なんでこうなるかなぁ!? (にゃにゅにょ)
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はじめに

 どうも、異世界転移者です。

 

 転移してから早5年。

こんなワタクシでも何とか生きてこれました。

それもこれも日本で読んだ異世界転移もののお陰です。本当にありがとうございました。

作者の皆様には厚く御礼申し上げたいもんです。

 

 異世界に転移してしまった時なんかはどうしようかと頭を抱えたものでありますが、ふと思いついた「そうだ、なろう系の主人公っぽくなればいいんだ」を実践し、冒険者となって地球の知識をドヤ顔で披露したり、特典としてもらった能力を駆使したり、差別などせず人に優しくしてきました。

 

 そのおかげで、そこそこ名の通った冒険者となることが出来た上に偉い人たちとも仲良くなることが出来ました。

冒険者稼業を辞めても裕福に暮らしていけそうな気がする程度にはお金も溜まっております。

 

 もう異世界転移ものサイコー!

作品の評価は10つけておきます!

感想もちゃんと書くようにします!と、声を大にして言いたいくらい

それらの作品の作者様方には感謝しております。

 

 ただ、一つだけ問題があります。

非常に大きな問題があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女できねぇんだけど?(迫真)

 

 

 

 

 

 

 

 

 え、おかしくない?

この手の作品だと最初に会った女の子とイイ仲になったり、偶々出会った一国のお姫様助けたりしたらフラグが建つんじゃねぇの? 

 

 助ける時にカッコイイ事言ったり、去り際をスマートにすれば「素敵! 抱いて!」「ああ、せめてお名前だけでも!」ってなるんじゃねえの? 

 

 出会う子出会う子とフラグ建てまくってハーレム作ったりするんじゃねぇの?

 

 全然モテないんですけどォ!

 

寧ろめっちゃドン引きされたりしたんですけどォ!

 

なんかめっちゃ罵声浴びせられたり距離置かれたりするんですけどォ!!!

 

唯一仲良くしてくれた子には騙されて、借りパクされたままだったりするんですけどォ!!!!

 

返せ!俺の純情とキザな台詞言う時の恥ずかしさを返せ!!

 

 まあ、100歩譲って女の子にモテないのはいいさ。

別にそんなイケメンじゃねぇし(自虐)

 

 でもさぁ、じゃあなんで男にはモテんの?

なんか周りにいる男みんな熱いアプローチかけてくんだけど。

急に抱きついてきて耳元で囁いてきたり、想いを伝える日にガチガチのプレゼントくれたり、一緒に寝ようぜとか言ってくんだけど。

なんなの?おホモ達なの?俺ノンケなんだけど(憤慨)

 

 右も左もわからない頃から色々良くしてくれてるもんだから、感謝してるし本当に信頼してるんだけどさぁ。

だからこそ怖いんだけど。最初からそのつもりだったのかよ!って。

 

 あんまり人の事疑いたくないし、良い人達だっていうのは分かってるんだけどなぁ。

最近目がマジ過ぎるやつもいてさぁ。本気と書いてマジと読む的な。

そんなに下半身見ないでくださる?

 

 

 俺としては普通に仲良くしてさ、下ネタで盛り上がったり、恋バナとかしたいのになぁ。

やつらは下ネタで股間盛り上げるし、恋バナしたら「俺の事、どう思う?」とか聞いてくるしなぁ。

 

 女にはモテないし、男にはケツの穴狙われるし。

作者の皆様、俺はどうすればこの状況を変えられるんでしょうか? 

 

 

 

 

 

 



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ユキニモマケズ、カゼニモマケズ 上

読みづらいとは思います。はい。


やあみんな、異世界転移者だよ。

最近は寒くなってきたね。

風邪とか引いてないかな?

あったかくして寝ないとダメだぞぅ?

コタツの中でアイスなんか食べてる人は、お兄さんがメッ!しちゃうぞー?

 

いやマジで寒い。

なんでこっちの世界の寒さはこんなに厳しいのさ。

吐息が凍る(物理)ってこういう事なのかな?

 

ワタクシが転移してきた世界、アルマハートって言うんだけどね?

季節がもう、なんか凄いんですわ。

まず季節が8つある。

日本でいう春夏秋冬と、その間にさらに四つもある。

その四つを日本語で書くなら、雨季、乾季、豊季、凍季って感じなんだけど、これがそれぞれ春夏秋冬の間に入って8つの季節になるんだ。

春雨夏乾秋豊冬凍って具合にね。

これもうわかんねぇな(呆れ)

 

それぞれの名前から分かる通り、雨季は雨がめっちゃ降るし、乾季はめっちゃ乾燥してる。

豊季は主要な作物の収穫期で、凍季はめっちゃ凍る。

 

で、今は凍季なわけですよ。

もうすっげぇぞ。

温度計とか無いから正確には何度か分からんけど、バキバキに寒い。

子供の頃、冬に水で濡らしたハンカチを振り回したことはあるかな?

