。行くぞ、キルヒアイゼン。」

 

「はい!リザさんは隠れてて下さい!」

 

(貴女が共にいてくれるなら、貴女と共に戦えるなら、何も怖くない。迷わない。)

 

軍務に就いた時から、祖国のため民のため、血と栄光と勝利に剣を捧げると決めている。

 

「おおおぉぉぉッ!」

とベアトリスは自分を鼓舞する様に雄叫びをあげて、

 

「、、、、」

対するエレオノーレは静かに、冷静に敵に向かって行く。

 

これから、2対1の戦いが始まると、そこにいる誰もが思ったが、此処である役者が遅れて乱入する。

 

「ちと、邪魔するぜ。」

 

ブルン!と風邪を引き裂き横から迫って来る拳が、ベアトリスに近づいて来る。

 

「えっ、キャアッ!!!」

 

とっさに気づき、剣を盾にして防ぐ事に成功したが、ガン!と人間の皮膚と剣がぶつかり合ったとは思えない甲高い音を響かせて、ベアトリスは吹き飛ばされる。

 

「キルヒアイゼン!?」

 

「中尉!私は大丈夫です!中尉はそちらを!私がコイツの相手をします!」

 

初めて、エレオノーレが焦った様な声を聞いた事で大切にされてることが分かり、嬉しいベアトリスは一回転地面に転がってから体勢を立て直してから、乱入者に剣を向け警戒しつつエレオノーレに叫ぶ。

 

「キルヒアイゼン、、、、、、、、わかった。私がコイツを取り押さえるまで耐えろ。死ぬなよ。」

 

と言い放ち、少女に向かって行く。

 

金属同士がぶつかり合い、地面が抉れる音が聞こえる事から中尉が戦闘に入ったと確認し、目の前の敵に全神経を集中する。

 

「話は済んだか?お嬢さん。」

 

「突然襲いかかって来ておきながら律儀に待つとは、チンピラの癖に変な人ですね。」

 

乱入して来た男は構えもせず、ただその場に立ち、やっと話は終わったかと言わんばかりにこちらを見つめて来た。

 

「ちと、用があって割り込ませてもらったけどよ、本来俺は他人の話を遮るなんて無粋なことはしたくはねぇんだよ。」

 

(見た目は只のチンピラなのに以外と紳士的?良い人?)

 

「さて、話もここら辺でやめて、、、、、、俺達も始めるとするカァーー!!!」

 

「ッ!!!」

 

先程までのあれ?良い人?的な雰囲気が急に無くなり、背筋がゾッとする様な強い殺気が冷たく全身を刺す。

 

「俺の名は、ヴィルヘルム・エーレンブルグだ。名乗りなぁ、嬢ちゃん!」

 

乱入者が名乗りを上げ拳を構える。

 

(というか、チンピラの割には立派な名前ですね。というか何故名乗りを?)

 

私が名乗り返さず、考え事をしていると、痺れを切らしたヴィルヘルムが私に説いて来る。

 

「、、、、おい。早く名乗れよ嬢ちゃん。殺した相手の名前ぐらいは覚えておきたい俺の意地と、殺された相手が俺に殺されたことを地獄で自慢できるようにって聞いてんだぁ。嬢ちゃんも誇りがあるなら名乗りな?」

 

「、、、、成る程。分かりました。なら、有り難く聴きなさい!私の名前はベアトリス・キルヒアイゼン!覚えておきなさいヴィルヘルム・エーレンブルグ!」

 

「良い名乗りだぁ!いくぜぇ!キルヒアイゼン!」

 

「来なさい!」

 

実直にただ真っ直ぐ走り出し向かって来るヴィルヘルム。

 

その走り方は両手を広げながら背を低くして抱きつく様な感じで走っている。

 

広げられた両手の指は獣の爪の様に曲げられている。

 

先程剣とぶつかった際の音から、ヴィルヘルムの肌の硬さは剣と同等かそれ以上である事が分かったているため、その指は本物の獣以上の鋭さだろう。

 

「オリャッ!」

 

ブルン!とヴィルヘルムの手が横薙ぎで振るわれる。

 

本来、武器は横に振るわれた方が命中しやすい。

 

縦から振るわれると左右に良ければ容易に躱すこともできるし、横に剣構えれば防ぐと同時に斬るという行為がしやすい、ただ横に振るより縦に振るった方が力が乗り、威力も速度も出やすい。

 

そして、横から振るわれると飛び上がり躱すか、屈んで避けるしかない。

 

一つ目の飛び上がる行為は溜めが他の行為より長く必要な上、相手の身長によっては行うことが出来ない。今回の相手、ヴィルヘルムは私より遥かに長身だ、だからこの行為は出来ない。

 

二つ目の屈むはこの身長差故に容易にできる、だが、屈んで仕舞えば体勢が崩れ、次の行動に移す事が出来ない。縦振りよりも威力も早さも遅いがヴィルヘルムには関係ない。少し威力が落ちようと、その一撃は剣を折ることができるだろう。つまり、詰んでしまう。

 

だから、此処で取る行動は第三の選択肢を取る事にする。

 

「クッ!」

 

剣を縦に構えて、剣と手がぶつかる直前に少し背後に跳ぶ。

 

ガン!と音が響くと強い衝撃が私を襲うが、その勢いを使ってヴィルヘルムと距離を取ることに成功する。

 

ヴィルヘルムの攻撃は型の基礎も存在しない、本能のまま振るわれる大振りだ。

 

先程、私が背後に下がった時、幾らか力が逃げ、ヴィルヘルムは殆ど空振りしたのと同じ、つまり、力が明後日の方向に向かい体勢が崩れた。

 

「ハァッ!」

 

着地するのと同時に前に踏み込みヴィルヘルムの懐に入る。

 

普通に斬っても腕同様に弾かれてしまうのと、面で攻撃すれば確かに致命傷になり易いが、貫通力があるのは面積の少ない針だ。

 

つまり、私が取る行動は、突き主体で狙うのは眼球!

 

神速の早さで繰り出した突きは真っ直ぐヴィルヘルムの眼球に向かう。

 

体勢の崩れた今なら正に必殺の一撃だったが、

 

「クハッ。オリャァァ!」

 

決まったと確信した私を笑うヴィルヘルムは、外した一撃の勢いを利用して回転しながら軽く跳躍し、私の突きを躱すかだけでなく蹴りを繰り出して来た。

 

一瞬で状況を逆転された私は驚く暇もなく、突きの射線を無理やり横にずらして、蹴りを刃を滑らせる様にして受け流し耐える。

 

ガガガガガガ!と剣と脚が擦れ火花が飛び散る。

 

思わず、剣を飛ばされそうになるが、此処は根性で耐える。

 

そこからは私の防戦一方になった。

 

腕による横薙ぎ、蹴り、ヴィルヘルムの攻撃は全て必殺だ。

 

まともに受けてしまうと剣ごと叩き折られてしまう。

 

全てを受け流し、隙を見つけては突きを繰り出し反撃するが余裕を持って躱されてしまい、私の精神力と体力だけがどんどん削られていく。

 

「クッ!何故、私達を襲ったんですか!?」

 

腕による横薙ぎを受け流しながらヴィルヘルムに問う私。

 

「あん?別にテメェ等に恨みがある訳でもねぇし、別にお前等が目的って訳じゃねぇよぉ!」

 

私の突きを躱し、会話に乗って来るヴィルヘルム。ただ、戦いが止まった訳ではなく、攻撃を続けながら話し始める。

 

「クッ!この!なら、なんで貴方は、もしかしてあっちの少女を助けに来たんですか!」

 

どうにか攻撃を受け止めるのに成功して、ヴィルヘルムを押し上げる。

 

「、、、、何言ってんだお前?」

 

ヴィルヘルムは距離を取り、問いに問いで答えて来る。どうやら一度戦いが中断される。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、何って、白髪に白い肌。貴方達、そっくりじゃないですか?」

 

息を今のうちに整えながら答える。

 

「、、、、ちげぇよ。お前の予想は的外れだキルヒアイゼン。俺と奴に血縁関係はねぇし、俺の親族は、唯一の家族は死んだ。」

 

声のトーンが少し下がった声で答えたヴィルヘルムに少し申し訳なくなる。

 

「!?すみません!知らぬとはいえ無粋でした!」

 

「別に気にすんな。気にしてねぇよ。というか、俺がアイツと血が同じだとかもう二度と言うな。反吐がでる。」

 

何故か、ヴィルヘルムはあの少女を毛嫌いしている様だ。

 

「さてと、それで俺の目的だっけかぁ?俺の目的はお前等じゃない奴を殺すことだ。」

 

「なら、なんで私達と戦っているんですか?関係ないじゃないですか?」

 

「いや、テメェ等はアイツを呼ぶ為の餌だったんだよ。だけど、あの女擬きに二人かがりで挑まれたらアイツが来る前にテメェ等が勝っちまう可能性があったからなぁ。暇潰しを兼ねて、戦闘を引き延ばしに来たんだよ。さて、知りたい事は知ったなぁ?なら、続きを始めようと、」

 

『信じられない。ふざけてる。認めないわなんであんなモノがこの世にいるのよおォォッ!』

 

女の叫び声が響き、戦闘が遮られる。

 

そして、

 

「ーーッガァッ」

 

中尉の呻き声が響き、ズカン!と吹き飛ばされるのが目に入る。

 

やった人物は、

 

「中尉!何故、中将猊下が中尉を?」

 

ラインハルトであった。

 

エレオノーレと殺し合っていた少女、シュライバーは

 

「あ、あ、あ、、、、あ、、、、」

 

ラインハルトを目の前にして本能的に恐怖を感じ、萎縮していた。

 

そんなシュライバーを無視してラインハルトは続ける。

 

「その眼、膿んでいるだろう。なるば要るまい。」

 

「あ!あ!あ!あ!あ!ぁぁァァッ!」

 

ズサアァァ!!!

 

ラインハルトにと勢い良く右目に指を突き込まれ、そのまま眼窩を抉るように掴まれたまま吊り上げられるシュライバー。

 

脳内麻酔の以上流出によって痛みの大半を麻痺されていたシュライバーが、激痛に絶叫するほど凄まじい暴虐であった。

 

「ふん、」

 

そんなシュライバーを無表情で見たラインハルトはゴミを捨てるように投げ捨てられた。

 

「ッギャアアッッ!」

 

天地を見失う勢いで転げ飛ぶシュライバー。

 

いかにシュライバーが軽量とはいえ、指一本成せる所業ではない。

 

制圧という桁違いの覇業。それを前にして皆、息を飲む。

 

「そんな、、、、、」

とリザが。

 

「何ですか、あれは、、、、」

と神父が。

 

「嘘よ、嘘よ、嘘よこんなのーー」

と魔女が。

 

「ふふ、ふふふふふ、、、、、」

 

いや、ただ一人笑っている影絵のような詐欺師を除いて。

 

「あ、あんなに簡単に、」

 

エレオノーレが苦戦していた相手を一瞬で蹴散らしたラインハルトに動くことができないベアトリス。そんな彼女を置き去りにして、

 

「やっと出て来やがったな!」

 

と言い残し、ラインハルトに向かって行くヴィルヘルム。

 

「ハァアァァァァァ!!!」

 

叫びながら殴り掛かるヴィルヘルム。

 

「ふむ」

 

ラインハルトはただ無表情に見つめ動かない。

 

そんな無防備な状態のラインハルトにベアトリスとの時よりも早く、鋭い一撃を放つ。

 

ゴォオォォォ!と鈍い音を放ちながら振るわれる一撃をラインハルトはただ受ける。

 

頰に直撃し、ゴン!と鈍い音を響かせて、頰から赤い雫が垂れ落ちる。

 

「ほう。この私に、傷をつけるとは見事。しかし、」

 

早く、鋭く振るわれる拳。それはヴィルヘルムの腹に向かっており、大技を放って隙だらけなヴィルヘルムには躱せない、一撃であった。

 

しかし、

 

「オォッ!?オォォォ!!!」

 

身体を限界まで捻り、筋が、筋肉が切れるのも構わず、躱そうとする。無理矢理な体制で躱そうとしているため血が鼻から、眼から、千切れた皮膚から流れ出している。

 

しかし、確かにヴィルヘルムは躱した。

 

原作において、一撃を持って粉砕された攻撃を確かに躱したのだ。

 

「見事。だが、終わりだ。」

 

そう、この必殺の一撃はラインハルトにとって普通の攻撃。連続で放つ事が可能だ。

 

ゴォォン!!!メキメキ!

 

「ガハッ!?」

 

腹に受けて、肋などの骨が砕ける音があり得ないくらい大きく響く。

 

倒れるヴィルヘルム。

 

敗北したヴィルヘルムだが、本来であればヴィルヘルムはラインハルトに傷をつける事は出来ず、一撃で屠られていた筈である。

 

それが、小さいが確かに傷をつけ、攻撃をかわしたのだ。

 

これはラインハルトにとっても、カール・クラフトにとっても未知の出来事である。

 

だが、

 

「そこの二人、彼方にいる神父と女二人をゲシュタポに連れていけ。」

 

と指示を出す。彼にとって未知であっも、気にするほどではなかったのだ。

 

これから、ラインハルトの爪牙である魔人達が産まれ、恐怖劇(グランギニョル)が始まる。

 

しかし、気づかない。これからの物語は何かが、根本的に外れ始めていることを。

 

(殺せなかったか、だが、確かに傷をつけれた。これはラインハルトを殺せるってことだよな?なら、待っていろ、俺はテメェ等をぜってえにころす!)

 

ここに一人の吸血鬼が誕生した。



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Dies irae ~ Kaziklu Bey~
魔女との対談


三日間で書き上げれたけど、長文書くたびに燃え尽きてしまう私を許して下さい!

後、何書いているのか分からなくなってきました。

だって、ぶっちゃけると、今回でクラウディア出すつもりだったのに、何故かルサルカがメインになっちゃっただもん!

