指揮官と人形、時々○○ (影元冬華)
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新入り人形
日常もの書ける人がすげえと思ってる
DSRは困惑していた。
新たに配属される基地、その執務室の扉の前で思いっきり固まってしまった。その理由は、他でもない執務室から漏れ出ている声のせいである。
『し、しきかっ…まっ…そこ、は…っ!』
『いいや、待たないね。それに…これだけ硬くして…。そんなに俺の言うことが聞けないのか?』
『ちっ、違っ…んっ!ぁあ、う、んぅ!!』
どう考えてもアレな方向にしか行かない声が聞こえてくるのだ。現在、日が一番高く昇っているタイミング。執務室でやらかすとはこれ如何に。
完全に入るタイミングを逃したと思ったDSRは扉の前でフリーズしたまま動けない。しかもその間もずっと、部屋の中から指揮官らしき男性の声と副官であろう人形の声が聞こえているのだ。
「…えっと、これは…。どうしま、しょう…。」
そして何より、このDSRは通常の個体とメンタルが違っているのも固まってしまった理由だろう。
具体的には「DSR」という戦術人形は見た目と言動、行動などは高確率で「誘う」ように設定されている。しかし、このDSRは元となった民間モデルの記憶があるためか、他個体に比べてそういったことを一切しない。それどころか、そういった行動は苦手、あるいは未知の領域に近いのである。
つまるところ、純情で健全すぎるDSRなのだ。
「(着任の挨拶である以上、入らなければいけないのでしょうが…今このタイミングは流石に…。そ、それに・・・うぅ…。)」
扉の前で固まったまま、若干涙目になるDSR。すると後ろから足音が聞こえてきた、と思った後すぐに声を掛けられた。
「うん…?ああ、お主が今日着任する新しい人形じゃな?」
「あ、はい。DSR-50と言います。」
「そのような場所で留まっておるとは…緊張しておるのか?」
「いえ、その…えっと…。な、中からちょっと聞こえてはいけない声が…。」
やってきたのは本部でもたびたび見かけたM1895ナガンリボルバーであった。DSRは中に入れない理由をナガンに話して、そのまままだ中から聞こえる声に「うぅ」と呻き声を出す。このDSRからすれば刺激が強すぎたのだ。
「聞こえてはいけない声…ああ、いつもの事じゃな。別に気しなくとも大丈夫じゃよ。」
「い、いつものこっ…!?」
「指揮官、わしじゃ。入るぞ。」
うぇええ!?と内心ビビりまくってるDSRは、何事も無いように入っていくナガンを見て余計にフリーズした。ナガンもナガンで中から返事の声が来る前に扉を開けて入っていく。
「ん?ああ、ナガンか。何か用かい?」
「新人が扉の前で固まっておったぞ。それと、わしからは報告書の提出じゃ。確認を頼む。」
「あいよ…っと。さーて、これで懲りたら大人しくメンテルームに行ってくるんだな。」
「うっ…。」
しかし扉を開いてみれば、予想していたことは行われておらず…いや、体勢的にはアウトかもしれない。
グリフィンの制服を着ている男性は指揮官で間違いないだろう。だが、その下にうつぶせで組み伏せられる形でいるのは紛れもなく人形だろう。
「あー、悪いな新人。ちょいと言う事を聞かない副官にお仕置きをしてたんだがな。」
「まあ割といつもの事じゃな。コンテンダー、お主も懲りぬのぅ。」
「し、仕方ないじゃないですか…時間がなかなか取れない以上、オールメンテなんて受けるわけにはいかないので…いてて。」
「だーかーら。俺の矯正が入るんだろうが。これは一時的なものだからあとでちゃんと行けよ?副官なら一時的にナガンでも当てればいいからな。」
「指揮官、お主さらっとわしに押し付けたな?」
余計に訳が分からなくなるDSR。前の司令部では絶対にあり得ないやり取りと緩さである以上、仕方ないと言えば仕方ないだろう。
指揮官は椅子に掛けていた制服の上着を羽織り、DSRの方に向いてきっちりとあいさつをし始めた。
「いきなり見た光景がこれというのは何とも言えないが…ようこそ、F08地区へ。指揮官のオダス・トゥマーンだ。慣れないことが多いとは思うが、まぁ、何か困ったら気軽に聞いてくれ。」
こうして、DSRはF08地区の基地へと着任した。
オダス=大胆
トゥマーン=霧
