ヲルガゲリヲン新小説版 (すろづき)
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:序 1.01 you are (not) debris
01 MA、襲来
「なんか静かですね、ギャラルホルンに囲まれてた本部に比べたら、静かすぎて気持ち悪いくらいだ」
「ああ、火星の戦力は軒並み向こうに回してんのかもな」
「ま、もう関係ないですけど、そんなことは!」
「上機嫌だな」
「当たり前でしょ!助かるんだみんな。タカキも元気でやってたし、俺も頑張りますよ、団長!」
「ああ」
コツ、コツと二人分の足音だけが廊下に響く。一人は長身、一人は子供。どちらの顔も希望と夕日に明るく光っている。
長身の方ー先程団長と呼ばれていたーは、感慨に浸っていた。
(これからも、俺たちが立ち止まらない限り)
一つの足音が暗い廊下に響く。足音はやがて、差し込む夕日に溶け込むように、外へ出る。
(道は続く…)
青空を、轟音が支配した。
「!?」
見上げれば飛んでいるのは飛翔体、あれは…
「巡航ミサイル!?」
思わず叫び声をあげた『団長』は、すぐさま近くにあった建物の影に身を寄せた。
「ギャラルホルンか…!?勘付かれたかッ!」
彼は右へ、左へ首を回す。さっきまで隣にいたはずのヤツがいない。
「ライドォ!チャドォ!」
返ってくる返事はなかった。代わりに建物の隙間から首をのぞかせたものがある。
「なんだありゃ…」
黒い逆三角形の胴体に細い手足。大きな白い三角形の肩を持つ。変に生物的に見えるそれは、機械とも思えない。極めて不気味なのはその顔だった。
(なんだあの顔…仮面…?)
「見たことねぇ…ギャラルホルンのMS(モビルスーツ)か!?」
そう呟き見上げたそばから、それは先程からヘリに戦車に集中砲火を受けていた。しかし一向に効く模様はない。
(鉄華団…俺たちはあんな戦闘機なんかもっちゃいねぇ…まさかここに来て第三勢力…?)
おもむろにその巨体が腕を伸ばし、戦闘機を一機、撃墜させた…“ビーム兵器”で。
(ビーム…そうか、あいつは)
墜とされた戦闘機は、破片を撒き散らしながら落下していく。運悪くその一片が、『団長』の方へ回転しながら飛んできた。
一瞬であった。避けられもしない。
「ウ ゙ウ ゙ツ」
直撃を受け、うめく。身体中に激痛が走り、出血も始まる。
(死んだな、俺)
瓦礫の下になっているその状況を、彼はいとも簡単に、そして冷静に受け止めた。
(だが俺はみんなに行き場所を、示さなきゃならねぇ)
左手を伸ばし、人差し指を立てる。最期の力で、仲間を導くためのポーズを取り、呟く。
「だからよぉ、止まるんじゃねぇぞ…」
倒れこむ彼。と、そこにエンジン音。
そこから数秒、『団長』は恐る恐る目を開ける。無事だ。しかしなぜか痛みどころか出血すらない。
「なんだ…俺は今、絶対、死んで…」
エンジン音はどんどん大きくなっていき、やがて彼の前で急ブレーキをかけた。青いスポーツカーである。上でドンパチやっている戦場にはあまりにも似合わない。
そんなことを考えている彼の前で、ガチャリと助手席のドアが開いた。
「ごめん、おまたせ!」
「…は?」
顔をのぞかせたのは若い女性。長く下ろした黒髪、整った顔立ちにはサングラスがかかる。しかし『団長』はそれを誰かは知らない。
「…あんた誰です」
「葛城ミサト。あなたは…オルガ・イツカくんね」
「名前を…?」
「あら?ファリド准将から何も聞いてなかった?」
(ファリド、そうか)
「マクギリスの手のやつか。助かった」
「早く乗りなさい。ごめんね、色々と時間がないの」
「ああ、分かった」
彼はその場でくるりと振り返って、大声で再度叫んだ。
「チャドーォ!ライドォーッ!」
帰ってくる返事はない。
「無事に逃げたか…?」
「友達?」
「仲間。いや、家族だ」
「?、そう…でもこの辺りはそこ以外瓦礫は落ちてないから大丈夫だと思うわ…なんであの瓦礫血がついてるの」
「あ、いや、それはいいんだ」
「おそらくその二人もシェルターに避難したわ…きっと大丈夫よ」
