結城友人は魔王である (パラドファン)
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結城友奈の章
ユウシャとマオウ0424


 

 

 気が付くと、僕は色鮮やかで巨大な樹木の根の上に立っていた。

 

 

 ――ここはどこだ?

 

 

 辺りを窺うと、遠くで何かの衣装を纏った女の子が巨大で化け物と戦っていた。

 

 

 ――助けなきゃ!

 

 

 反射的にそう思って、僕はその女の子のもとにまで走る。

 でも女の子との距離は想像以上に離れていて、なかなかたどり着けない。

 その内に、女の子の方が化け物の攻撃で僕の方にまで吹き飛ばされてきた。

 

 

 ――大丈夫!?

 

 

 女の子はすぐに僕の声に反応して、何かを叫んだ。

 

 

「――――!?」

 

 

 知っている声だ。でも叫ぶ声はいつもとはまるで違う声音で――

 その顔も、やっぱり僕の良く知る顔だたった。

 でも、焦るような驚くような様々な感情が垣間見える表情はやっぱり僕の知らないもので――

         

 驚く僕を余所に、化け物は攻撃の手を緩めない。

 尻尾のような場所からミサイルのような何かを発射する。それは目の前の少女に迫ると、爆発する。

 

 

「――――!!」

 

 

 声が出ない。身体も動かない。恐怖で何もかもが動かない。

 でも、少女を助けるには動かなければならない。動けと強く思うと、どこからか声が聞こえてきた。

 

 

『君には……となる素質がある。望む……らば、力を得るこ……るだろう』

 

 

 ――その力があれば、……を助けられるの? た……るの?

 

 

『……の力は史上最強。その……えば世界はおろか、過……来も望みのままに』

 

 

 ――なら決めた! 僕は……になる。……になって、皆を守る!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、そこは学校の教室だった。

 

 

「……ぅーん?」

 

 

 どうやら、ホームルーム直後に眠ってしまったようだ。

 寝覚めの悪さに、うーんと大きく伸びをして、僕は先ほどの夢の内容を思い返す。

 

 

「……あれ?」

 

 

 だけど、夢で見たあの女の子の顔も声も、なぜか思い出せない。

 

 と、四時……部活動開始の時刻を知らせるチャイムが校内に鳴り響いた。

 

 

「やばっ!? 部活行かなきゃ!」

 

 

 慌てて荷物を抱えて、部室である家庭科準備室に急ぐ。

 これは部長にどやされるんだろうなぁ……そんなことを思いつつ、たどり着いた部室のドアを開ける。

 

 

「結城友人、入りまーす……」

 

 

「あ、友くん!」

 

 

 恐る恐ると部室に入った僕に、真っ先に声を掛けたのは双子の姉の『結城友奈』。

 僕と同じ赤髪をショートポニーで纏め、花びらの形をした髪飾りをつけた見目可憐な少女。

 でも、その中身はいつでも元気で明るい皆の人気者だ。

 そんな姉さんは僕からすれば自慢の姉だけど、結構な天然かつ能天気なところがあるので、心配も絶えなかったりする。

 

 

「……あれ、先輩は?」

 

 

 いつもと変わらない姉さんの姿にほっと一息吐いて、改めて部室を見渡すと先輩の姿が見えかったので首を傾げる。

 

 

「お姉ちゃんなら、先生に呼び出されて職員室です」

 

 

 そんな僕の疑問に答えてくれたのは、一年生の『犬吠埼樹』。

 部長の妹で、性格はちょっと気弱だけど、やるときはやる子だ。

 そして気弱な面に付随してか、小動物の様な挙動が多くて少し放って置けないところがある。

 

 

「あー、明日のことで呼ばれたのかな?」

 

 

 明日の勇者部の活動は今までの活動の中では一番の大掛かりな物になる。

 そうなれば部長である先輩は、先生といろいろな確認事項があるのだろう。

 

 

「だと思います」

 

 

 どうやら、樹ちゃんも同じ考えのようだ。

 

 

「よかったわね、友人君。風先輩に怒られないで済んで」

 

 

 そう揶揄うように声を発したのは、同じクラスの『東郷美森』。

 家が隣同士で姉さんの大親友だ。その様を一言で表すなら正に大和撫子という言葉が相応しい。

 それが高じてか旧時代の日本への深い造詣を有していて、その他にもパソコン関連の知識も豊富に持つなど、中々濃ゆい面の多い人だ。

 

 ちなみに車椅子であり、その理由は中学入学を前に交通事故にあった影響とのことだが本人はそのことに対しての不安を一切を感じさないくらいに穏やかな性格をしている。

 

 

「アハハ……そうだね」

 

 

 東郷さんの人が悪い言い方に、僕としては笑って返すしかない。

 ――と、そんな時だ。

 

 

「ただま~」

 

 

 若干疲れたような声と共に部室に入ってきたのが、勇者部の部長である『犬吠埼風』。

 三年生の先輩で、なにやら『女子力』という言葉に並々ならぬこだわりがあるようではあるけれど、その振る舞いや言動の男勝りさ、ひいてはその大食漢ぶりからか何とも言い難いのが現状だ。

 ただ、実際には料理が得意で、樹ちゃん曰くは服のセンスも悪くないとのことで、あとは振る舞いだけだろう。

 

 

「あ、おかえりなさい。風先輩」

 

「お帰りなさい、風先輩」

 

 

 職員室から戻ってきた風先輩を出迎える僕と東郷さん。

 

 

「うむ、出迎えご苦労」

 

 

 ボケのつもりか、何処かの御偉いさんか如く振舞う風先輩。

 

 

「なんで偉そうなの……?」

 

 

 それに妹の樹ちゃんが小さなツッコミを入れる。

 

 

「いや~なんかやってみたいじゃない?」

 

 

「そうかな?」

 

 

 まあ気持ちはわからなくもないが、今そのボケをやるかと言われたら微妙である。やはり残念か……。

 

 

「ところで、呼びだされてたみたいですけど……何だったんですか?」

 

 

 とりあえず、このよくわからない話の流れを断ち切るべく、風先輩に問いかける。

 

 

「ああ、明日の人形劇のことで幼稚園から確認があって、それを先生と合わせてきたのよ」

 

 

 結局先程の通り、次の活動が今までの中でも最も大掛かりなものだったために打ち合わせも必要だったわけだ。

 

 

「ということで、明日の幼稚園での人形劇の最終打ち合わせを始めるわよ」

 

 

「「「「はーい」」」」

 

 

 風先輩の号令に、皆元気よく返事する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

《昔々、在るところに勇者がいました》

 

 

《勇者は人々に嫌がらせを続ける魔王を説得するために旅を続けています》

 

 

《そして遂に勇者は魔王の城に辿り着いたのです》

 

 

 園児たちのわいわいと元気なガヤの元、東郷さんの穏やかな語り口調で紡がれる物語。

今回僕たちが演じる人形劇は、話としては王道のである勇者が魔王を討伐しに行くという冒険活劇だ。

 

 勇者役を演じるのは姉さんで、魔王役は僕。

 

 笑いあり、涙あり。そんな一人の勇者の物語は、最終局面を迎えていた。

 

 

「やっとここまで辿り着いたぞ、魔王! もう悪いことは止めるんだ!」

 

 

「私を怖がって悪者扱いを始めたのは、村人達の方ではないか!!」

 

 

「だからって嫌がらせは良くない。話し合えばわかるよ」

 

 

「話し合えば、また悪者にされる!」

 

 

「君を悪者になんかしない!」

 

 

 物語の最後ということもあり、互いの演技に熱が入る。

 人形劇なので動かすのは手と口だけなのだけれども、どんどん裏での身振り手振りが大きくなっていって、終いには――

 

 

「「あっ……」」

 

 

 興奮した姉さんの肘が舞台のセットに当たり、倒れてしまう。

 当然、演者である僕たちの姿が露になり、劇も止まってしまった。

 

 

「やっちゃった……」

 

 

「当たっては……ないよね?」

 

 

 幸い、見やすいように舞台と園児たちとで距離を開けていたので、園児たちに怪我はないようだ。

 それだけは一安心……だけれども、突然の状況に園児たちはポカンと僕たちを見ている。

 

 

「どうしよう……」

 

 

 姉さんのそんな呟きを耳にどう立て直したものかと、考えを巡らせる。

 でも、そうすぐには浮かんでこなくて……ついに痺れを切らした姉さんが動いた。

 

 

「勇者パーンチ!!」

 

 

「うわぁぁ!! ってちょ、いきなり!?」

 

 

 突然、魔王の人形に向かって殴りかかってきたのだ。

 こんなのはもちろん台本にはないし、この物語は園児たちの為に平和的に魔王を説得する展開のはずだ。

 

 

「えっ……だって」

 

 

 完全に演技から外れ、困惑しきりの姉さん。

 とはいえ、"らしい"ことをしなければ、この人形劇はお流れになってしまう。

 

 ――こうなればやけだ。

 

 

「ならこっちも……魔王キック!」

 

 

「うっうわぁぁぁ!?」

 

 

 やけくそで、さっきの姉さんのかろうじての演技に乗る。

 魔王の反撃で、倒される勇者。

 

 

「不味いわ……樹! ミュージック!」

 

 

 このトンデモ展開の打破の為に部長の風先輩が妹の樹ちゃんへ、そう指示を飛ばす。

 が、今の状況で慌てているのは樹ちゃんも同じで、掛かりだした音楽は《魔王のテーマ》だった。

 

 

「ここで魔王のテーマ!?」

 

 

「ごめんなさい……」

 

 

 流れ出した魔王のテーマの重厚な曲調も相まって、状況は完全に魔王有利。

 絶体絶命となった勇者の様子に園児たちはハラハラと僕たちを見守っている。

 

 

「フッハハハハ!! ここが貴様の墓場だ!」

 

 

「魔王がノリノリだぁ!? おのれぇー!」

 

 

 もう完全にヤケになった僕の演技。

 そこに東郷さんがナレーションを上手く合わせる。

 

 

「皆! 勇者を応援して! 一緒に拳を挙げて、勇者に力を送ろう!」

 

 

 小さな日本国旗を片手に東郷さんが園児たちをそう促すと、元気の良い声援が飛び始めた。

 

 

「「「がんばれ! がんばれ! がんばれ!」」」

 

 

 その声援を糧に、勇者はパワーを受け取る。

 

 

「えっと……こ、子どもたちの応援が私に力をくれる!! 行くぞ、勇者パーンチ!!」

 

 

「グハァァァ!!」

 

 

 勇者の渾身の一撃に魔王は倒される。

 でも、それで終わりではない。

 勇者は倒れた魔王を介抱し、こう語りかける。

 

 

「これで、魔王もわかってくれたよね。もう友達だよ」

 

 

「……というわけで、皆の力で魔王は改心し、祖国は守られました。めでたしめでたし」

 

 

「「「「ばんざーい!」」」」

 

 

 こうして、ハプニングこそあれど幼稚園での人形劇は無事に終わることができた。

 

 

 ――讃州中学勇者部は、本日も元気に活動中だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてそんなわけで、幼稚園での人形劇を終えた僕たちは行きつけのうどん屋である《かめや》に来ている。

 

 

「すみませ~ん! おかわり~」

 

 

「はいよ!」

 

 

 風先輩がお代わりを頼むと、店員さんは慣れた様子ですぐに丼を用意して提供する。

 

 

「三杯目……」

 

 

 そしてうどんを勢いよく食べ始めた風先輩に姉さんが驚愕なのか呆れなのか、そんな呟きをする。

 ちなみに僕が二杯目の食べ始めで、他の皆はまだ一杯目というのを知らせれば、風先輩の異常さはわかっていただけるか。

 更にしっかりおでんも食べてるんだから、本当に風先輩の胃袋は無尽蔵なんじゃないかと思う。

 

 

「うどんは女子力をあげるのよ~」

 

 

 若干決め顔でそんなことをいう風先輩。

 対して、隣の樹ちゃんは目を細める。

 

 

「上がるのかな……」

 

 

「微妙だねぇ……」

 

 

 というか絶対上げない。上げるのは尿酸値だけだ。

 確か、どこかの健康番組でそんなことを聞いた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 食は進み、風先輩が三杯目を平らげた頃に僕は今日の人形劇についての話題を振る。

 

 

「それにしても、よく成功しましたね……」

 

 

「ほんとよ。東郷のフォローがなかったらどうなってたことか……」

 

 

 終わり良ければ総て良し。

 一応成功となった人形劇だが、正直姉さんがセットを倒したときは冷や汗ものだった。

 と、僕たちの言い方が少し悪かったか、姉さんが劇のことを気にしてかちょっと落ち込んでしまった。

 

 

「うぅ~……」

 

 

 無論、そんな姉さんの状態を東郷さんは見過ごさない。すかさず、フォローを入れる。

 

 

「友奈ちゃんと友人君のアドリブがよかったからですよ」

 

 

 若干拙い感じだが、今の姉さんにはそれでも救いらしい。

 隣に座る東郷さんに甘えるように飛びつく。

 

 

「東郷さん~~」

 

 

「よしよし」

 

 

 東郷さんも甘えてくる姉さんの頭を嬉しそうに撫でる。

 

 ――なんだコレ。

 

 

「おーい、帰ってこーい」

 

 

 風先輩が、二人の世界に入ってしまった姉さんたちを呼び戻す。

 と、帰ってきた東郷さんが恥ずかしさを打ち消すように咳払いを一つすると、風先輩に尋ねた。

 

 

「……そういえば風先輩、話があると伺ったんですが?」

 

 

「あ、そうそう。早く決めちゃおうと思って、文化祭の出し物」

 

 

「まだ四月なのに?」

 

 

 文化祭は十月の最後。まだ半年以上もあるので、樹ちゃんの疑問も最もだ。

 

 

「夏休みに入っちゃう前に色々と決めて起きたいのよねぇ~」

 

 

「確かに。常に先手で有事に備えるのは大切ですね」

 

 

「去年は準備が間に合わなくて、何も出来ないで終わりましたしね」

 

 

「今年こそだね!」

 

 

 リベンジに燃える姉さん。僕としても今年こそは完全燃焼で行きたい。

 

 

「今年は猫の手も入ったしね~」

 

 

「私!?」

 

 

 風先輩が樹ちゃんの頭をわしゃわしゃと撫で回しながら言う。

 立派な戦力扱いに、入ったばかりの新入生である樹ちゃんはびっくりだ。

 

 

「うーん……せっかくだから、一生の思い出になるようなことがいいよね」

 

 

「尚且つ、娯楽性の高い大衆が靡くものでないと」

 

 

「靡くは……なんか違くない?」

 

 

 靡くって、確か服従するとかそんな意味だったような……。

 

 

「とりあえず、これは宿題ね。それぞれ考えておくこと」

 

 

「「「「はーい」」」」

 

 

「すみませ~ん。お代わり~!」

 

 

「「四杯目!?」」

 

 

 ――まだ食べるの!?

