ドールズウィッチーズライン (ロンメルマムート)
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プロローグ

ドルフロ・ウィッチーズクロスオーバー無いから書いた。
オチはないし予定未定。

この回にウィッチーズ要素は一ミリもない


「で、なんの用ですか?最前線とはいえほぼ辺境ともいえるこの地に」

 

「ちょっとした調査だよ。」

 

「じゃあ聞くがその“ちょっとした調査と”やらになんでAR小隊が、いや彼女達は君の直属とも言えるから百歩譲って404のアホ共、社長と合コン負け女までいるのはどういうことだ?」

 

 2062年、世界が色々あって絶賛崩壊寸前とも言うべき状況の中大手PMCの一つ、グリフィン&クルーガー社の基地の一つであるP-38地区の指揮官、コンスタンティン・ハリトノーヴィチ・アーチポフは目の前に座るケモ耳を生やし女を問い詰めていた。

 

「その調査が場合によっては今後の会社に関わることだから来てもらったのさ。

 なに、迷惑はかけないつもりだよ」

 

「今ここにいる時点で相当な迷惑をかけてることを理解しろ」

 

 指揮官は苦虫を潰したような表情で吐き捨てるとテーブルに置かれた不味い代用コーヒーを飲みさらに不機嫌な表情をする。

 一方で相対する女、天才技術者であるペルシカリア、通称ペルシカは涼しい顔をしていた。

 

「君としてもAR小隊や404小隊に会えて嬉しいんじゃないかい?」

 

「世の中には仕事では絶対に会いたくない親友っていう存在があるって知らないのか引きこもり。

 はぁ、まあ勝手にしてくれ。死なれたら困る、大いに困るからな」

 

「ご忠告どうも」

 

 指揮官は大きなため息をつき頭を抱える。

 どうしてこうなったのだろうか、ここ数か月この地区ではよく分からないものが現れているのは知っているし実際に戦闘にもなっている、そのせいだろうか?

 一応上には鉄血の新型として報告はしているが再生能力を持つし見た目も全く違う、幸い今の所被害はほとんどないが正体はさっぱり不明、一応基地内では鉄血以外の何か、という事で結論が出ている。

 恐らくそれの調査だろうが社長まで来るとは聞いてない。

 

「はぁ、G36」

 

「なんでしょうかご主人様」

 

 背後に立っていた副官の-一応誓約済みでこの基地で最も夫婦という関係にふさわしいと言える関係である-G36を呼ぶ。

 

「すまないがスプリングフィールドとm45とかと手分けして社長とへリアンさんとペルシカさんをもてなしてくれ。

 食料とかは気にするな、後で司令部に請求書送るから。

 それと憂さ晴らしにカラオケマシンと酒を出しといてくれ、とりあえず歓迎パーティをするつもりだから。」

 

「よろしいのですか?」

 

 何故かパーティの準備の指示に困惑するG36に無言で頷いた。

 

「はぁああ…もうこれ以上面倒事はやめてくれー面倒は戦争で十分だー」

 

 指揮官はペルシカやG36の前で大声で泣きごとを言う。

 

「まあ大変だろうがすぐ済むし場合によってはとんでもない事になるからね。

 じゃあ私はM4達の様子を見てくるとするよ」

 

 弱音を吐く指揮官に手を振るとペルシカは出て行った。

 

「はぁ、G36、俺は蝶事件前は16Labで経理やっていたんだがあのケモ耳にはいつも苦労させられたよ。」

 

「その時の苦労を思い出しますか?ご主人様」

 

「そうだね、あの頃に45とも知り合ったし簡単な人形整備ぐらいならできるようになったよ。

 本職は経理だけど」

 

 かつての苦労を語ると指揮官はゆっくり立ち上がる。

 

「ご主人様、どちらに?」

 

「そろそろティータイムだ。

 あそこにはあいつもいるだろうし」

 

 

 

 

「スプリングフィールド、いつもの奴二つ」

 

「ふふっ、はい。

 それとお客様がお待ちですよ」

 

 指揮官がG36を連れてなぜか殆どの基地にあるというカフェ「スプリングフィールド」に入るとマスターのスプリングフィールドが呼び止めた。

 カウンターを見るとそこに見知った顔がいた。

 

「コーシャ~久しぶり~」

 

「45、仕事では会いたくなかった」

 

「あら、それはこっちのセリフよ。

 私も仕事では会いたくなかったのよ」

 

 カウンターに座っていたのはグリフィンの最高機密部隊、なのだが前線では公然の秘密状態の404小隊のリーダー、UMP45だった。

 旧知の仲の彼女の隣に座ると親しげに話し始める。

 

「この間はご祝儀ありがとう」

 

「どういたしまして、それにしてもやるわね。

 この基地のほぼすべての戦術人形と誓約するなんて」

 

「誰か一人だけ特別扱いするのは不公平だと思ったからな。

 恩義には報いるのが男って奴だ。」

 

「よく言うわよ、実はヘタレなだけでしょ?」

 

「お、言うかまな板」

 

「よし殺す」

 

「煽り耐性低いな」

 

「小便は済んだか?神様にお祈りは?カフェの隅でガタガタ震えながら命乞いする心の用意はOK?」

 

「OKじゃないがここで手を出したら社長とG36が飛んできてミンチにされて今日の晩飯のハンバーグステーキになるがいいか?

 戦術人形のミンチは不味いぞ」

 

 45と指揮官は親しげに世間話をする。

 するとコップを拭きながらスプリングフィールドが訊ねた。

 

「お二人は知り合いですか?」

 

「私の数少ない親友よ」

 

「古い友人ってとこかな?」

 

「あら、親友って言わないのね」

 

「言える程お前の事信用してない」

 

「酷い」

 

「ふふ、G36は知ってたの?」

 

「ええ、誓約する少し前にご主人様に紹介してもらいました。」

 

「そう、今日はあの二人だけにしておきましょう。」

 

「ええ」

 

 二人は暖かな目で隣で仲良く盛り上がっている指揮官を眺める。

 カフェ内の喧騒をBGMに指揮官たちは盛り上がりG36は一人コーヒーを飲む。

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって数時間後、太陽は地平線の下に沈んだ後の基地の食堂では基地所属の全戦術人形と職員の一部、そして社長とペルシカ、へリアン、404、AR両小隊が集まっていた。

 食堂出入り口には歓迎パーティ会場と書かれた札がご丁寧にかけられ食堂内は料理と酒と飲み物で溢れていた。

 

「M4…」

 

「416、駄目よ」

 

「ねえG36、ここの指揮官は45姉とどういう関係なの?」

 

「ご主人様とは古い友人だそうです」

 

 404小隊はパーティ会場の隅で寝かけているG11を除いて出された料理に手を出したり基地の他の戦術人形と交流していた。

 

「え?私も?」

 

「一緒に歌いましょうよ!折角来てくれたんですから!」

 

「そうだ逃げるという選択肢はないぞ」

 

「さあ同志たち!飲みましょう!」

 

「ウォッカも悪くないな」

 

「姉さん、お酒は程々にしてください」

 

「ねえ!私にも飲ませて!」

 

「SOPはまだ飲めないでしょ!」

 

 AR小隊はというとAR‐15は酔っ払ったSVDとSV-98のコンビに捕まりカラオケに巻き込まれ残りは酒飲みのモシンナガンに絡まれていた。

 

「たく、パーティだからって羽目を外して恥ずかしくないの!?」

 

「まあまあ、ワルサーさん、いいじゃないですか。

 最近は鉄血の動きも落ち着いてますしね、ヴィーフリさん」

 

 第一部隊のWA2000がワインを飲んでいるG36Cに文句をぶつける。

 ツンデレ枠と煽られがちな彼女におっとりとした優等生なG36Cは基地内でもいいコンビだった。

 その横でコンデンスミルクを肴にウォッカを飲むヴィーフリとAUGも最近の鉄血の動きを話題にする。

 

「動きが無さすぎてひまなぐらいだよね」

 

「ええ、敵の葬儀も最近はひっそりとしてますわ」

 

「聞いた噂だと鉄血がグリフィンじゃない何かと戦ってるって聞いたよ」

 

 ヴィーフリが風の噂で聞いた話をコンデンスミルクを食べながら言う。

 

「それ、どうせ正規軍の特殊部隊とかじゃないの?それかELID」

 

「それだったらいいんだけどね、ほら最近変なのよく出てるんじゃん。

 アレがもしも鉄血でも軍でもELIDでもない何かだったら…」

 

「こ、怖い事言わないでよ!」

 

 ヴィーフリが意外にこの手の都市伝説や幽霊話を怖がるWA2000を怖がらせていると食堂の演台に指揮官が上がり口上を始めた。

 

「えー、本日はお日柄もよく…」

 

「指揮官!つまらねー話はやめて早く飯食おうぜ!」

 

「AK-47!社長がいるんだからお行儀よくしなさい!」

 

 演台で指揮官が珍しく柄にない口上を始めると戦術人形のAK-47が煽る。

 それにガタイのいい大男、社長のクルーガーは笑う。

 

「はは、良いじゃないか。部下の元気があってよろしい」

 

「社長、そういうわけにはいきませんから」

 

 社長という超大物VIPの存在に指揮官は恐縮する。

 何せ下手な対応をすれば首が飛ぶ、死亡したり怪我すれば運が良くて解雇、最悪何者かによってバラバラにされて消されるかもしれない、誰だって死にたくはない。

 

「とにかく、目的は別として本日遠路はるばる来ていただいたので本日は長旅の疲れをいたわるためパーティを主宰させていただきました。

 では、乾杯」

 

「「乾杯!!」」

 

 指揮官が音頭を取ると主席者は乾杯する。

 次の瞬間、大きな雷鳴が聞こえると基地が大きく揺れ電気が全て落ちた。

 

「「うわ!」」

 

 そして全員の視界が暗転した。

 




(主人公)
名前:コンスタンティン・ハリトノーヴィチ・アーチポフ
身長:176センチ
得物:G36、ブローニングハイパワー
 ロシア革命時の赤衛軍以来の軍人一家の生まれ。
 8代前の先祖は冬宮殿に突撃し、ソポ戦争に従軍、7代前はハルハ川戦争で歩兵大隊を率い日本軍相手に力戦、モスクワの戦いやスターリングラード、クルスク、バグラチオン、ベルリンに従軍、5代前はアフガン侵攻でスペツナズを率い8月クーデターではクーデター部隊に参加後、チェチェンやアブハジア紛争に参加、曾祖父はクリミア併合に参加した名門軍人家出身。
 ジューコフ将軍の血も引いている。
 父親はロシア空軍大将ハリトーン・アレクサンドロヴィチ・アーチポフ、兄は空軍参謀本部作戦課課長補佐イヴァン・ハリトノーヴィチ、母方の叔父はロシア黒海艦隊司令長官アレクサンドル・ウラディミーロヴィチ・オシポーヴィチ提督。
 18で空軍に入りヘリパイロットとして4年勤務後、会計の資格を得て鉄血に入社、会計監査人として3年勤務の後IOPに転職、16LAB専属会計(事実上の雑用係)として2年働いた後親父のコネでグリフィンに入社、P-38地区指揮官となる。
 趣味は映画鑑賞、映画・歴史オタク。
 親父と叔父のコネで陸軍に貸しを作らな形で独自に点数を稼ぎたい東欧中欧諸国空海軍と繋がりを持ち、そのコネで鉄血相手に艦砲射撃や空爆を行い苦しめる鬼畜。
 軍事的才は親譲りである。
 戦術人形全員に平等に紳士的に接する好人物。
 一方で誰か一人を特別扱いしていいのか、という変な悩みを抱えた結果基地のほぼ全部の戦術人形と誓約した(本人曰く能力向上という側面の方が大きいらしい)が実際に夫婦のような関係なのはG36だけ。
 無類のチョコ好き。
 自分の首が吹き飛べば親父と叔父の首も吹き飛ぶのでセクハラは全くしないどころか節度を持てと注意するレベル。
 404小隊の45とは親友らしい。
 射撃の腕は中の下。
 元々はAK-74Mを使っていたが最近G36に乗り換えた。
 元鉄血の会計監査人であったため鉄血内の動向には相当詳しかった。
 空軍時代のTACネームはスタフカ。
 父親の伝手からGRUやFSBと協力している。
 愛称はコーシャ。
 名前のモデルはロシア解放軍第一連隊連隊長A・アーチポフ大佐

 ちなみにフリー素材。


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人知を超えた大混乱

ストーリーとしてはドルフロメインでほのぼの系にしたい(理想)


「ん…んん…ん?」

 

 どれぐらい経っただろうか、指揮官が目を開ける。

 目の前にあるのはいつもの食堂の天井だけだが周りは異常に静かで、そして非常灯以外真っ暗だった。

 

「…何が起きたんだ?…あ!」

 

 体を起こし周りを見ると同じように食堂にいた職員、戦術人形、ペルシカやクルーガーらも倒れていた。

 

「ん…ご主人様、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ、それよりも他の子を起こしてくれ。

 非常事態だ」

 

「了解しました」

 

 G36が起きると倒れた戦術人形を一人一人揺さぶり起こしていく。

 指揮官も倒れたクルーガーに駆け寄り体を揺さぶる。

 

「社長、社長」

 

「ん…なんだ?」

 

 クルーガーやへリアン、ペルシカは見たところ問題はなさそうで気絶しているようだった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ん…?ああ、大丈夫だ」

 

「良かったです」

 

「何が起きたか分かるかね?」

 

「いえ、さっぱり。

 ただ緊急事態なのは分かります」

 

「そうか、なら頼むよ」

 

「分かってますよ。G36、起こした子から急いでいつもの部隊を編成、全部隊を緊急配置につかせろ」

 

 指揮官が命令する。

 楽しいパーティの時間は終わり素早く戦闘に備える。

 素早い切り替えが出来なければ最前線では命取りだ。

 それができるからこそ彼と戦術人形は生き残ってきたのだ。

 

「ご主人様、了解です」

 

「SVD、G43無事か!」

 

「ああ」

 

「Ja!問題ありません!」

 

 銀髪のSVDとブロンドのG43が返事する。

 

「第二部隊は予備電気系統の確認と電源を確認!

 第三部隊は基地内の確認!」

 

「Jwol!お任せください!」

 

「ARと404も臨時で私の指揮下に入ってもらう。

 45とM4はどうだ?」

 

「私は無事よコーシャ。」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「ならいい、全管轄地区内に警戒警報発令、警戒レベルを最高レベルに。

 作戦室に行く」

 

 立ち上がると指揮官は走って作戦室に向かった。

 

 

 

 

 電力が復活した作戦室のモニターには基地の地図とその地図上での全部隊の動きが点滅していた。

 周りのコンソールは光の海、画面には基地内の動きだけでなく監視カメラの映像が流れていたが幾つかは画面にエラーの文字が描かれる。

 

「各部隊、状況を報告。」

 

『第一部隊G36、問題ありません』

 

『第二部隊SVD、異常なし。いつもより静かなぐらいだ』

 

『こちら第三部隊G43、異常なしですわよ』

 

『第四部隊、NTW-20、異常はない』

 

『第五部隊LWMMG、異常ありません』

 

『第六部隊、M14、問題なしです』

 

『第七部隊、M21、なんにも問題もないよー』

 

『第八部隊、ナガン、問題なしじゃ』

 

『こちらAR小隊、M4A1、問題ありません。』

 

『404小隊、UMP45、問題なし。』

 

「了解、妙だな…本部、近隣基地へのホットラインが故障。

 周辺監視ポストとレーダー基地と連絡途絶、鉄血の仕業か?