声:どっかのナンパしてきそうな、それでいてキングスキャ何とかってところでチャンピオンになろうとしてるおじさん
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おはようバズーカ
人形は夢を見ない。しかし、人で言う眠りに近いことは行う。所謂、キャッシュクリアと呼ばれる記録の整理をするためである。時間をかけずにさっさと行うことも出来なくはないが、しっかりと整理するとなればそれなりに時間を持って行かれるのだ。それこそ、人の睡眠時間と同じくらいには。
だが戦術人形はいつ出撃がかかるか分からない。故に、爆発音や外部からの衝撃が一定以上の力を持っていた場合、全てのデータクリアを中断して復帰する。
▽▽▽
DSRはスリープモードでデータのクリアを行なっていた。着任初日、それも初っ端でこのDSRにはちょっと重すぎる事案(勘違いだったが)を見てしまったために、かなり大きめのデータとなって圧迫してしまったのだ。なので、時間をかけて細分化と圧縮を行っていた。
しかし、その作業中突如としてドガァァン、と爆弾が爆発するような衝撃音がすぐ近くから聞こえた為、強制的に作業終了、スリープモードが解除され一気に意識が現実世界に戻される。
そのまま直ぐにサブアームとして保有しているデザートイーグルを持ち、部屋から飛び出した。
DSRは部屋から飛び出し、目の前の「ソレ」を見た瞬間、先ほどまでの警戒感など一瞬で霧散してしまう。なにせ、そいつが轟音の犯人だと一瞬でわかったからだ。
『おはよー!しんじんはちゃんとおきたー!』
「…砲撃、妖精…?」
『砲撃さんだよー!おはよーしんじーん!』
部屋から出てすぐそばにいた犯人、砲撃妖精はドローンに乗せた砲身から小さな白煙を出しながらDSRに挨拶をしたのだった。
▽▽▽
「…で?何か弁明はあるかスコーピオン。」
「すみませんで…アダァッ!?」
「あほかお前は!?新人を起こすのにいきなり砲撃妖精の空砲使う奴がいてたまるか!!うちに長くいる人形ならともかく、DSRは昨日着任してばかりだぞ!?」
執務室にて。今朝の一件を報告すれば、即座に指揮官は1体の人形を呼び出し、速攻で説教を始めたのだった。
呼ばれたのはスコーピオンと呼ばれるサブマシンガンの人形。入ってきた瞬間指揮官が背負い投げをしたのは流石に驚いたが。
「確かに、この基地では朝の総員起こしで砲撃妖精の空砲を使うことがあるが!それでも新人がいる場合は1週間は無しとしている!!昨日の夜、全員に通達したよな?」
「いだだだだだ!!!!ギブ、ギブ指揮官!!!キマってるから!関節、関節完全に決まってるってば!!!」
「…えっと、これはどうすればいいのでしょうか?」
『ほうっておいていいんだよー。スコピーはいつもおこられてるからねー。』
「はぁ。」
『それと、あさいきなりおこしちゃってごめんねー。スコピーに「いつも通りお願い」っていわれたからやったのー。』
「いえ、もう気にしていないので。」
『しんじんやさしー!』
逆十字固め、だっただろうか。完全に決まっている以上戦術人形であろうといくらかは損傷を受けるのでは?とDSRは思ったが口に出さないでおくことにした。砲撃妖精は指揮官の方を向いて『スコピーにおしおききめろー!』と激励(?)を掛けている。
そうして、騒がしい1日が始まったのだった。
短いでしょ?まあそんな感じでやっていきます
元凶:スコーピオン
・今月の朝起こし当番。通達があったけどやらかした。練度的には結構上にいる。
お仕置き担当:指揮官(オダス)
・入ってきて速攻で投げてそのまま固めた。DSRにはめっちゃ謝った。
被害者:DSR
新人。入ってきた次の日におはようバズーカ食らった。元民間で、その時の影響でエロくない初心で純真なDSRになってる。
実は制服を恥ずかしいなと思っている。
バズーカ:砲撃妖精
空砲。指示を受けただけなので悪くない。星5で100なのでめっちゃ強い。
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指揮官の健康診断と副官業務
ついでにピックアップでも大爆死しました。人力84の悲劇
健康診断。人形はメンテナンスがあるため不要だが、指揮官や基地で働く人間には必要な事である。
