ダンジョンにサーヴァント7騎のマスターがいるのは間違っている (ルーニー)
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マスター、マスターになる

 突然だが俺は死んでしまった!登場して数秒も持たずに死んじゃう主人公って、果たして何人いることになるんだろうね!(現実逃避

 

 まぁ、冗談はさておいてだ。どうして死んだことになっているのか、簡単に言えば散歩がてらコンビニでGOOGL○カードを買おうとしていたら頭に花瓶が落ちてきてそのまま死亡、というわけのわからない死に方をしてしまった。いや、でも上とか意識していないでしょ普通?

 

 それはともかくとして。普通は死んだらそこで終わりのはずだろうと普通は思うはずだ。俺も死んだんだなぁということを自覚して、あれ、なんでまだ意識あるんだ?という気持ちにはなっていた。しばらくそんな感じで悩み続けていたら、なんか神様らしき人物、神物?が俺の頭の中に声をかけてくださったのだ。

 長々と現在の状況とどうして話しかけてくれたのか、そして何をしてほしいのかを語ってくださったのだけど、マジで長かったから要約していうと、

 暇だったからなんかないかなぁと探してたら神様転生物が何やらはやっているみたいじゃないか。どうせ暇つぶしになるし自分もそれに乗っかってみようじゃないか。おぉ、そう思っているときにいいタイミングで死んだやつがいるじゃん。よ~しこいつにある程度のチートをあげてよその世界に飛ばしたらどうするのか見てみよう。

 とのことだった。

 

 語っているご様子はまさに神様だという感じだったのだけど、内容が内容なだけになんか残念な神様だな、と思ったのは仕方ないことだと思う。うん。

 まぁ、それはそうとして、頭の中に語り掛けてくれる系神様は本当に願いをかなえてくれるそうなので、割と真剣に考えた結果俺はサーヴァント7騎を求めることにした。

 いや、確かに王の財宝とか無限の剣製とかあこがれなくはないんだけどさぁ、やっぱり英霊に話を聞いたりいろいろとやってもらったりするのが楽しそうじゃん、とFGOをやってて思うんだよね。

 まぁそれはそうとしてだ。7騎もサーヴァントを要求するのは無理かなぁと思っていたら、なんと二つ返事でOKをもらえた。まさかOKをもらえるとは思っていなかったから喜んだはいいけど、ここで再び悩みどころが。いったい誰を選べばいいんだろうか。

 けっこうな時間、どれぐらい経っていたのかはわからないけど、を考え、結論として以下のサーヴァントを選ぶことにした。

 

 セイバー:ジークフリート

 アーチャー:エミヤ

 ランサー:李書文

 アサシン:燕青

 ライダー:牛若丸

 キャスター:クーフーリン

 バーサーカー:ヘラクレス

 

 え?星3と星4が多い?いや、だって星5のサーヴァントって、なんか怖いじゃん?別にいうこと聞いてほしいとかそういうわけじゃないんだけど、ある程度融通利かせてくれそうなサーヴァントって思ったらまぁこうなるじゃん?特に王様系サーヴァントとかファラオ系サーヴァントとかバーサーカーとか謀反できちゃう系サーヴァントとか愉快犯系サーヴァントとかいたら扱いに困るじゃん。

 そりゃ趣味丸出しでいいなら水着サーヴァントたちといちゃいちゃしたり幼女サーヴァントで癒されたりコハエースサーヴァントでいろいろやりたいとかあるんだよ!でも収拾つかないじゃんどう考えても!ぐだーずはできそうな気がするけど、俺はぐだーずにはなれないんだよ!ぐだーずとはぜひお友達になりたい!

 

 まぁ話がだいぶとずれてしまった。とりあえずの条件としてこの7騎をサーヴァントとして、さらに21もの令呪と7騎を維持できる十分な魔力を持たせてくれるといううれしいアフターフォロー。俺この神様を崇拝します。

 

 まぁ、こんな感じでいろいろともらえたはいいけど、話を聞くとどうも転生先はランダムでどこに行くのかわからないらしい。本当ならマジもんの意味で世紀末な世界に飛ばしてやろうと思っていたらしいのだが、転生する担当は別らしい。俺みたいにいじるだけなら特にバレるようなことはないのだが、どこかに飛ばそうとしようものならすぐさまバレるらしい。どうして俺のようなことをしてもバレないんだろうという疑問はあるのだが、まぁここで聞いたところで意味はないんだろう。

 

 さて。そんなこんなで転生オプション(チート)をもらった俺は、気が付いたらどこかもわからない2部屋ほどあるボロ小屋の中で大体3歳児ぐらいの体で眠っていた。ここはどこか、そしてなんで俺はこんなところで寝ていたのか。そんなことを考えていたが、まぁそんなことを考えてもわかるはずもなく、辺りを見回してみる。

 今は誰もいないが、どうもここで暮らしていた人がいたようで暮らすだけならそれなりの設備があった。とは言っても本当に最低限住むだけなら、というレベルのもので本当にここに人が暮らしていたのかと思える程度には物がなかった。

 

 辺りを見回してみても誰もいない。しかし、本当に神様と出会いサーヴァントを授かっているとすれば、もしかしたらもうサーヴァントと契約しているのかも知れない。そう思い、試しに全員の名前を呼んでみても、だれも来ない。これは担がれたのかと思って深くため息を吐いて、小さくなった体を動かしてなんとかもう1つの部屋の中に入る。

 

 そこは薄暗く見えにくい窓一つない部屋だったのだが、ぼんやりと見えてきたそこにあったのは、誰かが使っていたのか疎らに本が置いてある本棚が1つと机が1つ、そして床には血で描かれているかのように赤黒い魔法陣が描いてあった。

 どこか見覚えのある魔法陣に心ウキウキしながら本棚にあった本を出して読んでみる。どうも日本ではないのか日本語では書かれてなかったのだが、なぜか何事もなく読めてしまう。これも転生チートだと納得させて読み進めていくと、どうもそれはこの小屋を使っていた人の日記、あるいは手記のようだった。

 

 読み進めていくとこの人は人間のような、または人間を強力な使い魔として呼び出すことを目的としてここで研究をしていたようだ。ページを読み進めていくと、生贄の血といくつかの金属を魔法陣として書き込むことで何かしらの反応が出た、ということが分かったと書いてあり、次のページには明日召喚をする、何が来るのか楽しみだ、と書いてあった。その次のページには何も書かれていない。成功したのか、はたまた失敗して某錬金術師のように対価として体を持っていかれてしまったのか。まぁさほど興味はない。

 

 しかし、これはこれでいい。なんせ書かなければならないであろう魔法陣がすでに書いてあり、しかももう発動まで準備万端である状態でおいてあるのだ。これは使わないわけにはいかないだろう。呪文?ふはははは。呪文を覚えるのが趣味だった厨二をなめんなよ。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 

 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。 

 

 繰り返すつどに五度。

 

 ただ、満たされる刻を破却する

 

 ――――告げる。

 

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 

 誓いを此処に。

 

 我は常世総ての善と成る者、

 

 我は常世総ての悪を敷く者。

 

 汝三大の言霊を纏う七天、

 

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 数瞬の間、そして、魔法陣は黄金に輝いた。魔法陣からの光は強力で何も見えなかったが、その中に7人の人影が徐々に現れてくる。

 光が収まりやっと見えるようになって確認できたのは、そこに俺の願った人たちが俺を見ていて、俺はそれを見て満面の笑みが浮かんでくるのを感じた。

 



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マスター、山を出る

「本当にこっちであってるのか?」

 

 サーヴァントを呼び出すことに成功してはや、十何年ぐらい。キャスターに作ってもらった杖を片手に山の中を歩いていた。

 そんな中霊体化せずに話しかけてくるアサシン。歩いているだけで暇なのかそこらへんで拾ったらしい石をお手玉にしながらのんびりとしている。

 

「さぁ。こんなのは勘でいいんだよ勘で」

 

 まぁまるっきりの勘というわけでもなく、キャスターとアーチャーから学んだ身体強化の魔術とルーンを刻んで高いところから確認したところ、こっちの方向に道らしきものがあった何かを見つけたから歩いている。まぁ途中途中で木々を避けながら歩いているからもしかしたらずれていたりするかもしれないけど、まぁ何とかなるだろう。

 

「前から思っていたが、マスターのそのいい加減な部分はなんとかしなくてはならないぞ」

 

「んなことどうでもいいだろ。カッチリしすぎてつまらないマスターよりもずっといいぜ」

 

 アーチャーのお小言にカラカラと笑うキャスター。俺の呼んだサーヴァントたちは俺の予想通り快く、とまではいわないが俺をマスターであることを認めてくれた、さらに俺を鍛えてくれた心優しいサーヴァントたちだ。こうやって軽口を言い合える程度には気を許しあえる仲になったのは我ながら素晴らしい努力の賜物だと自負できる。

 

「主殿!この先にいた物の怪の首を取ってまいりました!」

 

「お~助かるぞライダー。だけど俺の鍛錬のためにも取っておいてほしかったぞ~」

 

 ひょっこりとどこから現れたのか顔に返り血を浴びたライダーが目を輝かせて報告をしてくる。それを落ち着いてくれないかなぁと思いつつ頭をなでると気持ちよさそうな表情を浮かべていた。

 

「そういえばランサーは?セイバーには周りの哨戒に行ってもらってるけど、ランサーには何も言ってなかったと思うんだけど」

 

「さぁ?その辺を適当にぶらついているんじゃないの?」

 

 セイバーは念のためと言って周りを警戒してもらっている。こういう時の見回りはアーチャーの方が適正なんだろうけど、ぶっちゃけ当番で見回りしてもらっているだけだから特にここに意味はない。ライダーは勝手に哨戒してモンスターらしき化け物を狩ってくれている。その度に褒めているせいかまた勝手に出ていく。いやまぁどうせ暇だし強制できるようなことじゃないからいいんだけどさ。

 

「お、森を出るな」

 

 木々が茂っているときにはなかった眩しさに、予想が当たっていたことに思わずにやけ顔にになる。そのまま眩しい方に歩いていくと、予想通りそこは人が行き来していたであろう道が見える広い場所に出た。

 

「ほら見ろアーチャー。何にも問題なかったじゃないか」

 

「そういう結果論を言っているのでは……。いや、マスターには何を言っても無駄か」

 

「おん?もしかしなくても俺バカにされてるな?」

 

 なんて心温まるサーヴァントとのやり取りを終え、しかしこの道のどちらかを進まないといけなくなると、一発で大きな街に行ける道に進みたいと思うのが人情。大きな街ならば修行にいい場所とかの情報も多くあるだろうし、なにより俺の知らない何かがあるかもしれない。そういうものを見て回るのも旅の醍醐味というものだろう。

 

「マスター、この先から馬車がここに来る。御者に色々と聞いてみるのも手かもしれない」

 

「マジか。幸先いいねぇ。ありがとうランサー」

 

 ランサーの言った方向を視力を強化して見ると、確かに遠くから荷台を引っ張った馬車がこちらの方に向かってきているのが見えた。というかランサー、どこに行ってたんだろうか。わざわざ先回りして馬車とかが来るのを見ててくれたんだろうか。まぁ、たぶん暇つぶしに化け物を倒していたら見えただけだろうけど、まぁ結果オーライってやつだ。うん。

 

「あ、とりあえず霊体化しておいて。俺1人だけならもしかしたら乗せてもらえるかもしれないし」

 

 各々了解の言葉を告げ、次の瞬間にはその姿が見えなくなる。毎回思うが、霊体化したときは文字通り足がないような状態になっているんだろうか。それとも霊体化する前と同じように動かないといけないんだろうか。

 

「お~い!」

 

 俺のちょっとした疑問はさておいて、ランサーに教えてもらった馬車に向かって駆け足で近づく。御者もこんなところで人に出会うとは思っていなかったのか、俺を見ると少し驚いたような表情を浮かべた。

 

「あぁ、止めてもらわなくても大丈夫。並走するから」

 

「いくら速度が出てないとはいえ、お前さん元気だなぁ」

 

「鍛えてるし、これぐらいできなきゃ師事してくれた人たちから殺されそうだからな」

 

 実際これぐらいの速さなら問題なく並走できるし、できないような鍛え方もしていない。というかできなかったらキャスターやランサー辺りにまたキッツい修業が科されるかもしれない。

 

「それで、どうしたんだ?」

 

「いやぁ、この辺りにでかい街はないかなぁと思って。おっちゃん旅してそうだしなんか知ってそうだったし」

 

「おぉ、それならまだまだかかるがオラリオってところがいいんじゃないか?見たところ冒険者になりたそうだしな」

 

 冒険者。なるほど。なんていい響き。セイバーたちから鍛えられた実力をさらに高めるにはちょうどいいかもしれないな。

 

「いいねぇ。おっちゃん、そこの行き方教えてくれない?というかそこに行くなら乗せてってくれない?道中の用心棒ならできると思うからさ」

 

「あぁ、別に構いやしないさ。ちょうどお前さんと同じ目的地の坊主を乗せているからな」

 

「マジで!?あんがと!」

 

 さすがにずっと走りっぱなしというのも鍛えるという点ではいいのかもしれないけど、別に今楽しても罰は当たらないだろう。走る速さを緩め、荷台に乗り込む。

 荷台に乗っていたのは、全体的に細く、ぱっと見白い子供にも見えなくはない少年だった。武器や防具などといったものは一切持っておらず、言っちゃ悪いけどとてもじゃないが荒事ができるとは思えなかった。

 

「えっと、話が聞こえてきてたんですけど、お兄さんも冒険者になりたくて?」

 

「冒険者というよりは、その先にある強さが欲しい、って感じかな?」

 

 セイバーたちに鍛えてもらい、強くなっていくことに楽しさを感じていた。セイバーたちにずっと鍛えてもらっていてもよかったのだが、このままずっと山奥で鍛えていてもどれぐらい強くなったのかを実感できない。目標が打倒サーヴァントなんてとてもじゃないができないことを掲げ続けているのはさすがに気持ち的にできない。だから鍛えてもらいつつ、どこかで修行もできる場所を探すためにきたのだ。

 

 とは言っても、冒険者なる者になれると聞いたはいいが、そこで何をするのかはよくわかっていない。そこで少年に冒険者のことだったりオラリオのことを聞いてみると、どうもオラリオという場所はダンジョンと呼ばれる地下へと続くモンスターの湧く洞窟を冒険する冒険者の街なのだとか。物語ではそこで活躍した人を英雄と呼んだり、きっとそうなればモテるんだと、どうも少年の煩悩も一緒に聞いていたのだが、まぁそこそこいい情報はもらえた。

 

「英雄、ねぇ」

 

 正直、俺のすぐ近くに英雄と呼べる存在がいるから逆にそこで英雄と呼ばれている人たちがどんなものなのかが気になることは否定できない。もしかしてマジでサーヴァントたちと同等の力を持っているのかもしれないと思うとそれはそれで化け物染みた英雄だなと思わなくはない。いや、十何年も修行しても足元にも及ばないんだから、そんな存在がいるって聞くとそう思っても仕方ないだろう。

 

「まぁ、それは着いてからいろんな場所から聞いていくことにしよう」

 

 サーヴァントを率いている身として、この世界の英雄について興味がないわけではない。書物でしか遺されていない情報や、俺の知らない英雄の情報を知るのは、とても楽しいことだろう。

 

「そういえば、お前さん名前はなんてんだ?俺は藤丸(フジマル)ってんだが」

 

 長々と話をしていたが、そういえばお互いに自己紹介をしていなかった。俺は尊敬するサーヴァントたちのマスターから名前をもらい、藤丸(フジマル)六花(リッカ)と名乗ることにしている。前世のまま名乗ってもいいのだが、せっかくの転生だ。違う名前を名乗ってもいいだろう。

 

「すいません、名乗りもせず。ボクはベル。ベル・クラネルといいます。よろしくお願いしますね」

 

 これが遠くない未来英雄となっていくベルくんと、俺との最初の出会いだった。



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マスター、街に着く

なんか無理やり展開だけど今更だよね(震え声


 御者に出会い、数日が経った。途中でトラブルに出会う、何てことはなく特に何事もなく目的地へとたどり着くことができた。

 

「ほ~ん。ここがかの高名なるオラリオねぇ」

 

 山にこもって修行に明け暮れていたせいで全くと言っていいほど知らないが、世話になった御者が言うには世界最高峰の冒険者の街だということらしい。まぁ、確かにここを行き来する人の数や中の人の往来の多さ、出店の多さを数えてみると確かに栄えている街ということは間違いない。

 

「フジマルさん、冒険者になるにはギルドにいく必要があるみたいなんですけど、ギルドはこっちにあるようです。よかったら一緒に行きませんか?」

 

「ん、そだな。行かない理由もないし、一緒に向かうか」

 

