思春期のぐだ男はカルデア女性陣のエロさに気がついてしまった※改修工事中 (ヒイラギP)
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ある日
落ちた枝葉にて


このエピソードは、Fateシリーズの剪定事象に纏わる設定をこれでもかと自分の都合の良いように解釈する事で執筆されています。

更に更に、筆者は書きたい事をFateを通して出しちゃう病気持ちなので解釈違いとか、無理矢理な展開が多くなってしまいます。

お前イカれてんだろって思った人は逃げる事をお勧めします


 ある夏休み、帰省と父型の実家の仕事が重なってしまい、なんやかんやあってお爺の仕事に同行する事になった。お爺の仕事は寺院で使用されるような仏具の修復と製造。修復は他にも多くの業者がいる(比較的に見るとではある)が製造に関しては一子相伝の特別な技術がいるらしくこの一帯の仕事はお爺がほぼ1人で請け負っていると聞いた。

 

 素人からすると寺にあるものと家庭にあるものの差なんて派手さと大きさぐらいのものなのだが、お爺によれば呪い(いのり)の籠っていないようなものは仏具と言えないらしい。結局その呪い(いのり)というモノを知らない俺にはお爺の言う違いを汲み取ってあげられなかったのだが、この際教えてくれる気になったのだろうか。

 

 と、なれば逆説的に一子相伝の家業を……呪い(いのり)を俺に継がせる気なのだろう。

 

 父さんはお爺の仕事を継がない事を選び、秘術によって仕事に関する記憶を全て失った。父さんも事実としてその事を知っているが、仕事の内容も、美術がなんであったのかも思い出せず実感が無いと語っていた。

 その時、父さんは何を見たのだろうか。

 

 幻想や神秘は否定される科学の時代に、呪い(いのり)だの秘術だのと、考えるほどに疑問が募る。

 

知らないのだから仕方ない事だと考えたところでふと思った。

 

お爺が匂わせるようなことばかり言って好奇心を唆るからこうなったのではないか!お爺ももう歳だ。家業を継がせるべく俺を誘導したのでは無いか。疑ってお爺を睨むと

 

「どうした立香、辺りが気になるか? 携帯ばかり見ていたから退屈かと心配していたが杞憂だったようだな」

 

 どうやら子供が並んだ程度では、どこか超然としたお爺には届かないらしい。

 

「充電がなくなっちゃうから自重してるだけだよ」

 

 せめてもの抵抗でぶっきらぼうに言い返しつつも、外が気にならないと言えば嘘になるので車外を眺めてみる。

 

 風景のうち自然が占める割合が高い。流れる川は清らかで5、6つほどの水車が木造の家屋に動力を送っている。まるで時代を遡ったような異様な風景だった。

 

「昔に戻ったみたいだ」

 

「いや、ここの連中は……そうだな『停滞している』とでも言えばいいのか。解明することを恐れ、知ることを恐れ、仏を畏れ、結果世界から切り離されたように暮らしている。排他(ローカルルール)主義者どもの末路だ」

 

 つまり、ここの人たちは独自の社会を形成してお爺以外の外界との接触を遮断しているということになる。どんなに小さい集落であろうとも行政によって管理されているこの時代に進化する文明を拒絶することを選ぶのは可能なのか? もし、可能なのだとしてそのあり方は奇異の目に晒されるに違いない。果てしない時間それを秘匿し維持するにはいったいどれだけの犠牲が必要なのだろう。

 

 そう思って考えてみる。まず、自分らの生活圏から外に出ることは出来ない。外に出れば外界との差から誰かに勘づかれる可能性があるためだ。そして新しい思想を生み出してはいけない。革命がなされれば停滞の選択は否定され、内側から秘匿が解かれてしまう。そして辿り着いた中にこれらを差し置いてもっと酷いことがある。

 

 彼らは増えすぎてはいけない。生活圏に限りがある為に、新しい思想を生み出させないが為に人を管理する必要がある。彼らは自らの手によって可能性を殺す選択を選び続けなくては存続できない。例えばそれは自由恋愛の剥奪であったり、あるいは学問の規制であったり、考えうる限りでもそのあり方は……少なくとも輪の外側からみれば歪んでいて恐ろしく見えた。

 

「俺の言葉から、多くを察したか。やはり立香は聡い子だな」

 

 お爺も俺と同じように反対側の車窓から異界を眺めていた。

 

「だから──」

 

 差し込む光に照らされたその表情は読み取れなかった。

 

「この地を踏むことがお前に良いものを残してくれると信じている」

 

 その声色は迷いや希望に満ちていて

 

「不器用なやり方でしか、お前に残せない俺を許してくれ。立香」

 

 確かに俺は言葉の中に呪い(いのり)を感じたのだった。

 


 

「ここで降りるぞ。ここまでが俺たちのルールが通じる境界線だ」

 

 お爺がトラックを止めたのは舗装された道の終わりだった。舗装とは言っても軽く均す程度のものであったが、大きな揺れを感じる事なくトラックが走れる道はこのコミュニティにおいて必要ない。お爺を招くにあたっての最大限の譲歩、言葉通りの境界線なのだろう。

 

「え、ちょっと待って?ここまでにあった家は何なの?」

 

 おかしい。トラックを異物として置いて行かせるなら、境界線の手前に家屋があるのはここのルールにそぐわない。ありえない事なのだ。

 

「あれは……本来ならば言わない方がいいのだろうが……いや、話そう。あれは流刑地だ」

 

「流刑地?」

 

「ああ、知らなかったか。罪を犯した者を隔離するための場所だ。大昔の事だが、政争に敗れた権力者なんかの政治犯が送られた場所のことだ。普通に生きてりゃ教科書の中だけの存在だな」

 

 そうか、隔離。それならばあの場所以上の適所も無い。見通しの良い平地に長い道、隠れられるような場所も多くないから脱走は難しいだろう。その思想を罪とされ、敗北し、牙を抜かれ、定期的にやってくる外の存在を見るたびに絶望する。心を殺すための罰。

 

「なんて酷い」

 

「それだけではない。本物の悪人もあそこにはいる。ここには必要なものだ。そもそもここが必要かと問われればそればかりではないが」

 

 明言を避けているもののお爺もここのあり方をよく思っていないことがわかる。だからこそ気になるのは、お爺がここで俺に望んでいることだ。確かに俺にとっては何もかもが常識外れで受け入れ難い。だからこそと言うのもあるが、流石にここのあり方を受け入れろと言われるのは嫌だ。……最終的に俺は何を得るのだろうか。

 

「深く考えるのも良いが、ただの一施設に過ぎん。日が暮れる前に進むぞ」

 

「ああ!お爺待って」

 

 2人分ほどしかない道幅を少し余らせて行く道は凸凹している。舗装されていない道なんてなかなか歩くものではない。しっかり大地を踏みしめなければ躓いてしまいそうだ。しかし悪くない。夏休み明けに山遊びを自慢する友達の気持ちがわかった。

 

「あまりはしゃぐと体力が持たんぞ。それに……あぁ遅かったようだな」

 

 俺の住んでいるところはここと比べれば都会だ。都会は便利で良い。日常を過ごすなら都会を選ぶが、ここの自然は楽しい。

 

「うわぁ!」

 

 ずっこけて土に塗れてもアスファルトのように膝を削ることなく、ただ地面に迎え入れられるだけだ。痛くないわけではないが、笑える。泣くようなジクジクとした痛みではない。この痛みは好きだと思った。

 

「良いこと一つ目!」

 

「……馬鹿者、客のところへ行くのだぞ?おい、土を払うから近くへ来い」

 

「うん。ごめんなさい」

 

「気にするなと言いたいところではあるが時と場合だ。目的地についてからであれば何も言うまい」

 

 目的地というと寺のことだ。寺にあそんで許される場所なんてあるのだろうか。もし遊べなかったら嫌だが、まだ寺のての字も見えないことから道のりは遠いことがわかる。なるほど、お爺の言う通りこのままでは目的地に着く前にバテてしまうだろう。長く歩くのは遠足で経験したがあれは楽しくも辛いもので、足の感覚がなくなってもまだ終わらず。一定のペースで行きすぎた私語を禁じらられたそれは、さながら行軍のようであったことを覚えている。周囲の川や森林が夏の強烈な暑さを和らげてくれているのは幸運だ。

 

「具体的には3時間は歩くぞ」

 

「あー……それははしゃいでいられないか」

 

「ジジイと子供だからな。無理は出来ない。あまり意気消沈するな。寺には確か1人が2人子供がいる。確か少し上ではあったが同年代のもいたはずだ。寺の連中が嫌な顔をしたとしても無理矢理話は通してやる」

 

「無理矢理って……お爺が周りから嫌われたりしたらやだよ?」

 

「そう言って俺を慮るわりに頬が緩んでいるぞ?嬉しいのなら、望んでいるのなら、素直にそう言えば良い。大人になればそうは行かなくなるから今のうちに……だ」

 

 見えすいた気遣いはお爺には通用しないようだった。すぐさま看破され、諭されてしまうとそれはもう恥ずかしくて、今だけと言われても早く大人になりたいと思わずにいられなかった。




