落第騎士の英雄譚・竜帝は七星の頂を目指す (皐月の王)
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プロローグ

どうも飽きもせず新作です。わからないことだらけですが、頑張りたいです。


《伐刀者》 己の魂を武装――《固有霊装》として顕現させ、魔力を用いて異能の力を操る千人に一人の特異存在。

今は警察も軍隊も――戦争ですら伐刀者の力なくては成り立たない。魔道騎士制度の下、伐刀者を養成する専門学校を卒業した者だけが、免許と魔道騎士と言う社会地位が得られる。ここ破軍学園は日本に七校ある騎士学校の一つ。ここでは若き伐刀者たちが、学生騎士として、日々己の技を磨き、切磋琢磨をしている。

 

ここの寮に住む皇樹 竜司もその伐刀者の一人だ。彼は去年の七星剣武祭に出場しベスト8まで行った少年。ただ、そのベスト8は実力で負けたのではなく、不戦敗だ。祖父が倒れたと聞き棄権したのだ。期待を裏切り、祖父のところに駆けつけた結果、祖父に殴られたと言う記憶は竜司の頭には何方かと言えば新しいものだ。

 

そして今現在彼がしている事は、日課の走り込みだ。体力作り、肉体作り色々目的があるが、ただ、音楽を聴いて走るのが、趣味になっているのだ。汗をかいてシャワーを浴び、グダーっとするのがハマっているらしい。竜司が走っていると、行き先には刀を振っている少年が居た。体格は細身だがしっかりしている少年で黒髪だ。竜司はその人物を知っている。いや、知らないはずがない。

 

「相変わらず、早いな。一輝」

 

「あ、おはよう。竜司」

 

彼は黒鉄一輝、同じく破軍学園に通う生徒、ただFランクで《落第騎士》と言う不名誉な名前をつけられている。

 

「おう、おはよう。今年から新体制で堂々と訓練場で模擬戦ができるな。あそこなら多少暴れても大丈夫だしな」

 

「竜司の固有霊装と破壊力が問題なんだよ、打ち合うだけならここでもできるのに、今日も付き合ってくれるんだよね?」

 

「当たり前だろ、時間が勿体ないからな、さっさとやろうぜ。廻りて集え『七天竜王』!!」

 

竜司は己の魂の具現である剣を出す。その形状は剣というより、斧に近いような気がするが剣である。黒と金の両刃の大剣が柄頭には小さいが金の刃がついている。その大きさは竜司の身長より大きいものだ。

 

「来てくれ。『陰鉄』」

 

一輝も自身の固有霊装を展開する。そして互いに構える。竜司は両手で持ち半身に構える。一輝は正面に構える。

そこに一陣の風が通る。二人はそれを合図にぶつかり合う。竜司の一撃を一輝は鍛え上げられ技巧で受け流し、切りつけるが、竜司は反応し柄頭の刃で弾き、大剣を振る。互いに一進一退の攻防。純粋な剣だけの戦い。

 

「相変わらず、涼しい顔でいなすな……一輝!!」

 

「そっちこそ、大きな剣を振るってるのに速いじゃないか竜司!!」

 

ひとしきり打ち合い、互いがほぼ同タイミングで固有霊装を消す。互いに息を切らせ、呼吸を整えて、スポーツドリンクを飲む。

 

「ッハ!生き返るーーやっぱり汗かいたあとはこれだよ」

 

「なんだかオッサンくさいよ竜司」

 

「気にすんなよ!せっかく桜も咲いてるしあー花見してぇよ」

 

桜を皆がら竜司はぼやく。一輝はそれを見て笑いながらフゥと息を吐く。竜司はそれを見計らい

 

「んじゃ、戻るか。俺朝飯食いたいし」

 

「うん、僕も戻るよ」

 

「んじゃあ、競走しようぜ!!負けた方がジュース奢りな!」

 

「いいよ!絶対負けないから!」

 

「言ったな!じゃあ行くぞ?よーいドン!!!」

 

そして二人は再び対決を始める。今度は寮までダッシュをして、どちらが早く辿り着くかの競走だ。子供みたいに走る様は微笑ましいものだが、その実互いに全力疾走、微笑ましいを越えて恐ろしいほどのガチだった

 

「っはぁー、クソ!今回は負けた!!」

 

「僕の勝ちだよ……じゃあ、後でスポーツドリンク奢って貰うから」

 

「くそう……今度は勝つからな一輝!」

 

「それ次も勝てないセリフじゃ……」

 

「前は俺が勝っただろ!?」

 

一輝はそう言えばそうだったと手をポンっと叩き思い出す。竜司はやれやれとため息をつき

 

「じゃあ、俺はシャワーを浴びて来るから、それからでもいいよな?」

 

「勿論、僕も着替えたいしね」

 

互いに一旦分かれ、それぞれの部屋に行く。背を伸ばし、冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターを取り出しその蓋を開け口をつけると同時に、悲鳴が聞こえた。竜司は驚き、ミネラルウォーターを少し零し、濡れた床を見て大きくため息をつき

 

「んだよ驚かせやがって、騒がしいやつだな」

 

玄関の扉を開けそのほうを見ると、一輝の部屋に警備員が入っていき、一輝が連れていかれて行った。

 

「これはアレだ。見なかったことにするしかねぇな。つかご愁傷様」

 

友人に合掌をして、深いため息をして部屋に戻る竜司。そして携帯端末を見ると、メールが来ていた

 

『理事長室に来い』

 

この一文しかなかった。竜司は心底嫌そうな顔をしながら考えて

 

「汗流したら行くか……しゃーねーし」

 

そう呟き、汗を流すべくシャワーを浴びるのであった。




ステータスを見たい人がいれば次回載せます。
かなり高く強くしてますご了承ください


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第1話 紅蓮の皇女 来日

竜司がシャワーを浴び制服に着替えて、学園の理事長室に向かう。というのもメールで理事長に呼び出しをくらったからというのが大きい。

 

「はぁ……いったいなんの話なんだ…」

 

朝の悲鳴そして理事長の呼び出し。当事者ではないが連行されるさまを見た竜司そしてそのタイミングでの呼び出し……嫌な予感しかなしないので、その足取りはどこか重いものを感じさせる。そして遂に理事長室前に到達する。ドアの三回ノックすると入れと理事長から入室の許可が下る。

 

「失礼します。」

 

一礼をして顔を上げると、顔に手の跡がついた一輝の姿があった。それで何となく分かったが、一輝が部屋っを間違えるはずがないと思った。

 

「……理事長これはどういう状況だ?」

 

「そうだな、説明してやろうそこの紳士が何をしでかしたのかを」

 

破軍学園の理事長、新宮時黒乃から今朝の悲鳴騒ぎの事の顛末を聞かされる。最初はふむふむと聞いていた竜司だが最後の方には呆れた表情になる。ため息すらつくレベルだ。

 

「頭が壊れて筋肉になったか……」

 

「いやなっていからね!?」

 

「じゃあ、朝練の負荷で頭が……」

 

「そんなわけないから!?幾ら何でも!」

 

そう言う一輝だから竜司はからかう。そして何がどうなってそういう行動をとったのか、その時の一輝に聞きたいくらいだった。

 

「下着を見たから、自分も脱ぐことで相殺しようって……ある意味フィフティフィフティで紳士的だな」

 

「変態紳士の下りはもうやったよ!あの時の僕は今考えれば突然の事で混乱していたんだよ!というか笑いながらいう!?」

 

「だって……どう混乱したらそうなるんだ……混乱のじゃなくて暴走の間違いじゃねぇの?」

 

竜司は肩を揺らしながら俯いて笑っている。心底可笑しいのだろう。

 

「それを言われるとぐうの音も出ないです…ハイ」

 

竜司の情のない言葉で小さくなる一輝。理事長は竜司を見て続きを言う

 

「さらに問題なのが、女子学生は、留学してきたヴァーミリオン皇国の第二皇女、ステラ・ヴァーミリオンがその被害者という事だ」

 

「ステラ・ヴァーミリオンって言えば、《紅蓮の皇女》と言われている伐刀者だよな、十年に一人の天才って名高き」

 

「はぁ。留学初日に申し訳ないことをしてしまったなぁ。このことで日本を嫌いにならないといいんだけど。それにしても本物のお姫様で、首席入学なんてすごいですよねぇ」

 

「それもぶっちぎりのナンバーワンだぞ。全ての能力平均値を大幅に上回り、伐刀者にとって一番大切な能力である《総魔力量》に至っては新入生の約三十倍と言う正真正銘のAランクだ。皇樹の数値も見たが平均値と比べ約二十倍と類を見ないが、あの皇女の次だしな。……能力値低すぎて留年してもう一度一年生をやるFランクとは偉い違いだな。なあそう思うだろ?《落第騎士》」

 

「ほっといてください」

 

「ほんと、ヤバいやつだよな紅蓮の皇女様は」

 

むすっとした表情で理事長の黒乃に講義しつつ、否定出来ない黒鉄一輝と話を聞いてステラの魔力量に溜息をつく皇樹 竜司。黒鉄一輝の《総魔力量》は平均の十分の一しかない。対象に皇樹 竜司の《総魔力量》は平均の二十倍とかなり高くほかのステータスも高いが、そう魔力量は倍率の差でステラ・ヴァーミリオンに劣る。ステラの陰に隠れた天才と言いべき人物だ。

 

「しかし困ったことになった。留学には色々な手続きがあるから、入学式よりも早く来日してもらったのだが、初日からこんなハプニングが起こるとはな。下手をすれば国際問題にもなりかねん。黒鉄には非は無いが……責任を取ってもらう。理不尽に感じるだろうが、男の度量を見せろ」

 

「……理不尽以外の何者でもねぇな」

 

「男ってなんでこうも都合のいい時だけ利用されるんだろう」

 

「さぁな、それはこの世の男の半数は疑問に思うことだろうよ」

 

一輝の立たされている状況に面白がっている竜司。それを察して助けてくれと目で助けを求める一輝がいた。互いに溜息をついたその時

 

「………失礼します」

 

後ろの扉、理事長室の扉が開き、件のステラ・ヴァーミリオンが入室してきた。炎のような紅い髪が特長的な少女だ。服装は破軍学園の制服だ。その目は泣いていたのか、恨みが増す視線を一輝に投げつけていて目元赤く腫れている。

 

「ごめん」

 

その謝罪は一輝の口から自然と出た。

 

「あれは不幸な事故で、僕も別にステラさんの着替えを覗こうと思ったわけじゃない。ただ見てしまったものは見てしまったわけだから、男としてケジメはつける。ステラさんの気が済むように煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

 

「……潔いのね。これがサムライの心意気かしら」

 

「口下手なだけだって」

 

「(本当にそうなんだから困る)」

 

一輝の会話は偶に一言が足りず誤解を生む事がある。それに友として振り回されたことがある竜司は苦笑いをしていた。

 

「正直なところ、来日していきなり痴漢に遭うだなんて、なんて最低な国なのかしらと心底この国が嫌いになりかけたし、国際問題にしてやろうかとかも思ったほどだけど、貴方のおかげで少し気が変わったわ。貴方がそれほどの心意気を見せたからには、アタシも皇族として寛大な精神で応じなければならないわね」

 

竜司と一輝はその好意的な表情を見て認識を改める。皇女というから気難しい人だと想像じていたが、話のわかるタイプの人

 

「イッキ。貴方の潔さに免じてこの一軒、ハラキリで許してあげるわ」

 

………本当に思っただけであった。竜司は頭に?を浮かべ、一輝は抗議に移る

 

「いや、ちょっと待って。なに?大負けに負けてハラキリなの!?」

 

「名誉死にしてあげるだけでも出血大サービスよ!」

 

「出血するのは僕なんだけど!?」

 

「ははは。黒鉄。なかなか上手いこと言うな」

 

「上手い。山〇君、一輝君に座布団一枚あげて」

 

「いや笑ってないで竜司も理事長もこの校内殺人止めようよッ!」

 

「黒鉄。お前の命一つで日本とヴァーミリオン皇国の恒久的な平和が買えるんだ。安い買い物だとは思わないか?」

 

「人の命を差し出しておいて安い買い物という言い草はないよね!!?」

 

「惜しい人を亡くした」

 

「勝手に殺さないでくれる!!?僕はまだ生きてるよ!!」

 

「好きにしろって言ったのそっちでしょ!男なら自分の言った言葉には責任を持ちなさいよッ!!」

 

「い、いや、あれは日本語独特の言い回しというか、本当に煮て焼かれる予定だったなんて思わなかったし!」

 

「言い訳も言い逃れもしまくりだな黒鉄。男としてのケジメとは何だったのか」

 

一輝は黒乃にうるさいと抗議の目を向ける。一輝とったら目先の命が優先だ。一輝は助け舟を出してくれるだろうと藁にすがる気持ちで見るが

 

「………」

 

「(全力で空気になってるぅー!?)」

 

息を殺して気配を完全に殺している親友が、そこにはいた。

 

「……と、ともかくたかだか下着姿を見た位で命までは支払えないよ!」

 

「あ、バカ!んなこと言っちまったら……」

 

「こんなこと……?」

 