ちょっと凍ってさ、スゲー!とか言ってたじゃん?

 

凍季にこれやったら比べ物にならんよ。

ガッチガチに凍り付いてあら不思議、鈍器の出来上がりダァ!

オラわくわくすっぞ!

 

 

でねー、こっちの人は魔力使えばねー、この極寒の中でも割と大丈夫らしいんだけどねー?

わたくしにはなんと!魔力がありましぇん!!

 

はー、つっかえ。

ふざけとるんか?なあ?

ふつーに凍え死ぬわ!!

 

カミサマもさー、こういうとこ気使えないよねー。

特殊能力くれるならこういうとこまで徹底しておいてほしいわー。

だからモテないんだぞー?(推測)

 

と、言うわけで。

ワタクシ、なんとか気合いで持ちこたえております。

マジで寒いです。

 

そんな冗談みたいな寒さの中、現在は山の中を歩いております。

なんでそんなことしてるかって?

仕事だよ(迫真)

 

→→→→→

 

 

───なかなか見つからないね。

「ここら辺にいるのは間違いないんだから、歩いてればそのうち見つかるでしょ。」

 

───意外とアバウトだよね、クーちゃん。

「馴れ馴れしくクーちゃんとか呼ぶな。はっ倒すわよ。」

 

冒険者の受けるクエストには2種類ある。

1つはフリークエスト

これは指定されたランクの冒険者なら誰でも受けられるものだ。

冒険者ギルドの中の大きな掲示板に依頼書が貼ってあり、それを受付まで持っていき受注する。

内容としては低レベルの魔物討伐や指定物の納品が多く、時折護衛や人探しなんかもある。

低ランクの冒険者にとってはこちらが主な仕事になる。

 

そしてもう1つはギルドクエストと呼ばれるものだ。

こちらはギルドから直々に依頼されるもので、高ランクの冒険者になるほど多くなる。

フリークエストとは難易度が別格で、ギルドが適性を鑑みてそれぞれ冒険者に振り分けるのだ。

もちろん拒否することは可能だが、達成困難なクエストを振られることはほとんどない上にフリークエストとは報酬がまるで違うということもあって、断るものはまずいない。

 

 

───なるほどね、話が見えてきた。

「・・・なんの話よ?」

 

───随分と静かだと思わない?

「凍季だし、こんな住み辛い場所で冬を越す生き物なんていないからでしょ。雪竜が住み着いてるならなおさらね。そもそも、なんで雪竜がいるのかってところは不思議なんだけど。あいつらの生息地ってもっと北のほうのはずなのに。」

 

───そうだね。そういう事にしとこうか。

「・・・さっきから何が言いたいのよ。要領を得ないんですけど。」

 

───いやぁ、いい経験になりそうだなって。

 

 

今回はギルドクエストだった。

内容は「レイダー山脈、レイノー山に竜種が住み着いた可能性あり。被害を受けたものの話を纏めると雪竜だと思われる。調査を行い、可能であればこれを討伐せよ。」とのことだった。

 

正直言って楽なクエストだと思っていた。

いくら凍季で時期が悪く、傾斜のきついレイノー山とはいえ雪竜なら一人で何度も狩ったことがある。

Bランク冒険者であり、「紅の獅子」と呼ばれるこの私、クレア・アルドラスにとっては役不足もいいところだ。

しかも今回はもう一人、なんとSランクの冒険者が帯同するらしい。

たったの5人しか存在しない、冒険者の頂点。

全ての冒険者が憧れる絶対的存在。

 

 

 

───さて、ここで豆知識を1つ。今回のクエストは雪竜の討伐が目的なわけなんだけど。

「急になんの話よ。」

 

───彼らの生態ってどんなのか知ってる?

「・・・大陸の最北端に生息してて、一か所に定住することはせず、性格は獰猛。目に付いた獲物にブレスを浴びせて凍らせ、そのまま氷ごと食べる。唯一、卵を産んだあとは、それが孵るまで守り続けるために一定の範囲に留まり、近場の動物を狩り尽くす。だから今回のクエストも、そのはた迷惑な雪竜を討伐しろってことなんでしょ。」

 

───正解だ。花マルをあげよう。

「これから討伐するってのに、その相手のことを知らないわけないでしょ。バカにしてるならはっ倒すわよ。」

 

───そう怒らないでよ。で、ここからが本題。

 

 