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 かめやの帰り姉さんと東郷さんは車で帰り僕は本屋に用事があったので今は一人だ。

 

 

「一人で帰るのは久々だなぁ……」

 

 

 学校終わりは基本姉さんと東郷さんと一緒だから、久々の一人を少し寂しく感じていると……

 

 

「ん……?」

 

 

 何か落ちていた。

 本……なのは間違いない。でも落とすにしてはヘタな洋書よりも分厚くデカい本で不自然さもある。

 

 

「……《逢魔降臨暦》?」

 

 

 表紙に腕時計のバンドと無数の歯車が描かれた奇妙な本だ。

 とりあえず拾い、誰のものかを探るために中身を開いてみるが、そこには何も書かれていない。

 

 

「何だ……この本?」

 

 

 表題からは歴史書のようだけれど、中身の書かれていない歴史書などあるのだろうか。

 

 

「――失礼」

 

 

「うわっ!?」

 

 

 気配なく誰かに後ろから声を掛けられる。

 思わず飛び退くと、そこに居たのは僕よりも二回りほども大きい不思議な格好をした男性だった。

 

 

「驚かせてしまったようだね。その本は私のものだ」

 

 

「あぁ……どうぞ」

 

 

 手渡すと、男性は本を仰々しく受け取った。

 何なんだこの人……。若干引いていると、男性が何かを呟く。

 

 

「……君が、この世界の魔王か」

 

 

「――え?」

 

 

 何と言ったのか。

 聞き取れず、首を傾げていると男性は僕にこう告げる。

 

 

「明日は君にとって、特別な一日になる」

 

 

「……はい?」

 

 

「では、再開の時を待っているよ」

 

 

 それだけ告げると、男性は振り返ってさっさと歩き去ってしまった。

 

 

「何だったんだ……あの人」

 

 

 歩き去っていく男性の背中を見送っていると、また地面に何か落ちているのを見つけた。

 拾うと、それは結構な大きさの懐中時計を思わせるアイテムだった。

 

 

「またあの人が落としたのか……?」

 

 

 渡してやるかと目線をアイテムから上げると、すでに男性の姿は見えなくなっていた。

 仕方がないので交番に届けるために、時計をポケットの中に入れて、その場を立ち去った。 

 

 

 

 




いきなりシリアス全快ですが、日常回も挟んでいく予定です。

ここで主人公プロフィール

名前 結城友人 イメージボイス内田雄馬
肩書き 魔王
誕生日 神世紀287年3月21日
年齢/学年13歳/中学二年
身長 154cm(進むつれて伸ばす)
血液型 O型
出身地 香川
趣味 読書
好きな食べ物 うどん、団子


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ユウシャカクセイ0425

 すみません、一週間空きました。
 中の人(クマさんの方)がくそみそに忙しかったんです。

 許してください! 何でもしますから!

 ん、今何でもって(セルフ回収)?
 ということで、日常回のアイデア募集します。
 書いて欲しいシュチュがあったら、おそらく投稿主であるパラドさんが活動報告に募集を置いてくれると思うので、そこに置いておいてください。



毎度毎度急に言わないでくださいよ……まぁ活動報告のところに用意しますけどね。(パラドファン)

 

 



 

 

「黒板に書かれている三つの文を――」

 

 

 授業中、板書を取って先生の話す内容の要点をノートに纏める。

 今は例題を出されているので、今までに書き記した内容に沿って、それを解く。

 

 

「――ううん、なんでもない」

 

 

 唐突に前の席に座る姉さんが声を発した。 

 寝言かな? そう思って目を向けると、どうやら姉さんは別の事に没頭していたようで、その事を注意した東郷さんの声に大きく反応してしまったらしい。

 

 

「……なんでもなくありませんよ、結城さん」

 

 

「は、はい!」

 

 

 当然、今は授業中だ。先生からは小言を頂戴することになる。

 とは言え、先生の方もそう厳かに叱るという程でもないのか、教科書を読むだけで許してくれたみたいだ。

 

 

「えっと……」

 

 

「ほら、そこから」

 

 

 ページを探す姉さんに後ろから教えてやれば、感謝の声が小さく発せられる。

 そんな風に息をつく姉さんだけど、後で東郷さんの叱責を受けた時のことを思うと少し可哀想になる。

 

 

(東郷さんはそういうとこ厳しいからなぁ……)

 

 

 そんな隣の席を見てみると、東郷さんは普段の微笑を浮かべているが目が笑ってない。

 ご愁傷様……。と授業後のことに思いを馳せていると――

 

 

「……!?」

 

 

 突如、警報のようなアラーム音が教室に鳴り響き、発生源であるらしい姉さんが急ぎ端末をカバンから取り出す。

 

 

「携帯ですか……?」

 

 

「あ、すみません」

 

 

 だが、どうやら発生源は姉さんだけではないらしい。あと音が二つ。

 もしかしてと思い、隣の東郷さんと共に自分のバッグから端末を取り出す。

 

 

 

「……東郷さんと、結城くんのもですか?」

 

 

 先生の呆れたような指摘に、同じくすみませんと返しつつ、端末を調べる。

 音量は……下がらない。

 電源長押しの強制シャットダウンも機能していない。

 ただ端末からは警報音が鳴り続け、画面にはーー

 

 

「……樹海化、警報?」

 

 

 と、表示されている。

 樹海化、という聞き慣れない単語に困惑しきりでいると、また唐突に音が止んだ。

 

 

「……ふう」

 

 

 どうやら止まったのは三人一斉らしい。

 ひとまずと音が止んだ事に安堵する、が……少しして、暫くぶりに訪れた静寂に違和感を覚えた。

 

 

「……あれ?」

 

 

 あまりに静かすぎる。

 同じ疑問を抱いたのだろう。首を傾げ、声を発する姉さん。でも、その声にも誰も反応を返さない。

 まさかと思って教室内を見回すと、クラスメイトと先生たちはまるで石像のようにその動きを止めていた。

 

 

「これは……」 

 

 

 常識ではありえない光景。

 目の前に広がるのは苦笑や困惑、呆れといった表情のままで固まるクラスメイト達。

 

 

「二人とも……」

 

 

 不安げな声は東郷さんのものだ。

 どうやらこの教室内で動けているのは僕と姉さん、そして東郷さんの三人らしい。

 

 

「……何、これ?」

 

 

 東郷さんの震える声に、姉さんが動く。

 僕も湧き上がる不安や恐怖をなんとか抑えて、寄り添う二人の方へ行く。

 すると今度は、大きな揺れとともに強烈な光が窓の外から押し寄せた。

 

 

「きゃっ!?」

 

 

「何!?」

 

 

「姉さん! 東郷さん!」

 

 

 光に飲まれる寸前、姉さん達を庇うように抱き抱え――――――――――そのまま僕の意識は光の中に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が晴れた時、傍に弟の姿はなかった。

 

 

「……あれ、友くん?」

 

 

 それに気付いた途端に、恐怖で手が震えてきた。

 非常識的で、歪で狂ったような色とりどりの世界に東郷と二人。

 弟が傍にいないだけでこんなにも不安になるのか。

 自分の理解を超えた非日常の世界で――友奈は思った。

 

 

「友奈ちゃん……」

 

 

 傍に残った東郷が不安げな声音と共に自分を見つめてくる。

 その目尻には薄く涙も浮かんでいた。

 怖いのは東郷も一緒なのだ。

 恐怖に震える手をぐっと抑えながら、友奈は明るく声を発する。

 

 

「大丈夫だよ! 私がついてる!」

 

 

 大丈夫。その根拠はどこにもない。

 恐怖に負けないために自分を着飾るための言葉。

 それでも友奈は、少しでも東郷の不安が減るようにと明るく務めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐに風や樹とも合流ができた。

 どうやら入部時に風に勧められ端末に入れたメッセージアプリが、この奇妙な世界ではマップとして機能するらしい。

 それで見つけることができたと風は言った。

 友人もこのアプリは入れていたはずだ。

 すぐに確認すると、弟は自分たちよりも遠く離れた場所に飛ばされているようだった。

 ほっと息をつく傍ら、友奈はなぜ風が勧めてくれたアプリがこの世界で動くのか疑問に思った。

 

 

「あの、風先輩……」

 

 

「ごめん。それも含めで、これから説明するから――」

 

 

 疑問を口にする前に、風は普段の調子から一転した険しい表情から重々しく口を開き始めた。

 

 

「アタシ達は、神樹様に選ばれた《勇者》なの」

 

 

「勇、者……?」

 

 

 ――神樹様が、選んだ? 私たちを?

 突拍子もない風の発言に、友奈と東郷はただ混乱するしかなかった。

 

 

 

「どういうこと、お姉ちゃん?」

 

 

 混乱する友奈と東郷を慮って、そう問いかける樹に対して風は樹木の陰に腰を下ろすと語り始めた。

 

 

 

 まず、この世界は《樹海》という神樹様によって作られた結界の中の世界だという。

 そして自分たちは、神樹様から《勇者》というお役目を授かった存在らしい。

 勇者のお役目とは壁の外からやってくる敵《バーテックス》を倒すというもの。

 

 

「バーテックスが神樹様にたどり着いたとき、世界が終わる」

 

 

 最後に告げられたのは、衝撃的な一言だった。

 世界が終わる。そのたった一言が友奈、東郷、そして樹に重く圧し掛かる。

 

 

「それを防ぐために、アタシは大赦から派遣されたの」

 

 

「大赦……」

 

 

 大赦――神樹様を奉り、旧時代の政府に代わって今の四国を管理している組織だ。

 

 

「……今まで、黙っててごめん」

 

 

 困惑の色が強い友奈達に対し、絞り出すような声音で風は謝罪した。

 同時に勇者部は大赦の命令で勇者になれる人間を集めた部活だったとも告げられた。

 そして、何も起こることがなければ黙っているつもりだったということも風は付け足した。

 

 

「風先輩……」

 

 

 友奈は、そう頭の回る少女ではない。

 この場で風に対し、何か着飾った言葉を掛けることはできない。

 ただ、友奈は他人の想いに対して敏感な子であった。

 

 

「――――」

 

 

 だから、これまでずっと自分たちと一緒に部活に励んできた風が、自分たちが世界の命運を担うかもしれないという事実に押し潰されそうになりながらも、その事実を隠し通してきたことがどれだけ辛いことか分かった。

 友奈は必死に言葉を探った。

 風に対し、怒るでも悲しむでもなく、ただ励ますために。

 

 

「風先輩は皆の為を思って黙っていたんですよね。ずっと一人で抱え込んで打ち明けることも出来ずに」

 

 

「…………」

 

 

「――それって勇者部の活動目的通りじゃないですか」

 

 

「――っ」

 

 

「風先輩は……風先輩は悪くないです!」

 

 

 

 勇者部の活動目的は『人の為になることを勇んで行う』。

 それなら、皆の為にと風が隠し事をしてきただって、勇者部の活動目的に則ったもののはずだ。

 悪いのは攻めてくる敵であって、風ではない。

 皆の日常を壊し、世界を滅ぼそうとする悪い敵だ。

 

 

 

 ――なせば大抵なんとかなる。

 

 

 

 よく考えなくても、今の状況は弟と子どもの頃に見たヒーローものの展開そのままだ。

 ならば、悪い敵を倒してしまえばいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そんな考えが浅はかだったと気づいたのは、すぐ後のことだった。

 

 

 

「……ぁれ」

 

 

 

 樹が掠れた声と共に空に向かって指を差す。

 釣られて、その指の先へ振り返ると――それはいた。

 

 

「あれが……」

 

 

「そう、あれがバーテックス。世界を殺す、人類の敵」

 

 

 初めて見たバーテックスの姿。

 それは、確かに子どもの頃にみたヒーロー番組の敵のように巨大だった。

 でも、それは悪夢を具現化したような醜悪な姿をしていた。

 

 

 

 怖い、と思った。

 なぜ怖いかと言われると口にはできない。

 無意識に、理屈なしに怖いと感じる姿だった。

 

 

 

 これから、自分たちはあれと戦わなければならないのか。

 

 

「――っ!?」

 

 

 手が、震えていた。

 抑え込もうとする手も震えていて、拳にぐっと力を籠めることで無理矢理抑えた。

 それでも、恐怖は伝染してしまったらしい。

 ついに東郷も震えを隠すことなく、弱音を吐いた。

 

 

「あんなのと……戦えるはずがない」

 

 

「……方法ならある。戦う意思を示せば、アプリの機能がアンロックされて、神樹様の勇者になることができるの」

 

 

 風が端末を掲げる。

 その画面は、芽吹いた種が描かれた独特のものに変化していた。

 

 

「……勇者」

 

 

 友奈は自分の端末を見つめる。

 この端末を、恐らくタップすれば、自分は勇者になれる……はずだ。

 戦う意思と、風は言っていた。

 まだ迷いがある。恐怖がある。いきなりのことで頭も追い付いていない。

 

 

「皆、あれ……」

 

 

 東郷が震える指でバーテックスを指差した。

 見ると、乙女座は地面に接する尻尾のような部分を膨らませ、周囲に赤熱するミサイルのようなものを放っている。

 

 

「――伏せて!!」

 

 

 そのうちの一つが近くに落ちる。

 風の咄嗟の声に反応して、東郷を庇うが、起きた爆発の衝撃に体がもっていかれそうになる。

 

 

「こっちに気が付いた……?」

 

 

 衝撃から回復して、バーテックスを見ると、確かにゆっくりとこちらに近づいてきていた。

 戦うしか、ない。だが恐怖で指が固まっている。

 その間に風がこの状況を見て決した。

 