「そうだな…よし」
そう言って『団長』…『オルガ・イツカ』は彼女の車に乗り込んだ。
____________________
「全く、彼が来る前にことが動くとはな」
「ん」
「君はあれをどう見た、三日月・オーガス…」
「綺麗だった」
巨大なパネルがある部屋である。逆にそれ以外を一切取っ払ったパネルだけの部屋とも言える。そのパネルの前に、二人。
三日月と呼ばれた少年は、言葉を続ける。
「すごく綺麗だった…こっちで見た鳥、みたいだ」
「鳥ではないよ、あれは…」
そう言ったのは金髪の青年。口元に微笑を浮かべて、
「あれは、天使だ」
言い放つ。
「さて、そろそろ行こうか三日月・オーガス」
「どこに」
「司令室だ。そろそろ国連軍が諦めている頃だろう。MA(モビルアーマー)には通常兵器は通用しない」
「おれはいいよ。バルバトスのとこに行く」
「フ…そうか。…それと」
「?」
「もうこちらに向かっているらしい、彼が」
「!」
「そう、オルガ・イツカだ」
____________________
車内は、クーラーが効いていて快適に過ごせた。
「ところであんた、葛城ミサト…だっけな」
「どうしたの、オルガくん」
「あれは…MAが、復活したんだろ?」
「…結構知ってんのね」
ミサトのその反応に、オルガはやはりな、と思った。
「ハシュマル以外にいやがるとは…」
「ハシュマル?」
「ん?いや、知らなきゃいいんだ」
そう、と首を傾げたミサトは視線を前に戻す。口だけが動き始めた。
「いかにも、あれは私たちがモビルアーマーと呼ぶ存在よ。あるいは使徒、あるいは天使…」
「使徒?」
「そう。そうも呼ぶの」
「使徒、か」
沈黙。二人は話すのをやめ、車内にはクーラーの音と外の轟音のみが残った。
それが破れたのは三十秒後、オルガが口を開いた。
「鉄華団の連中は」
「鉄華団」
「知らねぇか、あいつらを」
「聞いたことないわね、そんな組織」
「は!?」
オルガの表情に焦燥がうかぶ。鉄華団をしらない?この火星で?
「あんたら…ギャラルホルンじゃねぇのか」
「違うわ」
「私たちはネルフ。使徒からこの地球を守るための組織よ」
(ネルフ…?地球…?)
ほかにもクロスオーバー色々やってます
ジョジョ×オルガ→http://syosetu.org/novel/193064/
リリスパ×オルガ→http://sp.nicovideo.jp/series/36390
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02 邂逅、決戦兵器
オルガとミサトは、それきり車内で話さなかった。空気が悪くなったわけではない。オルガが考えこみ始めてしまったからである。
(ここは地球だとミサトは言った。ギャラルホルンも鉄華団も知らねぇとも。ここはどこだ?よく考えたらクーラーが快適だと思うほど外は暑かった。そして何より…夕方だったはずの空が、青い)
「オルガくん…あまり考え込みすぎないほうがいいわ」
「分かってます」
「…ほら、地下に入るわよ」
「地下?」
オルガの目に飛び込んできたのは、巨大な地下空間であった。天井からは無数にビルが逆側に生えてきている。地面には木々が生い茂り、湖は空間全体を淡く光らせる照明を反射させていた。
「ここは…?」
「ジオフロント。ネルフの基地よ」
やがて車はリフトに乗せられ回収、車から降りた二人は可動式の歩道を、基地の中心に向けて進んで…進んで…はいなかった。
「おい、なんかここ数合わなくねぇか?」
「おかしいわね、確かにここだと思ったんだけど」
ミサトを先頭に別れ道やゲートをくぐっていた二人は、今や自分たちが基地のどこにいるのかも把握してなかった。
「あんた、ここの職員なんだろ?」
「ゴメンっ!実はあたしもちょーっち曖昧で」
「ちょっと…か?」
訳もわからず乗ったエレベーターの中でそんな会話を交わしていると、不意に扉が開いた。
現れたのは妙齢の女性。整った顔立ちにショートカットにした金髪、左目に泣きぼくろがある。女性はミサトを一目見ると小さくため息をついて、