本気で続きが思いつかないので、匂わせる程度にしとこうと思った過去のお話を、物語にしてゲロっちまおうと思います。

まーじでどんだけ続き書かないんだって話っすわ


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メイン√
導入編(0.1話)/侵食の日


staynightで言うところのHF√から書き始めたお馬鹿がいるらしい。お兄さん許して
内容もガバガバでこれもうわかんねぇな
というわけで0.1話です
はい0.1話です。
本編を手直しする合間はこちらを進めていき、最終的には一本の物語になる・・・予定です。めちゃくそに言われたらやめます。

追伸 本編消したのでこっちが実質本編です。

追々伸 近々、タイトル変更と主人公の名前を藤丸立香として書き直します。


 少し勝ち誇ったようにして目覚まし時計に今日分の仕事の終わりを告げる。目覚ましが鳴る前に目覚めた朝は心地がいい。日差しが無いので何をもって今を朝とするかと問えばこの時計に依存しているのだろう。ところで、だ。

 

「……嫁入り前の女の子が、そんなことするもんじゃないぞ」

 

「いえいえ、嫁入りなら既にますたぁにしておりますのでお気になさらず」

 

「OKした覚えないからな。とりあえず顔洗ってくる」

 

「それなら、私も共に」

 

 清姫がマイルームに侵入してくるのも慣れたことではあるが今日はなぜかいつもよりも心拍が上がっている。おかしい。気取られまいと逃げるように洗面台へ向かった。

 

 朝の口内は便所と同じレベルで雑菌まみれらしい。そんな口で人類史に名を刻んだ英雄たちと対話するわけにはいかない。清姫のように寝起きを狙う輩は流石にノーカウントだ。歯ブラシの無数の毛が、朝特有の気だるさを吹き飛ばす。口をゆすいだ後、顔を洗ってしまえばもういつも通りの俺だ。

 

「確か今日の研究会は休みだったよな」

 

「はい。今日はメディア様の所で魔術の鍛錬。その後はリソース回収ノルマ達成まで種火集め……だけだったかと」

「お、助かる。ありがとう、清姫」

 

 なぜ俺の予定を把握しているのかは一切不明。付き従って予定を教えてくれた様子はまるでメイドのようだ。メイド清姫……うん、大いにありだ。

 

 約束の時間までに朝食を済ませたいので、着替えを済ませて食堂に向かう。もちろん清姫には一旦退室してもらった。確かに特異点を超えたり、サーヴァントに教えを乞う中で、一番最初の時より幾分か体つきはがっちりしてきたはずだが、比較対象は英雄なのだ。見て面白い体でもないだろう。

 

「おはようございます。先輩」

 

「おはよう。マシュ。マシュもこれから朝ごはんか」

 

「そうです。よろしければご一緒してもいいですか」

 

 途中でマシュにあった。するりと逆サイドをとってくるあたりが本当に()いやつだ。

 

 確か今日の朝食の当番はエミヤだった気がする。安心と安全の厨房の長だ。別腹というのは実在する体の機能だと聞いたのはいつだったか、どうやら甘いものでなくとも発動するらしく獣の唸り声のように腹の虫が鳴いた。

 

 お盆と箸を人数分取って配膳の列に並ぶ。漂ってくる味噌汁の匂いから察するに今日は和食だ。日本出身の身としては懐かしく、そして一番食べ慣れた味だ。

 

「やっぱり味噌汁はいいなぁ……中でもエミヤの作るのは格別だから、楽しみにしてたんだ」

 

「そう言って貰えると作り甲斐がある。焼き鮭のおまけだ。しっかり食べるんだぞ」

 

 そう言って一切れ増やしてくれた。これが母性か……

 

 カルデアの食堂は中々に広いため席取りはしなくて済む。適当なテーブルに全員が座るのを確認してから食べ始めた。

「「「いただきます」」」

 

 鮭の程よい塩味で米が進む。その米もふっくらしていてべたつかないベストな炊き加減と言える。米、鮭、米、鮭、これだけでも無限に食べられそうだがここで漬物を一口。こりこりと心地の良い食感に少しばかりの塩辛さ、美味い。追撃の米。次に来るのは鮭か、漬物か、二者択一の究極だと思われたそこに新たなる選択肢が、()()()だ。たかが味噌汁と侮ることなかれ。出汁、味噌、具。それらの調和が織りなす圧倒的暖かさは最早神秘の面影すら放つ実家の固有結解だ。一口食べた瞬間に言葉を失った俺たちは一心不乱に朝食を貪った。

 

 朝食を終えて向かう先はメディアさんのマイルームだ。特異点で最低限の自衛能力がないと危ないということで魔術を教えてもらうようになったのが第2特異点を攻略した時からだったか。思えば結構長い事教えてもらっているが、これがなかなかに楽しい。

 

 あの有名なギリシャの大魔女であるメディアさんに魔術を教わっていると一般の魔術師が聞いたら卒倒するのではないか、とマシュが言っていた。弟子として師匠の名声に傷を付けない為にも、特異点でみんなに迷惑をかけない為にも、もっと強くならなくてはいけない。思いに呼応するように気づけば走りだしていた。

 

「ぐだ男です」

 

 一言で扉が開いた。いつも通りの時間に来たつもりだったが待たせていたようだ。

 

「待たせてしまったみたいですね。すいませんでした」

 

「気にしないで、時間通りだから」

 

 メディアさんに促されるまま部屋に入る。何度見てもTHE魔術師といった感じの部屋だ。かなり高度な術式が刻まれた器具が棚に規則正しくまとめられているが高度すぎてどういった用途の術式か全く理解できない。メディアさんがさっと腕を空に滑らせるだけでどこからとも無く机と椅子が引っ張られるように出てきた。

 

「そこに座って。今日は儀式魔術の実習をしようかと考えているの。理論はもう説明したし割愛して、準備運動したらすぐに始めるわ」

 

「アレ、まだやらないとだめですかね……」

 

「何事も基礎が大事なの。魔術回路を慣らして高度な術式でも失敗しにくいようにしておかないと危ないじゃない」

 

 すべて言い終わらないうちにシミュレーターまで転移していた。これはいつものウォーミングアップで、メディアさんの放つ魔力弾を基礎的な魔術を駆使して10分間凌ぎきるというものだ。かなり実践的な訓練で効果的なのはわかっているが当たると滅茶苦茶痛いので、俺はこの訓練が苦手だった。

 

「それじゃあいくわよ」とまるでキャッチボールのように放たれたそれは、スポーツカー並みのスピードでありながら、その軌道を何度も変えてこちらに迫る。おかしいな、間違いなくいつもより込められた魔力量が多いぞぉ? この速さ、威力ならば骨程度、簡単にへし折れるだろう。つまり、下手すりゃ死ぬ。

 

廻れ(around)/廻れ(around)/強化よ(strength)/加速せよ(acceleration)!!!」

 

 体中を血液のように強化魔術が駆け巡る。そのまま横に跳びすぐに起き上がって走りだす。止まらないことがこの訓練を何度かやる中で身に着けた必勝法なのだ。

 

 地面に着弾すればが爆炎が上がる。俺もそうだが魔力弾も同じように立ち上った煙を遮蔽物にして、不意を突くようないやらしい攻撃を仕掛けてくる。避けた先にいきなり現れたり、大きく外れたと思いきや時間差で背中から来たり。……これ殺しに来てますよね? 

 

「ちぃっ! 掠ったか……ってあぶねぇ!!」

 

 左腕に強い衝撃が走る。当たり方に気を配ったのでダメージは少ないが姿勢が大きく崩れてしまった。そこに狙ったかのように撃ちこまれた魔力弾を拳ではじく。詠唱があるものよりも精度は低いが無詠唱でも最低限度の強化は可能だ。激突の反動を利用して後方へと飛ぶ。そこにも左右から魔力弾。着地すら間に合わないであろう完璧なタイミングに思わず舌打ちをする。

 

生成されよ(create)/血の鉄(blood・iron)(pole)!」

 

 おあつらえ向きに拳から流血していたのでその血から1.5mほどの棒を生成し、地面を突くことで跳躍距離を引き延ばす。棒術も棒高跳びも経験が無く、不安定だったがなんとか無事に着地に成功した。役目を終えた棒を回転を加えて目の前に展開された弾幕に投げつける。誘爆が誘爆を誘い、人ひとり分の道を作る。そこに活路を見出して駆け抜けるが、抜けた先にも魔力弾が展開されていたため急速反転。追いすがる5発の追尾弾から逃げながら無詠唱で何個か魔力の壁を作り進路を妨害する。何個かこれで落とせると思ったがするりと避けられてしまった。確かに苦し紛れの抵抗ではあったが理不尽さを感じる。

 

「あぁもう鬱陶しいなぁ! 徐々に(gradually・)増し(gain)/連鎖し(chain)/爆発する(explosion)/魔力塊(energy・lump)!」

 

 発射した魔力を中心に何度も爆発が起こる。追尾弾は規模を増しながら迫るそれを避けられずに数を減らしていくが

 

「また腕を上げたわね、少し難易度をあげましょうか」

 

 俺の魔術が撃ち落とされて一瞬間の静寂が訪れる。何やら不穏なつぶやきが聞こえると、竜牙兵が召喚され、無数の魔術が待機状態で展開された。

 

うん! 殺す気だ!? 