竜司の制止も届かず。一輝の不用意の言葉にステラの瞳に怒りの炎が灯る。燃えているのは瞳だけではなくステラの周りの大気が、ひりつくような熱を帯びてその燐光を散らす

 

「もう許せない!アンタみたいな変態・痴漢・無礼者のスリーアウト平民はこのアタシが直々に消し炭にしてあげるわ!!」

 

 

その熱で理事長の火災報知器が音を鳴らす。一輝は徐々に下がっていく

 

「待って待ってよ!ステラさん!ちょっと落ち着こうよ!」

 

「人の部屋に忍び込んで、この肌汚しておいてよくもそんな……!」

 

炎を撒き散らしながら一輝を追い詰める。一輝は後退りをしながら

 

「汚した!?別に何もしてないじゃん!」

 

「いや、脱いだんだろ?」

 

「え?それ!?いやいや、汚すようなことしてないよね!?」

 

首を降りながら抗議をしつつ下がる。炎と共に迫るステラに為す術なく

 

「うそ!アタシの裸を、いやらしい目付きでじーっと見てたくせに!」

 

「確かに見てたけど、でもあれは……ただそのなんと言うか、あんまりにもステラさんが綺麗だったものだから見とれちゃったんだッ!」

 

「ふぇッ!?」

 

瞬間、怒りで沸騰していたステラの顔が一層真っ赤になる。

 

「な、ななにをい、言ってのよバカ!み、未婚の女性に軽々しく、き、綺麗だなんて……こ、これだからデリカシーの無い庶民は……!」

 

さっきまでの炎はただのとろびまで弱まる。居心地が悪そうに視線をモジモジし始める。瞳は戸惑うように潤んでいた。どう照れているようだった。

 

「ともかくさ、今回の事はそっちが間違えて僕の部屋で着替えてたのが根本的な原因なんだからさ、ハラキリは勘弁してよ」

 

この一輝の説得に表情を険しくするステラ

 

「何をわけのわからない言っているのよ!あたしに部屋に勝手に入ってきたのはアンタの方でしょ!アタシはちゃんと理事長先生から貰った鍵であの部屋に入ったのよ!?」

 

その時にステラのセリフに違和感を覚えた竜司は、一輝に確認をする

 

「なぁ一輝、習慣のランニングの時は、いつも部屋の鍵をして来たよな?」

 

「勿論だよ。僕はいつも通りに部屋に鍵をかけた」

 

「ヴァーミリオンは鍵を開けて入っただよな?」

 

竜司はステラに質問を投げたステラの回答は

 

「ええそうよ。理事長先生から貰った鍵で入ったわ。それが何かあるの?」

 

「破軍学園の寮は基本二人一室。同じ部屋で鍵がある。どちらかが間違えたのではなくて……」

 

竜司は理事長の方を見ながら呆れた表情を浮かべる。理事長の黒乃は笑いをこらえていたという言うようにくっくっと笑う

 

「そうだ。皇樹の推察通りだ。つまり黒鉄もヴァーミリオンも、どちらも部屋を間違えていない。簡単な話……君達はルームメイトなんだよ」

 

黒乃は笑いながらとんでもないことを口にした。竜司はやっぱりかっというふうに手で顔を覆う。一輝とステラは

 

「「え、ぇぇえええええええええええええ!?!?」」

 

理事長室に驚愕の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 




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オリ主のステータスは次回後書きにて貼ります


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第2話 《落第騎士》と《紅蓮の皇女》

竜司は第三訓練場に足を進めていた。

理由は簡単、黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンが模擬戦で部屋のルールもとい負けた方が一生服従と言う謎の制約が課せられた戦いなのだ。竜司はそれを目の前で行われていたので『どうするんだこれ?』と思いつつも自分の親友と来日した皇女の一戦は見ないと損すると思い見に来た次第だ。

 

「たく、こんな謎ルールでよくやるよな。なぁ一輝」

 

「仕方ないよ。いずれは勝たなければならない相手だよ。それは竜司と理事長が知ってることでしょ?」

 

「ああ、ようやく一輝に来たチャンス。『七星剣武祭で優勝したら能力値が悪くても卒業させる』と理事長が言ったやつだったよな」

 

竜司は背を伸ばしながら言う。黒乃が理事長となり、一輝の卒業の条件だ。今まで不当に奪われてきたチャンスが今一輝の手の中にある。

 

「うん。七星剣武祭になれば、彼女も君も必ず出てくる。言ってしまえば遅いか早いかの違いだよ」

 

「そこまでわかってんなら存分にやってこいよ。お前が勝てば命令権はお前が持つんだしな。適当に条件出して、下僕云々は反故にしてしまえ。それで世は事も無しって奴だ」

 

竜司は一輝の背中を叩き、観客席に向かって飛び適当な座席に座り観戦する体制をとる。

 

しばらくして一輝と戦う相手の、ステラ・ヴァーミリオンが会場に現れる。

そして言葉を交わし

 

「来てくれ《陰鉄》」

 

「傅きなさい《妃竜の罪剣》!」

 

一輝とステラは魂の具現である剣を幻想形態で召喚し向かい合う。そして、天才騎士と落第騎士の戦いが始まった。

 

「おー始まった始まった」

 

竜司は自室の部屋の鍵を指で回しながら観戦する。ステラの一撃は第三訓練所を揺らす。馬鹿げた攻撃力。ステラの得物は大剣で移動速度は一輝の方が上回る筈だが、そんな常識は埒外の怪物に通用しない。

 

「魔力おばけだから、そういう芸当出来るよな。」

 

竜司は戦いを見ながら言う。周りはステラが一輝を圧倒しているように見えている。状況だけ見たらそうだろう。一見すれば、そう見えるものだ。だが、ステラは気づいていた。一輝の技巧の前にパワーが封殺されているという事に。

 

「(もうそろそろか?今回は随分時間かかったな。さぁ行けよ、一輝お前の剣術を見せてやれ)」

 

そして一輝の反撃が始まる。一輝がステラが使う皇室剣技を完全に模倣して上回り、全てを掌握し押し始める。そして遂に陰鉄が無防備になったステラに振り下ろされた。がその刃は届かなかった。理由は明白だ。決定的な差によるものだ。魔力を纏う伐刀者は、同じ魔力を纏った攻撃でないと倒せない。魔力がバリアの役割を果たすからだ。一輝の魔力はステラには届かない。

 

「(まぁ、これが現実だわな。努力や技巧だけで勝てるほど甘くない。普通ならな)」

 

だが、竜司は知っている。一輝の持つ最大の武器は目覚めてはいない。その時はもうくる。ただ一度それの発動により竜司は一輝に負けた。一度は竜司をも打ち破った一輝の最強の絶技

 

「《一刀修羅》!!」

 

魔力が増幅したと錯覚させるほどの可視化される魔力を纏い、ステラの《天壌焼き焦がす竜王の炎》を掻い潜る。ステラは剣は振るうが、一輝は疾風の如き速度で戦場を駆ける。

 

「速くなってる……!それに魔力も上がって!?」

 

「上がったんじゃない、なりふり構わず全力で使ってるだけだ」

 

「はぁ!?そんな心構え一つで能力が上がるわけないでしょ!?」

 

そう、"全力で使う"普通ならそれは心構えである。だが事一輝にその普通は通用しない。ただの心構えだけのの全力では無く、文字通りの全力を出しているのだ。本来なら生存本能が、全力を出すという心構えをしてもその実は許さない。生物の機能を維持するためだ。だが、それを意図的に無視をしたら……

 

「アンタ……まさか……っ!!」

 

「そうだよ、この魔力は上がったんじゃない。生存本能を意図的に破壊して本来使えない力に手をつけているだけさ!!!」

 

「(才能がない奴は努力で差を埋めるしかない。だが才能がある奴も努力をする。それだけじゃ追いつくなんて不可能。だから一輝は編み出しやがったんだ。一分という限定だが最弱が届く伐刀絶技を一刀修羅を)」

 

竜司は一刀修羅を発動した一輝を見ながら、口角を上げる。朝の打ち合いとは違う。互いの全力を一輝とぶつけ合いたいと、今度こそ勝つ。竜司の闘争心に火がつかないわけがない。

 

「僕の最弱を以て、君の最強を打ち破る―――!!!」

 

その言葉と共に一輝は驚異的な速度でステラの懐深く踏み込み、試合を決めた。ステラは力なく地面に崩れ落ちる。

 

「そこまで!勝者、黒鉄一輝ッ」

 

レフェリーの理事長が勝者の名を告げる。竜司は試合が終わる合図を聞き、ポケットに手を入れたままステージに降り立つ。

 

「お疲れいい試合だったぜ一輝」

 

「うん……ありがとう」

 

一輝の表情は非常に疲れ果てている。1分間ですべてを使い果たす伐刀絶技。何とか部屋に戻る体力しか残っていないのだろう。

 

「そら、肩貸してやる。くたばるのはそのあとでいいだろ?」

 

「ああ、ありがとう竜司」

 

「なあに親友だからな、気にするな」

 

竜司は一輝に肩を貸して、訓練所を後にして一輝を一輝の部屋まで送り届ける

 

「じゃあな、しっかり休んどけよ。お前のそれはピーキー過ぎるからな。それのあと休まないとなんもできないんだからな」

 

そう竜司はドアを閉めて、一輝の部屋をあとにする。

 

――――――――――

 

竜司がしばらくして、再び一輝の部屋に戻ってくる。

 

「(どうせまだ寝ているだろうし、入って置くか)」

 

寮のリビングに当たるところまで来ると、理事長と目覚めたステラが話していた。

 

「お、目覚めた見たいだな」

 

「ああ、皇樹か。今しがたヴァーミリオンが目覚めて、少し話をしていたところだ。お前のその両手の袋は買い出しでも行ってきたのか?」

 

理事長の質問に竜司は頷き答える

 

「まぁな。あれを使ったんだからな、まともに動けねぇだろうし、学食も間に合わない可能性もあると考えましてね」

 

そう言いながら、竜司は買ってきた食材を冷蔵庫に入れていく。

 

「理事長先生彼は?」

 

「ああ、あの場には居たが、彼のことは紹介していなかったな。彼は皇樹 竜司。ヴァーミリオンには劣るが彼も魔力量は平均の二十倍はある。言わいる天才の一人でこの学園でヴァーミリオン以外でのAランクだ」

 

「彼もAランク……」

 

ステラは竜司を見ながら呟く。近い魔力量を誇るAランクの人物。破軍学園に在学している学生でステラを除けば唯一のAランク騎士である。

 

「それで、理事長とヴァーミリオンはなんの話をしていたんですか?」

 

「なあに、黒鉄の事だ。あいつがどういう奴でどういう道を来たかという話だよ」

 

竜司は、"なるほどな"と頷き、ペットボトルの水をステラに渡し

 

「強かっただろ?一輝は」

 

「ええ、強かったわ。完敗よ言い訳なんて思いつかないほどの惨敗よ」

 

それを聞いて竜司は吹き出し笑い出す

 

「何よ、笑う必要は無いじゃない!!」

 

「いいや、わりィわりィ。俺もな一度一輝に負けているんだよ」

 

その言葉を聞いてステラは驚く。自分以外のAランクを彼は倒していたのだ。

 

「あいつは凄いよな。才能無いからと諦めるわけじゃなく、無いながらも勝つための手段を生み出し倒すための絶技までも作っちまったんだからな」

 

まるで自分のように一輝の事を話す竜司。それを見てステラから見ても、嬉しそうに話していた。

 

「リュウジはイッキと友達なの?」

 

「あ?ああ、小さい時からな家族ぐるみで色々交流はあったしな。俺が無理矢理一輝と友達になったのも家族で集まった時だな。まぁそれはおいおいな」

 

そう言うと、竜司は部屋を出ようと歩き出し。ドアノブを回し扉を開けて

 

「一輝が起きたら食材は買ってきてあるから自炊して食えって俺が言ってたの一輝に伝えてくれヴァーミリオン」

 

そう言い残し竜司は一輝達の部屋を去り、竜司は自分の部屋に入る。

 

「ただいまー」

 

「おかえりーリュウ君」

 

扉を開けて声をかけると、出迎える声が一つ。"実力の近い者同士で男女関係なく相部屋にする"と言う方式が理事長によって決められている以上、竜司にもそれが適用される。本来ならステラとなるだろうが、ステラとの相部屋になっている人物が一輝だ。なら考えられるのは、三人を除いた一人である。

 

「……まさか、姉弟子のアンタが俺と同室になるなんてな」

 

「私もびっくりはしたけど、何だかんだで師匠の所以来じゃない?」

 

校内序列二位の雷切・東堂刀華が竜司のルームメイトであった。彼らは同じ師を持つ姉弟弟子だ。交流はそこから始まり、互いに切磋琢磨をして強くなってきたのだ。

 

「今日のステラさんと一輝君の試合すごかったね」

 

「ああ、一輝は毎日鍛錬してるからいいけど、ステラ・ヴァーミリオンは想像以上だった。技の練度も、魔力の扱いも、才能だけじゃなく、それだけの努力を惜しまずしてきたのは見て分かった」

 

「この一年はとても楽しくなりそうだよ。私にとってもリュウ君にとってもね。最後の一年、今度こそは勝つつもりだよ」

 

そう言う刀華の表情は穏和な笑みを浮かべていたが、彼女の瞳の奥に刃物のようにギラつく野蛮な光を宿していた。その目は未だ上を目指し続ける野心の宿った光だ。竜司はそれを見て嬉しそうに笑う

 

「という訳で、リュウ君改めて一年よろしくね。この最後の年で私はリュウ君を追い抜く気でいるから覚悟しておいてほしいな」

 

差し出された手、竜司はその手をを握り、答える

 

「ああ、今年一年よろしく頼むぜ先輩。まぁそう簡単に追い抜かせるつもりはねぇけどよ」

 

かくして竜司の長い一日が幕を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皇樹 竜司(すめらぎ りゅうじ)
所属:破軍学園 二年一組
伐刀者ランク:A
伐刀絶技:画竜点睛
二つ名:NO DATA
人物概要:破軍学園最強の学生
攻撃力:A 防御力:B 魔力量:A
魔力制御:A 身体能力:A 運:C

以上が竜司のステータスとなっています!

