指揮官の前任者、ですか? (おっこめ/紅茶チョコ)
しおりを挟む

終末まで後何マイル?

pixivで連載してる元正規軍のつよつよ女指揮官がグリフィンでVectorやカルカノM91/38と色々頑張るお話です。

Twitterで世界観の設定とか色々呟いてますので、良ければフォローてかしてみて下さい。
あと感想とか貰えたらモチベが上がって続きを書くスピードが上がります。

Twitter▶️https://mobile.twitter.com/okomeoisii315
裏設定とか▶️https://twitter.com/okomeoisii315/status/1160913923618402304?s=20
※随時更新
pixiv▶️https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11281991#1




chapter:プロローグ

 

 ──カチッ

 私はS■■地区を担当しているグリフィンの指揮官、■■・■■■■■。

 この音声データを遺した所で読む人類が生存しているかは分からないが……まぁ再生されてるって事は■■■■が成功したのだろうし、残り少ない時間で他にやる事もないので、その前提で出来る限りの記録を残そうと思う。

 

 私はかつて■■■という国があった区域で生まれた女だ。いや、生まれてしまったと言った方が良いだろうか? 

 知っての通り2030年に起きたという北蘭島事件以降、この世界はあまりにもクソったれで、女が食っていくため、野垂れ死なないために取れる選択肢は非常に限られていた。

 特にまだ物心がまともに付く前に両親がコーラップスの影響で死に、生ゴミや汚染された泥水を啜って生きた私のような人間にはそれが顕著だった。

 

 まぁ、せいぜい幸か不幸か人並み以上らしい見た目を活かして娼婦になるか、安全圏に住んでる富裕層に取り入って愛人になる。あるいはその需要と損耗率の高さから、常に人手不足の軍人になるくらいしか生き残る選択肢は無かっただろう。

 だが、生憎と私は自分の運命や身体を何処の馬の骨とも知れない男に委ねるつもりは無かったので、10歳になると同時に迷うことなく軍人になった。

 いつ死ぬかも分からないような職業だが、今や世界はE.L.I.D共のせいで軍人がいくらいても足りない状況だ。

 だから生まれは普通で、しかも親もいない女がまともな教育を受けられて、ご飯にもありつけるのは軍人くらいしかなかっただろう。だから私は今でもその選択に迷いも後悔も無い。

 

 軍学校に入ってからももちろん色々とトラブルはあったが、顔も思い出せない両親は私にそこそこの脳味噌を与えてくれたらしく、おまけにクソったれな人生のおかげで生き汚さには自信があったので、座学と実技の両面で私はそれなりに優秀な成績を残しつつ13歳で学校を卒業した。

 ちなみに昔は軍人の教育にはもっと時間を割いていたらしいが、人間の代用品として多数の戦術人形が配備されて尚軍人は常に不足していたので、上層部も粗製濫造と分かりつつも一通りの軍事教育を終えたら直ぐに兵士を前線に送っていた。

 

 閑話休題。それから私は9年間、ありとあらゆる場所で感染者と戦い続ける日々を過ごした。その間に同期はもちろん、上官も部下も数えるのが馬鹿らしくなるほどに死んだ。

 何度も死線を乗り越え仲が良くなった女も、私に片思いをして、この銀の髪をお守り代わりに欲しいと言った少女も、世界への絶望から私を犯そうとしてナイフでアレを切り取られた男も、皆死んだ。

 統計データによると3回の出撃で半数が、8回目には9割の人間が死ぬらしいので当然といえば当然なのかもしれない。

 これだけの損害が出れば、前世紀の軍なら全滅扱いで部隊の再編でもするのだろうが、生憎とそんな余裕は今の人類にはなく、投入した部隊が文字通り全滅して一人も帰らない事もざらにあった。

 しかし私は生き残る事、そして戦術人形の指揮に対して高い適性があったらしく、不運にもこの地獄のような世界で生き延び続けてしまった。

 

 ──ザザッ

 それから私は■■■■作戦で自らが逃げるため、軍の支援に来ていたグリフィンの戦術人形を盾にした上官に腹が立ち、隊を率いて人形を救援してソイツを見殺しにした結果あっさりと除隊された。

 元々上官は気に食わないやつだったし、アイツのせいで大量の仲間が無駄死にしていたので、特に後悔も罪悪感も抱いてはいない。

 ただその上官はとある富裕層の息子だったらしく、私は激しく責任を追求された。まぁそれも当然と言えるだろう。人形を助けた時点で銃殺刑も覚悟していた。

 

 しかし、これまで様々な功績を上げ、それなりの数の勲章を授与されていたからからか、幸い──いや不運にも私は銃殺刑にはならず、さらに特にお咎めもなく除隊処分をされるのみで終わった。今にして思えば、あれは裏で■■■■■が手を回していたのかもしれない。

 まぁそんな辞め方をした軍人にまともな退役金が出るはずもなく、私はすぐに食うにも困ったのでどうしたものかと考えていると、ある日大手PMCの『グリフィン』を名乗る男が来た。

 そこでも色々な出来事があったのだか、私は最終的にグリフィンで戦術人形の指揮官として雇われる事になった。どうやら前任の指揮官が鉄血工造への大規模な反攻作戦の最中に、主力の人形のメンタルデータ共々死亡したのが私に声をかけられた理由らしい。

 

 ──ドンッ

 ん……いよいよあまり時間もなさそうだし、いい加減グリフィンに入ってからの話でもしようか。

 今からおよそ1年前、私は新任の指揮官としてS■■地区に就任した。さっき説明した通り、前任者が主力の人形のメンタルデータ共々死んでくれたせいで戦力は碌に残っておらず、基地にいたのは性格に難があるとして放置されていた二体の人形だけだった。

 そんなあまりにも矮小な戦力しか与えられず、しかもその内の一体にはなんとなく気が乗らないという理由で 就任当初は任務をボイコットされていたのだから、私はまた随分とハズレくじを引いたなと思ったものだ。

 

 

 まぁ皮肉な事に、今もこうして下らないデータを残している私の後ろにいるのが当の戦術人形である────VectorとカルカノM91/38なのだけれど。

 二人との出会いは…………ふふっ、そうね。今思い出しても、控え目に言って最悪だったわ。

 

 

chapter:就任初日

 

 ──S■■地区 グリフィン前哨基地

「…………」

「…………」

 沈黙。狭く雑多としている執務室を、痛いくらいの沈黙が包み込んでいた。

 室内には時折タブレットを操作する音と、酸味も美味さもなく、ただ苦さしか感じない合成コーヒーを私が啜る音が響くのみ。

「……ねぇ、あなた。趣味とかってあるの?」

「…………」

「……はぁ」

 またこれだ。

 今日はグリフィン就任初日。つい先程この基地に着任した私は、目の前にいる『Vector』という戦術人形に挨拶をした。したのだが──何がいけなかったのか完全にスルーをされてしまい、以降何を話しかけても無視されてしまっていた。

 他にもこの基地には『カルカノM91/38』という戦術人形もいるらしいが、まだ顔すら合わせていないのに「戦うのは面倒ですし、気が乗らないので会いたくありません」というメモ書きを残し、隣の地区の後方支援任務に参加してしまった。

 