 

 そのすべてが動き出せば、高速の遠距離攻撃と頑強な歩兵の近接攻撃に翻弄され、もう何が何だかわからない。適当に編んだ術式を適当に放れば魔力弾か竜牙兵に当たる。完全な物量での包囲網。防御が、迎撃が、回避が、反撃が、奇策が、ごり押しが、全て、全て、圧殺される。何をしても膠着状態のままで……いや弄ばれているのか。

 

 考えれば当たり前なんだろうが熱くなった今の俺にはサーヴァントと人間の覆らない性能差に歯がゆさを覚える。恐らく集中が途切れた時、速攻で負けるんだろう。いや……そうだろうか。実戦なら負けるだろうが、この訓練は時間さえ稼げればそれで勝ちなのだ。

 

 本当にか?俺が強くなるためにこの程度の試練は潜り抜けられないといけないんじゃないか?世界を救わなくちゃいけないんだ。眼前の困難は全てねじ伏せるくらいの気概でいかなくちゃいけないんじゃないか?ちょうど密かに作った略式交神儀式術がある。これからの切り札になり得るかどうかここで試すことにした。さあ……

 

 ──一泡吹かせて見せようか──

 

炎と霜を以て 滴となる

滴こそ始まりの命 巨なる人

その血は海

その体は大地

                                           」

 詠唱を開始すると暴風のように炎と冷気が舞い始める。右手が焼け、左手が凍り付き、胸の中心に暖かな光が灯る。本来ならば北欧の原初の巨人であるエミルに祭壇で祈りを捧げ、大地への感謝や豊穣への加護を目的とされるこの儀式だが

儀式魔術を勉強するようになってから密かに特訓していた俺だけの魔術。強力な反面代償も大きく、この魔術を使うと両腕が丸三日使い物にならなくなる。普通に焼けているし、普通に凍結しているため仕方ないことだが、とても痛い。拷問されているようだ。

 

「何をしてるの!?馬鹿なことはやめなさい! 」

 

メディアさんが血相を変えて怒鳴る。大人げないことしてくるからだ。こうなったら最後までやってやる。

 

巨人エミルの全ては世界

故に願う 世界(エミル)に願う

我が拳 我が戦いに祝福を

我が成す勝利に祝福を!!!!

                                          」

併せて12節。北欧神話の始まりを称える詩を唱えれば、純粋な力の塊が流れ込んでくる。ふと、万能感。左を振るえば凍り付き、右を振るえば灰と消える。ムスペルヘイムと二フルヘイムから溢れ出た先ぶれのみで簡単に滅びるとは、この骨の兵隊どものなんと矮小なことか。どれ、この体を使い、……なんと!この地より先の世界がないときたか!我の遺体を燃やし尽くすなど不敬中の不敬。我が肉体も元凶の打倒を望んでいることだ。よし今より出向き討伐を……

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)!!! 一瞬神霊になっていたような……危なかったわ。直接神と繋がろうだなんて、これはお説教が必要なようね」

「・・・あれ?俺は一体……って勝負は!?」

「あれは訓練でしょ?まったく……自分のやったこと、しっかり反省しなさい!」

「いやぁ、ついムキになっちゃって……でもメディアさんもひどいですよ!あんなの普通にやったら攻略できませんって!ってかアッツゥゥゥゥ!!!!サムゥゥゥゥ!!!アッツゥゥゥゥ!!!!……何ですかこれ!?」

「今日は予定を変更して、あの術式の危険性についてみっっっっちり教えますからね」

「まず先に腕の治療を……「つべこべ言わずに来なさい」ひぇぇぇ!!!」

 この後滅茶苦茶勉強した。

 

 

 

 

 




フェイトシリーズをおさらいするたびにうそ!私のfate知識無さすぎ!?と死にたくなっているので、やさしい兄貴姉貴たちには生暖かい目で見守ってください。
がんばります!(卯月)

勝手ながら、構成をやり直す事が確定したので、導入編が3つ投稿された瞬間に本編が消し飛びます。申し訳ありません


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導入編(0.1EX)/潔白の蛇

すまない。中々進まなくてすまない。


ますたぁの寝顔が目の前にある。なんと素晴らしい事でしょうか!いつまでもこうして眺めていたいのですが、もうすぐ起床の鐘が鳴ってしまいます。それにますたぁが起きてくださらなければお話しすることもできませんし……ああ!ままなりません!せめて脳内に焼き付けましょう。

 

ますたぁが起床してしまいました。何やら嬉しそうに時計の仕掛けを止めています。鐘より早く起きた事に勝ち誇ってあるようです。ふふふ、可愛らしいです。寝顔を見られる時間は減ってしまいましたが、希少なますたぁの姿が見られるならば、こういった朝もありでしょう!

 

「嫁入り前の女の子が、そんな事するもんじゃないぞ」

 

私のますたぁはこういった強い押しにもなびきません。浮気の心配も少ないという事なのですが、少し悔しいので反撃します。

 

「いえいえ、嫁入りなら既にますたぁにしておりますのでお気になさらず」

「OKした覚えないからな。とりあえず顔洗ってくる」

 

そう言うや否や寝癖の付いた髪に手ぐしをかけながら洗面台へ向かっていきます。あ、私とした事が早くついて行かなくては!

 

「それなら、私も共に」

 

ますたぁが歯を磨いた後のコップ。ますたぁが歯を磨いた歯ブラシ。……ゴクリ。いえ、そのような事は致しません。はしたないですわ!……本当に致しません…わ……

 

何とかバーサークする心を押さえつけますたぁの元へ行くと、何と着替えるから一度外へ出るようにとお申し付けになりました。いえ、それは当然の事。男女が肌を一番に晒すのは初夜の時と相場が決まっています。

 

なの、ですが、これは何でしょうか。背徳が背筋を駆け上るような甘い、甘い痺れ。嗚呼、身を焦がす恋とは違うこの、内から溶けるような……流れ込んで……来るような……

 

その玉体はいかなる芸術よりも勝るとも劣らない物でございます。特異点での戦いの中で鍛え上げられたその肉体美は、ますたぁ本人からすればまだまだらしいですが、私には十分に思えます。だってますたぁがカルデアを、ますたぁ自身を守るために必死になって形作られたのだから、ますたぁの努力の証なのだから……

 

そ、それにしてもひ、卑猥……です。ああ!髪を掻き上げて!色気が爆発ですわ!ますたぁ、ますたぁぁぁ!!!ぁああ!!

 

何という事をしてしまったのでしょう。……それにしても……はっ!いけません。いけませんわ清姫。はしたない娘はきっと、ますたぁに嫌われてしまう。嫌われたら、きっとますたぁは私から逃げて、しまう。逃げないで……ますたぁ、ますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁますたぁ。

 

ますたぁに肩を叩かれてやっと正気に帰ることができました。そうです。そうでした。ますたぁは私を正面から受け止めてくれた。私の、醜い竜の炎ですら……やっぱりあなた以外考えられないわ。

 

食事に向かうとのことで当然同行させていただきます。途中でマシュさんにお会いしました。見事な身のこなしでますたぁの反対隣を取るとは中々やるようになりました。警戒の段階を引き上げましょうか……

 

悔しいです!!!美味しいです!!!でも、悔しいですぅぅ!!!

 

なんとかエミヤさんの料理スキルを盗めないでしょうか。恐らく数年では足りない、鍛錬の先にある境地なのでしょう。ですがその一端でも習得できれば……っ!できることならば、ますたぁに私の作った朝食を食べていただきたい……この後ますたぁは確か魔術の鍛錬でした。ならば私は料理の鍛錬をするべきでは!?天啓得たり!です!

 

「む、清姫か、どうした?マスターなら私よりも君の方が詳しいと思うが」

「エミヤさん、いえ、エミヤ先生!私に料理を教えてくださいまし!」

「なっ!?バーサーカーが料理、いやタマモキャットの前例がある分否定はしまい。だが、料理とは精密さが求められる研究のようなもの、狂化に陥りながらその地獄に身を置く覚悟はあるかね?」

「ええ、ますたぁに私の作った朝食を食べていただくためにも!」

「フッ、その気持ちがあるなら最早止めはしまい……ついてこれるか」

 

「イメージするのはいつだって食べる人の笑顔だ」

「はい!」

 

「それ以上味噌を入れれば地獄だぞ」

「はい!」

 

「我が献立は乱れる事無し」

「……?」

 

「忘れてくれ」

「はい!」

 

「凄まじい上達具合だが、別に、師匠面しても構わんのだろう?」

「ええ!ありがとうございました。エミヤ先生!」

 

今、私はとっても気分がいいです!明日はエミヤ先生が厨房をいつもより少し早くから開けてくださるので、ますたぁに早速料理を食べさせてあげられます!ますたぁが私の……

 

「アッツゥゥゥゥ!!!!サムゥゥゥゥ!!!アッツゥゥゥゥ!!!!」

 

今の悲鳴は、まさかますたぁの!?