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あと一週間開きます


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第3話 始業式 古巣の来訪

今回初めてパソコンからの投稿となります。
思ったよりやりやすくてこれからそうしようかなと検討しています
アンケートも始めましたのでお願いします


時刻は早朝。巨大な敷地を有する破軍学園の前に三つの影があった。

 二つは正門前で肩を上下させて呼吸を整えて、各々の飲み物を飲んで汗を首にかけたタオルで拭っている、一輝と竜司。彼らはいつもの日課なので、難なくこなすことが出来ている。三つ目の影はそんな二人からかなり離れた場所でヘトヘトになりながらも、二人がいるゴールの校門目指して進んでいるステラの姿があった。

 

一輝と竜司は体力維持のために早朝に二十キロメートルのランニングを日課として行っている。そして一輝と同じ部屋になったステラも同じように三日前からこの、日課についてきている。だが、それはただの二十キロメートルのジョギングではなく、肉体に尋常ではないほど負荷をかけてトレーニングを行っているのだ。全力疾走とジョギングを交互に行うというものだ。

 

「すごいな、ヴァーミリオンの奴三日目で完走したぞ」

 

「うん、本当にすごいよ。今まで鍛錬をし続けてきたのがよくわかるよ」

 

そして、ステラはふらふらになりながらも、一輝たちが待つ校門へとたどり着く。それを見届けて、竜司は使っていないタオルを一輝はスポーツドリンクを水筒のコップに注ぎ

 

「はい、スポーツドリンク」

 

だが、ステラは一輝が出したスポーツドリンクに戸惑いの色を浮かべる。

 

「え、……それ、間接キス……」

 

「どうしたの?……あ、ごめんステラ……。男が口をつけたコップ使うなんて嫌だよね」

 

「べっ、別にイヤだなんて一言も言ってないでしょッ!!」

 

竜司はそのやり取りを見ながら、ニヤニヤと笑い持ってきていたカフェオレを飲んでいた。竜司が後ろの看板を見ながら呟く。

 

「いよいよ始業式か、今年は色々と面白くなるな、一輝は此処からだな」

 

「うん。いよいよ、ここから」

 

一輝にとっては感慨深いものだ。一年目はチャンスを与えられることなく、すべてが過ぎ去ってしまった。だが、今年は違う。新理事長の新宮寺黒乃のもと、全ての生徒にチャンスが与えられている。待ち続けて到来したチャンス。いやがうえに、高揚するというものだ。

 

「なんだか楽しそうね。イッキ」

 

「そう見える?実は会いたい人がいてさ」

 

「……それって女の人じゃないでしょうね?」

 

その言葉と共にステラから殺気が放たれた

 

「(あれ、なんか殺気を感じる)」

 

「(これは面白くなりそうだ)ヴァーミリオン。一輝が会いたいのは十中八九、女の人だぞ」

 

「さようなら」

 

「待って待って!!とりあえず《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》をしまって!あと竜司は知ってるんだから、ちゃんと言ってよ!確かに会いたいのは女の子だけど僕の妹だから」

 

「妹さん?……そういえば決闘の時に、妹がどうとか言ってたわね」

 

「そう、その妹が新入生として入って来るらしいんだ……四年前実家を飛び出してからご無沙汰だったから、久しぶりに会えると思うとうれしくてね」

 

「でも、妹と一輝はあまり似ていないんだぜ?一輝の兄貴と一輝はまだ似てるけどな(ストイックなところとか)」

 

竜司は一輝の兄の黒鉄王馬のことを思い出していた。シニア時代に文字通り死闘を繰り広げて、その末に竜司が王馬を打ち倒した。あの時の戦いは竜司とっては今でも忘れることのできないほど鮮明に色濃く残っている。再戦を約束した気がするが王馬はストイックな為、今どこで何をしているかもわからない。ただ、次戦う時が来るのならば、あの高揚感、充実感をその身に刻むことが出来るということだ。

 

「(だったら、負けられねえな)」

 

心の闘志に再度火をつけ、意識を向ける。今回の七星剣武祭に出るためには、校内の戦いを勝ち抜かなければならない。まだ見ぬ強敵を夢想するのではなく、校内の立ちはだかる強敵を悉くを薙ぎ払うつもりで居なければならない。

 

 

担任の話を聞く。去年までは『能力値』で七星剣武祭に出る選手を選抜していたが、今年からは『能力値選抜』ではなく『全校生徒参加の実戦選抜』に変わり、その上位六人が破軍学園の代表として七星剣武祭のメンバーとして選抜する。試合日程は『選抜戦実行委員会』から学生所にメールで連絡が行きわたる。指定の日時、指定の場所に来なければ『不戦敗』となるので連絡は確認する事と伝えられた。選抜戦は大体一人十試合以上あるらしく、感覚も、三日に一試合あると考えるようにと伝えられた。

 

「(三日に一試合か……全然いけるな、上がれば上がるほど感覚が狭くなるのか?)」

 

竜司は話を聞きながら少し気になったことを頭で考えたが、毎日試合は無いだろうと小さくため息をついた。もしも毎日あるのならば一輝の『一刀修羅』が使うのが格段に厳しくなるだろう。並みの学生なら技量だけで勝てるだろうが、ステラや生徒会メンバー、自分や刀華なら、『一刀修羅』を使わずに勝つのは至難の業だろう。始業式などホームルームが終わり、竜司はあくびをしながら、一輝達がいるだろう教室に向かっていた。

 

「(一輝と模擬戦でもするか、俺も固有霊装の技を確認したいしな)」

 

そんなことを考えて欠伸をしながらダラダラと歩いて一年の教室に向かう竜司。一輝のクラスの教室の近くに来た時に何やら嫌な予感を感じさせる光景が広がっていた。教室から避難している生徒が居たのだ。

 

「おーい、一年生一体何があったんだ?」

 

「ええと、先輩ですよね?今教室内で黒鉄先輩の妹さんとヴァーミリオンさんが固有霊装を出して一触即発状態でして、危ないので避難させました!!」

 

元気よく眼鏡をかけた一年生の少女が答えてくれる。竜司はそれを聞いて苦笑いを浮かべ、大きく息を吐く。

 

「たく、初日から何やってんだよ、一輝はそういうの言っても弱いしなぁ。俺が止めるしかないな」

 

「え?危ないですよ先輩!?喧嘩している二人は今年の首席と次席でヴァーミリオンさんはAランクなんですよ!?黒鉄先輩じゃなければ止めれませんよ!?」

 

眼鏡をかけた少女はどうやら心配してくれているようだったが。竜司からしたら、そんなことより早く止めて、ただの口論だけに収めたい。先生が来たらただただ面倒なだけになる。それだけならいいが、謹慎なんてくらえば、七星剣武祭どころか選抜戦で戦うことも叶わない可能性だってあるのだ。

 

「んなもん大丈夫だ。俺も同じAランクだしな」

 

そう話を切り上げ竜司は固有霊装を出す

 

「廻りて集え《七天竜王》」

 

教室から避難してくる一輝と入れ違いに竜司が教室に入る。二人はもう激突寸前

 

「「殺すッッ!!!!」」

 

「《幻想魔竜(ファフニール)》!!」

 

二人の一撃は第三者の介入に防がれる。互いの剣は第三者の剣に止められていた。

爆炎と水流がぶつかり、まき散らされる破壊の衝撃は、介入した剣が受け止めて、被害を最小にとどめたのだ

 

「お前らさ、学内学外問わず許可なく霊装の展開は禁止されてるの……忘れたのか?まぁ入学初日で知らねえなら、今後覚えとけよ?お転婆後輩。次したら謹慎になるぞ?謹慎になったら選抜戦にも響いてくるだろ?やるんなら訓練場でしろよな」

 

そう言い、竜司は”両手の剣“を二人から離し元の形状の戦斧と言えそうな大剣へと形状を戻した。二人はありえないものを見た。霊装の形状が変わったのだから。

 

「分かった。今度から気を付けるわ。迷惑かけたわねリュウジ。あんたもそれでいいでしょ?」

 

「貴女に同意するのは癪ですが、大ごとにならなかったのは、私たちを止めた先輩のおかげですから。以後気を付けます」

 

「分かればいいんだよ。あとで理事長に修理してもらうように話を付けてくるから、こっちは任せとけ。おい一輝も行くぞ、止められなかったんだからお前も手伝え」

 

「分かったよ、竜司。今行くから。じゃあステラは先にもどってて。珠雫もまた明日話し合おう」

 

竜司は一輝を連れて理事長に向かう。その背中を二人の少女は見送っていた

 

「(竜司…………もしかして、皇樹竜司さんなのかな…………お兄様を私以外で見ていた友人……)」

 

珠雫は『竜司』という名前に聞き覚えがあった。だが、その竜司か確かめる前に一輝を連れて行ってしまった。珠雫は次に機会があれば聞こうと思った。

 

その後理事長により、教室は元に戻り、二人の処罰は竜司が厳重注意したということでお咎めなしとなった。

 




竜司の霊装についてですが
普段の基本形態はアルファモンの王竜剣をイメージしていただければいいと思います
今回使ったのは竜司の霊装の能力の一端です。


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第4話 ショッピングモール襲撃

投票の期限はまだ未定ですが、次回に期限を設けたいと思います


校門の前に一輝・ステラ・竜司の三人が立っていた。三人の服装はいつもの学生服とは異なり私服を着ていた。映画を見に行くのに竜司は誘われて参加している。事の発端は一輝の妹珠雫からだ。映画を見に行こうと一輝を誘い、そしてステラが自分も行うと参加を表明し、一輝は快諾した。そして謹慎にならなかった功労者の竜司も声をかけようとなった。竜司はその日ショッピングモールに行きぶらぶらと過ごすつもりだったので、誘いを受けていくことにしたのだ。

 

「遅いわね。何やっているのかしら?」

 

「同じ寮なら一緒に出てこれたんだけどね」

 

「仕方ないだろ。俺達は第一学生寮で向こうは第二学生寮だからなぁ。こればっかりは待つしかねぇよ」

 

第一学生寮と第二学生寮は校舎を挟んで正反対の位置に存在している。そのため待ち合わせは校門と決めて待っているのだ。

 

「まぁ、もう少ししたら来るよきっと。……にしても意外だったな。ステラがそんなに映画に興味があったなんて」

 

「……だって、あんな暗い場所でシズクとイッキを二人きりにするなんて危険すぎるもの」

 

「え?何が危険なの?」

 

「その話俺にも聞かせてくれよ、俺も気になるしな!」

 

竜司はめを輝かせて聞く、ステラは珠雫が一輝に会った初日に皆の目の前でしたことを竜司に聞かせた。それを聞いた竜司は大いに笑い

 

「まじかよ!!一輝!まじかよ!!アッハハハハ!!兄妹でんなことすんのかよ」

 

「そのことについては、珠雫は『四年ぶりに再会して感極まってやりすぎた。反省している』って謝ってくれたよ。そもそも珠雫にとっても僕は兄でしかないよ。そんなにパックリ食べられたりしないよ。初日が特別だったんだって。だから大丈夫だよ」

 

「(四年間の間で何がどうなったんだろうな……四年より前の珠雫は俺が知る限り一輝の後ろにトコトコついてきていた妹って言う印象しかねぇんだけど。すごいアグレッシブな妹になったんだな)」

 

竜司は一人で考えながら、一輝とステラのやり取りを微笑ましそうに見ながら時間をつぶしていた。

 

「お待たせしました」

 

「あ。珠雫―――――」

 

「遅いわよ。何をやって……」

 

「お、ようやく来た……」

 

振り返り三人の顔が何かが固まる音を立てて固まった。

 

「すいません。少し身支度に手間取っていたので」

 

頭を下げて謝罪する珠雫。だが、いつも以上に綺麗に見えた。普通じゃない上がり幅で。今回の珠雫の服装は銀色の髪と小柄な体型を生かしたゴシックロリータとなっている。珠雫の雰囲気も合わさって魅力をより一層引き上げている。ただそれだけでは無く、お化粧も都てもレベルが高く仕上がっていた。

 

「(凄いな、いつもの珠雫じゃねぇな。相当に気合入ってんだなぁ)」

 

