防御寄りな個性の少年の話 (リリィ・ロストマン)
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親友と少年と個性と進路

 暇×思い付き=見切り発車
 とりあえず自作キャラと原作キャラを絡ませたいだけの自己満小説です
 あと初投稿です


 

 きっかけは、中国なんとか市で光る赤子が生まれたことらしい。

 それからそういう『特殊な力を持った』子供が増えて、ある時からそれが『個性』と呼ばれるようになる。

 しかし人間てのはなんでか力を持つと使いたがる。案の定個性持ちは世界各地で暴れまわったそうだ。

 

 この時期のことは『超常黎明期』と呼ばれている。文字通り世界が混沌に飲まれた時代だ。

 

 

 

 そして今、俺がいるこの時代はというと、法が整備され、犯罪率は年々減っている。それもそのはず、現代には警察の他に『ヒーロー』という職業ができている。

 

 ヒーロー。悪を許さぬ正義の味方。

 歴史が苦手なので詳しい説明はできないが、黎明期にやりたい放題やってた奴等を見かねて立ち向かった人達がそいつらと戦った。

 それを見ていた人々が、立ち向かった彼らのことをそう呼んだそうだ。

 それが巡りめぐって今は職業として根付き、犯罪の抑止力となっている。

 

 世界総人口の8割が個性を持っているこの超人社会が成り立っているのは、間違いなくその人達が紡いできた歴史のおかげだ。

 

 でも俺はヒーローを目指していない。理由はただ一つ、命の危険がつきまとうから。

 ヒーローの主な活動は、人命救助と犯罪者の制圧。ぶっちゃければ、自ら危険に飛び込むってことだ。人を救けるのは立派だし確かにカッコイイのだが、そこに常に自分の命が関わるのなら俺は断固拒否する。

 

 そんな俺ー畑中大河《はたなかたいが》は名部中学の3年生だ。今日は進路希望調査があり、放課後それをネタに友人との会話に花を咲かせていた。

 

 「なぁ人使、進路はどこにしたんだ?」

 

 「雄英のヒーロー科と普通科」

 

 「おっと?今からもう弱気か?」

 

 「ヒーロー科は実技試験あるからな。内容によっちゃ詰むから保険だよ」

 

 「そんな簡単に詰むか?・・・ロボットとか来たら詰みか」

 

 俺の数少ない友人ー心操人使の個性は『洗脳』。話しかけた人が返事をすると洗脳状態になり、人使の操り人形になるというものだ。相手が人語を理解することが条件なので、無機物と人語を介さない生物には効果がない。

 

 「大河は?」

 

 「雄英の普通科とヒーロー科。ぶっちゃけヒーロー科は記念受験だけどな」

 

 「お前俺以上に実技に向いてないからな。最悪何も出来ないまでありそうだ」

 

 「言うな。自覚はある。まぁヒーロー目指してる訳じゃないから俺は気楽だよ」

 

 「『俺は』って、もしかして遠回しにプレッシャーかけてるか?」

 

 「ジジツヲイッタダケダ」

 

 「・・・ったく」

 

 冗談を交えつつ家路をたどる。家が近いため帰りはほぼ毎日一緒だ。

 

 人使は個性のせいであまり人が寄り付かない。そりゃ洗脳なんてされたくないだろうからな。それでも俺達がこうして話せるようになったのは、単に俺の個性のおかげだ。

 

 「しっかし初めて喋ったときは酷かったよなぁ」

 

 「まだ蒸し返すのかよ。忘れろ」

 

 「あんな強烈なもんを忘れられるわけないだろ」

 

 「・・・俺も一生忘れない自信がある」

 

 俺達の出会いは中学入学に遡る。

 

 

 

 同じクラスになった初日。人使が自己紹介で個性のことを明かしたのがきっかけだった。

 

 「俺の個性は洗脳です。俺の言葉に返事をするのが条件です。よろしくお願いします」

 

 こんな話を聞いた後に話しかけるなんて、馬鹿か勇者しかいない。だが俺は、とある好奇心とある種の確信を持って、放課後真っ直ぐに人使の席に向かった。

 

 

 

 「心操だっけ?俺のこと洗脳してみてくれ」

 

 

 

 空気が固まっている。

 当たり前だ。自ら洗脳されに行く既知外がいるのだから。

 言われた本人も言葉の意味が飲み込めずに戸惑っていたので、敢えてもう一度言った。

 

 「俺を洗脳してくれ」

 

 固まった空気が割れ、周囲から「何あれ」だの「ホモ?変態?」だの聞こえてくるが気にしない。

 やがて、怒気のこもった視線と共に人使が口を開く。

 

 「・・・冷やかしのつもりか?」

 

 「試したかっただけだ」

 

 「お前ふざっ・・・!?」

 

 会話が止まり、人使が驚いたようにこちらを見ている。俺はといえば、予想通りだったことに口角をつり上げる

 

 「やっぱり俺には効かなかったか」

 

 教室が静寂に包まれる。俺は平然としているが、クラスメイト、特に当事者の人使には衝撃の一幕だっただろう。

 たが俺はこの時、ようやく状況を飲み込めた人使の発言で、今度は自分が固まることになるとは思ってもいなかった。

 

 「お前・・・・・・化け物か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さすがに化け物って言われるとは思ってなかったからなぁ」

 

 「大河が自分の個性のこと先に言ってればああはならなかっただろ」

 

 「好奇心に勝てなかった。若かったんだよ」

 

 「2年しか経ってねえよ。あの後も大変だったんだからな」

 

 「大変だったよなぁ。そこは反省してる」

 

 

 

 

 

 

 

 あの爆弾発言の直後、俺達の話に興味を持った女生徒に人使が誤って洗脳をかけてしまった。慌てて解除したもののその女生徒が逃げるように去っていき、それを皮切りにクラスメイトが俺達を残して全員帰ってしまった。

 

 ちなみに俺の個性は『不干渉』。他人の個性の影響を受けないというものだ。不慮の個性事故を防げるのでわりと重宝している。

 これまで精神に干渉する個性の持ち主に出会わなかったため、確認半分からかい半分で話しかけた覚えがある。

 

 とりあえず人使には説明をして事なきを得たのだが、次の日からが散々だった。人が逃げていくのだ。話しかけても返事をせずにどこかへ行ってしまう為弁明が出来なかった。

 件の女生徒への謝罪も出来なかった。放課後2人で謝ろうと意を決して話しかけたところ、女生徒は短い悲鳴をあげながら椅子から転げ落ちたのだ。

 周囲からの白い目。沸き上がる罪悪感。結局小さく「ごめん」とだけ言い、逃げるように教室を出る。帰り道、彼女が落ち着くまで謝罪は控えることを決めた。

 

 明くる日も状況は変わらない、どころかむしろ悪化していた。噂が広まったのか、他クラスの生徒にも避けられるようになった。

 完全に孤立した俺と人使は頭を抱えたが、会話が成り立たない以上弁明そのものが出来ない。担任ですら俺達を避ける、文字通りの八方塞がりだ。

 

 その日から俺達は、教室の隅で2人だけで話をすることが増えた。少しでも目立たないようにしようという俺の提案を受け、なら隅っこにいたほうがいいと人使が言い、この構図が生まれた。

 端から見たらいじめにしか見えないが、原因が俺達にあるのでどうすることも出来ない。

 最悪これから3年間これが続くのかと思うと、絶望に心を押し潰されそうになる。唯一の救いは、話相手が心操人使その人だったことだろう。

 

 人使はその個性故に小学校時代からこのような環境に晒されていたようで、「むしろ気兼ねなく話せる相手がいるだけましだよ」と言っていた。

 その折れない心に俺が感動し、「親友になろう」と握手を求めたところ、人使は照れくさそうに微笑みながら握手に応じてくれた。お互いに名前で呼び合うことを決めたのもこの時だ。

 

 それから2週間ほど経ったある日の昼休み、いつものように2人で話していると、クラス委員長に選ばれたあの時の女生徒が話しかけてきた。

 なんでも数日前から俺達の様子や会話を気にしていたらしく、悪い人じゃないんだと気付き、意を決して話しかけてくれたらしい。

 

 話しかけてくれたことへの感激と謝れていなかった罪悪感が爆発し、俺達はその場で土下座した。勢いがよすぎてちょっと引いてた。

 それから3人で話をして、ようやくあの日の誤解を解くことが出来た。最初は恐怖心が前面に表れていた彼女も、次第に生来のものと思われる明るさを取り戻していった。

 

 「そういえば2人は知らないと思うんだけど、今2人の噂すごいことになってるよ」

 

 「ヤバい、聞いたら落ち込むの分かってんのにすげぇ気になる」

 

 「俺は慣れてるからそんなにかな。どんな噂?」

 

 「最初は『畑中は頭がおかしい』っていう噂だけだったんだけど、途中から2人でいることが増えたでしょ?」

 

 委員長の性格を知った今だからこそ、その言葉は俺の心に深く突き刺さった。

 

 「もう心が折れそう」

 

 「大丈夫だから続けていいよ」

 

 「カナシイ。2人でいるようになったのは成り行きというかなんというか」

 

 「『このままじゃ俺は孤独に殺される』って言ってたのはどこの誰だったかな?」

 

 「ボクジャナイヨ」

 

 黒歴史を掘り返すな。普通に話しかけても無視されそうな気がしたんだよ。

 

 「ふふっ。それで、いつも2人でいるから、『あの2人は何かを企んでいる』みたいな話になってって」

 

 「あれ?もしかして俺人使巻き込んだ?」

 

 「巻き込んだな。親友やめようかな」

 

 「俺がそんなに情の薄い男に見えるか?」

 

 「開き直んな。それで?」

 

 「うん。私が聞いたのは『あのクラスは洗脳済み』だとか『そのうち学校が乗っ取られる』とか『あいつらは敵《ヴィラン》だ』とかかな。」

 

 「ハートがブレイクしました」

 

 「真顔じゃ説得力ねえぞ。俺としては想像の域を出なかったな」

 

 仲良くなったからか人使が俺の扱いに慣れてきてるな。嬉しいような悲しいような。

 

 「慣れてるとは言ってたけどすごいね心操くん」

 

 「慣れないうちは抵抗もあったけどな。人間言われ続けると受け入れられるようになるもんだよ」

 

 委員長には誤解を解くついでに人使の過去を話してある。俺から。

 デリケートな話のはずなのだが、人使は特に気にしていなかった。親友だからかな。

 

 「人使の心の強さはそこから生まれたのか」

 

 「大河は人のこと言えないだろ。悪いけどあれに耐えられる人見たのお前が初めてだからな」

 

 「ってことは、前にもそういう人はいたの?」

 

 「ああ。俺と親しくするやつは大概同じ目に会って離れてったよ。あんな自己紹介したのも、そういうのを見るのが嫌だったからだしな」

 

 クラスメイトを気遣い、自分から遠ざけるための自己紹介。さすがは俺の親友だぜ!

 

 「あれってそういうことだったんだ・・・」

 

 「なるほどなぁ。・・・ん?その理屈でいうと俺は普通じゃないのか?」

 

 「ああ。お前は化け物だ」

 

 肺の空気が勢い良く飛び出した。委員長は、どうにか吹き出すのは免れたらしく、口に手を当てて小刻みに震えている。かわいい。

 

 「お前さぁ。このタイミングでそれは卑怯だろぉ」

 

 「他にふさわしい言葉が思い付かない」

 

 「てかその理屈だとお前も化け物になるぞ?」

 

 「俺は普通だよ。強くなっただけだ」

 

 こいつめ。親友だからって調子乗ってんな?なろうって言ったのは俺だけども。

 そんな何気ない?会話を続けるうちに、ようやく落ち着いたらしい委員長が戻ってきた。

 

 「2人は仲良しなんだね」

 

 「おうよ!なんたって親友だからな!」

 

 「俺は個性を気にせず話せる相手が初めてだからかな」

 

 「そっか・・・なんか、ごめんね・・・」

 

 急にテンションが下がり俯く委員長。そこに人使が切り込む。勇者だな。

 

 「いきなりどうした?」

 

 「さっき話した噂のことなんだけど・・・2人が『夜な夜な女生徒を犯している』っていうのがあって・・・嘘だとは、思ったんだけど、その・・・あの日の事があったから、ちょっと、信じきれなくて・・・」

 

 ばつが悪そうに話す委員長。委員長はあの日、短時間とはいえ自分の意思で体が動かせない、金縛りのような状態を経験している。

 人使の洗脳にかかると、いつでも命令を受け付けられるようにするためそういう状態になるらしい。

 うん。俺なら全力で疑うな。こればっかりは。

 

 「しょうがないよ。でも大丈夫!人使はホモだからそんなことしないよな?」

 

 「フォローしきれてないし新しい噂のタネになるからもっと言葉選べ」

 

 「えっ・・・あの・・・ホモなの?」

 

 「ごめん委員長。先に言ったのは俺なんだけどあえて言うよ。その単語は軽々しく口に出さない方がいい」

 

 まさか聞き返されるとは思ってなかったから動揺しちゃったよ。

 あれでも今の言い方だとつまりそっち系の知識があるということでそれがあるということは一般的な男女のそういう知識もあるということになり・・・いかん、急に委員長が色っぽく見えるようになっt

 

 「大河」

 

 危なかった。人使の呼び掛けがなかったら煩悩の渦に飲まれるところだった。

 

 「そういうのはもう少し隠すべきだと思う」

 

 「そういうの?どういうこと?」

 

 あああ委員長の純粋な眼差しが痛いいいい!

 

 「こいつが変態だってこと」

 

 「おい待て語弊がありすぎる訂正しろ俺は健全だ」

 

 「お前が健全だとすると俺が神仏か何かになっちゃうからお前は変態でいい」

 

 ついてこれない委員長を置き去りにしてマシンガントークをしているうちに、授業開始5分前の予鈴が鳴った。

 

 「お話しできて良かった。これからもよろしくね」

 

 「「こちらこそよろしく」」

 

 軽く会釈して席に戻る委員長の足取りが、俺の目にはなんだか嬉しそうに見えた。その姿を見届けた後、人使も委員長を見ていたことに気付く。

 向こうも気付いていたようで目が合ってしまい、肩をすくめて苦笑いしつつ、それぞれの席へ戻った。

 

 その日の帰りのHRに委員長から話があり、晴れて俺達はクラスメイトの誤解を解くことが出来た。

 

 ・・・2週間の溝が思ったより深く、全員と会話が出来るようになるまでに半年もかかったが。

 

 

 

 

 

 

 「あの子が委員長でホントに良かったよなぁ」

 

 「大河のせいで新たにホモ疑惑が浮上したけどな」

 

 「あれは俺だけのせいじゃないぞ!・・・言い出しっぺは俺だけど」

 

  委員長の話の中に「彼らはホモではありません!」とかいうよく分からない1文があったため、それまでの噂が消えた代わりに『あいつらはホモ』とかいう不名誉な噂が流れ出した。

 2人でいることが比較的多いからか今でもその噂は受け継がれている。

 

 「親友と駄弁ってるだけなんだけどなぁ」

 

 「『親友』ってのも原因かもな。大体の人は友達って言うだろ?」

 

 「でも俺らは親友じゃん?」

 

 「大河が言い出したんだろ。まぁ俺も友達よりは親友の方がしっくりくるな」

 

 中学入学からこれまでずっと同じクラスだったこともあり、俺達の仲は留まることなく深まっていた。

 

 「んじゃ、また明日な」

 

 「おう、お互い受験勉強頑張ろうな!」

 

 人使の家に着き別れの挨拶を交わす。俺の家は、ここから1分ほど歩いた先にある。

 

 「お前なら、いいヒーローになれるよ」

 

 人使が家に入るのを確認してから、直接言うには少し気恥ずかしい台詞を呟き、家路を辿った。

 

 

 




 やたら膨らんだ2人の馴れ初め
 委員長はこの先出てこない予定なのであえて名前はつけませんでした
 心操が化け物と言ったのは、人間は洗脳可→目の前の奴に洗脳がかからない→こいつは人間じゃない という思考からです
 次はとりあえず実技試験のことでも書こうかなと思ってます

 


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ヒーロー科実技試験


 いきなり実技試験はっじまっるよー!
 本当はトレーニングとして対人組手とかやらせたかったんですが、筆者が知識不足なためバッサリ割愛しました
 あと基本は大河視点なんですが、一部表現の都合で第三者視点があります 読みづらくなっているかもしれませんがご了承くださいm(_ _)m


 

 

 

 俺達は今、雄英高校入試の実技試験会場に来ている。

 

 「倍率がヤバいとは聞いてたけど・・・マジでこれ全員受験者なのか?」

 

 「年々倍率上がってるらしいからな。今年は300倍超えたなんて噂もあるぞ」

 

 「みんな本気でヒーロー目指してるんだろうな・・・俺帰ってもいい?」

 

 「ここまで来たんだから腹くくれよ。・・・つっても大河にこの空気はちょっと重いか・・・」

 

 俺はヒーローを目指していない。周りの奴等はどこを見てもギラついたオーラを醸し出している。さすがの俺にもこの空気感はキツいものがある。

 

 「でもお前は化け物だから大丈夫だろ」

 

 「その理屈はおかしい。てか俺が化け物っていう前提がそもそもおかしい」

 

 いつものように軽口を叩く人使。こいつは本当に鋼の心臓してるな。

 ・・・と思った矢先、人使の表情に、おそらく俺しか気付けないであろう僅かな緊張感が見てとれた。

 そうだよな。お前はずっとヒーローを目指してきたんだもんな。

 

 「やれることはやったんだ。あとは試験の内容次第!だろ?」

 

 「・・・そうだな」

 

 人使は個性の都合上こういう個性ありきの試験は不利になりやすい。担任からも、ヒーロー科の合格は厳しいと言われている。それでも諦めずにここまで来た。

 

 「お前ならやれるって信じてるぞ」

 

 「折れそうなフラグ建てるなよ。でもまぁ、気持ちはありがたく受け取っとくよ」

 

 人使が突き出した拳に自分の拳を合わせ、俺達は試験会場に入っていった。

 

 

 

 

 

 定刻が過ぎ、実技試験の説明が始まる。今回の試験の内容は、ロボット型の仮想敵を倒し、制限時間内により多くのポイントを獲得することが目標だそうだ。

 

 (詰んだ。俺達の個性まるで役に立たねぇ)

 

 隣にいる人使も同じことを思ったのだろう。悔しそうな表情を浮かべている。

 

 (戦闘力しか見る気がないのか。確かにヒーローにとって強さは大事だと思うけど)

 

 明らかに自分達に不利な試験内容だが、嘆いても仕方ないので気持ちを切り替える。

 

 (おそらく外装は堅いから素手じゃ倒せない。他の受験者が壊したロボのパーツを利用するしかなさそうだな)

 

 今のうちにこの試験で出来ることを考えておく。記念受験とは言ったが、手を抜くつもりはない。それは他の受験者を、何より唯一の親友を侮辱する行為にあたる。

 

 途中堅物そうなメガネが質問し、0ポイントのロボの説明があった。要はお邪魔ギミックだな。

 その後は試験会場の説明。同じ中学の生徒が一緒にならないようにある程度のグループに分かれるという話があった。

 

 人使と別会場になったことに僅かな悲哀を抱きつつ、指示に従ってそれぞれの場所へ移動した。

 

 

 

 

 

 会場に着く。制限時間は10分だ。

 スタート前に改めて動きの確認だ。とりあえず武器を確保してからが本番だから開始直後は様子見し『スタートォ!!』てロボの破片を・・・?

 『どうしたぁ!?実戦ではカウントダウンなんざねぇぞ!?もう試験は始まってるぜぇ!!?』

 試験官の声が会場に響く。慌てて受験者達が駆け出していった。

 

 (いきなり始まるのかよ!?っああもうとりあえず武器探しだ!!)

 

 走りながら取り回しの良さそうな破片を探す。ほどなくして、ハンマーのような形状の破片を見つけた。

 

 「とりあえずこれを使うとして、その前に!」

 

 堅さを確認するために破片を殴る。

 

 (やっぱ堅ぇ。特攻しなくて正解だった!)

 

 何も考えず思いっきり殴っていたら、おそらく拳が壊れていただろう。

 自分が立てた作戦の成功に一先ず安堵し、即座に次の行動に移る。

 

 「あとはコイツでアレを倒せれば!!」

 

 近くにいた大きく『1』と書かれたロボに突撃。突き出してきた腕を目掛けて、両手で持った破片を全力で振り抜く。

 

 「よいっ・・しょぉ!!」

 

 ゴンという鈍い音と共に、破片が伸びた腕の横っ面にあたる。破壊こそ出来なかったが、衝撃でロボがバランスを崩した。

 

 (チャンス!)

 

 反動で崩れかけた体勢を整えつつロボの懐に潜り込み、人間でいう心臓の部分を狙って全身全霊の一撃を叩き込む。

 

 「うおおぉぉ・・らあぁ!!!」

 

 ゴォンとさっきより一回り大きな音が響き、ぶち当てた箇所が大きくへこんだ。

 今度も破壊は出来なかったが、ロボは徐々に動きが鈍くなり、やがて完全に動かなくなった。

 

 (機能停止・・・なら倒したことになるはず!)

 

 ここまでで1分は経っただろうか。出遅れた感は否めないが、この戦法は通用する。

 

 (あとは時間内に、出来るだけ多く!!)

 

 時間は有限、立ち止まる暇はない。次なる標的を目指して俺は走り出した。

 

 

 

 

 

 2ポイントも倒せることが分かり、順調だと思っていた作戦。だが、6体目に攻撃した際にある違和感が訪れる。

 

 (手応えが・・・弱くなった?)

 

 破片を見ると、十字部分の根元に割れ目が出来ていた。度重なる衝撃で、武器が壊れかけているのだ。

 

 (しまった!頭から抜けてた!!)

 

 ハンマーのような形状の破片。取り回しに優れているそれは、壊れやすいという欠陥も抱えていた。

 

 (つっても今は戦闘中だ!頼む、なんとか・・・倒すまで保ってくれ!!)

 

 目の前のロボを倒すことを優先し、攻撃を仕掛ける。しかし祈り届かず、無情にもその攻撃で破片が折れ、手元に残ったのは柄の部分のみ。

 ダメ元で攻撃を仕掛けるが、ロボはびくともしない。

 

 (しゃーねぇ。一旦離れて武器探しだ!)

 

 ロボの攻撃範囲から逃れる為に後ろへ跳ぶ。が、瓦礫に足をとられ体勢を崩し、倒れた際に後頭部を強く打ち付けてしまった。

 

 (いっ!?)

 

 意識が途切れた。

 

 

 

 おそらく数秒だったのだろう。俺が意識を取り戻して最初に見たのは、さっきまで俺が戦っていたロボの頭を、男が蹴り砕く姿だった。

 

 「君!大丈夫か!?」

 

 聞き覚えのある声。試験前に質問してた堅物そうなメガネだった。

 

 「あぁ、大丈夫だ」

 

 返事をして起き上がる。痛みはあるが体は無事だった。

 

 「危ないとこだった。ありがとう!」

 

 「礼には及ばん。ポイントを横取りのようなものだからな」

 

 ふくらはぎに排気筒のようなものがついているその男は、イメージに違わず堅物っぽい口調だった。

 「以後気をつけたまえ」と言い放って走り去る男の背中を見ながら、俺はひどく冷静になった頭であることを考えていた。

 

 (ポイント目当てかもしれないがあいつは俺を救けてくれた・・・救けることはヒーローの活動の1つ・・・だとすれば)

 

 思い出せ。試験前の説明を。

 

 (あの時・・・試験官は1度も、ポイントの獲得方法がロボだけとは言ってなかった・・・)

 

 確証はない。でも可能性はある。

 

 (もしそうなら俺がとるべき行動は・・・!!)

 

 新たな決意を胸に、俺は走り出した。

 

 

 

 

 

 「今年も活きのいい奴がイッパイいるぜぇ!?」

 

 「雄英目指してんだ。このくらいは出来て当然だろ」

 

 「シヴィー!!」

 

 モニター室に響く、やたらとテンションの高い声と、対称的にひどく落ち着いた低い声。

 

 「しかしこの試験のシステムはどうにかならんのかね」

 

 「なんだ?なんか気になることでもあんのか?」

 

 「戦闘に重きを置きすぎだ。このシステムだと、俺みたいな個性の奴は必然的に不利を強いられる。合理的じゃない」

 

 「言うねぇ。けど、これより適切な案が出てこなかったんだから、諦めるしかねぇよ」

 

 「それはそうなんだがな・・・ん?」

 

 「どうした?」

 

 2人は数あるモニターの1つを注視する。そこには、他の受験者とは動きが異なる1人の少年が映っていた。

 

 「こいつは・・・」

 

 「さっきまでロボの破片で戦ってたよな?」

 

 「ああ、だが・・・」

 

 その少年は、人を救けるために動いていた。

 

 「気付いたのか?」

 

 「みたいだな。明らかに動きが違ぇ」

 

 

 

 

 

 

 俺は、他の受験者を救けるために動いていた。

 

 (おそらくこの試験は、人を救けることでもポイントが加算される)

 

 

 

 

 

 レスキューポイント。試験前に説明されなかったもう1つの採点基準。

 少年は、この隠された要素に自力で辿り着いていた。

 

 

 

 

 

 (勘違いの可能性もある。無駄な努力かもしれない。それでも)

 

 

 

 

 元より少年は、記念受験としてこの場にいる。試験に合格することが目的でなかったからこそ、迷わず選択できたのかもしれない。

 

 

 

 

 (困ってる人を救ける!!)

 

 

 

 

 

 

 救けるとは言ったが、あくまでも自分が出来る範囲でだ。俺を救けたあいつはロボを粉砕してたけど、俺にそんな能力はない。

 せいぜい出来たのは、瓦礫に挟まれた人の救助と、怪我をした人の応急処置くらいだった。

 

 (自分用に持ってきた応急処置セットがこんな形で役に立つとはな・・・)

 

 携帯用のため量は少なかったが、あからさまに大怪我をしている人のみに対象を絞ることで、なんとか保たせていた。

 

 (あと2人分あるかないか・・・本当は使わずに済むのが一番なんだがな)

 

 そんなことを考えながら捜索を続け、新たに瓦礫に足を挟まれている人を見つけ、救けに行こうと走っている最中に、それは来た。

 

 (なっ、なんだ!?)

 

 強烈な揺れ。バランスを崩し勢いのまま地面に倒れ込む。地震とは明らかに違うその揺れは、数秒の後に収まった。

 立ち上がれなかった。揺れのせいでも、転んで怪我をしたからでもない。視界に入ったそれが、絶望となって俺の体を縛りつけていた。

 

 規格外の大きさのロボット。高層ビルを思わせる圧を持ったそれが、目の前にそびえ立っている。

 

 (おいおい馬鹿かよ!あんなのに潰されたら大怪我どころじゃ済まねぇぞ!!早く救けないと・・・でも)

 

 

 

 

 少年は動けない。頭では救けたいと思っていても、体が言うことをきかない。

 

 彼は幼い頃のトラウマのせいで、『命懸けの救助に対して体が拒絶反応を示してしまう』。

 

 

 

 

 

 (このままじゃあの子は救からない。なにか、なにかやれることはないのか・・・!)

 

 頭をフル回転させ、俺もあの子も救かる方法を考えるものの答えは出ない。

 

 

 

 

    俺にはなにも出来ない

 

 

 

    見捨てるしかない

 

 

 

 

 諦めが頭を過った直後、俺の視界の端で、緑色の閃光が迸り、視界から消えた。

 思わず上を見上げると、さっき見た緑色の閃光を纏った男が、ちょうど巨大ロボの顔の辺りまで飛び上がっていた。

 

 (あいつ・・・今までどこに・・・っていうか、まさか!!)

 

 そのまさかだった。そいつは、緑色の閃光を迸らせながら、巨大ロボの顔面をぶん殴った。

 どこからそんなパワーを出したのか、ロボがその衝撃に耐えられず、仰向けに倒れていく。

 

 (・・・っ!今なら!!)

 

 命の危機が去り、ようやく動けるようになった俺はすぐさま走り出し、瓦礫に足を挟まれていた女の子を救けた。

 

 「動けるか?」

 

 彼女は俺の質問には答えず、立ち上がってふらふらと歩き出す。

 

 「このままじゃ、あの人が死んじゃう・・・!!」

 

 彼女の言葉にはっとする。さっき巨大ロボをぶっ飛ばしたあいつが、今まさに落下を始めたところだった。

 

 「私の、個性なら、救けられる!!」

 

 彼女は真っ直ぐに空から落ちてくる男の方へ向かっていく。俺は邪魔をしないようにしつつ、彼女の後ろをついていく。

 

 (この状況で『救けられる』って言ったってことは、彼女の中に確信があるってことだ。なら俺は、その言葉を信じる!)

 

 落ちてくる男を見る。緑色のモジャモジャした髪に、全体的に細身な地味目の少年。落下の恐怖からか涙を流しながら、ぐしゃぐしゃの顔でパンチの体勢をとっていた。

 地面に着くか着かないかの瀬戸際、彼女が少年の頬を右手で叩いた。

 

 瞬間、少年の体は、まるで時が止まったかのようにピタリと止まった。

 

 その後彼女が指の腹をつけるようにして手を合わせる。すると少年は、まるで『そこから落下が始まった』かのように地面に崩れ落ちた。

 少年に駆け寄り状態を確認する。何をしたらそうなるのか、両足と右手が常軌を逸した壊れかたをしている。

 

 「せめて・・・1ポイント・・・!」

 

 本来なら意識を失っていてもおかしくない大怪我。そんな状態の彼が発したのは、仮想敵を倒そうとする気概だった。

 ほどなくして試験終了のブザーが鳴り響き、彼はその音と共に気を失った。

 

 あまりの状況に終了後も動けずに固まっていると、後ろの方からしゃがれたおばあさんのような声が聞こえた。振り返ると、雄英きっての看護教諭である、リカバリーガールが歩いてきていた。

 治癒を施してもらい、地味目の少年の怪我は見た目はほぼ完治したが、気を失っていたので、会場にあった簡易ベッドまで運び、待っていた試験官に引き継いだ。

 

 「あの、救けてくれてありがとう」

 

 地味目の少年を心配してついてきていた彼女が、思い出したように話しかけてくる。

 

 「あのモジャモジャの人、『せめて1ポイント』って言ってた・・・もしかして、0ポイントだったんかな・・・」

 

 「かもな・・・にしても、なんであの巨大ロボ相手に突っ込んでったんだろうな」

 

「よーぅ。まだいたかお前ら」

 

 声がした方に振り向くと、さっき行き会った試験官が、ヒラヒラと手を振りながら歩いてきていた。

 

 「そっちの坊主頭に1個だけ聞きてえ事があってな」

 

 「俺に?何ですか?」

 

 「ズバリ聞くぜ。この試験の仕組みに気付いたのはいつだ?」

 

 試験の仕組み。てことはやっぱり救助も加点対象だったのか。

 

 「堅物そうなメガネが俺を救けてくれた時ですね」

 

 「なるほど、それで救けるって行為に目ぇつけたわけだ」

 

 「半信半疑でしたけどね」

 

 「試験の仕組み?なんかあったの?」

 

 「えーっと・・・これ言っちゃってもいいんですか?」

 

 「試験はもう終わってるからな、ノープロブレムだ」

 

 許可を得て、この試験の隠された仕組み、救助によるポイントの存在を説明する。

 

 「ほえぇ~、全然気付かんかった・・・」

 

 「俺も途中まではロボしか頭になかったからな」

 

 「けどお前は気付いた。見てた限りじゃ、この会場で気付いたのはお前だけだぜ?」

 

 そりゃそうだろ。俺が気付いたのもたまたまだからな。・・・待てよ、てことは。

 

 「あのモジャモジャ頭って、もしかして」

 

 「あぁ。あいつはあの時、ただ救ける為だけに動いたんだ。それも、ロボを1体も倒せてなくて0ポイントの状態で、それでも迷わずに救けることをチョイスした」

 

 驚愕の事実だ。横を見ると、彼女も俺と同じ反応だった。

 終了間際の動きから察するに、あいつは記念受験とかじゃなく、本気で合格を目指してた。

 

 

 つまりあいつは、『試験合格』と『人命救助』を天秤にかけた上で、迷わず『人命救助』を選んだんだ。おそらく、自分の体が壊れることを承知で。

 

 

 「おい、いつまで話してんだ」

 

 突然、無精髭を生やした顔色の悪いオッサンが割って入ってきた。

 

 「よぉイレイザー。どうした?」

 

 「どうしたじゃない。他の受験者はほぼ帰ってるぞ。お前らも早く帰れ」

 

 どうやら試験官の知り合いらしい。言われてみれば、あれだけいた人がほぼ居なくなっていた。

 

 

 

 「あの人、合格出来るんかな・・・」

 

 「採点基準が分からないからなんとも言えないな」

 

 俺達は、自分達の合否そっちのけで、あの地味目の少年について話しながら門まで歩く。

 

 「そういえば名前聞いてなかったね。俺は畑中大河。君は?」

 

 「私は麗日お茶子。次会えるとしたら雄英入学してからだね」

 

 「そうなるね。それじゃ、また会えることを祈ってるよ」

 

 帰り道が違うので門の前で別れる。そして、おそらく俺を待っていたであろう人使と合流する。

 

 「浮気か?」

 

 「どこからツッコめばいいんだ?」

 

 「冗談だよ。試験はどうだった?」

 

 「案の定ってとこか。人使も似たようなもんだろ?」

 

 「大河に言われると釈然としないけど、そうだな。正直、ヒーロー科の合格は無理だと思ってる」

 

 試験内容を振り返りつつ、いつものように2人で家路を辿る。

 

 「そういえば妙に出てくるの遅かったけどなんかあったのか?」

 

 「帰り際に試験官に捕まった」

 

 「ナンパなんかしてるからだろ」

 

 「俺がそんな軽率な男に見えるか?」

 

 「見える」

 

 「親友からの信頼(別方向)が厚すぎてツライ」

 

 もはや恒例行事と化した人使の俺イジリ。露骨に不利な試験だったので心配していたが、引きずってはいないようでほっとする。改めて人使の心の強さを実感した。

 

 「んじゃ、またな」

 

 「おう」

 

 そうこうしているうちに人使の家に着く。いつも通り見届けた後、やたら濃厚だった今日という日を噛み締めながら、俺は普段より緩やかな足取りで家路を辿った。

 

 

 





 戦闘ポイント0を回避するのが大変だった
 早くも現1ーAメンバーとの絡みがありますが、書く前は完全オリジナルの予定でした ですが、書きたいことに対して筆者の想像力が追い付かなかった為、このような形になりました

 次回は、今回ちらっと出てきた大河のトラウマを掘り下げる予定です


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入学前面談とトラウマ


 大河のトラウマの話です
 誇張しようと書き足していたら、やたらグロテスクなシーンが出来上がってしまいました 苦手な方はご注意ください
 


 

 

 事の発端は昨日来た電話だった。

 

 「面談・・・ですか?」

 

 『そうだ。君はヒーロー科と普通科の両方を受験しているな?』

 

 「はい」

 

 『その件で、こちらで不都合があってな。申し訳ないが雄英まで来てほしい』

 

 「電話では話せない内容なんですね?」

 

 『察しがよくて助かる。明日は空いてるか?』

 

 「予定とかは特にないです」

 

 『わかった。では明日の午前8時に門まで来てくれ。迎えの者を出しておく。急ですまないがよろしく頼む』

 

 「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 そして今、俺は雄英高校の門の前にいる。少し早く来すぎたためか、迎えの人はいなかった。

 ほどなくして、実技試験で俺がいた会場の担当だった試験官が歩いてくる。

 

 「また会ったな、元気だったか?」

 

 「おはようございます。えっと・・・」

 

 「おっと自己紹介がまだだったか、俺はプレゼント・マイク。よろしくな!」

 

 「よろしくお願いします」

 

 「おう。んじゃ早速案内するぜ!」

 

 マイク先生から特別許可証を受け取り中に入る。

 雄英は、部外者の侵入を防ぐ為、許可の無い者が入ろうとすると自動で門を閉めるシステムがある。誰が言い出したのか、巷では『雄英バリアー』と呼ばれている。

 

 

 

 

 「ちなみに俺は出迎えだけだ」

 

 校長室へ案内されている途中、俺はマイク先生と会話をしながら歩いていた。

 

 「そうなんですか?」

 

 「あぁ。今回の面談は内容が特殊だからな。俺は不適任だからってことで外された」

 

 「特殊・・・ですか?」

 

 なんだ?ダブル受験のことでって聞いたけど、別にそれ自体は悪いことじゃない。人使もやってるしな。

 なら試験中のことか?筆記は不正とかはしてないし、実技にしたって途中から救助に切り替えたとはいえ、それも悪いことじゃないはずだ。

 

 「ま、詳しいことは中にいる2人に聞いてくれや」

 

 いつの間にか校長室の前に着き、マイク先生は俺を置いて行ってしまった。あの、せめて入るまでは一緒にいてほしかったんですけど・・・。

 1人になってしまった俺は、深呼吸を1つ挟み、説教ではないことを祈りつつドアを開けた。

 

 

 

 「失礼します」

 

 「やぁ、待っていたよ。わざわざすまないね」

 

 校長室に入って最初に目にしたのは、おそらく校長用であろう豪華な椅子に座るネズミだった。

 

 (ネズミ・・・!?てか今喋った・・・!?)

