立花響に勝利したい (うみうどん)
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プロローグ

 ああ────。

 

 俺は間も無く死ぬ。

 当たり前だ、身体を半分に引き裂かれたんだ。

 

 本来なら即死のはずだが、奇跡のようにまだ意識がある。

 しかしそれもいつまで保つか分からない。

 

 俺は死ぬのだろう。

 一生のうちに一回もライバルに勝てずに無残に殺されたのだ。

 

 おいおい、そんな顔すんなよライバル。

 俺はもうすぐ死ぬっていうのに、お前も心の中では清々してるんだろう? 

 

 ごめんな。お前の貴重な時間潰しちまって。

 お前の親友との時間を潰してちまって。

 毎回毎回勝負なんて言ってきてウンザリしてたよな。

 お前がどんなに優しかろうが、俺に対してはあまり快く思わないだろう。

 

 俺は多分悪人だ。

 こんな事でしか…………小さなイタズラのようなものでしか自分を表現できないロクデナシだ。

 

 俺の脳裏に過ぎる、最愛の人の姿。

 ああ、あの人も最後はこんな感情だったのか。

 俺を守ってくれて、死んでいったあの人はこんな感情だったのかと初めて理解した。

 ありがとう……としか言いようがないな。

 

 だから────。

 

 そんな時だった。

 俺の心の内から声が聞こえた。

 ドス黒く、何者を寄せ付けぬ程の威圧を出す声が。

 

『ライバルに負けるのはまだ早いぞ少年』

 

 その男は俺に向かい喋り掛ける。

 なんだ? 俺の中にこんな化け物が眠ってやがったのか? 

 なんて事だ、最後の最後でこんな事になるとは。

 

『近くにオーディンの気配がする、ならば悪戯をするしかないだろう』

 

 何をするつもりだ。

 俺のこの体で好き勝手は許さん。

 この体は、俺に大切な人が守ってくれた体なんだ。

 

『ああ、知っているよ、君のことはずっと昔から。バケモノ共に人間のままでよく立ち向かえたものだ』

 

 お前は……一体? 

 

『俺はトリックスター、そして俺の作った神器はお前のその胸に掛けてあるペンダントだ。さあ歌え。俺の神器の歌を!』

 

 心の中に溢れる歌がある。

 ドス黒く、気持ち悪いものではあるが、何処と無く寂しそうな歌ではあるが。

 しかしそれは紛れもなく、燃えるような歌だった。

 

「Find the sword Lævateinn tron」

 

 ……お前を倒すためにお前と戦う。

 お前が戦うのなら俺も戦う。

 お前がそれを纏うというのなら俺も似たようなものを纏う。

 絶対にお前を倒す! だからお前と戦う! 絶対なる勝利を! 

 

『秘鍵・レーヴァテイン』

 

 戦場に歌が流れる。

 これはまさしく俺の歌だ。

 俺が目の前にいる奴を倒すための力。

 

 そして立花響を倒すための力! 

 

「ラグナロクだ! 太陽に匹敵する業火によってお前をヴァルハラに送ってやる!」

 

 ここに新たな奏者が誕生した。



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一話

 とある街中で、1人の男が同い年と思われる女子生徒2人に向かって吠える。

 いや、正確には1人だろう。

 

「立花響! 今日こそお前を超える! 勝負だ!」

「ええ!? また!?」

 

 この男が立花響と呼ばれる女子生徒に勝負を挑むのはこれが初めてではない。

 彼と立花響は所謂幼馴染というやつで、小さい頃から勝負を挑んでいるのだ。

 

「当たり前だ、俺は立花響を超える為だけに生きている。これまでの敗北の数々、今日こそ晴らしてくれる!」

 

 ちなみにこの男が立花響に勝負を挑み、負けた回数は数知れず。

 それも軽くあしらわれている悲しい状態だ。

 

「行くぞっ!」

「もー、下がってて未来」

「うん、響。頑張ってね」

 

 男が、拳を握り立花響に向かっていくが、避けられて軽く腹にパンチを入れられる。

 男は内臓がかき乱される感覚に、膝をつき地面にひれ伏した。

 

「があああ!?」

「ねえ、鍵音くん。勝負なんてやめて話し合わない?」

 

 響がうずくまる鍵音と呼ばれた少年に手を差し伸べる。

 

 すると、苦しみながら立ち上がり、響の手を払いのける。

 

「こ、断る……次は……勝つ」

 

 腹をさすり、鍵音は2人の前からすごすごと帰っていく。

 その光景を響と未来は見送る。

 

「これで何回目だっけ、黒森君」

「うーん……これで1054回目」

「そっか、いつか分かり合えると良いね」

「うん、鍵音君とはいつかちゃんと分かり合えると思うんだ……」

 

 そして負けた後の鍵音というのは。

 

「……クソ……日に日に立花が強くなってやがる」

 

 明らかに手加減された時の事を思い出して、唇を噛み悔しがる。

 ここ最近着実に力をつけてきた響は、鍵音より遥かに強くなっている。

 それに人知を超えた力を持っているような感じがする。

 

「……このまま、立花に負け続けるのか……」

 

 諦める、そんな言葉が鍵音の脳裏に過ぎる。

 だがそれを、遮る言葉が鍵音の脳裏に過ぎる。

 

『絶対に諦めちゃだめだよ』

 

 それは少年の最愛の人であり、一種の呪いでもあった。

 その女性は、当時小学生だった鍵音を助けるために歌を歌い、命を燃やす。

 

「そうだ、諦めちゃダメだ。俺は絶対に」

 

 鍵音は赤いクリスタルのようなペンダントを取り出し、握りしめる。

 目標は立花響を超える事。

 その先の目的は……

 

「必ず……必ず、ノイズを……俺の手で」

「おーい鍵音〜」

 

 ペンダントを握りしめ、決意を決めたとこで、鍵音を呼ぶ声が聞こえる。

 鍵音は手早く、ペンダントをポケットの中にしまい込み、鍵音を呼ぶ声に答えた。

 

「どうした、天羽」

 

 ニカッと笑う天羽と呼ばれた彼女の名は天羽奏。

 大人気ユニット、ツヴァイウィングの一人であり、奇跡の歌姫と世界で呼ばれている。

 そんな彼女がなぜ、鍵音に声をかけたかというと、2年前のツヴァイウィングのライブにて突如としてノイズが襲来し、人々を絶望に追い込んだ、史上最悪の事件。

 あの時、死にそうな天羽奏に手を差し伸べたのが、鍵音だった。

 いや、正確にはタックルをしたというのが正しいだろう。

 

「いや、帰りにお前に姿が見えてな」

「そうか、じゃあな」

「おいおい! ちょっと待てよ!」

 

 奏は鍵音の肩を掴んで、振り向かせる。

 

「な? ちょっとお前と話したいんだ」

「…………分かった」

 

 少々、不貞腐れた態度で奏の申し出を了承する。

 なぜこの二人が、こうやって話すようになった経緯というのは、また話すとしよう。



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二話

 2年前

 

 どうしてこんな事になってしまったのだろうかと鍵音は考える。

 そうだ、立花響が俺の家に来て、ツヴァイウィングのコンサートを見に行こうと言ったのを鍵音は思い出す。

 

 幼馴染の小日向未来がコンサートに行けなくなったと、大声で泣きついてきたのだ。

 

「うわーん! 未来がぁ! 私どーしよー!」

「うるさい、落ち着け」

 

 そんなこんなで鍵音は仕方なく、名も知らないツヴァイウィングというユニットのコンサートを見に行った。

 鍵音自身は、今日はどう立花響を倒すかというイメトレをやろうと思っていたのだが、本人が来たので辞める事にする。

 今日は偵察の日というのを決め、立花響の弱点を探す事に力を注ぐ事に決めた。

 

 今のところ戦歴は950戦中950敗。

 立花響は女子ながら、類稀なる運動神経を持っており、他の男子に混じっても遜色はない。

 今や学校では運動神経だけなら鍵音と響の2トップとなっている。

 

 なぜ鍵音が響に固執するのかと思うと、昔の因縁なのではあるが響は完全に忘れている。

 

「大丈夫かなぁ……楽しめるかなぁ……」

「おい、その台詞は俺の台詞だぞ」

 

 半ば無理矢理連れてこられたので、鍵音は不機嫌だ。

 

 そしてライブが始まる。

 

 大盛況で赤い髪の女の子と青い髪の女の子がステージに上がる。

 曲を披露すると、会場のボルテージも上がっていき、会場全体の空気が震えていた。

 初めは不安がっていた響も楽しそうにしており、コイツ……! と青筋が頭に浮かぶ。

 

「イエーイ!!!! あははは!」

「はあ……」

 

 鍵音自身あまり騒がしいところは好きではない。

 だが、二人の歌は心の中で熱く、クルものがあるということは理解はしている。

 歌自体は好きなので後でゆっくり聴こうとCDを買おうかと思っていたその時だった。

 

 ヒュンと一つ鍵音の目の前に何かが落ちる。

 鍵音が視線を下に向けると、そこには黒い灰になったものが落ちていた。

 この現象はよく知っている。

 昔、鍵音を絶望のどん底に落とした、人知を超えた生物。

 いや、生物と呼称するのも怪しい、絶望が目の前にあった。

 

「ノイズだあああああ!」

 

 一気に人々の絶叫が耳に突き刺さる。

 隣にいた響は完全に腰が抜けているようで、走れない状態だ。

 

 鍵音はすぐに脱出できそうな通路の方に目をやる。

 しかし、それは人が人を押しのけ、我先に逃げようとする人間達だけだった。

 子供も関係なく、大人達の圧に押しつぶされる。

 母親の絶叫も聞こえ、子供がまた一人死んだことがわかった。

 

「ちっ、立花! 一旦隠れるぞ!」

「え、う、うん」

 

 恐怖に怯えた響を見ていると鍵音はイラつくのが分かった。

 なぜ、俺より強い奴が、こんなに怯えてやがるんだ。今までの威勢はどうしたと思ったが、無理もない響はいくら強かろうがただの中学生だ。

 鍵音みたいに壮絶な過去は経験はしていないし、普通の家庭で育っている。

 

 二人は身を寄せ会うように岩陰に隠れる。

 ノイズは二人に気付かずに素通りしている。

 

「ここなら、一先ず大丈夫だろう」

「え、うん」

 

 限界ギリギリまで気配を消し隠れる。

 その時、歌が聞こえた。

 

 それは力強く心を熱くさせる歌。

 

「この声は」

 

『うおおおおお!』

 

 赤い髪をした先程のステージに立っていた女が謎の鎧かどうかも分からないコスチュームを身にまとい、槍でノイズ達を殲滅していた。

 奥の方では青い髪をした女も鎧のようなものを着て戦っている。

 

「す、すごい……」

 

 響も鍵音の横にいつのまにか居て、この光景を目に焼き付ける。

 しかし夢中になり過ぎたのか、響は身を乗り出しすぎて、ノイズに見つかってしまう。

 

「おい! 馬鹿、下がれ!」

「きゃっ!」

 

 鍵音が響の肩を掴み、引き寄せるも時すでに遅し。

 ノイズは完全に響と鍵音に標的を定めた。

 

 赤い髪の女も気づいたみたいで、鍵音達に向かって叫ぶ。

 鍵音は必死でなにを言っていたか聞こえなかったが、それでも響を守るように庇う。

 

 ノイズは身体を細め、飛びかかろうとした。

 鍵音は死を覚悟する。

 

(くそっ……)

 

 しかしいつまでたっても体は炭化せず、死も訪れない。

 振り向いてみると、そこには赤い髪の女が手の槍を回転させてノイズ達を防いでいた。

 

「生きるのを諦めるなっ!」

『絶対に諦めちゃダメだよ』

 

 そんな言葉が脳裏に過ぎる。

 それは鍵音に課せられた呪いの言葉。

 その言葉がある限り、鍵音という男は絶対に死ねはしないのだ。

 

 そうだ、諦めてはダメだ。

 絶対に諦めてはダメなのだ! 

 

「立花ァ! 立てるかっっ!!」

「え!? う、うん!」

 

 この場から離れるために二人は立ち上がる。

 

 しかしその時だった。

 ノイズの攻撃により女の槍の破片が飛んでくる。

 響に向かってくる破片を鍵音は腕を伸ばし、防ごうとして血飛沫をあげるがそれだけでは被害は治らない。

 響の胸に破片が突き刺さる。

 

 血飛沫が鍵音の体半分にかかり、赤く染まる。

 

「おい! 立花ァ!」

「…………あ」

「死ぬな! 絶対に死ぬんじゃねぇ!」

 

 鍵音が響の肩を揺らし、なんとか響の意識を保たせようとする。

 後ろから、赤い髪の女がやってきて、その手に持っていた槍をギュッと握りしめる。

 

「……鍵…………音……く」

「ああ、死ぬな! お前が死んだら俺は……っ」

 

 ────生きる目的を失う。

 鍵音にとって響の死というものはそれ程重いものである。

 

「っ」

 

 後ろの女は生きている響を見てホッとする。

 先程の生きるのを諦めるなが響の胸に届いているのである。

 

「……すまねぇ」

「……」

「この責任は……とる!」

「……? あんた何を」

 

 鍵音が振り向くと、女は槍を上に掲げ、歌を歌い始める。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

「っ!? この歌は」

「いけない奏! 歌ってはダメぇ!」

 

 命を燃やす歌がある。

 ここが最後のステージだと言わんばかりに、綺麗な声で歌っている女を見たら鍵音は無性に腹が立った。

 なんでこいつは死のうとしてやがる。

 

 鍵音はこの歌に聞き覚えがある。

 それは最愛の人が最期に歌った歌だから。

 鍵音を守るために歌ってくれた歌だから。

 死してなお、鍵音の胸の中に残る呪いだから。

 

 鍵音は気がつくと、目の前にいた女にタックルをかましていた。

 

「歌わせるかァァァァ!」

「なっ!? お前っ!?」

 

 二人は縺れて転がる。

 鍵音は馬乗りになって、女の襟を掴む。

 

「テメェ! 勝手に死ぬつもりか!」

「な! こうでもしなきゃ、助からねぇだろ!」

「知るか!」

「知るかって…………お前死にたいのか!」

 

 女は馬乗りになった鍵音を突き飛ばす。

 思ったより力が入りすぎたみたいで、鍵音は壁にめり込んで、血反吐を吐いた。

 

「ああ! おい! 待ってくれ、死ぬな!」

 

 顔を真っ青にして女は鍵音の元へ駆け寄る。

 どうやら死んではいないらしく、必死に女を睨みつけていた。

 

「んだよ、まだそんだけ力があるなら、頑張れるだろ」

「でも!」

「…………悔しいが、ここじゃお前等以外に頼れる人間なんていねぇ、ノイズを倒せんのはお前等以外に居ねえんだよ」

「!」

 

 鍵音は血を吐きながら、言う。

 

「だから、俺等を守るために生きてくれ。生きて生きて、もう二度と俺等みたいな奴等を出さないでくれ。それが出来んのはお前等だけだ。一人でも欠けちゃあダメなんだよ!」

「んだよお前……、アタシのファンかよ」

「生憎、今日初めて観た」

「………………どうだった」

「………………ちっ、最高だったよちくしょう」

 

 そして、最後の力を振り絞って鍵音は言う。

 

「……だから、そっくりそのまま言葉を返すぜ。『生きるのを諦めるなっ!』」

「……おう! 諦めないっ!」

 

 そこから先の記憶は鍵音にはない。

 だが、無事に病院のベットの上で包帯ぐるぐる巻きにされて目を覚ましたと言うことは辛うじて生きているのだろうと鍵音は思った。




基本的には本編世界とかけ離れた並行世界だと思ってください。


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三話

 そして再び舞台は現代へ。

 

「んで、お前の両親はそん時に戦死したと」

「ああ」

 

 喫茶店で奏は鍵音の話を聞きながら、レモンティーのストローに口をつける。

 何故、鍵音の昔の話が出ているのかというと、奏が知りたがっていたからだ。

 しかし、いくらなんでも本当の事を言うはずもなく今戦死したといったのは嘘だ。

 

 いや、いくらか正しいところもある。

 しかし、本当の事を話す気にはなれなかった。

 

「……大変だったんだな、お前も」

「……」

「アタシはよ、鍵音ともっと仲良くなりたいと思ってるんだ。なんてったってアタシの命を救ってくれた恩人だからな」

「……」

「……だんまりか」

 

 奏は寂しそうな顔を浮かべて、席を立つ。

 奏が金を置いていこうとした瞬間、鍵音は金を持った手を掴む。

 

「ひゃ!? な、なんだ!?」

「金は俺が先に払っておいた」

「え、ええ?」

 

 奏がテーブルの上に領収書らしきものが置いてある事に気づく。

 

「い、いつのまに……」

 

 そのまま鍵音は何も言わずに店内を出る。

 奏はその背中を観て、少し笑った。

 

「相変わらず不器用な奴」

 

 後で奏に話しかけられた事があるという事の重大さに、いつ気付くのだろうかと奏は少し思った。

 

 しかし、事の重大さに気づいている男、鍵音。

 あの日以降、すっかりツヴァイウィングのファンになってしまい、歌だけを買いにCDショップへ買いに行くようになった。

 特に、奏の方のファンになってしまったので、余計タチが悪い。

 

 何かとつけて、奏は鍵音に接触してくるが、1ファンである鍵音は少し距離を置いていた。

 本来なら喋る事も許されない存在だと言う事も理解している。

 それなのになんで、喋りかけてくるんだ。と鍵音は内心焦っていた。

 

 行きつけのCDショップへ向かうと、顔を覚えられているのか。

 

「お客さん! 天羽奏の新作取って置きましたよ!」

「……!」

 

 こうやって売り切れ確定のCDを置いといてくれていた。

 鍵音は恥ずかしさよりも興奮の方が勝ち、柄に似合わず、親指を立てて店員を褒め称える。

 

 鍵音は店を出て、足早に帰路につく。

 しかし、その先の道で鍵音は違和感を感じた。

 人の気配が全くしないのだ。

 それに、鍵音の目の前に一つの灰が舞う。

 

「…………ノイズか」

 

 あたりを見渡すと、あちこちに人が炭化したであろう痕跡が見られた。

 

「きゃあああああ!」

「!」

 

 小さな女の子の悲鳴が聞こえる。

 鍵音は急いで、悲鳴の場所へ駆けつける。

 するとそこには大量のノイズに襲われている女の子がいた。

 

 ノイズが女の子を襲う瞬間、鍵音は滑り込んで、女の子を助け出しそのまま走る。

 

「お兄ちゃん……」

「大丈夫だ、こんな時のために鍛えてある」

 

 息も切らさずに一定の速度を保ちながら走ると言うのは並大抵ではできない。

 それは日々、立花響を超える為に行なっていたトレーニングのおかげだった。

 

 しかし、それも長くは続かない。

 

「はあ……はあ……ちくしょう……はあ……しつこいにも程があるぞ!」

 

 ノイズは何故か鍵音達を標的にしており、隣町の工業地帯にまでやってきたがまだまだ追ってくる。

 幼女一人を抱えた状態では、素早く走れない鍵音にピンチが迫り来る。

 

「お兄ちゃん……死んじゃうの……?」

「バカを言え、こんな所で死んでたまるか」

 

 鍵音は女の子を抱えなおして、ひたすら走る。

 工場の中、水の中、いろんな所を逃げ回った。

 しかし。

 

「マジかよ……」

 

 逃げ場を失った、鍵音に待っていたのは絶望だった。

 なんと逃げた先に、新たなノイズが出現したのである。

 

 後ろからもノイズ、前からもノイズ。

 鍵音は女の子を降ろし、ノイズ達に拳を構える。

 

「お兄ちゃん!」

「ああ、分かってる! こんな事しても無駄だって事を! でもな! それでも俺は生きてぇんだよ! お前もそうだろ!?」

 

 泣きじゃくる女の子の頭に手を乗せ、撫でる。

 

「だから、絶対に守ってやる」

「あ」

 

 そう言った瞬間。

 鍵音の右手が光る。

 

「んな!?」

 

 鍵音の右手はみるみる内にオレンジ色の鎧へ変わっていく。

 まるで、機械が鍵音の右手に纏わり付いているようだ。

 

 変化が終わり、右手から排熱のための煙が出される。

 

「!? これは」

 

 天羽奏があの時身にまとっていたものと同じもの。

 しかし、鍵音のは右手に限定された物だった。

 

「……なるほど……そういうことか」

 

 あの時、響に飛んでくる奏の破片を鍵音は右手で守ろうとして受けたことがある。

 その後の摘出手術で、右手の大事な神経の近くに散らばっており、摘出するとなると、一生右手は動かせない状態になると言われていた。

 なので医者からはこのままの状態にしておいたら普通の日常生活に戻れるとまで言われていたのを思い出す。

 

「お兄ちゃん……? それ」

「ん? ああ、安心しろ。なんとかなりそうだ」

 

 鍵音はノイズに向かいこう言い放つ。

 

「かかってくるのなら其れ相応の覚悟をしろ、今のお前らでは俺には間違いなく勝てん! さあどうするっ!」

 

 ノイズは鍵音の話を聴くと、飛びかかるように身体を細め突撃してくる。

 鍵音はそれを右手で払いのける様に迎撃する。

 すると、ノイズがみるみる炭化していき、一つの突破口が開かれた。

 

「行くぞ!」

「う、うん!」

 

 鍵音は女の子を担ぎ、右手でノイズをぶん殴る。

 その威力は絶大で、あたり一面のノイズが弾け飛んだ。

 

 後ろからくるノイズも飛びかかってきたが、鍵音は右手の鎧を変形させ、槍状にする。

 そしてあの時、奏が守ってくれた様に槍を回転させノイズを迎撃した。

 

「す、すごい! お兄ちゃんかっこいい!」

「ああ、だが……これもいつまで続くか……!」

 

 右手のみに負担がかかり、右手の古傷が痛む。

 これも長く使ってはならない力だと鍵音も心得ていた。

 

「だがっ! それでもだ!」

 

 鍵音は槍を掴み、フルスイングする。

 その衝撃波で、あたりのノイズは全部炭化して、蒸発した。

 力を使い切ったのか、右手に持っていた槍や鎧が消え去る。

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

 あたりを見渡す。

 ノイズの影は一つも見えない。

 どうやら鍵音は殲滅できた様だ。

 

 その場に女の子と共にへたり込む。

 体力も消耗してしまい、この場から一歩も動けそうになかった、

 そんな時だった。

 

 地面が盛り上がり、鍵音達の目の前に超巨大ノイズが出現する。

 

「!? バカなっ!」

「ひっ……」

 

 ノイズは鍵音達を見やり、向かってくる。

 力を使い果たした鍵音にはどうすることも出来やしない。

 そのまま向かってくる、ノイズを睨みつけることしか出来なかった。

 その時だった。

 