竜司は珠雫・一輝・ステラの三人を見ながらふと気づく、もう一人足りないと

 

「なぁ珠雫。ルームメイトはまだなのか?」

 

「はい、もうすぐ追いついてくるはずですが」

 

「おいてきたのかよ」

 

竜司が苦笑いしていると

 

「んもー珠雫足早すぎ。そんなに急いで転んだりしたらせっかくのメイクが台無しになるでしょ?」

 

珠雫が言った通りにすぐにルームメイトの有栖院が三人の目の前に姿を見せた。その瞬間三人は

 

「「「え?」」」

 

三人の表情が再び固まる。プロ顔負けのメイクを施した珠雫のルームメイト有栖院がどこをどう見ても男だったから固まってしまった

 

「うふふ。初めまして。今日は誘ってくれてありがとう。あたしが珠雫のルームメイトの有栖院凪よ。名前で呼ばれるのは嫌いだから、アリスって呼んでくれたらうれしいわ♪」

 

珠雫と同じモノトーン基調・ヴィジュアル系の装いに身を包んだ長身瘦躯の男はボーラーハットを脱いで恭しく一礼すると爽やかな笑顔で三人に握手を求めた

 

「え、えっと、よろしく」

 

「これはご丁寧に……」

 

「俺は皇樹竜司だ、よろしくなアリス」

 

二人が動揺している間に、竜司はそれを受け入れたのか普通に自己紹介をして挨拶をした。挨拶もほどほどにして五人は予定通りに映画を見るべくショッピングモールへと向かった

 

 

破軍学園の近くには全国的に展開されている大型のショッピングモールがある。今回の目的地は最上階である四階の映画館だ。だが、そこへ直行せず、有栖院の勧めで一階のフードコートに来ていた。

 

「ん~~このクレープ美味しい~っ」

 

「確かに、クレープなんて無駄に高いだけだと思って敬遠していたけど、これはいけますね」

 

ステラと珠雫は大変気に入ったらしく美味しそうに食べている。有栖院を含めクレープを食べながら別の甘いものの話をし始める女子達を一輝と竜司は輪の外から見ていた。一輝と竜司はこういう女子特有のテンションがあまり得意ではない。一輝自身はそこまで甘いものが好きじゃないというのも手伝っている。竜司は洋菓子より和菓子の方が好きであるため会話に入ることが出来ず、ただ自分のクレープを食べていた。その後色々ありながらも、雑談をして時間をつぶしているといい時間になったので一同は四階の映画館に向かった。

 

「そういえばイッキ、今日はどんな映画を見るの?」

 

「俺も気になっていたんだ。聞いていないのか?」

 

「それは僕も知らないんだよね」

 

「……アンタ、何しに来たの?」

 

「それをステラに言われるのは心外だよ」

 

「なぁ、珠雫。今日の見る映画はどんなのなのだ?」

 

「それはですね竜司さん。ごく普通のラブストーリーですよ」

 

「やっぱり。ついてきてよかったわ」

 

ステラは大きくため息をつきながら、そんなことだろうと言葉を漏らす

 

「で、どんなタイトルなのよ?」

 

「『私は妹に恋をした ※R15』」

 

「それのどの辺が普通のラブストーリーなのよっ!!」

 

「一輝。俺初めて映画にR指定あるのみたきがするわ」

 

「僕もだよ。珠雫……この映画はちょっとやめておこうよ」

 

「えー。どうしてですか。どこに問題が」

 

「むしろ問題が無いところが見当たらないよ……と、とにかくこれはナシ!他の映画にしようよ!」

 

「あ!これなんてどう?『砂漠の王女カルナ』砂漠の盗賊団に攫われた姫が若い盗賊のリーダーに恋をするアニメ映画だって。なんかロマンがあって素敵」

 

竜司はその説明を聞いてアラジンのようなものか?と頭でイメージ居ていた。その間にステラと珠雫は言い合いになっている。そこで有栖院がやれやれと言い

 

「これじゃあ何時まで経っても決まりそうにないわね。よし、ならここはあたしが間をとって『男たちの失楽園 ※R15』にしましょう」

 

「「誰が性別の間を取れって言ったのよ!!」」

 

「流石にないわ……」

 

竜司はその映画のタイトルを見ながら引いていた。一部には需要はあるだろうが、新しい友人が乙女だろうが、さすがにこれを見ることに成れば竜司はトイレで映画が終わるまで籠るだろう。

 

「あとは、アクションだね。アクションならジャンル的にも男も女も楽しめそうだし、いいんじゃないかな?」

 

「アクションなら別にいいぞ」

 

「極めて残念ですが、お兄様がそれがいいというのなら」

 

「仕方ないわね。まぁアタシはアクションも好きだし別にいいわよ」

 

「じゃあ決定ね。ちょうど上映開始もうすぐだからちょうど良いわ」

 

「アリス。因みにアクション映画のタイトルは何というんだい?」

 

「『ガンジー怒りの解脱』」

 

「「「「なにそれすんごい気になる」」」」

 

坊主頭に上半身裸でムキムキ、それに重火器を手に佇むその姿は、混沌を極めていた。何をどうすればこのアクション映画のタイトルがつくのか不思議だった。その行き過ぎたカオスぷりに皆の意見がまとまったのだが……。

皆はエスカレーターで四階の映画館フロアを目指していたが、その途中三階で男性陣がトイレに行くために離脱する。

 

トイレで一輝とアリスが何かを話していた。それは竜司も知っていることだ。竜司が一年の時はAランクということで優遇されはしたが、友人の一輝は冷遇なんてものではなかった。一輝の我慢は異様だとアリスは言った。その言葉は竜司にも思うところがある。小さい時からの友人。だけどつらい事を話してくれたことは小さいとき以降何もない。本当に

 

友人として出来ることはしてきたとは思うが、一輝にとってそれがプラスに働いたかそれは一輝にしかわからない。ふと、嫌な予感を感じ取った。それは有栖院も同様だったらしく

 

「一輝、竜司ちょっとこっちに来て」

 

「え!?え、え!?」

 

「いいから行くぞ!走れ!」

 

「――――――――ッッ!?」

 

一輝達の耳を貫いたのは、爆発音とガラスの破砕音。そして銃声と悲鳴だった

 




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第5話 《解放軍》制圧戦

投票についてですが…………九月二十日までとさせていただきます。




荒い足音を立てて黒の戦闘服とガスマスクに身を包んだ二人の男が、一輝と竜司と有栖院がいるトイレに駆け込んでくる。

 

『よし、残ったのはこの男子トイレだけだ。個室は俺が調べてくるからお前は待っていろ』

 

『一々調べるなんてまどろっこしいことやる必要はねぇよ』

 

二人の内の一人がアサルトライフルの弾をトイレ全体に水平射撃をした。小さな部屋にけたたましく鳴り響く発砲音が止むころには、個室のトイレの扉は穴だらけになる。もし誰かがいれば無事では済まないだろう。しかし個室からは血が流れてくることは無かった

 

『よし、誰もいないな』

 

『何勝手なことしてんだっ!客は人質にするって言ってただろうが!』

 

『ぶっ放したい気分だったんだよ。いいじゃねぇか。血は出てこねぇってことは、中には誰もいなかったことだからよぉ』

 

『ビショウさんに殺されても知らねぇぞ』

 

下劣な笑い声をあげながら、男達はトイレを後にする。トイレに残る硝煙の匂いと破壊の跡。天井の蛍光灯が作り出す『影』から、水から顔を出すように現れた一輝と竜司と有栖院だけだった。

 

「ふぅ。どうやら行ったようね」

 

敵が遠くに行ったことを確認し、有栖院が『影』という黒い水から出る。その手には鈍色に光るダガーナイフが握られていた。

 

「なかなか素敵な能力でしょう。あたしの《黒き隠者(ダークネスハーミット)》の力は」

 

「影を操る能力か。確かに便利な力だね」

 

「身を潜めたり、索敵や移動にも使えるな……だけど、選抜戦では少し厳しい能力じゃねぇのか?」

 

「そうね、照明で照らされっぱなしで、影を作る障害物も無い試合だとあまり役に立つ能力ではないのが難点なのだけど」

 

「まぁ、今の状況ではその能力が一番適しているけどな。にしても彼奴らただの強盗にしてはてばやすぎねぇか?占拠されるまで気が付かなかったなんてな」

 

「一体彼らは何者なんだろう?」

 

「《解放軍(リベリオン)》」

 

「!?」

 

「やっぱりか」

 

有栖院が告げた迷いなく即答した名称に、一輝は目を見開き、竜司はやっぱりかと大きく息を吐いた。

 

「世界各国で話題のテロリストとこんなご近所で出くわすなんてね。だけどどうして、彼らが《解放軍(リベリオン)》だとわかるんだい?二人とも」

 

「あたしは、昔住んでいたところで、今日みたいな事件に巻き込まれたの。そのとき見た奴らと装備が一緒だったから」

 

「俺は二年前に海外でたまたま《解放軍(リベリオン)》が襲撃しているところに出くわして、そこの制圧に加勢してな。(まぁ、そのあとヤバイやつに完膚なきまでに叩きのめされたけどな)」

 

二人が過去の経験と今の状況を照らし合わせ今回の襲撃は《解放軍(リベリオン)》だと結論付けたのだ。

 

「別行動している二人が心配だな……一輝、理事長に連絡頼めるか?」

 

「固有霊装の使用許可だね?分かった」

 

一輝は電子生徒手帳を取り出し、はじめからアドレス帳に登録されている『緊急連絡用』の電話番号へ連絡を取った。電話はすぐ理事長の新宮寺黒乃に繋がった

 

『事態は把握している』

 

黒乃の第一声で全ての説明は省かれた。

 

「話が早くて助かります。では『黒鉄一輝』『皇樹竜司』『ステラ・ヴァーミリオン』『黒鉄珠雫』『有栖院凪』の五名の敷地外での能力使用を許可してください」

 

『了解した。五名に能力の敷地外使用を許可する』

 

「これで必要な手続きは終わりね」

 

「理事長そっちで掴んでいる状況を聞かせてもらえますか?」

 

『犯人は解放軍(リベリオン)。規模は二十人から三十人ほど。全員が銃火器で武装している。目的は身代金とモールの金品だ』

 

解放軍(リベリオン)の襲撃での死傷者は出てるのか?」

 

『襲撃時の騒ぎで慌てて逃げようとして転んだ軽傷者が数名だな。死者や重傷者は今のところは出ていない。監視映像をモニターしている警備会社によれば、買い物客五十名程度が人質としてフードコートに集められているとのことだ』

 

「フードコートって言えば、あたしたちがクレープを食べたところよね?」

 

「うん。あの吹き抜けになっている広場だ」

 

「あそこの近くで隠れて陣取れば制圧も行けるか?」

 

「とりあえず、状況を確認してからね。あそこなら《日陰道(シャドウウォーク)》の範囲内よここから一気に移動出来るわ」

 

『分かっていると思うが、一般人の安全、人命優先だ。くれぐれも無茶はするなよ』

 

頷き、一輝と竜司はスニーキング中に着信がならないように電源を落とす

 

「よし、行こう」

 

「頼んだぜ、アリス」

 

「お任せあれ」

 

一輝は有栖院の手を握り、竜司は一輝を握り有栖院が二人を牽引するように影の中に入る。

日陰道(シャドウウォーク)》の構造を知りえるのは《黒き隠者(ダークネスハーミット)》を持つ有栖院だけであり、この空間を支配しているのも有栖院だけである

 

「着いたわ、二人とも」

 

しばらくの間、闇の中を泳いで三人はフードコートの近くにワープする。場所はフードコート全体を見渡せる、吹き抜けの際にある三階の柱の陰。三人は日陰道から出てフードコートの様子をうかがう。情報通りにフードコートに人質が集められていた。その人質を囲むように武装した男達が円を描いている

 

「珠雫は人質に紛れているわね、ステラちゃんはいないわね」

 

「……いや、ステラもいるよ。珠雫の横に居る。鍔の広い帽子の子だよ。ステラは騎士として顔が知られているからね、隠しているんだよ」

 

「それはいいんだよ、状況あんまりよくないな。人質との距離が近すぎる」

 

竜司はフードコート全体を見ながら、芳しくない状況に嫌な表情を浮か

「下手に突入を仕掛けたら間違いなく死人が出てしまうよ。それに解放軍の頭数が情報より少ない」

 

「分隊行動しているのかしら。なにしろ……少し待つしかないわね」

 

「(それに、考えるなら、向こうも人質の中に紛れている可能性があるのも考慮しておかねぇと)」

 

竜司は人質を見ながら考える。今のところこの状況下でここに隠れている一輝と有栖院以外で確実に信用できるのは紛れている、ステラと珠雫の二人のみ。経験があるから警戒する。杞憂で終わればそれはそれでよし。こういう時に考えるものは良くない展開だ。しかし、考えていても別の角度から予想外な展開は開かれる

 

『お母さんをいじめるな―――――ッ!!』

 

「「「ッ!?」」」

 

突如、人質の小学生くらいの少年が銃を構えた解放軍の一人に襲い掛かったのだ。

 

「(なんてことだ!)」

 

「(まずいぞ、おい!)」

 