全肯定系ボイスドラマを聞く作者
「やめろぉぉぉぉ!!!そんな頑張れてないからァァァァァ!!!うわぁぁぁぁ!!たすっ、助けて!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………………」


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導入編(0.15話)/お仕事の時間

種火周回と後遺症のお話です。

間違えて11話に投稿してしまいました。申し訳ありません


熱い、寒い、熱い、寒い。無限にも思われる程繰り返される苦しみが二度と癒えないのだろうかと思う程に激しく俺を痛めつけている。熱くなれば熱い、冷たくなれば寒いと感じた事を垂れ流す事しか出来ずに悶える。

ああ、馬鹿な事をしたなぁ。少し前の愚行を思い返す。痛みに少し慣れて出来た余裕で周りを見渡すとメディアさんが呆れた様子でこっちを見ていた。

 

「変な術がかかっていると思ったらまさか痛覚を魔術で鈍くしていたなんて思わなかったわ」

 

へ、変な術って……あれでも結構長いこと考えたんだけどなぁ。

メディアさんがスッと手をかざすだけで痛みが和らいだ。俺が自分だけで何かしようとすると何故かいつもメディアさんに迷惑をかけてしまう。今回は史上最悪だ。

 

「ごめんなさい」

 

そう言う事しか出来なかった。練習の時は詠唱を半分で区切ったのでこれまでの被害ではなかったのだが両腕は結構長い間痛みが残る結果になった。ここから結果を予想しなかった事が間違いだったのだろう。

 

「はぁ……両腕はボロボロ、心臓は止まりかけで、精神汚染の影響か衰弱も激しいわ。魔術の規模を考えれば生きてるだけでも儲け物だけれども、もっとよく考えて欲しいわね」

 

魔術は便利な道具にも自分の首を絞める縄にも成る。最初に教えられた言葉が脳裏によぎった。同時に心配をかけてしまったこと、教えを破る様な危険な事をしてしまった事で胸が締め付けられる様に痛くなった。

 

「ごめんなさい」

 

また、そう呟いた。それ以外の言葉を見つけられなかったからだ。ただただ叱られた子供の様に自分の中で反省を繰り返しながら謝罪をする他に無い。罪悪感で俺はもう動けなくなっていた。

 

「そんな状態でうわ言みたいに謝罪を繰り返されるとわたしが痛めつけたみたいじゃない。もういいわ。あなたも反省してるみたいだし、私も大人気ない事をしてしまったしね」

 

「……ありがとうございます。最後に、本当にすいませんでした」

 

「次は3日後にしましょう……今日できなかった授業分もみっちりやってあげるわ」

 

少し魔術が上達したからって調子に乗った罰だろうか。罰だったとしても周りに迷惑がかかる罰は辛い。そういった事を決める神様がいたら今度罰を与える時はひっそりとやる様にお願いしたい。

 

通路を歩く。マイルームでシャワーでも浴びようか、それとも最近ご無沙汰ですだったアレでもしようかなんてあれこれ考えていると、何故か慌てた様子の清姫がいた。

 

「悲鳴を聞いて飛んで参りましたわ。お怪我はございませんか?ってその腕……あぁ、おいたわしや。どうしてその様な事になってしまわれたのですか。少しの間は安静にしましょう。ゆっくりでよろしいのでマイルームへ……」

 

なされるがままにマイルームに連行される。なんだか今日は清姫と一緒にいる時間が多い。パーソナルスペースに入ってこられるのはあんまり好きじゃないが、清姫は妹みたいな存在なので全然嫌じゃない。ーーこれを言うといつも不機嫌になるがそこがまた可愛いのだーー

 

「ありがとう清姫。でも大丈夫。もうそろそろリソース回収の時間だろうから行かないと」

 

「そんな怪我で何ができると言うのですか。無理をしても他の皆さんの迷惑になるだけですから安静にしてくださいまし」

 

「そこをなんとか頼むよ。最近カルデアに来た謎のヒロインXさんにお祝いで少し多く種火をあげようと思っているからさ、出来れば休みたくはないんだ」

 

「確かに新しいサーヴァントの方が来た時はいつもそうしていらっしゃいましたが……仕方ないですね、ですが私も同行します」

 

「わかった。心配かけてごめんね」

 

カルデアでは一日に数時間、種火を回収する時間がある。そうして得たリソースを均等に分配して全体の底上げを図るのだ。

 

今日のメンバーは孔明とバニヤン、フレンドのランスロット。そして約束通り、清姫が選ばれた。射程の長い宝具を持つサーヴァントを多く編成して孔明が補助をする。誰がどう見ても典型的な周回編成だった。

 

エネルギーを使えば必ずそれは減衰する。そうして散った魔力リソースが魔獣の死骸に根を張り、マナを吸収しながら巨大化した物が種火だ。彼らは成長の度で色を変える。銅、銀、金の順で強い個体になる種火の中で、カルデアがターゲットにするのは金だけだ。

 

バニヤンのチェーンソーが猛烈な音と共に種火達を伐採し、ランスロットがどこから取り出したかわからない機関銃で蜂の巣にする。孔明の的確な戦力の運用によってバーサーカーの弱点である耐久面と理性の欠如を完全にカバーできていた。

 

俺が受け持っていた筈の魔術支援は無い。それでも安定した成果を上げ続けるサーヴァント達を見ていると喜ぶべき事なのだろうがどうしようも無い暗黒色のもやが胸にかかるのを抑えられない。やはり罪悪感、だろうか。足に、腕に、絡みつくそれは何も出来ない現状に呼応する様に濃い黒を強めている。

 

「危ない」と清姫に引っ張られると顔のすぐ横を火の玉が通り抜ける。一瞬でも気を抜いてはならない戦いの場で一体俺は何をしていたんだろうか、傷が痛むのかと心配する清姫から堪らずに目を逸らした。

 

その他には特に何事もなく種火回収のノルマは達成された。謎のヒロインXさんの歓迎会の分もしっかりと確保できている筈だ。いつまでも落ち込んでる訳にもいかない、アレをする為にもカルデアに帰還してすぐにマイルームに戻った。

 

1人きりのマイルームにはカルデアの誰にも知られていない俺だけの秘密がある。こっそりこしらえた二重底の箱から赤いラインの走る木刀を取り出して軽く一振りしてみる。そう、これが俺の秘密だ。

 

始まりはカルデアに来るよりももっと前、俺が中学生だった頃。俺は、……俺は例に漏れず厨二病を患っていた……

何と戦うわけでもなく、剣道をしているわけでもなく、何故か素振りを欠かさなかったり、筋トレをしまくって運動部でもないのに腹筋が割れていたり、前髪がやけに長かったりした中学時代。

今でも、重量を上げる魔術をかけた木刀を一人で振り回すほどの後遺症に悩まされている。というか、カルデアに来てから再発の兆候が見られるのだ。それは何故か……もちろんサーヴァントのおかげ(せい)である。

 

魔術に武術に超常的パワーのオンパレードなサーヴァントの存在は俺の内に封印されていた病を強化復活させていたのだ。

自衛がなんだとほざいていたが魔術を学ぶきっかけはかっこよかったからである。まぁ、学ぶ途中でふざけた気持ちは捨てたが、それでも攻撃魔術を使う時はいつもかっこいい詠唱を心がけている。そんな俺が木刀を振り回すことに何の疑問があると言うのか。

 

一振り毎に刻印された魔術によって重量が大きくなる。腕にかかる負荷が少しずつ増えて、しっかり止めるのが難しくなっていく。だが、それが良い。思考を漂白し、純化した意識の中で肉体の限界まで上り詰めていく感覚が心地良い。目指す場所は昔アニメで見た剣士達の様な一撃を習得する事だが、たった24倍の重量でヒィヒィ行っている様では話にならない。今日は更に増やして28倍にしようか。

 

突如、身体中を刺す様な痛みが襲う。そうだった。俺は今怪我人、無理な運動は避けるべきだったのに……ノリノリで素振りをする姿など偶然でも見られたくなかったからマイルームの電子ロックをガチガチにかけていた筈、醜態を晒す可能性はない。もう疲れとか痛みとかで満身創痍だったが、このまま寝るわけにもいかないのでシャワーを浴びて汗を落とす。体を拭いて、コップ一杯の水を飲み干したところで耐えきれなくなってベッドに倒れ込む様にして眠ってしまった。

 

翌朝、肌寒さに起きた俺は自分が全裸だった事に驚き、そして寝ぼけが収まってきた頃になって昨日を思い出し赤面する事になるがそんな事、知る余地もないこの時の俺は沈む様に眠ってしまった。

 

 




リアルの事情で投稿頻度が落ちます。申し訳ありません。
忙しくなってどうしようも無く辛くなってしまうヒイラギに感想でエールを送ろう!
せーのっ!「「「「「「「「「【ここに感想】」」」」」」」」」


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導入編(0.2話) / 恋愛恐怖症ぐだ男

へーい!裏設定を知らないと分からん鬱展開を裏設定を開示せずにぶちまけてしまうぜー!
おいおいおい。メインタイトルどこいった!
ですがご安心を、何とかします(吐血)



…………

 

………

 

……俺は何をしていたんだ!?

 

体は筋肉痛で痛みを訴え、心も黒歴史の再誕で痛みを訴えている。壁に立て掛けてある木刀が夢なんかじゃ無いと語りかけてくる様で、我慢ならなずに二重底の箱の底に叩き込んだ。

 

俺がまたあの状態になっていた事が誰にも知られないように、脳筋じみた思考回路はクールでインテリジェンスなモテオーラで封印しなければならない。特に今日は駄目だ。

 

誰かにバレた訳ではないのに止まらない冷や汗、早いうちに平常心にならなくては酷い目に合うだろう。今日は待ちに待った(地獄の)恋愛研究会の日だ。—明日だったりしないかなぁ—何て気持ちでカレンダーを見るとデフォルメされた清姫のイラストで今日の日付が強調されていた。嗚呼、逃れられない!!