「呆れた。また迷ったのね?」
「あら、リツコ」
「私たちには人手もなければ時間もないのよ…それで」
リツコと呼ばれたその女性は、ミサトの後ろで壁に体重を預けているオルガに視線を飛ばす。
「その少年が、例の」
「そう。ファリド准将ご指名の…第3の少年よ」
リツコ同様、ミサトもオルガを見る。オルガは二人に視線を向けられ、怪訝な顔をした。
「…なんです」
「ファリド准将がお呼びよ」と言ったのはリツコ。
「マクギリスのことか?」
「そうよ。マクギリス ・ファリド…」答えたのはミサトである。
リツコはミサトの方へ向き直ると、口を開いた。
「とにかく急ぐわ。准将のもとへ」
そこから先は早かった。おそらく最短ルートであろう経路を通り、リツコは淡々とゲートをくぐっていく。オルガは終始ミサトへ冷たい視線を送っていた。当のミサトはその視線に気付きながら、ばつの悪そうに視線を頑なにそらす。
「ここよ」
十数回のゲートの末、一つの扉にたどり着く。これまで通過したゲートとは違う、小さい扉だった。リツコは扉の横にピ、ピ、と暗証番号を入力。やがて開いた扉に、二人を誘導する。三人が部屋に入ったところで、扉が閉まった。
「真っ暗じゃねぇか…」
部屋の中は灯りひとつなかった。オルガはキョロキョロと首を回したが、何も見えるはずはない。
数秒後、パッと照明が点灯した。
突然の眩しさにオルガは目をつむる。すぐに目を開くと、オルガは自分の目の前にある『それ』に驚き、そして圧倒された。
「なんだこりゃあ…!?モビルスーツ…か?」
オルガの眼前に鎮座していたのは、巨大な『顔』だった。吊り上がった目に牙のようなもの、そして角。紫色のそれは、見るものに恐れを抱かせるには十分過ぎる容姿だった。
驚くオルガの横にリツコが進み、告げる。
「これは使徒殲滅のために作られたものよ。ヒトが作り出した究極の汎用ヒト型決戦兵器…人造人間エヴァンゲリオン、その初号機」
「これでモビルアーマーを…これがあんたらの仕事か?」
「そうだ」
オルガの問いに答えたのは、ミサトでもリツコでもなかった。
見上げてみると、男がひとり、上階のガラス張りの窓の向こうに立っている。サングラス越しに冷たい視線を向けられたオルガは、
「あんた…誰なんだよ」
と、そう聞いた。
返答は無かった。構わずオルガは追求する。
「それよりも…あんたが俺を呼び出した『要件』を聞こうか」
「…出撃」
サングラスの男は短くそう告げた。その言葉を聞いて、ミサトは顔を青くしてリツコの方へ首を回す。
「出撃!?零号機は凍結中でしょ…まさか、初号機を使うつもり!?」
「そうよ」
「そうよ、って言ったって…レイは治療中…パイロットがいないわよ!」
「さっき届いたわ」
「…マジなの」
二人の口論とも取れるやり取りを眺めていたオルガ。零号機やらパイロットやらのわかりそうでわからない単語のオンパレードに、ついに
「正直ピンときませんねぇ」と漏らした。
「オルガくん」
突然オルガの名を呼んだのはリツコ。オルガは少し焦って「はい」と応えた。リツコは続ける。
「あなたが乗るのよ」
「はぁ!?」
モビルスーツに乗ったことはある。シュミレーションでだが。モビルワーカーの操縦はできるし、動かそうと思えばロボット一機ぐらい動かせるのかもしれない。いやしかし。
「待ってくれ!俺は確実に殺されるぞ!?」
「座っていればいいわ…それ以上は望みません」
オルガの最大限の拒否反応を、リツコは冷たく砕いていく。
「乗るなら早くしろ…でなければ、帰れ」
サングラスはそんなことを言う。しかしオルガにとっては好都合である。乗らずに帰れば…
オルガは入り口の方を向いて、短く呟いた。
「さてと…帰るか」
それを制したのはミサトだった。オルガの襟を掴んで固定し、しっかりと見据える。
「あんたまだ生きてんでしょ!?だったらしっかり死なさい!」
「ひでぇじゃねぇか…」
「いや、すまない。こちらにも少し非があった…詫びよう」
「!?」