 その割には動きが無い、なぜだ?」

 

 各部隊からの状況報告を聞くが状況は全くの平穏、ただの停電だが他の基地への連絡手段が失われているのに鉄血の動きも何もなしという状況で不思議な事ばかりだった。

 

「各部隊、何でもいい、鳥がいないとか何でも構わない、少しでも変な事、気がついたことがあったら教えてくれ」

 

『こちらG43、気のせいかもしれないけど…』

 

 第三部隊を率いるG43が何かに気がついたらしい。

 

『基地の周りの植生がいつもと違う気がしますわ。

 気のせいだと思いますけど。』

 

「植生?」

 

『ええ、木の高さとか形がいつもと違う気がしますの』

 

『言われてみればそうね、いつもはもう少し高い木がいくつかあったはず。

 変ね』

 

 G43の報告にWA2000が同意する。

 二人共スナイパーらしく観察眼に優れているのは基地の誰もが知っている事だ、この二人が言うのだから何かが引っかかった。

 

「植生が違う…そのほかに何かないか?

 星座が違うとか匂いが違うとか」

 

『少し潮のにおいがする。』

 

『そうじゃ、それに星座が違う。

 オリオン座が出ておる』

 

 さらにダネルとナガンが匂いと星座の違いに気がつき報告した。

 状況はますます不可解な状況となり指揮官は情報を整理だけで手いっぱいだ。

 

「オリオン座?」

 

『そうじゃ、オリオン座じゃ。

 冬の大三角形とダイヤモンドも見えるぞ』

 

「ダネル、潮のにおいがするのか?」

 

『そうだ指揮官、かすかに潮のにおいがするぞ』

 

「了解」

 

 各々の報告を聞き指揮官は頭を掻きむしりながら座り込む。

 

「一体どういうことだ…植生が変化して星座も変わる、その上海から何百キロも離れたところで潮のにおい…

 さっぱり分からん。」

 

「うむ、全くだ。私でさえこの状況は理解できない」

 

「常識外れにも程があります。」

 

「そうだね、もしかしたら科学では説明できないとんでもない事が起きたのかもね。」

 

「科学では説明できない事ねぇ、幽霊とか宇宙人とかか?」

 

「それで済めばずっといい事かもね」

 

 同様にクルーガーもへリアンもペルシカも理解不能だった。

 謎が謎を生み常識では理解できなことが連続して起き過ぎだ。

 

『コーシャ!聞いてる!』

 

 突如UMP45が大声で連絡してきた。

 

「なんだ45!後にしてくれ!こっちは状況整理で忙しい!」

 

『それより早くラジオ付けて周波数を430キロヘルツに合わせて!』

 

「?分かった」

 

「ラジオ?こんな時にか?」

 

 あの404小隊の隊長が言うのだから相当な事が起きたと思い指揮官は指令室に置かれていたラジオをつけ周波数を合わせた。

 へリアンが疑問を口にするがその疑問はすぐにラジオから流れた声によってかき消された。

 

 

 

『全部隊、というか全職員、全戦術人形へ、非常に重要な情報を入手した。

 総員食堂に集まるか無線で話を聞いてほしい。』

 

 数分後、突如基地内の共通回線で指揮官からの命令が下された。

 指揮官の声からはどうもいつもと違う抑揚が感じられた。

 

「なんでしょうか?」

 

 その微妙な違いに気がついたG36は不安を感じる。

 

「非常に重要な情報?

 なんだろう?」

 

 ヴィーフリが銃眼から分身のSR-3MPを向けながら言う。

 何が起きるか分からないため第一部隊は担当している防衛拠点の要塞化された建物から注意深く外を監視していた。

 

「敵が近づいているって情報でないのは確かよ。

 屋上から外を見ても何もないもの」

 

 屋上で警戒していたWA2000が呟く。

 周りの森はいつもより静かなぐらいであった。

 

「いつもより静かなぐらいですね、G36お姉さん、どう思いますか?」

 

「そうね、何か重大な事が起きている気がするの」

 

「気がする?」

 

「ええAUG。ご主人様の声から、こう、何と言いますか、ご主人様でさえ理解の範囲を超えたようなことが起きて今、なんとか必死に私達にどうやって伝えようか考えてるようなものを感じます。」

 

 G36は指揮官が何を言おうとしているかを推測した。

 最も親密な間柄だからこそどんなことを言いたいかを推測できる、それほどの信頼関係を築いているからこそ何かを察したのだ。

 

「流石指揮官の正妻ね。

 古参の私でもそこまで分からないわよ」

 

「流石G36お姉さんですわ!私の自慢の姉ですわ!」

 

「素晴らしい信頼関係ですわね」

 

「相変わらずお熱いねぇ~」

 

 すると無線機から指揮官の声が聞こえた。

 

『えー、全員集まったか?聞いてるか?

 それじゃあ今から重大な情報を伝える。

 どうやら我々は、

 

 

 

 

 

 過去のイギリス、それも異世界の1944年2月28日に来てしまったようだ。

 戻る術は、今の所ない。』

 

 その言葉は全戦術人形の電脳を大混乱に陥れエラーを出すのに十分だった。

 

 

 

 




ウィッチーズ要素はまだないです。
1話3000字前後を目安にしたい。


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エヴァレットの多世界解釈

題名はパラレルワールドの理論から。


 20分ほど前、UMP45に言われた通りラジオをつけると衝撃的な言葉が聞こえてきた。

 

『こちらはBBCホーム・サービスです。1944年2月28日、8時のニュースをお伝えします。

 本日チャーチル首相はロンドンにおいてリベリオン国務長官コーデル・ハル氏と会談し…」

 

「1900…」

 

「44年…?そんな馬鹿なことが…」

 

「タイムトラベル…か」

 

「それもパラレルワールドへのね。

 さっきコーデル・ハルの事を“リベリオン国務長官”って言った、史実ならアメリカ合衆国って言うはずだよ」

 

 ラジオから僅か2文の放送でも衝撃は十分だった。

 全員が顔面蒼白し信じられない物を見る様子だった。

 

「嘘だろ、おい…」

 

「悪い夢なら覚めてくれ…」

 

 指揮官とへリアンは常識とかそんな言葉を超えた安っぽい三流小説家の小説の方がまともと思えるような現実にめまいを感じる。

 

「残念だが二人共、これが現実だ」

 

「いやぁ、まさか調査に来たのに調査対象のいた世界に行っちゃうとはね」

 

 ペルシカの発言に指揮官が反応する、これが調査の対象だったのか。

 

「は?どういうことだ変態ケモミミ引きこもり」

 

「言ったとおりだよ、私の調査は例の黒い連中の調査。

 回収された破片から私はアレを異世界の物と考えてこの地区のどこかにワームホールがあると思って探しに来たんだ。

 結果は私達がワームホールに吸い込まれたんだけどね。」

 

「ハハハ、気に入った、殺すのは最後にしてやる」

 

 ペルシカたちの調査対象というのはこの異世界へのワームホールだったのだ、だが実際はそのワームホールに巻き込まれその上帰れなくなるという最悪の事態となったのだ。

 指揮官の中に強烈な殺意が芽生えるが何とか理性で抑える。

 

「そりゃどうも」

 

「畜生いつか殺してやる」

 

 恨み言を言うと無線機で全部隊に指示を出した。

 

「全部隊、というか全職員、全戦術人形へ、非常に重要な情報を入手した。

 総員食堂に集まるか無線で話を聞いてほしい。」

 

 内線で戦術人形たちに伝えると指揮官は椅子に崩れ落ちる。

 

「はぁ、大変な、いや大変って言葉で済めばずっといいぐらいの大事だ。

 社長、いざという時はお願いします」

 

「うむ、分かっている」

 

「へリアンさん、迷惑かけますよ」

 

「ああ、そのぐらい承知だ。

 今はお前が頼りだ」

 

「ペルシカ、お前いつか絶対殺す」

 

「ありがとうね」

 

 クルーガー、へリアン、ペルシカに一言言うと立ち上がり食堂へと向かった。

 

 

 

 

 そして話は元に戻る。

 指揮官の安っぽい小説の方がよっぽどマシな話に全員が驚き、困惑していた。

 

「あの指揮官、それ本当ですか?

 とてもじゃないけど信じられないんですけど…」

 

 その驚嘆と困惑を代表してM1ガーランドが手を挙げて聞いた

 

『指揮官!あんた過労で頭ぶっ飛んだの!?』

 

『指揮官、腕のいい医者を紹介しますよ?』

 

『指揮官、慣れないギャグは言わなくていいんだよ?』

 

『お主、とうとう狂ったか?』

 

 更に部屋のスピーカーに繋がれた各部隊の無線機から第一部隊のWA2000と第二部隊のツァスタバやM21、ナガンから悪辣な言葉が続く。

 戦場で共に戦い絆を築いていた戦術人形たちでさえ信じられない、いや信じる方が難しい事だ。

 

「残念ながら本当、だと思う。

 さっきラジオでBBCホーム・サービスの1944年2月28日の午後8時のニュースが流れていたからな。

 一応同じ放送をクルーガー社長とへリアンさん、クソケモ耳引き籠りが聞いてたから3人に聞けばいい。」

 

 指揮官はさっきよりは弱い口調で根拠を伝える。

 流石に社長と上司と当代一の天才科学者が証人となれば疑う余地は内容で押し黙ったようだった。

 

「というわけだ、今後の活動について色々と議論したい。

 よって、30分後に各部隊長は作戦室に集まってもらいたい、以上だ」

 

 短く会議を伝えると切り上げ作戦室に戻った。

 残された職員と戦術人形は茫然とし、少しすると誰かが声を上げた。

 

「つまり、俺達は異世界の1944年に来ちまったってことか?」

 

「そう言ってるだろ!聞こえなかったのか!?」

 

 恐らく整備士の誰かの声を皮切りに口々に言い始めた。

 

「じゃ、じゃあ、コーラップスとか鉄血はいないし第三次世界大戦も起きてないってことじゃね?」

 

「そうだ!その代わりに世界中で大戦争中だけどな!」

 

「汚染されてない食品とかちゃんとした食材とか一杯あるってことだろ!?

 スプリングフィールドさんが喜ぶぞ!」

 

「でも整備部品とかどうするんですか?」

 

「んなもん気合いだ気合い!そこをどうにかするのが技術屋ってモンだろ?」

 

「お菓子いっっぱい貰えるかなぁ」

 

 職員に交じってFNCも言い始めるなど喧騒としていた。

 

 

 

 

 

「で、集まって貰ったんだが、どうする?

 正直言ってノープランだ」

 

 30分後、作戦室に集まった各部隊隊長とクルーガー達幹部、そして指揮官だが誰も何の策も知恵もなかった。

 文字通りのノープラン、どうも三人寄れば何とやらを期待したようだった。

 

「はぁ、コーシャ、バカなの?」

 

「バカではないと思いたいが客観的に見ればもしかしたらそうなのかもしれない」

 

「指揮官、私はあなたの指示に従います」

 

 するとM4が言う。その言葉はこの場にいる全員の意思を代弁するかのようだった。

 

「M4、ありがとう、よその子だけど」

 

「ご主人様、どうしますか?」

 

「対処フローはシンプルよ、引き籠るか、それともこちらから打って出るか」

 

 UMP45が選択肢を提示する。

 引き篭もり戦力を温存し備えるか、それともリスクを承知で周囲を捜索、調査して情報を収集、場合によっては当局と接触し交渉するか。

 どちらともリスクはある、その上ここは補充が効かない異世界、慎重な判断が求められる。

 提案を受け彼は黙り込み考える、彼の両肩には今まで以上の重責がのしかかっている。

 

「引き籠るってのはキャラじゃないよね?指揮官」

 

「指揮官!私達を信じてください!」

 

 すると、M14とM21が彼の背中を押した。

 基地のムードメーカーの二人の言葉にこの場の意思が決定した。

 

「そうじゃ、ワシらの能力を信じるのじゃ」

 

「そうだ、鉄血が来ても倒してきたんだ。

 今更異世界ごときで怯える程じゃない」

 

「指揮官、スナイパーの実力を疑うのか?」

 

「指揮官、引き籠ってもいたずらにコストがかかるだけですよ」

 

「指揮官、ご指示を」

 

「ご主人様、私たちはいざとなれば徹底的にやります」

 

「指揮官、AR小隊の能力を疑ってますか?」

 

「コーシャ、404の実力を見たい?

 私達はあなたが思うより強いわよ」

 

 戦術人形達が自身げに言う。

 

「アーチポフ君、君の能力は父親譲りだ。

 失望させないでくれたまえ」

 

「指揮官、貴様の能力が今の所頼りだ。

 期待している」

 

「現状君だけが頼りだからさ、お願いね」

 

 クルーガー、へリアン、ペルシカも言う。

 そして決断した。

 

「そうか、なら明日、明朝から周辺地域の捜索と情報収集を行う、にしよう。

 質問は?無いようなら解散、各自明日に備えてゆっくり休め」

 

「「了解」」

 

 

 

 

 翌日

 

「ドローンによる航空偵察で色々と周辺の状態がわかった。

 どうやらここはドーバーの西に当たる場所で2.5キロ南に海岸線がある。

 その他にここから東に7.5キロほどの所に滑走路を有した空軍基地らしき基地がある。

 人影等も確認できている他駐機場にJu52を確認した。

 この基地への潜入調査は現状情報不足のため難しいと判断、日中は周辺部の捜索調査とし潜入調査は夜間にゾディアックボートを使用して行うものとする。」

 

 探索に向かう部隊の隊長は作戦室に集められ指揮官からドローンによって集められた情報を伝えられる。

 2062年ともなれば例えグリフィンの使う民間用を改造した代物や軍用の型落ち品や中古品、モンキーモデルでも周囲10キロの航空偵察には十二分すぎた。

 明らかになったのは現在地がドーバー近郊の沿岸部だという事、そして近くにそれなりの規模の空軍基地があるという事だった。

 

「何か質問は?」

 

「はい、その潜入調査は誰がやるの?」

 

 UMP45が質問する。

 

「それについては404とAR、それにうちの第一部隊でやるつもりだ。

 詳細は後で詰めておいてくれ。

 各部隊にはそれぞれ一機ずつドローンを専属偵察機として配属させる。

 何が起こるか分からない、一応人はいるだろうが補給の無い危険な任務だ。

 最大限安全を確保し同時に戦闘を回避するように、いいね?命令したよ?

 作戦名はコンキスタドールだ。

 では、解散、各自作戦を開始。

 おやつまでには帰ってこい」

 

「「了解!」」

 

 彼女達の今後を左右する作戦、コンキスタドールが開始された。

 




やっとウィッチーズ要素


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コンキスタドール

ウィッチーズ視点もやっと始まる。


「各部隊、状況報告。」

 

『こちら第一部隊、異常なし。

 間もなく森を出ます』

 

『こちら第二部隊、海岸線に到着した。』

 

 探索が開始され作戦室には各部隊からの情報で息をつく暇もない程の忙しさとなっていた。

 各部隊は基地を中心に放射状に展開、それぞれ情報を集めていた。

 

「了解、第一部隊は森から出ると例の空軍基地を監視、逐一情報を報告せよ」

 

『第一部隊了解』

 

「うむ、しっかりやってくれてるなアーチポフ君は」

 

「ええ。流石大将閣下の息子です。」

 

 作戦室の壁際にはクルーガーとへリアンが立ち指揮の様子を眺めていた。

 その仕事ぶりはベテランの二人を納得させるには十分だった。

 

 

 

 

「皆さん、森を抜けます。

 ヴィーフリさんは左、G36Cは右、私とAUGが正面を警戒、あの小屋まで急ぎます。」

 

 その頃第一部隊は森の端にまで到達していた。

 各自木の陰に隠れて周囲を警戒、ハンドシグナルを使って慎重に進んでいた。

 G36が手を振ると前進、少し離れたところにある崩れた廃屋を目指す。

 G36とAUGが小屋の扉まで近づくと警戒しながらゆっくりと扉を開け中に銃口を向ける。

 中には崩れた棚や打ち捨てられた本、埃をかぶった漁の道具が放置されていた。

 

「漁師の小屋、かしら」

 

「ええ」

 

 中を確認したG36は床に落ちている一冊の本を拾った。

 埃を拭うとそこには地図帳と書かれていた。

 

「それは?」

 

「地図帳です、中身は…海図ですね。

 ドーバー周辺と英仏海峡、それに北海です」

 

 G36がパラパラとめくりながら中身を確認する。

 

「連絡します?」

 

「お願いします」

 

「こちら第一部隊、小屋の廃墟にて地図帳を発見。」

 

『了解、でかしたぞ』

 

 AUGが報告しているとWA2000が入ってきた。

 

「どう、中は」

 

「見ての通りです。雨風程度ならしのげるでしょう」

 

「ならいいじゃない、何か情報はあったの?」

 

「地図帳を見つけたわよ」

 

「かなり重要ね、そこの窓から基地は見えるわよね。」

 

 WA2000は小屋の窓に愛銃を置く。

 窓の外には例の空軍基地があった。

 

「それにしても、アレが空軍基地とはね。

 モンサンミッシェルにしか見えないわよ」

 

「ええ、それに滑走路も片方だけで危険です」

 

「飛行機を運用するには不自然ですわね。」

 

 WA2000がふと思ったことを口にする。

 3人とも空軍基地にしては妙な違和感を感じていた。

 

「それに報告だと輸送機だけだったんだよね?