 

気を取り直して(死地へ向かう覚悟とも言う)いつもの制服に着替え、そして朝食を食べよう。……筋肉痛が邪魔してハンガーまで腕が上がらない。ジャンプしてなんとか取ったが、着地と共にまた痛みに呻く事になってしまった。

 

着替えも済ませて後は部屋を出るだけなのだが、なんとなーく嫌な予感がしてドアに近寄るのを躊躇ってしまう。だが、ここで何もせずにいても腹が減るだけなので、ここは一思いに開けてしまおう。

 

—おはようございます。ますたぁ—

 

「き、清、姫……?」

 

清姫だった。ドアの真裏に直立不動で、一体いつからそこに居たのだろうか。いつも通り、マイルームに入ろうとするだろう清姫がもし……

 

「清姫、いつからそこにいたんだ?こんなに冷え切って……」

 

ありえない話だが……

 

「もしかして」

 

—はい。その通りでございます。ますたぁ—

 

清姫がにこりと微笑む。いつも通りの笑顔なのに、俺は蛇に睨まれた蛙のように、痺れるように、動けなくなってしまう。

 

—私、ずっと待っていました。扉が開かなかったので、いつ開けてくださるのかと、一刻、一刻、数えながら—

 

よく考えても考えなくても部屋に入って良いとは言ってないが、確かに予測出来た事だった。女の子を部屋の外で待ちぼうけさせるなど鬼畜の所業で間違い無い。

 

「ごめん、清姫。昨日は……何してたかは言えないんだけど、とにかくマイルームには誰も入れたく無かったから電子ロックをいつもより硬くしたんだ。それで、やる事が終わった後は力尽きてすぐ眠ってしまったから、気付けなかった」

 

「あと、その喋り方怖いから元に戻してくれない?」

 

「はい、わかりました」

 

「結構あっさり戻すんだね……」

 

—こちらが、お望みですか?—

 

「いいえ!いつもの清姫が一番です!」

 

不機嫌と上機嫌が混在したような混沌としたテンションの清姫と共に食堂へ向かう。今日の当番は……そういえば知らないなぁ。

 

清姫に「今日の朝食当番って誰だっけ」と聞いてもはぐらかされてしまうので、結局食堂に着くまで誰が朝食当番なのかはわからなかった。

 

清姫だった。なんかもうここ最近清姫尽くしだ。俺がメディアさんに魔術を教わりに行ってる間にエミヤに教えてもらったそうだ。健気な清姫……妹ポイント爆上げである。妹であるところがポイントだ。家族愛ならば、異性の愛でなければその愛こそ永遠になり得るのだから。

 

朝食そのものはめちゃくちゃ美味しかった。高いクオリティもそうだが、何より殆どの料理が俺好みの味付けで、何というか愛を感じた。そう、味噌汁はこのくらいの濃さでちょうど良いんだ。……愛。

お爺さんの仕事について行って山村に1ヶ月程泊まった時にお寺で食べた朝食のことを思い出した。お寺での生活も楽しかったななんて思い返しながら、ふと、あの子の横顔……違う関係ない。嫌だ思い出したくない。やめろ、やだやだやだやだ!ああ!—静かな境内に響く淫猥な声— 嫌だ。もう俺には関係ない事だ。関係ない。—眼前で抱かれる初恋のあの子—あの子はここには居ない。—愛なんて性欲に過ぎない— 異性間の愛なんて信じない信じられない—欲は人を変えてしまう—もしや清姫も?マシュも?裏では何をしているかわからない。あいつらのようにきっかけさえあれば俺を、俺を、—殴られた、罵倒された— 俺を痛めつけるに違いない。

 

わかっている。これは唯の被害妄想で、フラッシュバックで、俺の問題だ。だからこの胸を焼くような焦りや怒りや不信感が混ざり合っている炎は、俺だけを焼けばいい。

 

炎だけでなく迫り上がってくるものもあるが、清姫が作ってくれた料理を吐き出すわけにもいかない—粗相をすれば何をされるかわからないから—違う、俺のために作ってくれた美味しい料理だからだ。

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

目尻に涙が溜まり、呼吸が荒くなる。

『心的外傷によるフラッシュバック』最近になってこうなる事が増えてきた。それどころか段々ハードルが下がってきている。惨めに震える足を清姫にバレないように必死で押さえつける。荒い呼吸は食事を頬張って誤魔化し……涙までは誤魔化しきれなかった……

 

「ますたぁ?え、ま、ままままさか料理がお口に合わなかったのですか!?」

 

「違うよ、これは……違うんだ……昔を思い出しただけで…………」

 

俺はあの日からずっと本質的に変わらないでいた。臆病で、惨めで、触れれば漏れ出した炎が大切な誰かを焼く。そんな最悪の男に成り果ててしまった。

いつか振り切れれば良いな……そう言えるようになるには一体どれだけかかるのだろうか、下手をすれば一生?

心の悲鳴をいつも通りねじ伏せようとしたけれど、今回は上手く誤魔化せなかったようで清姫はまだ慌てふためいている。心の底から申し訳ないと言う気持ちが沸々と湧き上がってきて涙の粒が一つ落ちた。

 

——————————————

 

食事を終えてふらつきながらもなんとかマイルームに帰ってきた。歩く中で乱れも何とか収まってくれたようなので、食堂でできなかった清姫へのフォローをする。

 

「何でもないわけ無いんだけど、もう大丈夫だから心配しないで!ご飯美味しかったよ。味付け、俺の好みに合わせてくれて嬉しかったなぁ、特に味噌汁!エミヤの味噌汁に匹敵、いや、上回ってもおかしくないね!えーっと、とにかく!すっごい美味しかった!ありがとう清姫!」

 

「嘘、では無いようですね。……ますたぁ?」

 

「これからもたまに作って欲しくなっ……え?」

 

「私は嘘が嫌いです。嘘をつかれるのも、嘘をつくのも……だから」

 

清姫と目が合う。心の奥の底に居る俺の目だ。今、色々なものにやり込められて自分でも助けられない哀れな俺と目が合っている。

 

「きよ……ひめ……」

 

「泣きたい時は泣いてもいいんです。挫けそうな時は立ち直れる日まで挫けていいのです。……自分に嘘はつかないで」

 

「あ、ち、違……」

 

人類を救うマスターとして有用であると示さなくてはいけない。過去が俺を押しつぶしてどこにもいけないようにしている。なにをするにも恐怖が伴って、その内恐怖を押さえつける事になにも感じなくなった。周りの誰も信じられなくなって、本当に辛い時に1人でいないと壊れてしまいそうな時もあった。あの出来事が愛によって引き起こされた事で、よすがであるはずの愛すら獣の牙にしか見えなくなってしまった。隠さなくてはいけない。強くならなくてはいけない。それでも……もう、限界だった。

 

「怖いんだ」

 

ぽつり、ぽつりと一度吐き出して仕舞えばポロポロと、土の壁が綻ぶように涙と言葉になって止めどなく溢れ出てきた。

 

—————————————

 

 

「ん…………………」

 

「…………」

 

「ま、ますたぁ?」

 

「み、見ないでくれ………」

 

「っっっっ!!!」

 

「………………?」

 

推定14・5歳の女の子に縋って泣き喚いた後なのだ。まともに顔を見ることすら恥ずかしいようで気まずい雰囲気が流れる。

 

(やってしまった!これは、完全に嫌われた!)

 

(……あ、これはいけないです。ますたぁが弱っているのにかわいいだなんてはしたないです!)

 

恋愛研究会の時間ギリギリまで2人してこんな調子だった。




どこかで過去の出来事は描写しますね。
あっ流れ星!感想ください感想ください感想ください……よし!


清姫にバブみを感じたかった。正直反省している。だが、元々あった鬱設定を消化できて少し達成感も感じている。この複雑な思いこそ興奮ですね(殴)


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導入編(0.25話)/姉なる者

アンケートの結果一位「ちくわ大明神」
二位「認めよう」
三位「フォロアー一桁のまま死んでゆけ」
四位「投稿するたびお気に入り減るのなんで?」
五位「どっちでもいいです」
ご協力感謝します。活動報告にTwitterのアカウントのURLを貼りました。フォロークダチイ

水着のヤベー姉登場!やはりやばい(再確認)


どんなに現実逃避しても時間は無慈悲に進み続ける。故に恋愛研究会というぐだ男が一番恐れている行事が始まる事を止める事は出来なかった。

 

(あんな事さえ言わなければ!)

 

時を遡る事数年、そもそもこの行事の原因はぐだ男にあった。彼はもう18歳になろうとしている青年だ。それが色恋沙汰に一切の興味を持たないとなれば怪しまれるのも当然だ。

 

それは、夏の1日。デッドヒートなレースやらサバフェスが終わり水着サーヴァントが増えたカルデアで起こった。

 

—————————————————————————————

 

「いや〜眼福ですぞwwサバフェスも楽しめて拙者は大満足にござる」

 

「水着の女性が平然と歩くアンバランスなカルデア……素晴らしい光景です。我が王のいる手前、口説きにいけないのが悔やまれるッッ!」

 

「と こ ろ で ! マスターは一体全体誰が一番クルでござるかぁ?私、気になります!」

 

「いや、特には……そんな事より手に入れた素材を仮倉庫から運び込まないといけないから手伝ってよ」

 

「「そんな事!?」」

 

「えー、そんなに驚く事?そもそもそういうことに現を抜かして良いような立場じゃないって」

 

(あかん!拙者のマスターが早々にして枯れようとしているぅ!?!?)