突然の第三者の声に、オルガは声のした方へ首をもたげた。リツコ、ミサトもそれに習う。
「…あんた」
「葛城二佐、苦労をかけた。後はこちらに任せてくれていい」
その乱入者の男は、金髪を揺らして再びオルガの方へ向いた。
「久しぶりといったところか…オルガ団長」
「マクギリスじゃねぇか…」
更新がおそすぎる
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03 この世界、そして発進
「…で、なんだこの状況は」
オルガが今いるのはネルフ基地内の一部屋。デスクが一つと、その前に低い机、それを挟むように二つソファが置かれている。
ソファに座ったオルガは、身を前に乗り出してもう一つのソファに座った男を…マクギリス・ファリドを睨んだ。
「君も気づいているだろう?ここは私達がもといた世界ではない」
マクギリスは前髪をいじるくせがある。
「ここはまだ地球以外に人類が住んではいない。月にも、もちろん火星にも。厄祭戦より過去に来たのかと思ったが、そもそもこの世界には私達の世界にはないものがある」
それを聞いたオルガが、目を伏せて呟く。
「使徒、か」
「そうだ。私たちの世界には、あんな生物は存在などしていない」
「しかし」
「ああ、分かっている。あれはどうやらMAとも呼ぶようだな…しかし考えても見てくれ。私たちと君たち鉄華団で戦ったあのMA…ハシュマルとは似ても似つかないだろう?」
オルガは黙る。少し間をおいて、思い出したように話しはじめた。
「あんたはどうなったんだ?ここで何をしている?」
「私、か…私は」
マクギリスは自身の金色の前髪から手を離す。目を閉じてまた口を開いた。
「私は死んだのだ」
「は?」
オルガは心底奇妙なものを見るような目を目の前の男に向けた。
「私にもわからない。あの後アリアンロッドの包囲網を突破した私は、ラスタル・エリオンを討つためにバエルでスキップジャック級に単独突入した」
「…そこで、死んだのか」
「いや、正確にはそのスキップジャック級の内部でだが…まあいい。そして確実に死に至った私は」
「…」
「ここの、司令官だった」
「…は?」
「この世界には、ゼーレと呼ばれる巨大な組織があるようだ。私はそこにも在籍していた」
みなまで聞き終わらないうちに、オルガが机に手を打って乗り出した。
「待ってくれ!俺を呼び出したのはあんただろ!?」
マクギリスは興奮するオルガを手で制すると、
「ああ。君を呼び出したのは確かに私だ。そういう手筈になってしまっていたからな」
「手筈?」
「私の所持していた『汎用人型決兵器人造人間エヴァンゲリオンのパイロットに関する報告書』に、君の名前があった」
「その…なんとかってやつはMSなのか?」
「どうやら違うようだ。名前にもあるようにあれは『人造人間』…天使のコピーという存在」
「じゃあ、阿頼耶識も何も…」
「オルガ団長、いや、オルガ・イツカ。ここからが最も君の耳に入れておきたい事なんだがね」
「なんだ」
「この事実が私に、この世界と私たちの世界との関係を示したのだ」
「だからなんなんだよそりゃぁ!」
「この世界にも、『ガンダムフレーム』は存在している」
「!?」
オルガに再度困惑が走る。厄祭戦で生まれ、以後300年に存在していたガンダムフレーム。それがこの地球しか生存圏がないという旧世紀に存在しているとは。
マクギリスはオルガの表情を一見、そしてまた話し始める。
「つまり、この世界と私たちの世界はどこかに繋がる点があるということだ。その点を見つければ、私たちは元の世界に帰ることができるかもしれない」
「…なるほど」
「だからオルガ団長。頼みたい。エヴァンゲリオンに乗って、使徒を倒してくれないか」
オルガは足元に視点を移し、少し黙る。
「…で、なんで俺なんだ」
マクギリスはフ、と微笑み
「EVAは…MSと違い『搭乗できる人間』が限られている」
「それが俺だと?」
「ああ。君は…EVAに選ばれたというわけだ」
「うさんくせー…が、やるしかねぇか」
「頼む、オルガ団長」
「お前のためなんかじゃねぇぞ」
「ああ」