旅は道連れ、何て言うほどではないが、まぁここまできたら乗り掛かった船だ。ベルくんと共に行くことにする。

道中色んな出店が並んでおり、並んでる品々を見ていると中世ヨーロッパ並と思えるような技術の物やそれ以降で見られそうな物など時代がチグハグしてそうな品々があって面白味があった。冷やかしていてもよかったのだが、目的はあくまで冒険者。ベルくんと共に道々で確認しながらギルドへ歩いていく。

 

「しっかし、道中剣だの鎧だの着込んでる連中が多いことで」

 

キャスターに作ってもらった杖を持っている俺が言えるようなことではない気がするが、冒険者の街と呼ばれているだけのことはあるようでそれっぽい人がよく目につく。

全身鎧の重装備というような人は滅多に見かけることはなく、多くはそれなりの軽鎧にローブ、腰や背中に剣、斧、そして杖だけの人が多い。鎧が高いせいでの少なさなのか、それともダンジョンに潜るために敢えて着込んでいないのか。まぁここらへんは武具屋にいけばわかることか。

 

「あ、あれみたいですよ」

 

街の様子を観察しながら歩いていると、ようやく目的地に着いたのかベルくんが声をかけてくれる。ようやくかと思いその方に視線を送ると、それの大きさに思わず目を見開いた。

 

「……デカいな」

 

思った以上にデカかった。外観はちょっとした城のようで、中は推して測れるぐらいにはでかいんだろう。

まぁ、確かに冒険者の街と呼ばれているのだから冒険者を取りまとめている施設となればその規模はそれなり以上であることは明白なのだが、まさかこれほどまでとは思いもよらなかった。

 

「凄い、大きいですね」

 

「あぁ。予想以上だわ」

 

ベルくんと共にその規模の大きさに驚嘆しつつ、冒険者になるために改めて気を取り直して中へと入る。

入ってみると、エントランスは広々としており冒険者のための受付であろうカウンターが少し歩く必要があるぐらいの距離がある。ただ、それは多くの冒険者が行き来するために開けられたスペースであるのは人がごった返している現状を見ればわかる。

冒険者らしき人々が賑わっている中、ベルくんと俺は受付嬢らしき人のところへ向かう。

 

「あ、あの!冒険者になりたいんですが!」

 

「それでしたら、ファミリアに属してもらうことになります」

 

「ファミリア?」

 

 話を聞いていると、どうも冒険者になるには神からもらえる『恩恵』なるものが必要らしい。これがないとダンジョンには入れない規定のようで、大雑把に言えば『恩恵』をもらう神の傘下になることをファミリアに入る、ということになるらしい。

その『恩恵』というのは、刻まれればステイタスと呼ばれる強さを目に見えるような形にすることができ、レベルという階級で強さが変わっていく。文字通りレベルが違えばそれだけ実力に差が出てくるらしい。それは『恩恵』のあるなしでも十分に違うらしく、ダンジョンに『恩恵』なしが入ってしまえば何もできることなくそのまま死ぬことが当たり前だというのがここの常識らしい。まるでゲームみたいだな。

 

 結局、ファミリアに加入して神から『恩恵』なるものをもらわない限りダンジョンへ入るのは禁止する、というギルドの決定で萎えつつも、サーヴァントを授けてくれた神様に怒られないかなぁなんて思いつつベルくんとともにファミリアを探すことに。

 

しかし、ことはそう簡単にうまくいくこともなく、誰でもテストすると言われていた高名なファミリアも門前払いされ、他のファミリアからも怪しい、弱そうだのと言われ入れることはできないとと言われて早数か所。俺はまぁまぁ好感触な部分はあったが、ベルくんはその身なりのせいかどこも入れるような様子はなかった。

 

「すいません、ボクがダメなばっかりに……」

 

「いいっていいって。まぁ冒険者は危険なことをするから見た目で判断する部分があっても仕方ないっちゃ仕方ないけど、高圧的な断り方をするようなファミリアには俺も入りたくはないからな」

 

 もっとも、ある程度自由が利いてダンジョンに潜ることのできるファミリアがあるなら弱小と呼ばれているところでも俺は構いやしない。が、そんなところが今のところないから困っているんだよなぁ。

 まぁ、ロキだのなんだの名前的に大丈夫かと思うようなファミリアもあったから名前で切ったというのもあるんだけどな。

 

「どうしましょう。このままだと何も成果もなく日が暮れてしまいそうなんですけど……」

 

「どうもこうも、入れてくれそうなファミリアを探すしかないだろうに。ま、どうせ乗り掛かった舟だ。一緒に探そうや」

 

 とは言ったものの、どうすれば緩そうなファミリアを見つけることができるのかねぇ。いっそのことそこらの弱小ファミリアでも探して条件を聞き出して入る、なんてことをした方が手っ取り早そうな気もしてきた。

 

「君たち!もしかしてファミリアを探しているのかな!?」

 

 突然後ろから女の子の声が聞こえてくる。振り向いてみると、そこにいたのは黒い髪をツインテールにした、ちょっと危ない服装の少女がいた。

 

「そうですけど、あなたは……?」

 

「ボクはヘスティア!君たち、よかったらボクのファミリアにならないかい?」

 

 ヘスティア。正直聞いたことのない神だ。すべての神話の神の名前を熟知しているわけじゃないからさっぱりなんだが。名前の漢字からしてインドとかの神ではないのは間違いないけど、まさかギリシャの神じゃないだろうなぁ。ギリシャの神にいい神様なんていないからなぁ。最高神の種まきゼウス然り嫉妬の女神ヘラ然り。

 

「えっ!?いいんですか!?」

 

「あぁ!いいとも!ボクのところは今絶賛募集中だ!なんなら今からでも『恩恵』を刻んであげてもいいんだよ!」

 

 向こうから、しかもこうも興奮しながらってことは少なくともファミリアになれる人を探しているということだ。つまり今なら俺の意見も通せる可能性があるということ。

 

「……神ヘスティア。入るのはいいけど条件がある」

 

「な、なんだい?」

 

 条件付きと言われるとは思わなかったのか身構える神ヘスティア。正直入りたいというのに条件を突きつけてくるというのは非常識ではあるとは思うが、まぁ本当に必要なことだから言っていく。

 

「そんな身構えなくてもいい。俺個人が稼いだお金の自由な使い道と、常識をちょっとだけはみ出しても問題ない程度のある程度の自由を認めてくれればそれでいい」

 

 俺とサーヴァントはまぁ間違いなく異端だろう。特に過去、未来の英霊を従えているとなればそれ相応の厄介ごとが来ると見た方がいいかもしれない。そういう点で自由にさせてもらえることができればやりやすい部分だって出てくるはずだ。

 

「う~ん。まぁ、他の人の迷惑になるようなことをしなければそれでいいんだけど、ファミリアの迷惑にならないようにしてくれるかい?」

 

「……まぁ、そこまで迷惑をかけるようなことはしないようにはするつもりだが、念のためにな」

 

「……嘘はついていないみたいだね。うん。いいよ。その条件を呑もう」

 

「それじゃ、契約成立ってことで。俺は藤丸六花。ここでいうリッカ・フジマルってところだ」

 

 よし。これで強くなれるためのファミリアを見つけることはできた。あとはここでどれぐらい強くなれるか、だな。楽しみだ。



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マスター、ダンジョンに潜る

無理やり理論だったりガバガバ展開は許して


 神ヘスティアの眷属になって早くも半月が過ぎた。最初のころは冒険者になったことにより勉強会だったり、様々な市場の相場の計算だったりで忙しくてサーヴァントとの鍛錬もそこまで時間がとれなかったりしたが、最近になってようやく落ち着いてきたころでもあった。

 冒険者のメインともいえるダンジョンも行けるようにはなってきたが、最初のころは『恩恵』をもらったこともあり、体の調子を整えることも視野に入れて安全のことを考えてベルくんとともに潜っていたのだが、あまりにも弱いためにわりと早くにベルくんにソロでモンスターを狩るように促していた。

 

 この日もベルくんに先にダンジョンへ行くように促し、時間をずらしてベルくんを追いかけるようにダンジョンへ潜る。上層の雑魚程度ならばベルくんでも問題なく処理できるが故と、いつかはサーヴァントと共にダンジョンへ行くつもりであるからベルくんにはソロ活動に慣れてもらうためにこうやって時間をずらしてダンジョンへ潜っている。まぁ、魔術だったりルーンだったりが異端であると知ってからベルくんに見つからないように訓練をしているというのもある。

 

「まぁ、こんなもんかねぇ」

 

 灰へと変えたモンスターの中のある魔石を拾い、ポーチの中へとしまう。もはや慣れてきた作業だったが、同時につまらなさを面倒くささを感じることでもあった。とはいえ金になるのだからそんな不満は言ってられない。

 

「……どうすっかなぁ。このまま下に潜っちまおうかねぇ」

 

 正直なところ、5階層までにいるモンスターは弱すぎて話にならない。確かに外で狩ったことのあるモンスターに比べれば強いが、それもドングリの背比べ程度。ルーンや魔術はおろか、身体強化の魔術すらも使わずともいとも簡単に倒せるのだから退屈で仕方ない。色々と知識を教えてくれたアドバイザーの言葉にしたがっているものの、しかし潜っていた当初はここまで弱いとは思ってもいなかった。何度6階層へ足を運ぼうかと思ったことか数えきれないが、さすがにすぐに破ってしまうのも問題かと思い我慢している。

 

「……ルーンを使って大量のモンスターでも狩るか?」

 

 キャスターに教えてもらったルーンの中には囮として敵を引き付けるのに適したルーンが存在する。自身にそれをつけて大量のモンスターを寄せ付け、魔術縛り武器縛りで倒していくしかないのかとすら思えてくる。

 

「……いや、今はベルくんと合流するのが先か」

 

 今日も今日とてソロでの活動をさせてはいるが、後で合流しようと言っているからさすがに遅くまで待たせるのはマズいかもしれない。真面目なベルくんはいつまでも待ってしまう可能性があるし、約束を破ってしまうのはさすがに気がひける。

 とはいえ、ここのところサーヴァントとの鍛錬以外では命の危機どころか傷への配慮すらする気にもなれない現状に、さすがに違う意味で危機感を覚えてしまう。

 

「ん?」

 

 そんなことを考えていると、なにやら大きな何かが走ってきているような音が聞こえてくる。聞いたことのない足音に警戒していると、曲がり角から見慣れない巨体が姿を現す。筋骨隆々とした体に、牛の頭をしたそれは今まで上層にて見てきたモンスターのどれにも当てはまらないものだった。

 見たことがない、ということはつまり今までいた層よりも下層にいるモンスターであるということに間違いないだろう。

 

「いいねぇ。今の力でどれだけ行けるか力試しになるな」

 

 なんで下層にいるであろうモンスターがここにいるのだろうか。そんな疑問が思い浮かばないわけではなかったが、そんな考えは力試しができるという事実で塗りつぶされ、興奮で杖を強く握ることとなる。

 

「まずは身体強化魔術もルーンも無しだ。今の実力(レベル)でどれだけ行けるかやってやらぁ!」

 

 牛もこっちに俺がいることに気が付いている。さっきまで走っているようだったが、俺を確認したのか荒く息を吐いて顔をこっちに向けてきている。周りには誰もいない。タイマンでこいつと戦う、最高のコンディションだ。

 

「オラァッ!」

 

 折れないように杖に強化の魔術をかけ、槍を扱うがごとく振るう。この杖はキャスターが作ってくれたものだ。たかがモンスターごときで折れてしまうことはないとは思うが、作ったのはオークの木に似た全く別の木。もしものことを考えると強化の魔術をかけないという選択肢はなかった。

 牛は攻撃されたことに反応して杖を腕で防いだ。肉と骨を叩く鈍い音が辺りに響く。これだけで上層の雑魚どもは倒されるんだが、思った通りこいつは上層にはいない種類のモンスターのようだ。

 

「いいねぇいいねぇ!全然効いていないねぇ!上層の雑魚とは大違いだ!」

 

 上層のモンスターとは違い簡単に倒されない。その事実だけで十分だ。牛は牛の鳴き声にも似た唸り声と共に筋骨隆々とした腕を力任せに振り回し始める。サーヴァントたちの攻撃に比べて遥かに遅いそれは、特に驚異を感じることなく簡単に避けることができる。サーヴァントたちとの鍛練で培ってきた勘でひたすらに避け、次の方法での攻撃を始める。

 

投影(トレース)開始(オン)!」

 

 アーチャーから基礎を教わり、自分なりに努力して作れるようになった投影魔術。血の滲むような努力の結果アーチャーからもギリギリ合格点をもらえた投影魔術だが、しかし俺の投影した武具はアーチャーのように投影したものをずっと維持し続けることはできない上に打ち合えば1合で砕け散るし、そうでなくても1分しか存在できない程度ものだ。まぁこれに関してはアーチャーの投影魔術が特殊なだけであってすぐに消えてしまうのは仕方ないことなのだが、1回斬るだけならそれだけでも十分なほどに頑丈であるし、ましてや投影した剣で受け止めるなんてことはする気はない。

 

「おらよッ!」

 

 投影したのはオラリオにならどこにでもありそうなオーソドックスな剣。まだ宝具の投影は無理だけど、アーチャーの推した剣はそこいらのものよりも強い。投影品ということでもろくはなっているがその切れ味は間違いなく高品質であることには間違いない。牛の腕を振っている合間にあるスキを見逃さず、それを全力で振る。

 

「―――――――――――ッ!」

 

 斬れた。が、さほど深くない。胸の肉を切ることはできたが、明らかに出血量が少なすぎる。強化は入れていないとはいえ剣は悪くないはずだ。ということは、単純に切り込むだけの腕力が足りていない。

 

「こいつでも無理かッ!」

 

 投影した剣にヒビが入った。いや、入るだけでなく、徐々にヒビが大きくなっていき、そして消えるかのように砕け散った。やっぱり俺の投影ではこれが限度か。投影を極めたらもうちょっとは戦闘に使えるようになるのかもしれないけど、現状ではこれが限界か。さすがにアーチャーのように長時間の戦闘に使える投影は不可能だとはわかっていても悔しいものがある。

 

 今のままでは勝てない。悔しいが、強化魔術もルーン魔術もなしだとこの牛には勝てないというのが現実のようだ。冒険者となってからは自分だけでどれだけ強くなれるのかを実践しているのだが、数字でもほとんど上がっていない。十数年間もの間かの英雄たちに鍛えてもらっているのにこの程度しか強くなっていないのは本当に悔しいものだ。

 だが、この程度が全力であるわけが、そんな程度で終わるような十数年もの鍛練を続けていたわけは、ない。

 

強化(トレース)開始(オン)!」

 

 身体強化の魔術をかける。全身の魔術回路が青く光り、先程よりも力がみなぎって来るのを感じる。背中の杖を取り出して魔術で炎を纏わせる。久々に使う魔術で興奮が止まらない。

 

「さぁ、こっからが本番だ。簡単に死んでくれるなよな!」

 

 最初の一撃と同じように杖を振り下ろす。さっきよりも鋭くなった杖に危険を感じたのかすぐさま両腕で防いだ牛だったが、ガードした腕が肉に当たった鈍い音と共に骨の折れる音が辺りに響いた。

 

「んなもんで防げると思ったのかよ、牛野郎!」

 

 悲鳴を上げて腕を下ろした牛のスキを見逃さず、さらに全身を叩く。二の腕、腿、膝、胴体、胸。出せる技術をもってして叩き込んだそれは、肉を削り骨を砕くのに苦労はしなかった。

 

「あばよ。強化なしでの戦闘について、いい教訓になったぞ」

 

 最後に頭へと杖を振り下ろし、その頭蓋をめり込ませる。短い悲鳴と共に力を失ったのか口や目、鼻から血を流して地面へと倒れ込み、その姿を灰へと変えた。

 

「んー。ダメだなぁ。この程度を強化なしに戦えないとなると、まだまだ地力が足りないか」

 

 灰へと変わったそれを一瞥し、その中にあった魔石を拾い上げる。同時に軽くため息を吐いてまだまだ自分は弱いと実感した。これがサーヴァントたちならば攻撃される暇もなく一撃、あるいは手玉にとって余裕をもって狩ることができるだろう。地力が足りていないというのはハッキリと理解できた。

 このままアドバイザーの言うこと聞いてチマチマやっててもらちが明かない。今から、とは言わなくても携帯食料を準備してからでも深くに潜りにいくのもいいかもしれない。いざとなりゃサーヴァントという鬼札もあるのだから、大丈夫だ。

 

 さてと。そうと決まればとっとと戻って地下入りの準備と計画を進めるとしよう。深くまで潜るとなると、しばらくはベルくんと一緒にダンジョンに潜ることもできなくなりそうだし、そのことについても相談するか。いや、案外一緒に行くことも視野に入れていくか。

 



