夕焼け少女達と紡ぐモノガタリ (希望光)
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始まりのAfterglow(トワイライト)

どうも、希望光です。
書きたくなったから書きました。
キャラがあまりうまく描写できていないと思いますが、宜しければどうぞお読みくださいませ。
では、本編をどうぞ。


 ———小鳥のさえずりが聞こえてくる様な静かで平穏な朝は、彼『上条雷輝』にとっていつもと変わらない日常のひと時である。

 

 何処にでもいるような、極々普通の学力を持つ極々普通の少年であるのが上条雷輝という人間だ。

 そんな彼は、世間的に見れば少しばかり変わったところが2つある。

 

 1つはこの歳にして、1人暮らしなのである。

 今彼が住んでいるのは、ワンルームマンションの一角で内部構成は部屋1つに、ベッドが1つと本棚が2つに、主に勉強時に使うデスクが1つ。

 後は、台所に冷蔵庫と電子レンジが置いてある程度である。

 

 2つ目は、長くしなやかな後ろ髪。

 同年代の女子にも負けないほどの艶を持つ茶髪を持っていることだ。

 そんな彼はベットの上で目を覚ました。

 

「……朝か」

 

 少し沈んだ気持ちの彼は、ベッドから起き上がり、身支度を始めた。

 彼は、今日から『羽丘学園』に通う事になるがそこは昨年度まで女子校であった。

 

 だが、理事長の教育方針の変更により、今年度からは共学校となった。

 そして、何を隠そう今日が入学式なのだ。

 つまり、男子生徒が『羽丘学園』に通う初めての日である。

 

 彼はそんな事を気に留める様子も無く、身支度を終えて朝食を済ませると、家を出る。

 そして、のんびりと学校に向かって歩いて行く。

 

 穏やかな陽気を感じながら、彼は歩き続ける。

 そんな調子で歩き続けていると、彼の前に楽しそうに話しながら歩く五人組の少女が現れた。

 

 彼は、そんな事など気に留めず、自身のペースで歩いていく。

 その際、彼の方が歩くペースが速かった為、彼と少女達の距離は縮まっていった。

 そして、人が1人分ぐらいの距離で彼の耳に少女達の会話が入ってきた。

 

「同じクラスになれるといいね」

「そうだねー」

 

 そんなことを話しているようだった。

 彼は、何も無かったかのように、その隣を抜き去っていく。

 

「あ、君」

 

 直後、雷輝は呼び止められた。

 

「……何か?」

 

 彼はその場に立ち止まると、振り返って尋ねた。

 

「君のその制服、羽丘のだよね?」

 

 と、ピンク髪の少女に尋ねられた。

 

「そうだが……それがどうかしたって言うのか?」

「あたし達も羽丘なんだ!」

 

 と、制服を指差しながら言った。

 

「そりゃ、見ればわかるさ。それだけかい?」

「あ、いや……そう言うわけじゃ……」

「ごめんよ、俺は少し用事があって急いでいるんだ」

 

 そう言って雷輝は、背中を向ける。

 

「もし、また逢えたならその時は話しようか」

 

 そう言って、学校へ向けて再び歩き始めた。

 

「……何アイツ」

 

 そう呟いたのは、黒髪に赤いメッシュを入れた少女だった。

 

「まあ、急いでるって言ってたししょうがないんじゃないかな?」

 

 隣にいた茶髪の少女が、宥めるように言った。

 

「と、とりあえず私たちも学校に行こ!」

 

 ピンク髪の少女の言葉に全員は頷き、再び歩き始めるのであった———

 

 

 

 

 

 入学式後、雷輝は人混みの中、発表されたクラス分けに目を通していた。

 雷輝のクラスはA組であった。

 彼は、人混みを潜り抜けると、昇降口へと向かう。

 

 その際、チラッと掲示板の方へ目を向けると、先ほどの少女達が見えた。

 その様子は、1人の少女を慰める様な構図であった。

 彼は、『関係無い』と思いながら教室へと向かった。

 

 そして、1-Aの教室に入る。

 黒板には、席順の書かれた名簿があった。

 雷輝の座席は、1番窓際の席の1番後ろ。

 

 即ち、教室の最奥である。

 彼は、机の脇に荷物を掛けると、座って窓の外を眺めた。

 外には、桜の花弁が無数に舞っていた。

 

「……桜吹雪、か」

 

 彼はそう呟いた。

 そんな状態を暫く維持していると、教室内にもチラホラと人が見られ、数分後には教室内の座席が殆ど埋まっていた。

 

 その大半が女子であったが、その中にはチラホラとだが男子の姿もある。

 周囲を一瞥した彼は、不意に隣へと視線を向ける。

 其処には、机に突っ伏したままの少女が居た。

 

 それは、何処と無く泣いているようであった。

 対する彼は、何かをする訳でも無く、自身の鞄から文庫版を取り出し、本の世界へと入っていった。

 

 その後暫くして、担任が教室に入ってきて挨拶した後、一言ずつ自己紹介をするように促してきた。

 そして、廊下側の列から始まった自己紹介は、現在自身の隣の少女の番であった。

 

「……美竹蘭です。宜しく」

 

 そう言った少女は、先ほどまで泣いていたであろうにも関わらず、何もなかったかのように自己紹介をして、席に着いた。

 

「じゃあ、隣り行って上条」

 

 すると、突然雷輝の番が訪れた。

 正確に言えば、順番は決まっていたが彼は、考え事をする余り見落としていただけである。

 雷輝は、立ち上がりクラスメイトの方を向いて口を開いた。

 

「上条雷輝です。ここ最近この辺りに引っ越して来ました。1年間と言う間ですが宜しくお願いします」

 

 そう言って、彼はお辞儀をしてから席に着く。

 すると、隣の少女———蘭が自身の方へ視線を送って来ている事に気が付いた。

 

「……何か?」

 

 雷輝は、首を傾げた。

 

「……アンタ、さっき会ったよね?」

「あー、通学してる時……居たね」

 

 雷輝は思い出す様な仕草をしてから、答えた。

 

「で、用事はそれだけ?」

「うん……」

 

 そう言って蘭は、黒板の方へと視線を向けていた。

 対する彼は、再び窓の外へと視線を向けるのであった———

 

 

 

 

 

 放課後。

 今日は午前中でHR(ホームルーム)が終わった。

 特にすることのない生徒達は、下校するのであったが、雷輝は違った。

 

 彼は、密かに図書室に篭ろうと考えていたのであった。

 しかし、彼は昼食を持っていなかった為、昼食を摂る事を優先し食堂へと向かった。

 

 そこで彼が見たのは……戦場だった。

 弁当……否、パン1つですら命懸けで奪い合っている。

 その形容が正しく当てはまる様な状況が繰り広げられていた。

 

 その状況を見て、雷輝は慄いたが、意を決してその中へと突入する。

 そして、揉みくちゃにされながらも、人の波を潜り抜け、弁当を掴むと、会計を済ませて命からがら食堂から脱出する。

 

「……なんだったんだ……アレ」

 

 彼は、振り向いて食堂を見ながら呟いた。

 その後、教室に戻った彼は買ってきた弁当を食べ終えると、荷物を教室に置いたまま図書室へと向かったのだが———

 

「休館……だと……?!」

 

 無情にも、図書室は休館日であった。

 

「……ナンテコッタ」

 