 そんな事ってあるの?」

 

 更に入ってきたヴィーフリも会話に加わる。

 

「すごいわよ、あの基地。

 ここから見えるだけで大砲が1、2、3、4つもあるわ。

 それに唯一の連絡路の橋も警備で一杯よ」

 

 スコープで基地の様子を見始めたWA2000が呟く。

 基地の警備は厳重で重要な基地という事がよく分かった。

 そうなるとさらに違和感があった。

 

「重要な基地、という割には防空戦力が乏しいような…」

 

 G36Cが漏らす。

 するとWA2000が何かに気がついた。

 

「ん?何かしら?」

 

「どうかしましたか?」

 

「格納庫から人が出てきてる、出撃かしら」

 

 スコープで格納庫を観察していたWA2000が格納庫の周りが騒がしくなったのに気がつく。

 何やら全体的に騒がしくなり何かを出そうとしていた。

 

「なんでしょうか…?」

 

「こちら第一部隊、ご主人様、例の基地に動きあり。

 現在監視中」

 

『了解、逐次報告を』

 

「変ね、出撃の割には飛行機が動いてない…

 ん?」

 

 するとWA2000が妙な人影に気がついた。

 

「何かしら?」

 

「何?変な物でもいたの?」

 

「足にパイプ?みたいなのを履いた人が出てきて…」

 

 ヴィーフリに答えながら覗いていると彼女は絶句した。

 ありえないことが起きた。

 

「は?な、何あれ…急加速し始めたんだけど…車と同じぐらいの速度で…」

 

 突如監視していた“人”が急加速し始めたのだ。

 突然車と同じぐらいかそれよりも速く動き始めて絶句する。

 そしてそれ以上の出来事が数秒後起きた。

 

「う、うそでしょ…」

 

「え?何あれ?」

 

「あ、あり得ませんわ…」

 

 “人”が宙に浮き飛び上がった、その動きだけはスコープを使わずとも焦点調節機能が低いG36以外その視覚センサーで見ることができた。

 常識外れが連続して起きていてもこれは絶句する他なかった。

 

「これは…大変なことになるわね」

 

 ぽつりとWA2000が呟いた。

 

 

 

 

「冗談も程々にしたまえ」

 

「へリアン君、戦術人形は正直者だ」

 

「それ、本当かい?だとすれば興味深いな」

 

 午後三時過ぎ、基地のカフェでクルーガーらと指揮官、G36が見たものをありのままに報告していた。

 

「G36、俺は君を心の底から信頼して君に殺されても構わないと思えるぐらいには惚れてるつもりだけどさ、それでも疑わざるを得ないよ?

 こう見えても元は空軍のヘリパイロットだし今でもライセンスは持ってる、何より親父は空軍のナンバー4だ。

 信じられない」

 

 あまりに突拍子もない報告に指揮官は困惑しながらドーナツをかじる。

 口の中に甘さが広がるがG36の報告を理解するので殆ど味わうことなどできない。

 

「ですが本当に見ました。」

 

「分かってるよ、ドローンの情報と対空レーダーでも確認した。

 回収した地図も確認した。

 地理的なものは大体一緒だが中国が無くアメリカが星のような形になっている。

 南太平洋に大きな島もある、その上国名も違う。」

 

 指揮官は回収された地図帳を見ながらコーヒーをすする。

 さっきのドーナツよりは落ち着いてもなおまだ味覚はおかしいようだった。

 

「我が祖国ロシアは帝政オラーシャ、G36と45の故郷ドイツは帝政カールスラント、ポーランドもベラルーシもウクライナもハンガリーもバルチックステーツも存在しない、代わりにオストマルク、オーストリア帝国じゃないか。」

 

「フランスはガリア、イギリスはブリタニア…」

 

「M4達の故郷のアメリカはリベリオン、日本は扶桑かぁ」

 

「イタリアは二か国に分裂、イベリア半島はヒスパニアだけ。

 南米だとアルゼンチンがカールスラント領だ」

 

 世界情勢は全く異なっていた。

 まさに異世界としか言いようがなかった。

 

「こうなると例の空飛ぶ人間が気になる。

 潜入は予定通り、ただし、ヤバいと思えば即逃亡だ。

 緊急時には戦闘も許可する。

 最悪の場合は制圧するぞ」

 

「分かりました、ご主人様。」

 

「ARと404にも同じことを伝えておいてくれ。

 追加で陽動で第二部隊と第三部隊に正面で騒ぎを起こさせる。

 その隙にゾディアックボートで海側から侵入、書類等を確保、離脱しろ。

 何度も言うけど安全が最優先だ。

 だから作戦に備えて休んで、後は全部俺がするから」

 

「しかし、まだ色々とやらなければならない事が…」

 

 作戦に備えて休むよう勧めるとG36は渋る。

 指揮官は静かにG36の手を取る。

 

「G36、何時も言っているけど君は働きすぎ。

 ちゃんと休んでよ、僕もいるしG36Cもいる。

 スプリングフィールドもワルサーも、ナガンもSVDとSV-98もいるんだからさ」

 

 そう言って肩を叩く。

 G36はゆっくり頷き立ち上がった。

 

「全く、見せつけられて困るぞ」

 

「へリアンさんも早くいい人見つかるといいですね」

 

「余計なお世話だ」

 

 

 

 

 

 日没後、例の空軍基地の中の一室に赤毛の少女がいた。

 だが彼女の姿は不相応とも思えるものだった。

 

「はぁ」

 

「ミーナ、悩みか?」

 

「ええ美緒。相変わらず上は戦果を挙げろの一点張りよ。

 このままじゃ予算も削られそうよ」

 

「全くだ」

 

 ミーナと呼ばれた赤毛の少女と美緒と呼ばれた眼帯をつけた黒毛の少女が話していた。

 

「それに、なんだかものすごく嫌な予感がするの」

 

「嫌な予感?」

 

「気のせいで済めばいいのだけれど…」

 

 

 

 

 



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侵入者たち

ウィッチーズと真面目にやり合う


「よし、時間だ。

 騒ぎを起こすぞ」

 

「皆さん!予定通りお願いしますわ!」

 

 日付が変わろうかという頃、空軍基地の陸側の森ではSVDに率いられた第二部隊の79式、グリズリー、ツァスタバM21、FALと第三部隊のG43、M1903、PPK、MP40、9A-91が動き始めた。

 やることは簡単であった。

 

「では皆さん、ファイヤー!」

 

「射撃開始!」

 

 両部隊銃を誤射しないように撃ち始めた。

 更にFALとツァスタバがグレネードを炸裂させ注意を惹く。

 その音、さらに銃口の光に気がついた基地の警備兵は伏せライフルを構える。

 

「こちら第二部隊、陽動開始!

 反応あり!」

 

『殺さないように惹きつけろ』

 

 第二部隊と第三部隊は警備兵を惹きつけるために銃を乱射する。

 すると何かの連絡を受けたのか撃ち返し始めた。

 

「撃ってきた、それじゃあ引き上げるぞ。」

 

 部隊は撃ち返しながら引き上げる。

 警備兵も追いかけてきたようで大きな声で指示を出しているのが聞こえる。

 

 

 

 

「え!?発砲!?

 自衛目的での戦闘を許可します」

 

「ミーナ!」

 

「正面ゲート付近で銃撃戦よ。

 相手は不明、機関銃の発砲音もあるそうよ」

 

 基地内では赤毛の少女が電話を受け取ると対応を指示していた。

 

「夜盗か?」

 

「夜盗が機関銃を持ってると思う?美緒。

 まさか反乱…」

 

 ふと恐ろしい可能性が頭をよぎる。

 もし反乱ならこの基地は耐えられるだろうか、そんなことが一瞬頭をよぎる。

 だがその思考は次の連絡で消え去った。

 

「え?撤退し始めた?」

 

『はい、現在追跡していますが森の中なので捕捉は困難かと…』

 

「了解、最大限注意して。

 海側の警備の兵士を陸側に回すわよ」

 

『は」

 

「なんだ?」

 

「妙よ、撃ち返し始めたら逃げたって。」

 

「逃げた?」

 

「何かしら、いやな予感がするわ…」

 

 警備からの連絡に嫌な予感を感じる。

 その嫌な予感の正体は数秒後分かった。

 

「大変!これが目的だったのね!?

 急いで警備兵を格納庫に!」

 

 

 

 

 

 

「ご主人様、こちら第一部隊、上陸まで3分」

 

『第一部隊了解、上陸後第一部隊の半分とARはホールディングエリアで待機、残りは潜入、書類等、場合によっては捕虜の確保を行え。

 第4、第5部隊はアタッカーで待機、緊急時はアタッカーを発進、援護する。』

 

 基地の海側では3艇のゴムボートが高速で接近していた。

 乗っているのは第一部隊、AR小隊、404小隊だ。

 

「上陸まで残り2分、上陸ポイントの安全を確認。」

 

 416が上陸ポイントの安全を確認する。

 2分後、3隻のゾディアックボートは岸に着くと上陸する。

 上陸したのは丁度滑走路付け根の真下に当たる部分であった。

 

「こちら404、上陸完了。

 これより潜入する」

 

『了解、幸運を』

 

 45が無線で手短に報告する。

 部隊はここで404とG36とヴィーフリのグループ、そして残りのグループに分かれた。

 404のグループは基地の西側に周りゆっくりと岸壁の階段を上り駐機場と格納庫を確認する。

 同時に416とG11が分かれて格納庫の隣を探る。

 

「格納庫には人がいる、それも大勢。

 格納庫からの侵入は無理ね」

 

 UMP45が判断する。

 最大限リスクを避けるよう厳命されている以上この判断は妥当に思えた。

 すると416達が戻ってきた。

 

「格納庫の隣に基地内に入れる出入り口があったわ」

 

「警備は?」

 

「何も、鍵もかけられてないわ。

 奥は廊下よ」

 

 416は出入り口を確認しただけでなくその先のルートやセキュリティまで僅かな時間で調べていた。

 これこそ最精鋭の存在しない小隊の実力だ。

 

「そこから行くわよ。

 これからは私達の流儀に従ってもらうわよ、G36、ヴィーフリ」

 

「承知しております」

 

「そのぐらい百も承知だよ」

 

 UMP45が二人に忠告だけすると返事を無視して出入り口に向かう。

 注意しながらドアを開けG36とヴィーフリを後衛、UMP45と416が先頭に立って周囲を警戒しながら前進する。

 

「クリア」

 

「クリア」

 

 途中コーナーを一つずつ丁寧に確認して安全を確認する。

 その間耳につけた無線では正面ゲートの陽動作戦の音声が聞こえていた。

 

『こちら第二部隊、妙だ。警備兵が追いかけてこない』

 

『了解、監視を続けろ』

 

 何となく聞き流そうとした会話にUMP45は何かを感じる。

 戦闘で培われた勘とも言うべきものが反応した。

 

「まさか、ね。」

 

 生じた不安をぐっと飲みこむ。

 すると後ろから話し声と二人の足音が聞こえてきた。

 

「ミーナ中佐、この辺りかー」

 

「何もないようですけど」

 

 二人の少女、話し声から僅かなフィンランド訛りとロシア訛りがあるような英語だった。

 UMP45は咄嗟にハンドサインで傍のコーナーに隠れる。

 そして

 

「何もないな、サーニャ、早く夜間哨戒行こうぜ」

 

「駄目よエイラ、ちゃんと確認しな…キャ!」

 

 コーナーに差し掛かった瞬間UMP45が一人の腕を強引につかみ絞める。

 同時に416がもう一人を蹴り飛ばし首に持っていたスタンガンを押し当てる。

 

「悪いわね、これが仕事だから」

 

「おやすみ」

 

 気絶させるとUMP9とG11が二人の両手に手錠をはめる。

 するとUMP45が気がついた。

 

「不味いわ、この二人無線機をつけてる。

 404、潜入がバレた。撤収する、援護!」

 

 UMP45が指示を出す。

 

「ヴィーフリさんとG11さんが二人を抱えて、私とUMP45さんが殿を。」

 

「いい判断よ、416と9が前衛、すぐに人が来るわ!」

 

 G36と45が判断する。

 すぐに一行の耳には多数の足音と声が聞こえ始める。

 

 

 

 

「404の皆さんの潜入がバレたようです。」

 

「で、どうするM4」

 

「兵力をこちらに誘い出します」

 

「やったー!」

 

 格納庫側では連絡を受けたAR小隊らが動き始めた。

 銃を構えると格納庫に向かって撃ち始めた。

 勿論最大限被害を出さないためわざと地面や天井に向かって撃つ。

 

「M16姉さん!」

 

「よし来た!」

 

 M16がスタングレネードを格納庫に投げ込む。

 格納庫は大混乱と恐怖に支配され整備兵たちが蜘蛛の子を散らすように逃げる。

 すぐに騒ぎに気がついて警備兵たちもやってくる。

 

「警備が来ました!」

 

「M4!警備兵はこっちがやるわ!」

 

「お願いします、ワルサーさん!」

 

 警備兵はWA2000とAUG、G36Cが対処する。

 警備兵に当てないように気をつけながら銃撃する。

 警備兵も持っているライフルを撃ち返す。

 

『M4!そろそろ出るわ!』

 

「分かりました!第一部隊の皆さんは反対側に回って404の皆さんを迎え入れる用意を!」

 

「分かったわ!急ぐわよ!」

 

 UMP45の連絡を受け第一部隊を回収に向かわせる。

 その間にも警備の兵士が次々と現れていた。

 

「M4!兵士の数が増えてきたわよ!」

 

「ええ、404の皆さんが出てくるまでの辛抱です!」

 

「M4!榴弾撃っていい?」

 

「駄目です!死人が出ます!」

 

『M4!先に9達が出るわよ!』

 

 AR小隊が警備兵と戦っていると第一部隊が反対側に到着、さらに出入り口からUMP9と416、少女を背負ったG11とヴィーフリが飛び出した。

 

「来たわね!M4!援護!」

 

 WA2000がM4に要請する。

 数秒後炸裂音が聞こえ、煙が撒かれる。

 どうやら発煙弾か催涙弾を発射したようだった。

 

「今よ」

 

 その間にG11とヴィーフリ、続いてUMP9と416が飛び出して駐機場を横切り階段に飛び込む。

 それと時を同じくして発砲しながらUMP45とG36が出入り口から飛び出した。

 

「G36お姉さん!」

 

「ごめん!追撃を振り切ってたら遅れた!」

 

「いいわよ、早くこっちに来て!」

 

 WA2000がこちらに来るよう言う。

 二人が格納庫の端から出ようとした瞬間、ある銃の特徴的な連射音が聞こえ壁を抉る。

 

「な、何…?今の」

 

 驚いたUMP45がゆっくりと壁から覗くと一人のおさげの少女が二丁のMG42を構えていた。

 

「嘘でしょ、MG42二丁抱えて撃つとか正気じゃないわよ。

 M4、そこからMG42持ってる女見える?