「俺の、俺たちのためだ」
______________
『第三次冷却終了、フライホイール回転停止、接続を解除』
『補助電圧に問題なし』『停止信号プラグ、排出終了』
オルガは言われるままにEVAのコックピットに座る。すぐに俺の知ってるコックピットと違うんだが…、と表情を曇らせた。
『エントリープラグ挿入』『脊髄伝導システムを開放、接続準備』
『第一次コンタクト!』
『エントリープラグ注水!』
「…あ?」
見れば、オルガの足元から何やらオレンジ色の水が流れ出ている。とどまることを知らないそれは、水かさを増してあっというまにオルガの全身を包んだ。
(…水!?やべぇ息が…)
「待ってくれ!待てって言ってんだろうが…ぅ、ぅごご…」
自らの溺死を悟ったオルガは、彼の『かつての』最期の言葉を口にする。だからよ、止まるんじゃねぇぞ…
『進路クリア。オールグリーン。発進準備完了!』
ミサトはコックピットの状況を一べつもせずに叫ぶ。
「発進!」
「…こんくれぇなんてことはねぇ…」
オルガは何とかして死へと向かう意識を引き揚げると再びコックピットに座り直した。
さっきのオルガの溺死の原因たるオレンジ色の水は今は彼の肺を満たし、呼吸を可能にしている。なんだよ…結構息できんじゃねぇか。
EVA初号機は地上に上がるためのエレベーターに乗せられ高速でその身を押し上げられている。勿論通常のエレベーターのようにゆっくり止まるわけではない。やがて地上のハッチが開いて、初号機の姿が現れた。
慣性の法則をご存知だろうか。動き続ける物体は急には止まることはできない。車が急ブレーキをかけると乗っているものの身体が前のめりになるアレである。もしこのままエレベーターが止まったら、中に乗るオルガの身体は先程までと同等の速度を保ってコックピット天井に激突するだろうことは容易に想像できる。
しかし普通、コックピットやら車の席やらにはシートベルトが存在している。彼が頭を強打する必要はないのだ。
勿論彼のコックピットにシートベルトなどない。
「ヴヴゥッッ!!!」
案の定頭部を強打したそのパイロットは再び呟く。だからよ、止まるんじゃねぇぞ…
再開するよ〜
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04 複合機関式ヒト型機動兵器
『最終安全装置解除!EVA初号機…リフトオフ!』
初号機の肩のラックとリフトの接合が外れる。これで初号機は完全自律状態になった。
先程の『死』からなんとか自分を呼び戻したオルガは触り慣れない操縦レバーを握り指令を待つ。赤木リツコの通信。
『オルガ君、今は歩くことだけ考えて』
「丸腰のまま敵に突っ込むわけにはいかねぇだろ…」
悪態をつくオルガを、
『我慢なさい!男の子でしょ!』
ミサトは一括する。しかし武装がないんじゃ戦いようが…
「…チッ、格闘戦ってわけかよ…」
歩くことだけ考える、歩くことだけ考える、歩くことだけ、歩く、歩く、歩く…
初号機の右足が持ち上がり、前へ。一歩、一歩と前進を始めた。
「歩いた!」と興奮したのはミサト。歩くかどうか不確定なものに乗せるなよ、とオルガは思うが口には出さない。
「よぉし!初号機!目標へ急ぐぜ!」
オルガは操縦桿を握り直すと強く押し出した。
『ちょっとオルガくん、あんまり急いで動かすと…』
リツコが言い終わらないうちに歩行を走行に切り替えた初号機は正面の黒色の異形…『使徒』へ向かって突進を始めた。しかし。
「!?…うおおおあああ!!!???」
転んだ。
「だからよ…止まるんじゃねぇぞ…」
『EVA初号機転倒!沈黙!』
『パイロットの状態は!?』
『生命反応ゼロ…死んでます』
「俺は止まらねぇからよ…」
オルガは重い頭を持ち上げ自信を元気付けるように呟いた。
『パイロットの生命反応徐々に上がります…信じられません、心拍脈ともに…正常値に戻りました…!』
『生き返ったというの…マルドゥック機関の報告は本当だったのね…』
「敵は!?」
オルガは右、左、と目を回して最後に正面…正面だ!