軍人という役職である以上、一定のストレスと緊張によって体調を知らず知らずのうちに崩す職員も多い。それ故に、3か月に一回の健康診断がグリフィンの職員には義務付けられている。
「なんだって…このクッソ忙しい月末に診断が入ってるんだよ…畜生…。」
「基地を回る医師の関係、らしいですね。…あ、指揮官、此方の書類をお願いします。」
「あいよ。それにしても、大分副官としての業務も慣れてきたじゃないか、DSR。」
「ええ、コンテンダーとナガンから教わりましたので。」
「あぁ、あの2人なら納得だわ。」
執務室、オダスとDSRは月末という事で山のように積まれた決算用の書類と各種備品を記した書類をひたすら捌いていた。現在時刻は午後2時、健康診断は3時からである。
「あー、そろそろ切り上げるか。DSR、次の書類でいったんストップにしてくれ。」
「了解しました。」
「…。」
「…?えっと、何か気になる事でも?」
「あー、いや。その、うーん…。」
急にDSRの方を見て言葉を濁すオダス。その様子を不審に思ったDSRは何が気になるかを聞いてみる。
「私のことについて何か気になる点があるのですか?」
「…おう。一応本部から通達はあったんだが…他のDSRとえらくメンタルの方向性というか、立ち振る舞いが違うなぁと思ってな。」
「ああ、なるほど。それは私が民間出身であることが大きいと思いますわ。」
「うん?メモリデータを消さないで戦術人形になったのか。」
「ええ。ただ、民間時代の影響が大きすぎた結果…他の同モデルと大きく性格が違ったらしく…。」
DSRは思うところがあったのか、少し苦い顔で答える。
DSR-50という戦術人形は総じて「エロい」と言われることが多い。何がどうなってそういったメンタルになったのかは分からないが、結果として口調や動きが「それっぽく」なっている。
しかし、このDSRは一切そのようなことがなく、どちらかというと「しっかり者のお姉さん」という感じが全面的に出ているのだ。
「他の同個体ならば、きっとこの制服に対して思うところは無いのでしょうが…『私』からすれば非常に恥ずかしいと思うのです…。できるなら、その、下の方の布がもう少し欲しいというか…。」
「それは俺も思う。流石にそれは目を引くというか誘ってるようにしか思えないデザインだから。男は目のやりどころに困る。」
うぅ…、と下を向いてキュッと裾を掴む仕草は如何なものか。本来のDSRも知っているオダスからすればそれはそれで困る動作だとおもったが。
そうしていると、廊下から誰かが走ってくる音が聞こえてくる。ドタドタと騒がしい足音はすぐにドアの近くまでやってきて…
「しっきかーーん!医務班から時間はまだだけどもう来てもいいよって連絡アガァ!?」
「廊下は走るんじゃねえ。走るにしてももっと静かに走れスコーピオン。」
「いった…入ってきた瞬間に合わせて物投げないでよぉ…。」
執務室に入ってきた瞬間、オダスによる迎撃を受けたスコーピオンは入り口で頭を押さえてうずくまる。といっても、損傷ができるほど強くもないので一時的な痛みだろうが。
「さて、このお馬鹿が呼びに来たから俺は行ってくる。片付けられる書類は任せた。」
「はい、お任せください。」
そのままスコーピオンを引きずってオダスは執務室を出ていった。
一人残ったDSRは机の上にある、大分厚めの書類の束をみて少しだけため息をついた。
「…ダミーも使って対処しても、問題ないでしょうかね…。」
副官の仕事というのは、思いの外に書類仕事が厄介なのである。
スコーピオンはお馬鹿担当。
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少し気になった指揮官
ヴァルハラコラボでドア先輩が出るので誓約します
指揮官は基本的に執務室にいる。作戦時は指令室にて戦況を把握しながら指示を出したりするが、簡単な哨戒や護衛任務の場合は人形たちに一任している。
そのため、基本的に人形達とコミュニケーションをとる時間や場所というのは自然に限られてくる。例えば食堂や娯楽室、場合によっては仮眠室やショップなどといった具合に固定される。
指揮官オダスはそんなある日の事、偶々執務室で一人書類を片付けていた時にふと思ったことがあった。
「…あいつら、いつも俺の行動把握してるよな。」
と、なぜか唐突に思ったのだ。