不味いと思うも三人位置ではあの少年を止めることはできない。そのまま少年はアイスクリームを兵士に投げつけた。そんなものに攻撃力なんてあるはずも無く。だがズボンを汚すにとどまる。しかしその兵士を怒らせるには十分だった。そしてその男は仲間の静止を振り切り、少年を守りに来た母親諸共撃ち殺そうとした。だがそれはステラの炎によって焼き払われた

 

「あんた達と戦う気はないわ。親玉と交渉させなさい」

 

「バカなこと抜かしてんじゃねぇなあに偉そうにいってんだ」

 

「銃を下ろせヤキン!」

 

その言葉と共に十人ほど完全武装した兵士を連れ歩いてくる、顔に入れ墨の入った男がいた。竜司はその男の服装をみて

 

「一輝、アリス。あいつ《使徒》だ今回の騒ぎの親玉だ」

 

「どうやら、そうみたいね。明らかに周りと違うわ」

 

「うん、僕も雰囲気でそう思った」

 

三人は上から様子を伺いつつ出るタイミングを計っていた。その時竜司はふと珠雫の方を見た。珠雫を中心に魔力が張り巡らされた。しかも竜司が魔力の気配を極小で感じ取ってとり、魔力を見ることに集中しないと見れないほどの迷彩をかけていた。珠雫の魔力制御はAランクでステラのB+より上だ。魔力制御だけで見たらAランク相当の力を持っているのだ。同じ魔力制御Aの竜司が見ることが出来たが。逆を言えば、現状況でそれを見破れる人物は他にいないということだ

 

「(まじかよ、偶然感じ取れ、見れた準備かよ……迷彩の技術高いな!)」

 

竜司は珠雫の技術に驚いていた。そしてそれが完成した時が突入のタイミングだと結論付けた。再びフードコートに目を移すと。ステラが敵にこぶしを叩き込まれ膝が落ちていた

 

「何があった!?ステラはAランク並みの伐刀者なら薙ぎ払えるはずだろ!?」

 

「おそらく、ビショウとかいうやつの固有霊装ね。左手で受け止めて、右こぶしで殴りつけたの。普通なら腕諸共だろうけど彼にはそれを防ぎたたきつけるほどの能力があるのよ」

 

有栖院が見ていた光景と憶測で竜司に話す。竜司は使徒のビショウを見据える。

 

「二つで一つ揃えの固有霊装《大法官の指輪(ジャッジメントリング)》でさぁ。その特性は『罪』と『罰』左は俺に対するあらゆる危害を『罪』として吸収し、右はその力を『罰』として放出する」

 

フードコートでは仰々しくも自分の固有霊装を語るビショウの姿があった。

 

「(つまり、あの左手で防がれず攻撃を当てればいいか、あいつが追い切れない速度で落とせばいいんだな。種が割れたら穴がある能力だな)」

 

ビショウの言葉を聞きながら分析した竜司。自分ならどう対処するかを考えていると

 

「あのガキの代わりに皇女様が誤るんですよ!全裸で土下座でね!!アハハハハ」

 

とんでもないことを言い出すビショウ。それを聞いて一輝が黙っているはずも無い

 

「あの野郎……!!」

 

今にでも飛び出しそうに立ち上がろうとした。竜司は一輝の肩を掴んでそれを止め

 

「このタイミングで出ても死人が出るだけだぞ。今じゃない耐えろ一輝」

 

一輝は強く拳をにぎり込む。怒りが目に見えるほど

 

「ヒヒ……もちろん強制はしませんがねぇ。嫌なら断ってもいいですよ。その時は予定通りにガキを殺すだけですが」

 

ステラが断れないのを知って言っているのが見え見えだった。そうただ辱めているだけだ。そしてステラは服を脱ぎいよいよ下着だけになった。こんなゲスどもの前で肌を晒さなければ恥辱に頬を真っ赤に染めながら耐えている。聞くに堪えない薄汚い声。それを素肌に直に受け、ステラの体が大きく震えた、その時一輝はステラの頬に何か光るものを見る。それはステラの涙だった。一輝をその場に押しとどめていた理性がそれを見た瞬間千切れた。しかし、一輝の体は意識とは裏腹についていけなかった。何かに縫い付けられたかのように。見れば一輝の影に《黒き隠者》が突き立てられていた。《影縫い(シャドウバインド)》相手の影を介して動きを封じる有栖院の伐刀絶技

 

「……冷静になりなさい」

 

「だけど……ッ、今出ていかないとステラが……!」

 

「落ち着け一輝。ここで出ていったらステラの頑張りが無駄になる。それに珠雫が今動いている。だから少し待てよ」

 

「気づいていたの?」

 

「まぁな。あいつはだれにも気づかれることなく事を運んでいるんだ」

 

「ええ、魔力を隠しながら人質を守れる水の結界の準備をしているわ」

 

「……そんなの、どこにも見えないけど」

 

「そりゃそうよ。珠雫はBランク騎士で全体の能力値で見たらステラに劣るけど『魔力制御』だけなら今年の入学生のなかでもぶっちぎりのナンバーワンなんだから。その一点においてはAランク相当の力を持っているわ」

 

「ああ、珠雫クラスが本気で迷彩かけたら並みの伐刀者はおろか、それに秀でていなければ見ることなんて叶わねぇよ。だからもう少し待て一輝。結界を張ると同時にお前が奇襲をかけろ」

 

それを言い終わると同時に有栖院がディスプレイを見せるマナーモードにしていたため鳴らなかったのだろう

 

『今決壊はってる できたら合図出す』今結界張ってる

 

端的で誤字だらけのメールだが、意味は伝わった

 

「(珠雫ッッ!)」

 

一輝は歓喜を込めて心の中で妹の名を叫ぶ。その求めに応じるように

 

「《障波水蓮(しょうはすいれん)》――――ッッ!!」

 

水を使う伐刀者・黒鉄珠雫が生み出す水の防壁が、人質と解放軍を分断する。

 

「あとはお願いします。お兄様、竜司さん」

 

珠雫は小さく言う。そしてその二人が動き出す。

 

「来てくれ《陰鉄》」

 

「廻りて集え《七天竜王》」

 

一輝は飛び出しすぐさま伐刀絶技を発動させる

 

「《一刀修羅》」

 

そしてビショウの固有霊装をかいくぐり

 

「第七秘剣雷光」

 

ビショウの目には信じられないものを見た。血しぶきをあげながら飛ぶ自身の左腕を。あらゆる攻撃を無力化しようが見えない攻撃は掴みようがない。防げないのだ。だから一輝は剣の振りを早くした視認できない速度まで早めて

 

『一輝は奴を倒せよ、俺達は雑魚をあいてにするから』

 

『そうよ、一輝はあの下品なボス猿を確実に無力化して』

 

二人に言われるように無力化を果たした。残りの雑魚は有栖院が片付ける前にステラが片付けてしまっていた。そして事態の収束しつつあり、珠雫が一輝の頼みを聞き、ビショウの出血を止に行こうとした瞬間

 

「動くなァァァァ!!!」

 

突然引きつった悲鳴にも似た怒声。それは人質の中から聞こえた一輝達は振り返る。紺色のスーツにも似た服を着た女性が中年の女性のこめかみに拳銃を突き付けていた。

 

「た、たすけてぇえええ!!」

 

「ガキども動くんじゃな!余計なことをしたらこの女を殺す」

 

「連中の仲間!?」

 

「人質の中に紛れていたのはてめぇらだけじゃねぇんだよ!間抜けがぁ!!」

 

断ち切られた左肩から血をほとばしらせながら、入れ墨の顔に歪ませる犯罪者。

 

「おい!そこのゴスロリのチビ!」

 

「ち、ちび……ですって!?」

 

「ああそうだ、テメェだチビ。治癒できるんだってな、聞いていた。こっちに来て俺の腕を治せェッ!できないとはァ言わねぇよなァ言わせねぇよォ?」

 

ビショウの笑い声に、ヒィ!と中年女性の悲鳴が続く。一輝は珠雫に腕を治すように声をかけようとした瞬間

 

「《神炎之蛇竜(ヒノカグツチ)》」

 

ぽつりと声が聞こえ次の瞬間。拳銃を突き付けた解放軍の女性が天に打ち上げられた。その女性は意識を失い地面にたたきつけられる

 

「《瞬天石火(しゅんてんせっか)》」

 

灼けるような紅い刀身の刀を握った竜司が居た。竜司は女性が気絶したこと確認すると、ふぅと息を吐いた

 

「やっぱり貴方の読み通りだったわね。竜司」

 

有栖院がふぅと胸をなでおろしながら言う。竜司はみんなの方を向いて

 

「これで全員片付いたな」

 

そして警察がきて事件は終息する。竜司が生徒手帳を再起動させると、ルームメイトから心配してるメールが来ていたのは別の話である




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第6話 選抜戦開幕

どうも、皐月の王です、投票の期限は言っていた通りに、二十日ですが時間は二十三時五十九分までとさせていただきます。

ご了承ください


解放軍の事件から一夜明け月曜日に成り、七星剣武祭のための選抜戦が行われていた。

竜司は第二試合に戦うことに成っている。竜司にとっては選抜戦は通過点であり、決して躓くことが許されないものである。持てる力で対戦相手と戦い勝つことだ。竜司は静かにその時を待つつもりだったが。知り合った後輩、いずれ戦う好敵手の戦いを見逃すのはやっぱり惜しいと思い、モニターで観戦していた。本当なら直にみたいのだが、遅刻で不戦敗なんて、刀華に知られたら説教は免れないだろう。静かに待つと考えながらも凄いソワソワしながら見ていた。

 

「やっぱり、桃谷さんはうごけないよな。焼身自殺しろと言われてする奴はいるわけないよな」

 

『私の《妃竜の息吹》は摂氏3000℃。火傷じゃすまないわよ』

 

一輝との模擬戦の時に言っていた言葉を思い出しながら苦笑する。一輝は剣術の技量、そして『一刀修羅』があってステラに勝てた。しかし、桃谷の固有霊装は珍しい甲冑型であり、校内でも一桁序列に入っている実力者ではある。だが、相手は入学して二つ名を持ち、十年に一人の逸材と謳われたAランク騎士、《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオン。燐光を散らし、大気を燃やす目の前の少女。十メートルは離れているにも関わらず甲冑を焼く。対峙してわかる目の前の対戦相手の存在感。これに挑み突っ込むなんて身投げ以外無い。

 

「(こんな熱量、皇樹の《神炎之蛇竜》状態の《七天竜王》と対峙して以来だ、いや、それ以上に……クソ……)」

 

そして桃谷は息を吐き、悔しそうに自分の負けを認め降参する。西京先生からの貶しているのか褒めているのかわからないコメントをしていた。そしてステージに来るように指示を受け、竜司は向かう

 

『ええ、続きまして第二試合始まります!その固有霊装は七変化が如く、その強さは竜の如く、《紅蓮の皇女》と同じくAランク騎士。二年皇樹竜司選手です』

 

ゆっくりと歩きステージに姿を現す。その表情は戦いが楽しみだと言わんばかりの表情を浮かべていた

 

『それに対するは同じく二年Cランク。その二つ名は恐怖を掻き立てる。結月遊兎(ゆづきゆう)選手です』

 

対面のコーナから対戦相手が歩いてくる。紫色の髪でサイドを伸ばしくくっている。制服の上にはフード付きの黒いパーカーを着ている少女が歩いてくる

 

「はぁ、初戦から貴方ですか……少し不利と言うか、完全に勝ち目がないじゃないですか」

 

「そう言うなよ、結月。お前だって七星剣武祭出たいから、ここに立ってんだろ?」

 

遊兎はため息を着きフードを被り、竜司を見据えて言う

 

「それはそうですよ、私だって伐刀者の誇り位はありますよ、そりゃ。だから……」

 

フードを脱ぎ、竜司を見据えて、闘志を迸らせ、宣言するように言う

 

「勝たせてもらいますよ、皇樹さん!!」

 

「そうこうなくちゃな!!」

 

その直後、試合開始を告げるブザーが鳴り響く。

 

「廻りて、集え《七天竜王》!!」

 

竜司の声に応えるように、風が竜の形を成し竜司の手に集約され、その姿を露にする。対する遊兎も自身の魂、固有霊装をだす

 

「突き立てろ《血濡れの刃(ブラッド・エッジ)》」

 

真紅の大剣が召喚される。互いの得物は似たような大型の武器。そして先に動いたのは遊兎の方だった。真っ直ぐ走りながら、竜司が動き出す前に先制を仕掛ける。

 

「皇樹さんが動き出す前に、一撃入れさせてもらいます!!《血の斬撃(ブラム・ザッパー)》!!」

 

遊兎の固有霊装が赤く血のように輝き、竜司の上を取り、叩きつける。竜司はそれを《七天竜王》を片手で持ち防ぐ

 

「思い切りはいいけど、正面からの攻撃でそう簡単に俺はたおせないぜ?」

 

「それは分かってます。だからこそ、上を取ったのですよ!」

 

 

「どういうことだ……?あ?」

 

遊兎の固有霊装から赤い液体が、竜司の足元に落ちる。それは、竜司の下や周りにもう展開されていた

 

「これは……そうか!」

 