 そいつ排除してくれないと動けない!」

 

 次の瞬間、頭を銃弾が掠める。

 

「M4!早くして!」

 

『無理です!暗くて撃てません!』

 

「ああ、クソ!」

 

 M4の言葉に悪態をつく。

 

「UMP45さん」

 

「G36、最悪よ。

 ここから動けない。

 ここから動けないと全滅よ」

 

「どうしますか?」

 

「ねえ、コーシャって無理をする方?」

 

 するとUMP45がG36に指揮官の事を聞いた。

 一瞬驚くがすぐに言葉の真意を理解したG36が答える。

 

「かなり無理をする方です、特に部下に対しては」

 

「例えば?」

 

「行方不明が出ると空軍まで動員して探す程度には」

 

「そう、M4!私達は動けない!

 私達を置いて撤退して!」

 

『でも!』

 

 M4に指示を出すが彼女は渋る。

 二人を見捨てるという選択を選ぶのに迷っていた。

 

「大丈夫よ!コーシャ!聞いてる?」

 

 UMP45が指揮官の指示を仰ぐ。

 この戦闘の無線の会話は全て作戦室に繋がっていた、だから何が起きているかは指揮官もよく理解していた。

 

『45、最初から聞いている。

 M4、二人を置いて行け』

 

『しかし』

 

『今は安全確保が先だ。

 今すぐ戻れ。』

 

「ありがとう、コーシャ」

 

 指揮官が強い言葉で命令する。

 M4達はしぶしぶこの命令に従い急いでゾディアックボートまで戻りボートに飛び乗って撤退する。

 岸を離れると警備兵が撃ってくるが幸い夜の闇に紛れ一発も当たらなかった。

 

 

 

 

「みんな離れたわね。」

 

「ええ、指揮官なら絶対助けに来ますよ」

 

「あいつはバカだから」

 

 そう言うと二人は銃を下ろして両手を上げる。

 警備の兵士と例のおさげの少女、そしてブロンドのショートの少女が近づいてくるとドイツ訛りの英語で話しかける。

 

「お前たち二人を不法侵入の容疑で拘束する」

 

「あらどうも、丁重に扱ってよね。」

 

「ええ、犯罪者でも権利ぐらいはあるので」

 

 二人は銃を取り上げられ後ろ手に縛られ連行された。

 残された二人の少女は落ちていた銃を拾った。

 

「トゥルーデ、見た事ない銃だね」

 

「ああ、おもちゃみたいな銃だな」

 

 二人が呟いた。

 



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二つの尋問

 翌朝、例の空軍基地の指令室でG36とUMP45は手錠をかけられて座らせられていた。

 

「何をするつもりかしら?」

 

「尋問でしょうか?」

 

 話しているとドアが開き赤毛の少女と黒毛に眼帯をつけた少女、そして例のMG42を両手持ちしていた少女が立っていた。

 

「初めまして、私は連合軍第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズ隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐よ、そちらは戦闘隊長の坂本美緒少佐とゲルトルート・バルクホルン大尉よ」

 

「どうも」

 

 ミーナ中佐と名乗った少女にUMP45が返事をする。

 

「では早速だが色々と聞きたい。」

 

 次に坂本少佐と名乗っていた少女が訊ねる。

 

「お前たちの所属と名前はどこだ?」

 

 

 

 

 

「君たちの所属と名前を答えてもらえるかな?」

 

 同じ頃、基地では404とAR小隊、第一部隊が拉致した二人の少女を指揮官が尋問していた。

 二人は手錠をかけられ銀髪で黒と白の服を着た少女は大人しくしているがもう一方の同じく銀髪で青い軍服を着た少女は反抗的な態度を取っていた。

 

「いやだ!サーニャを解放しろ!」

 

「その少女はサーニャと言うのかい?

 ありがとう」

 

 フィンランド訛りの英語で喚く少女を無視しながら尋問を続ける。

 周りには指揮官だけでなくもしもに備えG36Cも一緒にいた。

 

「サーニャ、名前からしてロシア人かい?

 こう見えても俺もロシア人でね、モスクワ生まれだ。

 君の出身は?」

 

「…ウィーン」

 

「ウィーン、差し支えなければ本名を教えてもらえるかな?」

 

「アレクサンドラ・ウラディミーロブナ・リトヴャク。」

 

「ダスヴィダーニャ、アレクサンドラ・ウラディミーロブナ。」

 

 サーニャと名乗った少女に続いてもう片方の方にも尋ねる。

 

「さてと、君の名前は?」

 

「そんな事より今すぐ解放しろ!」

 

「OK、俺も手荒な真似はしたくない」

 

 そう言うと彼は拳銃を取り出し向ける。

 

「言っておくが君たちの立場は今は捕虜だ。

 そしてもう一つ言っておくが我々は戦時国際法を守る義務が無いんだ。

 つまりだ、今ここで君らを殺しても何の刑事的責任も発生しない。

 それは理解してくれ」

 

「く…エイラ、エイラ・イルマタル・ユーティライネン。

 所属は連合軍第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズ」

 

 しぶしぶ二人は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はグリフィン&クルーガー社所属404小隊隊長UMP45よ」

 

「私はグリフィン&クルーガー社P-38地区基地所属G36です」

 

 二人は正直に答える、こうするのが得策だと考えた訳もあるがそもそも素性が特別なUMP45以外は嘘が得意ではない、プログラムの関係上嘘をつけないシステムになっているからだ。

 だが二人の話を信じられないようだった。

 

「ふざけた答えを言うな」

 

「あら、私達、会社の中でも相当な正直者で知られているんだけれどね」

 

 バルクホルン大尉とかいう少女がキツイ口調で言う。

 

「そのグリフィン&クルーガーというのは何の会社ですか?」

 

 ミーナが訊いた。

 

「何の会社って」

 

「PMC、と答えればいいでしょうか?」

 

「PMC?なんだそれは」

 

「PMC、プライベート・ミリタリー・カンパニー、民間軍事会社、言い方はいろいろあるけど一言で言えば傭兵かしら」

 

「傭兵?」

 

「ええ、傭兵よ」

 

「次に聞きたいのはお前たちの名前だ、そのU何とかとかいうふざけた名前は何だ」

 

「これが私の型番ですが」

 

「登録番号も聞く?MJG14051」

 

「フフ…」

 

 UMP45が言うとG36が笑う。

 だがそれがバルクホルンの癇に障ったようだった。

 

「何がおかしい!」

 

「失礼いたしました、お上手なジョークでしたので」

 

「ジョーク?」

 

「古い映画のセリフから取ったのよ、悪い?」

 

「真面目に答えろ!」

 

「あら、一流の兵士にはジョークのセンスは必要不可欠よ。」

 

 UMP45の飄々とした態度にバルクホルンのイライラが募る。

 

「ふざけた事を言うな!

 PMCだか何か知らないがお前たちは今は捕虜だ!

 こちらの指示に従え!さもないと…」

 

「トゥルーデ!」

 

 バルクホルンがUMP45に掴みかかる。

 ミーナが急いで止める。

 

「あら、そんなこと言っていいのかしら?

 私達はPMC、そう、正規軍じゃないの。

 どういう意味か分かる?今私達が拘束しているお仲間を殺しても何のお咎めもないの。

 それにね、私達は“人じゃない”のよ。」

 

「どういう意味だ?」

 

 UMP45が含みを持たせたことを言う。

 彼女は言っている意味が理解できない。

 

「あら、そのまんまよね?G36」

 

「ええ、人でなければ法の下で裁かれる権利はありませんので」

 

「私達は人じゃない、戦術人形、言い方を変えればロボットよ。

 まあこの時代ロボットって言葉自体生まれたばかりだろうけどね」

 

「どう見ても人だろうが」

 

「そうね、コンポーネントの半分が生体パーツだけれど頭に入ってるのは大脳ではなくマイクロチップとシリコンの基盤、思考の代わりに0と1の数字配列が行ったり来たりしてるのよ。

 証明してもいいわよ、誰でもいいから私の腕を撃ってみなさい、答えはすぐ出るわよ」

 

 

 

 

 

「第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズ?

 どのような部隊か教えてもらえるかな?」

 

 指揮官が二人に聞く。

 

「ネウロイの侵攻からブリタニアを守るため各国の軍の精鋭ウィッチを集めた部隊、です。」

 

「ネウロイ?ウィッチ?」

 

「ネウロイは私達人類の敵です。

 突然現れて欧州から人々を追い出したんです、何百万という人が故郷を追われ今も世界中で戦っています。

 そのネウロイに対抗できるのが私達ウィッチなんです」

 

 サーニャが正直に答える。

 だが指揮官にはさっぱり理解できない、何せネウロイやらウィッチなどと言う単語は聞いたこともない。

 

「では、そのウィッチとやらである、と証明できるかね?

 何分、物的証拠がなければ信じるのも難しいので」

 

 指揮官が試すつもりで二人に聞いた。

 すると二人は体が光ると猫と狐の耳が生えた。

 

「その、これでどうですか?」

 

「な、私達はウィッチだ!」

 

 サーニャとエイラが言う。

 その姿に指揮官の脳裏にある女の姿を思い出した。

 

「あいつのケモ耳もウィッチなのか?」

 

 ふと呟く。

 その瞬間バックヤードで「どっかの誰かにそっくりだな」「私の耳は違うよ!?」という会話があったのは余談だ。

 

「OK、理解した。

 G36C、ちょっと」

 

 後ろで二人を監視していたG36Cを呼び耳打ちする。

 

「こいつは相当大変なことになった。」

 

「は、はい」

 

「人類の要を誘拐してしまったらしい。

 早急に交渉のテーブルに着きたい、今日の午後一時には基地に向かう体裁を整えたい。

 こういうのは社長とトムが適任だ。」

 

「分かりました、トムさんと社長を呼んできます」

 

「ああ、トムはこの時間帯ならスプリングフィールドで駄弁ってるはずだ。」

 

 G36Cは取調室を出る、代わりにヴィーフリが入る。

 

「失礼、ちょっとした準備だ。

 君らを確保するのに我々も二名、向こうに拘束された。

 今日の午後には向こうの当局者と話し合いをしたいのでその準備をね。」

 

 二人に事情を説明する。

 

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

 

「何かな?アレクサンドラ・ウラディミーロブナ」

 

 サーニャがある質問をした。

 

「あなたたちは、一体…?」

 

 サーニャの質問に指揮官の表情が変わる。

 一瞬曇らせると笑顔を浮かべて答える。

 

「我々が何か?実に面白い質問だ。

 答えは色々ある、戦争屋、現代の封建領主、守護者、傭兵、金で動く汚い連中等々。

 どの答えを望むかね?どの答えを言っても君らには信じられが。」

 

 そう言うと手を合わせる。

 

「ま、こんなところでふざけた答えを言ってもあまり意味はない。

 正直に答えよう、我々はグリフィン&クルーガー社だ。

 創業は2056年、私はそこのまあ、下っ端社員だ」

 

 正直な答えに二人は驚愕する。

 

「おいお前!ふざけたこと言うな!」

 

「ミスユーティライネン。

 嘘ではないよ、例えば君らはこれが何かわかるかね?」

 

 指揮官は言いながらポケットから薄い金属の板を取り出す。

 60年以上前に形が決定されその後も計上を維持したまま進化した携帯、所謂スマートフォンだ。

 

「なんだそれ」

 

「板?」

 

「これは電話であり百科事典であり本であり時計でありレコードであり蓄音機だ。

 君らの時代の約120年後の代物だが、聞いてみるかい?」

 

 彼は言いながらスマホを操作し音楽を流した。

 

「私は結構歌が好きでね、例えばこの曲」

 

 流れてきたのはロシア人ならだれもが知っている民謡「コロブチカ」。

 二人も聞いたことのある曲に驚愕する。

 

「信じてくれたかね?」

 

 二人は無言で頷く。

 

「それは良かった。

 では最後の質問だ、レディに年齢を聞くのは極めて無礼なのは重々承知しているが年齢をお伺いできますかな?」

 

「13」

 

「15だ」

 

 年齢の問いに指揮官は呟いた。

 

「この世界も相当狂ってるな…」

 

 

 

 

 

「では次に聞きたい、お前たちが持っていた武器はなんだ?」

 

 バルクホルンが二人に聞く。

 

「何って」

 

「銃以外に見えますか?」

 

 二人が答える。

 

「見慣れない銃だから聞いた。

 U何とかの持っていた銃の弾は45口径弾だったがそっちのG何とかの弾は見た事が無い。」

 

「ま、当然ね。

 私の銃はドイツ製ヘッケラー&コッホUMP45よ。

 烙印システム付よ」

 

「私のはドイツ製ヘッケラー&コッホG36、同じく烙印システム付。

 それが何か?」

 

「どちらの銃も聞いたことが無いわ。

 その上ドイツなんて国もヘッケラー&コッホなんて会社も烙印システムなんてのも聞いたことが無いわよ」

 

 二人の銃の説明は3人とも理解できない。

 当然だ、この二丁はドイツで1990年代に生まれた銃だ、この50年後に生まれる銃でありこの時代製造メーカーのH&Kすら誕生していない。

 ましてや二丁とも従妹ともいえる関係の銃でG36は導入時レゴライフルなどと呼ばれるほど異質な見た目の銃だったのだ。

 アサルトライフルという概念自体が生まれたような時代では仕方ないと言えた。

 

「まあ当然でしょう、どちらも1990年代に生まれた銃ですので。

 G36は5.56×45ミリNATO弾を使用、作動方式はロータリーボルトのショートストロークピストン方式、キャリングハンドルにはドットサイトが付属、繊維強化プラスチックを全体に使用、マガジンは半透明で弾薬の量を確認可能なアサルトライフルです。」

 

「UMP45は45口径弾を使用したサブマシンガンよ。

 G36同様繊維強化プラスチックを大々的に使用、シンプルブローバック方式のクローズドボルト方式のいい銃よ。

 まあ理解できないでしょうけど」

 

 二人が説明するが三人とも理解不能だった。

 

「まあ理解できなくて当然よね。

 で、次は何の話が聞きたいのかしら?」

 

 UMP45は不敵な笑みを浮かべながら聞いた。

 

 




誰も得しない後方幕僚設定
・トム・ラングドン
ユタ州出身。元国際弁護士。父親は元上院議員。59歳。
元鉄血の顧問弁護士。
髪は白髪交じり、身長は170センチ代半ば。普段はグレーのスーツに赤いネクタイ。
蝶事件後事実上弁護士業を廃業、隠居しようとしたが昔の伝手で後方幕僚を打診され条件付きで受諾した。
法律に明るく行政に関しても知識がある。
角砂糖を貪る癖がありそのせいで糖尿病を患っている。
隠居理由も糖尿病の悪化が原因。
条件とは助手と部下をつけることでそのために何人かの戦術人形を使える。
戦術人形には娘や孫に会うような態度を取り父親的存在。
温厚そうに見え人当たりがいい。
糖尿病の影響で視力が悪く足も悪い。


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後方幕僚トム・ラングドン

M590とSAT8の独自設定とか


「ここ数日大変な事になったなスプリングフィールド」

 

「ええ、トムおじさん。これからどうなるんでしょうか」

 

 スプリングフィールドと話しながらコーヒーをすする。

 砂糖が入っていないブラックだが彼の生きていた時代なら格別の美味しさのコーヒーだ。

 歳は60ぐらい、身長は指揮官とほぼ同じ170センチ代半ば、話す英語はユタ訛り、灰色になってはいるが所々まだ黒い髪の毛、ごく普通のメガネをかけ場違いなスーツ姿襟には弁護士のバッジをつけたとんでもない甘いもの好きの隠居人、それが彼、後方幕僚トム・ラングドンのこの基地での評判だ。

