ガンダム ビルドダイバーズ FULL BREAK (とくまっす)
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第1話「ようこそ世界へ」

GBN(ジービーエヌ)──ガンプラバトルネクサスオンライン。

電脳仮想空間、「ディメンジョン」内にて、ガンダムのプラモデル…通称「ガンプラ」によるバトルを行う、今世界中で人気のオンラインゲームだ。

その人気は、今や人を選ばず様々な楽しみ方ができる様になっている。

GBNの熱気に飲まれたプレイヤーは、何も子供だけの話では無かった。

休日だと言う事もあり施設内は老若男女あらゆる人で埋め尽くされていた。

少年、トバ・カヅキもその一人で…偶然彼は出会ってしまった。

それまで、一切興味の無かったガンプラバトルに。

機動戦士ガンダムと言う作品に。…そう、この戦いにおいては…彼にも無関係とは言えまい。

現トップランカーのダイバー…「クジョウ・キョウヤ」の駆る「ガンダムAGE-Ⅱマグナム」。

そして相対するは古参フォース「第七機甲師団」リーダー、「ロンメル」の駆る「グリモア・レッドベレー」。

その二機の対戦は、言葉では言い表せない「何か」が、カヅキの胸を熱くさせた。

お互いがお互いの全力をぶつけ合い、機体までもぶつけ合いながら戦っている姿を見て、カヅキはその場を駆け出した。

興味が無くなったから、では無い。

今すぐにこの場を駆け出して、動き出さなくちゃ行けない…そんな気になっていた。

 

だが、現実とは常にいつも先周りして突き刺してくる物だ。

すぐ隣に存在する日本最大級のガンプラショップ、ガンダムベース東京。

そこに点在するありとあらゆるガンプラは好奇心と共に、ガンダムに…ガンプラに対する知識が皆無なカヅキに極限の絶望を与える事となる。

「種類が多い」「何を選べば良いか分からない」「スケールって何」「GBT限定とは一体」

恐らく普通に考えれば気付くワードですらもこの広大な戦場の前では「不思議」へと変わっていった。

とりあえず、と店内を一周。棚を見て適当に一つガンプラを手に取る。

「…ザクⅢ?…俺の知ってるザクとなんか違う…こっちはなんだ…ドーベンウルフ?名前かっこいいな…えー…ゼットゼットガンダム…なんだこりゃ…」

頭に一斉に飛び込んで来る情報量の前に、カヅキの脳味噌はショート寸前だった。

カヅキの知っているガンダムの知識と言えば「アムロ」と呼ばれる少年がガンダムに乗って「シャア」と呼ばれる変な仮面を付けた3倍早い男と戦う…くらいなものだ。

嘘や冗談ではなく、本当に知識が皆無なのだ。馬鹿にしている訳でも無ければわざとでもない。

そうこうしているうちに、既に夜も更け、閉店時間が近付こうとしていた。

「…君」

声を掛けられ、振り返るとそこにはスーツ姿の男性が立っていた。

凛とした顔に、ビジネススーツ。

見れば分かる程、絵に描いたようなサラリーマンだ。

「…あ、はい!すいません、邪魔でした!?すぐどくんで!」

「いや、違う違う。…閉店時間一時間前だよ」

優しく諭す様に、男性は微笑んだ。

ふ、とポケットの携帯に母親からの鬼の様な着信履歴に驚き、現在の時刻を見る。

「うわ…本当だ。すいません、すぐ帰ります」

「はは、君は慌てん坊の様だね。…ガンプラは初めてかい?」

「というか、ガンダム自体あんまり知らなくて」

「おや、珍しいね。何故ここに?」

「さっき、隣でやってたバトル見たんです!あのガンダム…?と、頭の赤いザクみたいなのがガンガンぶつかってるのがカッコよくて!」

「…あぁ!クジョウ・キョウヤさんとロンメルさんの戦いか!あれは燃えたよね。…そうか、それで始めたいと」

「はい。…あー、やっぱりガンダムの知識無いとお断り…って感じ…ですかね?」

「いやいや、そんなことは無いさ。知識が無くても楽しんでいる人はGBNに沢山いる。君はバトルがしたいんだろう?」

「はい、あんなバトルがしたいです!」

男性は、ハキハキと喋るカヅキの表情を見てその気持ちが本物だと気付く。

知識が無くても、とにかくあんなバトルがしたい。そんな純粋な気持ちを感じ取った男性は胸元からジオン軍のエンブレムの描かれた緑の名刺入れを取り出すと、中の名刺を一枚渡す。

