秘匿名は木星急行!【完結】 (ノイラーテム)
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前編、蒼き星を後にして

 急遽動員された士官学校生に教導隊員たち。
乗り込むのは完成前の戦艦に偽りの名称。
艦を守るのは最新型のドップ部隊とはいえ、少年達が命を預ける棺桶はいまだ開発途上のMS-05。
果たして、この航海にどんな重要性があると言うのだろうか?
エクセリヲンは若者達を載せて、一路、木星圏を目指す。


●作戦決行

 艤装前と思わしき赤い宇宙戦艦を、慌てて青に塗り変えて行く。

本来装備すべき旋回砲塔は存在せず、地球連邦が見れば大笑いしただろう。

 

だがこれは偽装である。

埋没型の大型砲塔が隠れており、八ツ目鰻の様だと口にする者もいる。

火力よりも防護に優れる処理だが、砲身を削り取ったのは、むしろ戦力を隠し、かつ極限まで軽量化する為だ。

 

「ヴァゴ提督。全艦の高速艦艇化が終了しました。残るは移動中に可能な物のみです」

 作戦室で女性士官が作業終了を告げる。

居並ぶ幕僚たちは、ホっと一息を尽いた。

 

「御苦労。それと二世と付けてくれたまえ。その名前は私には大き過ぎる」

「ヴァゴ二世ですかな? それともタシロ二世?」

「はははっ」

 提督と呼ばれた男が冗談を口にすると、気を効かせた幕僚が相の手を入れる。

 

宇宙移民者でも名門である彼の家の長男は、代々同じ名前を受け継ぐので、二世も三世もないものだ。

きっと彼の子や孫もタシロ・ヴァゴであろうし、祖先に遡ればタシロ・ヴァゴだらけだろう。

 

「できればタシロと呼んで欲しいね。特に麗しき女性には」

「ヴァゴという名字は他にもありますからなあ。しかしこれだけのウェーブは中々……」

「御命令であれば構いませんが、セクハラです」

 リラックスさせる為に当て馬にされた女性士官の方は、憮然とするしかない。

 

冗談のネタにするのであれば、閑な時にして欲しいと思うのは当然だろう。

彼女としてはさっさと済ませて、他の作業にあたるつもりだった。

 

「これは失礼。以後、気を付けるとしよう。下がってよろしい」

「ハッ!」

 タシロは笑って謝罪すると女性士官を下がらせた。

そして幕僚たちに本題を告げる。

 

「……確認するがマーシャル音波砲の進捗はどうなっている?」

「艦首モジュール・ユニットを突貫で完成させました。報告通り、残りの作業は艦内にて行います」

 部外者が立ち去ったと確実に判ってから、会議を始める。

宇宙空間で音波砲など物の役にも立つまい。ゆえにこれもまた、秘匿名称である。

 

「どのみち地球圏でエンジェル・ハイロゥは起動できん。確実にやらせたまえ」

「万が一にも連邦の連中に気取られる訳には行きませんからな。了解です」

 天使の輪と音波砲に関連性は無いように見えるが、秘匿名などそんなものだ。

関連性がある場合もあるが、ない場合も往々にして存在する。

 

意味があるのは隠されたその機能であり、隠しているのが連邦軍対策である以上、地球近郊の宇宙で使う訳にはいかない。

よって現場で効果が語られるにせよ、士官ですら耳にするのは、もっと先の話だろう。

 

「同様にMS-05とドダイも当面の間、稼働を禁止する。精々ガトルの中にドップを浮かべて見せろ」

 開戦すれば直ぐに判ることとはいえ、モビルスーツと関連装備も同様だ。

 

ギリギリまで隠す事に意味があり、航海も始まって居ない状態で動かすわけにはいかない。

戦闘機としての機能に特化したという触れ込みの新型、ドップを誇らしげに使って見せるだけである。

 

「了解しました。しかし学生どもはいかがいたします? 座学ばかりとはいきませんが」

「艦内の重力区画でも走らせろ。モビルスーツが本格的に実用化されれば、彼らには多くの苦労を背負って貰わねばならん」

「殺到する志願兵を抑えつけねばなりませんからな」

 今はテストを終えたばかりの秘匿兵器なので、少数しか乗り込む者は居ない。

だが国内のみとはいえ公表され、募集を始めれば多数のパイロットが増えることに成る。

 

増えた人員を抑えつけるには、先任の古参兵だけでは足りない。

指揮官になるべき士官学校生たちに、少しでも多くの経験を与える必要があった。

 

「今時マラソンとは教官連中が恨まれそうですな」

「君が若い時分に営庭で何をやって居た? 同じことだよ」

「ははは。コロニーの天井を見上げて悪口ばかりを言ってましたよ」

 教導隊はエースあがりの教官も居るが、大多数の教官は下士官だ。

 

多くは兵士たちを扱う様に士官候補をシゴキ、恨まれてでも一人前にするのが仕事である。

同時にそれは士官候補にとっても、怒鳴られ殴られて教育を受けるのが仕事であると言える。

 

いずれにせよエクセリヲンは、同じく高速軽量化した巡洋艦群を連れて地球を後にした。

 

●地球を離れて

 士官学校生に、兵学校からの選抜組み。

学生達は来る日も来る日もマラソン漬けだった。

もちろん座学も並行して行われるので、要領の悪い者は眠る閑もないほどだ。

 

それでも文句を言って居ないのは、学校に行くだけで給料が出る身分であること。

そして他でもない教官のうち何人かが、自分達に先行して走って居ることである。

 