初めて会ったSランク冒険者は、正直頼りなさそうだった。

装備はたしかにすごいものに見えるが、装備している本人には覇気が感じられない。

軽口ばかり叩くし、馴れ馴れしくあだ名で呼んでくるし、作戦は任せたとかなんとか言ってくるし。

すこし、いやかなりガッカリした。

少なからず抱いていた憧憬の念など風の速さで吹き飛んでいった。

Sランク冒険者にはもっとこう、威厳とかオーラが備わっているものだと思っていたのに、蓋を開ければただの腑抜けた優男だったなんて。

冒険者たちの憧れを返せ。

 

 

───雪竜は卵が孵るまで一定の場所に留まって、近場の獲物を食べ尽くす。じゃあ、その獲物が居なくなって食べるものが無くなったらどうするんだと思う?卵を孵すまで待てなかったものはどうすると思う?

「そりゃあ・・・卵持って獲物が居そうなとこに移動するんじゃないの?」

 

───答えはね、自分でその卵を食べちゃうんだ。

「本末転倒じゃない。」

 

 

しかし、なんだかんだ言ってSランクだ。

実力は折り紙つきだろう。

それに、さっきも言った通り雪竜なら私一人でも討伐できる。

本来ならソロのクエストでもおかしくないところだ。

 

この気楽さもそう言った事情を考えてのものかもしれない。

サポートに徹して、私の顔を立ててくれているのだろう。

そう考えれば私は、理想のSランク冒険者像を抱いたままで居られる気がしたのだ。

 

 

───何度かそんなことを繰り返すうちに、その雪竜は卵を産まなくなるんだ。卵を産まないってことは、それに使う体力やら何やらをそのまま蓄えておけるわけ。するとどうなると思う?

「・・・もっと獰猛で凶悪になるとか?」

 

───惜しいね。正解は、進化するんだよ。

 

 

それは唐突に現れた。

気を抜いていたわけでも驕っていたわけでもない。

相手がなんであれ、死ぬ危険性があるのは冒険者の宿命だ。

魔物に食い殺された者もいる、道を踏み外し崖に転落して死んでしまったものもいる。

私たちは常に死と隣り合わせで生きているのだ。

それが冒険者というものだ。

 

当然理解している。

理解してはいるが・・・

実際に自分が死ぬかもしれないとなるとやっぱり恐ろしいもので。

この時ばかりは冒険者の宿命を呪った。

 

 

「・・・なによ、これ。」

───やっこさんのテリトリーに、僕らはもう入ってしまっているってことだね。

 

 

彼の言葉が耳を揺らす。

さっきまで晴れていた空が、気付けばブ厚い雲に覆われていた。

目の前に現れたのは、壁のようにして行く手を阻む吹雪。

その向こう側では台風もかくやと言わんばかりに風が吹き付け、雪が舞い散っている。

余りにも奇妙な現象だった。

なんで私たちのいる場所は風ひとつないのか。

そしてこの吹雪は、どうして私たちを大きく囲むようにして発生しているのか。

初めて出会う状況に、気付けば鼓動は速まり、背筋にぞくりとした嫌な感覚を覚えた。

 

 

「・・・テリトリー?意味わかんないんだけど。」

───そのまんまだよ。僕らはもう"狙われてる"。

 

 

背後から大きな音が聞こえる。

ズシンと、巨大なナニカが近づいてきている。

振り向きたくない、強くそう思った。

このままでいれば間違いなく死ぬ。

そう頭では分かっていても、体が動いてくれない。

あまりの恐怖に体が竦んでしまっていた。

 

それでも、なんとか後ろを見ようとした。

それはBランク冒険者としてのプライドだったのかもしれない。

震える両肩を抱き、気力を振り絞り、首を動かす。

そして激しく後悔した。

 

 

「ッ・・・!!!」

───それじゃあ、雪竜改め、氷竜の討伐といこうか!

 

 

そこに居たのは巨大な怪物だった。

雪竜よりも一回り大きな体躯。

圧倒的な存在感を持つ氷竜、その瞳がこちらを睨みつけていた。

 

空気が爆発した。

そう錯覚するほどの咆哮が轟き、戦いは始まった。

 

 

 

 




一話にはまとめきらんかったとです。
しかも結果的に一話がやたら短いとです。
ふひひ、サーセンw


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ユキニモマケズ、カゼニモマケズ 下

久々なので初投稿です。
なんかやたら長くなっちった。
誤字脱字は気にしないで読み進めてくだちぃ。


雪竜だと思ってたら氷竜だったでござる。ヤッベ。

 

期待の新人(赤髪がキュート)と一緒にクエストだやったーとか思ってる場合じゃなかった。

 

簡単なクエストに可愛い女の子と二人きり、コレって実質デートだよね?オシャレしなきゃ(使命感)なんてふにゃふにゃした気持ちで来ちゃった。

 

手取り足取り、Sランクのワシがみっちりむっちり教えちゃうぞぅ、ムホホ。

そんなことを考えていた時期が、僕にもありました。

 

大体、最初からおかしいとは思ってたんだよ。

なんでCランク相当のクエストにワイが呼ばれるの?