 

「うちの可愛い子達に何も無ければそれでいいんだがな。」

 

「そうですね、何も泣ければ万々歳です」

 

「そうだよな、モスバーグ」

 

 トムが隣でコーヒーを飲むモスバーグM590に言う。

 この基地における指揮官の立ち位置が家長を任された長男ならば彼の立ち位置は隠居した祖父や父という立ち位置、指揮官とは違うベクトルで戦術人形に慕われ同時に愛してくれる存在、それが彼だ。

 後方幕僚という忙しい仕事ながらこうして戦術人形とふれあい、悩み相談に乗り、カフェでコーヒーを飲む。

 元々国際弁護士として30年以上忙しい日々を送ってきたがその仕事を捨て着いたこの仕事を気に入っていた。

 というのもこの仕事は何かと都合がいい、彼の持病の糖尿病に配慮して人間よりも効率がよく間違った指示さえしなければ絶対に間違った仕事をしない戦術人形をアシスタントに書類の整理や行政の事を考え、交渉するという仕事は以前の弁護士と比べればずっと楽な仕事だ。

 ちなみに彼は最初後方幕僚を打診された際辞退したがある事情でM590とSAT8と知り合い二人を連れてくるという条件を付けてこの仕事を受諾したのは余談だ。

 

「ふふ、トムおじさんは平常運転ですね。」

 

「この歳になったら大概のことはサラッと受け流せるものさ。

 それに私には子供がいないからね、私に娘がいたら君達ぐらいだっただろうから」

 

「ふふ、そうですね。

 でも実際の娘が隣居るじゃないですか」

 

「そうだなスプリングフィールド」

 

「駄目ですよ、おじさん。角砂糖の瓶に手を出しては」

 

 テーブルの上の瓶に手を伸ばしたトムの手をM590が掴む。

 壺の中身は角砂糖、彼の悪い癖が角砂糖を貪る事、ストレスが溜まると一時間に一袋貪り結果糖尿病になり杖無しに歩けない体になる程貪ったのだ。

 糖尿病の件は基地内に徹底して布告され彼には絶対に砂糖や特定の甘味料以外を出さないように徹底されていた。

 それどころか特別メニューも用意されている程だった。

 

「分かっとるよ、ハハ。

 最近は糖尿病患者でも問題ない甘味料があるしな」

 

「トムさん~ご注文のペパロニピッツァ焼けましたよ~激ウマですよ~」

 

 すると奥からSAT8ペパロニのピザを運びトムの前に置く。

 トムは嬉しそうに一緒に出されたピザカッターを構える。

 

「Thanks!」

 

「相変わらずトムおじさんの胃はすごいですね」

 

「おじさん、朝からピザは体に悪いですよ」

 

「いいのいいの、アメリカ人の胃を舐めるなよ?

 ピザとハンバーガーとステーキを消化するのに特化した胃だからな!」

 

 朝からピザを丸々一枚食べようとする食欲にM590もスプリングフィールドも呆れていた。

 これがいつもの事だ。

 するとカフェの入り口のベルが鳴り振り向く、するとG36Cが入ってきた。

 

「いらっしゃい」

 

「コンパクトか、どうした?仕事は終わったのか?」

 

「トムさん、指揮官が呼んでます。」

 

 G36Cがピザを食べ始めたトムに言う。

 トムは一口コーヒーを飲むと返事をする。

 

「ピザ食べてからでいいか?

 こっちは昨日の夜から何も食べてないんだ」

 

 

 

 

 

「交渉だが…」

 

「相手はブリタニア政府だが問題がある。

 事前情報が無い」

 

 指揮官の私室で指揮官とトム、へリアン、クルーガーは交渉の方策を話し合っていた。

 彼らに伝手も擁護者もなし、政治的なバックアップもない、もしテロリスト認定されればその場で終わりである。

 それだけは絶対に避けなければならない、組織として、会社として何としても生き残るために。

 

「それはこっちも同じだよ、トム。

 それに完全にないわけじゃない、内閣の情報などはこちらの歴史のチャーチル政権と同じだ」

 

「それにカードはあるな?指揮官」

 

「捕虜二人ですか?」

 

 へリアンがある情報を指摘するが二人はさっぱり理解できなかった。

 彼の頭の中には捕虜二人以上のカードはないように思えた。

 

「違う、もっと大きな物だ。」

 

「技術かへリアン」

 

 へリアンは首を横に振る。

 二人は何のことか分からず首をかしげる。

 

「ケンブリッジ」

 

 クルーガーが口を開く。

 すると二人には合点がいった。

 

「成程ね、連中を使うのか。」

 

「奴らも腹の中の裏切り者がいるとは思ってないだろうからな。

 だが、この世界でも連中はスパイなのか?もし違ったら…」

 

「その可能性もないとは言えない。

 そこで指揮官、AR小隊をロンドン南部の浄水場に送り込む」

 

「浄水場?なんで、そうか…」

 

 へリアンの策に一瞬理解できなかったがすぐに策を思い付いた。

 そしてニヤリと笑った。

 

「フフ、へリアンさん、お主も悪よのう…」

 

 

 

 

 

 

 

「何時までそんな答えを続けるつもりだ。

 いい加減本当の事を話したらどうだ」

 

「迎えが来るまでよ」

 

 昼過ぎ、朝早くから始まったUMP45とG36の聴取は日が高くなり時計が真上を指しても終わらなかった。

 何せ互いの情報が一切噛み合わない、その上UMP45は何かと話を煙に巻き話が進まない。

 グダグダが続きミーナも坂本もバルクホルンも疲弊しきっていた。

 

「あら、もう根を上げるの?

 残念ね、もう少し暇をつぶせると思ったのに」

 

「ええ。もう少し楽しませてもらえませんか?」

 

「フフ、やっぱりあの人に似るのね」

 

「ご主人様に連れられて色々映画を見せられたので」

 

「あのオタク、まだ変わらないのね。」

 

 二人は3人を無視し雑談をするほどだった。

 その態度に益々苛立ちが募る。

 すると耳に微かに変わった音が届いてきた。

 

「ん?何かしら」

 

「蜂か?」

 

 ミーナと坂本は音のする方を見る。

 

「あら、この音は…」

 

「どうやら迎えの者が来たようです。」

 

 この音は二人にも聞こえ、よく知った音だった。

 ミーナ達は窓を覗くとそこには見慣れない飛行物体が飛んでいた。

 

「何あれ!?」

 

「一体あれはなんだ!」

 

「迎えのヘリじゃないかしら。」

 

 そう言うとUMP45は手錠を外して立ち上がり窓から覗く。

 窓の外には迷彩塗装が施されたカモフKa-52アリガトール2機に護衛されたミルMI-26ヘイロー2機がまっすぐこちらに向かってる来るのが見えた。

 

「やっぱりね、空軍のお古のアリガトールとヘイローよ。

 アリガトールは護衛かしら」

 

「な!貴様!」

 

「こう見えても脱出イリュージョンは得意なのよ」

 

 バルクホルンが気がつくがもう後の祭りだった。

 

「大丈夫です、ご主人様から殺傷は出来る限り避けるよう命令されておりますので」

 

「ええ、迎えがあと10分で来るのに暴れるバカではないわよ」

 

 G36が手錠を外しながら言う。

 するとドアが激しく叩かれ明るい髪の少女が入ってきた。

 

「中佐!外に!」

 

「分かってるわ、シャーリーさん。

 急いで警備の人を駐機場に集めて!

 二人も来てちょうだい」

 

 シャーリーと呼ばれた少女-どことなく声がG36に似てる気もする―に指示を出すと二人を連れてミーナ達は駐機場に向かった。

 

 

 

 

 

「コーシャ、本当にやるのかい?」

 

「ああ、これからの事があるからな。

 社長、そろそろ着陸です」

 

「うむ」

 

 Mi-26の機内では空軍時代の知り合いの機長と指揮官が会話した後向かい合って座るクルーガーに話しかける。

 Mi-26の貨物室には404小隊と第一部隊も乗っていた。

 もう一機には第二部隊と第三部隊、エイラとサーニャが乗っていた。

 機体はゆっくりと降下し基地の滑走路に着陸、もう一機もその横に着陸した。

 着陸するとゆっくりとドアが開き戦術人形が飛び出して周囲を警戒する。

 

「右クリア」

 

「左クリア」

 

「正面クリア」

 

 G36C、ヴィーフリ、AUGが抜け目なく周囲を警戒するとクルーガー達が降りる。

 基地の建物の方を見れば警備の兵士達がライフルを構えていた。

 

「止まれ!」

 

「分かってる!何も殺し合いをしに来たわけじゃない!

 ここの基地の責任者と話し合いがしたい!」

 

 警備兵を率いる将校に指揮官が大声で叫ぶ。

 

「こちらには捕虜が二名いる!捕虜交換交渉だ!」

 

 すると人ごみの後ろが騒がしくなり人をかき分けながら赤毛の少女が出てきた。

 

「あなた達がグリフィン&クルーガー社の者達ですね!」

 

 止めようとする将校を制して大声で訊ねた。

 

「ああ!この基地に潜入して捕虜になった二人の上官だ!

 レディがこの基地の責任者ですね」

 

 指揮官は答えるとゆっくりと歩いて向かう。

 兵士達は警戒して銃を向ける。

 そして握手できるほどの距離まで近づくと手を差し出した。

 

「G&K社P‐38地区基地指揮官、コンスタンティン・ハリトノーヴィチ・アーチポフだ。

 本日は是非話し合いの場を設けていただくために来ました。」

 

「連合軍第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズ隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐よ。

 我々としても話し合いを行いたかった所よ」

 

 二人は握手し自己紹介する。

 グリフィン&クルーガー、そして戦術人形の生き残りをかけた交渉が今、始まる。




このSSには作者の持っている戦術人形しか出ません


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交渉

「では早速だが実際に話し合いの場を設けていただき感謝する。

 改めて私はG&K社P‐38地区基地指揮官のアーチポフだ。」

 

「G&K社上級執行官へリアントスだ」

 

「G&K社社長のベレゾヴィッチ・クルーガーだ。」

 

「P‐38地区後方幕僚のトム・ラングドンだ。

 今日は話し合いの場を設けていただき感謝する。

 どちらも納得する結論を出したい。」

 

 数分後、クルーガーら4人と基地の幹部3人はある一室に集まっていた。

 部屋の外ではウィッチ達と護衛の戦術人形が一触即発ともいえる空気になっていた。

 そんなことを気にせず話し合いを進める。

 

「私が隊長のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐、こちらが戦闘隊長の坂本美緒少佐、ゲルトルート・バルクホルン大尉よ」

 

「よろしく」

 

 ミーナが他の2人を紹介するが不信感と警戒心を丸出しの表情で見つめる。

 

「では、お三方、話し合いを始めてもよろしいですかな?」

 

 この会談ではこの手の話し合いに慣れたトムが話を仕切る予定でありその通り動いていた。

 トムの問いに3人は無言を貫く。

 

「沈黙は肯定と判断しますよ。

 まず、我々が何者か?というところから始まるでしょうね」

 

「ええ、何者ですか?連合軍ですか?」

 

「簡単に説明すれば120年後の会社員です。

 まあ世界を巻き込み大戦争が3回も起きて人類が滅びかけてる状況ですが。

 あんまり聞きたくないでしょうからこれ以上の説明は避けますが。」

 

 ミーナの問いにトムが簡潔に答える。

 その答えにやっと3人は納得がいったようだった。

 

「120年後のか、ならば彼女達の説明が全て筋が通るな」

 

 坂本が呟く。

 

「そうでしょうね、うちの連中が迷惑をかけたようで。

 まあこの事は今回の話し合いでは大したことではないのでこれ以上はしませんが。」

 

「一つ聞きたい、お前らの目的はなんだ?」

 

 バルクホルンが聞いた。

 

「私達の目的は簡潔明瞭です。」

 

「安全の確保、ただそれだけだ」

 

 クルーガーが一言答えた。

 だが坂本が返す。

 

「安全の確保?あんな訓練された部下がいれば十分保証されているだろう」

 

「確かに、そうとも言えるかもしれないが我々は民間企業です。

 政府の後ろ盾がなければならないのですよ。

 もしも、我々がどこかの政府にテロ組織と認定されればその時点で終わりです。

 だからブリタニア政府との交渉を仲介していただきたい。」

 

「は?」

 

 指揮官が丁寧に事情を説明し要請を伝えた。

 だがその要請に全員が唖然とする。

 

「そのままですよ、政府と交渉したいのですよ。

 その前提としてまず捕虜を交換したい、いいですね?」

 

「ま、待ってください、話が見えません。

 仲介をして欲しいのですか?」

 

「ええ。刑事的責任については後々詰めるとしましてまずは今すぐ交渉したいのです。」

 

 慌てるミーナにトムが事情を説明する。

 彼らは必死だった、何とかして早く接触を持たないと死活問題だからだ。

 

「わ、分かりました。」

 

「では最初に、まず捕虜の即日交換、ただし次に述べる条件を書面で確約していただいてから。」

 

「条件?」

 

「厚かましいにも程があるぞ」

 

 トムの言葉にバルクホルンが不快感を露わにして言う。

 彼女からすれば突然襲撃され、仲間を誘拐され、その上返してほしければ取引しろなど厚かましいにも程がある。

 無論そんなことは彼らも承知であった。

 

「ええ、重々承知していますとも。

 だから交渉と言ったんです、口約束でも取引(ディール)でもなく交渉(ネゴシエーション)と」

 

「交渉に関しては基地がこの基地から数キロほど東にあるが森の中で一切のインフラが無い。

 よって交渉の拠点としてこの基地を間借りしたい。

 なので交渉担当の事務と職員数名の駐在させたい、勿論基地業務には一切関与しないことを確約する。

 そしてそちらからも連絡将校を最低一名派遣していただきたい。」

 

 へリアンが条件を提示する。

 条件は設備の間借り、そして連絡将校の派遣だった。

 何せ今基地がある場所は森の中、最寄りの道路まで一キロはある、電力もなければガスもない。

 なので基地では非常電源の発電機でシステムを維持していた。

 つまるところ交渉しようにも行けないのである。

 

「間借りと仲介と連絡将校派遣ですか。」

 

「ええ。交渉担当は私とへリアンに一任されているので私達二人と事務・接客担当を数名ですね。

 人数は5人程度でしょう」

 

「こちらの連絡将校は一名だけですか?」

 

「何人でも構いませんよ?ただ基地業務に差し支えの無い範囲であれば。

 後例の二名以外にできればしていただきたい。」

 

「分かりました、しかし拒否します」

 

「ミーナ!」

 

「ほう」

 

 ミーナはきっぱりと拒否した。

 その反応にG&Kの面子は驚く。

 

「私はあなた方を信用できません。

 突然襲撃し、誘拐し、その上交渉を行うなど無礼にも程があります。

 一歩間違えばテロリストです」

 

「ミーナ中佐、我々も必死なのですよ。

 さっきも言った通り後ろ盾がない所属不明の武装組織、それがこの世界での今の我々の立ち位置です。

 しかし、だから言えることがあります。

 我々は非常に多くの情報を持っています、その中の一つがロンドン市の上下水道システムです。」

 

 トムがミーナと交渉しようとある話を持ち出した。

 

「それが?」

 

「この時代の最新のセキュリティ、というのは我々からすれば子供用のおもちゃの金庫のようなものです。

 なので我々の部隊は簡単に侵入できるでしょう。

 我々は以前の世界では治安維持だけでなく場合によっては暗殺や潜入工作といった行為も行っていました。

 そして現在、我が部隊のある部隊がロンドンを目指して準備中です」

 

 トムの言葉はある恐ろしい可能性を示唆した。

 そしてその可能性を何のためらいもなく言い放った。

 

「つまり、その、政府要人の暗殺を…」

 

「さあ?それはどうでしょう?