「貴様ら! たるんでおるぞ!」

 怒鳴り声を上げるのは教官の一人であるオルテガだ。

教官の中でもエースあがりで、本来であればこんな苦労を背負う必要はない。

 

面倒を見る為に走らせるにしても、先任あがりの教官に任せてしまえばよいのだ。

彼の様な立場の者が率先して居るがゆえに、学生達も走る事に対して文句が言えない。

精々が座学が出来ないので代わりにやってるんだろうと、オツムの方をネタにするだけである。

 

「あれだけの体だからね。力が有り余ってるんだろうさ」

「違いない。とはいえこの艦だけは重力区画があるからな、あれはあれでキツイと思うぞ」

 学生達の中でかろうじて付いて行って居る二人が笑っている。

他の連中にはそんな体力は残って居ないので、二人は周囲から一目置かれる存在であった。

一人はサングラスで弱った目を守り、もう一人はマスクで呼吸器を守っているというが、それは主席たちだけに許された特権と言える。

 

もちろん体力を残しており、目立つのを避けている連中も居る。

特に兵学校からの選抜組は年上も多く、士官教育課程として組み入れられた大人ばかりだから当然だろう。

ほどほどに手を抜いて居た彼らの中から、一人が追いついて来る。

 

「なあガルマ、俺たちはいつまでこんな事をやってるんだ?」

「ここでその名前は止して下さいよ。ここでは偽名で通してるんですから」

 先行していた二人の内、答えたマスクマンはガルマ・ザビ。

言わずと知れたザビ家の一員だが、教官たちがエコ贔屓しないように偽名で通したらしい。

偽名を通すにも特別な理由が必要なので、謙虚なのだか我儘なのだか。

 

「それはともかくジョニー。兵学校なんかに行かなければ、貴方も知ることができたでしょうに」

「性に合わなかったんだよ。それにマツナガのおっさんも兵卒出だろ」

 追いついて来た青年はジョニー・ライデン。

市長の息子なのに志願して兵学校に行った代わり者だ。

 

ちなみにマツナガ家は武門の家柄で、若い頃は叩き上げから始めろという筋金入りである。

もちろん家や友人たちのヒキもあるので出世する訳だが、苦楽を共にした兵士達には慕われている。

 

「……おそらくは適当な隕石群が見つかったあたりで実機訓練が始まるでしょう。今はそれだけしか」

「仕方ねえなあ。それまでは適当にやってるよ」

 こんな誰でも聞けるような場所で秘密を話すわけにはいかない。

知った顔でも同じことであり、ジョニーも頷いて元の位置まで下がって行った。

もしかしたら彼も判って居て、おおよそのタイミングだけでも聞こうとしたのかもしれない。

 

代わりに口を開いたのは、もう一人のサングラスを掛けた若者だ。

 

「なあクロノクル。もしかしてこの船は木星にはいかないのか?」

「君には隠せないなシャア。まあ先々で訓練が予定されて居れば当然か」

 例え偽名であっても態度を変えない親友に、ガルマは嬉しそうに答えた。

秘密というものは誰かに語りたくなるものであり、先ほどと違って、限度内の情報だから尚更である。

 

モビルスーツの訓練や秘匿兵器の実験は、一度や二度ではない。

いかにエクセリヲンの正体が長距離航行能力を持ったグワジン級とはいえ、察することはむつかしくないであろう。

 

「隕石群での目視戦闘訓練。そして重力下での稼働実験。その為に火星と木星が同じコースを狙う時期を選んだんだ」

「なるほど。燃料消費の悪化か何かを理由に、途中で引き返す算段か」

 そう……この木星行きと言う計画そのものがダミーなのである。

 

この船は最初から失敗し、途中で引き返す事に成って居た。

木星行き直通便の成功を成し遂げるのは、次の艦が担う名誉であろう。

 

「新型とはいえドップをガトルと並行生産する必要はないだろう? 元もとあれは地球で運用する予定なんだ」

「待て。地球で運用するだと? 連邦宇宙艦隊に勝てるつもりなのか?」

 木星にはいかない事に驚かなかったシャアも、この事には驚いた。

地球で運用する兵器をワザワザ遠距離で実験するということは、宇宙戦を優位に進めるということに他ならない。

 

現時点でジオンは地球連邦の全軍どころか、その一部にすら及ばないのだ。

分散して居るコロニー駐留艦隊や月面防衛部隊を除くとしても、ルナツー艦隊に軌道上を守る防衛艦隊は単純比較で三倍は硬い。

もしコロニー駐留して居る部隊をひとまとめにすれば、総戦力は宇宙戦闘艦だけで五倍を越えるだろう。

 

「だからこそこの作戦さ。終われば君も理解する時が来る」

 それまでは親友相手でも語れない。

そして実験が始まれば一目瞭然だとクロノクル……いや、ガルマは口を閉ざした。

 

●有視界戦闘の脅威、深く静かに戦闘せよ

 ゆるやかな速度ですれ違う隕石群。

ソレを発見した時、ジオン軍は動き出した。

 

「本艦は相対距離を取って周回する。その間に05の訓練を行え」

「閑を持てあましている学生達も喜ぶでありましょう」

「せっかくです。スターズとキマイラ両中隊を共に展開して競わせますか」

 この艦隊には三個中隊、合わせて一個大隊のモビルスーツが居た。

 

本来は四個中隊で増強大隊を構成予定だったとか。

これに加えてドッブやガトルと呼ばれる戦闘機、そしてドダイと呼ばれるサポート機が存在する為に縮小して居た。

スターズとキマイラという中隊呼称は、部隊の中でも優秀な学生達を中心にした訓練部隊である。

 