 それに繋げてとあるキャラクターの名前を言いそうになったが、その言葉を寸前で飲み込んだ。

 諦めた彼は、適当に校舎内をフラついた。

 

 そして、屋上へと辿り着いた。

 誰も居ない屋上は、とても静かであった。

 聞こえてくるのは、風の音とグラウンドから聞こえるホイッスルの音だけ。

 

「暫くここにいるかな……」

 

 彼はそう言って、屋上の入口の上に登り、そこで寝そべった。

 そして、そのまま眠りへと着いた。

 どれくらい経ったのだろうか、不意に扉が開く音が聞こえ、雷輝は目を覚ました。

 

「……ん?」

 

 寝起きではあるが、気付かれ無いように雷輝は自身の気配を潜めた。

 そして、耳のみをそちらへと集中させる。

 

「……蘭、しっかりしなよ」

 

 誰のものかまでは分からなかったが、話し掛けている対象が自身の隣の席の彼女だと言うことは予想できた。

 そこから、今屋上にいるのが、朝の少女達だということも予想ができた。

 

「……なんで……あたしだけ皆んなと……」

 

 そう言った彼女は、泣き始めてしまったようだ。

 

「やっぱ……美竹だったのか……」

 

 彼は誰にと無く、呟くのであった。

 そして、そっと目を開くと、日が傾いていた。

 

「……アレ、俺そんなバカみたいに寝てたのか」

 

 そう言って彼は、自身が気配を消していると言うことを忘れて、上体を起こした。

 

「……誰?!」

 

 自身の背後から、そう声が飛んでくる。

 雷輝は、軽く振り向いた後、入口の上から屋上の床へと降りた。

 

「……何やってるの?」

 

 蘭は雷輝を見るなり、そう尋ねた。

 

「……何も。ただ昼寝してただけだよ。そっちこそ、こんなところで何してるんだよ?」

 

 雷輝は後頭部を右手で掻きながら、そう聞き返した後にまあ、と言って話を続けた。

 

「俺にとってはどうでもいい事だからな。じゃあな」

 そう言って、屋上を後にしようとした。

「待って」

「……なんだ?」

 

 ピンク髪の少女に呼び止められた彼は、振り向いて尋ねた。

 

「朝言ったこと、覚えてるよね?」

「……あー。分かった。取り敢えず、何を話すんだよ」

 

 なら、と言ってピンク髪の少女は言った。

 

「まずはあなたの名前を教えて」

「俺は上条雷輝。クラスは1-A。宜しく」

「1-A? 蘭とおんなじクラスですなー」

「そうなのか、蘭?」

 

 尋ねられた蘭は頷いて言った。

 

「……あたしの隣の席だよ」

「じゃあ、蘭ちゃんとはもう知り合い……なのかな?」

 

 茶髪の少女に問いかけられた。

 

「どっちかっていうと、同級ってだけだな。ところで、俺はまだ君たちの名前を聞いていないんだが?」

 

 彼がそう言うと、ピンク髪の少女が名乗った。

 

「私は上原ひまり! 宜しくね、雷輝君!」

 

 それにつられて、他の少女達も名乗っていく。

 

「あたしは宇田川巴。宜しくな雷輝!」

「私は羽沢つぐみ。宜しくね、雷輝君!」

「青葉モカでーす。宜しくね〜、ライライ」

「ああ、宜しく」

 

 で、と言って雷輝は続けた。

 

「青葉」

「モカちゃん」

「……はい?」

 

 モカの言葉に、雷輝は素っ頓狂な声を出した。

 

「モカちゃんって呼んでほしいなぁ〜」

「いや、青葉は青葉だ……」

 

 そう返す雷輝に対して、モカは徐々に徐々に詰め寄っていく。

 その圧に負けた雷輝は、諦めてこう言うのであった。

 

「分かった。モカって呼ぶからそれで勘弁してくれ……」

「フッフッフッ。分かれば宜しいのだ〜」

「あ、ズルイ! 私も下の名前で呼んでほしい!」

 

 一連のやりとりを見ていたひまりが、そう騒ぎ出すのだった。

 

「なんでだよ……」

「じゃあなんでモカは良くて私はダメなの!?」

 

 今度はひまりが詰め寄ってくる。

 雷輝は、下がろうとしたが、壁際まで追い詰められていた為、それができなかった。

 

「あー、もう分かった! お前ら全員下の名前で呼ぶ! それで文句ないだろ?」

「本当?! やったー!」

 

 ヤケクソと言った感じで、雷輝は叫んだ。

 対するひまりは、その言葉を聞いて喜ぶのであった。

 

「ハァ……というわけだ、ひまり早いとこ離れてくれ」

「はーい!」

「で、俺はやること終わったから帰るぞ。じゃあな」

 

 そう言って雷輝は、ドアノブに手をかけたが、後ろから肩を掴まれ止められるのだった。

 

「な、なんだよ……モカ」

「まあまあそう焦らずに〜。ライライも少し付き合ってよ〜」

「何にだよ?」

「えっとね〜、蘭だけ違うクラスになっちゃったからどうしようかっていうお話〜」

「いや、俺関係ないんですけど……」

「いーじゃん、雷輝君は蘭と同じクラスなんだしさ!」

 

 ひまりの言葉に、雷輝は冗談じゃないと叫びそうになるが、それを必死に堪えるのだった。

 

「……なんだよその理由。モカも俺を離してくれない?」

「ライライが話し聞いてくれるって言うなら良いよ〜」

 

 そう言ったモカは現在、雷輝に後ろから抱きつくようなら体勢になっている。

 

「分かった。聞く。だから離れてくれ」

「はーい」

 

 モカから解放された雷輝は、扉から離れた。

 そんな彼の元に、つぐみが駆け寄ってきた。

 

「ごめんね雷輝君。2人が無理なおねがいしちゃって」

 

 そう謝ってくるつぐみを見た雷輝の脳裏には、『天使』の2文字が浮かぶのであった。

 

「……つぐみが謝ることじゃないよ。で、結局俺を呼び止めたがどうしろって言うんだ?」

「確かに。モカもひまりも、雷輝に何を頼むんだ?」

 

 雷輝の言葉に、巴も疑問を抱いていたようで、モカとひまりに尋ねる。

 

「それはね〜」

「雷輝君に、蘭と仲良くしてもらおうと思って」

「「は?」」

 

 ひまりの言葉に、蘭と雷輝は全く同じ反応を示した。

 

「おい待て、なんでそうなるんだ」

「えー、だってライライ、蘭と同じクラスだし〜」

「そんな理由だけで、アタシはこいつと仲良くしないといけないの?」

 

 モカの言葉に反応した蘭は、辛辣な言葉を雷輝に突きつける。

 

「蘭ちゃん、それは言い過ぎだよ……」

「今日会ったばかりの奴といきなり仲良くなんて無理だよ。そもそも名前で呼ばれるのも抵抗があるのに」

 

『いきなりなんて、無理だよ』

 その言葉が、雷輝の脳裏に木霊する。

 

「……無理か」

「どうしたの雷輝君?」

 

 不安そうに声をかけるつぐみを他所に、雷輝は踵を返す。そしてそのまま、屋上の出口へと歩み始める。

 

「ライライどうしたの〜」

「……帰る」

 

 振り向くことなくそう答えた雷輝はポツリと言葉を溢す。

 

「結局……誰とも友達になんて、なれないのさ」

「そんな事ないよ」

 