 

「友奈、東郷を連れて逃げなさい」

 

 

「でも……っ!」

 

 

「早く!!」

 

 

 風の強い語調に圧倒され、友奈は東郷の車椅子のハンドルを取ると移動を始めた。

 その姿を見て、風は内心でほっと息を吐く。

 

 

 

 ――巻き込まなくて、良かった。

 自分一人が戦う分にはまだいい。でも、関係のない友奈や東郷、そして樹を巻き込むというのはどうしても解せなかった。

 

 

「樹も一緒に……」

 

 

「――ダメだよ!」

 

 

 普段の樹の調子からは考えられないような大声で、樹は風の言葉を遮った。

 

 

「付いていくよ、何があっても」

 

 

「樹……」

 

 

 覚悟を見せた樹を見て、風も同じく覚悟を決めた。

 何があろうとも樹を守る。その強い意志に、勇者システムは答える。

 

 

「……よし! 樹続いて!!」

 

 

「うん!」

 

 

 ――――瞬間、二人は光に包まれた。

 勇者としての力が、端末を通して解放され、二人の姿が変わる。

 

 

 

 まず、犬吠埼風。

 

 黄色を中心とした衣装を纏い、髪の色を茶髪から黄色へと変化する。

 そして身の丈以上の大剣を肩に掛けている。

 左の太ももに刻まれた花びらの刻印は【オキザリス】。花言葉は『輝く心』。

 

 

 

 そして、犬吠埼樹。

 

 淡い緑色を中心とした衣装を纏い、その腕には植物の蔦を思わせるわっか状の飾りを装備している。

 背中に刻まれた花びらの刻印は【鳴子百合】。花言葉は『心の痛みを判る人』。

 

 

 

 変身し終えた二人は乙女座のバーテックスへと凄まじいジャンプ力で飛び出した。

 

 

「…………二人とも」

 

 

 その様子を、友奈はただ見ていた。

 

 

 

 飛び出した二人が、乙女座に勇敢に立ち向かっていく姿を。

 そして奮戦むなしくも爆発に捉えられ、吹き飛ばされる姿も、ただ見ていた。

 

 

「風先輩!! 樹ちゃん!!」

 

 

 本当に、これでいいのだろうか……?

 恐怖を感じる自分と共に、そう問いかけてくる自分がいる。

 

 

「……!?」

 

 

 乙女座が、その巨体をゆらりと友奈達の方に向けた。

 

 

「……こっち見てる」

 

 

 先ほどよりも近い、その巨躯を見て恐怖の感情が奮い立とうとしている勇気に勝った。

 端末を持つ手が異常に震えているのが自分にもわかる。

 その隙にも、乙女座は友奈達に向けて射出する爆弾の準備をしていた。

 

 

「友奈ちゃん、逃げて!!」

 

 

 爆弾の直撃を貰えば、勇者ではない自分たちは簡単に死ぬ。

 そして逃げるためには車椅子の自分は邪魔でしかない。

 東郷は、どうするべきかと立ち竦む友奈に対し、精一杯の勇気で叫ぶ。

 

 

「なに言ってるの! 友達は――っ!!」

 

 

 ――――見捨てられるわけない! 

 

 そう続けようとして、友奈は気づいた。

 

 

「そうだよ。友達を置いてなんて……そんなこと、絶対しない!」

 

 

 ――東郷を置いていくこと。

 

 ――風と樹を置いて逃げること。

 

 

 

 それらは全て同じ『友達を置いて逃げること』だ。

 

 

「駄目! 逃げて、友奈ちゃんが死んじゃう!!」

 

 

「いやだ! ここで、友達を見捨てるような奴は――」

 

 

 東郷の制止を無視して、友奈は走り出す。

 ――いつの間にか、手の震えは治まっていた。

 

 

「――――勇者じゃない!!」

 

 

 走り出した友奈に気づいたのか、乙女座は溜めていた爆弾を射出し始めた。

 だが、もうそんなものは関係ない。

 拳を握り込み、一気に拳を振るうと、爆弾は友奈の前でいとも容易く砕けた。

 

 

「嫌なんだ。皆が傷つくこと、辛い思いをすること、皆がそんな思いをするくらいなら――!」

 

 

 猛烈な爆風を潜り抜け、一息に飛び上がる。

 

 

「私が、頑張る!!」

 

 

 もう一度拳を強く握り込むと、その腕を強化プロテクターが包む。

 同時に、その衣装もピンク色の装束に変化し、髪も同じピンクに染まる。

 右の拳に刻まれた花びらの刻印は【ヤマザクラ】。花言葉は『貴方に微笑む』。

 

 

「うぉおおおおおお――――!!」

 

 

 ――痛い。

 

 ――怖い。

 

 

 

 でも、大丈夫だ。

 

 

「――――勇者」

 

 

 弟に誇れる姉で居たい。その想いも、友奈を奮い立たせる。

 

 

「パァァァンチ――――!!」

 

 

 放たれた拳は、友奈の華奢な身体からは想像もつかないほどの威力を出した。

 乙女座の巨躯の一部を砕き、貫いた拳は――今、その乙女座に対して勢いよく突き上げられる。

 

 

「私は、讃州中学勇者部。結城友奈――!」

 

 

 名乗りを上げ、続いて友奈は世界を殺す敵に対して宣言する。

 

 

「私は――勇者になる!!」

 

 

 そしてそれは、憶病な自分に対しての宣誓でもあった。

 




最後に言っておく! ゲイツとツクヨミは出ない! そして仮面ライダーウォズもでない!


↑え? 仮面ライダーウォズに関しては出しますよ(クマさん)


↑適当言うな!出さないって言ったやんか!(パラドファン)


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マオウセイタン0425

久々の投稿です。遅れて申し訳ございません。現在放送中の仮面ライダーゼロワンはもう中盤になっていますね。時の流れは早いなぁ……


 王様になる――子どもの頃、そんな夢を抱いていた。

 

 

 

 そんな夢を抱いたのは、何でだったんだろうか?

 

 確か、通っていた保育園で友達がいじめに遭っていて、それをどうにかしたんだと思う。

 そうして思いついたのが、王様になること。

 王様になれば、皆が争わない平和な世界が作れると、本気で思っていた。

 

 ――でも、できるわけがなかった。

 

 王様になりたいなんて荒唐無稽な夢は皆に笑われて、遂には僕までもがいじめられるようになった。

 最終的には友達のいじめの件まで含めて、姉さんが解消してくれたけど……あの頃に抱いた夢は、子どもの頃の夢想と捨て去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が晴れると、そこは別世界だった。

 先ほどまでは普通に暮らしていた僕たちの街が、極彩色の根によって埋め尽くされている。

 

 

「……ここは」

 

 

 驚きの中、僕は光に包まれる前に抱きしめた感触がないことに気が付いた。

 周囲を見回しても、姉さんや東郷さんの姿はない。

 

 

「姉さん……東郷さん……!!」

 

 

 僕は走り始める。湧き上がる恐怖を振り切るように、ただひたすらに。

 

 ――でも、

 

 どれだけ、走り回っても。

 どれだけ、名を叫んでも。

 

 姉さんの……東郷さんの姿を見つけることができなかった。

 

 

「――――ハァ、――――ハァ」

 

 

 ついに息が切れ、足も限界を迎える。

 それでも二人の姿を探そうと周囲を見回していると……見つけた。

 

 

「なんだ……あれ」

 

 

 ずっと遠くで、巨大な化け物が周囲に爆発を伴う投射物を放っていた。

 爆音と、爆風が僕の方にまで届く。

 衝撃に耐える中で僕は気づいた。あの化け物は昨日に夢で見た存在なんだと。

 

 

「ま、さか……なんで」

 

 

 固まる僕の背後から、唐突に声が掛かる。

 

 

「あれは《バーテックス》。世界を殺すものだね」

 

 

「うわっ!?」

 

 

 思わず飛び退くと、そこに居たのは……。

 

 

「……あなたは、昨日の?」

 

 

「覚えてくれたようで、光栄だよ」

 

 

 ――昨日、本を拾ったあの男性だった。

 彼は僕が覚えていたことが余程嬉しかったのか、パラパラと上機嫌に本を読み耽っている。

 その様子に若干恐怖を抱きながら、僕は男性の第一声の内容について尋ねる。

 

 

「あの、さっき言ってた。世界を殺すって……?」

 

 

 すると、彼は本のとある一ページで読み進めていた手を止め、その表情に影を落としながら告げる。

 

 

「言葉の通りだよ。あの怪物――バーテックスをそのまま放置すれば、君たちが信仰している神樹が斃され、世界が滅ぶ」

 

 

 ――世界が滅ぶ。

 にわかには信じがたい一言だ。

 でも、ここが現実にはあり得ない異世界だという事実が、彼の言葉に真実味を持たせる。

 

 

「そんな……」

 

 

 どうすればいい、世界を救うにはどうすれば……。

 必死に考えを巡らせても、ただの中学生ではどうすることもできない。

 無力な自分に絶望していると、彼はそんな僕に言葉を掛ける。

 

 

「気を落とすには早いよ、魔王」

 

 

 ――今、なんて?

 

 

「……魔王って、僕が?」

 

 

 魔王。そう呼ばれたことに対して首を傾げると、彼は開いた本のページを薄く撫でながら続ける。

 

 

「そう。君には魔王となり、世界を破滅から救う使命がある」

 

 

「――――使命」

 

 

 彼の言葉に、遠い記憶が掘り起こされる。

 子どもの頃に願った『王様になりたい』という、あまりに荒唐無稽な夢。

 その願いが、今……叶おうとしている?

 

 

「あなたは……?」

 

 

 無意識に零れ落ちた問い。

 彼はそれに満足したように笑みを零すと、仰々しい身振りとともに名乗り始める。

 

 

「私の名は《ウォズ》。魔王である君を正しき未来へと導く、歴史の管理者だ」

 

 

 そして、続くようにウォズはクッションに包まれた一つのベルトを取り出す。

 

 

「これを――」

 

 

 跪き、まるで献上するかのようにベルトを僕に差し出すウォズ。

 

 

「使い方はご存じの筈……」

 

 

 自然とポケットに手が伸びた。

 金属のひんやりとした感触が手に触れ、それを取り出す。

 昨日拾ったあの懐中時計型のアイテム(ライドウォッチ)が光り輝くと、ブランクだったものから仮面の絵柄に変化した。

 

 

「…………」

 

 

 これを使えば、僕は王様に……魔王になる。

 魔王――ウォズの言うその存在がどういうものか、今の僕にはわからない。

 でも、魔王というからには善き存在ではないのだろう。

 そんな少しの躊躇いが、あと一歩で僕の決断を鈍らせる。その時だ――

 

 

「――っ!?」

 

 

 轟音とともに、何かがすぐそばに着弾した。

 

 

「な、にが……」

 

 

 爆風と衝撃に耐え、着弾した場所を見るとひとりの少女がそこに横たわっていた。

 

 

「友くん!?」

 

 

「姉さん……」

 

 

 髪型や姿は違うが知っている姉さんの声だ。でも叫ぶ声はいつもとはまるで違う声音でも、焦るような驚くような様々な感情が垣間見える表情はやっぱり僕の知らないもので困惑してしまう。

 そして驚く僕を余所に、化け物は攻撃の手を緩めない。

 

 

「逃げて!!」

 

 

 尻尾のような場所からミサイルのような何かを発射する。それは目の前の姉さんに迫ると、爆発する。

 

 

「……ねえ、ウォズ」

 

 

「何だい? 魔王よ」

 

 

「この力を使えば、姉さんを助けられるの? 戦えるの?」

 

 

このまま何もせずに大切な姉さんを見殺しなんて出来ない。

拳を強く握りしめてウォズに問う。

 

 

「ジオウの力は史上最強――その力を使えば、過去も未来も望みのままに……」

 

 

「……なら、決めた! 僕は魔王になる。魔王になって、世界を救ってみせる!!」

 

 

 ウォズが持つベルトとウォッチ、これを使い魔王となれば姉さんを助けられる。なら迷う理由なんてない。

 

 

『ジオウ』

 

 

 魔王になる覚悟を決めてウォッチとベルトを取る。

 ベルト……ジクウドライバーを腰にあてると機械音が鳴り装着される。ジオウライドウオッチのボタンを押し起動させる。

 

 

「変身!」

 

 

 ドライバーの右側のスロットにライドウオッチを装填させると後ろに巨大な時計が浮かび上がり叫ぶ。

 

 

『ライダータイム!』

 

 

 ドライバーを回転させると同時に世界が回転し後ろの時計からマゼンタピンクのライダーの文字が飛び出しバンドが僕を取り囲むように回転し最後に飛び出したライダーの文字が顔の目の部分に収まる。

 

 

『仮面ライダージオウ!』

 

 

「祝え! 神世紀の世に生誕せし、新たなる時の王者。その名も仮面ライダージオウ。今まさに、覇道を歩み始めし瞬間である」

 

 

 そう言ってウォズは自身の腕を振り上げて、叙事詩を読み上げるような口調で称えあげる。

 

 

「な、なにそれ……?」

 

 

「新たな魔王の誕生を祝う祝言さ。気にせずに、君は戦いへ向かうといい」

 

 

「……わかった」

 

 

 そのまま足に力を掛け、一思いに飛び出すと30mは飛んだだろうか。

 スーツによる身体能力の増強を肌身で感じつつ、僕は姉さんたちのいる戦場までを最短で駆ける。

 

 

「……見つけた」

 

 

 駆ける勢いのまま、再び跳躍する。

 拳を強く握り、父さんから習った武術の型の一つである正拳突きを化け物の側面からお見舞いする。

 

 

「おりゃあ!」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「なに、アレ……」

 

 突如と飛び出し、乙女座と戦闘を開始した謎の仮面の戦士の登場に風は構えていた大剣すら降ろし、困惑する。

 その傍に乙女座の攻撃から復帰した友奈が降り立つ。

 が、友奈も仮面の戦士の登場に混乱しているらしく、言葉に詰まりながらもその正体について言及する。

 

 

「……多分、友くんです」

 

 

「アレが!? 友人って……あの子は勇者じゃ」

 

 

 風が大赦から伝えられた話では勇者になれるのは()()()()()()()()()()だけのはずだ。

 ――なのに何故?