「ドップ部隊とガトル部隊が制空権を確保次第にスターズはハッチより発艦」

「スターズ。ブラック、ホワイト、銀。各小隊発艦せよ」

「キマイラ隊はグリフォン小隊から順次カタパルトへ」

 エクセリヲンは非停止航行を前提としている。

このために上下に付いたハッチから出撃するほか、後方に向いたカタパルトより高速発進を可能にしていた。

 

これらは緊急時の発艦や、高速展開、安全面など様々な能力を試験する為でもある。

 

「おい! 偽名女!」

「何の用だオルテガ。それでは偽名の意味がないだろう」

 鼻息荒く通信がやってくるが、口説いて居る訳ではなさそうだ。

偽名女などと呼ばれた女性士官は、面白くもなさそうに応える。

 

「名前が魔獣なら名字も魔獣。部隊名まで魔獣なんざ偽名女でいいだろう」

「文句は上に言って欲しい。それよりも用が無いならば切るぞ」

 部隊名のキマイラ隊は正式な名称だが、女の名前であるファラは竜の名前。

名字であるグリフォンは上半身が鳥、下半身が獅子と言う魔獣だった。

これではオルテガならずとも、苦笑せざるを得まい。

 

「待てよ! 上から俺達の間で競わせろって命令なんだ」

「どちらの部下が上かと? ……命令ならば従おう」

 くだらない対抗意識だとは思うが、ファラ・グリフォンという偽名の女士官は従った。

親衛隊に所属して監査をやっている彼女にとって、命令とは絶対だからだ。

 

「あっ! オグスの旦那とかじゃなくて、ガキ共な。お前んところの燕でも出しな!」

「私には年下の男を地位に任せて囲い込む趣味は無いが。……まあ良かろう」

 おそらくクロノクルやシャアの事を言っているのだとは思う。

しかし燕呼ばわりした男がザビ家のガルマだと知ったら、オルテガはどんな反応を示すのだろうか。

 

もっともブレイブ・オグスとの対決を避ける辺りで、ファラとしては既に失笑ものであった。

 

二機で一組(ツーマンセル)のロッテ編成を取れ。先頭はクロノクルとシャアだ」

「「了解であります」」

 ジオン軍は三機で一組のケッテ編成が主流だが、ファラは学生達を管理する意味もあって二機を一組にする。

互いに相棒だけを確認させ続け、自分と相手の状態を常に把握させる。

 

「……いま訓練メニューが到着した。隕石群を抜けた向こう側に灯台を設置する。レーダーを切って回って来い」

「「了解であります」」

「「「嘘だろ。有視界だけで行けって言うのかよ!」」」

 命令を素直に受けた者と、そうでない者の動揺に別れた。

 

「クロノクル」

「なんだ、シャア」

 その様子を見ていたシャアは、僅かに考えて口を開いた。

ガルマも慣れた調子で、偽名を呼ぶ友人に素直に応じた。

 

「教官殿はああおっしゃられたが、急げとは言っていないよな?」

「この形式ならば競走だとは思うが……。何を考えている。言ってみろよ」

 灯台を設置するのは競争である場合が多い。

もちろん難地である場合は別だが、そこまでの密度でも、速度でも無かった。

 

「久しぶりの実機で、しかも慣れない有視界行軍だ。最低速度を上げる方が良い」

「脱落者が出るとは思えないが、君の言う事にも一理あるか」

 競争には二種類ある。

一つ目は到着速度や周回速度を可能な限り急がせる物。

もう一つは困難な地形で、脱落者を出さないという前提で、最低速度を可能な限り高めるものだ。

 

ガルマはアッサリとシャアの話に頷いた後、ザクを操ってお肌の触れ合い回線を開いた。

 

「シャア。やはり君にだけは言っておこう。ジオン軍は今の様な戦闘を常識化する」

「……何?」

 言われて何のことか、シャアは全く意味が判らなかった。

レーダーが使い難い場所はままある物だが、どこにでもある様な物ではない。

 

更に言えば先ほどのやりとりで、今までずっと隠して来たガルマが急に秘密を話すとも思えなかったのだ。

 

「その為の手段があるとだけ言っておこう。君は良いカンをしてるよ」

「レーダーを無効化する手段があるということか? ECMではなく? 待て、ガ……クロノクル!」

 そこでガルマは通信を打ち切る。

傍受の可能性を考えてシャアも尋ねることができず、情報を漏らしてくれたガルマの手前、ここで尋ねるのも無粋だろう。

 

今は自分が提案した通り、他の者を全員連れて踏破する方が先である。

 

「ええい、仕方無い! 先行して道を確認する! みなはクロノクル候補生のマーカーに従ってくれ」

「この明りをフラッグ・マークとして使用する。私に続け!」

 学生達の中で一番操縦が上手いシャアが先行し、通行の安全を確認し始めた。

やや遅れてガルマが道の真ん中と言うべき場所を策定し、学生達を先導し始めたのである。

 

最初は有視界行動に戸惑っていた学生達も、目指すべきマーカーがあれば一安心出来る。

落ちついてしまえば土台が優秀な者だけを集めた部隊だ。

 

苦もなくスムーズに灯台までの道を切り開いた。それはさながらジオンの未来を切り拓く様であったと学生達は口にした。




次回予告!