よくよく考えれば違和感を感じる会話がかなりの数で行われており、寧ろなんで気が付かなかったのかと今更ながらに感じている。その中でも一番わかりやすいのはスコーピオンかもしれない。なにせオダスがいる部屋に必ず騒がしく突撃してくるのだから。
というより、他基地から配属された新人のDSRが一番まともな会話をしているのでは?とまでもう一度堂々巡りの様に頭の中で考える。
「いや、まさかとは思うが…。」
ある事を思いついたオダス。しかしこれで何も出なかったら「唯の痛い人」になってしまうな、と思いつつその時はその時だと割り切って、手元で行っていた資料整理を一時中断する。
両手をスッ…と上げ、そのまま2回パンパン、といい音を鳴らして「誰か」と言ってみる。
「…まあ、いるわけがな____」
「____失礼しま…指揮官?」
オダスは困惑した。あまりにもいいタイミングでDSRが入ってきたのだから。
▽▽▽
「…なるほど。」
「いや、マジですまなかった。というか単純に俺が疲れすぎてるだけだわ…。」
困惑してフリーズしたDSRにとりあえず事情を説明し、誤解を解いた。そして気づいた指揮官、あまりにも疲れていたのだ。
「流石に2徹してれば天井の隙間から9A-91が見えたり屋上からスコープっぽい反射光が常にこっちを見ていたりドアの前に誰かがいる気配が離れないのを感じるとかそんなことないもんな…。」
「それは勘違いではなく事実なのでは!?」
「えっマジなの?」
DSRに突っ込まれる。ある意味それを見逃さなかった指揮官もすごいのだが。
「…とりあえず、寝るわ。」
「そうしてください、指揮官…。お仕事の方は私がカバーできる範囲でやっておきますので。」
「助かる、DSR。」
ふあぁ…と眠そうにあくびをしながら執務室を出ていく指揮官。その様子を見送ったDSRはふと誤解の原因となった指揮官の動きを真似てみる。
「えっと…確か手をこんな感じで…2回…。」
パンパンといい音を出して手を鳴らす。
「…お呼びですか指揮か」
「えっ?」
目の前に9A-91が降って居りてきた。
『わあああああああああああああ!!?!?!?』
大きな悲鳴が基地内に木霊した。
指揮官
→あまりにも疲れていて現実を幻覚と勘違いした。2日徹夜したがそれで体が限界である。
DSR
→訓練結果を報告しに来ただけ。被害者
9A-91
→屋根裏のニン=ジャ。このあとめちゃくそ怒られた。DSRのスキル訓練の的にされる。
屋根上のスコープ
→スプリングフィールドがカフェでつまみ食いをした不届き物を探していただけ。
扉前の気配
→G36。指揮官が眠そうだったので入るのをためらってついでに客人の相手をしようとしてくれてた。
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同型人形
「猫AR-15こそ至高」と書かれた赤リュックの不審者は私でした。
戦術人形には数多くの生体パーツが使われる。それ故に、2か月に一度は全身のパーツの点検や交換が必要となってくる。と、いっても、大半は異常なしであり、交換すると言ってもごく一部の人形の生体パーツのみに済むことが多い。
DSRはメンテナンスの為にIOPのメンテナンスを担当する事業部ビルに来ていた。
主要なメンテナンスは既に終わり、現在はDSRの名前の元である己の半身のメンテナンスとプログラムの調整をしているところである。
その間、肉体である人形は同じビル内で指定された待機ルームで待機しているか、1Fのカフェエリアでのんびりしているかのどちらかとなる。DSRはカフェエリアでのんびりコーヒーを飲みながら本を読んでいた。
ペラリ、ペラリ、と今時珍しい紙の本を読んでいく。DSRはライフル、それ故に遠くを見ることに適した視覚センサーと眼球ユニットが嵌められている。そのため、近くの物を見続けるには少々つらいところがあるために、DSRは赤縁の曇り眼鏡をかけて読んでいたのだった。
手元の本、読んでいるのは半世紀と少々前のミステリー小説。指揮官のオダスが「暇だろうから持って行って読むといい」と言って貸してくれたものであった。
今しがた読んでいるシーンでは、主人公がオークションの終盤で7年前に起きた連続首なし殺人事件と、今乗っている列車で起きた殺人事件が同一人物によるものであり、真犯人が目の前にいることを証明している場面だ。
「あら、今日は同じモデルの人形もメンテナンスだったのね。」