 

 その場で硬直。理解が追いつかない。

 

 「あっはは!予想通りの反応だね!とりあえず、落ち着いたらそこに掛けてね!」

 

 そういう反応をされることに慣れているのだろう。そのネズミは、穏やかな口調で俺にそう促した。

 

 (やっぱり喋ってる!?個性なのか!?ていうかあそこに座ってるってことは校長なのか!?)

 

 想定外過ぎて思考がまとまらない。知らない人との個人面談でやたら緊張していたのもあって、俺の頭はパニック寸前だった。

 数秒後、どうにか体を動かすに至った俺は、開けっ放しだったドアを閉め、動揺を隠せないままとりあえず席に着いた。

 

 「まずは自己紹介からだね。僕はこの雄英高校で校長を任されている根津という者だ。見てのとおり、ネズミさ!」

 

 校長だった。人語を話すネズミ。やはり理解が追いつかない。

 

 「僕の個性は『ハイスペック』。人間以上の知能が発現するという、世界的にも珍しい種類の個性だ。僕が人間の言葉を話せるのは、この個性のお陰なのさ!」

 

 そして個性。俄には信じがたいが、目の前でこうして喋っている以上受け入れるしかない。

 抱いていた疑問が解消されたことで、少し落ち着きを取り戻せた。

 

 「そして僕の隣にいる彼が、僕が今回選んだもう1人の面接官さ!」

 

 「相澤消太だ。よろしく」

 

 校長の事にばかり気を取られて意識から外れていたが、その隣には確かに男の人がいる。どっかで見たような気がする。

 そうだ。試験後にマイク先生と麗日さんと3人で話してるときに、早く帰るようにって言ってきたあの人だ。声と名前から、電話の相手もこの人だろう。

 

 「よろしくお願いします。畑中大河です」

 

 呼び出された以上俺の名前は知っているはずだが、初対面で名乗らないのは失礼な気がするので名前を告げた。

 

 「さて、本題に入る前に言わなきゃいけないことが1つ。それは、君の試験の合否についてだ」

 

 待ってくれ。まだ動揺が収まりきってないんだ。いきなり合格発表とか心の準備が!

 言いたいことはあるのだが、話が進まなくなりそうな気配を察し、どうにか言葉を飲み込む。

 

 「発表しよう!君はヒーロー科と普通科どちらも合格だ!」

 

 (よっしゃあああ!受かったあああ!)

 

 小さくガッツポーズする。立ち上がって叫びたい所だが、さすがにこの状況じゃ恥ずかしいからやめとこう。

 ・・・ん?ちょっと待てよ?今何て言った?

 

 「あの、聞き間違いですかね?俺、ヒーロー科の方も合格したんですか?」

 

 「聞き間違いなんかじゃないよ。厳正なる審査の結果、君は両方の科の合格基準を満たした!それも、実技試験に関しては総合2位という誇るべき成績だ!」

 

 まじかよ。記念受験のつもりがガッツリ合格してんじゃねーか。

 

 「2位ってことは、救助での獲得ポイントの配分がそれだけ大きかったってことですか?」

 

 「救助ポイントは雄英教師陣による審査制!どれだけ人の心を動かしたかによってポイントが変わるんだ!ちなみに君が獲得したレスキューポイントは68点!この数字は、僕が知る過去の試験の中でも稀に見る高得点なのさ!」

 

 「特に君は、途中からヴィランポイントを捨ててまで救助を行っていた。その献身性がより多くの支持を得たというわけだ」

 

 (ロボを無視したのはそのレスキューポイントの存在に気付いたからなんだけどな)

 

 そこは雄英教師、それもちゃんと理解した上での採点だろう。

 

 「そしてここからが本題!君の第一志望は普通科だったね?」

 

 「はい。ヒーロー科は正直記念受験のつもりでした」

 

 正直に話す。校長の言い回しに、なにか引っ掛かるものがあった。こういうときは、包み隠さずさらけ出した方がいいと思っている。

 

 「でも君は優秀な成績を修めて合格している。僕としては、是非とも君にヒーローを目指してほしいと思っている。それでも、君は普通科を選ぶのかい?」

 

 なるほど。この人はおそらく俺がヒーローを目指していないことを知っている。なのにこの質問をしてくるってことは。

 俺は深呼吸を行い、家族と人使にしか話していない、心の底にある自分の本音を、さらけ出す。

 

 「意思は変わりません。俺は、『ヒーローになってはいけない人間』なんです」

 

 静寂。時が止まったかのように音が消えた空間。

 相澤先生は途中から声を発していない。真剣な眼差しで俺を見つめている。

 やがて、最初とは打って変わって神妙な面持ちになった校長が、この空間に切れ込みを入れるように静かに、その重い口を開いた。

 

 「それは、君があの時、全く動けなかったことと、関係があるのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 その事件は、俺がまだ幼稚園に通っていた頃、父さんと出掛けている時に起きた。

 

 その日は午前中にプールで遊び、飲食店で昼食を食べていた。なんでもない日常の一幕。

 そしてそんな日常を非日常に変えるのは、いつだって敵である。

 

 「どいつもこいつも幸せそうなカオしやがってクソガァァァ!!」

 

 店に入るなり叫びだした男が、腕を刃物に変えて暴れだした。店内が、一瞬で悲鳴と怒号に包まれる。

 真っ先に動いたのは父さんだった。父さんはプロヒーローで、俺と同じ個性。店にいた人を逃がすために、たった1人で敵に立ち向かったのだ。

 敵は父さんの個性に面食らっていたが、途中で気付いたのだろう。隠し持っていた包丁のような武器を取り出して応戦していた。

 

 俺は逃げ遅れていた。何が起きているか分からなかった。立ち尽くしたまま、武器を振り回す敵と対峙する父さんを見ていた。

 

 「・・・っ!大河!早く逃げろ!!」

 

 父さんが叫ぶのと、敵が不吉な笑みを浮かべるのは同時だった。俺に標的を定めた敵。迫ってくる狂気に耐えることなどできず、俺はその場にへたりこんで目を閉じた。

 

   ドシュッ

 

 何かがなにかに刺さる音。でも不思議とどこも痛くない。何が起きたのか、俺は恐る恐る目を開けた。

 

 

 

 

 

 血を流して倒れている父と、恍惚の表情を浮かべている敵の姿。

 

 

 

 

 惨劇。さっきまで孤軍奮闘していた父さんが、敵にやられて倒れている。そして、恐怖と絶望で目を閉じることができなくなった俺の目の前で、惨劇がさらに加速する。

 

 

 

 

 

 

 

 「ガキをかばったァ!!さすがはヒーロー様だぜェェ!!最っ高だァァ!!!!」

 

 ドチュッ ドチュッ ドチュッ

 

 

 

 

 

 

 

 敵が、父さんの体を滅多刺ししていた。刺さる度に噴き出す血飛沫と、声にならない声。まるでそれが最上の悦びであるかのような敵の表情。

 

 

 眼前で行われたそれは、紛れもない地獄の光景だった。

 

 

 父さんが物言わぬ骸と化したあとも、敵は叫びながら刺し続けていた。やがて、通報を受けて来たのだろうヒーロー達にあっけなく捕まり、警察に連れていかれた。

 

 

 

 その後警察に保護され母さんが連れて帰ったらしいが、俺は覚えていない。ただ脳裏に焼き付いた地獄の光景だけが、壊れたテープのように流れ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「しばらくの間は外に出ることができず、眠ることすらままならない状態でした」

 

 あの日脳裏に焼き付いた地獄の光景が、絶対的な死が、俺の心を縛り付けた。

 

 「夢の中でその光景を見て、叫びながら飛び起きて。起きてる時も、母さんが視界から外れるだけでフラッシュバックで発狂してました」

 

 2人は、黙って俺の話を聞いてくれた。

 

 「母さんは、24時間付きっきりで俺のそばにいてくれました。職場に連絡して、買い物とかも知り合いに任せてて」

 

 俺は、独白のように、語り続ける。

 

 「知らない人を見るのもダメでした。事情を聞いて夫婦で訪ねてきた人がいたんですけど、視界に入った瞬間に発狂してしまって。あの時の俺は、母さん以外のすべてを拒絶してました」

 

 「・・・それは、どのくらい続いたんだい?」

 

 ずっと俺の話を聞いてくれていた校長は、とても心配そうな面持ちだった。

 

 「1週間くらいで、とりあえず知らない人を見ても大丈夫になりました。母さんと離れても大丈夫になるまでには1ヶ月くらいかかりました。完全に1人でいられるようになったのは、2年以上経ってからです」

 

 「・・・立ち直れなくなっていても何らおかしくない。君は、どうやって立ち直ったんだ?」

 

 相澤先生は表情からは読み取れないが、ひどく優しい声色だった。

 

 「きっかけは、転びかけた友達の体を支えたときに、『ありがとう』って言われたことです。心が、スッと軽くなるのを感じました」

 

 不意に紡がれた感謝の言葉が、俺の暗く沈んでいた心を照らしてくれた。救われた。素直にそう思った。

 それから俺は、人助けを率先して行うようになった。感謝されるために、心を癒すために、その身を捧げた。

 

 「完全立ち直ったあとも、ずっと人助けは続けてました。自分のために利用したって負い目もあったんですけど・・・何よりも、人に感謝されるのが、嬉しかったんです」

 

 いつの間にか、人から貰うありがとうの言葉が、感謝の気持ちが、俺の生きる原動力になっていた。

 

 人助けを積極的に行うその姿勢から、俺はヒーローに向いてるとよく言われる。ただ俺の心には、ヒーローとしては致命的な欠陥があった。

 

 「工事中の建物の近くを歩いていた時でした。鉄骨が降ってきて、落下先に女の子がいて。もし当たったら命が危ないって思ったときに、あの光景がフラッシュバックして。幸い女の子は無事たったんですけど、俺はその時、1歩も動けなくて」

 

 父さんは俺を救けて命を落とした。その事実が俺の心に刻み込まれ、救けようとする心を飲み込む。

 

 「それから似たような事が何回かあって自覚したんです。俺は、『命の危険があって、それが自分に降りかかる状況になると動けなくなる』って」

 

 「・・・それが、君がヒーローを目指さない、いや、ヒーローになることを諦めた理由なんだね」

 

 「はい」

 

 俺の行動を見てる人達は、みんながみんないいヒーローになれると言ってくれている。

 でも、救けを求めてる人がいるのに、自分の命かわいさに見捨てるような奴は、ヒーローとは言えない。

 

 「畑中」

 

 不意に、相澤先生が語気を強めた声で俺を呼んだ。

 

 「お前は1つだけ勘違いをしている」

 

 「勘違い・・・ですか?」

 

 「お前は自分のことを『ヒーローになってはいけない人間だ』と言ったがそれは違う」

 

 「違うって、どういうことですか」

 

 たまらず語気を強める。ここまで話してなお自分の考えを否定されたことに苛立ちを覚えた。

 

 「お前は既に、ヒーローの根幹である、困っている人に手を差し伸べられる献身性を持っている」

 

 「けど!!」

 

 「だからこそ」

 

 遮ろうとした俺に構わず、相澤先生は話を続けた。

 

 「お前の心に根付くトラウマを克服できたとき、お前はヒーローになれる」

 

 トラウマの克服。確かに相澤先生はそう言った。

 俺が一生抱えたまま生きていくしかないと思っていたもの。この人は、それを克服した未来を見ている。

 

 「もちろん生半可な道じゃないだろう。最悪の場合一生つきまとうかもしれない。だが、お前がそれを乗り越えた時」

 

 一際視線を強くして、相澤先生が口にした言葉は。

 

 「お前は、本物のヒーローになれる」

 

 俺が望み、俺が諦めた未来を提示する言葉だった。

 

 本物のヒーロー。その言葉に込められた思いが流れ込んでくる。

 今のヒーローは敵退治ばかりに集中したり、金や名声が目当てだったり、本来のヒーロー像からかけ離れている人が多いのだ。

 

 「本物のヒーローっていうのは・・・そういう意味だと捉えていいんですか?」

 

 「察しが良くて助かる。これを言うのは2回目だな」

 

 俺の心境の変化に気付いたのか、相澤先生はそう言って微笑んでいた。

 

 「さて!畑中くんがいい顔になったところで話をまとめよう!ようこそ雄英高校ヒーロー科へ!!」

 

 「あ、いや、普通科でお願いします」

 

 ズルッと音が聞こえそうなほど2人の全身の力が抜けるのが見えた。

 

 「あれ?てっきりヒーロー科だと思ったのは僕だけかい?」

 

 「俺もそう思ってましたよ。畑中、どうしてだ?」

 

 ヒーローを目指さない訳じゃない。これは、俺なりのけじめだ。

 

 「実技試験の時の俺は、ヒーローになるつもりはありませんでした。そんな俺がヒーロー科に入るのは、ヒーロー目指して努力してきた他の受験者に失礼だと思ったからです」

 

 俺がヒーロー科に入れば、本来受かるはずだった人が落ちてしまう。だから。

 

 「俺は、普通科から編入を目指します!」

 

 2人は納得したように微笑み、立ち上がる。つられて俺も立ち上がった。

 

 「それじゃ、これで面談を終わりにするよ!相澤君、あとはよろしく!」

 

 「分かりました。畑中、迷わないように門まで送っていく。着いてこい」

 

 長かった面談が終わる。お礼と挨拶をして、相澤先生とともに校長室を後にした。

 

 

 

 

 門までの道のり、学校がでかすぎるせいでやたら長い距離を、先生と会話しながら歩く。

 

 「資料にはおちゃらけた性格と書いてあったんだが存外真面目なんだな」

 

 「あの状況でおちゃらけかます度胸はさすがにないです」

 

 誰だそんなこと資料に書いたのは。

 

 「あとは親しい友達に化け物扱いされてるらしいな」

 

 「その資料書いた人の名前教えてもらえません?」

 

 「分からん。自分で探せ」

 

 くそう。あとで担任に問い詰めてやろうか。

 

 「親友が隙あらば俺を化け物って呼ぶんです」

 

 「仲は良いんだろ?」

 

 「何言われても許せるくらいには」

 

 「そうか」

 

 門の外に出て特別許可証を返す。

 

 「今日は色々とありがとうございました」

 

 「呼び出したのはこっちだ、気にしなくていい」

 

 「いえいえ、新たな道も見せてもらえましたから」

 

 「教師だからな。生徒の事を教え導くことが、俺たちの役目だ」

 

 「本当に、ありがとうございました!」

 

 深くお辞儀をして先生と別れ、前は人使と2人だった帰り道を1人で辿る。

 

 (本物のヒーローになれる、か・・・)

 

 新たな道。それは、行き止まりだと思い込んでいた、どでかい岩で塞がれただけの道。

 

 (簡単な道のりじゃない・・・それでも!)

 

 

 

 新たな決意を胸に、少年はヒーローを志す。

 

 

 





 なんか書けば書くほど大河が緑谷に近づいてる気がする・・・なんでだ?
 原作キャラの口調は極力気を付けていますが、もしイメージと違ったらごめんなさい

 ちなみに相澤先生の大河の呼び方が『君→お前』に変わったのは、先生の認識が『客人→生徒の1人』に変わったからです(後付け)

 次はようやく入学!の前に、人使に電話する大河のシーンとか書きたい(笑)


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事後報告と雄英入学初日

 やっっっっっと高校入学です!

 所々原作と時系列が違います なるべく不自然にならないようにしたつもりです
 ちなみに大河は、心操くんのことを家族のように思っているっていう設定です(今作った)
 


 

 「てなことが今日あったわけだよ」

 

 帰宅後、おれは真っ先に人使に電話をかけた。

 

 『で?なんで親より先に俺に報告したんだ?』

 

 「母さんは仕事中電話に出ないからな」

 

 『それなら昼に電話してから俺にとか、帰ってきてから報告して明日とかでもいいだろ』

 

 「人使の声が聞きたかった」

 

 『・・・変態か?』

 

 「化け物よりはましかな」

 

 『そうかよ』

 

 

 

 

 

 

 

 その後、家が近いのに電話はおかしいという話になり、人使が俺の家に来た。

 

 「しかしレスキューポイントか・・・」

 

 「人使はどうだったんだ?」

 

 「2人だけだな。瓦礫に足挟まれてたから救けた」

 

 「そんなもんだよな。正直あの説明じゃ気付かないもんな」

 

 「仮に気付いたとして、それを信じきれるかどうかってのもあるだろ」

 

 「俺は信じたぞ?」

 

 「お前は化け物だから」

 

 「それ雄英の教師まで届いてたぞ。そろそろ控えようぜ?」

 

 「事実だろ?」

 

 「チョットナニイッテルカワカンナイ」

 

 2人で縁側に座り、今日あったことや実技試験のことなどを止めどなく話す。

 

 「にしても、苦渋の決断だったんじゃないか?」

 

 「ん?なにが?」

 

 「トラウマのことだよ。家族以外だと俺にしか話したことなかっただろ」

 

 人使が言った通り、俺のこの話は母さん以外だと人使しか知らない。

 

 「なんか話さなきゃいけない気がしたんだよ」

 

 「そんなに追い詰められたのか?」

 

 「逆だよ。すごく穏やかだった。けど・・・たぶん校長は始めから、俺のその話を聞きたかったんだと思う」

 

 おそらく、試験中の俺が突然微動だにしなくなったことに違和感を覚えたんだろう。そしてそれの原因を聞き出すために、わざわざ面談なんて形式で俺を呼び出したんだと思う。

 

 「誘導尋問か」

 

 「今日のお前発想が敵寄りになってないか?」

 

 「冗談だよ」

 

 「勘違いを生みそうな冗談だな」

 

 「大河なら大丈夫だろ?」

 

 親友からの厚い信頼。たまにあらぬ方向を向くが、それでも心地いいものだ。

 

 「にしても大丈夫そうで安心したよ」

 

 「もしかして心配してくれてたのか?」

 

 「当たり前だろ。俺に打ち明けたときの顔まだ忘れてないからな」

 

 その時の顔は俺も覚えている。人使に「鏡見てみろ」と言われて見た俺の顔は、今すぐ自殺してもおかしくないレベルで死にそうな顔をしていた。

 あの日人使は、母さんが帰ってくるまでずっとそばにいてくれた。帰り際、「話してくれてありがとう」って言ってくれたことを、俺は生涯忘れないだろう。

 

 「あの時と比べて強くなってたんだろうな。あとは相手が年上だから話しやすかったのもある」

 

 受け入れてくれる。直感でそう思ったのかもしれない。

 

 「あとそうだ大河。1発殴っていいか?」

 

 「人使さん?いきなりどうしたんですか?」

 

 「お前ならそうするってのは理解できたけど、それでもヒーロー科を蹴ったのは気に入らない」

 

 「よしわかった全力で来い!!」

 

 「冗談なの分かってて受け入れるとかやっぱ変態だな」

 

 「言い出しっぺコラァ」

 

 どんなにシリアスな話をしていても、最終的にはいつもの日常に戻る。これからもずっと、この関係を続けていきたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 「パンフレットなかったら絶対迷ってるな・・・」

 

 3度目の雄英高校。今回からは客としてでなく生徒としてこの高校に通う。

 隣には、ヒーロー科は落ちたものの無事普通科に合格した人使の姿がある。

 

 「次はあそこを左か」

 

 「そのあとは1個スルーしてその次を右だな」

 

 晴れて同じクラスになったので、2人で目的地である1ーCの教室を目指す。

 

 ようやく見えてきた教室。その少し先、1ーAの教室に入っていく、緑の髪のモジャモジャ頭が見えた。

 

 (あいつは・・・合格したのか。良かったな)

 

 「知り合いでもいたのか?」

 

 「ああ。入試で巨大ロボぶっとばしたやつ。今教室に入っていくのが見えた」

 

 「確かヴィランポイント0だったんだよな?」

 

 「聞いた限りだとな」

 

 「それでもヒーロー科に入れたってことは・・・」

 

 「そういうことだな」

 

 あのモジャモジャ頭はそれまで0ポイントだった。ってことは、あの1レスキューで莫大なポイントが入ったってことだ。

 

 「負けてられないな」

 

 「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 入学初日のHR中、外から爆発音が聞こえた。

 

 (あれは・・・どこのクラスだ?)

 

 おそらく個性使用アリの体力測定。担任の話そっちのけで見ていると、特徴的な緑のモジャモジャが見えた。

 

 (あいつがいるってことは、A組か)

 

 もっと見ていたかったが、初日から担任に目をつけられるのは嫌なので、早々に切り上げだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「人使も食堂か?」

 

 「ああ」

 

 2つ返事で、2人で食堂に向かう。中学3年間で積み上げた友情の賜物だ。

 

 

 

 

 

 「うわぁ、えげつないな」

 

 「こんなに混むんだな」

 

 食堂は、有名アーティストのドームライブばりに席が埋まっていた。どうにか席を確保しようと歩き回り、やっと2人分のスペースを見つけ近づく。

 

 「あれ?麗日さん?」

 

 「うん?あ、大河くんだ!実技試験ぶりだね!」

 

 「知り合いか?」

 

 「ああ。入試の時同じ会場だったんだ。隣座るぞ」

 

 俺は彼女の隣に、人使が緑のモジャモジャの隣に座った。

 

 「おう、モジャモジャもいたのか」

 

 「モジャモジャ!?麗日さん、あの、この人は?」

 

 「畑中大河くん!さっき大河くんも言ってたんだけど、入試の時に知り合ったのです!そっちの人は大河くんの知り合い?」

 

 「こいつは俺の親友の心操人使だ!」

 

 「他人に自己紹介されるって新鮮だな。心操だ、よろしく」

 

 「2人はどのクラスなん?」

 

 あれ、この人もしかして天然さんなのか?

 

 「麗日さん?彼らの紹介は?」

 

 「あっ、そうだね!えっと、心操くんの隣に座ってるのが緑谷デクくんで「ちょっと待って!?」へ?」

 

 「僕の名前は緑谷出久です。デクは、渾名みたいなもので・・・」

 

 なるほど。それで慌てて遮ったのか。

 

 「俺は飯田天哉だ。よろしく」

 

 「2人ともよろしく!」

 

 「よ、よろしく・・・」

 

 「よろしく。ところで大河、そろそろ突っ込んでもいいか?」

 

 突然、人使から突っ込み承認申請がくる。

 

 「どうした?」

 

 「俺まだ麗日の紹介聞いてないぞ」

 

 しまった。人に指摘しといて自分も同じ失敗したパターンか。

 

 「今紹介するところだったのさ!彼女は麗日お茶子さんだ!!」

 

 「口調変えて凛々しい声出したって誤魔化されないぞ。それで、3人は同じクラスなのか?」

 

 「あっ、うん。クラスは1年A組だよ」

 

 「ヒーロー科か。てことは実技試験合格したんだな」

 

 「そうなるな。君達は違うのか?」

 

 「俺は落ちた」

 

 「俺は蹴った」

 

 「「「蹴った!?!?」」」

 

 あれ。短く簡潔に纏めれば流してもらえるかと思ったが甘かったか。

 

 「この話は長くなっちゃうから、今度機会があったら話すよ」

 

 「えー!?めっっちゃ気になる!!」

 

 「はは、ごめんな。それより、時間大丈夫か?」

 

 「あと10分ないくらいか、もう少し話せるぞ」

 

 「いや!ヒーロー候補生たるもの、5分前行動が基本だ!さぁ2人とも、片付けて教室に戻ろう!!」

 

 飯田の一声を受け、3人は一足先に教室へ向かった。

 

 

 

 「お前が言ってた堅物そうなメガネって、もしかしてあいつの事か?」

 

 「ああ。印象に違わず、真面目そうな奴だったな」

 

 「そうだな。さて、俺達も行くか」

 

 やや遅れて俺達も立ち上がり、教室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 「あっ、大河くんきたよ!おーい!!」

 

 放課後、門の前で屯していた3人に捕まる。

 

 「もしかして待ってたのか?」

 

 「うん!ここにいれば、会えると思って!」

 

 「昼の話が、どうしても気になっちゃって・・・」

 

 口を滑らせた訳じゃないが、もう少しオブラートに包むべきだったか?でも事実だしな。

 無事ヒーロー科に入れたこいつらにしてみれば、それを蹴ったってのは相当な衝撃だったんだろう。

 

 「俺はそれとは別に聞きたいことがあってな。君は、あの試験の隠されたシステムに、気が付いていたのか?」

 

 「途中で気付いた。ちなみに、お前に救けられたのがきっかけだ」

 

 「救けられた?」

 

 麗日が不思議そうに首を傾げる。

 

 「彼が仰向けに倒れているのが見えてな。すぐそばに仮想敵もいたから、危ないと思って倒しに向かった」

 

 「結果的に俺は救けられた。その時に、救けるって行為に目をつけたわけだ」

 

 「なるほど・・・」

 

 飯田は、自分が気付けなかったことを悔やんでいるように見えた。

 

 「そう考え込むなよ。気付かなかった上で人助けをしたんだから、飯田は、立派な奴だよ」

 

 「む、そう言って貰えるとありがたいな」

 

 「それで?なんでヒーロー科を蹴ったん?」

 

 再び麗日が首を傾げる。あっ待ってその角度ヤバい可愛・・・ゲフンゲフン。

 全部を話すと長くなるので、かいつまんで話す。

 

 「すごい大雑把に言うと、ヒーローを目指してなかったから」

 

 「・・・君はヒーローが嫌いなのか?」

 

 飯田が真剣な眼差しで問いかけてくる。

 

 「いや、ヒーローは好きだし憧れてる。けど俺は、自分はヒーローになれない、なっちゃいけないと思ってたんだ」

 

 「・・・思ってた、ってことは、今は違うの?」

 

 緑谷は何かを察したんだろう。あまり深くは聞いてこなかった。

 

 「ああ。ある人から、お前のそれは勘違いだって、ヒーローになれるって、言ってもらえたんだ」

 

 緑谷に応える。

 

 「今はヒーローを目指してる。けど、実技試験の時はそんな気持ちなかったから、素直に受け取るのは違う気がしてな。だから、ヒーロー科への入学は断ったんだ」

 

 「ほぇ~、すごいや」

 

 「君の方がよっぽど立派じゃないか」

 

 「・・・君も、僕と同じだったんだね」

 

 分かってもらえてよかった。理由はどうあれ、ヒーロー志望がヒーロー科を蹴るとか馬鹿のやることだからな。こいつらは、いい奴だ。

 ただ、緑谷の発言が少し気になった。

 

 「同じって?緑谷はヒーロー科だろ?」

 

 「あっいやそこじゃなくて!・・・僕にも、『ヒーローになれる』って、言ってくれた人がいたんだ」

 

 緑谷は、少し俯きがちながらも、確固たる意思を乗せて、言葉を紡ぐ。

 

 「僕、いろんな人から、ヒーローになるのは諦めろって言われてて。憧れてたヒーローからも1度はそう言われて。でも、そのヒーローが再会したときに言ってくれたんだ。君は、ヒーローになれるって」

 

 「その言葉が、僕を救ってくれた。その人の言葉が、諦めかけてた僕の心に、火を灯してくれたんだ」

 

 曇りなき純粋な瞳。その姿を見て、こいつは立派なヒーローになれると、根拠もないのに確信している自分がいた。

 

 「・・・いい人に、出会えたんだな」

 

 「・・・うん。僕は、人に恵まれた」

 

 「けど今のままじゃ、立派なヒーローには程遠いな」

 

 ずっと黙っていた人使が、いきなり否定的な言葉を発した。

 

 「君、失礼じゃないか!」

 

 「そうだよ!なんてこと言うんだ!」

 

 「事実だろ。人を救ける為とはいえ、動けなくなるほど体ぶっ壊してるようじゃな」

 

 憤る飯田と麗日を気にも留めず、人使は、試験の時の緑谷のあれを指摘した。

 

 「そのままにしとくつもりはないんだろうけど、敢えて言わせてもらう。そんなんじゃ、俺達に足元掬われるぞ」

 

 親友である俺には分かる。これは、『未来のライバル』への宣戦布告だ。

 

 「ヒーロー科への編入制度は知ってるだろ?俺はヒーロー科の実技試験は落ちたけど、ヒーローへの道は諦めてない」

 

 「俺もだ。1度蹴ったとはいえ、まだチャンスは残ってるからな」

 

 敵向きの個性だと言われ続け、それでもヒーローに憧れ、諦めずに追い続けた人使。

 ヒーローになれると言われ、ずっと諦めていた道を再び歩みだした俺。

 境遇は違えど、折れかけた心を持ち直し立ち上がった目の前の男に、俺達は自分を重ねていた。

 そして、自分を奮い立たせるように、俺達は緑谷に発破をかける。

 

 「「油断してたら、すぐ追い付いちまうぞ」」

 

 「・・・うん。ありがとう!」

 

 言葉に込めた意味が伝わったのか、ただ応援として受け取ったかはわからないが、感謝を述べた緑谷は、真っ直ぐに俺達を見て笑っていた。

 

 「俺達も、負けてはいられないな!」

 

 「うん!」

 

 2人にも、ちゃんと伝わったみたいだ。ほっと胸を撫で下ろす。

 

 「さて、綺麗に話がまとまったところで、麗日さん!呼び捨てにしてもいいか!?」

 

 そして俺は、敢えて空気をぶち壊しにかかる。

 

 「どしたん急に!?別にかまへんよ!?」

 

 「大河は特殊な性癖があるんだ」

 

 「流れるように誤解を生もうとするな!いきなり呼び方を変えたら変かと思って確認しただけだ!」

 

 「あはは、そんなん気にせんでもええよ!」

 

 「ありがとう。麗日はいい人だな!」

 

 「言えたじゃねえか」

 

 気持ちを切り替えるのは簡単じゃないからな。とりあえずシリアスから日常に戻すのは成功した。

 

 「そういえば、2人は仲が良さそうだが、付き合いは長いのか?」

 

 「中学からだな。同じクラスになって仲良くなった」

 

 「初対面は斬新だったけどな」

 

 「「「斬新???」」」

 

 疑問符が実体化しそうな表情を浮かべる3人。この話は、後に取っておこう。

 

 「話したくない訳じゃないけど明日も学校だ。そろそろ帰った方がよくないか?」

 

 「む、そうだな。気にはなるが、また今度にしよう!」

 

 俺の提案に飯田が乗る形でまとまり、俺達はそれぞれの家路を辿った。

 

 

 

 

 

 「にしても唐突だったぞ人使」

 

 「否定はしない」

 

 中学の時より距離が増えた帰り道を2人で歩く。

 

 「似てるって思ったんだ。純粋に。でも、あいつは俺と違って戦う力を持ってる。羨ましかったんだ。だから、ちょっと意地悪な言い方になっちまった」

 

 「分かってるよ。俺も、たぶんあいつも」

 

 絶望から立ち上がった人間は強い。人使と緑谷は、俺の1歩先を進んでいる。

 

 (俺も、頑張らないとな)

 

 いつか、真の意味で肩を並べられるように。俺の決意は、より強固なものになった。

 

 

 

 

 