次回こそ、クラウディア出したいな。


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sideヴィルヘルム

 

 

エイヴィヒカイトをあの水銀の蛇、メルクリウスに施されてしばらく経った。

 

遅れたが俺は原作知識を持ったままヴィルヘルムに転生した転生者だ。

 

聖槍十三騎士団黒円卓の全員の形成、創造の能力もばっちり覚えているし、物語がどの様に進んで行くのかも分かるが、この世界においてこれ等の知識はあまり役には立たない。

 

この世界の敵は皆、俺と同じエイヴィヒカイトを扱う魔人であり、諜報専門のシュピーネや、ベアトリスが死にヴァレリアが代わりに加えた格下、櫻井 螢ぐらいなら原作と同じ力を得られれば圧倒する事は可能だ。

 

しかし、他の奴らはそうはいかねぇ。

 

原作においてのヴィルヘルムの聖遺物は闇の賜物(クリフォト・ヴァチカル)で、ヴラド三世の血液が粉末化するまで乾燥したものである。

 

形成は、身体中から血の様な色の杭を生やし、それによる刺突や投擲。身体中から杭を生やすことによる鎧での防御。足の裏から杭を生やし、スパイク代わりにすることでの移動速度強化なのがある。

 

更に、杭を当てた相手から血や生命力などを吸い取る力もある。

 

創造は、永遠に明けない夜の世界を展開しその世界において吸血鬼になるという物。

 

その世界に取り込まれたら最後、ヴィルヘルムが出すか、倒すしか出る方法は無い牢獄と化す。

 

そして、ヴィルヘルムはその世界ではあらゆる物を知覚することができ、念じるだけで地面から、天から、あらゆる所から杭を放つ事が出来る様になる。更に、杭を当てなくても、その世界にいる自分以外の生物の生命力を強制的に奪い取る多数を相手するのを前提にした能力だ。

 

更に、ヴィルヘルム自身も人体能力、再生力を形成時よりも格段に跳ね上げ、自由に世界に溶け込み、誰にも見つかる事がなくなる隠蔽能力もある。

 

これ程の力を得る代わりに、吸血鬼の弱点である日の光、炎、十字架、銀などの明確な弱点が出来てしまうが、それでも充分強力な能力である。

 

そもそも、創造階位には覇道型と求道型の2つに分けられている。

 

覇道型は「〜であればいいのに」という外に向けられた願望が、求道型は「〜になりたい」という内に向いた願望が元になっている。

 

簡単に説明すると覇道型は願望が外に向いているため、いわゆる結界の様なものを展開し、相手を取り込むことができる。

 

1対多数の戦いにおいて真価を発揮する。

 

だが、余りに巨大な存在を取り込んでしまうと耐えられる質量を超えて世界が崩壊してしまうことがデメリットとして挙げられる。

 

原作において、ヴィルヘルムは三隊長を死森の薔薇騎士に取り込んでしまった結果、崩壊したことから分かるだろう。

 

そして、ヴィルヘルムの死森の薔薇騎士(ローゼン・カヴァリエ・シュヴァルツヴァルト)が覇道型創造の典型だろう。

 

だが、この死森の薔薇騎士は覇道型でありながら求道型の面も持っている。

 

ヴィルヘルムの願望は「夜が永遠に明けなければいいのに」という覇道型の願望と、「吸血鬼になりたい」という求道型の願望が合わさっている。

 

この願望は、アルビノとして生まれた故、太陽の光は自分の身体を焼き、蝕む毒でしか無い。だから、明けない夜で永遠に生きたいという願望と、

 

血の繋がった姉と父親の近親交配により生まれた自分の血は、許されない穢れた畜生の血だから、自分の欲しいと思った物は手に入らない。

 

なら、この身の血を全て入れ替えればこの呪いが解けるはずだ。

 

だから、吸血鬼となって他人の血を吸い、身体の血を全て入れ替えたい。という2つの願望が合わさった形だ。

 

だから、ヴィルヘルムは夜の世界を展開した中で、吸血鬼でもあれるのだ。

 

そして、求道型は願望が内側に向いているため自分自身を強化するといった形で現れる。

 

1対1のいわばサシの勝負に向いている。

 

 

他に例を挙げると、

 

例えば、主人公たるツァラトゥストラ、藤井 蓮の創造は複数あるが、一つ目の序曲(オーベルテューレ)は蓮自身の周りの時間の早さを引き延ばし、周りが遅い時間の中で動いている中、自分は普段と同じ早さで動けるという能力で、つまり俺等から見たら目にも留まらぬ早さで動けるということだ。

 

これは求道型の創造にあたる。

 

二つ目の終曲(フィナーレ)は周りを100倍時間を遅くしたら、遅くした分、自身の早さを100倍早くするという能力だ。この能力は最終的には蓮以外は全員止まって動けなくなるという恐ろしい能力だ。

 

そして、こちらが覇道型の創造にあたる。

 

主人公は求道型と覇道型の創造を相手と状況によって使い分けることができると、この文章では思うかもしれないが、そうではない。

 

基本的に主人公が使うのは1つ目の序曲であり、2つ目は全ての要因たるメルクリウスの介入が無ければ使えない為、基本的には序曲しか警戒する必要はない。

 

だけど、ぶっちゃけ無理ゲー。

 

いや、躱せないし、防げない神速の一撃をどうしろと?

 

あっ!吸血鬼になった事で上がった再生力で、一撃喰らった後に治せばいいか!?(錯乱

 

まぁ、こんな感じで、このdies iraeの世界において理不尽、チートな力がそこら中に蔓延っている。

 

そして、ラインハルトに関しては創造よりは、ラインハルト自身のスペックが恐ろしい。というか、創造だけなら原作のヴィルヘルムの創造の能力なら圧倒できる可能性もある。

 

他には、絶対当たる砲撃や、絶対回避、一撃必殺の拳などチート臭い化け物が多いこの世界。

 

原作において、ヴィルヘルムはこの世界を最後まで生き抜くルートは一つも無く、咬ませ犬、中ボス扱いであった。

 

つまり、俺は必ず死ぬ運命にあるわけだが、俺には知識がある。

 

ヴィルヘルムの渇望を知っているのだから誰よりも創造に近いと断言できる。

 

現に、誰よりも、ラインハルトよりも早く形成階位に至る事ができたし、魂も順調に集まっている。全てが順調に進んでいるかに思えたが、問題があった。

 

周りが創造階位に至って行く中、何故か、俺は、創造の兆候すら現れず、創造階位に至る事が出来ていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「死に晒せや!ゴラァー!!」

 

ゴフー!!!と空気を切り裂き俺の放った闇の賜物(クリフォト・バチカル)の血色の杭が、相手に向かって放たれる。

 

その速度は拳銃の銃弾並み、いやそれ以上だ。

 

並みの人間なら躱す事はできず、ただ命を散らすだろう。

 

しかし、

 

「ハハッ!!甘い、甘いよベイ!そんな玩具、止まって見えるよ!」

 

ブル!ブル!ブルルーー!!!と音を響かせ、相手は杭の速度を超えた速さで、駆け抜け杭を躱し、それでも最短ルートで俺に向かって来る。

 

相手は、ヴォルフガング・シュライバー。

 

俺達の運命が変わったあの夜に、ハイドリヒ卿に共にボコられたあの白髪の女男だ。

 

そして、そいつが跨るのは聖遺物である軍用バイク、暴嵐纏う破壊獣(リングヴィ・ヴァナルガンド)だ。

 

シュライバーの願望は「誰にも触れられたくない」だ。

 

だから、シュライバーは誰にも触れられない為に必ず回避できる。

 

必ず回避できる=誰よりも速く動く事ができるということだ。

 

今はまだ俺と同じ平団員だが、原作において三隊長の一角、白化(アルベド)の地位に就く事が約束されたチートの1人だ。

 

原作でヴィルヘルムは自分と似た容姿のシュライバーが気に食わなく、いつか殺そうとしており、ライバルの様な存在であった。

 

だが、実力は圧倒的にシュライバーが上であり、それは俺がヴィルヘルムに憑依していても変わらない。

 

だが!

 

「テメェと戦って、勝てば、何か見えるかもしんネェ。だから!死ねや、シュライバァァーー!!!」

 

杭を全て躱し、近づいて来るシュライバーに向けて更に杭の弾幕を張り続ける。

 

しかし、それらはまた躱され、遂にシュライバーと俺の距離はゼロとなり、

 

ドッカーン!!!

 

とバイクが俺を跳ね飛ばした。

 

グチュ!グチュグチュ!!!とバイクの車輪が俺の肉を斬り裂き、抉る。

 

跳ね飛ばした後も、止まる事はなく駆け続けるシュライバー。

 

だが、ただ轢かれた訳ではない。

 

「ガハッ!?ググっ!舐めんなヨォ、シュライバァァーー!!!ただ、ヤラレル俺じゃねェーー!!!喰らい尽くせェ!闇の、賜物!」

 

俺の言葉をキーとして俺の身体から物理的に離れた、血肉が反応する。

 

天に舞い、地面に落ち、染み込んでいる、血液と肉が杭と化し、シュライバーに向かって放たれる。

 

「!?」

 

流石のシュライバーも予想出来なかった攻撃だったのだろう。

 

今までに見た事ないぐらいに目を見開いている。

 

そりゃそうだ。自傷が前提な技なんて本来考える奴なんていないし、自分から離れた血肉を杭に変えることなんて原作のヴィルヘルムでもやっていなかったことだ。

 

自分の力に絶対の自信を持つヴィルヘルムが自分が傷ついた時の対策なんて考える訳がない。

 

弱い、いつ死ぬかわからないと思っている俺だからこそ考えた技だ。

 

だから、これでシュライバーに勝てる筈。

 

そんな時、聴こえてきた。

 

「創造ー死世界・凶獣変生(ニブルヘイム・フェンリスボルグ)」

 

俺が至ることができていない、エヴィヒカイトにおける必殺技と言える創造階位。

 

というか、

 

「シュライバァァーー!!!?テメェ!?詠唱抜き創造とか、理不尽にも程が!?がっ!?」

 

決死の新技を容易く躱され、その圧倒的な速さを持ってして、シュライバーに俺は跳ね飛ばされ、地面にめりこむぐらい強く叩きつけられ、意識が遠のいて来た。

 

最後に聞いたのは、

 

「あぁ!触れてしまった!汚い!穢らわしい!速く、速く!洗わないと!」

 

シュライバーが玩具を取り上げられた幼子の様な泣きそうな顔で走り去る姿だった。

 

というか、

 

「、、、ひとを、汚ねぇごみ、みたいに言いやがって、、、糞、しゅらいばぁー、、。」

 

そこで、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ユサユサユサ。

 

、、、、、、、、、、

 

ユサユサユサユサユサユサ。

 

、、、、、、、ん、なんだ?頭がなんかむず痒い。

 

ユサユサユサユサユサユサユサユサユサ。

 

俺は確か、シュライバーの野郎と模擬戦(死ぬ可能性大)を行い、ボロ負けして倒れた筈だが、頭に虫でも這ってるのか?

 

いや、虫が這ったという感じではない。

 

これはどこか優しいく、懐かしい感じがして気持ちがいい。

 

そう、これは。

 

 

幼い頃、ヘルガに膝枕をしてもらいながら頭を撫でてもらった時みた「速く起きないと、わ、た、し、が、食べちゃうわよ?」い!?

 

甘ったるい、少女の声が頭の上から聞こえ、その内容の物騒さから覚醒しかけていた意識が完全に覚醒し、俺は跳ね起きて膝枕に頭を撫でていた人物に叫ぶ。

 

「ま、マレウス!テメェ、何してやがる!?」

 

俺の目線の先には、桃色の長髪に翡翠の様な瞳の中学生ぐらいの少女が地面に座っていた。

 

「あら、何とは失礼ねベイ。」

 

その少女は俺の態度が不満だったらしく顔をプーと顰めながら、膝をパッパッとほろいながら立ち上がった。

 

彼女はルサルカ・シュヴェーゲリン。

 

この幼い少女の見た目からは信じ辛いが、彼女も俺と同じ聖槍十三騎士団黒円卓の団員である。

 

魔号が魔女の鉄槌(マレウス・マレフィカルム)、俺がマレウスと呼んでいるのはここからとってのことだ。

 

という、ほとんどの団員が本名で呼び合うのでは無く、魔号で呼び合っているので、別に深い意味はない。

 

決して、女性の名前を呼ぶのが恥ずかしい訳では無いからな!?本当だぞ!?

 

聖遺物は血の伯爵夫人(エリザベート・バートリー)だ。

 

その名の通り、エリザベート・バートリーに由来する物であり、その正体はエリザベート・バートリーが生前、民達を拷問した内容を綴った日記だ。

 

本でどう戦うんだ?と疑問があるかもしれないが、あまり関係が無い。

 

この日記は、エリザベート・バートリーが使用した拷問器具を召喚する触媒であり、アイアンメイデンや針、毒液といった物を多数出せるのだ。

 

簡単に言うと、ゲート・オブ・バビロンの中身が拷問器具限定と考えればいい。

 

さて、こんか物騒な聖遺物を扱うルサルカだが、彼女がまともである訳ではない。

 

彼女の歳は200歳を超えており、聖槍十三騎士団黒円卓の中ではメルクリウスに次いで、長生きしている。

 

彼女はエイヴィヒカイトを得る前から異能を持っている本物の魔女であり、趣味は聖遺物の影響かは分からないが、拷問である。

 

 

「マレウス、悪いが俺達は仲間とは名ばかりだろ?なら、悔しいが自分より強いと分かっている奴が、無防備にも寝ている俺の側で膝枕に頭を撫でるといった意味不明な行動をとっているんだ、警戒しないのも無理はねぇとさ思わねぇか?」

 

「んー?そうね。私も貴方と同じ立場で同じことをされたら警戒すると思うわ。少し迂闊だったことは謝るわベイ。でもね、」

 

そこで一間、開けてから続きを話すルサルカ。

 

「シュライバーにボロボロにされた貴方の身体を癒し、硬い地面に寝かせておくのは忍びないと思って膝を貸して、更に頭を撫でてあげた、言わば貴方は私に恩があるのよベイ。それなのに、そんな対応、ちょっと傷つくわぁ。」

 

わざとらしく肩を落とし、私悲しいですアピールをしているルサルカ。

 

そんなルサルカを無視することは容易い。現に本来のヴィルヘルムであればそうしたであろうが、このまま行くのは俺のプライドが許さない。

 

「すまなかった。マレウス、テメェが俺の傷を癒してくれたとは分からなかった。改めて礼を言う。ありがとう。そして、膝枕ありがとうな。何というか、忘れていたとても懐かしいことを思い出せた。本当にありがとうルサルカ。」

 

心の底から思っている言葉をルサルカに向けて話だが、なんだかルサルカの様子が変だ。

 

なんだか、顔を赤くして、アワアワと落ち着かない様子で慌てている。

 

「な、なんなのよ!?あいつ、チンピラの癖に、そんな丁寧に礼を言うなんて予想できる訳ないでしょ!?それにベイって結構顔が整っているから純粋に笑うとカッコいい。って名前で今呼んだわよね!?なんで名前呼ばれたぐらいでこんな気持ちに、」

 

「マレウス?マレウス!?聞こえてねぇのか?おい、ルサルカ!」

 

「ふぇ!?な、何よ、ベイ!?」

 

「いや、お前が謝って欲しそうだから謝ったんだが、そして膝枕の礼を言ったんだろうが?満足したか?」

 

知らない内に笑っていたらしい。前に子供の前で笑ったらあまりの怖さに大泣きしたんだよな?怖くなかったよな?