「気づきましたか?でも、もう遅いです!!《血染めの極刑(ブラム・パイル・ベイ)》!!」

 

竜司は遊兎を弾き飛ばすが、その直後、足元の赤い液体は杭となり、竜司に突き立てた。周りから見たら串刺しにされたように見える。竜司は項垂れている

 

『おおっと!!結月選手の伐刀絶技《血染めの極刑が》炸裂した!!これは皇樹選手も危ないかぁ!?』

 

そんな実況を聞きながら、試合を見に来ていた、珠雫とステラ。はた目から串刺しにされている竜司を見て

 

「リュウジ先輩やれたの!?それだけその、ユヅキ先輩との相性が悪かったとでも言うの?」

 

「いいえ、わかりません。でも、お兄様の友人が、簡単にやられるとは思いません。竜司さんがそう簡単に……」

 

「でも、見なさいよシズク。どう見てもあれは串刺しよ!?実戦なんだから危ないわよ!?」

 

幻想形態での模擬戦では無い。それは命にも関わることだ。知り合いが串刺しに成れば心配もするのだが

 

「いい手だったぜ、結月」

 

その声を聴いたのは同じ場所に立っている、遊兎だけだった。遊兎は顔を引きつりながら言う

 

「やっぱり効いていないですよね……当たったから行けたと思ったのですが」

 

その言葉を聞くと同時に、竜司は魔力を迸らせ、《血染めの極刑》で出来た杭を粉々に粉砕した。そして体勢を整える。肉体どころか、服にもダメージが無い。自身の魔力防御だけで防ぎ切ったのだ。

 

『ああっと!皇樹選手ノーダメージ!!あの攻撃をくらいながらもノーダメージです!!』

 

「じゃあ、今度はこっちから行くぞ!!」

 

《七天竜王》を両手で持ち、半身に構え、大型の武器を持っているとは思えない速度で、遊兎の目前まで迫る

 

「クッ!!」

 

遊兎は《血染めの刃》を振り下ろし迎撃しようとするが、それは少し遅かった。既に竜司の伐刀絶技は遊兎に牙をむいた

 

「《画竜》」

 

《七天竜王》を下から振り上げる。それが竜巻を生み出し、遊兎を巻き上げ拘束する。遊兎は為すすべなく巻きあげられ、竜巻の中で良いように遊ばれる。竜司はもう一度構え、もう一度《七天竜王》を振るう

 

「《点睛》!!!」

 

《七天竜王》をもう一度下から切り上げるように振るった。魔力の斬撃は青白い龍となり竜巻の遊兎を喰らい、地面に落ちる。地面に落ちてきた遊兎にこれと言って外傷はなかった。それもそのはず、竜司は自身の伐刀絶技を放つ前に幻想形態にして放ったのだ。

 

『試合終了!!勝ったのは二年皇樹竜司選手!!圧倒的な力の差を見せつけて初戦突破です』

 

試合が終わり歩いていた竜司。曲がり角でルームメイトの東堂刀華と出会う

 

「試合お疲れ様リュウ君。一回戦突破おめでとう」

 

「ありがとうな、刀華先輩。でもまだ始まったばかりだしな。油断は出来ないけどな」

 

「その割には、躱せそうな攻撃を受けていたのはだれかな?どの口が言うのですか?」

 

刀華は竜司の頬を引っ張りながら、ある意味怖い笑顔で言う。

 

「イタイイタイ!ごめん、ごめんにゃさい!!」

 

その言葉を聞いて、刀華は頬を引っ張っていた手を放す。竜司の頬は赤くなっていた。竜司は頬押さえて、痛かったと感想を小さく言った。

 

「そっちの試合は明日だっけ?」

 

「そうですね、明日の第二試合に第一戦目がありますね」

 

「うーん、アイツと試合被ってなければいいんだけどなぁ、それはアイツに聞きにいくしかねぇなあー」

 

はぁ、と大きな溜息を吐きながら、頭をかき少し面倒くさそうに言う

 

「そんなことで、面倒がっていたらあかんよ!!しゃんとして早く行く確認してくる!!」

 

刀華はだらけた竜司に喝を入れる。竜司は啓礼をして

 

「わ、わかりました!今すぐ聞いてきます!!」

 

と言い走り去っていった。

 

 

「で、一輝の試合っていつだっけ?」

 

「それを聞くために態々来たのかい?竜司」

 

「おう、それに。一輝の相手はあの桐原だろ?去年よくちょっかいをかけてきた、去年の次席の」

 

「うん、でも、勝たないといけないのは一緒だよ。だから僕は必ず勝つ」

「……まぁ、一輝がそういうならいいけど、あんまり気負うなよ?今のはお前らしく……いやなんでもねぇ。とりあえず、明日に備えとけよ。いつも通りにやればお前なら勝てる見込みは十分にあるんだからな」

 

「うん、ありがとう。明日頑張るよ」

 

そういい竜司は一輝の部屋を後にする。そして自室に戻る。部屋の扉を開けると、とてもいい匂いが漂ってくる

 

「お帰りリュウ君。今日の晩ごはんはカレーライスですよ、手を洗ってきて下さい」

 

そこにはエプロン姿の東堂刀華が居た。匂いの正体はカレーライスだった。竜司の好物の食べ物の一つだ。

 

「分かった、直ぐに行ってくる!!」

 

竜司は機嫌よく手を洗い、自身の好物のカレーを楽しんで食べた。しかし、明日の一輝と桐原の試合が気になっていた。明日、何か波乱があるのは間違いないだろう。そう感じていた。

 

 

 




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原作キャラを違和感なく喋らすの難しいですよねw


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第7話 無冠の剣王

遅れてすいません!週一度のペースで上げれたらいいと思います!


「――――《雷切》」

 

刀華は伝家の宝刀の雷切を抜き放ち、見事に勝利を収めた。竜司はその試合を見届けて、試合が終わると同時に刀華のところに歩いて居た

 

(刀華の雷切、去年よりキレが増している。俺も他の伐刀絶技をそろそろ使わねぇと、偏りが出てくるよな)

 

刀華の雷切を久々に見て、そのキレが進化したのを見て、あの日の言葉を思い出す。

 

『最後の年で私はリュウ君を追い抜く』

 

あの時の目、あの時のオーラを竜司は覚えている。だが、抜かさせる気なんて無い。竜司が目指すは七星の頂。自身の知る人物はそこの頂に集うだろう。竜司のやるべきことは、それを正面から叩き伏せ勝つこと。だが、それでも好敵手の成長、知人の進化は見てて心が躍らない訳がない。そして願わくば、最高の舞台でぶつかり合いたいと思うものだ。それはまだ遠い話だ。心配する事のない試合のあとは、不安が渦巻く試合だ。黒鉄一輝と桐原静矢との一戦。一輝が過去を越えるか、静矢がそれを嘲笑うかの戦い。そんなことを考えながら、刀華のとこに辿り着く

 

「お疲れ刀華。技の精度、キレが去年より格段に良くなってたな!!ほい、スポドリ」

 

「ありがとうリュウ君。私もとりあえず突破したよ。それよりいいの?黒鉄君と桐原君の試合が始まるんじゃないの?」

 

「あ、そうだった。あいつに声かけるつもりだったんだ。言ってくれてサンキューな!」

 

そう言って竜司は一輝の所に走り出した。二分もかからずに一輝の控室に来る。その時、タイミングよく、竜司の苦手な人物が一輝に絡んでいた。それを見た瞬間ピリャリと足が止まった。

 

「どうよ。今夜あたりうちの部屋で特別授業――――」

 

(あのひと遂に学生に手を出し始めたのか……)

 

竜司はとても残念な人を見るような目で見る。尊敬できる人の一人なのだが、こういうところを見ると、やはり少し人として残念に思う。勿論理事長もそんなことを許さず。

 

「貴様、ウチの生徒に何している」

 

ドスの利いた声を西京寧音にかける新宮寺黒乃。

 

「うわっ、びっくりした―。やめたよくーちゃん。いきなり人の後ろに立つのあさぁ、思わず殺しちゃうところだったよ」

 

「私が貴様如きに殺されるものか。それよりこんなところで何をしている。貴様には第四訓練場の解説と監督を任せたはずだが?」

 

「あー。うん。でもあんまりしょっぱい試合やってるもんだから暇でさー」

 

ゴツン、と低い位置にある西京の旋毛を殴り、西京をずるずると引っ張り

 

「持ち場に戻れ、歩く公然猥褻罪」

 

「あーあーっ、わかったわかったから着物を引っ張るなー」

 

竜司はそれ情けないものを見る目で見送って、一輝の所に行く

 

「あーこら私を助けろー」

 

うしろから何か聞こえたが無視を決め込む。小さくため息を吐きながら、一輝と顔を合わせる

 

「よう、まだ控えに入ってなかったんだな」

 

「うん、今から入るところだよ。試合まで少し落ち着くつもりだけど」

 

(落ち着いて見えるけど、控えに入ったら、一度崩すだろうな)

 

一輝の様子を見ながらそんなことを考える竜司。誰だって公式戦の最初は緊張するものだし、実戦形態での試合ともなれば大抵の人物は一度は止まる。覚悟を決めて選ぶものだ。一輝は迷うはずも無く選んだんだろう。そうするのは用意であり、その辺の心配はしていない。ただ過去、初めての公式戦初めての試合。この二つが一輝にのしかかったらとおもうと、一度は集中は途切れるだろうと、竜司はおもった。

 

「まぁ、遅刻するよかはいいけどぉ。あんまりガチガチになるなよ?緊張で動けませんでしたなんてなるなよ?あと、もし集中が切れたら深呼吸でもしろよ?とりあえず、ほい、スポドリ。緊張やアップをすると汗とか喉乾くしな、差し入れだ」

 

「ありがとう、竜司。必ずに勝つよ、この試合に」

 

「……ああ、観客席から珠雫達と見てるぜ」

 

そう言い竜司は踵を返してその場を後にする。らしくない親友の言葉を聞いて……

 

 

「あっ、竜司さん。隣開いています、どうぞ座ってください」

 

「お、サンキュー」

 

珠雫達が座っている所を見つけ、一緒に座った。竜司は持ってきたお茶を飲みながら試合が始まるのを待っていた。その時は間もなく訪れた。

 

『今回のカードも大注目です!方や昨年一年生にして七星剣武祭に出場を果たしたCランク騎士桐原静矢選手!』

 

紹介と同時に黄色い声援が飛んでくる、竜司は相も変わらずだなぁと苦笑いしながら見ている。

 

『対するはFランクながら、模擬戦でヴァーミリオン選手に勝った、黒鉄一輝選手です!』

 

二人が姿を現し、中央に歩み寄る。

 

「本当に出てくるとはね。今回もボロ雑巾にしてもいいんだよな?《落第騎士》」

 

「やれるなら、やってみるといい」

 

二人は僅かに言葉を交わし、開始線に立つと

 

「来てくれ。《陰鉄》」

 

「さあ狩りの時間だ。《朧月》」

 

互いに、己の固有霊装を展開する。

 

『それでは本日の第四試合、開始です!』

 

試合の火ぶたが切られた。静矢は開始と同時に森を生み出す。静矢の伐刀絶技《狩人の森》を発動させる。そしてその森に溶け込み姿を消す。対人戦では最強と言われる《狩人の森》姿が見えないどこから矢が放たれるかもわからない。これを攻略するにあたっては広範囲攻撃が無いと苦戦が強いられるのは必定だろう。一輝にその攻撃方法は持ちえない。だが、

 

「そこ!!」

 

飛んできた矢の方向から居場所を特定し攻撃を仕掛ける。そして影をとらえる。何もない空間から、制服の切れ端が出てくる。

 

「ふぅ。危ない危ない。たいした集中力だ。迂闊に矢を撃てば足元を揺らされるなぁ。でもさぁ初戦は小手先だけが通用するのは無能力者のクズどもの世界だけだ。クズに毛が生えた程度の君が本当にその程度で《狩人の森》を破ったとでも?」

 

「やってみなければわからないよ」

 

「ああそうだ。やらないと分からない。だから、もうしたんだよ《落第騎士》」

 

次の瞬間右太ももに風穴が空き、血が噴き出した。

 

「ぐっ、ああ!」

 

予期していなかった激痛に苦鳴を漏らす。だが、それ以上に驚きの方が出かかった。一輝の集中力はあらゆる攻撃に対応できる状態だった。だが、攻撃は右太ももに攻撃が命中している。一輝は風穴の空いた太もも見て触れる。そこにまるで矢が刺さっている感触があり、握ると質量のある魔力の感触があった。一輝にとって最悪の事態。それが牙をむき出す

 

「気づいたようだね。今年の《狩人の森》はボクの放った矢もステルス化できる。当たってからじゃないと知覚することもできない!!じゃあ、宣言通りボロ雑巾にするよ、《落第騎士》」

 

観客席から試合を見ながら状況が芳しくないのを竜司はただ黙ってみていた。

 

「これは不味いわね」

 

「ええ……。お兄様は飛んでくる矢を目印に、桐原の攻略を組み立てていた。だけど、今それが、根底から覆された。飛んでくる矢を知覚出来なくなったんじゃ、反撃はおろか防御行動すらとれない」

 