 はい絡みました 緑谷派閥とでも言いましょうか

 ぶっちゃけ緑谷と心操を体育祭前に絡ませたかっただけです 他の部分はほぼ成り行きです
 食堂のシーンは、誰が喋ったか分かりにくいですが、言い回しで判別出来るようにしたつもりです(爆)

 次は、体育祭前の小話を入れる予定です


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本当の個性


 かきおわってしまった

 1日2話投稿が出来るとは思わいませんでした
 大河の個性が実は違った!っていう話になります この設定に関しては構想の段階で既にありました

 心操くんの出番が少ないため、今回はおちゃらけ成分が控えめです



 

 

 

 入学から3日後、俺は担任から連絡を受けて、放課後職員室に来ていた。

 

 「俺に話って、なんでしょうか?」

 

 呼び出したのは、相澤先生だ。

 

 「お前、個性の上限は把握してるのか?」

 

 「上限・・・ですか?」

 

 「ああ。個性には必ず、限界やデメリットが存在する。その様子だと、確かめたことは無さそうだな」

 

 「そうですね」

 

 そもそも人に向けて個性使うのは禁止されてるし。

 

 「そこで、特別に訓練場を使って、個性把握テストを行う。ちなみに校長からの指示だから拒否権はない」

 

 ひどい。まぁ断るつもりもないけど。

 

 「それと、今回手伝ってくれる生徒だ。轟」

 

 「轟焦凍だ。よろしく」

 

 「畑中大河だ。よろしく」

 

 顔に大きな火傷の跡がある紅白頭の男。なんか炎とか氷とか出しそう。

 

 「時間がもったいないからあとは歩きながら説明する」

 

 立ち上がる相澤先生。歩き出す前に聞いておかないといけないことがある。

 

 「あの、友人が待ってるんですけど連れていっても大丈夫ですか?」

 

 「許可は2人分しか取ってないから訓練場には入れないが、外で待ってる分には構わん」

 

 許可を得て、職員室の前で待っていた人使に事情を説明し、4人で歩き出す。

 

 「テストと言っても内容は単純だ。畑中に向かって轟が個性を使うだけだからな」

 

 「それだけですか?」

 

 「ああ。消せる範囲は資料である程度把握出来てるからな。今回調べるのは消せる量だけだ」

 

 テストと聞いて身構えていたが拍子抜けした。

 

 「途中で畑中に異変があったらすぐに中止する。轟頼みではあるがこいつは状況判断に長けているから大事には至らないはずだ。何か質問は?」

 

 「特にないです」

 

 「俺もです」

 

 せいぜいあるのは個性を向けられることの恐怖くらいだ。

 

 「心操はどうだ?」

 

 相澤先生に名前を呼ばれ、人使が驚き目を見開く。

 

 「なんで名前知ってるんですか?」

 

 「知る機会があったからだ。詳しくは俺からは言えん。それで、何か気になったことはあるか?」

 

 「・・・何かあった場合に、俺に出来ることはありますか?」

 

 「万が一、こいつが動けなくなった場合は手を借りる」

 

 「分かりました」

 

 人使は俺を心配している。親友が個性で攻撃されるって聞いたんだから無理もないか。

 にしても、相澤先生が人使の名前を知ってたのは俺も驚いた。人に言えない事情で知る機会ってなんだ?・・・あれ、もしかして。

 

 「相澤先生。さっきの知る機会に、俺は関わってますか?」

 

 「・・・察しが良くて困ったのは、初めてだな」

 

 困ったように頭を掻く相澤先生。その姿を見て、さらに追い討ちをかける。

 

 「もしかして、根津校長も関わってますか?」

 

 「・・・・・・」

 

 黙ってしまった。どうやら図星だったようだ。

 何も知らない轟はぽかんとしているが、人使は気付いていた。

 

 「先生。俺はあの日の話を大河から聞いてます」

 

 「・・・そうか。なら話は早い。俺が心操のことを知ったのはその時だ。仲が良いと聞いたから資料を見させてもらった」

 

 ヒーロー科実技試験2位の男の親友。俺がその立場だったら、嫌でも気になる存在だ。

 

 それから、先生は喋らなくなったので、轟を交え生徒同士で話しながら訓練場へ向かう。途中、ヒーロー科入学を蹴ったことに対して「そうか」としか返さなかった轟が印象的だった。

 

 

 

 

 「じゃあ始めるぞ。轟、地面に氷を出してくれ。まずは消せるかどうか確認する」

 

 轟が返事をして、地面に薄く氷の膜を張る。俺がその氷を踏む。俺の足が地面につく。足をあげると、そこだけクレーターのように地面が見えている。

 

 「こうなるのか・・・」

 

 「畑中、横になってみろ」

 

 興味深そうに見つめる轟をよそに、指示通り氷の上に寝転ぶ。綺麗な大の字が出来上がった。

 

 「よし、次だ。畑中は掌を轟に向けるようにして左手を突き出せ。轟はそこを狙って氷を出し続けろ。時間はこっちで計るから、準備が出来次第始めていい」

 

 「改めてよろしくな!」

 

 「よろしく」

 

 地面から俺の掌目掛けて氷が伸びてくる。氷は俺の掌に触れる直前に消えていく。

 なんか、力を吸収してるみたいだな。

 

 合図があり、氷の生成が止まる。轟は、心なしか寒そうにしている。

 

 「どうだ畑中?」

 

 「手がひんやりしたくらいですね。今のところそれ以外に気になることはないです」

 

 「氷から出てる冷気だな。少し休憩したら、さっきの要領でもう一度行う」

 

 「その前にちょっといいですか」

 

 轟が俺に近づき、左の掌を俺の掌に合わせる。

 

 「・・・思った通りだ」

 

 「なんか気付いたのか?」

 

 「手そのものは冷たくなってない。普通あれだけの冷気に晒されたら、冷たくなるはずだ」

 

 「なるほどな。畑中、さっき寝転んだとき、寒さは感じたか?」

 

 「いえ、全く」

 

 言われてみれば、氷の上に寝転んで寒くないのはおかしい。冷気は出ていたはずだ。

 

 「つまり、畑中は冷気の影響も受けていないわけだ」

 

 「でもひんやりした感覚はありましたよ?」

 

 「それはおそらく、冷気によって元からあった空気が冷えたのが原因だろう」

 

 なるほど。それなら辻褄が合うな。

 

 「んじゃ、続きやるぞ。さっきと同じだ」

 

 「先生、手を突き出すのはなんでですか?」

 

 「何かあった時に被害が手だけで済むようにだ。仮の話だが、上限を超える分は消せない可能性もある」

 

 「分かりました」

 

 再び構え、氷を受ける。やはり体に異変はない。

 轟は氷を出しすぎると体が凍えるらしく、何回か炎を出して自分の体を温めていた。てかやっぱり炎出せるのか。

 どのくらい繰り返しただろうか。もしや上限などないのではないか。そんな考えが頭を過ってから数秒後、俺に、異変が起きた。

 

 (いっ!!?)

 

 一瞬の頭痛。思わず頭を押さえるが、既に痛みは消えていた。

 驚いた様子の先生と轟が駆け寄ってくる。

 

 「どうした!?何があった!?」

 

 「大丈夫か!?」

 

 心配そうに見つめる2人。でも俺はそれどころじゃなかった。

 

 (な・・・っんだ、これ・・・!!)

 

 頭にイメージが流れ込んでくる。突如自覚した膨大なエネルギーと、その使い方。

 

 「・・・一瞬だけ、電気が走ったような頭痛がしました。それと、今まで落ちてたブレーカーのスイッチが入ったような感じがします」

 

 「・・・体は?」

 

 「大丈夫です。ただ、試したいことができました。手伝ってもらってもいいですか?」

 

 口で伝えるより見せた方が早いと判断し、俺は轟に頼んで氷の壁を出してもらう。

 

 「・・・何をするつもりだ?」

 

 「見ててください」

 

 右手を伸ばしデコピンの構えをとる。2人は怪訝そうな顔だが気にしない。

 

 (出力は・・・とりあえず10にするか)

 

 指先にエネルギーを集めて、デコピンを放つ。すると、氷の壁に、音もなく小さな穴が出来た。

 

 「「っ!!!」」

 

 2人の驚愕が伝わってくる。俺はといえば、答え合わせが済んで1人スッキリしていた。

 

 「なるほど・・・これが俺の本当の個性か」

 

 「本当の個性?どういうことだ?」

 

 不思議そうな相澤先生。轟に至っては、驚き目を見開いている。

 

 「さっきの頭痛の後に頭のなかにイメージが流れ込んできたんです。そして今の試し打ちで確信しました」

 

 

 

 「俺の個性は、『他人の個性をエネルギーに変換して吸収する個性』です」

 

 

 

 俺は、個性を消していたのではなく、吸収していたのだ。

 

 「つまりさっきのは、お前が言うところのエネルギーとやらを飛ばした、ということか?」

 

 「そうです」

 

 相澤先生は多少動揺したものの今は冷静だ。轟はまだ理解が追い付いていないように見える。

 

 「イメージでしかないんですけど、俺の体に常にエネルギーの膜が張られていて、その内側にエネルギーが溜まります。それで、そのエネルギーの一部を集めて飛ばしました。デコピンにしたのは、より飛ばしたってイメージが沸くかなと思ったからです」

 

 突拍子もない話だが、相澤先生は信じてくれた。

 

 「分かった。あと個性について分かることは?」

 

 「下限と上限、それと上限を超えた場合のリスクですね。下限が100で上限が1000。それを超えると意識が飛びます」

 

 「数値化してるのか」

 

 「頭のなかでですけどね。俺が数学脳なのが関係してるかもしれません」

 

 「そうか。上限は分かったんだが下限は何の為にあるんだ?」

 

 「体の膜に使ってる分です。最低限その分を残すようにリミッターがかかってます。ちなみに、轟のおかげで今のエネルギーは728あります」

 

 「なるほどな」

 

 とりあえず新たな力の説明が終わると、やっと思考がまとまったらしい轟から質問があった。

 

 「出力の調整は出来るのか?」

 

 「出来る。さっきのデコピンは10で飛ばした」

 

 「そこまで細かい調整が利くのか」

 

 「イメージが10×10×10の立方体の容れ物なので。使いたい分だけ取り出す感じです」

 

 「威力はどうなんだ?」

 

 「そこはこれから確認する。どこまで飛ぶのかも気になるしな。それでいいですか?」

 

 「大丈夫だ。残された時間は短いが、出来る限り試していけ」

 

 それから数分間、俺は威力の他に、轟の協力を得て人体への衝撃の有無を確認した。飛距離は何かにぶつかるまでだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「念のためだ。行くぞ」

 

 相澤先生引率のもと、轟がリカバリーガールの所へ連れていかれた。俺もと言ったが「友人の待ち時間を徒に増やすのは合理的じゃない」と押し留められ、俺達は先に帰ることになった。

 

 「ついに本物の化け物になったんだな」

 

 「化け物ってよりは変人じゃないか?目に見えないエネルギーとか自分でも何言ってるか分かんねーし」

 

 「空気に例えればいいんじゃないか?」

 

 「その手があったか」

 

 訓練場で知った本当の個性、吸収《アブソプション》については、ほぼ全部聞こえていたらしい。人使の第一声は「とりあえず打ってみろ」だった。

 

 「本当に見えないとは思わなかった」

 

 「出力上げると空間が歪むから分かりやすくなるぞ」

 

 言うが早いか、掌に100のエネルギーを集める。

 

 「こうなるのか。四角いのはなんでだ?」

 

 「俺の持ってるイメージの影響だな」

 

 「なるほどな。で、それはどうするんだ?」

 

 「取り込む」

 

 歪みを胸に近付けていくと、自然と歪みが消えていく。

 

 「それも吸収できるのか」

 

 「俺から出てるエネルギーだからな。なぜか胸からしか吸収出来ないけど」

 

 「動きだけ見ると頭おかしい人だな」

 

 「前半の言葉がなかったらメンタルブレイクしそうだ」

 

 今日は冗談が少なめだ。俺の心が不安定なのを見越してのことだろう。

 

 「ありがとな」

 

 「どーも」

 

 短い言葉でも気持ちが伝わる。これが友情パワーだ!!

 

 「優しくするのやめていいか?」

 

 「ナチュラルに心を読むな」

 

 「顔に書いてあった」

 

 言葉がなくても伝わることもある。おちゃらけモードに入ったのを即気付かれた。

 冗談で終わる日常。俺達には、それが一番似合ってると思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これが、今回判明したあいつの個性です」

 

 「これは僕も予想してなかった。世界が広がった気がするよ!」

 

 「あいつの世界も広がったでしょうね。能動的な攻撃方法の獲得。体育祭が楽しみです」

 

 「僕も大概だが、君も随分と彼を買っているようだね。それと、彼の親友であるあの子も」

 

 「見込みがあるからですよ。見込みなしと判断すればすぐにでも切り捨てます」

 

 「昨年1クラス全員を除籍処分した男の期待か。彼らには少し荷が重いかな?」

 

 「大丈夫でしょう。あいつらは既にヒーローの心を持っている。あとは経験と実力だけです。プルスウルトラですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 (目に見えないとは言ったけど、他人から見た場合なんだよな)

 

 徐に手からエネルギーを出す。俺の目には薄紫色の球体が見えていた。

 

 (形は変えられる。想像力を鍛えれば複雑な形も出来るはずだ)

 

 今のところは球体、円柱、四角柱しか作れないが。

 

 (あとは、エネルギーの補給先の確保か・・・)

 

 1番の課題だ。エネルギーは飛ばすとなくなるので、いずれは補給しなきゃならなくなる。

 

 (考えてもしょうがない。明日辺り相澤先生に聞いてみるか)

 

 

 





 つよい(小並感)
 元々大河を覆っていたエネルギーが不可視だったせいで、放出したエネルギーも不可視になりました
 ちなみに大河にも見えません 大河が見ているのはイメージから来る幻覚です 体育祭あたりでそういう描写が出来ればと思います

 次は特訓の予定です


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個性訓練ととある日の話


 特訓って描写難しいですね
 あと轟ファンの方ごめんなさい いいように使われてます たぶんこれからもいいように使います
 前知識として、敵襲撃直後で緑谷がセンチメンタルになっているという前提です



 

 

 「なんで心操までいるんだ?」

 

 次の日の朝、HR前に俺達は相澤先生に話を聞きにきていた。

 

 「ただの付き添いです」

 

 「そうか。まあいい、用件は?」

 

 「エネルギーの補給係をA組の誰かにお願いしたいんです。使うとなくなるので」

 

 「自分のクラスの奴では出来ないのか?」

 

 「残念ながら、俺が吸収出来るタイプはいません」

 

 「分かった、考えておく。ちなみに個性の練習はどこでやるつもりだ?」

 

 どこで?選択肢は1つしかないぞ?

 

 「自宅です」

 

 「周囲への被害は考えたか?」

 

 「・・・出力を抑えます」

 

 「それでは高出力の訓練が出来んだろう」

 

 「・・・ごもっともでございます」

 

 「昨日見た限りではお前は高出力の射出精度が甘い。やるなら雄英の訓練場を使え」

 

 あそこを使えるのか。それならいい練習が出来そうだ。でも昨日は特例みたいなこと言ってたよな。

 

 「使用許可は要らないんですか?」

 

 「そんなわけないだろう。ここに書類を置いておくから、それに必要事項を記入して提出しろ。俺がいない時は机の上に置いておけ」

 

 そう言って、相澤先生が1枚のプリントを渡してくる。訓練場使用特別許可証という名目のそれには、氏名や日付、使用する理由等を書くスペースがあり、一番下に、「使用時間:30分」と明記されている。

 うん?これ「特別許可証」だよな?あれ?

 

 「これってこんな簡単に渡していいものなんですか?」

 

 「本来は教師の指示で生徒を連れ出す際に使用するものだが、上からの通達による特別措置だ。入試で優秀な成績を修めた特典とでも思っておけばいい」

 

 特典か。要は俺のヒーロー科編入の後押しって訳だ。ありがたく受け取っておこう

 

 「それと心操。お前も使いたいなら自由に持っていっていい」

 

 「俺も・・・ですか?」

 

 「ああ。ヒーロー科を目指すなら、時間は有意義に使うべきだからな」

 

 「・・・ありがとうございます」

 

 感謝を述べつつも、どこか訝しげな表情の人使。

 そりゃそうだ。人使は俺と違って、相澤先生に会ったのは昨日が初。人から聞いた話である程度の人となりは知っているが、向こうから話があるとは思ってもみなかっただろう。

 

 (けど、だからこそだぜ人使。お前をよく知らないからこそ、お前を知ろうとしてる)

 

 資料を見たのなら、個性のことも、ヒーロー志望なのも知っているはずだ。それを分不相応な夢と嘲笑うことなく、真摯にその心と向き合おうとする。まだ数回しか会っていないが、俺が知る相澤先生はそういう人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後から、俺達の居残り訓練の日々が始まった。

 

 「俺から言うことは特にないから自由にやれ。分からないことは聞きに来い」

 

 そう言い残して相澤先生は人使の方へ向かう。

 先生がいるのは、「ヒーロー科以外の生徒が個性を使用する場合、教師が同伴しなければならない」からだそうだ。

 

 「さて、まずはこれだ」

 

 指先にエネルギーを集めてはたくような動作を行う。エネルギーは、ゆっくりと進んでいく。

 続けて、同じように指先にエネルギーを集め、飛ばすイメージを浮かべる。エネルギーは微動だにしなかった。

 

 (イメージだけじゃ飛ばせない。やっぱり飛ばすにはそれ相応の動作が必要か)

 

 俺のエネルギーは、イメージで指向性を持たせることは出来なかった。体を動かすことで初めて指向性が生まれる。

 動作によって速度は変わるが、威力は込めたエネルギー量に比例する。昨日の試験による体感だと、おそらく50以上で一般的な人間が爆発四散するレベルの威力になる。

 

 (動きの中でタイミングよく切り離すイメージ。ズレるとあらぬ方向に飛ぶから要練習だな)

 

 その日はとりあえず飛ぶ方向をコントロールする訓練を行った。他人からはただのシャドウピッチングにしか見えないだろう。

 ちなみにエネルギーの補給係は轟になった。氷の微細な調整が苦手で、しょっちゅう訓練場に来ているそうだ。轟は「氷を溶かす手間が省けて助かる」と言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 敵の襲撃があり、雄英が臨時休校になった翌日の朝。重傷を負ったはずのその人は、さも当たり前のように自分の机の前に座っていた。

 

 「なんで動けてるんですか」

 

 怪我の具合などそっちのけで、真っ先に湧いた疑問が口をついて出てしまった。

 

 「寝てる場合じゃないからだ。お前らは知ってると思うが、雄英体育祭が迫ってる」

 

 顔と両腕を包帯でぐるぐる巻きにされてミイラのようになっている相澤先生。いや、寝てた方がいいと思います。

 

 「いや、寝てた方がいいと思います」

 

 人使も全く同じ意見だった。

 

 「心配するな。やることやったらすぐ寝る」

 

 (そんな状態で何をする気ですか)

 

 そもそもやることってなんだ?

 

 「今日の訓練だが、やるなら俺も行く」

 

 「いや寝ててくださいよ!他の先生じゃダメなんですか!?」

 

 「ダメだ。前も言ったと思うがこれは特別措置。俺以外の教師には許可が出ていない」

 

 「なら訓練をしなければいいんじゃ「それもダメだ」なんでですか!?」

 

 「体育祭はヒーロー科を目指すお前ら2人にとって最大のチャンス。限られた時間を有効に使わないのは合理的じゃない」

 

 分かってる。体育祭は俺達にとって重要なポイントだ。けど、その為に怪我人を利用するなんてヒーローのやることじゃない!

 

 「俺はやります」

 

 「お前・・・っなんで!!」

 

 俺の葛藤をよそに人使はやると言った。その理由も俺にはもう分かってる。

 

 「心配なのは俺も同じだ。無理はしてほしくない。けど、俺の知ってる相澤先生は無理なものは無理ってちゃんと言う人だ。それと」

 

 そうして俺の目を真っ直ぐに見つめて、諭すように、言葉を紡ぐ。

 

 「俺達は生徒だ。教師が手を差し伸べてくれたら、素直に受け取るのが生徒ってもんだろ」

 

 絶対的な信頼を寄せている親友の言葉が、その思いが、俺の心の葛藤を鎮めてくれた。

 人使だって不安はあるはずだ。それでも迷わず、伸べられた手を受け取れる心の強さ。そして、迷っている俺に手を差し伸べる優しさ。

 人使はいつだってそうだ。俺が迷ったり立ち止まったりした時に救けてくれる。

 

 「・・・俺も、やります。ただ、本当に無理はしないでください」

 

 「俺の心配より、自分の心配をしてろ。こんな状態でも雄英教師、生徒の不安を徒に煽るようなことはしない」

 

 「分かりました」

 

 心配は無くならないけど、今は、先生のその言葉を信じよう。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼休み。俺達は久々に、麗日達と会った。

 

 「なるほどなぁ。でも、人のためなら立派な夢だと思うよ」

 

 麗日は、両親の生活を潤すためにヒーローを目指しているそうだ。

 

 「人によっては、邪道だって言うんだろうけどな」

 

 「心操君!君という人は!!」

 

 「『人によっては』って言ったろ。俺はそう思ってない」

 

 「うん、ありがとう!」

 

 人使は事実はちゃんと言う。でも、人を嘲笑うようなことはしない。

 

 「ところで、2人はどうしてヒーローになろうと思ったの?」

 

 「「憧れたから」」

 

 声が揃った。

 

 「憧れ・・・そっか、そうだよね!」

 

 「目標としているヒーローはいるのか?俺は兄のインゲニウムが目標だ!!」

 

 「俺はイレイザーヘッド」

 

 「「「相澤先生!?!?」」」

 

 それはさすがに知らなかったぞ人使。お前憧れの人に師事してたのか。

 

 「そんなに驚くことか?」

 

 「そりゃあ驚くよ!イレイザーヘッドはメディア嫌いで有名だからテレビにほとんど顔を出してなかったしネットで調べてもろくに情報が手に入らない謎に包まれた・・・」

 

 「デクくん!?落ち着いて!?」

 

 「緑谷君!!落ち着きたまえ!!」

 

 早口でスラスラと情報を吐き出す緑谷を麗日と飯田が止める。なんだいまのちょっと怖かったぞ。

 

 「あっ・・・ごめん、ヒーローの話になると、興奮しちゃって・・・」

 

 えっ興奮したらそうなるの。ますます怖くなった。

 

 「えっと・・・それで、畑中くんは?」

 

 「俺は父さんだ。ヒーロー名は『キャンセラー』。今は活動してないから、知らないかもな」

 

 「キャンセラー・・・って、確か僕らが5歳だった頃に」

 

 「ああ、殉職してる。飲食店で、逃げ遅れた子どもを庇って敵に殺された」

 

 重くなる空気。

 

 「あの・・・畑中くん・・・もしかして、その時の子どもって」

 

 「緑谷」

 

 人使が緑谷を制止した。

 

 「それ以上言うな」

 

 威圧を込めた射抜くような視線。次第に語気が強まる。

 

 「あの事件を知ってるんだよな?なのになんでそんなことを聞こうと思えるんだ?」

 

 人使は怒っている。俺から聞いて、あの日の惨状を知ってるから。

 

 「お前に分かるのか!?目の前で父親を殺された子どもの気持ちが!!なぁ!?」

 

 涙を流しながら、絶望に潰されそうになっていた俺の姿を、その目で見ているから。

 

 「絶望と恐怖に心を塗りつぶされたそいつの気持ちが!!お前に分かるのかよ!!!」

 

 「人使!!!!」

 

 廊下中に響き渡るほどの声で、俺は人使の暴走を押し留めた。

 俺のために怒っているのは知っている。だからこそ、俺が止めなきゃいけないと思った。

 周りの視線が俺に集中する。でもそんなことを気にする余裕はない。

 俺は緑谷に、さっきとは打って変わってか細い声で呟いた。

 

 「緑谷。・・・俺は、その時の光景をこの目で見てる」

 

 瞬間、表情が絶望と恐怖に染まる。おそらく、想像してしまったのだろう。

 そして緑谷は、膝から崩れ落ちた。

 

 「・・・どう・・・して・・・?」

 

 地面に手をつき、顔を下に向けたまま、涙声で呟く。

 

 「・・・なんで・・・だって・・・目の、前で・・・なんで・・・そんな・・・!!」

 

 余程リアルに想像してしまったのだろう。緑谷は今、絶望と恐怖に心が押し潰されそうになっている。飯田は下を向いて立ち尽くしていた。

 麗日は目に涙を浮かべ、ふらふらと歩き出す。そして、思いがけない行動に出る。

 

 

 

 麗日は、緑谷の前で膝を落とし、その体を抱き締めた。

 

 

 

 救けたい。その一心だろう。麗日は、緑谷の体を力強く、でも優しく、抱き締め続けた。

 

 

 

 いつの間にか、麗日も嗚咽を漏らしていた。

 

 

 

 

 どのくらい経ったのだろうか。俺は、緑谷の浮かべていた絶望の表情が和らぐのを見て、そっと2人に歩み寄った。

 麗日の手をほどいてゆっくりと体を引き離し、倒れないことを確認してから2人の頭に手を乗せた。

 

 「ありがとな」

 

 出来る限りの優しさを込めて呟く。2人はまだ泣き止んでいなかった。

 

 「飯田。人使。お前らは先に教室に戻ってくれ」

 

 「分かった」

 

 「待ってくれ!君が残ると言うのなら代わりに俺が」「ダメだ」

 

 一言で全てを理解する人使。飯田の反応も予想通りなので、きちんと説明する。

 

 「無断で授業を欠席するのは得策じゃない。飯田は、先生に今の状況を報告して欲しい」

 

 飯田は真面目だから、こう言えば嫌でも引き下がるはずだ。納得はできないだろうが、俺はこんなことしか思い付かない。

 

 「・・・分かった。友を頼む!」

 

 そう言い残して、飯田は教室へ戻っていった。人使は既にいない。

 

 (怒られるのは、俺だけでいい)

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、なぜか相澤先生がやってきた。

 

 「とりあえず授業は欠席扱いにした。というわけで」

 

 そう言うと、先生の雰囲気が明らかに変わった。

 

 「今から説教を始めます!」

 

 地を這うように低く怒気のこもった声。思わずたじろぐ。緑谷と麗日は、一瞬で涙が止まった。

 

 「まず畑中!事の経緯を詳しく話せ!」

 

 「緑谷が俺の父さんが殺された事件の事を知っていて、その時の子どもが俺だったことに気付いて、その光景を俺が見てたって言ったらこうなりました」

 

 俺の話を聞いて、相澤先生はそのド迫力のオーラを引っ込めた。そして俺の正面にしゃがみこんで、いつもの声色で緑谷に話しかけた。

 

 「緑谷。お前は何があった?」

 

 「想像して、耐えられなくて、心が壊れそうになりました。そこからは、あまり覚えてないです。誰かに抱き締められていたような気がします」

 

 「麗日は?」

 

 「デクくんが、膝をついて泣いてるのが見えて、どこか遠くに行っちゃう気がして、なんとかしなきゃって思って。気が付いたら抱き締めてて、一緒に泣いてました」

 

 「そうか」

 

 そう言って立ち上がった相澤先生は、包帯越しにも関わらず、とても穏やかな眼をしているように感じた。

 

 「説教するつもりだったんだが、俺もそこまで鬼にはなれん。次の授業には遅れるなよ。それと畑中」

 

 でも、俺に向ける視線だけは怒気がこもっていた。

 

 「罰として、今日の訓練の時間を説教に当てる」

 

 まるで殺害予告のように言い残し、先生は去っていった。

 ヤバい。俺今日死ぬのかな。鬼になれないとか嘘ですよね。逃げちゃ駄目かな。

 

 「あの、畑中くん」

 

 おう緑谷。現実に引き戻してくれてありがとう。

 

 「なんだ?」

 

 「畑中くんは・・・どうやって立ち直ったのかな、って。僕なんか、想像しただけで、あんなになっちゃって・・・それで、その、なんていうか・・・気に、なっちゃって・・・」

 

 「私も・・・その・・・あっ!話したくないことなら、あの、無理しないでね!?」

 

 「はは、ありがとな。でも、無理はしてねえよ。俺は、救けられたんだ。いろんな人に」

 

 むしろ、こっちも話さないと、お前らが抱え込んじまうだろうからな。

 

 「最初は、母さんだった。つきっきりで、俺の傍に居てくれてな。その後、たまたま救けた人のありがとうって言葉に救われた。それからは、いろんな人を救けて、たくさんのありがとうを貰って、ようやく立ち直れたんだ」

 

 全部話した。2人の心が、少しでも軽くなることを願って。

 

 「緑谷の真似する訳じゃないけどさ。俺も、人に恵まれたんだ」

 

 2人の心が、少しでも救われることを願って。

 

 「・・・話してくれて、ありがとう」

 

 やっと、2人に笑顔が戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、2人の様子が気になって1ーAの教室に向かうと、教室前に人だかりが出来ていた。

 

 (何してんだこいつら?)

 

 人の波を掻き分けて前に出る。ちょうど歩いてきていた爆発頭と目があった。

 

 「・・・テメェ誰だ」

 

 「うぇっ!?畑中くん!?」

 

 「大河くん!?なんで!?」

 

 「君も敵情視察に来たのか!?」

 

 教室まで来たことがなかったからか3人は驚いていた。

 

 「おーう!様子が気になってな!」

 

 「オイコラ俺を無視してんじゃねーぞクソモブが!!」

 

 なんだよやたら突っかかってくるなこいつ。

 

 「誰だよお前」

 

 「俺が聞いてんだよテメェが名乗れやクソが!!」

 

 「クソモブ。これでいいか?」

 

 「・・・上等だテメェ表出ろや!!」

 

 あ、キレたっぽい。

 

 「爆豪君!喧嘩は良くないぞ!!」

 

 「黙ってろクソメガネ!!」

 

 「あっ・・・あの・・・かっちゃ「あ゛ぁ!?」ひぃぃ!」

 

 2人が止めようとしたが止まらない。教室にいる他の奴等は、御愁傷様と言いたげな態度で俺を見ている。おそらく爆豪と呼ばれたこいつはいつもこんな感じなんだろう。

 

 「なぁ爆豪」

 

 「気安く名前呼んでんじゃねーぞクソ坊主!!」

 

 「そろそろ相澤先生来るぞ」

 

 「来ねーわクソがおちょくってんのか!?」

 

 「お前ら何してる」

 

 あ、来た。1ーA寄るから人使に伝言頼んだだけだったんだけど本当に来た。

 

 「さっさと帰れ」

 

 鶴の一声って言うんだっけ。あれだけいた人達がこぞって帰ってった。

 

 「それで、お前らは何してる」

 

 「絡まれました」

 

 「テメェが無視したからだろうが!!」

 

 「おい爆豪」

 

 「・・・・・・チッ」

 

 あっこいつ先生の前ではさすがにやらないのか。まぁ除籍の可能性考えたらそうなるわな。

 

 「爆豪」

 

 「・・・んだよ」

 

 「俺は畑中大河だ」

 

 「・・・そうかよ」

 

 そう呟いて、爆豪は帰っていった。

 

 「うちの生徒がすまんな」

 

 「大丈夫です。あいつ根は悪くなさそうなんで」

 

 途端にザワつき始める教室。「クソ下水煮込みに理解者が!?」とか「初対面で暴言吐かれたのに!?」とかなんとか言ってるのが聞こえる。間近で見てた3人に至っては有り得ないものを見たような顔で口をあんぐり開けていた。

 

 「それならいい。さて諸君。こいつが、今日2人の欠席者を出した原因だ」

 

 「ちょっ先生!?」

 

 「事実だろ」

 

 「事実ですけど!!」

 

 なんで俺に対してだけ風当たりが強いんだ!?貴重な時間を無駄にしたからか!?

 

 「ちょうどいい。自己紹介もしていけ」

 

 「この流れでですか・・・?」

 

 ダメだ。今の先生には逆らえない。しょうがない。

 

 「えー普通科1ーCの畑中大河です。ヒーロー科への編入を目指してます。ちょうどここにいる3人の友達です。大切なクラスメイトを泣かせてしまってすみませんでした」

 

 (あぁぁ居たたまれないぃぃ奇異の目が痛いぃぃ帰りたいぃぃ)

 

 「同じく普通科1ーCの心操人使だ」

 

 俺含め、全員が声の方向に目を向ける。教室の入り口に人使がいた。

 

 「俺もヒーロー科編入を目指してる。よろしく」

 

 「こいつらだけじゃなく、他の科にはヒーロー科への編入を目指している人間が多くいる。諸君らも、自らの力に驕ることなく、気を引き締めてかかるように。以上」

 

 言い終わるや否や、先生は教室を出ていこうとする。

 

 「相澤先生!今日の訓練は?」

 

 「中止だ。思ったより傷の治りが悪い」

 

 「分かりました。お大事にしてください」

 

 小さく笑って、相澤先生は去っていった。

 

 

 その後俺達は、案の定1ーAメンバーの質問攻めに遭った。俺は切島、上鳴と特に仲良くなり、人使は尾白、青山と仲良くなっていた。

 

 

 





 どうあがいてもシリアスにしかならなかった

 心操君がどんどんイケメン化していく・・・なんでかは僕も分かりません
 麗日のあれは母性本能です 泣いてる子どもを抱き締めるみたいな 最初は大河の声かけで戻ってくる予定だったんですが、書いてるうちに「これ声かけるだけじゃ戻ってこれねぇな」ってなって変えました

 あと爆豪が書いてて楽しかった アニメ見た影響なのか、台詞の読み方とか顔が簡単に想像できました

 次は、訓練挟むかいきなり体育祭かで迷ってます


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 体育祭前日と体育祭(前)


 感想に大河の個性が便利ってありましたが、さらに便利になります(爆) まぁ多用するとなくなるので多目に見てください(懇願)

 ちなみにまだ出てきませんが、エネルギーの吸収効率はかなり悪い設定です 今の大河のエネルギーがたくさんあるのは、単に轟が規格外だっただけです

 微チートを入れるか否かが最近の悩みです



 

 体育祭前日。最後の特訓を始める前に、相澤先生からある疑問を投げかけられた。

 

 「畑中。お前のその個性は防御には使えないのか?」

 

 「言われてみれば、試したことないですね。人使。ちょっといいか?」

 

 掌に薄い円形を作り、人使に軽くパンチしてもらう。

 

 「・・・掌に当たる前に、何かにぶつかったような気がする」

 

 「まじか、じゃあこれは?」

 

 野球ボールサイズの球体を作り、人使に触らせる。

 

 「・・・なんだこれ。何もないはずなのに、何かあるみたいな」

 

 「本当か?」

 

 相澤先生も気になったようだ。

 

 「・・・本当にあるな」

 

 「試しに壁に押し付けてみます」

 

 壁に軽く押し付けてみると、エネルギーは霧散することなく留まった。そして強く押し付けると、エネルギーは潰れて平べったくなった。

 

 「・・・畑中、説明を頼む」

 

 「・・・俺のエネルギーは質量が有るみたいですね。それと、ある程度の力を加えると変形します」

 

 冷静に考えれば、壁や人にぶつかるのだから触れない訳がない。固さはおそらく、込めた威力に比例するだろう。

 変形については、分かりやすいようにエネルギーを両の手でこねくり回してみせた。

 

 「すまん畑中。やってることは分かるんだが遊んでるようにしか見えん」

 

 「大河には見えてるんだろうけど、見た目は完全に頭おかしい人だぞ」

 

 「そのあたりはもう諦めることにしました」

 

 しょうがないじゃん!俺には見えるんだよ!