 

「え、えぇ。ちゃんと言ってくれたからもうこの件はいいわ!はい!これでこの話終わり!いいわね!?じゃあね、ベイ!」

 

急いでルサルカがこの場を離れようとするが、俺はまだルサルカに用がある。

 

「いや、待てよ。」

 

ルサルカの腕を掴み、痛めないような強さで引き止める。

 

「ふぁ!?」

 

「いや、お前。男を知らない生娘でもあるまいし、何初々しい反応してんだよ?可愛いじゃねぇか。なんだ?俺を誘ってるのか?」

 

「ち、違うわよ!」

 

「なら、少し落ち着けよ。なぁ、マレウス。いや、ルサルカ。少し相談があるんだ、聞いてくれないか?」

 

これから真面目な話をする為、声のトーンを少し下げ緊張感のある雰囲気を出す。

 

「、、、、どうやら真面目な話見たいね。いいわ、お姉さんに言ってみみなさい。聞いてあげる。」

 

「ありがとうな。相談というのは、創造への至り方なんだ。ルサルカ、お前はどうやって創造に至った?」

 

「あぁ、なるほど。貴方は1番早く形成に至ったのに創造の変調すら現れないから焦っているのね。いいわ、教えてあげる。」

 

俺の質問に納得したと言わんばかりに頷くルサルカは真面目に話し始めた。

 

「創造階位への至り方は簡単よ。心から願っている渇望に気付くこと、これだけよ。あとは創造階位発動に必要な魂の量があればいいんだけど、貴方は十分な量を内包してるわ。後は自分の渇望に気付くだけ。」

 

「んなことは分かってるんだよ。他になんか条件がねぇか知りてぇから聞いてんだよ。」

 

「いや、それ以外は知らないわよ。エイヴィヒカイトはメルクリウスの専門でしょ?私でも詳しくは分からないわ。」

 

「、、、、そうか、ありがとうな。そういえば、ルサルカお前の渇望って。」

 

「あら、ベイはお姉さんのことを知りたいの?いいわよ、今日は特別に教えてあ、げ、る。」

 

「私はね、ベイ。みんなに比べてとても脚が遅いのよ。だから、みんな私を置いて先に行っちゃう。どんなに急いだって追いつけない。むしろ、どんどん差は開いて行くの、だから、私はいつも1人。そんな私の渇望は、「追い付けないなら先を行く者の足を引っ張りたい」。それが私の願望よ。ベイ参考になった?」

 

「あぁ、お前は置いて行かれたくないから、皆んなの動きを止めたい、だから、お前の創造は触れた者の動きを止める影になった訳か?」

 

しかし、俺は知っている。ルサルカの渇望は根本は同じだが、歪んでしまっていることを。

 

本来のルサルカの渇望は「愛する者は自分を置いて先に行ってしまう、だから追い付けないなら止めてやろう」という、なんとも純粋で美しい渇望であったことを。

 

「えぇ、そういう訳。で、ベイは自分の渇望に心当たりはあるの?」

 

ルサルカの質問に自信を持って答え始める俺。

 

「なぁ、ルサルカ。俺のこの見た目、どう思う?」

 

「ん?なぁに?自分がイケメンだろ?って自慢したいのベイ?」

 

「違ェヨ!?なんで、そんなことしないといけないんだよ!?俺が言いたいのは、この白髪に白い肌、紅い眼。そして、太陽の陽に弱い体質、この普通の人間とは違う呪われた様なこの見た目についてだよ。」

 

「確かに人とは違うけど、陽に焼けてない白くすべすべな肌に、サラサラで枝毛の無い髪、女性にとって苦労して維持しているものを何もしないで手にしている貴方が呪われてる?正直羨ましいんだけど?」

 

「チッ!お前がどう思っていようと関係ねぇよ!少し黙れ!それで、この俺の容姿は姉貴から遺伝したものだ。」

 

「?お姉さんから遺伝した?そこはお父さんか、お母さんからじゃ無いの?ボケるには早いわよベイ。」

 

「んだとコラッ!?別にボケた訳じゃねぇよこのアマァ!?文字通り、俺は姉貴の腹から産まれたんだよ。もう面倒くせぇからぶっちゃけるけどなぁ、俺はクソ親父と姉貴の近親行為で産まれた畜生なんだよ。」

 

「、、、へぇ、だから貴方は自分の血が穢らわしい、忌むべき物だと思ってるわけね?なら、貴方の渇望って、」

 

この血が、穢ら、わしい?

 

いや、何疑問に思う必要がある。ヴィルヘルムはそう思っていたはずだ。

 

俺だって、ヘルガを犯したクソ親父が憎たらしい。魂さえ残さず消し去りたいと思っているぐらいだ。

 

あんな奴の血を引いていると思うだけで反吐がでる。

 

あぁ、だからこんな血。大嫌い、大嫌いなはずだ!

 

「おう、この忌々しい血を一滴残らず入れ替えることだ。これにより俺は大切なものを失い続ける呪いから解放される。これが俺の渇望って訳だ。」

 

そう、これがヴィルヘルムの渇望であり、創造に至るための鍵だ。

 

「渇望が分かっているなら、さっきも言った通りベイならいつ目覚めてもおかしく無いはず。どうして、変調すら現れていないの?不思議ね?」

 

「チッ。魔術に理解が深く、創造に至ってるお前なら何か分かると思って聞いたがあまり意味はなかったか。すまない時間を取らせた。いつか礼をする。」

 

そうルサルカに言い、この場から離れようと歩き出す俺。

 

「あら、もういいの?なら、お礼期待してるわね?」

 

と、悪巧みしている様な顔で言ってくる。

 

なんでだろうか?この顔を見ていると寒気がしてくる。

 

(いったい、何を礼に要求するつもりだ?今のうちに、貯金を崩しておく必要があるか?)

 

案外、堅実な性分であるヴィルヘルムである。

 

「あぁ、そういえば、」

 

言い残した事があると思い、足を止める俺。頭だけを動かし、目線をルサルカに向ける。

 

「何?まだ何かあるのベイ?これ以上は全部有料よ。」

 

「いや、なぁルサルカ。お前、誰かに置いてかれるのが怖いんだろう?悲しいんだろ?寂しいんだよな?なら、」

 

 

 

「俺がテメェが嫌って言うまで側に居てやるって言ったら、お前はどうするんだ?」

 

「、、、ふぇ!?」

 

「つうか、居てやる。お前が本当に一緒にいたいと思える奴と出会えるまで、ずっとな?だからさ、、、」

 

 

 

「お前は、俺を置いて先に行くんじゃねぇぞ?もう失うのも、独りなのも真っ平御免だ。」

 

「ベイ、、」

 

 

「なんてな。冗談だよ。」

 

「はっ!?」

 

お、ルサルカの間抜け面は珍しいな。揶揄った甲斐があるな。

 

「クック!クハァ!ハッハァハハハハハーー!!!お前、本当に揶揄い甲斐があるなおい!ハッハァハハハハハ!!!」

 

「!!もう!何なのよっ!?」

 

「ハッハァハハハハハハッハァ、ハァッ、ハッハァ、ハハハハハ!! 」

 

俺は笑いながらその場を後にした。



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聖女との邂逅

今回は少し短めです。

それと作者はヴィルヘルム主人公のゲーム未プレイです。

僅かな情報を頼りに書いているため、クラウディアが吸血鬼化していないため、原作改竄が起きています。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

sideヴィルヘルム

 

「聖書はお読みになりませんか?私達は共にノアの子なのですよ?」

 

白い絹の様な髪と肌、トパーズの様な黄色い瞳。

 

シスター服を着た美少女。

 

見るからに只のモブキャラとは違う感じのこの女に、俺はこんな問いを掛けられていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ルサルカと別れた後、街中を歩いているとゴミ共(チンピラ)がこの女に付き纏っているのが異様に目立っていた。

 

容姿からして女は俺やヘルガと同じアルビノだと分かると、何故か、全然似ていないのに、ヘルガより肉付きは膨よかで、髪も長いのに、何故か、アイツの顔がヘルガと重なった。

 

このままだとあの女は子供に見せられないR18的な事に合うと容易に想像できる。

 

なんでだろうか?

 

そう思った瞬間、考える間も無く身体が勝手に動いて、ゴミ共をぶっ飛ばして、女を助けていた。

 

訳がわからない。落ち着いて一度考えてみようと思い、その場から離れようとすると、

 

「助けてくれたんですよね?ありがとうございます。」

 

なんで疑問系?いや、第三者ならともかく、お前は当事者、しかも被害者だろうが?

 

「、、、、、別に、テメェを助けた訳じゃねぇ。コイツらを見ていたら俺がムカついたから勝手にやっただけだ。礼はいらねぇ。」

 

「、、、、、?」

 

いや、なんで首傾げて不思議そうな顔してんだこの女!?まさか、天然か!?なんで俺の周りには普通の女は寄ってこねぇんだよ!?

 

「じゃあな、女。俺は行くけどよ、もう絡まれんなよ?」

 

背を向けて歩き出そうとする俺に向けて女は問いを掛けてきた。

 

「聖書はお読みになりませんか?私達は共にノアの子なのですよ?」

 

(冒頭に戻る。)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「何言ってやがる女。この見た目で神を信仰していると思うのかよ?思うならお前、人見る目ないぜ?てか、ノアの子?そこは普通、神の子か、キリストの子とかじゃねぇのか?」

 

「私も神を信仰している様には流石に見えません。でも、優しい人とはわかります。あと、今生きる人全ては、ノアの大洪水を逃れたノアの子供ですから。」

 

「へぇ〜、そんな教えがあんのかよ。初めて知ったぜ。でもやっぱ、お前人見る目ねぇよ。優しい人が今のご時世に軍人になんてならねぇよ。軍人は人を殺して飯を食う屑共だ。それは俺もかわらねぇ。」

 

「アナタがそう言い張るとしても、私はアナタを優しい人だと思います。私はクラウディア・イェルザレム。助けていただきありがとうございます。アナタは?」

 

「女、お前面白れぇな。いいぜクラウディア。教えてやる。」

 

 

「ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイ中尉だ。覚えておきやがれ。」

 

これが俺と、クラウディア、純白の聖女との出会い出会った。

 

今思うと、この先クラウディアとあんなに長い付き合いになるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

「ヴィルヘルム、、、、立派な名前ですね。名付けた人はとてもセンスがいいですね!」

 

コイツ、なんでコミュ力糞高いんだ?

 

自分で言うのも何だが、チンピラ同然の俺を前にしてここまで明るい反応をされたのは初めてだから少し困惑だ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そこから、俺とクラウディアは親しい関係にどんどんなっていた。

 

クラウディアが助けたお礼に料理を振舞ってくれると言うので、エビィヒカイトのお陰で、特に食べる必要もないのだが、折角だからと思いご相伴にあずかる。

 

買い物をするというので荷物持ちとしてついて行ったら、

 

「じゃがいも!じゃがいも!じゃがいも!さらに、じゃがいも!」

 

クラウディアが鼻歌を歌いながら持ってきた、エコバックにではなく、バスケットにドンドン入れていく、いや積み上げていく。

 

「おい、クラウディア。」

 

「〜♪何ですかヴィルヘルム?」

 

俺と話しながらもじゃがいもをバスケットに積み上げる手を止めないクラウディア。

 

「お前、何でじゃがいもばかり、買おうとしてんだよ?」

 

ほら、露店のおじさんも驚いた表情を、、、してないだと!?

 

「クラウディアちゃん。いつもじゃがいも買って行ってくれてありがとうね。」

 

「あら、おじさま。こちらこそ、いつも美味しいじゃがいもを頂いてありがとうこざいます!」

 

「はは、そうだこれ持って行ってよ!」

 

そう言って露店の裏からバスケットを持って来る店主。

 

その中身は、、、、、、、

 

「また、じゃがいも、だと!?」

 

「ありがとうございます!では私達はこれで!」

 

店主にバスケットと交換する形で、おまけ以外のじゃがいもの代金を支払い次の店に向かい始めるクラウディア。

 

勿論、バスケット2つ分のじゃがいもは俺が肩に担いだり、して運ぶ。

 

次の瞬間、誰かから軍服の襟を後ろから掴まれ、店の裏に引っ張り込まれた。

 

そして、ドン!と壁ドンをされた。

 

行った人物は、先程穏やかな笑みを浮かべてクラウディアと会話していた店主であった。

 

「テメェ、何のつもりだ?」

 

「、、、あの子を、」

 

「んあ?」

 

「クラウディアちゃんを酷い目に合わせてみろよ?貴様を、」

 

「貴様を!表歩けない身体にしてやるからなぁ!大事にしやがれよ!?」

 

と先程とは180度違う反応に、面を食らってしまう。

 

この後、直ぐに解放されたが、元々何かする気は無いが、クラウディアが死んだら真っ先に俺が疑われて、あの親父に殺される気がした。

 

この後、行った店の先々で似た様なことをされ続けた。

 

クラウディアは老人達に愛されるタイプらしい。

 

 

 

結局、クラウディアは買い物でじゃがいも以上の大きな買い物はせず、料理はじゃがいも料理ばかりであった。

 

 

 

 

まぁ、じゃがいものポタージュは美味かったからいいけどよ。

 

ポタージュってドイツにあったけか?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

また、ある時はクラウディアが急に倒れた。

 

急いで彼女を抱えて、彼女の家に向かいベットに寝かせた。

 

失礼ながら、服のままベットに入るのはどうかと思い、服を脱がせたが、そこには白い肌では無く、

 

 

 

全身のあちこちに巻かれた包帯があらわれた。

 

何か怪我をしているのか?

 

俺が助けた時はコイツに怪我をした様子はなかった筈、ならどうして?

 

試しに二の腕の包帯を解いてみると、そこには焼き爛れて赤くなった火傷のような怪我があった。

 

「何だこれ、どういうことだよ!?」

 

と声をあげた瞬間、ふと思い至った。

 

アルビノは本来、陽の光に弱い。

 

陽を浴び続けると、人よりも酷い日焼けの症状を起こし、薄い長袖の服を着ている程度では、そうクラウディアが来ているような修道服程度で日焼けを防ぐことはできない。

 

俺もエヴィヒカイトを施される前は日中に出歩くと身体が焼き爛れてしまうため、夜中以外は外に出なかったぐらいだ。

 

なら、クラウディアは、日中普通の人と同じように過ごし続けたコイツの身体は!?

 

「見てしまったんですね?ヴィルヘルム。」

 

「!?クラウディア!テメェ、起きたのか!?」

 

「はい。ヴィルヘルムが急いで運んでくれたお陰でもう大丈夫ッ!」

 

「テメェ!無理して立ち上がんな!寝てやがれ!」

 

ベットから立ち上がろうとするクラウディアだが、痛みに顔をしかめてしまう。

 

「クラウディア、お前の身体。」

 

「ヴィルヘルムが考えている通りですよ。私は太陽に嫌われている呪いにかかっているんです。お医者さんに診てもらったこともありましたけどもうどうにもならないらしいです。」

 

「なら、何で日中外に出たんだお前は!?馬鹿じゃないのか!?」

 

「だって、」

 

「だって?」

 

 

 

「みんなみたいに外で元気に走り回りたかったんですもん!」

 

「子供かテメェは!?」

 

顔をプク〜と膨らませながら顔を赤くして恥ずかしそうに言う。

 

「お前は分かってんのか!?このままだとお前、死んじまうんだぞ!?」

 

「分かってます。」

 

「なら、何でだよ?訳わかんねぇよ!何考えてんだよお前は!?」

 

 

 

「私は、アナタが多分好きだから、アナタと一緒に過ごすのが楽しいから、陽の光にこの身を焼かれても外に出るのです。」

 

「何、言ってんだよ。お前が俺を好きになる理由なんて、ないだろうが?」

 

「そうでもないですよ?アナタは分からないと思いますけど、」

 

クラウディアはクスッとイタズラが成功した子供みたいな笑みを浮かべながら話し続ける。

 

「ヴィルヘルム、アナタは私にとって光なんですよ。アナタは私と同じ呪われた存在なのに、アナタは堂々と光の世界を歩いている。」

 

俺はコイツと同じアルビノだ。それは間違いねぇ。だが、

 

「私はアナタと違って、昼の世界を生きられない半分だけの人間。でもアナタと共にいれば、いつかアナタみたいに、なれるかもしれない。だから、」

 

もはや生きている世界が違う。俺はエヴィヒカイトによって聖遺物以外から傷は負わない。

 

だから、アルビノであろうと関係なく日中歩ける。

 

「テメェのそれは決して恋じゃねぇよ。憧れや羨ましいといった感情だ。それに俺もお前と同じ半分の人間だ。お前の求める物を与えられねぇ。それに、俺は恋なんてしらねぇから確実とは言わねぇが、やっぱり違う。」

 

「そう、かもしれません。でも、私はアナタと共にいて楽しいのは本当です。ずっと一緒にいたいと思っています。これは恋なのだと、私は思います。それに一人一人は半分ずつで足りない存在だとしても、私達二人揃えば、半分+半分で補える。だから、」

 

「アナタは私に光を教え、私はアナタに恋を教える。」

 

「お互いに足りない所を与え合うことで昇華できる筈でしょう?」

 

コイツは何言ってやがんだよ。

 

「お前の言い方じゃ、俺がお前を好きみたいじゃねぇかよ?俺は別にお前なんか、、、」

 

「なら、私はアナタに好きになって貰えるために頑張りますね。覚悟して下さいねヴィルヘルム。」

 

「覚悟って、何のだよ。もう、お前寝てろ。今日の所は帰るけどよ、明日の朝また来るから大人しくしてやがれよ。じゃあな。」

 

そう言ってクラウディアの家から出て行く俺。

 

扉のすぐ側で立ち止まり考える。

 

ルサルカ、メルクリウスならクラウディアを治せる筈だ。

 

だが、コイツらにクラウディアを診せたら碌な目には合わない。

 

だが、他にクラウディアを治す方法ない。

 

医者も匙を投げるぐらいだ、もうオカルトにでも頼るしか無い。

 

「はぁ、どうすりゃいいんだ。」

 

どうでもいい存在であった、他人のクラウディアをいつからだろうか?