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マスター、ギルドへ行く

ガバガバは許して(懇願


 今の実力を確認出来て結局ベル君を見つけることはできず、先ほどの下層モンスターを見つけたせいで先に出てきたのかと思い、入れ違いだったら申し訳ないと思いつつギルドで向かうことにした。ギルドに行けばもしかすれば出会える可能性がある上に、担当をしてもらっているエイナ・チュールに聞いてみればギルドに来たかどうかぐらいもわかるからだ。

 

「ようマスター。元気そうじゃねぇか」

 

 ギルドへの道を歩いていると背後から聞きなれた声が聞こえてくる。そっちを向くと、予想通りにそこにはキャスターが何やら愉快げな表情を浮かべて手を振っていた。

 

「キャスター、どうしてここに?」

 

「なに、最近見てなかったからマスターの顔でも拝見しようと思ってな?」

 

「心にもないようなことをよくいう」

 

「マスターがそれを言うか」

 

 お互いに悪態をつきながら笑い合う。話を聞いてみると買い物ついでにこの辺をぶらぶらしていたようだ。

 キャスターを含め、サーヴァントたちには自由に行動をしてもらっている。まぁさすがにバーサーカーはそのガタイや魔力消費量、コミュニケーション難ゆえに基本的には霊体化してもらっているが、基本的にサーヴァントは自由に過ごしている。いざとなれば令呪を以って呼び出すこともできるし、サーヴァント相手ならともかくある程度の自衛だってできる。サーヴァントが近くにいない現状でもなにも問題はないのだ。

 

「どうでもいいけど、なんでか辺りに血が撒き散らかされているよな。何かあったのか?」

 

「あぁ。マスターの所属しているファミリアの団長だな」

 

「は?」

 

 キャスターの言葉が驚きで頭を素通りしたかのように入ってこなかった。キャスターと話をしているときにも気になっていたが、道に点々として落ちている血は誰かが大けがでもしたのかと思っていただけに驚きも相当なものだった。

 

「なに?ベルくん傷も手当てせずに通ってたの?」

 

「いや、別に大怪我を負ったわけじゃなさそうだったな。ただ単に全身血まみれでここを走っていっただけだろ」

 

 話を聞いてみると、どうも全身が血塗れだったベルくんが走った拍子に全身に纏った血を辺りに撒き散らかしながらギルドのある方へ走って行っていたらしい。たまたまそれを見ていたキャスターはこれは面白いとばかりに俺に報告をしようと思っていたらしい。

 

「何してんのベルくんは」

 

「さぁね。俺には到底理解できないね」

 

 キャスターは趣味の良く無い笑みを浮かべながら手を振る。ここに来てから娯楽が少ないのかいろんなところに足を運んでいるらしく、今回ベルくんを見たのはたまたまだったらしい。

 思わぬ場所からベルくんの所在を確認できた俺はキャスターと別れてもともとの目的地だったギルドへ向かう。道中に落ちている血の跡をたどりながら歩き、ようやくギルドへとたどり着くと中からベルくんの大きな声が外にいた俺の耳にも聞こえた。

 

「ありがとうエイナさん!大好きー!」

 

 とてもじゃないが大勢の他人がいるところで叫べるようなものではない言葉を叫んだベルくんに、おませさんめ、と思いながら出てくるのを待っていると気分よさげにベルくんがギルドから出てくるのを見つけた。こちらから声をかける前に向こうも気づいたのか、気分よさげなまま俺の近くまで走ってきた。

 

「あ、フジマルさん!」

 

「やぁベルくん。どうもダンジョンでひどい目にあったみたいだね。血塗れで走ったんだって?」

 

「あ、その、えっと……」

 

 ダンジョンで合流する約束をしてたことを思い出したのか、申し訳なさそうな表情を浮かべるベルくん。

 

「あぁ、責めてるわけじゃないよ?ベルくんが約束ほっぽり出すとは思ってないし、血塗れになるほどのことがあったってわかったしね?」

 

「あぅ……その、すみません……」

 

 消え入りそうな声を出しながら頭を下げるベルくん。そこまで責めるような言い方はしてないはずなんだけど、真面目過ぎるきらいがあるベルくんには結構な言い方をされたと感じたのだろうか。

 

「とりあえず、今から換金とエイナ氏にちょっとした相談してくるから先に本拠に戻っておいてくれるかい?」

 

「あ、はい!わかりました!」

 

 もう1度だけすいませんでしたと頭を下げて本拠へと走っていくベルくん。走っていくにつれてテンションも上がってきたのか重々しい足取りから軽々しい足取りになっていった。

 何かいいことでもあったのかな?と思いつつギルドの中へと入る。相変わらず広々としているはずなのに多くの人でごった返しているせいで手狭にすら感じる。辺りを見回していると目的人物でもある女性がやや嬉しそうな表情を浮かべながら仕事をしているのが見えた。

 

「なにやら団長から熱烈なラブコールを受けたようですなチュール氏?」

 

「何ですかその言い方は」

 

 我ながらゲスい笑みを浮かべていると自覚しているが、隠すようなことをせず、むしろ全面に出していく。そうでなくてはからかっているということにはならないからな。

 一発でからかわれてると悟ったのか頭が痛そうな表情を浮かべて頭を少し抱える。別に俺個人とはさほど仲良くはないがベル君とは仲がいいのか先ほどの様に軽口を言える程度には親密なのだろう。

 

「まぁそれはどうでもいいんだけど。6階層よりも下のモンスターと地形の情報くれない?」

 

「……一応お聞きしますが、なぜです?」

 

「んなもん潜りたいからに決まってるでしょうに」

 

 割と初めからわかっていたことだが、ここ半月潜ってはっきりとこのままじゃレベルが上がるどころかステイタスの向上すら微々たるものだとわかり、下層に行けばそれなりに苦戦もすることができるとわかった今、のうのうと上層だけで狩り続けていても意味がない。

 とはいえ情報もなしに勝手に下に潜って行っても無駄な怪我や下手をすれば死ぬ可能性が高い以上、ギルドでの

情報も欲しい。頭が固いアドバイザーだから簡単には情報をくれるとは思えないけど。

 

「ダメです。冒険者になってからまだ半月しか経っていないのにそんな危険なことをさせるわけにはいきません」

 

「んなこと言われてもなぁ。上層のモンスター雑魚すぎるんだよ」

 

 思った通り、情報を出すのを渋るエイナさん。別に担当で死人を出さないために上層に縛っているというだけでなく、本気で死なせたくないがためのものだとは、長すぎる勉強会でわかっているのだが、こうも出し渋りが過ぎるとストレスがたまるというものだ。

 

「……それと、ベルくんを1人でダンジョンに潜るようにしてるようじゃないですか。ギルドとしてはソロでの活動は推進していません」

 

「それは過保護が過ぎるってもんだろ」

 

 下層の情報についていろいろと聞いているうちに話をそらしたくなり始めたのか、ベルくんとのダンジョンの潜り方について言い始めるエイナさん。

 

「何もレベルが違いすぎるような奴と戦えとは言ってないんだこっちは。それぐらい問題ないだろうに」

 

 正直、上層だけでもソロで潜れるようにならないと下層に潜ったところで自分の最低限できるところや限界が分からなくなる上に他人がいるということへの甘えが必ず出てくる。成長すればできることも増えてくるけど、結局下地になるのは今までの経験だけだ。

 

「死地へ送り出す職業上臆病にもなるんだろうけど、現地の人間の言葉もある程度は飲んでくれないと結局軋轢で両方駄目になるだけだろ」

 

 これだけ強情に仕事をしていると冒険者との軋轢も目に見えて想像できる。実際にそうなったこともあるだろうに、どうしてここまで強情になれるもんなのかねぇ。

 

「……それでも、ある程度の安全を確保したうえでダンジョンに挑んでもらいたいと思うのがギルド、いえ、私の思いです」

 

「折れた方が楽になるだろうに。よくもまぁそこまで強情になれるもんだ」

 

 必死なのだろうことはわかるけど、ここまで強情にやられるとやりたいこともできないストレスで信頼もなくなるだろうに。そうしてでも生き残らせるように努力しているということかね。

 

「帰るわ。5階層よりも下の階層の情報だけ明日よろしく」

 

 それだけ伝えると魔石を現金へと変えてギルドを出る。あの牛の魔石が利いたのか相当な金額になった。そろそろ杖以外の、打ち合っても問題ない剣ぐらいは買った方がいいのだろうかと思っていると、ふと視界の端に見慣れた赤いマントの端が通りがかった。

 

「やぁ、元気そうで何よりだ、マスター」

 

 視線を動かしてみると、パンパンに詰まった買い物袋と思わしきものを両手に歩いていたアーチャーもこちらに気が付いていたのか俺に声をかけてくれた。

 

「どうしたんだその両腕にある食材は?」

 

「あぁ。これはとある酒場の主人に買い物を頼まれてね。急に必要になったからということで私が買いに行っていたんだ」

 

「ふぅん」

 

 確かにアーチャーには山で修行をしていたころに食事を担当してくれていた。色々と制限されていた環境だったにもかかわらずその腕は原作やFGOでもあったようにかなりのものだったのは今でも覚えている。正直今のファミリアの環境を考えればアーチャーだけでも連れてこれた方がよかったと思うぐらいには。

 

「なぁ、その酒場行ってもいいか?つってもファミリアのこともあるし、行くのはそのうちってことになりそうだけど」

 

「私は別に構わないが、料金はそこそこするぞ。大丈夫なのか?」

 

「なに、今日下から来たらしい牛を狩ってそこそこの金ができたからな。問題ないさ」

 

 下から、という言葉にアーチャーはあまり面白くなさそうな表情を浮かべる。

 

「あまりこういうことは言いたくはないが、仮にも君は私たちのマスターなんだ。できれば危ないことはしてほしくはないな」

 

「無理だな。アーチャーたちから教わったことで俺のやりたいことができるんだ。いくら言われてもこれだけはやりたんだよ」

 

 アーチャーの言うことも分かる。サーヴァントからすれば俺は自分をこの世に繋ぎとめる楔のような存在だ。俺が死んでしまえば、単独行動を持っているアーチャーは何日かは持つかもしれないが、この世に存在できなくなる。ランサーやキャスター、アサシンなんかは面白がって強敵と対峙することを推奨するであろうが、仮にもマスターだからということでアーチャーはあまり前線に出ることを良しとはしてなかった。

 

「無理だったら何が何でも逃げる。そういうことでいいんだろ、アーチャー?」

 

「……本当に、私のマスターは頑固者が多いようだ」

 

 やれやれ、と言いたげに首を振ったアーチャーは店のこともあると言って踵を返した。

 

「私は『豊穣の女主人』という酒場で働いている。気が向いたらそこに来るがいい。暇さえできれば愚痴ぐらいなら付き合ってやれるかもしれんぞ」

 

「そりゃいい。ステイタスの伸びの愚痴を肴に飲みに行くわ」

 

 人ごみの中へと歩いていくアーチャーに別れを告げてファミリアの本拠のある場所へと足を向ける。神ヘスティアが良ければ、明日にでも食べに行こうと決意して換金したコインをはじきながら俺も人ごみの中へと足を運んだ。

 



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マスター、酒場に行く

設定ガバは許して。


「ここ、でいいのか?」

 

 アーチャーに言われて着いたのは一軒の酒場だった。中は大きな空席があったが、それでも繁盛しているのが分かるほどに賑やかな雰囲気の店で本当にここであっているのか若干不安になるほどだった。

 ファミリアのみんなには前もって知り合いのところに食べにいくと話してはいる。俺に知り合いがいたことに驚かれたが、まぁそんなこともあって2人からも認可を得てこうして食べに来たのだ。

 

「いらっしゃいませ。1名様でよかったですか?」

 

「そうですけど、ここにアーチャーはいます?フジマルが来たって言えばわかると思うんですけど」

 

「アーチャーさん?わかりました、少々お待ちください」

 

 アーチャーで伝わったのかパタパタと中へ入っていく。少しの時間待っていると先程と同じ店員がこちらへ向かってくる。

 

「今調理中で手が離せないようなので、カウンター席でお待ちいただいてもよろしいですか?」

 

「忙しいのか。わかりました。適当に座ったらいいです?」

 

「えぇ、どうぞ」

 

 中に入ると酒場独特の酒精の匂いが鼻をつく。笑いながら酒を飲んでいる冒険者や料理に舌鼓を打っている冒険者など、様々な人たちの楽し気な雰囲気があった。

 

「よく来てくれたな、マスター」

 

 カウンターに座り何を食べようか考えているとアーチャーがエプロンをつけてカウンターまで来た。エプロン姿は修行していた時代に見てきていたが、やはりアーチャーにはエプロンが似合うんだなと再確認する。

 

「アーチャー、ここで働いてたの?」

 

「まぁな。ここの料理に色々と助言をしていたら店長から働かないか、と言われてね。こうして料理番をやらせてもらってる」

 

 やれやれ、と言わんばかりの表情をしているが、俺は知っている。俺の修行に付き合っているよりも料理をしている時の方が生き生きとしているのだ。たぶん昔みたいに制限がない分ここでも楽しく料理でもしているのだろう。

 しかし、そうか。アーチャーはここで働いているのか。いつかはサーヴァントのみんなでここに食べに来てもいいかもしれないな。まぁ、その前に儲けられるようにならないといけないんだけどなぁ。そのうち誰かに頼んで一緒にダンジョンで魔石狩りでもするか。

 

「アーチャー、適当にオススメを頼む。ついでだし料理に合うワインもよろしく」

 

「君はまだ二十歳を越えてないだろうに」

 

「いいんだよここじゃ合法なんだし。それに本当に二十歳越えてないのか自分でもわからんしな」

 

 一体何歳の時にあそこにいたのか。一体何年あそこで暮らしていたのか。その年数も分からないで生きてきたのに、今更酒の年齢確認でゴタゴタ言われても意味はないだろう。ここは日本じゃないし、ましてや地球でもない。場所が違えば法律も違うってことで飲ませてもらってもいいだろう。

 俺の言葉にそれもそうかと納得したのか注文を受けたアーチャーは厨房へと向かっていく。アーチャーの作る料理にはずれはないだろうし、どんなものが来るのか非常に楽しみだ。

 

「あれ、フジマルさん?」

 

 アーチャーの料理を待っていると後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。後ろを振り向くとそこには少し驚いたような表情を浮かべていたベルくんがいた。

 

「やぁベルくん。君もここで食事か?」

 

「えぇ、知っての通り神様もどこかへ出かけていきましたし、この人に食べに来てくださいって誘われたので」

 

 ベルくんの隣にいたのは俺にも対応してくれていた従業員の白い髪の少女。名前までは知らないし、どうやって知り合ったのかはわからないけど、これが悪徳店舗だったらどうするつもりだったのだろうと不安に思ったが、まぁ結果オーライではあったか。

 

「ま、偶然とはいえせっかく一緒の店で食べるんだ。せっかくだし神ヘスティア抜きで団長と団員で話し合いとでもしゃれこもうや」

 

 隣に座るように椅子を軽く叩き、ベルくんはそれもそうですねと言って隣に座る。ここに入るのもお互いに初めてだったこともあり、ベルくんもお任せで注文を終えて落ち着かないようにそわそわし始める。

 

「僕、こういうお店に来るの初めてなんです。フジマルさんはどうです?」

 

「俺も滅多に来ないな。お金があまりないのもあるから大体は本拠で食うか、出店である物を食うかの二択だしな」

 

 当たり障りのない会話を続けながら料理を待ち続けると、先に注文していたおかげか俺の前にナマズのようなものを揚げた魚料理と白ワインが置かれた。

 

「お、これがアーチャーのおすすめか?」

 

「あぁ。朝からじっくりと味を染み込ませた一品だ。その分料金も多少なりとも上がるが、まぁ君なら問題あるまい」

 

「まぁあの牛狩ったからいいお給金もらえたからな。多少の贅沢は問題ない」

 

 実際、あの牛の魔石はいい金額だった。上層に出てきてくれたおかげで今の自分の実力もわかったのは何よりのものだ。。身体強化の魔術を使わなければ勝てなかったのは悔しかったが、同時にお金と目標もできたから文句は言うまい。

 

「あの、あの人とはお知り合いなんです?」

 

「ん?あぁ、まぁ、そんなところだ」

 

 ベルくんたちファミリアのみんなを含め、誰にもサーヴァントたちのことは言っていない。ファミリア内には言ってもいいかもしれないが、サーヴァントは俺の出せる最後であり、そして最強の切り札だ。サーヴァントのことが広まればまず間違いなく騒ぎの中心になりそうだから、誰にも言う気はないし、これからも言う気はない。一部脊髄反射でマスターであることを言ってきそうなサーヴァントはいるが、全員と話し合った結果せいぜい知り合いということにしておこうと決まったのだ。

 