 

 「結論として、防御にも使えるということでいいんだな?」

 

 「そうですね。使い方次第で、不意討ちとか騙し討ちにも対応できそうです」

 

 部分的な防御はもちろん、全身に纏えば鎧のようにも使えるだろう。

 そして、防御に使えるということは。

 

 「これもしかして攻撃にも使えますかね?」

 

 「だろうな。今までは飛び道具だけだったが、飛ばさずに使えば武器になるはずだ。お前以外に見えない分、回避も難しいだろう。とりあえず実験だ。なんかやってみろ」

 

 促され、手で握れる形で棒状のエネルギーを作る。こうすることで、持つ、振るというイメージを補強することができる。

 徐に人使に近寄り、振りかぶって軽く振り下ろす。頭を狙ったその一撃は、人使が避けたので肩にぶつかった。

 肩に痛みを感じたらしい人使が、少し顔を歪めながら肩を押さえている。

 

 「なんで頭なんだ」

 

 「俺はなんで避けられたのか聞きたい」

 

 「手の向きと動き見てたら気付いた」

 

 「お前俺に対してだけハイスペック過ぎないか?」

 

 ぶっちゃけ避けるのは薄々分かってたんだが。俺達は双子かってレベルでお互いの思考を読み取れるのだ。

 

 「どうだ?」

 

 「使えますね。あとは、使うエネルギー量によって固さが変わるみたいなんで、その辺をこれから調べます」

 

 「よし。今日が最終日だ。気合い入れていけ!」

 

 それから、俺はエネルギーの固さと強度の確認を、人使は相澤先生直伝の体術の修練を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育祭当日。主審はミッドナイト先生だった。

 エロいのはエロいんだが何かが違う。恥じらいがないからか。あれで胸元とかを手で隠して恥ずかしそうにしてたらあっ待って想像しちゃったあぁヤバいダメだそんな「大河」・・・危なかった。

 

 「ありがとう。僕は君に救われた」

 

 「殴られたいのか?」

 

 「ごめんなさい許してください」

 

 「ったく」

 

 そんなこんなで、いつの間にか選手宣誓になっていた。代表者は爆豪だった。1回会っただけだけどあいつまともなこと言えるのか?

 

 「せんせー。俺が1位になる」

 

 あっうんやっぱり。全員敵に回した。

 

 「精々跳ねのいい踏み台になってくれ」

 

 追い討ちまで完璧かよ。むしろ尊敬するわ。

 会場全体が敵意に染まる中、第1種目が障害物競走に決まる。コースを外れなければ何をしてもいいという説明を受け、スタート位置につく。

 

 「頑張れよ」

 

 「お互い様だろ」

 

 そうして、障害物競走がスタートした。

 

 

 

 スタート直後、轟が氷を張って後続の足止めにかかった。大多数が悪戦苦闘する中、個性をうまく使って切り抜けていく奴等を横目に、俺は普通に走っていた。

 

 「なんで走れてるんだ!?」

 

 「おい!あいつの足元だけ氷がなくなってるぞ!!」

 

 「どんな個性だ!?」

 

 (初見じゃ驚くのも無理はないか。けどこれ意外と難しいんだからな!?)

 

 見えている氷じゃなく、その下の地面を捉える必要がある。わりと集中力持ってかれる。

 

 『うぉぉおい!!氷の上走ってるやつがいるぜ!?どこのどいつだぁ!?』

 

 『普通科1ーCの畑中だ』

 

 やたらテンションの高い声とやたらテンションの低い声。実況はマイク先生と相澤先生だな。

 相澤先生は実況を好んでするってタイプじゃないから巻き込まれたんだろう。御愁傷様です。

 

 『普通科ぁ!?こいつぁスゲェ!!普通科の期待の星だぁ!!』

 

 期待の星か、ありがたい。こちとらヒーロー科目指してるからな!

 

 『さぁそんな普通科の星にこいつぁ越えられるかぁ!?第1関門!!ロボ・インフェルノォ!!』

 

 うわぁ入試のロボだぁぁ。苦い思い出があるから見たくなかったなぁぁ。

 

 (まぁ倒す必要はないから楽だな。横を通り抜けるだけだ!)

 

 前にいる奴等はの動きは様々だ。動きを止めたり、機動力で上を抜けたり、大砲で壊したり。・・・大砲どうやって作った!?

 あとロボに潰されてる奴が2人いた。生きてるってことは、あいつらは堅くなる系の個性だろうな。

 俺はロボを避けながら走った。避けきれない攻撃は、エネルギーを集めた腕で全部弾いた。

 

 『あいつ畑中っつったかぁ!?腕でロボの攻撃弾いてるぜぇ!?どうなってんだぁ!?』

 

 『個性の応用だ。あいつの個性は汎用性が高い』

 

 『なぁんでそんな奴が普通科にいるんだぁ!?』

 

 『本人に聞け』

 

 なんか実況が俺のことばっかになってるな。ありがたいけど実況としてはどうなんだ。

 

 『さぁさぁトップ集団は早くも第2関門に差し掛かってるぜぇ!!落ちればアウト!!ザ・フォールゥ!!』

 

 あれ今トップ集団って言ったな。俺そんな上位にいるのか。

 ザ・フォールと呼ばれていたそれは、所々に足場が用意され、それらがロープで繋がっている崖だった。

 

 (これは・・・普通に行くしかないな)

 

 歩いて渡るのは危険と判断し、登り棒の要領で進む。

 途中空を飛ぶ女の子が見えた。実況曰くサポート科の子らしい。あと飯田が驚異的な体幹と足のエンジンで滑るように綱渡りしてた。

 

 『普通科の星畑中ぁ!!ここは普通に行ったぁ!!機動力のある個性の奴等に抜かれていくゥ!!』

 

 『個性の得手不得手は仕方がない。あとは、それをこの先で挽回出来るかだな』

 

 『随分買ってるなぁイレイザー!!普通科の星に期待してんのかぁ!?』

 

 『見極めてるだけだ。あいつだけじゃなく、自分の個性をどれだけ把握してるかは重要な要素だからな』

 

 『イイコト言うぜイレイザー!!さぁトップは最終関門目前だぁ!!そこはぁ・・・一面、地雷原!!威力は低いが、音と見た目はド派手だぁ!!』

 

 (随分遅れちまったな。さて、地雷原ってのはどんなだ?)

 

 派手な爆発音を聞きながらたどり着いたそこは、言葉通りに一面地雷原だった。良く見ると、地面と地雷原の違いが分かるようになっている。

 たまに踏む奴はいるが、みんな地雷を避けながら歩いているため、足止めをくらっている。

 

 (エネルギーを足に集めれば行けるか?でも無効化できる保証はない。なら)

 

 同じように地雷を避けながら歩き始める。先頭は2人。お互いに邪魔をし合っているのでまだ追いつくチャンスはあるかもしれない。

 

 

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 

 

 全員が少しずつしか進めない中、後方でえげつない爆発音が聞こえた。

 

 (なっ!何だ!?)

 

 もくもくと沸き上がる煙。その中から、ロボの破片を持った緑谷が、勢い良く飛び出してきた。

 

 『なんとぉ!?1ーA緑谷!!爆発の勢いを利用して飛んだぁ!!』

 

 緑谷は先頭に追いつき、ロボの破片を叩きつけて2人の邪魔をした。その衝撃で爆発した地雷の勢いで、さらに前に飛び地雷原を抜けた。

 先頭だった2人は、いがみ合いをやめ、新たに先頭に躍り出た緑谷を追いかける。

 

 (爆発の衝撃を利用・・・もしかしたら!!)

 

 俺は、ひらめいた。足の裏、親指の付け根の辺りにエネルギーを集める。

 

 (試してみる価値は、ある!!)

 

 出力は50。自分の体が自分のエネルギーで壊れないのは、実証済みだ。

 

 (ここまで来たら・・・1位狙いたいもんな!!)

 

 そして、深く屈み、前方に向かって跳んだ。

 

 

 

 『緑谷に続いてもう一人跳んだぁ!!あいつは畑中かぁ!?』

 

 『(あいつ、今のを見て閃いたのか!?)だがこの角度はまずい!壁にぶつかるぞ!』

 

 

 

 結論から言うと、俺は会場入り口の壁にぶつかった。エネルギーによる大ジャンプには成功したが、勢いが強すぎた。

 

 (いっ・・・てぇ!)

 

 予めバリアを張っていたので大怪我は免れたが、壁は衝撃で大きく人の形に抉れた。

 落下時、ちょうど真下を通り過ぎていった爆豪と轟が、驚愕の表情を浮かべていた。

 

 (くっそ抜けなかった!!けどまぁ、4位なら上等だ!!)

 

 そのまま2人を追いかける形になり、4位でゴールする

 

 『緑谷に続き大どんでん返しだぁ!!これが普通科の星!!4位、畑中大河ぁ!!』

 

 普通科が上位に食い込むのは珍しいんだろう。会場は、割れんばかりの大歓声に包まれていた。だが俺には、それを喜んでいる暇はなかった。

 

 「オイコラテメェクソ坊主!!」

 

 爆豪に絡まれた。

 

 「ナメてんじゃねぇぞクソが!!」

 

 「いきなりどうした?」

 

 「とぼけてんじゃねえ!!さっきのあの力使ってりゃ、余裕で1位狙えたんじゃねーのか!あぁ!?」

 

 あーなるほど。こいつ俺が手を抜いたと思ってんのか。てことはあの宣誓はこいつなりの発破か。

 

 「今さっき思い付いた使い方だ。別に手を抜いた訳じゃねーぞ」

 

 「最初から思い付いとけやクソが!!」

 

 分かりやすいなこいつ。理解はできても納得はできないってやつだな。

 

 「悪かったよ。けどまだ制御出来ないから出来るようになったら使う」

 

 「・・・チッ、さっさと使えるようにしやがれ!」

 

 たぶんまだ納得はしてないだろうけど、とりあえず引き下がってくれた。

 

 (あんまりエネルギー無駄にしたくないんだけどな)

 

 俺の今のエネルギーは427だ。何があるか分からないから出来る限り節約したい。

 

 (まぁ、競技内容次第だな)

 

 

 

 

 第2種目は騎馬戦。障害物競走の上位42人で2~4人のチームを作り、ハチマキを奪い合うというものだ。順位によってポイントが変わり、1位は1千万という破格の振り分けだった。

 ハチマキはチームで1つ。それぞれのポイントの合計がそのままチームのポイントになるそうだ。

 

 (とりあえず人使のところに向かおう)

 

 人使は、既に尾白をチームに加えていた。

 

 「おっ、もう3人目いたのか」

 

 「ホントは君が3人目なんだけどね・・・」

 

 「な?俺の言った通りだろ?」

 

 人使は俺が来るのを分かっていたらしく、先に尾白を勧誘したらしい。

 

 「あと1人か」

 

 「A組はみんなチーム組み終わってるね」

 

 「残ってるのはみんな知らない奴か」

 

 あと1人は見つからなかった。

 

 「孤立してる奴は・・・いないな」

 

 「42人だから半端が出るんだな」

 

 「まさかその半端になるとはね・・・」

 

 結局3人の騎馬になり、作戦会議を始める。

 

 「そういえば畑中君の個性は?」

 

 「他人の個性による攻撃を吸収できる。轟の氷とかが分かりやすいな。あと、吸収した分を飛ばしたり武器にしたり」

 

 「強すぎない!?」

 

 「難点もあるけどな。まぁその辺はおいおい。とりあえず実演しよう」

 

 俺にしか見えない棒を作り尾白の頭を叩く。

 

 「痛い!今の何!?」

 

 「俺の個性。ここに棒があるんだけど俺にしか見えない。あと複雑な形が作れなかったり」

 

 「分かったような、分からないような・・・」

 

 「だろうな。まぁ最低限個性を吸収する方だけ覚えててくれればいいよ」

 

 とりあえず個性の説明は終わった。尾白と人使の個性は全員知っている。人使が既に尾白に話してたことに少し驚いた。

 

 「それで、どっちが騎手をやるの?」

 

 「尾白は騎馬でいいのか?」

 

 「2人よりは力あるだろうからね」

 

 「ありがたいな。俺は騎手をやりたい」

 

 「なんか作戦があるのか?」

 

 「人使に洗脳で前騎馬を止めてもらって、俺が遠距離からハチマキを奪う。さっきの棒の先をフック状にすれば出来るはずだ」

 

 人使が不敵に笑い、尾白がうわぁという顔になった。俺が言うのもなんだけど、悪どい作戦だと思う。

 

 「あとは、無理に狙わずに、近づいてきたチームから奪うスタイルで行こう。3人だから狙われやすいはずだ」

 

 「「分かった」」

 

 そうして作戦会議が終わり、俺達の騎馬戦が始まる。

 

 

 





 大河がチートと化している件 増強系と相性が悪いので、そのあたりをトーナメントで書きたいですね 特に切島鉄哲あたりの固くなるタイプにはごり押しで負けます

 騎馬戦はどうにかして4人にしたかったんですがダメでした 洗脳なかったらまぁこうなるよね

 さーて、騎馬戦とトーナメントでグダグダになるぞー(棒)


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体育祭(後)


 騎馬戦難しすぎんだろぉ!結局大半端折るしかなかったわ!!
 トーナメントは大河の個性のせいでわりとあっさり終わります
 最後はド派手な花火をぶち上げでやったぜ!!・・・うちの大河くんはどこへ向かってるんですかね(困惑)



 

 

 「なんでこんな軽いの!?」

 

 「坊主だから」

 

 「冗談にも程があるぞ人使」

 

 騎馬戦スタート前、尾白が俺のあまりの軽さに驚いていた。

 

 「ちなみに何キロ?」

 

 「最後に測った時は52キロだった、ちなみに身長は170くらい」

 

 「あはは、モデルみたいだね・・・」

 

 だって太らないんだもん。しょうがないじゃん?

 

 「スタート!!」

 

 ミッドナイトの合図で、騎馬戦が始まった。

 

 

 

 緑谷の近くにいた騎馬はこぞって緑谷チームに突撃していた。

 緑谷は背中のバックパックを使って飛んだ。

 

 「あいつまた飛んでる!」

 

 「たぶんサポートアイテムだ!サポート科は自分で作った分は持ち込んでいいらしい!」

 

 「あれを作った奴がチームにいるのか」

 

 俺達は見を決め込んでいる。人使の個性のことを考えると待つのが得策だ。

 

 「右から1チーム来たぞ!」

 

 「4人か。こっちが3人だからって狙ってくるなんて、卑怯な奴等だな」

 

 「そっちが勝・・・」

 

 返事をしてしまえばこっちの勝ちだ。1人が止まったせいで相手の騎馬はそのまま崩れた。

 

 「女だからって手加減して貰えるとでも思ったのかよ?」

 

 「「「ふざけ・・・」」」

 

 残りの3人も返事をしてしまった。完全に静止したのを見て、悠々とハチマキを奪う。

 

 「罪悪感がハンパないね、これ」

 

 「人使のヒールっぷりもだいぶ凶悪だと思う」

 

 「知らない人を洗脳する場合、煽って怒らせるのが一番いい」

 

 「「うわぁ・・・」」

 

 最初に立てた作戦はどこへやら。とりあえず2つ目のハチマキを手にいれた。

 

 「崩すのはダメって言ってなかった?」

 

 「崩したんじゃない。向こうが勝手に崩れたんだ」

 

 「ルール上は問題ない。ミッドナイト先生から直接注意されるまでは大丈夫だ」

 

 「2人とも考えがえげつないね・・・」

 

 「悪いな。俺達はまだヒーロー科じゃないからさ」

 

 「形振り構ってる余裕はないんだ」

 

 「分かってるつもりだよ。その気になれば、俺を洗脳して自在に操ることも可能だったはずなのに、心操はそれをしなかった」

 

 あれ1人語り始まったな。まぁ近くに敵いないから止めなくていいか。

 

 「勝つために個性を使うことは、悪いことじゃない。少なくとも、俺はそう思ってる!」

 

 かっこいいね。人使が洗脳しなかったのは、尾白のこういう部分を知ったからか。

 

 「まぁ、罪悪感が無くなるわけじゃないけどね・・・」

 

 「後で謝りにいこう」

 

 「取り合ってもらえればな」

 

 人使さぁん。事実だけど一言多いっすよぉ。

 

 

 

 

 その後、俺達は男2人組のチームを無力化し、ある4人組のチームと対峙していた。

 轟が大多数のチームを氷浸けにしたお陰で、今動けるのは俺達含め6チーム。そのうち緑谷と轟のチームが氷の壁の向こうに、爆豪チームが嫌味たらしそうな金髪ストレートのチームとやり合っていた。

 

 「くそっ!まさか衝撃で洗脳が解けるとはな!」

 

 俺達の前にいるのは鉄哲と呼ばれていた男のチーム。1度騎手を洗脳してハチマキは奪ったものの、「悔い改めなさい」とか言いながら茨髪の女が騎手の男をぶっ叩いたせいで、せっかくかけた洗脳が解けてしまっていた。

 さらに、骨々しい顔をした男の個性なのか、騎馬である人使と尾白は体が半分以上地面に埋まっている。

 おそらく2分以上は経っている。この状況で俺達がまだハチマキをとられていないのは、単に俺の個性のお陰だった。

 

 「大河!あとどれくらい保つんだ!?」

 

 「わからねぇ!あいつ次第だ!!」

 

 俺は、前方に盾を作るようにエネルギーを形成していた。土壇場で作ることに成功したのだが、既に2枚は破られている。

 一定以上の衝撃が蓄積すると自壊する。新事実だが、この状況ではあまり好ましくない。

 

 「俺達はもう何も出来ない!!頼んだぞ、畑中!」

 

 「全力を尽くす!!」

 

 相手が全方位バリアだと思っているのか、真っ直ぐにしか向かってこないのが唯一の救いだ。

 

 「無駄なことしてないで、他のチームを狙いに言ったらどうだ!?」

 

 「んんんんんんんん!!」

 

 洗脳のタネも既に割れている。必死に人使が話しかけているが、騎馬の3人は応えず、騎手は口を閉じながら叫んでいた。

 

 『残り時間は1分を切ったァァァ!!』

 

 「あと1分もあんのかよ!」

 

 盾はあと2枚。と思っていた矢先、通算3枚目の盾が破られた。

 

 「くっそ!これだから増強系は!!」

 

 俺の個性は増強系と相性が悪い。特に体を硬くするタイプは相性最悪だ。吸収が出来ないため、ゴリ押されてしまう。

 

 なんとか耐えきりたい。その思いも虚しく、残り5秒で最後の盾が破られた。

 

 「大河!!」「畑中!!」

 

 「まだ、だぁ!!」

 

 俺は万が一に備えて作ってあった棒状のエネルギーを、両手で持って思い切り振り抜いた。

 衝撃でエネルギーが霧散していく。普通の人間なら意識が飛んでもおかしくないはずのその衝撃を、男は耐え抜いた。

 

 

 

 

 「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」

 

 鉄哲は、ハチマキを1枚奪って、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 『タァァイムアァァップ!!』

 

 「っああくそ!1枚取られた!!」

 

 「しょうがないよ。むしろよく耐えたと思う!」

 

 「さすがに4枚あれば上位には入れるだろ」

 

 ほっとする2人と憤る俺。どうせなら守りきりたかった。

 

 「まあでもとりあえずあれだな」

 

 喜びを一旦置き、俺達は口を揃えてさっきまで対峙していたチームに向けて言った。

 

 「「「救けて」」」

 

 

 

 

 

 

 

 騎馬戦の順位は、1位が轟チーム、2位が俺達、3位が爆豪チーム、4位が緑谷チームとなった。

 最終種目であるトーナメント戦に際し、15人では不平等が生まれるという理由で、5位チームから1人選抜されることになった。最後まで諦めずに戦った鉄哲が、満場一致で選ばれた。

 

 そして今は昼休み。食事を終えた後、俺はいつものように人使と駄弁っていた。

 

 「いやー許してもらえてよかった」

 

 「さすがはヒーローの卵、ってな」

 

 あの後、洗脳を掛けた人達に謝りに行き、騎馬戦が終わったことを伝えた。人使の洗脳は、掛けている間の記憶が残らないからだ。

 みんな悔しそうにしていたが、最終的には「気にしてない」と言ってくれた。

 ただ女子に関しては、ちょっと怯えていたように思う。尾白は人当たりの良さそうな顔立ちだが、俺と人使はどちらかと言えば悪人面をしているので仕方がない。

 

 「しっかしあのサイドテールの子可愛かったなあ」

 

 「遂に声に出したな変態」

 

 「あれ出てたか?」

 

 「あのさ」

 

 ピシィッ!!あ、あれ?な、なんか、き聞き覚えのあるこ、声が・・・。

 ギギギ。やたら固くなった首を無理矢理回し、横から聞こえてきた声の主を確認する。

 ああこれがジト目か。でもそんな顔も可愛・・・って違うそんなこと考えてるから今こんなことになってんだろーが!

 

 「エロいことはまだ考えてないぞ!?」

 

 「まだ?」

 

 「あっいやそのすいません言葉のアヤです・・・」

 

 「こいつはこういう奴なんだ」

 

 「救けてくれないのか人使!?」

 

 「口に出したのはお前だろ」

 

 ・・・ごもっともです、はい。

 仕方ない。嫌われてもいいから正直に言おう。

 

 「俺はたまにエロいことを考えます」

 

 「・・・それは私でってこと?」

 

 「人っていうよりは仕種。可愛いって思った瞬間にスイッチが入る感じ」

 

 「・・・・・・ぷっ」

 

 おっ。どうやら功を奏したらしい。

 

 「まさか開き直るとはねー」

 

 「許してくれとは言わない。俺はこういう人間だから」

 

 「まぁいい気分にはならないけど、でもあんたは悪いやつじゃないんだろ?」

 

 「なんでそう思うんだ?」

 

 「謝りに来てくれたから」

 

 なんだろう。やたら俺を買ってる気がする。

 

 「ルール上は問題ないのに、それでもすぐに謝りに来てくれただろ?だから、あんた達は悪いやつじゃないって思ってる」

 

 「買いかぶりだよ」

 

 嫌われてもおかしくなかったんだけどな。そう言ってもらえると、心が軽くなるよ。

 

 「なぁそろそろ突っ込んでいいか?」

 

 「どうした人使?」

 

 「なんだ?」

 

 「すげぇ見られてるぞ」

 

 俺達がいるのは会場の通路。人々が行き交う場所だ。

 

 「俺達は構わないけど、女子はいろいろ大変だろ」

 

 「それもそうだね。それじゃ、またな!」

 

 「おう、またな」

 

 「あっそうだ最後に1つだけ!そういうのは時と場合考えろよ!」

 

 サイドテールの女の子はそう言って離れて言った。

 

 「・・・女の子に言われるとは」

 

 「洗いざらい話したからだろ」

 

 「嘘を吐くよりはましだと思った」

 

 「知ってるよ。さて、俺達も行くか」

 

 「そうだな」

 

 ここから先は敵同士。親友だが、この場に限りはライバルだ。談笑もそこそこに俺達は別れ、それぞれの最終調整を行った。

 

 

 

 

 トーナメント前のレクリエーションの時、なぜかA組女子がチアガールの格好をしていた。どうやら上鳴と峰田に黒髪のポニーテールの女の子が騙されたらしい。

 はぁ、分かってない。そういうのは無理矢理じゃダメなんだ。恥じらいの種類が違う。残念だが、同じ男でも俺はお前らとは分かり合えない。

 

 俺が見たいのは、自ら着替えて「あの・・・ど、どうかな・・・?」って恥ずかしそうにしながら上目遣いで意見を求めてくる女の子の姿だ!

 

 脳内で謎の力説をしている俺をよそにレクリエーションが終わり、最終種目であるトーナメントの組み合わせが発表された。

 

 (人使とは別ブロックか・・・人使にとっては、僥幸だろうな)

 

 人使の洗脳は俺に効かない。天敵ってやつだ。

 

 (俺の相手は・・・芦戸ってやつか。てか俺爆豪と同じブロックだな)

 

 準決勝で当たる。勝ち上がれればだが。

 

 (とりあえず、まずは初戦に集中しないとな)

 

 吸収できる個性であることを祈ろう。

 

 

 

 

 トーナメント1回戦の初戦。人使が緑谷に洗脳を掛け、場外へ出そうとしたが、すんでの所で緑谷が踏み留まった。

 

 (指ぶっ壊して意識を取り戻したのか!てか、タネが割れてるのにどうやって洗脳したんだ!?)

 

 緑谷は洗脳のことを知っている。その緑谷に洗脳を掛けた人使と、意識がないはずなのに指を暴発させた緑谷を、俺は食い入るように見ていた。

 2度目の洗脳は掛からなかったらしい。回避をメインに取っ組み合っていた人使だったが、次第に動きが鈍くなり、最終的に場外に追い出された。

 

 (体力切れか。でも、大健闘だったな)

 

 結果としては負けたが、その熱意は伝わったらしい。会場全体が、人使のことを認めてくれたような気がした。

 

 

 

 『ドンマイ!ドンマイ!ドンマイ!』

 

 会場中に響くドンマイコールの原因は、轟が規格外の大氷塊で瀬呂を拘束したことによるものだ。あいつの個性なら、相手次第でもっと上位に食い込めただろう。くじの神様は非情である。

 

 

 

 

 第3試合、第4試合は、尾白VS上鳴と飯田VS発目で、それぞれ上鳴と飯田が勝ち上がった。尾白は無差別放電に対抗出来ず、飯田は相手のやりたかったことに利用され、実質不戦勝だった。

 

 そして第5試合。俺の出番がやって来た。

 

 (女の子かよぉぉぉ)

 

 芦戸三奈と呼ばれた目の前の相手は女の子だった。

 

 (男なら迷いなくぶっ飛ばせたんだがなぁ)

 

 予定では、エネルギーを投げつけて場外へ吹き飛ばすつもりだったが、さすがにそれを女の子相手にやるのは腰が引ける。リカバリーガールが居るとはいえ、徒に傷を付けるようなことはしたくない。

 俺は考えた。なるべく相手を傷付けずに降伏させる、最善の策を。

 

 「1回戦第5試合、芦戸さんVS畑中くん、スタート!」

 

 「勝っても負けても、恨みっこなしだよ!!」

 

 芦戸が突っ込んでくる。俺も作戦を悟られないように走る。

 芦戸が手から液体を飛ばしてきた。だが当然それは俺の体に当たる前に消える。

 

 「うっそ!なんで!?」

 

 芦戸が驚き、一瞬動きを止める。はじめからその瞬間を狙っていた俺は、あらかじめ作ってあった盾で芦戸の頭をかち上げた。

 

 「っ!!」

 

 見えない何かにぶつかり驚きを隠せていない芦戸。そして、衝撃に耐えきれず仰向けに倒れた芦戸の体を盾で押さえつける。

 

 「なん・・・っで・・・!動けない・・・!!酸も・・・!!」

 

 「俺の個性だ。相手の個性を吸収して、俺にしか見えないエネルギーに変えてる。今は、それを使って押さえ付けてる」

 

 淡々と説明しているが、力を抜くと拘束から逃れられる恐れがあるので、力は入れたままだ。筋力差があれば押し返せるだろうが、幸い俺の方が力は強いらしい。

 

 「どうする、このまま情けない姿を晒し続けるか、それとも降参するか」

 

 「ぐっ・・・うぅ・・・」

 

 なおも抗い続ける芦戸。あの、そろそろ周りから見た絵面がヤバイと思うんで降参してもらえないですかね。

 

 「うぅ・・・降参、します・・・」

 

 「芦戸さん行動不能!勝者、畑中くん!!」

 

 やっっと終わったぁ。長かったぁ。

 

 「うぅぅ悔しいぃー!ずるいー!」

 

 「ずるくねぇよ!歴とした個性だ!」

 

 反論するも芦戸は聞いていない。よっぽど悔しかったんだろうな。

 

 (少しは補充できたがあと172か・・・保つか?)

 

 残エネルギー量を心配しつつ、観客席に戻った。

 

 

 

 続く第6試合は、常闇が八百万を完封。第7試合の切島と鉄哲は両者戦闘不能で再試合が決定した。

 第8試合の麗日VS爆豪では、麗日の特攻を迎撃し続けていた爆豪への罵倒を相澤先生が一蹴。その後、溜まりに溜まった瓦礫の流星群を爆豪が大規模爆発で一掃、それを見て糸が切れたように麗日が気絶して爆豪の勝利となった。

 切島、鉄哲の再試合は腕相撲に決まり、接戦の末切島が勝利した。

 

 2回戦第1試合。轟の氷に対し緑谷が指と腕を犠牲にしながら対抗。何か話していたようだが、最終的に緑谷の全力パンチと轟の豪炎が激突。大爆発が起き、その衝撃で緑谷が場外へ吹き飛ばされ轟が勝利した。

 第2試合は、飯田が上鳴を蹴り飛ばし、飯田が勝利した。少し痺れていたのを見るに、放電は多少食らったらしい。

 

 そして第3試合。俺と常闇の試合だ。

 

 「黒影!!」

 

 「アイヨ!!」

 

 常闇の個性と思われる黒い影が迫る。

 

 (利用、させてもらうぜ!!)

 

 影でこちらが見えないのをいいことに、俺はピッチングの要領で、エネルギーを飛ばした。

 出力は30。当たった常闇は場外まで吹き飛んだ。

 

 (やべっ!やり過ぎたか!?)

 

 勝利宣言を受け、常闇に駆け寄る。骨折などはしていなかった。

 

 「不可視の一撃・・・見事だ・・・」

 

 弟子の成長に感極まった師匠のような台詞を言い残し、医務室へ運ばれていった。

 

 

 

 (はぁ・・・やっぱり爆豪か・・・)

 

 2回戦第4試合は怒濤の爆撃連打で切島のガードを崩し爆豪が勝利。続く準決勝第1試合が轟の勝利で幕を閉じる。

 そして、準決勝第2試合、俺と爆豪の戦いが始まる。

 

 「クソ坊主!!」

 

 叫びながら真っ直ぐ突っ込んでくる。俺は機動力では勝ち目がないからカウンターを狙っていた。だが、爆豪は爆発を駆使して直前で俺の目の前から消えた。

 

 「くたばれェ!!」

 

 後頭部に衝撃が走る。どうやら蹴られたらしい。

 

 (個性が効かないのは分かってるってか!)

 

 爆豪は変幻自在に動きまわりながら、個性を使わず直接攻撃してきた。全身に張っていたバリアで軽減は出来ているが、補充が効かないためいずれ割られる。

 そして遂に、バリアが割られ重い一撃を入れられた。

 

 (がぁっ・・・!!)