 火星に到着して最初の訓練である重力懸垂を行おうとした矢先、急報がエクセリヲンにもたらされる。
火星開発公団からの急電には、民間の作業船が宇宙海賊に襲われたという。
「なんてこった!」
卑劣にも宇宙海賊は惑星開発用の熱核反応弾を奪い、民間人を人質にして居ると言う。

 重力の掛る火星表面では、戦闘はともかく、思う様に救助作業もできない。
ジオンの若き勇士たちが戸惑う中、作業船は無情にも火星目がけて落下していく。
そんな中、エクセリヲンの第七ハッチが開こうとしていた。
「デュバル君! ソレはまだ未完成だ。止めたまえ!」
「現状でも十分はフル稼動できます。それまでに救助できればいい!」
 制止するエリオット・レムを振り切って、ジャン・リュック・デュバルは機体を駆る。

次回!!
『ゴーストファイターは暁に消ゆ』に
ジェット・ストリーム・アターク!


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中編:勝利の為の布石

●実験開始!

 何も無い空間を観測した時、何も無いからこそ始まることがある。

 エクセリヲンの環境はにわかに活気付き、慌ただしく事態が動き始めた。

 

「タシロ提督、『薙ぎの海』です。エネルギー風や隕石の類は一切ありません!」

「測定済みのカームベルトではない為か、連邦のブイなどは見受けられません!」

「よろしい! コード入力、バベルは砕かれた!」

 エクセリヲンより暗号を遼艦に伝達。

コードが入力されることで、それぞれの役目に合わせ予めインプットされた指示が艦隊に行き渡る。

 

「実験用フォーメーションを形成開始」

「全艦は薙いだ空間内で旋回せよ。ドップ部隊およびガトル隊、モビルスーツ隊は演習準備!」

「対電磁・対光波防御開始。ECM、ECCMともに現時点では正常」

 艦隊は二つに別れ、それぞれが旋回する事ですれ違う様なコースを取った。

レーダーは勿論のこと、ジャミング波やソレに対する防御など、定石的な展開を始める。

 

不思議なのは、それらの計器に様々な計測機が備え付けられて居ると言う事だ。

 

「全機に演習弾を配布。弱装弾は一部の機体に装備中」

「スターズはブラック隊より順次カタパルトで、キマイラ隊はキライラ、グリフォン、鵺。各自発艦!」

 部隊は予備機を除いて全力出撃。

それぞれ隊長を除いて詳しい説明はなく、ただ訓練の一環として受け取っていた。

 

「提督、全隊指定通りの位置に付きました」

「丸Mの……粒子散布実験エンジェルハイロゥを開始する。マーシャル音波砲を開け!」

「艦首モジュール展開。粒子散布開始!」

 マーシャル音波砲と言う偽りの名前はこれまでだ。

艦首モジュールより指向性を持たされた謎の粒子が散布されて行く。

 

それは指定通りの区域に散布され、艦隊の航行路全てが覆われることになっている。

そして、丸Mとだけ故障された謎の粒子の効果とは……。

 

「分艦隊、並びに遼艦との通信途絶! レーダーのみならず熱探知他も完全には機能して居ません!」

「ECCMは正常に稼働中! 既存のアンチ・ジャミングでは対処できません!」

「丸ミの……ミノフスキー粒子の実験は成功です!」

 艦橋スタッフは湧きたって居た。

さすがに旗艦であるエクセリオヲンのクルーは知らされていたのだろう。

 

反対に分艦隊のスタッフは大混乱の筈だが、知っている艦長や参謀あたりが必死に宥めているはずだ。

 

「タシロ提督! おめでとうございます!」

「これでジオンの勝利は約束されました!」

「まだだ、ここまでは地球でも試したことがある。艦隊の動きと戦闘行為によって、どれほど粒子が飛散するかを調べねばならん!」

 タシロは喜ぶクルーをむしろ然り付けて、第一次実験の最後を締め括る。

 

「全艦は指定コースを保って居るな? 全砲門開け! メガ粒子砲塔、砲撃戦訓練用意」

「全砲門開きます! メガ粒子砲。三連対空レーザー砲、90mm機関砲(オートカノン)準備ヨロシ」

 八ツ目鰻にも似た埋没砲塔が装甲板を開いて行く。

大型のメガ粒子砲だけではなく、連装型の対空砲が回転を始め、それよりも巨大な対空砲がせり上がって来る。

 

「全砲門打方始め! 目標を付けずとも構わん、撃って撃って撃ちまくれ!」

「全砲門、最大仰角で斉射。全CIWSは仮想データに対し起動」

 全ての砲座が何も無い場所を撃ち続け、ナニカが居るものとして稼働し続ける。

砲座担当以外は計測器に目をやり、レーダーその他の反応を追い続けていた。

 

レーダーを無効化し、熱源探知や光学探知の一部すら妨害するミノフスキー粒子。

その飛散度合いを確認する試験が、開始されたのである。

 

●モビルスーツの領分

 艦隊が予定通りの行動を行う事で、艦載機やモビルスーツ隊はかろうじて正常を保った。

それでも混乱は避けられないし、各隊長機が指定位置に引率して居なければ大変だったろう。

 

そして逸早く混乱から立ち直った一部の者たちは、混乱するよりもむしろ興奮して居た。

 

「これは凄いなクロノクル。まさか目視以外の探知を全て無効化されるとは」

「一応は熱源と光学系は使えるよ。まあ輪郭くらいだがね」

 お肌の接触回線を開いて、シャアとクロノクル……ガルマが通信を開く。

普段は聞かれたくない通信に使うテクニックだが、今はミノフスキー粒子対策だ。

 

シャアですら興奮する中で、ガルマは一人冷静さを保って居た。

それも当然だろう、彼は予め聞いて居る数人の内の一人なのだ。

 