「クソ…動けよ…ッ!!」
操縦桿をガチャガチャと鳴らすが初号機はびくともしない。やがて使徒が腕を伸ばし初号機の頭部をつかむ。
「俺は…俺はこんなところで…」
「コックピットからの脱出方法は…いや…」
「どこにも逃げ場なんてねぇぞ、オルガ・イツカ…あの目を裏切るようなことはできねぇ」
「俺は死なねぇ…終わらねぇ…こんなところじゃ…終われねぇ!!」
「だろ…」
轟音。
「ミカァ!!!!」
地面を割って現れた『それ』は、鋼鉄のメイスを一発、使徒にぶち込んだ。
『あれは…』
司令室に動揺が広がる。あれは実戦で使える代物では無かったはず、一体誰がアレを…
『…”ガンダム”…ファリド准将は何を…』
「超古代複合機関式ヒト型機動兵器ガンダムフレームタイプ8号機…通称ガンダム・バルバトス…」
マクギリスは前髪を触る手を下ろしモニターを眺める。
「この世界で光明を見せてくれるのはまた君となるか…三日月・オーガス」
「オルガ…生きてる?」
「ミカか!」
思わぬ者との再会に喜び半分、動揺半分。しかし今はそれより。
「ミカ…すまねぇ、こいつは動かなくなっちまった。あのMAを黙らせてくれ」
「うん、そのために来たし…でも」
バルバトスはメイスを握り直すと起き上がりかけた使徒に強襲をかける。
弾かれる。
『ガンダムが実戦投入されなかったのはもちろんブラックボックスと化したエイハブリアクターの影響もあるわ、でも一番はそれじゃない』
リツコはモニターを凝視しごちる。
『…ガンダムにATフィールドは破れない』
「やっぱり」
バルバトスは一歩退く。
「えーとなんだっけ、コアを持たないバルバトスはなんとかフィールドを張れない、って…そっか」
振り返り、初号機に視線を移す。
「コアを持てばいいんじゃん」
「おいミカ…何を…」
「オルガ、じっとしててね」
「動けねぇんだが…」
バルバトスは初号機の胸の装甲をこじ開け、その中の赤黒く光るコア部分を掴み、持ち上げ…
「この辺かな」
自身のエイハブリアクターへ押し込んだ。
『何をやってるのあのパイロット…コアが同化するわけないじゃない!』
『いえ、これは…』
「これでなんとかフィールドが張れればいいんだけど…ん?」
三日月は自身の阿頼耶識から声を感じた。
『僕を取り込んだのは君かい?』
「あんた誰?」
『僕はコアだよ、君が取り込んだ』
「ふーん、そっか」
『戦い?』
「うん、あんたがおれに力を貸さなきゃみんな死ぬ」
『使ってよ』
「わかった…あんたはなんて呼べばいいの?」
『なんだろう、僕にも分からないよ』
「まあ、なんでもいっか」
「信じられません…ガンダムタイプにコアの出現を確認…!微弱ながらATフィールドの展開も確認しました!」
「そんな…やはりエイハブリアクター、まだまだ未解明ね…」
「行くぞ…バルバトス!」
シンエヴァもオルガゲリオンも終わっちゃったじゃん!