「…………はぁ」

 未だ初任務すら行っていないのに、自身の暗鬱した未来を想像してまたため息が出る。

 隣の地区を担当している後方幕僚のカリーナという少女から、事前に配備されている二体の戦術人形は曲者だと聞いてはいたがまさかこれ程とは。

 正規軍にいた頃も戦術人形は指揮していたが、アレは感情も一切無い兵器だったし、外見も控え目に言っても人間に似ていなかったので扱いは楽だった。

 

 あと軍をクビになるきっかけになった作戦を筆頭に、何度かグリフィンの戦術人形と共同戦線を張ったことはあるが、どの子も上位者である人間に素直で扱いやすかったので、こんな風に頭を抱える事は一度もなかった。

「旧式の、しかもたった一体の戦術人形で前哨基地を守れとか、正規軍なら完全に懲罰部隊がやる任務じゃない……」

 何を思ってグリフィンが人形の感情を残したのか分からないが、この調子では作戦に問題が生じるであろう事は想像に難くない。人形に感情を持たせる事は否定しないが、兵器として扱いづらい性格を付与するのはいかがなものか。

 唯一良いニュースがあるとすればカルカノM91/38は、別に私がどうこうしたのではなく前任者がいた頃から基地の戦術人形と任務をしたがらず、後方支援にばかり参加していた事だろうか。……まぁ前任とその人形が戦死してからはその傾向がより顕著になったらしいが、私に原因がないだけ、1mmくらいは気が楽になる。

 

 ──ヌッ

「あたしという商品に不満でもあるの?」

「わっ」

 そんな事を考えていると、いつの間にかさっきまで近くでデータを整理していたVectorが目の前に来ていて少しだけ驚いた。

 もしや口を一切聞けない人形なのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。

「答えて」

 暗く、一切の感情を感じさせない金色の瞳がジッとこちらを見つめてくる。

「…………ふぅん。アナタってそんな顔も出来るのね」

 だが、私はその瞳の奥によく見れば自身が旧式扱いされた事への不満、あるいは怒りの感情が存在している事に気づいた。

 それは普通なら気づかないような些細な変化だろう。だが彼女の瞳は私と何処か似ており、だからこそその微かな感情の発露に気付くことが出来た。

 そう……あれはこの世界に一切の希望を抱けず、幾度となく自分の無力さを思い知らされた者の瞳だ。よく、とてもよく見覚えがあった。

 

「──ええ、そうね。本音を言えば不満しかないわ。だって貴女は正規軍の人形のように光学兵器も使えなければ、単独での飛行機能や面制圧機能も持っていないでしょう? おまけにこの基地には他に戦力となる人形も存在せず、現状唯一の戦力である貴方でさえメンタルのバックアップやダミー人形の一体も配備されていない。正直、こんな戦力で作戦を遂行しろなんて言われても不可能に近いわ」

 Vectorへこれまでの経験に基づいた分析結果を伝える。彼女には悪いがこれが現実だ。

 グリフィンが敵対している鉄血工造が一体どれ程の戦力を有しているのかは不明だが、PMCの中ではそれなりの規模を誇るグリフィンが未だに制圧できていない以上、戦術人形が一、二体いる程度の戦力ではどうしようもないだろう。

 その上、グリフィンの戦術人形は軍用でなく元は民生品のものに旧式の武器を持たせ、コアと烙印システムによって無理やり戦力化しているタイプも多い。

 E.L.I.Dに対抗するために最新鋭の装備を備えた正規軍の人形と比べれば、戦闘力においては遥かに旧式と言わざるを得ない。

「…………そう」

 

 ──すっ

 一切表情を変えないまま、Vectorが離れていく。間違った事を言ったつもりはないが、少しは食ってかかるかと思ったので予想外だった。

 先程の発言からして、彼女は戦術人形、つまり商品としての己に高いプライドを持っていると考えたからだ。しかし、今の反応からして商品というのは、もしかすると自分が感情を持った戦術人形ですらない、スーパーやPXに並んでいる商品と同様の『物』に過ぎないという、自己評価の低さから来ているのかもしれない。

 だとすれば、こちらに背中を向けているVectorは、私に残酷な現実を突きつけられたせいで落ち込んでいるだろう。

 前線では自身の保有戦力を過小評価も、過大評価もせず正しく認識する事が生き残るために必要だったので、ついその癖を発揮してしまった。だがもう少し言い方を考えれば良かったかとしれない。

 

「……これは反省が必要ね。Vector、悪いけれどそこの合成コーヒーを注いでくれないかし」

 ──コポポ

「コーヒーが、なにか?」

「……いえ、ありがとう」

 背中を向けていたVectorが、突如として目にも留まらぬ速さでポットを掴む。するとそのまま今にも中身が飛び散りそうな勢いでポットを振り回し、私が言い終えるより前にコーヒーを注いできた。

 前言撤回。無表情なんてとんでもない。今のVectorは私以外の人間でも分かるくらい、不機嫌そうにムスッとしていた。

 どうやらこの子は自分を心のある人形でなく無機質な商品に過ぎないと自称している癖に、その事に対する妙なプライドはあるようだ。

 相変わらず苦味しか感じない合成コーヒーを啜りながら、私はこの子の意外な一面を見つけた事に少しだけ頬を緩めていた。

 

 

 

 ──翌日

「……つまりこの地区への増援要請は断る、という事ですか、ヘリアン代行官」

 ──ザッ

『そうは言っていない。……私としても君に増援を送ってやりたいとは思うが、その地区に増援を送るほど今のグリフィンに余裕はないのだ』

 あの後、私はグリフィン本部へと現状の戦力に対する評価と、この状況が継続した場合の人類の生存領域への影響をまとめたレポートを送信した。

 現有の戦力はかつてはそこら中にいたらしい小学生が見ても不足しているのは明らかで、万が一鉄血が警戒網を抜けて奇襲を仕掛けてきた場合、この前哨基地は私という人間と共に人類の版図から消え失せるだろう。

 だからこその増援要請だったのだが、断られたとなるとやはり『あの予想』が当たっているのだろう。

 

「それは、ここよりも再度鉄血への反攻作戦を計画している、S05やS09地区への戦力の充実が優先、という事ですか?」

『……お前、何処でそれを』

 ヘリアン代行官の表情が一気に強ばる。恐らく私の口から本来なら機密情報に当たるであろう作戦が出たことで、スパイやハッキングをされた可能性を疑っているのだろう。

 もちろん真実はそのどちらでもなく、単純に徹夜で私の権限で閲覧出来る全てのデータを閲読した結果、グリフィンの戦力配置には妙に偏りがある事に気づいたのだ。

 具体的に言えばスプリングフィールド小隊やネゲヴ小隊といった、グリフィンの中でも精鋭、主力とされている部隊が特定の地域に集中配置されていた。もちろん両地区は地図を見ても戦略的に重要な箇所ではあるのだが、それを差し引いても些か過剰な戦力だと言わざるを得ない。