 その言葉を否定したのは、ひまりだった。

 

「……なんでだよ」

「だって私達、()()()()でしょ」

「……え?」

 

 振り返った雷輝は、理解できていないような表情をしていた。

 

「今、なんて……」

「だから、私達はもう雷輝君の友達でしょ?」

「そうだよー。モカちゃんとライライはもう友達だよ〜」

「うん。私もだよ雷輝君!」

「私もだぜ!」

 

 

 そう言われた雷輝は佇んだ。

 そんな彼の瞳からは、彼自身の意思とは関係無しに、涙が溢れていた。

 

「ライライ泣いてるの?」

「……え?」

 

 モカに指摘されて、雷輝は初めて自分が泣いていることに気がついた。

 

「アレ……? 可笑しいな」

 

 雷輝は、そう呟きながら自身の袖で涙を拭った。

 何故泣いているのかわからない。

 今この瞬間も、自身の中ではずっとそう思い続けていたが、彼の自身の本心はわかっていた。

 故に彼はこう呟く。

 

「そっか……俺、友達が欲しかったのか」

 

 そう言って笑った彼の元に、蘭が歩み寄った。

 そして、こう告げるのだった。

 

「なんか、さっきはごめん……」

「気にしてないさ」

「で、あんたが良ければだけど……友達になろうか?」

 

 突然の言葉に、雷輝は固まったが、直ぐに我に帰るゆっくりと頷いた。

 

「……宜しく」

 

 そう答えた彼を見た蘭は、微笑むのだった。

 そんな蘭を茶化すように、外野が騒ぐのだった。

 

「おお〜、蘭がデレた〜」

「明日は氷柱でも降ってくるのかな?」

「モカ! ひまり!」

 

『わぁー』と言って、逃げる2人を蘭は追い回し始めた。

 

「どうしてこうなった……」

「まあ、いつものことだ」

「これがいつも通りなのか……」

「アハハハ……それだけ仲がいいって事だと思うよ」

 

 私達も含めて、と付け加えてつぐみは言った。

 そんな3人を暫く見ていた雷輝だったが、ふと視線を別の箇所へと移した。

 

「……綺麗な夕陽」

 

 無意識の内に、雷輝は言葉に出した。

 その呟きを聞いたつぐみと巴も、雷輝と同じく夕陽を見るのだった。

 

「綺麗だね〜」

「ああ。3人も見てみろよー」

 

 巴にそう言われた3人も、雷輝達の側へとやってきて、夕陽を眺める。

 

「なんか、私達がバンド組んだ日もこんな夕焼けだったよね」

「そうだね〜」

「つぐがバンド組もうって言った時は少し驚いたけどな」

 

 そんな会話を他所に雷輝は、夕陽を眺めるうちに、黄昏ていた。

 過去の自分自身との、決別という意味合いで。

 そんな彼は、フェンスの側まで歩み寄った。

 一同が、彼の行動に首をかしげる中、フェンスを掴んだ彼は思いっきり息を吸い、叫ぶのだった。

 

「———ありがとう! どうぞ宜しく! 

 

 その声は、何処まで通るような声だった。

 

「凄い……」

「ライライの声〜凄く良く通るね〜」

 

 振り返った雷輝は、ニッと笑って5人にこう告げた。

 

「改めまして、宜しく」

 

 これが彼、上条雷輝と『Afterglow』の5人との出会いだった———

 

 

 

 

 

 雷輝達が屋上にいるのと同時刻、倉中第一高等学校にて。

 2学年のフロアの教室の一端で、書類に目を通している青年がいた。

 時刻のせいもあってか、今教室内には彼以外に誰もいない。

 そんな彼は、ふと開いておいた窓から外を眺めると、彼の耳にその『音』は届くのだった。

 

「……?」

 

 音を聞いた彼は、辺りをキョロキョロと見回した。

 そんな彼の元へ、新たに青年が現れる。

 

「どうした洸夜、キョロキョロして」

「いや、今なんか聞こえてきたんだよな」

「俺は何も聞こえなかったが?」

「それは祐治の耳が悪いだけじゃないか?」

「いや、聴力は平均的だからな?」

 

 祐治と呼ばれた青年は、洸夜と呼んだ青年に反論するのだった。

 

「まあ、いい。で、後どれくらいで終わるんだい()()()さん」

「後、10分かな」

「了解。終わるまで屋上で待ってるわ」

「はいよ」

 

 そう言い残した祐治は、教室を後にした。

 1人残された洸夜は、再び書類に目を通し始めた。

 そして、呟くのだった。

 

「誰に……お礼を言って、挨拶をしたんだろうか……」

 

 先ほど聞こえた()()について考えながら、書類を片付けていくのだった。




今回はここまで。
ここまでお読みくださいましてありがとうございます。
宜しければ感想・評価等お願い致します。
次回の投稿日は不明ですが、どうぞ気長にお待ちいただけると幸いです。
では、これで。
次回もどうぞお楽しみに!


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特別編
モカ誕生日回:銀髪美少女は侮れない


どうも、希望光でございます。
先ず、皆さま、誠にに申し訳御座いませんんでしたぁぁあ!
この回、モカの誕生日回を9月3日中に投稿できなかったことを深く反省し、お詫び申しあげたいと思います。
また、前回のリサの誕生日回同様に、設定の時間軸がキング・クリムゾンしています。
ご注意ください。

↓リサの誕生日回はこちら、『その日、全てが始まった』にございます。
https://syosetu.org/novel/196831/6.html


では、本編をどうぞ

追記:2019年10月21日
タイトルを『9月3日は……?』から変更いたしました。


 本日は9月3日。

 今日がなんの日かと問われれば、なんでもない日と答える人もいれば、某青いタヌキみたいなロボットの誕生日、なんていう人もいるだろう。

 だが、雷輝や蘭達にとっては全く違う日であった。

 

 そう、今日はモカの誕生日。

 故に、雷輝とモカ以外のAfterglowのメンバーは、様々な準備に追われていた。

 そんな中、雷輝は現在、モカと共に歩いていた。

 

「んー、やっぱり山吹ベーカリーのパンは最高だね〜」

「そいつは良かったな」

 

 雷輝の隣のモカは、幸せそうにメロンパンを頬張っていた。

 そんな彼女を見ながら雷輝は、これもまたいつも通りだと思うのだった。

 そんな事などつゆ知らずのモカは、メロンパンを早々に食べ終えると、袋の中に手を伸ばし、今度はチョココロネを取り出した。

 

「チョココロネか」

「そーだよ〜。モカちゃんが、山吹ベーカリーに行ったら必ず買うパン〜」

 

 そう答えたモカは、パンを咥えたまま雷輝に「ぴーす、ぴーす」と言ってVサインを向けてくるのだった。

 そんな彼女を見て、雷輝はクスリと笑った。

 

「およ? ライライ何か面白いことあった〜?」

「いや、モカはいつでもブレないなと思ってさ」

「それがモカちゃんなのです」

 

 えっへん、とモカは胸を張るのだった。

 

「で、今日はどこに行くんだ?」

「おっと、すっかり忘れてましたなぁ〜」

「おいおい……」

 

 頭を抱える雷輝を他所に、モカはふっふっふっと言って、懐から2枚のチケットを出す。

 