 疑問を浮かべる風に答えを示したのは、背後からゆらりと近付いてきた謎の男性だった。

 

 

「――そう、彼は勇者ではない」

 

 

 

「誰……?」

 

 

 背後の声に振り向くと、そこには奇妙な格好の青年が分厚い本を携え、そこに居た。

 

 

「彼は王となることを望み、その力に選ばれた新たなる時の王者だ」

 

 

「王って……それはどういう!?」

 

 

 王と一体どういう事なのか。

 そう追及するよりも早く、男性は自身の首に巻いているマフラーで自身を包むと姿を消した。

 

 

「……なんなのよ」

 

 

 今まで大赦に聞かされていた事とは違う現象がこの樹海内で発生している。

 予測不能な事態を前に、風はただただ困惑の色を強めた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「攻撃が通らない……ッ」

 

 

 勢いのままに化け物を殴り飛ばした友人――ジオウ――だが、当の化け物は受けた傷などモノともせずに反撃を繰り返してくる。

 

 

「どうすれば……」

 

 

 手を拱いている間にも、化け物は小さな火球を幾重にも放ち友人を狙う。

 幸いなことに、纏ったスーツの敏捷性は並のものではなく、火球自体は簡単に避けることができてはいるが、避けることができるだけで攻撃に転じることができずにたたらを踏む。

 

 

「魔王よ。武器を思い浮かべ、手をかざしたまえ!」 

 

 

 咄嗟に友人はその声に従う。

 剣を思い浮かべ、かざした手に長剣が現れ、それを掴む。

 

 

『ジカンギレード!』

 

 

 目の前の火球を現れた長剣――『ジカンギレード』――で切り裂く。

 火球は真っ二つに裂け、背後で爆炎が起こる。

 

 

「これならいける!!」

 

 

 飛び掛かり、長剣で化け物に斬りかかると確かな手ごたえとともに化け物の表面を裂いた。

 

 

「よし!!」

 

 

 だが、喜ぶのもつかの間。切り裂いたはずの化け物の肉体が容易く元通りになるのを、友人は見た。

 そして回復した化け物は友人を囲うようにして、大型の火球を投射する。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

 避けきれず、被弾し、吹き飛ばされる友人の身体がワイヤーで絡みとられる。

 

 

「友人さんっ!」

 

 

 どうやら樹が右腕のわっか状の飾りの花からワイヤーを射出し、受け止めてくれたようだ。

 

 

「友くん! 大丈夫!?」

 

 

 友奈が慌てて吹き飛ばされた友人の元に駆け寄る。

 そんな姉に心配をかけまいと友人は未だに身体に残る痺れを振り切り立ち上がる。

 

 

「大丈夫だよ……姉さん」

 

 

 幸いにもジオウに変身したことにより体が強化されている事と、樹のワイヤーで受け止められたことで肉体へのダメージは少なく済んでいた。

 すぐに回復すると、傍で不安そうに見上げてくる樹に礼を言う。

 

 

「樹ちゃん、助かったよ……ありがとう」

 

 

「いえ……」

 

 

 そう返事する樹には戸惑いの色が強い。

 どうやら友人がジオウに変身し、戦っていることを未だ自分の中で消化しきれていないようだ。

 ……なんと説明したものか。

 悩んでいると、大剣を背負った風が目の前に降り立った。

 

 

「ごめん!もうアタシ一人じゃアイツを抑えきれない。手伝って!」

 

 

 言われて、化け物の方を見ると相変わらず周囲に爆弾をまき散らしながら神樹様の方へ向かっているようだった。

 

 

「「「はい!」」」

 

 

 すぐに飛んで、化け物の方へ向かう。

 その最中、風によって説明されたのが、あの化け物ーーバーテックスの倒し方である。

 

 

「バーテックスを倒すには、まず封印をしなきゃいけないの」

 

 

「封印?」

 

 

「そう。封印でアイツの中の核を引っ張り出して、それを壊すの」

 

 

 この爆弾の雨の中、そんなことをしなければいけないのか……と嘆きたくなる友人だったが、そうしなければ倒せないというのだから仕方がない。

 

 

「風先輩、それで封印をするにはどうすればいいいんですか?」

 

 

「それを今から説明するから、攻撃を避けながら聞いて! さあ、行くわよ!」

 

 

「ハードだよぉ〜!」

 

 

 樹がぼやくのも無理はなく、バーテックスの抵抗は激しさを増している。

 バーテックスが次々と放つ爆弾をなんとか避けつつ、勇者部一同は風の声に耳を傾ける。

 

 

「まず最初の手順は勇者がバーテックスの周囲を囲むこと!」

 

 

「う、うん!」

 

 

「分かりました!」

 

 

 樹と友奈がバーテックスを囲うように散る。そして全員が位置につくと、風は続いての手順の説明に入った。

 

 

「次はアイツを封印するために、全員で祝詞を唱えるの」

 

 

「祝詞って……えっとえっと」

 

 

 慌てる友奈の声を他所に、バーテックスは

包囲から逃れようと暴れ始める。

 させない、と友人は振るわれる触手をジカンギレードで斬り払う。

 

 

「風先輩!!」

 

 

「行くわよ、封印開始!!」

 

 

「「了解!」」

 

 

 そうして、勇者三人による封印の儀が開始される。

 

 

「かくりよのかみ あわへみたまい 」

 

 

「めぐみたまい さきみたま くしみたま」

 

 

 友奈、樹の二人が粛々と祝詞を唱え、そして続くように風もーー

 

 

「大人しくしろォォォーーー!!」

 

 

 叫びながら、その手の大剣を勢いよく叩き付けた。

 

 

「「「ええっ! それでいいのーー!?」」」

 

 

「要は魂込めれば、言葉は問わないのよ」

 

 

 ……無茶苦茶である。

 これではまるで二人が粛々と祝詞を唱えあげようとしていたのがまるで茶番だ。

 とはいえ、風の言葉は本当らしく、三人の前にそれぞれの精霊が顕現すると、金と銀の花びらの渦が巻き起こって、バーテックスを包み込む。するとーー

 

 

「な、何か出たーーー!」

 

 

 バーテックスの頭部のような場所からめくれる様にして、頂点を下にした四角錐が飛び出してきた。

 

 

「風先輩、あれがーー」

 

 

「そう、あれが御霊。いわば心臓みたいなところで、破壊すればこっちの勝ち!」

 

 

 問うと、風はあれがバーテックスの核だと答えた。破壊すれば勝ちとも言った。

 ならばと友人は一息に飛び上がり、御霊へ向けてジカンギレードでの渾身の一閃を放つ。

 

 

「……ぐっ、この!!」

 

 

 が、その一撃は僅かに御霊に傷を付けるのみで終わった。

 入れ違いに風が御霊に飛び乗ると、大剣を幾度も叩き付けて友人が付けた傷を僅かずつだか広げていく。しかし、それでも御霊を砕くまでには中々至らない。

 

 

「どうすれば……」

 

 

 友人は悩む。このまま時間を掛けれて攻撃し続ければ、いずれ御霊を砕くことはできる。

 しかし辺りを見回すと、周囲の植物の根がどんどん枯れていっており、どう見てもそれが良いことには見えない。何かしらの悪影響を及ぼす筈だ。

 故に御霊の破壊を急ぎたいが、全員で攻撃しても早まるのはほんの僅かだろう。

 

 

「必殺技を打ちたまえ、魔王よ」

 

 

 と、背後から声が掛かる。

 振り向くとそこに居たのはウォズで、変わらずに微笑を湛えながら友人のベルトを指さした。

 

 

「ベルト?」

 

 

 促されるままにベルトを操作する。

 ウォッチのボタンを押すと『フィニッシュタイム!』という音声の後に待機音が鳴り始める。

 

 

「友くん!」

 

 

「行こう、姉さん!!」

 

 

 さすが姉弟だ。特に示し合わせも無く、友奈もこのままではまずいと思ったのだろう。

 ーー世界を守る。動く理由はそれで十分だ。

 二人は一斉に飛び上がると、友奈は強く拳を握り込み、友人はジクウドライバーを一回転させた。

 

 

『タイムブレーク!』

 

 

 友人の右足に力が込もる。そのまま空中でキックの体勢を作ると、友奈の拳と共に右足を一気に突き出した。

 

 

「「うおりゃぁぁぁぁぁーーー!!」」

 

 

 互いに渾身の一撃は、風がこじ開けた御霊の傷を更に押し広げる。

 そして全体にヒビが入ると、御霊は砕け、破片は光となって天に立ち昇る。

 だが、その光の一部は友人の腕のホルダーにあるブランクウォッチに宿る。

 

 

『クウガ』

 

 

 宿った光によってウォッチは、赤と金の『クウガ』のものへと変化した。

 

 

「……なんで?」

 

 

 首を傾げる友人だが、今はウォッチに気を取られいる場合でもない。御霊が破壊されたバーテックスがどうなったかを確認しなければならない。

 

 

「砂になってる……」

 

 

 どうやら心臓部である御霊を砕かれたバーテックスの身体は、黄金の砂状になって消失するようだ。

 その様子を見て、ようやく勝ったのだという感慨が友人の胸に溢れた。

 そうしてほっと一息ついていると、友奈と風が友人の元へ駆け寄ってくる。

 

 

「やったね、友くん!」

 

 

「ほんと、よくやったわね。二人とも!」

 

 

 勝利を喜び、半ば友人に抱きつかんばかり勢いで手を取ってくる二人。

 

 

「お姉ちゃん!」

 

 

 少し遅れて、樹も喜びの輪の中に入る。

 そうしてひとしきり喜びを分かち合っている内に、周囲に花びらが舞いだした。

 視界が全て花びらに埋め尽くされ、それが一気に散った時には景色は鮮やかな樹海のものではなく、讃州中学の屋上へと変わっていた。

 

 

「戻ってこれた……?」

 

 

 目の前には、何事も無かったかのように過ぎる普段の日常の姿が映っていた。

 思わず泣きそうになりながら、友人は感慨深げに言葉を漏らす。

 

 

「神樹様が戻してくださったのよ」

 

 

「あっ!! 東郷さん!」

 

 

 と、友奈が近くに東郷を見つけて駆け出した。

 

 

「大丈夫だった? 怪我はない?」

 

 

「……友奈ちゃんこそ、大丈夫?」

 

 

「うん! もう安全ですよね?」

 

 

 友奈は確認のために風に問う。

 

 

「そうね。ほら見て」

 

 

 屋上から町を見下ろすと何事も無かったのかのように普段の日常が過ぎている。

 

 

「皆、何があったのか気付いてないんだね。」

 

 

「そう他の人達にからすれば今日は普通の平日。アタシ達で守ったんだよ、皆の日常を。」

 

 

「よかった……」

 

 

「うん。僕達、守れたんだね……」

 

 

 姉を守りたい。

 皆を守りたい。

 世界を守りたい。

 

 そう願って、力を与えられた。

 力を手にして、必死に戦った。

 戦いの末に、平和な日常を勝ち取った。

 

 

「ちなみに戦ってる最中も世界の時間は止まったままの筈だから、今はモロ授業中だと思う」

 

 

「「えぇっ!?」」

 

 

 感慨深くなっている所をぶち壊す風の衝撃のカミングアウトに、友人たちは同時に驚いてしまい大声で叫んでしまう。

 

 

「ま、後で大赦からフォロー入れて貰うわ。」

 

 

 気にしないでも大丈夫と答えると、一転して真面目な表情になり樹の方を向く風

 

 

「樹、怪我はない?」

 

 

「うん、お姉ちゃんは……?」

 

 

「平気平気。」

 

 

「……怖かったよぉ、お姉ちゃん。わけわからなかったよ……」

 

 

 気丈に振舞い、戦った樹。

 でも戦いが終わって、恐怖や色んな感情が一気に吹き出したんだろう。

 姉に……風に抱きついて、縋り付くように泣いている。

 

 

「…………」

 

 

 友人はさっきの戦いを振り返りもし、隣にいる姉……友奈に何かあったらと思う。

 それが無性に不安になって、友人は友奈の手を強く握る。

 

 

「……友くん?」

 

 

「ごめん……でも、もうちょっとこのままいさせて」

 

 

 唐突な友人の行動に、友奈はきょとんと首を傾げるけど直ぐにいつもの様な笑顔に戻ると、友人の手を強く握り返す。

 

 

 

「大丈夫! 私はいっつも一緒だよ」

 

 

 

 どうやら、友奈には弟である友人の考えなどなんでもお見通しらしい。

 

 

 

「うん、そうだね」

 

 

 

 ひとまず、勇者やらに関する諸々の説明は明日に持ち越されることとなった。

 とりあえず教室に戻りましょうと誰からともなく言い出して、移動を始めた友人の背後から声が掛かる。

 

 

「ーー魔王よ」

 

 

「ウォズ?」

 

 

「おめでとう。クウガの力の継承、私も喜ばしいよ」

 

 

「ねぇ、その『クウガの力』って何なの?」

 

 

 聞いたこのない単語に友人はウォズに問う。

 

 

「クウガとは、平成ライダーの歴史の幕開け……《仮面ライダークウガ》のことだよ」

 

 

「仮面ライダー……」

 

 

「悪しきゲームで人々を襲う存在《グロンギ》から、人々の笑顔を守るために戦った戦士でもある」

 

 

「笑顔を……」

 

 

「そのウォッチを使うことで与えられるのは《身体能力》の強化。格闘技を習っていたという君にはうってつけの力だ」

 

 

「へぇ……」

 

 

「他にも仮面ライダーは沢山いる。残り18人。全員から力を受け継ぐ時を楽しみにしているよ」

 

 

「18人。ねぇ……全部揃えたら、どうなるの?」

 

 

「今は気にしなくていい。それよりもーー」

 

 

「それよりも?」

 

 

「授業中のようだが、いいのかな?」

 

 

 




どうも、クマさんです。
本当にお久しぶりですね、半年ぶりでしょうか? まぁ、これというのも私の方にマジで時間が無くて書く暇がなかったと言うやつなんですが……もうこれ完全に旬を逃しましたね。