 

(責任感があるのは良いことですが、押しつぶされないか心配ですね……)

 

————————————————————————————

 

ぐだ男はサーヴァントに対して嘘をつくことが、それが軽い嘘だったとしても悪手であると知っていたため、自分の内心を隠さずに伝えることを選んだ。だが、その実年頃の男子としては異性への興味に欠けていた。それを聞いた黒髭とランスロットはぐだ男の将来を心配し、自分達の性癖を押しつ……年相応の性欲を持つように啓蒙し始める。年々ヒートアップしていくその行為は善意8割、面白さ1割、諸事情で言えない(モテてるのが羨ましい)1割で構成されている。自分でもいつか対人関係への恐怖を克服したいと思っているぐだ男はそれを断るに断れなかった。

 

1回目はオススメの同人誌やら春画やらを押し付けられるだけで済んでいた。受け渡されたお宝達は清姫により、完全に焼却されるという非業の死を遂げる事になった。それを受けて、2回目、3回目は形を変えてデータを扱う方法を取ったが、それもまた清姫によって密かに消去されていた。

 

そして4回目、【マスターに恋愛の良さを教える】という大義名分を掲げた彼らはエロを捨てる事になったものの、ある程度のサーヴァントを巻き込んで恋愛研究会を男の猥談から一つのイベントに昇華させていた。問題だったのが、これに清姫までもが賛同してしまった事である。

 

いよいよ逃げ場が無くなったぐだ男は毎回毎回抵抗虚しく連行される羽目になってしまった。所帯持ちのサーヴァントから恋愛の良さを語られたり、さりげないアピールに気づかない振りをしなくてはいけなかったりした。独自の判断だが、対人関係、特に異性に恐怖心を持っている事は一部サーヴァントのモチベーション維持の為に、明かさないように心がけているので、表情や動作に出ないように耐えなくてはいけないのがとてつもない苦痛だった。

 

(いやまてよ?今の清姫は俺の精神状況を正しく理解しているはずだからちゃんと話せばわかってくれるはずだ!)

 

今までの死んだ魚を三時間弱煮込んだような目から一転、晴れやかな表情で清姫と向かい合う。

 

「なぁ、今日の恋愛研究会なんだけどさ、俺行きたくないんだけど……」

 

「確かに、ますたぁの精神的負荷を考えるとそう言った事はしないほうが良いのかもしれませんね。私、皆さんにますたぁの不参加を伝えてきます」

 

「助かるよ、俺が会場に行ったら絶対逃げられないしな……はぁ」

 

(誰か1人でも自分の状況を共有していて、助けてくれる存在があるだけでこんなにも心が楽になるとは思わなかった)

 

そんな事を考えながら清姫を見送る。これでこれからは恋愛研究会に行かなくて済むだろう。苦悩の過去を思い返すと安堵からか一筋の涙が溢れた。

 

(ここ最近よく泣くようになっちまったな。弱音を吐けるようになったのか、弱音を抑えられなくなったのか……どっちにしろ事情を知らないサーヴァントには見られるわけにはいかないな)

 

「あれ?もう研究会始まっちゃいますよ?」

 

「いや、俺は参加しないから……ってジャンヌさん!?何処から、いつから、どうして此処に!?」

 

「……お姉ちゃんですよ?」

 

「え、俺は一人っ子ですけど……ハッ!」

 

言い切ってから自分がどれだけ危険な発言をしたか気がつく。さりげない感じでジャンヌさんの横を通る。そのまま部屋を出ようとしたが、死と直結するような悪寒を感じて振り返る。すると……恐ろしい笑顔のジャンヌさんが何故かこちらを指差していた。

 

「な、何を「姉ブレード光波!」ぐわぁぁぁぁ!!!」

 

いきなり姉ブレード光波なる不思議な光を当てられたが、特に体に変化はない。ならば、お姉ちゃん側に変化があったのかと思えばそうでもない。一体なんの効果があるのか……ん?

 

「お姉ちゃんって俺のお姉ちゃんだっけ?」

 

「ええ!お姉ちゃんですよ!」

 

違和感の正体は掴めなかったが、とにかく何も無いならラッキーだと考えて、さっさと逃げようとする。だが、何故か体が動かない。

 

「あ、あれ?何で体が……お、お姉ちゃん俺になんかしたの!?」

 

「ん?いえ、別に何もしていませんよ。さぁ!恋愛研究会へ行きましょう!お姉ちゃん達が弟君を真っ当な青少年に戻してあげますからね〜♪」

 

「な!?いや、待って!俺は行かないって言ってるでしょ!?……あばばびびび!清姫ぇ!助けてぇ!!あばばばばば!!!【オ姉チャンノイウコトハ絶対】…………我ガママ言ッテゴメンナサイ。今行キマス」

 

なんでお姉ちゃんに逆らおうとなんてしてたんだ。普通に考えておかしいだろう。行きたくないと駄々をこねてお姉ちゃんを困らせてもいけないし、早急に向かうべきだ。この時間では俺もお姉ちゃんも遅刻だ。

 

________________________

 

__________

 

_____

 

……あれ?やっぱり俺、一人っ子だったような……しまったぁぁぁ!!

 

やっとの思いで正気を取り戻した頃には時すでに遅し。研究会の会場目前であった。反射的に悲鳴を上げそうになるが、此処で叫ぶのは駄目だ。声でバレる……

(ここから、どう切り抜ければいいんだ)




1日に起きたことは0.X(その日にち)でまとめたいのに今日という日にぶち込んだプロットが、多すぎる!ガバガバソウル!

一応、ぐだ男君のメンタルが弱すぎる件について予防線を貼ると、過去に恋愛関係で人間不信になってもおかしくない程のドぎつい一撃を喰らいギリギリだったメンタルにカルデア恋愛関係で更にもう一撃喰らっています。その分本編が終わったらほのぼのさせて、ラブラブさせて、いい思いさせてやるんだ……エタらなければだけど(不吉)。まぁ完結までの大まかな流れは出来てるので、作者が死ななければ完結します。

とりあえず今週末にはもう入試なので今週分の投稿を……

感想!沢山待ってます!


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導入編(0.26話)/天獄の門

新年あけましておめでとうございます。

さて、私。受験失敗後の闇落ちを超えて無事蘇ることができました!
現段階で一体何人の方が覚えていてくれているのか……(笑)

これってもはや年1投稿レベルじゃねーか!?


 これはまいったな。素晴らしくまいった。どれくらい素晴らしいかというと三つ並んだ0%や冒険の書が消えてしまうレベルで素晴らしい。いっその事無理に抵抗するぐらいだったら受け入れてしまったほうがいいのではないだろうか……いやそれはだめだ一番だめだ。諦めなければ大抵のことは何とかなるっておじいちゃんも言っていた。

 何か大きな騒ぎでも起きてくれれば混乱に乗じて逃げ切れるはずだが、実際問題そう間単に問題など起きるはずもなく、二人分の足音と鼻歌交じりのお姉……ジャンヌさんの声がカルデアの廊下に反響していた。

 

「キョロキョロしてどうしたんですか?不安ならお姉ちゃんと手を繋ぎましょう。ほら!」

 

「いや、流石に恥ずかしいというか逃走できなくなるというか……あ、待って何この人力強い」

 

「当たり前じゃないですか、ずっと旗振ってたんですよ?それにお姉ちゃんなんですからこの程度の力は出せて当然!」

 

 お姉ちゃんとは一体なんなのだろうか。一般的にいえば自分より年上で女性の兄弟の事であるが、ジャンヌさんにおいてはそうではない。ぐだ男にはそもそも兄弟はおらず、姉が存在する事自体あり得ない。だが、この夏にやられたままテンションが帰ってこないジャンヌさんはぐだ男の姉だと言う。というか、姉だと思わせてくる。そして何故か耳にこびりつくような『お姉ちゃん』というワード。まさか本当に姉なのか、そのメカニズムもわからなければ彼女の言う『お姉ちゃん』の正体を突き止める事は終ぞ叶わないのだろうか、どれほど考えようとも答えは出ない無限の迷宮に囚われてしまう前に一旦この哲学ぅ?な思考を中断する。今は現状の打開を目指した現実的で建設的な『どうやって逃げるか』について考える時だ。

 さて、数分で到着。すぐそこに頭のおかしい夏のジャンヌさん。ぐだ男君はどうすればようでしょ~~~~か!