 そしてその前提を元にここ二ヶ月の鉄血の動きや大規模な戦闘が起きた場所を分析すれば、グリフィンの考えは自ずと見えてきた。

「そんな怖い顔をしないで下さいヘリアン代行官。私はただグリフィンの戦力配置や、最近の部隊の動きから予測をしただけです」

 そう言いつつ、予測の根拠となったデータをリスト化して送信する。

『……なるほど。前線で9年間も指揮官として生き残ったのは伊達ではないという事か。テストでもかなり優秀な成績を残していたが……今一度評価を改める必要があるな』

「ありがとうございます。……それで戦力の増強の件ですが」

 

 

 ──ギシッ

「…………やれやれ」

 結論から言うと私の増援要請は拒否された。まぁこの結末は、正直データを見た時に可能性の一つとしては考慮していた。大規模な反攻作戦を特定の地区で実行するとなれば、私がいるような前哨基地の優先度は自ずと下がるからだ。

「とはいえ、一、二体の人形はくれると思ったんだけどなぁ」

 戦力の拡充も、最終的には『作戦の遂行中に自身で他の指揮官に見捨てられた人形を発見し、それを編入しろ』という結論になった。

 ヘリアン代行官曰く、この周辺には前任の指揮官が死亡した際に共に玉砕せず、落ち延びた人形の報告も多いのでその内見つかるだろうとの事だ。

 

 ここで「よし戦力の心配はなくなった! 明日から仕事を頑張るぞ!」と言えるようなハッピーな脳味噌を持っていれば少しは人生も幸せだったのだろうが、残念ながらそんな楽観的な思考をしている人間から死んでいくのを散々見てきたので、とてもじゃないがそうは思えなかった。

 戦力は圧倒的に不足しており、増援は自分で見つけなくてはいけないなんて、私はとんだブラックPMCに就職してしまったのかもしれない。

 しかも恐らく……いや確実に司令部はいざとなったらこの前哨基地は見捨てる予定だろう。あくまで予測だが、ここを突破された後は多少の人類の生存領域のロストを前提に、後方の大規模軍事基地前方に絶対防衛ラインを形成。その後は防衛ラインで遅滞戦闘をしつつ、件の反攻作戦が成功するまで時間を稼ぐ、といった作戦プランを立てていると思われる。

 

 となるとこの基地の、そして私の役目は囮だ。敵の目を引き、本命である反攻作戦を気取らせないための。

 ここに配備されたのは、正規軍にいた頃に少数戦力でのゲリラ戦を得意としていた──仲間がどんどん死んでくせいで隊の定数が常に不足しており、そうせざるを得なかったからなのだが──のもあるだろう。

 まぁ他のPMCと比べて妙に給料が高く、しかも上官を死なせた私のような厄介者を雇う時点で真っ当な任務が来るとは思っていなかったが……。

「捨て駒、か」

 能力を買われているのは有難い。だが割に合うかというと微妙と言わざるを得ない。……とはいえグリフィンを辞めた所で金もないので、その辺で野垂れ死ぬか娼婦に身を落とすかくらいの選択肢しかないだろう。

 なら、最低限は給料が振り込まれる来月まで、最長でも反攻作戦の直前までには退職しよう。何しろこれまでの経験上、反攻作戦を行う際に主力に加えられない部隊は碌な目に遭わないからだ。

 良くて付近の部隊との共同戦線による、目くらましも兼ねた一時的な防衛ラインの押し上げへの参加。運が悪ければ主力を敵に気取らせないため、敵地に捨て駒として吶喊させられるはずだ。悪いがどちらも付き合わされるのは真っ平ごめんだった。

 

 それにそれまでにグリフィンで確たる実績を上げられれば、他のPMCに転職する際も有利になる。拾ってもらった感謝の気持ちもゼロではないので、せいぜい在籍している内は死なない程度に任務に取り組むとしよう。

「──なにこの世の終焉のような顔をしているのよ」

「……君はいつも不意に現れるね」

 自身の将来設計を考えていると、いつの間にかVectorが執務室へ訪れていた。恐らく私が今後の立ち回りに悩んでいる間に入ってきたのだろう。

 考え事に集中していたとはいえ、気配を全く感じなかった辺り流石は戦術人形と言うべきか。

「ん」

 Vectorがグイッとステンレス製のカップを差し出してくる。

「なにこれ?」

「コーヒー。アンタこれ好きなんでしょ?」

「…………あ、ありがとう」

「なに驚いた顔してるのよ」

「別に。ありがたく飲ませてもらうよVector」

「そう」

 正直驚いた。だってVectorは気遣いとかが出来るタイプの人形じゃないと思ったから。彼女が民生品か軍用なのか知らないが、少なくともコアを搭載する前に喫茶店の接客人形をしていない、出来ないのは確かだ。

 

 ──彼女が旧式の人形なのは間違いないが、先程のステルス性に加えて自己の判断で動けるAIを持っているのであれば、今後の作戦でも活用できる場面は多いだろう。

 むしろ効率を重視して感情モジュールを搭載していない正規軍の戦術人形より、個人的には好みと言えるかもしれない。

 何しろ感染者が蔓延る敵地で人間が全滅した時に、人形に感情があれば話し相手になるので、頭へ常に弾を一発込めた銃を当てていなくても気が狂わずに済むのだから。

 

 ──ずずっ

 唯一、淹れてくれたコーヒーが合成品にしてもやたら美味しくないのが少し気になるが、まぁその辺りはいつか淹れ方を教えればいいだろう。

「そういえばここ«執務室»に来たのはなにか用でもあったの?」

 Vectorが用も無く私の下に来る人形には思えなかったので、恐らく足を運んだのには何らかの理由があるのだろうが……ダメだ、全く思いつかない。徹夜でデータを閲覧してレポートを作成していたからか、頭の回転が少し鈍っているようだ。

「──演習。予定時間過ぎてるから呼びに来たの」

「…………あっ」

 

 

 ──S■■地区 前哨基地演習場

「流石、実戦帰りの指揮官は違うね。演習なんて貴女からすればただのお遊戯会の稽古だもんね」

「だからそれは悪かったって」

 私は昨日と同じ──いやそれ以上に不機嫌な様子のVectorと共に演習場へと足を運んだ。

 別に喧嘩をするつもりはないのだが、今のところほぼほぼ無表情かムスッとした顔しか見たことがない気がする。別に彼女の笑顔を見たいとは言わないが──性格的に笑顔を作る機能があるかすら怪しいし──せめて少しは緩んだ顔を見たい所だ。

「……せっかく顔は良いんだし」

「あたしの顔が、なにか?」

「なんでもないよ」

 正直、Vectorの顔は嫌いじゃない。むしろ私と同じ銀色の髪に、陥落した街で死体から略奪した高価なアクセサリーのように綺麗な金の瞳。戦い以外を何も知らなそうな鋭く釣り上がった目のどれもが私の好みと言ってもいい。

 こういった戦い以外を知らない澄ました顔の女を、私の色に染め上げたい欲求がないかと言えば嘘になる。

 元々私は男よりも、面倒な所もあるとはいえ女の方がずっと好みだったし。……まぁ好みだった女は全員とっくに死んだが。

 ただ唯一残念なのはVectorが人間でなく人形である事だろう。私は人形性愛の趣味を持っていないので、多分一生彼女をそういう目で見ることは出来ない。

 