という訳でこれからも細々続けていこうと思うのですが、早速最悪のニュースです。

ゆゆゆの感謝祭がコロナのお陰で延期になりました。これに関しては運営の決断を責める気は全くありませんが、ショックはショックなのでね。ここで嘆かせてください0(:3 _ )~




……はい。では次回にまたひと月後位に会いましょう。


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コッカボウエイ0426

最近、ガンダムばかり観ていたので遅くなってしまいました。ごめんなさい(土下座)

とは言え、前回のとうこうから1ヶ月……なんとかなりました。
では、お楽しみください。


ちなみに1番好きなのは00です。


さて、諸々の説明を放課後の部活に控えている友人は、授業が終わるとすぐに部室に向かおうとしたが、あいにくと日直当番であった為に姉である友奈とその友人である東郷を先に見送ることになった。

そんな訳で日直の仕事で学級日誌を書きながら、クラスメイトと雑談に花を咲かせていた。

 

「昨日さ〜、家の近くで事故があったらしくてな」

 

「え、大丈夫だったの?」

 

「いや、2,3人巻き込まれたかで……まぁ死んだ人はいないらしいんだけど」

 

「それなら、よかった……のかな?」

 

「ま、そうなんじゃね」

 

などと話している内に、日誌が書き終わる。

内容に不備がないかざっと目を通して、ぱたりと日誌を閉じると、友人はゆっくり立ち上がる。

 

「……よし、終わった。じゃあ行くよ」

 

「おっ、勇者部か〜。羨ましいぞ、このハーレム主人公め」

 

「そんなんじゃないよ……。勇者部は」

 

「悪い悪い。じゃ、また明日な」

 

「うん、また明日」

 

クラスメイトと別れ、職員室で日誌を提出してから部室に向かう。

その道中、友人はふと考える。

ーーさっきの話はニュースなんかでは聞かなかった。

もしかしたら、昨日の戦いの影響が事故として現れたのかもしれない。

亡くなった人が出なくてよかったと、内心でホッと息を吐いていると、部室の扉が見えてきた。

 

「結城友人、入りまーす」

 

扉を開けて部室に入ると、友奈、東郷、樹、そして風と、既に勇者部の全員が集まっていた。

 

「お、来たわね。座って座って」

 

風にそう促され、友人は空いている椅子に腰を下ろす。

と、席についた友人に皆の視線が集まる。

 

「……えっと?」

 

「いやね、昨日友人が変な姿になったじゃない? 勇者の事ならアタシが説明できるんだけど……」

 

「なるほど」

 

「だから、説明してもらえると助かるんだけど……」

 

「えっと、僕も詳しくはわかってないんですけどーー」

 

ジオウに関する諸々の説明を、友人は自身の理解している範疇でする。

時の王者然り、魔王然り、課せられた使命然り、荒唐無稽な話ばかりであったが、友人の必死に言葉を紡ぎ出す様子に、風や他の皆もとりあえず納得する様子を見せた。

 

「……友人の事はわかったから、アタシからは勇者についてを色々説明していくわ」

 

「よろしくお願いします!」

 

そう元気よく返事する友奈に頷き返して、風は勇者やバーテックスの諸々に関して説明を初める。

 

「昨日アタシたちが戦ったのがバーテックス。その目的は昨日も言ったように、神樹様を斃して世界を滅ぼすこと。そいつらが12体、壁の向こう側から攻めてくる事が神樹様のお告げでわかったの」

 

「そこで大赦が作ったのが、神樹様の力を借りて勇者と呼ばれる姿に変身するシステム」

 

「人智を越えた力に対抗するには、こちらも人智を越えた力ってワケね」

 

ーーというのが、勇者とバーテックスについて風が知るおおよその概要らしい。

加えて、と風は表情を険しくしながら続ける。

 

「注意事項として、樹海が何かしらの形でダメージを受けると、その分日常に戻ってきたときに何かの災いとして現れると言われているわ……」

 

その言葉に友人は今日教室でクラスメイトから聞いた交通事故の話をを思い出す。

つまり、これからの戦いでは樹海にも気を配らなければならないということだ。

 

「派手に破壊されて大惨事、なんて事にならないようにアタシ達勇者部が頑張らないと」

 

決意を新たにするよう口にする風。

思いを同じく、気を引き締める友人たちだったがーー東郷だけは違った。

 

「その勇者部も先輩が意図的に集めた面子だったというわけですよね?」

 

「うん。適正値が高い人はわかってたから……」

 

そう問いかける東郷の語気は強く、風の言葉は徐々に尻すぼみとなっていく。

 

「ーー何で、もっと早く勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか」

 

「…………」

 

「友奈ちゃんも樹ちゃんも、皆死ぬかもしれなかったんですよ……!」

 

確かにーーと、友人は内心納得する。

勇者としての適正があっても、勇者になれるかはまた話が変わってくる。

現に東郷は勇者になれていない。

勇者は精霊に守られている。しかし、勇者でなければその守りはない。死んでいてもおかしくは無かった。

その事を否定できないのか、続く風の言葉はどこか言い訳じみていた。

 

「ごめん。でも、勇者の適性が高くてもどのチームが神樹様に選ばれるか、 敵が来るまでわからないんだよ。 むしろ変身しないで済む確率の方がよっぽど高くて……」

 

ーーでも、実際に選ばれてしまった。

変身しないで済むかもしれない、そんな言葉にもう意味はなくて、風に向けられる東郷の非難は続く。

 

「こんな大事なこと、ずっと黙っていたんですか……」

 

「東郷ッ!?」

 

言って、東郷は車椅子を操作すると、部室から出て行った。

風は追い縋るように手を伸ばすが、その手は何を掴むことも無く、ただ空を切る。

 

「私、行きます」

 

友奈がそんな東郷をフォローするべく追いかける。

残されたのは、友人と風と樹の三人。

近くの椅子に力無く腰を下ろした風は、うなだれた様子でボソりと呟く。

 

「やっぱり、怒るわよね……」

 

落ち込む風になんと声をかけて良いのやら、友人と樹は互いに顔を見合わせる。

と、風は俯いたまま友人に問いかけてきた。

 

「友人は……無いの? 私に」

 

「……確かに黙ったことに対してはちょっと怒ってます」

 

風の問いに、まず素直な気持ちを吐いた友人。

 

「…………ごめん」

 

意気消沈と謝罪の言葉を口にする風だが、友人の想いはそれだけではない。

 

「でも僕も、風先輩と同じことを聞かされたらおいそれと話せたとは思えないんです」

 

「……え」

 

「だって知ってたら、もし選ばれなくても姉さんも東郷さんも先輩も樹ちゃんも黙ってる人じゃないですから」

 

もちろん僕もーーそう言って、友人はさらに続ける。

 

「皆優しくて、皆強いから。勇者じゃなかったとしてもバーテックスとの戦いには関わったと思います」

 

「結局危険なのには変わりなくて……。それだったら黙っていた方がいいかもしれない」

 

「そう思ったから、風先輩も黙ってたんでしょ?」

 

たぶん風は、これまでも幾度と悩んできたのだ。勇者部の真実を皆に伝えるべきか否かを。

ーーそして、終ぞ言い出すことはできなかった。

僅かな望みに賭けて、自分たちが世界の命運を担うかもしれないという事実に押し潰されそうになりながら。

それがどれだけ辛いことか。

友人には、想像もつかなかった。

 

 

「……うん」

 

だから、友人は風へ言葉を紡いだ。

怒るでも、悲しむでもなく、ただ励ますために。

 

「だったら気にしないでください。先輩は僕たちを思って、黙っててくれたんですから」

 

そんな友人の言葉に、風は心なしか救われたようで落ち込んだ様子から笑顔を見せる。

 

「……昨日、友奈にも同じこと言われたわ」

 

「へ?」

 

「うん。やっぱり姉弟ね、アンタら……」

 

「……そうですか?」

 

「そうよ」

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「えっとー、説明足りてなくてごめんねー」

 

「それだと、もっと怒らせると思うんですけど……」

 

「本ッ当に、ごめんなさい!」

 

風は自身の精霊である犬神を呼び出し、彼(?)を相手に東郷さんに謝る練習をしていた。

 

「低姿勢過ぎるかな……?」

 

「でも、変に謝るよりは真摯な方が良いと思いますよ?」

 

今回は事情が事情だ。

東郷も冷静になれば風のやんごとなき事情も理解してくれるだろうから、関係が悪化するようなことは無いだろう。

でも、だからこそ言葉にするべきなのだ。

もしこのままの関係が続くようなら、世界を守るという使命も果たすことは叶わないだろう。そんな時だーー

 

「ーーーッ!?」

 

端末からけたたましいアラーム音が鳴り響く。

ーー樹海化警報。

画面を見るまでもなく、世界はその有り様を変えていく。

 

「まさか連日とはね……」

 

風も流石にこの事態は予想していなかったのか、呟く言葉に動揺が感じられる。

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

 

世界が変わった。

踏みしめていた教室の床は植物の大地に。

窓から見えていた街並みは色鮮やかな景色にに。

総じてこの世のものとは思えない樹海の様子に呆ける友人と樹に、風は鋭く叫ぶ。

 

「友人、樹、行くわよ!」

 

「……う、うん」

 

「はい!」

 

風と樹は端末を、友人はライドウォッチとドライバーを取り出し、腰に巻く。

 

『ジオウ』

 

ライドウォッチを起動させ、ドライバーの右側のスロットに装填する。

 

「変身!」

 

叫び、ドライバーを回転させる。

時計を模したエフェクトからライダーの文字が飛び出し、時計のバンド状のエネルギーが友人を包む。

 

『仮面ライダージオウ!』

 

そして、友人は仮面ライダージオウへと変身を果たす。

同じく姿を変えた犬吠埼姉妹とともに、壁の向こうから迫るバーテックスの姿を捉える。

 

「3体同時に来たか……モテすぎでしょ」

 

「あわわわわ……」

 

「バーテックスにモテても嬉しくはないですね……」

 

今回やってきたバーテックスは三体。

その内赤と黄色の二体ーー蟹座、蠍座ーーが先行し、青の一体ーー射手座ーーが遅れて神樹様に向かっている。

 

「結城友奈、到着しました!」

 

と、離れていた友奈が合流したので、早々に片付けてしまおうと風が皆に指示を飛ばす。

 

「遠くの奴は放っておいて、まずは手前の2体まとめて封印の儀いくわよ!」

 

「了解!」

 

飛び出そうとする友人だが、ふと遅れる射手座の様子が気になった。

友奈も同じく気になったのか、立ち止まり射手座を注視している。

ーーと、射手座が口らしき器官を大きく開いて、その奥を怪しく光らせ始めた。

 

「あっ!?」

 

その異変に気付いた友奈が声を上げるが、時すでに遅し。射手座の口から長い針のようなものが風に向けて発射される。

 

「わっ!?」

 

風は間一髪のところで射手座が放った長い針を、武器の大剣を使って防いだ。

 

「お姉ちゃん!!」

 

驚いた樹が駆け寄るが、風は腕が痺れた程度で特にダメージはないようで無事をアピールするようにひらひらと手を振っている。

ならば、と友人はジカンギレードを銃モードで構えるが、射手座が動き出す方が早かった。

今度は下の口を大きく開くと、その中から大量の短い針を上空に向けて放った。

 

「なっ!?」

 

「い、いっぱい来たー!」

 

放たれた針は弧を描くように友人たちに向け、落下してくる。

あんなものを喰らってはひとたまりもない。

全力で走って、なんとか針から逃れる。

 

「撃ってる奴をどうにかしなきゃ!」

 

動かない場をどうにかするべく、友奈が射手座に突貫する。

が、させまじと蟹座が射手座の射線に割り込んだ。そして自身の周囲に板のようなものを生み出すと、その板で短い針を反射させて友奈を狙った。

 

「姉さん、後ろ!」

 

「あわわわっ!?」

 

友人の声に慌てて振り返った友奈は迫り来る短い針をなんとか拳で全て撃ち落とした。

 

「ふう……」

 

着地し、息をつく友奈だが、その隙を狙った蠍座に地中から尻尾の針を突き立てられた。

 

「姉さん!?」

 

高く打ち上げられたが、精霊の牛鬼が友奈の身を針から守ってくれていた。

しかし、それで攻撃は終わりではなく、空中で身動きの取れない友奈に対して、蠍座はまるで蝿でも叩くかのように友奈を尻尾で地面に叩きつけた。

 

「このっ!」

 

友人は急いで友奈の元へ向かおうとするが、また短い針が射手座から放たれ、それを蟹座が反射させ、と攻撃を避けるばかりで風や樹共々、樹海の根の影でまるで身動きを取れなくされた。

その間にも蠍座の攻撃は続き、友奈は尻尾を幾度と叩きつけられている。

 

「……なんとかしなきゃ!」

 

戦いが長引けば、樹海もただでは済まない。

そうなれば現実世界にも大きな悪影響をもたらす。早くバーテックスを倒さなければならない。

友人は必死に考えをめぐらせるが、焦るばかりで大した案など浮かばない。

同じく身を潜める風も、攻勢に出る隙を伺ってはいるが、絶え間なく続く射手座と蠍座の攻撃に為す術もない。

 

「友人さん……」

 

不安な様子の樹に腕に縋られる。

そこで友人はホルダーに付いた赤と金の色を見る。

 

「……風先輩、樹ちゃん、僕があいつらをどうにかします」

 

「ちょっ!? バカ言わないの、死ぬわよ!」

 

「策なら、あります」

 

ホルダーから友人はクウガライドウォッチを取り出す。

ーーもう、これに賭けるしかない。

ウォズが言うにはクウガライドウォッチに込められた力は《肉体能力》の強化。これを使えばあの二体のバーテックスの連携を崩せる可能性がある。

友人はクウガライドウォッチのベゼルを回転させ、スイッチを押した。

 

『クウガ!』

 

クウガライドウォッチをドライバーの左側に装填させ、回転させる。

 

『アーマータイム! クウガ!』

 

ソニックウェーブが鳴り響き、紋章と赤をベースにしたアーマーが炎に燃えながら装着される。

 

「祝え! 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ・クウガアーマー。まず一つ、ライダーの力を継承した瞬間である」

 

「アンタ、誰に向けて言ってんの……?」

 

「……ていうか、急に出てきたよ?」

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

『フィニッシュタイム!』

 