「やあああああ!」

 

 ノイズが横に吹っ飛んでいく。

 そして鍵音の目の前に三人の女が歌いながら立っていた。

 そのうちの一人が必死な声で俺たちに話しかける為に振り向く。

 その顔は鍵音がよく知っている顔だった。

 

「大丈夫ですか!? ……って!」

「…………立花……響……」

「鍵音!?」

 

 奏も鍵音に気がついたみたいで、驚く顔を浮かべている。

 

「もしかして……あのガングニールの反応って……」

 

 その後のノイズとの戦いは、三人が問題なく片付けたのであった。



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四話

お気に入りとかポイントの方ありがとうございます。
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 結論から言おう。

 鍵音達は無事だった。

 

 多少なりとも鍵音自身は怪我をしたが、女の子の方は無傷で隊員に暖かい物を貰って安心している。

 それを、鍵音はちらりと見て少しため息をついた後、目の前で目が泳ぎまくっている響に声をかける。

 

「……これは一体どういう事だ」

「え? あはは、私にも何が何だか〜」

「ここ最近の人知を超えた様な力は、全てソレなのか」

 

 響につめ寄ろうとした瞬間、肩を掴まれる。

 後ろを振り向くと、そこにはツヴァイウィングの風鳴翼が立っていた。

 

「まずは私達と同行してもらおう。話はそれからでも遅くはない」

「わり、そういう事だ鍵音」

「……分かった」

「……不承不承といったところだな」

 

 鍵音の手に厳重な手錠がかけられる。

 これから車に乗せられて連行されるのだろうと、鍵音がぼんやり思っていた時だった。

 鍵音の服をつまんで、引き止める幼女。

 

「お兄ちゃん……また会える?」

「……分からん」

「じゃあ、わたしとけっこんしてください!」

 

「「はあ!?」」

 

 鍵音と奏の声が重なる。

 なんで奏まで驚いているのかと不思議に思うが、鍵音はなんとか冷静さを取り戻し、少女の頭に手を置き、今までの鍵音とは思えないほどの穏やかな表情で言う。

 

「……ああ、嬉しいよ。また20歳以上になったら同じ言葉を言ってくれ」

「おい!?」

 

 奏が後ろで何故か叫んだが、鍵音は受け流すことにした。

 そして少女と指切りをした後に後ろを振り向くと、奏に顔を思いっきり掴まれた。

 

「がふ、ふがふが(おいやめろ)」

「いっぺん頭冷やしやがれ、このロリコンやろー!」

「ふが────!?」

 

 奏は思いっきり鍵音を地面に叩きつける。

 後頭部を打った鍵音はそのまま地面にめり込んで気絶した。

 

 ──ー

 

 メディカルルームという場所で鍵音は目を醒ます。

 まだ後頭部が痛むようでさすってみると包帯が巻かれていた。

 

 記憶が混濁しているが、どうやら天羽奏によって気絶させられたということだけは思い出す。

 

「……なんでだよ」

「目を覚ましたか、黒森鍵音君」

「……アンタは?」

 

 目を覚ました鍵音に声をかけてきた如何にも只者ではない雰囲気を漂わせる男。

 鍵音は名も知らない男に名を知られているこの事態に危惧していた。

 

「まったく……ウチの奏がすまない」

 

 男は鍵音に深々と頭を下げる。

 子供に非を認め頭を下げてくれる大人は少なくない。

 しかし、この男はそれは見事に頭を下げてくれたので、鍵音の怒りも冷めた。

 

「いえ、大丈夫です。それでアナタは」

 

 鍵音も口調を直し、一人の子供として大人に接する。

 名前を聞く前に謝られたので聞きそびれたのだ。

 

「ああ、俺の名前は風鳴弦十郎。特異災害対策機動部二課の司令官をやっている者だ」

 

 特異災害。それはノイズの事を指す。

 鍵音は一人でもノイズへの理解を深めるために勉強をしていた。

 しかし、特異災害対策機動部というのは初めて聞いた。

 

 そこから弦十郎からいろんな話を聞く。

 シンフォギアのことや、自分の体の状態。

 鍵音自身は自分の体についてはある程度予想してはいたが、やはりあの時の破片が関係しているらしい。

 

 鍵音が一時的とはいえ右手に纏ったのはガングニールという聖遺物。

 そこから微量ではあるが、力が解放された。

 本来なら詠唱……歌の力がこの聖遺物の力を引き上げ、ギアを纏えるらしいのだが。

 

「君の今の状況についてはまだ分からない事だらけだ。なので、これから我々には協力してほしい」

「協力……ですか」

「ああ、データだけの採取でいいんだ。何も不確実な君を戦わせるというわけではない事は分かってくれ」

 

 戦う。

 そうだ、このシンフォギアの力があれば戦える。

 立花響だって……。

 

 あの時の会った立花響を思い出す。

 鍵音があの時、手も足も出なかったノイズを拳一つで消滅させた。

 

(俺も……あれに似た力が……)

 

「下手なことはあまり考えない方がいいぞ」

「!」

「君の友達の響君の事だが……」

「友達ではありません、ライバルです」

「……おほん、ライバルの響君だがここ数週間前に君と同じ融合症例で二課の預かりとなっている」

 

 なんとなく鍵音は察していた。

 前々から鍵音が追いつけないほどのスピードで強くなっている響の事を考えると悔しくて悔しくてたまらない。

 

 どんどん離れていっているみたいで、それが悔しくて仕方なかったのだ。

 

「彼女は今では奏と翼の助けもあり、シンフォギアを充分に扱えるようにはなったがそれでも身体の負荷はかかったままだ」

「……」

「なので、不完全な君がガングニールを纏うとなると確実に身体の崩壊が始まると予測されている」

「……じゃあ何故立花は?」

「君のおかげだよ」

「!?」

 

 弦十郎は笑顔で鍵音に言う。

 

「あの時の君が咄嗟に庇ってくれたお陰で、彼女の心臓の付近に残っていたカケラもさほど難しくない摘出で終わったんだ。それもほぼ完璧な状態で」

「……」

「まあ、誤算があったとすれば響君の思いが強すぎたと言った所だな」

「思い?」

「君と同じさ。君と同じように響君もノイズから少女を救い、追い詰められたところで奏者として覚醒した、それも心臓付近に残っていた本当に僅かなガングニールの破片で」

 

(そうか、アイツも)

 

 弦十郎は続けて言う。

 

「それは本当に僅かな破片だった。そのおかげで響君は低負荷の状態でシンフォギアを纏いノイズと戦えている。これは君のおかげでもある、ありがとう」

 

 弦十郎はそう言って頭をまた下げた。

 鍵音は下がった頭を見てから目線をそらす。

 

(俺のおかげ……だと?)

 

 鍵音自身は何もできなかったと悔やんだあの日。

 もっと強くなろうと誓った最悪のあの日。

 鍵音が最も望んだノイズとの戦える力を手に入れたのは、鍵音ではなく響だった。

 

(ふざけるな)

 

 唇を噛みきり血を流す鍵音を見て、弦十郎はふうとため息を吐く。

 そして、鍵音を頭をわしゃわしゃと撫で始める。

 

「なっなにを」

「今日はもう遅い。泊まっていきなさい」

「……家族が心配するので」

「嘘は良くないな」

「なっ!?」

「すまないが君のことは少々調べさせて貰った、複雑な事情を抱えている事は分かったのだが、不明な点が……いや、これは後日話すとしよう。今日はもう寝なさい」

「……はい」

 

 弦十郎を見送った後、ベッドに倒れこむ。

 どうやら今日は色々なことがあって体が疲れきっているようだった。

 鍵音は目を閉じると、そのまま気絶するように眠った。




もうそろそろ、何故鍵音が響に固執するのかとか過去を書いていこうと思うけど……( ͡° ͜ʖ ͡°)


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五話

 鍵音が起きた次の日。

 

「……なんでいるんだ」

 

 鍵音がベッドから体を起こすと椅子の上であぐらをかいて座っている天羽奏が居た。

 どうやら弦十郎にこっぴどく叱られたらしく、むすっとした顔で鍵音を見ている。

 

「弦十郎のダンナがお前を家まで送って行けってさ」

「別にいい」

 

 鍵音はベッドから降りて、医療用の服を脱ぎ始める。

 

「わあ! お前こんな所で脱ぐなよ!」

「着替えないといけないだろう。そんなに言うなら出ていけばいいじゃないか」

 

 奏は半裸になった鍵音を見やりため息をつきながら出て行く。

 そして待っていたら中から鍵音が出てきて、この建物から出ていき始めた。

 

「待て待て! お前出口わかってんのか?」

「……そういえば……分からん」

 

 奏は鍵音に対し、少し天然が入ってるのか? と思った。

 とにかく、奏は鍵音を出口まで連れて行き、そのまま歩いていく鍵音についていく。

 

「……なんでついてくるんだ」

「だから言ったろ? ダンナにお前を家まで連れて行けって言われたんだ」

「別にそこまでしなくていい。さっさと戻れ」

 

 鍵音は少し焦った様子を見せる。

 そう、鍵音がこのまま天羽奏を家まで連れて行くと少し困るのだ。

 天羽奏の新作CDでついてきた特典ポスターを部屋中に貼っているのだ。

 

 訳あって一人で暮らしている鍵音の部屋は狭い。

 故に、玄関先までびっちりと天羽奏グッズで埋め尽くされている。

 

 そう、鍵音は絶対に天羽奏を家まで連れていってはダメなのだ。

 家に連れていった後の奏の様子は想像できる。

 

 笑われるか引かれるかのどっちかだ。

 

 そして、鍵音は天羽奏を撒くために足早に帰路に着いた。

 

 ──ー

 

「へー……へー……」

 

 結論から言おう。

 鍵音は奏を撒くことが出来なかった。

 なんやかんやありながらも、最後まで天羽奏は付いてきた。

 そして、部屋の前で帰るかと思いきや、鍵音が鍵を開けた瞬間、奏が割り込むように部屋に入る。

 

 その時の鍵音の顔は大層、とんでもない顔になっていたという。

 

「……」

 

 死んだ目で虚空を見つめている鍵音に対し、奏は勝ち誇ったかのような顔でニヤニヤしていた。

 

「ほー? こんなものまでー?」

「っあ!?」

 

 奏がニヤリという顔をした後に出してきた本は天羽奏のグラビア。

 水着をきた天羽奏が満面の笑みでそこに写っていた。

 

 天羽奏のグッズがよりどりみどりの中、本物の天羽奏が鎮座する。

 ファンにとっては天国、鍵音にとっては地獄! 

 羞恥心を通り越して、鍵音は死んでいた。

 そう! 死んでいたのである! 

 

「も、もういいだろ……」

 

 鍵音が掠れるような声で、懇願する。

 そして鍵音が視線を挙げた先にいたのは、ベッド下を物色する奏だった。

 

「おおおおおい!!??」

 

 鍵音は独り暮らしであるため、ベッド下にはやましい物は何一つ無い。

 しかし! 天羽奏に関するやましい物なら腐る程ある! 

 

「えーっと、アタシの写真集10冊に限定ソロCDが55枚、そしてちょっと過激なアタシのグラビアが……! なん……だと……? 同じ物が70冊以上……だとっ!?」

「あああああああ!!」

 

 奏の中の鍵音に対するイメージが変わる。

 

「お前、アタシの事大好き過ぎるだろ──!!」

「ぎゃああああああ!」

 

 そう、鍵音は天羽奏オタクなのである! 

 

 ──────

 

 そのような事件から1日。

 鍵音はデータを取りに二課へ赴いた。

 

「本当にウチの奏がスマン……!」

 

 どうやら昨日の惨状が弦十郎に伝わったようで、来た瞬間頭を下げられた。

 どうやら同じ男という事で「君の気持ちは痛い程よく分かる!」と司令室にいた男全員に同情された。

 

(なんで知っているんだ)

 

 そこからはカウンセリングのようなものを受けて、櫻井了子という出来る女(自分で言っていた)の元で検査を受けた。

 

「そーして、貴方の健康はどこも問題はないわ」

 

 了子からレントゲン写真を見せられる。

 破片が残っていた右手は置いておいて、体にはどこも異常は見られなかったらしい。

 

「良かったな」

 

 弦十郎もまるで自分のように喜んだ。

 何故、この人たちは優しいのだろうと、鍵音は疑問に思ったが、この世界は広い。

 こういう大人がいてもおかしくはないと、そう考えることにした。

 

 そして、次は鍵音の話だ。

 

「さーて、貴方の不明な部分なんだけど、聞かせてもらえるかしら?」

「君の父親は軍人で、とある紛争に巻き込まれ、君が生まれる前に戦死したとデータには残っている、しかし君の母親に関してなんだが……不思議なことに情報が隠蔽されたかの様に何処にもないんだ。無理にとは言わないが、知ってる事があったら教えてほしい」

 

 鍵音は一拍置いて口を開き始める。

 

「……俺の母親は……俺の目の前で死にました。これが、俺の母親の写真です」

 

 鍵音は首に下がっていた、ロケットペンダントと赤いペンダントを取り出す。

 二人は赤いペンダントがギアに酷似していたため、驚きの表情を隠さなかったが、それ以上にロケットペンダントの中に入っていた写真に驚愕した。

 

「っ! これは!」

「響ちゃん?」

 

 その写真には成長して大人になったらこんな姿なんだろうなと思わせる、響に酷似した人物が当時小学生低学年の鍵音の肩に手を置いて、響らしい笑顔でピースをしていた。

 

「…………これが俺の母親の……黒森響華(ひびか)です」

 

 二人はその赤いペンダントと写真にどの様な共通点があるのかも気づいてしまった。




次回!過去編( ◠‿◠ )!


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六話

お気に入りしてくれた方ありがとうございます( ͡° ͜ʖ ͡°)
いつのまにか60超えてたびっくり( ◠‿◠ )


 黒森響華は歌を歌う。

 それは命を燃やす歌だった。

 真紅のシンフォギアを身に纏い、排熱口から炎を吹き出す。

 

 口から血を吐き、愛する我が子をチラリと見やる。

 そして、最後の魂を吐き出す様に彼女は口を開いた。

 

「へいき、へっちゃら」

「母さん!!」

「いい? 鍵音、絶対に諦めちゃダメだよ」

 

 響華は炎を纏った拳を握りしめて、目の前の巨大な化け物に殴りかかる。

 巨大な化け物はノイズとはまた違う、別の生き物だ。

 それが暴走し、鍵音達は命の危険に晒された。

 

 この中で唯一シンフォギアと完全適合できるのは、黒森響華のみ。

 そして、化け物を止める手段も響華自身だった。

 

 炎を纏った拳は化け物に突き刺さり、完全に沈黙する。

 それと同時に、響華が歌った絶唱のバックファイアで身体の崩壊が始まっていた。

 

 完全適合者である黒森響華だったが、それも人工的に作り出されたものであり、体に薬物を投与しての絶唱だった。

 度重なる人体実験、その末にあったのは、最愛の母を亡くし、落ちてくる瓦礫の中、母さんと叫び続ける鍵音のみだった。

 

 それから数年後。

 

 鍵音は小学校三年生の時に日本という国へ帰国した。

 それは響華たっての希望。

 せめて息子だけは幸せに暮らしてほしいと切に願った事だった。

 

 しかし、母を亡くした子供にそんな余裕はない。

 鍵音の父親は軍人で戦死。

 

 金自体は国が保証してくれたが、鍵音は孤児施設に預けられた。

 しかし、その環境は劣悪。

 金目当ての大人達によってまたもや鍵音は傷つけられた。

 時には、誘拐されそうな時もあった。

 

 この国も、子供には優しくない。

 そう鍵音は思い始めた時の出会いだった。

 

「待ってよ未来〜!」

 

 母親と瓜二つの立花響を見かけてしまったからである。

 同じ小学校に通う響の存在は鍵音にとって大きな物となる。

 

 小学五年生の時、クラス替えで始めて立花響と同じクラスになった。

 そして、隣の席にもなってしまった。

 フレンドリーに接してくる響とは最初こそ、普通に接していたが、接して行けば行くほど響の背中に母親の存在を感じた。

 

 違う、あれは別人だ。

 別の人間なんだ。

 

 そう鍵音は自分に言い聞かせていたのだが、響の口癖を聞き、その考えが吹き飛んでしまう。

 

 それは響が木から降りれなくなった猫を助けた時だった。

 運悪く、登った先の枝が折れ、響が落下してしまったのだ。

 をの時に発した響の言葉。

 

「へいきへっちゃら!」

 

 母親の顔で、母親と同じ声で、母親と同じ事を言う。

 鍵音は確信してしまった。

 

 アレは母親の生まれ変わりである事に。

 

 そう思ってしまった。

 

 鍵音は自分を酷く痛めつけた。

 アレが母親の訳がない、自分の最愛の人である訳がない。

 思春期を迎えようとしている鍵音の精神状況はとても不安定な物となる。

 そして、とある日。

 

「立花……響……! 勝負だ! 俺と勝負しろ!」

「え? ……ええ──ーっ!!??」

 

 コイツが母親の訳がない。

 だったらそれを証明してやる、コイツに勝って立花響は弱いと言う事を確信して、俺の中の強かった母親の面影を取り戻す。

 

 日に日に立花響によって塗りつぶされていく母親との思い出。

 それを取り戻すために鍵音は勝負という道を選んだ。

 それが、鍵音にとって最善の道だった。

 

 それからまた数年。

 

 あの最上最悪とも言える、ノイズ襲来の事件から戻ってきた二人の前にはとんでもない物が待ち構えていた。

 それは世間からの誹謗中傷である。

 

 それのせいで響の家族はバラバラになってしまった。

 

 そして、それは鍵音も例外ではなかった。

 毎日の様に集団リンチは当たり前、人殺しだと蔑まれ、世間から鍵音に居場所はなくなった。

 

 しかし、それだけで終わる鍵音ではない。

 集団リンチを加えてきた奴らは一人ずつお礼参りをして病院送りにした。

 人殺しだと蔑まれたら、本当に殺してやろうかと脅したりもした。

 

 一番酷かったのが、本当に殺されかけた事である。

 あの事件の日に最愛の娘を亡くした恨みでその娘の父親にナイフで刺し殺されそうになった。

 

 しかし、その時に助けてくれたのが立花響と小日向未来だった。

 

「大丈夫!?」

「早く警察を!」

 

 響が男の顎をカバンで殴り、気絶させ未来は警察への手早い通報をして鍵音の命は助かった。

 しかし助けてくれたのが響の姿を見て、また母親の思い出が一つ薄れていく様な感覚がした。

 

(……ダメだ……一刻も早く……立花を倒さないと)

 

 襲われそうになった時にまでそんな事を考えてしまう鍵音。

 その歪な考えはかなり異常だった。

 

 ────ー

 

「そんな事が」

「……まさか、君の母親が適合者だったとはな」

「……母さんは適合者だったんですか?」

「確信はないが十中八九そうだろう。何よりそのギアらしきペンダントが証拠だ」

 

 弦十郎は鍵音に赤いペンダントを貸してもらい、マジマジと見始める。

 形そのものはシンフォギアと寸分違わず同じだ。

 検査する必要はあるが、シンフォギアと断定してもいいだろうと思った。

 

「鍵音君、このペンダントを二課で預からせて貰えないだろうか。詳しい検査がしたいんだ」

「……でも」

「大丈夫よ♪ この出来るお姉さんがパパッと解析してすぐに返してあげるから」

「うむ、何も永遠に預かるという訳ではない。しかし、聖遺物は本来危険な物だ、それを確かめる為に、預からせてほしい。そしてもし危険な物だったらその対処法を一緒に考えよう!」

 

 鍵音はどこまでも真っ直ぐな目をした弦十郎と目線を合わせる。

 その目を見ると、とてもじゃないが断るという選択肢は鍵音には無かった。

 

「分かりました。でも本当に大切な物なのですぐに返してください。では」

 

 そう言い残すと鍵音は二課から去っていった。

 

 そして、その去っていった鍵音の背中を見ながら弦十郎は考える。

 

「……鍵音君、少し危険かもしれないな」

「どうしたの? 弦十郎君」

「いや、鍵音君の目を見たんだ。その目はとても黒く濁っていて、何も期待していない様にも思えた。無気力というか、響君とはまた違う危うさを感じた」

「ということは……彼も」

「こちら側……に最も近いという訳か」

 

 弦十郎がため息を吐く。

 どうしてこうも子供達だけがこんな重荷を背負ってしまうのだろうと考えてしまう。

 鍵音しかり響も。

 

 その時だった。

 司令室のサイレンが鳴り響く。

 

「何があった!」

「ノイズ出現しました!」

「位置は北西に200!」

「っ、近いな……。奏者達の到着は!」

「天羽々斬、ガングニール2名とも到着に三十分かかると予想!」

「くそっ! 避難警報発令! 奏者達が到着するまでなんとか持ち堪えるんだ!」

「!? これは!」

 

 オペレーターの友里が目を見開く。

 そしてモニターに映し出されたのはアウフヴァッヘン波形だった。

 

「この波形は!」

 

 モニターにその波形の名前が表示される。

 

【Gungnir】

 

「ガングニール 、だとぉ!?」

「彼……まさか!」

 

 その頃地上では。

 

「ああ…………異様にむしゃくしゃしてたんだ。これで発散できる」

 

 大量のノイズに一人立ち向かう鍵音の姿があった。




司令室のシーンって難しいですね( ´Д`)y━・~~
少しでもいいと思ってくれたら感想やお気に入り、ポイントなど頂けると嬉しいです٩( 'ω' )و


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七話

 リディアンに少し近い地下鉄。

 そこから帰ろうとしていた時に鍵音はノイズと遭遇した。

 

 なぜか鍵音の心がもやもやしていたので、取り敢えずノイズを殲滅する事にした。

 鍵音はその右手にガングニールを纏う。

 鍵音のシンフォギアは右手にしか作用しておらず、左手で殴ったら炭化し死亡してしまうことも今の鍵音には冷静に理解できていた。

 

 しかし、冷静になっても鍵音の心は晴れることはなかった。

 

「オラァ!」

 

 鍵音の咆哮が地下鉄に響き渡る。

 シンフォギアにより身体能力が上昇した鍵音にとって鈍間のノイズなど相手になりはしない。

 そのまま右手で殴り飛ばしながら進むと、そこにブドウの形をしたノイズがいた。

 

「なんだ? けったいな」

 

 ブドウ型のノイズが、その体につけていた実を鍵音に向かって放つ。

 その実が鍵音の近くに来ると、一斉に爆発した。

 

「!? くっ、天井が!」

 

 鍵音の頭上から爆発の影響で崩壊した天井が降ってくる。

 しかしそれを鍵音は右手で殴り、瓦礫を爆散させる。

 