突然、声を掛けられたDSRは目の前にいた人形を見て少々驚いた。なにせ、目の前にいたのもDSRだったのだから。
「相席、よろしくて?」
「ええ、どうぞ。」
一言声をかけてから座ってきた他基地のDSR。その左手には銀色の指輪が嵌められていた。
「今時紙媒体の読み物を持っている人形、というのは珍しいですわね。」
「指揮官が暇だろうから持って行けと言って貸してくれたので…半世紀前に流行っていた小説、というのもなかなか興味深い物でして。」
「ふぅん…指揮官とはいい仲なのね?」
「いい仲、というよりはまだ新人扱いといったほうが近いと思いますけどね。」
しおりを挟んで本を閉じる。同モデルと話をする機会など滅多にないので、DSRは今ばかりの出会いを楽しむことにした。
「貴方は指輪をもらっている、という事は指揮官と誓約を?」
「ええ。それに…自分の人形として購入もしてるからある意味グリフィンに居なくてもいい身分になりつつあるわ。名前ももらっているくらいだし。」
「物好きなのか、真摯なのか…どちらにせよ、悪い人ではなさそうね。ちなみに、もらった名前を聞いても?」
「『ティナ』という名前をもらったわ。そうした理由は恥ずかしがって教えてくれなかったけどね。」
テーブルに置かれているタブレットから飲み物を注文するティナ。ここのカフェは一部天然物があるため、それを目当てに来る人形も多いらしい。暫くタブレットとにらめっこをしていたが「これにしよう」といって、注文を確定させたようだった。
「さて、と。あとは物を待つだけだけども…ねえ、あなたは今の指揮官に手を出したの?」
突然のティナの質問に、DSRは思いっきり咽た。
▽▽▽▽
DSRという人形はその見た目からして完全に狙いが「色仕掛け」に傾いてる、と言っても過言ではない。特にその胸部は男の目を非常に引きやすい。さらにはメンタルの方向性も同じように設定されていることもあり…DSRという人形が所属している環境によっては男女関係なく「食われる」ことが多い。無論、無理やりではなく(ほとんど誘導だが)両者の同意あっての行為ではある。
しかし、F08に所属するDSRは民間出身という事もあり、戦術人形となった後でも他のDSRよりはマイルド、というより全くと言っていいほどに「その方向」に疎い。どころか話を聞くだけで赤面するレベルで初心なのだ。
大して、今目の前にいる他基地のDSR、固有名持ちのティナは割と有名なDSRであった。今でこそ大人しくはなっているが、それまでは配属された基地の指揮官を(性的な意味で)頂いていたのだ。その手管に下った人間の数はいざ知れず、今となっては噂程度に遊んでいるのでは?というレベルの危険人物である。
もし、そんな危険人物の目の前に、反応が楽しそうな相手がいればどうなるか?
「______4つ目の基地の指揮官ちゃんはね?【自主規制】と【自主規制】をやった状態で【自主規制】をすこぉーしずつ撫でるとね…とてもいい声で鳴いてね…ふふ、あの時は嗜虐心が擽られたわねぇ。」
「は、はうぅ…」
「あそこの指揮官君はねぇ…理性と性欲の間で結構揺れててね。襲うまいと必死になって我慢しているところをすこぉーしずつ、溶かして、壁を壊していくのが楽しかったわ…。」
「あうあうぅ…」
答えは明白、反応を楽しまれるだけのおもちゃと化す。
周りにはぎりぎり聞こえない程度の声の大きさ、それでいて聞かせることのできない単語ばかりが並ぶ会話である。かといって止めさせるために声を出そうにもそれが原因で周りの目を引けば困る。
つまり、F08のDSRはティナの話を聞くしかないのだ。最初は良かった、がしかし。次第に方向性が怪しくなったと思えば、気が付くとこの有様。DSRには刺激が強かった。
「…あっははははは!!まさか、私と同じモデルなのに、ここまで初心なDSRは初めて見たわ!」
「…ううぅ…私は民間出身なので…メンタル構成が他の同モデルと少し違うんですぅ…。」
「んっふふ、そうね、その様子だとちょっとこれ以上は可哀相ね。うんうん、反応がおもしろかったから今日はこれで勘弁してあげる。」
ティナはひとしきり笑った後、DSRの飲み物の領収書データと自分の領収書データを端末に入れて席を立つ。
「これは面白いところを見せてもらったお礼。それじゃあ、縁があったらまた会いましょう♪」