「先にいただいてるよ、ベルくん」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

 まぁ、サーヴァントのことは今は置いておくとしよう。せっかくのアーチャーのおすすめであるし、冷めないうちに食べるとしよう。

 まずは魚を口にする。出来たてだということもあってかパリッとした食感とともに熱の通った魚のいい香りとちょうどいい塩梅の塩っけがたまらなくおいしい。口の中に魚の風味が残っているところにワインを口の中へ流し込む。酒場ということもあってかなかなかの度数のアルコールを感じたが、味はとてもさわやかだった。さすがアーチャーの選んだものだと感心するほどだった。

 

「あんたがシルの知り合いかい?冒険者なのにかわいい顔してるねぇ」

 

 ここの主人なのだろう。恰幅の良い女性が笑みを浮かべて山盛りに盛られたパスタの皿をベル君の前へと置いた。

 

「……ほっといてください」

 

「あっはははは!かわいい顔だってさベルくん!」

 

 かわいい顔と言われていい気分じゃないのかすねたような表情を浮かべるベルくん。白ワインとはいえ、ほろ酔い状態であったこともあってかそのやりとりがとても面白く感じる。先ほど置かれたパスタの山と飲み物、そして俺と同じ魚の揚げ物に支払う料金のことが頭によぎったのか少し表情を青ざめさせていた。

 

「結構量多いな。食べきれるのかい?」

 

「……頑張ります」

 

「まぁ、俺もそんなに注文してないし、無理そうだったら言いなよ?」

 

 お金の方も、牛を狩ったおかげでそれなり以上の分を持ってはいる。別に折半してもいいのだが、それを言うとベルくんは遠慮しそうだから本当に食べられそうにない時に言ったほうがいいのだろう。

 

「ご予約のお客様、ご来店ニャ!」

 

 そんな声が店内に響いた。繁盛しているのに結構な空白の席があったことに多少の疑問はあったが、どうやら予約席だったようだ。赤い髪の女性を先頭にぞろぞろと大勢の人が店内へと入ってくる。そんな予約のお客様が店内に入ると、店内にどよめきのようなものが広がった。

 

「お、おい、ありゃロキファミリアじゃねぇか」

 

 周りがざわざわと騒めきながら入ってきた一団について話し始める。遠くの席のはさすがに聞こえないが、たまたま近くにあった席から聞こえた話からすると入ってきたのがロキファミリアなのだろう。

 ロキファミリア。興味や必要のない他のファミリアのことは調べてないからよくは知らないが、確かダンジョンを攻略する一派のファミリアだったか。ベルくんとともにファミリアを探していた時に門前払いをくらった場所でもあったから大して興味も持たなかったけど、なるほど。ここまで大きいと門前払いもある程度しないと時間を取られるってことだったか。てっきり崇拝してる輩が勝手をしたのかと思っていた。

 

「……で、何してるのベルくん」

 

「…………」

 

 入ってきた一団を呆然と見ているベルくん。話しかけても口からパスタが垂れているにもかかわらずボウっとしている。はてさて、なんでまたこんな状態になっているのか。

 次々と料理が運ばれていき、まさに宴と呼べる騒ぎが始まっていた。あそこまで豪勢に料理を注文しているのを見ると、ぜひともサーヴァントたちとあぁ言ったことをしてみたいと思ってしまうものだ。

 宴も盛り上がってきたころ、犬の耳をつけた白い男が面白がるように思い出したかのように大声を上げる。

 

「そうだアイズ!あの話をしてやれよ!」

 

 声高々と言われていたそれは、簡潔に話せばモンスターに襲われていた冒険者が血塗れになって逃げたということを面白おかしくしようとした聞くも吐き気語るも苛立ちの胸糞悪いものだった。周りもやめるように言っていたのだが、酔っているのか話はエスカレートしていく。それを聞いていて気分悪いと思って店を出ようかとベルくんに告げようとすると、ベルくんはやにやら我慢しているような表情を浮かべている。どうしたんだろうかと思い聞いてみようかとすると、その男の言葉が店内に響いた。

 

「雑魚にアイズ・ヴァレンシュタインは似合わねぇ」

 

 この言葉がきっかけだったのか、ベルくんは悔しそうな表情を浮かべて見られることも構わずに店の外へと走っていった。



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マスター、キレる

ベルくんたちの原作における冒険者日数設定ガバってました。指摘してくださった方ありがとうございます。
ちょっと無理やりな展開も許して。お願い(懇願


 ベルくんが走って出て行った外は、本人の気持ちを表しているかのように虚しく何も映していなかった。ベルくんが出て行ったのを他にも気にした人がいたのか、神ヘスティアのようなやけに露出の多い服を着た金髪の女の子が外に出て行った。

 

 ……なるほど。さっきからなんか反応してるなと思っていたけど、あの話のトマト野郎ってのはベルくんのことか。血塗れでギルドまで走っていったってキャスターも言ってたしな。

 

「アーチャー。お冷や頼む」

 

 あぁ、気に入らない。誰かのミスで話を盛り上げようとするのはよくある話だ。それが自分の失敗談であれば面白いだろう。親しい友人同士であれば大いに笑いあっていただろう。けど、それが全く知らない人間のこととなれば、それも全く関係のない赤の他人が身内をバカにされたとなれば頭に来ないわけがない。

 

「……あまり暴れるなよ」

 

 アーチャーの忠告に、分かってる、と返して持ってきてもらったお冷やを手に話な中心となっている男のもとへと歩みを進める。途中で俺に気がついた人がなんだこいつと視線を送ってくるがそれを無視して男の後ろへとたどり着く。酔っていても後ろに誰か来たことはわかったのか、男は睨み付けるようにこちらを見てきたが、それを確認した俺はお冷やをその頭へとぶっかけた。

 

「よう、他人を笑い者にして飲む酒はうまいか?頭冷やしてやったけど、酔いは醒めたか?」

 

 頭から水を被った男は何が起きたのか理解できなかったのか身動き1つしなかったが、すぐに何をされたのか理解できたのか額に血管を浮き上がらせながらゆるりと立ち上がり、俺を睨み付ける。

 

「テメェ、死にてぇのか」

 

「ハッハッハッ。人の団長貶めるヤツがなにかほざいてるなぁ」

 

 身長差はわずかに俺の方が高い程度。メンチを切り合う俺たち、特にベートと呼ばれている男にやめるように周りから声がかけられているが、そんなものは知ったことじゃねぇとばかりに無視をしている。俺も同じように周りの言葉を無視して睨み付ける。

 

「……殺してやろうか」

 

「他人を貶めるやつが?誰を?テメェなんぞハエを叩き落とすのが精一杯だろ」

 

 威嚇してくるベートに鼻で笑って笑みを浮かべる。それで怒りの臨界点を超えたのか、先ほどまでのいらだった表情から一変し、逆になにも表情を浮かべなくなった。

 

「テメェが自殺願望者なのはよくわかった。死ね」

 

 そういうや否や頭めがけて蹴りを入れてくる。予想以上に速い。身体強化魔術を使い、ルーンが刻まれた手で受け止め、そのまま受け流す。

 

「っ!?」

 

 簡単に受け流されたことに驚いたのか目を見開くベート。正直この程度ならば修行の際サーヴァントたちから最低限のレベルとして受けている程度のものだ。これ以上の速さと強さで毎回修行している身としては簡単に受け流せる。

 

「喰らっとけ」

 

 受け流した隙を見て手を銃の形にしてベートに向ける。そして指から黒いナニかが発射されたそれは、銃弾の速度で男の胸に直撃し、その勢いのままテーブル席へと吹っ飛ばされた。

 俺が放ったのは指を指した対象を病気にさせる呪いであるガンドと呼ばれるものだ。かの遠坂凛がマシンガンのごとく撃ちまくったあれと言えば分かるだろうか。あれはフィンの一撃と呼ばれるガンドの威力が上がったものだが、まぁ種類としては変わらない。

 俺のガンドは対魔力の高い魔術師でも通るように呪いの強さを高めたものだ。もちろん物理的な強さもそこそこあり、大人程度なら先程のようにブッ飛ばすことは余裕でできる。フィンの一撃と呼ぶにはまだまだ未熟だが、まぁ大抵の者には効くとキャスターのお墨付きだ。

 

「ガッ……!ゴホッ、テメェ……!」

 

「しばらくベッドでおねんねしてるんだな」

 

 早速ガンドの呪いの効果が発揮されたのか既に顔色が悪くなってきている。立つのが辛いのか足だけでなく全身が震えているその様は、病にに耐えてやっとこさ立てたという表現がピッタリだった。

 その様子を鼻で笑う。周りを雑魚だと貶めるようなやつにはこれが一番神経に来るだろうとわかっているがゆえに、体調がかなり悪くなっているそれの調子をさらに悪くするように振る舞って席へ戻ろうとする。

 

「……ちょっと待ってもらおうか」

 

 が、さすがにそのままじゃ返してくれないのは組織としてできないのだろう。代表らしき少年が覇気とも言えそうな雰囲気を出して俺の肩を掴んで動きを止める。

 

「ベートに何をした?」

 

「なに、ちょっと体調崩してもらっただけさ。1、2日もしたら元気になる」

 

 俺の言葉が嘘なのか、神らしき女性に目配せをする少年。その女性も嘘はついていないと判断したのか軽くうなずいていたが、そのまま俺を睨みつけてきていた。まぁ、確かに体調を崩させてもらったけど、そこまで見かけるようなものではなかったのかもしれない。ギルドに話を聞いていたが、魔法なんてものはあっても魔術なんてものはないこの世界でガンドでも未知のものなのだろう。

 

「言っておくが、先に喧嘩を吹っ掛けてきたのはそっちだからな。人が楽しく飯食ってる時に人の団長を貶めやがってよ。気分悪いったらありゃしねぇ」

 

 唾棄するかのように口を鳴らして少年を睨みつける。人数から見るにかなりの規模のファミリアのようだが、そんなこと知ったことではない。メンツをつぶされたということならば団長を貶めたそっちも大差ない。そういう理論でこっちはやっていく。

 

「1、2日寝かせておけばソイツはすぐに治る。こっちは団長を貶められ、そっちは団員の体調を崩された。これであいこってことでいいだろ」

 

 掴まれた手を振りほどき、自分の席の方へと顔を向ける。去ろうとしているのが分かったのか、少しだけ慌てるような声で制止させられた。

 

「待ってくれ。いくら治るとはいえ何をしたのかぐらい教えてくれてもいいだろう?」

 

「いやだね。こっちだけに非があるならまだしも、こんな人の目があるところで人の団長貶めてくれた連中に教えるようなことをするわけがないだろ。言ったところで理解できるはずもないだろうしな」

 

 エイナさんとの勉強会で分かったが、この世界には魔術もルーンもない、あるのは魔法というスロットに入れるがごとく修得するファンタジーなものだけ。探せば呪いも扱うような奴もいるのかもしれないが、今のところそういうことができるという情報は持ってない。

 

「あぁ、そうだ」

 

 まだ何かを言おうとしてくる気配を感じ、足を止める。こちらが言葉を言い始めたからか向こう側は言葉を止めた。

 

「もしだ。ファミリアでケンカをやろうってんなら、そん時は俺のきれるすべてのカードを以てテメェらを潰してやるからな」

 

 程度にもよるが、それこそファミリア同士の抗争となればサーヴァントを表に曝すことになるとしても勝つために動く。俺1人だけで問題ないならいいが、そうでない可能性も十分にある。それにサーヴァントへ頼むことに忌避感はさほどない。まぁ、なるべくサーヴァントに頼らないようにするのはもちろんなのだが、表に出てしまってからが面倒なことになりそうだ。まぁそうなったときはその時で考えるようにしよう。

 まだ後ろで何かごちゃごちゃしていたけど、言いたいことは言った俺はそれを無視して自分の席に戻る。せっかくいい気分だったのに、これじゃ台無しだ。ベルくんも探さないといけないからアーチャーに清算を頼もうと顔を挙げたら、全く別の人の顔が目に入った。

 

「アンタ、人の店でよくもまぁ暴れてくれたねぇ」

 

 店主が恐ろしい笑みを浮かべていた。普通の店主では感じるはずもない威圧感に頬が思いっきり引き攣っていくのを感じた。

 

「あー。あれは、挑発してくるあっちが悪かったってことで、許してくれない?ダメ?」

 

「一理あるかもしれないけど、あんたも一介の冒険者なら自分のケツは自分で拭いてもらわないとねぇ」

 

「……いや、あの……」

 

 アーチャー、助けてくれ。と視線をずらしても、自業自得だと言わんばかりに深くため息を吐き、視線をこっちに寄越すことなく料理を続けている。

 これは、あれか。助けてくれないということですねわかりたくないです。

 

「……あの、すんませんっした」

 

 どこの世界でも、肝っ玉母ちゃんが最強なんだなって、達観しながら店長に頭を下げた。ちくしょうあのボケもうちょっと痛めつけておけばよかった。

 

 



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マスター、ベルくんを探す

 辺りも暗くなっており、街灯が微かに道を照らしてくれている中、俺は走って出て行ったベルくんを探すために走り回っていた。

 

「どこに行ったんだベルくんは……」

 

 ベートとかいう阿呆のせいもあってか長くはなかったが、それなりの時間が店主からの説教で潰れてしまってベルくんの手掛かりがない中、ルーン魔術で足を速くしながら街中を走り回る。念のために本拠に戻ったのかを確認したがそこにもおらず、途中で出会った人からもベルくんを見ていないか聞きまわってもみたがどれも総スカン。中にはケンカすらも売ってくる連中もいたが、時間がかかったこと以外は特に問題なかった。

 こういう時にサーヴァントがいればと思ってしまう。こういうことになるとはさすがに思いもしなかったが、仮にサーヴァントの誰かががあの場にいたら容易に発見できたのにとは思ってしまう。

 

「……これ以上走って探すのは無駄骨か」

 

 近くにあった石を拾い、ルーンを刻んで魔力を回す。刻み込んだルーン文字はベルカナ。クーフーリンも使ったことのある探索をするのに適したルーン文字だ。最初っから使えばよかった気もするが、手ごろな石も近くにはなく、ベルくんがどこまで走っているのかもわからない状態で探索のルーンを使っても逆に混乱するだけになる。ある程度時間も経って移動も終え始めているであろう今だからこそ探索のルーンの効力を発揮できる。

 

「……こっちか」

 

 ルーンを刻んだ石が勝手に一方向へと動く。動き出した石をつかんで引っ張られる方向へ走る。魔術を使って身体を強化しているせいで何度か行き過ぎて方向を間違えたが、まぁ問題ではない。問題なのは石の導きに従って着いた場所だった。

 

「……ダンジョンに潜ったのか?」

 

 ダンジョンに蓋をするように建てられた塔バベル。最終的に破壊されそうな名前に内心大丈夫かと思っていたのだが、まぁ現状は大丈夫だろう。モンスターが噴き出すほどに現れて破壊されそうだと思うのは俺だけなんだろうか。

 それはともかく。このバベルには様々な施設があるが、あの状況でベルくんがどこかの施設に入るとは到底思えない。ということは他にベルくんが行きそうな場所と言えば、ダンジョンしかない。

 

「……まぁ、素手でも問題はないか」

 

 今手元には杖がないが、杖無しでもダンジョンに潜ってモンスターを倒してきている。その際に手が汚れるからあまりしたくはないと思っていたのだが、今は状況が状況だ。そうも言ってられない。チョロチョロと出てくる冒険者を横目にダンジョンへと入り、ルーンと魔術で身体を強化して人間が出せるはずもない速度で走り、モンスターを無視してダンジョン内を探し回る。

 1階層、2階層、3階層と頭の中のダンジョンマップを頼りに走り回り、しかし5階層まで探し回ってもどこにもいなかった。すれ違っている可能性もあるが、しかし虱潰しに探しているのだからこれ以上探したところで意味もないし、時間がかかりすぎる。ともすればいる可能性があるのは6階層よりも下ということになる。しかし、6階層となるとまだ完全にマップを覚えきれていない今探しに行くのも難しいと思ったが、しかし5階層まででどこにもいないとなればいるとすれば6階層かそれよりも下としか考えられない。

 

 下に行くしかない。6階層ならばまだ覚えている部分もあるだけマシだからすぐにでも探そうと6階層へ突入する。探しているうちに俺まで迷って時間がかかる可能性を考慮して覚えている道を走る。

 しばらく探すために走っていると前から足音が聞こえた。しかしベルくんのような軽い者の足音ではないと感じた俺はモンスターの可能性も考えて走っていると、ふと見覚えのある青い頭がチラリと見えた。

 

「お。ようマスター、お前さんもこんな時間にダンジョンか?」

 

 そこには白い何かを担いでいるキャスターがいた。まるで散歩にでも出ていたかのような軽快なあいさつに、知り合いだったことに警戒していた緊張が解けて思わずため息が出た。

 

「キャスター。どうしてここに?というか、その肩に乗ってるのは……」

 

「あぁ、お前さんの団長だ」

 

 近くまで来て担いでいるそれが誰なのかをようやく見ることができた。気を失っているのか微かに腹部が上下しているのが見えるが、確かに肩に乗っていたのは探していたベルくんだった。