「ふ──っ」

 

 ブドウ型のノイズはその姿を見るや否や鍵音に背を向けて走り去る。

 

「待てコラァ!」

 

 鍵音は右手を変形させ、槍を作り出した。

 それと同時にブドウ型のノイズを追いかける。

 途中で出てきたノイズも槍を一振りするだけで炭化し蒸発した。

 

「ああ……お前らが……お前らがいるから……」

 

 鍵音は向かってくるノイズを槍で一刀両断する。

 

「お前らがいるから! 無垢な人間が地獄に落ちる!」

 

 その姿は歴戦の達人を彷彿とさせる戦い。

 何故、女子である立花響にこの男は勝てないのか不思議でならない。

 

Death()だ! テメェら全員 Death()だ!」

 

 それほどまでに圧巻。

 

「うおおおおお!」

 

 それほどまでに強力。

 

「Death! Death Death Death Death Death Death Death!」

 

 それほどまでに最強。

 

 そう思わせるものがその男にはあった。

 

 しかし

 

「なっ!? またか!」

 

 ブドウ型のノイズはその実を数個鍵音に飛ばして目の前で爆発させる。

 

「撹乱!? あ! 待て!」

 

 ブドウ型のノイズが上に実を放つ。

 爆発した天井が外までの道を切り開いた。

 

「逃がすわけねぇだろ!」

 

 鍵音がその飛躍した身体能力で飛ぶ。

 地上に出てきた瞬間、鍵音はブドウ型ノイズを捕捉し、槍を投げる。

 その時何故か、槍に電気が走り光り出した。

 

【秘槍・雷】

 

 その槍は雷を纏い、ノイズに突き刺さる。

 そのまま、ノイズは炭化し消滅した。

 

「はあ……はあ…………」

 

 鍵音は肩で息を切らしながら、地面に突き刺さった槍を抜く。

 

「地獄に落ちやがれこの野郎」

「鍵音君!?」

「……」

 

 鍵音が無言で後ろを向くとそこにはシンフォギアを纏った響が立っていた。

 

(……この力なら立花を)

 

 鍵音は無言で槍を響に向かって構える。

 しかし、そのガングニールを構えた鍵音の顔は血の気が引いていた。

 

「鍵音君! シンフォギアはそんな風に使っちゃ!」

「うるせぇ! 立花響! 勝負だ!」

 

 鍵音が響に向かって槍で突く。

 響はまだシンフォギアでの戦闘に不慣れなようで、危うくかわすので精一杯だ。

 

「やめろ! 鍵音ぇ!」

「立花! 離れろ!」

 

 奏と翼も到着したようで、奏が鍵音を抱きしめ動きを封じ、その隙に翼が小さな剣を取り出し、街灯に照らされた僅かな鍵音の影に突き刺す。

 

【影縫い】

 

「くっ! 動けん!」

 

 鍵音はその場で動けなくなり、静止する。

 

「立花、立てるか」

「ありがとうございます、翼さん」

「鍵音……お前どうしちまったんだよ!」

 

 奏は鍵音を抱きしめたまま、鍵音に問いかける。

 鍵音は見開いた目をそのまま閉じ、息を吐き出す。

 

「……すまん」

 

 人に止められたことで幾ばくか冷静になる。

 この力は大変危険なものでもある。

 それを人に向けるとなると殺し合いに発展する可能性すらあるのだ。

 

(なんだ? さっきのドス黒い感情は)

 

 鍵音が沈痛な顔をした時だった。

 

「なんだぁ? 戦わねぇのか?」

「誰だ!」

 

 翼が叫ぶと、草むらの影からトゲのついたシンフォギアらしきものを纏った女が出てくる。

 

「ネフシュタンの……」

「鎧!?」

 

 奏と翼が驚愕する。

 そこの立っていた女は不敵に笑っていた。

 




オッス!我シェムハ!
カーッ!やっぱシャバは最高だァ!
とか思ってたらおかしな連中に詰め寄られて大ピンチ!

次回シンフォギアXV
「平気へっちゃらよりも〇〇HEAD-CHA-LA 」

絶対見てくれよな!

クソワロタ

これも笑ったし9話も笑う
シンフォギア のOTONAが戦うシーン史上最強の弟子ケンイチの達人級思い出しました( ◠‿◠ )



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八話

シンフォギアイベ楽しい( ´∀`)
緒川さんカッコ良すぎで死ぬ( ´∀`)


おがつば………


「私の不手際で奪われたネフシュタンの鎧、今ここで取り返させてもらう! 行こう! 奏!」

「おうよ! 翼!」

 

 両翼がネフシュタンの鎧を纏った少女に向かって攻撃を仕掛ける。

 

「ダメですよ! 二人とも! 相手は人間なんですよ!」

「何を戦場(せんじょう)でバカなことを言ってんだお前は」

「でも、鍵音君!」

「それより、拘束どうにかならんか。これじゃあノイズに襲ってくださいと言ってるようなもんだぜ」

 

 鍵音が言った言葉に響が周りを見渡すと、そこにはノイズが大量に発生していた。

 

「なるほどな、あの杖みたいな奴からノイズが出てんのか」

「冷静になってる場合じゃないよ! 大ピンチだよ!?」

「じゃあ戦えよ立花。その纏ってるもんはなんだ?」

「……シンフォギア」

「だったら倒せるだろ、ノイズくらい」

 

 鍵音がそう言ったら響はそれに答えるかのように気弱な顔が抜けていき、凛々しい顔つきになる。

 どうやら覚悟を決めたようだ。

 

 しかしその時だった。

 

 突如として現れた三体の背の高いノイズ。

 そのノイズ達が謎の液体を出し、響を拘束した。

 

「きゃあああ!」

「立花!」

「ぐああああ!」

「天羽!?」

 

 鍵音が首を動かせる範囲で後ろの様子を見る。

 地に伏せる奏と翼の姿があった。

 

 翼の方は鎧を纏った少女に踏みつけられている。

 

「のぼせあがるな人気者供! 誰も彼もが構ってくれると思うんじゃねぇ!」

「ぐっ」

「この場の主役と勘違いしているなら教えてやる。狙いはハナからコイツを掻っ攫うことだ」

 

 鎧を纏った女が響に指をさして、今回の目的が響だと堂々と伝える。

 それと同時に、鍵音が口を開いた。

 

「……テメェ……今、なんつった」

「ああ? 動けねぇ奴がエラソーに、一丁前に口聞いてんじゃねぇぞ!」

「聞こえなかったか? テメェ今なんつった? 狙いは立花だと?」

 

 鍵音が無理やり体を動かす。

 影縫いの影響で、その場で足や手から血を吹き出しながらも無理やり体を動かし始めた。

 

「なっ!? 影縫いを!」

「……はあ? なんだよ……それ」

 

 鎧を纏った少女が頰に冷や汗を流す。

 振り返った男の威圧が半端ではないからである。

 

(んだ? コイツ……普通の人間じゃあねぇのか?)

「おらああああ!」

 

 鍵音が槍を振りかぶり、少女に叩き込む。

 

「ぐう!」

 

 少女はトゲのついた鞭のようなもので鍵音の攻撃を防御した。

 

((コイツ! 強い!))

 

 二人して同じ事を同時に思う。

 実力は拮抗、いや、完全聖遺物であるネフシュタンの鎧の方が僅かに鍵音を上回っていた。

 

「ああ…………強ぇ……だけど! それだけじゃワタシには勝てねぇぞ!」

 

 少女が鞭のような物の先端に白黒のエネルギー球を作り出す。

 それを鍵音に向かって放った。

 

【NIRVANA GEDON】

 

 それを見た鍵音が、槍を野球のバットみたいに構える。

 そして在ろう事かそのエネルギー球を槍で打ち返した。

 

「飛んでけぇ!」

「無茶苦茶かよっ!」

 

 少女は飛んできたエネルギー球を躱す。

 それと同時に、隙を見つけてやってきた鍵音を鞭で返り討ちにした。

 

「ちょせぇ!」

「ぐあ!」

 

 地面に転がる鍵音。

 少女は鍵音の髪を掴み肩で息を切らせながら喋り掛ける。

 

「お前、アイツのなんだってんだ」

「俺は立花を倒す。しかし、それは俺がやる事だ。ほかの奴には立花は倒させねぇ。俺が先に必ず……倒す! それにはまずはテメェからだ!」

 

 鍵音が少女の鎧のトゲを掴み、離さないように固定する。

 少女の目には、熱く燃えたぎる男の目が写っていた。

 

「……まさか……。唄うのか!? 絶唱を!」

 

 狼狽える少女の顔を見て鍵音は不敵に笑った。

 そして、鍵音は命を燃やす歌を歌う。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

「やめろ鍵音ぇ!! 不完全な適合状態で絶唱を歌ったら!」

「……やめろ……やめろぉ!!!」

 

 奏と翼が地に伏せたまま叫ぶ。

 響は拘束されながら、鍵音が命を燃やす瞬間を見ていた。

 

(なんで……鍵音君が……)

 

 そんな想いが響の中で渦巻く。

 思えば、幼い頃から一緒にいるが未来と遊んでばかりで鍵音の事はあまり知らなかった。

 知ってることといえば、ツヴァイウィングが大好きで奏の大ファンだということだけ。

 その他は、今思えば何も知らないのだ。響は鍵音の事を。

 

「Emustolronzen fine el zizzl」

 

 鍵音が絶唱を歌い終える。

 母親の歌っていたものをそのままなぞっただけの不完全な絶唱ではあったが、その効果は絶大だった。

 

 あたりにいたノイズを消滅させ、近くにいた少女は遠くまで吹き飛ばされ、大怪我を負った。

 しかし、ネフシュタンの鎧の再生能力でなんとか生き残る。

 しかし、絶唱を歌い終えた鍵音は。

 

 血を吐き、血涙を出し、右手からも出血。

 そして、まるで死んだかのようにそこに眠っていた。




ポイントやお気に入り登録ありがとうございます!
拙い文章ですが、少しでもよかったと思ったら是非ともお気に入りやポイントください!( ´∀`)


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九話

 見慣れない天井。

 鍵音が目を覚ました時には数人の大人がそばにいた。

 

「黒森鍵音さん、目を覚ましました!」

「早く二課に連絡を!」

 

 鍵音は慌ただしくなる病室の中で聞き慣れない歌が聞こえた。

 目線だけ横に向けるとそこには何度も見たリディアンの校舎が見えた。

 

(そうか……生き残ったのか)

 

 鍵音は自分がまだ生きてる事を実感する。

 それと同時に、まだ生きてる事へ感謝する。

 

(まだ……母さんの元へ行けない。すまんが、もう少し待っててくれ)

 

 そうしてまた鍵音は眠りについた。

 

 ──ー

 

 あれから数日。

 鍵音は未だに病院のベッドで横になっているが、歩くくらいまでは回復できた。

 あれほど酷い症状だったにも関わらず物凄い回復スピードだ。

 これもガングニールのお陰だろうかと考える。

 

 あの後弦十郎からはこってりと絞られた。

 

『未だ分かっていない力を行使して、あまつさえ絶唱を歌うとは言語道断!』

 

 そしてその後。

 

『君はまだ一般人だ。我々二課とは協力関係ではあるが、それでも一般人の君を戦わせるわけにはいかない』

 

 とも言われた。

 

 鍵音は大人から叱られた事があまりない。

 なので、叱られたという実感が未だに湧いてこない。

 そう思いながら鍵音は自分で買ってきた奏の新曲を聴きながら窓の外を見ていた。

 

 その時だった。

 

「何聴いてんだ?」

 

 奏が鍵音のイヤホンを抜き取り、自分の耳につける。

 突然のことで心臓が止まりそうになった鍵音に追い打ちをかけるようにニヤリと奏が笑う。

 

「やっぱ、アタシのこと大好きだろ」

 

 ニヤニヤと鍵音の方を見る奏。

 それを見た鍵音は不服そうな顔を浮かべ仕返しをするようにこう言い放った。

 

「ああ、大好きだが?」

「えっ」

「まず、天羽の歌声。アンタの歌声は最高だ、力強いながらも透き通るような歌声、俺はこの歌声に何度も勇気づけられた。それにアンタのルックス。そんじょそこらのアイドルとは比べ物にならないくらいの美貌の持ち主だ。少なくとも俺はそう思っている。世間では風鳴の方が云々とか言われているが、そんな奴らはクソ喰らえだ。確かに風鳴も大したものだが俺は天羽の方が好きだ。大好きだ。それもツヴァイウィングとして活動している時のアンタの笑顔。眩しすぎた、とんでもなく眩しすぎた」

「も、もうやめて……」

 

 鍵音がオタク特有の早口で天羽奏の素晴らしいところを羅列していく。

 それは奏の大ファンだという事を本人に知らしめるため。

 奏が顔を真っ赤にして両手で顔を抑える。

 まるで乙女のような反応だと鍵音は思ったが、奏はれっきっとした乙女である。

 そこらへんはまだまだな鍵音であった。

 

 そんな時だった。

 

「奏? また黒森鍵音の所にいるの?」

 

 と病室をノックもせずに翼が入ってきたからだ。

 病室の中には顔を真っ赤に抑える涙目の天羽奏と勝ち誇った顔の黒森鍵音がいた。

 

「貴様! 黒森鍵音! 奏に何をしたっ!」

「おいおいおいおいまてまてまて」

 

 翼が狼狽え、すぐさま鍵音に詰め寄る。

 手には携帯用の小刀を持っていた。

 病人にすることではない。

 

 事の重大さに気づいた奏によって翼は何とか止められた。

 しかし、翼は鍵音を睨んだままだ。

 

「なんで、あんなに睨まれてんだ」

「し、知らねえ」

 

 奏と鍵音が小声でヒソヒソと話す。

 するとそれを見た翼が足をダンッと床に叩きつけ、鍵音を睨む。

 

「何をコソコソしている」

「いや、すまん」

 

 なぜ翼が鍵音を睨んでいるのか。

 その答えはこうだ。

 

(いつも奏は黒森の所へ行って私に構ってくれない。何故だ? 何故奏は私に構ってくれないのだ!)

 

 悔しさからか翼が唇を噛む。

 奏に構ってもらいたいお年頃であった。

 

 ──ー

 

 点滴を打ちながら杖をついて鍵音は廊下を歩く。

 少しでも、回復するために歩いているのだ。

 鍵音の頰には少しの汗が滲んでいた。

 

(はは、また数年前に戻った気分だぜ)

 

 それをたまたま通りがかった看護師が止める。

 

「黒森さん! ICUを出たばかりなんです、これ以上は」

「ぐっ…………さーせん」

 

 鍵音が苦痛に耐えかね、窓に体を預ける。

 ふと外を見ると、響と未来がグラウンドで走ってる姿を見かけた。

 響は何か考えながら走ってるようで沈痛な趣で走っていた。

 

 ──ー

 

「毎回毎回、人の病室に来やがって暇なのかアンタらは」

「口の聞き方に気をつけろ黒森、私達は年上だぞ」

「まあまあ、鍵音はこんな奴なんだから仕方ねぇだろ」

 

 鍵音の病室にはまたツヴァイウィングの二人がやってきていた。

 目的は奏は鍵音にちょっかいを、翼はその監視だ。

 トップアーティストがこんなので良いのかと1ファンの鍵音は頭を抱える。

 

「とにかく、病人に見舞いに来たんだよ。ほらりんご剥いてやってアーンしてやるから」

「いらねぇよ」

「貴様、奏のアーンが要らないだと? それでも防人か!」

「ダメだ、この人の言ってる事が一ミリも理解できない」

 

 奏がりんごを取り出すと、それを翼が奪って帯刀していた小刀で斬る。

 ものの見事にりんごは細かくなり、皿の上に四角型に小さく切られたりんごが並べられた。

 

「りんごが見るも無残な姿に……」

「マジかよ」

 

 奏と鍵音が戦慄する。

 どこでこんな戦技を覚えたんだとも同時に思った。

 そんな時だった。

 

「お邪魔します!」

 

 響が病室に現れたのである。

 

 ──

 

「はい! 鍵音君!」

「……ありがとう」

 

 響が改めて剥いてくれたりんごをつまんで食べる。

 

「へー珍しい、鍵音が素直に礼を言ったぞ」

「何が珍しいんだ」

「そうですよ奏さん! 鍵音君ってたまにお礼を素直に言ってくれる時があるんです」

 

 マジかよと奏が驚愕する。無理もない、奏が鍵音と知り合ってまだ二年。響とは八年だ。

 また病室が騒がしくなったと鍵音は思った。

 

「それと、はい。師匠からこれを渡してくれって」

「師匠?」

「私たちの司令官、風鳴弦十郎のことだ。ここ最近おじ様の所で立花は師事を受けている」

 

 そんな事をやっていたのかと鍵音は響を見た。

 やはり、母親に似ている。そう鍵音は思った。

 そしてあることに気づく。

 

「そういや、俺のロケットは……」

「ロケット?」

「あ、ペンダントならここに」

 

 響が鍵音にロケットペンダントを渡す。

 どうやら一時的に響が預かっていたようだ。

 

「……よかった」

 

 鍵音はペンダントを受け取り安堵の表情を浮かべる。

 響は知っていた、そのペンダントが鍵音の命よりも大事なものだと。

 だから無くさないように預かっておいたのだ。

 

「へーそんな顔も出来るんだなお前」

「や、やめろ」

 

 奏がニカッと笑って鍵音の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 鍵音が顔を少し赤らめて抵抗した。

 その横で悔しそうな表情をした翼がいる。

 

 そんな光景を見て響は思わず吹き出した。

 

「っぷ! あははは!」

「何がおかしい立花響」

「いやー、もっと鍵音君のこと知りたいなって!」

「……っ」

 

 響のまっすぐな瞳を見て鍵音は思わず顔をそらす。

 その時だった。

 

 鍵音が目をそらした先にいたのはリディアンの図書室でこちらを見ている小日向未来の姿。

 その表情はとてもショックを受けたような顔をしていた。

 それを見て鍵音は察する。

 

「なあ……立花。お前」

「え? 何?」

「……いや、なんでもない」

 

 これは当人達で解決しなければならない。

 そう思い、詳しいことは分からないが鍵音は何も言わないことにしたのだった。




何故かここ最近仮面ライダーオーズを見始めました( ´∀`)
なんでなんだ( ◠‿◠ )

誤字とか見つけたら教えてくれると嬉しいです!


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十話

 それから数日。

 鍵音は櫻井了子のメディカルチェックを受けていた。

 

「絶唱の負荷による傷も全て無くなったわ、おめでとうこれから退院ね」

「そうですか」

「もーあんな無茶これから絶対しちゃダメよ」

「……すいません」

 

 了子が持っていた電子機器で鍵音の頭をコツンと叩く。

 そういえばと鍵音は話を続けた。

 

「あの、俺のペンダントは」

「あーアレね、ごめんなさいまだ分かってない事が多くて、アレがなんの聖遺物かも分からないのよ。だからもうちょっとだけ、ね?」

「……分かりました」

 

 見るからにがっかりしたような表情を浮かべる鍵音。

 それを見たい了子がふふっと笑う。

 

「鍵音くん、前に比べて表情が柔らかくなったわね」

「……そうですかね、実感が湧かないのですが」

「前は鬼気迫る表情をしてたもの」

 

 了子がニッコリと微笑む。

 大人がそう言うのならそうなんだろうと鍵音は思うことにして、メディカルルームから出た。

 

「融合症例第2号の黒森鍵音の絶唱……彼もまたあの時にとてつもないフォニックゲインを発していた。そして絶唱の負荷もそのフォニックゲインで減少させ一命を取り留めた……だったら完全にシンフォギアを纏える立花響だったら……」

 

 ニヤリと悪どく笑う了子を置いて。

 

 ──ー

 

 すっかり日も落ち、鍵音は家路を急いでいた。

 帰り道の公園に差し掛かった時に一人の少女が歩いているのを見かけた。

 

「なんでだよ……フィーネ」

 

 それはあの時、鍵音と死闘を繰り広げた少女だった。

 

「こんな所で何をしている」

「……! 死に損ないか」

 

 鍵音と少女が対峙する。

 しかし、少女の顔は憔悴しており、とんでもなく悲しそうな顔をしていた。

 

「待て、俺は今は戦う準備をしていない」

「はっ! だったら今、死んどくか!?」

「俺は病み上がりだ、万全な状態ではない。それにお前とは万全な状態で決着をつけたい」

 

 鍵音は少女を前に戦わないという選択肢を取った。

 その理由はお前も俺も万全な状態ではないから。

 なんとも戦闘狂な発言だった。

 

 それを聞いた少女が戦いの意思を解く。

 どうやらお互い戦ったらどちらかが確実に死ぬことは分かったようだ。

 そんな時だった。

 

「うえ──ん」

「おい泣くなよ! 泣いたってどうしようもないんだぞ!」

「だってぇ! だってぇ!」

「おいコラ! 弱い者を虐めるな」

 

 泣いている女の子を男の子がさらに追い打ちをかけたように見えて少女が止めに入る。

 あんな行動もするんだなと鍵音は内心驚いていた。

 

「いじめてなんかいないよ、妹が」

「ああ〜〜ん!」

「虐めるなって言ってんだろうが! 