 

一緒にいないと寂しくて、愛しくて、胸がズキズキと痛い。

 

逆に一緒にいると、痛みは収まるだけではなく、ポカポカと暖かくて気持ちが良くなる。

 

こんなの知らない。分からない。

 

ふと、見上げた夜空には憎たらしいほど綺麗な満月か光り輝いていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

後日、俺はラインハルト卿を通して、メルクリウスからの指令の為にカチンの森に向かうことになった。

 

何故か、クラウディアも一緒に。

 

マジで日中の任務だから来て欲しくはなかったのだが、付いて来るって聞かなかったから、仕方が無く連れて来たわけだが、

 

メルクリウスの名前が出るだけでかなり怪しい。

 

絶対何か起こる、創造に至っていない俺がどこまでできるかは分からないが、クラウディアだけは死んでも、守ってみせる。と決意している横でコイツは、

 

「ヴィルヘルム、アナタはもし何でも願いが叶うとしたら何か願いたいことはありますか?」

 

「急になんだよ?」

 

クラウディアと話しながらも、メルクリウスが欲しがっている聖遺物を探す。

 

渡された地図通りだとここら辺の樹の根元に埋めてあるらしい。

 

つか、なんで埋めてってわかんだよアイツ。もしかして、自分で埋めた物を取りに来るのがめんどくさくてって訳じゃねぇよな?

 

あれ?ありえるくね?

 

「いえ、人は誰にでも将来の夢や、叶えたいことがありますから。ヴィルヘルムはどうなのかなと思いまして。」

 

聴きながら掘っていると、木の箱が掘り出されて来た。

 

開けてみると、1つの十字架と紙が1枚。

 

手紙には、

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

十字架は、貴様の彼女へくれてやると良い。どうせ、貴公の事だ。彼女にプレゼントの1つも渡していないのであろう?

 

その十字架は、私が作った訳ではなくある聖人が持っていた由緒正しいものだ。

 

彼女に神の加護があらん事を。

 

メルクリウス

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「余計なお世話だ!この野郎!」

 

と叫びながら手紙を滅茶苦茶に破き捨てる俺。

 

「急にどうしたのですか!?」

 

俺が急に叫んだ事で驚いたクラウディアはそう聞いてきた。

 

「な、なんでもねぇよ!」

 

「そうですか?あれ?その十字架どうかしたんですか?」

 

「あん?あぁ、これか?これを探しにきた筈なんだが、急に必要無くなっちまってよ。どうすっかなぁ〜。」

 

魔力は特に感じないし、聖遺物の可能性は低い。

 

しかし、メルクリウスが用意した物をクラウディアに渡して何かあったら困るという事で1つ細工しておくとする。

 

十字架の中央に付いている緑色の小さい宝石を壊して外し、闇の賜物を発動して、小さな杭を削って丸くして、代わりに嵌めておく。

 

これで一部だが、俺の力がクラウディアから離れることはない。

 

 

「要らないなら私にください。えい!」

 

「お!?おい!」

 

クラウディアが十字架を奪って首に付け始めた。

 

まぁ、いいか。メルクリウスがマルグリット以外に興味を持つ訳ないし、大丈夫だろう。

 

「クラウディア」

 

「なんですか?ヴィルヘルム。」

 

「さっきの質問。お前は叶えたい夢とかあんのかよ?」

 

「私ですか?ありますよ。私の場合、見てみたいものがあるんですよ。」

 

「へぇ、なんだよ。」

 

「この世界には白一色のほっきょく?と呼ばれる場所があるのですよ。私はそこに行ってみたい。それが願いです。」

 

「さぁ、私が言ったんですからヴィルヘルムの夢も教えて下さい。」

 

「そうだなぁ。俺のは夢じゃねぇな?これは願いだ。」

 

 

「俺は永遠に明けない夜の世界になって欲しい。そうすりゃ、俺やお前みたいな奴でもずっと生きていけるからなぁ。みんなで永遠に、優しい夜の闇に包まれていたい。俺はそう思う。」

 

 

「ヴィルヘルム、、、、、」

 

なんか、気まずい雰囲気になった。

 

「クラウディア、もう暗くなる。森で野宿は御免だ。早く戻るぞ。」

 

「あ、はい!」

 

俺達が帰ろうと身を翻して歩き始めると背後から、

 

「永遠に明けない夜を望んでいるのか。浅い男だ。」

 

と言う声が聞こえてきて、莫大な存在感を感じた。

 

振り向くとそこには青白い肌の男が立っていた。

 

 

 

 

 

 



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出撃!聖槍十三騎士団黒円卓!

無理して文字数増やさなくていいですか?(泣き言


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

sideヴィルヘルム

 

「永遠に明けない夜を望んでいるのか。浅い男だ。」

 

誰だ、コイツは?急に背後に現れやがった。

 

さっきまで男のいる所には誰もいないのは間違いなかった。

 

なら、影が薄い奴なんだな、って笑い話にする所なんだが、このピリつく氷の様に冷たく肌を突き刺す巨大な存在感を見逃す訳がない。

 

なら、考えられることはただ一つ。

 

急にその場に現れたということだ。

 

「クラウディア下がってろ。、、、、テメェは何者だ?」

 

クラウディアを後ろに下がる様に言いながら前に出て、彼女を庇う位置に立つ。

 

「、、、、、、、、、、」

 

「何か言ったらどうだ?さっきは人の願望を盗み聞きしておきながら浅いとか何とか馬鹿にしてくれやがって、殺すぞ?」

 

「、、、、、、、、、、」

 

殺気を放ちながら殺す宣言をするがそれでも無言を貫く男。

 

「ハッ。なんだよ。ただの根暗野郎かよ。人を馬鹿にする前に自分の対話能力を磨いてから出直すんだなぁ。」

 

身を翻し帰ろうとすると、遂に男が口を開いた。

 

「き、、、ち、う。」

 

「あぁん?」

 

小さい声で呟くように放たれた言葉は聞き取れなかった。

 

言いたいことがあんならデカイ声で話せと怒鳴ろうとしたら、その必要は無くなった。

 

男が聞こえる大きさの声で同じ内容をもう一度繰り返して放たれた。

 

「貴様は違う。」

 

ハッ?意味不明な言葉の所為で頭が真っ白になった。

 

聞き返そうとしようとしたが、突然男の姿がその場から消えた。

 

何処に行ったは直ぐに分かった。

 

これ程までの強く、大きな魔力と存在感を持つ者を一度認識したのだ、嫌でも感じ取れる。

 

その存在感の圧力の発信点は俺の直ぐ真横。

 

首を回して見渡すよりも早く、目だけが反応して、横目でそいつの姿を見ることができた。

 

「故に邪魔だ。道を開けよ。」

 

男が無造作に振るった腕は、鞭のように早く俺の腹に叩き込まれた。

 

「ガッ!?」

 

ドンッ!?と皮膚と皮膚がぶつかり合ったかとは思えない鈍い音を響かせ、次の瞬間には俺の脚は地面から離れ背後の樹の幹に身体を叩きつけられていた。

 

身体が、予想していた以上のダメージに悲鳴を上げ、上手く動かすことができない。

 

そんな俺を、もう興味を無くしたのか、無視して男はクラウディアの元にゆっくり歩いて近づいている。

 

「我が名は、ルートヴィヒ・ヴァン・ローゼンクランツ。愛しい我が白銀の天使よ。」

 

「あ、あぁ。」

 

クラウディアは近づいて来るルートヴィヒから逃げようともしない。

 

俺が容易く無力化された事から逃げても無駄だと諦めているのか、それとも違う理由なのかは分からないが、今のクラウディアに抗う事は不可能であろう。

 

力を身体に巡らせようとすると、身体の彼方此方からズキッと鋭い痛みが走る。

 

まるで刃物のような鋭いもので斬られた時のような痛みだ。

 

 

 

 

エイヴィヒカイトは人を魔人に変化させ、人外の力を得ることができるが、格上には絶対に勝てないと思わせる程、力に差が出るものだ。

 

そして、詳しくは分からないがルートヴィヒをエイヴィヒカイトの位階は恐らく創造だ。それも上位の大隊長クラス、いやもしかしたらラインハルトクラスに届くほどかもしれない。

 

そう考えているうちにルートヴィヒはクラウディアの前に辿り着き、膝ま付いて、話を続ける。

 

「クラウディア、君は私の光だ。故に共に生きて欲しい。君を死なせたくは無いのだよ。だから、私の手を取ってくれ。君を私と同じ存在と化し、君が見たがっていた光景を見に行こう。そこで私と永遠に、世界が終わるまで、生きて、生きて、生き続けよう。さぁ。」

 

「、、、、、、、、」

 

コイツ、なんだ?

 

クラウディアに惚れたからずっと一緒にいて欲しい。って感じてプロポーズしてやがんのか?

 

身勝手な想いをクラウディアに押し付けるルートヴィヒに対して虫唾が走る様な不快感を、怒りを抱いた。

 

コイツはクラウディアを好きだと、大切にすると言っているのに、クラウディア自身の気持ちを聞こうともせず、自分の考えが正しい、最善だと押し付けている。

 

クラウディアの考えなど考慮していない、自分勝手だ。

 

だから、こんな奴にクラウディアを渡すわけにはいかない。

 

身体中に力を巡らせる。

 

痛みが全身に鋭く走るが、まだ動く。つうか、動かなくても動け。

 

「どうした?クラウディア、私の手を取れ、取るのだ。」

 

ルートヴィヒの手がクラウディアに近づいていき、触れる瞬間。

 

「 形成、ーー闇の賜物!

(クリフォト・バチカル!)」

 

俺の言葉に反応して、心臓に宿る聖遺物がドクン!と鼓動を上げ、身体中の血が流れ出している傷から、血の色の杭が全身に生える。

 

そして、右腕から生えている杭の一本を、クラウディアに触れようとしているルートヴィヒの汚ねぇ腕に向かって、銃弾のごとく放った。

 

ライフル弾には及ばないが、リボルバー程度の速さと貫通力を持ったこの杭を奴は絶対に躱す事はない。いや、躱せないと言った方が正しい。

 

俺はこの杭の投擲を拳銃以上の精度で放つ事ができるため、クラウディアに当たることは絶対にない。

 

だが、ルートヴィヒは俺を知らない。むしろ、自分の邪魔をする物が放った攻撃だ。クラウディアを大切にしているなら絶対に防ぐ筈、俺ならそうする。

 

「フッ、」

 

ルートヴィヒは腕を軽く振るい、杭をバキリ!と砕いた。

 

だが、それは予定通りだ。これで一瞬、ルートヴィヒの動きに間が空く。

 

その間を使ってクラウディアとルートヴィヒの間に入り、クラウディアを抱え背後に飛び退く。

 

「ヴ、ヴィルヘルム?」

 

クラウディアが何故?と言わんばかりの表情で名前を呼んでくる。

 

もしかして、コイツは俺があの一撃で死んだとでも思ったのか?

 

「ハッ!この俺があんなへなちょこの一撃で死ぬ訳ねぇだろうがよ、馬鹿野郎。下がってろ。今、あの気持ち悪りぃ奴ぶっ潰してくるからよぉ!」

 

クラウディアを降ろして、再びルートヴィヒと対峙する。

 

今度は油断はしない。これでも創造階位の奴らと同等の魂を喰らった魔人だ、隙を着けば十分にやれるはずだ。

 

両腕の掌から杭を生やし、二刀流の構えを取る。

 

こちらから、動くような事はしない。格上相手に先読み負けをしたらそこで待つのは死のみだ。

 

だから、自ら動きはしない。ルートヴィヒの動きを観察し、次の手を予想して次の手を打つのだ。

 

「、、、我が愛しの天使を迎え入れる前に、鬱陶しい蝿を潰すとしよう。」

 

「誰が蝿だ。俺には恥ずかしくねぇ名がある。

ヴィルヘルム・エーレ」

 

俺が名乗りを上げ終わる前に奴の姿が消えた。

 

直ぐに右に向き、杭を交差させて防御体制をとった。

 

ギリギリのところで間に合ったようで直ぐに強い衝撃がドォン!杭から伝わってくる。

 

ズルズル!とブーツと地面が擦れる音を出しながら背後に下がる。

 

交差した杭は先程とは違い運良く持ち堪えてくれたようでギチギチ!と突然現れたルートヴィヒの拳と拮抗している。

 

「ほう、反応したか。先程とは違うようだ。」

 

「当たり前だ。さっきは少し油断してただけだ。それにテメェ、名乗りの途中で遮りやがって、戦いの作法もしらねぇのか?」

 

「作法?そんなものに興味などない。ただ、蝿が野良犬だったというだけで貴様は取るに足らない存在だ。興味もない。」

 

「俺もテメェになんて興味なんて持たれたくはねぇよ。ただ、よかったぜ。テメェは強いが、俺でも殺せそうだ。」

 

「、、、なに?」

 

急にルートヴィヒの力が上がり、杭がバリン!バリン!とガラスが砕けた様に壊された。

 

俺は杭が壊された勢いで後退し、再び杭を生み出す。

 

「分からんな。貴様はボロボロ、それに対して私は無傷。この状況で何故その考えに至る?分からん、分からない。どうしてだ?」

 

本当に分からないと言わんばかりの表情で聞いてくるルートヴィヒ。

 

「そうか、わからねぇか。なら、教えてやるよ。」

 

俺は上から目線で堂々と言い放つ。

 

「テメェより速い奴を知っている。一撃でも喰らってはならない拳を持つ奴を知っている。お前より強い奴を知っている、だから」

 

シュライバーとか蓮炭とか、マキナとかザミエル。さらに、ラインハルトとかあのクソ野郎もそうだ。

 

「お前に俺は負けない!」

 

「そうかならば、見せてやろう。私の力をっ!?」

 

急にルートヴィヒが話すのをやめ、背後に飛び退いた。

 

すると、ルートヴィヒのいた場所を光の熱線が焼き貫いた。

 

この攻撃は、見覚えがある。これは、

 

「チッ!メルクリウス!テメェ!今回は俺に任された任務のはずだろうが!?何故、ハイドリヒ卿が!黒円卓全員が此処にいやがる!?」

 

聖槍による聖なる一撃。並大抵の奴なら触れるだけで蒸発する神殺しの光だ。

 

そして、その光の放たれた方向には風になびくライオンの様な長髪に黄金の槍を持ったラインハルト。

 

その傍に立つ影の様な男。メルクリウス。

 

その二人の背後に並び立つ、俺と同じ黒円卓の魔人達。

 

「控えよカズィクル・ベイ。貴様ではあれには勝てぬよ。それに、あれはハイドリヒ卿が求める強者。貴様に独占などさせぬよ。」

 

ザミエルがタバコをふかしながら、ラインハルトの代わりに答える。

 

「貴様らにつきやってやる必要は私には無い。」

 

「ヴィルヘルム!?」

 

ルートヴィヒがクラウディアを強く後ろから抱きしめている。

 

すると、クラウディアの身体がルートヴィヒの中に取り込まれていき、遂には完全に取り込まれた。

 

「テメェ!クラウディアを出しやがれ!」

 

「私は彼女が求める場所へ行く。来るなら来るがいい。全霊で相手をしよう。」

 

そう答えると闇に紛れて消え去った。

 

 

 

 

〈此処で物語の場面は切り替わる〉

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あれから俺達はルートヴィヒを追い、ヴェヴェブルスブルグ城(骸骨巨人モード)に乗り、北極へ進軍を始め、遂にルートヴィヒに追いついた。