 

「ありがとう、ちょうど探してたんだ。眠ってるみたいだけど、どこにいたんだ?」

 

「ついそこで戦闘をしていた。精魂尽きるまで戦っていたな」

 

 キャスターに話を聞いてみると、暇つぶしにその辺をぶらついているところにちょうどベルくんが走っていくのを見かけたようだ。別にそのままにしてもよかったのだけど、どうも切羽詰まったような表情だったらしく、気になって後をつけた。そしてそのまま後をつけていくと碌な装備もせずダンジョンに入っていき、無我夢中でモンスターを狩っていた。段々と下へと潜って行き、気が付けば周り中モンスターだらけで、最後の1体を倒したところで倒れたんだとか。そのままにしておくこともできず、気絶してるのを確認して担いでここまで来てくれて、今に至ると。

 

「ったく。ソロでやる意味を分かってるのかねこの子は」

 

 あくまでソロで活動していたのはルーン魔術を見せないためと、同時にお互いに帰ってくるまでの活動の限界を知るためにやっていたのに、ベルくんはそれすら忘れて全力でダンジョンに潜っていたようだ。

 

「いいじゃねぇか。根性あって俺は嫌いじゃねぇぞ」

 

「そういうことを言ってるんじゃないよ」

 

 キャスターはカラカラと笑っているが、こっちとしてはまるで笑えない。運よくキャスターがいてくれたからよかったものの、ダンジョンで気を失ったままだったらどうするつもりだったのだろうか。

 

「ありがとうキャスター。また今度なにかおごるよ」

 

 キャスターからベルくんを受け取って背負う。まだまだ成長途中の少年ということもあってか鎧や武器を考慮しても軽かった。

 

「別にいいんだけどよ。ま、礼がしたいってんなら酒でも頼むわ」

 

 俺はこのまま遊んでいくわ、とヒラヒラと手を振ってダンジョンの奥へと消えていくキャスター。長く青い髪が見えなくなるのを見届け、ベルくんの位置を歩きやすくなるように背負いなおして本拠(ホーム)へと歩く。ベルくんは本当に眠っているだけのようで、しかしよほど暴れたのか時々背負いなおしても全く起きる気配もない。

 途中でモンスターに襲われては魔術で撃退をしての繰り返しで、結構な時間もかかったがようやくダンジョンの外へ出ることができた。あれから一体何時間かかったんだと本拠(ホーム)にいる神ヘスティアの機嫌を考えながら歩き。やっとのことで本拠(ホーム)へとたどり着いた。

 

「お帰りリッカくん。今日は遅かったんだ……ベルくん!?」

 

 中へと入るとやや不機嫌そうな表情で神ヘスティアが迎えてくれたが、俺が背負っているベルくんを見てから隣まで飛んできた。

 

「大丈夫。ベルくんは寝てるだけだ」

 

「そ、そうなのかい……」

 

 息をしているのを確認できたからか深く息を吐く神ヘスティア。普段ベッド代わりに使っているソファまで連れて行き、ゆっくりと下すがまだ目が覚める様子はない。明るい場所に着いたことだし、改めてベルくんの様子を確認する。鎧を着たまま眠っているせいか寝づらそうにしているが、それ以外で目に見える範囲で大きな傷は見当たらず、あっても頭から血を流してるがそれも浅い切り傷から流れているものだけであとは軽い切り傷や打撲痕ぐらいで命に別状はなさそうだ。

 

「まったく。心配をかけるんじゃないぞベルくんめ」

 

 面白くなさそうに神ヘスティアは頬を膨らませてベルくんの血を拭う。起きないようにしているのかされるがままのベルくんに苦笑しながら外着を脱いで自分の使っているソファへ放り投げる。

 

「ありがとうリッカくん、ベルくんを見つけてくれたのは君なんだろう?」

 

 山で修行をしてきた身としては、魔術も使ったおかげで走り続けていただけでは大して疲れもないのだが、さすがにそれなりの時間を探し続けていたとなると精神的な疲れも感じる。軽く息を吐いてソファに座り込むと神ヘスティアがベルくんの様子に安心したのか安堵の表情を浮かべていた。

 

「いや、俺も探してたけど、見つけたのは俺の知り合い。ダンジョンに潜っていたところを見つけてくれたんだ」

 

「そうなんだ。その人にはぜひともお礼をしなくちゃね」

 

 ニヘラと笑みを浮かべる神ヘスティア。そのまま水の入った洗面器とタオルを持ち出して濡れたタオルで土と血で汚れたベルくんの顔や体、衣服を拭き始める。何かをするでもなく俺はその様子をボウっと見ていた。

 ふと、神ヘスティアがキャスターと会う思ったところで思い出したけど、確かキャスターって半神半人だったよな。それで神と出会ったらそうであるとわかるのだろうかと一瞬不安にもなったが、まぁ出会ったら出会った時だと不安を振り切る。

 

「ぅう……」

 

 うめき声が部屋の中に響く。それに反応した神ヘスティアはバッタのように跳ねてベルくんのそばまで寄り、俺もゆっくりとではあるがベルくんの様子を見るために近づいた。

 

「……神様?フジマルさん?」

 

 ゆっくりと目が開き、やや半目ながら開いた眼と視線が合う。知った顔が見えたからか少しの間ボウっとした表情でいたが、次にはゆっくりと視線を部屋の中へと這わせた。

 

「ここは……」

 

本拠(ホーム)だよ。俺の知り合いが気絶したベルくんを連れてきてくれたんだ」

 

「……そう、なんですか……」

 

 ダンジョンではないことに気が抜けたのか、ゆっくりと深く息を吐くベルくん。強張っていた体の力が抜け、まだ汚れが取れ切っていない服のままソファへと体を鎮める。

 

「……神様、フジマルさん」

 

 神ヘスティアが血で汚れたタオルを洗面器で洗っていると、ベルくんはポツリとやや悔しさをにじませた声を出す。

 

「僕、強くなりたいです……!」

 

 泣きそうな表情で、けど決意を固めた表情で手を握り締める。その様子に神ヘスティアは聞きたいことも聞けず、大丈夫、強くなれる、と言って静かに抱きしめる。

 決意を新たにしたベルくんに、俺は特に何かを言うでもなくその様子を静かに見守っていた。

 




そろそろいろんなサーヴァント出せるように文章力鍛えたいなぁ


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マスター、祭を知る

リッカ・フジマル

 

LV.1

 

力:I9→I11

耐久:I7

器用:I14→I16

敏捷:I19→I22

魔力:I0

 

《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

【】

 

 

 

「……全っ然、増えねぇな」

 

 ベルくんが気絶するまで単身ダンジョンへ潜ってから1日が経った。口うるさいアドバイザーから6階層よりも下の情報をグチグチ言われながらも聞き、さらに下の階層へ行ってはそこで無心にモンスターを狩り続けていた。

 時には杖のみを使い、時には魔術のみを使い、時には素手だけで挑み、時には片腕だけ縛るということすらもした。にもかかわらず、ステイタスを更新してもまるで増えていない。魔法やスキルは増えなくても別に問題はないのだが、しかしどうしてまたこんなにも増える気配がないのだろうか。

 

「まぁ、僕も平均というものはよく知らないけどさ。たぶんそれぐらいが普通なんだと思うよ?」

 

「まぁ確かに、これが平均なら世の中レベル1ばっかりなのは納得するけどな」

 

 にしても、これはあまりにも増えなさすぎではなかろうか。同じファミリア内でもステイタスに関することを見聞きすることはマナー違反であると聞いているから聞いてはいないが、神ヘスティアからたまに聞こえる愚痴から考えるにベルくんの方はあまりにも成長スピードが速すぎるとはわかっている。はて、俺とベルくんのこの成長の差はどこにあるのだろうか。

 

「しかし、魔術は魔法にもスキルにもならないのか」

 

 俺の使える魔術は魔法かスキルとして反映されるものなのかと思ったが、特に何も書かれていないのを見るにどちらでもないようだ。魔術が使えるのに魔力が0となっているのは、この世界の魔法に使われる魔力と魔術回路から引き出される魔力(オド)とは違うのだろうか。

 

 神ヘスティアが書いていないだけなのかと思い以前にそれとなく聞いてみたこともあるが、特に表情の変化もなく平然としていたためただ単に書かれていないだけなのだろう。これがステイタスを得る前に習得しているから表記されていないだけなのか、それともなにか別の理由があるのか。まぁどちらにしても今のところ誰にも言うまいと思っているから特に問題視はしていない。

 

「何か言ったかい?」

 

「いや、感想を呟いただけで特に聞かせようとしたわけじゃないですよ」

 

 厄介なことに神には嘘はつけない。ついたところでそれが嘘だってわかるからだ。別に嘘をつくことに何の忌避感もないが、こういうところでの嘘は積み重なりが重要になってくる。嘘についてどうでもいいと感じるのか、それとも突っかかってくるのか。神ヘスティアは後者に近い存在だ。例えわかっているのだとしても嘘にならない言葉を使うしかないのが面倒だと感じる。

 

「ねぇ、ずっと気になっていたことを聞いてもいいかな?」

 

 傍にあった脱いでいた服を着なおし、自分のソファでくつろいでいると真剣な表情をした神ヘスティアが声をかけてくる。

 

「構いませんよ。といっても分かることしか答えられないですけど?」

 

「そんな意地悪言わずにさぁ」

 

 軽い冗談と分かってか先ほどまでの真剣な表情も和らぐ。しかしすぐに真面目な表情へと変わった。

 

「どうしてベルくんと一緒にダンジョンに行かないんだい?」

 

 そう聞いてくる神ヘスティアの声色は、わずかではあるものの怒りのような、戸惑いのような、そんな複雑な声色のようにも感じた。

 

「何か考えがあるのかもしれないけど、でもたった1人でダンジョンに行くのは危険だと思うんだ。だから、もうそろそろベルくんと一緒にダンジョンに行ってくれないかな?」

 

 ベルくんが心配なのだろう。確かに戦いなれている俺とは違って小さな農村で過ごしてきたベルくんは戦い方というものを知らない子供だった。最初の頃は戦い方を教える意味でも一緒に潜っていたが、1週間したところで手を出さずにモンスターに戦ってもらい、大丈夫だと思ってからは2、3回ほどしか一緒に潜っていない。と言っても半月の間の出来事であるから別々に潜り始めてからそこまで経ってはいないのだが。

 

「……まぁ、やりたいことがあったんですよ」

 

「やりたいこと?」

 

 意外だと言わんばかりに神ヘスティアは軽く首をかしげる。整った容姿でもあったことも含めてなかなかにあざとさを見せる神にわずかながらに苦笑しながら言葉を続ける。

 

「1人でできる範囲を探る感覚を覚えさせる。多人数でやれば安全ではあるけど、自分のできることというのは把握することはできてもそれを探るということができない。いつでも多人数でいられるわけじゃない、何かがあって1人しかいないということもある。その緊張感に慣れるのと、慎重に自分の限界を探るということをベルくんに覚えさせる必要があると思っていたんですよ」

 

 短い期間だけとはいえ仮にも師事した子だ。ソロでも問題なく活動できる場所であることを知っていたがゆえの行動であることには違いない。

 

「あとは検証ですね。どこをどうすればどう成長するのか、気になってましてね。まぁ成長率が低すぎて参考にすらならなかったんですけどね」

 

 まぁ正直8割はこれだったりする。魔術がこのダンジョンのモンスターに効くのか、魔術なしでどれだけ通用するのか、サーヴァントのいない状態でどれだけ戦うことができるのか。そういった1人で戦わなければわからない自分の調子を探るという点ではソロでダンジョンに潜る必要があった。

 

「そういうことだったんだ」

 

 神ヘスティアは嘘を言っていないことが分かってかつ納得もしたのか、しかし少し不満げな表情をしていた。

 

「でも、それだとリッカくんも危ないし、2人ともそろそろ深くに潜って行くことになると思うんだ。深くまで潜るとなるといつまでも1人というわけにもいかないだろうし、連携をとるという点でもそろそろ一緒に潜った方がいいと思うんだ」

 

 なるほど。確かに、神ヘスティアのいうこともわかる。同じファミリア同士なのに、このままずっとソロで行くというのも確かにおかしな話だ。昔ならいざ知らず、ベルくんも順当に成長しているはずなのだから下の階層に行くことになるだろう。だというのに同じファミリアの俺が一緒に行かないというのも対外的に見てもおかしな話ということになる。

 

「……まぁ、やりたいこともほとんど終わったし、別に一緒に潜ることに問題はないですからね。ご要望通りそろそろ一緒に潜るようにしますよ」

 

「なんか引っかかる言い方だなぁ」

 

 実際、やりたいことや確認したいことは半月のうちにいくつもやってきた。そのどれもが納得のいくものかと言われればそうではないのだが、まぁこれ以上ソロで潜ったとしても大した情報も取れないだろう。今後はベルくんと一緒に潜っていくことにしよう。

 

「ベルくんと一緒に無事に帰ってきてくれるようになれば、僕も安心できるよ」

 

 神ヘスティアは現状ではやはり不安もあるのか、自分とベルくんの2人が一緒に戻ってきてくれるならば、と笑みを浮かべる。

 

「そうだ。ベルくんにも言ったんだけど、今日は友神のところにパーティに行くんだ。何日かいないかもしれないけど心配しないでおくれ」

 

「了解です。楽しんできてください」

 

 とことこと出ていく準備をしてそそくさと出ていく神ヘスティア。もしかして俺のステイタスの更新で遅くなっているのかなと申し訳なく思ったが、しかし、神ヘスティアが数日の間いなくなる可能性があるとなるとやることが何もない。

 ベルくんにはすでに言ってあるというからにはベルくんも神ヘスティアがいないものだという前提で行動をしているはずだ。おそらくこのままダンジョンへ行って経験値でも稼いでいるのかもしれない。

 

「……暇だし、街行くか」

 

 ダンジョンに潜ってもよかったんだけど、あれだけやってステイタスが上がらなかったとわかった今、ダンジョンに潜る気にもなれない。ダンジョンについては頭に叩き込んできてはいたが街のことに関しては何も調べていなかったと思い、散策のために使い慣れた杖をつかみ外へと出る。

 人気のない廃墟群を抜け、人通りの多い道へと足を運んだが、普段よりも人通りが多いような、微妙な違和感を覚えた。

 

「……なんか、心なしか賑やかだな?」

 

 メインストリートに近づくにつれて、多くの人が大通りを行き来していた。出店も心なしかいつもより多いようにも見える。

 

「ようマスター。こんなところで会うなんて奇遇だな」

 

 背後から清涼感のある聞き覚えのある声が聞こえた。それに、この場でマスターなんて言葉を出すのは俺の知り合い(サーヴァント)しかいないだろう。

 

「アサシン。久しぶりだな」

 

 久しぶり、本当に久しぶりだ。出会うのはもしかするとこの街で自由にしてもいいと言って解散して以来になるのではないだろうか。

 アサシンに限らず、セイバーやランサーはどこで何を強いているのかわかっていない。キャスターは時々出会うこともあるし、アーチャーに関してはあの酒場に行けば出会うこともできる。ライダーに至っては時々ダンジョンに潜っては首をささげると言って魔石を持ってきてくれているのだから呼べばすっ飛んでくるぐらいの場所にいるのだろう。バーサーカーに関しては、あの巨体に威圧感だ。さすがに実体化をしないように頼み込んでいるからどこにいるのかは分からない。

 結論から言えば、サーヴァントたちには緊急時には令呪を使うからと言って自由にしてもいいと言ってある。令呪を使うかしない限り、偶然以外でであることはまずないだろう。

 

「……後ろにいるご婦人方はいいのか?」

 

「んあ?あぁ、別にいいさ。勝手に言い寄ってきていただけだし」

 

 偶然出会ったのはいいのだが、アサシンの後ろには控えめに言ってきらびやかに着飾っている女性たちがアサシンと話している俺を観察するように見てきていた。英霊たちはみんな顔がいいのはわかっていたが、ここまでとは思わなかった俺は苦笑しか出なかった。

 

「しかし、後ろのご婦人方といいこの賑わいといい。何があるんだ?」

 

 雑談のつもりで普段以上に賑わいのある様子を聞いてみる。個人的には、俺も知らねーなーそーか残念だなぁあはははは、で終わると思っていたのだが、意外にもアサシンはこの賑わいの原因を知っていたようだった。

 

「あぁ、なんでも数日後に祭があるらしいぜ?モンスター、なんたらって言ってたっけな」

 

「祭?」

 

「そそ。どっかのファミリアが見世物としてモンスターと戦いを見せるんだとさ」

 

 戦いを見せる、というので思い出すのは闘牛や闘剣士だ。前世でも似たようなことが見世物として流行っていたことも考えれば確かにありうることなのだろう。しかし、街には対応できる冒険者がいるとはいえ、まさかダンジョンのモンスターを持ってくるようなことをしているとは思いもよらなかった。

