待ち人来ず (竹林@海洋サメたん)
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待ち人来ず

雨粒が屋根を叩く。音は止まる気配など微塵も無く、もう既に諦めた私は、不規則な音楽に耳を傾ける。代わり映えしない音によく飽きず聴けられるものだなと我ながら感心していた。

 

「…はぁ。」

 

どうやら私は生涯、雨宿りという行為に好かれているようであった。それはもう、まるで呪われているかの如く憑き纏われている。

原因は明白であり、私の姉ー琴葉茜が、雨の降る日に決まって傘を忘れるからである。

今日の出来事もまた例外では無く、ヘラヘラと笑って謝る姉の姿に呆れながら、私は渋々とバッグの奥底に入れてあったカッパを着せて、先に姉を家に帰らせた。

勿論、家から傘を持って来いという約束を取り付けて、だ。

そうして、楽しそうに帰宅する姉の背中を見送った私は、こうして学校の入り口で姉が迎えに来るのを待っている訳だ。

 

「茜、ちゃんと家に辿り着いたかな…」

 

あの姉の事だ、自分が濡れないとなれば道草の一つや二つ、私を忘れて食べているかも知れない。勿論、そんな事は無いと思いたいのだが。

そうしていると、目の前から一つの人影が見えた。カッパを着ているのか、傘を差している様子は無いが、一つ大きな傘を持っているのは伺える。ただ、それは見送った姉の影より、一回り小さい影であった。

私はそれに気付き、肩を落とす。期待していたのは事実だが、違うと大体予想していた事に、少しでも希望してしまった自分が嫌になる。

そう思っていると、人影が校門を潜り此方の方へ向かって来た。真っ直ぐに私の方へと向かってくる人影に、私は目を凝らして誰だろうかと確認した。

 

「……きりたん?」

「こんにちは葵さん、茜さんの代わりに来ましたよ。」

 

どうやら人影の正体は、同級生である東北ずん子の妹、東北きりたんのようだった。私は疑問に思う。何故、私が此処で雨宿りしていた事を知っていたのか。何故、私の姉が居ないのか。いや、それよりも、

 

「どうしてきりたんが来たの?」

「…流れを説明するのが嫌なので、何が起きたかだけ言います。」

 

私の質問に無駄な前置きをするきりたん。何故そんな風に言うのかは謎なのだが、取り敢えず聞くだけ聞いてみよう。

 

「茜さんが、買い物帰りだった私とずん姉さまに鉢合わせました。」

「……あぁ、分かった。もうそれ以上は言わなくて大丈夫。」

 

なるほど、これ以上に無いくらい適切な答えだ。理由も、流れも、全て理解してしまった。

 

「それで、私が茜さんの代わりに迎えに来た訳です。」

「うん、きりたんもご苦労様だね。」

 

私がそう言うと、きりたんは少し期待した目で此方を見ていた。

 

「……あぁ、はいはい。お疲れ様。」

「ふへへ…♪」

 

その期待に答えるべく、私はきりたんの頭を撫でる。嬉しそうに目を細めている辺り、やはりまだまだ子供だなと実感した。

 

「…ん、ありがとうございます。」

 

満足したのか、私の手から離れるきりたん。ご褒美はこれくらいで充分だろうと思い、私は話題を切り替える。

 

「ところできりたん、傘はあるんだよね?」

「あ、えっと…それがですね…」

 

私の問い掛けを聞いたきりたんは、明らかに動揺して見せた。

嫌な予感が走る。

 

「…あるんだよね?」

「えっと…一応イタコ姉さま用の傘が一本だけ…」

 

そう言うと、きりたんは、きりたんの身体では明らかに向いていないような、大きな番傘を差し出して来た。

…正直は美徳とされているが、正直過ぎるもの如何なものか。多分私でも持てるだろうが、腕が疲れる事は目に見えているだろう。しかし、無いよりはマシだと思いながら、私はきりたんの方を見た。申し訳無いという表情と、期待した表情が半々というところだろうか。

私は番傘を受け取って、きりたんを手招きした。

 

「一緒に帰ろっか。」

「良いんですか!?」

「うん。ずん子ちゃんも心配してるだろうし、きりたんみたいな可愛い子を一人で帰らせる訳にはいかないよ。」

 

そう言うと、きりたんは嬉しそうにカッパを抜いで私の近くに寄って来た。

 

「……大丈夫?濡れちゃうよ?」

「葵さんにくっ付かないじゃないですか。それに、タコ姉さまの傘は広いからそうそう濡れる事なんて有り得ませんよ。」

「そう、それなら良いか。」

 

そんな会話をして、私は手に持った番傘を広げる。しっかりとした作りのソレは確かに安心感のあるものだった。

 

「じゃあ、行こっか。」

「はい、帰りましょう。」

 

差し出された手の平を握ったきりたんの笑顔は、嬉しそうに、とても良いものであった。

 

-Fin

 

 

オマケ:一方その頃

 

 

 

「葵達、上手くやっとるかなー?」

「きりたん、何だかんだでちゃっかり成果を掴んで来ますからね。頼み事も安心して出来るんです。」

「そないな事言って、ずん子さんもさっきからずっとソワソワしとるやん。」

「……うるさいですよ、茜ちゃん。」

「ふふふ…ちょっと意地悪したくなっただけやん。堪忍してや。」

「もう…あ、電話。茜ちゃん、ちょっと待ってくださいね。」

「はーい、分かったで。」

「……うん。うん、分かった。泊まるのね。良い子にするんだよ?」

「…どうやった?」

「上手く行ったみたいですね。邪魔しちゃいけませんし、茜ちゃん、今夜は泊まって行きませんか?」

「…ええの?」

「えぇ、イタコ姉様も出張で居ませんし、二人っきりですので。」

「そ、そっか…それなら安心し、て……」

「安心して?」

「……うぅ、ずん子さんの意地悪…!」

「意趣返しです、揶揄うのも程々にして下さいね?」

「はーい…」

 

-Fin



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