「うぅ…またいずれ。」
ひらひらと手を振って立ち去っていくティナ。一人残されたDSRはそのまま上半身をテーブルに預け、先ほどまでの会話を忘れようと記憶データに手をかける。が、整理しようとすれば自ずと確認作業が必要になるわけで…
「(あああああああ駄目です駄目です!!!なまじ同モデルである以上その手の話は経験によって余計に生々しくてああああああああ!!!!)」
このあと、中々メンテナンス終了時刻になっても来ないDSRを心配した職員に呼ばれるまで一人悶々としていたのであった。
DSR(F08産)
→メンテナンスに来て終わるの待ってたら巻き込まれた。ちなみに読んでいたのはロード・エルメロイ2〇の事件簿。件のシーンはアニメ見てたからそこ書きました。あだしもさんこわい
DSR(ティナ)
→別基地のやべぇDSR。サキュバスな方のDSRと思えばいい。
指輪を渡した指揮官を襲ったのだが、他の指揮官と違って流されず、逆にDSRにアプローチを掛けてきたくらいに強い指揮官なのでDSRは惚れた(ちょろい)
ちなみに食って来た指揮官(その他もいる)はざっと15人。隠れてつまみ食いとかもしてる。人形も食われてる。
小ネタ
→メンテナンスで交換するパーツ、一部の人形、というのは主に夜戦(意味深)が多い人形の下回りのパーツ関係である。
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傍迷惑なイタズラ
めっちゃ楽しすぎたわオンリーのライターズオフ会…
目印にされた私でした(最大集合人数11人)
追記:お気に入りして来れてるユーザーの名前を見るんですけど、「ソォイ!お茶ァ!」という文字を見て吹きました。ありがとう
DSRは困惑していた、普段と違いすぎる感覚に。
自らの服も大概なのだが、今しがた着ているのはそれ以上に布面積が少ない下着、本来なら出ている腕部はしっかりと布で隠されている。
しかし、それ以上に身長が明らかに「小さい」のだ。
「……。」
そっと両手を見てみる。やはり、違う。
DSRはなんとなく察した。
「これ、ボディとメンタルが違ってますね…。」
最早困惑しすぎて慣れてきたのかもしれない。
▽▽▽▽
「…という事でして。原因は分からないのですが、今現在メンタルとボディが入れ替わってる人形がほとんどとなっています。」
「………。」
「すみません…分かりにくいですよね。」
「あー、いや。何となく分かってる。9Aー91のボディに入ってるのはDSR、スコーピオンに入っているのはコンテンダー、コンテンダーに入っているのがAUG…までは覚えた。」
執務室、9A-91(inDSR)は指揮官に報告をしに来ていた。指揮官は最初、9A-91が大人しく入ってきたことに大層驚き、そのあとの話を聞いて納得していた。自分の制服を『恥ずかしい』というくらいに純情なDSRである。9A-91の衣装は自分よりも露出が激しい以上、余計に動きにくいのは自明であるのだから。
「一応、入れ替わっていないのがKSG・MG4・グローザ・コルトSAA・Vectorの5人となっています。おそらく昨日の歩哨担当で基地内に居なかったためでしょう。」
「ってことは原因は基地内の何かが影響してるってことか…またなのか…。」
「また、とは?」
顔に手を当てて天井を仰ぐ指揮官、その声は大層面倒だと言わんばかりに低いものである。
「…お前さんが来る4か月ほど前にもまっっっったく同じ事案が発生してな。その時は俺の基地以外でも発生してたから、本部の協力もあってすぐに解決した…が、今回は誰からも連絡ねえからうちだけっぽいな…。」
「うわぁ…。」
「一応、応急処置だが首からこれを下げておいてくれ…。」
そう言って指揮官から渡されたのは「DSR」と書かれた紐付きプレートである。なんというか、準備してある理由が知りたい。
「整備長から報告がないってことはまだ気づいてねえな…送っておくからメンテナンスルームに行って調査協力をしてくれ。」
「分かりました。」
あぁぁ…、と崩れながら嘆く指揮官。恐らく本部に出す報告書が面倒なのだろう。DSRは事が片付いたら手伝おう、と心に決めた。
▽▽▽▽