 

「わーさすがおねーちゃんだぁ!すごーい!」

 

「でしょう!」

 

 空白の後に響いた何も知らない幼子のような賛賞が物悲しさを帯びている。謎理論で超人的な力を発揮するジャンヌダルクを前にぐだ男は思考を放棄した。だがこれは諦めではない。ある武人が唱えた『激流に身を任せ同化する』という言葉に従う事を選んだのだ。この先に待ち受ける何事も水の流れのような柔軟性で持って受け流す事を選んだのだ。もう一度言わせて頂こう、絶対に諦めてなんかいない。

 

 ところで、鯉の滝登りということわざを知っているだろうか。中国の言い伝えで、黄河にある竜門と呼ばれる急な流れを登り切った鯉は竜になると言う物だそうだ。そのことわざからすると鯉は激流すら超えてしまうのだろうなぁなんてははは

 

「何故、ますたぁがここに?」

 

「あ゛ぁ゛い゛!!」(言語化できない悲鳴)

 

 高速で今の状況を切りぬける方法を模索するが、一向に見つからない。洗脳まがいの光を浴びたせいだと言えば自分は助かるかも知れないが

 

「……ますたぁは助けてほしいですか?」

 

「そりゃもう当たりm「弟君は私といいところに行くんです!兄弟水入らずなんですから邪魔しないください!」はぁぁぁぁん!!?」

 

「・・!・・・・・・!(清姫さんやい!この人話が通じないぞい!)

 

「ちょっと弟君!そんなアイコンタクトで会話して仲間外れなんて酷くないですか?それに通じてますよぉ。言葉じゃなくって、心が」

 

「思考盗聴されてる!?」

 

「ますたぁが嫌がっていることはよくわかりました。ジャンヌダルク様。仮にも姉を名乗る者が親族に対して無理強いするのはいかがなものかと」

 

 なんて理性的な狂戦士(バーサーカー)なんだ。弓兵(バーサーカー)にも見習ってほしいところだ。普段は普通のいい人なのに……逆にだからこそ内に秘めた闇の部分が大きくなってしまったのだろう。そう考えればなんだか悲しい気もしてくるが多分気のせいだろう。

 

「もう!何様のつもりですか?急いでいるので私たちは行かせてもらいますよ!」

 

 いや、あなたも何様だよ。姉様だったかそうでした。

 

「ひっぱらないでくだせい。じゃんぬさーん」

 

「ますたぁの……ぐだ男様の嫁です」

 

 ここでまさかのお嫁様降臨!?

 

「・・・・・!・・・・・・・!?!?(ちょぉぉい!!なーに言ってるんですか清姫さん!?)」

 

「・・・・・。・・・・・……・・・・・・・(安心してください。相手が家族の絆を主張するならこちらも同じ土俵で戦う……作戦の上での言動です)」

 

「弟君。お姉ちゃんは選択肢ミスったら即焼いてくるようなお嫁さん、認めた覚えはないけど?」

 

…この……ますたぁは部屋に戻っていてください。この可笑しいのをもう一度焼いてからすぐ追いかけますから」

 

 カルデアの緊急時用マニュアルの14『シミュレーションや訓練以外でのサーヴァント同士の戦闘はマジ勘弁してください』とあるように(注意:この作品独自のものです)サーヴァントの戦闘は余裕でカルデアが壊れてしまう。それは立地的に絶対に避けなければいけない。

 

「待て!マテ!それは流石にまずいぞ!」

 

 止めなければ戦闘が始まってしまいそうだったから後先考えず間に入ってみたはいいけれど全くもってのノープラン。かわいい顔してOVERWEAPON系女子の戦火に包まれれば鍛え始めて早2年の俺でも秒もかからずに灰だ。冷汗が伝う。炎はまだ見えていないものの確かに上昇した温度が臨界を伝えてくる。最早サーヴァントが怖いなどと言ってられない緊急事態に口が勝手に回りだした。

 

「止めないで、弟君!お姉ちゃんが助けてあげるから!」

 

「助ける……ですか?ふふっ、盲目的に自分の願望を押し付けるだけのあなたが?片腹痛いですね」

 

「……私達の家族愛を、盲目的な願望呼ばわり?許せない、許せない……」

 

 あっ、これだめな奴だわ。古今東西南北全宇宙、全てにおいて半々くらいで通用する手法がある。かのネットに強い弁護士と呼ばれたレジェンドも使った手法だ。

 

大声を出して、かき消すナリ

 

「スーッ……注もぉぉぉく!!!」

 

「お、弟君?」

 

「どうなさったのですか!?」

 

「これより!俺はぁぁ!!誠に遺憾ながらっ!恋愛研究会へと向かいまぁぁぁぁぁぁぁぁす!!!!」

 

 なぁにを口走っているんだ俺は!?険悪なムードをなんとかするだけで目的達成なのに!!清姫が俺のために断りを入れてくれたんだぞ?もう行かなくてもいいんだぞ?

 

「ますたぁ、ますたぁ。自棄を起こしてはいけません」

 

「止めるな!清姫ぇ!自棄でも何でもこの場を収めるにはいかなきゃダメなんだぁぁぁ!!!!」

 

 止めてぇぇぇぇ!?!?清姫!清姫さん!清姫様!馬鹿な俺を死なない程度に殴って止めてぇぇぇぇ!?!?!?!?!?

 

「姉さんもこれで文句ないよなぁ!?!?」

 

 姉さんじゃねぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

「うん!文句無し!やっぱり来るよね!絶対に来ると思ってた!それ以外あり得ないと思ってたよ弟君!」

 

「お、おう」

 

 ここである事に気がついた。この感じだと恐らく、行かない選択肢を取ってもジャンヌはずっとついてくる。結局恋愛研究会に行かなければ、清姫とジャンヌの間に亀裂が生じて一生危険なままじゃないか?

 

「結局最初から結末は決まってたってことかよ……よっしゃぁ!!いくぞ!」

 

「ま、待ってくださいますたぁ!何かがおかしいです。一旦止まって考えてください!間に合います!まだ引き返せますからぁ!」

 

 無理なんだ!これは避けようがない定めだ。今の俺にとってはわざと用意したんじゃないかってレベルの地雷でも、ゲロが出そうでも!例年通りにサーヴァント達のシチュエーション再現の実験台になって、笑顔のまま軽いツッコミを入れ続ける!乗り越えなければならない壁なんだぁぁぁ!!

 

「なんだか分からないけど弟君が協力的になってくれて嬉しい!」

 

 ちくしょおおおおおお!!!

 

 人生に肝心なのは小さじ一杯の夢と希望。そして大いなる絶望と諦めである(?)。この状況においてグッドでもベターでもましてやベストでもないが、きっと最悪を避けることはできたと信じてぐだ男は天獄の門に向かって歩き始めた。天国が人にとって良い場所ならばきっとそこは善意に満ちているのだろう。だから善意で作られたあの地獄はきっと天獄なのだ。頬を伝うしょっぱいもの。だが悲観することもない。なぜならこの出来事は停滞していたぐだ男の時を再び動かすための出発なのだから……多分、恐らく、ネイビー。

 

 

 

 

 

 

 

すいませぇぇん!誰か、助けてくださぁぁぁい

 

 

 




ここからやぁ……ここから話を明るくするんやぁ……変なシリアスと変なギャグの融合で出来たキメラの翼をもぎ取って明るいほんわか時空へとルーラするんや!

でも、でも曇らせたい!苦悩の無い青春に重量を持たせられない!嗚呼!この苦しみを解いてくれるような、なんて事は無い感想を!ありふれていてもいい!センスに満ち溢れていてもいい!なんなら罵倒でもいい!暖かな光のような承認という救いをもたらしてくれる『誰か』が居れば!それだけで!

実はここの世界さんのジャンヌは(鮫)状態をちょっと拗らせてしまっているーなんて設定があります。迷惑ですね!


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導入編(0.27話)/お ま た せ

ほんますいません!大スランプでした。色々書いてみてこっち浮かぶかなーってやっていたら1年近い年月が!?

私レベルの文才で年一更新とか読者に愛想尽かされちゃう!捨てないで!(メンヘラクレスオオカブト)

ちなみに前回のお話にちょこーっと手を加えました。最後の方のぐだ男の心境の描写に変更を入れて無理がない感じに修正できたと思っています。


 マスターを連れてくる。そう言ってジャンヌが飛び出してから大体30分程経とうとしている恋愛研究会会場は部屋のすぐ外で行われている大惨事に気がつかず例年通りの活気に包まれていた。

 

 それもそのはず。サーヴァント数10人に対して、マスター1人。通常の聖杯戦争からしてあまりにもな人数比率。当然サーヴァント1人1人にかけられる時間も減っているので……

 

『召喚されたはいいけど戦闘に出してくれない!』『最近、全然会えてない!』『酒飲ませたい!!』『鍛えたい』『もっと遊びたい』『セッ『やめないか!』だって本当の事だろう!?』……etc

 

 マスターに対する欲求が爆発寸前に達していた。ちなみにこの事についてぐだ男は全然気づいていない。この男、そもそも付かず離れずの関係を作ろうと必死になっているため、自分に向けられた好意に気づかないのだ。なんならそういった態度が欲求の蓄積を加速させている節すらある。羨ま可哀想に。

 

 そんなこんなでウッキウキの参加者を他所に、頭を抱えている面子が2人いた。黒髭とランスロットその人である。何故こんな事になっているのかというと、意外と単純な事である。清姫が現れたのだ。しかも、会の中止を呼びかけるためにだ。彼等は恋愛研究会の前身である、『マスターを女体に目覚めさせるの会』を清姫によって木っ端微塵に破壊された過去がある。簡潔に言えばトラウマっているのだ。

 

「どどどどどうしましょう黒髭殿!清姫様がまた敵対してしまいました」

 

「そんなこと言われてもくろひーわかんない☆オワタ\(^^)/」

 

「く、黒髭殿!?……まさかあの日を思い出してしまったショックで幼児退行してッッッ!?」

 

「バブー!おぎゃ!おぎゃ!」

 

「それは絶対わざとですよね!」

 

そんな時だった。

 

 会場の雑音にかき消されて今まで聞こえなかった()()がうっすらと響く。それはまるで突撃する猛牛の様な、カルデアで聞こえてはいけない類の地鳴りだった。

 

ドドドドド!!!