 

しかし、そこにいたのは、読み取る事のできない言葉を呟きながら宙に浮かび、生気の感じられなかった白い肌を炭のような黒色に染め、紅い魔力を纏い、ラインハルトと同等のプレッシャーを放つ異常な状態であった。

 

そんな中、ラインハルトは冷静に言い放つ。

 

「私が求めるのは、完全勝利だ。受けるがいい。」

 

「 形成ーー聖約・運命の神槍

(ロンギヌスランゼ・テスタメント)」

 

その言葉と同時にラインハルトの手には黄金の槍が現れる。

 

そして、ラインハルトはヴェヴェブルスブルグ城の骸骨の口から、森で放った光線と同種類のものだが、威力が桁違いの物をルートヴィヒに放った。

 

その姿や攻撃手段は、どこかの谷のナントカに出てくる半熟巨人の様だとは口には出さない。

 

しかし、ルートヴィッヒは俺が信じることができない行動をとった。

 

 

「Gloria virtutem tamquam umbra sequitur. (栄光は影のように美徳に従う)」

 

ルートヴィッヒは、本来回避するであろう熱線が迫りくる中、回避行動をとらず理解不明な言語で詠唱をした。

 

すると、ルートヴィッヒの身体が揺らぎ黒い影大きく広がり瞬時にルートヴィッヒの身体を覆いつくす大きさとなり、盾となった。

 

熱線は影の盾と衝突した、、、ということはなく、影の中に全て音もなく吸い込まれていった。

 

「な、んだと!?」

 

俺が喰らえば一瞬で蒸発待ったなしの一撃を、俺たちが使う創造の詠唱より明らかに短い詠唱で防いだことに俺は驚きを隠せなっかた。

 

しかし、次の瞬間もっと俺を驚かす出来事が起きた。

 

ヴェヴェブルスブルグ城(骸骨形態)の影から上に昇るように吸い込まれた熱線放たれ、ヴェヴェブルスブルグ城を襲う。

 

ものすごい衝撃がヴェヴェブルスブルグ城に搭乗している俺たちを襲うが、自らの攻撃を返されただけでどうにかなるヴェヴェブルスブルグ城とラインハルトではない。

 

そんな中、小手調べはもう終わりだと言わんばかりに冷静に、そして冷たくただ一言命じる。

 

「総員出撃。」

 

その言葉を待っていました言うかのように一番槍をかって出たのはこいつ。

 

「 さらばヴァルハラ 光輝に満ちた世界 」

 

「 聳え立つその城も 微塵となって砕けるがいい 」

 

「 神々の一族も 歓びのうちに滅ぶがいい 」

 

「 創造ーー死世界・凶獣変生!

(ニブルヘイム・フェンリスヴォルフ!)」

 

絶対回避の理を纏い、俺と似たような容姿の子供(詐欺)、ウォルフガング・シュライバーが天を駆け、神殺しの獣となりてルートヴィッヒの喉元めがけて突き進む。

 

 

それに続くのは、金髪の長髪をポニーテールにまとめ、葵雷を纏う剣を構える少女、ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン。またの名をヴァルキュリア。

 

「 私が犯した罪は 」

 

「 心からの信頼において あなたの命に反したこと 」

 

「 私は愚かで あなたのお役に立てなかった 」

 

「 だからあなたの炎で包んでほしい 」

 

「 我が槍を恐れるならば この炎を越すこと許さぬ! 」

 

「 創造ーー 雷速剣舞・戦姫変生!

(トール・トーテンタンツ・ヴァルキュリア!)」

 

詠唱を終えると、少女はその身体を閃雷と変え仲間に道を示すべく獣と共に駆ける。

 

二人とも普通の相手であれば触れさせることも無く、一方的にに蹂躙することが出来るが、ルートヴィッヒはそう容易くはいかない。

 

二人の攻撃はルートヴィッヒを捉えることができてはいるが、煙を掴もうとしているかのようにすり抜けていく。

 

二人の魂の総量が足りていないのか、それとも一方は速度特化、もう一方は攻防一体に速度も上がる器用貧乏な創造の性質がルートヴィッヒ相手には分が悪いようだ。

 

それでも二人はルートヴィッヒの影を飛ばす攻撃を躱しながら攻撃を続けていく。

 

「鬱陶しい、蝿どもが。影よ、咢となりて噛み砕け。」

 

傷つく事はないが、目障りに思えたのか行動に移すルートヴィッヒ。

 

ルートヴィッヒの言葉に反応し、影が集まり獣の頭を形どる。

 

それも一つではなく、大型犬、獅子、虎、狼、様々な肉食獣の形となり頭一つで天を駆け、シュライバーとヴェアトリスへと襲い掛かる。

 

「ハッ!遅いんだよぉ!このノロマ!止まって見えるよ!」

 

迫る頭の大群に余裕だと言わんばかりに啖呵を切り、絶対回避の理を纏い圧倒的速度で頭たちを引き離す。

 

しかし、今までどうりルートヴィッヒへ攻撃を加えるのは難しくなった。

 

一方のヴェアトリスは、無数の頭をギリギリのところで躱し続けていたが、物量に押され遂に左手に喰らいつかれ、その勢いのまま捥ぎ取られた。

 

それでもヴェアトリスは動きを止めない。

 

止まれば最後、一瞬で喰らいつくされてしまうと分かっているからだろう。

 

このようにして身動きを止められた二人の次に前へ歩み出たの巌のような大男。

 

小さくだが、よく響き渡る力強い声で詠唱を始める。

 

「 死よ、死の幕引きこそ唯一の救い 」

 

彼の名は、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン。

 

「 この毒に穢れ、蝕まれた心臓が動きを止め  」

 

自身の肉体と魂自体が機神・鋼化英雄(デウス・エクス・マキナ)という聖遺物である者。

 

「 忌まわしき毒も、傷も、跡形もなく消え去るように 」

 

そして、メルクリウスに命を弄ばれた男であり、自身の名前すら覚えていない悲しい男でもある。

 

「 この開いた傷口 癒えぬ病巣を見るがいい  」

 

故に、聖遺物の名前からとり団員はマキナと呼んでいる。

 

「 滴り落ちる血の雫を 全身に巡る呪詛の毒を 」

 

「 武器を執れ。剣を突き刺せ。深く、深く、柄まで通れと 」

 

「 さあ 騎士達よ 」

 

「 罪人に、その苦悩もろとも止めを刺せば 」

 

「 至高の光はおのずから、その上に照り輝いて降りるだろう 」

 

「 創造ーー人世界・終焉変生 

(ミズガルズ・ヴォルスング・サガ)」

 

 

マキナの繰り出した拳が魔獣の一体に命中し、本来触ることもできない非物質の影を跡形も無く消し去る。

 

『む?』

 

次々と自らの生み出した魔獣が消滅していくのにルートヴィヒは気づきマキナへ視線を向ける。

 

『幕引きの一撃、終わりの理か。つまり貴様は死にたいのか?しかし、自分では自分に巻き引きを下すことはできない、だからこそまだ見ぬ誰かに終わらせてほしいと願っているのか。』

 

「黙れ。貴様と話す事など無い。」

 

重戦車の様にゆっくりだが全てを踏み潰しながらルートヴィヒへ近づくマキナ。

 

そんなマキナに対し、ルートヴィヒももう何も言うことはせずに更に詠唱が始まる。

 

「Nihili est qui nihil amat. (何も愛さない者は、何の値打ちも無い)」

 

ルートヴィヒの詠唱により、影が動き、集まる。

 

影は銃身のように突き出し、マキナに標準を定めている。

 

銃身から影の塊が放たれ、マキナに凄まじい速度で向かう。

 

マキナの創造の能力は幕引きの一撃。

 

強靭な身体から放たれる拳の一撃一撃が文字通り必殺となる。

 

しかし、その速度は黒円卓の中でかなり遅い部類に入る。

 

マキナに躱すという選択肢は無い。

 

影が自身に当たる前に拳を迎撃のために放つ。

 

この必殺の拳は、最強の矛であり、盾にもなる。

 

影は拳に触れた瞬間にこの世から消滅するだろうと思っていたが、影は空中で形を変え、マキナを覆い、包み込んだ。

 

影の中から、ドン!ドン!と大きな音が聞こえてくる。

 

マキナが影の中で拳を打ち付けている音であると予想できる。

 

しかし、影の牢獄は崩れ去る気配は微塵も無い。

 

このことから、あの影の牢獄は一個体ではなく、複数の影が集まりあった集合体であるとわかる。

 

これで、マキナを含めて創造階位の者が3人無力化された。

 

ラインハルトとメルクリウスの2人を抜いた、黒円卓総勢11人の内3人、約3割が無力化された。

 

本来であれば撤退すべき被害だが、俺たちにその選択肢は無い。

 

ラインハルトが撤退の指示を出していないし、ルートヴィヒを倒すことを望んでいたからだ。

 

だから、俺を含めた8人はそれぞれ形成、創造を発動させルートヴィヒに迫ろうとするが、またもやルートヴィヒの詠唱が響き渡る。

 

 

「Initium sapientiae cognitio sui ipsius. (自分自身を知る事が知恵の始まりである)

 

Nihil difficile amanti. (恋する者には何事も困難ではない)」

 

 

影が、地面を這い、空中へ広がり俺を、他の黒円卓の連中を飲み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

気づくと俺は地に伏していた。

 

いや、俺だけじゃない。エレオノーレやルサルカといった俺とともに突撃した奴らや先ほどまで天を駆けていたヴェアトリスも伏していた。

 

無事なのはシュライバーや影の牢獄に捕らわれているマキナにラインハルト、メルクリウスだけだろう。

 

しかし、何が起きたというんだ?

 

身体に目立った外傷があるわけではないというのに身体に力が入らない。

 

そんな中パキパキ、パキン!と硬い何かがひび割れていく音が響く。

 

その音が、どこから聞こえてきたのは即座に分かった。

 

「ククッ!カァッハッハハハハハハハハ!!!」

 

ラインハルトが狂ったかのように笑い狂っていた。

 

しかし、注目すべき場所は違う。笑い狂うラインハルトの右頬が壁に穴が開く様に崩れ、黒い無の空間がのぞいていた。

 

「ハハハッハハ、ハハ。これが、痛み。痛みか?いいぞ!この感覚!久しい感覚だ!もっと私に痛みを!未知を教えてくれぇぇーー!!」

 

ラインハルトは何かを噛み締めるかのように喜び、更に何かを求めて叫ぶ。

 

そして、ロンギヌスを手に自らルートヴィヒに向かおうとするラインハルトだが、それを止める者が現れる。

 

「待たれよ獣殿。」

 

そう、主人公である蓮炭以外にラインハルトと渡り合えるこの物語の黒幕にて監督者。メルクリウスである。

 

「なんだカールか。止めるなよ。久々の心踊る戦いなのだ。」

 

「否。止めさせてもらうよ獣殿。流石の獣殿も時の経過にもたらせられる劣化には耐えれなかった様ですな。このまま本気を出せば我等の計画に支障が出るやも知れませぬ。それに、」

 

 

「今の主役は獣殿でも、私でも無い。此処は譲るべきでしょう。そうでなくては物語は盛り上がりませぬ。」

 

「、、、、、、、、、、よかろう。譲ろうではないか。」

 

「あぁ、承知した。それでは許可が出たぞカズィクル・ベイ。早く立ち上がれ。」

 

何?メルクリウスの野郎は何言ってやがる。

 

時すら操れるルートヴィヒ相手に俺が闘うだと?馬鹿な。勝てるわけが無い。

 

それに俺が主役だと?意味わかんねぇことを。

 

「どうした早く立ち上がれ。彼女を助けたいのでは無いのか?譲れぬのだろう?折角獣殿が譲ってくれたのだ、立て。」

 

 

「 Fortes fortuna adjuvat. (運命は、強い者を助ける)

 

Magna voluisse magnum. (偉大なことを欲したことが偉大である)」

 

こうしている間にルートヴィヒが新たに詠唱を始める。

 

今まで以上に濃く強大な闇を束ね放とうとしている。

 

ぶっちゃけ勝ち目は一つしか思いつかない。

 

それも、かなり賭け要素が強すぎることだ。

 

だが、此処でラインハルトに任せるのは簡単だが、それではクラウディアがラインハルトのレギオンに、優しいアイツが永遠に闘い続けさせられる奴隷になってしまう。

 

あぁ、そんなの認められるか!

 

アイツは俺の物だ!誰にも渡さねぇ!

 

そう思い、全身から杭を生やし眼球の白目を紅色に染めて立ち上がった。

 

 



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序曲が終わり、終曲の始まり

ーーsideヴィルヘルム

 

 

 

 

「死に晒せや!ゴラァッ!」

 

杭をルートヴィヒに対して狙うということはせず、無差別に放てるだけ放つ。

 

形成状態の俺は身体から杭を一度生やしてからでないと投擲できない。

 

つまり、地面から突然巨大な杭を生やすことはできず、慢心王のゲートオブバビロンの様に空中から放つすることはできないのだ。

 

つまり、敵に杭を投擲する為には自前の腕力で投げつけるか、体内の血液の流れや血圧をコントロールして放つしか無く、その分速度や威力が劣る。

 

何よりワンテンポ投擲の時間が空いてしまう為、狙うにも時間がかかってしまう上に、今回の様な格上相手には時間がワンテンポでも惜しい為、数撃てば当たる戦法で広範囲攻撃を行う。

 

『・・・・・』

 

俺の放った杭に目もくれず影のコントロールを続けるルートヴィヒ。

 

俺の杭は影の魔獣達の頭に防がれて一本たりともルートヴィヒに届いていない。

 

ルートヴィヒと俺にはまだかなりの距離がある。

 

距離を詰めてさえ仕舞えば、空中で衰える杭の威力を抑えることができ、魔獣達を貫通できる筈だ。

 

周囲を警戒しながら走れる限界の速度でルートヴィヒに近づきながら杭を牽制目的で放ち続ける。

 

ある程度近づいていくとルートヴィヒが反応を示す。

 

『・・・煩い蝿が、、、、また貴様か。殺せ、一片の肉片すら残すな。』

 

ルートヴィヒの言葉に、先ほどの攻撃を回避していたシュライバーに向かっていた魔獣達の半数が俺の方へ差し向けられた。

 

それも今までの様に野生の獣がバラバラに向かってくるのでは無く、タイミングを揃え、隊列を整えてまるで調教された軍用犬の様に喰らい付いて来た。

 

「飼い犬が!大人しく飼い主の元に帰りやガレェ!」

 

兎に角、俺の最後の手段を行うにはルートヴィヒに近づく必要がある。

 

だから、横、背後から近づいてくる魔獣は後回しだ!