「この、チケットが目に入らぬか〜」

「それ、新しく出来たカフェの奴じゃん」

「そうだよ〜」

「しかも、俺がこの前モカにあげたやつ」

「んー? ライライがくれたやつだったけ?」

「4日、5日前ぐらいに渡したじゃん」

 

 少し上の方へ視線を向けるモカは、思い返していたようだが、遂に思い出すことができなかった。

 

「覚えてないな〜」

「そうかいな……。というか、なんで俺と?」

「んー、消去法?」

「え?」

 

 雷輝の驚きを他所に、モカは話を続けた。

 

「えーっとね、蘭は誘っても来るだろうけど、あまり乗り気じゃないと思うんだよね。で、ともちんとは近々ラーメン食べに行くでしょ〜。で、つぐは家がカフェだから誘う必要無いし、ひーちゃんは今ダイエット中って言ってたから〜、最終的に残ったのがライライなんだよね〜」

 

 そう告げたモカは、「まあ、ライライと行きたいのが1番なんだけどね〜」と呟くのだった。

 

「……うーん、まあ、分かったような、分からないような……」

「細かいことは気にせずに行こう〜」

「そう……だな」

 

 そう言って、2人は少し歩くスピードを上げるのだった———

 

 

 

 

 

 ここ、最近出来たカフェは、外まで並んでいた。

 

「おお、凄い人だ」

「……混み過ぎだろ」

 

 などと言いながら、2人は列に並んだ。

 この間、2人は特に喋る事もなかった。

 そして、列が少し移動した辺りで、雷輝が口を開いた。

 

「で、ここに来たのはいいが、何頼むんだ」

「え、そんなの決まってるじゃ〜ん」

「……まさか!」

 

 雷輝は、モカの不敵さを含んだ笑みを見て勘付いた。

 これから、モカの口から発せられる言葉に。

 

「ケーキの食べ放題だよ〜」

 

 その一言で、雷輝は膝から崩れ落ちるのだった。

 その後暫くして、2人は漸く店内へと通された。

 目の前に置かれたメニューを手に取ったモカは、開いて中へと目を通していた。

 

「ん〜、頼むものは決まってるけど。あ、ライライは何飲むの〜?」

「混んでた……混んでた……」

 

 雷輝はと言うと、先程からこの様に、現実逃避を繰り返しているのだった。

 

「おーい、ライライ〜?」

「……え、わ、な、何?」

 

 モカに呼ばれた事により、雷輝は我に返った。

 

「ライライは何飲むの〜?」

「あ、ああ。そうだな……カフェラテでも頼もうかな」

「じゃあ、モカちゃんも同じの頼もうかな〜」

「ん。モカ、ケーキは?」

「私はチョコケーキからかな。ライライは?」

「じゃあ、無難にショートケーキからだな」

 

 と、2人で軽く相談した後、店員を呼びスイーツ食べ放題セットを頼むのであった。

 

「で、頼んだところまではいいが……なんで食べ放題なんだよ」

「それが今日の目的だから〜」

「嘘だろ……」

 

 こんな事になるということを、1ミリも予測していなかった雷輝は、再び現実逃避をしたいと思うのだった。

 そんな彼とモカの元に、カフェラテとそれぞれのケーキが運ばれてくる。

 

「美味しそう」

「同感だ」

 

 2人は、フォークを手に取ると、ほぼ同時に食べ始めた。

 

「……これは、なんだ……美味い。それしか言えない……」

「ん〜、これは私でもパンから乗り換えちゃおうかなと思うレベルですな〜」

「そう言って、本当は乗り換えたりはしないんだろ」

「もちのろん〜」

 

 そうしてお互いに食べていると、不意に雷輝は正面からの視線を感じた。

 そこには、雷輝が食べているケーキに釘付けになっている、モカの姿があった。

 

「……どうした」

「ライライのケーキ美味しそうだね」

「食べ終わったら頼めばいいだろ」

「ライライが食べてるのがいい〜」

「んな無茶な……他のと大差ないだろ」

「あるよ〜」

 

 モカの言葉に、少し戸惑いながらも、この場を打開する策を考えている雷輝の前で、モカがおもむろに口を開けた。

 その様子を見た雷輝は、その理由が理解できず、モカへと問いかけるのだった。

 

「どうしたんだ?」

「ライライ、あーんして」

「……はい?」

 

 再び雷輝の頭の上に、『?』が浮かび上がった。

 それを察したのか、モカは雷輝へと告げた。

 

「ライライのケーキを、私に食べさせて〜」

「……rarely?」

「れありーれありー」

 

 満面の笑みでそう言われた雷輝は、断ることが出来ずに、言われた通りモカに自身のケーキを食べさせた。

 

「うーん、美味ですなあ」

「……満足したか?」

「大いに〜」

「それはよーござんした」

 

 そう言った雷輝は、再びケーキを食べ始めた。

 そんな彼に、モカが不意に言葉をかけた。

 

「ライライ〜」

「ん?」

「関節キスしちゃったね」

 

 その一言を聞いた瞬間に、雷輝は噎せた。

 そして、落ち着いたのを見計らって、モカは再び雷輝へと言った。

 

「ん〜、もしかして照れてる?」

「そう……じゃ……ゲホッゲホッ! ない……」

「もう〜、照れてるライライ可愛いですな」

 

 モカは、ニヤニヤしながら雷輝をおちょくるのであった。

 対する雷輝は、そっと口を開いた。

 

「……そりゃ照れるだろ」

「……およ? 珍しくライライが素直ですなぁ」

「だって……モカ可愛いし……」

 

 雷輝の言葉を予測していなかったモカは、その一言で顔を赤く染めるのだった。

 

「もう……ライライってば……」

「……なんか悪い」

「良いよ。ライライのいつも通りだし」

「おい、その言い方やめろ。誤解される」

「だって本当のことだし」

 

 といったモカだったが、その表情は満更でもない様子であった。

 そして、雷輝に聞こえないほどの声で、「そこがライライのいいところでもあるんだよね〜」と呟くのであった。

 

 そんなこんなで2人は、しばらくの間スイーツ食べ放題を楽しんでいた。

 その際、他の客から暖かな目で見られていたことを、2人は知る由もなかったそうな———

 

 

 

 

 

 喫茶店を後にした2人は、特段何かするということもなく、河川敷を歩いていた。ただ延々と。

 2人の間に会話といった会話もなかった。

 そんな感じで歩いている間に、空は茜色に染まり始めていた。

 

「もう、日が沈むのも早くなってきたな」

「そうだねぇ〜」

「この調子だと、もう1、2ヶ月ぐらいしたら練習後の空は、真っ暗だろうな」

 

 2人は空を見上げながら、そんなたわいも無いようなことを言い合った。

 そんな時、徐にモカが雷輝に尋ねた。

 

「私達は、いつまでこうしていられるのかな〜?」

「うーん、どうだろう」

 

 と、言った雷輝であったが、でもと言って続けた。

 

「俺たちが今この瞬間みたいに変わらない、なんて事はないんだろうけどさ、変わらないものはいくらでもあるだろうし、変わり続けてもこの関係が変わるなんてことはないと思うよ?」

 

 その言葉を聞いたモカは微笑んだ。

 

「ライライらしい答えだね〜」

「ありがとう。あとさ———」

「ん?」

 

 雷輝は懐から一つの小包を取り出した。

 

「はいモカ、ハッピーバースデー」

「私にくれるのー?」

「ああ。だって、モカへの誕生日プレゼントなんだから」

 