「まてまてまて」

 

 少女が男の子を殴ろうとした手を鍵音が急いで止める。

 

「んだよ! 離せよ!」

「まずは話を聞こうじゃないか」

 

 あくまでも冷静に、そう鍵音が少女に伝えるといじけたように「んだよ」と言って手を振り払った。

 

「んで、どうしたんだ? こんな時間に」

「父ちゃんが居なくなったんだ、一緒に探してたんだけど、妹がもう歩けないって言って、それで」

「迷子かよ、だったらハナからそう言えよな」

「オメェが聞かなかったんだろうが」

「うっせ」

 

 少女が口を尖らせて鍵音の頭をポカリと殴る。

 それにブチ切れる鍵音は肩に手をやりケンカのポーズをとる。

 

「テメェ! よくも殴りやがったな!」

「ああ? だったらこの場で決着をつけるか?」

「上等じゃねぇか!! 泣かしたる!!」

 

 そう言って臨戦態勢に入る二人、しかしそれを良しとしない二人の兄妹によって阻まれる。

 

「「ケンカはダメ!」」

 

 間に入って両手を広げる二人、それを見た鍵音と少女の頭に登ってた血が急に冷めるような気がした。

 

「……ガキに言われちゃしまいだな」

 

 鍵音が頭を掻いて臨戦態勢を解く。

 それを見た少女も臨戦態勢を解いた。

 

「うう〜」

 

 それを見た少女がまたべそをかきはじめる。

 それを見た少女が。

 

「あー! もうめんどくせぇ! 一緒に探してやるから大人しくしやがれ! おい! 行くぞ!」

「俺もかよ!」

 

 こうして、夜の迷子のお守りをすることになった鍵音だった。

 

 ──ー

 

「ふんふふんふん♪」

 

 少女が女の子の手を引きながら綺麗な鼻歌を歌う。

 それを鍵音はボーっと見てしまい、その視線に気づいた少女に睨まれた。

 

「何見てんだよ」

「いや」

「お姉ちゃん、歌好きなの?」

 

 言葉に詰まった鍵音をフォローするかのように女の子が聞く。

 そう言うと少女がどことなく暗い顔をして答えた。

 

「……歌なんて大嫌いだ。特に……壊すことしか出来ない私の歌はな……」

「……」

 

 少し暗い空気になった中歩く。

 そして交番の前に差し掛かった時に二人の子供の父親を見つけた。

 

「父ちゃん!」

「お前たち、どこに行ってたんだ」

「お姉ちゃんとお兄ちゃんが一緒に迷子になってくれた!」

「違うだろ? 一緒に父ちゃんを探してくれたんだ」

「すみません、ご迷惑をおかけしました」

「い、いや成り行きだから……その……」

「当然の事をしただけですから。なあ?」

「うっせ」

 

 照れる少女をからかうように鍵音が問いかける。

 先程までの殺伐とした空気から一変、あたりに暖かい空気が漂っていた。

 

「ほら、お姉ちゃんとお兄ちゃんにお礼は言ったのか?」

「「ありがとう!」」

「……仲良いんだな、そうだ、そんな風に仲良くするにはどうすればいいか教えてくれよ」

 

 少女が二人に聞く。

 本当ならこんな事言わないんだろうと自身で思っていても、何故か言葉が出てしまったのだ。

 

「そんなの分からないよ、いつも喧嘩しちゃうし」

「喧嘩しちゃうけど、すぐに仲直りするから仲良しー!」

「へえ、喧嘩するほど仲が良いってか、立派だなお前らは」

 

 鍵音が二人を撫でる。

 すると女の子がこんな事を言い始めた。

 

「だからお姉ちゃんとお兄ちゃんも仲良し!」

 

 二人して顔を見合す。

 間を置いて少女と鍵音が同時に首を振り始めた。

 

「「いやいやいや、そんな事あるわけ……真似すんなよ!! ……あ」」

 

 それと同時に同じ言葉を言う。

 そして恐る恐る女の子の方に顔を向けると、女の子は満面の笑みを浮かべて。

 

「やっぱり仲良しー!」

 

 と、無邪気に笑った。

 それに釣られて、男の子も父親も笑い始め、二人して顔が赤くなっていくのが分かったのだった。




十話になりました( ◠‿◠ )
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十一話

いつのまにか100のお気に入りを超えていました( ^ω^ )
嬉しい( ^ω^ )


「……で、お前はどこまでついて来る気だよ!」

「家がこっちなんだよ」

 

 兄妹と別れた二人は、家路を急ぐ。

 といっても少女の方は帰るところがないので、このまま夜をさまよう予定であった。

 

「ったく、んじゃ私こっちだから、ついてくんなよ!」

「誰もついていってねーよ」

 

 鍵音がため息を吐き、少女に背を向けたその時だった。

 路地に入った少女の方からドサっという音が聞こえた。

 こけたのかと思い、路地の方を見てみるとそこに少女が倒れていた。

 

「なっ! おい! 大丈夫か!」

 

 鍵音が少女に駆け寄り、額に触れる。

 どうやら高熱を発しているようで、かなり熱かった。

 

「……風邪か。しかし……どうすれば」

 

 そのまま寝ている少女をそのままにも出来るわけもなく、鍵音は少女をおんぶする。

 

「俺の家……は、ダメだ」

 

 鍵音は自分の家に連れて行こうかとも考えたが、今の部屋の惨状を見るとその考えは却下された。

 しかし、行くあてもない。

 いや、一つだけあった。

 

 鍵音が週一で通っている店がある。

 そこのお好み焼きは大変美味で、昔、響に連れてこられた時以来、鍵音も何年も通っているのだ。

 しかし、こんな時間に迷惑ではないだろうかとも考えるが、そんな事を言っている場合ではなかった。

 

 ──ー

 

「お友達は大丈夫?」

「すみません、こんな時間に」

「いいよ、困った時はお互い様だからね」

 

 少女を布団に寝かしつけ、ふらわーのおばちゃんに頭を下げる鍵音。

 ちなみに少女の服はおばちゃんが脱がしてくれた。

 

「……着替えはどうするか……」

 

 流石に着替えまでもおばちゃんのを借りるわけにはいかないと思い、持っていた携帯を見る。

 アドレス帳を開くと、そこには二件のアドレスが入っていた。

 立花響と小日向未来だ。

 

 鍵音は迷いなく未来の方に電話をかける。

 ここに響を呼ぶよりか未来の方が頼りになると判断したからだ。

 

『もしもし? 黒森君の方から電話なんて珍しいね』

 

 どうやら少し不機嫌だったようだ。

 声色が怒っている感じがする。

 

「すまん、こんな時間に。急で悪いがふらわーに女性物の着替えを持って来てもらえないだろうか」

『え? 急にどうしたの?』

 

 困惑する未来であったが、鍵音が事情を詳しく説明すると、すぐに行くと返事が聞こえた。

 

 ──ー

 

 そのあと未来がふらわーにやってきて、少女に服を着させる。

 鍵音はその光景を見て、ホッと一息ついた。

 

「はい、黒森君、未来ちゃん、あったかいものどうぞ」

「どうも」

「ありがとうございます」

 

 おばちゃんからあったかいお茶を貰い脱力する二人。

 なんだか一仕事を終えたような感覚だった。

 

「よし、ありがとう小日向。送って行こう」

「いや……今日はおばちゃんの家に泊めてもらおうかな……って」

「……立花と喧嘩したのか?」

「……」

 

 なんとなく察しはついていたが、本当に喧嘩しているとは思っていなかった。

 二人は本当に仲良しで、喧嘩してもすぐに仲直りするものだと思っていたのだ。

 鍵音も幼馴染ではあるが、二人の世界にはとてもじゃないが足は踏み入れたくない。

 鍵音は響を倒そうとするだけで、そのほかの私生活には一切手出しはしていなかった。

 

「まったく……」

「鍵音君は知っていたの?」

「まあな」

「だよね……じゃなきゃ……病室にいないもんね……響もツヴァイウィングの二人も」

 

 あの時はどうやら鍵音の勘違いではなく、ちゃんと見ていたらしい。

 何か言われるのかと鍵音は思ったが、そのまま未来は押し黙ってしまった。

 

「まあ、相談できることがあったら話せよ。一応、長い付き合いだしな」

「……うん」

「ま、今日は寝ろ。アイツは俺が診ておく」

 

 俺が拾ってきたようなもんだしなと付け加えると、未来が少し笑う。

 どうやら少し気が紛れたようだ。

 

「……うう……ママ……パパ……」

「……ひどい、うなされようだな」

 

 鍵音が少女の額にあったタオルを変える。

 鍵音自身、なぜこのような事をしているのかとも思ったが、それも昔からであった。

 

 鍵音も響程ではないが人助けはする。

 困っている人間を見捨てては置けないからだ。

 昔はよく響と一緒に人助けをしては遅刻して先生に怒られていた。

 

(まあ……今は学校に行ってはないが)

 

 鍵音は中卒である。

 理由としては高校に入ってまで勉強する価値が見出せなかったから。

 それと人付き合いに少し疲れたのもあった。

 

 ふと、鍵音は窓を見る。

 どうやらもうそろそろしたら夜が明けるみたいで、雨が降っているが当たりが明るくなってきた。

 

「身体が少しだるいと思ったら……雨か」

 

 嫌な空気だなと、早起きしてきた未来に少女の看病を任せて、鍵音も眠りにつくことにした。

 

 ──ー

 

「私、クリスの友達になりたい」

 

 鍵音が仮眠から戻ると未来がそんな事を言っていた。

 

(そうか、クリスという名前なのか)

 

 そんな時だった。

 街中に警報が鳴り響く。

 この警報はノイズが出たという緊急避難警報。

 この音が鳴り響いたら一般市民はシェルターへ避難しなければならない。

 

「二人とも!」

「鍵音君!」

 

 おばちゃんを連れて四人とも外へ出る。

 外へ出たら逃げ惑う人々で溢れかえっていた。

 

「おい、一体なんの騒ぎだ」

「ノイズが出たんだ」

「警戒警報知らないの!?」

 

 ノイズが出た。

 そういうとクリスが渋い表情を浮かべ。

 シェルターへと逆の方向へ走り出す。

 

「クリス!?」

「くそ! 取り敢えず、小日向とおばちゃんはシェルターへ! アイツは俺が追う!」

 

 鍵音もクリスを追って走り出す。

 

「どこまで行きやがった」

 

 鍵音が拓けた場所まで行き着くと、そこには大量のノイズに囲まれるクリスの姿があった。

 この距離ではガングニールを纏っても追いつけない。

 助けられない、そう思った時だった。

 

「オラァ!」

 

 轟音と共に地面が捲り上がる。

 

「はあ!?」

 

 鍵音の視線の先にいたのはクリスを守っていた弦十郎だった。

 どうやら震脚で地面を捲り上げたようだ。

 同じようにノイズが迫ってくるのを震脚でクリスを守り、その場で跳躍し建物の上へ移る。

 

 それを見た、鍵音も右手にガングニールを纏い、向上した身体能力で建物の上に飛び移った。

 

「鍵音君」

「弦十郎さん、アイツは?」

「彼女なら、今」

 

 弦十郎が指をさした場所を見てみると、シンフォギアを纏い戦っているクリスの姿があった。

 

「なんだ、戦えたのか」

「そういえば、鍵音君。状況が状況だが、これを返しておこう」

 

 弦十郎からペンダントが渡される。

 鍵音はよかったと安堵した。

 

「すまないが、その聖遺物に関してはデータが全くなかった。いや、何者かに完全に破棄されたと言った方が正しいか」

「聖遺物には違いはないんですか」

「ああ、それもかなり強大な」

 

 響華はそんな物を纏って戦っていたのか、と鍵音は思った。

 

「まあ、そんな事より早く市民の避難誘導をしましょう。俺がノイズを叩くので」

「待て、戦闘行為は一般人には」

「させれない……だろう? だがな、ここに奴らに対抗できる槍を携えているのは俺だけだ。市民の避難だけでいい。それ以上は無茶はしない」

「むぅ…………分かった……鍵音君を特別戦闘要員として認める。しかし、絶対に無茶をするんじゃないぞ!」

「合点承知! …………ところで……あの技なんですか??」

「震脚の事か?」

 

 未だに弦十郎の人外離れた力の一端を見たことがなかった鍵音であった。




誤字とかありましたら教えてくれると幸いです!٩( 'ω' )و
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十二話

 街を疾走する鍵音。

 ノイズを蹴散らしながら逃げ遅れた市民が居ないかを探す。

 

(どうやら全員避難が完了したようだな)

 

 そう思い鍵音が足を止めたその時だった。

 地面から鳴り響く轟音。

 地中から地上へ突き破り、超巨大ノイズが出現した。

 

「はっ! ラスボスのお出ましか!」

 

 鍵音が右手に携えたガングニールを構える。

 その時だった。

 上から巨大な剣が降った来たのだ。

 巨大ノイズはそれを間一髪でかわし、上を見る。

 

「下がお留守だぜぇ!」

「天羽!」

 

 鍵音の横を奏が通り抜ける。

 奏が持つガングニールは回転し始め、竜巻を作り出し、ノイズへ襲いかかる。

 

【LAST∞METEOR】

 

 しかしノイズはまだ倒れない。

 しかし、先程の攻撃で立ち眩んだノイズを見逃す鍵音では無かった。

 鍵音は右手に全神経を集中させ、持っていた槍を巨大化させる。

 

 そのまま鍵音はノイズに突き刺した。

 

【秘槍・神ヲモ穿ツ巨槍】

 

 鍵音に突き刺された巨大ノイズは瞬く間に炭化していき姿を消す。

 それを見届けた鍵音は右手のガングニールを解除した。

 

「おい! あんな技使って大丈夫なのか!?」

「まあな、なんだかガングニールが手に馴染んできたようだ」

「前よりかは疲労していないな……やはり融合の影響か?」

「おそらく」

 

 後で改めてメディカルチェックを受けようと思った。

 今の戦いで疲労も感じずに平然と立っている鍵音。

 少しずつ人間から離れていくような感覚だった。

 

(いや……大丈夫だろう)

 

 余計な心配はしない。それが鍵音であった。

 

「俺はまだ逃げ遅れた奴が居ないか探してくる」

「分かった、鍵音、絶対無茶すんなよ。お前に何かあったらアタシ……」

「ふふ、奏ったら黒森が倒れた時泣き叫んでたのよ」

「お、おい! 翼ぁ!」

 

 顔を赤くしてあたふたと慌てる奏を見ていたらなんだか元気が出てくる。

 そして、同時に心配はかけさせたくないと思った。

 

「分かった、無茶はしない。…………ありがとう……奏」

「!! お、おう! 行ってこい! 鍵音!」

 

 顔を少し赤くして鍵音が始めて奏の名を呼ぶ。

 苦節二年。ようやく天羽奏の夢が達成された時だった。

 それに答えるかのように奏も満面の笑顔で答えた。

 

 ──ー

 

 その後も鍵音は人を探したが見つけることは無かった。

 どうやら一人もノイズに襲われずに避難できたらしい。

 そんな時、ある光景が飛び込んできた。

 

「……仲直りしたんだな」

 

 そこには肩を寄せ合い笑顔笑う未来と響の姿があった。

 二人の幼馴染として少し心配だったが、それも杞憂だったようだ。

 

 ──ー

 

 あの後、鍵音は二課特別戦闘要員として正式に認められた。

 ただし条件は決して無茶はしないこと。

 主に鍵音の仕事は人の避難誘導や保護、緊急時における戦闘のみだった。

 しかし、これで正式に戦闘要員となったおかげで、色んな事ができる。

 

 鍵音の手元には自腹で買ったツヴァイウィングのライブのチケットがあった。

 先に奏にチケットを渡されたが、それは丁重に断った。

 

「なんで受け取ってくれないんだよ」

「もう持ってる」

「え?」

「5000円も払ったんだ、最高のライブをしてくれ。後、美味いもんでも食べろ」

 

 ぶっきらぼうな言い方ではあったが、鍵音自身の優しさが出ていた。

 

「……ほんと、お前ってやつは……」

「……」

「ほんっとかわいいな〜!」

 

 そう言うと奏が鍵音を思いっきり抱きしめる。

 突然の事に鍵音は思考停止したのち、奏から発せられる優しい香りに頭がクラクラし始め、遂にはあうあうとしか言えなくなっていた。

 

「へ、はへ、ほへ」

「な! アタシたちもデートしようぜ!」

「へも、へも」

「響と翼と未来の三人はデートするらしいんだけど、アタシはお前が居るから断ったんだ!」

「ほへ」

「決まりだな! 明日10時にここに集合な! 待ってるぜ!」

 

 そう言うと鍵音を解放して奏がニコニコしながらその場を去っていく。

 それをぼーっと見届ける鍵音。

 たまたま通りがかった緒川に話しかけられるまで、その場で呆然としていた。

 

「鍵音さん? おーい、生きてます?」

「…………はっ! え? さっき……」

「はい、明日奏さんとお出かけするんですよね? あまりハメを外しすぎないよう奏さんに伝えてもらえますか?」

「で、デート……嘘……だろ……」

 

 未だ信じられない衝撃の展開に、鍵音は胃から込み上げてきたものを全て吐き出した。

 

「うわああ! 鍵音さん!? 大丈夫ですか!?」

「オロロ(大丈夫です、昔から緊張しすぎると吐く癖があって……)」

「なんで、吐きながら喋れるんですか!?」

 

 鍵音の芸の細かさに何故か驚愕する緒川であった。

 

 後の土砂物は綺麗に鍵音が掃除しました。




もう奏さんがヒロインでいいんじゃないかな…( ◠‿◠ )
というかここ最近タイトル詐欺感が半端じゃない気がしてきました( ◠‿◠ )
許して\(^o^)/

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十三話

「おーい!」

 

 鍵音の視線に精一杯のおしゃれをした奏の姿が映る。

 特徴的な髪を隠すための帽子に身バレ防止の眼鏡。

 しかし、服装はそれにちゃんと合わせたカジュアルな格好をしている。

 

 鍵音はその姿を見た瞬間、自分で自分の目を突いた。

 

「ああああ!」

「おい! 何やってんだ! お前!」

「いや、直視したら死ぬと思って……」

「ほんっと大好きだなアタシの事……ちょっと怖いぞ」

 

 鍵音に目が回復てきた頃にはだいぶ余裕が出来たようで、今は吐きそうなのを必死に堪えている。

 

「そういや、お決まりのアレやってなかったな」

「アレ?」

「待ったか?」

 

 男女がデートの時に待ち合わせする時によく見るアレだった。

 

「いや、全然待ってない」

 

 嘘である。

 この男、緊張しすぎて3時間前からずっと居るのである。

 しかも一ミリも微動だにせず。

 通りがかった人からはマネキンか何かだと思われてもおかしくないくらいに! 

 

「そうか! じゃあ行こうぜ! デートの始まりだ」

「………ああ」

 

 ここから先は鍵音のキャラ崩壊が始まるのであった。

 

 ──ー

 

「んじゃどこ行く? 待ち合わせは決めてたけど、全然行き先決めてなかったな」

「奏が行きたいところへ」

「にひ、そういうのは男がエスコートするもんだぜ」

「……こういうのは初めてなんだ、だから遊ぶところとか全然知らない」

「んじゃ、まずは映画でも見に行こうぜ」

「わかった」

 

 ──ー

 

「よかったなー! あのアクション!」

「ああ、カッコよかった」

「それにしても……あの慌てよう……ぷぷ」

「や、やめろ!」

「間違えてアタシのジュース飲んじまって、顔真っ赤! あー! おかしかった!」

「くっ!」

 

 ──ー

 

「さて、ゲーセンに来たわけだが……」

「……奏のポスターがあるな」

「なんか気恥ずかしいな」

「アレ、貰えねぇかな……」

「え?」

「いや、よく出来てるから部屋に飾りたいんだ」

「はー、お前ってやつは……いつだって本物が遊びに行ってやるよ」

「耳元で囁くな! 殺す気か!」

「にひひ」

 

 ──ー

 

 ──あれって絶対天羽奏だよね!? 

 ──見間違いだったのかな? 

 ──あっちに風鳴翼が居るって! 

 ──マジかよ! 

 

「ふう、どうやら撒いたみたいだな」

「お、おい……鍵音……」

「なんだ」

「……手ぇ」

「あ、わ、悪い」

「いや……悪くねぇ、むしろ嬉しいな」

「……っ」

「もうちょい手、繋いでこうぜ」

 

 ──ー

 

「鍵音って案外歌上手いのな」

「……ツヴァイウィングの歌を鼻歌で歌っていたから、そのおかげかもな」

「アタシの歌もか?」

「まあ……」

「よーしっ! 鍵音! デュエットしようぜ!」

「え!? あ、天羽奏と!?」

「へへ、今更だろ?」

「……ああ!」

 

 ────ー

 

 ──ー

 

 ー

 

「いんやー! 楽しかったな!」

 

 奏が背筋を伸ばし、伸びをする。

 

 今の時間は夕方。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、残る休日の時間も無くなってきた。

 しかし、今日は充実した1日だったと鍵音は思う。

 

「最後に行きたい場所あるんだけど、いいか?」

「俺は何処にでも行くよ」

「……ひひ、デレちゃってよ、昔のツンツンした鍵音は何処行ったんだ?」

「別に良いだろ」

 

 こうして二人は街を見渡せる高台へとやってきた。

 どうやら先客が3名いたようで、こちらに気づく。

 

「おー、お前らも来てたのか」

「奏! と……黒森……」

「なんでそんな嫌そうな顔しやがる」

 

 翼が奏を見つけた瞬間、弾けるような笑顔を浮かべ、その後も鍵音を見たらしかめっ面をした。

 

「おやおや〜? お二方はデートですかな〜?」

「やめなよ響」

「まあな!」

「おい!」

 

 響の問い掛けに奏が胸を張って答える。

 その瞬間、響と未来が叫ぶ。

 

「ええええ!」

「結構なスキャンダルだよぉ!」

「黒森、貴様ぁ!」

「勘弁してくれよ……」

「あはは! まあ良いじゃねぇか!」

「「よくない!」」

 

 楽観的な奏に対し、鍵音と翼が吠える。

 最後に少しドタバタしてしまったが、鍵音にとって一生の思い出になるような休日だったのは間違いなかった。




奏さん一筋で幼馴染の女の子に勝負を仕掛けるヤベー奴

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十四話

 そしてライブ当日。

 場所はあの史上最悪のノイズ事件があった場所。

 鍵音にとっても分岐点となった場所だ。

 しかし、鍵音の心には曇りなど微塵もなかった。

 

 あの、ツヴァイウィングがライブをする。

 歌が聴ける。

 それだけで、鍵音の心は満たされていく。

 

 そんな気持ちに浸っている中、一つの端末が鳴り出した。

 

「これは……」

 

 二課から貰った端末。

 いつでも連絡が取れるようにと渡されたものだ。

 この端末が鳴ったという事は……。

 

「はい、鍵音です」

『こちら響です』

 

 どうやら響とも繋がっているらしい。

 

「ノイズの出現パターンを検知した。これから翼と奏に連絡を」

 

 鍵音は二人を読んではならないと思い口を開けようとする。

 しかしその前に。

 

『師匠!』

『どうした』

『現場には私一人でお願いします、今日の翼さんと奏さんには自分の戦いに臨んで欲しいんです。あの会場で最後まで歌いきって欲しいんです。お願いします!』

「……おいおい、聞き捨てならねぇな」

『鍵音君?』

「誰が一人だよ。俺も居るぜ! 立花! ツヴァイウィングのライブを最後まで邪魔されて欲しくないのは俺も同じだ! という訳です、弦十郎さん。行かせてください」

『お願いします!』

『……お前たち…………やれるのか?』

「『はい!』」

 

 こうして、響と鍵音が現場に向かう。

 鍵音が走っている途中で響と合流した。

 その時、工場付近から爆発音が聞こえる。

 

 工場付近にたどり着くと、赤いシンフォギアを纏ったクリスが既に戦っていた。

 クリスがガトリングガンで応戦し、ミサイルを発射するも、ノイズの攻撃によって弾き飛ばされる。

 

 巨大なノイズが口からノイズを二体発射する。

 それがクリスに当たる瞬間、響と鍵音が割り込んだ。

 

「はぁ!」

「オラァ!」

 

 響は蹴り、鍵音は拳でノイズを炭化させる。

 

「お前ら!」

「大丈夫かクリス!」

「っ、なんであたしの名前を!」

「話は後だ! 立花行くぞぉ!」

「うんっ!」

 

 響が拳に纏うガングニール を引きしぼり、その場で大量のノイズに物凄いスピードで突撃した。

 響が通った後には一体もノイズは残らない。

 

「……修行したとはいえ、ここまで強くなってやがるのか……俺も負けてらんねぇな!」

 

 鍵音も右手のガングニール を拳から槍に変換。

 そのまま巨大化させた。

 

【秘槍・神ヲモ穿ツ巨槍】

 

「くたばれぇ!」

 

 鍵音が巨大化した槍を振り落とす。

 巨大ノイズ共々ノイズたちを大量に押しつぶした。

 

 しかし、後ろから音が聞こえた。

 巨大ノイズがまたもや出現したのだ。

 

「二体目!?」

 

 巨大ノイズが鍵音に向かって小さなノイズを発射する。

 それが当たる直前に横から飛んできたガトリングの弾で、小さなノイズが蜂の巣になった。

 

「これで借りは無しだ!」

「はっ、素直じゃねぇの」

「それ、鍵音君が言う?」

「うっせ、それとまだ気を抜くな」

「りょーかい!」

 

 巨大ノイズから飛んでくる弾を鍵音と響が飛んで回避する。

 そのまま響はガングニールを引き絞り、地面に拳を叩きつけた。

 その衝撃波で、ノイズのいた地面が盛り上がり、足場が不安定になる。

 

 そのまま、響がガングニールを限界まで引き絞る。

 鍵音もそれを見て、持っていたガングニールの槍をまた拳形態に戻して、鍵音も同じように引き絞った。

 そして、巨大ノイズにその特大のパワーを二人が殴り打つける。

 

「「うおおおおおおお!」」

 

 巨大ノイズは衝撃に耐えられず、内側から破壊され、その衝撃波が外にまでノイズを突き破り伝わった。

 そしてそのまま、巨大ノイズが炭化し消滅する。

 

「ふぅ……」

「はあ……はあ……ん! 鍵音君」

 

 響が拳を差し出す。

 それに答えるかのように鍵音も拳をぶつけた。

 ガングニールとガングニールがガシャンとぶつかる音がした。

 

「しっかし……見れなかったな」

「……そうだね……でも守ったんだよね」

「ああ、そういうことだろ」

「ねえ、鍵音君。不完全燃焼じゃない?」

「奇遇だな、俺も今、同じことを言おうとしていた」

 

 二人がガングニールを解除してお互い離れて拳を握る。

 

「ラストステージと洒落込むか!」

「いざ勝負!」

 

 こうして久し振りに1055回目の勝負に入った二人であった。

 鍵音が連続して拳を繰り出す。

 前みたいに瞬殺される事はなく、鍵音は何十も響に攻撃を仕掛ける為のフェイントを仕掛けていた。

 

(強くなってる! でも、私だって!)