 

 俺はその場に片膝をついた。

 

 (終わった・・・完敗だな・・・)

 

 だが、次の一撃は来ない。不思議に思いながら、どうにか立ち上がると、俺を真っ直ぐに睨んでいる爆豪と目が合った。

 

 「おいクソ坊主。なんであの力を使わねぇ」

 

 「・・・エネルギー切れだ」

 

 「・・・そうかよ」

 

 小さく呟き、爆豪が歩いてくる。そして、俺の目の前で徐に掌を向けた。

 

 

 

 瞬間、100しかなかったエネルギーが1126まで回復した。

 

 

 

 「・・・どういう、つもりだ?」

 

 「全力のテメェを叩き潰さなきゃ意味がねぇんだよ」

 

 「・・・そうかよ」

 

 爆豪が、空中に飛び上がりきりもみ回転を始めた。おそらく、あの勢いを利用して突っ込んでくる気だろう。

 

 (・・・・・・後悔すんなよ・・・・・・)

 

 俺は途切れそうな意識をどうにか保たせて、爆豪がくれたエネルギーのすべてを頭に集中させ、巨大なキューブを作り出した。

 

 『んなっ!!なんだありゃあ!?』

 

 『避けろ、爆豪!!』

 

 実況が叫んでいる。爆豪はどうなったか分からない。

 

 そして、俺の記憶はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めて最初に見たのは武骨な天井だった。

 

 「目、覚めたか」

 

 人使の声がする。俺はベッドに運ばれたらしく、人使はベッドの横に座っていた。

 

 「・・・どのくらい寝てた?」

 

 「ピッタリ1時間だ」

 

 「・・・爆豪、生きてるか?」

 

 「1位になったのに表彰台で暴れてたよ」

 

 「・・・そうか」

 

 体を起こす。怪我はリカバリーガールのおかげかすべて治っていた。

 

 「リミッター、超えたんだ」

 

 「だろうな・・・あれは、やばかった」

 

 「やっぱり、見えたのか?」

 

 「見えたなんてもんじゃない。あれは・・・この世のすべてを否定するような、どす黒い、負の塊だった」

 

 負の塊。その言葉を聞いて妙に納得する。

 あの時俺は、力のコントロールをしなかった。ただ目の前の敵を抹消するためだけに動いていた。

 絶対的な死。あの日父さんが殺された時に焼き付いた記憶。あの力は、それの集合体だ。

 

 「・・・今はどうなんだ?」

 

 俺は人を殺そうとしたんだな。そう言うより先に、人使が声をかけてくれた。

 

 「今は大丈夫だ。けど、この先どうなるかは分からない」

 

 「それを何とかするのが、俺達の仕事だ」

 

 聞き慣れた低く落ち着いた声。どうやら外で話を聞いていたらしい相澤先生が入ってきた。

 

 「俺には、お前が出したあれが泣き叫んでいるように見えた。俺以外の人間もだ。事実、A組は飯田、緑谷の2人と女子全員が泣いていた。あの爆豪ですら、悲しみに顔を歪めていた」

 

 (知ってますよ。あれは、俺のトラウマが生んだ悪魔だから)

 

 「お前が言ったリミッターは、おそらく心のリミッターだったんだろう。それが外れた結果ああなるのなら、俺達は教師として、ヒーローとして、それを見過ごすわけにはいかない」

 

 (ああ、やっぱりこの人は、俺を真っ直ぐに見て未来を示してくれる)

 

 「お前が闇に飲まれるなら全力で救ける。お前が道を踏み外すなら全力で止める。お前も、全力で乗り越えてこい」

 

 「・・・・・・はい・・・!!」

 

 かろうじて涙を堪えて、返事をすることができた。

 あんなことがあっても、俺の事を見捨てないでくれる。この人に、そして隣にいてくれる人使に、誇ってもらえる人間に、なりたいと思った。

 

 

 





 爆豪戦は、そのまま倒されるか全力を出させるかの二択で、後者を選びました。
 結果、大河が恐ろしい爆弾を抱えた化け物と化しました
 ちなみに爆豪が放ったのは、麗日戦で見せたあれの両手バージョンをイメージしてます

 今回の話を書いてるうちに、AFOの息の根を止めて捕まって終わりという最悪のバッドエンドが浮かびました なんとか回避するためにがんばります


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職場体験諸々と編入試験諸々と


 幕間みたいなもの
 相変わらず行き当たりばったりで書きたいことを書いています それと書きたいことの為の軌道修正ですね



 

 

 「ヒーロー名かぁ・・・」

 

 「ヒーロー科じゃないのにな」

 

 ヒーロー科の職場体験の時期。俺達は普通科の為参加は出来ない。それでも指名してくれたヒーロー事務所があったため、考えておいてもいいんじゃないかという話があった。

 

 「無難に英語とかでいいのか?」

 

 「自分の特徴が伝わる名前ならなんでもいいんじゃないか?」

 

 「見た目とかか?」

 

 「お前は化け物だからモンスターとかどうだ?」

 

 「そんな敵みたいな名前は嫌だな。あと俺は化け物じゃないな」

 

 体育祭でのあの光景を見た後でも、人使は変わらず接してくれている。でも化け物はやめよう?あの日以降俺見て怯える人増えてるからね?

 

 「あれを出した時のお前は間違いなく化け物だったぞ」

 

 「それを堂々と言えるとか尊敬しちゃうわぁ」

 

 「冗談だからな」

 

 「人使はヒーロー名どうするんだ?」

 

 「まだ決めてない。いざ自分を伝えるってなると難しくてな」

 

 「だよなぁ。洗脳は英語だとブレインウォッシュだったっけ?」

 

 「ああ。あとはマリオネットとかも俺をイメージしやすいかなって思う」

 

 「操り人形、だっけか。ピッタリじゃないか?」

 

 「ただマリオネットって『操られる側』なんだよな。そこだけ引っ掛かってる」

 

 「俺に操られてることにしときゃいいんじゃね?」

 

 「洗脳もなしに人を操るとか化け物以外の何物でもないぞ」

 

 「人使にとっての化け物なら別にいいかなって」

 

 「そりゃどーも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで、麗日達はどこの事務所にしたんだ?」

 

 職場体験前の昼休み、久しぶりに食堂で麗日達3人と会った。

 

 「私はガンヘッドの事務所!」

 

 「ゴリゴリの武闘派だな!緑谷は?」

 

 「僕は、グラントリノって人のところ。公式の活動記録がないから、どんな人かは分からないんだけど」

 

 「確かに聞いたことない名前だな。てか、分からないってことは向こうからの指名か?」

 

 「えっ?うん、そうだよ?」

 

 緑谷指名来たのか。

 

 「すまん、勝手に指名0だと思ってた」

 

 「俺もだ。負けた俺が言うのも何だけど、派手に体ぶっ壊してたからな」

 

 「うん・・・実際、体育祭直後は0だったよ。でも、後からその人が、僕を指名してくれたんだ」

 

 「なんか、特別な事情とかありそうだな」

 

 「うぇっ!?い、いや・・・その・・・」

 

 うわぁすげぇ分かりやすい。あからさまになんか隠してるわぁ。

 

 「っはは。別に詮索する気はねえよ。で、飯田は?」

 

 「俺はマニュアルヒーロー事務所だ。本当は兄の事務所に行くつもりだったが、例の件でな。別の事務所を選んだ」

 

 例の件。飯田の兄インゲニウムがヒーロー殺しと呼ばれている敵に襲われた事件だ。

 生きてはいるが、瀕死の重傷を負い今も入院している。

 

 「そうか。ところでそのマニュアルって人の事務所は保須市か?」

 

 「む、そうだが。どうして分かったんだ?」

 

 「それは言えねえな。ただ、飲み込まれるなよ。俺が言えるのはそれだけだ」

 

 「む、そうか」

 

 言葉の真の意味が伝わったかは分からないが、飯田は返事をくれた。緑谷は考え込み、麗日はきょとんとしている。

 

 (何事もなければそれが一番いいんだけどな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただそういう心配事は得てして悪い方向に転ぶ事が多い。俺は雄英高校の生徒がヒーロー殺しの襲撃に遭ったというニュースを聞き、その生徒が入院しているであろう病院に来ていた。

 

 (あの位置情報は、つまりそういうことだったってことだな)

 

 俺は緑谷の連絡先を知っている。その緑谷から事件当日に送られてきた位置情報と、それが保須市だった事実。それらが、俺に結論を導き出させた。

 

 (ヒーロー殺しが生きてるんだから、大丈夫だとは思うが・・・)

 

 

 

 

 

 「畑中くん!?面会は原則禁止だったはずじゃあ・・!!」

 

 「担任の先生の代わりって事で押し通した」

 

 「・・・お前そういえば相澤先生に目ぇ掛けられてたな」

 

 事前に相澤先生には話はしてある。時間の無駄だと一蹴されると思っていたが、返ってきた言葉は「好きにしろ」だった。ついでに「もしダメそうなら俺に連絡しろ」とも言ってくれた。

 俺は、甘やかされている。

 

 「目を掛けられてるのは否定しない。それで、飯田は大丈夫だったのか?」

 

 「両腕の傷が特に酷」「そっちじゃねえ」

 

 

 

 「復讐、しようとしてたんだろ」

 

 

 

 「・・・今は大丈夫だ。友に、クラスメイトに、救けられたからな」

 

 飯田の目には、新たな決意がみなぎっている。

 

 (俺の言葉も、少しは届いたかな)

 

 今はって言ったのは、1度復讐の心に飲み込まれかけたからだろう。それでも飯田は立ち直った。救けられたのは、危険からだけじゃなく心もだろうな。

 

 「ところで、緑谷と轟はなんで保須にいたんだ?」

 

 「僕は、渋谷行きの新幹線の途中で敵に襲われて、そこがたまたま保須市だったんだ」

 

 「俺は親父の判断で保須に出張してた」

 

 「なるほど。それで緑谷が飯田を見つけて救けに入って、後から轟が合流した感じか」

 

 3人が驚きの表情を浮かべた。最初に口を開いたのは轟だった。

 

 「なんで分かったんだ?」

 

 「復讐はヒーローがいたら出来ないから飯田は1人で動くだろ?で、緑谷の位置情報のみの送信で、応援が欲しいけど電話とかをする余裕がない状況ってのがわかる」

 

 驚きはまだ収まらない。むしろ感嘆してるまである。

 

 「轟に関しては怪我を見たからだ。プロヒーロー、ましてNo.2の事務所のヒーローと一緒に駆け付けたんなら、そこまでボロボロにはなってないはずだからな」

 

 「・・・お前探偵か何かか?」

 

 ブフッ!

 

 「いや、轟。さすがに真顔は卑怯だろ」

 

 「・・・?探偵じゃないのか?」

 

 やめろぉ!必死に耐えてんだから追い討ちかけんなぁ!

 見てみろ!飯田と緑谷も笑ってんじゃねーか!!

 

 「なんで笑ってるんだ?」

 

 「気にすんな。原因はお前だけどな」

 

 「そうか?なんか、悪い」

 

 「さて。和んだとこ申し訳ないけど、真面目な話だ。この事って他言無用だよな?」

 

 「ああ」

 

 「わかった。んじゃ、また学校でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「というわけで、飯田は大丈夫そうでした」

 

 次の日の放課後訓練の前、俺は相澤先生と人使に話した。

 

 「俺はなんで聞かされてるんですか?」

 

 「こいつがいずれお前に話すと思ったからだ。同じことを2回も話すのは合理的じゃない」

 

 他言無用とは言われたが、面会に先生の名前を出した以上話さないわけにはいかない。ここなら他人に聞かれることもないだろう。人使に関しては俺に巻き込まれただけだ。

 

 「信頼されている証ですね!」

 

 「別方向でな」

 

 「とりあえずその話は終わりだ。あとはいつも通り、訓練を始めるぞ」

 

 「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練の日々が続き、期末試験が迫ってきたある日、相澤先生が爆弾を持ってきた。

 

 「今度の期末試験、お前らには筆記とは別に、ヒーロー科編入試験を行ってもらう」

 

 「「分かりました」」

 

 俺達は、淡々と返事をした。

 

 「・・・もっと喜ぶかと思ったんだがな」

 

 「「通過点ですから」」

 

 返事が重なる。目標は立派なヒーローになることであり、ヒーロー科への編入はその為の前提条件だと思っている。

 

 「随分と頼もしくなったじゃないか」

 

 「まあ色々とあったんで」

 

 「あとは先生の指導のお陰ですよ」

 

 「だといいがな」

 

 そうして、俺は個性の形状変化の訓練を、人使は相澤先生が扱う操縛布の修練を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 迎えたヒーロー科編入試験。内容は入試の実技試験と同じ、仮想敵の撃破だった。

 

 「ヒーローにとって戦闘力は必然。今回の試験では、お前らがどれだけ戦えるようになったかを見る」

 

 「0ポイントは出ますか?」

 

 「獲得ポイントに連動して出る。あのデカブツにどう対処するかも評価の対象だ」

 

 なるほどな。ヒーローである以上理不尽とも戦わなきゃいけないときもあるってことか。

 

 「それじゃ、始めるぞ。位置につけ」

 

 試験が始まった。

 

 

 

 予め轟に協力してもらって872エネルギーがあった為、俺の作戦はひどくシンプルだった。1ポイントは10の、2は12、3は15の出力で倒せることが分かり、エネルギーを投げ続けた。

 

 そして、入試の時の巨大ロボが現れた。

 

 (残りエネルギーは542。なら150くらいにするか)

 

 見てとれる歪みを発生させているエネルギーの塊を、ロボの中心辺りに投げつけると、ロボはあろうことか爆散した。

 

 (150でこれかよ!!)

 

 「そこまで!!」

 

 ロボ撃退と同時に、俺の実技試験が終了した。

 俺は疑問を抱きつつ、相澤先生の元へ向かう。

 

 「あの、10分経ちましたか?」

 

 「今回の試験はあれを倒した時点で終了だ。かかった時間は6分22秒。ギリギリだが合格だな」

 

 「ってことは、制限時間10分っていうのは強制終了のタイミングだったってことですか」

 

 「お前の個性なら7分あればやれるだろうからな。10分と言ったのは、あの巨大ロボへの反応を見たかったからだ」

 

 「俺が、戦うことを選択するかどうかですか?」

 

 「そうだ」

 

 入試の時、俺は動けなかった。命の保身に走ったからだ。

 

 「入試の時にはなかった力。それを手に入れた今のお前にあのロボがどう映るか。結果、お前はあれを倒せる相手と認識した。そうだな?」

 

 「はい。加減は失敗した気がしますけど、倒せると認識していました」

 

 「それでいい。お前が強くなればなるほど、お前の命が危険に晒される可能性は減っていく。つまり、トラウマに振り回される可能性も減るということだ。エネルギーも、使い切らないように調整していたな?」

 

 「そうですね。なるべく最低限の力で倒すようにしました。エネルギーがなくなったら無力になるので」

 

 「自分の弱点もちゃんと分かっている。なら、後はヒーローとしての知識と経験を積むだけだ」

 

 「正式にはまだ先だが言わせてもらう。ようこそ、雄英高校ヒーロー科へ!」

 

 

 

 その後、人使も無事試験に合格し、俺達は晴れて、2学期からヒーロー科へ編入することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だからっていきなり林間合宿ってどういうことだよ・・・」

 

 「遅れてるんだからしょうがないだろ」

 

 俺達2人が合格した直後、相澤先生からヒーロー科の林間合宿への参加が発表された。この3ヶ月強で付いた差を少しでも埋める為らしい。

 今日は日曜日。俺達は合宿に向けて足りないものを揃えるため、ショッピングモールに来ていた。

 

 「とりあえずバッグからでいいか?」

 

 「ああ」

 

 林間合宿は1週間。俺達はまず、荷物を入れるバッグを買うことを決めた。

 

 

 

 「あの2人どっかで見た気がする」

 

 「A組の生徒じゃないか?」

 

 バッグを買い店の外に向かう途中、見たことのある女子2人組がいた。

 

 「でも名前わかんねえ」

 

 「下手に話しかけて怪しまれるのも困る」

 

 「そうだな」

 

 そう決めて目を切る直前、2人に近寄る2人組のチャラ男が見えてしまった。

 

 「間違っても知り合いじゃなさそうだな」

 

 「ナンパ目的か」

 

 「頼んだぞ人使」

 

 「やれやれ」

 

 俺達はチャラ男に歩み寄る。そして、人使が後ろから声をかける。

 

 「おい」

 

 「あ?」

 

 男共が振り向いて止まる。洗脳完了だ。

 

 「店の外まで歩いていけ」

 

 言われるがままに男共が去っていった。

 

 「余計なお世話だったか?」

 

 「えっと・・・畑中と、心操だっけ?」

 

 「どうされたんですか?」

 

 「絡まれてるように見えた」

 

 「あっ、うん・・・ありがとう」

 

 よし。とりあえず怪しまれることはなかったぞ。

 

 「とりあえず名前知らないから教えてくれるか?」

 

 「ナンパみたいになってるぞ大河」

 

 「あら、貴殿方もナンパしにいらしたんですか?」

 

 「違うよヤオモモ。ウチは耳郎響香。んで、この子が」

 

 「八百万百と申します。お二人とも、よろしくお願い致しますわ」

 

 「「よろしく」」

 

 八百万は良家の令嬢感が半端じゃないな。反対に耳郎はサバサバした感じがする。

 

 「2人はなんでここに?」

 

 「「林間合宿用の買い物」」

 

 「ハモった!てか今林間合宿って言った!?」

 

 「お二方も参加されるのですか?」

 

 (あれ?もしかして内緒にしてたパターンか?)

 

 「相澤先生からそう言われた」

 

 「何も聞いてないのか?」

 

 「2人のことに関しては何も」

 

 「聞いておりませんわ」

 

 「てことは当日に言うつもりだったのか。自己紹介とかもあるとはいえ、本当に合理性の塊だな」

 

 「話すのは構わないけど買い物はいいのか?」

 

 「「「あ」」」

 

 人使の一言で当初の目的を思い出した俺達は、ようやく買い物の続きを始めた。

 

 

 

 その後、洋服店で服を買い、次の行き先の話になった。

 

 「さて、俺達は後は特にないけど、そっちは?」

 

 「私は特には。耳郎さんは如何ですか?」

 

 「ウチは、えっと、その・・・し、下着を、ちょっと・・・」

 

 ああ可愛い。なぜ羞恥を孕む女子はこんなにも可愛いのか。っと、人使に止められる前に抑えないとな。

 

 「なんでそんなに恥ずかしそうなんだ?」

 

 「大河。デリカシーは捨てたのか?」

 

 「美味しいのかそれ?」

 

 「畑中さん。さすがにそれはあんまりですわ・・・」

 

 「・・・あー、うん。あんたはそういう奴なのね」

 

 「外で待ってる分には問題ないだろ?」

 

 「いやなくはないけど・・・うん、それでいいよ」

 

 話が決まり、女性用のランジェリーショップへと向かうことになった。

 

 

 

 ・・・ああ言ったはいいものの、さすがに少し気まずいものがある。店に出入りする人達の目が痛い。

 

 「そういやなんでさっきあんな言い方したんだ?」

 

 「気を遣わせたくなかったからだ。俺から見た耳郎の性格だと、そういうの気にしそうだったからな」

 

 「下着見たい変態じゃなかったのか」

 

 「無理矢理見たいとは思わない」

 

 「見たいのは否定しないのか」

 

 「大事なのはシチュエーションだからな」

 

 「隠さなくなったなお前」

 

 「開き直ったからな」

 

 ブスッ。

 

 「いてっ」

 

 「あれ、もしかして効いてない?」

 

 「個性使ったのか?心臓の鼓動みたいな音は聞こえる」

 

 どうやら耳郎が耳たぶのイヤホンジャックを俺に挿したらしい。

 

 「音は聞こえてるんだ。結構大音量流した筈なんだけど」

 

 「大きくした分は吸収したみたいだな」

 

 「なるほどね・・・ってそうじゃなくて!さっきの見たいって言ってたのは何?」

 

 「ああ、無理矢理見たいとは思わないって話か?」

 

 「・・・是が非でも見たいとかじゃなくて?」

 

 「無理矢理だと罪悪感のほうが勝るからな」

 

 「・・・あの、畑中さんは、その・・・女性の、し、下着姿を、拝見したい、ということでしょうか・・・?」

 

 ああ、お嬢様。御無礼をお許しください。

 

 「誠に申し訳御座いませんでした」

 

 「畑中さん!?突然如何なされたのですか!?」

 

 「貴女様の穢れ無き心に影を落としてしまった事、謹んで御詫び申し上げます」

 

 「要約すると、八百万にそんなことを言わせた自分が恥ずかしくてしょうがないってことだな」

 

 「・・・ウチとの扱いが随分違う気がするんだけど」

 

 「八百万がここまでピュアだとは思わなかった」

 

 「それはウチも思った」

 

 「いえ、その・・・そういった方には、思えなかったもので・・・」

 

 「大河はわりとそういうとこあるぞ」

 

 人使ぃぃぃ。救けなくてもいいから追い討ちはやめてくれぇぇぇ。

 

 「ただ、自分本意じゃなくて相手主体で考える。だから実害はないはずだ」

 

 びどじぃぃぃ!ありがどぉぉぉぉ!

 

 「でもまぁ悪いのはこいつだから殴っていいよ」

 

 あっやっべちょっとふざけただけなのにバレた。

 

 「待て、正直に話して殴られるってどういうことだ」

 

 「お前が一瞬でもふざけたのが悪い」

 

 「許してくださいなんでもしますから」

 

 「なんでもか?じゃあ殴られてくれ」

 

 「理不尽かな?」

 

 「正当な主張だろ」

 

 「逃げ場がねぇ!」

 

 「・・・あんたらの仲がやたら良いのは分かった。まぁウチも悪い奴じゃないとは思ってたしいいよ。ただ」

 

 「そういったことを、女性の目の前で仰るのは、あまりよろしくないと思います」

 

 「また言われたな」

 

 「・・・善処します」

 

 なんとか事なきを得た・・・のか?

 一先ず距離は縮まったと思う。「最低」と一蹴されてもおかしくないはずだから。いや、もしかしたらジャック挿されたのがそういう意味かもしれないが。

 

 その後、駆け付けた警察から敵の目撃情報があったと聞き、事情聴取を受けた後安全が確認されて解散となった。俺がショッピングでやや特殊な女性観を晒している間に、緑谷が敵連合のリーダーに絡まれていたのは、また別の話だ。

 

 

 





 女子との絡みを書かざるを得ない(使命感)
 「とりあえずバッグ」って台詞が浮かんで、アニメ見て誰がどこに行くか確認して、あっこれは絡ませざるを得ないなと

 次は林間合宿 大河達をどっちのバスに乗せようか・・・


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林間合宿1


 始まりました林間合宿
 正直峰田との掛け合いを書きたかっただけですね 半分以上が初日の夜の話になってます
 相変わらず人が多いと誰の台詞か分かりづらいですが、誰の台詞か考えるのも楽しみの1つと作者は思っているので、このままのスタイルでごり押します



 

 

 「・・・というわけだ。2人とも、挨拶しろ」

 

 林間合宿当日の朝。俺と人使は、ヒーロー科の面々の前に立たされていた。たった今、ヒーロー科編入の説明を終えたばかりだ。

 

 「畑中大河です。個性は吸収。相手の個性による攻撃などを吸収してエネルギーに変換、それを使って攻撃とか防御が出来ます」

 

 「俺は心操人使。個性は洗脳。条件を満たした相手を洗脳する。洗脳中は記憶は残らないのと、ある程度の衝撃で解ける」

 

 「畑中はA組、心操はB組のバスに乗っていく。じゃ、バスに乗れ」

 

 相変わらず最低限の説明しかしないな。さすが合理性の鬼だ。

 質問攻めになりそうな流れを飯田がぶったぎってくれたお陰で、わりとスムーズにバスに乗れた。席は相澤先生の隣だ。

 

 先生の隣だからか、あまり話しかけられることはなかった。でも後ろのやつらは一部を除きやたら騒いでいる。高校生らしい行事にわくわくしているようだ。

 

 「で、合宿はどこから始まるんですか?」

 

 黙っていてもよかったのだが敢えて先生に話しかけてみる。

 

 「どういう意味だ?」

 

 「俺が知ってる先生の性格だと、後ろの騒がしいやつらにお叱りの1つもないのはおかしいかなと。なので、合宿所に着く前に何かあるんじゃないかと思いまして」

 

 「・・・察しが良すぎるのも困りものだな」

 

 ああ絶対なんかやるなこの人。まぁ別に人に教えたりはしないけどな。

 

 

 

 俺含むA組のバスが着いたのはやたらと見晴らしのいい高台だった。

 

 (あー、合宿所まで自力でたどり着けとか言うのかな)

 

 そんなことを考えていると、バスとは別の車から女性が2人出てきた。

 

 「煌めく眼で、ロックオン!」

 

 「キュートにキャットに、スティンガー!」

 

 「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

 華麗にポージングを決めた彼女達は、猫がモチーフと思われる色違いのコスチュームを身に纏っている。

 可愛いとは思ったが、彼女達はミッドナイト先生と同じく堂々としているのでそれ以上の感情は沸いてこない。すごくぶっちゃけて言うと、萌えない。

 やたらと緑谷が興奮しているのでヒーローなのだろうが、顔面を掴みながら「心は18」とか言われても困る。

 

 「「必死かよ・・・」」

 

 声が聞こえた。どうやらそう思ったのは俺だけじゃないらしい。

 

 「あんたらの宿泊施設は、あの山の麓よ!」

 

 挨拶の後、赤いほうの女性がそう説明した。

 なるほど、ここからあそこまでを自力で行けということか。何人かは気付いてバスに戻ろうとしているが、それを青いほうの女性が止めた。

 そして女性が地面に手をつけると、突然地面が盛り上がり、みんなが崖下に放り出された。

 

 「で、俺はどうすればいいんですか?」

 

 相澤先生のそばにいることで落下を回避した俺は、先生にそう聞いた。

 

 「お前は俺と合宿所に行って座学だ。しかし、察していたとはいえ予め避けているとはな」

 

 「俺から見て彼等は遥か先にいます。まだ隣に立てる実力はありません」

 

 「話が早くて助かる。じゃ、行くぞ」

 

 そうして俺は合宿所へ向かい、人使と共に座学を行った。

 

 A組が合宿所に着いたのは、夕方の5時過ぎだった。ピクシーボブの個性によって作られた土偶とひたすら戦わされていたらしい。名前は座学の合間に聞いた。

 

 全員が揃ったところで、A組が昼抜きだったこともあり、早めの夕食となった。

 

 「がっついてんなぁ」

 

 「そりゃそうだろ」

 

 ひたすら座学だった俺達と違い、みんな箸の進みが早かった。特にA組は、余程腹が減っていたのか一心不乱に掻き込んでいる奴もいる。

 

 「土鍋ですかぁ!?」

 

 ご飯が食べられる嬉しさで頭のネジが緩んでる奴までいる。いやまぁすごい美味しいんだけど。

 

 「まぁ色々世話焼くのは今日だけだし、食べれるだけ食べな!」

 

 ん?今日だけ?

 

 「明日から自炊か?」

 

 「みたいだな。まぁ明日にならないと分からないけど」

 

 「それもそうだな」

 

 ちなみに仲の良い人で席が埋まるので、俺達は端の方で向かい合って食べている。ぶっちゃけ座学だけで体力をろくに使っていないので肩身が狭い。

 

 

 

 風呂。俺はA組と、人使はB組と入ることになった。

 なんとなくだが、それぞれの編入先な気がしてならない。

 

 「しっかし2学期から同じクラスかぁ」

 

 「まだどっちとかは言われてねえぞ」

 

 上鳴に指摘しておくが、バスに風呂、寝床まで一緒となっているのでほぼ確定ではある。

 

 「それでもどっちかには入るんだろ?同じヒーロー科の仲間として、これからよろしくな!」

 

 「ケッ」

 

 仲間が増えたことを喜ぶ切島と、そっぽを向く爆豪。そしてそれを見て苦笑する緑谷。

 

 「爆豪君!これから苦楽を共にする仲間にその態度はなんだ!?」

 

 飯田は委員長節全開で注意しにかかっている。轟は特に何も思ってなさそうだ。

 

 「るせえクソメガネ。俺は馴れ合うつもりはねぇ」

 

 「お前はホントとんがってるよなぁ」

 

 「うるせぇぞしょうゆ顔!」

 

 しょうゆ顔と呼ばれた瀬呂の隣で尾白が乾いた笑いを浮かべ、常闇と障子は我関せずといった態度。青山に至ってはおそらく自分の眩さに酔いしれている。

 口田と砂藤は会話に参加したくないようだ。まぁ爆豪あんなだしな。

 ここまで見て俺はあることに気付く。

 

 「あれ、峰田は?」

 

 峰田は、男湯と女湯を仕切る木造の壁の前に立っていた。

 

 「求められてるのは、この壁の向こうなんすよ」

 

 「やっぱその程度か」

 

 大多数が壁の向こうの女子のあられもない姿を想像しているであろう中、峰田の行動を違う方向からぶったぎる。

 

 「なんだよ畑中。俺のエロ道に文句でもあんのか?」

 

 「「「エロ道って・・・」」」

 

 あまりの清々しさに若干引く奴等を尻目に、俺は峰田とのバトルを始めた。

 

 「可哀想だと思っただけだ。お前はまだ真のエロに辿り着いていない」

 

 「真のエロ?女性の麗しい裸を拝む以上のエロがどこに存在するってんだ!?」

 

 「そこで思考が止まってる時点で、お前は真のエロには届かないぜ!」

 

 「なら言ってみろよ!その真のエロってやつをよぉ!!」

 

 誰も何も突っ込まない。そりゃそうだ。今俺達の声はおそらく女子に筒抜けになっている。ここで参加しようものなら、最悪同列に見られる恐れがあるのだ。

 

 「教えてやるよ・・・真のエロってのは、相手から提供されるエロのことだ!!」

 

 「っ!!」

 

 「想像してみろ。バスタオル一枚で「あんまり見られると恥ずかしい」と言っている姿を!恥ずかしそうにもじもじしている女の子の姿を!!」

 

 「ぐっ!ぐぅぅ!!」

 

 「それは、心を許した者にしか見せない姿。自分のすべてをさらけ出しても良い、そう思える相手にしか見せない真の姿!それが、俺の求める真のエロだ!!」

 

 「がぁぁぁぁぁ!!」

 

 「お前のやろうとしてることは、女性の心を遠ざける。つまり真のエロから遠ざかる行為だ。それでもやるのか!?目先のエロに囚われて、真のエロを棒に振っても良いのか!?」

 

 「ふっ、ふっ・・・俺は、俺はァァァァ!!」

 

 峰田は俺の言葉を理解し、葛藤している。そして、出した答えは。

 

 「諦めきれねぇぇぇぇ!!」

 

 覗きを敢行することだった。

 

 「女子ー。峰田が行ったぞー」

 

 一応女子に注意喚起しておく。が、その必要はなかったらしい。

 突然ニュッと顔を出した子供が、峰田を叩き落とした。

 峰田を救ける奴はいない。と思いきや、止めるために動いていた飯田に綺麗にぶつかった。

 そして今度は子供ー洸太が落ちてきた。こっちはいち早く動いた緑谷が救けた。少し鼻血が出ているのを見るに、おそらく感謝を述べられた際に彼女達のあられもない姿を見てしまったのだろう。罪はない。

 

 

 

 風呂を出た俺は今、女湯入り口の前で土下座をしている。

 

 「大河くん!?なにしとん!?」

 

 「先程の不貞を謝罪したく馳せ参じました」

 

 「とりあえず顔上げな。なんかウチらがやらせてるみたいになってるから」

 

 促され、立ち上がる。

 

 「それで、謝罪とは一体・・・」

 

 「さっきの風呂場での話だ。不快な思いさせちまったかと思って」

 

 「うーん、でも、嫌な感じはあんまりしなかったよ?」

 

 「びっくりはしたけど、なんてゆーか、男の子だ!って感じ」

 

 「そうね。男の子なら女の人に興味を持つのは仕方のない事だもの。でも、大河ちゃんは峰田ちゃんとは違うわ」

 

 「そうや!大河くんはそーゆうことせえへんもん!」

 

 なんだろう。ヒーローを目指す女の子はみんな天使か何かなのかな?

 

 「えええ。何でみんな許す流れなの?こいつはウチらの体で変なこと考えてんだよ?」

 

 あっ現実見えてるやついたわ。

 

 「待て耳朗。それだと俺がいつもエロいこと考えてるみたいじゃねーか」

 

 ブスッ

 

 「いたいです耳朗さん」

 

 「・・・あんたがエロいとか言うからでしょーが」

 

 「耳朗ちゃん。暴力は良くないわ」

 

 「あれ?てか大河くん大丈夫なん?」

 

 「ん?音の事か?大きくなった分は吸収してる」

 

 そういや実際どういうものかって見たことないのか。

 

 「そういえば私の酸も効かなかった!」

 

 「ってことは、私の顔も見えるの!?」

 

 「見えないぞ?」

 

 話も逸れたしちょうどいいから説明するか。

 

 「俺の個性は吸収できる範囲がわりと狭くてな。轟とか芦戸とかの直接個性で攻撃するタイプと、相澤先生みたいな直接体に作用するタイプ位しか吸収できないんだ」

 

 「そうなんや」

 

 「でもでも、触っちゃったら見えちゃうんじゃないの?」

 

 「それも実証済みだ。身体機能に直結してる個性は、例え触っても吸収できない。試しに触ってみるか?」

 

 徐に手を出し握手を求める。その手をがしっと掴む感触があった。度胸と好奇心がすげぇな。

 

 「みんな、見えてる?」

 

 葉隠以外が首を横に振った。

 

 「そういうことだ。あとは、こっちの説明もしとくか」

 

 握手を終えた掌の上に200でエネルギーの塊を作り出す。

 

 「うわっ。なんか、歪んでる?」

 

 「これはどういった現象なのでしょうか?」

 

 「これが吸収したエネルギーの塊だ。何もないように見えるだろうけどちゃんとここにある。触ってみると分かるぞ」

 

 恐る恐る触る女性陣。瞬時に驚きと喜びが沸き上がる。

 

 「すごーい!どうなってるの!?」

 

 「何もないのに何かあるよ!!」

 

 「ホントだ・・・何これ・・・」

 

 「本当にどうなっているのでしょう・・・?」

 

 「不思議な感じだわ」

 

 「ところでこれどうするん?」

 

 「こうする」

 

 胸から体へ戻していく。

 

 「なんでか胸からだけなんだが、こうやって体に戻せる」

 

 「「「へぇ~」」」

 

 「さて、長くなっちまったけどこんな感じだ。明日早いらしいし、今日はもう寝ようぜ」

 

 「それもそうやね」

 

 おやすみ~、と去っていく女性陣を見送り、トイレに行ってから男子部屋へ戻る。

 

 (問題はここからなんだろうなぁ)

 

 

 

 案の定、俺は問いただされた。主に女子に興味のある奴等に。

 

 「うぉぉい!耳朗にドックンされなかったのか!?」

 

 「されたぞ。効かなかっただけだ」

 

 ドックンって単語が出てくるってことはお前ははしょっちゅうやられてるのか。上鳴よ。

 

 「にしても五体満足っておかしくねぇ!?」

 

 「なんか、俺は峰田とは違うからって言ってたな」

 

 「オイラとお前の何が違うんだよぉぉ!!」

 

 峰田は簀巻きにされている。当然の措置だと思ってしまう俺がいた。

 

 「俺は畑中の言葉に漢を感じたぜ!」

 

 「あの言葉のどこにそんなもの感じたの・・・」

 

 「まぁまぁ、感じ方は人それぞれだよ」

 

 切島の言葉に尾白と瀬呂は呆れている。

 

 「俺は、自分からは絶対にそういうことはしないという意思を感じた。その誠実さが、女子の面々にも伝わったのではないだろうか?」

 

 「ケッ、くだんねぇ」

 

 飯田はこんな話でも真面目だ。爆豪は興味無さげにしている。

 他の面子は黙っている。ほぼ初対面の人間が赤裸々な告白をしたのだから無理もない。

 そんな中、こういう話に無頓着そうな意外な奴が口を開いた。

 

 「畑中。お前は、女体に興味があるのか?」

 

 ボフォッ!