「さてと、それじゃあ早速演習を始めようか。仮想敵と評価項目は」

「仮想敵は回収した鉄血のプラウラータイプ。評価項目は射撃精度、命令に対する作戦遂行能力、でしょ?」

「……正解よ。私はそこの仮設テントから状況をモニタリングしてるから」

「前方の演習場に移動し、ヒトフタサンマルより状況開始でしょ?」

「……もしかしなくても遅れたことまだ怒ってる?」

 最後まで喋らせてくれさえしない。これは相当にお怒りと見て間違いないだろう。

「別に。戦う事を目的に作られた人形が存在意義を証明できる数少ない場の演習をすっぽかされたからって、あたしは怒ったりしないよ」

「うぐ」

 これは完全に私が悪い。恐らく自らを商品と自称するVectorからすれば、演習は自分の価値をアピールするための貴重かつ重要な場であったのだ。例えるなら歌手にとってのコンサート、役者にとっての演劇のような。

 それ故、彼女にとっては演習の存在を忘れられたのは、暗に自分を無価値と言われたに近いのだろう。だから怒ってしまうのも無理はないと思う。

「それじゃ、あたしは行くから」

 Vectorがこちらに振り返る事すらなく演習場の方へと歩いていく。

「……戻ってきたら甘い物でも買ってあげよう」

 人形は大半が甘い物が好きと聞く。基地には最低限の人員しかいないため、PXに行ってもケーキのような生菓子はないが、クッキーなどの保存の効く焼き菓子くらいはあるはずだ。

 このご時世なので甘味のような趣向品は非常に高価で、退職金も碌に貰えていない女の懐事情的に購入するのは厳しいが、今後を考えれば人形と友好関係を築くに越したことはない。投資と思って割り切ろう。

 

 

 ──ダダダダッ

「へぇ……やるじゃない」

 訓練を開始して10分。私はVectorの予想以上の射撃精度と身のこなしに思わず感嘆していた。

 戦術人形はVectorに限らず、烙印システムによって並の人間を凌駕する精度で射撃を行う事が出来るのだが、彼女のそれは他の人形と比較しても一段階レベルが違う。

 ほぼ全ての射撃がカメラや関節部の隙間といった、プラウラーの弱点を的確に撃ち抜いている。

「これは思わぬ誤算ね」

 相変わらず与えられた任務が絶望的なのに変わりないが、Vectorがあれだけの実力を持っているのなら少しは私の生存率も上がるかもしれない。

 ただ、それ故に一つだけ気になる事があった。

「何故あれだけの実力を持っているのに、前任者は彼女を使わなかったの……?」

 事前に読んだ報告書では性格的に難があるから使われなかったとの事だが、訓練の結果を見る限りそれを差し引いてもVectorは作戦で使うべき人形だ。

 本当に性格だけが問題なのであれば、それを理由に彼女を前線に投入せず死んだ前任者はとんだ無能という事になる。……まぁ精鋭人形をメンタルごと多数ロストしてる時点で、過去にどんな成果を出していようが有能とは言い難いのだが。

 

 ──ザッ

「Vector、聞こえる?」

『聞こえるよ指揮官』

「今ので全ての訓練項目が完了したし、そろそろ終わりにしましょう。こちらに戻ってきなさい」

『了解』

 軍でもお馴染みの映像付き無線でVectorへ訓練終了の連絡をする。

 彼女の成績は文句なしにトップレベルだ。これは戻ってきたら褒めてやる必要があるだろう。

『指揮官』

「ん、どうしたのVector?」

『あたしの商品としての価値、どうだった?』

 通信を聞いた瞬間、思わず笑ってしまいそうになるのを何とか堪える。だってVectorの声は私がグリフィンに就任して初めて聞くほど感情──具体的に言えば誇らしさが滲み出ていたのだから。

 

『……なんでニヤニヤしてるの?』

 怒り以外の感情らしい感情を垣間見れた嬉しさと、「どうだあたしは優れた商品だぞ」「旧式と言った評価を撤回して褒めろ」と言わんばかりの声色に、気づかない内に口角が上がってしまっていたようだ。

 最初に彼女を怒らせてしまったのは私のせいだし、これはちゃんと褒めてやらなくてはいけないだろう。

「ごめんごめん。そうね、Vector、貴方は私が思っていたよりもずっと優秀で魅力的な──」

『指揮官』

「……なにが起きたの」

 先ほどと打って変わって、私を呼んだVectorの声が低く固い。……長年の直感で分かる。これは何らかのイレギュラーが発生した時の声だ。しかも極めて危険度の高いイレギュラーが。

『確認をする。演習の仮想敵に鉄血のリッパータイプは存在する?』

「ネガティブ。仮想敵はプラウラータイプのみ」

 返答をすると共に、手元のコンソールを操作する。

『そう。……30秒後にアンノーンと接敵。数は目視とセンサーで24。それ以外は不明。至急増援を求む』

「了解。現時刻をもってアンノーンをエネミーと断定。尚、増援要請は既に近隣の基地と本部に打電済み。Vectorは可能な限り身を潜めつつポイント6まで後退。万が一接敵した場合は遅滞戦闘をしつつ増援到着まで何としても持ち堪えなさい」

『了解。早めの騎兵隊到着を頼むよ』

 ──ザッ

 

 Vectorとの通信が途切れる。恐らく気配を消して身を潜めるためだろう。だが、敵のセンサーの性能からしてどんなに遅くとも5分後には発見され、交戦を開始しているはずだ。

 となると問題になるのは増援の到着にどれくらいの時間がかかるかだろう。周辺には別基地所属の警備部隊が展開しているはずなので、そう時間はかからないと信じたい。信じたいが、実戦はいつだって予想を悪い意味で裏切るものだ。

 

 ──ザッ

『指揮官、聞こえるか。こちらはヘリアンだ』

「聞こえます、ヘリアン代行官」

 直後、本部のヘリアン代行官から通信が入る。さて、予想はどちらに転がるか。

『既に先程の暗号電文で貴官が置かれている状況は把握した。増援だが、既に付近の基地に所属しているFAL小隊を向かわせた』

「ありがとうございます。現着までの時間はどれくらいで?」

『……20分だ。ちょうど彼女達が強行偵察をしてきた鉄血と一戦を終え、補給しているタイミングで貴官の下に敵が来たのだ』

「……遅すぎる」

 

 どれだけ楽観的に見積もってもVectorが接敵するまで5分、遅滞戦闘がもって7分。合計12分が彼女の生存限界だ。20分後に増援部隊が来たところで、Vectorはとっくに血と肉をぶち撒けグロテスクな姿を晒しているだろう。

 現れた敵がFAL小隊の打ち漏らしの連中だと判明した事は良いニュースだが、最悪すぎる状況の割に合わないニュースなのは間違いない。

『……万が一の場合は人形を見捨てて基地の後方要員と共に撤退する事を許可する』

「見捨てる、ですか?」

『そうだ。人形を失うのは惜しいが、最悪そちらは替えがきく。それ以上に替えの効かない君と基地の要員を失う方がグリフィンのダメージは大きい。……それにその前哨基地は君なら既に勘づいていると思うが、元々永続的に拠点として運用する目的で建造されていない。万が一の時は一度放棄した上で後方で戦力を再編。その後奪還して施設を復旧し、再度拠点として運用をするのもプランの一つとしては存在しているのだ。正規軍のように後退したら銃殺刑になる心配もないから素直に下がれ』