 モカは、小包を雷輝から受け取ると、雷輝に尋ねた。

 

「見てもいいかな〜?」

「もちろん」

 

 封を開けると、中には髪留めとヘアゴムが入っていた。

 

「おー、これは前にライライと買い物に行った時の」

「ああ。あの時、結構気になってたみたいだったからさ」

「うん。見た目が好みだったんだよね〜。ありがとう」

 

 モカは相変わらずな口調ではあったが、とても嬉しそうにお礼を言った。

 

「悪いな、プレゼントそれだけで」

「ちゃんとライライからの気持ちが伝わったからいいよ〜」

「そっか」

 

 そう言った雷輝は、歩き出したが、そんな彼に後ろからモカが抱きついてくるのだった。

 

「モ、モカ?」

「今は、こうさせて欲しい」

「良いよ」

 

 雷輝は、モカの願いを拒むこと無く受け入れた。

 

「ありがとう」

「良いよ。今日のモカは、誕生日なんだからさ」

 

 しばらくの間、モカは抱きついていた。

 雷輝も、そのままじっとしていたが、ある異変に気付いた。

 それを確かめるべく、雷輝は後ろを振り向いた。

 

「モカ……?」

 

 そこには、寝息を立てて眠るモカの姿があった。

 雷輝はそんな彼女を見てクスリと笑うと、起こさないようにそっと彼女をおぶった。

 その際、僅かだがモカは微笑んでいた。

 そして、彼はモカを背負ったまま、とある所へと向かった———

 

 

 

 

 

 誰かに呼ばれる声で、モカは目を覚ました。

 

「うーん……」

 

 若干ぼやける眼を擦りながら、周囲を見渡す。

 

「モカ、起きた?」

「……蘭ー?」

 

 そこに居たのは、紛れも無い自身の幼馴染の1人である、蘭だった。

 

「アレ、ライライは?」

「雷輝は、今ちょっと出掛けてる。もう少ししたら帰ってくると思う」

 

 蘭がそう言った直後、カランカランと聞き慣れたドアベルの音が鳴った。

 

「あ、雷輝」

「戻ったよ。あ、モカも目を覚ましたか」

「さっきね」

「そうか。じゃあ、始める?」

「うん。他のみんなも大丈夫だと思う」

 

 話している2人に、モカは問いかけた。

 

「そーいえば、ここってつぐの家?」

「そうだよ!」

 

 そう言って、つぐみが厨房の方から現れる。

 

「蘭とつぐがいるってことは、ひーちゃんとともちんも居るの?」

「当たり前じゃん!」

 

 つぐみ同様、ひまりが厨房の方から現れた。

 

「おい、ひまり。少しテンションが高いぞ」

「高くちゃダメなの?!」

「ダメとは言っていないが、お前は高すぎる」

「なにそれ酷くない?!」

 

 いつもと変わらない、ひまりと雷輝のやりとりが行われる。

 そんな時、再びドアベルが鳴った。

 

「あ、巴。お帰り。受け取ってきてくれた?」

「ああ! ちょっと遠かったけどな」

「悪いな、俺に連絡が来たのに取りに行ってもらって」

「良いって」

「じゃあ、主役も起きたし、やろうか」

 

 そう言って彼等は、クラッカーを手に取り、一斉に鳴らした。

 

「「「「「ハッピーバースデー、モカ!!」」」」」

 

 

 その言葉でモカは、ここ羽沢珈琲店に連れてこられた理由を理解した。

 

「みんな〜ありがとう〜」

「はい、これ」

 

 そう言って、蘭はモカへ箱を手渡した。

 

「アタシ達からのプレゼント」

「お〜、モカちゃんへの愛を感じますな〜」

 

 そう言って、モカはプレゼントをあけた。

 

「わー、パーカーだ〜」

「モカちゃん、パーカー好きだって言ってたから、みんなで選んだんだ!」

「パーカー教のモカが気に入ってくれるといいんだが」

「大事にするよ〜」

「あ、後これもモカにだ」

 

 そう言って、巴が1つの小包を取り出した。

 

「これは?」

「洸夜先輩とリサ先輩からだよ」

「リサさんと洸夜さんから?」

 

 同様に、こちらの包みも開ける。

 すると、中にはパンがメロンパンと、メッセージカードが入っていた。

 

「ふむふむ、リサさんが提案して洸夜さんと作ったのか〜」

「良かったな」

「うん」

「さて———」

 

 雷輝が、そう言って一同に向き直る。

 そして、こう告げた。

 

「改めて、パーティーを始めようか」

「そうだね」

「だな」

「うん」

 

 雷輝の言葉に、つぐみ、巴、蘭の順番に反応した。

 そして、全員がグラスを掴んだところで、ひまりがこう言うのであった。

 

「じゃあ、モカの誕生日を祝って———かんぱーい!」

 

 そう言って手に持ったグラスを掲げたが、誰1人として反応する事なく、場が静まり返るのであった。

 

「ちょっと、なんで反応してくれないの?!」

「それがいつも通りだから」

「蘭酷い?! というか雷輝君も乗ってよ!?」

「悪いな、俺も()()()()()に慣れちまったみたいでな」

 

 その後、泣き喚くひまりを巴が宥め、みんなでモカの誕生日を祝うのだった。

 余談だが、雷輝はとある地雷を踏み、蘭に追っかけ回され、つぐみに尋問されそうになるが、それはまた別のお話。




はい。
突貫で仕上げたので、すごくガバガバ且つ、投稿日時が1日遅れるということ大失態を犯しましたが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は通常通り、本編の方を進めて行く方針でございます。
また、宜しければ感想・評価等お願い致します。
最後に、モカ誕生日おめでとう!!


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ひまり誕生日回:重なる(号令)

はいどうも。希望光です。
えっと……ごめんなさい!
間に合うように書いていたら、データが飛んでしまって、間に合いませんでした!
本当、前回といい今回といい戦犯ですよ……。
とりあえず、本編の方をお読み頂けると幸いです。
注意としては、例の如く時系列が飛んで、ネタバレを含んでいますのでご了承下さい。
それでもOKという方は、どうぞ!


 その日、朝から雷輝は憂鬱であった。普段と特段変わらない朝を迎えてはいるが、憂鬱なのであった。彼は、重い体を起こすと学校へ向かう準備を始めた——

 

 

 

 

 

 普段通りの通学路。そこを1人歩く雷輝。

 

「あ、雷輝君!」

 

 そんな静かな通学路に、彼を呼ぶ1つの声が木霊した。しかし雷輝は、その呼び声に応じることなく歩みを進める。

 

「酷くない?!」

 

 直後に、地震の真後ろから聞こえてくる反論の声。そこで漸く雷輝は応じるのであった。

 

「おはようひまり。朝から元気だな」

「私が呼んだのに無視しないでよ!」

 

 ブーブーと、文句を飛ばすひまりを一瞥した雷輝は、再び学校へと歩みを進める。

 

「で、こんな早朝の時間帯から俺を捕まえに来たってことは、なんか用があるのか?」

「うん。実は——」

「断る」

 

 雷輝はひまりの言葉を遮り、断言した。

 

「まだ何も言ってないじゃん!」

「……ええ?!」

「そこ驚くところじゃない!」

「で、用件は?」

 

 なんとも奇妙な茶番を繰り広げる2人であったが、雷輝が即座に切り替え、話を本線に戻した。

 