 

「ありがとうアサシン。気になっていたことがやっとわかった」

 

「なぁに。これぐらいなんでもねぇよ」

 

 人懐っこい笑みを浮かべたアサシンと別れ、改めて出店を冷やかす。この賑やかさが祭の前賑わいと分かれば前情報としていろんな人から聞き取りをすればどういったものかわかるだろう。

 しかし、こんな都市部で行われるような祭か。モンスターも絡んでくるとなればギルドも何かしら噛んでいるとみてもいいだろう。今からでも聞きに行くか。

 



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マスター、祭を楽しむ

うまい人の小説ってどうしてあんなに地の文をかけるんだろ。本当に尊敬します。


「ふぅ。こんなもんでいいか」

 

 ダンジョン内に魔石の落ちる硬質な音が響いた。それを拾い魔石で膨れている袋に入れて一息つく。

 

「こんだけ狩っても色々と差っ引けば大した金額は残らないんだから、ホント冒険者ってのはつくづく金が足りないと思うわ」

 

 魔石同士がぶつかり合う小気味いい音を聞きながら帰路につき、今後使えるお金について考えると思わずため息が出る。ファミリアに入れるお金に消耗した道具、武具の整備費もしくは購入費、日常の生活費。パッと思いつくだけでこんだけ使うのに、自分で使うお金なんてほとんどないだろう。まぁ自分の場合は武具の準備も整備もほとんど必要ないからそれなりにお金はたまるのだが、しかしポーションといった消費期限のある道具でかなりお金がとられるため結局はそれなりにしかたまらないのだ。

 

「……にしても、祭だからか、今日は冒険者の数が少ないな」

 

 バベルの入り口まで歩いていたが、普段よりもダンジョンに行き来している人が少ない。それも見た感じ実力が高くない人が多いように見えるのは、高レベルは祭を楽しんでいて低レベルは楽しむほどのお金がないということなのだろうか。言っててなんだがブーメランになるのかこれ。

 

「主殿!」

 

 ダンジョンを出てギルドへの道を歩いていると、後ろから聞きなれた声が聞こえた。後ろを振り向くと、そこにはライダーが巾着袋を片手に走ってきているのが見えた。

 

「こちら私が獲ってきた首です!どうぞお納めください!」

 

 俺のすぐそばまで来ると手にしていた巾着袋をこちらに差し出してくる。いつものことなんだけど、どうしてこうも魔石を渡してくれるのか。そういう性質(たち)のサーヴァントなのだということはわかっているのだが、どうもこういったことはなれる気がしない。

 

「ありがとうライダー」

 

 首、とは言ったもののモンスターは首を取ればそのまま塵へと変わってしまう。だから代わりに魔石を届けてくれるのだが、まぁ、質と量が高いし多い。これどこまで潜ってきたのと言いたいほどのものだったが、せっかくの好意を無碍にするというのも悪いし、返したところでライダーにはどうしようもない。だからといって使う気にもなれず、今は本拠にある俺専用の棚の奥にこっそりと積まれ続けているのだが、いつになれば使ってもいいと思える時期が来るのやら。

 ライダーから渡された巾着袋から魔石を取り出してライダーが持ってきてくれた用の袋へと入れ、そのままギルドへと行こうとしたとき、ふと今日が祭だったことに気付く。このまま分かれるのもいいけど、どうせ祭があるのだからライダーを誘って回ってみるのもいいかもしれない。

 

「ライダー、もしよかったらこれから祭を回らないか?用事があるのならいいんだけど……」

 

「なんと!祭でありますか!私でよろしければご一緒させていただきます!」

 

 目を輝かせてついていくとタヌキのようなしっぽをブンブンと振り回すライダー。FGOから頼朝とマスター一筋という感じであったライダーだが、こういうイベントに一緒に参加することも興味があるらしい。

 ライダーと合流して自分の分とライダーの分の魔石をギルドで換金し、祭の中心であるメインストリートへと向かう。メインストリートに近づくにつれて徐々に賑わいが大きくなっていく。

 

「すごい賑わいですね主殿!」

 

「やっぱ、祭というだけあって賑やかだな」

 

 普段は見ないであろう露店や大道芸人が道に沿ってずらりと並んでいる。多くの人でごった返しているメインストリートや街の外で取れたらしい珍しい食材を取り扱っている露店、広場でナイフでジャグリングしているジャグラー、呼び掛けや歓声、雑談などで賑わっているメインストリートは、まさにお祭りの真っただ中だということを実感させてくれる。

 

「そういやライダーの時代の祭って屋台とかあったのか?」

 

「あったと思いますよ?私の場合庶民の祭に参加することはなかったので何があったのかはよくわからないですけど」

 

 ライダーにかつての時代の祭を聞きながら屋台を冷やかし、おいしそうなものがあれば買ってライダーと食べる。路上パフォーマンスを見てはおひねりを投げ、露店で面白そうなものがあればファミリアのお土産としていくつか買う。

 

 しばらくの間ライダーと祭を楽しんでいるときに、ふと遠くから悲鳴のような声が聞こえたような気がした。

 

「悲鳴?」

 

 ライダーも聞こえたのか声が聞こえた方を見てポツリと呟く。俺の耳に聞こえたのは悲鳴で間違いないようだ。何事かと思いライダーとともに悲鳴が聞こえた方に駆け付けると、そこには半分意識がないようにふらふらと人を追いかけているモンスターがいた。

 

「モンスター?なんでこんなところに、いや、今はそういうことを言っている場合じゃねぇか」

 

 頭を戦闘用へと切り替える。全身に強化の魔術をかけて杖を構え、ライダーとともにモンスターへと駆ける。

 

「ライダー、住人の安全を最優先だ。他の場所を回ってくれ」

 

「了解しました」

 

 それだけ言うとライダーは軽い身のこなしで建物の壁を蹴り簡単に屋根へと登る。そのまま一瞬にして走り去っていき、視界の端にはもうライダーの姿はなかった。

 ライダーがいなくなったのを視界の端で確認した俺はすぐに意識をモンスターへと切り替え、追いかけることに集中しているモンスターを後ろから杖を叩きつける。

 

「ここの住民に手ぇ出してんじゃねぇよ!」

 

 杖と頭にぶつけ、そのまま地面へと叩きつける。ベキリと首の骨が折れる音と手ごたえが杖越しに感じ、そのままモンスターは死んで灰へと変わった。

 

「まるで歯ごたえがねぇ。まぁ、この場だとそれが幸いか」

 

 追いかけまわされていた人の無事を確認し、ひとまずは大丈夫そうだと一息つくとまた悲鳴が聞こえた。まだいたのかと舌打ちをして新たに悲鳴が聞こえた方へと走る。

 悲鳴があった場所はさほど離れていなかったからすぐにモンスターを見つけることができた。図体のでかい毛むくじゃらのモンスターは大きく腕を振り上げており、その先には腰に剣をつけた冒険者らしき男がへたり込んでいた。

 

「ひぃっ!?」

 

 ピクリと動いた腕に振り下ろされると思ったのか、手を前にして目をつむって顔をそむける。そのまま振り下ろされる腕を、強化した身体で瞬時に肉薄して振り下ろされる腕を目掛けて杖を振り抜く。振り抜いた杖の方が強かったおかげか、振り下ろされた腕は振り子のように反対へと飛んでいきゴキリという音とともに悲鳴のような奇声が響いた。

 

「何してんだ!その腰にぶら下がってんのが飾りじゃないならとっとと抜いて立ち向かえ!」

 

 ブラブラと力なくぶら下がっている腕を抑えて暴れているモンスターを尻目に冒険者をかばうように立つ。へたり込んでいる冒険者は膝を震わせて涙目になりながら俺を見ていた。

 

「け、けど、あのモンスターは俺じゃ……!」

 

「何もしねぇでグダグダ言ってんならとっとと失せろ!邪魔だ!」

 

 ヒィ、と短い悲鳴とともにへっぴり腰のままこけそうになりながら走り去っていく。本当に冒険者かとあきれながら暴れまわることをやめたモンスターは逃げて行った冒険者の方を見ていた。そしてそのまま追いかけようとして姿勢を低くしたのを確認した俺はすぐにモンスターのそばへと直行した。

 

「オラァッ!」

 

 空気を切る音とともに杖が直撃して吹き飛ばされていくモンスター。脊髄を折るつもりで叩きつけたのだが、体に叩きつけられると判断して自分から飛んだのか大した手ごたえがない。それを証明するかのようにモンスターはフラフラになりながらも立ち上がってこっちを睨みつけてきた。

 

「ッチ。運がいいなあのモンスター」

 

 どうも杖が当たる瞬間に杖と同じ方向へ飛んでいたらしく、それで衝突の衝撃が和らいでしまったようだ。一発で決められなかったことに舌打ちをする。普段なら杖だけで徹底的にボコってもよかったのだが、今そんなことをしていれば住民に被害が出てしまう可能性がある。ライダーがいるから大丈夫だとは思うが、複数いるとなると探す時間が必要になる。こんな雑魚を相手にする時間が惜しい。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

 何もない空から出現したのは刃の薄い日本刀。アーチャーの宝具ではない投影品の中でも切れ味に特化した品だ。切れ味に特化したせいで強度がいささか以上に低いが、その切れ味は本物だ。そもそも1分程度で消える投影品で一回振れば消えてもいいのだから、強度は強化で補えればそれで問題ない。

 勝てないと判断したのか、それとも恐怖しているのか。おびえた様子を見せながら聞くに堪えない奇声を上げてその場から逃げようとするモンスターを、魔術で強化した身体でもってそれを逃すはずもなく逃げようとしたモンスターに瞬時に肉薄する。

 

「とっととくたばれ!」

 

 モンスターの首に刀を振り抜く。バターを切るような感覚と一瞬堅い何かを切るような感覚とともに切り落とした首は、断面から流れている血を地面に叩きつけながら灰へと変わっていき、続いて首がなくなった胴体が倒れると同時に灰へと変わった。

 

「……これで、大丈夫か?」

 

 辺り周辺から悲鳴が聞こえないことを確認した俺は投影した刀を消し、屋根へと飛び乗って辺りを見渡す。見える範囲ではモンスターらしき影は見当たらず、遠くでライダーが走っているのを発見した。

 

「ライダー!そっちはどうだ!」

 

 大声でライダーを呼んでみるとこちらに気が付いたのか人では出せないような速度で向かってきてこれが天狗かと思うような身のこなしですぐに近くまで飛び上がった。

 

「私が確認した範囲ではモンスターは発見できませんでした。主殿はどうでしたか」

 

「2体は発見して処理した。ライダーが言うならここいらは問題ないようだな」

 

 ひとまずは大丈夫そうだな、と思いながらも街中にモンスターが湧いた理由を考える。普通モンスターはダンジョンから湧いてくるのがここでは当たり前であり、街の中で出現することはないと聞いている。なのになぜ、と考えているときにふとアサシンから聞いていたこの祭のメインイベントを思い出す。

 怪物祭。その名前の通り、モンスターとの戦闘の見世物をするのがメインの祭だ。ということは、少なくともこのモンスターたちはその見世物としてダンジョンから捕らえてきたモンスターが逃げ出したのだろう。何をやっているんだと思うべきか、それとも誰がこんなことをしでかしたのかと思うべきか。

 

 倒したモンスターの魔石を責任者に持って行って文句を言えば何かしら請求できるだろうかと思いながらため息をつくと、ふと地面が揺れていることに気が付いた。

 

「……地震?」

 

 モンスターが逃げ出してからの地震。なんだか嫌な予感がすると表情をゆがめると同時に、地面が割れる音とともに緑色の長いナニカが、少し遠くの場所からいくつも生えていくのが見えた。

 

 一難去ってまた一難かよ。そう思いながらライダーを連れて謎の巨大物体の方へと走った。

 



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マスター、巨大モンスターを討つ

コソーリ


 それはまるで口のない緑色の蛇のようだった。遠くからでもわかるほどのその巨大さは、いまだに見たことはないがおそらく階層主のそれに近しいものがあるのだろう。

 

「……あんなもんまでダンジョンから出してんのかよ」

 

 どうやってあんな巨大なモンスターを運び出しているのかと思うが、今はそんなことを思っている暇はない。モンスターの近くでは慌てふためいているのが見える。早く住人の非難をさせないと被害が出てしまうだろう。

 

「ライダー!急ぐぞ!」

 

「承知いたしました!」

 

 屋根から屋根へ飛び跳ねるように移動し、巨大モンスターの近くまで移動する。移動する途中で蛇のような胴体が吹き飛ばされていくのが見えた。何事かと思ってよく見てみるとそこには褐色の少女が2人、蛇を相手に縦横無尽に立ち回っていた。

 2人でやっと立ち回れているというような状況の中、少し離れた場所で耳のとがった少女、見た感じエルフだろう、が杖を構えている。まだ見たことはないが、この場で無駄なことをすることはないだろうからあれはこの世界の魔法を唱えているのだろう。

 助太刀もあの蛇を抑えるだけでいいか、と思っていると、屋根から足に揺れを感じた。またかと思い警戒していると、目の前の詠唱していたエルフの脇腹にえぐりこむように地面から蛇が出現した。

 

「まずいっ」

 

 体重が軽かったのか、それともそれだけ威力が高かったのか、空中へと飛ばされたエルフを屋根から飛んでつかみ、衝撃に気を付けながら着地する。不幸中の幸いなのかはわからないが、そいつはそれなりに高いレベルの冒険者だったのか致命傷と言えるほどの重症ではない。口の端から血が流れ、痛みでうなっているエルフをゆっくりと地面へと下す。

 改めて蛇を見てみると、蛇だと思っていたものの中央にそびえ立っていたものから徐々に花が開くように花弁が出現し、その中央には気色の悪い口が開かれていた。

 

「これは、苦労しそうだな」

 

 気色の悪い花を咲かせた植物はまるで蛇のように花弁(くび)を振るう。獲物を探しているかのようにも見えるその様は、何の力を持たない住民が、レベルの低い冒険者が恐怖するのに十分だった。

 

「ライダー!住民を避難させるんだ!住民の安全最優先!」

 

「かしこまりました!」

 

 悲鳴が上がる街の中、ライダーの返事を聞いて全身に魔力を巡らせる。オラリオでは1度もなかった全力の身体強化の魔術は、久しぶりであったがために体が少し暴れるような感じがした。視界の端に薄緑の光の線が走っているのを確認し、強化された足で地面を砕きながら前進する。

 

「オラァ!」

 

 肉の詰まったゴムを殴ったような感触とともに蔓はくの字に曲がって吹き飛ばされていく。吹き飛ばされた蔓は建物に直撃して瓦礫と化した建物に埋まったが、大してダメージを与えられなかったのかすぐに瓦礫をはじいて動く。植物は俺を敵と見なしたのか次々と蔓を振り回したり地面から突き伸ばしたりするが、どれも拳や蹴り、杖で殴り飛ばすことができた。

 

「かってぇなぁこのやろう!」

 

 今の状態なら岩すらたやすく貫通させることができるが、固定されていないことと肉に弾性があるせいか穴をあけることはできなかった。次々と振り回される蔓に、持てる技術を以ってすべてを叩き落としていく。これがアサシンなら殴っていくだけでこの蔓を削っていくこともできるはずだろうに、今の俺では殴り飛ばしていくことが限界だった。

 

「面倒なモンスターだな、この植物は!」

 

 面倒だ。そう思う反面久しぶりとすら言える拮抗した戦いに思わず笑みが浮かぶ。不謹慎であるとは自覚があっても、サーヴァントたちに鍛えられ始めてから初めてモンスターと戦った時の高揚感がある。

 ダンジョンの雑魚共では得られない強敵と戦っているという感覚。圧倒的な差のあるサーヴァントとの鍛錬では感じられない、大きな怪我があるかもしれないという危機感と自分だけでもなんとかできるかもしれないという陶酔感。相反する感覚に身を委ねながら次々とくる蔓を殴り飛ばしていく。

 

「オラァッ!」

 

 水を多分に含んだ肉を叩く音がひたすらに響いた。時には家屋へと殴り飛ばし、時には地面へとぶつけ、時には本体へと蹴り飛ばす。手ごたえは確かにあったが、しかし肉でできている蔓に痛みすらないのか次々に襲い掛かってくる。

 

 どれぐらい殴り飛ばし続けていたのかはわからない。それなりに殴り続けていた蔓は、しかし何事もないかのように蠢いている。一部の隙も無く暴れまわる蔓を迎撃するように打ちのめす。

 埒が明かない。さっき投影した切れ味のいい刀を出すか、それともルーン魔術で焼き払うかをするしかなさそうだが、ここには冒険者らしい褐色の女性が2人とさっき蔓に攻撃されたエルフがいる。赤の他人の前で魔術を行使するのは気が引けるのだが、このままこの状況が続くようならばアンサズのようなルーン魔術を使うことも視野に入れないと不味いかもしれない。