ワイSランクぞ?たった5人しかいない冒険者の頂点ぞ?

自慢じゃないけど、なかなかの地位についてるんだぞ?

 

じゃあなんでそんなクエスト受けたのかって?

・・・もくひします。

 

 

・・・ああ!認めるよ!可愛い女の子とクエストいけるからだよ!!

それ以外ないだルロォ!?

 

笑え!笑えよぉ!!馬鹿な男だってYO!!!

 

「貴方に朗報ですよ!かわいいかわいい女の子と二人でクエストに行きたくないですか?行きたいですよね?じゃーん!なんとここにそんなクエストがあります!いやーこの機会を逃すと、もうこんなチャンスはないかもですね?え?CランククエストをSランクに頼んでいいのかって?しょーじき、あんまり良くはないです。でも!いつも頑張ってくれてる貴方のために、一肌脱ぎましょう!!手続きやら国のお偉いさんには私から上手いこと言っておきますから、貴方は女の子と楽しくクエストに行ってきてください!あ、私から1つアドバイスです!やっぱり冒険者は強い人に憧れます。これは私の経験談ですから間違いないです。なので、出来るだけ(性能の)良い装備で行くといいと思います!!あとはやっぱり、フランクな感じで接してあげると好感度ガンガン上げれますよ!Sランクの威厳?そんなものそこら辺に捨てておきましょう!お堅い男よりちょっと軽いくらいの方がモテますよ!!いやー今回はいい仕事を紹介出来たと思うんですよねー!お礼を頂いてもいいと思うんですよー!!・・・何か欲しいものがあるかって?そうですねー。じゃあ今度、一個お願いを聞いてください。もちろん無茶なお願いはしませんよ。とっても、とっても簡単なことです。・・・いいんですか?ありがとうございます。貴方にとってもいいことだと思うので期待しててください。・・・それでは!頑張ってくださいね!応援してまーす!!」

 

あの女狐め・・・

一肌脱ぐならお前がその服脱がんかい!

ギルドマスターだからって偉そうにしやがって!

いつもたわわなもの見せつけやがってありがとうございます!!!

 

童貞チョロいわ〜とか思ってんだろーな。

あっという間にクエストを受託しちゃったぜ・・・

恐ろしく素早い交渉、俺じゃなきゃ見逃してるね。

こんなクエストを押し付けた挙句、更には借りまで作るとは。

腹黒巨乳、おそロシア。

 

はい、回想終わり。

現実から目を逸らしてる場合じゃなかった。

 

逆に考えるんだ・・・

そう、逆境にこそ活路がある!

 

コレはチャンスだ。神は言っている。

キャッキャウフフと簡単にクエストをクリアするより、強大なモンスターをさらりと倒してのける方が良いと。

 

そうだよ!

すごいところ見せようと思ってたんならこっちのが好都合じゃあないか!!

「氷竜を簡単に倒すなんて・・・流石Sランク!すごい!」

ああ〜想像だけで気持ちよくなっちゃう。

 

ガバガバなチャートは壊れるもの、大事なのは対応力。

当初の目論見とは違ったけど、上手く行けば、好感度爆上がり待ったなし!(当社比)

氷竜とか初見だし、装備も貧弱貧弱ゥ!だけどまあなんとかなるでしょ。

唸れ!俺のチートスキル達!!

 

状況確認、ヨシ!

やっちゃう?オリチャー始めちゃう??

やっちゃうかー!!!

 

→→→→→

 

大地を揺らすほどの威圧。

爆発的な咆哮に、まるで背中に氷柱を突き立てられたかのように体が竦む。

魂まで凍ってしまったのかと錯覚するほどだ。

 

 

 

氷竜はSランクに分類される怪物だ。

 

Sランクのモンスターはその殆どが生態系が一切解明されておらず、一体で国一つ簡単に滅ぼすことができると言われている。

実際、過去にそれで滅びた国が何個かある。

 

だが滅多に出現することはなく、確認されたとしても一介の冒険者にクエストが回されることはない。

そのため、冒険者達の間では御伽噺として語られる存在だ。

 

現存しているのは天竜と始源虫の2体だったか。

この2体は今のところ大きな被害を出しておらず、天竜に至っては他のSランクモンスターを討伐したこともあるため、討伐対象にはなっていないとのことだった。

そもそも2体とも人類の生存圏とはかけ離れた場所に生息しているから、わざわざ藪を叩いて蛇を出すような真似はする必要がないし、したくないだろう。

 

たしか氷竜は3体ほど討伐されている。

最後に討伐された記録は100年以上前のはずだ。

Sランクの中では一番多かったからよく覚えている。

将来、私がSランクになったらいつか倒したい。

そんなことを考えたこともあった。

 

(動け!動け!動け!)