 ダウディング街10番地やウェストミンスター宮殿の潜入も恐らく可能でしょうから。

 それに我々の技術では水にたった一グラム混ぜるだけで1万人を殺せる毒物なんていうのもありますからね」

 

 トムは更に恐ろしい可能性、上水道への毒物混入というとんでもない事態を想起させるようなことを言い放った。

 もしも上水道に混ぜられれば大変なことになる、一グラムで一万人なのだからもしも1キロや10キロも混ぜられればロンドン市全域の生命が危ういどころではない、世紀の大量殺人が起きるのだ。

 

「その部隊を指揮しているのがこの指揮官だ、彼の一存で全てが決まるがね」

 

 もはや選択肢はなかった。

 

「わ、分かりました…この条件で…」

 

「中佐が物分かりの良い方でよかった。

 こちらが書面です」

 

 ミーナが屈すると待っていたかのようにトムがバッグから書類と万年筆を取り出す。

 ミーナはゆっくりと一番下の署名欄にサインし崩れ落ちた。

 

「ありがとうございます、第一回交渉は大成功の様で」

 

「ええ…」

 

「これが交渉だと?これは脅迫、恫喝だ!」

 

 すると坂本が声を上げた。

 それにバルクホルンも同調する。

 

「ああ!お前ら!人の命をなんだと…!」

 

「君達、何か誤解していないかね?」

 

 すると指揮官が言い放った。

 

「誰が“ロンドンの上水道に毒物を流す”や“政府要人を暗殺する”を言ったのかね?

 ただ“上水道設備の情報を持ち浄水場にも潜入できる”、“ウェストミンスターやダウディング街にも潜入可能”、“強力な毒物が開発されている”と言う情報を提供しただけじゃないか。」

 

 いい笑顔をして指揮官が言う。

 そう、全てブラフであった。

 それらしい情報を与えて勝手に推測させて恐ろしい可能性を勝手に思い起こさせただけだった。

 彼女らが想像したような事実は一切なかった。

 

「まあ、ロンドンにある部隊を向かわせる準備はあるけど最も平和的な任務さ。

 それと、あんまり固い人間に思われるのは嫌かな」

 

 彼の言葉にウィッチ達は拍子抜けし座り込んだ。

 数分前までロンドン市の900万以上の人々の命が係っていると思っていたのがただのブラフだったのだ。

 急にどっと疲れが押し寄せてきた。

 それは交渉が終わり緊張が解けた指揮官たちも同じだった。

 

「ふぅ、終わった…」

 

「終わりましたね、クルーガーさん」

 

「だがまだ始まりに過ぎない、その事は忘れるなよ」

 

「そのぐらいは分かってますよ。

 すまないがミスヴィルケ、コーヒーを貰えるかな?できれば砂糖を入れて」

 

 トムがミーナにコーヒーを頼む。

 指揮官はネクタイを緩め椅子に深く腰掛ける。

 

「ええ、トゥルーデお願い」

 

 バルクホルンが立ち上がりコーヒーを取りに行こうとするとトムがバルクホルンに耳打ちする。

 

「できれば砂糖を入れてくれ」

 

「砂糖?ああ…」

 

 バルクホルンが出て行く。

 その間に指揮官が話しかけた。

 

「ヴィルケ中佐、色々と迷惑をかけた。

 これからお互い仲良くやろう」

 

「ええ、そうね」

 

「ということで、ここの基地の皆様と会食会なんてのはいかがですか?」

 

 指揮官が提案した。

 ミーナは少し考える。

 

「それは魅力的な提案ですが…」

 

「別にすぐ返答していただなくても構いません。

 こちらも準備や今後しばらく忙しいでしょうし。

 ただ相互の理解の為にもそのうちしないといけないでしょうからね」

 

 指揮官とミーナが話しているとドアが開きバルクホルンと一緒にM570が入ってきた。

 

「お、コーヒーか…ゲ」

 

「おじさん?お医者さんから言われてませんでした?

 糖分厳禁だと」

 

 M570が養豚場の豚を見るような目でトムを見下ろす。

 M570の目を盗んで砂糖入りコーヒーを飲もうとしたトムの企みは潰えた。

 

「ミスターアーチポフ、一つ聞きたいがこれが日常なのか?」

 

 トムに説教するM570を指差して困惑気味にバルクホルンが聞くと彼はさも当然のように答えた。

 

「ええ。戦争しかない世界のほんの少し平和な日常ですよ」

 

 彼はそう言ってコップの水を飲んだ。




シリアスはこの回で終わり!


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魔女と人形

ウィッチと人形の交流回

ウィッチーズでもドルフロでもコラボしていいのよ?


 交渉が行われていたその頃、部屋の外では第一部隊と404小隊の戦術人形がウィッチ達と警戒しながら相対していた。

 

「なんで通さねえんだよ!」

 

「指揮官からの命令だよ。

 外部から乱入されて交渉を台無しにされたくないんだって」

 

 ヴィーフリにシャーリーが迫るが通す気はさらさらなかった。

 何せ通せばその時点で交渉はご破算だ。

 ウィッチと戦術人形の問答は交渉が始まってからずっと続いていた。

 一方の404小隊は第一部隊にウィッチの扱いを押し付けて離れたところで暇を持て余していた。

 

「いいから早く通しなさい!」

 

「中にいる上官たちが心配なのはわかるけど何も取って食おうとは思わないわよ。

 私達は首狩り族じゃないんだし」

 

 メガネをかけた少女、ペリーヌ・クロステルマン中尉にWA2000が言う。

 それでも言う事を聞かない。

 

「誰が信じられますか!襲撃までしておいて!」

 

「あー、それは事情があったからね、悪かったとは思ってるわよ。」

 

「まあまあ、今日は平和的な交渉の為に来たんだからさ。

 あんまり騒ぐと交渉決裂でもっと大変なことになるよ」

 

「ええ。落ち着いて仲良くやりましょう、ね」

 

 ヴィーフリとG36Cが諫める。

 二人の言う事が最もだった。

 外野の騒ぎでご破算になった交渉や契約というのは今までもいくつもあった、その苦い経験から騒ぎは出来る会切り起こしたくないものだ。

 

「二人の言う通りね。

 言い争っても無駄ね、ここは仲良くやりましょう?

 まずは自己紹介からかしら」

 

 冷静になったWA2000が言う。

 最初にWA2000とペリーヌが自己紹介する。

 

「ええ、私はペリーヌ・クロステルマン、自由ガリア空軍中尉ですわ」

 

「私はワルサーWA2000、よろしく」

 

「私はSR-3MP、ヴィーフリって呼んで」

 

「G36式コンパクトですわ、よろしくお願いしますわ」

 

「ステアーAUGですわ」

 

 第一部隊がペリーヌ達に自己紹介する。

 

「本当は後もう一人G36がいて隊長なんだけど今回は色々あってワルサーが隊長なんだよね」

 

「色々?」

 

「実は今…」

 

「駄目です!ヴィーフリさん!」

 

 ヴィーフリがG36の事を言いかけたので急いでG36Cが口を塞ぐ。

 その様子にペリーヌは首をかしげる。

 

「何かありましたの?」

 

「まあ色々と…」

 

「そう、色々だよ、色々。」

 

 何とか二人は誤魔化した。

 すると突然G36Cの胸が誰かに背後から触られた。

 

「ひゃああ!!」

 

「G36C!」

 

 突然の事でG36Cが大きな声を出し全員が警戒する。

 するとWA2000が背後に気配を感じ振り返る。

 そこには褐色でツインテールの小中学生ぐらいの少女がいた。

 

「あ、バレちゃった」

 

「今、私に何をしようとしたのかしら?」

 

 WA2000は少女にかなり怒っている様子で問い詰める。

 WA2000は基地内では本気で怒るとかなり怖い部類の人形だと言われている、普段はツンケンしているがいつもの事でありツンデレとして愛されているが怒ると怖い戦術人形第4位か5位に位置している。

 1位がスプリングフィールド、2位がG36、3位がG36Cだが。

 

「今、私の胸を触ったのはあなたですね?」

 

 更に怒ると怖いG36Cも少女に迫る。

 WA2000の怒り方は冷静に感情を爆発させないが同時に無表情な怒り方、一方G36Cはと言うとニコニコいい笑顔で迫るタイプ、本気で怒ると姉どころか指揮官にまで一撃を食らわせるタイプだ。

 

「ひ…!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 するとシャーリーが間に入り二人を止めた。

 二人は不機嫌なままいったん止まる。

 

「ルッキーニが胸を揉んだんだろ?

 本当に済まない!ルッキーニも謝って」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 ルッキーニと呼ばれた少女も立ち上がりシャーリーと共に謝る。

 それに二人はいい笑顔で返した。

 

「いいのですよ、謝ってくれれば」

 

「謝ればそれでチャラよ」

 

 二人は表面上許したように見えるが二人の表情からは「次やれば殺す」というメッセージが書いているようだった。

 すると誰かが聞いてきた。

 

「ねえ、みんな左手に指輪してるけど何それ?」

 

 聞いてきたのは背の低いブロンドのショートの少女だった。

 

「これは誓約の指輪ですわ。

 細かい説明を省くと戦術人形の能力を向上させるというものですわ」

 

「戦術人形?」

 

 G36Cが説明するとシャーリーが首をかしげる。

 当たり前だが彼女達は戦術人形が分からない、彼女達はG36C達を人間と認識しているのだ。

 

「私達の事よ。

 私達は戦闘用に改造された自律人形、それが戦術人形。

 端的に説明すれば機械よ」

 

 WA2000が説明する、だが勿論信じられる訳なかった。

 

「機械?どう見ても人間じゃないか」

 

「私達の元になった自律人形自体が人間に似せて作られてますからね。

 食事や排泄までできますからね」

 

「ええ、人形や人という色眼鏡で見なければ全く同じですから」

 

 後ろから言われウィッチ達が振り返るとショットガンを持った褐色銀髪の女性と癖毛のブロンドの女性、即ちM570とSAT8のコンビがいた。

 二人は本来外周警備のはずだ。

 

「M590、SAT8、来たの」

 

「ええ、おじさんが心配ですから」

 

「そ、心配性なのはいいけど邪魔しないでよ」

 

 二人はトムを心配してきたようだった。

 

「外の様子はどうですか?」

 

「最初はピリピリしてましたけど仲良くやってますね。

 ただSVDがウォッカ持ち出そうとして…」

 

 G36Cが外の様子を聞いた。

 外も平和なようで警戒心は何処へやら交流が開始されていたようだった。

 するとドアが開いてバルクホルンが出てきた。

 

「堅物、終わったのか?」

 

「大筋終わった、今からコーヒーを取りに行くんだ」

 

「コーヒー…もしかして砂糖も頼まれませんでした?」

 

 バルクホルンにM590が聞いた。

 図星のようで彼女は驚いた。

 

「ああ、砂糖も念押しされたが」

 

「はぁ、おじさんですね。

 トムおじさんに砂糖は絶対に飲ませては駄目です」

 

「どうしてだ?」

 

 M590がバルクホルンに伝える。

 強い口調で言うので彼女は気になった。

 何せ普通砂糖を飲ませるななんて人はあまりいないのだ。

 

「トムさん、糖尿病なんですよ。

 だから基地での料理は全て特別メニュー、砂糖なんてもってのほかです。

 なのに基地だとFNCと同じぐらい甘いものが大好きですからいつも目を盗んで砂糖とかお菓子食べようとして怒られてるんですよ。」

 

 SAT8が説明する。

 それにバルクホルンも納得した。

 

「糖尿病なら仕方ないな。」

 

「それと、入る時は一緒に入れてください。

 一回〆ますから」

 

「トムを〆るのは別にいいけど怪我させないようにね」

 

 M590にWA2000が忠告する。

 数分後、バルクホルンがコーヒーを淹れて戻ってくると部屋の中から叫び声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「なあ嬢ちゃん、俺と付き合っ…」

 

「他の人を探してください」

 

 外では警備の兵士と第二部隊、第三部隊が交流していた。

 ある兵士がツァスタバをナンパするがあしらわれていた。

 

「ふふ、残念だが私達を口説こうなど一億年早い」

 

「一番チョロい人が言うのね」

 

「私はチョロくなんかないぞ、G43」

 

 SVDにG43がツッコむ。

 SVDはなんだかんだで女の子扱いされると簡単に引っかかるタイプだった。

 お陰で第二部隊で一番釣りやすいだのチョロインなどと職員たちが影で言っているが本人は気がついてない、バレたら恐らく全員がウィリアムテルごっこされるからだ、誰も死にたくない。

 

「暇ね」

 

「暇ですね」

 

「暇ですわね」

 

「暇すぎて煙草切れた」

 

「あら、禁煙にはちょうどいいじゃない」

 

「何時になったら交渉が終わるんだよ!」

 

「騒がないの、エイラ」

 

 ヘリの機内では指揮官の元同僚のロシア人パイロットと戦術人形が形式的にエイラとサーニャを監視しながら駄弁っていた。

 だが余りの暇さにグリズリーも9A-91もPPKもFALもエイラもサーニャもパイロットも退屈になってきていた。

 するとスプリングフィールドが籠を持って来た。

 

「あの、基地でクッキー焼いてきたんですけど食べますか?」

 

 籠からクッキーを包んだ袋を取り出して聞いた。

 すぐに全員の表情が変わり我先にクッキー受け取り食べ始める。

 

「あらあら、大丈夫ですよ全員分ありますから。

 お二人も食べましょう?」

 

 スプリングフィールドはエイラ達にもクッキーを渡した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「お口に合うかしら?」

 

 二人はクッキーを恐る恐る食べ、表情が柔らかくなった。

 

「美味しいです!」

 

「ウマいぞ!」

 

「ふふ、ありがとう。」

 

 スプリングフィールドの絶品のクッキーはウィッチにも好評であった。

 魔女と人形、その対立は意外な事にすぐ治まりそうだった。

 

 

 

 

 

 夕方、更に諸々の細部が詰められた後、基地の格納庫前でエイラとサーニャ、UMP45とG36が交換された。

 もはや周りの兵士達は警戒心はなくそれどころか野次馬が集まり一目でも戦術人形の姿を見ようと集まっていた。

 

「ミーナ中佐、この度は失礼した」

 

「クルーガー社長、次からはちゃんと事前連絡をお願いします。

 これからは隣人ですので」

 

 クルーガーとミーナが握手する横で指揮官は二人を出迎えていた。

 

「よ、生きてたか?」

 

「死んだんじゃない?」

 

「ハハ、そんなふうに返せるなら生きてるな」

 

「ええ、お陰様で。前より調子いいぐらいよ」

 

 UMP45と彼はいつものように軽口を叩き合う。

 そしてもう一人、G36の方を見ると優しい表情で声をかけた。

 

「おかえり」

 

「ただいま戻りました」

 

 一言返すと指揮官は抱擁し、額にキスすると手をつないでヘリに向かう。

 

「さ、帰ろう。仕事が山ほど残ってる」

 

「ええ。お手伝いします」

 

「今日は徹夜覚悟だ、しばらく忙しくなるぞ、G36。」

 

「ご主人様、無理は体に良くありません。

 コンディションにも悪いですよ」

 

「分かってるよ、それに倒れてもこの世で最も可愛くて美しいメイドが完璧な看病をしてくれるしね」

 

 二人は話しながらヘリに乗りこんだ。

 その様子を見てUMP45は苦笑いして呟いた。

 

「たく、あの二人…ま、これからはアレを見ながら生活するのが日常になりそうね」

 

 



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基地へようこそ!