 鞭打のごとく振るわれる蔓をさばきながらこのモンスターの倒し方を考えている中、不自然な風が体を撫でた。

 

「っと?」

 

気が付けばいつの間にか金髪の少女が剣を持ってモンスターへと飛んでいた。いや、少女がというよりさっきまで俺に向かってきていた蔓すらも少女の方へと向かっている。

 

「……なんだ?」

 

 急に襲い掛かる標的を変更してきたことに疑問を覚えながら数が少なくなった蔓をさばき続ける。周りを確認すると、倒れているエルフを介抱している担当受付をしてもらっているエイナさんが見えた。不幸中の幸いと言えるのか、エイナさんのところには蔦が向かっている様子はなかったが、しかしいつまでもそこに向かわないという保証はない。

 

「……さて、どうするか」

 

 数が少ないとはいえ、蔓を相手したままあそこに向かうのはまずい。相手するだけならまだしも、守りながらというのは骨が折れる。ライダーはまだ住民の避難に向かってもらっているが、ライダーの速さならば瞬時に対応できるかもしれないが、それも期待できるというだけ。一手が足りない。現状維持なら特に問題ないが、これ以上進展を希望するなら大きな一手がほしくなる。これ以上予想外の被害が出る前に何とかするべきではあるが、どうする。

 最悪ライダーの宝具を展開することを考えながら蔓を相手していると、突然負傷していたエルフが杖を片手にメインストリートの中央に立った。

 

「私はレフィーヤ・ウィリディス!ウィーシェの森のエルフ!神ロキと契りを交わしたこのオラリオで最も強く誇り高い偉大な眷族の一員!」

 

 その宣言は自身への戒めか、決意を新たにしたような表情を浮かべて杖を構えて詠唱を開始する。溢れ出るような何かの力を感じるとともに、その力に反応するように蔓たちはほとんどの蔓をエルフへと向けて伸ばしていく。

 

「ライダー!詠唱中のエルフを守れ!」

 

「承知いたしました!」

 

 ケガをしている中、狙われる可能性を考慮してでも前に出たことを考えれば、この状況を打破できる大きな一手を持っている可能性は十分にある。住民避難に向かわせていたライダーを呼び戻し、俺や冒険者たち以上の蔓を切り刻みながらエルフを守る。こっちに向かってきていないことを確認し、大きな隙を作るように大きく構えて地面をえぐりながらモンスターへと肉薄する。

 

「オラァ!」

 

 鈍い音が大きく響き、蔓はまるで車にはねられたかのように大きく歪んで弾き飛ばされていく。弾き飛ばされた蔓は他の蔓を巻き込んでもなおその威力を殺しきれなかったのか根元が千切れんばかりに張り詰めるほどだった。

 

「ッチ。貫通するまではいかないか」

 

 殴りつけた手を開き、そして握る。詠唱に集中しているエルフの元へと殺到する蔓を受け止め、握り止め、他の蔓へと叩きつけ、地面へ叩きつける。

 なんとか自分で処理できる範囲では押しのけている状況だが、詠唱をしているエルフの方を見ながら確認したが、聞くまでもなかった。エルフに向かっている蔓すべてをバターのように切り刻んでいる。正直俺が対峙しているときよりもはるかにダメージを与えていた。

 自分の実力不足を棚に上げるつもりはなかったが、しかしサーヴァントであるとはいえライダーの苦労のくの字も見せないような表情を見ているとあそこへの道のりはやはり遠いと思えて仕方ない。

 

 蔓をさばくことに集中し、気が付けば詠唱も終わったのかエルフの背後に大きな雪の結晶のようなものが現れた。大きな力が結晶へと集中し、本体に向かって吹雪のごとく力が放たれた。素人目から見てもわかるほどに強力な力にモンスターに防ぐすべはなく、その力を受けたモンスターは一瞬にして全身を凍てつかせた。

 

「芯まで凍ってんのなら、こっちのもんだってんだ!」

 

 地面をえぐるほどの踏み込みを以って本体へと肉薄し、地面にひびが入るほど踏み込む。魔術と震脚によって得たエネルギーをそのままモンスターへと伝え、凍り付いた体を砕いた。

 

「奥義、无二打。なんてな」

 

 肉を打つ感覚ではなく、硬質なものを砕いた感覚に満足し、同時に本体の上から氷が砕かれる音が響いたのを聞いた俺は、やっとこのモンスターの討伐が終わったのだと実感した。

 

 

 



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疑念

第三者視点ってむつかしいね(´・ω・`)


「しっかし、すっげぇなぁこの世界の魔法ってのは」

 

 氷漬けになったモンスターを砕いたリッカはやっと終わったといわんばかりに深く息を吐いた。砕けた氷の細かな破片が宙を舞っている様子をみて、先ほどの魔法と呼ばれている力を思い出す。

 

「初めて見たけど、なるほど。威力だけを見ればキャスタークラスぐらいはあるのか」

 

 それはリッカにとっては最大限の賛辞だった。サーヴァントの中では最弱と言われているキャスタークラスとはいえ、いや魔術という点においてはサーヴァントの中でもずば抜けているキャスタークラスとほぼ同じぐらいではないかと言えるほどに強力ではあった。

 もしあんなものを食らってしまえば、もしかすればサーヴァントであってもダメージを与えることはできるかもしれない。もっとも、詠唱から発動までの時間を見れば前衛がいなければ撃つことすらできないだろうが、時間という戦闘において重要なものを長々と消費している分と比べてもその威力はおつりが返ってくると言えるほどではあるだろう。

 

「まぁ、こうなってしまえばさすがに大丈夫だろうな」

 

 周りが安堵の歓声を挙げている中、久々の全力で体に何か異常がないか確認するように軽く自身に解析の魔術をかける。リッカからすればサーヴァントたちとの修行以来の全力だった。相性と状況があまり良くなかったとは言え、全力で強化した状況であの程度しかできなかったことに反省しながら自身に異常がなかったことを確認したリッカは魔術を解く。

 

「ライダー、帰ろう。サーヴァントのみんなと相談したいこともあるし、時間を見てみんなを呼ぶ準備をしよう」

 

「承知いたしました」

 

 これ以上ここにいてもやることはない。せいぜいがギルドでここで倒した魔石の換金程度だった。まだ氷が舞っている中、歓声の挙がる中を去ろうとすると、後ろから制止の声がかかった。

 

「ちょっとまちぃな、坊主」

 

 そこには細めの女性と先ほどまでともに戦っていた冒険者、そしてギルドの受付嬢であるエイナがいた。先ほどのモンスターを打倒したとは思えないほどに全員が神妙な表情を浮かべていることに気づいたリッカは、面倒ごとが来たと言わんばかりに嫌そうな表情を浮かべた。

 

「なぁ坊主、お前さんいったい何者なんや?」

 

 リッカの表情を無視して細めの女性、女神ロキは警戒を隠そうともせず、リッカはその警戒されていると理解しているがゆえに質問の意図をつかみつつ、しかしそれを隠して逆に聞き返す。

 

「何者って言われてもなぁ。なぜか聞いても?」

 

「豊穣の女主人でうちのベートを軽々と相手しておいた挙句、今回やってうちのティオナたちが苦労して足止めしていたあのモンスターを飄々として相手しとったみたいやないか。それに、そっちの嬢ちゃんはうちの子たちですら勝てるかどうかわからんと言っとった」

 

 ベート、という名前に一瞬誰か思い出せなかったリッカだったが、豊穣の女主人という酒場の名前であの狼の青年のことだと思い出し、同時に目の前にいる女性がその時にいた女神であることに気づく。面倒だと思いながらリッカは後ろに控えているライダーを見るが、ライダーは刀に手を添えてはいるが特に何か反応する様子はない。

 

「いったい何者や、あんた。レベル5(うちの子)も言っとったけど、ただの冒険者やないやろ。さっきの戦いから見てもそれなり以上のレベルの冒険者のはずや。それやのにあんたのことについてなんも情報もない。今回の共闘は正直ありがたかったけど、怪しいやつを放っておくわけにはいかんやろ」

 

 リッカは酒場でレベル5をダウンさせていたが、ロキ達の無礼もあって酒も入っていたこともあり事はそれほど大きくはならなかった。しかし、今回は見逃せるようなレベルではない。レベル5(一級冒険者)と同じか、それ以上の活躍を見せていたこの2人を、誰も知られていない怪しい人物を逃すようなことはできなかった。

 

「何者もなにも、そこいらにいる十把一絡げと同じただのレベル1だよ。少々特殊ではあるとは自覚しているけどな」

 

 何でもないように手を振りながら答えるリッカ。その言葉に嘘はない。かつてこの世界に特典付きで転生し、この世界でも特殊ともいえる英霊たちに十何年も鍛えられるという特殊なことはあったが、それ以外では特に何があったわけでもない。

 

「……これだけのことをしておいてレベル1?んなわけがあるかいな」

 

 その言葉は、この場にいる全員が思っていることだった。しかし、ロキは本心で言いつつも半分は懐疑的な言葉だった。十把一絡げのレベル1。言葉では本心ではいってないと感じるのに、神としての力は嘘はついていないと判断している。あれほどの実力があったのに、レベル1であることは嘘ではないというのだ。

 

「おいおい、神が嘘じゃないことを嘘だなんて言うなよ。信じるやつも出てくるじゃねぇか」

 

「確かに、あんたは嘘をついてない。けど、あんなものを見せられてはいそうですかと言えるわけがないやろ」

 

 テイマーとしてモンスターを操ってそう見せていた。そう言われたほうがこの場にいる全員が納得できるほどに、レベルを超えた力というのはあり得ないものだった。手助けしていたのはそう見せるためのものだった。蔓をはじいて見せたのは周りに被害を及ぼすためだった。そういう可能性がロキの頭の中で浮かんでくるほどに、リッカという存在は怪しいものだった。

 

「詳しいこと話してもらおうやないか。それとも、何か?話すこともできないぐらいに後ろめたいことがあるんか?」

 

 わからない。未知と言ってもいい存在が、目の前にいる。それがこの街にとって良いものなのか悪いものなのか、それを見極めるのも上位ファミリアとしての使命であると自覚している。

 

「おいおい。他のファミリアの眷族のこと勝手に見ようとしてもいいのかよ。そういうのはご法度って聞いてるぞ?」

 

「今回は例外や。こんなことが起きた時に何もわからへん怪しいやつを見つけたら問い詰めるぐらいはしやなあかんやろ」

 

 ロキは普段の軽口をなくし、罪人へ問い詰めているかのような様相だった。リッカの表情も険しいものへと変化していき、一発触発の状況になりつつあった中、エイナが震える口を開いた。

 

「ロ、ロキ様。彼の実力に疑問視するのはわかりますが、彼女は存じ上げませんが少なくとも彼は怪しい人ではありません。」

 

ギルド職員としてこれ以上こじれることを恐れたのか、それとも知り合いが疑われていることに目を瞑れないのか、先ほどまで黙っていたエイナがリッカを助けるようにロキに話しかける。

 

「怪しくないゆーても、あれだけのことができるやつが怪しくないなんて……っ」

 

 ロキは尋常ではない寒気とともに身動きすらとることができずに息を呑む。かろうじて視線だけ寒気の現況に向けると、そこにはさっきまで静かだったはずのライダーがいる。

 

「……黙って聞いていれば、さきほどから主殿に無礼な真似を」

 

 気が付けば、ライダーがとてつもない威圧感を以て刀を抜いていた。第一線で戦っているティオナたちですら身動きできないほどの威圧にエイナは息をすることすらできなかったが、しかしリッカは何事もないかのように声をかける。

 

「ライダー、俺は気にしていない。有名な神だからあんまり手を出さないようにしてくれ」

 

「……わかりました」

 

 しぶしぶ、と言ったように刀を収める。同時に発していた威圧感もなくなり、ティオネたちは重圧から解放されたかのように、エイナは膝から崩れ落ちて息を荒げていた。

 

「別に、やましいことは何もしてないし、そっちからちょっかいをかけなければ何もする気はない。そっとしておいてくれ」

 

 めんどくさそうな表情を浮かべているリッカはライダーを連れてはき捨てるように去っていく。

 その後ろを追いかけるようなことも、声をかけるようなこともできなかったロキ達だったが、ただ1人だけ、アイズの目だけは好奇心のような、希望のような、無表情の中でそんな目をリッカたちに向けていた。




無理やり感があるのは自覚してるし、正直ロキ様に気に入られる方が現実味あるんだけど、個人の趣味でこうします。異論は認める。


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会議/懐疑

 自分の城であるホームについてからも、ロキは気分が晴れることはなかった。あの場にいた4人には何とかごまかして部屋に戻ったが、これからどうするかを考えると頭が痛んだ。それをごまかすように酒を呷るが、酔えない。酒を呷っても酔う気がしないロキはしかめっ面だった。

 

「あのどチビのとこかいな……」

 

 思い起こすのは、今日の怪物祭に起きた植物型の巨大モンスターとの戦闘。その中で共闘したあの2人だった。

 

「リッカ・フジマルか……。確かに聞いた事のない名前だ」

 

 あの時近くにいたギルドの受付嬢に話せる範囲すべてを聞いたが、まさか出てきたのが因縁ともいえる相手の眷族だとは思ってもいなかった。どうしてそこにいるんだと思いつつ、ロキは情報を整理するために最高幹部たるフィン、リヴェリア、ガレスを部屋へと呼んでいた。

 

「……豊穣の女主人でも奇妙だとは思っていたけど、まさかレベル1だったとはね」

 

 フィンが思い出すのは豊穣の女主人での出来事だった。あの時は酒に酔っていたとはいえ、レベル5(ベート)の一撃をいともたやすくいなし、何をしたのかわからないがベートを一撃でのしたことを考えれば少なくともレベルは4あると予想していた。

 しかし、ロキ本人が聞きだしたのはレベル1という、決してあり得る事のないレベルの低さ。それを知った最高幹部らは事態の大きさに顔をしかめた。

 

「……神の力を使った、というわけじゃないのか?」

 

「あのどチビがそんな度胸あるかいな」

 

 リヴェリアの言葉を迷うことなく切り捨てる。ロキとヘスティアは出会えばケンカをする間柄ではあるが、それゆえにある程度の信用はある。チビでぐーたらで甲斐性無しで脂肪があるだけの神ではあると思っているが、同時に神の力を使って無双しよう、なんて考えるような小物ではないとも思っている。最も、何かの拍子で出会えば突っ込むつもりではあるが、それぐらいの信用はしている。

 

「……まぁ、自分の眷族に何かあったら助けに行こうっちゅう無謀さはありそうやけどな」

 

 出会えば弱気な部分は全く見せようとはしないが、しかし仲の良い神相手では眷族ができないと嘆いていたことは伝手から聞いている。そんな中でできた数少ない眷族の1人だ。神の力は使わなくてもダンジョンに突っ込むことぐらいはしそうだ。

 

「……まぁ、どチビのことはどうでもええ。問題なんはレベル1やっちゅうのにあの強さである理由と、ティオネたちを怯ませるほどの実力者を従えている理由や」

 

 強者と呼ばれるものは、全員が強者としてのプライドを持っている。ロキ・ファミリアに所属しているベート・ローガは特にその傾向が強く出るが、大なり小なり強者であるという自覚は誰もが持っている。だというのに、あの剣士はまるで従っていることが当たり前のような表情でリッカの傍らにい続けた。

 

「……フレイヤんとこみたいな狂信者、という線もないわけやないけど、神ですらない人間(こども)に心酔するもんなんか?」

 

「……そういう人もいないことはない。が、話に聞く限りそういうことをするような青年ではなかったのだろう?」

 

 フィンの言葉にロキがうなる。少なくともリッカが誰かが心酔するほどの特別な魅力のようなものはロキには感じなかった。洗脳しているのか、それとも幼いころからの関係なのか、現状の情報だけではわかることは何もなかった。

 

「……騎兵(ライダー)、か」

 

 リヴェリアが考え込むようにうなり始める。騎兵(ライダー)という名前が偽名なのか、それとも本名なのか。普通に考えれば騎兵などという名前を付けるようなことはまずありえない。まず間違いなくコードネームか何かなのはわかるが、なぜそのような名前で呼ぶことを是としているのか。

 

「……1度、あのどチビに問い詰めやなあかんな」

 

 最高幹部らの考察に耳を傾けながらロキは1人呟く。未知は退屈しのぎであり、しかし同時に毒になりえることを理解しているロキは、これが毒にならないことを祈りつつ、コップに残った酒を呷りながらそう決心した。

 

 

 

/

 

 

 