「僕は、カシマ・シュウだ。もし、君が良ければだが…明日また、ここに来て欲しい。その時に色々教えてあげよう」

「え、良いんですか?」

「勿論。君、見た所高校生だろう?あんまり遅くまでいちゃ行けないよ。親御さんが心配してしまう」

「分かりました。…あ、俺はカヅキ。トバ・カヅキです!宜しくお願いします!」

「うん。それじゃあまた明日ね」

 

別れた後も、好奇心が止まらなかった。

最初は無理かもしれないが、あんなバトルが自分にも出来るのかと思うと胸が踊る。

帰りの書店にて、ガンプラの初歩的なテクニックの書かれた本を購入してから帰宅した。

…家がいくら近所とはいえ、遅くまで遊んでいれば激怒されるのも無理はなかった。

「…なぁ、父さん」

夜、父であるトバ・ミチナリが枝豆をつまみながらビールを飲んでいると、カヅキが呟くように尋ねる。

「なんだ、どうしたカヅキ」

「…ガンダムって知ってる?」

「ん?あぁ。俺が子供の頃からやってたなぁ。それがどうした?」

「じゃあ…ガンプラは?」

「おう!そりゃもう沢山作ったさ。なんだ、カヅキも興味あるのか?」

「まぁね。今日GBN?ってゲームの対戦、偶然見ちゃってさ」

「ん、あのネットゲームか。それで?」

「…俺も、やりたいな…なんて」

後ろで、プラスチックのコップの落ちる音がした。

カヅキが振り向くと、こちらを見て慌てた様子の母、シズカがそこには居た。

「…か、カヅキ?今なんて…」

「え、GBNやりたいって…不味かったかな。流石に。ネットゲームだもんな」

「ちょ、ちょっとお父さん!お赤飯!お赤飯よ!」

「そ、そうだな!俺ちょっと買って来る!」

「今行ったら飲酒運転だぞ!てかなんなんだこの空気!なんで赤飯なんだよ!」

「だ、だって…あの何に関しても無関心だったカヅキが!…うん、いいわよ。GBN許すわ!…ただし、危ない事だけはしないで。これは約束。…良い?」

「わ、わかったよ。…あぁ、それで父さん。…道具とか…持ってない?あったら貸して欲しいんだけど…」

「おう、あるぜあるぜ。好きなだけ持っていけ!」

 

今まで、カヅキは何事にも無関心だった。

クラスメイトがサッカーや流行っているゲーム、玩具など。…何を見ても、やっても、魅力を感じず長続きしなかった。

そのせいか、友達もおらず今の今まで生きて来た。

しかも部屋は思春期の少年の物とは思えないほど殺風景だ。

ベッドに勉強机。備え付けの小さな本棚には読みもしない辞典や小説が間を開けて並べられている。

まるで、囚人の部屋だ。こんな空間にカヅキは、少なからず窮屈さを感じていた。

しかし、その部屋に二つ。父からもらった道具箱とガンプラ初歩テクニックの本だけで、何故だか彩りが与えられた様に感じた。

 