 だから真顔は卑怯だぞ轟ぃ!あの爆豪ですら吹き出してんじゃねーか!

 

 「逆に聞くけど轟はないのか?」

 

 「・・・・・・分からねぇ」

 

 静寂。轟の言葉の意味は、おそらく全員に伝わっただろう。

 分からない。言い替えれば、これまで考えたことがないということ。爆豪のように興味がないでもなく、峰田のようにそれ一辺倒でもなく、純粋に分からないのだろう。

 

 「なら、これから知ってけばいいだろ」

 

 はっとした顔の轟に俺は続けた。

 

 「考えたことないなら、これから考えてけばいい。知らないなら、これから知っていけばいい。そうすりゃ、答えは勝手に出てくるもんだ」

 

 「・・・そういうもんなのか?」

 

 「そういうもんだよ」

 

 「・・・そうか」

 

 轟は納得したようだった。

 

 「・・・何の話だったっけ?」

 

 「轟君が女性に興味があるかという話だ」

 

 「なぁ畑中。そこまで言うなら、好みのタイプとか教えてくれよ!」

 

 丸く収まったかと思ったが、この程度では上鳴は止まらないようだ。

 

 「このクラスで言うなら耳朗だな」

 

 「耳朗ー?あんな女っ気のない奴が好みなのか?」

 

 「分かった。じゃあ普段さばさばしてて男っぽい耳朗が、急に汐らしくなって自分と手を繋ごうとしてる姿を想像してみろ」

 

 「・・・・・・はぅっ!」

 

 「今お前が感じたそれが俺の答えだ」

 

 上鳴が悶えている。あいつチャラいように見えて恋愛初心者だな。

 上鳴以外も一部悶えている。思い浮かべたのが耳朗なのかどうかは分からないが。

 

 「さて、寝るか」

 

 「そうだな。明日からは朝が早い。みんな、そろそろ就寝しよう!」

 

 飯田の一声でみんなが就寝の準備にかかる。何人か寝付けない奴もいそうだが、俺は眠れるので気にしない。

 もし寝坊しそうな奴がいても飯田なら起こしてくれるだろうしな。

 

 

 





 思った以上に大河が変態になった 崇高な理想の持ち主(笑)です
 同じ変態でも大河くんはレディーファースト勢だから許されてることにします
 耳朗が露骨な反応を示すのは、作者の中で彼女が一番乙女だからです

 はてさて合宿編はまだまだ続きます


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林間合宿2


 書けるときに書く!
 実際はアニメとかSSとか見てて放置してただけです
 最近雄英白書も読んだのでその話もそれなりに書きます それなりに(爆)
 きりのいいとこまで書いたら見事に2日目だけで終わりました



 

 

 朝の五時半。今日からA組の本格的な訓練が始まる。

 

 「とりあえず爆豪。これ投げてみろ」

 

 爆豪が渡されたのは、個性把握テストで使われたというボールだった。当時の記録は705,2メートルらしい。

 瀬呂が1キロくらい行くんじゃないかと言っている中で、爆豪がくたばれと叫びながら投げた。性格って言葉に出るんだな。

 記録は709,6メートル。この結果を受けて、成長はしていても個性そのものはあまり伸びていないことを先生が説明した。

 

 「最後に、畑中。お前試しにやってみろ」

 

 「俺がですか?」

 

 「今のお前とこいつらの差ってのを明確にしたいんでな」

 

 差って。これじゃ差どころかぶっちぎりになるぞ。

 言われるがままボールを受け取り、隙間がないようにエネルギーで包み込んで力なく投げる。すると、ボールは一直線に飛んでいき、放物線を描くことなく視界から消えていった。

 

 「・・・何をした」

 

 「エネルギーで包んで投げました。あのボールは今自重が消えてるので何かにぶつからない限りは無限に飛びます」

 

 俺のエネルギーはそれ単体だと何かにぶつかるまで真っ直ぐ飛んでいくのだが、何かを包んだ場合も同様に飛んでいく。だが、ほんの少しでも隙間があると中で物体が動き衝撃としてカウントされるため、完全な真空にする必要がある。

 

 「・・・そうか」

 

 おそらく相澤先生のイメージとは違ったのだろう。だが、先生はすぐさま軌道を修正した。

 

 「一部分とはいえ、お前らは編入生である畑中に遅れを取っている。個性訓練は死ぬほどきついが、ヒーロー科の先輩として、プルスウルトラの精神で乗り越えろ」

 

 そうして、それぞれの個性訓練が始まった。

 

 

 

 訓練内容は様々だが、主に限度の底上げと基礎体力の底上げ、一部が個性のコントロールといった感じだった。

 

 「それで、俺は何をすればいいんですか?」

 

 「まず、お前の限界値についてだ。吸収しながら体より外に出し続けた場合に限界が来るかどうかを確かめる」

 

 「なるほど。考えたことなかったですね」

 

 言われた通り、轟が風呂釜の温度調整のために出している個性を吸収しながら掌にエネルギーを集める。時間はかかったが、掌のエネルギーが1000を超えた。

 

 「超えましたね」

 

 「意識が飛びそうな感覚はあるか?」

 

 「全くないです。この状態ならリミッターは越えないみたいですね」

 

 「よし。じゃあそれを自分に戻せ」

 

 「え・・・?リミッター超えますけど」

 

 「プルスウルトラだ。限界に慣れることで限界を伸ばせ」

 

 「意識が無くなるのは折り込み済みなんですね?」

 

 「そうだ。あとは意識が無くても吸収する可能性があるから戻すときは轟から離れろ」

 

 「分かりました」

 

 そこから俺は、吸収気絶の無限ループを繰り返した。4回目の気絶から意識を取り戻した時、自分のリミッターが伸びたことを感じた。

 

 「限界が1200に伸びました」

 

 「気絶時間も1時間から50分に減ってる。この調子で続けろ」

 

 「はい」

 

 半信半疑ではあったが確実に限界値が伸びたことを実感し、俺は気絶ループを続けた。その日のうちに2度目の限界突破が訪れ、俺のリミッターは1400になった。

 

 

 

 「で、人使は何してたんだ?」

 

 「虎さん考案の身体強化の訓練」

 

 夕飯のカレー作りの最中。昼休みよりは元気そうな人使に聞いたのは、我ーズブートキャンプという全身をいじめ抜くトレーニングの全容である。

 

 「それで昼あんななってたのか・・・」

 

 「今動けてるのが自分でも不思議だよ」

 

 そんな人使が今やっているのは野菜の皮剥き。剥いた野菜は俺が切っている。本来A組とB組で作るはずのものを、「俺達はまだヒーロー科じゃないから」という理由で、2人で作ることを決めた。

 そもそもは全員で協力すればいい話なのだが、B組の物間って奴がやたらとA組を煽った為、そのルートは瓦解した。

 

 「さて、さすがに火を起こしてたら時間かかりすぎるな。ちょっと轟借りてくるわ」

 

 「おう」

 

 昔取った杵柄で、土鍋での米炊きも火起こしも出来るが、薪に火をつけるのは簡単じゃない。

 

 「轟!こっちの薪にも火付けてくれるか?」

 

 「ああ」

 

 「あれぇ~!?君達は2人だけで作るんじゃなかったのかなぁ~!?」

 

 「無視していいぞ」

 

 「いいのか?」

 

 「無視かい!?それがヒーロー志望のすることかなぁ!?」

 

 「人を困らせるのはヒーロー志望のすることなのか?」

 

 「だれが!?誰を困らせてるってぇ!?」

 

 「お前さぁ。仮に災害救助の現場でも同じこと言うのか?」

 

 「そんな訳ないじゃないか!君は僕を馬鹿にしているのかい!?」

 

 「大いに馬鹿にしてるぞ。今作ってる食事を、自分達の為としか考えてないんだろ?」

 

 図星、なんだろうな。今まで捲し立てるように喋ってた口が止まった。

 

 「なら、君は誰のために作っていると言うんだい?」

 

 「救助現場でお腹を空かせてる子供達の為だ」

 

 「そんな人ここにはいないじゃないか!」

 

 「じゃあ聞くけど、俺達が自炊してるのは何でだ?」

 

 「それは、自分達の食事くらい自分達で」「そこで思考が止まってるから俺に馬鹿にされるんだよ」

 

 対抗心を燃やすのは悪いことじゃないけど、今この場においてはそれより大事なことがある。

 

 「これはただの林間合宿じゃない。雄英高校ヒーロー科の林間合宿だ。つまり、立派なヒーローになるための訓練だろ。なら、ただの自炊と侮らず、将来どう活かすかの想定、さらにその想定から今自分がどう動くべきかの逆算。やれることはいくらでもある」

 

 「・・・こじつけじゃないか」

 

 「何とでも言えよ。ヒーロー志望ならそのくらい出来て当然だと、俺が思ってるだけだ」

 

 「・・・・・・」

 

 黙ったな。何も言い返せないってことはよほど効いたのか。

 そして物間は無言のまま去っていった。

 

 「・・・すげぇな、お前」

 

 「そうか?」

 

 「・・・俺は、そんな風に考えてなかった」

 

 「人それぞれだろ。少なくとも俺は、与えられた時間をなるべく無駄にしたくない。それだけだよ」

 

 そう言って立ち去ろうとする俺を、轟が呼び止めた。

 

 「・・・火はいいのか?」

 

 「すまん、完全に忘れてたわ」

 

 周囲からちらほら吹き出す音が聞こえる。近くにいた人は聞こえていたようだが、聞かれて困ることでもないので気にはしなかった。

 

 

 

 轟に火を付けてもらい、ようやく次の作業に進むことができた。

 

 「待ってろよ、まだ見ぬ子供達!」

 

 「俺まで変な人だと思われるからやめろ」

 

 「お前には聞こえないのか!腹を空かせた子供達の声が!」

 

 「みんなカレー作ってるぞ」

 

 「知ってる」

 

 「ならなんで言った」

 

 「思いついたから」

 

 「殴ってもいいか?」

 

 「勘弁してください」

 

 設定に入り込みすぎたか。人使は設定には乗ったがちゃんと現実も見えている。というか俺がふざけるとほぼ条件反射で突っ込みが入る。まぁ分かっててふざけてるんだけどね。

 

 

 

 

 

 「何でお前らは立ち食いなんだ」

 

 無事カレーを作り終わり、A組B組の面々が座って食べている中、相澤先生に突っ込まれた。

 

 「設定に入り込んだ結果です」

 

 「あえて聞くが、どういう設定だ?」

 

 「災害地でお腹を空かせている子供達に、作ったカレーを分け与えるって設定です」

 

 「子供って設定にしたのは、大人ならある程度の空腹は耐えられるからです」

 

 「それだとお前らがそれを食べてるのはおかしいと思うんだが」

 

 もっともな質問だが、回答は用意してある。

 

 「子供達に、「お兄さんたちも食べて」って言われたことにしました」

 

 「さすがに食べないとまずいんで」

 

 「なるほどな。じゃあ立ってるのは何でだ?」

 

 「相手が子供なので、自由に取らせたらすぐなくなっちゃうかなと思いまして」

 

 「食べられない人が出ないように、見張ってるイメージです」

 

 「分かった。なら俺の回答も出してやろう」

 

 そう言って八百万の方へ向かった先生が、作ってもらった簡素な椅子を持って帰ってきた。

 

 「お前らが考えた設定とそれに応じた行動は立派だが、それでお前ら自身が倒れたら本末転倒だ。ヒーローであっても休息は必要だぞ」

 

 「確かに、救けに来たヒーローが倒れたら元も子もないですね」

 

 「頭から抜けてました」

 

 「まぁ、ただの自炊でそこまで明確なイメージを持てるのは大したもんだ。だが、明日からも訓練は続く。気張りすぎて日中の訓練が疎かにならないよう気を付けろ」

 

 「「はい」」

 

 相澤先生が去っていく。

 A組の生徒にはどうか分からないが、先生は基本的に俺達のやることに文句を言わない。それが単に甘やかされているだけなのか、先生が言うところの見込みがあるからなのかは分からないが。

 

 「ところでこれどうする気だ?」

 

 「食べ足りない奴が取りに来るだろ」

 

 救護食という設定の為、俺達は2人前を雄に超える量を作っていた。人数にして10人前以上はあるであろうそれは、俺の予想通りおかわりをしたいやつらの腹の中におさまった。

 にしても八百万がおかわりに来たのは予想外だった。なんでも個性に脂質を使うから蓄える為にたくさん食べるらしい。いっぱい食べればいっぱい出せるってことか。

 

 「う○こみてえ」

 

 瀬呂も疲れてるな。そんなこと言ったら・・・うん、耳郎に殴られてるわ。

 耳郎は八百万のことになるとわりと本気になる節がある。まぁ俺も人のことは言えないが。なんというか、彼女は穢してはいけないと思える何かがある。

 

 

 

 

 

 峰田のいないA組男子の寝室に、B組男子の面々が訪れている。峰田がいないのは・・・あいつだからとしか言いようがないな。

 B組が訪れた理由は至極単純。明日の夕飯である肉じゃがの具材である肉、牛か豚かを決める戦いの為だ。

 事の発端はB組物間。どこからその飽くなき対抗心が生まれるのかは分からないが、A組を煽りに煽り、勝負して決めるという構図が出来上がった。

 

 「どっちでもいいんだけどな」

 

 「最悪なくてもいい」

 

 俺と人使は、まだヒーロー科じゃないからという理由で勝負を避けた。ぶっちゃけ明日も訓練だから余計な労力は使いたくない。

 勝負は腕相撲。物間と切島が補習の為開始早々いなくなる。切島は5本勝負の副将だが大丈夫なのか?

 

 「ワリィ、隙見て戻ってくる!!」

 

 「いや補習に集中しろ」

 

 突っ込む前に切島は飛び出していった。仲間思いのいい奴だとは思うがもう少し自分の事を考えてもいいんじゃないだろうか。

 

 「こいつらヒーロー科だよな?」

 

 「男子高校生でもある、ってとこか」

 

 俺が思う一般の男子高校生は、「てめぇじゃ話になんねぇよ」と言われれば「調子のってんじゃねーぞ」と返すイメージがある。人使がヒーロー科であることを指摘した気持ちもよく分かるが、目の前のこいつらはまだ15、6のガキなのだ。

 

 「教科書持ってきてるか?」

 

 「当たり前だろ」

 

 俺達はそんな青春の一ページに1ミリも興味がないので自主勉を始める。補習への参加も申し出たが、「内容についてこれないだろう」ということで却下された。

 腕相撲はなんやかんや引き分けに終わり、枕投げが始まった。が、途中で個性を使い始めたので、俺達はそっと部屋から出て先生方の部屋へ向かう。先生も気付いていたらしく、こちらに向かっていた。

 

 「止めるのも馬鹿らしいんで放っておきました」

 

 「発端が肉じゃがの肉の種類なんで救いようがありません」

 

 「分かった」

 

 相澤先生が本気の目をしていた。そりゃそうだ。端から見てた同年代の俺達すら救いようがないと思ったのだから、先生の怒りは相当なものだろう。「お前らはおかずなしで白米でも食べていろ」とか言いそうな気がする。

 

 「ヒーローって、なんだろうな」

 

 「あいつらはまだ卵だからな。けど、あれ見ちゃうと俺達が落とされたの納得いかないよな」

 

 「大河は受かっただろ」

 

 「運が良かっただけだ」

 

 「そうかよ」

 

 俺への皮肉にも聞こえる人使の台詞は、その実「お前より実力の低い奴がのさばってるのが気にくわない」というものだ。事実、俺は実技試験のみで考えれば2位という好成績を残している。

 

 「けど置いてかれてるのも事実。夏休みのうちに、出来るだけ取り返さないとな」

 

 「当たり前だ」

 

 編入が決まったとはいえ俺達はまだヒーロー科じゃない。この三ヶ月で広がった差は大きいはずだ。決意を再確認し、俺達はそれぞれの寝床へと戻った。

 

 

 





 自分で書いてて、なぜ大河と心操が2人でカレーを作ってるのかがよく分かりません
 補足ですが、大河の昔取った杵柄とは、初めて友達らしい友達が出来たことに大河母が暴走し、心操家を巻き込んでキャンプに連れていかれたという経験によるものです

 あああついに敵連合との鉢合わせだああ 大河がどう動くのか分からねええ


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林間合宿3


 3日目です
 昼間の訓練はしょって晩飯の話してます カキタカッタカラ!
 未だに神野区のアレに大河を向かわせるか否かで迷っております
 ちなみに、大河は普通科にいたので、敵との遭遇は初でございます



 

 

 昨日と同じ訓練を行い、リミッターが1800まで伸び、気絶時間も20分まで短縮されたその日の夜、俺はA組女子と肉じゃがを作っていた。

 男子は相澤先生のお叱りを受け、肉の入っていない肉じゃが、端的に言えば「じゃが」をしくしくと作っている。

 男子が腕相撲や枕投げで白熱している間、女子は合同で女子会を開いたらしい。そして仲良くなり、今日の肉じゃがはクラスで分かれて牛と豚で作り食べ合いっこすることになったそうだ。俺はそれに紛れ込んだ形である。

 

 「味付けは誰がやるんだ?」

 

 「ケロ。私がやることになっているわ」

 

 「梅雨ちゃんか。梅雨ちゃん家は玉ねぎ炒めるか?」

 

 「私の家ではそのまま煮ていたわ。炒めた方が美味しいのかしら?」

 

 「俺の家はそうしてる。でも味とか変わるから今日は梅雨ちゃんの作り方に任せるよ」

 

 「ケロ。分かったわ」

 

 肉じゃが。よくお袋の味と称されるこの料理は、野菜の下処理の方法や煮汁の味付けなど、様々な要因でその家庭独自の味が生まれる。俺の家だと、カレーのように玉ねぎを炒めてから煮込むのが定番である。

 

 「大河くん土鍋でご飯炊けるんや・・・!」

 

 「昔取った杵柄だよ」

 

 「でもでも、すごいことだよ~!」

 

 そんなにすごいことなのか。気にするのは水加減と火加減くらいなんだけどな。まぁ火加減は薪だから経験積まないと難しいか。

 

 「昨日のご飯もとても美味しかったですわ。何か秘訣のようなものがあるのでしょうか?」

 

 「秘訣かは分からないけど、経験と練習かな。俺は母さんに教わってからちょくちょく自宅でやってた。土鍋ご飯の味覚えちゃったから炊飯器のがなんか物足りなくてな」

 

 「意外だねー。なんかサバイバルとかも出来そう」

 

 「サバイバルもある程度の知識は持ってるな」

 

 「ハイスペックすぎひん!?」

 

 「母さんが思い付きで行動するタイプだから自然にそうなった。「無人島に行くわよ!」とかなんの脈絡もなしに言う人だから」

 

 「うわぁ・・・」

 

 ちなみにさっきの玉ねぎ炒める云々も母さんが言い出したことである。最初は「嘘だろ?」と思ったが食べてみたら意外にも好みの味だった。

 

 「畑中ぁぁ!!俺はお前を許さねえぞぉぉぉ!!」

 

 峰田は瀬呂のテープで拘束されている。俺と人使のこの状況を見て峰田が発狂するのは分かりきっていたので、相澤先生に相談した結果である。

 言い忘れていたが、人使はB組女子と肉じゃが作りに励んでいる。俺達にその気はないが、誰がどう見てもハーレムである。

 

 「貴様のような下等生物に許しを乞う謂れはない!」

 

 「中二病拗らせたのか変態」

 

 「おお我が最愛の友、人使よ!我に何の用だ?」

 

 「殴りに来た」

 

 「分かった俺が悪かった」

 

 突然の来訪にもめげず高貴な貴族を演じていたが、相手が悪かったようだ。

 

 「で、どうした?」

 

 「八百万に用があってな。さっきチャッカマン作ってたのが見えたから、貸してもらえないかと思って」

 

 「よろしいですわ。どうぞお持ちになってください」

 

 声のかかった八百万がチャッカマンを渡す。

 

 「けどなんで人使なんだ?八百万に用があるなら仲良い女子の方がいいと思うんだけど」

 

 「お前がいるからだよ。後は自分で考えろ」

 

 それだけ言って去っていく人使。俺は頭をフル回転させる。

 

 (俺がいるから・・・つまり俺はB組女子に避けられた・・・あとは避けられる理由・・・)

 

 心当たりは2つ。初日の風呂での一件と、体育祭での一件。どちらにしても悪いのは間違いなく俺だ。

 

 「ごめんみんな。ちょっと謝りに行ってくる」

 

 「「「誰に?」」」

 

 「B組の女子に」

 

 言い終えるや否や走り出す。B組の女子が全員こちらを向いたのを確認し、空中で1回転したあと着地と共に土下座の体勢に移行する。ダイナミック土下座と言ったところか。

 

 「すいませんでした」

 

 空気が硬直している気がする。その硬直を破ったのは、聞き覚えのある明るい声だった。

 

 「まさかホントに謝りに来るなんてな」

 

 体育祭の時に話をしたサイドテール女子ー拳藤である。

 

 「俺の言った通りだろ?」

 

 そして人使の勝ち誇ったような声。俺は立ち上がった。

 

 「ようし状況が整理できた。俺は人使に唆されたってことだな?」

 

 「お前が勝手に深読みして勘違いしただけだろ」

 

 「あれを聞いて深読みしなかったらそれはもはや俺じゃない」

 

 「だから騙されるんだよ」

 

 「唆すよりひどくなってるぞ」

 

 真顔で言い合っているが空気は緊張するどころかむしろ和んでいる。それを感じてか、女子の面々が次々と口を開く。

 

 「ホントに仲良いんだね」

 

 「憧れちゃいノコ!」

 

 「やましくない?」

 

 「ん」

 

 一部俺の理解の範疇を超えているが、仲が良いと言いたいのだろう。

 

 「ジャパニーズは罵り合うことをフレンドリーと言うのデスか?」

 

 「冗談だからな。英語で言うならジョークか?」

 

 「OH、ジョークデスか!ナルホド!」

 

 この子は外人さんかな?にしては罵るとか普通じゃ聞かない日本語を知ってるみたいだ。・・・まさかとは思うが物間の影響か?

 

 「そうらしいぞ」

 

 「だからナチュラルに心を読むな」

 

 「顔に書いてあるからな」

 

 「「「いや私達にはわかんないけど・・・」」」

 

 そりゃそうだろう。これはお互いに思考を読むのが得意だからできる言わば達人芸のようなものだ。

 

 「さっきのは、角取が罵るって単語使ってたからもしかしたら物間の影響かなと思ったんだ」

 

 「あー、うん。しょっちゅう物間がいらんこと教えてるのは間違いないよ」

 

 「性格がああじゃなければいいリーダーになれただろうな」

 

 「「「分かる」」」

 

 人使の言葉に女子が同意する。どうやら物間はあの性格以外はみんなに認められているらしい。

 

 「さてと。そろそろ戻るわ」

 

 談笑もそこそこに、俺はA組の肉じゃが作りに戻った。

 

 

 

 「大丈夫だったん?」

 

 「俺の勘違いだった」

 

 土鍋の火加減を確認しつつ麗日に応える。

 

 「勘違いねぇ・・・心当たりはあったわけだ」

 

 「否定はしない。正直勘違いでよかったと思ってるくらいだ」

 

 「ふーん。まぁいいや」

 

 「それよりさ、どんな話したの?」

 

 「俺と人使の仲がいいってのと、角取が物間にいらんこと吹き込まれてるって話」

 

 「えー、つまんなーい」

 

 「もっと恋に発展しそうな話してよー」

 

 「恋て。俺にそれを求められると困るな」

 

 そういうのは女子同士で話すもんじゃないのか?いや、女子会やったはずだからもしかしてそれ系の話が出来なかったパターンか。

 

 「2人ともやめな。あんまり追い込むと変態が出てくるよ」

 

 「耳朗さん?さすがの俺も女の子から言われたら傷つきますよ?」

 

 「でもウチから見たら充分変態だし」

 

 「返す言葉もない」

 

 「皆さん、そろそろ肉じゃがが出来ますわ」

 

 「ケロ、ご飯ももうすぐかしら?」

 

 「あと5分ってとこだな。じゃ、準備始めるか」

 

 皿やコップなど、食卓の用意をする。B組の方ももうすぐ出来るようだ。

 

 

 

 「なんで今日も立ち食いなんだ」

 

 「あの女子の輪に入るのが心苦しいってのと」

 

 「男子が横取りしに来ないよう牽制です」

 

 相澤先生に答える。今俺達の前では女子のみの食事会が開かれているのだ。俺達も誘われたがさすがに断った。

 男子は昨日の先生の宣言通り、肉のない「じゃが」を食べている。ほぼないと思ってはいるが、肉食べたさに取りに来る輩がいるかもしれないので一応警戒している。

 

 「男子は問題ない。そろそろブラドが肉を焼き終えて持ってくるはずだ。だが、そうか・・・」

 

 先生は理解したようだ。

 俺達はさっきまでハーレム状態だったため、今男子の輪に戻りたくない。かといって、女子の輪に入るのも辛いものがある。結局、ここで2人で食べるのが一番安全なのだ。

 

 「仕方ないな。だが、立っている必要はあるのか?」

 

 「気分です」

 

 「立ち食いってなかなか出来ないので」

 

 「そうか。まぁ、倒れない程度にしろよ」

 

 そう言って先生は去っていった。何か言われそうな気がしていたので少し拍子抜けだ。

 

 

 

 

 「さて、腹も膨れた!皿も洗った!!お次はぁ~!?」

 

 「肝を試す時間だぁー!!」

 

 「「「試すぜぇー!!」」」

 

 ピクシーボブの声かけに高らかに応答した5人は、補習の為相澤先生に連れていかれた。

 今日は林間合宿のお楽しみの1つとして肝試しを行う。A組B組に分かれ、最初はB組が脅かす役になり、A組の肝試しが終わったら交代という流れだ。

 

 「俺はA組、人使はB組でいいんですよね」

 

 「言われる前に気付くなんて、さすがイレイザーのお気に入りね」

 

 「お気に入り?俺達がですか?」

 

 「そうよ。編入が決まったとはいえ、本来この合宿はヒーロー科在籍者以外は参加が認められてないの。それを覆してまで、イレイザーはあなた達を参加させた。まぁ、本人は自分からは絶対言わないだろうけどね」

 

 言わないだろうな。「わざわざ言う必要がない」とか思ってそうだ。

 

 「私達も、あなた達の成長と志には光るものを感じてる。とはいえ今はお楽しみの時間!補習で参加できない人の分まで、しっかり楽しんできなさい!」

 

 「もちろんです!」

 

 「心臓を止める勢いで脅かします」

 

 真顔で言うな人使。マンダレイが反応に困ってるぞ。

 

 

 

 くじ引きの結果、俺は耳朗とペアになった。順番は3番目だ。

 

 「うぇぇ・・・なんでよりによってアンタなの・・・」

 

 「露骨に嫌そうな顔だな。耳朗は怖いのは苦手なのか?」

 

 「うぅぅ・・・アンタよりはマシ・・・」

 

 「俺どんだけ嫌われてんだ・・・」

 

 やばい。女子からここまで言われるとさすがにへこむ。でも組み合わせ変えるのはダメって言われたし諦めるしかないか。

 

 

 

 「行くぞ耳朗」

 

 「うぅ・・・いきたくない・・・」

 

 小刻みに震えながらも歩き出す耳朗。俺はその少し前を歩いていく。

 

 「たぶんそろそろ来るぞ」

 

 「来るって・・・なにが・・・?」

 

 スタート地点が見えなくなった辺りで、ガサガサと草の音が聞こえ、目の前を黒い物体が横切った。

 

 「・・・ッ!?」

 

 耳朗は小さく悲鳴をあげて、俺の後ろに隠れた。

 

 「大丈夫か?」

 

 「・・・今の、何?」

 

 「人使だ」

 

 「・・・なんで、来るのが分かったの?」

 

 「あいつならスタート直後に仕掛けるだろうなと思って。顔も見えたから間違いない」

 

 淡々と説明する俺の後ろで、小動物のように怯えている耳朗。この状況で言うのは不謹慎だが、とてもかわいい。

 

 「歩けるか?」

 

 「うん・・・あのさ。手、握っててもいいかな?」

 

 「こんな手でよければいくらでも」

 

 おずおずと俺の手を握る耳朗。肝試し中じゃなかったら俺は妄想に囚われてその場でフリーズする自信がある。でも今は、この少女を無事にゴールまで送り届けることが最優先だ。

 

 

 

 そこからは、事あるごとに耳朗が悲鳴をあげた。最初はかわいいと思っていたのだが、次第に面白いと思い始めた。

 

 「ホントに苦手なんだな」

 

 「楽しそうなのがムカつく。アンタは平気なの?」

 

 「幽霊以外は平気だよ。今回は人がやってるって分かってるから尚更だな」

 

 「幽霊はダメなんだ?」

 

 「こっちから干渉できないからな。なんつーか太刀打ちできない怖さだな」

 

 「ごめん、振っといてなんだけどそれ以上言わないで」

 

 震えが増した。想像して怖くなった感じだな。

 ふと、エネルギーが増えたのを感じた。立ち止まった俺に、恐怖に押し潰されている耳朗がくっついてきた。ついさっき幽霊の話をしてたからか。

 

 

 「何?なんかいたの?」

 

 「急にエネルギーが増えた。前に言ったけど、俺は個性を吸収してエネルギーにしてる」

 

 若干耳朗の恐怖が和らいだ。別の事に意識を割いた結果だろう。

 

 「誰かの個性を吸収したってこと?」

 

 「そうなる。でもそうなると・・・」

 

 俺が言い終わるより先に、紫色の霧が広がってくるのが見えた。

 

 「霧?誰の個性だ?耳朗分かるか?」

 

 「ウチが知ってる限りでは、B組にこんな個性はいな・・・い・・・」

 

 握っていた手から力が抜け、耳朗はその場に倒れ込んだ。

 

 「っ!おい!どうした耳朗!!」

 

 声をかけるも返事はない。意識を失っているようだ。呼吸も苦しそうに聞こえる。

 

 (まさか毒ガスかなんかか!?だとしたら離れないとまずい!!)

 

 俺は耳朗を抱え上げ、霧の薄い方へ走り出した。

 

 

 

 「八百万!大丈夫か!?」

 

 走っている途中に八百万がいた。個性で作ったであろうガスマスクをつけている。

 

 「私は大丈夫ですわ!それより畑中さんは!?」

 

 「俺は個性のお陰で無事だ。けどそのせいで気付くのが遅れて耳朗が吸っちまった!」

 

 八百万は瞬時に状況を理解し、ガスマスクを作り出して耳朗につけた。

 

 「これで一先ずこれ以上の悪化は防げますわ」

 

 「ありがとう。マンダレイのテレパスはあったか?」

 

 「スタート地点に敵が2名、他にもいる可能性があると。それと動けるものは直ちに施設へと仰っていました」

 

 マンダレイは個性で離れた人にテレパシーを送ることができるのだが、俺は個性のせいでそれを受け取ることができない。八百万もそれに気付き、すぐに説明してくれた。

 

 「分かった。八百万、耳朗を頼んでもいいか?」

 

 「駄目です!交戦は許可されていません!それに、畑中さんが危険に」「大丈夫だ」

 

 八百万が制止するのは分かっていた。それでも、俺には作戦がある。

 

 「1分で戻ってくる。待っててくれ」

 

 言い終えるより早く、俺はその場を駆け出した。エネルギーを使って。

 

 (離れて薄くなったってことは、出してる奴を中心に広がってるはず。なら、濃い方にいけば辿り着ける!)

 

 体育祭で加減を間違えたエネルギーによる跳躍。それを駆使しつつ、体にもエネルギーを纏うことで木々をなぎ倒し、最短で中心を目指す。

 

 (体から毒ガスを出せる奴が肉体を鍛えるとは思えない。気絶させてガスを止める!)

 

 確証はないが、無意識下では個性は基本的に発動しないはずだ。

 考えながら走っていると、10秒もかからずに敵を発見した。

 

 「なっ!!!」

 

 すれ違いざまに顔面を殴りつける。その一撃で敵は意識を手放した。

 学生服を来た中学生と思われる少年。手に持っていた拳銃を奪い、個性のガスが止まった事を確認し、八百万の元へ戻った。

 

 「もう倒したのですか!?」

 

 「言ったろ、大丈夫だって」

 

 八百万が驚くのも無理はないだろう。まだ30秒ほどしか経っていない。

 

 「俺はとりあえず耳朗を避難させる。八百万はどうする?」

 

 「私は他の方を探します。ガスで動けない方がいるかもしれません」

 

 「分かった。無茶はするなよ」

 

 救ける為に動くと言った八百万に対し、俺は2つ返事で了承した。さっきの瞬時の状況判断能力を見れば信じるに値する言葉だ。

 俺はそこで八百万と別れ、耳朗を抱えて施設へと走り出した。

 

 

 

 施設まであと少しのところで人影が見えた。警戒して立ち止まったが、そこにいたのは相澤先生だった。

 

 「畑中か!耳朗は何があった!?」

 

 「敵の毒ガスにやられました!原因は取り除いたのでこれ以上悪化することはありません!」

 

 「取り除いた・・・?お前、敵と戦ったのか!?」

 

 「通りすがりにぶん殴ったら気絶しました!」

 

 「・・・分かった。耳朗を連れて施設で待機していろ!」

 

 「お断りします!」

 

 「・・・どういうつもりだ?」

 

 すんなり許可が出ないのは分かってる。それでも!

 

 「八百万がガスを吸って動けない人を探してます。俺はそれの応援に向かうつもりです!」

 

 「・・・エネルギーの残量は?」

 

 「1582です!」

 

 「分かった。ただし、敵との交戦は極力避けろ!」

 

 「はい!」

 

 俺が動くことで救けられる命があるなら、全力で救ける!