メンテナンスルームに着けば整備長から言われたのは「1時間後にもう一度来てくれ」との指示。どうも連絡を受けて原因調査の準備に時間がかかるそうだった。メンテルームに入ろうと扉に手を掛けた瞬間に「ちょっと待って開けないでくれえええええ!!!」と叫ばれたのは滅茶苦茶驚いた。うっかり声も上げるくらいには。
そんなこともあり、今現在9A-91(inDSR)は基地に併設されているカフェに来ていた。このカフェはスプリングフィールドがマスターをしている時と人間のスタッフがマスターをやっている時の2種類があり、今日は人間のスタッフの日だった。
「あら、9Aちゃ…DSRさん?」
「おはようございます。ボディとメンタルで原因不明のトラブルが発生していまして…中身はDSRです。」
「あらあら。という事は今は待機中ってことね。事が済むまでここに居てもいいわよ~♪」
「いえ、今は整備長が準備を終わらせるまで待っているだけなので…。」
あははー、とちょっと笑いながらマスターの向かいのカウンター席に座る。DSRは毎回何かあるたびにこのカフェに来ており、もはやなじみの顔となっていた。
ちなみにマスターはそれを知っているので内心「また巻き込まれたのかこの子は…。」と思っていたりする。
「さて、それじゃあいつものブレンドコーヒーでいい?」
「いえ、今日はキャラメラードの方をお願いできますか?」
「いいわよ~。そうね、これは最初に何も入れないで飲んでみて。」
「何も入れないで、ですか。」
「うん、ブラックで。ちょっと飲んでからならいつものようにミルクとお砂糖いれていいから、ね?」
喋りながらマスターは手早くコーヒーを入れていく。豆はどこで手に入れているか分からないが恐らく天然物なのでは?と思うくらいに香りが届いてくる。
「…はい、キャラメラードね。」
「ありがとうございます。」
DSRはコーヒーを受け取り、言われた通りにブラックで少し飲んでみる。
「…これは。」
「苦みも酸味も強くないし、口当たりもいいからちょっとコーヒーに慣れてきたころに飲むとおいしいのよ?苦みも後を引かないからちょうどいいだろうし、ね?」
「確かに、これはこのまま飲んでもいいですね。」
「んっふふ♪この基地の人形は甘党が多くて、コーヒーをブラックで飲めない人と人形が多いからねぇ…貴方のような人形は結構珍しいのよ。」
「もしかして、指揮官も甘党…?」
「超絶甘党よ。」
どっちかというとブラックコーヒー&カフェインなんぞいつも飲んでるから平気だと言わんばかりの顔なのに、と言いたげなDSRの表情に思わず吹き出すマスター。DSRはちょっとだけむくれた、9Aの顔でだが。
そのままコーヒーを飲んで時間を潰していると、整備長から連絡がやってきた。もうメンテルームに来てもいいらしい。
「整備長から呼ばれてしまったのでそろそろ行きますね。」
「はーい♪今日一日はここにいるから、また面白い話を聞かせてね~。」
「私からすればとんでもない事ばかりなんですけどね…。」
背中からマスターの笑い声を受けつつ、DSRはメンテルームへと向かったのであった。
DSR
→9Aちゃんの中に入ってた。起きて部屋が違っててめちゃくそビビってた。ついでに露出の多さにフリーズした
指揮官
→「また報告書と始末書かあああああああ!!!!!」
マスター
→お話聞くの大好きな女の人間スタッフ。DSRがなんでトラブルに合うのか不思議でしょうがないと思ってるけど聞く話全部面白すぎて笑いが止まらない。
豆は自分で仕入れている。ルートは不明
キャラメラード
→マジで売ってるコーヒー豆。作者の近所にあるコーヒー豆売ってるお店で100g500円未満であった。けどうまいし苦みも酸味もマジで少ないのでブラックで行ける。口にも残らない苦みすげえ
詳しくは「大館焙煎珈琲 加賀コーヒー店」で検索してね。興味があったら
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暇な人形
FiveSevenは暇を持て余していた。後方支援も探索も、あまつさえ出撃すらなく暇なのである。自主的な訓練も最低限こなしており、かといって趣味があるかと聞かれればNO。結局部屋でごろんごろんとしているだけである。
もしかしなくても暇なのである。
「うー…。」
FiveSevenに与えられた部屋は一人部屋である。そのため、ベットの他に服を入れるためのクローゼットや、いろんなものを入れるための棚などがお設置されている。
