現実は小説よりも奇なりみたいなことを良く聞く。
うんこに顔からダイブし、窒息死したり、おっさんに筋肉バスターをくらい、挙句にうんこにダイブしたり。
ともかく、俺が言いたいことはただ一つ黒揚羽は一匹残らず乱獲だ。
ふざけるなと言いたい。
俺は本来なら来月から大学生だったのだ。
必死に友人と入試対策をし朝昼晩地獄の日々を乗り越え、やっっと大学生になっていた筈なのに、高校生に逆戻りである。
しかも、JKだ。笑い話にもならない。
きっと俺の目は死んでいることだろう。友人にも「お前目隠したら?」と言われたくらいだ。母さんと父さんは「貴女はやっぱり女の子の方が似合ってる」
と、壊れた人形みたいに連呼していた。
気楽なもんだな、と思ったりもしたがまあ、死んでもないし息子が娘になったのだからこういう反応なのもしょうがないと思う。
ただ父、てめーは露骨に態度豹変させたから許さぬ。
とまあ、長々と話したが結局の所、女になって高校生に戻り、能力を身に付けただけだ。
そして俺の能力と言うのが、ワープ能力である。
ワープホールを出現させ、あらゆる物体、物質、現象等を指定した場所に移動させることがある。
例えば、現在進行形で居眠り運転しているおっさんのトラックが俺に突っ込んで来ているが、俺の意識とは関係なく目の前に穴、つまりはワップホールが瞬時に出現しトラックを吸い込む。
なので俺は事故に遭うことも、風邪をひくこともなく日々を過ごすのだ。
つまりは、今から行く場所にはこんな奴らが居るわけだ。
ちなみに能力にはランクがあり、俺はAランクだ。
高いは高いがめちゃくちゃ高い訳ではない。
あれだ、勉強出来るけど、天才ではない。
話は変わるが、友人は茄子が嫌いな癖して肉は大好きというワガママ野朗なのだ。
好き嫌いはしょうがない、誰にでもあることだ、しょうがない。
だが、鼻をほじりながら「茄子はないっすわぁ晴希さぁん。何年付き合ってるんだ? まじ勘弁だわあ」とソファに寝そべりながらこっちに屁をしてきた行為については当然許さないし、鼻フックした上でワープホールに投げ込むのはこれもまたしょうがないことだと思う。
ちなみにワープ先は俺の実家の物置だ。
せいぜい暗闇に怯えるといい。
10分くらいしたら自動的に元いたソファーに戻る設定にしているから安心だ。
違う、献立の話だ。
友人の話しではない、誰得だ。
俺しか得していない。
やはり、麻婆茄子と適当なサラダとほうれん草の味噌汁にしよう。
と、考えながら無駄に豪華な校門を通りすぎ、そのまま昇降口に向かう。
その辺で笑い声や話し声が聞こえてくるが俺は無表情で上履きに履き替えて教室に向かった。
教室に入ると、クラスメイト(仮)達が机に座ったりなんなりしながらゲラゲラ笑いながら駄弁っていた。
「おー、黒石おはよー。ちょっと見てくれよ! キャベツ丸当たったんだよ! やばくね?」
「おう。というかキャベツ丸ってなに? それ絶対強くないよね? 」
たった今、挨拶兼自慢してきたこいつは火田翔子という奴だ。
茶髪で目付きが非常に悪いが決して悪い奴ではないし、反応が薄い俺にも気さくに接してくれる。
だが、たまになんか闇を見せることがある。弟の話しになると豹変するのだ。
3時間4時間は当たり前で、もう永遠と話し続ける。
というかキャベツ丸ってなんだよ。なんでキャベツにおっさんのリアルの顔描写されてんだ。気持ち悪いし、嬉しくねーよ。
俺は火田と少し話した後、自分の机に向かう。
「フゥゥゥ〜。なあ、黒石、人生ってなんなんだろうな?」
知りません。そこまで至っていません。
隣の見た目が中学生並みに幼い人がタバコを吸いながら涙を流し、俺に話しかけてきた。
あー、いつものやつか、今回はなんだ? と、内心ため息を吐く。
「せっかく….せっかく息子と話せるようにっ! 一緒に風呂とか釣りとか親子らしいことが出来るようになったのにさあ…。こんなのってないじゃないかあ」
そして最後に号泣である。
もうタバコを握り潰して号泣である。
最初は周りのやつらもびっくりして駆け寄ってきたりしたが、最近はもう無反応である。
わんわん泣いているこの人の背中をさすりながらタバコの残骸をワープホールに突っ込む。
「もう、めっちゃ気まずいよ。息子高校生だよ。俺も高校生だよ。訳わかんないよ。会社も辞めたし、なあ、分かるか? 息子に肩車された時の気持ちが、コンビニでビール買う時に年齢確認された時の気持ちが! 絶対許さないからなあ糞野郎がっ!!」
タバコ以外に酒の臭いもするし、この人来る前に酔うほど飲んでるな。
涙が止まらないクラスメイトの背中をさすりながら、俺は「そうですね、辛いですね」としか言えなかった。