 

 

 





 マスタードくん御愁傷様
 思い付いたから書いたけど大河がヤベェ奴になりました 原作に出てくる敵で考えると、マスキュラーと脳無以外なら有利とれますね チートか(笑)
 あと相澤先生が大河に対して妙に甘いのは、放課後訓練にずっと付き合っていて個性の詳細を知り尽くしているが故の判断によるものです
 次回で林間合宿は終わります・・・たぶん


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林間合宿4 その後


 しばらくぶりです
 質の悪い風邪をこじらせてました
 とりあえず前回の続きとその後の話になります 大河が明らかに高校生離れした思考と行動ですが、思い付きで書いてるのでご了承ください



 

 

 「畑中!無事か!?」

 

 「俺は無事です!でも耳朗が毒ガスを吸ってしまって意識がありません!」

 

 施設にある部屋の1つ、補習を行っていたと思われる部屋に入り、ブラド先生に状況を報告する。補習を受けていた同じクラスの5人が、心配そうに耳朗に声を掛けている。

 

 「俺は引き続き毒ガスで動けない人の救助に当たります!」

 

 「待て!生徒を危険に晒すわけには」「相澤先生から許可を貰いました!」

 

 その言葉に室内が驚愕の空気に染まる。庇護対象であるはずの生徒に先生が許可を出したのだから無理もないだろう。

 

 「・・・イレイザーは何と言っていた?」

 

 「俺のエネルギー残量の確認と、敵との交戦は極力避けろと言われました」

 

 「・・・分かった」

 

 「先生!何でですか!?」

 

 いの1番に口を開いたのは切島。こいつの性格なら真っ先に救けに行こうとするはずだ。それでもここにいるのは、先生に止められたからだろう。

 そんな状況で、1人だけ行動を許可される生徒。納得できるはずがない。けど。

 

 「機動力の問題だ。お前らは知らないかもしれないが、畑中は今A組の飯田よりも速く走れる。つまり、たとえ会敵しても逃げるという選択が取れる」

 

 押し黙る切島。理解は出来たようだ。他の奴等も納得は出来ずとも理解は出来ただろう。

 

 「エネルギー切れの問題はあるが、それを確認した上でイレイザーが許可を出したのなら俺が止める理由はない。頼んだぞ、畑中!」

 

 「全力を尽くします!」

 

 そうして、俺はガス発生地点まで走った。

 

 

 

 「拳藤!状況は!?」

 

 「っ!アンタなんで!?」

 

 施設に向かう途中だったであろう拳藤は驚きを隠せないでいる。俺が施設の方から走ってきたのだから当然の反応だ。

 

 「相澤先生の許可を得て救助に向かってる。それより状況は!?」

 

 「小大と骨抜がガスにやられた!!あと鉄哲が動けない人を探してる!!」

 

 「分かった!その2人は任せても大丈夫か!?」

 

 「大丈夫!絶対施設まで連れてく!!」

 

 「任せた!」

 

 状況確認を終え再度走り出す。しばらくして、塊で動く集団を見つけた。

 

 「B組か!?状況を教えてくれ!!」

 

 「鉄哲が泡瀬を探しに行ってる!!後は心操がまだ見つかってない!!」

 

 「分かった!!気を付けろよ!!」

 

 「待って!アンタはどこに行くの!?」

 

 「救けに行く!相澤先生から許可は貰った!!」

 

 「・・・っ!分かった!!気を付けなよ!!」

 

 取蔭の心配を心に留めつつ、俺は更に走る。

 

 (人使がいたのはスタート地点の辺りだ。とりあえずスタート地点に行って戻ってるか確かめる!!)

 

 

 

 肝試しのスタート地点。そこには、拘束された敵2名と、プッシーキャッツの3人、そして出発前だったと思われるA組の面々がいた。人使の姿はない。

 

 「畑中くん!!イレイザーから伝言は聞いてるわ!」

 

 「マンダレイ!状況は!?」

 

 「ここにいた人は全員無事だよ!洸太も保護された!そっちは!?」

 

 「B組は鉄哲泡瀬を除く全員が施設へ移動中!A組は補習5人と耳朗が施設でブラド先生と待機!相澤先生は生徒の安否確認の為周辺の捜索中!他の人の行方はまだ分かりません!」

 

 「あと11人・・・!!君のエネルギー残量は!?」

 

 「あと982です!!」

 

 「まだ大丈夫そうね・・・引き続き救助をお願い!でも、自分の身が危険にさらされたらすぐ戻ってきなさい!!」

 

 「分かってます!!」

 

 「待ってください!!1人では危険なのでは!!」

 

 「彼に限っては、1人じゃない方が危険なのよ!」

 

 飯田の心配をマンダレイが切り伏せる。それに虎さんが補足を加えた。

 

 「彼奴の力は、その気になればここら一帯を更地に出来る。交戦許可が出ていないとはいえ、いざ巻き込まれれば、我らプロヒーローでさえ無事では済まないだろう。なればこそ、イレイザーも我らも彼奴を1人で行動させているのだ!」

 

 激震。そう言って差し支えないほどの衝撃が走ったように感じた。

 だが今は緊急事態。それを説明する余裕はない。俺は、まだ行方の分からぬ人を探すため走り出した。

 

 

 

 

 

 どのくらい走り続けただろうか。ようやく見つけた4つの人影は、うち3人が動けなくなるほどの重傷を負っていた。

 

 「状況を説明できるか?」

 

 重傷ではあるがまだ動けている1人ー泡瀬に訊ねる。

 

 「化け物に襲われた・・・逃げられなくて、戦って、みんなやられた・・・!!」

 

 「その化け物はどこに?」

 

 「いきなり攻撃をやめて、どっかに行っちまった・・・まるで、目的を達成したみたいな動きだった・・・」

 

 「分かった。俺は1人ずつしか運べないから、心細いかもしれないけど、ここで待っててくれ」

 

 そう言って、俺はおそらく1番重傷であろう人使を抱え上げ、その体をエネルギーで包んだ。少しでも体への負担を和らげるためだ。

 そして、施設へ向かって走り出した。

 

 

 

 走っている途中で、麗日、梅雨ちゃん、相澤先生の3人に行き会った。重傷を負っている人使を見て血相が変わった。

 

 「畑中!行方不明者はあと3人だ!そっちの状況は!?」

 

 「その3人がこの先で待機中!3人共に重傷、うち2人行動不能です!!」

 

 「麗日、蛙吹!心操を施設へ!俺と畑中は3人の救助に向かう!!」

 

 指示を受け、2人に人使を預ける。

 

 「・・・頼んだぞ!」

 

 2人が頷くのを見るが早いか、俺は先生と泡瀬達の元へ向かう。

 

 「敵は去っていったと聞いている。だが油断はするなよ!」

 

 「みんなの被害状況はどうなってますか?」

 

 「緑谷、耳朗、骨抜、小大が意識不明の重体。心操が重傷。他はほぼ軽傷で済んでる。後はお前が見つけた残りの3人だな」

 

 緑谷!?あいつは肝試し出発前だったはずだ!

 

 「緑谷が重体!?何があったんですか!?」

 

 「詳しい説明は後だ。まず3人を救ける!」

 

 「っ!はい!」

 

 その後3人の元に着き、俺は鉄哲を、先生は泡瀬と八百万を抱え、施設へと走った。

 

 

 

 

 「イレイザー!それに畑中も!?」

 

 「途中で合流した。これで全員だが3人とも重傷だ。医務室へ運ぶ!」

 

 相澤先生に続く形で、医務室へ向かい鉄哲をベッドに寝かせる。既に応急処置を終えたらしい人使もそこにいた。

 

 「・・・うん、命に別状はなさそうだね」

 

 「良かった・・・間に合った・・・」

 

 「間に合った、か・・・」

 

 ほっと安堵のため息をつく俺とは裏腹に、相澤先生は神妙な面持ちのままだった。

 言い知れぬ不安が、俺の頭を過る。

 

 「・・・相澤先生?」

 

 「・・・爆豪が、敵に連れ去られた。おそらくはラグドールもだ」

 

 「・・・・・・」

 

 何も、言えなかった。

 間に合ってなんかいなかった。守るために、救けるために全力で動いたのは間違いない。それでも、救けることが出来なかった。

 

 「気に病むなとは言わん。今は、自分が救けた人がいることを誇れ。お前が動いていなければ、被害はもっと拡大していたかもしれない」

 

 そんな俺を見かねてか、先生は俺に慰めの言葉をかけてくれた。目の前に、自分が救けた人達がいる。その事実が、俺の沈んだ心を少しだけ引き上げてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 合宿所の最寄りの病院。治療を終えた面々が帰る中、俺は1人病院に残っていた。命に別状はないとマンダレイは言っていたが、それでも重傷者の容態が心配だった。

 

 「お前なら、残っているだろうと思った」

 

 そこへ、俺が居残っていることを半ば確信していた相澤先生がやってくる。

 

 「彼らの状態はどうですか?」

 

 「全員命に別状はない。傷は深いが、緑谷以外は痕が残るような事はないそうだ。ただ、いつ意識が戻るかは分からないと聞いた」

 

 「そうですか・・・一先ず、救かったってことでいいんですかね」

 

 「そうだな。特に心操、八百万、鉄哲の3人は、処置が遅れていたら最悪の結果もあり得たと言っていた。お前が、救助に奔走してくれたお陰だ」

 

 「でも、救けられなかった人もいます」

 

 「ああ。その事実は受け止めなければならない」

 

 淡々と話している先生だが、その言葉の端々から悔しさが滲み出ている。

 

 「だが、後悔ばかりしていても先には進めない。俺達がやるべき事は、この事実を受け止め、これからどうするかを考えることだ」

 

 「・・・先生は、強いんですね」

 

 「強くなった、が正解だ。実力不足や判断の遅れ、様々な要因で救けられなかった命があった。それを糧とし、乗り越えたからこそ今の俺がある」

 

 「・・・俺も、強くなれますか?」

 

 「なれるさ。お前は、救けられなかった事を悔やめる人間だ。仕方なかったと切り捨てることなく、それと向き合う事ができている。時間はかかるかもしれないが、お前なら乗り越えられると、俺は信じている」

 

 先生は、ソファに座っている俺にしゃがみこんで目線を合わせ、信じていると言ってくれた。

 溢れそうになる涙を堪える。言いたいことがあるのに、声にならない。俺は、ただ頷くことしか出来なかった。

 その後、迎えに来た母さんの車に乗り、本来あと4日は空ける予定だった家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 林間合宿への敵襲撃から3日後、俺は人使達が入院している病院で、切島、轟の2人と行き会った。俺と同じく、2人も毎日見舞いに来ていたらしい。

 

 「言いそびれてたけど、あの時はありがとな。俺は、何も出来なかった・・・」

 

 「止められたからだろ?悔しいだろうけど、先生達から見たら俺達は守るべき存在だからな」

 

 「けど、お前は動いてただろ!」

 

 「俺もそう聞いた」

 

 「俺が無理言ったんだ。正直、許可が出るとは思ってなかった」

 

 俺の安全と他の生徒の安全。譲れないもの同士を天秤にかけ、相澤先生は他の生徒の安全を選んだ。先生からしたら、苦渋の決断だったんだろうな。

 

 「・・・お前がそこまでして、俺達を救けようとしたのはなんでだ?」

 

 轟から思いがけない質問が飛んできた。

 

 「困ってる人がいたら出来る範囲で救ける。それが、俺の信念だからだ」

 

 「・・・そうか」

 

 「・・・畑中。お前に、聞いてほしいことがある」

 

 不意に、切島が神妙な面持ちで口を開いた。その目には、並々ならぬ決意が宿っていた。

 

 「爆豪の救出にでも行くつもりか?」

 

 「・・・っ!なんで、聞いてたのか!?」

 

 「お前の視線に、「今度こそ絶対に」って思いを感じた。推測でしかなかったが、当たりか」

 

 「・・・相変わらず、探偵みたいな推理力だな」

 

 真面目に天然をかます轟をスルーして、切島は話を続けた。

 

 「八百万が、敵の1人に発信器をつけたってのを聞いたんだ。それと、警察の人に受信機を渡してた。それを作って貰えば、俺達も爆豪を救けに行ける」

 

 「お前が八百万を救けてくれたお陰だ。だから、お前には言っておかなきゃいけないと思った」

 

 「・・・決行はいつだ?」

 

 「緑谷が目を覚ましてからだ。あいつが、1番悔しいだろうからな」

 

 「・・・分かった。俺はまだ決められない。考えさせてくれ」

 

 そう言って、俺は2人と別れ、自宅へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日も、俺は早めに病院に来た。八百万と話すためだ。

 

 「失礼するぞ」

 

 病室のドアを開けると、驚いた顔の八百万と目が合う。

 

 「畑中さん!?どうしてここに?」

 

 「目を覚ましたって聞いたから。体、大丈夫か?」

 

 「後遺症や傷痕は残らないと聞きました。少し、体が気だるい程度ですわ」

 

 医者から聞いた通り、大事には至らなかったようだ。

 

 「良かった。大丈夫とは聞いてたんだけど気が気じゃなくてな」

 

 「救助が遅れていたら危険だったと聞きました。救けてくれた方に感謝ですわ!」

 

 「あ、それ俺だぞ」

 

 俺が入ってきたとき以上の驚愕の表情を浮かべながら、八百万は早口で捲し立てた。

 

 「わ、私は命の恩人になんて粗相な振る舞いを!!申し訳ございません!!」

 

 「粗相はしてないから気にするなよ。それに、とても救けたとは言えない状況だったしな」

 

 「それでも、貴方は私の命の恩人です!それにこうしてお見舞いまで・・・わ、私でよければ、貴方のお好きになさってください!!」

 

 「よし分かった八百万。まずは深呼吸しよう。一緒にな」

 

 トンデモ発言は聞かなかったことにしよう。まずは八百万の心を落ち着けるのが先決だ。

 

 「すぅーーー、ふぅーーー。どうだ、少し落ち着いたか?」

 

 「は、はい。・・・あの、さ、先程の発言は、その・・・」

 

 「分かってるよ。あれを真に受けるほど俺は落ちぶれてないぞ」

 

 「あ、ありが、とうございます・・・」

 

 顔を赤らめて目をそらす八百万。あの、襲われたいんですか?我輩はいつでもケダモノになれますぞ?

 冗談はさておき、俺は本題をぶつけることにした。

 

 「切島と轟から、なんか話はあったか?」

 

 瞬時に真剣な表情になる八百万。これは、話を聞いたと見て間違いないだろう。

 

 「昨日、受信機を作って欲しいと話がありました」

 

 「・・・そうか。八百万はどう思う?」

 

 「プロに任せるべき案件だと思っております。ですが、轟さんは目の前で爆豪さんが連れ去られたと仰っていました」

 

 その話は俺も知っている。接戦の末、常闇は取り戻したが、爆豪は連れ去られてしまったと聞いた。

 

 「私としては、その気持ちを無下にしたくありません。ですから、折衷案という形を取ろうと考えています」

 

 「折衷案・・・要は、あいつらについていって、やばそうなら止める、ってことか?」

 

 「その通りですわ。・・・何故、分かったのですか?」

 

 「切島達の性格と、今の八百万の発言を踏まえたただの推論だよ」

 

 思考を読み取られたことに八百万は驚いた様子だ。だが、すぐに表情を戻し、話を続けた。

 

 「畑中さんは、どうなさるおつもりですか?」

 

 「八百万の意見を聞いて、やっと決められたよ。俺も救出に同行する」

 

 「それは、いざという時に止める為、ですか?」

 

 「少し違うな。俺が行くのは守る為だ」

 

 少し考えた後、八百万は真っ直ぐに俺の目を見つめた。

 

 「そうならない様尽力は致しますが、もしもの時はよろしくお願いいたしますわ」

 

 「俺もそうならない事を祈ってるよ。それじゃ」

 

 

 

 

 八百万の病室を出て、人使の病室へ向かう。受付の人から、昨日の夜に目を覚ましたと聞いていた。

 

 「よっ。4日ぶりか?」

 

 「そうなるな」

 

 人使は3日間も意識がなかった人間とは思えないほど元気そうだった。

 

 「主治医から粗方は聞いた。お前が救けてくれたんだろ?」

 

 「そうだけど、よく分かったな?」

 

 「あの時、ギリギリ声が聞こえてたんだ。大河の声は流石に聞き間違えない」

 

 「なるほどな」

 

 既に意識がなかったとばかり思っていたが、そういうことなら納得だ。

 

 「しかし、洗脳が効かない敵とはな」

 

 「あいつ、というかあれは、言語機能を失ってたんだろうな。いくら呼び掛けても喋ることすらしなかった」

 

 「どんな奴だったんだ?」

 

 「脳ミソがむき出しの、明らかに人間じゃない何か、だな。桁違いのパワーとスピードに飛行能力、ついでに攻撃を受けても回復してる感じがした」

 

 「飛行に回復・・・個性が2つあるのか?てかよくそこまで覚えてるな」

 

 「勝つためには分析が必要だからな。まぁ、分析したら勝てないって結果が出ちまったけどな」

 

 痛いところを突くという相澤先生の教え。それを忠実に実践出来たのは、ひとえに成長の証だろうな。

 

 「まぁ、実力が足りなかったんだから負けたのはしょうがない。それよりも気になることがある」

 

 人使は、俺の瞳を真っ直ぐに見つめた。

 

 「万策尽きて死を覚悟した後、あの脳ミソ敵は急に攻撃をやめたんだ。まるで、誰かに戻ってこいって言われたみたいにな」

 

 「つまり、命令で動く人形ってとこか。人使の洗脳に似てるな」

 

 「加えて、俺達と戦ってたのに殺さずに帰ったってことは、別の目的があってそれを達成した、ってことだと思うんだ」

 

 「てことは、最初から爆豪誘拐が目的だった、ってことか・・・」

 

 「かっちゃんって呼ばれてたのは、やっぱり爆豪のことだったのか」

 

 「かっちゃん?何のことだ?」

 

 俺は個性の影響で聞こえていなかったが、マンダレイのテレパスで新たな連絡が届いていたらしい。爆豪のことをかっちゃんと呼ぶ奴を、俺は1人しか知らない。

 

 「緑谷か・・・あいつ、敵倒してボロボロの体だったのに、たいした奴だよ」

 

 「あいつは真のヒーローだからな」

 

 「随分買ってるんだな。人使にしては珍しい」

 

 「体育祭で戦ったときに、色々話したんだよ」

 

 そういえば、体育祭での緑谷は、条件を知っていたはずの人使の洗脳にかかっていた。

 聞けば、俺の過去を掘り返そうとしたことについて、「俺はまだ許せてない」という主旨の話を持ちかけ、それに謝ろうとしたら洗脳にかかった、ということらしい。

 

 「大河の過去話した時、緑谷が泣いてたろ?なんで泣いてたのか、試合の後に聞いたんだ。そしたらあいつ、「救けられなかった自分が情けない」って言ったんだよ」

 

 「俺はてっきり、悲しい過去を思い出させてしまったことを嘆いてるんだと思ってた。けど、あいつは違った。それ以上に、何も出来なかった自分の無力さを呪ってたんだ。同い年で、その時は救ける力なんてなかったはずなのにな」

 

 人の悲しい過去を聞いて、同情する人間はいくらでもいる。でも、救けに行けなかったこと、救けられなかったことを悔やめる人間は、おそらくプロヒーローの中でもそういないだろう。

 

 「それを聞いて思ったんだ。こいつは、俺と大河が目指してる「真のヒーロー」の心を持ってるんだなって」

 

 「あいつはそういう奴だよ。なんつーか、「体が勝手に動く」とかそういう感じなんだろうな」

 

 「ただ、話を聞く限りだと自分の事は二の次なんだよな。だから、しっかり守ってやれよ」

 

 「守る?何の話してんだ?」

 

 「いくら3日も意識がなかったからって、大河の考えてることが分からないほど耄碌はしてないぞ。行くんだろ、爆豪の救出に」

 

 言わずとも伝わる。俺が口にするのを躊躇っていたことを、人使はさも当たり前のように告げた。

 

 「・・・さすがに分かるか」

 

 「あんまり言いたくないってことも含めてな。俺を巻き込みたくなかった、ってとこだろ?」

 

 「・・・敵わねぇな、その通りだよ。今回のこれは、俺達のことを必死で守ってくれた先生方に対する裏切りだからな・・・」

 

 「そこまで分かってて行くことを決めたんだから俺は止めないよ。ただ1つだけ約束しろ。・・・絶対に、生きて帰ってこいよ」

 

 「・・・その約束破ったら、冗談抜きで殴られそうだな」

 

 苦笑を浮かべつつ、人使と拳を合わせる。

 

 正直、無事に帰ってこれる保証はどこにもない。それでも、約束を違えない為に、自分がやれることを精一杯考えて行動しようと、改めて心に誓った。

 

 

 





 イレイザー・・・大河に甘すぎないか・・・?
 一応、トラウマ克服のために出来ることはなるべくやらせたいという心情からの言動なのですが、それにしてもらしくないような・・・まぁ今更変えるようなことはないのですが(爆)
 ブラド先生については、A組のことはイレイザーに任せるべき、というスタンスです

 次回、やっっと神野編になります


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神野決戦


 9000字越えた ホワイ?
 とりあえず大河の闇落ちは回避する方向に落ち着きました
 シリアスハキライダァー デモサケテハトオレナーイ
 心操君はいません 常に大河視点だからしょうがないね!



 

 

 その日の夜。爆豪救出に赴く為に集まったのは、轟、切島、緑谷、八百万、俺の5人だ。

 

 「しつこいようで申し訳ないけど、単独行動はしないこと。何か思い付いたときは、必ずみんなに相談すること。いいな?」

 

 「分かってるよ!」

 

 「ああ。俺達はまだヒーローの卵だ。なるべく目立たないように、自分が出来ることをやる」

 

 「よろしいですか緑谷さん?正直、私は貴方が1番心配ですわ」

 

 「うっ・・・気を付けます・・・」

 

 名指しで注意を受け萎縮する緑谷を横目で流しつつ、俺達は病院の出口へ向かう。そこに、俺達の行く手を阻むように立つ男がいた。

 

 「・・・飯田か・・・」

 

 立っていたのは、自分達の出る幕ではないと、救出に反対していた飯田だった。

 

 「・・・なぜ・・・よりにもよって君達なんだ!俺の蛮行を、命懸けで止めてくれた君達が・・・!!」

 

 肩を震わせて俯きながら、悔しいような、悲しいような、様々な感情が入り交じった言葉を吐く。

 何かを言おうとする緑谷を退け、俺は口を開いた。

 

 「飯田。お前がなんと言おうと、俺達は行くぞ」

 

 「・・・っ!」

 

 感情の昂り。俺の発言を受けて心を抑えられなくなった飯田の拳が、俺の左頬を打ち抜いた。

 俺は少しよろけながらも、決して飯田から目を離すことはしなかった。

 

 「お前の気持ちはよくわかるよ。俺も、『大切なものを失ったことがある』からな。怖いんだろ、失うのが」

 

 「・・・そうだよ。俺は怖いんだ!病院で目を覚まさない緑谷君の姿を見て、床に臥せる兄の姿を重ねた!もし、君達がそうなってしまったら、俺は・・・!!」

 

 「だよな。でも、だからこそ俺は今ここにいる」

 

 飯田を真っ直ぐに見つめ、俺は自分の想いを告げる。

 

 「俺は、大切な人を目の前で失って、心が壊れかけた。今は立ち直ったけど、また同じことがあったら、俺はたぶんもう耐えられない」

 

 後ろの空気が変わったのを感じた。緑谷、飯田以外の3人は、俺のこの話を今はじめて聞いたのだから無理もない。

 

 「だからこそ、いざという時に救けられるように、俺はついていくことを決めた。今捕まってる爆豪だけじゃなく、全員が無事に帰ってこれるようにな」

 

 「・・・それでも俺は、君達が行くことに納得は出来ない・・・!」

 

 「それも分かってる。だから、あとは自分の心に従えばいい。お前は、どうしたいんだ?」

 

 「・・・俺は、出来ることなら君達を止めたい。だが、それが叶わぬのなら、君達と共に行こう」

 

 顔を上げた飯田の目は、決意に充ちていた。いざとなったら、殴ってでも止める、そんな意志が見てとれた。

 

 「分かった。もし後ろの男共が暴走しそうな時は、俺も手伝うから全力で止めてくれ」

 

 「暴走なんかしねぇよ!」

 

 「俺達は、やれることをやるだけだ」

 

 「うん。ヒーローの卵として、プロの邪魔をしないようにしつつ、自分達が出来ることを考えよう!」

 

 「そうですわね。出来る範囲で、出来る限りのことを行いましょう」

 

 それぞれが、自分の想いを告げる。飯田も、それをしっかり受け取ったようだった。

 こうして、6人になった俺達は新幹線で受信機の示す場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 受信機に従い神野区に着いた俺達は、まず激安の殿堂ドン・◯ホーテに入り買い物を終えた。

 どうやら雄英体育祭の宣伝効果は凄まじいらしく、道行くあらゆる人に声を掛けられる現状を打破するため、変装することにしたのだ。

 

 緑谷は893の下っ端のような風貌に、飯田は夜の店の呼び込み、八百万、轟はまんまキャバ嬢とホスト、切島はハードコアでロックな感じに仕上がった。

 

 「これならぱっと見じゃわかんねーだろ」

 

 「お前は変わりすぎて逆にやべーやつだぞ」

 

 切島に突っ込まれる。俺は全身を黒のスーツで統一しサングラスをかけている。鏡も見たがどこをどう見てもウィル・ス◯スが演じる某エージェントである。ぶっちゃけ職務質問をされてもおかしくない仕上がりだった。

 

 「さて、んじゃ改めて行きますか」

 

 変装を終え、人の目を盗むようにして、受信機の示す目的地へと向かった。

 

 

 

 

 

 途中酔っ払いに絡まれつつも、なんとか目的地に辿り着いた。そこは、一見何の変哲もないビルだった。

 

 「中の様子を知りてぇな」

 

 「あそこに窓がありますわ!」

 

 八百万に促されて見ると、2階に当たる部分に小窓があった。中は暗いが、切島が暗視スコープを用意していたため、覗くことが出来た。

 

 「・・・っ!!」

 

 飯田の肩に乗って中を見た切島が、驚き息を飲むのが聞こえた。

 

 「・・・緑谷、あれ見ろ!」

 

 そして、同じように俺の肩に乗っていた緑谷にスコープを手渡した。

 

 「・・・っ!あれは・・・脳無!?しかも、1体だけじゃない・・・!!」

 

 「保管庫、ってことか!?」

 

 「脳無って、脳ミソがむき出しの敵のことか!?」

 

 「えぇ、そうですわ!林間合宿で私を襲った敵・・・それが複数体だなんて・・・!!」

 

 切島、緑谷をおろし、現状を確認する。

 

 「見たところここには脳無しかいない・・・でも、あれが暴れだしたら僕らじゃ止められない・・・!!」

 

 「爆豪はいないか・・・どうする!?」

 

 「この受信機以外に手がかりはない。今は、敵の動きを見るべきだと思う!」

 

 「けど!その間に爆豪がやられちまったら!!」

 

 「待て、みんな隠れろ!!」

 

 ビルの前に巨大な人影が見える。それが踵を上げていることに気付き、俺はみんなに隠れるよう指示を出した。

 その踵は、俺達が見た脳無の保管庫であるビルに、真っ直ぐに振り下ろされた。

 けたたましい煙が周囲を包む。煙が晴れたそこには、今しがた踵落としを決めたマウントレディをはじめ、有名なヒーローが所狭しと集結していた。

 

 「ヒーローがここにいるってことは・・・!」

 

 「爆豪の方にも救出に行っているはずだ!」

 

 「オールマイトはここにはいない・・・ってことは、かっちゃんの方にいるんだ!」

 

 「オールマイトがいらっしゃるなら、安心ですわね!」

 

 「流石はプロだ!やはり俺達の出る幕などなかった!速やかに立ち去ろう!」

 

 他の5人がこの場を去ろうとする中、俺は溢れ出る不安を拭えずにいた。

 

 (おかしい・・・敵にとって、この脳無ってのは貴重な戦力のはず。その保管場所に、1人の監視もいないなんて)

 

 「畑中くん・・・?どうしたの?」

 

 「いや・・・気になることが、あってな・・・」

 

 俺が動き出さないことに緑谷が違和感を覚える。遅れて気付いた4人が立ち止まった時、俺が抱いていた不安が現実となった。

 

 まず聞こえてきたのは、底冷えするように低く、不気味な声と足音。そして次に聞こえたのは、辺りを吹き飛ばすほどの衝撃と、ヒーロー達の悲鳴だった。

 

 (・・・・・・!!)

 

 俺は、今にも飛び出そうな声を必死に抑えていた。

 

 (っ!ダメだ!今声を出したら、みんなが・・・っ!耐えろ、耐えろ!!)

 

 その男の声、口調、行動の全てから、途方もない悪意が、根元的な恐怖が感じられる。それは、俺の心に刻み込まれた絶望を、嫌が応にも思い出させた。

 

 (みんなだって、必死で、耐えてんだ!耐えろ、耐えるんだ俺!!)

 

 他の5人も、声を出さないことに全力を尽くしている。もし居場所がばれれば成す術なく殺される。そう思わせるだけの狂気を、殺気を、男は放っていた。

 事実、先程から戦闘音は聞こえない。あれだけいたヒーローが、最初の一撃で全員やられてしまったということだろう。

 

 「君のは、いらないな」

 

 無慈悲な声と共に、更なる衝撃音が聞こえた。生き残っていた人に、とどめを刺したのだろうか。

 俺の脳内は、さっきからずっとトラウマをループ再生している。

 

 (っああ!ダメだ!耐えろ、耐えろ!耐えろ!!)

 

 俺の心は限界が近かった。あと数秒もしたら耐えきれずに発狂してしまうだろう。

 そんな状態の俺の耳が捉えたのは、聞き覚えのある、人を馬鹿にしたような挑発的な声だった。

 

 「クセェ!んだこりゃぁ!?」

 

 (これは!爆豪の声か!)

 

 爆豪が生きていた。いや、生かされていたというべきかもしれないが、その事実が俺の発狂寸前の心を落ち着けてくれた。

 

 (まだ、生きてる!まだ、救けられる!!)

 

 俺がそう思ったように、緑谷達もそう思ったのだろう。今にも飛び出しそうになる3人を、飯田と八百万が必死に抑えていた。

 

 (くそっ!!『いざとなったら救ける』なんて、どの口がほざいてんだバカヤロウが!!)

 

 この状況で飛び出せば、待っているのは確実な死だ。飯田と八百万は、自分達も恐怖と戦うのでいっぱいいっぱいなはずなのに、緑谷達の飛び出しを止めることで、間接的に彼らを救けていた。

 

 その後どれ程の時間が経ったのか。何かがぶつかる音と衝撃波と共に、人々を心から安心させる、平和の象徴の声が聞こえた。

 

 「全てを返してもらうぞ!オールフォーワン!!」

 

 「また僕を殺すか?オールマイト!!」

 

 オールフォーワンと呼ばれた男とオールマイトの戦いが始まる。爆豪の救出に来たはずのオールマイトは、敵と実力が拮抗しているらしく応戦で手一杯のようだ。

 俺達は、ばれないようにその現場を覗き込み、状況を確認した。

 

 (オールマイトはあっちで手一杯、敵はあれ抜きで6人!爆豪はなんとか捌いてるけど、体力が切れたら捕まる!考えろ!!)

 

 爆豪も含めれば7人。俺達が全員無事に帰る方法などないかもしれない。それでも、万にひとつの可能性も逃さないために、頭をフル回転させる。

 

 「みんな!聞いてほしいことがあるんだ!」

 

 「緑谷君!?ダメだ!!この状況は危険すぎる!」

 

 「待て飯田!まずは聞いてからだ。緑谷、続けてくれ!」

 

 「うん。この方法なら、かっちゃんを救けつつ、僕らも戦線を離脱できる!」

 

 緑谷からの説明を受けて、飯田を除く全員が頷く。

 

 「飯田。賭けではあるけど勝算は高いと思う。どうする?」

 

 「確かに、成功すればすべてが好転する。・・・やろう!!」

 

 そして俺達は、緑谷の立てた作戦を決行した。

 飯田と緑谷が切島を抱え、2人の機動力と切島の硬化でまず壁をぶち抜く。そして、轟の大氷壁をジャンプ台のように使い、戦場の上空を横断する。

 オールフォーワンの妨害は、緑谷の予想通りオールマイトが止めてくれた。

 ここからが賭けだった。爆豪なら気付かないことは絶対にないが、素直に救助に応じるかどうか。

 

 「来い!!!!」

 

 切島の魂からの叫びに、爆豪が爆発による空中機動で応えた。敵は、せっかく拐った人質を取り返されたことに憤り、こちらを見向きもしなかった。

 こちらも緑谷の予想通りだ。その場に残った俺、轟、八百万の3人は、敵に気付かれないうちに戦線を離脱した。いや、するはずだった。

 俺は、見てしまった。崩れたビルの中に、逃げ遅れた女性がいることを。気付いたときには方向を変え、俺は女性がいるビルの方へ走っていた。

 

 なるべく敵に見つからないようにビルへ近付く。ふと戦場に目をやると、爆豪を付け狙っていた敵達はいなくなり、いつの間にかオールフォーワンとオールマイトだけになっていた。

 もう少しで女性の元に辿り着ける。そう思った直後、敵が女性に向けて衝撃波を放った。

 

 (まずい!!)

 

 個性による攻撃なら吸収できる。そう考えた俺は、形振り構わず女性の前に出て庇う。だが、その衝撃波が届くことはなかった。

 

 

 

 オールマイトが、その身を以て衝撃波を受け止めていた。

 

 

 

 巻き上げられた砂埃で遮られる視界。それが晴れた時に見たその光景は、にわかには信じられないものだった。

 

 

 

 オールマイトがいたはずのその場所に、長身痩躯の骸骨のような人間が立っていた。

 

 

 

 「・・・オール、マイト・・・?」

 

 コスチュームは同じ。つまり、あれは紛れもなくオールマイト本人。だがその見た目は、普段の筋骨隆々な姿とはかけ離れていた。

 

 「それがトゥルーフォーム、本当の君なんだろう!?」

 

 (あれが、本来の、姿・・・?)

 

 「例えどのような姿になろうとも、私は依然平和の象徴!その信念は一欠片とて奪えるものではない!!」

 

 力強く拳を握り、自ら平和の象徴を名乗る瘦躯の骸骨。やはりあれは、オールマイトの本来の姿のようだった。

 

 (そんな状態で、今にも倒れそうな姿で、どうして動けいていられるんだ・・・?緑谷もそうだった。例え自分がどうなろうと、人を救けることを躊躇わない。一体とうして・・・?)