 

 響が躱し続け、一瞬の隙を見て鍵音に拳を振るう。

 鍵音は迫り来る拳を間一髪避けたが、拳圧で飛ばされてタンクに激突する。

 

「がはっ!」

「ふーっ!」

 

 響が追撃を加える為、鍵音に走り近く。

 だがそれで終わる鍵音ではない。

 あの日、弦十郎がやってみせた技を鍵音は思い出していた。

 

(あの技は……足で力強く踏む事により、その衝撃波で地面を捲りあげていた。しかしそれは踏み抜くというより、踏み締めるような動作だった……)

 

 鍵音が地面に向かって震脚を行う。

 

 元来、震脚とは次の攻撃に移る為、より鋭い拳や動作をするために行われるもので、日本でも踏鳴という名前で使われている。

 

 しかし、それらの多くは踏み付けによる瞬発力の向上のみ。

 逆に踏み締めるような動作だったらどうなるのか。

 それを極めるとどうなるのか。

 

 響の目の前に土壁が出来上がる。

 響は止まれず、そのまま土壁を殴り飛ばした。

 

 鍵音は震脚で地面を捲り上げることに成功したのだ。

 

 しかし、突如出現した土壁が仇となり視界が一時的に塞がれる。

 そこから殴り飛ばして現れる響、その目は真っ直ぐに鍵音を捉えていた。

 

「っ! 負けてたまるかああああ!」

「うおおおおおお!」

 

 二人が拳を握り、殴りかかる。

 それはクロスカウンターの形だった。

 

 響の拳は鍵音に届き、鍵音の拳は響には届かなかった。

 

「ごふっ! ま、また俺の負け……かよ……」

「……はあ……はあ…………危なかったー!」

 

 もはや二人の戦いは人間を超えていた。




二人が達人に近づいちゃった……:(;゙゚'ω゚'):

誤字とかありましたら教えてくれると嬉しいです!
お気に入りやポイント、感想などもお待ちしてます!♪( ´▽`)


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十五話

 響との戦いから数日。

 鍵音は二課の職員と共にある所へ来ていた。

 どうやら犯罪者が寝ぐらとしている場所らしい。

 弦十郎が鍵音に伝える。

 どうやら、特別戦闘要員枠で行かせてもらえるようだ。

 

「俺たちの任務は雪音クリス君の保護だ、それと同時に調査でもある」

 

 弦十郎が車で移動途中にそんな事を言っていた。

 そこで鍵音は初めて、クリスのフルネームを知る。

 

(ハーフか)

 

 鍵音自身も、幼少期は米国で暮らしており、父親が外国人だと言われてきた。

 本当ならミドルネームもあると、しかしその事を鍵音は知らない。

 そして鍵音自身、クリスに親近感を抱いていた。

 クリスを見ているとまるで昔の鍵音を見ているかのような感覚になる。

 

(それに、名前に“音”が付いているしな)

 

 そんな事を思っていると、目的地に到着する。

 大きな屋敷で、豪邸だ。

 職員と共に中に入ると、血の匂いがした。

 どうやら先に何者かが殺されたようだと弦十郎が鍵音に伝える。

 

 屋敷の中でも一際広い場所に出る。

 そこに広がっていた惨状は軍人と思われる人間が血を流しながら地にひれ伏していて、その中心に立っていたのは雪音クリスだった。

 

 鍵音は一瞬クリスがやったのかと思ったが、クリス自身どうしてか分からない表情を受けべているのですぐに違うとわかった。

 

「違う! あたしじゃない! やったのは!」

 

 クリスが言うと、弦十郎がクリスに近づき頭を撫でる。

 

「誰もお前がやったなどと、疑ってはいない。全ては君や俺たちの側にいた彼女の仕業だ」

 

 弦十郎が言うとクリスは覚えがあるようでハッとした顔になった。

 

 鍵音は屋敷の調査をしており、死体の上に置かれた一つの書き置きを見つけた。

 それは【I Love You SAYONARA】と書かれた文字。

 鍵音はそれを捲り上げる。

 すると仕掛けが作動し、屋敷が爆発した。

 

「っち! 罠か」

 

 鍵音は既に纏っていたガングニールで、迫り来る爆風から職員を守る。

 弦十郎は発勁で衝撃をかき消し、クリスを守った。

 

「あー……すみません」

「全く……今度から一言入れてからにしろ」

「おい! どうなってんだよこれ!」

「衝撃は発勁でかき消した」

 

 発勁って何だろうと鍵音は思った。

 しかしそれはいくら考えても仕方ない事なのでこの際は無視する。

 

「なんでギアを纏えない奴があたしを守ってんだよ!」

「俺がお前を守るのは、ギアの有る無しじゃなくて、お前より少しばかり大人だからだ」

「大人ぁ? あたしは大人が大嫌いだ! 死んだパパとママも大嫌いだ! 夢想家で臆病者! あたしはアイツらと違う! 戦地で難民救済? 歌で世界を救う? いい大人が夢なんか見てるんじゃねぇよ!」

 

 それを聞いた鍵音は思わず、クリスの胸ぐらを掴む。

 

「な、なんだよ」

「確かに、大人はクソだ。クズばっかだ。でもな、理想を追い求めて必死に戦い続けた親を大嫌いだなんて言うんじゃねぇよ!」

 

 鍵音にもいた。

 そんな親が。

 我が子を命懸けで守りたいという夢を追い求めて、必死になって戦って、最後には命を落とした。

 だがそんな親を惨めだなんて思わない、大嫌いになんてなれやしない。

 ちゃんと夢を鍵音に見せてくれたからだ。

 そんな親を鍵音は心のそこから愛している。

 だからこそ、クリスにも親が大嫌いだなんて言って欲しくなかった。

 

「っ! 離せ!」

 

 クリスが鍵音の手を払いのける。

 

「大人が夢を……ね」

「……本当に戦争を無くしたいのなら、戦う意思と力を持つ奴を片っ端からぶっ潰していけばいい! それが一番合理的で、堅実的だ!」

「それがお前の流儀か、なら聞くが、本当にそれで戦いを無くせたのか」

 

 クリスが言葉に詰まる。

 

「いい大人は夢を見ないと言ったな……そうじゃない。大人だからこそ夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし力も強くなる。財布の中の小遣いだってちっとは増える。子供の頃はただ見るだけだった夢も大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。お前の親はただ夢を見に戦場に行ったのか? 違うな。歌で世界を平和にするっていう夢を叶えるため、自ら望んで、この世の地獄に踏み込んだんじゃないのか」

 

 鍵音は思った。

 響華もそうだったのだろうかと。

 響華も鍵音という重石を抱きながらも、守るという夢を叶えるために地獄に足を踏み入れたのだろうかと。

 親というのはそういうものだ。

 いつだって子供に平和を見させてあげたい。

 その夢を叶えたいだけなのだ。

 

「なんで、そんな事を」

 

 そして……

 

「お前に見せたかったんだろう、夢は叶えられるという揺るがない現実をな」

「!」

「お前は嫌いと吐き捨てたが、お前の両親はきっとお前の事を大切に思ってたんだろうな」

 

 弦十郎がクリスを抱擁する。

 その優しい抱擁に、クリスは大声で泣き始めた。

 

 職員の一人が鍵音の肩に手をやる。

 鍵音が振り向くと、そこには笑顔で親指を立てていた職員たちがいた。

 鍵音もそれに答え、中指を立てた。

 

(((なんでだよ)))

 

 職員全員思った事だった。

 

 ──ー

 

「やっぱりあたしは……」

「一緒には来られない……か?」

「大丈夫ですよ、弦十郎さん。俺が付いておきます」

「はぁ!? なんでお前が!」

「一人にさせるのは流石に危ねぇだろ」

「ははは、まあ、鍵音君の言う通り、一応な?」

「……わかった……」

 

 クリスが不貞腐れたような表情で答える。

 鍵音と弦十郎が一緒に肩をすくめ苦笑した。

 

「お前は、お前が思っているほど一人ぼっちじゃない。お前が一人道を行くとしても、その道は遠からず、俺達の道と交わる」

「今まで戦ってきたもの同士が、一緒になれると言うのか? 世慣れた大人が、そんな綺麗事を言えるのかよ」

「まあ、それは分かる気がする」

「だろ?」

 

 弦十郎がそんな事を言う鍵音とクリスに対して苦笑する。

 

「本当、ひねてんなお前ら」

 

 そう言うと弦十郎がクリスに鍵音にも渡した端末を渡した。

 限度額内なら公共交通機関が使え、自販機でジュースも買える代物だ。

 そして、弦十郎がエンジンを回した、その時にクリスが言う。

 

「カディンギル! フィーネが言ってたんだ、カディンギルって。それが何なのか分からないけど、そいつはもう完成してるみたいな事を……」

「カディンギル……ワイルドアームズで聞いたことあるけど、本来はメソポタミアのバビロン市の古代名じゃ……」

「カディンギル……後手に回るのは終いだ。こちらから打って出てやる」

 

 そう言うと弦十郎と職員達は車を走らせ、二人の前から去っていった。

 

「さて、どうする?」

「……取り敢えず、街に降りよう」

「案外素直なのな」

「うるせぇ! 置いてくぞ!」

 

 そんな事を言うクリスを鍵音は急いで追いかけていったのであった。



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十六話

 街に降りた二人は取り敢えず腹ごしらえとしてファミレスに入る。

 鍵音の目的は雪音クリスの監視。

 保護が難しいのなら鍵音自身の時間を犠牲にして、クリスの保護に努めようと思った。

 

(保護も何も戦えるのなら別にいいんだけどな)

 

 そして鍵音はちらりとクリスを見やる。

 すごい勢いで頼んだナポリタンを食すクリス。

 その行儀たるや、女性の仕草ではなかった。

 

 口いっぱいにケチャップをつけ、ボトボトと食べカスを落とす。

 

「ふぁにみふぇんだよ、ふぁらねぇぞ」

「何言ってるかサッパリ分からん」

 

 鍵音は溜息をついて、テーブルの横にあったナプキンでクリスの口をふく。

 

「ふぁ!! ふぁにしてんだよ!!」

 

 食べ物を口いっぱいに頬張らせた状態で喋るものだから、食べカスが鍵音の顔に満遍なくついた。

 顔をヒクつかせながら、鍵音は自分の顔に付いたものをナプキンで拭い取る。

 

「もうちょっと食べ方どうにかならんのか」

「ごくん、…………昔からの癖だよ」

 

 失言だと思った。

 クリスは大人に教育を受けていない。

 食べ方も、クリスぐらいの年代の女子の遊び方すら知らないのだ。

 

「すまん」

「ん」

 

 そう言ってクリスがテーブルの上にある呼び出しベルを押す。

 まだ食べ足りないようだ。

 

(残金あったかな)

「なあ……」

「何だ?」

「お前も……パパとママが居ないんだよな」

「ああ、生まれた頃から親父は他界していて、母さんは…………」

「言いにくいなら言わなくていい。あたしも、同じだ……」

「だけどよ」

「?」

「俺の母さんは立派だったぜ。本当に尊敬できる人だった」

「……そうかよ」

「だから、お前の母さんも親父さんも立派だったんじゃねぇかな。根拠は無いがな」

「なんだよそれ……」

 

 そんな時だった。

 鍵音とクリスの端末が同時に鳴る。

 

「おい……これ……」

 

 窓から外を覗き込むと、外で逃げ惑う人々を見つけた。

 どうやらノイズが発生したようだ。

 鍵音は金を置き、ファミレスから急いで外に出る。

 

「お、おい! なんだって……なっ」

「ちっ、デカイな」

 

 上を見ると鍵音が見たこともない飛行大型ノイズが空を飛んでいた。

 鍵音は取り敢えず、鳴り続ける端末に出る。

 

「はい鍵音です」

『そこにクリス君も居るか?』

「はい」

 

 弦十郎に端的に伝えられたのが、大型ノイズが四体出現し、現在スカイタワーへ向かっているという物だった。

 

「行くぞ! クリス!」

「っ! おう!」

 

 こうして二人はスカイタワーへと駆け出す。

 運のいいことにスカイタワーの近くのファミレスに居たので、シンフォギアを纏ったら数十分で着けた。

 

 しかし、戦いの中で数十分というのは長い時間だ。

 鍵音は先に戦闘を始めている、響、翼、奏に助っ人に入った。

 クリスがイチイバルのガトリングで小さなノイズを打ち消し、取り零したのを鍵音が突き刺す。

 

「ち、こいつがピーチクパーチク喧しいから、ちょっと出張ってみただけ。それに勘違いするなよ! お前たちの助っ人になったつもりはねぇ!」

「待たせたな! 助っ人2名参上したぜ!」

「なっ!」

 

 クリスが鍵音の言うことに赤面したのち、クリスの持っていた端末から弦十郎の声が聞こえた。

 

『助っ人だ、少々到着が遅くなったかもしれないがな」

 

 追い討ちをかけるようにクリスの顔は真っ赤になっていた。

 

「あは!」

「遅えぞ!」

「……助っ人?」

 

 翼が疑問に思ったのに弦十郎が答える。

 

『そうだ、第2号聖遺物、イチイバルのシンフォギアを纏う戦士。雪音クリスだ!』

 

 そう言った瞬間、響が満面の笑みでクリスに抱きつく。

 それをクリスはひっぺがした。

 

「とにかく今は、連携してノイズを!」

「勝手にやらせてもらう! 邪魔だけはすんなよな!」

「よし! 連携だな! クリスは弾幕を頼んだ!」

「人の話を聞け!」

 

 飛来するノイズをクリスがイチイバルで打ち消す。

 それを勝手に連携して鍵音がクリスがガトリングを斉射しやすいように道をガングニール で作った。

 

「ははっ、いつの間にか息ピッタリでやんの、嫉妬するな畜生!」

「奏!」

 

 奏がクリスと鍵音の方へ加勢に向かう。

 

「ちぃ! 邪魔だ!」

 

 クリスが勝手に連携していた鍵音を鬱陶しく思い、自ら奏と交代するように離れていく。

 

「はは、からかいがいのある奴だ」

「こーら、趣味が悪いぞ鍵音」

「いて」

 

 奏にコツンと軽く殴られる。

 そして、鍵音は正気に戻ったかのように顔をハッとさせた。

 

「……俺、今どんな顔してた?」

「意地の悪そうな顔してたぜ、私は嫌いだなその顔」

「ぬ」

 

 ここ最近自分が自分で無いような感覚に陥ることがたまにある。

 まるで別人格が鍵音の中で生まれているような感覚だった。

 まるで、イタズラを子供のように心から楽しんでいるかの様な感情。

 

「そーんな顔すんなよ! アタシがそんな簡単にお前の事嫌いになると思うか?」

 

 暗くなった表情を浮かべた鍵音を落ち込んだと解釈して、奏はわしゃわしゃと撫でまくる。

 

「だから、そんな簡単に撫でるな!」

「はは、アタシより身長が低くて、撫でやすいお前が悪い」

「んっだよ! それ!」

 

 鍵音は怒りながら、響たちの方を見やる。

 ほのぼのとしている空気が流れており、どうやらクリスは響と翼に馴染むことが出来たそうだ。

 響がこっちに近づくと、ニコニコしながら手を振ってきた。

 奏もそれに答え手を振る。

 

「さて……あれをどうにかしねぇとな」

「親玉をやらないとキリがない」

 

 奏と翼が顔を顰める。

 するとクリスが提案してきた。

 

「だったら、あたしに考えがある。あたしでなきゃ出来ないことだ。イチイバルの特性は長射程広域攻撃、派手にぶっ放してやる!」

「まさか……絶唱を!?」

「バカ、あたしの命は安物じゃねぇ!」

「ならばどうやって……!」

 

 翼が問うと、クリスは口角を上げ答え出した。

 

「ギアの出力を引き上げつつも、放出を抑える。行き場のなくなったエネルギーを臨界まで溜め込み、一気に解き放ってやる!」

「おいおい、それだと溜めてる間は丸裸だぞ?」

 

 奏が心配するように言ったら、響が自信満々に答えた。

 

「そうですね、だけど私達でクリスちゃんを守れば良いだけのこと! ね! 鍵音君!」

 

 話を振られた鍵音が、クリスに向かって親指を立てる。

 了承の合図だ。

 それを見たクリスが揺れ動く。

 

「じゃあ、行くぞぉ!」

「何故、黒森が仕切っている。私はお前を認めたつもりは無いぞ」

「仕方ないですよ、翼さん。鍵音君ですから」

「そうだぜ、出しゃばりたい年頃なんだよ」

「お前ら全員無事に帰ったらしばく」

 

 そう言うと一斉にノイズに向かってクリスを守るために戦い始めた。

 

(頼まれてもいない事を……あたしも引き下がれないじゃねぇか!)

 

 戦場にクリスの優しい歌が流れる。

 それを聴きながら鍵音は嫋やかに戦う。

 迫り来るノイズを触れずにガングニールの風圧で弾き飛ばし、あたりのノイズを一斉に炭化させた。

 

(母さん……母さんの意思は俺が継ぐ。困ってる人を全部助けて、その行動に命を燃やそうと思う。だってそれが……母さんの……)

 

 そんな時だった、鍵音の頭の中に響華の声が聞こえてくる。

 

(違うよ、鍵音)

(!)