「さすがは去年の七星剣武祭代表生ね。攻守共に一切の隙が無い。とんでもない能力だわ」

 

「違う!」

 

有栖院の言葉にステラが強い口調で割り込む

 

「確かに《狩人の森》がこんなに反則級の技になっていることにも驚いたわ。だけど、問題じゃない!それ以上にイッキの様子がおかしいわ!」

 

「お兄様の様子がおかしい?」

 

「そうよ!だって、どうして開幕速攻をかけなかったのよ!敵が消えるのは分かっていたことでしょうっ!だったら、開始線上に必ずいることがわかっている勝負をかけるのが一番確実じゃない」

 

それを聞いて珠雫は呆れたように

 

「貴女こそ、この間のテロリストの一件でなにも学んでいないの?伐刀者相手に不用意に飛び込むのは自殺行為。まずは相手の呼吸を読み、癖を盗むのがお兄様の剣です。貴女もやられていたじゃないですか」

 

「違う……。確かにイッキは敵を観察して、手順を重ねて確実に勝ちを取りに行く騎士。だけど今回の敵は姿を消すのよ!?見えない敵からの攻撃に常に備えなければいけないなんてどれだけの消耗を強いられるのかわかる!?イッキがそれに知らないわけが……」

 

「速攻を仕掛けなかったんじゃねぇんだ。出来なかったんだ」

 

竜司の声が上がる。ステラは反論するように

 

「そんなわけないわ!イッキがそんな当たり前の見切りが出来ない騎士じゃないっ!」

 

「そんなのは俺も知ってる。だがなぁ、あいつがこの舞台でそんな当たり前が出来ないほど、あがってしまってるんだよ」

 

「うそ……そんな素振りは……!」

 

思い当たる節があるのか、はっとなるステラ。

 

「思い当たることが、あるみたいだな。けどあいつを責めんなよ?この前アリスも言ってたが自覚がないほどに、傷つけられるのに慣れている……この公式戦に来るまでにあいつは苦労を重ねてきた。それを考えたら、この反応は普通だ。むしろケロッとしているほうがどうかしているぜ」

 

「ともかく……、矢と言う標が断たれた今、深い森の中に隠れた《狩人》に一輝の牙は届かない。ステラ、珠雫は覚悟していなさい。ここから始まるのは一方的な《狩猟》よ」

 

(ああ、このままだと、文字通り《狩人》に《狩猟》されて道は断たれるな。このまま終わる程度の男なら、最初からここまで来ない。お前なら超えるんだろう?今より先にじゃねぇとお前……!)

 

竜司は落ち着いた表情で試合を見続ける。ただ黙って。信じて見続けるが、静矢の煽り、一輝の卒業条件、誹謗中傷が聞こえ、苛立ちを徐々に募らせる。そして、一輝に諦めの色が見えた瞬間、我慢できなくなり檄を飛ばそうと口を開けた瞬間、

 

「だまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

隣の人物、ステラが罵声の波を切り裂く。視線は一気にステラの所に集まる

 

「FランクがAランクに勝てるわけがない?そんなの、アンタ達が勝手に決めつけた格付けじゃないのッ!アタシ達天才に何をやっても勝てない。そうやって勝手に枠にはめて、自分の諦めを正当化してるだけ。そうやって諦めるのは勝手よ。でもお前たちの諦めを理由にイッキの強さを否定するなァ!!。イッキ何情けない顔してんのよ!こんな所で諦めかけてんじゃないわよ!上を見ているアンタが好きなんだから!アンタはずっとかっこいいアンタのままでいなさいよ!!このバカァアァアァッ!!!!」

 

それに続くように竜司も立ち上がり、一輝に言葉を飛ばす

 

「何時まで寝てるつもりだ一輝!!何のために今まで頑張ってきたんだ!?今まであきらめてこなかったのに、ここで、こんな所で終わるつもりなのか!?立て!!立って戦え!!諦めるな!!お前の騎士道はそんな程度で終わるもんじゃねぇだろ!!!!」

 

ゴンッ! と一輝が自分の拳で自分の顔面を音が響くほどに殴りつけた。

 

「ありがとう。ステラ、竜司。良い活が入った」

 

そのあとは早かった。模倣剣技の対象を人に置き換え、思考を読み切る技、《完全掌握》を生み出し、桐原の《絶対価値観》を盗み行動思考を完全に盗み。勝利を得た。だが、それまでに負った傷がひどいため、ips再生槽に運ばれた。他の人間はこの試合を見に来ていただけなので立ち去っていく。

 

「こりゃ次の試合の奴が可哀想だな」

 

「そうですね、でも私も正直に言うと興味がありません」

 

「珠雫は病室に行かないの?」

 

有栖院は隣の珠雫に尋ねる。

 

「行ってもどうせ眠ってるもの、それに今日はあの女と竜司さんが勝たせてくれたものだし。だから今日は許すの」

 

「んじゃ、とりあえず三人で食べに行くか。一輝は一刀修羅で起きれないし、ステラはそれに付き添うだろうし、アリス良い店知らねぇか?」

 

「勿論知ってるわよ。料理もお酒も美味しいお店をね」

 

「……アリス、竜司さん。言っておくけど、たぶん私数時間後、あの雌豚と兄さんを二人きりにしたことを後悔して荒れると思うから、覚悟しててよ?」

 

「うふふ。それはそれで、楽しみね♪」

 

「分かったよ、じゃあ行きますか」

 

着替えてから行こうと話が決まり三人は人の流れの後ろから出口を目指す。

この日《落第騎士》の他にもう一つの名前が生まれたその名は《無冠の剣王》もう、一輝はただの《落第騎士》には戻れないことを示したものだ。

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投票の結果三つが同数だったため、改めて二人✛新たに一人を追加して投票をしたいと思います


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第8話 《深海の魔女》VS《七剣の竜帝》開幕

遅れましてすいません。ヒロイン投票は今回で打ち切ります。
結果はエーデルワイスに決定しました。自分なりに頑張ります


一輝が《剣士殺し》との決闘で勝利をおさめて一週間が経った夕方。いつものメンバーではなく、一輝、ステラ、有栖院が話していた。

 

「へえ。珍しいわね。シズクがイッキから離れるなんてね、しかも自分から」

 

「まあ。気を締めているでしょうね。……次の相手が相手だし」

 

「あれ?珠雫の対戦相手ってもう決まったんだ?」

 

「あら?もしかして二人ともまだ知らないの?」

 

一輝はステラに知ってる?と目配せするも、ステラは首を横に振り否定する。一輝も知らない

 

「アリス。珠雫の次の対戦相手って誰なんだ?相手が相手と言うほどだから、相当の強敵みたいだけど」

 

少し心配になって尋ねる一輝。有栖院はとても難しい表情になり応える

 

「強敵にしては質がわるい強敵よ。だって――――――――この学校の序列一位だもの」

 

それを聞いて一輝は驚いた。ステラはこの学校序列一位がどんな人物なのか知りえていない。だからそこまで驚いている一輝に尋ねる

 

「ねえ、イッキその序列一位って誰なの?イッキの知り合い?」

 

「それどころか、僕たちは彼とよく顔を合わせているよ、朝の習慣とかでね」

 

それを聞き当てはまる人物は他にはいない。ステラは直ぐに答えに辿り着いた。

 

「その相手ってもしかして……」

 

「そうよ、珠雫の相手は、もう一人のAランク騎士。二年の皇樹竜司よ」

 

 

珠雫は幼き日を追想する。自分に間違っていることを間違っていると言ってくれた兄が居た。その兄は周りの大人に殴られたりした。それは、自分が他の子を泣かせていた自分を叩いて、それに驚いて自分が泣いたからだ。そしてそんな時もう一人の子どもが姿を現し

 

『俺の友達に手を出すな!!』

 

一喝するように大人に叫んだ。その声に反応した大人はその子どもを見て直ぐに兄を殴るのをやめた、否その子どもが放つ圧に気圧されやめざるを得なかったという方が正しい。その時の自分の目には、その子どもの背後から竜が見えた気がした。

 

『一輝大丈夫?一体何があったんだよ』

 

『珠雫に弱いものいじめはダメって言って、叩いた』

 

『いや、一輝も叩いたらダメじゃん。でも確かに弱い者いじめはダメだよな』

 

そんなことを思い出していた。懐かしい思い出。そしてこの試合にかける思いは並みの物じゃなかった。

 

竜司の方は控室で軽くストレッチをしながら、イメトレをする。今回の相手は今までとは一味違う。魔力制御Aランクの一輝の妹、黒鉄珠雫。相手にとって不足はないし、油断すれば一気に持っていかれかねないと考えていた。属性不利すら彼女の前にはあまり意味をなさないのだから。でも、だからどうした。そんなのは関係無い。誰であろうとも立ちはだかるのなら全身全霊で戦うのみ。でなければ、届かないあの人には

 

「(今は目の前の対戦相手に集中だ)」

 

『二年・皇樹竜司さん。試合時間になりましたので入場してください』

 

アナウンスが呼ばれストレッチをやめる。そして息を吐き、薄暗い通路を歩く。真っ直ぐ試合会場に繋がっている。その足にためらいなんて無く。抑えきれなくなってきている闘志を燃やしながら歩く。

 

『さあそれでは、本日の第十二試合の選手を紹介しましょう!青ゲートから姿をみせたのは、今我が校で知らない者はいない注目の騎士・黒鉄一輝選手の妹にして、《紅蓮の皇女》に次ぐ今年度次席の入学生!ここまでの戦績は十五戦十五勝無敗!属性優劣何のその!抜群の魔力制御を武器に、今日も相手を深海に引きずり込むのか!一年《深海の魔女》黒鉄珠雫選手です!!!!』

 

珠雫は薄暗い通路から姿を現し、歓声響く会場に出る。だが、歓声は遠く感じる、珠雫の意識は目の前の人間に集約されている

 

『そして赤ゲートから姿を見せるのは、我が校最強の騎士。前年度七星剣武祭準々決勝で諸事情の棄権をし、七星の頂を断念しました。しかし、彼は再び七星の頂を争う戦いの場に帰ってきました!!その手には未だ全てを明かさない常勝の竜達を従え!!その七変化のスタイルに対応不可避!今日も誰も試練を突破させず薙ぎ払うのか!破軍が誇る最強の騎士!二年《七剣の竜帝》皇樹竜司選手です!!!!』

 

(皇樹竜司)

 

(黒鉄珠雫)

 

互いに互いを視認しその姿をとらえている。そのなかで珠雫は確信した。対峙してわかる

 

(……なるほど。流石に桁が段違いですね)

 

空気が重く感じる。圧倒的な重圧がプレッシャーが今まで相手してきた者とは纏っている雰囲気が何もかも違う。いつもの皇樹竜司は目の前には居ない。格上なんてレベルではない、勝算は0じゃないだけの相手だ。だからこそ珠雫は滾っている。今感じているプレッシャーもかいている汗も、心地よく感じる。この学園にきて待ち望んだ機会が巡ってきた。この四年間の研鑽、兄への思い、そしてもう一人の兄と言って過言でもない人物への憧れ。今こそ試すとき

 

(この戦いで、黒鉄珠雫の限界を試してやるッ!)

 

『それでは第十二戦目、開始!!』

 

戦いを告げるブザーが鳴らされた。

 

《深海の魔女》VS《七剣の竜帝》学生最高クラス同士の戦い、意外な立ち上がりを見せていた

 

『こ、これはどうでしょうか!両者前に出ません!』

 

白銀の刀身を持つ小太刀《宵時雨》。黒と金の両刃の大剣《七天竜王》。互いに自らの霊装を手に距離を置いたままリングを半周する。試合開始からすでに一分が経とうとしている。未だに一合の打ち合いもない。だが場を支配する緊張感は静寂と共に存在していた。上位陣による潰し合いを見るために集まった観客全員が固唾を呑んで見守る

 

「どちらも仕掛けないわね」

 

ステラは強張った声でつぶやく。ステラの声に応えるように有栖院は

 

「遠巻きに相手を睨みながら、出方を窺っているわ、方やAランク、方やBランクと言う。どちらも七星剣王クラスの力を有する騎士同士。珠雫はもちろん、竜司もリングの端から端まで届く攻撃手段を持っているの。あの二人は互いに射程圏内に収めている。これほどの実力者ともなると迂闊な行動一つで流れを持っていくことも持っていかれることもあるわ」

 

「アリスの言うことも一つ。でも、それ以上に珠雫はこの試合、自分から動きたくないんだよ。竜司の剣の間合いは伐刀絶技で姿を変えるけど、最も得意なのはクロスレンジ。生徒会長の《雷切》に次ぐ速さを持つ武器を持っているからね」

 

「そうですね、竜司君のクロスレンジは私でもギリギリ勝てているくらいです」

 

その声に反応して三人は顔を上げる。そこには眼鏡をかけた栗色の長い髪の少女、生徒会長・東堂刀華が居た。

 

「こんにちは、東堂さん。今日の試合は終わったのですか?」

 

「はい、ですから、この二人の試合を見に来ました。この二人の試合は七星の頂を狙う者なら注目しない方が無理というものです。それにそろそろ彼は動き出すでしょう」

 