「これならば敵機や対空砲をかい潜って敵艦を沈めるなど訳は無い」

「即座にソレに気が付くとは流石だな。……姉上などは、艦隊のダミーや侵攻方向を指摘されていたよ」

 シャアが思い付いたことは当然ながらガルマも気が付いた。

悔しいと思うとしたら、シャアが即座に思い付いた事くらいだろう。

 

それだって姉が戦術・戦略的にもっと意義の大きい事を思い付いた事に比べたら、小さな事でしか無い。

そして彼をして恐れさせるのは、長兄の悪魔的な手段の思案だった。

 

「キシリア閣下が? それは、まあ。一軍の将であらせられるからな。君もいずれそのくらいは追いつけるさ」

「姉上や兄上の域に辿りつけるのはいつのことか……」

 ガルマは自嘲しながら気分を切り替えた。

 

パイロットや士官、部隊長までこなす彼の視野が狭く成るのはどうしても仕方のないことだ。

大局的な見方を身に付けたいものだが、シャアが言う様にまだ先で構わない。

今は命じられた事をこなすだけではなく、得られるデータを最大限に活かせる戦闘を模索する段階なのだ。

 

「シャア。君の言を信じるとしても目を付けられている。前衛同士が接触するまで隠れてくれるか?」

「それもそうだな。私は暫く楽をさせてもらおう」

 光学系は生きているとしても、識別情報までは拾いきれない。

相手チームは腕の良いシャアをマークしているはずだが、いつも訓練で担当して居る位置に居なければ判らなくなるだろう。

 

そして通信の使えない状況で味方に指示を出す為、以前の様にライトを灯して目記しに換えた。

 

『目視で……行軍……を思……出せ。指示……ンドサインと、レー通信……る』

(「これは指向性レーザー通信か? なるほど知って居ると居ないとでは大違いだな」)

 ガルマが指示を出す為に前面に出た所で、シャアは手近に居た機体へ向かう。

そしていつも自分が居る位置を任せると、中列の適当な場所を担当した。

訓練が始まって暫くした所で、遊撃に回るつもりである。

 

これで相手側がマンツーマンで彼をマークする事ができなくなり、フリーとは言わずとも可能な限り動き易く成る。

事実、この後の訓練に置いて、オルテガやマッシュ達を無視して母艦へタッチダウンを掛けることに成功したのである。

 

●火星沖海戦

 最初の試験は無風で行われたが、後にエネルギー風や隕石混じりでも行われた。

可能な限り省エネを務めたが、繰り返せば木星には届かなく成るのは当然だ。

 

エネルギーのロスがあった事にして、致命的なミスが出る前に引き返す。

最初からそんな筋書きで、艦隊は航行を続けていた。

 

「タシロ提督! 火星基地より緊急入電!」

「読み上げたまえ。それと二世と付けて欲しいと言っただろう」

 長い航海を終えて火星付近に差し掛かった頃、事態が急変した。

 

突如として火星基地から連絡が入ったのである。

 

「当方に所属する作業船を狙った宇宙海賊の襲撃アリ。至急、来援を請う」

「嘘だな」

 タシロ・ヴァゴは一言で切って捨てた後、幕僚たちに意見を求める。

 

「とはいえ見捨てると何を言われるか判らん。忌憚のない意見をくれ」

「ひとまず提督の御意見に賛成です。その上での見解ですが……」

 この状況下で本当に宇宙海賊などと思う様な参謀は居ない。

であれば、どんな陰謀なのか、どう対処すべきかを考えねばならない。

 

「連邦の狙いは開拓公団の陰に隠れて、ジオンの邪魔をする事というよりは、こちらの狙いを窺う事でしょう」

「同感です。ジオン独立に向けた『力』を探りに来たのかと」

 他のサイドや月面都市は別にして、地球連邦にとってジオンは大した相手では無い。

目の仇にして陰謀を仕掛けて来たというよりは、万が一に備えて、隠している手段がないか探りに来たと見えるべきだろう。

 

「であればモビルスーツは隠すべきか?」

「いえ。ドップやガトルの数は艦隊に見合いません。出し惜しみと見られる可能性が」

 手段を探ると言う意味では、最低限の成功を納めている。

海賊が居ると言う通信だけで、こちらは戦力をどの程度見せるかを悩まざるを得ない。

 

テスト用にモビルスーツ中心で構成されており、最低数で構成されては居るものの、宇宙戦闘機の数がまるで足りないのだ。

本国におけるセレモニーの様に誤魔化せる状態では無く、かといって数を絞れば出し惜しみと取られてしまう。

 

「それにレーダー健在の状態では、作業機械に戦闘力を持たせたと言う印象でしょうし問題無いかと」

「スパイもある程度は探り出して居るでしょうし、ここで多少見せるくらいは問題無いでしょう」

 ジオンでも当初は一部の者からモビルスーツは良く思われて居なかった。

それを考えれば、使って見せる事自体は問題ではない。

火星で得られたデータが届いたくらいでは、地球でスパイが調べ出したモノと大差は有るまい。

 

となれば何処まで見せて良いのか、そして何を偽りの隠し玉に設定するのかである。

 

「むしろドダイの方が問題でしょう。ザク共々コピーされた場合に脅威に成ります」

「またレーダー撹乱前提の兵器として、丸ミを想定されかねません」

 実際にそう思うかは別として、自分達が想定して居ることは止めておいた方がいい。

隠そうとしてもバレる物だし、それなら最初から使わない方が良いくらいだ。

 