そして翌日。

いつもよりも早起きしたカヅキは、意気揚々と開店の一時間前に準備を開始していた。

「…よし!」

道具箱の入った巨大なカバンを背負い、カヅキは再びガンダムベースへ向かう。

辺りを見回しても、男性…シュウはいない。

それ故にやる事と言えば…そう、ガンプラの物色である。

カヅキの昨晩の調べによれば、GBNでのガンプラバトルは基本的に、HGシリーズ…1/144スケールか、SDと呼ばれるデフォルメされた物を使用する。

つまり、1/144スケールの物を使用する、と言うわけだ。

「…うん、ある程度覚えて来たぞ。これはザクⅡ、これはザクⅡ改。これがゲルググで…これがゾゴック。…うん、完璧。…後はガンダムだな」

「ふふ、そのリック・ディアスというMSも、実はガンダムなんだよ」

「へぇ…ってうわあ!シュウさん!」

「やぁカヅキ君。おはよう」

「おはようございます。…あぁびっくりした」

「驚かせてすまない。先程から見ていたようだが、何か見つかったかい?…その顔を見れば一目瞭然だね」

助けを求める様な視線を送られるが、それをシュウは笑って誤魔化す。

こればかりは、自分自身で決めなければならない事だ。

そのことを理解して、カヅキは決意する。

「…俺、目を閉じて歩いて、手に取ったガンプラにします!」

「まさかの運頼み。…いやしかし、ガンプラとの出会いは縁だ。良いかも知れないよ」

「はい!…行きます!」

壁に手を付けて歩きながら一歩、二歩と慎重に歩みを進める。

緊張の瞬間だ。この一歩で、自分が使うガンプラが決まる。

そして、止まる。棚を手探りし、ついに一箱を手にする。

「……これだっ!」

目を開き、手に取った箱を見つめる。

これはなんだ、ガンダムなのか。

やはり、ガンダムだ。箱に気持ち良いほど豪快に「ガンダム」と書かれている。

「…えーと…ガンダム…アス…何?」

「アストレアか!確かに、武装もシンプルで初心者向けだ」

「…おぉ、おぉ!アストレアか…よし。シュウさん!俺これにします!」

「うん、買っておいで。僕は制作スペースで待っているよ」

「はい!」

急ぎ会計を済ませ、カヅキも向かう。

そこには、作業テーブルがずらりと並びある程度の道具が綺麗に整頓されたケースが置かれている。

「わ…わぁ…す、すごいですねこれ!」

「あぁ、道具は持参の物が無い限りは使っても問題ないよ。…さ、早速作ってみようか」

「い、いきなりですか!」

「あぁ、君のガンプラが早く目の前に立つ姿を見てみたくは無いかい?」

「はい!見たいです!」

「大丈夫、僕が色々教えてあげよう!」

こうして、シュウの指導の元ガンプラ製作が始まった。

一つ一つパーツを丁寧に処理し、着々と組み立てて行く。

初めての事が多く、失敗を重ねシュウのサポートを含めて着々とその姿を現して行く。

そして製作を始めて四時間が経過した時だった。

ついに、アストレアはその姿を見せる。

「……出来た!」

「漸く完成だね。…どうだい、初めてガンプラを組んでみた感想は」

「ちょっと難しかったです。…けど、すっごい楽しかったです!俺、もっともっと色んなガンプラ見てみたいです!」

「そうか、ならば…早速だがGBNに行ってみないか」

「はい!」

 

「登録が必要になる。カウンターに行って登録を済ませて来るといい」

「はい!」

登録は至って簡単だ。簡単な個人情報を記入して提出する。

そして、ダイバーギアを貰い完了だ。

「…つ、ついに始まるんですね!GBN!」

「あぁ、そうだよ。今回は一緒にダイブしよう。僕がサポートさせて貰うよ」

「分かりました!それじゃあ!」

こうして、少年…トバ・カヅキはGBNの世界へと足を踏み入れるのであった。



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第2話「マスダイバー」

第2話「マスダイバー」

 