 

 自分の命を優先してしまう俺には絶対に出来ないことを、緑谷は、オールマイトは平然とやってのける。なぜ。どうして。

 そして、さっきオールマイトが言っていた言葉が、ふと頭を過る。

 

 『例えどのような姿になろうとも、私は依然平和の象徴!!』

 

 (信念・・・そうか、そういうことなのか)

 

 「さあて、その姿で、後ろの2人を守りきれるかな?」

 

 「2人?・・・っ!畑中少年!?」

 

 オールマイトがこっちを振り返ると同時に、敵から禍々しい何かが伸びてくる。俺はとっさに女性を包むようにバリアを張った。

 

 「ほほう、これは珍しい個性だ!無効化、あるいは吸収のようだね!」

 

 「畑中少年!なぜここにいる!?」

 

 「緑谷達と一緒に来ました。それで、この女性が見えたので救けに来ました!」

 

 「緑谷少年といい、君達は無茶をするね!」

 

 無茶。そう言われても無理はない。一瞬でも判断を間違えれば、目の前の敵の手によって俺は屍に変わる。

 今までの俺なら、自分の命可愛さにただ立ち尽くしていたであろう場面。そのはずなのに、俺の体はさもそれが当たり前かのように動いた。

 

 「オールマイトに言われたくありません。その姿、大分前から無茶してたんじゃないんですか?」

 

 「僕を前にして談笑とは、いい度胸をしているなあ!!」

 

 オールフォーワンがさっきの衝撃波をまた放ってきたが、盾状にエネルギーを展開することで防いだ。

 

 「お返しだ!」

 

 出力30のエネルギーを投げる。個性を使って防御するような素振りを見せたが、まともに食らって後方へ吹っ飛んだ。

 

 「少年!許可のない個性の使用は違反だぞ!」

 

 「正当防衛です。とりあえず、この女性を安全な所まで避難させて戻ってきます!」

 

 「そのまま君も避難しなさい!後は、私に任せるんだ!!」

 

 「お断りします!!」

 

 呆気にとられるオールマイト。女性も、有り得ないものを見たかのように目を見開いている。

 

 (No.1ヒーロー、オールマイト。『平和の象徴』という信念に従い、ボロボロの姿で今なお人を救うために戦おうとする真のヒーロー!あなたがその信念を貫くというのなら、俺も自分の信念を貫く!!)

 

 「俺の信念は、「困っている人を全力で救ける」ことです!俺には、今のあなたが困っているように見える!だから、誰が何と言おうと、絶対に救けに来ます!!」

 

 言うが早いか、俺は女性を抱えて戦線を離脱した。避難所に着いて戦場に戻ろうとした時、他ならぬ救けた女性に声をかけられた。

 

 「救けてくれて、ありがとう」

 

 今まで、幾度となく俺の心を救い上げてくれた感謝の言葉。体の内側から、力がみなぎっていくような気がした。

 

 「こちらこそ、ありがとうございます!」

 

 それだけ言って、俺は戦場へと戻った。

 

 

 

 戦況は、好転しているように見えて膠着状態だった。様々なヒーローが集結しオールフォーワンを攻撃しているが、受け流しているのか防御しているのか、ダメージはほとんどないように見えた。

 

 「さて、少々鬱陶しくなってきたな。君らにはおとなしくしていてもらおう!」

 

 言うや否や、地面に向かって衝撃波を放つ。ぶつかって波紋状に広がった衝撃波によって、一部を除いてほぼ全員が吹き飛ばされた。

 

 残っているのは、オールマイトにエンデヴァー、ちっちゃいおじいちゃんと俺の4人だった。

 

 「おいそこの坊主。貴様雄英の生徒だな?」

 

 「おいおい、なんで卵がここにいんだ?」

 

 「平和の象徴が骸骨になったんで救けに来ました」

 

 「少年!私は避難しろと言ったはずだぞ!!」

 

 「君達はおしゃべりが好きだねえ!!」

 

 何度目かの衝撃波。どんな個性かは分からないが、個性でさえあれば俺は無力化できる。

 

 「おい小僧!ここは危ねぇから早く逃げろ!!」

 

 「こんな姿の平和の象徴を置いていけるわけないでしょう!?」

 

 「ふん、ガキの癖に口だけは一丁前だな!」

 

 「いかん、また来るぞ!」

 

 今度は衝撃波ではなく、拳から放たれた風圧が飛んできた。個性ではないため吸収できず、おじいちゃんとエンデヴァーが吹き飛んでいく。俺はオールマイトを庇うように前に立ち、エネルギーでバリアを張って耐えた。

 

 「ふう。なかなか厄介な子供だね。しかし平和の象徴も落ちたものだ!子供に守られているとは!!」

 

 「俺が守りたいから守ってるだけだ。それで落ちたってのは違うんじゃないのか?」

 

 「ハハハハハ!!随分と活きのいい子供だ!僕を前にして臆さず動ける事も称賛に値する!!」

 

 オールフォーワンは、手を叩きながら上機嫌で喋っている。

 

 「守ってくれたことは感謝する。だが少年!手遅れになる前に早く避難したまえ!!」

 

 「なら手遅れになる前にあいつをぶっ飛ばしてくださいよ!もしそれすら出来ないんなら、あなたが避難してください!!」

 

 「ハハハハハ!!平和の象徴に対してそこまで言えるとは!!君とは、仲良くなれそうだ!」

 

 「慎んでお断り申し上げます!」

 

 災害撒き散らすような奴と仲良くなんて出来るか!命がいくつあっても足らんわ!!

 

 「畑中少年!ふざけている場合ではないぞ!?」

 

 「今の隙に殴れたでしょ!?好きでふざけてる訳じゃないですよ!?」

 

 「おやおや、騙し討ちをするつもりだったのかい?随分と卑怯な手を使うんだね?」

 

 「この短時間で俺の個性を見破ってくるような奴に正面から戦う程自惚れてねぇよ!!」

 

 「ハハハ!!観察眼と判断力も上々ときた!!僕に歯向かっていなければ、さぞいいヒーローになれただろうね!!」

 

 膨れ上がった右手を使って殴りかかってくる。俺は咄嗟にオールマイトを抱え、横っ飛びの高速移動で攻撃範囲から逃げ出した。

 

 「いい判断だ!知れば知るほど君が欲しくなってくるよ!!今からでも遅くはない!!僕の仲間にならないか!?」

 

 「さっき断っただろうが!それに、今から捕まる奴の仲間になんかならねぇよ!!」

 

 「捕まる?それは僕のことを言っているのかい!?」

 

 今度は拳による衝撃波だ。範囲が広すぎて避けられない為、エネルギーでガードする。

 

 「そう言ったつもりだよ!!」

 

 「少年!!それはあまりにも危険すぎるぞ!!」

 

 「誰も1人でやるなんて言ってないですよオールマイト!!」

 

 少しだけ語気を強め、俺はオールマイトに向かって叫んだ。

 

 「俺はあくまで、あなたを救けに来ただけだ!!あいつを倒しに来たわけじゃないですよ!!」

 

 (あいつを倒すのは俺じゃない!平和の象徴であるあなただ!!)

 

 言葉の裏に込めた想い。それが伝わったのか、さっきまで俺の心配ばかりしていた瞳に、強い光が宿った。

 

 「・・・そうだな。奴を倒すのは、平和の象徴である私の役目だ!!」

 

 「頬がこけ、痩せ細ったその体で、尚も心は折れず、か。僕も油断はしない!僕が扱える最大、最高の個性たちで、君を殴る!!」

 

 オールフォーワンの左腕が、さっきよりも激しく肥大化する。それに応えるように、オールマイトの右腕だけが筋骨粒々の姿に戻る。

 

 「いくぞ!!オールフォーワン!!」

 

 決意みなぎる掛け声と共に、オールマイトが目の前の敵に向かってまっすぐに飛び出す。それに合わせるように、オールフォーワンも突っ込んでくる。

 と見せかけて、オールフォーワンは空中で方向転換し、俺の方に突っ込んできた。

 

 「まずは、僕の手を煩わせてくれた君からだ!!」

 

 「貴様あぁぁぁぁ!!!!」

 

 オールマイトの魂からの叫びが聞こえた。

 

 (どこまでも敵。人の嫌がることを徹底して行うってか。けど)

 

 その動きを読んでいた俺は、あらかじめ右手に残り全てのエネルギーを集めていた。

 

 「やられて!たまるかぁぁぁぁ!!!!」

 

 反撃など微塵も考えていなかったのだろう。オールフォーワンは攻撃を止められず、俺の全霊のエネルギーによる攻撃を左手で受け体勢を崩した。

 そして、その隙をオールマイトは逃さない。

 

 「UNITED!!」

 

 左足を強く、強く踏み出し。

 

 「STATES OF!!!!」

 

 腰を捻り、拳を加速させ。

 

 「SMAAAAAAAAASH!!!!!! 」

 

 全身全霊の拳を、オールフォーワンの顔面に叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 その圧倒的なパワーは、地面を割るだけに留まらず、周囲に暴風を撒き散らす。もはや自然災害と呼んでも過言はないレベルだった。

 エネルギーを全て使いきっていた俺は、その暴風に成す術なく吹き飛ばされた。

 

 (あっ、死ぬかも)

 

 宙を飛ぶ自分の体の勢いを肌で感じ、このままビル等にぶつかったらただの怪我では済まないなと思いつつ、既に自分ではどうにも出来ないため、せめて頭だけはガードして衝撃に備える。

 そうして俺に訪れた衝撃は、とてもビル等にぶつかったとは思えない、ひどく柔らかいものだった。

 

 「まったく。なんで俺の周りにゃ、こうも後先考えずに動くやつが多いんだ?」

 

 聞こえたのはしゃがれた老人の声。

 

 「すみません。死にたくなかったんで全部出し切りました」

 

 「見てたから知っとる。あれに関してだけ言えばお前さんは悪くない。むしろよく反応できたな?」

 

 「ちょっとだけ敵と会話しまして。あいつならああいうことするだろうなって思ってました」

 

 「読んでたってのか。だが、そもそも無茶せずに逃げてりゃああはならなかったぞ小僧!」

 

 「No.1ヒーローが無茶してたんで、なら俺もいいかなって思いました」

 

 あんな痩せ細った背中見たらそりゃ無茶もしますよ。見た目完全に要救助者だったし。

 

 「ったく、緑谷といいお前さんといい、真似しなくていいとこばかり真似しおって」

 

 緑谷を知ってる?ここにいるってことはヒーローだよな?でも俺は見たことない。ってなると・・・。

 

 「グラントリノですか?」

 

 「なんだ小僧、俺のこと知っとるのか」

 

 「雄英生徒と外部のヒーローとの接点って職場体験位しかなさそうだったので。推論です」

 

 「最後のカウンターといい読みが鋭いな小僧。っと、長話してる場合じゃねえ。お前さんはここで待ってろ」

 

 そう言うと、グラントリノは周囲の状況の確認に行った。

 待ってろと言ったのは、ほぼ間違いなく警察の事情聴取があるからだろう。

 

 (怒られるだろうな。でも、後悔はしてない)

 

 あの女性に攻撃が来たとき、俺は自分のトラウマの事を忘れて動いていた。完全に乗り越えたのかはまだ分からないけど、今回の戦いとオールマイトのあり方を見て覚悟が決まった。

 

 「持てる全ての力で、困っている人を救ける!」

 

 今回みたいに、一か八かにならないように、もっと力をつけないといけない。時間は有限。より多くの人を救けられるように、有意義に時間を使っていこう!

 

 (・・・除籍されなければ、だけど・・・)

 

 『ヒーロー科編入は無かったことにする』。そんな無慈悲な台詞を事も無げに放つ相澤先生が頭を過った。

 

 

 





 大河は進化した!
 ・・・進化しました、はい ドウシテコウナッタノ?
 大河が女性に気づいたのは、日頃から人を救ける為によく周りを見てるから、ということにしましょう(懇願)
 あと、最初トラウマにやられそうになってた大河が持ち直したのは、単純に平和の象徴が来たことによる安心感からです ゲンキンナヤツダ
 次回は怒られ回になります 予定では()


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決戦後日談


 怒られるはずだったんだよ(泣)
 自分が思うヒロアカの世界観だと、人を救けたことに対してはそんなに怒らないはずだという考えです
 あとは大河を見すぎたせいでイレイザーが軟化していると思ってもらえればいいかなと思います



 

 

 

 メイデンにオールフォーワンが収容される中、俺は警察の塚内さんという人から聴取を受けていた。

 

 「まず、君はどうやってここに辿り着いた?」

 

 「八百万に受信機を作らせて、それを辿りました」

 

 「八百万少女が・・・そうか・・・」

 

 「一応聞いておくが、他に来ていたのは?」

 

 「緑谷、轟、切島、八百万、飯田の5人です。前3人は爆豪を救けたい一心、後の2人はその3人が無茶をしそうだから歯止め役、って感じです」

 

 あまりあいつらを巻き込みたくはないが、警察の捜査力ならいずればれることだ。なら、全て正直に話した方がいいだろう。

 

 「全員ヒーロー科の生徒だな。君はヒーロー科ではないようだが、なぜ彼らと一緒に行動を?」

 

 「切島と轟に声を掛けられました。行動を共にしたのは、八百万や飯田と同じような理由からです」

 

 「ふむ、その辺りは後で詳しく聞こう。では最後に、君が戦場に赴いた理由を教えてくれ」

 

 「逃げ遅れた女性に気付いたからです。何というか、反射的に体が動きました」

 

 「なるほどね。とりあえず、今日のところは帰って休んでいいよ。色々あって疲れただろうからね。後で連絡するから、その時に改めて話を聞こう」

 

 もう明け方で日が上ってきていたので、その日は帰っていいことになった。

 

 

 

 

 

 「とりあえず自殺志願者には帰って欲しいんだけど」

 

 「ヤクソクハハタシタゾ」

 

 「・・・ったく」

 

 寝て起きた昼過ぎ。俺は警察からの連絡がなかったので、人使の所に来ていた。

 

 「まぁ、こうして生きて帰ってきたんだからよしとするか。にしても、あの状況でよく生きてたな」

 

 「ほとんどオールマイトのおかげだよ。まぁ、最後そのオールマイトに殺されかけたけど」

 

 俺は、最後の一撃の風圧で吹き飛ばされたことを伝えた。

 

 「あの人も大概化け物だよな」

 

 「暗に俺も化け物だって言ってるか?」

 

 「敵も規格外の化け物だったんだろ?ならそれと渡り合ったお前はもれなく化け物だろ」

 

 「否定できない・・・でも渡り合ってはいないぞ。がむしゃらに防御してただけだ」

 

 「防御できるとかやっぱ化け物だろ」

 

 駄目だ。どうあがいても化け物に帰結する。

 

 「ところで、オールマイトのことはどう思った?」

 

 「単純にショックだよ。でも、それ以上にすごい人だなとも思った。あんな体になってでも、ヒーローとして活動してたんだもんな」

 

 「戦いの最中に言ってたよ。『どんな姿になっても、心は平和の象徴だ』って」

 

 「心、か・・・俺が言うのもなんだけど、格が違うな」

 

 「だな。でも、聞いた話だと事実上の引退らしい。惜しい人をなくしたよ」

 

 「なんで上から目線なんだ?」

 

 「たまにはこういうのもいいだろ?」

 

 「随分と調子に乗っているようだな?」

 

      ビキッ

 

 い、いや、きききっと、ききき気のせせせいだ・・・。

 硬直した体。気のせいだと思いたい。だがドアを開けて入ってきたその人の次の一言が、有無を言わさず俺に現実を突きつける。

 

 「編入初日に除籍処分にして、後進の反面教師にしてやろうか?」

 

 「誠に申し訳ございませんでした」

 

 誠意を示すため、椅子から降りて土下座する。それを見た相澤先生は、ため息をついていた。

 

 「お前がやると馬鹿にしているように感じるんだが」

 

 「今回は本気で謝ってますよ。今回は」

 

 「待て人使。その言い方は勘違いを生むからやめてくれ」

 

 「事実だろ?」

 

 やめろぉ!先生の前ではなるべくいい子にしてるんだからぁ!!

 

 「冗談だ。と言いたいが、今後のお前の態度次第では本気で除籍を検討する」

 

 「すみませんでした」

 

 立ち上がり、深々と頭を下げる。

 今回俺は、法律を無視して爆豪の救出に赴いた。合宿の時と違い、先生には一言も相談せずに。

 

 「俺は、どんな処分であっても、受けるつもりです」

 

 「非常に残念ではあるが、俺はお前の処分を直接下す立場にない。お前はまだ、書類上は普通科だからな」

 

 そんな俺の覚悟をよそに、先生は自分の想いを告げてきた。

 

 「オールマイトが、お前のお陰で勝てたと言っていた。免許を持たないお前があの場に行ったことは誉められることじゃないが、結果として、お前はオールマイトを、ひいてはあの敵がもたらすであろう被害から人々を救けた。それは、紛れのない事実だ」

 

 「あんまり誉めると、のぼせ上がりますよ」

 

 「手放しで誉めてもいいくらいだ。のぼせるのも今のうちなら構わないよ。だが」

 

 ああ、うん。そこは雄英の先生だからね。いい話だけで終わるわけがないよ。

 

 「夏休み明けまで引きずるようなら、容赦はしない」

 

 「分かってます。たまたま上手く行っただけですから。ちゃんと力をつけて免許を取って、胸を張って人を救けられるようになります!」

 

 「あんなことがあっても、志は変わってないようで何よりだ。ああそれと」

 

 先生は一呼吸おき、俺達の予想の斜め上を行く発言をした。

 

 「雄英が全寮制になったから、引っ越しの準備をしておけ」

 

 

 

 

 「入る前提なんですね」

 

 「親御さんの話も聞く必要はあるがな。お前らのことだ、反対されようと押し切るだろう?」

 

 「確かに雄英をやめるっていう選択はないですね」

 

 「というか俺は退学にはならないんですか?」

 

 「今のところ、むしろお前はヒーローとしての教育を早急に施すべきという方針だ。今後ルールを破ることがないようにな」

 

 「肝に命じておきます」

 

 「具体的な日取りとかは決まってるんですか?」

 

 「それについては追って説明する。なんせ、施設の建設すら始まっていないからな」

 

 「それにしても、なんでわざわざ直接言いに来たんですか?」

 

 「俺がここに来たのはただの見舞いだ。あんなことがあった後だからな。心操の様子が気になった」

 

 「いっそ1発くらい殴られとけばよかったのにと、今は思ってます」

 

 「ちょ」

 

 「でもそれは、大河がこうして生きてここにいるからです。正直、テレビでこいつの姿を見たときは気が気じゃありませんでした」

 

 今はなんともなさそうにしてるが、そうか。あれと戦ってるのを見て、心配しないわけないよな。

 

 「俺もだ。より長く一緒に過ごしている以上、その心労は俺の比じゃないだろう。だが大丈夫そうで安心したよ」

 

 「わかってたつもりでしたけど、俺は色んな人に心配掛けてたんですね」

 

 「当たり前だろ。止めても無駄だと思ったから送り出したけど、あの時だってめちゃくちゃ心配したんだぞ」

 

 「ん?その口ぶりだと心操も爆豪救出の件は知っていたのか?」

 

 「言質取った訳じゃないですけど、こいつがそういう顔してたんで気付いてはいました」

 

 「・・・そうか。2人共、2学期は覚悟しておけよ?」

 

 うわぁすごい圧力。知らない人が見たら脅迫現場に見えるのかな。

 でも、この言葉が期待の裏返しなのを俺達は知っている。

 

 「望むところです!」

 

 「他の人に負けないように、追い越せるように尽力します!」

 

 俺達がそう言うと、相澤先生は満足したように微笑み、「お大事に」とお決まりの台詞を残して去っていった。

 

 「寮かぁ・・・たぶん女子も一緒だよなぁ・・・」

 

 「お前は色んな意味で危なそうだな」

 

 「理性って鍛えられるか?」

 

 「お前は鍛えても無駄だろ変態」

 

 「そろそろ新たなトラウマになるぞ?」

 

 「プルスウルトラだろ?乗り越えればいいんだよ」

 

 「一線をか?」

 

 「窓から投げ捨ててやろうか?」

 

 「冗談にしても過激すぎて怖いわ」

 

 色々あったけど、やっと冗談を言い合える日常に帰ってこれた。これからも困難や壁にぶつかるだろうけど、この日常だけは絶対になくさないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、警察からの詳しい事情聴取を受けた後、オールマイトと相澤先生が俺の家に来た。

 

 「電話でお伝えした雄英の全寮制の件ですが・・・本当によろしいのですか?」

 

 俺の母は、全寮制になるという話を聞いた直後に、詳しい話も聞かずOKを出していた。

 

 「ええ。私の方針は大河にやりたいことをやらせることですから」

 

 「恐縮ですが、雄英のヒーロー科は既に2度の敵の襲撃に遭っています。もちろん我々も全力で防衛、対策はしますが、お子さんが危険に晒される可能性は十二分に有り得ます」

 

 「これまでに何があったかは、粗方は知っています。それでも、私の決意が揺らぐことはありませんよ?」

 

 「・・・失礼かもしれませんが、心配は、していないのですか?」

 

 金髪の骸骨、もといオールマイトが質問する。人によっては激昂しそうなその問いに、母はあっけらかんと答える。

 

 「もちろんしています。ですが、ヒーローを目指す以上、危険が付きまとうのは避けられないことです。ならば、私が心配しなくても済むように、強く逞しくなって欲しいと、私は考えています」

 

 プロヒーローの妻として、今は亡き父を精神的に支えていただけあり、母は確固たる意思を貫く姿勢だ。

 

 「・・・我々の総力を以て、必ず息子さんを立派なヒーローにしてみせます。これからも、よろしくお願いします!」

 

 深々と頭を下げて、2人は帰っていった。

 

 「母さん、ありがとう」

 

 「お礼は要らないわ。あなたが言っても聞かないのは知ってるから。救ける為に動いたことも、知ってるから」

 

 「・・・体が、勝手に動いたんだ」

 

 「分かってるわ。あの人も、困っている人がいたら、迷わずに動き出す人だったから」

 

 今は亡き俺の父さん。聞いた話では、敵に襲われているところを救けられたことが、父さんと母さんの馴れ初めだったらしい。それも、まだ仮免すら取っていない時期だったそうだ。

 

 「あなたには、あの人と同じ血が流れている。だから口うるさいことは言わないわ。そのかわり、私に心配されないくらい強くなりなさい」

 

 「・・・ありがとう、母さん」

 

 要らないと言われたが、それでも礼を言わずにはいられない。

 母さんは、親は俺の無茶を叱ることなく、むしろ肯定してくれている。その上で、俺がヒーローになることを応援してくれている。もはや感謝以外の言葉が浮かんでこない。

 

 「強くなって、母さんが自慢できるような、立派なヒーローになるよ!」

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、完成した雄英の寮ーハイツ・アライアンス。その入口の前で、21人の雄英生が一堂に会している。俺を含めた、1ーAの生徒だ。

 

 「さて、これから寮について軽く説明するが、その前に1つ。当面は合宿でとる予定だった仮免の取得に向けて動いていく」

 

 (仮免!?全く聞いてなかったんですけど!?)

 

 普通科の俺は知らなかったが、ヒーロー科であるA組の面々はどうやら知っていたらしい。だが敵の襲撃やらオールマイトの引退やらで、すっかり忘れていたのが大半のようだ。

 しかし、次の言葉で生徒達のざわつきは静まり返る。

 

 「神野で事件があったあの晩。爆豪救出に赴いた奴がいる」

 

 テレビで主に映っていたのは俺だけだが、周りの様子を見るに、俺以外の5人が救出に行くことをみんなは知っていたようだ。それに相澤先生も気付いたらしい。

 

 「色々棚上げした上で言わせてもらう。オールマイトの引退がなけりゃ俺は、耳郎、爆豪、畑中以外全員除籍処分にしてる」

 

 重くなる空気。俺からの報告で、先生は飯田と八百万が止めるために同行したことを知っている。それでも、先生は除籍という言葉を使った。それは、ギリギリ法に触れていないとはいえ、やってはいけないことをしたという事実への戒めなのだろう。

 ・・・ん?なんで俺の名前があるんだ?

 

 「先生。俺への処分はないんですか?」

 

 「前に言ったはずだ。お前は書類上はまだ普通科。俺に処分を決める権限はない」

 

 「そうでしたね。なら、もし自分の生徒だったらどうしていたかを教えて下さい」

 

 先生は少し考えた後、重そうな口を開いた。

 

 「俺がお前の担任なら、事実が発覚した時点で除籍処分だ。どんな理由であれ、法を犯した事に変わりはない」

 

 「そう言うと思ってました。けど、それは『教師』としての意見ですよね?」

 

 「・・・何が言いたい?」

 

 俺は『先生個人』としての意見を知っている。けど、先生は心を鬼にして、自分の受け持つ生徒へ向けて『教師』としての意見を述べている。そんな先生が、俺には少し苦しそうに見えた。

 

 「教師としては立派だと思います。けど、それだと一個人としての『相澤消太』が報われません。俺は、一人の人間としての、先生の意見も聞きたいです」

 

 その心が、少しでも救われればいいと思いながら、俺は自分の考えを告げる。

 

 「・・・お前にとっては、俺も救うべき対象になる、ということか・・・」

 

 先生は、観念したように、一個人としての意見を述べ始めた。

 

 「クラスメイトを救けたい。その気持ちは俺にも分かる。俺も、高校時代に経験があるからな」

 

 みんなが真剣に耳を傾ける。きっと、先生がこんなことを話すのは初めてなんだろう。

 

 「ヒーローとしては何も間違ってない。むしろ肯定してもいいくらいだ。だが俺はお前達の教師。だから、ルールをないがしろにしたお前達を叱らないといけない」

 

 おそらく、言わなくても伝わることだろう。でも時として、言葉にすることが必要なこともある。伝えるためだけじゃない。思っていることを口に出すのは、自分が思っている以上に心を軽くするものだから。

 

 「理由はどうあれ、お前達が俺達の信頼を裏切ったことに変わりはない。正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれ。俺は、お前達ならそれができると信じている」

 

 信じている。その言葉に、みんなの心が救われたように感じた。

 先生を裏切ってしまったこと。行った俺達も止められなかった他の人達も、その事は後悔していただろう。それを受け入れて前に進むことは並大抵のことじゃないし、最悪それに押し潰されることもある。

 でも、今先生が言ってくれた言葉のおかげで、みんなが立ち直ったように思う。言葉には、力がある。

 

 「先生。わがままを聞いてくれてありがとうございます」

 

 俺は深く頭を下げた。精一杯の、感謝を込めて。

 

 「礼はいらん。おかげで、肩の荷が少し下りた。さぁ、中に入るぞ」

 

 何やらスッキリした表情の先生に促され、俺達は寮の説明を受けるため中に入った。

 

 

 

 

 

 

 「学生寮は1棟1クラス。右が女子、左が男子と分かれてる。で、1階は共同スペースだ。食事や風呂、洗濯などはここで行う」

 

 さすが雄英というべきか、寮はとても豪華な作りだった。共同スペースは20人程で使うにしてはとても広く、広大な中庭も完備していた。

 

 「豪邸やないかーい!!」

 

 麗日がそのあまりの豪華さに倒れ込む。前に家が貧乏だと言っていたから、ギャップに負けたのかもしれない。

 

 「・・・聞き間違いかなぁ?風呂、洗濯が共同スペース・・・?」

 

 「男女別だ。お前いいかげんにしとけよ?」

 

 峰田は持ち前の煩悩でなにやらエロスな妄想をしているようだったが、先生に威圧され縮こまってしまった。つか先生にバレるほど大っぴらにしてたのかあいつ。

 

 「2階から上はフロア毎に男女各4部屋の5階建て。1人1部屋で、エアコン、トイレ、冷蔵庫、クローゼットが付いている」

 

 ふむ。今の俺の部屋より広いし充実してるな。八百万が「我が家のクローゼットと同じくらいの広さ」とか言ってたが気にしないでおこう。庶民と富豪では比べても意味がない。

 部屋割りは予め雄英の方で決めていたらしく、俺は2階だった。同じ階なのは緑谷、常闇、峰田の3人。

 この階には女子はいない。峰田がいるからだろう。ちっ、これで湯上がり女子にばったりフラグは消えたか。

 

 「やはり、畑中をこの階にしたのは正解のようだな」

 

 ・・・あれ?思考を読まれた?それとも女子からクレームでもあったか?

 

 「心操の言っていたことが段々分かるようになってきた。お前は、顔に出るんだな」

 

 「・・・そんなに分かりやすいですか?」

 

 「教師として、生徒の様子や調子を窺うのは当然だろう?」

 

 なるほど。裏を返せば、1人1人のことをちゃんと見てるってことか。

 じゃねえわ。状況次第で俺が妄想癖のある変態だってことがバレるってことだろ?神野ばりに大事件だわ。

 

 「とりあえず今日は部屋作ってろ。明日また、今後の動きを説明する」

 

 俺の特殊性癖の一端が割れた後、説明会はお開きになり、部屋作りが始まった。俺は最低限必要なもの以外は運んでいなかった為、1時間かからずに荷ほどきを終えた。

 

 (暇だ・・・寝るか・・・)

 

 他にすることもないので、俺は昼寝することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 どのくらい寝ていたのか。時計はタイミングがいいのか悪いのか電池が切れ、3時25分で止まっている。

 

 (外が暗くなってるからもう夜か)

 

 布団から起き出すとほぼ同時に、部屋をノックする音が響いた。

 

 「緑谷?てかみんなもいるな?どうした?」

 

 「布団だぁー!」

 

 「大河くん布団派なんやね!」

 

 「・・・誰か説明を頼む」

 

 「えっと、今みんなの部屋の披露大会をやってて、もし起きてるなら畑中くんも、って話でまとまって」

 

 「なるほどな。でも最低限しか持ち込んでないから俺の部屋は特に何もないぞ?」

 

 「ふっふっふ。こういうなんでもない部屋こそ、エロ本が隠されているのだぁー!」

 

 「残念だけど、俺の部屋にそんな幼稚なもんねえぞ。あんな巨乳が全てみたいなもん中学校で卒業したわ」

 

 「「「えぇ・・・」」」

 

 ほぼ全員からドン引きされた。まだ買える年齢じゃないからか?

 

 「さも当たり前のようにレジに持ってけば買えるだろ?」

 

 「そういう問題じゃないと思うけど・・・」

 

 「まぁいいだろ。それより、早く次の部屋行こうぜ。時間も遅いみたいだしな」

 

 そう言って部屋を出るよう促す。この話を続けてると、耳郎のイヤホンジャックが飛んでくる気がする。てかもう構えてるな。

 なんとか危機?を回避し、お部屋披露大会に参加する。まずは隣の常闇の部屋だ。個性の影響か本人の趣味なのか部屋はダークな感じにまとまっている。

 そのまま3階の男子の部屋へ。尾白は『普通』を、飯田は『真面目』を、上鳴は『チャラい』を体現したような部屋だった。実際女子からそれに近い言葉ないし罵倒があった。

 ウサギを飼っている口田の部屋まで見終わった後、自分の部屋を無視された(そりゃそうだ)峰田が、反逆の狼煙を上げる。

 

 「お部屋、披露『大会』っつったよなぁ?なら当然、女子の部屋も見て決めるべきじゃねえのかぁ?誰がクラス1のインテリアセンスの持ち主か、全員で決めるべきなんじゃねえのかぁ!?」

 

 (うわぁ、ここぞとばかりに言いやがった。お前は女子の部屋が見たいだけだろ?)

 

 相澤先生に打ち込まれた釘をものともせず、あるいはきっちり受け取った上で、峰田が意見を述べる。

 おそらく峰田1人の意見であれば通らない。が、先程女子に馬鹿にされた男子の、「釈然としない」という意見を味方につけている。

 

 「あ、悪いけど俺パス」

 

 「はぁぁ!?なに言ってんだよ畑中!!合法的に女子の部屋を見るチャンスだぞ!?」

 

 やっぱりだよ。ただ煩悩に従っただけだよ。いっそ清々しいまである。

 

 「だからこそだ。今見たら、後で個人的に呼ばれた時のドキドキが減るだろうが!!」

 

 「うわ出た別路線の変態」

 

 「耳郎さん。自覚はあるけどいざ言われると僕も傷付くんですよ?」

 

 こういうとき本当に容赦がない。人使以外でここまではっきり言うのは今のところ耳郎だけだ。

 

 「悪いけど、ウチの中でアンタと峰田は同列だから」

 

 「さすがにそれは酷くないか?」

 

 「あぁでも一線越えてるって意味ならちょっと分かるわ」

 

 「上鳴くん!後で話をしよう!!」

 

 「いい人ぶった誘拐犯みてぇな笑顔でこっち見んな!!」

 

 「あはは・・・でもそれっぽく見えるね・・・」

 

 ふむ、後で緑谷ともハナシアイをする必要がありそうだな!

 

 「とにかく、俺は参加しない。だからその部屋王、っていうのか?それはお前らで決めてくれ」

 

 芦戸がごねたが切島がそれを宥め、みんなは俺を残して部屋王決定戦を始めた。

 することがないので部屋に戻り、新しい生活に思いを馳せる。

 

 (・・・あれだけのことがあった後でも、先生は俺を信じてくれてた。その期待を裏切らないために、まずは皆に追い付かないとな)

 

 正規の手続きを踏み、正規の活躍をする。相澤先生が言っていた言葉を思い出しながら、俺は眠りについた。

 

 ・・・女子の部屋に招かれる夢を見て興奮し、その途中で目覚めてなかなか眠れなかったのはまた別の話。

 

 

 





 寮、入りました
 原作だと、梅雨ちゃんが話をするシーンがありますが、大河は何も言われてないのでスルーされるという結論が出ました
 あとファンの方には申し訳ないんですが、耳郎のポジションに関しては今後もこんな感じです 大河に対して認めてる部分もあるけど、受け入れられない部分もある、といった感じです
 次回は必殺技からなんですが、大河はもう持ってるようなものなので、今必死にその名前を考えてます(爆)


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