「テロリストとは交渉しないことは常識です。乗り込まれた船ごと撃沈するという前提で、まずは話を通してみるのはいかがでしょう?」

「反応から相手の考えている戦力も見えて来るかと。それに合わせて多少のオプションを許可しましょう」

 マシンガンやバズーカのみならず、対艦ライフルといった通常兵器群。

他にも増槽であるプロペラントタンクに加えて、失敗作ながら携帯用のビームカノンや超長距離砲撃システムなどもある。

 

撃沈は困ると言われた場合でも……。

相手が旧式のセイバーフィッシュ程度であれば、鬼ごっこをしても問題無く捕まえられるだろう。

 

「ふむ。それもそうだな。こちらとしては余計な燃料を使いたくないと言っておくとしよう」

「ははは。タシロ提督もお人が悪い。引き返すのは元からの予定ではありませんか」

「連中はソレを知りませんからな。利用させてもらうとしましょう」

 現在は加速したまま航行しており、宇宙空間は無重力なので燃料を使って居ないことになっている。

だが宇宙海賊退治の為に火星圏に留まれば、例え火星に降りずとも再加速に面倒な手間が掛るだろう。

 

ましてや戦力展開の為に艦隊の足を止めれば、再加速に相当な燃料を使ってしまう事になる。

木星まで航海は道半ば、大型燃料タンクをグワジン級が所持して居なければ、断っても良いくらいなのだ。

 

「連中の答が返ってくるまでに、使用する艦船と戦力を大まかに絞っておこう」

「捕縛であれば学生どもを囮に使えば良いかと。腕効きをバックアップに付ければ問題無いでしょう」

 燃料の問題があるのは嘘では無いので、ムサイ一隻か二隻を基準。

それに搭載・随行可能な戦力のみを派遣し、艦隊は重力圏の外でいつものように周回することになるだろう。

 

「それならばオグス大尉が適任ですな。彼の腕前ならば信頼がおけます」

「小隊単位としてならばガイア中尉も適任です。教導団は伊達ではありません」

 腕効きと言う意味では、教導団所属のガイア・オルテガ・マッシュが有名だ。

 

それとは別に職人気質のブレイブ・オグスは一段越えているとされる。

狙撃は特筆もので対艦ライフルを持てば一発必中。誰も当てられずに失敗作となった超長距離射撃兵器すら、彼だけはなんとか命中させられたと言うほどだ。

 

「その辺りは君らの方が詳しいだろう。返答が来次第に策定を頼む」

「「了解であります!」」

 こうして海賊退治と言う名の茶番が始まったのである。

 




 と言う訳で中編です。

このストーリーはミノフスキー粒子がどんな影響を与えるか、その時にどう動けば良いのかを確認するという計画になっています。
原作よりも密度の濃い実験と訓練をしているので、ルウムでの被害は抑え気味になる感じです。
またガスを使ったりコロニー落としをせず、別の手段で連邦に有利に立つために、他にも色々な実験を行っています。
(超長距離射撃兵器ことダインスレイヴとか、スキウレ砲ならぬ携行ビームカノンとか)

よってこの実験が無事終わればジオンの優勢勝ちに向かうと言う設定なので、後編で地球に辿りついたら終わる予定です。

名称にトップを狙うとか、Vガンダムを利用して居るのはただのネタです。
グワジンを青く塗ったらエクセリヲンみたいだなーとか、そういえばタシロ提督ってのがVに居たなーとかいう程度。
ミノフスキー粒子の実験をして戻るだけでは、寂しいので使っただけになります。


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後編:地球が静かになる日

●敵は海賊!?

 艦隊から二隻のムサイが派遣された。

搭載されたモビルスーツは僅かに三機、残りは重力圏試験用のドップという組み合わせである。

 

『目標地点まで間も無く。君達の見当を祈る。せいぜい囮を務めてくれ』

「別に倒してしまっても構わんのだろう?」

『ははは。できるならやって見せてくれ』

 火星の地表付近に降りた時、ムサイ本体では無く、コムサイに変化があった。

コムサイのハッチがゆっくりと開き、二機のMS-05がゆっくりと投げ出される。

 

二機はぶつからない程度に手足を動かし、まるで犬かきの様に緩やかな移動を始めた。

不格好ではあるがブースターを吹かさず、ANBACだけで動けるという利点がある。

オマケに視ているかもしれない連邦のスパイが居るなら、不格好さも利点に成るだろう。

 

「遮蔽物を確保。これでようやく身動きが取れる」

 一機が丘の周囲を警戒。

もう一機が『目標』に向かってメインカメラを動かした。

すると面白いモノが開拓用の施設の上に浮かんでいる。

 

「シャア。あれを視てみろ。面白いモノが見える」

「……ちゃんとした軍艦じゃないか。世も末だな」

 そこに浮かんでいたのはサラミスの台頭で行き場を失った、旧式の巡洋艦だった。

コストパフォーマンス以外にも性能も優れたサラミスと比較すれば仕方無いところだが、通常ならば海賊が使って居て良い船ではない。

 

さらに周囲を宇宙戦闘機が周回しており、とうてい無頼の海賊には無理な武装に見えた。

 

「本当に奪われてるとしたら相当な職務怠慢だな。しかしそんなに海賊は多いのか?」

「開拓公団に払い下げる仮定で、試験的に少人数化を進めたそうだよ」

 それで奪われては話にもならない。

二人の共通した思いだが、陰謀となれば話は別だ。

 

提督以下、幕僚団のみならずここまで怪しければ誰でも思い付くだろう。

 

「自作自演の狂言誘拐とは恐れ入る。……それで海賊は始末しても良いのかな?」

「一応はな。ただ開発用の核弾頭を盗まれている可能性が在るので、あの区画で撃沈するのは止めて欲しいという話だ」

 資料によるとキャルフォリュニウム核弾頭という、半減期の短い弾頭らしい。

汚染度が早期に終了することもあり、鉱山開発も兼ねて輸送されたことになっている。

 