ウィッチ IN G&K社


 501との交渉から数日間、ロンドンは大騒ぎとなっていた。

 突如現れた武装勢力との交渉だけでなくその武装勢力がMI6の幹部で政府高官の子息や駐ワシントン大使館一等書記官らがオラーシャのスパイであるという情報をMI5、MI6だけでなく外務省、首相官邸、労働党と保守党の本部と党首の邸宅、ロンドンにある主要新聞社に送り付けられたのだ。

 更にはリベリオン大使館には同じく政府高官にスパイがいるという情報やルーズベルト大統領の健康状態、秘密裏に進められていたはずの原子爆弾開発に関する情報を送り付けられていた。

 

 絶対に政府を交渉のテーブルに着かせるのに彼らが取ったのがこの衝撃的な情報を送り付けるという無茶苦茶な方法だった。

 結果は成功、ブリタニア空軍の大将とリベリオン陸軍の大将が特使として派遣され501では交渉が開始された。

 

 

 

 

 

 その頃、基地に一機のヘリが降り立ち、一人のウィッチが降り立った。

 

「ここがグリフィン&クルーガー社とやらですわね」

 

「ウェルカムトゥグリフィン&クルーガー社へ、歓迎しよう。

 改めて、私は指揮官のアーチポフだ、コーシャと呼んでくれて構わない」

 

「私が副官のG36です。以後お見知りおきを」

 

「初めまして、自由ガリア空軍中尉ペリーヌ・クロステルマンですわ」

 

 指揮官とG36が迎え入れる。

 やってきたウィッチはペリーヌだった。

 

「まあ楽にしてくれ。

 もう交渉もひと段落して今はみんなだらっとしてるよ。」

 

「ええ、ありがとうございますわ。

 それにしても、大きいですわね」

 

 ふとペリーヌが言う。

 今の所この基地の外観を見た事があるウィッチはいない、そして空から見るとこの基地は非常に広大だった。

 

「まあな、空軍との協力作戦が多かったし最前線だったから要塞化されて10機程度のヘリを運用できる構造になっているからな。

 本来は外郭施設に3000メートルの滑走路を有した共用飛行場と35の無人監視ポスト、7つの支部があるんだがこっちに来たのはこの施設だけだ。」

 

「それでも地下で連結された中央の司令部棟、12の兵舎、5つの格納庫、4つのヘリポート、倉庫6棟、人形整備管理棟、150人収容の映画館がありますから。

 のべ100ヘクタールに合計400人の職員と戦術人形が勤務しています」

 

「100ヘクタール、巨大ですわね。

 ただ大きさの割に職員の数は少ないのですね」

 

「120年という期間は大きいのですよ。

 自動化でかなりの仕事が機械に置き換えられて少人数でも効率的なオペレーションができるんですよ。

 それでも人の手が無くならないのは変わりないですが」

 

 ペリーヌに二人が基地の説明をする。

 この基地は辺境の最前線ながら彼の伝手で最前線とは思えない程広大且つ充実した設備を有していた。

 というのも鉄血を陸軍以上に危険視する空軍が空軍大将の息子の彼と本社を飛び越えて協力、基地の設備を空軍と共用することで設備を充実させた背景があった。

 そのため何人かこの世界に協力している各国空軍の連絡将校がいたが彼らは客人であるため空軍の支援が必要な作戦行動以外の意思決定の場には介在しないという規定から今の所首を突っ込んでいない。

 

「さ、行きましょう。ロシアよりマシとは言えブリタニアの冬も厳しいので」

 

 指揮官はペリーヌを連れて基地に戻って行った。

 

 

 

「ま、改めてようこそG&K社へ」

 

 基地内司令部棟内にある執務室に招かれたペリーヌに改めて指揮官が言う。

 

「交渉が完全に終わるまでの間、この基地で是非くつろいでいただきたい」

 

「ありがとうございますわ」

 

「俺とG36は色々と仕事があるから詳しい基地の案内はできないが代わりを呼んである。」

 

 二人は部屋の真ん中に置かれたソファに向かい合って座る。

 するとドアがノックされる。

 

「指揮官、入ります」

 

「いいぞ」

 

 ノックして入ってきたのはブロンドのロングにベレー帽の戦術人形、M1ガーランドだった。

 

「紹介しよう、M1ガーランドだ。

 みんなガーランドって呼んでるからそう呼んでおいてくれ。

 どんなこともそつなくこなしてくれる優等生だ。」

 

「指揮官、そんなに褒めても何も出ませんよ」

 

 彼女は簡単に言えば優等生であった。

 あらゆることをそつなくこなすことから部隊には入っていない代わりに便利屋的存在として雑務に駆り出される役回りが多かった。

 書類仕事が多ければ書類処理を、厨房の人手が足りなければコックの代理、カフェの手が回らないとウェイトレス、連絡担当もこなす何でも屋だった。

 今回の客人の案内に抜擢したのも絶対に間違えないという確信からだった。

 

「そうでもないと思うぞ、じゃあクロステルマン中尉の事は頼んだよ」

 

「了解しました、では行きましょうか」

 

「ええ、お願いしますわ」

 

 ペリーヌは立ち上がりガーランドについて部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 ガーランドに連れられて司令部棟の廊下を歩き最初に案内されたのは食堂だった。

 

「ここが食堂です。

 大体500人ぐらい収容できます」

 

「500人!大きいですわね…」

 

 ペリーヌは食堂の大きさに驚く。

 501の食堂と比べれば100倍以上はある程の巨大な食堂だった。

 何せこの基地の食堂はカフェ以外はここだけ、なので一度に全職員が食事できる巨大なものとなってしまった。

 その代わりに集会場的役割もできるようになっているのだが。

 

「ええ、でもいつも食事の時間帯でも半分ぐらいしか入らないんですよね。

 だから実際そのぐらい入るのはパーティの時ぐらいですね、」

 

「パーティ?」

 

 突然軍隊(ではなくPMC)とは思えない単語が出て聞き返した。

 

「この基地では気分転換で時々パーティをやるんですよ。

 基本的に月一で誕生日のパーティと後は新人歓迎会ですね。

 最前線だったんで気分転換として」

 

「そうなのですか」

 

 この基地のパーティは一種の福利厚生である。

 何せこの基地の指揮官は「飯・待遇・上官の三つが軍における反乱の最たる原因」と親から学んだので他の基地で多いセクハラはしないし食事に最大限気を遣いガス抜きとしてパーティを定期的にしているのだ。

 

「一応今日の夜もパーティの予定ですよ。

 クロステルマンさんの歓迎会で」

 

「私もですか?」

 

「ええ。

 それと、ここの食堂は一応毎日食事のメニューが決まってますけどそれとは別に軽食メニューが常時提供されてますので小腹が空いたらどうぞ。

 食堂の説明はこんな感じですかね。」

 

 食堂の一角にはセルフサービスの軽食コーナーが置かれていた。

 こじんまりとしたサラダバーとソフトドリンク、パンとトースター、スープバー、ご飯とカレーというファミレスのような設備だが軽い食事を摂ったり朝食メニューとしては人気だった。

 ふとペリーヌは食堂の一角で見間違いかと思える程大盛のカレーを食べている人に気がついた。

 

「ところで、あそこで大皿の料理を食べてるのは…」

 

「え?ああ、SPASですね、気にしないでください」

 

「はぁ…」

 

 食べていたのは基地内では大食いの中の大食い、エンゲル係数を跳ね上げさせ係、食事担当の涙すべき存在ことSAPS12だった。

 ガーランドは勿論基地内に人間は見慣れているので無視するがペリーヌは困惑気味だった。

 

 

 

 

「ここがカフェです。」

 

「いらっしゃい、あら」

 

 次に案内されたのは基地内で一、二を争う人気スポット、カフェであった。

 カフェはカウンター席とテーブル席がのこじんまりした設備だが片隅にはカラオケマシンが置かれていたりキッチンの奥にはピザ窯があったりと設備としては食堂のキッチン以上に充実していた。

 二人はカウンター席に座りメニューを見る。

 メニューは一般的なカフェと全く同じ、違う点があるとすればピザメニューと低糖質メニューがある程度だった。

 

「何にしますか?」

 

「あの、お勧めは何ですか?」

 

「そうですね、いつもならペパロニのピッツァなんですけど今日はお出しできないんです。」

 

 スプリングフィールドが残念そうに答える。

 

「そうですか、なら紅茶をお願いしますわ」

 

「姉さん、私はコーヒーで。」

 

 二人が注文するとスプリングフィールドは手慣れた手つきで紅茶とコーヒーを用意する。

 

「あの、先程姉さんと言いましたが姉妹なのですか?」

 

「姉妹、というか同じメーカーなんで勝手に姉さんって言っているだけです。

 私も姉さんもスプリングフィールド・アーモリーですから」

 

「ん?そうでしたわね、戦術人形でしたわね」

 

「はい、紅茶とコーヒーです。

 今日は特別ですよ、天然物のダージリンとブルーマウンテンですよ」

 

 二人の前に紅茶とコーヒーが出される。

 どちらもこの世界に来てから調達した天然物のコーヒー豆と茶葉の代物であった。

 何せ元の世界では農作物は大打撃を受け必要は発明の何とやららしく品種改良や耕作技術、農業生産技術の向上、人口そのものの激減から食料自給率自体は悪くないが茶葉やコーヒーといった嗜好品となれば質の良い物は中々手に入らない、ブランド物ともなれば不可能に等しかった。

 そんな超高級な代物をさも当然のように飲める現状に感謝しながらガーランドはコーヒーに口をつける。

 

「ん…!美味しい…」

 

「この紅茶も悪くないですわね」

 

「ふふ、ありがとうございますわ」

 

 二人が感想を口にする。

 特にガーランドにとっては今まで味わったことのない程の美味だった。

 二人はしばらくカフェで色々な事を話しながら過ごしたのだった。

 




長くなりそうだから前後編に


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基地へようこそ!(2)

多分中編


 この基地は他に基地に比べてもかなり特殊な設備がいくつもある。

 他の基地の中には鉄血のハイエンドモデルと暮らしているという基地もあるというがこの基地にはある特殊な設備が3つ設置されていた、その一つが作戦室にある空軍と連動したC4Iシステム、これは空軍との作戦行動が多いという事情から空軍の発案で設置された物、そしてもう一つが150人が収容可能な映画館だった。

 

「気になっていたのですけどなぜこの基地は映画館があるんですの?」

 

「それ私も気になってたんです、それで副官、私が来たときは確かG36Cだったんですけど曰く『映画は人類の作った最も素晴らしい総合芸術だ、それを鑑賞する設備を作って何が悪い』って指揮官が言ったそうです。」

 

「…」

 

 ペリーヌが黙る。

 何せ相当深い理由があると思えばかなり単純な理由だったからだ。

 まさか目の前の自分の知っている映画館の20倍以上立派な設備がこの基地の指揮官の嗜好の結果だと思うと呆れてしまった。

 

「後から聞いたんですけど単に指揮官が映画が大好きなだけらしいです本当は」

 

「そうなのですか…」

 

「ここの映画館で流される映画も指揮官のコレクションですからね。

 今日の上映予定のショーシャンクの空にも」

 

 ガーランドが遠い目をする。

 ここの上映スケジュールはかなり適当である。

 映画館を作った理由の一つは映画オタクでありコレクターの指揮官が実家に置いていた映画のコレクション全てを指揮官になった後に送り付けられたため管理の為に作ったという事情もあった。

 だが映画の存在は士気の維持に一役買って職員にも戦術人形にも好評でこの日の上映もかなりの人が集まっていた。

 

 

 

 

「で、ここが大浴場です。

 右が女性、左が男性で両方ともサウナと岩盤浴付き。

 サウナは男女共用です。」

 

「男女共用」

 

 ガーランドが風呂場を説明する。

 風呂は典型的な日本様式の風呂だったが何故そんな仕様なのかは実は指揮官も知らない。

 サウナはフィンランド人職員の要請、岩盤浴は単なる流行に乗って増築したが何故風呂が日本様式なのかは誰も知らない。噂では社長か会社の幹部に日本人の血が流れている人間がいるかららしい、噂だが。

 

「稀にサウナから女湯を覗こうとする馬鹿がいますけどそうなった場合殺す以外何をしてもいいと指揮官から許可が得られてますので。」

 

「殺す以外何をしても」

 

「過去5回起きましたけど全て犯人はサウナ内で男女両方から袋叩きにされて半殺しにされてサウナに放置されました」

 

「半殺しにしてサウナに放置」

 

「気にしないでください」

 

 ガーランドが真顔で注意する。

 この基地では覗きと盗撮は殺人以上の重罪である、何せ殺す以外何をしてもいいというのが罰則である。

 基本全戦術人形と職員から袋叩きである。

 

 

 

 

「で、最後が連絡将校室です。」

 

「連絡将校室?」

 

「元々この基地はかなり特殊で設備の半分を空軍と共用してるんですがさらに空軍との空陸統合作戦が多いので各国の空軍から連絡要員が派遣されているんです。

 その連絡要員たちの部屋です。」

 

 色々と回った最後に案内されたのは司令部棟の連絡将校室。

 この基地には各国空軍と連携作戦を行う関係からロシア、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、セルビア、ポーランドから連絡要員が各国から数名派遣、それらを纏めて管理するため司令部棟の階を丸ごと連絡要員のオフィスにしていた。

 

「それってあまり私に関係ないのでは?」

 

「まあ、そうなんですけど…将校たちがウィッチに興味津々なんです…

 ほら、ほぼ全員が空軍将校で…」

 

 ガーランドが案内した事情を説明し始めると大きな声で誰かが呼んだ。

 

「あ!ガーランド!」

 

「M14、なんでここに?」

 

 呼んだのは妹分のライフルのM14だった。

 M14に更に後ろから軍服を着た将校が追いかけてきた。

 

「仕事が無いからセレーニャ、じゃなかったオシポーヴィチ大佐に遊んでもらってました」

 

「はぁ、オシポーヴィチ大佐、妹がすいません」

 

「いやいや、どうせこちらも仕事が無いんだいい暇つぶしになったよ。

 そちらが例のウィッチかい?初めまして私はロシア空軍大佐セルゲイ・オシポーヴィチだ、よろしく」

 

 追いかけてきた将校がロシア空軍からの連絡将校セルゲイ・オシポーヴィチ大佐だった。

 階級を聞いてペリーヌは慌てて敬礼する。

 

「初めまして大佐、ペリーヌ・クロステルマン、自由ガリア空軍中尉ですわ。」

 

「うむ、で、一つ聞くが君はウィッチですかな?」

 

「はい、ウィッチですが」

 

「おお!実はだね、ウィッチというものに興味を持ってね、色々聞いてもいいかな?」

 

「え、ええ…」

 

「それは良かった。

 おい!ウィッチの話を聞けるぞ!」

 

「本当か!」

 

「嘘だったら口にクソぶち込むぞ」

 

「私が先だ!」

 

「私が先だモルドバ人!」

 

「落ち着け、逃げるわけじゃないんだからな」

 

「ちょっと待ってくれ、これが終わったら…」

 

「あのポーランド人、仕事中にボトルシップ作ってるがいいのかよ…」

 

 ウィッチの話を聞けると聞くとオフィスの連絡将校たちが色めきだった。

 それぞれのオフィスから飛び出すと我先にペリーヌの下にやってきた。

 

「えっと君がウィッチだよね?ウクライナ空軍中佐のイワン・ゼレンスキーだ。

 ぜひ私のオフィスで話を聞こう、コーヒーと紅茶のどちらが好きかい?私は両方好きだ」

 

「何口説こうとしてるんだ藪医者。エカチェリーナ・ブダノワ、ベラルーシ空軍少佐だ。

 そこのクソッタレは無視して構わない」

 

「君がウィッチだな(ですね!)ルーマニア空軍(モルドバ空軍)中佐(少佐)コンスタンチン・ラデスク(イリーナ・ラコヴィッツァ)だ(です)。

 ぜひ話を聞きたい(です!)」

 

「こらこら、一人ずつ話したらどうだい、セルビア空軍大佐のカラジッチだ。

 よろしく頼むよ」

 

「君がウィッチだね、ヴォイチェフ・マゾヴィエツキ中佐だ。

 ちなみにだが中佐という階級は各国軍で色々な言い方があって例えば陸軍では伝統的に連隊補佐という意味があって海軍だと航海長兼指揮官という意味もある。」

 