「あ、えっとね」

「はい」

「放課後私に付き合ってほしいな〜って」

「中身次第だな」

「買い物とか」

「帰りまーす」

「なんで?!」

 

 雷輝の無情な一言に対して、ひまりは叫ぶのであった。

 

「他のやつ誘えばいいだろ」

「みんな用事があるんだって……」

「そう言うお前は?」

「私は今日部活休み。雷輝君も休みだよね?」

「どうだか。確かに休みだが、唐突にやり始めるかもしれない……。先輩()があんな感じだから……」

「そうだね……」

 

 そう言った雷輝の瞳は虚であった。それを見たひまりは、彼に同情するのであった。

 直後、ひまりは何かを閃いたらしくあ、と言って雷輝に話し始めた。

 

「じゃあさ、こうしようよ?」

「どうするんだ?」

「今日の昼休み確認取りに行くの」

「俺とひまりでか?」

「そう!」

 

 ひまりの提案に、雷輝は少し考え込んだ。そして、こう答えた。

 

「分かった。今日の昼休みが始まってから5分後、階段の前な」

「了解!」

 

 そう言ったひまりは、こう続けた。

 

「じゃあ、今日も1日頑張って行こー! えいえい——おー!」

「……」

「合わせてくれてもいいじゃん!」

「いや、これが日課なものだから」

「今日の雷輝君いつにも増して冷たい!」

 

 不満全開のひまりに、それは無いと一蹴した雷輝は、進むペースを若干速めた。

 

「待ってよ!」

 

 そんな彼の後を、ひまりは追いかけていくのであった——

 

 

 

 

 

 A組の教室に入ってきた雷輝。すると、普段はこの時間に登校してきていない人物の姿があった。

 

「おはよう蘭」

「ん」

 

 自身の隣の席の少女に挨拶をした雷輝に、少女こと蘭は短く返すのであった。

 そんな彼女を見た雷輝は、普段と変わらない日常を認識する。

 

「ところで、準備の方は?」

「こっちはできてる」

「そうか。んじゃあ、これ」

 

 そう言って雷輝は、蘭に何かを投げ渡す。受け取った蘭は首を傾げた。

 

「何これ」

「俺の部屋の鍵。それ必要になるだろ?」

 

 雷輝の言葉に蘭は頷いた。

 

「でも、これがないと入れないんじゃないの?」

「そうと言えばそうだが、放課後は予定入るかもしれないから、みんなの方が早いと思う」

「何の予定?」

「ひまりに、買い物に付き合って欲しいって言われたんだ」

 

 それを聞いた蘭は、納得するのであった。

 

「わかった。こっちは任せて。後、ひまりの事宜しく」

「ああ」

 

 それだけ言って、2人の会話は終了した。

 その後は、特段目立った事もなく午前の授業が終わった。

 そして迎えた昼休み。

 雷輝は約束通りに階段の前に立っていた。

 

「お待たせ!」

 

 そんな彼の元に、ひまりがやってきた。

 

「待ったわ」

「そこは否定するところだよ!」

「早いところ行こう」

「聞いてよ!?」

 

 騒ぐひまりを他所に、雷輝は下の階へと向かう。

 対するひまり本人も、反論を諦め彼の後に続くのだった。

 すると、彼が不意に口を開いた。

 

「しっかしなぁ……いつ行っても2学年(魔境)には慣れないな……」

「雷輝君の場合は……特にだよね」

「かもな……っと、着いたが果たしているのか」

 

 雷輝は、辿り着いた教室——2-Bの中を覗き込んだ。

 しかし、その中には雷輝が目的としていた人物の姿は無かった。

 

「……いない?」

「かもな……」

「あら、上条君に上原さん」

 

 言葉を交わした直後、2人に声がかけられた。

 

「あ、友希那先輩」

 

 声をかけてきたのは、友希那だった。

 

「何か用かしら?」

「洸夜先輩に用事があるんですけど……」

「彼ならさっき、教室から出て行ったわ」

「どこに行ったかとか分かります?」

「確か、隣のクラスへ行くって」

「A組か……」

 

 友希那の言葉に、思わず雷輝は頭を抱えるのだった。

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 それだけ告げると、洸夜はひまりを連れて隣の教室へと向かった。

 そして、先程同様に中を覗く。

 

「あ、いた。洸夜先輩」

「雷輝?」

 

 彼に呼ばれた洸夜は、雷輝の元へと歩み寄った。

 それに続いて彼の妹の日菜も着いてきた。

 

「ライ君だ!」

「どうも」

「で、何のようだ?」

「今日練習休みですよね?」

「ああ、そうだが。なんでだ?」

 

 そう尋ねる洸夜であったが、となりにひまりがいたことに気付き、理由を察するのであった。

 

「そういうことか。了解。こいつ(日菜)は俺がなんとかしとく」

「ありがとうございます。だとさ、ひまり」

「洸夜先輩ありがとうございます!」

「良いってことよ」

 

 そう言った洸夜に対して、日菜が問い掛けた。

 

「え、今日練習やん無いの?」

「そもそもOFFだろ。というわけだから日菜、放課後甘いもの食べに行くぞ」

「え、奢ってくれるの?」

 

 洸夜は頷いた。

 すると、思わぬ方向から声が飛んで来た。

 

「なになに〜、洸夜が奢ってくれるの〜?」

「誰もお前に奢るなんて言ってないんだが」

 

 横から現れたリサに、洸夜はそう返した。

 そのまま、洸夜は日菜とリサ、2人の対応に追われ始めたが、ひまりと雷輝に早く行くように手で促した。

 それを確認した2人は、足早に2学年のフロアを立ち去った———

 

 

 

 

 

 放課後、雷輝とひまりは駅前のショッピングモールへと足を運んでいた。

 今現在は、ブティックに来ている。

 

「ねー、この黒い方と白い方どっちがいいと思う?」

「うーん、普通に着るなら白いほうかな。ライブ衣装だって言うなら黒い方」

「うーん、じゃあ白い方かな。買ってくるね!」

 

 そう言い残して、ひまりは服を持ってレジへと向かった。

 雷輝は自身の制服の内ポケットに手を入れ、必要なものを持っているかを再確認する。

 確認を終えた直後、ひまりが戻ってきた。

 

「買い終わった?」

「うん!」

「で、次はどこに行くんだ?」

「うーん、どこか行きたいところある?」

「俺は特には」

「じゃあ、お茶してこ!」

 

 雷輝は頷き、2人はモール内のカフェへと向かった。

 そして、中に入り席へと通された。

 

「何飲もうかな〜」

「俺はカフェオレで」

「じゃあ、私はピーチティーにしよーっと」

「ん、じゃあそれを頼んでっと……。すいませーん、これとこれお願いします」

 

 少々お待ちください、と言い残して店員は奥へと消えていった。

 

「ふう。ありがとね、今日付き合ってもらって」

「あまり本意ではないがな」

「もー、そう言うこと言わないの!」

 

 そんな感じで、何気なく会話をしながらも2人はカフェを満喫した——

 

 

 

 

 

 その後、カフェを後にした2人は帰宅する為に歩いていた。

 その道中、雷輝は何気なく足を止めた。

 

「どうかしたの?」

「いや、ここの辺りに神社なんてあったんだなぁと思って」

 

 雷輝が見つめる先には、古びた神社がひっそりと佇んでいた。

 