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05 雌雄決す
「行くぞ…バルバトス!」
三日月の声に呼応するように緑のカメラアイが光る。レバーを押し切り、前進。使徒のATフィールドに阻まれるが、
「バルバトス!」
バルバトスも自身のATフィールドを展開。中和していく。そのまま右手に構えたメイスを押し込む…が、
「…足りない」
「質量が足りないようね」
「あの程度の殴打武装ではまだ太刀打ちできない、ということか」
リツコとミサトはそれぞれ違った面持ちで、しかし見るものは変わらない。それはガンダム・バルバトス。
「前にあの鳥を倒したときは…もっとでかいやつで…あ」
三日月は再びオルガの、初号機の方を向いて声を漏らした。
「いいのあんじゃん、借りるよ」
操縦を諦めてたオルガは急な借用要請に戸惑う。「おいミカ、俺も別に武装があるわけじゃねぇぞぉ…」
「違うよ」
「え?」
「オルガを借りるよ、って」
「は?正直ピンと…」
言い終わらないうちにバルバトスは初号機の左足首をむんずと掴んで二、三度素振り。死後硬直(?)が始まってたオルガと初号機は左腕を上げた倒れたままの姿勢を維持している。
「うおおああああ」と初号機内でシェイクされてるオルガに構わず三日月は満足そうな表情をうかべる。「うん、ちょうどいい。これなら殺しきれる」
初号機を構え再び突撃。まず一撃。使徒はよろけるが倒れるに至らず。続いて二撃目、三撃、四撃。
使徒が機械とも生物ともつかない叫び声を発した。もう限界なのだろうか、これは断末魔か?
「…やばいな」
特に具体的な危機を感じた訳ではなかった。しかし歴戦を潜り抜け、それこそ死ぬまで戦った彼の野生本能は使徒に起こった変化を見逃すことはなかった。
「往生際が悪いね」
咄嗟に彼がとった行動は投擲。武器の投げ。
武器?
オルガ・イツカである。
「は?待ってくれ待ってくれうおおおああああああああ」
投げられた初号機に対し、使徒は自身の身体を粘土のように変化させ、その初号機に組みつく。
「勘弁してくれよ…」
大爆発。使徒が最期にとった行動の正体は、自爆であった。
____________________
『第4の使徒襲来とその殲滅、そして3番目の子供の接収、及びEVA初号機の初起動。概ね既定通りだな』
真っ暗な部屋。どこから天井でどこが床なのか、そしてどこが壁なのかすらわからない暗闇の中に、7つのモノリスと2人の人間。
『ガンダムタイプが一機出撃したと聞いたが、計画に支障はないな?』
『所詮量産機だ。問題ない。碇にアレを任せたのは我々だ』
「ご安心を」と、碇ゲンドウ。
「初号機の修理もめどが立っています。パイロットも無事です」
『無事、か…そうでなくてはわざわざ鍵を使った意味がないからな』
「とにかく、計画の遂行は予定通りではあります」口を開いたのは先ほどまで黙って聞いていたマクギリスである。
「我々の悲願は人類アグニカ計画。そこへ辿り着くならどんな回り道をしたとて許されるものではあるでしょう」
『そうだな…バエルゥ…』
『バエルだ』
『アグニカ・カイエルの魂…』
『そうだ、正義は我々にある…』
『フフフフ…』
ゲンドウは何かをにらむように黙っていた。
____________________
「俺があんたと?」
「そうよ」
初号機から降り、ブリーフィングルームで一服ついていたオルガは怪訝な顔で葛城ミサトを、今さっき共同生活を提案してきた主を見る。
「ミカは」
「三日月・オーガスくん?そうね、彼も一緒に住むことにしましょうか、何?もしかして女の人と住むの緊張するんだ?」
「いや…俺はべつに…」目線を逸らしたオルガを見て、わかりやすい子ね、とミサトは思う。
「だから荷物とかまとめておいてね…あ、もしかしてあの時」