焦りだとか、恐怖だとか、そんな言葉では表現できない。

今までもモンスターを恐いと思ったことはあった。

Aランクのモンスターと戦ったこともある。

だが、これは別格だ。

余りにも差がありすぎる。

 

圧倒的なまでの威圧感が体を襲う。

これがSランクモンスターか。

これが天災とまで呼ばれる絶対強者か。

 

戦うどころか、体がピクリとも動かせない。

このままでは確実に死ぬ。

だというのに、あまりにも濃厚な死の予感に、私は動けないでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷竜と目があった。

 

(あ、死んだ。)

ふっと力が抜ける。

ぺたりと座り込んでしまった。

 

氷竜が座り込んだ私を殺そうと口を開け───

 

───飛べ!

 

その声に、弾かれるように全力で真横に飛び込んだ。

 

ピュン、と。

 

弓矢が放たれたような音が聞こえた。

それがなんの音なのか分からなかったが、そんなことよりも。

 

(生きてる・・・?)

 

ハッと、先程まで動かなかった体が動くことに気づいた。

 

(生きてる・・・まだ死んでない!)

 

すぐさま立ち上がり、氷竜を見た。

氷竜はさっき見た時と同じように口を開けたままだった。

目があったところまでは覚えているが、その後なにが起こったのかまるで記憶にない。

誰かの声と何かの音が聞こえたような気もするが、今それを考えている余裕はなかった。

 

(よく分からないけど、このまま距離を取って・・・!)

 

そう考え、周囲を横目で確認し、絶句した。

私が先程までいた場所はそこを始点にして放射状に、巨大な津波がそのまま凍ったかのように氷に覆われていた。

 

(さっきの音はまさか、ブレスの音・・・?)

 

ドッと冷や汗が噴き出る。

口を開けたのはブレスを放つため。

雪竜と同じく、氷漬けにして食べるつもりか。

あんなもの喰らったら、確実に死ぬ。

 

そうだ。

氷竜が口を開けて、死を直感したとき。

彼の声が聞こえたんだ。

その声があったから、なんとかあのブレスを避けることができたんだ。

 

(そういえば彼は!?)

いくらSランクの冒険者とは言え、あれを喰らったとしたら・・・

 

───驚いた。シンゴジラのビームじゃん。

 

バッと振り向くと、彼が居た。

 

───いやぁ、相当手強いねこれは。

 

何が面白いのか、先ほどまでと同じように笑っている。

生きていることに安心したが、同時に、何でそんな態度でいられるのかと思った。

 

というか、何だこの男は。

シンゴジラってなんだ。

こっちは、もしかしたらやられてしまったのかと心配していたというのに。

こんな化け物を見て、なんでそんなへらへらとしているのか。

少し、だいぶ、いやもうそれはそれはカチンと来た。

 

「・・・なんで笑ってられるのよ!さっきのやつ見たでしょ!?」

 

───凄かったね。

 

凄かったねて。

信じられない。

なんでこんなに危機感がないのか。

なんでちょっと楽しそうなんだ。

こんな奴が本当にSランクなのか。

 

「凄かったね、じゃない!!あんな化け物、人間にどうこう出来る奴じゃない!!!なんとか逃げ出す方法を考えて!!」

 

───外は結界みたいなのがあるから、逃げるのは無理じゃない?

 

氷竜がこちらを睨め付ける。

完全に狙いを定めている。

ブレスが躱されたからか、別の攻撃に切り替えたのだろう。

今にもこちらに飛びかかろうと、前脚の筋肉が大きく隆起している。

 

「じゃあどうするのよ!!!二人で仲良く死ぬって言うの!!?」

 

溜めた力が解放され、雪面が爆ぜた。

耳に届く、その脚力による雪面を蹴る音。

氷竜が砲弾より速く飛んでくる。

そして・・・

 

───倒す。

 

その言葉と同時に、彼の姿が消えた。

 

「・・・え?」

 

瞬間──

 

ギィン!!!!!

 

氷竜が打ち上げられていた。

 

───硬っっった!!切れないんだけどォ!!!

 

まさか。

氷竜の突進を正面から受け止めて、斬り上げた?

あれを、正面から、人間が?