カヅキはゆっくりと目を開く。

フルダイブにより、眼前に広がる世界は広大で…まるで目の前にその世界が存在しているかの様だ。

「…すげえ…ここがGBNの世界か…」

「あぁ、ここにいたか。カヅキ君」

「…え?」

軍人の様な紺色のコートを身に纏い、茶色い髪をオールバックにした男性がカヅキに接近する。

やはり、見知らぬ人間だ。…しかし気付く。

「俺の名前を知っている…って事はシュウさん?」

「正解だよ。ただ僕はGBNの世界では「ブレイド」の名前で通っている。こっちではそう呼んでもらえるとありがたい」

「はい、ブレイドさん。…って、俺の格好…なんだこれ?」

「…ふむ、一般的なキャラメイクをしたね。特にコスプレなどをするつもりがないならそれで良いんじゃないかな」

紺色の半袖の薄いパーカーに、ベージュのパンツ。

普段から着慣れた様なラフな格好に、真新しさは感じられない。

「そうなんですね…うん、なんかこれ気に入りました。俺このまま行きます!」

「よし、まずはあのロビーでミッションを受注しようか」

少女が一人、柱の陰から二人を覗き込む。

揺れる薄桜色の髪の毛は隠れるには向いていないがそれでも彼女は覗き続けた。

「……ふーん、初心者さんだ。…ちょっとからかってあげようかなぁ…ふふっ」

不穏な笑いと共に、少女はその場を去った。

「えーと、これなら。…戦闘訓練?」

「いいんじゃ無いかな。僕もサポートとして参加しよう」

「じゃあ、受注します」

クエストを選択し、OKを押して受注する。

しかし、何処に移動するでも無く二人の間に謎の時間が生まれた。

「……あれ?え?…こ、こっからどうすれば?」

「はははっ、やっぱりそうなるか!こうするんだよ」

ブレイドが笑いながら指を鳴らすと、今まで立っていたロビーからハッチに移動する。

急激な景色の変化に驚き飛び跳ねてしまったカヅキを見て再びブレイドは笑いを漏らす。

「よし、ここがガンプラハッチ。君のガンプラはここに収容されている」

店の前に堂々と立っていたユニコーンガンダムと同じ大きさのガンプラ。

先程、自分が時間をかけて丁寧に作ったガンダムアストレアが立っていた。

鈍く光るマットな青に対し、白いパーツは光を軽く反射するほど光沢を持っている。

初めてのガンプラにしては、と嬉しさのあまりカヅキは固まってしまう。

無関心なのでは無い。自分が作ったガンプラが今こうして目の前で立っている。

その事実が、既に彼の心を感動で満たしていた。

「…凄い、これがGBNなんですねブレイドさん!」

「あぁ、そうさ。隣を見てみてくれ。これが僕のガンプラ。リゼルだ」

「…カッコいい…!羽がある…って事はもしかして変形するんですか!?」

「見てのお楽しみさ。さぁ、行こう。コンソールを操作して、「搭乗」を押してくれ」

言われた通りに、コンソールを操作してボタンを押すと、いつの間にかコックピット内へ移動し座っていた。

手元には、青白く光る球状のコントローラー。

その間にはアストレアの描かれた画面が表示されている。

そして眼前に広がるモニターには、高い視点から格納庫を一望出来た。

「…うぉおおお!俺ガンダムに乗ってる!すげえ!」

「じゃあ、発進するよ。ミッションスタートだ」

そうブレイドが告げると同時に、機体に衝撃が走る。

どうやら、ベルトコンベアか何かで運ばれている様だ。

「カヅキ君。僕の様に言って見ると良い。発進シーケンスはガンダムの基本さ。ブレイド。リゼル・カスタム!出るぞ!」

「…あ!行きまーす!みたいなやつか!カヅキ、ガンダムアストレア!出るぜッ!」

リゼルとアストレアの目が輝き、腰を低くして起動を開始する。

目の前に配置されたシグナルが全て「GO!」へと変わった瞬間、背部に接続されたワイヤーを引き抜きながら二機は強制的にカタパルトデッキから射出された。

視界に映り込む高速の風景に恐怖し、思わず目を瞑ってしまう。

「カヅキ君、目を開けてご覧」

しかし、モニターの横側から現れたブレイドの通信ワイプから聞こえた声に目を開ける。

そこには雄大な自然と街並みが眼下に広がっており、その上を飛んでいる感覚にカヅキは再び感動した。

「GBNでダイバーでいる内は、機体が撃墜されても実際に痛みが来たりはしない。無論死ぬ事も無いから安心して大丈夫だよ」

「わ、わかりました!」

「…あ、戦闘エリアだ。あそこに入ったら戦闘訓練が開始されるよ」

「つ、ついにガンプラバトルデビューですね!」

「あぁ、もし危なくなったら僕がサポートする。安心して良いよ」

青いドーム状のフィールドに近付き中に侵入すると、ガンプラバトルデビューの嬉しさと緊張が入り混じった感情に脳内を埋め尽くされるカヅキだったがレーダーが敵機を捕捉した音でふと我に帰った。