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2.佐々木望
俺の名前は黒石晴希、元男そして能力が使える以外はごく普通の女子高生である。
最近では女子生徒の制服にも慣れたし、クラスメイトの対応にも慣れたりと、快適に高校生を堪能している。
基本的に授業は基礎的なことしかしないし、能力の使用制限や識別カードの使い方、注意点そして女性としての過ごし方などがメインなので非常に楽なのだ。
しかし最近、変なのに纏わり付かれている。
「黒石くぅん、うへへへ、肌凄いサラサラしてて気持ち良いなあ。髪も美味しいなあ、おい。匂いも……んんん、スッゴイいい匂い! 」
スッゴイ気持ち悪い。速やかに失せて欲しい。
自分の席に静かに座っている俺に対して、急に後ろから抱きついてきて揉みくちゃにして来るこいつは佐々木望、変態だ。
銀髪で肌白く、なんか幸薄そうな美人というか儚そうな感じがするが、変態だ。
普通女体化すると中身も女性になっていっているのかは分からないが、女性に対する性的対象として見ることが出来なくなるはずだがこいつは違う。
クラスメイトに告白したり、盗撮したり、セクハラしたりとやりたい放題だ。
何をどうしたらこうなるのか、俺には分からないがとりあえず奴の顔面に裏拳を叩きつけ、気味の悪い悲鳴を上げ崩れ落ちたこいつをワープホールに投げつける。
掃除完了。
「なんか最近黒石ばっかりターゲットにされていたな、佐々木君に。大丈夫か?」
「いや、大丈夫な訳ないだろう。普通に疲れた」
中身は40代後半、外見は10代前半の隣のクラスメイトに話しかけられ、溜め息混じりにそう返した。
前までは毎日呪いみたいに呪文みたいなものを唱えていたが、今は自分の環境等が整理できたのか、比較的冷静な人になっていた。
タバコも余り吸わなくなったし、ただなんかの拍子で発狂するがもう俺は慣れた。
「まあ、あの子も普段は良い子なんだけどな…。たまにああやって暴走してしまっているが、きっと寂しいんじゃないか?」
うさぎか。
そんな可愛いもんじゃない。
たまにじゃない、絶対に寂しいとかではない、断言出来る。
目がマジだったし、ハアハアしてたもん。
そうだなと、返したタイミングでチャイムが鳴り授業が始まった。
そして普通に授業が終わり、俺は帰宅した。
俺は帰宅する際にワープホールを使用する。
クラスメイト達は羨ましがっていたが、俺にはどうすることも出来ないので、親指を立てておいた。
「ただいまー。綱助帰ってるー?」
俺は今家族と暮らしていない。友人、松原綱助と同棲している。
「帰ってるー。お帰り、ごめん寝てたわ」
「べつに大丈夫だよ。こっちこそ起こしちゃってごめんな」
リビングのソファーに寝そべって手を振る友人に近づき、隣に座る。
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3.松原綱助
頑張ります。
松原綱助は俺の幼馴染だ。
男だった頃の俺を知っている、俺の幼馴染だ。
小さい頃から常に一緒で、良く公園でカードゲームをしたり綱助と綱助の知り合いとも良く遊んだりもしたのも覚えている。
俺は大人数で遊ぶのが苦手だったから、綱助と二人で遊んでた方が楽しいのになあ…と、複雑な気持ちだった。
でも多分綱助は俺が人見知りで知り合いが少ないから、心配して色々な人と馴染ませようと配慮してくれたのだろう。
綱助は不良で少しアホの人なのだか、虐めを許さず困ってる人がいたら自分を犠牲にしてでも助けようとするほどのお人好しだ。
髪もブリーチをして派手だし、ピアスもあけてるし、目付き悪いし腕とかも傷だらけだし、俺も多少心配するけど家族仲や人間関係は極めて良好らしく、彼の母親、香穂子さんに「…綱くんね、反抗期が来ないの、峰ちゃん(姉)にすら反抗期があったのに…綱くん、いつまでたってもYESマンなのよ…。綱くん高校受験の時も私の身体のこと心配してたし…以下略」と、香穂子さんに深刻そうな表情で相談されたがそれ以外は良好だ。
というか、周りからの評判はすこぶる高い。
そして彼自身も理解しているらしく、常に笑顔で過ごしている。
ただ、プレッシャーが凄まじくかかっているらしく、俺と二人っきりの時にたまに俺の胸に顔を埋め「ごめんな…ごめん」と泣きながら謝罪をしてくることがある。
俺は何も言わずただ頭を撫でてやるのだが、たまに疑問になる。
多分彼は本当は不良みたいな格好はしたくないんだと思う。
多分彼は自分の周りに、害のあるやつを寄せ付けない様に不良の真似事をしていただけなのだろう。