 あの怪物祭の騒動から数日が経った。怪物祭の騒ぎもひと段落し、ギルドとしての仕事も落ち着いてきた頃であるが、エイナの気分は優れなかった。

 リッカ・フジマル。1か月近く前に冒険者になった自分の担当冒険者であり、同時に同じ担当のベル・クラネルをソロで活動させながらも自身は下層へ行きたがる問題児でもあった。確かにギルドに来る前にポーションを使っているのではないかと思うほどにケガらしいケガを1つもつけている様子を1度も見せていない。話を聞く限りソロで活動していることは確認しているため、ある程度の実力はあるのだろうということはわかっていた。

 しかし、まさかあの高名なファミリアのレベル5と肩を並べられるほどの実力を持っていたとは思ってもいなかった。いや、冒険者になってからまだ1ヶ月足らずだというのにそれほどの実力があると思うはずがない。レベル5の冒険者が1本相手するのも苦労していた植物型のモンスターを1人で3、4本相手していたところを見て卒倒するかと思うほどにそれは衝撃的だった。

 

 はぁ、と深いため息をつく。途中から有耶無耶になったとはいえ、さすがに高名なファミリアの神ロキから尋問されたからかここ数日はその姿を見ていない。ギルド職員として中立的な立場として神ロキへ物申すことはしたが、しかしそれもあまり効果をなしていないことは目に見えていた。しかし、立場的に中立ではあったが個人としてもあの強さはレベルを詐称していたと思っていてもおかしくはないとは思う。レベル5の冒険者が苦労していた相手を同じように相手取るレベル1なんて、普通ではありえないのだから。

 ふと顔を上げると、件の男が鼻歌交じりにギルドの中へと入ってきたのが見えた。ポーチに入れていたらしき魔石を換金しに来たのか魔石のぶつかる微かな音がここにも聞こえていた。

 

「……フジマルさん、ちょっといいですか?」

 

 それをエイナは意を決したような表情を浮かべて呼び止める。呼び止められたリッカは何でもないような表情をしてエイナへと顔を向け、そのまま受付へと足を運んだ。

 

「ん?何?頼んでおいた下層の資料まとめてくれたの?」

 

「違います。怪物祭でのあの騒動のことについてです」

 

「あぁ。あれね。いやぁ、あの神人に対して失礼だと思わない?こちとら善意で戦っていたってのに、なんか疑ってくるんだぞ?」

 

 呆れたような物言いでため息交じりにそう吐き出すリッカ。徘徊していたモンスターを倒し、住民の避難を優先して、周囲を警戒していた。今日持ってきた魔石もその時に手に入れたものであるし、住民にも感謝されることをしてきたという自負がある、とリッカは言う。

 

「……それは、確かにギルドとしても助かりました。しかし、無茶をするようであるならそれを止める義務がギルドにはあります」

 

「第三者から見た無茶は、その人にとって無茶じゃないかもしれないのに?」

 

「はい。その人の安全のためにです」

 

 本人は無茶をしていないと思っていても、一時の興奮状態による自覚のない過度な疲労状態によって命を落としている冒険者もいる。そういうことを防ぐために注意喚起をしているのだ。

 本当であるならばあの植物型のモンスターと戦っているときに止めるべきであった。レベル5(アイズ)たちが戦っても苦戦するような相手にレベル1(リッカ)が立ち向かえるはずのないのに、逃げるように指示するべきであったのに、リッカはアイズたち以上に植物型のモンスターを相手にしていた。

 

「……正直、あの戦いであなたにはレベル詐欺の疑いがありました」

 

 レベル1がレベル5と肩を並べて戦うなど常識外れ、いや、この世の理に反しているといってもいい。それほどまでにステイタスというものは強さに直結しているのだから、あの戦闘はレベルの詐称を疑ってもおかしくはないのだ。しかし、疑いたいのにレベルのことについては真っ先に疑っていた神ロキの手によって否定されているのだから詐称も何もない。あるのは、誰も知らないレアスキルによるものという可能性のみ。

 

「なぜ、あなたはあそこまで強いのですか?なにかスキルでもあるのですか?それに、あの女性のことについてもお聞きしたい」

 

 それはギルド職員として、踏み込んではいけない領域へ踏み込んだ質問だった。立場上問題を起こした、あるいはレベル虚偽などの規律違反を起こしているとなれば堂々として踏み込めることなのだが、今回はレベル申請に虚偽はないと神が証言しているため、ギルドとして踏み込むことはできない。

 しかし、エイナはリッカの担当受付として知る必要があると感じていた。リッカを攻撃するためではなく、中立的に物事を考え、必要であるならばかばうために。

 

「……それは口が裂けても言えないなぁ」

 

 しかし、返ってきた言葉は否定そのものだった。その言葉自体はおちょけているように聞こえるが、それに反して目は真剣そのものだった。これ以上は巻き込むことはできない。これ以上踏み込むのならば容赦はしない。そう目が語っていると、エイナは感じていた。

 

「……わかりました。今後は問題がない限り一切お聞きしません。出過ぎた真似をして申し訳ありません」

 

 納得はできない。あれほどの力を持っている理由を隠しているということをはっきりと言っている。しかし、あくまでエイナとリッカは一冒険者と一ギルド職員だ。違反をしているのならともかく、街の危機に駆けつけてくれた人物に、仮にも現段階で何も違反していない冒険者にこちらから過剰に干渉するわけにはいかない。

 

「……こういう言い方もどうかと思うけど、物わかりのいい担当でよかったよ。面倒がなくて助かる」

 

 リッカのため息交じりのその言葉は安心しているように見える。もしこのまま追及をしていたらどうなっていたのか。今回の騒動を利用して担当を変わるようにギルド側に申請していたのか、それともそれ以上のことが起こるのか。エイナにはそれはわからなかったが、そうならなかったのだから今考えても仕方のないことだろう。

 

「一応はっきりと宣言しておくけど、これらのことについては今後言うつもりはないからな。聞いても無駄だと思っておいてくれ」

 

「……申し訳ないですが、ギルド側が今後一切確認しない、とは限りませんのでそれだけはご了承ください」

 

 ギルド側、と言ったのは、少なくともエイナ自身はこのことについて聞く気はないということだった。おせっかいであると自覚しているエイナではあるが、相手はまだ成人していないベルとは違い自分で責任を取ることができる年齢だ。命のやり取りが行われているダンジョンのことであるならともかく、日常生活の中においてとやかく言いうつもりはエイナにはなかった。

 

「……これ以上は何もなさそうだし、換金して帰るわ」

 

 ひらひらと手を振って換金所へと足を運んでいくリッカ。エイナとしてもこれ以上何か言うことはなく、リッカを見送る。

 ギルド職員としてどうするべきなのか。エイナ自身がどうするべきなのか。去っていくリッカを見送りながら、何が正解なのかわからず頭の片隅で悩み続けた。そして、この場でハッキリとするべきであったと後悔することになるのは、少し先の話のことだった。

 




会議をするために出した幹部の数を3人に絞った理由は単純に自分が大人数を出しても扱いきれないからです。細かな描写は正直覚えていないのであれなのですがレベル6の3人は最高幹部と表記します。テヘッペロリーム(迫真


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マスター、ベルとダンジョンに潜る

タイトル考えるの難しくなってきた


 街でのモンスター騒ぎから早数日。あれからあの女神たちから何かしらの接触もなく、ギルドからも、まぁエイナさんから心配しただの大手のファミリアにあんなこと言うなんてだのと愚痴を言われはしたが、特にペナルティのようなことは何も言われておらず、特筆することもない平和な時間が流れていた。

 今日も特に何事もなく鍛錬に時間を費やしてもよかったが、神ヘスティアから頼まれていたベル君と一緒にダンジョンに潜ることにした。

 

「ほうほう、ほう」

 

 ベル君の邪魔にならない場所でモンスターを倒しながら、ベル君の戦う様子を見る。当たり前といえばそうなのだが、最初のころよりも戦う姿に板がついてきたというか、戦うことへの姿勢が変わったというか、ついひと月ほど前よりもずっと様になるようになっていた。

 

「お疲れベル君。久しぶりに一緒にダンジョンに潜ったけど、結構動けるようになってたね」

 

 モンスターの脳天を砕いてチリへと変え、落ちた魔石を拾いながら同じく魔石を拾っているベル君に話しかける。ベル君も褒められて悪い気分ではない様子で少し照れたような顔をしたが、何かを思い出したかのようにすぐに表情を曇らせた。

 

「いえ、僕なんてまだまだですよ」

 

 手に持った業物の剣を見て、自身の実力不足を嘆くかのようにため息を吐いた。ベル君の持っている剣、あの祭のモンスター騒動の最中に神ヘスティアから賜ったものらしく、シルバーバックを倒すのに一役買った最上級の剣だとか。

 見た事のない剣ということでつい好奇心も逸ったこともあり、解析魔術を使ってみたのだが、なんと解析不可能だった。宝具級の解析も頭がはちきれそうになりながらも解析できた俺としては解析できないという事実に驚いた。俺の腕が悪かったのか、それとも乖離剣・エアのように特殊な事情があるのか。

 神ヘスティアに作成した経緯を(無理やり)聞いてみたら、かの鍛冶神であるヘファイストスの作った神造兵器であるとのことだった。アーチャーはランクがだいぶと落ちるとはいえ神造兵器ですら投影して見せているためおそらくは前者だとは思うのだが、俺でも宝具級の解析だけならしばらく激しい頭痛に襲われるが大丈夫だったはずなのに、どうして不可能なのかがわからない。魔術の修行をもっと重ねる必要があるが、同時に神ヘスティアには悪いが1度アーチャーに解析が可能なものか確認してもらう必要があるかもしれない。

 

「……あの、フジマルさん」

 

 モンスターの魔石も集め終え、解析できなかった剣のことを考えているとベル君が話しかけてきた。いかんいかん。ベル君の剣に意識を割き過ぎていたか。

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「ずっと聞きたかったんですけど、どうしてその杖で戦っているんですか?魔法を使うわけでもないのに、剣や弓で戦った方がいいんじゃないのかなぁって思いまして」

 

 そう言って俺の背中に背負っている杖を見る。確かに、戦いの場においてメイスでもない限り手傷を負わせるということにおいて刃物を使わないというのは戦いにおいて不利であるのは間違いない。まぁ、打撃という点では相手にダメージを与えているのは間違いないし、過去の戦争においても投石も戦場において十分兵器として成り立っていた。

 しかし、それはあくまで人と人との戦いにおいてだ。人よりもはるかに頑丈で強いモンスターが相手となれば、人との戦闘におけるノウハウはあって無いに等しい。人の力で投げた石程度では傷一つ負わせられない。人の振るう棒では硬い筋肉にはじかれるだけ。そうならないために肉を断つ刃物というのは、この世界において重要な攻撃手段である。

 

「……まぁ、別に問題はないからだなぁ」

 

 けど、例外というのは何事にもある。人を超えた筋力があれば投石も立派な武器になりうるし、噂に聞けば武器を使うことなく肉体のみで戦う冒険者もいるらしい。俺も強化の魔術無しでも杖を使って戦う分には何も問題はない。なんなら素手であってもモンスターを倒せる。現に上層にいる程度のモンスターなら問題なく倒せているし、なんなら以前下層から出てきた牛ですらも強化の魔術を使っているとはいえ杖で倒している。

 

「問題ない?」

 

「別に剣や弓が使えないわけじゃないけど、これを使う方が慣れてるからね」

 

 事実、剣や弓、槍はサーヴァントたちに鍛えられたものであり、腕が錆びるような真似はしていない。剣を振るえば並みの剣士より、槍を突かば並みの槍兵よりも、弓を携えば並みの弓兵よりも動ける自信はある。まぁ、セイバーやランサー、アーチャーのように一を究めた達人には到底届かない程度の腕でしかないが、それでも並みの凡人以上に働く自信はある。

 

「それに、この杖は我が師から賜ったものだからな。この杖を使い続けていたいって思うわけよ」

 

 風を切るぐらいに杖を曲芸じみたように回し、回したまま杖の先端を地面へと突いて瞬時に回転を止める。乾いた木を叩く心地いい音がダンジョン内に響いた。杖はいい。強化すればこん棒にも槍のようにも剣のようにも振るうことができる。魔力を用いれば何にでもできるのだ。

 俺を鍛えてくれた師匠は7人いるが、その中でもこの杖をくれたキャスターにはかなり世話をしてもらった。ルーン魔術を詳しく教えてくれたり、杖での戦い方やケルト式槍術での戦い方まで教えてもらった。

 まぁキャスターにはランサー(槍ニキ)で召喚してくれよとは愚痴られていたのだが、それでもよく面倒を見てくれた。よくFGO界でもアニキ呼ばわれしてきたが、そのあだ名も嘘ではないと実感できるほどだ。え?アーチャー(エミヤ)?あの人はオカンだから面倒の見方は別枠だって。

 

「現に、モンスターを倒すのに苦労も何もしていない。要は使い方なんだよ、武器っていうのは」

 

 最も、俺には魔術という鬼札がある。キャスターとアーチャーに教わってきた魔術が。もちろん別に杖がなければ使えないというポンコツであるわけではないが、魔術の触媒としてこれ以上にないほど優秀でもあり工程(アクション)を省くこともできる。つまりルーン魔術を使うのに楽できるのだ。戦いの中で工程(アクション)を増やすというのは、できないわけではないのだがいささか以上に面倒なのだ。

 

「本気を出せばレベル5程度、ゴブリンを倒すのと同じぐらいたやすいさ」

 

「いや、それはさすがに無理でしょう」

 

 俺の言葉にベル君は苦笑しながら否定する。まぁ、さすがにゴブリンのように容易く倒すのは無理だろうが、冗談でもなく倒す自信はある。レベル5の実力はあの祭でのモンスター騒動で見ている。さすがに全力、というわけでもないだろうがあれよりも多少実力が上がった程度であれば、全力を以てすれば倒す自信はある。

 

「ま、レベル5以上と戦うなんてことはそうそうないから証明はできないんだけどな」

 

 もしレベル5以上と戦うとなれば、それは偶発的で突拍子のない理由か、ファミリア間の戦争でしか戦うことはないだろう。戦争となれば相手の規模にもよるが、レベル5以上の相手がいるとなるとサーヴァントを使わざるを得なくなる。まぁ、何でもありの状況になれば容赦なくアサシンで要人を暗殺、バーサーカーで蹂躙する気ではあるのだが。ランサーやライダー、それとキャスターは強者と手柄を求めているから伝えれば勝手に動いてくれるだろう。セイバーは頼めば動いてくれるだろうし、アーチャーは小言を言いながらも動いてくれると思う。

 ……改めて思うけど、1つや2つのファミリア程度簡単に潰せるな、このメンツ。

 

「……さて、無駄話もここまでにして、そろそろ帰ろうか」

 

「あ、もうそんな時間ですか」

 

 ダンジョンに潜って結構な時間が経っている。これ以上潜っていると帰りが遅くなってアドバイザーのエイナさんもベル君の心配で怒るだろうし、神ヘスティアも心配かけるなと怒るだろう。2人で稼いだ分を考えればこれぐらいで帰るのが妥当だろう。

 

「しかし、ずっと思っていたことだが魔石を拾い集める時間がもったいないなこりゃ」

 

「そう、ですね。たくさんのモンスターを倒しても魔石を拾い集める手間が増えるのはどうにかしないといけないですね」

 

「誰かしら魔石を拾ってくれる人を募集した方がいいのかもしれないな」

 

 腰につけているポーチには大量の魔石が入っている。しかし、その魔石もそこいらの雑魚モンスターの魔石であるがゆえに質はなく量を必要とする。量を欲しているが、その量を入れる袋も必要となってくる。量を入れる袋を持っていれば戦闘の邪魔になることはまず目に見えているがゆえに持っていけないというジレンマもある。

 

「ま、こればかりはすぐには解決できないだろうな」

 

 ダンジョンに潜るためには冒険者である必要がある。しかし、大抵の冒険者は自分のレベルを上げることに集中している。しかもそれなり以上にプライドを持っている連中もいる。そうだというのに、いったい誰が好き好んで雑用扱いされることを望んでくる奴がいるというのか。

 

「サーヴァントに頼むのも気が引けるしなぁ。俺だけならともかく、ベル君がいるし……」

 

 ライダーなら喜んで引き受けてくれそうではあるが、こんな些事にサーヴァントに頼りたくない。いや、従者(サーヴァント)という意味ではあっているんだろうけど、過去の英雄たちをこんなことで頼るのは贅沢がすぎるだろう。

 

「まぁ、特段急いで解決したいものでもないし。気長に探すとするかな」

 

 なんならベル君と交代で魔石を拾う係と戦闘する係を交代していってもいいのかもしれない。しかし、ずっとそのまま交代を続けるのは非効率だ。

 どこかで魔石を拾う専門の冒険者を探さにゃいかんなぁ、これは。

 





・追記

感想で業物の剣≠ヘスティアナイフなんですか?というご質問があったのですが、ここでは業物の剣=ヘスティアナイフ、ということでお願いいたします。武具を投影する主人公にしては大雑把にしているだけです。
わかりにくくて大変申し訳ありません。


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