 

打ち上げられた氷竜が空中で体勢を立て直し、翼で加速して彼に飛び掛かる。

彼はそれを受け止め、またしても氷竜を吹っ飛ばした。

 

理解不能だった。

氷竜を吹き飛ばす膂力も、あれだけの攻撃を剣を折らずに受け流す技量も、余りにも自分の理解を超えていた。

更に言えば魔力を使った痕跡もない。

と言うことは、あれは素の能力ということだ。

竜種、しかもSランクの氷竜を完全に凌駕する身体能力など、あり得るはずがない。

 

「あり、えない。」

 

氷竜の攻撃は、どれ一つとっても恐ろしいものだった。

爪牙には嵐を纏い、刃のように、目にも留まらぬ速さで振るう。

それに加えて、あのブレス、更には氷を矢のように降らせる魔法。

攻撃の余波に巻き込まれないだけでも精一杯だった。

 

「氷竜よ・・・?Sランクのモンスターよ・・・?それを、こんな、簡単に。」

 

そんな、一撃でも喰らえば致命傷は免れないであろう猛攻を彼はいなし、防ぎ、躱し、反撃まで加えている。

まるで予定調和のように、全てを知っているかのように攻撃を避け、防ぎ、僅かな隙を見逃さずに剣を振るい、時には殴り、蹴り、戦いを優位に進めていく。

完全に氷竜を上回っていた。

 

「これが、Sランク冒険者・・・」

 

話には聞いていた。

Sランクは強さの次元が違うと。

他の冒険者とは一線を画す存在だと。

 

・・・そんなレベルの話じゃない。

根本からして自分たちとは違いすぎる。

 

これが、世界に五人しかいない、冒険者の頂点。

これが、人類の到達点と呼ばれる男。

 

「・・・すごい。」

 

 

→→→→→

もはや何度目かも分からない激突の後、お互いに距離を取った。

氷竜はかなり疲弊しているのか、彼を睨んだまま動かない。

あれだけ激しく攻撃し、大規模な魔法まで使っているのだ。

当然と言えば当然だろう。

彼も彼で、距離をとったまま剣を構えて静止している。

多少の疲れは見られるものの、まだ余裕があるように見える。

ただ、刃が通らないことに辟易しているのだろう。

どこか苛立たしげに見えた。

ここに来て戦況は膠着していた。

 

───ダメだ、何回やっても斬れない。

 

氷竜の表皮が余程の硬さなのか、剣が通らないのだ。

これではいくら攻撃を加えても、致命傷になり得ない。

多少傷を負わせることは出来ても、その傷はすぐに氷に覆われ出血もしていない。

決定打に欠けるのだ。

戦いは彼の有利に進んでいたがこのままでは倒すことは出来ないだろう。

このまま相手が逃げてくれるのであれば問題は無いが、強者であるプライドなのか、氷竜の戦意に衰えは感じない。

というか、絶対に殺すという強い意志を感じる。

 

───エンチャント系の魔法でも使えればなぁ。

 

「・・・使えないの?」

 

───全く。

 

笑えるよね、と彼は自虐気味に笑った。

確かに先程から使っていなかったが、意外だった。

てっきり、使っても効果が薄いと判断して使わないのだとばかり思っていた。

 

エンチャントは単純な魔法だ。

攻撃魔法や防御魔法のように、魔力で何かを構築する魔法に比べれば、既にあるものに変換した魔力を通すだけだからだ。

属性はその術者の性質により様々で、物体を固くしたり、切れ味をあげたり、炎を纏わせたりすることもできる。

ただ、魔力が多すぎる人にとっては加減が難しいらしい。

その魔力に物体が耐えきれず、負荷がかかってしまい壊してしまうこともあるんだとか。

 

(細かい魔力の制御が苦手とか?身体強化も使ってないみたいだし・・・そっちは、使わなくても充分ってことね。)

 

余計な魔力を使って消耗する必要もないということか。

まさか、魔法が全く使えないということはあるまい。(正解)

それでSランクなのだとしたら、どれだけ脳筋なんだという話だ。(花マル)

 

「なら、私が掛けてあげる。」

 

───え?使えるの?

