~復活のバルブロ~ (NEW WINDのN)
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本編
叫び


「俺はバルブロー! 第一王子~ みんな集まれ、俺のもとに~!」

 まあ、勝手に集まってくるけどな。何しろ、貴様らもよく知っているように次の王は俺様だからな。はやくから利権を得ようと次期国王に取り入る奴は多いのだ。

 

「なんです、王子その歌は」

「何!? 貴様、この歌を知らないのか? これは、この間ラナーが紹介してくれた吟遊詩人が作ってくれたのだ。俺のテーマソング? ってやつらしいぞ。これがなかなかいい女でな……ラナーも俺様が次と理解しておるのだな。なかなか愛い奴だ。有力貴族とくっつけるか……」

 俺はついこの間まで、そんなことを考えていたはずなのだが。何をどう間違えたのだろう。

 

 だが、まずは俺様の話を聞かせてやる前に、一つ貴様らに聞いておこう。

「俺が誰かは知っているだろうな?」

 

 

 

 おい! そこは即答すべきだろうが。

 

「なぜ、黙っているのだ? まさか俺様を知らないのか?」

 

 おい、本当に知らないのか? 

 

 

「そうか。俺様を知らないだと? どいつもこいつもっ! 貴様ら打首にするぞ!」

 だが、今回だけは許してやろう。俺は優しい王子様だからな。お前らにもう一度機会をくれてやろう。

 一度しか言わないから、よーく覚えるのだぞ?

「俺様はバルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ。リ・エスティーゼ王国の第一王子にして、王国の次期支配者である」

 さて、覚えたな? では、俺様の名をフルネームで呼んでみよ。

 

 

「 何? 無理だと? 使えないな。チエネイコ並だな。知恵ねえ子じゃ使えないな……だめだな。お前は打首!」

 やれやれだな。まあ、平民などキノコのようににょきにょき増えるから、一人や二人は数のうちに入らん。

 

「なに? そんなこと言わないでくださいませ、"超絶かっこいいバルブロ王子様"だと? ほう。わかっているじゃねえか。打首は取り消してやろうか」

 ありがとうございます。精一杯お仕えしますか。うむ、その気持ちは買うぞ。だが、罪は罪だ。

「……鞭打ちな」

 王族に対する無礼は許されないのだ。何しろ俺様はリ・エスティーゼ王国第一王子にして、次の王になる男と決められている男だ。そう誕生した瞬間からな。

「余は生まれながらにして国王である! 」

 というやつさ。

 なに? 弟のザナックと王位継承について争ってるだろうって? 馬鹿言うな。あいつはダメだ。次男だし、ブ男すぎるし、チビでデブ。武のかけらも無いし、威厳もない。ないない尽くしだぞ?

 やはり、王というのはなぁ……力強くなければならないのだ。それに見た目も重要だぞ? 俺様のような威厳とカッコ良さが同居していないといかんのだ。

 父王を見てみろ。まったくもって武もなく、威厳もないから、馬鹿貴族連中にいいようにされているだろう? 俺はあんなふうにはならんぞ。

 

「俺様はこの力で、貴族どもをまとめあげ、忌々しい帝国を併呑するのだ。そして我が前にあの金髪の小僧の首をおき、蹴り飛ばしてくれるわっ! いや、酒の肴にしてもよいな」

 ……などと考えていたのだが……現実の俺は今……。

 

 

「こんな草原で逃げ切れると思っているなんて! あー、楽しい! 最高! 大好き!」

 こう言ってたのは、あの赤毛の美女メイド。たしか名前はルプスレギナとか言った……生涯の最期にいい女を見たが、中身はひでえ奴だった。やつが連れてきたのは、赤い帽子のゴブリンだ。とてもゴブリンとは思えない威圧感。俺は多少剣の腕が立つからある程度強さは分かるつもりだが、このゴブリン·····強い。たぶん王国最強と言われているあの平民の戦士長ガゼフよりも遥かに強い。それが見た限りで30体だぞ。絶対に勝てない。絶望的だ。かすかな希望すらないだろうな、まさに絶望だ。逃げても逃げ切れるわけないし、戦っても勝てない。さっき俺は戦えと命じたがどちらにせよ結果は同じだろうな。

 

「皆殺しっす。みんな殺すから、皆殺しっす」

 赤毛メイドの言葉通りに俺様の兵はあっさりと皆殺しにされた。今生きているのは、俺だけだ。といっても正確には俺は……生きているのではない。生かされているだけだ……。

「ぐあああああああああああっ!」

 激痛が走る。俺の腕が腕が腕があああああっ! 

「うん。いい声っすね。まあまあかなぁ……もういっちょ!」

「うぎゃああああああああああっ!」

 俺様のもう一つの腕が腕が腕があああああっ! 俺の両腕は付け根から斬り落とされた。袖はもういらないな·····ってアホかっ! 痛い痛い痛い痛い····。

「さっきよりもいいっすよー。〈大治癒(ヒール)〉!」

 俺の腕が何事もなかったかのように元通りに復活する。いや、再生というか回復? さっきからこのような繰り返しだった。最初は指、次は手首、そして腕だ。もはや地獄だ。誰かここから助けてくれ……いや、俺を今すぐ殺してくれ……。

「腕も飽きたっすね。そろそろ男にとって大事なトコロでもやってみるすかね」

 鬼っ! 悪魔! いや、もう勘弁してくれっ! 

「お、お願いいたします。わ、私が愚かでございました。いと高き御方、あ、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下が、まさか庇護なされているとはおもわず、愚かにもカルネ村を攻めてしまったこと、この命をもってつぐなわせてくださいませ。ど、どうか……私を殺してくださいませ。偉大なるアインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下の名のもとに」

 俺は芋虫のように伏して顔だけをあげて、涙を垂れ流し懇願した。もうこれ以上は耐えられない。限界だ。頼む俺を殺してくれ! 

「だそうですよ、どういたしましょうか?」

 メイドがコメカミに指を当て、誰かと会話している。いや、相手は間違いなくアインズ・ウール・ゴウンだろう。そして、今使っているのはおそらく伝言(メッセージ)だろう。ああ、魔法を馬鹿にしていた俺自身を呪いたい。なんて馬鹿だったのだ。たかが手品師だとか魔法を侮った俺が恨めしい。アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下に逆らうなど愚かの極みであった……。もし。やり直せるのであれば、違う道を俺は進みたい。やり直せるならな。叶わぬ話だ。

「慈悲深きアインズ様から、死を許すとお許しがでました。そこでバルバロ王子に質問でっす。……あ、バルブロでしたっけ? ま、どっちでもいいっすね。せっかくだから死に方を選ばせてあげるっすよ! 大サービスっす! 八つ裂きか、串刺し、火あぶり、切腹どれにする? ……なんなら竹のノコギリで首をじっくり切り落とすのもいいっすね!」

 何が大サービスだ。ふざけるなっ! と言える立場でもない。それにしてもなんて酷い選択肢なのだ。人生最悪の選択肢だよ。最後は絶対に嫌だ。

「……切腹は介錯してもらえるのだろうか……」

「ないに決まってるっす! きししっ……」

 ですよね……。期待した俺が馬鹿だった。楽には死なせては貰えないか。

「せめて心臓を一突きにしてくれ。偉大なアインズ・ウール・ゴウン魔導王に逆らってしまった愚かな人間の最後の願いだ」

 少しでも楽な選択肢を提案してみる。

「うーん、イマイチっけどまあいいっす」

 もはや、これまでか。やり直したい……。俺は、俺は……王になるはずだったのだぞ……。

「何か言い残すことはあるっすか?」

「魔導王陛下に王国をよろしくお願いしますとお伝えいただきたい。もし出来るのであれば、陛下のお役に立てるように生きてお仕えしたいのですが……」

 まあ、無理だろう。俺は彼の逆鱗に触れた。大事にしているものを破壊しようとしたんだ。それくらいはわかる。

「意外っすね。最初からそういう態度だったら違ったのに。残念すね! でも安心して欲しいっす! 死んでも役には立てるっすから」

 意味がわからないが、もう俺は死ぬのだ。

 

 こんな時代に生まれた俺は神を知らない。

 だが、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下は神のごとき力を持つのだろう。

 やり直したい。やり直したら、魔導王陛下には逆らわないぞ。役に立てば生かしてもらえるだろうか。

「アインズ様の慈悲です。なかなか楽しめたっすよー、王子」

 この声を最期に俺は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ·····はずだった。

 

 

 

 

「ここは、俺の部屋か……」

 なぜか俺は自分の部屋で目が覚めた。まず、腕を確かめるがちゃんと両方ともついている。足も目も大丈夫だ。異変があるとすれば、何度も叫んだかのように枯れた声と、尋常ではない汗でびしょびしょになったベッドだろうか。

「夢でなく、あれは現実だったはず。どういうことだ……」

 ふと庭に目をやる。色とりどりの花が咲いている。ラナーのやつがよく手入れをしているからな……。

「ん? なぜ秋の花が咲いている?」

 俺が死んだのは冬だったはず。それに今ラナーとクライムが見えたが、ラナーのやつ……クライムに対して……そういうことか。

「ん? 首飾りの水晶が一つ減っている……」

 俺が首から下げていた首飾りには五つの水晶がついていたはずだが、四つに減っていた。

「たしか……護りの首飾りと聞いていたが……」

 これは、俺様のテーマソングを作った吟遊詩人の女からもらったものだ。俺はもしかすると護られたのかもしれん。それより確認しないといけないことがある。

 

「誰かあるかっ!」

 

 

 そして俺は知った。今は俺が死ぬ三ヶ月ほど前だということを。

 何があったかはわからないが、一度死んだ俺は、死ぬ前に戻ったらしい。直前とかでなくてよかった……。

「まだ間に合うかもしれん。俺は二度とごめんだ。やり直せるかはわからないが、俺は新たな人生を生きる!」

 

 俺は復活のバルブロ。生きるために生き返ったはずの男だ。

 






別作品を書いてるうちに浮かんできたものを形にしてみました。

バルブロメインとか誰が好むのか……。


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Get down





 

 生き返った俺は次に死なないためにどうすべきか、それを考える。

 

 ……違うな。俺は生き返ったのではない。死ぬ前に戻ったのだ。このまま同じように振舞っていけば、同じ運命が待っているだろう。 鮮明に覚えているあの赤毛のメイド……ルプスレギナと言ったか。人外の美の持ち主……そして中身も人じゃあない。

 嬉しそうに楽しそうに俺様を痛ぶり弄んだ女……。

 指を一本ずつ斬り落とされ、泣き叫ぶ俺様をニヤニヤしながら見ていたあの目、あの顔……忘れられるものか。

「指痛いっすか? なら、指痛くなくしてあげるっすよ」

 回復させて、安心させてから今度は手首を斬りやがった。なんてやつだ。許せん……。だが、二度とごめんだ。

 復活のバルブロ……俺が二度とあんな目にあわず、そして死なないために奇跡が起きたのだ。今後生き抜くためにはどうするかが大切だ。

 

「絶対にやってはいけないことを考えないとな」

 まず、あの魔法詠唱者(マジックキャスター)アインズ・ウール・ゴウンとは戦ってはいけないし、敵対してはいけない。

 

「……王族たる俺の矜恃など、価値はない。それに王族であることすら無価値だった……」

 俺は第一王子。普通なら捕虜にして交換材料とするが、俺は逆鱗に触れたのだろう……ひどい拷問をされた上で殺されたのだ。あの赤毛は忘れられん。……あまりの恐怖で思わず思考がループしてしまうな。

 

 とにかくあの方と戦ってしまうと必ず死ぬと考えた方がいい。まず、絶対にあのタイミングでカルネ村に行ってはいけない。確実に死ぬ。

 

 では、死なないためにはどうすればいい? 

 

 俺はどうすべきか、腕組みをしてずっと考えていただが、いいアイデアは浮かばない。

 

「まず信頼できる仲間を作るべきか……」

 そう考える。確かに義父殿は心強い味方ではあるがやや筋力思考だ。戦場でも強いには強いが、押せ! 進め! 行け! しか指示をしていないような気がする。……簡単に言えば、軍師とか策士ではない。そうなるとこのようなケースにおいては役に立たないであろう。

 相談したところで、笑い飛ばされ、進め! 恐れるな! と言われそうだ。

 

 それではなんにもならん! 

 

「……意外と難しいもんだなぁ……」

 アインズ・ウール・ゴウンとカルネ村が繋がっている。

 

 そこを突いてみてはどうか。

 

 だが、俺は前回それで失敗をしている、そう迂闊にも攻め込んでしまったことで、大失敗をしているのだ。あのゴブリンの軍勢といい、オーガといい、あの村はとてつもない戦力を持っている。

 考えたくはないが、下手をすれば王国全軍をもってしても勝てない可能性がある。最初に出てきたゴブリンはともかく、後から出てきたゴブリンの大軍は異常な強さだった。赤帽子は特にな。

 ならば、正面から攻めてはいけない、搦手から……否、戦い自体を避けるべきなのだろうな。

 

 あの後王国軍がどうなったのか……俺はそこを知らない。なにしろ死んだし。

 だが、あれほどの軍勢をたかだか一つの村に配せるアインズ・ウール・ゴウンが相手なのだ、無事に済むわけがない、おそらく大惨事が起きたのではないだろうか。今まで、見たことがない魔法で、数万……過去最大の犠牲を出したかもしれん。

 何しろ直接戦ったわけでもなく、ただ単に庇護している村と戦っただけであれだけの被害が出るのだぞ? 直接戦場に本人がいるカッツェ平野……そこでの戦いがどのような結果になったかは推して知るべきだろう。おそらく目を覆うような大惨事……!! そういうことか。

 

「……なるほどな。力の違いを見せつけるということか。力なき者は圧倒的強者には逆らおうとは、しない……」

 俺がまさにそうだ。もし、生きて戻っていたら、エ・ランテル割譲に反対はしなかっただろうから。もちろん、今でもしないぞ! 

 

「……それを前提にわかっていることを並べるか」

 その方か早いかもしれない。しかし、俺はこんなに頭が回ったか? ショックで隠されていた力が解放されたのかもしれんな。

 

 さて、まとめてみよう。

 アインズ・ウール・ゴウンは、まず間違いなく大大大……大魔法使いだと推測される。逆らってはいけない。逆らえば死ぬだろうし、戦争すればエ・ランテル近郊を明け渡したくなるほどの被害が出るはず。ガゼフの話を信じておくべきだった。

 

「……恐ろしい……」

 カルネ村は、アインズ・ウール・ゴウンへの恩義があり忠義に似たものがある。それは王子である俺と戦うという選択肢を選んだことでハッキリとわかる。庇護下にあるのだから手を出してはいけない。

 あの赤毛メイド、ルプスレギナ……は〈大治癒(ヒール)〉という回復魔法を使う神官の皮を被った残虐なサディストだ。俺が知っている回復魔法とは回復力がまるで違う。

 あれはかなり高位魔法だろうな。……あいつが連れてきた赤い帽子のゴブリンは異常な強さ。たぶん、ガセフよりヤバい。そして、赤帽子がいたあのゴブリン軍団は魔法すら使う。

「赤帽子……と魔法か。そうだなぁ、魔法を知るというのは一つの方法かもしれんな」

 少なくともあのメイドは魔法を使っていた。それがどれぐらいのものかも知ればあるいは……。

 ではどうすればいいか……あいにく今まで俺は魔法というものも完全にバカにしていた。あんなものたいしたことない。武力で倒せると。

 今までも帝国との戦争において魔法使いが出てきたことがなかった。帝国の宮廷魔術師フルーザー・パラダイム? とかいったか? あいつが出てくることもなかった。

 だから我々は魔法を軽視していたのだ。しかし魔法というものは恐るべきものである……それを、ゴブリンごときから知ることになるとは屈辱だ……。だが、多くの貴族は未だ魔法を軽視している。このままだと戦争は止められないな。

 しかし、人間の強さもピンキリだが、ゴブリンもそうだと思い知らされたな。……せっかく学ぶことができたのだ。ならば、それを活かさない手はないだろう。

 

 よし、魔法の使い手を呼び出し……って誰がいるのかわからん。

 うーん、知識があるとすれば、………………冒険者だ! 伝手はないが、俺が呼び出せば参上する……とは限らないな。冒険者組合は国家には属さない。

 となると、確かラナーと蒼の薔薇のリーダーが懇意にしていたはずだな。そこを辿ってみるか。そもそもあの美人は貴族の娘だからな。融通はきくのではないか。

 まずはあのラナーを俺の味方にするか。クライムとの仲を公認するというのはどうか。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「お兄様、お呼びでしょうか」

 俺の妹、第三王女のラナーだ。見た目はこの国一番の美人だ。

「きたかラナー。元気そうでなによりだ」

 確か記憶では、一時期こいつはものすごく元気がなかったはずだ。だいぶ前の記憶だが。

 

 それが良くなったのはあの平民クライムがあいつのそばに来てからだと思う。それからあいつは元気になった。それ以降ずっとクライムを側に置いている。

 それはつまりそういうことなのではないだろうか。

 なぜこないだまで気が付かなかったのか不思議だった。考えれば考えるほど、その可能性が高まっていく……これは使えるのではないだろうか。しかし、俺はなんだか冴えているな……。

 

「ありがとうございます、お兄様。お兄様が国の為に頑張ってくださるから、私は元気でいられるのですわ」

「……世辞が上手いな。だが、悪い気はせん。では、茶を入れてやろう」

 俺は今までにやったことがないことを言ってみた。どういう反応をするだろうかとちょっと確かめたいと思ったからだが。

 

「まあ、お兄様が!?」

 うん、すごくびっくりされた。まぁ、そりゃそうだろうな……俺だってびっくりしてるわ! 

 だが、今までと変えるなら普段と違うことをしてみるというのはどうだろうかと思ってな。

 もちろん茶の入れ方など俺は知らんぞ? 

 まあ、ポットに適当にチャボを入れて、適当な量のお湯を入れて、適当な時間待って適当な量をとぽとぽとカップに入れれりゃいいんじゃねえか? 間違ってないよな! 

 

 おい、チャボを入れてどうする! 

 

 入れるのは茶葉だよ茶葉。まぁ渋くなけりゃいいだろう、確か三分ぐらい待つんだよな。きっとそれぐらい待てばよいのだ。うん、そうだ。きっとそうだ。

 おっ砂時計があったわ! 確かこれをひっくり返せばいいんじゃね。

 俺は表情一つ変えずに茶をいれた。

 

「いただきます。お兄様がいれてくださるなんて、感激ですわ」

「愛する妹のためだからな」

「まあ、お兄様からそんな言葉が聞けるなんて驚きました」

 ああ、俺も驚いたさ、こんなことを言う日が来るとはなぁ……。

「あら、美味しいですわ。茶葉の量と湯量、時間が完璧です。さすがお兄様はなんでも出来るのですね」

「魔法はできんし、俺は出来ないことの方が多いさ。色々助けてもらわんと王にはなれないのでな」

 ……俺、こんなやつだっけ? 

 

「まあ、お兄様。素晴らしいお考えですわ」

「そうか。俺はお前にも力になって貰いたい。お前のクライムとともにな」

「!? ……お兄様それはどういう意味です?」

「ラナー。俺はお前の兄だ。だから長いことお前を見ていてな……気づいたんだよ。お前はクライムを愛しているのではないかと。だから、俺はお前を応援しようと思っていてな……」

「ありがとうございますお兄様……。私がクライムを愛していることに気づいたのは、お兄様が初めてですわ」

 ラナーの笑顔は美しい。本当は政略結婚させるつもりだったが、ロクなのがいないからな。想いを叶えてやりたいと思ってしまうな。

「そうか。姫と従者の秘められた恋というわけか。愛は太陽よりも燃え盛り、炎のように止められない情熱ってわけだな。ふふ……本が一冊かけそうだな」

「お兄様……意外と詩的なのですね。驚きました」

 俺も驚いておるわ。まさか、俺の頭脳にこんな要素があったとは。死を経験して、変化したのか?? 

「ラナー、俺は王となる。そしてお前のクライムを貴族にして、お前を降嫁させてやる。そう決めたぞ!」

「お兄様! それは反発が……」

「ラナーよ。俺は、派閥をまとめて、国を良くするのだ、そのためならば、どんなことでもやるぞ。反発するならそれを消せば良いのだ」

「お兄様……だ……少し変わられましたね」

 いや、変わるだろ! あんな拷問二度とゴメンだっ!! 