とはいえこれも陰謀を前提にすれば、別の味方も出て来るだろう。

 

「……十中の八九はダミーだと思うが」

「当て推量で行くわけにもいくまい。それに公団側からの言い分だからな」

 もし本物だったら危険どころの話では無い。

ザクでは一瞬で溶けてしまうし、彼らだけならまだしも、人質や開発区画も同様である。

 

しかも公団の言い分を無視、ありえないと主張する事は別の問題が生じてしまう。

上は上で判断して居るだろうが、囮役として派遣された士官候補生の判断を越えるのは間違いが無い。

 

「ただ相手の予定を推測できるなら、こっちも作戦の立てようがある。おそらく連中はこの辺りで船を捨てるだろう」

「……なるほど、このルートなら見つからずに脱出できそうだ」

 もし自作自演でジオンの戦力を見たいのだとする。

その上で話しの辻褄を合せ、かつ記録装置などを用意するとしたら、全てに合致する場所など限られてしまうだろう。

 

核弾頭があるなどという嘘を付かなければ話は別だったのだろうが、それでは艦隊の動きを止められない。

技師が貴重だとしても、少人数の犠牲なら無視できるのが国家と言うものである。

 

「ということは記録装置はその辺りか。……あの実験で使ったやつは無理なんだな?」

「当然だ。アレはジオンが連邦に勝利する為の大前提だ。こんな子供のお使いなどには使えない」

 丸ミこと、ミノフスキー粒子。

その効果は電波遮断など、一定のエネルギーを封じ込める。

多少ならば光や音も遮断するので、記録装置を無効化するには最適だったろう。

 

だがザクのデータを隠す為に、第一級の秘匿物を使用するなど論外だ。

それならいっそ、ザクの能力を公に晒してしまったほうが、他のコロニーを説得する材料になると開き直れる。

 

「それは残念だ。こんな状況こそ、あの時の実験が役に立つ絶好の機会なのだがな」

「仕方無いさ。だからこそ開発されたのだしな」

 ミノフスキー粒子でレーダーを阻害し、光学系の望遠レンズを阻害する。

そうすれば楽勝と知って居るだけに、使えないことが残念に思われる。

海賊が使っているとされる艦も、オートと遠隔操作での自動戦闘と思われるだけに尚更であった。

 

とはいえ二人の役目は奇襲して相手を驚かせつつ、逃走ルートの一部を塞ぐ役目だ。

本命はもう一隻のムサイに乗って居る、ブレイブ・オグスの狙撃である。

それほどの事は期待されていないし、権限もないので仕方あるまい。

 

「ともあれ我々は我々の役目を果たすとしよう。そら、もうじき芝居が終わるようだ」

「こんな茶番に付き合わされる彼らの方が迷惑だろうにな。さて……ワンテンポ遅らせるが、穴埋めに小細工をしてみよう」

 人質である技師や施設と引き換えに少なからぬ金銭、そして貴重な開発データがやり取りされる。

一応はそういう事になっており、海賊の目的は開発区画に眠る鉱山情報を売りさばくという建前だった。

 

どれほど信頼出来る取り引き内容なのかは別にして、無様を晒せば本国の恥に成る。

だが焦り過ぎて予定よりも先に動けば、ジオンが不必要な強硬に出たと言いがかりを付けて来るに違いない。

 

「シャア、私が先行するから踏み台にしてくれ」

「友人を足蹴にするのは気が引けるが、この場は仕方あるまい」

 海賊(?)が逃走を開始し、出番が来た所で二人は出撃。

ブースターを吹かせてガルマが先行し、ショルダーシールドを構えた。

 

振り向くことでANBACによる重心移動を掛けつつ、その勢いを上に向ける。

そこへシャアのザクが飛び乗って、海賊艦の下方に急接近した。

 

「シャア、援護に戦闘機が来る! 戦闘ポッドは任せろ」

「セイバーフィッシュはどちらかといえば高級機のはずなのだがな」

 戦艦の上に乗せられて居た戦闘ポッドが転げ落ちるように落下して来る。

 

だが急発進させただけでその狙いはまだ付けられてはいない。

ガルマに任せて、シャアはセイバーフィッシュに向かった。

 

「この加速、最初から自動操縦か! だがそれならば対処し易い」

 回避の為に急加速を掛ける、ありえない機動。

人間が乗って居るなら凄まじいGであろうし、回避機動のタイミングが早過ぎる。

 

シャアは左肩のシールドを前面に押し出しつつ、敵の予測機動ポイントへマシンガンを向けた。

だが……。

 

「ちっ! 誘導ミサイルか。まよよ!」

 敵機が放つ無数の小型ミサイル。

巻き込まれれば大破せざるを得ないので、仕方無く弾をばらまいて行く。

ドラムマガジンによる無数の弾を、景気良く使用してようやく叩き落とす事に成功した。

 

「ええい! 攻撃を何とかするので手いっぱいとは。これでは戦艦は難しいな」

「無理はしなくて良い! いまごろコースを呼んで狙撃態勢の筈だ」

 ガルマは戦闘ポット……後のボールを牽制しっつう、距離を詰める。

向かう先は丘の上、カメラで戦艦から脱出するはずの海賊を捉える為だ。

 

他の開発区画に逃げ込む前に撮影しておけば、捕まえた時に人物紹介ができるだろう。

 