 

「馬鹿にしてるの?これでもBランクなんだから!」

 

───・・・ん?あ、そうだった。

 

「はっ倒すわよ。」

 

───ゴメンゴメン。なら、とびきりの奴を頼むよ。

 

「任せておいて!」

 

エンチャントは単純な魔法ゆえに、魔力の量がモノを言う。

他の魔法のように多すぎて暴発するということはないため、物体の強度が高ければ高いほど、多くの魔力を受け止めることが出来るし、その分だけ効果は上がる。

自慢ではないが、私は魔法だけで見ればAランクにも引けを取らないと自負している。

だから、もし私が全力で魔力を込めたのなら。

彼の力と技術に、私の魔法が合わされば。

あの氷竜の表皮だって容易く引き裂けるハズだ。

 

疑似神経接続(connect)対象を指定(set)発動(activate)強化、開始(start)。」

 

疑似神経を構築し、魔力を通す。

そこに、大気のマナを呼吸によって取り込み、魔力を精製、変換。

より速く、より多く、魔法を発動するための燃料である魔力を疑似神経に注ぎ込んでいく。

 

普段はエンチャントをここまで全力で使うことはない。

戦闘の前に大きく負荷をかける必要もないし、そもそも魔力を込めすぎて武器を壊してしまえば本末転倒だからだ。

だが今回、私は戦闘に参加できないから負荷は気にしなくていいし、見た感じ彼の剣は相当なモノだ。

遠慮なく魔力を込めても耐えられるだろう。

 

求める(ask)軽く(light)鋭く(sharp)熱く(burn)。」

 

重さをゼロに、羽根のように軽く。

何よりも鋭く、何者をも斬り裂き。

そして熱く、燃えたぎる焔のように。

 

刀身が赤い輝きを放つ。

間違いなく過去最高のエンチャントだろう。

限界まで魔力を扱ったせいか疲労がドッと押し寄せ息が上がってしまっているが、満足のいく出来だ。

 

───すっごい熱い。

 

「そんな、子供、みたいな、感想は、いいから。」

 

ヒュン、とその場で剣を斬り払い、

 

───うん。これなら、いけそう。

 

「Sランクらしい、かっこいいとこ、見せてよ。」

 

───了解!

 

返事を合図にまるで戦意が形を持ったかのように、彼の体がうっすらとした光に包まれる。

次の激突で、勝負が決まる。

そんな確信があった。

 

ドッ!と大きな音がした。

 

駆ける。

風を切り、大地を蹴り上げ、疾風のように駆けていく。

山の斜面などものともせず、ただ最速で氷竜に向かっていく。

 

氷竜はそんな彼を見て、すぐさま魔法を発動し氷の矢を降らせる。

どこか焦っているように見えるのは、ただの錯覚か。それとも。

 

放たれた魔法は普通なら回避不能に思えるほどの密度だ。

だが当たらない。掠りもしない。

氷の矢の間隙を縫うように疾走し、瞬く間に距離を詰めていく。

 

あと10メートル。

 

魔法を発動したまま、氷竜が大きく口を開けた。

おそらく今放とうとしているブレスこそが氷竜の最大の攻撃なのだろう。

最初のブレスとは比べものにならないほどの迫力だ。

5メートル。

 

凄まじい冷気が氷竜の口に収束していく。

放たれれば、あたり一面を氷漬けにしてなお余りあるほどの威力だろう。

しかし、既に遅い。

 

ゼロ。

 

───せいッ!!!

 

氷竜の首を断つように赤い軌跡が走り。

次の瞬間、景色が爆ぜた。

 

→→→→→

 

いやぁ、凄い爆発だった。

エンチャントの炎が熱すぎて、氷竜の纏う氷がまさか水蒸気爆発を起こすとは。

凄まじいエンチャントだった。

Bランク冒険者にこんなことができるなんて。

このリハクの目をもってしても見抜けなんだ。

 

てかBランクでこれとか、自信無くなってきた。

ワイより遥かに活躍してるやん。

ワイのやってたこととか、相手をチョンチョンつついてただけやで。

氷竜からしたら、ちょっと回避の上手い蚊に刺されてるようなもんやで。

はぁ〜つっかえ。死んだら?

 

───身体中が痛いや。

 

身体中ボロボロの燃えカスですわ。

全治一週間は固いですね。

・・・前世なら灰も残らなかっただろうけどネ!

 

「最後の爆発、凄かったからね。というか、あんな至近距離で食らったのにピンピンしてるあんたも凄い。防御魔法とか使ってないのに・・・え?何で生きてるの?おかしくない?」

 

───ひどい!

 

いや防具のおかげなんです。

この世界の防具マジで凄い。

寒冷地仕様なのに難燃性で耐衝撃機能までバッチリなんだぜ!

魔法ってすごいね♡

まあ僕は使えないんですけど。

 

「でも、その、ごめん。」

 

───ん?なにが?

 

「その、何というか・・・興が乗ったといいますか、こんな機会ないと思って張り切りすぎたというか。」

 

───ん?んん?

 

「エンチャント掛けすぎて、ゴメンなさい!!!」

 

───エンチャント?

 

「多分気づいてないと思うけど・・・剣、溶けちゃってる。」

 

───ファ!?