「俺はなラナー。憂いているのだ。国を、身分違いの恋をしているお前を。そして傀儡にされそうになっていた情けない自分自身を」

「お兄様……ラナーはお兄様の力になれませぬか?」

「お前がいてくれることが、力になる。……まるで恋人にいいそうなセリフだな。だとしたらクライムが嫉妬するかな?」

 俺は苦笑する。なんだこのセリフは。

「まあ、お兄様ったら」

「……ラナー、力を貸してくれ。俺は魔法について教えて貰いたいのだが、お前の知り合いに頼んではもらえぬか?」

「お兄様のためなら、喜んで」

 ラナーはそう微笑み、ラキュースを呼んでくれると約束してくれた。

 

 これで、なんとかいい方向へいきそうだ。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「アルベド様にご報告を。バルブロ兄様の様子がおかしい。あまりにもおかし過ぎます。何か異変を察知しているのかもしれません。目を離さないようにして下さるようお願いしてください」

 ラナーは、自分の影に向かって呟く。

 

「バルブロお兄様。クライムへの気持ちを気づくとは……わからないものね。計画の邪魔はしないでね……お兄様」

 

 

 バルブロは知らない。ラナーこそが黒幕であることを。






〇補足 バルブロの"かしこさ"ついて

バルブロのくせに頭が切れる。こんなに賢い? と思われた方いらっしゃるかと。
本作においては、バルブロは死にかけては、ヒールされて拷問を受け続けました。死にかけるほどの経験を何度も受けた……と判断されています。
その時の記憶、経験を持って彼は時を戻っていますので、なんとレベルが上がっています。
頭が冴えたのはそのせい。かしこさが、4しかなかったのが、20をこえて命令を理解できるようになったような感じだと思ってください。
かなり賢くなった……はず?


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SNOW BLIND







「ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ、只今参上いたしました」

 気の強そうなところがよいな……。ラナーとは違う美しさを持つ金髪美人だ。まあ、かなりの跳ねっ返りだけどな。貴族である家を飛び出し、冒険者になったと聞いている。今は和解しているとは聞いているが。……たしか、無垢なる白雪(ヴァージンスノー)とかいう鎧を装備しているとか。その名の通り汚れを知らない乙女にしか装備出来ないと聞いたことがある。

 うーん、こんな美人が乙女とは勿体ない。俺のモノにしてやりたくなるぞ。……だが、今はそんなことを考えている場合ではないな。

 

「よく来てくれた。アダマンタイト級冒険者ともなれば、色々と多忙であろうに」

 冒険者の中でも最高峰がアダマンタイト級だ。王国には三チームあるが、ラキュースは蒼の薔薇のリーダーだったはず。……もう少し冒険者についても把握すべきか。やれやれ、学ぶことばかりだ……。

 

「いえ。ラナー……第三王女様の頼みでもありますし、ましてや第一王子であるバルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ殿下からの直々なお呼びだしとあれば、喜んで参上いたしますわ」

 流石だな。ちゃんと俺様のフルネームを覚えているし、作法も出来ている。どこかの知恵ねえ子とは違うわ……。

 

「うむ。嬉しく思うぞ。特に美人と話すのはよいことだ」

「まあ、殿下。奥方様はもっと美しいのでは?」

 ラキュースはさらりとかわしてきた。やはり、防御レベルが高いのだろう。ま、別に口説くつもりはないのだが。

「話の前に、まず茶を入れよう」

「え、殿下自らが?」

 ふふ、ラナー同様に驚いているな。まだ俺もなれていないが、俺がやることに価値があるのだ。

「……意外か? 最近凝っていてな」

「そ、そうなのですね。殿下は武芸がお好きと伺っていましたので、意外でした。ラナー様は以前から紅茶をいれるのはお好きでしたが……」

 ラキュースはまだ驚いているようだな。俺が茶を入れるという意外さは使えるか。

「武芸だけでは国を治められんからな。まあ、茶を入れられても国は治められんが、わかることはあるぞ」

「それはどのようなことでしょうか?」

 当然の返しだな。そう返ってくるのは予想ずみだ。

「それは、まず茶を飲んでから話そう。待っている間に最近の話を聞かせてくれ」

 俺はラキュースのいや、冒険者の近況を聞きながら砂時計の砂が落ちるのを待ち、茶を入れた。

 

「いただきます」

「これはストレート用だ。ミルクを入れずに飲んでみろ」

 最近になって知ったが、茶葉は用途によって大きさや種類が変わるらしい。詳しくはしらないが、適材適所という感じなのだろう。意外と国の運営に通ずるものがある。

 

「美味しいです」

「それはよかった。だがなあ、ラキュース……最近は茶の味が落ちたとは思わんか?」

「……やはり、気がつかれますか?」

 正直、差はあまりわからん。だが、よくなるはずはないのだ。

「ああ。茶葉の品質が落ちているのだろう。国を継ぐものとしては、由々しき事態だと思っているのだ。思うに茶葉だけの問題ではあるまい」

 ……俺は自分の発言に違和感を否めない。だが、あの拷問の最中に色々と思ったのだ。民を大事にしなかったツケが回ってきたのかもしれないと。

 あの時カルネ村を攻めたのも、平民ごときが王族を疑い、たてつくなど生意気だと思ったからだ。俺の驕り高ぶりが、そうさせたのだ。従って当然だと。

 今考えて見ればわかるだろう。夜いきなり軍勢を引き連れて行けば、それは不審がられて当然だ。せめて先触れを出せば違ったのではないか。もしかしたら、他国の軍勢かもしれないと思ったのかもしれない。過去に襲われた村なのだから、警戒心が強いのはあたりまえだ。

 人は死を経験すれば変わるし、変わらなければいけないと思うだろ? 俺は小さな失敗から大きな過ちまで色々やってきた。

 

「殿下、農村を中心に労働力が落ちています。これは帝国との戦争が一つの原因かと……」

 ラキュースは、ここで自身の考えを述べてくれた。帝国の偽皇帝め……そんな策だったのか。

「なるほどな……」

 俺が苦虫を噛み潰したような顔をしていると、ラキュースは続けてこう言ってきた。

「出来れば戦争にならないように手を打ちたいですよね」

 まったくもってその通りだな……そうか。まだ布告前か。考慮に値する。戦争を回避するなど、俺にできるのか? 

 

「その通りだな。ところで、魔法について教えて貰いたいのだが……」

 俺は本題へ話を切り替える。美人とのおしゃべりというのも悪くはない。悪くはないが、今はそれどころではない。

「そうでしたね。今まで殿下は魔法には興味がなかったと思っていましたが、急にどうされたのでしょう」

 ラキュースの笑顔の裏に訝しみといった感情が垣間見える。まあ、仕方ないな。

「……今更なのだが、魔法をよく知らないままではいかんと思ってな。考えをかえたのだよ。魔法を知らずに軽視して痛い目をみるくらいなら、きちんと知っておいてから、どうすべきか対策を考えるべきじゃあないか? 無知は身を滅ぼすだろう?」

 いや、本当に滅んだのだがな……。

「おっしゃる通りです。知った上で対策するのは大事です」

 ラキュースは納得した顔になった。やはり無知はよくないな……。

「たしか、お前は第五位階を使うのだったな? それはどれくらい凄いことなのだろうか」

「そうですね。第三位階が使えれば一人前と言われていますし、第五位階の使い手はかなり少ないです。王国では、私を含め片手で数えられるくらいではないかと。隣の聖王国で、第四位階が最高という話でした。ただ、国が流す情報ですから鵜呑みにはできませんけど」

 ラキュースは心当たりがあり、何人かを思い浮かべているようだ。

「そんなに少ないのか。……なるほどな。使い手は貴重な人材とわかった。冒険者にしておくのは勿体ないな……。で、あのフリーザー・パラダイスとかいう帝国の爺はどのくらいなのだ?」

 正直に言おう。魔法じじいの名前はよく覚えていない。会議で聞いたことはあるが、魔法にも爺にも興味はなかった。せめて魔法美女とか、魔法美少女なら興味は持っていたと思うぞ。……魔法じゃないほうになっ! 

 

「フールーダ・パラダイン翁は、帝国、王国、聖王国の三国で唯一無二の第六位階の使い手ですよ。逸脱者と呼ばれるのは英雄の領域を超えている……という意味も含めピッタリだと思います。なお、法国は情報が少ないので、使い手がいるかはわかりませんが」

 さすがに冒険者の中でも最上級だけはあるな。よく知っている。

「なに! そうだったのか……もし、そやつと王国兵が戦えばどうなる?」

「私の主観になりますが、それでもよろしいでしょうか? 」

 もちろんだ。アダマンタイト級の意見は貴重だからな。

「それで構わない。率直に申せ」

「かしこまりました。なお、私は信仰系魔法の使い手で、あちらは魔術系魔法の使い手です。使える魔法が違うのであくまでも仮の話になります。

 まず魔術系はやはり攻撃魔法などが得意ですね。有名なところでは〈魔法の矢(マジックアロー)〉や〈火球(ファイアーボール)〉などですね。もっと上位魔法を使うでしょうし、あの方は三重魔法詠唱者(トライアッド)とも呼ばれています。殿下はご存知でしょうか? 魔法は同じ魔法でも使い手の魔力が高ければその分威力も増します」

 それは初耳だ。ものすごく大事なことじゃないか? 

「そうなのか……火の玉がデカくなるって考えればよいのかな?」

「概ねそのようにお考えください。なかには数が増えるケースもあります」

 なんということだ。魔法を侮るとか愚かすぎないか? この国の貴族は馬鹿ばかりか……。

「ですので、もし、戦場に出てくれば、攻撃の届かない空中から強力な魔法を連打されて、王国軍は手も足も出ずに全滅の可能性すらありますよ。私はそう考えています」

 なんということだ。確かに空から魔法を撃ち込まれれば、ありえる。あのゴブリンどもは範囲攻撃? だったか。そんな魔法すら使っていた。

「……なるほどな。考慮にいれる必要はあるか。ところで、ラキュース」

 俺は本題に入る。……知りたくもあり、知りたくなくもあり……複雑だ。

「なんでしょうか、殿下」

「信仰系魔法には詳しいと思うが、〈大治癒(ヒール)〉という魔法は知っているか?」

 ラキュースは、目を見開く……ああ、やはり知っているか。だろうなぁ……。しかも、あの感じは……嫌な予感がするな。

「よくご存知ですね。信仰系の第六位階魔法とされています。私が未だ到達できない領域ですし、今わかっている限り三国では使い手がいません。幻の回復魔法です」

「幻か……そうか、そうなのか……」

「殿下?」

 ……第六位階……第六位階魔法だとぉ? 

 すると、あのメイドが帝国のフルフルダーとかいう魔法じじいと最低でも同格ということか。なんということだ。それがメイド……アインズ・ウール・ゴウン……いったい何者だ。メイドと同格ということは考えにくいとすれば、二段くらいは上でもおかしくはないな……。 考えれば考えるほど、吐き気を覚える。

「殿下、顔色がお悪うございますが、お体に何か?」

「いや、大丈夫だ」

 体はなっ! むしろ問題は心だ……。

「ラキュースよ、魔法は何位階まであるのだ?」

「噂では第十位階……神々の領域と言われており、未だ人では使い手はいないそうです。神話ではさらに上もあるとかないとか……」

 ……うーん。八どころじゃないとか? 

「なるほどな。参考になった。やはり知識は大事だな……なあ、もしもだが七位階より上の魔法を使うやつが複数いたら……敵に回したらどうなるだろうな」

「……死にますね。国が滅びてもおかしくはないかと思います」

 だよな……。やはり戦わないように、友好的にいかないといけないな。

 

 俺は幸いなことに、今なら少しだけ真実が見えている。なんとかしてみせる。

 陽射しが届かない冬もいずれ終わるのだから、同じように俺が生きる道もあるはずだ。

 

 冬になる前に手を打たねば! 

 

 

 

 ◇◇◇

 

「まあ、お兄様が魔法の話を?」

「それだけじゃないけど、ずいぶんと国を心配していたわね。あんな人だったかしら?」

「ここ数日様子がおかしいのよ、どうしたのかしら……」

 バルブロお兄様はやはりおかしい。何かやらかしそう。今までとは何かが違う気がするわ……。

「紅茶まで入れてくださって……びっくりしたわ」

「まあ? お兄様がお茶を……びっくりよね、クライム」

 私は後ろで控えているクライムに声をかける。不意に声をかけるとピクンってするのが可愛い。

「はあ。まあ、確かにバルブロ王子が茶を入れるなど似合いません。ラナー様がいれらるている姿は、か……絵になりますが」

 クライムは照れもあって言葉を噛む。入れられていると言いたかったのだろう。

「ふふ。何を言いかけたのか気になるわね。可憐、可愛い、華麗あたりかしら?」

「ラキュース! 何を言い始めるのよ」

「あ、いや、噛んだだけです!」

 私の計画にはクライムがいれば、あとはどちらか一人がいればよいのだけど。ねえ? お兄様。

 







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Be cool!

 俺はアインズ・ウール・ゴウンへの礼をするべきだと父親である国王に話した。正直なところ完全に機は逸している。ガゼフが救われたのはかなり前の話なのだから。

 だが、帝国から宣戦布告されたら我々は終わりだ。あのアインズ・ウール・ゴウンが敵に回ってしまうのだ。そうなると俺も死んでしまう可能性がある。……いやその可能性が高い気がするのだ。

 俺はあのタイミングでカルネに行かなければ死なないわけではない。例えば最初の望み通りにカッツェ平野へ赴けば、アインズ・ウール・ゴウン本人にやられて死ぬ気がするし、王都に残ってもダメな気がする。普通に殺される気がしてならない。そう暗殺……ありえる話だ。

 なぜ俺がこんなことを考えているかというと、一つ大事なことを思い出したのだ。なぜ最初から思い出せなかったのか不思議だが、きっとあの玩具にされた時間のせいだろう。

 

「アインズ・ウール・ゴウン様の計画にあなたは必要ないだけ。だから殺す」

 

 あの赤毛のサディスメイド──これはあいつのために俺が作った言葉だ──は、そう言っていた。どんな計画かは知らないが、俺は必要がないと言われた。……もしかしたら俺は無駄な努力をしているのかもしれない。どんなに頑張っても、「必要ないだけ。だから殺す」と言われてしまうのかもしれん。

 このまま何もしなければ殺されてしまうのだ。だから俺はせめて必要と認識されるように足掻くしかないのだが、なにしろ俺は第一王子だ。正当な理由なしに王都から動けはしないのだ。

 ……面倒なことだが。だから俺はこの話を出した。ここにいる連中は誰も知らないが、絶対に宣戦布告前に接触しなければならない。 もう一度言っておくが、宣戦布告は死を意味する。とにかくその前にこちらから出向く……いや、お伺いする必要があるのだ。

 戦士長らを救ってもらった礼を述べるためというのは俺が動く大義名分としては十分だろう。というより、他にない! 

 

「王の直属の部下である王国戦士長ガゼフ・ストロノーフらを救ってもらっているのだぞ? その礼をするべきではないのか! たしかに悪魔騒動などで機を逸してしまったが、それが礼をしない理由になるのかっ! 違うだろう? だからこそ王族である私が父の名代として出るべきなのだ。王国戦士長は貴族ではないが、国王の剣とまで呼ばれる忠義の臣であり、代わりとなるものはおらぬのだぞ。 誰ぞ代わりができるのか?」

 俺はらしくもなく熱弁を奮ったのだ。

 

 貴族連中は急に何をという顔をしており、それは父王も同じだったようだが、父だけはどことなく嬉しそうであった。

 

 だが、俺はそんなことを気にしてる余裕はない。何しろこの訪問がうまくいくかどうかに俺の命と王国の未来がかかっているのだから。

 

「第一、礼をすると言っても、相手は所詮旅の手品師でしょう? 相手がどこにいるかもわからないのでは、礼のしようがないのではないのか」

 当然の疑問が帰ってきたんだが、それに対する答えは俺は持っている。それにしても手品師か……やれやれだな。

「俺の調べによると、どうやらアインズ・ウール・ゴウンと親密な関係を築いている場所があるらしい。俺はそこに戦士長を伴って、王の名代としていこうと思う」

 そう答えてやった。……調べてはいないけどな。調べようとして俺は逆鱗に触れて殺されたが、ただの村ではないし関係が深いのも俺は知っている。

 

「なぜ王子がそんなことをするのか!」

「そうだ! 礼をするなら、こちらに呼びつけるべきではないのか!!」

 貴族のバカ共から当然のように疑問の声が上がった。いや、抗議の声というべきだろうか。こいつらは先程の話を聞いていなかったのか……。まあ、調べたという話をスルーされたのは幸いだ。

 だいたいこいつらは基本俺たち王族が何かをしようとする時に反対することしか知らない。特に貴族派閥の連中はそうだ。

 まぁ、その貴族派閥のトップが俺の義父である、ボウロロープ侯なのだがな。たしかに俺を支持してはいるが、傀儡にしようとしていたことは今ならわかる。

 

 とにかく誰もわかっちゃくれないが、本当にこれはヤバイのだ。

 これは国家存亡の危機だ。貴族派閥だとか王派閥だとかは関係ない。これを失敗すると結果的に全ての者が大打撃を被ることは間違いないのだぞ。

 

「バルブロよ、よくぞ申した。戦士長を救ってもらった礼はいずれはしたいと思っていた。もしそれが叶うのであれば、この機会に礼をしておこう」

 決断力にかける父ではあるが、悪魔騒動で発言力が増した分、しっかりと意見を言うようになったな。だいたい今までが弱腰すぎたのだ。

「ですが、第一王子自ら相手の元に訪問していくなどありえません」

 ボウロロープの発言に、取り巻き連中から、そうだそうだとの声があがる。

 こいつら本当に無能だな。貴族のメンツしか考えていない。そんなものでは何も守れないのだよっ!

 俺はそれをよく知っている。ああ、よく知ってるとも。ふふ……右腕を切られ、左腕を切られ、無理やり回復させられて、更にまた切られ……それを繰り返されたんだぞ。思い出すだけで腕に激痛が走る錯覚を覚える……まだこの体では味わっていないはずなのにな。これがトラマナってやつか……なんか違う気がするがまあよい。

 

「いや、違うな。貴様らは大きな勘違いをしている。この俺、第一王子バルブロ様自らが赴くことが、最大の誠意を示すことができるのだよ。まあ、王が出向くのが最上なのだが、それは無理があるからな。だから俺なのだ。……まったく、どいつもこいつも貴族のメンツだとか誇り云々と体面ばかり考えおって! お前たちは相手のために! とかそのように考えることはできないのか! この愚か者どもが! 貴様らは愚物かっ!」

 俺は怒鳴り散らしてやった。

 場がシーンとなる。ありえないものを見るような目で見るなっ! 

 わかっておるわ。本当に俺らしくないセリフだと自分でも思っているのだからな。

「らしくないか? だが、リーダーたるもの立場に驕ってはならないのだ。魔法を使える相手、しかも戦士長が敵わない相手を倒す力があるのだ。その力が貴様らに向けられたらどうするつもりだ?」

 こないだまでの俺だったら間違いなく、そんな礼などする必要などないと言っていただろう。

 そして、もし礼をする必要があれば呼びつけるべきだ。なんでこないのか、無礼ではないのかと俺は言っていただろうな。

 

「確かに王子の言うことには一理ございます。こちらから向かうということで、王家の感謝を示し、なおかつ王の名代として第一王子であるバルブロ殿下が下向なされるというのは、最大の誠意を示すことになるのではないでしょうか」

 やはりというべきか、これには乗ってきたのは、レエブンであった。話に乗ってくるのであれば、彼しかいないだろうとは思っていたが、やはりそうだったか。

「戦士長が敬意を表すアインズ・ウール・ゴウン。たった二人で、戦士長が殺されかけた陽光聖典を追い払ったという大魔法詠唱者(マジックキャスター)が相手ならば、王国のためにもなると思いますし、ぜひそうすべきかと具申致しますが」

 レエブンが口を出してくれば、話の趨勢は決まったも同然だ。

「レエブン侯がそういうのであれば、仕方ありませんな。確かに国としても礼を述べる必要はありますから」

 ボウロロープが同意を述べ、あとは堰を切ったように全員が賛成を述べる。

 

 ほらな? 