クウガライドウォッチをドライバーから外して銃モードのジカンギレードのスロットに装填すると、友人の姿は赤の戦士から緑の戦士のものへと変わる。

同時、一目散に走り出す友人。

そんな友人に対し、射手座と蟹座が迎撃と言わんばかりに針の雨を降らせる。だが姿が変わり、聴覚が超強化された友人にはバーテックスらの攻撃が手に取るように分かった。右へ左へ、上へ下へと攻撃を回避し、狙いを定める。

 

『クウガ! スレスレシューティング!』

 

放たれた疾風の弾丸は、見事射手座を捉え、その威力に崩れ落ちるようにして、その巨体を地に堕とす。

 

「よし! 今、だ……?」

 

続けて蟹座を、と友人が構えたその時だ。

友奈を襲っていたはずの蠍座が、蟹座に向かって投げ飛ばされてきたのだ。

 

「そのエビ運んで来たよ―!」

 

どうやら投げ飛ばしたのは友奈のようだ。

元気よく手を振りながらやってくる姿に、友人は安堵する。

と、状況を見て飛び出してきたのだろう。犬吠埼姉妹もその場に合流した。

 

「どう見てもさそりでしょ!」

 

「どっちでもいいよぉ……」

 

そんなやり取りについ顔を綻ばせていると、友奈の背後から青い影が飛来した。

 

「東郷さん!」

 

影の正体は青い勇者服を纏った東郷だ。

長大な砲身を持つ狙撃銃を携え、動かない足を補助するべく四本の触腕が装備されている。

左の胸元に刻まれた花びらは【朝顔】。花言葉は『愛情の絆』。

 

「遠くの敵は私が狙撃します」

 

開口一番、東郷は風に対してそう告げた。

 

「東郷……戦ってくれるの?」

 

風の言葉に東郷は静かに頷く。

 

「援護は任せてください」

 

頼もしい東郷の言葉に、風も思わず顔を綻ばせる。

対して東郷は穏やかな笑みで返すと、すぐに射撃位置を確保し、伏射姿勢に入った。

そんな東郷に当てられた形で風も友人たちに指示を飛ばす。

 

「手前の2匹、まとめてやるわよ! 散開!」

 

「「了解!」」

 

飛び出す友奈と樹の背を見送り、友人は狙撃銃のスコープを覗く東郷に声を掛ける。

 

「東郷さん!」

 

振り返った東郷の目を、友人は仮面越しに見る。

 

「……いいんだね?」

 

「ええ。もう迷わない!」

 

確かに東郷の目に迷いの色はなかった。

それを確認すると、友人は友奈たちを追うべく駆けだした。

 

「じゃあ、援護よろしくね!」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

東郷の射撃によって射手座が抑えられている間に、勇者たちが蟹座と蠍座の二体を取り囲んで封印の儀を開始した。

二体の御霊が剥き出しとなり、まず蟹座をということで友奈が友人へ合図する。

 

「いくよ、友くん!」

 

「うん!」

 

二人して飛び出して攻撃を仕掛けるが、何と蟹座の御霊がギリギリのところで回避してくるので、まるで攻撃が当たらない。

 

「この御霊、絶妙に避けてくるよ!」

 

「代わって友奈! 友人!」

 

風の声に友人と友奈はすぐに後ろへ跳ぶ。

割り込むようにして飛び出してきた風は御霊に向けて自身の大剣を振るうが、やはり御霊はひらひらと攻撃を回避してくる。

ならばーーと、風は己の精霊である犬神を呼び出す。

 

「点の攻撃をひらりと躱すなら!」

 

風は大剣を構えると、精霊ーー犬神の力を解放させて剣を巨大化させた。

 

「面の攻撃でぇーーー!」

 

巨大化した大剣を振り回し、御霊を吹き飛ばす。

 

「押し潰す!」

 

上から叩きつけるように振るわれた一撃によって、蟹座の御霊は完全に破壊される。

砕かれた御霊は光へと形を変え、天へと昇る。

しかし、その一部は友人の腕に備え付けられたホルダーのブランクウォッチに宿り、形状が変化する。

 

『龍騎』

 

銀と赤のウォッチ。刻まれた数字は2003年で300年以上前の年代だ。

 

「やっぱり……バーテックスを倒すとウォッチができるんだ」

 

ーー仮面ライダー。

友人自身もそうであると、ウォズからは告げられている。

しかし仮面ライダーとは何で、何故ライダーたちの力がウォッチとして存在するのか。友人にはわからなかった。

 

「さぁ、次行くわよ!」

 

風の声で意識を切り替えた友人は、続けて蠍座の御霊を狙う。

しかし、御霊はその数を十以上に増やしており、どれが本物か判別がつかなくなってしまった。

 

「な、なんか増えたー!?」

 

「どれが本物なの!?」

 

友奈と友人は、突如増えた御霊に困惑するばかりだったがーー樹は冷静だった。

 

「数が多いなら……。まとめてぇーっ!」

 

武器であるワイヤーで大量の御霊を縛り上げ、一挙に切断した。

そして、最後に残った本物の御霊を細切れにして破壊した。

 

『カブト』

 

また、天に昇る光の一部がウォッチに宿り、赤と銀のウォッチに。今度は2006年と刻まれている。

 

「……ほんとに、なんなんだろ」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

風と樹、二人の尽力によりどうにか蟹座と蠍座を封印し終え、残す一体は射手座のみとなった。

しかし、蟹座を封じたとはいえ遠距離から放たれる針の雨は厄介そのもので、踏み込むタイミングを逃していると、唐突に風がスマホを取る。

 

「東郷……」

 

どうやら相手は東郷のようだ。

ーー先だってのやり取りでは部室での確執を引き継いでいる様子はなかったが、どうなのだろうか。

そんな友人の危惧は、結果として無為に終わる。

 

『精一杯援護します!』

 

「心強いわ、東郷!」

 

漏れ聞こえた東郷の声とそれに答える風の言葉から、二人の関係が悪化する事態は避けられたようだ。

 

「アタシの方こそーー」

 

風がそう言いかけて、その眼前で射手座が東郷の正確無比な狙撃に撃ち抜かれた。

 

「えっと……ホントごめんなさい、ハイ」

 

精一杯の援護の結果、射手座を撃墜してみせた東郷の威力に風の言葉はまた尻すぼみとなる。

勇者部部長のそんな情けない背中に、友人は東郷に対しての拍手を送ることしかできなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

気を取り直して、射手座の封印だ。

 

「封印開始!」

 

風の合図の元、四方を囲んだ勇者たちはそれぞれ気合と共に武器を構える。

射手座の下の口の部分から吐き出されるようにして御霊が露出するが、それは凄まじい速度で射手座の本体の周りを回りだした。

 

「この御霊速い!」

 

「くっ!」

 

友人は即座にジカンギレードを構えるが、あまりの速度で狙いが定まらず、他の部員たちも同様だ。

刻一刻と時間だけが過ぎていく。

すると突然、御霊が撃ち抜かれた。

 

「東郷先輩!?」

 

「撃ち抜いた!?」

 

撃ち抜かれた射手座の御霊は光となって天に昇っていく。

その一部は、また友人の持つウォッチに宿る。

 

『フォーゼ』

 

オレンジと白へと変化したウォッチには、2011年と年代とともにロケットを模したマークが刻まれている。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

三体のバーテックスとの戦いが終わり、勇者部は学校の屋上に戻った。

友人と友奈は東郷の元へ駆け寄る。

 

「東郷さんかっこよかったー! ドキっとしちゃった」

 

「本当に凄かったよ! ありがとう東郷さん」

 

続けて、風も東郷に歩み寄る。

 

「でもホントに助かった。東郷、それで……」

 

「覚悟は出来ました。私も勇者として頑張ります」

 

「東郷……。ありがとう。一緒に国防に励もう」

 

「国防……はい!」

 

風と東郷は無事に仲直りを果たし、友人と友奈、そして樹は一安心と微笑みあう。

ひと笑いして一息ついた頃。東郷がふと思い出したように友奈に尋ねたを

 

「そういえば友奈ちゃん、課題は?」

 

「はっ!? 課題まだだった……! アプリの説明テキストばかり読んでて……」

 

「そこは守らないから頑張ってね」

 

「そんなー!?」

 

時間は既に逢魔が時に近い。

そう言えば、友奈は課題をコツコツでなく一気にこなすタイプだった。

提出は明日の一限。目の前に積み上がった課題を前にした友奈の絶叫が屋上に響く。

 

「友くん~!」

 

縋られる友人だが、甘やかすつもりなどない。

そもそもコツコツとこなしていればいい話だ。

 

「ごめん姉さん……」

 

「そんなー!? 友くんまで!」

 

「勇者も勉強も両立よ、友奈ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 




いやー宣言通りに1ヶ月かかりましたね。

……だが私は謝らない!
多分冒頭でパラドさんが地面に頭擦り付けるほどの土下座してると思うので、それを見て嘲笑ってやりましょう。HAHAHA!

まぁ……これ程かかった理由の6割くらいが、最近2人でガンダム見てるってのに尽きるんですがね()

……いや、ホントすみませんでした(全力土下座姿勢)


次回はもう少し早く投稿したいなぁ……(願望)
と思ってますので、次回もどうぞよしなにm(_ _)m




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スイサン! あらたなユウシャ0612

はいどうもパラドファンです。今回ペルソナ5Rをやり過ぎてました。後ガンプラを作り過ぎてました。(ごめんなさい)
次はもう少し早く投稿したいなぁ……


 前回のバーテックス襲撃から一か月半。

 まだかまだかとヤキモキする日々も過ぎ、勇者部が日常に戻ろうかといったそんな頃だ。

 突如と樹海化警報が鳴り響き、友人たちは再び樹海へと降り立った。

 

 

「あっ!」

 

 

 何かに気付き、友奈が声を上げる。

 その視線の先に目を向けると、神樹の結界の外から迫る一体のバーテックスの姿を見ることができた。

 レーダーによれば、あの個体は山羊座――カプリコーンバーテックスのようだ。

 

 

「今回は一体だけか……?」

 

 

 前回は三体が同時に襲撃してきた。

 なら今回も、と友人は少なからず不安を覚える。 

 しかしそんな友人の不安を見咎めた友奈がジオウの装甲越しに背中を叩く。

 

 

「大丈夫!」

 

 

 普段はあれこれと友奈の世話を焼くことの多い友人だが、こんな場面では自分は姉には敵わない。

 

 

「ありがとう、姉さん」

 

 

 仮面の下で笑顔を見せる友人。

 伝わらないかもと思ったが、友奈は声音でそれを察して微笑んだ。

 笑い合う姉弟を横目に、風が戦闘開始の合図を告げる。

 

 

「それじゃあ、勇者部行くわよ!」

 

 

 その合図で全員が飛び出した。

 事前に決めていた作戦は単純。武器の都合上超近接戦しか行えない友奈とそのフォローとして友人が前衛として突撃。風と樹が中距離でそのサポートを。東郷は後衛として遠距離からの狙撃で皆の援護。

 前回の戦闘で東郷の参戦まで三体の連携を崩せなかった反省が、ここに活かされていた。

 

 

「よし、新しいウォッチだ!」

 

 

 そうして突撃する最中、友人がホルダーに手を伸ばす。

 龍騎のウォッチを手にしたその時、山羊座の体表で爆発が起きた。

 

 

「なんだ!?」

 

 

 出鼻を挫かれた形となる勇者部が驚きを見せる中、赤い閃光が彼らの前を横切った。

 

 

「――ちょろい!!」

 

 

 閃光の正体である少女が、その手の剣を投擲する。

 剣は山羊座に深々と突き刺さり、少しの間をおいて爆発する。

 ――なるほどさっきの爆発はあの子か。

 と納得する友人だが、ある不安も浮かぶ。

 

 

「まさか、一人で!?」

 

 

「――封印開始!」

 

 

 そのまさかのようだった。

 少女は剣を構えると、山羊座の四方を囲うように剣を投げた。

 花弁が舞い、封印の儀が開始される。

 

 

「思い知れ、私の力!」

 

 

 程なくして御霊が露出するが、山羊座は御霊から毒ガスを噴出させ最後の抵抗を見せる。

 

 

「そんな目眩まし――」

 

 

 しかし少女はそんな山羊座の抵抗など意にも返さない。

 

 

「気配で見えてんのよ!!」

 

 

 視界が完全に封じられた中、迷いなく飛び出し、御霊を一刀両断して見せたのだ。

 

 

「殲、滅……」

 

 

 光が天に昇り、山羊座はその姿を砂に変えた。

 その光の一部がまたも友人の持つブランクライドウォッチに宿り、色形が変化する。

 

 

『ブレイド』

 

 

 そして山羊座をたった一人で倒した赤い勇者服を纏った少女は、少しの距離をとって友人たちの前に降り立つ。

 新たな勇者の参戦に少なからず困惑する友人たちを尻目に、少女は鼻を鳴らす。

 

 

「はっ! あんた達が神樹様に選ばれた勇者ですって?」

 

 

 少女はまるで値踏みでもするかのように友奈たち、そして友人を見る。

 

 

「ふーん……」

 

 

「……えっと、何かな?」

 

 

 視線に耐えかねて、友人が少女に尋ねる。

 すると少女は下から上へと改めて友人――ジオウの姿を見て、吐き捨てるように言う。

 

 

「あんたが報告にあった例の《魔王》ね。実物見るのは初めてだけど、案外ダサいのね」

 

 

「だ、ダサ……」

 

 

 初対面で面と向かって「ダサい」などと言われて傷つかないわけがない。

 がっくりと肩を落とす友人の背に「カッコいいよ~」と友奈は援護するが、どこかセンスのずれている友奈の言葉ではどこか信用に欠けていたし、実際他の皆は苦い顔で笑っている。

 

 

「――魔王の姿を侮辱されるのは気に入らないね」

 

 

 突如と、ウォズが勇者部と少女の死角から現れた。

 

 

「うわ!? あんた誰よ! 急に現れないでよね!」

 

 

 多くは後に語ることになるが、少女は長年に渡って戦闘訓練を受けてきた。

 故に気配の察知に関しては目や耳が潰れたとしても敵に位置が分かるほどに鍛えられている。

 それだというのにウォズの接近に気が付かなかったということに、少女は地味にショックを受けていた。

 