 

前方から迫る魔獣達へ杭を放つ。

 

今までなら、ほとんど横並びになって向かってきた魔獣達だったのだが、今回は違う。

 

魔獣が数匹ずつの纏まりとなって、一番前の集団が壁になる様に展開し、他の集団がその背後に連なる様に向かってくる。

 

放った杭は先頭集団の魔獣全てに命中し全滅させることができ、一部の杭は背後の集団に命中したが、あまり減らせなかった。

 

「チッ!少しは頭を使ってるみてェだが、俺の杭に耐えれネェ時点で、意味はネェんだヨォ!」

 

再び杭を放つが、また先頭集団が壁になり背後の集団にまで杭が届かない。

 

少しずつ俺とルートヴィヒの距離が縮んで行く。

 

しかし、共に魔獣達との距離も縮んで行く。

 

このまま進めばルートヴィヒに辿り着く前に魔獣達に接敵してしまう。

 

魔獣の数は無限に近い。幾ら杭を放って吸収しても得られる力精々杭を一本作れる程度だ。

 

つまり魔獣を幾ら殺しても力を得られず、状態維持にしかならない。

 

接近戦になれば魔獣達の数に押され、死ぬ未来は容易に想像できる。

 

だが、まぁ。

 

「やるしかネェよな。」

 

ルートヴィヒの元に集まりし影の大きさからそろそろ放たれると想像できる。つまり、時間がない。

 

覚悟は決めた。後は真っ直ぐ槍の様に突き進むだけだ。

 

「行くぜ糞ったれの吸血鬼野郎!」

 

壁となる様に杭を斉射し、目眩しと少しの間の時間稼ぎをする。

 

全身に動きに支障が出ない程度に杭を生やし鎧代わりとする。

 

そこからは泥臭い闘いだった。

 

目の前に立ち塞がる魔獣へ腕に生やした杭を突き刺し、背後に投げ捨てる様に振り回しながら杭を抜く。

 

横から近づく魔獣は無視する。噛みつかれる寸前に身体を僅かに逸らし杭に当たる様にしたり、致命傷や関節、骨を食われない様にする。

 

砕かれたり、折られた杭は新しく生やし、傷ついた身体の再生を待たずに前に進む。

 

自分が流した血の匂いで強化された嗅覚が上手く効かない。

 

身体の彼方此方を噛みつかれ痛みが走っている筈だが、脳内物質の過剰分泌のお陰か余り痛みはない。

 

むしろ、興奮し、嗅覚以外の感覚が普段より鋭くなっている様に感じる。

 

しかし、頭は冷静に状況を判断している。

 

このままいけば、満身創痍ではあるがルートヴィヒの元へ辿り着くことができるはずだ。

 

今までより魔獣達の勢いは凄いがそれでも、今前方に展開している集団を突破すればもう目の前だ!

 

『甘いのだよ。』

 

ルートヴィヒの低い声が響く。

 

今突破した魔獣達を尻目に目の前の光景に一瞬思考が停止してしまう。

 

それは今まで人集団で襲ってきた数の数倍の魔獣達が俺の目の前に立ち塞がっていたのだ。

 

「テメェ、手加減してやがったなぁ?性格悪すぎんだろ?」

 

『奥の手とは最後に取っておく物なのだろう?では死ね。』

 

魔獣達が一斉に向かってくる。俺が突破してきた魔獣達も背後から迫る。

 

もうダメかと諦めかけ、目を閉じかけた時、

 

「この程度で諦めるのですか?チンピラ」

 

青白い閃光が魔獣達を切り裂き俺の背後に背中合わせになる様に降り立った。

 

「チッ、またテメェか。ヴァルキュリア。」

 

片腕が無いままボロボロの姿で片手剣を構えたベアトリス・キルヒアイゼンが俺を助けてくれた様だ。

 

「何ですか?痛む身体に鞭打って助けてあげたこの可愛い可愛い美少女、ベアトリスちゃんに御礼の一つもないんですか?チンピラ。」

 

「チッ!どこに美少女がいるんだか!?此処にいんのは中身おっさんで彼氏いない歴=年齢のその内上司のお堅いあの女にガチでプロポーズしそうな可哀想な行き遅れ女しか居ないだろうが?」

 

「なっ!?な、何てこと言うですかこのチンピラは!?あの冗談通じない冷徹上司にもし聞かれたら、殺されますよ!主に私が!?」

 

「事実だろうが!!」

 

俺と話すことで隙が生まれたキルヒアイゼンをカバーする様に杭を放ち魔獣を殺す。

 

「あっ、そういえば話してる暇なんてありませんでしたね!」

 

背中合わせで向かい合い魔獣達を殺し続けながら、会話を続ける。

 

「それで?テメェはどうして此処まできやがった?俺とお前はネズミとネコの様な関係だった筈だろ?俺を殺すまではしねぇが、死にかけてたら即見捨てる感じだろうが?一体どういう訳だ?」

 

「別に貴方のためじゃないですよ!」

 

(いや、そんな事は分かってんだよ!テメェには最強の自虐お兄様が居るのがわかってるし、そんな事より背中から刺されないか心配だから聴いてんだよ!?)

 

この作品の第1話で目的のためとはいえ思いっ切りボコった事に罪悪感を未だに抱いている小心者のヴィルヘルムである。

 

「あの子のためですよ。貴方が諦めたら誰があの子を助けるんですか?」

 

「アァ?」

 

ヴァルキュリアの言葉に首を傾げてしまう俺。

 

この作品では出ていないがヴァルキュリアは俺とクラウディアがイチャつ、、、、、、、、

 

いてねぇな。一緒に行動する事に大反対していた筈だ。

 

こんなチンピラにこんないい娘は勿体ないです!というか一緒にいたら遊びに遊ばれ、挙句には捨てられますよ!って勝手な想像をクラウディアに吹き込んでくれた奴なんだが、何で助けたんだ?

 

お前の考えだと俺を助けるんじゃなくて斬り殺すべきなのでは?

 

いや、死にたくはねぇけどよ、、、、、、、

 

「ぶっちゃけ、貴方があの娘と一緒にいるのは反対の大反対ですよ。でも、あの娘が貴方と一緒にいた時のあの幸せそうな笑顔。あれを見たら貴方と共にいることがあの娘の幸せなんだってわかったんですよ。というか、あの甘ったるい空気を漂わせる貴方達に独り身の私は近づきたくないんですよ、本当に、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、何ですか?あてつけですか?羨ましいんですよっ!あーあぁ!早く私の王子様現れませんかねぇ〜!あっ!あの娘を泣かせるようなことをしたら地獄まで追いかけてぶっ殺しますからね! 」

 

「いや、長いし!というか心の声ダダ漏れだし!色々ツッコミどころ豊富だがまず言わせろ!戦場でいうことじゃねぇだろ!?誰視点からの発言だァ!?嫉妬に狂う童貞男性か!?それともお父さん視点かゴラァッ!?何でお前女やってんだよ!?お前考え方とかその他諸々オヤジなんだよ!?もうあの吸血鬼野郎に向かって突っ込むからな!?此処は任せて良いんだよなぁ!?てか、任せるからなぁ!?」

 

もうキャラ崩壊が酷いヴァルキュリアに魔獣を押し付け更に前進する。

 

邪魔が入ってしまったが、既にルートヴィヒの元まではあと僅か。

 

そう、今ここに、

 

 

 

 

 

 

俺は、俺の物を簒奪した本物の吸血鬼と再び対面した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーー続けてsideヴィルヘルム

 

 

「ヨォ。辿り着いたぞ糞吸血鬼。早く出すもん出しやがれ。そしたら見逃してやってもいいぜ?」

 

『 辿り着いたからどうだと言うのだ?貴様では私に傷をつけることは出来ぬ。そして、此処に貴様に渡す必要があるものなど1つたりとありはしない。失せろ蝿が。』

 

歩みを止めずルートヴィヒに話しかける。

 

口調から余裕がある様に見えるが、真実は反対にコンディションは最悪だ。

 

身体中の肉は魔獣共に噛みちぎられ絶えず血が流れ出している。

 

エイヴィヒカイトの恩恵である再生が常時傷を癒そうとして身体から水蒸気が発せられている。

 

「アン?あるだろうが、テメェが御大層に腹の中に取り込んだ、、、、俺の女がよ!」

 

感じる。しっかりと感じ取れる。

 

クラウディアが身につけているロザリオにはめ込んだ闇の賜物の一部の気配が弱くだが感じられる。

 

これにより、クラウディアの生死ははっきりした。

 

俺の策が実行可能かどうかも大体分かった。

 

ルートヴィヒの奴は相変わらず俺を脅威の対象捉えてはいない、隙だらけだ。いつでも出来る。

 

『貴様の女だと?笑わせるなよ蝿風情が!貴様と彼女が釣り合うと思っているのか!?否!断じて違う!彼女を幸せにできるのは私だけだ!つまり、彼女の隣は私の物だ!失せろ!死ね!蝿は蝿らしく死体に集っていろ! 』

 

今までは変化を見せなかったルートヴィヒの鉄面皮は激しく歪み、無機質に感じていた声には感情が乗り冷静を失っているのは明らかだ。

 

どうやら俺はアイツの禁句を上手く踏み抜き、理性を奪うことに成功した。

 

まぁ、産み出された魔獣共はヴァルキュリアが抑えている、ルートヴィヒ自身は大技の溜めの所為で動けない。

 

これで作戦の成功条件は達成した。

 

「ハッ!クラウディアはテメェの物じゃねぇよ馬鹿が!なんだか勘違いしているみてぇだからはっきり言わせてもらうぜ!お、れ、が、クラウディアに付き纏っているんじゃねぇ!アイツが!俺の隣居ることを選んで!俺に付き纏ってんだよ!」

 

『なっ!?ば、馬鹿な!彼女が貴様を選んだだと!?あ、ありえない、ありえないありえないありえないありえないああああああああああ!!!』

 

「何だコイツ?バグったか?まぁ、いいややり易い。クラウディア!聴こえてんかわからねぇが言っておくぞ!今からちょっくら痛い目に合うかもしれねぇが我慢しろよ!?」

 

再び走り出し、上空に浮遊するルートヴィヒまで脚力を全力で使用して同じ位置まで飛び上がる。

 

「喰らいやがれ吸血鬼!これが、テメェが虫けらと侮った俺の、力ダァァァァァァーーーー!!!」

 

杭を生やした右腕を奴の心臓へと突き立てた。

 

皮膚を突き破る柔らかい感触の次は骨を断つ無機質にして硬い感触がすると思えたが、杭と右腕は泥に突こっんだかの様な感触共に沈んで行った。

 

この事からやはりコイツの創造は求道型、覇道型のどちらでもない。

 

コイツは自分の中に、自分だけの世界を創造して自らの身体へ法則を付与して居るだけではなく、外にまで漏れ出して世界を歪めている。

 

故に完全に万能。原作前においてコイツは1番流出階位に近いと言える。

 

しかし、コイツは間違えを犯した。

 

それは、自分の力の源である内の世界に、異物(クラウディア)を取り込んだ事だ!

 

「漆黒たる影の世界に華やかな血の花を咲かセェ!闇の賜物!」

 

俺の聖遺物は遠隔操作可能であり、それは他人の法則に支配された世界でも変わりはない。

 

『ガッ!?ガグッ!ガッガァァァァァァーーーー!!!? 』

 

ルートヴィヒが苦しみの悲鳴を挙げ出した次の瞬間、血の様な槍、

いや杭がルートヴィヒの世界を内から突き破り出した。

 

これはクラウディアのロザリオに付けた闇の賜物の欠片が膨張した物だ。

 

そして、突き出てきた杭のうちの2本を両手で1本ずつ掴み、引っ張り上げる。

 

ある程度引き上げてくると、身に覚えがある気配が感じられる。

 

そして、長い間離れてたわけではないのだが、胸に暖かい感情が込み上げで来る。

 

「やっとお目覚めかよ?クラウディア。」

 

直後、白いシルクの様な髪が影から出始め、段々その人物の姿が見えてくる。

 

両腕が出てくると、その人物いやクラウディアは

 

「ヴィルヘルム!」

 

満面の笑みで抱き着いてきた。

 

完全にクラウディアが出てくると、ルートヴィヒの力が急激に高まってくるのを感じた。

 

直ぐにクラウディアを庇う様に抱え、ハリネズミの様に杭を背中に生やした。

 

直後、ルートヴィヒが溜めていた影が暴発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「糞が!溜めた力は最後までコントロールしやがれってンダ!」

 

痛む身体を起こし、文句を盛大にぶち撒けながら抱き締めていたクラウディアを解放する。

 

「大丈夫ですか!?ヴィルヘルム!?」

 

「当たり前だ!俺を誰だと思ってやがんだ!?」

 

身体のあちこちにをペタペタと触ってアタフタしているクラウディア。

 

そうしていると嫌な気配が再び現れ、アイツの声が聞こえてきた。

 

「屈辱だ。貴様などに我が此処までの痛手を受けるとは、、、」

 

俺と同じくらい身体中傷と血だらけのルートヴィヒ。

 

あの様子ではもう大技どころか、魔獣すら生み出せないだろう。

 

しかし、その目は諦めを感じない。それどころか俺を見下すのをやめ、対等の敵として睨みつけている。

 

「この身はもう消え去る寸前。もう彼女の願いを叶える事はできん。あぁ、認めよう。私の負けだ小僧。」

 

「ハンッ!なら、大人しくくたばりやがれ糞吸血鬼。未練がましいのは見っともないぜ?」

 

「そうであろうな。わかってはいる。だが、1つだけ認められないことがある。貴様だ小僧!あぁ、死せるのは構わん!消え去るのも覚悟の上!しかし、貴様に負け、潔く彼女を諦めることだけはできん!」

 

拳を構えて今にも殴り掛かって来そうなルートヴィヒ。

 

「下がってろクラウディア。」

 

クラウディアを下がらせ、同じく拳を構える。

 

俺も消耗が激しく杭を生み出せるか不明な状態であるからだ。

 

決して、コイツの覚悟に答えたわけじゃない。

 

「行くぞ!小僧!」

 

「返り討ちだゴラァッ!」

 

拳と拳。ノーガードによる殴り合い。

 

血肉が飛び散り、吹雪く白い世界の一部を赤く染め上げる。

 

俺とルートヴィヒが真っ向から殴り合えば、俺は叶うわけは無いのだが、やはり自分の世界をズタズタに裂かれた事によりかなり弱体化している様だ。

 

ほんの数分殴り合っているだけなのに、もう何時間も殴って、殴り返され、また殴るという行為を繰り返している疲労と感覚がする。

 

ドーン!!!と互いに殴り合い、その衝撃で距離を取る俺とルートヴィヒ。

 

互いにもう自分と相手は限界であり、これが正真正銘の最後の一撃となると言葉を交わさずとも理解していた。

 

ギィギギ!!!