 

「うむ。では、今回はバルブロの提案を採用するとしよう。贈り物を考え吉日を持って出立できるように進めよ。バルブロ、本当にお前がいくのか?」

「もちろんです。父上の名代を立派に務めてみせましょう。護衛はガゼフ・ストロノーフのみで構いません」

「さすがに、それは……私も同行いたしましょう」

 レエブンがでしゃばってきやがったか。何を考えている。……こいつは例の悪魔騒動以来親ザナック派の急先鋒だ。ザナックはただレエブンの兵を借りて巡回しただけだというのに見た目とのギャップもあって名を上げた。

 俺には手持ちの兵はない。いればあんなチンチクリンに手柄なぞ譲っていないわ。

 

「レエブン、貴様はこの件には関わりあるまい。直属の戦士団を救われた件でこの俺が名代として赴くのだぞ」

「しかし、万が一のことがあってはなりません。エ・ランテル周辺は三国の国境付近であり、間者が多数潜伏しているはず。アンデッド騒動もありましたし、殿下が行かれるにはいささか危険かと」

 もっともな意見だ。感情でものを言う他の貴族連中とはやはり出来が違うな。

 非常に知性的だ、こいつを宰相にすれば、国は良くなるのではないだろうか。

 

 

「万が一か……だが、その方がお前にとっては都合がいいのではないのかな?」

 俺は意地悪く言ってみた。お前ザナック派だろう? という意味である。

 

「ご、ご冗談を。そんなはずはございません。バルブロ殿下は国にとって大事な存在でございます。おたわむれを」

 レエブンが俺の言わんとすることを察しているのは明らかだ。まあ、やつがチンチクリン(ザナック)支持から外れればそれはそれで構わん。まあ、今となっては最悪命があれば王になどならなくてもよいのだが。出来ればなりたい。そして死にたくない。我儘だけどな。

 

「どうだかな。まあ、りーたんのためにも、お前は頑張らないとならんのだろう。それにお前は冒険者にも伝手があったなぁ。連れていってやる代わりに頼みたいことがある」

 奴は息子を溺愛しているらしい。頑張る意味を良い意味で持っているというのは正直羨ましいな。新しい命を守りたくなるのはわかる。

 なにしろ俺自身、今は新しい命なのだから。俺は何のために戻ってきたのか。生まれてきた意味を考えてしまうな。

 生まれてなければ、生きてる意味など迷わなかった……誰かがそんなことを言っていた気がする。どちらにせよ、開けてはいけない扉はあるよな。それを俺は開けてしまって死んだのだ。だが、今は生きている。

 

 俺は生き延びることができるのか。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「バルブロお兄様が?」

 なぜ、今になって戦士長救出の礼などをする気になったのかしら……。今更すぎるけれども、口実としてはこれしかない。王位継承候補であるバルブロお兄様が下向するには大義名分が必要なのはわかるけど。

「いったいどうしたのかしらね。クライムは何か思うところはあるかしら?」

 私の可愛い忠犬に声をかけてあげる。あの愛くるしい瞳で、私を見ながら答えを慎重に考えているのが、いいのよね。

「はっ。私が考えますにバルブロ殿下は、何かしらきっかけを得て、成長されたのかと。最近は以前のような……ごう……王子という地位による圧……をかけることはなく、わがま……いやご自身の意見をぶつけることもなくなったとか。メイド達にも優しく接しておられるらしく、評判がすこぶるよくなっておられます」

 あらあら、そんなに気をつかわなくてもいいのに。

「あらまあ。あのお兄様がねぇ」

 もちろんこの程度のことなど私は知っているのだけど。

「それだけではありません。先日などは、私とお手合わせを御所望なされ、三度ほど手合わせをいたしました」

 なにそれ、知らないけど? クライムとお兄様の秘密手合わせ? お兄様っ! 私のクライムに怪我をさせたりしたら、許しませんよ! 

「まあ、そんなことが? びっくりしました。怪我はありませんでした?」

「いえ……その……」

 え、クライム怪我したの? バルブローっ! 殺す殺す殺す……。

「王子が怪我をされまして……私は無傷でしたが……でも殿下は笑っておられました。"妹を守ってくれ。より精進しろよ。またやろうと……"」

「ああ、そうだったのね。それにしてもお兄様……どうされたのかしら。頭でも打ったのかしら~」

 おかしい。理解できない……いったいなんなのかしら。お兄様の思考が読めないなんて、ありえないわね。

 



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Selfish

「ここまでは順調だが……」

 俺はガゼフ・ストロノーフを護衛に借り受けることに成功し、そしてレエブンを随伴役として従え王家直轄領である城塞都市エ・ランテルへ向かった。目的地であるカルネ村はエ・ランテルから二日かからない距離にある。王都からの距離を考えると日程的にはギリギリだろうか。

 なるべく急ぎながら進んでいることもあって毎日都市や町などに宿泊するのは難しい。今日は野営することになった。夜になると気温は下がり、少し肌寒さを感じるがまだ過ごせるレベルだ。前にカルネ村へ向かった時は寒かったなぁ……。

 それにしても、街道の整備が行き届いていないな。これは課題だぞ? 

 

「バルブロ殿下、此の度は進言ありがとうございます。私としても、もう一度かの御仁に礼を申したいと思っておりましたので、非常にありがたいです。ありがとうございます」

 ガゼフはそう言って頭を下げてきた、まぁ以前はこいつを平民平民……平民だとバカにしていたが、こいつは気持ちのいい奴だな。今ならばそう思える。

 しかし何回も言ってるような気もするが、俺はこんな考えをする人間だっただろうか。やはり人は死を経験すると変わるものである……などとしみじみと言ってるが、どちらかと言えば俺の場合はあの拷問が問題だと思うんだ。

 草原に響くのは俺の悲鳴とあいつの笑い声だけ。周りをゴブリンに囲まれていたが、あいつらは醜い顔で、無言で俺を眺めていたな……。

 あれで、いやというほど今までの自分の愚行を省みたし、身分など飾りに過ぎない、守ってはくれないと思い知らされた。

「所詮、人間っすよね? なんか違うんすか? 私たちからすれば等しく価値がないっす」

 あのサディスメイド……いや、アインズ・ウール・ゴウンにとってはそういう価値観なのだろうな。身分関係なくそう扱われた。

 

 しかし、あんな酷い拷問をやられて気持ちが変わらない人間などいないと俺は思っている。

 嘘だと思うのなら、是非機会があれば何人かで試してみてほしい。"拷問を受けて人格に影響受けない人などいない説"この説は間違いなく正しいはずだぞ。

 

「気にするな。お前は我が国に必要だ。だからこそ、救ってもらったことに対して、王家として礼をすべきだと思ったのだ。悪魔騒動の際にも感じたが戦士長の力というのは、これからも必要不可欠だからな。……二回必要と言ってしまったが、本当にそう思うのだ。これからも王の剣として活躍してほしい」

 俺らしくない賞賛の言葉に、ガゼフは面食らったようだが、やがてゆっくりと頭を下げた。

「ありがとうございます、王子。期待に添えるように努力してまいります」

「期待しているぞ。ガゼフよ……代が変わっても尽くせよ」

 俺は思うところがあって、一つ付け加えておいた。

「……はっ」

 ガゼフが俺に向ける目が変わったように思えた。敬意が強くなったという感じか。

 ガゼフは父への恩義が強いだけに、代が変われば引退することも考えられるからな。

 正直いえば、ついこの間まで……いや、三ヶ月ほど後までか? まあいい、とにかく前は邪魔な奴だと思っていたが、それは身分が低いくせに王のそばにいるというのが主な理由だった。それを抜きで考えてみれば、わざわざ周辺国最強と呼ばれる実力者を遠ざける必要はないのだ。代わりはいないのだからな。

 

「ところで戦士長。アインズ・ウール・ゴウンという魔法詠唱者(マジックキャスター)について聞いておきたいのだが」

 姿を見たことがあるものは戦士団に複数いるが、直接話をしたことがあるのはガゼフしかいない。ここは当然話を聞いておく必要がある。

「はい、なんなりとお聞きください。ただ私も短い時間しか共に過ごしておりませんので、詳しい情報はあまり持ってはおりません。ただ、私の知る限りかの方は相当な力を持つ御方かと。おそらく声の感じから、年はまだ若いと思われますので、帝国のフールーダ・パラダインよりも実力は上ということもありえるのではないでしょうか」

 それはそうだろうな。あの赤毛のサディスメイドでさえ、フヨーダ・パラディンとかいう帝国最強の魔法使いと最低でも同等位階の魔法を扱うのだから。

 

「……そこまでとみるか?」

「はい、間違いないかと。我々戦士団がまったく敵わなかったスレイン法国六色聖典がひとつ、おそらく陽光聖典を……かの御仁は全滅させているはずですから」

 ん? 若干ガゼフの歯切れが悪いのが気になるな。いつもはもっとハッキリ言うはずだが。

 

「全滅させているはず?」

「……これは私の戦士として……戦場に生きる者としての直感ですので確証があるわけではないのです。かの御仁は追い払ったというように言っていましたが……」

 これは独特の嗅覚という奴か? 残念ながら俺にはないものだ。俺の嗅覚は……まあ、美味い飯を嗅ぎ分ける程度だろう。

 

 

 

 おいっ!

 今普通だと思ったな?

 思ったよな? 

 貴様、磔にするぞ! 

 

 

 まあ、よい。人は大事にせねばな……。らしくないが……な。

 

「お前は違うと思ったのだな?」

「はい。笑われるかもしれませんが、私は死の気配を感じとりました。もし、私の感覚が正しければ……アインズ・ウール・ゴウン殿は……」

 ガゼフは少し悔しそうな顔をしている。力があるだけに、その力が足りなかったことが悔しいのかもしれんな。

 

「そうか……お前たちが敵わない相手を容易に殲滅できるだけの力を持つ……か」

「はい。陽光聖典45名をたった二人……で」

 いや、そうだろうな……。わかってはいたが、帝国のフーヨーダをこえ、ガゼフよりも上か……あの赤帽子ゴブリンからガゼフ以上の圧力を感じたわけだし、それは当然か……ん? ちとまて、二人? 二人だと! 

 

「二人? 今二人といったか?」

 どんなやつだ。やはり赤毛のサディスメイドか?

「はい。アインズ・ウール・ゴウン殿は、あの時一人連れておりました。黒い全身鎧に身を包み、バルディッシュを持ったおそらく女性……顔は兜で見えませんでしたので、詳細はわかりませんが、アインズ・ウール・ゴウン殿の護衛かと思われますが」

 赤毛とは特徴が違うな……別人か。アインズ・ウール・ゴウン……様はいったい何者だろうか。

「……護衛か。ガゼフ、お前からみてその護衛の強さはどれくらいだ? お前が勝てる相手か?」

 勝てると言って欲しいが、望みは薄いだろうな。

「気配を読めませんでしたが、おそらく私が敵う相手ではないでしょう。身につけていた鎧は一級品を通りこして特級品……でした。そもそも私に気配を読ませないとなると、相当に手強い相手です」

 やはりそうか。……わかっていたさ。やはり敵対行為など愚かすぎる。まさにキノコ(ちょう)だな……。

 

「そうか。護衛がそれほどとは、信じ難いが事実なのだろうな」

「はい。護衛もそうでしたが、そもそもゴウン殿が使役していたアンデッドの騎士ですら、私が全力で戦って勝てるかどうかという強さを感じました」

 なに? アンデッド! アンデッドだとっ!? おいおい初耳だぞ。いったいあの御方は何者なのだ。アンデッドを使役……ネクロゴンドーとかいう奴か?

 

「アンデッドまで使役するのか……いったい何者か……ズーラーノーンの関係とは思えないが」

 ズーラーノーンは邪神信仰だと聞く。アンデッドを使役するやつはいそうだな……。

「ズーラーノーンですか……。邪心は感じませんでしたが、聖人君子でもないとは思います。ただ、無辜の民を守ってくださったのも、私達を助けてくださったのも事実。自らを頼る存在に対しては寛大なのかもしれません。……王子、けっしてあの方を敵に回してはなりません。よきことにはならないかと」

 もとよりそのつもりだったが、ガゼフの話を聞けばきくほどそう思う。

「忠言、心に留め置こう。俺がわざわざ出張ってきたのは、そのあたりも考えてのことだ。わかっている情報からしても、敵に回したら敗北はみえている気がするからな。……やれやれ、連れていってくれと懇願してきたアルシェルとか知恵ねえ子をおいてきてよかったな……」

「たしかにアルシェル殿は……。それとチエネイコ男爵ですか」

 ガゼフは俺の言いたいことをわかっているようだが、あえて口にはしない。このあたりも父が信を置く理由なのだろうな。

「ああ。アルシェルは狭量にすぎ、知恵ねえ子は選民思想というのか? ようは貴族意識が強すぎるのだ。貴族には従うものだという、身分をかさにきる貴族にありがちな……」

 ガゼフの顔つきが信じられないものを見たという風に一瞬だが見えたぞ。いや、自分でもそう思うのだから、これが正常な反応か。

「お前が言いたいことは重々承知している。俺もそうだったからな。身分にあぐらをかいて人を見下して、能力よりも身分で判断していたからな」

 王族だからとふんぞり返っていた。それが当然だと思い込んでいたのだ。

「あ、いや……参りましたな」

「ふん。お前がどのように見ていたかはわかったぞ。覚えとけよ……」

「あ、いや、その……」

 あたふたしているガゼフを見るのは新鮮だな。まあ、そもそもこいつとまともにサシで話したことがないから当然か。

「冗談だ。前の俺ならともかく、今の俺は、真の王となることを目指している。民は大事だぞ?」

 うーん。我ながら気持ち悪さがあるな……。だが、身分で判断して文字通り痛い目にあったからな。……いや、本当に痛かったぞ! 激痛なんてもんじゃない。何度も死ぬかと思った。

 いや、実際結果的には死んだけどさ……。何度も俺を今すぐ殺してくれとも思った。そうすれば悪い夢が終わるのだと。

「身分が何になる。王族だ、貴族だといっても命を守れるわけじゃない。死は等しく訪れるのだからな。そう……最後は誰だってみんなと同じとわかるのさ。そう思わないか?」

 俺は遠くを見る。太陽のやさしさが染みるな……。夕焼けって切なくてなんだかあたたかいよな……。

「王子、私は……王子を誤解しておりました」

 ガゼフは膝をつき頭を垂れた。まあ、誤解というか、お前が理解していたのは、死ぬ前の俺だろ? 今の俺は、復活のバルブロ。前とは違う自分を生きていくのだ。そりゃ違うさ、あのままだと俺は死んでしまうのだから。

 

「このガゼフ・ストロノーフ。王の次にバルブロ王子をお護りすることを誓いましょう」

 ……二番目か。まあ、認めてくれたわけだな……。

「うむ。忠義嬉しく思うぞ」

 ふとここで思いついたことがあった。今までではありえなかったことだが、今の俺ならできる。

「さてガセフよ、ひとつ私に稽古をつけてはくれぬか?」

 俺は周辺国最強の戦士の実力を実際に体験しておきたいと思った。まあ、それを超えるヤツがいることはわかっているが……。

 俺は多少は剣技に自信があった。王族で最強だとな……。だが、それは意味をなさないことも知った。

 先日、俺はラナー付きの平民にして将来の義弟となる予定のクライムと剣を合わせてみたが完敗だった。

 もちろんヤツは俺達を守るのが目的の兵士だから、俺に負けてはいけないのだが……。

「……はっ、喜んで。お望みとあれば……ですが少々私の稽古は荒いですぞ」

 ガゼフの瞳がキランと輝いた気がする。やはり戦士なのだな。

「構わん」

 だが、俺はこの思いつきを後悔することになる。ガゼフの奴め……荒いというか、容赦がない……。

 

 

 しかし、一つだけ驚いたことがあった。

 

 俺はなぜか強くなっていたのだ。以前よりもずっと。理由はわからないが、もしかしたら死をきっかけに眠っていた力が覚醒したのかもしれないな。こういうのを、火事場の……クソ力……馬鹿力だったかというのだろうか。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「どうでしたバルブロ王子の様子は……」

「変わられましたな……粗暴な印象が消えました」

「ふむ。それは先日、私も感じました。私は第二王子ザナック殿下が王位に相応しいと思っていましたが、今のバルブロ殿下ならば……」

「任せられます。あの瞳は真っ直ぐでした。何かはわからないが、しっかりと目標を見据えておられる。それも並々ならぬ覚悟を感じます」

 ガゼフはそう言い切った。

「かもしれません……。私としてはもう少し見極めたいところです。我が子のためになる選択をせねばなりませんから」

「つくづくレエブン侯は父親なのですな。では、未来の王国に」

「未来の王国に」

 二人は杯を合わせた。

 

 

 





※バルブロは、老人の魔法使いに興味がないので、名前をおぼえてません。故に誤字ではないのですよ。

短編から連載へ切り替えました。

特になにかが変わるわけではないのですが……。


☆解説
このバルブロさんはたまに言葉を間違えます。
わがまま王子だから、教師の話など聞いてなかったのですね。
だから、普段使わない言葉を使おうとすると間違えます。

次話のタイトルは「夜空をまちながら」
早くも6話目となります。


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夜空を待ちながら

「バルブロ殿下。殿下はエ・ランテルを訪れるのは久しぶりですよね?」

「ま、まあな……」

 実はそんなに経ってはいない。二週間ほど前だ! ……とは言えない。前回来たのは……うーん、今より未来の話だからはたして前回でよいのか? ここの表現がいつも悩ましいのだよ。俺の意識としては前回で、歴史的には未来……。なんだか複雑だな。

 

 まあよいか。考えてもわからんことは考えないに限る。そう思わんか? 

 

 歴史としてみると、俺は今より数ヶ月後に帝国軍との戦争の為この城塞都市を訪れることになるのだ。ここは三重の城壁に囲まれた王国の要であり、バハルス帝国およびスレイン法国との国境に近い。毎回帝国との戦争は近くのカッツェ平野で行われるので、その際は前線基地となる。

「戦争か……」

 うーん、ついこの間の事のように思い出すぞ……あの時の俺は父である王の指示に反発しカリカリしていたな。

 俺は、悪魔騒動での失点を取り返すためにも大きな手柄をあげたかった……いや、あげるつもりだった。だから前線で帝国軍と戦うことを望んでいたのだが、父の命令でどうでもいい寒村に向かわされたと思っていた。例え俺が無事に調査を終えたところで、それは当たり前であり特に賞賛されることもない非常につまらない任務だとな。父はザナックを王座につけたいのでは? と勘ぐってさらにカリカリしていたな。

 まあ、その結果は最悪なものとなったが……。やはり冷静さを失ってはいかんな。

 しかし、そのおかげ……なのか? 先を……未来を知った上でやり直しをするチャンスを得たのだ。これは幸運……だよな? イマイチ自信が持てないが、終わったはずの人生をやり直せるのだ。こんなことを経験したやつはなかなかいないだろ。

 復活魔法とやらで生き返った奴はいても、時を遡り復活した者はおるまい。

 逃げるという選択肢もなくはないが、俺は王子だ。ここは逃げても仕方ないから運命に立ち向かわなければな……。

 お、なんか俺かっこええ! なんか滾ってきたぞ。とにかく、なんとか生きながらえて、王になれたら最高の結果だがなぁ。

 

 さて、我々はエ・ランテルに到着したわけだが、いよいよここからだ……。

 王族が国境付近を旅をするということもあり、レエブンが事前に手を回して、護衛となる冒険者を招集しているそうだ。まあ、今回は王族の旅にしてはかなり人数を減らしているからな。不測の事態に備えるなら冒険者は有効な手段だろうと、今の俺なら言えるな。

 ちなみに俺以外はレエブンとガセフ。戦士団から選抜された四人の戦士、それにレエブンの配下の元冒険者チームだけだ。

 今回は、アインズ・ウール・ゴウンへ礼をすることが目的であり、無駄に刺激しないように兵力は抑えた。

 だいたいガセフがいればよほどの相手──赤帽子のゴブリンとか──がいなければまず問題ないはずだ。しかし、念の為の切り札は用意した。

 ふふ、やはり奥の手というか切り札は必要だろう? 

 

 

「またお世話になります。レエブン侯」

「久しいなモモン殿」

 漆黒の全身鎧(フルプレート)に大剣二本。間違いなくこいつは、漆黒の英雄モモンだ。あのヤルダバオトと一騎打ちをして見事に撃退したアダマンタイト中のアダマンタイト級冒険者だ。さすがにそう評価するしかないな。

「その節は助力いただいたそうだな。素晴らしい活躍だったと聞いている。漆黒の英雄モモン殿」

 俺は敬意をはらう。ああ、もちろん前の俺なら、平民ごときが、冒険者ふぜいが! とバカにした態度をとっていたさ。本人が認めているんだ、間違いない。

「ありがとうございます。第一王子バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ殿下」

「よしてくれ。英雄殿にそう呼ばれるのはこそばゆい。私のことはバルブロで構わないぞ」

 ガセフが眉を上げ、レエブンが口をあんぐりさせたのが見えた。どうだ。一度死んだ俺様は、怖いもの知らずだ!

 違うな……逆だよ逆。怖いものを知ったからこそ、必死に考えながら生きているのだ。俺の命こそが大切、俺の命を大事にだ。もし死の原因が俺の傲慢さだったのならば、いつ死ぬか分からない人生。悔いのないように生きていくのだ! 

 

 ん? なんだか死ぬのが決まっているみたいではないかっ! 私は生きるために死んだのだ……。なんだかよくわからないが、俺は生きる! 生きるぞっ! 

 

「しかし、そうもいかないでしょう。バルブロ殿下」

 なにいっ! 俺は生きられないのか? と思ってしまったが、呼び方の話か……焦ったわ。

「敬称は不要だモモン殿。私などより貴殿の方が素晴らしい力を持っているのだ。私は身分だけでは身を守れないことを知っている。だからこそ力を持つモモン殿に守ってもらいたいのだよ」

 俺はこいつも敵にしたくはない。俺など一撃で殺す力があるのだぞ! 