(私はね、シンフォギアで困ってる人を全員、助けれたらなぁって漠然と思ってたんだよ。でもね、それは無理だった)

 

(だからね、私は、無責任だけど近くにある大事な物を守ることにしたの。それは鍵音……貴方だよ)

 

 そして、響華の声が鍵音の中で大きくなっていく。

 

(だからね……守りなさい。貴方の一番身近にある一番大事な物を。その為に命を燃やしなさい…………出来たら、命は燃やさない方がいいんだけどね)

 

 鍵音の奥底にある記憶の響華が舌を出して笑ったような気がした。

 

(……やっぱり、母さんと立花は違うよ)

 

 鍵音は攻撃の手を辞め、クリスの方に叫ぶ。

 

「「「「託した!」」」」

 

 どうやら、四人とも同じことを考えていたみたいで、同時に同じことを言った。

 そして、ノイズに向けて、クリスのギアの放出が始まる。

 ガトリング砲と小型ミサイル、大型ミサイル4基を展開させ、それらを一斉に大型ノイズへ撃ち放った。

 

【MEGA DETH QUARTET】

 

 小型ミサイルから更に小型ミサイルへと変形させ、あたりに散らばっていた小さなノイズを一気に殲滅させ、撃ち漏らしたノイズもガトリング砲で撃ち落とす。

 大型ミサイルはそれぞれ大型ノイズに直撃させ、爆発四散した。

 

「やった……のか?」

「ったりめぇだ!」

「ド派手にぶちかましたなぁ!」

 

 鍵音は右手のガングニールを解き、クリスに近づく。

 

「ナイスだ」

「へっ!」

 

 鍵音が拳を出したら、クリスが鼻を擦りながら鍵音と拳を合わせた。

 

「やったやった!」

 

 そんな事をしていたら、後ろから響が抱きつきにくる。

 鍵音がクルッと避けると、響はそのままクリスに抱きついた。

 

「やめろバカ! 何しやがるんだ!」

「勝てたのはクリスちゃんのおかげだよぉ〜!」

 

 響がクリスにまたもや抱きつく。

 

「だ、だから辞めろと言ってるだろうが! いいか? お前たちの仲間になった覚えはない! あたしはただ、フィーネと決着をつけて、ようやく見つけた夢を果たしたいだけだ!」

「夢? クリスちゃんの? どんな夢!? 聞かせてよー!」

 

 そうやってまたもや抱きつこうとした響の首根っこを鍵音が捕まえる。

 

「そんぐらいにしとけ、見てるこっちが可哀想になってきた」

「……はあ……悪ぃ」

「いんや、でもよ。その夢、手伝わせろよ」

「は?」

「なんの夢かは知らねぇけど、手伝うぐらいなら、別に良いだろ?」

「……まあ」

 

 クリスが少し顔を赤らめて、頷く。

 すると、響が鍵音の手をすり抜けて、クリスと鍵音、両方に抱きついた。

 

「私も手伝うよ!」

「辞めろバカ!!」

「う、うるさいバカァ!」

 

 そしてクリスと鍵音が声を揃えて言う。

 

「「お前、本当のバカ!」」

「にひひ」

 

 その光景を見た、奏と翼は笑っていた。

 和やかな雰囲気が漂う、そんな中、響の端末が鳴る。

 

「? はい」

『響!? 学校が! リディアンがノイズに襲れッ────ー』

「……え?」

 

 紛れもなく小日向未来の声。

 その声で切羽詰まった状況を確認出来た。

 

 

 ──ー最終決戦がすぐ目の前にまで迫っていた。




大方四千文字も行ってた……:(;゙゚'ω゚'):

最近デモンエクスマキナ買いました。
昔のアーマード・コアというゲームみたいで面白いです^o^
ACと比べてデモンエクスマキナの傭兵さんみんな優しいね…。

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十七話

 リディアンがノイズに襲われた。

 その小日向の悲鳴を聞き、装者達はリディアンへと向かう。

 

 五人が到着する頃にはあたりも暗くなっており、リディアンが無残に壊されている現状。

 そして、人一人居ない状況だった。

 

「バカな……」

「未来ー! みんなー!」

 

 響がいくら叫んでも返事はない。

 響はその場で変わり果てた景色を見てへたり込む。

 

「リディアンが……っ!」

 

 翼が驚愕の表情を浮かべる。

 そして壊れた校舎の上に立っている人物を偶然見つけた。

 

「……マジかよ」

 

 奏も同じように驚愕の表情へ変わる。

 それもそのはずだ、彼女はいつも装者の近くに居て、いつも彼女達を支えてきた。

 その愛は本物だったはず。なのにどうして。

 

「フィーネ! お前の仕業かぁ!」

「櫻井……了子っ!」

 

 不敵に笑う了子がその場にいた。

 

「そうなのか……? その笑いが答えなのか! 櫻井女史!」

「アイツこそが、私が決着をつけなきゃいけないクソッタレ! フィーネだ!」

 

 了子の体が光る。

 その後に立っていたのはネフシュタンの鎧を纏う了子だった。

 

「嘘……」

 

 響が悲しそうな顔を浮かべる。

 

「嘘ですよね……そんなの嘘ですよね! だって了子さん……私を守ってくれました!」

「あれはデュランダルを守っただけの事、希少な完全状態の聖遺物だからね」

「嘘ですよ……」

 

 鍵音が響の肩に手を置く。

 

「辞めろ、もう無駄だ。アイツは……敵だ!」

「そんな……」

「黒森鍵音……」

「なんだ」

「お前のそのシンフォギア、何処の誰に渡された?」

「……弦十郎さんだ」

「……あの時から察していたと言うのか……忌々しい」

 

 フィーネは鍵音のシンフォギアの正体をあの時いち早く見破っていた。

 それはフィーネにとっても覚えのある聖遺物の波動だったからだ。

 

 あの後、検査と言い弦十郎から預かったシンフォギアを解析する。

 そして、より確証へと変わった。間違いない。あの女が持っていたものだと。

 

 そのシンフォギアを自分の物とするために鍵音を騙して、シンフォギアを掠めとろうとしたのだが、すんでの所で弦十郎がフィーネの思惑に気づき、鍵音のシンフォギアを守ったのだ。

 

「まあ良い」

 

 そしてフィーネは話し始める。

 櫻井了子の現在はフィーネの人格に塗りつぶされており、12年前に死んだと言っても過言ではなかった。

 そして、歴史に記される偉人や英雄もフィーネとして覚醒しており、技術の大きな転換期、パラダイムシフトにいつも立ち会ってきた事も。

 

 そして、ポツリとフィーネは言った。

 

「黒森響華も今、思えばその一人だったのだろう」

「……俺の母さんが……なんだって?」

 

 鍵音はフィーネに向かって目を見開く。

 そして嘲笑するように鍵音に言った。

 

「あの女……数年前に私と対峙したことがある」

「!」

「黒森響華もまた、私の依り代たる者だった。しかし、あの女は覚醒すんでの所で私を拒んだ。理由を聞いたよ、何故かと。面白い答えだった……。息子がいるからって笑いながら言っていたなぁ」

「……っ! だからどうしたってんだよ!」

 

「私を拒んだのはあの女が初めてだった。だから最初はどうなるか分からなかったが、答えはすぐに分かった……。

 答えは死だ! 私を拒むと必ずその者には死が訪れる! 

 あはは! 面白い実験だったよ! 

 本来なら適合する筈のシンフォギアが適合しなくなり、無理やり適合させたとしても体が内側から破壊されていき、苦しみながら死ぬ! 

 私を拒むとはそう言うことだぁ!」

 

「テメェエエエエエ!」

 

 鍵音はガングニールを右手に纏い怒りで突貫する。

 全てはフィーネをガングニールで串刺しにするためだ。

 

「貴様の首にかけてあるシンフォギアの名は“レーヴァテイン”! 貴様には到底扱えぬ代物だ!」

「ゴフッ!」

 

 鍵音が突撃したところを横からネフシュタンの鎧の鞭で鍵音を叩く。

 鍵音はその攻撃をモロに受けてしまい、目にも止まらぬスピードで壁に激突した。

 

「がはぁ!」

 

 口から大量の血が流れ出る。

 そして、衝撃により脳が揺れ動き、意識が混濁する。

 最後に聞いた言葉は奏の叫び声だった。

 

 そして、そのまま、鍵音は意識を手放した。




後二話ぐらいで完結かな…


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十八話

 歌が聞こえる。

 命を燃やす歌が。

 

 鍵音が少し目を開けると、綺麗な月の前に桃色の蝶が羽ばたいていた。

 

(あれは……クリス……)

 

 うっすらと鍵音の中から響いてくる声が聞こえる。

 目を覚ませ、彼女が死ぬぞ。

 身近にいる大切なものを守るんだろう。

 

 寝ている暇は無いぞと、声が聞こえた。

 

「……!? 黒森鍵音……?」

 

 目を閉じたまま、鍵音は立った。

 そして、ガングニールを展開し槍を右手に構築する。

 それは、鍵音の無意識の中での行動だった。

 

「鍵音!」

「鍵音君!」

「黒森!」

 

 三人の声が聞こえる。

 しかし、誰の声なのか、鍵音には聞き分ける気力すらかった。

 なかった、筈だった。

 

 鍵音が人間を超越する速度で、塔を駆け上がる。

 落雷よりも速く、雷鳴よりも速く駆け上がる。

 そこで、鍵音の意識は完全に回復した。

 

【疾走・霹靂(かみとき)

 

「……バカな……奴はただの……人間だった筈!」

「か、雷……」

「雷……あんな技を未だに隠し持っていたのか……」

「……はは、心配かけさせやがって……」

 

 否、鍵音は最初からあんな技は持っては居なかった。

 あの時、フィーネに体を強く打たれた時に、脊髄のリミッターが外れ、脳震盪を起こした時に、脳が異常反応を示し、所謂、火事場の馬鹿力というものが発動したのだった。

 

 カディンギルを登りきった、鍵音はその勢いのまま、跳躍した。

 

「……!? あっ、か、鍵音?」

 

 クリスも鍵音の存在に気づいたようで、急いで武装を畳む。

 しかし、絶唱によるバックファイアで気絶し、クリスはそのまま落ちていく。

 それを鍵音が間一髪掴み取り、乱暴ではあるが響の方に向かってクリスを投げた。

 

「クリスちゃん!」

 

 響と翼と奏が三人がかりで受け止める。

 シンフォギアを纏っていたお陰で難なく受け止めることが出来たが、問題は鍵音である。

 カディンギルは既に充填が完了しており、月を穿つ程のエネルギーが放出された。

 

「がああああああ!」

 

 鍵音は雄叫びをあげ、ガングニールを構えた。

 そして一直線に放出されたエネルギーに向かって雷の如く、落ちる。

 ガングニールから発せられる雷、カディンギルから発せられるエネルギー。

 その二つは中和し、ガングニールがエネルギーを吸収して纏った。

 

 そのまま鍵音は、そのエネルギーを放出するかの様にカディンギルを上から槍で叩き割ったのだった。

 

「ああ……あああああ!」

 

 フィーネは絶叫する。

 そして、その光景を見た三人は驚きの表情を隠せはしなかった。

 

「守るんだ……俺は……身近なものを……まもっ」

 

 鍵音の腹部に何かが刺さる。

 鍵音が下を向くと、そこにはネフシュタンの鞭が深々と刺さっていた。

 

「……忌々しい……あああああ! 忌々しい! 真っ二つにしてくれるっ!」

 

 怒りに狂ったフィーネが、腹に刺さった鞭を振り上げる。

 鍵音は腹から肩にかけ切り裂かれ、大量の血飛沫をあげた。

 

「が……は……」

 

 鍵音はフラフラと蹌踉めきながら、その場に倒れこむ。

 誰がどう見ても即死だった。

 

 地下のシェルターで様子を見ていたリディアンの生徒や二課の職員たちも弦十郎も声をあげられなかった。

 その場にいた人間全員が世界を救った少年が無残に殺されているのを見ているしか出来なかった。

 

「……鍵音?」

 

 最初に声をあげたのは奏だった。

 変身を解き、足取りが覚束ない様子で鍵音に近づく。

 奏が見た鍵音の様子は、大量の血を口から吐き出しながら、光の無い瞳が虚空を見つめているだけだった。

 

「おい、鍵音……変な冗談はよせって……」

「か、鍵音……君……」

 

 悲痛な表情で鍵音を覗き込む響と奏。

 翼は離れた所で剣を落とし、愕然としていた。

 目を覚ましたクリスも重たい頭で鍵音の方を見る。

 

「……おい、嘘だろ」

 

 クリスも目を見開いた状態で、その場で硬直した。

 

「なあ、起きろよ。起きてまた、アタシのCD買いに行けよ……今度はな翼とのツーショットの特典なんだぞ……なあ………………辞めろよ……アタシから……これ以上奪わないでくれよ……」

「あ……ああ……鍵……音……君……」

 

 奏の目から溢れる涙。

 鍵音に覆い被さるように泣き始める。

 響は絶望した表情でその場にへたり込んだ。

 

「ああ! どこまでも忌々しい! 月の破壊はバラルの呪詛を解くと同時に、重力崩壊を引き起こす! 惑星規模の天変地異に人類は恐怖し! 狼狽え! そして聖遺物の力を振るう私の元に帰順する筈であった! 痛みだけが! 人の心を繋ぐ絆! たった一つの真実なのに! ……それを……それをお前が!」

 

 フィーネが叫び、もはや動かない鍵音を蹴り飛ばす。

 奏と響を巻き込み、鍵音の遺体が宙を舞い、地面に血溜まりを作りながらその場に転がる。

 それを見た翼が、ブチ切れた。

 

「貴様ァ! よくも……! よくも! 世界を救った英雄を愚弄したな!」

 

 怒りに任せた突撃、しかしその火力は強大だった。

 フィーネがネフシュタンで何とか天羽々斬の攻撃を受ける。

 しかし、その場でネフシュタンが壊れ、剣でフィーネの身体を鍵音と同じように切り裂いた。

 しかし、完全聖遺物と融合したフィーネは再生する。

 

「!」

 

 フィーネが翼を弾き飛ばす。

 当たりどころが悪かったようで、翼の変身が解け、地面に突っ伏するように気を失った。

 

「! ぐっ……クソッタレ……! 体が思うように……がはっ!」

 

 その光景を見たクリスもまたもや変身しようとしたが、体の限界がとうの昔に来ており、吐血し倒れた。

 

 フィーネが蹴り飛ばした鍵音に歩いていく。

 

「まあ……それでもお前たち融合者は役に立ったよ。生命体と聖遺物の初の融合症例……お前たちという先例が居たからこそ、私は己が身をネフシュタンの鎧と同化させる事が出来たのだからな」

 

 フィーネが鍵音の髪の毛を掴み、響の方に投げる。

 鍵音が響の上に覆い被さるような体制になった。

 

 響は泣きながら覆い被さってきた鍵音の亡骸を抱きしめる。

 

「……うっ……あああ……そんな目で私を見ないでよ……いつも通りに勝負だって言ってよ……」

 

 そんな悲痛な叫びももはや鍵音の耳には入っていなかった。

 響は鍵音の血に塗れながらひたすらに泣く。

 

 響は鍵音に感謝していた。

 世界最悪のノイズ襲来事件以来、居場所が無くなった響を追い詰める人々の悪意。クラスメイトの侮蔑の視線。

 そんな中で、凛として立っていた男がいた。

 響と同じような目に遭い、そして同じように迫害された。

 

 しかし、ある日を境にピタリと響を非難する声が聞こえなくなり、そしてクラスメイトからは距離を置かれてはいたが、鍵音と未来は響を一人にはさせなかった。

 

 響は知っていた。何故、響が悲劇に遭わなかったのか。

 

 鍵音が全て、響のヘイトすらも受け止めていたからだ。

 

 その時から響もまた鍵音が向かってくるのならちゃんと向き合おうと決めたのだった。

 

「……翼さんも……奏さんも……クリスちゃんも動けない……学校も壊れて……鍵音君も居なくなって……私……私なんのために……なんのために戦って…………みんな」

 

 フィーネが響の横に来て、月を見ながら話し始める。

 バラルの呪詛によって唯一創造主と語り合える統一言語が奪われたこと。

 フィーネがその創造主に恋慕を抱いていたこと。

 数千年に渡り、バラルの呪詛を解き放つ為、争ってきたこと。

 

 その全てが恋をする女がした惨状だった。

 

「胸の……想い……だからって……」

「是非を問うなと!? 恋心も知らぬお前がぁ!」

 

 フィーネが響の髪の毛を掴み鍵音ごと投げ飛ばす。

 瓦礫にぶつかった響は、表情を変えず離れた鍵音を見る。

 そして、這って鍵音の元へ向かい、手を握った。

 

(……冷たい……)

 

 響は鍵音から奪われていく体温を少しでも温めるかのように手を強く握る。

 そして、響も鍵音の手に覆い被さるように目を閉じた。

 

「そうか……そんなにその男と心中がしたいか。良いだろう、もはやお前には何の価値もない。この身も同じ融合体だからな。私に並ぶものは全て絶やしてくれる」

 

 フィーネがネフシュタンで響にトドメを刺そうとした、その時だった。

 

『仰ぎ見よ太陽よ、よろずの愛を学べ』

 

 歌が聞こえた。

 それはリディアン音楽院の校歌。

 響の帰ってくる場所の暖かい歌だった。

 

「耳障りな……どこから聞こえてくる……なんだコレは……」

 

 地下でノイズからの襲撃から生き延び、地下のシェルターに避難した生徒の応援歌だった。

 

(響……私たちは無事だよ。響が帰ってくるのを待っている。黒森君の想いも全て束ねて……みんな……負けないで!)

 

「……どこから聞こえてくる……この……不快な……歌! ……っ! 歌……だと?」

 

 四人の手がピクリと動く。

 

「あったけぇ……この歌……」

「……私にまだ……負けるなと言っている」

「……はは……こんな所でへこたれてちゃ……鍵音に笑われるな」

「聞こえる……みんなの歌が……良かった……私を支えてくれるみんなはいつだって側に……」

 

 響、クリス、翼、奏の目に生気が戻ってくる。

 そうだ、負けるなと言っている。

 頑張れと応援してくれている。

 

 そしてそれに答えるのは四人だけじゃ無かった。

 

 響が握っていた手が軽く動く。

 そして、温もりを感じると、力強く響の手を握り返した。

 

「!! …………みんなが歌っているんだ……っだから、まだ歌える……頑張れる……」

 

 そして、少年の声と少女の声がシンクロする。

 

「「戦える!」」

 

 変身の衝撃波でフィーネが弾き飛ばされる。

 

「な!?」

 

 そして、ありえない光景を見た。

 先程、確実に自分が殺した男がそこに立っている。

 

「……何故生きている……!? それに……まだ戦うだと!? 何を支えに立ち上がる! 何を握って力と変える! 鳴り渡る不快な歌の仕業か……? そうだ……! お前たちが纏っているものは何だ!? 心は確かにおり砕き、殺したはず! なのに……何を纏っている! ソレは私が作った物か!? お前達が纏うソレは何だ? なんなのだ……!」

 

 それに呼応するかのように光の柱が天高く空へ駆け上がった。

 五人はシンフォギアを身に纏い、空を飛ぶ。

 

 そして、響が絶叫した。

 

「シンフォギヴァアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」

 

「ラグナロクだ! 太陽に匹敵する業火によって、お前をヴァルハラに送ってやる!」

 

 最終決戦が今……始まった。




次回!最終決戦!( ◠‿◠ )


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十九話

 空を飛びフィーネを見据える五人。

 鍵音は漆黒のシンフォギアを身に纏い、漆黒のラインに沿って炎が小さく曲がれる。

 手には機械仕掛けの杖を持っており、それは真紅に燃えている。

 

「何故生きている」

「俺だって死んだと思ったさ。だがな、コイツらの声が聞こえたら何が何でも立ち上がらねぇと、男が廃るだろ」

 

 レーヴァテイン。

 かつて、ロキという邪神が作り出したという、武器。それは炎を纏い、その輝きは太陽にも匹敵するという。

 しかし、鍵音が扱うレーヴァテインは鍵音に多大な影響を及ぼしていた。

 

(右手が痛い……)

 

 ズキズキと永遠に反芻するような痛み。中にあるガングニールがレーヴァテインに対して拒否反応を示す。

 さらに、半端だといえシンフォギアをこの身に二つ宿したという事実。先ほどまでガングニールを右手に纏っていたので、鍵音自身、体力の限界だった。

 しかし、ここで折れるわけにはいかないという事実。

 

 鍵音はチラリと奏の方を見やる。

 すると視線に気づいたのか、奏が艶やかに微笑んだ。鍵音が死んではいなかった、その現実があまりにも幸福で、現実離れしている。

 しかし、その余韻に浸っている場合ではないと奏はフィーネを見る。

 

「高レベルのフォニックゲイン……コイツは二年前の意趣返し……!」

『んなこたどうでもいいんだよ!』

「念話までも……限定解除されたギアを纏ってすっかりその気か!」

 

 フィーネはソロモンの杖を使いノイズを出現させる。

 

『いい加減芸が乏しいんだよ!』

『世界に尽きぬノイズの災禍も全てお前の仕業なのか!』

『どうなんだよ! フィーネ!』

 

 限定解除をした装者が念話で話し始める。

 そして鍵音はというと。

 

(……さっきから何だ? レーヴァテインを纏ったときから、頭がガンガンする……)

 

 急な変身によるシンフォギアからのバックファイア。それは鍵音がレーヴァテインにまだ完全に適合しきっていない状態だった。それもそのはず、櫻井了子が検査をした時にはガングニールの適合反応しか出ておらず、その他のシンフォギアへと干渉するのは不可能だったはずなのだ。

 

(頭の痛みはだいぶ……治ってはきたな……だがさっきから胸の奥からドス黒い感情が渦巻いてきて仕方がねぇ!)

 

 鍵音の心の奥底でドス黒い何かが、渦巻いている。鍵音は気づいた。コレは殺意にも匹敵する喜びの感情。その感情はあまりにも歪で人間がその感情を受けられるのは快楽殺人者ぐらいのものだろう。

 

(それに……気を失った時に聞こえたあの声……)

 

 人間のイザコザを心底楽しんでいるかのような、下劣な声。

 鍵音があの声を聞いて最初に持った感想だった。まさか、自分の中にあんなのが入っているなど思いもしなかった。

 

(奴だけには……この体の主導権は握らせさせないようにしないと……)

 

 鍵音がそう決意したその時だった。フィーネがノイズを五人に向かって放つ。

 それを難なく交わしたが、次にフィーネがとった行動は空に向かってソロモンの杖を翳し、空中からノイズを大量に発射した。

 

「あちこちから……!」

「よっしゃぁ! どいつもこいつも片っ端からぶちのめしてやる! 行くぞ! 鍵音!」

「……はあ……体が怠くて仕方がないがやってやるよ!」

「ちょ! 鍵音! お前まだ病み上がりだろ!」

 

 クリスに呼ばれた鍵音がそれに答え、心配した奏が追いかける。

 それを見ていた翼と響が話し始めた。

 

「ははは……!」

「立花……?」

「こんな状況で言うのも何ですけど……本当に鍵音君が生きてて良かったなって……」

「……ふふ、そうだな」

「本当に凄いなって思って……だから、だからこそ! 鍵音君には負けられないんです!」

「ああ……行こう! 立花!」

 

 五人が大量のノイズに歌いながら向かう。

 響が先陣を切り、ノイズに向かって拳を放ち、二体同時に撃破する。その次にクリスが空中にいるノイズを一気に殲滅した。

 

『やっさいもっさい!』

『凄い! 乱れ打ち!』

『全部狙い打ってんだ!』

 

 鍵音が杖を振り上げる。この杖の使い方はもう頭の中に入っており、その膨大な説明量に頭がパンクしそうになったが、この際どうだっていい。

 

『だったら俺が! 乱れ打ちだああああ!』

 

 空中に小さな炎を無数に作り出す。その数およそ一万個。鍵音は杖を振り落とし、炎をノイズに向かって放った。

 炎は無差別に大量のノイズを破壊する。そして、鍵音は特別でかいノイズに定めをつける。鍵音は、杖を変形させ、真紅の炎を纏う剣へと変形させる。

 そして鍵音はその超巨大ノイズに向かって剣を回し切る。その姿はまるで踊っているように優雅な動きだった。

 

秘鍵(ひけん)日輪演舞(Dancing Sunflower)

 

 その技は剣道で言うところの胴。丸い軌道で剣を振ったため、炎がその場に留まり太陽の如く輝いた。

 

「これが……レーヴァテイン……」

 

 鍵音はその強さを実感する。しかし、あの時、響華が纏っていたような拳状態にすることが出来なかった。確か、あの時は響華は剣や杖らしきものを持っていなかったはず。

 

(あの状態にするにはどうしたら……! そうだ!)