 

「またでたわね」

 

 

「……いつも突然」

 

 

 ウォズの突然の来訪に、犬吠埼姉妹は早くも慣れ始めていた。

 対して友奈は「誰?」と首を傾げ、東郷は初めて会うウォズに警戒心を向ける。

 今にも銃口を向けてきそうな勢いにもウォズは呑気に自己紹介を始める。

 

 

「初めまして、勇者の諸君。私の名はウォズ、魔王を正しき未来へと導く者だ」

 

 

「……で、そのウォズはどうしてここに? 今日は新しいウォッチは使ってないよ?」

 

 

 半ば呆れながら友人が聞くと、ウォズは堂々と自らについて語る。

 

 

「私の役目は魔王である君が歴史に新たな一ページ刻んだ時、それを祝うことだ。タイミングを逃さないように常に待機しているだけだ」

 

 

「へ、へぇ~……」

 

 

「律儀とか何とかのレベル超えて、ストーカーじみてて怖いわね……」

 

 

 もはや執念すら感じるウォズの祝うことに対する執着心に友人の顔は引き攣り、風はわざとらしく身を震わせる。

 

 

 

 

 

「――話、戻していいかしら?」

 

 

 大幅に逸れた話の流れを戻すべく、少女は大仰な咳払いをした。

 

 

「私は三好夏凜。大赦から派遣された――正真正銘、正式な勇者よ」

 

 

 少女――夏凛は己が大赦の勇者であると名乗った。

 なるほど、自分たちだけでは不安だからと大赦は新たな戦力を送って来たのか、と勇者部が納得しようとし、歓迎しようとしたその時だ。

 

 

「あなたたちは用済み。はい、お疲れ様でしたー」

 

 

『ええ~!?』

 

 

 あまりに唐突な解雇宣言に、友人たちの驚きの絶叫が樹海の中で木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。

 早速と友人たちのクラスへ転入生としてやってきた夏凛は、勇者部を部室へと集めた。

 

 

「なるほど、そうきたか」

 

 

 勇者部部長にして勇者の統率役でもある風は思わず、といった様子でそう呟いた。

 

 

「転入生のフリなんてめんどくさい。でも、まあ、私が来たからにはもう安心ね。完全勝利よ!」

 

 

 自信満々と胸の前に握り拳を構える夏凛。

 と、黒髪の少女――東郷がスッと手を挙げたので、「何か?」と目線で問う。 

 

 

「何故このタイミングで? どうして最初から来てくれなかったんですか?」

 

 

 当然の疑問だ。故に夏凛は事前のシミュレーション通りに答えを出す。

 

 

「私だってすぐに出撃したかったわよ。でも大赦は二重三重に万全を期しているの」

 

 

 夏凛の弁は続く。

 曰く、完成型。友奈達の戦闘データを反映させた上で、最新の改良を施された勇者であると。

 そして夏凛は手近にあった箒を手に取ると、それを片手で容易く操ってみせる。

 

 

「何より、私はあんたたちトーシロとは違って、戦闘の為の訓練を長年受けてきている!」

 

 

 夏凛が宣言すると同時、背後の黒板に箒の柄が当たりでガンッ! という音が響く。

 やってしまったものは仕方ないが、どうにも格好がつかない。

 実際に風はニヤニヤとした笑みで夏凛を見ているし、東郷は困惑気に「当たってますよ」と指摘されてしまった。

 

 

「躾けがいがありそうね」

 

 

 ボソリと風が呟いた言葉が夏凛の耳に届く。

 

 

「なんですって!?」

 

 

 反射的に突っかかる夏凛。

 それを見かねて、風の妹である樹があわあわと止めに入る。

 

 

「ああっ、ケンカしないで!」

 

 

 その様子に毒気を抜かれて、夏凛はフンと鼻を鳴らす。

 

 

「まあいいわ。とにかく大船に乗ったつもりでいなさい」

 

 

 以上。と夏凜は話を切り上げる。

 すると、赤髪の少女――友奈が椅子から立ち上がる。

 何をするつもりなのかと夏凛が自身の動きに注視し始めたことになど気に留めた様子もなく、友奈はニコニコと笑顔を浮かべながら近づいてくる。

 

 

「よろしくね、夏凜ちゃん」

 

 

「い、いきなり下の名前!?」

 

 

「イヤだった?」

 

 

「……どうでもいい。名前なんて好きに呼べばいいわ」

 

 

 いきなり名前で呼んでくる友奈のパーソナルスペースの近さに驚いた夏凛だったが、『そういうやつ』と思えば特に気にするところでもなかった。

 しかし、友奈の次の一言は夏凛を更に驚愕させるものであった。

 

 

「ようこそ、勇者部へ」

 

 

「は? 誰が?」

 

 

 歓迎の声の意味を理解できずに思わず間抜けに聞き返してしまったが、友奈はさも当然といった様子で答える。

 

 

「夏凜ちゃんだよ」

 

 

「部員になるなんて話、一言もしてないわよ!」

 

 

「え? 違うの?」

 

 

「違うわ。私はあなたたちを監視する為にここに来ただけよ」

 

 

 早くも友奈の能天気さに振り回され始めた夏凛が、半ば呆れながらそう返す。

 

 

「……もう来ないの?」

 

 

「また来るわよ。お役目だからね」

 

 

 目の奥を揺らす友奈の様子に悪者めいた気分を覚えて、夏凛は反射的にそう答える。

 すると「また来る」という言葉に目を輝かせた友奈がまたニコリと微笑む。

 

 

「じゃあ部員になっちゃった方が話が早いよね」

 

 

「確かに」

 

 

 流れるように部へ勧誘する友奈とそれに同調する東郷。

 ため息を吐きつつも、夏凛はお役目を果たすためには部へと入る方が都合がいいと判断する。

 

 

「……まぁいいわ。その方があんたたちを監視しやすいでしょうしね」

 

 

 入部に同意してやると、友奈はまるで弾けんばかりに喜ぶ。

 折れる形となった夏凛を他の面々が同情するように見たり、ニマニマとおちょくるように見てくる。

 居心地の悪くなった夏凛はそんな視線から逃れるようにぷいと目線を逸らす。 

 

 

「――ちょっ、何してんのよ!?」

 

 

 逸らした目線の先で己の精霊である『義輝』が誰かの精霊であろう牛に噛り付かれていた。

 

 

 

『外道め』

 

 

 すぐさま義輝を引き剥がしてやると、恨めがまじくそう言い残す。

 

 

「外道じゃないよ、牛鬼だよ?」

 

 

 言って「もうご飯の時間か~」と牛鬼にビーフジャーキー与える友奈に、夏凛は何を言っても無駄だと悟とる。

 代わりに彼女の弟である友人を睨んでみると、「申し訳ない」とその表情が暗に語っていた。

 どうやら友人も振り回される側らしい。同情めいた気持ちを覚えてしまったのは気のせいではないだろう。

 

 

「うぁ……どうしよう、夏凛さん」

 

 

 と、今度は今のやり取りのうちにテーブルに移動していた犬吠埼姉妹のうち、樹が夏凛に何やら憐憫の感情が乗った声を向ける。

 

 

「夏凛さんに死神のカードが……」

 

 

 後に聞いた話だが、樹のタロット占いの的中率は六割を超えるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、再び夏凛は情報の共有ということで勇者部を部室へと集めた。

 

 

「それじゃ始めましょうか」

 

 

 黒板にいくつかの書き込みを終えた夏凛は、改めて部員たちの方へ向き直ると開始の音頭を取った。

 それに呼応した部員たちが普段の部活動のノリで返事をする。

 

 

「「「「「「はーい」」」」」」

 

 

「呑気か!? そんな調子だからバーテックス一匹苦戦するのよ」

 

 

 勇者部のゆるい雰囲気に呆れるように苦言を呈す夏凛。

 指摘を受け、さすがに緊張感を持った勇者部の面々を相手に夏凛は改めて説明を開始する。

 

 

「いい?  バーテックスの襲来は周期的なものと考えられていたけど、相当に乱れてる。これは異常事態よ」

 

 

 大赦の当初の予測ではバーテックスの出現は二十日に一度、一体ずつの筈だったらしい。

 

 

「帳尻を合わせるため、今後は相当な混戦が予想されるわ」

 

 

「確かに、1ヶ月前も複数体出現したりしましたしね」

 

 

 それが二日続けての来襲。加えて二回目は三体同時と襲来は非常に不規則なものとなっている。

 

 

「私ならどんな事態にも対処出来るけど、あなたたちは気をつけなさい。命を落とすわよ」

 

 

 夏凛自身は先に宣言した通り、大赦で勇者にとしての訓練を続けてきた。

 多少のイレギュラーには対応できる自信もあるし、その為の実力もある。

 しかし、勇者部の面々は風が大赦からの使者であり、友奈が独学で武芸を嗜んでいることを除いて戦闘経験は皆無だ。

 これからどう戦うにせよ、完成型勇者である夏凛が面倒を見る必要があるだろう。

 そう心に誓いつつ、夏凛は勇者部への説明を再開する。

 

 

「他に戦闘経験値を貯めることで勇者はレベルが上がり、より強くなる。それを『満開』と呼んでいるわ」

 

 

「そうだったんだ」

 

 

「アプリの説明にも書いてあるよ」

 

 

「そうなんだ!」

 

 

 まともに説明すら読んでいなかったのか。

 東郷に指摘された友奈の能天気に呆れる夏凛。

 

 

「満開を繰り返すことでより強力になる。これが大赦の勇者システムよ」

 

 

「へぇー、すごーい」

 

 

「三好さんは満開経験済みなんですか?」

 

 

「い、いや、まだ……」

 

 

「なーんだ、アンタもレベル1なんじゃアタシたちとたいして変わらないじゃない」

 

 

 風の指摘に、夏凛はぐっと言葉を詰まらせる。

 確かに『満開』を経験していない以上は勇者の強化の段階としては初期の段階になる。

 しかし、と夏凛は風に対し自らの優位性を主張する。

 

 

「基礎戦闘力が桁違いに違うわよ! 一緒にしないでもらえる?」

 

 

 そうして夏凛に睨まれる形となった風は「はいはい」とおちゃらけた様子で手を挙げ、降参の意を示す。

 これ以上は何を言っても無駄と悟った夏凛は続いての話題に移る。

 

 

「――結城友人。あんたがあの『仮面ライダー』なのよね?」

 

 

 突然話題の中心に上げられた友人が困惑気味に答える。

 

 

「う、うん。そうだけど……」

 

 

「あんたの使ってる力について説明してもらえないかしら?」

 

 

 この問いは大赦から事前に設問せよ、と命じられたものだ。

 故にあまり不自然な展開にならないように気を使っていたが、この勇者部のノリというやつでは不可能だと悟り、早々に問うこととした。

 問われた友人はポケットから懐中時計型のアイテム――ライドウォッチといったか――を取り出す。

 

 

「僕が使っているのはこれだよ」

 

 

「何よ、その時計みたいなのは?」

 

 

 勇者システムについては完璧に把握している夏凛でも、友人の《仮面ライダー》の力に関しては未知数だ。

 問うてみると、友人は特段気にした様子もなくウォッチについて知りうる限りを話してくる。

 

 

「このウォッチを使うと、中に込められた仮面ライダーたちの力を使えるんだ」

 

 

「結構沢山あるんですね」

 

 

 感心する樹に、うんと頷いた友人はそれぞれに込められた力について説明していく。

 

 

「今持っているのが、変身に使うジオウのウォッチとクウガ、龍騎、カブト、フォーゼ、ブレイドのウォッチだよ」

 

 友人によれば、それぞれのウォッチはバーテックスを封印した後に生成されたものだという。

 何故バーテックスを封印するたびにウォッチが生成されるのかと尋ねてみても、それについてはわからないという。

 この件については大赦本部に報告を上げ、調べてもらった方がよさそうだ。

 

 

「このウォッチをベルトの左側に装填させると、そのウォッチの力を使うことが出来るんだ」

 

 

ーーそんなこんなで、友人によるジオウに関しての説明は終わった。

 

 

「じゃあ、ここから次の議題」

 

 

 取り仕切る風が配ったのは、先日勇者部へ依頼された幼稚園の子ども会の手伝いに関しての案内のプリントだ。

 

 

「というわけで、今週末は子ども会のレクリエーションをお手伝いします」

 

 

「具体的には何をすればいいのでしょうか?」

 

 

「えーと、折り紙の折り方を教えてあげたり一緒に絵を描いたり、やることはたくさんあります」

 

 

 東郷の質問に、指折り数えながら風が答える。

 

 

「わぁ! 楽しそう!」

 

 

「姉さん、あくまでも手伝いなんだからはしゃぎすぎないようにね」

 

 

 幼稚園の子どもたちに紛れて楽しんでしまいそうなテンションの友奈を、友人が慌てて手綱を握る。

 

 

「友人と夏凜には、そうねえ……暴れ足りない子のドッヂボールの的になってもらおうかしら」

 

 

「風先輩!? 何で僕が的なんですか!?」

 

 

「っていうか、ちょっと待って!  私もなの!?」

 

 

 風の勝手な取り決めに異議を申し立てる友人と夏凛。

 まあまあと友人を宥めつつ、風が夏凛の前に示したのは、彼女が昨日出した入部届けだ。

 

 

「昨日、入部したでしょ? ここに居る以上部の方針に従ってもらうわよ」

 

 

「そ、それは形式上でしょ! それに私のスケジュールを勝手に決めないで!」

 

 

 あくまで入部したのはお役目を果たすためだ、と言いかけて夏凛は友奈が首を傾げていることに気付いた。

 

 

「夏凜ちゃん、日曜日は用事あるの?」

 

 

「べ、別に無いけど……」

 

 

「じゃあ親睦会を兼ねてやったほうがいいよ!  楽しいよ!」

 

 

「なんで私が子どもの相手なんかを!」

 

 

「……いや?」

 

 

 友奈の純真な瞳が夏凛を見る。

 どうにもこの瞳に見られると断るという選択肢が浮かんでこなくなるのだから不思議だ。

 

 

「わ、わかったわよ。日曜日ね。ちょうどその日だけ空いてるわ」

 