「では、ミスターバルブロではいかがでしょうか?」

 少し思案した後、モモンはマントをバサッと翻す。カッコイイな……。ちょっと憧れてしまった。俺も戴冠式でやろうかなー。

 それにしてもミスターバルブロか。なんだかよくわからないが、ちょっといいかもしれないな。なかなかカッコいいではないか。

「では、それで行こう」

「私もモモンと呼んでもらって構わない。なおナーベは別件で動いているので、今回は私と」

「某が同行するでござるよ」

 ……ずんぐりむっくりした体格の白い毛の魔獣──その瞳は叡智を感じさせる存在──が流暢な人間の言葉を話した。やや古めかしい言葉使いが妙に似合う。もしかしたら長い時を生きてきたのだろうか。

「……噂の森の賢王か」

 漆黒の英雄の冒険譚でまず語られるのは、トブの大森林を支配していた大魔獣の話だ。俺ですら噂に聞いたことがある。

 漆黒のモモンはそれを屈服させた上で、なんと馬替わりに使っているというものだ。噂には尾ヒレがつくものだが、こいつは本物だ。俺でも気配でわかる。明らかに俺なんかではまったく相手にならないと思われる強者だ。ガゼフならなんとか勝てるかどうかではないか? 実際ガゼフを見ると、勝てるか? という顔をしていた。まさに戦士なのだな……あいつは。

 しかし冷静にこの状況を考えてみろ。騎馬がガゼフと同等に近い強さとか普通ありえない。ならば乗っている本人はガセフ何人分の強さなのだろうか。たしかモモンは賢王と一対一(サシ)で戦い、無傷であったと伝えられている。

 つまりガゼフと戦って無傷というレベルか? ……ありえないな。蒼の薔薇の二人を一撃で殺したというヤルダバオト。それと1VS1が出来るわけだよ。

 こうやって比較してみると、凄さがよくわかるな。これを馬鹿貴族どもは冒険者ふぜいが! とか言うわけだが、いや、俺もそっち側だったけどな……無知がすぎる。愚かだったな……。キノコ(ちょう)だわ……。

 

「今はハムスケでござる。よろしくお願いするでござるよ、殿下」

 教育がしっかりしているのか。それとも元からなのか……驚くほど礼儀正しいな。これはもはや魔獣ではなく聖獣ではないだろうか。下手な貴族よりも出来る気がしなくもない。

「道中頼むぞ、ハムスケ……殿」

 俺はこの聖獣をなんと呼べばよいかわからなかったが、呼び捨ては憚られた。思えば今まで動物に名などつけたことはなかったのだがなぁ。俺専用の馬はいたが名など知らない。必要があれば、「俺の馬をもて」と言えばこと足りたのだから。あえていうなら"俺の馬"が呼び名だろうか。

 うん、反省しよう。帰ったら名前を聞いてみようかな。

 

「挨拶が済んだところで、依頼の確認ですが、我々はミスターバルブロの護衛をすればよろしいのですね」

「その通りです」

 依頼主はレエブンとなっているため、答えたのは奴だ。

「なるほど。しかし、王国戦士長や、元冒険者もいらっしゃいますし我々の力など必要ないかと思われますが」

 モモンが言うことはもっともだ。だが、もしもあの赤帽子のゴブリンが出てきたら、ガゼフでも勝てないかもしれない。

「トブの大森林は様々なモンスターがいると聞く。もしかしたら、ハムスケ殿より強いモンスターがいるかもしれん。同じゴブリンでも個体差はあると聞くしな。もしかしたらあ……いやなんでもない」

 俺は全部を言わずに飲み込んだ。

「ミスターバルブロは、なかなか貴重な意見をお持ちのようですね。たしかに個体差はあります。難度100を超えるようなゴブリンもいるそうですよ。噂では……ね」

 難度100? なんどそれは??

 

 

 ……流してくれ。

 

 

「難度100ってマジかよ……」

 レエブン侯お抱えの冒険者チームが喘ぐ。ああ、彼らでもビビるレベルってことか。

「そのあたりまで来ると英雄レベルでやっとこ互角だぞ……」

 たしかガゼフが英雄の領域だったか? ああ、やはりあのゴブリン……クソ強かったのだな。

「まあ、モモン殿がいるから大丈夫だろう」

「お任せください。まあ、まずいないでしょうがね。ところで、目的地は……?」

「カルネ村だ」

 俺はそう答えた。

「……カルネ村ですか。私は以前……まだ銅級(カッパー)だった頃に行ったことがありますが、特に見どころのない田舎村でしたよ。そんなところに王子であるミスターバルブロが出向くとは……いったい何が目的です?」

 まあ当然の反応か。

「モモン殿にも銅級(カッパー)の時代があったのだな……」

 むしろ俺はそこが気になった。さすがに最初からアダマンタイトとはいかないだろうが、少し上からスタートできないのか。まあ王国に置き換えれば、新兵が指揮官になるようなものだからなぁ……。

「たしかに。イメージつかないな……」

「そう昔のことでもありませんよ。私は、銅級(カッパー)から、一気にミスリル、そしてアダマンタイトへと昇格しましたので、ごく短い期間の話です」

 一気にミスリルか。たしかレエブンの話だと、銅級(カッパー)鉄級(アイアン)銀級(シルバー)金級(ゴールド)白金級(プラチナ)でミスリルだよな? 

「四階級もすっ飛ばしたのか……」

「ありえねえな……でも、実力を知っているだけに、むしろミスリル止まりがありえない感じだよ」

 こいつはレエブン配下のロックマイヤーとか言ったか。

「……当時のエ・ランテルにはミスリル級までしかいませんでしたので、一気に抜き去るのは不味いと判断されたのではないでしょうか」

 なるほど。政治的配慮ってやつだな。

「冒険者は国家には属さないのに、政治的配慮とは面白い話だ。ああ、まだ問に答えていなかったな。アインズ・ウール・ゴウン様にお礼を言いにいくのが目的だ」

 隠す必要がないので、ここはオープンにする。

「アインズ・ウール・ゴウン……カルネ村を救った大魔法詠唱者(マジックキャスター)か」

 さすがはアダマンタイト級冒険者。知っているのか。

「聞いた話では、カルネ村にしか現れていないらしいのだ。そこに行くしかなかろう」

「なるほどな。依頼はそこまでの護衛で構わないな? 着いたらやることがある」

「ああ、構わないが、やることとは?」

「……ハムスケを連れて森を見回る。なにしろこいつはこう見えても、あの森の一部を支配していたのだ。いなくなれば影響が出るだろう?」

 たしかにそれはそうだろうな。ボスが不在となれば荒れるものだ。

「モモン殿、カルネ村までよろしく頼むよ」

 こうして、我々はカルネ村へと向かう。

 

 時間はいつでも振り向かずに過ぎ去るものだというが、俺は時間を戻っている。

 なんとかしたい。俺は生きたいのだ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「なに、アインズ・ウール・ゴウン様に礼がしたい? つまり、私に礼をしたいということか。それがその王子達の目的なのか」

「はい。アインズッ様ッ!」

 こいつ敬礼しているな……。俺は見えないはずの、パンドラズ・アクターの姿が目に浮かぶ。

「あいわかった。ひとまず監視を続け、何かあれば報告せよ」

「かしこまりました。アインズ様!」

 やはり絶対敬礼しているな。

「ふむ。王国の第一王子がカルネ村にくるらしい」

 皇帝の次は王子様かよ。まあ、皇帝よりは気楽だが。

「まあ。あの子から報告は受けていましたが、本当に来るとは……勇気があるのか無謀なのか。いかがいたしましょうか? 」

「アルベド、お前はどう思う?」

 俺は問い返すことで丸投げしようと試みた。

「アインズ様の御心のままに」

 失敗だった……。

「アルベドよ、私はお前の意見を求めているのだ」

「……アインズ様に有益かどうかです。第一王子は愚物との評価でゴミ同然……でした」

「でした?」

 妙なことを言うな……。

「はい。報告では最近かなり変わったと聞いております。魔法を馬鹿にしていたのが急に知識を求めてみたり、身分に驕っていたのが急に親しみやすくなったとか。一時的なものか、それとも何かを企んでいるのか。そもそも今回の件も第一王子の発案だそうですよ」

「ほう……」

 なんだ? なぜそんなに変わるのだろう。だいたいアインズに会うのにカルネ村に来るとは、関係がわかりすぎていないか? 

「気になるな」

「はい。ただ明らかに敵意がない上に敬意を抱いているようです」

「どういうことか……わからないな。ではしばらく泳がせておけ。邪魔になるようなら排除せよ」

 さて、どんな奴なのか。あー気が重いな。王子様かぁ……俺は一般市民なんだがなぁ……。

 

 

 

 

 




キノコ鳥は誤字とかではなく、バルブロのうろ覚えです。
正解はグノコッチョウ(具の骨頂)なんですが。出てくるのは二回目。


いよいよカルネへ向かいます。
次回は第7回 First impression
タイトルに合わせて? 女性キャラを絡ませることができそうです。


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First impression

カルネを攻めたあげく敗走。そしてルプスレギナに拷問された上で殺害された第一王子バルブロ。
彼は記憶を持ったまま、時を遡り復活を遂げる。

死にたくないの一心でもがき足掻くバルブロに試練の時が訪れる。








 

 俺達はエ・ランテルを出立しカルネ村へと向かっている。特に何の変哲もない田舎道だ。道は舗装などはされていない。本来輸送などを考えれば舗装は必要なのだろうが、主要な街道ですらまだ手付かずな地域は多々ある。カルネ村をはじめとした開拓村へ続く道の舗装など後回しになるだろうな……。もし、俺が天寿を全うしたと仮定しても俺が生きている間に終わる気がしない。このあたりは王家直轄領だが、父が周辺の街道を整備する予定があるという話は聞いたことがない。

 

 それにしてもこの旅は天候に恵まれ秋の旅日和が続いている。朝晩の冷え込みもさほどではないし過ごしやすい。さらに森の近くを通ってもモンスターどころか動物さえ出やしない穏やかな旅路だ。

 そんな状況だから俺以外の奴らは穏やかに談笑しながら進んでいくが、俺だけは違った。最初のうちはよかったが、道中俺は段々と口数が減っていく。

 他の者は「王子は慣れぬ長旅であり、今回は強行軍であるからお疲れなのだろう」と思ってくれているようだったが理由は当然別にある。

 皆は初めてだと思っているが、俺はこの道を通りカルネ村へ一度向かったことがあるのだ。逆を辿れば、カルネ村からの帰路にもなる。つまり、俺はあの場所を自然と通ることになるのだ。

 

 わかるだろう? あの場所だ。

 

 そう……カルネ村でのゴブリン軍団との戦いにおいて戦略的撤退を選んだ俺達は、この場所で休憩をとっていたのだ。もちろん反撃のためにな……。

 

 

 

 いや嘘をついた。ちょっとカッコつけてみただけ、単なる強がりにすぎん。

 

 ふう……認めたくないものだな、俺自身の愚かさ故の過ちというものを……。

 

 あの時は、本当は必死に逃げてきただけだ。逃走……まさに文字通りの逃走だ。全力で走って逃げた……ゴブリンごときがと甘く見て戦いを挑んだあげく、後から現れたゴブリンの大軍……それも本当の精鋭部隊に蹴散らされ、死の恐怖に怯えながら命からがらほうほうの体で逃げ出したのだ。

 そしてかろうじて生き残った我が軍だったが、ここで赤い帽子のゴブリン達に全滅させられ、俺はあの赤毛に玩具にされ散々痛めつけられた上で殺されたという因縁の場所だ。

 それにしても赤毛に赤い帽子か。赤は俺にとっては忌むべき色なのかもしれんな……。

 あの時何もない平和な草原地帯は一瞬にして殺戮の舞台へと変わり、あっという間に阿鼻叫喚の地獄と化した。

 俺は自然と顔が引き攣り、体はガタガタと震えはじめ、まだ秋だというのに強烈な悪寒が全身を包みこむ。やばい……吐きそうだし、意識が遠のいていく……。

 

 切り替えろ……切り替えるんだ。あれはまだ味わっていないはずだ。落ち着け落ち着くんだ。まだだよ。まだ……。

 

 だってそうだろう?

 

 俺の体はまだあの苦痛の時間、いや激痛の時間を、いや違うな……地獄を味わっていないのだぞ。

 あれは未来の出来事なのだが、正直恐ろしい。怖くて怖くてたまらない。俺の今後の選択肢次第で、またあれを味わう可能性だってあるのだ。……絶対嫌だ! 俺はもし死ぬのであれば即死を希望するぞ! 

 

 うん、即死か。

「即死ぬから、即死っす!」

 うん、理想だな……ってちょっと待て! なんで奴の声で聞こえてくるのか。ビックリしたわ〜。心臓が止まって即死するかと思ったぞ。想像で即死とか勘弁してくれ。

 それに俺は別に死にたいわけじゃないぞ? というか、死にたくない。あくまでも仮に死ぬならという話だ。だいたい俺の死に方より悲惨な死に方などないのではないか……いや、考えるのはよそう。ギガメイル…………違うな、気が滅入るだ。疲れてるな……俺。

 

「バルブロ王子、もうすぐカルネ村です」

「そうか。ありがとう」

 どうやら思考に捕らわれている間に目的地についてしまったようだ。ガゼフに対して思わず優しい声音で礼まで言ってしまったぞ。またもや俺らしくないと思われるだろうか。

「! ……いえ。先触れを出しますか?」

 もちろんだ。過去の過ちは二度とおかさないぞ。……まあ未来の話だがな。意識上は過去だ。うん。

 

「ああ。そうしよう。いきなり俺のような王子を名乗る者が現れたりしたら、偽物かも? などと不審がられるだろうし、ある程度は準備する時間も必要だろう。第一印象(ファーストインプレッション)というのは大事ではないかな?」

 いったい俺は誰だ……本当にバルブロなのかと自分でも疑うレベルだ。他人の評価など気にしない俺でもさすがに気になる。悪魔が化けているとか思われてないだろうな?

 評価は気にしないが、王になるために貴族どもの支持率は気にしていたぞ。あれ? やっぱり評価気にしてたのか? 

 

「かしこまりました。では私が参りましょう。多少は縁もございますので」

「それが最善か……だが、ガセフは護衛なのだがな」

 まあ、元オリハルコンチームがいて、なおかつ王国最強といえる漆黒のモモンがいるのだ。問題なかろう。

「私よりも強い御仁がおられますし、村の近くですから危険は少ないかと」

 いや……その村が危険なのだがな。なにしろオーガとゴブリンがいるのだから。しかもただのゴブリンではないぞ! だが、それを口にするわけにもいかぬな。

「村が近いからこそ油断してはならぬ。森も近いのだから警戒は怠るなよ」

「はっ。では気をつけていってまいります。モモン殿、よろしくお願いいたす」

「気をつけていかれよ」

 ガゼフは部下を一人伴い走っていく。

 

 遠くに見えるカルネ村は、堅牢な壁に囲われ門は閉じている。たしかに明るい時間に落ち着いてみるとわかるな。明らかに村を超えた防備だ。これを落とすのは容易ではないだろう。

「ふむ……まるで砦だな……それも下手な砦よりも堅牢かもしれん」

「たしかにそうですね。とても一開拓村とは思えない規模だと思います。殿下のお言葉通りまさに砦ですね」

 レエブンが感心している。俺よりもそういったことに詳しいはずの彼がそう評価するのだ。いくら頭に血が上っていたにせよ、あの時は愚かな手段を選んだものだ。

 

「帝国騎士に扮した法国の手の者による襲撃……だったか?」

「戦士長の話では間違いなくそうだろうと。村を狙ったのは戦士長を釣り出すための餌……という表現はどうかと思いますが……。それに実際陽光聖典と戦っていますし、間違いはないかと」

「法国か……何故ガゼフを狙ったのだろうな……」

 俺はそこが気になった。わざわざガゼフをおびき出した上に、王国貴族を動かしてをガゼフの装備をとりあげて……何を狙うのか。

「殿下はどのようにお考えですか?」

 レエブンめ、俺を品定めする気だな。

「そうだな。知らないうちに法国の恨みをガゼフが買っていた……という個人怨恨説をあげたいが、違うだろうな。ガゼフと法国の接点がない」

 前ならそれで納得していたが、最近は色々考えるようになって違うと思うようになってきた。物事には、裏があるということだ。

「ほう。では……」

 レエブンの表情はあまり変わらない。

「ああ、おそらくガゼフの存在そのものが邪魔だったのだろうな……。彼は王国の個人最強戦力だ。敵対しようとする者にとっては最大の障壁だろうからな……」

 二度とないが、もし俺がカルネ村を攻めるなら、あの赤毛のサディスメイドや赤い帽子が邪魔になる。まずそれを取り除いてから……と考えるのは自然だろう。

「……内憂外患か……これが我が国の現実というわけか……」

 やはり派閥がどうとか言っている場合ではないな。

「……正直驚きました。殿下はそこまでお考えでしたか……」

 そうかレエブンはわかっていたのだな。やはり貴重な人材だ。

「まあな……だが俺は変えて行きたい。未来を守るために」

 これは本音だ。俺の未来を変えたいからなっ! 

「殿下……微力ながらお手伝いいたします」

 お、これはいい感じだ。しかし、王よりも何よりも俺は生き延びたい。そのために頑張ろう。

 

 

 そして俺は、カルネ村へとついに入ることが出来た。

「よ、ようこそ王子様。この村の村長エンリ・エモットです」

 緊張した面持ちで出迎えたのは、我が妹ラナーと同じくらいの年の女だった。

 健康的で見た目も悪くはないが……しかし、この年で村長とはな。やはりオーガが支配している村ではないのか。とするとこの女がオーガやゴブリンを支配しているのか? 

 俺はもう一度村長を見る。たくましさは感じるが、それは農業が中心の開拓村なら普通だろう。とてもそうは思えんな……。となるとやはりアインズ・ウール・ゴウンか。いや、まてよ? 将軍閣下がどうとかゴブリンが言っていたな。あれはなんという名だったか·····まあよい。

「急な訪問にも関わらず迅速な対応だな。私がリ・エスティーゼ王国の第一王子バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフである」

「いえ。なにもない村ですので、たいしたおもてなしもできませんが、バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ殿下がいらしたことは誉になると思います」

 ほう。なかなかやるな……ちゃんとフルネームで返してくるとは。年若くても村長だけはあるのか。

「ところでゴブ……いやトブの大森林の様子はどうか?」

 危うく、ゴブリンはどこだと聞くところだったぞ!

「一度襲撃をうけましたが、最近は特に問題はございません」

「そうか。オー……おかみなどもいるのか?」

 いかん。オーガと口にしそうになったわ。落ち着け俺。

「はい。たまにですけど」

 村長は純朴だな。あの時俺はなぜこの村を攻めたりしたのか……。あれは人生最大の失敗だったと思う。

「そうか。その年で村長とは大変であろう。妹と変わらないくらいの年だというのに」

「いえ、ありがとうございます。妹君……姫様ですか……」

 彼女にとっては遠い世界の話なのだろうな。

「年は同じくらいだろう。さて、村長……ひとつ聞きたいことがある」

「は、はい。な、なんでしょうか」

 ハッキリとわかるくらい緊張しているようだが、なんとなく慣れがあるな……。

「この村は、アインズ・ウール・ゴウン様の庇護を受けていると聞いている。間違いはないかな?」

 アインズ・ウール・ゴウンの名を出した時、村長はピクンと体を震わせ、ガゼフとレエブンは唖然とした顔をしていた。

 ……様をつけたからだろうな。当然だろう? 俺の予想ではここはアインズ・ウール・ゴウンの監視下にあるはずだ。いつでもあのゴブリンを応援に出せるはずだし、姿は見えないがあのメイドは間違いなくいるはずだ。

 ここは敬称をつけなければ印象が悪いじゃないか……。めぐり逢いはいつも突然あるものだというし、本人がいきなり現れないとも限らないだろう? それに予想外のできごとだって……。

「アインズ・ウール・ゴウン様にどんな御用でしょう」

 突如、俺の背後から聞き覚えのある女の声がする……ヤツだ。ヤツが来た……赤い髪のサディスメイド……。

 

 逃げろー!