「本当だ。お参りでもしてく?」

「そうだな。こうして見つけたのも何かのご縁かもしれないしな」

 

 2人は、参拝道を歩き本堂の前へと向かう。

 賽銭箱の前に立った雷輝は、財布から小銭を2枚取り出した。

 

「はい、ひまりの分のお賽銭」

「え、いいの?」

「いいよ」

 

 受け取ったひまりは、雷輝と共に賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らした。

 暫くの間沈黙が辺りを包む。

 そして、数瞬の後に2人はそっと目を開いた。

 

「ねぇねぇ、何をお願いしたの?」

「教えない」

「なんでよ〜」

「内緒にしたいからだ。そう言うひまりは?」

「私はね——」

 

 そう言ったひまりは、こう続けた。

 

「これからも、Afterglowのみんなや雷輝君といられますようにって」

 

 それを聞いた雷輝は、一瞬固まったがすぐに切り替え、フッと言うのであった。

 

「な、何かおかしい?」

「いや、ひまりらしいなと。まあ、そう言うことなら頑張れよ。()()()()さん」

「ありがとう! ひまりちゃん頑張っちゃうよー! と言うわけだから、アレやろ?」

「号令?」

「うん! 行くよ。えいえい——」

「「おー!」」

「え?」

 

 あまりのことに、ひまりは驚いた。

 普段の流れ。いつもやっているやりとり。

 なんなら今朝もやったばかりだった。

 それは不発に終わる事が彼女の中では当たり前のことなのだろう。

 

 しかし、今のは不発ではなかった。

 そう、目の前の彼が合わせてくれたから。

 

「今日という日ぐらい、いつも通りじゃなくてもいいだろ?」

 

 そう言って雷輝は、懐から取り出した小包をひまりに渡した。

 

「え、これは……? どう言うこと?」

「わかんないか? じゃあ——ひまり、誕生日おめでとう」

 

 覚えていてくれていないだろう彼が、覚えていてくれた。

 その事が、今のひまりにとってどれ程までに嬉しいものか。

 

「覚えててくれたの?!」

「まあな」

「ありがとう雷輝君! あ、これ開けてもいい?」

「構わないよ」

 

 了承を得て開けた中身は、ヘアゴムだった。

 

「これって……」

「ひまりのヘアゴム、痛み始めてた気がしたからさ」

「うん! ちょうど変えようと思ってたの! ありがとう!」

「いいって事さ。さて、そろそろ行くぞ」

 

 雷輝はそう言って踵を返した。

 

「え、何処に?」

「俺の家」

 

 それだけ言い残して、彼は歩き始めた。

 

「何があるの?」

「強いて言うならみんながいる」

 

 それを聞いて、ひまりは理解した。

 そして、彼にこう言った。

 

「え、じゃあ急がないと!」

「え、あ、おい、引っ張るな!」

 

 こうして、ひまりに引き摺られながら雷輝は、自分の部屋へと向かうのだった。

 その後、雷輝の部屋で誕生日会が行われて、混沌とした状況になったのはまた別のお話。




はい、本当何遍も何遍も同じこと繰り返してて……すいません皆さん。
何よりひまりに申し訳ないです……。
えっと、とりあえずですね……次回は通常通り、本編の方を進めて行く方針でございます。(恐らく此処よりも『その全』の方に回ってしまうと思いますが)
また、宜しければ感想・評価等お願い致します。
最後に、ひまり誕生日おめでとう!


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モカ誕生日回:『煌めく思い』

どうも希望光です。
今回はタイトル通りモカの誕生日回となっております。
そして、時系列が毎度の如く吹き飛んでおりますが悪しからず……。

それでは、本編の方どうぞ


 とある日学校が終わった後———つまりは放課後、モカに呼び出された俺は指定された場所で彼女を待っていた。

 

「来ねぇな……」

「ライラ〜イ」

 

 ボヤいた直後、モカが抱きついてくる。

 

「なんだよいきなり……」

「う〜ん、こうしてると落ち着くんだよね〜」

 

 そう返すモカ。初めの頃なら迷わず振り解いてたけど、なんかもう……慣れたな……。

 

「はいはい……で、今日は何処に行くんだ?」

「ふっふっふっ〜、よくぞ聞いてくれました〜」

 

 そう言って懐から取り出したものを掲げるモカ。

 

「映画のチケット……?」

「あたり〜。リサさんが譲ってくれたんだ〜」

 

 ……待って、良い予感がしない。

 まあ、気のせいだと思おう。うん。

 

「OK、OK。今日行くところは分かった。ショッピングモールだろ?」

「うん」

「じゃあさ、なんで待ち合わせが()()()()()()()なんだよ」

 

 そう、今の今まで俺がモカを待っていた場所は商店街の山吹ベーカリー前。

 

「やっぱりパンを買わなきゃね〜」

「はぁ……さいですか」

 

 溜息を吐いた俺はモカと共に山吹ベーカリーの中に入る。

 

「いらっしゃ〜い。お、モカと雷輝じゃん」

「やっほ〜」

「いらっしゃいましたよ」

 

 店に入ると、レジの前に立つ沙綾の姿があった。

 

「あれ、今日ポピパは練習ないの?」

 

 レジの方へと歩きながら沙綾に尋ねる。

 

「今日は休み。そう言うそっちも休みでしょ?」

「佑磨のやつから聞いてるんだろ……」

「まあね」

 

 笑いながらそう答える沙綾。

 

「はぁ……で、もう一個聞きたいんだけどさ」

「なになに?」

 

 俺は身を屈め沙綾との距離を縮める。

 沙綾も意図を理解してくれたらしく身を屈めてくれる。

 

「モカの誕生日プレゼント何あげるんだ……?」

「え、もうあげたよ?」

「……はやくね?」

 

 驚いた俺は身を上げる。

 

「何あげたんだよ」

「それはちょっと言えないかな」

 

 悪戯な笑いを向けそう答える沙綾。

 

「一体なんなんだ……」

「さーや〜、これお願〜い」

 

 考えている俺の傍からトレイ一杯にパンを積んだモカが現れる。

 

「……全部食うのか?」

「もち〜」

 

 そう言って会計を済ませるモカ。

 

「ありがとうございました〜」

「また来るね〜」

 

 そう言い残して、俺とモカは山吹ベーカリーを後にする。

 そして、俺達はショッピングモールへと向かう。

 因みにこの間に山のようにあったパンは既にモカの手元から消え去っていた。

 

「相変わらず食うの早いな……と、なんの映画見るんだ?」

「ん〜」

 

 モカに差し出されたチケットを手に取る。

 

「あー、モカが前に俺とかに勧めてきた漫画のやつか?」

「そ〜。面白そうだから、前々から見たかったんだよね〜」

「なるほど。とりあえず時間も時間だし入ろ?」

「あいあいさ〜」

 

 そう言葉を交わした俺達は劇場内へと足を運ぶ。

 そして、チケットに指定された座席に行くと……ん? 