「なるほど、了解しました。今すぐ基地のスタッフに撤退命令を出します」

『了解した。君も早くその危険な演習場付近から撤退を……待て。指揮官、一体何をしている』

 通信に浮かび上がっているヘリアン代行官の表情が驚愕の色を現した。彼女も中々に感情を表に出さない人間だが、少なくともVectorよりは感情表現が得意なようだ。

「ですから、撤退準備をしているだけです」

『これから撤退をする人間は強化外骨格を着用しないし、光学兵器も装備しないと思うが?』

「そうなのですか? 何しろずっと前線にいたもので、もしかすると一般的な撤退と私の持つ撤退という概念は価値観が違うのかもしれません」

『……馬鹿な事は考えるな。ハイエンド人形で構成された小隊ならまだしも、お前は人間で、相手は替えのきく普通の戦術人形に過ぎない。今すぐ撤退を』

「む、どうやら通信状態が悪いようです。敵のジャミングかと思われます。通信間もなく切れます」

『待てしきか』

 ──ザッ

 

「……ふぅ」

 通信機を外骨格のポケットに収納し、演習場の方へと顔を向ける。するとまるでそれが合図になったかのように、遠くで複数の銃声が鳴り響いた。

「……始まったか。転職しても結局これを持つハメになるなんて、因果な人生よねホント」

 軍が制式装備として採用しているレーザーライフル──仲の良かった需品科の人間のおかげで除隊時に持ち出せたもの──を肩に担ぐと同時に慣れた動作で注射器を首へ突き刺す。

「っ」

 注射器の中身は反応速度や筋力を大幅に向上させ、痛覚や恐怖心を麻痺させる薬物だ。昨日データを見た限り、あのクソッタレのE.L.I.D相手と比べれば鉄血の戦術人形の相手はかなり楽に思えた。人形の持つ旧世紀の装備とは比べ物にならない威力を持つ、正規軍の光学兵器があれば尚更だろう。

 だが、奴らの脅威は E.L.I.Dと違い上級人形の指揮による戦術を駆使する点と、自動工廠により死を恐れない兵士を無限にを作り出す生産力だ。

 しかも個体の死がまるで意味を為さない連中と違い、こっちの命は一つしかない。なら用心する越したことはないと言える。

 

 使用した薬物は前線ではその効果の高さ故、戦闘前に使用する事が義務付けられていたが、使い続けるとその負荷や副作用で寿命を大きく縮めてしまうという欠点を同時に抱えていた。具体的には使用すると大半の者が二十代を超えることが出来ず、ある日痙攣を起こして一瞬で死ぬ。もし一世紀前なら確実に規制されてる薬物と言えるだろう。

 だが生存を期待されていない使い捨ての兵士とって、これは戦争の恐怖や絶望を一時的にでも忘れられる素晴らしい存在であり、温かい食事よりも馴染み深いものでもある。……それにこの世界で30を超えるまで生きるなんて文字通り生き地獄なので、20代でおさらば出来るのは兵士にとっては救いですらあった。

 

 ──バババババッ

「Vector」

 回線を開くと同時にけたたましい銃声が通信機から発せられる。

 Vectorからの応答はないが、通信に出れるという事は少なくともまだへの回路のある頭部が吹き飛んでおらず、生きているという事だろう。ならそれで十分だ。

「返事はしなくていい。今から2分で増援が到着する。それまで絶対に生存しなさい。いいわね」

 ──ザッ

 私は一方的にそう告げると通信を切り、同時に外骨格に搭載されてるブースターへと推進剤を供給する。

 

 

「──さて、それじゃあ始めましょうか。私なりの撤退(戦争)を」

 

 

 

chapter:商品にならぬ技術は役に立たない

 

 ──バババババッ! 

「……ちっ」

 コンテナの影に身を隠すと同時に、空になった弾倉を投げ捨てリロードをする。

「今ので9体目」

 当初は指揮官の指示に従い身を潜めていたものの、発見が避けられない状態になったため、敵の密集地域へ焼夷手榴弾を投擲し奇襲を敢行。

 そしてそれと同時に射撃を行う事で、あたしは合計6体の敵を撃破する事に成功した。

 その後も遅滞戦闘をしつつ、さらに3体の敵を撃破したが、散開した敵にジリジリと包囲されている状況だった。

 つまり奇襲による優位性はとっくに消滅しており、このままでは遠からず自身が破壊されるのは確実だろう。

 残弾もマガジンに入っている31発の他には予備弾倉が一つのみだ。焼夷手榴弾も敵の進行ルートを限定するために使用した関係で残り1つと、まだ半分以上の敵を相手にするにはあまりにも心許ない。演習のせいで訓練用の弾丸を持ってきていたのが災いしたと言える。

 指揮官は2分で増援が来ると言っていたが、本音を言えばそんなに都合良く近くに展開している部隊がいるのか疑問だ。

 あれはあくまでもあたしに戦意喪失させないための偽報であり、本当は最も近くの部隊でも駆けつけるまで20分かかると言われても驚きはしない。

 

 ──バッ

「……余計なことを考えてる暇があったら今は戦うしかない、か」

 この遮蔽物にも敵が回り込んでくる気配を察知。完全に回り込まれる前にこちらから飛び出し、予想外の行動に驚愕しているリッパーの頭部に4発の弾丸をぶち込む。

「っ!」

 さらにその後方から援護しようとしていたリッパーにもフルオートで制圧射撃を行い、蜂の巣にする事に成功する。だが、同時にヤツが反撃で放った銃弾が太ももを掠り、鋭い痛みが回路を通して伝わってくる。

「痛覚をカット」

 痛覚遮断。 それはあたしが人形だからこそできる事。 相変わらず便利な機能だと思う。だが、使う度に自分が人の形と感情を持っていたとしても、どうしようもなく人形である事を理解させられる。

 けれど、これでいいのだろう。あたしは所詮は人形で商品。戦う事こそが自分の価値を示す事が出来る唯一の行動だ。余計な事──あの■■■が■■■■■■■なんて事は考えるだけ無駄だ。

 

「……喰らえ」

 そのまま次の遮蔽物に向かいつつ、最後の焼夷手榴弾を敵が潜んでいる気配を感じるコンテナの影に投擲。すると火達磨になったリッパーが藻掻き苦しみながら飛び出し、やがて力尽きて倒れた。

 あれが鉄血の上級人形だったら叫び声でもあげていたのだろうが、生憎と下級人形には声帯がないらしく声もなく死んでいくのが少しだけ残念だった。

「残りは恐らく12体」

 遮蔽物の影に座り込み再度リロードを開始する。これで予備弾倉は使い切ったことになるので、残弾はマガジンの中に入っている31発のみとなる。

 これでは残弾を全て敵の急所である頭部にでも当てない限り、確実に途中で弾切れを起こすだろう。そうなれば後は非常用の装備であるナイフを使って接近戦を挑むしかない。

 だが、ナイフ戦など銃を持っている相手には自殺行為に等しい。良くて一体敵と刺し違える事が出来るくらいだろう。

 