 

そんなバカな!剣が溶けるハズ・・・!

oh・・・溶けてーら。

 

アイエエエ!ナンデ!?ニンジャナンデ!?

 

え?やばくない?溶けます??普通溶けます???

いや、ない。溶けない。

 

じゃあなんで刀身が無いんだよォ!!!

答えろ!答えてみろルドガァー!

 

「その、本当にゴメンなさい。いくらか分かんないけど、弁償するから・・・」

 

───イヤ、ダイジョウブデス。

 

「いや、でも・・・」

 

───ダイジョウブダヨ。

 

だって、すっごく高かったんだから!

もう目ん玉飛び出るくらい高かったんだから!!

そんなん払わせるとか・・・KI☆TI☆KUじゃん。

ただでさえモテないのに、鬼畜とか、救えないじゃん。

だから良いのだ、これで良かったのだ。

 

───氷竜の首と引き換えなら、まあ、納得だし。

 

「・・・ゴメンなさい」

 

そうだ、一番大事なことを聞いてなかった。

剣が溶けたとか、そんなこと言ってる場合じゃねぇ!

ここの返答次第で、今回の成否が決まる・・・!

 

───少しはカッコいいところ、見せられたかな?

 

「それは・・・うん、流石Sランクだと思った。カッコよかった、です」

 

───なら、それで十分だよ。

 

よっしゃあ!!!(歓喜)

ええんやで、ええんやで、それならええんやで。(ニッコリ)

元々モテたくてあの剣持ってったんだから!

これを機に、こうしっぽりと仲良くなってくれれば。(ニチャァ)

あ、お詫びにご飯奢ってもらうとか言っとけば良かった。

次に会う口実を作っとくべきだったか。

 

まあこれだけ好感度上がったら今度どっかで会ったときにでも誘えば、二人でディナー待ったなし!!

夜景の綺麗なレストラン、見つめ合う男女、何も起こらないハズはなく・・・

フフフ、自分の作戦が完璧にすぎて怖い。

 

あの剣は役目を果たしたのだ。

さらばだ、オシャンな剣。お前の犠牲は無駄にしない!

これから訪れる薔薇色の未来に、レディゴー!!

 

───そもそも、いつもの剣じゃなくて見た目重視の剣持ってきた僕も悪いし。

 

「・・・え?聞き間違いじゃないわよね?いつもの剣じゃない?見た目重視?」

 

ん?

 

───そうだけど・・・

 

「なんでそんなことしたの?」

 

あれ?

 

───え、だって格好良い装備がモテるって聞いたから・・・

 

「いつもの剣だったら、もっと簡単に倒せてた?」

 

流れ変わった?

 

───え?あの・・・

 

「どうなの?」

 

───それは、その・・・はい。

 

「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

なにそのクソデカため息。

大丈夫?だいぶ幸せ逃げちゃったよ?

 

「・・・カッコいいって言ったの、やっぱ無し!」

 

───ええええええ!?ナンデ!?

 

なんでさ!?

カッコいいって言ったじゃん!!

吐いた唾は飲み込めないんだよ!?

ほら、早くペッしなさい!ペッって!!

 

「だって!モテたいからいつもの剣じゃないなんて思わないでしょ!?しかもそのせいで苦戦したって・・・!なんか、ちょっといいなって思ってた私が馬鹿みたいじゃない!!」

 

───やらかしたァ!!

 

だってあの腹黒ゲフンゲフン、ギルマスが格好良い装備がモテるって言うから!!(勘違い)

クソォ!!騙された!!!

返せよ!俺のカッコいいを返せよ!

いつもいつもコキ使いやがって!!

谷間見せれば許されると思ってんじゃねーぞいつもありがとうございます!!

おっぱいには勝てなかったよ・・・

 

「だから、その・・・あーもう!」

 

「・・・Sランクなのに威厳とかないし!」

 

───グハァ!

 

「いきなりあだ名で呼んできたり、軽口ばっかり言ってみたり!!」

 

───ゴホァ!!

 

「全然、すこしも、これっぽっちも、いいなとか思わなかったんだから!!!」

 

───もう、やめ

 

「だから、カッコよくなかった!!!!」

 

───ウワァァァァ!!!!!

 

「──でも、氷竜と出会って生き残れたのは、貴方のおかげだから・・・その、あの、ありがとう、ございました」

 

───ウワァァァ・・・え?なに?

 

「この、バカ!死ねぇ!!」

 

ちょ、ええええええええ・・・

走ってどっか行っちゃった。

 

あああああもうなんでよ!

途中までいい感じだったのにぃ!!

 

何でこうなるかなぁ!?

 




ギルマスちゃん好き
彼女は話し方で本心を分けてます。
おホモダチも早く出したいなぁ
やる気出たらまた書きます


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