 

 いや、落ち着け。逃げてはいかん……。逃げてはダメだ。逃げたらヤベー。でも逃げたい……。逃げちゃおうかな? だが足が動かん。

 

「ル……」

「ルプスレギナさん!」

 村長とは顔馴染みか……当然だな。危うくルプスレギナの名を出すところであったわ……。出したら間違いなく疑われるぞ……危ねぇ。

 クソッ! わかっていたが平常心を保つのは大変だ。

「ちーっす」

 あの最初の時のような気軽な口調……だが裏に隠れている本性を俺は知っている……ヤバい……あの時を強烈に思い出す。背中を滝のような汗が流れている……。真後ろに大型の肉食獣がいるよりも遥かに怖い。

 振り向けない……無理だ……無理だ無理だ無理だ……。俺は振り向かない代わりに左右の様子を目で確認する。

 さすがのレエブンも腰を抜かして座り込み、ガゼフは反射的に剣に手をかけようとしている。

「よせ、ガゼフ。アインズ・ウール・ゴウン様の関係者……だ。おそらくメイドだろう……」

 俺は未だに振り向いていないが姿は確認している。俺の向かい側にいる村長のクリンとした瞳に、ヤツが映っている。間違いなくメイド服を着た赤毛のサディストだ。

 しかしその姿が消え気配がいつの間にか前に回る。

「アインズ・ウール・ゴウン様にお仕えするメイド、ルプスレギナ・ベータっす。よろしく」

 天真爛漫といった笑顔を弾けさせる。正体を知らなければ惚れる男は五万といるだろう。

 だが、やつは天震乱魔……天が震え、魔が乱れるような存在だ。

「お、おう。バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ。リ・エスティーゼ王国第一王子である。あ、アインズ・ウール・ゴウン様に、こちらに控えしガゼフ・ストロノーフらを救っていただいたお礼をさせていただくべく、国王の名代として参った。お取次ぎ願えないだろうか」

 顔を直視したら死にそうだ。

「それは素晴らしい心がけっすね。そういうのは大事っすよ。今聞いてみるっす。ほうれんそうは大事っすから」

 そう言ってサディスメイドは姿を消した。

「ほうれん草……ってそんなに大事か?」

 俺はわけがわからない。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ねえ、クライム」

「なんでしょうかラナー様」

 呼べば顔を赤くしながらすぐに反応するのがかわいい。ああ、首輪をはやくつけたいわ。

「他に誰もいないのだし、ラナーとよんでくれてもよいのよ?」

 無理だとわかっているけどそう言ってみる。

「お戯れを。私はそのようなことは出来ませんラナー様」

「そう。つまらないなぁ。ねえクライム。バルブロお兄様は今どのあたりかしら?」

 私は目の前に地図を広げてみせる。当然近づかないと見えないわよ。

「そ、そうですね……予定ではまもなくカルネ村へつくころかと」

 なんで、ちゃんとわかっているのよ。もうっ! 

「カルネ村……どこだったかしら?」

 これならどう?

「えっと……こちらです」

 クライムは大胆に私の手をとってその場所を指したり……はしない。遠慮がちに近づいて、場所を示すとさっと離れた。

「ふーん、こんなところなのねー」

 私は彼の望むお姫様の演技をしてみせる。私のクライム……。

 バルブロお兄様に邪魔はさせない。でも、ザナックお兄様と大差はなくなったかしら。どちらでも構わないけど、二人は必要ない。

 なら、どちらを消すべきかしらねぇ……。私とクライムのために……。

 





今回のお気に入りは「即死ぬから、即死っす!」ですかね。

試練はまだ続きます。

ビビりまくるバルブロ。はたして勇気をもって立ち向かえるのか。そして、バルブロは生き延びることができるのか。
次回 chicken guys

日曜8時のバルブロタイムに更新予定です。


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Chicken guys



第8回となります。


お待たせしました。






「バルブロ殿下……よく平然としておられましたね」

 ようやく復活してきたレエブンが、若干震えた声で話かけてきた。顔は真っ青で顔立ちともあいまって本当に蝙蝠みたいに見えるぞ。少々ビビりすぎではないか? まあ、俺も人のことはいえないんだがな。マジでビビった。

「それが器というものだ……」

 などとカッコつけてみたが、もちろん嘘だハッタリだ。正直恐ろしくて気を失いそうだった。まさかとは思うが漏らしてはいないな? 大丈夫……大丈夫……。あのサディスメイドめ·····いきなり背後から声をかけてくるとは·····。ふざけおって! あの声がいきなり真後ろから聞こえて来た時は、冗談抜きで心臓が止まったかと思ったわ! 

 本性を知らなければ美しい顔と声なんだがな。知らなければな。だが俺は奴に拷問を受けたのだ。あの時を俺は忘れることができない。あれだけ楽しそうに俺を弄び、人間の最高峰の位階魔法を容易く操るあの女は人を超えた存在かもしれん。いや、間違いなくそうだろう。なんと表現すればよいかな? ·····人を超えた女·····スーパーガール。そう悪い意味でスーパーガールって感じか? ゔーまだ心臓がドキドキしているぞ。

 俺は自分を褒めたい。いや、褒めることにする。褒めるべきだろ? 自らを褒めるために自己商人は大事と聞いたことがある……なんで自分を褒めるのに商人が必要なんだろうな? そのあたりがよくわからないが、無事に帰ったら商人を呼ぼう。きっと自分への褒美を買えってことなんだろう。

 ふー、心の痛みに耐えよく頑張ったな俺。だが、まだまだこれからだがな。しかし、できればよい意味でドキドキしたいものだな。ドキッとするような美人がいたら、権力で攫ったり……はしないぞ。俺は裏娼館に入り浸るような連中とは違うのだ。堂々と側室に迎えれば良いのだからな。無理やり側室にしたりはしないぞ。手を回すだけだ。

 なに? それがダメだというのか? うーん、そんなこと言ったら側室のいる貴族全員ダメだと思うがなぁ。まあ、考えておく。

 

「ベータ殿……非常に美しい方であったが……まさか私があんなにあっさり背後をとられるとは……。声をかけられるまで気配を一切感じとれませんでした」

 たしかに、ガゼフの背後は普通はとれないが、赤毛は普通じゃないから仕方ない。それにしてもガゼフの奴もしかしてあれに惚れた? たしかに美貌はラナーと並ぶレベルだが、性格は最悪だぞ。悪いことは言わんからやめておけ。クライムとくっつけて味方にする都合があるからラナーはやれんが、そのうち美人でも見繕うか。だがなガゼフ……女は最初の一回以外は見た目より性格だぞ。一回目は征服感があるんだが、二回目からは満足感がなくなるんだ。だから新しいのを探す……。誰だ、今最低とか言ったやつは! 俺は王子だ。側室は当然だろうがっ! 

 

「お待たせしたっす!」

 またもや背後から突然声が響いた。またまた俺の心臓が飛び出しそうになる。いや、止まりかけてるかもしれん……。まさに心臓に悪いってやつだな……。

「ひいっ!」

「ぬっ!」

 お前らまたその反応かよ。なるほどレエブンは不意打ちには弱いと。頭は回るがこういう時はダメなのか? ガゼフ、お前はもはや条件反射だな……。戦士としては正しいとは思うが。逆に見習うべきなのかもしれん。

「おんやぁ~また驚かせちゃいました? めんごっす」

 弾ける笑顔で謝ってきたが、これは絶対に口だけだと思う。他の男ならあの美貌と笑顔で許してしまうだろうが、俺は本性を知っているからな。

 

「ふざけるな! 貴様全然反省してないだろうがっ!」

 ……などとはいえない……よなぁ。思ってるけど。言いたいが無理だ。俺はコイツの……悪しきスーパーガールの本性を知っているのだから。

 

「でもこれからさらに驚くことになるっす。ビックリして……死なないでくださいねー。でもビックリ死ってのはレアかもしれないっすね」

 この言葉で俺の心臓が跳ね上がる。死ぬ……俺は死ぬのか。……いや、弱気になるなよ俺! まだ運命は変わるはずさ。できると信じてさえいれば、きっと生き残る道が開けるはずだ……。

 

 ビビるなっ! 

 

「……心臓が止まるかと思ったぞ。これはアインズ・ウール・ゴウン様にメイドに殺されかけたと報告せねばならんな。村長もそう思うだろう?」

「え? は、はいっ! ……いつものことなんですけど」

 いきなり話を振られて戸惑う姿が微笑ましい。それにしてもいつもかよ! サディスメイドめ……さては人が驚くのを楽しんでいやがるな……。だが、アインズ様への告げ口は嫌なのか。これはひとつ収穫というべきか。

「勘弁して欲しいっす……さて、お仕事するっす。バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ。アインズ・ウール・ゴウン様がお会いになられます。くれぐれも失礼のないように」

 勘弁して欲しいのはこちらの方っす!

 いや、こいつの傍にいたらマジでビックリ死するわ。ビックリ死……で合ってるのか? なんか違う気がするぞ? 

 

「な、王子にむ……」

 俺は抗議をしようとするレエブンを手で制した。馬鹿がっ! 俺は王子ではあるがそんなものは関係ない。アインズ・ウール・ゴウン様の前には無意味だ。圧倒的な強者であろう存在を相手にする時は弱者はひれ伏すしかないのだ。ちなみに俺はいつも逆の立場でいた側の人間だからよくわかる。まあ、俺の場合は地位に驕っていただけの愚か者だったのだが。今考えると恥ずかしい……。

「あいわかった。よろしくお願いする。ルプスレギナ・ベータ殿」

 俺が珍しく丁寧なものだから、ガゼフもレエブンも目を白黒させている。いや、これ大事だから。前回の第一印象(ファーストインプレッション)最悪だったから、俺は殺されたのだからな。今回はなるべく良い印象を与えねばな。

 

「では、御案内いたします」

 声とともに、赤毛の背後に黒い何かが現れた。正直に言おう。

 俺は漏らしそうだった……。それが死の闇に見えたからだ。死神が現れて俺の首に鎌を当てている……そんな絵を想像した。俺の意思とは関係なく小刻みに膝が震える。

 

 ふと見るとやはりガゼフは剣に手をかけそうになっている。こいつはやはり根っからの戦士なのだな。……これで何度目だ? そう思ったのは。しかし剣ではこの闇は切れまい。そして切りかかったとたんに闇に飲み込まれそうだ。

 だが、一呼吸置いて落ち着いてよく見てみると闇で出来た門のような……そんな風にも見えなくもない。

「……て、転移魔法か……」

 小さく漏れた声の主は元オリハルコン冒険者チームの誰かだろう。誰かはわからんが、つぶやく声が聞こえてしまうくらいに皆シーンとなっている。

 それにしても転移魔法か。いったいどれくらいの位階の魔法なのだろうな。想像もつかんが、答えを知らない方が幸せかもしれん。きっとそうだ。

 

「では、私の後に続いてください」

 闇に赤毛が消える。だが、その後に続く者がいない。皆が顔を見合わせている。未知の存在にたいしての恐怖心が足を止めてしまうのだ。

 

「勇気があればついてこい。なければ残れ」

 俺はそう言って闇に躍り込んだ。

 

 ふふ……カッコいいだろ? 

 

 

 だが、俺はビビりまくっている。本当に大丈夫なのかは保証がないし、何かがあっても保障はされない。それに、誰もついて来なかったらどうする。

 

 どうしよう俺一人だったら……。闇の中でそんなことを考えてしまう。

 

 

 

「フフ……待っていたぞ。また死にに来るとは酔狂な奴もいたものだな……」

 闇に低い声が響く。

「また……だと、なぜそれを……誰だ?」

「フハハハハ! お前はおめでたいな。お前は死に戻ったのが偶然だとでも思っていたのか? 馬鹿が」

 闇に響く声が強くなる。聞いたことはない声だが、おそらく声の主は……。

「な、なんだと? ま、まさか……お前ぇぇぇぇっ!」

「フハハハハハ。その通り。全てはこの私アインズ・ウール・ゴウンの手の内だ。私が大事にしている場所への攻撃。それを指示した貴様をあの程度の拷問で許すわけがないだろうが。貴様は時を彷徨い、また私の手の中で苦しむ運命にあるのだ。ククッ……傑作だったよ。必死にいい子ぶって、やり直そうとしている姿は見物だった。ああ、安心したまえ、次に復活する時は今回の記憶はない。また、必死にせいぜい足掻くといい。……さあ、ルプスレギナよ、おおいに楽しむと良い。イッツショータイム! 私も見物させて貰おう」

 や、やめてくれっ! 助けてくれ! いや、助けてくれなくてもいいから、拷問はやめて! 拷問だけはご勘弁を!

「では楽しませていただきます。アインズ様のご命令です。せいぜい頑張るっすよ。あ、王子ってことは知ってるっす。ただの人間だってこともね……」

 赤毛の声が近くなる。 ダメだ……完全に楽しむ気満々だ。

「なあ、ルプスレギナ、痛覚が敏感になる魔法はかけるべきかな?」

「〈痛覚倍増(チョーイタクナル)〉その手がありましたか。さすがはアインズ様です。いいっすねー最大化(マキシマイズ)しちゃいまょう!」

 すげー楽しそうに残酷な会話するなっ! 

「ついでに三倍がけにしてしまうか。三重化だ!」

 痛覚倍増を最大にして三倍だと! 死ぬ、死んでしまう。いや、いっそのこと俺を今すぐ殺してくれ! 

 

「や、やめろー!!」

 俺はまた泣き叫ぶことに……。

 

 

 

 

「殿下、先に行かないでいただきたい。護衛の立場がない」

「まったくです」

 ガゼフ、レエブンがやってきたようだ。あーよかった。ビックリしたわー。俺は思わずペンダントを見るが水晶の数は減って……ない。

 

 

 あーよかった。死んだかと思った。いや俺も重症だな。誰も俺が死に戻り足掻いているとは知りえまい。気づくまい。気を取り直さねば! 

 

「これが転移か。いやはや、すごいな。一瞬にして違う場所に出るとは」

 俺達は、気づけば遺跡のような墳墓のようなものの前に立っていた。周りをみてもカルネ村ではない。遺跡のそばには三階建てくらいのログハウスがある。なんだか不釣り合いだし、周りに木はない。転移魔法で木材を運んだのだろうか。まあ、わざわざ運ぶならその方が早いだろう。しかし、魔法って凄いな……俺は感動したぞ。もしかしたらこのログハウスを魔法で作り出すとかもありえるな。

 

「そのようです。村に他のメンバーは置いてきました。私とガゼフ殿がいれば大丈夫かと」

 王国の頭脳と剣のトップクラスがいる。ならば大丈夫だろう……普通ならな。すでに普通ではないような気もするが、やはりここへ来ない方がよかったか? 

 いや、ビビるな。勇気を出すんだ! 

 

「それでは、こちらへ」

 我々はログハウスへと案内された。

「ようこそおいでくださいました。ここからの案内を任されております、ユリ・アルファと申します」

 メガネのメイド……やたらと美人な……たしかヒル貝巻きとかいう髪型の女が俺達を出迎えた。ほら、髪をクルクルと巻くやつな。ヒル貝じゃないななんだっけ? あ、そうそう春巻き·····だったよな? 

「よろしく頼む」

 ふとみればガゼフの顔が赤くなっている。ああ、こいつの好みはこっちか。美人には弱いのか……収穫だ。……たしかに、美人で爆NEWだな。王子たるものストレートな表現はできんから、少しぼかした。──勘違いするなよ爆発的な破壊力があり、新鮮という意味──だぞ? 赤毛よりもメイドっぽいし。俺もこっちの方が好みだな。正直言えばメイドとしてではなく、側室として手元に置きたいと思ってしまったが、こいつは大丈夫な奴なのか? また性格破綻者じゃないよな? まあ、どちらにせよアインズ・ウール・ゴウン様のメイドにそんなことは出来んからな。落ち着けよ、俺。ガゼフ、お前もな! 

「それでは御案内いたします」

 ふー。いよいよ本番か……。ついに対面する時がくるのか。

 

 なぁ、本音を言っていいか? 

 

 俺は怖い。本当に怖い……。前へいかないといけないという思いはあるが、足が自然と反対側へ向かおうとしている……走って逃げ出したい。だが、ここがどこかもわからないのだ。逃げようがないじゃないか。

 

 だが前へすすめない。

 

 ビビっている。ああ、俺はビビっているさ。だが、ビビっちゃだめだよな·····ここは勇気ださないと。逃げてちゃだめだよな向かっていこう。そう決意して俺は春巻きのあとに続く。

 

 いよいよか……。

 生きて帰れるのか俺は……。

 

 くそっ! やっぱりビビってる俺がいる。だが俺は、腰抜け(チキン)ではないと証明してやる。

 ふー……証明できるかなぁ……。覚悟は決めているつもりだが、怖さが消えるわけではない。一歩一歩死に近づいているような不安は消えないままだった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「クライム、お茶にしましょう」

 私はクライムに声をかける。

「では、私が……」

 ティーセットの方へとクライムは向き直るけど、それはさせない。

「いいのよ、クライム。お茶をいれるのは私の趣味なんだから。それとも私のいれたお茶が美味しくないのかしら?」

 クライムは慌ててブンブンと首を横に振る。ふふっ可愛いわね。

「さ、おすわり! になって」

 私は椅子をひいてどうぞと腕をとる。

「わっ! ん……は、はい」

 うふふ。素直に座ったわね。いい反応……やっぱり可愛いわ。

「今日はお茶菓子ではなく、春巻きにしたの。法国に古くからあるツマミだそうよ」

「法国ですか。初めてです。いただきます」

 お兄様そろそろかしら……どうなるか楽しみだわ。私はこっちで楽しまないとね。

 

 

 

 

 





★今回の補足★
今回バルブロが恐怖からか色々やらかしてるので補足致します。
書いておかないと誤字だよって報告されてしまうので、あらかじめ書いておきますね。なお通常の報告は修正させていただいております。ありがとうございます。

1・春巻き
バルブロが言うヒル貝巻きあらため春巻きとは、当然夜会巻きのことです。うろ覚えですね。髪型は似合っていればよいという考え方なのでしょう。
プレイヤーの影響のある法国なら春巻きがありそうな気がしまして、そこから伝わったことになりました。

2・爆NEW
バルブロの説明通りわざとそうしたので、誤字とかではないですよ。こんな誤字はありえないでしょ? なんとなくスープレックスが出そうですけどね。

3・自己商人
正しくは自己承認ですね。前後の文でわかるはずですが、単語だけ拾われたら間違いなく誤字扱いされますので。これも意図的にそうしてます。


※ あまり知られていないと思うので。
バルブロがルプスレギナを"悪い意味でスーパーガール"と言っていますが、海外ドラマ スーパーガールの日本語版の声はルプーと同じだったりします。 バルブロはもちろん知らないですが、人を超えた女の子って考えた結果ということで。

長くなってしまいました。
さあ、次はいよいよ、アインズ様とご対面の時を迎えます。ミスターバルブロは、ミスなくいけるでしょうか。

次回 第9回 太陽の化石 は、例によって日曜8時の更新予定です。


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太陽の化石

第9回 バルブロとアインズ が対面します。








「な、なんだこれは……」

 俺達が鏡を通って辿り着いた場所はまるで、神殿のような……宮殿のような……いや、それ以上の場所だった。

 俺の城や宮殿が粗末な荒屋に感じるほどのレベルの違いを感じる。柱ひとつ、壁ひとつをとっても違う。何が違うかは言い表せないが、なんというか段違い、いや桁違いか? それも違うな。そうだな次元が違う……そう、次元が違うのだ! まるで、まったく違う場所や世界·····異世界に迷い込んだかのごとく違う。なんだここは……。

「ここは神の宮殿でしょうか……」

 レエブンも圧倒されているようだ。

 たしかに神の世界とも思える。たぶん正解に近いはずだ。それともこれは、この世でみる最後の夢。はたして続きはあるのか·····。

「やはり只者ではなかったのか……」

 ガゼフは居心地が悪そうな顔をしている。やはり平民……などとは言わんぞ。

 俺だって自分が猥褻な存在……違う、矮小な存在に感じているのだ。ひどく居心地が悪い。まだ会ってもいないのに敗北感が酷い。ここの主からしたら、まるで俺など床に落ちている塵のような存在………………。

 ここで目線を床に落とした俺は、ある事に気づいた。正確にはない事に気づいたと言うべきだろうか。一度目線を上げた後俺はもう一度床を見る。進む先には間違いなくないし、通ってきた後にもない。そんなこと有り得るのか? 

 塵がひとつもねえ! これは凄いことだぞ。しかし、なるほど、「等しく価値がないっす」とはそういうことか? 

 塵すら残らない·····っておい! いや、納得してはいかん。ダメだダメだ。まだここからだぞ。始まってもいないのだ。気合いだ! 気合いをいれろ! 気合、気合! 気合!! 