 ──ガシャッ

「しまっ……!」

 対策を考えていたのが災いした。不意打ちを仕掛けるため気配を殺していたと思われるリッパーが、右のコンテナの影から飛び出して来るのに反応が遅れてしまった。

 集積回路に搭載されている反射モジュールのおかげで、回避が絶対に間に合わない事。そして銃口が既に私の頭部を捉えており、敵の指がトリガーにかけられているのがハッキリと分かってしまった。

 間もなくあたしはまず頭部をぶち抜かれ、次いで確実に殺すために全身を銃弾の雨で全身を引き裂かれ活動を停止するだろう。

 無論あたしのような厄介者の人形はグリフィンでメンタルデータのバックアップも取れていない。つまり、活動の停止は自身の個体の消滅を意味していた。

 

「く、来るなッ!」

 記憶回路に『あの時』の光景がフラッシュバックする。メモリの一部を使用してまでロックをかけて保存していた、ただの商品として生きてきたあたしにとって唯一のかけがえのない記憶。

 あぁ、叶うならもう一度あの人の手を──

 

 

 

 ──ぐしゃっ

 

 

 

「…………!?」

 今まさに私を殺そうとしていたリッパーの頭部が、突如として血と回路をぶちまけながら破裂する。

 これと同じものを以前にも見た事がある。そう、あれは間違いなく正規軍のγ線レーザーライフルによる攻撃だ。

 痛覚がなく多少の傷はすぐに治癒するE.L.I.D相手に、通常の銃弾による攻撃はほぼ無意味と言ってもいい。そこで開発されたのが高出力のγ線により、照射箇所の水分を即座に沸騰、破裂させる事でE.L.I.Dでさえ確実に撃破可能な光学兵器(レーザーライフル)だった。

 まさか正規軍が助けに来た? そんな可能性が一瞬頭を過るが、すぐに有り得ないと否定する。こんな辺境に、しかもたった一体の人形を救援するために正規軍が来るはずがない。だが、だとすれば先程の攻撃は一体──

 

『──待たせたわね子猫ちゃん。お待ちかねの騎兵隊の到着よ』

 疑問が回路を駆け巡っていると唐突に一件の通信が入る。映像はなく音声のみだったが、間違えるはずがない。その声は────あの女指揮官のものだった。

『消えなガラクタ』

 ──ビシュッ

 レーザーが亜高速で空気を焼く音が過ぎると同時に、遠くで何かが地面に倒れる音が聞こえる。

 すぐさま射線の方へ目をやると、200メートル程離れたコンテナの上に黒い外骨格を装備した一人の兵士がいた。

「……子猫ちゃんってアタシのこと?」

『ふふっ、開口一番言うことがそれ?』

 

 ──ビシュッ

 再び空気を焼く音。次いで遠くで何かが倒れる音が響く。間違いない。指揮官はあの位置から鉄血の人形を狙撃しているのだ。不意打ちとはいえ音から察するに敵の急所を的確に撃ち抜き、一撃で倒している。人形のあたしからみても相当な実力だ。

『だってあなた、猫耳とか付けたら似合いそうじゃない?』

「っ、こんな時に冗談とか呆れた。それに騎兵隊って……どう見ても増援は指揮官一人じゃないの」

『こんな状況だもの。一人でも騎兵隊は騎兵隊よ。違う?』

 軽口を叩きつつも再度指揮官が発砲。さらに一体の人形が倒れたのをセンサーで探知する。

 驚いた。この人間はまるで殺し合いに緊張していない。むしろ、声色は執務室で会話をした時よりもリラックスしているようにすら感じる。

 人形は命の替えが効く上に、それが人間の命令なら喜んで死ぬようインプットされている。だから戦闘に緊張しないのは当然だ。しかし、人間は違う。彼らは腕か吹き飛べば修理で生やすことは出来ないし、命のバックアップも出来ないので死ねばそこまでだ。

 故に死に対して強く恐怖をするのが普通の人間だ。だが……指揮官にはまるでその気配がない。先程の射撃精度といい、この人間はこれまで一体どれだけの修羅場をくぐり抜けて来たのだろうか。

 

『ほらっ、私が来て嬉しいのは分かるけどぼさっとしない。3秒後にそこの影にいる敵が回り込んでくるよ』

「別に嬉しくなんかないんだけど」

 返事をしつつも、銃口を向け3秒経ったタイミングで射撃を開始する。

「──!?」

 すると指揮官の言う通りのタイミングでリッパーが飛び出し、血をぶち撒けながら面白いようにミンチになっていく。

『ふふっ、信じてくれてありがとう』

「別に指揮官を信じた訳じゃないよ。敵が近くにいるのは分かってたから」

 ──おまけに観察眼も一流だ。近くにいるのはセンサーで分かっていたが、飛び出すタイミングは正直謎だった。しかし、リッパーは指揮官の言う通り本当に3秒で出てきた。

『ここは敵の行動が丸見えで狙撃しやすくていいわねぇ。……っ、とはいえ流石にここも限界かッ』

 そう言うと同時に、指揮官が軍用外骨格に搭載されたブースターでその場を素早く飛び退く。直後、その箇所に残存していた鉄血人形の銃撃が集中する。もし退くタイミングが少しでも遅れていれば、今度はミンチになっているのは指揮官だっただろう。

 

 ──シュタッ

「到着っと。待たせたね」

 そのままブースターを吹かし、無骨な外骨格を纏った指揮官があたしの隣に着地する。一見すると性別すら分からないが、マスク越しに見える瞳があの指揮官である事を証明していた。

「……人間のくせにわざわざこんな所に来て一体なんのつもり?」

「助けに来たに決まってるじゃない。あなたをね」

「ただの人形を、商品を助けるとか頭がおかしいの?」

「んーそうね。頭がおかしいかおかしくないかで言ったらとっくにおかしくなってるかな。じゃないと、この歳まで生きてないし」

「なるほど、違いないね」

「今のは私なりのジョークだから笑って欲しかったんだけどなぁ。まっ、雑談はこれくらいにして、Vector残弾はあと何発?」

「今マガジンに残ってる11発で最後」

「ふむ、これだけ倒してまだ残弾を残してるとか流石ね。そうそう、話は変わるけどあなたクリスマスは好き?」

「は? 今はそんな事を言ってる場合じゃ──」

 ──ガサッ

「季節外れのクリスマスプレゼント、いる?」

 そう言って差し出された手には、『KRISS Vector』のマガジンが三つ重ねられていた。

「……もらう」

「ん、よろしい」

 指揮官が駆け付けるまでの時間からして、基地にマガジンを取りに行ってる時間は無かったはずだ。つまり、この人間は万が一に備えて演習場にあたしの装備を持ち込んでいた事になる。どれだけ準備がいいのだろう。

 

「立てるかしら?」

 笑みを浮かべた指揮官が、私に手を伸ばしてくる。

「…………っ!」

 ──あぁ。これは■■■■■だ。

 メモリに残してある、とある記録がフラッシュバックする。

「……ぽかんとしてるけど大丈夫? 回路に損傷でも負った?」

「別に。問題ないよ」

 伸ばされた手を握り立ち上がる。無骨で、人間らしさのまるでない手を。

「よろしい。では、命令よVector。現時刻をもって任務を残存している鉄血のガラクタ共の掃討作戦に移行する。グリフィンの誇り高き戦術人形として、このか弱い人間様を守り抜きなさい」