 連絡将校が集まりそれぞれペリーヌの話を聞こうとする。

 

「え、えっと…」

 

「はぁ、皆さん、クロステルマン中尉が困ってるじゃないですか。

 私が紹介しますね、まずその顔がいいけどジョークしか話さないのがゼレンスキー中佐、口が悪いけど美人なのがブダノワ少佐、喧嘩してる男の方がラデスク中佐で女性がラコヴィッツァ少佐です。

 でカラジッチ大佐、その変人がマゾヴィエツキ中佐です。」

 

「は、はぁ。ペリーヌ・クロステルマン中尉ですわ。」

 

 ガーランドに雑に説明されて何とかペリーヌは連絡将校の顔と名前を覚える。

 個性的な面々の連絡将校に圧倒されていた。

 

「ペリーヌというのはフランス語で女の道化師を意味するが道化師というのは古代エジプトから存在する最古の職業の一つで中世では持ち物という扱いであったが唯一王や諸侯に直接無礼な意見をぶつけられる存在でもあった。

 ある歴史学者は中世の宮廷道化師を一種のオンブズマンとしての役割もあったと主張している。

 ちなみにだが祖国ポーランドで有名な宮廷道化師でヤン・マティコの名画でも知られるスタンチクはアレクサンデル、ジギスムント1世老王、ジギスムント2世アウグストに仕えて王に意見していたと言われている。

 またクロステルマンという姓はフランスの中でもアルザス地方に多い特殊な姓だ、つまるところ君は民族的にはフランス人ではなくアルザス地方のドイツ系民族のアルザス人だ、でも君の英語には訛には北フランス特有、その中でもカレー周辺特有の訛りがある、つまり君はアルザス人だが北フランス、恐らくカレー周辺部出身だ。

 さらに見たところ仕草は子供の頃によくしつけられたらしいところがあり服の仕立ては高級テーラー、布も最高級品を使用してる、尉官クラスでこのような豪奢な軍服を着用できるとなると恐らく実家は大富豪が大貴族、また手のタコを見るとフェンシングの嗜みと銃器を使用してる、フェンシングは伝統的に貴族の嗜みとされているから恐らく君はカレー周辺の大貴族家出身、違う?」

 

 ペリーヌの名前を聞いてマゾヴィエツキが早口で言う。

 彼が変人と呼ばれる所以がこれであった。

 常に批判的で口を開けば本質に関係ない話をだらだら続ける変人であった。

 

「えっと…」

 

「クロステルマンさん、無視していいですよ。

 いつもの事ですから。」

 

 ペリーヌは益々混乱していた。

 ふとガーランドが気がついた。

 

「サヴィンコフ大佐はどこですか?」

 

「まだいるのですか?」

 

 連絡将校の一人がいないことに気がついた。

 それはロシア軍統合参謀本部から派遣されていた参謀将校で指揮官の兄の先輩だというゲンナジー・サヴィンコフ大佐だった。

 参謀将校ながら妙にガタイと運動神経が良い人物で強力なOts-01コバルト拳銃を使う男だった。

 ただ指揮官には信用されているようで基地内でもそれなりの信用のある人物だった。

 

「サヴィンコフ大佐という参謀将校が。

 どこ行ったんでしょうか?」

 

「サヴィンコフならコーシャといるんじゃないか。

 機密情報とかの処理の件もあるだろうし」

 

 オシポーヴィチが答えた。

 この基地にはロシア軍やその他各国軍の機密情報がそれなりに置かれていた。

 特にロシア軍はこの基地の地下にあるサーバーを参謀本部のバックアップ設備の一つとして借りていた、そのためこの基地には各種機密情報が秘密裏に置かれていたのだ。

 

「そうですね」

 

「で、クロステルマン君、色々話が聞きたい。

 時間をいただけるかね?」

 

「ええ、私の話でよければ」

 

 オシポーヴィチが改めて聞き了承した。

 だが数分後、彼女は後悔した。

 

 

 

「で、で、つまりネウロイって言うのは…」

 

「1940年の戦闘だが…」

 

「ウィッチというのは医学的に一般人とどういった差異が?」

 

「ストライカーユニットとやらの飛行原理が気になる」

 

「ウィッチはMG42のような我々特殊部隊員でさえ完璧に扱うのが難しい武器を軽々と使っていたと聞くが」

 

 ペリーヌは連絡将校たちから絶え間のない質問攻めにあっていた。

 彼女が解放されるのは数時間後、中々来ない連絡将校たちとペリーヌを探しに来たG36が来るまでだった。




(誰も得しない連絡将校設定)
・セルゲイ・オシポーヴィチ
ロシア空軍の連絡将校。35歳。大佐
元戦闘機パイロット。
出世コースからは外れてる。独身。戦術人形に気がある。

・ゲンナジー・サヴィンコフ(コードネーム:RR)
ロシア軍参謀本部からの連絡将校。45歳。大佐。
実際の所属は参謀本部情報総局(GRU)第5局。
GRUのエージェント、G&Kへの諜報活動を行っていた。
指揮官の兄とは軍士官学校の先輩後輩。
妻帯者。
得物はOts-1コバルトリボルバー

・エカチェリーナ・ブダノワ
ベラルーシ空軍の連絡将校。32歳。少佐。
見た目は百合のように美しいが口を開けば罵詈雑言。
喧嘩では一番強い。あらゆる面で男より強い。
合コンの負け犬。

・イワン・ゼレンスキー
ウクライナ空軍の連絡将校。40歳。中佐。
中々のいい男だがジョーク好き。ジョークと専門用語で話すと煙に巻く癖がある。
ロシア人だがロシア嫌い。
実は軍医。

・コンスタンチン・ラデスク
ルーマニア空軍からの連絡将校。38歳。中佐。
元駐英大使館付き武官。
参謀課程出身者。
モルドバ空軍の連絡将校のイリーナと仲が悪い。

・イリーナ・ラコヴィッツァ
モルドバ空軍からの連絡将校。29歳。少佐。
元ヘリパイロット。
ラデスクと仲が悪い。
見た目は大学生。
こっちはまだモテる。

・ミハイ・カラジッチ
セルビア空軍の連絡将校。52歳。大佐。
連絡将校では一番の年上。
妻帯者、子供もいる。
ツァスタバと仲がいい。
元特殊部隊員。強い。

・ヴォイチェフ・マゾヴィエツキ
ポーランド空軍の連絡将校。49歳。中佐。
ボトルシップ作りが趣味。
理論や屁理屈を並べて専門用語でまくし立てる変人。


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基地へようこそ!(3)

基地案内回最後。
ハンガリーとブルガリアの士官忘れてた。


「はぁ…疲れましたわ…」

 

 すっかり日が落ちた後、基地の廊下でペリーヌが肩を揉みながら言う。

 すると前を歩くメイドが謝った。

 

「大変申し訳ございません、クロステルマン様。

 将校たちには後で注意します」

 

「別にそこまでしなくても結構ですわ。

 彼らもアレが仕事でしょうから」

 

「失礼しました」

 

 前を進むのはG36だった。

 ふとペリーヌは彼女を見る。

 ペリーヌはマゾヴィエツキが見抜いたように良家の子女である。

 戦争で没落したがそれでもその教育の賜物でマナーに精通している。

 彼女が見てもG36は礼儀正しくマナーにも精通した完璧なメイドに見えていた。

 唯一常に不機嫌に思える程目つきが悪い以外は。

 

「G36さん」

 

「なんでしょうか?」

 

「いえ、礼儀正しく、マナーにも精通、仕草も完璧、完璧なメイドですわね。

 ただ、ちょっとその目つきが…」

 

「申し訳ございません、私はその、カメラの性能が悪いので人間で言うところの近視で遠くの物を見るのが苦手でして」

 

 G36のカメラはなぜか性能が悪く遠くを見るのが苦手だった。

 だから目つきが悪くよく気の弱い戦術人形や子供に怖がられていた。

 当の本人はものすごく優しいのだが。

 

「そうなのですか、失礼いたしましたわ」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 二人は月の光が差し込む廊下を歩き食堂の前に来た。

 

「こちらです」

 

 G36がドアを開けると中は騒然としていた。

 

「今日は飲むぞー!」

 

「お!G36!ウォッカだ!ウォッカを持ってこい!」

 

「私はビールをお願いします!」

 

 出入り口すぐの所でSVDとSV-98、M16が酒を飲んで騒いでいた。

 呼ばれたG36は溜息をつく。

 

「はぁ、ドラグノフ、お客様が来ているので節度を持ってください」

 

「大丈夫だ、節度をちゃんと持って飲むさ、だから酒を持ってこい!」

 

「大丈夫ですよ、私がついてますから」

 

「分かりました、このバカライフルの面倒はちゃんと見てください」

 

 G36はSVDを後輩のSV-98に任せる。

 二人は先輩後輩の関係、SVDには甘くなりがちだが優秀で十分任せられるだけの能力はある。

 G36はペリーヌを連れてさらに進むと第一部隊が飲んでいるところに遭遇した。

 

「だから言ってやったのよ、あのメイド冗談が通じないし堅物で色気なんて鼠のクソ程もないし可愛げなんてダイナゲートの方が1億倍あるぐらいだって!

 なのにあのバカ、それはワルサーが知らないだけだって、知らないって?この中じゃ最古参どころか空軍時代からの付き合いだって言うのに?ふざけんじゃないわよ」

 

 どうやらヴィーフリがWA2000にウォッカを盛ったようで珍しく大声で喚いていた。

 内容はG36の悪口だがWA2000は後ろに彼女がいることに気がついていなかった。

 

「ワルサー、人の話をする時は後ろをよく見てから話しましょうね?」

 

 G36が言うと一瞬で固まり油が切れたロボットのように振り返る。

 

「G、G36、こ、これはその、えっと、あの」

 

「お酒は程々にしてくださいね?」

 

「はい…」

 

 WA2000に注意すると矛先は隣で笑っていたヴィーフリに向けられた。

 

「ヴィーフリ、ワルサーに盛りましたね?」

 

「あはは、楽しいかなと思って…つい」

 

 さらに向かいでワインを飲みながら楽しんでいたAUGにも向けられる。

 

「AUG、止めなかったのですか?」

 

「あら、面白いと思わないのですか?」

 

「出た、愉悦部」

 

 人の不幸を楽しむ節のあるAUGは楽しんでいた。

 さらにG36が聞いた。

 

「G36Cは?」

 

「あそこだけど」

 

 ヴィーフリが指さす、指した先はカラオケマシンが置かれていた場所、見るとG36Cと指揮官が楽しそうに歌っていた。

 

「「Oh~♪Du schöner Westerwald~♪」」

 

「何か不味かった?」

 

「いえ、別に」

 

 楽しそうに妹が歌ってる姿を見て嫉妬やらいろいろな感情が混ざった微妙な表情をする。

 G36は人の合間を縫って歌っている二人に近づく。

 

「Über Deine Höhen pfeift der Wind so kalt~♪」

 

「Jedoch der kleinste Sonnenschein~♪

 あ、お姉さん!」

 

 G36Cが気がついて声をかける。

 

「ご主人様、クロ…」

 

「いいところに来た!一緒に歌おうぜ!」

 

「いえ、ご主人様…」

 

「いいじゃないですか、お姉さん、ね?」

 

 指揮官は彼女の手を取って無理矢理マイクを持たせる。

 

「分かりました、一曲だけです」

 

 そう言うとG36は歌っていたヴェスターヴァルトの歌を止める。

 

「ブー!」

 

「続きを聞かせろー!」

 

 一緒に騒いでいた職員や戦術人形からヤジが飛ぶがG36が一睨みすると黙った。

 戦艦クラスの眼光に敵う者はこの基地には指揮官以外いないのだ。

 

「はぁ、ご主人様、一曲お付き合い願います」

 

「OK、喜んで、お姫様」

 

「ヒュー!」

 

「お熱いねー!」

 

 指揮官とのやり取りに外野が囃し立てる。

 しかし二人は無視し曲を選んだ。

 そして流れたのは古い軍歌「褐色のモルドバ娘」だった。

 

「Как-то летом на рассвете

 Заглянул в соседний сад.」

 

 指揮官が最初の節を歌う。

 得意な曲らしく歌詞を見ずにG36だけを見て歌う。

 一方のG36も慣れているようで打ち合わせもせず節が終わると次の節を歌う。

 

「Там смуглянка-молдаванка  

 Собирала виноград.」

 

「Захотелось вдруг сказать:  

 Станем над рекою  

 Зорьки летние встречать!」

 

 G36が歌った節が終わると指揮官は彼女の手を取りその次を歌う。

 そしてサビに入る。

 

「「Раскудрявый клен зеленый, лист резной,  

  Я влюбленный и смущенный пред тобой  

  Клен зеленый, да клен кудрявый,

  Да раскудрявый, резной!」」

 

 サビを二人で歌う。

 周りの人々は手拍子を始め近くの戦術人形の手を取りステップと取る。

 

「「Раскудрявый клен зеленый, лист резной,  

  Я влюбленный и смущенный пред тобой  

  Клен зеленый, да клен кудрявый,

  Да раскудрявый, резной!」」

 

 そしてサビが終わるとG36が二番を歌う。

 

「А смуглянка-молдаванка

 Отвечала парню в лад:

 - Партизанский, молдаванский

 Собираем мы отряд.

 Нынче рано партизаны

 Дом покинули родной.

 Ждет тебя дорога

 К партизанам в лес густой.」

 

 元々若者とパルチザンの娘の恋愛を歌った曲であるこの曲の二番は娘が若者をパルチザンに誘う内容だった。

 二人は歌詞の内容を理解した上で歌っているのだ。

 そしてまたサビを二人で歌う。

 周りの観衆も手拍子とステップだけでなく歌い始める。

 

「И смуглянка-молдаванка

 По тропинке в лес ушла.

 В том обиду я увидел,

 Что с собой не позвала.

 О смуглянке-молдаванке

 Часто думал по ночам... 」

 

 3番は指揮官が歌う。

 だが歌詞の途中で一旦切る。

 

「Вскоре вновь смуглянку

 Я в отряде повстречал. 」

 

 そして最後の歌詞を続けサビを歌うが指揮官はG36の手を掴んで踊る。

 周りも踊ったり騒いだりの大騒ぎになっていた。

 

「Да раскудрявый, резной!フーハハハ!

 飲め飲め!踊れ踊れ!」

 

「ご主人様、あまり騒がないでください」

 

 歌い終わり興奮して抱き着くがG36は嫌がる。

 

「すまん、G36」

 

「この数日忙しかったのは分かりますが節度を持ってください。

 お客様も見ています」

 

「おお、忘れてた。」

 

 G36が注意する、パーティが楽しかったようですっかりペリーヌの事を忘れていたようだった。

 

「全く…ご主人様、いつもいつもそう肝心なところをお忘れになるところをいい加減直してください。」

 

「人間は完璧にはなれないから無理だね。

 だから君を頼ってるんだよ?」

 

「ご、ご主人様」

 

 G36の顔が赤くなる。

 この基地の日常でもある指揮官がG36を褒めちぎり照れる光景が今日も起きていた。

 

「あの、アーチポフ指揮官?」

 

「クロステルマン中尉、楽しんでいるかい?」

 

 するとペリーヌがやってきて声をかけた。

 どうも騒ぎに気がついて来たようだ。

 

「は、はい」

 

「そりゃよかった。どうぞ楽しんでいってくれ。

 見た事のない料理や味に舌鼓を打つといい、君らの世界には中国や韓国が無いって聞いてね、だから中華料理と韓国料理を中心に集めた。」

 

「ありがとうございます」

 

「それと、うちの子とも仲良くしてやってくれクロステルマン中尉。

 これからは長い付き合いになりそうだ」

 

 指揮官が言う。

 パーティは夜更けまで続き大騒ぎとなりペリーヌは出された中華料理の数々に舌鼓を打ったのだった。

 

 




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