 

「席ここだよな?」

「みたいだね〜」

 

 俺たちの目の前にあるのは、所謂カップル席。

 

「うっそだろ……リサさん冗談がきついぜおい……」

 

 頭を抱えた俺は先に腰を下ろす。

 そんな俺の傍にモカが腰をかける。

 

「ライライ肩貸して〜」

「へいへいどうぞ〜」

 

 そう答えると、モカは俺の肩に頭を乗せてくる。

 

「いつ見ても、ライライの髪綺麗だよねぇ」

 

 後ろで縛っている髪をいじりながらそう告げるモカ。

 

「手入れは欠かしてない……からな」

 

 そんな会話をしていると、劇場内が暗くなる。

 

「始まるみたいだな」

「うん」

 

 言葉をかわした後、俺達はスクリーンの映し出す世界に引き込まれていくのだった———

 

 

 

 

 

 映画を見終わった後、俺とモカは西陽を浴びながら帰路についていた。

 

「楽しかった〜」

「それなら良かったよ」

 

 微笑した俺は茜色の空を眺める。

 もう、夏が終わる……そんな空だ。

 

「綺麗だね〜」

「ああ」

 

 空を眺めながら歩く俺達。

 そんな中、俺は不意に足を止める。

 

「なあ、モカ」

「ん〜? どうしたの〜?」

「誕生日おめでとう———って言うのを言うの忘れてたなと思って」

「ありがとう〜。そう言うってことは、何かプレゼントがあるのかな〜?」

「あー、そのことなんだが……」

 

 俺は一度視線を逸らし、答える。

 

「その、何も用意できてないんだよね……」

「そっか〜……」

「だから、モカのお願いを1つだけ聞いてあげる」

「なんでも……?」

「ああ」

「じゃあ……キスして欲しいな〜」

 

 ……キス……ですか。

 

「……約束だもんな。良いよ」

 

 そう答えた俺はモカと正対し、自身の顔を彼女の顔に近づける。

 その途中、顔を赤くしたモカが顔を逸らす。

 

「こっち向いてくれなきゃできないよ……」

「だって〜……」

 

 俺はそんな彼女の頬に手を当てるとそのまま引き寄せ唇を重ねる。

 

「ぷはっ……」

 

 数秒間と言う短い間だったがとても長かった気がする。

 そんなことを思っている俺はふとモカの方を見ると、顔を赤くして俯いていた。

 

「……モカ?」

「ライライは……やっぱりズルいよ……」

「自分から頼んでおいてそれはないぜ……」

「もう……」

 

 そう言って軽く頬を膨らますモカ。

 そんな彼女が不意に何かを呟く。

 

「———でも、嬉しかったよ」

「なんか言ったか?」

「なんでもなーい」

 

 そう言って俺達はまた歩き出す。

 その後、何故か俺の部屋にいた他の4人と共にモカの誕生日会をするのだった。




閲覧ありがとうございました。
以上でモカな誕生日回は終了となります。
次回は、本編を進めたいのですが……先にひまりの誕生日回の可能性も考えられます……。
ですが、現状では本編を進める方針でございます。
それではこれにて失礼いたします。
最後に、モカ誕生日おめでとう!


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ひまり誕生日回:少し違ったいつものメンバー

どうも希望光です。
今回はタイトル通りひまりの誕生日回となっております。
そして、時系列が毎度の如く吹き飛んでおりますが悪しからず……。

それでは、本編の方どうぞ


 とある日、羽沢珈琲店に集まった一同は、ひまりの誕生日について話し合っていた。

 

「今年どうしようか〜」

「毎年やってるとサプライズ感出すの難しくなってくるよな」

 

 モカの言葉にそう返す巴。

 その直後、雷輝が口を開く。

 

「……逆に考えるんだ……普通に誕生日会をやるだけで良いんじゃないかと」

「それ、読者からすると味のしないスルメかまされてるのと同じ気持ちだと思うけど?」

「メタすぎるよ!!」

 

 リキヤの言葉に叫ぶ雷輝。

 

「そうか?」

「十分メタだよ!」

「あのさ、2人だけで盛り上がらないでくれる?」

「「すいませんでした……」」

 

 蘭に対して即座に土下座する2人。

 

「そ、それじゃあひまりちゃんに何をあげるか考えよ……!」

「そうだな」

 

 つぐみの提案に頷く巴。

 

「何か提案ある人?」

『……』

 

 雷輝の問いかけに黙り込む一同。

 するとモカが口を開く。

 

「ライライを女装させてプレゼントすればいいと思いま〜す」

「いや、それは——」

「良いね!」

 

 雷輝の言葉を遮りモカに賛同するリキヤ。

 

「なんでそうなるんだよ」

「1番最適だと思ったから」

「おかしいだろ、他のみんなもそう思うよね?」

 

 雷輝の問い掛けに目を逸らす蘭、巴、つぐみ。

 

「なんで目逸らしちゃうのさ……」

「雷輝君には悪いと思うんだけど……凄く良い案だと思うんだ」

「私も同意見」

 

 つぐみの言葉に同調する蘭と頷く巴。

 

「なんでさ……」

 

 それを聞いて大いに落胆する雷輝。

 すると、雷輝の肩に手が置かれる。

 

「諦めろ、これも運命(さだめ)だ」

 

 サムズアップしながら雷輝にそう告げるリキヤ。

 その日、羽沢珈琲店内に鈍い音が響き渡った——

 

 

 

 

 

 迎えた10月23日、ショッピングモールに集まった一同。

 

「「「「「ひまり(ひーちゃん)(ひまりちゃん)(上原)誕生日おめでとう!」」」」」

「みんな〜ありがとう!!」

 

 一同からのお祝いに歓喜するひまり。

 

「早速だけど、プレゼントを用意していま〜す」

「何々〜?」

「こちらで〜す」

 

 モカの言葉を皮切りに、その場から退く一同。

 そして、姿を現したのは、軽くおめかしした雷輝。

 

「え、雷輝君?! どう言うこと?」

「今年のひーちゃんの誕生日プレゼントは、ライライを好きな様にコーディネートすることになりました〜」

「雷輝君こんな調子だけど大丈夫……?」

 

 雷輝を見ながら不安気な表情(カオ)をするひまり。

 それもそのはず、今の雷輝は虚ろな目のまま『……シテ……コロシテ』と呟き続けている状態なのだ。

 

「あー、それに関しては放っておけば治るよ。その姿で人前に出された事に関してそう言ってるだけだから」

「そ、そうなの?」

「そうそう。ほら、ライライしっかり〜」

 

 そう言いながら雷輝を揺さぶるモカ。

 

「ハッ……あ、ひまり。誕生日おめでとう」

「うん。ありがとう。それで……」

「ああ……不本意だが構わないよ」

 

 ため息を吐きながらそう返す雷輝。

 

「本当に! ありがとう! あ、でもお金が……」

「そこに関しては私達がみんなで出すよ」

 

 ひまりの疑問に答えたのは蘭。

 

「良いの?!」

「主役に払わせるわけにはいかないだろ?」

「そーそー。今日の主役はひーちゃんなんだからね〜」

「みんな……本当にッありがとう!」

 

 感謝を述べたひまりは踵を返すとこう言う。

 

「じゃあみんな、早速いこう! えいえいおー!」

『……』

「なんでよ!」

 

 本日も、ひまりの号令は不発に終わった。

 

「やっぱり安牌を取るに限るから……かな?」

「だね〜」

「もう!」

 

 そんな具合で歩みを進めていく一同。

 この後、ブティックにて雷輝は完璧な女の子へと変身した挙句、リキヤが冗談めいて告白し鉄拳制裁されることになるのだが、それはまた別のお話。




閲覧ありがとうございました。
以上でひまりの誕生日回は終了となります。
最後に、ひまり誕生日おめでとう!


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