フィールド内にいたのは、騎士の兜を模した頭部。シンプルなデザインのモビルスーツ、リーオーだ。

GBN仕様のNPD(ノンプレイダイバー)リーオーが三機、カヅキ達を待ち受けていた様に現れ始めた。

「…あれが敵!」

着地するや否や、チュートリアルが開始される。

指示通りに、スロットを展開。スロットの1番、GNビームライフルを展開すると、掌にビームライフルが握られる。

「成る程、これを撃てばいいのか!」

初期装備のシールドを構えながら、ビームライフルで射撃する。

しかし、その全てはリーオーには当たらず明後日の方向に飛んで行ってしまう。

「くそ、なんでだ!」

「カヅキ君、良く狙って撃つんだ。ビームライフルは基本的に真っ直ぐにしか飛ばない!照準をしっかり相手に合わせれば当たるはずだ」

「真っ直ぐ…狙って…撃つ!」

カヅキの飲み込みは早かった。

モニターに表示された照準をリーオーに定め、引き金を引く。

GNビームライフルにより放たれたビームは、リーオーの腹部を貫いた。

風穴の空いたリーオーのうち一体は、ヒーロー物の敵役の様に倒れながら爆発した。

「当たった!」

「次が来るぞ!」

「接近!?」

「よく見て撃てば当たる、落ち着くんだ!」

「そんな事言われても…ッ!近い…何か武器は…そうだ!サーベル!」

「…カヅキ君、GNプロトソードがキットについていた筈だが…」

「…え?プロトソード?」

「…まさか、忘れたのかい?」

「…多分。…けど、これならビームサーベルで!」

腰スカートから引き抜かれたGNビームサーベルで、リーオーに斬りかかる。

一気に間合いを詰められたリーオーは、なす術無く斬り裂かれてしまう。z

「やった!」

「次で最後!最後まで油断してはいけない!」

「…あっ、しまった…!」

時既に遅し。

既にビームサーベルを振り被ったリーオーがアストレアの右から攻めていた。

シールドを出すにも既に遅い。サーベルも反応できない。

その時、モニター全体に赤い文字で【CAUTION】と表示される。

アラーム音が鳴り響き始めた次の瞬間、右側のリーオーが何者かに「叩き潰された」。

巨大すぎる剣。それを振り回していたのは…青と黒の二色が特徴的な、ドムベースのカスタム機だった。

「これで仕事は完了か。ちょろい仕事だったぜ」

「…お、おい!今の横取りだろ!」

「あぁん?なんだお前…まだいたのか。シッシッ」

ドムの角張った指で、あっちへ行け、とジェスチャーされたカヅキは怒りを隠しきれなかった。

「なんなんだよいきなり現れて!これは俺のクエストだぞ!マナーとかルールとかそういう…」

「あーあー、面倒くせえ。そういうの一番萎えるんだよなぁ…お前も「こう」してやるぞ」

大剣の切っ先で、粉々に砕いたリーオーの残骸を突く。

同時に、先程隣で響いた何かをすり潰す様な音が脳内でもう一度再生される。

それだけだ。先程、「実際に死にはしない」とは言われたが…その寸前の体験は味わう事となる。

その恐怖は、まだ15にもならない少年の心には深く傷を刻む事となる。

「カヅキ君、下がるんだ!ここは一旦引こう。またやり直せば良い!」

「…ブレイドさん。やらせてください。…これは、俺の戦いです」

「カヅキ君…」

「はん!活きが良いな!良いぜ、やってやるよ。あいつは邪魔だからな…おい、足止め頼むぞ!」

突如、ブレイド操るリゼル・カスタムの元に、ギラ・ドーガが高速でタックルし、カヅキとの距離を取らせる。

「ブレイドさん!」

「心配はいらない!君は君のバトルをしてくれ!」

「…はい!…行くぞ!アストレア!」

ビームサーベルを片手に構え、シールドを前に突き出して相手を見据える。

しかしドムは、大剣を地面に刺すと背部からヒートサーベルを発振させる。

高速で振動させた熱により、対象を切断する武装だ。

サーベルの周囲に現れる陽炎がその熱量を思い知らせる。

「…来いよ坊主。戦い方を教えてやる」

「てやぁああッ!」

直線、真っ直ぐにカヅキは突っ込んで行く。

しかし、初心者だと想定していたドムは、その攻撃を回避しアストレアを蹴り飛ばす。

「…ぐっ!な、なんだ!」

「真っ直ぐ来るとはバカな奴だ!」

「…ならこれで!…真っ直ぐ狙って…撃つ!」

展開したビームライフルで、ドムに向かって射撃するが一発たりとも当たらない。

それもその筈、先程倒したリーオーは「動いていなかった」のだ。

「くそっ、くそっ…なんで当たらないんだよ!」

「やっぱり素人かよ!…ガンプラの出来はまぁまぁでも、ダイバーがダメなんじゃあな!えぇ⁉︎ガンダムのパイロットさんよぉ!」

ビームライフルを持つ右腕を、ヒートサーベルが手首ごと両断する。

しかし、負けじとカヅキもシールドを前に出してドムを後退させる。

所謂シールドバッシュと呼ばれる技だ。