 援護はしてあげるから。そう言って指揮官はレーザーライフルを肩に担いだ。

「人間らしさのない装備と動きをしておいてよくか弱いなんて言えるね」

「うるさいわよ。……残りは上から確認した限り八体。やれるわね、Vector?」

「当然。あたしの商品としての価値、見せてあげるよ」

 

 

chapter:トドメはしっかり二発

 

 ──ガシャッ

「戦闘終了」

「ふぅ、今ので最後ね」

 Vectorが最後の鉄血人形を撃破したのを確認し、息苦しい外骨格のヘルメットを解除する。

 その瞬間、新鮮で冷たい空気が戦闘で火照った体を程よく冷却してくれた。この装備は防毒面の機能も有しており、コーラップスに汚染された地域でもある程度活動が出来るのは良いのだが、その分気密性が非常に高く、これを付けたまま走るといった訓練をしていても被っていない時と比べてかなりの息苦しさを感じてしまう。

 だから出来ることならばなるべく被りたくないのだが……ヘルメットの機能も兼ねているおかげで頭部の保護も出来るので、命を守るために背に腹は代えられないといった所だろう。

 

「お疲れ様、Vector。絶望的な状況から勝利した感想はどう?」

 足元を見下ろすと先程まで元気にこちらを殺そうとしていた人形が、胴体から血と配線を撒き散らしながら倒れている。

 周囲にも同様に複数の鉄血人形の死体が転がっており、戦場において死が呆気ないものだと否応無しに認識させてくれる。人生ですっかり見慣れた光景だが、人形の血は半分はオイルのような物なので、E.L.I.Dとの戦いと違って感染者と人間の死体から発せられる血と臓物の匂いがしないだけかなりマシと言えるだろう。

「別に。あたしに勝利の喜びなんてないし」

「ふふっ、そんなんじゃ人生つまらないわよ。こんなクソッタレなご時世だもの、敵に勝利した時くらい喜べた方が色々得よ? 多分」

「あたしは人形で商品だよ。喜びなんて機能はいらない」

「うーん、そっか。まぁとりあえず基地に戻るとしましょ──」

「──でも、さっきは助けられたよ。ありがとう」

 

「……驚いたわ。まさかあなたからお礼を言われるなんてね」

 Vectorから感謝されるとは夢にも思っていなかったので、思わず基地に向けて歩き出そうとした体が完全に硬直してしまった。

「あたしだってお礼くらい言えるよ。……今まで色々な人間を見てきたけど、指揮官みたいに前線で戦う人間は初めてだよ」

「ふ~ん、そうなの?」

「……そのニヤニヤ顔、気持ち悪いんだけれど」

 どうやら無意識に口角が釣り上がってしまっていたようだ。だが許して欲しい。だってあのVectorが私に感謝をして、しかもその頬にはほんの僅か──私じゃないと見逃してしまいそうなレベルだが赤みが刺しているのだから。

「ごめんごめん、続けて」

「はぁ。今まで出会った人間は優秀なヤツも無能なヤツも後ろから指示を出すだけで、こんな風に前線で戦ったりした事はなかったよ。だから一緒に戦った人間は指揮官が初めて」

「なるほどねぇ。まぁ後方にいた方が安全だし人によっちゃ指揮も出しやすいだろうから、Vectorが以前出会った人間の考え方も分かるよ。でも私は今までずっと前線で戦ってきたから、多分この方が性に合ってるのよね」

「変わり者の指揮官だね」

「それじゃあちょうどいいわね」

「なにが?」

「変わり者の指揮官と変わり者の人形。これから一緒に戦っていくにはお似合いじゃない?」

 

 ──クスッ

「はっ、そうかもね」

「ちょっと待って。今笑った? 少しだけど笑ったわよね?」

「……笑ってないよ」

 間違いない。僅か、ほんの僅かだが今Vectorは笑った。こんな時ばかりは自分が人間である事を恨む。もし私が人形だったらさっきの顔を脳内の記憶回路に、バックアップとロックをかけて永久に保存するだろう。

「嘘だっ! 今絶対笑ったでしょっ!?」

「だから笑ってないって──」

 

 ──カチャッ

 背後で、何かが動く音がした。その瞬間、全身の毛穴からどっと汗が吹き出すのが分かった。

「ッ、指揮官ッ!」

 ──ドンッ

「きゃっ」

 背後を振り返るよりも早く、Vectorに思いっきり突き飛ばされる。自分から出た女らしい悲鳴に驚きと若干の嫌悪をしつつも首を動かすと、そこには頭部が半分吹き飛んで尚紅い眼を輝かせ、千切れかけた腕で武器をこちらに向けているリッパーがいた。

 仕留めたと思っていたが、どうやら損傷で一時的に機能を停止していただけだったらしい。恐らく活動を再開すると共に、最も近くにいた殺戮対象である私に銃を向けたのだろう。

 それにVectorはいち早く気付き私を突き飛ばしたのだ。私という存在を守るために。しかし、その結果リッパーの射線上には代わりにVectorが存在するハメになってしまった。

 

 もちろんあの損傷ではそう遠くない未来にリッパーは完全に機能を停止するだろう。

 だが、少なくともそれはVectorの全身を銃弾が貫くよりも後のことだ。

 故に私は慌ててライフルを構えようとするが、薬物で強化された反応速度のせいでそれが間に合わないことが分かってしまう。

 間違いない──Vectorは殺される。

 なら私が出来る事は一つだ。Vectorの死に様を瞬き一つせず記憶に焼き付け、その上で鉄血の人形を徹底的に殺戮する、それだけだ。……そう、これまでの人生でずっとそうしてきたように。

 

 

 ──バシュン

「…………え?」

 そうして今まさに銃弾が放たれようとした瞬間、 微かな発砲音と共に武器を持ったリッパーの腕部が吹き飛ばされる。次いで再度の発砲で頭部が吹き飛び、リッパーは今度こそ完全に活動を停止した。

「っ、狙撃ッ! 一体どこから!?」

 音からして発砲元は相当遠くだ。にも関わらず、初撃で武器を持っている腕を的確に吹き飛ばし、二撃目で頭部を撃ち抜くとなると相手はかなりの腕の狙撃手と言わざるを得ない。

 

 私は立ち上がると共に慌ててヘルメットを装着。スコープを立ち上げつつ腕が吹き飛んだ方向から推測される発砲元に視線を向ける。

「あれは、人形?」

 すると600メートル、いや700メートルは離れた地点に一瞬だけ動く背中を確認することが出来た。背格好からして人形である事が予想されるが、撃破と同時に撤退を開始していたのだろう。顔までは確認できなかった。

「追撃は危険、か」

 状況からして恐らく敵ではないと思うが、味方である保証はなく、しかもあちらには森林地帯がある。罠や待ち伏せがある可能性もゼロではないため、単身での追撃はリスクが大きい。

 それにVectorの残弾状況からして、ここに一人残して追撃をする訳にはいかない。今は大人しく基地に帰投し、周辺の警戒や謎の人形の調査は然るべき部隊に任せるべきだろう。