 

 自力では無理でも、右手がある。

 鍵音は即座に右手に集中する。右手がかなり痛んできたが今はどうでも良い。兎にも角にも、鍵音は必死に痛みに耐え抜き。右手部分のみガングニールを纏うことに成功した。

 

「……!? ガングニールまでも装着した……だと」

 

 遠くから見ていたフィーネが驚きの表情をあげる。そんなバカなありえない、と狼狽える姿が見えた。

 シンフォギアの二重装着、なぜそんな化け物じみた事が出来るのかと、驚愕した。

 

 鍵音の後ろで翼と奏が連携技を繰り出す。あたりにいたノイズたちはあらかた片付いたようだ。しかし、地面から超大型ノイズがまたもや出現する。しかし、限定解除した装者たちの敵ではない。

 

 鍵音が炎を纏ったガングニールを引き絞る。それを見た響も同じように引き絞り、奏と翼は連携技の準備をして、クリスはミサイルを取り出し、全員がその強大なパワーを発射した。

 

 五人が力を合わせ、ノイズを破壊して街全体にその余波が流れる。それは圧倒的と言って良いほどの強さだった。

 

「はっ! 今更ノイズが何体出てこようと!」

「!」

 

 翼が何かに気づき、フィーネの方を見やる。するとフィーネがニヤリと笑いソロモンの杖を自分の腹に突き刺した。

 

「自殺?」

「いや……待て……」

 

 街に残っていたノイズや、自ら出したノイズに取り込まれるフィーネの姿。粘土のような塊がフィーネを包み込んでいた。

 

「ノイズに取り込まれている?」

「いや……そうじゃねぇ……あいつがノイズを取り込んでんだ!」

「なんっ……だと……」

 

 粘土のような物体が装者たちに襲いかかる。難なく避けたが、その瞬間フィーネの足元が光った。

 

「来たれッッッッッ! デュランダル!!」

 

 カディンギルにノイズが侵入し、奥底に眠っていたデュランダルを取り込んだのだ。そして、フィーネが変貌した姿が見える。それは紅き龍と呼称しても良いほどの化け物だった。

 龍は光線を発射し街を破壊する。余波が限定解除した装者の襲いかかった為、どれ程の強さか計り知れなかった。

 

「逆さ鱗に触れたのだ……相応の覚悟は出来ておろうな?」

 

 紅き龍からまたもや光線が発射される。その光線は装者たちに擦り、大ダメージを与えた。

 

「ぐう!」

「このぉ!」

 

 間一髪体制を立て直したクリスがミサイルをフィーネに発射するが、その前に龍の障壁が邪魔をして攻撃が通らなかった。

 龍は反撃するかのように光線を何重にもして、ホーミング機能が付いているミサイルさながら避けるクリスに直撃させる。

 

 奏と翼が連携技の【双星ノ鉄槌-DIASTER BLAST-】を放つが龍には傷を負わせただけで、すぐに修復してしまう。

 

 響と鍵音も連携して響が放った拳に、鍵音は杖でエンチャントさながら炎纏わせる。

 しかし、龍には風穴が空いただけで、フィーネには全く攻撃が通らなかった。

 

『いくら限定解除されたギアであっても、所詮は聖遺物のカケラから作られた玩具! 完全聖遺物に対抗できるなどと思うてくれるな』

『はっ、その玩具にまんまとコケにされてる気分はどうだ?』

『減らず口を……イレギュラーなど、もう見飽きたわ』

 

 鍵音がフィーネを挑発するが乗ってこなかった。

 

(……逆上して襲いかかってくると思ったが……そう簡単にはいかんな)

 

『おい! 聞いたか!』

「ああ、チャンネルをオフにしろ」

 

 クリスと翼が何かに気づいたようで作戦を練り始める。

 作戦の要は響にあると判断して、振り向いた。その瞬間奏も何かに気づいた様子だった。

 そして……鍵音も。

 

「だったら俺が邪魔してやるよ、そんぐらいは病み上がりだろうが死にかけだろうがしてやる」

「……はあ……鍵音。何でもかんでも一人でやろうとすんなよ」

「む」

「アタシも行くぜ」

 

 鍵音が小さく笑いうなづく。そして、奏と鍵音が龍に向かって対峙する。

 

『という訳だ! 待たせな! お前をこれからぶっ倒す!』

 

 鍵音がフィーネを見下し、指を指す。

 

『多少のイレギュラーが! 何を出来ると言うのだ!』

 

 龍が光線を複数回発射して、鍵音たちに襲いかかる。

 それを鍵音と奏で交わしながら、龍の邪魔をし始めた。

 

「鬼さんこっち! 手のなる方へ!」

 

 奏が龍を挑発するかのように手を鳴らす。案の定ターゲットが奏に向いたようで、先程クリスにした攻撃を同じようにした。しかしそんな事を鍵音が許すはずも無い。杖状態から変形した剣を縦に降る。

 

 真紅の炎が龍の身体に傷を深くつけた。

 

【秘鍵・日輪裂傷斬(Cut up Sunflower)

 

 そして鍵音は歌を歌う。

 それは愛する物を守るための熱き歌だった。

 

 ──この火剣の先何を見るか、愛の為なら先にまで、喜んで命を燃やそう

 

 ──夢の為なら、俺は手段を選ばない

 

 ──さあ……Protecting flame! 太陽のように燃えさかれ! 

 

 鍵音が炎をガングニールに纏わせ、拳を握る。

 

「これが! 母の愛だあああああああああ!!!!!」

 

【秘拳・Protecting flame・限界突破】

 

 鍵音は持てる限りの力を龍に打つける。

 最大火力をぶつけられた龍は体制を崩し、二人が入り込む隙を完全に作った。

 

「後は……頼んだ……ぜ……」

「鍵音ぇ!」

 

 力を使った、鍵音は意識が朦朧とし、その場に落ちる。

 間一髪、奏が鍵音を抱きかかえ。地面に激突するのを阻止した。

 

「黒森が切り開いてくれた活路ッ! 無駄にするな!」

「おう!」

 

 翼とクリスが、龍に向かって、突撃する。

 

 翼が巨大な剣を振り下ろし、【蒼ノ一閃 滅破】で龍に大きい風穴をあける。

 すかさず修復するがそれをクリスが潜り込み、フィーネと対峙した。クリスが中でミサイルを放つ。たまらずフィーネは龍の障壁を一旦解除するが、それを待っていたと言わんばかりに翼が追撃する。

 かなりの爆発。その衝撃でフィーネの手からデュランダルが零れ落ちた。

 

「そいつが切り札だ!」

 

 翼が叫ぶ。

 

「勝機を零すな! 掴み取れッ!」

 

 響が届くように鍵音が下から炎でデュランダルを弾く。

 

「美味しいところは全部お前にやるよ……だから……やっちまえ!! 響ィ!!!!」

 

 響がその言葉に答えるかのように、デュランダルをしっかりと持つ。

 内なる殺意の衝動に塗りつぶされそうになり、響の体が暴走状態へと変貌するがその衝動に塗りつぶされまいと必死に堪える姿が見える。

 

 すると、鍵音と奏の横にあったシェルターが破壊され、人が中から出てくる。

 それはシェルターに避難していた人々だった。

 

「正念場だ! 踏ん張りどころだろうが!」

「強く自分を意識してください!」

「昨日までの自分を!」

「これからなりたい自分を!」

 

 響に激励の言葉を送る、大人たち。

 その姿を見て鍵音はふっと笑い、そして後ろに控えていた人物に話しかける。

 

「……小日向、お前が鍵だぜ。あのバカを受け止められんのは……止められんのはお前しかいねぇよ」

「うん、分かってる」

「……これは……これは……お熱いことで」

 

 鍵音は響を見やる。

 そして、一つ鍵音も声を掛けてやろうと、大声を出す準備をする。

 

「お前は強い!!! 誰よりも強い!!! だから……例え衝動であっても……俺以外に負けてんじゃねぇぞ────ー!!!」

「ああ! そうだぜ! 頑張れ! アタシが認めた響ならやれる!」

 

 鍵音と奏が檄を飛ばす。

 いつのまにか暴走し掛けている響を抑えるかのように付いていた二人もニコリと笑い、響に何かを言っていた。

 

「貴女のお節介を!」

「アンタの人助けを!」

「今日は私たちが!」

 

 響の友達と思われる生徒も檄を飛ばす。

 そして、響の暴走が本格化し始めた頃に──

 

 ────本当の切り札が叫んだ。

 

「響ィィィィィィ!!!」

 

 その声を聞いた響ががピタリと動きを止める。

 そして、響を取り込んでいた黒い衝動が、霧散していき、神々しい光を放つ。

 

「……はは……やっぱ……お前には敵わねぇな……今日もお前の勝ちだ」

 

 そして、響たちはデュランダルを振り上げる。

 

「その力! 何を束ねた!」

「……響き合うみんなの歌声がくれた! シンフォギアでえええええええ!」

 

 そして、豪快に振り落とす。

 まるで綺麗だと思った。天使の羽が舞っているかのような錯覚が見える。

 

「……これが……完全聖遺物……」

 

【Synchrogazer】

 

 デュランダルから発せられた光線で、龍が沸騰し。中から崩壊を巻き起こす。

 フィーネはその中で呆然と事を見ていた。

 

 そして思い出したかのように、念話で叫ぶ。

 

『どうした! ネフシュタン! 再生だ! この身……砕けてなるものかああ!』

 

 その場で龍は大規模な爆発を巻き起こす。

 その爆発は周りにいる人間全員を巻き込む程の熱量であったが、すぐに収束した。

 

「……ふう、どうやらレーヴァテインには炎を吸い取る力があるようだな……」

 

 鍵音がレーヴァテインで爆発の炎を吸収したからだ。

 そして、この場で装者の勝利が確定した。




最後の爆発、どうやって周りにいたみんな助かったんだろうと思ったら弦十郎さんの発勁がありましたね_(:3 」∠)_
次回!エピローグ!( ◠‿◠ )

誤字とかありましたら報告してくれると嬉しいです!


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エピローグ

 大規模な戦いは終わった。しかし、その爪痕は街に甚大な被害を及ぼしており、完全に守れなかった人もいただろう。しかし、これ以上に犠牲を出さずにこうやってた戦えたのは奇跡的だった。

 

 互いに無事を確認しあっていると、向こうから響が元凶のフィーネを担いでやってくる。

 

「このスクリューボールが」

 

 クリスが呆れたように、しかし笑いながら響を変わり者だと言う。

 鍵音もははと笑いながらその場に腰をかけた。

 

「みんなに言われます、親友からも変わった子だーって……もう終わりにしましょ、了子さん」

「……私はフィーネだ」

「でも、了子さんは了子さんですから」

 

 鍵音はその光景を見ながら思うことがあった。しかし、夕日に照らされている二人を見たらそんな事はどうでもよくなった。ただ、この微睡みに任せて眠りたいくらいだ。

 このまま、ギアを解除すればコロッと眠ってしまいそうで、鍵音はしっかりと意識を保つように、頰を叩く。

 

 そんな時だった。

 

 フィーネが月にネフシュタンの鞭を放つ。

 

「私の勝ちだァ!」

 

 鞭は月に突き刺さり、そのままフィーネが背負い投げの要領で引っ張る。ネフシュタンの鎧はその衝撃でボロボロに砕る。

 そして、月の一部分が割れ、地球に落下するようになった。

 

「月のカケラを落とす!」

「!?」

「私の悲願を邪魔する禍根は! ここで叩いて纏めて砕く! ……この身はここで果てようと! 魂までは耐えやしないのだからな! 聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、私は何度だって世界に蘇る! どこかの場所! いつかの時代! 今度こそ世界を束ねるために! 私は永遠の刹那に存在し続ける巫女! フィーネなのだァ!」

 

 響がフィーネの言葉を聞いて、拳を胸に軽く叩く。

 その瞬間、一陣の風が吹いた。

 

「うん、そうですよね。どこかの場所、いつかの時代。蘇るたびに何度でも、私の代わりにみんなに伝えてください。世界を一つにするのに、力なんて必要ないって事を、言葉を超えて、私たちは一つになれるって事を! 私たちは未来にきっと手を繋げるって言う事! 私には伝えられないから、了子さんにしか出来ないから」

 

 母の事を思い出す。響華は歌っていた。子供を守るために、歌っていた。そこにはただの一つも力に訴えかける事なんて無かった。言語が通じない子供達にもちゃんと歌で分かりあっていた。響華は命尽きようとも伝えていた。みんなが手を繋げるという事実を。

 

「お前……まさか……あの女の」

「了子さんに未来を託すためにも、私が今を守ってみせますね」

「本当にもう……放って置けない子なんだから……」

 

 フィーネの雰囲気が変わった。あの雰囲気は全員がよく知っている、櫻井了子だった。

 了子は響の胸に指をトンと叩いて言う。

 

「胸の歌を、信じなさい」

 

 そして了子は白い灰になってこの場から消えた。

 初めての人の死を目の当たりにする鍵音。心中では少し切ない感情が渦巻いていたが。

 

(存外……何も思わないものなんだな)

 

 そう思い、鍵音は月を睨んだ。

 

 ──ー

 

 軌道によると、地球へ月のカケラが落ちるのは避けられないと言う事だった。

 あんなものが落ちたら、地球が粉々に破壊されるのは必須だった。

 しかし、それでも諦めない者が一人。

 

 響が一歩前に出る……が、鍵音がその肩を掴んだ。

 

「……鍵音君?」

「まさか……お前が行くのか?」

「うん、アレを壊して未来を繋がなきゃ」

「だったら俺が行く」

「!?」

 

 響の肩をぐいと後ろに押す。よろけた響の先に居たのは未来であり、しっかり響を抱きかかえた。

 

「鍵音……!」

「……お前らが居なくては、誰がノイズから人々を守るんだ?」

「……」

「未だにノイズの災禍は消えたわけじゃねぇ、いつ、何処で、ノイズが現れるのか油断も許されない状況で、何で戦力の要を失おうとしてんだよ」

「だったらお前も!」

 

 奏とクリスが鍵音に叫ぶが、鍵音は一切聞く耳を持たない。

 その顔は覚悟を決めた男の顔だった。

 

「鍵音君!」

「それに……まあなんだ。約束まだ果たせてねぇんだろ」

「!」

「何の約束か知らないけど、まあ俺は大丈夫だ、根拠は……お前を倒しに必ず戻ってく

 る。これでどうだ?」

 

 鍵音は響に宣戦布告をする。必ず次はお前に勝つと、だからこんな所で折れるわけにはいかないと。

 響はそのまっすぐな視線に、戸惑った後、少し笑った。

 そして、これまで口を閉ざしていた翼が口を開いた。

 

「やれるんだな?」

「当然」

「戻れるんだな?」

「無論」

「分かった……世界の命運。黒森……お前に託したぞ」

「……りょ──ーかいッッッ!!」

 

 宙に浮いて、そして後ろにいたみんなに、指をさして叫ぶ。

 

「生きるのを諦めるな!」

 

 そして、疾走するが如く、月にへと向かった。

 下に残された人たちはその光景を見送りことしか出来ない。しかし、鍵音が帰ってくると言ったのだ。それを信じなくてはいけないだろう。

 

「あの人は……」

 

 リディアンの生徒が口を開く。

 するとそれに奏が笑うように答えた。

 

「世界一惨めで、宇宙一かっこいい男さ!」

 

 ──ー

 

「さて……アイツらにはああ言ったものの、俺もかなり限界なんだよな」

 

 母さん……俺も、もしかしたらそっちに行くかもしれない。どうか、早すぎるとか言って怒らないでくれ。これでも俺……頑張ったんだぜ? 

 フィーネに切り裂かれた胸が痛む。

 多分、レーヴァテインで辛うじて生きながらえている状態なんだなって俺は思った。

 

「壊せるか……いや、ここで壊せなきゃ! アイツは倒せねぇだろ!」

 

 俺はレーヴァテインとガングニールに最後の力を送り込む。

 赤色に灯った炎が緑、漆黒と色を変えていく、禍々しい色だと思った。しかし、俺によく似合う色だとも思った。

 

 ガングニールを精一杯引き絞り、とんでもない長さまで引き絞る。

 杖は超巨大な火球を複数作り出し、その後に剣に変形させ逆さに持ち、巨大化させる。

 漆黒の炎が燃え盛る。

 

 ……まあ、俺はアイツらに会えて本当に良かった。

 俺のやりたい事も見つけた、母の事も少し知れた。

 後は──ー

 

「俺が! 恩返しをする番だああああああああああああ!!!!」

 

 俺は一斉に月に最大火力をぶつける。

 光に飲む込まれ、成功か失敗か、どうかすらも分からない。

 しかし、これでいい……。

 

 失敗したとしても、アイツらが後片付けを、成功だったら……嬉しい。

 

 俺は光に飲む込まれ、目を瞑る。

 暖かい、炎の温もり。

 

 

 ──まあ、これも、いいん、じゃあ…………ねぇの……………………………………。

 

 俺は、塵となり、地球に降り注いだ。

 

 

 ──ー

 

 

 あれから三ヶ月。

 翼と奏は世界に羽ばたこうとしていた。

 世界の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴと、日本の歌姫、ツヴァイウィングとの合同ライブが始まろうとしていた。

 その控えには、奏と翼が肩を並べて座っている。

 

「あれから……私たち、アイツに声が聞こえるように歌ってきたんだけどな」

「……」

「……翼? 緊張してるのか?」

「……はあ、もう私がそんな緊張で体が動かなくなるとでも思ってるの?」

「いんや」

 

 奏が笑いながら答える。

 あの後、鍵音の消息は不明。二課も、あの後必至に探したが見つけることは叶わず、捜索は打ち切られた。

 しかし、奏は今でも鍵音がどこかで自分の歌を聴いてるんじゃないかと、そんな淡い希望を抱きながらこれまで生きてきたのだ。

 

 そして、自分たちの出番がくる。

 今日のメインイベントである、三人での同時ライブ。

 

 それは観客を熱狂させるには充分だった。

 

 それはテレビ越しに見ていた、響やクリスにもしっかりと伝わる。

 しかし、そんな中マリアが動いた。

 

「そして、もう一つ」

 

 マリアの合図でノイズが突如として現れる。

 会場に混乱の波紋が広がる。

 

「狼狽えるなっ!」

 

 ノイズはその場で動かず、人間を襲おうともしない。

 どう考えても誰かに操られているようだった。

 

 奏と翼は思うように変身が出来ない。

 それはライブの様子が全世界に中継されているからだった。

 

「私たちは、ノイズを操る力を持ってして、この星のすべての国家に要求する!」

「世界を敵に回しての口上? これはまるで」

「戦線布告じゃねぇか……!」

「そして……」

 

 マリアが持っていたマイクを上に投げる。

 そして、聖唱を歌い、その身に漆黒のギアを纏った。

 

「!? 黒!」

「まさか!?」

 

 表示された波形パターンはガングニール。

 そこに黒いガングニールを纏う少女が現れた。

 そして、その色味は装者なら見た事があった。

 

「それは! 鍵音の!」

「私は……私たちはフィーネ! そう、終わりの名を持つ者だ!」

 

 そんな時だった。

 一陣の炎が燃え盛る。

 

「……この炎は!」

「ッ!」

 

 マリアが少し動揺する中、その炎に見覚えがあった奏は瞳に涙を浮かび上がらせる。

 テレビ越しに見ていた響もクリスも、その光景を見て、グッと手を握る。

 

「あーったく、イラつくぜ」

「……! お前は!」

「……ふっ、遅いぞ」

 

 世界に男は姿を晒す。

 三ヶ月前、世界を救った英雄として、政府から公表され、捜索願が発令されていた男。

 その男が今宵、漆黒のギアを纏い、姿を現した。

 

「……テメェ、色が俺と被ってんだよ!」

 

 ルナアタック事変の英雄、黒森鍵音が帰ってきた。




これで一期分終了です。
これから続けるか続けないかは自分の気分次第で決めます。
取り敢えず書きたかった所まで書けたので満足です!

ありがとうございました!


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G
プロローグG


続きました_(:3 」∠)_


 体が怠い……。そう感じたのは俺が軽く覚醒しかけた時の事だった。

 体は怠いがなにか柔らかいものに包まれている、感覚が心地いい。もうここから動かなくてもいいかなと思わせるほどだ。

 しかし、意識が覚醒した今、目を開けて自分の状況を確認せねばならない。

 

 軽く目を開ける。

 どうやら古民家のようで、木製で作られた天井が見えた。しかしえらい洋風な作りをしているな、あの天井。

 

 額にひんやりしたものが乗る。

 どうやら濡れタオルのようだ……いまはこの感覚がすごく心地いい…………って、濡れタオル!? 天井!? 

 

「つはっ!!!」

 

 俺はなにか柔らかい物を捲り上げ、体をいきなり起こす。

 すると、ズキンと胸が痛み、柄にでもなく苦悶の表情を浮かべてしまった。

 

「え!? お、起きた!?」

 

 横を見ると、オレンジがかった髪色の少女が座っていた。目は水色でその姿は一目見て天使だと思うほど美しかった。って、なに言ってんだか俺は。頭を打ったせいでおかしくなったのか? 

 

「あ……あの……」

「ん? ああ……君が助けてくれたのか?」

「ええ……急に空から貴方が……落ちてきて……」

 

 どうやら、月のかけらを破壊した時に、あの爆発に巻き込まれてそのまま地上へダイブか……。よく生きてたな俺は。これもシンフォギアのおかげなのだろうか。

 

 俺は胸に手を当てる。そこには包帯が巻かれており、かなり手厚い介護をしてくれたようだ。今では少し胸のあたりが痛むだけで、死んでしまうような感じではない。

 

 切り裂かれて、そんでもってシンフォギアで生き返って……今はほぼ傷は完治……人間かどうか怪しくなってきたな。

 

「胸から酷い出血してました。なんとか今は治りましたけど、グリズリーにでも襲われたのでしょうか?」

「……まあグリズリーと言えば……グリズリーだなぁ……」

 

 フィーネの事を思い出す。俺の腹から肩にまで切り裂いた張本人。今はもう消滅してどこかへ行ってしまったが、あの時の事は絶対忘れねぇ。もし、いつか復活してきたらはっ倒してやる。

 

「それは大変でしたね……しばらくは安静にしておいてください」

「え、あ……ああ……ありがとう」

「ご飯、もってきますね」

 

 彼女はエプロンをつけると台所と思わしき所に行った。

 それにしても、なんで俺はこんな所で寝ているんだろうか。とにかく飯を食ったら早く出て行って、無事だって事、みんなに知らせないとな……。

 

 ベットの横にあった、机の上に俺のペンダントとレーヴァテインが置いてあった。

 どうやらあの子がちゃんと保管してくれていたようだ。

 

「お待たせしました、貴方はここ何日か眠りっぱなしだったので、何を作ればいいのか分かりませんでしたが、これは食べれますか?」

 

 そう言い、彼女が戻ってきた。俺の目の前に出されたのはチキンヌードルスープ。鶏肉を細かくして、野菜と麺で煮ていた。

 

「それと、流石に炭酸はやめておいた方がいいと思って……水ですが」

 

 そして、水も出される。

 俺はこのラインナップに見覚えがあった。ここが日本なら、確か、お粥などが出てくるのが定番だろう。

 しかし……出されたものは、昔、風邪を引いた時によく母さんが持ってきてくれたものだった。

 でもあの人は、風邪でも御構い無しに炭酸飲料を渡してくる人だ。

 

「……一つ……君の名前を聞いていいかな?」

 

 俺は頰に冷や汗をかきながら、少女に名前を問う。

 すると──

 

「ああ、私の名前は【セレナ・カデンツァヴナ・イヴ】です。あ、プリンもありますよ」

 

 俺の前にお手製のプリンが差し出される。

 

「……俺の名前は黒森鍵音だ……」

「やっぱり、日本人なんですね」

 

 セレナと名乗った彼女は手を合わしながら和かにかつ流暢に日本語を話す。

 成る程……普通に日本語が通じているから勘違いしていた。それに……日本に戻る事なんて……難しいんじゃないか? 