「いくぞ、気をしっかり持て。我々は国を代表してきたのだぞ!」

 俺は顔をあげ、真っ直ぐ前をみつめる。ふふ、なかなかカッコイイではないか。何しろ歴戦の戦士ガゼフと、貴族でもっとも頼れるであろうレエブン。この二人がここまで動揺するなか、私が先陣を切るのだ。私こそが王にふさわしいと知れ。

「圧倒されてしまいました。殿下、申し訳ございません」

「私も失礼いたしました。護衛である私が·····お恥ずかしい限りです」

 二人はハッとなって謝罪を口にするが、別によい。気持ちはわかるからな。俺だって圧倒されているのだから。

「ここからだぞ。いくぞ!」

「ハッ」

 二人の声が見事に重なる。うむ、気持ちがよいものだな。

 

 

「では、この先でアインズ様がお待ちです」

 春巻きメイドの声に反応して、やたらと重厚な扉が、イメージ通りに重重しく開く。ここを通るといよいよか。うーん審判の門とはこういうものなのだろう……。ああは言ったが俺は怖い。この先に待つのは神か悪魔か、それとも仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)か。もちろん、最後が正解のはずだ。

「おおっ·····」

 中に一歩踏み込み俺は·····いや私は思わず感嘆の声をもらしてしまう。

 扉の奥は、広い謁見の間だった。もちろんただの謁見の間とはまるで違う。そう·····神が住まうような素晴らしい装飾に彩られた贅を尽くした広間だ。王国の財を全て投入してもこのような空間は創れまい。いったいどれくらいの時間と財を費やしたのだろうな……。

 我が宮殿にも謁見の間はあるが、ここと比べたら、太陽と向日葵の種くらいの違いがある。

 そんな広間の一番奥·····壇上には奇怪な仮面を被り、とてつもない価値があるだろう漆黒のローブを纏った男が、豪華だが洗練されたデザインの素晴らしい玉座に座って我々を待ち構えていた。傍にはガゼフの話にあった護衛の女戦士が控えており、俺達に向かって挨拶代わりに殺気を放ってきた。いや、俺に向かってだろうか。俺何かしたか? 

「ゔぅっ·····」

 尋常ではない殺気……やばい……ガゼフが勝てないというのはガチだ……。もしかしてあのモモンですらよくて互角ではないか……とんでもない存在だ。なんということか。

 足がガクガクと震え立っているのが精一杯。崩れ落ちないのが不思議なくらいだ。俺は自分を褒めてやりたくなる。

 急に周囲の温度が下がり、まるで極寒の地で裸で水浴びをしながら、冷たい飲みものを一気飲みしつつ、アイスをバケツサイズで食わされているくらいに冷え込む。中も外も冷えっ冷えだ。震える足とは逆に、上半身は固まってしまい何もできない。指一本すら動かぬ! 

 心臓の鼓動が途切れていく、これは不味い! 本気で心臓が止まりそうだ。やばいやばいやばい。陳腐だが、これしか言えねえ。なんだ、俺の本能が逃げ場を求めて死のうとしているように感じる。

 

 主であるアインズ・ウール・ゴウン様からは何も感じない。……だが、俺が観察されているのはよくわかる。なんだか、俺の体中の毛穴を全て覗かれた上で全てを見透かされ心臓を鷲掴みにされているような……。

 

「よせ。彼らは友好的にやってきたのだ。そのような出迎え方はよくない」

 救いの声は、地を這うような空気を切り裂くような……威厳に満ちた声だった。いかにも支配者という印象だが、俺には天の助けに思えた。

「かしこまりました」

 護衛は優雅に一礼すると殺気を消した。空気が緩み、温度が上がったように感じる。極寒の地から暖かい保養地に一気に移動した気分だ。止まりそうになった心臓は再び活発に動き始める。身体を血液が循環し始め俺は生き返った。

 

 いや、死んでないけどな。

 

 ふー。これで一息つける。保養地といえばしばらく王家の保養地には行っていないな。最後に行ったのは妻を迎えた直後だったか。久しぶりに行ってみたいなぁ……。ああ、もちろんこれは現実逃避だ。悪いか? 

 

「部下が失礼したな。ようこそ我が家へ。私がアインズ・ウール・ゴウンである」

 なんだこの威厳は……。俺は思わず片膝をついてしまう。そういえば片膝をつくと閃光魔術が飛んでくると昔誰かから聞いたことがあったが、閃光魔術とはどんな魔法なのだろう。そしてアインズ様は使い手なのだろうか? ·····いやそもそも表現が間違っているな。俺は片膝をついたのではない。アインズ様の威光の前に跪いたのだから。

 

 

「私はリ・エスティーゼ王国第一王子にして、次期国王……であるバルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフと申す者。この度は王の名代として、ここに控えし我が国の戦士長、ガゼフ・ストロノーフをお救い頂いた御礼を申し上げに参った。またカルネ村を悪行から救っていただき感謝にたえません。ご助力ありがとうございます。アインズ・ウール・ゴウン様」

 我ながら見事な口上ではないか? 実は外交向きなのかもしれんな俺は。意外な才というものはあるな。

 意外だと? 失礼だなっ! 

「それは遠路ご苦労。その気持ち嬉しく思うぞ、バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ」

 うーん。人の上に立つのに慣れた対応だな。俺が王子であることなどまるで気にしていない様子だ。だが、それだけの力を持つ存在だろう。だから俺は気にせん。だいたい気にするくらいならここに来ないわ。そもそも王子という地位には価値はないと俺は身に染みている。·····痛みと苦しみの記憶とともに。

 

「長い名です。ぜひバルブロとお呼びくださいアインズ・ウール・ゴウン様」

「あいわかった。では以後はバルブロと呼ぶことにしよう。バルブロ、私もアインズで構わないぞ」

 あっさりと呼び捨てに応じて来たか。さて、俺はどう返すべきか。許可をもらったとはいえ呼び捨ては·····なあ。

「ありがとうございます。アインズ様」

 やはりこれが正解な気がする。呼び捨てはダメだと思うが、せめて名を様づけで呼び距離を縮めたい。さすがに今は呼び捨てはまだ早いだろう。護衛に本気で殺される気がする。

「アインズ様にご助力いただけなければ、我が国の宝であるガゼフを失っていたところでしたし、そしてもっと大事な宝である無辜の民と、彼らの生活する大切な村を失っておりました。アインズ様には感謝してもしきれません。誠にありがとうございました」

 俺は跪いたまま、頭を深く垂れた。生まれて初めてこんなことをしたが、意外と悪くない気分だ。おそらく強制的にやらされているのではなく、俺は自然と·····心からの感謝を述べたからだろう。

 俺はあの純朴な女村長を思い浮かべ、彼女やあの人の良さそうな村人を失うことを恐れた。

 今ならわかる。襲撃から救われた村に対し、助けもしなかった王国軍が火矢を放てばそりゃ反発されるわ。俺が馬鹿だった。

 

「バルブロ、頭を上げてくれたまえ」

 俺は言葉に従って顔を上げた。表情は奇っ怪な仮面のせいでわからない。

「たまたま近くを通りかかったのでな。ちょっとしたついでに助力したまでだ」

 ちょっとしたついで! まるで犬の散歩にでもいくような気楽な口調だった。ヤバい……やはり次元が違う存在だと確信したぞ。なにしろ同じ相手と戦ったガゼフは死にかけたのだぞ! 何故俺はあの時それに気づかなかったのだろう。いや、俺だけじゃない。貴族連中もガゼフが勝てなかった相手を倒した相手を何故甘く見たのだろう。魔法詠唱者(マジックキャスター)を正当に評価してこなかった結果だろうか。

 

「ありがとうございます。アインズ様のような強者が通りかかった僥倖·····きっと天のお導きか·····或いは無辜の民の日頃の行いがよかったからでしょう。·····この宮殿を見た今、何をお渡ししても恥ずかしいばかりですが、王国からの感謝を形にしたく、お礼の品をお持ちいたしました」

「ならば民の善行であろう。天は何もせぬよ。礼には及ばぬがせっかくの厚意を無碍にするわけにもゆかぬ。どのような物かな?」

 確かに救いを求め天に祈っても何もしてもらえぬか。

「我が国に古くから伝わる貴重なマジックアイテムでございます」

「ほう。それは興味があるな」

 やはりか! 魔法詠唱者(マジックキャスター)なら食いつくと思ったぞ。正解だったかな? 

「それでは献上したいと思います。レエブン」

「ハッ。これを献上いたします」

 レエブンが美しい布に包んだアイテムを持って近づいていく。護衛が段をおりてくるのを待ち、布をほどいて差し出したのは、ちょっとくすんでいるがよくみると赤い太陽のような石。正式名称は不明だが、太陽の化石と呼ばれているアイテムだそうだ。先祖代々の秘宝であり、なんらかの強い力を持っていたはずだが、今は使い方もその力もわからないとされている。秘宝のわりには雑な扱いだが、魔法に対して力を入れていない我が国なら有り得る話だと思う。なにやら強い魔力が鍵とは聞いたが……。

 

「アインズ様」

「うむ」

 あの殺気を放っていた護衛がそれを受け取り、護衛に似つかわしくない優雅な歩みでアインズ様へ近づくと、恭しく手渡した。受け取った側の反応は仮面越しだからよくわからないが、やはり嬉しそうな雰囲気があるのは間違いない。

 

「ふむ……〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉」

 うおっ! いきなり魔法を発動するなよっ! 一瞬ビビったがどうやら鑑定系の魔法らしい。驚かすな! いや、驚かさないで下さい。

「ほぉ。これは興味深い……まさかな……ありがたくいただこう……ぬんっ!」

 アインズ様は太陽の化石を持っていた右手に力を集中させている。しばらくすると……突然石が眩しく輝きはじめる。これが本来の姿か……。そしてその石をしばらく見つめたのち、空中に手を突っ込んでしまい込んだ。なんだ今のは! 

「繁栄を意味する部分があるそうだ。持ち主の力が衰えると輝きを失うとか……」

 いやどちらかといえば手が消えたことにビビったわ。

 

「バルブロ、よい贈り物をありがとう」

 俺は頭を下げて、感謝に応じる。

「喜んでいただけてよかった」

「私はマジックアイテムは好きだからな。さて、堅苦しい話はここまでにしようか。折角知人が訪ねてきてくれたのだしな。ガゼフ・ストロノーフ殿、久しいな」

 ここはガゼフの番だろうな。旧知の仲だし当然か。少し様子を見るのも悪くないだろう。

「お久しぶりですゴウン殿。その節はありがとうございました」

 様をつけろよ馬鹿者めっ! 

「礼には及ばんよ。あれは成り行きだったからな。わざわざ来てくれたのだな。嬉しく思うぞ」

「どうしてももう一度お会いしてお礼を申し上げたかった」

 ガゼフに対しては、どことなく敬意を抱いているような……そんな対応だった。

「そうか。こちらから訪ねると言ったきりだったな。なかなか王都へは行けぬからな」

 いや王都どころか、エ・ランテルですら目撃情報はないぞ。

「いや、ウチで歓迎すると申し上げたが、このような場所に住んでいる方に失礼な話であったようだ。謝罪させていただく」

 ガゼフめ、そんな話をしていたのか。

「はは、気にせんよ。住居にはこだわっていないのでね」

 絶対嘘だろ? こだわりが随所に感じられるぞ! 

「ご冗談を」

「はは。まあ、こだわるポイントが違うということさ……」

「それにしても、素晴らしい装飾の数々ですね、アインズ様」

 俺は今だと思って死地に飛び込んだ。……くらいの気持ちで話に加わる。くい込まねば! たしかコマネチックとかいう言葉があった気がするぞ。言葉の意味はよくわからないが、なんだか凄い意味がありそうだ。

「そう思うかね?」

 うん。機嫌は悪くなさそうだ。ここからの言葉のチョイスは大事だぞ。慎重になバルブロ。王国の命運が、俺の命そして未来が、全てがかかっているのだ。

 

「はい。装飾だけではなく、ここまで見た全てが我々の知るものを軽く凌駕しております。私は王子という立場上、贅を凝らしたものにはなれていますが、私の知るものなど、ここにあるものと比べては霞んでしまいます。そうですね。あえていえば、カスである。そう断言できます。アインズ様方がどれほどの情熱と財を投じたかは想像もつきませんが、ここは素晴らしい場所であることは間違いがないかと」

 ふー。堅苦しい話し方は辛いなぁ……。なにしろ人を様づけで呼んだのはアインズ様が初めてだからな。

「ふふふ……なかなかわかるではないかバルブロ。ここは私たちの故郷であり、全てだからな」

 私たち……か。誰のことを指すのだろうな。

「故郷ですか」

「ああ。私たちにとって帰る場所はここしかない」

 やはり私たち……だな。アインズ様一人ではないのか? 

「なるほど、アインズ様とその御家族やお仲間にとっては、この場所こそが全てというわけですな。素晴らしいですアインズ様」

 俺は心からの惨事を……おいっ! 違うわ、賛辞を送った。

「そうか。そうであろう。バルブロ、お前はよくわかっているな」

 かなり上機嫌のようだ。これで俺は救われるな……。

「だが、わかりすぎているな……お前は何者だ?」

 ……救われてなかったぁぁぁぁー! 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「お救いしますとも!」

 クライムが意気込んでいるの可愛いっ! キュンキュンしちゃう。

「本当? 何があっても誰が相手でも?」

「もちろんですとも。我が身、我がこ、心はラナー様に捧げたものです。たとえ火の中水の中、相手が悪魔だろうが神だろうがこの剣で斬り払ってお守りし、お救いいたします」

 クライムの真っ直ぐな瞳に映るのは理想の姫である私。ならばここはそれに応えよう。

「悪い夢も斬ってね」

「もちろんですとも」

「頼りにしてるわよ、クライム」

 私はクライムの胸に飛び込む。これで十分でしょう。私は不満だけど……。

 クライムが斬るのは……何になるかしらね……。

 

 

 

 




バルブロ達がアインズと対面した場所は本来は玉座の間ですが、バルブロ視点なので謁見の間です。
原作のジルクニフには玉座の間と伝えたユリですが、バルブロには伝えていませんので彼は知りません。


次回 star
アインズに疑問を抱かれてしまったバルブロ。はたして数多ある星の一つとなるか。はたまた輝きを保てるか。生き延びろ、バルブロ!


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star




第10回 副題:バルブロの提案
普通ならこんなサブタイトルになるかなと。







「もう一度問う。お前はわかりすぎている。いったいお前は何者だ?」

 再びアインズ様の低音ボイスが響く。先程よりもかなりトーンが低いが語気は強い。俺の印象としては魔王が実在するのなら、まさに今目の前にいるって感じだな。神に近い魔王だから、魔神王? ってそれどころじゃない。

 えっ? 何この展開……ヤバくないか? どうしよう。それとも試されているのか? それならいいのだが、なんだか疑われている可能性の方が高い気がする。そう思った瞬間、俺の背中を冷たい汗が大津波のように逆流し始める。汗が登るとかありえないと思うだろう? 

 それがあるんだよ。まあ、俺も今知ったがな。今、俺は凄い圧力を受けて、体が重く感じている。そのせいかもしれないな。それにしても、やべえ息が出来なくなりそうだ。圧力だけで死にそうだ。すげえプレッシャーだ。これが真の支配者のオーラなのか。

 だめだ、まだだ、まだ終われんよ! 頑張れ、俺。踏ん張れ、俺。折れそうになる心を俺は必死に支え、未熟なプライドをかなぐり捨てる。負けるなあっ! 捨て身で行くしかない! 

 

「アインズ様、私はただのバルブロです。王子として生を受け今まで生きて参りましたが、この度アインズ様という真の王者に出会えたことで、自分が水溜まりのアメンボだと……単なる脆弱な人間であることを思い知りました。ぜひ、今後ただの人間バルブロが、人間の王へと成長していくために貴方様を目標にさせていただきたい。もちろん遥か高みに憧れる弱者の戯言と思っていただいても構いません」

 ここは自分を下げて下げておく。どうせ力の差は歴然なのだ。俺などこの御方から見れば価値はないだろうし、事実赤毛のサディスメイドにそう言われている。その時よりはマシだと思っているが、それは俺目線に過ぎない。そうだな、ドワーフの男と女の見分けがつかないと言われているくらいの差かもな。今までにドワーフを見たことないが。

 

「……そうか。自らを知るというのは大事だな。私もそれでかなり苦労したことがある。バルブロよ、気持ちは分かる。だがな、私はただの魔法詠唱者(マジックキャスター)であって王などではないぞ?」

 どこがただの魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。帝国にいるフールーダ・パラダインとかいう魔法爺の力など比較にならないほどのとんでもない実力の持ち主だろうがっ! それに後に魔導王と名乗ることになるのはわかっているのだぞ! いや、タイミングからすれば、もう名乗っている頃だろうよ。それに立ち居振る舞いや言葉の重々しさ、時折見せる支配者のオーラ。全てが王者、いや覇者に相応しい威厳と自信に満ちているではないか。まさにこの地の支配者と言えるな。

 俺が唯一知る我が国の支配者、王である父と比べてはいけないと思うが、アインズ様が最高指導者だとしたら、父などただの耄碌爺だぞ。ド田舎の開拓村のな。比べることが失礼なレベルだ。まあ、俺だって片田舎の力自慢くらいのものだろう。

 

「はは。これほどの素晴らしい場所に住まう御方が、ただの魔法詠唱者(マジックキャスター)であるはずはないと思いますぞ。私は貴方様こそ真なる王であると、皆を導く存在だと思っております、アインズ様」

 世辞ではなく本心からそう思う。俺の中で、魔法使いといえば、人里離れた朽ち果てた廃屋か荒屋のようなものに住んでいると思っていたのだが、アインズ様によって完全に打ち砕かれたな。だが、アインズ様が特別な存在なのだろう。きっと他の奴らは古めかしい家に住んでいるのではないか? 

 

「こそばゆいな。……バルブロ、お前は私に何を望む?」

 この答えは実は決まっている。本心から言えば"生きたい"なのだが、事情を知らないアインズ様相手に口にしても理解は得られまい。だから思い切った手に出ようと思う。ダメでもともとだ。失うものは俺の命くらいのものだろう。いや、死にたくはないんだぞ?

 

「もし可能であれば、私は貴方様の友になりたいと望んでおりますが、それが難しければ、そうですね微力ながらも何かアインズ様のお役に立ちたいと望んでおります」

 うわー、言っちまったな。何が友だ……ありえない話であろう。力も財力も何もかも隔絶した相手に。失礼な話かもしれないが、俺は本気だ。

 見ることは出来ないが、ガセフもレエブンもきっと同じ顔をしているだろうな。そう、目を大きく見開き口をあんぐりとしているだろうよ。俺が逆の立場なら間違いなくそうなる。だが、この二人なら俺の行動に対して文句を言ったり邪魔をしたりはしないはずだ。王国に人は多くいるが、この二人のような対応が出来る人物はほとんどいない。

 いや、本当にお供として連れてくる人間を間違わなくてよかったと思う。これがアルシェルや知恵ねえ子ことチエネイコだったら、絶対に騒ぎたてているだろうし、アインズ様の逆鱗に触れることになりそうだ。そうなれば、その巻き添えで俺は間違いなく死んでいるだろう。

 アインズ・ウール・ゴウン様の力は、我々の理解が及ぶ領域にないのだと思う。だからこの御方は絶対に怒らせてはいけない存在だ。しかし、残念ながら大抵の王国の貴族は怒らせてしまう態度をとるだろう。貴族としてのプライドや、金目のものに対する執着心が邪魔をするのだ。実際に俺はそうだった。復活前の俺はどうしようもない愚か者だった。きっと同じような愚か者しか我が国の貴族にはいない気がする。数少ない例外がここにいるレエブンだな。

 

 

「そうか。友ときたか……それか役にな。ではひとつ聞こう。バルブロ、お前は何を差し出せる?」

 静かだが響く声。それは威厳に満ち溢れた支配者の声だ。俺は試されているのだろう。ちなみにこれに対する答えはひとつしかないだろう。俺だって漢だ。

「……私の人生を全て。全て差し出します」

 ふー。さらに言っちまったな……。いや、どうせ普通に生きていたら死んでしまう運命なのだ。これくらい大胆な方がいいかもしれん。もちろん、ならば死ね! と言われる可能性だってある。だが、俺は賭けるしかない。全てにおいて上の存在であるアインズ様に対して提示できるもの、賭けられるものはこれしかない。

 

「そうか。お前の強い気持ちを感じるよ。だが、私は昔話に聞いたことがある。王位を継ぐ正統な後継者である運命の王子は正しい心臓(ハート)を持っているが、偽の王子は違うと。バルブロよ、お前は運命の王子か、はたまた偽の王子か?」

 なんだその話は·····聞いたことがないし不穏な匂いがするぞ。マジでヤバい気がする。だが俺が偽王子で、チンチクリン(ザナック)が運命の王子ということはありえない。王位争奪戦は俺が制す! 

「私は王位を継ぐ運命の王子であると思っております」

「そうか。先程お前は全てを差し出すといったな。ならばお前が運命の王子であるか私がチェックしてやろう。私に心臓を差し出せ。当然差し出せるだろう?」

 なんだこれは·····おいおいおい! 心臓をチェックだと·····。どういうことだ。心臓を欲しがるとは思えないし、心臓は見えやしない。まあ、ここは頷いておこう。きっと冗談に違いない。そ、冗談だよな? 