刀華がそう告げたときその瞬間、竜司が動き出した。大剣の後ろに構え、前傾姿勢を取り、距離を詰める姿勢を取る。間合いは二十メートル、その程度なら竜司は一瞬にして距離を詰めることは可能だ。だがそれを易々と許す《深海の魔女》では無い

 

「凍てつけ―――《凍土平原》」

 

その言葉と共に珠雫の足元が凍り付く。その氷は竜司の速度よりなお速くステージを侵食し、リング全体を凍結させた。そんな足場で全力を出せば当然スリップする。それをしないようにするにはスピードを落とすしかほかない。そのせざるを得ない状況に追い込むことが珠雫の狙いだった。すぐさま次の一手を放つ伐刀絶技《水牢弾》。一度着弾すれば、顔に張り付き呼吸を奪う水の砲弾が《宵時雨》の切っ先から放たれる。一発だけではなく、三連射だ。この足場で三連射を躱すのは至難の業。だが、そうは甘くない。相手は七星の頂の直ぐ側、その高みの居る化け物だ。減速するのではなく、さらに踏み込み加速した。水牢弾を速度で掻い潜り、手に持つ大剣《七天竜王》を間合いの外に居る珠雫の居るところ目掛けて薙ぎ払うように振るう。それは魔力により飛ぶ斬撃となって珠雫目掛けて飛翔する。珠雫の考えを看破しての速攻のカウンター。これほど速く、正確な読みを行ってくる敵は初めてだ。だが、それも想定内のことだった。魔力の斬撃が珠雫の首を狙い飛翔してきた。それを《障波水蓮》で防ぐ。珠雫は斬撃を防ぎ竜司の攻撃を処理した。そう思ったが

 

「《幻想魔竜》……《壊劫ノ失墜》!!」

 

竜司の霊装の第二の姿《幻想魔竜》が姿を現し、それの伐刀絶技《壊劫ノ失墜》を放つ。二本の剣から青白い魔力の波の斬撃を、間髪入れず放つ。一撃二撃だけではなく、次々と放たれる。珠雫は気を張り巡らせ防御に専念する。連撃で飛んでくるがその一撃は軽いものではなく、気を抜けば容易に珠雫の守りを容易に打ち崩してくる。しかも移動しながら放たれているから、珠雫は反撃に移すにも容易ではない。竜司はトドメと言わんばかりに放つ……が《七天竜王》の動きが止まる。竜司の足には水の足が掴んでおり瞬間に凍結する。竜司はその場に縫い付けられる。同時に頭上に影がかかる。竜司は珠雫から視界を外し上を見る。目にしたものは巨大な円柱型の氷塊。もう遅い己の鼻が触れる眼前に迫った光景だった。全ては珠雫の思い描いたものだ。落下した氷塊は竜司ごとリングを叩き割る。その威力は凄まじく、破壊の亀裂は観客席にまで及ぶ。その破壊の中心に打ち立てられていたのは氷の墓標。この一撃を受けて立っていられるものなんて居ない。だが、珠雫は一切の警戒を解いていない。

 

(手ごたえがあったのに、なのに、重圧が緩まっていないっ!!)

 

その認識が正しいと証明するかのように、氷が解けはじめ声が聞こえる

 

「《神炎之蛇竜》!!」

 

やがて火柱が氷塊を飲み込み爆ぜる。火花をまき散らし火柱が消える。その中心に《七剣の竜帝》が佇んでいた。双方攻守を譲らず、会場は半壊する。互いに有効打は無し。一見実力は実力は拮抗しているように見えるこの戦いは、再び振り出しに戻った

 



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第9話 《深海の魔女》vs《七剣の竜帝》決着

遅れて申し訳ございません。


『す、………すっばらしぃいぃいいいい!!!な、なんというハイレベルな攻防なのでしょう!わたくし、実況を仰せつかっておきながら、何一つ言葉を挟めませんでした!』

 

二人の戦いに見入っていた実況が、思い出したかのように声を張り上げる。それに呼応して、観客たちも緊張から解かれ驚きの声を上げる。

 

『な、なんだよこいつら!本当に同じ人間なのか!」

 

『すげえ、すげえよ!皇樹は!』

 

『いやいや、皇樹君が凄いのは知ってるよ!ベスト8だもん!でも!その皇樹君とやり合って互角な一年はなんなのよ!?』

 

『あの一瞬の間に防御、反撃、ブラフ、切り札……どれだけの手数を重ねた!?』

 

『だけどその全てに対応してるぞ!皇樹の奴!』

 

『これが、BランクとAランクの戦い……!』

 

『二人の戦いに会場中どよめいています!それもそのはず!力も、技も、駆け引きも……その全てが校内戦レベルではありません!どちらもが七星剣王になっていてもおかしくない実力の持ち主です!これだけやりあって被弾はゼロ!掠りもしていません!この戦いはどちらに勝利の女神が微笑むのでしょうか!!』

 

(……正直、ここまでだとは思わなかった……!)

 

竜司は認識を改める。想像と現実の誤差を修正し構える。自分の今の固有霊装は第三の姿、《神炎之蛇竜》つまり日本刀の型……。攻撃力が高い型の一つで、現状、属性相性は良くない型でもある。それらを考えながら、珠雫を見据える。

 

観客席では

 

「シズク、やるじゃないの……!」

 

「……強いのは知ってたけど、ここまでやるなんてあたしもびっくりよ」

 

この戦いを見守っていたステラと有栖院もまた珠雫の善戦に簡単の声を漏らす。相手は序列一位のAランク騎士で、七星剣武祭でベスト8になった少年。その相手と互角に渡り合っている。それは、珠雫が七星の高みに住まう怪物たちと互角であることを示しているのだ。

 

「このまま行けば……本当に勝てるかも……」

 

期待に胸膨らむ二人の隣で、黒鉄一輝と東堂刀華の二人は険しい表情でリングを見下ろしていた。

 

(確かに互角に見えます。ですが……)

 

(竜司はスロースターター。立ち上がりは何時もゆっくりだ。竜司が調子を上げてきたら……)

 

そう、スロースターターの竜司相手に互角。勝つのであれば最悪でも六:四で押し、なおかつダメージを与えなければならなかった。極めてロングレンジの攻防。竜司が得意なのは近距離戦、つまりクロスレンジだ。珠雫が勝つにはそこで勝機を見出す他ない。

 

その頃、リングでは異変が起こった。

竜司の足下。《凍土平原》により生み出されたアイスバーンが湯気を噴いて溶け始めていた。竜司が今手に持つ形態《神炎之蛇竜》が放つ熱で《凍土平原》を無力化し始めていた。そして《七天竜王》の切っ先を珠雫に向ける。

 

灼けるような真紅に染まったその切っ先から、身を焼くような、一点を射抜くようなプレッシャーを珠雫は感じ取り、表情をこわばらせた。

 

この時、珠雫は睨み合いながらも、疑問に囚われていた。その一瞬、考察を巡らそうとしたその瞬間

 

「集中しろよ、《深海の魔女》」

 

珠雫の眼前に《七天竜王》を振りかぶる竜司の姿を見た。

 

「っ!?!?」

 

思わず目を見開き、悲鳴をあげそうになった。何十メートルも離れていたはずの敵が、手を伸ばせば届く距離にいて、至近から剣を振るったのだから

 

「くぅーーーッ!!!」

 

だが、驚きはしても硬直はしなかった。珠雫は受け身も考えず、体を後ろに投げ、横薙ぎの一閃を回避する。そのまま身体を宙で回し、左手を地面につき、高圧の水を爆発させ、竜司との距離を置く。

 

ただ避けるだけに留まらない冷静な判断。しかし、理性を総動員させてなんとか敢行したものだった。一瞬の出来事、それは彼女を半ばパニックに陥らせた。

 

(意味が分からない……!目線は一瞬も外してないのに、考察も一瞬。あの距離をつめられるのを気づかないはずがない……!)

 

『おーっと黒鉄選手!今のはきわどい回避でした!皇樹選手の動きに対応出来ていたはずなのに、一体どうしたのでしょう!何やらぼぅっとしていたように見えましたが!』

 

(私が呆けていた?)

 

実況の声に眉を顰める。珠雫が試合中に呆けることなんてありえない。だがそれ以外の人物にはそう見えたのだ。

 

(攻略してみろ、じゃねぇと……七星剣武祭には行けねぇぞ!)

 

竜司は再び珠雫に切りかかる。珠雫からしたら先ほど同様に反応が遅れ、避ける暇のなく袈裟を深々と斬り裂かれた。

 

『あーーーっと!黒鉄珠雫選手、ここで皇樹選手の太刀をもろに浴びてしまったァァ!それもかなり深い!これは致命傷でしょうか!!』

 

勝負は決したと思った瞬間。珠雫の身体はただの水となりリングにぶちまけられた。

 

『な、なんと水の分身です!黒鉄選手《七剣の竜帝》の太刀を見事に回避……、いや!』

 

「分身で回避するとはな……さすが珠雫だな。でも、完全には避けきれなかった見たいだな」

 

竜司の固有霊装の切っ先から、朱色の液体が滴る。そして珠雫の左を伝うように同じ朱色の色を見た。

 

『左手から血が滴ってます!完全な回避は出来ていませんでした!この試合初めてのダメージヒットは《七剣の竜帝》皇樹竜司選手です!』

 

竜司は刀を振り、血を弾き落とし再び構え直し

 

「さぁ、行くぞ……!ここからは竜の試練だ……!」

 

「く……!」

 

一度拮抗が破れたら、そのあとの形勢はあっという間に竜司に傾いた。珠雫は防戦一方となり、逃げるのに精一杯。しかし《七剣の竜帝》の追撃は易々と避けることは出来ない。回避にも体力を奪われ続け、消耗し続ける。

 

他の観客たちからも見てもこの試合の勝者は誰なのか明白になった。

 

会場の雰囲気は冷め、熱気は消え失せていた。善戦こそすれど、一年生。そんな相手はAランク騎士であり、破軍最強の騎士だ。その騎士が敗れる道理がないと。他の観客は思った。

 

「……ねぇイッキ。珠雫、どうしちゃったの?」

 

「どう、とは?」

 

「どうって、明らかに相手の動きへの反応が悪くなってるわ」

 

「ステラちゃんの言う通りね。竜司は普通に動いているだけなのに、それがまるで見えていないみたい」

 

珠雫の動きに疑問を感じていたステラと有栖院。そして一輝も。さらにそれより答えを得ているのが刀華。

 

東堂刀華と皇樹竜司は師事している年数は違えど、同じ師を持つ者同士である。だから、竜司が今行っているものが何なのかも理解している。

 

(リュウ君の抜き足、前より上達してる)

 

と言ってもまだ粗がある。それ故に一輝にも見破られているのだろう。

 

「シズクーーーーーッ!頑張ってーーーーーッッ!!!」

 

ステラの高く綺麗な声は、熱を失った会場によく響いた。それは彼女の踏ん切りをつかせた。

 

自分を真っ直ぐに睨みつけてくる相手に一度も気を緩めない竜司。相手が諦めていない限り、倒れる瞬間その時まで油断なんて出来るはずがない。

 

(ああ、その目。諦めが悪いというか、執念深いというか。兄妹揃って本当に油断ならないよな……!)

 

(攻略してやる!竜司さんが得意のクロスレンジをッ!)

 

竜司は再び抜き足で珠雫の意識の狭間に入り込み攻撃をしようとした。瞬間珠雫が動いた。

 

《宵時雨》を凍りついた足場に刺し、唱える。

 

「《白夜結界》!!!!」

 

そのまじないの言葉と共に《凍土平原》の結界は固体から気体へ変化させ、まるでスモークのように濃く白い霧となり、リング全体を飲み込んだ。

 

(視界が奪われた……!これじゃあ珠雫の場所が視認出来ない!)

 

これほどの濃霧ともなれば、竜司は珠雫を視界におさめることは出来ない。しかし術者本人が自分の位置が知られているだろう。無闇に動くのは得策では無い。

 

(珠雫の覚悟……受けて立ってやる!)

 

竜司も息を少し吸い、大きく吐き。静かに待つ。

 

「《緋水刃》」

 

(勝負――――ッ!!!)

 

珠雫は竜司に向かい駆け出す。無謀な特攻ではなく、勝利を確信したものがある。《七天竜王》で《緋水刃》に対応しようとしても不可能。液体を固体である《七天竜王》を受け止めることは出来ない。《緋水刃》は受けに来た《七天竜王》の刃を素通し、竜司の身体を切り伏せる。珠雫にはそのビジョンが見えている。だからこそ珠雫は確信を胸に《七剣の竜帝》の間合いに踏み込んで……

 

「え………」

 

その時、珠雫は見た。濃霧の中、堂々と技の体制に入っている竜司の姿を。刀の凍土に突き立てる。その動作一つでこの伐刀絶技は放たれた。

 

「《煉獄陽炎》!!!」

 

リングの至る所から赤い光が表れ、天をも焦がす勢いで火柱が登る。その火柱は珠雫も突き上げ天高く巻いあげる。

 

そして火柱が消え、珠雫は天から落ちてくる。意識は無く試合続行不可能だ。

 

珠雫の思いを、親友の妹を斬り下した。

 

 



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