その棚には、あちこちに後方支援などに出たときにそこの住民から貰ったぬいぐるみや工芸品がいっぱいに仕舞われている。
その中に、この前探索に行った際にもらったぬいぐるみが数体置かれた列。茶色、黒、水色、白の4本脚の可愛らしいぬいぐるみが目に入る。くれた人曰く「茶色いのが幼体で、黒、水色、白はその上位種。このほかにも何体かある」らしい。
このぬいぐるみはFiveSevenから見てもかなりかわいい部類に入る。いつだれが入ってくるか分からないからこそやっていないが、正直寝るときに抱いて寝たいくらいには可愛い。おまけに材料にかなりこだわっているのか、その触り心地もすごくいいのだ。
そしてFiveSevenは思いついた。どうせこんなに暇なら指揮官も暇なのだろう。ならばちょっとおちょくって遊んでみよう、と。
思い立ったが吉日。FiveSevenは
▽▽▽▽
執務室。指揮官のオダスは机に突っ伏していた。そしてその目の前で、呆れた顔のDSRが手元のタブレットを見ながら報告をしていた。
「…保有上限を超えた資材については他の基地に割安で回すか、基地に新たな人形を配備するかのどちらかで対応をしておきましょう。後方幕僚の方にも意見を聞いてみますが、恐らくは基地に配備する人形を増やす方向になるかと。」
「あー…了解。すまんな…出撃しようにも簡単なパトロール案件しかないから暇だろう?」
「何もないというのは良いことですけどね。ただ…。」
「ただ?」
「……他基地とメンタルが違うために、物珍しさにやってくる人物が些か増えすぎているような気がします。」
「早急に基地に配備する人形を増やしておこう。」
「お願いします…。」
少し苦い顔をするDSR。物腰や態度がお淑やかである為にその制服とのギャップが素晴らしい、と見に来る輩が増えたのは事実であった。その中には他基地の指揮官も若干含まれている。
オダスも手元にタブレットを置いていろいろとやり繰りをしようとした時、執務室の扉がノックされた。
「入っていいぞー。」
「───しっきかーん!」
「「!?」」
入ってきたのはFiveSeven…なのだが、明らかにいつもと違う身丈であった。いつもの身長よりだいぶ小さく…衣装もそれに合わせて小さく、尚且つ可愛らしいものに変わっている。そしてその手に抱きかかえられているのは、茶色い犬のようなデフォルメされた
いわゆる
「…ッッ、ッっ!」
「指揮官、心中察しますが落ち着いてください。」
指揮官オダスには子供スキンのFiveSevenと同じような年ごろの娘がいる。しかし、グリフィンの指揮官という立場上、年に数回会えるだけなのでものすごく寂しい思いをしているのだ。そのタイミングでFiveSevenがかわいいぬいぐるみと共に執務室にエントリー。オダスは親ばかを発揮して叫びそうになっていたのだが、僅かに残っていた理性で抑え込んでいた。
その様子を見たFiveSevenは「してやったり」と思う。しかしこのスキンの影響か、ちょっと子供っぽい発想に流れやすくなっている。そのため、悪戯心がいつになく指揮官をおちょくろうともう一つアイデアを提案してきたのだった。FiveSevenは入り口からもう少し前に出て指揮官の目の前、DSRの真横に立つ。そしてそのまま…。
「────パパ?」
「
「指揮官!?」
「わぁー…。」
耐え切れなかった。指揮官はそのまま机に突っ伏し…動かなくなった。
FiveSevenは「パパ」発言をすると同時に首をちょこんと傾げ、抱きかかえていたぬいぐるみを口元に寄せるという仕草もやってのけたのだ。子煩悩全開の親には大変効果があったようである。
しかし、流石にここまでになるとは思いつかなかったのか、FiveSevenも若干の反省の色を見せていた。
「ちょっと、こうかありすぎた…。」
「子煩悩の指揮官のはダメージが大きすぎたのでしょう…。ここ1年は会えていないとのことでしたし…。」
「ひまつぶしのつもりが、たいへんなことしちゃったな…。」
ノックダウンした指揮官を傍目に、このまま副官として業務をするつもりだったDSRとやりすぎた自覚のあるFiveSevenは今後のやるべきことをリストアップしていくのだった。
誕生日プレゼントでガチの猿轡がきて大爆笑してました。
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