「少しはやるじゃないか小僧…だがな!攻撃とは二手三手先を読んでするものだッ!ブレイクデカール!起動!」

突如、機体から紫色のオーラが放たれる。

機体が軋み、悲鳴を上げている。

そして、気付いてしまった。

ドムが手に持っていたのは…大型携行武装の一つ…「ジャイアントバズ」だ。

高威力のバズーカは、食らえばただでは済まない威力を持っている。

しかし、防げない。…今の体制から無理やりシールドで防いだとしても、高威力のバズーカにシールドが耐えられず壊れてしまう。

かと言って回避も出来ず、カヅキは目の前で発射されるバズーカの直撃から逃れる事は出来なかった。

遥か後方に吹き飛ばされ、大樹にぶつかる事でなんとか留まる事が出来た。

だが、アストレアに異変が発生してしまう。

モニターに映り込むアストレアの体一面に【CAUTION】の文字が多数表示されている。

表示された各部のダメージ量も既に70%に到達しており、もはや限界が近くなっていた。

一切の操作を受け付けなくなってしまったのだ。

「…動け、動けよ、アストレア!」

目の前まで、ドムが近付いている事に気付く。

そのヒートサーベルは形を変えて、歪な剣と化した。

持っていた熱も、最早溶岩の領域にまで達しており、直撃した際の被害は予想もつかない。

「冥土の土産に教えてやるよ。小僧。…俺達は「マスダイバー」だ」

「マスダイバー…?」

「ブレイクデカールと呼ばれる不正ツールで、ガンプラを極限まで強化できる。言っちまえば簡単に強くなれるんだ。…こんな力…手を出さない方がおかしいぜ!」

「簡単に…強く」

「そう、小僧…強くなりたいならブレイクデカールを手に入れな」

「…っ…」

そんな物になんの意味があるのか。

格好良く正義感の強い主人公気質の人間ならばそう言い切れただろう。

けれど、意思の揺らぎかけているカヅキには強い否定が出来ない。

ただ、何をどう取り繕おうとも今彼は敗北する。

この事実だけは取り消せないのだ。

「…じゃあ、死ねッッ!!!」

「させない!」

背後から飛翔したリゼル・カスタムのビームサーベルにより、ドムはコックピットを貫かれる。

「何ィ!」

「マスダイバー…お前達の存在は許さない!」

至近距離でのビームライフルの連射。

いくらブレイクデカールで強化されていると言っても、関節の脆弱さまでは補いきれない様だ。

当たった箇所から爆発し崩れ落ちていく。

「くっ、クソォォォオオ!」

爆風の中、大破したアストレアを抱え離脱しながらその場を立ち去った。

ミッションが中断され、ロビーに戻った二人の間には微妙な空気が流れていた。

ドン底まで沈んでしまったカヅキと、宥めようとするブレイド。

その空気は、ブレイドの一言で終結した。

「…今日はもう遅い。ログアウトしよう」

「…はい」

 

深い水底から吸い上げられる様な慣れない感覚が体を襲い、少しの気怠さによって深い溜息を吐いてしまった。

「…今回は負けてしまったけれど、次はきっと勝てるさ。君とアストレアならね」

「……はい、頑張ります」

ただただ純粋に、シュウがカヅキを励まそうと放った言葉の反応を見た後に、シュウ本人までもが思わず溜息を吐いてしまった。

「…すいません、折角付いて来て貰ったのに。明日、また来ます。もしいるなら声を掛けてください。…それじゃあ」

「…あぁ、また」

哀愁の漂う背中で退店するカヅキの背中を、シュウは見つめる事しか出来なかった。

店を出た頃だ。

丁度入ろうとしていた少年に、カヅキは呼び止められる。

「…お前、トバか?」

「…誰だ?」

眉毛が隠れる程の前髪と、スタイリッシュなデザインの黒縁メガネ。

見覚えがある様な無い様な。その程度の間柄だろう、とカヅキは納得してしまう。

「俺だよ!同じクラスのイノセ・アスマ!」

「…誰だっけ」

「名乗ったのに!?そんな事は良いや!お前、今この店から出て来たな?」

「お、おう…」

「つまりGBN、やってるんだな!」

「…今日始めたばっかりだけど」

「なら、俺と一緒にフォース組まないか?」

マシンガントークとまでは行かないが、連続的に出される質問に嫌気が指して来た。

「…グイグイ来るな…っていうかなんだよフォースって」

「おま、フォース知らないのか!?…ん、まぁいいや。明日、明日学校で話すからさ!休んだりすんなよ!じゃあな!」

嵐の様に現れた少年、イノセ・アスマは店の中の人混みへと消えて行ってしまった。

「…フォース…なんなんだ一体」

 

 

暗がりの中。

GBNのとあるサーバー、そのデータの海の中で。

真珠の様な小さな光が一つ、海中を漂っていた。

 

「第一段階、「起動」……クリア」



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