「もちろんです」

「殿下、いったいなにを!」

 ガゼフとレエブンが同時に同じ言葉を発し俺を止めにかかる。

 だが、俺は止まらない。なぜなら俺は胸の奥で待っていたのだ。アインズ様との出会いを。いまさらここで止まるなんてことはできないだろう。

「もちろん差し出せます」

 俺はそう断言した。キリッとした顔で。自分でいうのもあれだが、男前だな。ふふ、惚れるなよ? 

「そうか。覚悟は見事。だが口だけならなんでも言えるよな……」

 おいおい、雲行きが怪しいぞ。俺は選択肢を誤ったのか? ·····やべえ、外したか……。

「では、バルブロよ。貴様の覚悟を試してやろう」

 アインズ様は右手をかざすようなポーズをとった。な、何をするつもりだ。

「私のこの手が真っ赤に染まる。ブラッディレッド〈心臓掌握(グラスプハート)〉」

 アインズ様が魔法の詠唱とともに右手を伸ばし軽く握り始めた。

「ごわっ……」

 な、なんだ……俺の心臓がなにかに掴まれた感じがするぞ……。そんなことありえるのか? 

「うげくわては」

 アインズ様が握りをジワジワ進めると俺の心臓がジワジワと締め付けられていく。く、苦しい……。いや、まじで掴まれてるし。

「ほう。これを耐えるとは……興味深い」

 さらにグイッと力を込めたように見えた。やばい握り潰されてしまう。ブラッディレッド……やはり赤は俺にとって縁起の悪い色のようだ。

「ぬんっ!」

「ひげぷ」

 …… 俺の意識は、ここで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

「私と友になりたいか。ハハハハハッ、なかなか面白いことをいうではないか」

 アインズ様の笑い声で意識を取り戻す。あれ? 俺死んだのでは? と水晶をチラ見するが数は減っていない。つまり、先程のは俺の想像の産物ということか。いかんな、どうも最近死の妄想が激しいな。これをトラマナとかいうんだよな。ふーまだ心臓がドキドキしているぞ……。しかし物理的に掴まれるとか普通なら有り得ないが、アインズ様ならありえそうな話だ。

 しかしハートを掴まれてドキドキするって話なら性格のよい美人とがよいなぁ。ちなみに物理的に掴まれるって話じゃないぞ。精神的にな。

 

「よし、ガゼフともう一人の連れは別室にて待機してもらうとしよう。バルブロ、君とは少し二人で話したい」

「レエブン、ガゼフ。聞いた通りだ」

「よろしいので? 」

 ここまでの発言が少ないレエブンが聞いてきたが、これは答えるまでもないだろう。まあ、レエブンの立場上聞かざるをえないのはわかっているのだが。何しろ俺は王子であり、レエブンは一貴族だからな。我々の間には身分という物差しがありこれには力がある。だが、それはアインズ様には通じない。そう、王国の人間ではないからだ。

 そのアインズ様の意向だぞ。ここがどこに位置する場所かはわからないが、アインズ様の居城であるのは間違いない。我々に拒否権など最初からないのだ。まあ、拒否する必要もないけどな。あえていうなら一人だと心細いくらいだろうか。

 

「……従え」

 感情を抑えた低い響く声で俺は告げた。なあ、気づいたか? ちょっとだけアインズ様の真似をしてみたのだが、どうかな? イケてるとよいな。俺としては自信があるがなぁ。

「かしこまりました」

 レエブンとガゼフの声が重なる。なかなか息があってきたな。

「決まったな。では二人を別室へ案内せよ。ああ、お前も扉の外にて待機せよ」

「かしこまりました。御意のままに」

 兜越しだが、改めて聞くと天使のような美しい声だ。素顔もやはり美しいのだろうか。

 護衛は二人を連れて扉へと向かい、そこからは例のユリ・アルファという春巻き頭の美人メイドが二人を案内して別室へ向かった。ガゼフが私を心配しつつユリに見とれているのはなんだが微笑ましい。ふふ、やつの好みは掴んだぞ。

「それでは、失礼いたします」

 護衛が一礼して扉を閉じる。これで、この素晴らしい謁見の間にはアインズ様と俺だけとなる。

 ついに、この時が来たか。アインズ・ウール・ゴウン様、計り知れない力を持つこの地の支配者と、何も持たない王子であるというだけの俺。こんなアンバランスな会談があるのか。

 しかし、この一騎打ちで、いよいよ俺の運命がきまるのだ。俺の心が武者震いする。ああ、やるしかない。

 この話し合いの先に待つものはいったいなんであろうな。そこには光明(ライト)があるのか……確かな未来はあるのだろうか。

 

 そして、俺は生き延びることができるのか。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ねえ、クライム。ずっと私と一緒にいてくれる?」

 私はこの言葉にどう答えるべきか一瞬迷った。答えは決まっているのだけど、はたしてラナー様の真意はどこにあるのだろうか? と考えてしまったのだ。姫の護衛としてという意味なのだろうか?

 だけど、違う意味である事を望む自分がいる。男として、もしラナー様に万が一、万万が一求められているなら──そんなことはありえないけど──答えは一緒だ。私が呟く願いは「ずっとそばにいたい」しかありえないのだから。

「もちろんです。ラナー様」

 呆れるほどつまらない答えだった。これが今の精一杯。本当の気持ちなど伝えることは出来ないのです。

 ああ、ラナー様。貴女をお慕いしております。身分違いも甚だしいのですが……。

「約束よ、クライム」

 どのような形でも貴女の傍におります。ラナー様。

 

 






ついにフールーダの名をちゃんと言えました。

ちなみに心臓掌握のシーンは、あくまでもバルブロの想像です。
魔法詠唱ってこんな感じかなぁという。使う魔法をずばり当てたのはたんなる偶然です。
バルブロの考えた内容は魔法詠唱というよりは必殺技ですけどね·····。

なお、トラマナは誤字じゃないです。バルブロの言葉チョイスミスです。正解はもちろんトラウマ。

次回は第11回 Fish fight

ラストシングル曲のタイトルですね。
というわけで、いよいよ、バルブロの運命が決まるファイルステージ。
超レアなバルブロ対アインズ様のシングルマッチにて、全てが決まるはず。



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Fish fight

題名曲は、コミカルな曲でした。
今までの話も題名曲から影響を受けていますが、今回はいつも以上に影響されています。
それでは、本編最終話です。







「さてバルブロ。私と友になりたいというお前に尋ねよう。お前にとって友とはなんだ? 何をもって友と呼ぶ?」

 あっ〜! おぅ·····。あっ、お·····あお·····あおあおーっ··········俺は言葉に詰まってしまった。口を開こうとしては止まってしまう。やばいぞ、過去最大の難問だな。

 うむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ~。

 これは真面目な話だが、まったく分からない……なんと答えるのが正解なのだろう。いい子ぶっても賢人ぶってもいけない気がするし、そもそも俺は自分で言うのもなんだが、いい子でもなければ賢人でもない。どちらかと言えば頭よりは力だと思っていたからなぁ。

 クソー、優秀なブレインが居ればなぁ。·····ガゼフに負けた男だったか? ·····って違うなブレーンだ。頭脳だよ頭脳·····ああ、今はサシだから関係ないな。だいたい、俺はただ王子として生を受けただけの存在だし、上等な答えなど出せん! 

 

 ·····ならば答えはこれだ。これしかない。

 

「·····わかりません」

 俺は素直にそう答えた。そう、そんなのわかるわけないだろ! どうだ見事な答えじゃないか? 

 実際俺が分からないのには、別の理由があるんだがな。誰にも言えない秘密だったことが。

 

「わからないだと?」

 威厳に満ちた声。支配者に相応しい素晴らしい声音だ。長くこの場所を支配しているのだろう。ぜひ真似をしたいな……って今はそこじゃない。俺は覚悟を決めた。恥部を晒すことになるが、仕方ない。

 

「ええ、お恥ずかしい話ですが、私はこの年になるまで友を持ったことがありません。だから、ずっと友に憧れておりました。しかし、友とはどんなものかということを考えたことはなかったのです」

 俺には、腰巾着のような奴もいるし所謂取り巻きもいる。だが、友は一人もいない。それが俺バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフの人生だ。考えてみると王子というのは人には囲まれているが孤独だなぁ。人は皆俺を王子と見て擦り寄ってくるんだ。だから、友などいない。はぁ·····なんだか切ない……。

 

「……そうか。それがお前の答えなのだなバルブロ。はは、わかる、わかるぞ」

 意外なことに、うんうんと俺の話に頷くアインズ様。いや、マジで意外……。

「は、はあ」

 俺はどう返せばよいかわからない。仮面のせいで顔色はわからないが、どうやら共感してくれているようだ。もしかしたら……アインズ様も孤独なのかもしれないな。支配者には友人はいないものなのだろうか。

 

「良いだろうバルブロ。友になろうではないか。お前の初めての友に。だから私のことはアインズと呼んで欲しいね。部下がいない時はな。いる時はバルブロの身に危険がおよぶかもしれないから気をつけてくれ。私からも言っておくが、少し私の部下は極端な奴が多くてな」

 確かに、あの女護衛からはそんな感じを受けたな。そして、アインズ様……いやアインズの言葉に俺は涙する。友……なんて甘美な響きなのだろう。生まれて初めての友……。

「私を友と……我慢しても、涙がこぼれてしまいます」

「ではここは水の中。そう、ここは水の中だと思うが良い。ほら、何もわからないぞ」

 確かに水の中ならわからない。アインズの優しさが心に染みる。……俺は我慢できずに号泣した。こんなに泣いたのは……初めてだろう。いや、違う意味で泣き叫び、そしてそのまま死んだことはあるがな。

 

 俺が泣いている間、アインズは優しく見守ってくれていた。表情はわからないが、雰囲気から俺はそう感じたんだ。

 

「では、バルブロよ。我が友に仮面は失礼だな。外すとしよう……」

 いや、別に知りたい……と思ってはいるが、知らなくても友にはなれるのではないか? 

 警戒心がハードモードに突入するが、悟られてはいけない。

「では……」

 アインズ様が奇妙奇天烈摩訶不思議な仮面を外すと、黒髪でわりとどこにでもいそうな顔立ちの男の顔が現れた。目立つほどではないが、悪くはないと思う。隠す必要などないのでは? すくなくともチンチクリン(ザナック)よりはるかにいい男だぞ。まあ、俺様ほどの美男子でもないがな……ってなんだ、普通じゃないか。俺の警戒しすぎか。

 

「ふふ、次に出る顔が私の本当の顔だ。それを見てまだ友と言えるかな?」

 なんだそれは……俺は意味がわからない。なんだかわからないが、心を強く持たねばいけない気がする。持てよ、俺の心臓よ。

 

「とくとみよ、我が素顔を」

 その言葉とともに空気が変わっていく。空気がビリビリと震え、部屋の温度がグングン下がっていくような……そんな気になっていた。いつの間にか黒い後光がアインズの後ろに現れる。まあ後光だから後ろは当たり前だな。

 そして、人の顔が掻き消え、なんと頭蓋骨があらわになる。落窪んだ目の奥には赤い炎が見える。

 ここで、俺は漆黒の闇に包まれた。

 

 

 

 

「しまった。絶望のオーラLv5にしちゃった!」

 

 そんな声が聞こえたような……。

 

 

 はは、これが望み通りの即死か。わるくない……。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 いや悪いわっ! まさか死ぬとはな……。

 

 

 

「とくとみよ、我が素顔を」

 あれ、また同じ場面だ。チラ見するとなんと水晶が減っている。つまりやはり俺は即死し、この時に戻ったらしい。もしかして、戻る時間を指定しないと直前に戻るのか? って、やばい! 戻るのはいいがこの場面からだと即死ループになりかねん。いったいどうすべきか? 

 

「アインズのオーラは十分に感じているぞ!」

 俺は咄嗟に一言かけてみた。最後に聞いた絶望のオーラという言葉。そしてレベルがどうとか聞いたような気がする。レベルとはよくわからないが、何らかの段階がある気がする。アインズ、頼む! 調整してくれよ! 

 

 先程とは違い、黒き後光はあるが空気はそこまで変化しない。しかし、正体を見せた。アインズはやはり骸骨だった。

 

「こ、これは予想外……まさか、私の友が人を超えた者……つまり超越者(オーバーロード)だったとは……。なるほど、力が違うのは当然か……」

 今回は骸骨だとわかっているし、二回目だからさほど恐怖は感じない。どちらかといえばあの拷問の方が怖かったし、痛かった。

 俺って意外とタフなんだな……。それにしてもアンデッドってもっと醜く臭いもキツいと思っていた。目の前のアインズからは、なんだろう神々しさまで感じるし、匂いはない。……うん、やはり格が違うのだろう。もともと圧倒的な差を感じていたのが、素顔を見たことで理由がハッキリわかった。

「ほう。偶然にしては見事だな。私は超越者(オーバーロード)のアインズ・ウール・ゴウンである。これでも友となることを望むか?」

 は、はじめての友達が人ではないというのもよいだろう。王国の人間で俺を王子とみないやつはいなかった。みんな王子として接してくるばかりで、取り入ろうという奴しかいない。友になろうなどと言うものはいなかった。人と友になれないのなら人以外の者か友でも構わないのではないか? いや、違う種族だからこそ逆に良いのでは? 

 まあ、さすがに内心はビビりまくってるけどな。ここまで来たんだ。もはやお好きにさばいてねって感じだな。

 こういうのをなんて言うんだ? あ、あれだな、洗濯板の上のフナの気持ちだよ。綺麗に洗ってくれ。 あれ? フナ、フナ……鮒? であってたっけ? なんで洗濯板? フナは洗えば食えるのか? 生じゃ食えないはずでは? いや、どうでもいいな。

 

「もちろんだ。アインズさ……いやアインズ。俺の友になってくれ。俺は正直、凄い力もないし、魔法も使えない。頭脳だって並以下だ。たいして役には立てないかもしれないが、俺は全てを友のために差し出そう」

 アインズの力からすれば俺は生簀の魚。なんの役に立てるかはわからない。だが、懐に飛び込まないとダメだろう。

「そうか。それにしてもバルブロ。私の顔を見て怯まないとはたいした胆力だな」

 いや、さっき一度死んだけどな。

「俺は死にかけた経験があるんだ。だからかもしれん」

 いや、都合二度死んだけどな! むしろあの拷問が俺を変えたと言っていいかもしれない。……うん、変えたな間違いなく。

「そうか。王子が死にかけるとは……辛い経験をしたのだな」

 まあ、実際はお前の命令で死んだんだけどな。それともう一回は、アインズのうっかりだよ! 即死させられたぞ! 

 それにしても·····なんだろうな。アインズは妙に人間ぽいな。大昔は人間だったのだろうか。そもそもアンデッドはどう生まれるのかを俺は知らないし、知りたくもない。

 一つ言えるのは、多分一度死なねばならないのだろう! 当たり前か·····。

 

「そうだな。俺を今すぐ殺してくれ……という追い込まれた状況だったさ。まあ、今は生きているけどな」

「そうか。バルブロお前は面白い奴だ。正直噂で聞いた人物と同一人物とは思えないよ」

「噂には尾ヒレがつくだろう……俺はたしかに最近まで愚かな国の愚かな王子だったさ。だが、このままではいかんと、一念発起したのだ。よい国を作りたいからな」

 まあ、きれいごとだよなぁ……。俺は死にたくないからも足掻いて、もがいて、今までの自分を死んだ気になって捨てた。そして反省をしている。

 

「よい国か……」

 微妙な反応をされた。まあそうだろうな……これから帝国と組んで王国に宣戦布告するはずだからな……当然といえば当然か。

「とはいえ、どうすればよいか具体的な案はないんだが」

 俺は、基本的に頭がいいとは言えないし、そもそも王位は受け継ぐものであり、そこから先を考えてはいなかった。おそらく歴代の王もそうだったのではないか? などと先祖を疑ってみる。すくなくともこの数代はよい政治をした記録がない。

「そうか。そうだろうな……。ハッキリ言って王国は詰んでいるからな……」

 ……やはりそう見えるか。俺だって少しはそう思うわ。派閥闘争に、疲弊した民……。蔓延する麻薬……。

 

「そんなに酷いか?」

 わかってはいる。いや、わかってきていた。だからこそ確認の意味で俺は尋ねた。

「ああ。民は疲弊し切っているが、その事を上に立つ貴族共は気にもしていないだろ? 情報を聞く限りでは、ろくでもない奴ばかりだな」

 うむむ……反論できん。事実そうだろう……今の俺はともかく、この前までの俺は王に相応しくなかっただろうな。

「そうかもしれん。ならば大改革しかあるまい。世代交代だ」

 ノープランだ……ハッキリ言ってノープラン。だが、それしか思いつかない。

「世代交代には時間がかかるぞ? だがその時間は王国にはないだろうな。モタモタしていれば、帝国の支配下になるだろう」

 そうか、そこまでか……ショックだ。ん、まてよ? 

「ショック療法……か」

 強烈なインパクトを与えて、ガラリとかえる。それしかないのではないか。例えば上を全部消す……とか……。不穏な発想だが、それくらいしか大改革を成し遂げるのは難しい気がする。

 

「バルブロよ、どうする。王子として何をしてみせる? 猶予はあまりないぞ?」

 ああ、わかっている。宣戦布告まで時間がないことはアインズに言われるまでもないが、念の為一応聞いてみよう。

「アインズ、猶予がないとは?」

「そうだな。そろそろ帝国が宣戦布告でもするかもしれんな……」

 やはりそれか。だが、俺はアインズとは戦いたくない。ハッキリ言って勝てやしないぞ。絶対に無理だ。

 

「まさか、帝国に味方を?」

「勘がよいな。その予定だったことは認めよう。だが、まだ僅かなチャンスはあるだろうな」

 僅かなチャンスか。どうすればよい。ここで俺は何をすれば王国を再建できるだろうか? いや、待てよ待てよ待てよ……王国を再建するよりも、新たに作り直した方が早いのでは? 帝国は宣戦布告してくるし、今回はアインズが絡んでくる。ならば俺はそれに一枚噛む……というのはどうだろうか。友としてアインズを支援し、王国を新たな国に作り替えるべく共に動くんだ。……兵力はないし、俺には求心力もないが、今を不満に思っている者は多いだろう。そういったものを集めて、救国革命軍とか救国軍事会議といったような名前をつけていけばよいのではないかと思ったが、なんとなく失敗しそうな予感がする。やはり名付けるなら、革命軍……もしくはバルブロ血盟軍とかそんな感じの方が良いだろうか。維新軍なども良いかもしれん。

 だがしかし、時間も資金もプランもないとは……いやはや……。

 

「アインズ、俺も協力しよう。王国を滅ぼす戦いではなく革命を起こすんだ。それに帝国とアインズの力を借りるというのはどうだろうか?」

 俺は失敗すれば自国を滅ぼす愚かな王子で終わるだろう。だが、俺はすでに死んでいる。これが二度目……いや三度目の人生か? この挑戦で王国を変えられたら最高じゃないか。中から変えるのが難しければ外から力を借りるのは悪い手ではないはずだ。もちろん父は怒り悲しむかもしれんが、俺は今のままではこの国はダメだと思う。だからあえて困難な道に挑戦してやろう。

「ほう。面白いことを言うな……だが、それでよいのか? 全てを失うぞ?」

「俺は、友であるアインズのためなら人生の全てを差し出せる。だから全てを預けて、俺は体一つで勝負だぜ」

 青い顔で死を望んでいた俺はもういない。俺は男バルブロ。国を救う戦いに挑むのだ。

「お前がそこまで言うならジルクニフと調整しよう。ひと月猶予をやるから、準備しろ!」

「おう。俺はやってみせる」

 こうして、俺は勢いだけで決めた戦いに望むことになる。生きてきた証を刻み込め。俺は復活のバルブロだ。全てを賭けて国を救うのだ! 