 

「……ありがとう、Vector。今度は私が助けられたわね」

「別に、それが商品としての役目だから」

「それでもお礼を言いたいの。ありがとう」

「…………ん」

 Vectorがゆっくりと頷く。だが同時に狙撃のあった方角に視線をやっていた所を見ると、彼女もその正体が気になっているのかもしれない。

「あの狙撃手に心当たりは?」

「…………ないかな」

「そう……。となると調査はFAL小隊に任せるしかない、か。これ以上ここに居てもしょうがないし、今度こそ基地に戻りましょうか。私達の基地に」

「了解。これより基地に帰投を……その手はなに」

「ほら、私ってか弱い乙女じゃない。さっきの戦闘で殺されかけたせいで手も足も震えてて一人じゃまともに帰れないのよ。だから手、引っ張って欲しいのよ」

「よく言う。とりあえず乙女を自称するなら、せめてそのセンスの悪いヘルメットを外したら?」

 ──ぎゅっ

「あっ、でも握ってくれるんだ」

「人間の命令だから従った。それだけ」

「ふーん。今のは別に命令したんじゃなくてお願いしただけあいたたたたっ! 強い! Vectorちゃん力強いっ! 外骨格越しとひいえ人間の柔らかい骨砕けちゃうっ!」

「へぇ、確かに指揮官は人形と比べるとか弱いね。これからは前線になんて出ず、後方であたしに守られてた方がいいんじゃない?」

「言うようになったじゃない。でも、そういう女は嫌いじゃないわよ私っ」 

 

 

 ──こうして私とVectorのトラブルばかりの初任務は無事に終わりを告げた。

 基地に戻ったら鳴り響くであろうヘリアン代行官からの通信や、事後処理の事を考えると憂鬱になるが、今は失いかけた命が確かに隣に存在している喜びを噛み締めようと思う。

 助けれたはずの命が失われるのは飽きるくらい見てきたが──何しろその逆は非常にレアな経験なのだから。あの謎の狙撃手にもとりあえず感謝しておこう。

「あ、そうだVector甘い物好きでしょ? 帰ったら訓練の素晴らしい結果とさっきのお礼にPXで甘味でも買ってあげるわね」

「へぇ。その言葉、後悔しないといいね。こう見えてもあたしかなり食べるから、指揮官の来月の給料なくなっちゃうかもよ」

「えっ?」

 

 

chapter:エピローグ

 

 ──後日

「……ようやく終わった」

 先日の演習による大量のデータと報告書の提出がようやく終わった疲労感により、思わず机に突っ伏してしまう。

 睡眠もロクに取らず、眠気覚ましに相変わらず美味しくない合成コーヒ──―Vectorが淹れるものよりはマシだが──を何杯飲んだか分からない。

「とりあえずベッドで寝たぃ……」

 今横になれば五秒で寝る自信がある。同時に、警報でもならない限り丸一日起きない自信も。

 

 ──こんこん

「はぁいどうぞぉ……。Vector、悪いけど私には今すぐベッドで寝るという大事な任務があるんだけど……」

 そんな事を考えていると執務室にノック音が響き渡る。相手は恐らくというか確実にVectorだろう。

 基地の後方要員は私の任務にあまり関係がないし、彼らも少人数でこの前哨基地を運用していて多忙なので、用があっても効率重視で無線で済ませるのが常だ。故にここまで直接来るのはVectorしかあり得なかった。

 ──ガチャッ

 そう。あり得なかったはずなのだが──

 

「──はじめまして指揮官。ワタシはカルカノM91/38と申します。見ての通りと~っても素直で明るい人形です」

 扉を開けて入ってきたのは、ここに就任した当初に名前だけ確認していた戦術人形の『カルカノM91/38』だった。

 私との接触を徹底的に避けていたのか、基地にいる間も一度も遭遇した事は無かったのだが、メモにあった通り後方支援任務はしっかりこなし資材や軍需品を振り込んでくれていたので特に咎めるつもりは無かった。

 作戦参加に乗り気じゃない人形を無理やり参加させた所で、足手まといにしかならない。それなら後方支援という形で任務達成の手助けをしてくれる方がよっぽど有益だからだ。

 

「……貴女が、例のカルカノライフル?」

「ハイ。少し、アナタという人間に興味が沸きましたので、今日からアナタの元で誠心誠意任務に励ませていただこうかと思います。以後、よろしくお願いしますね」

 そう言うと、カルカノM91/38はVectorが一生しないであろう満面の笑みを浮かべ、カーテシーのようにスカートを持ち上げ礼をしてきた。

 その様子は非常に様になっており、ばっと見では教育の行き届いた礼儀正しい戦術人形という印象を受けるだろう。

「……ええ、よろしく」

 正直、作戦に参加してくれるのは非常に有り難い。何しろ現有の戦力はダミー人形すら所持していないVectorのみであり、私自身が再度前線に立った所で攻勢作戦の行動には限界があったからだ。

 しかし前衛を担当するVectorのサポートに狙撃手が付いてくれれば、実行可能な作戦の幅は大きく広がるので一見するとこれにはメリットしかないだろう。

 

 だが──私の直感が『コイツはやばい』と告げている。

 何しろ私はあの笑顔に強い見覚えがあるのだ。分類上は笑っていたとしても、目の奥が、心が全く笑っていないあの笑顔に。

 そう、あれは戦場で頭のネジが全て吹き飛んだ人間────要は完全にイカれたヤツがよく浮かべる笑みだった。

 その上私は彼女の外見に、不思議な既視感を覚えていた。確実に今日初めて会ったはずなのに、だ。

「……今後の活躍を期待してるわよ、カルカノ」

「ハイ、指揮官っ♪」

 

 ──前途多難と言わざるを得ないが、グリフィンでの日々は少なくとも退屈はせずに済みそうだった。

 だが、それはそれとして私は給料が出たら早めに転職しようと固く心に誓った。やはりここは何かと割に合わないし、環境があまりにもブラック過ぎる。

 

 ──ピーピー

「……はい、こちら■■■前哨基地」

 そんな事を考えていると、不意に通信が入った。相手は今最も名前見たくないリストの一人に名を連ねる、ヘリアン代行官だった。

「……はい、はい。了解しました。直ちに部隊を編成し現地に向かいます。ヒトヨンマルマルには合流できるかと。大丈夫です、頼れそうな新しい戦力も増えましたので。えぇ、では」

 ──ガシャッ

「新しい任務ですか? つい先日地獄を乗り越えたばかりだというのに、指揮官はトッテモ人気者なんですね」 

「どうやらそのようね。……早速で悪いけど、Vectorをここに呼んできてもらえるかしら? それと貴女の評価演習をしている暇は無さそうだからその実力、現地で見らせてもらうわよ?」

「──ハイ。ワタシの実力どうかご期待下さいっ。戦場を鉄血のお墓で埋めて差し上げます」

 イカれた笑みを残して退室するカルカノの揺れる髪の毛を見ながら、私は今度も地獄となるであろう任務の作戦と共にある願いを考えていた。

 

 

「こんな事なら報告書なんか後回しにして、ゆっくり眠っとけば良かったわ」

 ──とりあえず眠りたい。それが今の私が考える最大の願いだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。