 

出来るだけの力を込め握り締めている拳から、自らの力で歪み軋む骨の音が聞こえる。

 

この一撃を相手より先に喰らわせた方が勝者となり、どちらが勝者となろうとも相手と会う事は無いだろう。

 

それを理解しているからこそか、今まで自発的に話そうとはしなかったルートヴィヒの固く閉ざされた口が開かれる。

 

「、、、、、、、小僧。」

 

「アァ?なんだよ糞吸血鬼。」

 

「貴様は永遠に明けることの無い夜の世界を望んでいると言ったな。」

 

それはクラウディアと自分の願いを話し合った時に俺が言った、原作のヴィルヘルムの渇望だ。

 

「チッ、盗み聞かよ糞吸血鬼。趣味悪りィなテメェ。糞吸血鬼の字の通り性根も腐ってるみテェだなぁ!?」

 

「愚かな事だ。この世に永遠など無い。命あるもの全てに平等に死が、破滅が与えられる。彼女も小僧貴様も例外では無い。ただ、早いか遅いかの違いだけだ。貴様はまた置いて行かれ、1人になる運命なのだよ。どんなに願ったとしても変わらない。貴様は「黙れぇ!?」、」

 

コイツがこれから言う事を聞きたく無い、考えるより先に本能的に叫んだ。

 

 

「また、1人になるのだよ。大切な物を失ってな。」

 

 

 

「チッ!言わせておけばァァ!!!」

 

俺は走り出した。少し遅れてルートヴィヒも走り出す。

 

「真に不滅の物など無いのだよ、小僧!」

 

その言葉はルートヴィヒがかつて自ら願い、諦めたからこそ出た言葉の様に思えた。

 

「テメェが無理だっからって!俺も無理かどうか分からねェだろうがァァ!?俺は諦めネェ!俺を光と呼んでくれたアイツが俺と共に生きる事を選んでくれた!俺が命はる理由はこれで十分!これ以上失ってたまるかヨォ!」

 

「黄金の獣が死に、宇宙がぶっ壊れようと、俺は!俺達は!生きて生きて!生き続けるんだよォ!神が認めネェッて言うんなら神だろうが!世界だろうがぶち殺す!」

 

「「オォォオォォォォーーーー!!!」」

 

獣様な雄叫びを上げ、互いの信念を込めた拳を放つ。

 

ほぼ同じ速度で振るわれた互いの拳は、、、、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の拳が先にルートヴィヒを捉え、奴の胸を貫き身体を砕いた。

 

力を使い果たした俺は背後に倒れ、その反動でルートヴィヒの身体から俺の腕が抜ける。

 

ルートヴィヒの身体に空いた傷からは血どころか、何も流れ出していない。

 

だが、確かに感じる。コイツはもうすぐこの世から消え去ることを。

 

証拠に奴の身体から灰が天に飛び散り始めている。

 

「小僧、貴様の勝ちだ。精々足掻くといい。貴様は私に勝った、だから彼女を幸せにする責任がある、、、、、、」

 

そう俺に言い放つと、奴はトボ、トボ、とクラウディアに向かって歩き出し、少し距離を開けて止まる。

 

クラウディアに何かする訳では無い様であるし、恋敵の様な奴の最後だ、自由にさせてやろうと思い俺は黙って見守る。

 

「愛しい君よ。私は貴方を愛している。だから、共に世界が終わるまで生きていたかった。しかし、私は貴方を幸せにしようとは思っていなかった様だ。自分の幸せを貴方の幸せだと勘違いしていた。すまない。」

 

「貴方が私を大切にしたいという思いは何となくわかってはいました。でも、私はヴィルヘルムが大切に思えて、、、、、いえ正直に言うとヴィルヘルムが好きです。だから、貴方の思いに応えられなかった。もう少し早く、この思いを貴方に教えていれば貴方は死ななくても良かったかもしれません。ごめんなさい。」

 

「フッ」とルートヴィヒの顔に笑みが浮かぶ。

 

「まさか、死する直前に振られるとは、貴方は厳しいな、、、、」

 

そう呟くと、

 

「幸あれかし、愛しい君よ、、、、、、、、、 」

 

そう言い残すと、ルートヴィヒは全身を灰に変え、空へ散った。

 

直後、膨大な魂が俺の身体に流れ込んできてドクン、ドクンと心臓の闇の賜物が強い鼓動を発生させる。

 

ルートヴィヒとの戦いで消費した魂の量を補填し、身体の傷をほぼ完治までに回復させた、ルートヴィヒの魂は俺を更なる高みに導くと思っていたが、やはり創造には至れていない。

 

ルートヴィヒとの最後の会話を終えたクラウディアはいつのまにか、寝転がって居る状態の俺を見下げる体勢でいつも通り笑っていた。

 

そして、、、

 

「貴方が好きです、ヴィルヘルム。」

 

微笑みながら、俺に

 

「私にこの気持ちを与えるため、戦ってくれた天使(貴方)をクラウディアは愛しています。」

 

大切な物として、自身を与える覚悟と言葉を伝える。

 

「もう決して、軽くない、半分じゃない。」

 

それは中途半端であった恋が完全に熟した証拠。

 

「死にたくないと思います。」

 

俺と共に生きることへの誓いであった。

 

ここまで幸福であっていいのだろうかと、、、心の底からこの女と生きたいと、切に願う。

 

だが、次の一言で幸せな気分から現実に戻される。

 

「そして、貴方を死なせたくないと思います。」

 

はぁ?

 

「だから、今度は私が貴方を守ります。お互いが足りないところを補い、共に守る。これは両立する気持ちなんです。」

 

「私の一方通行でないのなら、、、、、、、、」

 

そう言い残すとクラウディアは、ハイドリヒ卿を睨みつけるかのように目線を飛ばす!?

 

「貴方達がいると、絶対ヴィルヘルムは幸せになれない。いえ、いつの日にか死んでしまうでしょう。一杯傷つき、一杯悲しむ事になるでしょう。」

 

クラウディアの首に下がるロザリオが神々しく輝いている。

 

「私はヴィルヘルムと共に行きたい。彼を守りたい。だから、貴方達は邪魔です。消えて下さい。、、、、、、力を借りますルートヴィヒ。」

 

この力の源はあの糞吸血鬼か!?余計なことを!?いや、それよりもクラウディアを止めないと!ハイドリヒ卿には絶対勝てない!

 

「クソガァ!」

 

手を伸ばす。このままではさっきまで隣にいた愛しい人が、大切な人がまた遠くに行ってしまう。それだけは嫌だ。

 

しかし、俺の手が届く前にクラウディアは光を纏った。

 

 

 

 

 



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愛情

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

sideヴィルヘルム

 

 

『In principio creavit Deus caelum et terram.』( 初めに神は天と地を創造され)

 

それは小鳥のさえずりのようで、儚く消えてしまいそうな美しい、彼女の声。

 

彼女を包み込んだ光が少しずつ晴れていく。

 

それに反比例して姿を現していく、巨大な白い翼。

 

『創造ーー』

 

エイヴィヒカイトを持っていない筈の彼女が、俺が狂い願うほど欲しかった力、創造を彼女が使用している事へのあり得ないという現実逃避と、、

 

 

『 Date et dabitur vobis.』

 

俺が大っ嫌いな日の光を浴びて輝き、更に自らも白い光を発する、異形へと転身した彼女の美しさに心が奪われ、息をすることも忘れ見とれている。

 

そう、彼女は、、、、、、、、、、

 

 

 

 

 

 

 

本物の天使となったのだ、、、、、。

 

 

クラウディアは翼をはためかせ、儚げな彼女から想像できない天使の厳つい腕をラインハルトへ向ける。

 

(まさか、クラウディアの奴、、、、、、、、ラインハルトに接近戦するつもりなのか!?)

 

見たところクラウディアの創造は求道。

 

渇望は『天使になりたい』という内容であろう。

 

多少の誤差があれど、この渇望は含まれている筈だ。

 

(しかし!求道が1対1に向いているとはいえ、同じ創造へ到達しているラインハルトに喧嘩の1つもしたことないクラウディアは勝てる筈がない!)

 

「クラウディア!やめ、」

 

『消えて、下さい! 』

 

クラウディアの声が響き渡ると天から光の光線がラインハルトへ降り注いだ。

 

その光は巨大な骸骨形態のヴェヴェブルズ城すらも包み込む程膨大で、それは光の柱が落ちてきたかのようだ。

 

(って、何故に光線!?お前のその腕は飾りかよ!?てか、気の所為じゃなけりゃ、周りがなんか明るくなってね!?)

 

いくら、夜明けの時間帯とはいえ雲1つなく晴れ渡っている。

 

明らかに北極ではあり得ない。つまりこの状況はクラウディアが起こしているということは間違いない。

 

つまり、クラウディアの創造は『自身を天使へと転身し、周囲を光で包み込む世界へと変える』といった求道と覇道の合わせ技だと分かる。

 

つうか、この創造、、、、、、、

 

(原作のヴィルヘルムの創造と真反対じゃねぇかァ!?俺たち実は相性最悪だったか!?もしかして!)

 

俺がこんな(冷静考えれば)下らない事を考えていると、ラインハルトを包み込んでいる光が一時的に晴れていく。

 

どうやらクラウディアの攻撃は、エレオノーレ、赤騎士の創造の様に半永久的に持続する攻撃ではないようだ。

 

「ククッ!クハッハッハハハハハハハ!!!」

 

ラインハルトの笑い声が響く。

 

この嬉しそうな笑い声は聞き覚えがある。

 

そう、、、、、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラインハルトが未知を感じて喜びに身を震わせている時の笑い声だ!

 

光が完全に晴れると、そこには所々黒く焼け焦げたラインハルトがクラウディアを鋭い眼で見据えていた。

 

「あぁ、カールよ。ベイの想い人であるフロイラインが私達に挑むこの光景、既知であるが、違うな。カール、貴様が下準備せずとも彼女は立ち上がった。あぁ、これは未知だ!彼女を抱き締めて、私の愛で包み込みたいのだが、やはりダメか?」

 

「あぁ、獣殿。勿論いけない。今回の我々は舞台の脇役にしか過ぎない。主役のヒロインを横取りはいけない。」

 

(堂々と寝取り宣言やめてもらいますかハイドリヒ卿!?そして、意外にもメルクリウスは屑なのに寝取りは許容しなかった!?)

 

『アァァアァァァァァァ!!!? 』

 

ラインハルトとメルクリウスの会話を聞いているとクラウディアが踠き苦しんでいるような声をあげた。

 

「な、なんだ!?どうしたクラウディア!?」

 

俺の問いにクラウディアは届かず、天使の身体をよじるだけだ。

 

その叫び声は、まるで痛みに耐えているかの様だ。

 

「おやおや。これはまずい。」

 

「メルクリウス、テメェ!クラウディアに今何が起きてんのか知ってる様な口ぶりだな!おい!答えやがれ!クラウディアに何が起こってやがる!?」

 

「何、簡単な事だカズィクル・ベイよ。」

 

メルクリウスの勿体ぶった言い方に苛立ちを覚えるが、今はただ耐え続きを聞く。

 

「彼女はエイヴィヒカイトを会得せずに、他者と比べ質の高い自身の魂と、先程貴様が取り込んだルートヴィヒが残した力で無理やり創造階位の力を振るっているだけに過ぎず、完全に制御できていない状態だ。当たり前のことだが、ただの人間に創造階位は過ぎた力、いや形成でも扱えぬだろう。」

 

「、、、、、、、、、」

 

「身の丈を超えた力は自身を蝕む。いわば、魂の純度に肉体の方が付いて来ていないのだよ。丸っ切り貴様の現状と逆だな。」

 

その通りだ、世界を塗り替えるほどの力をただの人間が扱える訳がない。

 

そして、メルクリウスの言う通り、今のクラウディアは内包する魂の量や魔人としての肉体は創造階位に到達できる筈であるのに出来ていない俺と本当に逆だ。

 

「しかし、それだけが原因では無い。」

 

「はぁ?何言ってやがる、テメェ。」

 

「彼女はエイヴィヒカイトを得る前の貴様と同じ日に弱い体質であるのだろう?なら、分かるだろう?彼女は今、自分を焼く光を自ら生み出しているのだから、肉体が焼かれない訳が無いだろう。」

 

「ッ!?」

 

つまり、アイツは、、、、、俺を守る為に

 

「、、、、死ぬって、言うのか?アイツは、、、」

 

「その通りだベイよ。しかし、健気であるな。貴様を守る為に、その身を焼きながら戦う彼女は。正しく聖女と言うのは彼女の様な人物を指すのであろうな。して、ベイ。貴様はどうするつもりだ?」

 

「メルクリウス、テメェ。何、意味わかんねぇこと言ってんだ。助けるに決まってるだろうガァ!」

 

再び、身体から杭を生やしクラウディアを見据える。

 

こんな大切な時になっても、俺はまだ創造階位に至れない。

 

俺は、やっぱり半端者で誰も助けられないのだろうか、、、、、、

 

 

 

 

「チッ!」

 

ふと、頭に浮かんだ弱音を舌打ちして頭から追い出す。

 

弱気になってどうする!クラウディアを生きて助けられるのは俺だけだ!

 

幸い、俺の聖遺物は相手の力を吸収できる。クラウディアが創造を維持できないぐらいまで弱らせればまだ可能性はある筈だ!

 

「待ちたまえ、カズィクル・ベイ。」

 

「何だメルクリウス。今更邪魔しようって訳じゃネェよな?そうだって言うなら、テメェから吸い殺すぞコラァ!」

 

いつの間にか前に立ち塞がっているメルクリウスに腕の杭を突き付ける。

 

時間が少しでも惜しいって時に、コイツの相手なんてしてられない。

 

勝てるとも、脅しが通じるとも思えないが今はこうするしかなかった。

 

「カズィクル・ベイ。貴様は形成のままで彼女を助けれると本気で思っているのか?そんな甘い考えは今すぐ捨てろ。今の貴様では彼女を助けるどころか、地に足をつかせることも出来ぬだろう。」

 

メルクリウスの言葉に、当たり前だろうと言わんばかりに答える。

 

「だからどうした?アイツは俺の獲物だ。ハイドリヒ卿にだろうと、誰にだろうと譲る気はねぇし、勝手に死ぬことも許すつもりはねぇ。もう、アイツの命はアイツのものじゃねぇんだよ。」

 

そこで一区切りし、間を開け、メルクリウスを避け横を通り抜けながら再び答える。

 

「俺の物だ。」

 

「だから、諦めねぇし、見殺しにもしねぇ。アイツが嫌がろうと何としてもずっと側に置いてやる。もう失うのは勘弁だからなぁ!だから、諦めねぇ!分かったかメルクリウス!」

 

俺の言葉を遮るかの様に、メルクリウスが目の前に現れ、額に人差し指を軽く突き立てる。

 

「あぁ、貴様の想い確かに聞こえた。今宵の主役は貴様だ。諦めない、その言葉を言ったからには救ってみせるのだな。柄では無いが少し手助けをしてやろう。」

 

「な、何を?」

 

「貴様に力を得るチャンスをくれてやると言っている。それに、彼女も待ちくたびれているだろうからな。」

 

その言葉と共に、、、、、、、、、、、

 

 

 

 

 

 

俺の存在は、雪積もる白銀の世界から、薔薇の花が咲き誇る夜の世界に移っていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

sideヴィルヘルム

 

 

周りは月明かりが指す夜の世界。薔薇の花が瑞々しく咲き誇り、鋭い棘を持った薔薇が壁の様に四方を覆っていた。

 

次に印象に残るのは、この鉄臭さ。

 

足元を見ると紅い液体、血液が全体に広がっており俺の靴を濡らしていた。

 

瑞々しい薔薇の葉や花弁をよく見て見ると、瑞々しく感じていた部分は水の水滴では無く、血液であった。

 

初めて着た場所であるはずなのに、何故か見覚えがある。

 

そう、此処は、、、、、、、、、、

 

 

 

 

 

原作においてヴィルヘルムが創造で創り出した、心象世界の薔薇の園だ。

 

 

「いらっしゃい、愛しい愛しいヴィルヘルム。ようこそ貴方の世界へ。」

 

考え事をしていると背後から少女の声が聞こえてくる。

 

反射的に背後を振り返り、その人物に視線を向けるが、あり得ない存在に身を見開き思考が止まった。

 

「な、なんで、」

 

「どうしたのヴィル?そんなら幽霊を見たような表情をして?体調でも悪いの?」

 

俺と同じ紅い目に、白い肌と髪。俺に優しく投げかけてくる安心する声。

 

中学生になっているか分からないほど幼い少女。

 

手足は触れば簡単に折れそうな程細く、かつて俺が締め殺した唯一の家族。

 

「し、死んだ筈の、テメェが何で此処にいやがる!?ヘルガ!」

 

そう、俺の生みの親にして姉であるベルガ・エーレンブルグが殺した当時の姿でそこに居たのだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

sideヴィルヘルム

 

 

「あら、何でって、私はずっと貴方の側にいたのよ?」

 

優しく話しかけながら両手を広げて近づいて来るヘルガ。

 

「な、に、?」

 

だが、今の俺は困惑で頭が一杯であった。

 

あり得ない。間違い無く俺はヘルガを、大切な家族を殺した筈だ。

 

「貴方が、あの、なんて言ったかしら?ら、ら、らい?ライオンさん?そう!ライオンさんに挑んで、負けた時の夜も、」

 

細い首を両手で締め、骨を折った感覚。

 

「その後、あの屑に変な術をかけられた時も、。また、ヴィルに会えたのは屑のおかげだから感謝は小指ぐらいはしているけれど、お母さんやっぱりなんか嫌いだわ。」

 

苦しさの余り涙ぐむ美しい紅い目に、元の可愛らしい声の名残りも残っていない苦しみの声。

 

「あの白い虫を暴漢から、私のヴィルヘルムが助けた時も。ヴィル?気をつけた方がいいわよ?ああいう女は、ヴィルを惑わす毒虫なんだから!」

 

最後に、ヘルガの死体に火をつけて燃やした時に生じた異臭。

 

「そして、、、、、、、、、、」

 

何故か溢れ出し止まれなかった涙に、胸が締め付けられるような痛みに吐き気。

 

「ヴィル、貴方が。泣きながら私の身体を焼いている時も、お母さんはずっと側にいたのよ?」

 

あぁ、忘れるはずが無い。

 

これは、忘れてはなら無い、俺の罪なのだから、、

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

 

「私を貴方が殺したのに、後悔し、悲しみに暮れる貴方を横で見ていて、とても抱き締めたかった、貴方は悪くは無いのだと慰めたかった。でも、私の身体は既に無かったから抱き締められなくてとても悲しかったわ。」

 

遂には目の前にまで辿り着いたヘルガは背伸びをしながら俺の顔へ両手を伸ばしてくる。

 

だが、そんなことを気にしている余裕は無い。

 

 

今、ヘルガは、なんと言った?