 

 結局、夏凛は断り切れずに日曜日の子ども会の手伝いを引き受けた。

 

 

「良かった~」

 

 

 友奈は夏凛も一緒に参加できることを素直に喜んだ。

 

 

「ちょっと!! 僕の話は!?」

 

 

 結果として、友人の叫びは無視される羽目となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 来たる日曜日。

 先日の約束通り、夏凛は子ども会の用意をして勇者部部室に参上した。

 

 

「来てあげたわよ……って、誰もいないの?」

 

 

 狭い部室を見回してみるが、他の部員がいる様子は見られない。

 現在の時刻は十時四十五分。集合が十一時なので早すぎたということもないだろう。

 誰一人いないにせよ、何かしらの人の来る気配というものを感じるてもおかしくないはずだが、一行にその気配はない。

 

 

「これ、ひょっとして……」

 

 

 もしやと思い、夏凛は先日渡されたプリントを取り出し確認する。

 

 

「現地……」

 

 

 集合場所は、夏凛がいる勇者部部室ではなく子ども会を開催する幼稚園だ。

 

 

「しまった。私が間違えた……えっと電話、しておいた方がいいわよね?」

 

 

 スマホを取り出して、先日聞いておいた風の電話番号に掛けようとする。

 発信のボタンを押そうとしたその時、夏凛のスマホに着信が入る。

 

 

「この番号……結城友奈!?  あっちからかかってきた!」

 

 

 突然の着信に驚き、夏凛は友奈からの着信を切ってしまう。

 

 

「切っちゃった……か、かけ直した方がいいわよね? こういう時はなんて言って……えっと……」

 

 

 人付き合いの経験の浅い夏凛はこういう時の対応がわからずにあたふたしてしまう。

 しかし、あたふたとしているうちに頭のどこからか冷めた考えが浮かんでくる。

 

 

「……何やってるの? 私は」

 

 

 そもそも勇者である夏凛には、子ども会なんて全く関係のないことだ。

 

 

「そうよ、関係ない。別に部活なんてハナから行きたかったわけじゃないし」

 

 

 なぜ自分がここに居るのか。

 それは無論、部活動をするためはない。

 勇者としてバーテックスと戦い、四国を守ることこそが己の役割だ。

 

 

「そうだ。私は、あんな連中とは違う。真に選ばれた勇者」

 

 

 完成型勇者が何を呑気に浮かれていたというのか。

 勇者である以上お役目を果たす使命がある。部活動などに現を抜かす暇なんて無い。

 夏凛はスマホの電源を切ると、部室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏凛はほぼ毎日、自宅からほど近い砂浜で二刀の木刀を振るうトレーニングを行っている。

 

 

 

(あいつらは所詮試験部隊。私は違う。私は世界の未来を背負わされている。期待されているのよ。だから……普通じゃなくていいんだ……)

 

 

 そうして日が落ち始めた頃、砂浜でのトレーニングを切り上げ、夏凛は帰路へと就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もいない自宅へと帰った夏凛は、砂浜での運動量に物足りなさを感じ、ルームランナーで汗を流していた。

 この後は風呂に入って、買ってきた弁当を食べて、寝て、学校に行って、ただそれだけだ。

 

 

「なっ!」

 

 

 ランニング中に唐突にインターホンが鳴る。

 咄嗟のことで反応できずに一度目を無視すると、二度三度とそ繰り返し何度も鳴らされる。

 

 

「誰よっ!?」

 

 

 あまりにしつこく鳴らされるので、不審者か何かかと思い木刀を片手にドアを勢いよく開け放つ。

 

 

「「「「「わあああっ!?」」」」」

 

 

 どうやらインターホンの犯人は、勇者部の面々だったようだ。

 車椅子の東郷を除いて、何やら大きなビニール袋を全員抱えていてるようで嫌な予感がする。

 

 

「……何よ」

 

 

「何!? じゃないわよ。心配になって見に来たの」

 

 

「心配……?」

 

 

「良かった~。寝込んでいたりしたんじゃないんだね」

 

 

「え、ええ……」

 

 

「んじゃ、上がらしてもらうわよ~」

 

 

 と、自然な流れのようにずかずかと部屋へ上がってくる風、それに他の面々も続く。

 唯一申し訳なさそうにしているのは友人と、車椅子の車輪の泥を落としている東郷だけだ。

 

 

「何勝手にあがるのよ! 意味わかんない!」

 

 

 家主の文句など意にも返さず、部屋に上がり込んでくる勇者部の面々。

 風は引っ越したばかりで必要最低限しか家具のない夏凛の部屋を見て一言。

 

 

「……殺風景な部屋ね」

 

 

「大きなお世話よ!」

 

 

 友奈は完全食であるにぼしと、水やプロテインの類しかまだ入れていない冷蔵庫を見て、

 

 

「うわ、いい冷蔵庫なのに……」

 

 

「どうだっていいでしょ!」

 

 

 樹はどうやらルームランナーの方に心惹かれたようで、最新式の器具に触れながら、

 

 

「す、すごいです~」

 

 

「勝手に触んな~」

 

 

 遅れてやって来た友人と東郷はというと、冷蔵庫を眺める友奈を回収がてら台所の調理器具の少なさとゴミ袋に詰められたコンビニ弁当を見て、夏凛の一人暮らしの現状を憂いていた。

 

 

「……一人暮らしが大変なのはわかるけど、自炊しないと栄養偏るよ?」

 

 

「いいのよ、サプリで補ってるから!」

 

 

「それにしても、やっぱり調理器具は少ないから今度一緒に見繕いましょうか?」

 

 

「最低限あればいいでしょ! あんたは私のオカンか!!」

 

 

 と、各々散々と弄り倒してきた後で、代表して風が何やら取り仕切りを始めた。

 

 

「ま、いいわー。ほら、座って座って」

 

 

「な、何よ!?」

 

 

 いったい何が始まるのか、と警戒する夏凛の腕を引き、友奈が隣に座らせる。

 

 

「何なのよ! いきなり押し掛けて来て!」

 

 

 じろじろと窺うように見てくる視線に耐え切れず、夏凛が叫ぶと「待ってました」と言わんばかりに全員が動いた。

 友奈が東郷が抱えていた風呂敷をテーブルの上で広げる。

 中に入っていたのはホールのケーキだ。その上に乗ったチョコプレートには『誕生日おめでとう』の文字。

 

 

「……え?」

 

 

「ハッピーバースディ、夏凜ちゃん!」

 

 

 虚を突かれた夏凛が間抜けな声を漏らす中、ぱんぱんとクラッカーが一斉に鳴らされる。

 

 

『おめでとう!!』

 

 

「ど、どうして?」

 

 

 誕生日なんて、勇者部の面々に教えた覚えはない。

 それなのに何故……? と、その疑問を解決してくれたのは風だった。

 

 

「アンタ、今日誕生日でしょう? 入部届に書いたの、忘れた?」

 

 

 そう言って風が取り出したのは入部届。そこには夏凛の名前と生年月日がしっかりと記されている。

 

 

「あ……」

 

 

「姉さんが見つけたんだよね」

 

 

「えへへ~」

 

 

 大手柄! と持ち上げられた友奈は顔を綻ばせる。

 

 

「あっ! って思っちゃった。だったら誕生日会しないとって」

 

 

「歓迎会も一緒にできますねーって」

 

 

「うん!」

 

 

 満面の笑みを友奈が見せる。

 そこから引き継いで、風が夏凛に事の経緯を説明する。

 

 

「本当は子どもたちと一緒に児童館でやろうと思ってたのよ」

 

 

「当日に驚かそうと思って黙ってたんだけど……」

 

 

「でも、当の本人が来ないんだもの。焦るじゃない」

 

 

「家に迎えに行こうとも思ったんだけど、子どもたちも激しく盛り上がっちゃって……」

 

 

「結局この時間まで解放されなかったのよ」

 

 

 悪かったわね。と最後にそう締める風。

 事の経緯を知らされた夏凛は驚いた様子で口をパクパクとさせている。

 

 

「お? どうした?」

 

 

「夏凜ちゃん?」

 

 

 友奈が黙り込んでしまった夏凛の顔を覗き込む。

 

 

「あれぇ? ひょっとして自分の誕生日も忘れてた?」

 

 

 風が煽ると、夏凛は次第に肩をわなわなと震えさせはじめた。

 

 

「バカ、ボケ、おたんこなす……」

 

 

 もしかして怒らせてしまったか? と勇者部の面々が夏凛の顔色を窺う。

 

 

「誕生会なんてやったことないから……なんて言ったらいいかわかんないのよ……」

 

 

 どうやら怒らせたわけではなかったようだ。

 安心した面々は夏凛にコーラの入ったコップを持たせると、友奈が乾杯の音頭を取り始めた。

 

 

「お誕生日おめでとう、夏凜ちゃん」

 

 

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

 

 そこからは誕生日会の始まりだ。

 何故かコーラで場酔いした風が夏凛に絡みだし、

 

 

「あははー、飲め飲めー!」

 

 

「コーラで酔っ払うんじゃないわよ!」

 

 

「こういうのは気分よ、気分。楽しんじゃえるのが女子力じゃない?」

 

 

 樹がテレビ棚の下に折られた鶴と折り紙の練習本を発見したり、

 

 

「折り紙! 練習してたんですか?」

 

 

「みみみみみ、見るなーっ!!」

 

 

 友奈は掛けてあったカレンダーに何やら予定を書き込み始めた。

 

 

「えーと……」

 

 

「勝手に書いちゃ駄目だって、姉さん」

 

 

 友人はやんわりと止めているものの、友奈は毎日なにかしらの予定を何もなかったカレンダーに書き込み続ける。

 

 

「そんな毎日予定なんてあったっけ?」

 

 

「勇者部の予定と、私たちの遊びの予定!」

 

 

「勝手に書き込まないで!」

 

 

 結局、五月のカレンダーには隙間なくびっしりと予定が書きこまれてしまった。

 漏れなく休みであるはずの土日にも予定と称して丸が書かれている。

 

 

「勇者部は土日に色々活動があるんだよ」

 

 

 とは書いた本人。

 続くように部長である風も勇者部の活動の多忙さをアピールする。

 

 

「今ある依頼だけどもガーデン部の依頼で校庭の中庭整備の手伝いでしょ。あと市のマラソン大会の手伝いなんかもあるから、結構忙しくなるなるわよ~」

 

 

「勝手に忙しくするなー!」

 

 

 まだまだと、風は更に現状の依頼の数を指折り数えている。

 しかし、当人も多すぎると思ったのか両手の指を超えたあたりで数えるのをやめたようだ。

 「お姉ちゃん?」と姉を睨む妹の声を背景に、友奈がさらにもう一つとカレンダーを捲る。

 

 

「そうだよ、忙しいよ! 文化祭でやる演劇の練習とかもあるし」

 

 

 十月の文化祭の日を指差し、意気込みを見せる友奈。

 しかし、演劇とは初耳だったのか他の面々が首を傾げ、友奈はそれをあわあわと訂正する。

 

 

「あれれ? もしかして私の中の勝手なアイデアを口走っちゃっただけかも……」

 

 

 しかし風は、その友奈のアイデアを良しとする。

 

 

「いいわね、演劇」

 

 

「良いの!?」

 

 

「決まり! 今年の文化祭の出し物は演劇で行きましょう。」

 

 

 とんとん拍子で話は決まり、風は友奈とあれこれ計画を立て始める。

 その会話の中に自分の名前が頻繁に上がるのを耳にして、思わず夏凛は口を挟む。

 

 

「っていうか、私を話に巻き込まないでよ!」

 

 

 風は意に介した様子もなく、夏凛の言葉を適当にあしらう。

 

 

「いいじゃん。暇だったんでしょう?」

 

 

「忙しいわよ! トレーニングとか!」

 

 

「一人で!? 暗っ!」

 

 

 そのまま、わーきゃーと言い合いを始める二人を樹や東郷が温かく見守る。

 その横でやはり同じく温かく身も持っていた友奈に、友人が声を掛けた。

 

 

「良かったね、姉さん。夏凛ちゃんと友達になれて」

 

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書き

 
 はい、どうも。二か月間が空いてしまいました、どうもクマさんです。
 というのも、私のやる気の低下――以下、訂正作業の如何に苦痛を語りまくるも文章量が長大に膨れ上がってしまったので泣く泣くカット――が原因の一助ではあると思うのですが、それ以外にも言い訳を述べさせてください。

 昨今の567のおかげで方々の企業なり学校なりが自粛の一環として活動を停止するなり、オンラインでの活動にシフトと思うのですが、一つだけ通常と業務内容を異にすることができない界隈がありました。



 ――そう、物流です。
 コンビニなりスーパーなりが自粛で営業をやめてしまったら皆さんは飢え死にです。
 そんな物流の世界に、わたくしクマさんは身を置いているんですね。
 つまるところスーパーでバイトしているわけなんですが、これがいけなかったのが三月から四月にかけては卒業シーズンということもあって、人が抜けていたんですよ。
 故に残った人員で回していくしかなくなり、567のおかげで新しいバイトも来ずという悪循環でいっぱい稼がせていただきました。これで今度のCSMのイクサベルトの支払いも余裕です(ガンギマリ)。


 そんなこんなでお金を稼ぐ代わりに疲労をこの身に蓄積させた状態でまともに執筆できませんでした。
 とはいえ、五月末には今年一楽しみにしていたゼノブレイドの新作がやってくるので『なんとしても!!』と五月末までに終わらせました。
 これで月末までに投稿されていなかったら投稿主であるパラドファンのせいなので問い合わせはそちらにお願いします。


 とまあ、言い訳を重ねましたが全都道府県で緊急事態宣言も解除され、徐々に平時の活動に戻っていくと思うので、次回は早めに登校できたらなぁ……(願望)くらいに思っています。 



《後書きの後書き》

いや〜何とか月末までに間に合いましたね。
というか擦り合わせの関係でほんの一部分だけ仕上げをパラドさんに任せた筈なんですが、結局そこも僕が書く羽目になったので、僕が間に合わせました。
そろそろ彼には成長して欲しいものです。

あ、彼本来の実力が読んでみたければ投稿者ページからポケモンのSSに飛んでください(露骨なステマ)




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