 

「二つ……ここはなんていう国で、なんていう場所だ?」

「アメリカのネブラスカ州です」

 

 俺は頭を抱えた。

 俺は……とんでもない所に落ちてきてしまったようだ……。




原作が木っ端微塵になるプロローグです


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一話G

 あれから数日。

 俺はこの家でセレナに世話になりながら暮らしていた。状況を纏めると、月のカケラの爆発に巻き込まれた俺はそのままアメリカに落ちてしまった。おそらく携帯もその時に無くし、端末もない状態だった。

 

 ああ……これが詰みって言うんだろうなぁ。

 

「はあ……」

「なぜ溜息を?」

「……いや、呪われてるとしか思えなくてな……」

 

 あの後、体の傷は完治して満足の歩けるようにもなった。

 そして、この街を散歩して思ったが、のどかな雰囲気が心地いい田舎街だった。

 空気をうまいし、食べ物もうまい。

 ……しかし、本当にセレナには世話になりっぱなしだな。

 

「このまま、食っちゃ寝してたらダメだな」

「え?」

「なんか手伝える事とかないか? 薪割りでもなんでもやるぞ」

 

 セレナは病人にそんな事させられません、と言っていたが、傷はもう完治してあると言ったらお客様といい直した。存外、頑固な性格らしい。

 

 しかし、頑固な性格なのは俺も一緒だ。どうにか頼み込んで今夜風呂に使う用の薪を割ってくれと、渋々ながら了承してくれた。

 

「もう……本当にしなくていいのに……」

「諦めろ、俺はこういう性格なんだ」

 

 俺は斧を持って、薪を縦に割る。しかし、結構これが難しい。ドラマとかアニメとかでは一刀両断みたいな描写があるが、あれは嘘だな。一刀両断できない。必ずどこかでつっかえてしまう。

 

 あれから少し時間が経ち、セレナは買い物に出かけた。

 

 未だに薪が綺麗に割れる気配は一向に無い。

 俺のやり方が悪いのか? と思い、薪を割る角度を変えて再度挑戦してみるが、やはりうまく割れなかった。

 

「まあ……不格好だが、一応割れてるしな」

 

 俺が独り言を呟くと、後ろから肩を叩かれた。

 振り向くとそこには銀髪のメガネをかけた男が立っていた。彼はこの街の医者兼研究員らしく、名前をウェルという。

 俺の傷を治してくれた張本人であり、俺はドクターと呼んでいる。

 

「どうですか? ここ最近の調子は」

「まあ……順調と言えばいいのかな? 元気ですよ」

「そうですか、それは良かった。やっぱり僕の作った薬のおかげですね」

 

 ドクターは髪をかきあげ、フッと笑う。

 この人は……なんか最初に会った時から変だなとは思ったが、まあ優しい人ではある。

 

「この薬で、僕は英雄に……」

 

 なんか危なさそうな事言い始めた。さっさと離れよう。

 俺が薪を抱え、セレナの家に戻ろうとしたその時だった。

 

「前々から思っていたのですが……貴方のその首に下げているペンダント……もしや聖遺物ですか?」

 

 俺には少し無視の出来ない単語が出てきた。

 振り返ると、ドクターはにこやかに両手を振って害はないことを俺に伝えた。

 

「いえ、昔、聖遺物の事を調べていたものですから……それに、この街の住人は全員そうですよ」

「……この街の人たち全員研究者なのか?」

「……昔はそうでした。FISという機関が国により発足され、聖遺物の研究やシンフォギアを作成したりしていましたからね」

 

 それからドクターはポツリポツリと話す。

 昔、FISという機関で聖遺物の研究を国の主導の元行なっており、そこでシンフォギアの開発と装者の育成を行なっていた。

 

 もっとも装者の方は何か別の目的があったみたいだが、詳しいことはドクターにも分からないらしい。

 

 装者に必要な適合者を見つける為に、身寄りのない子供たちや研究者の子供などを集め、その子供達はレセプターチルドレンと呼ばれていたらしい。基本的にはアジア系の子供達が多かったと言った。

 

「その中でしたね……あの人が現れたのは」

 

 研究者の協力者、いわば民間協力者から適合者が出た。

 それは子供達ではなく、一人の女性。

 年齢は20後半であり、真紅に燃ゆるシンフォギアを纏っていた。

 

 そこから次々と適合者が現れた。FISの保有するシンフォギアは5つ。それのどれもが国の制御から離れ、FISが秘密裏に作ったものだった。

 

 そしてセレナもその一人で、アガートラームというギアの装者だったらしい。

 今では研究中の事故で、破損し行方不明になったらしいが……。

 

 ……俺は少し、この時分かっていた。

 これで気がつかないバカはいないだろう。

 

「……ええ、貴方の名前を聞いた時、もしや……とは思いましたが」

「……帰って来る場所に帰ってきた……という訳か……」

「偶然……で片付けるには些か無理がある話ですよね」

 

 俺は昔、FISにレセプターチルドレンとして隔離されていたのだ。

 今となっては記憶は本当に曖昧ではあるが、母さんの存在がいたという事はそういう事なのだろう。

 

「完全聖遺物の暴走。それが僕たちに襲った悲劇でした」

 

 その完全聖遺物を鎮めるために、母さんは命を燃やす歌を歌った。

 その場にいた人間を全員守るため、子供達の未来を守るために。

 

「そして、僕たちは二つに分かれた。もうこんな研究は辞めようとFISを抜ける者と研究を推し進める者と」

 

 そして、研究所を抜けた者同士、身寄りのないものが集まって出来たのがこの街だった。

 その中で、ドクターは町医者として働きながら、唯一聖遺物の研究は辞めなかったらしい。

 

「言ってやるんです、残党に。お前らの研究はこんなに危ない事なんだぞと、堂々と」

 

 ドクターは顔を顰め、怒りで拳を握る。

 

「僕は英雄になりたかった。しかし、あの日燃え盛る炎の中で本物の英雄の姿を見ました。彼女が、僕にその道を示さなかったら……狂気に落ち、英雄にとは程遠い存在になっていたと思えるほどに」

 

 この街の大体の人間は母さんの最後を見ていたのだろうか。

 ……もっと、母さんの事が知りたい。あの日、何が起きたのか。何故、残党は研究を続けているのか。

 その事を、俺は詳しく知る義務があるように思えた。



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二話G

 あの後、母の事を軽くではあるが知る事ができた。

 俺が黒森響華の息子だと言うと、全員が驚いた顔を見せ、すぐに表情を曇らせる。

 この人たちは後悔しているのだ。自分たちの実験で未来への希望を失ったと。

 

 そして、あの時泣き叫んでいた少年にも本当に悪いことをしてしまったと、頭を下げて謝られた。

 

 俺はそんな謝罪の言葉が欲しいわけでは無い。俺が知りたいのは、母さんがどんな事をして、どんな風に生きていたか。それを知りたいのだが、みんなは口を揃えて知らないと答えた。

 

 ドクターの反応も概ね、そんな感じだった。

 

「しかし、仲良くしていた人なら知っていますよ」

 

 ドクターはナスターシャ教授という人物を教えてくれた。

 しかし、その人は研究を推し進める派の人間だったらしく、この街には居ないらしい。

 

 困ったな……この街の人は俺に罪悪感があるのかはしれんが、こうも……やりにくい……。

 先決すべきはナスターシャ教授という人物を探さないといけないみたいだ。

 

 俺はセレナが作ってくれたスープを難しい表情で食べる。

 すると、セレナが勘違いしたのか、「おいしくなかったですか?」と寂しそうに聞いてきた。

 

 俺は焦って否定する。

 

「いや、すごく旨い。すまんな難しい顔をして」

「いえ、それなら良かったです」

 

 そのまま俺は作られたご飯を食べ進める。

 少し豪華なステーキにスープ。そして、テーブルの真ん中にはバケットとサラダが置かれていた。

 うん、すごく旨い。スープに至っては頰が落ちそうだ。

 

「……あの、鍵音さん」

「なんだ?」

「貴方が良いのなら、ずっとここに住んでても良いんですよ?」

「……」

 

 この街はレセプターチルドレンの保護も行なっている。

 あの事件以来バラバラになった子供達を安全な場所へ避難させておきたいと言う大人達の優しさだ。そしてその子供の中に俺も含まれているのだろう。

 しかし、この街の人たちは優しすぎる。それが仇になってしまうくらいには。

 

「姉さんが強硬派について行ってしまい、あの日以来私は一人ぼっちなんです……そして、姉さんと喧嘩別れしたのも原因かもしれません」

 

 だから……誰かに一緒にいて貰うと、嬉しいんです。

 

 セレナは俯いたまま、悲しそうに呟いた。

 ああ……多分この子も後悔してるんだろうな。姉と喧嘩してしまったことや、自分の無力さに。

 だけど……俺には。

 

「すまん、それは出来ない……待ってる人が居るんだ」

「……そう……ですか」

 

 セレナは立ち上がり、自室へ向かう。

 そして最後にポツリと。

 

「もう一度……貴方と一緒に居たかった……」

 

 呟いて、部屋から出た。

 俺はその姿を見ながら、セレナが言った言葉を反芻する。

 

「もう……一度?」

 

 数分考えた後、ハッとした。

 それは母親が亡くなったショックで、その前の記憶が混濁しているのもあった。

 しかし、今思い出した。セレナと俺は友達だったんだと。

 

 そういえば、俺の後ろをコソコソ着いてきてた姉妹が居たな……。

 日本人が珍しいのか、輝くような目で俺の事を見つめる小さな姉妹。

 姉の方の名前は未だに思い出せないが、それでも、セレナは今ハッキリと思い出した。

 

 そうか……アイツ知ってたんだな。

 全部知ってて、俺を助けたのか。

 

 俺はセレナの自室の前に立つ。

 そして、軽くドアをコンコンと二回叩いた。

 

「あーごめん。今思い出した。なんで忘れてたんだろうな、あんなに毎日遊んだのに」

「……」

「ほんと、自分の記憶力の無さに嫌になるよ。これは生まれてきた時から呪われてるとしか思えんな」

 

 そして俺は昔、セレナの事をこう呼んでいた。

 

「セレナ姉ちゃん。ただいま」

 

 するとドアが勢いよく開き、俺に抱きついてくるセレナの姿がそこにはあった。

 

「おかえりなさいっ!」

 

 涙目になりながら力強く抱きしめられる。

 いや待て、力強すぎない? 痛い、なんかすごく痛い。背骨が痛い。

 

「ずっと……! 思い出してくれるのを待ってました! あの日……! 行ってきますって言ったきり帰ってこなくて! 心配してて……! そうしたら急に空から……貴方が……! うわあああ!」

「あ、あの……セ……セレナさん?」

「小さい頃とよく似てたから、もしかしたらと思って……」

 

 あっ、やばい。意識が。え? なんでこんな力強いの? めちゃくちゃ怖いんですけど。

 

 背骨の痛みでセレナの話を聞くどころじゃなかった。

 それに女の子に抱きつかれているという事実も素直に喜べない。

 セレナの抱擁は文字通り、痛い思い出となった。

 

 そして俺の意識もそこで途切れた。

 

 後に聴くと、毎日薪割りをしてたら力が強くなっていたらしい。

 なんだそりゃ。



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三話G

 兎にも角にも、俺はあの後二ヶ月ほどセレナの家で世話になった。

 今更姉ちゃんとは呼べないので、セレナで統一することに決めた。

 

 一応俺はこの街で、強くなるための訓練は欠かさなかった。

 体が動けるようになり、俊敏に動けるようになったからだ。

 

 毎日の薪割りに加え、普通の体力強化、ボクシングの真似事、剣の素振りに加え、棒術もやっておいた。この街には元々聖遺物に関係する仕事に着いていたものも多いので、そのために己の身体を鍛えていた人も少なくはなかった。

 

 しかし、その中で一番群を抜いていたのは、棒術を操るボブさんだろう。

 ボブさんは小柄な体型なのだが、それを利用し自分の持った棒を自在に操ることができる。

 その実力は、俺が一番強いと思ってた弦十郎さんに匹敵するかもしれなかった。

 

 目の前に突き出された棒を避けようと思ったら、いきなり後頭部へ痛みが走る。

 ボブさんが繰り出した棒の先端が生き物かのようにうねり、俺の後頭部へクリーンヒットしたのだ。

 

「ダメよ、ダメダメよ、かぎね、手首のスナップ、もっとイカすべき」

「うっす」

 

 この人、冗談かと思うぐらい強い。

 しかし、この棒術の達人のお陰で、俺はかなりレベルアップする事が出来たに違いはない。

 それにボブさんから面白い話を聞いた。

 

 俺の母さん、黒森響華はかなりの達人だったらしい。武術の世界では孤高の女拳士と呼ばれ、その名はアメリカの武術界ではよく知られた名だったらしい。

 ボブさんであっても引き分けるのでやっとだったと言っていた。

 

「そんな人、シンフォギア纏ってた、敵うものいないと思ってた、ケド……」

 

 しかし、その母さんを屠った完全聖遺物。

 その実力はとんでもないものだったのだろう。

 

 やはり、完全聖遺物の名は伊達ではないということか。

 

 ──ー

 

 それから数週間後。

 ドクターが、大はしゃぎで俺とセレナの元へやってきた。

 

「やりました! やってやりましたよ!」

「どうかしたんですか? ウェル博士」

 

 セレナが訝しげに聴く。

 すると興奮冷めやらぬといった表情で力説し始めた。

 

「やってやったんですよ! 国に僕たちの事を正式な街として認めさせてやりました! これでパスポート発行し放題、大騒ぎぃ!!!」

 

 凄い顔で凄い勢いで喋るドクター。

 セレナとちょっと引いたのは内緒だ。

 というよりパスポート発行し放題はダメだろ。

 

「まあ、その代わり、僕単身日本へ行って聖遺物の研究をしなければならないのですが」

 

 顔芸を見せたかと思えば、すぐにシュンとした表情になるドクター。

 というか、日本……だと? 

 

「それって」

「はい、近々僕は日本に発ちます。それでですね鍵音さん」

 

 俺にはパスポートはないし、殆ど不正入国みたいな物だった。

 しかし、ドクターが懐から出したのは紛れもなく、俺のパスポート。近年の電子化されているパスポートではあるが、これは一昔前の紙の奴だ。

 一応この紙の奴でも、国を行き来する事ができる。

 

「どうやって……!?」

 

 俺が聴くと、ドクターは悪どい顔をして、俺に顔を近づけてポツリと囁く。

 

「いやぁ…………ちょっと言えば簡単でしたよ……まあ僕は天才ですからね」

「……はは」

 

 何をしたかまでは教えてはくれなかったが、まあ人に言えない悪い事をしたのだろう。

 そして、その後に出したパスポートはセレナに渡した。

 

 どうやらドクターはセレナのパスポートも作っていたようだ。

 

「どうして?」

 

 セレナが聞くと、決心を固めた表情でドクターが言う。

 

「どうやら、今日本に強硬派が居るようです」

「っ!!」

「そう……ナスターシャ教授と、貴女のお姉さん。マリア・カデンツァヴナ・イヴも」

 

 そのためにも、僕は日本へ行かなきゃならないとドクターは言った。

 マリア・カデンツァヴナ・イヴ……セレナのお姉さんか。

 俺はあの時の小さな記憶しかない為、はっきりとは覚えてなかったが、かなりのしっかり者だったはずだ。

 

「そう、僕たちで強硬派の研究を止めようと思っているのですが、セレナさん。着いてくる覚悟はありますか?」

「……」

「無理はしなくていいんです……。鍵音さん。貴方は……言うまでもありませんね」

 

 その通りだった。

 俺は母さんの事が聞きたい。そしてその鍵を握るのがナスターシャ教授だと言うのなら、着いて行くしかないだろう。それに、遅かれ早かれ日本には必ず戻ると決めていたからな。

 俺はコクリとうなづく。

 俺は母親の事を、ドクターは強硬派の研究を止める。

 そのためにはナスターシャ教授を……! 

 

 俺とドクターの利害は一致していた。

 

 そして、セレナも。

 

「……行きます! 着いて行きます! 私は姉さんを止めたい!」

 

 決心した表情で俺とドクターを見据える。

 ドクターは髪をかきあげ、俺たちにこう言った。

 

「強硬派との戦闘は避けられないものと考えています。あっちが何を考えているのか分からない以上、僕たちは慎重に行動しなければいけません。いいですね?」

「「はい!!」」

「良いでしょう! ならば行きましょうか日本へ!」

 

 こうして俺たちは、日本へ旅立つ事が決定した。

 決定した夜、街の人が殆どやってきて、俺やセレナに強硬派の事は頼んだぞと言われた。

 ドクターは街の住人に胴上げされて、ボブさんに「コドモたち、たのんだぞ! ここは俺に任せろ」と言われていたような気がする。

 

 こうして夜も更けて朝になり。

 俺たちは、日本へ旅立った。




ウェル「442nd Regimental Combat Team出発ですよ!」
鍵音「長いし、その名前は辞めてくれ…」
セレナ「はは…」
ウェル「じゃあ英雄部隊でいいですよ…」

ーーー

シンフォギアXV最終回見ました。
これでシンフォギアが終わると思うとロスが凄い……

ところで最期のシェムハが響ちゃんに言ってた言葉、「ならば責務を果たせよ、お前たちがこれからの未来を司るのだ」と言ったシーン。
グレンラガンのアンチスパイラルとシモンのシーンとアーマードコアVの財団のラストシーンを思い出して涙がポロリと出ました。



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四話G

 一ヶ月目。

 立花響は後ろの方にあるポツンと不自然に空いた机を見る。

 あそこは、本来なら鍵音が座っている予定だった場所だ。

 

 中卒で高校を行ってない鍵音に弦十郎と国は特別に試験免除でリディアンに在籍する事を認められた。

 リディアンには男が鍵音一人だけではあるが、共学化のシミュレーションと思えば何もおかしくは無いはずだ。

 

 響はその事を弦十郎に聞いて以来、事あるごとに後ろの空いた席を見る。

 それはもう頻繁に見て、先生に怒られるぐらいだ。

 

(……未だに連絡がこないなんて……)

 

 ルナアタック事変以来、国の総力を挙げ、黒森鍵音の調査が行われた。

 しかし、日本国内で見つける事は叶わず、国外へ入るとしたら日本政府は一旦手続きをしないといけない。しかし、その手続きは何年もかかりそうな気が遠くなるような作業らしい。

 

 響は一人でも探しに行くと聞かなかったが、奏が冷静に。

 

「アイツが帰ってくるって言ったんだ、信じようぜ」

 

 と言った。

 

 その顔はとても悲痛な顔で、今にも泣き出しそうだが、それでも必死に堪えて今も奏は歌っている。

 鍵音に歌が届くように。

 

(そうだ……私が信じなきゃ、誰が信じるんだ!)

 

 鍵音は一回も響との約束は破ったことはなかった。

 だから、今回も必ず帰ってくる。

 そして、響に向かってこう言うのだろう。勝負だ! お前を今日こそ超えると。

 

 ──ー

 

 二ヶ月程経ったある日。

 

 凄まじい轟音とともにサンドバックが宙へ舞う。

 響の横にいた弦十郎も目を見開いた。

 

 それもそのはず、響が殴ったサンドバックが、殴ったところではなく内側から破裂するように逆方向に穴が空いていて、そこからサラサラと砂が流れ出る。

 

 色々と吹っ切れた響はここに来て急激に力を持った。

 その爆発力と共に俊敏さまでもに磨きがかかっていた。

 

(俺が、響君と同い年の時……ここまで出来ていただろうか……)

 

 並みのプロボクサーなら、すぐに瞬殺されてしまうようなジャブを響は繰り出す。

 そこから徒手空拳の構えに変わり、すぐさま鋭い蹴りを繰り出した。

 

「ちぇすとー!」

 

 空気が揺れる。

 蹴りから発せられた風に鳥たちが驚いて一目散に逃げ出した。

 

(鍵音君はもっと強くなってるはずだ! だったら負けないように私も頑張らなきゃ!)

 

 そうして、鋭い突きを木に放つ。

 響が殴ったところが抉れ、そのまま木は弦十郎の庭の池に落ちた。

 

「あ」

「おおう……」

「ご、ごめんなさ────い!!!」

 

 ──ー

 

 日本へ出発する前。

 俺はボブさんに最期の稽古をつけてもらうことにした。

 お互い長い棒を持ち、牽制し合う。

 

 先に動いたのはボブさんで少ない挙動でいくつもの突きを不可解な感覚で繰り出してきた。

 俺はそれを、目を瞑り気を感じながら突いてくる方向から逃げる。

 

 右、右、右、左、斜め上。

 

「いや、目を瞑ったら危ないよ」

 

 ボブさんが間髪入れず俺の横っ腹に棒を叩き込む。

 痛さで悶絶してる頃に、ボブさんは俺にこう言った。

 

「でも、感覚的には合ってる、その技、磨いたら、もしかしたら」

 

 ボブさんが言うには柔の素質が備わっているみたいで、相手を受け流して隙を作り、そこから一転攻撃に移る方がやりやすい。

 ボブさんも柔の武術家らしく、それに加えて強と弱も収めているらしい。

 

 強と弱というのは文字通り強弱のことで、一撃必殺となるような豪快な技が使えるのなら強。一撃必殺とはならなくても、己の技量で乱撃必殺となるような技が使えるなら弱。

 

 俺の母さんは剛、柔、強、弱を身につけていたらしい。

 一度はその領域に達してみたいという気持ちが膨れ上がった。

 

「頑張って、ウェル、時々暴走するかも、そうなったらかぎね、抑えて」

「はい」

 

 そうして俺はボブさんに師事を受け、日本に旅立ったのだった。

 後から少し疑問に思ったのだが、ボブさんは一体何者だったんだ……。

 弦十郎さんのアレを見た後だったから素直に受け入れてしまったが、普通に怖い。




ボブさん:黒人のアフロヘアをした陽気なOTONA。
昔、日本へ遊びに行った時棒術に出会ってそれ以来我流でOTONAに上り詰めた。
実力は弦十郎より下。


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