「どのみち区画を十分に離れた場所で自沈する筈だ。無理に撃沈する必要は無い」

「判っていた事とはいえ、止むを得んか。120mmがあればな」

 セイバーフィッシュは高速で一撃離脱を掛け続け、遠距離からスプレッド・ミサイルで牽制。

近寄った時にのみ近距離レーザーを放つので、無視するか駄目もとでマシンガンをばらまくしかない。

 

ならば戦艦を倒そうにもマシンガンでは火力不足。

バズーカがあればと思いつつ歯噛みするしか無かった。

 

「ん? セイバーがガルマの方へ? なるほど。よほど撮影が嫌いとみえる。同族嫌悪かな」

 もし同じ攻撃を繰り返されたら、遠巻きに行動されているぶん闘い難かった。

少なくともミサイルが尽きるまで同じことの繰り返しだった可能性もあるが、敵はパターンを変えてしまう。

 

おそらくは海賊役が脱出する際に撮影されるのを防ぐためだろう。

高台に登ったガルマ機を目指して、遠隔操作で命令が変更された。

 

「考慮されていない状況だけに無理が祟ったな! 私にも先が読める!」

 ガルマに攻撃を浴びせる為に取った軌道へ、割りこませるようにマシンガンを乱射。

全弾を撃ち尽くす勢いで、ホースから水をばらまく様に発射し続けた。

 

弾を全て吐き出したところでドラムマガジンを変更しようとするが、そのころには火を吹きふっ飛んだのである。

 

「すまないな」

「お互い様だ」

 二機のザクはゴンと鋼の拳をぶつけ合いつつ、対艦ライフルでのエンジン狙撃、そしてムサイの艦砲射撃を見届けるのであった。

 

こうしてスケールは小さいものの、初の実戦を終えたのである。

 

●無制限潜水艦戦

 火星での一件を終えた艦隊は、ソレと燃料のロス蓄積を理由にしてUターン。

技術更新を行って改めて木星を目指すとし、一路、地球へと帰還した。

 

だがエクセリヲンを待って居たのは、実戦投入の四文字。

ほどなく迎える地球連邦への開戦に向けて、新たな命令の元、宇宙軍に再編されたのである。

 

「まさかあの時は、これほどまでにジオンが優位に立つとは思わなかったな。ギレン総帥の秘策には驚かされる」

 それから数カ月。

大規模な艦隊戦闘を終えた後、両軍の戦闘は一変した。

 

ジオン軍はミノフスキー粒子で絶えず月面・コロニー間の通信・レーダー網を遮断したのである。

となればお互いの船がどこにいるか判らず、大航海時代さながらの予測航海が前提と成る。

 

「戦闘面ではサラミスに劣るが、ムサイは戦闘母艦としての面が強いからね」

 こうなれば母艦機能を備えたムサイは、僅か一隻で独立艦隊を構成できるのだ。

誘導ミサイルが無効化された今、ザクの戦力は強力である。

 

かといって核弾頭を持ち出せば、ジオンもまた核を持ち出し、ルナツーを牽制できる。

ムサイに搭載された一発きりの核が、ルナツーの宇宙港を潰しただけで戦争は終わるだろう。

 

「月面の完全制圧が終わった今、残るはルナツーのみだ。連邦からの援軍を締めつけ続ければ攻略の目も出て来るだろう」

「それで私に援軍を求めたと? 赤い彗星も随分と殊勝になったものだ」

 連邦がフォン=ブラウン市の基地を捨てて中立都市宣言する前に、ジオンは奇襲攻撃を掛けた。

多方から囮艦隊を送って守備艦隊を足止めし、その間に別動隊が占領したのである。

 

ジオンはその時点でミノフスキー粒子による情報封鎖を終了。

一般人の生活に甚大な被害を出し、直接の被害者だけで数千万の事故死をもたらしたものの、宇宙のほぼ全てを手に入れたのである。

 

「なんでも連邦製のモビルスーツが送られてくるそうだ。慎重にもなるさ」

「ほう……。囮かもしれんが潰す意味はありそうだな。是非、協力させてもらおう」

 ミノフスキー封鎖の終了と共に送られた情報をジオン軍は解析。

V作戦なる情報を掴んだジオンは、赤い彗星のファルメル艦隊を派遣した。

 

そこに新鋭艦ホワイトベースの姿を見付けたシャアは、新たにザンジバルを与えられたガルマに援軍を要請。

圧倒的な戦力で、この任務に向かいあったのである。

 

時に海兵隊を中心としたルナツー襲撃に前後する作戦であり……。

どちらかが成功すれば、連邦宇宙軍の最後の一ページになる得るだろう。





 と言う訳で、この短編を終了します。

今回の前半は、ミノフスキー粒子があれば楽なのになーという話。
後半は単純で、市民の生活に影響出るほど、ミノフスキー粒子をばらまく作戦でジオンが優位に立つと言う作戦です。

ムサイとザク3、場合によってはコムサイ合わせて5機。
これを倒すには連邦軍に残った艦艇を、数席単位、確実に倒すなら十隻は必要。
だけどジオンも分艦隊同士で協力し合ったり、中央集団としてまとまった戦力いれば済む話ですから。

まあ信号機が正常に動かなくなったり、工場で事故が起きまくったり、宇宙船同士の接触事故が多発するけどへーきへーき。
原作の数十億に達する前に、宇宙での戦いは終わりますから。
たぶん毎日の死者数百万単位、累計一億か二億くらいでですみますからね。

こんな作戦が上手くいくかは別にして、この短編はミノフスキー粒子に焦点を当ててみました。

拙い作品を読んでいただき、誠にありがとうございます。


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