 

 次第に大きくなっていくその音が、こちらに向かってくる何かだと気がついたその瞬間、ドアが弾け飛ぶ様な勢いで開け放たれた。

 

「うるrrrrrrrrらぁ!!!野郎共!地獄(パーティー)の時間だぜぇ!」

 

「ぐ、ぐだ男様ーッ!」

 

「わー!弟君、きまってるよー!」

 

 何この……何?を全力で体現した致命的に振り切れてしまった者(マスター)達の登場に唖然とするサーヴァント達。その視線を感じて胃がキリキリと悲鳴を上げるが、もはや退路はないぐだ男。両者には言いようのない緊張感が流れていた。

 

「ま、マスター?一体何があったのですか?」

 

 一時の沈黙を破りランスロットがぐだ男に話しかける。開ききった瞳孔に荒い呼吸。そして漏れ出る修羅のオーラ。どれをとっても平常ではない様子のぐだ男が心配だったのだろう。

 

 何があったかって?そりゃとんでもねぇ事だよ!不適に笑って誤魔化そうとするそんな俺の拳はガチガチと震えていた。特異点でも何でもない所で唐突な人類存亡をかけたミッション開始、こんなん誰が予想できるってんだ。

 

 状況を整理すると、俺は約1時間半の間サーヴァント達の妄想劇(恋愛要素増し増し)に参加してなおかつアドリブが求められる場面で機嫌を損ねずにそれをこなし、清姫がいる手前嘘がつけない……なぁにこれぇ?こんな無理ゲーフロムでも作らんわ!

 

 なんて矢継ぎ早に文句を唱えても状況は好転しない。これから始まる事柄すらこなせない様で何が人類最後のマスターだ。やってやる、やってやるぞ!

 

「ランスロットさん。安心して、俺は大丈夫だから」

 

「いや、凄い汗ですよマスター。体調を崩しているのでは……」

 

 ええい!邪魔だ!人が良い!

 

「催し物くらいこなして見せる。始めよう」

 

「じゃあねー!弟くーん!お姉ちゃん5番目だからーー!」

 

 ジャンヌさんは頭お姉ちゃんだからいけるとして、ランスロットはこっちが本当にダメな感じだと思ったら絶対に止めようとするだろう……だから眼光を操作する。熱意を作り上げて奥に灯す。今の俺は誰にも止められない積極性を持ってこの会に参加している。そう自己を改竄する事で(なんとなくバレてる気がするけど)英霊すら誤魔化す。最近不甲斐ないところばかりだったけど、ちょっと前まではずっとこうしていたのだ。乗り切って見せる!

 

「え、えぇ。マスターがそれで良いのなら始めますが……こほん!

 

それではみなさん!第5回恋愛研究会を始めていきたいと思います!!」

 

ランスロットの号令と共に爆発の様な拍手の音が上がる。あんまり大きな音だったからビビってのけぞった。どんな熱量だよ。

 

 ワッとあがったボルテージを右手の一つで鎮めると、元凶(MC)の2人がお決まりの文句を言い始めた。

 

「司会を務めさせていただきますのは、……今回もやっぱりあれ、言うんですか?……わかりました……円卓内恋愛最強の騎士ランスロットと!」

 

そこは恥を捨ててプリーズ!シチュエーションには人100倍うるさい黒髭ことエドワード・ティーチでございます!」

 

 やけに小慣れた導入で緩やかに進行する2人。英霊がキャラ作ってるのシュールすぎやしないか?

 

 今は特異点攻略が無く資源回収ローテしか仕事がないので暇を持て余していたのだろう。なんでそれでMCの技術を上げてしまったのか、他のことに時間使って欲しいと切に願う俺であった。

 

「さて、どんなに我々がトークをしてても皆さんの期待は満たされないですよね?」

 

「そりゃそうですよランちゃん!あの人が居なきゃ始まらないですからね!」

 

「焦らすのは無しにしましょう!我らがカルデアのマスターぐだ男殿!ご挨拶よろしくお願いします!」

 

 ……出番来ちゃったかー!地の文で粘れば次回まで引き延ばせるかと思ったのになー!そしたら1年近く時間が生まれたのになー!(毎度更新が遅くて申し訳ありません)

 

「どうもー!お待たせしました!ぐだ男でございまぁぁぁぁす!!!」

 

 久々に大声を出したからか所々声がひっくり返って恥ずい。が、そんな小さなミスなど意に介さない勢いと熱でゴリ押しすると、俺の登場で最高潮に達したボルテージが上限を突破した。物珍しい動物を見に来た観光客みたいだ。さながらパンダ?

 

「今回も盛り上がってますねぇ、てか年々規模がでかくなってない?」

 

「おかげさまで大盛況です。ですがこんな規模になってもいまいち女性にこう、ガッと行く感じがないのは流石の難攻不落といいますか」

 

「今年こそマスターをオトす強者が現れるのか、それとも無敗記録が積み上がるのか拙者、今からワクワクしてきましたぞ!」

 

「おっと、ついトークが弾んでしまいました。お待たせしました!早速、エントリーNo.1の方の発表に移りましょうか!」

 

 ご覧くださいと誘導された視線の先にあったのは街中とかで昔見たでかい液晶。ここに最初の試練が映し出されるというわけか……なんだか震えてきた。やばい。冷静になると恐怖が、もし皆んなの理想と今の俺がズレていたら俺はどうされるんだ?サーヴァントは圧倒的な存在だ。マスターであるというだけで俺に従っているが、腹の中で何を考えているのかわからない。怒っているのか、蔑んでいるのか、それなのに何故こんな会を開くのか、もしかしたら清姫の様に純粋な好意で持って接してくれているかも知らないがこの数だ。世界なんてどうでも良いと考えているサーヴァントがいてもおかしくない。それで僕のことがキライな子がいていじめたいってころしたいって思ってるんだ。

 

「それではご登場お願いします!」

 

それがいまから来るんだ。ころしにくる……怖い。誰が守ってくれるんだ。俺が死んだら全世界の人間が俺を恨むんだぞ?呪われて、死んでもずっとだ。お前のせいだって、死んだら困るだけだって、そうじゃなきゃ殺してるって、サポートがなきゃ何も出来ない屑の分際で女のサーヴァントと乳繰り合ってるって?言いがかりなんだ!ただ俺はみんなの期待に応えたいから必死でやってただけで、そんな……こんな目に遭うために生きてきたんじゃない。もうゆるしてくれ。もう投げ出させてくれよ……

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 こんな時に、フラッシュバックかよ。はは、バレてない。会は順調に進んでいる。だが、これで最後まで、いけるのか?どうすれば……!?

 

(大丈夫ですか!?)

 

 清姫の、声だ。霊体化して隣にいてくれたのか?いや、これだけ乱れていても流石に隣にいれば気がつくはずだ。だったらどうしてここに清姫が?

 

(ぐだ男様の体調が急に悪化したように見えまして、いてもたってもいられずに駆けつけてしまいました……やはり辛いのですよね?だったら……)

 

 清姫はきっと俺のためを思っていってくれている。必要以上に傷つかないように、俺が逃げやすいように……でもここで逃げるってことはずっとこの先終わらないフラッシュバックと疑念に纏わりつかれて生きていくことになる。清姫に言い訳を作って、誰とも、自分とすら向き合わずに。

 

「辛いよ……でもさ、変わりたいんだ」

 

(変わる、ですか?)

 

 自分以外の全てを怖がって、遠ざけたい自分がいる。だが、清姫に本当の自分を見せて受け入れてもらえた今の俺には受け入れたい。受け入れて欲しいという気持ちが生まれ始めている。殻を破るときはすぐ近くまで来ている。ずっと過去に囚われ続けるのはもう終わりにしなくてはいけない。

 

「ああ。清姫、俺はーーー俺はもう逃げない。清姫が見せてくれた可能性を裏切らない」

 

(ぐだ男様……わかりました。私は見守っています。どうか無理だけはなさらないように)

 

「応!」

 

「エントリーNo.1 エレシュキガルさんです!」

 

 観覧席に帰ってゆく清姫を見送り、舞台袖に視線をやるともう最初の参加者が登場するようで、あーだこーだ考える時間も無いようだ。こちらに向かって歩みを進めるエレシュキガルは寒さに悴んだようにぎこちなく、(つまりはとてつもなく緊張している訳だ。)だが、その目は決意と覚悟で満ちていた。相手の眼を見るなんていつぶりだっただろうか。恐らく今までなら思わなかっただろう。「美しい眼だ」なんて。

 




次回からシチュエーション再現という体の短編集みたいにしたいな

ほぼオリ主状態のぐだ男の精神面での成長も書きたいけど、魔術面での変態っぷりも書きたい。なんならプロットのデータが消えたからこの先の展開が体当たりになる。全部こなさなくちゃいけないってのが辛いところ


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