面接時に黒髪にしてピアスも外して馬鹿丁寧な口調で話していたのは笑ったけど。
そして現在。
俺と同棲、つまりは俺たちを知らぬ土地な上に引っ越しても、俺や母さん香穂子さんや綱助の知り合いに害が及ばない(女性化した人物の友人知人家族、そして指定した人間は世界政府直属の組織の管理下に置かれる)為、逆大学デビューを果たしのだった。
「頼むよぉ〜、やっぱり茄子は無理だってー! あいつら地球産じゃないって! 」
「いや、バッチリ地球産だから。というか好き嫌い無くしてなっていつも俺言ってるじゃん。というか、香穂子さんが麻婆茄子とか茄子の味噌汁出した時普通に食べてたじゃん」
「いや、だって母さん俺に好き嫌い無いと思ってるから、笑顔で出してくるから…。そんなん食べるしかねーじゃん」
ソファーで寝ていた彼は体勢を変え、正座していた。
項垂れながら哀愁が漂っている。
「いや、まあ、うん。仲良いのは良いんだけどさ。とりあえず茄子食えオラァッ!」
「勘弁してください! なんでもしますから!」
「なら食えやァッ! 」
問答無用で彼を押し倒し、ワープさせて来た新鮮で冷えている茄子の漬物を口に突っ込む。
「オボッ!? オグ…ブフ…」
彼は口いっぱいに茄子を頬張り、鼻水を垂らしながら涙を流した。
そんなまずいかあ…? 茄子アレルギーでもないしなあ。
なんとか食べきった彼の頭を撫でながら、俺は首を傾げたのだった。
後日談。
あれ以来茄子を見ると青ざめてしまうようになってしまい、どうしたら食べてくれるかと質問した時、彼は真剣な表情で口移しでお願いします! と高らかに叫んだ。
やっぱり綱吉は変態なんだと思った。
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4.5 とある生徒の憂鬱
世の中大変ですけど、ゲーム楽しいので頑張っていきたいです。
どうも、私の名前は美羅星朱美という元男性の異能者(女)である。
大手企業に勤めていたエリート新入社員だったが、最近女子高生にジョブチェンジした哀れな1匹狼だ。
勘弁してくださいよ、泣きたくなりますよ、ほんとマジで。
毎朝、鏡見ながら憂鬱になる毎日ですが、この高校に登校するたびに現実が凄まじいスピードで押し寄せてくるので、本当に○にたくなります。
でも私以外のクラスメイトはそうでも無いようで、阿呆面で登校して来るのを見てもうお終いだよこの国と絶望するのだった…。
そして私がこの場所に来たくない理由があるのですよ。
そう、私は人の心が読めるのだ。
そういった能力であり、こいつらのいらない情報がまでも流れ込んでくるのだ、しかも映像付きで。
こいつら男と付き合うとかホモかよ('笑)みたいな雰囲気醸し出す癖してその実態はズブズブである。
もうすっごい、お前ら変態かよ(絶望)
と思わざるえない。
「あ〜.だりぃ〜。なんでこの歳で高校来なきゃ行けないんだよマジで。なあ?そう思わん?」
とかダルそうな表情をしているボーイッシュなショートヘアの彼女も実際は
『はぁ、早く雪さんに会いたいなあ、明日は雪さん、夜勤明けの日だから一緒にお風呂入って洗ってあげないとなー。明日は休むか』
とか考えて悶々としている。
だが、本当にやべー奴筆頭はこいつじゃない。
こいつもまあ、変態っちゃあ変態だが、こいつは変態の中でも最弱だ。
やべー奴筆頭はたまに能力で登校してくる奴だ。
「おはよ〜」
来た。
腑抜けた挨拶をしながら急に出現したこいつだ!
「いやあ、寝坊しちゃって焦って能力使っちゃったわ〜」
『ん〜足りなかったかなー? 一応ワープホール綱と繋げておいたし、続きは一応続行出来るだろうしまあ大丈夫か。いや、でも表情見れないし臨場感というかなんかやっぱり100点満点とは程遠いか? いやでも綱は最高って喜んでたし問題ないか? いや、やっぱりもうちょい修正が必要だな。
……よし! 明日から一週間くらい休むか!』
「あー、だからライン送れんかったん? 既読すらつかねーからちょっと心配したわ」
『んーまあ、こいつなら大丈夫か。よく考えたら能力チートモドキだし』
「あ、悪い。今気づいた」
『んーただあいつのでけーから大変なんだよなあ……」
お前最初の頃そんなんちゃうやったやん…。
一応3割くらいは他の奴のことも考えられていたのに
今はもう1割もないくらい占めているじゃん。
怖いよまじで。私と話してる時も常に綱とやらのこと考えてるじゃん。
精神異常者だよ。だから異能者は精神異常者の集まりって言われるんだよ。
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