 

 

 

 

 

 

 

俺を抱き締めたかった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慰めたかった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲しかった?、だと?

 

 

 

 

 

 

 

ヘルガが、俺が殺したヘルガ本人であるはずなら絶対言わ無いであろう言葉を聞き、混乱していた心と身体に冷静さが戻ってくる。

 

そういえば、原作のヴィルヘルムは創造によって自分の中に生み出した薔薇の園に自分の記憶イメージを元にして生み出したヘルガを住まわせていた。

 

つまり、今、俺の目の前にいるヘルガも俺の記憶から無意識に生み出した偽りのヘルガ・エーレンブルグなのだろう。

 

俺の都合の良い行動を取り、言動を放つ幻影でしか無い。

 

何故なら、、、、、、、、、、、

 

 

自分を殺した俺を、ここまで愛する訳がないからだ!

 

 

「俺に触るんじゃねぇ!偽物!」

 

パン!とヘルガが伸ばしてきた手を払い、押し退け距離を取る。

 

「あら?どうかしたの?ヴィル?」

 

「俺の名前を軽々しく呼んでんじゃねぇよ偽物ガァ!」

 

杭を眉間に突き付ける。

 

「偽物?ヴィル、私は偽物じゃ無いわ。貴方のお母さんのヘルガ。ヘルガ・エーレンブルグよ?どうかしたの?頭でも痛いの?」

 

「チッ!」

 

幼き頃の記憶のヘルガの姿と重なり、胸が罪悪感で一杯になりムカムカする。

 

そして、自分で殺した大切な家族を、今自身で都合の良い存在として生み出していることを自覚し、自らヘルガ・エーレンブルグという大切な存在の死を汚していると分かり、舌打ちを打つ。

 

「俺を愛してるダァ!?そんな訳ねぇだろうガァ!?本物の、俺が殺したヘルガなら!俺を愛してる訳がないだろうガッ!」

 

「、、、、、、、、、、」

 

ただ、黙って俺の言葉に耳を傾けるヘルガ。

 

その姿は、子供の戯言に優しく聞いてあげる母親の様だった。

 

「あぁ、テメェの言う通りヘルガが俺を愛していたと認めてやる!アイツに向けられた愛情はとても愛おしくて、大切な物だった!でもよ、殺されてなお愛することができる訳がねぇだろうガァ!」

 

近親行為で産まれた俺にヘルガは愛情を持ってくれていた、それは分かる。

 

だが、殺されてまでごとも愛することができる親なんているか?いる訳がない。

 

人間誰しもがその人間がどんなに大切だったとしても、結局は自分が一番大切な筈だ。

 

それに、

 

「俺がヘルガを殺したのは10年以上前だ。その頃は勿論、俺はエイヴィヒカイトを手にしてねぇ。可笑しいよなぁ?テメェが言っていることが本当なら、ヘルガはどうやって俺の側にいた?エイヴィヒカイトに吸収されていない状態でずっと側にいたってか?そんなことできんなら、あっちこっちに浮遊霊が存在していることになるだろうが!?」

 

俺の言葉にヘルガは答えない。やはり、このヘルガは偽『その決断は少し待って貰おう。カズィクル・ベイ。』!?

 

俺の考えをいつのまにか俺達しか居ないはずの薔薇の園にいたメルクリウスが遮る。

 

「メルクリウス、テメェ。俺の世界に土足で踏み込みやがって、それに何故止める?まさか、この偽物はテメェの仕業か?なら、マジで殺すぞ?」

 

『勝手に侵入したことは詫びよう。しかし、彼女は私が用意したものでは無いし、このまま彼女が消されて仕舞えば、彼女の10年以上の苦労が報われぬのでな、介入させて貰った。』

 

「何を言ってやがる。」

 

『単刀直入に言うと、彼女は本物のヘルガ・エーレンブルグだ。私が保証しよう。』

 

「な、なんだ、と?あ、ありえねぇ!?」

 

『それがあり得たのだよ、カズィクル・ベイ。』

 

『最初は私も驚いたものだよ。貴様にエイヴィヒカイトを施した際、やけに魂の量が多いと思ってはいたがまさか、過去に殺した人間の魂が生きた人間になり憑いているとはな。』

 

『死した者の魂は憑代と憑代との強い繋がりが無ければこの世に留まれなく、座へと還るだけだ。しかし、彼女は貴様と共に存在していた。どうしてだと思うカズィクル・ベイ?』

 

「、、、、、、、、、、」

 

『愛だよ、愛!貴様を1人にしたくない、もっと共にいたい、抱き締めたい!それらの親愛だけで彼女は存在し続けたのだ!これほど深い愛!私は私の女神以外に見たことない!だ、「もう、退場の時間ですよ?」なに?』

 

ヘルガの言葉が再び聴こえると、周りの薔薇から鋭い棘のついた蔦が幾重も連なり、メルクリウスを包み込む。

 

少しの間、蔦が蠢くと何もなかったかのように元の場所に戻る蔦。メルクリウスの姿は何処にも見えなくたっていた。

 

「全く、ヴィルが真面目な顔して推理する姿がかっこよ過ぎてウットリしている間に私達だけの世界に入って来るだなんて、屑の癖に、巫山戯たことしやがって!、、、、、ふぅ、落ち着かなきゃ。土足で入ったんだから無理矢理放り出しても別に構わないわよね?お待たせ、ヴィルヘルム。」

 

 

まさか、あのメルクリウスを自分の領域内とはいえなんで力だ。

 

それに、、、、、、、、、

 

「ヘルガ、なの、か?」

 

「はぁい、貴方のお母さんヘルガですよ〜。」

 

信じられない

 

その感情が頭から離れない。あまりの動揺から頭が考えるよりも先に、口が、心が1人でに話し始めた。

 

「なんで、、、、、俺を、怒らない。」

 

「え?どうしたのヴィル?」

 

「なんで、俺を恨まない、、。ヘルガ、俺はお前に殺されても仕方がないことをしたんだぞ!?俺は、自分の命大切さにお前を!愛してくれていたお前を殺したんだぞ!?苦しかった筈だ!痛かった筈だ!俺を憎たらしいと思った筈だ!なのに、なのに、、、、、、、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして俺を愛してくれるんだヘルガ!?」

 

 

 

俺の心の叫びに対して、ヘルガは当たり前のことの様に、そして逆に問いを投げかけてきた。

 

「子供を愛するのに理由がいるの?」

 

「ッ、だから、殺されてまで愛せるわけが、」

 

「ヴィル、貴方は私を殺す時泣いていたわよね?」

 

「それが、どうしたん、だよ?」

 

「最初はどうしてこんな事をするのか分からず困惑したわよ?でも、ヴィルが泣きながら私の首を絞めているのが見えたら、あぁ、ヴィルが泣いてまでやるなんて、ヴィルにとって必要な事なんだって分かったら、我慢しなきゃって思ったの。」

 

「だから俺に必要な事だからって、お前は命を俺に捧げるって言うのかよ!?はっきり言うが、お前の愛情は歪んでる!普通の親ならそこまでできるわけねぇ!どうして、お前はそこまでできるんだよ!?」

 

俺の問いにヘルガは一息間を開けて、何か覚悟を決めた表情をして言葉を放った。

 

「だって、私にはヴィルしか居ないから、」

 

 

 

 

 

 

「お母さんは、私を産んですぐ居なくなった。」

 

 

 

 

 

 

「お父さんは、私が痛いと言っても怖い事をやめてくれなかった。最後にはお母さんの様に捨てた。」

 

 

 

 

 

 

 

「街の人は、私を汚いゴミを見る様な目で見てきた。話しかけたら、動けなくなるまで殴られて、蹴られた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「隣の家の叔母さんは、近所のジェーンお姉ちゃんは、警察さんは、お花やさんのおねぇさんは、お肉屋さんの叔父さんは、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、ははははははははははははははハハハハハハハハハハはハハハハハハハハハはははハハハハハはハハはははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」

 

 

壊れたラジオの様に、目に光を無くし、誰にどんなひどい事をされたのかを話し続けるヘルガ。

 

ヘルガの狂気を目の当たりにしていると、急に目に光が戻り俺を穴が開くぐらい強い眼差しで見つめ、話し続ける。

 

 

「でもね、貴方は、ヴィルだけは違ったのよ?」

 

 

 

 

「最初はお腹がだんだん大きく重くなっていって気味が悪いそう思ったわ。だんだん、激しい痛みを感じる様にになるし、妊娠したと知った時は絶望しかなかったわ。何せ、私に酷い事をしたお父さんとの許されない生命。産まれたらどんな事をされるか嫌になったわ。」

 

先程まで恨み放っていた口調がだんだん嬉しそうな口調に変化していく。

 

 

 

「今までのどんな痛い事よりも激しい痛みに、無理矢理出てくる圧迫感。何度死ぬかと思ったか分からないわ。でも、今思えばそれは貴方と出会うための神様からの試練だったのねと思えるわ。だって、」

 

 

 

 

「私に笑いかけてくれたのよ?ヴィル、貴方は。」

 

 

ヘルガの言葉にこう思った。

 

『たったそれだけの事で?』と、

 

 

「あ、今たったこれぐらいの事でと思ったでしょ?」

 

思っていた事を言い当てられて、少しドキッとした。

 

 

「貴方から見れば小さい事でも、あの時の私から見たら、あの笑顔はどんな宝石よりも、どんなに高価で美しいものよりも価値ある物だったわ。だって、今まで負の感情しか向けられなかった私に唯一、向けられた明るい感情だったのよ?どんなに嬉しかったか!どんなに感動したのか!今でも鮮明に覚えてるわ!そして、誓ったのよ。」

 

 

 

 

「私に唯一無二の物をくれた貴方の為なら、何だってやってやる。絶対に幸せにしてみせるって、」

 

 

 

「貴方がお腹が空いたと言うなら自分の分を迷わず差し出しましょう。足りぬと言うなら自分の身体を切り裂いてでも肉を与えましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方が何かを欲しいと言うならば、寝る間を惜しんで働いて買ってあげましょう。もしそれが他人しか持っていないのであれば、盗み、殺してでも手に入れて見せましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方が誰かに死んで欲しいと言うならば、私がどんな手を使ってでも殺しましょう。それが例え、私であったとしても、だから、、、」

 

 

 

 

 

 

 

「もう休んでもいいのよ?」

 

狂っていた口調が、慈愛に満ち溢れた口調に戻った。

 

「休む?どいう事だ?」

 

 

「私はずっと貴方のそばにいた。だから、分かるの。貴方がどんなに痛い思いをしたか。どんなに苦しんだのかは。私は全部知ってるわ。だから、もう頑張らなくてもいいのよ、ヴィル。」

 

ヘルガが再び、俺の顔に両手を添え、抱きしめる様に引っ張ってくる。

 

先程は容易に振り解けたはずの手には何故か力が入らず、膝もヘルガの力に負け地に着く。

 

これにより、俺はヘルガの胸に抱き締められた形となった。

 

「貴方を苦しめる物の全てから私が守ってあげる。昔は力が無かったけど、貴方が苦しんででも手に入れた力のおかげで今なら貴方を守れる。」

 

強く抱き締めてくるベルガの腕。

 

息苦しさは全く無く、感じるのは眠くなる程気持ちの良い暖かさと、安心する甘い匂いであった。

 

瞼が異常に重い。意識が遠く、なっ、ていく。

 

 

 

「もう苦しむ必要は無いの。私とずっと一緒に、この薔薇の園で眠りましょう?大丈夫、誰にも邪魔などされないわ。だから、全て忘れてしまいましょう?あの、怖いライオンさんも、屑のことも、私を殺したという罪すらも、そして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方を誑かした女のことも忘れてしまいましょう?」

 

 

 



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厨二力全開のオリジナル詠唱

ちょっとお試し投稿です。

時間が経ったらこの話は消します。

あと、不評なら意見をガンガン下さい。

なんか、私自身まだ納得いって居ないので、いいと感じた内容は採用します。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「触れること叶わなき太陽よ、何故貴方は私を拒絶するのですか。」

 

 

「地に恵みを与え、人々には繁栄を与える貴方の加護に触れようとすれば、人であるはずの私の身は焼き尽くされ、灰塵と化す。」

 

 

「半端者の私には人並みに貴方の加護を望むことすら許されないのですか。

存在すら、産まれたこの命自体が間違いであり、罪であるとでもいうのか。」

 

 

「平等に恵みを与えられぬ太陽などこの世界から消え去ればいい。」

 

 

「闇よ、深く、深く、深く、天を覆え。

夜よ、月明かりすらも通さぬ程、満ち、満ち、満ちよ。」

 

 

「天から太陽を引き摺り下ろし、世界から略奪するのだ。」

 

 

「世界は暖かさを失い、闇に包まれ、

万物全てが氷像と化し、平等に死に絶え、永劫氷河に包まれた地獄へと世界は化す。」

 

 

「しかし、私は責められることも、淘汰されることもない。

地獄と化した世界には、罪人たるわたしと貴女しか存在していないのだから。」

 

 

「嘆きの吹雪、終焉の氷河、平等に罰が下されるこの地獄で全てが凍りついた静寂が私にはとても心地良い。」

 

 

「もう誰も失わない、誰も傷つけられ無い。ずっとこのままであればいい。」

 

 

「そう思うだろう、恋人よ、、、、、、、、」

 

 

「創造ーー」

 

 

「氷血地獄に眠れ、薔薇騎士よ」

(シュラーフインダーコキュートスデス,ローゼンリッター)

 

 

 

 

渇望は、《太陽が無くなった世界で生きれればいいのに、》という物。

 

 

能力は、《覇道型》。

 

 

《自分を中心として半径100メートルの円の結界を創り出すこと。

結界内では太陽が無くなったという概念の世界が広がっており、発動直後から気温はマイナス200度まで低下し、触れるだけで骨まで凍る冷気が発生しており、日も薄暗くなる。

自身は結界の中心にいる為、影響を一番受ける印象を受けるが、地震はその世界に適用したという仮定、つまり普通に生きれる能力の為、普段通りに活動できる。

因みに、自身も結界内の気温と同じ体温をしており、冷気を放っている。杭も形成の時以上に生み出すことが可能で、更に結界内なら何処からでも杭を生み出せる。色は血の色から純白へと変化している。杭に触れても凍る。

気温はヴィルヘルムの調子によってはマイナス300度まで下げることが可能。

なお、太陽の光がない状態が結界内が続いている為、冬でも凍ることのない植物があったとしても光合成を行うことができ無い為、酸素はその場に存在している分しか無い。》

 

 

 

 

 

 

 

 



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