「荷物なんかハナから持ってねーよ、悪いが何着か買わせてもらうぜ、金もない」
「そっか、家族と連絡はしたの?」
ミサトの問いかけにオルガは一瞬詰まって、ふっと空気を吐きながら続ける。
「家族か…あんたらの言うような血の繋がりはもってねーよ。父親も母親も兄弟も知らねー、ミカもだ」
「そっか、ごめんね、変なこと聞いちゃって」
「気にしないでくれ、別に悲しくもなんともないしな」
その時ブリーフィングルームの扉が開いて現れたのは三日月。
「オルガ、ここにいたんだ」
「ミカ…よう、久しぶり」
「うん」
「あーミカ、今この葛城ミサトっつー人とお前と三人で暮らすってことになっちまったんだが…」
「別にいいよ、おれはどこでも」
「三日月くん…あなたがガンダムのパイロットだったなんてね」
ミサトが三日月の方へ向き直る。
「てっきりファリド准将のお友達かなにかだと思っていたわ…よくあの機体を動かせたわね」
「別に?普通でしょ、阿頼耶識があるんだし」
「阿頼耶識?」
「背中のこれだよ、これをバルバトスのコックピットと繋げるんだ」
三日月はミサトに自身の背中を見せて説明する。ミサトの表情に戸惑いが浮かんだ。
「これは…こういう手術を行なったの?」
「俺もあるぜ」
オルガが口を挟む。
「マルドゥックにあった特殊手術痕…このことだったのね」
_____________________
オルガと三日月はマクギリスに呼び出され、例の応接室のソファに腰掛けている。マクギリスの背後には石動・カミーチェが佇む。
「つまり、だ」
マクギリスはふたりを順に見ると再び口を開いた。
「我々の住んでいた世界の住人がこの世界にもいくつかいる…司令室のタカキ・ウノ、実働隊のライド・マッスなどは君たち鉄華団の構成員だろう?しかし彼らに私たちの記憶はなかった。この世界で生まれ、この世界で育って、今ここにいる。」
「つまり現時点で俺たちと同じ記憶を持っているのは」
「オルガ団長、三日月・オーガス、私と石動…こんなものか」
「つまり」
「それってさ、みんな前の世界で死んだ人じゃないの」
三日月がこちらに首だけ向けて言う。
「ああ、私もそう考えている…オルガ団長が来て決定的になった」
「それでよ、マクギリス。いつか俺たちは元の世界に帰れるのか?」
「元の世界、か…」
マクギリスはソファから立ち上がって窓の方へ歩く。ブラインドの隙間から差し込むオレンジ色の光が眩しい。
「オルガ団長、君がもし世界を好きに作り変えれるとしたら、どうする」
「世界を?何言って…」
「そうだな、すまない…今回はこの街を守ってくれて感謝するよ。オルガ・イツカ、三日月・オーガス…今後も現れるMAの討伐に尽力してほしい」
「ああ」「うん」
「そしてすべてのMAが倒された暁には…」
「?なんか言ったか」
「いや…なんでもない」
マクギリスが窓から向き直ってほほえむ。
「葛城二佐とともに暮らすのだろう?彼女が待っている」
「ああ…邪魔したな、行くぞミカ」
「うん」
ふたりが出て行った部屋にはマクギリスと石動だけが残される。石動は表情の見えない自分の上司に言葉をかける。
「准将、彼らは…」
「かつての厄災戦を終わらせたのがアグニカ・カイエル…」
「?」
「しかしアグニカの民、リリンは原罪を負ってしまった。それを浄化し、再びアグニカ・カイエルを理想にするにはリリンの力ではもはや足りない」
「彼らの協力が必須、ということですか。我々だけではなく」
「そうだ、ゼーレとリリン、そして私たちと、最後のシン人類」
マクギリスは再び窓の外を眺めると最後に一言、こぼす
「正しい、世界を」
ちょっとペースあげないとまずいので
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