 

「やってやる。今回は絶対にやり遂げる!」

 俺はそう誓う。この革命を成し遂げることが生き返った俺に与えられた使命なのだから。

 人にはやるべきことがあると聞いた事がある。きっとこの俺が復活した理由は、これだったはずなのだ。

 

 

 さあ、ここから大変だが楽しくなるぞ! 生き延びる事に足掻いた俺はもういない。

 

 俺はバルブロ第一王子~、みんな集まれ俺の下に。新しい国にしていこう~。

 

「さあ挑戦の始まりだ! 準備しろ!」

 

 俺は未来へと歩み始める。俺はもう死に怯えない。

 

 俺は未来を切り開く。あの太陽のように。

 

 そう俺は太陽の子、バルブロだ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「バルブロお兄様が? ありえない話ですが、まさか……そんなことを?」

 私は本気で驚いている。ここ最近は驚かされてばかりだったけど、まさかそこまでやるとは。

 あまりにも今までと違うから、あちらの手の者とすり変わったのかと疑ってもみたけど、どうもそうじゃないみたいね。

 だいたい、もしそうならアルベド様から連絡が入るはずだし。それに最後に会った時に感じた本物であるという印象は変わらない。私の血がそう感じている。

 正直私と、あのお兄様が血が繋がっているとは思いたくないけど、そう感じさせられた。

 周囲は、バルブロ殿下が目覚めたとか、成長されたとか言っているけど、私の結論は違う。

 バルブロお兄様は、生まれ変わった……というべきだと思うの。なにがあったかは知らないけど、何かのきっかけで新しいバルブロお兄様になった。私はそう思う。

 

 前のままなら、私のために人柱……いえ捨て石にしたけれど、今のお兄様なら、ザナック(あっち)がいらないかもしれないわね。

 王国をなくすつもりなら、バルブロお兄様の計画……を支援した方が面白い気もするわね。

 私の計画とは違うけど……上手くやれば目標は達成できるかもしれない。

 

「クライム、旅支度を内緒でお願いね」

「は、はいっ!」

 

 目指すはエ・ランテル。お兄様が何かしでかすならそこだと思う。

 

 王国の解体……そして新国家の誕生を狙うつもりね、お兄様。

 

 私の邪魔になるなら消えてもらうつもりだけど、役に立つなら手伝ってもらおうかしら。

 

 頑張ってね、生まれ変わったバルブロお兄様。

 

 

 






本来は今回で最終回の予定でしたが、エピローグとして一話追加します。

もうシングル曲が残ってないので、アルバムタイトルとかになるかもしれない。

週一更新で全12話なので、ちょうどワンクール分ですかね。

次回最終話 撤収(仮)は、例によって日曜日8時に更新します。

ちなみに、アインズ様の 「準備しろ!」 は、ドラマARROWの主役オリバー・クイーン(グリーン・アロー)の出撃前のセリフ。声はアインズ様と一緒です。


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エピローグ
孤独に一番近い場所


その後のお話。
エピローグとなります。題名は唯一のソロ曲から。





 

 おう、俺だ。

 誰かって? ミスターバルブロだよ。·····ちょっと待て! 

 なあ、おかしくないか? そもそも訪ねてきたのはお前だろ? 俺が誰かわからないわけないよな?

 なに? 冗談だと? つまらん! その首切り落とすぞ! 

 まあ、そんな事はしないけどな。懐かしいやり取りをしてみただけだ。それにそもそもお前の首などいらんよ。だが気をつけろよ、今の俺ならともかく、昔の俺ならお前死んでるぞ。

 それにしても、久しぶりの来客があったかと思えばお前かよ。いったい何を死に·····いや、何をしにきたのだ? 

 

 なるほど。あれからどうなったのか気になってるのか? そうか。·····お前も俺の話を聞きたがるなんて珍しい奴だな。ハッキリ言って変わり者だよ。

 おいおい、必死に否定するなぁ。だが、これは間違いなく真理だよ。事実なんだ。わかるだろう? だいたい世の中の人間が聞きたがる話っていうのは、例えば·····かの大英雄"漆黒のモモン"の英雄譚·····これはかなりの数が語られているよな。それに例えばモモンの冒険にこんな事があったらというような創作物語も人気があるよな。モモンのパートナーが違ったり、増えたりするのも人気あるよな。変わり種だと緑の弓矢使いが一緒に活躍する話とかもあるらしいぞ。

 それに匹敵するのが、やはり魔導王陛下、いや我が友アインズの支配録が人気だよな。俺も色々な話を見たり聞いたりするぞ。

 後は、蒼の薔薇に代表される冒険者や帝国のワーカーとかいう連中の奮闘記が人気あるよな。

 最近では、聖王国の戦闘型の従者でネイル·····だったかな。別名が、"邪眼の狂信者だっけ? "そいつが主役の"目つきの悪い従者の聖地巡礼" とか、仲の悪い二人組の"犬猿ぶらり旅"だったか? が人気らしいな。

 

 で、それに比べたら俺の話なんか需要なんてないだろう? 調べてはみたが、俺様が主役の話なんてまずないぞ? それに俺の話じゃ退屈じゃないのか? 何せ俺の話には、ギガントバジリスクとか出てこないぞ。せいぜい出てくるならゴブリンだな。ああ、未だに赤い帽子は夢に見る時があるぞ。忘れられないものだ。あれから何年も経っているのに。

 

 

 なに? ·····たまには違うのがいいってのかよ。なんだよそりゃ。まあ、あれだな。肉に飽きたから違う肉食いたいって感じか。·····って結局肉じゃねえかよ、お前も好きだなぁ。

 まあ、どうしてもというなら話してやるよ。どうだ、チャボでも入れて飲むか? 

 馬鹿野郎、チャボじゃねえ。茶葉だよ茶葉。久しぶりに茶をいれてやろう。俺の茶、飲めるよな?

 

 

 どうだい、だいぶ手つき良くなっただろ。前はまだぎこちなさがあったからな。

 ·····ふ、美味い。最近は茶葉も質が良くなったな。ああ、今は味の違いがわかるさ。長いこと飲んでるからな。茶もそうだが野菜や麦も質が上がった。国が豊かになった証拠だよ。あの頃は最悪だったからな。

 

 では、あれからどうなったか特別に話してやろう。

 

 俺はアインズと友となり、死の危険を回避したってとこまでは話したよな。だが、俺の死の危険はまだ終わっていなかったんだ。

 

 実は俺はな……あの後、死んだのだ。·····その顔は信じてないよな? まあ、今はこうして生きているが、死んだのは事実なんだな、これが。もっとも例によって死に戻りしたからなぁ。その事は誰も知らないけどよ。

 

 しかも、俺はただ死んだわけではない。殺されたのだ! 

 

 おいおい、まだ信じていないのか? あれだけの危機を乗り越えた俺だが、忌々しい事に殺されて晒し首になったんだよ。

 ん? 何故死んだのに晒し首になったのを知っているのかって? それがな、不思議な事に俺は死んだけど意識はあったのだよ。うーん、表現が難しいがな。

 というわけでな、これは冗談ではなくて、本当に殺されたんだよ。相手は誰だと思う? ちなみにアインズや、その配下が相手ではないぞ。

 今は平然と話しているが、流石に当時は驚いたものさ。まあ、驚く前に死んでたけどな。

 

 ああ、ジルクニフではないぞ。確かに奴は鮮血帝と呼ばれた男だったがな、奴ではないぞ。奴には動機がない。

 

 ラナーの命令を受けたクライム? なんだそりゃ。ラナーは我が妹だぞ! まあ、身内と言えば身内だったがラナーではない。

 なんとザナックさ! あのクソ野郎、兄である俺の寝込みを襲い首を取りやがったんだ。うーん、そんなに奴を追い込んだつもりはなかったんだが、奴の唯一の支援者だったレエブンが俺に寝返る……いや、人聞きが悪いな。レエブンが俺に靡いたことで危機感を持ったのだろうよ。

 ああ、認める俺の油断だ。正直驚いたよ。まさかそんな直接的な手に出るとは思っていなかったからな。

「意外と兄上も甘いようで……」

 これが俺が聞いた最後の言葉だったよ。

 

 そして、俺は三度舞い戻ったのさ。戻ったのはザナックが仕掛けて来るより数日前だ。

 その後のザナックはどうしたかって? それは後で話そう。まずは今の状況とそこに至る迄の話を掻い摘んで説明しよう。

 

 知っての通りだが、リ・エスティーゼ王国は既に存在していない。現在はアインズ・ウール・ゴウン魔導国リ・エスティーゼ領域と名を変えた。つまりはアインズが立ち上げた国の下につき、我が国は平和的に解体されたのだ。

 そしてそのリ・エスティーゼ領域だが、三つに別れている。ひとつはアインズから任されたレエブンが管理しているエ・レエブルを中心とするレエブル小領域。もうひとつはクライム辺境伯──正確にはその妻ラナーが管理しているが──の、クライム&ラナー辺境領域。クライムの奴は慣れない偉い人としての暮らしに未だに苦労しているようだな。まあ想いを寄せていたラナーと物心両面で結ばれたのだし、文句はなかろう。

 

 そして、最後のひとつが、現在俺が暮らすこの旧王都領域──正式名は未だに考え中──の三つだ。

 旧六大貴族はレエブンを除き他界しているし、小煩い旧来貴族の当主はほとんど代替わりしている。もっとも国がなくなったのだから元貴族というべきかもしれないが。

 そんな元貴族達の現当主のほとんどは俺が選抜した奴らで、俺に恩義を抱いているやつばかりだ。

 これがどういうことかといえば、アインズとの話に出ていた代替わりが成功したということだ。では、どうやったかを話していこうか。

 

 俺はアインズの居城で一泊してからカルネ村経由でエ・ランテルへと戻り、そこで俺はレエブンと話し合いを持った。

 俺が語るまでもなく、現在の危機的状況をあいつは理解していた。おそらく、この王国で気づいている貴族はレエブンだけだったのだろうな。

 

「王子、私も以前から憂いておりましたが、力が足りず効果的な手は打てないままでした」

「違うな。力不足ではなく、王家を含む貴族連中の頭が足りなかったのだ。俺も人の事を言えないがな。最近ようやくそこに思い至った愚か者にすぎん」

 そして、俺はレエブンと三日三晩の協議を続け、そこでひとつの戦略を練り、全国へと通達を出したのだ。

 その対象は、貴族を始めとする全王国中の三男坊と四男坊及びそれ以下の男子だ。貴族だけでなく、農民や商人であっても変わらない部分がある。

 それは長男は家を継ぐ者で一番大事にされ、次男はそのスペアとしての価値があるから大切に扱われるという事だ。

 それに比べると三男坊や四男坊は悲惨だぞ? 扱いは両親や兄二人の奴隷に近いし、地位や財産を受け継ぐこともまずない。兄が跡目を継げば、その配下のように扱われ一生を終える。

 もはや生きる目的などもなく、抜け出す望みもほぼない。正直、三男坊以下は、赤毛のサディスメイドの言葉ではないが、等しく価値がないと思われている。彼らが思うのは呪いのような願いだけだ。

 

「長男、次男など死んでしまえ!」

 それだけである! などと偉そうに語ったが、これは受け売りだ。もちろんレエブンから聞いたのだ。俺は、他人の手柄を自分の手柄だと誇ることなどないぞ? ちなみに世間話のようにして、取り巻き連中にも確認したが三男坊以下に価値はないと認識していた。

 

 この通達は思った以上の反応があった。我も我もとすぐに人が集まってきたのだ。

 俺の手持ちの私財とレエブンの財とを使い、俺達は集まった奴らをテストして適性を判断し、武の才があれば訓練させ、優秀な者は俺の親衛隊として黒いマントと赤いマントを与え、それぞれ黒母衣衆、赤母衣衆という呼び名を与えた。三男坊以下は力仕事を押し付けられる傾向にあるようで、基礎体力だけはある奴が多かった。もしかしたらこの中に第二のガゼフ・ストロノーフがいるかもしれないな。

 また、政治的な才があるものはレエブンが指導し、官僚として育てることになった。さすがに1ヶ月弱では間に合わなかったものの、現在は各地で活躍する官僚となっている。

 アインズとの約束の期限までに用意できたのは、母衣衆を含めた約1000の兵士達だった。これは俺の直属の部隊である。

 くすぶっていた者達のそこから抜け出せたという感謝は大きく、俺に絶対の忠誠を誓うことになった。俺は今まで兵力を持たなかったが、ここに自前の兵力を持つに至る。それを養う領土が必要だったが、そこでタイミングよく騒動が起きるたのだよ。

 愚かな貴族の一人が反乱を企てていると情報が入り、近くにいた俺がその乱を平定し、そのままその地を俺の直轄とすることを宣言するに至る。土地があれば兵を養い増強することも可能だ。

 

 そして、時を同じくして帝国から宣戦布告がなされ、アインズが魔導王として参戦することになる。ここは俺が知る歴史通りとなるわけだ。

 当然父は戦うことを選択するが俺は猛反対した。帝国はともかくアインズと戦って勝てるわけがないとな。

 レエブン、そしてガゼフもそれに同調してくれたが、二人プラス平民ガゼフの三人の意見では大勢をひっくり返すには至らず戦争が決定されてしまう。

 

 俺とレエブンそしてガゼフは、"裏切り者"だの"帝国に魂を売った"だの、はたまた"スパイ"だとか散々に言われ、結果として蟄居を命ぜられた。俺を糾弾していた中には本当は裏で帝国と繋がっている内通者がいるのが腹立たしい。

 そして俺の代わりにザナックが父と同行することになる。この段階では俺が失脚したと見られ始めていたので、ザナックは自分こそが次期王になると思っていたようだ。それを確実とするべく手柄を求めての参戦。あまりにも愚かな考えだ。

 そしてレエブンが不在となれば全軍指揮は、俺の義父でもあるボウロロープが握ることになる。当然ザナックに手柄をとらせないようにするだろう。一応俺に味方してくれる存在ではあるが、悪しき旧来貴族の代表格のような存在だ。だから、派兵を決めた段階でその運命は決まったようなものだった。妻が悲しむかもしれんが、これは民のためなのだから仕方がない。

 アインズには、今後のためにも民には被害をなるべく出さないように伝えているのだがどうなることか、この時点では不安だったことを覚えている。

 

 

 戦争が開始になる頃、俺はレエブン・ガゼフらとともに蟄居命令を無視し、兵を集めて戦場からやや離れた場所で待機していた。俺の配下の血盟軍1000と、レエブンの精鋭1000の合わせて2000だ。目的は敗退する王国軍の救援である。

 敗退と決めつけているのか? だと。当たり前だよ。アインズと戦って勝てるわけがなかろう。断言しよう、100%いや200%……10000%有り得ない。有り得るわけがなかろう。有り得ないMAXだな。

 

「今から魔法を発動する」

 アインズから借り受けた特定の二者間での会話を可能にするアイテムにより、俺は戦争の開始を知る。アインズが使った魔法の名前は天地無用とかいう名前だったな。正直名前は忘れたが、少なくとも王国軍全軍の足……いや、足下が凍りついたと聞いている。

 王国軍はレエブン不在、俺の反対などもあり動員はやや少ない! 19万と言われていたがそれが全員足元凍るとか、どんだけだ。やはり神の如き力の持ち主だったか·····。

 そして、さらにアインズが召喚した天使達が動けない王国軍に襲いかかり、ザックザナックザックザナックと王国軍を斬り倒していったそうだ。

 この天使による攻撃·····つまり天誅により、義父ボウロロープを始め、リットン伯、ペスペアといったレエブン以外の六大貴族が戦死し、さらには各貴族の当主、嫡男、二男といった指揮官達も尽く討死に全滅することとなる。王国はいきなり国のトップ連中を失うことになるが、王である父はかろうじて難を逃れた。

 なぜ貴族だけを狙い撃ちできたか不思議に思うか? 俺はそうは思わん。何故ならば、格好が派手だから目立つのだ。地上から攻めるならともかく天使は飛んでいる。空中から狙い撃ちするのなど朝飯前なのだ。

 まあ、アインズは朝飯どころか飯を食わんし、天使も飯は食わんだろうがな·····。

 

 

 そして·····。

 

 

「うわぁぁぁっ。来るな、来るなあっ!」

 我が弟ザナックに天使が襲いかかる。護衛は氷のせいで動けず、ザナックは足が竦んで動けない。

 ザナックはめちゃくちゃに剣を振り回したが、天使に剣を弾き飛ばされ丸腰になってしまう。

「ここまでか·····俺も結婚したかった」

 死を覚悟したザナックに天使の剣が振り下ろされる。

 ガキッとすんでのところでその剣を受け止めたのは·····ガゼフ!

 

 

 

 ではなく、この俺様だよぉっ! ハッハッハ。

 

 

 

「あ、兄上っ!?」

「無事か、ザナック!」

 俺は剣を横にして受け止めつつ、思いっきり蹴りを入れて天使を弾き飛ばした。

 ここでタイミングよく氷が溶るように消え、王国軍は動けるようになる。もちろん、俺が切り込む事をアインズに伝えたからなんだがな。

 

「兄上·····どうして俺を助けた·····」

「馬鹿野郎。お前は俺の弟だ。助けるに決まっているだろう! お前のために俺ができるのは、お前の代わりに俺が傷つくことくらいだ。ザナック、これは負け戦だ。被害が酷くなる前に退けっ!」

 そういうと俺は馬に飛び乗る。ちなみに名前はマキシマムと名付けたぞ。

「兄上はどうされるつもりですかっ!」

「知れたこと。兵を、いや我が民を助けるのだ。いくぞ、母衣衆ついてまいれ!」

 それから俺は天使を食い止めつつ、王国軍の撤退を支援。追撃を狙ってきた帝国の一軍をレエブンとともに迎撃し、手酷い被害を与えて離脱する。

 ここは"王国にバルブロあり"を示せば十分だ。すでに多数の指揮官を失った王国軍では戦えない。だが、背後を襲われても困るのだ。だから追ってくるなとメッセージを送ったわけだ。

 無事に撤退に成功したが、あのような悪夢のような魔法を見せつけられてはエ・ランテルは割譲せねばなるまい。あの魔法を都市に使われてみろ。全員凍え死ぬぞ? 

 父王は敗戦の責任をとり隠居を宣言し、跡目は俺が継ぐことになる。俺が戦争に反対していたこと、そして民を救ったことは知られているからな。

「バルブロ、お前の言う通りにしておればな·····」

 父は二回りほど小さくなってしまった。この後体調を崩しがちになり病に臥せることが多くなる。

 

 この戦争で貴族派閥は壊滅、王派閥も壊滅的な損害を受けた。もはや派閥などは無い。

 そこで俺とレエブンが用意した配下達が台頭するわけだよ。見事なショック療法だろ? 派閥闘争は消えて一致団結めでたしめでたし。

 

 って終わるわけがないんだよ。

 

 ここで最初に話したザナックが俺を襲う事件が起き、俺は死亡。ザナックは俺の母衣衆に討ち取られ、指導者を失った王国は内乱状態に陥ることになるわけだ。

 まあ、それは俺が死に戻ることで回避して今の状況になったんだがな。

 

 さて、俺は国内を纏め上げたところで、アインズと同盟を結ぶ。正確には従属だな。

 一応俺は旧王国領域統括という立場になり、ザナックが旧王都の都市長に収まった。やつに殺される前に戻った俺は奴を呼びつけアインズ同席の上で今後のビジョンを話したわけだ。

 まあ、アインズの力を知れば俺と争うなどとは思わないだろうさ。

 こうしてわりと平和的にリ・エスティーゼ王国は併呑されたというわけだ。

 俺は生き延びられたし、一度は王にもなった。民は今平和に暮らしているし、派閥闘争もなくなった。うん、悪くないだろ? 

 ザナックは生きているし、今は俺との仲も悪くはない。ラナーはクライムと楽しく暮らしているようだし、不幸になった人間はいないのではないか? クライムは苦労しているだろうが、妹を手に入れたのだから不幸ではあるまい。まあ、正確にはラナーの方がクライムを手に入れたというべきかなぁ。

 ああ不幸といえば死んだ貴族達がいるか。ま、貴族の数人の犠牲より何万の民が優先だろうよ。

 昔の俺なら逆なことを言ってただろうがな。そんな俺は最初に死んだのさ。

 なに? バルブロ様超絶カッコイイって? ふん、男に言われても嬉しくはないさ。まあ、一応言っておく。

 

「ありがとよ」

 

 さて、俺の話は終わりだ。

 なに、ガゼフ・ストロノーフはどうしたかだと? ああ、話してなかったな。あいつはアインズのもとにいる。父の隠居後は約束通り俺に仕えてくれたのだが、国がなくなったしアインズがあいつを欲しがってな。

 今は魔導国の冒険者組合の指導員のまとめ役にして、アダマンタイト級冒険者チーム剣王のリーダーさ。ユリ・アルファとかいう例の夜会巻きのメイドに似たなかなかの美人を娶って幸せにくらしている。ちなみにあの髪型が春巻きじゃないのはラナーに聞いたよ。

 ちなみに紹介してやったのは俺だ。最初は俺の側室候補だったんだが、一目みてガゼフ好みとわかったからな。

 

 さて、こんなところか。これで俺の話は終わりだ。俺は生きていることを楽しむよ。お前もよい人生を。生きていることを楽しめよ。

 

「では、俺の話はここまでだ。GOOD LUCKだ」

 俺は復活のバルブロ。奇跡のようなやり直しの人生を歩んだ男。そして、歩み続けている男さ。

 

 皆の人生に幸運を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





これにて撤収となります。

ありがとうございました。


バルブロメインということで敬遠されるかなと思いましたが、多数のお気に入りと、高評価を頂き嬉しく思います。
まさか、バルブロメインで代表作になるとはなぁ。こういった非王道路線でまた何か書いて行ければと思います。またその時はよろしくお願いいたします。





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